ゼロの使い魔〜赤い仮面と命のベルト〜 (D-ケンタ)
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プロローグ

「追い詰めたぞ!」

 

薄暗い空間の中に、異形の姿とそれと対峙する三つの人影があった。

 

「グヌウ、しつこい奴らめ」

「しつこいのはお互い様だろ」

「もう逃げ場はない。大人しく観念しろ!」

 

ビシィッと指を指しながら、三人のうち一人が異形へと向け言い放つ。

声の感じから、三人共男性であるとは分かるが、逆に言えばそれ以外は分からない。

 

「クソ、かくなる上は!」

「何をする気だ?」

 

しかし異形は観念するどころか、懐から何か装置のようなものを取り出すと、それを掲げた。

 

「この次元転送装置を使うまでよ!」

「何だと!?」

 

異形の言葉に三人は驚くが、その隙にも異形は装置を起動させ、不思議な光が装置から溢れ出した。

 

「グワハハッ!これで俺は貴様らでも追っては来れない別の次元へと逃亡させてもらうぞ!!」

「クソっ!?」

 

勝ち誇ったかのように異形は高笑いを上げる。装置からは光とともに強烈な風が吹き荒れ、それにより男達は異形を止めることができずにいた。

 

「うおおおおっ!!」

 

否。一人だけ、強風を物ともせず異形へと駆け出す姿があった。

 

「シンジっ!?」

「逃がすかああっ!!」

「何ィっ!?」

 

男は駆けた勢いのまま跳び上がると、そのまま異形へと向かい、己の右足を突き出した!

 

「喰らえっ!!」

「グオアッ!?」

 

飛び蹴りを食らった異形は吹き飛び、その手から落ちた装置が地面へと落ちた。

 

「ば、バカなああ……!?」

 

蹴り飛ばされた異形は断末魔の叫びを上げることなく倒れ込むと、木っ端微塵に爆発四散した。

しかし次の瞬間!

 

「う、うおっ!?」

 

地面へと落ちた装置から放たれた、一際眩い光が辺りを覆い尽くし、それにより男の姿が全く見えなくなってしまった。

 

「……シンジ?」

 

光が収まった時。そこには二人の人影と、爆散した異形の肉片しか残されていなかった。

 

 

舞台は変わって、とある世界。

まもなく日が沈む時間に、森の中の馬車道を一台の馬車が通っていた。

 

「ふぅ……今回の仕入れも無事に終わったな」

「あとは学院に着くのを待つだけですね」

 

荷台に積んだ荷物を見ながら、二人の人間が話している。一人は男性、一人は少女。見るからに年の差があり、そういう関係にも見えないが、仲はいいようである。

その後も二人は他愛もない会話を続けたが、突然馬が止まってしまった。

 

「おっと、どうしたんだ?」

「マルトーさん、あそこに人が!?」

 

少女が指した方向を見ると、確かに道の先には一人の男が倒れていた。

二人は馬車から降りて男の元へと駆け寄った。

 

「おいアンタ、大丈夫か!?」

 

男は気絶しているようで、問い掛けても呻き声しか帰ってこない。

このままにしておけないと、二人は男を馬車へと乗せた。

 

 

そして―――

 

「おやっさん!追加のチキン焼き上がったぜ!」

「なら次はあっちを手伝ってこい!」

「はいっ!」

 

とある学院の厨房に、右に左と忙しく働く新顔の青年の姿があった。

彼の名は朝火シンジ。料理人として働く、大学生である!



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第一話 ライダー登場 その名はV3!

「くやしー!なんなのあの女!自分が火竜山脈のサラマンダーを召喚したからって!ああもう!」

 

 ここ、トリステイン魔法学院の廊下に、一人の少女の地団駄を踏むような声が響く。

 

「いいじゃねえかよ。召喚なんかなんだって」

 

 その声の主を諌めるように、今度は少年の声が聞こえてくる。

 しかし、少女はそれでは収まらず、更にヒステリックな叫び声を上げている。

 少女の名はルイズ。この魔法学院の二年生で、ヴァリエール家という貴族の三女だ。

 少年の方は平賀才人。昨日の使い魔召喚でルイズに召喚された、運がいいのか悪いのかわからない高校二年生。

 ルイズはこの学院で学ぶメイジという魔法使いの見習いであり、一年からニ年への進級時に使い魔召喚の儀がある。そのときに彼を召喚したわけだ。

 他の出来事や経緯に関しては、もう大体の読者は知っているものとして省かせてもらう。詳しく知りたければ他の作者のを読むか、原作を読んでくれ。

 そんなこんなで口論しつつも、二人はある場所を目指して学院の廊下を進んでいた。

 そして暫くして、豪華な装飾が施された食堂へと到着した。

 そう、今は朝。二人は朝食を摂るため、この『アルヴィーズの食堂』を目指していたのだ。

 才人がその光景に驚いていると、ルイズが得意げな様子で言った。

 

「トリステイン魔法学院で教えるのは、魔法だけじゃないのよ」

「はぁ」

「メイジはほぼ全員が貴族なの。『貴族は魔法をもってしてその精神となす』のモットーのもと、貴族たるべき教育を、存分に受けるのよ。だから食堂も、貴族の食卓にふさわしいものでなければならないのよ」

「はぁ」

 

 分かっているのか分かっていないのか、才人は気の抜けた用な返事しか返せないでいた。

 不意にルイズから椅子をひいてと言われたので、彼女のために椅子をひき、自分も椅子に座る。

 

「すげえ料理だな!」

 

 そして、朝から無駄に豪華な料理に目を輝かせていると、ルイズが床を指差した。そこには貧相なスープと硬そうなパンが乗っている皿が置かれていた。

 

「あのね?ほんとは使い魔は、外。あんたはわたしの特別な計らいで、床」

 

 どうやら彼の食卓は、テーブルではなく床らしい。

 テーブルの上の豪華な料理と見比べて、切ない気持ちになっていると、一人の給仕と思われる青年がサイトの近くへとやってきた。

 

「もしかして、君が噂の少年か?そんなんじゃ足りんだろう、俺の朝飯で良かったら食うか?」

「マジっすか!?是非お願いします!」

 

 願ってもない言葉に床にぶつかりそうな勢いで才人は頭を下げるが、それに冷水をかけるようにルイズが青年へと言い放った。

 

「ちょっと勝手なことしないで。そんなことして、癖になったらどうするのよ」

 

 僅かに怒気を孕んだ言葉に、才人は思わず背筋が震えたが、青年はまるで効いてないかのようににこやかに笑いながら返した。

 

「まぁまぁ、そう硬いこと言わずに。こいつくらいの歳は、しっかり食べなきゃカラダが持たねえからな。気にしなくても、そんな高い食材は使わねえからよ」

「そういうことを言ってるんじゃないわよ!」

「んじゃ、ちょっくら用意してくるから、少し待ってな」

 

 そう言うと、青年は厨房の方へと戻っていった。残されたルイズはというと、失礼な物言いをする青年に腹を立てているのか、プルプルと震えていた。

 

「何なのよあいつは!」

 

 その後、才人のもとに塩で味付けした焼き魚と目玉焼きを乗せたトーストが青年により運ばれてきて、それを才人は涙を流して喜んだという。

 ちなみにルイズは食事中であり、青年に物申したかったがぐっと堪えていた。

 

 

朝食を終えると授業が待っているため、二人は教室へと移動した。そこでちょっとした事件があったのだが、ここでは割愛させていただく。

その後は昼食の時間なのだが、先の授業のときにルイズの異名『ゼロ』の由来を知った才人がいらんことをしたせいで、彼は昼食を抜きにされてしまった。

途方に暮れていると、一人のメイドが才人へと話しかけてきた。

 

「どうなさいました?」

 

彼女の名前はシエスタ。黒髪とそばかすと一部分が魅力的なメイドの少女である。

 

「あなた、もしかしてミス・ヴァリエールの使い魔になったっていう……」

「知ってるの?」

「ええ。なんでも、召喚の魔法で平民を呼んでしまったって。噂になってますわ」

 

ニッコリと屈託のない笑顔で笑う彼女に、才人は「君も魔法使い?」と問いかけるが、シエスタは首を横に振って、自分は平民でこの学院でご奉仕をさせてもらっていると答えた。

とその時、才人の腹の虫が鳴き声を上げ、それを聞いたシエスタは才人をある場所へと連れて行った。

連れて行かれた先は、食堂の裏にある厨房で、昼時の為かコックやメイド達が忙しく働いている。

 

「ちょっと待っていてくださいね。シンジさーん!」

 

シエスタが呼び掛けると、奥から呼ばれた人物と思われる青年が小走りで駆け寄ってきた。

その姿を見て、才人は「あっ」と声を漏らした。

 

「どうしたんだシエスタさん?あれ、君は……」

「あ、あなたは朝の!」

 

その青年は、朝才人に食事を持ってきた青年であった。格好から見るに、給仕ではなく料理人だったようだ。

 

「あら、もう既にお知り合いだったんですか?」

「ああ。朝食の時にちょっとな。それよりシエスタさん、彼をここに連れてきたってことは」

「はい。サイトさんに何か食事を出してもらえないかと」

「そういうことなら任せとけ。ちょっと待ってな」

 

そう言うと彼は厨房の奥に行くと、料理の入った皿を持って戻ってきた。

皿は二つあり、それぞれにシチューと肉料理が乗せてあり、才人の鼻孔を匂いがくすぐる。

 

「お待たせ、余りもんで作ったシチューと鶏肉のてりやき風だ」

「いいんですか?」

「賄いだからな。気にせず食べな」

 

その言葉に才人はありがたくいただくことにし、スプーンで料理を口に運ぶと、その美味さに涙がこみ上げてきた。

 

「美味いっすよ、これ!」

「そりゃよかった。そういえば、君の名前を聞いてなかったな」

「俺ですか?俺は平賀才人っていいます」

 

才人のは彼に向けて自分の名前を答えるが、それを聞いた青年は怪訝そうな顔をして首をひねった。

 

「その名前……もしかして君は」

 

とそこまで言ったところで、厨房から彼を呼ぶ声が聞こえてきた。

 

「おいシンジ!いつまでも油売ってないでさっさと戻ってデザートの準備手伝え!」

「はい!わるいな、仕事に戻らねえと。何かあったら、シエスタさんに言ってくれ。じゃあな」

 

そう言って、彼は厨房の奥へと戻っていった。

残された才人は料理を平らげると、シエスタの手伝いをしたいと言い、デザートを運ぶのを手伝うことになった。

しかしそれにより、ある騒動に巻き込まれることになった。

シエスタの手伝いでデザートを配っている途中、ある生徒のポケットから落ちた小壜を拾ったのだが、それがいけなかった。

どうやらその生徒、ギーシュは二股をかけており、奇しくも才人の親切によりそれが露見してしまった。

二股をかけていた少女達に制裁を受けたギーシュは半ば八つ当たり気味に才人に決闘を申し込み、才人もそれを受けてしまった。

それを見ていたシエスタは青い顔をして走って逃げてしまい、事情を知ったルイズに止められても才人は聞く耳を持たず、決闘へと向かってしまった。

 

「諸君!決闘だ!」

 

噂を聞きつけた生徒達で溢れかえるヴェストリの広場で、ギーシュが薔薇の造花を掲げながら宣言した。ギーシュの反対側には、才人の姿がある。

 

「とりあえず、逃げずに来たことは、誉めてやろうじゃないか」

「誰が逃げるか」

「さてと、では始めるか」

 

ついに決闘が始まった。ギーシュは青銅製のゴーレム『ワルキューレ』を生成し、才人へとけしかける。素手である才人は、なすすべもなくやられていくが、どれだけボロボロになっても、ルイズが止めても「参った」だけは言わなかった。

そしてギーシュが情けで投げ寄越した剣を手にした瞬間、形成は逆転した。

才人がゴーレムを斬り伏せると、ギーシュは更に六体のゴーレムを生成し、才人へとけしかける。

しかしそれも尽く斬り伏せられると、ついにギーシュが降参の言葉を口にした。

勝利の余韻を感じるまもなく、重度の疲労感により才人は地面へと倒れる。

それを見てルイズが駆け寄ろうとした。

しかし!異変はその時起こった!

 

ドオォーンッ!!

 

「きゃああっ!?」

 

突如として起こった爆発に、決闘の興奮に湧いていた広場は一転して悲鳴が響き渡った。

 

「な、何が……?」

 

どうにか状況を確認しようとした時、爆風の中から多数の人影が姿を表した。

 

「キーッ!」

「キキーッ!」

「な、何よこいつら!?」

 

いつの間にか、まるでサソリのような模様が施されたタイツと白い模様の覆面をした人間達が広場の生徒達の前に大勢現れていた。。

 

「あ、あいつら、まさか……」

「あんた、あいつらを知っているの?」

 

ルイズが才人れと問い掛けるが、その時不気味な笑い声が聞こえてきた。

驚いている生徒達の前に、両手が刃物になっている化け物が前に出てきた。

 

「ひっ!?」

「亜人?でもあんなの見たことないぞ!」

「なんで学院に!?」

 

恐怖に震える生徒達をよそに、その化け物は生徒達へと向かって言い放った。

 

「シザァーズ!俺は新生デストロンの怪人、ハサミジャガー様だ。貴様らを誘拐し、怪人へと改造してやる」

「な、何を訳のわからないことを言ってるんだ!」

「や、やめろ……」

 

才人の静止する声は届かず、一人の生徒がその化け物、怪人ハサミジャガーに食って掛かる。

しかしハサミジャガーはその生徒に近づくと、右腕の刃物で生徒を突き刺した。

突然のことに他の生徒達は言葉を失うが、その後の光景には悲鳴を上げて、腰を抜かす生徒達も出てきた。

ハサミジャガーに刺された生徒は、跡形もなく溶けて消えてしまったのだ!

