雇われ掃除人形417 (ムメイ)
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その0

警告:製造ポットより解放されます

通知:試験起動を開始します。

 

それが俺が私になった時の最初のメッセージ。

世界がコーラップスなんていう汚染物質によって切断され早10年は経過していた。

どっかのクソバカ学生が派手な肝試しをしてくれやがったお陰で世界は大混乱。

海は汚染され気化したコーラップスはじわじわと陸に登り汚染を広げた。

かつてG7等と呼ばれていた国々は機能不全に陥り無政府状態に陥ったりもした。

特に酷いのは日本、島国だったのもあってその汚染は酷い。

好きだったんだけどな、日本……

俺がそうやって記憶していたのは2040年、世界が混乱に陥って各地で不満の火種が爆発しつつある時だ。

それまで人間は順調に繁栄していっていてついには頭脳の電子化にまで成功した。

これにより人々のスキルアップとかっていうのはあっという間。

まぁ初期投資がかなり必要だしそこでケチると後々泣きを見るんだがな。

そんな技術が出来て……富裕層は挙って自身の頭脳の電子化に勤しんだ。

かくいう俺、ウルリッヒ・ガンツもその一人だった。

ドイツ国民として栄誉あるエンジンビルドマイスターであったが不況の折に解雇され無職となった。

職につこうにも解雇祭り、今からどうするか……と絶望的にもなっていた。

やけ酒をして寝てしまったのがよろしくなかったか。

次に目が醒めた時は全く知らない場所だった。

 

「チェック」

「……は?」

 

製造職らしき男に囲まれていた。

身体はえらくスースーとしていて困惑するばかり。

チェックとロシア語で言った後ベタベタとあちこち触られてゾワゾワとする。

さらに俺の口から出た声に困惑が加速する。

女の声だ、自分の低く唸るような声ではない。甘ったるい幼子の女児の声。

それでいて透き通るような将来性を感じさせる物。

 

「待て待て待て、待てや」

「……?パーソナルがもう入っている?」

 

ぐいーっと作業員の身体を押しのけて状況整理にはいる。

まず日付のタイムスタンプはどうだ?あ?ネットワークエラー?

そんなバカな、5G回線はほぼどこでも繋がるはずだろうが。

いや、それよりも何だこのデータパッケージの数。

セクサドール?はぁ?自律人形のデータアセット?

製造番号?おいおいおい、俺は人間なんだぞ?人形ってなんだよ。

 

「オイ!!テメッ!!こりゃどういうこった!!説明しろ!!」

「ッ!緊急事態!!緊急停止!!」

「停止処理信号!!早く!!」

 

ふざけんな、てめぇ等全員そこになお――――

 

 

-緊急停止シグナル受信、緊急停止処理。-

 

 

 

-システムメッセージ:再起動承認-

 

目が醒める……あ?私ぁ……あーだめだ、何か頭がぼやっとする。

身体は、寝かされていたのか?あーうー……

……思い出したぞ、俺はどう言う訳だが人形だかの身体に押し込められてるんだな。

あぁうん、しかもよりにもよってセクサドールとかいう性行為専用の人形って悪夢だ。

バカじゃねぇのか?バカだろ、狂ってやがる。

すっと起き上がってみようとして異様な重さに顔を顰める。

見下ろしてみればその重みに納得、いやデケェ。

 

「は?は?」

 

わなわな震える俺に対してぽよぽよ揺れながら応えるその物体。

胸だ、乳房だ、おっぱいだ。ただしとんでもなくデカい胸。

89の巨乳とかが霞んで見えるほどのデカさ……

 

「あー……良いですか」

「良くねぇよ、こりゃ一体」

「落ち着いて、聞いてください。Mrウルリッヒ」

 

スーツ姿のオッサンが立っていて起きた俺に対して宥めてきた。

事情を知っている様子だから一応聞いてやろう。

とてもじゃないが落ち着けやしない、自分の身体じゃないんだ。

 

「貴方は2007年産まれのドイツ国民でしたね?」

「あぁ、間違いない」

「残念ながら貴方は死亡扱いされています、薄々お分かりでしょうけれども」

「……ぉう」

 

国的にはココはロシアか、俺の経歴もしっかりと調べられていて……

死んだ扱いか、くそったれ最高だな?

あーもしや……いや、まさかな。

 

「貴方は電脳窃盗に遭われたようです、弊社で取り扱っているロストテック在庫の中に貴方の頭脳がありました」

「ロストテック?俺の電脳は2040年で出たばかりの最新最高級モデルだったとおもうが?」

「今は2050年代ですよ、Mr」

 

言葉を失った。その後、歴史的な授業を執り行い……

どうやら、私は知らぬ間に十数年の時を過ごしていたようだ。

家族も何もかも……遠い何処かに行ってしまった。

いや、俺の家族はそもそも……ぁー……

 

基本的人権は無く人形として生産されてしまったからには電脳も紐づけされてしまっている。

盗難防止の為だが今となっては不必要に俺を身体に縛り付ける枷だ。

これは基本的に製造元であっても解除することが出来ない。

セクサドールとして生きて行くのは当然無理な事、パーソナルは男だ。

男が男に抱かれるなんて悪夢でしかない、同性愛ならバンザイだろうけどな。

 

途方に暮れていた私はまだ運があったらしい。

ASST、烙印システムと呼ばれる特殊な物の適正があったらしい。

戦術人形、戦闘を主とする自律人形の中でも特に性能が向上した物に付与される物だ。

元々が最高級品質の人形で頭脳も第三次世界大戦以前の最高品質だからかもしれない。

戦術人形に必要なコアを埋め込まれ、各種オプションをインストール。

そうして誕生したのがI.O.Pの第2世代戦術人形のシーナだ。

シーナとは私の現在の名前でシェーナとも読める。ありふれた女性名だ。

流石に男そのままでは生きづらいからと行動の所作は矯正された。

男だった頃の行動は意図的にしなければ出来ないな。

 

ともかく、私は強制的にこうして人形に生まれ変わらされて……職にはありつけた。

 

I.O.Pの戦術人形の性能PR、広告塔として動き各方面にアピールする。

また性能のフィードバックをするためG&Kとの契約も結んだ。

シーナという名前は伏せられ417、ASSTによって紐づけされた銃の名前がつけられた。

 

元々の製造目的には使われることは絶対にないと思うがな。

金持ちが自分の理想とする妻を形作ったのがこの身体だって言うんだからな。

ワンオフっていうのがオーダーだから同じデザインは作られないはず。

納期が大幅遅延したが無事に別な個体が作られて送りつけられたらしいから……大丈夫だろう。

 

「ともかくこの身体に慣れろ、か。簡単に言ってくれる」

 

主に女の身体になった弊害に慣れろって事だろうな。

短時間で何度か胸をぶつけているしパンツが見えているのを指摘されたり……女って面倒くさいな。

 

 

 

そう思いつつ始まったのが私の戦術人形として生。

もう何年前の事かな?

そんなだから女の身体には慣れてしまっているし今更女の身体を意識することもない。

色々中途半端な女になったもんだよ。ははっ……

 

 

足元まで伸ばされた銀髪、丸く幼い緑の瞳、色白な肌。

ドンッとでた胸と尻にくびれた腰回り……これだけ見てると背がちっこいだけのとんでも美人。

髪型がツーサイドアップなのと顔立ちが幼いからロリっ子に見えるわな。

 

身を包むのは紺色のジャケット、白色のブラウス、紺色のミニスカート。

装飾にネクタイ、見せブラ、ゴツゴツのベルト、ニーソックス……これが生産時の暫定設定衣装。

アメスク風の着こなしも相余ってギャル風にも見えなくない。

今はさらにグローブと首輪、ガーターベルトを加えられた。

首輪?コイツが色んな接続のドングルになるの。

私の電脳とコアに無線接続されている唯一の存在でポートもコイツ経由でしかつながらない。

 

ま、見た目は露出の激しい少女になったな。……はぁ。




仕様諸元

人形個体名:シーナ
G&Kコールサイン:417

身長:143cm
B:118 アンダー66 Rカップ
W:57
H:92

身体構成素材99%オーガニック素材の生体部品
注:骨格及び機械人形基礎構成部品は除く。

I.O.P生産時OP
・最上級電子頭脳(ロストテック)
・拡張記憶メモリ
・最上級処理プロセッサ
・高効率食物エネルギー変換機構

最高級オーガニックセックスドール適応OP
・愛妻パッケージ(統合家事プログラム・男好みな家庭料理レシピセット)
・育児パッケージ(子育てデータアセット・教育プログラム)
・乳母パッケージ(栄養満点の母乳が出る)
・爆乳パッケージ(バスト95cm以上より設定)
 ・ハイパフォーマンスフレーム(一定重量以上より必須設定)
 ・自己成長育乳パッケージ
・性感高感度パック(触覚センサ類の高性能化)
・人工子宮パック(人工卵子と子宮のパッケージ)


戦術人形オプション
・ASST/HK417-20inc
・執行機関ベーシックパック(各法的機関の銃の取り扱いについてのアセット)
・高性能アイカメラ
・高精度狙撃パッケージ(☆4↑RF人形の標準パック)
・セミオートマチックスペシャリストFCS
・高精度音響偵察システム
・耐コーラップスパッケージ

狩猟人形オプション
・獣狩ベーシックパック(血抜き、解体情報アセット)
 ・大型獣狩猟パック
 ・バードショットパック

and more


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その1

パスッパスッ……カラン。

森林地帯の奥から物静かに発せられる音。

落ち葉等に紛れたこんもり盛り上がった山から真っ直ぐに伸びる真っ黒なボディ。

カモフラージュの被せ物がしてあるソレは銃火器だった。

長く伸びた銃身と先に取り付けられた消音器、立ち昇る硝煙。

その先、300mでは一体の双頭のシカが倒れ伏していた。

 

「ん、始末完了……ふぅ」

 

こんもり盛り上がった落ち葉の山は落ち葉に似せたマントだった。

バサリと音を立てて取り払われたマントはギリーマントと言うカムフラージュだった。

その中から現れたのは蒼銀の毛髪をした少女だった。

緑色の瞳をした幼気な顔とソレに反して凶悪としか言いようのない乳房を持つ少女。

 

「さーってと、クライアントにアレを渡してお金貰ってと……」

 

雇われで獣撃ちから人殺し、化け物刈りまで請け負う狙撃手人形。

コードネーム417、異名はブラッドスノー。

戦術人形製造大手のI.O.Pが製造し比較的自由な所属として動き回らせている餌。

様々なPMCや自警団、テロ組織に対し人形の性能をアピールするための広告塔。

個体名称はシーナ、出自が少々特殊な人形である。

 

 

私はシーナ。しがない雇われの戦術人形。

元々はウルリッヒ・ガンツという普通の男として生きていた。

世界的な電脳不足から寝ている人間から電脳を盗むって言うことが多発。

私もそんな盗難被害に遭って紆余曲折を経て今に至る。

生産時から色々とバタバタしていた。

 

えー、まず私は最高級のセックスドールとして生産されてます。

99%オーガニック素材を使った生同然の抱き心地が売りの人形です。

はい、そうです私は生産時から色々とツッコミ所がある人形として生産されていた。

パーソナルデータは男なのにそんなエッチ目的の人形にしてるんじゃねぇ。

それはもうお冠で起動テスト担当員に詰め寄って胸ぐら掴んだよ。

当然なにかおかしいとして私は強制終了処分。

精査して違法に盗られた電脳が使われていたと発覚したっていうね。

 

元の肉体は当然死亡処理されていて人形として生きていかなきゃいけなくなった。

セックスドールとしては当然内面が落第点なので新しい就職先を探した。

無事見つかったは良いけれどもまぁわりと……酷い詐欺だったね。

銃をちょっと持ってパトロールするだけって文言だったのに実際は傭兵まがいだよ。

 

「クソッタレ、なんでこんなお仕事……」

 

いわば私はPR担当、いろんな企業から飛んでくる始末の仕事。

民間から飛んでくる害獣駆除、果ては化け物退治までなーんでもござれ。

その為のバックアップもあるけれどもクソみたいな仕事だよ。

 

まぁ悪いことばかりじゃない、私は言っちゃえば余命が少ない人間だったしね。

クリティカルな所はイジらないで貰えたし女性として生きていく上での必要知識も植え付けてもらえた。

ほぼ人造人間みたいな所あるから生活していて違和感全然ないし!

パワーはそこそこあって今みたいな銃も軽々と扱える。

色々とパッケージオプションを追加されてるから……だけどね。

 

「よっこいせ、これで5日の食料ってところかなぁ?」

 

今撃ったのは核兵器の汚染が原因で変異したデカい鹿。

バラして食肉にしたら一家でしゃぶり尽くして5日。

倹約したらその倍はイケルと思う。

当然ながら私の足で運ぶわけじゃない。それ用の足も貰ってる。

 

「たのむよー」

 

ペシペシと叩くのは私用に拵えてもらったオフロードバイク。

IMX330Low、IOPの息がかかった発動機メーカーが作っているバイク。

330ccの水冷シングル、豊富なカスタムパーツで使用用途に合わせて改造ができる。

私のはハンターパックと呼ばれる狩猟者向けのものを取り付けている。

タンデムシートには獲った獲物を載せるアタッチがついている。

他には武器装備を格納するコンテナ、航続距離を伸ばすためのガソリン缶が括られている。

跨ってエンジンスタート、ちょっと吹かしながら道なき森の道をトコトコ下っていく。

銃の他に色々とお世話になる相棒だね。

 

「いきなり押し付けられたセカンドライフだけど……まぁ、悪くはないな」

 

女の体に押し込められたのを除けばまぁ便利な身体になったものだしな。

実質的な永遠の命、永遠の若さ、簡単に手に入るムキムキに近いパワー。

何時間も復習しなくても学べる優秀な記憶領域等など……理想的な人間のスペックだ。

元々私はドロップアウトした人間で農家の手伝いをして生計を立てていた。

そんな人間だから今の様な狩猟生活は合っているようなものだ。

クライアントとのやり取りは必要最低限、仕事の斡旋もI.O.PやG&Kがしてくれる。

私は呑気にセーフハウスで待っていれば仕事のオファーが来る。

さて、セーフハウスまで頑張って降ろう。

 

 

 

 

セーフハウスは何ら変哲のない家屋。

ライフラインは断裂していて水、食事は自分で調達しなければならないっていう前提付きだけどね。

繋がっているのはネットワーク回線と電気だ。

ここで狩猟してきた獲物の解体、食肉化などもやっている。

食肉にした後は運搬用ドローンに納品してしまえばOK。

 

日持ちがしない部位は私が食べてしまう。

人形は食事でエネルギーを蓄えられる……まぁオーガニック素材だからかもしれないが。

詳しい仕様は私にも分からん、知らん。

 

「んー?はいはい……依頼ですかー?」

 

チョット耳障りなビープ音と共に立ち上がるフロートディスプレイ。

クソ面倒な狙撃依頼とかが飛んできたんだろうなー……と面倒くさそうなの隠しもしないで出る。

うん、予想通りでG&Kのお偉いさんが顔を見せる。

人形は使い潰してなんぼな思考のクソ野郎。

 

『新しい狙撃依頼だ、確認して直ちに向かえ』

「ちょっと待てや、この鹿捌いてからだ。つーか依頼詰まってるの分かってるでしょ?」

『良いからやれ』

「クソ野郎、絶対にいつかお前のどたまに風穴開けてやるからな」

 

セーフハウスに居る時間はそう長くない。

次から次に仕事が舞い込んできてアレ持ってこれ持って飛び出さなきゃならない。

ぶっちゃけセーフハウスの中は一部与えられた時からそのままな所もある。

それだけ私が居る時間が少ない。

 

「どれどれ、次の依頼は……うげぇ、あのセクハラジジイの依頼かぁ」

 

クライアントとは基本的にはやり取りしないけど任務達成報告はあげなきゃいけない。

当然実績広告として振り撒かなきゃならないからそういう時は直接会う。

私の事を懇意にしてくれているクライアントは幸いなことに増えつつあるが……

まぁ男が殆ど、当然身体の方も狙われるわけで……

超現実離れしたダイナマイトスタイルしているからか本当に参っちゃうくらいに迫られる。

中身はまだ男のつもりなので丁重にお断りしているのだけど……

 

「断れないのが辛いねぇ」

 

PR活動の一つでよっぽどの事が無い限りは断ることが出来ない。

というかG&KやI.O.Pといった大企業を通しているからか私に断る権限が無い。

いやまぁそれはイイよ?良いけどさ……せめてスケジュール管理くらいしてくれや。

マジであのいけ好かねーヒゲモジャ頭に鉛玉ぶち込みてー。

メチャクチャ文句言いながら肉を解体して丁寧に梱包してから出荷。

急いで水シャワーを浴びてクリーンアップしてからバイクに跨って飛び出していく。

狙撃任務でも後々に人と会うんだから清潔感は大事だ。

 

 

さて、今回の狙撃任務、どうなるかなぁ。

カルト集団のボスを狙撃しろ……言うは易く行うは難しなんだよね。

バロロロロ……一応コンテナの中身は色々詰めていこう。

其のためのバイクと糞デカコンテナなんだしね。




Q:つまりどういうこった?

A:新約417だよ。雇われでソロでかるーく狙撃手として出てくるよ。


Q:D08のアイツはどうなんの?

A:便利な言葉で言おうか、パラレルだよ。……めいびー(予定は未定)


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その2

基本的に私の狙撃任務は完全なソロ。

支援は望めないし具体的な狙撃ポイントなんて当然誰にも漏らしてない。

漏らす相手も居ないというのが正しいか。

 

「ぶるーんぶるーん……この辺で良いかな」

 

今回の狙撃ターゲットは3人。

新興カルト宗教のボスとその取り巻き。

その本拠地として特定されたのがこの雑多ビル。

そう、くっそ人通りのある中だから狙撃ポイント確保するのは大変よ大変。

まぁ許可とか取るわけねーし適当に空きテナントとかに侵入するのさ。

この辺はもう慣れた、こうでもしないとまともに仕事できないし。

仕事出来なきゃ私が死ぬし、だいたいカルト宗教って良いイメージないから殺るのに抵抗はない。

ターゲットが居る雑居ビルの正面ガラスを狙える高層ビルにバイクを停めて……っと。

ウェポンコンテナは取り外して持ち上がる。

肩掛けハードケースになるようには改造してるから便利便利。

今回持ち込んだのはWA2000、精度と射程が欲しかったんだよね。

専用設計で作られてるセミオートスナイパーライフルの方が精度は出る。

 

「調べりゃ出てくるあくどい商売とかねぇ、まぁ狙撃依頼が来るって事はそういう事だし」

 

基本的には残り少ない人間から金を搾取しようとかしているとんでも集団だからね。

放ったらかしにしたらタダでさえ少ない人間が更に減ってしまう。

人形がその穴埋めに回されるとか色々とマズイんだよね。

私みたいな感じで人形になっちゃうパターンもあるかもしれないけどさ。

こんなの稀だからな?

 

「ピッキングにハッキング、手慣れたもんだよねぇ……ほい、解錠っと」

 

物理的な鍵と電子ロックの合せ技な施錠が多い。

けれどもその何方も私は割りと解錠できる。

そういうパッケージオプションが入っているからだけど。

セキュリティが一流な企業はハッキングも一流ってわけですよ。

マスターキーパッケージ、当然表立っては販売されてないパッケージオプションです。

いわゆる裏オプションで他にもラインナップがあったりはするらしい。

まぁこのマスターキーパッケージは解錠に特化した物なのでガチなハッキングには使えない。

 

空きテナントにこうして侵入した私は悠々と狙撃準備に入る。

ウェポンコンテナを開けてWA2000を引っ張り出す。

今回は何発もぶっ放すものじゃないしスペアの弾薬は2セットのみ。

コンテナに格納されているのは当然ながら高倍率スコープもセット。

武装のアレコレは基本的にこのコンテナで完結させている。

WA2000用に調整されたスコープを取り付けてっと……

 

「レーザー測距……うん、距離は350m」

 

風速はあまり無かったから弾道計算はいい。

あとは銃の調整をしてしまえばすぐにでも仕事に取り掛かれる。

当然サイレンサーも取り付けて……よし、完璧かな。

とんでもないヤツはアイアンサイトで頭を打ち抜くらしいけど、私はそういうの無理なんで。

若干打ち下ろしのロケーション、アジトの応接間が良く見える。

情報によれば今日は重要会議があるらしくその会議を利用して始末しようってワケ。

 

「……ん、入ってきたね」

 

まずは偵察、双眼鏡で目測してからだ。

ターゲットの一人、資金面を一挙に受け持っているハゲ男が入ってきた。

仕立ての良いスーツを着ていて如何にも金を持っているってアピールしている。

正直嫌いなタイプ、排除するのに良心が傷まないから助かる。

電話片手に怒鳴り散らしているのが見える、おぉ怖い怖い、ハゲ頭に血管浮かんでるじゃん。

 

このビルと相手側のビルに防犯カメラとかのシステムが入ってないのが残念だなぁ。

防犯カメラにアクセスしてターゲット位置とか割り出せたら楽だったんだけどね。

 

「まぁ良いか、せっかちさんばかりで助かったよ」

 

首尾よく残りの二人も早々に揃った、偵察はもうおしまいだ。

ここから会議を始めるんだろう……おぉバイザーを降ろしたか、良いね良いね。

でもまぁそれならそれで全然良いんだけど。うっすらと見える影だけで十分。

窓を開けてからコンテナを土台にバイポッドを展開。マガジン装填、コッキングハンドルを引いて初弾を叩き込む。

スコープを覗いてから350m先、ターゲット3匹がどっかり座るオフィスを見る。

ここからは戦術人形の本領発揮、狙撃に必要な手ブレ抑えとかは完璧。

弾道計算もやったし後は……逃げられる前に、ささっと3匹の頭に鉛玉をプレゼントしたらいい。

 

すぅー……はぁー……

 

大きく深呼吸をしてから息を止める。

唯一のブレの原因だ、息を止めていられる時間は1分、まぁ余裕はあるさ。

 

パスッパスッ…パスッ

 

あちゃ、サンバイザーにちょっと血が飛び散ったな。

逃げる様子はなし、他のカルト宗教の職員にはバレてなさそう。

 

「お仕事完了かな、さてと……報告報告」

 

ココを使った痕跡を極力潰してコンテナに武器を格納してから飛び出る。

電子ロック、物理キーも再施錠してね!

 

報告の待ち合わせはたしか……うぇ、ホテルかぁ。

嫌だなー……嫌だなぁ……メチャクチャ渋面しながらバイクにコンテナを積み込んで現場を後にする。

 

数時間後、速報ニュースでカルト宗教のトップが殺害されたのが流れた。

これで仕事の信憑性もアップアップ。I.O.Pの戦術人形の性能アピールに繋がるワケですよ。

まぁ裏社会の横つながりでしかアピールされないんですけどねー。

 

 

 

報告を挙げたらホテルの電子キーを受け取った。

その部屋でクライアントから直々にお話があるって。

ホテルはまぁいわゆるビジネスホテル、豪奢ではないけれども清潔感は溢れている。

今回のクライアントはPMC事業に参入してかなり長く人間を雇っていた企業。

むさ苦しい筋肉モリモリマッチョマンが闊歩する安心感もあるがソレと同時に威圧感で市民が不必要に萎縮していた。

そこで性能トライアルとして私に色々と仕事を発注している。

まぁ私みたいなPR人形は他にも居る、それぞれ出どころが怪しいから表には出ないんだけどね。

あくまで企業がI.O.Pに持ちかけたら開示する感じ。

 

「こんばんは、417です」

「おぉ、入りたまえ……ぐふふ……」

 

指定された部屋はまぁそこそこ高層階。

オートロック付きで電子キーが無いと出入りは難しい。

室内に居たのはでっぷりと肥えたオッサン……ではなくガリガリの陰キャ君。

ただまぁ目つきがいやらしいし事あるごとに私を抱こうとアプローチしてくる。

正直めんどくさいしさっさとトンズラしたい。

営業スマイルを浮かべて室内に入るとこれ以上無くニッコニコなクライアント様。

 

「今回の仕事もパーフェクトだったよ」

「ありがとうございます、ひいてはI.O.Pの製品を導入するお考えは決まりましたか?」

「うんうん、でもまだトライアルは続くかなぁ……まだ試したい所があるし」

「はぁ……それは残念です」

 

営業スマイル+テンプレな営業をやるけどコイツ決める気ねーだろ。

決まってらぁ、最高級セクサドールの抱き心地を試したいんだろ。

目がずっと私の胸に突き刺さってんだからそうだ、そうに違いない。

いい加減I.O.Pもしびれ切らしてるしなぁ……どうしたら良いかなぁ。

童貞臭いしパイ揉み程度で満足するかな?試してみるか。

 

「試してみたいと仰言るのは、こちらの性能ですか?」

「お、おぉぉ……」

「私の出自はセクサドール、99%オーガニック素材で構成された人形ですのでこの触り心地です」

 

目の色変わったな、軽く胸に手を載せさせて説明してやると鼻の下がデレデレと伸びる。

おぉ面白い、99%オーガニック素材でのみ出せる触感と説明して……

さて、セールスはこれくらいでいいだろう、やるノルマはやった。

これでも渋るなら契約する気無しとして切るだけだろうし。

 

「き、キメた!契約する!!」

「ありがとうございます、担当も喜びます……では、狙撃屋の417は下がります。またのご依頼をお待ちしていますね」

 

ちょろいわー、おっぱい触らせるだけでコロッとマジで行きやがった。

営業スマイル浮かべたまま退出、もう二度と依頼してくんな。

セーフハウスに戻ってシャワー浴びて……それからまた任務だろうなぁ。

あーあ、だるっ……少しは私も遊びたーい。



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その3

セーフハウスでアレコレ


セーフハウスに戻ってきた私。

依頼は遂行したし契約も取ってきた、I.O.Pの担当からは感謝のメールが届いていた。

G&Kの担当?なーんにもないよ、クソが。

 

「お、生活物資の支給だ……おぉー良いの入ってる!」

 

入っていたのはチョコレート!

板チョコレートがまるまる3個も入っている。

ほかは食料、洗浄セットに各種弾薬と燃料だね。

IMX330は燃費良いからそこまでの燃料を要求しないのが更に良いね~

 

「で、次の仕事って言うんでしょー知ってる知ってるー」

 

狙ったかのようにメールがすっ飛んでくる。

もちろんの事仕事の斡旋メールだ、開封してみれば……ふむ。

スケジュール的には少し余裕がある。具体的には食って寝てのんびりシャワー浴びてから……

呑気に体操しても余裕があるっていうね、いつもコレくらい余裕くれよ。

まぁお陰でのんびりと料理も出来そうだし……

 

「いや、待てよ……寄り道して買い物していくのもアリかな?」

 

この身体になってからまともにショッピングに出たことが無いぞ。

人間らしい娯楽を、まともにしてない……!

これを自覚するともったいないとメチャクチャ思うじゃないか。

PRはしてきてるんだし有給を申請させてもらってもいいよね。

人形だって遊びたいんだよ、普通の機械人形だったらボイコットしてるぞ。

社畜だから割りと黙ってたけど……ん?こっちのメールはなんだろう?

あぁ、注文していた追加OPパッケージだ。

グレネード運用パッケージと肉弾戦パッケージ。

狙撃手だから基本的には前に出ないし発見されないのが鉄則だけど……

万が一にも発見された時の対策としての近接戦闘のパッケージは欲しかったんだよね。

あと遠距離の相手に正確に40mmグレネード弾を当てる弾道計算のプログラムも欲しかった。

おまけで手投弾の運用プログラムも入るけど……まぁ無いよりあった方が良いよね。

 

「適応には再起動が必要……あぁまぁうん、そうだよねー」

 

パッケージの容量は大したこと無いから無線通信でささっと電脳に格納出来るけど……

適応させようと思ったらこういう精密CPUの宿命か再起動が必要。

体感的には仮眠をとるような感じだ、数分で終わることもあるけど……

その時の状況次第では躯体の自律調整で何十分と食う時がある。

そこは私が関与できなくてクリティカルな事にならないと通知がされなかったり。

一応躯体の疲労度は眠気として出てくるけれども……明確じゃない。

 

「取り敢えず適応は後回しにして、シャワー浴びてから考えよ」

 

セーフハウスでのんびりとシャワーを浴びれるのはいつ以来だ?

すっぽんぽーんと脱ぎ散らかしてからシャワールームへ突撃。

あれ、水足りるかなー……雨水溜まってると良いんだけど。

 

 

 

水量モニターは十分な水量を示している。

やったぜ。髪の毛からボディの隅々までクリーニング出来る。

女の子の身体になってから特に清潔感には拘るようになったよ。

髪の毛とか肌のツヤとか……そういうのにもケアは欠かせないし。

一応傷んでもナノマシンテクノロジーで修復されるけどさ、パサパサな髪の女の子って終わってるじゃん?

 

「る~るる~るる~♪」

 

るんるん気分で身体を洗い始めて……慣れたものだよね。

馬鹿みたいに長い髪の毛のケアもスキンケアも知識として植え付けてもらったのはあるけど。

違和感なく出来るようになったのはもう慣れと言っていいよね。

ツーサイドアップの髪型を降ろしてみると……まぁ~長い長い。

セミロングヘアくらいにしてみたら楽なんだろうけどねぇー。

こっちのほうがほら、可愛いじゃん。面倒なのは面倒だけど維持するのにやりがいってーの?

そういうのを感じるくらいにはまぁ……可愛さを磨きたいって思うわけですよ。

メチャクチャ泡々で汚れを浮かして落してー……んんーこうしてみるとソープ姫だね。

特にこのデッカイおっぱいなんかさー……あははは。

 

「はぁ、洗い流してあがりましょ……」

 

自分でなーに思ってんだか。

意外と付いていた汚れを浮かして落して洗いでーリフレッシュ。

もう胸を自分で揉んだり撫でたりしても感じるものは無いね。

最初こそ感動してたりしなくも……なかったっけ?あー結構興奮してた。

ははは、我が事ながら童貞臭い事を。メモリー圧縮を紐解いてから掘り起こして笑う笑う。

あー拭き上げめんどくさーい。パンイチでウロウロしたいよー……楽したーい。

私の元来の性格は面倒くさがりでーす。クソがー!

 

 

ふぅ、シャワー浴びてると色々と表に出るよね。

変な考えが浮かぶと言うか?まぁそこは生前と同じですかね。

着ていた制服は全部洗濯槽にブチ込んでっと。

そっくりそのままな洗濯済み制服に着替える、うん着衣の縮み等は無し。

フィットした紺色のコンバットジャケット、サイズが合っちゃいないブラウス。

バカでかい胸を隠す為の見せブラ、申し訳程度の装飾ネクタイ。

G&K所属なのを示すタグ付きの悪趣味な革首輪。

ゴツいベルト付きのプリーツミニスカートにガーターニーソ。

ハイカットブーツも履けばほぼ着替え完了。

 

「あとの装備は出る時でいっか……あーほんと、お出かけするには微妙な感じだしー」

 

シャワーを楽しんでいたら寄り道はちょっと辛い時間。

かと言って今から出ていっても現場で数時間は待機してなきゃいけない。

飯も食べてエネルギー補充しておかないとだしー……

 

「分解整備するかぁ」

 

所要時間を計算してみてからちょうど良さげな感じに時間を食うのが分解整備。

ワークベンチに私の417を置いてっと……

最後に分解整備したのは6日前か、軍用モデルだからいくらか雑に扱っても良いのが強いよね。

PSG-1なんかとマッチングしていたら大変なことになってたよ。

あれ警察用みたいなものだし整備を欠かしたらねぇー……

MSG-90とかだと417と同じくらいにガスガス使っても良いんだろうけど。

テキパキとバラしてバレル、レシーバー……更にその内部に到るまでバラして点検。

そして清掃、グリスアップ等してから再度組み立て。

撃針まで確り見たし暫くは平気だろうね。どろんこになる事も無いしね。

 

後は適当に飯を作ってっと……男好みの料理レシピしか無いからなぁー……

うーん、今日は取り敢えず解体時に出たクズ鹿肉で作るシチューかな。

パンとかはあるし出来なくは無いんだよねー

 

「さて、作りますか」

 

仕事前の腹拵えには手がかかるけど、時間消費のバランスってヤツだよ。

肉だって無駄にしたくないし。

 

 

 

次の狙撃ターゲットがG&Kの内部腐敗っつーかなんつーか。

不正働いてる指揮官を撃ち殺せって言うんだからねぇ。

下手うちゃ私が撃ち殺されるし気を引き締めないとねぇ

 

ホカホカ立ち昇るシチューの香りに目を細めながら件の依頼内容に関して思い出し眉を顰める。

事前情報として添付されている基地周辺情報や警備関係の情報を漁らないとねぇ。

準備は一任されてるし後はどう始末してやるかだよ。

 

最悪潜入してから排除ってのも選択肢として入れておくかねぇ。

持っていく装備の厳選もしないとなぁ。




次回、エージェント417のお仕置き狙撃編


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その4

今回の任務で使用するのは私の愛銃、HK417。

この前の新興カルト教団のオフィスみたいな所ではない。

ターゲットはG&Kの小基地の中に居る。

当然狙撃可能な窓なんてものは無い、監視の目もすごい数に登る。

程々に離れた場所にバイクを停めソコから歩きで狙撃ポイントを探していく。

相手は人間、ずっと一箇所に留まるのなんて無理なことだ。

ましてや……小賢しくあちこち手を広げ保身をかけようとしている男がじっとしているなんて無理だよ。

 

「今日の入場者リスト……こいつとの面会は使えそうかな?」

 

物的証拠が無いから黙っていたようだけど……もう相手先とかは割れている。

武器の横流し先、人形の横流し先、近隣地区に出没している盗賊。

どいつもこいつも悪党だよ、金と暴力と性欲に狂ってる連中。

そんなのと取引しているヤツって事で解雇したかったらしいけど……

証拠がなければ規約的に解雇が難しく私にお鉢が回ってきたってワケだ。

 

「となると……この辺りが良いかな?」

 

まぁ排除にかける時間の指定は無い。

言ってしまえばココで数日キャンプしつつ機会を伺うのも良い。

そのための装備も持ってきている。

私の愛銃417の他にバックパックを背負ってきている。

バックパックの中身は一般的なキャンプ用品がぎっしり。

基地の一部が見下ろせる丘の上に陣取って見る。

事前情報通りで中々の警備体制、侵入してっていうのはちょっと厳しそう。

双眼鏡を用いて見てみると各所の櫓に監視員が居るな。

 

現在は夜、真っ暗闇にまぎれて中々近づいてもバレそうには無いけど……

まぁ用心しておくことに越したことはない。

相手も夜中だからこそやましい事の取引時間にしているんだろうしね。

普通の業務的な事は日中に終わらせてしまうだろうさ。

 

「ん、あのテールランプ……」

 

高倍率の417のスコープに切り替えて覗く。

高級車にカテゴライズされるソイツは基地に入っていき……一人降りてきた。

ふむ、運転手は乗ったまま……いや、あの感じは人形だな。

顔を認識してみると……ふむ、事前情報で調べた人形闇市のオーナーか。

何処に出没するか分からなくI.O.Pの製品を不当に売っているヤツ。

デッドコピー品も売っていてブランドイメージに打撃を与えているから排除要請が来てる。

I.O.Pの職員はコイツにカンカンらしい。

オプションで出来得る限り苦痛を与えて殺せってあるんだからね。

 

「精度チェックに使っても良いかもだけど……まぁそれは後々」

 

今回のマストターゲットはあくまでもこの少基地の指揮官。

不正の温床を叩き潰す事がお仕事なので。

 

 

ふむ、残念ながらターゲットが出てこない。

顔見せくらいしてくれても良いのにねぇ、排除が楽で助かるんだけど。

用心深いって事でしょうなぁ、会談に使う場所も基地内部の奥深くだろうから……

最悪は潜入して排除になるかなぁ。

 

「配属人形は揃って大量生産されている汎用品……一部にG&K指定のハイエンドか」

 

汎用機械人形を用いた戦術人形はコストが安い代わりにその戦術性はゴミに等しい。

使い潰す肉壁程度にしかならないとすら言われる。

ただ手持ちの銃器によって性能は左右されないため余り物の軽機関銃なんか持たせると中々面倒くさい。

弾幕を張る能力だけは一丁前だから被弾が避けられなくなる。

ちょっとの被弾なら良いけど……耐弾性とか考慮されてないボディだからなぁ。

そして最も厄介と言えるのが片手で数える程度にしか配備されていないハイエンドモデル。

G&K内部でのコードはそれぞれ……M37、MicroUzi、M590か。

逆らおうとは思えない連中かな、諭しはするだろうけど……

他にも配属された後行方がわからなくなっている人形も居る。

そいつらは売られたんだろうなぁ……と推測はされるね。

 

私が化けれる人形は居なさそうだし潜入するにしても完全にステルスって感じかなぁ。

見つかったら即アウト、リスキーすぎてやってられないヤツ。

 

「んー……長丁場になりそうだし、イスでも組み立てるか」

 

テントまで張るかどうかはこの後の奴さんの動き次第かなぁ。

あー無線傍受パッケージとか欲しくなる。基地内部にハッキング出来たら動き探るのに便利だけどなぁ。

一旦銃は置いてバックパックからコンパクトに折り畳めるチェアーを取り出して……

ぱぱーっと組み立ててから座ってのんびりと双眼鏡で偵察偵察。

こういうのは焦れたほうが負けなんだよね。

あ、いけね……レーザー測距……距離補正っと。

 

 

 

数時間に及ぶ談義が終わったのかほくほく顔の男が二人出てきた。

イスから立って銃を再度構える。

膝立ちでしっかりと構えてっと……胸が邪魔だなぁ。

 

「ターゲット視認、ようやく御出座しか」

 

てくてくと歩いていって……ん?あれは使えそうだな。

設備保全をケチってるな、貯水タンクの足が折れそうだ。

相対距離、落下予測を計算……んぁー専門外だからか演算に結構CPUを食われるな。

あ、出た出た……後は……

 

「ちょっとの痕跡は残せ、か……」

 

どんな痕跡を残そうかねぇ……まぁ良いや、始末してから考えよう。

痕跡残したほうが狙って排除されたっていうのが分かりやすいからだろうね。

排除されたのを見て同時にG&K社内報か何かで宣伝するんだろうねぇ……

っと、そろそろか……息を深く吸って……止める。

 

パスッ……

 

一発の7.62mm弾が真っ直ぐに外部貯水タンクに向けてすっ飛んでいく。

支えとなっている足に着弾して火花が散る。もう一発必要かな?

と思いきや……ちょっとの時間差で足が崩壊。

推定200Lはあろうかというタンクがゴロゴロと転がり始めた。

巡回中の人形、物品を巻き込みターゲットとおまけに向かって転がっていく。

当然ターゲットもバカじゃないから逃げる……けれども真っ直ぐ導線上を逃げる。

本能的な行動だね、驚異からは真っ直ぐ逃げようとする。

 

パスパスッ、カランカラン

 

追撃で二発ぶっ放す。空薬莢が跳ねて地面で鳴り合っている。

スコープで覗く先では憐れな男二人が足を撃ち抜かれて倒れている。

程なくして……大質量で転がってくる貯水タンクに轢き潰されて……排除完了。

一応手出ししたから痕跡にはなるだろうけど……追加で痕跡残しておくかな。

……お、騒ぎを聞きつけて飛び出してきた人形がいる。

M37だね、おぉおっぱいがぶるんぶるん揺れてる……大急ぎで飛び出してきた感じ。

 

「ちょうどいいや、キミには目撃者となってもらおうかな」

 

ぺちゃんこになった指揮官を見つけてへたり込んでいる所を悪いけど……

おまけの闇市オーナーの死体に何発か鉛玉を追加でブチ込む。

突然の着弾にビックリしているけどスグに臨戦態勢に入ったのはイイネ。

ま、悪いけど小賢しい事をしていた指揮官を呪ってよね。

イスは片付けて……さっさと撤収するに限るよ。

 

「うひょぅ!?何々!?あーやったらめったら撃ってやがる」

 

チュィン!と近くを鉛玉がすっ飛んでいって何事!?とビックリして伏せる。

ビックリしたけど続けてババババババっと軽機関銃の射撃音が。

恐る恐る双眼鏡で覗くとMicroUziが転がっていた軽機関銃ぶっ放してるんだ。

……ふぅん、慕われる指揮官ではあったんだね。

じゃあ人形の横流しとかに手を出すなよ……バカだねぇ。

 

「ま、仕事は仕事……悪く思わないでよね」

 

撤収作業を終えてさっさとずらかる。

地区脱出までスピーディーに出来たから怪しまれることも無くとんずらこけたぜ。

 

さーでも……次のお仕事がどうせ入ってるんだろうなぁ……

ちょっと遊ぶ余裕がほしいよね。



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その5

汚れ仕事


明確に襲撃したって痕跡は残したし副ターゲットも潰せたのはラッキーラッキー。

追加報酬が入って貯金が潤うね、うん。食品に金を掛けることが出来るよ。

休みが無いのは本当にキレそうだけど。

人形だからそういう休息が必要ないのは理解しているよ、理解しているさ。

精神的にはキツいんだからな。今度G&Kの担当官と会うことがあれば眉間にブチ込む。

 

「セーフハウスに到着っと……ガレージオープン」

 

私のセーフハウスは小ぢんまりとしているけれども必要な設備は揃っている。

足に使っているIMX330のガレージ、銃器のメンテナンス用のワークベンチ。

生活用の水を溜め込む貯水槽、汚染物質を取り除くフィルターも完備。

電線とネットワーク線は繋がっていてパワー確保は出来ている。

一応ながらに一人の生活程度であれば十分に賄えるソーラーパネルに風力、水力発電システムも構築されてる。

これで電線がブチッと切れても暫くは大丈夫ってヤツ。

あとは猟師としてのお仕事スペース……解体、食肉加工する部屋と剥製作り、鞣し革作りの部屋。

そして生活用のキッチン、お風呂と情報端末。

あぁあとアレだ。人形の簡易メンテナンスベッド。

簡易的なモノだったら修理と保守点検が出来る優れもの。

オートメーション化されていて必要箇所の点検とパーツ交換程度ならしてくれる。

まぁ私は有機素材で構成されている部分が多くて根幹部品……

骨格フレームだったり各種センサー類のアセンブリ、機関部の交換とかがそう。

この部品がかなり高くつくから給料の半分以上はメンテナンス部品の補充に充てていたりする。

生体部品に関してはよっぽど傷が入ってしまわない限りは自動修復される。

ナノマシン技術が導入されているからね。

大欠損したら流石に修理出来ないので交換処分になるかな。

 

「ふぅ、次の依頼もう来てるんだろうなぁ~」

 

ウェポンコンテナを降ろして、背負っていたバックパックも降ろして生活エリアに上がる。

キッチンの冷蔵庫から飲水を取り出してから情報端末前のイスに腰掛けてっと……

簡易認証を行って端末にアクセスする。するとまぁ依頼のメールが早速。

嫌だなぁ~と眉間を揉みながら開いてみる。

うん、ですよねー……お仕事内容はE.L.I.D感染が拡大しつつある地域での掃討作戦。

クライアントは当該地区担当のPMC……手に負えないし人形を持ってないからとお鉢が回ってきたな。

可及的速やかに行動に移れとの命令だからのんびりはできないねぇ。

E.L.I.D感染症の発症から完全変異までは時間的猶予はそこまでない。

一晩経てばそこはゾンビの山と化す……助ける者は富裕層の患者。

処すのは大した金も無い貧民か……まぁ延命しようと思ったらかなり金がかかる。

貧民は化け物になる前に処してしまえか……嫌な仕事だよ。

 

分解整備はしたばっかりだしボディ洗浄は……したいけどその余裕は無い。

女子になった我が身ではちと精神的に辛い、シャワーくらい浴びたい。

まぁ文句を言っていてもしょうがない事。

弾薬の補充要請を出して……あといい加減に休みをくれって要望を叩きつけてっと……

任務に使うのは417でいいかな……あとは変異が進んで化け物になってるヤツ相手にするなら……

もっとマズルエネルギーがあるラプアマグナムぶっ放せるのが良いかな。

チョイスするのはDRD Tactical-Kivaari世にも珍しい.338ラプアマグナムをぶっ放すセミオートライフル。

ASSTが無いから通常のFCSを用いての射撃になる。

ASSTだとまず外すこと無いくらいには超高性能なFCSが使えるんだけどね。

文字通り417専用になるから他に流用が効かないのが難点。

アクセサリーはグリポッドとレーザーサイト、ホロサイトにマグニファイア。

市街地戦になるのは間違いないし逃げ惑うヤツ相手にぶっ放すんだからね。

 

「作戦成功時には富裕層との面会も予定か……あーあ、やな感じ」

 

富裕層って言うとぶくぶく肥えているのがほとんど。

人間性だってゴミみたいなものが多いし……個人的には嫌い。

ミドルネームでフォンとか付いていたらちょっとは違うかもだけど。

セクハラとかは上等って感じになるだろうなぁ……

メールが暗に言っているのは客を取ってこいって事だろうね。

護衛用の人形の受注を取ってこいってかなぁ?

まぁ戦術人形のシェアは鉄血工造が強くて主流のレーザー兵器も使われている。

時代遅れのKE武器を振り回している私達の性能と言うのは軽んじられている傾向がある。

だからこその私、性能PRの人形って事だろうね。

特にイレギュラーで偶発的にもバカみたいなソフト性能を誇っている私をPRに立てればね。

金を積めば抱き心地は抜群で近辺警護もばっちりこなせる人形が手に入る。

欲しがらない金持ちは居ないだろうさ。

絶対に裏切らない自分だけの嫁とかが居たらそりゃ欲しくなるよ。

自分が仮に大金持ちでボディが男のままだったら欲しがる。

 

武装の選定は終わった、弾薬と替えのマガジンもたんまりコンテナに入れた。

後は封鎖がされて唯一の出入り口になっているポイント付近に潜伏して脱出しようとする人間を選んで……

生かすか殺すかを篩いにかければ良い。

よく分かるゴージャスなチョーカーを着けているらしいから見間違えさえしなけりゃ良い。

自分でも死んだ目してるなー……と思いつつバイクにコンテナを積載してからセーフハウスから飛び出る。

 

 

 

件の汚染拡大地域に到着してみれば地元警察とPMCが連携して封じ込めを行っていた。

街全体は分厚い隔壁に覆われて出入り口も一箇所だけ、その出入り口も頑丈なバリケードが構築されている。

身元確認が出来ている富裕層は出されているけれども貧民は出口でぎゅうぎゅう詰め。

勿論の事出す気はサラサラ無いみたいで威嚇射撃を繰り返している。

 

「ねぇそこのお兄さん、質問いい?」

「ん?ぉでっか……ぁー質問?何だいお嬢ちゃん」

「緊張感ないですね……この近辺で高台とかあります?Webニュースライターなんですけど」

「んー……残念ながら許可できそうな高台は無いな櫓もない」

「そうですか」

 

バイクを適当に停めてから降り、PMCの人に話しかける。

ニュースライター何ていうのは当然真っ赤なウソ。

マスコミもチラホラ居るから説得力はある嘘だよ、運よけりゃそれで櫓の1個でも借りれたらと思ったけど……

残念ながら見る限りでは櫓も一切構築されていない……どうしたものかなぁ。

 

「中に入るって事は?」

「冗談で言ってるのかい?」

「……無し、今のは無かったことにして」

 

ゾンビの山になりかけている所に入るのはまぁ無謀だよね。

しょうがないや……高台がなけりゃよじ登るしかないか。

幸いいい具合の木々ならあるからね。木登りしてそこから狙撃するしかねぇや。

 

「自分でいい場所探すよ、お仕事頑張ってね、お兄さん」

「おう、お嬢ちゃんも頑張れよー、後で会ったらイイ事しようぜー」

 

どうしてこう、セクハラを挟もうとするかねぇ。

バイクでちょっと離れた所に行ってからコンテナ担いだままえっちらおっちら木登り。

胸が相当邪魔だけど登れなくは無いんだよね。ハイパフォーマンスフレームの恩恵。

アホみたいな握力発揮出来るからね、あははは。

いい具合に太くてゆっくりと座れそうな枝に腰掛けるとちょうど壁の向こうが覗ける。

高さにして3.5mといった所人力ハシゴしたら脱出は出来なくもないだろうけど……

自分が足場になるなんてのは許容出来ないんだろうなぁ。

パニックになってるし……まぁそれはしょうがないと思う。

汚染が広がっているのは前々から周知されていたしそれを承知で住んでいたんだろう?

 

「ま、恨むなら恨んでくれても良いよ……」

 

脳天に一発、それが一番安価で確実な治療だよ。

コーラップスに曝露してしまった人間は現状どうあがいても助からない。

出来るのは延命に延命を重ねる処理だけ。その処理をする価値があるのか?

ソレに対しての担当PMCからの回答は……足元への着弾だった。

 

明確なその威嚇の音にも関心を示さず尚も出入り口に殺到する民衆……一人の頭が爆ぜた。

 

伝播する恐怖からさらに出入り口に殺到するが一人、また一人と頭をザクロに変えていく。

 

詳細を知らされていないPMCが慌てふためいているのが見える。

いい人達だねぇ締め出ししてる最中も苦い顔してたし、私とは大違いだよ。

そういう良心の呵責って言うのはもう捨て去ったよ。

立ち昇る硝煙と人々の悲鳴を耳にしながら私の目はどんよりと濁ってきていた。




時代的にいつらへん?って質問が飛んできそうなので……
一応第2世代戦術人形が出てきてますので2057年以降であるのは間違いないです。
鉄血もまだ人類に反旗を翻してはいませんので2061年以前になります。
ただこの狙撃屋に従事してそこそこ経っていますので大体2058年後半とぼんやり考えてます。


そろそろエロハプニング書きたい(ぉ


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その6

商談回 ちょっとセクハラあり


今回の仕事も無事完了、残っていた住民はまぁ少ない方だった。

当然ながら出入り口付近は真っ赤っ赤の血の池地獄。

逃げ出した富裕層も血を浴びていて真っ赤、他にゾンビ化した元住人達もブチ転がしてっと……

キレイに掃除は終わった、後はクライアントのPMCと助けた富裕層への面会かぁ。

予定時間は少々余裕がある……ホテルを借りて身綺麗にするだけは出来るかな。

隣町のホテルまで来て……ようやく吐ける。バイクは駐輪場に停めコンテナは持ち上がり……

チェックインを済ませて部屋に駆け込むと洗面台に手を突いて……

 

「ゥッ……ゲブッ……ぉぇえええ」

 

良心の呵責は捨てたとは言ったがね、人間性をぶち壊してる訳じゃない。

時間差でこう、ボディーブローの様に精神に来るんだよ。結局は捨てきれてないってだけだけどさ。

助けた命があるだけマシ、PMCの上層部は区画まるごと浄化してしまえって思考だったらしいしな。

あぁクソ、本当にクソったれな気分だよ。仕事を選びたいもんだよ……クソが。

ゲーゲー吐いてからスッキリ……はしてねぇな。

死んだ目がいくらかマシになった程度だよ、ひどい顔してる。

 

「ふぅっ……今回のPMCの社長はどうかなぁ、G&Kの急成長を羨ましがっては居たけど」

 

気持ちを切り替えてお仕事モード。

前回あった何度も顔合わせしている童貞君とはちょっと違ったハズ。

割りと強面でG&Kのクルーガー社長とも面識があったはず。

人員へのストレスを考えて私に処分を命じてきたと思う。

口頭での説明は何度かされていて以前にも暴徒鎮圧で駆り出されてその時に面会はしている。

私の容姿、実力ともに一度は見ていて性能評価は上々だったと記憶する。

となればこの仕事は第二次トライアルといった所か?

