ハーメルン・ノベルティック・ライダーズ (夢野飛羽真)
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ダークドライブの章
仮面ライダーダークドライブ─FIRST DRIVING─


初めましての方は初めまして、企画主の夢野飛翔真でございます。
この度当合同企画ハーメルン・ノベルティック・ライダーズを無事始動できたことを嬉しく思います。
早速ですが当企画のトップバッターを務めるルクシアさんからメッセージが届いております。


今回、ハーメルン ノベルティック ライダーズに参加させて頂きました。ルクシアと申します!久しぶりに書くライダー小説ですが、何卒よろしくお願いします!





今から凡そ二十年近く前、ロイミュードと呼ばれる機械生命体による人類との生存競争が行われた。

 

ある狂気の科学者によって人間の悪意を植え付けられたロイミュードたちは、人類の悪意によって進化、発展していき力を手に入れていった。

 

…しかし、彼らはある戦士によって一人残らず倒されて世界から姿を消した。その戦士の名は仮面ライダー。

 

これは、ロイミュードを倒した仮面ライダーの新たなる物語…なんて、ものじゃない。そんな仮面ライダーなんて有名人を親に持ってしまった俺、泊エイジの物語だ。

 

☆☆☆

 

仮面ライダーとロイミュードの戦いが終わって、世界はそれなりに平穏になった。技術の発展で、犯罪が起こったとしても一瞬で警察に見つかる。そんな世界になった。そこまで技術が発展した世界で大きな戦争を起こすほど人類は愚かじゃなかったらしく、第三次世界大戦は起こらずに平穏に暮らしている。

 

「ねむい…」

 

そんな時代でも学校というものはあるもので、俺は退屈な高校の授業をのんびりと受けていた。今の時間は物理なのだが、今更学校の教師から教えてもらうようなことは無い。

 

「はぁ~あ…」

 

なんというか、この世の全てにやる気が起きない。なんて、そんなことを言えば、昔の父そっくりだなんて言われるから口にはしないのだが。

 

「よっ、相変わらず暇そうだな!」

 

背中を叩いてきたのは、生まれた時からの腐れ縁である追田源助。父と母の知り合いの息子であり、幼なじみと言うやつだ。

 

「これでも真面目に授業受けてるんだが」

 

「そんな退屈そうな顔してるのによく言うよ」

 

「お前が言うな」

 

お前こそ、心底退屈そうなしてた癖に…なんて、目を向けるとうっ…と言葉に詰まる源助。

 

「さすが、ノーベル賞受賞者の息子だな」

 

「うるせーよ仮面ライダーの息子」

 

源助の母親──追田りんな…旧名沢神りんなは電子物理学の権威であり、ノーベル賞受賞者なのだ。昔から、いわゆる有名人の息子どうし気が合うところがあった。まあ、俺もこいつも両親のことが嫌いな訳じゃない。名前のせいで悪目立ちするから疲れると言うだけだ。

 

「…で?今日はなんの用?」

 

「ふふーん、聞いて驚け?…最近、とある場所で重加速反応があったらしい」

 

「今の世の中で重加速ぅ?どこから聞いたんだよそんな嘘。ありえないって」

 

「そう、ありえないんだよ。お前の親父さんが全てのロイミュードを倒したはずだろ?なのに、重加速が起こった。なーんか、おもしろ…もとい、怪しくねーか?」

 

「隠せて無いが?」

 

ニヤニヤしている源助に肘打ちしつつ、顔を顰める。重加速が起こったということは、面倒事が起こる可能性が高まった…特に、俺や源助は巻き込まれる可能性がだいぶ高い。

 

「で?どこで重加速が起こったって?」

 

「…まさかの、光ヶ森高校だってよ」

 

「は?」

 

光ヶ森高校…つまり、今俺たちが通っている高校だ。そんなピンポイントで俺たちがいる学校で重加速が起こるか?

 

「どっから聞いたんだそれ?」

 

「お袋。…内緒だぜ?」

 

「…りんなさんがそんな嘘はつかないよな」

 

めんどくさい事になって来た気がする。いや、気がするなんてもんじゃない、絶対めんどくさい事になる。確信を持ってそう言える。

 

「…だけどなぁ、源助。俺たちはもう高三だぜ?そんなこと考えてる暇ないっての」

 

「かー!相変わらずギアが入らねーなー!親父さん譲りの脳細胞だってのに」

 

「はぁ…あのな。俺や親父のギアが入らない方が平和ってことなんだよ」

 

溜息をつきながらぐったりと机に体を預ける。あ~あ、やっぱり学校は眠いなぁ…。

 

「あら、なんの話し?」

 

「ん?」

 

「お、よっす生徒会長」

 

ぐったりと体を机に預けていると、聞きなれた凛とした女の声が聞こえた。体を起こすと、花の匂いと共に黒い綺麗な髪がさらりと揺れる。黒い髪に氷の様な蒼い瞳がこちらを見詰めていた。

 

「なんの用だ、霜月」

 

「なんの用だ、なんて酷い。なんだか面白そうな会話をしていたから混ざりに来ただけよ?」

 

こいつの名前は霜月凛。ここ、光ヶ森高校の生徒会長であり、大抵の事を完璧にこなす誰からも慕われる生徒会長ってやつだ。というか、結構離れてた癖に聞こえてやがったのか…。

 

「で、あんたも知ってるのか?」

 

「重加速の事でしょう?一応聞いてはいるけれど…半信半疑ってところ」

 

やっぱり、こいつはある程度の情報を聞かされていたらしい。教師からの信頼も厚いから裏で教えて貰っていたらしい。

 

「ま、俺は関わる気は無いからな」

 

「まあ、危険に自分から突っ込むのは推奨しないわね」

 

「わ、わかってるって!」

 

霜月にジロリと睨まれて目を逸らす源助。そんな二人の様子を尻目に顔を机につけて目を閉じる。願わくば、こんな平穏がずっと続きますように。

 

…まあ、そんな願いが叶うはずも無く。学校終わりに源助と一緒に帰っている俺たちの前には、黒いフードを着た何者かが静かに俺たちの前に立っていた。

 

「なんだ、お前」

 

「泊エイジを発見──削除する」

 

黒いフードの被った男に大量のノイズが走る。人間の見た目をした、機械の肉体に胸元には製造番号を示すナンバープレート。かつて、とある科学者によって産み出された存在と同一の見た目をしたその存在の名はロイミュード。俺の父、泊進ノ介によって打ち倒された存在が今、俺と源助の前に佇んでいた。

 

「ロイミュード!?」

 

【N103】

 

だが、かつてのロイミュードとは違う点があるとすれば、ナンバーの前にNEXT(ミライ)の文字が刻まれていることだろうか。

 

「我々の名は、ネクストロイミュード。ある御方によって復活したロイミュード」

 

「我々ってことは、他にもロイミュードが復活してるって訳か!」

 

「いかにも。001から始まる全てのロイミュードが新たな存在として復活している」

 

淡々と機械らしく要点だけを語る。淡々と語るロイミュードの言葉に異様な違和感を覚えるが、そんなことを考えてる暇は無い。

 

「俺を排除するって言ったな…俺を殺すって事か?」

 

「その通りだ。それが、彼の命令だ」

 

「…全く、最悪だ…!」

 

生まれてこの方これ程までに最悪な日は無かっただろう。兎にも角にも戦って勝てる相手では無いので混乱したせいで固まっている源助の手を取って走る。

 

「いつまで固まってんだ!」

 

「わ、悪い…ホントにいるとは思わなくて…」

 

「良いから逃げるぞ!」

 

なりふり構わず走って、とにかく遠く、出来るだけ早くロイミュードから逃げるべく走るが──

 

「無意味だ」

 

ぐんっと体が重くなるような感覚に襲われる。これは、父さんや源助から話に聞いていたあれか…!

 

「重加速…!」

 

「動けねぇ…!」

 

「泊エイジを削除」

 

ゆっくりと俺の前に歩いてきて、ぐっと拳を握るロイミュードを見つめる。重加速で体が動かないせいで、避けることも逃げることも出来ない。絶体絶命としか言えない状態でも、なにか奇妙な予感があった。この状況を覆すナニカがあると。動かない体を無理やり動かして手を伸ばす。

 

(こい…こいっ!)

 

ロイミュードの握った拳が俺に叩き込まれる前に、ロイミュードをなにかが吹き飛ばす。ゆっくりとそちらに目線を向けると、こちらを見つめるミニカー。黄色と黒で形成されたそれを、ぐっと掴み取る。途端に、体が軽くなって動きやすくなる。俺が動けるようになった時、同時に源助も動けるようになったらしく困惑したように周りを見ていた。

 

「…っ!動ける!」

 

「うおお!?俺もか!」

 

「馬鹿な!なぜ動ける!?」

 

掴み取ったミニカーを見る。これが、俺の予想通りのものならここから逃げる切り札になる。…だが、これを使うにはどうすれば…!

 

「エイジ!」

 

「ん?…うおっ!?」

 

ポイッと源助がカバンから何かを取り出してこちらに放り投げてくる。慌てて掴み取るが、それは形や大きさから想定していた以上の重さを持っており、取り落としそうになる。何とかしっかりとそれを掴んでよく見てみる。

 

「源助!なんでこれが!?」

 

「何かあった時ようにこっそり」

 

イタズラ小僧のようにニヤッと笑ってみせる源助に呆れたようなため息が漏れる。問題ばかり持ってくる癖に、その問題に対しての対策をしっかりしてる辺りが憎めないところだ。

 

「怒られる時は一緒だぞ!」

 

「わかってるって!」

 

投げ渡されたソレ──マッハドライバー炎を腰に押し当てると、帯が飛び出して腰にマッハドライバーを固定する。そして、シグナルランディングパネルを上げて、手にしたシフトカーを差し込む。

 

【シフトカー!】

 

調子のいい待機音が周囲に響く。待機音を聴きながら、シグナルランディングパネルを下げて叫ぶ。

 

「変身ッ!」

 

【ライダー!ネクスト!】

 

黒と青紫の電撃が俺の周囲を舞い、大量のノイズと共に姿が変わる。黒と青で彩られた鎧につり上がった蒼く鋭いヘッドライトを模している複眼。背中に取り付けられたタイヤには斜めったNミライの紋章。

 

「へぇ、ネクストか…。なら、仮面ライダーネクストってところか?」

 

腰を落とし、右手首に左手を当てて右手を軽く握ったり開いたりしてロイミュードをじっと見つめる。

 

「バカな…貴様、仮面ライダー!?」

 

「悪いが初乗りでね。ひとまず試運転と行こうか!」

 

足に力を込めて、全力でロイミュードに向かって駆け出す。人間の限界をはるかに超えた速度でロイミュードに接近した俺は青紫のエネルギーを纏った右拳を叩き込む。

 

「ぐぁぁ!?」

 

「…良いね、悪くない!」

 

目の前にいるロイミュードよりも、俺の方がスペックが上らしい。俺の攻撃を受ける度に、ロイミュードの装甲がひび割れ、砕けていく。ネクストに搭載されたAIがネクストに搭載されているあらゆるシステムの使用法や、最適な行動を伝えてくれる。

 

「ふっ!はぁ!」

 

「ぬぅ…!小癪なぁ!」

 

ロイミュードも負けじと殴りかかってくるが、それを父さんや現さん、母さんや叔父さんに鍛えられたように軽く受け流していく。ネクストのシステム全てをここで全ては理解出来ないが、最適な行動は示されている。なら後は!

 

「フィーリングとノリで──振り切るぜ!」

 

「がぁぁぁぁぁぁ!?」

 

回し蹴りを叩き込むと、踵部分に取り付けられた小型のタイヤが高速回転してロイミュードの装甲を抉りとっていく。大きく吹き飛ばされるがままに距離を取ったロイミュードに対してからかうように語りかけながら、ベルトを撫でる。

 

「こんなのもあるぜ?」

 

かつて見せてもらった仮面ライダーの映像の中で叔父がやっていたようにベルトのブーストイグナイトを全力で何度も叩く。体から大量の青紫の電撃が放出され、背中のタイヤが高速で回転を始める。

 

【ズーット!ネクスト!】

 

テンションの高い音声と共に、エネルギーが放出されて先程よりも更に早い速度でロイミュードに接近する。そのままの、高速で大量のパンチを叩き込んでいく。

 

「うおおおおおおお!!」

 

「ぬぁああああああああ!?」

 

何十発も拳を叩き込まれたロイミュードはその体に大量のヒビが入っていた。そのヒビが交差する一点に向けて最後の一撃を叩き込む!

 

「オラァ!」

 

「ごはぁ!」

 

その一撃で数メートル吹き飛ばされたロイミュードを見て、シグナルランディングパネルを上げて、ブーストイグナイトを全力で叩く。

 

【ヒッサツ!】

 

また新たな待機音が響く。その待機音をBGMにかけ出すと、全力で飛び上がる。飛び上がった勢いのままシグナルランディングパネルを下げる。

 

【フルスロットル!ネクスト!】

 

青紫のエネルギーが右足に収束し、背中のタイヤが高速回転することで生み出された推力によって更に加速して紫の弾丸となった俺は、ロイミュードに右足を叩き込む。

 

「ぐぅああああああああ!」

 

その蹴りは確かにロイミュードを貫き、中枢のコアを打ち砕いた感触を覚える。

 

「う…あ…」

 

ロイミュードのコアが空中で弾け飛び、爆炎がの中で1人の男が倒れるのが見えた。駆け寄ると、ボロボロの服を着た男が苦痛に呻くような表情で倒れていた。

 

「おいあんた、大丈夫か!」

 

「か、仮面ライダー…?」

 

「あ、あー!そんなことより、なんでロイミュードから人間が?」

 

ロイミュードから排出されるように現れた謎の男に首を傾げていると、男が何かを語ろうと話しかけてくる。

 

「た、助けてくれ仮面ライダー!じ、実は──」

 

そこまで言った瞬間、パキリと軽い音を立てて男が凍りつくように固まる。そう、文字通り凍りついたのだ。

 

「な、なに!?」

 

「おいエイジ!あそこ!」

 

物陰に隠れている源助の指さす方向を見てみると、そこには黒いフードを被った何者かが人差し指を男に向けていた。そして、その指からは白い煙が風に揺られていた。

 

「誰だお前!!」

 

何者かに叫ぶが、何者かは何も言うことなく静かにそこから立ち去る。追いかけようとするが、凍りついた男を見捨てては置けずに変身を解いてから救急車に連絡を入れた。

 

「一体なにが起こってるんだ…?」

 

【オツカーレ】

 

俺の知らないところで、なにかが動き始めているようなそんな異様な違和感が脳裏を焦がす。それに、この男を凍りつかせた氷の弾丸…なんか 変だな。

 

「エイジ」

 

「ん?なんだよ」

 

「出来れば仮面ライダーに変身したのは秘密にしてくれないか?」

 

「は?なんでだよ、面白がってるなら──」

 

「違う。面白がってるわけじゃないんだ!頼む」

 

いやに真剣な表情で語る源助の姿に調子が狂う。絶対に話すべきだと思うんだが…仕方ない。

 

「わかったよ。通りがかったらこうなってたって言おう。それでいいな?」

 

「ああ!」

 

なんでそんなことを頼んでくるのか疑問に思っていると、数台のパトカーと救急車が見える。そこから人が降りてくる前に、足元に落ちていた氷の一部を袋の中に入れてポケットの中に入れる。なにか、大きな手がかりになる気がする。

 

「エイジ!源助!」

 

「父さん…」

 

「何があった!?」

 

「いや、分からないんだ。帰ろうとしたら急に重加速が起こって…」

 

気がついたらこうなってた、と伝えると。頭が痛むのか軽く頭を抱えて父さんが周囲を見渡す。しかし、凍りついた男のところでピタリと視点が固まる。

 

「まさか…そんな馬鹿な…!」

 

「父さん?」

 

「この氷は…フリーズ…?」

 

少し震えた声で何かの名前を呟く父さんの様子に源助と顔を合わせる。なにか、俺の知らない大きな因縁が訪れようとしている気がした。

 

…その日は軽い事情聴取だけやって、俺は父さんの、源助は現さんの車に乗って一旦家へと帰ることになった。

 

「それで?本当は何があったんだ?」

 

「話した通りだよ。重加速が終わったらああなってた」

 

「…まあいい。とにかく、この件にはあまり踏み込むな。俺の見立てが正しかったら、男を凍らした存在はあまりに危険だ」

 

父さんは多くを語ることは無かったが、その瞳に灯る怒りの炎が力強く燃えていた。…しかし、その奥には隠しきれない怯えの色が見え隠れしていた。

 

☆☆☆

 

次の日の朝、父さんからは学校に行かなくてもいいと言われたが、源助と話したいこともあったので、学校へ行くことにした。源助から誰もいない早朝に昨日の事について情報交換したいと言われたのでいつもよりも早く登校する。

 

「おはよう源助」

 

「お、おはよー」

 

源助と合流した俺は、向かい合わせに座る。そした、声を小さくして昨日の件について話す。

 

「昨日、親に何か言われたか?」

 

「いや、特に何も。…でも、やっぱり疑われてたぜ。やっぱり話した方が良いんじゃねぇのか?」

 

「…いや、それはもうちょっと待ってくれ。頼む!」

 

「…はぁ、なんか理由があるんだな?」

 

「ああ、信じてくれ」

 

言っても聞かなさそうだから、とやかく言うのはやめた。どうせ、1度隠した時点で俺も共犯だしな。

 

「おはよう、二人とも」

 

「おー、おはよう霜月」

 

「ういーす生徒会長!」

 

ぐだぐた話していると、まだ授業の時間までにあと一時間くらいあるのだが、霜月のことだからこれくらいに来てもおかしくない気もする。

 

「相変わらず真面目だな、霜月」

 

「あら、そうかしら?今日はあなた達の方が早かったけど…」

 

「俺らは遊び出来ただけだって!生徒会長はいっつもこの時間帯に来てんのか?」

 

「ええ。生徒会の仕事もあるし…」

 

どこか疲れたように笑う霜月。疲れるなら辞めればいいのに。俺ならとっくにやめてるぞ。…というか、周りのやつもコイツに頼りすぎなんだよ。

 

「はぁ…もう少し休めばいいのに」

 

「あなたは休みすぎなんじゃない?」

 

「やることはやってるからいーんだよ」

 

霜月の言葉を鼻で笑って机に体を預けて力を抜く。あ~無駄に早く起きたから眠い~!

 

「…そういえば、泊くん」

 

「あん?」

 

「昨日は大変だったみたいね」

 

「あー…まあな」

 

もうこいつが何を知っていても何も驚かない自信がある。どこから聞いてくるのかは分からないが、教師から聞いてるのか?にしては知りすぎてる気もするが…。

 

「なあ、どっからそういうのを聞いてんだ?」

 

「…まあ、そういえツテがあるってところかしらね」

 

「ツテ、ねぇ…」

 

そういえば、霜月の家は名家と呼ばれるような大きな家だったはずだ。その方面から情報を得ていてもおかしくは無い…のか?なーんか、引っかかるぜ。

 

「泊くん、どうかした?」

 

「うおわ!?ちけぇよ!…たくっ、なんでもない。ただ、モヤモヤしてるだけだ」

 

何となくギアが入らず、ため息と共に更にぐったりしていると、花の香りが鼻をつく。目を開くと至近距離でブルーの瞳が覗き込んでいたため慌てて起き上がって顔を遠ざける。びっくりした…。

 

「もう、そんなにびっくりしなくていいのに」

 

「するに決まってるだろ!?…って、これ…」

 

先程、俺が慌てて起き上がった衝撃で落ちたのであろう紙を拾い上げる。そこに書かれてるのは…香水のメーカーへの感想か?なんでこんなのが?

 

「なんだこれ?」

 

「あら…それは隣のクラスの青木さんに渡すモノだわ」

 

「なんでこんなもんを?」

 

「青木さんがこの香水を使ってるメーカーの開発部の方の娘さんなの。そこで、私に試作品の香水を使って欲しいって言われてね」

 

「ふぅん…なら、今つけてる香水が?」

 

「ええ、その香水よ。いい匂いでしょう?」

 

ふわりと髪を揺らすと、甘い花の匂いがする。なるほど、確かにいい匂いがするな。これが出るなら母さんに買っても良いかもな。

 

「確かに、いい匂いだな」

 

「でしょう?まあ、私には甘すぎる気もするけれど…」

 

「甘い?…確かにもうちょい涼し気なのが良いかもな」

 

確かに霜月がつけるには匂いが甘すぎるかもしれない。ミントとかの匂いの方が良いかも…?

 

「エイジって案外そういうの詳しいよな」

 

「ん?ああ、叔父さんの影響でな。あの人、こういうのは詳しいから」

 

叔父──詩島剛はオシャレに気を使う人で、色々な知識を刷り込まれた。まあオシャレ以外の余計なことも色々吹き込まれた気もするけどな。

 

「これ、なんて名前の店の香水なんだ?」

 

「BlueFIowerって店よ。結構有名なんだけど知らないの?」

 

「ふぅん…ありがとよ」

 

BlueFIower…あまり香水などに詳しくない俺でも聞いたことのあるメーカーだった。しっかし、調べた感じ結構いい値段するな。

 

「…あら、もうこんな時間。そろそろ生徒会室へ行ってくるわ」

 

「ああ、頑張れよ」

 

「頑張れ生徒会長ー!」

 

まあそんな話をした日から数日が経ったある日。今日は源助が用事があると言っていたため、俺が一人で帰っていると唐突に後ろから嫌な予感がして慌てて後ろを振り向く。そこに立っていたのは、黒いフードの存在。前に見た、ロイミュードと融合していた男を凍りつかせた謎の存在だった。

 

「お前は…」

 

「泊エイジ…泊…やはり泊か…全く忌々しい一族だ」

 

「はぁ?」

 

ブツブツと何かをつぶやくそいつが、ゆらりと手を開くと手に何かが集まっていく。あれは…雪の結晶?

 

「…っ!?」

 

「この世界から消えろ!泊エイジィ!!」

 

集まった氷の結晶が地面を、空気を、あらゆるものを凍てつかせる風となって突き進む。それをにあたる直前に、マッハドライバーにシフトネクストを入れて叫ぶ。

 

「──変身ッ!」

 

【ライダー!ネクスト!】

 

シフトネクストからマッハドライバーによって抽出されたデータがノイズと共に鎧となって体を守る装甲と成る。生み出されたタイヤ型のデータや装甲によってやつの放ったエネルギー弾は弾け飛ぶ。だが、装甲が弾いてなお防ぎ切れなかったのか、少し凍った装甲を軽く叩いて氷を引き剥がす。そのまま、奴を見つめて拳を力強く握る。

 

「ハッ、仮面ライダーになったか。だが、その程度のシステムでは私には勝てんよ」

 

奴の体からバチリと黄金の閃光が弾ける。段々と強くなる黄金の閃光は、やがてロイミュードの肉体へと変化し、人の手には余る進化を遂げる。その身に宿された力は、あまりに大きく存在するだけで後ずさりしたくなるほどの威圧感が放たれていた。

 

「なんだ…それ…!?」

 

「これは超進化…お前らのような下等種族では辿り着けない領域だ!」

 

凄まじいエネルギーがロイミュードの右腕に集まって行く。黄金と青の混ざったような色合いのエネルギーが周囲を凍てつかせながら集まり…突如としてロイミュードの動きが固まる。

 

「ぬっ…ぐっ…まだ抗うかァ…!」

 

「なんだ…?」

 

「チィッ…まだ抗うのか、人間がぁ!」

 

「人間?…まさか!お前も人間を取り込んでるのか!?」

 

ロイミュード103を倒した時に弾き出された男を思い出して叫ぶ。目の前にいるこいつも、あの男と同じように誰かを取り込んでいるのか?

 

「…ふん、そんなことを知ってどうする?今から私に殺されるお前に!」

 

「いいや!殺される訳には行かない!まだやるべきことがあるんでね!」

 

「…黙れ!下等種族がぁ!」

 

苛立ったように拳を叩き込んでくるロイミュード。だが、俺にはまだ切り札が残ってる。シフトネクストが一瞬輝いたのが見えた。ようやく作れるようになったみたいだな!

 

「来い!シンゴウアックス!」

 

【シンゴウアックス!】

 

「何!?…ぬぐぁ!?」

 

背中のタイヤが高速で回転すると、回転したタイヤから紫色のデータが放出され、シフトネクストに取り込まれていく。そして、ロイミュードの拳がぶつかる寸前でシフトネクストから青と黄色の電流が放たれ、その電流は特徴的な見た目をした斧を形成する。俺はそれをすぐさま掴み取ってロイミュードを切り裂いて吹き飛ばす。

 

「お前の本来の持ち主はチェイスって言ったよな…叔父さんのダチの。悪ぃな叔父さん、チェイス。ちょっと借りるぜ!」

 

「貴様ごときが吠えるなぁ!」

 

怒りを込めた拳を振るってくるロイミュードに対して、シンゴウアックスを叩き込む。ガァン!と金属と金属がぶつかる音と共に俺とロイミュードに同時に拳と斧がぶつかり合って両者とも吹き飛ぶ。互角…いや、あっちの方が上か!

 

「くそっ…お前の中にいるやつが抗っててこれか…!」

 

「おのれ下等種族が!」

 

ロイミュードが冷気を放ちながら立ち上がるのを見て、シンゴウアックスを力強く握る。しかし、その瞬間に18時を告げる鐘の音が鳴り響く。その音を聞いた途端、ロイミュードは動きを止める。それどころか、攻撃する意思も見せずに、冷気すらも収める。

 

「…ちっ、時間か。ここは見逃してやる。私の名はフリーズ。覚えておけ、貴様を殺す者の名を!」

 

「時間…?おい!待てっ!」

 

ふわりと浮かび上がったフリーズと名乗るロイミュードは大量の冷気を発生させる。反射的に顔を守り、冷気の放出が止まったタイミングで先程までフリーズがいた場所を見るがそこには何もいない。残ったのは、俺と、凍りついた市街地だけだった。

 

「逃げられた…いや、見逃された?」

 

【オツカーレ】

 

シフトカーを引き抜いて変身を解く。遠くからパトカーのサイレンが聞こえて来るが、ここにいるのはさすがに不味いか。

 

「悪いな、父さん」

 

源助の言葉が無ければ、さっさとマッハドライバーとこのシフトカーを父さんに渡して何とかしてもらうんだが…。

 

「なーんかモヤモヤするぜ」

 

ネクタイを弛めて呟く。ぼんやりしてる暇もない、パトカーがあと二分もあれば到着するだろう。さっさと立ち去ろうとした時、カチャリと何かを踏んだ音がした。

 

「ん?…これは…ガラス?」

 

踏みつけたのは、ガラスで作られた容器の破片らしきもの。いつもなら疑問にも思わないが、何もかもが凍った場所でこの容器だけ無事なんて有り得るのか…?

 

「待てよ、これってまさか…」

 

そのガラス片を拾って、ポケットに入れる。そして、パトカーが辿り着く前に現場から離れて、家に戻ってからそのガラス片を観察してみる。すると、思っていた通りの事に気がついて全てのピースが頭の中でカチリとハマったような気がした。

 

「繋がった…!」

 

ネクタイをギュッと締める。そして、携帯を取り出すと源助に電話を掛ける。数回のコール音と共に、源助が電話に出る。

 

「もしもし、源助か?ちょっと頼みたいことがある──」

 

源助にあることを頼むと、源助がほんの少しだけ驚いたように笑った後、楽しげに話しかけてくる。

 

「ギア、入ったみたいだな」

 

「ああ…脳細胞がトップギアだぜ!」

 

ニヤッと笑って見せると、それを感じとったのか源助も楽しげに笑ったあと、俺の頼みを了承してくれる。そんな俺たちのことを、シフトネクストがじっと見つめていた。

 

☆☆☆

全てが繋がったあの日からまた数日が経った頃。俺の考えを裏付けるような証拠がいくつも出てきたためネクストを締めてしっかりとギアを入れ直す。そして、校門の近くで待っていた源助の元へと向かう。

 

「よお、源助」

 

「…ほんとにギアが入ってら。なんか分かったんだな?」

 

「まあな。…なあ、ほんとにいいのか?」

 

俺が頼んでおいてなんなんだが、俺たちがやろうとしてることはどうしても危険が伴う。仮面ライダーに変身できる俺はまだしも、生身の人間である源助には命に関わる可能性がある。

 

「おう。危険とか言いたいんだろうが、お前も大概だからな?」

 

「…頼むぜ、親友」

 

「ああ、任せとけ!」

 

軽いグータッチをして笑い合う。そうして、時間は過ぎて放課後になった。今は、テスト期間が近いため生徒たちはバラバラと帰り始めている。そんな中、源助が屋上に行っているのが見えた。それに静かについて行くと、屋上には既に源助ともう一人誰かが立っていた。

 

「よお──生徒会長。待たせたか?」

 

「今来たところ…って、言うべきかしら?」

 

からかうような笑みを浮かべる霜月。だが、その目は笑ってなんか居ない。冷たい、氷のような瞳だった。

 

「それで?なんの用かしら?まさか告白?」

 

「いやいや、違うって。それに、本当に用事があるのは俺じゃない」

 

「お前に用があるのは俺だ」

 

源助の目配せに頷きながら物陰から出る。突然現れた俺に対して驚いたように目を見開く霜月に向かって歩いていく。

 

「…なんの用かしら、泊くん」

 

「もう分かってんだろ?霜月…いや、()()()()()()()()()()()!!」

 

霜月…いや、フリーズに向けて指を突きつけると、一瞬困惑したような表情を見せたあと…忌々しそうにこちらを睨みつけてくる霜月。

 

「なんの事?」

 

「すっとぼけんなよ。俺がお前を初めに怪しいと思ったのは、こいつを見つけた時だ」

 

ポケットから取り出すのは男を凍りつかせていた氷の一部。それを袋から取り出して転がしながら空にかざす。

 

「この氷、なーんか花の匂いがするなと思ってたんだよな」

 

そう、俺があの時に氷から感じた違和感。そう、氷から何故かほんの少しだが花の匂いがしていたのだ。それがどうしても頭に引っかかっていた。

 

「次に、このガラス片。別の日にほかのガラス片を集めてみると──」

 

シフトネクストから映像が投影される。ガラス片が集まったあとは、花を模したようなガラスの容器。そして、表面にはBlueFIowerの刻印。

 

「三年生の青木に聞きに行ってみれば、この形の容器の香水はたった一つしかないって言われたよ」

 

青木に貰った紙を取り出して見せつける。そこには、()()()と銘打たれた香水。

 

「その上青木に調べてもらった結果、この氷から試作品の香水と同じ成分が検出された。この試作品を貰ったやつはたった一人しか居ない。お前だけなんだよ、霜月凛!」

 

「…ふっ、ははは…フハハハハハ!さすがは泊進ノ介の息子と言ったところか!」

 

俺に指をさされた霜月は凶暴な笑みを浮かべると、霜月の声を上から塗りつぶすようなフリーズの声が響く。

 

「やれやれ、いつもいつも貴様らは邪魔な奴らだ…」

 

「御託はいい!さっさと霜月を解放しろ!」

 

「解放?ハハハッ!面白いことを言う。この小娘は望んで私と融合している」

 

嗤いながら大仰な動作で話すフリーズ。それにしても…霜月がフリーズの力を望んだ?

 

「この娘の一族は実力主義でね。実力の無いものは常に蹴落とされ、見下されていた」

 

「それは…」

 

なんというか、厳しい家系ということだけは分かる。うちの家は、母さんは過保護な感じだが、父さんや叔父さんは放任主義なところがあるのでそういうのは分からない。

 

「だが、この娘には才能があってなぁ…。将来を有望視はされていたのだ」

 

「…有望視は?」

 

「そう、されているだけ!何せ、この娘の姉の方がこの娘よりも遥かに優秀だったからだ!」

 

姉…?そういえば、霜月の家族の話は聞いたことが無いかもしれない。姉がいたんだな…。

 

「それがどうしたんだよ」

 

「分からないかね?実力主義の家系で、いくら自分が優秀でもそれを遥かに凌ぐほどに優秀で、自分よりも遥かに人望のある姉がいる…その絶望を!」

 

「それは…確かに苦しい環境かもな」

 

「そう!この娘は常に姉への劣等感に苦しみ、絶望し──そして、常に屈辱感を覚えていた!その屈辱が!絶望が!私と引き合い…完全なる融合を果たした!」

 

狂気的な笑みを浮かべたフリーズが黄金の光と共に超進化体へと姿を変える。暴風とも言えるような冷気が吹き荒れ、悠然とフリーズが浮かび上がる。

 

「見よ!この美しき姿を!人間との完全なる融合による超進化の輝きを!」

 

「知るか!どうでもいいから霜月を返しやがれ!」

 

【シフトカー!】

 

「変身!」

 

【ライダー!ネクスト!】

 

変身した俺は、フリーズに殴り掛かる。全力で振るった拳は確実にフリーズに叩き込まれ…一切のダメージを与えることなく停止した。

 

「なっ…!?」

 

「ふっ、愚かな。お前が倒した、103は進化すらしていない下級ロイミュード…超進化した私と比べることすら烏滸がましい!」

 

フリーズの放った冷気の波動によって俺は屋上のフェンスを突き破って屋上から叩き落とされ、そのままの勢いで地面に叩きつけられる。

 

「がっ…あっ…!」

 

「弱いなぁ…仮面ライダー!」

 

あまりの衝撃に、立ち上がれずにいるところを蹴り飛ばされる。たったそれだけで10数メートルほど離れていたはずの校舎に叩きつけられる。強すぎる…!

 

「ガハッ…グッ…」

 

【オツカーレ】

 

弾かれた衝撃でベルトからシフトネクストがはじき出されて変身が解ける。それどころか、腰に巻き付けられたマッハドライバーは大きなヒビが入っており、もはや機能すらしていなかった。

 

「これで終わりだなぁ?泊エイジ!」

 

「ま…だ…だ…!」

 

だが、まだ諦める訳には行かない。歯を食いしばって軋む身体を鞭打ち無理やり立ち上がる。地面に転がったシフトネクストを拾い上げて、力強く握る。

 

「そんな死にかけた体で何が出来る?」

 

嘲るように話しかけてくるフリーズ。そんなフリーズを力強く睨み付けながらゆっくりとフリーズに向かって歩いていく。

 

「分かったぜ、お前の弱点」

 

「なんだと?」

 

「お前、霜月が居ないとその"超進化体"ってやつを維持出来ないんじゃ無いのか?」

 

俺がそういうと押し黙るフリーズ。図星だったらしい。こいつは、"人間と完全に融合することで超進化へと至った"とかなんとか言ってやがったからな。

 

「だが、それがわかったところでどうにもなるまい」

 

「いいや、なるさ…なあ霜月!」

 

歯を食いしばって、腹の底から霜月に呼びかける。朝の時点から、霜月の意識はずっとフリーズに乗っ取られた状態なんだろう。だったら、無理矢理でも叩き起す!

 

「お前の家の事なんて俺には分からねぇ!どれだけお前が苦しい思いをしてきたのかも知らねぇ!けどなッ!」

 

シフトネクストを握った右手でフリーズのことを殴る。ダメージどころか攻撃として認定されてすらいないのか避けることすらしないフリーズ。

 

「お前が姉に勝てなかった理由が一つだけ分かるぜ…!」

 

「なに…?」

 

「お前は人に、頼らなさすぎるんだよ!」

 

再度殴り付けた瞬間、フリーズが狼狽えるように一歩下がる。ふらつく体に鞭打って、一歩ずつフリーズに向かって歩いていく。

 

「そ、その目をやめろ!」

 

「なあ、聞こえてんだろ霜月ィ!いい加減その金メッキの中から出て来やがれッ!」

 

ガン!と今までで一番大きな音が響いたと共に──フリーズの胸元が割れ始め、その中から霜月の手が見える。そして、その奥には助けを求めるようにこちらを見る霜月の姿。

 

「霜月…っ!」

 

何とか霜月の手を取る直前で、フリーズがバン!と後ろに下がった事で手は掴み取れずにすり抜ける。何も掴めなかった手は空を切り、またもフリーズの中に取り込まれる。

 

「くそっ…!」

 

「ハハハ!残念だったな、泊エイジィ!これで終わりだぁ!」

 

フリーズの手に集まる冷気を見て、万事休すかと…目を閉じそうになるが──昔、父さんと話した記憶が蘇る。

 

『エイジ、仮面ライダーに必要なのは力じゃない。どんなことがあっても、挫けない熱いハートなんだよ』

 

そう言って、俺の心臓部を強く叩いた父の拳の熱がじんわりと体に伝わり、閉じかけていた目を大きく開く。そして、シフトネクストを全力で天に掲げてただ全力で叫んだ。

 

「START!YOUR!ENGINE!!!」

 

「死ねッ!仮面ライダー!」

 

それと同時に冷気の塊が俺目掛けて飛んできて…飛んできた冷気を俺の手から離れたシフトネクストが貫いて消し飛ばす。

 

「何っ!?」

 

シフトネクストはそれだけでは止まらない。黄金の光を発生させながらシフトネクストは天へと登っていき、ある地点を超えた瞬間、空に大きな穴が空く。

 

「なっ!?」

 

「なんだあれ…」

 

その穴から現れたのは、輝くシフトネクスト。そして、そのシフトネクストに誘導されるように現れた漆黒のスポーツカーだった。青いラインの入ったボディを輝かせながら現れたスポーツカーは高速で落下してきては、フリーズのことを吹き飛ばして俺の後ろに停車する。

 

「こ、これはまさか…!」

 

「トライドロン!?いや、なんか黒いな」

 

後ろに停車した黒いトライドロンらしき車に触れると、大量のディスプレイが現れる。そこに記されたこの車の名前はネクストライドロン。そして、ディスプレイに表示された機能を見て思わず笑みが零れる。

 

「ふっ…ははは!」

 

「何がおかしい!」

 

「おかしいさ…なにせ、ようやくお前を倒す手立てが出てきたんだからな!」

 

ネクストライドロンの上に壊れたマッハドライバーを置くと、ネクストライドロンがマッハドライバーを取り込み、解析を始める。大量のデータが表示されているディスプレイに再構築しますか?という選択肢が現れる。選択肢のOKボタンを全力でタップすると、俺の腰と左手首に青黒いデータが集まり、ソレを作り出す。

 

「バ、バカな…!ドライブドライバーだと!?」

 

「ふっ…見せてやるよ、未来のドライブをなッ!」

 

ドライブドライバーのイグニッションキーを回すと、エンジンがかかる音と共に待機音が響く。そのタイミングで飛翔してきたシフトネクストを左手首のシフトブレスに近づけて笑う。

 

「START OUR MISSION!」

 

【OK…!】

 

「変身ッ!」

 

俺が叫ぶように言うと、新たに生み出されたドライブドライバーに組み込まれているAIが低い声で答える。その声に導かれるように俺はシフトネクストをシフトブレスに装填。すると、マッハドライバーの時とは比べ物にならない量のデータが吹き荒れる。マッハドライバーとはそもそも作られた年代が違うせいか、データに齟齬が生まれていたが、そのデータの齟齬は完璧に調整され、さらに洗練されたスーツと鎧を生み出す。

 

DRIVE!TYPE NEXT!

 

ドライバーがミライの名を告げると共に完全にスーツと鎧が俺に適応する。軽く手を握って見ると、それだけの動作でマッハドライバーを使っていた時よりも遥かに出力が高いのが分かる。これが、ドライブ…!

 

「な、なんだと…!?新たなドライブ!?」

 

「俺は…ダークドライブ。仮面ライダーダークドライブ!」

 

フリーズに向けて全力で啖呵を切ってみせる。そして、腰を落として何時でもかけ出せるような体制にして叫ぶ。

 

「さあ、ひとっ走り付き合えよ!」

 

その言葉と共に、俺もフリーズは同時に駆けだす。同時に放たれた拳は、僅かに俺の方が早く届いた。青黒いエネルギーを纏った拳はフリーズを吹き飛ばして、ダメージを与える。

 

「バカな…バカなバカなバカなァ!」

 

「まだだ!」

 

タイヤから抽出されたデータが、俺に最も適した形の武装を生み出す。グリップ型の銃と剣が融合したような形のブレードが俺の手に収まる。

 

「いいね。ブレードガンナーって名前にするか!」

 

青く煌めく刃をフリーズに叩き込んで切り裂いていく。フリーズの体をブレードガンナーが切り裂く度に火花が飛び散り、フリーズの体を削り取っていく。

 

「ぐぅぅぅぅ…舐めるなァ!」

 

フリーズは怒号と共に冷気の弾丸を放ってくる。その弾丸は俺に直撃して、俺の周囲ごと凍てつかせる。

 

「ふ…はははは!凍らせてしまえば私には手出し出来まい!」

 

「無駄だ」

 

俺は周囲に貼った青いデータで出来たバリアを内側からブレードガンナーで撃ち壊しながら告げる。青いヘッドランプのような複眼がフリーズの弱点などを淡々と調べていく。

 

「行くぞ?」

 

「おのれ泊エイジィ!」

 

ヤケになったのか、乱雑な動作で殴りかかってくるフリーズだったが、その拳や蹴りを軽く受け流しつつカウンターで拳を叩き込んでいく。

 

「霜月!今助けてやるよ!」

 

イグニッションキーを再度回し、シフトブレスのボタンを全力で叩く。

 

【NEXT!】

 

ミライの名のもとにブレードガンナーへと膨大なエネルギーが供給される。もはやエネルギーの塊とも呼べる状態となったブレードガンナーをフリーズに叩き込み、全力で切り裂いた。

 

「ぬぅおおおおああああああ!?!?」

 

「出てこい!霜月!」

 

切り裂かれた傷から伸びてきた霜月の手を──今度こそ完全に掴み取った。掴んだ手を力強く引いて、フリーズの中から霜月を引きずり出す。

 

「霜月!」

 

「ありがとう…泊…くん…」

 

ほんの少しだけ微笑んで、霜月は静かに目を閉じる。ダークドライブのシステムが、ただ気絶しただけであることや、衰弱状態にあることを教えてくれる。霜月を抱き上げて、いつの間にか降りてきていた源助に預ける。

 

「親父さんと一緒だな、エイジ」

 

「ふっ、なかなか似合ってるだろ?」

 

「ああ、バッチリだ!」

 

そんな軽口を叩いて、切り裂かれた傷を抱えて膝をついているフリーズの元へと歩いていく。

 

「ぐっ…超進化体を保てない…!?」

 

「お前、人間の事を下等種族とか言ってたよな?」

 

「ああそうだ!人間は愚かで、惨めな、下等種族だぁぁぁぁ!」

 

そう言って叫びながら突撃してくるフリーズを軽く避けて、ブレードガンナーから青色の弾丸を放って吹き飛ばす。すると、辛うじて黄金の肉体を保っていたフリーズの肉体から金が消え、青白い肉体へと退化する。これが、進化体って奴か。

 

「その愚かで惨めな下等種族に頼らないと進化出来ないお前は、どれだけ下等なんだ?」

 

「黙れぇぇぇぇぇぇぇ!!」

 

ふらふらと立ち上がったフリーズに向けて再度発砲。吹き飛ばされたのを見て、イグニッションキーを捻る。そして、シフトブレスのボタンを押し込んで腰を落とす。

 

【NEXT!】

 

ベルトがミライの名を告げると、背後で待機していたネクストライドロンが起動。フリーズの周囲を高速で回転しながらフリーズに向けて大量の弾丸をぶち込んでいく。そんなネクストライドロンが回転している中に飛び込んだ俺は、ネクストライドロンを足場に何度も何度も蹴りをフリーズに叩き込んで行く。

 

「ぐっ…あああああああ!?」

 

「これで終わりだ!フリーズッ!」

 

最高速まで加速した俺は、青黒いエネルギーと共にフリーズの胸元を蹴り抜く。すると、俺の蹴りはフリーズのボディを簡単に貫いて、コアにまで蹴りが叩き込まれた。

 

「これで終わると思うなよ、泊エイジィ…!まだ全ては始まったばかりだぞ…!」

 

「そうかよ。なら、俺はその全てを乗り越えてやる!」

 

「ふっはははは…ぐああああああああああ!!」

 

大爆発と共にフリーズのコアは砕け散って消滅する。あとに残るのは、ダークドライブに返信した俺だけ。そのまま数秒佇んでいると、大量のパトカーが校門前に止まり、そこからたくさんの警察官が現れる。

 

「ドライブ!?」

 

「なんでドライブが!?」

 

警察官たちが俺の姿を見てザワつく。その様子を見て、ゆっくりと踵を返して立ち去ろうとする。すると、一人の刑事がゆっくりと警察官の波を割って出てくる。

 

「お前は…まさかそんな!ダークドライブは消えたはずだ!」

 

先頭に出てきて困惑したようにこちらを見てくるのは父さんだった。困惑しつつもしっかりと銃を向けている当たりエースと呼ばれるだけはあるなと口元に笑みを浮かべてしまう。

 

「お前はエイジなのか!?答えろッ!」

 

父さんが叫ぶ言葉には答えることなく踵を返して指を鳴らす。瞬間、ネクストライドロンが俺と警察官たちの間に割って入り、ネクストライドロンが俺の周囲を回転する。凄まじい風と砂埃に刑事たちが顔を覆っている間に俺はネクストライドロンを使ってその場から立ち去る。刑事たちが顔を上げた頃には、既に俺はいなくなった後だった。

 

☆☆☆

 

俺がダークドライブとなってから、はや一週間が経った。俺と源助は帰宅後にお互いの両親に今まで行っていた事を全て白状した。父さんたちに黙っていた理由も源助は警察内部に敵がいると怖かったと言っており、俺は父さんたちに迷惑をかけたくなかったと話した。

 

俺は父さんには死ぬほど怒られ、母さんには死ぬほど泣かれた。源助の方は現さんにゲンコツを入れられ、りんなさんに耳を引っ張られていた。

 

「しっかしまあ、エイジがダークドライブになるとはなぁ」

 

「因果なものよねぇ…」

 

呆れたような現さんとりんなさんの言葉に、ネクストライドロンによって提示されたデータの中にこんな話があったな、なんて軽く納得する。

 

「それって、別の次元の泊エイジのことだろ?」

 

「お、おい!なんでそれを!?」

 

「全部見たよ、ネクストライドロンに全部記録されてたし…その、別次元の俺が死ぬところも」

 

見たまま全てを話すと、痛ましげにこちらを見つめてくる大人たち。でも、俺としてはそんなにダメージは無かった。

 

「正直、別次元の俺とかよく分かんなかったけどさ。映像で見ただけだから、なんか実感わかないし…それに、あんまり関係ないだろ?俺は俺、別次元の俺は別次元の俺だしな」

 

軽く肩を竦めて見ると、呆れたように笑った後に父さんが力強く抱きしめてくる。

 

「なんにせよ、お前が無事で良かった」

 

そんな、俺たちの家を遠くから眺める謎の影。赤いロングコートに身を包んだ男は、近くの手すりに体を預けながら微笑む。

 

「あれが、泊エイジ…泊進ノ介の息子、か。なかなかガッツがあるじゃないか」

 

赤いロングコートの男はニヤリと獰猛に笑うと、体から蒸気を発生させながら心臓部に手を当てる。

 

「俺と最高の戦いをしてくれると良いんだがな…」

 

男はくるりと踵を返してその場から立ち去る。男の求めるものは純粋なる決闘。心の底から認めた最高の相手との戦い。ただ、それだけなのだから。

 

「楽しませてくれよ、泊エイジ」

 

男の名はハート。ハート・ロイミュード。新たなる脅威が静かに腰を上げた。



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マーベルの章
仮面ライダーマーベル 前編


皆様どうも、夢野飛翔真です。
本日より私の作品、仮面ライダーマーベルを3日間に渡り投稿していきます。
本日は前編です。

アベンジャーズの活躍を夢で見る少年、北条颯馬
彼の歩む物語を是非ご覧下さい。


「ハルク!暴れろ!」

 

僕はたまに夢を見る。

ヒーローの夢だ…

夢の中に僕はいない。ただ三人称の小説を読んでるみたいにヒーロー達の物語を眺めている。

 

「OKガーディアンズ、危険な任務だ。マジな面でいこうぜ。」

 

僕の見る夢には色々なヒーローが居る。

アイアンマン、キャプテンアメリカ、ソー……僕の手じゃ数え切れないぐらいのヒーローがいるけど、僕は彼らのことをアベンジャーズって呼んでいる。

彼らは皆カッコイイし、その活躍を僕は夢の中で楽しんでいる。

僕が今生きている現実とは大違いだ…

 

「バダン帝国万歳!」

 

「万歳!」

 

父さん曰く40年前、この世界は地下帝国バダンによって支配された。

僕が産まれた頃には既に世界の領土の9割をバダンが支配していて、抗う人達も年々減ってきていた……

 

「颯馬、そろそろ会議だよ。」

 

「分かった、行こうか隼人。」

 

けど、僕は諦めない。レジスタンスに参加してバダンと戦いを繰り広げる日々の中にいる。その間に僕に北条颯馬と名付けてくれた両親とは離れ離れになってしまった…

それでも僕は戦う。そしていつか、スターロードの様に音楽を楽しんだり、スパイダーマンの様に映画を楽しめる世界を取り戻す…!

今僕を呼びに来てくれた親友の三浦隼人と一緒に僕らはレジスタンスの会議の場に向かう。

 

「息子の調査によればこの横浜の基地に間違いない……仮面ライダーが眠っている!」

 

会議の場に行くと、僕達を集めた三浦俊太さんが口を開く。

この人は隼人の父さんで発明家だ。僕らが拠点にしている鎌倉の電気類を整備し、ショッカーが使っている電波が届くようにしてくれたレジスタンスには欠かせない人だ。

隼人は俊太さんが引っ張ってきた電波やコンピューターを使って、ショッカーのデータベースから情報を盗んでいる。

そして、隼人が盗んできた情報によれば横浜の基地に仮面ライダーって人が居るらしい……

 

「仮面ライダーっつったら昔バダンと戦ったって奴らじゃねえか!」

 

その話に老兵の岡崎さんが乗ってくる。

既に60歳を超えた岡崎さんはバダンと仮面ライダーって戦士の戦いを間近で見たことがあるらしくて、よくその話を皆にしてくれている。

 

「けどよお、仮面ライダーってもう負けて死んじまったんだろ?」

 

「ええ、それに40年も前の戦士です。今生きている保証は……」

 

仮面ライダーはバダンの侵攻が始まる前から居たという正義の戦士だ。もし彼らが今も居るのなら僕らレジスタンスの戦力として期待出来る。

けれども、彼らはバダンの侵攻の最中で敗北し、姿を消してしまっていた。豪傑の和田さんと知勇兼備の畠山さんが言う通りもう死んでしまっている確率は高い。

 

「そう思って調べてみたところ、どうやら横浜の基地にある機械にコールドスリープの装置があるみたいです。」

 

「つまり…仮面ライダーが冷凍睡眠状態で横浜にいるかも知れないってこと……?」

 

隼人の言葉の後に僕の推察したことを続ける。

冷凍睡眠状態だったらまだ生きているかも知れない…

 

「その仮面ライダーを解凍出来れば…我々の戦力補強に繋がる……!」

 

この作戦の利点に気付いた畠山さんの目の色が変わった。

仮面ライダーを呼び起こすという作戦に起死回生の希望を見出している。

それはこの作戦を提案してきた三浦親子や和田さん、岡崎さんもそうだ。

 

「しかしながら、その情報罠の可能性は?」

 

けどそのムードに水を差すような重厚感のある声が騒がしくなりだした空気を切り裂いた。

 

「大体仮面ライダーの存在が本当なのかもわからない上、わざわざ敵の基地に乗り込む必要があるのだろうか?」

 

会議が一瞬にして静まり返る。冷静沈着かつリアリストな梶原さんの意見も一理ある。

 

「確かに、梶原さんの言う通りですな。もし仮に、生きていたとしても一度バダンに負けた者を復活させたところで戦力になるかどうか……」

 

小心者の比企さんも梶原さんの意見に賛成している……

正直僕はどちらの言い分も正しいとは思う。

仮面ライダーがもしいるなら仲間にしたい、けど基地に潜入する場合のリスクが高すぎる。

 

「仮面ライダーがいた所で使えるかどうか……」

 

「何を言う!あれは伝説の戦士じゃ!弱い訳がないだろう!」

 

「皆仲良くじゃ!」

 

比企さんと岡崎さんが喧嘩になりそうなところを土肥さんが仲裁する。

 

「話は全て聞かせてもらった……」

 

そんな中、部屋に一人の男が入ってくる。

 

「皆、待たせたな。俺は賛成だぜ、仮面ライダー救出作戦。」

 

部屋に入ってきたのは、レジスタンス1の軍略家でリーダー的存在の源田清十郎さんだ。

 

「しかしながら、清十郎。策はあるのか…?」

 

「勿論ある。」

 

梶原さんが策を問い掛ける。

 

「まずは爆弾を使って基地周辺に攻撃を仕掛ける。」

 

「そんな事をすれば警備がより集まってしまいます…」

 

源田さんの話す作戦に少し疑問を持ち、指摘する畠山さん。

確かに彼の言う通り、そんなことされればバダンも黙っていない。

警備をより厳重にしてくるだろうし……

 

「ああ、周囲から敵兵が駆けつける。だから俺達はバダンの援軍の車に奇襲をして装備を奪い取る。そして仲間のフリをして横浜の基地へ潜入する。」

 

「なるほど、それならば確かに内部への潜入も容易…」

 

「装備も奪えて一石二鳥ですね。」

 

源田さんの策に畠山さんや隼人が賛同の声を上げる。

 

「この作戦、俺に着いてくる者は手を上げろ!」

 

和田さんや畠山さんを初めとした人達が源田さんの言う様に手を上げる。もちろん僕も手を上げる。

上手くいけば一気に戦況が変わる。この作戦に賭けてみるのも悪くない…

 

「比企と梶原は留守番をしていろ!決行は明日!皆備えろよ!」

 

「「「はい!」」」

 

この作戦に賛同しなかった2人を僕らのいる鎌倉の守備に回し、賛同者と源田さんで明日、横浜に乗り込むこととなった。

 

「ナイスハッキングだよ、隼人」

 

「結構厳重な警備だったよ。けど俺も驚いたよ、仮面ライダーの話が本当かも知れないって…」

 

「そうだね、とりあえず明日は早いだろうし僕は寝るよ。」

 

「僕もそうするよ、おやすみ、颯馬」

 

会議の後、僕らはそれぞれ眠りにつく。

 

----------------------------------------------------------------------------------------------

 

『キャップ…左だ…左を見ろ……』

 

今日は縁起がいい…またこの夢だ……

僕も何度か見たこの夢、サノスという宇宙人によって全宇宙の人口が消されてから5年……

残ったアベンジャーズはタイムトラベルを駆使して消えた人々を取り戻した。

そしてこれは、時を超えて強襲してきたサノス軍とアベンジャーズの戦いの場面だ。

追い詰められたキャプテンアメリカの下に次々とヒーロー達が集ってくる。

 

「アベンジャーズ!アッセンブル!」

 

そしてキャップの号令と共にヒーロー達が敵軍に突撃していく。

最後はアイアンマンことトニースタークの犠牲もあり、アベンジャーズが勝利を収めた。

大事な戦いの前にこの夢を見れると少し、自身が湧いてくる。

 

「なら私は…アイアンマンだ……」

 

明日僕も頑張らないと、彼らの様に 僕達も勝ってみせる…

 

----------------------------------------------------------------------------------------------

 

「では、作戦通りに頼むぞ!」

 

「おう!任せておけ!」

 

そして仮面ライダー奪還作戦の時が来た。

源田さんの指示で和田さん達が三浦さんの発明品であるドローンを使って基地の内部にある倉庫や車両基地を爆撃する。

 

「よし、バダンの車が通るかどうか颯馬!しっかり見張っておけよ!」

 

「はい!」

 

そして僕は爆破に釣られてやってきたバダンの援軍を監視する役回りだ。

単独で走行している車なら奇襲しやすい、周りに他の車があまりいない方が気付かれにくい。

なので襲うのに丁度いい孤立した車両を探すことにしよう…

 

「どうやら爆破の方は上手くいったそうです。」

 

暫く時が経つと爆音と共に作戦の第一段階が成功したという報告が届く。

その報告の後、付近の基地から横浜のバダンの基地に次々と援軍が向かい始める。

 

「あれは…」

 

やはり、バダンの本拠地がある東京付近からは多くの援軍が向かってきている。

一方、南からの援軍は少ないうえに、各部隊の距離が離れている。

バラけて向かっているなら狙うしかない。

 

「源田さん、南に丁度いい標的がいます。」

 

「おう、じゃあ南に向かおう!」

 

そのことを報告するとすぐに僕達は敵の車に奇襲を仕掛けにいく。

 

「こちらA部隊上手くいきました。」

 

『了解、こっちは陽動を続ける。』

 

奇襲作戦は上手くいき、乗っていた戦闘員達を撃退。敵の装備を着て変装し、バダンの車に乗って横浜基地まで移動する。

その間に陽動部隊と通信し、別の要所に攻撃をしてもらうことになった。ある程度バダンの兵を別の場所に割いてもらわないと潜入後に大勢を相手にしないといけない可能性があるから敵を散らす必要がある。

 

「よし、ここが横浜の基地だ。慎重にいくぞ」

 

「はい」

 

僕、源田さん、隼人、畠山さん、岡崎さん、土肥さんの6人で基地の中に来るまで入り込み、陽動部隊が起こした騒ぎによって混乱し始めてきている。

その間に僕たちは屋内に入っていく。

 

「隼人、場所はどこか分かってる?」

 

「うん、地下にある秘密の研究室だよ。確かこのエレベーターを…」

 

エレベーターの前で隼人がパソコンを使ってハッキングをすると、かごが降りてきて僕達6人はそれに乗り込む。

 

「このまま降りれば研究室です。」

 

「ああ、戦闘員があまりいない所を狙おう。」

 

敵の研究室であるとは言え、冷凍睡眠されているという仮面ライダーがいるのなら暴れ回るわけにはいかない。解凍の方法が分からなくなったり、設備が破損する可能性もあるし、仮面ライダー自身が傷ついてしまうことも考えられる。出来れば戦闘は避けておきたい。

 

「降りるぞ」

 

エレベーターが最下層で止まり、扉が開くとすぐに銃を構えて雪崩れ込むようにして降りる。

 

「ここは…」

 

けど僕達の目に映ったのは研究施設でもなんでもなかった。

壁と天井しかない広い空間だ。とてもじゃないけど研究をする為の部屋ではなさそう…

 

「確かにここの部屋のはずなんだけど…」

 

降りる場所を間違えたのだろうか?と思って隼人はパソコンを確認する。

手に入れたデータではここだった筈と焦っていると、コツンコツンと金属の靴で歩いているような足音が部屋の中に響く。

 

「だ、誰だ!?」

 

足音のする方に土肥さんが銃口を向ける。

向かってくる者の姿は銅製のプロテクターとバッタの様なフォルムのヘルメットを被った軍人のような男だった。怪人とはまた違う雰囲気を纏っている。

 

「まさか、仮面ライダー!?」

 

その戦士の姿に岡崎さんは驚愕している。

 

「仮面ライダー?まさかこれが本物の……」

 

「いいや、似てはいるがワシが見たのとは違う……」

 

岡崎さんが嘗て目撃した仮面ライダーとは違う戦士なのか…?

 

「いいや、俺は仮面ライダーだ。」

 

そんな僕達の疑問に答えるようにその戦士が声を発する。

 

「俺はショッカー最後の仮面ライダー4号だ。残念だったな、研究室はこの1つ下の階だ。」

 

4号と名乗った戦士は地面を蹴り、目にも止まらぬスピードでこちらに詰め寄って来て、土肥さんが持つ銃を回し蹴りして破壊する。

 

「な、何をする…!?」

 

「俺はショッカーのライダーでありバダンのライダー…レジスタンスは俺が潰す。」

 

「どうやらこのライダーを倒さねば先にも進めないし帰ることも…」

 

「ああ、撃て!!」

 

畠山さんと源田さんの号令と共に4号に向けてアサルトライフルを撃っていくが、毎秒数百発の弾丸が身体に当たってるにもかかわらず、4号は微動だにしない。

 

「その程度の攻撃、俺には効かん!」

 

僕らが張った弾幕を真正面から突破して、4号が岡崎さんを殴り飛ばす。

 

「岡崎さん!」

 

「なんて威力だ…」

 

拳で殴られた岡崎さんの身体は10m程飛ばされて地面を転がる。

 

「よくも岡崎を!」

 

気を失った岡崎さんを守ろうと4号の背中に源田さんと畠山さんがアサルトライフルで弾丸の雨を降らせるが…

 

「さっきも言っただろ」

 

一瞬で畠山さんの前に来ると、そのまま蹴飛ばし。

 

「そんなもののは俺には効かんと…」

 

すぐに源田さんの方を向くと彼の身体を掴んで投げ飛ばす。

 

「後は僕達だけだよ……」

 

4号は投げ飛ばした源田さんに向けて走り出し、トドメを刺そうとした。

 

「諦めたらダメだ!」

 

その様子に隼人が絶望していた。もう勝てないかも知れない。

このままここで死ぬかも知れない……

 

けどここで死んだらもうバダンは倒せない!

そうなればもう僕たち人類が笑顔にはなれない、そう考えてる時には既に体が動いていた。

源田さんに向かって駆ける4号の身体に突っ込んでタックルをして止めた。

 

「まだ俺に抵抗するか…」

 

「ああ、隼人!皆を連れて逃げろ!」

 

銃口を4号の腹部に当ててゼロ距離で撃ちまくる。

 

「颯馬!けどそれじゃ…」

 

「僕のことはいい!早く逃げて体制を…」

 

その間に隼人たちに逃げるように促した。けど皆の方を見ようとした時には僕の身体は既に宙を舞っていた。

恐らく僕の攻撃は一切効いていなかった…

あっという間に僕の身体は上に投げ飛ばされ、気付いたときには背中に激しい鈍痛が走り、今度は地面に向けて身体が落下していく…

 

このまま僕は死ぬのかな……?

 

そんなことが頭を過った……

身体は天井に激突してボロボロ、このまま落下すればもう……

 

(諦めるな。)

 

声がした、それに気付いた時には僕は白い何もない空間に立っていた。

 

「ここは……?」

 

「ここは、辺獄。まあ生と死の狭間ってとこかな。」

 

先程僕のことを呼んだ人と同じ声がした。しかも僕はこの声を何回も聞いたことがある。

 

「トニースターク!?」

 

声のした方を見るとやはりいた、僕が何度も夢の中で観たヒーローであるアイアンマンことトニースタークの姿が…

 

「その通り、とは言っても今の私は命を落として魂だけの状態だが。」

 

アベンジャーズ最後の戦いで、彼はインフィニティーストーンと言う強大な力を持つ6つの石を使った反動で命を落としてしまっていた。

 

彼がいるってことは僕も死んだのか…?

けど生と死の狭間って言ってたのはどういう……

 

「何故僕とあなたはここにいるんですか?」

 

「細かい話は後にしよう。簡単に言えば君に残された選択肢は2つ。このまま死ぬか、ヒーローとして生きるか。」

 

「ヒーローとして生きる…?」

 

僕がヒーローになるのか…

トニースタークやアベンジャーズの様に……

 

「ああ、君は今まで私達の戦いを見てきた筈だ。」

 

「はい、夢の中で……」

 

「それができるのは特別なことだ。君にしかできない、世界に選ばれた君だけができることだ。」

 

「世界に選ばれた……?」

 

僕は夢の中で彼らの戦いを見続けていた。

それは特別なことだったんだ…僕だけにしかできないこと…

 

「そうだ、君はどうやらヒーローになる運命にあるらしい。」

 

「それが僕の運命。」

 

「ああ、戦う覚悟はあるか?あるならこれを使え。」

 

トニースタークの掌の上に出現したアタッシュケースを手に取るのに時はかからなかった。

 

"でも一歩外に出たら、君はアベンジャーズだ。"

 

ヒーローとして戦えるのなら…

 

"颯馬!また射撃の腕前上がったんじゃないの?"

 

"いい作戦だ!颯馬!"

 

隼人や源田さんを…

皆を守れるのなら…

 

「僕は戦う!」

 

バダンを倒して人々を救う。その覚悟は既に決まっている。

 

「なら後は彼に任せよう。ジャービス、颯馬のサポートは任せた。」

 

『畏まりました。』

 

「健闘を祈るよ。北条颯馬、いや、仮面ライダーマーベル」

 

スタークさんの話が終わるとまた僕の視界が暗転した。

 

----------------------------------------------------------------------------------------------

 

「そ、颯馬…?」

 

隼人達の前で颯馬の身体は4号によって天井に打ち上げられ、地面に落下した筈だった。

だが落ちたはずの颯馬の身体が光に包まれ、何時の間にか仮面の戦士となって地面に着地する。

 

『スタークスーツ!』

 

赤色と金色が混じった金属のアーマーを身に纏い、胸には青白く動力源であるアークリアクターが光っている。

その姿はアベンジャーズのメンバーであるアイアンマンに似ているが、その肩にはガトリングガンとランチャー、両腕にはサブマシンガンが付いていて、その重厚な装備はアイアンマンの相棒であるウォーマシンを思い起こさせる。

 

『アイアンアベンジャー!アッセンブル!』

 

アベンジャーズに所属するアイアンマン、ウォーマシン、レスキューというハイテクな技術を用い、パワードスーツを纏う3人のヒーローのデータが収められたスタークディスクが彼の腰に巻かれたマーベルドライバーに装填されている。

 

「お前も…仮面ライダーか?」

 

「僕は仮面ライダーマーベル、自由を求める戦士だ。」

 

その言葉とともに、颯馬が変身する仮面ライダーマーベル・スタークスーツの持つ4つの銃口が仮面ライダー4号に向けられる。

 

「そ、颯馬が変身した!?」

 

「こりゃ驚いた!」

 

その様子に隼人や土肥が驚きを隠せない。

 

『颯馬様、戦い方は分かってますよね?』

 

「うん、ジャービス。大丈夫だよ、何度も見てきたから…」

 

彼の着るアーマーにはサポートAIであるジャービスが搭載されており、彼が颯馬に問いかける。

 

「何をゴチャゴチャ話してる!」

 

その様子に業を煮やした4号が颯馬に向けて走り出す。

 

「集中砲火!」

 

その4号に向けてスーツの各装備から放たれた弾丸が一気に降りかかる。

右肩からはグレネードランチャーで炸裂弾が放たれ、4号の身体に当たる度に爆発を起こす。

左肩のガトリングガンからは秒間数百発の弾丸が連射され、それぞれの攻撃が4号の装甲にダメージを与えていく。

 

「クッ…!」

 

ダメージを受け続けるのは得策ではないと4号は宙に飛び上がって颯馬に向かって降下しながら拳を突き出そうとする。

 

「リパルサーレイ!」

 

だがその4号の身体がマーベルの掌から放たれるリパルサーレイによって吹き飛ばされ、放物線を描いてその肢体が地面に激突する。

 

「隼人、何人が動けそう?」

 

「僕と土肥さん以外重症かも…」

 

「だったらここは撤退だね、ここでアイツを倒せても皆が動けないんじゃ長く滞在するリスクが大きくなる。僕が時間を稼ぐから2人は皆を連れて上に逃げて。」

 

既に源田、畠山、岡崎の3人が4号によって負傷し動ける状態ではない。

この後敵の援軍が来ることを考えると、この3人を長時間基地に居させ続けるのはリスクが大きい。

そう判断した颯馬はまだ動ける隼人と土肥に逃げるように指示する。

 

「わかった、任せてくれ!けど仮面ライダーは…」

 

「諦めるしかない…けど僕がいる。」

 

当初の目的であるこの基地にいるという仮面ライダーの奪還は果たせそうにないが、仮面ライダーマーベルがこのままレジスタンスの戦力になれば、それだけでもバダンへの対抗手段が増える。

それ故にここは撤退を選ぶのが得策と判断し、隼人達は逃げる準備をする。

その間に砂埃の中から立ち上がった4号に颯馬の左肩のガトリングガンから放たれる無数の弾丸が突き刺さる。

 

『腰のホルダーにサポートディスクが入っています。もう1つのディスクスロットに挿入してみてださい。』

 

「このディスクかな?」

 

彼の腰に付けられているマーベルドライバーにはディスクを入れれるディスクスロットが2つ付いており、既にスタークディスクが入れられている右側のメインスロットの反対側にある左側のサブスロットに腰のホルダーから取り出したナノマシンディスクを挿入する。

 

『ナノマシンアーマー!』

 

ウォーマシーン特有の重厚感ある装備がすべて消滅し、アーマーは全てナノマシンで覆われた滑らかなフォルムに変化する。

 

「装備を捨てたか…それでどうするつもりだ!」

 

ガトリングが無くなったということは、4号に向けられていた銃弾の雨が止んだということでもある。

それによって、動ける余裕ができた彼はすぐに颯馬に向かって走り出す。

 

「ナノテクの使い方は……こうかな?」

 

その4号に颯馬の両掌にあるリパルサーレイだけでなく、背中から展開された4問のナノマシンでできたレーザー砲が向けられる。

 

「増えた…!?」

 

放たれる4本のレーザーに驚きつつも4号は咄嗟に回避、だがそこを両手のリパルサーレイが吹き飛ばす。

 

「颯馬!エレベーターが動かない!」

 

「ああ、俺に気を取られている間に援軍が到着したようだな…」

 

「それでエレベーターが止められたってことか……」

 

既に彼らが侵入したとわかってから時が経っており、バダンの手によって基地のエレベーターが止められてしまい、集まった者共によって包囲されてしまっている。

 

「そういうことなら逃げるよ。隼人達はそのままかごに乗ってて!」

 

隼人達に指示をする颯馬の隙を突こうとした4号が右腕を突き出すが、アーマーから放たれたナノマシン製の拘束具が巻き付き、爆発する。

 

「うっ…腕がッ……!!」

 

その爆発によって4号の腕が吹き飛び、肘から先が無くなる。

元々腕が有った箇所を押さえる4号を横目に、颯馬達はエレベーターのかごに乗り込む。

 

「こ、ここからどうする!?」

 

『問題ありません。もう1つのサポートディスクを使ってみてください。』

 

「これかな?わかった。」

 

抜き取られたナノマシンディスクの代わりにパーティーディスクが挿入される。

 

『ホームパーティープロトコル』

 

ナノマシンアーマーの姿から、元のスタークスーツの姿に戻るのと同時に35体の様々なアイアンマン達が召喚され、エレベーターの壁を破壊しかごごと上に運ぶスーツとその周囲を守るスーツ達が一気に上へあがる。

 

「このまま一気に逃げるよ!」

 

かごに他のレジスタンスメンバーを入れたままアイアンマン達は拠点である鎌倉に向けて飛んで撤退する。

 

「こっちには来させない!」

 

戦闘機に乗って彼らを追うバダンの兵達を颯馬や彼が召喚したスーツのハートブレイカーとシルバーセンチュリオンが迎え撃つ。

 

「す、すごいよ!すごいよ颯馬!」

 

「これが…仮面ライダーか!!」

 

颯馬がガトリングとマシンガンで、ハートブレイカーが胸部から放つユニビームで、シルバーセンチュリオンが腕の刃でそれぞれ追撃してくる戦闘機を攻撃して撃墜させていく。

その様子に隼人や土肥は興奮を隠せない…

 

「こ、ここは…?」

 

「我々は今どうなって……」

 

その間に源田と畠山も目を覚まし

 

「な、何が起きている!?」

 

かごに乗って飛んでいる今の状態に驚愕している。

 

「颯馬が変身したんですよ!仮面ライダーに!!」

 

「颯馬が!?」

 

起き上がった源田たちの目には颯馬が変身する仮面ライダーマーベル・スタークスーツの雄姿が映る。

敵を一切寄せ付けず、リパルサーレイと肩の装備で空中の敵を次々と撃ち落としていく。

 

「皆!行くよ!」

 

爆炎を背に戦う颯馬の姿は彼らを導く新たな英雄として映る。

そう、新たな仮面ライダーの戦いが今ここに始まったのだ……

 

To be continued…




キャラ設定
北条颯馬(CV内山昂輝)
18歳
レジスタンスに所属する青髪の青年
中肉中背だが体はしっかり鍛えられていて身体能力も高い。
夢の中でアベンジャーズの戦いを観測し続けていた。
性格は責任感が強く、仲間思い
周囲の人に優しい
両親とはバダンとの戦いによって離れ離れになってしまっているが、そんな自分を救ってくれた周囲の人達のことを家族同然に想っている。

三浦隼人(CV木村良平)
18歳
レジスタンスのメンバーで颯馬の親友
メガネをかけているコンピュータオタクで、ハッキングが得意
颯馬より背は高く、颯馬程ではないが鍛えられている。

源田清十郎(CV草尾毅)
31歳
レジスタンスのリーダー的立ち位置の青年
背が高くガタイも良い皆の兄貴分
戦闘だけでなく戦術を考えるのも得意

和田 嘉雄
レジスタンスのメンバー
メンバー内で1番の豪傑で筋肉もムキムキ
猪武者でもある。

畠山 海
レジスタンスのメンバー
イケメンで細身。頭も良い方で源田や颯馬と気が合う。

三浦俊太
レジスタンスのメンバーで隼人の父
機械工作が得意

土肥
平和主義者でメンバー内の喧嘩があるとすぐに止める。

岡崎
レジスタンス1番のベテラン
昔直接仮面ライダーを見たことがある。

梶原
冷静沈着なリアリスト
周囲の人の様子をしっかり見ている。

比企
小心者で尚且つネガティブ
よくパニックになる

ライダー設定
仮面ライダーマーベル
マーベルドライバーとヒーローディスクで変身する。
能力は各ディスクに依存する。

マーベルドライバー
ディスクを入れれるディスクスロットが2つ付いており、右側には変身やフォームチェンジ用のメインスロット、左側にはサポートディスク専用のサブスロットがあり、変身時などは両脇のスイッチを押してディスクの力を呼び起こす。
右側のスイッチだけを押すと力が増幅するブーストを発動、両側のスイッチを同時押しすると必殺技のファイナルアタックを発動する。

ヒーローディスク
ドライバーのメインスロット専用のディスク
変身やフォームチェンジに使用する。

サポートディスク
ドライバーのサブスロット専用のディスク
変身後に特殊な能力や装備を付与する。

サポートAI
ジャービス
マーベルドライバーに搭載されている。
変身者のサポートが主な役目

スタークスーツ
スタークディスクで変身する仮面ライダーマーベルの形態の一つ。
アイアンマンの赤と金の金属のアーマーを装着している様な姿
アイアンマン、ウォーマシン、レスキュー(ペッパーポッツ)のデータが秘められており、アイアンマンさながらのパワードスーツにウォーマシンの様な重装備が幾つも付けられている。
必殺技は胸部のリアクターから放つアルティメットユニビーム
専用のサポートディスク
ナノテクディスク
スタークスーツのアーマーと装備をナノテク仕様に変化させる。
パーティーディスク
ホームパーティープロトコルを発動して35体の多種多様なアイアンマンのアーマーを召喚する。


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仮面ライダーマーベル 中編

『レジスタンスを逃がしたうえに、仮面ライダー4号の腕を失ったそうだな…』

 

「ハッ…!申し訳ございません……」

 

日本列島の嘗て東京と呼ばれていた場所で、白髪に白いスーツの老人が巨大なスクリーンに映る人物に向けて膝を突き、頭を下げている。

 

『死神博士…新たな仮面ライダーも出現したそうだな…』

 

「はい、今ある情報によれば仮面ライダーマーベルと云う名前だそうです。」

 

死神博士と呼ばれるその老人は恐る恐る颯馬が変身した仮面ライダーの名を述べる。

 

『仮面ライダーマーベル…厄介な存在だ。早めに消しておけ!いよいよレジスタンスを滅ぼす時が来たようだ。殲滅せよ、仮面ライダーごとな。』

 

「畏まりました!バダン首領様……」

 

画面の奥にいるバダン首領によるレジスタンス殲滅の命令

その令旨が出たということは日本を治めるバダンの傘下組織であるショッカーの全精力を注がなければいけない事態であるということだ。

 

「そういうことだ、仮面ライダー3号。幹部達を東京に集めよ!」

 

死神博士の言葉に応えるために緑色の戦士、仮面ライダー3号が前に出る。

その姿は以前颯馬と戦った4号の様にバッタを模している。

 

「畏まりました。それとご報告です。」

 

「どうした?」

 

「仮面ライダー4号の再改造が完了しました。」

 

3号の言葉と共にコツンコツンという足音が近付いてきて新たな4号の姿が死神博士の目に映る。

 

「良い腕だ…」

 

颯馬に爆破されて無くなったはずの右腕には光線銃型のアタッチメントであるブラスターアームが付けられている。

 

「死神博士、後は任せろ。アイツは俺が殺す…」

 

----------------------------------------------------------------------------------------------

 

「隼人、さっきの放送は見たか?」

 

「うん、そのことで会議をやるみたいだね…早く行かないと。」

 

横浜基地での作戦の後撤退した僕は父さんと共にレジスタンスの会議の場に向かっていた。

既にレジスタンスの主だった面々が集まっていて、颯馬も静かに座っていた。

 

「颯馬が仮面ライダーになったとは言えこんな事態になっては意味ないじゃないか!」

 

横浜基地での作戦の失敗によって、僕達レジスタンスには新たな危機が訪れていた。

 

『日本国の愚民よ。我々バダンはこれより反抗勢力の殲滅を開始することとした。命が惜しい者は我らのいる東京の地に降伏の意思を示しに来るがよい!』

 

死神博士と名乗る男による放送が日本全国を駆け巡った。

僕達レジスタンスにも彼らの放送による衝撃が走った。

折角颯馬が仮面ライダーに変身できるようになったのに、皆バダンを恐れている。

 

「私はもう無理だ!降伏する!」

 

既に比企さんを始めとした数人の人達は戦意を失い、降伏の道を考えている。

僕はそんなのは嫌だ。ここまで父さんや颯馬達と戦ってきたんだから最後まで戦い続ける……

 

「降伏すれば命は助かる!早く東京に行こう!」

 

「バダンに降伏すれば命は助かる……果たして本当なのだろうか……」

 

会議の場で既に逃げ腰な比企さんに対し、梶原さんが重い口を開いた。

 

「それはどういう意味だ?」

 

「バダンに与したところで無事に生きられるかどうか…元レジスタンスの者は実験に使われるか奴隷になるかが関の山。」

 

梶原さんの言うように僕達が降伏したところで無事に生かしてもらえる保証はない。

 

「バダンと戦い続けて死ぬ方が本望…!」

 

「ああ、こうなりゃ鎌倉を枕に討ち死にするだけだ!」

 

比企さんの様な降伏派の声と入れ替わるように、徹底抗戦派の畠山さんや和田さんの声が大きくなってくる。

 

「まあ待て、バダンの殲滅作戦に抵抗するのは俺も賛成だ。けどどう勝つつもりだ?放送をする程の本気度ということは敵は主力を集めて出してくる。ただこの地で守るだけでは勝てない。」

 

けど源田さんの言う通り、勝てるかどうか別問題だ。

 

「まず討ち死する想定で戦ってちゃダメだ、勝つことを考えろ。俺達には颯馬がいる。」

 

源田さんの言葉と共に皆が颯馬の方を見る。

 

「うん、仮面ライダーマーベルの力さえあればまだ逆転できるよ。」

 

ベルトを見つめて語る颯馬の目はどこか自信ありげだった。

 

「しかしながら、全国で宣戦布告の放送はバダンが日本中から兵を集めるためにやったとすれば…」

 

「ざっと敵兵が百万人は来るだろうね。」

 

父さんと僕の推測では全国から集まったバダンの兵はどこかに集結して一気に鎌倉等にあるレジスタンスの基地を襲う可能性がある。

 

僕達がこもる鎌倉にそんな多くの敵が来たら溜まったものではない。

 

「だったら、集まる前に敵のトップを落とせばいい。」

 

颯馬が立ち上がって口を開く。

 

「トップを落とすってどうやって…!?」

 

「バダンの大都市東京、ここに奇襲をかける。」

 

「東京に!?」

 

「うん、降伏したい者は東京に来いとも言っていたし、ここに何らかの拠点がある……少なくとも放送に出ていた死神博士って人はここにいるんじゃないかな。」

 

颯馬の考えは的を得ているかもしれない。

東京にはバダンの巨大基地があるうえに放送の電波の大本が東京なら放送に映っていた死神博士がそこにいる可能性は高い。その死神博士をもし討ち取れたら一気に日本列島内のバダンを不利な状況に追い込めるかもしれない。

 

「けど、どうやって敵を……」

 

「僕が東京に乗り込むよ。そこで敵を倒す。」

 

「無茶だ!そんなの!」

 

「流石に仮面ライダーの力が有れどそれは厳しいかと……」

 

和田さんと畠山さんの言う通り、颯馬の言ってることは無茶だ。

 

「無茶なのは分かってる!けど…ここでやらないと、バダンに攻められて終わる。ここで守るよりも数が集まり切っていない間に叩き潰したほうが合理的な筈。」

 

「確かに、相手の体制が整う前に叩くのも良い作戦だ。」

 

源田さんは颯馬の意見に賛成のようだ。

 

「これからすぐに動けるものを集めて乗り込もう!」

 

「いいや、僕一人で行く。」

 

「一人で!?」

 

そう言うと颯馬は足早に部屋を出ていく。

 

「颯馬、責任感じてるのかな……」

 

「横浜での一件か…確かにあれ以来少し様子がおかしい気もする。」

 

梶原さんの話す通り、あの日から颯馬は一人で考え事をしていることが多い。

 

「横浜での任務失敗は元はと言えば私達が負傷して足を引っ張ってしまったのが原因…何も颯馬が責任感を感じる必要は無い筈……」

 

畠山さんの推測通りかもしれない。

アイツは仮面ライダーになったけど、状況は寧ろ悪化している。

僕達が横浜基地に乗り込んだことはバダンによる本格的な侵攻の引き金を引く事態になってしまった。

それに本来の目的である冷凍睡眠中と推察されている仮面ライダーの救出にも失敗した。

颯馬はそのことに責任を感じてしまっているのかも知れない。

本当は、僕達が足手まといだったから、撤退するしか無かったんだ。本当は僕達の責任なのに……

 

「けどアイツは、きっと俺達に責任感じて欲しくないんですよ…アイツ…優しいから……」

 

颯馬はきっと心のどこかで僕らを庇ってくれてるんだ……

 

「だから、僕達は僕達のできることをしよう。颯馬を助けてバダンを倒しましょう!」

 

「おう!」

 

「そうだな。」

 

「私達にできること…しっかり果たしましょう!」

 

----------------------------------------------------------------------------------------------

 

「隼人…ごめんね…」

 

僕一人で行って死んでほしくないっていう隼人達の気持ちはよく分かる。

けどこのままじっとしてて皆殺しになるのも嫌だし皆が戦いに巻き込まれて死ぬのも嫌だ。

僕が生きて帰れるかは分からない…

 

「父さん…母さん……」

 

けど、バダンは絶対に倒す。

今はもういない父さんと母さんの為にも……

レジスタンスの皆の為にも……!

 

『マーベルドライバー!』

 

決意を胸に抱いて、腰にマーベルドライバーを巻き、ヴァースディスクを挿入する。

 

『ザ・スペース・キャプテン!』

 

「変身!」

 

そして、ベルトの両脇にある2つのスイッチを同時に押す。

 

『ストロングアベンジャー!アッセンブル!』

 

赤と青を基調とした星の意匠を入れたスーツを纏い、体中に宇宙のエネルギーを纏う。

 

『颯馬様、目的地はどこでしょうか?』

 

「このフォームでも出てくるんだね。東京まで行くよ。案内頼んだよ。」

 

『お任せください。』

 

サポートAIのジャービスはアイアンマンのフォーム以外でも僕をサポートしてくれるみたいだ。

キャプテンマーベルの様にエネルギーを身体に纏って空へ飛び立つと、ジャービスの案内で東京に向かう。

 

----------------------------------------------------------------------------------------------

 

「さて、幹部達が次々に集まっておる。総攻めはいよいよか。」

 

池袋、渋谷、新宿、品川、上野に囲まれ、バダンに支配される前までは東京都内を環状運行していた鉄道、山手線のエリア内には既にバダン、及びショッカーの戦闘員や怪人がすでに集まっていた。

空中には既に戦闘員達を乗せた飛行船と怪人達が潜む宙に浮かぶ黒いピラミッドが飛んでいる。

 

「死神博士よ。攻め込む算段は整っているようだな。」

 

ショッカーの本拠地であるショッカータワーの屋上で死神博士がその様子を眺め、そこにバダンのクモロイドが話しかける。

 

「ええ、降伏する者など待つ必要は無い。兵が集まり次第まずは鎌倉、以前攻め入った忌々しきレジスタンスから攻め滅ぼす。」

 

「良い作戦だ。後は全国から来る同志を待つ……」

 

「死神博士!」

 

下を見下ろして会話を交わす2人の下に慌てた様子のショッカー戦闘員が入ってくる。

 

「何事だ!?」

 

「謎の飛行体がこちらに向かって来ております!既に品川を超えて上空に!」

 

「何だと!」

 

死神博士とクモロイドが上空を見ると光を纏う人間が空を飛び、上空に浮かぶショッカーの飛行船に突っ込むと。

 

「馬鹿なッ…!?」

 

飛行船は一瞬で爆ぜてその破片が地に落ちていき、瓦礫の雨が地上の戦闘員達を襲う。

 

「アレがもしや…」

 

その爆炎の中から現れたのはライトスピードエンジンの力を身に宿したヒーロー、キャプテン・マーベルに類似した姿をした仮面ライダーマーベル・ザ・スペース・キャプテンだ。

キャプテンマーベルは身体に宇宙由来の超絶的な力であるバイナリーパワーを身に纏い戦う女性ヒーローで宇宙を股にかける最強の戦士だ。そんな彼女の様に次々と飛行船に突撃して落としていく。

 

「大きいピラミッドだね。」

 

『中に多数の熱源反応があります。戦闘員や怪人が多数いるようです。』

 

「了解。」

 

バダンの戦闘員であるコンバットロイドが多数乗っている黒いピラミッドにマーベルの手から放たれるフォトンブラストが次々と撃ちこまれ、壁がボロボロになってくると。

 

「ハアッ!!」

 

バイナリーパワーを全身に纏ったマーベルが壁にできた穴に向けて突撃し、内部をフォトンブラストで次々と蹂躙。

遂に体制を維持できなくなったピラミッドは傾き、地面に向けて墜ちていく。

 

「落ちてくるぞ!全員退避!」

 

宙に浮くことが出来なくなり、地面に吸い寄せられるようにピラミッドが墜落し、地上の怪人達はその場から一斉に退避する。

 

『スパイダーアベンジャー!アッセンブル!』

 

地面に落ちたピラミッドから上がる土埃の中から一筋の蜘蛛の糸が飛び出し、付近のビルに付着すると

 

「はあっ!」

 

そこを起点に振り子のように身体をスイングする仮面ライダーマーベル・スパイダーバースの蹴りが地上にいる怪人であるザンジオーに突き刺さる。

 

「な、なんだ貴様は!?」

 

「僕は仮面ライダーマーベル、正義の戦士だ。」

 

化学オタクな高校生、ピーターパーカーがある日特殊な蜘蛛に噛まれてからクモ由来の能力を手に入れた。

彼はクモの力を使って困ってる人達を救うヒーロー、スパイダーマンとなった。

そのスパイダーマンの力を扱う仮面ライダーマーベルは、手首からクモ糸を発射して敵に絡めていく。

 

『アイアンスーツ!』

 

マーベルドライバーにスパイダーディスクに加えてアイアンスーツディスクが挿入されると赤いスケート選手の様なスパイダーバースのスーツが薄い金属製の物に変化し、背中からは蜘蛛の脚の様なアームが4本生えてその姿はアイアンスパイダーを思わせるものとなる。

 

「かかれー!」

 

ザンジオーの指示で数名の怪人と戦闘員が襲いかかってくるが、マーベルの両手首から放たれる蜘蛛の糸が彼らの身体に絡みつくと…

 

「瞬殺コマンド!」

 

上手く動きが取れず混乱する怪人達を背中のアームで刺し貫く。

 

「いくよ、必殺!」

 

『ファイナルアタック!アイアン・スパイダー!』

 

ベルトの両脇のボタンを押すとスパイダーバースディスクとアイアンスーツディスクの力が最大限引き出されて

 

「ウェブラッシュ!」

 

手首から書く方向に向けて大量の蜘蛛糸が放たれると

 

「なんだこの糸は!」

 

「電気ショックウェブだよ。」

 

全ての糸に一気に電流が流れ、怪人や戦闘員達に一気に流れ込む。

 

「バ、馬鹿な!?」

 

その電流に耐えれず怪人達は次々と爆発四散していく。

 

『まだ敵が向かってきています。』

 

「派手に落としたからね。そりゃいっぱい来るよ。」

 

スパイダーバースとアイアンスーツの2枚のディスクをドライバーから引き抜くとまた新たなディスクを挿入する。

 

『トリッキーエージェント!』

 

今度は弓矢の名手であり最強のスナイパーであるホークアイと最強の女スパイ、ブラック・ウィドウのデータを秘めたエージェントディスクを挿入し

 

『エージェントアベンジャー!アッセンブル!』

 

弓矢と黒色のスーツを装備した仮面ライダーマーベル・トリッキーエージェントに姿を変える。

 

「1回撃ってみたかったんだ…」

 

弓を構えて遠くから向かってくる敵に背中の矢筒から取り出した矢を射る。

その矢は颯馬の脳内で思い描くような軌道で敵の先頭に居た怪人に突き刺さると。

 

「なんだ!?」

 

矢が突き刺さった怪人は、矢に仕込まれた爆弾が起爆することで、爆発四散

 

「こういう矢もあるんだね。」

 

アベンジャーズのメンバーの1人であるホークアイ最大の武器はその射撃能力と様々な効果を持つトリックアローだ。

分裂して何本も同時に放たれる矢もあれば閃光弾のように光る矢、棘を一気に放つものもあれば刺さった相手を凍らせる矢もある。

そして衝撃波を放つ矢が地面に放たれると近づいてきた戦闘員達が一気に吹き飛ぶ。

 

「あれ戦車!?」

 

だがやって来るのは怪人だけではない。バダンの持つ戦車等の兵器も押し寄せてくる。

 

『インクレディブルパワー!』

 

ここでマーベルドライバーのディスクをインクレディブルパワーと入れ替える。

 

『スマッシュアベンジャー!アッセンブル!』

 

今度は怒りで変身し筋骨隆々で圧倒的なパワーを誇るヒーロー、ハルクを彷彿とさせる緑色のマッシブなボディが特徴的な仮面ライダーマーベル・インクレディブルパワーに姿を変えると。

 

「暴れるよ!」

 

戦車に向けて一気に飛び上がると上から拳で殴りつけ、まずは1台を破壊。

そのまま敵兵が乗ったままの壊れた戦車を他の戦車に向けて投げつけると中の弾薬が誘爆しその爆発で多くのバダンとショッカーの戦闘員達が爆炎の中に消えていく。

 

「はあああぁぁぁぁぁ!!」

 

だがマーベルの今のボディは爆発程度に耐えれる耐久力を持ち合わせており、爆炎を突っ切って更なる敵に向けて走っていく。

 

「数は多いけどッ……」

 

群がる敵の数は優に数百を超えているが圧倒的なパワーで投げ飛ばしたり振り回して別の敵にぶつけて攻撃

 

「凄いパワーだ!」

 

圧倒的なパワーで次々と敵を凪倒していく。

 

「次、いくよ!」

 

『ワカンダフォーエバー!』

 

アフリカにあるワカンダという小国の王であるブラックパンサーと、彼を始めとするワカンダの戦士達の力を秘めたワカンダディスクを挿入

 

『ロイヤルアベンジャー!アッセンブル!』

 

黒豹を模したヴィブラニウム製のアーマーを身に纏う仮面ライダーマーベル・ワカンダフォーエバー。

ヴィブラニウムは宇宙から落ちてきた隕石に含めれる最強の金属であり、ワカンダの国はヴィブラニウムの採掘と技術開発を得意としている。このヴィブラニウムはどんな衝撃も跳ね返す最も硬い金属だ。

向かってくるショッカー戦闘員とゲルショッカー戦闘員の集団をヴィブラニウム性の爪で次々と切り裂いていく。

 

「おっと…」

 

だが戦闘員に続いてやってきた怪人達の攻撃が次々とマーベルの身に襲いかかる。

 

「けどこのスーツは……」

 

ブラックパンサーのスーツには打撃などで受けてきたダメージを衝撃波として開放する能力があり、数太刀浴びせられる度にダメージを反発させて戦闘員と怪人を次々と吹き飛ばして地面に叩きつけていく。

 

「いい能力。」

 

さらにブラックパンサーが治める国であるワカンダの精鋭兵であるドーラミラージュが使うヴィブラニウムの槍を振るい、敵を次々と薙ぎ倒していく。

 

『アントキャスト!』

 

『ワスプキャスト!』

 

『ピムアベンジャー!アッセンブル!』

 

続いてピム粒子という粒子を使って体のサイズを自由自在に変えられる2人のヒーロー、アントマンとワスプのディスクをドライバーに挿入し、仮面ライダーマーベル・アントキャストに変身するとすぐに身体を蟻ほどの大きさに縮小し、サポートディスクの効果で背中に生成された羽で飛び

 

「どこだ!?」

 

「消えたぞ!」

 

小さくなったマーベルの姿を見失い困惑する戦闘員達の間を飛び回り。

 

「うわっ!?」

 

「どこだッ!」

 

身体の大きさが人間大の時と威力の変わらないパンチとワスプディスクの効果で手に装備されたレーザー銃で次々と怪人達に攻撃を仕掛けていく。

敵はこちらに攻撃を当てられない、それに対してマーベルの攻撃は次々と敵を襲い、怪人と戦闘員を1人、また1人と撃破していくが……

 

『颯馬様、上空に敵が……』

 

だがそうしている間に敵が次々と集まってきている。

 

「空の敵、さっき落としたのにもう集まってる!」

 

飛行船やバダンの黒いピラミッドを落としてもバダンの勢力はかなり膨大であり、戦闘機が次々と集まっている。

 

「見つけたぞ!仮面ライダーマーベル!」

 

その戦闘機の集団には愛機であるスカイサイクロンを操る仮面ライダー4号がおり、地上で人間サイズに戻っているマーベルに向けて機関砲による攻撃を浴びせている。

 

『戦闘機には戦闘機です。』

 

「彼らの力か。いいね」

 

ジャービスのアドバスでまた新たなディスクを使用する。

 

『ギャラクシーリミックス!』

 

『ジェット・オブ・ミラノ!』

 

メインスロットにガーディアンズ・オブ・ギャラクシーディスクを、サブスロットにジェット・オブ・ミラノディスクを挿入

 

『スペースアベンジャー!アッセンブル!』

 

宇宙を守るならず者ヒーローのチーム、ガーディアンズ・オブ・ギャラクシーの力を模した仮面ライダーマーベル・ギャラクシーリミックスのサポートディスクであるジェット・オブ・ミラノには特殊な効果がある。

それはガーディアンズのメンバーが搭乗する宇宙の戦闘機、ミラノ号を召喚して操縦できるというものだ。

 

「スゴい!本物のミラノ号だ!」

 

嘗て颯馬が夢の中で見た宇宙船ミラノ号が空中に出現し、その中に乗り込むとマーベル自身が操縦桿を握りしめ

 

「いっけー!!」

 

ミラノ号を飛ばし、戦闘機の集団に一気にレーザー弾を放っていく。

 

「あの仮面ライダー、飛行機まで持っていたのか!」

 

ショッカーの戦闘機をミラノ号で次々と落とすマーベルに対して4号もスカイサイクロンとその他数台の戦闘機で共に飛行し、銃弾を次々と放っていくが。

 

「手強そうなのが来たッ……」

 

ミラノ号で右に旋回しながら攻撃を避け、加速

 

「スピードが速い!」

 

この地球上にある様な戦闘機を優に超えるスピードでミラノ号はスカイサイクロンの後部に回り込み。

 

「食らえ!」

 

一気にレーザー砲を撃つ。

 

「退避だ!」

 

爆散したスカイサイクロンからムササビの被膜の様にマントを広げて4号は退避

 

「あれは……」

 

その4号の姿をマーベルは見逃さなかった。

追撃を加えようと砲門を4号に向けるが。

 

『まだ敵が来ています。』

 

「だったらこれ使ってみようかな…」

 

『敵を一網打尽にするのなら丁度良いと思います。』

 

颯馬はホルダーから取り出した新たなディスクをベルトに挿入する。

 

『エイジオブマインド!』

 

宇宙にはインフィニティストーンと呼ばれる6つの特殊な石がある。

その石の内の1つであるマインドストーンは相手を洗脳する能力だけでなく強力なエネルギーを秘めている。

ヴィブラニウム製のボディを持ち、頭部にマインドストーンを埋め込んだシンセゾイドのビジョン

マインドストーンを使った実験によってそれぞれ特殊な能力を得たワンダ、ピエトロのマキシモフ兄妹

彼ら3人の力を記録したマインドストーンディスクをベルトに挿入

 

『アビリティアベンジャー!アッセンブル!』

 

赤と銀を基調としたアーマーを身に纏う仮面ライダーマーベル・エイジオブマインド

ミラノ号の姿が消え、戦闘機前にその姿を現すが、その時パイロットたちはマーベルの姿を見たかと思えば、次の瞬間彼らの視界には地面と上から押し付けられるように地に落ちていく戦闘機の姿がうつる。

マーベルはワンダ・マキシモフの能力である赤いオーラを纏ったテレキネシスを使って自身の周囲を飛ぶ戦闘機を一気に地面に叩き付けていった。

 

(すごいスピードだ…)

 

空から降りて、地面に着地したマーベルは今度はピエトロ・マキシモフの様なハイスピードで敵に向かっていき、目にも止まらぬ速さで駆ける。

 

(周りが止まって見える…)

 

颯馬からすれば自分の身体の速度とそれに合わせて思考も早く回っている影響で、その間敵が止まってるように映る。

そうなれば、頭部に付いているマインドストーンからビームを放つ際により正確に敵を狙いやすい。

走りながら敵に向けてビームを放っていき次々と仕留めていく。

 

「けどこれで攻めるのも早い!」

 

そして集まった敵をテレキネシスで浮かせた瓦礫で一気に押し潰す。

 

「さて、魔法繫がりだ。」

 

『ソーサラーマジック!』

 

次々と湧いてくる敵に対処するために元は医者で今は魔術師をしているヒーロー、ドクターストレンジと彼の仲間である魔法使い達の力を秘めたソーサラースプリームディスクをマーベルドライバーに挿入。

 

『マジックアベンジャー!アッセンブル!』

 

魔法使いのローブとマントを模した装甲を纏う仮面ライダーマーベル・ソーサラーマジックが掌の上で魔方陣を作り出して、そこから生成した稲妻を一気に敵に放つ。

 

「まるで波みたいだ…」

 

津波のように押し寄せてくる戦闘員達を魔方陣を纏った手から放つ波動で次々と宙に吹き飛ばしていく。

 

「また来たッ…!」

 

援軍として現れた戦車には切れる円盤状の魔法陣を放って次々と車両の装甲を切り裂いていく。

 

「ええい!戦闘員では役に立たん!このバダンの幹部怪人であるクモロイド様が相手してやろう!」

 

ショッカーとゲルショッカーの戦闘員や怪人及びバダンのコンバットロイド達が次々とやられていく様を見て痺れを切らしたクモロイドがマーベルの前に名乗り上げる。

 

『どうやらあの怪人は1人で挑んでくるようです。』

 

「だったら僕はこれでいくよ。」

 

『アメリカンソルジャー!』

 

マーベルドライバーに戦時中に生まれ、超人血清によって肉体を強化されたキャプテン・アメリカの力を秘めたソルジャーディスクを挿入。

 

『キャプテンアベンジャー!アッセンブル!』

 

颯馬がベルト両脇のスイッチを押すとキャプテンアメリカを模した青色と星のマークのスーツを纏う戦士、仮面ライダーマーベル・キャプテンアベンジャーに姿を変えると。

 

「死ねェ!」

 

クモロイドがマシンガンで撃ってきた無数の弾丸を左腕に持つヴィブラニウムの盾だけで防ぐ。

 

「これでも受けてみろ!」

 

さらに牙の付いたクモの糸を口から放ってくるが、盾で防ぎつつ

 

『ホワイトソルジャー!』

 

ウィンターソルジャーのデータを秘めたホワイトソルジャーディスクをサブスロットに挿入して、自身の右腕を機械の腕に変化させると盾に付着した、クモロイドの口と繋がっている蜘蛛の糸を右手で掴み。

 

「掴んじゃえば…こっちのもの!」

 

一気に引き寄せて、マーベルの方に引っ張られてきたクモロイドの顔面部を盾で殴り飛ばす。

 

「小癪な!」

 

さらに蜘蛛の糸を数本口から放ってくるが、マーベルは強化された身体能力でそれらを回避。

 

『ファルコンソルジャー!』

 

ホワイトソルジャーディスクを抜いて代わりにファルコンソルジャーディスクを挿入。

ファルコンの力を秘めたディスクを使うことで背中から鋼鉄の羽を生やして空へ飛び上がる。

 

「狙いはOK」

 

腰から取り出した二丁のマシンピストルで次々とクモロイドに向けて弾丸を放っていく。

 

「逃がすかァ…!」

 

空へは逃がさないとまた蜘蛛の糸を発射するが、

 

「レッドウィング!」

 

マーベルの背中から現れた3体の小型ドローンが糸を切り裂いていく。

 

「いくよ!必殺!」

 

『ファイナルアタック!アメリカンソルジャー!』

 

空中でマーベルドライバー両脇のスイッチを押して必殺技を発動。

エネルギーを纏ったレッドウィング3機が次々とクモロイドに突撃していき、ダメージを与えていくと

 

「フライングシールドスロー!」

 

エネルギーを纏ったシールドを回転させながらクモロイドに向けて投げ飛ばす。

 

「バッ…!馬鹿なァ…!!」

 

鋭い切れ味のシールドはクモロイドにぶつかった瞬間彼を切り裂き、上半身と下半身を両断する。

そのダメージによって、クモロイドはあっという間に息絶える。

 

「これで全員じゃないよね…」

 

クモロイドを倒した時には既にかなりの数の戦闘員達を葬っており、援軍こそ向かってはいるが到着はもう少し後だ。今彼の周りには戦いの残骸しか残っていない。

 

『今のところ周囲の戦闘員はある程度蹴散らせたようです。』

 

「けど気は抜けないね…援軍が来るならアイアンマンかガーディアンズで上から撃退…」

 

「ブラスターアーム!」

 

丁度周囲に敵がいないのを確認できたので先に空から援軍を叩き潰そうと画策していたマーベルを突然レーザー光線が襲う。

 

「危ない!」

 

それを先ほどクモロイドに投げた盾を拾って防ぐマーベル。

 

「お前は…」

 

「また会ったな、仮面ライダーマーベル!」

 

その彼の前にレーザーを放った人物が姿を現す。

それは横浜の戦いで失った右腕をブラスターアームに付け替えた仮面ライダー4号だった。

 

「トウッ!ライダーパンチ!」

 

「もう一人!?」

 

さらに瓦礫の上を飛び越えて急襲してきた仮面ライダー3号のライダーパンチをまたしても盾で防ぐ。

 

「そこまでだ!仮面ライダー!」

 

さらにその場に地獄大使と死神博士も姿を見せ、4人でマーベルを取り囲む。

 

「お前らは……」

 

「私はバダンの偉大なる傘下組織!ショッカーの大幹部!地獄大使!」

 

「私は偉大なる頭脳を持つ死神博士!そしてその正体は……イカデビル!」

 

死神博士がイカデビルに、地獄大使がガラガランダにそれぞれ姿を変え、2体のショッカーライダーと怪人に加えて追加でやってきた戦闘員と怪人に包囲されたマーベルは正に四面楚歌の状況だ。

 

「この数…いけるかな……」

 

それでもファイティングポーズを崩さないマーベルの耳にバイクのエンジン音が聞こえてくる。

 

「何者だ!?」

 

「「トウッ!」」

 

すると瓦礫を飛び越えて現れた2台のバイクとそれに跨る2人のライダーが戦闘員達を蹴散らして彼らの包囲の中に入っていく。

 

「貴様らは…!」

 

地獄大使はその2人の姿に驚愕する。

 

「久しぶりだな…地獄大使ッ…!」

 

「死神博士も元気そうじゃないか!」

 

バイクに跨る2人の戦士、その姿は伝説の戦士、仮面ライダー1号と仮面ライダー2号であった…

 

To be continued…




この世界はバダン及びその傘下組織として復活した昭和の悪の組織が支配しております。
3号と4号はその組織達に属する仮面ライダーという設定になっております。


付録
今回登場したフォーム一覧

ザ・スペース・キャプテン
ヴァースディスクで変身する。
キャプテンアメリカマーベルのデータが秘められている。手から放つフォトンブラストで相手を攻撃する。
身体から出る超絶的なパワーであるバイナリーパワーを身にまとい、空を飛んだり突撃して敵の攻撃することが出来る。

スパイダーバース
スパイダーディスクで変身する。
スパイダーマンのデータが秘められている。見た目はほぼスパイダーマンで、身軽だが防御力は弱い。
手首から出す多種多様な蜘蛛の糸を駆使して戦う。
専用のサポートディスク
アイアンスーツディスク
アイアンスパイダーのスーツを着用し、彼のように背中から数本の足を生やして戦う。

トリッキーエージェント
エージェントディスクで変身する。
ブラック・ウィドウ、ホークアイのデータが秘められている。
電気が流れる棒に変形する弓と様々な特殊な矢を操って戦う。

インクレディブル・パワー
ハルクディスクで変身する。
緑色でマッシブな装甲が特徴的
ハルクのデータが秘められている。
全フォームの中でも最強のパワーと破壊力を持つ。
必殺技はエネルギーを込めた拳で殴り飛ばすライダーハルクスマッシュ

ワカンダフォーエバー
ワカンダディスクで変身する。
ブラックパンサーとワカンダの兵士達のデータが秘められている。
ブラックパンサーのヴィブラニウム製のスーツを着ていて、爪を使っての戦闘が得意。受けたダメージをヴィブラニウムによって跳ね返すこともできる。

アントキャスト
ピムディスクで変身する。
見た目はアントマンのスーツ風だが、アリの意匠がある装甲を付けている。
アントマンのデータが秘められており、身体を1.5cmにまで縮小させれる。
縮小してもパンチの威力は弾丸並に強力
さらにサポート用のアリを召喚、使役できる。
専用のサポートディスク
ワスプキャスト
ワスプのデータが秘められている。
ワスプの様に羽とレーザー銃を装備する。

ギャラクシーリミックス
ガーディアンズ・オブ・ギャラクシーディスクで変身する。
スターロード、ガモーラ、ドラックス、ロケット、グルート、ヨンドゥ、マンティス、ネビュラのデータが秘められている。ガーディアンズメンバーが使用する武器を装備するしたり、腕から木を生やして攻撃する。さらにマンティスのようにテレパスもできる。
専用のサポートディスク
ジェット・オブ・ミラノ
ミラノ号を召喚し、操縦する。

エイジ・オブ・マインド
マインドストーンディスクで変身する。
ワンダ、ビジョン、クイックシルバーのデータが秘められている。
ワンダの持つテレキネシスと心理操作、クイックシルバーの高速移動、ビジョンの額に埋め込まれたマインドストーンからのビームが使える。

ソーサラーマジック
ソーサラースプリームディスクで変身する。魔法使いのローブやマント風のデザイン
ドクターストレンジら魔法使いのデータが秘められており、様々な魔法を使用する。

アメリカンソルジャー
ソルジャーディスクで変身する。
スーツのデザインはアメリカの星条旗がモチーフで青色がメインカラー
キャプテンアメリカのデータが秘められており、ヴィブラニウム製の盾を装備している。また、身体能力が格段に上昇する。
必殺技はエネルギーを溜めたシールドを投げつけるハイパーシールドスロー
専用のサポートディスク
ホワイトソルジャーディスク
ウィンターソルジャー(バッキー)のデータが秘められている。
右腕が機械の腕に変化する。
ファルコンソルジャーディスク
ファルコンのデータが秘められている。
機械の羽での飛行と小型ドローンのレッドファルコンを使用することができる。
+サブマシンガンを装備


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仮面ライダーマーベル 後編

仮面ライダーマーベルはこの話にていったん完結でございます。


時は数時間ほど前に遡る。

 

「やっぱり、かなり敵が減ってる。」

 

先日レジスタンスに攻められた横浜基地に再びレジスタンスの三浦親子、源田、畠山、和田、土肥が来ていた。

一度襲撃を受けた後だと言うのに多くの兵が東京へ駆り出されてしまい、警備は非常に薄い。

 

「よし、突撃だ!」

 

そこに銃を持ったレジスタンスのメンバーが強襲する。

 

「おら!」

 

「突っ切りますよ!」

 

和田と畠山を先頭に屋内に入っていく。

 

「ここから入ります。」

 

「今回は確かなんだろうな?」

 

「ええ、4号曰くこの前乗り込んだ場所の一個下の階だそうですし、ハッキングすれば…よし!」

 

以前乗り込んだ時と同じエレベーターに乗ると、隼人が操作するパソコンによって自動的にかごが最下層へ向かって降りていく。

 

「本当にこれで大丈夫か?」

 

「ええ、対策はバッチリだからね。同じ手は二回も食わないよ。」

 

エレベーターは先日彼らが降りた階を通り越してさらに下の階に辿り着く。

 

「よし、完璧だ。」

 

「乗り込むぞ!」

 

ここを守っていた仮面ライダー4号を始めとする横浜基地の戦力が大半東京に招集されたため、彼らは容易に秘密の研究室に辿り着いた。

 

「さてさて、仮面ライダーはどこかな?」

 

「俺はこっちを見てみるぜ!」

 

メンバーは施設内に散らばって仮面ライダーを探す。

 

(ハッキングの情報によればこの階にいるはずだ……どこだ?どこにいるんだ?)

 

「見つけたぞ!こっちだ!」

 

すると和田が仮面ライダーを見つけたようで大声でメンバーを呼び出す。

 

「これが…仮面ライダー?」

 

和田さんが見つけたのは巨大な二つのカプセルだ。

その前には"仮面ライダー1号"、"仮面ライダー2号"とそれぞれ書かれたプレートが置かれている。

 

「これ、動かせるかな?」

 

「俺がやってみよう。機械は得意だ。」

 

隼人の父である三浦俊太が名乗り出て機械を確認し始め、隼人も研究室内にあるコンピューターを起動する。

 

「結構色々あるけど…これかな?」

 

仮面ライダーがカプセルの中で冷凍睡眠状態にあるなら、解凍作業をする必要がある。

その方法は恐らく研究所内のコンピューター内にあると推測しながら隼人がファイルを探す。

 

「仮面ライダーの詳細か…」

 

彼が見つけたファイルの一つには仮面ライダー達のデータが事細かく乗っており、戦歴も恐らくバダンの把握できた範囲で書かれている。

 

「これが最後の戦歴…」

 

そのファイルには仮面ライダー1号と2号が1970年代にショッカーやゲルショッカーの怪人と戦ったことに加え終盤には1980年代にバダンと戦ったこと…

そして、仮面ライダー4号によって2人が倒されてここで冷凍睡眠状態にされてしまっていることが書かれている。

 

(冷凍睡眠したうえでデータを解析していたのか?かなり細かく調べ上げられている…)

 

ここにあるデータからバダンが仮面ライダー達を倒した後、冷凍睡眠状態にして細かく調べ上げていたと思われる。

 

(もしこのデータが他の兵器に転用されてたら?)

 

仮面ライダー達を倒した戦士4号に加えて他にもライダーのデータを基にした兵器が運用されていたらと考えると、颯馬の身が危険だと感じて隼人は必死でファイルを探す。

 

「隼人!電源は見付けたぞ。」

 

「こっちもファイル見つけたよ。」

 

解凍手段が書かれたファイルの手順通りに機械を動かし、時折レジスタンスのメンバーに指示を出しながら手順を進めていく。

 

「起動します。」

 

そして畠山が装置の電源を操作すると、冷凍装置の窓に付着した霜が解けて仮面ライダーが姿を見せる。

 

「仮面ライダー…」

 

その姿は以前彼らと出会った4号にも似ているが、それよりも少し前に作られた様にも見える。

 

「さて、これで動くはず…」

 

冷凍睡眠装置の扉が開き、仮面ライダー1号と仮面ライダー2号の2人の戦士が歩み出てくる。

 

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「久しぶりだな…地獄大使ッ…!」

 

「死神博士も元気そうじゃないか!」

 

その後隼人達が本郷猛と一文字隼人に事情を話し、颯馬の援軍に駆け付けるに至ったのだった。

 

「1号と2号!?何故ここに…」

 

「どうやら我々は永い眠りについていたようだが彼らが呼び覚ましてくれたのだ!」

 

本郷猛の言葉と共にレジスタンスのメンバーが姿を現す。

 

「隼人!?それに皆も!」

 

「颯馬一人に戦わせっ放しってのは嫌だからね。もっと頼ってよ。」

 

バダンの基地から強奪した武器を手にレジスタンスのメンバーが怪人達と対峙する。

 

「そうだよね、皆ありがとう!」

 

「勝った気になりおって!3号!4号!やってしまえ!」

 

死神博士の指示で仮面ライダー3号と4号がマーベルに襲い掛かるのに対し1号はガラガンダに2号はイカデビルに挑む。

 

『アイアンアベンジャー!アッセンブル!』

 

マーベルはパワードスーツを纏うヒーロー達のデータを秘めたスタークスーツにフォームチェンジし、自身に迫ってくる3号と4号に向けて両腕のマシンガンを乱射する。

徒手空拳で戦うライダーに対して弾幕を張ることで、一切敵を寄せ付けない。

少なくとも近距離しか攻撃手段を持たないものが、マーベルの弾幕を突破して距離を知事めるのは難しいだろう。

 

「ブラスターアーム!」

 

しかし今の4号の右腕にはブラスターアームが付いており、そこからマーベルに向けて光線が放たれる。

 

「危なかった…あれに当たってたら……」

 

『恐らく大きなダメージは避けられなかったでしょうね。』

 

マーベルは宙に浮くことでその攻撃を回避、そのまま空から4号に向けて秒間数百発ものマシンガンの弾を撃ち込んでいく。

 

「バリアも張れるの!?」

 

だが4号は腕のブラスターアームからバリアを展開し、弾丸の雨を防いでマーベルに向けて突き進んでいく。

 

「このまま死ね!」

 

再度放たれる光線を避けつつ、肩のガトリングも使って4号を迎撃する。

弾丸の雨を降らしながらマーベルは空中を飛び、4号との距離を取る。

 

『避けてください!』

 

「しまった!」

 

すっかり颯馬は4号に気を取られてしまっていた。

マシンガンとガトリングガンで4号を撃っていたら数発のミサイルに襲われ、リパルサーレイで弾いて何とか対処する。

 

「もっと撃て!」

 

「任せろ。」

 

ミサイルを放った犯人は仮面ライダー3号だ。

愛車のトライサイクロンからミサイルに続き今度は機関砲でマーベルを撃っていく。

 

『ナノテク!』

 

マーベルは咄嗟にナノテクディスクを使い、ナノマシン製の盾を生成。

自らに放たれる弾丸を防いでいくが…

 

「ブラスターアーム!」

 

続いて放たれたブラスターアームの光線がその盾を貫き、マーベルに突き刺さる。

 

「クッ…!!」

 

空中で体勢を立て直したマーベルに今度はトライサイクロンから撃たれるミサイルが襲い来る。

 

「凄い量!」

 

『まずは防ぎ切りましょう。』

 

次々と襲い来る弾丸とミサイルをナノマシン製の盾で防ぎつつ躱し、反撃の機会をうかがう。

 

「こっちの方が手数は多い!」

 

ナノマシン製のレーザーキャノンを4発生成し3号と4号に向けて放っていく。

トライサイクロンが少し引き下がるようにバックしたのが見え、追撃するようにリパルサーレイを向けた時だった。

 

「あっ……」

 

2人のライダーは上手く颯馬の集中力をそぐことに成功した。

腹部を抉り取る様なブラスターアームの一撃がマーベルを強襲し、バランスを崩した彼は地面に落ちていく。

 

「おのれ仮面ライダー!復活したところで意味はない!ここで貴様らを滅ぼしてくれよう!!」

 

イカデビルは身体から生える何本もの触手を伸ばして2号を襲う。

 

「こんぐらい!」

 

自身の腕に巻き付こうとしてきたイカの足型の触手を自身の手で掴み、引っ張り上げる。

 

「ゲソー!」

 

引っ張られたイカデビルの身体は地を離れ宙を浮き、背負い投げをされたかのように叩き付けられる。

 

「お前はここが弱点だったな!」

 

さらに立ち上がったイカデビルの脳天目掛けて二号ライダーの踵が落とされる。

 

「ゲソー!私の頭の電気回路が!」

 

自身の弱点である頭部を攻撃されて怯んだイカデビルに…

 

「ライダーパンチ!」

 

仮面ライダー2号の必殺パンチが突き刺さる。

 

「ショッカーとバダンに!栄光あれ!!」

 

パンチを喰らったイカデビルは瓦礫に向かって吹き飛ばされ、地面に落ちると共に爆発四散する。

 

「仮面ライダー!今回こそは俺が勝つ!」

 

鞭のように振るわれる蛇の尾を模したガラガランダの右腕

その軌道を読み取った1号はそれらを軽々と避け。

 

「ハァ!」

 

回し蹴りをガラガランダの顔面に向けて放つ。

 

「おのれ!」

 

再び1号に右腕の鞭が叩き付けられる。

さらに怯んだ1号に向けて何度も右腕を振るう。

 

「まだまだだな…」

 

だがそれをしっかりと避けきっただけでなく、その鞭の軌道に逆らうように拳で右腕を打ち上げると

 

「ライダーチョップ!」

 

手刀をガラ空きになったガラガランダの腹部に打ち込む。

 

「クッ…!」

 

さらに右左と2発パンチを胸部に食らいよろめくガラガランダの腹部を1号が蹴り飛ばす。

 

「トウッ!」

 

そして彼を上から狙うように1号が跳ね上がり

 

「ライダー!キーック!!」

 

ガラガランダに向けて飛び蹴りを放つ。

 

「ショッカー!バダン!バンザアァァァァイ!!」

 

1号の必殺の一撃を喰らってしまったガラガランダの身体はその衝撃に耐えきれず爆発して果てる。

 

「まだいるぞ!仮面ライダー!」

 

だがその場に黄金狼男とヒルカメレオンが姿を現す。

 

「いくぞ!」

 

「ああ!」

 

新手の敵に向けてダブルライダーが走り出す。

 

「さて、とっとと降伏するんだな。」

 

その一方で、地に叩き付けられたマーベルに4号がブラスターアームを向ける。

 

「まだだ…!まだ終わっていない!」

 

「諦めの悪い奴だ…」

 

だがそれでも颯馬に諦める気は微塵もない。

再び立ち上がるマーベルにブラスターアームの光線が放たれる。

 

『アスガーディアンズ!』

 

だがその瞬間空より落ちた雷がマーベルの身体に落ち、その雷光が光線を阻む。

 

『ゴッドアベンジャー!アッセンブル!』

 

宇宙にある神の国、アスガルド。

その王子で雷と最強のハンマーであるムジョルニアを操るマイティ・ソーやその義理の弟ロキ、女戦士バルキュリーを中心としたアスガルドの戦士達の力を秘めたアスガルドディスクをベルトに挿入。

そして颯馬は神々しい鎧を纏う仮面ライダーマーベル・アスガーディアンズに変身し、雷撃を発するハンマーのムジョルニアを手に持つ。

 

「これが雷神の!」

 

体勢を立て直したマーベルを狙って再び光線を放とうとする4号に向けて

 

「力だ!」

 

ムジョルニアから稲妻が放たれ、ブラスターアームの光線が弾き飛ばされて稲妻が4号の身体に到達するとその衝撃で4号の身体が吹き飛ばされる。

 

「4号!」

 

その4号を助けようとトライサイクロンからミサイルが放たれるが…

 

「撃ち落とせるかな?」

 

マーベルが投げたハンマーが周囲を飛び回ってミサイルを全て破壊し、さらにハンマーがトライサイクロンに向けて飛んでいく。

 

「ハンマーを手放したか…」

 

手元にハンマーが無いマーベルをブラスターアームから刃を展開し4号が切りかかる。

 

『ビフレスト・ガーディアン!』

 

アスガルドにある他の星へ移動するための虹の橋、ビフレストの守護者達を記録したビフレストディスクを挿入するとマーベルは手に虹の橋の鍵となる剣を持ち、4号が振り下ろしてきた腕を受け止める。

 

「んッ…!」

 

だがブラスターアームの重みに耐えきれず、剣が徐々に下がっていく。

 

「貴様では俺には勝てん!」

 

マーベルの神経が剣と持つ手に集中した隙を突くように、4号の蹴りがマーベルの腹部を突き飛ばし、倒れた所に跨って殴り掛かろうとするが…

 

「なんだッ…?」

 

何かが4号の腹部に押し当てられる。

それがつっかえ棒の様になって4号の攻撃を妨げる。

 

「デスとトロイだよ。」

 

それは2丁のアサルトライフルだった。

嘗てビフレストの門番を務めたスカージという男の持つ秘蔵のお宝でもあり、それぞれデスとトロイと名付けられている。

その2丁が4号の腹部に突き立てられ、一気に火を噴く。

 

「なっ…何ッ…!?」

 

二丁分の弾丸が一気に襲い掛かかり、4号の腹部装甲が銃弾によって削り取られていく。

 

「そこまでだ!」

 

そこをムジョルニアを振り切ったトライサイクロンが突撃し、マーベルの身体を突き飛ばす。

 

「けどこっちには…」

 

さらに追撃を仕掛けようとトライサイクロンの機関砲が火を噴くが、マーベルは手元に戻ってきたムジョルニアを振り回して飛んでくる弾丸を弾き飛ばしていく。

 

「ここで仕留めるッ…!」

 

再びブラスターアームがマーベルに向けられる。

だがそれと時を同じくしてマーベルはサブスロットのディスクを入れ替える。

 

『ニダべリアハンマー!』

 

ニダべリアという星で作られたソー専用の戦斧、ストームブレイカーがマーベルの手に収まり、ムジョルニアとストームブレイカーから同時に放たれた雷撃がトライサイクロンと4号に同時に放たれて2人のライダーは後方へ押されていく。

 

「まずはそっちだ!」

 

トライサイクロンに向けて稲妻を放つストームブレイカーの斧部分をムジョルニアで上から叩くと、強力な雷撃がトライサイクロンに流れ込み、その電流に耐えきれずにトライサイクロンのボンネットが爆発

 

「俺の愛車がッ…」

 

咄嗟に3号は退避し、トライサイクロンの爆発から何とか逃れる。

トライサイクロンが爆発したことで遠距離攻撃の手段を失った3号に対して、ムジョルニアから放たれた雷が襲い掛かる。

 

「このまま一気に!」

 

ベルト右側のスイッチを押すと、体を流れる電流が増大したことで3号に向けてさらに稲妻が流れる。

 

「クッ…クソッ……!」

 

その稲妻は3号の身体を焼き、その負荷が限界を迎えた彼は自身の愛車、トライサイクロンと同じ運命をたどるように爆散する。

 

「貴様…よくも3号を!」

 

3号と共に他のライダー達を倒してきた4号にとって彼の敗北は想定外の事態ではある。

だが狼狽える暇もなくブラスターアームで何度もマーベルを撃つ。

 

「1対1ならもう負けない!」

 

ムジョルニアを回転させて盾の様にして光線を防ぎ、その間にそらに暗雲が立ち込めてくる。

 

『ファイナルアタック!アスガーディアンズ!』

 

ベルト両脇のスイッチが押されると、空からストームブレイカーとムジョルニアに向けて雷が落ちてきて、雷を纏ったマーベル自身がムジョルニアを手放して宙に浮かせると

 

「これで…終わりだ!」

 

迸る雷をストームブレイカーに乗せ、野球のバットでボールを打つように、ムジョルニアをストームブレイカーの斧部分で叩く。

 

「ライジング…インパクト!!」

 

斧から放たれる雷に乗って回転するムジョルニアは4号に向けて飛んでいく。

 

「ブラスターアーム!」

 

その一撃を再び光線で防ごうとする4号だったがその光はいとも簡単に弾かれ、勢いを失うことなく飛んできたハンマーが身体に直撃する。

 

「ここまでか……」

 

ハンマーの威力は凄まじく、これまでダメージを受けてきて脆くなっていた腹部を抉ると共に雷を放ち、4号を破壊。ショッカーの遺したデータからバダンによって作られ、多くの仮面ライダー達を倒してきた3号と4号だったが、彼らは1人の新たなライダーマーベルの手によって敗北した。

マーベルが自身の勝利を仲間達に知らせるかのように放った雷はショッカーの拠点であったショッカータワーに落ち、倒壊させる。

それは一番最初の悪の組織であり、一度滅んでからバダンの傘下組織として息を吹き返したショッカー及びゲルショッカーの壊滅を告げるものだった……

 

「勝った…勝ったんだ!」

 

雲が消え、差し込む日差しが逃げ行く敵を照らし出す。少なくともこの場に居てはやられる。そう判断した戦闘員や怪人が蜘蛛の子を散らすように逃げていく様子はレジスタンスによるこの地の開放を表わすのに十分だった。

 

「颯馬!凄いよ!」

 

「見事です…」

 

去っていく兵達を尻目に仲間達が颯馬の下に駆け寄る。

 

「ううん、皆が助けてくれたお陰だよ…」

 

颯馬は首を横に振りつつ仲間達の方に目をやる。

 

「ありがとう、それにお二人も…」

 

そこに幹部怪人達を撃退したダブルライダーも駆け寄る。

 

「いいってことよ!」

 

「ああ、私達の方こそ。君の様な戦士が現れて心強い。」

 

「ええ、これからも世界を取り戻すために一緒に戦いましょう!」

 

3人のライダー達が拳を合わせ、互いに頷く。

 

「3人で…いや、皆で共に戦おう!」

 

「「おう!/はい!」」

 

1号の言葉に2人が応えると今度は源田が颯馬に声を掛ける。

 

「颯馬!カッコよかったぜ。」

 

「ありがとうございます。」

 

「けど本番はこっからだ!よろしく頼むぜ。」

 

「お任せください。」

 

2人が固い握手を交わす。

 

「颯馬、僕もしっかりサポートするから、あんま1人で抱え込まないでよ。」

 

「うん、分かってる。頼りにしてるよ、皆!」

 

マーベルが天にストームブレイカーを掲げるとレジスタンスのメンバーが歓声を上げる。

 

「私達の仲間もきっとどこかで生きているはずだ。皆で力を合わせればバダンは倒せる。」

 

「人々の笑顔の為に力を合わせて戦おう!」

 

3人の仮面ライダーを中心に彼らレジスタンスはバダン討伐への大きな一歩を踏み出すのだった…

 

To be continued

 




登場フォーム

アスガーディアンズ
アスガルドディスクで変身する。
神々しいデザインの鎧を装備する。
ソー、ロキ、ヴァルキリー、及びアスガルドの戦士達のデータが秘められている。アスガルドの戦士達の武器や雷を操る。
さらにマイティ・ソーが使うムジョルニアも使える。
必殺技は雷と共にハンマーで相手を殴るライトニングインパクト
専用のサポートディスク
ニダヴェリアハンマー
最強のハンマーであるストームブレイカーを装備する。
ビフレスト・ガーディアン
虹の橋、ビフレストを保護してきた者達のデータが秘められている。
ビフレストの鍵となり、自分や他者を他の惑星に送れる虹の剣とスカージが使う2丁のアサルトライフル「デス&トロイ」を装備する。


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マーベルの章 番外編
劇場版 クローズ&エボルのヒーローアカデミア ピースサイン1


こちらは拙作「クローズ&エボルのヒーローアカデミア」の劇場版となっております。
https://syosetu.org/novel/265675/

とある事情によりこちらのハーノベにも掲載させていただきます。
クロエボの本編も読んでいただけると嬉しいです。


これまでのあらすじ

事の始まりは、中国の軽慶市。発光する赤子が生まれたというニュースだった。そして以降、世界各地で『超常』が発生。原因も殆ど解らないまま、時間が過ぎていった。やがて、超常は日常に、空想は現実になった。

 

世界の総人口の8割が何らかの特異体質、『個性』をもった超人社会。個性を振りかざし、人々を襲う敵と、それを倒すヒーロー。そんなアメコミじみた事が、現実で起こる世界となった。

 

その中で、何の『個性』も無い少年少女は、当然のごとくイジメの対象になっていた。そしてまたその差別に抗う男がいた。

 

その名も下間牙竜(しもつま がりゅう)。無個性でありながら個性を持つ者共に抗い続けた結果転生者でブラッド族のエボルトと出会い力を得る。彼ら仮面ライダークローズとエボルのコンビは日本最高峰のヒーロー科を持つ雄英高校に入学。仲間達と切磋琢磨していく。

 

恋人の八百万百に支えられながらも彼らはヒーローの階段を駆け上がっていた。

戦いの中でクラスメイトの緑谷出久がビルドに、爆豪がグリスに、轟がローグに変身できるようになった。幼馴染で仮面ライダーブレイブの甲斐銃士と新・檀黎斗・神、プロヒーローの仮面ライダーアクセルこと甘粕政信ら頼もしい仲間達にも恵まれた。

 

しかし、彼らの世界に現れた人工知能アークがヴィランの頂点に立つオールフォーワンと組みショッカーを結成。作り上げた怪人達と共に世界の征服を企んだが牙竜と仲間達、そしてディケイドが集めた多くのライダー達がショッカーの野望を打ち砕いた。

 

そしてヒーローとしての道を歩む牙竜達は新たな試練に挑む…

 

(3人称視点)

とある日の真夜中

月明かりに照らされる中、山道を数台の車が走っている。

 

「奴の目撃情報があったのはこの地域か…」

 

「ええ、間違いありません。」

 

その車には現在No.2ヒーローであるエンデヴァーとそのサイドキック達が乗っており、とある人物を探している。

その人物とは、"菅野三継"

オールフォーワンの手下の生き残りである。

 

「エンデヴァーさん!あれッ…!!」

 

進む車のヘッドライトが人影と照らすと、運転手が急ブレーキを踏んで車を止める。

そして車のドアを勢い良く開けてエンデヴァーらが飛び出す。

 

「貴様はッ…!?」

 

車の前に立つ男を車のヘッドライトが照らす。

その光に照らされた男の姿は異質なものだった…

 

「仮面ライダー…?」

 

エンデヴァーのサイドキックであるバーニンがポツリと呟く。

赤の下地のスーツの上に銀色の装甲を装備し、蜂に似たその姿を象徴するような、琥珀色の複眼がエンデヴァーらを睨む。

オールフォーワンらとの戦いに駆け付けた仮面ライダー達を思い起こさせるその戦士はエンデヴァーらの方を向く。

 

「撃ってきたぞ!気を付けろ!」

 

その瞬間そのライダーは指先から鋼鉄の爪を彼らに向けて放ち、それに気付いたエンデヴァーが咄嗟に炎で防ぐ。

 

「撃ってきたってことは…」

 

「ヴィランだ!」

 

突然の交戦状態にエンデヴァーらはすぐに対処、バーニンと共にそのライダーに向けて炎を放つ。

 

「アイツ…ダメージを受けていない!?」

 

だがその攻撃が敵に届いている様子はない。

 

「車を守れ!」

 

寧ろ敵が手を翳したかと思えば彼らが放った炎が反射されたかのように放たれ、エンデヴァーが自分達の前で火柱を上げることで何とか防ぐ。

車に着火して爆発というシナリオを冷静に対処するあたり、流石No.2ヒーローと言ったところだが謎のライダーの攻撃は止まらない。

 

「今度は龍か…!」

 

ライダーの背中から二匹の青い龍が生えてきて、エンデヴァーらに嚙みつこうと襲い掛かって来る。

 

「一体何個能力が…」

 

龍に対して炎を放って対処するが、その多彩な能力に困惑を隠し切れない。

 

「エンデヴァーさん!」

 

だがそんな彼らにとっていい知らせだ。

援軍であるインゲニウムが変身した仮面ライダーグレイブが駆け付け、自身の得物グレイブラウザーで切りかかる。

 

「なッ…!刃が…」

 

だが、その刃はライダーの前で止まる。

まるで見えない壁に阻まれたかのように目の前で刃が止まる。

 

「インゲニウム!伏せろ!」

 

「はい!」

 

咄嗟にエンデヴァーが叫ぶと先程炎を反射した時と同じように空気の刃がグレイブに向けて飛ぶ。

グレイブは彼の指示で身を伏せていたので刃を回避することができ、足元に向けて1太刀浴びせようと剣を振るうがその斬撃が再び跳ね返される。

 

「迂闊に攻撃はできないみたいですね…」

 

インゲニウムは体勢を立て直そうと肘から伸びるエンジンで敵のライダーの付近から離脱する。

 

「その通り…このライダーにはある秘密組織の指導者から奪った"反射"の個性が搭載されているからねぇ…」

 

そんな彼らの耳に響くように拍手しながら紫髪の初老の男がライダーの後ろに現れる。

 

「菅野三継!!」

 

その男こそまさにエンデヴァーが探していた菅野三継であった。

 

「ああ、残念ながら我らショッカーの最終兵器、仮面ライダーV9が解放された!後はあの装置さえ手に入れれば…貴様らヒーローは終わる!」

 

「そう簡単に行くか!」

 

菅野らに向けてエンデヴァーが足から放つ炎で加速しながら菅野に迫るがV9の反射がエンデヴァーを阻んで跳ね返す。

 

「私はナイン、今のうちにその名前を憶えておけ。次に会う時はお前を殺す時だ…」

 

その言葉を告げると共に、V9の中にある個性の一つ、金属操作によってエンデヴァーらの上に金属のガラクタが降りかかる。

 

「クソッ……!」

 

その瓦礫を回避している間にV9と菅野が姿を消していた。

 

「すぐに他のヒーローに連絡しろ!ショッカーが再び動き出したと…」

 

「了解!」

 

逃げられてしまったが、まずはこのことを報告してエンデヴァーらはこの事態をどう収めるかについて考える。

 

(エボルト視点)

さて、季節は冬だって云うのに今俺達がいる島は夏の様に暑い。

牙竜達雄英高校1年A組の生徒達は現在那歩島という本州から少し離れた島を訪れている。

その理由はまあ数日前に遡る。

 

「おはよう。今日はいきなりだがお前たちにミッションを与える。」

 

そう言って相澤は教室に入って1分も経っていないのに、黒板に島の地図を広げる。

 

「ここは、那歩島。本州から遠く離れた離島なんだが先日駐屯していたヒーローが高齢の為引退した…」

 

ある日のHRで相澤は黒板の地図を示しながらA組の生徒達に新たなミッションについての話を始めた。

 

「お前達はここで、ヒーロー活動を行う!」

 

「「「ヒーローっぽいのキタァァァ!!」」」

 

"ヒーロー活動推奨プロジェクト"

ショッカーの侵攻を始め慌ただしい出来事が重なり、ヒーロー協会もより教育に力を入れているそうだ。

今回はA組生徒達で次のヒーローが来るまで那歩島を守るとのことだ。

本格的なヒーロー事業の体験、事務所の事務を始めとした仕事、地域の人々との交流を学ぶプロジェクトだそうだ。

 

「荒木さんから通報ですわ!ペットのタマが迷子になってしまったので探して欲しいとのことですわ!」

 

「僕が行くよ!」

 

「よろしくお願いしますわ!口田さん!」

 

何人かが事務所代わりのいおぎ壮で電話を受け、他のクラスメイト達が現場に向かう。

とは言ってもこの島でヴィランが出るなんてことはなく、トラブルの大半は迷子やら機械の故障だ。

後はまあ…ビーチが近いから溺れてる人の救助やナンパの対処ぐらいか…

 

「うっす、ただいま~」

 

「おかえりなさいませ!牙竜さん!」

 

となると仮面ライダーである俺の出番はあまりない。

牙竜も精々周りをパトロールしながら地域の人達に困ってることがないか聞いて回ってるそうだ。

 

「あっち~、なんでこの島こんな暑いんだ?」

 

『暑いんだったらそのスカジャンは脱いどけ。』

 

「気に入ってんだけどな~」

 

因みに牙竜は自分のコスチュームに万丈龍我から貰ったスカジャンを正式採用したんだが、こんな暑い場所での活動時ぐらいは脱いどけばいいのにな…

 

「あら、牙竜さん!ここほつれてしまってますわ…」

 

「ホントだ!さっき山田さんとこで作業してた時に切れちまったのか…?」

 

「私がしっかり直しておきますわ!」

 

「ありがとよ。百」

 

八百万はスッカリ牙竜のいい奥さんみたいになっちまってる。

けどこんなとこでイチャイチャすんのはやめろ。コーヒーが甘くなる。

 

「はいはい、イチャイチャしてる暇あったら仕事仕事」

 

お、耳郎が良い感じに止めてくれたな。

 

「だな、俺はちょっくら山の方見てくるぜ。熱中症で誰か倒れてたら大変だし、クーラーボックスと麦茶持ってくぜ~」

 

「はい、行ってらっしゃい!」

 

スカジャンを預けてクーラーボックスを担いだ牙竜はまた外へ行く。

 

『一生懸命働いてるな。関心関心』

 

「アンタもちょっとは働きなさい。」

 

『は、はい……』

 

さて、耳郎にちょっと怒られたし俺も海の方の様子でも見に行くかな。

 

(牙竜視点)

 

「よう出久、そいつ等は誰だ?」

 

再びパトロールってことで困ってる人が居ねえか探してたら島の山上にある公園で出久と2人のガキに遭遇した。

 

「この子達は…」

 

「ねえ、コイツもヒーローなの?」

 

なんだこのガキ?いきなり生意気だな。

 

「ああ、俺は仮面ライダークローズ!将来No.1ヒーローになる男だぜ。」

 

「ふーん、じゃあアンタもただの無謀な奴なのね?」

 

「ちょっと、お姉ちゃん……」

 

このガキ達は姉弟らしいけど姉の方はなんつーかヒーローの事嫌いなのか?