 

「これで分かっただろう。さあ、大人しく来るんだ」

「ひっ!?ふぁ、『ファイアー・ボール』!」

「『エア・カッター』!」

 

複数の生徒が抵抗しようと魔法を放つ。それにより戦闘員が吹き飛ぶが、ハサミジャガーには効果がないのか平然としていた。

 

「シザァーズ、これで抵抗は無駄だと分かっただろう」

 

この状況に耐えきれず、生徒達は悲鳴上げて逃げ惑うが、ハサミジャガーの指示を受けた戦闘員が生徒達へと襲いかかる。

『フライ』の魔法で逃げようとした生徒がいたが、飛び上がった瞬間謎の爆発により命を落とした。

 

「ズゥーカァー!逃げようとしても無駄だ。飛び上がった瞬間、俺のバズーカ砲の餌食だ」

「カメバズーカ、あまり殺すなよ」

「分かっている。今のは警告だ」

 

新しい怪人の出現に、生徒達は逃げ惑うことしかできない。

 

「な、何なのよあいつらは……!?」

 

ルイズは未だ疲労とダメージで動けない才人に肩を貸しながら、なんとか広場から逃げようとするが、思うように動けない。

 

「くそ……こんな時に……がいてくれれば」

「きゃあっ!?」

「キーッ!」

 

しかし、その時戦闘員の一人がルイズへと襲いかかってきた。絶対絶命のその時、一人の人影が飛び込んできた。

 

「トウッやあっ!」

「キーッ!?」

 

飛び込んできた青年は、その戦闘員に肉薄すると、次々と戦闘員を倒していった。

 

「あ、あんたは……」

「さあ、今のうちに!」

 

そう言ってその青年は他の戦闘員へと攻撃し、次々と生徒達を助けていく。

 

「あ、あの人は……!」

 

才人はその人物に見覚えがあった。ルイズも同じく見覚えはあった。エプロンをつけた料理人の姿の彼は、才人へと料理を振る舞ってくれたあの料理人だった。危険だ、逃げろと伝えたかったが、彼はもうすでに二人から離れており、二人はこの場から逃げることしかできなかった。

 

「トウッ!クソ、キリがない!」

「キャーッ!?」

「っ!?させるか!!」

 

悲鳴がした方向に向かうと、一人の女子生徒がハサミジャガーに捕まっていた。

 

「手こずらせやがって」

「クッ!放しなさいよ!」

「威勢のいい女だ……ウオッ!?」

 

青年がハサミジャガーの背中に飛び蹴りを食らわすと、ハサミジャガーは体勢を崩し、女子生徒はその腕から逃れることができた。

 

「君、大丈夫か!?」

「え、ええ……」

「っ!?危ない!」

 

青年が彼女を抱えて飛び退くと、今さっきまで彼らがいた場所が爆発した。

青年が視線を向けると、そこには蹴り飛ばしたハサミジャガーに加え、カメバズーカが立っていた。

 

「威勢のいい人間がいたものだな」

 

ハサミジャガーが青年へと声をかける。

 

「デストロン!貴様らは壊滅したはずだ!」

「確かに我々はV3の手により壊滅した。しかしショッカー復活に伴い、我々はこの異世界侵略部隊として再誕したのだ!」

「そうはさせん、貴様らの野望はこの俺が阻止して見せる!」

「威勢だけはいいな、だがそれもここまでだ!」

 

カメバズーカがそう叫ぶと、戦闘員が彼らの周囲を取り囲んだ。

 

「くっ……仕方がない。君!」

「は、はい?」

「これから見ることは、秘密にしててくれ」

「え、ええ」

 

少女の返答を聞くと、青年は怪人達へと向き直る。

 

「まさかこの世界で変身することになるとはな」

「何だと……?」

 

青年がエプロンを脱ぎ捨てると、彼の腰にとあるものがついていることが確認できた。

それを見た怪人達は驚き、青年へと問い掛けた。

 

「そ、そのベルトは!?貴様、何者だ!?」

「教えてやろう。俺は朝火シンジ、そしてこのベルトは、俺が先代から受け継いだものだ!いくぞ!!」

 

怪人の問い掛けに答えた青年、シンジは両腕を右に伸ばすと、半円を描くように左に回し、右腕を引くと入れ替えるように左腕を引きながら右腕を勢いよく突き出した。

 

「変……身!V3ヤァァッ!!トウッ!!」

 

そう叫んで飛び上がると、ベルトの風車が回転し、シンジの身体が風に飲まれていく。

そして風が止み、着地したシンジの姿は先程までとは変わっていた。

 

「き、貴様はまさか……!」

「なぜこの世界にいる!?」

 

その姿を見たハサミジャガーとカメバズーカは狼狽えはじめた。

その人物は、緑色のボディに白いマフラーをたなびかせ、赤い仮面を付けた姿をしていた。

 

「あなたは、一体……」

 

不意に、女子生徒の口から漏れた言葉に、シンジは振り向かずに答える。

 

「俺は、V3……仮面ライダー、V3っ!!デストロン、貴様らの企みは、俺が阻止して見せる!!」

 

ここハルケギニアで、仮面ライダーV3と悪の組織デストロンとの戦いが、今まさに始まろうとしていた。

戦え、V3!この世界を、デストロンから守るために!




平和な魔法学院に突如現れた悪の組織、デストロン。
その怪人であるカメバズーカとハサミジャガーに、V3が立ち向かう。
ライダーV3とデストロンの戦いの火蓋が、この異世界で切って落とされた。
戦えV3!ハルケギニアの平和は、君の手にかかっている!

次回、「決意の握り拳」ご期待ください。


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第二話 決意の握り拳

突如現れた悪の組織、新生デストロン。

立ち塞がる怪人に魔法も効かず、逃げ惑う魔法学院の生徒達だったが、そこに正義の味方、ライダーV3が現れたのだ!

 

「ライダーV3、なぜこの世界にいる?!」

「生憎だったな。一ヶ月前、俺はショッカーの怪人が発動した時空転移に巻き込まれてこの世界に来たんだ!」

「おのれぇ……いけ、戦闘員!」

 

ハサミジャガーの指示により、デストロン戦闘員がV3へと襲いかかる。

 

「いくぞ!とおッ!」

 

掛け声とともに、V3は戦闘員達と交戦を開始。次々と襲い掛かる戦闘員を蹴りやパンチ、投げ技で倒していく。

 

「とおっ!やあっ!」

「キキーッ!」

 

倒された戦闘員は爆発し姿を消していく。その光景に、先程V3に助けられた女子生徒は呆然としていた。

 

「ふんっ!さあ、君も早く逃げるんだ!」

「は、はい!」

 

V3に言われたことで、女子生徒も漸く避難していった。流石に彼女を守りながらでは、V3も怪人二人を相手にするのは厳しいと判断した。

 

「クソッ、戦闘員では歯が立たんか……」

「やむを得ん。カメバズーカ、お前は先にアジトに戻り、首領へと報告しろ」

「分かった。ここは任せるぞ」

 

ハサミジャガーの提案に乗ったカメバズーカは、戦闘員を盾にしつつこの場から逃走した。それを見逃すV3ではないが、戦闘員に阻まれ、逃走を許してしまった。

 

「貴様の相手は俺だ、ライダーV3!」

「覚悟しろ、ハサミジャガー!」

 

V3はハサミジャガーへと肉薄すると連続して打撃を浴びせるが、ハサミジャガーも負けてはいない。両腕の刃物を振り回し、V3を切りつけていく。

 

「シザァーズ!」

「クッ!どぉあっ!」

 

ハサミジャガーの切りつけを回避すると、V3はハサミジャガーへと組付き、そのまま跳躍。近くの屋根へと着地すると、そのまま左右のパンチ連打を食らわす。

 

「おのれぇっ!」

「グッ!」

 

しかしハサミジャガーもやられっぱなしではない。V3のパンチを躱すと腕の刃物を叩きつける。

 

「これでも喰らえ!シザァーズ!」

「うおっ!?」

 

そしてなんと、ハサミジャガーは両腕の刃物を重ねた巨大なハサミでV3を追い込んでいく。

 

「そらそらそらっ!」

「ぐうっ!」

 

なんとか躱していくV3だが、ついに屋根の端へと追い詰められてしまった。

 

「止めだ!」

「させるか!トオッ!」

 

ハサミジャガーがV3の首を狙って切り落とそうとしたところ、既のところでV3は跳躍して回避し、ハサミジャガーの振り向きざまにそのハサミを根本から蹴り上げた。

 

「セイッ!」

「グアァ!?」

 

蹴り上げられバランスを崩したハサミジャガーは、そのまま屋根から転げ落ち、下の地面へと墜落した。

 

「グウウ……」

「止めだ!トウッ!」

 

それを好機とみるや、V3は屋根から跳躍し、ハサミジャガーへと回転しながら飛び蹴りを喰らわす。

 

「グアッ!?」

 

しかしそれでは終わらず、V3は蹴った反動で再び跳び上がると、再度ハサミジャガーへと飛び蹴りを放った!

 

「V3回転ダブルキーック!!」

「ギャアァッ!?」

 

蹴り飛ばされたハサミジャガーは大きく吹っ飛ばされ、地面へと強かに体を打ち付けられる。

そして、よろよろと立ち上がると、V3を指して言い放った。

 

「ラ、ライダーV3……貴様がいたのは誤算だった……。だがすぐに、新たなデストロンの怪人が貴様を狙うだろう……それまで首を洗って、待っているんだな……!シ、シザァーズ……!」

 

そう言い残し、ハサミジャガーは地面に倒れ、その身体は爆発四散していった。

 

「……望むところだ、デストロン。この世界は、俺が守ってみせる」

 

決意を胸に、これからの戦いに向け覚悟を決めていると、校舎の方から教師と思われる人達の姿が確認できた。

 

「捕まっては面倒だな……ハリケーンッ!」

 

V3がそう叫ぶと、何処からともなくバイクが現れ、V3はそれに飛び乗るとそのまま何処かへと走り去っていった。

後には爆発した痕跡のみが残されていた。

 

 

『何だと?ライダーV3が現れただと!?』

 

およそハルケギニアには似つかわしくない、電子音が鳴り響く部屋の中。複数人の人影が声の主へと視線を向けている。

しかしそこには誰もおらず、サソリを象ったエンブレムが飾ってあるだけだ。

 

「はい。まさか学院に潜伏していたとは……」

 

魔法学院を襲撃した怪人の一人、カメバズーカがエンブレムへ向かって話す。

 

『うぅむ。奴がいる以上、今後の作戦にも支障が出るやもしれん。カメバズーカよ、至急ライダーV3を抹殺するのだ!』

「ズゥーカァー!」

 

再びデストロンの魔の手が迫ろうとしていた。

 

 

デストロン襲撃の翌日。学院は蜂の巣をつついたような騒ぎになり、すべての授業を休講にし、学生達は自室での待機を命じられることになった。

学院の裏庭の井戸で、一人の青年が水を浴びていた。

 

「――ぷはぁっ!」

 

青年―朝火シンジは水で濡れた体をタオルで拭くと、近くにかけていた着替えに袖を通す。

 

「しかし、まさか学院長に見られていたとは……」

 

そう呟くと、シンジは朝の出来事を思い出していた。

 

――――――

 

朝、いつも通り朝食の用意をしていたところに、教員であるコルベールがやってきて、そのまま学院長室へと連行された。

そして、学院長室の扉をくぐった先では、当然のごとくこのトリスティン魔法学院学院長の、オールド・オスマンが待っていた。

 

―――秘書の女性に、踏みつけられている姿で。

 

「……何してるんですか」

 

心底呆れたという風にコルベールがため息を吐く。

事情を訊けば、いつも通り、オスマンが秘書の女性―ロングビルにセクハラしたのが原因だという。

……もう何も言えない。

漸く足蹴から開放されたオスマンは、咳払いをするとロングビルを部屋から退出させ、椅子に座るとシンジへと視線を向けた。

 

「さて……単刀直入に訊くが、君は何者だね?」

 

その言葉にシンジは僅かに警戒を強めた。

それもその筈。この質問をしてくるということは、あのとき起きていたことを見られていた可能性があるが、周囲から誰かに見られている気配はなかった。昨日の今日であの女生徒から漏れたというのも考えにくい。

しかし、そのシンジの心を見透かしてか、オスマンは軽く笑ってから言った。

 

「ホッホッホ、そう警戒せんともよい。お主が奴らの仲間ではないということは理解している。ただ単純に、お主の事を知りたいだけじゃ」

 

次いでオスマンは、実はあの時遠見の鏡にてシンジが変身するのを目撃したと話した。それと同時に、デストロン襲撃の際駆けつけられなかったことをコルベールとともに謝罪した。

 

「オスマン学院長、それにコルベール先生。謝ることはありません。むしろ非難されるのは俺の方です。俺が怪人の気配に気づいていれば、犠牲者を出さずにすんだのに……。お話しします、デストロンの事。そして、俺の事も」

 

それからシンジは、二人にすべてを話した。話を最後まで聞いたオスマンとコルベールは怪人という妖魔とも違う存在、そしてそれを操る悪の組織の脅威を、シンジの話により再認識した。

 

「……ありがとう、話してくれて。デストロンの件は至急王宮へと報告し、対策を練るとしよう」

「それは難しいでしょう」

「何故じゃ?」

「デストロンは残忍で狡猾だが、それ以上に慎重だ。滅多なことじゃ、奴らの行いは表に出ることはない」

 

事実、過去にデストロンが暗躍していた時期は、その存在は一般人には全くといっていいほど知られていなかった。そのせいで犠牲者が出た事件もある。

 

「それでも、何もしない訳にはいかんじゃろう。儂らにはこの学院の生徒達を守る義務がある。なぁに、連中の痛いスネを突けば、何とかなるじゃろうて」

「……分かりました。ですが、気をつけてください。デストロンの魔の手は、どこに潜んでいるのかわからないのですから」

 

それを最後に、シンジは学院長室をあとにした。残されたオスマンとコルベールは、彼が出ていった扉に視線を向けながら、先の話の内容を胸に刻みこんだ。

 

「悪の組織デストロンに、それにより生み出された怪人。そして、それらと戦う仮面ライダー……のう、ミスタコルベール」

「はい」

「これからこの国は……いや、この世界は大変なことになるじゃろうて……」

 

そう語りながら窓の外を向いたオスマンの眼は、遠く天を見つめていた。

 

――――――

 

学院長室をあとにしたシンジは、一旦厨房に戻るも、当然というか仕事は全部終わっており、事情が事情のためお咎めはなかった。そして休憩時間になると、考えたいこともあったため外に出て水を浴びることにしたという訳だ。

 

(デストロン……先代から聞いていたが、奴らがこのまま大人しくしているとは思えない。障害となる俺を消すため、すぐに行動してくる筈だ)

 

近くの芝生に腰を下ろし、今後のデストロンの動向について考えを巡らす。

このままでは学院の、厨房の皆にも迷惑が掛かるだろう。

ここから去った方がいいのだろうか……。そんな考えが頭をよぎる。

 

「あら、何か考え事?」

 

不意に声を掛けられ、反射的に振り向いた先には、一人の女子生徒がいた。 

 

「君は……」

「隣、いいかしら」

「あ、ああ」

 

そうシンジが答えるやすぐに、女子生徒はシンジの隣に腰を下ろした。

 

「……俺に、何か用か?」

 

そう問い掛けるシンジに、彼女ははクスリと笑った。

 

「ふふっ、そうね……まずは昨日のお礼を言いたくて、ね」

「気にしないでくれ。当然のことをしただけだ」

「あら、謙虚なのね。でもその当然ができる人間はなかなかいないものよ。だからちゃんとお礼を言わせて頂戴……助けてくれて、ありがとう」

 