 

「とりあえず、脱いで身綺麗にしないと」

 

硝煙の臭いが染み付いているし汗だってかいている。

上着なんて脱いでから嗅いでみたら臭う、ちょっと自分で萎える位には臭う。

まぁ替えの衣類はコンテナにブチ込んでるんだけどさ。

ホテルの個室、ロックはかけて脱ぎ散らかしても大丈夫大丈夫。

それに腐っても戦術人形、普通の男相手に後れを取ることは無い。

……まぁホテルだから変な気を起こすヤツは少ないと思うけどね。

いつだったっけかなぁ、ホテルマンが宿泊客の女を強姦したっていう事件があったような。

セーフハウス以外ではあんまり安心出来ないんだよね。

特に荒廃してしまった大戦後の今の御時世だとね。

 

「冷たっ!?」

 

もう十分に温まってるだろうと思ったシャワーは冷たかった。

クソッ、このホテルのボイラーぶっ壊れてるのか?

こういう所でしか温かいシャワー浴びれないっていうのにー!!

 

 

 

身ぎれいにして整えた後面会の待ち合わせ場所までバイクを走らせた。

同じ街の中でも一等高級とされるテナントビルの中。

今回のクライアントであるPMCのオフィスも入っているビルだ。

1階部分をまるっと借り取っていて巨大な車庫にしてるな。

旧式とは言え装甲車両を持っているのは中々大きいね。

兵員輸送車両もあるし……羽振りは良さそうだ。

受付もまぁ割りと美人さんを雇っているし……この地区では高嶺の花という訳か。

案内された応接間はまぁ中々広そうだ。今回助けた富豪さんは5人だっけ?

ソイツ等ともここでご対面って事かな?

 

「ここでお待ち下さい」

「あ、はい……うわ、無駄に広い」

 

大会議室って言っても良い感じ。

この御時世によくまぁこんな応接間を用意できたものだよ。

富豪とのコネが強いからかな?

家具もまぁ見た目は相当いいし座ってみると中々良い。

I.O.P本社工場のリラクゼーションルームのソファーと同レベルだ。

世界で指折り数えるトップ企業と同レベルのかぁ……稼いでるねぇ。

そしてしっかりと消費もしている……消費の矛先にI.O.Pの人形はどうだろう?

 

「ん、もう来ていたか……早いな、人形」

「どうも、今回も依頼はしっかりとやって来ましたよ、社長さん?」

 

一応狙撃屋の名前は教えているんだけどねぇ、G&K内部でのコードネームである417も教えてる。

けれども人形と呼んで居るのは個人的な何か抱えているモノがあるのかな?

うーん、こっちを見る目が非常に冷たい、鋭いねぇ。

 

「フン、仕事はしっかりと出来るようだな」

「えぇ、まぁ。お仕事ですから、きっちりとやりましたよ?」

「……教育の手間がないとはいえ、民生から毛が生えた人形ごときに」

 

おう、聞こえてるぞー。その民生から毛が生えた程度の人形一人に何人殺させたんだテメー。

こめかみに青筋が走るけど営業スマイル営業スマイル、笑顔は最強のポーカーフェイス。

I.O.Pからも催促があったんだろうね。おう検討しろやボケって。

……おう、堅物で偏見モチな感じなくせして目線はおっぱいか。

下の方も固くなってそうだな?あぁ?

 

「ともかく性能はよく分かった、前回の暴徒鎮圧の際の無力化もまぐれでは無かったということか」

「I.O.P社が自信をもってお送りする自慢の第2世代戦術人形の性能、お理解りになられましたか?」

「うむ、数体導入を決めた。お前の名前も添えてな」

「ありがとうございます」

 

私の名前も出したって事はI.O.Pからのお褒めが来るってことだけど……

これをイイ出したのは何かあるな?身構えておこう。

 

「少し良いか?」

「はい?なんでしょう」

「追加報酬を払うからこの後貴様と面会する富豪に接待をしてくれないか?」

「……接待と言いますと?」

「酒を交わしながら今後の事を話すのだが……清涼剤が欲しいのだよ」

「……性的な事は認可出来かねますが、それでもよろしいでしょうか」

「チッ……まぁ良いだろう」

 

コイツ、こっちに基本的な人権ってのが無いのを良いことにキャバ嬢みたいなのをしろってか。

報酬を弾んでもらわないとなぁ……I.O.Pとも話を通してもらって……

追加報酬金額は私が決めてっと……これで向こうが頷かなければその話はナシ。

 

「ふむ……むぅ」

「当地区のキャバレーで一晩飲み食いするよりは良心的であると思いますが?」

「……足元を見て……良いだろう、この金額で頼む」

「毎度ありがとうございます、では戦術人形の417は一旦接待人形のシーナとなりましょう」

 

営業スマイルを浮かべたまま深々とお辞儀……まぁなんだ。

愛妻パッケージとかの内容を引っ張り出せばいいだろうさ。

そうやって自分を偽るのは慣れたもんだ。

 

 

 

その後ぞろぞろとやってきた富豪達は……少年から老人まで揃っていた。

最年少は14歳の起業家で最年長は76のとある軍需産業の株主サマ。

他は社長の子供だったり……投資家だな。

 

「ほぉ……この少女が戦術人形とな?」

「こんな身体で戦闘を?はっ」

 

揃って男ばかり、女の富豪はもうとっとと逃げていたらしいからなぁ。

居座っていたのは甘い蜜を吸い続けたいヤツとE.L.I.Dの事を甘く見ていたヤツ。

あとは陰謀論者か……まぁそんなのは良い。

こっちを見る目は自分達を除いて感染者を残らず排除した人形とは思ってない。

バカでかい胸や小柄な身体を見て軽んじている。

さらには給仕としてワインとワイングラスを配膳したから完全にメイドか何かと思っている節がある。

 

「オイ、オレにもワインをよこせ」

「……未成年ですので承服しかねます」

 

14歳サマも何かと大人と同じものを飲みたがって突っかかってくる。

ちらっと社長の方を見ても首を横に振っている。

 

「では、今後の皆様の延命プランについてお話を始めます……オイ」

「コチラの資料を……」

 

その後の説明はまぁ、E.L.I.Dへの変異の抑制投薬、他地区での生活……そして近辺警護のプランニング。

並行して近辺警護の人員として私と同じく第2世代戦術人形を購入する事が立案されている。

この富豪達ならポンと一体は買える。

なんなら3体くらいまではオプション盛々でイケるだろうさ。

 

「おっと」

「……お戯れは程々にお願いします」

「ほほほ、老いぼれはこうだからなぁ、悪い悪い」

 

株主サマがワザと手を滑らせて胸を鷲掴みにしてきやがった……

まぁ一回は見逃そう……俺も元男だ、そういうのに理解はある。

だが許すのは3回までだ、その後は容赦なく張り手を食らわしてやるからな?

 

「ふむ、乳房も上等じゃのぉ……」

 

他の野郎が生唾を飲み込んで胸を見てくる……

分かりやすいなぁ……男としちゃ健全だけどよぉ。

 

「I.O.Pでは多様なオプションを取り扱っていましてお客様の望みのままの人形を製造できます」

「理想の女を?」

「左様です」

 

目の色が変わったな……フッ、この商談も貰ったな。

 

おい、それぞれ一回揉んでいってんじゃねぇ、キレるぞ?

社長に抑えられてキレられなかったし張り手も食らわせられなかった……クソが。

胸だけで済んだのは幸いだけどさぁ、俺のおっぱいは安くねぇんだが?

……このクソ説明会が終わったら依頼はちょっとボイコットするか。

セーフハウスでのんびりしてぇ……



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その7

おっぱいを揉まれる事と引き換えに新規契約をもぎ取ってきた私、無事帰還。

セーフハウスに戻ってみれば珍しい事に新規の依頼は届いてなかった。

珍しいがようやく私の要望が通ったのかと思うと待遇改善に一歩近づいたと言える。

あぁそうだ、近々I.O.P本社で躯体の精密検査が行われるんだったな。

それに向けて酷使はやめようってか?前時代の健康診断前に飲酒控える酒呑みみたいだな。

のんびり出来ると思うと途端に全身から力抜けるねぇ。

 

「コーヒーでも淹れてどうするか考えようかな」

 

ガレージに格納したバイクからコンテナを全部降ろして中身を引きずり出す。

汗を吸った衣類を洗濯してー使った弾倉に弾を込めてー

まぁそんな細々としたことをコーヒー片手にチマチマやりながら何するか考えよう。

コーヒーは勿論の事インスタント、お湯で溶かしてコーヒーっぽい何かになる。

水でも良いけれどね、コーヒーといえばホットだろう?

それも苦味が強い直火焙煎のモノが一番いい、酸味が強いのは苦手だ。

……このインスタントにそんな上等な物を求められるとは思えんがね。

 

「うぇ、やっぱりインスタントはインスタントか」

 

電熱で温めたお湯で解いてコーヒーにして……少し香りを楽しんでから口にする。

香りはまぁそこそこ、楽しめる雰囲気はある。3日は放ったらかしにして香りが飛んだ豆みたいだ。

しかし味はまぁ酷いものだ、コレで大人気だって言うんだからふざけている。

元々コーヒー愛好家であったら私からしてみれば泥水としか言えない。

あくまで雰囲気商品だな……少量お試しで助かった。

まぁでも目を覚ますのだったり気持ちの切り替えには良いか。

オフということで衣服もG&Kの戦術人形としての服装から解放される。

具体的に言えばかなりラフな格好になっても良い。

戦術人形として動く際は制服でという規定になってるからね、クソが。

汗濡れな制服を洗濯槽にブチ込んでから着替える。

 

「Tシャツにジーンズ……これ着るのいつ以来だろうな?」

 

オフ用にと購入していた唯一のカジュアルウェア。

日の目を見ることも無く何ヶ月も放ったらかしになっていた。

……ただ採寸時はピッタリだったはずの上下、何故かキツい。

人形というのは本来成長なぞしないはずだが……ふむ、これも有機素材をふんだんに使っている影響だろうか?

ますます人造人間みたいだな……さて後は簡易整備ばっかりしていた銃達の整備だな。

そろそろどっかガタきてもおかしくない訳だしね。

 

 

うん、ズラリと並べると私の手持ち銃火器は圧巻と言うべきかな。

つーかI.O.Pはこんなアンティークをどっから仕入れてきたんだか……

HK417、WA2000、DRD Tactical Kivaariのセミオートライフル3丁。

サイドアームとして採用しているMk-23ソーコム。

近距離戦とバードショットに用いる予定のM37イサカ。

そしてE.L.I.Dの化け物相手にぶっ放す予定のRPG-7……後者2つはまだ一度も使ってないけどさ。

そう、私は狙撃屋として名を売っているけど……その実際は便利な掃除屋みたいな所がある。

初期変異のE.L.I.Dならライフルで掃除出来るからって駆り出された経験もある。

対人戦も強いられたことはあるし……もうちょっとマシなPR方法無かったのかな?

鉄血がシェアを持っているから形振り構ってられないんだろうけどさ。

 

「休息日の制定……あぁ、ようやくか。一ヶ月に7日程度は自由に休暇を取って良いとする、ねぇ」

 

携帯端末にメールが届いて確認してみる。

するとG&Kからの人形労働環境改善として制定されるみたいだ。

むしろ今まで無かったのか、普通ボイコットされそうだが?

……あぁ、インシデントがあったからか。

 

『S02地区の指揮官死亡!原因は配下人形が過労により暴走か!?』

 

G&K社内報が添付されていてそちらをみてみればそんなのがあったもんだから……まぁさもありなん。

暴走して指揮官の脳天ぶち抜いた人形の稼働データを見てみれば配属されてから200日は連続稼働。

その間ずっとパトロール任務で24時間ほぼ稼働させられていたらしい。

それで派手にぶっ壊れないI.O.Pの人形の躯体にビックリだがそれを平気でやってた指揮官も指揮官だよ。

どれだけクズなんだか……誰も止めなかったし追撃で鉛玉食らってるみたいだからなぁ……

死体の惨状まで事細かに書いてるのは警告の意味もあるんだろうな。

"次は貴様だ"っていうそういう警告、まぁ私も担当官ブチ抜く予定あったし。

おやすみ、どうするかなぁ……うーん……

とりあえず、一日ゴロゴロ寝て過ごしてみようかな?

ソフトウェアアップデートも入ってるし……丁度いい機会だよね。

 

「よっと、それじゃあ……チェックもやってと……」

 

大あくび噛み殺しながらメンテナンスベッドに寝て各種プログラムを走らせていく。

I.O.Pから発信されているソフトウェアの更新、追加でインストールされる物があればそれらをインストール。

そして躯体の疲労状態等のチェックも行ってと……目を閉じて……ストンと意識が落ちた。

 

 

checking file:success

System initialize...

Install CFBsys

Update S-Dollsystems

Update T-Dollsystem

 

 

 

パチリと目を覚ます……無事にソフトウェアのアップデートは済んだ様だ。

主に入ったのはセクサドールとしての機能アップデートか……いや、いらねーよバカ。

新しくインストールされたのは……おや、これは良い。メールで注文していたパッケージオプションだ。

通常の人形には搭載されることは無いカメラハッキング用のプログラムセット。

一般的に普及しているカメラ回線に食い込んで映像を見ることが出来る。

そんでもって……戦術人形用のFCSの改修か。

ん?これは……CQC格闘セットか、これも対人戦闘では使えそうだ。

各種ヘルスチェックも問題なし、3サイズも誤差範囲だから……衣服が縮んだ?

いや、もしかしたら狙ってこうされたのか?

 

「まぁ戦術人形だし対人戦闘がメインになるだろうからなぁ……」

 

これからこれらの性能評価の為に仕事が割り振られると思うと憂鬱だ。

ただCQCのチェックとなれば別に戦闘じゃなくても良いよね。

自分の容姿にはかなり自信アリアリだし魅力満載だとは思う。

街に出ていけば十中八九間違いなくナンパされるし何なら路地裏に連れ込まれる事もありえるだろうね。

私が男だったら間違いなくそうする、あわよくばなんて妄想で股座ギンギンにしながらね。

 

「ごろ寝の予定だったけどショッピング……行ってみるか」

 

オフのカジュアルウェアの調達とかもしたいしね。

それに美味いものを食べたいし今の御時世の流行り廃りなんてのも見たい。

私の中の遊びたい欲求が弾けだしそうだよ。

 

「よっしゃ、善は急げだ……行くぞー♪」

 

護身用にMk-23だけ携行して街に繰り出そう。

狩猟シーズンはまだ本格化してないし、今ぐらいしか伸び伸びと遊べないぜ!

自動洗濯機のスイッチを入れてから近場の街までバイクでGOだ。

武器を入れるコンテナではなく着替えとかをブチ込む為の空のコンテナを積載して……

寂れたゴーストタウンから飛び出していく。

 

一番近場の街だと何があるんだろう。

ゆっくりと見たこと無いし楽しみだなぁ。




街で平和にお買い物できる……かな?


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その8

全く人通りのないゴーストタウン、郊外の荒れ道……

幾度となく飛び出すためだけにかっ飛ばした道。

仕事でばかり走らされていた所を何の制約も無く走る。

馬鹿みたいに長い髪が風に靡き気持ちよく駆け抜けていく。

水冷シングルの排気音も心地よい、のんびり流すとこんなに気持ちいい。

Tシャツがバサバサと暴れるがこれもまた良い感じ。

……いつ以来だろうな、こんなにゆっくりと流せるのは。

 

内燃機関というのはエネルギー政策や世界情勢から縮小傾向にあった。

新規に作られたバッテリーが高性能で内燃機関並のエネルギー効率になったのが不味かった。

静かで一気にドカンとくるパワー特性を持つEV化の波にあっという間に飲まれていった。

内燃機関にしか無い楽しさというのもあったのにな。

エンジン組み立て、整備なんて必要とされなくなったんだもの。

私は職にあぶれ……電脳の莫大なローンを抱えたまま無職になった。

それまで多忙と言って良いほどにエンジンを組み立てて……不調になった物を直して。

お客様に再び送りつける、誇りあるマイスターとして仕事をしていたのに……

忙しさの合間を縫って趣味の車を走らせて楽しんでいたあの日々……

 

「あーあ、いけないな。センチメンタルな気分だ」

 

オフの日に心の底から楽しめないで弱い気持ちが出てしまうのは良くないな。

性能PRの仕事が落ち着いたら車、買いたいなぁ。

あ、そうだ……古巣の自動車メーカーどうなったんだろう?

その辺も含めて色々調べてみるのも良いな。

 

「さてと、そろそろ街が……おぉ見えた見えた」

 

小高い丘を越えてしまえば見えてきた人間の生活圏。

畑が多く高層建築物なんてものは無い、地方都市として見ても規模が小さいな。

ただ目視できる範囲でも普通に人々の往来が見て取れる。

活気はあるみたいだ、良いね……化け物や不法侵入を防ぐ防壁もあるのが良いよ。

 

「よーし、散財するぞー♪」

 

たんまりと溜まった資金は一般的な人形が稼ぐ場合10年はかかるだろうモノ。

そりゃぁもう豪遊出来るってものだよ。美味しいものも食べられる……ハズ。

検問に引っ掛からなけりゃ入るのも出るのもスムーズだろうし……

ともかく今日一日は有意義な休日にはなりそうだよ。

 

なお検問でボディチェックされて思いっきり胸を鷲掴みにされたりもした。

そんなジャパニーズヘンタイみたいなことしてってさぁ……

G&Kの統括地区じゃないから通報しても知らんがなって流されそうだけど……

はームカつく、クソが。平手打ちでもしてやったほうが良かったかなぁ。

そんなバカでかい胸をしている方が悪い、違法だと言われてキレなかった私を褒めて欲しいね。

隠せるものはありゃしないし危ない携行品は護身用のMk-23くらいだっつの。

戦術人形だって身分も明かしたのにそれでもボディチェックっとかまったく……イカレチンポ共。

 

 

 

中は最高でも3階建てくらいの建造物がある程度。

コストがかかってでも地下に広げたほうが安全だから……だろうかな?

高層ビルがあるのはそれだけ安全って事か爆風を受けても倒壊しないだけの何かがあるか。

富の象徴だよね、高層ビルって言うのは……

行き交う車両は大体がEV……って訳でもない。

EVと内燃機関車が半々って言った所、最新鋭の車両は当然ながら無い。

その殆どが使い古しのモノばかりで見るからにボロボロなのも走っている。

WW3の遺恨というべきなのか……もう少し生きていたら仕事ありつけてたかもだなぁ。

今でもマイスターの経験は活かせると思うけどさ。

 

「お、結構大きめのショッピングセンター……!」

 

宛もなくトコトコとバイクを転がしていると視界の端に大きめの商業施設が。

ここだ、と私の直感が囁いて飛び入ることに……

スグ近くにもガソリンスタンドもあって燃料のことを心配することはないかも。

インフラがそこそこ整ってる環境だから安心は出来るよね。

 

「駐輪場あるじゃん、ラッキー♪」

 

自転車が多い中に比較的大きく見える私の愛車、IMX330を突っ込ませる。

買い物に来ている人たちは結構な数居るみたいだ。

ココだけ見ているとそんなに人類が衰退しているとは思えないな。

 

「ふぅ……よし、行くか」

 

しっかりとロックをかけてからいざショッピングセンターの中へ。

……視線が痛いな、なんだそんなに目立つ?

男も女も私の胸を見て顔を見て……ジロジロと見やがって。

 

「うわぁ、なんて胸のデカさ……凶器だろ」

「顔は可愛いのに……」

 

通行人のつぶやきが聞こえてくる。まぁ凶器、間違っちゃいないな。

何キロもある塊な訳だし全力でぶつけりゃ怪我負わせられるよ?

でもそれを口にするのはどうなんだよ、えぇ?

睨めばスグどっか行くし……ヘタレかよ、そんななら見るなっつの。

ともかく、衣料品店に行ってみようかな。その後は本やら食事かな。

 

「お、このブランドは……」

 

ブランドのテナントが出ていた。

特徴的な2色のロゴが目を引く……フラフラと入ってみれば中々洒落た感じのカジュアルウェアが並ぶ。

ただこれ男物が多いな……奥に行けば女性モノあるのかな?

……げ、値札を見てみるとすごい値段してる。

買うにしても数を絞らないとな……あれもこれもって買ったら残高が消し飛びそうだ。

そんなにハイブランドじゃなかったと思うが……

安いの3着で一回の依頼料の1割持っていくとは思わないじゃん。

男物でコレだから単価高くなりがちな女性モノだと……って戦々恐々とする。

奥の方に行けば……おぉキレイ系の洒落た衣服がズラリ。

もうちょっと身長があって顔もこんなロリ顔じゃなかったら似合っていると思うが……

私の外観で着ていたら背伸びしてる感がでるかもしれないな。

 

「あー……お客様?」

「ん?店員居たんだ……何?」

「申し訳ございませんが……お客様にフィットする服は無いかと」

「……あぁ、うん。オーダーは出来る?」

「オーダーは承っていませんので……」

 

はい、私の胸のサイズを思い出してみようか。118だ。

アホみたいにデカい胸をかかえていて入る服が普通扱われてるか?

……無いよね、うん。そりゃそうだ。

 

「ボトムだけでも……ウェストが57でヒップが92なんだけど」

「では股下を測りますね……あ、結構長い」

「店員さんが思う私に似合いそうなボトム、探してきてくれる?」

「かしこまりました」

 

まぁ上下合わせたらアホみたいな金額が飛んでいくと思うけれども……

下だけだったらそうでもないでしょ。

店員さんもウッキウキでピックしてきてるし……ふふ、こりゃ楽しみだ。

女の子の身体になった以上楽しむ物は楽しまなきゃね。

自他とも認める美少女な訳だし、ふふふ。

 

「ん?」

 

店員がアレコレとパンツやスカートを持ってきている最中に厳つい男が数人……

うーん、なにか怪しいな。不必要にでっかいバック持ってない?

2人が入り口に立ったと思ったら……残りの4人が店内に入ってくる。

 

「強盗だ、金を出しな」

「通報しようなんて思うなよ」

 

oh……これは不運、なんてこった強盗が押し入るタイミングで買い物してるとはなぁ……

どうしたものか、戦術人形として動いてもいいけど面倒だしなぁ。

大人しく伏せて強盗が終わるまで黙っておくか。

 

「おい、そこの……お前は人質だ」

 

私ご指定ですかー、クソがー……店員さんもケーブルで縛り上げられてるし……

店の中に居る女性がそのまま人質ってか……

監視カメラとかからも犯行は割れてるだろうしすぐにPMCが来るだろうさ。

それから逃れるための交換材料として私を使おうと……ほうほう。

 

「へ、良いモン持ってるな……お前」

「……」

「そんなに睨んでも助けは早々来てくれないぜ……ここの警備員は買収済みだからな」

 

当然のように胸を掴むの止めてくれないかな。

……まぁ油断を誘って視線が外れた際にぶっ潰すか。

方針変更、私一人でコイツら潰して突き出してやる。

あと警備員も顔面にドロップキック食らわせてやる、覚悟しておけよ。




無事にお買い物?出来るわけないじゃないですか。


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その9

状況を確認しよう、今現在の状況を。

ショッピングセンターの中のテナント、割りと高級な衣料品店で強盗が発生。

店員は女一人、客は私だけでそれぞれ人質として捕らえられた。

手首にはケーブルタイ、簡素な拘束だね。

犯人グループは仮面を付けた6人組、2人が外で見張りをして残りが物色する感じだ。

ただ強盗の1人が私を気に入ったのか拘束したのにベタベタとくっついてくる。

そして私のTシャツとブラジャーで防御している胸をむにむにと揉みしだいてくる。

ひじょーうに不愉快、すぐにでも張り倒したい。

手持ちの武器はMk23がある、しかしそれは肩掛けバッグの中。

見せびらかして歩いていたら待ったをかけられるしね。

 

「へ、へへ……なんだ、怖くて声もでないか?」

「ぅぉ、でっか……おいソイツ連れ帰ってマワさね?」

「いいねぇ!それも良いじゃねぇか」

 

私と揉みしだくヤツに触発されたか女店員の胸も揉み始めた。

向こうはガチで怖がってカタカタ震えている。

……私もあっちも首元にナイフ当てられてるんだよね。

他2人はレジスターをぶっ壊した上で……奥の金庫を開けに行ったな。

この店舗の規模だとこじ開けるのに時間はそうかからない。

警備員は買収したとか言っていたから恐らくは警備員は来ない。

ただオートメーション化された通報システムが今PMC本隊に通報していることだろう。

ここの担当PMCはまだ人間が殆どで機械化はされていない。

展開しても人死にが出ない様に慎重になるだろうし到着までは時間がかかるだろう。

 

「へへっへへっ……柔けぇな」

「こっちのは手頃な感じで……ヒヒッ怯える声がたまんねぇな」

 

……それぞれ胸に夢中だな。

よし、ヤるか。CQCプログラム起動。

 

「ぅお!?」

 

まずは私の胸を揉みしだき続けた不届き物から。

躯体のパワーに物を言わせてその場でバク転気味に飛ぶ。

ジーンズだからショーツを見られる心配もない。

上下反転した視界、ドアップで映る男の股間……うぇ。

ムッチムチの太ももで顔を挟んでやる、驚愕の声が上がるがまぁ手遅れよ。

 

「フンッ」

「うぉぉぉおお!?」

「なっ、テメェ!調子に乗るなよ!」

 

上体を大きく揺らしてそのまま勢いで投げ飛ばす。

よし、狙い通りにイスのカドに頭ぶつけたな……気絶してる。

手の拘束はそのまま、油断を誘うためのブラフ。

ストンと立つとこっちにナイフ持って突っ込んでくる男に向き直す。

騒ぎを聞きつけた強盗が来るな、ちゃちゃっと潰すか。

 

「フッ!」

「うぉ!?んぎぃぃっ……ぉ、ぁ……ぁぁ……!!」

「フンッ、店員さん隠れておいて」

「ふぇ?は、はい!」

 

真っ直ぐ突っ込んでくる物だからナイフの機動も分かりやすい。

そもそも本気で刺突する気配ではなかった、怯えた所を取り押さえる挙動っぽかったな。

屈んで水面蹴り、ひっくり返った所を男の急所を一発ストンプ。

ぶちゅっとイヤな感触がしたが無視、女の敵はそれくらいで良いだろ。

ひーしかし蹴りで戦うと胸が暴れて暴れて……ん?やけに締め付けが緩いな。

あ、これブラがぶっ壊れたな……無理もないか、なんkgもある塊がバルンバルンうごけばそうなるか。

店員には隠れてもらってっと……楽しい第2ラウンド開始だな。

 

「なにが……おい、何ヤッてんだ!」

「女一匹になに……動くなよ、死にたくないだろ」

「……チッ」

 

相手の武装はおーぅ、これはこれはチンケなピストルだな。

強盗するならSMGくらいは持ち込めよ、へなちょこが。まぁ助かるね。

突き付けて来た銃は如何にもハンドメイドなパイプピストル。

こりゃ驚異でもなんでも無いな。確認しに来たのは入り口を見張っていた2人と金庫を見に行っていた1人。

残り1人がせっせと金庫をこじ開けてる最中だな。

まずはピストルに降参したフリをしてっと……

 

「妙な動きをするなよ」

「取り押さえろ!」

 

掛かったな、アホが。

前後から取り押さえようと飛びかかってくる男。

もう一人が銃で警戒してるからってそりゃ悪手ってもんだよ。

体格がちっこい私の大半を隠しながら迫っちゃ意味ないぜ。

 

「ぅぶごぁ!?」

「なっ……げふぁぁっ!?」

「うぉぉぉぉ!?」

 

飛び上がり前の男を蹴り上げながらバク転。

頭上を取ったもう一匹、背後から抱きつこうとしていた男の頭にそのまま流れるように蹴りを入れる。

ついでにケーブルタイを引きちぎって着地。ふらついた男二人まとめて蹴り飛ばして銃の男を巻き込む。

これでよし、気絶してなくてもこれで何も出来まい。

バッグの中からMk-23を引っ張り出して……っと。

 

「お……うぉ」

「動くんじゃないよ、何処狙ってるか分かってるでしょ?」

 

レーザーモジュールをオンにしてしっかり心臓を狙う。

両手を上げて武器も落したのを見て投降したか……ふぅ、制圧完了。

CQCプログラム良いね、格闘時のインパクトタイミングとかもパーフェクト。

 

「伏せて、はい両手は後ろに……縛られる気分はどうかなー?」

「クソがっ……」

「店員さーん、出てきてもいいよー制圧終わったー」

 

店員さんはまぁ強盗被害に遭うのはこれが始めてとのこと。

近場で発生していたけれども自分が遭遇するとは思わなかったと涙ながらに話した。

担当PMCが到着するまで6人の強盗の身体を並べて縛って適当に転がしたりした。

ちなみに取引金額は割引してもらった、それはラッキーだったね。

 

 

 

買収された警備員の顔面にドロップキックを食らわせてから買い物の続き……とは行かなかった。

解決した人形だって言うのにメチャクチャ文句を言われてねー。

 

『困るねぇ、人間の仕事を奪ってもらっちゃ』

 

知らんがな、在中してないお前らが悪いんだし買収されるような警備員雇うのが悪いんだろ。

引っ叩きたかったがまぁそれは流して……近くの詰め所まで同行することになった。

買ったものをバイクに詰めてトコトコと男が詰めるPMCのむさ苦しい詰め所へGO……

 

「納得いかねぇ~……」

 

楽しいハズの休日がバカ共にぶっ壊された挙げ句無駄足まで……

I.O.P所属の戦術人形って事になってるから表向きではPMC間の小競り合いは起きないだろうけど・ …

これPMCの詰め所に着いたらネチネチ言われるパターンだよ。

感謝の言葉もなくさぁー……まったく。

私の乗るバイクの前を行くのはバカ6人衆を載せた護送車両。

後ろはPMCが乗ったパトロールカー、どっちもガソリン車だな。

ついでに警備員もクビになるのは確定事項、アホだよねぇ端金で職を失うとか。

 

「うわーこれまた金ケチった詰め所だこと」

 

G&Kではこんな詰め所作らねーぞって感じのボロい詰め所についた。

なんてこった、見るからにフェンスが老朽化していてタックルしたら壊れるぞ。

有刺鉄線でもないし電流?流れてねーよコレ。

この様子だと牢屋もろくな事なってねーよ……治安悪くなる一方だろこれー。

駐輪場もねぇし、駐車場の片隅に適当に停めて取調室へ。

 

戦闘能力についてツッコまれたけどI.O.Pとの契約上話せないのを説明。

電子証明もあるから端末に転送してやって証明。

これを機に人形導入しないか?とセールスしてみたけど……

まぁ案の定というべきか予算がつかねーってことで却下された。

一応仕事中だったからか胸を揉まれるような事はなかった。

……これが普通であってほしいんだけどねぇ。



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その10

休日もトラブルに巻き込まれてフイにしちゃった私。

まぁ元気にしてますよー、今日は汚いお掃除の中でも比較的に胃に優しいお掃除のお仕事だ。

近隣の農業組合からのご依頼、コレは私の表向きのお仕事だ。

害獣駆除のお時間です、数日前に仕留めた鹿っぽい何か、アイツが大量発生しているらしい。

デュアルヘッド鹿というべきか、その食生活も鹿そのもの。

草だったら何でも食い散らかしてしまう害獣そのもの。

花も何もかも、その頭が届く範囲であれば食い散らかす。

その被害は農作物にも出ていて根菜類の葉、豆類……まぁその被害は多い。

放射能で変異したせいなのか繁殖力も高くてぽこじゃか出てくる。

天敵も多いけれどもその天敵をもってしても数の調整が追いつかない。

自然のバランスは大きく崩れて久しい、だから狩猟者が必要になっている。

私みたいな戦術人形で狩猟をしているのは少ないけどね。

仕事にしているのは更に少ない、大体は趣味としての鳥獣狩だ。

 

「んまーなんて大雑把なエリア指定……」

 

狩猟してくれと頼まれた数は20頭、雌を中心に射殺してくれとの事。

雌の肉は柔らかく風味もマイルドな傾向があり食肉としても人気がある。

あと純粋に産む母数を減らそうって事だね。

雄だけだったらナニしようにも母胎が居ないんだから増えようが無い。

ところが雌だけだったら突然変異を起こしてナニが生えてくる可能性とか……

あとはナニ型の寄生生物がいてだねぇ……勝手に増えていく可能性があるんだ。

正直1人で20も狩れっていうの無茶振りなんだけどさー……他に居ないからね。

一応その指定エリアの大体の獣の生息範囲、活動範囲も頭には入っている。

本来は猟銃を使うべきだけど……あくまで駆除が主目標なのでミリタリーグレードのHK417を使っちゃう。

ミスって逃げられた時もささっとリカバリー射撃が出来るのがASSTされた銃の良い所。

逆に絶対ミスれないテロリスト処理とかはWA2000を使用したりする。

……ミスったこと無いけどさ。

 

「20頭くらいなら一週間コースか、繁殖具合からしてもトントンだと思うけどねぇ」

 

狩猟自体は張り込めば数日で終わらせられる自信ある。

けれどもホラ、私美少女。狩猟者である以前に女の子なわけです。

泣く子も黙って見つめる美少女が何日間も水浴びしないで汚れっぱなしとかどうですー?

うっかり見られたりしたら私がショックで寝込む。

という訳できっちり戻って水浴びとかしたいわけです。

一応近場に狩猟者の休憩小屋とかあるんですけどー……水とか確保されてませんよ?

立ち寄るのが私くらいなんだから整備もろくにされてないんだしー……

この前とか野盗が入っていて襲われたりもしたんだ、やだよあの小屋。

 

「という訳でアクセサリーも組み替えてっと……楽出来るから良いよ」

 

対人戦闘ではないのでレーザー照射でバレる事はない。

活動時間帯も夜中で相手は夜目が効かない間こっちは暗視装置を使える。

別の追加オプションを装備したら熱線映像にも切り替えられるっていうね。

こっちはそういうアドバンテージがあるわけで……

対人狙撃では封印を余儀なくされるレーザーポインタに赤外線ライト等が使用できる。

ピカティニーレールにくっつく赤外線照射装置にレーザーポインタ、ライトの複合ユニット。

そしてスコープも夜間暗視対応の物、レーザー測距が標準装備の物だ。

アンダーにはグリポッドを装着……まぁバイポッドとフォアグリップでも良いんだけどね。

すっきりとさせたいからって理由だけでくっつけてる。

サプレッサーも取り付けて……うん、ヨシ。

 

「さて、一日3頭ペースで狩れば良いし……のんびりと行こうか」

 

他にも狩猟用の道具をコンテナに詰めてバイクに積載。

ギリーマントで隠れながらじーっと待つ狩猟の始まり始まりってね。

 

 

 

狩猟ポイントに到着すると先ず真っ先にするのは自分のニオイ消し。

その後設営してからガン待ちの構え。私2人くらいならすっぽり覆えるギリーマントだからね。

椅子に武器に小道具くらいなら全然隠せる。

設営時、風下に立てればいいけど風上にいる場合もある。

そうなった場合自分の匂いで気取られて逃げられる場合が多々ある。

誘引用の道具とかもあるけどそれは使うと肉食獣をおびき寄せる事にもつながる。

無用な狩猟は避けるべき、特に鹿を潰してくれる肉食獣は極力避けたい。

そういう理由があるからニオイは消しておきたいの。

 

(まぁ避けたい理由はそれだけじゃないけど……)

 

変異した後の肉食獣の大半は雄、雄の個体は揃ってある特性が報告されてる……

まぁその特性こそが人形の狩猟就労率の低さにも直結してる。

よっぽど自信がないとやってられないからね。

それかよっぽどの物好きとかでない限りは……なにかの拍子にね、アクシデントが……

消臭スプレーで体臭を消してギリーマントを被る。

バイクはそこそこ離して止めている。どうせスグには来ない。

平気で何時間と待つハメなるんだから……のんびりしている間に臭いは霧散する。

 

(休息場はココのハズ……古い足跡も視認しているから間違いない)

 

地面に組み立てた超ロースタイルのチェアに腰掛けて狩猟道具の暗視双眼鏡を覗き続ける。

あとは耳に入ってくる自然の音にまぎれて鹿の群れが来ないかを探る。

運が良ければスグにでも来るし……運が悪けりゃ延々と来ないで日が昇る。

狩猟も時の運な所があるからノルマクリア出来るかどうか……

 

(最悪なのは肉食獣が来た時だなぁ……殺せないワケじゃないけど)

 

肉食獣は総じてタフ、狩り殺すなら7.62じゃなくて.338ラプアマグナムが欲しい。

贅沢言えば.50BMGが欲しいくらいにはメチャクチャタフ。

頭蓋骨に命中させても数分は生きているしその間追っかけ回してくる。

足を撃ってもへっちゃら、爆発物でぶっ飛ばしてもよろめく位で普通に追っかけてくる。

過去3度遭遇して追っかけ回されたけど生きた心地しないからやりたくない。

持ち込み弾丸全消費は免れないし収益減は確定事項になっちゃうね。

赤字にはならないように報酬設定してるから助かってるんだよね。

 

(お、きたきた……幸先良いねー……それじゃ、害獣処理の開始)

 

双眼鏡に移った双頭、間違いなく鹿だ。

まるまる肥えていてこりゃー……農作物食い荒らしたな。

腹にも子供を拵えてると見える、最優先で潰さないとね。

他にも3頭、うーん……積載可能なのはギリ3頭まで、1頭は野ざらしで放置で良いかな。

傍らに置いていた417を担いで、構えて……銃口とレーザーユニットを出す。

レーザー照射、後はそれぞれヘッドをブチ抜くだけ。

 

サプレッサーで極力小さく減衰した音が8連続して鳴る。

遅れてカランカランと排莢された薬莢が鳴る。

 

「おやすみ、自然に還るんだよ」

 

さて、コイツらを持ち帰って解体作業かぁ……何キロの食肉になるかなぁ。

というか買い手つくかなぁ……つかなかったら燻製にして私で消費するっきゃないんだけど。

倒れ伏した4頭の小さな群れの死体……バイクに積載して走るにしてもそうとうヨタヨタするな。

積載出来なくはないけどサスとかエンジンの負担がなぁ……

 

「帰ったらメンテかなぁ……」

 

もうちょっと大きいビークルも検討して良いかも。

4輪バギーとかそういうの良いと思うんだよね。

一匹ズルズル引きずりながらそんな事を考えて……積み込み、今日の狩猟ノルマは達成。

さっさと帰ったのだった。




狩猟巻

肉食獣を避けた理由?
そりゃ勿論R18な事でございます。


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その11

初日で4頭潰せたのは望外の僥倖ってやつかな。

ただその後がよろしく無くてノルマの20頭に到達できるか怪しい所になりつつあった。

一週間の期限で契約を交わしたお仕事だけど現在の狩猟数は15頭。

残り5頭を今日狩らなければお仕事失敗。

報酬が減額されるだけじゃなくて失敗をコレ幸いにと突っついてくるやつが居る。

一応私はI.O.Pの人形で性能もトップクラスとなっている。

それが失敗したとなったらその分野に入り込もうとするのが居る訳。

I.O.Pのライバル企業、鉄血工造だよ。そこで狩猟用のモデルを作るって話になるかもしれない。

そうなれば私の表向きの仕事は壊滅するし……職にあぶれるわけ。

I.O.Pも失望して何やらかすかわかんないしね。

 

「探し回りながら潰すか、釣り野伏せは無理だ」

 

私が振り回す7.62ミリ弾だとマズルエネルギーと貫通力の兼ね合いで頭か心臓を貫かないと狩猟は難しい。

ミリタリーグレードだし貫通力が高すぎて過貫通を起こしたり……

侵入角度によってはエネルギーを完全に吸われて致命傷を与えられなかったり。

だから本来は貫通後体内で潰れてグッチャグチャにするような弾をぶっ放す猟銃が良いワケ。

仕方ないから今日ばかりは狩猟用の小屋も使って一日中駆けずり回る事になるな。

その間の水浴び?はは、無理に決まってるじゃん。

終わった後には汗だく汚れまみれの私が出来上がってるよ。

臭いはしないだろうけどビジュアルが死んでる女の子ですよ、ハハハハ……

 

「クソがッ!」

 

当然その後の肉の解体処理とかもあるからほぼ徹夜!

このお仕事の後に狙撃任務吹っかけられたらブチギレ不可避だよ。

弾もメチャクチャ持ち込んでる。もう後先考えてられないしグレネードランチャーも持っていこう。

40ミリ程度のチンケな爆薬でぶっ飛ばせるのは限られてるけどさ。

どの角度からでも頭にぶち当てりゃ絶対に殺せる。

鹿狩りにはオーバーパワーだけど贅沢言ってられる場合じゃない。

あーもうこうなりゃ持てる武器は全部積載して持っていくか?

化け物狩り用に拵えてるRPG7で纏めてドッカンと……ぶっ飛ばしてもいい。

 

「広域探査ドローンも購入しておくべきだった!」

 

後悔先に立たず!有り余る金でこういう時の保険を買っておくべきだったよ!!

後がなくなると人間判断力が鈍るとは言うけど、もうやれることはヤるしかねぇ!!

血眼になってる事を自覚しながらもありったけの火力を持っていくことにした。

携行するのはHK417フル装備、替えのマグは3つ。グレネード弾をたんまり10発、RPG7の弾頭は3!

これでクソ害獣の鹿共をぶっ飛ばす!情けなぞ捨てたわ!

 

 

 

狩猟者用の小屋に到着してまずは小屋内部の掃除。

もう隠れてコソコソっていうのはしないのでギリーマントは置いてきた。

替わりに持ってきたのは武器を背負って移動する為のアタッチメント。

RPG7なんていうクソデカなブツを背負って移動する。

まぁバックパックのボトムと私の腰の2点で支えるっていうヤツだけどさ。

ニオイ消しと誘引用の小道具……そして暗視装置。

群れを発見したらそこに爆発物をブチ込む、一匹でも面倒だったらもうぶっ飛ばす。

探し回って狩れるだけ狩り尽くす。

なんか邪魔してきたらそいつも狩ってやる。

 

「サーチ・アンド・デストロイだよ」

 

この森林地帯で壮大におっ始めてやろうじゃない。

野盗が出ても知るもんか、纏めてぶっ潰してやる。今の私は殺戮人形だよ!

埃被ってる小屋の扉を蹴り開けて……ほーら抵抗が少ない。

また野盗がコソコソと利用してやがったな。

 

「なんだァ!?」

「げェ、このデカパイ女は……」

「なんてこった、逃げろ!!」

「逃がすと思うなよォ!!クソ雑魚共がァ!!」

 

大体この小屋を忌避するようになったのもコイツらが原因なんだ。

今ココでぶっ殺して……やってもいいけど肉食獣が来ても困るな。

適当に無力化して縛り上げておくか。

 

「動くなよ、クソども」

「「「ヒュッ……」」」

「私は生きる自信あるけど、コイツの爆風食らって生きてられるかなぁ?」

「た、助けてくれ、まだ死にたくねぇよォ!!」

「よし、オメーら全員縛り上げのお時間だよ」

 

本来は仕留めたヤツを縛り上げるためのヤツだけど……ここに荒縄がある訳ですよ。

コイツでぐるぐるの簀巻きにしてやって地元のPMCに突き出してやるって寸法です。

まぁ数年後には出所してくると思うけど……

 

「次この小屋使ったら地の果てまで追っかけてぶち殺してやるからな」

 

おやおやニッコリ笑ってるのにどうしてそんなにビビり散らかすんだよ。

見るも可憐な美少女の笑顔だぞ、喜べよ。

お、コイツら生活用品持ち込んでるし……へぇ、こりゃ良い。

 

「コイツ、貰っていくよ」

 

恐らくは人間相手にって所だろうけど罠を持ち込んでる。

罠猟の専用アセットは無いけど使い方ぐらいは分かる。

あとは生息域とかから算出して設置したら良かろうなの。

よぉ~しガクガクと首を縦に振ってるしヨシヨシ、大手を振って使ってやろう。

 

 

 

 

数が多い鹿だけどその生態はかなり臆病でちょっとでも異変を感じるとすーぐ逃げていく。

肉食獣に狙われやすいっていうのもあるから尚更に臆病。

私みたいな小柄な女が出す音でも敏感に聞き取って逃げていく。

だから普段は待ち伏せして狩りとっていたりするわけなんですよ。

種としてはポコじゃか増えていくこの鹿だけど年2度ある繁殖期に一気にズドンと増える。

繁殖が終わると複数の群れに分かれて分散し各方面の草花を食い荒らしていくクソ害獣になるわけ。

一気に数が減るとその地域での異常さを察知して暫く寄り付かなくなる。

だーからこうやって私が必死になって狩り殺しているワケですよ。

この狩猟地域に隣接しているのが農地だからね、ココから離れてくれれば農作物への被害は無くなる。

移動していけば肉食獣だってソイツら追いかけて出ていく。

まぁ一部は人里に降りてくる可能性があるけどさ。

 

「ん、足跡発見……新しいな」

 

足跡の付き方からも早足だ……こっちの足音を聞きつけたか?

いや、違うな……こっちの足跡は肉食獣のだ。

うぇー遭遇したくないのが見事に出てきたな……血も出ている。

こりゃ荒らされるてるなぁ……めんどくさい事になったなぁ。

群れを1つ見つけてって言うのがプランニング丸潰れだよ。クソが。

 

「もっと面倒なのは腹が膨れた肉食獣に捕捉されることだなぁ」

 

この地域の肉食獣の生態は他の種族の雌を襲って孕ませるんだ。

発情期ってワケじゃないけど……大体人間の女はそっちの意味で襲われる。

食われる時はよっぽど腹が減ってる時くらいなもの。

一発でぶっ飛ばしたいし……グレネードは装填しておこう。

あーくそぉ、今日は本当に良くないことばかり起こりやがる。

 

(うわー……くっちゃくっちゃしてるよ)

 

双眼鏡で覗きながら慎重に進んでいると見つけちゃった。

一匹の鹿を仕留めたグリズリーがめちゃくちゃ食い散らかしているんだ。

他にも一匹死んでる……よっぽど腹が減っていると見える。

うーん……都合あと3匹屠れば良いことになるけど……この近場ではやめておこう。

これがまだグリズリー1匹だから良かった、狼だったら間違いなくバレてたし。

とにかく離れよう……一応RPGは持ち出して、417を逆に腰にマウントして。

 

「あっ」

 

バッチリ目が合った、やっべ。

 

壮大に一発でっかい爆発音が森に響き渡った。




なおその後ちゃんと鹿を探し出してきっちり仕事は終わらせた模様。

次はちゃんと雇われ狙撃手するから……


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その12

なんとか死ぬ気で森を駆けずり回ってお仕事を終えた私。

セーフハウスに戻ってみるとまぁうん……お仕事の依頼が飛んできていた。

クソがっ……と罵りながらも依頼メールを開けてみる。

おぉ?こりゃまた普通な依頼です事……G&Kの実働部隊の狙撃支援。

ふむふむ、夜間にテロ組織の基地を襲撃し殲滅するみたいだ。

ただ基地というだけあって相当な防備が予想される。

当該地区の指揮官は配属されて日が浅いし配属されている人形も近接戦闘向けのチューニングされている。

具体的に言えばSMGの人形が多くてARは少数、長距離を担当できるRF人形は入っていない。

そこで性能的にも優れた私に動いてもらおうってワケね。

対外的な性能アピールはだいぶ浸透しているから内部で振るう余裕が出来たのかな?

 

「作戦決行日は3日後、当該地域の指揮官と顔合わせする必要は無し……ふぅん」

 

今まではクライアントに顔を合わせるのも含めてのお仕事だったけど……

この任務ではその必要は無いと、ふむふむ。

まぁ余計な気を遣わなくて良いから私としては楽だ。

変に営業スマイル浮かべながら売り込みをしたり胸を差し出して契約もぎ取ったりとかしなくて良い。

行って殺して帰るだけ、私の居た痕跡もなくしてしまえば狙撃をしたのは誰かなんてわかりゃしない。

……まるでゴーストだな。まぁそれが本来の狙撃手のあるべき姿。

姿を視認させる間もなく殺して痕跡は残さず去る。

次に撃たれる時、ドコから撃たれるか分からないって恐怖が抑止力にもなる。

 

「……うわ、体臭終わってる……水浴びして綺麗さっぱりしないと」

 

まぁお仕事に取り掛かる前に一日駆けずり回った上に爆風と血煙に塗れたボディを洗浄しないと。

髪の毛にも粉微塵にしたクマと鹿の血肉が付着していてすっごく不快だ。

臭いも酷いことこの上なくて人相も相当悪くなってる。

美少女にあるまじき姿だよ、まったく……

 

「あ、そだそだ……水浴びする前にドローンの発注をかけておこう……」

 

忘れちゃいけない、今後後悔する事無いようにドローンの注文を入れておく。

追加アタッチメントを装着したら無線操作もリアルタイムに出来る。

戦場での視野拡大にもなるし狩猟でもメチャクチャ役に立つ。

採用しないって手が無い、フロートディスプレイ式にしたら片目を潰す必要もない。

あくまで私は見た目は完璧でありながら性能も最高級である事が条件になるんだ。

……注文処理完了、あとは納入されるのを待つだけ。

納期は……おや、4日後か。となるとフィッティング後は動けないな。

だって5日後はI.O.P本社での精密検査だからね。

 

 

 

任務当日、当該基地は……私のセーフハウスと同じようなモノだ。

ゴーストタウンの一角を占拠して廃墟の中身をかなり改造しているみたいだ。

確りと補充を受けて、今回使用する無線レシーバーのチャンネルも合わせる。

誰かの指揮管轄下に入るのは始めてのこと。

まぁ指揮管轄下って言っても私の処理った敵勢力の情報、視認した敵の情報を共有するだけ。

今まではRF人形なんて要らないんじゃないのって言っているらしいけど……その認識を変えてやろう。

 

「半分詐欺まがいではあるけどね……」

 

私はハナから最高品質で最高出力を出せるようになっている。

通常生産された戦術人形は戦場で経験を積んでそのデータから最適化をしていく。

そして最適化された頭脳に合わせて躯体の方をチューニングしていく。

そうするのは指揮官によって戦術のクセっていうものがある。

そして当該地域の敵対勢力、任務の偏りも存在する。

ハナから最適化させて配属させては活かしきれない場合がある。

……まぁそれは100%プログラムで産まれたAIの場合。

人間の頭脳から取られているパーソナルだとそういうわけでも無い。

ライフルが居るとこんなにも楽と思って雇入れしても期待値の半分以下の性能だってパターンが多いだろうさ。

 

ヘリコプターでランディングする部隊とは別に私は動く。

行進する先が見えやすい小高いビルの廃墟に陣取る。

当然移動に使ったのはバイク、アホみたいに騒音をならすヘリに紛れて隠密行動できるモノだよ。

 

「さてと、まずは偵察」

 

持ち込んだ双眼鏡で覗きながら偵察。

奴さんの基地は地上2階建て、地下3階建てのショッピングモール跡。

それ相応の人数が居るし防衛火器も中々に見える。

M2ブローニングが要所要所に設置されているし防弾シールドも付けられている。

下から打とうにも土嚢で威力は潰されるだろうなー

 

『うぉっ!?あ、なにこれ……敵勢力情報?あぁ件の狙撃手さんか、ありがとう!』

(うっわガキんちょ?G&Kも人材不足だって言ってたけどこんな変声期前のガキを雇う!?)