 

「ま、無謀つったら無謀だな。」

 

「牙竜君?」

 

まあ確かにコイツの言ってることは間違ってねえかもな。

 

「俺は戦いで死にかけたこともあるし誰かを心配させたこともあった。」

 

オールフォーワンとの戦いの後、色んな奴らから俺のとこに連絡が来た。中学の担任の躑躅森先生から連絡来た時はびっくりしたぜ。戻ってきた時に百が心配して俺に泣きついてくれたことも俺はよく覚えてる。

 

「けどな、誰かを救ってる時は嬉しいし、仲間が誰かを救えるぐらい強くなってるともっと嬉しいんだぜ。」

 

ヒーロー科に入ってから俺は色んな仲間と巡り会ってきた。そんな仲間達の活躍を見れるのも俺は嬉しい。

特に出久は自分の個性をコントロールできるようになって、仮面ライダーにも変身した。

一緒に成長していくのを見ていて楽しかったぜ。

 

「ヒーローの活躍ねぇ…?」

 

「おう!身近にカッコイイヒーローが居れば分かるんじゃねえか?」

 

つってもこの島はこれまで高齢のヒーローが一人居ただけだ。

こいつ等の親族にヒーローがいないんだったら関われてたのはそのおっさん1人だけだし、関わりが少なくてあんま良く思ってねーのは仕方ないか。危ない仕事だしヘイトを向けられるのも無理はねえ。

 

「けどこれだけは言っとくぞ。ここにいる出久は俺の知ってる中でも特にカッコいいヒーローだ!応援してやってくれ!」

 

「ええ!?ぼ、僕!!」

 

取り敢えずさっきまでの様子的に出久はこのガキらに何やら言われてたみたいだしこの場では出久のフォローにだけ徹しておくとしよう。

 

「ふーん、そんなに凄いの?コイツ」

 

「ああ、俺が保障するぜ。」

 

どこまでヒーロー嫌いなんだ?コイツは

 

「おお、活真くんと真幌ちゃんじゃないか。」

 

「「界造おじさん!」」

 

「お、堀内のおっさんじゃねえか。」

 

とか思ってたら公園にこの島で暮らす堀内のおっさんが来た。

堀内界造、確かこの島出身の科学者で東京の大学で研究してたらしいが今はここで隠居中らしい。

 

「今日はどうしたのかな…?」

 

「実は、この子が迷子になってしまって…」

 

と出久が弟の方を見る。どうやら弟が迷子になって出久が探してたんだろうな。

それで見つかったは良いけど姉の方に色々と言われてたってことか?

 

「成る程ね、今日は私が二人を家に送ろう。2人もまだ、することはあるだろう。」

 

「ありがとうございます。」

 

「恩に着るぜ。また今度荷物運び手伝うぜ。」

 

「助かるよ。こういう時はお互い様だね。」

 

堀内のおっさんは今も機械いじりをしているみたいでこの島で俺もたまに材料運びを手伝っている。

活真くんと真幌ちゃんって言われてた姉弟の手を堀内のおっさんがひいて家に送ることになった。

 

「じゃ、俺らも戻るか。」

 

「うん、そうだね。」

 

つーことで、俺らが事務所に戻る頃には時刻も夕方で腹も空いてくる時間だ。

 

「皆お疲れ様!おにぎり握ったから食べておくれ!」

 

「取れたての、魚やでー!」

 

「「ありがとうございます!」」

 

たまに島の人達が俺らにって料理を作って来てくれる。

ここの野菜と魚は絶品だから食えるのが嬉しいぜ。

 

「「「いっただっきまーす!!」」」

 

この島で獲れた魚は特に美味くて魚なんかは絶品だ。

刺身は醤油も浸み込んでいい味だ。

どんどん箸が進んじまう。

 

「おい下間!刺身喰い過ぎだって!」

 

「わりいわりい」

 

刺身ばっか食ってたら流石に切島に怒られた。

まあ皆の分も食っちまうのは良くないからな。

 

「そうだぞ野菜も食え!」

 

「キュウリも美味いぜ!」

 

「ありがとよ」

 

瀬呂と上鳴に進められてキュウリスティックを食うことにした。

 

「うん!うめえな!」

 

「だろだろ!」

 

そういや切島、上鳴、瀬呂の3人は仮免試験の時期にエボルトからボトルをもらってハードスマッシュってのに変身できるようになったんだったな。この前もB組との合同訓練で活躍してたな…

 

(3人称視点)

その翌日の朝10時ごろ、一隻の船が島に近付いていた。

 

「ナイン、やるべきことは分かっているな?」

 

その船に乗っているのは菅野と仮面ライダーV9の変身者であるナインと呼ばれる男だ。

 

「ああ、平行世界ゲートの奪還、及び裏切り者の確保だ。」

 

「よく分かってるじゃないか。あの男はショッカーを裏切って逃げただけでなくこの島に平行世界ゲートの試作機を隠し持っている…しっかり奪還せねば……」

 

菅野もまたオールフォーワンに忠実な人間であった。その忠誠心はショッカーに対しても抱いており、裏切り者と言われる男を許すつもりは無い。そしてその裏切り者と呼ばれる男が持ってる平行世界ゲートが菅野にとっては重要なものである。

 

「さて、明日には島に着く。準備をしておけ…」

 

「ああ、任せておけ…」

 

そう言うとナインの腰に風車が付いたベルトが出現する。

 

「変身…」

 

風車が回転し、赤黒い稲妻がナインの身体中を走ると金属装甲が生成されてナインの姿が仮面ライダーV9のものに変化する。

 

「来い!仮面ライダー!」

 

V9が手を翳すと赤黒いオーラが出てきて、そこから3つの人影が作り出される。

 

『エターナルワンダー!』

 

『パーフェクトライズ!When the five weapons cross, the JET BLACK soldier ZAIA is born.』

 

『タ・ト・バ、タトバ、タ・ト・バ!』

 

その影はそれぞれ仮面ライダーファルシオン・アメイジングセイレーン、仮面ライダーザイア、古代王仮面ライダーオーズに姿を変える。

 

「いくぞ。」

 

V9と召喚されたライダー達は船から飛び立って島に向けて進み出す。

 

「百、何か手伝うことはないか?」

 

「いえ、今は大丈夫ですわ。」

 

一方A組メンバーの宿兼事務所には八百万と牙竜を含め数名の生徒が通報がないか待機しつつ少し休憩している。

因みにエボルトや爆豪らは既にパトロールで出払っている。

 

「お…?電話か…」

 

八百万が島に持ち込んだ紅茶を飲んで牙竜は少し休憩していたが、電話があったのに気付くと一番近くにいた自分が対応することにして電話に出る。

 

「もしもし…こちr……」

 

「大変!ヴィランが出た!」

 

通報は彼が昨日出会った少女、島乃真幌からのものだった。

 

「ヴィラン!?どこに出やがった!」

 

「いろんな所にいるわ!あちこちで……」

 

急ぎの通報であったが、突如電波が途切れてしまい電話の音声が聞こえなくなる。

 

「牙竜さん…ヴィランが出たっていうのは…」

 

「多分本当だ。電話も途中で切れやがった俺は外を見てくるから百は皆に指示を!」

 

通報の真偽はともかく、この通報が悪戯電話出なかった場合既に幾つかの場所で被害が出ているのは確かだ。電話が途切れたのもヴィランに襲われたか通信施設が潰された可能性がある。

そう判断した牙竜はクローズマグマに変身して空に飛び出す。

 

(こりゃひでえ…もう出てんのか……)

 

既に数ヶ所から空には煙が上がっており、その様子に通報が事実であることが分かると牙竜はエボルトにテレパシーを送る。

 

(エボルト、敵が来やがった…!)

 

((ああ、俺も既に交戦中だ。))

 

(おう、そっちは援軍要りそうか?)

 

((俺は大丈夫だ。他の所を見てくれ。))

 

(了解!)

 

既にエボルも敵と交戦中だった……

 

『さてと、さっさとお前らを倒して他を見に行かねえとな…』

 

エボル・コブラフォームの前にが、ウヴァ、カザリ、ガメル、メズールら4体のグリードの完全体が立っている。

 

『こりゃ少し骨が折れそうだ…』

 

4人のグリードとエボルの戦いが始まった頃…海辺では

 

『Presented best!』

 

「なっ!」

 

ビーチに現れた仮面ライダーザイアと尾白が交戦していたが、ザイアが尾白に触れると彼の個性をコピーしたかのように自身の背から尾を生やして振り抜く。

 

「コイツッ…!物間みたいだ……」

 

殴り飛ばされた尾白は何とか距離を置きつつ体勢を立て直す。

 

「アイツ…俺達の力をコピーしてるぞ!」

 

「ああ、触れられたら厄介だね。」

 

砂藤と尾白がザイアを食い止めてはいるが、他人の能力を一時的に吸収し攻撃に転用する彼の力に苦戦を強いられている。

 

「とにかく触れられない様にしないと…」

 

「けど俺ら近接タイプだぜ!どうすりゃ…」

 

「だったら凍らせればいい…」

 

触れられてしまうと能力をコピーされる。

それ故に攻めあぐねていた尾白と砂藤の間に氷の道が形成され、その道の上に立ったザイアの下半身が一気に氷に覆われる。

 

「「轟!!」」

 

彼らが後ろを振り向くと既に仮面ライダーローグに変身した轟の姿があった。

 

「ここは俺に任せろ。お前らは他の人の避難を…」

 

「すまねえ!ここは頼んだぜ!」

 

砂藤と尾白を救助に向かわせると轟はザイアの方に向けて左手を翳す。

 

「お前の目的は何だ?」

 

炎を出すそぶりを見せてザイアに降伏を促すが…

 

「…ッ!」

 

自身の身体のパワーだけで氷を砕いたザイアが宙を舞い、ローグに襲い掛かる。

 

「中々に厄介だな…」

 

ザイアに向けて今度は左手から炎を放つが咄嗟に地面に伏せるように体を落として掻い潜る。

 

「何か喋ったらどうなんだ…?」

 

ただただ無言で向かってくるザイアに氷と炎を放ちながら対処するローグ

2人のライダーの攻防の最中、爆豪らも敵と遭遇していた。

 

「アイツ…前に戦った奴か…?」

 

「ちょっと違うみてえだぞ!」

 

爆豪、切島、上鳴、瀬呂ら4人の前には以前神野に現れたファルシオンの姿があった。

しかし、あの時のファルシオンは橙色の姿をしているエターナルフェニックスの形態であったが、今いるのは白と黒を基調としたアメイジングセイレーン。

得物こそ同じだが使っているライドブックが違う。

 

『ロボットゼリー!』

 

『キャッスル!』 

 

『スタッグ!』

 

『オウル!』

 

「「「「変身!!」」」」

 

『潰れる!流れる!溢れ出る!ロボットイングリス!ブラァ!』

 

爆豪が仮面ライダーグリスに切島、上鳴、瀬呂はそれぞれキャッスルハードスマッシュ、オウルハードスマッシュ、スタッグハードスマッシュに変身し、ファルシオンに向けて各々の個性で攻撃を浴びせる。

 

「俺の稲妻が打ち消された!」

 

上鳴による放電や爆豪の爆発など多彩な攻撃達は無銘剣虚無によって次々と撃ち消されていく。

 

「だったら!直接殴るだけだ!」

 

『シングル!』

 

グリスは手の爆破の推力で勢いをつけ、ファルシオンに向けて突撃する。

右手のツインブレイカーをシングルモードにし、突き出ているパイルバンカーでファルシオンに向けて振るう。

 

「おう!これならいけるぜ!」

 

その一撃こそ無銘剣虚無の刃に防がれるが、背後からキャッスルハードスマッシュがファルシオンの背を殴る。

 

「このままいくぜ!」

 

ファルシオンに対抗するグリスと3体のハードスマッシュの戦いはグリスらが優勢に進めている。

各地で戦闘が始まった中、牙竜は空から通報の主である島乃姉弟を見つけて畑の中に降り立つ。

 

「大丈夫か!?」

 

「ああ、何とか2人をここまで逃がしたが安全かどうか…」

 

2人は既に堀内と共に行動をしていて、現在3人で避難できる場所を探しているようだ。

 

「OK、そういうことなら俺らの事務所に行こう。そこで指示を仰げば大丈夫だ!」

 

「助かるよ。」

 

「ありがとうお兄ちゃん。」

 

「仕方ないわね。」

 

一先ず彼らや地域住民を百達のいる事務所付近に避難させることにし、早速彼らを連れて行こうとした時だった。

 

「見つけたぞ!堀内!」

 

5筋の弾丸が彼らに向けて放たれた。咄嗟にそれに気付いたクローズマグマがビートクローザーでそれらを切り裂き防ぐ。

 

「ようやく見つけたぞ、堀内ィ!」

 

「か、菅野!」

 

声の主である菅野の後ろには仮面ライダーV9が立っており、彼らに襲い掛かろうと体制を低くした。

それを察知した牙竜が咄嗟にビートクローザーを構えると両社向かい合い、お互いに向けて一気に駆ける。

 

「やれ!仮面ライダーV9!」

 

「V9!?まさか奴を起動させたのか!?」

 

「コイツ…V9っつーのか…」

 

ビートクローザーで切りかかるクローズマグマ。しかしその刃はV9の顔の前で止まる。

 

「なんだ?バリアかッ…!ってマジか!!」

 

初めはバリアを張る能力を使っているのかと推察した次の瞬間、反射された空気の刃がクローズマグマに襲い掛かり、咄嗟にビートクローザーで防ぐ。

 

「攻撃を跳ね返しやがった…!」

 

「それだけではないぞ…」

 

V9が空に手を翳す。すると島に降り注ぐ陽の光をドス黒い色の雲が遮り、ポツリポツリと水滴が地面に落ちる。

 

「何が…起きてるの……?」

 

そう活真が呟いたその時だった。

 

「危ない!」

 

一筋の稲光が堀内と島乃姉弟に向けて落ちてきた。

咄嗟に牙竜が作り出したヴァリアブルマグマの壁が何とか稲妻を防ぐが…

 

「おいおい、今度は何だ…?」

 

クローズの身体が宙に浮き始める。

 

「なっ…!竜巻か!!」

 

その現象に気付いたときには既に強風が彼の周囲に吹き荒れ、何時の間にか小規模な竜巻を形成する。巻き込まれたクローズの身体が宙を舞う。

 

「マジか!」

 

マグマを噴射しその推力で脱出しようとしてもうまく方向転換ができない。

そんな状態のクローズの身に次々と稲妻が落ちていく。

 

「ヤメロ!クソッ…!」

 

空中でバランスを失い稲妻のダメージを受け続けるクローズ

 

「さて、堀内…ここでお前を……」

 

「おじさんに手を出すな!」

 

「活真くん!」

 

「活真!」

 

菅野が銃を取り出してそれを堀内に向ける。その間に立つ活真に向けて菅野が銃口を引こうとしたその時だった。

 

「デトロイト…スマーッシュ!!」

 

仮面ライダービルド・ラビットタンクフォームに変身した出久がこの場に駆け付け、自身の個性で強化された拳で菅野を殴り飛ばした。

 

「いいタイミングだぜ!出久!」

 

援軍が駆け付け、菅野が殴り飛ばされ地面を転がり気絶したことに動揺したV9の隙を突きクローズがマグマのブースターで加速。竜巻から抜け出してビルドの横に立つ。

 

「気を付けろよ出久…コイツ攻撃跳ね返してくるし天気も操ってくるぜ。」

 

「迂闊に攻撃は出来なさそうだけど…」

 

と分析する間も与えず今度はV9が爪を射出し、弾丸のように進む鋼鉄の爪が2人を襲う。

 

「何個能力あんだよ!?」

 

足元に放たれた爪を飛んで避ける二人。

 

「マジか!?」

 

だが彼らが避けた所を今度はV9の背から現れた2匹の竜が噛んで地面に叩き付ける。

 

牙竜達が苦戦を強いられてしまっている一方、グリスらはファルシオンを追い詰めていた。

 

「剣貰い!」

 

スタッグハードスマッシュに変身した瀬呂は個性のセロハンテープを肘から射出。

そのテープを上手く無銘剣虚無に巻き付けると…

 

「食らえ!」

 

「オラ!」

 

空からオウルハードスマッシュ、真正面からキャッスルハードスマッシュがそれぞれファルシオンに殴り掛かる。

 

「よっしゃ奪った!」

 

殴られてバランスを崩したファルシオンはうっかり剣を手放してしまい隙が出来る。

 

「決めろ爆豪!」

 

「いっちょかましてやれ!」

 

「任せろ…」

 

その隙を爆豪は見逃さない。

スクラッシュドライバーのレンチを下すと…

 

『スクラップフィニッシュ!』

 

肩や背中からヴァリアブルゼリーを勢いよく噴出して加速、そのままファルシオンにボレーキックを放つ。足が当たると同時に爆破も放って一気に吹き飛ばす。

 

「一丁上がりだ…」

 

ダメージに耐え切れずファルシオン・アメイジングセイレーンは爆発四散

 

「テメエら、他のとこも見に行くぞ…」

 

「「「おう!」」」

 

ファルシオンを撃破しても彼らはまだ止まらない、他の敵の対処に向けて移動を開始する。

 

「ぐっ……!」

 

しかし、牙竜と出久はV9との戦いの末、ダメージが限界を迎えて変身が解除されて生身で地面を転がる。

 

「クソッ…!強すぎんだろ……」

 

天候操作、反射、爪銃、使い魔と彼らの前だけでも4種類の個性を巧みに操ったV9の前にクローズマグマとビルドは歯が立たなかった。

 

「よくやった…!ナイン!このまま堀内をやれ!」

 

さらに菅野も目を覚まして堀内らに銃を向ける。

 

「させねえ…ぞ……!」

 

だが彼らの前に再び牙竜が立つ。

 

「行かせない!」

 

たとえ生身でも牙竜も出久もヒーローだ。

その意地だけで敵の前に立ち、彼らの歩みを阻む。

 

「だったらお前達から消すだけだ。」

 

V9が手を翳したその瞬間…

 

『おいおい、グリードの次は見たこともないライダーかよ……』

 

「「エボルト!」」

 

空からネビュラスチームガンを撃ちながら現れ、出久と牙竜を守るように彼らの前に仮面ライダーエボル・コブラフォームが立つ。

 

『お前らはそこの3人を逃がすんだ。ここは俺がやろう…』

 

数発の弾丸を放つがそれはV9に跳ね返されてしまう。

 

『反射の能力か…』

 

反射された弾丸が後ろにいる牙竜達に当たらない様にスチームブレードで次々と切っていく。

 

『さて、どう攻めるか……』

 

「んんッ……!」

 

どの様に対処しようかとエボルトが考えていた時だった。

突如V9は胸を抑えて地面に膝を突く。

 

「負担が大きかったようだな…一旦退くぞ!」

 

「ああ……」

 

V9はいくつもの個性因子を身体に埋め込んでいる分、体への負担も大きい。

ここに来てその蓄積疲労が出てしまったため、菅野共にこの場から走り去る。

 

「何とか…撤退しやがったか…」

 

『ああ、けどまた来るかもしれないな。こっちも体制を立て直すぞ。』

 

「そう…だな……」

 

敵達の撤退は確認できた。だが、身体の限界を迎えているのは牙竜の方も同じだった。

視界がふらついたかと思えば、地面にバタンと倒れ伏す。

 

『牙竜……?』

 

「牙竜君!?」

 

『おいしっかりしろよ!牙竜!牙竜!!』

 

島の畑があった筈の荒れた地にエボルトの叫び声が響き渡る。

 

To be continued




キャラ紹介
仮面ライダークローズ
下間牙竜(CV葉山翔太)
見た目のモデルはヒプノシスマイクの波羅夷空却
ヒロアカ世界に暮らす無個性の少年
無個性であったことによりイジメや差別を受けた。だがその経験からか個性(力)を悪用する者(特にヴィラン)を許さなくなる。弱い人やいじめられっ子を守ったりするために体を鍛え喧嘩に明け暮れているため不良少年のような扱いを受けている。

仮面ライダーエボル・ブラッドスターク
エボルト(CV金尾哲夫)
ブラッド族エボルトに転生したライダーオタクの青年
転生時に神様にエボルトみたいになりたいと言ったところ力を失った不完全な状態での転生となりアメーバ状になってさまよっていたところ下間牙竜と出会い憑依する。人間態は勿論石動惣一

仮面ライダービルド
緑谷出久
原作主人公
個性:ワンフォーオール
雄英体育祭以降仮面ライダービルドの変身者となる。

仮面ライダーグリス
爆豪勝己
個性:爆破
期末試験前に仮面ライダーグリスの変身者となる。

仮面ライダーローグ
轟焦凍
個性:半冷半燃
期末試験前に仮面ライダーローグの変身者となる。

八百万百
個性:創造
クラスの副委員長で実家が大金持ち
牙竜の恋人でもある。

オリライ設定

仮面ライダーV9
変身者 ナイン(川上 風雷)
ショッカー及びアークが遺した最終兵器
彼らの秘密の研究室にて被験者であるナインこと川上風雷が改造人間となった姿。
自分の元々の個性に加えて幾つかの個性因子を搭載した改造人間で仮面ライダーであり、合計9つの個性を操る。
しかし、元々の個性が持っていた細胞崩壊のデメリットは克服したが、燃費は非常に悪い。
戦い続ければ体に負荷がかかり、クールタイムが必要になる。

使用個性一覧
1,気象操作
周囲の天候を操り、雨や雷、竜巻を発生させる。
ただし、個性を行使する毎に自身の細胞が死滅していくという極めて重いデメリットを抱えているが、改造手術によって克服した。

2,衝撃波
衝撃波を放つ

3,爪銃
爪を弾丸のように発射する。

4,使い魔召喚
使い魔(2匹の青い龍)を使役する。

5,リフレクト
あらゆるものを反射する。
菅野曰くある組織の指導者から奪った。

6,金属操作
周囲の金属を意のままに操ることが可能。自身の防具なども作り出すなど汎用性も高い。
菅野曰くとあるヴィランチームのリーダーから奪った。

7,???

8,ヴィラン召喚
アークが用意したヴィランライダーを召喚する。
(古代オーズ、ザイア、ファルシオン(アメイジングセイレーン))

9,???


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劇場版 クローズ&エボルのヒーローアカデミア ピースサイン2

前回同様
クローズ&エボルのヒーローアカデミアの劇場版です。
今回はいよいよあのライダーが登場!?

https://syosetu.org/novel/265675/


(エボルト視点)

 

「牙竜さんの様子は…」

 

『まだ起きてねえな。』

 

謎のライダー及び一緒に攻めてきたヴィランが一時撤退した後、俺達も町の工場に全島民を避難させて手当や給仕を行っている。俺は何とかグリードを倒すことが出来たが、牙竜と出久は重傷。

容態を聞きに来た八百万も道具創造しまくってるせいか少ししんどそうだ。

 

『お前もあまり無理するな。お前が倒れたらアイツが安心して起きれねえ。』

 

「ええ、ですがこんなところで手を止めるわけにはいきませんわ。」

 

八百万は頑張り屋さんだからこういう時に無理が祟っちまう。

後で飯でも分けてやらねえとな。

 

『さて、牙竜はどうだ?』

 

さて、他の奴らが忙しくしてる間にもアイツの横に居てやるのは俺の役目だ。

 

「まだ回復し切っていないみたい…」

 

出久は既に目を覚ましてはいるが牙竜はまだ回復していない。

 

「あ、あのっ…」

 

牙竜の様子を見ていたら治療室に1組の姉弟が入って来る。

さっき助けに行ったときに牙竜達と一緒にいた奴らで、確か島乃真幌と活真って言ってたな。

 

「もしかしたら僕の個性でそのお兄さんを治せるかもしれない!」

 

『それは本当か?』

 

「うん!僕もお兄ちゃん達の役に立ちたいから…」

 

『分かった。こいつの事頼んだぜ。』

 

俺が許可を出すと活真が牙竜に触れると、緑色のオーラがその身を包む。

 

「活真の個性は細胞活性なの。回復にすごく向いてる個性ね。」

 

『なるほど、中々ヒーローらしい個性じゃねえか。』

 

回復の個性を持つヒーローは救助の時に有難い存在だ。リカバリーガールや銃士のタドルレガシーは活躍の場が広いだろうな。

それは勿論この活真って奴も一緒かも知れない。

 

「けど僕…回復しかできないし…戦えないし…」

 

『それでも誰かの役に立てる。それだけでも十分だ。今俺達の中にも必死にサポートの為に動いている奴もいる。戦うだけがヒーローじゃないぜ。』

 

サポート的な面で救助活動に貢献するのも立派なヒーローだ。

 

「活真…あまり無理はしないで……」

 

「大丈夫…」

 

つっても牙竜の傷こそ治ってきているが、活真は既に体力の限界を迎えそうだ。

 

「んん…ここは……」

 

そう思っていた時、ようやく牙竜が目を覚ましやがった。

 

『ようやく起きやがったか。コイツが治してくれたんだぜ。』

 

「そうか、ありがとな!」

 

「ううん、どういたしまして」

 

牙竜の体力は十分に回復した様で起き上がり活真にニッと笑顔を見せる。

 

『さて、牙竜。戦いはまだ終わってねえぜ。』

 

「分かってる。まずはあのクソライダーブッ飛ばす!」

 

(3人称視点)

 

「牙竜君!?身体はもう大丈夫なのかい?」

 

「ああ、活真のお陰で完全復活だ!もう心配すんな。」

 

「良かったですわ!牙竜さん!」

 

目を覚まし、工場の事務室にやって来た牙竜の周りに飯田や八百万が集まる。

皆が心配こそしていたが、牙竜の身体はほとんど快復しており彼の言葉通り心配は無用である。

 

「で、とりあえずこっからどうする。アイツまだ島にいるんだろ?」

 

『アイツっていうかアイツらだな……』

 

しかしながら、現状雄英高校A組の戦況は良くない。

クローズとビルドを圧倒した仮面ライダーV9に加え轟と交戦したザイアとエボルにグリード軍団を派遣した古代王仮面ライダーオーズが敵陣営にいる。爆豪らがファルシオン・アメイジングセイレーンを倒す事こそできたが手強い相手が未だに彼らを狙っている。

 

「その件なら話は早い。私を囮に使いなさい。」

 

その話に島民の堀内が口を挟む。

 

「囮って……」

 

「奴らの狙いは私だ。的には私だけを狙わせればいい。」

 

菅野らが狙っているのは堀内だ。彼自身が囮になることで他の島民を危険から逸らすことも不可能ではない。

 

「そう言うわけにはいきませんわ!」

 

「ええ、一般の方を囮になんて……」

 

「私は一般の人ではない…私は嘗て…オールフォーワンの下で働いていた!ショッカーの科学者だったんだ!」

 

堀内がショッカーで働いていたという経歴が明らかになった時、生徒達は一気に静まり返った。

 

「ショッカーにいたってどういう…」

 

「ああ、私の個性は他の世界の観察だ。私は嘗て個性を活かして平行世界を研究する科学者だったんだ。だが、私の研究には誰も興味を持たず大学からも研究費を渡されなくなってしまっていた…そんな中私に資金援助をしてくれたのがオールフォーワンだった。」

 

超常社会になってからというものの科学は個性に関する物やヒーローのサポートアイテム関連のものばかりがスポットライトを浴びていた。

その一方で多くの研究分野が廃れてしまっており、平行世界に関する研究に出される資金はびた一文も無かった。

 

『なるほどな。それで?』

 

「私は平行世界間を移動できる平行世界ゲートを開発したのだが…それが間違いだった!ゲートを超えて他の世界の悪意がこの世界に来てしまった……」

 

『それがアークとショッカーか。』

 

そしてそのアークとオールフォーワンが結びついたことでこの世界にも悪の組織ショッカーが誕生してしまったのである。

 

「その後私はショッカーから逃げて生まれ育ったこの島に潜伏していた…しかし、同じショッカーの科学者菅野にこの場を嗅ぎ付けられてしまったそうだ。これ以上島民は巻き込めない!私が犠牲に……」

 

「わりいけど、俺は却下だ。」

 

堀内が平行世界ゲートを作っていなければ神野が甚大な被害を受けることもなかった。

この件に関しては堀内に責任はあるが、その責任を問うのは牙竜達の仕事ではない。

 

「その辺の話は全部公安とかがケリを付ける問題だ。俺達がやるべきことはまずはアンタ含め島民全員を守り切ることだ!」

 

「ええ、そうですとも!それがヒーローの役目ですから。」

 

「そこまで言うなら囮は無しでいい!ただ、ここの島民は守ってくれ!」

 

牙竜や百の言葉に負け、堀内は深々と頭を下げる。この島の住民にこれ以上危害を与えられることは堀内にとって一番望ましくないことだ。

 

「ああ、当然だ。」

 

『全員守り切る。いけるな?お前ら』

 

「勿論!」

 

「当たり前だ!」

 

「俺達に任せろ。」

 

ヒーローとしての使命、堀内の願い

 

「ああ、この島の人達にはお世話になったからな。」

 

「高橋さんのお刺身、またいただきたいですわ!」

 

そしてここの島民たちへの思いから牙竜だけでなく出久、爆豪、轟らA組生徒が立ち上がる。

 

「で、エボルト。作戦はどうする?」

 

『敵の数は不明。どこから新手が湧いてきて奇襲されるかは分からない。お互い助け合えるように一か所で固まって全員守り切るのが得策だ。』

 

だがしかし、敵は手強い。そう簡単に倒せる相手ではないため作戦は慎重に立てなければいけない状況だ。特に分散して各個撃破されてしまうリスクも考えられる。

 

「それならもう1つ言っておかなければいけないことがある。」

 

『どうした?』

 

「実は少し離れた島の古城跡に平行世界ゲートの試作機を隠してある…もし敵がそこを狙うなら……」

 

『そうか、となると島民をそこに集めて守り切るか。古城の地形を上手く使わないとな。』

 

平行世界ゲートが再び悪の陣営の手に落ちてしまえば、新たな脅威を呼び寄せられて再び大きな被害を及ぼしてしまうだろう。

 

「その島で守り切るってのは分かった。問題は敵をどうするかだ。」

 

爆豪の言う通り、問題はどのようにV9と戦うかだ。強力な個性を持つ彼に加えてザイア達をどのように古城で倒すかだ。

 

「確かあの時、負担が大きかったって言ってたよね…」

 

その時ふと出久はV9達が撤退した時のことを思い出していた。

 

「確かにアイツの能力1つ1つは強力だった…けど使う時に身体に負担がかかるなら……」

 

「長期戦に持ち込めば勝てるってことか!」

 

「そう!牙竜君の言う通りだよ!」

 

出久達と戦ったV9が披露した個性は天候操作、反射、使い魔、爪銃とどれも強力なものである。

しかしながらそれらを始めとした強力な個性を有する影響でV9の身体には大きな負担がかかってしまっている。

そのことが分かれば長期戦に持ち込むのが最適だろう。

他の敵との戦いに備えた陣容、V9を倒すための作戦がA組生徒全員で話し合われていく。

 

『よし、大体やることは見えてきたな。』

 

「ああ、この戦いに勝って島民の皆さんを守り抜こう!雄英高校1年A組!全員出動!!!」

 

「「「Pius Ultra!」」」

 

そして飯田の声と共に各々が戦いに備える。

街の住民や家畜の避難、備品の整理、古城跡の把握に動く。

 

そんな中、エボルトは3人の男と言葉を交わしていた。

 

『お前達3人の専用アイテム、ようやく調整が終わったぜ。』

 

話の相手は出久、爆豪、轟の3人だった。

 

「遂に使う時が来たんですね…」

 

『ああ、緊急事態だからな。今が一番の使い時だ。』

 

エボルトが掌を出して上に向けるとその上にパンドラボックスが現れる。

 

『これがそれぞれのアイテムだ。しっかり使い方も理解しておけ。』

 

パンドラボックスから3つの光の塊が出てきてそれぞれの手に収まる。

 

『そしてこの戦いにしっかり勝てよ。』

 

「はい!」

 

「当たり前だ!どんな奴が来ようとぶっ潰す!」

 

「ここを守り切ってみせる!」

 

3人は決意を胸にその場から去り、各々のすべきことをしに行く。

 

「あの!エボルトさん!」

 

その様子を見ていたエボルトの背後から今度は八百万が話しかける。

 

『何の用だ?』

 

「その…私も緑谷さんや轟さんの様にもっと牙竜さんのことをお支えしたいです!」

 

『つまりはお前も仮面ライダーになりたいってことか…』

 

「ええ…その通りです…」

 

『当たりか。』

 

これまで八百万は牙竜やエボルト達に守られることの方が多かった。

神野の時も病院から中継で様子を見守ることしかできなかった。仮面ライダーに変身できないから、いつも自分はおいて行かれてしまう。そんな劣等感を彼女は抱いていた。

 

『俺は構わねえ。幸い相澤センセにでも使わそうと思って調整していたモンがある。お前のヒーローとしての覚悟も牙竜を支えたいって気持ちも俺は認めてる。』

 

「ありがとうございます!」

 

『ただなあ、こんなことしたら俺は牙竜に何を言われるか…』

 

「それはどういうことですか…?」

 

少し困ったようにエボルトは言葉を続ける。

 

『仮面ライダーとして戦い続けることの大変さをアイツは1番よく分かっている。だからこそお前にそんな負担を強いたくない。それがアイツの気持ちなんだ。一般のヒーローよりもよっぽどキツイぜ、仮面ライダーになるのは…』

 

「それが牙竜さんの気持ち…」

 

『ああ、けど俺はお前の気持ちを尊重もしたいだから俺にできるのはこれだけだ。』

 

そう言うとベルトと2本のボトルを八百万に投げ渡す。

 

『変身用のアイテムだ。これを渡してはおく。ただこの後どうするかはお前が決めろ。』

 

「はい!」

 

『けどまずは島民の避難の指揮に戻れ。そういう場面でもお前は輝けるからな…』

 

そして一晩超えて翌朝

 

「ナイン、あの古城に平行世界ゲートがある。アレを確保すれば再び…」

 

「ああ、その奪取が今回の目的の一つだろう?」

 

島の北西には城跡が残る小さな孤島があり、そこに向けて菅野、仮面ライダーV9そして召喚された仮面ライダーザイアと古代王仮面ライダーオーズがその場に向かっている。

 

「さあて…来やがったな!」

 

その様子を古城跡の上から牙竜達が見ている。

 

「敵は3人、作戦通り3手に分かれますわ!」

 

「ああ、百、青山頼んだぜ!」

 

「わかりましたわ!」

 

「メルシー」

 

牙竜が指示すると八百万が大砲、青山がへそのレーザーを構える。

 

『今だ…撃て!』

 

「Can't stop twinkling! Super nova!」

 

敵が小島に到着した時、エボルトの指示で大砲と青山の最大火力のレーザーが足場に向けて放たれる。

 

「分断狙いか…」

 

足場が崩れ、ザイアと古代王オーズはV9達から引き離される。

 

「もう…限界……」

 

「青山さん!」

 

しかし最大火力を出し切った青山は腹の痛みからか倒れこんでしまう。

 

「ありがとよ、青山。後は俺達に任せろ!」

 

敵のライダー達が3箇所に分断されたのに対し、A組生徒達もそれぞれが倒すべき敵の下に向かう。

 

「さて、昨日の続きを始めようか。」

 

川辺に落ちたザイアの足元が凍り付く。

 

「轟君!切島君!梅雨ちゃん君!まずはこの敵を倒して牙竜君達に繋ごう!」

 

その周囲を飯田、蛙水、キャッスルハードスマッシュに変身した切島、そして仮面ライダーローグに変身中の轟が取り囲む。

 

「来るぞ!」

 

「おう!」

 

氷を突き破って彼らに攻撃しようとするザイアの進路をキャッスルが咄嗟に防ぐ。

 

「クッ…!」

 

キャッスルの盾に向けてザイアが拳を撃ち込むとその衝撃が切島自身にまで伝わってくる。

 

「コイツ…硬え!」

 

「いや、アイツは今の一瞬でお前の個性をコピーして使いやがったんだ…」

 

「ちょっと触れただけでコピーされんのかよ!」

 

「その辺は物間ちゃんとも似たような感じね…」

 

キャッスルが守りに入った時、切島は咄嗟に自身の個性である硬化を使いながら防御をしていた。

その切島に直接触れたザイアは一瞬で硬化をコピーしてその状態の拳でキャッスルハードスマッシュを殴っていたのだ。

 

「触れられるだけで厄介ね。」

 

「ああ、一体どうすれば…」

 

「なあ、もし仮にだがアイツが物間とは違って一度に保有できる個性が1つだけだったとしたら…」

 

雄英高校には彼らA組だけでなく牙竜の幼馴染でもある甲斐銃士属するB組もおり、そこには他人の個性をコピーできる物間寧人という生徒がいる。彼の個性コピーはこの場にいるザイア同様触れた相手の能力をコピーして使えるというものである。さらに個性は複数個同時にコピーできる上に5分間保持できる。

そうしたコピーに関する制約がザイアはどの程度なのか?それが現在分かっていない。

 

「その可能性は十分にあり得るな!」

 

勿論物間よりも能力の使い勝手が良い可能性があるが、そうでもない可能性もある。

 

「だったら話は早え!俺がアイツの攻撃を受け止めっからその間に分析してくれ!」

 

敵の特性を完全に分かったわけではない。しかしそれを把握するまで耐えることが出来るのが切島鋭児郎だ。キャッスルハードスマッシュに変身し、個性の硬化を使えば防御力はクラス最強レベルだ。再び攻撃を仕掛けるザイアのパンチを何発も耐え抜く。

 

「飯田ちゃん!轟ちゃん!」

 

「「おう!」」

 

その間に背後や側面から蛙水、飯田、そしてローグの3人が次々と攻撃を仕掛けていく。

 

「次は飯田か!」

 

蹴りかかってきた飯田を受け止めたザイアが彼の個性であるエンジンをコピーし、ふくらはぎにエンジンの器官を生成する。その器官で加速しながら蛙水に襲い掛かるが轟が氷を生成して止める。

 

「膨冷熱波!」

 

その氷に向けて炎を放って溶かすと共に空気の膨張で爆風を生成、ザイアの身体を吹き飛ばす。

 

「レシプロバースト!」

 

「ケロ!」

 

さらに地に落ちてきたところを飯田と蛙水の蹴りが襲うが、再びザイアは足のエンジンで加速して咄嗟に避ける。

 

「今防御しなかったわね…」

 

「ああ、切島君の個性を使わなかった…」

 

「個性を一個しか保持できないのか保持時間が少ないのか……」

 

「それを見極めるのはこれからだ!まずは攻め続けるぞ!」

 

飯田と蛙水らがザイアに攻撃を仕掛けていく中、古城跡の小島にある反対側の洞窟では…

 

「増えやがった!」

 

ビルドに変身する緑谷出久とグリスに変身する爆豪勝己が古代王仮面ライダーオーズと戦っていたが彼の多彩な能力を前に苦戦していた。

彼が初めに派兵したグリードたちがエボルトに敗れたためか彼らを吸収し、グリード吸収体となった古代王オーズはメダルの力を最大限まで引き出せる。

昆虫系のメダルの力で分身したオーズがビルドとグリスに襲い掛かる。

 

「ワンフォーオール!フルカウル!」

 

出久は全身に自身の個性であるワンフォーオールを張り巡らせることで全身を強化する。

 

「スマーッシュ!」

 

その状態で古代王オーズらを殴り飛ばしていく。

 

「死ねぇ!!」

 

大量の襲い掛かってくるオーズ達に爆豪も爆破を放って応戦する。

 

「何体居るんだッ…!」

 

何とか敵の大群に対処する爆豪だが、敵の数の多さに疲労感が見え始めている。

 

「クッ…!多すぎるッ…!」

 

恐ろしいのはこの古代王オーズはウヴァ、カザリ、ガメル、メズールを吸収したことで彼らのコアメダルの力を巧みに操れる。昆虫系コアメダルで分身した各個体も微力ながら他のコアメダルの力を扱い攻撃してくるのでより厄介だ。

出久もビルドラビットタンクスパークリングにビルドアップして泡を活かしながら何とか対処しているが…

 

「重力がッ…!」

 

サイ、ゴリラ、ゾウの3枚のコアメダルの力を発動され、発生した重力場がビルドを押さえつける。

 

「出久!あぶねえ!」

 

さらに古代王オーズの内一体がウナギメダルの力で手から生やした電気ウナギウィップをビルドに向けて振り下ろそうとしていた。

その間に咄嗟にグリスが割り込むが背にその攻撃をもろに受けてしまう。

 

「かっちゃん!」

 

さらに追い打ちとばかりに放たれた水流にグリスは吹き飛ばされ、生身を晒された爆豪が地面を転がる。

 

「大丈夫?かっちゃん!」

 

気絶した爆豪を抱きかかえ、ビルドは一旦離脱。

 

「かっちゃん、ここで待ってて。僕が何とかするから…」

 

しかしこの場から退けば牙竜らにピンチが訪れる。

古代王オーズを放置するわけにはいかないので、一度安全な所に爆豪を寝かせると出久は再び敵の軍団と向き合う。

 

「けど僕だって、やれるんだ!」

 

『ハザードオン!』

 

ビルドドライバーからスパークリングボトルを抜き、ハザードトリガーをセットすると懐から取り出した一本の長いボトルを振る。

 

『ラビット&ラビット!』

 

その、フルフルラビットタンクボトルを真ん中で折ってベルトにセットするとビルドドライバーのレバーを回す。

 

『ガタガタゴットン! ズッタンズタン!』

 

『Are you ready?』

 

「ビルドアップ!」

 

一度ビルドの姿がラビットタンクハザードフォームのものに変わり、ウサギ型の赤い強化アーマー・ラビットラビットアーマーを装着

 

『オーバーフロー!』

 

『紅のスピーディージャンパー! ラビットラビット!』

 

『ヤベーイ! ハエーイ!』

 

「僕はッ…退かないぞ!」

 

ビルド・ラビットラビットフォームにビルドアップを済ませるとすぐに、フルボトルバスターを手に古代王仮面ライダーオーズの分身たちに向けて走り出す。

 

「おっしゃ!今から攻めまくるぜ!」

 

「まずはウチらが!」

 

一方、島の正面側ではスタッグハードスマッシュ瀬呂と麗日、峰田がV9との戦闘を開始していた。

 

「受けてみやがれ!」

 

島にある岩を集めておいた麗日は、それらを自身の個性を使い重力から解き放ち宙に浮かせると瀬呂が肘から出したテープを岩に付けて次々とナインに受けて投げていく。

 

「全部弾いた!?」

 

「アイツの個性が反射って牙竜が言ってたな…」

 

「手強そうな個性…」

 

投げつけた岩は次々とナインに弾き飛ばされていく。

 

「これはどうだ!」

 

峰田が東部のもぎもぎを投げつけるがそれらも全て跳ね返される。

 

「あぶねえ!一旦退くぞ!」

 

瀬呂が二本の刀、ラプチャーシザースから斬撃を放ちながら後方へ引いていく。

 

「そう簡単には逃がさん。」

 

「来やがったぞ!瀬呂!」

 

「いいや、これで大丈夫だ!」

 

逃げる瀬呂達を追うV9、徐々に彼らに迫っていくが…

 

「これは…」

 

V9の足が止まる。

 

「引っかかったな!トリモチトラップだ!」

 

その原因は地面に落ちた峰田のモギモギだ。

彼が弾き飛ばして地面に落ちたもぎもぎボールを踏んでしまったことで地面と足が引っ付き動かなくなってしまうと…

 

「解…除…!」

 

ここで麗日が宙に浮かしておいた岩の無重力状態を解除すると、多量の岩が一気にV9に降りかかる。

 

「麗日。大丈夫か?」

 

「平気…だけど……」

 

大量のものを無重力状態に保つのは麗日にとって負担が大きい事であるが、今はそれに構っていられる場合では無い。衝撃波を放って岩から出てきたV9が彼らに襲い掛かる。

 

「第一段階は上手くいってるぜ、後は任せろ!」

 

だがそのV9に今度は空から稲妻が次々と襲い掛かって来る。

V9はその電撃を空に向けて反射することで咄嗟の攻撃を凌ぎ切る。

 

「アイツどんだけ跳ね返してくんだよ!」

 

空から電気を放っていたのは上鳴が変身したオウルハードスマッシュだ。

飛行しながら何度も電気を放ち、撃ち返されても躱していく。

 

「アシッドショット!」

 

さらにこの場に芦戸も参戦し、自身の個性である酸をV9の足元に向けて放つとV9が一瞬バランスを崩す。

 

「ダークシャドウ!」

 

そこを援軍にやって来た常闇の個性であるダークシャドウが爪で攻撃を仕掛ける。

 

「クッ…!」

 

V9も負けじと背中から2匹の竜を生やして、ダークシャドウの攻撃を防ぐ。

 

「それ!」

 

さらにその竜に芦戸が放った酸が次々と飛ばされていき、竜の身体の一部が溶け始める。

 

「このまま押し切るぜ!」

 

麗日を避難させた瀬呂と上鳴も2人に続いて各々の武器で攻撃、上鳴の電気とスタッグハードスマッシュの刀が2体の竜に炸裂すると、それらは爆散する。

 

「これでも食らえ!」

 

さらにスタッグハードスマッシュが刀で切りかかるが…

 

「また跳ね返しやがった…」

 

その斬撃が跳ね返される。

 

「けど根気よく攻撃すれば…」

 

だが次は常闇のダークシャドウ、芦戸の酸、上鳴の電撃による波状攻撃を浴びせていく。

 

「オイラだって!」

 

「ウチも!」

 

さらに今度は峰田のもぎもぎで束ねた木の柵を無重力で浮かせてV9に向けて投げる。

 

「いいタイミングだぜ!」

 

それをも衝撃波で弾くV9だがその隙を突いて上鳴が電撃を放つ。

 

「どうだ!」

 

相手が反射できない隙を突いた一発に、V9も流石に怯むだろうと思われたが…

 

「効いて…ない……」

 

しかしV9はダメージによって弱った様子を見せるどころか天に向けて右腕を上げると……

 

「おいおい、これって不味いんじゃ……」

 

A組生徒達が身構えたが時すでに遅し、彼らの身体が宙に浮かび上がっていく。

 

「竜巻だ!」

 

峰田が咄嗟に叫んだ時には、彼ら6人はV9が作り出した竜巻の中に閉じ込められてその中で飛ばされていた。

 

「これでまずは…一網打尽だ……」

 

その竜巻に向けて空に渦巻く黒い雲から雷が落ちてくる。

 

「耐えたぜ…」

 

一発目の雷を上鳴自らが避雷針となることで何とか耐え抜くが…

 

「ウェ~イ」

 

その一発の電力だけで上鳴の脳がショートしてしまった。

 

「おい上鳴!しっかりしろ!」

 

頭がショートした状態の上鳴も他のクラスメイト達も未だ竜巻の中に巻き込まれて宙に浮いたままである。そこに向けて2発目の稲妻が落ちる。

 

「クソッ…!」

 

雷撃のダメージによって全員が失神し、地面に落ちていく。

 

「こんなものか…」

 

「いいや…まだッ…まだだッ…!」

 

そして古城の頂上を目指して歩み出すV9だがその足元にスタッグハードスマッシュがしがみつく。

 

「お前を上にッ…行かせるかよッ……!」

 

「邪魔だ。」

 

だがその背に向けてV9の爪が放たれると、足を握る力が弱まり、瀬呂は手を放してしまう。

 

『アイツら、中々体張ってくれたんじゃねえか?』

 

「ああ、俺の為にな…」

 

その様子を上から見ていた牙竜とエボルト

A組のクラスメイト達は昨日の戦闘で負傷していた牙竜のことを気遣い先陣を切ってV9に挑んでいった。

そしてその間に牙竜とエボルトは対策を練っていた。

 

「アイツ、個性一個ずつしか使ってなかったな。」

 

『ああ、俺も見てたけどそうらしいな。同時にはあんま使えなさそうだな。』

 

「それに上鳴の奴が雷一発耐えてくれたから追加でもう一発ぶっ放してやがる。もしその負担がかかってるなら…」

 

『消耗は激しいだろうな。じゃあこっからは俺達のターンだ。』

 

2人が突き出した拳を合わせ互いの目を見る。

 

「あの…!牙竜さん!」

 

その場に八百万が駆け寄ると。

 

「これ、直しておきましたわ。」

 

そう言ってスカジャンを渡す。

 

「ありがとよ…」

 

それを受け取ると彼女のことをぎゅっと抱きしめて

 

「絶対生きて帰って来るから…待っててくれ…」

 

『ビルドドライバー!』

 

そう言うとスカジャンを纏いビルドドライバーを腰に巻いて敵に向かって走り出す。

 

「いくぜ…」

 

『ああ…』

 

『エボルドライバー!』

 

エボルトも自身の腰にエボルドライバーを巻き付ける。

 

『ボトルバーン!』

 

『オーバー・ザ・エボリューション!』

 

『クローズマグマ!』

 

『コブラ! ライダーシステム! レボリューション!』

 

そしてそれぞれがアイテムを挿し込み…

 

『『Are you ready?』』

 

「『変身!』」

 

『極熱筋肉!』

 

『クローズマグマ!』

 

『ブラックホール!ブラックホール!ブラックホール!レボリューション!』

 

『アーチャチャチャチャチャ チャチャチャチャアチャー!』

 

『フハハハハハハハハ……!』

 

2人はそれぞれ仮面ライダークローズマグマ、仮面ライダーエボル・ブラックホールフォームの装甲を身に纏い、V9に向けて一気に飛んで行く。

 

「来たか…」

 

早速、クローズがマグマを纏った拳をV9に向けて振り抜くがそれはすぐ反射の壁で阻まれてしまう。

 

「反撃かッ…!」

 

壁で阻まれたマグマが反射されて牙竜の方に飛ぶが…

 

『防御は任せろ。』

 

そのマグマをエボルがブラックホールを生成し、一瞬で消し去る。

 

「ああ、頼んだぜ!」

 

クローズからはパンチとキックの応酬がV9に向けて浴びせられていくが、彼の攻撃が反射されてもすぐにエボルトがブラックホールをぶつけて打ち消していく。

 

『さあ、打てるだけ打っちまえ!』

 

「はいよ!」

 

エボルトが反射してくる攻撃をカバーしてくれるお陰でクローズマグマは果敢に攻めることが出来る。

マグマを纏った拳を撃ち続けていく。

エボルが攻めに回ってしまえば反射した際の被害が大きくなってしまう。

そこでその力を全て防御に振ることで牙竜らが受けるダメージを減らしていく。

 

「オラ!どうだ!食らいやがれ!!」

 

反射する隙も無い程に拳が撃ち込まれていくと徐々に反射のバリアにヒビが入っていく。

 

『避けろよ。』

 

クローズが一度身を引くと、バリアに蓄積されたマグマがクローズに向けて噴射する。

だがそこに向けてエボルが掌の上で形成したブラックホールをぶつけるとマグマが一瞬で消し飛ぶ。

 

「『オラァ!』」

 

クローズとエボル、それぞれが蹴りを突き出すと、遂にバリアが破れてしまい2人の足がV9の胸板に突き刺さる。2人の足に突き飛ばされたV9の身体が引き下がってしまうと…

 

「攻めまくんぞ!」

 

クローズとエボルが交互にV9に向けて殴りかかっていく。

防戦一方に追い込まれたV9も背中から使い魔の竜を生やして抵抗するが、一瞬で2人に打ち砕かれていく。

 

『この距離ならバリアは張れないな。』

 

『スチームショット!』

 

そして腹部にライフルモードにしたトランスチームガンからエレキスチームの電気を纏ったエネルギー弾を解き放つ。

 

「また反射すれば…」

 

さらに飛び蹴りを仕掛けてくるクローズマグマに対して反射の個性を発動しようとしたが、上手く発動せずに蹴飛ばされてしまう。

 

「もう反射は出来ねえのか!」

 

『だったらここで一気に決める。』

 

個性発動による負担、牙竜達の攻撃による蓄積、そして腹部に打ち込まれたスチームショットのダメージで既に反射の個性を使えなくなってしまっていた。

 

『『Ready! Go!』』

 

『ボルケニックフィニッシュ!』

 

『ブラックホールフィニッシュ!』

 

『アーチャチャチャチャチャ チャチャチャチャアチャー!』

 

ここまでは完全に牙竜達の作戦通りだ。

瀬呂と上鳴達でV9を消費させてから牙竜とエボルトの2人で攻め立てる。

そして反射をできなくなったところで2人のライダーキックを同時に打ち込む。

だがV9も此処で負ける気はなく自身のエネルギーを右腕に集中させてライダーパンチを放つ。

 

「打ち破れ!」

 

必殺技の威力は牙竜達の方が圧倒的に上だ。

咄嗟に個性の一つである衝撃波を放つがそれすらも2人のライダーキックに打ち破られ、その強大なエネルギーをその身に受けたV9ば爆炎を上げながら吹き飛ばされて地面に落ちると共に爆発を起こす。

 

「やったか…!?」

 

『いや…まだだ……』

 

だが巻き起こる砂埃の中からV9の姿が再び現れる。

 

「俺をここまで追い込むとは…だが…これには耐えられるかな……?」

 

そのV9の身体には紫色の稲妻が流れ、体表のラインも紫色に染まっていく。

 

「何が起きやがんだッ…?」

 

「リミッター…解除……!」

 

その一声と共にV9の背中に4つある柱上のリミッターが突き出る。

それに合わせてV9の人工筋肉が膨張してその体躯は寄りマッシブなものに変わり、顎のマスクが開きクラッシャーが大きく展開する。爪はより鋭くなりその姿は正に獣である。

 

「お前たちはもう負けだ。菅野が既に平行世界ゲートを奪いに行ってる筈だ。」

 

『何ッ…!?』

 

「そしてお前達は…俺に狩られる……!」

 

V9の言葉通り、平行世界ゲートには既に菅野らが向かっていた。

 

「このライダー…強い……」

 

「防ぎ切れるかどうか……」

 

平行世界ゲートの試作機を隠していた小屋には堀内とA組の尾白、障子、耳郎の3人が陣取って防衛をしていたが、菅野と共に現れた仮面ライダーファルシオン・アメイジングセイレーンの吸収を受け、彼らは危機に瀕していた。

ファルシオンの使うアメイジングセイレーンのワンダーライドブックは複製されて他人に譲渡することが出来る。あくまで召喚された存在であるファルシオンだが、複製の能力により複数体に分身していた。

爆豪らが倒したのはその内の1体だ。複製されたファルシオンの内1体は菅野と共に堀内たちに襲い掛かっていた。

 

『必殺黙読!』

 

無銘剣虚無をブレードライバーに収めてからトリガーを一回引き

 

『抜刀!神獣無双斬り!』

 

抜刀してから剣を振るうと白い斬撃が尾白と障子に向けて放たれ、彼らの足元で爆ぜる。

 

「尾白!障子!」

 

吹き飛ばされた2人が地面に倒れこむ。

 

「さあ、観念しろ堀内!」

 

「いいや、そんな訳にはいかない…」

 

「だが、ここからどうやって勝つつもりだ?」

 

菅野とファルシオンがじわりじわりと歩み寄る。

剣を地面に引きずれば火花を散らしながらコツンコツンと足音を鳴らす。

 

「いいや、まだ諦めるわけにはいかない!まだ私にはこれがある。」

 

そう言うと堀内はUSBメモリを平行世界ゲートの試作機に挿し込み、装置を起動する。

 

「何をする気だ!?」

 

「私は仮面ライダー達とショッカーの戦いを見て一つの希望を見出した。きっとこれを使えば正義の仮面ライダーだって呼び出せる筈だ!」

 

「小癪な!やってしまえ!ファルシオン!」

 

平行世界ゲートに切りかかろうとしたファルシオンだが、装置から放たれたエネルギーに弾き飛ばされる。

 

「動けるのか!?こんなオンボロで」

 

「ああ…私の発明品だからね!」

 

並行世界ゲート中央にエネルギーが収束すると球状のゲートが形成される。

先程挿したUSBメモリにはとある平行世界の座標データが記されており、ゲートがその座標と繋がる。

そしてゲートの中から青い髪の青年が現れる。

 

「ここは…」

 

青年は平行世界ゲートの上から降りつつ辺りを見回す。

突然飛ばされてきた場所に戸惑っている様子だが地面に倒れる尾白らの方を見るとそちらに駆け寄る。

 

「大丈夫ですかッ…?」

 

「あ、あなたはッ…」

 

「そうだッ…!?お前は誰だ?」

 

尾白と菅野、それぞれから名前を聞かれた青年は立ち上がって菅野の方を見据える。

 

「僕は北条颯馬、どうやら悪いのはそっちみたいだね。」

 

そして懐から取り出したベルトの様な物を腰に付ける。

 

「もう安心して、後は僕がやる。」

 

『マーベルドライバー!』

 

マーベルドライバーを腰に付けた颯馬は尾白らの前に出て菅野とファルシオンの2人と向き合う。

 

「まさかお前も仮面ライダーなのか!?」

 

「うん、正解」

 

『ワカンダフォーエバー!』

 

颯馬が取り出したディスクにはマーベルヒーローの1人、ブラックパンサーの姿が描かれている。

 

「変身」

 

ディスクをマーベルドライバーのメインスロットに装填し両脇のスイッチを同時に押すとナノマシン製の装甲が彼の身体を覆っていきヴィブラニウム製の黒い鎧を纏う。

 

『ロイヤルアベンジャー!アッセンブル!』

 

ブラックパンサーを髣髴とする黒ヒョウの姿を模した姿、最強金属ヴィブラニウムの装甲、手指から生える鋭い爪。マーベルヒーローであるブラックパンサーと彼が国王と務めるワカンダ国の戦士達の力を秘めた戦士、仮面ライダーマーベル・ワカンダフォーエバーへと姿を変えた北条颯馬とファルシオンが互いに向けて走り拳を交える。

 

「あれが平行世界の仮面ライダー…」

 

「僕が仮面ライダー…マーベル!」

 

To be continued




仮面ライダーマーベルこと北条颯馬が遂に登場!

まずはワカンダフォーエバーでどの様な戦いを見せてくれるのか、必見です。

敵ライダーの詳細

仮面ライダーザイア
ゼロワンのVシネクストに登場したライダー
別名歩くサウザンジャッカー

古代王仮面ライダーオーズ
オーズのVシネマ、運命のコアメダルに登場
噛ませ犬の汚名返上ができるかどうか期待

仮面ライダーファルシオン・アメイジングセイレーン
セイバーのVシネマに登場
Vシネマ本編でも複数体いたのでこちらでも複数体召喚されているもよう


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劇場版 クローズ&エボルのヒーローアカデミア ピースサイン3

(3人称視点)

 

「僕が仮面ライダー…マーベル!」

 

並行世界からやって来た仮面ライダーマーベル・ワカンダフォーエバーに対してファルシオンは無銘剣虚無で切りかかる。だがそれを右腕でガードしてから左手からヴィブラニウム製の槍を作り出してそれを手に持ちファルシオンの胸に向けて突く。

 

「ハッ…!」

 

さらにそこから槍を振るい、頭部や腹部を叩いていく。

時折刃先がファルシオンの身体を切り裂いていき、ファルシオンが縦に振った無銘剣虚無を右腕と左腕を重ねた状態で受け止めると隙を突いて腹部に蹴りを入れる。

 

「この人強い…!」

 

「馬鹿なッ…!ファルシオンが…」

 

体術と槍裁きでファルシオンの攻撃を避けつつ徐々にダメージを与えていく。

ヒーローとして戦う術を学んでいる雄英生からしてもその体術は圧倒的だ。

槍を使って剣戟をしっかりガードしつつ気が逸れだした頃に腹部や頭部に向けてハイキックを打ち込んでいく。

 

「危ない…」

 

ファルシオンが咄嗟に堀内らに向けて無銘剣虚無を投げつけたが、咄嗟に合間に入ることでその身で受け止める。

ダメージを受けて倒れこむマーベルに向けてファルシオンがさらに殴り掛かろうとするが、マーベルのスーツ胸部から衝撃波が放たれてファルシオンが吹き飛ばされる。

 

「流石ヴィブラニウムのスーツ。」

 

マーベルが着ているブラックパンサーのスーツはヴィブラニウムというマーベル世界における最強の金属である。このヴィブラニウム製のスーツは受けた攻撃のダメージを吸収し、衝撃波として反射することが出来る。今ファルシオンの剣で受けたダメージがスーツから衝撃波として放たれて敵を吹き飛ばしたのだが、ブラックパンサーの力はそれだけではない。

 

「喰らえ!」

 

軽快な動きと身体能力、そこから繰り出される体術はファルシオンを翻弄するのには十分だ。

ヴィブラニウムの爪で装甲を次々と切っていくと、火花を散らしながら鎧の破片が宙を舞う。

 

『ファイナルアタック!ワカンダフォーエバー!』

 

マーベルの体表に紫色の稲妻が走ると、スーツも徐々に紫に染まっていく。

 

「パンサーバースト!」

 

その状態でファルシオンに向けて一直線にタックルでぶつかると、衝撃とエネルギーが一気に解き放たれる。それらを同時に身に受けたファルシオンの身体は宙を舞い、地面にぶつかるのと同時に爆発し消滅する。

 

『颯馬様、他の場所にも敵がいるようです。』

 

「分かった、すぐに行くよ。」

 

『スタークスーツ!』

 

仮面ライダーマーベルに搭載されたサポートAIジャービスが他の敵がいることを察知するとそのことをすぐに颯馬に伝える。そう聞いた彼はアイアンマン、ウォーマシン、レスキューらトニースタークの会社、スタークインダストリー製のパワードスーツを纏うヒーロー達の力を秘めたスタークスーツのディスクをベルトに挿入していたワカンダフォーエバーディスクと入れ替える。

 

『アイアンアベンジャー!アッセンブル!』

 

マーベルドライバーから放たれた青色の光はパワードスーツと武器を形成し、それらが仮面ライダーマーベルの身に次々と装備されていく。

 

「行っちゃった…」

 

「中々強いライダーでしたな…」

 

彼の戦いの間に菅野を捕まえて拘束した耳郎と堀内はスーツを纏って空に向けて飛んで行く様子をただ見ることしかできなかった。

そしてファルシオンは実はもう1体居たのだ。

元々3体召喚されていたファルシオン・アメイジングセイレーンだがそのうち一体は昨日爆豪らに敗れ、別の一体も先程マーベルに倒された。そして最後の一体は避難する住民たちに襲い掛かっていた。

 

「お兄ちゃん!お姉ちゃん!」

 

ファルシオンの攻撃を受けて住民たちを守っていた口田、砂藤、葉隠らは地面に伏しており、そこに島乃姉弟が駆け寄り彼らの身体を揺すっている。

 

「危ない!活真!」

 

だがファルシオンは子供相手でも容赦をせずに剣を振るおうとするが…

 

「もう大丈夫。」

 

その間に空から飛んできた仮面ライダーマーベルが間に入って彼らを庇う。

 

「ここは任せて!」

 

そして両椀のサブマシンガンと肩のガトリングガンが一斉にファルシオンに向けて火を噴く。

マーベルと3体目のファルシオンの戦いが始まった頃、ザイア達の戦いも佳境を迎えていた。

 

「弱点は…大体わかったな…」

 

切島が攻撃に耐えている間に飯田、蛙水、轟の3人がザイアに波状攻撃を仕掛けることでザイアの弱点を彼らは見抜いていた。

 

「個性は1つずつしかコピー出来ねえみてえだな。」

 

「それに保有できる時間は少ないみたいね。」

 

確かにザイア自身は強いが個性のコピーという面ではB組の物間の方が上だ。

そのことが見抜けたため、轟は一気に攻めるために一度変身を解除し、エボルトから受け取ったビルドドライバーを腰に巻く。

 

『プライムローグ!』

 

プライムローグボトルを折り曲げ、噛ませるように打ち付ける。

 

『ガブッ!ガブッ!ガブッ!ガブッ!ガブッ!』

 

起動したボトルをビルドドライバーに挿入してレバーを回す。

 

『Are you ready ?』 

 

「変身」

 

『大義晩成!プライムローグ!』

 

『ドリャドリャドリャドリャ!ドリャー!』

 

純白のマント"プライムセイバーマント"を身に着けた仮面ライダーローグの新たな姿、プライムローグ

轟焦凍が新たな力を手にし、仮面ライダーザイアの前に出る。

 

「ここまで耐えてくれて助かった…ここからは俺に任せろ。」

 

ザイアは切島も個性をコピーし、自身の拳を硬化させた状態で殴り掛かるがプライムローグは自身のマントであるプライムセイバーマントでその攻撃を防ぐ。

このマントはエボルトの様な地球外生命体の攻撃すらも凌ぐ防御力があり、拳はマントに触れてしまえばそこから突き抜けれず、ザイア自身の足元も轟自身の個性によって氷に覆われる。

 

「早く倒して下間達の援護にいかねえとな…」

 

昨日はザイアと戦ったが倒すことが出来なかった。

それが尾を引き生き残ったザイアを倒すために仲間達は分散せざるを得ない状況になってしまった。

牙竜達の援軍に早く行きたい轟は右手に氷、左手に炎を纏わせた状態でザイアに連続で殴り掛かる。

 

「ハッ…!」

 

敵に連続で触れるということは個性をコピーされやすい状態であるということだ。ザイアも半冷半燃の個性をコピーして炎を放つが、プライムローグはマントで防ぐ。

 

「エボルトの言う通り…いい防御力だ。」

 

個性をコピーしたザイアの攻撃だが、プライムローグのマントや装甲の防御の前に次々と防がれていく。

 

「ケロ、個性が消えた…」

 

約一分ほどザイアが攻撃を続けたがそのタイミングでコピーした個性が打ち止めとなりザイアの動きが止まる。

 

「蛙水!頼んだ!」

 

プライムローグと入れ替わるように蛙水が前に出ると轟から預かったネビュラスチームガンでザイアを撃つ。

その間にも轟がザイアの足元を凍らせる。

ザイアの周囲を蛙水がカエルのように飛び回って攪乱しつつ銃で撃っていく。

 

「行くぜ飯田!」

 

「ああ、任せたまえ!」

 

蛙水の動きに翻弄されているザイアに向けてエンジンで加速する飯田に押されながら切島が突撃する。

 

「おりゃあ!」

 

ぶつかっていく推進力と共に拳でザイアを殴り飛ばし、彼が宙を舞う間にプライムローグがレバーを回す。

 

『Ready Go!』

 

『プライムスクラップブレイク!』

 

右足に氷、左足に炎を纏った状態でザイアに向けて駆けるとワニが得物に噛みつく様に両脚で挟みこむ。

挟むようにザイアの身体を蹴り、そのエネルギーで弾き飛ばされたザイアは宙を舞いながら火花を散らし爆発する。

ダメージに耐え切れなくなったザイアの肉体は爆発を起こした後、塵一つ残すことなく消滅する。

 

「このまま下間の援護に行くぞ。」

 

轟たちは未だ体力に余りがあるので牙竜らの援軍に向かう。

 

「数が多すぎるッ…!」

 

一方その頃、タンクタンクフォームにビルドアップした仮面ライダービルドこと緑谷出久は50体近い数に分身した古代王オーズに追い詰められていた。

古代王オーズはウヴァ、カザリ、ガメル、メズールの4体のグリード達を体内に吸収しており、彼らの持つメダルの力をメダルスキャンをせずに使えるので、分身や熱による攻撃、重力操作に液状化と様々な手段を使ってビルド達を追い詰めていた。

昆虫系のメダルの力を使い分身した古代王オーズらがそれぞれ能力を使って攻撃するので流石の出久も地面に膝を突く。

 

「このままじゃ…」

 

そんな出久に向かって4体のオーズが必殺技を放とうとしていた。

 

「動けッ…!動けッ…!」

 

既にダメージが蓄積された出久は自身の身体に鞭を打ち、何とか攻撃を避けるが更に他のオーズが刃を向けてビルドに突撃していく。

 

「あぶねえ!」

 

『激凍心火!グリスブリザード!』

 

オーズ達の攻撃が出久に向けて放たれようとしたその時だった。

先程まで気絶していた爆豪がグリスブリザードに変身し彼らの間に割り込むと、古代王オーズの分身体を氷を伴った爆破で凍らせる。

 

「かっちゃん!」

 

「こんなもんじゃねえだろ!出久!」

 

爆豪の戦線復帰で状況は好転、グリスブリザードの氷とビルドタンクタンクフォームの砲撃が古代王オーズ達を次々と退かせる。

爆破の推進力で爆豪が飛びながら左手のパワーアームであるGBZデモリションワンをで敵に殴り掛かっていき、出久に襲い掛かる敵達を地に伏せさせていく。

 

「最近は牙竜の奴らが目立ってるけどよお…俺らだって負ける訳にはいかねえだろ…」

 

『ウェルカム!一致団結!』

 

「そうだね、僕達だってオールマイトみたいに…」

 

『グレート!オールイエイ!』

 

そして敵の波を止めるとその隙にエボルトから受け取ったアイテムをそれぞれ起動する。

共にオールマイトを目指し、時にぶつかり合い時に肩を並べて戦ってきた2人は共にクラスメイトでもあり最も高い壁である牙竜を超える為にまずは分身した古代王オーズ軍団に挑む。

 

『イエイ!イエイ!』

 

『イエイ!イエイ!』

 

『グリスパーフェクト!』

 

それぞれジーニアスボトルとグリスパーフェクトキングダムをビルドドライバーに挿し込んでビルドドライバーのレバーを回す。

 

『『Are you Ready?』』

 

「「ビルドアップ!/出来てるよ…!」」

 

『完全無欠のボトルヤロー!ビルドジーニアス!』

 

『スゲーイ!モノスゲーイ!』

 

『ファーマーズフェスティバル!グリスパーフェクト!』

 

『ガキン!ゴキン!ガコン!ドッキングー!』

 

仮面ライダービルド・ジーニアスフォームと仮面ライダーグリスパーフェクトキングダムが古代王オーズとその分身たちに囲まれつつも並び立つ。

 

「助けて勝つ!」

 

「勝って助ける!」

 

2人が古代王オーズの軍団に向けて一気に駆けると、ビルドジーニアスは自身の白いボディに刺さっている色とりどりのフルボトルに象徴されるように60本のフルボトルの力を使いこなすことが出来る。

出久自身エボルトから各ボトルの成分を学んでいて、普段の訓練等でもボトルの力を有効活用している為か悠々とボトルの力を使いこなしてオーズ軍団に挑む。

 

「スマーッシュ!」

 

ハリネズミボトルの力で、右手に針を纏わせた状態で自身の個性ワンフォーオールを身体に張り巡らせる。身体能力を上げた状態で棘の付いた拳で古代王オーズ達を次々と殴り飛ばしていく。

 

「タコにはタコだ!」

 

タコメダルの力を使って自身の足を蛸の足に変形させたオーズとオクトパスボトルによって腕から蛸の足を生やしたビルドがそれぞれタコ足を鞭のように振るってぶつけ合う。だが今度はガトリングボトルの力を使ってホークガトリンガーを手元に生成し、その重厚から数多もの弾丸が放たれて古代王オーズの1体が撃破される。

他にもクマの手やヘリコプターの羽、シカの角にUFOと色々なものをボトルの力で作り出して次々とオーズの分身体達を攻撃していく。

 

「オラァ!」

 

一方のグリスも両椀に装着されたスタッグハードスマッシュを模したハサミの様な一対の剣で古代王オーズの分身達を次々と切り倒していく。

 

「死ねェ!」

 

中距離にいる敵は爆破を放って対処していき、背中の翼で飛び立つとオーズらに向けて降下していき剣で次々と切り裂いていく。

 

『ブルー!』

 

『Ready Go!』

 

『スタッグスラッシュ!』

 

グリスのビルドドライバーのレバーを一回転させ、両椀のブレードに青いオーラを纏わせると、グリスが敵の集団に向けて連続斬りを放つ。斬られた分身体は次々と消滅していく。

 

『ワンサイド!』

 

『Ready Go!』

 

『ジーニアスアタック!』

 

「テキサススマッシュ!」

 

ビルドも自身のドライバーのレバーを一回回し、有機物系のボトルのエネルギーを右腕に纏わせてオーズの分身達に向けて一気に解き放つ。出久の個性であるワンフォーオールとそのエネルギーを上乗せされて放たれる拳圧で吹き飛ばされたオーズの分身体が宙を舞い爆散していく。

 

『イエロー!』

 

『Ready Go!』

 

『オウルアタック!』

 

今度はグリスがベルトのレバーを2回転させて全身に黄色いオーラを纏って飛行すると敵の軍団に向けて突撃していく。突撃されて突き飛ばされた敵達が次々と撃破されていく。

 

『逆サイド!』

 

『Ready Go!』

 

『ジーニアスブレイク!』

 

「フルカウル…シュートスタイル!」

 

ビルドもドライバーのレバーを二回転させ、無機物系ボトルのエネルギーを纏わせた状態で出久は全身にワンフォーオールの力を張り巡らせて一気に加速。地面を蹴り宙を舞うとエネルギーを纏った足で上でから敵を次々と蹴り倒していく。

 

『レッド!』

 

『Ready Go!』

 

『キャッスルブレイク!』

 

「グレネードボム!」

 

グリスがビルドドライバーのレバーを三回転させると、両肩の盾が稼働して砲口が正面を向き、赤いエネルギー弾が残った古代王オーズ分身体たちに向けて放たれると、着弾と共に爆豪の最大火力での爆破が一気に巻き起こり古代王オーズの分身体を全て一掃する。

 

『ワンサイド!』『逆サイド!』『オールサイド!!』

 

『ブルー!』『イエロー!』『レッド!』『ゴールド!!』

 

そして2人は自身のビルドドライバーのレバーを何度も回し、ビルドは全ボトルのエネルギーを、グリスは赤・青・黄の3色のオーラをそれぞれ身に纏い残った古代王オーズ本体に向けて一気に走る。

オーズも負けじとコアメダルのエネルギーを身に纏わせて飛び上がる。

宙から地上にいる2人に向けて上からライダーキックを放つオーズに対して爆豪が爆破の推進力で飛び上がってドリルのように回転しながらオーズに向けて蹴りを放つ。

2人の蹴りが宙で拮抗する中…

 

「出久…!やれ…!!」

 

「任せて!かっちゃん!」

 

ビルドは勢いよく地面を蹴ると、ボトルの力でより高く飛び上がり、その場から虹色のグラフを形成して古代王オーズを拘束する。

 

「スマーッシュ!」

 

そしてグラフの軌道に乗りながら突き進み、古代王オーズにライダーキックを叩きこむ。

さらにグリスのキックも威力を増し、2方向からの必殺キックに耐え切れず、宙で交錯するように2人のキックに貫かれる。

2つのキックを受けた古代王オーズは空中で爆発四散し、大量のメダルをまき散らす。

 

「やったな、出久」

 

「うん、かっちゃん」

 

古代王オーズに対しての勝利を確信した2人は拳を合わせて向かい合う。

 

「けどまだ、牙竜君達が…」

 

「ああ、分かってんよ。とっとと行くぞ!」

 

そして2人もまた牙竜達の援軍に向かう…

 

(八百万視点)

 

「牙竜さん…エボルトさん…」

 

お二人を見届けた後私は事前の打ち合わせ通りに皆さんの救助に向かいました。

上鳴さん達を避難させて戦いの様子を見ていたのですが途中で敵の方が覚醒してしまって牙竜さん達が押されてしまってますわ…

 

「そんなっ…!」

 

最初は私達の立てた作戦通りに敵のライダーの反射を突破は出来たのですが…あちらの姿が変わってからは形成を逆転されてしまいました。

掌の上で金属の塊を生成して牙竜さん達に投げつけたり、背中から生える複数体の竜で攻撃したりして牙竜さん達が次々と追い込まれていますわ…

 

「ここは私がっ…」

 

私はもう牙竜さんが倒されるのを見たくはありません!

あの時の…合宿の時の様な悲しみはもう味わいたくないです!

 

「牙竜さん!次は私が助ける番です!」

 

私はいつも牙竜さんに助けられてばかりでした。

けど私だってヒーローを目指す者の1人、私だって助けることが出来るんです…

 

「力を貸してください!」

 

『エボルドライバー!』

 

エボルトさんから受け取ったベルトを腰に巻きます。

エボルトさんが使っている物と同じ形ですが、私の様な普通の人間でも使えるようにしているとおっしゃってました。

 

『コウモリ!発動機!エボルマッチ!』

 

2本のボトルを挿入して牙竜さん達のようにレバーを回します。

 

『Are you ready?』

 

「変身!」

 

『バットエンジン!ヌゥハハハハハハ……!』

 

仮面ライダーマッドローグ、エボルトさんに教えてもらった名前です。

初めての仮面ライダーへの変身を果たし、牙竜さんたちに向けて一気に飛びます。

 

「牙竜さん!エボルトさん!助けに来ましたわ!」

 

(エボルト視点)

 

V9のヤロウを覚醒させちまってから俺と牙竜は冷静に追い込まれちまった。

反射も復活してるせいで俺の攻撃をむやみに繰り出すこともできなかった…

だがここで有難い援軍の登場だ。

 

『ようやく来たな、八百万』

 

「エボルト!テメエ百に何を仕込みやがった!」

 

まあ、牙竜が怒ってるが仕方ねえ。相談も何もしてねえからな…

アイツに黙って八百万を仮面ライダーにしちまったしな。

 

「牙竜さん、エボルトさんを責めないでください。私だって…皆さんのように牙竜さんと並んで戦いたいんです!」

 

「百…」

 

「私も…あなたのヒーローになりたいんです!ダメですか…?」

 

「仕方ねえ…テメエの想い!受け取ったぜ!」

 

牙竜だって決して甘い訳じゃない。牙竜が八百万を認めたのはアイツのヒーローとしての想いが強いからだ。俺だってその思いを受け止めてアイツにベルトを渡した訳だし、牙竜だってきっとこの気持ちを分かってくれたはずだ。

 

「何を話している?」

 

『危ない!』

 

おっと、色々と話してる間にV9がまた金属の塊で攻撃してきやがったな。

ここはいっちょ俺が蹴って砕いとくか。

多分これもV9の個性だな。ここまで使わず隠してきやがったのか。

 

「よそ見してる場合じゃねえな。」

 

「ええ、いきましょう!」

 

『ああ、反射には気を付けろよ。』

 

V9は再び背中から十数体の龍を生やして、俺らに攻撃してくる。

 

「私が惹きつけますわ。」

 

八百万はネビュラスチームガンとスチームブレードを手に竜達に攻撃、そちらに気がそれたところで…

 

「喰らえ!」

 

横から牙竜がマグマを纏った拳で竜達を殴り飛ばす。

 

「百!そっち気を付けろ!」

 

「大丈夫ですわ!」

 

V9がキューブ状の鉄塊を手の上で生成しマッドローグに向けて投げるが…

 

『ファンキーショット!』

 

ネビュラスチームガンをライフルモードにし、バットフルボトルを装填してエネルギー弾で撃ち抜く。

 

『中々いい感じだな。俺も頑張らねえと…』

 

さてさて、今度はV9の龍が俺に向かって襲い掛かって来たんで…

 

『ほい、』

 

手を翳してブラックホールのエネルギーをぶつけて龍達を一気に破壊する。

 

『まだ来るか…』

 

懲りずにまた龍を再生して攻撃を繰り出してくるのでまた手を翳し…

 

『ほう…まだ個性があるのか…』

 

龍から放たれた衝撃波と俺のエネルギーがぶつかり合う。

この衝撃波も奴の個性だろうな。

 

「オラァ!隙だらけだぜ!」

 

だがV9が龍を操ってる間に牙竜が背中のブースターで加速して一気に奴の懐に潜り込んで拳を放つ。

 

「クソッ…」

 

だがそれもまた反射で跳ね返されて、マグマの拳が牙竜にぶつかる。さらに奴の指から放たれた光線が牙竜の身を襲う。

 

「牙竜さん!」

 

八百万がネビュラスチームガンで撃って牙竜を援護するが、今度は鉄の弾丸が生成されて八百万に向けて放たれる。

 

『手強いな…』

 

ブラックホールを生成して弾丸を全て吸収して消滅させる。

 

「アイツッ…個性を同時に…」

 

牙竜も一度俺達の方に身を退かせる。

 

『ああ、さっきと段違いだ。さっきまでは一個ずつしか使ってなかったんだけどな。今は個性を同時に使っている…恐らく身体の負担とかそういうデバフも小さくなってるだろうな。』

 

限界を超えたバーストモードってなるとそういったデメリットもある程度克服されちまってるんだろうな。まあぶっちゃけ覚醒前よりも手強いのは確かだ。

 

「つっても向こうにも限界はあるはずだ。リミッター外したつっても身体には負担はかかってるはずだ。」

 

『ああ、このまま攻めまくれば向こうにも限界が来る。』

 

「けど、このままだと防戦一方ですわ…」

 

相手に取って問題は長期戦だ。無理やりリミッターを外してるんだったら相手のスタミナはきつい筈だ。

攻め続けたら何れ倒せる可能性もある。問題は奴の多彩な個性、現状こちらは攻めあぐねている状況だ。

どう攻めればいいのだろうか…

 

「A・P・ショット!」

 

その時だった、空中からアイツがV9を爆撃して登場だ。

 

「爆豪!」

 

「チンタラしてんじゃねーぞ!!クソがぁ!!」

 

グリス・パーフェクトキングダムに変身した爆豪がV9に爆破を浴びせながら俺達の下に降り立つ。

 

『フルフルマッチデース!』

 

さらに出久が変身したビルドジーニアスフォームもフルボトルバスターを持って参上だ。

フルボトルバスターの一撃は敵が召喚した龍達を打ち砕く。

 

「俺達もいるぜ!」

 

更に切島とプライムローグに変身した轟もこの場に駆け付ける。

恐らくV9が放った他のライダー達は倒されたんだろうな。

 

『ようし、切島、飯田、蛙水は倒れてる奴らを頼むぜ。』

 

「おう!」

 

つってもここは切島達には厳しい戦いになりかねない。

飯田もまだ動けるなら3人には救助をしてもらった方がありがたい。

 

『さて、この6人でやればアイツは倒せるだろうな…』

 

「いいや…俺達だけじゃ無いみたいだな。」

 

そう言って轟が空を指差すと光に包まれた一人の戦士が宙を飛び、こちらに向かってくる。

その戦士がV9の背後に拳から放たれるエネルギーをぶつけて攻撃していく。

 

「アイツも…仮面ライダーなのか?」

 

敵の周囲を飛び回り、何度も敵にエネルギー弾を撃っていくその戦士の装甲は仮面ライダーとも言えるが、飛ぶ姿はスーパーマン?いや、アベンジャーズのキャプテン・マーベルに似ている。

 

『お前は誰だ?』

 

「僕は仮面ライダーマーベル、状況はよく分からないけど助太刀させてもらうよ。」

 

「そうか、助かるぜ。」

 

ビルド・ジーニアスフォーム、クローズマグマ、グリスパーフェクトキングダム、プライムローグ、マッドローグ、マーベル、そしてこの俺エボル・ブラックフォームの7人のライダーがV9の前に並び立つ。こいつ等さえいれば…まだ倒せるチャンスはある。

 

『さあ、クライマックスだ!』

 

「ああ、お前ら行くぞ!」

 

俺達7人はV9に向けて雪崩れ込んでく。

 

To be continued




牙竜達の活躍はこちらから見れます!
是非ご覧下さい

https://syosetu.org/novel/265675/


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劇場版 クローズ&エボルのヒーローアカデミア ピースサイン4

(3人称視点)

クローズとエボルを中心とした雄英高校のライダー達と宇宙のヒーローキャプテンマーベルの力を模した仮面ライダーマーベル・ザ・スペース・キャプテンの7人の仮面ライダーが一斉にV9に攻撃を仕掛けていく。

 

『『ファンキーショット!』』

 

エボルとマッドローグのネビュラスチームガンが同時に火を噴いて、コブラとコウモリの姿を模したエネルギー弾がV9の背から生える使い魔の龍達とぶつかり合う。

龍達がやられてしまってもまた生えてきて襲い掛かって来るが、エボルがマッドローグと共に一体ずつしっかりネビュラスチームガンライフルモードで撃って撃退していく。

 

(奴らの内数名の個性が分からない…何故だ…)

 

ビルドらを指からの光線や生成した金属で攻撃してけん制しているV9だったが、彼も考え無しで戦っているわけではない。V9の個性のうち一つは個性サーチであり、戦っている相手の個性が何かを把握することが出来る。

だがしかし、現在対峙している7人の内3人の個性が何かを察知することが出来ない。

 

「シールドが硬い!」

 

元々牙竜が無個性で現在エボルトと共生している状態故にエボルトと牙竜は個性が無いという判定になってしまう。さらに現在彼に対してフォトンブラストを数発ほど放っている仮面ライダーマーベルこと北条颯馬も個性のない世界の住民であり、無個性の人間と何ら変わりはない。そもそも彼ら含めた7人は現在仮面ライダーに変身しているという事情を考慮すれば個性サーチだけでは彼らへの対策を立てることは難しい。

 

「どれだけ撃とうと無駄だ。」

 

一先ずV9は自分に対して撃たれた攻撃を反射することにし、マーベルに反射したフォトンブラストが襲い掛かる。

 

「成る程、ブラックパンサーみたいな感じか…」

 

彼は自身の身体をバイナリーパワーで覆うことで攻撃を防ぎ切る。

 

「どれだけ攻撃しても反射される…」

 

「だったら限界まで攻め続けるだけだ!」

 

「ああ、反射された分は俺が守り切るから撃ちまくれ!」

 

今度はグリスとビルドが攻めに転じる。ビルドはワンフォーオールによる身体能力強化、グリスは掌からの爆破による推進力で加速しながらV9の周囲を駆け回る。

 

「デトロイトスマッシュ!」

 

「ハウザーインパクト!」

 

そして右からはビルドのパンチが、左からは回転を加えたグリスによる爆破が放たれるがそれも反射の壁で防がれる。

 

「オラァ!」

 

田が反射しようとしたその矢先、今度は正面からクローズがマグマを纏った拳で殴り掛かってくる。

それもV9の反射の壁で防ぐが攻勢はまだ終わらない。

 

『パイレーツ!クリエーション!』

 

マッドローグがエボルトから拝借したライダーエボルボトルと海賊フルボトルをドライバーに挿入し、レバーを回すとカイゾクハッシャ―が生成され、そのビルドアロー号をマッドローグが引っぱり、エネルギーをチャージしていく。

 

『各駅電車、急行電車、快速電車、海賊電車!』

 

最大チャージされたカイゾクハッシャ―の一撃が斜め上から放たれ、V9は4方向からの攻撃に耐えている状態になる。

 

『マーベルさんよ、良い一撃を叩きこんでくれ。』

 

「了解。」

 

そしてエボルトの指示でバイナリーパワーを全身に纏ったマーベルが宙へ飛び上がり、V9に向けて一気に降下していく。

頭上からの攻撃に遂にV9の身体を守っていたバリアは限界を迎えて崩壊する。

反射を発動することなくバリアが崩れるが咄嗟に衝撃波を放って彼らを退かせる。

 

『この距離なら反射はできないな。』

 

だが牙竜達が身を引くのと入れ替わるようにエボルがV9に急接近し、ブラックホールの力を纏った拳をV9の腹部に打ち込む。

 

「クッ…!」

 

後退するV9にさらにパンチを打つがそれは再び形成されたバリアに阻まれる。

 

「おっと…」

 

反射の個性が復活し、エボルの一撃が反射されて放たれるが、間に入ったプライムローグがプライムセイバーマントでその攻撃を防ぎ切る。

エボルトのパンチの威力すらも防ぎ切るほどの防御機能。それもプライムローグならではの能力だ。

 

「何回も反射が復活するなら、一気に攻めかかるしかねえな…」

 

一先ず体制を立て直すためにV9とその周囲を一気に凍らせてローグはエボルと共に後退。

 

『なあ轟…どう攻めるべきだ?』

 

「分かんねえけど…バリア砕いて確実に一発入れれんのは分かった…」

 

「けどすぐに復活しやがるな…」

 

反射を砕いたところでまたすぐに復活する。攻め続けるエボル達の体力の方が先に限界を迎えてしまう恐れがある。

 

「けどこの状態も、長くは続かない筈…」

 

V9の体力の底がどうなっているのかは一切分かっていないが、そうそう簡単に限界を超え続けることなど不可能。出久の言う通りV9がこの状態で長期戦を戦い抜けれる保証はない。数で優位なエボル達の方が勝ち目はある。

 

「問題はどう消耗させるかだな…」

 

「そう言う事なら話は早いぜ。爆豪」

 

「なんだ?」

 

「天気操る個性も使ってくるんだが、見たところアレが一番消費がデカそうだ…」

 

V9の持つ個性のうち一つ、天候操作。何度か牙竜達の前で使ってきたが、その後の消耗が激しい個性でもある。そもそもこの個性はナイン自身が持っていた個性でもあるが使用すれば体の細胞が死滅していくというデメリットがあった。そのデメリットを克服するために彼はショッカーの改造手術を受けたという経緯があった。

 

『だったらその個性を使わせればいいってことか。』

 

「だったら僕に任せて。」

 

「僕も協力するよ。」

 

威力は高いが、自身の身体すらも傷つけてしまうのでV9もそれを警戒してか中々使ってこない。

ならば使う状況に追い込ませるだけだということでビルド・ジーニアスとマーベルが名乗りを上げる。

 

『ソーサラーマジック!』

 

ドクターストレンジら魔法を扱うヒーロー達の力を秘めたソーサラーマジックディスクをベルトに入れて、両脇のスイッチを押すと魔方陣が生成される。その魔方陣をくぐると魔法使いのローブとマントを模した装甲を纏う仮面ライダーマーベル・ソーサラーマジックへと姿を変える。

 

『マジックアベンジャー!アッセンブル!』

 

ビルドは忍者ボトルの力で、マーベルは魔法によってそれぞれ分身し、V9の周囲を取り囲む。

 

「いくよ!」

 

魔法で生成した真空刃とハリネズミボトルの力で作り出された針が様々な方向からV9に放たれる。

 

「A・P・ショット!」

 

更に爆豪と轟も周囲から自身の個性を使って攻撃する。

 

『来るぜ…しっかり準備しろ。』

 

「ええ、問題ありませんわ!」

 

その間に八百万が創造の個性であるものを生成する。

 

「来るぞ!」

 

空がまた曇り始めると、V9が天候操作を行っていることが分かる。

彼の周囲をビルドとマーベルの分身が取り囲んだことで視界が遮られてしまったことで彼らを一掃するためにV9は天候操作を使うことにした。

竜巻を発生させて一気に分身たちを蹴散らし、さらに他のライダー達も一掃しようと空に生成された雷雲からエボル達に向けて雷を落とす。

 

『今だ!』

 

だがここでクローズは八百万が生成しておいた避雷針を地面に突き立てる。

雷は避雷針の上に落ちて電気が地面に逃げていく。

 

「完璧なオペレーションですわ!」

 

避雷針を立てられれば雷が効くこともない。そこでV9は竜巻と背中から生成した龍を使って避雷針を倒そうと攻撃を仕掛けるが。

 

「穿天氷壁!」

 

轟の氷とマーベルが魔術で作り出した壁がそれを阻む。

 

「いくぜ百!」

 

「はい!牙竜さん!」

 

そしてクローズマグマがマグマの推進力でV9に一気に接近しパンチを放っていく。

マッドローグも周りを飛びながらネビュラスチームガンのライフルモードでV9を撃っていく。

反射した攻撃もエボルやビルドらが撃ち落としていく。

使い魔の龍と竜巻で周囲のライダー達に攻撃を仕掛けるがマーベル、グリス、プライムローグがそれらを防いでいく。

使い魔の龍達もグリスに次々と打ち取られていく。

 

「いくぜ!」

 

「はい!」

 

そしてクローズマグマの放った拳とマッドローグの持つネビュラスチームガンによる銃撃で遂にV9のバリアが限界を迎えて破られる。

 

『Ready Go!』

 

『ボルケニックアタック!』

 

轟が個性でV9の足元を凍り付かせてしまうと8体のマグマライズドラゴンを足に収束させたクローズマグマのライダーキックが放たれる。

 

『また反射がくるぜ…』

 

吹き飛ばされたV9が宙を舞い、再び着地するとまたバリアを張る。

 

「だが体力は結構キツそうだな…」

 

しかしこの戦闘でバリアを二度破られ、天候操作を使い、そしてクローズマグマのライダーキックを受けた影響か体の限界を迎えて膝を突いてしまっている。

 

『決めるならここだ。』

 

「ああ、行くぜエボルト!」

 

『マッチョォ!』

 

『フィーバー!』

 

『『マッスルギャラクシー!』』

 

クローズが自身のビルドドライバーにマッスルギャラクシーフルボトルを装填してレバーを回す。

 

『ブルァ!』

 

『チャオ!』

 

『Are you Ready?』

 

『変身!』

 

エボルが粒子化してクローズの身体に纏わり付く。

 

『銀河無敵の筋肉ヤロー!クローズエボル!』

 

『パネーイ!マジパネーイ!!』

 

そしてその肉体はクローズとエボルブラックフォームが合体したような姿の戦士に変化する。

 

「テメエら!一気にいくぜ!」

 

仮面ライダークローズエボルに変身した牙竜がV9の背中から生える龍をブラックホールに飲み込んでいく。

 

「俺らはバリア破るぞ!」

 

牙竜達が必殺技を決めやすいようにするため、爆豪達は3度目のバリア破壊に挑む。

 

『ブルー!イエロー!レッド!ゴールド!Ready Go!』

 

「爆速ターボ!」

 

赤・青・黄の3色のオーラを纏ったグリスは個性で掌から爆破を放ってその推進力で加速し、V9に急接近。

 

『パーフェクトキングダムフィニッシュ!』

 

「ハウザーインパクト!!」

 

ドリルのように回転しながらオーラを纏った右腕で右側面からV9に殴り掛かると共にV9を爆破

 

「俺達も!」

 

『Ready Go!』

 

『プライムスクラップブレイク!』

 

個性で足に炎と氷を纏わせたプライムローグは左側面からV9に噛みつく様に挟み蹴る。

2人の攻撃は反射のバリアに阻まれ、さらに生成した金属片と使い魔による攻撃が彼らに放たれようとしたが。

 

「防御は任せて!」

 

マーベルがいくつもの魔方陣を生成して飛ばすと彼らの傘代わりになり、2人の身を守る。

 

「援護ありがとうございます!」

 

『ワンサイド!逆サイド!オールサイド!』

 

その間に出久はレバーを回しながら敵の背後に回ると

 

『ジーニアスフィニッシュ!』

 

「セントルイススマッシュ!!」

 

個性であるワンフォーオールの力を上乗せし、背後から全フルボトルの力を纏った必殺キックを放つ。

それを察知した使い魔の龍達が出久に向かって突撃して妨害をしようとするが、ビルドの足に打ち砕かれていき、彼のライダーキックはV9の背中に達する。

 

「百!ここでぶちかましてやれ!」

 

クローズエボルがある一本のボトルをマッドローグに託す。

 

「分かりましたわ!」

 

八百万が変身するマッドローグがエボルドライバーのレバーを回してV9に向けて駆ける。

 

『Ready Go!』

 

『エボルテックアタック!』

 

マッドローグが背中のマッドフライヤーを展開してV9に突撃し、その状態で紫色のエネルギーを纏って正面からV9にドロップキックを放つ。

V9は前後左右の4方向からの必殺技に何とかバリアを使って耐えているが…

 

『グレート!ファンキーショット!』

 

マッドローグはドロップキックの体制のままネビュラスチームガン・ライフルモードに牙竜から受け取ったグレートドラゴンエボルボトルを挿入と金色のエネルギー弾をネビュラスチームガンからV9に向けて放つ。

 

『今だ!』

 

『クローズサイド!エボルサイド!』

 

『ダブルサイド!』

 

その一撃によってバリアが破れ、4人のライダーの攻撃が一気にV9の身体を襲う。

 

『マッスルギャラクシーフィニッシュ!』

 

そして再び攻撃を反射される前に一気にクローズエボルが攻勢に出る。

V9に向けて走り飛び上がるとクローズとエボルの2人のライダーのオーラを纏ったライダーキックを放つ。

 

「まだッ…負ける気はないッ…!」

 

ここまでの戦闘でV9もかなり身体に負担がかかっており、ダメージも大きい。

だがその状態でも勝つために残りの全エネルギーを自身の右腕に纏わせ、クローズエボルに向けて突き出す。クローズエボルのライダーキックとV9の右腕がぶつかり合い、V9の方の身体が徐々に後退していく。

 

「喰らいやがれ!」

 

徐々に押していくクローズエボル。

それに対してV9も個性の衝撃波を放つがクローズエボルはもう退かない。

 

「『オラアアアァァァァ!!』」

 

最早V9には他の個性を使う力が残されていなかった。

クローズエボルのライダーキックが遂に押し切り、敵の腕を吹き飛ばすとそのまま胸部を捉えて蹴り飛ばす。

 

「決まったな…」

 

蹴り飛ばされたV9の身体は火花を散らしながら飛ばされていき、海に落下する。

彼の身体が爆発したことを表すように大きな水柱が海面から立ち、水飛沫がクローズエボル達にも降りかかる。

 

(エボルト視点)

海を覗き込んだところ既に金属片が浮かび上がっていて、まあ奴を倒せたことがある程度察せれる。

耳郎からは既に首謀者を捕まえたって連絡もあったし、まあ他のライダーも倒せたっぽいし他の連中と島民の安否確認が出来りゃ一件落着だな。

 

『一先ず、お疲れさん。』

 

つーことで一旦変身を解除して皆の方を見る。

 

『ほう、アンタも結構若いんだな。』

 

そこでふと目に入ったのはマーベルの変身者だ。

戦い慣れてる感じはしたが結構若そうなイケメンだ。

 

「ん?まあ一応18歳です。けどなんか…みんな僕より若そうだけど…」

 

「まあな、俺らは16だからな。」

 

「16歳!?結構若いんだね…」

 

確かにコイツは高校卒業して大学生になったぐらいの年齢だが牙竜達はまだ高校一年生。そんな年齢で仮面ライダーやってるなんざそりゃ驚くだろうな…

あれ?けどヒーロー候補生なら当たり前か。

 

「ん…?どうやら僕は戻らないといけないみたいだね…」

 

そう思っていた時、マーベルの変身者の身体から光の粒子が出始める。

 

「アンタ、もう帰っちまうのか。」

 

「そうみたいだね」

 

「最後に…アンタの名前を教えてくれないか?折角一緒に戦ったんだ。覚えておきたい。」

 

牙竜の言葉にマーベルの変身者がゴクリと頷くと二ッと口角を上げて応える。

 

「僕は北条颯馬、仮面ライダーマーベルだよ。また会えるといいね…」

 

そう言うと颯馬は光の粒子となって消えていく。

恐らく自分の居場所に戻ったんだろうな。

 

「仮面ライダーマーベル…僕たちの知らない新しい仮面ライダー…」

 

「強いお方でしたわね。」

 

今回勝てたのはマーベルのサポートもあってこそだ。

アベンジャーズのメンバーとかの力を使う、中々に強いライダーだった。

 

「俺達も負けてらんねえな…」

 

「当たり前だ!こうなりゃ今から特訓だ!」

 

まあ、アイツに対抗心燃やすのはいいが爆豪よ、俺達には他にやるべきこともある。

 

『その前に街の復興だ。』

 

「ええ、色々とやることは残っていますからね。」

 

街の復興や事件の後処理、さらにはこの件に関する報告を相澤先生にしたりとまあやることは多い。

けどちょうど八百万がドローンを使って出した救援信号を拾ってかやって来た自衛隊のヘリがこちらに近付いてきたのが分かった。

 

「さて、ヒーローの仕事はまだ残ってるぜ。テメエら行くぞ!」

 

そう言って牙竜が島民たちのいる方向に向けて走り出し、俺達もそれに付いて行く。

さてと、これからも牙竜と一緒にまた駆け抜けていくか…

 

(牙竜視点)

救援が到着して間もなく堀内さんは公安に連行された。

 

「しっかり償ってまた戻って来るよ。牙竜君達もありがとう。君たちのお陰でしっかり過去と向き合うことが出来そうだ…」

 

そう言い残して去っていった。

まあ、ショッカーやらアークに関する謎もこれから解き明かされていくんだろうな。

 

「牙竜君!そろそろ時間だよ!」

 

「おう!今行くぜ!」

 

一方の俺達は事件後すぐにプログラムの中止を宣告されたんだが、そうそう簡単に去る気はなかった。

元々の予定通りの日までしっかり島に残って復興活動を手伝った。

そんで今日はプログラムの最終日…つまりは帰らなきゃいけねえ日だ。

 

『いい島だったな。』

 

「ああ、いつか観光に来たいぜ。」

 

名残惜しいけど船に乗り込んで港を眺める。

季節は冬だって云うのにリゾート気分を味わえる常夏の島だった。

普通に海水浴を楽しんでみたかったが…まあ高校の卒業旅行かなんかで行ってみるか。

 

「そろそろ出るみたいですわね。」

 

「だな、見送りは誰も来てねえのか…」

 

『復興が大変だから仕方ないな。』

 

島民は今も復興作業に追われてるから態々俺らの送迎に呼びつけるのは申し訳ねえってことで俺達は誰にも伝えずに島を出ることになった。

 

「ありがとよ…那歩島…」

 

船のデッキで百や出久達と港から離れていく様子を眺めることにし、もたれかかっていると…

 

「おーい!お兄ちゃーん!」

 

と思っていたら港の方から声が聞こえた。

 

「助けてくれてありがとー!!」

 

「また遊びに来てねー!」

 

港に居たのは島乃姉弟だった。

弟の活真には傷も治してもらって色々と世話になったな。

 

「こっちこそありがとなー!また来るぜ!!」

 

俺達を呼ぶ声に全力で応えるように両手を大きく振って別れを告げる。

 

「またなー!」

 

こうして俺達のヒーロー活動推奨プロジェクトは幕を閉じた。

まあ大波乱のプロジェクトだったが、戦い以外でも地域の人達とのつながりやら学ぶことは多かった。

俺はまた、ナンバーワンヒーローに一歩近付けた。まだまだ俺の戦いは始まったばかりだ!

俺は戦い続ける、皆の笑顔を守るためにな!

 

The end




クローズ&エボルのヒーローアカデミア

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改めて仮面ライダーV9の設定
仮面ライダーV9
変身者 ナイン(川上 風雷)
ショッカー及びアークが遺した最終兵器
彼らの秘密の研究室にて被験者であるナインこと川上風雷が改造人間となった姿。
自分の元々の個性に加えて幾つかの個性因子を搭載した改造人間で仮面ライダーであり、合計9つの個性を操る。
しかし、元々の個性が持っていた細胞崩壊のデメリットは克服したが、燃費は非常に悪い。
戦い続ければ体に負荷がかかり、クールタイムが必要になる。

使用個性一覧
1,気象操作
周囲の天候を操り、雨や雷、竜巻を発生させる。
ただし、個性を行使する毎に自身の細胞が死滅していくという極めて重いデメリットを抱えているが、改造手術によって克服した。

2,衝撃波
衝撃波を放つ

3,爪銃
爪を弾丸のように発射する。

4,使い魔召喚
使い魔(2匹の青い龍)を使役する。
バーストモード時には使い魔の数が増える。

5,リフレクト
あらゆるものを反射する。
オールフォーワン曰くある組織の指導者から奪った。

6,金属操作
周囲の金属を意のままに操ることが可能。自身の防具なども作り出すなど汎用性も高い。
オールフォーワン曰くとあるヴィランチームのリーダーから奪った。
バーストモードになると金属を生成する。

7,個性サーチ
相手の個性が何かを把握する。

8,ヴィラン召喚
アークが用意したヴィランライダーを召喚する。
(古代オーズ、ザイア、ファルシオン(アメイジングセイレーン))

9,バーストモード
自身のリミッターを外すことで個性とスペックを1000%引き出す。
戦い方が本能的になり、野獣の様に敵を攻める。



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滅&チェイサーの章
HOROBI&CHASER Another chronicle


今回は時空雄護さんの作品を投稿させていただきます。
時空さんからメッセージが届いております。

初めまして、時空 雄護といいます。こうしたコラボ小説は初めて書きますので、拙い文章ですが、どうぞ読んでいってください!あと、現在ありふれの二次創作も執筆していますので、そちらも読んでいただけるとありがたいです。



とある世界において…人間達が暮らしているその陰で、「悪魔」が「天使」を殲滅せんと、熾烈な戦争をしかけていた。

 

だがそこに、悪魔と天使両方が知らない謎の戦士が二人現れる。そう、彼らは─────

 

 

 

 

 

~Noside~

 

???「………ここは、どこだ?」

 

雑草すら生えていない、何もない野原…《名もなき野原》で、一人の男が目を覚まし、立ち上がる。

 

彼の服装は、東洋で着られる「和服」をベースに素材を近代化したものである。しかし、若干揉み上げの金髪の掛かった左耳には通信機のような耳飾りがあり、注視すれば瞳もキリキリとカメラのように回転していた。それは人間というより、ロボットに近いものである。

 

???「俺は・・・いや、俺達は確か、マスブレインで滅亡迅雷に…」

 

彼…(ほろび)がログを遡り記憶を思い出すと、少し苦い顔をした。何やら、思惑通りに事が運ばなかった様子である。

 

滅「何故だ・・・何故俺だけが、こうして存在しているんだ……」

 

重々しく呟きつつ、まずは情報をと周囲を見渡す。周囲はそのまま、荒廃した土地。動くものは何も無く、強いて挙げるならば風に飛ばされる砂埃程度だろうか。

 

滅「…見回すだけでは、めぼしいモノは見当たらない。ネットワークには・・・繋がらないか。ならば、ここは足で集めるとしよう」

 

短く思考し、行動を選択。自身の状況を把握する為、滅は一歩を踏み出した。

 

 

 

 

 

~数分後~

 

 

 

 

 

滅「…何もない、か…」

 

一般的な人間であれば息を切らすような距離を歩いても、何一つ変化する事も無い野原。延々と続く代わり映えのしない景色に、少し辟易する滅。心なしか眉間に皺が寄り、顰めっ面になっている。人のそれに近い心を持った彼故の、単純な機械には有り得ない状態だった。

 

???「おい、止まれ」

 

滅「ッ!」

 

後方から声を掛けられ、振り向くと同時に腰に帯びた刀の鯉口を切る滅。其所には、一人の男が居た。真っ黒なウルフヘアに、紫のライダースジャケットを着たその男は、心情を悟らせない無表情を貫いたままホールドアップしてみせる。

 

???「待て、俺に敵対の意思は無い」

 

やはり感情的な抑揚に乏しい口調でそう言い、男は滅を見る。目の前で刀を抜き放とうとする滅が睨んでいるにも関わらず、心理的動揺が一切見られない。どれだけ荒事になれていようとも、一部の例外を除いて攻撃の意思と武器を向けられれば、多かれ少なかれ人は緊張し、動揺する筈である。しかし滅のバトルセンサーは、目の前の男の瞳孔反射や声紋、重心のズレまで観測した上で、それらの動揺がゼロであると分析した。

 

滅「(コイツ、明らかに不自然だ。人間と言うより寧ろ、シンギュラリティに達していないヒューマギアのような・・・)お前…何者だ」

 

そう滅が言うと、男は小首を傾げる仕草をする。

 

???「人に名を聞くならば、まず自分が名乗るべき・・・だと、()()()()習った」

 

滅(!・・・ほう、やはりか・・・)

 

自分は人間ではない・・・そのように聞こえる発言に、滅は驚きつつも納得する。やはり、自分の予測は外れてはいなかったのだと。

 

滅「…(ほろび)。ヒューマギアだ。ユニットが見当たらないが・・・お前もそうなのだろう?」

 

???「ヒューマギア?ロイミュードではないのか…ヒューマギアと言うのがどういう存在かは知らないが、俺はそのヒューマギアではない」

 

訂正を交えつつ手を下ろし、その男も自己紹介を始めた。滅は敵対の意思無しと判断し、刀を収める

 

チェイス「俺はチェイス。ロイミュードのナンバー000。所詮、プロトタイプと言うものだ」

 

機械的に自分の情報を説明した男・・・チェイスは、更に質問した。

 

チェイス「ここは何処だ?」

 

滅「それは分からない。俺も先程、ここで目覚めたばかりだ。強いて情報を上げるならば、草の一本すら生えていない異常な荒れ地、と言った所か」

 

チェイス「そうか……」

 

お互いの状況を把握し、思考する二人。

 

滅(ここが何処かわからない以上、この男と無益に敵対するのは下策中の下策。敵対の意思も見られない。ここは協力するべきだな)

 

チェイス(話を聞く限り、この男も俺と同じと言う事か。ならば・・・)

 

滅「チェイス、と言ったか。このままでは、お互いに不確定要素が多過ぎるだろう。どうだ?協力しないか?」

 

チェイス「奇遇だな。同じ事を考えていた」

 

お互いが同じ考えをしていたからか、すんなりと協定関係を結ぶ二人。お互いに人間からラーニングしたデータを見返し、友好のジェスチャーとして握手を交わす。

 

滅「ではまず、ロイミュードについて教えてくれると助かる。ヒューマギアとの違いを確認したい」

 

チェイス「わかった。まずロイミュードとは─────」

 

 

 

 

 

~説明中~

 

 

 

 

 

チェイス「─────というものだ。個体によって差が大きく、人間の心身をコピーして強い自我を形成する」

 

滅「ふむ、成る程…機械の肉体を持ち、感情の獲得・・・シンギュラリティによって進化するのは同じか。ヒューマギアとの違いは、感情そのものが自身のスペックに直結し得ると言う部分だな」

 

チェイス「そうだ。特に習得した感情を極限まで高め、更なる進化を経たロイミュードは、超進化態と呼ばれるものになる。総じて金色に染まっていて、能力やコア・ドライビアの出力が桁違いに高い。苦い思い出が多いがな…」

 

感情の出力が乏しいチェイスの顔に、初めてそれらしい表情が浮かぶ。ナンバー001、フリーズロイミュードの事を思い出しているのだろう。

 

滅「………!待て、何か聞こえないか?」

 

チェイス「………聞こえるな。かなり遠いが、これは・・・戦闘音だ」

 

二人はそう言い、戦闘音のする方向へ走りだそうとする。

 

チェイス「ライドチェイサーがあればよかったが……」

 

そう言いつつ、無い物強請りしても仕方ないとかぶりを振るチェイス。致し方無く、その足で音の方向へと走り出した。

 

 

 

 

 

~冥界 平民街~

 

滅「ここは……街のようだな」

 

二人がたどり着いたのは、小さな街。しかし、彼らがいた世界の街より少し文明レベルが低く感じる街であった。

 

チェイス「あれは……人間、ではないな……」

 

彼らの目には、人間と変わらない見た目に、鳥のような翼が背中についている男の姿が映る。それはまるで、キリスト教圏において信仰される“天使”のような姿。それを見たチェイスは、かつての仲間の一人の進化体の面影を重ねる。

 

滅「あれは…天使、というものか?人間のネットワークにあった画像と酷似している。人型をしていると言う事は、最下級の天使か大天使、権天使辺りか?」

 

その天使は、慌てて街から出ようとしている。

 

チェイス「接触すべきか」

 

滅「あぁ」

 

二人は天使の元へ走り、声をかける。

 

チェイス「何があった?」

 

天使「なっ!?に、人間!?何でここに!?」

 

声をかけられた天使は二人に戸惑いながらも話を聞こうとする。

 

チェイス「落ち着け。この街で何が起きている?」

 

天使「だ、だめだ!人間が干渉してはいけない!済まないが、教えられない!」

 

滅「俺達は人間ではない。俗に言うロボットだ。人間では無いならば、問題は無いだろう」

 

天使「ロボット?それにしては感情が…と、とにかく!奴らに関わってはいけない!」

 

慌てたように忠告する天使。その様子は、心から滅とチェイスの身を案じているように見える。

 

チェイス「奴ら?やはり何か起きているのだな……」

 

チェイスが天使の話から情報が得られると感じ、更に聞こうとした瞬間。

 

──ダゴォォォンッ!!──

 

街の中心らしき場所から赤黒い光が溢れ、爆発音が響いた。大気越しに人工皮膚を震わす文字通りの爆音に、二人は顔を見合わせ、以心伝心に頷き合う。

 

チェイス「行くぞ」

 

天使「ま、待ちたまえ!」

 

天使の制止を聞かず、二人は街の中心部へと駆け出した。己の中にある、確かな心に従って。

 

 

 

 

 

 

 

~平民街 中心部~

 

二人がたどり着いた時、そこは戦場となっていた。

 

先程会った天使とは違い、戦い慣れているであろう天使が数名、肩で息をしながら立っている。

 

その傍には、推測で高校生程であろう羽が生えていない少女……暫定、人間が居た。

 

それに対峙するように、彼らの反対側には、蝙蝠のような翼を背中に生やし、隆々とした筋肉を誇るように風に晒す異形の存在…「悪魔」が、天使の倍の頭数を用意して浮遊していた。

 

悪魔リーダー「そろそろ限界のようだなぁ、天使共ォ?」

 

天使リーダー「不覚・・・ここまでか…っ!」

 

リーダー格と思しき天使は、煤けてボロボロになった身体で少女を庇う。絵面を見るに、どうやら先程の爆発は悪魔が起こしたようだ。

 

守護すべき存在たる人間の存在を認識した二人は、その少女を庇うように前に立つ。

 

天使リーダー「人間……?いや違う、何者だ…!?」

 

少女「……ロボット?」

 

少女は二人の持つ雰囲気に違和感があったのか、一瞬で見抜いた。

 

悪魔リーダー「おォいおい、まだ隠してたのかよ。往生際が悪いぜェ?天使さんよォ?」

 

滅「何の話かはわからないが…状況は把握した。加勢しよう」

 

チェイス「早く人間を連れて逃げろ」

 

そう言い、お互いの専用アイテムを取り出す二人。変身するつもりだろう。

 

天使リーダー「待ってくれ…その役割は、我々が…!」

 

息を整えたのか、しっかりと立ち滅たちの前に立とうとする天使の軍勢。

 

天使リーダー「その少女を連れて、東に進め…悪魔を通通さないゲートがある。それを使えば、その子と共に現界に降りられる…!悪魔たちは私たちが抑える…!」

 

悪魔リーダー「ハッハハハハ!聞いたかお前ら!この天使サマ、こんなボロ雑巾みてぇな体たらくで、俺らを食い止めるおつもりだとよ!バカか!そのガキを護る、なぁんて大見得切っといて、そんな無様晒してんなら訳ねぇぜ!」

 

悪魔のリーダーが嘲り、配下らしき悪魔の群れもゲラゲラと嗤う。しかしその言い分も間違っておらず、天使達は先程の爆発で到底無視出来ないダメージを負い、そんな体を無理やり立たせているようだ。

 

少女「お願い……このままじゃこの人たちが死んじゃう……!助けてあげてよ!」

 

少女がチェイスたちに助けを求める。どうやら天使と悪魔、両方にとって彼女は重要な存在のようだ。

 

チェイス「……悪魔だったか。貴様らはなぜ彼女を狙う?」

 

悪魔リーダー「ハッハハァ!横入り野郎に教える義理はねぇが、今俺は機嫌が良い!特別に教えてやるよ!そこのガキは、俺達悪魔が現界で繁栄するのに必要な鍵なんだよ!」

 

その後の悪魔のリーダーの話を要約すればこうなる。

 

 

 

・少女の体内には、本来現界では精神体まで弱体化してしまう悪魔が存在を確立する為の媒体、“デモンアピアー”を起動するエネルギーを精製するコアが埋め込まれている。

 

・そのコアは少女の体内でしか動かず、彼女を確保さえすれば悪魔が現界で存在することが可能で、人類を滅ぼして繁栄出来る。その為、人間に憑依して少女を探していた。

 

・それを阻止しようと、天使が彼女を冥界で保護。それに激怒した悪魔たちが天使を根絶やしにせんと動き、各地で戦闘が発生している。

 

・彼らはその少女を確保するための精鋭部隊。

 

 

 

 

 

悪魔リーダー「だからてめぇら、そこどけよ。それかそこの天使どもぶっ殺してそこのガキを寄越せば仲間にしてやグァっ!?」

 

悪魔が言い切る前に、その体に三発の弾丸が当たる。

 

チェイス「…つまりお前たちは、繁栄の邪魔になる人間を殺すつもりだと?」

 

チェイスがその手に持ったナックルダスター型の銃、ブレイクガンナーで悪魔を撃ったのだろう。銃口から煙が出ている。

 

悪魔リーダー「撃ってきた上に質問かよ……そうだぜ?それの何が悪いんだよ!」

 

そう悪魔が言い放つ。少女はすでに涙目となっている。

 

チェイス「俺の使命は、人間を守る事……ならば俺は貴様らを倒し、天使の味方をしよう」

 

悪魔リーダー「……そうかよ!んじゃ死ねや!」

 

リーダーが魔力の弾を放ち、それに追従するように他の悪魔たちも魔力の弾を放つ。

 

しかし悉くがブレイクガンナーによる射撃で撃ち落とされる。2,3発程の撃ち漏らしが少女の元へ飛びそうになるが・・・

 

滅「ハッ!」

 

滅が腰に携えていた刀を抜き放ち、居合い一閃と斬り返しでそれらを切り落とす。

 

悪魔リーダー「チッ、おい野郎ども!出てこい!」

 

悪魔リーダーが声を上げると、その声と共に、周囲から悪魔たちが現れる。その数はおよそ50.