そのセリフには流石のシンジも照れくさかったのか、彼女から視線を外して頬を掻いた。

 

「なんだかむず痒いな……でも、本題はそれじゃないんだろう?」

「……ええ、そうね」

 

二人の間に、暫しの沈黙が流れる。

 

「お礼を言いに来たってのも、嘘じゃないわ。でも本当は、あなたのことを訊きに来たの」

「……やめておけ。聞いてて、気持ちのいい話ではない」

 

そう言い放つと、シンジは話は終わりと言わんばかりに腰を上げてこの場を去ろうとした。

だが立ち上がろうとした瞬間、腕を引かれる感覚に視線を向けると、彼女がシンジの腕を掴んでいた。

シンジはその腕を振り払おうとはせず、片膝をついて彼女の肩に手を乗せて諭すように話した。

 

「いいか。奴らは、デストロンは目的の為なら手段を選ばない。これ以上踏み込めば、昨日以上の危険に晒される。悪いことは言わない、もう関わるんじゃない」

「優しいのね。でも、あたし聞いてしまったの。断片的だけど、あなたと学院長が話しているのを……」

「……盗み聞きとは、いい趣味とは言えないな」

「あなたの姿を見かけてつい、ね。……教えて、あなたは何者なの?」

 

再び、二人の間に沈黙が流れる。ふと、シンジは彼女の眼を見た。その瞳からは、恐怖の色が見えたが、それと同じくらいの確固たる覚悟が感じられた。

 

「……分かった。だが、聞けばもう後戻りはできない。いいんだな?」

「……ええ」

 

シンジは観念したように、彼女の隣に再び腰を下ろした。

 

「では改めて話そう。俺の事を。その前に、君の名前を聞いてもいいかい?」

「キュルケ。二つ名は『微熱』よ」

「俺は朝火シンジ。朝火がファミリーネームで、シンジが名前だ」

「アサヒ・シンジ……変わっているけど、素敵な名前ね」

 

彼女――キュルケにお世辞だろうが名前を褒められたことで、シンジの頬が僅かに緩んだ。

 

「ありがとう。……キュルケ、初めに言っておこう。俺は……改造人間だ」

「改造、人間……?」

「ああ。俺の身体は、もう生身の人間の身体じゃないんだ」

 

それを聞いたキュルケは、ついシンジの身体を触った。その感触は、確かに生身のような柔らかさや温かさはなく、無機質な印象を与えていた。

 

「嘘……じゃああなたは、人間じゃないの……?」

「いや、人間だよ。少なくとも、心は人間だ。この身体も、生まれたときからこうだった訳じゃない」

 

どこか悲しげな表情で、シンジは更に続けた。

 

「俺は城南大学に通いながら、町の食堂で働いていた。料理人を目指しながらな」

「何故、料理人に?」

「妹との約束でな。俺には、6つ下の妹がいた。だがある日、ショッカーに拐われた妹を助ける為、俺はショッカーの基地に忍び込んだが、そこで瀕死の重傷を負ってしまった。このままでは死ぬのを待つだけだったが、そこにあの人達が現れた」

「あの人達?」

「ああ。仮面ライダー1号、2号、それに先代の仮面ライダーV3だ」

 

その発言に、キュルケは驚きの余り身を乗り出しつつシンジに尋ねた。

 

「先代って、あなたみたいなのが他にもいたの?」

「ああ。瀕死だった俺は、先代ライダー達に助けられ、ショッカーと戦うための力……改造人間、仮面ライダーとしての力を手に入れた。大変だったな……初めは力の制御ができず、日常生活を送るのにも苦労していた」

 

苦笑しつつ、懐かしむように話すシンジの様子を、キュルケは黙って見つめていた。

 

「それまでの生活に加え、ショッカーとの戦いの日々。だが俺は仲間に恵まれた。先代ライダー達に、俺と同じ二代目の1号、2号……大和座先輩に力動先輩のおかげで、俺はこの力を、自分の物にすることができた」

「そう……」

 

あまりに想定を超えた話に、キュルケは言葉が出なかった。

 

「そして、ショッカーと戦い続けていたある日、俺はとある怪人を追っていた。だが、その怪人を倒したとき、ヤツの持っていた時空転送装置に巻き込まれ、俺はこの世界に飛ばされた」

「この世界?まるで別の世界から来たかのような言い方ね」

 

シンジの言い方に違和感を覚えたキュルケは、なんのけなしにそう呟いた。しかし返ってきたのは、またも予想外の答えだった。

 

「ああ。俺はこことは違う世界からやってきた」

「冗談でしょう?流石にそれは信じられないわよ」

「信じなくてもいい。だが、事実だ」

 

そう答えたシンジの眼は真剣そのものであった。じっと見つめられたキュルケはつい顔をそらしながら、続けて尋ねる。

 

「あなたが別の世界から来たとして、どうして学院で働いているのよ?」

「ああ。この世界に転移した直後、戦闘のダメージで倒れていた俺は、ここの料理長のマルトーさんとメイドのシエスタさんに助けられた。帰る宛もなく、ここで働いていたところに昨日の事件だ。この世界で、復活したデストロンが悪事を企むなら、俺は奴らと戦う。この世界を、守る為にな」

 

拳を握りしめながら、シンジはこれからの戦いに向けた覚悟を口に出した。

不意に、キュルケがシンジとの距離を詰め、彼の肩に頭を乗せた

 

「立派ね。ここのカッコつけた男子達とは大違い……」

「そんな大層なもんじゃない。彼らはまだ子供だ、俺は彼らより、少しだけ色々経験しているというだけだ」

 

何気なくそう言ってのけるが、その経験が人並外れているということは彼自身自覚しているつもりではある。

するとキュルケはシンジの手に自分の手を重ねながら、更に続けて言った。

 

「けど、だからといってあなたが戦う必要あるの?そのデストロンだって、軍隊に任せておけばいいのに」

「無理だ。この世界の軍がどのくらい強いは知らんが、デストロンの力はその悉くを凌ぐだろう」

「それが本当だとしたら、尚更あなたが全部背負う必要はないじゃない。デストロンって、昨日みたいな化け物が他にもいるんでしょ?」

「いや、俺がやらなければならないんだ。この命に変えても……それが、仮面ライダーの使命だからな」

 

そう言って、シンジは彼女を軽く押し退けるとそのまま立ち上がり、今度こそこの場を去るために歩き出した。

 

「あぁっ、ちょっとぉ」

「これで俺の話は終わりだ。君も早く部屋に戻りな」

 

振り返らずにキュルケに向かって手を振り、そのままシンジはこの場から歩き去った。

残されたキュルケは、彼の去った方向を見ながら、何かを考えるように立ち尽くしていた。

 

(何故かしら……彼に助けられてから、今までとは違う『熱』を感じるわ。もしかしてあたし……)

 

キュルケの頬は、ほんのりと赤みを帯びていた。




デストロンによる襲撃の混乱も落ち着き、シンジはマルトーより街へ行けと言われ、虚無の曜日に街へと遠出する。そこで料理人として、この世界の料理を知ろうとしたが、予期せぬ問題に差し掛かる。しかしそこに思いもよらぬ助け船が!

次回、「街に潜む影」ご期待ください。


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第三話 街に潜む影

「う……」

 

朝の光に照らされた部屋で、才人は目を覚ました。

身体を起こして確認すると、自分はベッドで寝ており、更に身体には治療の跡があることに気がついた。

一体誰が……。そう思っていると、ルイズが机に突っ伏して寝ているのが目に入った。まさか……と思っていとドアが開き、シエスタが入ってきた。その手に持ったトレーには、パンと水がのっていた。

 

「お目覚めですか?サイトさん」

「俺は……!そうだ、あいつらはっ!?……いっつつ」

「あ、無理してはだめですよ!あれだけの大怪我では、『治癒』の呪文でも完璧には治せません!ちゃんと寝てなきゃ!」

 

才人は再びベッドに寝転ぶと、シエスタからルイズが才人の為に手を尽くしてくれたこと、看病してくれたことを聞き、彼女のことを内心少し見直したのだった。

 

「俺、どのくらい寝てたの?」

「三日三晩、ずっと寝続けてました。目が覚めないんじゃないかって、皆で心配してました」

「皆って?っていうか三日!?」

 

シエスタから告げられた日数に才人は驚き、再びベッドから跳ね起きた。

 

「で、ですから寝てないと!」

「あいつらは、怪人達はどうしたんだ!?」

 

才人はシエスタの肩を掴み、あの時に襲撃してきた怪人達がどうなったかについて尋ねる。

その表情は鬼気迫っており、気圧されたシエスタはついビクッと肩を震わせた。

 

「わ、私もよく分からないのですが、聞いた話では新たな亜人が現れ、初めに現れた亜人の軍勢を撃退したそうです」

「仲間割れ……?そいつの姿は分かるか?」

「すみません、そこまでは……」

 

申し訳無さそうに顔を伏せるシエスタに、才人は彼女の肩から手を離した。

 

「ごめん、つい……」

「い、いえ。私なら大丈夫です」

 

気まずい空気が流れるが、その空気を破るように大きなあくびが聞こえてきた。

 

「ふぁああああああああ……あら、起きたの。あんた」

「う、うん」

 

目を覚ましたルイズは立ち上がると才人に近寄る。才人は内心ドキドキしてたが、ルイズからかけられたのは心配の言葉でもお叱りの言葉でもなかった。

 

「ねえあんた。あの亜人達のこと知っているの?」

「……ああ」

「そう。なら、話してもらえるかしら」

 

正直三日間寝込んでいた人間に訊くことではないが、彼女の鳶色の目は真剣そのもので、興味本位などではないことを物語っていた。

だからだろうか。才人は変な反抗心を持たずに、自分の知っていることを話すことにした。

シエスタは気を使って退出しようとしたが、才人がそれを引き止めた。彼女にも、奴らの危険性を認識してほしかったからだ。

それから才人は、二人に奴らについて知っている限り話した。

才人の話を聞いた二人は信じられないといった表情をしたものの、それも無理はないと才人は思っていた。

 

「けど、そんなの軍隊が動けばすぐに制圧されるんじゃないの?」

「いや、魔法がどれくらい強いかはわからないけど、奴らのことだ。それも計算に入れて作戦を立てている筈だ。そうでなくとも普通の人間じゃ奴らには敵わない」

「そんなの……!」

 

分からない。と言いかけたルイズだが、先の襲撃の際に生徒が放ったものとはいえ受けた魔法を全く意に介さない怪人達のことを思い出し、言葉を詰まらせた。

 

「そんな……じゃあどうすれば」

 

シエスタは悲観したように震えた声で呟いた。

ルイズも声には出さないが、怪人達によって国や家族が蹂躙される光景を想像してしまったのか、よく見れば手が震えていた。

 

「ちょっと待てよ。もしかして……」

「どうしたのよ?」

「なあルイズ、お前知らないか?あいつらを撃退した奴の姿を」

 

サイトに訊かれたルイズはその質問の意図が分からなかったが、少しうーんと首をひねると、思い出したかのように口を開いた。

 

「それだったら、生徒達の間でも噂になっているわ。私は直接見てないけど、なんでも虫みたいな見た目だったとか」

 

その話を聞いた才人は驚きのあまり目を見開き、そして喜びのあまり体を震わせた。

 

「サイト?」

「サイトさん?」

 

二人は不思議に思って声をかけるが、才人は先程までの悲壮感のある表情から一変、笑顔で二人に答えた。

 

「ルイズ、シエスタ!なんとかなるかもしれないぞ!」

「ど、どうしたのよ一体?」

「仮面ライダーだよ!仮面ライダーが来てくれてたんだ!」

 

降って出た希望に、才人は喜びベッドから飛び起きるが、二人は何のことか分からない。

 

「ちょ、ちょっと!何一人で喜んでるのよ!?その、かめんらいだー?ってなんなのよ?!」

 

ルイズの声に落ち着きを戻した才人は、二人に仮面ライダーのことについて説明した。

悪と戦う正義の味方、仮面ライダー。闇あるところに、仮面ライダーは現れる……例えそれが異世界だろうと。

 

 

襲撃から暫く経ち、生徒達の自室待機も解除され、同時に授業も再開されたことで、学院にはいつもどおりの景色が戻ってきた。

そして、それは厨房でも同じ。大勢の生徒達の食事を作るため、今日も厨房は大忙し。その中にはシンジの姿もあった。

そして昼食の時間が終わった頃、一息ついているシンジにマルトーが話し掛けてきた。

 

「虚無の曜日、ですか?」

「ああ。この一ヶ月で、お前も仕事に慣れただろう。ここらで一つ、街にでも行って羽根を伸ばしてきな。給料も出たことだしよ」

「ですが……」

「いいから行って来い!それに、街にもうまい店は沢山ある。舌を鍛えるのも仕事だぞ」

 

そう言ってマルトーは他の料理人のところへと向かった。残されたシンジは近くの椅子に腰掛けて、マルトーに言われたことについて考え込む。

 

(確かに、給料が出たら街に出て色々食べ歩きたいとは思っていた。それに、もしかしたらデストロンに関してなにか情報が見つかるかもしれない。お言葉に甘えて、今度街に行ってみるか)

 

そうしてシンジは、次の休日に向けて、頭の中で予定を立て始めたのだった。

 

 

ついに訪れた休日、虚無の曜日。

この日は生徒達も授業が休講になるため、シンジ達奉公人の仕事も普段よりは楽になる。そのためシンジも休暇を貰い、街へ行くことができるというわけだ。

 

「さて行くか。ハイよっ!」

 

借りた馬の手綱を握り、街のある王都へと走らせる。ハリケーンで向かったほうが早いのだが、あまり目立つことはしないほうがいいと考えたため、馬を借りることにしたのだ。

慣れない馬ではあるが、そこは仮面ライダーの力でなんとか抑え込むことで乗りこなしていた。

シンジは内心楽しみにしていた。学院の賄いとは違う、この世界の料理を味わえると考えると、料理人志望として興味がわかないわけがなかった。

そして馬に乗ること3時間、シンジは漸く王都へと辿り着いた。

 

「これが……話には聞いていたが、すごいな」

 

シンジの目の前にはまるで中世ヨーロッパのような街並みが広がっており、元いた世界とはまた違った感想を抱いた。

暫く街を散策していると、成程王都というだけはあり、人々に活気がある。

そんな時、ぷぅんといい匂いがシンジの鼻孔をくすぐった。視線を向けるとそこは食堂らしく、中を覗けば食事をしている人達で溢れていた。

 

「丁度いい。よし、一軒目はここにするか」

 

そうしてシンジは食堂に入ると、店員に案内された席に座り、メニュー表に目を通す。

しかし、ここで思わぬ問題が発覚した。

 