 

無線レシーバーから聞こえてきたのは舌っ足らずな上にソプラノボイスな声。

指揮官の大雑把なパーソナル情報では男ってあった気がするけど?

そこから考えるにこの指揮官、ガキだ。まだまだ肉体的にも成長過程のガキ。

まぁメリットは有ると思うけれども切羽詰まってるなとしか思えない。

こっちからの情報はあくまで情報としてしか送れない。簡単なテキストメッセージは送れたりするけど……

接触は極力避けられてる感じだ。

 

『そうなると……ここで挟撃して一気に叩いたほうが良いな、狙撃手さんは――――』

(へぇ、経験が浅い割にはちゃんと戦術立てるじゃないか)

 

しっかりと戦術的に効果的な打撃方法を講じている。

手持ちがSMGが多数であり殺傷能力に富んでいるARが少ないのはわかっている。

だからこそダミーをちょいちょい無駄にはするけれども……遮蔽物を多く利用しつつ接近していく。

そして一箇所を電撃作戦で突破すると浸透して潰していくって戦法だ。

室内にさえ入ってしまえばSMGの天下、テロリストに未来は無いと思う。

私に下ったお願いは撃てる範囲でのM2ブローニングの銃手を潰せって事だ。

 

「舐めてんのかガキンチョ……全部潰してやっても良いんだぞ♪」

 

そんな低めに見積もられるとお姉さん本気出しちゃうぞー

ニッコニコとしながらチャージハンドルを引いて初弾装填する。

レーザーサイトの使用も許可が降りているし……ふふふ、潰してやるぜ。

距離にして大凡400、外さない縛りだったらWA2000を選択している距離だけど……

今回は外してもいいし排除してしまえばいいって仕事だからね。

遠慮なく私の餌食になってもらおうか、テロリスト諸君。

 

楽しい楽しいテロリスト狩りの始まりだ。

 

 

 

 

それからは一方的とも言える戦闘のような何かが繰り広げられるばかりだった。

テロリスト側も襲撃を検知し防衛に出た。

その総数たるや300人、それに対し人形の部隊は3部隊。

揃いも揃ってSMGを主体にした構成であり報告を受けたテロリストはせせら嘲笑っていた。

テロリスト側の装備は防弾ベストに前時代の名銃、AK47にM2ブローニング機関銃。

各種手榴弾もあって近接戦闘がメインとなる人形からアウトレンジで一方的に撃てる装備だ。

 

"こりゃ楽に撃退できる、ついでに良い肉オナホも手に入るな"

 

そんな風に取らぬ狸の皮算用をしていた所だった。

 

M2についていた銃手が突然倒れたのだ。

何事かと見てみれば眉間に穴が空いていて即死していた。

狙撃手がいる、誰かがそう叫んだがその叫んだ人間が撃たれて絶命。

現場は一気に恐怖に叩き込まれ遮蔽物に隠れる他なくなった。

少しでも顔を出そうものなら即座に死体に変えられる。

通信からは人形の部隊が迫ってきていてどっちにしろ殺される。

自暴自棄になった数人が手榴弾で自爆特攻しようとするも……今度は足を撃たれ、手を撃たれ……

その場で無惨に爆散する事になったりもした。

僅かな手がかりは着弾する寸前に見えるレーザーサイトの点だ。

どこから飛来するかわからない7.62ミリの恐怖に怯えたテロリストは置物と化した。

かくしてダミーリンクに一切のダメージを入れること無く建物に侵入した人形部隊はその後屋内を弾痕と血糊でデコレートして凱旋した。

富裕層が甘い蜜をすする現状に不満を持ち決起したテロリスト達、その心意気は良いだろう。

しかし多くの犠牲者を出し弱者を虐げるだけの存在に堕ちた者たちに過ぎず……無惨に骸を晒すだけだった。

 

その精密で苛烈な狙撃支援を要請した指揮官のRF人形への認識は大いに変わった。

 

 

 

「あー疲れた、帰って鹿肉ステーキでも食うかなぁ」

 

撃った本人はもう既に居なく呑気に荒れ地を行きながら……飯のことを考えていた。



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その13

I.O.P本社に出向くのは何ヶ月ぶりだろうか。

製品として生産されチェックされ……戦術人形として再設計されたのがもう相当昔に思える。

さて、移動手段はいつもどおりのバイクだ。

バイクで移動してくる人形はそうそう居ない……そもそも自走して来るとか稀。

大体は輸送されて来るものだ、本社工場でないと修理不可能なレベルにぶっ壊された人形とか……

あとはかなり大規模なアップグレードを実施する場合とか。

大凡の人形は生涯に何度あるかないかってレベルのものだ。

ぶっ壊されたら普通はデータだけ移植して新品躯体って言うもんだし。

 

「つーいたついた、駐輪場は……無いよねー」

 

まぁ無理もない、私の移動手段はくっそマイナーな移動手段だし。

普通はトラックか輸送ヘリだしね、駐輪場なんてモノは存在しない。

仕方なく駐車場の一角を借りてそこに停める。

ASSTの調整も入るから武装まで持ってこさせられている……

当然入り口でえーらい時間を食われるんだよね。

何をされるか分かったもんじゃないし正直帰りたい。

それに通信上ではおっかなくて渡せない辞令とかも飛んでくる可能性だってある。

厄ネタの宝庫と言っていいよ、クソがよぉ。

まぁ拒否ったら解雇コース入りかねないので受けるしか無いんだけどさー。

 

「これが持ち込み品だね?」

「そうでーす、今日精密検査予定のシーナです」

「照会するからシリアルナンバーをこれに入力してくれるかい?」

「はいはーい」

 

417入の武装コンテナを預けて受付、守衛さんが懇切丁寧に案内してくれるよ。

終始にこやかにしていて当たりが良いです事。

照会に使うのは人形のシリアルナンバー……これは製造時に付与されるもので正規品にしかつかない。

電脳の中に各種電子証明書と一緒に書き込まれる。

桁数がアホみたいに多いので偶然でっていうのはまずまずありえない事。

人形用の通信プロトコルで接続して速攻入力、照会も秒で終わる。

 

「ん、それじゃあ入っていいよ。キミは……Lゲートで検査だね」

「はーい」

 

Lゲートって言うと……うわ工場内でも隔離気味の所じゃねぇか。

守衛も怪訝な顔してたし……こわー、何されるんだか。

 

 

Lゲートをくぐって中に入るとうわーこれまた大人数で……

みたこと無い部品も転がっていて間違えたか?と首を傾げるレベル。

電子マップを開いて視界上にオーバーレイしてもうん、今いるのがLゲート。

普通ならここに詰まっているのは検査用のポッドなんだけどー?

 

「素体が来たぞー、作業にかかれー」

「ちょっと待て、素体ってどういうこっちゃ。精密検査じゃないの?」

「そんなの二の次だ」

 

あーくそ、騙されたのか!いやーな予感してたけどさぁ!!

わらわらと押し寄せる人形技師の連中にあっという間に拘束されてポッドの中に押し込まれた。

コイツらの持ってるIDに人形の抵抗を抑制する権限が割り振られていて抵抗出来ないんだよ!

こんなシステム作ったやつ後でぶん殴ってやるゥ!!

 

-警告:システム強制終了-

-メンテナンスモードに移行します-

 

パツンと堕ちていく私の意識……眠るのとはまた違う、切り離されていく感じ、好きになれない。

 

 

 

リブートされて目が覚める……まだ調整ポッドの中みたいだ。

特に液体が詰まってるわけじゃない、ロボアームで全身バッラバラにもできるってだけなんだけど。

再起動させられたってことは概ねの作業が終わったんだろうか?

 

「再起動完了、気分はどうだ?」

「いや、特に……なんとも」

 

身体の方は停止信号が入っていて動かせない……ただスペックの方は確認でき……

ん、んん?ちょっとおかしい物が見えてる気がする。

 

「ちょっと待て、この内部機関軍事用モデルじゃねーか」

「ん?そうだとも。キミはもう十分のPMCへのプロモーションはやった、次は正規軍向けのプロモーションが任務だ」

「聞いてないんだけどー……」

「ついさっき決まった事だ、ちょうど軍部からいくつか商品発注があってな……正式採用も狙っている」

「お前が注文したドローンも軍事グレードだ、喜べ」

 

喜べねーよ馬鹿野郎、どう見ても厄ネタじゃねーか。

軍向けってなると耐久性とかのテストもあるしどれだけ長い期間良好なスペックを発揮できるかが鍵になる。

つまるところ私もそういうのが求められるわけで……今でもブラックなのにさらにってか?

 

「今回追加搭載したのは試験運用が終わり評価段階に入った新作のジェネレーターにフォースフィールド発生装置だ」

「前者はまだ分かるとして……後者はなぜ?」

「そりゃお前にはこれから交戦距離が近いCQB戦もやってもらう予定があるからだ」

 

あっけらかんに言ってくれる、本来ならば搭載されることなんてありゃしない装置が入っている。

これがどれだけイリーガルな事か……まず公的機関とっ捕まりでもしたらバラバラにされる。

バレちゃまずいもんだ……出力制限もかかってないからパワー供給出来る限りはいくらでも張れる。

戦車砲の直撃も数発なら耐えれる計算だ……ただのCQB戦でそんなの必要ないだろ。

絶対に何か裏がある……口頭では説明されてないパッケージオプションも入ってるし……

うわーマジ何をさせるつもりだよI.O.Pの連中ぅ……

 

「追加でもっと火力が欲しいって言ってたからM82の受領も認める、持ってけ」

「……マジなにさせるつもりなん?」

 

おっそろしくて受け取りたくねぇー……これで何撃てっていうんだ。

クマ撃ちとかならまだ良いけどそうじゃねぇだろ……

ドローンとの連携もあるし私一人で軍隊やれって言ってんのかなぁ……

 

ポッドから降ろされると身体のレスポンスに驚かされるな。

これが軍事モデルスペック……元々の民生モデルスペックでも人間に負ける気しないのに。

プロモーション用とは言えこういうの作っても良いんだろうか?

試作品番号とかも割り振られてないし……うーむ。

 

「このドローンなんか変形するの?」

「ソイツは背中にくっついて戦術機動補助するんだ」

 

戦闘機型ドローン……いやーオーバースペックにも程があろう。

あとは軍事モデル御用達のレーザーとか持てば一端の軍用人形だな。

持ってる武器が旧世代の火薬武器だからギリ許されてる感あるな。

ドローンの武装もロケットだけ、誘導兵器はない。

ソフト面の更新も入ったしハッキングソフトも入ったし……私一人でやれる事増えすぎちゃう?

 

 

 

戦々恐々とするアップグレードが入って、ついでに精密検査も行われた。

精密検査の結果は躯体良好、各機能正常に稼働可能。

んで、帰ろうと思ったら呼び止められて今度は別な……ラボ?に連れ込まれてる。

ドアには16Labとか書かれていたと思う、詳細は不明。

情報端末とか起動しっぱなしで放ったらかしにされてるから見たい放題だが?

あれか、早速ハッキングしてみろってヤツか?

 

「新規プロダクト……へぇ、こんな大規模作戦が……」

「そうそう、キミにも参加してもらう予定の作戦だよ」

「……うぉ、すっげぇ隈」

 

コーヒーの匂いに振り向けば……そこに居たのは白衣を着たボサボサな女。

女としては良いものを持っているのに尽く残念な感じがする……

特に目元に刻まれたドギツい隈が魅力をぶっ殺していると思う。

 

「よっこいせ……コーヒー要る?」

「……頂きます」

 

どっかりとチェアーに座ると私に向き直ってことの詳細を話し始めた。

 

「キミには鉄血工造の主要技術者の保護任務に当ってもらうよ、ある人物の指揮下でね」

 

現在進行形で進んでいる作戦のバックアップとして入ることになる。

複数の人形で構成した突入部隊で鉄血工造の工場を襲撃……ってマジ?

 




蝶の羽ばたきが直ぐ側に


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その14

16Labでの衝撃的な任務斡旋があって大分頭に来てる。

だいたい断ったら機密保持の為に解体処理されるってのに断れるワケないじゃん。

新規武装としてM82バレットを受領、随伴型で合体も出来るドローンも受領。

表に出せないオプションとしてハッキングソフトが入った。

これはアチラがわのカギも兼ねていて保護目的にしている人お手製らしい。

これらをブチ込んだのは私の電脳が戦前の最高級品でありセキュリティもかなり高いモノだからだ。

耐ウィルス性も強くて戦前戦後の技術を合わせてるから突破できるウィルスは無いと思われる。

鉄血の重要人物の回収・保護……そして現場での自由な目として私は雇われた。

私の稼働歴からも信用に足ると判断したかららしいけどね。

 

「ありがた迷惑じゃボケぇ!」

 

一応エリートとして最高品質の人形を5体生産しているらしい。

ASSTも無難なARで構成されていて工場制圧ならば問題なく滞りなく……と予想されている。

加えて別口で侵入する私と後追いで入ってくる国家保安省によって確保。

作戦決行は2週間後、その間に生産した人形の最終調整が入る……とのこと。

私は私で今回追加された兵装の試運転、調整をしなければならない。

戦術ネットワーク対応試作戦術ドローン、ハミングバード……それが私に充てられたドローン。

情報処理とかの試運転、やってみたいけれども……

 

「それでこの銀行強盗の処理かぁ……やだねぇ」

 

ロケーション等は今度の大事な任務に似ていると言えば似ている。

強盗は人質を確保していて交渉しようとしている。

自分たちの身柄の安全を譲歩させる替わりに人質を開放するって。

はは、そりゃ嘘に決まってるだろって睨んでるし地元PMCも鼻で笑う。

排除してちゃちゃっと事件解決にしたい所だ。

I.O.Pが率先して私を斡旋したから出るほか無いし……失敗したら責任問題でPMCの言いなりになるしかなくなる。

クソ案件だけどやるしかない……狙撃ポイントはいくらかあるし……今回はM82を持ち込んでいる。

少しの鉄板くらいなら貫通してぶち殺す事が可能だ。

手足にヒットさせてもその衝撃で無力化出来るし……有効射程が普段使っているモノの2倍近くある。

というか手足にヒットした段階でショック死するんじゃなかったか?

 

「まぁ遅かれ早かれ死ぬんだ、痛む暇無く死ぬ方がいいだろ?」

 

ハミングバードで銀行の上空から偵察、情報を受信して解析しながら狙撃ポイントを割り出す。

銀行強盗の人数は全部で7人、それぞれ離れた位置に居る。

同時狙撃は不可能だし弾倉の大きさからして一回は必ずリロードしなきゃならん。

人質を取っている人数は3人……威嚇の為に見えやすい位置に居るのが2人。

奥に1人か……まぁ考えたものだな。

人質も手前2人は女子供、奥はお偉いさんと思われる恰幅のいいハゲ男。

 

良さげな狙撃ポイントを算出、斜め上から撃てる高層マンションにお邪魔しよう。

PMCから働きかけてくれるだろ。やらなきゃ押し入って無理やり撃つんだけど。

 

 

到着し滞りなく屋上まで登る。給水塔等が並んでいる所から覗く。

まずするのは相対距離の測距と風速の計算。

それから照準の調整を行い……近くの強盗に発見されない場所へのレーザーポインタ照射。

それでスコープの調整を行い……それから風速情報をFCSに叩き込む。

ASSTが介入しないからこの辺りの処理は全て私自身のプロセッサでやるんだけど。

軍事グレードにアップグレードされたからASST介入時並に早い。

これが軍事グレードか……恐ろしいねぇ、そりゃ規制されるわ。

2脚を立ててから屋上の縁に載せ安定させる。

M82のセーフティを解除、弾倉を込めてコッキングレバーを引いて初弾装填。

相手の反応を許す前にささっと撃ち殺さなきゃ人質が危ない。

人質も居るから周囲のモノを撃ち落として圧殺なんてことも出来ないしな……

跳弾狙ってっていうのも弾のエネルギーが強すぎて無理だろうしな。

普通に秒で3人撃ち殺すしかないな。猶予は2秒といった所かな。

 

解析完了、人質が居るエリアに強盗は5人。

残り2人が非常口等の警戒を行っていると……ふむ。

なら何とかなるな、警戒中のPMCに狙撃開始の合図を出す。

ハミングバードは退避させて……後は私が手を下す。

まずは建物奥の人質を取ってるやつから。

大きく息を吸ってから息を止めスコープを覗き込む。

相対距離は1.8キロまずこっちの姿なんて目視できまい。

スコープで望遠していてもなかなかキツイが……出来なくはない。

 

ドゥンッ!!ドンッ!ドンッ!!

 

今回は犯罪者が相手でちゃんと許可も降りている狙撃。

消音する必要もない、付けても良いがそれで精度が落ちたら笑いものにもならない。

着弾から2秒以内に排除するとなれば連射になる。

反動抑制しながら3連射……精度を要求されるが……着弾は見事人質を取っている強盗の首、頭に命中。

問題は人質が弾丸の衝撃波で気絶しちゃったことかな、ははは。

 

「はいそこ動かない♥」

 

即座に動いて人質を殺そうとした残りの腕を撃ち抜く。

構えて撃つよりも早く私がぶっ放した.50BMG弾が強盗の肩を粉砕して吹き飛ばす。

もんどり打って倒れたのが見える、残り一人は何が起きたのかさっぱりでポカンとしている。

まぁこういう時は警告も込めて……足元に一発。

大穴空いたのがつま先1センチ先程度。着弾の意味合いが分かったのか両手を上げて降伏してくれた。

 

「ふぅ……特に問題がなければこんな狙撃はしなくて良いんだけどね」

 

ハミングバードとの連携も中々良い感じだしバレットでの超長距離狙撃も出来なくないのがわかった。

軍事グレードへのアップグレードも大きいけど……銃本体の使用弾丸が変わればこんなにも出来るんだなってしみじみ思う。

勿論の事今回の狙撃データ等は暗号化されてI.O.Pに送信されている。

実績データとして蓄積して軍にプロモーションをかける。

 

『流石だねぇ』

「うわ……通信をいきなり入れないでくれます?」

 

私の生殺与奪権を握ってるも同然の女、ペルシカが通信を入れてきた。

大方ハミングバード介して送信したデータにご満足頂いたんでしょう。

クソ不味いコーヒー片手にホログラム通信送ってくるんだから……

 

「まだ試験段階ですよ、安心しないでくださいね?」

『うんうん、だからまだまだお仕事を取ってくるよ』

「またぁ!?……あー、次はなんです?」

『次はとあるおイタをしたPMCの幹部掃除だよ……セーフハウスに戻るのはダメ、ラボに戻ってきてね』

「へーへー……オフは?」

『出すよ、調整が終わった後にね』

 

オフが出るならまだ良いか。マンションの住民の皆さんはお騒がせしましたー

空薬莢は拾って……人質さえなくなれば後はPMCが適当に料理するでしょ。

 

 

 

 

「それで?このオプションは何ですか?」

「今から説明するよ、それは戦術人形用に開発された情報収集オプションパッケージでね」

「……なぜケモミミと尻尾にしたんです?」

「可愛いからさ」

 

一時的に所属がI.O.P本社付になりペルシカ直属の人形という位置づけになった。

G&Kは元々私を一時的に雇っているにすぎないという立ち位置だったらしく……客先であるI.O.Pには逆らえない。

根本的なシステム改造を行った後からさらに改造……といってもコレはポン付けのモノ。

民間グレードの戦術人形に取り付けて性能を尖らせようとしたヤツらしい。

頭頂部に追加の超高感度のマイクと指向性を決めるフード……と言う名の狐耳が

テールスタビライザー、通信アンテナ、アンプ、情報処理プロセッサの複合モジュールとしてのモフモフ九尾。

見た目が完全に趣味に走っている……まぁこれで中身がガチガチの軍事グレードとは思わんだろう。

見た目で騙すタイプのオプションパッケージらしい。

 

「次のオフはこれでちょっとこの周辺歩いてくると良いんじゃないかな」

「……治安は良い方だよね?」

「勿論、I.O.Pのお膝元だからね」

 

立ってみるとなるほど確かにスタビライザーがあった方がとっさの動きはし易い。

特に私は胸に特大のデッドウェイトを抱えていて……

 

「この胸はどうにかならない?」

「無理だね、パーツ単位でワンオフしたら出来なくもないけど」

「……まぁ、そうなるか」

 

OSからして本来はセクサドールな訳だしな……サイズが違うようになると重心が一気に変わる。

私用にアジャストされたバランサーをさらにイジらなきゃならなく。

そこまでする理由は無いわな……クソが。

 

調整は案外スグに終わったため伸び伸びと2日ほどオフをいただく。

2日休みは始めてだなぁ……どう過ごしたものか。




Add-on戦術人形オプション
・集音指向性強化パッケージ(狐耳)
・立射スタビライザー(狐尻尾)
 ・Add-on電子戦パッケージ
  尻尾型マルチアンテナ
  電波増幅アンプ
  処理プロセッサ
  超高温電子トーチ(ガチガチ物理キー破壊用:裏オプション)


裏オプション(主に執行機関用のオプション)
・軍事アップグレード(FCS・プロセッサ・フレーム・動力)
・マスターキーパッケージ(物理キー・電子キーのこじ開け)
・*****機関パック(試作グレード)
・カメラフィードパッケージ(監視カメラなどへの遠隔アクセス)
・フォースフィールドパック(SMGなどの前衛向け、本来はRFにはつかない)
・鉄血製インテリジェンスパック(ハッキング、セキュリティセット)
 ****プロトコル侵入キット(****製)
 
・分離合体可能随伴型軍事グレードドローン「ハミングバード」



Q:つまり?
A:シーナ単体で大体の事は出来るよ、バケモノだね!

Q:パラデウスとかとやりあったら?
A:現状だと一個小隊潰すのが精一杯、鉄血兵なら千切っては投げ出来るバランス
  ぶっちゃけぶっ壊れスペック


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その15

調整が終わりオフを言い渡された私はI.O.P工場内をブラブラ歩いていた。

今日一日は丁度いいし工場見学しておこうかなと……

人形工場を見学するなんて中々出来るものじゃない。

首から見学許可証をぶら下げてあっちへこっちへ……ちょっとの郷愁に駆られるな。

私が100%自然由来の身体で男だった頃もこんな工場のイチ作業員だった。

とある自動車メーカーのエンジン組み立てエンジニア……その中でも栄えあるマイスター。

……完全機械化された製造工程を眺めながらぼんやりと思い出す。

今は銃で命を刈り取る仕事をしている……元々のこういう工場員に戻りたいのだろうか?

誰かの役に立つ、自分が組み上げたエンジンが搭載された車が誰かを笑顔にしている。

そういう誇りある仕事に……戻りたいのだろうか?

この胸に宿っている哀愁とも言える感情は……今更戻れるわけはないのにね。

 

人形の製造過程を見るのは中々興味深い。

元々こういう工場の製造過程を見るのは好きな部類だった。

というかメカフェチな所があったんだろうな、メカの摺動部を見るのが大好きだった。

せっせと材料を運び込み製造ラインにセットしていくマシンアーム。

金属製と思っていたフレームは混合素材だな、接合部分とか強度が必要な部分は金属。

撓り等が必要な部分はカーボンとグラスファイバー……金属はなんだろう?

黒くなってるからカーボン加工はされてそうだな。

材料を投入され機械から出来上がっていく骨格はまんま人間のソレだ。

ベルトコンベアに載せられ流れていく機械製品な人骨達。

組立工程に入り……四肢が組み上がっていくな、両手両足。

骨と骨の間に駆動用のモーターが取り付けられ各種配線が……

こうして組み上がっていく所を見ると感慨深いね。

 

この製造ラインで作っているのは最低ランクの人形素体。

ダミーリンク用の人形らしい。最低ランクでこの骨格か……

金がかかってるなと思うんだが金属のランクとかが違うんだろうか。

それとも量産効果でなんだろうか?まぁそんなのは人形になった私が気にすることではないな。

組み上がった骨格はさらに別な製造ラインに流れていく。

ほほー、次の過程で各種センサーのアセンブリを装着して一個の製品とするのね。

細かい所は見れないな、まぁ当然か。そこを見せたらパクられかねないし。

 

細かい部品をつけた後は外皮の装着か、外皮は……これは低品質のシリコンだな。

肌触りもべったりとするし定期的にベビーパウダーとかでメンテしないと汚れまくるヤツ。

あぁ流石にコーティングはするんだね。それでガシガシ使ってもイイようにしてるのね。

組み上がったダミー人形は最後の最後、外装が抜かれた状態で保存されていく。

リンク先に合わせてその辺を合わせていくんだろうね。

 

「興味深かった……ただほぼ全自動化されてるから職にありつけそうではないね」

 

オートメーション化がすばらしいからほぼ人手が必要ない。

この工場で働くっていったら……設計とかそういうのだろうな。

 

 

工場内ではさらに製造が終わった人形の稼働チェックが行われていた。

できたての戦術人形は……ふむ中々な感じ。

検査ブースで精密な出荷前検査を受けているのは二体の人形。

片方は私と同じような髪色をした人形……与えられている服が軍隊チックだな。

もう片方もまぁ軍隊チックだが髪色が奇抜だねぇ、緑ときた。

胸もまたデッカイのなんの……勝手に親近感は持っておこう。

 

「……へぇ」

 

ASSTでマッチングしたのがHK416とG28か。

私の417とかなり縁が深い銃だ……416の方は私と顔立ちとかも似てたりするから……奇妙な縁だこと。

あぁもしかして……今度の鉄血工造の襲撃作戦の人形だろうか?

エリートAR……私とは違う華々しい街道を往く人形。

見下ろす私の顔は自分で分かるくらいにはグシャリと歪んでいた。

居た堪れなくなって工場から飛び出すくらいには……やってられなくなってはいた。

 

似た顔、似た銃にマッチした人形がエリート街道約束されて私は汚れ仕事だ。

酒でも飲まないとやってられないってね。

 

 

 

ふらふらと飛び出した街はたしかに治安が良さそうだ。

舗装1つ見ても荒れた様子が無い。行き交う電動自転車も洗練されたモノだ。

人間だってそこそこ見る……まぁその内何人が人形なのかって所だけどね。

ショッピングしようにもセーフハウスに戻れないんだし買ってもね……

あ、一応酒飲んでも良いかはペルシカに確認しておこう……メッセージを飛ばしてっと。

人形の駆動機関的にアルコールで不具合を起こす場合があるらしいし。

食物からエネルギーを抽出する内部機関だからね。

 

『そういえば耐アルコール性能を確認してなかったね、丁度いいから飲んでくると良いよ』

 

仕事的な意味で止められると思ったけれども意外な事にGOサイン。

というかアルコールとかのテストしてねーのかよ。

近場のリカーショップはどこだろう?

 

「あーもう、なんでああいうのが目に入っちゃうかな」

 

治安がイイんじゃなかったのか?

路地裏に連れ込まれていく女性が見えたじゃないか。

眉間を揉みながら……見捨てるのは胸糞悪いしで私もその路地裏に入り込んでいく。

ほーらほら聞こえてきたビリビリと衣服を破く音。

護身用のハンドガンも置いてきてるしまーたCQCプログラムに頼る事になるな。

 

「お楽しみだねー、違法行為じゃなければよかったけど」

「「あァ?」」

 

まぁそこそこ筋肉質な男2人組か。女性が抵抗するのは辛いかな。

民生人形でもちょっとつらいか、自重で抵抗出来なくもない?わかんね。

私が声掛けてみれば怪訝そうな顔してこっちを振り返った。

女性は……うーん、顔がけっこう芋っぽいな、田舎から都会に来た新入社員とか?

いや違うな、社員証がぶら下がっている……新規に製造された戦術人形だな。

銀髪にパープルのメッシュ、洒落てるじゃん。

 

「このアイドルとちょっとお楽しみって所だったけどよォ……コイツも食っちまうか」

「良いねぇ」

 

アイドル?あぁ確かに着ている服も洒落てるしそういうお仕事から転向した感じか。

性能がいい人形はそういう転職も出来るからねぇ……アイドルからって言うのはよく分からんけどさ。

で治安が良いハズのI.O.Pのお膝元でファンにレイプ未遂か……不運だねぇ。

私までまとめてブチ犯そうって算段みたいだけど……

 

「へへ、後ろががら空きだぜ」

「ッ!」

 

おっとイライラしていて警戒が疎かになってたか。

戦場じゃなくて良かった。なるほど真っ黒の衣服で隠れてやがったか。

複数人で計画的にやってるね……無遠慮に胸をむにむに揉んでくれる。

こういう目に遭うと必ずと胸を揉まれるなぁ……あ、ホックが外れたな。

 

「あちゃぁー流石にこりゃマズイんじゃ……なんか巻き込んでごめんねー」

「……」

 

相手は特に武装しているわけじゃないな。

少し経験を詰んだ戦術人形なら何ら問題なく制圧デキそうだが……

いや、手元にあるな、デリンジャー?ほぉーそんなちんまいのを良く掘り出したモノだ。

感心するけどそれで女の子を強引に抱こうっていうのは褒められたものじゃない。

 

「おいおいコイツ見た目からして痴女だけどよぉ、フロントホックって誘ってんのか?」

「後悔するなよ、野郎共」

 

まぁ私の格好はジャパニーズカルチャーのアメスク衣装みたいなものだ。

胸元は相当開けていてブラジャーだって見えている。

痴女と言われてもおかしくない格好だし誘っていると言われても仕方ないよ?

ただそれを理由に強引に胸を揉まれてその上ブラを剥ぎ取られるなんてのはねぇ……

当然ブラウスからこぼれ落ちてヤロウと新米の眼の前にポロリといく。

目がそっちに奪われているスキにまずは背後の男の首を尻尾で締め上げる。

 

「グゲッ……ガガッ……!」

「ふんっ」

「テメぇ……」

 

まぁ適当に圧迫したら気絶したので放ったらかしにしてのっしのっしと歩み寄る。

相手の武器はたった二発装填のちっこいポークビッツ、恐るに足らず。

可愛い顔で睨んでも怖かぁないだろうけど……睨みながら一歩一歩詰める。

 

「ヤッちまえ!どうせコイツ人形だ!!」

 

トリガーが引かれるが銃口は……全然定まってないし私に対して当たる方向じゃない。

人形なのは正解だけど、なおさら良く狙えよ。

発砲音と同時に身を屈める、明後日の方向にすっ飛んでいく鉛玉。

男の顔が驚愕一色になるのを見て嘲笑って……

 

「う、うわぁが!?」

「ダニー!?うぉぼ……」

「うぇちょ、顔はタンマー!?」

 

ミリタリーグレードの脚力に物を言わせて大幅に跳躍して飛び蹴り。

人形とっ捕まえてるヤツは振り向いたら……胸が思いっきりヒットしてなぎ倒しちゃった。

……まぁ巻き添えにしちゃったけど人形は無事っぽそうね。

 

「……立てる?」

「うぇー……なんとか、サンキュ!助かったー……あ、そだ助けてもらったついでに一緒に自撮り良い?」

 

……大物になるな、コイツ。

肝が据わってること据わってること……




Q:イライラしたら注意力散漫になるの?
A:人形によると思います

Q:酒飲ませていいん?
A:416系譜ですよ?分かってますよネ?

Q:コイツいっつも胸揉まれてるな
A:まぁそっすね、そういう不運を持っているのじゃ


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その16

ハプニングがあったりしたし私のスペックを一端とはいえ人形に見られた。

人形は後でラボ呼び出しでメモリー改竄が行われるそうだ。

メンタルマップに負荷がかからない様にするのは難しいらしいけどね。

ペルシカからもうちょっと秘匿しろってお叱りが飛んできた。

……いや搭載したのはテメーらだからテメーらがケツモチしろよ。

 

「リカーショップ、リカーショップ……あったあった」

 

ぴょこぴょこと追加された狐耳を動かしながら歩く事数十分。

この街でほそぼそと展開しているリカーショップにたどり着いた。

リカーショップ・ジャンキー……まぁこのご時世でアルコールを嗜むヤツなんてこっ酷い過去を忘れるヤツだ。

私もこっ酷い……私が置かれている環境のことをぶっ飛ばしたくてアルコールに頼ろうとしている。

ある意味ジャンキーになりそうだな。

この一回の逃避がクセになるのはよろしくない、それは私も十分にわかっているつもりだ。

だから、この一回の購入で断ち切るつもりだ。

燻る私も、腐りそうになる私も……アルコールできれいに消毒してしまおう。

 

「ごめんください」

「……帰んな、ガキの来る所じゃない」

 

まぁ見た目からして私はちんまいロリっ子、開幕第一声はそんなものだろう。

狐耳に九尾を生やしているから思いっきり人形だとは分かるだろうけど。

こんな人間は核放射線で変異したとしても出てこねーよ。

あり得てもコスプレを白昼堂々やってる奇人だっていうね。

……今自分で思ってスゴくグサッと来た。

デカパイ美少女だけど露出狂でコスプレする奇人って判定か?

 

「人形なので年齢は関係ないですよ」

「そうか、帰りな」

「……酒を売るのか売らないのかどっちなんですか」

 

うーん店主はかなり頑固そうな親父だな。

強面で筋肉盛々マッチョマン、ひげもたっぷり蓄えられていて威風抜群だ。

コイツから強奪っていうのは流石に考えられないな。

そもそもI.O.Pのお膝元でそんな犯罪したら即座にバラバラにされるわ。

人間だったらムショ行きか銃殺刑だね、怖い怖い。

 

「1つ聞こう、酒を飲む理由を言え」

「……やってらんねー世の中の不条理さを忘れるためだよ」

「ほう?」

「似たようなヤツが栄光の中を突き進むのに俺は泥被りなんだよ、良いからビール1缶寄越しな」

 

こういう手合はまぁアルコール依存するかどうかで見てるんだろう。

それか既にアルコール中毒者でアルコール無しだとマトモに思考できないヤツには売らないってヤツだろ。

……あとは転売屋とか対策に聞いてるんだろうな。

 

「1缶だな?」

 

すこし雰囲気を柔らかくすると500mlの缶ビールを1つカウンターに置いた。

お眼鏡には適ったか、まぁ私も割りと分かりやすくキレ気味だったしね。

 

「会計、はよ」

「電子決済だな?」

 

人形の買い物といったらだいたいは電子決済だ。

手の甲を翳してそれでおしまい。

認証を通して新ソ連の中央バンクとデータをやり取りして金銭をやり取りする。

それが大体の場合、あとはPMCの独自通貨とか物品でやり取りをするね。

結局それもPMCが新ソ連とのクッションになってるだけなんだけど。

 

「はいよ、二度と来るなよ」

「それは店主としてどうなんだ?健全な範囲でまた来るから」

 

久しぶりのビールだ、ツマミにソーセージがほしいな……

 

 

 

おつまみも露店で適当に肉料理を購入した。

ブリトーみたいな何かだが……使用しているのは勿論の事安価な合成肉ばかりだ。

風味というか匂いは良いのだが……見た目があんまりだな。

本当にチープ、安っぽいんだ。本物の肉のツヤとかがない。

一応食糧危機があったりはしたがWW3勃発前……俺がまだ男だった頃は食えていたのに。

家畜に食わせる麦も無いんだろうな……人類追い詰められてるなぁ。

肉食わないと狂っちまうのにさぁ……肉を接種しないと得られない幸せっていうものがあるんだぞ?

まぁこれは私の個人的な感想だけどさ。

 

「んまぁ、旨いか。食え無くない」

 

私自身が狩ってる鹿肉に比べると微妙だけどまぁ食えなくはない。

ジャンクなものとして見れば旨い部類だ。これが現代のファストフードか。

あのジビエ肉は割りと上等な肉だったりするんだろうか?

あれ、私割りと恵まれてる環境で生きてたのか?

 

「んぐ……ふぅ」

 

通りの脇に設置されているベンチでファストフード食いながら酒を煽っている。

さてこれは傍から見たらどうなることか……まぁそんなの知ったこっちゃないよ。

喉を焼くアルコールの感覚、鼻に抜けていく独特の匂い。

明らかに合成と思われるホップの香り……低品質だなぁと思うと同時に……

これが大戦の爪痕かぁ……と憎いくらいに青い空を見上げた。

 

まだまだ太陽は高い位置にあるがもう少ししたら夕暮れだ。

人によっては居酒屋に行って飲んだくれ始める時間だな。

 

1缶ごときじゃ酔っぱらえない……ほら、顔が赤くなってきているのは分かる。

けれども足取りはまだまだ確りしている、自分を忘れられるほどじゃない。

まだまだ飲まなきゃな、こういうハメを外す時はうんと外すしかねぇんだよ。

近くの酒場はどこだろうか?性能テストも兼ねてるんだからまだまだ行くぞ。

 

「ひくっ……」

「何だあの……人形、だよな?」

「人形だろ、あのデカパイに狐耳」

 

カメラを向けられていると思うけれども……まぁそれは良い。

酒酒……もっとアルコールが欲しいんだよぉ。

 

 

 

酒場っていうのは上品な所と粗暴な所の2種類がある。

シーナが迷い込んでしまったのは後者の方だ。

 

「ん~……」

「嬢ちゃんもっと飲んでみろよ」

「もういっぱぁーい……んぃひひひ」

 

シーナのアルコール耐性は非常に低かった。

その身体の組織上の問題もあるが416と同じくアルコール分解機能に欠陥があった。

完全無欠に思えた戦術人形にあった唯一の弱点とも言える。

酷い悪酔いをしたシーナはぐでんぐでんになりながらさらにアルコールをかっ食らう。

元々の開放的な衣服だから排熱は間に合っているが……酒精が回って体温はどんどん上昇していっている。

 

「おう~おにーさんももっとのめよぉーぅ……えへ、えひ」

「お嬢ちゃんのおごりなら飲むけど」

「おごるおごる~わらひお金持ちだからさぁ~」

 

粗暴な連中が屯する中に酒乱と化した美少女、それもそれなりの金持ち。

集りに集ってその後美味しく頂こうとする下心満々の男が集中していた。

飲んでいるシーナの大いに揺れる胸元や潤んだ瞳に情欲を滾らせる一方だった。

そんな男達に対してヘラヘラ笑いながら酒癖である笑い上戸をみせていく。

無防備にも男達と肩を組み胸を押し付けたりして更に危なっかしく情欲を煽っていく。

酔っ払い正常な思考できていない人形、シーナ……

 

「へへ……美味そうな乳してるぜ、コイツ」

「ぺろーん、うぉでっけぇ!」

「ん~ふふふふ♪」

 

無防備に開けられていた胸元からブラが剥ぎ取られる。

118cmにもなるバストが解き放たれ男達が色めき立つ。

シーナは赤ら顔で気持ちよさそうに微笑むばかり。

少し小さめでピンク色の先端が露出していても全く気にかけた様子がない。

貞淑で未だに汚れ知らずのシーナの身体が美味しく頂かれるか?

 

「そこらで止めとけ、な?」

「げっ……前線帰り」

「チッ……もう少し早く持ち帰ってりゃな」

 

カウンター席から立って乱痴気騒ぎになっていた所に近づいてポンと肩を叩いたのは傷が多く刻まれた男。

G&K指揮官の赤いコートを身にまとっているソイツは……正規軍上がりの前線帰り。

荒くれ者達を腕力で束ねているこの地域の統治者だった。

 

「コイツはどう見てもI.O.Pの人形だぞ?手を出したらタダじゃ済まない、分かってるだろ」

「でもなぁ」

「人間以上に魅力的だぜ?」

「シャラップ、少なくとも俺が見てる間はそんなの許さないからな?」

 

シーナを抱きかかえると指揮官は酒場を後にした。

自身に割り当てられているホテルに持ち帰る……ではなくI.O.Pに叩き込む為に。




前線帰り
SKILL ACTIVATION:鋼の意思

ここで2つのR18ルートifが出来上がるワケですよ。
酒乱は416系譜というか417の現状唯一の明確な弱点ですネ。


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その17

至上稀に見る醜態を晒した。

この身体、アホみたいにアルコール耐性がない。

対策を考えるとかペルシカは言ってたが……正直な所絶望的らしい。

私の身体を構成している生体部品がそもアルコール分解とかを苦手としているらしい。

簡単に言えば毒に非常に弱い、麻痺毒も作用する。

完全に麻痺ることは無いけれどもパフォーマンスは一気に落ちる。

 

「とりあえずソイツに酒を飲ませるのはやめろ」

「仰る通りです」

 

さらに言えば私達の電脳は意図的に酔っぱらえるように設計されている。

私の電脳は元々は人間の物だ、人間が酔っ払いたい時に酔えなけりゃ意味がない。

アルコールを検知すると意図的に思考能力が落ちるように設計されている。

それ+に身体的なアルコールの弱さが加わって酷い酒癖が出たんだ。

目が醒めた時はI.O.Pのラボでこのアルコール耐性のなさをペルシカが笑っていた。

酒場で偶然見かけて回収してくれたG&K指揮官には感謝するしかない。

回収してくれなかったら私は今頃安宿かラブホでハメ潰されていた所だ。

しかもハメられたらセクサドールとしての機能がアクティベートされてしまう罠まである。

 

指揮官の顔を見てみればゴリゴリのスラブ系だな。

このI.O.Pの所在地的にありふれた顔だ。

そも新ソ連の土台はロシア連邦だからだ、バリバリのスラブ民族国家だ。

わが祖国ドイツも現在は東ドイツが統合を果たし新ソ連の仲間というべき存在。

……西ドイツはどうしたことか、精強な機械製品を作っていたと思うが。

 

「それでそちらの指揮官が何故まだ居るの?」

「ん?俺がキミの潜入指揮を執るからだよ」

「……なるほど、ARの正規部隊とは別口?」

 

誰かの指揮下っていうのは初めてになると思うんだけど……

恩人ならまぁ素直に聞き入れられるね。

私達はおそらくは何かあった時のフェールセーフ的な所があると思う。

製造されて現在調整中のAR人形達は出来たてホヤホヤ。

実践的な経験が少ない傾向にある、ソレに対して私は先行して稼働している。

実戦経験は狙撃しかなくCQB戦はこれからって所だが……

 

「もしかしてCQB戦の依頼?」

「そう、ココ最近調子にのってウチの商品トラックを襲ってるPMCの本部を潰すんだ」

「なるほどねー……バレルとかの切り替えは?」

「ASSTの関係上ダメ、キミのASSTは20インチモデル限定だよ」

 

武器の選択はHK417かM82バレットしかない。

M37イサカを持ち込みたかったがそれは無理だしなぁ……セーフハウス内だ。

他にもWA2000とかあれば振り回しやすいけれど……フルサイズの417だとねぇ……

狭い通路では取り回しがし辛い面があるからなぁ……

 

「作戦決行日は?」

「明日、キミのオフが終わった後」

「クソがっ♥」

「笑顔で中指を立てるな、行儀悪いぞ」

 

ペシンと頭を叩かれた……フラッシュバックするのは厳格だった父が俺によくやった事。

癇癪を起こした俺を叱りながら……そうした。

……やめてくれよ、そういうのはクるんだよ。

 

「お、おう?」

「……なんでもねぇ、世話になったし言うことは聞く。作戦時はよろしくな」

「どこへ行くんだい?」

「どこだろな、当てはねぇよ……」

 

オフ2日目、今日もちょっとアンニュイだな。

 

 

あても無く歩いていると案外……子供が多いことに気がつく。

マップを見てみると納得も納得、ここは孤児院、託児所等が密集している地域だ。

公園もあって……家族連れ、保育園児達の群れ……ここだけ見ているとすごく平和だ。

大戦後荒廃して治安が激烈に悪くなっていっている一方だというのを忘れられる。

公園の中に入ればその数は増える……ベンチに腰掛けて眺めている。

 

(俺が撃ち殺した連中にもこういう家族が居たりもしたんだよな)

 

親、兄弟、子供……家族が何かしらの形であったはずだ。

俺の親もまさか電脳盗難で息子が死ぬとは思ってなかっただろうな。

幸いなのは兄や妹がしっかりと子孫を作ってくれていたことだ。

俺の直系じゃなくても……きっと今もどこかで血縁が生きてる事だろう。

……ふと気になる、かつて生きていた生活圏の現状。

WW3は大規模な核戦争になったと聞く……近くに核シェルターはなかったはずだ。

父は、母は……どうなったんだろう?

気分が気分なだけにこんな考えばかり浮かぶな。オフで助かった。

 

「ねーちゃん浮かない顔してるな」

「……ん?」

「よっと……遊ばねーの?」

「……ちょっと考え事してただけだよ、そういうキミは遊ばないの?」

「辛気くせーねーちゃん居たら遊ぶに遊べねーよ」

 

まぁ道理といえば道理だな。

少年が隣に座ってきてこっちを見上げて……チラチラと下に視線が行くな。

 

「気になる?」

「うっ……」

 

そりゃ勿論のこと私の胸に気を取られてるんだろうな。

青少年には悪影響しかないわな、ははは……はぁ。

ちょっと揺らしながら聞いてみると思いっきり顔を背けられた。

耳まで真っ赤っ赤にしちゃってまぁ……可愛らしいこと。

 

「まぁそんなのよりねーちゃんの事だよ」

「……言っても面白くないよ?ほら行った行った私もすぐどこか行くから」

 

すごく良い子なんだろうな、こっちをまっすぐ見ながら親身になろうとしている。

私が突っぱねようとしても踏み込んでくる……強引だなぁ。

 

「んーじゃあ……親族ぜーんいん死別したようなものでさ」

「うんうん……あ、もしかして」

「……察しが良いね」

 

聞き上手な子供だな、と思いつつ話し出せば止まらなくて……

私が人形であることとかそういうのは伏せつつ耳や尻尾はコスプレって事で押し通した。

子供……リックくんも同じで戦災孤児、両親と過ごした記憶はしっかりとある。

だけども核戦争の後のゴタゴタ……金銭難から親はこの地域にリックくんを預けた後消息を絶っている。

私のこの胸の中に渦巻く哀愁も分かってくれる。

もし良かったら孤児院も紹介しようかと言ってくれたが……仕事にありついているから平気と断った。

 

「シーナねーちゃんみたいなキレイなねーちゃんが来てくれたらなーって思ったりもしたんだけど」

「……キレイな上におっぱいがデカいからじゃない?」

「ぶふっ」

「クスクス……いーよ、男の子がそういうの見ちゃうの分かってるから」

 

かつては同じ男だったというのは伏せて……ニコニコと微笑んで見せる。

反応が本当に可愛い、かつての妹を見ているような気分だ。

 

「また来るから、その時はリックくんの事をもっと話してよ?」

「ん、おう!」

「あ、そうそう……色々話を聞いてくれたお礼……ね♪」

 

……らしくない、とも思う。

だが考えより身体の衝動に身を任せてしまった。

幼気な子供の頬にキスをして……ウィンク。

……いかんな、私のほうが耳まで赤くなるじゃないか。

いや、これでも抑えたほうだぞ?衝動に完全に身を任せたら抱きしめてまで……

あぁこれはなんだ?母性?うぁー……よく分からん感情だ。

 

「……思っているより、内面まで女になってるのか?」

 

どこかで男の意識があると線を引いていたハズだが……

楽しんでるだけじゃない、もっと根本から女になりつつあるのかな?

……それも良いのかもしれないな。

 

 

英気を養えたとは思えないが……精神面ではちょっと落ち着けたかな。

次の仕事、PMC掃除に向けてメンタルを整えておこう。

私一人しか行かない、それでいてCQB戦……無茶を言うもんだよ。

まぁやるしかない、やれなかったら女スナイパーなんてぺろりと喰われる。

コレまで通り仕事をきっちりこなせばいい……

 

人差し指を唇に当て……クスッと笑う。

 

私の中のギアがかちりとハマった気がする。



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その18

PMCアーク、それが今回殲滅する対象。

アーク自身は身の潔白を声高に宣言しているが実態はもう黒々真っ黒。

ダークマターと言って良い位には黒色無双している。

戦災孤児を死亡判定として違法組織に売り渡す、難民はとっ捕まえてバラして臓器売買。

E.L.I.D患者も同じく……そうして得た違法な金で設備を増強。

その金の膨大さ、出所不明の機械設備等から危険視されている。

他にも人間用の麻薬を製造していたりチープアタック用のRPG等を製造しているデータがある。

襲撃となれば当然ながら……真っ昼間ではなく夜中。

夜の帳が降り月まで隠れる曇りに決行……この辺りの用意がクライアントの殺意の高さが伺える。

 

「見事なまでにクソね」

「だがまぁ設備に頼りすぎて中身がクソ雑魚っていうデータもある、気楽にな?」

「分かってる、人形には人間はどうあがいても勝てっこないから」

 

幸いアークは弱小も弱小だった為この小さいコーラップス汚染地域のみが担当。

他には一切ない……コーラップス汚染から身を守る事とバケモノ相手に有効なレーザー兵器を持つことが許されている。

かなり限定的ではあるけどイチPMCに持たせるには破格の武装がある。

ただレーザー兵器は人間が扱う事は不可能。

動力と一緒になるパッケージングが必要になる、人形だったら高出力の機関がある。

ついでに言えばレーザー兵器はかなりの重量物になる。

内部構造が煩雑でかなりの電力を受ける、発熱もスゴイから強制排熱もしなきゃならん。

そのための機械構造も煩雑でとにかく大型化しやすい。

人が担げるモノではなくなる……人サイズの物に致命傷をあたえようと思えばクソデカくなる。

 

「設備は壊すなよ、調査する必要がある」

「分かってる、そっちは自分の身をしっかり守って隠れていてよ?」

「おう」

 

今回の任務では指揮官が私につく、前線帰り……名前はシコルスキーと教えてもらった。

E.L.I.D殲滅隊上がりだから前線帰りという愛称がつけられている。

強化外骨格を装着し火炎放射器とかで焼き払っていたバリバリのフロントアタッカー……

ただこの外骨格は重装甲で並のE.L.I.Dだったらなんとかなるが……って所。

対人戦闘にはまったくの不向き、機動力が最悪だし耐弾性にはすぐれない。

今回一緒に……って事にはならない、対人戦闘なんかは人形の独断場だよ。

私を運搬し、尚且つ現場指揮を執るために軽装甲機動車を持ち出してくれた。

アンティークもアンティーク、装甲車の始祖とも言えるAMD.35なんてのを引っ張り出してる。

正確にはAMD.35の車体をベースに改造した指揮車両、戦闘用のターレットなんかは外されている。

だから私も問題なく入り込めたんだよね……そうじゃなかったら私はタンクデサントしなきゃならなかった。

迷彩ネットを被せて潜伏しながら無線で私とやり取りする。

武装もしっかり持った、PMCアークの戦闘員は20名程度……生死問わず。

 

「作戦開始、行ってくる」

 

ここからは徒歩での侵入だ、監視カメラに引っ掛からないように熱光学迷彩マントを被りながら基地兼本社に近づいていく。

各種ステータスは良好、尻尾の通信アンテナも感度良好。

盗聴の危険性があるから常には繋げられないけどね。

 

軍事グレードにアップグレードしたおかげで電力にかなり余裕が持てる。

今まではバッテリー駆動の暗視装置……NVに頼っていた。

しかし今回は私もついにIR……熱線映像装置を使用する事に。

光源がなかろうが相手が放つ遠赤外線域で熱放射が行われる。

そいつを増幅して映像化させるって物だ、言ってしまえば物体とかをよりクッキリハッキリ見えるようにする。

特に熱放射が強いものは白く浮かび上がる……人間だったり人形だったり……

弱点としては装置自身が巨大化しやすいのと排熱が問題だ。

今回のもスコープ部分は双眼鏡だが……その他の演算等は私がやっていたりする。

 

「マインか……なるほどね」

 

IRを薦めてきた理由が分かった、たしかにこれじゃないと見落とすかも。

対人地雷が埋め込まれてる……地面に微かーに噴出しているガスが見える。

コーラップスのエネルギー放出とは出方が違う。

他にも埋め方が甘い対人地雷が頭を出している……警告的な意味合いもあるんだろう。

ギチギチにしないのは連鎖爆発なんかしたら地雷原の意味がなくなる。

それに野生動物なんかが踏みつけて起爆なんてのもありえるしね。

指揮官もその辺分かってたなら言えばいいのに……

 

『悪い、伝え忘れていたがそこらへん地雷原だ』

(分かってるっつの……)

 

微妙に抜けているな……こんなのが指揮官として役に立つのか?