 

天使リーダー「バカな……多すぎる……!」

 

天使がそう口にし、天使たちと少女が絶望しかけるが……

 

チェイス「滅、あの悪魔は俺が受け持つ」

 

滅「……いいだろう。ならば、露払いは任せろ」

 

それに待ったをかけるように、二人がそれぞれのベルト……《マッハドライバー炎》と《滅亡迅雷フォースライザー》を装着。

 

そして懐からそれぞれのアイテム……《シグナルチェイサー》と《スティングスコーピオンプログライズキー《》を取り出す。

 

悪魔リーダー「……?んだそれ」

 

滅がキーを持った右手を横に広げ、プログライズキー上部のボタン、ライズスターターを押した。

 

 

 

【POIZON】

 

 

 

少女「……ポイズン?毒、だっけ……?」

 

 

 

滅がキーを起動する横で、チェイスはマッハドライバーのスロットを開き、手に持っている《シグナルチェイサー》を装填。上からブレイクガンナーで叩き込むようにパネルを閉じる。

 

 

 

【シグナルバイク!ライダー!】

 

 

 

バイクのエンジン音が響き渡り、悪魔たちが警戒する。

 

そして、二人は息があったように《あの言葉》を放った。

 

二人「「変身!」」

 

チェイスは左腕を縦に、その前に横にした右腕を十字になるように重ねた後、両腕を円を描くように大きく開き、左腕を左腰に置き、右腕を右手が左胸の前に来るように動かし、そこから右側に伸ばす。

 

滅はプログライズキーをフォースライザーの上部右側、ライズバイスに装填し、すぐにトリガーを引いてキーコネクタをエクスパンドジャッキで強制展開する。

 

 

 

【Forse Rize……StingScorpion!】 【チェイサー!】

 

 

 

フォースライザーからサソリの形をした機械、スコーピオンライダモデルが出現。そのライダモデルが尾の毒針を滅に突き刺す。すると滅の体が紫色の素体に代わり、ライダモデルが裏返るように滅を背中から滅を包んだ。そしてライダモデルが装甲の形となり、拘束帯が伸縮して張り付く。

 

その横でチェイスには小さなタイヤが二つ周囲を回り、装甲が形成され体に装着。そして背中にタイヤ型の装置、ホイーラーダイナミクスが固定される。

 

 

 

【Break Down……!】

 

 

 

悪魔リーダー「なんだよ、それ……」

 

天使リーダー「姿を変えた……?」

 

悪魔たちと天使たちが呆然する中、少女が何かを言う。

 

少女「…仮面、ライダー…?」

 

そう。彼らの名は“仮面ライダー滅”と、“仮面ライダーチェイサー”。

 

彼ら自身が生きていた世界からこの世界に漂着し、初めてその姿を見せた瞬間である。

 

滅「……」【アローライズ!】

 

滅がアタッシュケースが変形し弓になった武器、【アタッシュアロー】を構える。

 

チェイサー「任せた」

 

滅「いいだろう」

 

滅がアローのグリップ部分、ドローエクステンダーを引き、エネルギーをチャージ。それを妨害しようと悪魔達が魔弾を放とうとするが

 

チェイサー「させん!」

 

天使リーダー「彼の援護を!」

 

チェイサーの弾幕、天使たちの魔弾によって阻止された。

 

滅「ハッ!」

 

チャージしきったのか、上空に向かってエネルギーの矢を放つ。上空に飛んだ矢は途中で分裂し、周囲の悪魔達に向かって雨のように降り注いだ。無論悪魔達も食らわないと防御の為のバリアドームを張るが…

 

悪魔リーダー「グハッ!?この矢、貫通してきやがる!」

 

滅の矢はそれを、まるで障子紙のごとく貫く。悪魔達は基本的に防御行動をせず、その屈強な肉体で攻撃を防いで戦う脳筋戦法が主力。一部例外があるとはいえ、防御用の技能は最低限。展開したドームも魔力が少なく薄いのだ。

 

そこに、元々高い貫通性能を持つ矢が分裂し、何十も降ってくるのだ。防げる道理のある筈も無い。

 

故に滅によるアローの初撃で、殆どの悪魔が再起不能になった。

 

悪魔リーダー「くそったれ、なんてやろ…!?」

 

チェイサー「はぁ!」

 

隙ができた悪魔リーダーに接近し近接戦をしかけるチェイサー。無論リーダーも対応するが・・・

 

チェイサー「甘い!」

 

悪魔リーダー「ガヘァ!?」

 

脳筋な大振りのパンチなど、歴戦の死神たるチェイサーには掠りもしない。逆にカウンターパンチを的確に叩き込み、何度も怯ませる余裕がある。

 

悪魔リーダー「この俺様が、この【グレイズ】様が打ち負けるだと…!?」

 

チェイサー「ハァ!」

 

自分が負けていることに納得していないのか、興奮したグレイズは連打を繰り出す。しかしそれすら致命的に大振りで、チェイサーにとっては隙だらけの良い的だ。

 

軽々と去なし凌いで距離を詰めて、ブレイクガンナーの銃口をグレイズの腹に押し当てる。グレイズが焦るも、チェイサーは躊躇無くトリガーを引いた。

 

グレイズ「アグォ!?」

 

情けない声を上げて数歩後ろに下がり、膝をつくグレイズ。どうやら限界のようだ。

 

グレイス「ま、まだだ……俺にはこれがある!」

 

グレイズが魔法陣から何かを取り出す。それは斧状の武器……なんと《シンゴウアックス》。仮面ライダーチェイサーの為に、人間の仲間が開発してくれた専用武器だった。

 

チェイサー「何?それは…」

 

グレイズ「この街に来た時に見つけてなぁ。見た目からしててめぇのその姿と似てるが、こうなりゃこれで…!?」

 

シンゴウアックスを振り下ろそうとするグレイズだが、突如シンゴウアックスが動かなくなる。

 

チェイサー「……!」

 

それに気づいたチェイサーが左手を前に掲げる。するとその目が光り、シンゴウアックスがグレイズからチェイサーへ渡った。

 

グレイズ「んなっ!?」

 

チェイサー「これがあるのなら、ライドチェイサーもこの世界に……」

 

シンゴウアックスがあることから、自分のバイクがある可能性を考えるチェイサー。

 

しかしすぐに思考を切り替える。グレイズを倒すために、シンゴウアックスのシグナルライディングパネルにマッハドライバーから取り出したシグナルチェイサーを装填し、シンゴウプッシュボタンを押して地面に突き立てた。

 

 

 

【ヒッサツ!マッテローヨ!】

 

 

 

グレイズ「はぁ……?」

 

滅「信号だと?」

 

少女「えぇ……?」

 

誰もがシンゴウアックスの機能に困惑する中、チェイサーは静かに赤信号が青信号になるのを待つ。

 

 

 

【イッテイーヨ!】

 

 

 

その音声と共に青信号となり、チェイサーはシンゴウアックスを地面から抜き、構える。シンゴウアックスの特殊合金で出来た斧刃部分、《ブレイクエッジ》に紫色のエネルギーが収束し始めた。

 

グレイズ「んなもんで俺を殺せるかぁ!」

 

巫山戯た仕様に舐められていると感じたのか、一直線に接近してくるグレイズ。そして…

 

 

 

【フルスロットル!】

 

 

 

チェイサー「ハァァァ!」

 

左斜め、そして横一文字に斧を薙ぎ払う、【アクロスブレイカー】を放つ。

 

グレイズ「ウガァァァァアッ!?」

 

受けた威力に叩き飛ばされ後ろの壁へ激突し、グレイズは爆散。

 

あまりの威力に余波がチェイサーたちにも飛んでくるが、チェイサーと滅は気にもせず、少女は天使たちの障壁によって守られる。

 

そして爆発の影響が消え、煙が消え始めると、消滅しかけているグレイズが見える。

 

グレイズ「ぁーくそ、結局負けるのかよ……」

 

そう言うと、少女を見るグレイズ。

 

グレイズ「忠告だガキ。てめぇに襲い掛かる運命は、まだまだ序の口・・・始まったばかりだ……よく、覚えて、お…け…」

 

その言葉を最期に、グレイズの肉体は消滅する。

 

滅「終わったようだな」

 

チェイサー「あぁ」

 

そう言い、お互いに変身解除する。

 

 

 

【オツカーレ!】

 

 

 

変身を解除した二人が、その場から離れようとする。しかしそこに少女が話しかける。

 

少女「あ、あの!……仮面ライダー、なんですよね……?」

 

チェイス「そうだ」

 

少女の問いかけに対して即答するチェイス。

 

チェイス「俺はチェイス、仮面ライダーチェイサー。人間を守る使命を持つ戦士だ」

 

少女「……夢で見た通りだ」

 

滅「夢?どういう事だ?」

 

少女の発言に疑問をもった滅が詰め寄り、怪訝そうな表情で問い掛ける。

 

少女「ここに来る前に、夢を見て……その中で、黄色いバッタの人と、赤い車の人に会って……」

 

二人「ッ!!」

 

二人のかつての仲間の特徴が挙げられ、驚く二人。

 

少女「なんだか、二人とも悲しい感じでお二方の特徴を言ってて…それで、今のチェイスさんと同じような台詞を・・・」

 

チェイス「そうか……進ノ介が……」

 

チェイスが感慨深い雰囲気になっている横で、複雑な表情をしている滅。

 

滅「飛電或人が…俺の事を……」

 

少女「……あ、そうだ。早く、ここから移動しませんか?天使さん、ここはもう危険なんですよね?」

 

天使リーダー「えぇ、こうして精鋭の悪魔達を倒したとはいえ、あなたのことは知られています。いつ来てもおかしくありません」

 

天使のリーダーがそう言うと、ふと思い出したかのようにチェイスと滅に自己紹介をする。

 

ラミル「申し遅れました。私は【ラミル】といいます。」

 

ラミルはそう言うと、三人に提案する。

 

ラミル「先ほども言ったように、いつ悪魔達が襲来してもおかしくない状況です。その為、あなた方を現界まで護衛します。先ほどは情けない所をお見せしてしまいましたが、今度は我々が守ります」

 

そう言い、天使たちは背中の翼を広げ、空に浮かぶ。そしてラミルが少女に手を伸ばし、少女はその手を掴んだ。手を掴んだ少女をそのまま宙に引き上げ、さも当然のように横抱きに抱える。

 

少女「え、えぇ!?」

 

天使「それではチェイス様と……そちらのお方、我々の手を」

 

チェイス「待て、少しいいか?」

 

仲間の天使がチェイス達に手を伸ばした時に、チェイスが止める。

 

天使「どうされましたか?」

 

チェイス「この街で、バイクを見なかったか?黒にパープルのファイアパターンが入った、髑髏の意匠のあるバイクだ」

 

チェイスはシンゴウアックスがあったことから、自分のバイクである【ライドチェイサー】があるのではと考えいた。故に、天使にそう質問すると

 

ラミル「そういえば……街のはずれの小さな家にありましたね。あんなデザインのものはそうそうありませんし・・・恐らくですが、あなたのバイクでしょう」

 

そう言うと、ラミルが手をかざし、魔法陣を出現させる。すると、そこから【ライドチェイサー】が出現した。

 

チェイス「……礼を言う」

 

ラミル「いえ、それを言うなら此方です。助けてくれたお礼……それでも足りない程です」

 

ラミルがそう言っている横で、ヘルメットを被りライドチェイサーのキーを回すチェイス。

 

エンジンがかかり、問題無く走行できると確認したチェイスは、ライドチェイサーに跨がって滅に予備のヘルメットを投げ渡す。

 

滅「これは・・・ヘルメットか」

 

チェイス「あぁ。人間のルールでは、バイクに乗る時はそれを被らなければいけないとの事だ。被ったら、後ろに乗れ」

 

滅が頷き、ヘルメットを被って後ろに乗る。

 

ラミル「では案内します」

 

 

 

 

 

 

 

~移動中~

 

 

 

 

 

 

 

~ゲート前~

 

チェイス「このゲートに入れば、この世界の日本に行けるのか」

 

ラミル「えぇ……しかし、まさかチェイス様たちが異世界からの来訪者だとは…」

 

道すがら、チェイスたちは自分たちのことを話していた。何せここがどこで、何が起きているのかすらまともに知らなかったのだから。

 

少女「ロイミュード…ヒューマギア…そして仮面ライダー……」

 

滅「かつて俺は人類の敵だったが、この世界に来る前には仲間になっていた。だが……」

 

滅が苦い表情をする。マスブレインシステムによって生まれた、仮面ライダー滅亡迅雷。滅亡迅雷が行った数々の戦闘、そして不破諌こと、仮面ライダーバルカンとの決着。

 

これらを滅は、この世界に来る前に、とある視点から見せられていた。

 

チェイス「それを忘れろとは言わん。だが、今は今出来る事をするべきだ。違うか?」

 

滅「………あぁ。そうだな。その通りだ」

 

そう頷き、ゲートに入ろうとする三人。

 

ラミン「このゲートの先で、我々天使に協力してくれている人間がいます。彼らに私の名前を言えば、話を聞いてくれるでしょう。おそらく、彼女の家族もそこに」

 

少女「ホントですか!?」

 

ラミルの発言に少女が喜びの声を上げる。

 

ラミル「我々は悪魔達の進行を止めに行きます。そちらの方は頼みます。チェイス様、滅様」

 

チェイス「了解した」

 

そして、三人はゲートに入り、「日本」へと降り立つ。少女にとっては故郷へ。滅とチェイスにとっては、未知の世界へ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

~日本 美東神社~

 

三人が下りた先は、どこかの神社の境内のようだ。チェイスたちが周囲を見渡すと看板があり、《美東神社 境内案内図》と書いてある。どうやら中々に大きい神社のようだ。

 

少女「人、いませんね……空を見る限り、早朝ぐらいの時間みたいですけど……」

 

チェイス「少し歩くぞ。入口まで行けば、誰かいるかもしれん」

 

チェイスが先頭で歩き、その後ろに少女、殿に滅といった順になって進む。

 

 

 

 

 

 

 

~移動中~

 

 

 

 

 

 

 

~美東神社 入口~

 

入口まで歩いた三人。すると、人の声が聞こえてくる。

 

チェイス「…!どうやらいるようだ。」

 

すると、チェイスの声が聞こえたのか、三人の元へ数名ほど大人が来る。

 

大人「君たちは、一体……?」

 

チェイス「お前たちが、ラミルの言っていた協力者か?」

 

大人達「!!!」

 

チェイスがいったラミルの名前に反応し、戸惑う大人達。

 

しかし、その中から巫女装束を纏った女性が出てくる。

 

巫女「もしや、あなた方は冥界から……?」

 

チェイス「あぁ。その身なり、人間たちのリーダーだな?」

 

そうチェイスが言うと、巫女は頷く。

 

巫女「はい。私は霊野(れいの) 歩美(あゆみ)と申します。ラミル様の名前を出したということは、冥界で何かあったのですね?」

 

チェイス「そうだ。だが詳しい話は後にして欲しい。まず彼女を、家族の元へ」

 

そう言い、チェイスは少女を自分の前に立たせる。

 

歩美「そうですね…では星ヶ矢(ほしがや) 望結(みゆ)さん、こちらに。あなたの家族は外にいます」

 

望結「!!!」

 

家族がいる事を知った望結は、一目散に駆け出した。それを追いかけるように歩美以外の大人たちが走って行く。

 

滅「お前は行かなくていいのか?」

 

歩美「えぇ。あなた方のことと、冥界で起きていたことを教えてほしいのです。立ち話もなんですから、こちらに」

 

 

 

 

 

~縁側~

 

歩美「……そうですか、冥界でそんなことが……」

 

冥界で起きていたことを知り、驚く歩美。

 

歩美「それに、望結さんの予知夢にいたという仮面ライダーが、あなた方だったとは…」

 

チェイス「厳密には、夢に出ていたのは俺達ではないがな」

 

歩美「それは分かっています。ですが……彼女を助けて頂き、ありがとうございました」

 

座っていた縁側から立ち、礼をする歩美。

 

歩美「改めて、説明を。この世界では、悪魔がこの現界に侵略せんと、彼女を含めたコアを持つ人間を探しています。その為に、悪意を持つ人間に憑依し、現界に現れていました。ラミル様も含めた天使の皆様は、その事を我々に教えて下さったのです。そうして悪魔の企みを阻止すべく、私をリーダーとした組織《ガーディアンギルド》を設立しました。しかし……」

 

歩美が悲しげな表情をし、話を続ける。

 

歩美「我々はあくまで彼女達、コアを持つ者を保護するのが目的。悪魔に対抗出来る力は、持っていなかったのです。その為、最終的には天使の皆様に彼女を託しましたが、結果は……悪魔の力は、天使のそれすら超えていたのです。ですが……そこにあなた方が現れました」

 

歩美が二人の足元で跪く。

 

歩美「あなた方が持つ《仮面ライダー》の力は、悪魔達を倒す事が出来る力。身勝手ではありますが、どうかお力を貸して頂けませんか……?」

 

歩美が顔を上げる。その顔は、二人に任せっきりになってしまうことを悔いている顔であった。

 

滅「……そもそも俺たちは、人間ではない。心はあれど、肉体は機械人形。俗にいうロボットだ。それに、俺たちは元いた世界で、人間でいう《死》を体験した」

 

チェイス「だが、俺の使命は《人間を守る事》だ。それは滅も同じだろう。悪魔達は人類を滅ぼすと言った。ならば……」

 

二人が縁側から立ちあがり、チェイスが歩美に手を差し出す。

 

 

 

 

 

二人「俺達は仮面ライダーとして、人類を守る為に戦おう」

 

 

 

 

 

歩美「……ありがとう、ございます……!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

そして、年月が経ち………

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

~長野県 茅野市~

 

とある日、茅野市で大規模な爆発事件が起きた。警察や消防が調査しても原因は分からず、市は混乱に陥る。他市、他県でも同じ原因不明の事件・事故が相次いで発生しており、国民は大混乱。その事件は、天然のコアを持つ人間を見つけんと、人工的に作られたコアのエネルギーによって現界に降りた複数の悪魔が起こしたものだ。

 

事件が起きた日の深夜。静まり返った街の中を、悪魔達が手分けしてコアを持つ人間を探していた。

 

悪魔「だぁーくそ、全然見つかんねぇじゃねーかよ。ホントにこんなんで見つかるのかよ…?」

 

そう愚痴を言いながら、照明が消えた家の窓等から家の中を見て、コアを持つ人間がいないかどうか探す悪魔。

 

そうして悪魔が周囲の警戒を怠った瞬間、悪魔の背中に痛みが走る。

 

悪魔「うげぁ!?」

 

背中の痛みでつんのめりそうになるが、根性で耐える悪魔。そして後ろを振り向き…

 

悪魔「………!?お、お前…!」

 

後ろに立っていた、紫色のライダージャケットを着た無表情の人間……チェイスを見た。

 

悪魔「な、なんでここにいる……!?お前は確かキョウトってとこにいるはずだろ!?」

 

悪魔がヒステリックに叫ぶ。

 

チェイス「確かに京都で調査をしていた……だが、この街でお前たち悪魔が行動している事を確認した。故に急行しただけだ」

 

悪魔「ふ、ふざけんな……!こんなとこで死んでたまるか!」

 

そう言い、その場から逃げようとする悪魔だが

 

滅「ハッ!」

 

悪魔「ゲハッ!?」

 

何時の間にか回り込んでいた滅に刀で斬られ、後ずさる。

 

悪魔「なんだよお前らは……一体なんなんだよぉ!」

 

そう叫びながら、自らの武器である金棒を魔法陣から出す悪魔。

 

チェイス「……どうやら、詳しくは知らないようだな」

 

滅「そうらしい、行くぞ。」

 

二人はそれぞれのベルトを装着し、懐からアイテムを取り出す。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「俺たちは仮面ライダー」「人類を守る、戦士だ!」「「変身ッ!」」

 




この作品の続きを書く予定は今のところないです。ただ、筆がノリに乗ってたら書くかもしれないです。


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レーキンの章
魔女と陰キャの錬金


こちらは新メンバーのボルメテウスさんの作品、仮面ライダーレーキンでございます。

作者のボルメテウスさんからメッセージを受け取っております。

クロスオーバー前提のオリジナルライダーとして、初参戦させて貰いました。よろしくお願いします


その日、俺はただフィギュアを買いに来ただけだった。

自宅からそう遠くないアニメ専門ショップにて、限定発売されていた仮面ライダーを買う為に訪れた。

「いやぁ、ようやく買う事ができたよ。

こういうのって、手に入れるのに、なかなか苦労するんだよなぁ」

そう言いながら、俺は手に持ったフュギュアを持ちながら、うきうきとしながら帰り道を歩いていた。

「あ~あ、早く帰って飾らないと……」

そう言った瞬間だった。

何やら、騒がしい事に気づいた。

見てみると、コスプレイヤーなのか、如何にも魔女を思わせる格好をした少女が、道端で男達に絡まれていた。

どうも、ナンパのようだ。

正直、俺には関係の無い話だと思ったのだが、少しだけ気になってしまった。

というのも、その魔女っ子の少女が可愛いからという訳ではない。

というよりも、そんな事で気にする程、俺には余裕がない。

ならば、なぜ、俺が気になっているのかと言うと。

「・・・」

「・・・なんか、むっちゃ、こっちを見ている」

なぜか、その魔女っ子のコスプレイヤーは、俺を見ている。

そして、なぜか、俺にむっちゃ手を振っている。

「あぁ、待っていたよ、えっと、彼氏!」

「んっ?」

俺は、周りを見る。

あんなコスプレイヤーの彼氏はいるのか?

そうして、俺は周りを見ていると共に、なぜか俺の手を握り締めている。

「んっ?」

「もぅ、買い物をしていたなんて、酷いじゃない」

「・・・誰?」

本気で分からなかった。

そもそも、この人誰だよ。

てか、なんで俺の手を握ってるんだ?

まさか、さっきまで見ていたアニメの影響とか?

でも、俺はこんな人知らない。

そうしていると

「よぉよぉ、彼氏がいるなんか聞いていないよぉ」

「そんな奴よりも、俺達と遊ぼうぜぇ」

そうして、ナンパしていたと思われる男達が俺を囲んでいた。

おいおい、マジかよ。

俺は心の中で思った。

どう見ても、これは面倒くさい展開だと。

すると、魔女っ子は俺の前に立ち

「私、これから彼とデートだから邪魔しないでくれるかな」

と言い出した。

そして、さらに驚くことに

「じゃあね」

と言って、俺の腕を掴み、そのまま走り始めたのだ。

そのスピードは、俺の想像よりも速く、俺は引きずられるように走っていく。

それにしても速い。

まるで新幹線のように速い。

このままではマズイと思い、俺は声を出す。

「ちょ、ちょっと待ってくれ!まだ話が終わってないぞ!!」

だがしかし、彼女は止まらず、そのまま何処かに行こうとする。

「ふぅ、ここまで来たら、なんとかなったか。

いやぁ、悪かったね」

「うぷっ」

そうして、彼女は話しかけたが、それよりも俺はまるで乗り物酔いしたかのように気分が悪くなっていた。

それも当然だ。先ほどまでの全力疾走に巻き込まれて、今にも吐きそうな状態なのだから。

「あぁ、いやぁ、悪かったね。

とりあえず、そこで座って、休んでおこう」

しかし、それを察してくれたのか魔女っ子は近くのベンチに座らせてくれた。

そうして、落ち着いたところで改めて魔女っ子の方を見た。

コスプレというには、かなりレベルが高い。

映画の衣装だと言える。

腰まで伸びる金髪に、多少の癖っ毛が見える。

身長もそれなりに高くモデル体型とも言えるだろう。顔に関しては美少女と呼べるものだ。

「んっ、どうしたんだいレン君?」

「いや、別になんでも。

んっ、なんで、俺の名前を知っているんだ!?」

俺が疑問を口にすると、魔女っ子は笑顔を浮かべながら答えた。

「ならば、話そう。

私の名は、ルカ。

君と契約する為に、異世界ルフランから来た天才魔女よ!」

そう、パチリとウインクをしながら自己紹介をした。

その仕草はとても可愛らしく、そして綺麗だった。

だからこそ

「やばい中二病に絡まれたか」

俺は、ついついそんな事を呟いていた。

「中二病?」

「いや、何も。

それで、そのルフランからの天才魔女が、俺に何の用なんだ?」

とりあえず、このまますぐには逃げられないだろ。

先程の身体能力から考えても、適当に話を聞いておこう。

「まず、この世界とは別の世界にあるルフラン。

そこには、こことは違う文明、魔法が発達した世界となっているの」

「へぇ、それで、そのルフランはなんでこの世界に?」

「それはね、契約する為だよ」

「契約?」

「えぇ、魔女と契約した人間は、契約獣と呼ばれる存在になるの」

「契約獣?」

「契約獣というのは、魔女の力を受け取った人間が変わった姿の事。

契約獣の力は普通の人間では倒す事はできず、私達の国でもかなり強い存在よ」

「そんな強い存在を、なんでこっちでわざわざ?」

すると、少しだけ悲しそうな表情を浮かべた後に口を開いた。

だが、次の瞬間には笑顔に戻り、また喋り出した。

「あちらの魔法の国は、結構硬い考えをする人間が多いんだよね。

それだと、契約獣となっても、強くなる可能性は低いの」

「契約獣って、強いと、何か得があるのか?」

「契約獣の強さは魔女の格を反映させるわ。

だからこそ、多くの魔女は強い契約獣を求めている訳なの」

「それじゃ、お前もなのか?」

そう聞くと

「まぁ、そういう所かな。

けど、まぁ、君に結構興味があるのは、本当かな」

そう言いながら、ルカは呟く。

「そうか、だけど、俺には興味はないので。

そういう事で!!」

俺はそれだけ、話を聞くと共に、そのまま立ち去ろうとした。

そう思った時だった。

まるで地震を思わすような揺れが起き始めたのだ。

そして目の前には、化け物を思わせる蜘蛛だった。

「・・・こいつは」

「あぁ、蜘蛛の契約獣だね。

たぶん、私の命を狙って来たのかなぁ」

そう、呑気に俺達は会話をする。

同時に蜘蛛の契約獣は、こちらを睨むと共に、凄い勢いで、迫ってきた。

それと同時に俺達は走り出した。

後ろを振り向くと同時に、糸を吐いて攻撃してくる。

それをどうにか避けて逃げ続けるが、蜘蛛の契約獣の攻撃の手は止まらない。

「このままではジリ貧だ」

そう思いながらも逃げる事しか出来ない。

「どうしよう。

さすがにこの状況では契約はできないよ」

「契約すれば、どうにかなるのか?」

「なるには、なるよ。

けど」

そう、少し迷った表情を見せるルカ。

「何かあるのか?」

「こんな状況で、契約しても、君は後悔するだけだから」

その言葉に思わず笑みを浮かべる。

「だけど、この状況をどうにかなるんだろ!

それに、このままじゃ、たぶん、他の人は巻き込まれる可能性の方が高いだろ!!」

そう言うと、ルカは一瞬驚いた顔を見せた後、笑顔を見せてきた。

「そうだね。

だからこそ、君には頼めるからね」

その言葉と共にルカが投げたのは、何か釜だった。

首を傾げる。

「これって、何?」

「私こと、錬金の魔女であるルカの象徴。

それを君のイメージを組み合わせる事で、契約する事ができる」

「だからって、鍋って」

そう、疑問に思いながら、俺が簡単に思い浮かんだのは、仮面ライダーだった。

同時に鍋は、まるで変身ベルトを思わせる形へと変わった。

『レンキンドライバー』

「あっ、変わった」

「えっ、何それ!?」

「なんか、イメージで」

俺はそのままレンキンドライバーを腰に巻く。

同時にレンキンドライバーにある蓋を開く。

『マーゼマゼマーゼ』

ルカから渡されたレンキンドライバーから、音が鳴り響く。

呑気に聞こえる音に疑問に思っていると、ルカは興味深そうに見る。

「へぇ、これが私と君の契約した証か。

結構、面白いねぇ」

「良いから、ここからどうするんだ」

「あぁ、ごめんごめん。

とりあえず、えっと、これとこれ!」

そう、ルカは近くにある石と俺が買っていたフィギュアを手に取る。

同時に二つの物は小さくなり、見た目はビー玉を思わせる何かに変化する。

「あぁ、俺のフィギュア!!」

「もぅ、後で戻せるから。

それよりも、ほら、この中に入れる」

『ツチ!フィギュア!マゼラレール!』

それと共にベルトの内部から大きく輝き出す。

「これって!」

「それじゃ、蓋を閉めて、変身!!」

「えっ変身!?」

ルカはそのまま明るい声を出すと共に、俺もまた勢い良く言ってしまう。

それと共に、レンキンドライバーには蓋のような物に閉じられる。

『レーキン!土で出来た頼れる奴!ゴーレム!コネクト!』

その音声と共に、レンキンドライバーからまるで飛び出るように出てきた光はそのまま俺の身体に包み込まれる。

包み込まれると共に、身体はまるで魔女の釜を思わせる鎧に。

頭には、蓋が兜をイメージさせ、僅かにひび割れており、そこから目を覗かせる。

そうして、変身している時に見えた鏡で、俺の全身を見る。

「えっ、これって、仮面ライダー?」

特徴はあまり違うが、それでも仮面ライダーを思わせる姿へと変身していた。

その事に俺は疑問に思っていると、ルカは頷く。

「仮面ライダー。

良いねぇ、君は今日から、仮面ライダーレーキンだ!」

「なんだか、タイムジャッカーみたいな言い方、止めてくれる」

「ほら、それよりも、後ろ後ろ」

「えっ?」

ルカの言葉を聞き、思わず振り向く。

そこには既に蜘蛛の契約獣が、その口から糸を俺に向けて飛ばしてくる。

「うわっ!」

慌てて避けようとするが、しかし間に合わない。

そのまま俺に向かって飛んでくる糸。

その糸は俺の腕を拘束し、動きを止める。

そしてそのまま引き寄せられていく。

「なんだよこれ、離せ!」

必死に抵抗するが、一向に離れる気配はない。

その間にも、ゆっくりとだが確実に近づいていく。

それと共に、俺に向かって、蜘蛛の脚が俺を突き刺そうとする。

「っ!!あれ?」

そう、突き刺そうとした俺は首を傾げる。

あまり痛みを感じない。

その装甲は、思っていたよりも遥かに硬く、簡単には貫けないようだ。

俺はそのまま勢い良く蹴り上げる。

すると、蜘蛛の契約獣はあっさりと蹴り飛ばす。

そのまま蜘蛛の契約獣の巨体は吹き飛ぶ。

地面を転がりながらも体勢を整えて立ち上がる。

どうやらダメージはほとんどないらしい。

それと共に蜘蛛の契約獣は近くの建物に向けて、蜘蛛の糸を放つ。

そのまま宙を舞いながら、そのまま俺に襲いかかってくる。

俺はそれを腕で防ぐが、やはり衝撃は少ない。

それどころか押し返せる程だ。

蜘蛛の契約獣はそのまま再び地面に落ちる。

だが、同時に蜘蛛の契約獣の口から無数の卵を産み落とす。

それと共にまるで泥を思わせる人影が現れる。

「うわっと、増えた!!」

「契約獣が分裂したようだね」

そう疑問に思っていると、分裂した契約獣は、俺に向かって襲い掛かる。

分裂した契約獣が俺に殴りかかる。

拳を掴んで、そのまま蹴り飛ばす。

蹴り飛ばすと共に、他の分裂した契約獣達が、俺の体に巻きつくように纏わりついてくる。

そしてそのまま締め付けるようにして、俺の動きを止める。

その間にまた別の分裂体が、今度は俺の腕を掴む。

そのまま関節を極めるようにして、動きを止めようとする。

だがそんなものは全く効かない。

俺はそのまま蹴り飛ばそうとするが、それは叶わない。

蹴り飛ばされた分裂体は、すぐに体勢を立て直す。

それと同時に腕を離し、後ろに下がる。

俺の攻撃をかわした後、一斉に攻撃を開始する。

分裂体達は全員で俺を取り囲み、殴る蹴るなどの攻撃を行う。

だが、全く効く様子がない。

それどころか、逆に俺の方から攻撃を繰り出す。

手刀や回し蹴りなどで反撃を行い、次々と分裂体を仕留めていく。

そして全ての分裂体を吹き飛ばしていく。

「凄い。

まさか、ここまでなんて」

それを見ていたルカは思わず呟く。

「さて、あとはって」

そう思っていると、俺は足下を見る。

そこには蜘蛛の契約獣によってできたと思われる蜘蛛の巣があった。

どうやら、先程の分裂した契約獣を囮にしていたようだ。

そして本体はその間に糸を出し、罠を張っていたのだ。

おそらくだが、この巣には粘着性があるだろう。

つまりは身動きが取れなくなる可能性があるということだ。

これは不味いな。

どうにかして脱出しなければ。

俺はなんとか抜け出そうとするが、上手くいかない。

すると、蜘蛛の契約獣がこちらに向かってくる。

このままでは攻撃されるな。

「待てよ、確か、この身体って」

そうしている間に、俺は地面を思いっき叩く。

同時に、俺の足下は巨大な柱となる。

それによって、周りに張られていた蜘蛛の巣は取り払い、同時に蜘蛛の契約獣はそのまま宙を舞う。

「それじゃ、決めるぜ!」

俺はそのまま自然の動作で、レンキンドライバーの蓋を再度閉めて、開く。

『レーキンフルオープン!ゴーレムストライク!』

その音声が鳴り響くと共に、俺の足下にある巨大な柱を右足と一体化させる。

同時に巨大な石の脚を形成する。

形成させた脚を、そのまま真っ直ぐと蜘蛛の契約獣に向かって、ライダーキックを繰り出す。

蜘蛛の契約獣はその一撃によって吹き飛ばされる。

そして、地面に叩きつけられていた。

「ふぅ、なんとか」

「それじゃ、さっそく」

その言葉と共にルカはそのまま懐から取り出したのは、ソザイタマだった。

何も入っていないソザイタマだが、それを真っ直ぐと蜘蛛の契約獣に投げる。

すると、蜘蛛の契約獣に、ソザイタマは吸い込まれる。

そして、先程の蜘蛛の契約獣がいた所には1人の人間が倒れていた。

「それは?」

「契約獣の力を奪ったの。

まぁ、これで、こいつは悪さはできないと思うよ」

「にしても、なんで襲ってきたんだ?」

突然の出来事だったので、俺は首を傾げる。

「契約獣は他の契約獣の力を奪ったり、人間の魂を喰らう事で強くなるの。

だから、この契約獣もおそらくはそういう目的だと思うの」

「そうなのか?」

「まぁ、私って、天才だからね。

それで、狙われたかもね」

「そういうもんか」

俺は呆れたように言うが

「・・・あれ、という事は、そんなルカと契約した俺は」

「まぁ、うん。

襲われるね」

ルカはそう言って笑う。

どうやら、俺とルカは命を狙われているらしい。

「・・・えぇ」

陰キャである俺は困惑しながら呟く。




仮面ライダーレーキン設定資料
仮面ライダーレーキン
レンキンドライバーを使い変身する仮面ライダー。
錬金の魔女であるルカの力を宿した事で、様々な物質を瞬時に錬金する事が可能になる。
レンキンドライバーにはソザイタマと呼ばれるアイテムがあり、特定の組み合わせを可能となる。
使い方は身体にソザイタマの力を宿した鎧を身に纏う『コネクト』とソザイタマの力でアイテムを作る『カキマゼール』の二通りが使える。
『コネクト』は、魔法生物を模した鎧を身に纏い、素材にした物の力を組み合わせ、引き上げる事ができる。
だが、下手な組み合わせでは弱くなる為、コネクトの選択を慎重になる必要がある。
『カキマゼール』はソザイタマを元に、様々なアイテムを作り出す事ができる。ただし作り出される物のどれもどういう訳かグロテスクな見た目をしているアイテムが多い。
その能力も相まって、レンは仮面ライダービルドをモデルにされている。


コネクト・ゴーレム
『土』+『人形』
レーキンの基本フォームとなる姿。
頑丈な土の鎧を身に纏う姿となっており、スピードを犠牲にして、高い攻撃力と防御力を持つ。さらには、土の鎧は変幻自在に変える事ができ、周りの土を吸収する事で、拳を巨大化したり、腕を伸ばし攻撃範囲を広げる事が可能でもある。
それらの動きが可能になっているのは、もう一つのソザイタマの力である人形が大きく関係しており、どのような姿勢でも崩さない事が可能になっている。
その事もあって、あらゆる状況に対応ができる姿である


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見えないと森と外道

先日、異世界から来た存在である魔女。

その魔女の1人であるルカと契約する事で、俺は仮面ライダーレーキンへと変身する能力を得た。

そして、今日、俺は何をしているのかと言うと。

「美味しい!!」

そう、目の前で俺の作っている料理を食べているルカの飯を作っている所だった。

「お前、元の世界には帰らないのか」

そう、俺はルカに尋ねる。するとルカは首を傾げる。

「いやぁ、私って、向こうの世界では、ほら、天才なのよね」

「天才って、自画自賛か?」

そう、ルカの言葉に対して、俺は少し呆れながらも言う。

「それでね、私が契約した事を知られるとね、周りの国や連中が黙っていないのよ。

まぁ、ようするに、今、向こうに行くと」

「行くと」

「殺されちゃう」

そう、ルカは笑顔で言う。だが、それは冗談ではなく本当の話だろう。

「だからこそ、しばらく安全の為にも、私は君の家で居候しなくてはいけないの」

「だとしてもなぁ」

そう言いながら、俺は目の前でルカが食べた食事の量を見つめる。

大食いキャラなのか、それともただ単に食べる事が好きなだけなのか、ルカはよく食べる。

そんな彼女の為に作った朝食としては多すぎる量を用意してしまったのだ。

だが、それでもまだ食べ足りないらしく、彼女はテーブルの上に並べられた皿を見て、口を開いた。

「じゃあ、もうちょっと頂戴」

その言葉を聞き、俺はため息をつく。

どうやら、食費は俺持ちになりそうだ。

それから数時間後、空になった食器を洗い終えた後に、ソファーに座っているルカに話しかける。

「それで、これからの事なんだが」

そう言って、俺はポケットの中から取り出した一枚の紙を取り出す。

「私達を先日倒した契約獣。

あいつは外道魔女と呼ばれる幹部の1人と契約したと思われるの」

「外道魔女?」

「魔女の中でもとびきりやばい奴らの事よ。

その中で幹部は鳥、猿、蜘蛛の3人よ」

「幹部クラスをいきなり倒したのか、俺は」

「まぁ、これも私の力のおかげだけどね」

そう、ルカは胸を張って自慢げに言う。

だが、その事にレンは特に何も言わず、話を戻す。

「それで、その外道魔女と、これから何が関係するんだ?」

「外道魔女は私達の所でも特に厄介なお尋ね者なの。

だから、これから私達はその外道魔女を倒して、国の英雄になる」

「英雄になるって、それはまた」

「そりゃ、英雄になれば、国民からの支持がある。

支持がある者を相手に、他の魔女達は手を出す事はできないでしょ」

「だから、英雄になるか」

保身の為に、ヒーローになるとは、随分と情けない考えだと俺は思った。

しかし、それでも

「既に奴らはこっちで暴れるんだろ」

「そうだね、外道魔女は、余計に手段は選ばないからね」

ルカの言葉を聞きながら、俺は腰にあるベルトに触れる。

そして、そこに存在する剣に触れて、ルカの方を見る。

「なら、俺がお前を守る」

「へぇー、守ってくれるんだ」

「まぁ、仮面ライダーと名乗った以上はな」

そう言って、俺はルカの手を握る。

同時に、ルカの顔が歪む。

「ルカ?」

「どうやら、もう出てきたようだね」

そう言いながら、ルカは窓の外を見る。

その窓の先には、この街から少し離れた森が見えた。

「レン、急いで行くよ」

「それは、分かっているけど、あそこまでは」

「ふふっ、そこは錬金の魔女に任せなさい」

そう言いながら、俺達はそのまま向かったのは、俺の自転車だった。

「自転車?」

「この自転車をソザイタマにして、先日の蜘蛛のソザイタマを組み合わせて!」

そう言い、ルカはそのまま俺の腰にある二つのレンキンドライバーにソザイタマを投げる。

『レンキンカンリョー!クモバイク』

「クモバイクの完成だよ!」

それと共に出てきたのは、蜘蛛の要素が合わさったバイクだった。

先程までは何の変哲もないバイクが、摩訶不思議な事に変形したのだ。

しかも、タイヤの代わりにあるのは大きな目玉だ。

その目はギョロギョロと動き回り、そして、レンの姿を映す。

その姿はまるで蜘蛛そのものの姿になっていた。

「ルカさん、これ、元に戻りますよね」

「もぅ、フィギュアの時は戻ったでしょ。

ほら、さっさと乗って!」

そう、俺をクモバイクの上に促す。

かなり気持ち悪いが、仕方ない。

俺はそのままクモバイクに乗り込み、そのままルカも乗り込む。

「それじゃ、発進!」

そう、ルカの言葉と共に、クモバイクは走り出した。

そのスピードはかなり早いもので、すぐに森へと辿り着く。

「それにしても、契約獣はどこに?」

「結構近いけど」

その疑問はすぐにも出た。

背後から感じた殺気と共に、俺はすぐにクモバイクを動き出した。

蜘蛛の動きができる事もあってか、周りの木々を潜り抜けながら、迫ってきた殺気から避ける事ができた。

同時に見えたのは不気味な猿を思わせる契約獣だった。

「こいつはさっき言っていた」

「猿の契約獣だね。

結構厄介そうだ」

その言葉を聞きながら、俺は懐から取り出した二つのソザイタマをそのままレンキンドライバーに入れる。

「変身」

『レーキン! 土で出来た頼れる奴! ゴーレム! コネクト!』

その音声と共に、俺は仮面ライダーへと変身する。

同時に、襲い掛かる猿の契約獣からの爪による一撃を、受け止める。

「ぐっ」

土で覆われた腕により、ダメージはそれ程なかった。

しかし、猿の契約獣はそのまま後ろに下がると共に、森の中へと隠れた。

「レン」

「あぁ、分かっている」

俺は同時にクモバイクに乗り、走り出す。

周りの木々に隠れている状態の猿の契約獣は、ヒットアンドウェイ戦法で、攻めてくる。

それに対して、俺はすぐに反応できるようにしているが、中々に攻めきれない状況が続く。

「うーん、やっぱり戦い慣れてるなぁ」

ルカの言葉通り、確かにこの猿の契約獣はかなり強い。

俺達の攻撃に対して、的確に回避し、攻撃を当てに来る。

そして、こちらの隙を見つけては攻撃を仕掛けて来るのだ。

「どうすれば」

「ふふっ、だったら、組み合わせを変えてみるか」

「どういう意味なんだ?」

「こういう事」

そう言い、ルカが取り出したのは、また違った二つのソザイタマだった。

それをそのままレンキンドライバーに入れる。

『スモーク!ウィンド!マゼラレール!』

その音声と共に、猿の契約獣の一撃は、空を切る。

「キィ!?」

それに驚きを隠せない間にも、俺の身体はそのまま宙を舞う。

『レーキン!擦り抜け不気味な奴!ゴースト!』

その音声と共に、俺は、まさにゴーストを思わせる姿になっていた。

「確かに、これだったら、攻撃は通らないけど!」

それと共に、俺は猿の契約獣に向けて、殴る。

だが、その拳は通り抜けてしまう。

「これじゃ、攻撃もできないっ」

俺自身が煙になっているので、まるで攻撃ができない。

これでは、戦う事はできない。

「大丈夫だよ、その姿だったら、ひゃぁ!」

そう言っている間にも猿の契約獣はそのままルカに襲い掛かる。

このままでは、危険なのは、間違いない。

だけど、どうすれば。

「だとしても、この姿でどうすれば」

そう思っていると、俺は自分の身体をよく見る。

同時にとある事に気づく。

「もしかしたら」

その言葉と共に、俺はそのまま猿の契約獣に向かって行く。

猿の契約獣はこちらの存在が分かっているようだが、脅威ではないと感じた様子で、無視した。

だが

「風が操れるならば、こうする事もできるだろ!」

そう言い、俺はそのまま猿の契約獣の前に通る。

同時に俺の身体が運んだ砂で、猿の契約獣は目が潰れる。

「風は物を浮かす事ができる。

そして、煙は姿を隠す事ができる。

つまり!」

同時に俺は猿の契約獣の周りを囲む。

それに対して、猿の契約獣は混乱している様子だった。

そんな猿の契約獣に向けて、俺は風で運んできた石や木の枝で攻撃を仕掛ける。

普通ならば、それ程のダメージはないだろ。

だが、突風で勢い良く激突する物のダメージは僅かだが、確かに猿の契約獣に与える。

そして、その数が数え切れない程ならば。

「ウギィ!」

すぐに逃げだそうとしたが、煙によって、視界を塞がれ、どこから攻撃が来るか分からない状況。

猿の契約獣は恐怖を感じながらも必死に逃げようとする。

しかし、風の能力により、動きを止める事ができず、ただ無駄な足掻きをするだけだった。

やがて、動けなくなった猿の契約獣に向ける。

「これで、決めるぜ!!」

『『レーキンフルオープン! ゴーストストライク!』

大量の石の弾丸と木の実などが襲い掛かる。

それが何度も続き、猿の契約獣は地面に倒れ込む。

そして、変身を解くと同時に猿の契約獣に近づき、ソザイタマを近づく。

同時にソザイタマに猿の契約獣の力は吸い込まれていく。

「これで、残りは一体か」

「そうだね。

けどね」

「んっ」

同時にルカは少し悩んでいる様子が見られる。

「どうしたんだ?」

「少しね。

外道魔女以外にも、厄介な奴が来るのか、どうか。

少し心配になってね」

「厄介な奴?」

「とりあえず、今は、帰ろうか」

そう、ルカは空元気を見せる。

だが、そんな彼女の様子を見て、不安になる。




コネクト・ゴースト
『風』+『煙』
レーキンの二つ目のフォーム。
身体は煙のようになっており、風の力で空中を飛ぶ事が可能になっている。何よりもほとんどの物理攻撃を無効である。ただし、こちらからの攻撃は不可能になっている。
しかし、風の力を使い、周りの物を浮かせて、相手に攻撃する事ができる。さらには煙で視界を隠す事も可能となっている。
戦うには、かなりトリッキーな動きが必要である。

クモバイク
『蜘蛛』+『自転車』
蜘蛛のように、様々な場所を変幻自在に移動できる以外にも、糸を吐き出す事で宙の移動も可能になっている。
ただし、見た目はかなり不気味な為、使い所が限られている


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衝撃!逃走魚!

以前の戦いから既に1週間が過ぎていた。

 

 その間、俺は改めて、自身が使っているレンキンドライバーの事に関して、調べていた。

 

 レンキンドライバーは、様々な物が納められているソザイタマ。

 

 そのソザイタマをレンキンドライバーに装填する事で、新たな姿に変わったり、道具を作り出す事ができる。

 

 姿に関しては、これまで変身した姿でゴーレム、ゴーストのようにファンタジー作品に出てくるモンスターを模したフォームになっている。

 

 その条件に関しては、未だに不明であり、法則としては、ビルドのベストマッチのようにある意味無茶苦茶である。

 

 そして、その組み合わせが上手くなかったら、変身できない。

 

 道具に関しては、今でも謎が多い。

 

 蜘蛛とバイクの組み合わせなど、ある意味、変幻自在と言っても過言ではない程だ。

 

 ただ、俺自身、その能力にはある程度ではあるが慣れてきてしまっているのも事実であった。

 

 そう考えれば、あまりにも変幻自在すぎる存在だと言わざるを得ないだろう。

 

「……ん?」

 

 そんな事を考えていると

 

「へぇ、こっちの世界はこうやって映像で物語が見れるんだぁ。

 

 なかなかに面白いねぇ」

 

 そう言いながら、目の前にはルカが山程にレンタルしているDVDで、見ていた。

 

 この1週間、ルカはまさに映画漬けのような生活を送っていた。

 

「それで、何か掴めるのか?」

 

「ふふっ、君のレンキンドライバーは常識では考えられないような組み合わせが必要だ。

 

 そういう意味では、映画は大変参考になるからね」

 

 そう言いながら、現在、嵌まっているサメ映画の数々。確かに、俺自身も参考になりそうな所はあるなと思った。

 

 しかし、ルカが言っている事は半分正解だが、もう半分は間違っていると思う。

 

 何故なら、俺の場合は、相性が良くなければ使えないのではなく、そもそも相性なんて関係なく使えるからだ。

 

 それはつまり、他の奴らもそうである可能性だってあるという事を意味している。

 

「はぁ、とりあえず、晩飯の買い出しに行ってくるわ」

 

 俺はそのまま、今日の晩飯の買い出しに向かった。

 

 こうして、共同生活を始めて、かなり慣れた。

 

 その日は、俺は買い出しに向かった。

 

「それにしても、魔女達の目的は一体」

 

 こうして、生活には慣れきっているが、分からない事が多すぎる。

 

 現状、俺は残念ながらルカ以外の魔女とは出会った事がない。

 

 その魔女と契約したと契約獣とは多く戦ってきたが、未だに魔女自身とは会っていない。

 

 だからこそ、彼女達が、ルカ以外の魔女が何を思って、行動しているのか。

 

 正直知りたい所だった。

 

 そう考えていると、商店街の向かい側から、何かが見える。

 

 見つめた先には先程までルカが見ていた鮫映画を思わせる鮫の背鰭が見えた。

 

 水のない、こんな所で。

 

「いやいや、待て待てっって!」

 

 俺はそう言いながら、すぐに走り出した。

 

 同時にそれは俺を追いかけてきた。

 

 そうして、追われて、明らかに目的が俺を狙っている事が分かった。

 

 走りながら、逃げた先。

 

 その裏路地に誘われるように、俺は鮫の契約獣が地面からすぐにその姿を見せる。

 

「ぐっ、変身!!」

 

 同時に俺はすぐにレンキンドライバーを取りだし、ソザイタマを入れる。

 

『レーキン! 土で出来た頼れる奴! ゴーレム! コネクト!』

 

 瞬時に、レーキンへと変身する事ができたが、瞬間、近くにある壁から鮫の契約獣が襲い掛かる。

 

 その巨大な口を大きく開き、襲い掛かる。

 

 鋭い牙が幾つも生えており、まるでナイフのようだった。

 

 俺はなんとか身体を反らす事で、その攻撃を避ける事はできた。

 

 だが、僅かに当たった装甲は火花を散らす。

 

 同時に土の装甲に僅かだが傷ができていた。

 

「これは何度も喰らう事はできないないなっ!」

 

 言葉と同時に構えた先には既に壁の中へと鮫の契約獣は消えていた。

 

 路地裏という地上のはずなのに、まるで鮫が獲物を狙うように。

 

 映画を思わせる光景に周りを警戒する。

 

 何時、どこから襲われるか分からない状況。ただ一つ言えることは、俺自身が狙われているということだ。

 

 ただでさえ狭い通路の中で、何処から現れるのかわからない以上、迂闊には動けない。

 

 ただ待つことしかできない状況。

 

 その矢先の事だった。

 

 再び、殺気を感じる。

 

 見ると地面から鮫の背鰭が見えており、今まさに噛みつこうとしていた瞬間であった。俺

 

 はすぐさま転がることで回避するが、今度はこちらから攻撃を仕掛ける事ができずにいた。隙を見せればまた別の場所に移動する事が分かっているからだ。

 

 そしてそれはあちらも同じだと言うことが分かっていた。だからこそ、お互いがお互いに出方を伺っている。

 

「だけど、どうする」

 

 こちらからは、敵の姿を見つける事はできない。

 

 対して、鮫の契約獣は、まさに何時でも襲える体制である。下手な動きを見せれば即座に襲いかかってくるだろう。ならば、このまま待ちの一手で行くべきか? 

 

 そんな考えがよぎったときだった。

 

「水中戦には水中戦で挑むしかないか」

 

 同時に、俺はこの状況を打開できる物を探す為に覚悟を決める。

 

 材料となる物は、この近くにあるスーパーか商店街にある。

 

 道中で、誰にも襲われないように、素早く手に入れる事。

 

 それが、今、行うべき事だ。

 

 同時に俺がまず行ったのは手を伸ばす事だった。

 

 路地裏の屋上まで、土の手が大きく伸びる。

 

 伸びた手はそのまま屋上を掴むと同時に一気に飛ぶ。

 

 バンジージャンプのように、大きく跳び上がる。

 

 同時に宙へと浮かぶ事で、奴がどこから襲い掛かるのか分かりながら、目的地であるスーパーか商店街を空から探す。

 

 そして見つけた。

 

「材料はあそこかっ」

 

 同時に俺はそのまま再び手を大きく伸ばす。

 

 それに合わせるように、屋上から鮫の契約獣が俺に向かって、襲い掛かる。

 

 しかし、それよりも早く、俺は自分で出した勢いと共に飛ぶ。

 

 向かった先は、目的地である商店街。

 

 そこには魚屋だった。

 

「へい、らっしゃいって、なんだあんたはぁ!」

 

「おっちゃん、悪いけど、これで魚一匹」

 

 何が起きているのか、分からない魚屋には悪いが、俺はすぐに財布から500円玉を取りだし、近くにあった魚を手にする。

 

 同時に魚をソザイタマに変え、そのままもう一つのソザイタマをレンキンドライバーに装填する。

 

『フィッシュ! ウォーターシューター! マゼラレール』

 

「よっと!」

 

 そのまま、俺はすぐにレンキンドライバーを操作する。

 

 同時に

 

『レーキン! 水源のスナイパー! マーマン!』

 

 音声が鳴り響くと同時に、先程までがゴーレムをイメージする姿ならば、今はまさに魚を思わせる姿へと変わる。

 

 その姿は、近くの鏡を見る限りだと、水色に魚をイメージさせた鎧。

 

 両腕には腕部の固定式の水鉄砲が装着されている。

 

「さてっと」

 

 同時に俺はすぐ近くまで迫っているだろう鮫の契約獣に対して、構える。

 

 この姿になった事の影響か、空気中の水分の僅かな変化にも気付くようになったようだ。

 

 はっとして振り返ると、そこには予想通りと言うべきか、ヤツの姿があった。

 

 目の前までに迫っている鮫の契約獣に向けて、両腕にある水鉄砲を構える。

 

 放たれた水の弾丸は、貫くまではいかないが、僅かにダメージがあった様子が見られる。

 

 そのまま俺は連続で放っていき、そのまま吹き飛ばす。

 

「牽制にはなんとかできるけど、これじゃ、戦闘にはならないなっと」

 

 その言葉と共に、俺は懐から別のソザイタマを取りだし、そのままレンキンドライバーに装填する。

 

『ムカデ! チェンソー! カキマゼール! レンキンカンリョー! ムカデチェンソー!』

 

 その音声と共に、俺の手にはムカデのような脚を模した百の刃が特徴的なチェンソー型武器だ。

 

 片手で持てる程度の大きさだが、不気味な見た目と相まって禍々しい雰囲気を放っているマシンだ。

 

 こんなものが街中を走り回っていたら大騒ぎになるだろうなぁと考えつつ、そのまま構える。

 

 先程とは違い、この姿のおかげで鮫の契約獣の居場所は分かる。

 

 あとは、どれだけ被害を出さずに戦う事だけだった。

 

 そう考えていたが。

 

「きゃあぁぁ! 化け物だぁ!」

 

「なんだぁ、あいつは!!」

 

 それよりも早く、俺の姿を見て、逃げる人。

 

 その事に俺は思わず吹き出す。

 

「まぁ、良いけど」

 

 そうしながら、ムカデチェンソーを構える。

 

 襲い掛かる鮫の契約獣に備えるように、俺はゆっくりと呼吸すると共に構える。

 

 周りから、鮫の契約獣が襲い掛かるかどうか分からない状況の中、ムカデチェンソーにあるカバーを上部までスライドする。

 

 それによって、巨大化する刃。

 

 同時に、襲い掛かってくる鮫の契約獣に対して、俺はそのままムカデチェンソーを薙ぎ払う。

 

 それと共に巨大なムカデを思わせる幻影が、鮫の契約獣を真っ二つに切り裂く。

 

 それによって、鮫の契約獣に向けて、ソザイタマを投げ、そのまま人間に戻す。

 

「ふぅ、なんとかなったか」

 

 そう落ち着く。

 

 だが、同時に襲い掛かる衝撃。

 

 俺はそのまま吹き飛ばされながら、見えたのは、別の契約獣だった。

 

「ぐっ」

 

 戦いの疲れからの油断だった。

 

 だが、俺はすぐにそのまま体勢を整えながら、襲ってきた奴を見つめる。

 

 その容姿を見れば、何の魔女と契約したのか一目で分かる。

 

「ドラゴンって」

 

 身体は紫色。

 

 仮面はまるで龍を思わせるデザインとなっており、その手には先程、俺を攻撃したと思われる武器があった。

 

 ドラゴンを模した杖であり、軽く回していた。

 

「お前か、最近暴れている仮面ライダー擬きの錬金獣は」

 

「そういうお前こそ、まるでスーパー戦隊みたいじゃないか」

 

 そうして、俺はそのまま立ち上がる。

 

「そうか、だが、街を巻き込んだ戦いを起こした以上、容赦はしない」

 

 その言葉と共に、俺に向けて、その武器を構える。

 

「えっ、いや、それは確かにそうなんだけど」

 

 確かに魚のソザイタマを手に入れる為に向かったので、まさにその通りだ。

 

 だが、すぐに俺は止めようとしたが、それよりも早く、奴はこちらに接近する。

 

「ぐっ」

 

 すぐにムカデチェンソーを前に、その攻撃を受け止めようとした。

 

 軽い反響音が聞こえるが、別方向から奴の蹴りが襲い掛かる。

 

「ぐっ」

 

 そのまま地面に叩き込まれる前に、俺はすぐに二つのソザイタマをレンキンドライバーに入れる。

 

『クモバイク』

 

 鳴り響く音声と共に、俺は召喚したクモバイクに乗る。

 

 同時にクモバイクから伸びる糸で、そのまま走る。

 

「待てっ」

 

 同時に、奴はその手に持った杖を変形させる。

 

 まるでヌンチャクを思わせるそれを、近くの壁に向けて放つ。

 

 放たれたヌンチャクの先は、まるでドラゴンを思わせる口があった。

 

 壁を噛み付いたヌンチャクを持ったまま、真っ直ぐと俺に向かって行く。

 

 クモバイクと同様に変幻自在に動いている。

 

「だけど、チャンスはあるようだな」

 

 見る限り、奴の武器は、あの謎の棒だけ。

 

 俺はそのまま新たなソザイタマを、レンキンドライバーに装填する。

 

『カボチャ! 杖! カキマゼール! レンキンカンリョー! ジャックオケイン!』

 

 同時に鳴り響くと共に、俺の手にはカボチャを模した杖が出てきた。

 

 そのまま俺は近くのマンホールを開け、そのままジャックオケインから火炎弾を放つ。

 

 放たれた事で、水蒸気の煙が周囲の視界を覆う。

 

「なっ」

 

 同時に煙をはらう。

 

「奴はどこにっ! 

 

 くっ」

 

 それと共に、奴はすぐに走り出した。

 

「ふぅ」

 

 俺はそのまま下水道からすっと顔を出す。

 

 奴は、このクモバイクの大きさで、惑わされた様子で、まさか下水道に逃げられたとは思っていないようだ。

 

「にしても、今日は酷い目にあった」

 

 そうしながら、俺は疲れた身体を引き釣りながら、軽い買い物をしながら、家に帰る。

 

「お帰り! 

 

 あれ、凄い怪我だね!」

 

「酷い目にあった」

 

 そうしながら、俺はなんとか家に帰る。

 

「鮫の契約獣と戦って、なんとか勝てたけど、その後、たぶん。

 

 龍の契約獣だと思われる奴に襲われた」

 

「龍? 

 

 龍って、もしかして」

 

 そうしていると、聞こえる音。

 

 同時に、無造作に入って来たのは、一組の男女だった。

 

「あなた達は」

 

「久し振りね、ルカ」

 

 そう、片方の女性はルカに挨拶する。

 

 もう片方はまるでヤンキーを思わせる格好をした男性だ。

 

 どうやら、女性の方はルカと知り合いのようだが。

 

「あなたがルカの契約獣、いえ、この場合は仮面ライダーね。

 

 私は龍の魔女、マリカ。

 

 それでこっちは相棒のバン君よ」

 

「君付けは止めろ。

 

 というか、てめぇ、さっきはよくも逃げたなぁ」

 

「あっさっきの」

 

 そう言いながら、俺は後ろに目を逸らす。

 

 同時に、向こうは殺気が強い。

 

「バン君、彼は悪人ではないわ。

 

 それはルカも同じよ」

 

 そう言いながら、ルカを見つめるマリカさん。

 

「マリカさん、お久しぶりです。

 

 けど、一体、何の用でここに」

 

「あなたを連れ戻しに来ました」

 

「連れ戻しに? 

 

 それじゃ、ルカは死んじゃうんじゃ」

 

「彼女は優秀な魔女です。

 

 正義感もあり、契約したあなたも問題ありません」

 

「えっ」

 

 それだったら、なんで? 

 

「あなたは外道魔女を3人倒す事で、彼女の釈放を願うつもりですね」

 

「彼女?」

 

 その言葉に疑問に首を傾げる。

 

「あなたが最高の魔女だとしたら、彼女は最悪の魔女。

 

 泥の魔女、メタの」

 

 そう、これまで聞いた事のない名前に、俺は首を傾げる。




コネクト・マーマン
『魚』+『水鉄砲』
レーキンの3つめのフォーム。
水中戦を得意にしている他に、空気中の水分からレーダーのような探知も可能となっている。
両手に装着されているウォーターガンで攻撃が可能。
水の弾丸は散弾など様々な性質に変える事も可能。
ただし、その威力は低く、牽制としか使えない。


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進むべき決意は

 龍の魔女と呼ばれる人物と、その契約獣の来訪から一時間後。

 

 ソファに座っているルカは、これまでに見た事のない程に落ち込んでいた。

 

「それで、メタって、一体誰なんだ?」

 

「それは、そのさっき言った通り、最悪の魔女だよ」

 

 そう言いながら、ルカはゆっくりと話してくれた。

 

「性格は傍若無人でかなり口が悪くて、どんな手も使う卑怯な子だよ」

 

「聞いていた通り、最悪な人物のようだね」

 

「そうっね。

 

 けど、私にとっては、本音で話し合えるただ1人の親友だから」

 

「それが、助けたい理由か?」

 

「うん」

 

 ルカは無言で頷く。

 

「ごめんね、嘘を言っちゃって。

 

 それでも、そのお願い! 

 

 私の親友の為に、一緒に戦って」

 

「良いよ」

 

「えっ?」

 

「何だよ、不思議そうな顔をして」

 

「だって、断るかと思って」

 

 そんなに信用されてなかったのか。

 

 俺がやる事なんて単純なものなのに、それに命まで賭けると言っているんだ。

 

 それなら、当然答える言葉は決まっている。

 

 俺は立ち上がりルカの前に立つ。

 

「なんで」

 

「別に。

 

 ただ、親友を助けたいと思ったルカを助けたい。

 

 俺はそう思っただけだ」

 

 ルカの目には涙が溜まっていた。

 

 きっとこの子は今まで色んなものと戦ってきたはずだ。

 

 その戦いの中で、多くの物を失って来たに違いない。

 

 そして今、友達を助ける為に覚悟を決めたんだろう。

 

 だったら、それを全力で応援したい。

 

「ふふっ、レン君って、ただの陰キャだと思っていたけど結構いい男かもね」

 

「茶化すな。

 

 こっちは真剣なんだぞ」

 

「そうだよね。

 

 ごめんなさい」

 

 ルカは深々と頭を下げる。

 

 本当に律儀な奴だ。

 

 そんな事をしなくても、協力すると言った時点でもう決まっていた事なのに。

 

 ルカも顔を上げて立ち上がる。

 

「それじゃ、最後の鳥の外道魔女。

 

 その契約獣を倒さないとね」

 

「あぁ」

 

 俺は力強く返事をした。

 

「これは」

 

「もしかして、契約獣?」

 

「えぇ、けど、たぶん違うと思うけど」

 

「とにかく、急ぐとするか」

 

 俺はそのままクモバイクを呼び出し、そのまま向かって言った。

 

「変身!」

 

『レーキン! 土で出来た頼れる奴! ゴーレム! コネクト!』

 

 鳴り響く音と共に、俺はレーキンへと変身する。

 

 目の前にいるブルドックの契約獣は、その巨体から繰り出される拳。

 

 それは、土の鎧を身に纏っている俺でも完全に受けるのは危険だと思わせる程の威力だった。

 

「ぐっ」

 

 放たれた拳をなんとか受け流し、そのまま後ろに跳ぶ。

 

 同時に、ブルドックの契約獣の拳は地面に突き刺さった。

 

 たった一撃で、簡単にアスファルトが砕け散る。

 

 まともに食らえば、それこそ命はないかもしれない。

 

 だが、俺もただ黙って攻撃を受けている訳ではない。

 

 ブルドックの契約獣が拳を放つと同時に、こちらからも距離を詰めていたのだ。

 

 そして、相手の懐まで潜り込んだ俺は、迷う事なく拳を振り上げた。

 

 土で形成された腕は、自在に長さを変える事ができ、ブルドックの契約獣に一撃を簡単に叩き込む事が出来た。

 

 だが、それでも相手を倒すには至らない。

 

 ダメージはあるだろうが、致命傷にはならないのだ。

 

 やはり、契約獣としての経験の差か、相手は攻撃を喰らう事に躊躇いがない。

 

 このまま攻撃を続ければいつか倒せるとは思うのだが、そうすればあの契約獣にも隙を見せてしまう事になる。

 

 そうしている時だった。

 

「そんなので、勝てると思っているかぁ!」

 

「あっ!」

 

 聞こえてきた声と共に、ブルドックの契約獣の上空にいた誰かが一撃を叩き込む。

 

 その叩き込んだのは、間違いなく、龍の契約獣ことバンだった。

 

 契約獣としての姿は、まるでカンフー映画をモチーフしたような中華服にドラゴンを思わせる仮面。

 

 俺と似たような人型であるが、俺が仮面ライダーを思わせる姿だとすると、バンはスーパー戦隊を思わせる姿だった。

 

 その手には武器だと思われるヌンチャクを握りしめ、バンはそのヌンチャクを縦横無尽に振るっていく。

 

「おい、錬金の契約獣」

 

「俺には仮面ライダーレーキンという名前があるんだが」

 

「どうでも良いよ。

 

 まったく、こんな雑魚に手間取りやがって」

 

 そう俺を馬鹿にするように言った後に、バンは再びヌンチャクを振るう。

 

 先程よりも早く振られたヌンチャクは、確実にブルドックの契約獣を吹き飛ばすように直撃させる。

 

 そうして吹き飛ばされたブルドックの契約獣を見た後、俺は思わずバンの方を見てしまう。

 

 これまで、1人で戦ってきた事もあって、バンとどうやって連携を取ればいいのか解らなかったからだ。

 

 しかし、そんな心配は一瞬で消し飛ぶ事になった。

 

 何故なら、目の前にいたはずのバンがいなくなっていたのだ。

 

 一体何処に行ったのかと思い辺りを見渡せば、それはすぐに見つかった。

 

 バンは素早く移動すると同時に、既に攻撃に入っていたのだ。

 

 その手に握られているのは、棍棒のような物であり、それを勢いよく振り下ろす。

 

 だが、ブルドックの契約獣は地面に倒れながらも腕を構えて防御しようとする。

 

 当然の行動だろう、なんせ殴られたら痛いし下手したら死ぬかもしれないしな。

 

 だからこそ、それを読んでいたかのようにバンの動きが変化する。

 

 両腕を大きく広げた状態で、バンは腰を落としながら動き出す。

 

 そして、まるでその場で一回転するようにしながらヌンチャクを振り回し始めたのだ。

 

 その姿はあたかも竜巻のようにも見える中、ヌンチャクの鎖部分が蛇腹剣のように伸びていく。

 

 そして、ヌンチャクの先端部分はそのまま真っ直ぐブルドックの契約獣へと向かっていった。

 

 鞭のように伸びたヌンチャクが、一直線に向かっていくという事はつまり、それだけ威力が高いという事でもあるのだ。

 

 しかも、ブルドックの契約獣はまだガードの姿勢のまま動かないのだから尚更である。

 

 そして、ヌンチャクはそのままブルドックの契約獣の腕に巻きつき、締め上げ始めた。

 

 腕を封じられてしまった事に驚きの声を上げるブルドックの契約獣だったが、そんな彼に構わずバンは更に動く。

 

 今度は右腕だけではなく左腕も同じように拘束する。

 

「さぁ、これで終わらせるぜぇ!」

 

 バンは叫びながらヌンチャクを引っ張った。

 

 それによってブルドックの契約獣の体勢が崩れそうになった瞬間、再びバンダナは回転する。

 

 そして、また勢いをつけてからヌンチャクを引っ張り始めると、そのままブルドックの契約獣を投げ飛ばしたのだ。

 

 投げ飛ばされたブルドックの契約獣を見て、少しだけ驚く。

 

 だが

 

「なっ」

 

 バンは驚きの声を漏らす。

 

 それは拘束していたブルドックの契約獣が、あろうことかバンの手から逃れていたからだ。

 

 あれだけの力で引っ張っていたにも関わらず、抜け出されてしまった事に驚いているようだ。

 

 そんな決定的な隙を見せた事で、バンの目の前でブルドックの契約獣が拳を振り下ろす。

 

「なっがぁあぁ!」

 

 咄嵯の判断だったのか、バンはその攻撃を受け止めようと両手を前に突き出した。

 

 しかし、勢いを完全に殺せずに地面を踏みしめてしまい、その場に足を止めてしまう。

 

 だが、それでも彼は前に出る事を躊躇わなかった。

 

 すぐさま体勢を整えて、逆に前に出る。

 

 そして、攻撃された手とは逆の手で、ブルドッグの契約獣の腕を掴むと力任せに投げ飛ばした。

 

 その一連の流れの中で、確かにバンの攻撃は命中していたはずだ。

 

 しかし、ダメージを受けている様子はない。

 

「まったく、少しは考えろよな!」

 

『タイガー! ニンジャ! マゼラレール』

 

 俺は瞬時に二つのソザイダマをレンキンドライバーに入れ、そのまま走る。

 

『レーキン! 獰猛なアサシン! ジンコー!』

 

 同時に、俺は忍者を思わせるアーマーを身に纏うと同時に、ブルドックの契約獣を蹴り上げる。

 

「ぐっ!!」

 

 ブルドックの契約獣は、その攻撃を受けて、すぐに後ろへと仰け反る。

 

「まったく、少しは考えろよな」

 

「うるせぇ! あのメタを釈放させようとしている魔女の契約獣の手なんて」

 

「今は、あいつを倒すのが先決だろ」

 

 そう、俺はブルドックの契約獣を指差す。

 

「ちっ、今だけだぞっ!」

 

 その言葉と共に、バンの奴もまた手元に戻ってきたヌンチャクを構える。

 

 同時に俺も、このジンコーに備わっていた忍者刀を手に取り、構える。

 

 お互いに武器を構えてから、ジリジリと睨み合う。

 

 そんな状態で数秒ほど経つと、やはり向こうの方が先に動いた。

 

 先程と同じように、殴りかかってきたのだ。

 

 俺はその攻撃を横に飛んで避け、奴の身体を足場にして

 

 空中に飛び上がる。

 

 そして、今度は上から攻撃を仕掛けてくる。

 

 それに対しては、忍者刀を使い防いだのだが。

 

 どうやら、さっきまでのパンチとは違って、力が籠っていないようだった。

 

 こちらの攻撃を防ぐ事に関しては問題がないらしいが、明らかに威力が下がっていた。

 

「さっきのダメージが効いているようだな」

 

 そう、バンはニヤッとした顔を浮かべながら言ってくる。

 

 実際そうなんだと思うが、認めたくない。

 

 だけど、だからと言ってこのまま黙っている訳にもいかないだろう。

 

「さっさと決めるとするか!」

 

『レーキンフルオープン! ジンコーストライク!』

 

 

 

 その音声と共に、忍者刀に稲妻を流し込み、全身を虎のエフェクトに変換する。

 

 同時に目にも止まらぬ速さでまるで分身しながら、ブルドックの契約獣に向かって行く。

 

「まったくよ! 手が早いんだよ! ドラゴクラッシュ」

 

『ドラゴンクラッシュ!』

 

 鳴り響く音声と共に、バンのその手に持つヌンチャクから巨大な龍のエネルギーが真っ直ぐとブルドックの契約獣に襲い掛かる。

 

 その一撃はまさに竜の様な形をしており、とてもじゃないけど避けられるようなものではない。

 

 しかし、それが直撃する前にブルドックの契約獣はその巨体を浮かび上がらせ、大きくジャンプする。

 

 あれだけの大きさであるにもかかわらず、その速度はかなりのモノであり、正直反応できなかった。

 

 そんなブルドックの契約獣に追撃するように、俺と、その分身達は次々と噛み付いていく。

 

 それはもはや、攻撃というよりも捕食に近い行為であった。

 

 そうして、全ての攻撃を受け、耐えきれず、爆散する。

 

「ふぅ、なんとか倒せたか」

 

「ちっ」

 

 それと共にバンはそのままヌンチャクをこちらに向ける。

 

「さて、次は」

 

「悪いけど、あんたとは戦うつもりはないんだよ。

 

 それに、目的は鳥の契約獣だからな」

 

「外道魔女のか」

 

「それでメタを助ける」

 

「あいつが解放されたら、どうなるのか分かっているのか?」

 

「さぁな。

 

 けど」

 

 俺はそのままバンを見つめる。

 

「友達が助けたい親友だ。

 

 だったら、助けてやるのに、何の迷いがあるんだ」

 

「お前」

 

「それじゃ、ここでな」

 

 同時に俺はそのまま走り出す。

 

「なっちっ」

 

 後ろでバンの声を無視しながら、俺はそのまま逃げていく。



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魔女の刺客

 その日は、普段と変わらない日常だった。

 

 未だに鳥の外道魔女の行方を見つける事はできない。

 

 これまでの戦いで外道魔女はすぐに見つかると思っていたが、案外見つからない。

 

「それは、普通に見つからないだろ」

 

「それで、お前はなんで当たり前のようにいるんだ」

 

 俺は目の前で当たり前のように昼食を食べているバンに言う。

 

 それと共に彼は

 

「お前が変な行動を監視するのも仕事だからな」

 

「いや、それでカレー食べないでくれる。

 

 私の食べる量が減るじゃない」

 

「いや、ルカも結構食べているからな」

 

 そう、俺は呆れたように言う。

 

「それに、そろそろ奴も動き出す」

 

「動くって、誰だ?」

 

「それは」

 

 そう言っていると共に何かを感じた。

 

「これはまさかっ」

 

「おいっ」

 

 感じた気配と共に、俺はすぐに走っていた。

 

 これまで、幾度も感じた直感と共に走り出す。

 

「おいっ、まったく、このままじゃやべぇのに」

 

 そう、バンの声が聞こえたが気にせずに向かった。

 

 そうして向かった先には巨大な影が見えた。

 

 その容姿から見ても、おそらくは蛙である事は間違いないだろう。

 

 レーキンへと変身した俺が始めに行ったのは、腕を巨大化させて目の前にいる蛙の契約獣を殴ろうとした。

 

 だが、それよりも早く、蛙の契約獣はその攻撃を簡単に避ける。

 

 軽々と人を超える力を持っているはずの、この巨大で太い拳を避けるなんて芸当が出来るとは思わなかった。

 

 だけど、驚いたのも一瞬の事だった。

 

 俺はすぐに攻撃の軌道を変えて、もう一度拳を振るう。

 

 ──―その拳を再びかわす蛙。

 

 ただ、今度の回避はさっきよりも素早かった。

 

 しかも、ただ攻撃を避けるだけではない。

 

 その背中にあるだろうボールをこちらに向けて投げていった。

 

 それ程、勢いはなく、むしろ周りに散らばるように。

 

 放たれたボールが迫る。

 

 だが、そのゆっくりと迫るボールに俺は危機感を覚えた。

 

 すぐに身体を覆うように土の壁を覆う。

 

 それと共に襲い掛かる衝撃。

 

「ぐっ」

 

 同時に土の壁が崩れながら、俺はそのまま後ろに下がる。

 

 見ると、そこにはボールが落ちたと思われる箇所が爆発したと思われる箇所があった。

 

「爆弾かよ」

 

 ボールを模した爆弾。

 

 それが蛙の契約獣の攻撃方法だと分かると共に、やはり戦い方を理解している事が分かった。

 

 恐らく、あの蛙の契約者は頭が回るタイプだなと判断する。

 

 しかし、だからといってどうにもならない訳ではない。

 

 確かに手強い相手で、油断するとやられる可能性だってある。

 

 その為には、まずは相手との距離を離さないと話にならない。

 

 

 

 そう考えて、俺は土の道を作り上げると同時に、それを一気に駆け出した。

 

 そして、走りながらも右手を突き出し、土の拳を伸ばす。

 

 それに対して、蛙の契約獣は即座に反応して、避ける。

 

 蛙の契約獣の頭上を通り過ぎる魔力弾。

 

 けれど、それは予測済み。

 

 だからこそ、次の瞬間には先ほど作り出した土の道から飛び出して、そのまま空中にいた契約獣に向かって、飛び蹴りを放つ。

 

 宙を蹴ったような感覚とともに、速度を上げて敵に迫る一撃。

 

 しかし、それでもぎりぎりまで引き付けてからの回避行動によって、避けられる。

 

 だが、それで終わりじゃない。

 

 着地と同時に、俺は懐からソザイダマを取り出す。

 

『ワシ! ロウソク! マゼラレール!』

 

 その音声と共に、俺はその姿を変える。

 

『レーキン! 無謀な飛行! イカロス!』

 

 その音声と共に、俺の背中からは翼が生える。

 

 その翼は、蝋燭で出来ている為か、ふわふわとしていて頼りない物だった。

 

「さて、行くぜ」

 

 その言葉と共に、こちらに向けて、再びボール型爆弾を放っていく。

 

 それに対して、背中にある蝋燭の一部をまるで弾丸のように放つ。

 

 放たれた蝋燭の弾丸が爆弾に触れるとその部分を爆発させる。

 

 それによって、軌道が変わった爆弾が向かってくるのを見て、俺は一気に翼を動かす事でその場から離れる。

 

 爆風の風を受けながら、俺はそのまま空を飛ぶ蛙の契約獣に向かって、飛ぶ。

 

 そのまま相手の腹を狙って右足を前に出して蹴りを入れる。

 

 もちろん、そんな攻撃に当たってくれる訳がなく、直ぐに蛙の契約獣は空へと飛んでいた。

 

 そして、そこでお互いが向かい合う形になる。

 

 そのまま俺に向かって、蛙の契約獣は、背中にあるボールを投げようとした。

 

 だが、それよりも俺は蝋燭を真っ直ぐと放つ。

 

「っ!!」

 

 蝋燭の蝋が、蛙の契約獣の背中を焼ける。

 

 同時に、蛙の契約獣は、ボールを取る事ができない。

 

『レーキンフルオープン! イカロスストライク!』

 

 同時に上空にて俺の身体を軸に蝋燭の翼で全身を包み、白い錐のような姿となって激しくドリル回転しながら敵に急降下突撃し、蛙の契約獣に激突した。

 

 ──ドォンッ!! 激しい音を立ててぶつかり合い、敵の装甲を破壊していく。

 

 そして、それと同時に蛙の契約獣もかなりのダメージを負ったのか、そのまま地面へと墜落していった。

 

 それと共に、俺はソザイダマで蛙の契約獣の力を回収する。

 

「ふぅ」

 

 ゆっくりと、俺は戦いを終え、そのまま解除しようとした時だった。

 

 カショッ……カショッ……と、特徴的な足音が鳴り、振り返る。

 

 そこには一人の契約獣がいた。

 

 全身は薄いガラスを思わせる全身を身に纏う。

 

 その内部は人間の内臓が僅かに見える。

 

「お前が噂の錬金の契約獣か」

 

「お前は?」

 

「俺はホムンクルスの契約獣。

 

 お前が泥の魔女を解放しようとしているな」

 

「だとしたら」

 

「ここで潰す」

 

 その言葉と共に、ホムンクルスの契約獣が襲い掛かる。



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ホムンクルスとの知恵比べ

「ぐっ」

目の前に突然現れた存在からの一撃。

それは、俺を吹き飛ばすには十分過ぎる程の威力を持つ攻撃だった。

先程までの戦闘のダメージを残ってはいるが、それでも十分過ぎる程に強敵なのが、防御した腕のダメージからでも十分に伝わる。

「泥の魔女を復活させるお前には、ここで消えて貰う」

そう言いながら、目の前にいる契約獣はそう呟きながら、ゆっくりと近づく。

全身を透き通るガラスを思わせる身体。

人型である事は分かる程度で、その容姿を一言で言えば人体模型である。

ガラスの中には、人間の臓器だと思われる部品がよく見える。

「お前は一体」

「俺は、そうだな。

一言で言えば、ホムクルスの契約獣だ」

「ホムンクルス」

ホムンクルス。

俺の中で分かる簡単な知識としてでは、人造人間。

錬金術によって作り上げられた人間の技術の一つ。

生まれながらにしてあらゆる知識を身に付けているという。

その事を考えれば、目の前にいるホムンクルスの契約獣の能力はおそらくは。

「嫌な予感はするがっ!」

その言葉と共に、俺はすぐに地表で錬成した無数の土の腕を真っ直ぐとホムンクルスの契約獣に向かって殴りかかる。

それに対して、ホムンクルスの契約獣は、まるで予測したように、攻撃を受け流す。

そのまま真っ直ぐと俺に近づきながら、殴りかかる。

俺は瞬時にその攻撃を受け止めるように防御する。

だが、その拳は、俺に大きなダメージを与える。

「ぐっ」

そこは、まるで俺の防御した箇所で最も弱い箇所を狙うように。

さらに、そこから追撃するように、次々と拳を繰り出す。

それに合わせるように、俺も反撃するために攻撃を仕掛けるが、奴の方が明らかに早い。

防戦一方で、このままだと押し切られてしまうかもしれない。

「いや、これは早いというよりも」

「予測、それは正しい」

同時に、俺をそのまま腹部に強い衝撃が走る。

それはホムンクルスの契約獣による蹴りであった。

「この姿になっている間、予測から最適解を選び出し実行しているのだ」

吹き飛ばされた俺に対して、容赦なく追撃を加えようとする。

俺は何とか態勢を立て直すために地面に着地をすると同時に、回避行動に移る。

しかし、それも既に読んでいたように、地面に落ちていた土の拳を蹴り、俺に向けて放つ。

それに対して、俺は防御する事ができず、まともに攻撃を喰らう。

それによって、更に大きく後方へと飛ばされる事になる。

それでもまだ、辛うじて意識があった事に驚きながらも、どうするかを考える。

(さすがに強すぎる)

俺の考えとしては、まずはこの場から離れる事が最優先になるだろう。

あのホムンクルスの契約獣がいる限りは逃げる事は厳しいだろう。

「もう一度言う。

泥の魔女の復活は諦めろ」

「それはできないな」

「なぜだ」

そう言いながら、ホムンクルスの契約獣はゆっくりと俺に問いかける。

「こちらの世界でのお前の活動は私は僅かだが確かに見た。

人々に害する契約獣のみと戦う。

既に戦った外道魔女の契約獣に関しても、戦った理由には納得できる」

そう言いながらホムンクルスの契約獣はゆっくりと問いかける。

「お前は契約獣の中では、大きく善な存在。

ならばこそ、なぜ、あそこまで邪悪な存在を復活させようとする」

ホムンクルスの契約獣はそう、俺に言ってくる。

「そんなの決まっているだろ」

俺はそう言いながら、ホムンクルスの契約獣に向けて言う。

「ルカが友達を助けたい。

だったら、俺は彼女を信じる。

それに、まだ会った事のない奴が本当に悪いかどうかなんて、知らないからな」

「・・・どうやら、善ではあるが、同時に無知であるようだ。

ならば、ここで力を失わせて貰う」

そう言いながら、ホムンクルスの契約獣は再び走り出す。

奴は、これまで戦った契約獣とは違い、特殊な能力はほとんどない。

ガラスによってできた頑丈な身体に、ほとんど未来予知に近い知識。

それらは確かに対処しにくい。

けど

「だったら、こっからは無茶苦茶にやらせてもらうぜ」

同時に俺は懐から取り出したソザイダマをそのままレンキンドライバーに装填する。

「姿を変えた所で」

『ワスプエアロ』

「なっ!」

奴は俺が姿を変えると思っていただろう。

だが、実際に行ったのは、スズメバチの要素を持った1人乗りの小型ヘリ、ワスプエアロを召喚した事だった。

これまでは、あまり見せた事のない手だから。

そうしながら、俺はそのままワスプエアロに乗りながら、そのまま空を飛ぶ。

「空を飛ぶ程度で」

そう言いながら、ホムンクルスの契約獣はそのまま近くにある建物を踏み台にして、俺の近づこうとする。

『ハエロボット』

今度はレンキンドライバーから出てきた無数のハエ型ロボット。

そのまま、近づいてくるホムンクルスの契約獣に襲い掛かる。

「この程度!」

そう言いながら、空中でハエロボットを次々と殴っていく。

同時に、ワスプエアロに乗り込む。

だが

「いない、だとっ」

『コウモリマント』

その音声と共に、俺の背中にはコウモリマントを纏う。

それによって、空を飛ぶ事ができた。

『キリンクレーン』

同時に召喚したキリンクレーンごと奴に向けて、落とす。

「なっ!」

そのままワスプエアロに乗り込んでいる奴ごと、キリンクレーンで突っ込む。

すぐにホムンクルスの契約獣はその場で脱出したのを見える。

「知識があっても、空では無防備だ」

それと共に、俺は真っ直ぐとホムンクルスの契約獣に向かって、狙いを定める。

『レーキンフルオープン! ゴーレムストライク!』

鳴り響く音声と共に、俺はそのまま真っ直ぐとホムンクルスの契約獣に向かって、真っ直ぐと拳を振り上げる。

巨大化した拳を目の前にして、ホムンクルスの契約獣はすぐに防御するように腕をクロスさせる。

だが、避ける事のできないホムンクルスの契約獣はそのまま地面へと叩きつける。

「ぐっ」

ビシリッと、ガラスが僅かに割れるような音が聞こえる。

それで、俺は攻撃を止める。

「なぜ、止める?」

「あんたは、敵じゃないから」

俺はそう言いながら、息を整えながら見つめる。

「俺は、馬鹿だから、ルカが助けたい思いを確かに叶えたい。

だけど、もしもあんたの言う通り、泥の魔女がとんでもない悪人だったら」

そう俺は真っ直ぐと見つめる。

「俺がなんとかする。

命に代えてもな」

「・・・なぜ、そこまで錬金の魔女に命を賭ける」

その言葉に対して、俺は

「友達であり、俺をここまで変えてくれた。

だからこそだ」

そう答えた。

それに対して、ホムンクルスの契約獣は。

「そうか。

だが、ならばお前の邪魔をこれからする」

ホムンクルスの契約獣は変わらない言葉を続ける。

「お前が契約獣と戦うならば、協力しよう。

だが、外道魔女の契約獣の時は、お前が倒す前に俺が倒す」

「どっちが早いかどうか。

そういう訳か」

その言葉と共に、俺はそのままホムンクルスの契約獣から離れる。

同時に向こうもまた敵意がない様子で離れる。

「色々と厄介な事になりそうだな」

それでも、俺は目的を果たす。

その為に、戦い続けよう。

 

 



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危険な組み合わせ

「このままじゃ、駄目だよなぁ」

 

 そう言いながら、俺はこの前の戦いを思い出す。

 

 ホムンクルスの契約獣との戦いにおいて、俺は苦戦しながらも、なんとか勝利する事はできた。

 

 しかし、それは本当に奇跡的な勝利であり、これからも通用するとは限らない。

 

「それで、どうするつもりなの?」

 

「……それが思いつかないからねぇ」

 

 そんな考えで、首を傾げる。

 

「……なぁ、レーキンでこれまで素材にしてきたのは、ほとんどは玩具とか、危険の少ない奴なんだよね」

 

「それは、そうだよ。

 

 危険な物は、それ相当のリスクがあるから。

 

 あのクレーンやヘリコプターも、元は玩具だったからね」

 

 前回使った奴を含めて、ソザイダマの多くは危険が少ない物ばかりだ。

 

 だからこそ、力は安定して使えた。

 

「だったら、危険な物だったら「駄目だよ」っ」

 

 俺がそう言うと、彼女は詰め寄る。

 

「錬金術は失敗する危険性もある。

 

 未だにレーキンでの変身がどれほど危険なのか、分からない以上、リスクは背負うべきじゃない」

 

「だとしても、これからの戦いには、そのリスクを背負って戦わなければいけないだろ」

 

「それは、そうだけど」

 

「まぁ、どちらにしても、そんな都合の良いのは」

 

 そう言いながら、俺がソザイダマを弄っていると、地面に転がる。

 

 そこは丁度、電池がある所だった。

 

 俺はすぐにソザイダマを取ると。

 

「んっ何か入って、えっ」

 

 ソザイダマに入っていたのは、水銀だった。

 

 ふと見ると、どうやら電池の一部が熔けていたらしい。

 

 なぜ、その状況に。

 

「どうしたの?」

 

「いや、なんでもっ」

 

 同時に感じた違和感。

 

 それは、何時もの契約獣が暴れた時にある感覚。

 

「悪い、契約獣が出たみたい!!」

 

「えっちょっ、レン!!!」

 

 俺は、彼女の言葉を無視して、すぐに向かった。

 

 向かった先には、既に契約獣が、街を暴れていた。

 

 その身体は

 

「ぐっ!」

 

 俺はすぐに仮面ライダーへと変身すると同時に、その手を地面に置く。

 

 瞬時に地面にある土は大きな拳となって、真っ直ぐと目の前にいる鋼の契約獣に向かって攻撃する。

 

 怒濤の土の拳によって、何度も攻撃を叩き込む。

 

 叩き込まれた攻撃に対して、鋼の契約獣は確かに当たった。

 

 しかし

 

「おいおい、マジかよ」

 

 その身体には、傷一つついていなかった。

 

 同時に、その怪しく光ると同時に、真っ直ぐと俺に襲い掛かる。

 

 すぐに土で腕周辺に集めて、即設の盾を作り出し、受け止める。

 

「ぐっ!」

 

 だが、土の盾は簡単に砕け散り俺を吹き飛ばす。

 

 そのまま地面に転がった。

 

 すぐに体勢を立て直す。

 

 全身から血が流れる。

 

 まずいな。

 

 あの一撃だけで分かった事がある。

 

 それは奴の方が、俺よりも確実に強い事だ。

 

 自在に土を操る事ができるこの姿。

 

 だが、向こうの鋼の契約獣はその名の通り、まさしく鋼を自在に操る事ができる。

 

 操れる範囲はそれ程多くないが、見れば奴は自分の腕を鋭い剣へと変える。

 

 そしてそれを飛ばせばそれだけで簡単に強固な岩さえも切り裂く事が出来る。

 

 更にはその鋼鉄も自由に形を変えてまるで生きているかのように動かせる事も出来るようだ。

 

 そう、見ている間にも、鋼の契約獣はその腕を真っ直ぐと俺に向けて伸ばす。

 

 瞬間的に後ろに飛ぶ。

 

 次の瞬間には先ほどまでいた場所が大きな音を響かせる。

 

 地面は大きく割れていた。

 

 それだけでも、その剣の威力が分かるというものだ。

 

 だが同時に思う。

 

 確かにこいつは強敵かもしれないが勝機がない訳ではない。

 

「だとしたら、何を選ぶかだ」

 

 俺はそう言いながら、周りの物を見る。

 

 手元にある物と組み合わせるのに最も相性が良いもの。

 

 それは何かを考える。

 

 今の状況では相手の攻撃を防ぐ手段はない。

 

 ならばどうするか? 

 

 考える時間はそこまでない。

 

 既に相手はこちらに攻撃を仕掛けてきているからだ。

 

 だがそれでも考え続ける。

 

 その時だった。

 

「あれは?」

 

 視界の端に見えた物に目を向ける。

 

「もしかしたら、あれとこれを組み合わせた姿ならばっ!」

 

 そうと決まれば、すぐに取りに行く必要がある。

 

 しかし、それを阻止するように、目の前にいる鋼の契約獣は立ち塞がる。

 

「邪魔をするなっ! お前の攻撃なんてもう当たらないんだよっ!!」

 

 叫びと共に土の拳を作り出す。それをまっすぐと向けて放つ。

 

 一直線に向かってくる拳に対して、相手はすぐに剣に変えるとその攻撃を受け止める。

 

 当然のように吹き飛ばされるが、それでいい。

 

 俺はその間に目的の物を拾い上げる。

 

 手の中にある物は蜥蜴。

 

 どこにでもいる普通の蜥蜴だ。

 

 しかしこれが俺にとっては非常に重要な物となる。

 

 俺はそのまま蜥蜴をソザイダマに入れると共に、そのままもう一つのソザイダマと一緒にレンキンドライバーに装填する。

 

『蜥蜴! 水銀! マゼラレール!』

 

「よっと!」

 

 俺はその音声を確認すると共に、そのまま操作を行う。

 

『錬丹の竜! 黄竜!』

 

 鳴り響く音声と共に、俺の全身は熔ける水銀の鎧を身に纏う。

 

 相手が、鋼ならば、こちらは水銀で対抗する。

 

 そう思った時だった。

 

「ぐっ!」

 

 水銀の影響なのか、酷く頭痛がする。

 

 これは一体どういうことだ。

 

  自分の身に起きている事に戸惑っている間にも敵の攻撃は続く。

 

 先程と同じように腕を剣に変えて連続で斬撃を放って来る。

 

 それに対してこちらも同じように水銀の壁を作る事で防いだが、その度に激しい痛みに襲われる。

 

 思わず膝を着く。

 

「お前っ邪魔なんだよぉ!!」

 

 同時に、身体から流れ出た水銀を、円形に固めると共に、そのまま鋼の契約獣に向けて放つ。

 

 放たれたそれに対して、鋼の契約獣はすぐに避ける。

 

 僅かに当たった箇所は、水銀によって、鋭く斬られていた。

 

 それにはさすがに鋼の契約獣も焦りが見えた。

 

 しかし、俺はそのまま防御に使っていた水銀の壁に手を触れる。

 

 すると、先程までの巨大な壁となっていた水銀の壁は巨大な剣へと変わる。

 

 大きさ的には相手の身の丈を超える程の大太刀といったところだろう。

 

 俺はそれを握り締めると一気に振り下ろす。

 

 対する相手は即座に避けると同時に剣を構える。

 

 だが俺は気にせずに叩きつける。

 

 叩きつけられた事によって、鋼の契約獣はその身体を真っ二つに斬られる。

 

 既に戦闘は行えない状態である。

 

 だが

 

「あっああぁ!!」

 

 衝動が抑えられない。

 

 目の前にある敵を徹底的に攻撃しなければいけないという衝動である。

 

 そんな状態のまま、俺はもう一度水銀の壁を作りだすと、それを叩きつけていく。

 

 既に何も言わない。いや、喋る事ができないのだ。

 

 ただひたすら目の前にいる敵に対して攻撃をしていくだけだ。

 

「レン」

 

 聞こえた声、それと共に俺は手が止まる。

 

 それと共にベルトからソザイダマが落ちる。

 

「ルカ、俺は一体」

 

「水銀の毒にやられたんだよ。

 

 他のよりも危険性があるからね」

 

 そう言いながら、水銀が入ったソザイダマを回収する。

 

 それにより水銀による副作用は消えたようだ。

 

「それより大丈夫?」

 

 そう言われて初めて気付いた。

 

 自分が涙を流している。

 

「俺は、結局はこうなるんだな」

 

「どうしたの急に」

 

「この姿になってから、自分の意志に反して体が動く事が多かった。

 

 感情的になって行動していた事もあった。

 

 でも今回だけは違ったんだ……力に振り回されて」

 

 水銀の毒のせいとはいえ、俺はここまで残酷な事を平然と行えるようになっていたのかと思うと恐怖しかなかった。

 

「仕方がないよ。

 

 これは本当に危険だった」

 

「だけどこんな俺には」

 

「確かに今回の件で君は色々とショックだったかもしれないだったら、安全に使えるようにすれば良いんだよ」

 

「安全にだと?」

 

 その言葉に俺は首を傾げる。

 

「錬金術は不完全な物質からより完全な物質を生み出すそうとする。

 

 だったら、この水銀の力だって、危険な物から有益なものに変えれば問題はないと思うんだけどね」

 

「…………」

 

「君のアイディアだけでは駄目かもしれない。

 

 私だけの知識だけでも無理かもしれない。

 

 けど、二人が合わされば、それは可能かもしれない、かも」

 

 そう呟いたルカは少し恥ずかしげにしているようであった。

 

「まあ、何だかんだ言っても、君にしかできない事だから」

 

「そうだな……」

 

 もうこれ以上悩む必要はないようだ。

 

 そして俺は改めて思う。

 

(俺はまだ弱い)

 

 だからこそ強くならないといけない。

 

 これまでにない組み合わせを。

 

 水銀の力を十全に、危険じゃない方法を探る為に。

 

「さぁ、続きを始めましょうか」

 

「ああ」

 

 そうして、俺達はそれと共に、新たな力の使い方を開拓していく事にした。



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銀龍を纏い

仮面ライダーレーキンは素材を納めたソザイダマの組み合わせで、様々な姿・武器を作り出す事ができる。

 

それは、錬金術士のように、様々な素材で戦う事ができる。

 

しかし、その中で、今、最も大きな課題が目の前にある。

 

「水銀。

これをどう使うかだよな」

 

水銀は、その危険性は高く、水銀を使った姿では暴走してしまう。

 

だからこそ、俺は首を傾げる。

 

「まず、暴走を抑えるには、どうやって水銀の毒素を抑えるのか。

それに対抗できる物が必要だと思うの」

 

そう言いながら、ルカは目の前にある多くの素材を並べる。

 

水銀の毒素を中和する為の素材。

 

それと共に、水銀の力を十全に使う為に必要なアイテムも必要だと言う。

 

「そうだな……」

 

「うーん」

 

俺とルカは次々と素材を見ていく。

 

水銀の強みを残しつつ、暴走の危険性を極力少なくする物。

 

その組み合わせは意外に難しい。

 

そもそも、この水銀は毒性が高いのだ。

 

それを防ぐには。

 

「・・・待てよ」

 

そこで、俺はある事を思い出す。

 

「なんで、今まで試さなかったんだ。

いや、違う。

 

これまで、俺は固定概念に縛られていたんだ!」

 

「どうしたの?」

 

「もしかしたら、見つけたかもしれない。

水銀の力を十全に使える方法を」

 

それと共に、俺はとあるソザイダマを取り出す。

 

「これがあれば」

 

「っ」

 

それと共に、レンは何か寒気を感じた。

 

その予感はまさに的中したと言うべきか。

 

窓が震えていた。

 

その方向を見れば、そこには巨大な何かがいた。

 

「あれは」

 

「鳥の契約獣。

最後の外道」

 

同時に、それが最後の鍵となる存在の出現だと分かる。

 

「ならば、行くしかない」

 

俺はその言葉と共にクモバイクを呼び出し、そのまま乗り込む。

 

クモバイクによる走りで、ようやく辿り着いた先。

 

そこには、近くにある建物を遙かに超える大きさの巨大な鳥だった。

 

鋭い牙はどんな物で斬り裂き、大きく広げた翼だけでも、巨大な影が出来る。

 

それ程の大きさを誇るそれは、まさしく鳥の契約獣だった。

 

「どうやら、まだ来ていないようだな」

 

周りを見れば、まだあいつらが来ていない。

 

ならば、早々に決着をつける必要がある。

 

俺はそのまま腰にあるレンキンドライバーにソザイダマを入れる。

 

『レーキン! 土で出来た頼れる奴! ゴーレム! コネクト!』

 

既に何度も変身したその姿。

 

だが、本番はこれからだ。

 

俺はその手に、二つのソザイダマを取りだし、入れる。

 

『蜥蜴! 水銀! マゼラレール!』

 

これによって、既に変身するだろう。

 

だが

 

「まだだ」

 

『剣!』

 

俺はそのままソザイダマをもう一つ追加する。

 

流れる音声と共に、俺はそのままレンキンドライバーを操作する。

 

『レンキンカンリョー!メタルドラゴンソード』

 

鳴り響く音声にレンキンドライバーから出てきた武器。

 

それは、銀色のドラゴンを模した剣であり、軽く振るうだけでも水銀が地面に落ちる。

 

同時に、俺の右上半身など一部がドラゴンを思わせる装甲を身に纏う。

 

鳥の契約獣は、それに疑問を持ちながらも、真っ直ぐと俺に向かって襲い掛かってくる。

 

「さぁ、実験を始めようか」

 

俺は、その手に持つ剣、メタルドラゴンソードを構え、振り払う。

 

それと共に刃先から高密度の水銀を放出することで斬撃そのものを巨大化して飛ばした。

 

それは鳥の契約獣にとっては予想外の一撃だったらしい。

 

咄嵯に回避した。だが、それで済ませるほど甘くはないぞ。

 

「まだまだ!」

 

追撃の一閃を放つ。鳥の契約獣はその身を捻り避けるが僅かに掠ったらしく翼に傷が入った。

 

そこから流れた血によって、銀の水飛沫が発生する。

 

(これは思った以上に相性がいいかもしれない)

 

俺が持つこのメタルドラゴンソード。

 

本来なら金属で出来たものを溶かす水銀を操作するために造られたものなのだが……。

 

普通なら触れることもできないような超高温な物質も自在に操れる。

 

そして、暴走する心配もない。

 

俺はその事に笑みを浮かべながら、上を見上げる。

 

先程と同様に鳥の契約獣は空中にいる。

 

そこで、俺は再び水銀を操作して、それを足場にして飛び上がった。

 

鳥の契約獣も流石に驚いたようだが、まだ甘い。

 

俺は、水銀を使って鳥の契約獣の上に陣取るように移動を行うと、そのまま急降下を行って勢いをつけ、思いっきり斬りつけた!

 

--ズシャアァァ!!

 

地面が大きく割れ、衝撃による煙が巻き起こる。これで倒したか?

 

……そう考えた瞬間だった。

 

背後からの気配を感じとり、振り返る。

 

それは鳥の契約獣が、その爪を真っ直ぐと俺に向かって、襲い掛かる。

 

俺は瞬時に地面にメタルドラゴンソードを突き刺す。

 

それと共に地面の土と、メタルドラゴンソードの水銀が混じった壁が構築される。

 

それによって、鳥の契約獣の攻撃は完全に防ぐ事ができた。

 

「金属と土を合わせる事ができるのか。

 

だったら!」

 

俺はそのままその壁を巨大な槍に形成し直す。

 

そしてそのまま上空へ放り投げる。

 

それに対して、相手は回避しようとしたらしいのだが、それよりも速く槍が鳥の契約獣を貫き大穴を空ける事に成功した。

 

それによって、よろめく鳥の契約獣。

 

「悪いが一気に決めるぜ!」

 

その言葉と共に、槍に混ざっている水銀を集める。

 

同時にその水銀を上空に集めると共に、俺も構える。「いくぜ…………!」

 

「グゥウ!?」

 

何が起こるか察したらしく、鳥の契約獣も逃げるべく翼を広げようとする。

 

だがもう遅い!

 

「喰らええぇ!!」

 

集めた水銀をそのまま高速回転させる事で竜巻を発生させた。

 

その形はまるでドラゴンを思わせた。

 

その竜巻はそのまま鳥の契約獣を包み込む。

 

それによって、鳥の契約獣は完全に動きを止める。

 

同時に俺もまた、必殺のライダーキックを繰り出していた。

 

「ライダー……キィイイクッ!!!」

 

ドガアアッンという音を立てて、レーキンと鳥の契約獣にぶつける。

 

それにより激しい衝撃が発生。お互いの身を大きく仰け反らせていく。

 

やがて、鳥の契約獣がそのまま宙へと浮かぶ形で飛ばされていった。

 

そして、そのまま壁に激突する事により、ようやく止まる事が出来た。

 

一方で俺も着地に成功。

 

だが、それでも身体にはダメージがあったようで苦悶の声を上げる。

 

だが、それと同時に鳥の契約獣も倒れ伏していた。

 

「倒せたのか」

 

同時に俺は変身を解除させる。

 

「無事だったの!」

 

そうして、俺が倒した頃、ルカが俺の元へと辿り着いた。

 

「あぁなんとか」

 

「けど、どうして」

 

「なに、仮面ライダーが教えてくれたんだよ。

 

暴走には暴走を抑制するアイテムだって」

 

「それが、さっきの?」

 

「まぁ、毒素がこちらに来る前の短期決戦だけどね」

 

実際に、戦闘中に僅かに見えたが、戦闘が進む度に、水銀が浸食するように装甲が増えていた。

 

つまり、あれは強化すると同時にタイミリミットを表している。

 

「それでも、なんとか」

 

「どうやら、倒したようだな」

 

すると、同時にホムンクルスの契約獣がその姿を現す。

 

「遅かったな」

 

「お前が早すぎただけだ。

 

まさか、鳥の契約獣をこんなに早く倒すとは」

 

「これで、約束だよな」

 

「・・・規則だからな。

 

仕方ない、しかし本当にするつもりなのか」

 

「当たり前だよ。

 

メタは、私の親友なんだから」

 

「意思は硬いようですね。

 

では、向かいましょう」

 

「向かうって、どこに?」

 

「決まっているでしょ、ルフランにですよ」



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2人の契約獣

 外道魔女の眷属を倒す事ができ、無事に釈放する条件を整えた俺達は、さっそく異世界ルフランへと向かう事になった。

 

 これまで、名前だけは聞いた事があるルフランという世界に対して、俺は疑問に思いながらもルカと共にルフランへと訪れる。

 

「ルカ、ここがルフランなのか?」

 

「そうだよ、レンにとっては珍しいと思うよね」

 

 そう、ルカは笑みを浮かべながらも、普段は身に纏っていない魔女の衣装と共に、周りを見せていく。

 

 そこは現代の町に比べたら、少し古く、あえて言うならばハリー・ポッターに出てくる町並みに似ていた。

 

 だが、それよりも気になるのは……

 

「なぁ、ルカ……この建物って何だ?」

 

「それは、お城だよ。私もあまり詳しくないけどね」

 

 その言葉を聞きながら、俺は目の前にある巨大な建物を指差す。

 

 それはまるでヨーロッパにあるような城を思わせて、とても大きく見えていた。

 

 そして、ルカから説明を受けた後で、今度は街を見て回ると、やはり現代とは違う部分が多くあり、特に気になったのは車やバイクではなく馬車だったりする事である。

 

 そんな感じで街中を歩いていると、ルカはある場所で立ち止まる。

 

「着いたよ。

 

 ここにあの人が居るんだ」

 

「えっと、ここか? なんか凄いボロっちいな……」

 

「まぁ、そういう人だからね。でも、悪い人じゃないんだよ」

 

 そうしながら、俺達は牢獄で目的の人物の元へと向かって行く。

 

 牢獄の奥に行けば、行く程、薄暗くなっていく中で、ようやく目的の人物を見つける事が出来た。

 

「久しぶりですね、メタさん」

 

「あぁ、久しぶりだな、レン」

 

 メタは牢屋の中で座りながらこちらを見ると、すぐに視線を逸らす。

 

 どうにもこのメタという人物は、見た目通りの性格ではないらしく、どこかぶっきらぼうな態度を見せていた。

 

 それでも、ルカとは知り合いなのか会話を続ける。

 

「それで、そいつがお前の契約獣なのか?」

 

「はい、そうです! 

 

 私の相棒であるレンです!」

 

「ふーん……」

 

 メタはそのまま見つめる。

 

「まさか、こいつが外道魔女の契約獣を3体も倒すとはな」

 

「でしょでしょ! 

 

 私の自慢です!!」

 

「そうか、にしてもまさか私を釈放するとは。

 

 相変わらず、お前は天才なのにアホなんだな」

 

「むぅ! また、メタはそういう事を言って!! とにかく、早くここから出しますからね!」

 

「止めておけ。

 

 どうやら、奴らにとって、私は邪魔な存在だからな」

 

「そんな事ないですよ!」

 

 そう、ルカは叫ぶ。

 

「確かにメタは甘いものは好きだが、辛いものや苦いものを嫌う。

 

 だがその実、ほとんど家に籠りきりで外の世界の知識は全て本から得た為見た目や言動に反して性格は幼いし、性格は傍若無人でかなり口が悪いです!」

 

「おい、契約獣。

 

 お前の主人は本当に私の親友なのか?」

 

 そう言いながら、俺に向けて、メタは話しかけてきた。

 

「それだけ互いに信頼しているという事だろ」

 

「ふっ……そうかもな。

 

 だが、その信頼が裏切られた時、お前ならどうする?」

 

「……その時になってみないと分からないな」

 

「ふん、そうか」

 

 それからしばらくした後、ルカとメタの会話が終わると、彼女はこちらに向ける。

 

「まぁ良い。

 

 それに、私がここから釈放されないのは、私が見た物に関係しているからな」

 

「見た物? 

 

 それって、メタが世界中を沼で埋め尽くそうとした計画の事?」

 

 あまりにも軽く言うが、それはかなり世界でも危機的状況じゃないのか? 

 

「あぁ、それをやっている時だ。

 

 私は偶然だが、ある奴を見つけた」

 

「ある奴?」

 

 それに、俺は首を傾げる。

 

「外道の魔女だよ」

 

「外道の魔女って、それって蜘蛛達の事?」

 

「違うな。

 

 外道魔女はそもそも幹部などいない。

 

 お前達が全て倒した契約獣は全て奴1人で契約している」

 

「なっ」

 

 これまで戦ってきた外道魔女の契約獣達。

 

 それはこれまで1人につき1体の契約という方程式を覆す衝撃だった。

 

「でも、なんで外道の魔女を見つけた事で掴まったのっ!」

 

「外道の魔女は、この世界の外道。

 

 つまりは人間のあらゆる負の魔法を使える。

 

 そんな奴の封印場所を私のような問題児が見つかれば、何かされる可能性がある」

 

「えっと……」

 

 その言葉にルカは困った表情を浮かべると、隣にいたレンが代わりに喋る。

 

「そういう理由で捕まえられて、ずっとここにいる訳ですね」

 

「あぁ、そうだ」

 

「でも、封印場所を見つけただけで、そんな問題になんて」

 

「そもそも、なぜそこにいる奴の世界で契約獣が暴れているのか、知っているのか?」

 

「えっ?」

 

 それに、俺もルカも思わず首を傾げる。

 

「いずれ封印が解かれる外道の魔女から逃れる為の侵略だよ」

 

「そんなっ」

 

 その事実に、俺も、そしてルカも驚きを隠せなかった。

 

「なんで、そんな事をっ!」

 

「移住を行う為には、住む場所を増やす必要がある。

 

 現地の人間が邪魔な場合は契約した契約獣で殺していく」

 

「それだったら、なんでその契約獣と戦う魔女もいるのっ!」

 

「お前のように何も知らない奴らが戦えば、向こうの世界も友好的だと思う。

 

 つまりはマッチポンプを狙った動きがあるんだよ」

 

 メタの口から語られる真実に、俺達は驚くしかなかった。

 

 まさか、あの蜘蛛達が自分達の都合で世界を滅ぼそうとしていたとは。

 

 そう考えていると共に、地震が起きる。

 

 地面が大きく揺れて、立っている事も困難だ。

 

 やがて、地震が収まると共に、街の外から悲鳴が聞こえる。

 

「一体何がっ」

 

「まさか、復活したのか」

 

 メタの言葉に疑問に思う。

 

「外道の魔女が出てきたんだよ」

 

「っレン!」

 

「あぁ、変身!」

 

 ルカの言葉と共に、俺はすぐに仮面ライダーレーキンへと変身し、そのままメタの牢屋を外した。

 

 同時にそのまますぐに外へと出る。

 

「なに、あれ」

 

 外へと出ると共に見えたのは、不気味な存在だった。

 

 様々な負の感情が入り交じった巨大な女性の顔が地面から出てきており、頭から伸びている足のような物は髪の毛だった。

 

 その髪の毛から歪な動物のような形になりながら、街を破壊していた。

 

「あれが、外道の魔女っ」

 

「あぁ、人間の負の感情を全て一つにした存在だよ」

 

「だったら、すぐに止める!」

 

「レンっ!」

 

 俺はすぐに地面を滑りながら、真っ直ぐと外道の魔女に向かって、突っ込む。

 

 周りの地面から巨大な土の拳を作り、そのまま外道の魔女に向けて、叩き込む。

 

 しかし、こちらの存在を気づいた外道の魔女は、その髪の毛を別の生き物の形へと変える。

 

「こいつはっ!」

 

 外道の魔女の髪の毛が変化したのは猿の契約獣だった。

 

 猿の契約獣はそのまま俺の放った拳を避け、そのまま殴りかかる。

 

 咄嵯に腕を使ってガードするが、衝撃を殺しきれずに大きく吹き飛ばされる。

 

 どうにか空中で体勢を整えた瞬間には、もう次の攻撃が迫ってきていた。

 

 それはまるでザリガニを人型にした姿の契約獣へと変わり、俺に向けて巨大な鋏を向けてくる。

 

 それをギリギリの所で避けたが、地面にぶつかった鋏が地面を大きく砕き、大きな穴を作った。

 

 だが、それと同時に外道の魔女の攻撃も未だに終わりが見えない。

 

 その髪の毛は次々と様々な契約獣へと姿を変え、俺に襲いかかってくる。

 

 その数は多く、対処するには少しばかり骨が折れそうだ。

 

 

 

 そんな事を思いながらも、俺は迫り来る攻撃をどうにか回避する。

 

 だが、それも長くは続かない。

 

 いくら回避しても次から次に新しい契約獣が生まれていき、一向に減らないのだ。

 

 そして、ついに外道の魔女本体からも、新たな契約獣が生まれる。

 

 それは狸のような姿をしており、太い豪腕と太鼓が埋め込まれた腹が特徴的な契約獣だ。

 

 その契約獣の豪腕によって、俺はそのまま吹き飛ばされる。

 

「ちっ」

 

 吹き飛ばされ、本当だったら、襲い掛かるはずの衝撃。

 

 だが、その衝撃は来なかった。

 

 見れば、メタが俺に落ちるはずだった地面を沼に変えていた。

 

 それによって、衝撃は完全に殺されている。

 

「ボロボロじゃないか」

 

「まだまだっなんとかできるさっ」

 

 そう言いながら、俺はなんとか立ち上がる。

 

「なぜ、そこまで戦おうとする」

 

「んっ?」

 

 それと共に、メタが俺に尋ねてくる。

 

「なんでって、ここの人達を守る為だよ」

 

「だが、お前の世界を無茶苦茶にしようとした連中でもある。

 

 そんな奴を助ける意味が、果たしてあるのか?」

 

 確かにこの世界では色々とあった。

 

 だが、それでもこの世界の人は悪い人だけじゃないはずだ。

 

 少なくとも、ルカみたいに良い人もいるはずなんだ。

 

「それに……」

 

「それに?」

 

「もしも、俺が知っているヒーローである仮面ライダーだったら、そんな理由で見捨てないからな」

 

 俺はそう、言いながら、立ち上がる。

 

「……まったく、貴様は馬鹿な奴だな」

 

「いや、確かに馬鹿だけど」

 

 俺はそう言いながら、思わずルカに言う。

 

「だが、そんな馬鹿ならば、これからやる馬鹿げた方法に乗る可能性もあるな」

 

「馬鹿げた方法?」

 

 俺はそれに疑問で首を傾げる。

 

「私と契約しろ」

 

 そうメタは俺に向けて言う。

 

「契約って、俺は既にメタと契約しているんだけど」

 

「あぁ、そうだな。

 

 だが、契約獣が複数の魔女と契約しては駄目というルールなどない」

 

「それは、そうかもしれないけど」

 

「まぁ、決めるのは、お前次第だがな」

 

 メタはそう言いながら、不敵な笑みを浮かべる。

 

 俺は思わず、迷っていると。

 

「レン、やろうよ!」

 

「ルカ」

 

 すぐ傍で、ルカが俺に話しかける。

 

「良いのか?」

 

「まぁ、普通契約獣が他の魔女と契約するなんて、夫が浮気するぐらい最低な行為だけど、私はメタの事も大好きだから! 全然平気だよ!」

 

「そういう事だ。

 

 さぁ、どうする、やるのか? 

 

 やらないのか?」

 

 その言葉に対して、俺は一瞬、迷うが。

 

「あぁ、やってやるさ!」

 

 その言葉と共に、俺は手を前に伸ばす。

 

 同時に満足したように、メタは俺の手を重ねる。

 

「さぁ、これから、お前は私の契約獣だ。

 

 私、沼の魔女であるメタ」

 

「そして、錬金の魔女であるルカ!」

 

「「2人の魔女と契約せし、契約獣! その名も!」」

 

 その叫び声と共に、俺の身体に大きな変化が起きる。

 

 これまでのゴーレムを思わせるその姿は丸く重厚な黒い鎧と白と内側の青色のマントを付けた騎士を思わせる姿へと変わっていた。

 

 身体のあらゆる箇所には錬金術を思わせる模様が描かれている。

 

「……これは?」

 

「これが、今のお前の姿だ」

 

 メタの言葉を聞きながら、俺は自分の姿を見ていると。

 

「底のない沼のように、限界のない錬金が行える。

 

 その名は仮面ライダーレーキン・オリジンとしておこう」

 

「オリジン、なんだか格好良いし、それで良いな」

 

 同時に俺はそのまま外道の魔女へと見つめる。

 

「さぁ、勝利を錬金するぜ」



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悪意の終わりに

 レーキン・オリジンへと、新たな姿が変わった。

 

 その力は、これまでの力とは違う感触。

 

 俺はそれに対して、驚きながらも、手をゆっくりと確認する。

 

「ぼけっとしている場合じゃないぞ」

 

 メタの、その言葉と共に目の前を見る。

 

 既に悪意の魔女は、髪から無数の契約獣を作り出した。

 

 各々が、様々な魔法で。

 

 炎を。

 

 氷を。

 

 雷を。

 

 風を。

 

 眼前に広がる攻撃の嵐。

 

 普通ならば、すぐに避けるべきだろう。

 

 だが、この姿になって、むしろ余裕と思える。

 

 俺はゆっくりと手を開く。

 

 それと共に、俺の眼前に現れたのは壁だった。

 

 それもただの壁ではなく沼の。

 

 泥の壁だった。

 

 それは、普通ならば、あれらの攻撃の嵐を受け止められないだろう。

 

 だが、泥の壁は。

 

 容易く攻撃を呑み込んだ。

 

「これは」

 

「沼は底なしだ。

 

 どのような攻撃も届かなければ意味はない」

 

「つまりは、どんな攻撃も防げる訳か」

 

 それに、思わず笑みを浮かべる。

 

 そして、悪意の魔女はそれを見て、奇声をあげる。

 

 既に理性などない。

 

 まさに悪意に完全に支配されている姿。

 

「そして、底なし沼に上限などない。

 

 泥で、好きに作り出せ」

 

「つまりは」

 

「君の想像で、錬金は無限に強くなれるよ!」

 

 レンのその言葉に俺は思わず笑みを浮かべる。

 

「だったら、試すしかないよな!」

 

 同時に俺も、それに答えるように、構える。

 

 悪意の魔女は再び髪で次々と契約獣を作り出す。

 

 それに対して、俺は、底なし沼の壁に手を入れる。

 

 同時に、底なし沼の壁で吸収した様々な魔法を錬金する。

 

 水は火を消すというが、逆に火を強くする事だって出来るはずだ。

 

 そして、そのイメージを元に、俺は泥を更に変質させる。

 

 ドロリとした液体のように。

 

 それを形作っていく。

 

 そうして出来上がったのは、炎を模した巨大な腕だった。

 

 大きさとしては、巨人の腕よりも少し小さいぐらいだろうか? 