「うーむ、断片的にしか読めん」

 

この世界に来て一月。もちろんその間文字の勉強をしなかったわけではない。むしろ簡単な文章くらいなら書けれるようにはなった。

しかし、料理のメニューといったものはまだ完璧に読むことはできず、普段の仕事もマルトーの指示に従ってなんとかこなせてるといった状況だ。

 

「適当に頼むか?いや、それで変なのが来ても困るな……うーん」

「お困りみたいね」

 

不意に声をかけられ、その方向に視線を向けると、シンジが座ったテーブルの近くに何故かキュルケが立っていた。

 

「ここ、空いてるでしょ?座らせてもらうわね」

 

シンジの返答を待たず、キュルケはシンジの向かいの椅子に腰掛けると、未だ驚いているシンジの手からメニューをひったくる。

 

「あ、おい!」

「へぇ、色々あるわね。ねぇタバサ、あなたは何がいい?」

「これ」

 

気付けばいつの間にいたのか、青髪にメガネをかけた少女がキュルケの隣に座って一緒にメニューを除いていた。

 

「え、誰?」

「タバサ。あなたは?」

「あ、うん。俺は朝火シンジ」

「すいませーん。注文いいかしら?」

 

何だか分からないうちにシンジがタバサと自己紹介している間、キュルケは店員の女性を呼び注文を伝えていく。

ちなみにシンジの意見は聞いていない。

 

「って、何勝手に注文してるんだ!?」

「いいじゃない。それにあなた、メニューが読めなくて困っていたんでしょ?」

「うっ。それを言われると……」

 

返す言葉もなく、シンジは大人しく彼女が注文したものを食すことにした。

少し待つと、彼らのテーブルに料理が運ばれてきた。

眼の前に置かれた皿の上にはパスタが乗っており、具材もシンプルで、いかにも街食堂の料理といった印象だ。

手を合わせてからパスタを口に運ぶ。

 

「お、美味いな」

「本当ね。このソースが決め手かしら」

「ズゾゾゾゾ」

 

見た目以上の美味しさにシンジとキュルケは舌鼓をうち、タバサはその物静かな雰囲気からは想像もできない勢いでパスタを飲み込んでいった。

 

「ほのかな酸味を感じるが、トマトではないな。何かベリーのようなものか……」

 

シンジはソースを口に含んで材料を推測し、ポケットから取り出したメモ帳に記入していく。

キュルケはそんな様子を温かい目で見ながらパスタを口に運んでいった。

その二人をよそに、タバサは勝手におかわりを頼み、二人が食べ終える頃には、その身体のどこに消えてるのかわからない量を平らげていた。

会計時の金額を見て、シンジの目が飛び出しかけたのは、また別の話。

 

 

「ん~、結構美味しかったわね。次はどうしましょうか?」

「……本屋」

 

腹ごなしも済み、ここブルドンネ街の大通りを歩きながら、次の予定を話し合っているキュルケとタバサ。

シンジはその一歩後ろで、自身の財布とにらめっこしてる。

 

「うぅ……量の割には安かったが、それでも結構な出費に……」

「うふふ、ご馳走様」

「ったく。ところで、なんで君達まで街にいるんだ?」

 

シンジの質問にキュルケはフフンと胸を張った。

 

「ふと窓の外を見たら、馬に乗って出かけるあなたを見かけたの。それで追いかけてきたってわけ」

「その友達も一緒にか?」

「そ。ここまでタバサの使い魔に乗せてもらったのよ」

 

キュルケの言葉にタバサは小さく頷いて肯定の意を示す。

 

「有無を言わさぬ勢いだった」

「……あまり友達に迷惑かけるなよ?」

 

二人のジトっとした視線にさすがのキュルケもたじたじになる。

 

「わ、分かってるわよ。それで、次はどうするの?」

「ついてくるつもりか?」

「当たり前じゃない。あなただって、私達がついていたほうが安心でしょ?」

 

キュルケの言うとおり、また書いてあることを完璧に読めないシンジにとって彼女達の存在は心強い。

 

「はぁ、分かったよ。だけど、俺は今日ここに料理の勉強のために来たんだ」

「要するに食べ歩きでしょ。美味しいお店なら知ってるから、任せて頂戴」

 

胸を張って答えるキュルケ。仕方なくシンジは彼女達と一緒に行動することになった。

それから彼女達の案内で街を巡り、時々服屋や宝石店、本屋などにも寄りながらこの世界の料理を堪能した。

 

「おかげで給料はすっからかんだけどな……」

「何か言った?」

「何でもないよ。……ん?」

 

その時ふと、シンジは視界の端に違和感を感じて視線を向ける。

視線の先には人混みしかなかったが、シンジは改造人間の強化された視力でソレを捉えることができた。

 

「あれは……!」

 

捉えたのはまだ日中というのにローブを着た人物が路地へと消える光景。だがそれだけではない。その人物が来ていたローブの背中にはあるマークが描かれていた。

サソリを象ったマーク……それが示すものは一つしかない。

 

「デストロン……!すまん二人共!」

「え?ちょっと!?」

 

すぐにシンジは走り出し、ローブの人物を追う。路地は入り組んでおり、強化された身体能力を以てしても追いつけない。

 

「くっ!見失ったか……」

 

相手はこの路地を知り尽くしているのか、何番目かの角を曲がったときには姿が綺麗サッパリ見えなくなっていた。

 

「一体、どうしたのよ……?」

 

追いかけてきたのだろうか。息を切らしたキュルケがシンジに尋ねた。その傍には対象的に涼しい顔をしたタバサの姿もある

 

「いや、気にしないでくれ。ただの見間違いかもしれん」

「見間違いって……一体何を見たのよ?」

「それは言えんが、一先ず大通りに戻ろう」

 

不満を残しながらも、キュルケ達はシンジの言葉に従い、もと来た道を戻って大通りへと向かう。その途中、意外な人物に出会った。

 

「あら?ルイズじゃない。こんなところで何してるの?」

「キュルケ!?あんた達こそなんでいるのよ?」

 

偶然にも買い物に来ていたらしいルイズと才人に遭遇した。

話を聞けば、こないだのデストロンの一件で、護身用に剣を買いに来たとのこと。

 

「あ、あの」

「ん、どうした?」

「この間は、ありがとうございました」

「ああ。礼なんていいよ、気にするな」

 

恐らくデストロン襲撃の際に助けたことについてであろう、才人がシンジにお礼を言った。

 

「いやそういうわけにはいかないっすよ。あいつらに立ち向かえるなんて……えっと、お名前なんでしたっけ?」

「そういえば、俺だけまだ名乗ってなかったな。俺は朝火シンジ。改めてよろしくな、才人君」

「あ、はい!こちらこそ、よろしくお願いします」

 

そう言ってシンジが差し出した手を、才人は握り返した。

 

「ところでその名前、もしかしてシンジさんって」

「ああ。俺も思っていたが、どうやら君と俺は『同郷』らしいな」

 

その言葉に才人は驚いたような、喜んだような、安心したような表情を浮かべ、両手で強くシンジの手を握った。

 

「よかった〜俺一人じゃなくて……ということは、シンジさんも誰かに召喚されて?」

「いや、俺はちょっと訳ありでな」

 

流石に事情を正直に話す訳にはいかず、はぐらかして答える。

それから成り行きで一緒に大通りへと戻った5人はそのまま一緒に行動することに。

キュルケとルイズは因縁があるのか口喧嘩(と言っても、ルイズが突っかかっているだけだが)がそこそこの頻度で起こったが、シンジは微笑ましいものを見る目で見ていた。

そして学院に戻る時になり、キュルケに一緒にタバサの使い魔に乗って帰ろうと誘われたが、何故か警戒された為、結局待ちに来たときと同じ、馬で戻ることにした。

その姿を見つめる、怪しい影に気づかないまま。

 

 

「成程。やはりV3はあの学院に戻っていったか」

 

戦闘員からの報告を聞き、カメバズーカは別の戦闘員へと指示を飛ばす。

 

「よし、作戦決行は今夜だ。学院に到着したら、V3に見つかる前にあの女を確保するのだ!」

「キキーッ!」

「フッフッフ。ライダーV3、今夜が貴様の最期だ。ズゥーカァー!」

 

カメバズーカの笑い声が怪しく木霊する。

デストロンの魔の手が、再び学園に迫ろうとしていた。




教員も学生も寝静まった深夜、V3を倒すため、カメバズーカが魔法学院へと襲撃してきた。立ち向かうV3、そこにキュルケ達も現れるが、恐るべき事実がカメバズーカより伝えられる。危うし、V3!その時、才人が閃いた作戦とは!

次回、「闇夜の襲撃 危うしV3!」ご期待ください


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第四話 闇夜の襲撃 危うしV3!

 

草木も寝静まり、風で木々が揺れる音のみが響く深夜。学院の宝物庫の傍に一人の女性の姿があった。

彼女はロングビル。オスマン学院長の秘書を務めている女性だが、その正体は巷を騒がせているメイジの怪盗、「土くれのフーケ」である。

今回はこの学院の宝物庫に保管されている、あるものが目当てで今下見をしているというわけだ。

 

「ふーむ。確かにコルベールの言っていたとおり、これは骨が折れそうだねぇ」

 

宝物庫の外壁は、『固定化』の魔法でガチガチに固めており、『錬金』などで穴を空けるのも無理そうだ。

コルベール曰く、単純な物理的破壊ならば可能らしいが、それもどれ程のレベルからなのか。

 

「私のゴーレムで破壊できるか、五分五分ってところか……一先ず今夜は戻って、作戦を考えるとするか」

 

そう呟き、彼女は宝物庫から離れていく。しかしその途中で、思いがけない人物と出会った。

 

「あれ、ロングビルさん?」

「っ!あ、シンジさんでしたか。こんな時間にどうして外に?」

「いや、ちょっと考え事をしてたら、夜風に当たりたくなりましてね。ロングビルさんこそ、どうして?」

 

シンジの問いかけに、彼女は少し言葉に詰まったものの、すぐにいつもの調子で笑顔をつくって誤魔化した。

 

「私は夜の見回りです。こっそり寮を抜け出す生徒が跡を絶たないもので」

「大変ですね。よろしければ手伝いますよ」

「ありがとうございます。お気持ちだけ受け取っておきますわ」

 

そう言ってロングビルはこの場を去ろうとしたが、それをシンジが引き止めた。

 

「遠慮しないでください。こないだみたいな怪人が急に襲ってこないとも限らないですからね」

「……分かりました。ではここの見回りが終わるまで、お願いします」

 

下手に断って、変な疑いを持たれるよりはマシだと判断し、彼女はシンジの提案を受け入れることにした。

 

「っ!危ない!」

 

突然シンジが彼女を抱えて横に飛び退いた。その直後、先程までいた場所で爆発が起こり、巻き上げられた土が彼らに覆いかかる。

訳が分からずにいると、暗闇から複数の人影が飛び出してきた。

 

「「「「キキーッ!」」」」

「デストロンの戦闘員か!」

 

シンジはロングビルを守るように立ち、戦闘態勢をとる。

彼女は未だ状況が飲み込めないのか、座り込んで呆然としているが、新たに現れた異形の姿を見たときは流石に悲鳴を上げた。

 

「ズゥーカァー!朝火シンジ、貴様がいなければデストロンの邪魔する者はいなくなる。ここで死んでもらうぞ!」

「そうはさせるか!倒されるのはカメバズーカ、お前の方だ」

「減らず口を、いけ戦闘員!」

「「「「キキーッ!」」」」

 

カメバズーカの指令で戦闘員達が一斉にシンジ達に襲いかかる。

 

「トウッ!」

「キーッ!?」

 

徒手空拳で戦闘員に応戦していく。変身しなくても戦闘員如きに遅れは取らない。

 

「今のうちに逃げてください!」

「む、無茶です!死ぬ気ですか!?」

「俺なら大丈夫です。さあ、早く!」

 

強く急かされたことで、漸くロングビルはこの場から逃げようと動く。だがそれを見逃すカメバズーカではない。

 

「逃さん!ズゥーカァー!」

「キャアアっ!?」

「ロングビルさん!?」

 

ロングビルを狙ったカメバズーカの砲撃により、彼女の体が跳ねる。

直撃はしなかったようだが、その衝撃で彼女は気絶してしまった。

 

「くそっ!?こうなったら……フンッ」

 

シンジは覚悟を決めると、両腕を右側へと伸ばす。と同時に、腰に命のベルト、ダブルタイフーンが出現した。

 

「変……身!V3ヤァァッ!!トウッ!!」

 

変身ポーズを決め、飛び上がったシンジの身体が風に包まれ、着地した時には仮面ライダーV3へと変身完了した。

 

「覚悟しろ、カメバズーカ!」

「ほざくなV3!やれぇい!!」

 

再び襲いかかる戦闘員を次々と倒していくV3。

夜の学園で、V3とデストロンの命をかけた戦いが始まった。

 

 

「ふんふーん♪」

 

自室の鏡台の前で鼻歌を歌いつつ、キュルケは髪を梳かしながら、昼のことを思い出していた。

 

「改造人間って言ってたけど、見てると普通の人間と違わないのよね。それに……貴族が平民に奢られるなんて。優しいのか見栄っ張りなのか、どっちなのかしら」

 

思い浮かべるのは、最初の会計時の光景。自分とタバサの分くらいは出すと言ったのにも関わらず、シンジは「年下の女の子に出させられるかよ。黙って奢られとけ」と言って全員分出したのだ。

会計後は予想外に高く付いたことに(大体タバサが食べすぎたせい)ぼやいてはいたが、文句を言うことはなかった。

そこに下心はなく、純粋な善意しかなかったことに、キュルケは関心を持った。

そうしてるうちに身支度も終わり、そろそろ寝ようかとベッドに向かおうとした。

 

ドオォーン!!

 

「な、何!?」

 

しかしその時爆発音が響き、キュルケは驚き反射的に杖を取る。

 

「まさか……デストロンの襲撃!?」

 

そう思い至ると急いで寝間着から着替え、部屋の外に飛び出す。

廊下に出ると同じく爆発音に反応したのか、ルイズと才人の姿があった。

 

「キュルケ!?まさかあんたも行くつもり?」

「当然じゃない。あんたが行くんなら、なおさらね」

「二人共やめとけって!あの爆発音、間違いなくデストロンだぞ!」

 

才人が止めようとするが、二人は聞く耳を持たない。

 

「学院が襲撃されてるのよ!デストロンだろうとなんだろうと、黙っていられないわ!」

「だからって、戦うのは無茶だ!」

 

二人が口論をしていたとき、二度目の爆発音が響き、それを聞いたキュルケは我先にと走り出した。

それに続いて、ルイズと才人も走り出す。

 

(デストロンが来てるということは、間違いなく彼が一人で戦っている筈……シンジ、無事でいなさいよ)

 

シンジの身を案じながらキュルケは駆ける。道中タバサと合流しながら、四人は今まさにデストロンが暴れているであろう現場に向かった。

 

 

「う、うぅ……」

 

うめき声を上げて目を覚ましたロングビルは、体の節々を襲う痛みに顔を歪めた。

 

(わ、私は……そうだ、あいつは……!)