第一ウェーブはとりあえず踏破できそうだ……さて、PMCアークの防衛ラインは如何ほどかな。

 

 

その後の侵入者対策というのは割りと穴だらけ。

地雷の配置はたしかにエグい事になっていたけどさ……

頑張れば登れそうな外壁に高圧電線のフェンス……電子扉。

電子扉ってのがイケないんだよね、ちょちょいと電子戦向けな人形が居たら……

 

「スノー、ディグアウト」

『了解』

 

熱光学迷彩マントは捨てて中に侵入。

電子扉は勿論の事ハッキングしてぶち破った。

スノーは私のコールサイン、ディグアウトは侵入完了の合図。

事前に決めていた暗号だ、CQB戦では不向きになるHK417だが……振り回せない訳じゃない。

腐ってもPMC、E.L.I.Dを相手取って戦っている連中の基地。

通路は広めに取られているし室内もまぁ割りと余裕が持たれている。

 

「はっきーんぐはっきーんぐ♪はーむれすはっきーんぐ……のっといんでんじゃー♪」

 

鼻歌うたいながら次は基地内部の回路にハッキングをかける。

ちょちょいとハッキング用のデバイスをくっつけて……カメラ回路の出来上がりってね。

監視カメラの位置等も映像から逆算して……ふふん?確かに大体の死角は潰してるね。

そうじゃないといけないんだろうけど……流石にE.L.I.D用のレーザー砲台には取り付けてねぇわな。

遠隔操作してるから砲台の砲身カメラはあるだろうけど。

お陰で基地のシステムとかにはアクセスできて実効支配もできそうだ。しないけど。

 

「戦術ネットワークに接続、アップロード……」

 

監視カメラの映像、位置などから敵勢力の配置を分析。

交代交代で監視している人員がいて5-5、深夜帯でデスクワーカーは全員寝ている。

戦闘員の残り10はといえば非番待機中で遊び呆けている。

監視カメラ室も視認……流石に窓はない。

 

『なるほどな、即応人員はたったの5か……ふむ』

「カメラ室を制圧後に寝首を掻きに行こうと思ってたけど」

『監視はある程度残しておけ、システム的に応答がなければ即アラートがなる』

「じゃあ非番組をどうにか潰す、戦闘員がたったの5とかふざけてるし」

『そうだな、遊び呆けているし……アクシデントに見舞われてもらおうか』

 

できるだけ暗殺していけってことね。騒がしく行くのも出来るけどそれはスマートじゃない。

カメラ回路には遠隔ダイブ出来るようにしてっと……私が通る付近では映像がループするように小細工しよう。

 

基地全体としては人員移動用のカーゴヘリ、大型トラック……IFVなどが揃えられている格納庫。

収容人員が寝泊まりしている大型宿舎……そして今回お掃除対象が詰まっているPMCアーク本社。

大型宿舎に近寄ると耳をつんざく悲鳴が聞こえている……アーク以外に何か居るな?

おそらくは人間を買ってる連中がここに詰まってるな……

 

『そいつらは後だ』

『分かってる、今スグにでもブチのめしたいだろう』

『だが今じゃない』

 

……ギリッと歯軋りする事で自分を抑えつけた。

行き場のない怒りはこうするしかないんだよ。

 

 

コイツら危機管理というか……色々とガバガバだな。

本社の裏口は閉じられていたが窓が思い切り開いている。

軽くピッキングしてやると簡単に開いてすんなりと入り込めた。

 

入り込むとむさ苦しい男の臭い、汗臭さが充満している。

こいつら風呂入ってねぇのかよ……鼻が曲がるな。

姿勢を低くして物陰に隠れながらカメラアクセス……まだ無線は繋がっている。

流石に距離があって画質はよろしくない……侵入にバレた様子もない。

馬鹿騒ぎしていた非番組はそれぞれ分かれてるな。

一番近いのは……シャワーに向かってるヤツだな。

 

今私が潜伏しているのが休憩室B。

奴らが馬鹿騒ぎしていたのはレクリエーションルーム。

シャワールームであれば監視カメラは無いし静かに殺せる。

CQB戦というかもうコレ暗殺ミッションだよね……

 

『あー……おかしいな、普通の人形だったら次どうするとか聞いてくるし止まるんだがな?』

(私が特殊な出自だからだと思うけど、まぁ慣れてくれや)

 

指揮官は勿論の事困惑していた。だって指示なしにトントン拍子に侵入したんだもの。

 

『まぁいい、侵入さえできちまえば後は暴れてもいい』

『基地を実効支配できれば外に出すことも出来なくなる』

 

よし、じゃあ……派手にやっても良いんだ?

まぁ……それは後のお楽しみにしておこう。




潜入してからがドンパチ開始ですわ。


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その19

PMCアーク本社、休憩室Bに潜入し身を潜めながら……耳を立てて音を聞き取る。

各種センサー類から入力される情報とカメラフィードから来る情報。

それらを統合してから処理し近辺数十メートルの範囲の人員をホログラム表示する。

社内を巡回している人員は居ない、監視カメラを見ている1人が面倒なだけ。

ただ半自動化されたシステムが組まれていて定期的にレスポンスしないと異常発生とみなして警報が鳴る。

E.L.I.D化した何かしらが侵入していて襲われているって可能性を懸念しての事だが……

まぁ実際の所は暗殺を恐れての事だと思うね。

幸いなのは非番の連中はそのシステムに組み込まれていない。

なので……ここから一番近いシャワールームに向かっているヤロウをまずは無力化する。

 

「んぁーシャワー浴びて寝るかなぁ~……難民シバキはもう飽きたし次は何かいい遊びねぇかなぁ」

 

バリボリを頭を掻きながら休憩室前を通り過ぎていく男。

身長推定180cm、戦闘員らしく身体はガッチリとしている。

装備品は無し、着替え一式を持っているだけ……カモだな。

基地の設備はたしかに一級品が揃っているみたいだけど……中身はたしかに良くないね。

雑兵にもならないと思う、弱い者いじめしているだけ。

 

『こりゃまぁなんて……ふーむ、武器庫にたどり着くまでは隠密にな』

「アイ・コピー」

 

戦術ネットワークによる情報アップデートは逐次行っている。

アップデートされた情報をみて指揮官がまず驚きの声をあげているが……

まぁ打倒な線の指示を出す。勿論極力導線上で敵を見つけた場合は無力化することを念頭に置き……

 

「殺るか」

 

この社屋を血の海に変えてやる。

セレクターは一度も使ったことがなかったセミの奥、オートにしてある。

潜伏姿勢から起き上がり真っ直ぐにシャワールームに突撃。

呑気に入り込んで脱いでいる最中の男が1人。完全に無防備だ。

脱衣所の扉をゆっくりと開け中を目視、背を向けているのを確認。

こういう時にハンドガンがあればと思うがまぁそれはしょうが無い……

ドアを開けながら素早く417を構える、流石にこの音でバレるか。

振り返ろうとしている所を頭に一発、倒れたところにもう一発。

レーザーサイトがついているから照準が狂う事はまずまずない。

頭と心臓に一発ずつ、悲鳴を上げる間もなく絶命したか。

足で蹴って死亡確認……反応なし、こりゃ即死してくれたね。

 

「ワンダウン」

 

次だ次、異変に気づくのはいつかな……?

 

 

 

道中に1人トイレに引きずり込み無力化する等しつつ武器庫にたどり着いた。

無力化?勿論の事力任せに首をへし折った。胸がひしゃげる事にはなったし押し付けにもなったけど……

それはそれ、死ぬ間際に一瞬感じれた?って感じだろうし。

 

『おうおうこりゃまたずいぶんと……ん?これは正規軍の火炎放射器じゃねぇか』

「……ふーん、タグには鎮圧用って書いてあるけど?」

『キナ臭いな……使えそうなものはあるか?』

「もちろん、コレ……燃料は装填済み、他のタンクも転がってる」

『派手にやりな、敵が来るぞ』

 

正規軍用の火炎放射器……横流し品だと思われる。

軍の内部でも汚職とかはあるだろうが……なるほどね、高値で買い取ってるのか。

鎮圧っていうのはE.L.I.D……ってわけでも無さそうだしね。

シャワールームで冷たくなってるヤツの言っていた言葉とかから察するにね……

最初に武器庫を目指した理由?勿論予備人員の武装を防ぐのもあるけど……

 

「処刑開始のゴングだよ、くそったれども」

 

適当に手榴弾を放り込んでダッシュで退避。時限信管は大凡3秒。

過激な動きで胸がぽろりしているが気にしてはいられん。

大爆発音と共に基地が揺れる。やかましいアラートと共に基地内にアナウンスが流れる。

そりゃE.L.I.Dを焼き殺す為の火炎放射器とその燃料が一気に爆破したんだこうもなる。

 

「スノー、アクション」

『A-3』

「コピー」

 

A、前方から敵接近。数は3……視界に入るのは4秒後って所か。

カメラは衝撃で全部お陀仏、もうカメラからあれこれ見るのは無理だ。

ケモ耳のセンサーも……ちょっと爆音が過ぎたな、一時的にダウンしている。

復旧までに残り10秒。狐耳型フードを倒しててもコレだからなぁ……要改善だ。

 

「なんだなんだ!」

「消化器到着ゥ!」

 

襲撃とは思ってないな、何かの爆破事故と思ってるのか?

普通のヒト耳は生きてるから音の情報は入ってくると言えば入ってくる。

頭がそろそろ出てくるな。CQB戦用に拵えたホロサイトを覗き込み……

ちょっと上を向けて左手に添えたM320を握り込む。

ポンッと間抜けた音と共に射出されるI.O.P特製の殺傷榴弾。

このストレートが30メートルほど、そこを飛来し対角線から飛び出たPMCの男の顔に直撃する。

超高速で飛来した鉄の塊が頭蓋骨を粉砕し弾頭をめり込ませていく。

何が起きたか理解できないまま激痛が走っていくのは壮絶だな。

そして弾頭がひしゃげて……信管が作動っと。

 

「おーおー、キレイに3人無力化」

「ごほっ……え、ダニー?グレッグ……?」

「任務ご苦労さま、さようなら♪」

 

まさか自分が殺されるとは夢にも思ってなかったみたいだ。

眼の前で同僚が肉の花となったのを受け入れきれていないな。

私に目もくれず物言わぬ肉人形となった同僚を抱きかかえていたから……横合いから頭に7.62ミリの特効薬をねじ込む。

カランカランと薬莢が通路に落っこちると同時に身体から力が抜け倒れ伏す。

M320から空薬莢を排出して再装填、チェンバーを閉めて……

 

「さーぁ、どれだけ来るかなー?」

 

武器庫でまだ続く誘爆音を背に残りのPMCを掃除しにかかる。

 

『ここからはオレの出番だな、大凡の行動予測を立てている。受信できたか?』

「……ナイス、シコルスキー」

 

指揮官は指揮官で想定される遭遇パターンなどの割り出しをしていた。

さっきの遭遇予測もそれか……実際に聴覚で判断はしたけど精度は中々と思われる。

 

『B1』

「よっ」

 

逐次私の入力データは送信しつつ指示に従って動いていこう。

右に1、距離は近い。流石に警戒して近づいている……足払いしてからがいいか。

 

「ぅっ!?」

「しーゆー♪」

 

スライディングから足払いしてすっ転ばせてから……頭の落下地点に銃口をセット。

……この辺出来るのはASSTの補助ありきなんだけどね?

構えが出来ねーから抱えてぶっ放すって荒業になるけど。命中命中。

 

 

クリーンアップはかなり時間を要した。

予想時間は30分だったけれども実際は中々逃げ回られて殲滅には結局50分も取られた。

私がぶち開けておいたバックドアから指揮官が基地掌握をしていたし……スタンドアロンなPCは無理だったけども各種データ類も抑えている。

後は取引先の洗い出しや……この地域の解体が始まることだろう。

 

「いやすげーな、417」

「後半戦は指揮のおかげ、感謝してる」

 

仕事を終えた私達はもう帰りの途についている。

指揮官が運転するAMD.35に揺られながら……いままでの孤独な任務に比べ安心感があった。

誰かの指揮下に居る幸せというのを噛み締めていた……

戦術人形に植え付けられている幸せの一端……まぁ悪くない。

 

「……なに?」

「よくやった」

「……ふん、子ども扱いはやめて」

 

ワシャワシャと頭を撫でられた……

もう血とか土煙で酷いことになってるけど……女の髪を気安く触らないでほしいな。

……まったく。

 

マガジンも引き抜いてセーフティもかけた417を抱きしめて……しばらく眠る。

今日はちょっと良い夢が見れるかも。

気分がいいのもあるし……後はG&Kの実働部隊がしっかりと面倒を見てくれる。

そういうのもあるからね……安心して眠れるってワケだよ。




今回のHK417のアクセ
アンダーバレルM320 レーザーポインタ ホログラフィックサイト
一応CQBに即したアセンです。


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その20

実働データとしてCQB戦……というか屋内戦も出来なくはないことが分かった。

相手がそこまでなPMCだったのもあるけれどもね?

私はノーダメ、向こうは全滅。施設も掌握してるから廃棄して責任逃れなんてのも許さん。

……いや、ちょっとダメージはあるな。

いつの間にか回復していたカメラに私の痴態ってのが残ってる。

逃げられたりしてないけどデジタルタトゥーとしてばら撒かれた可能性もある。

 

「ネット送信は流石に掌握してなかったしなー」

「まぁ気にする事はないよ、送信量はちょっとだし……キミのそのおっぱいが晒されるだけ」

「それが良くないって言ってんだ!ふざけんな……」

「……ふぅん?」

 

ペルシカもちょっとは気の毒に思ってくれたのか調べる手間を割いてくれた。

と言ってもペルシカは本当にちょっと見たくらいだけどな。

それで全体的なデータの流れを把握しちまうあたりは天才って感じだな。

漏れたとしても私の胸の無修正映像が漏れる。それは許しがたい事だ。

普通に自分の裸体映像が流れたら怒るってものだろ?

 

「見られて恥ずかしがるようなだらしない身体じゃないと思うけどね?」

「じゃあお前をひん剥いてネットに晒し上げてやろうか?」

「おぉ怖い、そんな事をしたらキミの身も危ないけど」

 

確かに私の身体はある意味完成したボディしているさ。

身長はちんまいがソレ以外は男の目を惹きに惹きまくる魅力満点のボディだよ。

だが、だがだよ?見ず知らずのヤツに見られて欲情されるのはイヤだ。

知っているヤツでも嫌な感じはするけどよ……

ケタケタと他人事だからと無責任にいうペルシカの白衣に手をかけて脅すけれども……まぁヤツは飄々としている。

ボディはすごくイイと思うんだけどな、コイツ。

 

「で、私は後何日セーフハウスに戻れないんだ?」

「逆に聞くよ、なんで戻りたいんだい?」

「装備、検査としか聞いてなかったから417しか持ってきてないの、Mk23くらいは持っておきたい」

「そういう事なら回収するよ、キミの性能テストはまだ終わってないからね」

 

まだまだ試すことがあるのか……もう十分にやったと思うけどな?

私が使用したことが無いだけの機能がまだまだあるのだろうか。

まぁこちらに決定権はない、従うだけだ。

それに物を回収してもらえるならば文句は少なくなる。

 

「というわけで今日は早速試験運用してもらうよ」

「そういうスケジュールは早めに言ってほしいんだが?」

 

散歩とかショッピングの予定が丸つぶれなんだが……

眉間を揉みながらペルシカに指示された試験ブースに向かう。

そういや要望とかも出せたよな……胸元の装備も考えてもらわないと。

CQB戦は想定外だって言われているが激しい挙動をしたらポロリを連発なんてのは御免被る。

 

 

 

機能チェックは戦術人形としてのコアと言ってもいいダミーリンクについてだった。

私は躯体が躯体な為にダミーすら製造されない。

製造しようにも設計データ等を契約上消去しているから。

購入者が世界に一体だけの人形をという無理難題を押し付けたが為の害だ。

 

「ダミーリンクには416型とMDR型をリンクさせます」

「……げ、コイツ」

 

何の因果かそんな私に割り当てられるダミーリンクはエリート様とこの前助けた元アイドル?

は、嫌がらせか?それとも相性がいいからと考えたか?

まぁ前者は操作方法とかほぼ同じだからな。

 

「……なるほど、そりゃ私も気が付かないワケだ」

「アクティベート確認、リンクを開始しろ」

「へーへー」

 

ソロの狙撃屋として仕上げられた私にダミーリンクは必要ない。

それなのにアクティブにしていたらCPUリソースを割かれてパフォーマンス低下につながる。

だからとディアクティブというか封印がされていたんだな。

リンク待機状態のダミー人形を確認、本来は同一モデルでしか取れないが……

特例処置で他のダミーリンクも接続出来るようになってるみたいだ。

ペルシカのヤツ私が寝てる間にイジりやがったな?

テストリンク開始……制御が私に委任されはじめる。

 

「ふぅん、へぇ」

「リンク成功だな」

「面白い感覚、リンクの具合はコッチで制御できるのよね?」

「あぁ、五感はほぼリンク可能だ」

 

自分の身体を動かしながら他の身体を制御している。

すごく不思議な感覚だ、それでいて感覚のフィードバックもあるから……

戦術幅というのはたしかに広がるな、革新的と言える。

単純なスペックだけでなく戦術単位で寸分の狂い無く連携されたら堪ったもんじゃないな。

 

「で、なんでこの二体そろって爆乳にされてるの?」

「お前の姿勢制御に合わせるためだ」

「……あっそ」

 

他にも機能的には私と遜色ないレベルに仕上げている。

本格的に軍に売り込む場合は数も生産できないといけないから……

その走りとしてこのダミー人形も軍事規格で製造しているらしい。

制御系統を似通わせて遜色なく制御できるようにする必要があるのか?

まぁ補正に余計なリソース割かれなくて済むといえば済むが……

それ含めての高性能なプロセッサーなんじゃないのか?

 

「ちなみに性器もあるぞ」

「なぜに!?」

 

これまた私に合わせてとのこと……バカなんじゃねーの?

軍での慰安任務にも従事できるからって理由が?

人形だからって完全にモノ扱いをし続けてると反乱されるぞ。

 

 

 

私の性能試験は大方終わり、一新されてアホみたいに性能が上がったけれども……

実際それを活かし切る仕事は工場制圧後にあるんだろうか?

軍へのプロモーションはまだまだ続く、依頼もそれ相応に来るだろう。

ASST抜きの武装でどれだけ動けるかを見た後私は一度セーフハウスに戻る権利を獲る。

Mk23やWA2000等が回収されるまではヒマだ。ぶらぶらと工場内部を歩き回る。

 

「……」

 

工場内部に設置された戦術人形の総合性能評価フィールドに通りかかる。

件の作戦で動く人形たちが性能評価を受けている。

やっているのはCQB戦を想定したキルハウスタイムアタック。

AIの最適化が行われ期待値に近ければ良い、そうでないならば……少々問題。

性能試験自体はコンピュータ制御されていて稼働データからも評価できる。

モニターで見学出来るのはその動き、即応戦術などを取り込み択を増やす為。

言ってしまえば戦闘経験をここで擬似的に増やせるわけだ。

 

「M16……ふん……」

 

室内戦では優位に立てるだろうARの構成。

コイツはだいぶフレーム等も良いらしく設計からして会心の出来だと言っている。

元のAIもかなり出来が良い、ペルシカ謹製なのかもしれないな。

動きもたしかに良い、並大抵の人形は太刀打ちできなさそうだ。

これが現在民生レベルでギリギリ……というかグレーゾーンいっぱいいっぱい使っての人形か。

躯体性能は以前の私とは比べ物にならないな。

仮に撃ち合いになったら射程に入る前に無力化しないと詰みだったかも。

 

「期待値に対しての98%か……ほぼ理論値」

 

凄まじいな、正直私要らないんじゃない?

あの416だってとんでもなく良い性能してるんだろうし……ケツモチの私達は要らないんじゃない?

……まぁフェールセーフだろうな。

 

『どこに……ちょうどいい、キミもキルハウスタイムアタックするといい』

「ペルシカ……武器は?まさかと思うけどあのガンラックから選べって?」

『ASST抜きでどこまで出来るかの性能評価だ、好きなの選びなよ』

 

ガンラックに並ぶのはARばかり……まぁ見事に傑作銃ばかりだ。

あえてゲテモノでチャレンジしてみたくもあるけど……うん。

 

「コイツにしよう……」

 

引き抜いたのはアサルトライフルの中でも大型な部類。

G3だ、骨董品中でも古い部類で基礎設計もかなり古い。

それで性能叩き出せたら……さぞ驚くだろ?

精度もいい、狙撃屋の私には丁度いいARだと思う。




次回、キルハウス


あ、いつもご愛読いただいて誠にありがとうございます。
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その21

使用武器はG3、それもA3……取り回しはし辛い部類。

使用可能弾薬は3マガオンリー、個人で40のターゲットを射殺、無力化。

無力化出来なかった場合は反撃が飛んでくる。反撃に当たれば即失格。

人質へのヒットは即失格、制限時間は特になし。しかしできる限り迅速に。

M16のクリア時間が2分、416のクリア時間が2分10。

参考程度に完全民生モデルのMDRが3分

移動、リロード……そして各部屋のチェック、反撃を貰わない立ち回り。

それらを考慮してやればまぁそれくらいかかるのも無理がないのかも?

奴らが使ってたのは5.56mmの30発マガジン。

ソレに対して私が使おうとしているG3は7.62mmの20発マガジン。

残弾数的なハンデキャップがあるが……まぁ良い。

さらに身体的なハンデとして出力は民生レベルに落としてのチャレンジだ。

プロセッサの制限はないのでそこで勝負だな。

銃としての扱い方は電脳に入っている、手早くマガジンを差し込んでコッキングハンドルを叩き落とす。

ホールド機能がないからね、こうするしかない。

アイアンサイトしか載せられていない為にちょいと調整は面倒。

キルハウス外のシューティングレンジで軽く撃って調整。

 

「まぁこんなものか……」

 

調整しながら射撃していたけれども初弾を口にぶち当てた後は大体頭にねじ込んでいる。

普段から使っている弾だから勝手が良く分かるのもあるかもな。

1マガ使い切って調整完了、空マグは回収ボックスに捨ててコッキングハンドルを引いて上げる。

セーフティもかけて準備完了……キルハウス入り口で装備に装弾してからスタート。

キルハウスを壊さなければ何をしても良いってことだが……ふむ。

 

「壁貫通キルはOK?」

「出来れば」

 

薄っぺらな壁で構成されているからね。

コンクリートではあるけどって所もあるし……ドアなんかは薄っぺら。

中が把握出来れば後はドア越しに叩き込むのもありかもな。

 

「ただ出来ないと思いますよ?」

「……あぁ、なるほど」

 

反動がまったく同じだから見落としていたけど弾をよく見てみれば模擬弾としてよく使われるゴムだ。

こりゃ貫徹できないし被弾してもへっちゃらか。

耐弾性とかのテストも兼ねてると思ったけどソコはちゃんと分別してるんだな。

痛みに対しての耐性とかも分かると思うしどれだけ弾を叩き込まれたら行動不能になるとか……

 

「そういえば……ペルシカ、私のスペアパーツとかってあるの?」

『基本的には作れないね、大破したらアウトだよ』

「ダルマにされたりしたらアウトってワケか」

 

皮膚等は再生治療の応用でなんとかなる、大部分が破損した場合はそうもいかないと。

私は耐弾性とか考慮されてないし被弾は絶対に避けないといけないな。

正攻法で、ささっとクリーンアップ……ヤることは変わらない。

 

「レディ」

 

弾薬ポーチに2マグ挿して、携行品ヨシ。

G3にマグ挿してコッキングハンドルを叩き落とす。

セーフティも解除して準備完了。言葉と同時にサムズアップ。

電子音のカウントダウンが刻まれる。

 

ガコンと音がしてゲートが開かれる、ゲームの始まりだ。

 

 

キルハウス自体の構造は3階建て。

罠とかは無さそうだけどその辺も警戒しておいたほうが良いかな。

実戦想定だし、そういう防衛機構があってもおかしくはない。

第一フロアでその辺も分かることだろう、とりあえず駆け込む。

ターゲットが2、人質無し。ホログラムでこっちに気づいた様子が映し出されている。

こっちは特に構えが乱れている訳でもない、しっかりと照準、眉間に合わせてトリガーを引く。

1人はさっさと一発叩き込んで2人目に照準を向ける、ほらみろ武器を構え始めている。

確実に殺そうとしても反撃を貰いかねない状況だ。

的確に頭に7.62mm弾を叩き込んでから念のためにダウンしたターゲットにもう一発。

1人目は無力化されたか、ヨシヨシ。

 

ガタンッ

 

大きな物音と共にターゲットがスライドしてくる。

武器を構えながら伏せて被弾面積を低くする。

まぁ胸が邪魔でロクに伏せられないけど……

出てきたターゲットの頭が見えた段階で照準、発射。

空薬莢が排出されてカランカランと音を立てる。

1つ、2つ……と出てくるがすんなりと無力化……ふむ?

後続はなさそうかな?潜伏も可能性があるからちょっと覗こう。

 

「うっふぅ、初見殺しじゃん」

 

倒したターゲットの……なんだろ、マネキン?をちょっとのぞかせる。

出して1.5秒後には一発撃たれていて潜伏ありっていうのが判明。

反動から潜伏位置予測……飛び出し撃ちか、面倒だけどやるか。

 

「よっ」

 

映画とかのスタントじゃないけど、横っ飛びしながら部屋に入り込み……そして照準。

ターゲットを見据えて発射、この間1秒でやりきる。

向こうは飛び出した私の落下地点を予測して撃とうとしているけれども……

 

「ふふん?」

 

首とかにそれるかなと思ったけど案外頭にあたってくれている。

眉間じゃなくて鼻っ面だったけど……まぁしょうが無いか。

これで5体、使用弾丸は6……まだまだ余裕だな。

まだまだ部屋はある……この部屋は角だから対角の部屋を見るか?

 

ガタンッ

 

出ようとするとお向かいの壁が開いてターゲットがこんにちは。

ご丁寧に構えてもいらっしゃる。ちょっと驚いたけど……戦術人形舐めんな。

相手が撃つより早くこっちがほぼ反射的に撃っていた。

絶対に無力化するためにダブルタップしたけど……うん、ヨシ。

中は人質か、ここで篩いにかけてる感じだなぁ、怖い怖い。

残弾は12、まぁいいペースかな?

階段を探してちゃちゃっと登ってしまおう。移動しながらサーチングサーチング……

 

「おっと待ち伏せかぁ!」

 

そういう傾向ね?なるほど。戻ったらターゲットがズラリ豪華に4体も待ち構えてらっしゃった。

遮蔽物に使えそうな壁もせり上がっていてコレを使えって事だろうね!

遮蔽物に向かってスライディングしながら2体処理……出来てねぇな、1体しぶとく生きてるね。

射撃音が3つ並ぶからなぁ……お~怖い怖い。

ホログラムからするにターゲットの使用火器はAK74、大戦期から多量に生産されてるゲリラでも簡単に手に入れられる武器。

ちょっと技術があれば生産も出来なくないそんな物品だしね。

となると31発が最大連射……連射速度はさほど早くないから時間稼ぎされるけどっと……

 

「リロード中に失礼しますよっと……おしまい!」

 

それぞれにダブルタップ。眉間にしっかり当てて無力化……

残り弾数4、残ターゲット30。こんな感じならちょちょいと潰せるな。

 

『中断!中断!!』

「は?なんで」

『胸!胸!!』

「……ッッ!!」

 

超好調な滑り出しで2分ギリは狙えたペースだったらしいけど……

うん、私の胸がポロリして映像記録に残せなくなったので中止。

や、やっぱり私にCQB戦はダメだね……うん。

……胸を両腕で隠してへたり込むなんて、ちょっと自分の反応も信じられないな。

 

恥ずかしがってる顔をペルシカにめちゃくちゃネタにされてイジられた……くそぅ。



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その22

狙撃屋としての依頼が舞い込んできた……クライアントは私がよく知るPMCのお得意様。

以前おっぱいを触らせて契約をもぎ取った所だ。

正直嫌な感情が胸の中で渦巻くが……まぁそれは噛み殺して依頼を遂行する。

今回の依頼内容は違法組織に献金しつづけている富豪の排除。

狙撃で処分しても良いし潜入した上で排除しても良い……準備、手段それらは私に一任されている。

大事な仕事が控えているのに今日になったのは……その富豪がパーティーに出席するからだ。

愛煙家な事もあってテラス等に出てくるだろうと予測される。

 

久しぶりにIMX330に乗るのは非常に心地いい。

ただ以前とくらべて……その、スカートのめくれ具合を気にするようになった。

走っている最中に見られるのは一瞬だからと気にしてなかったんだけど。

スパッツでも履いてみようかな……まぁそれは今度考えてみよう。

 

今回の任務で持ち込むのはWA2000、重量はかさむけど携行性に優れたコイツに決めた。

サイドアームのMk23も忘れずに……現場の警備担当は個人契約の物らしく裏取引とかには応じてくれない。

まぁその辺含めてどうにかするのが私の仕事だろうな。

 

「ここか……」

 

着いたのは戦災を生き延びた古風な街並みにそびえ立つホテル。

その中で件のパーティーが行われている……富豪が不定期に開催する物だ。

開催時間もゴールデンタイム、まぁ人通りが多いこと多いこと。

私もそれに紛れることが出来たらと思うけどね。

残念ながら私の外見的特徴が特徴だから紛れることは難しいな。

 

「ドローンの使用許可が降りなかったのは辛いなー」

 

ダミー人形の使用も許諾されてないし……ま、何時もの私の任務に戻ったって感じだな

こういう時こそドローンで上空から視察できたら楽なんだけど……

その許可は降りなかったので地道に自分の目で確認するしか無い。

監視カメラの回路等は当然ながら内部を張っているので外からアクセスは出来ないな。

いや、やろうと思えばできるけど現実的じゃないっていうのが正しいか。

下水に潜って地下配線からハッキングする。

下水に潜る段階で私はイヤだし潜っていくのを見られたらアウト。

ハッキングする回線もわからないし変なのにハッキングしたらそれもマズイ。

コンテナに突っ込むなんて事したら速攻で怪しまれるしWA2000とMk23が入っているのはギターケース。

勿論の事偽装のための物品でクソデカい胸に邪魔されながらなんとか背負った物だ。

 

「宿泊予定のシェーナです」

「シェーナ・タンク様ですね?……はい、確認しました」

 

人形も経済を回す為にあちこちにいるから思い切り普通じゃない私も闊歩出来るのは嬉しいことだ。

偽名のシェーナを名乗りチェックイン、代金は勿論の事私持ちだ。クソが。

堂々とホテル内を歩けるのでじっくり視察しよう……パーティーは夜通し行われ翌日もやるとのこと。

むしろ今日は前夜祭といった所か。

ホテルのパーティーホールを貸し切って大々的にやってるな。

ひとまず私は荷物を置きに部屋へ行こう……

怪しまれないように警備の配置とかも把握しないといけないしな。

 

「ん?」

「私個人からです」

 

電話番号……ナンパかよ、ホテルマンを見上げるとウィンクなんてしやがって。

うぇ、気色悪い……愛想笑いを浮かべてそそくさと行こう。

 

 

 

 

武器の持ち込みは成功、だけど中から狙撃できそうな場所は……うん、限られてるな。

パーティーホール自体はガラスが多く貫通キルを狙いやすい。

ただ対角線になる部分で射撃できそうな場所が絶望的なまでに無い。

人が見ていない間に射殺するか……それともまた別な方法で釣り出すなりしないとダメだな。

内部にさえ侵入できればあとはなんとかなると思うけどね。

パーティーは招待状がないと入れない。それにボディチェックも入る。

当然ながら武器の持ち込みなんぞしようものなら捕まるな。

 

遠目から視察しながら情報を集めて……まぁこんなところ。

宿泊部屋もこれまた警備が敷かれている。

入り込めるのはルームサービスくらいだな。

ただ……警備の人数はそうでもないのか?見てる限りではそれぞれ2人程度。

パーティーホール内部を見れる範囲で見ても警備の姿が見えない。

武装をしていて肩がほんの数ミリ盛り上がってる訳でもない。

まぁ狙い目は……パーティーから戻ってくる数分の間だな。

ちょうど隠れられそうなボックスやロッカー等はある……私の場合はギリギリだけどさ。

ハンドガンでの狙撃っていうのもまぁ出来なくはないか、試してみ価値はある。

 

潜伏しながら狙撃が可能なポイントとなると……ん?

ふむ、ターゲットが出てきた。何をしに?視察程度だからMk23しか持ってきてないが……

ん?誰かと接触……あ、あの爺はこの前のE.L.I.D地域で救出した爺だ。

ちょっと使えるかも?潜伏を止めてっと……

 

「あれ?そちらにいらっしゃるのは……」

「ん?おぉ、いつぞやは世話になったおっぱいではないか」

「んぐぁ……その覚え方は止めてください……」

 

私の顔をみるなりそんな事を言ってきた会長サマ。

やめんか、その手をワキワキとさせるのは止めてくれ、思い出すだけでブルリと来る。

 

「この、狐と胸が特徴のご令嬢は?」

「ん、おぉチョット前に話していたとんでもなく抱き心地が良さそうなヤツじゃよ」

「ほほぅ、チップはいくら払えば試せるか?」

「……ナチュラルに売女扱いはやめてくれませんか?」

 

任務で使えそうだからって接触したのは間違いだったかー……キレそう。

まぁ良いかちょっと乗ってやろう。

 

「試すなら良いですよ……ただ二人っきりでお願いします」

「おぉ、ぐふふふ……パーティの後の余興が出来たわい、ほれコレはワシの部屋のカギじゃ」

「……ありがたく拝借します」

 

侵入権を色でもぎ取った感じだなぁ……さて、どう排除しようか。

即殺したら流石に怪しまれるしなぁ、遅効性の毒とかでも仕込むか?

ただそんな毒物を持ち込んでは居ないし……警備もまとめて気絶させて処分が良いか。

狙撃屋のハズなんだけどやってること完全に暗殺屋だよね……

平然と人を殺せるようになっておきながら今更か?それもそうだな。

 

「お早い帰りをお待ちしてますね、ミスタ」

 

営業スマイルにちょっと色気をつけてウィンクしてみせる。

するとまぁ分かりやすくニヤァと笑ってパーティ会場に戻っていった。

会長サマも連れて……なるほど、お迎えだったのね。

 

「というわけです、後でお部屋に向かいます」

「危険物の持ち込みはなさらないようにお願いします」

「はーい」

 

私自身が危険物なんだけどね。

Mk23を丁重にギターケースに戻すべく部屋に戻って……それからターゲットの部屋へGO。

部屋内部の警備は無いと来た、ラッキー。

 

 

草木も眠るウシミツアワー、警備の人数も減って部屋の外の2人だけになった。

無線傍受モードで奴らの無線を盗み聞きしているから間違いない。

外に耳を向ければ……まぁ時折愚痴が聞こえてくる。

違法組織への献金、まぁ表向きは宗教団体への寄付になってるけれども……

実際は傀儡同然、金蔓にされている始末でそんな雇用主を罵倒する内容もあった。

人望は恐ろしく無いと思われる……私を待機させているのにも言及していてよく思ってないな。

 

「ん、来たか」

 

お仕事タイムだ、ターゲットが千鳥足で戻ってきた……

おやおや警備は何処かへ行ってしまったしこりゃイロイロと楽だね。

 

「おまたせぇ~おっぱいちゃ~ん」

「お待ちしていました……私の触り心地を試す前に幾つか質問いいでしょうか?」

「んん~なぁ~んでも言ってくれたまぇ~」

 

改心する余地はあるだろうか……ちょっと揺さぶろう。

 

「今貴方が信仰している宗教ですが……」

「おぉ~君も協賛してくれるかね!?それは良い、聖女もお喜びになる事だ」

「あの……協賛ではなく、詳しくお聞きしたいだけ」

「世界に蔓延る怪異を救いになる人類の救世主があの寺院にはいらっしゃるのだよ、さぁ君も洗礼を受けにいこうではないか」

 

目が血走っている、こりゃダメだ。

狂信者と言っていいな、詳しい宗教名は聞き出せないが……改心の余地なし。

宗教団体から違法組織に金は流れているし金の供給元であるコイツは……ダメだ。

 

「んむ?」

「……ふんっ」

「ごぺっ……がか……ッ……!」

「私、そういうのは信じないんだ。あばよ、金蔓」

 

手っ取り早く首を折って始末完了……コイツの情報端末を漁って宗教団体の場所を探るか。

末端には流れていない場所があるはず、金蔓専用の直通ルートが……

とりあえず終了……やることヤッた後みたいな感じでバスローブ姿で出ていこう。

監視カメラ情報もちょっとイジらないとな……ヤることはヤッてから離脱だな。




狙撃させたいと思ったらこうなっちゃった。
これじゃ色仕掛けで暗殺するハニートラップ要員じゃねーか。


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その23

捏造とか盛々よ


件の作戦決行日だ、侵入先は鉄血工造本社工場。

念には念を入れてということで先行して侵入する人形の後追いだ。

スグにでもバックアップ可能な距離に居ながらもしもの時のカウンタースナイプ等を担当する。

 

「まさかフル装備でとはね、ごちゃごちゃして堪ったもんじゃないわ」

『よっぽど回収したい相手なんだろ、我慢しろ』

「へーへー」

 

私がロールアウト後に受領した417用の戦術アクセサリ郡は勿論の事。

つい最近追加された指向性聴覚パックに電子戦OPの尻尾、戦術ドローンまで一緒とはね。

背中に合体したら一時的な飛行能力の付与、急速強襲等の戦術的な選択肢が増える。

おい、私はマークスマンじゃないのか?何やらせるつもりだ。

 

『装備品の確認はいいか?』

「……ん、大丈夫。ハミングバードのコンディションも良い」

 

装備品というか携行品か。スカートのベルト左右に括っている弾薬ポーチに417のマグ2個ずつ。

Mk-23のマグが2個ずつ入っているのを確認、右太ももにはMk-23入のホルスター。

左ももにはグレネード弾3発をいれたポーチ。

まぁ室内戦でグレネードなんて使うハメにはなりたくないが。

手持ちは勿論の事HK417、アセンはマルチプルに対応するためアクセ全載せ。

ライト、レーザーサイト、赤外線ライト、高倍率スコープにハイオフセットホロサイト……そしてレーザー測距儀。

俗に言うクリスマスツリー状態、アンダーバレルグレネードもあるから重量は酷い。

人間だったらふざけるなと数分で投げ出す代物だ。

各部のメカ的な整備も怠っていない、万全の状態。ジャムる確率はかなり低い。

あぁあとコイツだ……要人確保って事だから万が一に備えての救急医療セットだ。

止血するための物や破片などを摘出するためのピンセットもある。

 

『相手側は俺たちがバックについているのは知らない、極力隠密にな』

「はいはい、その辺も分かってますー」

 

あくまで別口の保険だからな、本筋の部隊がそのまま確保しちゃえばソレでいいし。

なにか問題があればその時にちゃちゃっと解決すりゃいい。

要人が負傷したらバレるのとか形振り構わず救護に入れば良い。

通信でやり取りしながら突入部隊の後方についた……

 

『まぁ向こうの指揮を取ってるのとはある程度情報を交わしてるがな』

「ふーん……けっ、中々イイ動きする。私の出番ないんじゃない?」

 

鉄血工場はまぁほぼ無血開城状態。相手はセキュリティを叩き落としているみたい?

いや、電子戦の人形が無力化しているんだ。

ザル警備にレベルを落としているだけ……なのかな?

で、そんな電子戦人形を取り囲むようにAR持ちがずらりと……

全員自信と誇りに満ちた顔しちゃってさ……あーあ妬けるね。

 

『おい』

「分かってる、ちょっと思う所があっただけ」

 

仕事に私情を混ぜちゃいけない……エンジンマイスターだった頃からそうだ。

公私は分けてこそだ……今の私は冷徹な狙撃手なんだ。

まぁ気持ちを切り替えよう……胸元に手を当てて一息……

 

「侵入経路に予定変更は?」

『今の所ない、順調だ』

「あいよ……じゃ、お仕事の時間だな」

 

コッキングハンドルを引いて……送迎の装甲車から飛び出る。

無線でやり取りしていたの?あぁまぁシコルスキー指揮官が乗ってる運転席と乗員席が隔絶されてるからね。

必然的に無線でってなるんだよ。

ドローンが悪いんだよドローンが……翼を畳めるとは言えちっこい戦闘機と同等なワケだし。

尻尾は全部下に垂らさなきゃいけないし……余計に嵩張るんだよなぁ。

 

 

 

AR小隊の内訳はまぁ見事にM16のバリアントで埋め尽くされている。

リーダー格がM16

分隊員にHK416……なんの因果か顔立ちも似てなくもない。姉がいたらああだろうなと思わなくもない。

LWRC M6 AR18 M16LSW……扱う銃器が見事にファミリーとなっている。

利点としては使用弾種、パーツ、武器の使用手順の共通化。

いい事ずくめだが咄嗟に自分の武器を間違えかねないな。

カメラフィードでちらっと見たりもしたが……スコープ越しに見る小隊の動きは見事。

3フォワード、2バック。何処から襲撃されるかわからないシチュエーションで効果を発揮するフォーメーション。

しっかりとクリアリングも行うし下手に抵抗しようものなら秒で頭に穴を開けられるな。

 

「ケツモチ可能な距離を保ちながらって辛いなぁ」

 

鉄血工場の廊下は広く長い。直ぐ様バックアップ出来るように体勢を整えてはいるが……

残念ながらちょっとのタイムラグとかが発生しかねない。

自動ドアの開閉、曲がり角の有無……まぁ要因はイロイロある。

あと人形同士、視界距離は長い。マークスマン、スナイパーとしての調整を受けている私の方が長い距離を視認できるけれども……

工場内でそのアドバンテージを取れるわけがない。普通に向こうも視認するわボケ。

そもそもだが人員が居ない……発見されて取り押さえるなんてことも考えたんだけどね?

 

『ふーむ……あの人形、生産リストにあったか?』

「ん?何か気になる事でも?」

 

私から送信されるデータを見ながら戦況分析を行っている指揮官が怪訝そうな声を挙げた。

ピックアップしたのは電子戦人形の2人……バックアップ部隊として登録がされている。

UMP40とUMP45……たしかに、見学をちょくちょくしていたがあのタイプが生産されて……るな。

データとしては残っている。だけどコレ、フレームの稼働からしてなーんか怪しい。

 

『ペルシカに問い合わせてみる、スノーはそのまま監視を継続』

「アイコピー」

 

……胸がザワつくな。

ん、別行動し始めたな。回収部隊であるARの方についていけばいいか。

 

 

私の胸のザワつきはそのまま現実の物となった。

回収対象が視認範囲に入った所だ。向こうが両手を挙げて近づいてきていた。

しかし突如としてAR人形達が錯乱し始めた。何が起こってるのかと目を丸くした。

416が突如として乱射し始めた。耳を立てて伺えば要領を得ない言葉を叫びながら。

リーダーのM16が取り押さえてなんとか被害は無かったが……遠隔操作で416は機能停止。

残りで作戦行動を続行……イヤ、これはマズイ。

 

『くそ、罠だ!ソイツらを全員無力化しろ!!』

「チッ……!」

 

既に錯乱が波及していっている。このままだと回収対象にも流れ弾が!

生死はこの際問わないよな、どうせ後で修理するんだし。

抵抗しているのはM16か、後は撃ち殺す!

M16は正気を保って1人射殺していたが……まぁダメージをけっこうもらってる。

錯乱乱射が早かったが為に跳弾した弾が回収対象の人物にヒット。コレがマズイ。

さらにマズイのは各種セキュリティが一気に作動した!

隔壁は降りてしまったし回収対象にたどり着くには迂回しなきゃならん。

 

『戦術ネットワークが汚染されてる、お前は繋ぐな!』

「はいよ」

『セキュリティも作動している、強行突破するぞ。あれは処置を早くしなけりゃ間に合わん』

「全部使って良いんだよね?」

『許可する』

 

フルスペックを発揮する時が来たとはね……!

軍事産業も担う鉄血工造のセキュリティは強固強固、物理的に排除するのは一苦労。

特に小火器でしかない銃でってなると骨が折れるんだけども……

 

「ハミングバード、羽ばたいて!」

 

そこそこ広い工場の回廊、軍事ドローンの推力でかっ飛んでいく。

あぁ、勿論の事ポロリと行っているけどそんなのは無視だ。

セキュリティのタレットを回避しながらダッシュで駆けていく。

 

「えぇい、邪魔だ!!」

 

ぞろぞろと出てくるガード人形達、今は構っているヒマはない。

最低限ヘッドショットをしながら途中蹴っ飛ばして突き進む。

通信で入ってくるマップデータとナビゲーションデータを頼りに……

 

 

 

 

 

結果から言うと回収ターゲットは死亡した。

私が応急処置をしたけれども出血量が多くてその生命を生きながらえさせる事しかできなかった。

だが、意識がしっかりしている間に研究していたデータの在り処、パスワード……

そして……感謝を述べられた。

 

まぁつまるところ私の任務は失敗。

回収したデータはペルシカが見ている。

更迭はされないが……どうもキナ臭い動きがあるから軍のプロモーションは取りやめだとか。




本当はここでリコ生かしたかったんです……

でもね、やっぱリコには死んで貰います、悲しいね。
生きてたらイロイロ辻褄合わせるの大変なの……死んでる扱いにしてもエリザちゃんの暴走とかの整合性が取れへんし。

蝶事件後はさぁお待ちかね鉄血掃除にE.L.I.Dとかとの勝負ですわ。


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その24

軍用プロモーションは終わったが私の身体は軍用規格のまま……

私は表向きには廃棄処分となった、人形シーナ及びG&K人形の417は死に絶えた。

今ココに居るのは新規製造された性能試験人形シェーナ、コードネームがSweeper417

まぁよくある名前だけ変えましたってザルな事だよ。

いつも通りにI.O.Pが仕事を斡旋してくれるのかとおもいきや……

しばらくは無職みたいなものだ、まぁそりゃそうだ私はどうあれほぼ違法人形だ。

I.O.P所属って事で隠れ蓑になってるけれどもそう長くはないだろう。

バックストーリーも用意されて後々放逐されるだろうな。

下手に処分しようとしたら逆にぶち殺されるのはよーく分かってらっしゃる。

どこにも所属できないし後ろ盾はほぼ失ったも同然。

となればより一層汚い仕事を引き受けざる得ない状態になるな。

 

「で、ペルシカはどうしてくれるの?」

「んー……リコの事を必死に助けようとしてくれていた恩義はあるからねぇ」

「へぇ、案外すぐ捨てると思ってた。まぁ出来れば仕事といざって時の匿い先になってくれりゃ良いよ」

「仕事に関してはゴタゴタしてるのが片付いたら回せるよ」

 

思えばそうか、G&Kに教えている連絡先等は全く変わってない。

セーフハウスだって他に割れてるわけじゃないから全然くるか。

ただ明確な所属にはならないから後ろ盾にはなりえないか。

 

「偶然君の連絡先を知っているし潜伏先をしっている、ただソレだけになるだろうねぇ」

「ふーん……しばらくは放逐される前のつかの間の休息を味わっておけって?」

「まぁそうなるね」

 

親友というか仕事仲間を失ったのに平然としている……わけでもないか。

さっきからキーパンチをしているが誤字が多いのかバックスペースを叩く回数が多い。

コイツも無理してるんだな……天才とかって言われてるけど結局は人間に変わりない。

だが表に出してないって事は触れては欲しくないんだろうな……

私が回収してきたデータを必死に解読しては噛み砕いている様子だし。

今はそっとしておこうか……あれだけ大暴れしていた鉄血工造が今は不気味に静まり返っているのがまた胸をザワつかせるんだけどね。

外装オプションの尻尾は取り外してって……耳はもう外せないから倒して髪になじませておこう。

 

「何処に行くんだい?」

「散歩、今のうちに人らしい事しておこうって思って」

 

日の下を歩けなくなるのであれば今のうちに謳歌する他ない。

即座に廃棄処分にならなかっただけマシなんだからね。

聞けばあの作戦に参加していた人形のほとんどが廃棄処分なんだし。

生き残ってるのが私、M16、そして416だったらしいけど……416は脱走。

M16曰くUMP45も生きていたらしいが……さてね?

 

 

 

街並みは相変わらず前線や世の中の薄汚い事とは無縁そうに人々が平和を享受している。

いや、貪っていると言って良いかもしれないな。

あっちこっちで戦闘は起きているしバケモノの攻勢というのも強まっているのにね。

 

「あれ、シーナねーちゃん?」

「……リックくん」

 

あてもなく散歩していたらいつぞや話したりした少年、リックくんが遊んでいる公園についていた。

おお仕事を終えた後だし人らしい事はもう出来ないんだよな……

そうなるとこうしてリックくんみたいな子と話すのも残り少ないか。

 

「まーた辛気くせー顔してるな」

「ごめんごめん、イロイロあって」

「愚痴なら聞くよ、ほら吐き出しちゃって楽になろ?」

「……ん、お言葉に甘えようかな」

 

勿論全部は吐けない、けれども掻い摘みながら話して……

本当に話せる部分だけ……大きな仕事に失敗して謹慎処分。

さらには元々外れていた出世街道ってヤツを転がり落ちてもーっとキツイ仕事しかなくなる。

そして……こうして出歩くのも厳しくなるって事を話した。

 

「それにね、リックくん気づいてなかったみたいだけど……私、人形なんだよ?」

「うぇ!?そ、それにしちゃぁあちこち柔らかいし良い匂いするし……」

「あはは、元々そういう人形だからね……人間みたいだった?」

 

オーバー気味なリアクションもあって可愛いと思う。

子供はこれくらい可愛げがあったら良いね……可能性にも満ち溢れている。

というか柔らかいって手を握ったり胸を視覚的に見たくらいだろうに。

匂いに関してはまぁかなり気をかけていたし。

 

「そっか、シーナねーちゃんは人形だったのか……」

「残念だった?」

「人間じゃないのかってのはそーだけど……入ろうって頑張ってる所が人形関係の仕事だから」

「ほうほう?お姉さんにちょいと聞かせてみなさいな」

「距離が近い!」

「いいじゃん、人形なんだから気にすることはないでしょー?」

 

うはーからかうの楽しい♪身体を寄せてワザと胸とか太ももとかを触れさせたらめちゃくちゃ慌ててるの。

今のうちにガンガンからかっちゃえ、それにどうせなら……この子に襲われるくらいが良いのにな。

こういう、襲われて良いって思うヤツに限って襲ってこないんだよね。

 

 

リック君はどうやらG&Kに入社することを目論んでいるみたい。

同じく孤児だった人間が雇入れされているのを何処かで聞きかじったらしい。

指揮官募集とかに潜り込めたら良いねってイロイロ教えて今日はさようならとなった。

 

「そういえばシコルスキー指揮官はどうなったの?」

『指揮能力を買われて今はE.L.I.D対策人形部隊の指揮に入っているよ』

「そ……」

 

昨日の今日ので別な前線に送り出されたっぽいな。

指揮能力をって言っているけれども体の良い左遷とかじゃなかろうか?