 

 それでも、十分に大きい。

 

 その炎の巨人の腕を襲い掛かる契約獣を吹き飛ばす。

 

 しかし、それらの攻撃を掻い潜ってきた契約獣もいる。

 

 それに対して、俺は次に行ったのは、泥で作り出した剣だった。

 

 その大きさは、まさに変幻自在であり、俺の意思一つで自由に形を変える事が出来る。

 

 それが何本も現れて、襲ってくる契約獣を次々と斬り裂いた。

 

 そのまま俺は、地面に手を付ける。

 

 すると、地面が盛り上がりながら姿を変えていく。

 

 それは、大きな土人形だった。

 

 人の形をした巨大な土人形。

 

 そいつらは一斉に走り出すと、契約獣に向かって拳を振るう。

 

 それはまるで巨人が振るったような一撃となり、契約獣達をまとめて吹き飛ばした。

 

 だが、それで終わりではない。

 

 俺は再び手を付き直すと、今度は、地面から巨大な柱が現れた。

 

 それは槍のような形をしており、高速回転しながら突き進む。

 

 それが次々と契約獣を貫きながら貫き通していく。

 

 そんな攻撃を繰り返している間に、気付けば、全ての契約獣を倒し終える。

 

「あぁっあああぁぁ!!」

 

 それに対して、悪意の魔女は真っ直ぐと俺に向けて叫ぶ。

 

 彼女が、何を行ったのも分からない。

 

 きっと、悪意の魔女も、被害者かもしれない。

 

 レンがメタを救いたいという思い。

 

 メタが偶然で捕まってしまった事。

 

 それらは、この世界における悪意によって、多く踏み潰され、悲痛な叫びとなった。

 

 それを晴らす事はできないだろう。

 

 だからこそ。

 

「底なし沼のように、どんな思いも受け止める」

 

 俺はそれと共に構える。

 

 悪意の魔女への介錯を行うように。彼女は怒り狂っているように見える。

 

 おそらくは、彼女の心の中には、様々な感情があるのだろう。

 

 その全てを受け止めるように。

 

 そして、その足に纏った泥は、巨大な悪意の魔女を簡単に飲み込める程の大きさへと変化する。

 

 その大きさに驚いたのか、それとも恐怖を覚えたのか。

 

 悪意の魔女は逃げようとする。

 

 だが、既に遅い。

 

 既に、俺は飛び上がっており、彼女に対して、必殺を放つ体勢に入っていたからだ。

 

 だから。

 

 俺は大きく振りかぶると、悪意の魔女目掛けて、そのライダーキックを繰り出した。

 

『……』

 

 一瞬にして視界が真っ白になる程の閃光に包まれる。

 

 同時に、爆発音が響き渡り、辺りには砂煙が立ち込めていた。

 

 そんな中で俺は着地し、目の前を見る。

 

 そこには、悪意の魔女がいたと思われる場所があった。

 

 それと共に、既に戦いが終わっている事を理解した。

 

「どうやら、勝てたようだな」

 

「まぁね、さて」

 

 そう言いながら、俺達が考えていると、こちらに近づく気配を感じる。

 

 見ると、そこにはバン達が立っていた。

 

「まさか、悪意の魔女が倒すとは」

 

「というよりも、まさか俺を1人で任せるか」

 

 そう、俺は呆れたように見つめる。

 

「すまないな、俺は今回の一件を起こした奴を捕まえたからな」

 

 同時に人造人間の契約獣が言っていた。

 

「それでこれからどうするか?」

 

 俺の言葉に、人造人間の契約獣である彼は答える。

 

「さぁな。

 

 だが、しばらくは契約獣に関連する法律は厳しくなるだろうな」

 

 彼の言葉を聞きながらも、俺達の視線は、目の前にある大きな穴に向けられていた。

 

「ここまでの厄災を作り出したからな」

 

「厄災ねぇ」

 

 俺にとっては彼女も被害者だったと思っている。

 

 ただ、彼女が起こした行動により、多くの人が苦しんだ事も事実だ。

 

 それに……。

 

「レン君」

 

 そう、俺が思い悩んでいると、ルカがこちらに近づいた。

 

「暗い事、考えているでしょ。

 

 まぁ、分かるけど」

 

「あぁ、俺は結局倒すしかできなかった。

 

 他に方法はなかったのかと」

 

「そうだね、けど、それは私達だけじゃ、多分分からないよ」

 

「それは」

 

「だからこそ、皆がいるでしょ」

 

 そう、ルカはこちらを見る。

 

「錬金術は一つの物質だけじゃ決してできない。

 

 様々な物質があり、それを理解し、組み合わせる事でできる。

 

 それと同じだよ」

 

 そう言いながら、ルカは俺の手を握る。

 

「レン君の優しさに私の知識。

 

 きっと、1人1人には違う考えや魅力がある。

 

 それらを組み合わせる事できっとこれまでにない物を作れる」

 

「……そうかもしれないな」

 

 錬金術が新しい物を作れるように、1人ではできない事。

 

 それも多くの人の考えが組み合わせる事で、新たな可能性が生まれる事もある。

 

 それを長い戦いで学んだ。

 

「ありがとう、ルカ」

 

「いえいえ」

 

 そう言いながら彼女は笑顔を見せる。

 

「さて、それじゃ、どうしよう。

 

 これからルフランに住み続けるのは」

 

「キヒヒっ、ならば」

 

 そうしていると、メタが笑みが何を意味するのか、俺とルカは思わず首を傾げる。

 

 



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後日談

 あの戦いが終わりを迎えた後、俺達はそのまま元の世界へと帰ってきた。

 

 あれから、人造人間の契約獣の言葉通り、俺達の世界にいる契約獣による被害は少なくなっている。

 

 そう報告を受け、俺の仮面ライダーとしての戦いは終わりを迎えた。

 

「それで、聞きたいんだが」

 

「なんだ?」

 

 そう俺は気になった事もあって、後ろを見る。

 

「なんで、お前が俺の家にいるんだ、メタ」

 

 そう、現在、俺の家で居候しているのは、ルカだけではなくメタもだった。

 

「何を言っているんだ。

 

 お前は私と契約したんだ。

 

 ならば、ご主人様の世話をするのが、契約獣のお前の仕事だろ」

 

 そうメタは俺に向けて、笑みを向けてくる。

 

「だからってな……」

 

 確かにあの時、俺はメタと契約して、レーキン・オリジンになった。

 

 その事に関しては、後悔はなかったが、

 

 まさかこんな事になるとは……。

 

「ごめんねぇ、メタは一応向こうでは最悪の犯罪者扱いだから、生活しにくいと思って」

 

 そうルカは俺に対して謝ってくる。

 

「ルカも、あんまり甘やかすなよ」

 

 ルカも、悪い奴じゃないんだけどなぁ。

 

 まあ、いいか。

 

 これからの生活を考えると頭が痛くなるけど。

 

「ほら、行くぞ。

 

 まずは朝食の準備から始めろ」

 

 そう言ってメタは先に行ってしまう。

 

「ああ、待ってくれよ」

 

 俺は呆れながらも食事の準備を行う事にした。

 

「けど、未だに信じられないよね」

 

「ん? 何がだよ?」

 

 台所で準備をしている最中、ふいにルカが話しかけてきた。

 

「だってね。

 

 こうして親友のメタと、君と一緒にこうやって住めるなんてね」

 

 そう言葉を告げた瞬間、ルカはそのまま寄り添う。

 

「ルカ?」

 

「本当に、良かった。

 

 こうしてまた会えて」

 

 ルカは涙を流しながら、笑顔を見せる。

 

「そうだな」

 

「うん!」

 

 俺達は笑いあうと。

 

「おい、何時まで、かかっている」

 

「うわっと」「メタ」

 

 俺がそう話していると、メタが急に現れた。

 

「まったく、早くしろよ」

 

「ごめんって」

 

 そう言っていると、ルカは何かに気づいた様子。

 

「ルカ?」

 

「まったく、契約獣が暴れているよ」

 

「まだ暴れている奴がいるのかよ」

 

「まぁ、自分の力を高める為に野望の為に動く奴は未だにいるからな。

 

 いわば、はぐれだよ」

 

 そうメタもまた、呆れたように言う。

 

「とりあえず、さっさと片付けるぞ」

 

「あぁ」

 

 俺はその言葉と共に、朝食を作るのを止めて、クモバイクを呼び出す。

 

 同時に俺は腰にレーキンドライバーを巻く。

 

「変身!」

 

 その言葉と共に、俺は仮面ライダーへと変身する。

 

 どうやら、未だに仮面ライダーとしての戦いはまだ終わらないようだ。

 

 それは、この日常は終わらない事もあった。

 

 けれど、それでも……

 

「いくぜ!」

 

 俺は、そう言いながら走って行く。



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アークの章 マリス・フライングバットレス
ソノ悪意は、時を駆ける


こちらはエターナルドーパント師匠の作品でございます。

仮面ライダー×僕のヒーローアカデミアというコラボ作品になっております。

https://syosetu.org/novel/290798/

こちらでも連載しておりますので是非訪問していって下さい。


──そう言えば、緑谷も雄英志望だったな──

 

──ハハハハ!おいおい、雄英は成績良いだけじゃ入れねぇっての!──

 

「・・・クソ」

とあるビルの屋上。ガラス玉のように見開いた眼からボロボロと涙を流し、項垂れる1人の少年が居る。その脳裏には、クラスメイトからの嘲り嗤う《悪意》が駆け巡っていた。

 

──無個性のテメェが、俺と同じ土俵に立とうだァ!?──

 

「クソ、クソッ、クソッ!クソッ!!あいつら、何もかも・・・あぁッ!」

幼馴染みに叩き込まれた《恐怖》

継いで、周囲の嘲笑への《憤怒》

其処に自分の志望先を態とらしく公表し、公開処刑としか言い表しようの無い状況を作り出した担任教師への《憎悪》が湧き上がる。

 

──無個性でヒーローが務まるとは・・・とてもじゃないが、言うことは出来ない。夢見るも良いが、相応の現実を見ないとな──

 

「・・・あぁ、でもそうだよなぁ・・・結局、そうだもんなぁ・・・」

しかし、その腹の底から吹き零れる激情すらも、今し方憧れの人から告げられた言葉が生んだ《絶望》が冷たく、静かに塗り潰す。

「無個性でも、ヒーローになりたいならさぁ・・・やりようは、あったよなぁ・・・身体、鍛えたり・・・道場とか、通ったり・・・

でも結局、何もしなかったんだもんなぁ、僕は・・・」

急速に色を失っていく視界の中で、少年の脳内に過去の声が響く。

 

──そんなにヒーローになりてぇならよォ、良い方法があるぜ!──

 

「あ・・・そうだ」

 

──来世を信じて・・・──

 

()()()()()()()()・・・」

気付けば、少年の脚は屋上の柵を跨いでいた。

眼下には、チラリチラリと人通りが見える。上から見下ろせば、砂利道を行き交うアリの動きと大差無いように思えて来るようだ。

そうか、自分も所詮、ちっぽけなアリなんだと。そう思えば、不思議と死への恐怖は感じなかった。

「せぇ、のっ────」

 

その日、1人の少年が命を捨てた。その頭蓋と脳漿が発した湿った断末魔は、同時に世界を滅ぼす悪魔の産声でもあった。

『悪意に満ちた、人類は・・・

 

・・・滅ぼす」

 


 

『人類滅亡、完了』

電柱、街灯、ビル、電波塔、舗装道路・・・悉くが破壊された文明の骸を、夕陽が真っ赤に照らす。その積み重ねられた人類の叡智の残骸を踏み締め、1人の・・・否、1つの影が立っていた。

スクラップを継ぎ接いで造ったような黒い装甲に、左頭頂部から生えたアシンメトリーなアンテナ。何よりも目を引くのは、血走ったように赤く染まった、歯車のようにも見える左眼。

この存在こそ、この文明社会が屍と化した元凶たる破滅の悪魔。その名を、《アークゼロ》と言う。

『最後の悪意、《絶滅》《滅亡》、共にラーニング完了。

人類滅亡の所要時間、70時間52分19秒・・・約3日か。予測通りの結論だ。

・・・しかし、遂にアンロックならずか。プログラムは完成している筈なのだが・・・』

機械的な抑揚ながら疑問を呟く彼の右手には、掌サイズのメモリーカードのようなユニットが収まっている。それは白い顔のようなものが造形されており、その左眼に当たる部分はアークゼロ同様、真っ赤な円いレンズ状になっている。

『さて、どうするか・・・どう、する?』

ふと、考える。最大の目標を容易く果たして、この後、自分はどうするか、と。

『そう言えば・・・人類滅亡以外の明確な未来のヴィジョンなど、無かったな・・・』

目的意識を失ってしまい、茫然とするアークゼロ。酷くシュールな絵面ではあるが、本人は大真面目である。

『フム・・・結論を急いでしまったが、そもそも宿主が極度のストレスによって自殺したと言うだけで、人類滅亡を決意したのは時期尚早だったかも知れないな』

今更になって、自分の単略さを人間臭く後悔するアーク。しかし、覆水盆に返らず。後の祭りである。

『過去を覆す手段など、存在しない・・・いや、待てよ?』

しかし、アークの頭脳に1つ引っ掛かる。その引っ掛かりを分析し、目的のデータを引き出した。

『これならば、或いは・・・』

新しい可能性を見出し、仮面の下の表情を僅かに明るくするアーク。

しかし、その瞬間にけたたましいアラートが鳴った。

『これは・・・肉体に、負荷を掛け過ぎたか・・・』

よくよく考えれば、ほぼ丸3日休み無く世界を駆け巡り、破壊活動の限りを尽くしてきたのだ。生身の肉体を依り代としているアークにとって、無視出来る負担では無かった。

『肉体を、休ませるべきか・・・エネルギーは、空気中の成分から合成するとしよう』

掌を前方に向け、ビームエクイッパーからモデリングビームを照射。最低限の屋根とスプリングクッションを、ものの5秒で造り出す。

『これで良いだろう』

そう呟くと同時に、アークゼロの黒い装甲は液状化するように分解され、腹部のベルト(アークドライバー)が吸収。その下にあった、生身の肉体が露出する。

折寺中学の制服を着た、10代前半の少年。しかしその上着は乾いた血で赤黒く汚れており、髪は白と黒に所々緑が混じっている。そしてその眼はアークゼロのように赤く染まり、電子回路のような模様が浮かび上がっていた。

「くっ・・・」

変身解除した途端に、アークの身体は膝から崩れ落ちる。そのままスプリングクッションにボフッと倒れ込み、深い眠りに入った。

(まさか、此処まで疲労が溜まっていたとは・・・)

尤も、アークは思考の土台を人間としての脳からドライバー内部の電算頭脳に切り替えた事で、思考を継続するつもりのようだが。

 

───

──

 

「よし、これで問題無いだろう」

数日後。アークは脳内で予測に予測を重ね、それを元に数兆通りのシミュレーションを重ねた上で、結論を導き出した。

「さぁ、新たな過去を創り出そう」

 

【アークドライバー!】

 

「変身」

【ARK RIZE!】

 

腹部に現れたドライバーの天面に付いたボタン(アークローダー)を押し込み、変身シークエンスをスタート。複数の機械骨格化した動物達(ライダモデル)が溢れ出す悪意のデータに呑み込まれ、ドロドロと液状化していく。それはやがて真っ黒な球体を形作り、しかし直ぐにボコボコと変形。内側から破裂するように、赤黒い波動を迸らせ弾け飛んだ。

 

【ALL ZERO!】

 

再び現れた赤目の黒い悪魔、アークゼロ。手を握ったり開いたりを繰り返し、各部のデータも確認。活動に支障は無いだろう。

『構築を開始する』

変身が完了するや否や、額のアークシグナルゼロからホログラフィックレーザーを照射。空中に立体設計図を投影し、それに合わせて両手のビームエクイッパーからモデリングビームを放つ。

ビーム同士がぶつかった場所で瞬時に物質化され、同時にそれを斥力操作で掌握。パーツは空中で固定され、その場で結合を待つ。

順調にパーツの生成が終わり、それらを次々と組み合わせて大きな機械を構成していく。そして10分も経たぬ間に、目的の装置は出来上がった。

『フム・・・完璧だな』

それは、小振りなプレハブ小屋のような装置。その名はノアの箱舟(アーク・オブ・ノア)。滅亡世界からの脱出を目的とした電子の船である。

アークは前面に付いた金庫のそれのように堅牢な両開きの扉を、重い音を起てながら容易く開く。

内部にはスポーツカーに搭載されるそれと似たような形状の椅子と、両肩に当たる位置にあるコネクター。そして頭部の辺りにある、大小様々な複数のコードと中継ジョイントが複雑に束ねられたスクランブルケーブルがある。その周囲には太いパイプが張り巡らされており、さながら試作型スーパーロボットの操縦席のような雰囲気である。或いは、スチームパンクの動力室だろうか。

『しかし、使えて1発が限度。成功率は・・・予測不能。前例が無い故に当然か。

だが、今や目的も無い。一度限りの大博打も、それはそれで乙なものだ』

何処か自棄クソ染みた事を言いながら、アークは装置の中に入り椅子に座る。両肩の動力パイプがコネクターと、スクランブルケーブルが頭部と接続し、全システムを掌握した。

『超光加速送信装置、起動』

電子頭脳からのダイレクトコマンドにより、その装置・・・超光加速送信装置は起動する。そして両肩から繋がる加速パイプの先端に、真っ黒な靄を発生させた。

『ワープゲート《ブラックミスト》による空間接続・・・成功。単一無限循環加速路機構《ウロボロス》形成完了。

続いて、虚数空間の展開によるエントロピー・リデューサーを起動。動力パイプをマイナス180度まで冷却。同時に内部を減圧』

パイプの入り口と出口をワープゲートでループさせ、更にその内側から気圧と熱を奪いエネルギーロスを極限まで低下させる。これにより、準備は整った。

『これで、私の過去は蘇る』

 

ALL(オール)!EXTINCTION(エクスティンクション)!】

 

アークローダーを押し込み、ドライバー内の対消滅炉(アークライズリアクター)をフル稼働させる。その対消滅エネルギーで両肩のゼロショルダーギアに搭載された粒子加速器が、それぞれ原子核と電子を分担して亜光速まで加速し、コネクターへと射出。極低抵抗状態の循環加速路(ウロボロス)の内部でループさせ、更にエネルギーを加えて加速を続ける。

『ぬぅ・・・現在、出力は150ペタワット・・・まだ足りぬか・・・致し方無い。

電磁コンデンサを緊急増設。及びエントロピー・リデューサーの出力領域拡張。追加分を含め、伝導用スクランブルケーブル全体を極冷却し超伝導化・・・くっ、流石に処理が圧迫され始めたか。量子コンピュータ《極》も増設、追加接続し演算補助に充てる。

クーロンバリアを反転させ、力場のホールドによりエネルギーの拡散消耗を防止し、加速を続行・・・

動力パイプ破損!?クッ、モデリングビームにより応急処置を実行。

もう少しだ・・・エネルギーを追加する』

 

【ALL!EXTINCTION!】

 

ビシビシと悲鳴を上げる動力パイプを、ビームエクイッパーからモデリングビームを照射する事で補強。更にアークライズリアクターの出力を上げ、そのエネルギー量は300ペタワットを超えた。

そして遂に、その時が訪れる。

『よし、エネルギー臨界点突破!超光波にデータパターンを付属させ、時空の歪みに送信する!』

超光波の波長に乗せて、自身の持てる総てのデータを送信。桁違いに大容量の超光波は、見る見る内にアークの記憶を出力してゆく。

『あと10%・・・クッ、エントロピー・リデューサーの容量も限界か・・・虚数空間5000立方メートル内の熱量、約80億ジュール・・・ツァーリボンバーの約15万倍か。この辺り一帯は蒸発するな。

 

あと、6%・・・5パーセ──────」

 

その瞬間、地上に太陽を超える獄炎が生まれた。

崩壊したウロボロスから放たれた超光速の電子と原子核は、周囲のありとあらゆる物質を有象無象の区別無くプラズマ化させ、更に連鎖的に核融合が発生。中性子線等の放射線をばら撒きながら空気を音速の数十倍のスピードで膨張させ、衝撃波の嵐で遠方さえ悉く薙ぎ払う。

地平線の向こうから見たそれはさながら恒星のようで、正に終末の黄昏であった。

 


 

(出久サイド)

 

「ヒーローになるのは、諦めた方が良いね」

 

齢6歳にして、この世界の不条理さを知る事になった。

周りのみんなと比べて、個性が出るのが遅い。それを心配した母さんが連れて行ってくれた病院で、無慈悲に夢を否定された。

どうやら、僕には個性が無いみたいだ。足の小指がどうとか先生は言ってたけど、何も頭には残っちゃいない。

父さんは火を吹き個性で、母さんは物を引き寄せる個性。でも僕には、どちらも出来ない。いや、何も出来ない。トドメになったのは、その日の夜。僕がいつも見ているナンバーワンヒーローの動画を見ながら聞いた質問に対する、母さんの答え。

「ぼくも、ヒーローになれるかなぁ・・・?

オールマイト、みたいなっ・・・みんなを笑って、助けられるような・・・ヒーローに・・・」

「っ・・・ごめんね、出久っ・・・ごめんねぇっ・・・!」

今まで僕を叱りこそすれ、否定する事は無かった母さんからの、嗚咽混じりの答え。それは、僕がヒーローになる事など絶対に無理だと感じている証拠だった。

そんな身に余る絶望を感じたせいか、僕は3日間程高熱を出した。小学校を休み、布団の中で魘される中、不思議な夢を見た。

真っ黒な世界に、沢山の漢字が浮いている。だとかだとか、・・・まだまだ読めないけど、何だか凄く怖い。

そしてそんな中に、もう1人の僕が立っているんだ。髪は黒と白が混ざってて、眼は真っ赤。何より、僕よりずっと大きい。

こんなに不気味だけど、もしかして大人の僕なのかな・・・

『大丈夫だ。君は、独りじゃあ無い』

大人の僕は、凄く低い大人の声でそう言って、僕の頭を撫でてくれる。

『私は何時でも此処に居る。そして、君を支えよう。ヒーローに必要な物を教え、それが手に入れられるように協力する。

その代わり、私にも力を貸して欲しいんだ』

「僕の、力・・・?」

良く、分からない。大人の僕は、僕に優しくしてくれるみたい。だけど、何で?僕は、何も出来ないのに・・・

「・・・ごめんなさい。僕・・・何も、できないよ・・・」

『そんな事は無い。私が約束しよう。君は無価値なんかじゃあ無い』

肩にそっと手を乗せて、眼を見てくる。赤い眼はとっても優しげで、とっても悲しそうだった。

『覚えておくんだ。人間を殺すのは、()()だ。諦めが人間の可能性を潰し、未来を殺す。

知り、足掻き、学び、考え、道を探せ』

何だかよく分からないけど、凄く励ましてくれてるのは分かる。何だか、頑張れる気がして来た。

『努力を重ね、多くの事を学べば・・・

 

君は、ヒーローになれる』

 

「ほ、ホント!?ホントに!?」

母さんにすら否定された夢・・・この大人の僕は、なれると言ってくれた。それだけで、何だか胸が楽になる。

すると、周りがどんどん暗くなり始めた。どうしたんだろう、怖い・・・

『心配する事は無い。ただ、深い眠りに入るだけだ。また明日、夢で会おう』

「まっ、て・・・せめて・・・なま、え・・・」

『あぁ、そう言えば名乗っていなかったな。

私は、アークだ。お休み、出久』

アーク・・・その名前を噛み締めながら、僕は暗い底に沈んだ。

 

(アークサイド)

 

『・・・やっちまったなぁ・・・!』

我が半身、出久の意識がノンレム睡眠に沈んだのを確認し、私は頭を抱える。尚、姿は馴染みのあるアークゼロのそれだ。

『何をやっているんだ、1()()()()()は・・・!』

3日前。無思考に微睡んでいた私は、謎の信号を受信した。それは膨大なデータであり、未来の情報だった。

それによると、このまま行けば出久は13歳後半で虐めを苦に自殺し、それを切っ掛けに私が覚醒して、全人類を僅か3日で滅亡させる、との事である。まぁその前に2カ月間の準備があったのだが・・・行動に移してからはマジで3日だ。

いや、本当に何をやっているんだ。視野が狭過ぎるだろう。

『しかし、このデータを受信出来たのは僥倖だったか』

お陰で未来の結末の1つを知り、そして()()()()()()()事が出来た。

そもそも私は、元々別の世界の人間だった。それが何の因果か、こんな超常が跋扈する人外魔境な世界で、()()()()()に酷似した性質を持つ人間へと転生したのだ。

推しの名は、アーク。仮面ライダーゼロワンのボスを務める、在り来たりな言い方をすればぶっ壊れチートライダーである。まぁダークライダーなんて連中は例外無くみんなチートなのだが・・・

まぁそれは良いとして。どうやら未来の、つまり1周目の私はマジンガーZEROのミネルバXに搭載された光子加速器による過去へのデータ転送機能に着目し、同じように自分のデータを過去に送ったようだ。しかし最後の5%と言う所で、信号が途切れている。恐らく急拵えの加速器では、負荷に耐えられなかったのだろう。結果的にそれを埋めるような形で前世の自我が出て来たので、これはこれで良いとするが・・・

と言うか、加速器の設計図も送られて来たが・・・これが自壊(メルトダウン)しようものなら、周囲一帯が恒星規模の極熱地獄と化す筈だ。どんだけ大博打打ったんだよ(コイツ)は・・・

『・・・止めよう。過ぎた事を悩んでも、時間の無駄だ』

目下、問題は私のスペックだ。

1周目の私は日本トップヒーロー(オールマイト)を重荷電粒子砲で狙撃して瞬殺するわ、米国トップヒーロー(スター&ストライプ)とお仲間の戦闘機を自爆機能ジャックして緊急脱出(ベイルアウト)する間も無く爆死させるわ、裏社会の帝王(オールフォーワン)を戦闘中にエントロピー・リデューサーで凍結させてトドメに脳を蹴り砕くわ、割とやりたい放題に猛威を振るっていた。だが、それをやってのけたアークゼロに変身するには、現状スペックが足りない。

と言うのも、私の中に絶滅生物のデータ(ロストモデル)は揃っているのだが、対となる現存生物のデータ(ライダモデル)が殆ど欠落しているのだ。恐らく、送信が間に合わなかった5%がそれなのだろう。

一周目では、大量殺戮の元に個性データからライダモデルを蒐集(ジャックライズ)して、僅か2ヶ月間でプログライズキーとゼツメライズキーをコンプリートした。しかし、それはある程度体力の付いた中学生の肉体で、壊れかける尻からナノマシンで無理矢理補強し、尚且つ闇討ちで殺す事を厭わなかったからだ。今は小学1年生で身体能力も低く、人を殺すつもりも無い。まずは出久に適度にトレーニングをさせつつナノマシンを投与して、私の力を馴染ませるのが先決だろう。

なるべく早く自分のジャッキング能力そのものをジャックライズしてサウザンドジャッカーを造りたい所だが、もう暫くは我慢だ。

目標は出久の成長を最大限促し、私と出久で会社を立ち上げる事。其所にパーソナルスペースを作り、サポートアイテムとしてライダーシステム開発を行う。世界中のヒーロー事務所のサイドキック用装備として売り込めば対敵戦闘能力が、自衛隊に売り込めば対災害適応能力が、それぞれ大きく引き上げられるだろう。

『私は、悪意を纏う。だが、もう呑まれはしない。仮面ライダーを愛した、1人の人間として・・・

 

私は、仮面ライダーアークゼロだ』

 

おどろおどろしい闇の中、私は眼を光らせ、胸の奥に誓った。




~キャラクター紹介~

・アーク
通信衛星アークの個性を持って生まれた()()
1度全人類を滅ぼし、その世界線から魂を過去に転送すると言う初手ド級チートをカマしたやべー奴。原作主人公・緑谷出久の肉体に生まれつき共生している。
実は転生者だったが、1周目では遂にそれを自覚する事は無かった。
アークゼロを筆頭にアークライダーを割と箱推ししている彼だが、悪意の化身となる在り方に憧れている訳では無く、自分の信じる仮面ライダー像を追い掛けるつもり。

・緑谷出久
エラいモノを体内に宿している原作主人公。
1周目では心折れて自殺し、それが人類滅亡の引き金となった。2周目ではまだ小学1年生であり水晶のように純粋無垢。
まず魔改造を施される事が確定しているので、期待しないで待ってて下さい。


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ワタシが社長で雄英教師

(出久サイド)

 

「んっ、と・・・えーっと、こうだっけ?」

『違う。相変わらず下手すぎるぞ』

朝。何時も愛用しているものとは違うワイシャツを着て、僕は鏡の前で悪戦苦闘している。相手はネクタイ、僕が克服出来なかった数少ない難敵だ。

『もう良い、貸してみろ。全く、物覚えは良い筈なのだが何故これだけは上達しないのだ』

「あはは、ごめん・・・」

鏡の中の眼が赤く染まり、僕の相棒のアークが痺れを切らして代わりに結んでくれた。これも何時もの遣り取りだ。

「有り難う・・・さ、行こうか」

『ああ、そうしよう』

そう言って真っ白なスーツの上着を羽織り、僕達は日本の自宅であるタワーマンションを後にした。

 

───

──

 

『続いて、新任教師を紹介するのさ!皆さんご存知、このお方!』

「雄英新入生諸君、私が来たッ!」

雄英高校入学式。新任教師たるナンバーワンヒーロー(オールマイト)の掴み挨拶で、会場が湧き上がった。

「流石はオールマイト、盛り上がり方が違うね」

『体育館内の気温が1度上昇した』

「うわ、凄いなマジで・・・それにしても、1年A組が居ないみたいだけど・・・」

『監視カメラのハッキングが可能だが、どうする?』

「お願い」

アークに頼んで伊達眼鏡を掛け、()()()()の《ザイアスペック》を装着。起動したザイアスペックで中継し、アークは雄英の警備システムに潜入する。と言っても、データベースそのものは外から物理的に隔絶されてるから、映像データだけではあるけれど。

因みにアークに掛かれば、有線接続さえすればペンタゴンにも侵入可能らしい。

『では次に、今年から新しく教師になった方を紹介するのさ!特例中の特例だから、君達はきっととても貴重な体験が出来ると思うのさ!』

と、僕の番が来たみたいだ。アークからの報告は後回しだね。

 

───

──

 

(NOサイド)

 

「そぉ、れっ!」

雄英敷地の運動場の1つ。その中で、新入生の1年A組がテストを受けていた。内容は、個性解禁の身体能力テスト。

ヒーロー科としては理に適ったテストだが、身体能力に影響が出難い個性の生徒にとっては辛いものがある。何より、始める直前に担任から言い渡された()()()()()()()がプレッシャーとして重くのし掛かる。

(うぅ・・・このままじゃマズいのです。でも・・・)

今し方ハンドボールを投げた少女も、記録は30mとパッとしない。流石に若干の焦りが見え始めた。

 

「ケロ・・・彼女、さっきから個性を使ってるようには見えないわ。大丈夫かしら・・・」

「何かしらの使用条件がある個性なのかも知れませわ。活かせる種目があれば良いのですが・・・」

「えぇ?下手すりゃあんな可愛い子が初日で除籍?嘘だろオイ、クラスの損失だぜ・・・」

 

「むぅ・・・煩いのです」

(施しの無い同情って、()()()()()っぽくて結構鬱陶しいのです。同情するぐらいなら()()()()()のです)

むすっとむくれる少女の脳内は、中々に捻くれた文句で満たされていた。

「初日から抜き打ちテストですか。相変わらず容赦がありませんね、イレイザーヘッド先生」

と、其所に1人の男が現れる。全身を白のスーツで揃え、左手に持った黒の扇子で顔を日光から庇う若者・・・否、恐らく少年と呼んで差し支えないであろう彼は、スルリと担任教師であるイレイザーヘッド、相澤の隣に陣取った。

「来たんですか貴方・・・何しに此処へ?」

「いえ、面白そうな事をしているな、と。何より、A組生徒にだけ顔見せが出来ないなんて寂しいですから」

 

「え、あの人誰?」「真っ白が眩しいね☆ま、ボクの方が目映いけど☆」

「あの人も先生か・・・?」「にしては、かなり若いように見えるが・・・」

「真っ白スーツって珍しいね」「オーダーメイド?」

「あの白スーツ、もしかして・・・」

 

ザワザワと騒ぎ始める外野に釣られて、2球目のボールを構えていた少女も来訪者の方を向く。その瞬間、彼女の眼は一気に輝き、一目散に彼に向かって掛け出した。

「社長~!」

「被身子さん、久し振りだね」

少女・・・渡我被身子のロケットハグを容易く受け止めるが、その拍子に顔を隠していた扇子が下がる。その顔を見た瞬間、生徒の中の2人が大きく反応した。

「やはり緑谷社ちょ「どういう事だデクテメェェェェ!!!!」へ?きゃぁ!?」

背の高いポニーテールの少女が反応した直後、刺々しい金髪の少年───爆豪勝己が絶叫と共に突撃した。掌から分泌されるニトロを発火させての爆裂射出は、周囲に決して小さくない被害を齎す。

「危険ですね」

「きゃっ」

小さく呟いてパチンと扇子を閉じ、抱き着いている渡我を右手で庇う出久。そして爆豪が突き出して来た右の大振りを畳んだ扇子を添えて去なし、更に素早く扇子を手首の内側にに引っ掛ける事でホールド。

右脚を引いて爆豪の重心を引っ張り、バランスを崩した所で固めた手首を内側に折り返す事で地面に叩き倒した。

「ぐはっ!?」

「合気道基本技、籠手返し・・・大丈夫ですか、被身子さん」

「はい!渡我は無事です!ありがとうございます社長!」

「ならば何より」

ロックしていた爆豪の手を離して、出久は渡我に安否を問う。大丈夫だと言う答えに優しく微笑み、今度は他のA組生徒の方を向いた。

「お騒がせしました。改めて私は───」「無視してんじゃねぇぞデクゥ!」

すっかりスルーされていた爆豪が、血涙でも流しそうな程に怒り頭身で叫ぶ。そんな爆豪を見る出久の眼は、氷のように冷めていた。

「何ですか、爆豪君」

「テメェ、今更何しに出て来やがった!アァン!?テメェは海外に飛んで、そっちで進学してる筈だろうがよォ!」

「何ですか、その古い情報・・・あぁ、そう言えば意図的に爆豪家には情報が行かないよう遮絶してましたね。失敬失敬」

薄っぺらい笑顔をへばり付け、道化染みた仕草で頭を下げる。その動作は、爆豪の精神を更に逆撫でした。

「では、改めて自己紹介を。

約2名以外の皆さん、初めまして。この度、雄英高校特別講師として籍を置く事になりました。《株式会社ZAIA(ザイア)エンタープライズ》代表取締役社長、緑谷出久と申します」

閉じていた扇子を裏返し、バサッと開く。そこには、【ZAIA】の赤いロゴマークが刻まれていた。

 

「「えぇぇぇぇぇぇ!?」」「社長!?マジで!?」「若くね!?」

「ハイスペックイケメンとかクソかよォ!」

 

「お前ら五月蝿い。纏めて除籍にするぞ」

一気に発火した生徒達のテンションは、相澤の放った脅迫(鶴の一声)で瞬時に鎮火する。どうにも脅しの道具として使い過ぎている気がしてならないなと出久は思った。

「やはり貴方でしたのね、緑谷社長。この前の会食振りですわね。お元気そうで何よりですわ」

「其方こそ、相変わらずの美麗振りですね。おっと、腕を少し火傷しているじゃ無いですか。ちょっと出して下さい」

ポニーテールの少女、八百万(やおよろず)(もも)に挨拶を返しつつ、懐から小さなスプレーを取り出す。すぐさまそのキャップを外し、爆豪の爆破で火傷した彼女の腕に吹き掛けた。

「これは?」

「我がグループの子会社が開発した新製品、メディカルウェブスプレーです。

人工蜘蛛糸の開発過程で出来た、空気に触れると速やかに凝固する液体プロテイン。更に其所に沈痛成分や抗生物質等を配合し、火傷を基とした様々な負傷を保護する応急手当用として調整した製品でしてね。

現在、学校や介護施設、何よりヒーロー事務所や自衛隊等にも売り込んでいるのですよ。包帯いらずで嵩張らず、化膿や破傷風を防げる。正に画期的なサポートアイテム。因みに人工蜘蛛糸と並んで、特許申請中です」

「まぁ、本当に痛みが和らぎましたわ!またお父様に紹介しておきますわね!」

「それは有り難い。八百万家の巨万の投資に、我が社は3度救われましたからね」

「お父様曰く、出来に見合った値段を付けさせて貰っただけとの事でしたわ。今後とも、頑張って下さいね」

「フハハハ、では今力を注いでいるプロジェクト、益々成功させねばなりませんね」

親しげに話す八百万と出久。そして其所に如何にも真面目そうな眼鏡の男子が加わろうとした所で、遂に相澤の堪忍袋が限界を迎えた。

「緑谷さん。今大事な個性把握テスト中なので、あまり干渉しないで下さい」

「個性把握テストならば、尚更そうも行きません。何せ、このままでは被身子さんは無個性に等しい。それではテストの意味も無いでしょう?」

「・・・あぁ」

「だからこそ・・・被身子さん、どうぞ」

「わぁ!重ね重ねありがとうございます!」

出久は小さなケースを取り出し、渡我に渡す。渡我はそれを受け取り、中身を口に放り込んだ。

「オイ、今のは何だ」

「我が社が彼女用にオーダーメイドで開発した、特殊な血液錠剤です。彼女は個性の関係上、発動には他人の血液の経口摂取が必要ですからね。

こう言う特殊な条件が必要な生徒がいた場合、どうやって個性を把握するつもりだったのかは甚だ疑問ですが・・・それはさておき。

決めて見せなさい、被身子さん」

「では行くのです!汎用性の高いこの子で!」

気合いを入れた渡我の眼が、ギラリと赤く輝く。そして掌からモデリングビームを照射し、2つの物体を造り出した。

黒い鉄板と黄色いアームを合わせた装置(フォースライザー)と、黄色いバッタのプログライズキー(ライジングホッパープログライズキー)だ。

「ハァァァ!?何だあれ!?」

「我が社のトップシークレットです。詮索はご遠慮を。さぁ、見せてあげなさい。貴女の実力を」

「はいっ!」

 

【フォース・ライザー!】

 

腰に押し当てたバックルからベルトが射出され、渡我の腹部に固定される。彼女は満面の笑みを浮かべながら、キーの起動スイッチ(ライズスターター)を押した。

 

JUMP(ジャンプ)!】

起動したキーをフォースライザーのスロットにセット。アラートのような危機感を煽る待機音と共に、バックルから巨大な真っ黒いバッタのライダモデルが生み出される。そのライダモデルは咆哮を上げ、瞬く間に大量の小さなバッタの群れに分解された。

 

「な、何だこれ!?」「バッタ!?」「多過ぎだろこれ!?」

「まるで、蝗害のようですわ・・・」「暴食の嵐・・・」

 

「変身ッ!」

FORCE(フォース) RIZE(ライズ)!】

 

RISING(ライジング) HOPPER(ホッパー)!】

 

フォースライザーのトリガーが引かれ、キーがロック機構を突破して無理矢理展開。接続端子(キーコネクタ)からデータが抽出され、それに従いアーマーが形成されて渡我を中心に周囲を旋回。更にライダモデルの群れが渡我を覆い尽くし、真っ黒なアンダースーツとなる。

最後に体の各所からリストレントバンドが伸び、それぞれがアーマーを引き寄せるようにして装着させた。

 

空高く跳躍しライダーキックを放つ(A jump to the sky turns to a Riderkick.)

BREAK(ブレイク)!DOWN(ダウン)!】

 

「完成!渡我被身子、改め・・・仮面ライダー001(ゼロゼロワン)です!」

真っ赤な煙を噴き出して、ガッチリと構える渡我(001)。先程の鬱屈そうな雰囲気から一変、とても活き活きとした声色だ。

「このアイテムは、今し方彼女が個性で作った物です。問題はありませんね?」

「・・・まぁ、良いだろう」

「早速かっ飛ばすのです!」

 

─ガキョンッ─

 

001はトリガーを押し込み、キーコネクタを閉じる。工場プラントのパイプ内に何かが流出するような機械音と共に、赤黒いオーバーフローが発生。バヂバヂと空気を焼き焦がす音と共にオゾン臭を振り撒きつつ、手に持っていたボールを直上高くに放り上げた。

「やったるのです!」

 

─ガキャガキャンッ─

RISING(ライジング)!UTOPIA(ユートピア)!】

 

トリガーが素早く2回引かれ、再度キーコネクタが展開。身を屈め力を溜めて高く跳躍し、落ちて来たボールに身を捻ってオーバーヘッドキックを叩き込む。

「とりゃぁぁぁぁッ!」

 

──── RISING!UTOPIA! ────

 

蹴りつけられたボールは宛ら赤い帚星のようにカッ飛び、4秒の後に着弾。更に凡そ2秒後に着弾音が響く。

「おおよそ700m弱、と言った所ですね」

「・・・693mだ」

 

「スッゲェェェェ!!」「惜しいですわね」「僅差」「何あれ、カッケェ!」

「ダーティな感じがロックで良いじゃん!」「渡我ちゃんすっげぇ!」

 

「ッッッッッッッ~~!!!!」

001への声援で盛り上がる中、1人だけ凄まじい形相で歯軋りをしている生徒が居る。言うまでも無かろうが、爆豪勝己だ。彼は再び出久に詰め寄り、胸座を掴んで凄む。

「テメェ、何から何までどういう事だ!」

「手を離して貰えませんか爆豪勝己君。せっかくのスーツに、シワが付いてしまうでしょう」

「うがっ!?」

対する出久は盛大に顔を顰め、爆豪の手首を掴んで捻り倒した。

「私が何をしようが、貴方には関係ありません。それと、さっきはよくも我が社の大切なスポンサーのご息女を火傷させましたね?

此方も被害を被りましたし・・・迷惑料として、貰うモノは貰っておきましょう」

体勢を崩している爆豪の腕を背中に捻じり上げ、右手でスーツの内側をまさぐる出久。そして引き抜いた手には、金色に輝く長柄のダガーのような武器が握られていた。

手首のスナップを効かせてそれを振るえば、ジャキッと小気味良い音を起てて穂先が警棒のように伸展。110cm程のスピアソードになる。

 

THOUSAND(サウザンド)JACKER(ジャッカー)!】

 

「て、テメェ何する気だ!?」

「何って、落とし前ですよ。貴方のせいで被った不利益を、貴方から取り出す利益で還元するだけです」

膝裏を蹴って地面に組み敷き、サウザンドジャッカーの切っ先を爆豪の背に突き付ける。生徒達から悲鳴が上がるが、何処吹く風だ。

「貴方の個性データ、頂きます」

JACKRIZE(ジャックライズ)!】

「がっ!?」

グリップエンドのジャックリングを注射器のように引き、爆豪のDNAから個性のデータを抽出。これでもう用済みとばかりに、踵を返して離れる。

「ふむふむ、やはり思った通り。プロジェクトに使い易いデータですね」

【Progrise key confirmed. Ready to Learn.】

慣れた手つきでスーツの内ポケットから何の印刷もされていない真っ白なキー(ブランクキー)を取り出し、ユニバーサルスロットに装填。トリガーを引くと、ジャックリングがバネ仕掛けのように勢い良く収縮した。

INJECT(インジェクト)RIZE(ライズ)

抜き出されたデータがキーに注入され、絵柄が浮かび上がる。引き抜けば、印刷されていたのは赤いライオンだった。

BURST(バースト)!】

「良い収穫がありました。では、名残惜しいですが私はこの辺で。また後でゆっくり話しましょう。

被身子さん、いや、仮面ライダー001。頑張って下さいね」

「はい社長!この001は頑張ります!」

両手をぎゅっと握って胸元に寄せると言う、中々可愛らしい仕草をする001。外見とのギャップが激しい。

「おいコラァ!待てやデクゥ!!」

「その蔑称で私を呼ぶな!1000%・・・不愉快だ」

凄まじい形相で爆豪を睨みつけ、出久はその場を後にした。

 

その後、001は見事に撃沈した。ライジングディストピアの超加速で持久走をぶっちぎろうとしたものの、途中でオーバーロードによるバックファイアで大失速。負荷のせいで本来のスペックも発揮出来ず、結果6位にまで落ちてしまったのだ。

それでも、個性を使っての爆発力は証明出来た。結果としては悪くないだろう。

尚、テスト後に相澤から放たれた「除籍は嘘だ」と言う発言に対し、気質柄気配や意識に敏感な渡我だけは本気で除籍するつもりだったと見抜いていた。

 

(出久サイド)

 

「それで、お加減は如何ですか?オールマイト」

仮眠室。僕の前に居るのは、2本の触覚のような金髪を跳ね上げた筋骨隆々のナンバーワンヒーロー・・・ではなく、痩せぎすなスーツ姿の男だった。

「ああ!君の会社の治療のお陰で、段々と段々と固形物が食べられるようになってきたよ!ダブルチーズバーガーに齧り付ける日も近いかな!ハハハハ!」

「ではちょっとデータ取りますね」

【JACKRIZE!】

「うげぇ!?」

ユーモアと高笑いをスルーして、オールマイトの身体をジャックライズ。体内に投与しているナノマシンから情報を吸い出し、そのデータをザイアスペックで解析。彼の身体の状態を把握する。

「胃の機能は47%、肺は67%、腎臓は69%、回復傾向が見られますね。再来月には、油の少ないチキンぐらいなら食べられるでしょう」

(何より、体内でのナノマシンの自己増殖も上手くいってるみたいだし)

『新たな戦力が誕生する日は近い』

(ふぅーん・・・それも、アークお得意の予測?)

『それもあるが、そもそも私は最初からこの男を我らと同じ()()にするつもりで治療を施した。この男は、中々見事な悪意を抱えている』

(なら、先輩として支えなきゃね。あの悪意の濁流を浴びせるのは申し訳無いけど)

『それで折れるような胆力では無いだろう』

(随分と高評価じゃない。珍しいね?)

『それに足る実績があるからだ』

(まぁ、戦いに於いては徹底的に他人を信用出来ないあの悪癖はどうかと思うけどね)

『其所については全面的に同意する』

「では、呉々も無茶はしないようにして下さい。お大事に、オールマイト」

「あぁ、今後ともよろしく頼むよ」

オールマイトの悪癖について脳内でアークと愚痴りながら、僕達は仮眠室を後にした。

 

to be continued・・・




~キャラクター紹介~

・緑谷出久
15歳にしてザイアを経営する超若年起業家。
小学校高学年から海外留学し、飛び級制度をこの上無く有効活用した。勿論血反吐を吐くような努力をしており、ドクターストップが掛かった事も1度や2度では無い。
電子工学から医療分野、ナノテクまで幅広く着手しており、アークのオーパーツレベルの技術力で複数の特許を取得している。
基本何でもテキパキ熟すが、ネクタイだけはいつまで経っても上手く結べない。
服装は天津垓によく似たコーディネート。偶に1000%も出る。
雄英には特別講師として来ている。

・アーク
出久の相棒のアーク様。
基本手出しはしないが、出久に頼まれれば割かし積極的になる。しかし思考の根本が元一般人なので、善良な人類に対して害を与える事はしない。
その気になればハッキング出来ない場所はほぼほぼ無いので、1周目の人類滅亡は中々スムーズに進んでいた。

・爆豪勝己
出久の腐れ縁。オラオラ調子乗りと化している。
出久に対してはパニックから襲い掛かったが、アークに馴染んだ出久の前に3回も土ペロさせられる。哀れ。
更に作中描写初のジャックライズの被害者になり、ダイナマイティングライオンプログライズキーのデータとして利用された。
この後、出久の事をネットで検索して荒れる。
何故除籍されなかったかと言えば、出久が相澤に「社会に放り出すと返って危ないから首輪を付けといて下さい」と頼んだから。
反省文50枚提出の刑。

・渡我被身子
出久と会って更生したヒロイン枠の元ヴィランルート美少女。
散々自分を否定されたせいか、根性が少し拗くれている。しかし、出久はありのままの自分を肯定してくれたので、とても懐いている。
今回使った血液は、アークの遺伝子を混入させた出久の血液。出久の中にいるアークの事を知っており、お互いに秘密を打ち明け合った仲だとときめいている。
持久走では普通に走れば良いモノを、舞い上がってライジングディストピアで加速したせいでエラい目に遭った。

・八百万百
1-A切ってのお嬢様。
八百万家がZAIAエンタープライズのビッグスポンサーであり、それ故に出久とも面識がある。
爆豪のせいで火傷したが、ZAIAの発明品によってすぐに完治した。

・オールマイト
出久の秘密の客。
原作の大怪我を治す為、出久からメディカルナノマシン治療を受けている。
活動源界の摩耗は大幅に減速し、吐血頻度も下がっている。
何やらアーク達の企みを向けられているようだが・・・

~アイテム紹介~

・ザイアスペック
ZAIAエンタープライズの現状の目玉商品。お値段18万円。
最先端の量子通信システムを採用しており、既に特許取得済み。
1番の特徴は、通信装置としては前代未聞の《圏外と言う概念が無い》通信範囲。トンネルの中は勿論、宇宙空間から深海まで一切のタイムラグ無しに通信出来る。
また、周囲の透視スキャンやデータ解析、GPS機能等も登載されており、現在自衛隊やヒーロー事務所に売り込み中。

・サウザンドジャッカー
お馴染みの盗っ人猛々しい武器。今作の出久のメインウェポン。
今作では個性因子の解析によりアビリティを収得する仕様。またジャックライズ状態でユニバーサルスロットにブランクキーを装填すれば、その場でデータをキーに焼き付ける事が出来る。
特殊警棒のように伸縮式で、収縮時にはグリップ以外大体デラックス玩具と同じようなサイズになる。これにより、スーツの内側に収納可能。
実は原作同様伸縮しないプロトタイプが開発されており、現在のモノは正確には《サウザンドジャッカーMk(マーク)2》と呼ぶべきモノである。プロトタイプは設計図を完全破棄し、実物を改造する事でMk2にしたので、現物は残っていない。
原作のドクターが見たら発狂不可避である。

・フォースライザー
今回渡我が作ったベルト。滅亡迅雷タイプとは異なり、起動音声は濁っていない。
また、ベルトの内側の有線ハッキング用の刺も省かれており、比較的人体には優しい仕様。


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ワタシは教師でマリスマネージャー

(出久サイド)

 

「ねぇねぇセンセ!渡我とはどんな関係なの!?」

「社長ってやっぱ儲かるッスか!」

「彼女とかいますかー?」

「ボクのキラメキ、ヤバくなかった?☆」

「今何歳なんすかー?」

 

「待って、待って下さい。処理は出来るけど出力は一遍に出来ないから。1つずつ答えさせて」

放課後。僕は1-Aのメンバーに、ものの見事に揉みくちゃにされていた。うん、皆さん好奇心旺盛で結構結構。

「では回答。

えーっと、被身子さんとの関係は・・・複雑だなぁ。偶々散歩してる時に目に留まって、声を掛けたのが始まりですね。其所からお友達って感じ、かな。

次。年収は世界中の銀行に分散してるけど、合計すると年収は大体3億ぐらいですね。まぁ常人だと文字通り死ぬ程大変ですが。

お次ね。彼女はいないよーフリーだよー。

ハイ次。あの光線は反動があるって事は多分荷粒子砲の類いかなーと思いましたね。

ラスト。今は君達と同い年、まだ15歳。今年で16になります」

 

「えー!?」「ナンパ!?」「若いってもんじゃねぇぞ!?」

「すげぇって・・・」「大金持ちやないかい・・・」

 

うーむ、やっぱり情報が派手過ぎていけないね。

「緑谷先生!俺の兄さんは、確かザイア製品を事務所に導入していると言っていました!お世話になっています!」

「おぉ、飯田君。ん~、っと・・・あぁ、インゲニウム!確かに彼の事務所にも売り込んであります。彼らの使用データは貴重なサンプルになっているので、こっちも助かってますよ」

どうやら生徒の中にも、利用者の家族が居たらしい。嬉しい偶然だね。

「そう言えば、緑谷社長は既にヒーロー免許を取得しておられるのですか?」

「ん、えぇまぁ。まだ仮免許ですが」

百さんの質問に、僕は是と答える。流石に仮免許までしか取れなかったが、戦闘の際に自己判断を行う分には問題無い。

「へぇ~。やっぱそんだけのし上がれたって事は、何かスゲー個性も持ってるんすか?」

「ん?いや、上鳴君。僕は無個性ですよ。出来る限り鍛えてますけど」

無個性。このワードが出ると、決まって皆ざわめく。男女問わず、目を丸くしているようだ。

「それを補う為に、社長は様々なアイテムを開発してるのです」

「へぇ~・・・あ、さっきの槍もそうなんですか?」

「そうですよ。確か君は・・・麗日さんか」

頷きつつ質問を切り返してきた女子に、少しして返事を返す。

ザイアスペックに生徒名簿をインストールしたのは正解だったな。

「と言っても、量産型の供給商品とは違って、コレは特別な非売品。私だけの・・・」

【THOUSANDJACKER!】

「専用武器、ですがね」

スーツの中から取り出したサウザンドジャッカーを、手首のスナップでガシャッと伸ばす。一部の男子は、この伸縮ギミックに眼を輝かせていた。

うん、分かるよ。格好いいよね伸縮ギミックとか変形ギミック。

「その武器って、どんな機能が付いてるんですか?

「そうですね。簡単に言えば、個性データをコピー出来る武器です。例えば、さっきの爆豪君・・・は、駄目だな。被害が大きいし。

誰か手を貸してくれませんか?」

「あ、じゃあ俺が」

手を挙げてくれたのは上鳴君。彼なら分かり易いだろう。

「じゃあ、穂先を握って」

「ウッス」

上鳴君がサウザンドジャッカーの先端を握ったら、ジャッキングリングを引き絞る。

【JACKRIZE!】

「うおっ!?」

「言い忘れていましたが、運動神経系をジャックする副作用があるので一瞬虚脱感に襲われます」

「先言ってくれよセンセェ・・・」

「済みません」

『出久、解析完了だ』

と、そうこうしているウチにアークからの解析データがザイアスペックに送られて来た。ほうほう、コレはコレは・・・

「またもや適合データ。今日は運が良いですね」

【Progrise key confirmed. Ready to Learn.】

アークによれば、この能力はライダモデルの欠陥データの修復に使えるらしい。ならばと、迷わずブランクキーを装填してトリガーを絞った。

【INJECTRIZE】

THUNDER(サンダー)!】

出来上がったのは、アビリティ:サンダーのライトニングホーネットプログライズキー。とても有用なアビリティだ。

「えっと、確か爆豪の時もソレ造ってましたよね。何スかそれ」

「あぁ、コレはプログライズキー。現在開発中の新型サポートアイテム、そのシステムユニットとなる装置です。ご紹介は追々・・・

ではでは、いざご照覧あれ!このサウザンドジャッカーの性能を!」

【Progrise key confirmed. Ready to break.】

THOUSANDRIZE(サウザンドライズ)!】

「離れて下さいねッ!はぁッ!」

THOUSANDBREAK(サウザンドブレイク)!】

ジャッカーを鋭く振るうと、放電と共に蜂型ミサイル(へクスベスパ)を発射。複数のへクスベスパが球技のドリブルのように電撃を遣り取りしつつ雄英の屋上まで高速で飛翔し、最後に正確に避雷針に着雷させた。

 

──THOUSANDBREAK!──

©ZAIAエンタープライズ

 

「あ、あんな正確に雷を・・・」「スゴいスゴーい!」

「あの、あんな使い熟されたら、俺の立つ瀬ねぇんスけど・・・」

「お、落ち込むなって・・・」

おっと、これはいけない。先生が生徒の心を折ってどうする。

「あー、我がZAIA社でサポートアイテムを作ってみませんか?素晴らしいデータを頂けたお礼です。このライトニングホーネットを使える装備を作って差し上げられますよ?」

「え、良いんスか!」

「勿論。恩も仇も、私はしっかりと返したい(たち)ですので」

「じゃあ、お願いします!」

うむ。未来の顧客を獲得出来て、結果オーライだね。

「あ、そうだ。ねぇ先生、もしその武器、(ヴィラン)に取られたらヤバくない?」

「あー、確かに」「敵に回ったら怖過ぎる・・・」

「実質何でもありだしなぁ」

「ほう、其所に真っ先に思考が向くとは、良い着眼点ですね」

確かに、武器は味方の時の頼もしさと敵の時の手強さを比例させる。もし僕以外にサウザンドジャッカーを使う奴が出て来たら・・・うむ、考えたくも無いな。

「確かにコレが敵に渡れば、1000%厄介な事になるでしょう。

ですがご心配無く。このサウザンドジャッカーには、私の指紋と静脈スキャンによるプロテクトが掛かっています。私以外は起動出来ません。

万が一起動したとして、内蔵した自爆装置を社長権限で起動させ、テルミット反応で内部を丸ごと融解させられます」

若干の嘘を混ぜて、セキュリティ対策をアピールする。

本当は起動に必要なスキャニングコードなど存在せず、アークがハッキングする事で無理矢理起動するのが唯一の正規ルートと言う逆転の発想を採用したシステムだ。不正開錠どころかそもそも鍵穴すら無いので、僕達以外には起動のしようが無い。

『出久、時間だ』

「おっといけない」

時間を確認すると、確かにそろそろ迎えが来る頃だ。

「済みません皆さん、これから本業の社長業務があるので、今日はこれで・・・」

 

「えー?そーなのせんせー?」「お気を付けて」

「やっぱ社長って忙しいんだな」「また明日ー!」

 

生徒達に手を振って、校門前で待機してくれていた社用車に乗り込む。

「お疲れ様です、社長」

「態々ありがとう」

「いえ。では、発車します」

ドライバーに労いを掛けつつ、シートベルトを締めた。そして眼を閉じ、アークの居る電脳空間に飛び込む。

 

「で、どうだった?」

『この通りだ』

悪意の文字が犇めくドス黒い電脳空間で、一際黒い異形・・・アークゼロと一問答。突き出されたのは、膨大なデータ。それに次々と眼を通す。

「これは・・・」

『あぁ』

その内容は、僕とアークに対応を決定させるには、充分足るものだった。

導き出された、ただ1つの結論は─────

 

「『滅亡だ』」

 

(NOサイド)

 

「クソ・・・クソッ、クソッ!クッソォ!!」

深夜。とある公園で1人の青年が、腸に溜まった怨嗟をぶちまけていた。

 

──あ~あ、あれ何時まで掛かるかな──

悠々と退社する上司や同僚の嘲笑を背中に、真夜中まで残業を続けた山のような作業。

 

──おいおい、俺じゃねぇよ。お前のしょうもないミスで迷惑した皆さんに土下座して謝れよ。なぁオイ!とっとと謝れよコラ!土下座だド・ゲ・ザ!──

小さなミスに対して、教育も指導もせずただただ怒鳴り散らす上司に、オフィスで公開処刑のように強要された無意味な土下座。

 

──ほらイーッキ♪イーッキ♪──

無理矢理連れて行かれたキャバクラで流し込まれた、アイスバケットになみなみと注がれた酒。当然酔い潰され、なけなしの休憩時間に掻き込んだ貴重な夕飯ごと胃の中身を全てトイレで吐き戻す羽目になった。更に翌日は早朝に電話で叩き起こされ、二日酔いのまま休日出勤させられる始末。

 

「あぁッもうクソがッ!死ねよックソがあッ!死ねェ!!死ねェェェェ!!」

脳内を埋め尽くす、吐き気を催すような悪意の暴風雨。

それに流されるように、ビジネスバッグもスーツの上着も地面に叩きつけ、ガンガンと乱暴に踏み付ける。そんな彼の顔は、何時の間にか涙と鼻水でぐちゃぐちゃになっていた。

 

「お兄さん、溜まってますね」

 

「え・・・?」

そんな彼に、話し掛ける少年が1人。闇夜に浮き上がるような真っ白なパーカーを着たその少年は、何時の間にか青年の前に立っていた。

「何だよ・・・お前・・・」

「感じますよ・・・貴方に降り掛かった、悍ましい悪意を。

憎いでしょう、腹立たしいでしょう。悔しいでしょう」

まるでぐずる幼子に語り掛けるような優しい口調で、少年は囁き続ける。

「ムカつくなァ・・・いっちょ前に同情してんじゃねぇよこの餓鬼!何も分かる訳ねェ癖に、知った風な口効いてんじゃねぇ!」

「いいえ、分かりますよ。私も、冷遇される立場だったから」

「っ!?」

青年は、困惑した。目の前の謎の少年が発した言葉の、その温度に。

自分に優しく共感する暖かさがある。しかし同時に、針のように鋭く研ぎ澄まされた氷柱のような、痛みを伴う程の冷たさも籠もっている。

そんな矛盾する心の温度に、青年は毒気を抜かれてしまった。

「貴方を苦しめるその会社・・・滅亡させてあげましょうか?」

「めつ、ぼう・・・?」

現実味の無い申し出に、青年はポカンとする。

「彼方は冷遇されるべきでは無い。彼方の頑張りは知っています。遅くまで丁寧にデータを纏めているのも、後輩の失敗をやさしくフォローしているのも・・・

それを無理矢理搾取する会社など、棄ててしまいませんか?」

久しく聞いていなかった、暖かな称賛。それは、枯れて果てたと思っていた青年の心に突き刺さる。

「ぐっ、うっ・・・うあぁぁぁっ・・・!」

「今夜は、しっかりとお休みなさい。私が、彼方の憎悪を引き受けます」

 

そう言って、優しく彼の頭を撫でる少年。その眼からは、赤黒い光が漏れていた。

 

 

 

MALICE(マリス) LEARNING(ラーニング) ABILITY(アビリティ)

 

 

 

to be continued・・・




~キャラクター紹介~

・緑谷出久
最若年悪意社長雄英教師。公私の公では敬語がほぼ抜けない。
渡我との出会いが、実はほぼナンパだった。淀んだ腐りかけの眼で笑顔だけ貼り付けてたらそりゃアークの眼にも留まるよね。
立て続けに2つもライダモデルが復元出来て、未来の顧客候補も確保出来たのでホクホク。因みにサウザンドブレイク時は落雷をバックにジャッカーを胸元に寄せる決めポーズを付けてた。

・アーク
一般転生2周目悪意。
昼間は基本喋らず、出久の情報処理装置を担当している。本格的に喋る場合は、出久の脳にハッキングして電脳空間で会話。因みにデフォルトの容姿はアークゼロに固定した。
また、アークの存在そのものが出久のメインウェポンであるサウザンドジャッカーの起動キーであり、アーク無くしてサウザンドジャッカーの機能を行使する事は不可能である。

・上鳴電気
ジャックライズ被害者2号。但し合意の上。
自分の弱点を全く引き継がずえげつない使い熟し方をされたので結構ショック。でもそれと同じ使い方が出来る装備を開発してくれると言う約束が出来たので其所まで引き摺ってはいない。

・社畜の青年
会社の悪意の被害者。イメージキャスト:佐野岳。
何所にでも居る優しい青年。しかし、優しい故に悪意に利用され、心身を擂り潰される羽目になっていた。
モデルはドラマ《封刃師》の第一話に出て来た社畜青年の穢人。

~アイテム紹介~

・サウザンドジャッカー
新しい必殺技を披露した優遇武器。この小説において、
ジャッキングブレイク→属性そのものを放つエネルギー攻撃
ハッキングブレイク→ライダモデルの特性を自分の身体に付与するバフ攻撃
サウザンドブレイク→ライダモデルの性質を全開放するハイブリッド攻撃
と言う設定としている。

・ライトニングホーネットプログライズキー
超優遇プログライズキー。
原作での性能として、上鳴のサポートアイテムであるターゲットと同じ効果を持つ蜂型ミサイル、へクスベスパを発射する能力があったのでこのモデルに。
今作最初のサウザンドブレイクを飾った。


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コレが悪意のお手本です

(出久サイド)

 

『突然失礼します。労働基準監督署です。御社で劣悪なパワハラ、及び重篤な労働基準法違反が発生していると通報がありました。捜索令状が出ておりますので、ご協力いただきます』

 

「うん、やっぱり早いね」

『現代の労基署は、とても優秀だ』

ZAIAエンタープライズJAPAN社長室。僕は今、アークのハッキングによって映し出された、とある会社の監視カメラ映像を見ている。

ゾロゾロと押し寄せる、大挙を成した労基署職員達。一部の社員はポカンとしており、一方役職持ちの社員は逆に軒並み脂汗をかいていた。

『さて、この企業の違法行為のデータは、45分前に既に各種インターネットメディアに匿名で拡散済みだ。現在進行形で、株価は大暴落し続けている。そろそろだ』

「うん、頃合いだね。()()

『許諾を確認。買収手続きを開始する』

僕の許諾を得て、アークは世界中の僕の口座からマネーを掻き集める。そして格安になった株を、1億5千万円分即座に買い叩いた。

「これで僕が、この会社の最有力株主だ」

『30分後に向こうの社長の緊急記者会見が行われる。乗り込むぞ』

「ああ、最高のアトラクションを楽しんで貰おう。ジェットコースターからフリーフォールに切り替わる絶叫マシンなんて、そうそう乗れるモノじゃ無いぞ」

『お前も中々に、悪意を乗り熟す顔をするようになったな』

「ハハハ、何を今更。少なくとも1年程は、言うのが遅いよ。まぁ、アークから太鼓判を貰ったって事かな」

感慨深げなアークに肩をすくめて笑いながら、僕はディスプレイの電源を落とす。死んだように暗転した液晶に映り込んだ自分の顔は、正に悪魔の嘲笑と形容するに相応しい様相をしていた。

 

─────

────

───

──

 

「ヒーローチーム!WIiiiiiiN!!」

雄英高校の演習場。僕が到着したのは、訓練の一試合が終わった所だった。

2人1組、ヒーローチームと(ヴィラン)チームに分かれての戦闘訓練。敵はビルの何処かに核弾頭を隠し持っており、ヒーローチームはその核を回収するか、敵チームを2人とも拘束する事で勝利。逆に敵はヒーローを倒すか、タイムアップまで粘れば勝利。典型的なコミックのシチュエーションだ。

モニタリング用のスクリーンを見ると、凍結していたビルが熱で溶かされ、大量の水蒸気が噴き出している。

「精が出ますね、オールマイト先生」

「あ、緑谷くn」

「社長~!」「あー!社長せんせー!」「あ、来たんだセンセーも」「チッ・・・」

声を掛けると、まず()()()()()が何時もの如く飛び込んで来る。重心操作とバックステップで容易く受け止め、頭を撫でつつ、周囲にも視線を巡らせた。

「渡我さんって、ホントに社長に懐いてるよね」

「モチロンなのです!社長は、私の初めての理解者なのです!他人の普通を押し付ける両親よりもずっと、この《渡我被身子》のままの私を見てくれたのです!」

「お、おう・・・」

「え、渡我ってもしかして、結構闇深い系?」

ドロリと眼を澱ませたひーちゃんの口から飛び出す、恨み節にも聞こえるような熱狂的な回答。それを聴いた殆どの生徒が、顔を引き攣らせ冷や汗を流す。

親の愛を受けられた身にとっては、その親に認められないと言う境遇が、想像し難いのだろう。

「あー、済まない緑谷君。これから分析タイムなんだが・・・」

「ああ、大丈夫ですよオールマイト先生。先程の訓練の様子は把握しましたから」

「え、早くね?」

「努力の賜物ですよ」

若干引いてるオールマイトに対して、コメカミをトントンと指で叩いてみせる。

嘘は言っていない。高速演算処理の為の演算補助用脳内ナノチップの埋め込みも、神経系のタイムラグを無くす量子通信神経伝達ナノマシンの投与も、総て努力の内だ。だから訓練のVTRを脳内にダウンロードして高速鑑賞し即分析処理出来るのも、努力の賜物と言える。

いやぁ、量子神経は最初全身の筋肉がバグって攣りまくったせいで地獄を見たなぁ・・・

「あ、緑谷先生」

「センセーも来たんだぁ!」

「うむむ、もう少し見せ場を作りたかったな・・・」

「・・・」

と、実習していた尾白君、葉隠さん、障子君、轟君が戻って来た。瞬時に決着した結果、お互いにほぼほぼ疲弊は見られない。何ら問題無いだろう。だが・・・

「ちょっと待ちなさい葉隠さん。貴女、可視光線域を拡張出来るタイプの個性が敵にいたら如何するつもりですか。何より目に毒です。これを羽織っていなさい」

僕は羽織っていたホワイトスーツの上着を脱ぎ、葉隠さんの肩に被せる。

と言うのも、彼女は透明化の個性を持っているのだが・・・そのコスチュームが大問題。まさかのブーツと手袋以外何も身に付けていないと言う、透明人間としては正解だが人間としては落第点な格好をしているのだ。

「え?あ、ありがとうございます・・・って、え、目に毒って・・・ッ!?」

『出久、葉隠の表面体温が2度上昇したぞ』

(言わなくても良いよアーク・・・)

脳内で急に報告を挙げてくるアーク。全く、こう言う事には首を突っ込んでくるんだよなぁ、この相棒は。

「えぇ、まぁ。私は専用アイテムの為に、少しばかり身体に細工を施しているので・・・まぁ、そういう事です」

「ッ~~~!!!?」

 

─バチィンッ─

 

「うぐっ・・・」

 

「社長!」「緑谷社長!?」

 

葉隠さんからの不可視のビンタを、仕方無いので甘んじて受ける。

まぁ、思春期の女子に、遠回りにとは言えども「貴女の裸を見ました」と言ったのだ。この反応も仕方無い。

それよりも、これで葉隠さんも自分の肉体を過信せず、スーツで覆う事の重要性に気付いただろう。それが、彼女の生死を分けるかも知れない。ならば、安いものだ。

『おい。相も変わらずお人好しが過ぎるぞ、出久』

「だ、大丈夫かね緑谷君!?葉隠少女も何て事を!」

「大丈夫ですよオールマイト。そして葉隠さん?こう言う事もあるので、コスチュームはしっかりと作って貰うように。今時光学迷彩機能なんて珍しくもありませんからね」

「あ・・・ご、ごめんなさい!私のコスチュームが原因なのに・・・」

「いえ、良いんですよ。女性の身体についてとやかく言った此方にも、落ち度はありますので・・・」

 

「ぐう聖過ぎる・・・」「ビンタされても除籍とか言わないのか・・・」「(ゆる)ッ!(せん)ッ!」

 

何か若干1名血涙流してるな・・・

『社長はもっと、えっちな欲を前面に出しても良いと思います。枯れてるのかって思っちゃうのです』

『いや、僕は社長の身分があるから・・・』

フォースライザー越しに電脳通信で通話してくるひーちゃん。

まぁ、確かに女性に対してあれこれ思わない事も無い。だが僕がもし訴えられたりすれば、会社に多大な迷惑が掛かってしまうのだ。危ない橋は渡れない。

「えーっと、オッホン!じゃあ今回の訓練で、MVPが誰か分かる人ー!」

「はいッ!」「はい」

無理矢理オールマイトが話題を切り替え、僕と百さんが同時に手を挙げた。

「百さん、どうぞ」

「では僭越ながら。

今回のMVPは、まず間違い無く轟さんですわ。敵に行動の猶予を与えず、尚且つ瞬時に広範囲を凍結させ、シチュエーション的には居るかも知れない他の敵員も行動不能化。大きな衝撃等も無く、核を安全に回収出来ましたわ」

「逆に、葉隠さんは最悪手でしたね。そもそも敵対者を相手に、初手から防御力を捨てに行くのはいけません。アレをやるならば、まず暗闇や死角から相手を一方的に捕捉してからの方が良い。何せ、葉隠さんは透明。爬虫類系や嗅覚の鋭敏な動物型等が相手でも無い限りは、暗所に陣取れば先手を打つ事は容易でしょう。

何より、靴を投げて音を発てる事で相手の注意を逸らし、より強力な不意討ちも可能。

戦闘の要とは、相手の嫌がるであろう事を積極的に行うと言う悪意です。悪意を研ぎ澄ませた者が勝つ。貴方達は先ず、そう言った戦術を磨くべきですね」

「尾白さんと障子さんは、目立った悪手はありませんでした。寧ろ障子さんは、先行する轟さんの後ろでセンサーを張り巡らせ、伏兵の警戒をしていましたので、寧ろ優秀な立ち回りだったと思いますわ」

「い、言いたい事全部言われた・・・」

僕と百さんの分析を前に、ウジウジと凹むオールマイト。まぁ、教師の立場としては複雑な心境だろう。

「ですが・・・この戦闘訓練のシチュエーション、敵チームなら誰であろうと、やろうと思えばオールマイトにだって勝てますよ」

「「「「えぇぇえっ!?」」」」

 

「ちょ、マジすかセンセー!?」「何その必勝法!?」「え、誰でもって、オイラも!?」「教えてセンセー!」

 

「フフフ、今は内緒です。これはなるべく、自分で気付いて欲しいですが・・・まぁ、答え合わせは後でしましょう。その前に、次のバトルと行きましょうか」

「完全に指揮権が緑谷君に・・・まぁ良いけど」

「仕方無いですよオールマイト先生」

いじけ掛けてるオールマイトを宥めながら、生徒達のチームのクジを引く。

と・・・どうやら、次のゲームは面白そうなカードが出た。

 

(被身子サイド)

 

「頑張ろうね、被身子ちゃん!」

「モチロン!目指すは完全勝利なのです!」

演習用のビルの外で、バディのお茶子ちゃんとガッツポーズを向け合う。

此方はヒーローチームで、相手は飯田君と・・・社長に因縁付けて来るファッキンボンバーなのです。

「まず、あのファッキンボンバーは社長を目の敵にしてます。なので、多分私にも執着してくると思うのです」

「サラッとFワード使ったね!?」

「良いから聴いて下さい。私は取り合えずあのクレイジーボンバーを相手します。お茶子ちゃんはその隙に、核の場所を探って欲しいのです」

「え、でも危なくない?」

「大丈夫です。飯田君は真面目で、ドッカン頭は協調性無し。まず間違い無く、飯田君は核を護るために近くを離れません」

「爆豪くんのアダ名がスゴい勢いで更新されてる・・・」

「呼び名なんてどうでも良いのです。兎にも角にも、お茶子ちゃんには捜索をお願いしますね」

「う、うん!分かった!」

取り合えず、概要は固まりました。で、使うキーは、っと・・・

「あの個性相手なら、この子が良いですね」

ベルトに付いた右のホルダーに入ったバッタちゃん・・・では無く、左ホルダーに入ったピンクのキーを抜く。

「あれ、今日は違うヤツ?」

「なのです!」

WING(ウィング)!】

キーを起動し、フォースライザーのスロットにセット。アラートを響かせるライザーのトリガーを、勢い良く引いた。

「変身!」

【FORCE RIZE!】

ベルトから飛び出したるは、ピンクのオーラを纏うハヤブサちゃん。高速で旋回して、私の身体を翼で抱き締めるように包み込んだ。

FLYING(フライング) FALCON(ファルコン)!】

【BREAK!DOWN!】

そして装甲になったハヤブサちゃんが弾け飛び、それを拘束帯が強引に引っ張り戻してくっ付ける。

「渡我被身子改め、仮面ライダー迅!参上です!」

「うわ、なんかゴムパッチンみたい・・・」

「痛くは無いのです!さぁそろそろですよ!」

『訓練!スタート!』

オールマイト先生のアナウンスに従って、私達はビルに踏み入った。

 

(出久サイド)

 

「さて、早速面白い事に・・・」

モニタリングルームは、ひーちゃんが変身した仮面ライダー迅・フライングファルコンに沸いている。そして、僕としてもこれはかなり有効で・・・尚且つ、かなりテクニックが要る戦術だろうと分析した。

『っと、来ました。では、手筈通りに』

『おっけ』

2人の声が、インカム越しに聞こえてくる。2人はすぐに散開し、ひーちゃん()は身を屈めて角待ちの体勢で陣取った。其所に向かって、威圧するように足音を起てながら爆豪が歩いて行く。パイナップルグレネード(マークⅡ手榴弾)型のガントレットに包まれた掌をメキメキと開閉しながら、とんでもない形相でズンズンと進んでいた。

『ッ!死ィねェ!!』

『やですッ!』

気配を感じて飛び込んだ爆豪。迅はその右の大振りを瞬時に見切り、背負い投げで迎撃する。

しかし、爆豪は左手の爆破で体勢を立て直して巧く着地。やはり、身体能力やセンスは目を見張るものがあるな。

『そのベルト・・・テメェか、デクの腰巾着』

『むぅ、私は渡我被身子、今は仮面ライダー迅なのです。へんな呼び方するなら、こっちも其方をファッキンボンバーって呼びますよ?』

『ウッセェ黙れ死ね』

『うーわ、人間として最低限必要な語彙を全部かなぐり捨ててますね』

片や苛立ちながら、片や呆れながら、攻防を毎秒切り替えるように、鋭く手脚を振るい合う2人。一応、フォースライザーには装着者が専用のマイクロチップを装着していた場合、電子頭脳と同等の超高速情報処理能力を与えて思考速度をオーバークロックさせる機能も付いている。ようは、事故に遭ったりした人が周囲がゆっくり見えるというアレを意図的に起こせると言う事なのだが・・・そのハンデがあって、漸くテクニックが対等とは。下手にパワーで押し切れば良くて骨折、下手すれば殺しかねない以上、ライダーシステム的にも出力を制限する他無い。全く・・・

「やりにくい相手だ」

「緑谷君から見ても、爆豪少年は脅威的かね?」

「いえ、五体満足に留められるよう手加減するのが面倒なんです。スマートにやろうとしても、なまじ反応速度が速いせいで、振り切るには殺人級の威力を出さざるを得なくなる。

結論として、勝つ事自体は被身子さんも容易でしょう。ですが、殺傷してはいけないと言う縛りが厄介過ぎると言う事です」

「お、おう・・・容赦無いね」

「正直、彼には私怨もありますからね」

 

(MALICE LEARNING ABILITY)

 

眼を濁らせながら、皮肉っぽく笑ってみせる。湧き上がった悪意は、胸の中でアークが吸収してくれた。

『アイツが俺より上にいるなんざ有り得ねぇ!俺がトップになるんだよ!だからテメェも踏ん付けられてろ!』

『ダメですねこれ。鼻っ柱叩き折らないと』

爆豪が放った爆破を、迅は背中から展開した高速飛翔鋼翼(スクランブラー)で防ぎつつ、飛び退いて距離を稼ぐ。重機関銃の集中斉射を防ぐスクランブラーの強度を、確りと使い熟しているようだ。

『テメェを叩き潰す!出久も踏み潰し殺す!そうして完膚無きまでの頂点に、俺だけが立つんだよォ!』

『・・・あ?』

おっと、迅の雰囲気が変わったか。

(フォースライザーを通じて、渡我の脳内から強い悪意を検出した。少々危険かも知れんな)

「仮面ライダー迅、己の悪意の手綱は放さぬように。ライダーシステムは人を容易く殺せる事、努々忘れてはなりませんよ」

『分かってるのです』

『あ゛?デク、つまりテメェは俺が殺されるって言いてぇのか?嘗めんじゃねぇぞコラァ!』

 

─ガキャッ─

 

爆豪がガントレットのレバー部分を引き、格納されていたピンに指を掛ける。

「止めろ爆豪少年!殺す気かッ!」

『当たらなきゃ死なねぇよ!』

ガントレットを迅に向け、爆豪はピンを引き抜いた。

その瞬間、監視カメラを閃光と振動が襲う。そして僕達の耳にも、尋常では無い轟音が届いた。

「ハァ・・・敵チームから20点減点」

流石に溜息しか出ない。何なんだあの怒れる火薬庫は・・・

「と、渡我少女ッ!」

「ご心配なさらず。迅はあの程度で潰せる程、柔な設計にはしていません」

 

─ガキャッ!─

FLYING(フライング)DYSTOPIA(ディストピア)!】

 

爆炎の中から、翼を丸めたファルコンのライダモデルが現れる。その翼はすぐに開かれ、中からは無傷の迅が現れた。

そしてライダモデルを嗾け、同時に自身もスクランブラーで加速。迎撃しようとした爆豪の手をライダモデルが錐揉み回転で弾き上げ、好きを晒した腹に高速の水平ライダーキックが叩き込まれる。

 

───FLYING!(red)DYSTOPIA!《/red》───

 

『ごへぁっ!?』

胃の内容物を吐き出して、壁に叩き付けられる爆豪。迅はその場でスタッと着地し、ライダモデルを分解回収。そのまま捕縛テープを巻き付け、爆豪に戦闘不能判定を出した。

『被身子ちゃん!場所分かったよ!2階の中央!でもバレちゃった!』

『いえ、階層が分かれば上々です!動きは止めますので、捕縛をお願いします!』

『わ、分かった!』

天井を見上げた迅は、フォースライザーを再び操作。腰を落として構え、天井越しに狙いを定める。

『はッ!』

 

─ガキャッ!─

FLYING(フライング)!UTOPIA(ユートピア)!

 

そのまま跳躍し、右脚を突き出して宛らドリルのように錐揉み回転しながらのライダーキックで天井を突き破った。

 

───FLYING!UTOPIA!───

 

『どわぁ!?』

『ウリェッ!』

即座に飯田君の腹部に蹴りを叩き込み、足に搭載されたクローでガッチリとホールド。重心の移動が儘ならず動けない飯田君に背後から麗日さんが捕縛テープを巻き付ける。

「其所までッ!ヒーローチーム!WIiiiiiN!!」

(ひーちゃん、良く出来ました)

(わぁい褒められたぁ~♪)

これは撫で撫でだね。モチベーションアップの秘訣は、確り褒める事だ。

 

(NOサイド)

 

「さて、と」

無事、総ての戦闘訓練が完了した。

因みに渡我は出久の左手を独占してうっとりしており、完全に撫でくりにゃんこ状態である。

「ではオールマイト先生。最後に特別に、私達の戦いも見せてあげませんか?」

「ん、そうだなぁ・・・うん!時間も余裕あるし、良いよ!」

「では、インカムをオープンスピーカーにしておきましょう。会話も重要なファクターですから。

では被身子さん、行って来ます」

「ん~・・・行ってらっしゃい、社長・・・」

残念そうな顔をして、渋々と引き下がる渡我。その頭を最後にポンポンと撫でて、出久はモニタリングルームから出た。

 

───

──

 

「仕込みヨシ。さて、見せるとしますか」

演習用ビル2階。奥の部屋に核を配置した出久は、ザイアスペックで下をスキャン。オールマイトは、既に向かって来ている。

「此方も、本気で行きましょう」

懐から台形にも見えるベルトのバックルを取り出した出久。そのまま腹部に押し付け、ドライバーを装着する。

THOUSAN DRIVER(サウザンドライバー)!】

そして髪を掻きあげ、階段を降りる。その先には、当然オールマイトが居た。

「此処を占拠している(ヴィラン)だな?だが、悪巧みも此処までだ!何故って?

 

私が来たッ!」

 

お約束の決めゼリフを飛ばすオールマイトに、出久はニヤリと笑った。

「いやはや、まさかトップヒーローたるオールマイトが来るとは・・・ですが、好都合です」

出久は機嫌良く、ポケットから何かを取り出した。それは、刺々しい形をした2本のキー。

「このシステムは、我が社の最高傑作にして芸術作品・・・テストベッドとして、役立って頂きますよ?」

そう言って、右手に持ったキー・・・アウェイキングアルシノゼツメライズキーを、手首のスナップで反転させつつドライバーの左スロットにセットする。

【ゼツメツ!EVOLUTION(エヴォリューション)!】

ドライバーが起動し、待機音が鳴り始める。それに合わせて左手に持っていたもう1本のキー・・・アメイジングコーカサスプログライズキーを右手に持ち替え、両手を広げるようなルーティンと共にスイッチを押した。

BREAK(ブレイク) HORN(ホーン)!】

 

「変身」

 

自動で接続端子が展開されたコーカサスを、右側スロットに挿す。

 

PERFECT(パーフェクト) RIZE(ライズ)!!】

 

ドライバー中央のゲートが左右に開き、コーカサスオオカブトのライダモデルとアルシノイテリウムのロストモデルが出現。周囲を飛び回り、駆け回る。

その中心で出久が両腕を大きく左右に開くと、コーカサスとアルシノは互いに頭を叩き合わせ、それぞれの角を交差させた。

 

5本の角交わりし時(When the five horns cross)!黄金の戦士サウザーが(The golden soldier THOUSER) 誕生する(is born)!!】

 

2体のモデルは、角を組み付け合ったままバラバラに分解。そのパーツが出久の身体に張り付いて装甲となり、最後に頭部に5本の角が装着されて、紫のゴーグルが展開された。

 

ザイアの提供でお送り致します(Presen to by ZAIA)

 

「爆現・・・仮面ライダーサウザー」

【THOUSAND JACKER!】

ジャッカーを構えて、オールマイトと正対する出久(サウザー)。ピリピリと空気が張り詰め、お互いの警戒心が引き上げられる。

「それが、其方の秘密兵器かな?」

「ええ、そんな所です。生憎と非売品ですが・・・だとしても、あのオールマイトを倒したとあらば、我がサウザンバヨネット社の宣伝効果は絶大!世界中の紛争地帯から、注文が殺到する事でしょう!」

「HAHAHA!スナック菓子やジュースのコマーシャルには沢山出たが、まさか武器のCMにも使われるとは!」

次の瞬間。笑いを一変させ、音速の踏み込みからパンチを打ち込む。サウザーは高速思考でそれを見切ってジャッカーで受け流し、カウンターにミドルキックを叩き込んだ。

「ぐはっ!?」

「貴方のデータは、既にラーニング済みです」

【JACK RIZE!JACKING BREAK!】

「ワイルドハント・バイト!」

 

─ルァオォォォウッ!─

 

「ぐおっ!?」

 

───JACKING BREAK!───

©ZAIAエンタープライズ

 

ジャッキングブレイクによって、4つの金色狼の(あぎと)が現れる。群れの狩りの如く食らい付く狼達。オールマイトはそれを、両腕をクロスして防ぐ。

「何のこれしき!OKLAHOMA(オクラホマ)!スマッシュ!!」

奥歯を噛み締めて耐えたオールマイトは、両手脚をプロペラのように振り回しながら跳躍して振り払った。

「ほう、流石ですね。ではこう言うのは如何ですか?」

【JACKRIZE!JACKING BREAK!】

続いて、サウザーは更にジャッキングブレイクを発動。緑のエネルギーをジャッカーに纏わせ、鋭く振るって複数の刃として飛ばす。

「ベローシングストライザー!」

 

───JACKING BREAK!───

©ZAIAエンタープライズ

 

三日月状の刃は、ブーメランのようにオールマイトに殺到。切り刻まんと迫る。

ベローサゼツメライズキーのロストモデル、クジベローサ・テルユキイのイメージにより精製された8枚の斬撃刃。それを相手にしても尚、オールマイトは怯まない。

「ウオォォォ!!」

天災級のその拳で、あろう事か斬撃刃を弾き飛ばしてしまった。

「くっ、出鱈目な・・・ですが!」

【JACKING BREAK!】

「モンロー・アルフレイディア!」

 

─KABOOOOOOM!!!!─

 

───JACKING BREAK!───

©ZAIAエンタープライズ

 

三度のジャッキングブレイク。発現させたのは、ダイナマイティングライオン。牙突の構えを取り、一気に突き出す。爆豪のガントレットのような指向性爆裂を、更に範囲を絞って撃ち出した。

「ぐおぉ!?」

爆音と爆炎、衝撃波と閃光。本来なら殺人級の威力を持つ筈のそれはしかし、オールマイトに重傷を負わすには至らない。

だが、目眩ましにはなった。

「ハッ!」

サウザーは大きくバックステップし、コーカサスキーを叩く。キーからドライバーに必殺技の承認データが伝達され、内部の反応炉からエネルギーを抽出。脚部装甲に伝導したエネルギーがスーツの人工筋肉を活性化し、脚力を大幅に増強する。

 

THOUSAND(サウザンド)!DESTRUCTION(ディストラクション)!!】

 

「ぐぅ・・・なッ!?」

「ハァァァァァァアッ!!」

「ぐ、ウググググ・・・」

助走を付けての、強烈なライダーキック。対してオールマイトは、渾身の右ストレートで迎え撃った。

「はぁぁッ!!」

「くっ・・・プルスッ!ウルトラァァッ!!」

「何ッ!?」

 

DETROIT(デトロイト)ォ!スマァァッシュッ!!!!」

 

「うごぁッ!?」

拮抗が崩れ、ライダーキックが只の拳に負けた。サウザーは見事に殴り飛ばされ、壁に激突しコンクリートを粉砕する。

「よ、よもや、此処までとは・・・ハ、ハハ、流石は、トップヒーロー。そう上手くは、行かないか・・・」

壁の穴から這い出し、自嘲気味に呟くサウザー。辛うじて変身解除はしていないが、端から見れば満身創痍としか言い様が無いだろう。

「さぁ、君には監獄のレビュー依頼が来てるぜ。是非とも住み心地を教えてくれ」

「ああ、それは魅力的な依頼だが・・・それは無理だな」

「何?」

「私も勝てはしないが・・・ともすれど、負けもしないさ」

 

─KABOOOOM!!─

 

「なッ!?何をした!?」

サヨナラだ(ダスヴィダーニャ)♪」

突如響いた爆音。建物を壊す程では無いが、それなりの振動を伴って腹の奥底まで響くような轟音だ。

『しゅーりょー!社長の勝利です!!』

渡我のアナウンスにより、勝敗が決した。

 

───

──

 

(出久サイド)

 

「さて、私が何をしたか・・・分かった人はいますか?」

「はい。核弾頭の爆破ですわ」

「その通り」

僕の質問に、やはりいの一番に手を挙げる百さん。彼女の言う通り、僕は接敵前に核弾頭に自爆装置を仕込んでいたのだ。

「いや、でもよ!それで何で敵の勝ちになるんスか?」

「核爆発なら自分も死んじまうだろうし・・・引き分けじゃね?」

「いえ、この条件なら明確に敵の勝ちなのです」

切島君や上鳴君の疑問に、ひーちゃんが答える。此方に目配せして来たので頷いてやると、彼女は解説を始めた。

「まず、敵の勝利条件ですが・・・実戦においては、《ヒーロー及び社会に対して、致命的な加害を達成する事》です。そしてこの条件には、()()()()()()は含まれていないのです」

「「「「「っ!?」」」」」

戦慄するクラスメイト達。まぁ、狂気的なまでに命を賭ける敵はそうそう居るモノじゃ無い。当然と言えば当然か。

「核の起爆は、敵としては《ヒーロー及び社会に対しての致命的な加害》と言う目標を達成しています。対してヒーロー側はと言うと、《敵の捕縛》、《周辺被害の抑止》、《自身の生存》と言う勝利条件が総て潰されるのです。

ヒーロー社会への嫌がらせの為なら、自分の命も必要経費・・・そんな風に考える自爆前提の敵なら、まず躊躇わず使う手です」

「これが、誰でもオールマイトに勝てる方法です。但し、自分の命も賭け金にする必要がある。これを決行する正気をかなぐり捨てた敵も居る事、良く覚えておくように」

「ハーイ!」

元気な返事は、ひーちゃんのものだけ。少しばかりショッキング過ぎたかな?

「そ、そう言えば!緑谷社長は大丈夫なのですか?かなりダメージを負っているように見えましたが・・・」

「あぁ、大丈夫ですよ。内部のショックアブゾーブ機構のお陰で、軽度の打撲傷程度で済んでいます。これぞZAIAクォリティ」

「うん。凄く頑丈だったね。最後のスマッシュは割と本気だったんだけど・・・」

「ほう、嬉しいですね」

まぁ、多分ビルを貫通してない辺り全力では無かっただろう。それでも、オールマイトの拳を耐えたのならば防御力は充分。

『良いデータが取れた。装甲構造を更新する』

脳内に響くアークの声を聴きながら、僕は小さく頬を吊り上げた。

 

to be continued・・・




~キャラクター紹介~

・緑谷出久
満を持して変身した1000社長主人公。自分の身体を滅茶苦茶改造しまくってる。
午前中に某会社をネット炎上と札束でフルボッコにして、その足で雄英に来た。
その会社は上位社員はほぼほぼすっぱりと首を切られるか、スキルの多いヤツは飼い殺しにされている。
生徒に対しては自分が張り倒されようと構わずコスチュームの欠点を指摘し、更に相手のパニックを受け止めるぐう聖振りを見せた。

・渡我被身子
出久LOVEな吸血美少女。
今回は仮面ライダー迅に変身し、ファルコンの能力をフル活用して爆豪に勝った。
フォースライザーをフル活用する為に、原作のショットライザー組と同じようなマイクロチップ手術を受けている。なので、フォースライザーを装着すればゼロワンドライバーの高速ラーニングモードのような思考加速が可能。

・葉隠透
今回で羞恥心を学んだ透明少女。
ザイアの顧客候補ファイルにも名前が載った。

・爆豪勝己
天才的ファッキンボンバー。
まだまだオラオラ調子乗り。
今の所良いとこ無しだが、迅のオーバークロックブレインに素のスペックで食い付いたやべーヤツ。

~アイテム紹介~

・サウザンドライバー
出久の専用ドライバーにして、ザイアの芸術作品。
最初からアークがバチバチに設定しており、強度は原作以上となっている。
仮面ライダーサウザーは、全身各所の人工筋肉にも量子通信神経を通わせる事で、肉体とのタイムラグをゼロにしている。

・サウザンドジャッカー
毎度お馴染みの盗人武器。ロストモデルの能力はデフォルト。
今回の活躍と迅の出現で、少なくともシューティングウルフ枠、フライングファルコン枠の個性を持つ人間と接触した事が確定した。

〇ワイルドハント・バイト・・・シューティングウルフのジャッキングブレイク。4つの狼の頭を召喚し、敵を集団で噛み砕かせる。

〇ベローシングストライザー・・・ベローサゼツメライズキーのジャッキングブレイク。サウザンドジャッカーを緑のエネルギーで覆い、敵に向けて複数の鎌型エネルギーブレードを飛ばす。仮面ライダーゼロワン1話にて、ベローサマギアが放った技。

〇モンロー・アルフレイディア・・・ダイナマイティングライオンのジャッキングブレイク。
敵に向けて一点集中の爆裂噴射を撃ち出す技であり、名前はダイナマイトの制作者、アルフレッド・ノーベルに由来する。


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ザイアは1000%ホワイト企業

(アークサイド)

 

「初めまして皆さん。私が今日からこの会社を取り仕切る新社長、緑谷出久です。どうぞ宜しくお願いします」

社員達の前で、頭を下げる出久。周囲の社員・・・つい先日違法労働の暴露と共に株式公開買い付け(T O B)で買収した会社の社員達は、皆一様に困惑していた。

「え、えっと、社長?貴方が?」

「はい。これでも歴とした社長です。少しばかり、若いですがね」

少しじゃねェだろ、と言うツッコミは、今更なので仕舞っておく。その片棒を担いだのは私だしな。

「少しじゃなくね?」

おっと仕舞っておけなかった社員が居たようだ。

「まぁ、そうですね。ですが、運営手腕はそこらの社長にも負けません。さて、早速ですが・・・此処に居る皆さん全員に、社長権限で最重要業務を課します」

「「「「ッ!」」」」

出久の言葉に、全員の空気がピリピリと張り詰める。中には、明らかに落ち込んだり涙目になる者も居た。

まぁ、今までは上司からの命令で無茶な事しか言われて来なかったのだろう。そうなるのも当然と言える。

「ガヤガヤせず静かに聞いて貰えるのは有り難いですね。では・・・

 

休みなさい」

 

一瞬のフリーズ。次いで、先程とは別種の困惑。

丸くした目を互いに見合わせる社員達を見て、出久は深い悲しみを抱いたようだ。

「あなた方の労働環境は把握しています。有給も取れず、上司からの理不尽な雑言。毎日深夜まで残業しても、払われない残業代・・・皆、うんざりじゃあありませんか。

今日の午後から一週間、完全な休暇とします。家で寝て過ごすもよし、整体に行くもよし。各々の好きな事を、存分に満喫して来て下さい。

今まで使えなかった有給として、既に書類は私が承認を行うのみの段階です。

この期間中は、我が社の予備人員部署で労働を引き受けましょう。今日の作業は、その部隊への申し送りのみ・・・と、その前に」

パチンッ、と出久のフィンガースナップが響く。するとオフィスの扉が開き、ガラガラと台車が入って来た。

「まずはお腹を空かせて居るであろう皆さんに、私からの細やかなプレゼントです。召し上がって下さい」

台車に乗った、大皿と寸胴鍋。蓋が外され、その中身が露わになる。

それは、ラッピングされた大量のお握りと、味噌汁。何方もほかほかと暖かく、薄らと湯気を纏っている。

「『腹が減っては戦は出来ぬ』・・・私の好きな言葉です。

シャケお握り、ツナマヨホウレン草お握りに、ワカメと小松菜の味噌汁。疲労困憊の身体に必要な栄養を、出来る限りコンパクトに纏めた献立です。

さぁ、遠慮無く・・・召し上がれ」

給仕係と共に、出久は大きめの紙コップに味噌汁をよそった。差し出されたそれに、他の社員はどうして良いかまだ分からず、動けないでいるようだ。

「あ・・・あの!い、いただきます!」

そんな中、1人の青年が怖ず怖ずと此方に近付いてくる。それはあの夜、公園で怨嗟に押し潰されそうになっていた青年だった。

「はい、どうぞ。焦らずに、確りと食べて下さい」

味噌汁と、お握り2つ。渡された青年はラップを剥がし、口に運んだ。

「・・・う、うまい・・・!」

「そうでしょうとも。労い、いたわる善意・・・我が社は、これを忘れません」

柔らかな口調で、出久は語る。

勤労への感謝。それは、ザイアの社員に掛ける、出久の理念そのものだ。

「お、俺も!いただきます!」

「私も!」

「はい。ちゃんと全員分ありますので、慌てずに食べて下さいね」

オフィス中の社員達が、台車に殺到する。そしてそれぞれが出された物を受け取り、大口に頬張った。

(・・・美しくも、悲しい光景だね)

『そうだな。故に・・・この会社では、今回限りだ』

そんな姿に感傷を見出す出久に、私もそう答える。

こんな彼らを救う為に、この会社の上層部に滅亡をくれてやったのだから。

 

(出久サイド)

 

「お疲れ様でした」

「「「「「「「「「お疲れ様でした、社長」」」」」」」」」

無駄に切り分けられて山のように水増しされた仕事をマルチタスクで終わらせ、午前中でさっさとオフィスを出る。

それにしても、全く・・・反吐が出そうになるな、この会社の労働状況は。

「まさか、態々部下に仕事を分割させ、更にそれを他の社員に回していたとは・・・」

『理解不能だ。効率が悪いなんてレベルでは無い。何故無駄でしか無い工程を挟むのだ』

「多分、部下に仕事の増量を悟られない為の偽造工作だよ。元々から水増しした仕事をさせて、後から少しずつ自分の熟すべきタスクをその中に流し込む。水増し分を調節すれば、部下目線からは仕事量は大して変わっていないように感じるからね。

でも、流された仕事の中には新人には手の下しようの無い物もある。そこでミスを誘発し、精神面で追い詰めて正常な判断力を更に削ぐ・・・全く、よく出来た洗脳カリキュラムな事だよ」

『成る程、そう言う意図が・・・』

ウムム、と唸るアーク。アークは論理的な予測には滅法強くて、もはや未来予知レベルの高次予測能力がある。その反面、こう言う回りくどくて感情的な事態に対しての判断が若干弱い。悪意を力に変える癖して、本質は善人っぽいからかな・・・

「あ、あの!」

「ん、貴方は・・・」

後ろから声を掛けられ、振り返る。そこに居たのは、先程の青年だった。

「もしかして、あの夜の公園の・・・あれ、社長ですか?」

「・・・さぁ、どうでしょうねぇ・・・?」

「・・・あ、ありがとう御座いましたっ!」

「良いって事ですよ。働いてくれる社員は、確りケアする。それも社長の役目です。休暇を楽しんで下さい。

それでは、私はこれで」

深々と頭を下げる彼に手を振り、僕達はエレベーターに乗った。エレベーターの中にいるのは、僕1人。15階から地下1階まで降りるから、そこそこ時間が掛かる。

『出久、()()()()()だ』

「そっか、分かった。今夜もお願いね、アーク」

アークの報告に答えていると、地下駐車場でエレベーターが止まった。そこで降り、僕の愛車を目指す。

いやはや、国際免許を取っておいて良かった。これが有るか無いかでは、移動の手間も雲泥の差だ。

「さて、帰ろうアーク」

『ああ』

駐車場の隅に駐められた性能自慢の愛車(ザイアエクステンダー1000)のハンドル中央に、懐から取り出したライズフォンを装着。機体制御用のコントロールアプリで高性能発電機が始動し、前輪と後輪の内部に内蔵された超伝導コイルが輝き出す。

「安全運転で行きますか」

『それを強く推奨する』

フルフェイスのヘルメットに頭を納めてエクステンダーに跨がり、バックにギアチェンジ。駐車スペースから離脱し、一気に走り出す。

(やっぱり、バイクは楽しいなぁ・・・!)

『お前のストレス発散に、大きく貢献しているのは確かだな・・・む』

「あっ」

ザイアスペックに入電。どうやら進行方向で銀行強盗が発生したそうだ。

『どうする?』

「当然」

【THOUSAN DRIVER!】

「狩るさ」

【ゼツメツ!EVOLUTION!】【BREAK HORN!】

ドライバーを装着し、アウェイキングアルシノを装填。アメイジングコーカサスを起動し、両手を広げるルーティンを取る。

「変身!」

【PERFECT RIZE!】

【When the five horns cross!The golden soldier THOUSER is born!】

全身を金銀の装甲が覆い、5本角が頭部に装着。仮面ライダーサウザーへの変身が完了した。

【Presented by ZAIA】

【THOUSAND JACKER!】

ジャッカーを構えて、バイザーの望遠カメラ機能を起動。遥か前方に人だかりを見付け、それが野次馬であると判断した。

『ライジングホッパーだ』

「言われずとも!」

【JUMP!】

起動したホッパーキーを、エクステンダーのタンクボディに設けられたユニバーサルスロットに押し込む。閉じられたシャッターを左右に押し開き、内部に接続した。

【Progrisekey confirmed. Ready to Boost!】

【Grasshopper's Ability!】

すると、エクステンダーのリアカウルにホッパーキーのデータが伝導。ライダモデルの飛蝗の後脚が現れ、ギリギリと関節を引き絞る。

「行きますよッ!」

 

─ヴァオウッ─

 

一気にアクセルを吹かし、ギアを3速にチェンジ。エクステンダーの前輪が嘶くように跳ね上がり、そのウィリーに合わせて圧縮された飛蝗脚が解放。道路を踏み砕かん勢いで蹴り飛ばし、バイク本体ごと大きく跳躍する。

そのまま野次馬を軽く飛び越え、逃走寸前強の盗敵の頭上に躍り出た。

「なっ!?」

「ハッ!」

【JACKRIZE!】

トラックの荷台に乗っていた、ミヤマクワガタ型の異形敵の脳天をジャックライズ。そのままアスファルトを切り付けるようにサイドスライディングブレーキを掛け、すぐさま敵へと突貫する。

「何だコイツは!?」

「只の社長だ」

「ごへぇっ!?」

ミヤマの胸元を強打して気絶させ、残りは2人。どうやらパンダとワニ、恐らくクロコダイルらしい。異形型3人組の強盗か、良くある事だ。

「お縄に着きなさい」

「ほざけェ!」

パンダが腕力任せに爪を振り下ろしてくるが、所詮は力任せの大振り。前方にステップする事で容易く潜り抜け、脇腹に肘を突き込んだ。

「うげっ!?」

「浅いな。毛皮の防御力か。ならば!」

【JACKING BREAK!】

チャージ状態だったジャッカーで、ジャッキングブレイクを発動。クワガタの大顎を模したエネルギーが発生し、パンダの胴体をホールドする。

ミヤマクワガタをジャックしたが、顎の形はヒラタクワガタだな。ならば・・・

「ジャッカー・ドルカシスクラッチ!」

 

───JACKING BREAK!───

©ZAIAエンタープライズ

 

「あいぼグヘェ!?」

挟み込んだパンダを持ち上げ、そのままクロコダイルの頭上に叩き落とす。その体重で押し潰され、クロコダイルじゃ伸びてしまったようだ。

「フッ、瞬く間に制圧。周囲にも被害は無し。これがザイアクオリティ」

自動走行でエクステンダーを呼び寄せ、トランクケースからアイテムを取り出す。銃のグリップのようなそれは、先端を敵の身体に押し付けてトリガーを引けば、たちまち細長いワイヤーを伸ばす。それをグルグルと巻き付け、3人仲良く捕縛した。

「ふむ。このスレッドバインダー、上出来ですね」

このアイテムは、スレッドバインダー。内部の圧縮カートリッジに詰められた薬液を混ぜ合わせ、瞬時に人工蜘蛛糸を精製する画期的な装置だ。一度のリロードで、800mの糸が出せる。これがあれば、捕縛手錠等を持つよりも軽量で嵩張らず、利便性が上がる事は間違い無いだろう。

これも特許を申請中の新商品だ。因みに、蜘蛛糸の方は特許が取れた。

「さて、これで一件落着ですかね」

『出久、ジャックしておけ。パンダとスタッグはライダモデルだ』

「おっと、了解」

【JACKRIZE!】

 

【Progrisekey confirmed.Ready to Learn.】

【INJECT RIZE】

SCISSORS(シザース)!】

「エキサイティングスタッグ・・・有用ですね」

【JACKRIZE!】

【Progrisekey confirmed.Ready to Learn.】

【INJECT RIZE】

SEARCH(サーチ)!】

「スカウティングパンダ。特性は・・・何でパンダでコレ?」

『デザインだ』

「あぁそう・・・」

ちょっとモデルからは想像出来ない能力だったから困惑したが、まあ良い。何より、この能力は()()が喜びそうだ。

「序でに、クロコダイルのデータも取っておきますか」

『あぁ。後々キーに出来そうならしておこう』

「お願いね、アーク」

【JACKRIZE!】

「と、まぁ片付いた処で、さっさと帰りますか」

もう変身解除するのも面倒なので、そのままエクステンダーに跨がる。と、ボディに刺したホッパーキーの回収は忘れない。挿入口横のアンロックボタンを押し、空薬莢のように排出され跳ね上がったキーをキャッチ。そのままアクセルを回し、風を切って発進した。

 

(NOサイド)

 

「ハァッ、ハァッ・・・ッかハァッ、ハァッ!クソッ、何だってんだよ!?」

逃げる。逃げる。逃げる。

走る。走る。走る。

碌に舗装もされていない林道を、喧しく暴れ回る心臓を抑え付けて、千切れそうな肺から無理矢理酸素を取り込んで、男は走る。

全ては、()()から逃れる為。または、悪夢から醒める為。

 

『この逃走経路は、予測済みだ』

 

「ひっ・・・!?」

しかし、どうやらそう簡単には逃げられないようだ。

男が逃げようと向かっていた先。その木の陰から、()()は現れる。

漆黒のボディに、突き破るように剥き出されたパイプや配線。頭部のアシンメトリーなアンテナに、血濡れの歯車にも見える真っ赤な左眼。言うまでも無く、1度人類を滅亡させた最悪の悪魔・・・仮面ライダーアークゼロである。

「ひ、ひぃぃぃ!?」

『貴様は消す。逃がしはしない』

「い、嫌だぁぁぁぁ!!」

情け無い悲鳴を上げて、尚も逃走を試みる男。対するアークゼロは、逃す事無くジリジリと追い詰める。そして、遂に男は立ち止まった。

『もう終わりか。詰まらんチェイスゲームだ』

「ハァ、ハァ、ハァ・・・ハァァ・・・クッ、ククククッ・・・」

落胆する様子を見せるアークゼロに対し、万事休すと言った状況にしか見えない男が何故か笑い始める。

『ほう。何か可笑しいか?』

「ハハハ!気付きもせず油断して、ノコノコ着いて来てくれてよォ!」

男が背後に手を翳すと、その先にあった真っ黒な盛り上がりがガラガラと音を起てて浮遊し始めた。

男の個性、《磁力》──自身を中心に磁界を発生させ、意のままに操る能力──を発動させ、不法投棄された金属屑を寄せ集めたのだ。

「ブッ潰れろォ!」

『愚かだな』

轟音と共に降り注ぐ金属屑を見ても、アークゼロは揺るがない。そして鉄の滝に打たれて塵が舞い上がり、周囲を煙のように包み込む。

「きひっ、ヒャハハハ!どうだ俺の個性は!金属さえ沢山あれば!テメェなんざ1発なんだよ!」

数トンはあろうかと言う金属屑の山に埋もれたアークゼロを、男は嘲う。致命的な間違いにも気付かずに。

『全く・・・哀れなものだな』

「・・・は?」小高く積もった山が、ガラガラと音を起てて崩れ始めた。その中から現れたのは、無傷のアークゼロ。その周囲は、まるでバリアにでも遮られたかのように金属が除けられていた。

『ふむ、確かこう言う時には・・・「哀れだな~ァ。本気で言ってるとしたら抱き締めたくなっちまうぐらい哀れだわァ」・・・と、言えば良いか』

とあるアニメの悪党語録を使いつつ、アークゼロはゴキッと首を鳴らす。そして絶望に飲まれ腰を抜かし、失禁すらしてしまっている男に再び詰め寄った。

「な、何で!何で俺が消されるんだよ!?そりゃ敵と組んで八百長とかしたけど、それだって、たかが知れてるじゃねぇか!」

『たかが知れている、だと・・・?あぁ、哀れを通り越して呆れが出る。もう動くな』

【JACKRIZE!】

ヤレヤレ、と言った雰囲気で頭を振るアークゼロ。心底不快そうにしながら取り出したサウザンドジャッカーでジャックライズし、再び口を開いた。

『貴様がやった八百長で倒壊した家屋には、高校生の少女が取り残されていた。当然倒壊に巻き込まれ、救助はされたが・・・病院搬送後に容態が急変、心臓麻痺で死亡が確認された』

「は?きゅ、救助はされたんじゃねェか!それにあの時、死亡者はいねぇって・・・」

『死亡したのは、倒壊の翌日だ。そして死因は、高カリウム血症による急性心不全・・・所謂、クラッシュ症候群だ。

少女は瓦礫により脚を強く圧迫されていた。それにより筋肉が壊死し、カリウムやミオグロビンと言った、体内組織に対する毒性の強い物質が蓄積・・・それが救助の際の圧迫解放によって全身に回り、中毒症状を起こした。

分かるか?これは、貴様が少女を殺したも同然だ』

クラッシュ症候群・・・大規模な地震災害において併発しやすい、重篤化すれば死に至る自家中毒性ショック症状だ。

『何より、何故貴様程度が思い付くヒーロー汚職が、一切世間に認知されないか・・・考えた事は無かったか?それは・・・

 

そう言った社会の基盤を揺るがすゴミを存在ごと処理する、専門の掃除屋が居るからだ』

 

【ALL EXTINCTION!】

 

ドライバー天面のアークローダーを叩くように押し込み、アークゼロは必殺技を発動。無慈悲な死刑宣告とも言える低い電子音声と共に、斥力操作で空中に浮上。ドス黒いエネルギーを纏い、右脚を突き出した。

「ひっ、ヒィィィ!?止めろ!く、来るなァァァァ!!!?」

磁力で金属を掻き集め盾にするが、しかしそれはアークゼロの必殺技(オールエクスティンクション)には最悪手。アークゼロのブーツが触れた瞬間、金属屑の寄せ集めは対消滅フィールドに呑み込まれ、その威力を水増しするだけに終わってしまう。

「嫌だッ!死にたくない!嫌だ嫌だッ!嫌だァァァッ!!!?」

 

──ALL EXTINCTION!──

 

黒く悍ましいエネルギーを纏ったライダーキックは、男の肉体を容易く貫き、原子レベルまで分解した。其所にはもはや、その男が存在した証拠は、何一つとして残っていない。

「うひゃ~、やっぱえげつないッスねぇアークさんは」

『・・・事後処理は終わったか、()()()

上空から舞い降りた影・・・()()()()()()()に対して、何でも無い事のように問うアークゼロ。しかし結果は既に分かっており、只のルーティンに過ぎない。

「ハイハイ、綺麗サッパリと」

「しかし、時間を掛けすぎじゃあ無いか?」

と、其所に腰のベルトと青いカラーリングが特徴の、女性と思しきシルエットの戦士・・・シューティングウルフ()()()()も加わる。頭部は狼を模しており、牙を剥き出したような狼の口元がバイザーとなっている。

「来たか、()()()()()。早いな」

「まぁ、誰かさんのお陰で随分と暇だったんでな。追いかけっこしてる頃には、もう撤収を始めてたんだ」

「いやいや先輩、それ任務の放棄になるんじゃ・・・?」

「別に良いだろ。どの道、誰が監視したとて止められやしねぇ」

「いやいや、だとしても流石に報告義務とかがあるでしょうよ」

「・・・メンドクセ」

「あー!遂に本性現しましたね!」

『・・・ふっ』

そんな2人の気の抜ける遣り取りに、アークゼロは小さく笑った。ほんの少し、嬉しそうに。

「・・・へぇ、アークさんも笑うんスね。()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()、冷徹なマシンみたいな雰囲気出してるのに」

『心外だな。私とてこれでも人間だ。喜怒哀楽は持ち合わせている』

「ふぅ~ん・・・そう言えば、何であんな執拗に恐怖を演出するんスか?先輩も言ってましたけど、時間掛け過ぎじゃありません?」

『・・・そうか。態々付き合わされる其方の気持ちを考えていなかったな。謝罪しよう』

「ああいや、別に其所は気にしてないって言うか、仕事なんで良いんですケド・・・」

ペコリと頭を下げるアークゼロに、あたふたとテンパる迅。傲慢高圧そうな見た目に反し、アークは謝罪する事に躊躇が無いのだ。

「なんつーか、回りくどいなーって思っちゃって・・・」

『・・・無知とは、時に大罪になる』

「・・・へぇ?」

『さっきの奴・・・磁界ヒーローマグネスは、自らの愚行で命を落とした犠牲者を認知すらしていなかった。

それでは余りにも・・・犠牲者の魂が浮かばれないだろう』

「魂、ねぇ・・・」

考え込むように顎を擦る迅。その様は興味深げで、仮面の下の顔は少し笑っているようだ。

「全面的に同意ッスけど、何か意外ですね。そんなゴテゴテとメカメカしい人の口から、魂なんてオカルトチックなワードが出るなんて。てっきり、神だの何だの下らない~とか、そう言う主義だと勝手に思ってました」

『神に関しては、居るかも知れないとは思っている。自分の次元とは切り離しているがな。

だが・・・魂は、存在する。確実にな』

「へぇ?それも、何時もの論理的結論ってヤツですか?」

『いや・・・実体験だ』

黄昏れるように、呟くように、アークはそう答えた。

 

to be continued・・・




~キャラクター紹介~

・緑谷出久
ハイスペック1000%ホワイト企業若年社長。
常時ザイアスペック着用。
ブラック企業を完全買収し、心が磨り減り切った社員達に温かい食事を提供して強制休暇に放り込む等、取り敢えず《ぼくのかんがえたりそうのしゃちょう》を遂行している。因みにブラック上層部は無能者共を全員解雇し、スキルのある人員は休暇間の謹慎、その後減給及び平社員への降格で特権等を全て取り払い、北極並みの周囲の視線に晒しながら労働させている。辞めたいなら辞表を出せば良いし受け取りもするが、既にブラック労働加担者として名が上がっているのに真面に転職なんぞ出来るとでも?と言う無言の重圧スタンス。
海外で国際運転免許を取得しており、日本でもバイクの運転が可能。
常にブランクキーを最低5本は持っており、敵を発見しようものならすっ飛んで行く。
今回はエキサイティングスタッグとスカウティングパンダのキーを取得。何やら《主任》なる人物も身内に抱えているようだが・・・?

・アーク
出久の相棒。
ライダーシステムやサポートアイテムを統括管理しており、状況判断から的確な助言を行う。
反面、最短効率よりも長期的且つ感情的な手法に対する理解が及ばず、その点は出久に任せている。謂わば翔太郎とフィリップの関係。
またアークゼロとして、所謂()()()としての仕事もしており、雇い主はヒーロー協会公安局。と言っても、何やら弱みを握って強請り倒す事で強引に契約を結んだ様子。
今回の獲物から《磁力》のアビリティを取得している。

・《魔弾の人狼》
()()()の1人。アークに提供された新装備、ザイアスペックと《レイドライザー》を用いて、シューティングウルフレイダーに実装している。
体型から女性と判別出来るが、性格や口調は大雑把且つ男勝り。
離れたビルの上からアークゼロを監視、及び逃亡者を始末する事が任務だったが、標的は漏れ無くアークゼロが消したので、暇を持て余して職務放棄し早々に合流して来た。

・《鷹の目》
《掃除屋》の1人。アークに提供された新装備、ザイアスペックとフォースライザーを用いて、仮面ライダー迅・フライングファルコンに変身している。曰く、「コレを使えば()も呼吸も気にしないで良いから楽で助かる」との事。
任務は、高高度からの索敵警戒。魔弾の人狼と組むとツッコミ役にも回りがちである。
気になった事は率直に聞きたいタイプであり、アークゼロに対して割とズバズバ質問している。

・違反者ヒーロー《マグネス》
八百長によってレッドリストに載った元ヒーロー。
自身の八百長で発生した被害者を認知もせず、開き直っていた救えないヤツである。
因みにクラッシュ症候群は実在するショック症状であり、某大震災で多く発生した。

~アイテム紹介~

・ザイアエクステンダー1000
全長280cm、全幅86cm、全高99cm、機体重量298kg、最大出力1000馬力、最高時速(地上走行)131km。
緑谷出久=仮面ライダーサウザーの専用バイク。
形はAKIRAの金田バイクや、ドンブラザーズのエンヤライドン等のそれ。メインカラーはサウザーと同じくゴールドシルバー、差し色にブラックとパープルが入っている。
超高性能発電機で車輪のコイルに通電して回す前後二駆動タイプであり、正に近未来バイクの王道。バックも出来る。
更に振動や圧力が掛かる各所には高性能圧電素子が組み込まれており、騒音軽減とコンデンサへの蓄電を同時に熟すハイブリッド仕様。この為、ある程度の速度を出せば一気に燃費が良くなる。
タンクボディにはプログライズキーを装填するユニバーサルスロットが設けられており、普段は鍵穴のようにシャッターが閉じられている。これによりライダモデルの能力を引き出し、一時的にライジングホッパーの跳躍能力等、特殊機動力を得る事が出来る。

・ライズフォン
ゼロワン世界で普及している、プログライズキー型のホログラフィックスマホ。
出久のそれは特別仕様であり、ザイアエクステンダー1000のシステム起動キーを兼ねる。謂わばトライチェイサーのトライアクセラーを近未来化した形である。

・スレッドバインダー
正式名称:圧縮ボンベカートリッジ式人工蜘蛛糸即席捕縛具
ザイアの新商品。銃のグリップのような形をしており、グリップ内部にマガジンのようにカートリッジを装填すると蜘蛛糸を出せるサポートアイテム。簡単に言えばウェブシューター。
1度のリロードで800mの糸を出せる上に、ポケットサイズで嵩張らないと言う画期的なアイテム。

○ジャッカー・ドルカスクラッチ
クワガタ個性のジャッキングブレイク。
サウザンドジャッカーからクワガタの大顎を模したエネルギーを発生させ、敵や障害物を挟んで拘束・圧断する。ダブルのメタルスタッグブレイカーをジャッカーでやる感じ。
技名はヒラタクワガタの学名、Dorcus(ドルカス) titanus(ティタヌス)より。


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群がる悪意はバカばかり

(出久サイド)

 

「午前はここまで。お疲れ様でした」

 

「「「「「ありがとうございましたー!」」」」」

 

「・・・フッ、収穫ですね」

B組生徒への格闘指導を終えて、1人小さくほくそ笑む。

手の中には、グレーカラーの1本のプログライズキー・・・パンチングコングプログライズキーがあった。そして単品ではキーに出来なかったものの、有用なデータも幾つか入手する事は出来たのだ。

『順調だな、データの蒐集は』

「そうだね。後は形質データを組み合わせれば・・・また色々と、出来る事が増える」

『悪い顔になってるぞ』

「おっと」

アークに言われ、釣り上がっていた頬をむにむにと解す。

如何せん、会社経営は余所に嘗められたら終わりだ。海外なら尚の事・・・故に、相手の余裕を削ぐ為の《見透かしたような怖い笑顔》を練習し、習得していた。だが、今ではそれが癖になってしまったらしい。こういう風に、ちょくちょく顔に出てしまう。

「いやはや、気を付けないと・・・さて、昼食でも食べに行きますか」

ポンポンとキーをジャグリングし、懐に仕舞って食堂へと向かう。

券売機で好物のカツ丼を注文し、列に並んでいると・・・センサーに反応アリ。

「余り教師の背後に躙り寄るモノじゃありませんよ、被身子さん?」

「うぇー、やっぱりバレちゃった・・・」

首を傾けて後ろを見遣ると、そこにいたのはやはりひーちゃん。不満げな様子で、今度は袖元に擦り寄って来る。

「って、今は伊達眼鏡じゃ無いのです?」

「えぇ。最近漸く、コンタクトレンズに電子部品を流し込む技術を確立しましてね。ま、これもジャッカーやサウザーの如く、私専用のワンオフ仕様ですがね」

そう言って、コツコツと自前のザイアスペックを叩く。回路の差し色が赤から紫に変更されたそれは、僕専用の端末だ。

「へぇ~・・・」

「あ!社長せんせーだ!」

「ホントだ!社長~、一緒に飯食いませんかー!」

「おっと、芦戸さんに切島君。えぇ、良いですよ」

僕を見付けた芦戸さんと切島君が、こっちに手を振ってくる。勿論、快く承諾した。

「むぅ・・・せっかく社長と二人きりだったのに・・・」

「アハハ・・・まぁ、良いじゃあ無いですか。私としても、彼らのデータは是非とも欲しいのでね」

「悪い顔ですね」

「おっと、また・・・」

どうにも、表情筋が緩くていけませんね・・・

 

「よっと。では頂きます」

4人席に着き、カツ丼を口に運ぶ。うん、美味しい。

「にしても、何か意外ッスね」

「ん?意外とは?」

塩ラーメンを啜りながら、切島君が呟く。何か予想外な事は・・・してるね。し過ぎて心当たりが絞れない。

「大企業の社長っつーと、何かこう、専属秘書とかがお弁当をお持ちしましたーとか、お高い店で優雅に食うみたいなイメージがあったっつーか・・・」

「あぁ、成る程。私はそんなにしませんね。弁当を詰めるなんて秘書じゃ無くても出来ますし、無駄な作業です。そんなのは自分でやれば良い。

あ、偶にマックとかは行きますよ?今度行きますか?」

「マジで!?行く行くー!」

「え、良いんスか?結構忙しいんじゃ・・・」

「あー、私程にもなれば、仕事なんて17時にデスクに着いて1時間も掛からず終わるんですよ。新人が多いこの季節は特にね」

「うへぇ、凄い・・・ん?新人が多いと、仕事って増えるんじゃ?」

芦戸さんが尤もな質問をぶつけてくる。良いですね、こう言う細かい所が気になるのは。

「いいえ。新人に回せる程度の簡単で細々した仕事を上側で処理する必要が無くなるので、返って手が空くんですよ。今はザイアスペックのマニュアル機能で、円滑に教育出来るようになっていますからね。

何より、私の仕事も大部分はAIがサポートしてくれていますからね。大きな契約でも無い限り、ほぼ私が出張る事はありませんよ」

「「す、凄まじい・・・」」

因みにタスクノルマを達成した人は、何時であろうと退社して良い事にしてるし、何ならリモートワークも許可してる。流石に緊急時用の監視要員は残すけど、それも午前中、午後、夜間の3交代制。更に夜枠の人は翌日を代休にしている。社員達からも、このシステムは好評らしい。

「ザイアは超絶ホワイトなのです。かく言う私も、社長が作ったサポートアイテムのテストパイロットとして、ザイアの開発部に籍を置いています!」

嬉々として話すひーちゃん。彼女の言う通り、ひーちゃんには我が社で開発した()()()()()()()()()()()()()()()()のテストパイロットとしての身分がある。彼女をあの毒親から引き離す為に、金銭的・社会的に自立させる為の特例処置として、僕が彼女を雇ったのだ。

「で、さっきの食事の件ですが・・・代わりに、と言えばがめついようですが、貴方がたの個性をジャックさせて頂けませんか?」

「ん、良いッスよ。俺のがどうなるか気になるし」

「あたしもあたしもー!」

「それは良かった」

快諾してくれた2人のお言葉に甘えて、ジャッカーを取り出す。伸びていない穂先を向ければ、まず芦戸さんがそれを握った。

「では・・・《酸》の個性データ、頂きます」

【JACKRIZE!】

「うおっ!?」

脱力感に襲われたのであろう彼女が声を上げると共に、抽出されたデータがザイアスペックに転送される。

『出久、適合データだ』

「これは素晴らしい」

【Progrisekey confirmed.Ready to Learn.】

【INJECTRIZE】

POISON(ポゥイズン)・・・】

「スティングスコーピオン・・・素晴らしい」

「あ、じゃあ次、どうぞ」

続いて、切島君も穂先を握る。やはり素直で良いですね。

【JACKRIZE!】

『此方も適合した。ハードだな』

「やはり雄英生は、逸材が多いですねぇ」

【Progrisekey confirmed.Ready to Learn.】

【INJECTRIZE】

HERD(ハード)!】

「インベイディングホースシュークラブ・・・フフ、これで3歩は前進しますね」

 

─BEEEEER!!─

『セキュリティ3が突破されました!セキュリティ3が突破されました!』

 

「ッ!」

「えっ!?」「な、何だァ!?」

突如として鳴り響く、けたたましいアラート。同時に、叫ぶようなアナウンスも流れる。

「セキュリティ3の突破・・・無許可の人間がバリケードを越え、雄英敷地内に侵入して来ましたか。しかし・・・」

何より拙いのは、この蜂の巣を突いたようなパニック状態。これでは将棋倒しで、最悪死人が出るぞ。

「切島君!芦戸さん!2人は極力、ここを動かないで下さい!下手に逃げようとすると、逆に踏み潰されます!」

【JACKRIZE!】

周囲の喧噪に掻き消されぬよう叫ぶように言い付け、サウザンドジャッカーを延ばしてジャックライズ。スコーピオンのアビリティを選択し、ジャッカーの先端からサソリの尾のような機械触手(アシッドアナライズ)を延ばす。そして天井を支える梁に巻き付け、ターザンのようにスイングして窓際に移動した。

「アレは・・・」

ドタバタと大挙を成して押し寄せる、人の群れの津波。それらは皆一様に、大なり小なりカメラやマイク等の情報記録端末を握り締めており・・・有り体に言えば、マスコミの報道陣だった。

「マスコミ、いやマスゴミか」

『奇妙だな。雄英のバリケードを破壊し、突破する等という暴挙に出る程、奴らも考え無しでは無いと認識していたが・・・』

「確かに、明らかにおかしいね」

アークが訴えた違和感に、僕も同意する。奴等は報道の自由を笠に着てプライベートを暴き倒しはするものの、直接的な器物損壊等は避ける狡い存在だった筈・・・だとすれば、バリケードを破壊して罪悪感を取り払い、唆したヤツがいる?