 

体を起こしながら、周囲の把握に努める。すると信じがたい光景が目に入った。

 

「トウッ!やあっ!」

「キーッ!?」

 

赤い虫のような顔をした怪人―V3が、デストロンの戦闘員と戦っている。

 

「な、何が起こって……」

 

ついそう溢れたとき、彼女に気付いた戦闘員が襲いかかってきた。

 

「ひっ!?」

 

迎撃しようとするが、痛みと恐怖で体が強張って動かない。

 

「いかん!?トウッ!」

 

それに気付いたV3が飛び込み、彼女に襲いかかろうとした戦闘員にパンチを食らわせる。

 

「無事か?」

「あ、ああ……」

 

V3が助けてくれたことに暫し放心するロングビルをよそに、V3は周囲への警戒を解かぬまま告げる。

 

「奴らは俺が相手をする。早く逃げるんだ」

「ま、待ってくれ!もう一人、男がいただろう?」

「……彼なら大丈夫だ。さぁ、早く逃げるんだ」

 

それだけ答え、V3は再びデストロン戦闘員へと向かっていく。

ロングビルは立ち上がると、痛む体に鞭打ってこの場から離れようとする。

しかしそれをみすみす見逃すデストロンではない。

 

「キキーッ!」

「っ!?しまった!?」

 

戦闘員の一人がロングビルへと襲いかかる。

V3も気付いて助けに向かおうとするが、他の戦闘員に阻まれて思うように動けない。

 

「くっ!離せ、このっ!」

 

ロングビルも抵抗するが、生身の人間と改造された戦闘員では体力に差があり、振りほどけずにいる。

万事休すかと思われた時、突然戦闘員の体が何かに弾かれたように吹っ飛んだ。

 

「間に合った」

「大丈夫ですか、ミス・ロングビル!?」

「やっぱり仮面ライダー、しかもV3だったんだ!!」

 

駆け寄ってきたルイズがロングビルを助け起こす。彼女に続いてやってきたキュルケやタバサ、才人がそれぞれの得物を戦闘員達へ向けて構える。

 

「あなた達、なんで出てきたの!?」

「学院が危険なんです!黙ってみてられません!」

「あたしは彼が心配だからだけどね」

 

危険な状況に首を突っ込んだことにロングビルはつい口調を荒げるが、ルイズは毅然とした態度で答え、キュルケは視線の先にV3を捉えていた。

 

「V3っ!こっちはあたし達に任せて、あなたはその怪人を!」

 

そうV3に向けて叫びながら、キュルケは迫る戦闘員へと炎を食らわせる。炎に包まれた戦闘員は断末魔を上げながら倒れ、爆発した。

 

「……『エア・カッター』」

 

表情を崩さず、タバサも魔法で戦闘員を撃破していき、それに負け時とルイズが爆発魔法でまとめて吹っ飛ばす。

 

「いつもは忌々しく感じるけど、こういうときは便利ね。ほら、あんたもしっかりやりなさいよ!」

「無茶言うなって……ああ、もう!わかったよ!」

 

ルイズの凄みに圧されて才人も剣を手に戦闘員へと立ち向かう。

戦闘員が振るうククリナイフを躱すと手慣れた動きですれ違いざまに斬りつけていく。

 

「残りは貴様だけだ、カメバズーカ!」

 

V3がカメバズーカに向けて叫ぶ。しかし当のカメバズーカは不敵に笑っていた。

 

「フッフッフッ。そこのガキ共は想定外だが、いい気になるのもここまでだ」

「何っ!?」

「ガキ共もよく聞けぇ!俺の体には、高性能爆弾が仕掛けられている」

「何だと!?」

「俺を倒せば、この学院は木っ端微塵だ」

 

カメバズーカの宣言にV3や才人達の間に緊張が走る。奴の言っていることが本当なら、こちらからは手出しができない。

かと言って学院の人間全員を避難させようにも、そんな時間を与えてくれるほど、デストロンは優しくない。

 

「学院の人間共を助けたければV3、大人しく俺様に殺されるのだ!」

「クソ……卑怯だぞカメバズーカ!」

「どうとでも言え。覚悟しろV3」

 

そこからは一方的にカメバズーカがV3を甚振っていく。爆弾があるとなった以上V3は反撃できず、キュルケ達も迂闊に手を出せずに見ていることしかできない。

 

「卑怯よ!正々堂々戦いなさいよ!」

「V3ー!あたし達のことは気にしないで、戦ってー!」

 

ルイズ達から声援が飛ぶが、それでもV3は手を出さない。しかし彼女達が気に障ったのか、カメバズーカはV3への攻撃を中断して、彼女達へと向き直る。

 

「忌々しいガキ共だ。貴様達から始末してくれる!ズゥーカァー!」

「っ!危ない!!」

 

カメバズーカの砲口がルイズ達に向き、放たれた砲弾は真っ直ぐ彼女達へと向かって飛んでいく。

逃げる時間も、魔法の詠唱の時間もない。才人は砲弾を斬り払おうと前に出るが、斬った瞬間に爆発してしまうのではと、一瞬躊躇してしまった。そのため構えるのが遅れ、気付けばもう間に合わないところまで砲弾は迫っていた。

万事休すと思われたその時、V3が飛び込んできてその身で砲弾を受け止めた。

 

「グワァーッ!?」

「V3ーっ!?」

 

V3が盾になった事でキュルケ達は無事だったが、ダメージによりV3はその場で倒れてしまう。

慌てて駆け寄るキュルケ。倒れたV3を抱え起こして声をかける。

 

「V3、しっかりして!」

「う、ぐぅ……だい、じょうぶか……?」

 

弱々しくなったV3の声に歯噛みするキュルケ。しかし悔やんでいる暇はない。

 

「馬鹿な奴だ。だが丁度いい、貴様ら纏めて地獄に送ってくれる!」

「っ!?」

 

再びカメバズーカの砲弾が迫る。V3は何とか再び立ち上がろうとするが、体は言うことを聞かない。

 

「……『クリエイト・ゴーレム』!」

 

その時誰が唱えたのか、V3達の眼の前に巨大な土の腕が現れた。

 

「おまけだ『錬金』!」

 

瞬間土の腕は鋼鉄に変わり、カメバズーカの砲弾を受け止め、爆風から全員を守った。

 

「一体誰が……?」

「ったく、こんなところで使う羽目になるなんてね」

 

声の出処に全員が視線を向けると、そこにはロングビルが杖を構えて立っていた。

 

「ミス・ロングビル!?」

「あんまり長くは持たないよ。さあ!そいつに治癒の魔法を!」

 

言われるが早く、タバサがV3に治癒魔法をかける。すると改造人間ゆえの回復力なのか、みるみるうちにV3の体に力が戻っていく。

 

「ありがとう、助かった」

「お礼はいい。それより」

「ああ。どうにかして奴を倒す方法を考えねばならん」

 

何とかV3を回復することには成功したが、カメバズーカをどうにかしないことにはこの窮地を脱出したことにはならない。

 

「もうそろそろ限界だ!作戦はまだかい!?」

 

焦った様子で叫んだロングビルの声に反応しゴーレムの腕を見てみれば、所々がひび割れ崩れてきており、もう時間がないことを伝えている。

 

「……そうだ!ロングビルさん、地面に穴を開けることはできますか?可能な限り深く」

 

突然才人がロングビルに向かってそんなことを尋ねた。訊かれたロングビルは怪訝そうな顔をしながら答える。

 

「穴?そんなの朝飯前だが、穴を開けてどうすんだい!?」

「V3が奴を倒したタイミングで、やつの真下に深い穴を開けて、奴を落とすんです」

 

才人の提案に全員が頭に?を浮かべるが、唯一V3は得心したように頷いた。

 

「そうか!拳銃の原理か。だが奴の爆弾は……」

「V3。カメバズーカはさっき、高性能爆弾と言っていた。それに、学院の人間と限定していた。恐らく奴の体に仕込まれているのは原子爆弾じゃない筈だ」

「分かった、君の作戦でいこう。頼めるか?ロングビルさん」

「ああ分かったよ!何でもいいから早くしてくれ!もう……保たない!」

 

その次の瞬間、ゴーレムの腕が弾け飛び、ついにV3達を守るものが無くなった。

 

「ズゥーカァー!手古摺らせおって。これで終わりだ、ライダーV3!」

「では皆、作戦通りに。トウッ!」

 

V3は力強く跳躍すると、カメバズーカの目前まで飛んでいき、バズーカ砲を蹴り上げる。

 

「グオッ!?」

「トウッ!トウッ!」

 

連続でパンチを繰り出し、カメバズーカを攻めるV3。しかしカメバズーカはタックルでV3の動きを止めると強烈な張り手で反撃する。

 

「クッ!?」

「ズゥーカァー!」

 

強靭な体を武器に攻めるカメバズーカ。だがV3も負けていない。カメバズーカの打撃を受け止めると担ぎ上げて投げ飛ばす。

 

「トァーッ!」

「ズゥーカァー!?」

 

叩きつけられたカメバズーカは立ち上がろうとするが、そこをV3は狙っていた。

 

「今だ!トウッ!」

 

V3は飛び上がると体を錐揉み状に回転させながらカメバズーカへ向かって飛び蹴りを繰り出した。

 

「V3錐揉み、キーック!!」

 

回転の勢いにより威力を増した蹴りが、カメバズーカに止めを刺した。

 

「ば、馬鹿め……これで貴様もこの学院の人間も終わりだ……ズ、ズゥーカァー!」

「そうはさせん!ロングビルさん、今だ!!」

 

カメバズーカが倒れる寸前、V3の合図によりロングビルがカメバズーカの真下に深い穴を空けたことにより、カメバズーカの体が穴の中へと落ちていく。

 

「ダメ押しだ!『錬金』!」

 

更に『錬金』の魔法で穴の強度を上げる。その直後、穴の中で大爆発が起こり、爆風が夜空へとまっすぐ伸びていった。

凄まじい爆発だったが、作戦のおかげで爆発の勢いで地揺れが起こったこと以外に学院の被害、しいてはV3やルイズ達への被害はなかった。

 

「やったー!」

「ほ、本当にあのカメバズーカを倒したんだ!」

「やった、やったわよタバサ!」

「……苦しい」

「た、倒したのかい?あの化物を……」

 

カメバズーカを倒し、学院が守られたことを喜ぶルイズ達。

そこにV3が駆け寄ってきた。

 

「君達、怪我はないか?」

「V3!ええ、あたし達は無事よ」

「それなら良かった。怪人も倒したことだ、私はこれで失礼させてもらう。ハリケーン!」

 

V3がその名を呼ぶと、どこからともなくV3専用のマシン、ハリケーンが現れた。

V3はハリケーンに飛び乗ると、調子を確かめるように2、3回アクセルを吹かす。

 

「それじゃあ」

「待ちなさい!……あなたは何者なの」

「おいルイズ!」

「あんたは黙ってなさい!……ハルケギニアでは、亜人は人間の敵というのが常識なの。あんたの説明だけじゃ、納得できないわ。聞かせて、あなたは敵?それとも味方?」

 

そうV3を見据えるルイズの目には敵意などはなく、ただ何かを見極めるかのような意思が感じられた。

 

「君が納得するなら答えよう。私は仮面ライダーV3。悪の組織デストロンと戦う、正義の味方だ」

「そう……正義の味方、ね。ありがとう、二度も学院を守ってくれて」

 

そう言いながらルイズは頭を下げた。V3はそれに片手を上げながら答え、ハリケーンを走らせて夜の闇に消えていった。

 

「ルイズ……」

「さて、部屋に戻って寝ましょう。明日になれば、この騒ぎの事情聴取やらで忙しくなるでしょうから」

「ま、待てよ!」

 

ルイズはそう言って学生寮へと足を向け、その後を才人がついて行った。

 

「私も部屋に戻る」

「そうね。ミス・ロングビル、歩けますか?」

「は、はい。怪我もしてないですし、なんとか」

「分かりました。ですが、無理なさらないでください。職員棟までお送りしますわ」

 

その後、職員棟までロングビルを送ったキュルケとタバサは彼女と別れ、自分達の寮の部屋へと向かう。

その途中、キュルケは立ち止まるとV3が走り去った方向へ視線を向ける。

 

「……また助けられたわね。ありがとう、V3。いえ……シンジ」

 

そう呟き、キュルケは再び歩を進める。

 

(そして確信したわ。あたし、あなたに恋しちゃったみたい。明日から覚悟してね、ダーリン)

 

芽生えた想いを胸に、キュルケは帰路を進む。

 

「は、ハックション!」

 

どこかで激しいクシャミの音がしたが、それはどうでもいい話。




カメバズーカを倒し、束の間の平和を取り戻した魔法学院だったが、そこに新たな襲撃者、土塊のフーケが現れ、宝物庫の宝『捕縛の義手』が盗まれてしまう。しかしそれはデストロンの怪人、テレビバエの卑劣な罠だった!