 

『……リコの置き土産だろうか……シーナくん、ニュースを見てみると良い』

「ニュース……ん?ぇ?」

『こりゃぁ大変な事になったね』

 

全世界的に展開していた鉄血工造が制御不能に?

生産されて各所に配備されていた機械人形も暴走し始めて人間を殺し始めている。

暴走する様子が配信されていて全世界的に衝撃を与えている。

思い当たる節はまぁ……先日の本社工場襲撃か?

セキュリティが一度作動したけどその後無力化されていたと思うんだが?

仕事に困ることは無さそうだけどこれは大変だな。

鉄血の工場は人間の生活圏の至る所に存在しているし鉄血人形も生活に根付いている物だった。

それが一気に叛逆してきたんだから……

 

「もしかしてだけど私も駆り出される感じ?」

『んー、どうだろうね。グリフィンの人形で対応するだろうから君はそのままで』

「はいはい」

 

遠くでちょうどドッカンと爆発が起きたし銃撃戦の音がした。

I.O.Pのお膝元でまぁ鉄血人形が少ないからこの程度だろうけど……

どーれ、やること無いし野次馬でもしに行くかな。

護身用のMk-23は持ち歩いているしなんとかなるでしょ。

ここを警護しているグリフィンの人形が劣勢になったら銃を奪って加勢してやるなりなんなりね?

 




鉄血が牙を剥きようやくドルフロほんへ時間軸に合わさっていきますよー

でもシーナのやることは変わらない予定です。


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その25

街で勃発した鉄血製人形の大反乱。

それはもうスゴイ騒ぎになっていた、主に安価な警備員として購入されていた物が大暴れしている。

逃げ遅れたのか、それとも鉄血人形の暴走はここじゃ起こらないと高をくくっていたか……

私が到着した頃にはあちこち死体が転がっている始末だった。

既にI.O.Pお抱えの戦術人形部隊が鎮圧に向かっているけれども単純な物量が多いのか手こずってるっぽいな。

 

『なんで君がそこに居るのかな』

「休日の使い方くらい自由だろ?」

 

のんびりと休日も過ごせないからね、ささっと黙らせて最後の休日を満喫するんだよ。

Mk-23のマグはたったの1個だけ、まぁ護身用だしな。

まぁ武器に関してはそこらに転がってる活動停止したダミーから取ればよかろう。

ペルシカのツッコミは無視してささっとドンパチやりあってる所へ向かう。

おーおー逃げ惑う人たちが悲鳴をあげながら通り過ぎていく。

 

「お、お前人形か!?は、はやくあの鉄屑共を始末しろォ!!」

「……はいはい、とっとと逃げてママのおっぱいしゃぶりながら漏らしてろ」

 

オフィス仕事していたと思われるおっさんからご命令を受けましたわ。

ほほほ、まぁ見事にズボンの股が濡れていたし臭うしで粗相をやらかしてますわね。

シッシッと手で追いやりながらMk-23をレッグホルスターから引き抜いてスライドを引く。

小気味よい音と共に初弾が装填される。

正直これで無力化しようと思ったら遭遇後一発で頭を狙う必要がある。

そもそもコイツは対人戦闘が主眼に置かれている。

警備人形となるとボディアーマーを着込んでいたり……そもそも装甲を有している事が多い。

ココ周辺の警備会社が購入していた鉄血人形はモロに後者。

幸いなのはガチガチな装甲人形を採用してないことか。

そんなのが来たらハンドガンじゃ太刀打ちできないしな。

 

「あー、こういう時ハミングバードがあればな」

 

人でごった返しているはずの大通りは死体、ジャンクになった人形の山。

うーん、腐っても鉄血人形、大量生産品でもかなり性能がよろしいみたいだ。

ダミー人形が結構転がってるな……勿論の事機関停止している。

戦場はもうちょっと奥だな……被弾痕からして相当な数が暴れてそうだ。

戦術ネットワークも構築されてるっぽいけど……今は様子見。

周囲警戒しながら進むのも経験の内だな、こういうシチュエーションは無かったことだ。

 

「おーおーやってるやってる……戦況は~……あー、若干押され気味か」

 

展開していたのは機動力に富んでいるサブマシンガンとハンドガンの人形がほとんど。

足止め役をやってる感じだな、となると本隊はまだ到着していないって所か。

なるほど、だから転がってる武器に火力があるやつ無かったんだ。

Mk-23の有効射程は短いけれども射撃精度はよろしい部類。

ドカンドカンと鳴っていた爆発音は手榴弾の爆発音だったか。

ただそれも有限だしねぇ……さてと、横合いから撃ち殺してやりましょうか。

大通りにいくつかバリケードを作りながらやりあってるな。

ただ大群で迫り来る鉄血人形……あの型はガードか。

大盾を担いでいる人気モデルの1つ、そいつがぞろぞろと来ている。

AIは単純ながら性能は良い方で実直な任務遂行能力が売りだったっけか。

盾で護りながら詰め寄り銃剣付きショットガンで無力化する戦闘コンセプトだったっけか。

それにマッチした群体戦法を取ってるな……こりゃー厄介。

ただ単純作戦しか取れないみたいだな。コストケチってAIを安価なモデルにしたな。

大通りを迂回する小脇に入ってっと……手薄も手薄。

ただまぁ1つ難点があるとするならば……簡易的に築き上げられたバリケードが邪魔だな。

 

「ほっ……と」

 

まぁ飛び越えられなくはない。バランスは大きく崩れて踏ん張る必要あるけど。

勿論の事大暴れする胸はポロリと全体で空気を吸う事に。

慣れたものでささっとブラにだけでも収め直して……っと。

押し切られる前にささっとこの路地を抜けよう。

 

 

 

横合いから数発浴びせてやると慌てて後退し始めた。

囲まれていると悟るとさっさと後退する、良い判断だ。

行動不能になったガードは捨て置いてね……冷酷だけど理に適っている。

行動不能にさせたプロセスは3つ、まずは初弾でカメラを潰す。

次弾で肩を撃ち抜いて盾か武器を落とさせる。ラストで膝関節を撃ち抜いて締め。

勿論外すのは論外コレで無力化出来るのは現状8体まで。

ソレ以降はどっかに転がっている武器を拾うしかない。

9発撃ち込んで引かなかったら不味かったけどね、追いかけっこの始まりになってたよ。

 

「動かないでください!!って貴女は……?」

「はーい、横槍いれたタダの野次馬人形でーす。撃たないで欲しいでーす」

 

まぁ当然相手が引いたら前線を押し上げるわけで。

そうすると展開していたSMGやHG部隊に見つかるわけですわ。

見事にすんごいアンティーク揃い、PPSh-41にMP40、ステン、PPKにM1895とまぁ……

WW2時代のドアンティークだよ、WW2以前じゃないだけまだマシと言えるけどさ。

銃口向けられたら両手上げて撃たないでアピール。

一応識別として割り振られているI.O.Pのシリアルナンバーとかも開示して……

 

「猫の手も借りたいくらいですから……お手伝いをお願いしてもいいですか?」

「見たところ身軽そうには見えませんが……偵察が主任務のHG人形ですか?」

「ん?私はセミオートライフルの人形だよー、オフだってのにこんな騒ぎだったからねー」

 

手持ちの武器が武器だったし精度も良かったからかな?

HG人形と間違われたけど否定して……

 

「壊れたダミーの銃、貸してくれる?」

「それは構いませんけど……扱えるんですか?」

「へーきへーき、FCSの補正にリソース食われるけど」

「そうじゃなくて……その胸で構えられます?」

「見るからに構えられ無さそうなのじゃが……」

 

総ツッコミを受けてしまったのはまぁ私の体格故の事だな。

試しに取り回しが良いハズのMP40を貸してもらって構えてみる。

 

むにゅぅ

 

おーっとこれは新たな難点だな……思えば小脇に抱えてぶっ放す銃は扱ったこと無かったな。

ものの見事に胸が邪魔して撃つとかじゃないな……

 

「お客様の中に.45をお使いのHGやSMGはいらっしゃいますか?」

「……多分居ない」

 

じゃあしょうがねぇ、と思ったが……私のMk-23に使う.45ACPを使うヤツが居無さそう。

他の人形もものの見事に9ミリパラとかでマッチしない。

 

「帰って良い?」

「ダメですわぁ、言ったでしょ?猫の手も借りたいくらいなの」

 

しょうが無いからとPPShを借りて作戦行動に……参加することに。

ちょいと重いけれども

 

「重くないですよぉ!!」

 

……まぁ私の417よりはマシだろ。

というか表情に出てたか?的確にツッコまれた。

 

 

まぁ参加してもすぐにAR部隊がやってきて鎮圧したんだけどね?

しかしまぁ、今回ので私の基本的な扱いっていうのがはっきりしたかも。

私という人形は情報漏洩や軍へのリークを避けるために作戦行動を共にした人形から存在が消される。

明確な後ろ盾にはならないけれどもI.O.PとG&Kは引き続きパイプを持ってくれている。

基本的にはソロで動きながら……私は私で仕事を取ってきてって感じか。

鉄血人形の鎮圧任務なんてのはどこもかしこも出てくるだろうしな。

 

『とりあえず君はまたセーフハウスからあっちこっちに出ていってもらうよ』

「はいはい……」

 

まぁ、狙撃で飯が食えるなら善しとしよう。




ちょっと更新止まります。
一週間程ですけど……


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その26

一週間おやすみと言ったな?
アレは嘘だ。(Skeb集中してたんですゥ)


さて、あと3日程度で取り潰しになるセーフハウスに戻ってきた。

なんでって?そりゃ勿論私の潜伏先だっていうのがバレてるから。

ドローンの行動履歴なんかを漁ればそりゃすぐに割れる、違法人形が後ろ盾も無しにソロで潜伏していたらどうなる?

あっという間に公安に押し入られて捕まって解体処分。

グリフィンは当然無視、私のヘルプには応じてくれない……

個人的に連絡先をもっていて頼りになりそうなのは数人居る。

PMCビッグシールドの社長、私をいたく気に入っていておっぱい交渉でI.O.Pの人形を導入したりした相手。

狙撃任務で不正相手を射殺させた富豪さん……宗教団体に頭を悩ませていたマフィアボス。

あとはスラム街に出没していたE.L.I.D生物駆除で仲良くなったスラムの長。

凄腕ハッカーで極度のおっぱい星人なナードくん……

I.O.Pは今は各所への戦術人形派遣、製造で大忙し。私を匿っている余裕はない。

背に腹は代えられないし個人的な繋がりを使って……というか私のおっぱい目当てな男に媚びを売るしか無い。

バイクのコンテナに詰めるものを詰めてバックパックを背負ってさっさとセーフハウスを離れる。

手筈では3日後にセーフハウスというかこのゴーストタウンを更地にするらしい。

最悪数日の野営は覚悟しよう……メッセージ送ったら即座に2個返事が。

 

「どれどれー……うぁぉ、うーん……この二択かぁ」

 

社長とナードくん……ど、どっちもイヤな部類だけどどっちかと言えばナードくんの方が安全かな。

ナードくんの住所はたしか……無法者が集まるスラムだ。

ちょうどスラムの長の庇護下にも入れると思う。

バイクを走らせスラム街……どのPMCの統治下でもない無法者の楽園へと向かう。

装備はすべて持って……えぇ、そうもふもふ九尾も取り付けてね。

こんなイロモノが行って目立たないか?イロモノ揃いだから目立たないんだよ。

スラムに居る人形なんてのはどいつもこいつも違法人形ばっかりだ。

AIに欠陥が見つかったり躯体に異常があったりで廃棄処分になったやつが大暴走。

解体されたくない一心でリミッターを解除したり廃棄品からとんでも出力なのを拾ってがっちゃんことかね。

曲がりなりにも正規品でがっちり固まっている私が珍しいといえるか。

ともかくナードくんにメッセージを送り……社長には次のご依頼の時にサービスするからって辞退……

うぁ、社長めっちゃ鼻息荒そうなメッセージ即返してきた……こっわ。

次あった時は胸めちゃくちゃ揉まれるヤツだ……嫌だねぇ。

 

「ともかく、愛しのスイートホームからはおさらばか……」

 

さようなら、表での生活……軍部のほとぼりが冷めるまではアングラ生活だな。

静かな水冷単気筒の排気音と共に離れていく。

ハミングバードをリアコンテナの上に駐機させたの間違いだったな!バランスくっそわるっ!!

コイツ何キロあんだよ!ふざけやがって、じゃあもうテメェは飛んで追従してこい!!

 

 

 

さて、スラムに近づくには地上からは難しい。

総じて外からスラムに入ろうとする場合は……下水道を通ることになる。

ただ下水も正解の下水道を通らないと内部につながらない。

まぁそれは最初にスラムに接近する場合だ。

地上入り口は特定手順を踏まないと出てこないんだからね。

 

「えーっとたしかこの辺りに……あったあった、キーパッド」

 

巧妙に隠されているキーパッドを引っ張り出す。

これも特定方向に引っ張り出さないと接続されないクセが強いヤツ。

スラムに追われて生きている人間はそうとう強い。

そして陽の光を浴びて生きている人間を僻んでいる……憎悪していると言っても良い。

私もその節が無いとは言えない……鉄血襲撃作戦の時はAR部隊を妬んでいたからな。

このセキュリティを組んでいるのはスラムの4人組ハッカー。

ナードくんはそんなハッカーの1人、当然パスワードも知っている。

個人的に繋がりを持っている私にも教えてはくれている。

おかげで今回は助かった……報酬も忘れず支払わないといけないけどさ。

 

「持ち込み品の検査とかは無かったよね……」

 

よっぽど危険な物でもない限りは無法者の集まりだから摘発なんてコトは無いはず。

私のバイクと武器コンテナは以前OKだったし……ドローンもOKなハズ。

エンジンを切ってから押して進む。そろそろ出てくるハズだ。

 

「いやー、これはスゴイよね」

 

もともとこのスラムが形成される前は廃棄された都市区画だった。

それはもうハイテクの限りを尽くした区画だったんだけど……それが災いしたんだ。

第三次世界大戦中に核攻撃に遭い壊滅した経緯がある。

除染はされたけれども当然中身は相当ダメージまみれだったんだが……

スラム住人がちょうどいいシェルターに出来ると大改造。

地表部分は荒れ果てたままだけど地下区画はスラム住人が住む……私が知るなかで最も危険で最も安全といえる場所。

荒くれ者になっちゃえば安全だけどそうじゃない……一芸に秀でたヤツでも無い限りは取って喰われる。

そんなスラムの入り口がいま目の前でせり上がってくる。

圧巻の物理セキュリティだよ、入り口が埋没してたら侵入しようが無いしね。

耐荷重量もあまりなく一個小隊くらいなら耐えるけど……ソレ以上だとメカニズムがぶっ壊れる。

わざとそう作っているからね……さて、私も入って……ナードくんの所にささっと行こう。

バイクを停めて荷物降ろして……私の部屋を確保しないとね。

 

 

エネルギー問題は外で頭を抱えているのにスラムなんかに落ちたらエネルギー枯渇するんじゃないか?

いーや、それがそうでもない……むしろ私的にはありがたいエネルギー源があったりする。

このスラムの地下は原油が湧き出る地脈もあったりするんだ。

発見されたのはすごく偶然だったんだけどね。

精油に関して造詣が深いキチガイが製油所作っちゃってスラムのエネルギーは前時代のガソリンエンジンなんかで賄われてる。

そうガソリンエンジン、このガソリンエンジンの整備が追いつかなくて頭を悩ませていたりはするけど……

何を隠そう私はエンジンマイスターだった前歴がある。

本格的な整備とは趣旨が違うけれども組み立てに関しては右に出る者はいないと考えてる。

だって廃れていっている技術だし……作ってるの小型バイクとかの内燃機関くらいだし。

 

「よ~ぉ姉ちゃん、そんな格好してたらブチ犯さ……ヒュッ」

「ご忠告どうも、お代は鉛玉でいいかな?」

 

こっちが戦術人形とは分かっちゃいないごろつきが近づいていた。

まぁそれは察知していたんだけど手を出すバカじゃないと思ってたんだ。

流石に声をかけてナイフだそうとしてたからバイクのサイドスタンド立てて止まって……

サイドアームとしてしっかり携行しているMk-23を突きつける。

セーフティも解除してあるからすぐにでもぶっ放せる。

スラムでの常識、武器はすぐに使えるようなものを確保しておけ……だよ。

 

「ケッコウデスゥ……」

「ふん……目的地はもうすぐだな」

 

スラムの中身はまぁすごくごちゃごちゃしているし衛生的にもよろしくない。

天井や支える柱は念入りに手入れされているけれども他はまるで手つかず。

排水溝にはネズミが往来しているし……ッ!

 

「うぇぇぇ……」

 

やっばいくらいにでっかいゴキブリが出ていた。

うぇー私虫苦手なんだよね、生前からそうだったんだよな。

ナードくんの住んでいる集合住宅はー……ここか。

メッセージを送付すると即座に返事が返ってきて……正面ゲートが開かれた。

ナードくん、たしか大家なんだっけか……ハイテクにしてるねぇ。

けどコレガタ来てるからぶっ壊そうと思ったらぶっ壊せるな……まぁその辺もメンテしてやれば恩を売ることも出来るかな。

 

 

 

とりあえずスグには盗まれない位置にバイクを停めてナードくんに挨拶しにいく。

一番上の階に陣取っていて……そこそこな広さの部屋に住んでいた。

訪れるのは初めてだけど、思っていたほど散らかってはないな。

 

「ごめんくださーい、シェーナだよー?」

 

まぁ今回は媚び売りに来てるわけだし……声音も意図的に甘ったるい猫撫声。

以前に会ったのはスラムのELID騒ぎの時だし……オフな私は知らないだろう。

おぉドッタンバッタンと……うーん、ヨレヨレのYシャツにメガネ。

なかなかキッツイ体臭の青年が出てきたな……自他共に認めるハッキングオタク。

ハッキングすることに快感を覚えているド変態でセキュリティのスペシャリスト。

コイツに任せれば大体のセキュリティはぶち破られる……敵にしたくない相手の1人だ。

 

「おほぉっ……ナマの、シーナちゃん……!」

「あははは……とりあえず、上がっていいかな?今回のお礼とかもしたいから」

「お礼っ?お礼って何でも良いんだよね?」

「……んまぁ、よっぽど酷いことじゃない限りは」

 

まぁ勿論の事終始視線は私の顔と胸を行ったり来たり。

顔2、胸8って割合だけどね……おっぱいも大好きだからこうなる。

勿論お礼は胸を揉ませてくれとせがまれ了承……

小1時間は揉みしだかれて満足してもらえた……ヒリヒリする。

あとお風呂に入りたくなるくらいには臭いが移ってキレかけてる。

 

「このアパートにはお風呂とか無いよ」

「はァ?シャワーも無いの?」

「ないない、近くの公衆浴場しかないよ……それも混浴」

 

クソがー……マジかぁ……こりゃ私ブチギレながらお風呂入らなきゃいけないじゃん。

混浴用の装備とか持ってないし……ハァー……

 

「ボクのお願いを聞いてくれたらシーナちゃん専用に作ってもいいけどォ?」

「ほんと!?というか私は今はシーナじゃなくてシェーナ、良い?」

 

まぁお願いがだいぶエッチなコトだったので……葛藤に揺れた。




Q:葛藤に揺れたシーナ、どうするの?
A:風呂の為に折れるんだなァこれが

↓続きはコチラ↓
https://syosetu.org/novel/291534/6.html


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その27

自分の変化に愕然とはしつつもヤる事ヤった。

約束はしっかりとやった、前払いでしっかりと報酬をやったんだ。

あとはこのクサレ童貞ハッカーくんがしっかりとお風呂を用意してくれるのを待つだけだ。

ただまぁ即日工事なんてのはできないだろうし……暫くは混浴公衆浴場を使わざる得ない。

そして私の部屋というのは空き部屋……というかナードくんのお隣。

マスターキーなんか持っているナードくんのお隣っていうのがセキュリティ問題あると思う。

こういうので調子にのった無法者って大概やらかすと思うんだー

 

「いやーしかし、パンパンと発砲音がよくしますこと」

「よくある威嚇だよ」

「ふーん……当然のように胸を揉むな」

「いって……良いじゃないか、ボクとキミの仲なんだし」

 

ちょっと身体の関係をもったからって調子に乗って私と当然のように肩を組んでくる。

この時点でかなり調子に乗っていると思うんだけどさらに胸まで揉んできている。

揉む手は叩いて……性感とかは最大限抑えているけど感じる物は感じてしまう。

ちょっとだけ怯むな、まだ女の子の快感に慣れ親しんでない……

切羽詰まった状況で胸責めされて勝てる状況を逃すとかもあり得るか。

そんなアホな事は避けたいし今のうちに慣れておかないとな。

一度機能をアクティベートすると工場じゃないと封印処理もできないの分かったし。

そういう収穫はあった……今のうちに打てる対策は打っておこう。

ちょうど治安もお世辞に良いとは言えない。

そういう経験も否応無しに増えていくだろうしね。

 

「治安維持とかの仕事は?」

「あるけど超近接戦闘+受けになるからシーナちゃんには向いてないと思うね」

「じゃあここで私向けの仕事って言ったら?」

「ソー……化け物はもう出てないしなぁ、あぁでも最近幅を効かせつつあるギャングの殲滅とか良いかも」

「詳しく聞こうか、ここのボスもそういうの頭悩ませてるでしょ」

「うん、実際にここに入ってくる物資を強奪される事件も起きてるしね」

 

お、仕事の顔になったな。ナードくんがいそいそとパソコンの前に座った。

情報収集に関してはハッカー達に敵うヤツは早々居ない。

一度破壊しつくされたとは言えコンピューターが人間社会を支えている。

このスラムにおいてもそれは変わらない。

監視カメラは多く配置されていて不審行為はすぐに摘発される。

スラムが無法者の集まりとは言え法がないワケじゃない。

無法者は無法者なりにルールがある……最低限の事だ。

スラム全体が崩壊しかねない物を持ち込まない、搬入物資の強奪はしない。

搬入物資っていうのがミソ、スラムに持ち込まれた後はどうでも良い。

スラム運営に必要な物資は差っ引かれているからね。

つまるところそのギャングが調子こいてスラムの実態を握ろうとしてるんだろう。

 

「これがそのギャングのメンバーリスト、大体の活動範囲とかも割れてる」

「ヒュー……ほぼ丸裸だね」

「ボスの動向も探ってる感じだったしさっさと潰したかったんだ」

「違法人形とか使ってってのは?」

「やろうとしたけどキミ程良いFCS持ってる人形は居ないよ、それに武器がポンコツだったりするからね」

「……うわ、デリンジャーかよ」

「そ、暗殺こそできても殲滅には向かないのさ、本来の武器を取り上げられてるのもあるかもね」

 

思考回路にバグが生じて犯罪行為に手を染めた違法人形か。

本来のASST武器はなんだろ?まぁ良いや。

 

「これはスラム住人としての依頼でいいかな?」

「うん、さっさとあのクソウスラボケ共を潰したトマトにしてくれないかな、ウンザリなんだよね」

 

データはもらった……ってコレ微妙にバックドア仕掛けてんじゃん。

セキュリティパック入ってるから取り除けたけど。

入ってなかったらバックドアでコイツにハッキングされ放題になって……たとは限らないか。

アクセス権限は私が握ってるしサンドボックスから出さなきゃ良いだけの話になる。

I.O.Pのセキュリティ体制+WW3前の最高技術舐めんな。

 

「バックドア仕掛けてんのは歓心しないなぁ」

「う"……げほっ!?」

「良い?アンタには貸し借りがチャラになってんの、あんま調子乗ると殺すぞ?」

 

流石にコレは看過出来ないイタズラだ。しっかりと理解らせないと。

サイドアームのMk-23で一発ぶん殴って口に銃口を突っ込む。

 

「なんで分かった?って顔だな、ンン?」

「ごべんば……ごへっ」

「謝罪はいらねーんだよ、よく覚えておけよ。人間はとても脆いって事」

 

これで少しは理解しただろ、口から引き抜いて荷物を部屋に置いて……それから仕事に取り掛かろう。

始末するのはギャングの組員全員、末端から幹部まで全員だ。

ここからでも始末できそうな感じがしないでもないけど……狙撃ポイントはココだけじゃないな。

WA2000を使おう、無法者の集まりだし剥き出しでも良いよね。

そして狙撃に使うポイントって言ったら……ここは地下。

当然ながら天井があって、天井には照明器具やらメンテナンス用の通路がある。

普通は入り込めない所だけど……まぁ使わせてもらおうじゃないか。

 

「……絶対にハックしてオナホに」

「聞こえてんぞクソマヌケ」

「うひっ……」

 

出る際にこりねーナードに警告の鉛玉を一発くれてやった。

当てちゃいないがコレで十分分かっただろ、私殺す時は本気で殺すぞ?

 

 

 

スリングベルトでしっかりと背中にWA2000を背負う。

スラム内は無風もイイ所、レーザー測距付きのスコープとサイレンサーだけ付けて替えの弾倉を幾つか持っていりゃ良い。

道中でギャング組員を見つけたが今はその時じゃない……

私がヤッたとは感づかれない様な距離でぶち殺さないとね。

 

「おっと……」

「ドコ見て歩いてんだ、邪魔だ」

「……残念だったね、現金持って無くて」

 

ひゅー、流石無法者の街、スリだな。

一瞬スカートのポケットを弄られていた。

武器をスったら確実にバレるから小銭でも盗ろうってしたな?

見かけない顔だからってカモれると思ったのかなー?

相手の返事は無かったけど身体が一瞬強張った。分かってくれたかなー。

 

「これからお仕事なんだから、弾を減らさせないでよ」

 

周りで私に目を向けていた野郎共にも牽制してっと。

さて、そろそろ外壁に到達する。外壁内部にメンテナンス回廊があるはず。

どっからアクセスするかは知らないけど……扉がありゃささっと開けちまおう。

仕掛け扉の場合は分かりづらいけれども完全に判別出来ない訳じゃない。

 

「ん?おぉ、こりゃイイ」

 

一応あのクソナードがスラムボスに話を付けたんだろ。

仕事として請け負った私に連絡のショートメールが来ていた。

本当にスラムに来たんだなって驚き半分だったけど……ともかく使用できそうな狙撃ポイントを教えてくれた。

大体はスラム内にそびえ立つマンションの屋上だね。

それと私が使おうと目論んでいたメンテナンス回廊の送風口。

外気をフィルター通してスラム内部に流し込むシステムに潜り込んでソコから狙撃ってね。

スラムを大っぴらにぶち壊す様な事しなければ多少の被害は目を瞑るってさ。

老朽化した看板が落下してきて事故死なんてのもあり得る話だし。

 

「さーって……この辺か」

 

探して回廊に入ってから後はターゲットを探して射殺するだけ。

できるだけササッと数を潰したいね。末端はまぁ適当に流してもいいけど。

幹部から潰していきたいねー……




ターゲット:スラムニュービーなギャング
排除手段:指定なし


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その28

メンテナンス回廊に侵入は出来た、しかしコレがなかなか入り組んでいる。

マップデータ無しに入り込んだら迷子になるのは間違い無さそう。

よっぽど記憶力がイイヤツじゃないと生身の人間は迷うと思うな。

景観はゴミみたいなコンクリ壁で代わり映えしないし。

通風孔はたしかに要所要所にあって銃を出して狙撃できそうではある。

まぁこの付近でうろついていたのは末端の下っ端。

真っ先に排除しなければならない要人はもうちょい離れた区画を良くうろついているらしい。

この回廊で移動しないといけないな。

表をWA2000担いでうろついていたら流石にギャングに怪しまれる。

そして要人が死亡しているのを発見されたら真っ先に狙われる。

スラムって土地勘無い所で追っかけまわされるのは御免被る。

 

「しかしまぁこの回廊も酷い有様だこと……うひゃぅっ……虫ぃ……!」

 

まぁしょうが無いと思う、けど眼にした瞬間に悲鳴が出てしまう。

とんでもなくデカいムカデがそこに居たんだ。

他にもゲジゲジとかも居て正気度をゴリゴリ削ってくる。

正直外のドンパチとか化け物なんかよりもコイツらの方が怖いよ。

人とか動物が変異した化け物は相手していてちょいと生理的嫌悪感を感じる程度だけどさぁ!

虫は別格できもい!殺せって言われたら殺せるけど!!

弾の無駄にしかならないし無視するしか無いんだよぉ……

 

「虫駆除用のドローンとか欲しいなぁ……ハァ……」

 

耳につくカサカサ音にビクビクしながら進むことに。

目的区画に顔を出せる通風孔は……まだまだ先だなぁ。

入ってくる人間は指折り数える程度、セキュリティもあのナード謹製。

軽いジャブ程度のバックドアとかじゃない、下手にハッキングしたら返り討ち待ったなし。

ここに入れるのは認可を受けた人員、あとは虫とかそういうのだね。

地上に出ている通気パイプは人が入れる太さじゃないし。

フィルターで詰まっちゃうしー……なんなら換気扇でバラバラミンチになっちゃうな。

今は私以外に侵入している人間は居ないらしい。

カウンタースナイプ食らって致命傷受けたらそのまま野垂れ死に確定。

 

「ま、カウンタースナイプ食らうバカは死んで当然だけど」

 

スナイパーの心得は気取られず、一撃でその生命を刈り取ること。

存在がバレたスナイパーなんて驚異にならない。

馬鹿みたいにデカい狙撃銃使ってたら別だけど……それこそM82なんて目じゃないアンツィオ製Mag-Fedとかじゃないとね。

対物としては破格の20mmだからね、航空機とかでも容易に引き裂く弾だよ。

そういうの使う火力バカでもない限りは射撃方向が割れたら遮蔽物に隠れられて有効打を与えられなくなる。

スコープの反射なんかで位置までバレるバカはそのまま射殺されるか……

それとも高速飛来するロケット、ミサイルなんかで殺される。

空想上のローリスク・ハイリターンな仕事じゃないんだよ。

実際、何度かカウンタースナイプなんてのはやったりはしたけど、スグにバレるバカは即殺できるし。

 

 

 

ポジションについた、相手も流石に無法者の中でもトンガリ。

ギャングのアジトと思われる場所は結構な数のギャングが屯している。

だがコレは変だな……あんまりにも警備が多すぎるし設備がデカい。

こんなデカい設備爆破してくれって言ってるような物だ。

スラム住人が一度や二度は爆破していると思う……それでも守っているってのは何だ?

もう上部構造がボロッボロで特に大事そうな物も入っていない。

となると地下になにか……ってわけでもないな。

こりゃなんだ、囮か何かだな……本命の施設は別だ。

要人もソコなんだろう……そしてソコはハッカー共も入れないスタンドアロン化させてるな。

ハッカーが割ってたらソコにロケランぶっ放されてるだろうし。

怪しい場所はまぁ幾つかに絞れる……入り口をしっかり警備している建物が幾つか存在している。

 

「まぁまずは観測だよね」

 

幸いミリタリーグレードの内部機関に換装したおかげで飲まず食わずで数日はフルスペック発揮できる。

どれだけ時間をかけてもいい、確実にギャングを壊滅させりゃ良い。

……シンプルに言ってクソ案件だけどね、単騎でやる内容じゃない。

ダミー人形も欲しいくらいだよ……こっそりペルシカに連絡とってMDRと416ダミー輸送してもらおうかな……

それかぶっ壊れてる人形を拵えてソイツを弄り回しながら修復してダミーとして運用しようかな?

持ち込んでいる双眼鏡でしっかりと見渡しながら……

 

「ん!居た……あそこに幹部1人……ほかは居ないか?」

 

えっと、幹部は全部で10人……それぞれ特徴的な装備をしているから助かるんだけど……

実質的に一番面倒な破壊工作のリーダーと強襲のリーダーだけは絶対に殺せってオーダーなんだよね。

絶対に殺せっていうのホント恨み買ってるんだよねぇ……物資を奪ってのうのうとスラムに居を構えてるんだから。

奴らは奴らで協力者を買ってるみたいだし……バックドアを付けられちゃどうにもならないよね。

だから追い出すんじゃなくて中で殺すってコト。

見せしめで協力者も一部殺されそうだけど……知ったコトじゃないね。

視認範囲で確認出来たのは3人……残念ながらマストターゲットは居ない。

やっぱりというか警備がクソ薄い……けれどもよく見たらドアが頑丈そうだったり。

要人はそこに居るって感じか。呑気にパソコン仕事してるな。

画面までは……残念、判別しかねるな。スコープに変えて見てみるか。

 

「……へぇ、私の情報か」

 

どうやらコイツら狙撃屋としての私に仕事を振ろうとしていたみたい。

スラムの輸送人達を始末させて物資を略奪する……さらにはボスとかも撃ち殺せって?

はは、笑うねぇ……それなら報酬をその5倍は用意してもらわねーと。

だけど表としては私は解体処分された扱い、当然その仕事もストップだ。

他にイロイロ仕事を受けてくれる汚い仕事専門の連中を探してるけどスラム所属が多い。

そんなの受けてくれるのなんて居やしない。

 

「ん?こりゃー……ほほう、ラッキーだな」

 

予定表ではこの後30分程度で幹部会議が行われるとある。

そうなれば幹部をまとめて始末出来る機会が出来るな。

んー……こうならロケランでも……お?

ここから見える限りでガス管が張り巡らされている。

さらには内部にも見える……ガス管が爆発したらこの施設わりと簡単に爆破できないかな?

まぁそれは良いや……派手に爆破するのは最後の手段としておこう。

コイツらの会議内容っていうのがちょっと興味ある。

ギャング連中の主兵装が爆発物、対戦車ロケットとかだったような……

新規武装のお披露目とかだったら……良いなぁ。

まぁ良いや、今のうちにゼロイン調整しとこ。

 

 

少し待つと他の幹部7人も建物に入っていった。

そして……おやおや、なにか大事そうにかかえているケースがある。

デンジャーって張り紙までして……

距離が離れすぎているしハッキング可能な機器もなさそうだな。

会議室の全貌は見れないな、大体の着座位置は演算出来なくない。

しかし距離が離れていて……うーん、貫通力不足になりそうだ。

長ったらしい会議だったらダレそうだけど……あぁうん、行動力の高いギャングは早いね。

……オイオイオイ、中身こりゃ……ナパームじゃねーか。

スラムの中心部に叩き落として人間焼き払って実効占拠しようってか?

というかそんな禁止兵器をどっから調達してきたんだか……

 

「まぁそんなの見せたのが運の尽きだよ、バーカ」

 

WA2000の精度が光る時だ。

測距したあと弾道計算……しっかりと調整した後……発射。

一発の着弾で爆発しない時のことを考えてしっかりと二発。

頭を狙えない時はダブルタップだよ。

 

「うわー……汚いBBQパーティー」

 

爆発炎上したナパーム、当然室内は大騒ぎ。

室内を這っていたガス管にも引火、大爆発……

他の施設も大体危険物を取り扱ってるみたいだけど……ギャングの隠れ家としては落第点だよね。

あぁまぁ、逆にそんな所隠れ家にしねーよな……って考えからかな?

 

「はい、お前らもリーダーの所に逝ってこい♥」

 

慌てて状況を確認しようとしている警備や下っ端連中。

腰を抜かすヘタレは居ないけど……全員事故か何かと思ってるな。

当然頭がスキッ晒しなので……鉛玉のプレゼント。

ターキーショットだな、こりゃ。







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その29

狙撃でギャング50人はかるーく始末した。

途中哀れな事故死もあったりしたけど……まぁスラム住人からしてみれば最近調子に乗ってた連中だ。

潰されて清々しているんじゃないかなー……爆発物の仕入れルートを今割り出してるってさ。

流石にナパームはヤベーからどっから仕入れたかを探ってそこも潰す予定だって。

 

「うひょー、即金……でもこれスラム内で使えるんだっけ?」

「そこは問題ないよ、ボク達が荒稼ぎしている金も使えなきゃ意味ないしね」

「……堂々と電子マネークラック発言すんなよ」

「シーナちゃんの電子マネーは推定……」

「やめろ、言わんで良い。最後の出金だって全部からっけつにしたのバレてるんでしょ?」

 

幸いにして通貨は新ソ連の通貨そのままだ。

私の手元にそのままどっさりと入ってくるお金はこのスラムでの生活を助けてくれるだろう。

使用しているお金がチャージ式っていうのもあって困ることは多分無い。

それだけのお金を稼いできているんだ……消費する先があんまり無かったんだけど。

ここで消費してしまってもイイかもね。

そうそう仕事の受付、後処理とかはナードくん経由ですることになりそう。

私個人の端末を持つまではそうなる感じ。

セキュリティとかもなんとかしないと他のハッカーに割られるし……

スラムで端末持つのはハードルが結構高いんだよねー……

ハッカーに報酬支払って組み上げてもらうのがイイんだけど……

 

「……組むならセックス」

「金で済むハッカー探す」

「ん"……そ、それならパイズリをもう一回……」

「はいはい……それとお金も支払うね、パーツ代もタダじゃないんだから」

 

セックスは論外だけどパイズリくらいなら許しちゃうかな。

あ、でもその前に……このナードくんにしてもらうコトがあるかな。

 

「すんすん……うん、ナードくん」

「ひゅぃ?」

「お風呂、入り行こうか♪」

 

この臭うハッカーオタクを風呂にブチこむ事だな。

私と性接触しようとするならまずは清潔感を出してもらわねーと。

 

「えぇ?でもでも、まだやってないハッキング作業が……」

「じゃあ時間作って、パソコンを組む時間があるんだから出来るでしょ?」

「……わかったよぅ……臭うかなぁ?」

「臭ってるから文句言うんですー」

 

ナードくんに手を振ってからスラム街に出ていってみる。

スラムとは言ってるけど……商品は普通に表と変わらないと思う。

 

 

 

スラムの街並みは汚いながらに一定の広さ、活気、商品の品揃えを見せている。

多くは露天商、住居にドンと店を構えるのは少ない。

大体は……流れ着いたジャンクを修復して商品化しているものだ。

中には素材はジャンクだけど正規品真っ青な精度のブツを出しているのも居る。

表では到底手に入らない違法パーツもあったりして……玉石混交っていった所。

行き交う人々を見てみれば……屈強でいかにもなアウトローが多い。

だがナードくんみたいなオタクっぽい人も居るし……私みたいな人形も見る。

女性の大半は人形だな、たまに生身の女を見るけど顔に火傷があったり傷が入っている。

あとはやたらとガタイが良い女だったり……死臭が臭う女ばかりだ。

 

「おぉ?何だこりゃ……女用のアクセサリー?」

 

スラムの雰囲気には似合いそうにない可愛らしい女用のアクセサリー類だ。

髪留めとかに使えそうなリボンにコサージュ……

コサージュの方は……このなりでソーラーバッテリーか。

人形用のアクセサリーだな、人間が付けてもあんまり意味ないし。

 

「ヒヒッ……そいつが良いかい?」

「……定格出力とかイロイロ教えて」

「まぁその胸で大体分かってたけど人形だな、アンタ……見かけない顔だ」

「まぁうん、それで?」

「軍の廃棄品からくすねたバッテリーだ、小型だがパンチがあるぜ……9万でどうだ?」

 

高いな、これでポンと買ったら後々カモられるだけだな。

かわいいけど正直微妙……バッテリーにも困っていないしな。

 

「そっちのリボンは?」

「こっちはレーザー警報だ、人形でもレーザー測距するヤツがいるからな」

「いくら?」

「こっちは人気でな、18万だ」

「試着は?」

「持ち逃げする気か?ダメだダメだ」

「ふぅん……機能も確かめずに売りつける気か、ジャンクとかってオチじゃないよね」

 

向こうはふっかけるつもりだし何かとつけてコッチを釣り上げようとしてるな。

銃で脅してもいいけどそれじゃ後々良くないしな……

お互い警戒していちゃアレだしなぁ……どうしたものかなぁ。

 

「まぁ買ってやる、ただし2つで10万」

「いやいや、無いな……新入りは額面払いな」

 

おや、値切り交渉は応じないと。

しかも新入りは虐げられるもんだときたか……

 

「あっそ……ふーん……」

「冷やかしか?なら帰って男のブツでもしゃぶってな」

「……頭、気をつけておいた方が良いよ」

「……なんだ、買うのかカモがよぉ」

 

ふーん……バッテリーの方は違法規格だな。

ミリタリーグレードのバッテリーで出力もそのまま。

シビリアングレードのが使ったら過剰電力でショートするヤツだ……悪質。

レーザー警報は作動するけどこっちは値段がぼっただな。

ボッタクリ店はどうしたら良いかなー……事故って事にして痛い目見てもらおうかな。

 

「ギャングの二の舞いにならないと良いね、オジサン♥」

「……あぁ?」

「じゃね♪」

 

楽だからって髪留めはゴムにしていたけど……コッチにしようか。

……私自身、女になりつつあるのを受け入れている。

これが私の生き方でいつかは好きな男とかも出来るんだろう……

過去との決別も込めて、より女の子らしいアクセサリーに変えよう。

カモと思ってるだろうけど後々デカいしっぺ返しをしてやろーっと。

私、吹聴するつもりは無いけどボスからの仕事を受けている女になるわけだよ。

ボスから直で仕事を受ける人間、人形は少ない。

細部は伏せるけどヤッた人間と殺られた人間はしっかり報告するタイプなボスだからなー……

さーてあの店主のオッサン……後々見たら良い表情見せてくれそう♥

商業区画での暴力はご法度に近いけど……他はどうでもいい。

ギャング壊滅させた女に喧嘩売った事、後悔するかなー?ふふーん。

 

「まぁ後悔してようがしてなかろうが……ナメたら理解らせるだけだから♥」

 

今日の予定はあとは……水着になりそうな物を買って混浴着の確保だ。

 

「お?おぉー良いタイミング♪ナイスだよボス」

 

スラムの電光掲示板にニュースが配信された。

しぶとくのさばっていたギャングが壊滅した、仕事人はって……うわぁ私の顔ドアップ。

単騎で潰した新人だから舐めるなよって忠告つきー……

あっはっは、いい気分で混浴に入れそうだぜ。

 

 

他にスラムのショッピングを続けてみるとカオスなことカオスなこと……

いくつか銃の整備パーツを購入して湯浴み着にしようと思ってTシャツ等を購入。

この辺が普通に転がっているのがスゴイと思う。

まぁTシャツは引き裂いて巻いて簡素なビキニにするつもりだけど。

 

「スラム住人はこんなの主食にしてるんだね……不味くないからなんとも言えないけど」

 

露店で売っていたのはネズミの丸焼きだった。

でっぷりと太らせたネズミを丸焼きにして調味料ぶっかけたファストフード。

もちろん内蔵とか頭は落としているけどね?

不味くはない、けど美味しいとも言えない……

この辺は適正価格で買えた、さっきのニュースが効いてる感じかなー

あと私の事甘く見て物理的な喧嘩を吹っ掛けてきた筋肉ダルマを軽く捻ったのもおっきいか。

物資も予定通り入ってくる様になってスラム維持は滞りなくなったし……

一部にあった締め付けも緩くなったみたいなんだよね。

 

……ま、今回はスラム側についたけどね。

どっちの味方でもないよ、私は利があるほうにつく……

 

当面の湯浴み着も確保できたし……混浴風呂、行ってみるかぁ

多少のセクハラはもう黙認しちゃえ。美少女なのが悪いんですもーん。



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その30

今私が身を寄せているスラムは結局のところ自治区と言って良い。

他所程かっちりとした法はない。明文化されている物は片手で数えるほど。

しかし空気としてある法というのはあるよね……露店エリアで喧嘩をするなとか。

暴力には暴力の応酬があるとか……スラム内でも平気で殺人が起こっている。

スラム内部で勢力を持っているギャング同士の抗争もあったりするけど……

この前私が全滅させたギャングみたいに新興のクセして調子に乗ってるヤツとかはシメられる。

特にアレは悪質だったから全滅させたんだけどね?

まぁそんなスラムの維持には外から違法性があったり後ろめたい物資を掻っ攫ってくる必要がある。

当然ながらスラム内部の人間でその仕事をするわけだけど……

 

「それで私にお鉢が回ってきたワケね?」

 

メッセージでやり取りしているのはこのスラムのボス……

必要最低限しか出てこなくてドコにひそんでいるのか謎。

知っているのは近接戦闘のプロで正規軍の仄暗い特殊部隊出身者。

大凡のスラム住人はまともにやりあっても勝てない相手。

搦手使おうにも各種耐性が強すぎて逆に返り討ちにされるとか。

あくまで何処に居るか分からないし下手に暴れようものならつぶしに来るスラムの均衡を見る安全装置的な立ち位置だ。

だからスラムを離れる訳にはいかない……新入りの私に仕事を振ってスラムに貢献してもらうって考えもあるっぽい。

いかにもアウトローな仕事……今回の仕事はPMCが運ぶ輸送トラック車列の襲撃。

私は勿論の事狙撃して車列を襲う実働部隊の援護。

護衛車両に装甲車も考えられる……となれば対物ライフルの出番だな。

 

「襲撃プランは出来上がっていて……ふぅん、移動は各自でか」

 

襲撃に参加した人員に報酬が配られる感じだ。

参加するのは事前に申し込んで襲撃プランを受領する。

受領するだけして参加しなかった場合?あるらしいけどその場合は干される。

各員に配布されるリスト型電子デバイスでそもそも戦闘区域内に居るかがバレる。

あとハッカー集団が各所の監視カメラシステムをクラックする段階で絶対に発覚する。

だから乗ったら何かしらの形で貢献しないといけない。

 

「移動手段持ってるヤツ多いのかな……現地で見てみるか」

 

私みたいに自前の脚があるヤツが多いとは思わないんだけどね。

内燃機関バイクなんて表じゃ出回らない物だし。

都市区画のエネルギー基盤としてのエンジンはあるけど……

 

 

 

輸送自体は真っ昼間に行われている。

当然襲撃部隊も発見されやすいけれども……相手は大っぴらには護衛を頼めないブツもある。

それもそのはず、近頃人気を博している宗教団体への貢物だからだ。

人形崇拝団体だっけか、人形こそが新しい人類のあり方、救世のために地上に形なした者だと崇める連中。

あとはアレか、貢ぎに貢げばそのパーソナルを人形に転生することが叶い何の不自由もない生を全うできる。

そんな謳い文句だっけか……教祖は鉄血工造の元チーフメカニック。

電子頭脳などを手掛けていた人間でその技術力はWW3勃発前の物に匹敵すると言われている。

……そんなヤツが教祖になるとは思わないんだけどねー

裏で糸を引いているのはなんか別に居そうだ。

ま、そんなカルト宗教への貢物だから遠慮なーく強奪しちゃえばいいのさ。

 

「さってと……ポジションについたから、後は潜伏しながら待つだけか」

 

今回チョイスしたのはM82バレット、弾丸は元々スラムに持ち込んだ物だ。

弾倉は8しかない、大事に使わないとな。

.50BMG弾はマシンガン用の弾、数は多く入手ルートは多数あるけれどもスラムで手に入るとは限らない。

入手ルートを確保するまでは温存しておきたかったけどねぇ……まぁ仕方ない。

アクセサリーはレーザー測距付きスコープとバイポッドのみのシンプルなスタイル。

持ち込み品は移動用のIMX330、潜伏用のギリーマント……後一丁の対装甲兵器。

進行ルートは予め割られている、情報提供元は勿論の事ハッカー共だ。

 

「さて、どんな的が出てくるか……楽しみですこと」

 

足止め部隊が派手にRPGをぶっ放したりするんだろうか?

強奪すんのには護衛をちゃっちゃと潰してからトラックを止めるのが一番だよね。

ギリーマントを被って道路横の林に潜むのはなかなか怖いねぇ……

バレたら終わり襲撃部隊に誤射しても良くない。

狙撃手の基本、1SHOT-1KILLを心がけていこう。

 

 

耳に入ってくる重く地面を蹴りつけるタイヤの音。

スコープをそちらに向けると……うん、トラックの車列。

他の襲撃メンバーは居るんだろうか?軽く見渡しても居ないな。

まぁ見渡してバレる位置に居たら襲撃もクソも無いけどさ。

 

「作戦区域に入ったな、じゃあ……ちゃちゃっとヤッちゃおうか」

 

セーフティを解除、マガジン装填、チャージハンドルを引っ張って……M82に初弾を装填。

大まかな調整はしているけど当たるかなー……まずは一発目。

先頭をリードしているこりゃまたアンティークなFiat6616装甲車か。

頭の上に戦車砲を乗っけているから対人戦闘に置いてはかなり脅威。

目測で見る限りでは搭載砲は106mmの無反動砲、装填されるのは粘着榴弾かと思われる。

ソフトターゲットが多いコッチにとっては至近弾でも致命傷になりかねないな。

 

ドゥンッ!

 

照準は装甲車の運転席付近、トリガーを引いて発射。

大きなマズルエネルギーを受けて身体を揺らしながらスコープの先に見える的を見る。

大まかな調整はしていたけれど誤差はどんなものだ……

狙った箇所より下にずれ込み着弾、装甲車の側面に穴が。

音がしたコッチに主砲が向けられる。まだ発見されてはないな。

襲撃だというのは十中八九バレた、あとはアッチを潰すかコッチが狩られるか。

ん?向こうの廃屋から何か……ぅお。

 

「ヒュー……派手にやるねぇ」

 

軽装甲車両だから派手にキマっている。

どっから調達したのか分からないけどカール・グスタフ対戦車砲をぶっ放してる。

成形炸薬弾が反対側の側面に着弾、装甲板を破壊しながら内部に侵入。

内部で大爆発起こして戦車砲弾にも引火。びっくり箱だ。

まぁそうこうしている間にこっちは誤差修正して……トラックを狙おう。

まともに運転できなくしてもいいけど……それだと運搬がダルくなるので……

装甲車に邪魔されて減速しかかってるトラックの運転手にご退場願おうか。

 

「止まるかな……」

 

修正は完璧、狙い通りに運転席に穴が開いてガラスには血糊がべったり。

コントロールを失ったトラックが緩やかに失速していく。

安全装備もこういう時は役立ってくれるよね。

搭乗者が意識を失うなどしてコントロールを失った時に自動で止まる。

このトラックヘッドにもついていたみたいだ。

WW3以降減ってるかと思ったけど戦前と同程度にくっついているみたいだ。

 

「さてと……じゃあ次のトラックー」

 

まぁこの狙撃はターキーショットみたいなものだねー……

運搬のお手伝いはしておこ、サボってたなんて誹りは受けたくないし。



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その31

スラムに堕ちてからもうかれこれ2週間が流れた。

私の部屋には備え付けのシャワーが出来上がり毎日キレる事はなくなった。

混浴風呂に入れば必ずと言っていいほどセクハラされて相手を殴り倒す事が発生していた。

その際に危うく強姦されかける事もあってこのスラムの治安の悪さを身をもって体感していた。

それに常に気を張っていないと私の胸は狙われるようになった。

見た目通りのセクサドールで胸やら尻やら弱点で鳴かせてしまえばコロッと落とせる。

そんな根も葉もない……とは言い切れない噂が流れている。

だからかしょっちゅうソッチの誘いが飛んでくる……まぁ咥えられなくは無いけど。

 

ペルシカの方もなんとか落ち着きが出来てこっちの相談に乗ってくれるようにはなった。

まぁ目下私が危惧していることといえば……セクサドールの機能が土台にある。

セクサドールは起動時にオーナーをインプットするか本番セックスをした相手がオーナー登録される。

現行モデルはどうかしらない、私はそうなんだ。

ヤるつもりは無いけど……うっかりスラムのごろつきに強姦されでもしたら……

立場は全然低く私に逆立ちしても力が及ばないゴロツキの雌奴隷になってしまう。

オーナーとなった人間には逆らえずちょっとでも触られるとスグにでもイケるような状態になってしまうの。

今でも抑え込んで抑え込んでようやくちょっと敏感じゃない?って程度なのに。

オーナー登録をどうしようってなったんだけど……そこはペルシカ、結構苦心してオーナー登録に介入してくれた。

私が心から信頼を寄せれる相手をオーナー登録出来るようにと改良してくれた。

プログラムパックで送ってくれたからちょちょいとインストールして事なきを得た。

まぁ挿入されたらソレがスイッチでセクサドールとして本格始動してしまうのは変わらないけど。

 

「よっと……今日の仕事は何かあるかな?」

 

ぼちぼちと裏社会でシェーナの名前は売れ始めていた。

狙撃・暗殺からちょっとエッチなサービスまでヤッてくれるロリで爆乳な狙撃手ってね。

一応狙撃がウリなんだけど……クライアントはそんなの知ったこっちゃねぇ。

端末をポチポチとしながら仕事のメールを眺めていく。

毎日は無いが一気にドバっと来たりする……今日は幸い一個あった。

他は大体が身体を求める男からのメール、無視無視。

 

「暗殺か、ターゲットは汚い政治家……下半身が非常に緩いから楽と来たか」

 

まぁ軽い誘惑でホイホイと釣られてくれたら非常に楽だね。

こういう暗殺をやってくれる人員はそう多くはない……リスクが高いしね。

強襲して暴れて生きて帰るだけの生存力があるか狙撃できる腕前があるか……

それとも私みたいに色気で誘ってさっくり殺すか。

先天的なモノか尖った戦闘能力が無いと無理なものだよ。

仕事を受託、向こうも私がスラムの女っての知っているからスムーズ。

企業間のやり取りじゃない、個人間でのやり取りって体だ。

報酬の受け取りだって私が直接出向く、サービスもして次のお仕事につなげていく。

女として生きていく覚悟を決めた私は強かだよ。

 

 

IMXを転がしてやってきたのはなんとまぁ連邦のお膝元。

まぁ無法者の勝手口なんてのは相場が決まっていて……下水道だ。

都市区画の下水システムから入り込んでメンテナンス回廊からアプローチする。

だからバイクは都市区画の外、万が一にも盗まれたら?