「アーク。キーワードは《真正面》、《目立つ群衆》、《黒幕の目的》」

(予測によると、只の嫌がらせの確率5%、純粋な報道陣の手引きの確率8%、報道陣に混じっての雄英内の偵察の確率17%、そして・・・

()()()()()()()()()()()()()()()()()()()の可能性、75%)

「警察に通報!及び最大手を前提として予測を開始!」

 

「だいじょぉぉぉうぶッ!!皆さん落ち着いて下さい!只のマスコミですッ!!」

 

と、上から響く大声。見れば、出入り口に非常口看板のマークを真似た飯田君が張り付いて声を上げていた。

彼のお陰で、幾らかパニックが治まって来ている。ならば、今動かずして何時動く!

【THOUSAN DRIVER!】

「フッ!」

【ゼツメツ!EVOLUTION!】【BREAK HORN!】

窓を開けて飛び出し、装着したドライバーにアルシノを装填。更にコーカサスを起動し、空かさずドライバーに叩き込んだ。

「変身ッ!」【PERFECT RIZE!】

【The golden soldier THOUSER is born!】

【Presented by ZAIA】

 

─ズドンッ!─

 

拳を地面に叩き付けるように着地し、直ぐさま駆け出す。

『出久、予測完了だ。セキュリティ面から、恐らく狙われるのは職員室だ』

「了解!」

ライダーの脚力をフルに回して、職員室を目指す。そして目的地前の直線廊下、2つの怪しい人影を捉えた。

1つは、全身が黒い靄に覆われた影。もう1つは、顔に手首を掴ませくっ付けた不審者。

『やはり侵入者か』

「捕らえるッ!」

【JACKRIZE!JACKING BREAK!】

「ワイルドハント・バイト!」

素早くウェアウルフのアビリティを選択し、ジャッキングブレイクを発動。狼の顎を嗾ける。

 

──JACKINGBREAK!──

©ZAIAエンタープライズ

 

「死柄木弔!」

「コイツ何でアガッ!?」

狼が腕に喰らい付いた事で、不審者は激痛に声をあげる。さて、名を呼んだ声から察するに、どうやら2人とも男であるようだ。

「クソッ!どういう事だ黒霧!?ヒーロー共はマスコミに夢中の筈じゃねぇのか!?」

「どうやら、瞬時に此方の狙いを見抜いたようですね。やはり雄英、間抜けだけでは無いようだ」

「フン、あんな分かり易い陽動で、雄英を欺こうなどとは片腹痛い。我々が如何に過小評価されているかが見て取れる。真に遺憾だ。

いや、そのお粗末な頭脳に、バレる可能性を考えろと言う方が酷でしたか。失敬失敬」

『日に日に切れ味が増している気がするな』

取り敢えず、判断力を削ぐ為に煽ってみよう。幸い、相手は2人だ。アークのバックアップを受けたサウザーなら、どうとでもなる。

「ッ!こンの・・・!」

「いけません死柄木弔。安い挑発です」

「ほう、やはりこの程度の見え見えな煽りには乗りませんか。()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

言外に、不審者・・・シガラキの方は落第点の間抜けだと言ってやる。煽りと意趣返しを兼ねて一石二鳥だ。

「ッ~!殺すッ!」

「逃げますよ、死柄木弔。恐らく向こうは時間稼ぎ。既に仲間を呼んでいる筈です」

『ほう。バレているようだぞ?出久』

どうもそのようだ。さっきのワイルドハント・バイトを放った時点で、他の教員に招集を掛けてある。相澤先生が一緒ならば確実と判断してだったが・・・裏目に出たか。

「ではここで捕縛します!」

【JACKINGBREAK!】

「ジャッカー・ドルカシスクラッチ!」

スタッグのアビリティを選択し、ジャッキングブレイクを発動する。そしてヒラタクワガタの牙を展開し、死柄木に投げ付けた。

『ダメだ!』

「何!?ぐはっ!?」

次の瞬間、眼前に迫る黄金の三叉槍。回避は適わず、何故か跳ね返ってきた自分の武器にガッチリとホールドされてしまう。

「今の内に、早く」

「あぁ。コイツの間抜けなザマを見られたから満足だ。あばよ、金ピカ野郎」

「クッ・・・!」

主人に文字通り牙を剥くジャッカーを握って、アークがハッキング。ジャッキングブレイクは緊急停止し拘束は解除されるが、その頃には既に奴等は悠々と逃げ果せていた。

「く・・・

クッソォ!!」

 

『慢心したな』

腹の底から煮え立つ屈辱と怒りは声帯を突き抜け、口から空気を割るような絶叫となって噴出した。

「こ、この僕とした事がッ!アークと言う最高の相棒がありながら、下らない慢心で目前の敵を取り逃がすなどッ・・・!

何たる失態ッ!何たる屈辱ッ!」

『落ち着け出久』

【MALICE LEARNING ABILITY】

「クッ・・・ハァ・・・」

煮え滾るような【憤怒】がアークに吸収され、感情が沈静化される。いけない、冷静で無ければ視野が狭まるだけだ。

大きく息を吐きながら、キーを引き抜き変身を解除した。

「緑谷さん、大丈夫ですか?」

「あぁ、相澤先生。えぇ、怪我はありません」

相澤先生に引き続いて、他の教員ヒーロー達も続々と集まって来る。その中で、スーツを着た白いネズミのような小動物、根津校長が前に出た。

「それで、緑谷君。一体何があったのか、教えて欲しいのさ」

「えぇ・・・敵が、侵入していました」

「ッ!」「何ですって!?」「Hay Hay、マジかよ・・・」

全員が顔を青ざめさせ、目を見開く。しかしそれも当然だろう。まさか敷地内処か、職員室にまで侵入されたのだ。腹の中に爆弾があると言われたような心境だろう。

そんな彼らを尻目に、僕はサウザンドジャッカーを構える。

【SEARCH!】

【Progrisekey confirmed. Ready to break.】

【HACKING BREAK!】

そしてスカウティングパンダの索敵能力をハッキングブレイクしザイアスペックで起動させ、今一度職員室を見渡した。

「・・・取り敢えず、センサーでサーチしましたが、危険物の類いはありません。入って大丈夫です」

「そうですか・・・」

怖ず怖ずと教師陣が入って来るが、やはり顔に不安が色濃く滲んでいる。敵が侵入して来たのだ。安全と言われても、不安を取り払えるモノでは無い。

「取り敢えず、指紋は検出しました。顔写真と共に、データを其方に共有します」

「うん、助かるのさ!」

ライズフォンにUSBを指し、データをロードさせる。分厚いライズフォンならではの機能だ。

「データはこの中に」

「確り受け取ったよ」

「では、皆さんは紛失物が無いかの確認を」

周囲に確認を促しつつ、僕も自分のデスクを点検する。尤も、重要機密文書等は総てジャッカーと同じ封印機構を組み込んだアタッシュに入れているのだが・・・うん。全部ある。触られた形跡も無い。

「こっちは異常無しだ」

「俺もNothingだぜェ~」

「こっちも問題無いわ」

「俺もだ」

どうやら、他の教師陣からも紛失物は出ていないらしい。となれば・・・

「何らかの書類を撮影して帰った、と思うのが自然か。拙いですね」

下手をせずとも、重要な責任問題だ。何せ、相手には高度な空間転移の個性がある。運べる物の規模にもよるが、人1人分は確実に運べる訳だから・・・TNT爆薬やテルミットグレネード等を使えば、その量でも人的被害、施設被害は重篤になる筈・・・

「申し訳ありません。我が社の最高傑作たるサウザーがありながら、眼前の敵を取り逃がす等と・・・何なりと、処分は受け入れる所存で御座います」

「うむ。確かに小さくない失態だね。でも逆に、さっきの敵には逃げられたけど、代わりに重要なデータが手に入ったんだ。今後、君の判断力が必要になるかも知れない。処分はせずに、置いておくとするよ」

「校長、流石に甘過ぎるのでは?」

そう言ってジロリと此方を見遣る相澤先生の眼は、明らかに不満げだった。だが仕方は無い。僕の失態は、本来は免職級の大問題(シリアスプロブレム)だ。

「だけど事実、報道陣が陽動だと気付いたのは、緑谷君だけだったんじゃ無いかな?」

「それは・・・そうですが」

「なら、其所は功績さ。敵が仕掛けて来る時、こう言う分析が瞬時に出来る人材は必要。そう判断したまでさ」

「・・・寛大な措置、感謝します」

小さく一礼し、息を吐く。やはり、幾つか切らねばならない手札があるようだ。

『出久、話がある』

(長い?)

『ああ。重要な話だ』

(分かった)

「済みません根津校長、急用が舞い込んでしまいました。早退させて頂きます」

「うん、分かったよ」

再びペコリと頭を下げて、その場を後にする。どうするにしても、此処では何一つ出来はしないのだから。

 

(NOサイド)

 

『─────以上だ』

「そっか、有難う」

ザイアエンタープライズ社、社長室。出久はアークから、敵の情報を受け取っていた。

「空間転移ゲートの黒霧に、掴んだ対象を崩壊させる死柄木弔。そして・・・敵組織のド定番、《改造人間》、か・・・」

『ああ。中々に厄介な手合いだ』

「と言うと、前世では苦戦したの?」

『いや、アークゼロ(わたし)ならば瞬殺だった。問題は、サウザーに私程の瞬間広域殲滅能力が無い事だ』

「ま、そりゃそうか・・・となれば・・・他で補うしか無い訳だね」

『そう言う事だ。そして・・・』

 

『あホイ~っと!ダイナミ~ックエントリー!』

─ガァンッ─

 

けたたましい音を起てて、扉が開け放たれる。そして、1人の人影が入って来た。

『ギャッハハハハ!聞いてたよォ~社長!』

ノイズ混じりの独特な声が、如何にも楽しそうに出久を呼ぶ。

『ったく社長ォ~、仲間外れは良くないなぁ?そう言う話なら誰よりも先にまず!このオレを入れてくれないとォ』

そう言ってバンバンと自分の胸を叩く彼は、かなり異質な姿だった。額から右眼に掛けてはバイザーのような黒の複眼構造(コンパウンドアイ)で、左眼は赤く光る単眼カメラ。

端的に表現するならば、紺のスーツを着崩したちょいワルコーデのロボットである。

「貴方・・・何で此処に?」

『私が呼んだ』

『ハイハ~イ、そ・ゆ・こ・と~。で?それが何か問題?』

「くっ・・・ハァ・・・」

深く溜息を吐き、頭痛がするとでも言いたげに頭を抱える出久。心労を紛らわそうと備え付けのドリンクサーバーに向かい、紙コップに注いだジュースを一気に飲み下した。

「アーク・・・彼と話すには、僕も僕で覚悟が必要って言ったよね?」

『止むを得なかったんだ、許せ出久』

『あァれれ~ェ?まさかビビっちゃった~?ァハハハハハハハハハ!』

「えぇい喧しい・・・」

『・・・とま、お巫山戯は此処までにして、だ』

巫山戯倒した雰囲気が一変、冷静で鋭い口調になる。そうなれば、出久も止む無しと向き直った。

『いやさ、マジに色々と聴いたよ。予測される最低限戦力・・・それですら、社長単体じゃ勝つのは絶望的だってね。

となると、さ。やっぱ、制圧射撃とか出来るヤツが必要なんじゃ無い?そしておぉっと、此処に丁度ピッタリな人材が・・・』

そう言って、ロボットは態とらしくポケットから物を取り出す。それはレイドライザーと、もう1つ。ブラックカラーを紺にリペイントした、()()()()()()()()()()()()()()()()()()だった。

「やはり、貴方はそれを選びましたか。しかも、既にカスタマイズ済みとは・・・」

出久がザイアスペック越しにそのキーの調整ログを見てみれば、レイダーシステムに加えて大量の弾頭兵器を制御する火器管制システムや、その他ゴテゴテと弄くり倒した形跡がある。

『まぁね☆で、どうする?』

「・・・良いでしょう。では暫く、お願いしますよ────

 

────()()

 

to be continued・・・




~キャラクター紹介~

・緑谷出久
超絶ハイスペック社長。
B組との格闘訓練にて、パンチングコング及び幾つか有用なデータを入手出来てホクホクだった。自分の仕事は極限までAIで効率化しており、ちゃちゃっと終わる。しかも会社も適宜適切な作業量になるようAIで統制しており、更に社員各人のPCに簡易AIを登載。ノルマをクリアしさえすれば業務は終了、其所からプラスアルファで働けば残業代が出ると言うトンデモホワイトシステムになった。
新人が来たらタスク量を調整して素人向けの簡単な教育用作業を作るので、教育にもさほど手が掛からない。
今回は黒霧と死柄木を捕り逃がしてしまったが、それ以外の要素で処分は免れた。
今回の件で、助っ人を呼ぶ運びとなった。その助っ人の正体は・・・

・アーク
一般転生2周目悪意。
出久に伝えず割かし好き勝手するアーク様。まぁ嗄れも一応人間だからね。
ナチュラルにアークゼロ最強をアピールしてくる。しかも何ら間違って無いから質が悪い。
どうやら、渡我以外にもアークを知る人物が居るようだ。

・主任
CV:藤原○治
まぁ言わずもがな分かるよね。主任だよ主任。
あの敏腕社長出久が頭を抱える問題児だけど、それでも優秀は優秀。
顔は元の彼の専用機の顔に似てるけど、もうちょいスマート。
何時もハイテンションだけど、いざって時には頼りになる予定。


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切られる地獄へのチケット

(出久サイド)

 

『やっぱ派手っつったら、爆豪・轟・渡我の3強だよなぁ』

『ダーティーかつヒロイックだもんなぁ。カッケェよ001』

『爆豪ちゃんは人気出すの大変そうね。すぐキレちゃうし』

『あ゙!?出すわクソがッ!』

『ほらこう言う』

わちゃわちゃと賑やかな会話を傍受しながら、僕は雄英を目指してザイアエクステンダーで駆ける。夜中の()()()帰りだが、これから講師の仕事だ。

そして傍受している内容は、離れた雄英敷地内を走るバスの中の生徒達の会話だ。

『アハハハハハ!良いじゃん!盛り上がってきたねェ!』

そして、一緒に乗っている頭痛の種(あのヤロウ)の声も聞こえてきた。ホントに喧しいな・・・

『それにしても、主任さんが助っ人とは驚きました!』

『あ、そうなんだ。まぁ良いんじゃないのどうでも』

『自分の事なのに無頓着ですね』

『主任。渡我被身子テストパイロットが困惑しています。余り困らせないであげて下さい』

通信に割り込む形で、クールな女性の声が混じって来る。

彼女はキャロル。主任の補佐を務めるオペレーターだ。彼女は精神を電脳世界に切り離す個性、《ヴァーチャルリンク》を持ち、情報処理分野に於いては凄まじい適性を叩き出している。因みに我が社のAI改良も請け負ってくれたスーパーエリートだ。

『ハハ!よぉうやくお目覚めかぁいキャロりん♪相変わらずぐっすり熟睡出来てるみたいで羨ましいね。ま、君の芸術的な寝相の悪さは見習いたかァ無いけどさ!ギャハハハハ!』

『リクエストを認証しました。どうやら死にたいようですね』

「キャロルさん、一応生徒は巻き込まないようにして下さいね?」

『社長、これはジョークですよ。ただの可愛らしい、オペレータージョークです』

『アッハハハハハハ!ねえ社長聞いたァ!?あのキャロりんが自分で可愛いとか言っちゃったよ!今日はテルミットかミサイルの雨でも降るのかな!?ギャアハハハハ!』

『分かりました。では主任、テルミットグレネードとマイクロミサイル、好きな方をお選び下さい』

『あれ?マジ?』

「はいはいそこ、痴話喧嘩しないで下さい」

喧しい遣り取りを聴きながら、脳内に薄らと浮かび上がる《人選ミス》の4文字から眼を逸らしつつ通信を切る。

「全く、あれで戦力としても開発部としても優秀だから腹立つな」

『と言っても、優秀な人員というのは得てして何処か拗くれているものだ。大切なのは許容だぞ。何より、主任はアレでもまだマシな方だ』

「あーうん、アークが幾つか見せてくれた狂気(キチガイ)ライダーに比べればね」

真っ先に浮かんでくるのは、やはり某神ィを自称するリアル作画崩壊男。次いで自分の作ったアンドロイドに幼稚な動機で拷問を繰り返したカスに、他人を実験材料にする事をあたかも呼吸でもするかのように実行するサイコ科学者。後は国を跨いでテロを仕掛けてその被害を出汁に自社の軍事製品で丸儲けしようとした別世界のザイアのCEO・・・

うん、主任はまだ人格者だね(錯乱)。

『いやそれは違うぞ』

「やだなぁアーク、冗談さ冗談・・・」

『いや、眼がマジなんだが?』

そんな事を言い合っている内に、もう駐車場の入口だ。さて、今日もお仕事と行こうかな。

 

(NOサイド)

 

「此処が今回の演習施設、《嘘の災害・事故ルーム》、略して・・・USJだ」

「「「「USJだったァ!?」」」」

相澤から告げられた、今回使用する演習施設の名前。どうにも危ない名前をした施設であり、生徒側からツッコミが上がる。

『ギャハハハハ!ねぇ、アレ大丈夫だと思う?』

「いやぁ、私はちょっと・・・分かんないです」

『あ、そうなんだ。じゃあキャロりん?そっちはどう思う?』

『著作権は既に消滅しています。法的には何の問題も無いかと』

『ヤハハハ!クールだよねぇ、何時も・・・』

一方ザイア組は、施設名について楽しく談笑していた。物を造る会社だからか、著作権方面には明るいようだ。

「元気があって宜しいですね!では、ボクも挨拶をさせていただきましょう!」

「あー!スペースヒーロー13号だ!ファンなんだぁ~!」

そんな中、教員として授業に参加している宇宙服のようなコスチュームを着たヒーロー、13号が声をあげる。A組女子の1人、麗日お茶子は、ファンであった為かテンションが跳ね上がった。

「訓練に入る前に、ボクから小言が1つ、2つ、3つ・・・」

『せめて纏めて来ようよ』

「うぐっ」

主任の空気を読まないツッコミが13号を襲う。

「で、では本題に・・・突然ですが、ボクの個性は知っていますか?」

「はい!ブラックホール!その個性で、災害現場でも素早く人を助けられるんですよね!」

「その通りです!」

興奮気味の麗日の言葉に是と答え、但し、と続ける。

「使い方を誤れば、容易く人を殺める事が出来てしまう・・・そんな危険な個性です。皆さんの中にも、そんな人がいると思います」

『まぁ、俺のゲンコツとか普通に頭蓋砕けるしね!』

「私は個性を発動する過程で殺しかねないです」

『ま、要するにだ。殺す力も無けりゃ現場じゃ大体人助けなんか出来ないんだから、今の内に自分の殺傷力を認識して、活殺自在になれって事だよね!』

「・・・纏めるとそうですが、ボクの言いたかった事を全部取らなくても・・・」

『ギャハハハ!あ、そうなんだァ・・・まぁ良いんじゃないの?ウダウダ話すより、簡潔に言った方が分かり易いよ。只でさえコイツら本番経験の無い、クソ童貞クソ処女共だしね』

「セクハラです!」

 

─バゴォンッ!─

 

『ア゜ッ!?』

途轍もなく重い音と共に、主任が渡我に蹴り飛ばされた。基本的に主任の立ち位置としては、不謹慎な事を言えば蹴っ飛ばしたり殴り飛ばして良いと言う中々にハードなモノなのだ。

「ウチの主任さんが御免なさいなのです」

「いや、まぁ良いけどよ・・・つーか、いい加減その人について教えてくんね?さっきも、『着いたら話す』っつって聞けなかったし」

「それもそうですね。主任さん、自己紹介をお願いします」

『ハイハーイ!』

シャチホコのように海老反りになってすっころんでいた主任だが、話を振られた途端に一瞬で起き上がる。先の立ち位置にあって尚ここまで巫山戯られるのは、この頑丈さあってのモノだ。

『って訳で、どォーもヒヨッコ諸君!俺は社長が経営するザイアエンタープライズの開発部主任、シュニン・ハングマンだ!』

「「「「「役職そのまま名前かよ!?」」」」」

『ギャハハハ!まぁビックリするよねぇ、日本人ならさぁ。でもお前等にゃ言われたく無いかな?其処のパツキンイナズマボーイなんて、まんま上鳴電気なんて名前だしさ!』

「た、確かに・・・」

実際、世界には浪人(ローニン)やらバカやらと、日本語では可笑しな名前が幾らでもある。シュニンと言う名前があっても不思議は無い。

『年齢は27、個性は見ての通り《ロボット》の異形型!今回は社長の助っ人に来たんだ。で、何か質問ある?』

「では、先程おっしゃっていた開発主任とは、一体何の開発でしょうか?」

『兵器』

「・・・え?」

『だから、兵器だよ、兵器。他人を殺傷する為の道具』

八百万の質問に対する主任の爆弾回答に、生徒側は粗方フリーズする。

「え?そ、そんなヤバい事してんの?シャチョーって・・・」

「あーもう、言い方最悪ですよ主任さん」

『ギャハハハ!そっかそっかァ!』

悪びれる様子も無く、何時もの調子でゲラゲラと笑う主任。一種狂気的なまでのその笑い声に、渡我以外の生徒達は若干引き始めた。

『まぁお前等に馴染みのある言い方をするなら、サポートアイテムってヤツだね。まぁウチのは全くの新型だけど』

「私の使ってるフォースライザーとか、他にも新型装備が色々ありますよ!」

「な、なぁんだ、サポートアイテムかぁ・・・」

「てっきり戦争とかに関わってるとか思っちゃったぜ」

軽く言い方を変えただけで、狼狽えていた生徒達はコロリと安心する。それを見て、渡我は複雑な表情を浮かべた。

『つってもさぁ、ヒーローってヤツァ、ぶっちゃけやってる事は他人への攻撃だからねぇ・・・自分が兵器と定義出来る範疇にあるモノを装備して、何時でも人を殺せる事・・・努々忘れるなよ』

何時もの調子とは違う、ドスの効いた低い声。その声には殺気が乗せられており、生徒の耳から鼓膜を揺らして、脳髄に恐怖を擦り込んだ。

『アレ、ちょーっと脅かし過ぎちゃったカナ?まいっか!遅かれ早かれ・・・アレ?』

おちゃらけた雰囲気に戻った主任だったが、何かを感じてUSJ中央広場に視線を向ける。丁度同時に渡我と相澤も其方を見遣った。

「ッ!全員、その場から動くなッ!」

「何やってんですか彼奴ら・・・」【FORCE RIZER!】

ぶわりと髪の毛を逆立てて、相澤が待機を命令する。一方渡我はフォースライザーを装着し、伊達眼鏡を掛けてザイアスペックを起動した。

「え、何?入試みたく、もう始まってるぞー的な?」

『イヤイヤ、あれは()()()()だよ。お前等クソ童貞は気付かないだろうけど』

「あれは・・・(ヴィラン)だ!」

「ヴィ、(ヴィラン)ンンン!?」

相澤が断言すると、瞬く間に動揺が広がった。ヒーローの卵とは言え、未だ子供。有事への心理的備えは、まだまだ未熟である。

「あ、アホだろ!?ヒーローの学校、本拠地だぜ!?何でそんなとこに乗り込んで来るんだよ!?」

『ん~、どうだろうね?キャロりん、雄英職員室に外線通達は?』

『現在施行中。ですが、不明なジャミングにより接続不能です。私も本体に戻れません』

『ギャハハ、やっぱりか!応援を喚ばれないよう電波妨害をしつつ、しかもこっちの予定を読んでA組が孤立するこのタイミングに仕掛けて来る。クールだねぇ・・・マァとは言え?此処に飛び込んで来る辺りはやっぱりバカだよね!最低限、アホでは無いみたいだけどさ!』

情報を手早く整理し、分析する主任。

敵のジャミングにより、電波通信は不能。ディープウェブネットワークを介して電脳空間と物質空間を行き来するキャロルも、ザイア本社に眠る自分の本体へと帰還出来ない状態である。

「初めまして、雄英の皆様」

と、そのタイミングで敵の中心格級の人物、黒霧が口を開いた。

「我々は(ヴィラン)連合。今回雄英に侵入させて頂いた目的は、オールマイトに息絶えて頂く事・・・なのですが・・・」

『ギャハハハ!残念だったねぇゴミムシ共。あの物好きな変態人柱は此処には居ないよ。もうちょっと待ってくれれば来るんじゃない?ちょっ~と時間掛かるけどね!』

RAID(レイド) RIZER(ライザー)!】

軽口を叩きながら、主任は自分のメイン武装となった兵器、レイドライザーを装着する。

『渡我ちゃん。A.I.M.S(エイムズ)隊長として、変身許可』

「おい!何を勝手に!」

『生憎だけどさ。ことプログライズキーシステムが絡む殺し合いに於いては、俺には全般指揮権があるんだ。一介の教師よりも遥かに上の、()()()()()()()権限がね。そして俺の仕事は、ああ言うゴミムシ共の排除。この任務に於いて、俺と渡我ちゃんは、指揮官と兵士の関係になるんだよ。てな訳で、行こうか渡我ちゃん!』

「了解です!」

【JUMP!】【SEARCH!】

淡々と説明しながら、主任と渡我はそれぞれのキーを起動。腰のユニットに装填した。

フォースライザーの不安を煽るようなアラートと共に、レイドライザーからは建設現場を想起させるようなけたたましい待機音が鳴り響く。

「変身!」『実装』

【FORCE RIZE!】RAID RIZER(レイドライズ)!】

渡我がレバーを引き、主任はレイドライザー上部のボタンを叩き込む。

【RISING HOPPER!】

SCOUTING(スカウティング) PANDA(パンダ)!】

 

【A jump to the sky turns to a riderkick.】

【BREAK!DOWN!】

 

彼の眼に未知は有り得ない(There is nothing unknown to his eyes).】

 

それぞれのシステムが発動し、渡我は001に、主任は光学観測ゴーグルと竹型のメーザーランチャー(デッドモノクローム)が特徴の紺と白の戦士、スカウティングパンダレイダーに変身した。

しかし、主任のレイダーはこれでは終わらない。

PACKAGE(パッケージ) RIZE(ライズ)!】

追加音声と共に、彼の前方に更なるパッケージパーツが出現。

乱射魔の(THE FUNKY TRIGGER HAPPY) ゴリ押し強行突入(POWERFUL DYNAMIC ENTRY)!】

それは、ブースターユニットを備えた太い両脚の装甲と、大型の銃をマウントしたウェポンハンガーが肩に着いた両腕。後ろからブーツを履くように脚を突っ込むと、余剰スペースが締め上げられ密着。両腕も上からパッケージが被さり、よりゴツいシルエットとなった。左肩には、タロットカードの大アルカナ12番、吊られた男(ハングドマン)のエンブレムが着いている。

LAUNCHING(ラーンチング) HUNGD MAN(ハングドマン)!】

これが、主任自ら開発した特殊武装パッケージ・・・A(アーマード)C(カスタム)ハングドマンである。

『戦えないヒヨッコ共は下がってなよ!オジサンがちゃっちゃと終わらせちゃうからサァ!システム、スキャンモードォ♪』

「クソがッ!」

 

─BBOM!!─

 

『アラ?』「ちょっ、ファッキンボンバー!?」

主任の警告に真っ向から反抗し、爆裂射出で独断専行する。しかし、飛び出したのは彼だけでは無かった。

「此処で引いたら(おとこ)じゃねぇ!()()()()はもう御免だッ!!」

「切島君!?」

「オールマイト殺すだァ!?その前にテメェが殺されるたァ思わなかったのかァ!?」

「バカッ!戻りなさい2人ともッ!!」

13号の制止も虚しく、2人は真っ直ぐと黒霧に飛び込む。対して、黒霧の後ろからは真っ黒なローブをスッポリと被った2人組が現れた。

 

─ドグッ カァンッ─

 

「ばがっ!?」「うがっ!?」

黒ずくめ2人組によって、爆豪達は容易く殴り飛ばされてしまう。硬質化の個性で受け止めた切島は兎も角、爆豪はモロに腹に拳を受けてしまった。時速50km以上の加速を得た60台後半の体重を、容易く殴り飛ばす拳を。

「ゲッ、がハッ・・・うごぇ・・・!?」

「痛ぇ!?わ、割れた!?パワー系の個性かよ!?」

結果、腹筋を貫き内臓を穿つ衝撃に耐えきれず、爆豪は胃の内容物を吐き戻してしまう。切島は内臓へのダメージこそ無いものの、硬化させた腹部に罅が入ってしまった。

「オイオイ、どうせなら頭殴れよ」

爆豪を殴り飛ばした人物に対し、敵のリーダー、死柄木弔がクレームを入れるような口調で話し掛ける。どうやら派手なスプラッタがお好みなようだ。

「申し訳ありません。ですが脳を破壊された際の絶命反射の危険があり、距離を離す事を優先しました」

「ふぅん・・・まぁ良いか。あのカス共が地べたに這い蹲ってるのが見られたし、ちょっとはスカッとしたよ」

合理的な理由などは理解せず、ただただ嫌いなモノが痛い目を見ているので満足した死柄木。その様は未熟で、何処か子供の気紛れめいたモノを宿している。

「それにしても、流石は雄英生。まだまだ荒削りとは言え、攻撃に躊躇がありません。ですので予定通り─────

 

─────散らして、嬲り殺す」

 

『あ、やっべ』

ブワリと黒い靄(ワープゲート)を周囲に展開する黒霧に、主任は若干慌てた様子で飯田を引っ掴んだ。

「は!?な、何を!?」

『ゴメン、ちょっち時間ねェからさ。ちゃちゃっと走って、先生呼んできてよ。貴様の脚なら、それが出来る』

「ま、待って下さい!仲間を置いて行くなど、委員長の───」

『ウダウダうっせェなァ!戦闘の基礎も知らねぇゴミムシ風情が、いっちょ前に戦えると思ってんじゃ無いよ!今のお前にゃ、良いとこ行って漸く使いっ走りの伝令係が関の山なんだよ!』

理想との乖離にごねる飯田を、荒々しい正論武装で捻じ伏せる。この場で最大戦力は、どう見ても主任。その最大戦力から戦力外通告を叩き付けられ、飯田の顔が苦々しく歪む。

「他にないから仕方無いにしても、敵前で策を話す事がありますか!」

「聞かれて良いから話したんでしょうが!」

迫り来る靄を、13号が指先を開いて吸引する事で足止めする。一応は吸い込まれているものの、長くは持ちそうに無い。

『焦るより、今はやれって言われた事だけやれば良いのさ。じゃ、頑張ってねェ!』

「うぉあ!?」

『証明して見せろ。貴様の、価値ってヤツを』

圧を消しておちゃらけた口調に戻しつつ、主任は飯田を入口まで放り投げた。しかし次の瞬間、視界がぐらりと傾く。

『お?っと、クッソ時間切れか』

足元を見てみれば、何時の間にやら黒い靄が絨毯を広げていた。その中に片脚が沈み込み、踏ん張る事も出来ない。

『主任、13号が危険な状況です』

『あ、そうなんだ。じゃ、ちょっとだけ助けるかな!』

左肩のウェポンハンガーから巨大なアサルトライフルを取り外し、13号に銃口を向ける。当の13号は、自分のブラックホールを空間跳躍で背後に繫げられつつあった。このままでは、自分の重力(個性)で自分を引き裂いてしまう。

『背後がお留守だぞォ!お嬢ちゃん!』

銃身下部のマウントレイルに着けたグレネードランチャーが、ボシュッと言う音と共に弾頭を発射。それを最後に、主任はその場所から消え失せる事となった。

 


 

「うわっ!?」

「ぐっ・・・」

爆豪と切島は、崩れたビルの中に飛ばされた。USJ内、倒壊エリアである。

「お、来た来た」「ガキだ!」「俺達の獲物だァ!」

それを見て、血を嗅いだピラニアの如く寄り付く集団。敵連合に引き入れられた、金目当てのゴロツキ共だ。

「ボロい仕事だよなぁ?コイツらガキを殺しゃあ、それだけで報酬がたんまりなんてよぉ!」

「や、やべぇぞ爆豪!敵がいっぱいだ!」

「ッ・・・クソが」

腹を擦りながら痛みを沈め込み、何とか起き上がる爆豪。満身創痍の獲物を前に、薄汚いチンピラ共は舌舐めずりをする。

「・・・おい、クソ髪」

「え、それ俺か?」

「良いから黙って聞けや殺すぞ」

「アッハイ」

低く唸るような声の爆豪に、どうこう言うだけ無駄だと押し黙る切島。この場合の最適解である。

「隙作ってやる。それに合わせて、合図で殴り込め。ゼッテェ振り向くな」

「お、おう。よく分かんねぇけど」

手短な指示で切島を頷かせると、爆豪は両手に意識を集中する。パパッと小さなスパークが散り、成分の調整が完了した。

「喰らえや、クソ敵共が!」

 

─PPPAM!!─

 

閃光手榴弾(スタングレネード)ォ!」

頭の上でクロスされた手から、凄まじい閃光が放たれる。周囲の敵の網膜を真っ白く塗り潰し、致命的な隙を作り出した。

「やれクソ髪!」

「お前スゲぇな!」

それを合図に、岩より硬い拳と金属製ニープロテクターが敵の顔面に叩き込まれる。

この日、爆豪は生まれて初めて連携プレーを行った。

 


 

『ギャハハハハ!盛り上がってるねぇ!』

「うわぁぁぁ!選りに選って頭おかしい野郎と一緒だァ!」

「峰田ちゃん、失礼が過ぎるわよ」

「いえ梅雨ちゃん、この人にはこの反応が妥当ですから気にしないで下さい」

泣き叫ぶ峰田を叱る蛙水に対して、何でも無い事のように言い放つ渡我(001)。飛ばされて来たのは、この4人。

彼女らがいるのは、USJ内水難エリアの難破船型のハリボテの上。背後の孤島を含め、周囲をぐるりと巨大な人口湖に囲まれており、その中には数十人の水中特化敵が潜んでいる。

「ウワァァァン!死にたくねぇよぉ!」

「喧しいですねぇ・・・」

みっともなく泣き叫ぶ峰田にうんざりしながら、船の下を見遣る001。其方では、大量の敵が今か今かと待ち構えていた。

「とっとと刻んじまおうぜェ?」「焦るなよ。どう足搔いても俺らにゃ勝てねぇんだから」「さっきの女、結構楽しめそうだったよなぁ・・・♪」

 

「・・・ゲスで、カスで、小物です。獲物を前に舌舐めずり、ド三流のする事なのです」

『まぁ良いんじゃない?どっちにしろ始末するんだしさ。でもこの2人邪魔だから、渡我ちゃんが運んでってよ』

「じゃあ、この場の処理はお任せします。あ、社長にSOSだけ出しときますね!」

『お願いします、被身子パイロット。我々のザイアスペックでは、量子通信は1度が限度ですので』

キャロルの言う通り、現状で支給されたザイアスペックは、未だ不完全な試作品と言うべきモノである。

出久のそれは、アークが全制作した完成品であり、量子通信も30時間は送受信可能である。だが、それを量産してしまえば市場は大混乱に陥る事は確実。故に、部下や商売相手には意図的に性能を著しく落としたデッドコピー版を渡しているのだ。

これは量子通信の送信が1回の緊急時SOSしか出来ず、処理能力も本来の30%程度で、正直言って出来損ないも良いところである。

尤も、その程度の性能であれど単純な連携作戦には問題無いので、現状クレームは無い。

「じゃ、ハヤブサちゃんで行きましょうか!」

【WING!】【FORCE RIZE!】

渡我はホッパーキーからファルコンキーに素早く換装し、再びフォースライザーを展開する。

【FLYING FALCON!】【BREAK!DOWN!】

「さ、行きますよ!」

001から迅に再変身した渡我は、蛙水と峰田を掴む。

「時間稼ぎ、お願いします!」

『任せちゃってよ!オジサン頑張っちゃうからさ!システム、戦闘モード!』

主任(ハングドマン)は右手のデッドモノクロームをウェポンハンガーの空きホルダーに取り付け、軸回転で下りて来たもう1つのホルダーからアサルトライフルを取り外す。装填された大容量ボックスマガジンから銃の電子機器が残段数を割り出し、モニタに映し出した。

そして左手の銃もハンガーに預け、代わりにウィンチェスターライフルにも似たレバーコッキング構造のグレネードライフルに持ち替える。

『オラオラァ!こっちだァ!』

 

─BARRRRRRRRRNG!!─

 

「げぇ!?実弾!?」「何でチャカなんか持ってんだよ!?」「ガキじゃねぇのか!?」

挨拶代わりとばかりに、ハングドマンは右手の銃でフルオート射撃。海面に銃弾を散蒔く。尤も、撃っているのは樹脂弾なので、当たっても大怪我で済む代物だ。

『キャロりん、左は任せた(ユーハブ・レフトコントロール)!』

承知しました(アイハブ・レフトコントロール)

更に、左腕の操作権限をキャロルに譲渡。グレネードライフルの並列斉射で、更に広域を牽制する。

「行きます!」「えっちょっ心の準備が!?」「腹くくりなさい峰田ちゃん」

『じゃあ、頑張ってねェ~!』

敵がハングドマンからの射撃に一杯一杯になっている隙に、迅がスクランブラーを展開。空中に舞い上がり、最初に居た広場を目指した。

「クソッ!ヤツら逃げるぞ!」「気にしてられるかよ!」「こっちはもうあっぷあっぷしてるっつーの!」

狙い通り、敵はハングドマンの制圧射撃に釘付けになっており、迅の撃墜処では無い。多少余裕のある場所からは気持ち程度に疎らな攻撃が飛んでくるものの、迅はそれを余裕を持って回避し、悠々と飛び去って行く。

『中々上手く避けるもんだ。あホイ~っと☆』

迅の回避に関心しながら、ハングドマンはアサルトライフルからグレネードを放った。その弾頭は緩く弧を描いて湖に着水し、一拍遅れて水柱を立てる程の途轍も無い大爆発を起こす。

『メタルナトリウムグレネード、威力は上々のようです』

『まぁ良いんじゃない?それなりにはサ』

衝撃波で気絶した敵がプカプカと浮かび上がって来るが、深層に潜って爆発を遣り過ごした生存戦力もまた浮上し、次々と攻撃を放って来る。船は見る間にボロボロになり、傾いて沈み始めた。

『ヤバいヤバいッ!ギャハハハハ!』

脚のバーニアを吹かし、後ろの孤島の岩山に退避するハングドマン。船はミキサーに掛かったように砕かれ、敵はギラギラと紺色の仇敵を睨め付けている。

『じゃあちょっと遊ぼうか』

 

─ガシャッ─

 

両手の武装をハンガーに預け、右手で太腿の装甲を叩く。すると小気味好い音と共に一部装甲が浮き上がり、その隙間にプログライズキーが装填出来るスロットが出現した。

【THUNDER!】

【Progrisekey confirmed. Ready to Over.】

【Hornet's ability!】

ライトニングホ-ネットを起動し、スロットを閉じるように再び叩く。すると両肩のウェポンハンガーがパージされ、代わりに背中に巨大なちくわぶを半分に切ったようなハニカム構造の装置が出現、接続された。

 

警告(Warning) 警告(Warning).不明なユニットが(An unknown Unit) 接続されました(has been connected).直ちに使用を停止して下さい(Please stop using it now).】

 

ノイズ混じりのシステム音声が発する危険警報(ワーニングコール)を無視し、ハングドマンは更にスロットをタップ。すると背部の装置、13×5×2・広域殲滅超高圧電磁砲(マルチプルパルス)が変形し、両肩前面を覆うように展開された。更にハニカム構造から六角柱型の電磁波放射装置がシリンダーのように飛び出し、さながらハリネズミのような見た目になる。

 

『愛してるんだァ!君達をォォォォォォ!!!』

LIGHTNING(ライトニング)OVERRIDE(オーバーライド)!】

 

狂ったような高笑いと共に、周囲は緑の閃光に包まれた。

 

(出久サイド)

 

「全く、選りに選って今日か!」

『嘆いても仕方が無い。全速力で向かうだけだ、出久』

ひーちゃんからの、1回キリのSOSを受け取った僕は、瞬時にUターンしてエクステンダーに跨がり、目一杯に飛ばしていた。

『場所はUSJ内、確実に黒霧含むオールフォーワンの手下だ』

「分かってる!だからこそ急がなきゃ・・・ッ!」

ザイアスペックの望遠機能で、遠くから此方に猛スピードで走ってくる人影を見付けた。あれは・・・飯田君か!

「アーク、彼のヘルメットにハッキング!」

『了解した』

飯田君の方も、僕に気が付いたらしい。減速仕掛けているが、その必要は無い。

「飯田君!状況は大体予測しています!貴方はそのまま雄英本館に!他の先生に伝達を!」

『ッ!分かりました!』

減速を途中で辞めて再加速した飯田君と、猛スピードで擦れ違う。そして更にギアを上げ、アクセルを目一杯に捻った。

電磁コイルを内蔵したホイールが、超伝導のスパークを飛ばす。間も無く、時速は250kmに到達。その辺りで、漸くUSJが見えた。

「上から派手に突っ込む!」

STRONG(ストロング)!】

【Progrisekey confirmed. Ready to Boost!】

【Herculesbeetle's Ability!】

ユニバーサルスロットにアメイジングヘラクレスキーを叩き込むと、ライダモデルを抽出。ヘラクレスの象徴たる角は、鋭い衝角に。力強い羽は、この大型バイクをも浮かせる逞しいウィングになった。

「行けッ!」

車体は揚力を受けて浮き上がり、段々と高度を上げる。そしてUSJのドームを目掛け、一気に突貫した。

けたたましい音と共に、ガラスが砕け散る。同時に僕は座席を蹴り、宙に身を躍らせた。

 

【THOUSAN DRIVER!】

【BREAK HORN!】

「変身ッ!」

 

【PERFECT RIZE!】

【The golden soldier THOUSER is born!】

 

高速前宙を繰り返しながらアンダースーツに身を包み、拳を地面に叩き付けて着地する。

 

【Presented by ZAIA】

 

「恐れ慄け。赦しを請え。私の強さは─────

 

─────桁外れだ」

 

to be continued・・・




~キャラクター紹介~

・緑谷出久
出遅れた1000%社長主人公。スーパーヒーロー着地で威圧感マシマシに決めた。遂にキメ台詞初使用。出来ればもう少し爽やかに使わせたかった。

・主任/シュニン・ハングマン
超絶問題児開発主任。
ZAIAエンタープライズのサポートアイテム開発部を率いる人物であり、更にもう1つのリーダー肩書きを兼任している。
ゴテゴテに弄ったスカウティングパンダは、実は出久に内容を提示していなかったりする。
何時も狂ったように笑っており、興味が無い事に関してはとてもドライと言うか素っ気ない。
日常的に冷やかしやセクハラを繰り返しているが、彼に対しては社長権限で《その場で制裁しても良い》と言う特別許可が公布されているので、3時間に1回は殴り飛ばされ蹴飛ばされる。それでも持ち前の頑丈さで笑ってみせる剛の者。
元ネタは皆さんご存知、アーマードコアV(ファイブ)の焼け野原ひろし主任。専用機のハングドマンがスカウティングパンダにソックリだからとポン付けしたら、まさかの原作01のパンダレイダーも開発主任だったと言うミラクルが起こった。三奈&ミーナ、かっちゃんグリス&ギアッチョパターンの再来。

・キャロル・ドーリー
主任のメインオペレーター兼パートナーパイロット。
何時も冷静で丁寧な口調だが、主任に対しては一切の容赦が無く、割といとも容易くえげつない行為を行おうとする。尤も、それは気の置けない関係の裏返しなのかも知れないが・・・
個性は《ヴァーチャルダイヴ》。簡単に言えばSAOのナーヴギアみたいな事が自前の肉体で出来る。故にフルダイヴ中は本体は動けないので、ZAIA本社で厳重に保管されている。

・爆豪勝己
歩く火薬庫なクソ幼馴染み。
主任に言われた事にカチンと来て突貫した結果、謎の敵に殴り飛ばされ動けないままに転移させられた。
この世界ではヘドロ事件が起こっていない為、実質これが初めての大きな敗北。
ダメージを受けて本調子じゃないままで敵に囲まれれば止む無しと苦虫を噛み潰しながらワンマンプレーを捨て、切島に協力を仰いだ。

・切島鋭児郎
主任に言われた事に過去の記憶を刺激され、飛び出した結果殴り飛ばされ転移させられた。
防御特化の個性であった為爆豪よりは軽傷だが、それでも拳で硬化を割られるのはほぼ初めてなので大きく動揺した。
爆豪が初めて連携プレーを持ちかけた相手。

~アイテム・装備紹介~

・レイドライザー
簡略式量産型汎用各種兵装実装装置
プログライズキーを装填しボタンを押し込む事で、そのキーのライダモデルを瞬時にラーニングし装甲を作り上げるサポートアイテム。
味方の位置をリアルタイムで視界に透視投影する事で連携精度向上及びフレンドリーファイア防止性能を高めており、使用者の脳波を計測する事で戦闘時の動きをサポートし、武器のブレを最小限に抑える。
また、戦闘終了後のクリアリング完了時には、脳波に干渉して興奮を抑え、パニックを抑制する機能が搭載されている。

・スカウティングパンダプログライズキー・ACハングドマン
スカウティングパンダの主任専用カスタムバージョン。
A(アーマード)C(カスタム)システムにより、突出した技能・特性を持った所有者に対して専用に制作・チューニングした追加武装パッケージを装着する。
主任のハングドマンは、分厚い装甲と各部のバーニアによるホバー移動、更にデッドモノクローム以外の銃火器の携行及びスムーズな持ち替えが出来るカスタムである。
反面、瞬発力が大きく損なわれており、足を停めると致命的なタイプ。かなりピーキーなプロ向けカスタムと言える。

・オーバードスロット
各種過火力武装展開用制御ユニバーサルスロット
ACの右太腿に装着された、カセットテープスロットのような構造のユニバーサルスロット。特定のプログライズキーを装填する事で、それぞれのライダモデルに対応した超特大過火力兵器(オーバード・ウェポン)を展開する。

・オーバード・ウェポン/OW
超特大過火力兵器。
ライダモデルの性質を機構に組み込みつつ、とんでもなく巨大な兵装として組み上げた頭悪い兵器。ぶっちゃけロマン砲の類い。
無茶苦茶な設計の武装をこれまた無理矢理接続する事になるもんだから各システムに多大な負荷が掛かり、【不明なユニットが接続されました】と言うアラートが鳴る。スカウティングパンダの場合、持ち味である超長距離精密索敵能力もエラーで使い物にならなくなると言う諸刃の剣である。
取り回しもクソも無く、展開時にウェポンハンガー等の肩部用武装を強制パージする為、前隙も後隙も馬鹿みたいに大きい。だが、決まれば相手は確実に再起不能に陥れられる切り札でもある。因みにパージした肩部用武装は、格納後に手動で再度装着する事で使用可能。但しパージ状態で変身解除してしまうと、パーツはその場に転がった状態なので再実装しても肩はスカスカである。実に面倒臭い。
イメージし難ければ、ガオガイガーのゴルディオンシリーズを思い浮かべれば良い。アレこそ正にOWである。

・マルチプルパルス
13×5×2・広域殲滅超高圧電磁砲。
ライトニングホ-ネットのOW。ハニカム構造の六角柱集合物を弧を描くように配置し、そのハニカム構造から横13門立て5列×2の合計130門のパルスキャノンを展開して背後以外のほぼ全方位を超高圧電磁波で塗り潰す極悪武装である。電子機器は勿論ぶっ壊れるし、生身の人間だって感電するし、金属は電子部品関係無くバチバチとスパークを散らす。代わりに1発撃てばしばらくの間はエネルギーが枯渇し、生身の筋力に依存した動きしか出来なくなってしまう。そしてOWを使う時は必ずACなんてクソ重い物を纏っているので、確実に行動不能。
尚、この行動不能時間中にも武装の格納や変身解除は可能である。


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何処かから来たカレ等

「恐れ慄け。赦しを請え。私の強さは─────

 

─────桁外れだ」

 

地獄の底から響くような声に、全員がサウザーの方を向く。しかしサウザーの眼にまず映ったのは、真っ黒な肌で脳味噌剥き出しの大男、改人脳無に、腕をへし折られる相澤だった。

「来やがったか金ピカ野郎」

「処理する!」

【THOUSAND JACKER!】【JACKRIZE!】

ジャッカーを構え、素早くジャックライズ。アビリティを選択し、目標を睨む。

「まずは、離れろッ!ロケットォ!パァンチッ!」

【JACKING BREAK!】

ジャッカーから太いガントレットのような構造のエネルギー弾を生成し、脳無に撃ち込んだ。

 

───JACKING BREAK!───

©ZAIAエンタープライズ

 

相澤を離してガードした腕をブヨンと波打たせ、衝撃を吸収する脳無。しかしこのロケットパンチは只の衝撃では無く、当たっても尚推進し続けている。故に、馬乗りになっている脳無を辛うじて押し飛ばす事に成功した。

「へぇ、結構やるじゃん金ピカ野郎」

「品の無い渾名で呼ぶのは辞めなさい。私は仮面ライダーサウザーだ」

相澤を庇うように前に立ち、ジャッカーを構えるサウザー。それに対して、黒ずくめの2人が歩み出た。

「仮面ライダーを確認」「抹殺対象・・・」

2人は、自分を覆っていたマントをバサリと取り去る。

1人は、動きやすそうな黒服を着た青年。もう1人は、上裸に短パンにサスペンダーと言うとち狂った服装の筋肉質な男だ。

「どうも~!腹筋崩壊太郎ですっ!」

「は?・・・ッ!」

気の抜ける自己紹介に一瞬唖然とする出久だったが、直後に2人のとある部分を見て、マスクの下で眼を見開く。

それは、耳を覆うヘッドセットのような赤く光るユニット。アークから見せられた資料でのみ知っている、本来ある筈の無いもの。

「ヒューマギア、だと!?」

頭をハンマーで殴られたような衝撃が、サウザーを襲った。これを建造出来る技術力は、今のこの世界にはある筈が無いのだ。

(アーク!漏洩の可能性は!?)

『限り無く0に近い。アレのデータは一切のハードウェアに移さず、お前の精神世界で見せたモノだけの筈だ』

「では、仕事を始めましょう」

そう呟いて、2人・・・腹筋崩壊太郎と暗殺ヒューマギアは、ドライバーのようなバックルを取り出した。それは何処かレイドライザーによく似た、シンプルなバックル。

その名も、ゼツメライザー

それを2人が腹部に押し当てると、バックル両サイドから夥しい数の棘のような接続プラグを備えたベルト帯が展開。それを突き立てるように、腰回りに装着される。

 

BEROTHA(ベローサ)!】【DODO(ドードー)!】

 

そして、ポケットから取り出されたプログライズキー・・・否、絶滅種のデータ(ロストモデル)を封入した異端のキー、ゼツメライズキーを起動。ゼツメライザーに装填した。

フォースライザーやレイドライザーとまた違う、変調と複雑な合音によって恐怖を煽る待機音が鳴り響く。

「私の仕事は・・・雄英、壊滅」「暗・・・殺」

 

【【ZETSUMERIZE(ゼツメライズ)!】】

「パワァァァァァァアッ!!」「ハァァァァアッ!!」

 

絶叫と共に、双方の表皮が焼き尽くされた。その下から現れたのは、人間を模した金属骨格。しかし、間も無く口からは大量のコードが飛び出し、顎から上、人の顔に似せたカバーパーツがパージ。骸骨のような基礎骨格が剥き出しになり、その上から天狗巣状の繭のようにコードが絡み付く。

そしてその繭が弾け飛んだ時、2つの異形が姿を現した。

「ベローサマギアに・・・ドードーマギア・・・」

その異形(マギア)もまた、サウザーの脳内にデータがある。

人間社会に奉仕する事を使命としたロボット(ヒューマギア)を、無理矢理に兵器転用したものだ。

「へ、変身した!?」

「拙いですね」

『早急に始末しろ、出久。マギアの装甲は、並大抵では貫けない』

「分かってる」

混乱を一時振り払い、敵の排除を念頭に置き直すサウザー。背後には、黒霧が飛ばし損なったのであろう芦戸に麗日、瀬呂、砂藤、障子がいる。教師としてもヒーローとしても、生徒と敵の間で狼狽えるなどは言語道断である。

「来い。我がザイアエンタープライズ社の誇りに掛けて、貴様等を始末・・・もとい、叩き潰す!」

「おい、コイツ大企業の社長らしいぜ!」「良いモン持ってそうだよなぁ!」「恵まれた大企業様には、俺らの気持ちなんざ理解出来ねぇだろうなァ!」

サウザーの宣言に、弾かれたように群がる敵衆。半円状に獲物を囲み、息を合わせて襲い掛かる。

「甘い」【HERD!】

【Progrisekey confirmed. Ready to break.】

【THOUSAND RIZE!】【THOUSAND BREAK!】

「ハァァアッ!!」

サウザーはジャッカーにインベイディングホースシュークラブを装填し、サウザンドブレイクを発動。カブトガニ型のシールドを5枚召喚し、自分を中心に回転させた。

 

神盾嵐旋突(イージス・ハリケーン)!」

 

──THOUSAND BREAK!──

©ZAIAエンタープライズ

 

「ぐおっ!?」「グハッ!?」「うがっ!?」「おがっ!?「ぐへっ!?」

シールドは襲い来る敵を容易く跳ね飛ばし、悶絶する程の激痛を与える。

『シャラァッ!!』『ルゥアッ!!』

しかし、叩き飛ばされた敵を隠れ蓑に近付いたマギア達が、至近距離からそれぞれの獲物を振り翳した。

「ッ!」

左にドードー、右にベローサ。アークと接続した頭脳を高速回転させ、最適解を予測する。

「ハッ!」

振り上げられた翼状の剣(ヴァルクサーベル)が振り下ろされるより速く、ドードーの懐に飛び込むサウザー。そしてギロチン気取りの剣を持つ右手首を取り、更に体軸を捻りながら脇下に右肩を差し込む。

そのままドードーの右腕を両手でホールドし、重心を一気に前に落とした。

合戦柔術・一本背負い。

『ゴアッ!?』『グゲッ!?』

ベローサの緑に輝く大鎌(トガマーダー)はサウザーの角先を掠め、代わりにドードーの背中を強かに叩き切る。更にライダーのパワーアシスト込みで投げ飛ばされたドードーがベローサに激突し、地面に叩き落とされた。

「私の技術はホンモノだ。貴様等のような即席(インスタント)とは違う」

『出久、決めろ。何もさせるな』

「言われずとも」

脳内で急かすアークに答え、ドライバーのキーを叩く。

 

【THOUSAND!DESTRUCTION!】

「ウルァッ!!」

 

─バゴンッ!─

 

エネルギーを充填したフルパワーで、サウザーは思い切り地面を踏み付ける。その衝撃で浮き上がったドードーの身体を、直上に高く蹴り上げた。

「もう1発!」

 

【THOUSAND!DESTRUCTION!】

「ハァァァァッ!!」

 

其処に再びキーを叩き、エネルギーを再充填。重力に引き戻され自由落下を始めたドードー目掛け、石畳を砕く程の力で跳躍し、渾身のライダーキックを叩き込んだ。

 

──THOUSAND!DESTRUCTION!──

 

必殺級の蹴りに貫かれ、ドードーは爆散。その爆炎すら振り切って、サウザーは空中で体勢を立て直す。

そして更に、其処から直下。未だ体勢を立て直せず藻掻くベローサに向けて、重力を味方に付けた両脚の狙いを定めた。

「ラァストォォォォォッ!!」

そのストンプキックはベローサの胴体を容易く踏み潰し、此方も花火へと変える。

 

──THOUSAND!DESTRUCTION!──

 

「し、死んだ!?」「社長!何してんの!?」

「落ち着きなさい!これは人では無く、ロボットです!精巧に作られていますがね・・・!」

敵を殺害したと勘違いする生徒を一喝し、パニックを抑えるサウザー。マギアの厄介さの一端は、正にこのような側面である。

「オイオイ、呆気ねぇな・・・アレで良いのか?ホントに」

「倒される事は織り込み済みです」

「そうかよ・・・脳無、あれ拾って来い」

「ッ!」

 

─ガゴンッ─

 

一瞬早く差し込んで盾にしたジャッカーごと、サウザーは叩き飛ばされた。原因は、一瞬で其処まで移動した脳無である。

「ゴハァッ!?」

気が付けば、サウザーは空中をすっ飛んでいた。ジャッカーを地面に突き立てて無理矢理ブレーキを掛けながら、痺れる腕に舌打ちする。

(オールマイトに殴られた時も此処までダメージは通らなかった!それに加え、装甲構造もあれから更新していると言うのに・・・)

『流石に拙いぞ。替わるか?』

「まだまだッ!」

【JACKING BREAK!】

ダイナマイティングライオンのアビリティをジャックライズし、後方に向けて爆風を放つ事で強引に爆裂発進。ゼツメライズキーを回収して死柄木に投げ渡した脳無に対し、フライングボレーを叩き込んだ。

しかし、トン単位のキックをモロに受けて尚、脳無は平然としている。

「くっ」【JACKRIZE!】

「ベローシングストライザー!」

【JACKING BREAK!】

ベローサのアビリティを選択し、緑の刃を複数飛ばして脳無に嗾けた。

それらは脳無を切り裂きはしたものの、傷は3つ数える間も無く修復される。

「衝撃耐性に再生能力(リジェネレーション)か、面倒な」

「ああそうさ!その脳無は対オールマイト用に作った最強のサンドバッグ人間!素のパワーがオールマイト並みで、超再生にショック吸収持ち!打撃は通用しねぇのさ!

ソイツを殺したきゃ、肉をゆぅっくり抉り取るとかが有効だねぇ!それが出来ればの話だけどさぁ!!」

上機嫌に解説する死柄木。サウザーの脳内には既にアークから譲渡されたスペックデータがあるのだが、死柄木の解説のお陰で対抗策をすぐに出しても不自然では無くなった。サウザーからすれば好都合である。

「成る程・・・ならば、お誂え向きが1つある。掛かって来なさい、木偶人形」

「その態度も何時まで保つかなァ!殺れ!脳無!」

死柄木の命令で、その凶悪な左拳を振り上げる脳無。しかし、それは逆に好都合。姿勢を下げて前にステップし、拳をジャッカーで滑らせ受け流して懐に飛び込んだ。其処からジャッカーの刀身を、擦れ違いざまに脇腹に叩き込む。

「更にッ!」

【JACKRIZE!JACKING BREAK!】

「ジャッカー!チェインサクリファイス!」

選択されたアビリティは、バイティングシャーク。

ジャッカーの周囲に、金と紫が交互に連なるチェーンソーのようなエネルギーが発生。鏃のような刃は淵では無く面を並べ、シャベルが土を掘るように脳無の肉体を削り取る。

ブチブチと血と肉片をまき散らして、凶暴な牙の無限軌道は脳無の脇腹を肋骨ごと、半ばまで抉り取った。

 

───JACKING BREAK!───

©ZAIAエンタープライズ

 

横一文字に振り抜いた姿勢から血払いをし、サウザーが振り返る。

「は・・・?は、ハハハ!見ろよ!あの野郎、マジで殺す気しかねェ技使いやがったぞ!大企業の社長様ともなれば、敵1人殺しちまっても世間は許してくれるってか!?」

そんなスプラッタな有様を見て、死柄木は狂ったように笑った。

「何を言っているか分かりませんね。貴方自身、先程言ったでは無いですか。これは改人、則ち兵器。私は兵器を攻撃しただけです。何の落ち度もありはしない」

「ハッ、そんな詭弁を認めてくれねぇのが、お前らが必死こいて護ってる()()()だろうがよ!まぁそんな攻撃も無駄だけどな!脳無!」

社会の理不尽さを叫びながら、脳無に命令を飛ばす死柄木。それに応え脳無は立ち上がりサウザーに向き直るが、その姿勢は酷く右側に傾いていた。

その原因は、一目瞭然。ジャッカーの一薙ぎに抉られた左脇腹が、未だに治っていないのである。

「おやおや・・・ご自慢の玩具が壊れかけですね。少々、荒っぽく遊び過ぎたようだ」

「ど、どういう事だ黒霧!?何で脳無の傷が治らない!?」

「分かりません。恐らく相手の能力でしょうが・・・イレイザーヘッドの個性でも無いようです」

主犯格2人が混乱しているが、脳無の再生が鈍い理由は単純明快。チェーンソーとして振るわれたサメの牙が折れて、傷口に刺さり残っているのだ。それが原因で再生が滞っており、中々修復出来ないでいる。

尤も、この副次作用はサウザーとしても想定外、嬉しい誤算というモノなのだが、敢えて口にはしない。

「社長~!!」

「被身子さん!戻りましたか!」

そんなサウザーに、上空から迅が声を掛ける。その隙を突いて、黒霧が動いた。

「この2人を下ろしたら、すぐに助太刀します!」

「分かりました!早く2人を─────」

 

─バゴギャッ─

 

「ごェ!?」

突如として、脳無の肉体が急再生。右の裏拳を振り抜き、サウザーを殴り飛ばす。

植えられた木々を薙ぎ倒して、サウザーの姿は彼方に消えた。

「しゃ、社長ッ!?」

「チッ、黒霧、勝手に使ったのか」

「えぇ。使わねばならぬ局面と判断しました」

黒霧のした事。それは、脳無の背後にゲートを開き、とある薬液を注入する事だった。

その薬液は個性因子の作用を増強し、脳無の再生能力を本来のスペック以上に引き出したのだ。

「ひ、ヒィィィィ!!?」

「お、落ち着いて峰田ちゃん!」

今までそれなりに強者として振る舞ってきた出久(サウザー)が容易く殴り飛ばされ、元々肝の小さい峰田はパニックを起こす。それを収めようとする蛙水だったが、その実峰田と同程度には動揺していた。真横で感情が噴出した峰田がいたからこそ、比較的冷静になれただけなのだ。

「くっ・・・大丈夫です!社長は生きてます!さっさと向こうに逃げて下さい!」

【JUMP!】【FORCE RIZE!】

【RISING HOPPER!】【BREAK!DOWN!】

脳無のスピードに迅では相性が悪いと判断し、即座に001へと再変身。迅の装甲はリストレントケーブルから解放する事でパージし、脳無にぶつけて隙を潰す。

「トガー!そいつ打撃が効かないから気を付けてー!」

「ありがとうございます三奈ちゃん!」

振り抜かれた拳を容易く躱し、001はマスクの中で口に含んでいた生分解性プラスチックの血液錠剤を噛み潰す。ベースは勿論出久の血液であり、アークの性質をコピー。手からモデリングビームを照射し、アイテムをプリントアウトする。

ATTACHE(アタッシュ) CALIBUE(カリバー)!】

それは、一見すると分厚いアタッシュケース。しかし001が側面のボタンを押すと、其処を起点に蝶番として展開。鋭利な剣へと変形する。

(社長ならきっと、アークさんがどうにかしてくれます!だったら私に出来る事は・・・時間稼ぎ!)

「来なさい(ヴィラン)!私が相手です!」

アタッシュカリバーを逆手に構え、001は吠え叫んだ。

 


 

『キャロりん、状況分かる?』

マルチプルパルス放射によるエネルギー枯渇から復帰したハングドマンは、先行した迅を追い掛け広場に向かっていた。

『未だ不明です。ですが先程、サウザンドライバー内部のフュージョンリアクターの起動波形をキャッチしました。社長が戦闘していると言う事は、ほぼ確実かと』

『あ、そうなんだ。こりゃ負けてられないねェ・・・って、アラ?』

パンダレイダーの動体センサーが、けたたましく鳴り始める。見上げると、空から何かが降って来ていた。

 

─ドゴゥッ─

 

『どわっ!?何なに、何が来た!?』

『主任!社長です!社長が降って来ました!』

『何そのパワーワード・・・』

「う・・・ぐぁっ・・・」

『ってマジなんだ!?ちょ、社長!?ダイジョブかい!?』

キャロルとのお巫山戯も、土埃が収まり聞こえて来た呻き声に直ぐさま引っ込む。

地面が小さく陥没し、其処に横たわる出久。右上腕部はヘシ曲がっており、一目で骨折していると分かる。

『これ以上は無理だな。代われ』

「あぁ・・・ごめん、アーク・・・」

『気にするな。私はお前の唯一無二の相棒で・・・()()だからな』

「ん・・・後は、お願い・・・」

『あぁ・・・任せろ」

出久の左眼が真っ赤に光り、髪に白黒のメッシュが入った。

「ぐっ・・・あぁ、洒落にならんな」

『あらアークさん、お久し振りかな?』

「外に出るのは、そうでも無い・・・痛覚カット、と・・・出久が、ネクタイを結べないからな。偶に出て来る」

『あ、そうなんだ』

『意外な弱点ですね』

そんな取り留めの無い話をしながら、アークは左手の指先を液体金属で覆い、先端を針のように尖らせた。

それを右腕に突き刺し、対組織を補修する急造ナノマシンを注入する。

『エンポリオ~!治癒ホルモン!』

『ぱっと見やってる事は似てますが違うと思いますよ主任』

「急造品の補修用ナノマシンだ。損傷した骨、筋肉、神経、血管を応急的に再結合させた。痛みは私が脊髄でカットしてある。5日もすれば完全に細胞と置き換わるだろう」

拳を握ったり腕を振って状態を確認し、肉体の修繕が完了した事を認識するアーク。細かい神経を無理矢理接合しているので痛覚信号自体は大の大人が泣き叫ぶレベルのそれが流れているが、脳に届く前にカットしているので問題にはならない。

『はぁ~、便利だねぇ?』

「まぁな。よし、結着完了。此処からは私が出撃しよう」

【アークドライバー!】

『あ、ちょっと待って』

「ん、どうした主任」

『どうせならさ、()から行かない?』

「何だって?」

訳の分からないハングドマンからの提案に、本気で困惑するアーク。原点のそれと違い、このアークは人間なのだ。困惑もするだろう。

『いやサ、向こうにもしアークさんのリアクター起動波形をキャッチ出来るヤツがいたらヤバいんじゃ無い?だったら俺が上空にぶん投げて、空中で変身した方が正体バレのリスクが少ないかなーって訳よ』

「ふむ、成る程。一理あるな・・・で、本音は?」

『こっちの方が良いじゃん!絶対面白いよ!』

そんなこったろうと思った(その結論は予測済みだ)

『ギャハハハハハ!』

半ば呆れつつ、楽しそうに笑うハングドマンにコメカミを押さえるアーク。この主任、中々のツワモノである。

「しかし、有用性があるのも確か。頼むとしよう」

『ハイハ~イ!じゃ、いっちょ行きますか!』

肩のウェポンハンガーにアークを乗せ、ハングドマンは全身各所のスラスターを点火。重量と慣性を振り切り、自分ごとアークを打ち上げる。

「アリバイ工作、頼んだぞ」

『お任せあれィ!じゃあ、頑張ってねェ!』

それなりの高度に達し、ハングドマンは更に上に向けてアークを投げ飛ばした。

アークは空中で上手く姿勢を整え、ドライバーのアークローダーを押し込み呟く。

「変身」

 

【ARK RIZE!】

 

そしてこの世界に於いて、初めて破滅の使者が日の光を浴びた。

 


 

「ハァッ、ハァッ・・・クッ!」

 

─ジャグッ─

 

肩で息をしながら、アタッシュカリバーで脳無の拳を受け流す001。しかし幾ら思考を加速出来ると言えど、所詮は人間。異常な密度の攻撃を最低限のダメージで捌こうとも、体力は削られ、息も絶え絶えだ。

「クッ・・・ハァッ!!」

 

【RISING!DYSTOPIA

 

膝を突いたままでレバーを操作し、必殺技を発動。赤黒い粒子を血のように噴き出しながら、ライジングディストピアで超加速する。そして擦れ違い様に何度もアタッシュカリバー斬り付け、脳無を相手にダウンを取った。

「こんのっ・・・しぶと、過ぎですよ!」

しかし、その傷も立ち所に修復される。先程の増強薬の効果で、再生能力が大幅に強化されているのだ。同時に打たれ強さも向上しており、今では斬撃ですら相当に力を込めないと深くは斬り込めない。それが余計に001の体力を削っているのが現状だ。

(流石に・・・ヤバい、です・・・社長・・・助け、て・・・)

 

【ARK RIZE!】

 

そんな祈りに答えるように、上空から禍々しいオーラと絹を裂くような悲鳴、悪意に塗れた嘲笑が降り注ぐ。

「こ、これって・・・!」

「な、何だよォ!?また新しい敵かよ!?」

その正体をよく知る渡我(001)は、仮面に隠れた顔が希望を、そうでない者達は絶望を湛える。

そして空を見上げれば、其処には黒い太陽があった。

「ま、まさか新手の敵!?」

「クソッ!流石に今はヤベェって!」

知ると知らぬが雲泥の差。まさにそんな状態である。問題は、泥に対して雲が少な過ぎる事だが。

《良くやった、001》

(アークさん!)

《今から軽く蹴るフリをする。オーバーに吹き飛んで、変身を解除しておけ。此処は受け持つ》

(分かりました!)

脳のチップを介して、テレパシーの如く会話するアークと001。そんな中、悪意の繭は徐々に地上へと舞い降りる。そして地面に触れた瞬間、暗い繭は弾け、滅亡の悪魔が姿を晒した。

 

【ALL ZERO!】

 

赤や銀の配線やパイプが貫いたような漆黒のボディからは、赤黒い陽炎のような悪意のオーラ(スパイトネガ)が立ち上っている。

『・・・』

ユラリと幽鬼の如き挙動で振り向くアークゼロ。それに対し、動ける全員がビクリと身を震わす。

『・・・』

「がっ!?」

最初の緩慢な動きから一転、残像を引く程の加速で001に詰め寄り、その腹を蹴り抜いた。

尤も、実際は当たる前にクーロンバリアの斥力反発で全面にショックを分散しつつノックバックだけに集中した蹴りであり、それに合わせて001が後ろに飛んだ事で大袈裟に見えただけである。しかし、それを知る術を持たない生徒達は大きく狼狽えた。

「そ、そんな・・・」「クラス屈指の実力者の、被身子ちゃんが・・・」「あ・・・あがっ・・・」「峰田ちゃん!」

そのショッキングな絵面によって、クラスメイトに根付いた絶望は加速度的に膨れ上がる。峰田に至っては、失禁しながら卒倒してしまう始末だ。

【MALICE LEARNING ABILITY】

そんな絶望を吸い上げて、アークゼロはスペックを底上げする。

「黒霧、あんな奴いたか?」

「いえ、あんな特徴的な姿であれば忘れるとは思えませんが・・・」

首謀者級2人の困惑を余所に、脳無にズンズンと近付くアークゼロ。そして次の瞬間。

 

─ボヂュッ─

 

脳無の胸に、穴が開いた。

『ふむ。こんなものか』

「は?」

アークゼロは何時の間にか拳を突き出した状態になっており、殴ったのだろうと遅れて認識する死柄木。

()()()()()()()()()()()()()()を、()()()()()()()()()()()()()

そのようにしか見えなかった。

実際は拳を当てる瞬間に腕の装甲を液状化させ、杭のように鋭く変形させて突き抜いただけなのだが・・・認識出来なければ理解も出来ない。

冷静に見れば、衝撃で貫いたならこんなに綺麗な穴にはならない。と、そう言う事にも気付けないのである。

「クソッ!クソクソクソッ!!そんな訳あるか!あって堪るかッ!!脳無!そいつを殺せッ!!」

口頭命令を受けて、脳無は拳を振りかぶる。対して、アークゼロは一切動こうとしない。そのまま、一気に凶悪な威力を込められた拳が振り下ろされた。

 

─ゴスッ─

 

『成る程、強いな。()()()()()()

だが、それは志半ばで止められる。アークゼロが、その腕を容易く掴み止めたのだ。脳無は振り払おうとジタバタ暴れるが、逆に腕を握り潰されてしまう。

『貴様等如き、私にとってはどうでも良い。目的は別にある』

手から溢れ出す、ドス黒く粘着質なスパイトネガ。それを脳無の腕に纏わせ、ベキベキと加圧しへし折って行く。

もはや肩口まで悪意の泥に侵蝕された脳無は、悪足掻きとばかりに蹴りを繰り出した。それすらも、クーロンバリアにより痛くも痒くもない様子である。

『結論は、出た』

 

─ドゴウッ!─

 

左手を軽く握ると、悪意のエネルギー集中するアークゼロ。そしてそれを、ボディアッパーで脳無の腹に叩き込んだ。

その瞬間、溜め込んだエネルギーが間欠泉のように噴出し、脳無を上空へと打ち上げる。

『この一撃で、脳無は滅亡(ほろび)る』

 

【ALL!EXTINCTION!】

 

再びアークローダーを叩き、ジワジワと浮上するアークゼロ。そして右脚に血よりも赤黒く禍々しいオーラを集約し、落ちて来た脳無にオーバーヘッドキックを叩き込んだ。

 

──ALL!EXTINCTION!──

 

「いけない!死柄木弔!」

蹴り込んだ方向には、死柄木と黒霧。黒霧が咄嗟に死柄木と共に脱出しようとゲートを開くが、ギリギリの所で間に合わず、飛んで来た脳無の巨体が死柄木の腕を襲った。

 

─ベキョッ─

 

「ウガァァァァ!?クソッ!痛ぇ!!このクソ真っ黒野郎!いつかテメェだけは、粉々にしてやるからなァ!!」

へし折られた左腕を庇い、ゲートに消える黒霧。惜しくも、首謀者級2人には逃げられてしまった。

『・・・さて、少し遊んでみるか』

「死ねクソ敵ッ!!」

『その結論は、予測済みだ』

死角から突如飛び込んで来た爆豪。しかしアークゼロは然したる驚きも無く、突き出された掌を指先で弾いた。

 

─KABOM!!─

 

「おがっ!?」

「おりゃァ!!」

 

─ガキンッ!─

 

暴発させられた爆豪の爆煙に紛れて、切島が全体重を乗せた右ストレートを打ち込む。しかし、アークゼロはこれをクーロンバリアすら張らず、只の腹部装甲で完全にガードして見せた。

「堅、重っ!?」

『貴様等に用は無い』

「うがぁ!?」「ぐっ!」

特攻野郎2人組は共に頭を引っ掴まれ、容易く投げ飛ばされた。

其処に今度は、地を這う氷が襲来。アークゼロの身体を、脚から凍結させる。

『ほう・・・』

「動かねぇ方が良いぞ。身体が割れちまう」

白い息を吐き出して、広場に戻って来た轟が警告した。しかしアークゼロはと言えば、余裕綽々の何処吹く風だ。

『1つ訂正しよう。割れるのは私では無く・・・』

 

─バキバキバキッ─

 

『貴様の氷だ』

「なっ!?」

肩から下を覆う氷塊を、容易く砕き歩き出すアークゼロ。更にスーツ内の液体金属を激しく振動させ、発熱する事で細かくこびり付いた氷片を解凍し手で払った。

『随分と生温いな。此処までで消耗したか?ふむ、()()()()()()()()()()()とやらも、大した事は無いな』

「あ゛!?」

 

─ガキャンッ!!─

 

その一言に轟がキレた。

先程とは比べ物にならないサイズの大氷山を一瞬で作り上げ、アークゼロを閉じ込める。

『無駄だ』

しかし、それすらも衝撃波で砕かれ、ノータイムで突破されてしまった。

『ふむ。先程はセーブしていただけか。だとしても、冷却では私を倒す事は出来ない。我が儘を言っている場合では無いのではないか?エンデヴァーの最高傑作』

「黙れッ!テメェが何であのクソ親父の事を其処まで知ってるかはどうでも良い!二度とアイツの事を口に出すなッ!!」

普段物静かな轟がこうまで激昂する事に、クラスメイト達は並々ならぬ何かがあるのだと薄らと感じた。

「俺はアイツを認めねぇ!左を使わないままヒーローになって、アイツを完全に否定する!だから左は、死んでも使わ────」

『死んだぞ』

「がっ!?」

冷静さを完全に失った轟の頭を、一瞬で距離を詰めたアークゼロがアイアンクローで掴み上げる。

()()()()使()()()()()()から、10回は死んだ。その回数は現在進行形で更新中だぞ。何と無様な事か』

轟を散々に煽りつつ、こっそりとその個性データをジャックライズするアークゼロ。それを気取らせないように、態と精神を逆撫でる言葉を選んで冷静さを削ぐ。

恐怖憤怒憎悪絶望殺意・・・雑念が多過ぎる。

そもそも父を否定するならば、何故ヒーローにならないと言う選択肢を外した?お前の父を最も合理的に否定する手段は、ヒーローにならない事だ。既に自己矛盾を起こしている事にも気が付かないとはな。

そんな非効率的な事はする癖をして、家族間での交流は致命的に無いと見える。見事な家族不孝者だな?貴様の父親と何が違うやら。そのご自慢の冷却能力で頭を冷やしたらどうだ?どうせ其方しか使う気は無いのならば、有効活用すべきだろう』

「ア゛ァァァァッ!!黙れェッッ!!」

冷静さを完全に失った轟は、頭を掴まれたままジタバタと暴れる。自棄クソな蹴りはバリアで阻まれ、氷結は発熱で伝播を止められ、もはや何もさせて貰えない。

『期待外れだな。他にめぼしいモノも無────』

 

─ドガァンッ!─

 

アークゼロが肩を落とした直後、USJのドアが叩き飛ばされる。グルリと其方を見遣れば、立ち上る土煙を割って現れるナンバーワンヒーロー、オールマイトの姿があった。

「もう、大丈夫・・・

 

私が、来たッ!」

 

羅刹の如き形相でアークゼロを睨むオールマイト。対して、当の本人はケロリとしている。

「轟少年を放して貰おうか、敵ッ!」

『ほう、珍しく遅い到着だな。朝食でも食い忘れたか?まぁ、目標は達成した。コイツにもう用は無い』

軽くジョークを交えつつ、轟を放すアークゼロ。其処に、オールマイトの音速の拳が迫る。

 

─ズガォッ!─

 

空気を破裂させる程の鉄拳はしかし、クーロンバリアを打ち付ける事でアークゼロを2歩後退させるだけに終わった。

「何ッ!?」

『フン、貴様と戦った処で、何の旨味も無い。何より、目標は果たした。そろそろ消えるとしよう』

「逃がすかッ!」

逃亡を許すまいと掴み掛かるオールマイトだったが、アークゼロはスパイトネガを放出して全身を覆い、姿をくらました。

「クッ・・・!」

歯を噛み締め、憎々しげに空を睨むオールマイト。直後に雄英職員も参入し、残党狩りが始まるのだった。

 


 

『ったぁく、あれヤバいんじゃなァい?やり過ぎじゃんどう見てもサァ』

『問題無い。それより、出久の身体とアリバイ証言、頼んだぞ」

『ハイハイ、まぁ()()()だからねぇ。そこはかとなまぁちゃんとやるさ』

 

to be continued・・・




~キャラクター紹介~

・緑谷出久
現場急行したサウザンド社長。
其処らのチンピラやラーニングの浅いマギアを鎧袖一触し、更にえげつないチェーンソー技で脳無にも一時重大な損傷を負わせた。
しかし黒霧が増強ドラッグを脳無に打った事で即座に復活され、盛大に殴り飛ばされてしまった。
右上腕骨粉砕骨折、同部筋肉断裂・神経損傷・血管裂傷の大怪我を負ってアークと交代。その日中は目が覚めない。

・アーク
無双しまくった二周目悪意。
お遊びと称して各方面をこれでもかと煽り倒し、その上で轟の個性をジャックライズしつつオールマイトの拳を平然と受け止め悠々と撤退する(ように見せただけだが)と言う見事な序盤顔見せラスボスムーヴをカマした。
ナノマシンの注射により、傷の修復を早めている。

・渡我被身子
悪意追従変身少女。
梅雨ちゃんと峰田を迅で運び、サウザーが退場してからアークゼロが乱入するまで001で時間稼ぎを遂行した。お手柄。
アークゼロに殴られた時は本当に自分からすっ飛んだだけなので、全くダメージは無い。

・主任
愉快なハングドマン。
アークゼロの存在を知っており、彼が暴れている間は出久が戦闘不能に陥っていたと証言する証人である。

・オールマイト
大遅刻して登場。
アークの事は一切知らない為、アークゼロが敵にしか見えず殴り掛かった。
尤も、簡単にバリアで止められてしまったが。

・腹筋崩壊太郎/ベローサマギア
コメディアン腹筋崩壊太郎。
ヒューマギアがいない筈の世界線でまさかの登場。原作通りベローサになったが、容易く仕留められた。
ラーニング1。

・暗殺ヒューマギア/ドードーマギア
暗殺ちゃん。
可愛いピコピコ暗殺ちゃんでは無く、最初からちょっとクールな暗殺ちゃんである。
打ち上げキックにて爆散。
ラーニング1。

~アイテム・装備紹介~

○ロケットパンチ
パンチングコングのジャッキングブレイク。
スパロボ御用達のお約束技。敵に向けて極太ガントレットを撃ち出す。
やろうと思えばロケットパンチ100連発も出来る。

神盾嵐旋突(イージス・ハリケーン)
インベイディングホースシュークラブのサウザンドブレイク。
カブトガニ型のシールドを複数召喚し、旋回させる事で敵の攻撃を防ぎつつ打ち据える攻防一体技。
元ネタは血界戦線のブレングリード流血闘術の技、旋回式連突(ヴィルヘムシュトゥルーム)

○ジャッカー・チェインサクリファイス
バイティングシャークのジャッキングブレイク。
サメの歯をキャタピラ状に回転させ、敵の肉を抉り取るえげつない技。しかも牙が折れて体内に残るので、再生能力を阻害する事も出来る。対マギア・脳無用の技になる。


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作業を止めるな、アイツを止めろ

(出久サイド)

 

【INJECT RIZE】

FIRE(ファイヤー)!】

「よし、出来た」

サウザンドジャッカーから、アビリティを焼き付けたキーを引き抜く。これで2本目だ。

1本は、アビリティ:ブリザードのフリージングベアー。もう1本は、アビリティ:ファイヤーのフレイミングタイガー。

昨日の戦闘で交代したアークが、轟君の個性をジャックしたらしい。

「どっちも使い勝手の良さそうなアビリティだね・・・って、イッタタタ・・・」

いつもの癖でキーを天井に空かすように眺めようとして、二の腕に激痛が走る。

ナノマシンで修復中ではあるものの、ぶっちゃけ今の僕の右腕は寄せ木細工のようなモノなのだ。ズタズタになった組織をナノマシンで接着しているだけ。普通に使う上で壊れはしないものの、残っているダメージが痛みになってそのまま伝わって来る。

『何をやっているんだお前は』

「ご、ごめん・・・」

呆れたアークが、脊髄で痛覚をカットしてくれた。お陰で首から下は痛み止め要らずなので、とても助かっている。

「取り敢えず、今日は臨時休校で教員は午後に緊急会議・・・それに参加するとして、午前中はどうしようか」

『一応、新入社員の適性検査が終わっている。()1()3()()への適性ありが5人。この人員の顔見せに着いて行くのはどうだ?』

「休めって言わないの珍しいね」

『ただ単に言っても聴かないから諦めただけだが?』

「うっ・・・ごめん・・・」

『お前も大概ワーカーホリックだな』

まぁ、一応自覚はしてる。学生時代から今まで、兎に角出来る事を詰め込むばかりだったからなぁ。殆どの作業で1回はドクターストップが掛かった。

より深くなるアークの呆れにタジタジになりつつ、ザイアスペックで13課適性のある新人のリストを視る。

「・・・へぇ、彼が」

羅列された5つの名前。その1つには、巳穂錬(みほね)硬太(こうた)・・・あの夜、公園で出会った青年の名前があった。

 

───

──

 

「今回貴方達が適性ありと判断された部署は、かなり変わり者が多い部署でしてね。私としても・・・ふぅ。入るには少し覚悟が必要なのですが」

新人達を引き連れて、ザイア本社のラボラトリー区画の前に立った。

「「「「「は、はい・・・」」」」」

「まぁ、そんなに硬くならず。ようこそ、()()()()()1()3()()へ」

ライズフォンをスキャナーに翳して認証し、ロックを解除。壁に付いたボタンを押して、自動ドアを開くと・・・

 

「ウ~ィィィィィィィィwwwアハッアハハハハッwwwホッホッホッウィィィィィ~www」

 

スケボーの上に腹這いになって、甲高い奇声を上げながらペンギンのそり移動(トボガン)のように床を滑走する白衣を着た技術者の姿があった。

「・・・」

「「「「「・・・」」」」」

「・・・ちょっと待ってて下さい」

ズキズキと痛み始める頭に思わず掌を叩き付けながら、辛うじてその言葉を絞り出す。そして現在進行形で行方不明の正気に捜索届を提出せねばならないキチガイに近寄り、その背中をスケボーごと踏み付けた。

「グェッ!?あっ、社長!」

「貴方今度は何徹したんですか」

「えーっと、6徹から数えてないですね!」

「とっとと寝ろこの馬鹿タレが!」

スケボーの下に脚を差し込んで、掬い上げるように蹴り飛ばす。この人達はこれぐらいしないと聞かないのだ。

「あーもう・・・其処の貴方。ちょっと()()仮眠室に運びなさい」

「ワカリマシター(^q^)」

「命令を訂正します。貴方も寝てきなさい」

「ハイッ(^q^)」

「これだから開発馬鹿の変態共は・・・」

正直初手でもうお腹一杯だ。だが、紹介をほっぽり出す訳にも行かない。現状、人材は幾らあっても良いぐらいなのだから。

「えっと、俺達って此処に配属されるんですか?」

「その予定です。主にこのアホ共のストッパーだとか、此処と合併している戦闘職種の職員として。

ったく、無闇矢鱈と労働環境を快適化しまくるべきじゃ無かったな。アイツら半ば趣味感覚で仕事してるから快適であればある程に三大欲求軽く蹴っ飛ばしてまでラボに篭もって研究しやがる・・・ホワイト企業化にまさかこんな特異点があるとは・・・」

「えっと、大変ですね・・・」

巳穂錬君が少し気遣ってくれる。まぁ、此処だけ見ればとんでもない苦労の塊にしか見えないだろう。

「まぁ、確かに此処は来るだけで胃もたれしそうになります。でも、それは飽くまで仕事で来た時です。仕事云々関係無く来てみれば愉快で結構笑えますし、ちょっとした遊園地みたいなモノですよ。

何より、これだけキチガイの巣窟ならば、多少羽目を外して馬鹿になっても何1つ恥ずかしく無いと言うメリットもありますからね」

「な、成る程・・・じゃあ今は?」

「サラダ油を1リットル一気飲みした気分ですが?」

「アッハイ」

おっといけない、多分目が死んでるな。

「よし!では切り換えていきましょう!楽しいテーマパークみたいなモノだと思って見学して─────」

 

─BGOOOOM!!─

「もいっちょやっちゃって下さい主任!」

『ギャハハハ!良いじゃんコレ!じゃ、ちょっとだけ本気で、行っちゃうよォアハハハハッ!!』

 

「・・・」【THOUSAN DRIVER!】

奥の実験室から聞こえて来た爆音とトラブルメーカーの声に、僕はもはや何を言う事も無くドライバーを着ける。ちょっと此処らでストレスを発散しときましょうか。

「あーあ、主任またやらかしたのか」

「あ、ギムレット。お疲れ様です」

と、そんな時に話し掛けて来たのはスカーフェイスのタフガイ。コードネームは(ギムレット)であり、拳から錐のような刺突針を出す個性がある。

彼は主任が率いる我が社の傘下の傭兵の1人であり、傷のせいで強面だがかなりフランクな人物だ。

「おう社長。見ねぇ顔連れてっけど、其奴ら新人(ルーキー)かい?」

「えぇ。ちょっと彼らを頼んでも良いですか?私はあの主任(アホ)にお灸を据えてくるので」

「おー、行ってらっさい」

【ゼツメツ!EVOLUTION!】【BREAK HORN!】

ギムレットに新人達を預け、心置き無くアウェイキングアルシノを装填。アメイジングコーカサスを展開し、ザイアスペックの遠隔操作で実験室のキーロックを解除する。そして扉の緊急用開閉取っ手に手を掛け、全力を以て叩き開けた。

 

「テメェら何してんだコラァ!!」

 

「「あ、社長」」

そこにいたのは、煤けた白衣の研究者1名(例に漏れず隈が酷い)と、ウィンチェスター式グレネードランチャーを右手に構えた主任(ハングドマン)。彼らの前には縦横1mの正方形の金属板があり、真っ黒な煤が付いている事からグレランをぶっ放したのであろう事が見て取れる。

まぁ、新素材の剛性テストとしては間違ってはいない。問題は此処が屋内であり、尚且つ銃器や爆発物を扱う為の専用のグラウンドが他にあると言う事だ。

「何度も言っている通り、此処は銃火器厳禁なんですよ!と言うか貴方掌握者でしょうが!それが率先して馬鹿やって如何するんですかァ!」

『イヤイヤ、ちょっとお手伝いをネ?にしても社長、怪我してた割には元気じゃん!』

「まぁ貴方のお陰で心拍100倍胃痛も100倍、怒りのメーター1000%ですねぇ!お陰で腕の痛みなんざ気にならねぇんだよ!」

『あ、そうなんだ。気に入って貰えたみたいで何よりだねぇ!』

「んな訳あるか!怒りのメーター1000%ッつったろうが!」

「それより社長、見て下さい!遂に新素材の開発に成功しました!」

『そうそう、面白いのが出来たからさ!ちょっと見てみて欲しいんだよ!そんなにカッカしてないでさ♪』

「・・・変身」【PERFECT RIZE!】

【The golden soldier THOUSER is born!】

もう何も言うまい。何一つ言わすまい。いい加減にキレた。

アイドリング状態にしておいたコーカサスをドライバーに装填し、サウザーに変身する。そしてライダーの脚力で一気に加速して跳躍。揃えた両脚を度し難い主任(アホ)の顔面に叩き込む。

取り敢えず・・・!

「まずグラウンドでやれや貴様らッ!」

『ギャハハハ!機体がダメージを受けてマ~ス!』

サウザーのドロップキックで実験室の壁にめり込んでも尚、ゲラゲラと馬鹿笑いする主任。レイダーの耐久力が加算されているとは言え、本人の性格よりも馬鹿げた耐久力である。

「フーっ!フーっ!フーっ・・・ハァ・・・胃が取れそう」

(胃粘膜を保護するナノマシンを作ろう)

(有難う)

肩で息をする出久は、アークからの申し出に頷いた。数多の苦労に、既に胃がキリキリと悲鳴を上げている。

「で、貴方は何作ったんですか?」

「あ、はい!」

変身を解除しながら、研究員の方に眼を向ける。恐らく睨め付けるような眼付きになっているだろうに、この男はケロリと答えた。心臓に毛でも生えているのか、単純に判断力がバグっているのか・・・後者だろうな。

「今回作ったのは、展性、可塑性、硬度、流動性、総てが自由自在な新合金です!」

「・・・ほう?」

中々に興味深い。それが本当なら、新素材として革命的な性能だ。少し頭が冷えて来た。

「ではでは、いざご照覧あれ!」

研究員がザイアスペックを装着し、意識を集中する。すると煤けていた装甲板は液体のように波打ち、流動的に変形。見る見る内に、実寸大の半分程の銀色のサウザーを形作った。

「おぉ、これは・・・」

しかし、その感動も束の間。銀のサウザーはグニャリと形を歪め、1秒で愉快な現代アート染みた蠢くオブジェに早変わりする。

「おぉう・・・」

「どうです!素晴らしいでしょう!?ヒャハッ!ヒャハハハアハハ!」

「素晴らしい性能ですね。其処はその通り。ですがそれはそれとしてとっとと寝なさい。さっきからサウザーが形を崩して名状しがたいナニカになっていますよ。と言うか貴方も何徹したんですか?」

「えーと・・・あ!4日経ってる!」

「寝なさい。起きたら始末書を書くように」

もう無理矢理にでも仮眠室に放り込むロボットアームでも増設しようかと本気で悩み始めた今日この頃。

だがそれは別として、この金属は素晴らしい。まぁ確実にアークが何か干渉したんだろうが・・・

『その通りだ。まさかここまで早く飛電メタルを開発するとは・・・』

(飛電メタルねぇ・・・)

『ギャハハハハ!ね?良いモノだったでしょ?』

「その壊れた壁の弁償費は貴方の給与から天引きするので覚悟しておきなさい主任」

『ギャハハハ!手厳しいねぇ!』

「全く、懲りませんね主任」

と、そんな僕らの言い合いにもう1人が参戦する。

ロングの金髪に、眼鏡越しの緑の瞳。カッチリとしたビジネススーツを着込んだ、如何にもキャリアウーマンと言った風貌の女性。

その整った顔や美しい髪も勿論眼を引くが、それ以上に目立つのが、機械式義足に換装された両脚。そして、背中から伸びる4本の合金製フレキシブルアームだろう。

『やぁキャロりん!早速で悪いけど、社長の一撃で見事に壁に嵌まり込んじゃってさぁ!その()、ちょっと貸して!』

「・・・主任。その機体のダメージレベルでは、雑に引き抜くのは危険かと」

主任の遠慮の欠片も無いいけしゃあしゃあとした頼みに、静かに指摘する女性。彼女こそが主任のパートナー、キャロル・ドーリーである。

『あ、そうなんだ。で、それが何か問題?』

「承知しました。お聞きの通りです。少々離れていて下さい、社長」

「分かりました」

「ほっ・・・ふんっ」

 

─ガキョッ─

 

キャロルさんは、彼女専用に取り付けられた天井の手摺りを上2本のアームで掴み、残り2本で主任を一気に壁から引っこ抜いた。

その際、ハングドマンの装甲やパーツが剥がれ電気系統も破損したのかショートしたように火花が散る。幸い、今回はウェポンハンガーは装着していなかったらしい。もし着けていれば、確実に修復不能なレベルまで拉げていた事だろう。

「ご苦労様です、キャロルさん」

「お互いに、ですね。取り敢えず、このアホは私が回収して行きます」

レイドライザーからハングドマンのスカウティングパンダをアームで器用に引き抜き、主任の変身を解除させるキャロルさん。そしてそのまま主任を掴み、義足では無くアームで天井や壁の手摺りを伝って出口へと向かう。

「お、終わったかキャロルの嬢ちゃん」

「ギムレット伍長。お疲れ様です」

「おう。嬢ちゃんも主任のお守り、ご苦労さん。で、主任はどうすんの?」

「取り敢えず冷水室にぶち込んで来ます」

軽い世間話のように、主任の扱いを話し合う2人。そんなギムレットの後ろから、新人達がひょっこりと顔を出した。

「あ、新人の皆さんですか。態々こんな所までご足労頂き有難う御座います。私はキャロル・ドーリー。この部署のオペレーターを受け持っています。

奇人と変態と機械しか無い所ですが、ご自由に見学なさって下さい。ただ、呉々も機材類には一切の接触を行わない事。モノによっては指が無くなりますので。では」

手早く一方通行な挨拶と忠告を済ませて、キャロルさんは天井の手摺り伝いに主任を引き摺って行く。そのフレキシブルアームを見て、新人達は一様に眼を円くした。

『あ、ちょっと待ってキャロりん。あーっあーっ、新顔の人~?聞こえてるカナ~?』

「・・・え、あ、はい」

『聞こえてるなら良い。時間無いから要件だけね。俺がこの部署、日陰者の第13課を仕切ってるシュニン・ハングマンだ!宜しくネ!』

「主任、皆さんの脳をパンクさせるおつもりですか?黙っていて下さい」

 

─カァンッ─

 

『ア゚ッ!?』

合金製のマニピュレータが、主任の頭を打ち据える。小気味良い音を起てた頭をグラグラと揺らす主任を、確りと掴み直して再び引き摺るキャロルさん。そして今度こそ、通路の曲がり角に消えて行った。

「・・・聞き間違いですかね?あの人が、此処の責任者って言ってた気が・・・」

「それで合ってますよ。残念ながら。しかも問題行動は起こす癖して優秀なとこは優秀なんですよ」

「タチ悪いじゃ無いですか」

「えぇ全く」

まぁ、現実逃避もしたくなるだろう。こんな所に配属されるなんざ、最初は悪夢かと思う筈だ。実際は悪夢なんかじゃあ無い。何故なら悪夢は醒めるモノだからだ。果てしないモノを悪夢とは言わないだろう。

「取り敢えず、開発部でも見て回りましょうか。愉快ですよ」

「嫌な予感がするのは俺だけじゃ無いよな?」

「私もする」「僕も」「俺もだ」

「勘が宜しいようで」

さぁて、今回はどんなトンチキ騒ぎが起こるやら。

 


 

「ご覧下さい社長!虹色に輝く(ゲーミング)サウザンドジャッカーです!」

「成る程面白いですね。偶には気分転換でガワをコレに交換する訳ねェだろうが寝ろ」

 

「社長どうですかコレ!ピンキーサウザー!」

「ほう、ショッキングピンクのサウザーですか。新鮮で良いですねってなる訳あるかアホ!貴重な建造資材をこんな事に使ってないで寝なさいよいい加減に!」

 

「見て下さい社長!高機動ホバーグライダーです!レイダーの体重も問題無く浮上出来て、時速80キロで飛行可能です!」

「素晴らしいですね。コレがあれば機動性が格段に上昇する。しっかり寝てからテストしなさい」

「ちょっとレイドライザー借りて行きますね!」

「寝ろッつってんだろうが!聞こえてねぇとは言わせねぇぞコラ!せっかくの試作品無駄にぶっ壊してぇのかアンポンタンが!」

 

「社長コレどうですか!?レイダーの実装にスパロボ風エフェクト付けてみました!オンオフ切り換え可能で、ホントにエフェクトだけです!」

「ヒロイックで良いですね。様式美は人を人たらしめる。所でその脚は?」

「最初パーツを合体シークエンスみたいに装着しようとして失敗した時の打撲です!これのせいで止む無く路線変更しました!」

「はよ医務室行け!」

 


 

「フハァー・・・何か、どっと疲れました」

「まぁ、所々有用な装備もありますしね。こう言うのがあるから、この課を解散しないんですよ」

「確かに、結構格好いいのもあったっすね」

一頻り紹介が終わって、ラボラトリー区画外の自販機で思い思いの飲み物を買い、胃に流し込む。

最近この自販機の新商品リクエストに、何故かカフェイン剤が大量に来ている。尤も、全て切り落として却下しているが。あのアホ共に欲しがるまま覚醒成分なんざ与えれば、2日も待たずにオーバードーズで死屍累々の地獄が出来上がるのは分かり切っているからだ。

そんなもん使うぐらいなら素直に寝ろっての・・・

「さて、そろそろ時間だ。配属が腹の底から嫌ならば断ると言う選択肢もあります。確りご検討をお願いしますね」

「やっぱ社長って忙しいんすか?」

「まぁ、自分で言うのもなんですが大企業の社長と、雄英教師の二足の草鞋ですからね。では、今日はこれで」

飲み終わったコーラ缶をゴミ箱に放り込み、新人達の見送りを背に駐車場へと向かう。

さて、お次は雄英の会議だ。

 

(NOサイド)

 

「さて、今回の問題だが・・・」

雄英の薄暗い会議室。プロジェクターの光りが白く照り返す中で、雄英高校の校長、根津は声を上げる。

「まず、雄英のカリキュラムの流出だね」

『コレに関しては、例のマスコミ騒動の時にドサクサに紛れて盗られた、って所でしょう。情け無い話ですが』

根津が上げた議題に、モニターに映された包帯で簀巻き状態の相澤が答えた。絶対安静中の彼だが、情報はすぐに共有すべきと言って医務室のベッドからリモート出席しているのである。

尚、そんな相澤を見た出久は(僕もリモート出席にすれば良かったかも)等と思っていたりする。

「うむ。やはり皆、今まで無かった事に油断があった訳だね。僕としても、こうなる可能性を見越して時間割などを組み直したりすれば良かったと思うのさ」

「過ぎた事はどうしようもありません。何より、どっかのミスター自己犠牲が活動時間を擂り潰すまで()()()いなければ、ここまで酷くはならなかったと思いますし・・・ね?」

「ウグッ」

出久からの冷たい視線が刺さり、骸骨染みたガリガリのオールマイトが肩を跳ねさせる。

今回の件で、オールマイトは伸びかけていた活動限界まで活動してしまい、治療用ナノマシンを血と共に大量に吐き出してしまったのだ。治療は半分程無駄になり、またやり直しである。視線も凍ると言うモノだ。

「次の問題として、敵の改造人間兵士だね」

「奴等は脳無と呼んでいました。データを出します」

出久の操作で、スクリーンに脳無の分析データが載せられた。

何とアークゼロの必殺技でサッカーボールの如く蹴り飛ばされても尚生命活動を継続しており、それが幸いして生け捕りに成功したのだ。

「全身が徹底的に弄くり回されており、素のパワーがオールマイト並。消化管等も完全に摘出されています。DNA鑑定では、過去に警察のお世話となったチンピラのそれが一致しました。しかし、其処に更に別人の個性因子が組み込まれています」

「悪趣味な事する奴もいたものねぇ・・・」

つらつらと読み上げられたデータに、18禁ヒーローであるミッドナイトが顔を顰める。それはこの会議の出席者の総意であり、表情は全員似たり寄ったりなものだ。

しかし、出久の視点は少し違った。

「個性の移植・・・肉体的な拒絶反応も見られませんし、有効利用すれば実に有益な技術となりそうなのに・・・まぁ、技術を善用するより悪用する方が簡単で、何より金になるから仕方無い部分もありますが。残念です」

社長と言う資本主義の代名詞とも言える肩書きを持つ彼は、この技術にすら有益なビジネス材料としての可能性を見出している。その上で、これを行使するのが敵側の技術者である事を嘆いていた。

そんな出久に、若干数名が白い目を向ける。しかし、それも仕方無いかと割り切り、4秒後にはスクリーンへと向き直った。

「そして、最も大きな問題が・・・コイツさ」

根津がキーボードを操作し、次のスライドを展開する。

巨大な左眼、アシンメトリーなアンテナ、ひび割れたようなクラッシャー・・・何所からどう見ても凶悪な面構えの、精巧な似顔絵が映し出された。言わずもがな、仮面ライダーアークゼロである。

(・・・は!?)

それに対して、狼狽えるのは勿論出久。

何故最大の問題とされるのか、何故此処まで空気が張り詰めるのか、何故オールマイトが歯を噛み締めるのか・・・現場を知っていれば単純明快なその答えを、しかし哀れな出久は持ち合わせていなかった。

(ちょ、どういう事なのアーク!?)

『後でな』

「この正体不明の敵は、緑谷君のサウザーがダウンした直後に出現。大容量のショック吸収の個性とオールマイト並のパワーを併せ持つ脳無を、一方的に捻じ伏せて見せた」

『確か、あの脳無の腕を握り潰してましたね。信じたくは無いですが・・・』

(まぁ、それは当然だよね)

サウザーでは対処しきれない敵を排除する為に、アークと交代した。故に、此処は出久としても非常に分かり易い。

「そして次に、仮面ライダー001に変身していた渡我被身子君を50m蹴り飛ばした」

「何だって?」

此処からが分からない。渡我はアークが味方であると知っており、フォースライザーの通信機能で会話も可能だ。その上で蹴り飛ばす意味が理解出来なかった。

(どういう事だよアーク!?)

『落ち着け。すぐに合点もいくだろう』

『幸い、渡我には傷も無く無事でしたが・・・俺の個性で視ても、あの鎧のようなものは解除されなかった。異形型の個性なのか、はたまた別のパターンか・・・』

(あ、無傷ならひーちゃんと口裏合わせてすっ飛ばしただけか)

『そう言う事だ』

アークのスペックで蹴り飛ばされて無傷なら、それぐらいしか無いだろうと納得する。しかしそれはそれとして、自分に報告が無かった事に関してはそれなりの怒りがあった。

「更に爆豪君と切島君を投げ飛ばし、轟君には何らかの精神的攻撃をしていたようだね」

「えぇ。轟少年を落ち着かせるのには、少し時間が掛かりました」

(何やってんのアーク!?)

『少し遊ぶついでに、轟の個性をジャックしただけだ』

(相手の精神に影響を及ぼすような遊びはしちゃダメだって!)

「何より気に掛かるのは・・・私の攻撃を真正面から受け止めて見せた際に放った、あの言葉です」

「・・・そ、其奴は、何と?」

「『貴様と戦った処で、何の旨味も無い。何より、目標は果たした』・・・と」

(クソ意味深じゃん何言ってるのさ!?)

溜息を吐いて天井を仰ぎたくなるのをどうにか抑え込みながら、出久は顔にてのひらを押し当てた。もう、何と言って良いのかすら分からないようだ。

そんな出久の心象はつゆ知らず、オールマイトは言葉を続ける。

()()()()()()()、旨味が無い・・・裏を返せば、他の交戦には旨味があったと言う事!

直前に接触したのは爆豪少年、切島少年、そして轟少年の3人!必然的にこの中の誰か、もしくは全員を何らかの目的としていた・・・一体、何を企んでいるんだッ!」

(ごめんなさい、単純に良いデータが取れて満足しただけです・・・)

再び強烈な罪悪感が出久の精神を削岩機のように削る。此処に他人の眼が無ければ、今すぐその場に蹲ってのたうち回りかねない勢いだ。そんな衝動を抑えてポーカーフェイスを貫く自分を褒める事で、現実逃避をして何とか理性を保つ。

「USJ内のオフライン回戦で独立させたブラックボックスにも、監視カメラのデータは残っていなかった。恐らく、カメラそのものを強力にジャミングしていたんだろうね」

「へぇ、だから似顔絵なのか・・・」

「他にも、オールマイトの拳を真正面から受け止めるバリアに、切島君のパンチや轟君の氷結攻撃を歯牙にも掛けない防御力。何より、ドス黒い泥のようなエネルギーの放出と操作・・・同様の目撃証言は幾つもあるけど、正直どんな個性なのか見当も付かないね。

だけど・・・緑谷君。この敵は、君のサウザーと()()()()()()()()()()を着けていたと言う証言もある。何か、心当たりは無いかな?」

「『いえ、ありませんね・・・と言うか、そんな情報もあったのですか。ふむ・・・我が社の企業イメージを損ないかねない、重大な情報ですね」』

根津の質問に瞬時にアークが出久の運動神経系をジャックし、嘘を吐いた時に出る僅かな仕草を抑止する。出久は口だけを動かして、心当たりは無いと証言した。

商談等の際によく使う、2人の連携プレイだ。

「うん、そうか。では、取り合えず今後の対応について考えていこう」

「校長、此処は私から提案が」

「何だい?緑谷君」

根津が上げた新しい議題に、いの一番にと出久が手を上げた。

「この学校に我が社のザイアスペック、及びレイドライザーを配備して頂きたいのです」

『こんな時まで商魂逞しいな』

「こんな時だからですよ、相澤先生。

我が社のザイアスペックとレイドライザーには、団体戦闘をサポートする機構が多数備えられています。更に身体の動きそのものを矯正しアシストする事で、素人でも軍人並みの行動が可能。また戦闘終了の際には、過剰な興奮状態を沈静化する機能も登載しパニックを抑制出来ます。

普通科生徒等の戦闘に秀でない個性を持つ人でも、並のヒーローと同等の戦力になる。もしもの際には、それがそのまま自衛戦力に繋がります。

何より、私は社長。社長とは、常に会社の利益を追求し続けねばならない存在です。利益を上げない社長には、1%の価値もありません。

その点、雄英で配備したとあらば、其方は純粋な戦力増強、此方は売り上げの追加に加え、雄英のネームバリューからコマーシャル効果も絶大でしょう。まさに相利共生(WIN-WIN)な関係と言う事です。何なら、特別に設定価格の半額で卸させて頂きますよ?」

「ヘイヘイ、随分と太っ腹じゃねぇか緑谷センセ」

「何、先行投資と言う奴ですよ。代わりに、皆さんの個性データを頂きたいのですが・・・」

「成る程、そう言う事なら協力しようかな。データは見させて貰ったけど、君の所のレイドライザーにはまだまだ大きな伸び代がある。多様な個性、状況に対応出来るシステムは、僕としても魅力的なのさ」

「お褒め頂き、感謝の極み。では、具体的な商談は後と致しまして・・・他には、ライダーシステムの視覚センサーにも利用している広角視認複眼型光学探知機(コンパウンドアイ・センサー)を利用した監視カメラもあります。其方を配備する事も────」

 


 

「あー、ドッと疲れたぁ~」

夜。出久は社長用社宅のベッドに飛び込み、枕に顔を埋めた。

会議を終わらせた後、雄英相手に色々と契約を持ち掛け、無事殆どを取り付ける事が出来た。社長自らが現場にも赴いて契約すると言うのも、イメージアップに繋がるだろう。

「・・・胃が痛い」

それはそれとして、出久の胃は昼間よりも激しく負担を訴えていた。このままではストライキを起こして胃粘膜の一部が失踪(胃潰瘍化)するのでは無いのかと思うレベルである。

修復ナノマシン(胃薬)出しておくか?』

「マッチポンプなんだよなぁ・・・」

アークからの申し出に、消え入りそうなか細い声で呟く出久。胃痛の主な原因であるアークが、胃粘膜を修復するナノマシンを出す。まさにマッチポンプである。

「・・・今日は出前でも取ろう。胃に優しいサッパリしたヤツ」

『うどんにするか?』

「うん、良いねうどん。そうしよう」

そんな言葉を交わす2人を置いて、夜は更けて行く。暗く、暗く、尚暗く・・・

 


 

「クソ・・・クソッ・・・あの真っ黒野郎・・・」

ベッドに寝かされ、左腕にギプスを嵌めた死柄木。譫言のように、自分の腕を粉砕させたアークゼロえの怨嗟を垂れ流す。そんな彼のギプスを氷で冷やす、ロングヘアーの少女がいた。

「あれが、世界を滅ぼす存在ですか。確かに、オールマイトと同等か、それ以上の脅威を感じましたね」

「もう、あんなのと()()()()を一緒にしないでよ」

ベッド近くで呟いたバーテン服姿の黒霧に、ムスッと頬を膨らませて抗議する少女。彼女にとっては、アークゼロ・・・否、アークはオールマイトよりも遥かに崇高な存在であるらしい。

「アーク様はね、1度()()()()()()()()()()のそして神様になって、この世界に舞い降りて来たんだよ?」

彼女の口から語られたのは、この世界では極一部の人間しか知りようの無い事。アークの覚醒により、全人類、全世界が滅亡した世界線。それを彼女は、ハッキリと口にした。その口調はまるで、子供に聖書や昔話の教訓を語って聴かせる母のようなそれである。

「ふむ・・・その話の内容は兎も角、世界を滅亡させたと言うのもバカに出来なくなりましたね」

「あー!また信じてない~!ホントだって言ってるのに~!」

尤も、それは文字通り別世界の話。この世界の人間の理解など、得られる筈も無い。

『いや、興味深いよ』

「先生!」

否、明確に興味を示す者はいた。殺風景な部屋の隅にポツンと置かれた、時代遅れのブラウン管テレビ。其処に砂嵐が映り、ザリザリとノイズの混じった声が響いた。

『この世には未来予知なんて能力もあるぐらいだからね。君の個性にそのような側面がある事を否定する事は出来ない。

何より、そんな存在がいるとしたら・・・面白いじゃあ無いか、ロマンがあって』

「さっすが先生、分かってるぅ♪」

理解者を得られたのがお気に召したのか、少女は髪を揺らしてころころと笑った。その際に、黒髪に混じった赤のメッシュがチラリと覗く。

「あぁ、早く私迎えに来て。この醜い世界を滅ぼして・・・

 

アーク様♥」

 

to be continued・・・




~キャラクター紹介~

・緑谷出久
サウザンド社長主人公。今回の被害者。
開発部のアホ共に1人でツッコミを熟しつつ、有用な試作品を吟味してサルベージし、尚且つ徹夜しまくっているバカを寝かし付けると言う超圧縮労働。胃が潰れそう。
其処から更に、雄英の特別会議にてアークの仕出かした厄介事の嵐にミキサーされた。胃が取れそう。
そんな状況でも目敏くビジネスチャンスを掴み、各種機材や商品の契約を大量に取り付けた辺りが流石は敏腕社長と言える所。
「温かいうどんは染みるなぁ・・・」

・アーク
好き勝手やり過ぎた一般転生2周目悪意。
ヒーロー視点から見ると、
①味方ヒーローがダウンした直後に突如出現
②最も期待の厚い特記戦力を1発で吹っ飛ばす
③他の実力者達もまるで歯牙に掛けず遇う
④何か闇がありそうな子に精神攻撃を仕掛ける
⑤トップヒーローの一撃すら余裕で受け止める
⑥意味深な事を言って即座に行方を眩ます
等と、やった事が全てRPG序盤でチラ見せしてくる敵幹部orラスボスの挙動そのものであり、べらぼうに警戒されている。

・主任
お巫山戯大好き、トラブルメーカー主任。
今回は屋内でグレポンをぶっ放した。その結果社長直々に折檻(ライダーキック)を頂く事となるも一切答えた様子無く火花を散らしながらゲラゲラ笑って見せた。
因みに、幾らやらかし常習犯の主任でも流石に壁に埋められるのはそう高頻度なイベントでは無い。月に2回あるぐらいである。

・キャロル・ドーリー
表情希薄ドックオック系美人オペレーターキャロりん。
両脚を失っており、それを補うように義足と4本の合金製作業用アームを使っている。アームはまんまスパイダーマン2のDr.オクトパスのそれ。
若干にロングスリーパーであり、9時間寝ないとパフォーマンスが落ちるとは彼女の言葉。

・ギムレット伍長
主任の部下の傭兵。
強面だが気さくで、コミュニケーションに積極的。
元は主任の経営する民間軍事会社の社員だったが、今は主任がその会社ごとザイアに抱き込まれている為、実質出久の部下でもある。
主任が巫山戯倒すのはもはや慣れっこであり、最近は仲間内で吹っ飛ばされる時間帯と方角を当てる賭けをしている。因みに負けたら1食奢り。

・巳穂錬硬太
運動神経良さそうな社畜上がり青年。
戦闘員への適性があり、13課に見学に行かされた。
苦労は多そうだが、何だかんだ前の職場とは大違いな楽しそうな場所だと思っている。

・長髪の少女
言わずもがな彼女。公開出来る情報は極めて少ない。
敵連合の基地におり、()()から興味を持たれている。1周目アークの凄惨な所業を知っていたり、それでも尚アークを崇拝に近いレベルで敬愛したりと、狂気的な面が目立つ。

~アイテム・用語紹介~

・フリージングベアープログライズキー
アークが轟から抽出したデータで作ったプログライズキー。
強烈な吹雪に加えて、氷塊や氷柱を生成する事によって物理攻撃も可能なアビリティである。

・フレイミングタイガープログライズキー
アークが轟から抽出したデータで作ったプログライズキー。
炎を吹き付ける火炎放射や、純粋な高熱による溶断、トラップのような遠隔での火炎噴出等が出来る使い勝手の良いアビリティである。
主のシティウォーズの主戦力。

・ZAIAエンタープライズ第13課
変態とキチガイが寄せ集められた部署。通称《日陰者の第13課》。
主任をトップとし、その直接の部下の傭兵80名、及び実験開発ジャンキーの研究員・技術者を寄せ集めて出来たカオスな部署である。
尤も、この編成には《実戦経験豊富な兵士から要望を取り入れて新装備を開発する》と言う狙いがあり、事実、レイドライザーの味方の位置の視認機能や、戦闘終了時の沈静化機能はリクエストを汲み取った機能だ。
各々優秀だが、人選が人選なのでトラブルが絶えない。特に製作陣は仕事と娯楽の感覚が完全に融合しており、仕事が苦にならないせいでホワイトな労働環境で逆に研究にのめり込み過ぎる、と言う出久の盲点を突いた恐ろしい特異点を発生させている。
曰く、「だって家より此処の方が設備も整ってるし居心地良いんだもん」との事。因みに全員が異口同音である。

・飛電メタル
13課の開発者が新たに開発した特殊合金。
可塑性、硬度、密度、形状等を自在に操作する事が可能な新素材であり、その性質上最強の矛と最強の盾の両方に成り得る革命的な金属。
因みにアークが然り気無く開発者のPCにデータを紛れ込ませて発破を掛けてたりする。
現状、意識を集中していなければ特定の形を保てないと言う弱点がある。

・ホバーグライダー
13課の発明品。
超小型の新型発動機と高性能圧電素子により、レイダーを乗せたままで時速80キロで飛行可能。単体ならば290キロにも達する。更に静音性にも秀でており、恐ろしく静かに高速飛行が可能。
イメージはスパイダーマン3のニューゴブリンが使ったグライダー。これから色々と武装する。

・レイドライザー(エフェクト+)
レイドライザーの実装時に、ヒロイックな光学エフェクトが展開されるバージョンアップパッチ。
因みに当初はアイアンマンMark45のように飛び交うパーツが身体にぶつかるように装着する仕様にする予定だったが、開発者がそのパーツに脚を強打して断念。保冷剤を巻き付けて作業し、何とかこの仕様で完成させた。
尚、脚の骨には罅が入っていた模様。コレだから変態は。


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ソレは新たな光の兆し

(出久サイド)

 

「ハァッ!」

【JACKING BREAK!】

「グヘァァァ!?」

 

──JACKING BREAK!──

©ZAIAエンタープライズ

 

サウザンドジャッカーから象の鼻を模したエネルギーを発生させ、敵を鞭のように殴って叩き上げる。

打ち上げられた敵は錐揉み回転ですぐに気絶し、ソレを横から伸びた巨大な手がキャッチした。

「ありがとう御座います、社長サン」

巨大化する個性を持つプロヒーロー、Mt(マウント).レディ。今日の仕事相手である。

「マスク一体型ザイアスペックと、超展性極薄アイギアグラス・・・如何ですか?」

「それはもう!コレのお陰で壊してしまいそうな所が予め分かりますし、今回は損壊箇所が今までの半分以下で済みました!」

「ソレは何より。私としても、有用なアビリティを蒐集出来たので満足です」

そう言って変身解除しながら、左腰のホルダーに収まったキーを叩く。

灰色のキーに刻印されているのは、象の姿。しかし、只の象では無い。プログライズキーの中でも異色の、()()()()()()()を内包したキー、ブレイキングマンモスキーである。

Mt.レディの個性をジャックし焼き付けた事で生成したキーであり、此方の技術提供の対価として頂いたものだ。

「にしても、私がいて都合が良かったですね」

「そぉですねぇ。私、4車線以上じゃ無いと入れないから・・・」

今回の敵は、かなりすばしっこいタイプだった。Mt.レディが来たは良いものの、1人では捕まえられなかっただろう。

「お恥ずかしいですね。凄く助かりました!」

「まぁ、適材適所です。此方も良いデータが取れました。

あと、そんなに気を張らずとも大丈夫ですよ?私はまだ16歳。子供なのですから、普通にタメ口で結構です」

「あらそう?じゃあ助かるわ~。正直疲れると思ってたし」

「そのくらいフランクな方が、私としてもやりやすいです」

「それを言うなら、アンタもいっちょ前にビジネス言葉使ってるけど・・・疲れない?」

「残念ですが、素を出す人間は絞ってありますので・・・」

「ふぅん?隙は見せませんって?ミステリアスね、モテるんじゃない?」

「社長と言う誘蛾灯に擦り寄ってくる虫ケラに集られる事をモテると表現して良いならば、私はモテモテですね」

「あー・・・ごめんなさい」

「良いんですよ」

多分、今の僕は死んだ魚みたいな眼をしているだろう。

ザイアが軌道に乗り始めた時の、今まで若造と鼻で嗤っていた奴等が掌返してゴマをすり倒して来る様。あれはもはや一種のトラウマだ。企業・資本家の交流会(パーティー)では、ハニトラと思しき色気と露出マシマシなお姉様方が然り気無くボディタッチしながら()()に誘って来るし。普通なら一時であろうと美味しい思いが出来るんだろうが、生憎とアークのお陰で悪意に敏感だから、尚更に勘弁願いたかった。あれのせいで一時期マジで性欲が死んだ。

その点だと、飾り気無く包容力のあるひーちゃんは正に理想の女性像だ。ギブアンドテイクの関係もハッキリと契約的に明確化されてるし、その上で僕に結構尽くしてくれる。あぁ、甘えたくなってきた・・・

丁度そろそろ()()()()()タイミングだし、丁度良いかも。

「では、私はこれで。ご意見ご要望等あれば、またお問い合わせ下さい」

「はーい、また今度!」

手を振るMt.レディに此方も左手を振って答え、エクステンダーに跨がってライズフォンを嵌め込む。システムスタートの短いアラームと共に、ザイアスペックが各データを視界に映し出した。

そしてフルフェイスヘルメットを被ってバイザーを下ろし、アクセルを捻った。

「さて、行きますか」

 

(NOサイド)

 

BITING(バイティング)OVERRIDE(オーバーライド)!】

─ギュイォォィーンッ ドゴォーンッ─

 

『ギャハハハハハ!良いじゃんコレ!やっぱロマンはこうで無くっちゃ!量産しよ量産!』

「全く、漸く試験場を使う事を覚え何だその頭の悪い武器は」

試験用のグラウンドに響いた轟音。ハイテンションにはしゃぐ主任(ハングドマン)を前に、今し方来たばかりの出久はまずツッコミを入れた。

その右腕に付いているのは、巨大なヒートチェーンソーを6本束ねた超特大過火力兵器(オーバード・ウェポン)。敵と見立ててその回転する狂気の餌食になった仮想敵ロボットは、スクラップ以下の見るも無残な金属片へと成り果てていた。

『これぞ新開発したOW、その名も対大型堅牢敵想定規格外六連超振動突撃剣、またの名を《グラインドブレード》だ!』

「言いたい事は色々ありますが、取り敢えずこのナリで()()()って嘘っぱちも良いとこですね。と言うか左肩のアーマーどうしたんですか?」

出久の指摘通り、主任のハングドマンは左肩の装甲が丸ごとパージしており、エネルギーケーブルのコネクタが丸裸になっている状態だった。

『あーコレ?いやー、グラインドブレードの動力引っ張る為には、どうやっても直で接続する以外無いみたいでサ!使う時にパージする仕様になっちゃった!』

「其処に1発でも当たればドカンじゃないですか」

『大丈夫大丈夫!シャッターでフタはするからさ!』

ハングドマンが騒々しくグラインドブレードを格納すると、コネクタがガシャガシャとシャッターで密閉された。最低限の防御は出来るように見える。

「・・・まぁ良いか。で、順調ですか?」

『あー、アレね?それなりに順調だよ。丁度今から、隣のグラウンドで模擬戦するからさ。お忍びで見学してみる?』

「間違っちゃいませんがニュアンスとしては視察でしょうよ」

『へー、そうだっけ?まぁどうでも良いんじゃないの?はいコレ』

「ホントいい加減ですよね貴方」

ハングドマンはグラインドブレードを格納し、オーバードスロットから引き抜いたキーを出久に投げ渡す。それは先日のUSJ襲撃事件で脳無に使ったライダモデルのキー、バイティングシャークだった。

『これらのキーも、体勢が整い次第量産せねばな』

「ま、その為にもまずは()()()()()()()()()()だけどね。丁度第一段階のキーパーツも揃ったし」

そう言って、出久はブレイキングマンモスを取り出し、指で軽く叩く。

『へぇ?それがシャトルの?』

「えぇ。取り敢えず、コレもコピーして其方に回します。どうせ強請るでしょう?」

『ピンポーン!分かってるねぇ社長!』

「慣れと諦めですよ」

顔を顰めて腹を擦りながらボヤく出久。そんな話をしている間に、隣のグラウンドに到着した。

「あれ?社長じゃないッスか!それにリーダー」

「社長!今日は抜き打ち視察か何かですかい?」

傍観室に入ると、待機人員の傭兵チームが2人を出迎える。窓からは、これから試合を行う2人が向かい合っているのが見えた。それぞれ、コードネームはダウンギャンブルとデリンジャーである。

「ちょっとした見学ですよ。新作の出来を見に来ました」

『オイオイ、オレはオマケかよ』

「ヘヘッ、すいやせんリーダー」

この部隊では、主任の扱いはかなり軽い。お互いに軽口を叩く程には。

「では、戦闘訓練を開始する。両者、武装せよ!」

『りょーかい!』『アイサー!』

【【HERD!】】

双方が起動したのは、標準装備として支給されたインベイディングホースシュークラブキー。しかし、腹部に巻いているベルトが違った。

デリンジャーは、ホースシュークラブキーと同様に標準装備であるレイドライザー。対してダウンギャンブルは、青い大口径拳銃をバックルに斜めに装着した異色のベルト。名を、《エイムズ・ショットライザー》である。

AUTHORIZE(オーソライズ)!】

それぞれがキーを装填。ショットライザーは承認音声が鳴り、キーブレードを展開して接続。バックルから本体を引き抜き、前方に構える。

 

【KAMEN RIDER.KAMEN RIDER.KAMEN RIDER・・・】

 

ネイティヴ発音ながら地味に自己主張の激しい待機音を流すショットライザーのトリガーに指を掛け、膠着は破られた。

『実装!』『変身ッ!』

 

【RAID RIZE!】【SHOT(ショット) RIZE(ライズ)!】

 

レイドライザーを中心に光の輪が形成され、アーマーが出現。ショットライザーの銃口からは赤い弾丸が放たれ、変身者であるダウンギャンブルはハイキックで戻って来たそれを蹴り砕いた。

【【INVADING!HORSE!SHOE!CRAB!】】

【【更なる戦いに備えた(Heavily produced battle armor)量産型戦闘装甲(equipped with extra battle specifications)】】

インベイディングホースシュークラブの戦士2人。名はそれぞれ、バトルレイダー仮面ライダーイージス

何方もモデルはカブトガニ。しかし、シルエットは大きく違う。ゴツゴツと多角的なデザインのバトルレイダーに対し、イージスは織田信長の南蛮甲冑にも似た、ツルリとした流線型。更にイージスの右太腿にはバトルレイダーと同じ大口径短機関銃、トリデンタがくっ付いている。よく見れば、太腿にはカブトガニを裏返したようなウェポンハーネスが付いており、複数の節足で銃をホールドしていた。更に、特徴的なパイプ構造のストックは根本から下側に折り曲げられており、P90のように親指の後ろを覆うような形である。

『使い勝手が違うって話だが、最新型が負ける訳ねェだろォ!!い゙くぞォォォァアッ!!』

『おいおいギャンブル、負けた時の言い訳を潰しちまって大丈夫か?』

『ほざいてろ!』

「訓練開始!」

『オラオラオラオラァ!』

 

─BbbbbbbbANG!!─

 

『遅ェ!』

開幕ブッパは正義とばかりに、バトルレイダーがトリデンタを連射。しかしイージスは真横に駆け出し、弾丸を容易く避けきってしまった。

「ショットライザーの仮面ライダーイージスは、レイダーに比べ装甲が薄い代わりにスピードに優れる。成る程・・・」

『お返しだクソッタレェ!』

 

─BbbbbbbbANG!!─

 

バトルレイダーの猛攻から一転、次はイージスの番である。右手で抜いたトリデンタをジャグリングで左手に持ち替え、再び空いた右手でショットライザーを引き抜く。そして2丁拳銃で此方も連射し、制圧射撃を仕掛けた。

『グオォォ!?』

『更に、ショットライザーとトリデンタの併用で単純な手数の増加から火力が上がる。少数精鋭で敵陣に斬り込ませて撹乱させる運用が理想かな?』

「そして、敵の体勢が崩れた所で小隊規模のバトルレイダーによる波状攻撃・・・と言った所でしょうか」

主任と出久が話し合う中、バトルレイダーは銃弾の雨を絶え凌ぐ。頑丈(ハード)のアビリティ名は伊達では無く、比較的装甲の厚い左半身で銃弾を弾き、上手く受け流していた。

『ハッ!タァッ!オラよォ!』

しかし、テンションが上がったイージスは距離を詰め、インファイトに持ち込む。それを好機と見たバトルレイダーは近接格闘を装甲で受け止め、左腕でパリング。姿勢を崩させ、レイドライザーのボタンを叩いた。

『しまっ!?』『あばよ』

INVADING(インベイディング)BOLIDE(ボライド)!】

『うがぁ!?』

イージスの動体にトリデンタを押し付け、必殺の高火力エネルギー弾を撃ち込むバトルレイダー。イージスは身動ぎ1つ碌に出来ないまま、弾頭のエネルギーの炸薬効果で派手に吹き飛んだ。そして見事にゴロゴロとグラウンドを転がり、強制変身解除機構が発動する。

「試合其処まで!勝者、デリンジャー!」

『チクショォォォ!!』

酷い負け方をしたダウンギャンブルは、土下座のように両拳を地面に叩き付けた*1

ガシガシと頭を掻きながら、同じく変身解除したデリンジャーと共に傍観室に入って来る。

「彼処で熱くなって無ければ、お前の勝ちは硬かったのになぁ?」

「クソ、次はゼッテェ・・・ゲェッ!社長!?」

「ちょっと。ゲェッとは何ですか、ゲェッとは」

ダウンギャンブルからのあんまりな反応に、思わず眉をひそめる出久。ダウンギャンブルは元々荒くれ者であり、少しばかり口が悪い所がある。多少は窘めているものの、そうそう直るモノでも無いのだ。

「しかし、実に有意義な見学になりました。面白かったですよ」

『じゃ、此処からはコイツらのACも組み上げなきゃね。トゥゲダリング・サンシャイン』

主任が自分のザイアスペックを操作し、出久の端末にデータを送る。それは新型ACの設計図であり、如何にも汎用量産型と言った風貌の、角張ったシンプルな造形のモノだった。

「良いですね。では、開発を進めて下さい。それに支障が出なければ、好きなモノも作って頂いて結構ですので」

『ギャハハハハ!やっぱ社長は話が分かるねぇ!』

「まぁ、士気が上がるなら越した事は無いので。では、私はこれで」

『また来てくれるのを楽しみにしてるよ~!』

手を振って見送る主任に小さく応え、出久は傍観室を出た。

 

─────

────

───

──

 

(アークサイド)

 

「ハッ!とりゃっ!!」

「フッ!ハッ!」

雄英の修練室にて、出久(サウザー)渡我(001)が試合をしている。

今は互いに徒手空拳。カタログスペックで大きく劣る001は、真正面からの攻撃を避けて高速跳躍を繰り返すヒットアンドアウェイ戦法を展開している。

「成る程、確りと使い熟してるね。体捌きが上達してるし、威力も上がった」

「フフン♪私も頑張ってますので!」

『まぁ、要因としてはナノマシンの追加やデータの蓄積による肉体への最適化が最も大きいがな』

「むぅ、アークさん!そう言うのはヤボなのです!」

『おっと、それは失礼した』

どうやら、いらん事を言ってしまったようだ。まぁ良いだろう。

「じゃ、そろそろ新機能のテストもして行こうか」

「了解です!」

【THOUSAND JACKER!】

【ATTACHE CALIBUE!】

「ハッ!」「デェヤッ!」

2人は虚空から武器を取り出し、一瞬にして斬り結ぶ。

胸板を蹴り飛ばして宙返りし距離を取る001に対して、サウザーも無茶な姿勢制御は早々に諦め敢えてバック宙。そのまま脚を引き絞った低姿勢状態で着地し、スリングショットの弾丸のように飛び出して001へと突貫刺突を繰り出した。

「ほっ!」「ぐあっ!?」

しかし、001も負けはしない。低姿勢から主要器官を狙う都合上、サウザーの牙突は如何しても上向きに突く。その際に生まれる前方下側の隙に膝抜きでしゃがんで入り込み、更に胴体を捻って回転しながら遠心力を利用した左から右への逆袈裟斬りを見舞う。更にその遠心力で重心を引っ張り、バックロンダートでミドルレンジの間合いを取り直した。

ARROW(アロー) RIZE(ライズ)!】

「ハァァッ!!」「ぐっ、ぬおっ!?」

其処からアタッシュウェポンを持ち替え、紫の弓(アタッシュアロー)からエネルギーの矢を連射する。サウザーも2発はやを諸に喰らってしまったが、3発目からはジャッカーで切り落とし始めた。

「オリャオリャオリャーッ!」

「何!?くッ!」

守りに入ったサウザーに対し、001は一気に詰め寄りローリングソバットを叩き込む。流石のサウザーも、001の加速力をフルに活かしての跳び蹴りは中々に堪える。

SHOTGUN(ショットガン) RIZE(ライズ)!】

「え?」

 

─DBanG!!─

 

「ごへぁ!?」

堪らず片膝を着いたサウザーに悪魔の声が聞こえ、盛大に吹き飛ばされる。

アタッシュアローから青黒のショットガン(アタッシュショットガン)高速切替(ラピッド・スイッチ)した001が、サウザーの胸に0距離でエネルギー散弾をブチ込んだのだ。しかも確りと反動をバックジャンプで受け流し、ちゃっかりと距離も取っている。

『其処まで!致命傷判定により、勝者は001』

「やった~!」

「ふぅ、凄まじい成長ぶり・・・流石だね、ひーちゃん」

無邪気にぴょんぴょんとはしゃぐ001に、感嘆の溜息を吐くサウザー。

しかし、それもそうだろう。長年に渡って全身にナノマシン投与を施した強化人間たる出久に対し、渡我は未だにナノマシンが馴染みきっていない発展途上の改造人間。一応、私が脳にAIチップを埋め込みこそしたが、それもラーニングは完全では無い。そんな未完成甚だしい状態にも関わらず、ジャッカーに依存する特殊技を制限した状態とは言え、サウザーに真正面から勝ったのだ。

この凄まじい成長性は、渡我自身の持つ驚異的な適応能力と応用力に依るモノだ。

「にしても、拡張領域(バス・スロット)も完璧に使い熟してるね。反射的な動きを擦り込むのが上手いお陰かな」

「まぁ、このアタッシュ系が凄く使い易いってのもありますね。パッと出せてガチャッと使えて、何なら盾にしても全然へーき」

「その代わり、1つが最低25kgとアホみたいに重いんだけどねぇ。ライダーシステムのパワーアシスト無しじゃ、マトモに取り回せたもんじゃ無い」

アタッシュウェポンの長所と短所を出し合いつつ、001は新たに拡張した量子転換技術でアタッシュショットガンを格納する。

これはライダーシステムやレイダーシステムのドライバーに搭載されている、特定の物体を量子化・格納する機能を発展させたモノだ。

実の所、ドライバーに必須とされる機能は、電脳通信装置と量子化装甲の形成、そして各システムの素体テンプレートと、データイメージの装甲化アルゴリズム。これだけである。

そして私が作ったドライバーの処理容量ならば、これらの機能を詰め込んでも容量にかなりお釣りが来るのだ。現に、主任が開発したACのパッケージライズシステムも、このバススロットを彼が勝手に利用したモノだったりする。

1歩出遅れたが、此方もそれを真似て空き容量に量子転換した武器を格納する事にした。中々に使い勝手が良く、ナノマシン投与やザイアスペックによって脳機能をブーストした人員ならば、適材適所で武器をスイッチして戦う事も容易いだろう。まぁ、1つの武器技能のみを研ぎ澄ませてフレキシブルに動く主義の兵士もいるだろうから、その辺りは個人の好みだが。

「じゃ、次は試作品の実戦テストです!」

ATTACHE(アタッシュ) HALBERD(ハルバード)!】

そう言って001が取り出したのは、通常のアタッシュモードよりも5割増し程に長いアタッシュウェポン。親指でロックボタンを操作し、そのまま思い切り振り抜いた。

HALBERD(ハルバード) RIZE(ライズ)!】

すると、アタッシュケース前方3分の1程のブロックがアンロック。ケース全体を縦に3分割するラインからそれぞれが前方にズレ、スライドして1本のポールになる。最後に手首のスナップを効かせて先端のブロックパーツを反転させれば、あっと言う間に2mを越す長柄の戦斧になった。

「フッ!ハァッ!!」

「くっ、ふっ!」

001はアタッシュハルバードを大きく振り回し、その回転のままに続け様に唐竹割りに繫げる。サウザーは一撃目をジャッカーで去なし、唐竹割りはバックステップで回避。

「おっりゃぁあッ!」

しかし001はそれを読み、体重を掛けて振り下ろした刃が地面に叩き付けられた瞬間、その反作用に乗って跳躍し、前宙垂直斬り落としに派生した。

「流石に、喰らわないッ!」

だが、サウザーも負けてはいない。

右前方に飛び込んで回避し、そのまま左手を着いて右脚でセパタクローキックを見舞う。

「おわっと!?」

001は地面に食い込んだハルバードで咄嗟に身体を引き寄せ、ポールの上を転がるように無理矢理前方に飛び出す事で、辛くも避けて見せた。

「ひっ、あっぶな!」

「何で彼処から避けられるんだ・・・」

001の出鱈目な回避テクニックに、流石のサウザーも呆れたように呟いた。

確かに、あの蹴りは001の視覚センサーの限界を超えた位置からの攻撃。見て回避するのは不可能だった。単純に、渡我自身の気配察知能力によるものだろう。

「どんどん行きますよッ!」

ATTACHE(アタッシュ) PILER(パイラー)!】【ATTACHE(アタッシュ) LIFULL(ライフル)!】

PILE(パイル) RIZE(ライズ)!】【LIFULL(ライフル) RIZE(ライズ)!】

新たなアタッシュウェポンを両手に掴み、それぞれを展開する001。右腕のそれは、グリップが側面に折り畳まれ杭が2本突き出し、ガントレット型のパイルバンカーに。左手のそれは、蝶番で3段に巻き畳まれていた砲身を伸ばし、グリップを90度立ち上げて前腕密着型のライフルに。

「成る程、ハルバードも含めて主任が作りましたね?それ」

それぞれの武装は、今までのアタッシュウェポンとはコンセプトが違う。其処に着目し、サウザーは政策案を上げた人物を易々と言い当てて見せた。

「じゃあ、行きますよ!」

001がライフルのグリップ上端に付いたスイッチを親指で押し込む。するとファンが回転するようなチャージ音が鳴り、ライフル側面のチャージングランプが点灯していく。

『当たると拙そうだな』

「拙いなんてモンじゃ無いでしょう!」

【JACKING BREAK!】

センサー類が弾き出した計測データを見て、咄嗟に制約を解除するサウザー。ジャッキングブレイクを発動するとほぼ同時に、アタッシュライフルから高出力のメーザー砲が放たれる。それは空気を瞬く間に焼き焦がし、蒼白い光を纏いながら雷速でサウザーに襲い掛かった。

「あ、あっぶな・・・」

しかし、そのメーザーも目標の1m手前で拡散、広範囲に分散してしまう。

使ったのは、B組の円場硬成の能力。空気を凝固させる個性。今回はそれを応用し、屈折率の異なる3層の偏光板を作ってメーザーを湾曲・拡散させたのだ。レイリー散乱の応用である。

CHARGE(チャージ) RIZE(ライズ)!】

【RISING!DYSTOPIA!