次回、「奪われた秘宝」ご期待ください。


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第五話 奪われた秘宝

ある日、森の中の道路を、学院に向けて複数の馬車が走っていた。それらの荷台には様々な物資が載せられており、そのすべてが学院に卸す品だという。

 

「あともう少しで学院か。流石に疲れてきたな」

 

御者の男は手綱を握りながら、欠伸を漏らす。しかし突然、馬が嘶き動きを止めた。

何事か。そう思ったとき近くの木々の間から複数の黒い集団が現れ、馬車へと襲いかかった。

 

「「「キキーッ!」」」

「な、何だぁ!?」

 

現れた集団――デストロン戦闘員は御者達を馬車から引きずり下ろすと、そのまま逃げ出さないように拘束する。

すると木の陰から新たな怪人が現れた。

 

「ば、化け物!?」

「フラーイ。貴様を利用させて貰うぞ」

 

その怪人、テレビバエは一人の御者へと近づく。御者も抵抗しようとするが、戦闘員に拘束されて逃げることもできない。

 

「フラーイ」

「う、うわああああ!?」

 

森の中に、御者の悲鳴が誰にも届くことなく木霊する。悲鳴が収まったあと、そこには御者の姿をしたテレビバエがいた。

 

「フッフッフッ。ライダーV3、今度こそ貴様はこのテレビバエ様が葬ってくれる」

 

新たなデストロンの魔の手が、学院へと迫ろうとしていた。

 

 

「ふぅーむ。まさか後も立て続けにデストロンが襲ってくるとは」

 

学院長室の窓から戦闘の痕跡残る中庭を見つめながら、オールド・オスマンは言った。

 

「はい。しかしこの間とは違い、デストロンの目的は生徒達ではなく、仮面ライダーV3だったのが、彼には悪いですが不幸中の幸いです」

「うむ。しかしデストロン、恐るべき組織じゃのう」

「全くです。今回の件で、王宮も動いてくれるといいのですが」

 

コルベールがそう言うと、オスマンは渋い表情になった。

 

「ああ、全くじゃ。最初の襲撃の件で向かった時は、証拠がないのを理由に断られてしまったからのう」

「生徒に犠牲者が出ているというのに……!」

 

無意識にコルベールの手に力が入る。彼は生徒や他の教員から変わり者として扱われているが、生徒達を思う心は誰にも負けない。それ故に王宮の対応の遅さ、認識の甘さに腹を立てているのだ。

 

「王宮の連中は、目先の戦争事に目を奪われておる。おまけに彼が言った通りデストロンは大きな力を保つ割にかなり慎重に動いておるようじゃしのう」

「確かに二度の襲撃の後も、デストロンと分かる痕跡は何も残っていませんでした。私達も遠見の鏡で見てなければ、そして彼から聞いていなければ、到底信じられなかったでしょう」

「本当、厄介な連中じゃわい。デストロンとかいうのは……」

 

オスマンとコルベールは、共に窓の外の景色に視線を向ける。爆破の跡といったものはあっても、怪人や戦闘員の亡骸は影も形もない。デストロンの怪人は敗北するとその身体は爆発してしまうが、にしても欠片も残らないというのは、徹底した秘密主義故のものだろう。

 

「そういえば、彼は今どうしておる?」

「彼でしたら、本日も厨房の仕事で大忙しかと」

 

彼――朝火シンジの様子を聞いたオスマンはその立派な髭を撫でながら頷いた。

 

「ふむ。デストロンと戦いながらも、仕事は疎かにしない……教員達に見習わせたいもんじゃわい」

 

 

学院の廊下を歩きながら、ロングビルは先日の出来事について考えていた。

 

(あの化け物、あれが最近学院で噂になっているデストロンか……二度も学院を襲撃するなんて、こりゃとっととお宝を盗ってずらかったほうがいいかもねぇ)

 

その表情はいつもの秘書としての顔ではなく、土くれのフーケとしてのものになっていた。しかし彼女には一つ懸念すべきことがあった。

 

(それにあの仮面ライダーとかいう亜人。正義の味方とか言ってたけど、それが本当なら、あたしのやってることを許しはしないだろう。可能なら今夜のうちに……)

 

そこまで思考したとき、廊下の先から向かってくる人物に気付くと、ハッとした様子でその人物に話しかけた。

 

「シンジさん、無事だったんですか!?」

 

その人物とは先日デストロンに襲われたときに一緒にいた青年、朝火シンジだった。

 

「やあ、ロングビルさん。この通りピンピンしてますよ」

「本当ですか?確かに目立った怪我はないようですが……」

「V3のおかげですよ。ロングビルさんこそ、無事で良かった」

 

そう言ってはにかんだシンジにつられ、ロングビルの口元にも自然に笑みが浮かぶ。

 

「しかしあの化け物、デストロンでしたっけ?何とか倒せましたけど、あんなに恐ろしい存在だとは……」

「デストロンは残忍かつ狡猾な組織です。今後も何かしら悪事を企むでしょう」

 

またあのような化け物が現れるのか。それを想像してロングビルは自身の体が震えるのを感じた。

 

「お詳しいのですね」

「故郷の先輩から聞いた話ですがね。奴らとは浅からぬ因縁があるんですよ」

「因縁、ですか?」

「はい。……ところでロングビルさん、お仕事中だったのでは?」

「え、ええ。これから学院に納品される資材のチェックに」

「そうでしたか、引き止めて申し訳ない。では、僕はこれで失礼します」

「あ……!」

 

ロングビルの静止も間に合わず、シンジはそそくさと走り去っていった。

明らかに様子が変わったことにロングビルは訝しんだが、その本人は既にいないため、ひとまず仕事を済ますことにした。

倉庫に着くと、既に数台の馬車が到着しており、その傍らには御者が立っており、彼女の姿を確認すると頭を下げて一礼した。

 

「ご苦労さまです。荷台に積んであるで全てですか?」

「はい。急なご注文でしたが、なんとか揃えさせていただきました。ご確認お願いします」

 

言われてロングビルは荷台を覗き込むと、中には発注した物資がしっかりと収められているのが確認できた。

 

「確かに。では荷降ろしをお願いします」

 

そう言ってロングビルは御者へと振り返る。しかしその瞬間、突如黒ずくめの集団が他の馬車の荷台から現れた。

 

「な、何!?きゃああ!?」

 

抵抗する間もなく、ロングビルは拘束されてしまう。

 

「その格好、まさかデストロンの!?」

 

現れた黒ずくめの集団は、デストロンの戦闘員だったのだ。そして御者の男は不敵に笑うと、ロングビルの前に立った。

 

「フッフッフッ。まさかこうもうまく潜入できるとはな」

「あなた、もしかして……!」

「フッフッフッ。見ろ!」

 

その次の瞬間、御者の男はその姿を異形の姿へと変身させた。

まるでアンテナが生えたブラウン管を二つ繋げたような目だが、全体的に虫のような印象を与えるその姿は、明らかに人ではない。

 

「俺はデストロンの怪人、テレビバエ様だ。憎きライダーV3を消すため、貴様に協力してもらうぞ」

「だ、誰があんた達に協力なんてっ!?」

 

テレビバエの言葉にロングビルは強く拒絶するが、それも予想範囲だと言いたげにテレビバエは笑った。

 

「フラーイ。お前は嫌でも我々に協力することになる。学院長秘書ロングビル。いや、土くれのフーケよ」

「何だと?」

「俺の目をよーく見ろ」

 

咄嗟にロングビルは視線を逸すが、戦闘員に抑えられ、強制的にテレビバエの目を見てしまった。

 

「う、ああ……」

「そうだ。よーく見るのだ」

 

テレビバエの目から発せられる催眠光線を受けてしまい、ロングビルはどこか虚ろな表情になり、抵抗するための力も抜けていった。

 

「成功だ。待っていろ朝火シンジ、もうすぐ貴様の最期だ。フラーイ!」

 

テレビバエの笑い声が、倉庫の中に木霊する。

 

 

「よっと。これで全部かな」

 

シンジは貯蔵庫から今夜の料理で使う材料などを荷車へと積み込んでいた。

 

「しかしいつもより量が多いな。舞踏会があるとか言ってたけど、そのせいかな?とりあえず運ぶか」

 

荷車にはいつも使う材料の倍近い量が積まれている。普通の人間であれば荷車を引くのに苦労しそうだが、そこは改造人間の力で楽に引いていく。

その途中で、見知った顔を見つけ、シンジは一旦荷車を止めた。

向こうも気づいたようで、シンジへと声をかけてきた。

 

「あ、シンジさん!」

「やあ、才人君。こんな所でどうしたんだい?」

「ルイズが授業で暇なんで、素振りでもやろうと思って」

 

そう言った才人の手には、一振りの片刃の剣が握られていた。

彼の体格に対して少々大きいと思ったが、意外に扱えているようで、構えた姿は様になっている。

 

「ほう、関心だな。剣道でもやっていたのか?」

「あ、いえ。特に何もやってないんですけど、何故か握った瞬間、どう使えばいいかとかが頭の中に浮かんでくるんです」

「頭の中に?」

 

どういうことだ。シンジが頭を捻っていると、どこからともなく二人のものとは違う声が聞こえてきた。

 

「そりゃおめえ、こいつが『使い手』だからだよ!」

「っ!?誰だ!!」

 

シンジは身構えてあたりを見回すが、声の主の姿は見えず、更に警戒心を強める。

もしかしてデストロンか。そう思ったとき、警戒するシンジとは対象的に脱力して溜息を吐いた才人が自分の持っている剣へと話しかけた。

 

「おいデルフ。いきなり喋んなよ、シンジさん驚いてんじゃねえか」

「わりいわりい!考え込んでる姿が面白くてよ、つい」

「まさか……その剣が喋っているのか?」

 

恐る恐るといった感じで尋ねると、才人は首肯し、手に持った剣を掲げた。

 

「こいつはインテリジェンスソードつって、剣なのに喋ることができるんですよ」

「デルフリンガーさまだ。よろしくな兄ちゃん!」

「あ、ああ。よろしく」

 

普通であればありえないことに開いた口が塞がらないが、ここは異世界。何があっても不思議ではないと、シンジは自分を納得させた。

 

「しかし喋る剣か……持ってみてもいいかい?」

「いいですよ。どうぞ」

 

差し出された剣の柄を握る。シンジは剣を持ったことはなかったが、握った感触はどこもおかしいところはないように感じる。

手首を動かして、色んな角度から観察するが、喋れること以外に変わったところは見つからなかった。

 

「……おめ、人間か?」

「っ!」

 

つい柄を握る手に力が入る。あまりの力にデルフが悲鳴をあげ、それに気付いたシンジは握る手を緩めるが、その視線は鋭いままだ。

 

「おーいてぇ。気ぃつけろいバカヤロウ!」

「すまんな。だが、先程の言葉はどういう意味だ?」

「おめの体から、変な力を感じんだよ。それも一つじゃねえ、二つだ」

 

恐らくダブルタイフーンのことであろう。力と技、二つの風車に込められた能力を、この喋る剣は感じ取ったのだ。

 

「もう一度訊くぜ。おめ、何もんだ?」

「……ただの料理人だ。『人間』の、な」

「そうかよ。俺も野暮じゃねえ、これ以上は訊かねえよ」

 

そう言ってデルフは口を閉ざした。シンジは才人へとデルフを返すと、彼は申し訳無さそうに頭を掻いた。

 

「なんかすいません。こいつが失礼なこと言ってしまったみたいで」

「いや、気にしなくていい。なかなか面白い経験をさせてもらったよ」

 

先程までの鋭い視線はどこへやら。いつもの明るい表情に戻ったシンジに、才人もつられて笑みを浮かべる。

そこに遠くから才人を呼ぶ声が聞こえ、その方向を見るとルイズが大股で近づいてきているのが見えた。

 

「あんたどこ行ってんのよ!次の授業は使い魔同伴なんだから、フラフラとどっか行ってんじゃないわよ!」

「わ、悪かった!だからその鞭をしまってくれよ。な?」

 

凄い剣幕で詰め寄るルイズを宥めようとするが、それで止まる彼女ではない。

いつもの光景と言えるやり取りに、シンジが苦笑いしてると、彼の後ろから誰かが目を塞いできた。

 

「だーれだ?」

「その声はキュルケか?」

 

手を外して振り向くと、そこには予想通りキュルケと彼女の友人であるタバサが立っていた。

 

「きみたちも、自分の使い魔を探しに来たのか?」

「まさか。うちのフレイムはお利口さんで待ってるわ」

「変な所には行かないよう、言ってある」

「じゃあなんでここに?」

「それは勿論、ダーリンに会いに来たに決まってるじゃない!」

 

そう言った直後、キュルケはシンジへと飛びついた。

いきなりでよろけこそしたもののしっかりと受け止めたシンジは、そのまま降ろそうとするがガッチリとホールドされてて引き剥がせない。

手加減しているとはいえ、改造人間の腕力に抵抗できるとは、どこにそんな力があるのか。女は見た目によらないとはこのことだろう。

 

「こらキュルケ、引っ付かないで降りろ!」

「でも無理やり降ろさないってことは、満更でもないんじゃない?」

「馬鹿言うな。怪我したらどうするんだ。いいから降りなさい」

「は~い」

 

さっきまでの態度とは打って変わってするりと素直にシンジから降りたキュルケ。まるでこのやり取り自体も楽しんでいるかのように口元に笑みを受けべている。

 

「全く。いたずらも程々にしないか」

「そんなこと言って、顔が赤いわよ?意外と初なのね」

 

何を言うか。半分呆れた様子でシンジがそう言おうとした時、突如地響きが彼らを襲った。

 

「な、何っ!?」

「地震か!?」

「っ!?あれを見ろっ!」

 

才人の叫びに反応し、彼が指した方向を見ると、巨大なゴーレムが学院の宝物庫へ向かって歩いていた。

 

「何よあのゴーレムっ!?いつの間に学院の敷地に!?」

「やばい……みんな逃げろ!」

 

シンジが叫んだ直後、ゴーレムは学院の塔の一つに接近すると、その巨腕を思いっきり叩きつけた。

 

「宝物庫を殴りつけた?そのくらいじゃビクとも……!?」

 

しかし、ルイズの言葉とは裏腹に、殴られた箇所の外壁は音を立てて崩れ、あたりに瓦礫が降り注いだ。

それは当然シンジ達の周りにも落下してきており、才人とシンジは反射的に動いた。

 

「「危ないっ!?」」

「「キャアアアッ!?」」

 

才人がルイズを、シンジがキュルケとタバサを庇うように抱えて飛び退き、瓦礫から回避する。

間一髪躱したが、また次の瓦礫が五人へと襲いかかってきた。

その時、タバサが口笛を吹くと、空から青い風が吹き通り、気付けば彼女達は何かの背に乗り空を飛んでいた。

 

「助かったわタバサ!」

「間に合った」

 

彼女達を乗せているのは一匹のドラゴン。タバサの使い魔であるシルフィードだった。

タバサがシルフィードの背を撫でると、きゅーいとやや苦しそうな鳴き声を上げた。

 

「……重いって言ってる」

「流石に定員オーバーじゃねえの?」

「風竜なんだから大丈夫でしょ」

 

とは言うが、やはり人五人乗せて飛ぶのはやはり厳しいのだろう。しかしここは頑張ってもらわねばならない。

何とか瓦礫も収まり、ゴーレムの斜め上辺りに位置取ると、一同はゴーレムと宝物庫に視線を向ける。

 

「なんてこと……宝物庫の外壁に穴が!?」

「見てあれ!ゴーレムの肩に人が!」

 

キュルケの言った通り、ゴーレムの肩にはローブを深く被って顔を隠した人物が立っていた。

その人物はゴーレムの腕を伝い、宝物庫に入っていった。

 

「まさか、あれが最近噂の土くれのフーケ?!」

「学院を襲うなんて、いい度胸してるじゃない!タバサ、宝物庫に寄せて。私がとっちめてやるわ!」

 

威勢のいい言葉を言うルイズだが、タバサは首を横に振った。

それと同時にシンジも嗜めるようにルイズへと忠告する。

 

「落ち着くんだ。あのサイズじゃ、魔法を放っても効果は薄い。今は様子を見るんだ」

「そんな悠長なこと言って、逃げられたらどうすんのよ!平民のあんたは黙ってなさい!」

 

しかし火に油を注いだだけのようで、ルイズの口撃が更に激しくなる。

それでも才人と二人がかりでなんとか抑えていると、いつの間にかゴーレムの肩にフーケが戻ってきており、それを確認した直後にゴーレムは崩れ落ち、大量の土煙が舞った。

完全に視界がなくなり、フーケの動向を確認できなくなってしまう。

暫くして土煙は収まったが、そこにフーケの姿はなかった。

そしてブーケが侵入した宝物庫から一つの道具が消え去り、それが置いてあった場所には一枚のカードが残されていた。

そのカードの表には普段通りのフーケの言葉が書いてあったが、裏側にはとある国の言葉でこう書かれていた。

 

『朝火シンジ、この女は人質だ。助けたければ我々の指示に従え。 デストロン』

 

 




学院を襲った怪盗フーケ。そのアジトが発見され、シンジ達は秘宝の奪還へと向かう。しかしそこに待ち受けていたのはデストロンの怪人、テレビバエ。
ロングビルを人質にとられ、思うように戦えないV3。そんな時、才人が盗まれた秘宝『捕縛の義手』を手に取った!起死回生の一打となるのか!?