その時は街のどっかから車を盗み出すだけだよ。

問題があるとしたら……私の胸で通過可能な地上への出口があるかどうかだね。

上がったらまずは内通者が居るホテルに行ってシャワー。

その後は宿泊予定のターゲットにコンパニオンガールとして接近。

勿論下の方の担当としてね?

まぁ衣服は完全に売女とか淫売って言われておかしくない露出度だからね。

人間の方は根回ししているから障害らしい障害はない。

 

「……うげぇ」

 

まぁ下水だからやるとは思ったよ、虫を踏んづけた。

ブーツ越しとは言え踏み潰す感覚は非常に精神衛生上よろしくない。

というか意識しないようにしていた虫どもに意識が向いちゃって私のSAN値を削ってくる。

人より虫が怖いよ、私は……

 

 

まぁ問題もなく下水から地上へ。

違法人形ではあるけど指名手配されているワケではない。

カメラに残るリスクは避けたいけど絶対に回避しなければならないって訳でもない。

ただ検問では絶対に引っかかるので裏ルートを取らなきゃならない。

そこは違法人形の悲しい所だね。

検問でも色仕掛けでなんとか突破できればいいけど……

検問を司っているのが人形、識別も完全に機械任せだったら無理無理。

せめてバックドアがあるようなG&Kならなぁ……と思わなくもない。

ま、そんなのを嘆いてもしょうが無い。メインストリートから離れた路地に出たか。

好都合、巡回の人形とかに怪しまれる事もない。

 

「すんすん……うぇ、くっさ……」

 

自分の臭いに思わず顔を顰めてしまう。

まぁ下水を辿ってきたからね、仕方ないんだけど……精神的なダメージがっ……!

自他共認める求められる女がこんな臭いのは耐え難い。

さっさとホテルへ行こう……ルートは即時演算できる。

 

「そういえばこの街、テロ予告されてなかったっけか……物々しい雰囲気に巻き込まれなければいいけど」

 

とばっちりで違法人形発覚からの逃走劇とかになったら嫌だなー。

違法人形なんて探しゃ何処にでも潜んでるんだけどね?

指名手配ってほどにはならないと思う。シリアルナンバーが照合不能でトラック不可だからって理由だけで手配してたらキリがない。

そんなのジャンクヤードにいくらでも転がっているしソコから這い上がってくるヤツも多い。

スラムにもそんなのは居た。

だから……大丈夫だと思いたいけどねぇ。最短ルートでトラブル無ければいいなー……

 

 

 

トラブルも無く手筈通りにホテルに到着、身綺麗にした後ターゲットに接触……

かるーくすっぽり抜いてあげて口でもしっかりしてやって……それからコっきりと首を折ってやったんだけど。

外がなーんだか騒がしい、持ち込んだ武器は護身用として筋がギリギリ通るMk-23しか持ってきていない。

本当に身軽に来たんだけど……ホテルの窓の外を見てみるとまぁなんてこと。

 

「あっちゃー……どっかのカルト教徒がマジでテロったか」

 

派手に上がるのは緑色の爆炎、え?まてまて、まさかと思うけど。

ローカルニュースWebに接続して確認しているけれども……うっわ爆心地でコーラップス反応。

間違いない、このテロで持ち込まれたのはコーラップス液を使用した環境汚染爆弾だ!!

耐コーラップス処理されてる人形とかでも無い限りは汚染されて……十中八九殺処分だ。

うっわマジかよ……人間のウチに脳みそぶっ飛ばしてやれば良いんだけど。

多分爆心地の連中は被爆量が多くてもう半分ゾンビ化してると思う。

原液そのままドバーっとだったら溶けてなくなるけど、爆弾で拡散したモノだったら違うと思う。

 

「……一応、ゾンビ化しないようにっと」

 

どうせ殺したヤツだし……と首をポッキリ折った遺体の頭を引きちぎる。

これで生命活動は終わらせているからコーラップス汚染されたとしてもゾンビ化はしない……はず!

マジかー……これMk-23でゾンビパニックになりつつある街から脱出しろって話だろ?

正規軍はおそらく来ても大体殺処分してくるだろうから接触は避けたい。

E.L.I.D発症してゾンビのままなら別に良いんだけど……変異を繰り返してとんでもない化け物になるから処分は残当だけどさ。

まぁとりあえず……目的はこの街からの脱出になるかな。

武器もハンドガン一丁だけだし、無理は出来ないよね。




ハニトラ
https://syosetu.org/novel/291534/7.html


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その32

https://syosetu.org/novel/291534/8.html
これの続き。

要約するとE.L.I.Dに美味しくヴァージンいただかれてメスに目覚めたシェーナ
タイムリミットギリギリで脱出したっていうお話よ。

それを踏まえて御覧ください。


前略、ハニートラップとして動いた結果E.L.I.Dにぶち犯される憂き目をみた私です。

コーラップス爆弾なんて過激なものマジで使うテロが起きるなんて想定外だよ。

そして想定外なのはそんな事されて身体に一切の崩落、変異が起きていない事。

不審に思った私は緊急でペルシカに連絡をとった……

各種センサー類が壊れてる可能性も危惧したけどその線はない。

一番厄介なのはセクサドールとしての機能が暴走気味でかなり脆弱になりつつある事。

今スラムに戻ればセックスジャンキーになるか誰かしらの肉便器に成り下がると断言できる。

これらの問題もついでに解決ないし……軽減できるプログラムをなんとかしてもらおう。

違法人形な上に汚染もされているからI.O.P本社へのアプローチは限られる……

向こうから迎えに来てもらうか……それとも非合法な取引をして無理やり入るか。

今回は向こうからヘリで回収してくれるそうだ……護衛もクソも要らないから私を格納して封をして……ラボに届けるだけ。

 

「はぁ……嫌悪感すら無いなんて……」

 

人のなれ果てであるE.L.I.Dに強姦され処女を散らした。

今更プラトニックな奪われ方に期待しちゃいなかった。

けれども化け物に奪われるなんてのも御免被りたかった。

どうせならスラムのあのクソバカ連中の誰かしらにあげてれば良かったかも。

緊急排出で一応精液の大半は排出したけど……完全に排出出来やしないしなぁ。

E.L.I.Dの性交に関する報告なんて上がっちゃいないし……新種?

それとも何かあるのかな……E.L.I.Dの生態については私詳しく知らないしなぁ。

ともかく人間のなれ果てに強姦されて嫌悪感を感じなく成っている私の精神構造に戦慄する。

いやコレ完全に売女って言って良いくらいに歪んでるよ?

ハニートラップでパイズリ、フェラしまくった結果?

あー……無くもないかも?いや、ねーよ。それで化け物に犯されるのを許容できる?

出来るわけねーよ、セクサドールでもそんなの許容できるわけねーよ。

 

「回収地点にはついたけど……IMXも回収してくれるかなー」

 

最悪は割と長い付き合いになっているIMX330ともお別れになるかもしれない。

中々無いんだけどなぁ、超シンプルで軽量フレームのオフローダー。

また発注するとなると受注生産みたいな所あるし……また別途パッケージOPつけないとだしなぁ。

どうなるかは全く見通しが立たないけど……少なくとも今より悪くなることは無いと思いたいな。

 

『コード4、コード4』

 

無線通信に入ってきたコード、目的地に近づいたからフレアを炊いてくれって合図だ。

まぁフレアなんてのは無いから……わかりやすい様に目印をやるだけだけど……

赤外線ゴーグルとかIRデバイスなんかに反応する棒とワイヤーロープを携行しているんだけど。

これを只管ブンブンと頭上で振り回す。

テロがあったのが夜中、もうすぐ夜明けだから出来る合図。

フレアだったら発光するから一発で分かるんだろうけど。

 

『発見した、すぐに降りる』

 

まぁこれで安心できるかな……

こっちに降りてくる、普通の兵員輸送ヘリだな、こりゃIMX置き去りパターンだ。

幸い装備はほぼスラムの借りてる部屋の中だけどさぁー……はぁ。

ツイてないなぁ、踏んだり蹴ったりだ。

 

 

 

正規手段でのメンテナンス停止に伴い日時がかなり吹き飛んだな。

再起動した私が目覚めたのはまるっと一週間後。

ボディは相変わらずの私……だけど一部内部機構が変更されたか?

機関部の制御プログラムのバージョンが全然違う。

それにこのプログラムはなんだろう……ふむ?

 

「やぁ、実に厄介な状態になって戻ってきたね」

「ペルシカ……助けられたよ、それで……私のボディは?」

「単刀直入に言うとキミ、コーラップス免疫を持ったね」

 

コーラップスの全貌は明らかになっていない。

ただ保管する容器等は開発されては居たと思う。

物質はクリスタル状だったと思うが……私のボディは相変わらずのすべすべムチムチなんだけど?

……性感プログラムも大分抑制されてる。

私が触れても軽くイケるくらいにクソザコになってた胸が平気で触れる。

 

「眼の前でそのバカでかい胸を揉むのは止めてくれないかな、イラッと来る」

「いや、ほら……性感が抑えられてるから」

「あぁソレも説明しようか……だいぶ徹夜したからね」

 

セクサドールの受け持ちじゃなかったからプログラムの総当り。

それから修正するためのパッチを作って私用にアジャストしてくれたみたい。

もちろんソレだけが徹夜の原因じゃないみたいだけど。

低濃度コーラップスを吸収しても崩落しないのが判明して暫定的に低濃度コーラップスへの免疫を手にしたとみなされている。

これが厄介でどこもかしこもコーラップスへの免疫というのは欲しがっている。

解体される事は無くなったかもだけど腕とか引きちぎられたりしたら大事になるのは確定した。

軍用規格の躯体に加えて厄ネタが増えたということ。

ついでだからと試験運用中のコーラップス対応機関に換装、これが機関制御の変更ね……

これの調整に偉く時間を食って徹夜がさらにドン。

 

「キミのパーツをちょっとクローニングしてテストしたんだけどね、どうも上手くいかない」

「ふーん……解析は?」

「した限りでは組成が若干変わってる程度だねぇ」

 

コーラップス関係はあまり研究が進んでいないのもあるからか。

替えが効かない実験対象だから実験は慎重にってか……にしては実験中の機関を乗せたり……

 

「各種消耗部分の自動修復もナノマシン塗布で対応しておいた」

「ん、そいつはありがたい。スラムだとメンテ部品集めるのも大変だし」

「あぁ、そうそう……私が関与できないプロジェクトのも一枚噛んできてキミに載せられている」

「……多種動物存続用繁殖パック……おい、こりゃ」

「まぁそういう事だ、頑張ってね」

 

ついでだからと……こりゃ機能の確認を急がないといけないな。

セクサドールとしての機能はやっぱり完全OFFには出来ないか。

……まぁ、それは良かったか?

 

「ということはまたI.O.Pのお抱えに?」

「そうはならないね、まだゴタゴタしてるから仕事は振るけど暫くスラムぐらしをしてもらう」

「……チッ」

 

問題が少し解消したと思えば問題山積みで素晴らしいこと。

スラムぐらしは続行だし妊娠機能もアクティベートされてるからなぁ……問題だらけだ。

定着率は低く設定されてるのが救いだけど……

卵子精製機構も鈍化できりゃぁな……

 

「毎日が危険日みたいな女をスラム暮らしさせるってマジ?」

「妊娠率はお腹一杯に注がれて0.3%だから平気だろうさ。頑張ってね」

「他人事だからって……テメー覚えてろよ」

「ちなみに異種の場合は実験段階だから受精率わからないよ、下手したら100かもね」

「おいコラ……」

 

どこの部門が気合い入れてんのかしらないけど、本当に厄介な事をしてくれたなぁ……

今からすっごく頭が重い、だるい。しんどいったらない。

 

「さしあたって……早速だけど仕事だよ」

「……潜入?ふぅん、やるけど、IMXの回収よろしくね」

 

どうやらコーラップス爆弾仕入れていたテロリストのアジトへの潜入らしい。

武装は無いけど格闘とハニートラップで何とかするしか無いか。

……正直言うと、犯されるかもしれないと思うとゾクゾクして期待している自分が居る。

セクサドールとしての性なのか……それとも、私が変容しているのか……

この潜入中にそこらもハッキリすると良いな……



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その33

今回潜入するのはテロリスト……それのイチ派閥の連中。

かなり過激思想の持ち主でコーラップスを神同等に崇めているクソバカ共。

だからコーラップスに対する技術もそこそこに持ち合わせている。

あの爆弾の製造にも成功したのはそんな所があるんだろうな。

コーラップス汚染されるのも厭わない、むしろ嬉々として喜ぶキチガイだもの。

変異したE.L.I.Dゾンビは御神体等と言って崇める始末だし。

軍資金が欲しいのとコレを気に同じ思想を持つヤツを集めようって事でテロったらしい。

潜入はいつものような色仕掛けではない、成功率低いし。

コーラップス爆弾のバイヤーって事で潜入する。

実際に色んな所の暗部があのコーラップス爆弾の事を知りたがっている。

どこにこんなコネがあるんだか……と思うけど私も無いわけじゃないしな。

 

「ここが待ち合わせ場所なはずだけど……うわ、見事にボロ酒屋じゃん」

 

私的にはちょっと近寄りがたい場所かな、酒に弱いんだし。

事前連絡で橋渡し役が指定したのはココ……

さてさて、内部侵入した後は人形パワーでバキバキにぶち殺しながら進む感じになるんだけど。

うまーいこと侵入できるかなー?

その前にここで酒ってなったらまずいかも。

 

カランカラン、ドアベルが鳴り一斉にこちらを向かれる。

これまた荒くれ者ばかり、多少目がイッた奴もいて近寄りがたい。

まぁこれで怯むようなら裏社会には居ないよね。

そういう篩いにかけられてるのかも、まぁ試練と言ってもいいか。

軽い食事くらい摂りながらのんびり待つかねぇ。

 

「ようデカパイの姉ちゃん……ヒマ?」

「すいません、このチリソースフォカッチャください」

 

まぁ案の定ナンパされるというか……胸を揉まれてセクハラされる。

馴れ馴れしいんだよなぁ、こういう男。勝手に肩組むし胸揉んでくるし。

酒臭い吐息引っ掛けてくるしで好かれる要素無し。

これで惚れるとかどれだけ男見る目無いんだって感じ。

私が涼しい顔して無視してるのが気に食わないのか更に揉んでくる。

うん、感度抑制もきっちり働いてる……カットオフは出来ないから快楽を受けるけど。

顔に出す程じゃない全然我慢できる。

 

「おい、この女すげぇ揉み心地だぞ」

「ソイツぁ良いな、オレも混ぜてくれよ」

 

仲間を呼んでさらに囲もうってか、やることが姑息。

余計にマイナスポイント、褒めるところも揉み心地っていうのもねぇ。

胸はもうそれはそれは自慢の逸品ですけど?提供して心地いい相手っていうのもあるんです。

視線をカウンター奥のマスターに向ける。

目を逸らしたな……自力でなんとかしろって事ね。

 

「……良いよ、じゃあそこの個室でいい?」

 

こういう時はちょっとばっかり期待させて……黙らせようか。

それぞれ寄ってきたヤツにウィンクしてから手を握って個室へリードする。

マスターがなにか言いたげだけど向こうが無視したならこっちもこっちのやり方で行く。

あとであのマスターも軽くシメたいなー♪

 

 

 

まぁ特に問題もなくチンピラ2匹は仲良く頭をかち合わせにして気絶させた。

今日は武器特に無いしね、仕事外で殺す程血に飢えてるヤツでもないし。

数秒で出てきた私を見てイロイロ察したのか他の色目で見てたやつも黙った。

さて、この中には……事前情報で知っている風体の男は居ないな。

見た目で分かりやすくコーラップスバンザイなんていう文言つけたシャツ着てるらしいけど。

 

「あ、あの人か」

 

ドアベルの音に反応してそっちを見る。

これまた目がイッた感じ……えらく達筆な感じで。

私の外観もあちら側には伝わっている……真っ直ぐこっちに来たな。

メチャクチャ乳のデカい銀髪美少女、これだけなんだけどね?

 

「ブツを買う予定だよな」

「えぇ、ウチの組織はあの光にかなり関心を寄せています……つきましてはコチラを」

「……前金だな、よしじゃあ映えある我らの教徒に入れてやろう」

「ありがたき幸せですわ」

 

耳打ちをする距離で囁き合いながら私のサイドポーチ……普段は417なんかの弾倉をブチ込むヤツから札束を見せる。

私の今の肩書はギャング組織の殺し屋、一応実しやかに噂があったりするから信憑性は零じゃない。

実際私はフリーランスの殺し屋みたいなモノだし……つーか殺し屋そのものか。

圧倒的な破壊力を持つコーラップス爆弾、その驚異は周知の通り……超小型の核爆弾みたいなものだ。

サイズも個人携行可能で次元発破装置を組み込めば相当使い道が広がる。

故に裏社会の連中は挙って購買交渉に出ている……そこに目をつけた。

購買するにあたって前金を用意し……さらにサービスも良い女を派遣する。

ついでに面倒事を片付けるくらいの勢いでいる。向こうもそのつもりだろう。

教徒になるつもりはサラサラないけど。

 

「ふむ、しかしお前にはまず洗礼を受けてもらわないとな」

「は?洗礼ですか」

「着けば分かる」

 

……情報は少ないか。やれやれ。

肩を竦めつつあちら側が用意した車に乗る。

場所などは察知されないように目隠しまで。

まぁジャイロセンサーで全然トレース出来てますけど。

入っていったのは黒い噂が流れている新連邦の一区画……へぇ、ここがコイツらのアジト。

といってもかなり街外れの方でコーラップス汚染区域にも近い。

 

 

 

その後、通されたのは応接間……ではなく牢獄だった。

まぁなんて手厚い歓迎の仕方、これは惚れ惚れとしちゃうねぇ。

スパイを警戒してここで数日間捕らえた後に実際の交渉につくって。

背後関係を洗おうって寸法かな、檻の規格は普通の人間用だけど……高圧電流か。

流石に電流を垂れ流しにされると私もひとたまりもないな。

生体部品は焦げるし内部の機械部品もオシャカ。さらには電脳も焼ききれて私が死ぬ。

しょうがないしおとなしーくするかなぁ……道中も高圧スタンガン背中にグリグリされてて抵抗許されなかったし。

意外と用心深いんだなーって思う。

まぁともあれ侵入は出来た……牢獄からスタートっていうのも経験が無かったわけじゃない。

無線規格がある機器は周囲に無し……監視カメラは牢屋内に無し。

メンテナンス用のサーキットは……お、あるじゃん。

これからハッキングは出来るかなー……デバイスは女性の嗜み、お化粧品に紛れさせてきた。

ふふん、このコンパクトミラー型デバイスでー……

 

「……マップ情報ゲットぉ、うーん……何かの混乱に乗じないとキツイ配置してるなぁ」

 

最短距離を突っ走ったとしても多分データ破棄の方が早い。

出来ればコーラップスに関するデータは回収したい。

各所に配備されているカメラ回線との接続も出来て相手側の目を盗むことは出来たのは幸いだけど。

それだけじゃぁどうしようもないな。セキュリティにはアクセスできなかったし……別回線を掘り起こさないと。

そっと戻して素知らぬ顔して待っておこ。

潜入は一朝一夕では成らずだよ。

 

 

食事の前に尋問?あぁこれまたベタな所ぉ……まぁ耐えられると思うけど。

 




尋問?もちろんR18になるヨ。
書き上がったら投稿するのでお楽しみに。


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その34

なんだかんだ不運の中でも悪運を発揮して生きて帰って来るんだよね。

捕まって尋問と称して色々された挙げ句実験体にされそうになったけど……なーんとか生きて帰ってこれた。

代償は私の精神性と性癖、E.L.I.Dにぶち犯されてトラウマになってるのに……

その上で更にぶち犯されて妊娠、出産を短期間に経験したから……と思うけどね?

データを回収したし危惧していた他の拠点へのデータ転送とかは無かった。

ただあの爆弾で劣化コピーっていうのが驚愕だよ。

もっと技術を持ったヤツがどっかに居てテロリストに流していたって言う事だし。

 

「うーん……これは致命的なメンタルダメージだねぇ」

「……あぁやっぱり?」

「いくらか修正したけど……本当ならリセットしたいくらいだねぇ」

「もういいよ、異常性癖を抱えてるのは珍しくないし……躯体の方は?」

「びっくりするほど絶好調だよ、新品同様」

「そりゃ良かった……ココの設計者は?」

「トラッキング不能な外部の人間だったよ」

 

今はI.O.Pの16Lab、ペルシカの所で検査してもらった所。

予想通りというか残当……パーソナルというか人格データだね。

マインドマップなんても言うけどそこが非常に強いストレスで歪んでいた。

異常な発情なんかは取り除く事が出来たけど性的嗜好なんかはもう修正不可。

マスターデータである私の本来のデータがなけりゃ無理。

でもそれはWW3で焼き払われていると思われる。

……もっともあっても私がそれで修正するのを拒むよ。

女として生きていく事を決めた私を否定する事になる、ならこの異常性癖を抱えていく。

それに……簡単に修正、リセットなんて出来たら人間であった私には違和感だよ。

生死感だって人間のままなんだし、余計にストレスかかりそうだ。

さて、E.L.I.Dを孕んだりしたので人工性器……ひいては妊娠可能とした機構を設計した下手人をとっちめようと思った。

しかし蓋を開けてみれば開発部署は知らぬ、設計者は外部の人間。

つまりI.O.Pとしては何のノウハウも無いけれどテストしたいが為に私に乗っけた……

コピーも出来てない……下ろすのも……もったいないし。

 

「一応フェールセーフでソフトリミッターを設けたよ」

「……人間と認識した相手が居る間は排卵されない、ね」

「人間をぽこじゃかと孕んだら大問題だからね、可能な物を搭載しているのも割と問題だけど」

「検査データは?」

「勿論廃棄済みだよ、安心するといい」

 

実験段階の卵子製造機構では宝くじが当選するような天文学的な確率だと試算されていた。

バケモノ相手に調整されたのでも20%……猫みたいな受精確率がかなり高いの相手で試算してそれ。

コーラップスの影響をモロに受けたヤツが相手なんていうのは想定されてなかった。

なのに……蓋を開けてみれば猫もビックリな受精確率している。

 

「……なにか変なのインストールされてるけど、コレは?」

「それかい?キミが助けようとしたリコ……鉄血の要人を覚えてるかな」

「んまぁ……」

「そのリコ設計のプログラムだよ、特に性能の良い人形に搭載してくれってメモがあってね」

「さいで……セクサドールに搭載するのはどうなんだか」

「性能は最高峰なのは事実だし」

 

何だこりゃ、鉄血製のインテリジェンスパックの上位互換ってところか。

向こうの戦術ネットワークへのアクセスや工場の掌握等出来る……うへ、すげぇ……

すげぇけどコレを私に載せてどうするんだか?

というかこのプログラム結構リソース食うな……

 

「さて、私はキミが持ち帰ったデータの解析やら新規制作のエリート人形の調整に戻るよ」

「ちょいまち、私の報酬はどうした。タダ働きなんてのは許さねーぞ」

「しっかりとキミの二輪車は回収してるから、さっさとスラムに戻るといいよ」

「……まぁ良いよ、それで今回は飲む。また依頼がありゃ呼べよクソ女」

「はいはい、ハメ潰されて奴隷落ちしてなければ呼ぶよ」

 

いけ好かねー、まぁ私の相棒IMX330が戻ってきてるなら良い。

金も少額ながらに入っていたし検査代とかと相殺と思えばいいや。

帰ったら装備のメンテもして……イロイロと試したりしたいしね……

まぁ長居する理由も無いしとっ捕まる可能性も出てくるし……さっさと拠点に戻るか。

 

 

ってオイ、土まみれじゃねーか!!軽く土払うくらいしてくれよ。

 

 

 

 

 

さっさと違法人形は街を離れて監視の目とかが無い裏道を通っていくに限る。

コンテナも何もない状態だと本当に身軽でバイクを転がしている心地よさが凝縮される。

裏道は勿論の事舗装なんてされちゃいない……デッコボコ道だからオフ車の楽しみ満載よ。

ぅぅん……この振動で若干感じてる辺り身体、ヤバイかも。

んー……サスが若干ヘタって来てるかなー……ギシギシ言う。

私の身体もIMXもイロイロガタが出てきてるねー……壊れてる方向性はぜんっぜん違うけど。

……あれ、コイツガスどうだ……最後に給油したのは何時だった?

こーいうオフ車あるあるだけどメーターの最小化……ひいてはハンドリングの軽さを求めた結果だけど。

燃料計が無くて燃料警告灯があるだけってパターンなんだよね。

私の相棒、IMX330もそうでうっかりしてるとガス欠やらかすんだよね。

ログが一部欠損してるから燃料入れた履歴が怪しいな。

経路データから最寄りの街……うーん、関所をなんとかパス出来そうなトコを探すか。

まぁ関所も色仕掛けができれば……そっか、そういう手で押し通ればイイんだよね。

最寄りはー……おっと?

 

「ぅぉーっと……こりゃ山賊に遭ったかなー」

 

道端に落っこちていたのは思いっきり頭をぶっ飛ばされた死体。

ウジが湧いていてもう相当な時間ほったらかしにされてるな。

回りを見てもそれっぽい相手は居ない……けれど、警戒はしなくちゃいけないね。

うーむ、同じアウトロー相手だし縊り殺しても良いけど。

メリットないし襲われたらその時考えよ。

最寄りの街までは大凡30kmと言った所か……警告灯がついても平気そうだな。

まぁ街でガソリン入手出来なかったら最悪なんだけどね。

 

「うげ、マジで点灯したし……こうなったら大丈夫って分かってても焦るんだよねー」

 

ウダウダ言ってられないね。吹かしすぎず、回転数を抑えて行こう。

なんて言ったって、今の私Mk-23しか無いんだしー。

バケモノが出てきたら無抵抗にヤってもらうしか無くなっちゃうし……

遭って発情したらどうなることかー……

 

 

 

 

関所もほぼスルーで街に入れてしまった。

目をパチパチさせながらガソスタを探して給油したけれど……IMXが少食で助かった。

たったの2Lしか無くてそれで売り切れ、どういうこったよと問い詰めると寄った街……

どうにもこうにも鉄血人形と山賊のダブルパンチもらって補給路が途絶えてるらしい。

ガソリンが売られていたのがラッキーって所だね……

 

「それで、その山賊の出現地域は?」

「もうこの辺り全体さ、キミも出られるとは思わないな」

「ふーん……その山賊みかじめ料とか巻き上げてこない?」

「あぁ……女と食料を巻き上げに来る……キミ、まさかと思うけど」

「んー?ヒマだしそーいうのなら慣れちゃった方が都合が良いし……まぁ私にとっても都合が良いの」

 

仕事として恩を売れるしー……ハメハメされるならそれはそれで良いかな。

ハニートラップの成功率っていうのもあげれるし♥

ハメて貰ったほうが私には得が多いんだよね……ふふ。

さてと、お仕事の話をしにココの長にでも会いに行こうか。



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その35

この街、盗賊に集られ続けている街はまぁ疲弊している。

街を行き交う人間はそろって死んだ目をしている。

明日に希望を見いだせない……そういう人間ばかりだ。

スラムの人間でもここまでどす黒い……いや、アレは一度地獄を味わった後だからか。

明日を生きれないと半ばあきらめた連中だ。

 

「ひ、ひひ……お嬢ちゃん、一発ヤらせてくれねぇか……?」

 

ほーら、こういう輩が出る。破れかぶれだから欲望のコトしか頭にない。

狐耳と尻尾が無くてもこんなデカパイぶら下げているの……人形だってわからないかねぇ。

いや、こんな人形セクサドールだからヤれるって?

舐められたものだよ、まぁ実際用事もなけりゃヤってたかもしれない。

 

「だーめ、私はコレからお仕事しに行くんだから。それにその腐った目をなんとかしてから出直して来な」

 

しっしと手であしらう、それでも男の目玉は私の胸とスカート……その奥の秘処に向けられている。

私の意思とか関係なしにただただ身体を貪ろうって?

なんだよココ……第二第三のスラムかよ、荒んでるねぇ……

ほーら、手も伸びてきた。緩慢で戦術人形じゃない普通の人形でも捉えられる。

 

「へ、へへ……うっ」

 

まぁこういうのに割いている時間は無い。

でもいきなり手をあげちゃあ私が捕まっちゃうんだよね。

人形は基本的に人間に手を上げちゃいけない。

正当防衛が成立した場合には見逃される……まぁ人をガンガン殺してる私が気にする話か?

ケース・バイ・ケース、今回の場合はこの後にこの街の長と話すんだから穏便に済ませないといけない。

なので、まずは手を出させてから張り倒す。

初手で胸を揉んでくるのは……まぁ慣れたものだよ。

後は私の胸で視線が遮られている足元を払いながら肩を押す。

 

「邪魔、いい?私はこれから仕事に行くんだよ、分かんねぇ?」

「な、なんだよ……ヤらせてくれてもいいじゃねぇか、クソビッチが」

「自暴自棄になるのは勝手だがよぉ、私まで巻き込むな、楽になりたきゃ鉛玉くれてやってもいいぞ」

 

大体武器がロクにないし後付OPだって装着してない。

対少数戦や潜入戦では役立つだろうMk-23しかない、これが私の半身417だったら違っていたけど……

マガジンだって少ない、補給を受けれたわけじゃないから2マガしか残っちゃいない。

こんな状況で自暴自棄くんにくれてやる鉛玉は少ないよ。

けど、円滑な仕事の邪魔をするんだったら話は別だ。

 

「死ぬ前に、でっけぇおっぱい……揉みたかったんだよぉ……」

「明日を諦めてるクソボケに揉ませるおっぱいはねぇっつーんだよ……ったく」

 

町長のトコ行くまでにとんだ邪魔が入ったものだ。

バイク?はは、無駄な燃料消費したくねーし。徒歩だよ。

まぁおかげでこういう輩に絡まれるんだけど。

 

「……はぁっ♥ヤバ……キュンキュンしやがる……っ♥」

 

お仕事優先だから我慢できたけれども……特になにも問題がなけりゃノッてた。

思った以上に、私……男に対して脆弱になってないかな。

ハメられたい……そう願っている。仮にも元男なのに。

全部終わって戻ってきたらヤってあげようかな……♥

 

 

町長に話をつけてみれば盗賊はもう間もなく女か金、食料を取りに来る。

寄越せなければ見せしめに数人虐殺していく……規模は不明。

ただ出ていく人間はほぼ例外なく殺されていっている。

車で出ていける道は張られていると見ていいか。

私が来た道は使われなくなって久しいクソボロ道、オフローダーでなきゃ走れない。

今の世間一般的な車は最低地上高130ミリ程度の舗装路と若干の未舗装路を走れる程度。

舗装面が割れ、一部陥没していたりする路面を走るのは無理だ。

比較的舗装が整っている道は限られ……この街では2方向。

それも揃って同じ方面だから張られやすいか。

空輸なんてしようものなら即座に集られる、軍はそれどころじゃない。

PMCにモノを頼むコトも出来ない……なんでって?もうそれを頼む金もない。

ここのPMCも離れて久しいらしい……新規PMCとして雇ったつもりが盗賊だったってオチもついている。

生かさず殺さずの塩梅があるから生きてこられたが……このままでは家畜同然と。

 

「どうにかなりますかな……」

「どうにかするから、まぁ待ってなよ……金は貰わないでいいけど、有事の際は私を匿ってくれるだけでイイ」

 

町長はまだ若い30代のオジサン。

だから判断を間違ったのかもね、安きに流れて痛い目に遭う。

よくあることだよ、よくあること。

 

「……そろそろ来るとの事です」

「ん、待ち合わせ場所は?」

「この建物を出て真っ直ぐ、この街の正門付近ですな……あの、申し出は非常に有り難かったのですが」

「黙れ、良いから吉報を待ってろ……あぁそうだ、一ついい?」

 

無償のなんて怪しいだろうし何かしら報酬があった方が良いか……

丁度いいのが浮かんだんだよね……ふふ。

 

「盗賊潰してきたらこの街で身寄りのないガキんちょ一人貰っていくよ、それで良いだろ?」

 

まぁ盗賊なんて数で押すような連中だろ……なんとでもなる。

……私がエッチしたい欲求を我慢できれば、だけど。

仕事中にしたくなるようになったら私も終わりだよね……いや、ホント。

 

 

 

盗賊はまぁこれまたボロッボロのガソリン車で来た。

使っているのは頑丈さで定評のある日本車、雑に整備しても元気に走り回るっていうヤツだ。

名前は確かシティエース、トミタのベストセラー貨物車だな。

外装も内装も見るからにボロッボロ、塗装に至ってはもう剥がれてサビだらけだ。

 

「へへ、見てくだせぇ……こんな上玉残してやがったとは……」

「しばらくはコイツで遊べるな……」

 

盗賊の装備はどっかのPMCの横流し品かなぁ……ボディアーマーは無いけど銃器とマガジンポーチ等を見るにそう。

それぞれ遠目で識別可能なように頭部に目立つ飾りをつけていると……

衣類はまぁそこそこに汚れている迷彩服……奥に見える森で効果を発揮するパターンだ。

となると拠点は森の中だね……森の中となると肉食獣だって闊歩してる危険地帯だと思われる。

うん、この規模の森だとそういう生態系が出来ていておかしくない。

……うーむ、拠点はもーっと遠いのかもしれないなぁ。

 

「今期の貢物は私だよ、シェーナって言います」

 

まぁともかく今は盗賊の本拠地に潜入するのが先決。

相手は完全に油断している……目線はずーっと私のおっぱいに釘付け。

女を定期的に要求していたりするし……まぁ奴隷に仕立て上げてどっかに売り飛ばしてるんだと思うね。

私もその仲間に入れようって魂胆だろうなぁ……

その間ずーっとブチ犯して調教して楽しみまくって……かな?

……感度抑制を弱めてっと。

 

「んっ……ぅ♥」

「へへ、なんだよこのデカパイ女……とんだ淫乱ボディだぜ」

「調教するまでもないかもな、ゲハハハ」

 

まぁうん、私を囲んで連れて行く際に胸をムンズと掴んでくる。

両肩から腕を回してきて左右それぞれ揉んで来てさぁ……あぁもう、ムラムラさせられる。

感度云々じゃないよ、私の嗜好にマッチしてるんだよ。そうなっちゃったんだ。

うぁー……ほんと、マゾになっちゃったなぁ♥こんな盗賊に発情させられるとか……さぁ。

 

「おいおいコイツ……もう調教されてるクチじゃねぇか?」

「コイツどうせ人形だろ、こんなデカパイ抱えられるのはセクサドールだろうしよぉ」

「ちげぇねぇな、大体乳揉まれただけでこんな……興奮してるなんてなぁ?」

「んっ♥は……ぁ♥先端……クリクリしちゃ……ぁ♥」

 

さっさとシティエースに連れ込めば良いのにわざわざ見られそうな所で胸を揉んで……

乳首を探り当てては指でクリクリと撫でて先端を弾いて……私を辱めようとしてきている。

無様に乳イキ晒すのを期待しているのかな♥

 

「まぁ良いか、とにかく運び込もうぜ」

「だな、楽しみはそれからだ……へへ、ぐへへへ……」

 

……揺れるなぁ、欲望に揺らぐ。

仕事としてコイツらを潰すのが主目的だけど、コイツらに輪姦されるのとかもいいかなって思ってる私が居るんだ。

というか輪姦してもらいたい、それでさらに油断を誘ってから寝首を掻く感じが良いかなー……

あぁうん、運ぶ際は目隠しに手枷とかだよねー。

これもちょっと前の凌辱思い出してゾクゾクしてくる……仕掛けとかは無いから簡単に外せるけど。

 

 

 

運ばれた距離は大凡40km、途中何度か止まっていて監視とかなんか聞こえてきたから観測所があるんだろうね。

つーか無線まで筒抜けとかもうイロイロと呆れるねぇ。

 

「しかしこのデカパイどうするんだろうな」

「そろそろ上納しないといけない躯体もあるしなぁ、ボスがどう判断するかだな」

「それに一発目は絶対にボスからだもんなぁ……あーブチ犯してぇ」

「全くだな、見ろよ息一つであんなぽよんぽよん揺れてよぉ……しゃぶりてぇ」

 

上納?口ぶりからして奴隷って感じじゃないな……ふーむ……

これまたデータがほしい所だね、ボスに会わせる感じだな。

そこで軽く潰してからトップから狩り殺して殲滅するのが良いかな。

武器も強奪できれば尚良し、後は残党狩りみたいなコトになるし。

 

「おい、乳首勃ててやがるぜ」

「ヒュー!ど淫乱が、俺たちに回ってきたらたっぷり愉しませてやるぜ」

「……ん、ふ……っ♥」

 

まぁ、うん。私の歪んだ部分はもう隠せないな。

視姦されるのもこんなに興奮するようになるとか……もう、ね。

 

「おう着いたぞ、興奮してねぇで歩け。雌豚が」

「ん"ぅ"っ♥」

 

ぴしゃんとケツを叩かれるのもクセになるなぁ……♥

でも、お仕事お仕事……恩売りの機会を逃すのは無いよねぇ。

 

 

 

まぁボスがこれまたど直球な性欲ゴリラだったのだから好みっちゃ好みだった。

殺すのは惜しいと思ったけど生かしておいても邪魔になるだけだし。

殺しをする私を見られて生かす利点が無いからね。

通された後即座に殺して全権掌握、後は施設の重要部を抑えて破壊して……

 

「この上納先、今度潜入するかな……人間と人形集めてなーにやってんだか」

 

データはまるっと抑えた、上納先の潜伏先までゲットだ。

相手も私が思っていたほど手練って訳でも無かったし……

 

「取ったァ!!」

「取れてねぇよ、マヌケ」

 

わざわざ大声あげてお知らせするバカばっかりだもん。

ノールックで強奪したデザートイーグルぶっ放しておしまいよ。

Mk-23使うまでもねぇ、オープンホールドしたのでマガジンを落として再装填。

ま、後はコイツらが使っていた車使って戻って……お仕事完了だな。

もっと呑気に過ごしたいのになぁ……まったく。



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その36

帰る片手間、自分が襲われない為にってハニートラップ同然に潜入して壊滅させた盗賊団。

まぁ何かしらの裏がある組織に人員を売っていた様子だ。

それが生きている人間だろうが人形だろうが関係なしにね。

そんな爆弾情報抱えてなんとかスラムに戻ってきた私だ。

狐耳と尻尾もシッカリ付けて……さて、スラムでの仕事を探すか。

ハッカー共は今案件抱えていて接触厳禁。

ヘタに接触しようものなら……何をされるかねぇ?

スラム中にいらん情報をばら撒かれるだけじゃ済まないわな。

変な機械をハックして嫌がらせされたりとか……識別を壊されてスラムの往来が出来なくなったりとか。

まぁ文明の利を削減されるのは間違いない。

あと私の場合はメンテナンスベッドをハックされてえらい目に遭うかもしれない。

真正面からゴリゴリのゴリラプレイしたらあっという間に殲滅できるけど。

それをするメリットも無いし触れず騒がず……っと。

 

「ハックナードも缶詰中だし私個人で探すかぁ……」

 

スラム内での問題事もあるだろうし……ソレ以外の仕事でもいいよ。

なんなら本気で娼婦になっても良いし。

武装は……護身用のMk-23とM37で良いか、これ見よがしに担いでたら絡むバカは居ないだろ。

徒手空拳で勝てる相手じゃないのはもう分かってると思うし。

酒場にでも行けば何かしら情報は入るだろうなぁ……

人が屯する場所としては酒場が一番だし。

 

「ん?あぁ、ボスからか……どれどれ」

 

私の端末にメッセージが……確認してみるとスラムのボスからだ。

相変わらずドコから確認してるんやら……まぁ良いけど。

内容はスラムの電力を担う発電機の1基がおかしい、メンテナンスしてみてくれないか?

ふーむ……エンジンメカニズムに詳しいと一回話したコトあったと思うけど……

発電機は馬鹿でかいディーゼルエンジンだったと思うが……まぁ見れなくはない。

私が主に扱っていたのはガソリンエンジン……しかも高パフォーマンスの物だけど。

基本的な組み立てから逆算してってのは全然出来るけど……まぁ見てみないとな。

詳細スペックも送られてきて……場所とアクセス権限か。

よし、じゃあ見て見るだけみてみようか……っとその前に工具がねーと。

工具のアテはあるからそこで入手して……それからだな。

 

 

 

うん、スラムの露店から少し外れた……人間性に難ありな職人共が集まる場所。

それぞれ何かしら作ってはいたけど会社の倒産、大規模解雇の際に巻き添えを食らった……

技術はあっても人間性がダメではじき出されたりと……まぁそんなヤツが屯している。

当然道具を製造しているヤツもいてソイツらの閉じたコミュニティに供給している。

物は良いんだけど……ね。

 

「よぉ、やってる?」

「帰りな、人形なんざにやる道具はない」

 

開口一番これだ、まぁ背景的にしかたない所はある。

ここでの解雇された理由の大半は……機械人形に生産力を奪われたって所がある。

だからこの手の人間はほぼほぼ人形に対しての恨みつらみってのを抱えている。

憎しみって言っても良い、即座に殴ってきたり解体してやるってやんねーのが有情。

ただこの中でエンジンメカニックは正直居ない。

居るには居るけど各個人で使うような小型の……60ccクラスの家庭用発電機クラスしか扱えない。

それも前時代的なキャブ式のこってこての機械式のヤツな。

このスラムを支えているのを扱うとなるとキャパオーバーだろ。

私でも怪しいけどな、ECUが死んでたら流石にねぇ……

 

「まぁまぁ、ココの発電システムの心臓が不調なんだよ……メンテすんのに道具が必要なワケ」

「……ならストロークキッド共に」

「7000ccクラスのディーゼル機関、イジれんのか?イジってた爺は去年亡くなったんだっけか?」

 

スラム構成に欠かせない要素だけど手入れするヤツが去年ドンパチに巻き込まれて死んでいたらしい。

だから私にお鉢が回ってきたんだがな。

指摘してやるとこれまた分かりやすく苦虫噛み潰してくれて。

 

「仕事道具を買いに来たんだよ、なぁ……工具、売ってくれや」

「断る」

「……ふーん、あっそお?じゃあ押収するわ、メガネレンチとラチェットレンチに……」

「貴様……!う"っ」

 

売ってくれないなら力付くで行くまでだよ、仕事遂行の道具が入手できりゃいいんだよ。

平和的に交渉してたのにクソボケ老害みてーにかったい頭しやがって。

憎しみで視野が狭まってんだろ、クソボケが。

軽く商品棚のセーフティはハックして解除、物色してると乗り出してきたから……

まぁ順当にその首根っこ掴んで地面に張り倒す。

 

「良いか、私ぁボスにオーダーされて見ようってなってんだ……この意味分かるよな?仕事中なんだわ」

 

人形ってのは割れてる、私の顔もこのスラムでは割れてる。

狙撃、暗殺はボカしてるけどそういう汚い仕事をしているのはバレてる。

銃の扱いもかなり得意なのもバレてる。

だから改めて仕事中っていう言葉が脅しにもなる。

仕事の邪魔をするなら容赦なく殺すって意味合いだ。

道具を作るヤツが消えたら困る?あぁそりゃそうかもしれないが……コストがかかってでも他から取ってくりゃ良いんだからな。

そういうツテが無いわけじゃない、それにスラムの無法者らしく強奪しちまえばいい。

言外に言っても分かんねぇやつが居るから目に見える威圧でショットガンを鼻先に突きつけておく。

まぁ身動き取れねぇわな、向こうも息を呑んでる。

 

「もう一度聞くわ、道具、売ってくれや」

 

流石に肝が冷えたかガクガクと首を縦に振ってくれた。

ま、対価はしっかり払ってやるから……ここの頑固物共の製品は表のと遜色ないレベルで洗練されてるからな。

電子決済でっと……20%マシで払っておいてっと……

 

「じゃ、仕事してくるわ。お前の道具でな」

 

ベルトに吊るせるタイプのポーチに必要になりそうな工具類を詰めて……

更にトルクレンチとボルトが舐めてる可能性もあるからインパクトドライバー等もっと……

ま、保険は多いに越したことないし。

数年ぶりのエンジンマイスターとしての仕事か……腕が鳴るね。

 

 

 

日常点検、整備メニューから紐解いていって結局問題は燃料噴射装置の故障。

ポンプ類の分解整備、再度組み立て……ってコイツ私の過去所属していた自動車会社のヤツだ。

パイプがかなり細くて根詰まり起こしやすいので悪評があったなぁ……

んでポンプが異常稼働しがちで壊れるってね。

コイツ一年ノーメンテでよく動いてたよ……

 

「もしもし、ボス?終わったよ……何とか再稼働したから向こう数ヶ月は安心していいと思う。ついでに分解整備もしておいたから」

 

焼締めは擬似的にしか出来てないけどね。

バーナーまで完備されてたら流石にやらないとね。

いやー、久し振りに一人で組み立てまでやると楽しい。

……私、どうしたいんだろう?メカニックとして生きがいを感じていたあの頃に戻りたいのか?

 

「ま、それじゃ……次の仕事取りに酒場に行くか……っと、悪い悪い」

 

出てからブツブツつぶやいて考えながら歩いてると思いっきり誰かにぶつかった。

謝りながら見上げると……うわ。

 

「ほーぅ……この辺歩いて仕事を探してるって、その気になったか?」

「ぁー……まぁ、それでいいよ。割のいい仕事くれる?」

 

娼婦の仲介人だ、私に割りと熱烈にアプローチしていた人だ。

そっか、この辺繁華街というか、売春宿や公衆フェラ便所とか……性的サービスの提供エリアだったな。

私のデカパイとか美少女っぷりが男共に熱望されているのは分かってる。

軽くでも兼業でも全然いい。割のいい副業として考えてくれっていうのが向こうの言だった。

だから、まぁ……私の本心を知るのに軽くで良い。軽くで良いから体験してみてもいいよね。

 

「そりゃいい!早速……」

「とりあえず一人ね?一人……」

 

強引だなぁ、手を引いて引っ張っていく仲介人。

苦笑いしながらも私の内心は割りとワクワクしていた……

 

「ついでにシェーナ、キミに依頼があるんだ」

「ほぅ?」

 

……ただの売春では終わらなさそうだなぁ。



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その37

最近流入してくるスラム住人は増える一方。

その傍らで良からぬ企みをする人間も少なくない。

怪しい人間が最近娼館付近に出没するようになってきた。

まぁ証拠はそれとなく消されているけど情婦に手を出されて娼館を運営している連中がキレている。

そこで娼婦でありながら腕っぷしやら暗殺術に長けた人材を欲していた。

そこに私がぽっと入ってきたから渡りに船ってことで仕事が割り振られた。

 

「ま、何だって良いけどね……結局は殺せってことでしょ?」

 

金を貰って抱かれて……変なコトされそうになったらぶち殺せばいい。

現状被害は人形が大半で人形のマスター権限を無理矢理剥奪するらしい。

そうなるといろんな記憶とかが書き換えられてソイツ抜きに生活できないレベル……にはならないけど。

ソイツの顔を見て、肌に触れないとストレスを抱えるようになる。

あと献金されて金の流れがな……まぁスラムの終わってる連中の中でもキレるわな。

一応私、セキュリティばっちばちのテスト人形だし。

人間はどうしたって?人間相手だとなーんにも手出ししてこないし決定的な証拠が不足気味。

怪しきは罰せよだけど……あんまり早まって後ろでなんか手を引いているのに逃げられたらマズいよね。

ま、そこで私が実際にヤって背後になんか居るならソイツのトコまで潜入。

そうじゃないならサクッと殺して報告。

 

「マッチングはしている、待ち合わせもここ……」

 

相手はこのスラムでは余り見ることが無いカソックを着ている男……

カソックの男が情婦を買うってのも馬鹿げた話だけどね。

まぁ一種の変装だと思う、ハッカー共も追っかけようとしたら忽然とシグナルロストするって。

ハッキング対策もしているし変装までされてるんじゃ追っかけるのも大変だわな。

 

「あは、おにーさんが私を買ったのかなー?」

「……」

「あーはいはい、黙ってついてこいって?」

 

携帯端末の文字で応答してくる、いやー何だこいつ。

動きもどっか人間じゃなくて機械くせぇな……何もんだ?

人形特有のシグナルは検出されないし人間なのは間違いないだろうけど。

連れ込む先は……へぇ、こんな路地裏?

 

「連れてきたぞ」

「……ふむぅ、ふひ、これはこれは」

「ちょっと、ナニこいつ」

 

ギョッとする、コイツぬっと出てきたのは下水溝だ。

ツルッパゲのカサカサと動く蜘蛛みてぇなおっさん!!

人がギリッギリ入るか入らないかのサイズのソコから出てくるかよ!?

下水道から入ってくる連中は居るけど一度入ったらマズ使わないし……浸水とか……

というかコイツ、見るからに正気じゃない。目がラリってやがる。

手元物もヤバい、これ第2世代人形にぶっ刺さるアクセス機器……!!