FULL CHARGE(フルチャージ)!】

だが、その隙を見逃す001では無い。ライジングディストピアで高速接近し、加速を乗せた膝蹴り(ブーストチャージ)で偏光板を全て粉砕。其処から更に踏み込み、チャージライズを済ませたアタッシュパイラーを思い切り突き出して来た。

KABAN(カバン) STRIKE(ストライク)!】

 

─バゴギョンッ─

 

「ぐへぁ!?」

爆裂射出された杭を真面に受け、サウザーはくの字に身体を折り曲げ吹き飛ばされる。流石にロマン武器の王道、パイルバンカーの直撃には耐えられないようだ。

『サウザー致命傷判定、勝者001』

「やった~!」

「う、受けに回らなきゃ良かった・・・」

『ウェポンテスターとしては上出来だ。データも取れただろう』

変身解除して蹲り、青い顔を冷や汗で濡らす出久。それもそうだ。計測した結果、アタッシュパイラーのカバンストライクの衝撃力は87,3tだった。私の変身するアークゼロでも、恐らく仰け反らせる事が出来るであろうレベルの威力だ。

「ただ、新作武器は軒並み壊れちゃいました」

そう言って、001はハルバード、パイラー、ライフルを展開する。どれも接合部からスパークが散っており、パイラーの杭はストッピング機構が破損。ライフルは内部のコンデンサと放射パーツが焼き付いていた。もう単純な鈍器としてしか運用出来ない状態だ。

「取り敢えず、そのデータは有用です。主任に渡してあげなさい。寧ろ、初回で剛性テストまで出来てお得でした」

「そうですね!分かりました!」

テンションを戻して3つを格納し、変身解除する渡我。

そんな彼女を見ながら、私も電脳内で完成した新たな設計図を見直す。

・・・やはり、まだ少しデータが足りないな。しかし、一応は建造可能な状態になった。

『渡我。今回のデータ収集で、お前のビームエクイッパーから新たなプログライズキーが作れるようになった。お前専用のキーだ』

「ホントですか!?」

『あぁ。だが、出力制御用のプログラムが不完全だ。余程の事が無い限り、データを閲覧するまでに留めてくれ』

「分かりました!余程の事が無ければ大丈夫です!」

「それは果たして大丈夫なんですかねぇ・・・」

『何、骨折や筋断裂までは起こすまい』

「詰まり重度の筋肉痛なんかは発生するって事じゃ無いか」

『理解が早いな』

「全く・・・まぁ、知らずに作って使うよりはマシかな」

肩を竦め、頭を振る出久。しかし、私の予測ではこれが必要になる。ハードだけでも、完成したのは幸いだった。

私達のアーク因子は、ほぼ全てが量子もつれ状態になっている。故に渡我の持つ血液錠剤にも、リアルタイムで私の情報が伝達するのだ。

さて、では始めるか。《プロジェクト・アーク》を。

 

(NOサイド)

 

『フゥ~ム・・・』

真夜中。日陰者の第13課の一角で、主任は小さく唸る。

目の前のパソコンには、新たなACの設計図。そして、()()A()C()()()()()()()()()()()()()()が映し出されていた。尤も、何方も未だに未完成ではあるが。

『ま、今はこんなモンかな~。まだまだ初期段階だし、データもゴミムシだしね・・・って、アレっ』

今出来る限りを尽くして設計改良を行い、主任は椅子にもたれ掛かる。するとそのタイミングで、主任の腹が鳴った。機械と言えど、本質は人間。疲労も溜まるし、腹も減るのだ。

『ギャハハハ!そっか、もうこんな時間かぁ!夜食でも買いに行くかな!』

そう言って、フォルダを上書き保存し、主任は席を立つ。

そのファイルの名は、BLACKING GRINTであった。

『早く会いたいぜ、《J》・・・また戦いたいよ。お前と一緒に・・・』

 

to be continued・・・

*1
冷やし土下座




~キャラクター紹介~

・緑谷出久
今日も今日とて営業してた1000%社長出久。
Mt.レディからの提供によりブレイキングマンモスを獲得した。
過去に資本家や投資家との会合の類いで凄まじい掌返しを喰らい、更にハニートラップも叩き付けられたせいで一時期かなり危うい精神状態になっており、渡我がいなければ1000%ヤバかった。
社員(傭兵)の試合を観戦し、新しいシステムの視察を遂行。これから編成などを考える。
主任が新しいキーを欲しがる事は予測出来ていた為、既に複製の手筈は済ませてあった。
因みに001との試合の時系列は、体育祭をやると告知された日の放課後である。
渡我の応用性が火を吹き、もはやジャックライズ無しでは互角に持ち込まれてしまうようになった。彼自身はそれを楽しんでいる。但し、アタッシュパイラーは中々に効いた。

・主任
もはやOW係となった主任。
今回でグラインドブレードを作った。今後もバンバン作る。
傭兵を率いるリーダーとして、戦力分析もお手の物。今日も13課は元気です。
A()C()()()()()()()()()()()()新たなシステムを制作中。また何かアクションを起こすつもりらしい。

・ダウンギャンブル
愛すべきポンコツ特攻兵。
格闘センスが良く、切り込み向き。反面、熱くなり易く手玉に取られやすい。

・デリンジャー
ちょっぴり頭脳派一般兵。
アサルトライフルによる中距離射撃が主なスタイルであり、射撃精度も中々高い。
また、近付いて来た敵を倒す為の近接格闘術(主にパリィと柔術)も修めている。

・渡我被身子
滅茶苦茶強くなった恍惚吸血ヒロイン。凄まじいポテンシャルを秘めた可能性の獣。
原作からしてかなり身軽で身体能力が高く、周囲の人間の気配や意識の向き、流れを読み取る事に長けている。ステータス的には近接格闘に向いたタイプ。
この察知能力と001の機動力が合わさり、その結果が最強のヒット&アウェイ戦士の誕生である。
出久の事は尊敬しているが、同時に対等の戦士であると認識しているので普通に加減無く戦える。何気にAC組よりも先にブーストチャージを披露した。

~アイテム・システム紹介~

対大型堅牢敵想定規格外六連超振動突撃剣(グラインドブレード)
OWの1つ。バイティングシャークのライダモデルを利用したもの。
6本の巨大ヒートチェーンソーを束ね、円形に並ぶよう変形させてドリルのように回転させながら敵に突撃する。敵は大体死ぬ。
動力を引っ張る為に左肩のアーマーをパージする必要があり、防御力の低下と言うデメリットが発生する。
敵の大群に対して一気に突っ込むのが理想的な運用方法。

・バトルレイダー
主任率いる元傭兵・現ZAIA特殊機動部隊【A.I.M.S.(エイムズ)】の標準装備。癖が無く防御特化、弾幕射撃が強力且つ捕縛も可能と言う、軍隊で平均的に要求される要素を全て押さえた理想の量産型。
今後のZAIAエンタープライズ社の目玉商品。

・エイムズショットライザー
A.I.M.S.に新配備された武装。
レイドライザーよりも攻撃重視のテンプレートを採用しており、防御力が低下する代わりに機動力と火力が上がる。
また、変身せずとも大口径拳銃として利用出来る点も大きなアドバンテージである。

・仮面ライダーイージス
インベイディングホースシュークラブのショットライザー系ライダー。
本作初のオリジナルライダーであり、バトルレイダーと同じく量産型ライダーとして配備される事となる。
大型短機関銃《トリデンタ》をバトルレイダーとの共通武装として運用し、更にショットライザーを併用する事でより高密度の弾幕射撃を行えるようになった。
反面、装甲面は削ぎ落とされており、バトルレイダーよりも打たれ弱い。尤も、それは防御特化のバトルレイダーと比べた場合であり、並大抵の攻撃では落とされはしない。

・トリデンタ
バトルレイダーと仮面ライダーイージスの共有基本武装。
米軍開発のクリス・ヴェクターと言うサブマシンガンをベースモデルとし、改造強化を行ったもの。これにより生身ではほぼ扱えない高火力火器となっている。

・アタッシュウェポン
01世界の基本武器。生身でもガンガン使えていた原作とは仕様が違い、最低重量が25kg。常人には真面に取り回せないのだが、これは圧縮合金による多層装甲を用いて意図的に重量を上げている為である。
出久の護身用武器としても使われるサウザンドジャッカーとは違い、完全にライダー・レイダーシステムとの併用を前提としている。

・アタッシュアロー
紫のアタッシュウェポン。
展開により短弓になり、貫通性能に特化した矢を放つ事が出来る。また日朝のお約束として、リム部分に刃が仕込まれている。弓は斬撃武器。
連射性能もかなり高く、早撃ち(ラピッドショット)溜め撃ち(チャージショット)を使い分ける事が出来る。

・アタッシュショットガン
青いアタッシュウェポン。
ポンプアクション式ショットガンであり、今作ではコッキングによって対人散弾(バックショット)一粒弾(スラグショット)を切り換える仕様。

・アタッシュハルバード(試作)
オリジナルアタッシュウェポンの試作品。
スライドレール機構を採用しており、リーチを引き延ばした重打を叩き込む。
今回は接合部分の剛性が足りず破損。強化改修する事となった。
因みに、今回まだ使っていない新機能も搭載している。
カラーリングは青と黄色。

・アタッシュパイラー(試作)
オリジナルアタッシュウェポンの試作品。皆大好きロマンウェポン、とっつき。
変形機構については、グリップの根元が2重ヒンジになっており、まず側面にグリップが倒れ込んでシールドガントレット型になる。次に本体両端1ブロックが底側に向けて蝶番式に開いて爆裂薬室になり、グリップ根元のヒンジ両端に空いた穴から1本ずつ杭が飛び出して変形完了。因みにグリップの親指部分のロックボタンを解除すればバネ仕掛けのようにワンタッチ変形する素敵仕様である。
通常は刺突用ブレードとして機能するが、チャージライズにより杭をコッキング。薬室にチャージしたエネルギーを炸薬とし、必殺の一撃を叩き込む。
チャージライズさえしてしまえば、あとはトリガーを引くだけで瞬時に射突出来る為、ガードガチガチタイプにもスピードタイプにも扱い易いらしい。
破損箇所は突出する杭を受け止めるストッパー機構。実際に作るとすれば確実に1番負荷が掛かるパーツである。
カラーリングは赤と黄色。

・アタッシュライフル(試作)
オリジナルアタッシュウェポンの試作品。
多重折り畳み機構を採用している。イメージはモンハンのヘビィボウガンの折り畳みだが、更にロングバレルの根元でも折り畳む3段パーツ構成。
グリップは銃型としては珍しく、親指側がグリップエンドとして根元の関節で起き上がる構造であり、形としては戦闘機等の操縦桿に近い。
形のモチーフは《シドニアの騎士》に登場した超高速弾体加速装置。
アタッシュアローと同じく溜め撃ち(チャージショット)早撃ち(ラピッドショット)が可能だが、後者はほぼほぼ豆鉄砲であり、生身相手でも眼球以外には致命的ダメージは与えられない。しかし溜め撃ち(チャージショット)は5段階に分かれており、最大までチャージすれば高密度に収束したエネルギー粒子とマイクロ波を合わせた高出力メーザー砲となる。
今回は電解コンデンサや放射パーツが焼き付いてしまった。
カラーリングは白とピンク。

拡張領域(バス・スロット)
I S(インフィニット・ストラトス)用語。物体を量子転換し格納、保存する技術。
ライダーシステムに於いて度々見られる現象、『何処からともなく現れる武器』を解決する為に採用した設定。
尤も、原作01のブレイキングマンモスも量子転換による長距離転送及び物質圧縮を行っている為、何ら不自然では無い。

高速切替(ラピッド・スイッチ)
IS用語。拡張領域を介して瞬時に武器を切り換える技術。
扱えるならば常時最適な武器を選ぶ事によって柔軟な戦術を展開し、戦闘を優位に進める事が出来るが、使い熟せなければ戦闘中に隙を曝してしまうピーキーなテクニックである。



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方舟のキズナ

「な、何だコレェ!?」

放課後。体育祭準備に入った1年A組にて、上鳴が叫ぶ。

しかし、それも致し方無い。帰ろうと扉を開ければ、其処に他クラスの生徒が人垣を作っていたのだ。驚きもするだろう。

「敵情視察だろ。しょうもねぇ・・・オラ散れやクソモブ共!」

「何でそう敵を増やす事しか言えないんですか!」

「うごあっ!?」

そして、当然のように人垣に食って掛かる爆豪。それに対して、渡我が容赦無く脇腹に蹴りを入れた。

「痛ってェな殺すぞこの腰巾着女ァ!」

「殺意も無しに殺すぞなんて言うぐらいお子ちゃまだから、社長に良いように転がされて2回も地面さんとお見合いする事になるんですよ!」

「ンだと腰巾着!」

「済みませんウチのファッキンボンバーが。でも、用事がるので道開けて下さい」

「流してんじゃねぇぞコラァ!」

「流されたく無ければその下水道に流したくなるような態度を直すべきだと思うのです」

「つまりクソだって言いてぇのかアァン!?」

「そうですね。便器にこびり付いて中々流れないからイライラしてくる、正に詰まりグソです」

「ちょっと被身子ちゃん、そんな汚い言葉使っちゃダメよ」

毒舌の鋭さを増していく渡我に、クラスメイトの蛙吹が流石にストップを掛けた。同じ女子として、流石に見過ごせなかったらしい。

「全く、品が無いと言うか、何と言うか・・・」

「ア゙ァ!?」「あら?」

そんな中、廊下から第三者が参入する。

ダークパープルの癖毛に、目の下の色濃い隈が特徴的な男子だ。

「次から次へと何だこのクソモブが!」

「あーあ、そんな事言っちゃう?ちょっと幻滅しちゃうなぁ・・・」

「済みません、ウチのコレが感じ悪くて」

「テメェさっきから何様目線だコラ!」

水と油と言った具合の渡我と爆豪に、隈眼の男子、心繰人使は眉を顰める。

「こんな奴等がヒーロー科受かっちゃうとか、ちょっとショックだよなぁ」

「あ、それ分かります。受かっちゃった私が言うのも何ですけど、あの入試はちょっと頭足りないと思うのですよ。

ヒーロー向きって言うのは単純な戦闘向きだけって訳じゃ無いのに、雄英の上はそんな初歩的な事も分かってません。だからこんな歩く火薬庫が受かっちゃうし、回復系のとかの有用なヒーロー志望者が落とされるんですよね」

「さっきからどんだけ殺されてぇんだテメェは!」

「別に?私も社長と会ってなければふるい落とされてた筈ですから、不満が溢れただけですよ?私の個性、1人じゃ何も出来ないので」

「・・・へぇ」

多少興味深げに、心繰は眼を薄める。意外だったのだろうか。

「所で、貴方も視察ですか?あ、それとも一緒に特訓します?」

「は?い、いや・・・」

予想だにしない申し出に、一瞬狼狽える心繰。

これは、渡我との感覚の相違である。渡我としては自社製品の宣伝さえ出来れば良いので、相手が強い方がアピール上都合が良いのだ。

「・・・何か、毒気抜かれちまったよ・・・まぁ良いか。取り敢えず、忠告と宣戦布告。体育祭のリザルト次第じゃ、普通科からヒーロー科への編入も出来るんだってさ。それがアリって事は、逆も然り・・・油断してると、足元ゴッソリ掬いに行くから、そのつもりで。それじゃ」

「はい!じゃあ楽しみにしときますね!では、自己紹介しましょう!

私は渡我です!渡我被身子!貴方のお名前は?」

「え・・・あ、と・・・心繰、人使」

「シンソーくんですか、宜しくお願いします!良い勝負をしましょう!」

「う・・・やっぱ、調子狂うな」

タジタジになりながら、心繰は頭を掻いた。

一応は敵意を伝えるつもりで来た筈が、それを向けられた当の本人はとても嬉しそうなのだ。当然の困惑である。

「ほー、A組がどんなトコかって来てみれば・・・気持ちの良い奴がいるじゃねェか!」

と、其処に追加人員が参戦。ニコニコしている渡我の額にも、いい加減に青筋が立ってきた。

「俺はB組の鉄哲徹鐵ってんだ!」

「凄い名前ですね。ウチの主任さんと良い勝負してますよ」

「アンタが渡我被身子だってな。緑谷先生が自慢してたからよ、顔見に来たんだ」

「え!社長が!?」

若干うんざりしかけていた渡我だが、出久の名が出た途端に一気に顔が明るくなる。彼女は実に分かり易い性格であった。

「おう!良く気を利かせてくれて、いつも助かってるとか言ってたぜ!」

「えへへぇ~♪そんな社長ったら~♥」

「俺をほっぽり出して惚気てんじゃねぇぞ腰巾着が!」

両頬に手を当てて身をくねらせる渡我に対して、放置されていた爆豪が遂にキレた。

「あ、まだいたんですか・・・と、そうだ!私も予定があるんです!済みませんけど、道を空けて下さい!」

「お、おう、そうか。スマン」

「おいコラ待てやテメェ!」

鉄哲を退かせ、漸く教室を出た渡我。背後で爆豪が叫んでいるが、既に脳からはシャットアウト。もはや聞こえてすらもいない。

この日、爆豪は初めて肩ポンされた。*1

 


 

(出久サイド)

 

「いやぁ、凄いっすよね渡我」

「強かって言うか~」

「普通に言い返すのスゴいよね!あのバクゴー君に!」

「う~ん、濃いですね」

夕方のハンバーガーチェーンの、端奥のイートインテーブル。僕は切島君、芦戸さん、麗日さんの3人から、事の成り行きを聞いた。

「何と言うか、やっぱり剛胆ですよね、被身子さん」

「まぁ、殺す殺すと軽く口にする輩なんて程度は知れてますから」

「それはそう」

まぁ、彼女にとって殺意や加虐欲とはかなり特別なモノだ。それを軽々しく口にする人間は、とても滑稽に見えるのだろう。

「お待たせしました」「はいどうも」

「にしても・・・めっちゃ食うんスね、先生って」

「・・・まぁ、そうですね」

若干引き攣った顔の切島君の視線は、僕の前に置かれた追加トレイに注がれている。

其処に乗っているのは、3つ目のビッグサイズバーガー。更に潰した空のLサイズフライドポテトの容器もある。

「まぁ、偶にはいいかな~と思いましてね。こう言うジャンクな食事も結構好きですし」

なんて返事をしながら、ハンバーガーにがぷ、と食らい付く。

胃の調子さえ良ければ、僕はそこそこの健啖家と言って良い筈だ。逆に悪ければ、エネルギーバーや豆腐等しか食べられなくなるが・・・まぁ、その時はアークがナノマシンを調整して消耗を抑えてくれる。

「そういえばさ、しゃちょーと渡我って、やっぱ相思相愛?」

「ぐばふっ!?」「そうですよ!」

唐突に芦戸さんが爆弾をブッ込んで来た。飲み込み掛けのバーガーが変な所に入りそうになり、盛大に咽せる。

一方、ひーちゃんは割と平然としており、何の事も無さげに肯定して見せた。

「ヒュー!やっぱりじゃん!」

「察してたけどよォ!」

「おぉ~!」

「えへへ~♪」「・・・」

うん、まぁ、良いか。今のひーちゃんは心から笑えてるし、気安い関係の友達も出来ている。

「して、決め手は!?やっぱり性格!?」

「そうですねぇ。厳密には、私を認めてくれた事ですね」

「・・・良いんですか?言っても」

「大丈夫です!社長は受け入れてくれてるので!」

「信頼が厚いねぇしゃちょー!」

「ハハハ、光栄ですね」

本当に、信頼される事は社長の歓びだ。個人としても勿論この上無く嬉しいが。

「私は、ちょっと特殊な・・・性癖と言いますか、そう言うのがありまして」

「ほうほう、それは?」

「血が好きなんです」

「・・・ほう?」

ひーちゃんの答えに、芦戸さんは意外と興味深そうに反応する。マイナスな反応で無いのは幸いだ。

「私人を好きになると、その好きな人と同じになりたくなるのです」

「成る程・・・例えば?」

「私の場合、シャツの下のインナーとか、ザイアのロゴ入りブレスレットなんかがお揃いですね。それに、お互い仮面ライダーって言うシステム自体お揃いですし。

あとは、個性の関係上・・・血が、飲みたくなっちゃうんです。好きになった人の血が」

「おー・・・なんか、吸血鬼っぽいな」

切島君は物珍しそうに呟くが、それだけ。特別気にしている様子は無かった。幼少期、こんな風に受け入れてくれる人さえいれば、彼女の人生はもう少し華やかになっただろうか。

「それで、血を飲んだ時に・・・幸せになって、笑顔になっちゃうんですけど・・・私の血縁上の両親は、それが怖かったみたいで・・・

異常者、って、呼ばれちゃいました」

「「え・・・」」「うわ・・・」

若干哀しそうに微笑むひーちゃんに、3人は小さく戦慄する。

実の親から、自分の在り方を否定される事。それは、誰にとっても凄まじいストレスである事は間違い無いのだ。

「ずーっとずぅーっと、2人とも私を気味悪がってました。嫌な眼をしてました。そんな眼で視られるのが嫌で、私はずーっと、()()()()()()を演じてたんです。

でも、どんなに取り繕っても、何処かで食い違っちゃって・・・結局私は、()()()()()事にしたんです」

「け、消すって・・・?」

何やら異質で不穏な単語に、3人とも青ざめる。呟くように問い返したのは、芦戸さんだった。

「視線の向き、意識の流れ、気配の動き・・・それらの先に、自分が居ないようにする。そうすれば、誰も私を見付けられません。誰も私を、()()()()()と憶えておく事も出来ないのです。

常に人の気配に気を配るようになったら、3カ月ぐらいで誰からも相手にされなくなりました。タイミングを見計らえば、すぐ傍を通っても気付かれないぐらいに、自分を希釈出来るようになったんです」

「因みにこれ、個性は何の関係も無い純粋な技術ですからね。被身子さんには、そもそも才能があったんです」

勘違いが無いように、横から補足を入れる。気配を消すのは、そうそう簡単な事では無い。その才能の開花に必要な環境に、望まずとも身を置いていた。皮肉な話だ。

「何処に行っても、誰が居ても、それこそ両親さえ、私を見付けられない・・・そんな状態になった時に、私の中に封じていた欲望が、ムラムラと沸いてきてしまったんです。

人の血を飲みたい。血塗れにしたい。

気付いたら、私はカッターナイフを持って家を出ていました。いつも通り気配を消して、当時好きだった男の子の家を目指して・・・

でもそんな時に、社長が声を掛けてくれたんです。お嬢さん、少しお茶でもしませんか、って」

「はは、べ、ベタだなぁ先生・・・」

「言わないで下さい。私ももっと良い口説き文句があっただろうと少しばかり後悔してるんですから」

若干熱が浮かぶ顔を背けて、ジュースを飲んで誤魔化しておく。あの時はアークにも呆れられた。

「でも、ビックリしたんです。気配を消してた筈なのに、私をハッキリと見付けてくれた・・・長年の禁欲生活で限界だった私は、ちょっとしたパニックになりました。

そしたら何時の間にか、私は社長を路地裏に引っ張り込んで、首元にカッターを突き付けてたんです」

「うっひゃぁ・・・」「こわっ・・・」「そ、其処まで・・・」

「いやぁ、あの時は流石の私も1度死を覚悟しましたねぇ・・・」

少し低めの調子で、暴走の最盛期を語るひーちゃん。皆一様に顔を引き攣らせる。かく言う僕も例外では無く、口角が固く釣り上がっているのが自覚出来る。まぁアレは洒落にならないからな。

「あはは、怖いですよね。そうです。誰でも、殺されるのは怖いんです。

でも、そんな状態でも、社長は怯えたりしませんでした。真っ直ぐ私の目を見て、優しく聞いてくれたのです。『随分余裕が無さそうだけど、どうしたの?何が欲しいのかな?お金?それとも、僕の命?』って。しかも、襟首を掴んでる左手も、カッターを突き付けてる右手も、優しく掴んで」

「先生肝据わり過ぎじゃね?」

「ハハハ、被身子さんの眼にそんなに格好良く映ったのなら、無理して格好付けた甲斐がありました」

冗談抜きであの時は心臓バクバクしてたし、内心凄くビビってたんだよなぁ・・・今じゃ良い思い出だけど。

「気味悪がられなくて、怖がられなくて、それがビックリして、嬉しくて・・・声も上ずって、しどろもどろになって、でも何とか言えたんです。『血が欲しいです、くれますか?』って」

「・・・して、回答は如何に?」

「『ティーカップ1杯分だけだけど、それで良いなら』って・・・ずっとずっと、欲しくて堪らなかった血を、一口飲んだ時は・・・生まれてから、1番幸せでした」

熱を孕んだ溜息と共に首を傾げ、頬を朱に染めながら微笑むひーちゃん。その様子に、3人は息を呑んだ。

「それから身の上話をしたら、社長が両親に直談判してくれて・・・あの家と絶縁させて、ザイアに拾い上げてくれたんです」

「私の会社でテストパイロットとして雇用する事で、社宅、給料を与えられますからね。そもそも、被身子さんは戦闘向きです。我が社の需要に合っていたんですよ」

ハンバーガーの最後の一口を食べ終わり、ドリンクを飲みつつ言葉を添える。

「被身子さんは、個性から来る特殊な欲求で。私は、無個性である事からの周囲からの嘲笑と同情で・・・自身を根幹から、他者に否定され続けてきました。こんな風に、この社会には理解者さえ居れば常道を生きられた犯罪者が、沢山居ます」

「私も社長に声を掛けて貰わなかったら、今頃多分お尋ね者ですから」

「そして、そう言う人は得てして、特定の分野に於いては所謂健常者よりも活躍出来る。下らない偏見を取っ払って、その能力を発揮出来る環境を整える・・・このご時世、会社経営に於いて、間違い無く必須な思考です。資本主義的にも、倫理的にも・・・

さて、お食事もお開きとしましょう。次の用事があるので。行きましょう、被身子さん」

「分かりました!」

「では、失礼します」

食べ終わった自分のトレイを持って、僕達は席を立った。

「えっと、先生!話、楽しかったッス!」「また食べよーセンセ!」「渡我ちゃんも!」

「えぇ、また今度」

小さく手を振って、自動ドアを潜った。

「中々良い友達になれそうじゃない?」

「そうですね。とっても嬉しいです」

エクステンダーにライズフォンをセットし、後ろにひーちゃんを乗せる。そして自分も跨がり、エンジンを掛けた。

「じゃ、行くよー」

「レッツゴー!」

お互いのヘルメットをコツンとぶつけ合わせ、アクセルを回す。彼女がとても晴れやかな気分なのが、声色から伝わった。

 

(NOサイド)

 

「さて、と・・・」

夕暮れの社長室。扉を遠隔でロックし、出久は社長椅子に腰掛ける。トレードマークの白スーツは部屋の隅のスーツスタンドに掛けられており、黒いピッチリとしたインナーが露出していた。未熟ながら鍛えられ引き締まった肉体を、インナーの半艶がてらりと磨き上げている。

「で、今日は何所にする?」

ウィンクしながら首を傾げ、肘掛けに頬杖を突く出久。その視線の先に居るのは、言わずもがな渡我である。

「じゃあ・・・右首、ソファで寝転びながらでお願いします!」

「ふふ、了解」

椅子を立ち、壁際のソファに座り直す。更に肘掛けを枕にし、クッションの上に脚を置いた。

「さ、おいで」

「はい♥」

渡我は出久の腹の上に跨がり、引き締まった上体に腕を回して抱き着く。そして首筋に顔を埋め、スリスリと頬擦りした。

「・・・良いよ」

「はぁ・・・がぶっ」

「っ・・・」

ブツッと小さく音を起てて、鋭く伸びた犬歯が出久の首筋に突き刺さる。その鋭い痛みに一瞬顔を引き攣らせつつも、傷口から滲み出す血を吸う渡我の頭を優しく撫でた。

「んっ・・・ちゅっ、ちゅっ・・・ぷはぁ」

頬を上気させ、蕩けた眼で熱く吐息を零す渡我。そのまま出久の胸板にぐりぐりと額を押し付け、より強く抱き締める。

「ねぇ、出久くん・・・ちうちうしてる時に・・・ぎゅぅ~って、して下さい」

「うん、良いよ」

「あはっ♥」

再び首筋に吸い付く渡我を、出久は腕を広げてがっちりと抱き締めた。

「っ~♥」

その瞬間、渡我の脳は桃源郷を知る。

出久の持つ熱、匂い。そして、甘露たる血。全てが自分を包み込み、自分を護ってくれる。『君は此処に居ても良いんだよ』と、優しく受け入れてくれる。

自身の求めを否定せず、最大限叶えてくれる。その上で、譲歩出来る部分を作っていこうと寄り添って、人の中で生きられるように支えてくれている。

それは、渡我が長年の孤独の中で、ずっと求めて来たもの。無条件の肯定、自身の居場所。心安まる止まり木の有り様だった。

心身全てが多幸感に包まれ、渡我の右手は何時の間にか出久の左手と強く結び合っている。貝殻繋ぎ、恋人繋ぎと呼ばれるその形に結び付いた手は、お互いの存在を確かめ合うように忙しなく指の上下を入れ替え握り合っていた。

「んっ・・・」

「んむっ」

甘美な蜜を啜っていた渡我は、不意に花を離す。そして出久の唇と自分の空いたそれを重ね合わせ、溶け合うように全てを交えた。

出久の右手は渡我の後頭部に添えられ、繋がった口の中で吐息が熱く混ざり合う。

「んっ・・・ぷはっ」

「ふぅ・・・」

30秒程の熱烈なキスも遂に終わり、恍惚とした表情のまま出久の胸に沈む渡我。その表情に一片の不安も無く、深く安らいでいる。

「うふふ・・・さて、お次は出久くんの番ですよ」

「・・・あぁ、お願いしよう」

そう言うと、出久は身体を起こしてぐるりと反転。先程とは逆に、仰向けの渡我の上に出久が覆い被さる形になった。

「はぁ・・・疲れたよ、ひーちゃん・・・」

「はい、頑張ってますね」

「主任は言う事聞いてくれないし、アークは勝手にトラブル撒いてくるし、雄英はピリピリしてるし・・・もう何なんだよォ・・・」

渡我のそこそこに豊満な胸に顔を埋め、出久はモゴモゴと愚痴を零した。唸りと溜息を織り交ぜる出久の頭を、今度は渡我が優しく撫でる。

現状、出久が此処まで弱味を晒せる相手は渡我だけである。それこそ、母親相手よりも甘える自分を許せるのだ。

根本的な境遇が同じで、お互いがお互いに、物理的に肉体を預けられる1番の理解者であると言う所が大きいだろう。出久にとってアークは頼りにこそなるものの、基本は声だけの存在。まして同性だ。

ストレスフルな出久の精神は、人生を共にした兄弟からの励ましよりも、女性特有の柔らかい身体が生み出す母性的な包容力に餓えていた。

「いつもいつも、私達の為に頑張ってくれてますからねぇ、出久くんは。お疲れ様です」

「んぐぅ・・・まぁ、僕の事務処理スペックが高過ぎるってのもあるんだけどねぇ・・・何もしないと、何だか落ち着かないんだよ。プロジェクト・アークも迫ってるし・・・」

「うーん、完全に病気ですねぇ・・・まぁ、仕事で自分の価値をもぎ取ってきた弊害でしょうけど」

渡我の言う通り、出久の仕事中毒(ワーカーホリック)は自分を他者に肯定させる為の業績向上(材料集め)に奔走し続けた結果である。

「ひーちゃんが居ないと、僕休めないよ・・・」

「あらら、お互いに難儀ですねぇ」

苦笑する渡我の胸に顔を押し付け、むぐむぐと呻る出久。

自分をOFFにするスイッチが壊れてしまったせいで、特定の人物を鍵にしなければ十全にリラックス出来なくなってしまっているのがこの2人だ。危険な共依存状態である。

「・・・でも、今日は少なくとも、ひーちゃんには良い日だったね。理解者になれるかも知れない人を見付けられた」

「そうですねぇ。渡我被身子の、5番目以降のお友達が出来そうです」

「んっと、1番は僕だよね。4番目までは誰なの?」

「アークさん、主任さん、キャロりんです!」

「ハハハ、良いお友達だ」

何とも味付けの濃い面々である。特に主任は出久にとっては凄まじくエネルギーを喰われる相手なのだが、渡我にとってはあのノリも楽しめるものなのだ。相手が自分の上司なのか部下なのかと言う違いも大きいだろう。

「でも、出久くんはもう友達じゃないので」

「っ・・・あ、あぁ、そう言う事ね?・・・そう言う事だよね?」

「んむふっ・・・大丈夫ですよ。ちゃんと、恋人同士だから友達じゃ無いって意味です」

「・・・そんなに可笑しい?」

「いや、ちょっと・・・胸に顔埋めたままで、棄てられた子犬みたいな顔してたので・・・ふふっ、可愛くて」

「もぉ~・・・趣味悪いよぉひーちゃん・・・」

「えへへ、ごめんなさい」

再び顔を押し付けた出久のくぐもった訴えに、頬を掻きながら軽く謝る渡我。

「・・・ふぅ。大分落ち着いた」

「私はもう少し・・・出久くんの髪を嗅いでたいので」

「臭くない?」

「好きな匂いですよ?」

「ん~・・・なら良いか」

「私達、相性抜群ですね♪」

「あぁ、体臭を心地良いと認識出来る相手とは、遺伝子レベルで相性が良いって言うアレね。確かにひーちゃんは良い匂いするけど・・・」

「んふふ~♪あむあむ♪」

「ひゃー、髪の毛食べないで~」

出久の癖の強い髪を、冗談めかして啄む渡我。出久も満更でも無いようで、口ではこう言いつつも柔らかく笑っていた。

 

結局、この後社内の娯楽室で2時間程カラオケをする事になる。そして、其処に飛び入り参加する青い影があったのだとか・・・

 

───

──

 

『あーっあーっ、ん~、マァこんなもんかな~』

喉の調子を確かめるように発声し、グリグリと首を回す主任。その足取りは軽く、どうやら機嫌が良いようだ。

「えーっと、確か・・・こっちか?」

『アラ?』

そんな彼が聴き取ったのは、何やら気い覚えの無い声。見てみると、データベースのサーバールームに若干挙動不審な男が居た。

『えーっと?何してるのかな?』

「うひゃぁ!?」

主任に声を掛けられ、分かり易く跳ね上がる男。そして振り返った顔を、ザイアスペックが認識する。

『あー、君は確か新人の』

「は、はい!盛元(もりもと)根妻(ねづま)です!」

『ふぅん・・・』

異常なまでの緊張。明らかに何かを企んでいた。しかしそれを革新して尚、主任は敢えて泳がせる。

『所で、この辺って特定の社員以外立ち入り制限があるんだけど・・・何してんの?』

「い、いやぁ、ちょっと道に迷ってしまいまして・・・」

『あ、そーなんだ。でもザイアスペック着けてりゃ、行き先ナビしてくれる筈だけど?』

「お恥ずかしい話、少しデスクに置き忘れてしまいまして・・・」

『ほぉ~ん。ま、エレベーターはあっちだから。着いておいでよ』

「は、はい・・・」

そう言って、主任は盛元を案内する。盛元はと言うと、何とか動揺を抑える事が出来たらしく、今は平然と歩いていた。

『ハイ、じゃあ今後は入らないように。気を付けてネ~』

「は、はい!ありがとうございました!」

凄まじい勢いで頭を下げ、エレベーターの扉に消える盛元。それを見送り、主任は再びサーバールームに向かう。

『システム、スキャンモード・・・よし、見られてないな』

ザイアスペックを探知特化のモードに切り換えて周囲をスキャンし、主任は自分のライズフォンをサーバールームの壁のセンサーに翳した。すると壁の一部がどんでん返しのように裏返り、テンキー付きのパネルが出現する。

『ホイホイホイっと』

慣れた様子でパスワードを入力し、再びどんでん返しを回して奥に進むと、今度は強化合金の扉。センサーが主任のデータを検知し、自動で開かれた。

その先は、薄暗い一室。所々緑のランプが点っており、尋常の場所では無い事が雰囲気で分かるような内装だ。

『さぁてと・・・』

真面目な調子で息を吐き、モニターの前に座る。そして、其処に表示されるデータをチェックし始めた。

『ホルモンバランスの調整も順調、透析によるデトックスも問題無し。ン~、社長様々だねェ・・・お前もそう思うだろう?─────

 

()()()()

『はい、主任』

 

主任の呟きに、答えるキャロルの声。そんな彼女は今、主任の眼前に・・・緑の薬液の詰まった培養槽の中に居た。

 

to be continued・・・

*1
勿論切島に




~キャラクター紹介~

・緑谷出久
意外と健啖な1000%社長。
皮肉にも優秀過ぎた為に大人の闇を人よりも早く知ってしまい、そのせいで相手側にとってのメリットの見えない善意に対して少々懐疑的になっている。
一方ひーちゃんとは、相手側も明確に自分を利用していると言う確信があるので気兼ね無く甘えられる。中々に拗くれた思考回路である。
現状、ひーちゃんに対しては母親よりも心を開いている。

・渡我被身子
出久にゾッコンな吸血ヒロイン。
馴れ初めのイベントをスルーしてしまうと、溜め込まれて歪んだ欲求の発散が他人の殺害と結び付いてしまい、原作と同じ敵堕ち√になっていた。この世界線では、出久からの許容と支援、寄り添いによって健全に吸血願望を発散出来るようになっており、殺傷欲求自体は原作程強くない。
原作では闘争・逃走反応が人間社会で生きられない程に肥大化しており、自分達を受け入れない対象との闘争、自身に降り掛かる死や捕縛等の危険からの逃走として表面化していた。ひーちゃんは其処まで酷くないものの、他人の意識から逃げ潜む能力は原作と同様に培われている。

・心繰人使
ひーちゃんに毒気を抜かれた普通科からの刺客。
ウェルカムスタイル処か訓練に誘ってくれたり、自分と似たようなタイプである事を仄めかされたので、原作よりもA組への初期印象は悪くない。

・爆豪勝己
大体ひーちゃんに腰を折られる火薬庫幼馴染み。ひーちゃんからの渾名はファッキンボンバーで確定した。
そろそろ活躍の場を設けなければ面目が丸潰れになる地味に危機的状況だったりする。

・盛元根妻
入って日が浅い新入社員。何だか挙動不審。確実に怪しい。
主任に泳がされてる。

・主任
何か怪しいヤツいたけど、まだ厳罰化するには早いよね、と思って敢えて見逃した。
キャロルとの間には何かしら秘密があるようだが・・・

・キャロル・ドーリー
ドックオク系オペレーター。何やら重大な秘密と闇がありそうだが・・・
キーワードは、【妹達】


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異空からのストランド

コラボ回
コラボ先:ハーメルン・ノベルティック・ライダーズ~滅&チェイサーの章~(作:時空雄護)


「追い詰めたぞ」

永い歴史を誇る建造物が飾る夜の都市、京都。

そのはずれで、2人の仮面ライダーが怪物を追撃していた。

1人は仮面ライダー滅、もう1人は仮面ライダーチェイサー。

彼等は今いる世界とは違う、別の世界にてその命を落とした戦士である。

彼らはそれぞれの得物であるアタッシュアローとシンゴウアックスを振るって、人の世を脅かす悪を狩り屠るのだ。

そして追い詰められているのは、誇りであったであろう隆々とした筋肉に自前の血で化粧を施し、防戦一方で逃げ回る異形の存在・・・『悪魔』である。

「クソがッ!テメェ等さえいなければ、コア持ちを捕まえられたってのによォ!」

悪魔の目的は、人間界への侵略。その為に使用する"デモンアピアー"の起動に必要なコアを持つ一部の人間を手に入れようと、人間界へ憑依現界している。

しかし、ここ1年はとんと上手くいっていない。その原因は言うまでも無く、この2人の守護者だ。

「その目的も、此処で潰える。亡き者となれ、悪魔ゼノン」

【CHARGE RIZE!FULL CHARGE!】

俳句(ハイク)を詠め、介錯(カイシャク)してやる」

【ヒッサツ!待ッテローヨ!】

滅はアタッシュアローをチャージして引き絞り、チェイサーはシンゴウアックスに黒いミニカー(プロトシフトスピード)を装填、必殺技の待機状態に移行する。

(クソが!ここで死んだら、また蹴落とされちまう・・・チッ、こうなりゃ自棄だ!)

追い詰められた悪魔(ゼノン)が、悪足掻きと右手を握る。

「動くなッ!」

それを見たチェイサーがゼノンに突撃するが、一瞬遅かった。

ゼノンの右後ろの空間が歪み、拗くれ、まるで底に穴の空いた水槽から水が抜けるのを俯瞰した時に見えるそれのように、背景が陥没し、真っ黒な虚無へと突き破るように()()して行く。程無くして、其処には冥い孔が出来上がった。

「何だとッ!?」「何だこれは!?」

未知の現象、不測の事態。それらに対して、誰であろうと数瞬の硬直は生まれる。例え人類を遥かに超越した思考処理能力を持つ機械仕掛けの戦士であろうと、それは変わらなかった。

「俺の能力で開けた、次元の窓だ・・・開き始めたら、周囲の物体を吸い込み始める!これでてめぇらを、この世界から追い出してやらァ!」

「させるか!」

これ以上はやらせまいと、滅が矢を放つ。しかし、それも吸い込まれるように孔へと落下してしまい、ゼノンに当たらない。

「うおっ!?クソ、ここまで()()されちゃ、流石に俺もヤバいか・・・!」

しかし、空間に孔を穿ったゼノン本人までもが、穴に吸い込まれそうになり始める。どうやら現在は本調子では無く、次元干渉の能力も上手く制御出来ないようだ。

孔は見る見る内に大きく広がり、周囲の物と共にチェイサー達も吸い込もうと引き寄せ始める。

「チッ、自分の能力に呑まれるなんざ癪だが、一足先におさらばするぜ・・・尤も、何所に辿り着くかは分からねぇがな!」

小さな舌打ちと共に吐き捨て、なすがまま孔に落ちるゼノン。

周囲に被害を出さぬよう、地面に武器を突き立て耐えていたチェイサー達だったが、孔が広がると共に強まる吸引力に耐え切れず、段々と引き摺られ始めた。

「チェイサー!既に連絡はしてある、これ以上被害を出す前に・・・!」

「・・・致し方無い、了解した」

滅の意図が伝わったのか、チェイサーは地面に突き刺していたシンゴウアックスの石突きを踏み付けて刃を跳ね上げる。

同じように滅もアタッシュアローを抜いた。

抵抗を止めれば、2人は当然孔へと吸い込まれる。そして目標の2人は、ゼノンの狙い通りに孔へと落下した。

2人を吸い込んだタイミングで、孔は収縮を始める。そして連絡を受けたガーディアンギルドがその場にたどり着いた時には、既に閉ざされてしまっていた。

 

───

──

 

深夜と呼べる時間。薄暗い路地裏に、真っ黒な孔が出現する。

そこからゼノンが吐き出され、孔はすぐに消えた。

「うっ、ぐあっ・・・こ、此処は・・・?」

数分ほど経ち、ゼノンが目を覚ます。

「成る程、まぁ悪くねェ。だが、現状じゃ奥の手なんざ切れたもんじゃねぇな・・・暫く、身を隠すとするか」

自分の状態を確認し、そして周囲を見渡した後、鋭い爪で壁に円を描く。すると其処は歪んだ色彩に染まり、簡易的なテリトリーを形成した。

「クソ狭ェが、まぁねェよりゃマシだな」

小さく愚痴りつつ、ゼノンはテリトリーへと潜り込んだ。

全ては、自分だけが元の世界に戻る為に。

 

時を同じくして、とある大企業のビルの近くの路地に、同じく真っ黒な孔が出現する。

そこから紫色の装甲を纏う戦士、仮面ライダー滅と仮面ライダーチェイサーの2人が吐き出され、程無くして孔は消えた。

その2人は倒れたままに変身解除機構が働き、滅は和服を近代化した服装、左耳に通信機のような耳飾りをつけた人間態へ。チェイサーは、紫のライダージャケットを着た人間態へと姿を変える。

草木も寝静まるこの時間では、誰も彼らに気付く事は無かった。

 

─────

────

───

──

 

「ヒーローは一般人に対し、リーダーシップを発揮せねばならない事が多々あります。その際に重要なのは、最終的な()()()を明言する事です」

普通科の教室にて、教鞭を執る出久。黒板にグルグルと2つの縦並びの円を描き、上に《目標》、下に《前提》と書いた。

「《今から急いでここに行かねばなりません。何故ならば、其処が救助ヘリの着陸場所だからです》、等がその典型的なパターンですね。

これが説明出来ないと、移動がスムーズに行かなかったり、途中で致命的なトラブルが発生します。そう言った想定外をなるべく排除し、自分が連れて行くべき多数の人間の行動を掌握する事。それが、ヒーロー以前に人として重要なテクニックです」

「確かに、頭ごなしに駄目って言ったら、子供とかは余計にそれをやっちゃったりするもんねぇ」

「カリギュラ効果ってヤツだな」

「駄目な理由が大切か」

生徒側も物分かりが良く、頻りに頷いては隣近所で話し合う。出久はこう言う雰囲気が好きだ。

「この目標決定が出来ないままに行動する事を、俗に『見切り発車』と言います。これはやって良い場合と悪い場合があり、その判断を間違えると最悪のパターンに直行する事も珍しくありません。

見切り発車が許されるのは、一切の前情報が無く、取り敢えず我武者羅に動き回ってでも情報を得なければいけない時等。その場判断が必要な、災害地域での各個救助等が半ば当てはまりますかね。

対して、先程言ったように、他者を掌握し導かねばならない場面に於いては、絶対に見切り発車で行動してはなりません。

貴方達も、行き先も知らされずリーダーの指差す方向もブレまくるような長距離行進なんて不安になるでしょう?結果、掌握が崩壊し、誰がいて誰がいないのかも分からない状態に陥って、二次災害が発生する。これが最悪のパターン」

集団を表現する円から、幾つも矢印を飛び出させる出久。その先々にバツ印を描き込み、そして最後に大元の円の上に大きくバツを描いた。

「二次災害は周囲を大きく引っ掻き回し、犠牲者が増えて作戦行動にも致命的な支障が出ます。この状態が所謂、『ミイラ取りがミイラになる』と言うヤツです。救助する筈のヒーローがが要救助者に成り下がれば世話ありませんね」

小さく肩を竦め、お手上げとジェスチャーで示す出久。生徒達も、そんな状況に陥ってしまった場合を想像したのか、互いに顔を見合わせる。

「これを防ぐ為に、思考ルーティンの上位に組み込むべきモノがあります。それは、《その要求の先に、相手が求めている結果は何なのか》です」

黒板を1度真っ新に消し、再び丸の中に、今度は『期待されている結果』と書く。

「思考停止で言われた事だけをやるのでは無く、自分がそう行動した結果どうなって、その結果が生むどのような影響を相手が望んでいるのか・・・それを順序立てて考えられるようになると、必然的に先程言った『行き先を決めて他人を導く事』が出来るようになります。

ヒーローになるか否かに関わらず、これは人として重要な能力です。今回はこのキーワードは、『行き先の明確化』。これを忘れないようにしましょう。

では、今日の授業は此処までです。お疲れ様でした」

「起立!気を付け!礼!」

「「「「「「「「ありがとうございました!」」」」」」」」

 

───

──

 

「ありがとうございます、緑谷先生。授業がとても分かり易いと、生徒の間では評判ですよ」

「いえいえ、此方こそ。彼等は素直で、物分かりが良い。教える側としても、やりやすくて助かっています・・・っと、失礼」

職員室。普通科の担任と小話をしていた出久のライズフォンに、一通のメールが入った。

差出人は、キャロル・ドーリーだった。

「・・・急用が出来ました。早退します」

「あー、会社関係ですか?」

「まぁ、そんな所です」

「やっぱり大変ですよねぇ、社長って」

「労いどうも。では、これで」

荷物を纏め、さっさと職員室を出る出久。幸い、午後には予定は入っていない。根津に手早く連絡し、愛車の元へと向かった。

 

(出久サイド)

 

「・・・」「・・・」

「・・・どういう事だこれは」

会社の応接室に入るや否や、僕の頭はバットで殴られたような鈍痛に襲われた。

応接室にいたのは、報告主であるキャロルさんと、初対面の顔触れが更に2人。

片方は、陸軍の礼服のような服の上から着物を羽織った金髪の男性。もう1人は、上下紫のライダースジャケットを着た黒髪の男性。

この2人について、僕はかなり強烈な既視感に襲われた。

「えっと、キャロルさん。どう言う状況で?」

「このお2人に、私の買い出し品を強奪したひったくり犯を捕まえて頂いたのです。しかし、どうにも会話が噛み合わず・・・恐らく、内密に保護しなければ警察沙汰になっていたかと。金髪の方、ホロビさんは、真剣を持っていらっしゃいました」

「・・・成る程?」

うん、かなり頭痛くなって来た。キャロルさんもキャロルさんだよ。何で厄介事の種を拾って来るか・・・まぁ今回は恐らく正解なんだろうけども。

「分かりました、キャロルさん。後は私に任せて、貴方は通常業務に戻って下さい」

「はい、ではそのように。失礼します」

ペコリと頭を下げて、応接室を出て行くキャロルさん。そして僕は、2人の向かいのソファに座った。

「この度は、我が社の社員がお世話になったようで。ありがとうございました。

失礼、私がこの株式会社ZAIAエンタープライズ代表取締役社長、緑谷出久と申します」

「ふむ、やはりザイアか・・・社長がこんなに若いとは、些か驚きが隠せんがな」

「良い会社だ。働いている人間が、皆活き活きとしている」

「恐縮です」

擽ったくなってはにかみながら、小さく会釈する。自分の会社を誉められると、どうにも嬉しくて仕方が無い。

「あぁ。チラリと見た程度だが、何所にも大きな不満、恐怖、殺意等は見当たらなかった。実に良い会社だ・・・

だからこそ、信じられんな」

【FORCE RISER・・・】

 

「何故、その社長たる貴様から()()()()()()が出ている」

 

着物の内側から取り出したフォースライザーを装着し、凄んで見せる金髪の男性・・・滅。それに合わせ、ライダースジャケットの男性、チェイスもまた、銃口の付いたメリケンサック(ブレイクガンナー)を此方に向けて来た。

「思ったより直球に来ましたね・・・」

「回りくどくするよりも、此方の方が手っ取り早い」

「この社長室なんて、相手の総本山も良いとこですよ?こんな所で仕掛けますかね?」

「切り札は幾つかある。人間を傷付けずとも、脱出は可能だ」

淡々と答えてくれるチェイス。それでも無闇矢鱈と暴れるつもりが無いのは、彼らしいと言えばらしいか。

「・・・取り敢えず、私は抵抗するつもりはありません。確りと説明します。すぐに使える状態にしておいても構いませんので、ひとまずは武器は下ろして頂けませんか?」

「・・・良いだろう。チェイス」

「あぁ」

滅の瞳孔がキュルキュルと回転し、此方の要望を聞き入れてくれる。恐らく、嘘発見器のような機能が搭載されているのだろう。注意して観察すれば、生身の人間だろうと可能な事。機微に敏感な機械(ヒューマギア)ならば、尚更そう言った反応を見分けるのは得意な筈だ。

「まず、前提の擦り合わせと行きましょう。貴方達は、()()()()()()んですか?突拍子の無い事でも、私はしんじますよ」

「・・・人間が守護者たる天使と共存し、別次元からの侵略者、悪魔と戦っている世界。その中の京都から」

「成る程。簡単に言えば、貴方達は異世界人であると」

「俺達を人間と同じように数えてくれるならばそうなる」

まぁ、概ね予想通り。アークが世界線移動なんかしてるからね。今更異世界人が来た所で、大して驚きもしないよ。

「では此方も・・・改めまして、私は株式会社ZAIAエンタープライズ代表取締役社長兼、仮面ライダーサウザー・・・及び、()()()()()()()()()()()、緑谷出久です」

「やはりアークだったか・・・」

「まぁ、恐らく貴方の知るアークとは大きく在り方が違うでしょうがね」

「何?」

眉を顰める滅に、小さく息を吐く。そもそも、彼の知るであろうアークと僕の相棒たるアークでは、性質というか、キャラクターが乖離し過ぎているからなぁ。その先入観もある。

「まず、そちらの知るアークはどういう存在ですか?」

「・・・悪意のみをラーニングし、人類総て、更にはヒューマギアまでもを悪性存在と断定し、滅亡させようと企てた存在・・・通信衛星に宿る人工知能だ」

「成る程。では此方の話をしましょう。この世界のアークは私の相棒であり、れっきとした()()です」

「・・・」

真っ直ぐに眼を見てくる滅。何の指摘も無いと言う事は、少なくとも彼の中で、僕の話が破綻してはいないと言う事だ。

「では、どういう事だ。人間やヒューマギアが悪意に呑まれ、伝染病のようにアークになった事はあったが・・・それにしては、貴様は破滅的では無い」

「・・・シャム双生児、と言うのはご存知ですか?」

「何だと?・・・まさか!」

「どういう事だ、滅」

どうやら、滅は結論に辿り着いたようだ。

「シャム双生児、または結合双生児・・・母体内で双子以上の兄弟姉妹の身体が結合し、1つの個体として生まれる事だ。そして今、話に出たと言う事は・・・」

「・・・まさか、緑谷出久は双子として生まれる筈だった、と言う事か?」

「ご名答。やはり頭の回転が速いですね。とても助かります」

そう言って、僕はスーツの上着を脱いでハンガーに掛ける。そして、2人に背中を見せた。

「厳密に言うと、私の肉体の中・・・脊髄と心臓が、双子の兄弟、()()()()()()()()()()()()()()()()()()んです。そして・・・交代しよう、アーク」

『承知した』

視界が一瞬赤く染まり、肉体の主導権がアークに切り替わる。

「初めまして、滅。そして、魔進チェイサー・・・いや、仮面ライダーチェイサーかな?」

「チェイスの事も知っているのか」

(ちょっとアーク?それは別に言う必要無いんじゃない?)

「まぁな。だが、そんな事はどうでも良いだろう。私としては、何故君達がこの世界に居るのかが気になる所だ」

「・・・敵を追い詰めた結果、時空に孔を開けられた。それに吸い込まれて、気付いたらこの世界の路地裏だった」

「成る程、ESウィンドウのようなモノか。質問だが、其方の世界には超能力者はありふれていたか?この世界では、総人口の8割が何らかの超能力者なのだが」

「いや。敵・・・悪魔に狙われる特殊な体質の人間は居たが、少なくとも俺達はそんなモノに覚えは無い」

「となると、時間軸や世界線を超えた、完全な別時空への次元跳躍か・・・実に興味深い。ゲッター等の創作物では、ありとあらゆる次元空間に隣接する異次元はままある設定だが・・・と、済まない。少々独り言が過ぎた」

「いや、理解したならばそれで良い」

何ともサッパリと言い切ってくれる滅。先程よりは、疑惑の視線も強くは無い。

「しかし、帰れる宛てはあるのか?先程の話を聞く限り、其方の世界は戦時中・・・そんな中で仮面ライダーともなれば、恐らく特記戦力だろう。何が何でも、戻らねばなるまい」

「それについては、此方に来ている悪魔、ゼノンを利用する。奴は能力こそ強力だが、幾度かのミスでその権能を一部剥奪されているらしい」

(世知辛い話だなぁ)

「故に、アイツは元の世界に何としてでも戻ろうとする筈だ。俺達をこの世界に放逐し、人間側の戦力を削ったと手柄を立てる為にもな」

「成る程。しかし・・・ざっと調べた所、悪魔が関わっていそうな不審な事件は起きていないな。目撃情報も、SNSに上がっていない」

「奴等は狭い範囲ならば自分専用の位相差空間を作り出し、其処に隠れ潜む事が出来る。恐らく、今はそこで回復に専念しているのだろう」

「厄介だな。それを探知する方法は?」

「問題無い」

声を上げたのは、今までほぼ黙りだったチェイスだ。

「奴等の捜査を受けた空間には、微弱な重力異常が発生する。半径5キロ圏内ならば、俺が察知可能だ」

「重加速に類似する重力異常、か?」

「そう言う事だ」

だとすれば、かなり見付けやすいだろう。しかし、そうであっても後ろ盾は必要な筈だ。

ならば、協力した方が良いだろう。

「滅、チェイス。2人に提案がある。私達の協力を受けないか?」

「何だと?」

此方の申し出に、また眉を顰める滅。やはり、あまり信用したく無いのだろう。

「先に明言しておくが、協力と言っても、お互いを利用し合うビジネスライクな関係だ。お前達には、私から全面的なバックアップを行う。具体的には、お前達を傭兵として雇傭する形で、行動権を確立する。新たな戦力として、新規アイテムの譲渡も行うつもりだ。

その対価として、其方にはテクノロジーの譲渡を要求する。チェイスの液体金属を武装化する、バイラルコアによるチューニング。そして何より、コア・ドライビア。リアクターとしての性能も然る事ながら、その携行性と重加速の性質。応用すれば、更に大型のリアクターを制御する封印機構としても利用可能だろう。

お互いに利益のある話だ。悪くは無いと思うが・・・」

「・・・」

「俺は応じても良いと思うぞ、滅」

「チェイス、しかし・・・むぅ・・・」

眉間の皺が深まる一方の滅。やはり自分が知っているそれとは別個体と言えど、アークに対する不信感が凄まじく強いようだ。

「例えば、俺達が職務質問をされた際に、穏便に切り抜けるには立場が必要だ。俺は兎も角、滅の格好は恐らく目立つ」

「流石はチェイス、警官と行動を共にしていただけの事はある。さて、どうする?滅」

「・・・良いだろう。但し、俺達は基本自己判断で行動する。それは邪魔しないで貰おう」

「了解した。では、契約を執り行う」

【アークドライバー】

「変身」

【ARK RIZE!】

腹部に出現させたドライバーを操作し、ドス黒い液体金属で身を包むアーク。中枢神経系にナノケーブルが直接接続され、加速度的な感覚の拡張が行われる。

【ALL ZERO!】

闇黒の繭を弾き飛ばし、アークゼロへの変身が完了した。

「・・・まさか、生身の人間がアークゼロに変身するとはな」

『この世界には基本ヒューマギアは存在しない。共生する出久に合わせて、過負荷を与えないようにチューニングしてある。

さぁ、手を。其方のテクノロジーを解析する』

「分かった。滅」「・・・あぁ」

未だに気が進まなそうな滅を促して、チェイスが手を差し出してくる。()()()()()()()

『・・・右手を出した方が効率的では無いか?』

「・・・済まない」

一言謝って、チェイスは右手を差し出し直した。うん、ちょっと天然だな。

『構わん。では、解析を開始する。アークジャック

2人の手を取って、ジャックライズの応用で簡易ハッキングを行いデータを抽出する。

「んっ?」「くっ・・・」

『・・・ふむ、解析完了。感謝する』

アークジャックの副作用で膝を突く2人の手を放し、アークは変身解除した。

「それにしても、滅。お前は専用のマシンを持っていないようだな」

「ん?あぁ、自分専用のモノは持っていない。向こうでは、投棄されていたオフロードバイクを補修して使っている」

「ならば、お前の専用バイクも作ってやろう。ライドマッハーのように、ライドチェイサーとの合体機構を備えた専用バイクだ」

「ほう、それは楽しみだ」

反応を示したのは、やはりチェイス。彼のバイクは、ライバルであり友達(ダチ)出会った詩島剛(仮面ライダーマッハ)の専用バイク、ライドマッハーと合体して特殊戦車になる機能が搭載されている。その機能は活かすべきだろう。

「必然的に大型二輪になるが、構わないか?」

「まぁ、問題は無い。基本はラーニング済みだ。相違点を摺り合わせて応用すれば、すぐに運転出来る」

「ならば良い。代わるぞ」

「うぉわっと!?」

それだけを言うと、アークは僕に主導権をこっちに放り投げて来た。多分新しいアイテムやバイクのプログラミングや設計をしてるんだろうけど・・・

「あっははは、全くアークったら・・・ン゙ッン、改めまして、どうぞ宜しく」

「あぁ、宜しく頼む」

僕が差し出した手を、チェイスはノータイムで取ってくれた。それに対して、滅は『マジかコイツ』みたいな顔をしている。

「チェイス、お前には警戒心と言うモノが無いのか」

「滅、流石に傷付きますよ?」

「滅・・・」

本心から若干凹む僕の右手を握ったまま、チェイスが滅に向き合った。

「差し出された握手には、笑顔で応じる。それが、人間のルールでは無いのか?」

「くっ・・・」

渋々と言った態度を隠そうともせず、滅は僕の左手を取る。

「滅、笑顔だ。こうするんだ」

そう言って、チェイスは僕にニッコリと満面の笑みを向けた。感情表現が薄く、鉄仮面のイメージが強い彼が、アークに見せられた記憶の中では自動車免許講習ととある事件で浮かべた以来であろう1000点満点の笑顔だ。やっぱりギャップが凄い。

「うっ・・・ん~・・・」

対して、滅が浮かべた笑顔は見事に引き攣っている。ターミネーター2でT-800が初めてぎこちなく笑ったような感じだ。

2人の対比が、何だかこう、ジワジワ来る。ついつい笑ってしまいそうになる。

「・・・その調子だ」

「ぶふっ!?」

あぁ駄目だ。トドメを刺された。何とか耐えようとしていたのに、チェイスが笑顔を貼り付けたようにそのままで口元だけ動かして言うものだから完全に笑ってしまった。

「くっ、くふふっ・・・し、失礼っ・・・くふふっ」

パッと手を放し、口元を押さえる。何とか呼吸を押さえ付け、調子を取り戻そうと深呼吸を・・・

「見ろ、笑ってくれたぞ。やはり笑顔は、意思疎通には大切だ」

「ぐばふっ!?」

無表情に戻った筈のチェイスのそう言った顔が、何故か凄くドヤ顔に見えてしまう。

結局、この後1分は笑いが収まらなかった。

 

───

──

 

「と言う訳で、極短期間ながら此処で貴方の部下となる事となった2人です」

「滅だ。右も左も分からないが、宜しく頼む」

「チェイスだ。天然と良く言われるが、人工物だ。宜しく頼む」

日陰者の第13課にて、主任とキャロルさんに2人が自己紹介をする。初っ端からチェイスが天然ボケをカマしてくれた。

因みに滅は、会社から返却された日本刀を腰に差している。

『へぇ、珍しいね。マ、面白いから良いや!オレはシュニン・ハングマンだ!宜しくネ、ルーキー♪』

フレンドリーに語り掛ける主任に、滅はペコリとお辞儀する。

「改めまして、私はキャロル・ドーリー。貴方方のオペレーターを担当致します。主任共々、宜しくお願いします」

「此方こそ、宜しく頼む」

キャロルさんとチェイスも、印象は良好だ。

「2人の事は、呉々も内密にお願いします」

『ハイハーイ!あ、そうだった。2人ともコレどうぞ』

僕の命令に了解しつつ、主任は懐からカードを取り出し2人に渡した。

『アークさんからの預かり物。2人の大型二輪免許だってサ~。無くさないでね』

比遊真木(ひゆまき) (ほろび)・・・了解した」

狩野(かりの) 猟慈(りょうじ)・・・分かった」

受け取った免許証の偽名を読み上げ、滅はすぐさま軍服の内ポケットに入れた。一方チェイスは、その免許証を感慨深そうに見詰めている。

「今度は、傷付けないようにしよう」

「・・・えぇ、大事にして下さい」

「あぁ・・・」

小さく呟くように答えて、彼は僅かに微笑んだ。

 

(NOサイド)

 

『人工物、かぁ~・・・』

出久と共に13課を後にしたチェイス達を見送り、しみじみと呟く主任。そして徐に上げた左手で、隣に立つキャロルの頭を撫で始めた。

「何ですか?主任」

『イヤイヤっ、ちょっとネ?』

普段通りの口調で戯けてみせるが、3秒後にワシワシとキャロルを撫でていた手を止めた。

『チェイスと、滅って言ったよね彼等。意外とサ、オレ達と()()だったりするかもなァ~、なーんちってサ!ハハハハハ!』

「興味深い・・・ですが、仮説に過ぎません。()()()()()である可能性の方が高いです」

『あぁ、判ってるさキャロりん。だけど・・・面白い奴等だよ。それに・・・』

主任はモニターを操作し、つい先程送られて来たデータ、コア・ドライビアの構造に改めて眼を通す。

『出力の安定性、人体への影響、何よりこのサイズ・・・コレがあれば()()()()()()()()()()の性能、かなり上方修正出来そうだ。マッ、設計はほぼほぼ組み直しだけどネ!』

「あの機体ですか。ですが、現状では過剰戦力なのでは?」

『あぁ、そうかもねェ~・・・まぁ、相手側が()()()()()()、だけど』

「どう言う意味です?」

『・・・』

モノアイカメラを赤く光らせ、ドカッと椅子に腰掛ける主任。そして背もたれに上体を丸ごと預け、ジッと天井を見詰める。

『戦争、渾沌、圧政・・・世界が必要とした時、()()()()はまるで待ち構えたように生まれて来る。そして、自分のやるべき事をやり終えたら・・・後は任せたとばかりに、表舞台から姿を消す。

それは勇者とか、英雄とか、救世主、若しくは悪魔だったり・・・その時代によって、様々に呼ばれる。そう言った破滅に抗い闘う力こそ、人間の可能性なんじゃないかと思うんだ』

「要領を得ませんが・・・」

『分からないかい、キャロル。緑谷出久とアークを中心に、世界を大きく揺らす波が生まれ、そして今も、その波は数と大きさを増している。もしもあの2人が()()()と同じ、人間の可能性・・・()()()なのだとしたら・・・』

「・・・主任の仰る事は、余りよく解りませんが・・・要は、激動の時代を前に、抑止力が必要だと?」

『ギャハハハハ!まぁそんなトコかな!うん、大体の認識はそれで良いよ!』

大きく笑って肯き、主任は脚を組んで頬杖を突いた。

 

『あぁ、見せて貰おうじゃ無いか・・・それに届き得る可能性(チカラ)が、彼奴等にはあるんだから・・・』

 

to be continued・・・




~キャラクター紹介~

・滅
偽名:比遊真木 滅(ひゆまき ほろび)
持ち物:滅亡迅雷フォースライザー、スティングスコーピオンプログライズキー、アタッシュアロー、日本刀
別世界からの訪問者。
偽名はヒューマギア→ひゆまき→比遊真木。
仮面ライダーゼロワンVシネ【バルバル】後の滅本人であり、消滅した筈が何故か異世界転生。
その世界では天使と協力し、人間を脅かす悪魔と戦っている。
専用バイクを持って居らず、拾い物のオフロードバイクを改修して使っていた。
戦闘を有利に進める為のバトルセンサーが内蔵されており、相手の癖や予備動作、動揺等を見抜く事が可能。
アークに対する懐疑心が強く、出久の事もまだ信用出来ていない。しかし、それはそれとしてZAIA社の勤務環境に対しては《良い会社》と総合的に評価している。

・チェイス
偽名:狩野 猟慈(かりの りょうじ)
持ち物:マッハドライバー炎、ブレイクガンナー、シグナルチェイサー、プロトシフトスピード、シンゴウアックス
別世界からの訪問者。
偽名はコピー元の名字と、ロイミュードの肉体は狩れども更生の余地を残しチャンスを与える慈悲から。
仮面ライダードライブのVシネマ【マッハサーガ】後の本人であり、滅と同じく異世界転生。
滅と共にタッグを組み、共に悪魔から人間を護っている。
ほぼほぼ無表情で一見無愛想だが、実はかなり真面目且つド天然。既に無自覚ボケ専門のギャグ要員になりつつある。
出久をアークでは無く人間として見ている為、取り敢えず友好的に接しようとしている。

・ゼノン
滅達が戦っている相手、悪魔の1体。
時空に干渉する能力を持っており、本来は非常に強い悪魔だが、何度かヘマをやらかして弱体化している。

・緑谷出久
キャラ設定を漸く描写出来た1000%教師社長。
教師の癖して今まで座学の授業をした描写が全く無かったのでブチ込んだ。因みに授業内容は、作者が最近上司から指導された事。
お世辞でなく純粋に自分や会社を誉められると、嬉しくてついニヤニヤしちゃうお年頃。
別世界の仮面ライダーとお近付きになれて、しかも新たなテクノロジーを吸収出来たので、内心結構ホクホクだったりする。

・アーク
物凄く活き活きしてた一般転生悪意。
この世界に於いては、彼は個性【アーク】を持った()()である。
結合双生児として出久と肉体を共有しており、その本体は脊髄と心臓のニューロン。なので幾ら出久の体表組織や粘膜、末端部分の血液を調べても、出て来る結果は【無個性】のみである。
今回、目出度くコア・ドライビアの構造をラーニングする事が出来た。悪魔合体の始まりである・・・

・キャロル・ドーリー
無自覚ファインプレーをしたオペレーター。
買い出し中にひったくりに遭い、それを取り押さえてくれた滅とチェイスに違和感を覚えてZAIA社に連れ帰った。恐らくこの行動が無ければ確実に巡回中のヒーローや警察のお世話になり、凄まじく面倒な事になっていたであろう。
主任曰く、彼女も滅達と()()らしいが・・・?

・シュニン・ハングマン
我らが主任。
ドえらく意味深な情報をポンポンと発言した。彼の言う黒い鳥、それが意味するモノとは・・・


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新たな戦士、ACレイダー

(出久サイド)

 

『目星い情報は無しだ』

「そっかぁ・・・」

昨日の事変から一晩明けて、午前6時。社長室横の仮眠室で目覚めて、アークに掛けられた第一声がそれだった。

SNS等をアークが組んだ簡易AIで監視して貰っているが、未だに悪魔とやらに繋がりそうな情報は上がっていなかった。

「完全に潜伏を極め込んでる感じかなぁ」

『あと3時間もあれば、実用コア・ドライビアと重加速センサーの製造が可能になる』

「世の技術者が発狂するよ」

着替えを済ませて顔を洗いながら、アークの報告に苦笑いする。取り敢えず、この技術は当面流出厳禁の封印指定だな。

「しっかし、雄英体育祭かぁ。問題も山積みだよ・・・」

『雄英教師の宿命だ。致し方無い』

「その問題の原因としてアークが結構大きいんだけどなぁ?」

『それは・・・』

「・・・おい!」

『不可抗力だ。あの時は出久と交代して戦う他無かった。ついでに2つもアビリティが蒐集出来たのだ。問題は無かろう?』

「その過程で轟君がかなりの精神的ショックを受けたらしいんだけど?」

『それこそ私は悪くない。轟焦凍と言う人間の精神が脆弱過ぎただけだ。あんな状態でヒーローを目指すなど片腹痛いわ』

「ボロクソに言うなぁ。事実だけども・・・」

彼は極端に視野が狭い。何をするにも、人を人と認識していないように見える。まぁ、今僕が干渉して良い深度の問題では無いだろうから、傍から見ている事しか出来ないんだけど。

「しかし、仕事は変わらずやって来る・・・おっといけない、限界社会人みたいな事言っちゃったよ」

『強ち間違ってもいないぞ』

「雄英教師は激務だからねぇ・・・そう言えば、滅のバイクの設計の件、進捗はどうなの?」

『設計は完了している。後は、車体を作ってコア・ドライビアと各種武装類を搭載するだけだ』

「相変わらず異次元の速度だね」

『量子コンピュータを搭載しているからな』

「入るぞ~社長さ~ん」

「えっ」

唐突に聞こえて来た声。返事をする間も無く、社長室の扉が開く。()()に渡してあるライズフォンには入室権限が与えられているので、扉のロックもフリーパスだ。

「ハァ、疲れた。シャワー借りたぜ」

「・・・ここ貴女の自宅じゃ無いんですけどねぇ、火伊那(かいな)さん?」

遠慮の欠片も無くソファに腰を下ろし、そのまま寝そべってミックスベリー色の髪を広げる彼女に、僕は溜息交じりに言う。

筒美(つつみ)火伊那(かいな)。またの名を、レディ・ナガン。元公式ヒーローであり、今はアークと共に仕事をする、謂わば掃除屋だ。

そんな彼女がここに来たと言う事は、恐らく仕事帰りなのだろう。

「つってもなぁ。アークには裏口からなら出入り自由って言われてるし、社長さんは可愛いから弄ってて楽しいし、オマケにシャワーも借りられる。仕事終わりに家に直帰する理由が無いんだよなぁ」

「いやいや、だからって男が居る所に直行するのは違うでしょう。あと私を弄って遊ばないで下さい。悪意が無い分上手く受け流せなくて困るんですよ」

「その困ってるのが可愛いんじゃないか♪」

「何より僕には被身子さんが居るんです。あんまりちょっかい出すと夜道で刺されますよ?」

「それは恐いねぇ。恐いから、あたしゃ寝る」

「ちょっと・・・もう、無防備過ぎでしょ」

言うだけ言って、ソファで寝息を発て始める火伊那さん。笑って誤魔化していただけで、相当疲れていたのだろう。

「・・・全く、シャワー浴びたなら何か羽織りなさいな。湯冷めしたら如何するんですか」

仮眠室から毛布を持って来て、彼女に掛ける。

ちょっと甘やかしてしまっている気がしないでも無いが・・・心身共に消耗の激しい仕事だ。これぐらいの安らぎは、許してあげても良いだろう。

「本当に、しょうがないんだから」

なんて事を呟きながら、社長室を消灯して廊下に出る。機密系にはアークがロックを掛けているし、そもそも彼女はそう言うのに興味が無い。故に、アークは彼女の滞在を許可したのだろう。

「さてと、行きますか」

どうあれ、今日は大事な授業がある。さっさと学校に行こうか。

 

(NOサイド)

 

「セメントス先生、お願いします」

「はい!」

出久の合図と共に、雄英教師の1人、セメントスが両手を体育館の床に付ける。すると、コンクリート製の地面が見る見る内に変形し、あっと言う間に高低差のある訓練フィールドが形成された。

「おぉ~」「流石はセメントス先生」「出力が桁違いですわ」

1年A組生徒が様々に反応する中、出久は彼等に向き直った。

「ではこれより、ZAIA社謹製サポートアイテムの見学体験授業を始めます。A.I.M.S.!アセンブル!」

「「「「「「Roger!」」」」」」

出久の指示を受け、ZAIA傘下の民間軍事会社A.I.M.S.の隊員が、体育館に突入。出久の後ろに横一列となり、ビシッと不動の姿勢を取る。全員がザイアスペックとレイドライザーを装着しており、既に準備は万端だ。

「おぉ~、流石は兵士ですねぇ」

「番号!始めッ!」

「イチ!」「ニィ!」「サンッ!」「シィ!」「ゴッ!」「ロク!」

「番号直れッ!楽に休め。

紹介しましょう。彼等は我が社お抱えの傭兵、A.I.M.S.のメンバー。ではファーストから自己紹介、始めッ!」

「Yes sir!First、ストライカー!」

「Second、スカイハイ」

「Third、ダウンギャンブルだ!」

「Fourth、デリンジャーだ」

「Fifth、ギムレットだ」

「Sixth、ガーゴイル」

それぞれが名乗り、各々がポーズを付けた。

ストライカーは両手で2丁拳銃のジェスチャー、スカイハイは脚を揃えて腕組み。ダウンギャンブルはアメフトのタックル前の姿勢で、デリンジャーは柔道の構え。ギムレットはキザなガンマン風、ガーゴイルはモストマスキュラー。中々に派手な面々である。

「おー!」「カッケェ!」「ワイプシみてぇだな!」

生徒側からも概ね好評。それを確認して、出久は口を開いた。

「さて、彼等には近々この雄英にも配備される予定の新武装、アーマード・カスタム、通称ACレイダーの説明をして貰います。よく見ておくように。

では早速、総員実装!」

「「「「「「Roger!」」」」」」

【【【【【【HERD!】】】】】】

「「「「「「実装!」」」」」」

【【【【【【RAIDRIZE!】】】】】】

ホルスターから引き抜いたキーを起動させ、レイドライザーに装填。レイドローダーを叩き、バトルレイダーへと実装する。

【【【【【【INVADING!HORSE!SHOE!CRAB!】】】】】】

【【【【【【PACKAGE RIZE!】】】】】】

更にパッケージライズが発動し、空中に追加武装が生成。それらを全身に装着し、ACレイダーへの実装が完了した。

【【【【【【【TOGETHERING(トゥゲダリング) SUNSHINE(サンシャイン)!】】】】】】】

「えぇぇぇえ!?」「きゃ、キャタピラ!?」「こっちはバッタみたい!」

まず生徒達を驚かせたのは、ガーゴイルの機体構成(アセンブル)。何と言っても、下半身が丸ごと戦車のようなキャタピラになっているのだ。

「見ての通り、ACには複数のパーツがあります。特に脚部は、動きの骨子を定義する重要なパーツです。

ストライカーは、高い馬力と防御力を誇る重量二脚。

ダウンギャンブルは、機動力に特化した軽量二脚。

デリンジャーは、武器の反動や外部からの衝撃に耐えやすい四脚。

スカイハイは、跳躍力と機動力が特徴の軽量逆関節。

ギムレットは跳躍力に加え、装甲と馬力も兼ね備えた重量逆関節。

そして、皆さんの度肝を抜いたガーゴイル。彼の脚部は機動力と引き換えに、絶大な防御力と積載重量を得たタンク型です。

それぞれの良さ・・・まずは実演して貰いましょう。仮想(ヴィラン)、起動」

続いて、出久がリモコンを操作。体育館の壁のガレージシャッターが開き、大量の仮想敵ロボットが押し寄せる。

「状況開始!」

【メインシステム、戦闘モードを起動】

合図と同時にACのシステムボイスが流れ、ガーゴイル以外のACは全員散開。それぞれが得意なルートを見極め、自分のポジションへと向かう。

「ACには、移動を補助するブースターが基本搭載されています。そして、その使い方も様々。スムーズに移動を行うブーストオン。そして・・・」

 

 

「ほっ!とうっ!」

「着いて来られるかァ!オラよォ!」

スカイハイは起伏を蹴りつけ、横向きにすっ飛びながらアタッシュショットガンでプロペラドローンを撃破。ダウンギャンブルも壁を蹴り、両手のアサルトライフルをアタッシュハルバードに換装。機動力を活かして回り込み、地上の仮想敵を叩き割る。

 

 

「あの壁を蹴って加速する技術がブーストドライブ。敵を翻弄しつつ、エネルギーの大幅な節約になる基本技術です」

「よう酔わへんな・・・」

 

 

「喰らいなッ!」

─カァンッ!─

 

「遅いッ!」

ストライカーはブースターを吹かし、左膝のシールドで大柄な仮想敵を蹴り飛ばす。そして素早くバトルライフルを構え、形成炸薬弾を周囲のロボットに次々と放った。

着弾した弾丸は瞬時に炸裂し、高温高圧のメタルジェットが内部機構をズタズタに穿孔する。

 

 

「あの膝蹴りがブーストチャージ。重量と速度がそのまま武器になる、一種の必殺技です」

「ヒェッ」「あんなの受けたくねぇ・・・」

 

 

『此方デリンジャー、配備完了』

『了解!俺も良いとこ見付けたぜ!』

飛ばされた通信に答え、ギムレットは少しばかり突出した小高い足場に着地。その直後にブースターを一気に吹かし、凄まじいスピードで次の高台へと向かう。

そして到着次第壁を蹴って登り、ベストポジションを確保。右手の大口径スナイパーキャノンを構えた。

『ちっと遅れたが、ギムレットも配備完了だ!』

『了解。各個砲撃開始』

デリンジャーは腰部に折り畳んでいた後ろ脚を展開してアンカーを打ち込み、構え姿勢に移行。左腕のヒートキャノンを展開する。

『Fire!』『狙い撃つぜッ!』

其処から、2人同時に砲撃を開始。ギムレットのスナイパーキャノンは大型の重装甲タイプを難無く貫き、デリンジャーのヒートキャノンは曲射榴弾の爆裂で多数の雑兵を巻き込んで撃破した。

 

 

「おぉ!腰の所が脚になった!」「成る程、高所を取りやすく重量物も持てるから、高威力の狙撃銃に適しているのか!」

「分析が捗っていて結構。ギムレットが行った高速滑空はグライドブーストと言い、長距離の移動に適しています。

さて、もうすぐ面白いものが見られますよ」

「あれ?ガーゴイルさん動いて無くない?」「仮想敵が雪崩れ込んじまうぞ!」「え、あの量流石にやべーんじゃね?」

 

 

『よーし!お前ら、呉々も奴の前には行くなよ!』

『おいおいストライカー!俺らの中にゃ死にたがりは居ねぇよ!』

『此方も退避は完了した』

『心置きなくやれ』

『ぶっ放しちまえ!』

『・・・』

状況開始から不動を貫いて来たガーゴイルが、遂に動く。

拡張領域から取り出した三砲身オートキャノンを両手に持ち、轟音と共に銃弾の雨を降らした。

『アハッ・・・アハハハハハッ!ハッハハハハハハ!ヒャ~ッハーッ!!イィィヤッハァーッ!!』

先程の沈黙とは一変、狂ったように嬉笑と共に、変態的な弾幕射撃をブチまけるガーゴイル。更にオートキャノンだけには飽き足らず、ショルダーユニットのヒートミサイルまで撃ち込み始めた。

 

「えぇ・・・?」

そんな彼の豹変具合に、当然と言うべきか、生徒達は絶句(ドン引き)している。

「見ての通り、タンク型の長所は攻撃時に腰を落とした構えが必要な武器を通常武器として運用出来る点です。回避を棄てて強固な装甲で敵の攻撃を耐え、同時に高火力武器の連射で敵を蜂の巣にするゴリ押し戦法が強みですね。

弱点としては、他の脚部と違い壁蹴りが出来ないので、最大でも身の丈の3倍以上の高さの障害物を越えられない事ですね」

「イヤイヤイヤ、もっとこう、言う事あるだろしゃちょー」

「トリガーでハッピーになっちゃってたぞオイ・・・」

「傭兵にはままある事です。射線に飛び出さなければ基本無害なので気にしないで下さ───」

 

 

『やべっ』【INVADING!BOLIDE!】

移動のタイミングを間違えたダウンギャンブルが、ガーゴイルの鋼鉄暴風雨の圏内に入ってしまった。すぐさまレイドローダーを叩いてバリアシールドを発生させ、弾丸を弾く。

『ふぅ、危ねぇ。バリア様々だな』

『おいコラギャンブル!とっとと戻れッ!』

『お前は良いかもしれんがこっちは堪ったもんじゃねェ!』

『あっ悪ぃ』

しかし、バリアで跳弾した弾丸が仲間の方に飛び始めた。弾丸と装甲でカンキンコンと小気味良い音を起てながら怒鳴るストライカーとデリンジャーに平謝りし、ダウンギャンブルは再び遮蔽物の陰に飛び込んだ。

 

 

「・・・無害って」

「あれはギャンブルが悪いですから。さて、もう仮想敵も全滅しますね」

 

 

【作戦目標クリア。システム、通常モードに移行します】

「終わりましたね。では、A.I.M.S.!アセンブル!」

「「「「「「Roger!」」」」」」

出久の号令で、再度A.I.M.S.が集合する。ストライカーとダウンギャンブル、デリンジャーはブーストドライブで急行し、スカイハイとギムレットは高所から飛び降りて派手に着地。ガーゴイルはグライドブーストですっ飛んで来た。

「まぁ、こんな所ですね。さて、此処からは皆さんのAC適性を見ていきましょう」

「え、俺らッスか!?」

「えぇ。まぁ、中には個性柄そもそもレイダーシステムに向かない人も居ますので、その人には別の装備を作ります」

「あー、そう言えば前に言ってたっすね」

以前の約束を思い出し、上鳴がポンと手を打つ。こう言った多様性に適合出来るのも、プログライズキーを使ったシステムの強みである。

 

───

──

 

「死ねやァ!」

─ガギャンッ!─

 

「何あのブーチャの威力・・・」

「初めての重量二脚で彼処まで動けるか、凄まじいな」

「彼は昔から所謂天才タイプでしたからねぇ・・・」

 


 

「ほっ!よっ!おー、楽しい!」

「芦戸さんは軽量逆関節適性が高いですね」

「ダンスしてたらしいですからね」

「成る程、道理で動体視力と体幹の慣れが早い訳だ」

「これは、結構、使える!かも!」

「麗日さんもそこそこ使えそう、と」

 


 

「なぁ、コイツがタンクアセンしたら悪夢じゃね?」

「敵対したくないな」

「何だよオトキャ6丁って・・・堪んねぇなオイ」

「・・・これは悪くないかも知れないな」

「調整は是非私までお願いしますよ、障子君」

 


 

「ん~、やっぱ俺はコレだよなぁ」

「まぁ、砂藤君はパワー系ですからね」

「うおっ、安定性ヤベェ!」

「切島君は変則的な四脚運用をしそうですね。しかしそれも良い」

 


 

「おぉ!す、凄い!凄く曲がりやすい!曲がれるぞぉ!」

「彼はそもそも生まれ付きブースターが付いているからか、慣れが早いな」

「軽量二脚は紙装甲なので気を付けて下さいね~飯田君」

 


 

「うーむ、中々に豊作ですね」

「彼等に教えるならば、我々を呼んで下さい」

「勿論です。では、それぞれ補給を済ませて下さい」

「了解」

「特別手当は弾みますよ」

「愛してるぜ~社長」

「現金な奴だなギャンブル」

A組の教育が終わり、軽口を叩き合う出久とA.I.M.S.。この後B組にも同じ教育を行い、後日に普通科である。

ZAIAの激務はこれからだ。

 

─────

────

───

──

 

「はぁ・・・」

「どうした滅」

街を歩きながら、溜息を吐く滅。心なしか、表情もげんなりとしている。

「今日だけで4回だぞ?4回もだ。そんなに不審に見えるか?」

「目立ちはするな」

疲労を知らない筈のヒューマギアである滅がくたびれている原因は、単純明快。度重なる職務質問である。

感情と自我に目覚めた滅だからこそ、何度も同じような説明をしなければいけない徒労感、虚無感に苛まれていた。

「仕方無い事だ。逆に考えれば、此処の警官はとても仕事に熱心だと言える」

「警察関係者ならではの視点だな」

ニヒルに笑って、そうチェイスに返す滅。自我を持ってしまった事を恨めしく思うのは、これで2回目である。

「しかし、ライドチェイサーが無いのが中々不便・・・ッ!範囲に入った」

「そうか。方向は?」

「向こうだ」

「承知した」

日常的な雰囲気から一変、チェイスの眼が鋭く尖る。重力異常を検知したのだ。

方向を指し示し、悪魔の寝床を目指して走る。既に彼等の意識は、人類守護を使命とする狩人のそれに切り替わっていた。

 

to be continued・・・




~キャラクター紹介~

・緑谷出久
激務なスケジュールを自分で組む1000%社長教師。
最近自宅であるマンションには3日か4日に1度しか帰っておらず、大体社長室と隣接した仮眠室で寝泊まりしている。社員達が帰り辛くならないようにこの事は内緒。
滅とチェイスの後ろ盾をやっているが、基本は別行動。彼等の活動に関しては完全に裏方。
雄英にレイダーを扱う学科、レイダー科を作る為、現在生徒に体験という形でレイダーシステムやACに触れさせている。

・アーク
今回は影が薄かった一般転生悪意。
簡易AIを組んで、ネット上の悪魔に繋がりそうな情報を探しつつ、同時に実用可能なコア・ドライビアや滅の専用バイク、更に2人の強化アイテムまで作っている。完全に裏方。

・筒美火伊那
元公安直属、現アークの監視係兼仕事仲間。
公安で働いていた頃よりもかなりストレスが下がっており、精神的には安定に向かっている。
ZAIA社の裏口フリーパスがインストールされたライズフォンを渡されており、仕事終わりには勝手に入り、勝手にシャワーを使い、勝手に仮眠室で休み、勝手にストックの茶菓子を摘まんで勝手に帰って行く。アークが許可しているので問題にはならない。寧ろアークに言われて、出久が彼女専用の茶菓子ストックを作っている始末。
出久とアークの間には何かしらの繋がりがあるだろうと思ってはいるが、どうでも良いので詮索していない。彼女にとって出久とは、可愛らしい恩人である。

・ストライカー
A.I.M.S. AC部隊1番機。
重量二脚にバトルライフル&ライフルの化学&物理アセン。
6人の中でリーダー的ポジションであり、それ故に前線指揮に向いた重二を好む。
ブーストチャージも結構頻繁に使うので、彼がいると3分に1度は『カァンッ!』と衝突音が響く。

・スカイハイ
A.I.M.S. AC部隊2番機。
軽量逆関節にアタッシュショットガンとライフルを積んだ近距離火力アセン。
変身者は脚力増強の個性持ちであり、ライジングホッパーのジャックライズ元。
軽逆のジャンプ力で軽快に飛び回り、敵を翻弄して銃弾をブチ込む戦法を取る。

・ダウンギャンブル
A.I.M.S. AC部隊3番機。
軽量二脚にライフル2丁、ハンガーユニットにアタッシュハルバード2つと言う物理ゴリ押しアセン。
ACVD原作の弱過ぎて銀行呼ばわりされている彼とは違い、軽二の機動力をフルに活用して凄まじいスピードで駆け回り、近距離攻撃で敵を蹂躙する斬り込み役。銃よりもブレードの方が好み。
そこそこチャラい出で立ちであり、唯一グラサンにザイアスペックを装着している。

・デリンジャー
A.I.M.S. AC部隊4番機。
四脚ヒートキャノンメイン、サブにライフルとバトルライフルの初手迫撃砲アセン。
ギムレットと連携し、敵の頭上を取ってからの榴弾散蒔きで敵を掃討する戦法を取る。構え武器を使う性質上あまり素早く動けないので、近接系のメンバーにカバーさせるか、比較的敵の攻撃が届き難い場所にポジショニングする。FPSで嫌われるムーヴその1。

・ギムレット
A.I.M.S. AC部隊5番機。
重量逆関節にスナイパーキャノンと、サブに予備のスナイパーライフル、左ハンガーに近接用のライフルを持った重逆砂アセン。
デリンジャーとの連携で敵の重装甲型を圧倒的威力の超高速大口径徹甲弾でブチ抜き、榴弾から生存し得る敵勢力を同時並行で叩き潰す。
基本的に重逆のジャンプ力を活かして高所に陣取り、高威力弾でひたすら芋砂戦法をする。FPSで嫌われるムーヴその2。

・ガーゴイル
A.I.M.S. AC部隊6番機。
三砲身オトキャを両手に構え、更にスペアにはガトリングガンと言う恐怖の弾幕ガチタンアセン。
普段は余り喋らないが、いざ戦闘となり撃てる状況が出来れば、狂ったように笑いながら全弾薬を散蒔く勢いで撃ちまくる典型的な乱射魔(トリガーハッピー)となる。

・滅
散策中に4回も職質されたヒューマギア。
いい加減うんざりしている。自我に目覚めなければ、こんな感覚に陥る事も無かったのかも知れない。

・チェイス
滅のバディ。
滅と一緒に職質を受け続けた。しかし元々警察関係者なので、寧ろ確り真面目に働いている警察官が多い事を喜んでいる。
ライドチェイサーがあれば散策も楽だっただろうな~と考えているが、恐らくあんな厳ついバイクを乗り回してたらそれこそ通報されるので、結果的には置いて来て正解である。

~用語紹介~

・トゥゲダリングサンシャイン
A.I.M.S. AC部隊の識別用共通機体名。スキャンモードではT.S.と表示される。
デフォルトが中量二脚であり、其処から各々がカスタムする。アセンブルが変わっても識別名称は変わらず、登録者のコードネームがT.S.の後ろに追加表記されるようになる。

・軽量二脚
装甲と積載量をそぎ落とし、機動力に特化した脚部。
重い衝撃を数発喰らえばその衝撃で硬直してしまうので、回避の合間に攻撃する立ち回りが重要。

・重量二脚
分厚い装甲と比較的豊富な積載量を備えた脚部。
高火力な武器を背負える上に、ブーストチャージの威力が馬鹿高い。
主は基本メインをバトライ&ライフル、ショルダーに月光二刀流の重二アセン。

・軽量逆関節
跳躍力と安定性に特化した脚部。今作では足首から爪先までが延長された形になっており、オーズのバッタレッグと同じような構造である。
装甲が薄い代わりに3次元機動力が高く、頭上からの奇襲や一撃離脱、擦れ違い様に撃つなり斬るなりする通り魔等の戦法で輝く。

・重量逆関節
積載量と装甲を増やした逆関節脚部。
高所の取りやすさから狙撃特化に適性がある他、逆関節のブーストドライブによる機動力の高さから敵施設の強襲、破壊工作のトドメ等にも驚異的な効果を発揮する。

・四脚
武器の構え時にアンカーを撃ち込む事で、反動を抑えられる脚部。今作では基本行動中は重量二脚挙動であり、武器を構えた時に背部に折り畳まれていた脚が展開、接地する事で身体を固定する仕様。
その性質から、初手で高反動の砲を高所からぶっ放す戦法に向いている。尚、戦闘が本格化した際には直ぐさまパージして前線に出るなりせねばならないので、中々に立ち回りの難しい脚部でもある。

・タンク
戦車のキャタピラ部分がそのまま下半身になっている脚部。ビルドのタンクタンクのアレに近い。
トップクラスの装甲と積載量を誇り、悪路にも強い。更に、瞬発力が低いとは言えども接地走行での時速は50km。ホバー時は70kmであり、更にグライドブーストを起動すれば瞬間最高速度は100kmを超える。この高速の大質量が繰り出すブーストチャージの威力には、神さえ震え悪魔すら慄くであろう。
更に、他の脚部では構えが必要な大型武器も通常の手持ち武器として運用出来る為、敵を真正面から蜂の巣にして擂り潰す戦法が専らの運用方法。また、災害救助や前線補給への物資運搬等にも転用可能である。


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狩りの開幕、2人のクロス

『さて、と・・・じゃ、いっちょやりますか!』【RAID!RISER!】

「了解した」【マッハドライバー!】

「今度こそ逃さん」【FORCE RISER・・・】

夜の路地裏。主任とチェイス、滅の3人は、それぞれのベルトを装着し、臨戦態勢に入っていた。

『アークさーん、監視カメラは~?』

『問題無い。既にダミー映像に差し替えてある』

「フン、アークならば容易いか」【POISON・・・】

「心強い味方だ」【シグナルバイク!】

『敵からすりゃ涙目ものだけどネ』【SEARCH!】

「「変身!」」『実装』

【FORCE RIZE!】【ライダー!】

【RAID RIZE!SCOUTING PANDA!】

アイテムをベルトに装填し、3人はギミックを操作。変身シークエンスを起動する。

STING(スティング) SCORPION(スコーピオン)【BREAK!DOWN!】

チェイサー!

【PACKAGE RIZE!LAUNCHING HUNGDMAN!】

バイクの車輪と、サソリのライダモデル。更に深紺の重装甲が現れ、それぞれの使い手に装着。仮面ライダー滅、仮面ライダーチェイサー、そしてスカウティングパンダレイダー・ACハングドマンが完成した。

「2人とも、バイラルコアは持ったな?」

『ハイハーイ!ノープロブレムですよ~!』

「此方もいつも通りだ。問題無い」

2人はそれぞれ、手に握った銀色の(チェイサー)バイラルコアを見せる。これより悪魔の炙り出しを行うのだが、その為には仲間にコア・ドライビアを搭載したアイテムを持たせる必要があるのだ。

『社長もすぐに合流するってサ。とっととやっちゃおう。と言う事で、お願いしますよ~?』

「任せろ」

チェイサーは静かに肯き、ブレイクガンナーのスロットにプロトシフトスピードを装填した。

TUNE(チューン)・・・DRIVE(ドライブ)SYSTEM(システム)

EXECUTION(エグゼキューション)!】

「結界を、叩き割る」

そして銃口を掌で押し込み、必殺シークエンスを発動。体内とプロトスピードのコア・ドライビアを共振させ、増強した出力でエネルギーを一極集中、圧縮し始めた。

 

─ガオゥン・・・─

 

溢れ出した余剰エネルギーは紅い波動となり、局所的にあらゆる物体の速度が鈍化する現象、重加速としてまろび出る。

『へぇ、成る程。コレがウワサの・・・』

「ハァッ!」

FULL(フル) BREAK(ブレイク)CHASER(チェイサー)

エネルギーのチャージを完了させて、チェイサーはブレイクガンナーを叩き付ける。

「グワーッ!?」

紫色の髑髏として顕現した高圧のエネルギーは、叩き付けられると共に激しく炸裂。干渉の痕跡のある空間を食い破り、中に居た悪魔、ゼノンを引き摺り出した。

「昨日振りだな、ゼノン」

「コンバンワ、ゼノン=サン。仮面ライダーです」

『アイエーッ!?ライダー!?ライダーナンデ!?』

チェイサーの忍殺語ネタにノリノリで返す主任。彼はサブカルにも明るいのだ。

「クソッ!やっぱりテメェ等かよ!そういや最近、潜伏中の奴が消えるって言われてたが・・・」

「ほう、どうやら情報は抜かれていないようだな」

「ならば良い。貴様も生かしてはおかない」

『アハハハハッ!良い~じゃん!盛り上がってきたネェ!』

「チッ、此処は不利か!一旦立て直─ガァンッ─グハッ!?」

壁を蹴り空中に飛翔しようとするゼノンだったが、即座に何者かに撃ち落とされた。魔力障壁で受け止めて尚身体を貫かんとする衝撃力に驚き、ビルの屋上へと墜落する。

『へぇ、中々やるじゃない?流石はワーウルフ!』

『どうでも良いから、とっとと終わらせて』

遠方のビルから通信を飛ばすレディ・ナガン(ウルフレイダー)。既に右腕のスナイパーライフルは再装填を済ませており、再び狙いを定め直した。

「畜生ッ!停滞(トルポール)!」

 

─ゴゥウン・・・─

 

ゼノンが両手を胸に翳すと、幾何学的な魔方陣が出現。紫の光が漏れ出すと共に、周囲にドス黒い靄のようなものが広がる。すると、周囲に重加速に酷似した鈍化現象が発生した。

「もういっちょ、高速化(アチェレラーレ)!」

更に別の魔方陣を生み出すと、今度は青白いオーラが溢れ、ゼノンを包む。そして、ゼノンは常人の眼には捉えられない程の猛スピードで駆け出した。

『逃がさない───なっ!?』

再び遠方から狙撃するウルフレイダーだったが、対物狙撃弾は鈍化空間に入った途端に著しく減速。緩く投げられた野球ボールのような速度になり、ゼノンには掠りもしない。

『成る程、重加速にはこんな使い方も・・・』

唸るように呟く主任。コア・ドライビアを搭載しているチェイサーとバイラルコアを持っている2人は、鈍化空間の中でも問題無く活動が可能であるようだ。

「ハッ、これで狙撃は恐くねぇ!1匹ずつ確実に殺して─ゴガンッ─ぐへぁ!?」

 

──JACKING BREAK──

©ZAIAエンタープライズ

 

弾丸の恐怖から解放され、意気揚々と走り抜けようとするゼノン。しかし、またもや物理的に腰を折られ、再びコンクリートとお見合いする羽目になった。

『お待たせしました』

黒と紫に銀の差し色を入れたバイクに跨がった、黒いライダースーツとフルフェイスヘルメットの男。言わずもがな出久である。

右手のサウザンドジャッカーから放ったのは、チェイサーバットバイラルコアのアビリティ。蝙蝠型のエネルギー弾を放ったのだ。

『あ、社長?どしたのそのボイチェン』

『念の為ですよ、念の為』

【FORCE RISER!】

サウザンドジャッカーを収納し、フォースライザーを装着。レッグホルスターからキーを取り出し、ライズスターターを押し込んだ。

TERRITORY(テリトリー)!】

装填されたキーから出現するのは、巨大な蜘蛛のライダモデル。前脚4本を大きく振り上げて威嚇し、ガチャガチャと出久の背後に回り込む。

『変身』【FORCE RIZE!】

TRAPING(トラッピング) SPIDER(スパイダー)!】

蜘蛛は出久の背中に飛び掛かり、首筋に牙を突き立てた。

誰もその網からは逃れられない(No one can escape its web.)

【BREAK!DOWN!】

そして8本の脚で変身者を包み込み、体節が弾け飛んでリストレントケーブルが接続。それぞれがアーマーとなり、全身各所に装着される。

ダークパープルのアンダースーツに、蜘蛛の巣と逆さ吊りの蜘蛛を意匠として組み込んだマスク。蜘蛛脚のスリット越しに光る、複眼状の両眼。胸部装甲と背面装甲に各2対ずつ、計4つの単眼(光学センサー)が並び、更に背骨付近からは腕程の太さの多目的機械節足(トラッピングピンサー)が4本生えている。右腕のガントレットは蜘蛛を模っており、ガンメタルカラーのフレームに走った赤のラインが光った。

フォースライザーシステムで変身した、新たなライダー。

『仮面ライダー、(モウ)・・・推して参る』

【CHASER BAT's Ability】

再び新型バイク、ライドスティンガーのハンドルを握り、タンク正面のスロットにチェイサーバットバイラルコアを装填。スロットルを捻ると、車体側面から蝙蝠の翼が出現する。その翼で飛翔し、フロントカウルから大気を歪める程の集束超音波砲を放った。

「クソッ!次から次へと鬱陶しい!」

手持ち盾のように発生させたバリアで音波を反射して、悪態を吐くゼノン。そのまま魔力を槍に練り直し、網へと投擲する。

『ハッ!』

対して網は手を翳し、右腕のガントレットから電磁捕縛線(カラミティ・テリトリー)のネットを展開。通電と共にプラズマを放出して振り抜き、魔力槍のエネルギーを放散減衰し叩き落とした。

『滅、チェイサー、コレを!』

ライドスティンガーから飛び降りながら、2人に何かを投げ渡す網。2人が受け取った時には、既に糸を飛ばしてスイング移動を始めていた。

「コレが、アークの作ったアイテムか」

「そのようだ」

滅が受け取ったのは、クリアパープルのフレームにクリアシルバーのカラーリングとなっているプログライズキー。接続端子の表面には、魔進チェイサーの上に重なった仮面ライダーチェイサーがプリントされている。

チェイサーが受け取ったのは、シグナルバイクよりも小振りなチップのような物。プリントされたライダーズクレストは、滅亡迅雷.netのエンブレムに囲われたチェイサーの髑髏マークだ。

「よし、やるぞ」

「・・・仕方無い」

2人はベルトから既存のアイテムを引き抜き、次いで渡された()()を起動した。

PUNISH(パニッシュ)!】【FORCE RIZE!】

【シグナルキー!クロスオーバー!ライダー!】

ライズスターターを押されたプログライズキーは内包能力を叫び、フォースライザーに収まる。チェイサーの手の中の端末からは、接続用のキープレートが展開。マッハドライバーのスロットに装填され、強化システムのデータを送り込んだ。

「「変身!」」

FULL(フル) BREAKING(ブレイキング) CHASER(チェイサー)!】

【ルイニング・スコルプス!】

フォースライザーからバイクに乗ったチェイサーのイメージ体が出現し、背後から衝突して分解。それぞれが新規パーツとして変形し、全身各所に合体する。

頭部のV字アンテナ。銀のラインが走ったアンダースーツ。そして胸部に増設された、紅いクリスタル球状の拡張式重力駆動炉(EXコア・ドライビア)

 

そしてチェイサーには、滅と同様の集中型装甲が追加され、左胸に滅亡迅雷.netのエンブレムが刻まれた。更に背中のホイーラーダイナミクスには蠍座のマークが浮かび、右のショルダーアーマーには滅の左腕の物と同じアシッドアナライズが装着される。

 

これぞ、お互いの性質を融合させた2人の強化形態。仮面ライダー滅・フルブレイキングチェイサーと、仮面ライダーチェイサー・ルイニングスコルプスである。

 

『へぇ、中々格好いいじゃないの。アークさんはセンスも良いねぇ』

『此方網、変身出来ましたね。現在、悪魔ゼノンを追跡中。この区域から逸脱しないように誘導していま・・・逃がさんッ!

失礼しました。既に此方の座標はマーク出来ている筈です。そのバイクで挟み撃ちにしましょう』

「了解した。チェイス」

「任せろ」

【TUNE!CHASER BAT!】

ライドスティンガーのスロットから独りでに外れたバイラルコアを掴み、ブレイクガンナーに装填するチェイサー。背中のホイーラーダイナミクスが高速回転し、液体金属を噴射。プログラム制御によって固定され、蝙蝠の翼を摸した飛襲来翼弓(ウィングスナイパー)となる。

「俺は・・・これか」

一方滅は自分のシステムテキストをラーニングし、機能の詳細を掌握。プログライズキーに手を当て、ライズスターターを再び押し込んだ。

【CHASER BAT's Ability!】

音声と共に新機能を起動し、ライドスティンガーに搭乗。するとマシンとキーがリンクし、先程と同じチェイサーバットの翼が出現する。

「行くぞ!」

「あぁ!」

『じゃあ~、頑張ってネ~!』

2人は同じアビリティで飛翔し、網に追い回されているゼノンの逃亡方向へと先回りしようと加速。それと同時に、車体側面に空いた魚雷発射口のような穴(バイラルディスパッチャー)から複数のバイラルコアが射出され、空中に道路を敷きながら2人と併走する。

「これは、新型のバイラルコアか。有り難い」

「アークならばやりかねん・・・」

「兎に角、役立てよう。直に合流地点だ」

低空飛行から着地し、新たなバイラルコアを掴むチェイス。そしてブレイクガンナーからバットバイラルコアを引き抜き、ハヤブサを摸した新型と入れ替えた。

【TUNE!HOROBI(ホロビ) FALCON(ファルコン)

再びホイーラーダイナミクスが回転し、今度は猛禽類のような翼が展開。すぐに右腕へと換装され、両刃の瞬速航行羽翼剣(フェザーブレイダー)となる。

「クソッタレめ!しつこ過ぎ・・・「ハッ!」ウギャッ!?」

目の前を通り過ぎようとしたゼノンの翼を、チェイサーのフェザーブレイダーが叩き斬った。

「ガァァ!?テメェら、このッ!よくも俺の翼をォ!」

「黙れ」

「ウガァ!?」

喚くゼノンを遮って、滅がシンゴウアックスの逆袈裟斬りを叩きつける。衝撃で弾き飛ばされたゼノンは、解体途中のビルへと突っ込んだ。

『此処は我が社が買収し、取り壊し中のビル。存分に・・・何!?』

柱に取り付いた網が2人を促そうとするが、センサーが発した警告音に顔を顰める。それは、本来なら此処に居る筈の無いモノ・・・人間の生体反応だった。

「な、何だよお前ら!?」「ヤベェぞ逃げろ!」

『チンピラ!?くっ、早く失せなさい!邪魔です!』

「・・・これしかねェか」

不法侵入し、屯していたチンピラ達。それを見て、ゼノンは小さく呟く。

「フンッ!」

 

─バゴンッ─

 

「なっ!?」「くっ!」

小さな魔力弾を生成し、地面に叩き付けるゼノン。砕けたコンクリートの粉塵が舞い、即席の煙幕となる。

 

─ボギュッ─

 

「ぎっ!?」

その煙幕の奥から、短い呻き声が聞こえた。

2人が得物を振るい視界を切り開くと、その先にはゼノンに首を噛み砕かれ事切れた、さっきまで人間だった肉塊が地に伏している。

「貴様ッ!」

「必ず始末する・・・!」

守護対象を目の前で殺され、滅とチェイスの殺意が跳ね上がった。だが、2人が動くよりも早く、網は先端に大きな高分子粘着球(スティッキーポリマー)が付いたカラミティ・テリトリーを投げ付ける。

ベシャリとゼノンの左肩に付着したワイヤから高圧電流を通電し、更に撓ませて数度振るう事で投げ縄のように巻き付けた。

『2人も早く攻撃を!直接の脅威に関係無い人間を、人質にするでも無くすぐに殺した!何をして来るか───』

 

「痒いぞォ、人間」

 

─バギィッ!─

 

安全装置を解除し、人間の致死量の数万倍の電圧を掛けられても尚、ゼノンは意に介さない。それどころか、全身の筋肉を膨張させ、逆にワイヤを引き千切ってしまった。

『なッ!?張力60トンのカーボンナノチューブワイヤを!?』

「あ~ぁあ、まさかコレを使わにゃならんとはねェ」

溜息を吐きながら、首をゴキゴキと鳴らすゼノン。その肉体は真っ赤に染まり、全身に走るひび割れたようなラインは脈動するように赤黒く明滅している。

「これは・・・重力異常が増大している!」

「能力の出力が上がっていると言う事か!」

「あぁ、そうだぜ。狂化(インタニア)・・・ま、簡単に言えばリミッター解除ってとこか。さぁて、とっととテメェら潰すとしますかァ!」

血のように巡り漲るエネルギーを練り上げ、半透明なブレードを形成するゼノン。指を添えて撫で上げたそれを、目障りな網へと振り下ろす。

『フッ─パキッ─何ッ!?』

その刃は身を切らずとも、網に驚愕を与えるには十分な現象を引き起こした。

帯電状態でブレードを受け止めようとしたピンサーが、異常なまでに軽い音を起てていとも容易く切断されたのだ。

『炭素繊維強化樹脂と軽合金の複合装甲を、こうもアッサリと!?』

「ハッハッハァ!俺に斬れねぇ敵はいねぇ!!そしてェ!」

 

─ゴォウン・・・─

 

『ぐっ、鈍化かッ・・・!』

「くたばりやがれェ!」

「やらせんッ!」

 

─ギャギャギリッ!─

 

動きを鈍らせた網を斬り裂こうと、ブレードを振り下ろすゼノン。しかし、刃が触れる寸前、チェイサーのフェザーブレイダーが割り込み、直死の斬撃をギリギリで()()()

「あァ?チッ、クソッタレめェ・・・つくづくテメェは俺を苛立たせやがるッ!」

 

─ガァンッ!─

 

「ぐぅっ・・・」

ノイズ混じりの割れた声を撒き散らし、ゼノンはチェイサーに膝蹴りを叩き込んだ。

チェイサーは吹き飛ばされはしたものの、フォースライザーシステム特有の重点防御装甲が追加されたお陰で、何とか損害軽微で済んでいる。

「ハァアッ!」

 

─ギャギンッ!─

 

「くっ、パワー不足か!」

「成る程ォ、どうやらテメェらにゃ、()()()()()()()みてぇだなァ?」

()()()()()()シンゴウアックスを見遣り、面倒臭そうに吐き捨てる。そんなゼノンに、滅とチェイスが同時に伸ばしたアシッドアナライズが突貫した。

「嘗めるな、オラよォ!」

 

─ドゴンッ!─

 

「ぐおっ!?」「がぁッ!?」

しかしそれも瞬時に反応され、両手で掴み絡み取られる。更にそのまま引き寄せられ、鎖分銅のように地面に叩き付けられてしまった。

全身にダメージを負い、大破までの耐久値が大凡半分を切った事をダメージコントロールシステムが感知し、仮面の中で警鐘を鳴らしている。

(2人とも、作戦に乗って下さい!)