次回、「発動ロープアーム!」ご期待ください。


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第六話 発動ロープアーム!

長くなっちゃいました。


フーケの襲撃により、トリステイン魔法学院は蜂の巣をつついたような騒ぎになった。

夜中ではなく、白昼堂々とした犯行であった為生徒達の混乱も大きく、当然今日一日の授業は全て休講。生徒達は自室待機を命じられた。

そして現場となった宝物庫には教師陣が集まっており、口々に責任の所在を問うようなことを言っている。

その様子に、オスマン学院長はため息を吐くと、コルベールへと向き直った。

 

「それで、犯行現場に居合わせたのが?」

「はい。こちらの五人です」

 

コルベールが自分の後ろに控えていたシンジ達を指した。

 

「成程、君達か。詳しい説明をしたまえ」

 

オスマンがそう言うと、ルイズが一歩前に出て、事件当時のことを述べた。

それを聞き終えたオスマンは髭を撫でると、コルベールに尋ねた。

 

「ところで、ミス・ロングビルはどうしたね?」

「それがその、事件の前から姿が見えませんで」

「この非常時に、どこに行ったのじゃ」

「どこなんでしょう?」

 

そんな風にオスマンとコルベールが話しているのを聞いたシンジは、彼女も事件に巻き込まれたのではと心配になった。

ロングビルとは知らぬ仲ではなく、先日にはデストロンに襲われたこともあり、最悪な考えが頭をよぎる。

そんな時、ふとコルベールが持っているものがシンジの視界に入った。

 

「……ん?コルベール先生、そのカードは?」

「これですか?これはフーケが現場に残していったカードです。フーケの犯行声明が書いてあるもので、特に手掛かりはありませんが」

「ちょっと見せてもらってもいいですか」

 

そう言ってコルベールからカードを受け取ると、ジッと観察する。

確かに特に手掛かりは書いていない。しかし、裏の面を見たとき、シンジは目をカッと見開き、カードを持つ手を震わせた。

 

「これは……!」

「どうしたんですか?」

「裏面に、俺の故郷の字が書いてある」

「なんですと!?」

 

シンジの言葉を聞き、コルベールだけでなくオスマンやルイズ達も彼の近くにより、カードを見つめる。

 

「本当だ……日本語が書いてある」

「して、何と書いてあるのかね?」

 

オスマンに問われ、シンジはカードに書いてある内容を読み上げる。

 

「……『朝火シンジ、この女は人質だ。助けたければ我々の指示に従え。 デストロン』」

 

その場にいた全員が絶句した。

フーケの犯行と思っていたところに、まさかのデストロンの名前が出てきたのだ。驚かないはずがない。

しかも『この女』とは、恐らく今姿が見えないロングビルのことだろう。

 

「な、何ということだ……」

「またデストロンが……これはもう、王室に報告し、兵隊を差し向けてもらはなくては!」

 

コルベールが叫ぶが、シンジは首を振り、静かに告げた。

 

「いや。奴らの狙いは俺です。失礼かもしれないが、この世界の兵隊が向かったところで、返り討ちにされておしまいでしょう」

「しかし、それでは君が!」

「いいんです。それが俺の役目ですから」

 

シンジはそう言いながら、優しく微笑んだ。それによりコルベールは言葉を詰まらせ、オスマンが彼の肩に手を乗せると、続けてシンジへと頭を下げた。

 

「すまぬな、シンジ君。またしても君に頼ってしまう」

「頭を上げてください、オスマン学院長。デストロンが俺を指名するなら、俺は行きます」

「……すまぬ」

 

オスマンはシンジの手をガッチリと握り、シンジもそれを握り返した。

置いてけぼりを食らったルイズ達は目の前のやり取りをただ見ており、才人もぼーっとしていた。

唯一キュルケだけがやり取りの内容を聞いて、悲しげな視線をシンジへと送っていた。

 

「しかし、デストロンの連中指示に従えとあったが、どうやって指示をするつもりなんだ?」

 

そう思って、ふと空いた穴から外を見る。学生達の姿こそないものの、外にはいつもどおりの光景が広がっていた。

視線を巡らせると、一台の馬車が学院の外に出ていくのが目に入った。それだけならなんてことないが、ちらりと見えた御者の服装、それに描かれた模様を確認した時、シンジは驚きのあまり目を見開いた。

 

「デストロン……!」

 

そう呟いたシンジはオスマンに向き直る。様子の変わったシンジを怪訝に思ったオスマンが尋ねると、シンジはオスマンにだけ聞こえるように話した。

 

「外にデストロンの馬車が見えました」

「何じゃと……!」

「恐らく付いて来いと誘っているんでしょう。俺は今から奴らを追います」

「分かった。気をつけるのだぞ」

 

オスマンの言葉に頷き、シンジは急ぎ足で宝物庫を後にした。

彼を見送ったオスマンの側にコルベールが寄り、周りに聞こえないように尋ねてきた。

 

「学院長、彼は」

「ああ。奴らが絡んでいる以上、彼に任せる他ない。儂らは儂らに出来ることをするとしよう」

「そうですな……あれ?」

 

急に素っ頓狂な声を出したコルベールに、何事かと思ったオスマンだが、彼の視線の先を見て、その理由に気付いた。

そこには先程までルイズ達が居た筈なのだが、そこには誰の姿もなかった。

 

「まさか……彼について行ったのでは!?」

「い、いかん!すぐに連れ戻すのじゃ!」

「は、はい!」

 

言われてすぐにコルベールが彼女達の後を追うが、既にその姿は学園にはなかった。

 

 

鬱蒼とした森の中。馬の蹄や、鳥の羽ばたきとは全く違う異質な轟音が響いていた。

その音の主はシンジが呼んだハリケーンであり、ブォンブォンと激しいエンジン音を鳴らしながら、シンジを乗せて森の中を疾走していた。

 

「む、あれは!」

 

しばらく走らせた先で、追跡していた馬車が停車しているのを見つけた。

ハリケーンから降りて馬車を観察するが、デストロンの影も形も見当たらない。

 

「一体どこに……むっ!?」

 

突然感じた気配に反射的に振り向くと、木の上から戦闘員が複数体飛び降りてシンジを囲った。

 

「現れたなデストロン。ロングビルさんはどこだ!?」

「キキィーッ!」

 

当然、シンジの質問に答える筈もなく、戦闘員達はシンジへと襲いかかってきた。

 

「ふん!とうっ!」

 

突然の交戦ではあったが、シンジは慌てず徒手空拳で対応していく。

改造人間の力で振るわれる拳や蹴りは強烈で、変身していなくとも戦闘員を倒していく。

 

「フラーイ!朝火シンジ、そこまでだ!」

「貴様はっ!?」

 

新たに現れたデストロンの怪人が、シンジの目の前に降りてきた。

 

「俺様はテレビバエ。朝火シンジ、貴様の首を貰うぞ!」

「させるか!ふん!」

 

そのまま襲いかかってきたテレビバエと交戦を開始。しかしやはり怪人相手では分が悪く、徐々に押されていく。

 

「フラーイ!」

「うおっ!?」

 

テレビバエに捕まったシンジはそのまま投げ飛ばされるが、空中で身体を翻し、見事に着地した。

 

「こうなったら……むんっ!」

 

シンジは両腕を右に伸ばし、円を描くように左側に回転させる。そして勢いよく右肘を腰まで引き、左拳を腰に添えると同時に交差させるように右腕を左斜上に付き出した。

 

「変身……V3ャアアアッ!!」

 

掛け声とともに大ジャンプすると、ダブルタイフーンの風車が大回転し、シンジの体が仮面ライダーV3へと変身した!

 

「覚悟しろテレビバエ!トゥッ!」

 

V3はテレビバエに肉薄すると、強烈な打撃をお見舞いする。

 

「トゥッ!トゥッ!」

「グゥッ!何の、行くぞ!」

 

しかしテレビバエもやられっぱなしではない。V3に反撃してそのまま掴みかかると、近くの木にV3の頭を打ち付ける。

 

「ぐぁっ!?」

「くたばれ、V3!」

 

何度も木に叩きつけると、今度は木に押し付けたままV3の首を絞める。

 

「ぐぅぅっ……トゥッ!」

「ヌゥオ!?」

 

V3はテレビバエの腹を蹴り飛ばして拘束から脱出。その勢いでテレビバエに連続パンチを浴びせる。

 

「グゥア!?」

 

V3は攻める手を緩めず、今度はV3がテレビバエを押さえ付ける。

 

「言え!ロングビルさんは何処だ!?」

「フラーイ。ライダーV3よ、あの女に助ける価値が、果たしてあるかな」

「どういう意味だ!」

「あの女はお前を、学院の人間を騙していた女だ」

「デタラメを言うな!」

 

しかし僅かに動揺してしまったのか、テレビバエを拘束しているV3の手が緩み、それを好機とみたのかテレビバエはV3を突き飛ばした。

 

「ウォッ!?」

「形勢逆転だな、ライダーV3」

 

そして倒れたV3に馬乗りになると、テレビバエは頭部のテレビ画面をV3の眼前に持ってきた。

 

「改良された俺の殺人電波で、貴様の電子頭脳を狂わせてやる!フラーイ!」

「ぐぅぅっ!?」

 

テレビバエの殺人電波を喰らい、苦悶の声を上げるV3。電子頭脳に干渉されているため、脱出するための力がうまく出せない。

万事休すかと思われたその時、空から火の玉が降ってきて、テレビバエへと直撃した。

 

「ウワアッ!?」

「い、今のは……まさか!?」

 

空を見上げると、上空から降下してくるドラゴン―シルフィードの姿と、その背中に乗るキュルケ達の姿が目に入った。

 

「皆、ついてきていたのか……!」

「クソッ!邪魔が入った、勝負は預けたぞ!」

 

そう言い放ちテレビバエは飛び上がるとどこかへと逃げていった。

 

「逃がすか、V3ホッパー!」

 

V3は腰にある筒状の装備を取り出し、頭上に掲げるとその先端から探査装置『V3ホッパー』を打ち上げる。

打ち上げられたV3ホッパーは逃走しているテレビバエの姿を捉え、森の奥の小屋に逃げ込む映像をV3は受信した。

 

「まさか、あそこにロングビルさんが……」

 

目的地が判明したところで、上空を飛んでいたシルフィードがV3の側に着地し、背中からキュルケ達が降りてきた。

 

「V3!大丈夫だった!?」

「ああ。君達のおかげで助かった、ありがとう」

 

素直に礼を言うV3に、キュルケは口元を綻ばせ、才人は「ライダーにお礼を言われた」と呟きながらニマニマとややだらしのない笑みを浮かべていた。

 

「奴はこの先の小屋に逃げた。ここからは私に任せて、君達は学院に戻りなさい」

「嫌よ!学院が襲われた以上、貴族として黙っているなんてできないわ!」

「今回ばかりは私もルイズに賛成よ。ここまで来て、引き下がれないわ」

 

V3の警告にルイズはいつもどおり強気で返し、キュルケやタバサも引くつもりは無いようで、ジッとV3を見つめている。

 

「こうなったら聞かねえんだよな……V3、俺達にも手伝わせてくれよ」

「……分かった。だが無理はするなよ」

 

結局V3が折れることになったが、正直なところ彼女達の参戦は心強い。ロングビルを救出したとして、彼女を守りながらデストロンと戦うのは骨が折れる。

 

「ここからその小屋まではかなり距離がある。私がハリケーンで先導するから、付いてきてくれ」

 

そう言ってハリケーンに跨りエンジンを掛けようとするが、後ろに誰かが乗った感覚に振り向くと、キュルケがハリケーンのシートに座っていた。

 

「折角だし、後ろに乗せて頂戴。それにこっちのが速いでしょ?」

「……仕方ない。振り落とされないよう、しっかり掴まっていろ」

 

キュルケがV3に掴まったのを確認すると、V3は今度こそハリケーンのエンジンを掛け、デストロンの潜む小屋に向けて発進する。

その後ろ姿を、才人が羨ましそうな視線を送っていたが、ルイズに引っ張られてシルフィードに乗り、三人と一匹はV3の後を追い始めた。

 

 

「ねえシンジ……今はV3って呼んだ方がいいかしら?」

「いや、どちらでも構わない。この距離なら、ルイズ達には会話は聞こえないだろうからな」

 

そう言ったV3が視線を後方に向けると、かなり離されているがなんとかついてきているシルフィードの姿が目に入る。

 

「じゃあシンジ。一つ聞きたいんだけど、あなたはフーケのことどう考えているの?」

「どういう意味だ?」

「あの時のゴーレム、あれは確実に土くれのフーケが作ったものよ。状況から考えて、デストロンに与しているのは間違いないわ」

 

キュルケの言うとおり、今回の件はデストロンだけではない。土くれのフーケという存在がある。

 

「確かにフーケの事は気になる。だが巷の噂を聞く限り、フーケがデストロンと手を結ぶとは考えられん。勿論、やっていることを肯定することはできないがな」

 

この世界に来てから、当然フーケの噂はV3の耳にも入っていた。しかしその噂を聞く限りでは、彼はフーケを完全な悪人だとは思えない。

それゆえ今回の件は何か裏があるだろうと読んでいた。

 

「先程の怪人、テレビバエは他者の洗脳を得意としている。もしかすると」

「フーケはデストロンに洗脳されている、ってこと?」

「恐らくな」

 

V3の返事を聞いたキュルケは少し考え込み、そして浮かんだ疑問をV3に尋ねた。

 

「ねえ、もし本当にフーケが洗脳されているとしたら、どうするの?」

「勿論助けるさ」

 