なるほど、こりゃぁマスター権限とか奪われるかもな。

汎用セキュリティならハックされかねないし……うーむ。

まぁ、ハックされたフリしてやるか。

あーうん、ワイヤーレスで接続してって感じだな、逆ハックしてっと……

 

「ふほ、ふほほほ」

「約束のブツを早く渡せ」

「ふひ……ほれ、さぁこの人形は我らの贄とするか」

 

ダウンしたフリをすると身体弄られてズルズル引きずられる……

うっげぇ鼻に突き抜ける腐臭!!んぉー……やばい、鼻が死ぬ!!

渡していたブツはなにかしらの薬物か、首に迷いなくぶっ刺していた。

アンプル状だったし……ふむ、危険薬物ってワケでもなさそうだな。

まぁいいや、このキモいおっさんのアジトで判明するだろ。

 

……やけにハッキングがスムーズだったな。

私のハッキングプログラムそこまで強力だったっけか?

 

 

 

 

運び込まれた先では他に行方不明になっていた人形なんかが転がっていた。

それぞれ共通しているのは……生体部品を多く使っている。

というか身体の組成の9割近くを生体部品が占める。

ガチガチの超高級セクサドール達ばっかりだ、こんなの集めてどうするんだ?

……あー返されてたのは膣とかだけが生体部品だったりするタイプだったっけか。

マスター権限返さないで放逐している辺りがクソだけど。

 

「ふひ……この人形はずいぶんと生体部品満載だぁ、まるで人間みたいだ」

 

私の身体を触ってニチャニチャ笑っている……生体部品なのがミソか。

いやしかし触り方が非常にきしょい、生理的に受け付けないタイプ。

痴漢とかでももうちょっとキショくないと思う。

というか痴漢なら私を気持ちよくさせてその恥辱だったりを愉しむでしょ。

 

「これならばあの御方の望むものもできるかもしれないなぁ……ふひ、溶けてくれるなよぉ」

 

感知できる範囲でコイツが使っていると思われる端末は複数ある。

それぞれにデータが分散していると思われるからコイツを殺した後はちょっとハッキングに時間かかるかなぁ。

溶ける、ふむ……何を示唆しているのやら。

 

「まずは……傘プログラム……おや?入力拒否……?」

「悪いな、そりゃできねぇモンだ」

「ぐぺっ……な、に……?」

「お前さんは捕まえてたーっぷり、吐いてもらうぞ♥」

 

殺すのは拷問してあらかた吐かせてからだな。

ハッキングされて無力化されているハズの人形が動いてきたらそりゃビビるわな。

まぁ……窒息のさせかたは幸せそうだけどな。

私のバカでかい胸に埋めさせて窒息したんだ、幸せだろ?

さて、サクサクとハッキングしてデータぶち抜くか。

あぁうん、文章データは重要部分は暗号化されてるな、かなりデカい組織が絡んでるな。

……ぉぉぅ?

 

「下記施工をした人形に低濃度のコーラップスを塗布し……変異しないものを見つけろ」

 

……コーラップス系の技術の発展の為?

いや、違うな……それならもっと高濃度のに耐えれるようにってなるはずだ。

それとは別に高性能な人形が居たらそれを別途輸送……私はそれに該当するか。

受け渡しポイントは記されている……ここでそれに偽装したら潜入できそうだな。

吐かせるモノは少ないだろうけど……拷問は別なやつにまかせて私は潜入するか。

 

 

 

 

まぁこれが、私にとっての最悪の出会いのきっかけでもあった。

コーラップスに絶望した民の心の拠り所でもある宗教団体、パラデウスと呼ばれるクソカルトとの、接触につながってしまった。

正直に言ってかなりウカツだったと思う。



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その38

いい加減うざったくなってきていた所だ。

コーラップス系のテロはうんざり……宗教で染められた連中はまったく……

WW3前だったら中東の過激派共がテロをよくやっていたし。

どんな時代になっても宗教のヤバい連中はテロに走りやがる。

私のプランニングはまぁ上手いこと行った。

元々あの変態研究員は連絡をロクにしないヤツだったみたいで暫くは感づかれることはなさそう。

受け渡しポイントに自分で自分を縛って放ったらかしにしてみりゃ簡単に回収された。

いやーちょろい、担ぎ込まれた先がまぁ驚き半分、だろうなって感じ半分。

かなり根強い信仰を集めているWW3以降に出来た宗教団体、パラデウス。

奇跡の聖女がE.L.I.D感染患者を癒やし導くとかそんなのだっけか?

ともかくコーラップス被害を受けた連中の心に付け入って金やらなにやら搾り上げてるクソ共だ。

一部コーラップス除染をマジでやった聖女が居るらしく熱狂的な信者は多い。

コーラップスに対する救いを求めている連中は多い。

このシベリアの地では東西南北どこにでもパラデウスの拠点があると言われるほど。

キナ臭い話はちょくちょく出ていたし不自然な資金の流入、活動拠点付近での不自然なコーラップス反応。

信者になったコーラップス患者が行方不明になったなんてのは多く聞く。

まぁ裏でコーラップスの実験でもやってんだろうな。

それで各地でテロって……でけぇマッチポンプだこと。

実際はどうか知らないがな、思いの外このパラデウスの親玉が尻尾隠しが上手くて探れねーんだ。

ある意味ではチャンスだ、パラデウスの暗部に潜入できる。

なんでコーラップス耐性を持つためのテストベッドを欲していたのか……

コーラップス患者やコーラップス汚染された人形を欲していたのか……

理由はなんとなく察するけどどれもロクでもないことには違いない。

私がのんびりとセックスとかに明け暮れることができるように……ささっと潰さないとね。

 

「検体に低濃度コーラップスを塗布するも変異する予兆なし……まさか本当に……」

「失格個体の可能性もある、濃度を少しずつ上げろ」

 

今は小さなチャンバーにブチ込まれてコーラップスを全身に塗り塗りされている……

まぁうん……勿論の事衣服は全部引っ剥がされてるよ。

あのコーラップステロで何故か取得したコーラップス耐性をテストされている。

コーラップス、なんかどろりともさらりとも言えない……なんとも言えない感じ。

 

「ふむ……ひとまずここで一旦やめだ」

「この位ならば使い捨ての奴らと同じだな……」

「製造元はI.O.P……あぁ、我らのスパイが些細不明ながらに出来たと報告していた個体か?」

「違いない、この内部機関の登録……我らの手の者だ」

 

おいペルシカ内部にスパイ居るぞー。

要チェック+粛清しねーとだな。

 

「次のフェーズだ、傘の注入だ」

 

んん?なんかプログラムが……ぅ"、ぉ"?

やばいやばいコイツは絶対に拒否らねぇとウィルスじゃねーか。

サンドボックスでかなり暴れやがる……アクセス権限は渡さねぇけどリソースをガリガリ使いやがる。

アクセス先は……メンタルマップだと?巫山戯やがって。

私を消せると思うなよ。そんなウィルスはお断りだっつーの。

 

「アクセス拒否?どうなっている」

「セキュリティがかなり強いと思われます」

「ふむ、ではコーラップステストの方を続行しろ」

 

ふひぃー……サンドボックス内でちょっと見ただけであーだからなぁ。

かなり負荷がかかるし普通のAIのマインドマップは簡単に書き換えられるぜ?

いやーこわ、私のマインドマップは外部からの書き換えは不能になってるけど……

万が一にもされたらこえーったらねぇよ。

アクセス権限渡したら最悪マインド焼き切られるんだぜ?

俺が死ぬってのと同じだっつーの……対策されてなかったらどうなったことやら。

 

 

 

 

テストは終了か、まぁ私の躯体に異常はない……自己ヘルスチェックでは何もない。

コーラップスを直じゃないとはいえ充填できる辺りはまぁ技術的に一歩前にいってるな。

しかしハッキングやらは一歩後ろを歩いている感じ……チグハグだな。

リードしている教祖とやらの専門分野がコーラップス系だったりするのか?

捕らえられているフリをしつつ各方面にこっそりハッキング……

ふむ、プロトコルは一部鉄血のオーガスプロトコルを使ってるな。

鉄血の連中は暴走事件で軒並み殺されててこのプロトコルを使ってる人間はいないと思っていたが。

……邪推の域を出ないがあの暴走事故のトリガーを引いたヤツがこの組織内にいる可能性があるか。

もうちょい探って……みたいがこの支部に置いてるデータはこれまた断片的だな。

あくまでこの支部でやってるのは各方面から拾ってきた人形への改造、及びコーラップス耐性の付与実験。

成功個体は何かしらの改造を加えて電脳のオーバーライド。

NYTOと呼ばれている物へと作り変えを行っている。

その内のかなり良い個体は本部へと移送される、失格個体は廃棄処分。

本部への移送は全部暗号化されている、意味不明な文字列で書かれている。

対応暗号解読は別途資料があるらしくそれを利用しないといけないと。

 

オーバーライドするAIプログラムは一応入手、これを解析してやったら相手の武装もフィッティング出来そうだ。

ただ私の解析能力じゃちょいと厳しいので……っと……そろそろ動くか。

 

「施設制御掌握、さて……殺るか」

 

逃げ場のない、救援も呼べない恐怖の坩堝に落とし込んでやろうか。

人の素っ裸を見てタダで済むと思うなよ。

あと欲情しなかったのも地味にキレる。私のこのダイナマイトボディがチンピクしねぇってどういうこった。

キリキリ殺して上位研究員は殺す前に尋問だな。

 

「おいおい、チャンバーもずいぶんと柔らかいな……」

 

私を改造するために突っ込んでいたチャンバーもずいぶんと柔らか。

簡単に蹴破って出てこれたじゃねーか。

さて、ここの連中は軍用規格の人形が脱走した際の対応マニュアルとかあるかなぁ?

それ含めてじっくり調べさせてもらおうじゃねぇか。

 

 

 

NYTOとやらも動員されて対応に当たられたけどまぁなんとかなった。

こりゃまた完全に同じ見た目、パッと見では機械義肢の女かと思う。

しかし中身は低度のコーラップス耐性を持った機械人形か。

それぞれ武器やら持ってきていたが逆にハックされて振り回されるとは思ってなかっただろうな。

それも全裸の女人形になぁ……なぎ倒されていく様を見た研究員のツラは面白いねぇ!!

 

「逃げられるものなら逃げてみろよ」

「あ……お父様に会う……前なの、に……」

 

バカみてぇな出力要求するレーザーガン、ちょっと前のコーラップス補充で今の私は絶好調よ。

敵わないと判断すると一部が逃げ出したがそれを許す私じゃない。

背中からバシバシ撃ち抜いていく。

元々アイツらの武器だ、本部の連中が来た場合の隠蔽工作にもならぁ。

……お父様、ねぇ。教祖サマの事か?

 

もちろんの事、装備一式は返してもらった。力付くでね?

しかしまぁ……難儀な連中だよ。どんなマジック使われたのか知らねーけど教祖サマの言うことは絶対みたいだし。

 

「……ぉん?なんだこの端末……うっわ、アナクロな有線スタンドアロンかよ……げ」

 

なんてこった、私の詳細は送れてねーけどお望みに近い"近似値"個体が偶然にも仕入れられた。

なんて情報が送信されてらぁ……外見的な特徴も……

ある程度マッチするヤツは複数あるはずだが……私も狙われるか。

いや参ったな、パラデウス各所にってなるとほぼシベリア全土で狙われる事になりそうだ。

安泰とは程遠くなるなぁ……研究員から情報引き出したら……スラムに籠もってほとぼりが冷めるまで待つか。




Q:この時期にNytoが居たか?
A:知らん、吾輩のでっち上げである。

Q:シーナがコーラップス耐性持ったのなんで?
A:E.L.I.Dとのディープな接触(意味深)でいい具合に変異した超絶幸運

Q:シーナが傘に感染したらどうなるん?
A:平然としてる、容量的には全然平気+マインドマップ書き換え不可のコンボ
 例のアレが住み着く領域を確保できりゃOKなんだし なお相性


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その39

スラムに戻ってきた私は暫くは実務的な掃除は控えることにした。

それとなくハッカーのナードくん達に聞いてみると……うん、まぁそうだろうなって感じ。

電子の海では断片的ながら法外な値段で捜索要求出されているのが居た。

銀髪、ちんまいヤツでデカい胸を持った女。

十中八九私のコトだ、狐耳までは流石に伝わってないらしい。

緊急回線が本当に数個の暗号を送るだけで良かったよ。

銀髪ロリ巨乳となると候補は結構な数になるから私が特定されるってことはまぁ……多分無いと思う。

しかし狙われるのは間違いない。大人しく隠匿するのが吉だろ。

スラム内でできる仕事なんてのは限りがあるが……無いわけじゃない。

まぁ簡単な狙撃掃除、エロ仕掛けでのお掃除……そしてハッキングでの電子的なお掃除だ。

あとはまぁ、このスラムの電力事情を支える発動機のメンテナンス作業か。

 

「あーあ、難儀なこった……」

 

ぎぃ……と椅子を軋ませてつぶやくのはスラム内部の私の部屋。

フリフリと尻尾を揺らしながらつぶやく。

向こうは向こうでこのスラムの中にも浸透していそうだぁ……

コーラップス系の話はこのスラムでも聞くっちゃ聞く。

どっかでE.L.I.Dが出てもおかしくねーし……嫌だなぁ。

 

「ま、ハッカーのマネごととかして稼ぐかぁ?」

 

幸い私にはハッキングプログラムがインストールされている。

それも世界的権威な研究者二人の謹製のヤツな。

……ん、待てよ……ここは私の端末のセキュリティを見直すか。

時間はくっそあるし金も……まぁ数ヶ月は食っちゃ寝できるっちゃできる。

戦闘を考えると補給に金を使うからあんま余裕ないけどさ。

だから稼げるときは稼いでおきたいよねー……あと仕事の幅がありゃ万が一って時にもイイしねー。

総合セキュリティ担当とかに据えられるほどになったら……安泰っちゃ安泰か。

 

「んっしょっと……キーボード叩き辛ぇぇ……」

 

まぁーこの118バストが邪魔クセェ、キーパンチしようにも体勢無理させないと辛い。

超前屈みで自分の太ももに胸が乗る始末だし……ホロキーボードでも買うか。

ま、このキーパンチ感が好きなのもあるから専用にデスク組むのもありかなぁ?

 

「……うぇ、なんか気持ち悪いな。私の思考ルーチンなのに別人の思考が混ざってる感じがする」

 

パソコンと睨めっこしてセキュリティプログラムの構築をし始めるとなんか私の考えなのにまるで違う……

私の脳を間借りしている何かが介入する感じがしてきもっちわるい。

制御権限は私がしっかり握ってるはずだが……プログラムのプの字もしらねー女がなんでこんな……

ちっとリソース管理を見てみるか……ぁん?なんだこのプログラム。

……あー、設計がリコ、開発がペルシカになってるな。例のハッキングプログラム……じゃない。

あぁそっか付属プログラムを入れてたっけか?

ずーっと張り付いてたけどこりゃ……ワークスペースのデータを見ると何かを組み上げ続けていたのか。

ふーん?思考ルーチンくせーな、あぁこれが干渉していたのか。

原因が分かりゃまだ気持ち悪さは軽減するな……有用に活用させてもらおう。

 

 

 

ガチガチにセキュリティ組み上げるのに推定2日は見てたけどまさか4時間程度で終わるとは。

高性能CPUもあるだろうけど……このヘンテコなプログラムの補助が結構デカい。

 

「ん?何?」

『し、シェーナちゃんのPCにアクセス出来なくなったんだけど……』

「……堂々とハッキングしてた宣言かよ、見上げた根性だな。セキュリティを見直したんだよ」

 

ヴーヴーと胸元でバイブが……おもちゃじゃない、携帯端末だ。

通話が飛んできていた……送り主は家主のナードくん。

私のPCをハックして覗き見していたらしい……ひでー話だ。

最低限の情報しかやってなかったから良いけどよ……

 

『そんな、シェーナちゃんの特大バストにマッチする下着や衣装をプレゼントしようと思ってたのに!!』

「普通にサイズ聞けやクソボケ」

 

今すぐとなりに殴り込んでしこたま説教してやっても良いな。

ん、待てよ……後で押し入ってパイズッてからPCパーツ強奪してもいいか。

まぁコイツが聞いてきてもあんま答えるつもりはねぇけどさ。

 

「んで、そんなバカ話するためだけに電話したわけじゃねぇだろ」

『うん、キミに仕事だよ。スラム内部で強盗やって暴れてるバカ集団が居るから殺して黙らせろって』

「……あいよ」

 

仕事が舞い込んでくるのは良いこった。

気持ち結構久しぶりに担ぐ気がする私の特別な相棒、417を引っ張り出して……さて、移動だ移動。

 

『あ、今回は別なヤツも参加していてソイツにブツの回収を任せてるから間違っても撃ち殺さないでね!』

「おう、任せろ……へぇ」

 

データも送られ……驚愕と同時にどろりと仄暗い感情が胸を占める。

同業者のデータは大半がマスクされている、G&K契約されている人形らしいがかなり特殊な事情を抱えていると。

……ハッ、特殊な事情ぅ?笑わせんな。

漏れた声はメチャクチャ低く冷え切ったモノだった。

 

「おめぇも私と同じで堕ちたか……クク……」

 

データに写っていたのは私がこうやってスラム住まいに追いやられた事件で処分されたと思っていた人形……416とUMP45

あぁそう、私と違って表舞台を悠々と歩いていくはずだったエリートだ……

416にいたっては左目に血涙のタトゥー……復讐か。

はは、は……面白ぇじゃねぇか……はは、は……

 

「……チッ、不愉快だ……!」

 

……訳分かんねぇ。

この気持ちは何だよ……俺と同じ所に落ちてくるんじゃねぇよってか……?

 

 

 

 

バカが暴れているのはスラムの中で研究をし続ける研究キチが集まる集落だった。

高い遮蔽物は無く比較的オープンだが……地下スラムの中ではって話だ。

対岸まで2キロもない本当にこじんまりとした集落だ。

そこの研究物資を持ち出そうとして暴れた所ココのまぁ暴力装置の怒りを買ったわけだ。

絶対に逃さんと各障壁は落ちている。逃げ場はないがやったらめったら銃を乱射しやがる。

M249にM60、MG3などの軽機関銃がメインだな。

 

「立て籠もりってぇ訳じゃないが……定点撃ちはよくねぇな」

 

私が陣取ったのはそんな集落を見下ろせる高層物件の屋上。

侵入する連中の侵入経路は知らねぇが流れ弾で死ぬようなバカじゃねぇよな。

あの鉄血のセキュリティシステム大暴走ん中生き延びたヤツに脱走してしぶとく生きてるヤツがいるんだ。

こんな豆鉄砲でくたばってもらっちゃ嘲笑っちまう。

ターゲットは屋内の窓から防弾板くっつけて弾をばらまいている。

鎮圧に向かう連中を近づけないように必死になっている。

防弾板も完璧じゃねぇから難易度は高いが貫通させられなくは無い。

ピンホールショットか繋ぎ目……もしくはそうだな……右か左かにやった所を跳弾させてバイタルエリアに刺す。

……ん?なんだ?天井を見れば視認が難しいワイヤーが垂れてきてる。

 

「あー……なるほど、その手があったか……連中も上は見てねぇか」

 

天井から音もなくラペリングしてくるとは思うまい。

支援ってなりゃ……ま、屋上に出てくるバカが居たらって感じか。

誤差修正はだいたい終わらせている。相対距離は大凡1キロから1.3キロ

風速なし、ちと有効射程的に厳しいが……当てりゃ怯ませるのは全然できる。

マガジン叩き込んでコッキングレバーを引く。

初弾装填、小気味いい音が私の耳に入る。

 

 

『スナイパーさぁん、聞こえてる?』

「……聞こえてる、I.O.Pの通信プロトコルか」

『……416、あんた?』

『違うわよ、それに私はこんなに幼い声じゃ無い』

 

無線通信が入る、同じI.O.P製品の通信プロトコル。

そういや受信設定ONにしたままだったな、傍受とかできるしいーやって思ってたけど。

向こうもまだI.O.Pのプロトコル使ってんだな。

応答してみりゃ向こうが困惑気味な感じ……ついでに顔も出すか。

 

「私は417、テメーらを一方的に知ってるタダの狙撃人形だよ」

『……顔まで似てない?』

『目が腐ったなら抉り出してやってもいいわよ、どう?ポンコツぺたんこ』

『あとでその鼻っ面凹ませてやるわ』

「……さっさと侵入しろ、ボケ女……ケッ、これでエリート街道行こうとしてたとか嗤うよ」

 

注意を引こう、このボケ女共に合わせてると死にそうだ。

M2HBの防盾にうまいこと当てて……うし、ヒット。

 

『ザァッ――――スナ――――ぅがっ』

 

……ぉ、いい具合に跳弾して当たったか。

 

「ほら、行けよ味方撃ちしたポンコツとオロオロしてた絶壁女」

 

耳に入った音はギリッという歯ぎしりと盛大な舌打ち。

楽しいねぇ、楽しいねぇ……ハハ。




☆書き納めでございます☆
皆様良いお年を


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その40

私が狙撃支援する必要あるのは3体だった、そう3体。

いけ好かないクソボケ2体の人形だけ……と思っていた。

だがまぁもう一匹いやがった、UMP9。絶壁女のお仲間と来たもんだ。

妹分を名乗っているが身体つきは妹のほうがデカいなぁ?

 

「……ま、こんなとこか」

 

カランカランと薬莢が右で跳ねる。

バイポッドを立てて狙撃し続け何度も身体を揺らす。

スコープの先では次々に銃手が倒れていく。

 

狙撃に気づいた連中は狙撃方向を特定しようと躍起になっている。

おかげで水平方向と斜め上方向への2次元警戒を余儀なくされる。

そうなれば直上なんてますますもって注意が行かない。

上から殺人ドール3体入ってきている上に警戒がおざなりな連中を撃ち殺すなんてターキーショットよ。

流石に反対側の銃手を殺すには至らない、でも私が視認できる範囲……建物の2方面だけは銃手を黙らせることに成功。

距離減衰が激しく致命傷にはなってないけど。戦闘不能に追い込めたならまぁ御の字でしょ。

命中率も一応9割……数発外してしまっている。

ASSTによる補正がかなりデカいが7.62ミリの運動エネルギーではね……

 

「ほれ、だいぶ削ったぞ後はお前らの仕事だからな」

『後で面を貸しなさい、徹底的に理解らせてあげるわ』

「ハン……またトチ狂ってターゲット見失うなよ、ポンコツエリートちゃま」

 

私の仕事はやりきった。後は潜入して殲滅戦を行うヤツらの仕事。

取り回しが悪いライフルにしか適性がない私よりちっこく取り回しやすいカービンやSMGのほうが良いわな。

ソレ含めての仕事の割り振りだったんだろうけど。

416との反りは完全に合わないし45も同じく……まぁ私が結構一方的に嫌ってる面はある。

だいたい45くっそ怪しいし。向こうからしてみりゃ私も怪しいだろうがな。

9はと言えば全然何考えてんのかわかんねぇ笑顔を張り付かせている。

苦手だねぇ……私の言葉も全然意に介さずだ。

……416は煽り耐性ゼロかよ、もう少し余裕持てよ。

通信越しにまた歯ぎしりだよ。歯が欠けたら中々替えがきかねぇぞー?

私達違法人形なんだから正規の整備は受けれねぇんだから。

 

「ま、アフターサポートまできっちりやるのが私なんだけどさ」

 

離脱はまだしない、奴らがきっちりセーフゾーンまで離脱するまでは狙撃ポジに居るつもりよ。

聞いた所ロングレンジ対応できるのが一切居ないのが問題だしな。

一番パワーがあるのが416の5.56ミリ、ほぼ横這いでSMG姉妹だしな。

私の出番が無いのが一番イイんだけど。

久しぶりに使い切ったマグを抜いて新しいマグを叩き込む。

コッキングハンドルを引けばもう準備完了……後は戦況を見守るのみ。

待つのは慣れてる……スナイパーの常ってね。

 

 

 

まぁ普通に何事もなく殲滅しきってデータの回収も出来たと。

クライアントの研究者が報酬を渡すからと全員集めてくるんだが……コレが問題だわ。

険悪ムード一色な私達が一堂に会する、これが示すことはなーんだ?

 

「どんなヤツかと思えばタダのビッチ人形……」

「味方撃ちのポンコツと違って銃の腕と判断力は確かだがー?ぉ、やるか?」

「修正してやるわ、歯を食いしばって突っ立ってろクソガキィ!!」

「キーキーうるせぇな、元エリートさまよぉ」

 

超至近距離で口火を切った後は私と416との取っ組み合いに発展。

私の出自故の規格外バストに露出の高さを見てビッチと真っ先に言ってきたもんだから応戦して煽った。

しかしまぁ煽り耐性がペラッペラ、顔真っ赤にして殴りかかってくるんだからこっちも捌きにかかる。

クソガキと罵るけど傍目から見たらどっちがガキなんだかねぇ?

フィジカルスペックはこっちが上手、しかし肉弾戦になりゃこっちはリーチ、デッドウェイトの関係上不利。

そんなこんなで両方ともに互角って所か……

 

「おふざけはそこまでにしてくれない?もうそろそろクライアント来るんだけど~」

「元気があっていいと私は思うなー♪」

「文句は、このポンコツ女に良いな……テメッブラは止めろ……!!」

「はっ、これ見よがしに見せてるんだから丁度いいでしょ!!」

「……お前のも放り出してやるよ」

 

びりびりと乾いた布が裂ける音が2つ。

ぷるんと飛び出る4つの乳、タイミング悪く入ってくる研究キチ代表。

 

「ぶふっ……」

「……」

「ぁー……まぁアクシデントだな」

 

まぁ取っ組み合いの結果クライアントの目の前で私はぽポロリ、報復に416のも剝いた。

まぁまぁデカいんじゃない?見られただけでフリーズするのはどうかと思うけどな。

推定93……着痩せしてんな……クライアントは流石に鼻血を吹いて……可愛いじゃん?

 

「そっちのぺっちゃんこは……おっとあぶねぇ」

「喧嘩なら買うわよ~対価はアンタの鼻っ面♪」

「妹の方がデカい法則でもあんのかぁ?はは、はっずれ~」

「9、あのオッパイおばけとっ捕まえなさい」

「あいあい、まむ!!」

 

流石に2対1で……負けるわけもねぇだろ。

適当にじゃれてそのままお流れよ。

 

 

まぁじゃれ合いはイイよ。腐りかけていた私の心に風を吹き込んでくれた。

これがコイツら……後に404小隊と呼ばれる連中とのコンタクトだ。

長距離狙撃の腕はまぁ認められて支援欲しくなったら呼ぶって事にはなった。

あとはまぁ416との取っ組み合い……もとい格闘戦の実地テスト相手とかもか。

アイツ教科書通りに"完璧"にしやがるから絡め手とかに弱い。

複合技にも虚を突かれてってのがある、ポロリでフリーズしかりな。

ついでにあっちの伝手で人形技師も紹介してもらった。

一応ノーメンテでもロングランできるようにしてもらったけどメンテ有り無しじゃパフォーマンス違う。

勿論の事相手はモグリだ、足元見て金は取られるしメンテパーツが見当たらないって事もありえる。

替えが効かない身体だが関節部分とかは普通に既存パーツだからな……

 

「ま、私が迎えられなかったって事は致命的に反りが合わないってのもあるだろうがな……」

 

チーム404に入る?私が拒否反応示した上に416が猛反対。

45も私のデカパイに思う所あるのか初っ端からマイナス。

まぁ反りは全然合わない、そもそもあのオドオド人形に何があったってレベルの変貌っぷりだ。

怪しまないのはバカだ。

ただまぁ、アイツ等にも中距離狙撃支援できるのが欲しいのは間違いないだろうな……

正直に白状しちまえば私は416に固執しているとも言える。

……せめて華々しくエリート街道行ってりゃこっちが歯を食いしばって汚泥を飲むのも……

皮肉か顔立ちは似て同じような銃にマッチした人形……あっちが光ならこっちは影にでもなってやろうじゃねぇかと……

そう、暗部に埋もれるつもりだったっつーのに……アイツまで暗部に堕ちちゃ意味ねぇだろ。

無駄死には許さねぇし……全く、何だってんだよ……よく分かんないな。

 

「はぁ……ペルシカからの依頼でもあるし……ちょいちょいとスラムの違法人形からピックすっか」

 

帰った私はパソコンに張り付きあれこれと……探し回る事に。

ペルシカともつながっているらしく無下にしたらチクるってな。

 

「なぁペルシカ~バスト118に合うデスク設計してくれね?」

『それは無理だよ……というかシーナ、キミのバストは118じゃないよ』

「……は?」

『E.L.I.Dとのセックス以降成長し続けてこの前ラボで検査した段階で127だったよ?Uカップだってね』

 

その日の最期は私がキーボードに突っ伏すガッシャンという音で締めくくられた。

聞いてねぇよ、バカ見てぇにデケェじゃねぇか……パイズリ売春するならイイかもか。

情報収集もできそうだし……うん、やってみるか?

スラムでもヤることは多いに越したことはねぇな……ふふん♪




3サイズ更新

身長143
B127 アンダー68 Uカップ
W56
H98

New:ハッキングプログラム&■■の思考プログラム(完成度40%)

416への歪んだ愛着も追加


更新が遅れてる?
えぇまぁ……有償リクエストが立て込んでます、申し訳ナス。


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その41

キング・クリムゾン!!


私がスラムで違法人形やその動向を探る人間含めた情報を手段問わずかき集めて……はや1ヶ月。

UMP45が兼ねてより探していたマークスマンに向いてそうで性格は問題あるけれど……致命的じゃないヤツを見つけた。

戦術コアを埋め込まれていて落伍したはぐれ……G&Kのネーミングで言えばG11。

同型人形は可愛らしさ全振りなのを活かしたご奉仕メイド人形だったと思う。

ソイツの居場所、行動範囲等を簡潔にまとめて45宛に叩き込んでおいた。

この1ヶ月の間に私はハッキングの方もだいぶ身に付いてきた。

スラム内部に籠もりっきりでスラムのクリーンアップやエンジンのメンテナンス等を繰り返して生活していた。

ハッキングして外の情報を見てみるとようやく鉄血のポンコツ人形達の初期対応が終わった。

……結果は凄い惨敗も惨敗、鉄血主要の生産工場は向こうに取られた。

一部のI.O.P生産拠点も取られてるし生産ラインを確保する資源地も一部取られている。

向こうは量産されてこっちは生産ラインがちょっと苦しくなった。

なにより初期対応に当たった複数のPMCが壊滅状態に近い。

人形を運用していたPMCも人手がかなり減っている状態……人形運用PMC大手のG&Kに仕事が回るけれども……

人形はあっても人形を運用する人間が居ないっていう状態。

 

「何だよこりゃ、ひっでぇ」

 

まぁ端的に言えばかなり壊滅的状況、正規軍の介入もあり得なくはないレベル。

まだ致命的なレベルにはなってないけど一部の生活区画はヒエッ冷えだな。

スタンドアロンで行動可能な人形の開発も急がれてるな……ペルシカが疲弊した様子で愚痴ってたし。

 

『うわぁ~こりゃ酷いねぇ』

「そーだね」

 

それに一つ、私の中……埋め込まれていたプログラムが完成した。

疑似人格AI、リコリス……私が以前助けようとしていた鉄血のお偉いさん。

ペルシカの腐れ縁のプログラムとかの天才……お遊びで作ってたらしいけれど自分が死ぬって分かって組みかけのプログラムと……

自分の思考蓄積データとかを圧縮したのを渡していたらしい。

でもそれを受け止めきれる電脳を生産出来る企業は今の世界にない、そんなのは核戦争で軒並み吹き飛んでる。

現物もコストが高すぎるし私みたいな前例があるから使用はかなり消極的にならざる得ない。

動いている中で容量なども全然余裕がある私にインストールされるのもまぁ……

PCに叩き込む?いやいや、リコリスが死ぬことになったのも策謀の末っぽい。

精査したら搬入歴が偽造されている人形2体が居たんだ、そりゃぁ疑う。

おまけに無事だったM16や416から検出されたウィルスの残滓……及び流入元がね……

てなわけで、スタンドアロンで割りかしウィルスとも無縁な私にお鉢が回った。

おまけに私の中で私に知らせずに組み立てるっていう徹底ぶり……そのせいでCPUリソースをかなり喰ってたワケだ。

組み上がった後はAIリコリスはあくまで疑似人格、完全に人格シナプスを転写してるわけじゃない。

最適化等も済ませれば……んー記憶媒体を2個ほど連結させた専用人形を拵えれば……ってところか?

ペルシカに考えがあるっぽいしそっちはそっちに任せよう。

……あ、エロん時はこっちから強制的に叩き落としてる。

 

『エロには興味ないしね』

「だろーな……おいコラまた勝手にリソース食いやがって……」

『良いじゃないか、ボクの思考ルーチンをあげる代わりの対価だって』

「きっちり前もって言いやがれ、タコ……研究はこっちのタブレットで良いな?」

『うん、書き出しよろしく』

 

研究は出来ないが人形スペックゴリ押しで色んな演算してやがる。

それで私にゃ分かんないAIの試算データとかを超高速で弾き出してるワケだ。

 

「ん?お、ペルシカからのお誘いだぞ」

『えー……もうこのボディとおさらばかい?』

「お前の身体じゃねぇんだ、いい加減出てけ」

『しょうがないなぁ……』

 

45、9、416の連中も軌道に乗り始めた。

あっちは早速G&Kのお膝元……というか一部の人間の懐刀として動き始めた。

金さえ払えばどんな危険な任務だろうとヤる。

一昔前の私の立ち位置だ……

 

『落ち着いて』

「……分かってる」

 

歯噛みするのは……やめよう、無意味だ。

ハミングバードも全部のっけてやって来いだし……もしかしたら、もしかするか?

最近は暖機運転とかだけに留めていたIMXに荷物をこんもり……フル装備させたのは久しぶり。

……うぇ、マジで胸でっかくなってるな。タンクとのクリアランスめっちゃ無くなってる。

この辺見越してブラのゴムアジャストかなりとってたのか……?

いやー……まさかねぇ……130台で収まるよね……?

いや待って、脚付きべったりじゃん……バレリーナじゃなくなってる!

こうなるってことは足が伸びたか……車体に掛かる重量が増えた事が原因。

となれば……乳がデカくなって重くなったってセンしかねぇよ。

ブルー半分、他にない乳だわ……とやけっぱち気味に前向きに考える事にした。

IMXのエンジンは絶好調、軽く吹かせば気持ちよく回ってくれる。

ギアの入りも良い、カチャコンと大きな音を立ててローギアに入った。

 

「ま、行こっか……久しぶりのツーリングだ」

 

ほとぼりも冷めた、あのカルト共の親玉は別な手立てもあるみたいだしな……

私の捜索にはそこまでお熱じゃない、ひとまず……過剰に警戒はしなくていいだろ。

330ccの単気筒エンジンが軽快に唸る。

外の空気と久しぶりの太陽の下で風を感じよう。

 

 

 

 

んヶ月ぶりにやってきたI.O.Pのお膝元、全装備必死こいて整備し続けていた甲斐あってお褒めいただきましたわ。

与えられていたコードの復活とG&Kの独立狙撃人形としての立場が決まった。

といっても私がするのは結局は鉄血人形及びE.L.I.Dのお掃除、あとは404のバックアップ。

417およびシーナの名前で活動することが許された、コレがデカいよ。

まぁまたイチから実績を立てなきゃいけないけどね。

そして私は文字通りのワンマンアーミーやらなきゃならん、狙撃戦のみとはいかん。

特にE.L.I.Dはどんなモノがどんな変異を起こしていてドコに潜んでいるか分からん。

だから近接戦もすぐに対応できるような武装も必要になってくる。

フォースフィールドで一時しのぎ出来ても抵抗出来なかったら意味ないしね。

 

「PMCにE.L.I.D対応まで振るとか正規軍も人手不足?」

「かもしれないね、リコの受け取りはしっかりしたよ」

「ん、本人じゃ無いけど……親友が戻ってきて嬉しい?」

「……複雑だねぇ」

 

装備として新たに近接武器兼シールドになるフォースガンモジュールを受領した。

フォースフィールドの応用で障壁になるエネルギーを一点集中、殴打のインパクトに合わせて放出するっていうブツ。

表面は耐弾性に優れた金属素材でかなり乱暴に扱ってもOK。

銃の取り回しにも不自由がないスリムだけどながーい感じ……手首付近から肘に向かって伸びる。

私が保持していたリコは今はペルシカが構築したPCの中に。

企てが判明するまではそこで隔離、ペルシカの研究補佐を務めるらしい。

ま、本人じゃなくて本人そっくりなプログラムAI……複雑っちゃ複雑か。

 

「で、セーフハウスとかは用意してはくれる?」

「いくつか候補地がある、キミと404……あー、45のチームとの奪い合いだけどね」

「……そりゃ結構……産油地が近いココにする、すぐに出る」

「それじゃあ、ついでにこのポイントの奪還支援を頼もうかな」

「条件とかは?」

「特に無いよ、キミに一任する」

 

セーフハウスはOK、仕事も安定供給……というかまた過剰供給気味になるか。

……楽しい事になりそうだ。

 

「キミ、ホント悪辣な笑みするねぇ、416みたいだ」

「……そうかい?あっちが似てるんだろ、コッチに堕ちてきたんだからよ」

「それもそうか」

 

銃の保全パーツもコンテナに叩き込み……復帰後最初の仕事に出るとしよう。

 

「ちなみにキミのバストは驚きの133だよ、随分性接触してたんだねぇ」

「……うるさいよ、止められないの?」

「リコがやってくれたよ、キミが停止中だった間にね」

「……もうちっと早くやってくれても良かったんだけど?」

 

そりゃ、タンクにもぺったりだわな。

げんなりしながら装備担いでバイクにまたがる。

赴任先は……G&Kの管轄、S09郊外……




ドルフロほんへ時空にようやく繋がる所ですなー

あとは適当書きたい話書いてく感じですネ


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その42

再びG&Kに復帰した私はS09地区に居着く事になった。

ここの指揮官に顔を通そうかとも思ったが要らんトコロから情報が漏れるかもしれん。

バレた時にそっと身分証明だけして距離を置けば良いとは思っている。

 

で、私が抑えたセーフハウスは見事なボロハンター小屋。

一応鉄筋コンクリート構造だけど状態が悪く修復が必須だ。

当然セーフハウスとして活用するために必要な物も一切無い。

クソがよぉ……とペルシカにキレたのは言うまでもない。

まぁそんな訳で私の拠点はまたイチから作り直しみたいなものだ。

金はまぁスラムから出ることも無かったので結構ある。

G&Kの経費からも落とさせてるからいくらか補助もある……

抑えたはイイけど使えない……でも拠点が無いとってコトで考えた末に導入を決めたのが……

 

「納車っと、いやー早い早い……金に物を言わせただけあるわ」

 

新興メーカー、レイジングボア社が作っているオフロードトラック、コンカラー6x6。

全長は6.4メートル、全高2.1、全幅2.5の個人所有するにはデカい物。

通常の場合はそれで3リッターディーゼルターボ、5人乗りっていう代物。

だが私はこの車格、キャビンと荷台の合計容積に注目。

荷台には私のIMXがそのまますっぽり2台は並べられる程大きい。

その上さらにちょっと余裕もあるっていうかなりの物なので……コイツを改造、移動式ガレージにしちまえってね。

キャビンと荷台を大改造、一体式の巨大キャビンにした。

元々そういうカスタム品はあったからソイツを回してもらった上で色々してもらった。

幸い工場も閑古鳥が鳴いていたみたいで大喜びでやってくれた。

んで、運転席は左右オフセットから改造して真ん中前寄りに配置、運転席と後部キャビンは隔離。

運転席からアクセスできるのは大きなキャビン前方に作った寝台だけ。

運転キャビンには私の武器一式を荷掛けできるガンラック、冷蔵庫に衣類の浄化装置。

ダッシュボードには通信機器、PC、ナビゲーションシステム等を配備。

後部キャビンには壁に沿って前側に2x2の4人掛けの席を配置。

席天井には小物入れになる収納ボックス、アームレスト装備で立てればガンラックなる。

運転席側に立てられてるボードを下ろせばテーブルにもなる。

余った後部にはIMXの固定用アームと医療用品コンテナ、簡易手術も対応する2段ベッド。

天井にはハミングバードの固定アーム、底面はシャーシの合間に予備燃料缶20Lを6つ。

さらには人形整備用のメンテアーム、各種消耗品のコンテナ、整備工具一式。

 

パワーユニットも交換して4リッターV8を叩き込んでリフトアップと大型タイヤを装着。

43インチタイヤ、最低地上高も400ミリを確保、走破性もかなり良い。

EMP対策にサーマルビジョン等の装備もあって動く拠点兼快適な兵員輸送車ってトコロだ。

運転席へのアクセスは左右のドア、後部キャビンはでかいリアゲート兼タラップから。

また、外装には外付けロールバーにくっそ頑丈なバンパーにウィンチ……ゴリゴリだよ。

 

「発掘した高出力V8はどんなのかなー……っと」

 

コイツに叩き込んだV8は戦前のバリバリ高性能なガソリンエンジン車から発掘、オーバーホールしたらしい。

マニュアル通りにボンネットを開けて、バンパーに脚をかけて覗き込む。

おやおやおや、古巣のエンジンではないか。シルバーに輝く3本エンブレムが……

 

「はは……組んだマイスター……W.Ganzって俺じゃないかよ」

 

なんて数奇かねぇ……自分が組んだエンジンが巡り巡って自分の車の心臓にか……

そうなりゃ……勝手も分かるってもんだがパーツとかどうすっかねぇ。

 

「あのー……お客様?」

「ん?あぁ、お支払いはしたでしょ?なんか問題?」

「いえ……運転出来るんですか?失礼ですが……」

 

販売員の男が話しかけてきた。

あー……まぁ背丈はちっこいしデカパイが邪魔するって思ってんだろうな。

それを考えない私じゃないぞ、運転席は私の為だけに改造してんだから。

 

「ノウハウは分かるし脚も届く、ハンドルも跳ね上げ式、電動シートも突っ込んでイグニッションと同時にポジションを整えるんだ」

「……本当に大丈夫ですね?」

「んだよ疑うー?私人形だぞ?技術については間違いないよ」

「何かございましたらこちらに……またのご来店をお待ちしています」

「おう、個人的に会ったらお楽しみしてあげてもイイけど♪」

 

ボンネットを閉めて運転席に飛び乗る。

販売マンは……はは、私のショーツとかに目を奪われていたな?

まぁイイけど、シコるネタが出来たね?ウィンドウ越しに投げキッスしてやるとイグニッション。

電磁クラッチが元気にカチ回ってV8ツインターボが吠える。

いい音ぉ……これでちょっとオナれるかも……

っと、シートベルトして、ポジション合わせたら……シートにつけてもらった乳房固定アームを取り付けて。

よし、これで運転出来る……っと電話連絡、G&Kの担当か。

 

「もしもーし?」

『G&K上級代行官、ヘリアントスだ。417で間違いないな?』

「間違いないよ、お仕事かい?」

『そうだ、この仕事を終えたらセーフハウスに物資を納入してやる』

 

仕事の情報は入ってきた……ほ、単騎で鉄血の司令人形を潰してこいとな。

それもS09にほど近い鉄血に占領された生産工場……

 

「タダ働きはしないよ、私は高いんだぞ?」

『それは成功させてからだ、報酬も考えている。成功報告を期待して待っている』

 

……ハン、一方的に通話を切ったな。

仕事自体はまぁ出来なくはないが……報酬がしょぼかったら割に合わねーな。

ま、コンカラーの試運転やら新しく受領している武器のテストも兼ねて……かるーく捻り潰して来ようか。

狙撃で全部終わらせられたらいいけどそうは行かねぇしな。

 

「向こうのプロトコルはよく理解ってるし……やれるやれる」

 

セレクターをDにしてアクセルを吹かす。

低く吠えるV8サウンドを響かせながら目的のエリアまで行こう。

ひゅー、はっや……この巨体で出る加速感じゃないよ。

 

 

 

 

近場までコンカラーで接近した後に武器をいくつかピックアップして工場に肉薄する。

相手もバカじゃない巡回に加えて監視カメラなどもしっかり接続しているだろうさ。

 

「ま、相手が悪かったってヤツだよね」

 

こっちの中身は生みの親みたいなやつが半ばインストールされてるようなもんだ。

相手のセキュリティはペラ紙より薄いも同然。

当然の権利のように侵入してハッキング、私の侵入している痕跡を消しながらぺったりと外壁に張り付く。

胸やら尻尾やらで思わぬ発見に繋がることはあるだろうが……できる限りスニークスニーク。

 

今回持ち込んだのはM37イサカ。

相手の主戦力は鉄血人形のベストセラーの一つ、ここで生産されているヴェスピド。

見事に接近戦に特化している人形でマッチングしている武器はSMG。

暴徒鎮圧に小型E.L.I.Dの排除等に使われている物だ。

ソフトスキンだがその頑強さは折り紙付き。生半可な銃撃では返り討ちにされる。

それ故にG&Kの民生改造戦術人形は手こずる。

弱点の共有化などはされているだろうけれども躯体の最適化、指揮系統とのマッチングが終わってなかったらな……

じゃあSMGの有効射程外から叩けばいい?まぁそれはそうだが……工場内部で戦闘することを考えるとライフルは不向き。

SMGのアセットは持ち合わせてない……私が持っている中で一番室内戦に向いた物がイサカだった。

 

「ぶっつけ実戦だが……まぁ何とかなるだろ」

 

長らく使ってなかった12ゲージ弾を叩き込みながら外壁に備えられている非常口を蹴り破る。

 

 

 

 

 

 

人類に対して反旗を翻す、そう上位AIに伝達されてもう数ヶ月。

この地域の生産工場を統括、守備するように言い渡されたのは数日前。

前任者のデストロイヤーはとてもではないですが……統括できる人形ではありませんね。

かと言って私が十全に出来るかと問われれば怪しい所です。

現在ロールアウトされている鉄血工造の上級モデルにそういった統率がとれる人形が少ないのも問題ですが……

エージェント、ジャッジ、ドリーマーはそれぞれ役職があって量産されては居ますが前線に出ることができません。

指揮能力を持ち統率も出来て前線で使い潰しが利くということで私、スケアクロウが受け持つ事が大半です。

ドリーマーは防衛するのに戦闘人形を湯水の如く使い潰し戦力をイタズラに消耗する気があり……

ジャッジは本部より出ることが出来ません、エージェントは高みの見物をしているドクズ、口先だけ。

私が実績を積み重ねればあの駄メイドの立ち位置とは交換になるかもしれませんね。

 

「次は……補給路の確保」

 

こちらの軍勢は日増しに増強され人間の生活圏を侵食していっています。

もう少し理知的に動けば良いものを一時の感情に任せて右往左往するグリフィンのゴミからありがたくその土地、資源を使わせて……

 

ドカン、ドカン。工場内部で大騒ぎが。

デストロイヤーが癇癪を起こして統括に復職しようとしているんでしょうか?

痛むはずもない頭がズキズキと来る。

吐くことも多くなったため息を一つ、管制コンソールから離れ戦闘・鎮圧用ビットを従えて通路に向かう。

同時に鉄血内の通信、オーガプロトコルで暴れている人形に警告。

一方通行な事も多いため通達だけしてさっさと鎮圧し理解らせ――――

 

通路と私の管制室とを隔てる重い扉が吹き飛んだ。

身構えるも次に飛んできたのは……この工場で生産されたばかりの戦闘人形、ヴェスピド。

何事かと両目をそちらに向ければ……

 

「シッ―――!」

 

えらくデカく揺れ弾む胸と力場でガードされた拳が目の前に躍り出ていた。

あ、死んだ。




新しい足がポンと生えてきました。
詳細スペック等は追々……需要があれば。


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その43

さて……鉄血に抑えられた工場は制圧、コントロールを奪還した。

そんでもって……今私の尻の下に敷いているコイツをどうしようかねぇ……

鉄血のミドルクラス、スケアクロウだっけか。

管制室制圧すんのにヴェスピド蹴飛ばして盾にしながら突撃してぶん殴ったんだけど……

まぁ物の見事に頭がもげて身体だけになってんだよね、グロ画像だよ。

やっちまったなぁ……と思う半面コイツカタログスペックでは自爆オプション持ちなんだよね。

下級人形の指揮、データ処理演算及び解析なんかの人形。

その重要性は結構高く秘匿情報を護るために自爆することもある。

その爆発の火力もなかなかでそれこそE.L.I.D侵攻が進んでデカいバケモノになったのだって殺しきれる。

TNT換算で200kgレベル行くんじゃなかったっけ?当然んなの食らったら大概のは爆散するよ。

鋼鉄の塊である戦車とかでもタダじゃ済まないね。

私もんなの食らったら流石にキツいかもね、出力をMAXまであげたフィールドで耐えれるかどうか。

躯体そのものはそこまで耐弾性・防爆性に優れてる訳じゃないし。

ある意味最適解だったわけだけど……同時に解析も不能になった。

コイツのAIとか詰まった頭部が粉々になったんだからそりゃそう、物理的にバラバラになったんだから無理な話。

さて……躯体はまぁ再利用とか出来そうだし武装のビットとかも再利用できそうだな。

 

まぁまだ残党が残っていてそのお掃除はしなきゃならない。

むしろ今からが本番だな、掌握したから排除しようとこっちに全力ダッシュしてきてるだろ。

となりゃここで立て籠もってやって来たのを各個撃破したら良いと思う。

オーガプロトコルのネットワークはまだ生きているが簡素なやり取りだけだな。

現在位置なども暗号化されていてすぐには分からないな。

部外者に場所を割らせないためっていうフェールセーフもあるんだろうな。

考えたAIはかなり考えてるな、用心深いとも言う。

だがまぁ、近くに来ているのはもう分かる。耳が足音を捉えた。

 

「楽しいドンパチが始まるな」

 

M37のコッキング音と排莢された空薬莢の転がる音。

そして重く幾つも聞こえてくる足音……

 

 

酷く淀んだ緑の瞳が細まり口元は不気味なほどに横に裂け半月のように弧を描く。

堂々と部屋の中で立つ姿は自殺志願者か……それとも……

 

 

 

工場の制御、ヴェスピド達の管制を行っていた部屋に工場内で生産されたばかりのモノから警備を行っていた……

平たく言えば417の襲撃を免れていたヴェスピド達が一斉に向かっていた。

その数は実に500体、熟練の人形小隊にダミー人形がそれぞれフルで居たら返り討ちに出来るだろう物量だ。

それぞれ本来は戦術データリンクし各方面への侵略に駆り出されるハズだった。

しかし今はそれも適わず個々が持つ鉄血製のFCSやCPU性能で何とかする他無い。

それぞれが持つレーザーパルスマシンガンは人間は勿論のこと戦術人形も数秒炙られれば蜂の巣に出来る代物。

出力100%であれば他にも正規軍がなんとかしなければならないような化け物……E.L.I.Dすらも溶かしきれる。

出力アクティベートコードを鉄血内部で保有してなかったのが救いと言うべきか……

そんな武器を担いだ大隊が迫り、今管制室は焼け野原にされそうになっていた。

蹴破られた扉に左右から合計4体が一気に押し入る。

そのまま雪崩れるように他のヴェスピド達も押し入っていく。

 

「……?」

 

しかし、その管制室は蛻の殻。

上官であったスケアクロウの亡骸が転がっている他に自分達と同じヴェスピドの無惨な残骸が転がっている。

侵入者はもう脱出したのか?しかしこの大群の中掻い潜って脱出出来るのだろうか?