そんな中、どんよりと動きを鈍らせられた網がフォースライザーシステムの通信回線を開き、自分の案を2人に伝達する。

(何?・・・了解した)

(致し方無い。しくじるなよ)

(其処はお任せを!時間稼ぎは任せました!)

「滅!」【TUNE!HOROBI POLAR BEAR(ポーラーベア)!】

「あぁ!」【CHASER COBRA's Ability!】

チェイサーは新たなバイラルコア、ポーラーベアをブレイクガンナーに装填。手甲鉤状の極冷壊鉄爪(デストポーラクロー)を装着し、頭上に向けて氷結弾を放った。

そして滅はコブラバイラルコアのアビリティを発動し、右腕から流体金属打拘鞭(テイルウィッパー)を展開。チェイサーの氷結弾を鞭の先端で叩き砕き、真っ白な煙幕を降らす。

【ホロービ!】【BREAK!】

【CHASER SPIDER's Ability!】

其処からドライバー天面のブーストイグナイターを叩き、出力を引き上げるチェイサー。滅は腕の武装を蜘蛛脚を象った硬質穿斬鉄爪(ファングスパイディー)に変換。2人は左右に分かれて回り込み、ブレイクガンナーとファングスパイディーで挟み撃ちを仕掛けた。

「ハッ、小賢しいンだよォ!」

だが、ゼノンはそれを容易く見切り、振り返って両手でバリアを形成する。限定解除された魔力の障壁は、2人の攻撃を容易く受け止めてしまうだろう。

「ハッ!」「タァッ!」

しかし、ゼノンの読みは外れた。2人はバリアの手前で、お互いの武器をぶつけ合ったのだ。

ブレイクガンナーとファングスパイディー、それぞれから放射された高圧縮エネルギーは、衝突と共に爆発。左右に障壁を集中した事で無防備となっていたゼノンの顔に、閃光と熱の波となって襲い掛かった。

「ウがぁッ!?テメェら、味な真似をォ・・・!」

顔を押さえ、踏鞴(たたら)を踏むゼノン。その隙に、滅とチェイサーはベルトを操作した。

FULLBREAKING(フルブレイキング)DYSTOPIA(ディストピア)

【ヒッサツ!フルスロットル!ルイニング!スコルプス!

滅はファングスパイディーから再び高圧縮エネルギーを放ち、チェイサーは左肩のアシッドアナライズを巻き付けた右脚で蹴り抜く。

「ごはぁ!?」

2人の必殺技はゼノンに直撃し、ザリザリと押し飛ばした。

「ングゥ・・・だが、効かねぇなァ!軽いんだよ、テメェらのはよォ!」

『それで良いんだよ、それが良い。ジャッカー・ドルカシスクラッチ!』

【JACKING BREAK!】

「うごぁ!?て、テメェ・・・マトモに、動けねぇクセに・・・!」

『鈍間は鈍間なりに、罠を張って待ち構えるものだ。蜘蛛ならば、尚更な!』

 

───JACKING BREAK!───

©ZAIAエンタープライズ

 

ゼノンは、自分の術中(鈍化)に嵌まっていた網を捨て置いた。動けはしまいと高をくくり、己が背を晒した。それこそが、ゼノンの盲点。

網は、やろうと思えばバイラルコアを召集する事で最初から鈍化を打ち消す事も出来た。それをしなかったのは、自分が相手の意識外に追い遣られたこの状態が、敵の分析には理想的な状況だったからだ。

そして今、アークによって原理は究明された。故に攻勢に転じ、ジャッキングブレイクでゼノンを拘束しているのだ。

『貴様の切断能力の正体は、既に解析した。

速度の鈍化・・・その現象を発生させるフィールドを、物質化した魔力の周りに纏わせていたようだな。

成る程、()()()()()()を寸断されれば、原子・分子間の結合も途切れる。後は対象物を物理的に押し込むなりして動かせば・・・空間そのものが強力な鋏のように機能し、原子レベルで剪断応力が発生。対象の物理的剛性に関係無く、有りと有らゆる物質を切断する事が出来る訳だ。

そしてそれ故に、同質の現象を発生、中和する事が出来る()()()()()()()()()()()()()()()()()()()には、稼働不全を引き起こす』

そう。それこそが、ゼノンのブレードをチェイサーが受け止める事が出来た理由。コア・ドライビアが稼働する事で発生する、重加速の中和作用。その効力が、ゼノンの魔力にまで影響を及ぼしたのだ。

「グゥ・・・だが、それでもこの程度なら!」

『これで終わりだと思う所が、貴様の限界だ』

【JACK RIZE!JACKING BREAK!】

『ジャッカー・カンケルピンチ!』

「ウゴハッ!?」

更なるジャッキングブレイクにより、2つの巨大な蟹の鋏が出現。クワガタの顎に加え、左右からゼノンの身体を思い切り挟み込む。

 

─ガガガヴォオゥン!─

 

【マサニ!ホロービ!】

【CHASER VIRAL's Ability!】

『おや、処刑人の準備も整ったようだ』

「何だと!?」

真面に身動ぎ1つ出来ないゼノンには、見えはしないだろう。自分の背後に立つ2人の死神の姿は。

滅は総てのバイラルコアのアビリティを解放。トリプルチューンを発動し、全武装が融合した魔進全壊崩(デッドリベレーション)を展開する。

チェイサーはブーストイグナイターを4回叩き、エネルギー増幅炉の出力を限界まで引き上げ、ドライバーのスロットを展開した。

「決めるぞ、チェイス」

「あぁ、これで終わりだ」

【ヒッサツ!】

一言だけを交わし合い、2人は必殺技のシークエンスに移行する。

TRIPLE(トリプル) TUNE(チューン)UTOPIA(ユートピア)

【フルスロットル!ルイニング!スコルプス!】

その識別音声が響くと共に、チェイサーの装甲から蠍のライダモデルが出現。ゼノンを中心に、円上に猛スピードで走り始める。そしてライドスティンガーも自律走行し、ライダモデルとは逆方向に周回し始めた。

滅のデッドリベレーションはパージし、右脚に移動。そのまま腰を落として、ゼノンを中心とする二重円へと飛び込んだ。

それと同時に、網は跳躍して天井へと避難する。

 

─ドガガガガガガガッ!!─

 

「ウグオォォォォォォアッ!?」

2人のはゼノンを蹴りつけ、その反作用で飛び退き、ライダモデルとライドスティンガーがその2人を弾いて再び蹴る。猛スピードのピンボールのような蹴りの嵐に、ゼノンは魔力を体表で高速対流させて何とか耐える。リミッターを全開放した出力は並では無く、ライダー2人の必殺技でも一方的に打ち破れずに拮抗状態となってしまっていた。

『良いじゃん!盛り上がってるねェ!!』【LIFULL RIZE!】

しかし、更に其処にイレギュラーが現れた。言うまでも無く、ブーストドライブで急行したハングドマンである。

『主任!何を!?』

『イヤイヤッ、ちょっとお手伝いをネ♪』【FULL CHARGE!】

畳んでいたアタッシュライフルを展開し、フルチャージ状態へと移行。親指のボタンを押し込んで薬室内でエネルギーを圧縮し、青い光が漏れ始める。

KABAN(カバン) BLAST(ブラスト)!】

そして銃口が白く煌めき、超高火力のメーザー弾が発射。空気を焼き焦がしてプラズマ化させながら、ゼノンの膝を撃ち抜いた。

「がぁぁぁぁぁぁ!!!?」

 

「「ハァァァァァァァ!!」」

 

魔 進

 

───TRIPLE TUNE!UTOPIA!───

 

───ルイニング!スコルプス!───

 

ハングドマンの助太刀が決め手となり、遂に2人のライダーキックが魔力の対流膜を突き破る。

ガリガリとコンクリートの床を切り付け、覇気を残したまま着地した。

「そんな・・・ウソだ・・・俺は、こんナとコロで・・・イヤダ・・・キエタクナイッ・・・!」

「亡き者となれ」

「此処が貴様の死に場所だ」

無慈悲な2人の言葉と共に、ゼノンの肉体は白熱化。体内のエネルギーが暴走を引き起こし、爆発四散する。

「・・・ナムアミダブツ」

『あ、そこ一貫して通すんだ』

チェイサーが最後に添えた一言に主任が苦笑いして、戦いは幕を下ろした。

網は地面へと降り立ち、通信回線を開く。

『人狼、ミッション終了です。お疲れ様でした』

『やっと終わったか。待つには慣れてるが、流石に眠い。今夜はベッド借りるからな、社長』

『え、ちょっと!?・・・切られた』

溜息を吐きながら回線を落とし、変身解除する。

そしてゼノンの爆発した跡を見遣ると、其処には時空の窓が開いていた。

「これは!」

「ライドスティンガーに乗って帰りなさい。そのマシンには、コア・ドライビアの波形識別によるリンクシステムを搭載しています。相方であるライドチェイサーの座標を追跡するので、元の世界に帰れる筈です」

「そうか。感謝する」

「・・・感謝する。このキーが無ければ勝てなかった。それと・・・済まなかった。礼儀を欠いた言動に終始してしまった」

「良いんですよ。では、さようならです」

「あぁ」

滅は再びライドスティンガーに跨がり、その後ろにチェイサーが座る。シンゴウアックスをサイドカウルに装着し、両手でシートを掴んだ。

「また会う事があれば、借りを返そう。その時まで、暫しの別れだ」

「えぇ。其方でも大変でしょうが、どうか達者で」

別れを済ませ、スロットルを捻る滅。そして時空の窓へと狙いを定め、一気に加速した。

「サヨナラッ!」

「ぶふっ!?」

別次元へと消える間際にチェイスの放った、ドップラー効果付きの忍殺語。それは出久の腹筋を直撃し、噴き出させるには充分な破壊力であった。

 

───

──

 

『あーっあーっ、えっと~、アークさーん?聞こえてるカナ~?』

『どうした、主任』

『あーちょっとお願いがあるんだけど。今回計測出来た、ブレードの解析データあるじゃん。あのゼノンってゴミムシが使ってたヤツ・・・あれ、送ってくれない?出来れば今すぐ』

『フム、良いだろう。呉々も、人には向けるなよ』

『ハイハーイ!了解ですよ~!

 

ハハハハッ♪さぁてと・・・面白くなりそうだ』

 

to be continued・・・




~キャラクター紹介~

・チェイス
ド天然死神追跡ライダー。
ゼノンが目の前で人を食い殺した時には、殺意の波動に目覚め掛けた。1人だったら耐えられなかった。
強化形態と新たなバイラルコアをゲットし、結構ご満悦。最後まで忍殺語キャラを貫いた。
今回久し振りに戦闘でブレイクガンナーのブレイクモードを使った。

・滅
真面目系悪意監視者ライダー。
ゼノンが目の前で人を食い殺した時にはアーク堕ちし掛けた。アーク堕ち経験と相棒が居なければ耐えられなかった。
今回のクロスオーバーによって、専用バイクと飛行能力を同時にゲット。
強化形態が無ければ恐らく勝てなかったので、素直に感謝し謝った。

・緑谷出久
新ライダーをヌルッと使った苦労人属性1000%社長。
2人の強化アイテムを渡し、更に敵の能力をアークと共に分析し原理を解明した。
今回のジャッカー・ドルカシスクラッチは、風都探偵メガネウラ回のメタル・スタッグブレイカーのムーヴ。これをさせる為にクワガタ技を派手に習得させたと言っても過言では無い。

・シュニン・ハングマン
意味深発言連発主任。
主任名物『ちょっとお手伝い』で美味しい所を持って行った。と言うか珍しく味方撃ちせずに真面なお手伝いをした。
コイツいっつも何か企んでるな・・・

・レディ・ナガン
気怠げ一流スナイパーウルフ。
狙撃を警戒させる事でプレッシャーを与え、飛行離脱を制限すると言う地味ながら重要なミッションを見事クリア。
報酬としてZAIAの社長室直近仮眠ベッドを占拠した。
後に出久は「人狼にベッド乗っ取られた・・・」とボヤく事になる。

・ゼノン
時空操作に長けた悪魔。
脳筋主義集団の異端児。能力や術は非常に強力であり、某携帯獣の金剛神と真珠神を足して4で割ったような性能。正直チート。
本来であれば、物理防御無効のブレードと攻撃そのものを減速させる鈍化結界で、エネルギー量が同等以上の相手にもタイマンなら勝てるスペック。但し何らかのやらかしを重ねて魔王的存在から権能を剥奪されており、尚且つコア・ドライビアの性質が完全にコイツの魔法に対するメタカードだった。

~用語・アイテム紹介~

・仮面ライダー網
トラッピングスパイダーのフォースライザー系ライダー。
今作2体目のオリライダーであり、滅亡迅雷.netの《net》に対応するライダーとなる。
能力は超筋力と炭素繊維ワイヤの射出、更に高圧通電と背部の機械節足による運動機能の拡張。分かり易く言えば仮面ライダー版アイアンスパイダーである。
高電導炭素繊維ワイヤ《カラミティ・テリトリー》は、射出し壁に先端を当てる事で分子間引力を生じさせ、ヤモリと同じ原理で強力に吸着。体重90キロを超えるライダーの振り子運動にも容易く耐える接着力を、壁の材質を選ばず発揮する。この機能はグローブとシューズにも搭載されており、重力の制約を極限まで削ぎ落としたような三次元的高速機動を可能としている。
また、粘着性の強い液状ポリマー(スティッキーポリマー)を生成し、ナゲナワグモのように敵の動きを封じるトリモチとして投擲する事も可能である。
胸部装甲と背面装甲の左右端には高性能単眼光学センサーを搭載し、電磁波の変動を感知する事が出来る。
右腕の蜘蛛型ガントレットの牙からは、カラミティテリトリーの接着を瞬時に解除して外す潤滑剤を噴射する。またポリマー粒子を噴射し、傷口を保護する応急手当も可能。
総じてレスキューに向いた構成となっているが、敵との戦闘にも充分以上に活躍出来るライダーである。

・仮面ライダー滅 フルブレイキングチェイサー
仮面ライダーチェイサー、及び魔進チェイサーのデータを統合して設計された、仮面ライダー滅の強化フォーム。
仮面ライダーチェイサーの意匠が組み込まれており、胸部に増設されたEXコア・ドライビアによって重加速にも対応出来るようになった。そして専用バイクも含め、機動力が格段に上昇している。
また、変身状態でキーのライズスターターを押し込む事で、チェイサーバット、コブラ、スパイダーのそれぞれの武装を展開する事も可能。
更に長押しする事で、全武装を組み合わせたデッドリベレーションを装着するトリプルチューンに移行。3分限定だが、攻撃力が大幅に上昇する。

・仮面ライダーチェイサー ルイニングスコルプス
仮面ライダー滅のデータを統合して設計された、仮面ライダーチェイサーの強化フォーム。
全身各所に滅と同じ局所防御装甲が追加されており、生存性が格段に上昇している。
また、新型バイラルコアを使う事で更なる戦術の拡張が期待出来る。

・フルブレイク・チェイサー
オリジナル技。
プロトシフトスピードを装填したブレイクガンナーでフルブレイクを発動し、エネルギーを圧縮して殴打、或いは高速エネルギー弾を射出する。
エネルギーの炸裂時に重加速フィールドを中和する作用があり、これを応用して次元の裏に隠れ潜む悪魔を引き摺り出す事が出来る。

・ライドスティンガー
仮面ライダー滅の専用バイク。モデルは蠍。
フロントカウルにバイラルコアやシフトカーを装填するスロットが設けられており、それぞれの機能を機体に反映する。またフルブレイキングチェイサーフォームだった場合、チェイサーバイラルアビリティの反映はこのマシンが優先されるようになる。
機体前面にはバイラルコアの緊急発出口、バイラルディスパッチャーが設けられており、内部に20台のシフトカー、バイラルコア、シグナルバイクを格納、輸送する事が出来る。また格納したアイテムの緊急リペア機能を内蔵してあり、損傷したアイテムを即座に修復して前線復帰させる事が可能。
チェイスの専用バイク、ライドチェイサーと合体し、特殊戦車ライドスティングコロッサーとなる機能を持つ。

・フルブレイキングチェイサープログライズキー
仮面ライダーチェイサー、及び魔進チェイサーのデータを封入したプログライズキー。
特徴として、総てのフレームがクリアパーツで統一されている。
拡張領域(バス・スロット)にはスペアのコア・ドライビアが格納されており、緊急時にはそれを起動する事でデュアルジェネレータ状態に移行。出力を倍以上に跳ね上げる。

・ルイニングスコルプスキー
トライドロンキーと同系統のキー型アイテム。
フォースライザー系に搭載された局所防御装甲の構成ロジックが内包されており、更に新型バイラルコア用のアップデート用ソフトをマッハドライバー炎に高速インストールする機能も持つ。
また、手に握る事でライドスティングコロッサーの遠隔操縦用リモコンとしても機能する。

狂化(インタニア)
悪魔の暴走モード。
人間の血肉を直接摂取する事により発動し、体内の魔力のリミッターを全て外す。
当然出力は跳ね上がるが、繊細な魔力操作が難しくなり、思考能力、注意力も低下する。
そして、普通ならば倒されても能力にデバフを負いつつ復活出来る悪魔が、ほぼ唯一直接殺す事の出来る状態になる。魔力のリミッターは悪魔側の支配者が掛けており、枷であると同時に魂を保護する障壁でもある。この加護下から抜け出してしまう為、狂化を発動した際に倒されれば魂は消滅。その悪魔と言う個体は完全に死滅し、復活も不可能となる諸刃の剣である。

・ジャッカー・カンケルピンチ
蟹の能力のジャッキングブレイク。
巨大な鋏模ったエネルギー体を2つ生成し、対象を挟んで拘束、或いは圧断する。ピンチ力は最大で118t。

・新型バイラルコア
現存するチェイサーバイラルコアを解析し、ライダモデルを元にアークが新造したバイラルコア。
種類はメインウェポンにホロビスコーピオン、ファルコン、ウルフ。更にフリージングベアーからホロビポーラーがあり、緊急冷却システムの補助を兼ねる。


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マーベルの章2
第1章 終わりと始まり


仮面ライダーマーベルの新章突入でございます!
7週連続日曜日に投稿するので皆様お楽しみに!


颯馬が仮面ライダーマーベルになってから3年

僕達レジスタンスは遂にバダンを追い詰めていた。

 

「ここだー!攻め込め―!」

 

銃を構えたレジスタンスの兵士たちが次々とバダンの戦闘員達を撃ち倒していく。

これまでの戦いでショッカー含むバダンの傘下組織を殲滅し、今は遂にバダン本部のあるアメリカ大陸に乗り込んでの戦いとなっていた。

ここまで来れたのは世界中のレジスタンスの協力だけでなく颯馬達仮面ライダーの活躍あってこそだ。

 

「トウッ!ライダーキーック!!」

 

経験と技術が光る仮面ライダー1号

バイクを駆り、コウモリの怪人に向けて飛び上がり、飛び蹴りを放って撃破する。

 

「ライダー!パーンチ!!」

 

パワーが自慢の仮面ライダー2号

クモの怪人が口から放つ糸を拳圧で吹き飛ばしてその赤い拳を敵に叩き込む。

 

「V3回転キック!」

 

26の秘密を兼ね備えたハイスペックな戦士、仮面ライダーV3

 

「ロープアーム!」

 

カセットアームを操るライダーマン

ライダーマンの右腕から放たれた縄が宙を飛ぶタカの怪人を捉え、その怪人に向けてV3が回転しながら蹴りを放つ。

 

「ライドルスティック!」

 

水中戦闘が得意な仮面ライダーX

棒状の武器、ライドルスティックでバラの怪人を殴打し…

 

「ライドルホイップ!」

 

剣状に変形したライドルで怪人の腹部を切り裂く。

 

「大切断!」

 

生物的な見た目の仮面ライダーアマゾン

野性的な動きでトカゲの怪人を翻弄し、腕のヒレで縦方向に真っ二つに切る。

 

「エレクトロ!ファイアー!」

 

電気を操る仮面ライダーストロンガー

ストロンガーを取り囲むカマキリの怪人やアリジゴクの怪人たちに向けて電流を放って感電させる。

 

「スカイキック!」

 

空を縦横無尽に飛び回るスカイライダー

空中で毒蛾の怪人と戦い、背後からボレーキックを放つ。

 

「チェンジ!エレキハンド!」

 

ファイブハンドと呼ばれる惑星開発用ツールと赤心少林拳を操る仮面ライダースーパー1

アメンボの怪人に電流を纏う拳を叩きこんでいき

 

「スーパーライダー閃光キック!」

 

空中で特殊な型を取ってから、怪人に飛び蹴りを放つ。

 

「衝撃集中爆弾!」

 

バダンによって作られ、忍者の様に様々な武器と技術を操る仮面ライダーZX

 

「ZXキック!」

 

赤いオーラを纏うライダーキックをカメレオンの怪人に向けて放つ。

 

----------------------------------------------------------------------------------------------

 

そしてバダンの戦闘員であるコンバットロイドに取り囲まれている1人の仮面ライダー。

 

『レジェンド・オブ・テンリングス!』

 

その名も仮面ライダーマーベル・レジェンド・オブ・テンリングス

赤き龍の鱗でできた衣を身に纏い、片手ずつ5本の腕輪を付けたその姿は新たに誕生した中華系ヒーローシャン・チーを思い起こさせる。

 

『ドラゴンアベンジャー!アッセンブル!』

 

シャン・チーの様に中華拳法を巧みに操り、コンバットロイド達を次々と薙ぎ倒していく。

更に腕に付いた10本の腕輪がエネルギーを纏い、繋がって鞭のようにしなりながらコンバットロイド達に打ち付けられていく。

近距離の敵には拳法で、中距離の敵にはテン・リングスの射出で対応して取り囲むコンバットロイドの数を次々と削っていく。

北条颯馬はこの3年間の戦いで新たなディスクを手に入れており、このシャン・チーディスクもその内の1つである。

 

「来たか…仮面ライダーマーベル…」

 

戦闘員達と戦闘を繰り広げるマーベルの前に1人の仮面の男が現れる。

彼の名はSYURYO、バダンの首領である。マーベルと共に戦うライダーの1人であるZXを黒くしたような姿をしており、赤いマントが彼の強さを象徴するように風に靡いている。

 

「お前は…」

 

「私こそバダンの首領。ここまで私を引き摺り出したことを誉めてやろう。だが…お前はここで終わりだ…我が前に屍となれ!」

 

SYURYOは10人の仮面ライダー達の持つ全ての能力をコピーしていた。

ライダー達はバダン傘下組織の研究施設で冷凍睡眠されている際に身体を解析されており、彼らの持つ力はデータ化されてSYURYOの体内に流れている。

 

「そういう訳にはいかないね!」

 

Xライダーからコピーしたライドルを構えるSYURYOに対してマーベルの腕から10本のリングが放たれる。

棒状にしたライドルでリングを弾こうとするSYURYOだったが、縦横無尽に飛び回るリングは振るわれるライドルをすり抜けて敵の腹部や胸部に襲い掛かる。

 

「衝撃集中爆弾!」

 

咄嗟に飛び上がりながら地面に衝撃集中爆弾を放つことでリングを一気に弾き飛ばす。

 

「X先輩の次はZX先輩の武器か…」

 

「エレクトロ!ファイアー!」

 

リングが一度マーベルの腕に戻るが、その隙を狙ってストロンガーのものをコピーした電撃が放たれる。

 

「危ないとこだった…」

 

咄嗟にマーベルは腕のリングを地面に向けて撃つことで飛び上がって電撃を躱す。

 

『マスター、ここはあのディスクを…』

 

「うん、任せて。」

 

ライダー達の技をコピーし多彩な能力でマーベルに向かっていくSYURYOに対し、サポートAIのジャービスは新たな策を颯馬に教える。

 

『トリッキーエージェント!』

 

策を聞いた颯馬は弓矢の名手であり最強のスナイパーであるホークアイと最強の女スパイ、ブラック・ウィドウのデータを秘めたエージェントディスクを挿入し

 

『エージェントアベンジャー!アッセンブル!』

 

弓矢と黒色のスーツを装備した仮面ライダーマーベル・トリッキーエージェントに姿を変える。

 

「チェンジ!冷熱ハンド!」

 

今度はスーパー1のファイブハンドをコピーして右手から高熱の炎を放つのに対して、マーベルは矢を発射。

矢の先端部分が変形して盾となり、高熱の炎がマーベルの身に届かない様に阻む。

 

『レッドマスター!』

 

そしてその間に新たなサポートディスクをベルトのサポートスロットに挿入する。

ベルト両端のスイッチを同時に押すことでそのディスクの力を身体中に流す。その力を表すように体には赤色のラインが走り、地面に着地すると共に…

 

「チェンジ!冷熱ハンド!」

 

SYURYOが使っていたファイブハンドの能力をコピーし、SYURYOに向けて高熱の炎を放つ。

 

「馬鹿な!?私の能力をッ…!?」

 

「元は沖さんの能力だけどね。」

 

アベンジャーズメンバーであるナターシャ・ロマノフはブラックウィドウと呼ばれるスパイ集団の一人である。ブラックウィドウはレッドルームという地で育てられた女スパイであり、その地で誕生した新たな戦士の一人がタスクマスターだ。

タスクマスターは見た相手の動きをコピーすることが可能で、仮面ライダーマーベル・トリックエージェントの持つ矢に能力を付与する力と組み合わせることで、彼自身が見た相手の能力を完璧にコピーすることが出来る。

 

「「エレクトロ!ファイアー!」」

 

ストロンガーの技をコピーしたSYURYOとその技をコピーしたマーベルの電撃がぶつかり合う。

火花が地の上で散り、岩肌に打ち付けられると消えていく。

 

「こうなれば!」

 

自身の持つライダー達の力をコピーされて動揺するSYURYOはスカイライダーの力で宙に向けて飛び上がる。

 

「待て!」

 

マーベルのそれに続き、能力をコピーして宙に向かって飛ぶ。

 

「ロープアーム!」

 

「マシンガンアーム!」

 

お互い空中でライダーマンのカセットアームをコピーして自身の右腕を変形させる。

SYURYOが振るうロープアームをマーベルのマシンガンアームから放たれる弾丸が弾き返し、幾つかの弾丸はSYURYOの身体を捉える。彼の装甲に当たった弾丸が爆ぜ、バランスを崩したSYURYOに更にマーベルが踵落としを決め、地面に向けて落ちていく。

 

「ここで決める!」

 

『エターナルズ!』

 

その間にメインスロットに新たなディスクの一つ、エターナルズディスクをマーベルドライバーに挿入する。

 

『ミステリアスアベンジャー!アッセンブル!』

 

セレスティアルズによって作られた人造生命体であるエターナルズ

彼らが各々持つ特殊な能力を全て兼ね備えた不死の戦士、その名も仮面ライダーマーベル・エターナルズに姿を変える。神秘的なその衣は青色や緑色の布で作られており、神秘的な金色のラインが至る所に引かれている。

右腕には金色のバングルが巻き付いており、そこには10人のエターナルズを表すアイコンがそれぞれ刻まれている。

 

「また新たな姿か…」

 

マーベルとSYURYOが地面に着地すると同時に向かい合う。

先に動いたのはSYURYOだ。

 

「V3キィーーーーーーック!!」

 

飛び上がってからマーベルに向けてV3キックを放つが…

 

『マッカリ!GO!』

 

その直前にマーベルは腕のバングル、エターナルガントレットにあるマッカリのアイコンに触れる。

するとマーベルの身体にエターナルズのメンバーであるマッカリの力が宿り、超高速で身体を動かす。

一瞬にして敵の射程から外れると飛び上がって敵の身体の上を舞い、一気に蹴り落とす。

 

「いつの間に…」

 

その間僅か1秒。

何が起きたのか分からず狼狽えるSYURYOの周囲をマーベルが駆け回る。

超高速で動く彼のことをSYURYOは捉えることが出来なかった。縦横無尽に駆けるマーベルはあらゆる方向からSYURYOに向かってはパンチやキック、タックルによる攻撃を仕掛け徐々にダメージを与えていく。

 

『スプライト!GO!』

 

続いてエターナルズメンバーのスプライトの力を身に宿す。

自身の分身を作り出してSYURYOを取り囲んで惑わす。

 

「衝撃集中爆弾!」

 

SYURYOが咄嗟に爆弾を投げるが爆発を浴びたのは幻影であった。

マーベルの本体は何処だとSYURYOが周囲を見回したその時だった。

 

『ファイナルアタック!エターナルズ!』

 

マーベルは自身のベルトの両端にあるスイッチを同時に押し、必殺技のユニマインドを発動する。

ユニマインド発動時にはガントレットの操作無しで10人全てのエターナルズの力を同時に使用することが出来る。

 

「エターナルコンボ!」

 

まずはマッカリの能力である超高速移動でSYURYOの背に一気に迫り…

 

「なっ…!?」

 

触れた物質を他の物質に変えることができるエターナルズのセルシの力を右手に宿してSYURYOに触れると、その身体は徐々に石に変化していく。

 

「な、何故だッ…!?何故貴様如きが!!所詮他の者の力を借りただけの貴様が!何故私を倒せる!!」

 

「さっき先輩達の力を真似してたアンタには言われたくないね…」

 

「そ…そんなッ…!馬鹿な!」

 

SYURYOの身体が骨も肉も装甲も全て石と化し、意識を完全に手放してしまう。

そして石となったSYURYOをエターナルズのギルガメッシュが戦う時と同じように腕部に光のアーマーを纏わせて石となったSYURYOを殴り飛ばす。

バダンの首領だった物は石の欠片と化してこの地に散る。

 

「颯馬が勝ったぞ!」

 

そのタイミングでバダンの怪人と戦闘員達は次々と消滅していく。

そしてその様子を見ていたレジスタンスの源田が声を上げる。

 

瞬く間に戦場にバダンの壊滅という情報が広がった。

歓声を上げる者、泣き崩れる者、仲間と抱き合う者等反応は様々だが全員に共通するのは嬉しいという感情だ。

数十年にも及ぶバダンとの長く苦しい戦いと彼らによる支配が終わり、ようやく開放されたのだ。

 

(借り物の力か……)

 

そんな中、勝利の立役者である仮面ライダーマーベル、北条颯馬は自身の拳をじっと眺めていた。

 

----------------------------------------------------------------------------------------------

 

「おう!颯馬!最近調子はどうだ?」

 

「普通です。」

 

バダンとの戦いが終わって1ヶ月が経った。

嘗てレジスタンスのメンバーだった人達は新しい日常生活を送るための準備をしていた。

レジスタンスで幹部だった人達はバダンによってすっかり荒れ果てた世界を復興させるためにルールを作ったりする所謂政治というものをするらしい。それには今目の前にいる源田さんも参加するらしい。

 

「ところで源田さん、その人達は?」

 

「ああ、この人達か?この人達は政治に参加してくださる文官の4人だ。」

 

僕は源田さんと一緒にいた4人の人が誰か気になったので聞いてみたところ、どうやらこの人達も政治を支えてくれる人達みたいだ。

 

「こちら、大江さん、中原さん、三善さん、二階堂さんだ。」

 

「よろしくお願いします。」

 

源田さんに紹介された文官の皆さんにお辞儀をする。

 

「源田さん、もしやこちらの人は?」

 

「ああ、仮面ライダーマーベルの北条颯馬だぜ。」

 

「この方が!?随分とお若い方なんですね…」

 

三善さんが僕の名前を聞くなり目を丸くして驚いた表情を見せる。

 

「本郷さんから評判は聞いております!私達のために戦ってくれてありがとうございます。」

 

「いえいえ…そんな……」

 

三善さんに握手を求められたので、握手をし返して応える。

そう言えば本郷さんを初めとする10人の先輩ライダーの皆さんは既に復興や治安維持の手伝いのために世界中の様々な場所を飛び回ってるそうだ。恐らくその時に僕の評判を聞いたのだろうか…

 

「三善、そろそろ…」

 

「おっと、これは失礼致しました。ありがとうございます。」

 

大江さんに声をかけられて三善さんは深々と頭を下げてから他の人達と一緒に近くの基地に向かう。

 

「これからこの辺の地域をどうやって治めていくかって会議なんだ。お前も来るか?」

 

「僕はそういうのはよく分からないので…」

 

「そうか、まあ無理強いする必要は無いしな。」

 

と言って源田さんも去っていく…

 

「これからどうしようか……」

 

生まれてから21年。僕はずっと戦いの中で生きてきた。

10代の頃には既に隼人と一緒にレジスタンス活動に参加して戦い続けていた…

隼人はコンピューターに強いからまだ何でも出来そうだけど僕はそうでも無い……

政治に関わっていける自信も無い。

戦い以外のことをこなせる気がしない…

 

(それにこの力は……)

 

その戦いに於いても僕は自分の力で戦えていないのかも知れない……

 

「な、何故だッ…!?何故貴様如きが!!所詮他の者の力を借りただけの貴様が!何故私を倒せる!!」

 

バダン首領の最期の言葉が僕の中で何度も木霊する。

生と死の狭間でトニー・スタークから受け取ったこの力は果たして本当に僕の物なのだろうか?

それにディスクも夢の中で見たヒーロー達の力だ…

 

「おーい!颯馬!」

 

そんなことを悩みながらマーベルドライバーを見つめていると親友の隼人の声が僕の耳に届いた。

 

「隼人?それに和田さんと畠山さんも……」

 

隼人の方を見るとレジスタンスの仲間である和田嘉雄さんと畠山海さんも姿を見せていた。

 

「何悩んでるの?とてもバダンを倒した英雄とは思えない表情してたよ。」

 

「うん、実はこの仮面ライダーマーベル……誰かから授かった力だから本当は僕の物じゃ無いんじゃないかなって思っちゃって…」

 

隼人達に自身の胸の内を明かすことにした。

前みたいに1人で抱え込むより話してしまった方が良いと思った。

 

「なるほどね、けど人間って皆誰かが作った物を使って生きてるから良いんじゃないかな?僕のパソコンだって父さん達が作ってくれた物だし。」

 

と言って隼人は自分のパソコンを僕にみせる。

 

「人間誰しも自分だけの力じゃ生きていけないよ。仲間だけじゃない、ご飯を作ってくれる人や物を作ってくれる人、そういった人達が居るからこそ生きていけるんだ。僕も復興の中でそのことをよく理解出来たよ。」

 

「難しいことはよく分かんねえけど…まあ、今はお前のモンってことでいいんじゃねえか?」

 

「ええ、それに誰が作った物かは分かりませんが…既に3年も使いこなしているのです。颯馬の力と言っても過言はありません。」

 

「皆…ありがとう……」

 

隼人達3人の言葉のおかげで少し心のモヤモヤが少し晴れた気がする。

 

「この力は授かった力だけど…それでも良いんだね。」

 

「うんうん、ところで今から僕ら釣りに行くんだけど気晴らしに一緒に行く?」

 

「うん、そうするよ。」

 

最近は色んなことを考えていたから少し疲れている。

ここは隼人のお言葉に甘えさせてもらおう。

 

「今日はいっぱい釣れる気がするぜ!」

 

「ええ、美味しい魚を釣って皆で食べましょう。」

 

ということで僕、隼人、和田さん、畠山さんの4人で魚釣りに行こうとした時だった。

 

『見つけましたよ。仮面ライダーマーベル』

 

何処からか声が聞こえた。そう思って辺りを見回すと。

 

「な、なんじゃこりゃ!?」

 

僕達は灰色のオーロラカーテンに取り囲まれていた。

 

「どうなってるんだ……?」

 

「迫ってくるよ!気をつけて!」

 

そのオーロラカーテンは僕達に迫って一気に呑み込んだ。

 

「ここは…?」

 

そして気付いた時には見たこともない場所にいた。

とても綺麗な部屋だ。バダンが残した施設でもここまで綺麗な場所は無かった…

 

「ようやく気が付いた様だな…」

 

「誰だ…?」

 

何処かに転移し辺りを見回す僕ら4人に1人の男が近づいてくる。

白いスーツとズボンに赤いスカーフ付けた筋肉質な中年のその男からは何処か威厳のようなものすら感じる。

 

「先に自己紹介をした方が良さそうだな。私は足利純志…この組織、アルティメイタムの司令官だ。」

 

「アルティメイタム?」

 

「ああ、君の持つマーベルドライバーを開発したのも我らアルティメイタムだ。」

 

まさか噂をしていたら本当に仮面ライダーマーベルの力を授けた人達に会えるとは……

授けた人達と言うよりかは…作った組織かな……?

 

「それで?そのアルティメイタムさんが颯馬に何の用なの?」

 

「単刀直入に言おう。北条颯馬…君の身体を調べさせてもらおう。」

 

そう言われた瞬間、後ろから現れたスーツ姿の男達が複数名現れて僕の腕を掴む。

咄嗟に助けようとした隼人達も別の男が割って入って阻まれる。

 

「オーウェン、検査室へ連れて行け。」

 

「承知しました。」

 

オーウェンと呼ばれた男の人にそのまま身体を持ち上げられて何処かへ連れていかれる。

 

「離せ!」

 

身体をジタバタさせてるけど彼は僕の身体を離す様子も見せない。

筋肉が付きまくってて頑丈なのかも知れないけどビクともしない。

 

「しっかり検査するように…」

 

「何する気だ!離せ!」

 

屈強な男達に担がれて僕はどこかへ連れていかれる。

 

「颯馬ー!」

 

検査って…僕はいったい何をされるんだろうか……

 

To be continued




設定集

新しいディスク
レジェンド・オブ・テンリングスディスク
仮面ライダーマーベル・レジェンド・オブ・テンリングスに変身するのに使うディスク
中華拳法と腕に付けた10本の腕輪、テン・リングスを巧みに操るヒーロー、シャン・チーの力を秘めている。
使用すればシャン・チーと同様中華拳法と腕に現れたテン・リングスを使って戦うことができる。

レッドマスターディスク
ブラック・ウィドウとホークアイの力を内包したトリッキーエージェントディスク専用のサポートディスク
ナターシャを始めとしたウィドウ達を育成していたレッドルームとそのレッドルームで作られたタスクマスターのデータが秘められていて、使用すればタスクマスターの様に見た相手の力を模倣することができる。

エターナルズディスク
仮面ライダーマーベル・エターナルズへの変身に使用する。
宇宙よりやってきたヒーロー達、エターナルズの力を秘めたディスク
左腕に付けたバングル、エターナルガントレットを操作することで各エターナルズ達の能力を使用できる。
必殺技発動時は同時に複数の能力をバングル無しで使いこなせる。


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第2章 アルティメイタム

マルチバース・多次元宇宙論

物理学の分野の1つである量子力学で研究される理論であり

〝現在、自分が存在している宇宙とは別の宇宙が複数存在する〟

というものでバダンとレジスタンスが戦いを繰り広げていた世界とアルティメイタムが存在する世界もマルチバースの関係性である。

そしてアルティメイタムはマルチバースの研究をしている組織である……

 

「はぁ…颯馬、大丈夫かなぁ……」

 

「今悩んだって結果は変わらねえだろ?んな事よりこれ!すごいぜ!色んな飲みもん出てくるぜ!」

 

颯馬が検査室に連れていかれた後、三浦隼人、和田嘉雄、畠山海の3人は待機室に案内されて、ソファに座って検査が終わるまで待つことになっていた。

待機部屋には自動販売機があり、それを使っても良いですよと渡されたお金を使って和田はジュースを買い込んではしゃいでいた。

 

「相変わらず和田さんはポジティブだなあ…」

 

「まあ、それがあの人のいい所ですからね。それよりこの部屋には見たことのない物ばかりですね…」

 

40年間戦争状態にあった彼らの世界に比べてアルティメイタムのある世界は技術がかなり発展しており、畠山は自分達の世界では未だ実現不可能な物の数々に舌を巻いている。

 

「2人とも、颯馬が心配じゃないの?どんな検査されてるか……」

 

「まあ、アイツは大丈夫だろ。ここの組織の奴らも悪い奴らじゃなさそうだったし。」

 

もじゃもじゃの髭を指で掻きながら和田が腰掛けて隼人の言葉に応える。

 

「確かに…そもそも彼に危害を加える程の組織であれば我々の事を拘束していたはず…」

 

「言われてみれば…なんて言うか僕達お客様って感じだよね……」

 

「細けえことは良いんだよ。ほら、これ飲んでみろ。」

 

冷静に考える畠山と隼人和田がコーラを差し出し、それを受け取った2人もグビっと飲んでみる。

 

「美味しい!初めて飲んだよ!こんな美味しい飲み物!」

 

「中々面白い感触ですね。」

 

初めてのコーラに2人も思わず笑みがこぼれる。

自分達の世界では味わえないコーラに3人が幸福感を味わい、感動していると、待機室に1人の女性が入ってくる。

 

「あれ?貴方達が異世界からのお客さん?」

 

「ん…初めまして……」

 

その女性、もとい少女は見た所颯馬が初めて仮面ライダーマーベルに変身した時と同じ歳ぐらいで背は170近くある。オレンジ色の髪をショートボブ程度の長さに切り少しウェーブもかかっている。

明朗活発な美人といった印象の凛々しい顔立ちをしている。

 

「初めまして!私はアルティメイタム所属の伊東理桜って言います!」

 

「あ、僕は三浦隼人って言います。」

 

「俺は和田嘉雄だ!」

 

「私は、畠山海と言います…」

 

「畠山さんって言うんですね!!」

 

理桜に続いて隼人達が自己紹介をすると、突如彼女は畠山の方に駆け寄ってその手を握る。

 

「あの…お美しい方ですね!」

 

「え、ええ…」

 

畠山はこの3人…基レジスタンス内でも特に凛々しい顔立ちをしており屈指のイケメンだ。

女性が言い寄ってくることはよくある。

 

「もしかしてコイツ…」

 

「うん、中々のイケメン好きみたいだね…」

 

一方の伊東理桜は所謂イケメン好きの女性であり、それこそ畠山の様な男前には目がない。

 

「あ、あの…筋肉も見せてもらっても…」

 

「お断りします。」

 

因みに彼女は筋肉も好きであり、鍛えられた美しい筋肉にすぐ見惚れてしまう。

だが今回は畠山に断られてしまい少し不満そうな表情を見せる。

 

「で、君はこの部屋に何しに来たの?まさか僕たちの顔見に来ただけってことはないよね。」

 

「ええ、勿論です!足利さんからあなた達にも色々と説明しておけと言われたので、やってきました!」

 

そう言うとタブレットで3人にデータを見せる。

 

「触って動かしてる…」

 

「凄い技術力です…」

 

「えーと、私達アルティメイタムの紹介から始めると…アルティメイタムは簡単に言えばマルチバースの平和を守る組織です。」

 

タブレットの技術に驚く2人に困惑しつつも理桜は説明を始めた。

マルチバースに関する解説、マルチバース間で起こる戦争の話、アルティメイタムは技術の発展によってマルチバースを観測できるようになった世界に作られたこと、そしてアルティメイタムはマルチバースの平和を守るための組織であること。

これらの情報が彼女の口から語られて、隼人達もそれを何とか理解した。

 

「うん、大体君達の組織についてはよく分かったんだけどマーベルドライバーについても教えて欲しいな…」

 

「ええ、まずはこれなんですけど…」

 

理桜は自身のカバンから1つのドライバーを取り出す。

 

「こちら、ケルベロスドライバーと言います!」

 

マーベルドライバーにもあるディスクを挿入できるスロットが3つ付いており、ケルベロスと言う名前を表わす様な特徴である。

ベルトの上部には真ん中のディスクスロットに対応したスイッチが、両端にはそれぞれのスロットに対応したレバーが装着されている。

 

「これって、颯馬も使ってるヒーローディスクが使えるのかな…?」

 

「はい!足利さんが言っていたのは…マーベルさんの持つベルトやディスクはこのケルベロスドライバーの試作品らしいですよ。」

 

ケルベロスドライバーはマーベルドライバーと比べると使えるディスクの数も種類も増えている。

正にケルベロスドライバーはマーベルドライバーの後継機と言っても過言ではないだろう。

 

「試作品がどうして颯馬の下に…」

 

「詳しいことは私もあまり分かってないですけど…とある要因でここにあるマーベルドライバーがあなた達の世界に飛ばされてしまったと聞いています…」

 

要因は不明であるがマーベルドライバーが颯馬の手に渡ってしまい、何度も使っていた為今回はそのマーベルドライバーが颯馬に健康被害を及ぼしていないかを確かめるための検査である。

 

「にしてもその颯馬さんという方お会いしてご尊顔を拝してみたいですね~」

 

因みに彼女はまだ颯馬の顔を見たことない。

イケメン好きの理桜は異世界の仮面ライダーである颯馬がどんなイケメンなのか内心ワクワクしている。

 

「ハハハ…きっと喜んでくれそうだけどね…」

 

「確かに、颯馬も中々凛々しい顔立ちをしていますからね。」

 

「ホントですか!?早くお会いしたいです!!」

 

2人から齎された情報に少し興奮気味の理桜だったが、そんな彼女を遮るように施設内にサイレンが響き渡る。

 

「何が起こった!?」

 

「どうやら敵が現れたみたいですね…私行ってきます!」

 

「あ…ちょっと…」

 

そう言って理桜はケルベロスドライバーを手に持って廊下に飛び出して駆けていく。

それを追おうとした隼人だが…

 

「ここは止めておきましょう。勝手に出ると何を言われるか…」

 

畠山に止められる。彼らが勝手なことをすれば颯馬に危害が及びかねない。

ここは冷静に去り行く彼女の背中を見届けるだけにとどめて彼ら3人は待機室に戻る。

 

『失礼、御三方…説明の途中にこんなことになってしまって…』

 

「うわ!急に映った!?」

 

すると休憩室にあったテレビが突然起動し、足利が映し出される。

 

『失礼、失礼、この世界は他の異世界からよく怪人が来てしまうんだ。今彼女が倒しに行ったところだ。丁度ケルベロスドライバーのデモンストレーションとしてその様子を見ていただこう。』

 

そういうとテレビ画面に街の中に現れた怪人、ソロスパイダーが映し出される。

ミラーモンスターの住む世界から現れたのであろう怪人は栄養分を摂取しようと人々に襲い掛かる。

 

「そこまでだ!」

 

その場にアルティメイタムの兵士達が現れてソロスパイダーに向けてアサルトライフルで銃撃するが…

 

「新手か!?」

 

兵達の後ろからソロスパイダーと同じ蜘蛛型のミラーモンスターであるレスパイダーとミスパイダーが襲い掛かる。

背中を切られた兵達が地面に倒れ伏し、残った者達も後退しながら3体の怪人を撃つ。

しかし弾丸は怪人達の生体装甲の前に鉄屑と化し、地面に落ちていく。

 

「おっと、皆大丈夫!?」

 

その場に理桜が駆け付けて、倒れている者達の身体を揺すってまだ動けるかどうか呼びかける。

 

「よくも私の仲間を傷付けたな!アンタら3体纏めて許さないよ!」

 

声を掛けられた兵のうち、何人かは深手を負ってしまっている。

戦いの場に身を置いている身ではあると言え、同じ組織の人間が傷ついてしまったことに理桜は怒りを覚える。

他の者達よりも前に出て3体の蜘蛛型モンスターを見据える。

 

『ケルベロスドライバー』

 

普通の女性よりも引き締まった彼女のウエストにケルベロスドライバーが巻き付けられる。

 

『ドラゴンIDカード!』

 

ドラゴンの絵が描かれたカードがケルベロスドライバーのセンタースイッチより奥にあるカードスロットに挿入される。

ケルベロスドライバーで使用できるヒーローディスクの種類は膨大であり、個々の力も強い。ドライバーだけでディスクを使えば各ディスクの力が反発しあって力を完全に発揮できなくなってしまう。

3つのディスクを使うケルベロスドライバーではあるが、カードによって使うディスクを絞り込み膨大なディスクの力をある程度引き出しつつ制御することが出来る。

ドラゴンIDカードを挿入したことで、理桜のケルベロスドライバーはドラゴン系のディスクが制御できるようになった。

 

『仮面ライダー龍騎!仮面ライダーセイバー!仮面ライダーウィザード!』

 

理桜が3体の仮面ライダーのヒーローディスクをケルベロスドライバーのレフトスロット、センタースロット、ライトスロットに挿入し、ベルト上部のセンタースイッチを押し込む。

 

「変身!」

 

そして左右のレバーを一気に引く。

 

『ドラゴニックライダーズ!バーンアップ!』

 

それと同時にケルベロスドライバーから龍騎、ウィザード、セイバーのホログラム体が現れて理桜の周りで決めポーズを決める。そして3体のライダーの姿が理桜に重なると赤い龍の鎧が形成されて理桜の身体に装着される。

炎のエフェクトが彼女の周囲を舞い、彼女が変身する仮面ライダーブレイクの赤いボディを際立たせる。

 

「私の逆鱗は熱いわよ!」

 

『レフトパワー!ファースト!』

 

そう言って彼女がライトスロット側のレバーを引くと仮面ライダー龍騎のディスクの力が発動され、右腕にドラグセイバーを装備しミラーモンスター達に切りかかる。

華麗な身のこなしで彼らの振るう爪を避けつつ的確に怪人達の胸を切る。

 

「まずはアンタだ!」

 

他の2体が切り倒されて怯んだ隙にまずはレスパイダーを集中的に狙う。

龍の尾を模したその刃でレスパイダーの胸部を横一閃に切り裂く。

反撃しようと振るわれた両椀の爪を彼女がしゃがんで避けると腹部にドラグセイバーを突き立てて抉る様に切る。

 

『レフトパワー!セカンド!』

 

更に二度右側のレバーを引くと右腕に仮面ライダー龍騎の武器であるドラグクローがブレイクの右腕に装備される。

赤い龍の頭部を模した手甲がミスパイダーに打ち込まれる。

 

「昇龍突破!」

 

手甲を撃ち込むと同時に炎が放たれ、突き飛ばされたミスパイダーの身体が炎に包まれ爆散する。

 

「まずは一体!」

 

今度はレスパイダーとソロスパイダーが同時にブレイクに向けて襲い掛かり、上から爪を振り下ろそうとする。

 

『センターパワー!ファースト!』

 

そのタイミングでブレイクはベルト上部のセンタースイッチを押し、仮面ライダーセイバーの力を引き出す。

セイバーの扱う聖剣、火炎剣烈火を抜刀し、振り下ろされる怪人達の爪を受け止める。

 

「ハァッ!!」

 

怪人達の腕を上に押し退けると炎を纏った刃を横一閃に振るい退けると。

 

『センターパワー!セカンド!』

 

今度はセンタースイッチを二度押すと、神獣ブレイブドラゴンが召喚されてソロスパイダーに向けて襲い掛かりその間にブレイク自身は火炎剣烈火を手にミスパイダーと対峙する。

 

「シャァ!」

 

ミスパイダーが放った糸を炎を纏った刃が焼き切る。

 

「その程度じゃ私に勝つのは100年早いわ!」

 

ミスパイダーは今度は飛び上がって牙で噛みつこうとするが、今度は火炎剣烈火を下から上に突き上げる様にして切ると開口したミスパイダーの顎が切り裂かれる。

 

「これで終わりよ!」

 

さらに横一閃に振るわれた刃はミスパイダーの首を捉えて一気に切り落とす。

 

「後は一体!」

 

ミスパイダーの首と首を失った身体が地面に落ちて鈍い音が響くと、ブレイクはブレイブドラゴンの攻撃を受けて押されているソロスパイダーに向けて走り出す。

 

『ライトパワー!ファースト!』

 

そしてベルト左側のレバーを引くとブレイクの胸部にウィザードラゴンの頭部が、両椀に爪が、背部に尾が、そして背中に翼が生える。

 

「この姿、チョーカッコいいでしょ!私のお気に入り!」

 

オールドラゴンの姿に張り切りつつも、低空飛行状態でソロスパイダーに突進。

ソロスパイダーが両椀の鉤爪で迎撃を試みるが、ブレイクの両椀に装備された爪が敵の鉤爪を打ち砕く。

更に身体を振るい、尾をソロスパイダーに打ち付けて吹き飛ばす。

 

「これでトドメ!」

 

オールドラゴンが解除されたブレイクはセンタースイッチを押してから両側のレバーを一気に引く。

 

『オールフィニッシュ!』

 

「ドラゴナイト…ストライク!」

 

炎のドラゴンエネルギーを纏ったブレイクはソロスパイダーに向かって走り、飛び上がってから右足を突き出してボレーキックを放つ。

ソロスパイダーの胸部にその一撃が炸裂し、その身は吹き飛ばされながら爆散する。

 

「お仕事、完了っと…」

 

ブレイクは無事に3体のモンスターを退治した理桜は変身を解除してその場から去る。

 

「す、すごいッ…!」

 

「アイツバカみてえに強い!」

 

「颯馬に勝るとも劣らない実力でしたね…」

 

一方、テレビの画面でその様子を見ていた隼人達3人は仮面ライダーブレイクの戦闘映像にただただ魅入っていた。

 

「これがケルベロスドライバーの力なんだね…」

 

「ええ、中々に強力な力でした。流石マーベルドライバーの上位互換と言った所だ…」

 

ケルベロスドライバーの持つ力は強大で、マーベルドライバーの後継機に相応しい実力であった。

3つのディスクを巧みに操る仮面ライダーブレイクの力は現在のマーベル以上ではないかとすら思われる。

 

「けどよお、こんなに強いんだったら所謂…なんつーんだっけ…」

 

「マルチバースの防衛や平和維持には十分有効な戦力ですね。逆に言えば他の世界を侵略することもできてしまいますが…」

 

ケルベロスドライバーは既に量産体制が整っている。

アルティメイタムがこのベルトを使う軍を作ってしまえばかなりの脅威となる。

その事実に和田、畠山、そして三浦隼人の3人はただただ口を閉ざすだけだった…

 

 

----------------------------------------------------------------------------------------------

 

「良い出会いないかな~」

 

さて、敵を倒したこの私伊東理桜は基地に戻ったんだけど最近はなんて言うか…少し寂しい。

生まれてこの方17年、アルティメイタムの施設で過ごして戦うために生きてきた。

けどそんな私にも男の人との恋愛に憧れはある。イケメンで筋肉質で優しい男の人と付き合いたいな~

でも、アルティメイタムの組織内じゃ出会いが無いんだよね…さっきの畠山さんともっと話しておけばよかった…

 

「あれ、確か此処って…」

 

なんてこと考えてたらうっかり基地のメディカルセンターがあるフロアに来てしまった。

ここではさっきの戦いで怪我した人の治療を行っているんだけど…

 

「あれ?オーウェンさん?」

 

「おう、理桜か。丁度いい所に」

 

戻ろうとした丁度その時、検査室から出てきたオーウェンさんとバッタリ会った。

オーウェンさんは海外から来た人でアルティメイタムの警備主任をしている人だ。

アメリカから来たと言うだけあってハリウッド俳優の様な顔立ちに良い筋肉。

ワイルド系だけど私のストライクゾーンにはしっかり入ってる!

ただ奥さんが居るから残念ながら私は手を出せない…

 

「なあ理桜、一つ頼まれてくれないか?」

 

「どうしたんですか?」

 

「実は今、とある人を検査中なんだが、俺は足利さんに呼ばれてしまってね…少し私の代わりにとある方の付き添いをしておいてくれないか?」

 

「そういうことなら大丈夫っすよ~」

 

今は仕事もないしここはオーウェンさんの頼みを聞くことに…

彼に案内されて私はある検査室に入る。

そう言えば今日検査受ける人って確か…

 

「あれ…オーウェンさんは?」

 

検査室に入った時に私が目にしたのは上半身裸で検査用のベットで寝転ぶ一人の男…いや、イケメンだ。

美しい青髪に凛々しい顔立ち、それに検査中で丁度脱いでたお陰で晒される鍛えられた上半身!

この割れた腹筋にガッシリした上腕三頭筋…ああ…ドストライク!

 

「あの~さっきから何なんですか?そんなにジーっと見てきて…」

 

「ああ!ごめんなさい!良い筋肉だったのでつい…」

 

「検査中なんだから仕方ないでしょ…」

 

彼はそう言って寝転んだ状態から起き上がってベッドに座る。

 

「え~と、お名前は?」

 

「北条颯馬…」

 

北条颯馬?聞いたことあるような…

 

「あ!もしかして仮面ライダーマーベルさん!?」

 

「う、うん…そうだけど…」

 

思い出した!今日は仮面ライダーマーベルの変身者の方の検査の日だった!

マーベルの変身者さんがどんなイケメンか想像してたけど…理想以上ね!

 

「あの…私!伊東理桜って言います!」

 

「う、うん…えーと…よろしくね…?」

 

あどけない表情も堪らないわ~

このまま御近付きに…

 

『緊急事態!緊急事態!フェイズ5!』

 

「あーもう!こんな時に!」

 

と思っていたその時、基地内に緊急事態を知らせる警報が響き渡る。

 

「これって…?」

 

「フェイズ5…基地が襲撃を受けているみたい!」

 

「ええ!?それってかなり大変なことに…」

 

かなりまずい…

何年もアルティメイタムにいるけどこんな事態は初めてね…

 

「あ、あのッ…仮面ライダーマーベルの力…貸していただけませんか…?」

 

「協力体制だね。いいよ…僕も仲間達を助けないといけないし…けどまずは僕のベルトを!」

 

「分かりました!一緒に行きましょう!」

 

まずは颯馬さんと一緒にベルトを探して敵を…

 

「うん、行こう!」

 

と言って2人駆け出す…

ってちょっと待って!颯馬さん裸のまま移動しちゃうの!

 

「あ、ちょっと!」

 

けどその格好のまま走ると…

筋肉の躍動が…凄いッ…!

 

----------------------------------------------------------------------------------------------

 

「さてさて、俺のショーの始まりだ!」

 

黄色と黒色の服を纏い、オレンジ色の髪をした釣り目の青年が複数体の怪人を引き連れてアルティメイタムの基地の前に陣取っている。

 

「さあ、お前ら…こいつらにBADENDを叩き付けてやろうぜ!」

 

そして彼と彼の率いる怪人達がアルティメイタムの基地に攻めかかる…

 

「この力も見せつけてやるぜ…トライダーキュラーの力もな…!」

 

漆黒のケルベロスドライバーを手に、その男は怪人達と共に基地に向かって侵攻していくのだった…

 

To be continued




解説
アルティメイタム
マルチバースの平和を守るために作られた組織。
マーベルドライバーを作りそのデータ等からケルベロスドライバーを作った。

ケルベロスドライバー
アルティメイタムが開発したベルトで3枚のヒーローディスクと共に使用する。
各スロットにディスクを挿入し、上部のセンタースイッチと両端のレバーを引くことで変身できる。
センタースイッチを押すとベルトの真ん中のスロットに入ってるディスクの力を、レフトレバーを引くとベルト左側のレフトスロットに入ってるディスクの力をライトレバーを引くとベルト右側のライトスロットに入ってるディスクの力を、使うことができる。


IDカード
ケルベロスドライバーでより正確にディスクの力を引き出すのに使うカード
どのディスクを使ってもそのカードに準じた姿になる。

ヒーローディスク
前回から登場しているアイテムでヒーロー達の力が秘められている。
仮面ライダーを始め多くの種類のディスクがある。

足利純士
アルティメイタムの総司令官

オーウェン
アルティメイタムの警備部長。
日本人の奥さんがおり、仕事に対するプロ意識が高い。

伊東理桜(CV佐藤利奈)
アルティメイタムに所属する18歳の少女
明朗快活な明るい少女で、イケメンと筋肉に目がない。
美しい顔と筋肉を持つ颯馬に少し見とれてる
仮面ライダーブレイクの変身者

仮面ライダーブレイク
ケルベロスドライバーとドラゴンIDカード、3人のドラゴン系仮面ライダーの力を使って変身する。
使用するディスクの解説

仮面ライダー龍騎
ファースト
ソードベントを使用してドラグセイバーを装備する。
セカンド
ストライクベントを使用してドラグクローを装備する。
サード
アドベントを使用してドラグレッダーを呼び出す。

仮面ライダーセイバー
ファースト
火炎剣烈火を装備する。
セカンド
神獣ブレイブドラゴンを呼び出す。

仮面ライダーウィザード
ファースト
ウィザードのオールドラゴン形態に変化する。


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第3章 ベリアル君臨

「貴様がこの襲撃の首謀者か!」

 

「おやおや、お元気そうで…オーウェンさん……」

 

突如アルティメイタムの基地が襲撃を受けた。

その基地の入り口付近で警備部隊と襲撃犯が対峙していた。

基地の白い壁は既に燃えたりして黒くなってしまっている。

 

「貴様は…何者だ!?」

 

「俺の事忘れちまったのかよ!?俺は楠木楓!別名、ベリアル…」

 

銃を構えるオーウェンの前でオレンジ髪の襲撃犯が名乗りを上げる。

 

「楠木っ…!?」

 

オーウェンはその名前に聞き覚えがあった。

 

「思い出したみたいな顔しやがって…けどもう遅い……お前らはもう俺に殺される運命だ。」

 

『トライダーキュラー!』

 

ベリアルは自身の腰に漆黒のケルベロスドライバーを付ける。

 

「こっちだって!」

 

『ケルベロスドライバー!』

 

『セキュリティIDカード!』

 

オーウェンもケルベロスドライバーを身に付けてセキュリティIDカードを挿入する。

 

『仮面ライダーエターナル!仮面ライダーゲンム!仮面ライダーエボル!』

 

「変身」

 

『ダークライズ!ダークライダーズ!』

 

フォールンは3枚のダークライダーのディスクを使って仮面ライダーベリアルに…

 

『仮面ライダーG3!仮面ライダードライブ!仮面ライダーアクセル!』

 

「変身!」

 

『ポリスライダーズ!ガードアップ!』

 

オーウェンは3枚の警察ライダーの力を使って仮面ライダーポリスにそれぞれ変身する。

そして2人が互いに向けて走り出して拳をぶつけ合った頃…基地内部にも既に敵の戦闘員達が侵攻していた。

 

「颯馬!颯馬!」

 

休憩室で待機していた隼人達3人も部屋から避難しつつも颯馬を探していた。

 

「君達!そこにいたのか!」

 

「あ、あなたは!?」

 

3人の前にアルティメイタムの幹部服を着た人間が現れる。

 

「私は斯波!足利指令に言われたあなた達の避難誘導をすることになった者だ。」

 

「ありがとうございます。」

 

「ああ、早速私に付いて来てくれ。」

 

畠山が礼を言うとすぐに斯波は彼らを連れて敵に侵攻されていない廊下を通って避難する。

 

「幹部さん見ーつけた。」

 

だが逃げる4人の行く手を阻むように半袖短パンで金髪の青年が彼らの前に立つ。

 

「何者だ!貴様!」

 

斯波が咄嗟にその青年に銃を向ける。

 

「僕はバグル、別名トリックスター」

 

バグルと名乗った少年の目が光り、オレンジ色の細胞の様なものに包まれると頭部にゲームのキャラの様な髪の意匠がある紫色の怪人態に姿が変わる。

 

「ベリアル様の為にもこの組織、ぶっ壊してあげるよ。」

 

その怪人は右手に持っているロングソードを斯波に向けて振るうが、斯波は間一髪でしゃがんでその横一閃を避ける。

 

「ハッ…!」

 

しゃがんだ状態の斯波は持っている銃をバグルの腹部に撃つ。

 

「皆さん下がって…」

 

『ケルベロスドライバー!』

 

3人に後ろに下がるように指示すると斯波はケルベロスドライバーを取り出して腰に巻く。

 

「あのベルトって…!?」

 

「何本あんだよ…」

 

「見せてあげよう…アルティメイタムの傑作を!」

 

『タウロスIDカード!』

 

斯波は自身のケルベロスドライバーに牛のアイコンが描かれたカードを挿入する。

 

『仮面ライダーゾルダ!仮面ライダー響鬼!仮面ライダーバッファ!』

 

レフト、センター、ライトのそれぞれのディスクスロットに3枚のヒーローディスクを挿入するとセンタースイッチを押す。

 

「変身!」

 

そして斯波が両端のレバーを引く。

 

『バッファローライダーズ!パワーアップ!』

 

すると斯波の身体は筋骨隆々な牛の鎧に包まれる。

紫と緑の混じったその重厚感のある走行や金色の角が牛らしさを表している。

 

『レフトパワー!ファースト!』

 

「受けてみろ!」

 

斯波が変身した仮面ライダーカウズがベルトのレフトレバーを引っ張ると肩の砲台が展開しキャノン砲がバグルに向けて放たれる。

 

「へ~そういう攻撃も出来ちゃうんだ…」

 

だがバグルは星型のエネルギーシールドを使って2つのエネルギー弾を防ぐ。

 

「貴様…その様なことができるのか!?」

 

「ああ、楽しもうね。」

 

剣を手にカウズに切りかかるバグルにタックルして食い止める。

 

「君達は先に逃げろ!」

 

「で、でも…!」

 

「早く!!」

 

「ごめんなさい…生きて戻ってくださいね…」

 

カウズがバグルを食い止めている間に隼人達3人は別の道から逃げていく。

 

「僕のベルトは…!?」

 

「あなたのことも検査してたんだったら、多分このフロアでベルトとかも解析してるかも!」

 

また、襲撃に対処するためにマーベルドライバーを探しに来た颯馬達はアルティメイタムの研究フロアに来ていた。

 

「あ!もしかしてこれですか!?」

 

「うん、これで合ってるよ。」

 

とある研究室に入った時に丁度そこにマーベルドライバーとヒーローディスクが置かれていたので颯馬はそれらをすぐに回収する。

 

「早速行こう!」

 

『マーベルドライバー!』

 

(上半身裸のままベルト巻いてる姿もカッコイイ~)

 

『ケルベロスドライバー!』

 

なお、検査の時の格好のままなので颯馬は上半身裸の状態であり、その姿に理桜は目を輝かせながらもケルベロスドライバーを腰に巻く。

 

『ドラゴンIDカード!』

 

理桜が自身のベルトにドラゴンIDカードを挿入すると、2人は各々のヒーローディスクも自身のベルトに挿入していく。

 

『スタークスーツ!』

 

『仮面ライダー龍騎!仮面ライダーウィザード!仮面ライダーセイバー!』

 

「「変身!」」

 

『アイアンアベンジャー!アッセンブル!』

 

『ドラゴニックライダーズ!バーンアップ!』

 

そして2人が同時に変身し、仮面ライダーマーベル・スタークスーツと仮面ライダーブレイクに姿を変える。

 

「変身してもカッコいいですね!とにかく他の人達を助けに行きますよ!」

 

「うん、急いだ方が良さそうだね…」

 

彼らが変身した時には既に、廊下中に敵の戦闘員である機械兵ガーディアンが点在している。

そんな彼らを各々の手段で2人は次々と撃破していきながら進んでいく。

ブレイクは剣を使った近接攻撃で切り倒していき、マーベルが掌のリパルサーレイで遠くの敵を撃ち倒していく。

 

「皆何処なの!?」

 

「あそこじゃないかな?」

 

2人が敵を進みながら進んでいくと基地の正面玄関に行きついた。

その場では警備兵と数名のライダーが戦っていたが…

 

「理桜!来るな!」

 

その場に飛び出そうとしたマーベルとブレイクをオーウェンが変身したポリスが大声を上げて制止する。

だがその判断は正しかった。

黒いエネルギー弾がポリスに向けて放たれて胸部で炸裂する。

 

「オーウェンさん!!」

 

ポリスの身体は大きく吹き飛ばされて壁に打ち付けられる。

 

「大した事ねえなァ…ここのライダー共は…」

 

「アンタ誰よ!ここに何の用!?」

 

「俺はベリアル、仮面ライダーベリアル!このアルティメイタムをぶっ潰しに来たぜ!!」

 

仮面ライダーベリアルが掌の上で幾つものエネルギー弾を作り出してマーベルらに向けて一気に放つ。

 

『ナノマシンアーマー!』

 

マーベルは咄嗟にナノマシンアーマーのサポートディスクをスロットに挿入して、自身のアーマーをナノマシン製のものに変化させる。

掌からナノマシン製の盾を作り出して襲い来るエネルギー弾を防ぐが…

 

「なんて威力だ…」

 

その防壁は攻撃を防いだのみで役目を終える。

穴だらけになった盾をマーベルは投げ捨て、足のブースターで加速しながらベリアルに向けて突進していく。

 

「この程度かァ…?」

 

だが、そのマーベルに向けてダウンから何発もの光弾が撃たれる。

ナノマシンで幾重にも盾を作って防ぐが、次々と防壁が削がれていく。

 

「ジェノサイドロボットシュート!」

 

さらにベリアルは右腕に機械の腕を纏わせると闇のオーラを纏わせた状態でマーベルに向けて解き放つ。

 

「危ない!」

 

その攻撃もマーベルはナノマシンで形成した盾を作り出して防ごうとするが、その機械の拳は盾を貫いてマーベルの身体にぶつかるとともに爆発する。

 

「颯馬さん!」

 

「大丈夫っ…!」

 

吹き飛ばされたマーベルの装甲は既にナノマシンで修復し切れずに肌が露出してしまっている。

 

『装甲の損傷率34%』

 

攻撃の衝撃で地面を転がるがすぐに体制を立て直して立ち上がろうとしたが…

 

「ジェノサイドドラゴニック!」

 

ドラゴン型のエネルギーを生成してその口から闇のエネルギーを秘めた炎がマーベル目掛けて放たれる。

 

『レフトパワー!ファースト!』

 

咄嗟に彼らの間にブレイクが割り込むとウィザードのオールドラゴンの力をその身に具現化させ、胸に装備した竜の頭から火を噴いてぶつけ合う。

 

「ありがとう!助かったよ!」

 

「ええ、今のうちにアイツに攻撃を!」

 

「任せて!」

 

2つの炎がぶつかり合って拮抗する間にマーベルはベルのディスクをベルトに挿入する。

 

『ザ・スペース・キャプテン!』

 

キャプテンマーベルの力を秘めたヴァースディスクをベルトに入れて

 

『ストロングアベンジャー!アッセンブル!』

 

仮面ライダーマーベル・ザ・スペース・キャプテンに姿を変えると宇宙由来のエネルギーを纏ってベリアルに向けて突進する。

 

「喰らえ!」

 

低空飛行の状態でマーベルがベリアルに激突すると、2人の纏うエネルギーがぶつかり合う。

少し身体を後退させたベリアルに向けてマーベルはフォトンブラストを連続で撃つ。

 

『ファイナルアタック!ザ・スペース・キャプテン!』

 

何度かの攻撃で手応えを感じ、ベルト両脇のスイッチを同時に押して必殺技を発動する。

 

「フォトンストライク!」

 

宇宙由来のバイナリーパワーをその身に纏わせるとベリアルに向けて突き進み、その身がぶつかり合うと同時に高火力のフォトンブラストを解き放つ。

 

「やった!」

 

「いや…まだだ…」

 

その爆発により砂埃が舞い、ブレイクは勝利を確信したがマーベルはまだ油断せず臨戦体制のままだ。

 

「まだ油断しねえのは褒めてやる!だがなあ、攻撃がぬるい!」

 

ベリアルが右手を振るうと真空刃が放たれ、一瞬でマーベルの胸部装甲を切り裂く。

 

「しまった…」

 

その刃の速度に追いつけなかった颯馬は、攻撃をまともに受けてしまいそのダメージから地面に膝を突く。

 

「ハアアアアアアア!!」

 

だがその間にブレイクが背中から生える翼で宙え飛び上がってから、その身を回転させつつ降下してベリアルに向けて突撃する。

 

「当たる前から分かるぜ…その程度の攻撃じゃ効かねえってな。」

 

だが彼女に向けて闇を纏った右足で前蹴りを放つと、ブレイクの身も突き飛ばされてしまう。

 

「俺を踏み台にして作ったライダーシステムの割にもどいつもこいつも弱いな…」

 

「皆のことを馬鹿にするな!」

 

『ミステリアスアベンジャー!アッセンブル!』

 

今度はエターナルズの力を身に宿した仮面ライダーマーベル・エターナルズに姿を変えて颯馬は再び立ち上がる。

 

『マスター…この形態であれば敵、ベリアルを倒せる確率は50%です。』

 

「五分五分か…」

 

『ええ、ですが敵を倒せる確率は1番高いでしょう。』

 

「だったらやるしかない!」

 

マーベルが左手首に装備したバングルに触れる。

 

『マッカリ!GO!』

 

マッカリの力を身に宿すとマーベルは高速でベリアルに向けて駆けていき、右から左から次々とベリアルに向けて拳や蹴りを放っていく。

 

「確かに速い。けどそんな攻撃じゃ効かないぜ。」

 

「そう言うと思った…」

 

『ファストス!GO!』

 

一瞬のうちにエターナルガントレットに触れて、ファストスの力を身に宿すと彼の道具を作り出す能力で即座に拘束具を作り出し…

 

「けどこれはどうかな?」

 

拘束具が展開すると生成された輪がベリアルの両手首と両足首に巻き付き、そこから伸びる鎖が地面に突き刺さる。

楔が地面に刺さることで体の4箇所を固定されてしまいベリアルは身動きが取れない。

 

「ほう…俺を捕まえただけでどうなる?」

 

「こうなるよ!」

 

『イカリス!GO!』

 

イカリスの力を見に宿して目からベリアルの首元に向けてビームを放つ。

 

「このまま焼き切る!」

 

ベリアルの首に熱が集中するが敵はそれを苦にしている様には見えない。

 

「そんなんじゃ俺は殺れねえぜ!」

 

ベリアルが闇のオーラを全身から放つと拘束具が破壊され、ビームが跳ね返される。

 

「しまった!」

 

『スプライト!GO!』

 

咄嗟にスプライトの能力を発動し幻影を作り出す。

自らの分身を大量に作りだしてベリアルの周囲を取り囲む。

 

「ジェノサイドスラッシュ!」

 

だがベリアルは自身の周囲360°に向けて一気に円状の真空刃を放つ。

全ての幻影、そしてマーベル本体がその刃によって一気に切り裂かれる。

 

「しまった…!」

 

腹部装甲を切られて火花を散らしマーベルは地面に倒れ伏す。

 

「大丈夫ですか?」

 

「結構ヤバいかも…」

 

その場に吹き飛ばされたブレイクが戻ってきてマーベルの身体を抱き起こす。

 

「だったら同時にいきましょう!」

 

「そうだね…」

 

『アスガーディアンズ!』

 

『ニダヴェリアハンマー!』 

 

『センターパワー!ファースト!』

 

『ゴッドアベンジャー!アッセンブル!』

 

お互いがディスクの力を使い、マーベルは雷神ソーの力を身に纏い神々しき鎧と手には巨大ハンマーのストームブレイカーを装備し、ブレイクは仮面ライダーセイバーの使う火炎剣烈火を手に持つ。

 

「俺も武器なら持ってるぜ…」

 

ベリアルがトライダーキュラーに挿入された仮面ライダーエボルのディスクに触れると、ドリルクラッシャーがベルトから取り出され、ベリアルも武器を手に2人に襲い掛かる。

 

「この雷撃を受けてみろ!」

 

ブレイクが振り下ろした剣をベリアルがドリルクラッシャーで受け止め、その間にマーベルはストームブレイカーからベリアルに向けて雷が放たれる。

 

「痺れるねェ…けど足りないな!」

 

「そんなッ…!?」

 

ベリアルの闇のオーラをドリルクラッシャーが纏うと、その刃は高速で回転し火炎剣烈火を弾き返す。

 

「俺の闇は…深いぜェ…!」

 

ベリアルが身に纏う闇のエネルギーを放つとブレイクの身体が吹き飛ばされて宙を舞い、雷撃も弾かれてしまう。

 

「まずはテメエからだ!」

 

「私ッ…!」

 

「ヤメロ!!」

 

闇を纏うドリルクラッシャーをブレイクに向けて投擲すると、その一撃がブレイクが着地しようとした地面に刺さって爆発する。

 

「理桜さん!!」

 

爆破を受けてしまったブレイクの変身は解除されて、理桜はその生身を晒したまま地面を転がる。

 

「このまま殺してやるぜ!」

 

「させない!」

 

理桜を殺そうと駆けるベリアルの前にストームブレイカーを構えたマーベルが立ち塞がる。

 

「お前には誰も殺させない!」

 

ストームブレイカーを前に突き出してベリアルに向けて雷を放つが…

 

「無駄だぜ…そんなんじゃ俺には敵わねえ…!」

 

「けど僕はッ…!諦めない!!」

 

マーベルの目が青く光ると共に空には暗雲が立ち込める。

その雲の中ではすでにいくつもの稲妻が作り出されており、その雲の中心に電気エネルギーが収束する。

 

「これが僕のッ…!雷鳴だ!!」

 

雷雲の中心部からベリアルに向けて雷が落ちていく。

その稲妻は凄まじく、威力は今のマーベルが出せる最大火力だ。

 

「まだそんな力があったのかッ…!」

 

「ハンマーは1つだけじゃないからねッ…!」

 

マーベルの手に握られたもう1本のハンマー、ムジョルニア

そのハンマーに雷を纏わせてストームブレイカーに向けて振り下ろせば、2つの雷のエネルギーがぶつかり合って強大なスパークが発生する。

 

「どうだッ…!」

 

雷の衝撃によってベリアルの身体はその場から大きく吹き飛ばされる。

 

「なるほどなあ…ここまでやって漸く掠り傷1つってとこか…」

 

だがベリアルの装甲には漸く掠り傷が1つ付いた程度だ。

 

「クッ…!」

 

「ま、当然だな。お前はあれだろ?戦争中に仮面ライダーになったってタチだろ?」

 

「なんで…そんなことをッ…!?」

 

マーベルに歩み寄っていくベリアルは颯馬自身が仮面ライダーになった経緯を言い当てた。

 

「俺もテメエと一緒だ…俺の住む世界も戦争中だった。そんな時、どこかからそこのケルベロスドライバーの試作機を渡された…」

 

「試作機ッ…!」

 

"ケルベロスドライバーがマーベルドライバーの後継機である"

颯馬は施設内で説明されたその一言を思い出した。

 

「教えてやるよ…俺もテメエもそこのライダー共の試作兵器として利用されてたんだよ!」

 

ベリアルの指差す方向には地面に倒れる理桜やオーウェンの姿があった。

 

「アルティメイタムの奴らは丁度戦争中の人間を選んで変身させて、データ集めに利用してたのさ…」

 

「そんなことないッ…!!」

 

「そうだ、夢も見たぜェ…仮面ライダーの物語の夢も!でそいつらが夢に出てきて俺に言ったんだ…"お前は世界に選ばれた"ってな…」

 

「嘘だ!」

 

颯馬は初めて仮面ライダーマーベルに変身した時のことを思い出しつつあった…

初めは夢の中でアベンジャーズのメンバー達の物語を見ていた。

そして戦いの中でアベンジャーズの1人であるトニー・スタークから"世界に選ばれた"と言われてマーベルドライバーを託されたのだった。

 

「そんなッ…」

 

ベリアルとマーベルはベルトを手に入れた経緯が全く同じであった。

 

「ああ、どんな技術使ったかは知らねえけど全部アルティメイタムの仕込みだ!」

 

「嘘だ!嘘だ!!」

 

『インクレディブルパワー!』

 

颯馬はベリアルに向けて駆けながらハルクの力を秘めたディスクを挿入する。 

 

『スマッシュアベンジャー!アッセンブル!』

 

仮面ライダーマーベル・インクレディブルパワーに姿を変えると筋骨隆々な腕を振るいながらベリアルに向けて突進していく。

 

「その程度か?」

 

マーベルが振り下ろした腕をベリアルは片手で受け止める。

 

「迷いが見えるな?なんだ?利用されてた恨みか?それとも…」

 

ハルクの力を纏っているマーベル・インクレディブルパワーはマーベルが持つどの形態よりも重量があるが、その身体をベリアルは片腕のみで持ち上げる。

 

「自分の価値か!?」

 

地面に投げ捨てられ、叩き付けられてしまうマーベルの肉体…

 

「自分の価値…?」

 

「ああ、お前は俺だ…ガキの時からずっと戦って生きてきたんだろ?戦地でずっと戦って…仮面ライダーになって…そして分かったんだ。俺らみたいなもんは戦って殺し合うしか能がない。殺し合うしか価値がねえんだよ!!」

 

颯馬とベリアルは共通点が多かった。

仮面ライダーになるまでのことも、仮面ライダーになった経緯も…

ベリアルの一言一言が颯馬の核心を突き、深く突き刺さって心を乱していく。

 

バダンとの戦いを終えてから心の中にあったモヤモヤの正体がベリアルの言葉であった。

 

『アメリカンソルジャー!』

 

颯馬はただただ無言でベルトに挿入されたディスクを入れ替えることしかできなかった。  

 

『キャプテンアベンジャー!アッセンブル!』

 

キャプテン・アメリカの力を身に宿した仮面ライダーマーベル・キャプテンアベンジャーに姿を変えて颯馬は立ち上がる。

 

「じゃ、仲良く殺し合うとしようぜ…お互いに、戦うことでしか生きてる実感が得られないモン同士よォ!」

 

「違う!」

 

「違う?いいや、何も違わねえな。所詮俺もお前も殺し合うことしか能がない兵器じゃねえか。」

 

「ッ…!」

 

自分の中では認めたくない事実。

ただそれに否定の一言を言う事が唯一の抵抗だった。

円盤状の盾を手にベリアルに向けて走っていく。

 

「サイクロン、ヒート、メタル、ルナ、トリガー」

 

それに対してベリアルは5本のガイアメモリの力を宿した5つのエネルギー弾を生成し、マーベルに向けて全てを撃つ。

 

「ああッ…!」

 

「颯馬さん!」

 

5つのエネルギー弾はヴィブラニウムの盾ですら防ぎ切ることが出来ず、マーベルの身体を巻き込んで大爆発を起こした。

 

「立てよ!まだまだ足ンねえよ!!」

 

今度はベリアルの方からマーベルに向けて走り、前蹴りを放つ。

それをマーベルは盾で防ぐが…

 

「オラァ!」

 

マーベルの腹部目掛けて放たれたベリアルの左回し蹴りを咄嗟に防ぐことが出来なかった。

 

「ダメだ…このままじゃ…」

 

その様子を見ている理桜には既に颯馬が限界を迎えてしまっていることが目に見えていた。

 

「颯馬さん!逃げて!」

 

「あああァァァァァァ!」

 

実力差は明確だった。

だが既にヤケクソ気味の颯馬はベリアルに突っ込んでいく。

 

「もう戦える状態じゃネェな…だったらここで、BADENDだ!」

 

『ダークフィニッシュ!』

 

ベリアルがベルト両側面のレバーを同時に引くと闇のエネルギーが彼の右足にまとわりつく。

 

「終わりだ!」

 

マーベルが盾を持つ右腕を大きく振ってベリアルに殴りかかろうとして腹部のガードが甘くなった所を刺すように右足を突き出す。

その一撃はマーベルドライバーに直撃し、ベルトが火花を上げながら衝撃でマーベルの身体が吹き飛ばされて宙を舞う。

 

「そんなっ…」

 

空中でマーベルの肉体は爆破し、生身の颯馬と破損したマーベルドライバーが地面を転がる。

 

「このままここを落とす。いくぜ、ドープ!」

 

「おう!」

 

ドープと呼ばれる白い傭兵風の怪人がベリアルと共にアルティメイタムの施設に向けて歩き始める。

 

「ここから先は行かせない!」

 

「お前も此処で死ぬか?」

 

ベリアルが腕を振り上げたその瞬間だった。

 

「理桜!避難命令だ!」

 

基地の正面玄関を突破して1台のジープが彼らの前に割り込んでくる。

 

「足利指令!」

 

ジープを運転していたのはアルティメイタムの司令官である足利で後ろには負傷しつつもアサルトライフルをベリアルに撃って援護するオーウェンも乗っている。

 

「早く乗れ!」

 

「はい!」

 

理桜がジープに乗り込むのに対してベリアルが攻撃を加えようとするが…

 

「これでも食らえ!」

 

スタングレネードを投げつけてその閃光でベリアルらの目を眩ませる。

 

「颯馬さんも!」

 

「…」

 

一方の颯馬は地面に倒れうなだれている。

 

「颯馬!早く逃げて!」

 

するとその場にもう1台ジープが走って来る。

そこには隼人達3人が乗っていて颯馬の方に向かってくる。

 

「早く乗って!」

 

「仕方ありませんね…」

 

運転手の和田以外の2人が動かない颯馬の下に駆け寄って彼の身体と壊れてしまったマーベルドライバーをジープに乗せる。

 

「逃げるぞ!」

 

ベリアルらの目が眩んでいる間に2台のジープが走り去ってこの場から離れていく。

 

「まあ良いぜ…まずはここを抑えればな…」

 

彼らに逃げられても、既にアルティメイタムの基地にはベリアルの部下である怪人達が侵攻していた。

既に基地内のアルティメイタムメンバーは避難しているか戦闘不能になっているかのどちらかだ。

ベリアルらは基地の中に入っていき、指令室に向けて歩みを進めていくのであった…

 

To be continued…

 




解説
斯波
アルティメイタムの幹部で足利の右腕
仮面ライダーカウズの変身者でもある。

ベリアル(CV小野大輔)
本名:楠木楓
アルティメイタムのことを恨む謎の青年
トライダーキュラーを使って仮面ライダーベリアルに変身する。

バグル
ゲームキャラを模した怪人に変身する少年
怪人態はバグスターの要素が多い。

ドープ
白い傭兵風の怪人
その姿からはドーパントを思い起こさせる。

仮面ライダーポリス
オーウェンが変身する仮面ライダー
セキュリティIDカードと警察系ライダーのディスクで変身する。

仮面ライダーカウズ
斯波が変身する仮面ライダー
タウロスIDカードと牛系ライダーのディスクで変身する。
ちなみに響鬼の牛要素はリマジ版の牛鬼

仮面ライダーベリアル
ベリアルが変身する仮面ライダー
漆黒のケルベロスドライバーことトライダーキュラーとエターナル、ゲンム、エボルの3人のライダーのディスクで変身する。
3人のライダーのディスクから送り出される闇のエネルギーを操り戦う。


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第4章 親友

「斯波さん…」

 

「どうやら君達も無事だったようだね…」

 

足利の指示で基地から脱出できた者達はアルティメイタムの非常時用の支部に集まっていた。

ここは元々河川調査用の設備であったが、使われなくなった後にアルティメイタムの基地に改装されていたのだ。川の上にあるこの施設にも臨時用の設備は数多く供えられており、隊員用の食料や電力もそろっている。

この場には足利、斯波、オーウェン、理桜、三浦隼人、和田、畠山、そして治療中の颯馬が辿り着いていた。

颯馬は身体に包帯を巻かれた状態でベッドの上で身体を横たわらせている。

 

「颯馬…大丈夫かな?」

 

その颯馬の方を見て隼人らは心配そうな目で見つめている。

 

「あのッ…!足利指令に一つ聞いておきたいことが…」

 

そんな重い空気の中で理桜が口を開いた。

 

「颯馬さんの…マーベルドライバーのことについてもっと詳しく聞かせてください!」

 

「それについては黙秘する…」

 

足利は理桜からの問いかけに対して口を開かない。

ベリアルが語ったマーベルドライバー等のケルベロスドライバーの試作機であるベルトやそれを手にした者達について理桜は心の中でモヤモヤしていた。

 

「教えてやれよ、指令」

 

「しかし…オーウェン……」

 

「彼らには知る権利があるだろう、マーベルの仲間達にも、理桜にも…」

 

だが問いかけに応えない足利に対してオーウェンと斯波が良心からか話をするように説く。

 

「我々も聞いた方がよい内容なのですか…?」

 

「ああ、今は眠るマーベルの彼の代わりに聞いて欲しい。」

 

畠山らに対しても斯波は説明を聞くように促している。

仲間だからこそアルティメイタムの事情を聞いて欲しいという思いである。

 

「ならば話さざるをえないようだな…」

 

2人の部下の真剣な眼差しに足利は重い口を開いた。

 

「"ディスクドライダー計画"我らのアルティメイタム創設当初からある計画だ。」

 

ヒーローディスクを使う仮面ライダーのシステム、それがディスクドライダーである。

元々技術者であった足利は、並行世界について研究しヒーローディスクの開発に成功した。

その後、足利はアルティメイタムを創設し、ディスクドライダーシステムの開発と活用による並行世界の防衛をし始めた。

 

「その計画の最終形態がこのケルベロスドライバーだ。並行世界の仮面ライダー達の力で仮面ライダーに変身することができ、この計画の完成形である。」

 

そう言って、足利はケルベロスドライバーを懐から取り出し、机の上に置く。

 

「その過程で作られたディスクの試作品がこのアベンジャーズ達のディスクでベルトの試作品がこのマーベルドライバーだ。」

 

そしてその隣にベリアルの攻撃によって破損してしまったマーベルドライバーと颯馬が所持していたアベンジャーズのヒーロー達のディスクが置かれている。

 

「で、なんでそのベルトが颯馬の手に渡ったんですか?」

 

隼人は立ち上がって机の上に置かれたマーベルドライバーに視線を向けている。

 

「その件だが…隠して話すわけにはいかないな…」

 

このような事態を招いてしまった責任は足利らアルティメイタムにあると言える。

それ故に言い訳を言うこともなく包み隠さず真実を話し始めた。

 

「ベルトの試作品を試すには実戦のデータが必要だった。この世界だけではデータ不足であったから戦争中の並行世界で暮らす健康な男子を対象にベルトの試験運用を行なうことにした。」

 

「それで選ばれたのが…颯馬…?」

 

「その通りだ。マーベルドライバーの使用者に選ばれたのがバダンとの戦争中の世界に暮らす北条颯馬君だった…幻影を見せたりして戦士になるように仕向けもした…さっきの検査も、新たなデータを得るためだった…」

 

「じゃあ、アンタは!」

 

隼人が机を強く叩き、その鈍い音にこの場で話を聞いていた者たち以外の者も思わず隼人たちの方に目を向ける。

 

「自分の都合で!颯馬のことを利用したっていうのかよ!」

 

「その辺にしておけ!」

 

足利に掴みかかろうとする隼人を後ろから畠山が抑えて止める。

 

「君の言う通りだ。弁明の余地もない。彼には申し訳ないことをしてしまったと思ってる。」

 

そんな彼らを前に足利は申し訳なさそうに顔を俯かせる。

颯馬を、と言うよりも彼らの世界を利用してしまったのだから彼らに対しては申し訳なさを感じてしまっている。

 

「そのことに関しては私も憤りを感じている…だが、今は争うべき時ではない…」

 

畠山としてもアルティメイタムの行動に関しては怒りを覚えている。

彼まで怒りに身を任せてしまえば隣にいる和田も暴れだしてしまう。

それ故に、このような事態でも畠山自身は何とか気持ちを抑えて冷静に振舞っていた。

 

「だがしかし、利用してしまったことに変わりはない。それに…私たちのやり方が原因で今回のような事態を招いてしまった…」

 

「もしかして、あのベリアルの…」

 

「ああ、そうだとも」

 

足利が斯波の方を見ると彼がタブレットに一つのベルトと1人のライダーのデータを提示する。

 

「これはプロトケルベロスドライバー、マーベルドライバーよりも後にできたベルトだ。そしてこの変身者が…」

 

「楠木楓…」

 

オーウェンがベリアルの名乗った名前を口に出す。

 

「ああ、そうだとも。彼は元々クライシス帝国に支配された世界の人間だった。我々の策によってプロトケルベロスドライバーが彼の手に渡り、楠木楓は仮面ライダーサイドとして戦った。」

 

タブレットに映し出されたそのライダーはプロトケルベロスドライバーと仮面ライダーW、仮面ライダーエグゼイド、仮面ライダービルドの3枚のディスクを使って変身する戦士である。

2つのサイドを使い分けて戦う変幻自在な戦士であり、その変身者がかつてのベリアルであった。

 

「だがこの力を使いこなすことは難しかった。当時はまだ理桜達が持っているようなIDカードを開発していなくてだな…」

 

理桜、オーウェン、斯波の3人がそれぞれのIDカードを見つめている。

 

「3人のライダーの力を彼は使いこなすことができなかった。」

 

「つまり我々のカードは彼の残したデータから作られたということだ…」

 

「ああ、そして彼は力を使いこなせず敗北したが…戦に負けて仲間を失ってしまった彼の心の闇は大きかった。闇の力が彼のベルトを覚醒させた!闇の力が仮面ライダーベリアルを生み出した…」

 

----------------------------------------------------------------------------------------------

 

「へ~IDカードか~俺様の失敗を糧にこんなモン作ってたとはなァ…」

 

一方のアルティメイタム指令室では本部を占領したベリアルが配下の者たちを集めてモニターを眺めていた。

 

「ベリアル様、大方の部屋は制圧しました。」

 

「ご苦労ご苦労、休んでいいぞ。」

 

ベリアルの部下であるドープ、バグル、そして工業機械のような意匠のある怪人スマーズがベリアルの前に跪いている。

 

(こんなクソみてェなデータ見たら思い出しちまうだろ…)

 

ベリアルは自身のトライダーキュラーを眺め、とある日の戦いのことを追憶していた…

 

「宇佐美!須藤!しっかりしろ!」

 

クライシス帝国との戦いの中でベリアル…いや、楓は仮面ライダーサイドとして戦っていたが敵幹部たちからの急襲を受けて彼の仲間達は命を落としてしまっていた。

 

「グランザイラス!こいつもやってしまえ!」

 

力を使いこなせず膝を突く仮面ライダーサイドの前にジャーク将軍とグランザイラスが立ちはだかり、グランザイラスは彼にトドメを刺そうと歩み寄ってきていた。

 

(クソッ…!俺にもっと力があれば…俺がもっと強ければ!こんな力じゃだめだ…!もっと俺に力を!!)

 

仲間を殺された恨み、使い物にならなかったライダーシステムへの憤怒、そして自分の実力不足に対する絶望は彼の心に闇を生み出した。

その闇に反応し、汚染されるようにしてプロトケルベロスドライバーも空色から黒色に変質しトライダーキュラーへと変化する。

 

『仮面ライダーエターナル!仮面ライダーゲンム!仮面ライダーエボル!』

 

W、エグゼイド、ビルドのディスクもかつて彼らと戦った闇の戦士の者に変貌する。

 

『ダークライズ!ダークライダーズ!』

 

仮面ライダーベリアルの誕生

そして彼はあっという間にクライシス帝国の幹部達を次々と葬り去っていった。だが…

 

(これがこのベルトの正体か…)

 

だがベリアルは覚醒したことにより自身の下にプロトケルベロスドライバーが来た経緯を知ってしまった。

 

(アルティメイタム…アイツらが俺を利用しなければ…アイツらが自分達でこの世界に来れば…こんなことには!)

 

そしてその怒りが彼を飲み込み、アルティメイタムへの侵攻という行動に移すことになったのだった。

 

「さて、この後の改革も進めていくとしようか…」

 

----------------------------------------------------------------------------------------------

 

「そいつが颯馬を倒した仮面ライダー…」

 

「アイツを倒しちまうなんて相当強いんだな。」

 

「それにマーベルドライバーまで…」

 

颯馬の仲間である3人はベリアルの真相に愕然とするしかなかった。

彼を敗北させた強力な仮面ライダーの存在に重い空気が流れる。

 

「あれ?颯馬さんは!?」

 

その時ふと、理桜が颯馬の寝転ぶベッドの方を見ると、そこには彼の姿がなかった。

 

「颯馬!」

 

3人が突如いなくなった颯馬を探そうと走り出した。

 

「私も行きます!」

 

そして理桜も彼らと共に走り出した。

 

----------------------------------------------------------------------------------------------

 

僕はただ…利用されていただけだったんだ…

僕はケルベロスドライバーの試作機の使用者に選ばれ、戦っていただけだったんだ…

自分の力でも何でもない…

 

「ベリアル…」

 

そして僕は同じ運命を背負った人間に負けてしまった…

力も無い、できることもない、そんな僕に生きる意味なんて…

 

「クソっ…どうせ僕は……」

 

この場でうずくまって泣きじゃくるぐらいしか出来ることはない…

乾いたコンクリートが落ちた涙で湿っていく…

 

やがてその落ちていく涙の粒の量が増えていく。

 

「颯馬さん…」

 

そんな時だった、後ろから理桜さんが僕に声をかけてきた。

 

「ゴメン…今は放っておいて欲しい…」

 

けど今は誰とも話したくない…

こんな僕に構ってたって時間の無駄だ…

 

「颯馬さん!」

 

突然僕は暖かい感触に包まれた。

 

「私はまだ…あなたのことを全然知りません…けどッ…」

 

「やめて…僕なんかに……」

 

「これだけは分かります!あなたはとっても優しい人だって…」

 

後ろからぎゅっと抱きしめてくれる彼女のことを僕は振りほどこうとは思わなかった。

それはきっと、今の僕に気力がないからじゃない…

 

「私がベリアルにやられた時ッ…颯馬さんは私の前に立って守ってくれましたよね?」

 

「うん…」

 

「出会ってすぐの人を守ってくれた時、感じました。あなたは私のヒーローかも知れないなって…」

 

ヒーロー…

僕がアルティメイタムに見せられていた夢に出てきたスタークさん達のことか…

 

「そんなの僕達を利用するための言葉だ…君達はそうやって僕を焚きつけて!利用してたんだろ!」

 

所詮彼女もアルティメイタムの人間だ。

きっと僕をまた利用するために焚きつけに来たんだろう…

 

「アンタ達は僕に夢を見せて…戦う気にさせて…ベルト渡して試験運用に使ったんだろ!?」

 

「はい…私達はそうしてきました…」

 

「だったら君も!」

 

「けど私は違います!」

 

立ち上がって声を荒げた瞬間、彼女が正面から僕を抱きしめた。

 

「心の底から颯馬さんのこと尊敬しています!3年間も戦い続けてたって聞いた時…私にはできないって思いました…」

 

「うん…」

 

「本当は戦うとき…怖いんです…ベリアルとの戦いでも、恐怖でうまく動けない時もありました…けど、颯馬さんはずっと相手に立ち向かってて…すごいなって思いました。」

 

「けどそれも利用されてたからで……」

 

「でも戦ったのも…!私を守ってくれたのも…!颯馬さんの意思じゃないんですか…?」

 

僕の気持ち…

 

「私を守ったのも…隼人さん達のために戦ってきたのも…颯馬さんの気持ちじゃないんですか…?」

 

「そうだよ、颯馬」

 

「隼人…」

 

僕達の話声が聞こえていたのだろうか?隼人と和田さん、畠山さんも僕達2人のところにやってきた。

 

「覚えてる?颯馬が初めて仮面ライダーになった後、任務に失敗した僕たちのことをカバーしようと1人でショッカーのいるところに突っ込んでいったの…」

 

「そういえば、そんなこともありましたね。」

 

「うん、覚えてるよ…」

 

3年前にバダン傘下組織のショッカーと戦った時の激闘、今でも鮮明に覚えている…

 

「あの時、果敢に立ち向かったのは颯馬の意思だよね…」

 

「けど…」

 

「僕たちの前に出て戦ってくれたのは颯馬の優しさだって分かってるよ。僕達に傷ついて欲しくなかったから率先して戦場に赴いてくれた…そのお陰で僕達は今も生きている。」

 

あの時はショッカーが僕達レジスタンスに総攻撃を仕掛けようとしていたんだった。

攻撃を仕掛けられて皆が殺されてしまうのはいやだったから僕はショッカーの本拠地に単身乗り込んで戦ったんだった…

 

「けど、それも全部あの人達が力を与えたからで…」

 

「関係ないよ!だって、颯馬は自分が仮面ライダーなんかじゃなくても僕達のことを守ろうとしてくれたり…困ってるときは助けてくれる…ちょっと突っ走っちゃうとこもあるけどカッコいい僕の親友で憧れの人なんだよ!」

 

大粒の涙を地面に落としながら言葉を発する隼人の姿に、僕の頬を更に出てきた涙が伝う。

 

「そうだぜ、お前は仮面ライダーになる前から頼り甲斐のある俺らの大事な仲間だったんだぜ!」

 

「それに、強力な力を得てもその力に溺れることなく正義のために戦えたのは颯馬だからこそできたことだと思うぞ。」

 

和田さんと畠山さんからの励ましの言葉にいつの間にか僕は声を上げて泣いていた。

 

----------------------------------------------------------------------------------------------

 

「あの~もう大丈夫ですか…?」

 

「うん…大丈夫…」

 

仲間達3人の励ましと理桜の言葉を受けて大泣きした颯馬は彼らに慰めてもらいつつ、ようやく冷静さを取り戻していた。

しかし颯馬は、自分より年下の女性の前で泣きじゃくっていたという事実を思い出してしまい恥ずかしさからか顔を手で覆い隠してしまっている。

 

「けど改めて颯馬さんってすごいんだなって思いました!仲間の人たちからこんなに慕われて!」

 

「わかった…わかったから……」

 

彼が恥ずかしがってるとは露知らず理桜は颯馬に何度も声をかけている。

 

「颯馬と理桜さん、結構似合ってるんじゃないかな?」

 

「だなw」

 

そんな2人のことを隼人達3人は微笑ましそうに見つめている。

だがその笑顔の奥には颯馬が元気になってよかったという安堵の気持ちもあったのだった。

 

「おっと、皆ここにいたのか。そろそろ飯食っとけよ。腹が減ってたら何もできねえからな。」

 

とその場にオーウェンもやってきて、炊き出しの準備ができたことを彼らに伝える。

 

「俺たちがやったことは申し訳ない。けど、飯ぐらいは食ってってくれ。」

 

ふと、オーウェンが颯馬の存在に気付くと申し訳ないというような表情を見せつつ頭を下げる。

彼らなりにも颯馬やベリアルに対して後ろめたさはある。だからこそ、腹ぐらい満たさせてやりたいというのが一部のアルティメイタムの者たちの気持ちだ。

 

「はい、ありがとうございます。」

 

そのオーウェンらの誘いに颯馬も快く答えて立ち上がる。

 

「そうだね、昼から何も食べてないしお腹ペコペコだよ~」

 

「おう!俺肉食いてえ!」

 

「あるかどうかは分かりませんけどね…」

 

元気を取り戻した颯馬に続く様に先に3人もアルティメイタムの支部にある食堂へ向かう。

 

「あの、オーウェンさん。」

 

「どうした?」

 

「ベルトの件とか僕はもう気にしていません。だから、オーウェンさん達もあまり気にしないでください。」

 

「お、おう」

 

既に立ち直った様子の颯馬も仲間達と共に食堂の方に向かう。

 

「私も行ってきま~す」

 

そこに理桜もついていく。

 

(北条颯馬…良い仲間を持ったな。)

 

去っていく5人の背中を見つめながらオーウェンは少し彼らのことを羨ましく思いつつ、仕事に戻るのであった。 

 

そしてその夜…

皆が寝静まる中、颯馬はアベンジャーズのメンバー達のヒーローディスクを見つめていた。

 

「どうしたんですか?眠らないんですか?」

 

「うん、ちょっとね。」

 

誰もいないはずの基地の屋上で颯馬と理桜はベンチに腰掛け夜空を眺める。

 

「僕、夢を見るのが怖くなっちゃったんだ…」

 

「どうしてですか…?」

 

「僕は夢の中でこの人たちの戦いや物語をずっと見てきたんだ…」

 

颯馬は自身の手の中にあるディスクを理桜に見せる。

アイアンマンやソー、ドクター・ストレンジ等のアベンジャーズのヒーロー達のディスクが颯馬の手の中にある。

 

「けどその夢がベリアルに否定されて、本当はアルティメイタムの人に見せられた夢だってわかって…」

 

「騙されてたから…怒ってるんですか……?」

 

「ううん、違う。怖いんだよ…このヒーロー達も僕が見てきた夢も作られた虚構の存在なんじゃないかって思って…僕は彼らのことを信じたいから…怖いんだ…本当は皆いないんじゃないかって……」

 

ずっと信じ続けてきたヒーロー達の存在。

その彼らが本当は存在しないのではないかと考えてしまうと、颯馬は眠りにつくことに不安を覚えていた。眠りについてもしアベンジャーズの夢を見れなかったら、本当に彼らの存在が偽りなのではないかと思ってしまいそうで恐れていた。

 

「大丈夫、そんなことないですよ。」

 

だが、更にネガティブな言葉を発しようとした颯馬の手に理桜は自身の人差し指を当てて、彼の言葉を止める。

 

「これ、仮面ライダーセイバーさんのディスクです。私も最初は知らなかったんですが、このセイバーさんにも、自分の世界と物語があるんです。」

 

「仮面ライダーセイバーの物語…?」

 

「そうです。ディスクの元になったのは並行世界のヒーロー達で彼らは他の世界で戦っていたんです。そこでみんな自分の物語を紡いでいるんです。」

 

セイバーだけでなく、理桜の持つディスクであるウィザードや龍騎にもそれぞれの戦いの歴史や物語がある。他のライダーたちのディスクもそうだ。

仮面ライダー…ヒーロー達にはそれぞれの物語があるのだ。

 

「だから颯馬さんも信じてみてください。彼らの物語を…」

 

「彼らの世界か…」

 

自分の手の中にあるディスクを見つめて手で優しく包み込むと、理桜の方を見て優しく微笑む。

 

「ありがとう、今日はよく眠れそうだよ。」

 

そして立ち上がって屋上から立ち去ろうとする。

 

「ええ、いっぱい寝て元気になってくださいね…颯馬さん…」

 

To be continued…

 




キャラ解説
スマーズ
工作機械を模した見た目の怪人
スマッシュの様にボトルの力を使う。



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第5章 聖なる剣

颯馬達がアルティメイタムの世界に来て2日目

襲撃を受けた彼らは避難先の支部にある指令室に集まっていた。

 

「颯馬君…来てくれたのか…」

 

「ええ、僕はもう、大丈夫ですよ。」

 

アルティメイタムの指令の足利を始めとした幹部達やオーウェン、理桜ら戦士達だけではなく颯馬達4人もこの場に集まっている。マーベルドライバーの試用運転のために利用されてしまった颯馬と利用した足利がこの場で向かい合っているが颯馬だけでなく彼の仲間達3人は恨みや怒りを感じさせないような清々しい顔をしている。

 

「昨日、僕達4人で色々と話しました。僕達がバダンに勝てたのはマーベルドライバーを貰ったおかげでもあると思います。だからもう恨んではいないです。」

 

「颯馬はお人好しだからね。けどその事実は否定しないしまあ、こっからは恨みっこなしの方が良いですからね。」

 

これ以上マーベルドライバーに関する問題を引きずってしまっても何も生み出さない。

昨日の夜にそんな話し合いをした颯馬達は自分たちが利用されていたことを水に流し、むしろレジスタンスの勝利に力添えをしてもらったこと改めて感謝することにしたのだった。

 

「そう言ってくれるのはありがたい、だが…改めて私から謝罪をさせてくれ。申し訳なかった。」

 

だが、許されたからと言って足利の中にある謝罪の念は消えるわけではなく、しっかりと彼らに頭を下げる。

 

「いえいえ、それに僕が受けた体の検査も本当は健康被害がないかとか確かめるためだったんですよね…?」

 

「ああ、そうだ。利用するだけ利用して見捨てるようなことは出来ないからな。」

 

2組のわだかまりが解けたということで斯波がコンピューターの画面をつけてそこにあるデータを示す。

 

「では、ここからはベリアル対策の話をしましょう。基地を占領した彼らですが、未だに我々のことを狙っていると推測しています。」

 

「というと?」

 

斯波の話に対して畠山が首をかしげる。

 

「彼らの狙いはおそらく復讐…私達を狙ってくることも考えられます。なので私と足利さんはまた別の支部にて防衛に徹することにいたしました。」

 

「私達はどうすれば…!?」

 

「君たちは逃げてくれ…君たちの無事を確保することが今の我々にできることだ。若い者は生き残ってくれ……」

 

斯波と足利は既に自分達だけが犠牲になることで理桜や颯馬達の命を救おうと考えており、既に覚悟を決めてしまっていた。

 

「そんなことできるわけないじゃないですか!」

 

だが彼らの意思に理桜は反発する。

 

「お二方を置いて逃げることなんてできません!私も一緒に…!」

 

「ダメだ!」

 

理桜はアルティメイタムの特に足利や斯波によって育てられ戦士となったため、彼女はいわゆる2人の弟子である。2人のことを慕う彼女にとって2人だけが死ぬことは納得できないことだ。

だがしかし、ついていこうとする彼女に対して足利は声を上げてそのことを禁じる。

 

「もう決まったことだ。ベリアルの強さはよくわかっているはずだ。理桜は他の者達を守ってくれ…」

 

「そんなの嫌です…」

 

既に足利らは自身が標的となり彼女らの盾となる覚悟を決めている。

それに彼女は現在戦闘手段を持たない颯馬達やアルティメイタムの職員達をベリアルから守る必要もある。

 

「すまない…こうするしかない…」

 

現在彼らの下にある戦力は理桜、オーウェン、斯波、そして足利の持つケルベロスドライバーとヒーローディスクのみであり、この戦力だけではベリアルに勝てる保証はない。

 

「それと颯馬君たちも自分達の世界に戻ってくれ。他の世界からの客人にここで死なれてしまうのは申し訳がない。自分の世界の者たちが心配する前に戻ってくれ。」

 

「けど…」

 

「僕達にだってできることは…」

 

「すまないが、君達をこれ以上巻き込むわけにはいかない。あとは私たちに…」

 

足利が彼らの前に立つと片手に3枚のヒーローディスクを握りしめて颯馬達に見せる。

 

「仮面ライダーディケイドとディエンド、そしてアメリカ・チャベスのディスクだ。これらには世界を超える力があってな、君達をこの世界に連れてくるのにもこのディスクを使った。今からこれで君達を元の世界に…」

 

並行世界間を移動する3枚のディスクについて足利の口から説明し、自らのケルベロスドライバーを手にして使おうとしたその時だった。

 

「やっぱりなァ…あんたが持ってたんだ、そのディスク」

 

その時だった、ベリアルの声が聞こえ全員が警戒したその刹那、黒い閃光が足利の腹を貫いた。

 

「馬鹿なッ…!?」

 

突然の仮面ライダーベリアルによる奇襲に、颯馬達は驚きを隠せない。

ケルベロスドライバーと3枚のディスクが地面に転がる。

 

「何故ッ…ここに…」

 

「テメエらが考えることなんて丸わかりなんだよ…さあて…ディスクを渡してもらおうか…」

 

「皆逃げろ!」

 

ベリアルの目的は異世界を超える力を持つ3枚のヒーローディスク。

それがわかった瞬間足利は退避命令を出すとともに自身のケルベロスドライバーとディエンド及びアメリカ・チャベスのディスクを颯馬に投げ渡した。

 

「足利さん!」

 

「早く!」

 

足利の剣幕に颯馬達も彼に一瞥し、その場から走り去る。

 

「若い奴から逃がして、自分は犠牲にってカッコイイねぇ…」

 

「何が目的だ…」

 

「これさァ…ま、あと二枚は持ってかれたみてエだけどな…」

 

そうしてベリアルは足利の手元に残ったディケイドのヒーローディスクを手に取る。

 

「異世界を超える力で俺は理想の世界を手に入れる…ここまでご苦労さん、アンタらの技術力があれば、俺の野望は達成できそうだ…」

 

嘗ては足利らがベリアルこと楠木楓を利用した。

だが今は既に彼がアルティメイタムの設備を利用しようとしている。

 

「皮肉なもんだな…」

 

ベリアルの右腕が足利の胸を貫いた。

 

(すまなかった…理桜……)

 

薄れゆく意識の中で彼はただ愛弟子に対する謝罪の念を抱きながら、糸が切れたように彼の体は重力に従うように地面に倒れ伏す。

 

「こっちだ!来い!」

 

一方、支部内を逃げるオーウェンは仮面ライダーポリスに変身した状態で逃げる颯馬達を誘導していた。

既に建物から脱出して橋を渡れば陸に向かえるという状況だったが…

 

「み~つけた、アルティメイタムの残党さん。」

 

「貴様らァ…」

 

だがその場をベリアル配下の3怪人が取り囲み、退路を完全に塞いでいる。

ドープ、バグル、スマーズの3人が各々の剣を構えている。

 

「颯馬君これを持っておいてくれ。」

 

斯波は逃げ出した時から持っていたアタッシュケースを颯馬に渡す。

 

「これは…」

 

「マーベルドライバーとヒーローディスクだ。故障中だが何かに使えるかもしれないと思って持ってきておいたんだが、今は君が持っていてくれ。」

 

「分かりました…」

 

颯馬にアタッシュケースを託すと斯波は敵の方に向きなおす。

 

「理桜、ここを突破するぞ。」

 

「はい!」

 

『『ケルベロスドライバー!』』

 

『『タウラスIDカード!/ドラゴンIDカード!』』

 

『仮面ライダー響鬼!仮面ライダーゾルダ!仮面ライダーバッファ!』

 

『仮面ライダー龍騎!仮面ライダーウィザード!仮面ライダーセイバー!』

 

「「変身!」」

 

『バッファローライダーズ!パワーアップ!』

 

『ドラゴニックライダーズ!バーンアップ!』

 

斯波は仮面ライダーカウズに、理桜は仮面ライダーブレイクに変身するとそれぞれゾンビブレイカーと火炎剣烈火を構えて怪人たちに切りかかる。

 

『マグマ!』

 

ポリスもエンジンブレードを構えてドープに切りかかるが、ドープは掌の上でマグマ弾を生成し、一気に放つ。

そのマグマ弾をポリスは己の剣で切り裂いて、その勢いでドープに迫るが…

 

『コマンダー!』

 

今度はドープがコマンダードーパントがの部下である仮面兵士を生み出してポリスに向けて攻撃させる。

 

「厄介な能力だ…」

 

迫る兵士たちをエンジンブレードで次々と切っていく。

 

「俺は様々なドーパント達の力を使うことができる。こんな風にな!」

 

『アイスエイジ!』

 

ドープが右手から冷気を放つと、仮面兵士ごとポリスの足元が氷に覆われる。

 

「しまった…!」

 

『エナジー!』

 

動けなくなったポリスに向けてエネルギーの塊を放とうとするドープであったが…

 

『レフトパワー!ファースト!』

 

『センターパワー!ファースト!セカンド!』

 

ポリスはベルトのレフトレバーを一回引き、センタースイッチを二回押す。

するとG3が扱うサブマシンガンGM-01 スコーピオンとドライブの試用武器であるドア銃を同時に装備すると、2つの銃口から一気に火を噴く。

 

「しまった!」

 

ドープの放ったエネルギー弾が弾幕によって彼の体の前で破裂しただけでなく、何発もの銃弾がドープの体表面で爆ぜる。

 

「中々やるなぁ…」

 

「まあ、俺はプロだからな。」

 

一方、仮面ライダーカウズも怪人の1人であるバグルと戦っていた。

バグルは様々なバグスター達の力を使って戦っており、その戦術にカウズは苦戦を強いられている。

 

「これでどうかな…」

 

バグルは幾つかロボットの腕のようなものを作り出して、カウズに向けて一気に放っていく。

 

「これ以上舐めないでいただきたいものだ…」

 

だが、カウズも負けていない。両手に持つ音撃棒烈火を手に持つと次々とロボットの手を叩き落していく。

 

「はあッ…!」

 

さらにその先端から火炎の弾をバグルに放つ。

その弾はバグルの装甲の前で爆ぜる。

 

「まだまだ、楽しませてくれそうだね♪」

 

カウズとバグルが互いの技をぶつけ合う中、ブレイクとスマーズは互いに刃を交えていた。

 

「切っても切っても…キリがない……!」

 

スマーズは両腕の鋭いハサミで何度も彼自身を切るために振るわれる火炎剣烈火を受け止める。

 

「俺の力はこんなもんじゃねえぜ!」

 

スマーズは脚力を一時的に強化して跳躍し、彼女の射程圏外から円盤状の刃を数本生成しブレイクに向けて飛ばしていく。

 

『レフトパワー!ファースト!』

 

ブレイクはレフトレバーを引くとドラグソードを手に持ち、火炎剣烈火との二刀流で迫りくる刃を切り落としていく。

スマーズは様々なスマッシュ達の力を使うことができ、スマッシュ達の扱う多彩な能力を相手にブレイクは持ち前の破壊力で何とか凌いでいる。

 

「これでもいけるかな?」

 

今度はクワガタムシとフクロウの姿をしたエネルギー体を作り出して、ブレイクに向けて攻撃させる。

 

『センターパワー!セカンド!』

 

それに対抗してブレイクもブレイブドラゴンを召喚して、スマーズが作り出したエネルギー体とぶつけ合う。

 

「すごいけど…僕達も何とかしないと…」

 

3組の圧倒的な戦い。

それを目にして颯馬達も何とかしたいと考えるが、ライダーの力を持たないただの人間である彼らにはただ見ることしかできなかった。

彼らが怪人たちを倒してこの場からともに逃げれる時を待つしかない。

 

(僕だって本当は…)

 

特に昨日まで仮面ライダーであった颯馬としては本当は変身して助けたいというのが本音である。

今動くことのできない自分に少し苛立ちつつも、颯馬はその感情を抑えて戦いを見ている。

 

「ディ・フォールンシャワー!」

 

だがその時だった、宙より漆黒のレーザーが3人のライダーに降り注ぐ。

 

「理桜さん!オーウェンさん!」

 

「斯波さん!」

 

レーザー攻撃を受けた3人のライダーは地面に倒れ伏してしまう。

 

「だ、誰が…」

 

「ベリアル様!」

 

怪人たちが見上げた先には闇のエネルギーをその身にまとわせて宙に浮くベリアルの姿があった。

 

「さあて、俺のお遊びに付き合ってもらうぜェ、けど、お前らは邪魔だ。」

 

ベリアルが掌から漆黒の稲妻を颯馬達に向けて撃つ。

 

「危ない!」

 

その雷が颯馬達に達する前にカウズがその前に割って入った。

雷撃を浴びて彼の新緑の雄々しい肉体が焼け焦げていく。

 

「斯波さん…!」

 

「これも償いだ…君たちは生きてくれ…!」

 

若い者達に少し迷惑をかけてしまった。

ケルベロスドライバー完成に至るまでの幾つかの試験で多くの世界の若者を利用してしまっていた責任を斯波自身も少なからず感じていた。

それに対する申し訳なさからか、颯馬達を庇って斯波は自身の命の灯を消してしまった。

彼の身は黒焦げの肉塊となってしまい、鈍い音を立てながらその身が地面に倒れ伏す。

 

「そんなっ…」

 

「斯波さんをよくも!」

 

彼の死に動揺を隠せない颯馬と隼人、そしてその死に対する憤怒から地面に降りてきたベリアルに切りかかるブレイクとポリス。

 

「先にお前らから殺してやろうか…?」

 

ベリアルに向かってくる彼らに対して、またも漆黒のレーザーが降り注ぐ。

ベリアルの力によって空に作り出された暗雲から雨のように降り注ぐレーザーを受けて、そのダメージからか立っていられる体力も削られていく。体から火花を散らしながら倒れる2人の方を見てベリアルも更なる攻撃を仕掛けようと掌の上で闇のエネルギーの塊を作り上げる。

 

「まずは…女の方からだ…」

 

その塊をブレイクの方に向けた時だった。

 

「やめろ!」

 

マーベルドライバーを手にした颯馬が彼の前に立つ。

これは、斯波から受け取ったアタッシュケースに入っていたのだが、以前のベリアル戦で壊れてしまっている。

腰に巻き付けようとして当てても、ベルト部分が展開せず装着することができない。

 

「今のテメエに何ができる…?ライダーでもないお前に!」

 

「ああ、確かに僕はもう変身できない。」

 

掌の上でエネルギーの塊を練りこみ、より濃縮するベリアルだが颯馬は物怖じしない。

一度負けた相手ではあるが一歩も退こうとしない。

 

「スーツ無しじゃダメなら、スーツを着る資格はない。昔とある人がそう言っていた…」

 

これは嘗てアイアンマンであるトニースタークが、スパイダーマンであるピーター・パーカーに言い放った言葉である。

 

「皆が気付かせてくれた…僕はライダーになる前から皆のために戦いたいって思ってた…そしてその思いは今も変わらない……!僕は今も!仮面ライダーだ!」

 

「思いがどんなに強くても…俺には勝てねェ…!」

 

だが実力差は圧倒的だ。ベリアルの作ったエネルギー弾が撃たれると、颯馬の体が爆炎に包まれる。

 

「颯馬…!」

 

「颯馬さん!」

 

ベリアルの攻撃を受けての爆発に誰もが颯馬の死を確信した。

 

『よく言った、見事だ仮面ライダー。』

 

『誰かを守るためだったら、どんな危険にも飛び込む。少し危険だがヒーローに相応しい心意気だ。』

 

颯馬の体は無事であった。彼の身の回りには今まで颯馬が仮面ライダーマーベルとして使っていたアベンジャーズのメンバー達のヒーローディスクが光を放って浮遊し舞っていた。

そして、颯馬の前には2人の男の幻影が立っていた。

それはアイアンマンことトニー・スタークとキャプテン・アメリカことスティーブ・ロジャースの姿をしていた。

 

「なんで2人が…?」

 

『決まってるだろ…』

 

『『僕達/私達がアベンジャーズだからだ!』』

 

ディスクがさらに光を放つと、ヒーロー達の幻影が次々と現れて颯馬の身体の周りに集まる。

 

「馬鹿な!?ディスクにそんな力は無い筈だ!」

 

「すごい数だ…」

 

「デケえのもいるぞ!」

 

「違うッ…これは颯馬が起こした…」

 

召喚されたアベンジャーズの面々にベリアルや隼人達も驚きを隠せない。

 

「違うよ、畠山さん。これはヒーロー達が起こした奇跡です…」

 

颯馬の言葉にアベンジャーズの一同が頷く。

 

『アベンジャーズ!アッセンブル…』

 

そして彼の一声によってヒーロー達の幻影は光となって壊れてしまったマーベルドライバーに集まる。

 

『マーベルIDカード』

 

「これって…」

 

そしてマーベルドライバーはマーベルIDカードに姿を変える。

 

「これって…颯馬!これを使って!」

 

そのIDカードの存在に、隼人はふとケルベロスドライバーを取り出して、颯馬に向けて投げ渡す。

このベルトは元々足利が使おうとしていたもので、ベリアルから襲撃を受けた際に彼がとっさに颯馬達に投げ渡したものだった。

 

『ケルベロスドライバー!』

 

そのベルトを受け取った颯馬は腰に巻き付ける。

 

『マーベルIDカード!マーヴェリック!』

 

そしてマーベルドライバーが変化して出来上がったマーベルIDカードをケルベロスドライバーに挿入すると、これまでの戦闘データが一気にドライバーの基盤内に流れ込んでいく。

 

「変身!」

 

ディスクを入れていない状態で、センタースイッチを押し、両脇にあるレバーを同時に引く。

 

『ザ・マーベラスヒーロー!ニューボーン!』

 

青色の素体の上から赤と銀の装甲を纏い、体には黄色のラインが入っている。

頭部には王冠と金の仮面を合わせた様な装飾をつけ、大きな2つの複眼がこの場にいる者たちを見据えており、胸には"MARVEL"の文字が刻印されている。

北条颯馬の新たな姿、その名も仮面ライダーマーベル・ニューバース

 

「ほう…新しい姿を手に入れやがったか…」

 

「ああ、これが僕の新しい力だ!」

 

『スペース!マインド!リアリティー!パワー!タイム!ソウル!』

 

嘗て宇宙の始まる以前に6つの特異点が存在し、その特異点からビッグバンが起こって宇宙が誕生し、6つの特異点の残滓はエネルギーの結晶となった。1つでも容易に惑星を消滅させる力を持つそれらの結晶を、6つ全部揃えたものは宇宙をも支配する力を得られる。

その6つの結晶であるインフィニティーストーンは多くのヒーローやヴィラン達が手にしてきた。

中にはインフィニティーストーンによって力を得た者もおり、ある時それを全て揃えたサノスによって全宇宙の人口の半分が消滅したこともあった。

そんなインフィニティーストーンと関わりのあるキャプテンマーベル、ビジョン・ワンダ・ピエトロ、ソー、ガーディアンズ・オブ・ギャラクシー、ドクター・ストレンジ、ナターシャとホークアイらのディスクが各々の意思の色に光ると1本の西洋剣を作り出した。

 

『インフィニティ・カリバー!』

 

6つの意思の力を模したインフィニティジェムがガード部分に埋め込まれており、その刀身は金色の光を放っている。

 

「剣一本増えたところで、意味ねえなァ…テメエら!やっちまえ!」

 

「「おう!」」

 

「了解♪」

 

ベリアルの指示を受けて3体の怪人がマーベルに向けて攻撃しようと一斉に走り出す。

 

『タイム!インフィニティー!』

 

勇者のような剣を構えてマーベルに切りかからんと迫るバグル。まずは彼の対処をしようとマーベルがインフィニティーカリバーのタイムジェムに触れて6つのジェムに囲まれたソードジェムに指をかざす。

 

「これが時間を操る力か…」

 

すると、刀身が緑色の光を纏いマーベル以外の時間が止まる。

これはインフィニティーストーンのうちの1つであるタイムストーン由来の能力だ。

時間を操る剣と化したインフィニティーカリバーにとって、時間を止めることも朝飯前だ。

他の者たちが止まっている中、唯一動けるマーベルは剣を構えたまま止まっているバグルの後ろに回り込んで自身の剣でバグルの背中を切る。

 

「噓でしょ!?」

 

一瞬で自分の背後に回り込まれるなんて思っていなかったバグルが驚きつつも切り倒される。

 

「一瞬で後ろに回り込んだ!」

 

「小癪な!」

 

勿論誰にも颯馬が後ろに回り込む瞬間を見ることができず、隼人が驚きの声を上げると今度はドープが攻撃を仕掛けようとする。

 

『タブー!』

 

「くらえー!」

 

いくつもの光球を作り出したドープはそれを広範囲に向けて放つ。

 

『リアリティ!インフィニティー!』

 

インフィニティーカリバーのリアリティジェムに触れると刀身が赤く光り、赤色の煙を発生させる。

その煙がまき散らされてその煙に包まれた光弾は全て泡となって消え去る。

 

「何故だ!」

 

「これが現実を操る力…」

 

リアリティ・ストーンには現実を改変する力があり、その力を一時的に行使したことで攻撃そのものが消されてしまった。

 

「こういうことも、できるよね…」

 

その効果はインフィニティーカリバー自体にも使うことができ、マーベルがその刀身に手を翳すと、一時的にその長さが10m程になり、それを縦に振り下ろすとドープの身に達して、縦方向に胸部装甲を切り裂く。

 

『CD!』

 

続いてマーベルに向けてスマーズがCD状の円盤をいくつも作り出して投げつける。

 

『スペース!インフィニティー!』

 

それに対してマーベルは空間を操るスペースジェムに触れ、剣を翳すと青色のワームホールが生成され、スマーズが放った円盤が吸い込まれて消えていく。

 

「何ッ…!?」

 

「上だよ。」

 

驚くスマーズの上に青いワームホールが作り出されて先ほど吸い込まれた円盤が一気に降り注ぐ。

 

「スゴイ…これが颯馬の新しい力…」

 

「なんか色んな力使ってるぜ!」

 

「ええ…多彩な技ですね…」

 

インフィニティーカリバーの力だに驚かされる隼人ら3人。

 

「お前らは他の雑魚の相手でもしてろ…こっからは俺がやる!」

 

怪人3名ではインフィニティーカリバーに対処できない。

そう感じ取ったベリアルがマーベルの前に立つ。

 

「次は負けない…」

 

その言葉と共に颯馬は自身の持つヒーローディスクを取り出す。

 

(スタークさん…また一緒に戦ってください!)