迷う様子もなく言ったV3。キュルケ自身も、V3ならばそう言うだろうと予想していた為か、ただ笑みを浮かべていた。

 

 

「そろそろ着くぞ」

 

気付けばV3ホッパーで捉えた森小屋まであと少しという所まで来ていた。

V3はハリケーンを停車させると、小屋の様子を窺いながら才人達が来るのを待った。

少し経って、V3とキュルケから更に離れた位置に着地したシルフィードから降りた才人達が合流し、V3が彼らへと作戦を指示する。

 

「まず私が小屋の中を偵察する。君達はここで待っていなさい」

 

そう言ってV3は素早く、しかし警戒は怠らずに小屋へと近づく。

 

「罠は無いようだな……」

 

慎重にドアを開き、中を確認する。すると小屋の中央辺りに人が倒れているのを発見した。うつ伏せで倒れているため顔はわからないが、背格好からロングビル女史に間違いない。

 

「ロングビルさん!大丈夫ですか!?」

 

駆け寄ったV3がロングビルを抱え起こすが、彼女は気絶しているようで反応を見せない。

 

「呼吸はしている。一先ず、ここから離れなくては……っ!?」

 

彼女を抱えて立ち上がった瞬間、小屋の床が震え始めた。

 

「これは、まさかここを爆破する気か!?」

 

危険を感じたV3は急いで小屋を脱出すると、その直後に小屋が大爆発を起こして吹き飛んだ。まさに間一髪のところであった。

 

「V3っ!?」

 

心配したキュルケ達がV3へと駆け寄ってきた。

 

「大丈夫だ。ロングビルさんも無事だ」

「よかった……しかしデストロン、恐ろしいことをするわね」

 

爆発した小屋の跡を見れば、辺りに残骸が散らばり、もはや見る影もない。

 

「だけど、盗まれた秘宝は何処に……?」

「フラーイッ!やはり生きていたか、ライダーV3ッ!」

 

突如聞こえてきた声に、全員が振り向くと、そこにはテレビバエが戦闘員を引き連れて現れていた。

 

「テレビバエ!ロングビルさんは返してもらった、あとは貴様を倒すだけだ!」

「ほざくなライダーV3!貴様はここで、俺が引導を渡してくれる。やれぇ!」

 

テレビバエの掛け声で戦闘員がV3達へと襲いかかる。

 

「望むところだ!皆、ロングビルさんを頼む」

「ああ、任せてくれ!」

「V3、あんな奴らやっちゃって!」

 

コクリと頷き、V3は飛び上がると戦闘員へと接近し、戦闘を開始する。

 

「トゥッ!トゥッ!」

「キーッ!?」

 

次々と戦闘員を倒していくV3。やはり戦闘員ではV3の相手にはならず、しびれを切らしたテレビバエがV3へと襲いかかる。

 

「フラーイッ!俺が相手だ、ライダーV3っ!」

「来い、テレビバエ!トゥッ!」

 

テレビバエと戦うV3は強力な打撃で応戦する。テレビバエもその剛腕で反撃してくる。

 

「頑張れ!V3っ!」

「そんなハエの怪人なんてやっつけちゃいなさい!」

「煩わしいガキ共だ。戦闘員、アイツらを黙らせろ!」

 

テレビバエの指示により戦闘員達がキュルケ達に向かう。V3と彼女達の間にはテレビバエが立ちはだかり、V3とキュルケ達を分断している。

 

「大丈夫よ、V3!」

「……問題ない」

 

然し彼女達も二度のデストロン襲撃を経験しており、対応は素早かった。

キュルケとタバサが魔法を放ち、戦闘員を寄せ付けない。

 

「戦闘員くらいなら、俺だって!」

 

才人も負けじと背負った長剣を抜き、向かってくる戦闘員を切り払う。

 

「ルイズ!今のうちにロングビルさんを安全なところへ!」

「使い魔が主人に命令するなんて……後で覚えてなさいよ!」

「忘れてなかったら覚えてるよ!」

 

いつものようにキツイ口調ではあるが、ルイズは才人の言ったことに従い、ロングビルを連れてこの場所から離れる。

素直に退いたルイズにキュルケは意外に思いながらも、ルイズも成長したってことね、と思いながら戦闘員へと火球をぶつけていた。

 

 

「ここまでくれば……ミス・ロングビル、大丈夫ですか?」

 

暫く離れたところで、ルイズは未だ気絶しているロングビルへと声をかける。

 

「う、ううん……ここは?」

「気が付かれましたか!」

「ミス・ヴァリエール……?私は、一体……」

「貴女はデストロンに拐われたんです。ですがもう大丈夫です、今V3が戦っています」

「V3……うぅっ!?」

 

しかしどうしたことか、急にロングビルが頭痛でも堪えるかのように頭を抑えてうずくまった。

 

「ミス・ロングビル!?大丈夫ですか!?」

「う、うう……V、3……!」

 

ロングビルを心配するルイズだが、あまりにも彼女の様子がおかしく、肩を掴んでいた手を離して後ずさる。

 

「ミ、ミス・ロングビル……?」

「うぅ……V3っ!」

 

いつの間にかロングビルの手には一振りの杖が握られており、ルイズが気付いた時には、彼女は既に詠唱を終えていた。

 

「きゃあああっ!?」

 

直後、ルイズの目の前に巨大な影が現れ、彼女の体は遥か上空へと持ち上げられた。

 

 

「トゥッ!」

「グウッ!?」

「止めだ!」

 

ロングビルも救出し、戦闘員も軒並み倒し、あとはテレビバエを倒すのみになった。

そしてV3がテレビバエに止めを刺そうとするが、テレビバエはそれを制すると、V3へ向けて言い放った。

 

「待てライダーV3!あれを見ろ」

「何っ?!」

 

そういったテレビバエが指した方向を見たその時、大きな地響きとともに巨大なゴーレムが現れた。

 

「あれは、学院を襲撃したゴーレム!?」

「ということは、フーケが近くに?!」

 

V3達の間に緊張が走る。流石にあのゴーレムの攻撃を掻い潜りながら戦うのは容易ではない。

 

「クックックッ。あのゴーレムの肩を見ろ!」

「何だと?あ、あれはっ!?」

 

見上げた視線の先で、ゴーレムの肩にロングビルが乗っているのが目に入った。

 

「ロングビルさん!?何故ゴーレムに?」

「あの女は俺の催眠光線により、デストロンの手先となったのだ」

「何だと!?ならば貴様を倒し、催眠を解く!」

「待ってV3!ルイズがあのゴーレムに捕まっているわ!?」

 

再びテレビバエへ向かおうとしたV3にキュルケが叫ぶ。反射的にゴーレムの手を見れば、確かにルイズの姿があった。

 

「あの小娘は人質だ。ライダーV3、貴様が妙なことをしたら、あのガキを握り潰す。そしてあの女も自殺する」

「ブ、V3……わたしに構わないで、そいつを――うああっ!?」

 

ルイズの言葉を遮るように、ゴーレムが彼女を握る手に力を込める。

 

「ルイズっ!?卑怯だぞ!」

 

テレビバエの卑劣なやり方に、V3だけでなくキュルケやタバサ、才人も憤慨する。しかしそんなのはどこ吹く風と言わんばかりにテレビバエは笑った。

 

「フラーイ。何とでも言え。もう一ついい情報を教えてやる。貴様らが助けに来たあの女、あいつの正体は『土くれのフーケ』だ!」

「な、何だと!?」

 

衝撃の事実にV3達は動揺し、テレビバエは勝ち誇ったかのようにV3へと言い放った。

 

「さあどうするライダーV3?あの女はお前を騙していた極悪人だ。あの女とガキを殺して俺を倒すか?それともあの女とガキを助けるためにお前が死ぬか?」

「クッ……」

 

二択を迫られたV3は、仮面の奥で強く歯噛みし、その手が震えるほど強く拳を握りしめた。

 

「……好きにしろ!」

 

V3の決断は、彼女達のためにその身を差し出すことだった。それを聞いたルイズはV3へ向けて叫ぶ。

 

「や、やめてV3!あいつはフーケなのよ!?それに、わたしだって覚悟はできている。だからそいつをっ!」

「やかましいガキだ。やれ!」

 

テレビバエの指示により、ロングビル―フーケが操るゴーレムが握る力を強め、再びルイズの悲鳴が周囲に響く。

 

「やめろ!俺のことは好きにしていい。だからあの娘に危害を加えるな!」

「フラーイ!いいだろう。なら望み通り嬲り殺してくれる!」

 

その言葉通り、テレビバエはV3を打撃で嬲るように追い詰めていく。反撃も防御もできず、V3はただテレビバエの攻撃を受け続けた。

 

「ガアッ!?」

「終わりだ、ライダーV3!」

 

そしていよいよテレビバエがV3に止めを刺そうとした。その時だった。

 

「V3!あのゴーレムの腕を破壊してくれ!」

「才人君?分かった、ハリケーン!」

 

才人のそう叫ぶ声がV3へと届き、V3はそれに答えると待機させていたハリケーンを呼び、それに飛び乗りゴーレムの体を駆け上った。

 

「ハリケーンダッシュッ!」

 

そしてその勢いでルイズが捕まっているゴーレムの腕にぶつかり、それを砕いてルイズを開放する。

しかし当然、重力に従いルイズの体は地面へと向けて落下していった。

 

「キャアアアっ!?」

 

このままでは地面に激突してしまう。ハリケーンダッシュの反動で距離ができてしまっているため、V3が彼女をキャッチするのも難しい。

しかし、ヒーローはV3だけではない!

 

「いけっ!ロープアームっ!」

 

才人の叫びと共に、ルイズの体にロープが巻き付き、地面に激突するはずの彼女を才人の元へと引き寄せた。

すかさずタバサが『レビテーション』を唱え勢いを殺し、安全に地面へと下ろす。

しかし握り締められたダメージから倒れそうになるが、それをキュルケが支えた。

 

「大丈夫、ルイズ?」

「……アンタの手を借りるのは癪だけど、今は礼を言うわ。ありがとう」

「そんな口がきけるなら大丈夫ね」

 

普段は犬猿の仲とも言えるような二人だが、今このときはそのような雰囲気はなく、互いに友人に接するような空気であった。

キュルケに肩を借りながら、ルイズは才人の方へと視線を向ける。

 

「あんた、その腕の……」

「ああ、これか?賭けだったけど、何とかなってよかったよ」

 

 

少し前。

 

「V3!くそっ!何か手はないのか!?」

「ルイズさえ助け出せれば……ねえタバサ、あなたのシルフィードで」

「無理。あのサイズ差ではこっちの攻撃は通らない。それに、あの怪人がそれを見過ごすとも思えない」

 

いつもの無表情でそう言ったタバサだが、杖を握るその手に力が入っているのはキュルケは当然、付き合いの短いサイトにも伝わっていた。

どうにかしないと。そう思考を巡らせていた才人の視界が、ある箱を見つけた。

 

「あ、あれは?」

 

才人はその箱に近寄ると、蓋を開けて箱の中身を取り出す。

 

「こ、これは!?」

「何よそれ?」

「……捕縛の義手」

「これが?」

 

才人と同じくそれを目にしたキュルケが、タバサの言葉に眉を顰めた。

学院の秘宝らしいが、見た目はまるで義手とは言えないようなもので、彼女が訝しむのも無理はない。

しかしこれの正体を知っている才人は、興奮を抑えながら二人に言った。

 

「用途としては合っているけど、これの名前は『ロープアーム』。これがあれば、この状況をなんとかできるかもしれない」

「本当!?」

「ああ。だが問題は、俺がこれを使えるか、だ」

 

ある事情により、才人は捕縛の義手―ロープアームに触れたときにその使い方を知ったが、彼の知る限り、これを使うにはあるものが必要であった。

 

(だけど、迷ってる時間はない。頼む!)

 

そう心で祈りながら、才人はロープアームに自身の右手を差し込んだ。

その瞬間!ロープアームの差込口が才人の右腕にフィットし、一体となった感覚が才人の体に走った。

 

「これは……いける、いけるぞ!」

 

ロープアームが使えることを確信した才人は、V3に向かって叫ぶ。

 

「V3!あのゴーレムの腕を破壊してくれ!」

 

 

「と、言うわけだ」

「色々と言いたいことはあるけど、とりあえず後回しにしておくわ。V3!思う存分やっちゃって!」

「分かった!トゥッ!」

 

才人に向かって頷いたV3は跳び上がると、テレビバエへと肉薄し強烈な打撃を食らわせる。

 

「トゥッ!トゥッ!」

「グオアッ!?」

 

怒りを込めた拳を連続で振るい、テレビバエを追い詰める。

テレビバエも反撃するが、V3はそれを容易く捌き、逆にカウンターを浴びせていく。

 

「ク、クソォ……フーケ!ライダーV3を踏み潰せ!」

 

追い詰められたテレビバエは未だ洗脳状態のフーケへと指示を飛ばす。それを受けたフーケはゴーレムの足でV3を踏み潰そうとする。

 

「甘い!トゥッ!」

 

しかし緩慢な動きのゴーレムがV3を捉えられる筈もなく、難なく躱されてしまう。

V3はゴーレムの攻撃を掻い潜り、再びテレビバエに接近すると一気に組み付いて投げる。

 

「トーゥッ!」

「フラーイッ!」

 

投げ飛ばされたテレビバエは地面に衝突し、フラフラしながら立ち上がるが、その隙をV3は狙っていた。

 

「今だ!トゥッ!」

 

V3は跳び上がると立ち上がったテレビバエへと飛び蹴りを食らわし、その反動で体を反転させ、キックを再び打ち込む。

 

「V3反転キーック!」

 

必殺のキックを受けたテレビバエは大きく吹っ飛び、地面に衝突すると同時に大爆発を起こした。

その光景にキュルケ達は跳ねて喜んでいるが、V3はまだ気を抜いてはいなかった。

テレビバエを倒したということはフーケ……ロングビルの洗脳が解けたということでもある。

その証拠に、テレビバエが彼女に作らせた巨大ゴーレムが崩れ始めた。

 

「いかん!ハリケーン!」

 

V3はハリケーンに飛び乗ると一気に加速して飛び上がり、空中でロングビルをキャッチして離れたところに着地する。

死闘の末、テレビバエを倒したV3。しかし助け出したロングビルの正体は怪盗『土くれのフーケ』。普段の彼女を知る朝火シンジは、何をするつもりなのか。

 

つづく




テレビバエは倒したものの、自身の正体が知られてしまったことにより、自暴自棄になるフーケ。しかし彼女をただの悪人に思えないV3は、彼女を説得するためある決断をする。
そして明かされる、ロープアームの出自とは!?

次回、「フーケの本心」ご期待ください。


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