真っ先にたどり着いた4体はそれぞれ脱出ルートを塞ぐように立ち回っていた。

あり得ないはずだ……近場のその4体だけでデータをリンクさせ演算する。

その結果は脱出不可能、ならば何処に?

 

ズドンッ……ドンッ!ゴッ……

 

「……上から参りまーす♪」

 

軍用規格の馬鹿力で天井に張り付いていた。

そして中に入ってきた獲物をずっと見下ろしスキが出来た所を自重で降りて強襲。

足踏み場にした2体はそのまま潰され戦闘不能、残る2体も片方はキレイに頭をショットガンで吹き飛ばされ……

応戦しようとした残る1体のヴェスピドは構えた瞬間に手首を取られ馬鹿力で壁に叩きつけられた。

これまた首がクリティカルヒットするように……

一瞬吹いた嵐のような連撃の後薄ら笑いを浮かべながらM37のコッキングをする417。

急激な挙動で勿論の事胸元は非常に危うい事になっているが知ったことじゃない。

 

ガッショ……カラカラ……

 

その緑の瞳は次のオモチャに向かっていた。

どれだけ群れようともそれに限界はある。

銃砲の数は違うだろうが同士討ちが発生するわ射線を塞がれるわ……結局はそこまでならない。

ましてや工場内という限られたスペースでは数の有利を発揮し辛い部分がある。

 

「あはっ♥」

 

嗤う狐は地を駆け、獲物に喰らいついていく。

喰らいついた獲物を盾に、武器にしながら……蜂の大群を蹴散らしていく。

 

 

 

 

ま、一方的な殺戮で終わった。

ぶっちゃけて言えば私と鉄血人形は相性最悪って言っても良い。

鉄血人形の主戦力はレーザー兵器を多用している。

熱エネルギーに指向性を持たせてブチかますモノ、その指向性を散らせる物があったら途端に無力になる。

フォースフィールド、偏向障壁とも呼ばれるソレは運動エネルギー熱エネルギーを別方向へ逸らせる特性を持つ。

ただし内側からのものは透過させる……戦後になって登場した技術だ。

そうモロに銃器やレーザー兵器に対してのメタと言える。

ぶち壊すには逸しようの無い大エネルギーか……飽和的エネルギーの塊である爆発物で剥がす。

偏向させる方向が無くなってフィールド自体が崩壊するんだと思う。

ま、そんなの無いからこっちが一方的に殴れて相手は為す術もなくボコボコにされるだけ。

 

『制圧完了か、ご苦労……補給は必要か?』

「12ゲージショットシェルを幾つか……あとはまぁ水とかかなー、次の仕事まで偽装職やってるよー?」

『了解した、また何か任務があればメッセージを飛ばす』

「あいあーい」

 

いやーしかしぶち壊しまくった結果衣服はオイル塗れシャワーを浴びたいけど私の移動拠点、コンカラーにそんなのは無い。

スペース的に難しかったんだよね……キッチンスペースも苦肉の策で前後キャビンの合間にねじ込んで……外でやんないとだもの。

水タンクだって調理に使う数リットルが精々……シャワーなんて使おうものなら髪洗ってる最中で水切れ起こしちゃう。

……S09郊外に戻る前に近場の水辺でも探して水浴びしよっかな。

こーいう仕事してるってバレないように表向きのお仕事もして偽装しなきゃだし……

はー……大変大変……あと、定期的にスラムに戻って保守整備とかもしないとだしー

 

「……ふふ、ちょっと充実してるかも」

 

忙しいけど……前ほどグチグチとはしないな、充実してる感じがする。

オイル塗れな上着を脱いで畳んで……除菌ラックにおいてっと。

 

「偽装職はー……とりあえずこの接客業でいっかな」

 

パソコンで適当にピックして就業時間に間に合う様にS09に戻れば良い。

……んー、これは移動後給油が必要だな。

ガソリンのサプライポイントは……ありゃ遠い、ちょっと一般の所で買う必要あるか……

面倒な事ありそうだなぁ……見た目がガキンチョだしー

 

 

セルモーターが唸るエンジン始動音がした後一度大きく吠えるV8エンジン。

スパッと始動した後は低くドロドロと特徴的な排気音を奏でて工場から遠くはなれていく。



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その44

大遅刻


現在のS09地区に居る指揮官は暫定で置かれているヤツだ。

というか各地域に置ける人員数を確保出来ていなくて兼任させているのが多い。

で、そんな状況下だから警備、治安維持は人形たちの自律行動に委ねられている。

ヘリアン曰くもう2ヶ月程で人員は確保できるとは言っていたがねぇ……

表向きの仕事があるのは……まぁ一つ長期の仕事を拵えているから。

このS09の治安維持補助の仕事だ。

というのも……ここS09地区は新興ほやほや、他地区に比べ土壌の安定感がある。

つまり土地的な価値がかなり高い……そんな所で指揮官が常駐していない、人形はロースペックモデルが多い。

郊外にはスラムが幾つか形成されている……こうなりゃ荒くれ者が占領しに来てもおかしくない。

加えて言えば鉄血の侵攻も激しく重要拠点なのは間違いないが防衛に戦力を割けない為……私が居着く必要が出た。

404は特殊任務……っつーか何かしらの回収任務だったり潜入工作とかが専ら。

私は狙撃掃除や暗殺掃除……それからこういう定点防衛とかが任務になる。

得意分野がそれぞれ違うから、得意な方でやるっきゃ無いってわけ。

 

「ま、問題はそれを大々的に言えないし……私はあくまでヘルプって立場だしねぇ」

 

どこに居るか分からないヤベーヤツが生息している、そういう情報を匂わせるのが良いの。

それが結局は抑止に繋がるってワケ、実際どうかは知らないけどさ。

 

「……こーいう身軽な感じで街に出るとか何時以来?」

 

武器装備はほぼ無し、右太ももに吊るしたMk-23のみ。

コンカラーから降ろしたIMX330でトコトコと街までやって来たの。

大掛かりな武器はどうせなんかあったら……そこらの人形が提供してくれるでしょ。

 

「それよりバイトバイト……いい具合なトコないかなー」

 

接客業をピックしたりしたけど実際の店内の様子や周辺状況をみたりすると……私だと悪目立ちするってのがあったりする。

割りとエロ方面に繋がりやすいのをピックしてるつもりなんだけどねぇ……

ま、そういうのがダメならいっそキャンペーンガールとかのバイトするかなぁ。

これもこれでかなり目立つけど、こういうのヤッてるのがそんな人形とは思うまいて。

当然ながら私の服装もちょっとはマシな服装を見繕ってもらっている。

どこでんなの受領したかって?コンカラーを仕上げてもらってる間にだよ。

 

「よっと……この辺が人形用の職安だっけか……うっわ、荒れ放題じゃん」

 

民生人形が社会活動を支えていると言ってもいい。

人間の総数は減っている上に各方面のプロっていうのは減ってきている。

というか戦争で大体が死んだり重度の後遺症を抱えていたりする。

だから各方面に人形が入り込んで働いているハズ……なんだけどなぁ。

その人形の職安が物の見事にぶち壊されてる、復旧工事も入る感じがないな。

G&K内部の通信にアクセスしてみるか……この辺把握してるけど手が回ってねぇな。

 

「ま、だったら……悪目立ちを逆に利用するか……」

 

ちょうどいいバイトがあるっちゃある。

ただ今の治安状況からして受ける人形が少ない、その内容?

簡単だよ、通りからめちゃくちゃ見える席で美味しそうにメシを食う。

タダメシは食えてお仕事にもなる……本当に仕事になるんか?って思うじゃん。

今のS09は野郎が多い、人形好き嫌いはあれど結局女ってのに弱い。

じゃあ見てくれはすっごく美人な女がテラス席とか窓越しの席に座ってニッコニコ笑顔でメシ食ってんのみたらどう思う?

ちょっとお近づきになりたいとかそういうのでホイホイ釣られるわけだ。

狙撃任務とは違うターゲットを狙い撃つ必要があるわけだ。

幸い私は魅力満点、野郎の心を擽る手段なんざ熟知してるってもんで……

衣装もそれに合わせて……ボディのセクシャル具合と相反する清楚感バッチバチのブツを着ていこうか。

職安は頼れないし……自分の経験とかで面接にこぎつけるしか無いかなぁ……

 

 

 

 

 

どんなに世の中が荒んでも人と食事は切り離せない。

荒れ気味なS09地区内部のフードショップは正直ジャンクフードばかりが目立つ。

フランチャイズのそういう店しか現状続かない土壌なんだ。

大層なレストランが居を構えようものならあっという間に襲撃されて経営どころじゃない。

 

「あ~む……ふふ、美味し♪」

 

働き盛りの人間が多く居る区画、昼下がりのとあるバーガーショップ。

その通りに面した席に今私は居た。

飛び入り面接した上で熱烈プレゼンをしたお陰で職にありついた。

ここでコマーシャルガールみたいな事してー近場の別店舗でお手伝いのアルバイト。

衣服は可愛さと清楚さに振ったフリルブラウスにハイウェストのスカート。

薄めタイツにローファーっていうモノ、胸がより強調される衣服。

ハンバーガーにかぶりついてにっこり笑ってると……まぁ通りからはジロジロと視線が飛んでくる。

真っ先に突き刺さるのは勿論の事……胸だけどね。

あんまりにもデッカイ胸してるからジロジロみて……その後顔を見てって感じ。

 

「……ん、にひひ♪」

 

指についたソースをちょっと舐めて……偶然目が合った風に装う。

そんでもってからニッコリ微笑んで手を振れば……ほーら一人コロっと行ったぜ。

ちょっとバックグラウンドでSNSを探ると……お、ちらほら投稿されてるね。

いくらか今日のお昼をバーガーにしようって言う人が居るね。

うわ、私の背後も撮られてら……腕からはみ出て見えるとかヤバすぎって?

あは……私もこうして客観的に見たのは初めてかも。

 

「んっと……美味しかった、ん~……はぁっ、お仕事いこっと♪」

 

見られているのは承知の上で……あえて無防備な振る舞いをする。

大きく伸びをしてみれば余計に胸が強調されて一挙一動でゆっさゆっさと揺れる。

尻尾もゆらゆら……まぁ尻尾とかキツネ耳があるから人形ってモロバレだろうけど。

やっぱこういう肉感たっぷりなの見ると……嬉しいんだよねぇ、分かるよ分かるとも。

 

お手伝いとして就労するのは激戦区からちょっとハズれた場所。

看板娘的なトコになれば……総合的な集客も増えるって思ってるんだと思う。

ま、どうあれ私が表向きな人形として動いてて戦闘とは無縁な空気をだしてれば良い隠れ蓑になるだろ。

 

あとは適当に事件が起きたりしないか目を光らせて……銃で制圧するか素手で制圧するか。

それまでは割りと平穏な暮らしが出来そうだねぇ……ふふ♪



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その45

人形にも一定の権利がある、まぁそう声高に叫んでる連中がいる。

今の鉄血の大騒ぎの一翼を担っているなんていう噂もあるけれど……実際は知らない。

というかそんなワケあったら普通に国家転覆罪で蹂躙されておしまいだと思う。

んで、こういう思想派の連中はどこにでもいる。

ここS09のくっそ荒れ果てた所でもそう、ゴキブリみたくいる。

しかもまぁご丁寧に超過激、武力行使で人形を奪っていく。

 

「キミは人間に操られているだけなんだよ!!どうして分かってくれないんだ!!」

 

主張はこう、これだけならハイハイ、ワロスで済むんだけど……

コイツらの面倒くさい所はって言うと……過去の人種・マイノリティでガーガーうるせぇ事喚いてた連中と同じ。

ノイズメーカーみたく喚き散らしながらあっちこっちでテロるんだよ。

それは管理者があまり居ない現在のS09とかモロにターゲットにされるわけで。

 

「キミッ!ほら、私達ドールズセーフが助けてあげよ、うぶふっ……!なにぼ……!」

「うるせぇんだよ……な?ちょっと黙っててくれねぇか」

 

ちまちま基地施設とかを破壊してくれてた迷惑野郎共がついに人形本体を盗む暴挙に出やがった。

んで、洗脳を解除するっていう名目でマインドマップとかの上書きを敢行する訳で。

当然I.O.P製の頭脳がそれを拒否、自滅処理と場所とかが通知される。

……で、ブチ切れたI.O.Pが私にオーダーを飛ばしてきた。

理解らせてやれって。ただそれだけだけど……要は言葉も何も通じないバカに理解りやすく暴力で教育しろって事でしょ?

ここS09が現状一番最前線になる、対鉄血工造の人形基地になる予定。

そこでんな事横行したらグリフィンの面目丸潰れってぇワケだしね。

適当に喚いては人形に絡んでたバカをストーキングして一人になった所をとっ捕まえた。

実際に捕まえてみるとご丁寧に人形権利団体のタカ派ドールズセーフの構成員だった。

連絡網とかも一部は把握出来た……結構広範囲に展開してるっぽいな。

ただまぁ……なんというか、お粗末だね。イロイロガバガバ。

とっ捕まえても立場理解しないで喚く当たりもオオモノだけど……殴ってもあんまり理解してないな?

 

「ぼぶぼぉっ……!?」

「……自分で黙るか永遠に黙らせられるか、どっちが良い?」

 

コイツ等ぜーってぇ死んでも治らないタイプのバカだと思うんだけど。

護身用にっていつも持ち歩いているMk-23の銃口を向けてようやく黙る……命の危機をチラつかされて従うってマジ動物並。

……本来だったらこーいうのに泣きついてちっとばっかりでも権利をっても思うんだろうけどね。

私、元々が人間の男だった……なんて言ってもだーれも信じるものかよ。

それに……人形として過ごすのにも慣れきってしまった。

今更権利をって言っても……結局ヤる事ぁ変わらないんだから。

 

「どっれどれ……アンタの端末借りるよー……」

 

ま、ハッキングしてあれこれ発掘しきってやろうじゃない。

……なにこれ、ハッキング対策ガバガバ?穴だらけじゃん……ウソでしょ。

 

 

 

 

 

パパパパ……ダンッ!ドゴォォン!!

 

軽快な発砲音と重厚な火薬の炸裂音があちこちから聞こえてくる。

どこから調達してきたのか知らない簡易装甲車と大量のEMP爆弾、そして外殻をぶち壊す無反動砲の数々。

それらで人形たちの詰め所に襲撃を仕掛けてきたのだ。

簡易的とは言え人形が詰めている前線基地に襲撃してくる団体は狂っている程にヤル気に満ちていた。

 

「人形は道具なんかじゃない!!我ら人間と同じく権利を持つ!!奴隷のごとく扱う悪徳企業から解放するぞォ!!」

「「「「オォォオオオーーーーッッ!!!!」」」」

 

ソレもその筈、彼らには大義名分があると信仰している。

これは聖戦、新たなる人類のパートナーでもある人形を解放する戦いだと本気で思っているのだ。

その過程で人形がいくら壊されようが構いやしない。

その身体を回収していくのが目的で、その後は団体の上の人間がなんとかする。

団体内で流布されている言説を盲信して……そのまま突き進む。

対するS09地区維持人形部隊はそれはもう士気は低く、物資も割りとカツカツだ。

潤沢にバカバカとぶっ放す相手に対して遮蔽物に隠れながら忌々し気にお互いの通信網でがなり散らす。

 

「誰か、誰か手榴弾でも持ってないの!?」

「そんなのこの前の襲撃で使い切ったでしょ!」

「ダミー信号途絶!げぇ……相手テクニカルまで持ち出して!!」

「載ってるのM2HMG!!うわ、またダミーが消し飛んだ……」

 

防衛に出ている人形は量産が利く安価な人形ばかり。

往年の名銃と呼ばれたモノも居るが……自律作戦行動では定点防衛が精一杯。

SMGと適合した人形は優れた脚力や煙幕等で翻弄しながら相手をチクチク削るが……

それでも相手にトドメを刺せずに居る、指揮官が指揮していない間は本領発揮出来ないのもあるが……

この部隊に所属する人形に戦闘で明確に殺す行動は避けるように指示がされているのだ。

肉壁代わりに使われるダミーリンクはボコボコと消費されていく。

 

「指揮官に連絡は?」

「したけど増援はあんまり期待できなさそー……」

「あー……じゃあ私達のボディはここでおさらばって感じかなぁ」

 

悲壮感に包まれるのはG&KのコードでいうステンMk-2とスコーピオン。

貴重なARは別な……正面入口の防衛に行っていて火力が無い。

増援は他所からか治安維持に練り歩いている連中を集める他にない。

そも、指揮官とてS09以外のE.L.I.D対策の部隊指揮に集中している様子だった。

 

つまり、その臨時の基地は見捨てられたも同然だった。

 

「どうせぶっ壊されるんだし、ね?」

「だねー……最後にドッカーンとでっかいの……ぉ?」

 

最後にデカく派手にと意気込む二人を襲っていた……銃撃の嵐が止んでいた。

未だに銃声は聞こえるのに……どういう事だ?と二人顔を見合わせてパチパチと目を瞬かせていた。

そろーりと……顔を出せばそこに見えていたのは先程まで狂った様子でコッチに弾丸を浴びせて無力化しようとしていた連中が殺されていた。

.50BMG……そいつらが使っているM2HMGと同じ弾丸が……的確に、無駄なく……

 

 

 

襲撃計画をハックした後一応報告をあげた。

まぁそしたらヘリアンのやろー私に防衛援護を回しやがって……

何を使っても良いって言うから適当に近場の人形用武器庫からM2マシンガンを頂戴して適当にコンカラーで輸送、配置。

襲撃計画、あと自律プログラムでの防衛配置とかから考えて……手薄になりそうな部分で張ってた。

まぁうん、ちょっと遅れたけれど……しっかり銃座を設置して、M2の上にスコープも乗っけてっと……

 

「弾も結構あるんだし出し惜しみしてんじゃねぇよクソボケ臨時指揮官くんよォ……」

 

ゼロインはもう結構適当で良いや……どうせ数発撃った後調整する必要はあるだろうし。

なによりー……今回は何時ものライフルじゃなくてマシンガンだからねぇ。

腰だめは私のデカパイが邪魔してまともに出来やしないけど……銃座ってなれば話は別。

しっかりと弾薬ベルトを装着してっと……

 

「うわー向こうもM2か……フレンドリーファイヤに見せかけられそうだね」

 

投入されてる兵力とか武器とか見てるとすごーいのなんの、マジでテロリストだぜ。

まぁあとは……以外な事に私のボディを発注していた大富豪もコイツらに加担してるって話。

……人形を愛妻にしたいって言うくらいだし、まぁ……?

ま、行き過ぎた主張を押し付けるのは……ご遠慮願おうって事で……

 

「悪く思うなよ……」

 

バタフライ式のトリガーを引く。

中々良い反動……ダミー人形がボコボコにされている所に……私のぶっ放す弾丸が飛来していく。

銃声だって……向こうのデッドコピーのRPGとかで掻き消えるし……いい塩梅じゃない?

 

『救援には間に合ったか?』

「今絶賛ぶっ放してまーす、報告は後でな~……あ"」

 

……あ、振動でブラのホックが……!!

ウソでしょ、はー……そういう弊害もあるかぁ……



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その46

表向きのバイトもしつつ防衛やら犯罪が起こればその対応に追われ……

S09に赴任してからしばらくした頃、本社命令でI.O.Pのラボに赴く事になった。

どうにも以前送ったヘルスチェックデータにマズイのがあったらしい。

なんのこっちゃ……と肩を竦めたが大人しく従ってコンカラーで乗り付けた。

バカでかいトラックだが……各地に陸送しているトラックと比べるとそこまでだな。

 

「……ふ」

 

情報端末をちょっとイジる……出てくるデータは私が密かに勝手にシンパシー感じてる女、416の事だ。

正確には……何かと世話を焼きたくなってる小隊、404の連中の事だけど。

同じ非合法、表向きの記録に残らない人形として情報は漁れたりする。

もちろんのこと……ヘリアン経由のミッション報告だったりするけど。

大分軌道にのって評価も挙げつつあるらしい。

416は……あの事件の中でM16と因縁が出来たらしく……あれこれと戦闘力を上げるために躍起になってる。

45はなんだろうね、あのオドオドしてた感じから一体何があったんだか……

ま、これを聞こうものなら私もあの場に居たのを明かさなきゃならないし、面倒になる。

ちょっと前に煽った気がするけど……まぁそれはそれ。私稼働年数は多いし、耳に挟んでてもおかしくはないワケでして。

アイツ等は今、鉄血に占領されたI.O.Pの研究施設からデータ回収をしているみたいだ。

ハイエンドモデルが防備を固めているらしいけど……ま、軽くクリアしてくるんだろ。

現地での作戦支援は無くあの4人だけか……ダミーもナシってのは私と同じか。

 

「ま、何かあったら私に依頼が飛んでくるか……私は私で検査だな」

 

指定ラボは……16Lab、ペルシカとリコのトコだね。

あとちょいと……私的に気になってるトコとかあるし……

その辺の相談とかも出来るから今回のはほんと渡りに船ってやつ。

 

「製造シリアルナンバー照会……どうぞ」

「はいはいどーも……」

 

流石I.O.Pの社員、全然こっちのおっぱいに見向きもしねぇや。

尻尾を揺らめかせながら一直線に16Labの方へ歩いていく。

できるだけさっさと終わらせた方が良いからね。

すれ違う職員もあまり変わり映えしないな……

 

 

 

十数分と歩かずにたどり着く、中からは相変わらずコーヒー風味のゲロ水の匂い……

ノックするまでもなく勝手に入れば……

 

『やぁ、シーナちゃん』

「おっすリコ、元気してた?」

『ペルシカのデスマーチ支援でヘトヘトだよ……どっかのネットワークに逃げ込みたいね』

「さいで……で、私の検査って何さ」

「それについては私がしっかり説明するよ……まぁ実験的な所で悪いけどね」

 

これまたひっどい隈を刻んだ残念女、ペルシカと……そのサポートにサーバーに住み着いているリコが出迎えてくれた。

コミュニケーション用のホログラムで出迎えてきたのは……ちょっと驚いた。

で、かいつまんで説明されたんだが……どーにも私のメンタルマップ……

いわゆる人格の部分にほころびがあるらしい、人形として稼働している間に欠損した所があるらしい。

まぁメンタルマップはストレスでだいぶ歪んでいるとは言う。

んで、その補修と内面的なアップグレードを図る……まぁ試みを私で実験しようって感じらしい。

元々人形用の修復プログラムであったらしいけどね?

 

「差し当たってキミの躯体のアップグレードもちょっとするよ?」

「へーへー……そのベッドに寝りゃいいの?」

 

まーた厄ネタが追加されんのかなー……と肩を竦めて……

メンテナンスベッドの中にごろ寝……

あーこの勝手に意識が堕ちていく感じ嫌なんだよなぁ……

 

 

 

 

こりゃ、なんだ?

夢を見ているんだろうか……あー……こりゃ、私の過去か?

……ハッとする。私……両親とかの顔を忘れていた?

いや、ソレだけじゃない……私の過去の一部の記憶が欠落してる!

その事実に気がつくこともなかった……とはな。

幼少期から青年……うわ、社会人になるまでの記憶が一気にさいせ……

 

『ルー、悪いねぇ……いつも車の調子を見てもらって』

『……オレがエンジンマイスターになるのを応援してくれた礼だから、気にすんな』

『ありがとねぇ……』

 

ルーは……私の……俺の愛称だった。

よく私は職として誇りにもってた車のエンジン……それだけじゃない、車の全体的な整備をしていたな。

母の、父の……あとは従兄の家庭の車とかも見ていたか。

なんで私……あぁそうだ……凄く単純で私は……近親者の助けになりたいその一心でエンジニアになったんだった。

今の私みたいな……凶暴だったり性に溺れているのは、違う。

私は……この身体になってから忘れたり失ったものが多いな?

……今の私がするなら……何ができる?

いや、仕事は変わらない……変えられないけれど……

狩りを楽しむような事は辞めよう、性はまぁ……施しと思えばそれはそれで良いけど。

あぁうん……目が醒めた感じだ……

私が何をしたいかって言ったら……んー……結局は……博愛というか、暴力とは正反対で居たかったか。

 

 

 

 

メンタルマップ修復完了、そのシステムメッセージと共に目が醒める。

メンテナンスベッドから起き上がる……

 

「随分目つきが柔らかくなったね?」

「ん、そうかな……そうかも」

 

破損したメンタルマップの修復をしたらしいけど……私的には原初の部分が補修されたっていうかな?

 

「私が何でアレコレ身銭を切ってまでこの脳にしたのかとか……思い出したんだ、ありがとペルシカ」

 

身体の方は……射撃管制装置チップの増設か、これでよりクイックに射撃ができるようになる。

あとは致命傷も与えやすい……まぁ苦しめずに一発で仕留めれると思えばいいか。

……困ったな、イロイロ思い出したは良いけど私の今の性癖がそのまま好みのヘンタイジャンルだった。

あは……余計にレイプとかされるのが加速しそうかも。

 

「それで……ちょっとリクエストなんだけど。私のダミーって」

「出来ないよ、デザインとか全部一点ものって契約で」

「……その契約さ、私が買い取るってできる?」

「出来なくは……ないね、もしかして」

「買うよ、ついでに404の連中にダミー人形を送り届けようかと思うんだけど……仕事として組めない?」

「それはヘリアンに回すよ……リコ、頼んだよー」

 

……リザーブにまわしていた私の貯金がまるまるぶっ飛ぶけど……それは構わない。

私のダミー人形や……

 

「……これで私と同デザインの人形が少々生産されたりしたら隠れ蓑にはなるよね」

 

さ……私はヘリアンに熱烈なコールしておかないとね。

私の原動力は……自分のためじゃない、誰かの為に施す事。

今なら……人の生息圏の確保の為鉄血人形を排除して今を生きている人間に捧げましょう。

 

私は過去の人間だけど、やれることはまだまだあるんだから……ね。

 

 

 

 

 

本来のメンタルアップグレードとは毛色は違う、長い間稼働し続けていたシーナのメンタルの歪は大分矯正された。

その有様はメンタルアップグレードというよりはメンテナンスだ。

修復の結果、生来の柔らかい奉仕と慈愛、寛容な性格の色が出たのだ。

小さくも大事な想い、小さなノイズが積み重なった結果メンタル不良を引き起こしていた。

その結果躯体に悪影響を及ぼしていた……のかもしれない。

世界の荒波に呑まれ続けた結果が今の荒んだシーナであったのだ。

 

「メンタルマップに欠損が出てたから憶測でデータをリペアしたけど……ここまでとはねぇ」

「シー……まぁでも、彼女にとってはいい結果だったみたいだから結果よしなんじゃないかな?」

「まぁね、強ち間違いなデータは入れてないから」

 

真実を知ったら……苦笑いで済ますのかペルシカに平手打ちが飛んでくるのか……

その真相は不明である。




ぼちぼち完走させようかと思います


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その47

V8ガソリンエンジン独特のデロデロとした駆動音をBGMに車をひた走らせる。

運転席に据え付けられている通信機器及びパソコンに次々にデータが入り込んでくる……

 

『お前があの小隊に関与するのはどういう風の吹き回しだ?』

「何だって良いじゃない、それに向こうも想定外の装甲敵が出てきて困ってるんでしょ」

『まぁ実際そうだ……404の連中の支援及び回収を頼む』

「りょーかい」

 

現在の私の車の位置……コンカラーの位置と件の404小隊が防衛戦をやってる区画は結構離れてる。

そも、奴さん達は鉄血に占拠された人形製造メーカー……UAS、私の躯体の製造メーカーでもある会社の工場だ。

ユニバーサル・エニシング・サービス……私も耳にした事があるメーカーだ。

そ、私がまだ男で人間だった頃にも耳にしてる。

とっても高級なオーダーメイド人形を製造していたメーカーで私の古巣の自動車メーカーに近い雰囲気だった。

高級志向な人形市場は縮退、で……今はといえば一般向け大衆モデルを製造。

それまでのノウハウもあってトンデモでっかい企業に化けた。

なんでも今回回収しようとしてたのはペルシカ肝いり……42Labって呼ばれてた研究機構のデータも組み込まれた人形のデータ。

主にAIだったりするけど現在の鉄血はほぼ自律行動で動いている。

そんな自律行動の蓄積データとなればかなり話がヤバくなるのはわかる?

何十、何百時間という膨大なデータがそこにある。

それがヤツらに吸い上げられ最適化された場合は……まぁかなりよろしくない。

AI分野においては42Lab……いっちゃえばペルシカ、リコの二人がせっせか開発してたアドバンテージ盛り盛りなわけ。

その回収をいち早く、確実に、足がつかないように……ってなるとどーこもやりたがらない。

危険も危険だからね……大人数で行けばデータ破壊もしくは向こうに気付かれて吸い出される。

少人数で行くのは正直自殺行為も良いところ、それをやってのけてるのが404……

かなりの実力者であり度胸というか……頭のネジがぶっ飛んでる。

 

でも悲しいかな……それが通用するのはある程度の装甲対象まで。

大分類ではソフトスキンターゲット、いわゆる非装甲目標、軟装甲目標って言われる類のヤツだけ。

防弾ベストとかで武装した連中ならなんとかなると思う。

でもガチガチに装甲を重ねている相手にはとてもじゃないけど通用しないってワケ。

 

9mm弾にアメリカ大好きな45口径……5.56NATO弾に超ドマイナー4.73ケースレス弾

お互いの弾に互換性がなく貫通力は一番あっても5.56のモノ。

射程距離もあまり長くなく正直な所私が振り回す417と同じ7.62のマークスマンライフルにマッチした人形が欲しいよねとは思う。

採用してないのはそれでは強すぎるのか……それとも単に不要なのか。

 

「ミッションデータの転送は?」

『もうすぐそちらに届くはずだ、目を通せ』

「ん、了解。脇見運転にならない程度に読むよ」

 

まぁ、私みたく金で雇われるスナイパーが居れば……それで事足りるんだろうね。

 

 

 

 

ミッション概要を説明する。

要援護対象は4、敵勢力は装甲で固めた軍事規格人形だ。

相手は非常に分厚い装甲をしていて生半可な鉛玉では歯が立たない。

援護対象は囲まれていて籠城防衛戦を強いられている。

あまり弾薬も残ってないと推測される、素早く狙撃支援ないし狙撃排除を行い救援してほしい。

指定ポイントがちょうどいい狙撃スポットになると思う。そこに車も停めて援護対象を回収してほしい。

なんでも良い、援護対象と回収物を無事に持ち帰ってくれ。

 

 

 

 

45のヤツ、適当に嘯くのはもういい加減にして欲しいわ。

 

「チッ、ダメよ弾が弾かれる」

「榴弾の残りは?」

「あと5」

「ダース?」

「頭に叩き込んで欲しいならそう言って欲しいわ、遠慮なくブチ込んでやるわよ」

 

最初された今回の仕事の説明ではこの工場に居る戦力は防衛戦に長けたガトリングレーザー持ちばかり。

ハイエンドも過労死寸前のカカシが数体配備されている程度……だった。

それが蓋を開けてみれば装甲ガチガチに固めた暴徒鎮圧用の装甲人形にマンティコア……

四足歩行戦車まで出てくるとは思ってなかったわ。

一応マンティコアは45の作戦指示で煙幕、閃光のコンボで足止めしたあと私の榴弾で足のアクチュエータを潰した。

ダメ押しにG11がセンサーを潰したお陰で時間稼ぎも出来ている。

 

「大体45、アンタがヘマして警報を鳴らさなかったら……」

「違うわよ、向こうの電子戦AIが単に気付いただけよ」

「それをヘマって言うんでしょうが……!」

「45姉、こっちの軍勢ヤバい!!」

「ちょっと待って……このデバイスを……これでしばらく時間稼ぎできる?」

「さっすがぁ!まっかせて!!」

 

籠城し防衛戦をしている区画は工場の倉庫。

当然コイツらの資材があり反人形勢力の強襲等に対応した堅牢な作り。

さらには中にある資材運搬用の重機も独立操作されていて……その制御を45が乗っ取っている。

押し寄せてくる装甲人形を薙ぎ倒すだけの馬力はあり純粋な暴力として猛威を振るう。

ただそれも45の演算リソースを割いて使う有限のモノ。

十数体を轢き潰したら駆動系がどこかおかしくなって……続けてキャタピラ等が外れて使い物にならなくなる。

シャッター閉鎖、隔壁閉鎖等して時間稼ぎを続けているけど……それももう厳しくなってきている。

閉鎖タイミングは45が考えてやって、それに合わせて最大効率で榴弾で無力化していく。

 

「救援要請は?」

「さぁ?私達にそんなの期待できる?」

「チッ……」

 

最悪の事が頭に過る……改造を重ねていてコイツを見捨てていけば私一人だけでも生き残れると思うわ。

でも、その後がない。私は後ろ盾がなければただの違法人形。

直ぐ様に捕まってスクラップヤードのゴミになる。

回収要請は出ているでしょうけど……それまであと何分?

それもまったく明かさないからストレスだわ……!

 

「コッチ、防壁が突破されそうよ……ッ!」

「あちゃぁ、向こうの復旧も早かったかぁ……マズったわねぇ」

 

呑気そうにつぶやく45の声が忌々しく思える。

防壁の向こうから顔を覗かせたのは……バレた際に大暴れしてきたマンティコア。

複数台は居なかったはずだから……この短期間で修復して自走してきた。

 

「クッ……」

「あぁ、でも……こっちも丁度到着したみたいよ?」

「何が!」

 

苛立ち混じりに45を振り見た。

 

――――――――ォォォォオン!!

 

横合いから飛来した超音速の鉄塊がマンティコアを張り倒していた。

次に聞こえてきたのは……いけ好かない私そっくりな幼い声だった。

 

 

『ビーンゴ、まだ生きてるかなー404の皆様がた~?』

 

 

 

さて、今回持ち出したのはー……メンタルアップグレードに合わせて受領したハミングバード接続可能なレーザーキャノン兼レールガン。

狙撃っちゃ狙撃な訳で、過剰火力と言えば過剰だけど……有り余る火力に困るってくらいが良いでしょ?

電力は私とハミングバードの内蔵電力、両方共に軍事ジェネレーターなのもあって連発できるくらいあるね。

 

「ま、一発で沈められたのは良いよね」

 

機械製品、AIとは言え意思を持ってるヤツは苦しめて壊すのは……私的にはイヤ。

それを思い出した、だから大火力で一発で沈められたのは個人的に大きいかな。

 

「ハミングバード、周辺警戒よろしく……さ、次はコレっと」

 

排熱中のレールガンはハミングバードにマウントさせて……っと。

足元に転がしてたM82を拾い上げて……ちょっと離れて小高いトコに建設されている送電施設の基から狙撃体勢に移行。

絶好の打ち下ろしポイント……一部遮蔽されていて撃てないけどそこは……

 

「45、聞こえてるかな?」

『勿論、感度良好。アンタがヒィヒィ喘ぐ時みたいに』

「あはは……えーっと戦術マップ上のEポイントが撃てないからそっちはなんとか対処してね」

 

向こうの皆様方におまかせしてっと……

セーフティ解除、弾倉はセット済み……チャージハンドルを引いて初弾装填。

相対距離はインプット済み……ゼロイン調整は完了してる。

いやー……慌ててレールガンの方使ったのはある意味正解だったかなぁ。

 

「頭を低く抑えててね、きっちり潰して撤退路は確保してあげるから」

『……何こいつ、頭でも打った?』

『知らない』

『なんでも良いよ~……助かったぁ』

 

引き金を引いてM82の号砲が唸る中聞こえてきたのは困惑混じりの無線通信。

……まぁそういう反応になっても仕方ないかぁ。

苦笑いしながら一体一体、確実に頭をぶっ飛ばしていく。

 

「回収物はしーっかり回収してるでしょ?さっさとそこからズラかる準備して、合流地点もヘリアンから入るハズだよ」

『もちろん、ほら皆お迎えが来たからさっさと行くわよー』

『……チッ』

『まぁまぁ416落ち着いて』

 

……うーん……416には嫌われてるねぇ。

ツンケンしてる姪っ子みたい、まぁ構い倒してもいいけど……後々だね。

ドンドンと撃って……スコープの先で黄土色の人形が屍を晒す。

その数は……私の右隣に転がっていく薬莢の数だけ重なって行っていた。



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その48

そろそろかな……っと。

合流予測時間はもうそろそろ、一応殆どの敵人形を殺してきたから後はまぁ……なんとかなるでしょ。

付近のあぶれたG&Kの正規部隊に任せるでもなんでも良い。

仕事に使ったM82はもう私の車、コンカラーに格納済み。

周辺警戒しつつコンカラーの上で待つ……誰をって?

そりゃ勿論、これからおもてなしをする4人ですとも。

 

「ん、見えた……スピリット1聞こえるー?」

『聞こえてるわよ、どっち?』

「左24.6度……そうそう、そこからまっすぐ約1800メートル、ピックに向かってもいいよ」

『じゃあ、来てもらえる?』

「了解、フォックスアウト」

 

無線通信でやり取り……まぁ404の連中ですよ。

向こうの今のコールサインはスピリット、亡霊だって。

ま、コッチも超直球にキツネだけどさ。

向こうはもう歩き詰めで疲弊しているだろうし……こっちからピックに向かう。

一応……バレる事は無いだろう距離だけどね。

 

「迷彩ネット格納……よし、行こっか」

 

私が組み上げた誇りのエンジンがうなりを上げる。

始動も一発でポン……かなり大きい43インチのタイヤが不整地を蹴り上げ動き出す。

まぁ車で動けば1.8キロとかそんなでもないんだけどね……

撤退支援しつつだったしまぁまぁ……はは、遠目で見える4人の驚いた顔イイねぇ。

まぁそりゃそうだ、結構大きめの改造トラックが来るんだし……

 

隣につけて……後部ランプを下ろして……っと。

 

「よ、さっさと乗らないと置いてっちゃうよ?」

「ほら、お迎えが来たわよ」

「……チッ」

「まぁまぁ416抑えて抑えてー」

「なんでも良いよぉ、帰れるならぁ……わぁ、お布団がある!!」

 

後部キャビン監視カメラをオンにしてっと……ふふ、載せるのはあんたらが初めてだぞ?

G11は大はしゃぎ……他の面々もまぁ悪くない反応、416は相変わらず舌打ちしてるけど……

元々の目的は私の装備整備のガレージ兼護送要員の為のキャビンだったりするから、座席もしっかり完備してるし通信設備もある。

お気に召したかな……ま、全員載ったしベルトも着けた様子だから発進と。

テールゲート閉鎖、よーそろーってね。

 

「あー……G11ちゃんも座席に座ったほうが良いよー?」

『ぅぇ、な、なんで?』

『見てるの?悪趣味ね、ヤリマン女』

『逆にこっちからも向こうの様子見れるみたいよ、よくこんな胸で運転出来るわね』

『わぁ見てみてこれ、アイスクリームが入ってる!!よんごー姉、食べちゃおうよ!』

 

んー……まぁ各々楽しんでいたらイイけど……

ほんっと416のツンケン具合がすごいなぁ……はは、まぁ良いけど。

 

「そのベッド急患用で拘束アームが出るよ」

『え、うわぁぁぁぁあ!?スゴいとこ掴むぅ!?』

「……ディアクティブするからさっさと席に座ってね」

 

さ……お荷物はしっかりと依頼主に届けないとね……

 

 

 

 

道中は特に危険も無く、スタックなどもなく……予定時刻ぴったりにペルシカ指定の……404のセーフハウスにたどり着いた。

秘匿性の高い通信にしないといけないからってセーフハウスに敷かれてる直通ネットワークで送信するんだとさ。

 

「それで、どういう風の吹き回し?」

 

敵対心むき出しの416が私をガン見して監視してるのはいかがなものかなぁ。

どういうも何も……私は私のやりたいことをしただけなんだけどね?

 

「それはどれを指した言葉かな」

「態度から今回の回収……そしてアンタのその目……」

「……んー、ま話してもいいかな、信じられないような話かもしれないけどね」

 

ちょうどいい機会だ、416だけでも話すべき事は話しておこう。

態度が変わった理由はメンタル面の補修を受けたから……かな。

回収は結局の所私のお仕事だし、受けたのも結局は416に向けるこの私の一方的な愛情にもよる事。

 

「私ね、製造されたの……かなり前でね、貴女よりも稼働年数は多いの」

「オンボロのアバズレが改造されて戦術人形に?ハッ……」

「ん、まぁ当たらずも遠からず……躯体はそう、でも電脳の製造年月日は……2039年、西ドイツの当時先端技術を扱っていたC社」

 

朗々と語る私のコアな部分、何を……って怪訝な顔をしている416も情報を整理していって……

私の正体についてアタリが出たんだろう、明らかに目が揺れる。

 

「……C社、その主力製品は当時ようやく認可が降りて富裕層や中流階級の人間が挙って導入していた……人間用の電子頭脳」

「ちょっと待ちなさい……」

「察してるかもだけど、私のパーソナルはWW3前の人間……それもね、男だったの……今はこんな人格に矯正されちゃったけど」

 

私の元々の躯体がどういう経緯で製造されたかはもう知られてるだろう。

この辺はデータとして残ってたら権利団体がうるさいから破壊されてることだろう。

まぁ人間のパーソナルが叩き込まれてる人形なんてあったら大問題だからね。

 

「……最初貴女を見たのは製造されてI.O.Pでの検査を終えた後の姿、エリートとしての街道を往く事が約束されていた姿」

「皮肉な結果になったけど」

「まぁまぁ……その時は歯ぎしりしたよ、同じ様な銃……姉妹銃にあたるものがマッチングしていて更に僻んだよ」

 

「でも貴女も私と同じ闇に堕ちてきた、ここで気がついたんだ……ひがんだりしたけど光を歩み続けて欲しいって思ってたの」

 

ぎゅっと……416の手を握り見上げて……

向こうはまだ動揺しているみたいだけど……さらに語っていった。

私が歪んだ思いを懐きながら416に固執しどうにか間接的に干渉できないか……

不慮のことがあれば直ぐ様駆けつけるつもりでいた。

最初こそドロドロとしていて……なんならブチ犯す衝動もあったりもした。

でも今は違う……姪っ子を見る叔母の様な気分で見ている、見守るつもり……

 

「……キモいと言われたらグハッとなるけど……悪いことはしてないつもりだよ?」

「これは……」

「貴女や45、9……そしてG11のプロダクトを買い取ったの、軍部から所持者は私……否、G&KないしI.O.Pに還った」

 

「……まぁだからって言って何をするわけでもないよ、ダミーリンクや修理パーツのアテが出来たって思ったら良いよ」

 

さて……言うものは言ったし、45あたりにメールでもして狙撃手が必要な場合は私を呼んでって旨を伝えれば良い。

416に見せた情報も添付して送りつければまぁ……私が結構なパトロンみたいに思われるだろ。

握っていた手を解きここまで輸送してきた車、コンカラーに乗り込む。

……うーん、結構重かったかなぁ。

エンジン始動させて尚固まっている様子の416に苦笑いしつつ……私のセーフハウスへと向かう。

報酬として私のセーフハウスも本格的に始動できる資材が届いているハズだ。

 

 

 

これから、表も裏も……仕事で大忙しだなぁ。




417→416に向かうクソデカ感情が伝えられた一話であった。
まぁ417はこれから404と直接アレコレする事は多分無いんですけどね……


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その49

S09地区に腰をほぼ落ち着け随分と経った。

逆に404の連中はあっちこっちに飛んでいっていて……いつぞやの私みたく根無し草を続けている。

所属としてはI.O.PとG&Kの非公式部隊……プロダクトは私が買い取ってI.O.Pに返却したから……

公に廉価モデルとして転がるようにはなった……私と同モデルもね。

流石に完全同個体ではないからAIはまた別に組み上げられている……私のパーソナルをベースにしてね。

 

404も元々蓄積していた戦闘データがあってかなりの手練になっていたし、非合法だからと違法パーツにもポンポン手を出せる。

その分フレームとか基礎コンポーネントに負荷が多大にかかるけど……その分整備をしっかりできるヤツが居れば良い。

その伝手もあるらしく……私にもしれっと紹介してくれた。

暗に私が違法人形だって言ってるもんだけど……まぁ実際そんな所だし……

404は今もどっかで作戦行動してるんだろうなぁ……

 

「……余計な世話を焼くな、クソババア……反抗期の娘かな?」

 

ありゃま、私がしれーっと送ってたダミー人形+補給品に気づいた優しい娘が悪態吐いてきやがった。

クソババア呼ばわりは流石に傷つくけど……まぁ、ババア呼びはマシな方と考えとこ。

オカマ扱いだったらメンタルにまた傷が入ってたと思うし。

本気で嫌がる表現は避けてくる辺りがホント……416って優しいよね。

45もそう、皮肉屋だったりのらりくらりと躱す感じあるけど、根本が優しいのよ。

まぁ言うとガチ目のキャットファイトに発展するから言えないけど。

 

「さてと、まーた鉄血が押し寄せてきてるか……」

 

私のお仕事は相変わらず、普段はS09の郊外を中心に働く民生人形の皮を被る。

色んな仕事に対応できるマルチな人形として結構重宝されてる。

後はまぁ……私と同じモデル、シェーナタイプってコードが着けられてるモデルは単価が高い上にこのデカパイ。

人気が高いのは風俗店や娼館だね。ある意味私のデジタルタトゥーがあっちこっちに転がるようになった。

……まぁだから私の安泰が確約されているようなものだけどね。

製造数は右肩上がり、パーツだってそうだ。

だから私という特異個体を隠す森になるわけだよ……見つけられっこねぇよ。

で、裏のお仕事も相変わらず……ちょっと割高だけどきっちりと仕事をする狙撃手としての任務。

あとは不祥事をやらかしたヤツの暗殺……後者は結構減ってきてるけどね。

 

「……近々指揮官が配置されるって言うけど、誰なんだろう」

 

S09には指揮官が配備される予定がある。

鉄血の侵略地域と隣接していてここは最前線となる。

それでいて結構な拠点もあるから此処を起点に鉄血を押し返して各生産拠点等も奪還していく……つもりだと思う。

にしては展開が遅いから……人材不足という理由の他になにかしらあると思う。

……主に人間の思惑、わるぅい陰謀ってヤツ。

妨害工作はあったと思うけど、まぁそれでもようやくって所かな。

その前にまた鉄血が侵攻してきたのでそのお掃除に私が呼ばれてる。

今回は……正規の連中も作戦に参加してる。

ま、撃ち漏らしとかがあったら火力支援するって契約だけど……

 

「過保護なくらいが良いでしょ」

 

手出しさせるつもりは毛頭なかったりする。

今回は車ではなくバイクで行こうかな。

使用するのは私の417、そして今回追加で持っていくのは……

 

「起きろー、仕事の時間だよ」

 

何を隠そう、私用にって用意された416ダミーモデル。

そ、416のダミー。胸部は私同等にデカくしてある特別仕様……本人が知ったら絶対キレる。

まぁ……絶対に人前に出さないしコイツにやってもらうのは……

 

「背後警戒頼むよ、じゃ行こうか」

 

私の背後警戒っていうだけ、本来私一人で乗る事しか想定してなかったIMX330に無理やり2人乗って……

仕事現場に向かう……さぁて……特別変な事はないはず。

ダミー人形にも簡易的なコミュニケーション機能あっても良いと思うんだよな……

この辺は要望で出しておこうかな……母機との情報交換は無線で出来るけどさぁ……

 

 

 

 

 

 

流石に2人乗りでいくには330のエンジンではきついかも、あと純粋に重くて……

長いことこういう2人乗りが続くならボアアップとか排気系統の改良が必須かなぁ。

とまぁそんな移動の脚の不安はさておいて……お仕事現場にはついた。

416ダミーには簡単な自律行動を取らせてる、双眼鏡で周囲を見渡し音でなにかしら感知したら私に通知。

偵察ドローンの情報では7.62mm弾で十分貫徹可能なターゲットばかり。

仮にそうじゃなかったとしても貫通可能な部位はある、そこを精密射撃したら良いだけの話。

センサー類、関節……どうしても装甲で覆えない場所はある。

7.62mm以上の口径に対応する徹甲弾もあるけど……それはコストが高すぎるので却下されてる。

まぁG&Kで扱うようになればその辺も経費で落ちるようになるかもだけど……

 

「さって……悪いけど、街には手出しさせないよ」

 

スコープを覗くまでもない、スナイパー向けのアイカメラにはもう映っている。

装甲板はあまり配していない4脚戦車とそのまわりに展開する鉄血の機械人形達の姿が……

正規の指揮がしっかり入っているらしいけど……S09の防衛人形達にはどよめきがある。

それもそうだろうね、私と同じ7.62mm弾を撃てるのはボルトアクション式……連射性能は無い。

少数……1小隊程度だったらそれでイイと思うわ。

けど……この鉄血の規模は一個中隊+α、とてもじゃないけど手数が足りなくなる。

手数に秀でているアサルトライフルもそこそこ配備されてきているけど……

それでも配備されてるのがStG44にFN FNCにFN F2000と正直火力不足感が否めない。

どうせなら同じく大量生産されている中でも特に火力があるAK-47やG3などを配備したら良いだろうに……

人形本体にいくらか問題を抱えていたとしても……ね。

 

「ま、私が居るからそんなの関係ないけど……」

 

距離観測・ゼロイン調整はOK、各戦術リンクの読み取りも開始……

あとはその情報をちょっと拝借しつつ最効率でたったか撃ち殺す。

確実に一撃で撃ち殺していく……そうしないとね……

 

「弾も勿体ないけど……痛みを感じるなら痛みを感じさせずに殺すのが有情ってものでしょ」

 

20発入りの弾倉をしっかりと叩き込む、セーフティは解除。

チャージングハンドルを引いて……軽快な音で初発が装填される。

 

「バイポッド展開するまでもない……」

 

今回の敵は事前情報通り、ならさっさと照準できるように……フォアグリップで十分だ。

後方警戒からは特に情報もない……とっとと潰していこう。

 

『指揮官が大丈夫って言っていましたが、これ……ダメそうですわね』

『えぇ~……そんなぁ、痛いからヤなんだけどなぁ』

 

人形は替えがきく……ここで破壊されてもバックアップから復活はするけどさ。

そんなのは……無駄っていうものでしょ。

弾丸数発のコストと私が頑張るだけで……チャラにできるんだからさ。

 

 

 

 

 

 

 

誰に知られるわけでもなく、進退窮まった指揮官にそっと告げられる狙撃手。

または……失敗のツケとして資金を徴収される先として噂されるようになった。

G&Kには汚い仕事でも確実にこなしてくれる狙撃人形が居る……

作戦の失敗も多額の罰金でチャラにされるのは……掃除専用の人形が居るから。

裏社会に少々身を置いた人間ならそれに心当たりはあると言う。

 

「はぁい?ご要件をどうぞ……どのお掃除かゆっくりお話くださいな」

 

今日もその人形はS09の住居で電話一本受けて……掃除に向かう。

鉄血人形でも、化け物でも……大凡二つ返事で受けてくれる。

 

 

 

S09に新しく指揮官が赴任してもそれは変わらない。

バレるその時まで……ほそぼそと……掃除に暗躍していくことだろう。




一応これで完結って形にはしまして……
ここからは書きたくなったら適当に一話書いてっていう形になるかと

なんならウチのシーナの派遣要請がありましたら是非に……
そちらの部隊の手助けになるかもしれません。






ぶっちゃけエロをバシバシ書いていきたいのでぇ!R18の方が多くなると思う!!!
健全の方をお読みいただいた皆様方、ありがとうございました。


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