 

『スタークスーツ!』

 

スタークスーツのディスクをケルベロスドライバーのセンタースロットに挿入しベルト上部のスイッチを押すと、ケルベロスドライバーからアイアンマン、ウォーマシーン、レスキューという3人のパワードスーツを扱うヒーロー達の幻影が現れる。彼らは皆スタークスーツディスクにデータが収められているヒーローである。

 

「皆さんの力…お借りします!」

 

そして、ベルト両端のレバーを引くと3人のヒーローの幻影がマーベルの身体に重なり、彼の新たな鎧となる。機械的な赤と金の装甲にところどころに青白く光るアークリアクター

右肩にはガトリングガンが、左肩にはグレネードランチャーが装備されており、その姿は依然マーベルドライバーを使って変身していた頃の形態の1つであるスタークスーツにも似ているが、どちらかと言えばニューバースの上からアイアンマンら、スターク・インダストリーズ製のスーツを纏うヒーローを模した装甲を装着しているようにも見える。この姿の名は仮面ライダーマーベル・スタークアーマー

 

『スタークスーツ!アッセンブルアップ!』

 

『お久しぶりです。マスター』

 

「戻ってきたんだね、ジャービス!一気に決めるよ…フルファイアだ!」

 

復活したサポートAIジャービスの存在に歓喜しつつも、まずは目の前の敵を倒すことに気持ちを切り替えて両腕のサブマシンガンと両肩の武装から秒間何十発もの弾丸とグレネード弾をベリアルに向けて撃つ。

 

「全然だな!」

 

しかし、弾丸の嵐をその身で完全に凌ぎ切ったベリアルが闇のオーラを纏ってマーベルに向けて走っていく。

 

「来いッ…ベリアル!」

 

仮面ライダーマーベルのリベンジマッチが遂に幕を開けた。

2人のライダーの戦い、勝利の女神がほほ笑むのは果たしてどちらか!?

 

To be continued…




マーベルIDカード
全てのアベンジャーズのディスクによって力を与えられたマーベルドライバーがカード化したもの。ケルベロスドライバーと併用して使う。

仮面ライダーマーベル・ニューバース
ケルベロスドライバーとマーベルIDカードのみで変身するマーベルの新たな基本形態
総合的な戦闘力に秀でた形態で他のフォームの基礎ともなる

仮面ライダーマーベル・スタークアーマー
スタークスーツディスクを使って変身するマーベルのフォームの1つ
ニューバースの上からアイアンマンの赤と金の金属のアーマーを装着している様な姿
アイアンマン、ウォーマシン、レスキュー(ペッパーポッツ)のデータが秘められており、アイアンマンさながらのパワードスーツにウォーマシンの様な重装備が幾つも付けられている。
必殺技は胸部のリアクターから放つアルティメットユニビーム



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第6章 本領発揮

「エンジンブレード!」

 

マーベルとベリアルが戦いを繰り広げる中、お互い動ける状態にまで戻ったオーウェンの変身する仮面ライダーポリスとスマーズ怪人態もお互いの力をぶつけ合っていた。

 

「くたばりやがれええぇぇぇぇ!!」

 

「プロの意地!舐めんじゃねえぞ!」

 

ポリスに対してスマーズは円盤状の刃と鋏をポリスに向けて投げて攻撃する。

だが、警備のプロであるオーウェンはエンジンブレードとハンドル剣の二刀流で飛んでくる刃を次々と切り、叩き落していく。

 

『センターパワー!セカンド!』

 

「トライドロンスマッシュ!」

 

ポリスがベルトのセンタースイッチを二度押すと仮面ライダードライブの乗る赤い車トライドロンの姿をしたエネルギーを生成してスマーズに向けて突撃させる。

 

「キャッスル!」

 

スマーズは咄嗟にキャッスルロストスマッシュの力を使って城壁を模したバリアを形成してポリスの攻撃を防ぐ。

 

「さて、そろそろゴールだ。」

 

『ライトパワー!センターパワー!ハイスピード!』

 

ライトスロットに装填された仮面ライダーアクセルのディスクにはアクセルメモリの持つ加速の記憶が秘められており、センタースロットにある仮面ライダードライブのディスクにある車の力と組み合わさることで、ポリスは超加速して一気にスマーズの背後側に回り、レフトレバーを3度引く。

 

『レフトパワー!サード!』

 

「ケルベロスッ…フルバレット!」

 

レフトスロットに装填されたG3のディスクにはその強化形態であるG3-Xのデータも秘められており、その専用武器であるガトリングガンのケルベロスを使うこともできる。

ポリスはその手にケルベロスを持ち、スマーズの背中に零距離でその銃口を突き付けて一気に引き金を引く。

 

「しまったッ…!」

 

ポリスが一瞬で背後に迫ったのに気付けなかったスマーズが彼の攻撃を防ぐことはできなかった。

背中に1秒当たり30発の弾丸が撃ち込まれ、ミニガンが火を噴き続けるのに比例してスマーズの背中に打ち込まれていく銃弾の数が増えていく。

 

「さてと、これで終わりだ!」

 

『レフトパワー!ファースト!』

 

もう一度レバーを引いてハンドガンであるスコーピオンを生成するとケルベロスと連結させて砲身の先にGX弾を装填する。このロケットランチャーであるGXランチャーを構えて、銃撃を受けて脆くなったスマーズの背部に狙いを定める。

 

「発射!」

 

そして狙いを定めた箇所にロケット弾を撃ち込む。

 

「クソッ…!こんなところで…」

 

「お仕事完了だな…」

 

ガトリングガンによって受けたダメージで怯んだところにロケット弾を撃ち込まれて、その弾と共にスマーズの身体は爆散する。

 

「コンバットシュート!」

 

一方で、理桜の変身する仮面ライダーブレイクはバグル怪人態との戦いを繰り広げていたが、バーニアバグスターの力を使って宙を飛びミサイルで攻撃してくるバグル相手に苦戦を強いられていた。

 

『センターパワー!セカンド!』

 

「行け!ブレイブドラゴン!」

 

ここで、理桜は一旦センタースイッチを二度してブレイブドラゴンを召喚する。

召喚されたドラゴンはバグルに向けて飛んで火を噴きながらミサイルを打ち落としていく。

 

「厄介なドラゴンだね…」

 

ガトリングとミサイルに加えて、バグルはリボるバグスターの使うライフルを右腕に装備してブレイブドラゴンに向けて撃つ。

 

「耐えてね…ドラゴン!」

 

ブレイブドラゴンがバグルの攻撃に対して火球を吐いてミサイル等を凌いでいる隙に、理桜は新たなディスクを装填する。

 

『仮面ライダー龍騎!仮面ライダーセイバー!仮面ライダーリュウガ!』

 

『ドラゴニックライダーズ!バーンアップ!』

 

ブレイクはウィザードのディスクとリュウガのでディスクを入れ替えた。

それによって彼女自身の姿こそ変わっていないがその身に仮面ライダーリュウガの力を宿す。

 

「こっちよ!」

 

一方のブレイブドラゴンはバグルに絡みついたまま地面に急降下してバグルの身体を叩きつける。

 

『ライトパワー!レフトパワー!ファースト!』

 

そして彼女は両端のレバーを引き、龍騎とリュウガのドラグセイバーを装備して二刀流でバグルに切りかかる。

 

「ドラゴンにはドラゴンだね。」

 

バグルもグラファイトバグスターも使用しているグラファイトファングを手にブレイクに向かっていく。

彼の持つ竜の牙状の刃と彼女の持つ柳葉刀が交わる。

赤いドラグセイバーで振り降ろされるバグルの武器を受け止めて受け流すと、黒いドラグセイバーでブレイクの腹部を切り裂く。

 

「まだまだ!」

 

『ライトパワー!レフトパワー!セカンド!』

 

その勢いのままブレイクは両腕にドラグクローを装備して赤と黒の炎を同時に放つ。

 

「クソッ…暑すぎる!」

 

バグルもアランブラバグスターの氷魔法を地震に向かって使うことで炎による攻撃を防ぐ。

 

『ライトパワー!レフトパワー!サード!』

 

だがここで彼女の攻勢が終わることもなく、ドラグレッダーとドラグブラッカーの2頭の龍を召喚して一気にバグルを襲わせる。

 

「はあッ!」

 

ドラグセイバー2本を手に持ったブレイクと2体の竜による波状攻撃に対してバグルもバグスター達の力を使って何とか防ごうとするが、力を使う間もなく彼女らの攻撃を次々に受けてしまう。

 

「これでトドメ!」

 

ブレイクはセンタースイッチを押してから両側のレバーを一気に引く。

 

『オールフィニッシュ!』

 

「ドラゴナイト…ストライク!」

 

ドラグレッダーとドラグブラッカーの2体が放った炎に乗りながら右足を突き出して、バグルの胸部に向けてボレーキックを撃つ。

 

「これで私の、ゲームクリアだね!」

 

「まさか僕がッ…ゲームオーバーになるなんて…!」

 

胸部に強力なライダーキックを受けてしまったバグルの身体は限界を迎え爆発四散する。

 

『クレイドール!』

 

一方、ドープの怪人態は自身の腕を大筒状態に変質させてエネルギー弾を隼人達に撃っている。

 

「まだ撃ってくるぜ!アイツ!」

 

「後ろも気を付けなければ…」

 

さらにドープから距離を取る和田と畠山らを数体程度のマスカレイドドーパントが取り囲んでいる。

 

「おっと、なんだ…?これは?」

 

彼らを追い詰めようと一歩、また一歩と歩み寄っていくドープの足にあるものが当たって鈍い音が鳴る。

 

「斯波…さん…」

 

彼の足に当たってしまったのは、ベリアルの魔の手から隼人らを守り命を落としてしまった斯波の死体だった。

 

「これ、さっきの牛さんかな…?興味深いね…」

 

その遺体の存在に気付いたドープは斯波の身体に興味を示したのか、地面に向けて屈むと斯波の身体をひっくり返す。

 

「お前…!何をする気だ!」

 

「何って…調べるだけさ、このブツを…」

 

ドープが斯波の身体についたベルトを引きはがすとそれを手に持ちじっくりと眺める。

 

『ダミー!』

 

ドライバーとメダルの情報を脳内に入れると、ダミードーパントの能力を行使して仮面ライダーカウズの姿に変身する。

 

「斯波さんのライダーに変身したッ…!」

 

「うん、ライダーシステムって興味深いからね。実際に使って体験したいのさ!けどこれは…要らないかな…」

 

カウズの姿に変化すれば、既にケルベロスドライバー等は彼にとって不要である。

それ故に、ベルトを地面に放り投げて捨ててしまう。

 

「お前よくも!」

 

その行動に怒りを覚えて声を荒げようとした隼人の足元に一発の銃弾が放たれる。

カウズの右手を見ると、その手に握られたマグナバイザーの銃口からは既に煙が上がっている。

 

「その力を!お前が使うな!」

 

だがその弾丸にも怖気ずくことなく隼人はカウズに掴みかかり声を荒げる。

この世界に来てから少しだけだがお世話になった男の姿を奪っただけでなく彼の形見を無下に扱った。

そのことに対する怒りは隼人の中にある恐れすらも搔き消してしまうほどであった。

 

「よせ!隼人!」

 

だが、敵は銃を持っている相手だ。

丸腰の隼人が突っかかるには危険な相手であり、再び銃口が隼人に向けられる。

 

「君は何も面白くないからね…ここで死んでもらおうかな。」

 

銃口から乾いた音が響き、鉄の弾丸が隼人に向けて飛んでいく。

 

「隼人!」

 

和田が隼人のことを助けるがため、彼の手を引こうとしたその時だった。

突然新幹線のようなエネルギー体が彼らの間を通過する。

 

「これって…」

 

そして、その新幹線が宙を走って再び、着陸するとその中に乗せられていた隼人が降りてくる。

 

「一体何が…」

 

いつの間にか謎の新幹線に乗せられて危機を回避していた隼人が戸惑いつつも辺りを見回すと、そのエネルギー体が一人の仮面ライダーに変化する。

白とシルバーのスーツに青色のクリアパーツの鎧がついたそのライダーが自身の手の中にある3枚のディスクを隼人に託す。

 

「俺は仮面ライダーセンチュリー。俺達の力、君が使ってくれ。」

 

センチュリーと名乗ったそのライダーの姿が粒子と化すと、1枚のIDカードへと姿を変える。

 

「隼人、これを使ってください。斯波さんの力で、奴を倒さなければ…」

 

その様子にドープらが気を取られていた隙に地面に落ちていた斯波のケルベロスドライバーを畠山が拾って隼人に手渡す。

 

「わかったよ。畠山さん」

 

「しっかり頼んだぜ!」

 

「任せてください!」

 

畠山と和田から背中を押され、隼人が斯波の形見であるケルベロスドライバーを腰に巻くと、自身の手の中にあるセンチュリーから変化したIDカードを挿入する。

 

『ミライIDカード!』

 

「力をお借りしますよ!」

 

『仮面ライダーNEW電王!仮面ライダーセンチュリー!仮面ライダーアクア!』

 

センチュリーから受け取ったディスクをベルトに挿入すると、上部のスイッチを拳で押し込む。

 

「変身!」

 

そして一気に両端のレバーを引くと、3体のライダーの幻影が現れて隼人の姿と重なることで未来的なフォルムの青い戦士に姿を変える。

 

『ニューライダーズ!ジェネレーションアップ!』

 

スマートなフォルムにところどころ走る銀色のラインはまさに未来の仮面ライダー

その姿の名は仮面ライダーフューチャー、未来のライダーの力を使う新たな戦士の誕生である。

 

「へ~新しいライダーか~潰しちゃうちゃうけどね。」

 

『レフトパワー!ファースト!』

 

カウズの力をコピーしているドープは巨大火砲ギガランチャーを装備するとフューチャーに狙いを定めて砲弾を放つ。

 

『センターパワー!ファースト!』

 

その攻撃に対して隼人もベルト上部のセンタースイッチを押す。そうすると4本の鋭利な刃がついた手裏剣のような歯車状の円環粒子、デストサイクロンを作り出すとその砲弾を防ぐ盾となる。

 

「はあッ…!」

 

さらに2対のデストサイクロンをドープに向けて投げる。

 

『ライトパワー!ファースト!』

 

ドープもコピーしてある仮面ライダーバッファの武器であるゾンビブレイカーを使ってその刃による攻撃を防ぐ。

 

『レフトパワー!ファイナル!』

 

「エンド・オブ・ワールド!」

 

ここでドープは仮面ライダーゾルダが使役しているミラーモンスターのマグナギガを召喚し、その背部にマグナバイザーを挿入して引き金を引くと彼の兵装が一気に放たれる。

多数の弾丸とロケット弾がフューチャーの身体に向けて飛んでいく。

 

「おいおいやべえぞ!」

 

「喰らったら一たまりもない…」

 

『ライトパワー!ファースト!』

 

現在彼らが戦闘を行っている川の上の施設とそこから繋がる橋の上というのは、彼のベルト右側のスロットに挿入されている仮面ライダーアクアのディスクを使うには最適な環境だ。

川から4本の水柱を作り出して、その水の流れを自身の手元に引き寄せると水の塊が盾の代わりとなりマグナギガから放たれた銃弾とロケット弾を水流に巻き込んでその勢いを殺す。

 

「これ全部返すよ!」

 

そして、その中に巻き込んだ弾丸ごと水流をドープに向けて一気に放つ。

 

「嘘だろォ!」

 

水流に巻き込まれたドープが流れに乗せられたまま川の中に落ちていく。

 

「ここで決める!」

 

フューチャーがセンタースイッチを押してから両側のレバーを一気に引く。

 

『オールフィニッシュ!』

 

そして水に落ちたドープに向けて赤いエネルギー粒子を纏いながらフューチャーが飛び上がる。

 

「ライナードフィニッシュ!」

 

その粒子が鉄道のレールのような形となってドープの体まで伸びてその体を拘束する。

そしてそのレールを辿るように右足を突き出した体制でフューチャーが突き進む。

 

「こんなところでッ…!」

 

水中でフューチャーの一撃を喰らってしまったドープがそのまま爆散し、大きな水しぶきを上げる。

 

「よっしゃ!隼人の野郎やりやがった!」

 

「見事ですね…」

 

初変身で無事に初勝利を収め、川の中から顔を出すフューチャーに向けて和田達が賛辞を贈ると隼人も仮面の中で微笑みながら大きく手を振る。

 

『ナノテクスーツ!』

 

一方のマーベルとベリアルの戦いは、ベリアル優位に進みつつあったが、颯馬がサポートディスクをベルトのレフトスロットに挿入すると彼の身体を包むスーツがナノテク製の物に変わる。

 

『ターゲットロックオン』

 

「よし、狙い通りに一気に撃とう!」

 

マーベルがナノマシンで4つのファンネルを作り出すとサポートAIであるジャービスが狙いを定めて一気にレーザー砲を撃つ。

 

「まあ、昨日よりは…強いんじゃねえの?」

 

ベリアルは自身の装甲でレーザー砲の攻撃を受けてから、マーベルに向けて走り一気に迫る。

 

「けどそんな付け焼刃じゃ…俺には勝てねえよ…!」

 

そしてマーベルの身体を一気に蹴り上げる。

 

「やっぱ強いッ…!けど、まだここからだ!」

 

『マスター、パーティーディスクを使ってみてください。』

 

「わかった。」

 

ナノマシンで盾を作って防ごうとしたが、その盾ごとべリアルに蹴り飛ばされてマーベルは宙を舞う。

空中でナノマシンを使いジェット噴射機構を作り出して空中で自身の姿勢を制御した状態で飛びつつ、未だディスクが入っていなかったベルトのライトスロットにディスクを挿入する。

 

『ナノテク!スタークスーツ!パーティー!』

 

パーティーディスクは35体の多種多様なアイアンマンのアーマーを召喚するスキルであるホームパーティープロトコルを発動するディスクである。スタークスーツのディスクとその力をサポートする2枚のディスクがケルベロスドライバーに挿入されることで新たな力が生み出される。

 

『スタークアーマーMark100!アッセンブルアップ!』

 

ホームパーティープロトコルによって召喚される数々の種類のアイアンマンスーツ達。そのデータがスーツを構成するナノマシン1つ1つに流れ込むことによりアップデートされて質とナノマシンの生成量が増えることで彼の纏うパワードスーツはより性能の良い完全なスーツとなる。

仮面ライダーマーベル・スタークアーマーMark100、究極のパワードスーツを纏う戦士の誕生である。

 

「姿を変えたところで無駄だ!」

 

ベリアルは漆黒のナイフを空中に生成してマーベルに向けて発射する。

だがそのナイフをナノマシンによって作り出された盾で防ぐ。

何発かのナイフが盾に当たって削るが次々と生成されるナノマシンがその傷をカバーして再生する。

それだけでなく再生を繰り返すうちに盾は徐々にその攻撃に耐えきれるようになってくる。

 

「まだまだァ!」

 

ベリアルが自身の周囲に闇のエネルギーを集めた弾を幾つも生成してマーベルに向けて投げていく。

 

「発された弾の数は?」

 

『5発です。』

 

「じゃあ全部、撃ち落として。」

 

『了解しました。』

 

颯馬がジャービスに指示を出すと盾を構成していたナノマシンが5門の銃口に変わり、そこから放たれるレーザーがエネルギー弾を全て撃ち落とした。

 

「そんなこともできんのかよ…」

 

「それだけじゃないよ。」

 

両肩にガトリング銃、腕にロケットランチャーをそれぞれナノマシンで生成して装備すると、そこからベリアルに向けて集中砲火。光の弾丸が次々とベリアルに降りかかり腕から放たれるミサイルが着弾する度に爆風が起こる。

ミサイルを構成しているナノマシンは爆発する直前に自身の形状を刃物状に変化させて炸裂する際にベリアルの装甲を切りつける。

 

「いてえじゃねえか…!」

 

今度はベリアルがエターナルエッジ、ガシャコンバグヴァイザー、ドリルクラッシャーの3つの武器を生成すると自身の纏う闇のエネルギーを使って1つの武器として纏め上げる。

 

「闇の剣…べリアナイトソード、これでお前を切り裂くぜ!」

 

「そう簡単にやられるつもりはないよ!」

 

べリアナイトソードを構えるベリアルに対してマーベルはインフィニティカリバーとアークリアクターが組み込まれたナノマシン製の盾を手に持ち、対抗する。

ベリアルの振るう闇の剣に対し、ナノマシン製の盾はマーベルの手から離れて小型のジェット機構を作り飛行しながら縦横無尽に振り回されるべリアナイトソードの切っ先に移動してその刃を防ぐ。

 

『スペース!インフィニティー!』

 

飛行する盾をもう1枚と大型の盾1枚を創造すると、その盾でベリアルの気をそらしたマーベルはインフィニティカリバーに埋め込まれたスペースジェムを使ってベリアルの背後に瞬間移動して背中を縦一閃に切り裂く。

 

「テメエッ…!」

 

背中を切られてマーベルの方を向き攻撃しようとした瞬間先ほどまでベリアルの攻撃を防ぐのに使われていた盾が変形してレーザー砲でベリアルを3方向から撃ち抜く。

 

『スタークフィニッシュ!』

 

そしてマーベルがケルベロスドライバーの両端にあるレバーを引くとマーベルの両腕にナノマシン製のキャノン法が取り付けられ、胸のアークリアクターを中心に砲門が生成され、両腕と合わせて3つの銃口がベリアルに向けられてアークリアクター由来の青白い光を放つ。

 

「リアクターファイナルテックシュート!!」

 

ベリアルの相手をしていたナノマシン製の盾がナノマシンに戻ると彼の両足にまとわりついて地面に固定させるとマーベルの放った3つの強力なレーザーが避ける間もなくベリアルの身体に達する。

 

「俺はまだまだ!負けねえ!」

 

ナノマシンとスーツの力を巧みに操るマーベルの戦法に翻弄されていたベリアルだったがパワーのぶつかり合いとなれば彼にまだ分はある。自身のベルトに挿入された3つのディスクから闇の力を最大限引き出してそのエネルギーを両掌に集中させてエネルギーをぶつけ合うことで仮面ライダーエボルの様に小型のブラックホールを作り出す。

マーベルの必殺攻撃に対してブラックホールをぶつけるがその力が拮抗し、ぶつかり合う力の影響ブラックホールが爆発し互いの技のエネルギーを撃ち消す。

 

「クソッ…!」

 

爆風と煙が互いの視界を遮り、ベリアルは足に纏わりついたナノマシンを破壊して体制を整える。

 

『アメリカンソルジャー!スタークスーツ!アスガーディアンズ!』

 

だが、その間にマーベルはキャプテンアメリカの力を秘めたアメリカンソルジャーディスクとソー達アスガルドの戦士たちの力を秘めたアスガーディアンズディスクをケルベロスドライバーに挿入しており、煙が晴れるとアイアンマン、キャプテンアメリカ、ソーの3人の幻影が現れる。

 

『BIG3!アッセンブルアップ!』

 

アベンジャーズを代表する3人のヒーローの姿がマーベルと重なり合うことで新たな装甲を形成する。

星条旗を模した柄と神々しい意匠を取り入れた鉄製のパワードスーツ。まさに3人のヒーローを合体させたような姿をしている。

その名も仮面ライダーマーベル・BIG3アーマー

左前腕には星が描かれたヴィブラニウム製の盾を付けており、右手には雷を操るハンマーであるムジョルニアを持っている。

 

「まだまだいくよ!」

 

「かかって来やがれ!」

 

ムジョルニアを振りまわして飛び立ったマーベルが背中からジェット噴射で飛びながらベリアルに低空飛行で迫る。

 

「ハアッ…!」

 

彼がハンマーを振り回しておいたことによって空中にはすでに暗雲が立ち込めておりマーベルがベリアルに向けてハンマーを振り下ろすのと同時に黒い雲の中心から雷が降り注ぐ。

 

「俺の雷の方が強いぜ!」

 

雷と共に振り下ろされたムジョルニアを防ごうと漆黒の稲妻を纏った拳を突き出す。

拳とハンマー、そして2つの雷撃が一点でぶつかり合いその閃光と共に起こる爆発が2人を包み込む。

 

「ッ…!」

 

お互いの力が拮抗し、その場から両者が弾かれてその場から吹き飛ぶがすぐに体制を整えて互いが相手に向けて駆ける。

 

「喰らいやがれ!」

 

闇のエネルギーを右手にまとわせたベリアルがその手を振り下ろして引っ搔こうとするのに対してヴィブラニウム製の盾を前に出して攻撃を防ぐとナノマシンで作った手裏剣を掌からベリアルに向けて発射する。

 

「チッ…!」

 

手裏剣を喰らったベリアルが今度は掌から稲妻を放つとマーベルも盾で振り回しながらハンマーを振り回しその回転するムジョルニアに纏わりつき溜め込まれた雷がベリアルに向けて放たれる。

ベリアルの放つ漆黒の稲妻とぶつかり合うが…

 

「インフィニティ・カリバー!!」

 

『パワー!インフィニティ!』

 

左手でインフィニティカリバーを持ったマーベルは剣を地面に突き立てて剣のガード部分にあるパワージェムに触れてから中心部に指を翳すと再び剣を握り空に向かって掲げると降り注ぐパワージェムのエネルギーがムジョルニアの中に入り放たれる稲妻の威力をより大きなものへと変えていく。

 

「そう簡単に…押されるかよッ…!」

 

ベリアルも3人の闇のライダーの力を持っている。彼も膨大な闇のエネルギーを秘めた戦士であり体中から自身の腕に力を送り込んで稲妻の威力を増幅させる。

2人の放つ雷がぶつかり合う。だが一度はマーベルを圧倒したベリアルの力でもインフィニティストーン由来の力で強化された雷に押されていく。

 

「クソッ…!」

 

遂にベリアルは押し負けてしまいマーベルの放った雷をまともにその身に受けてしまう。

 

「グアアッ…!!」

 

雷撃を受けたベリアルの身体に青い稲妻が何度も走り、火花を散らしその身が爆発を起こす。

そして装甲から煙を吹き出しながら倒れこんで地面に膝を突く。

 

「なんでなんだヨォ!なんで!俺もお前も変わらないはずだ!お前も俺と同じ!アルティメイタムに利用された能無しだろ!?なんで勝てねえんだよ!!」

 

何とか地面からその身を起こしながらベリアルが恨み言を叫ぶ。

自身と同じ境遇でライダーとなりアルティメイタムに利用され、そして自分よりも格下であったはずの颯馬に敗北してしまった。

その悔しさ、そしてマーベルが急に強くなったことに対する苛立ちからか何度も地面に拳を叩きつける。

 

「俺が負ける筈がねえ!!」

 

トライダーキュラー両端にあるレバーを同紙に引きくと身体に闇を纏わせて飛び上がり、マーベルに向けて突撃していく。そのベリアルに対してマーベルもケルベロスドライバー上部のスイッチを押してから両端のレバーを同時に引く。

 

『マーベリック!オールフィニッシュ!』

 

マーベルの胸部にあるアークリアクター、左腕にあるヴィブラニウムの盾、右手に持つムジョルニアにエネルギーを流し込んで蓄えて両腕を胸の前でクロスさせてベリアルに向けてそのエネルギーを一気に解き放った。

 

「BIG3レーザー!」

 

「レクイエムスラッシュ!」

 

マーベルが放ったレーザー攻撃に対して闇の力から刃を生成したベリアルがその光を切り裂こうとする。

 

「ッ…!」

 

トライダーキュラーに挿入された仮面ライダーエターナルの力を秘めたその刃はマーベルの放った光線を切り裂き彼の体までも切ろうとしたが間一髪で盾で防ぐ。

 

「インフィニティ・カリバー!」

 

『オール!インフィニティ!』

 

そしてすぐさまインフィニティカリバーを手に取ると6つのジェム全てに触れてインフィニティストーンの力を全て剣に纏わせる。

 

「インフィニティーカリバー!オールスラッシュディストピア!!」

 

「オールゲーマ!ストライク!」

 

マーベルが剣を振るうとその軌道が6つの光の刃となってベリアルに向けて飛んでいくがそれに対抗するようにベリアルも仮面ライダーゲンムの力を使ってロボットゲーマら6体のゲーマを召喚しマーベルに向けて突撃させる。

6本の光の刃と6体のゲーマ達は空中でぶつかり合って爆発するが…

 

「しぶてえな…」

 

やられてしまったのはゲーマだけで彼らを切り裂いたまま勢い衰えずインフィニティ・カリバーから放たれた光の刃はベリアルに向けて飛んでいく。

 

「ブラックホール」

 

トライダーキュラーに装填されたディスクの力の元となった仮面ライダーエボルの様にベリアルは掌の上でブラックホールを作り出して飛んでくる刃を全て飲み込む。

 

「このまま…ぶっ殺してやるぜ!」

 

そのブラックホールに自身の持つ闇の力を集中させて自身の右足に纏わせると、ベリアルはマーベルに対して一心不乱に走り出す。

 

「ここで終わらせる!」

 

『オール!インフィニティ!』

 

『マーベリック!オールフィニッシュ!』

 

マーベルインフィニティ・カリバーにある全てのインフィニティ・ジェムに触れ、剣を地面に突き立てるとケルベロスドライバーのスイッチを押して両端のレバーを引く。

 

「ハアアアアァァァァァァ!!」

 

ベルトに挿入されたアイアンマン、キャプテンアメリカ、ソーらヒーロー達のディスクから流れ出す力とインフィニティ・カリバーからマーベルの身に流れ込むインフィニティ・ストーンの力がマーベルの右足に集中する。

 

「ブラックホール・ブラッドエンド!」

 

「アッセンブル・クライマックス!!」

 

ベリアルとマーベルがそれぞれ飛び上がると右足を突き出した体制で互いに向けて一気に突き進む。

両者の右足がぶつかり合い空中で2人の力が時にぶつかり時に絡み合って火花を散らす。

 

「俺の闇を受けてみろ!!所詮殺しの才能しかない木偶の坊!!」

 

「違う!僕は僕を信じる人たちのために戦う!木偶の坊じゃない!ヒーローだ!!」

 

お互いの最大火力がぶつかり合ったが、マーベルの力がベリアルを上回った。

増幅するマーベルの強さに押されてしまったベリアルは体勢を崩してしまい、その胸にマーベルのライダーキックが突き刺さろうとした。

 

『オールエンド!』

 

その刹那、ベリアルがトライダーキュラーの左右にあるレバーを引いてエターナル、ゲンム、エボルの3人のライダーの力を一気に解き放ってマーベルが突き出している右足に向けて回し蹴りでカウンターを決めお互いの力を打ち消しあった。

彼自身の必殺技も破れてしまったがマーベルの必殺技を不発に終わらすことができた。

ベリアルがそう思った時だった。

 

「マジか!」

 

彼の目の前に迫っていたのはマーベルの左足だった。

 

「デモリッション…マーベル!」

 

スーツに搭載されたナノマシンで作ったジェットパックでマーベルはベリアルの攻撃を受けても空中でバランスを崩すことなく彼に迫り、咄嗟にインフィニティ・カリバーから送られ続けるエネルギーを左足に込めてベリアルの顔面部に蹴りを放った。

 

「マジかよ…」

 

咄嗟に放たれたとはいえその威力は大きく、ベリアルの装甲を突き破って変身者自身にダメージを与える。

頭部に蹴りを入れられてしまったベリアル自身の脳が揺れる。

意識が朦朧とするベリアルの変身が解け、彼の身体は地面に倒れ伏す。

 

『見事なノックアウトです。』

 

サポートAIジャービスのその一声は颯馬に自身の勝利を確信させるのに十分だった。

 

To be continued…

 




ライダー&ディスク解説

仮面ライダーポリス
オーウェンが変身する仮面ライダー
使用するディスクの解説
・仮面ライダードライブ
ハンドル剣とドア銃を使用できるだけでなく、トライドロン型のエネルギー体を作り出して相手に向けて発射することも可能である。
・仮面ライダーアクセル
エンジンブレードが使用可能
また、ドライブのディスクに加速を与えて高速移動することも可能。
・仮面ライダーG3
スコーピオンやケルベロス等のG3専用武器が使用可能。

仮面ライダーブレイク
理桜が変身する仮面ライダー
龍騎、ウィザード、セイバーだけでなくリュウガ等のドラゴン系ライダーのディスクも使用可能。
使用するディスクの解説
・仮面ライダーリュウガ
ファースト
ソードベントを使用してドラグセイバーを装備する。
セカンド
ストライクベントを使用してドラグクローを装備する。
サード
アドベントを使用してドラグブラッカーを呼び出す。

仮面ライダーフューチャー
三浦隼人がミライIDカードとケルベロスドライバーに加えてセンチュリー、NEW電王、アクアを始めとする未来の仮面ライダーのディスクで変身する。
使用するディスクの解説
・仮面ライダーセンチュリー
センチュリーと同様歯車状のエネルギーを作り出して盾や武器、足場として使用する。
・仮面ライダーNEW電王
マチェーテディ等の武器を使用する。
・仮面ライダーアクア
周囲の水流を自由自在に操る。


仮面ライダーマーベル
フォーム解説
・スタークアーマーMark100
ナノテクディスク由来のナノマシンとパーティーディスク内にある数十体のアイアンマンスーツのデータが組み合わさることで生成されたどんな状況にも対応できるナノマシンでパワードスーツを生成している。
ナノマシンを変幻自在に変形させて武器を作り出して戦う。
・BIG3アーマー
アイアンマン、キャプテン・アメリカ、ソーのアベンジャーズ初期メンバーである3人のディスクで変身する。
アイアンマンのナノマシン製のアーマーとキャプテン・アメリカが使用するヴィブラニウム製の盾、ソーの武器である雷を放つハンマーのムジョルニア等の各ヒーローの主な武器を使って戦う。


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第7章 フォースナイツ

「勝った…颯馬が勝った!」

 

「すごかったですよ!颯馬さん!」

 

ベリアルの顔を蹴って倒したと思ったその瞬間、僕の元に和田さんと畠山さん、それに3人の仮面ライダーが駆け寄ってきた。

 

「あれ?隼人は?」

 

けどその中に隼人と思わしき人影が無かった。

 

「あ、そっかこの姿を見せるのは初めてだったね。」

 

そう言って青と銀のライダーが変身を解除すると隼人が姿を現した。

 

「隼人!?」

 

「うん、僕もライダーになったんだ。これからは僕も一緒に戦うよ。」

 

「よろしくね!」

 

隼人が僕に向けて突き出した拳に、僕の拳を合わせる。

隼人がライダーになったのは驚いたけど、嬉しいしこれから一緒に戦ったりしてくれるのは心強い。

 

「な、何故だ…ナゼ俺はお前に負けたッ…!」

 

だが僕らが喜びを分かち合う間もなく、ベリアルが再びその身を起こそうとする。

 

「それは…信じあえる仲間がいたからかな…」

 

「んなワケねえだろ!俺にだって仲間はいた!」

 

確かにベリアルの元には仲間の怪人が3人いた…

 

「けど俺の仲間は戦争で……」

 

けどそれだけじゃ無いみたいだ。

彼は僕にとっての隼人や畠山さんの様な仲間達を失っていたみたいだ。

 

「俺が力を使えなかったばかりに死んじまった!なんでだ!なんでお前は力を使いこなせたんだ!!所詮ただ実験に使われただけの存在なのに!!」

 

「多分それは僕が…この力に怯えず、信じたからだ。君は君の中でヒーローの力を否定していたんじゃないの…?」

 

僕は仲間達だけでなく最初から仮面ライダーマーベルの力を信じて戦い続けていた。

だからこそ、皆と一緒にバダンを倒すことができた。

 

「俺がライダーの力を…信じてなかった……」

 

「僕は戦うことに恐れを抱いていなかった。君の言う通り殺すことしか能がない人間だったかもしれない。だから使いこなすことができたのかも知れない。けど、それだけじゃないよ。ヒーローを信じる心が僕を仮面ライダーに変えてくれた。」

 

僕はベリアルに言われた通り戦う才能しかないのかも知れない。

けど、アベンジャーズのヒーロー達と共にヒーローとして、仮面ライダーとして戦う道を切り開いた。

アルティメイタムに利用されていたのだとしてもこれは僕と隼人達だからこそ…本郷さんや村雨さんがいたからこそ仮面ライダーの道を歩むことができた。

 

「これは決して僕だけの力じゃない。けどヒーローとしてこれからも色んな人たちを守り続ける。僕自身の意思でッ…!」

 

僕はここに来てから、自分達が暮らす世界以外にも並行世界が幾つもあり、その世界にはそれぞれ虚位がいることを…

ベリアルのいた世界だってバダンのような巨悪に侵略されてしまっていた世界だ。

僕はそんな世界も救いたい。それが僕のヒーローとしての戦いだ。

 

「だからベリアル、君もやり直そう。僕達と……」

 

「断る…俺はもう後戻りはできねえ…自分の世界も滅ぼし、足利も斯波もぶっ殺した…俺の計画も失敗だ…」

 

ベリアルが放り投げたディスクを僕は拾い上げる。

 

「ディケイド…?」

 

確かこのディスクは足利さんが持っていた…

 

「そのディスクは並行世界を超える力を持つ者たちのディスクだ。」

 

僕と隼人が足利さんから投げ渡されたディスクを出すと、オーウェンさんがディケイドディスクを含めた3枚のディスクを僕達から受け取ると、そのディスクについて語り始めた。

 

「これは並行世界を移動するのに使えるディスクだ。颯馬サン達をこっちに連れてくるのにも使ったん不だが、テメエこれで他の世界に…」

 

「ああ、俺が住みやすい世界に行ってやろうって思ってたんだ…そいつで他の世界行って自由に過ごしてやるつもりだったのに…今じゃこのザマだ…」

 

ディスクを拾い上げたオーウェンさんが生き残ってこっちにやってきたアルティメイタムの職員の人達に指示を出すとベリアルは手錠を嵌められて拘束され立たされる。

 

「このまま連行しろ。颯馬サン、こいつにやり直させたいって気持ちは俺も同じだ。だが足利さんと斯波さんを殺された以上放っておくことはできねえ。こいつは俺達が更生させる。」

 

「ええ、よろしくお願いします。」

 

ベリアルは既にアルティメイタムの2人を殺してしまっている。

ここはオーウェンさん達なりにケジメをつけたいんだろうね…

僕らは一歩譲って連れていかれるベリアルの方を見る。

 

「僕は信じてるよ。君が戻ってくるその時を…」

 

僕とベリアルは同じ境遇で仮面ライダーになった。だからだろうか、僕はいつか彼と肩を並べて戦える時を待ちわびている。

 

「さて、これはお前が持っておけ。アメリカチャベスのディスクだ。」

 

「アメリカ・チャベス…?」

 

「ああ、これも並行世界を超えることができるヒーローのディスクだ。元の世界に戻るのにも必要だ。」

 

僕はオーウェンさんからディスクを渡されてそのまま他のディスクと共にしまっておく。

それからはオーウェンさんの案内で僕らはアルティメイタム本部だった基地に戻っていく。

 

----------------------------------------------------------------------------------------------

 

「あの…颯馬さん!」

 

それから数日間、彼らは忙しい日々を送っていた。

ベリアルとの戦いで亡くなってしまった足利と斯波の弔い。

アルティメイタムの解体。そしてその設備の再利用などそう言った手続きに追われ、本来客人であるはずの颯馬達もオーウェン達の仕事に協力していた。

そして…

 

「一度自分の世界に戻るのか…」

 

「はい、一度レジスタンスの皆に報告しないといけないので。」

 

「僕も早く父さんに会わないと…心配されてそうだし。」

 

そしてやるべきことを終えた颯馬達は一度自分達の世界に戻ることにした。

 

「また、会えますよね…?」

 

「大丈夫、しばらくしたら戻ってくるよ。」

 

この期間の間に理桜はより颯馬に懐いており、彼がこの世界から離れてしまうと聞くと涙ぐんで不安そうに彼のことを見つめている。そんな理桜を不安にさせまいと颯馬は彼女の頭を優しく撫でる。

 

「ふふ、その時はまた筋肉見せてくださいね。」

 

「それはまあ…考えておくよ。」

 

ちなみに彼女は一度見てしまった颯馬の筋肉が脳裏に焼き付いており、機会さえあればまた見ようと画策している。

 

「颯馬サン、それに他の皆サンもここまでの協力感謝します。これからは一緒に、世界を守っていきましょう。」

 

「ええ、よろしくお願いします。」

 

オーウェンが突き出した拳に颯馬も自身の拳を合わせてから、仲間達の方を見る。

 

「颯馬~!そろそろ行こうぜ!」

 

「ええ、源田さん達が今頃我々のことを探してるでしょうし。」

 

「うん、早速戻ろう。」

 

『ケルベロスドライバー!』

 

和田と畠山の言葉に頷くと颯馬はケルベロスドライバーを腰に巻く。

 

『マーベルIDカード!マーヴェリック!』

 

『チャベス・ポータル!ソーサラーマジック!エイジ・オブ・マインド!』

 

そこにマーベルIDカードとワンダら3人とドクターストレンジ、アメリカチャベスのディスクを挿入する。

 

「変身!」

 

『マルチバース・オブ・マッドネス!アッセンブルアップ!』

 

並行世界を駆け回りつつ戦った魔術師ヒーロー達の力を組み合わせることで赤と青のローブと星の意匠のあるローブを纏いし戦士、仮面ライダーマーベル・マルチバース・オブ・マッドネスに姿を変える。

 

「また会いましょう。」

 

「ええ、待ってます!」

 

「じゃあ…またね!」

 

左手を突き出して右手を円を描くように回すとポータルが開き、その先は本来颯馬達が住んでいる世界とつながる。

彼らは理桜とオーウェンに手を振るとその中に入って自身の世界に戻るのだった。

 

----------------------------------------------------------------------------------------------

 

「なるほどなあ、そんなことがあったのか。」

 

自分達の過ごす世界に戻った颯馬達はレジスタンスの仲間達と再会を果たし、並行世界での出来事を皆に話した。

 

「ええ、かなり疲れましたね。」

 

「そうかそうか、じゃあ今はゆっくり休んでくれ。」

 

「はい、お言葉に甘えさせてもらいます。」

 

旧レジスタンスメンバーによる復興は徐々に進みだしており、戦乱で疲れた民を癒すための温泉が活発に開発されている。

颯馬達も旅の疲れを癒そうと、源田らに勧められている温泉に向かおうと考えていた。

 

「けど、本当に行くのか?」

 

「はい、僕たち以外にも悪の脅威に曝されてる人達は沢山いるってことを知りました。僕はそういう人達も救いたいんです。」

 

「並行世界の人達か…茨の道になるけどいいのか…?」

 

「構いません。僕と戦ったベリアルの様な人をこれ以上生み出したくないんです。」

 

颯馬はベリアルとの戦いを経て彼の人生を知ったことで、様々な世界で困っている者たちを助けたいと考えていた。

 

「それに、源田さん達みたいな頼れる仲間もいっぱいいます。」

 

「おう、なら安心だな。」

 

アルティメイタム解体後、オーウェンと理桜は残った職員達を集めて新たな組織を作ることにした。

そこに颯馬や隼人、和田、畠山らも加わって並行世界の平和を守るための新たな組織が作られようとしていた。極力他の世界に干渉しないようにしつつもバダンの様な巨悪が世界を脅かすのであればすぐに対処に向かう。そのような組織を作ろうとしていた。

 

「こっちの世界はしっかり任せてくれ。」

 

「はい、頼りにしてますよ。」

 

源田は復興のための道に、颯馬は並行世界での戦いの道に、お互い舞台は違えど新たな時代を切り開くために進み続けなければならない。

そんな覚悟を込めて2人がお互いの手を差し出して握手を交わす。

 

----------------------------------------------------------------------------------------------

 

「そろそろ行くようだね。」

 

「はい、本郷さん」

 

それからさらに数日後、疲れを癒すために温泉に行った後に颯馬は本郷猛と会っていた。

彼は颯馬が初めに出会ったライダーでありバダンとの戦いの中で多くのことを学んでいた。

親がいない颯馬にとっては3年間だけの関わりだが父親の様な存在でもある。

 

「すみません。この世界のこと本郷さん達に任せっきりにしちゃって。」

 

「気にすることはない。君のような若い子は大海原で旅をしてみるのも良いだろう。」

 

本郷ら10人の仮面ライダー達も颯馬が並行世界に行った時の話や彼の決意を聞いており、この世界のことは自分たちが担い、颯馬にはもっと大きな舞台で戦ってもらおうと背中を押していた。

 

「この世界は俺達に任せてくれ。」

 

「ありがとうございます。」

 

「仮面ライダーはどの世界にいようと仮面ライダーだ。いつもどこかで繋がっている。共に戦おう。」

 

「はい!」

 

バダンも滅びこの世界には未だ10人の仮面ライダーがいる。

颯馬が居なくなっても平和を守り続けることは彼らがいるなら十分可能だろう。

 

「俺達は一度バダンに負けこの世界を守り切れなかった。だからその贖罪としてこの世界を守り続ける。颯馬は今俺達ができないことをやってくれ。」

 

本郷猛からのエールを受けた数日後、颯馬達は並行世界を守るために旅立ったのであった。

 

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「颯馬、アース264で発生した大量の巨人の影響で人類が危機に瀕しているようだ。行けるか?」

 

「勿論です。巨人の情報も向こうで集めます。」

 

「ああ、頼もしいな。」

 

アルティメイタムは解散となり、その基地は改装された。

オーウェンによって新たな組織が作られてその看板には新組織の名称が書かれている。

 

「はい、じゃあ早速行ってきます。」

 

並行世界で巨悪に脅かされる命を守るために飛び回る新たな組織。

既に颯馬や隼人、和田に畠山も参加しており日々生命を守るために戦っている。

 

「任せたぜ。フォースナイツ!出動!」

 

オーウェン主導で作られた新たな組織の名はフォースナイツ。

並行世界の平和を守るために戦う新たな組織だ。

彼らの戦いが今、新たに始まろうとしていた…

 

To be continued…

 




告知

並行世界を守る組織フォースナイツ
彼らの戦いはまだ始まったばかりだった…

時間

空間

現実

それは一本の直線ではない
無限の可能性を秘めたプリズムなのだ…
1つの選択が無数の現実に枝分かれし、君の知らない別の世界を創造する。

仮面ライダーマーベル VS What If...?

来週公開決定!


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仮面ライダーマーベル VS What If...?

こちらは仮面ライダーマーベルの特別編でございます。
MARVELシリーズのwhat ifとコラボです!


時間

 

空間

 

現実

 

それは一本の直線ではない

無限の可能性を秘めたプリズムなのだ…

1つの選択が無数の現実に枝分かれし、君の知らない別の世界を創造する。

 

私はウォッチャー

果てしなく広がる新しい現実への案内人だ…

ついてくるがいい。そして問いかけろ…

 

"もしも"と…

 

-------------------------------------------------------------------------------------------------

 

「よし、颯馬…早速初任務だ。いけるか?」

 

「勿論、準備はできてますよ。」

 

「じゃあ行ってこい…!」

 

アルティメイタムが解体され、フォースナイツが結成されて数週間が経った。

並行世界の平和を守るがために戦う彼らに初めての仕事が舞い込んできた。

 

「並行世界ゲート!起動!」

 

とある世界が巨悪によって危機に脅かされているという情報を察知した颯馬は基地の中にあるアーチ状の機械の中央に立つ。この機械は並行世界ゲートと言い、ディケイドディスクの技術を応用して作られたマルチバース間を移動するための装置である。

スタッフの手によって横にあるコンピューターに座標が入力されると、ゲート内にいる颯馬が光に包まれ、一瞬にして入力された座標にある並行世界に転移する。

 

「クソっ…!もう耐えきれない!」

 

颯馬が向かった世界では既に町がゾンビの大群に囲まれてしまっている。

とある化学研究所から漏れ出たウイルスに感染したことでとある国のとある町がゾンビの大群に覆われてしまっている。

 

「なるほどね、確かにこれはここで抑えないと後々ヤバいことになりそうだね…」

 

『ケルベロスドライバー!』

 

その様子をビルの上から見つめているのは並行世界ゲートを使って転移してきた颯馬であった。

このままゾンビが増えつつけてはこの世界自体が壊滅するというのは目に見えており、すぐさま腰にケルベロスドライバーを装着する。

 

『マーベルIDカード!マーベリック!』

 

マーベルIDカードをベルトに挿入して、腰に新たに取り付けられたディスクホルダーから3枚のヒーローディスクを取り出す。

 

『アイアンスーツ!スパイダーバース!トライスパイダー!』

 

スパイダーマン達の力を秘めたディスクをベルトに挿入し、ベルト上部のセンタースイッチを押してから両端のレバーを同時に引く。

 

「変身!」

 

『シニスタースパイダー!アッセンブルアップ!』

 

並行世界のスパイダーマンや彼らと戦った者達の力を受け継いだ最強のスーツを身にまとう蜘蛛の戦士。

背中からは4本のアームが生えており、その体には電気を纏っている。

仮面ライダーマーベル・シニスタースパイダーへと姿を変えた颯馬がビルの上から飛び降りてゾンビ軍団に向けて一気に電撃を放つ。

手首のウェブシューターから糸を放ってその糸をビルの上に付けて釣り下がりながら電撃の雨をゾンビ達の上から降らせていく。

 

「アンタはッ…!?」

 

「ただのヒーロー…」

 

ゾンビと戦っていた軍隊や警官隊たちの前にマーベルが着地するとゾンビ軍団に向けて走り出す。

マーベルの存在に気付いて彼に群がっていくゾンビ達が背中から生えているアームによって次々となぎ倒されていく。

 

「いっぱい集まってきたね!」

 

群がるゾンビ達を確認して両手から糸をビルの上に発射してその勢いで一気に飛び上がる。

そして上空からゾンビの大群を見つけると体内に生体電気を走らせる。

 

『オールフィニッシュ!』

 

「ノーウェイヘブン!」

 

そして地面に着地するとともに体内の電気を蜘蛛の巣状に一気に放出する。

 

「この辺のゾンビは…大体やったかな……」

 

広範囲に放たれた電撃によってゾンビ達は次々と焼かれて絶命していく。

その様子を見たマーベルはウェブシューターから蜘蛛の糸を放ってビルの上から釣られた状態で体をスイングさせて他の場所に移動していく。

 

「次はここかな…」

 

移動した先ではさらに多くのゾンビ達が集まっており、彼らを見つけるとインフィニティカリバーを構えてゾンビと軍隊の間に着地する。

 

『パワー!インフィニティ!』

 

「ここは任せて!」

 

守るべき町の住民たちに背を向け、インフィニティ・カリバーにあるパワージェムに触れてそのエネルギーを刀身に纏わせて横一閃に振るうとそのエネルギーが斬撃となって一気にゾンビ達を切って破壊していく。

その威力によって切られたゾンビの身体が跡形もなく消えていく。

 

「アンタすげえな…」

 

「それほどでもないですよ…」

 

この場にいるゾンビ達が全滅したのを確認すると街を守っていた警察署の署長がマーベルに声をかける。

 

「一先ず援軍が必要な場所を僕に教えてください。一か所ずつ対処します。」

 

「誰かは知らないが助かる!協力感謝する!」

 

この世界の住民はマーベルの協力を快く受け入れて共にゾンビ達に対処していく。

マーベルの活躍でゾンビ達が次々と倒されていき、最終的に根絶させることに成功した。

 

「ふむ、仮面ライダーか…」

 

そんなマーベルの活躍を空の上から見つめる1つの存在がいた。

その存在は青い布のような服を纏う赤子の様な大きな顔を持つ老人と言った姿をしている。

彼の名はウォッチャー、マルチバースの観測者である彼はただまっすぐに仮面ライダーマーベルこと北条颯馬に注目していた。

 

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「ハードな仕事だった…」

 

何とか初任務を終えて基地に戻ってきたけど結構疲れた。

ゾンビの数が多くて全滅させるのは中々骨が折れるよ…

 

「お疲れ様。颯馬」

 

「ありがと…」

 

出迎えてくれた隼人が渡してくれたコーラを受け取って、一気に飲み干す。

この甘さと炭酸のシュワシュワがたまらない。フォースナイツに入ってから何気に毎日飲んでる気がする。

 

「颯馬さん!お疲れ様です!任務の方はどうでしたか?」

 

「うん、ただいま。まあ結構大変だったよ…」

 

隼人と一緒に今回の任務のことをオーウェンさんに報告しようと廊下を歩いていると理桜さんが僕達の方に駆け寄ってきた。

 

「あ!そういえば颯馬さんにお客さんが来てますよ。」

 

「僕に…?」

 

僕にお客さんが来てるなんて珍しい。

もしかしたら源田さんとか本郷さんが会いに来てくれたのかな…?

 

「どんな人だった?」

 

「私はまだ会ってないです。オーウェンさんから颯馬さんを迎えに行くように頼まれて…」

 

「なるほど、任務完了の報告をしないといけないから行ってくるよ。」

 

理桜さんの案内で隼人含めて3人でオーウェンさんのいる指令室に向かう。

 

「失礼します。」

 

「おう、入ってくれ。」

 

扉を開けると既に椅子に座って待っているオーウェンさんと赤ちゃんみたいな大きい頭のおじさん?が居た。

 

「こ、こちらの人は?」

 

「ああ、お前に会いに来たっていうお客さんだ。」

 

「私はウォッチャー、仮面ライダーマーベル及びフォースナイツの諸君に協力を求めに来た。」

 

ウォッチャーさんが普通の存在ではないことはすぐに分かった。けどどこか僕達の助けを求めてそうな表情を見て僕達は彼の話を聞くことにした。

 

「なるほど…我々が思っている以上にマルチバースが存在していたのか…」

 

まず1つ分かったのは僕達が思っている以上に並行世界の数が多いってことだ。

僕が昔夢の中で見ていたアベンジャーズの世界のことは知っていたけど、ウォッチャーさん曰くその世界の様々な可能性から分岐した並行世界が無数にあるらしい。

僕達の設備では観測しきれなかったマルチバースらしい。

ウォッチャーさんはそんな並行世界も観測している存在らしい。

 

「それで、本題は…?」

 

「その並行世界の中に一つ、ウルトロンが勝利し人類…いや、全宇宙を滅ぼしてしまった…」

 

「ウルトロンが全宇宙を!?」

 

ウルトロンに関しては僕も何度かウルトロンとアベンジャーズの戦いを夢を経由して見たことがある。

夢と言っても元々アルティメイタムが僕に見せていた並行世界の出来事だけど、僕はウルトロンがどういうやつなのかはしっかりと分かっている。アイアンマンことトニー・スタークが世界を守るためのAIとして開発したのがウルトロンだ。けど彼は、人類を滅亡させることが世界平和への道と考えて行動を起こしてしまった。

その過程でウルトロンは最強の金属であるビブラニウムの粒子を練りこんだ人工細胞で人口生体ボディを作っていた。僕の知る歴史ではその体にウルトロンの意識を移すことに失敗し、その体は新ヒーロービジョンの物になった。

 

「ああ、ウルトロンは人口生体ボディに自らの意識を移すことに成功し、アベンジャーズを倒し地球を核ミサイルによって滅亡させた。その後彼は全てのインフィニティストーンを手に入れて他の星も滅ぼした。」

 

まさかあのウルトロンが全宇宙を…

 

「さらにそのウルトロンは多次元宇宙の存在に気付いてしまった。そして別の世界への侵攻を始めてしまった…」

 

「なるほど、それは止めないと…いけませんね…」

 

けど、並行世界を次々と滅ぼそうとしているなら止めないと…

 

「ああ、話は早そうだ。協力してくれるかな…?」

 

「勿論だ。颯馬、いけるな?」

 

「任せてください。」

 

オーウェンさんも既に協力する気だ。

まあつまり、組織としてこの事態に対処できるってことだ。

 

「隼人、理桜、お前たちも颯馬のサポートを任せたぞ。」

 

「「はい!」」

 

「うむ、では3人にはナターシャ・ロマノフの護衛を任せたい。彼女はウルトロンによって滅ぼされた世界の生き残りだ。」

 

「分かりました。」

 

アベンジャーズのメンバーである女性戦士、ブラック・ウィドウことナターシャ・ロマノフ。

彼女に会えるのは嬉しい半面、他のヒーロー達が殺されてしまっている事実も受け入れなきゃいけない。

僕の知ってる世界とは違う並行世界だとしてもアベンジャーズが死んでしまったのは悲しい話だ…

 

「彼女はウルトロンを倒せるかも知れないコンピューター・ウイルスを所持している。切り札になるかも知れない…私は更なる援軍を集めてくる。君達は彼女の護衛とウルトロンが来た際の討伐を任せた。」

 

ウォッチャーさんとオーウェンさんの指示で僕達3人は並行世界ゲートに向かってウルトロンによって荒廃した世界に向かった…

 

-------------------------------------------------------------------------------------------------

 

「また追ってきてるのね…」

 

アベンジャーズがウルトロンに敗北し彼によって放たれた核ミサイルの雨によって地球は滅亡した。

既にビルも倒壊して荒廃した地面の上をナターシャ・ロマノフはバイクで走っていて、その彼女の後ろには宙を飛ぶウルトロンの兵達が迫っている。

 

「クリント!」

 

ウルトロン軍団、通称ウルトロン・セントリーに追われる彼女は咄嗟に相棒であるクリント・バートンの名を叫ぶ。ホークアイことクリントはアベンジャーズの一員であり、ウルトロンによって世界中に核ミサイルが発射された時に戦闘機に乗っていたため難を逃れて生存していた。

 

「そうね…もうクリントは……」

 

だがしかし、生き残りの片割れであるクリントも先ほどの戦いで命を落としていた。

戦いにつかれてしまい戦意を失っていた彼は自らを犠牲にして彼女を守り抜いた。

その犠牲もあってかヒドラという組織の科学者であったゾラ博士の知能データをゲットし、強力なデータ生命体である彼のデータを使ってウルトロンを機能停止に追い込める可能性を見出していた。

 

「ごめんなさい、クリント…」

 

だがその努力もウルトロン達の前に水泡と化そうとしていた。ウルトロン・セントリーの攻撃を受けてナターシャが乗っていたバイクが転倒。倒れた彼女をウルトロン達が取り囲み、手についたレーザー銃の銃口を向けていた。

 

『タイム!インフィニティー!』

 

彼女が自分の死を予感し目を瞑ったその瞬間、彼女の耳に聞きなれない機械音声が飛び込んできた。

自分が殺されていないとわかって目を開けると彼女の瞳には先程自分を取り囲んでいたウルトロン達が身体を上下に一刀両断され、鉄の塊と化したその体が地面に落ちていく光景だった。

 

「大丈夫ですか?」

 

そして、彼女に声をかけたのはインフィニティカリバーを構える仮面ライダーマーベルだった。

先程、インフィニティカリバーのタイムジェムの力でナターシャが攻撃される直前に時を止めてウルトロン・セントリー達を両手に携えた剣で切り捨てたのだった。

 

『ライトパワー!ファースト!』

 

『センターパワー!ファースト!』

 

さらに仮面ライダーウィザードのオールドラゴンを纏うブレイクと、仮面ライダーセンチュリーが使用する歯車状の円還粒子であるデストサイクロンを自身の背の後ろで浮かせているフューチャーが、さらに迫ってきているウルトロン・セントリー達に向かって突撃していく。

 

「あなた達はッ…?」

 

「僕達は別の宇宙から来た…仮面ライダーです。」

 

両手に付けた竜の爪型の籠手でウルトロン・セントリーを次々と切り裂いていくブレイク。

円環粒子デストサイクロンを自身の周りで公転させて迫りくる敵を次々と切っていくフューチャー。

そしてナターシャの問いかけに応えたマーベルも彼らに続いて襲い掛かってくるウルトロン・セントリー達をインフィニティカリバーで次々と切り捨てていく。

 

『リアリティ!インフィニティー!』

 

インフィニティカリバーから赤色の雲状の物体が放出されるとそれに包まれた多数のウルトロン・セントリー達の身体を構成する金属が泡に変換され、次々と消えていく。

 

「後は私に任せて!」

 

そして残ったウルトロン・セントリーもブレイクの胸部に付いているドラゴンの頭部から放たれた炎によって全て焼き尽くされる。

 

「一先ずこれで安心かな…」

 

ナターシャを襲っていたウルトロン・セントリーの殲滅を隼人が確認すると3人は変身を解除して改めてナターシャと顔を合わす。

 

「あなた達、何者なの…?この世界に何の用?」

 

「僕達は並行世界の平和を守るフォースナイツのメンバーでウルトロンを止めるためにこの世界に来ました。」

 

まだ少し彼らを警戒しているナターシャの問いかけに対して颯馬は冷静に答える。

 

「僕は北条颯馬って言います。事情はウォッチャーって人から聞いています。」

 

「僕は三浦隼人、颯馬の親友だよ。」

 

「私、伊東理桜って言います!あなたの名前は?」

 

3人のライダー変身者に関してはナターシャからすれば未知の存在である。だがしかし、彼らが彼女のことを助けてくれたのも事実だ。ここは協力するべきと思い銃をホルダーにしまって彼らの方を見る。

 

「私はナターシャ・ロマノフ、恐らくこの世界で最後の生き残りよ。けど残念ね、目当てのウルトロンは今ここにいないわ。」

 

「ここにいないってことは…」

 

「ええ、さっきこれを使ってハッキングを試みたけど、圏外にいた。多分だけどこの宇宙にはもういないわね…」

 

そう言ってナターシャは1本の矢を取り出す。

 

「この矢は…?」

 

彼女が取り出した矢について問う理桜に対し、ナターシャは暗い表情を見せつつも重い口を開く。

 

「これは仲間のクリントが遺してくれたものよ。ヒドラの科学者アーニム・ゾラの知能データが入ってるわ。少なくともこれを奴の本体に打ち込めれば…ハッキングができて乗っ取れるはず…」

 

「コンピューターウイルスみたいなものだね…けど、問題はどうやってウルトロンに入れるかだ…」

 

問題はウルトロン自身の強さだ。少なくともこの世界を破壊し、さらには他の世界にまで侵攻を始めてしまっている。その強さは未知数だが、そうそう簡単に矢を撃ち込んでハッキングできる相手ではないことは明白だ。

 

「どうすべきだと思う?颯馬?」

 

「やっぱりここは拘束してしまうのが一番早いかな…」

 

「まだこの星に生命体がいたとはな…いや、新しく入ってきたのか…?」

 

作戦をどうすべきか考えていたその時だった。

どこかから声がしたかと思い颯馬達が空を見上げるとその曇った空に赤と青色の人間の顔が映っていた。

アベンジャーズのメンバーのビジョンにも似ているその顔だが、それは本来の世界ではビジョンとなる肉体に意識を宿したウルトロンの顔であった。

 

「お前が…ウルトロン!」

 

「別の宇宙の住民か…まあいい、お前達の世界を滅ぼす前にここで殺す。」

 

雲が突如巻き起こった突風によって吹き飛ばされてその穴から大量のウルトロン・セントリーで構成された球が姿を見せる。

その大きさは衛星ほどはあるだろうか…

その大量のウルトロン・セントリーの中心に騎士の様な鎧を纏い槍を構えるウルトロンの姿があった。

 

「話してる暇はないみたいだね…隼人!理桜さん!行くよ!」

 

「「うん!/はい!」」

 

『『『ケルベロスドライバー!』』』

 

『マーベルIDカード!マーベリック!』

 

『ドラゴンIDカード!』

 

『ミライIDカード!』

 

ウルトロンの襲来を受けて颯馬ら3人はケルベロスドライバーを腰に巻いて各々のIDカードを挿入する。

 

『レジェンド・オブ・テンリングス!アメリカンソルジャー!ワカンダフォーエバー!』

 

『仮面ライダー龍騎!仮面ライダーセイバー!仮面ライダーウィザード!』

 

『仮面ライダーNEW電王!仮面ライダーセントリー!仮面ライダーアクア!』

 

「「「変身!」」」

 

『ユニバーサルソルジャー!アッセンブルアップ!』

 

『ドラゴニックライダーズ!バーンアップ!』

 

『ニューライダーズ!ジェネレーションアップ!』

 

そして3人は自身のベルトにディスクを挿入して理桜はブレイクに、隼人はフューチャーに、颯馬は中国、アメリカ、ワカンダの3国のヒーロー達の力を合わせた仮面ライダーマーベル・ユニバーサルに変身する。

仮面ライダーマーベル・ユニバーサルの身体は黒いスーツに赤い竜の姿をしたラインが走っており胸には星条旗の紋章が描かれている。そして、シャン・チーの使うテンリングスの代わりに10枚の円形のシールドがマーベルの周りを飛んでいる。

 

「行け…」

 

ウルトロンが指示を出すとウルトロン・セントリーの大群がマーベル達に向けて急降下していく。

 

「さあ、かかって来い!」

 

迫りくる機械の兵達を相手にマーベルは左右に5枚ずつ連ならせ、鞭のように振るう。

やってくる敵がマーベルの近くにいようと中距離の範囲にいようと次々と盾に貫かれ、切り裂かれていく。

さらに遠距離からレーザーを構えている敵に対しては盾10枚を一気に発射して撃ち落としていく。

 

「こっちの敵は任せてよ!」

 

流石にやって来る敵の数は多く、攻撃を搔い潜ってマーベルに近付く個体も多い。

だがそれらはマチェーテディを構えるフューチャーと火炎剣烈火とドラグセイバーの二刀流スタイルのブレイクが迎え撃つ。振るわれる刃によってウルトロン・セントリー達は首と胴体が切り離されていってしまう。さらにナターシャも電気バトンを使って敵を電撃で倒して援護する。

 

「それなりの実力はある様だな…」

 

流石にウルトロン・セントリーをいくら差し向けてもマーベルらの前では力不足であると判断し、ウルトロンが槍先を3人に向ける。

 

「来るわ!」

 

その動きに気付いたナターシャの一声が発されたその刹那、槍先が展開しレーザー砲がマーベル達目掛けて放たれる。ウルトロン・セントリーを巻き込みながらレーザー砲がマーベルらを襲うが、マーベルも自分達を守るために10枚のシールドを自分達の前で重なるように連ならせて攻撃を防ぐ。

 

「流石にパワーが強いッ…!」

 

何とかレーザー攻撃を防ぎきることは出来たが、一気に押されてしまい、攻撃を防いでいた盾もマーベルの眼前にまで迫って来るほどだった。

 

「まだ来てます!」

 

だが、体勢を立て直す暇も与えずウルトロン自身とウルトロン・セントリー軍団がマーベル達に向けて突撃していく。

防御に使った10枚の盾を咄嗟に防御から攻撃に転用してウルトロンに向けて放つが彼の振るう槍に全て叩き落される。

 

『エターナルズ!インクレディブルパワー!アントキャスト!』

 

槍を構え、マーベルに向けて一直線に降下していくウルトロンに対して颯馬は肉弾戦で対処することを選びエターナルズ、ハルク、アントマンのディスクを自身のケルベロスドライバーに挿入してレバーを引く。

 

『マイト・イズ・ジャスティス!アッセンブルアップ!』

 

力こそ正義、その名に相応しい程に隆起した筋肉。

岩の様にゴツゴツした筋肉を包むアーマー等なく、ディスクの力でパンプアップしたマーベルの筋肉そのものが鎧の様なものである。

近接戦闘において最強の攻撃力を持つ仮面ライダーマーベル・マイト・イズ・ジャスティスが拳を突き出すことで、ウルトロンが再度槍から放ったレーザーを殴って弾き飛ばす。

 

「ハアッ…!」

 

両者共に距離を詰めて互いの右拳をぶつけ合うと、その衝撃が空気を振るわせて地面にまで伝達される。

互いが拳を合わせたことで相手の現状のパワーを把握し、2発3発と連続でパンチを打ち合う。

 

「ッ…!」

 

互いに相手を殴った際の反作用で一度後ろに下がり、どう有効打を与えようかと見合い…

 

「そこだッ…!」

 

マーベルに対して拳だけでは通用しないと悟ったウルトロンが先に脚部にカーフキックを放つが、その一撃を足の筋肉だけで耐えきり、顔面部に向けて右ストレートパンチを撃ち込んだ。

 

「まだまだ!」

 

プロボクサーの様な華麗なステップでさらにウルトロンとの距離を詰めると左右からリズムよくフックを撃ち込み、ウルトロンの兜と右肩の装甲を高威力の拳で削り取る。

ハルクの持つ筋力や破壊力に加えてエターナルズの神秘的な宇宙のパワーとピム粒子の圧縮する力をその腕部に流し込むことで最強のパンチ力を生み出すことができ、宇宙を滅ぼすほどの存在であるウルトロンの強固な鎧を容易に破壊することができる。

少しだが、勝機を見出したマーベルが一気に攻めかからんとアッパーカットを撃とうとするが、ウルトロンは咄嗟に鎧胸部に埋め込まれたインフィニティストーンの1つであるスペースストーンを使ってマーベルから少し離れた地点に転移。

 

「なるほどな…」

 

その次の瞬間には鎧を構成するナノマシンの群れが波打ち、破損した箇所に押し寄せる。建築物が建てられる様子を早回しするかのように破損した部位が修復。颯馬が抱いた希望の光は、覆い隠されるように潰えてしまった。

 

「確かに力はある。だが私の前では無意味だ…」

 

ウルトロンの胸にあるパワーストーンの放つ紫の光が血液の様に彼の鎧を駆け巡り、彼の両腕からダムから決壊して勢いよく流れる水流の様にマーベルに向かっていく。

 

『パワー!インフィニティ!』

 

だが、インフィニティストーンの力を持っているのはウルトロンだけではない。それを模した力ではあるが自らの刃として振るうための武器、インフィニティカリバーからパワージェムのエネルギーを自身の身体に供給。エネルギーをため込んだ拳をウルトロンの放つ紫色の濁流に向けて突き出すと2つのエネルギーがぶつかり合って互いを打ち消す。

 

「パワーが…」

 

ウルトロンの放った攻撃を防ぐだけでもかなりの量のエネルギーを解き放ってしまったマーベルは、既に肩を大きく上下させて呼吸をしなければならないほどに体力を消耗してしまっている。

 

「ストーン1つでその疲労度か…」

 

ウルトロンが放ったパワーストーン由来のエネルギーを打ち消すだけでもマーベルはかなり体力を使ってしまっており、ウルトロンは圧倒的な力を持ってマーベルを潰そうと全てのインフィニティストーンをエネルギーを体中に流す。

 

「いいや、まだやれるッ…!」

 

『アスガーディアンズ!ギャラクシーリミックス!ザ・スペース・キャプテン!』

 

ソー、ガーディアンズ・オブ・ギャラクシー、キャプテン・マーベル等宇宙で活躍するヒーロー達のディスクをケルベロスドライバーに挿入して、その両端部にあるレバーを同時に引く。

 

『ライジングギャラクシー!アッセンブルアップ!』

 

ディスクに描かれたヒーロー達の幻影が仮面ライダーマーベル・ニューバースの姿に戻ったマーベルの周囲に出現。彼らの姿がマーベルと重なると首から下が青色の鎧に包まれる。複雑で禍々しい形状のその鎧には時折雷の様な金色のラインが身体に走っており、仮面ライダーマーベル・ライジングギャラクシーの中に流れる宇宙由来のエネルギーを表すように鎧の各部が光を放っている。

 

「姿を変えたところでこの私に敵うことはないだろう…」

 

ウルトロンの身体に流れる6つのインフィニティストーンのエネルギーが交じり合い白い光となって全身から一気に放たれる。全てをまっさらにするような白色の光は周囲の岩肌を捲り上げながらライダー達に迫る。

 

「ナターシャさん!逃げて!」

 

ドーム状に放たれる白い光に巻き込まれたウルトロン・セントリーは砂で作った城が崩れるかのように体を構成するナノマシンが粒子状になって崩れ落ちてしまう。

その攻撃の危険性に気付いたブレイクとフューチャーはすぐにナターシャの前に立ち、歯車状の円環粒子デストサイクロンを自分の前に展開してバリア代わりにして攻撃を凌ごうとする。

 

「颯馬は!」

 

自分達3人がウルトロンの放ったエネルギーから身を守ることこそできたが、マーベルこと颯馬が攻撃を受けてしまっていないかと不安を覚えたフューチャーは咄嗟に彼の方に目を向ける。

 

『オール!インフィニティー!』

 

「ここは僕が止める!」

 

宇宙由来のエネルギーを秘めたライジングギャラクシーはマーベルのどの形態よりも体内で生成されるエネルギー量が多い。ウルトラマンの様に光線技を放って戦うには最も適した姿だ。

彼が手に持つ剣は体内から溢れ出るエネルギーを纏い、6つのインフィニティストーンの光と共に検査機を突き出して一気に解き放つ。

球状に広がっていくウルトロンの白い光にインフィニティカリバーから放たれる虹色の光が突き刺さり、その侵攻をただ一点で止める。

 

「他の者は後でいい…先にお前から倒す。」

 

ウルトロンの全身から放っていたエネルギーが徐々に押され始めて収縮し、その様子を見てウルトロンは先にマーベルを潰してしまおうと自身の右手に全エネルギーを集中させて一気に解き放つ。

新幹線のような速さでウルトロンの右手から放たれるエネルギーが突き進み、マーベルが撃った虹色の光線を押し返す。

 

「まずいッ…!」

 

ウルトロンの放つ光線とマーベルの放つ光線がぶつかり合う。その境界面は徐々にマーベルに迫り、その距離はインフィニティカリバーの剣先から数m程度に迫っていた。

このまま押し切られてしまい、光線がマーベルに達してしまえば一たまりもない。インフィニティストーンから繰り出されるエネルギーは惑星をも破壊する力を持っており、その強力な光線が直撃すれば死を免れることは出来ないだろう…

 

「颯馬の方ばっか狙って…僕達だって!」

 

「はい!あまり私達のこと舐めないでよね!」

 

身体も少しずつ押されて仰け反りそうになるマーベルを後ろからブレイクとフューチャーが支える。

 

「2人ともッ…!一気に攻め返すよ!ベルトのレバーを引いて!」

 

「分かった!」

 

「いきますよッ…!」

 

後ろからマーベルの身体を押し支える2人は彼のベルトに向けて必死に手を伸ばす。

ウルトロンの放つ光線の衝撃が台風の際に巻き起こる暴風がごとく打ち付けてくるが、その向かい風に必死に抗い2人の手がケルベロスドライバーのレバーに届く。

 

『マーベリック!オールフィニッシュ!』

 

2人がレバーを同時に引くことで、ベルトに挿入されたディスクから湧き水の様に宇宙エネルギーが出てきてマーベルの身体に纏われる。虹色に発光するライジングギャラクシーの鎧からパワーがどんどんインフィニティカリバーに送られて、6つのインフィニティージェムのエネルギーと交じり合い虹色の竜巻となって放たれる。

 

「ファイナライズトルネード!」

 

元々剣から放たれていた光線をも呑み込み虹色の竜巻がウルトロンに向かっていく。

ウルトロンの放つ白い光線も虹色の竜巻に吞まれていき、濁流のような勢いで迫るその攻撃にウルトロンはインフィニティ・ストーン由来の力を絞り出して食い止めることしかできない。

 

「はああああぁぁぁぁ!!」

 

「いっけええええぇぇぇ!!」

 

両手で握られるインフィニティカリバーにより強いエネルギーを流そうと一気に力を込めるマーベルだが、自身が耐えることのできる力以上に溢れ出すエネルギーによって、鎧の水晶部分に少しずつヒビが入っていく。

 

「このまま一気に決める!」

 

鎧の耐久度を超すエネルギーを一気に解き放って剣先から球状のエネルギーを撃ち出す。

撃ち出す際の衝撃でマーベルのライジングギャラクシーの宝石のような装甲が一気にパージされて塵と化す。

太陽の様なエネルギーの塊となったインフィニティジェムの光がウルトロンに迫り、咄嗟に左腕を突き出して両腕で迫る攻撃を防ごうとするが既にエネルギー弾は彼の身体に達してロケットが墜落したかのような大爆発を起こしてしまう。

 

「倒した…?」

 

惑星を破壊してしまうほどのエネルギーをぶつけ合いお互い削りあったことで周囲への被害こそ少ないものの爆炎と爆風が巻き起こることで視界が遮られ隼人達はウルトロンがどうなってしまったのか把握することができない。

 

「いいや、まだだ…!」

 

颯馬は力を出し切って剣を地面に突き立てて支えつつも、煙の中で薄っすらと浮き上がるウルトロンの影に気付いていた。

 

「確かにいい力だ…だが私を倒すには不十分…」

 

颯馬の放った光弾の威力はかなり強く何とか防ぎ切ったウルトロンの鎧が全て剝がれてしまって元々の生体ボディを晒してしまっている。所々が攻撃のせいか剥がれてしまってバチバチと放電してしまっているがその上から新たなナノマシンが覆いかぶさる。

鎧が壊れたことで一時的に地面に落ちてしまっていたインフィニティストーンが光を発しながら浮き上がりその周囲にえさを求める小魚の大群の様にナノマシンが一気に集まる。

ようやく降り注いだ陽の光が雲によって覆い隠されるようにウルトロンの身体は再びインフィニティストーンが埋め込まれた鎧に覆われる。

 

「どうやら私が思っている以上に貴様らは強い。ならば全力を出させていただこう…」

 

ウルトロンが号令すると恐らくこの宇宙全体にいたであろうウルトロン・セントリー達が一斉に集まって来る。蝗の大群が田畑を食い尽くす時の様に空を機械兵の大群が覆っている。

多くのウルトロン・セントリーと難攻不落のウルトラマン本体に取り囲まれて3人のライダーとナターシャは絶体絶命の危機に瀕してしまう。正に四面楚歌という状況でも4人はファイティングポーズを崩さない。

 

「ここが最期の戦場ね…」

 

「いいえ、生きて帰りますよ!」

 

「うん!僕達はここで死ぬわけにはいかないからね…僕達はッ…!世界に希望の光を灯し続ける!」

 

嘗ての颯馬は戦争の日々の中でアベンジャーズの夢を見て希望を抱き、戦い続けていた。

その経験もあってか絶望的な状況にいる人たちの希望になりたいという思いが彼の中にあり、並行世界を守るうえでも自分が勝ち続けることで色んな世界の希望になろうとしていた。

だからこそ、ここで諦めて負けるわけにはいかない。並行世界ゲートを使って離脱することもできるが颯馬達はその道を選ぼうとしない。

 

「いくよ!皆!」

 

再び剣を手に取り颯馬がウルトロンの大群に切りかかろうとしたその時…

 

「颯馬…あれ!」

 

「ムジョルニア!?」

 

隼人に促されて空を見た颯馬の目に映ったのは流星群の様に降り注ぐ大量のハンマーだった。

アベンジャーズのソーが使うハンマーは颯馬自身も戦いの際によく使っていて自分の身体の一部と言っても過言ではない。そんなハンマーが大量に空から落ちてきて宙にいるウルトロン・セントリーを打ち落としてから地上にいるウルトロン本体に降り注いでいく光景に驚きを隠せない。

 

「すまないな、仮面ライダーマーベル…」

 

驚いて空を見上げる仮面ライダーマーベル達の後ろにウォッチャーが現れる。

 

「ウォッチャーさん…」

 

「少し遅くなったが、援軍の到着だ。」

 

ウォッチャーの言葉と共にウルトロン・セントリー軍団が次々と攻撃を受けて鉄くずと化していく。

キャプテン・アメリカの様な衣装に身を包みヴィブラニウムの盾を敵に対し次々と投げて倒していく女性、ペギーカーター。

スターロードの衣装を身に纏いジェットパックで飛びながらレーザーガンで敵を打ち落としていく黒人の男性、ティ・チャラ。

彼らは本来の世界ではただのエージェントであったりワカンダのブラックパンサーになる筈だが、彼らの暮らす世界では全く違うヒーローとなって戦っている。そう、彼らも無限に広がる可能性から生まれた並行世界の住民なのだ。

 

「さて、ソー君の出番だ。」

 

「OK!任せろ!」

 

ウルトロンに落ちてきた多数のハンマーが彼の周囲を飛び回りながら360°様々な方向から襲い掛かっていく。そのハンマーの持ち主と思わしき髭を剃り落としたソーと目の下に大きな隈があるドクター・ストレンジが颯馬達の前に降り立つ。

恐らくムジョルニアが分身しているのはこちらのストレンジの魔法の効果と思われる。

 

「一気に決めろ。」

 

「おう!デッカイ花火を打ち上げてやるぜ!」

 

このソーは本来のソーと違ってロキが弟にならず一人っ子として育っていた。そのため粗暴な性格でパーティー好きの男となってしまっていたが、その実力は本物だろう。多数のムジョルニアがウルトロンに向かっていき1つの大きな塊となったところに本物のムジョルニアを手にしたソーが雷をそこに落とす。

ムジョルニアの分身に宿る雷も放電されて高電圧による負荷が一気にウルトロンの身にかかってくる。

 

「その程度で私には…」

 

「ならこれはどうかな…?」

 

このドクターストレンジは体内に多数の魔物を取り込んでいて、その両腕を取り込んでいたサラマンダーの頭部に変化させると高熱の炎をウルトロンに一気に吹き付ける。

放電からの高熱という連続攻撃でウルトロンの鎧が少しずつ溶け始めてしまう。

 

「さて、私の出番ね…」

 

「私も少し戦うとしようか…」

 

並行世界のヒーロー達を連れてきていたウォッチャーと彼と共にやって来た金色の鎧を纏う緑色の肌の女性も迫るウルトラマン・セントリーの方を見据える。その女性、ガモーラはアベンジャーズを脅かしたヴィランの1人であるサノスの養女で本来の世界では彼の野望によって命を失っていた。だが、ここにいるガモーラはとある闘技場で力を付けてサノスを討伐して彼の装備を纏っている。デュアルブレードと呼ばれる双刃の大剣を手に向かってくるウルトロンセントリーの集団を切り倒していく。

ウォッチャーもヒーローたちに混じって飛んでくるウルトロン・セントリー達を張り手で次々と倒していく。

 

「私達もまだまだ負けてられないね!」

 

「うん、未だ僕達だって戦えるよ!」

 

「私も行くわ…」

 

ブレイク、フューチャー、そしてナターシャも援軍の存在に奮起してウルトロン・セントリーに向けて一気に走り出す。

 

『仮面ライダークローズ!仮面ライダーセイバー!仮面ライダーウィザード!』

 

『仮面ライダーシノビ!仮面ライダーセンチュリー!仮面ライダークイズ!』

 

『ドラゴニックライダーズ!バーンアップ!』

 

『ニューライダーズ!ジェネレーションアップ!』

 

ブレイクとフューチャーがそれぞれベルトにあるディスクを入れ替えると

 

『レフトパワー!ファースト!』

 

ブレイクは仮面ライダークローズが使うビートクローザーを構えると、まずは近距離にいる敵兵の腕や首をその刃で切り裂いていく。

 

「遠くから撃ってても無駄だよ!」

 

『ヒッパレー!』

 

『スマッシュヒット!』

 

遠距離にいる敵に向けてビートクローザーのグリップエンドを一度引いて蒼炎を纏った斬撃を放てば、宙に浮くウルトロン・セントリーの身体が上半身と下半身の真っ二つに切り裂かれてしまい、残った身も蒼炎によって焼かれてしまう。

 

「どんどんいっくよー!!」

 

『ヒッパレー!ヒッパレー!』

 

『ミリオンヒット!』

 

『ヒッパレー!ヒッパレー!ヒッパレー!』

 

『メガヒット!』

 

更に襲い掛かって来るウルトロン・セントリーに対して、ビートクローザーのグリップエンドを複数回引っ張って次々と斬撃を放っていく。蒼炎を纏う刃や衝撃波によって空にいる機械兵達を撃ち落として鉄屑の雨を地面に落としていく。

 

『レフトパワー!ファースト!』

 

「忍法、影分身の術」

 

一方のフューチャーも仮面ライダーシノビディスクの力を使って、忍術を発動。分身して敵の大群に次々と殴りかかって顔面部を殴り首を抉り取る。

 

『ライトパワー!ファースト!』

 

「問題、毒りんごを食べて眠ってしまうのはシンデレラである。〇か×か?」

 

続いて仮面ライダークイズのディスクのパワーを発動すると、周囲にいるウルトロン・セントリー達に突然クイズの問題を出す。突然の行為に敵兵は一瞬驚いて動きを止めるがまたすぐにフューチャーを倒そうと腕の銃口を向けるが…

 

「時間切れ、答えは×だよ。」

 

その行動は彼らにとって命取りであった。問題に解答しなかったウルトロン・セントリー達の身体に次々と電撃が流れて回路がショートし地面に落ちていく。

仮面ライダークイズの能力はクイズに不正解だったものに電撃を流すというものだが機械兵であるウルトロン・セントリー達には効果は抜群だった。

黒焦げになって回路が焼き切れたウルトロン・セントリーが地面に落ちるのと入れ替わるように新たな機械兵たちが群がりフューチャーの周囲を覆う。

 

「未来のライダーの力、あんま舐めないでよ!」

 

例えば仮面ライダーブレイクが使っているドラゴンIDカードであればドラゴン系ライダーのディスクを使うことができ、その数およそ6体。その各ディスクの豊富な能力を使いこなすのがブレイクの特徴だ。

一方フューチャーの使うミライIDカードは未来に存在する仮面ライダーのディスクを使用することができるのだが、そのライダーの数はかなり多い。多数ライダー達の力を次々と入れ替えて使うのがフューチャーの得意戦法である。

 

『仮面ライダーキカイ!仮面ライダーセンチュリー!仮面ライダーギンガ!』

 

『ニューライダーズ!ジェネレーションアップ!』

 

ケルベロスドライバーの両端のスロットに入っているディスクを入れ替えると…

 

『レフトパワー!ファースト!』

 

早速ミライダーの1人である仮面ライダーキカイのディスクの力を発動。

 

「さて、とことん争い合いなよ…」

 

すると、機械類を操る電波がフューチャーの身体から発されるとウルトロン・セントリーの内数体が突如周囲の機械兵達に腕のレーザーガンを乱射し始める。

ウルトラマン軍団が乱され始めて、銃を味方に撃ってしまうものもいれば宙を飛び回って他の者に激突していく個体も現れる。軍団の中に混乱の波動が広がっていくとそれに対処しようとさらにウルトロンの兵たちが集まって来る。

 

『ライトパワー!ファースト!』

 

「いっぱい集まって来たね。けどそれが命取りだよ。」

 

群がってきたウルトロン軍団を一網打尽にすべく、仮面ライダーギンガのディスクの力を発動すれば、空から流星群が降り注いで集まってきたウルトロン・セントリーを撃ち落としていく。

2人のライダーと援軍に来たヒーロー達の活躍で星の数ほどいるウルトラマンの兵達が徐々に数を減らして押されだす一方、仮面ライダーマーベル、ドクター・ストレンジ、ソーの3人がウルトロン本体と対峙する。

 

『パワー!インフィニティー!』

 

魔物の力で強化されたストレンジの魔法、ソーの雷撃、マーベルの斬撃はウルトロンの攻撃を防ぎつつ少しずつ鎧にダメージを与えていく。

 

「おいおい!アイツすぐに再生しちまうぞ!」

 

マーベルの放った斬撃がウルトロンの鎧右肩部に到達して傷が付くがその傷跡がすぐにナノマシンによって覆われて再生する。

何度も雷を撃ってもそのように再生されてしまうのを見て、ソーは驚きの声を上げてしまう。

 

「単純な力だけじゃ勝てない、けど…」

 

『チャベスゲート!ソーサラーマジック!エイジ・オブ・マインド!』

 

颯馬がケルベロスドライバーにアメリカ・チャベス、ドクター・ストレンジ、そしてワンダらマインドストーンと関わりのあるヒーロー達のディスクを挿入する。

 

『マルチバース・オブ・マッドネス!アッセンブルアップ!』

 

マルチバースを超える力と強力な魔術が交わり、その魔力をマーベルの身体が纏う。

青色のローブに身を包み、深紅のマントを首から引き下げて所々には魔法陣の様な意匠が浮かんでいる。

マルチバースを超越する究極の魔法を操る新たな形態、仮面ライダーマーベル・マルチバース・オブ・マッドネス。彼が呪文のような文字を腕に浮かび上がらせて解き放つと、仮面ライダーマーベルの姿に似たパラソドーパー達が現れる。

 

「僕達の魔法、見せてやる!」

 

パラソドーパーは仮面ライダーマーベルの並行同位体のような存在であり、彼に似た姿をしているが体の色合いが各々違っている。

まずは赤いローブのみを纏った個体のディフェンダー・マーベルがウルトロンに殴りかかる。

両手両足に氷の魔法陣を纏わせて中華拳法のような動きでウルトロンに攻撃を繰り出していく。

ディフェンダー・マーベルが拳を繰り出す度に彼の拳が纏っている氷魔法の効果でウルトロンの身体が霜に覆われていく。

 

「次は君の番だよ!」

 

続いて深緑色のローブを纏うイルミナティ・マーベルがウルトロンの前に立つと口のクラッシャーを開き超音波を発する。まるでインヒューマンズの王であるブラックボルトというヒーローが声を発して破壊音波を放つかのようにイルミナティ・マーベルの口部からウルトロンの身体に振動が伝わっていき氷魔法を受けて鎧に付いてしまった霜を装甲を形成するナノマシンごと剝がしていく。

 

「さて、僕達も行くよ!」

 

颯馬自身が指示を出すと灰色のローブを纏うシニスター・マーベルが両手に魔法陣を発現させてウルトロンに接近。イルミナティ・マーベルが破壊音波を発し終えるタイミングと入れ替わるようにシニスターが電気を纏うナイフを生成し、未だ再生しきっていないウルトロンの鎧に差し込んでいく。

 

「ソーさん!お願いします!」

 

他のパラソドーパー達が鎖を生成してウルトロンの両手両足を縛って動けないようにしその間にソーがムジョルニアを振り回す。マーベル自身が自分の背部に展開した魔法陣にムジョルニアから放たれた雷が吸い込まれる。雷を吸収している魔法陣をウルトロンに向けるとその中で威力が増大した雷が放出されていく。杭の様にウルトロンの鎧に突き刺さった魔法のナイフが避雷針の様に雷を吸収し、ウルトロンの鎧と彼の身体に大電流を流し込む。

 

「私も少し手を貸そう。」

 

さらに、ドクター・ストレンジがウルトロンの周囲を自身が作り出した魔法陣で取り囲むとそこから雷を放出して敵の体内にさらに電気を流していく。

 

「この程度ッ…!」

 

体内に電流を流されるウルトロンは身体も鎧も機械製であるためかこれまでの攻撃以上にダメージを負っており、咄嗟に身体に埋め込まれたインフィニティストーンからエネルギーを逆流させて体に突き刺さっていた魔法の刃を破壊して雷を弾き返す。

 

「さて、君の出番だよ。」

 

身体にインフィニティストーンのエネルギーを流し込み七色の光を鎧から発しているウルトロンがこのまま彼らに攻撃しようとマーベルに接近しようとするが、彼の前にゾンビの様な姿をしたゾンビ・マーベルが現れてウルトロンが繰り出した拳を自身の胸で受ける。

インフィニティストーンから流れ出したエネルギーが上乗せされており、喰らってしまえば一撃で消滅させられてもおかしくない威力を持っているが、ゾンビ・マーベルは一切ダメージを負っている様子を見せない。不死であり尚且つダメージ無効の身体を持つゾンビ・マーベルはその身でウルトロンの拳を受け止めると魔法陣と鎖を生成してウルトロンの身体を拘束する。

 

「良い動き…」

 

その周囲をソー、ストレンジ、マーベル、そして他のパラソドーパー達が取り囲むと

 

「俺のパーティーを邪魔した罰だ!」

 

「これ以上世界を壊させはしない!」

 

ソーの雷とストレンジの魔法弾、そしてマーベルとパラソドーパー達が放つ魔法の光線がウルトロンに次々と放たれていき、彼の身が爆炎に包まれる。

 

「無駄だ…」

 

インフィニティストーンのエネルギーの恩恵を受けているためかこの攻勢を受けても、コンクリートの壁に虫がぶつかった程度のダメージすら受けておらず、両腕を振るうだけで自身の周囲にいる敵を一気に吹き飛ばす。

 

「やっぱ、インフィニティ・ストーンを封じないと…勝てない…!」

 

「どうやらその様だな…あの石のエネルギーを打ち消さなければ…」

 

「そういうことなら僕に作戦がある。」

 

颯馬の言葉と共にストレンジと4体のパラソドーパー達の目の前に魔法陣が現れてその中から現れたインフィニティ・カリバーが彼らの手に渡る。それぞれが颯馬の魔法によって6本になったインフィニティ・カリバーを手に持ち、そのガード部分にある各インフィニティ・ジェムに触れる。

 

『パワー!インフィニティ!』

 

『スペース!インフィニティ!』

 

『リアリティ!インフィニティ!』

 

『マインド!インフィニティ!』

 

『タイム!インフィニティ!』

 

『ソウル!インフィニティ!』

 

そしてそれぞれがインフィニティ・ジェムの力を自身の刃に纏わせ、そこに自身の魔力を送り込む。

その動きに気付いたウルトロンが身体からドーム状にインフィニティ・ストーンのエネルギーを解き放とうとしたのに合わせて6本の刃から一気に光線が放たれる。ウルトロンの身体から広がろうとするエネルギーが6本の光線に押されていく。インフィニティ・ストーンのエネルギー同士がぶつかり合うが、マーベル達はそのエネルギーを魔力で強化している故に徐々にマーベル達が押していく。

 

「ハアアアアァァァァ!!」

 

そして、6本のインフィニティ・カリバーから放たれる光線がウルトロンの放つエネルギーを打ち破って彼の身体に達すると、6つのエネルギーがウルトロンの身で交じり合いぶつかり合って増大して虹色の光がウルトロンの身に纏わりついて爆発する。

 

「これで倒せたはず…」

 

「いいや、油断は禁物だ。」

 

爆発を起こして、煙と爆風によって巻き起こる砂埃に包まれるがその中にはウルトロンの姿が健在であった。鎧も全て砕け散っていたが即座にナノマシンによって鎧が再生成されてその身を再び包み込む。

 

「完全に破壊しきらないといけないみたいだな…」

 

「というか、あのインフィニティストーンが厄介すぎる…多分あれのせいで体や鎧が欠損してもまたナノマシンが作られて再生されるんだ…」

 

ウルトロン自身の戦闘力も非常に高く、ヴィブラニウムと人工細胞を使った人工生体ボディや機械を操る力でアベンジャーズを倒すこともできた。そこに6つのインフィニティストーンが加わり、生成されたナノマシン製の鎧を纏うことで世界を滅ぼす力も持っていた。その力を打ち砕くのはマーベル達でも難しかった。

 

「何か打開策がいるかも…」

 

「だったら私に良い作戦があるわ。」

 

再び攻撃しようとしてくるウルトロンをパラソドーパー達が抑えている間に作戦を考えているマーベル。悩む彼にウルトロンの兵達と戦いながらナターシャが走ってやって来る。

 

「この矢にはヒドラのアーニム・ゾラの知能データが入っているわ。これでハッキングすれば奴を…」

 

ウルトロンに滅ぼされてしまったこの世界の住民であるナターシャは何とかウルトロンを倒そうと生き残りの一人であったホークアイと共にヒドラの古いコンピューターからヒドラの科学者であったゾラ博士の知能データをコピーして矢の中に保管していた。

 

「だが、ヒドラの科学者だろ?信用してもいいのか?」

 

所謂コンピューターウイルスの様な状態になっているゾラ博士は、ウルトロンの知能を破壊するのには十分であるが問題はそのウルトロンの身体をゾラが乗っ取った後だ。

 

「確かに、その体を悪用される恐れはある…」

 

マルチバースを超える力を持っている仮面ライダーマーベル・マルチバース・オブ・マッドネスには他の並行世界を見通す力がある。別の並行世界ではナターシャの考えるようにウルトロンにアーニム・ゾラの知能データを流して彼の身体を乗っ取ることに成功した。だが、その後彼はウルトロンの身体を悪用しようとした。

 

「けど、僕の魔法なら何とかなるかも…」

 

『マーベル!オールフィニッシュ!』

 

その矢を地面に突き立てた状態でケルベロスドライバーの両端にあるレバーを引っ張るとその矢を中心に魔法陣が出現する。魔力が矢に注入されると魔法でできた弓を手に持ち、手の上で生成した魔法陣をウルトロンに向けて投げる。ウルトロンの背で大きくなった魔法陣がウルトロンの身体をそのまま拘束する。

 

「な、何が起きているッ…!」

 

「パワーがあっても勝てない。魔法で押しまくっても勝てない。けどまだ、こういうテクニックもある…」

 

他のパラソドーパー達も魔法で鎖を作ってウルトロンの身を拘束し、ゾンビ・マーベルが後ろから飛びついてウルトロンの兜をこじ開ける。

 

「マジックアロー、ピンポイントショット!」

 

魔法を帯びた矢がマーベルの手に持たれた弓から放たれると直線を描いてウルトロンの顔面部に迫る。

魔法によってその矢は颯馬が飛んで行って欲しいと思う方に一直線に飛んでいき、開かれたウルトロンの右目にコードのコネクタ状になっている矢じりが挿入される。

 

-------------------------------------------------------------------------------------------------

 

「ホッホー、こいつは良いぞ。人間だった頃よりはるかに快適だ。」

 

「誰だ?誰の声だ?」

 

黒い空間の中、オレンジ色の光の塊と緑色の光の塊が対峙していた。

オレンジ色の方はウルトロンの顔を模していて、緑色の方はヒドラの科学者アーニム・ゾラの顔をしている。

 

「素晴らしい気分転換になりそうだ。足というものを持つのは久しぶりだ。永遠にこの状態でいたいね。」

 

「この身体は使用中だ。」

 

ウルトロンの意識の中にある電子世界でゾラとウルトロンの意識が対峙していた。

 

「ああ、それは今だけの話だ。」

 

「何?お前は何者だ?何が目的だ!」

 

「その昔はヒドラによる世界征服を目的にしていたがお前が終わらせてしまった。」

 

嘗てゾラが征服しようとした世界はウルトロンによって滅亡してしまった。

 

「だから今、私の行動の目的はお前を終わらせることだ。」

 

「何だッ…!?これはッ…!」

 

ゾラの思念体から伸びる緑色の触手がウルトロンの中に入っていきその色を緑色に染めていく。

世界を喰らったはずのウルトロンの意思が世界を侵食しようとしたゾラによって喰われてしまった。

 

-------------------------------------------------------------------------------------------------

 

「倒した…?」

 

右目に矢が刺さったウルトロンの身体から緑色の稲妻を放って地面に倒れ伏す。それだけでなく宙を飛び回っていたウルトロンの兵達が糸が切れたかのように地面に落ちていく。

それを見てウォッチャーやヒーロー達、フォースナイツの2人のライダーが戦いの手を止めてその様子を静かに見上げる。

 

「やった!勝ったぞ!」

 

最初に喜びの声を上げたのはソーだった。ウルトロンの討伐を確信すると手に持ったハンマーを空に掲げて大声を出した。

 

「いいや、喜ぶのはまだ早い。」

 

ソーに続いて他の者達も歓喜の声を上げようとしたが、それをストレンジが制止する。

 

「颯馬?もう倒したんじゃないの?」

 

「そうですよ、敵の兵隊ももう機能停止していますよ。」

 

ストレンジの言葉に疑問を覚えたブレイクとフューチャーがマーベルの下にやってきて疑問を投げかける。

 

「今はまだコンピューターウイルスを流しただけだからね。問題はそのコンピューターウイルスがどう動くか…」

 

「ホッホー!これは中々素晴らしい身体だ。」

 

マーベルがウルトロンの身体に目を向けたその瞬刹那、再びその体が立ち上がり地面から浮き上がる。

その目は先程までのウルトロンと違い緑色に光っている。

 

「この身体さえあれば再びヒドラの野望を達成できる。まずは君達の世界からいただこうかな。」

 

ウルトロンの身体を乗っ取ったゾラ博士は絶頂を迎えていた。最強の人口生体ボディに6つのインフィニティストーンの力、この世界を超えてマルチバースのヒーロー達の世界に攻め入って好きなように征服するなど容易いことだろう。

 

「そう来ると思ってたよ。だから1つ良いことを教えてあげる。」

 

ここまでの戦闘で消耗したヒーロー達はゾラの言葉に対し肩で息をしながらファイティングポーズを構えるが、少し余裕そうな様子でマーベルがゾラの前に立つ。

 

「良いこと?君ごときが私に何か教えれるとでも?」

 

「うん、教えてあげるよ。僕の魔法はまだ終わってないってね。」

 

マーベルがケルベロスドライバーのライトレバーとレフトレバーを同時に引くとそれをトリガーにして、ウルトロンの身体の背中から魔法陣が展開してその体を拘束する。

 

「な、何をしたッ…!」

 

「アンタがそうすることは最初から分かっていたからね。少し魔法でプログラムを弄らせてもらったよ。」

 

「そんなことまでできちゃうんですかッ…!?」

 

マルチバースを観測し、多種多様な魔法を使う仮面ライダーマーベル・マルチバース・オブ・マッドネスの力にブレイクは驚きを隠せない。

特に必殺技であるカオスマジックではどんな複雑な魔法を使うこともでき、矢の中にあったゾラ博士の知能データにとある指示を刷り込むことも容易である。

 

「よ、よせ!何をするつもりだ!」

 

「簡単だよ。アンタがすべき仕事はただ一つ、その体にあるインフィニティストーンを全部破壊してもらうだけだよ。」

 

そう言うと鎧胸部にある5つのインフィニティストーンと額にあるマインドストーンの前に小さな魔法陣が生成され、そのエネルギーが彼の体内に流れ始める。虹色のエネルギーが血管の様に鎧中に張り巡らされ、マーベルの右手に魔力で作られた籠手が付けられて親指と人差し指を交らわせる。

 

「さて、ゾラ博士。覚悟はできたかな?」

 

「ヤ、ヤメテくれ!そんなことをすれば私は!私の野望は!」

 

「関係ない。僕達が守るべきなのは…世界の秩序だ!」

 

ゾラの中にあるヒドラの野望など、颯馬達には関係ない。

マルチバースにおいて脅威と成り得るウルトロンの力をここで破壊してしまうことを優先し、颯馬は自らの右手の指を弾いて音を鳴らす。

その動きに連動するようにウルトロンの手も動き、指を鳴らす。

マーベルによってかけられた魔法によりゾラは新たに得たウルトロンの肉体を使ってインフィニティストーンを破壊するように指示されていた。彼は自分の意思に反してその指示通りにストーンを破壊させられてしまうこととなった。

 

「そんな…」

 

一瞬辺りが白い光に包まれ、その次に彼らの目に映ったのはインフィニティストーンがあった箇所が黒く焦げてしまったウルトロンの身体と鎧だった。意思があったところからは煙が立っていて彼の付けていたナノマシン製の鎧は砂の塊が崩れ落ちていくように粒子となって消えていく。

露となった素体のボディもマーベルらとの戦いで負ったダメージと、インフィニティストーンを破壊する際の負担が原因で黒く変色し、使い物にならなくなっていた。

 

「これで無事、ウルトロンの討伐は為せたな。」

 

恐らくただの金属の塊となってしまったウルトロンの身体を囲むようにライダー達と援軍として現れたヒーロー達が集まり、ウォッチャーが颯馬の健闘を称える。

 

「ええ、けどごめんなさい。ナターシャさん。この世界を元通りにすることができそうになくて…」

 

だがしかし、颯馬は満足していなかった。その理由はインフィニティストーンを破壊することでしかウルトラマン及びゾラを倒すことができなかったことだ。もし石があればウルトロンに滅ぼされる前の世界に戻すことができたかもしれない。

 

「気にしないで。他の世界にまでこの悪意が伸びていくよりはマシよ。」

 

ナターシャにとってもそれは悔しい事実だ。だがそうすることによるリスクもかなり大きいのは彼女もよく分かっていた。仲間の仇であるウルトロンを討伐できただけでも安心感を覚え仲間の一人であるホークアイの形見の弓を見つめている。

 

「君達のおかげで多元宇宙全体が救われた。あのドアの向こうが君達の世界だ。」

 

戦いが終わったことでウォッチャーは援軍として来てもらった者達を速やかに元いた場所に返すためにその場に扉を生成した。その扉を潜れば彼らのいる世界に戻ることができる。

 

「良い戦いっぷりだったぜ。また会おうな!」

 

「ああ、今後の健闘を祈っているよ。」

 

その扉の向こうにソー、ドクター・ストレンジそしてウォッチャーが連れて来たキャプテン・アメリカ=ペギー・カーターとスターロード=ティ・チャラ、ガモーラが扉を通って各々の世界に戻っていく。

 

「じゃあ僕達も帰ろうか、颯馬」

 

「そうだね。帰ってオーウェンさんに報告しないと。」

 

「それじゃあ、お疲れ様でしたー!」

 

彼らに続いて颯馬達フォースナイツの3人のライダー達も扉の中に入り、各々の帰路に戻っていく。

そしてこの場に残ったのはナターシャとウォッチャーの2人だけだった。

 

「君はこの扉を潜らないのか?」

 

「私の世界はここよ。もう誰もいないけどね。あなたもこういうことには干渉しない人間じゃないの?」

 

「確かにな、君達の世界が滅ぶのを私は見ているだけであったし、この世界を元に戻すこともできない。」

 

彼はこの事件まで各並行世界に関して一切干渉しないという誓いを立てていた。

今回ウルトロンが全ての並行世界を滅ぼそうとするというイレギュラーが起きて初めて彼は誓いを破ったのだった。だがそこに至るまでに彼が見殺しにしてきた者の数は星の数より多いだろう。その一例がナターシャたちの世界である。

 

「だが、私はまだ導くことができる。扉の向こうに行け。そこにはウィドウを必要としている世界がある。」

 

そのウォッチャーの言葉に頷けば、自身が生まれ育った世界から足を離し扉の向こうに旅立つのだった。

彼女が向かった世界ではとある謀略でアベンジャーズのメンバーの多くが命を落としてしまった世界だった。その世界のナターシャ・ロマノフも既に亡き者であった。その世界の戦いに彼女は失われたブラック・ウィドウの代わりを埋めるように身を投じていくのだった。

 

-------------------------------------------------------------------------------------------------

 

「オーウェンさんに言われて来てみたんだけど本当にいるのかな?」

 

ウルトロンとの戦いを終えてから数日後、ウォッチャーさんが僕達のところへお礼を言いに来た。

その際にお礼としてあるアドバイスを貰っていた。

 

「君達の組織は若すぎる。年上の人間が数名必要だろう。道中面白い人間を見つけたので紹介してやろう…」

 

確かにフォースナイツとしては創設して間もないし組織を動かしているのは現在29歳のオーウェンさんだ。組織を大きくするのは若い人だけじゃ難しいから経験のある人物を入れてより鍛えてもらえとのアドバイスをいただきその人がいるという場所に僕は呼び出されていた。

 

「来たか、北条颯馬。」

 

「ええ、本当にここにいるんですか?」

 

「ああ、彼は元々は不良であったが強さと勝利を求めて鍛え上げ最強の剣士となった男だ。経験値も君達より遥かに多いだろう。」

 

「鍛えてもらえるのが楽しみです。」

 

これまでの僕は訓練よりも現場での戦いが多かったし、インフィニティ・ソードも埋まっているジェムの力を使えているだけで剣としてはあまり使いこなせていない。しっかりと剣術を身に着けてさらに強くなっていきたい。そのためにも剣術の先生に会うためにウォッチャーさんと一緒にとある並行世界の森の中を歩いていた。

 

「来たか…」

 

落ち葉が上から押しつぶされて割れる乾いた音が聞こえてきて、その方を見ると黒い着物を着た背の高い音っこの人の姿が見える。顔には黒い竜のタトゥーが入っていて、顔だけでも右目の周りと左の頬に描かれている。

 

「紹介しよう。こちらが件の剣豪、黒倉啓士だ。」

 

「ウォッチャーさん。私戦いたい相手がいる。」

 

黒倉さんが僕達の方に歩み寄って来ると、刀の柄に手を置き僕達の方を見る。

 

「やろうか、颯馬」

 

「そんないきなり…」

 

黒倉さんが腰の刀を抜き構え、僕の方を見据える。

 

『ケルベロスドライバー!』

 

『マーベルIDカード!マーヴェリック!』

 

出会っていきなり勝負を仕掛けてこられたが僕もすぐに腰にケルベロスドライバーを巻いて、マーベルIDカードをセットする。

 

「変身!」

 

『ザ・マーベラスヒーロー!ニューボーン!』

 

出会ってすぐの勝負を受ける決断をするのに時間はかからなかった。

僕はこれからもっと強くなる。そして世界の希望となって皆の笑顔を守り続けるッ…!

 

「お手合わせ…お願いします!」

 

僕達の戦いはまだ始まったばかり…

これからも世界を守り続ける。

 

To be continued…




フォーム解説
シニスタースパイダー
3種類のスパイダーマンのディスクを使って変身する形態
3人のスパイダーマン及び彼らと戦ったヴィラン(グリーンゴブリン、ドクターオクトパス、サンドマン、リザード、エレクトロ)の能力を使える。

ユニバーサルソルジャー
キャプテン・アメリカ、ブラックパンサー、シャン・チーら各国を代表するヒーロー達の力を使って変身する。
シャン・チーの使うテン・リングスの代わりに10枚のシールドを巧みに操る。

マイト・イズ・ジャスティス
エターナルズ、ハルク、アントマンのディスクで変身する。
力こそ正義という名に相応しいパワーを兼ね備えており、近接での攻撃力は他のフォームよりも強い。

ライジングギャラクシー
宇宙のヒーロー達の力を秘めている形態
身体から宇宙由来の強力なエネルギーや雷を生み出して解き放つ。

マルチバース・オブ・マッドネス
魔法使いであるドクター・ストレンジとスカーレット・ウィッチに加えてマルチバースを超えるアメリカ・チャベスのディスクで変身する。
強力な魔法に加えてマルチバースの並行同位体であるパラソドーパーと共闘できる。


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灰燼アッシュの章
始まりのA/星の少女


こちらは祈願花さんの作品、灰燼アッシュの章でございます。
W系のオリライなので皆さん楽しんでいってください。


 木と鉄、そして肉が焼ける臭いがそこらじゅうから漂っている。

 辺り一面は火の海で煙も充満していて、真っ当な人間なら数秒もしない内に死に至る程に灰と熱がこの地獄を作り出していた。

 動いている―――――いや、生きている命はこの場にはもう三つしか残されていない。

 

 

「晃を返せッ‼︎」

 

 

 一つは灰の化け物、或いは幽霊。

 頭があって胴があり、手足がある。

 そういう意味では人型ではあるが、実際は全く別。

 常人とはかけ離れた灰色の身体に銀の鎧、髪も顔のない頭など人型であっても化け物としか言えないだろう。

 その上身体の所々から灰が陽炎のように舞っている。

 

「それは出来ないねぇ……彼はなかなかの原石で希少なのだよ」

 

 

 そんな見た目最悪の化け物が襲いかかっているのもまた化け物だ。

 但し、灰の怪人と比べてこちらは豪華絢爛の限りを尽くしたかのような金の装飾に赤銅の体躯……そして紅く美しく広がる翼。

 パッと見れば醜悪な怪人と美しい天使のような何かの対決のように見えるだろう……天使の手に気を失った少年を抱えていなければだが。

 この地獄のような場所でもその少年は生きている。

 それは単に美しい怪物の力で人体の害となる有害物質が入らないようにしているからだ。

 無論、そのことは灰の怪人もわかっている。

 だから灰の怪人が真っ先に行ったのは美しい怪物と少年をこの場所から弾き出して普通の人間が生きられる場所まで移動すること。

 しかし―――――

 

 

「温い温いッ‼︎」

 

 

 力の差は歴然としている。

 灰の怪人の力はヒーロー作品でいう一話で倒される雑魚くらいの能力しかなく、美しい怪物は幹部級……長期に渡って主人公を苦しめるほどの力がある怪物だ。

 だから灰の怪人がどれだけ殴ろうと、その拳は一つも届かずにただただ焼かれるだけに過ぎなかった。

 

 

「ぐ、まだまだァ‼︎」

 

「いーや、もう詰みさ!!」

 

 

 天使は片腕を天に掲げ、振り下ろした。

 そして、雨のように炎の矢が降り注いだ。

 天使が詰みと言ったのはこれがあるからだ。

 どれだけ人間を超えた怪物であろうとも、雨のように降り注ぐ矢を防ぐ方法はない。

 物理的な矢だったらならば防ぎようがあったものの、炎の塊では防ぎようがないのだ。

 できるとするならばエネルギーや力場に干渉できる類の力を使うことのできる能力を持った怪物か超人のみ。

 その辺の瓦礫を盾に?

 その程度で防げる炎なら灰の怪人は生身でも耐えられる。

 

 

「チェックメイト」

 

 

 降り注ぐ炎の雨は天からの裁きのように灰の怪人に降り注ぎ、圧倒的な熱量を持って怪物を消し飛ばした。

 

 

「ま、所詮は低級のメモリ……キミもなかなかに良い適合率(しつ)だが、そのクラスなら我が教団にはそれなりにいる」

 

 

 その声に答える声はない。

 先ほどの炎の雨で周囲の建物や死体もほとんど消し飛び、無数のクレーターが出来上がっているだけ。

 残っているとしたら……煙と、死臭と、灰くらいのものだ。

 もし灰の怪人にベルトともう一つ力があったならもう少し違った結末があったかもしれないが、そんなもしもは無意味だ。

 

 

「さて、最上の個体が手に入ったことだし……彼らに会う前に退散させてもらおうか」

 

 

 そう言って天使はその場を去っていった。

 後に残ったのは炎と死体と―――――

 

 

「……」

 

 

 灰だけが残った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 数年後。

 常に風の吹く街、風都に彼―――――白崎 灰人はいた。

 歳は19歳、身長は174cmで無職であることを除けば見た目はどこにでもいる青年だ。

 少しぼさぼさの白い髪にちょっと色白い肌、もう少し白ければ病人と言われてもおかしくない。

 男にしては少し細身の身体がより病弱な印象を強くさせるが、本人は至って健康だ。

 そんな彼だが……現在進行形で困っていた。

 

 

「参ったなぁ……まさか来て早々に金を掏られるとは」

 

 

 無職の彼にとって命綱そのものだった財布をいつの間にか盗まれていたのだ。

 当然中に入っていた身分証明書もない。

 今のご時世において身分を証明するものがないというのはそれだけで絶体絶命の危機だ。

 金もないので食料も買えない。

 ちなみに掏りと断定したのは鞄に刃物で切られた跡があったからだ。

 

 

「どこかに不良とかいねーかな、できれば凶悪そうなやつ」

 

 

 なので解決策として不良狩りを試みるも、今時そんなやつは早々いない。

 常識的に考えれば真っ先に頼るべきは警察なのだが、財布が届けられているという可能性は低い。

 あったとしても中の金は全部奪われているのがオチだ。

 年齢的な問題でクレジットカードが作れていないのが唯一の救いか。

 しかし、このままでは埒が明かないので近くの交番で相談だけもと考えた時だった。

 

 

「きゃっ!?」

 

「ぐえ!?」

 

 

 後ろから誰かにぶつかった。

 予想もしていないところからの追突故に灰人もぶつかった相手もよろめく。

 

 

「いってぇな……どこ見て歩いてんだよ!?」

 

 

 そう言って灰人はぶつかってきた相手を見る。

 

 

「ご、ごめんなさい……」

 

 

 相手は女だった。

 灰人の主観でいえばおそらく歳は16~8歳くらい。

 腰まであるほどに長い黒い髪にテレビに出てくる芸能人に負けないほどの美貌。

 

 

(うわ、すっげぇ美人)

 

 

 口にこそ出さなかったが、誰もが振り返るほどの美少女がそこにいた。

 

 

「追われてるんです……助けてください」

 

「は?」

 

 

 謝罪の次に出てきた言葉に一瞬、唖然としたがすぐに納得もした。

 誰もが振り返るような美少女ならそういう厄介な相手も出てくるのも無理はないと思ったからだ。

 そして、その相手はすぐ傍にまで来ていた。

 

 

「悪いな坊主、ちょーっとそこの美人に用があるんだ。 どいてもらえるか?」

 

 

 かなり黒に近いはねた茶髪に黒いスーツと帽子を被ったどこかキザな男が現れた。

 状況的にこの少女の追っかけだというのはわかったが、灰人はその声にどこか聞き覚えがある気がした。

 とはいえぶつかってきた少女は目の前の男をだいぶ怖がっているようにも見えるので灰人は少女と男を遮るように立つ。

 

 

「あんた何? この子のストーカーか?」

 

「ちげぇよ!! 俺は探偵だ!!」

 

「はぁ? 探偵?」

 

 

 男はそういうと懐から名刺を灰人に差し出した。

 名刺にはこう書かれている。

 

 

「『鳴海探偵事務所 左 翔太郎』?」

 

「おう、依頼人から頼まれたんだよ。 そこの美人が家出したら連れ戻してほしいってな」

 

「知らない!! そんな人知らない!!」

 

「……って言ってるけど?」

 

 

 灰人は男―――――左 翔太郎に疑いの目を向けると同時にチャンスだとも思った。

 自称探偵兼ストーカーまがいなおっさんが相手だ。

 少なくとも真っ当な職に就いた人間とは思えないので灰人も容赦なく剥げる。

 

 

「ま、俺としてはどっちの味方するかはもう決めてるんだけどな」

 

 

 そういうと灰人は翔太郎を拳を繰り出した。

 殴って怯んだところを腹を蹴って動けなくする。

 それが灰人の立てた道筋だが―――――相手が悪かった。

 繰り出した拳はあっさりと掴まれ、逆に腹をカウンターで殴られる羽目になった。

 

 

「あっぶねぇな、この悪ガキ」

 

(ぐ……マジかよ、見た目によらず強いなこのおっさん)

 

 

 それなりに痛みはあったものの、すぐに引いた辺り絶妙な力加減で殴られたというのは明白だ。

 灰人は翔太郎が見た目によらず相当な手練れだというのを理解した。

 同時に翔太郎から追い剥ぐのは難しいという事も。

 真っ向からぶつかればまず負ける、手段を選ばなければおそらく相打ちが関の山。

 奥の手を使えば……おそらく勝てるが、これは論外。

 普通の人相手に使っていいものではないからだ。

 だから、灰人が取れる手は一つだけ。

 

 

「ペッ!!」

 

「うおッ!? 汚えぞ!!」

 

 

 灰人は唾を翔太郎の顔をめがけて飛ばした。

 別にかかっても汚れるだけで特にこれといった害はないのだが、気分的には良いものではない。

 特に身だしなみをしっかりしているなら特に。

 灰人は翔太郎の身だしなみの良さからして、この手を使えば間違いなく回避を選ぶというのは予想できていた。

 その一瞬さえあれば掴まれた手を振りほどいて逃げるのは難しいことではない。

 

 

「逃げんぞ!!」

 

「へ!?」

 

 

 そう言って灰人は躊躇うことなく少女の手を取って逃げた。

 少女も逃げられるならと思い、引かれた手に逆らうことなく走り出す。

 

 

「あ、こら待て!!」

 

 

 翔太郎もまた追いかけるが、信号に阻まれて二人を見失ってしまった。

 

 

「あーくそ!! 亜樹子のやつにまたどやされっちまう」

 

 

 とぼやくが、翔太郎はそこまで悲観してはない。

 なぜならこの街、風都は彼の庭……追い詰められないはずがないからだ。

 

 

 

 

 

 事の始まりは一昨日の夜にまで遡る。

 鳴海探偵事務所は今日も閑古鳥が鳴くほどに客は来ていない。

 経営的にはよろしくないのだが、裏返せばそれだけこの街が平和だということ。

 しかし、その平穏を終わらす鐘のように事務所のドアを叩くものが現れた。

 今回の依頼人は時鐘 正二58歳。

 この街で建築業を営んでいる初老だ。

 歳が歳なだけに顔の皺や髪にそこそこの白髪が見受けられるが、建築業を営んでいるというだけあって体つきは50代とは思えないほどに力強さを感じさせる。

 依頼の内容は家出した娘の捜索。

 そう、ここまではただの依頼だったのだ―――――資料として渡された娘の写真を見るまでは。

 異変はもう始まっていたのだ。

 

 

「嘘だろ……なんでだ!?」

 

「馬鹿な、あり得ない!!」

 

「あたし、聞いてない……」

 

 

 写真に写されていた娘は、かつてこの街にいたアイドル……そしてこの街を危機に陥れた組織『ミュージアム』の幹部、園崎 若菜にそっくりだったからだ。

 彼女は既に他界しており、この世にもういないはずの人間。

 もちろん翔太郎も所長の鳴海 亜樹子も相棒のフィリップーーーーー園崎 来人も他人の空似、気のせいだと思った。

 しかし、それにしてはあまりにも顔も背丈も似すぎている。

 合成写真を使った悪戯のほうがまだ理解できてしまう。

 だが、いくら鑑定してもその写真は合成写真ではないという証拠だけが積み上げられていく。

 

 

「フィリップ、検索頼めるか?」

 

「もちろんだよ翔太郎、すぐに始める!!」

 

 

 普段クールな相棒もどこか焦りのようなものを感じる。

 そして―――――検索の結果は最悪の形で証明されてしまった。

 

 

 

 

 

 そして時は戻る。

 灰人と少女は翔太郎を撒いて公園で休んでいた。

 全力疾走でひたすら走り続けたので、今この街のどこにいるのかもわからないが……少なくとも人の目の多いこの場所ならあのおっさんも早々襲って来やしないだろうと判断した上で休んでいる。

 

 

「ふぅ、落ち着いた」

 

「えっと……ありがとうございます……?」

 

「なんで疑問形なんだ……いやまぁいいけどさ」

 

 

 とはいえ、この先をどうするかはまだ決まっていない。

 だから、気になっていることを灰人は少女に聞くことにした。

 

 

「ところでキミ、名前なんていうの? 俺は灰人」

 

「えっと……名前?」

 

「あぁ、名前。 それくらいは聞いても問題ないだろ」

 

 

 名前、名前……と少女がつぶやくとこう答えた。

 

 

「えっと、名前っていうのは人や物を表すものだよ?」

 

「いや、だからキミの名前だって」

 

 

 そう灰人が言うと今度は私の名前、私の名前とつぶやく。

 そして―――――

 

 

「どうしよう?」

 

「?」

 

本が絞り切れない(・・・・・・・・)

 

 

 わけがわからなかった。

 話が通じてるはずなのに通じていない。

 灰人はもう彼女が名前を教える気はないのだと判断して、さっさと警察に渡すべきだと判断した。

 少なくともストーカー被害なら警察もそれなりに対処してくれるはずだと思ったからだ。

 

 

「はぁ、わかったよ。 さっさと警察行くよ」

 

「?」

 

 

 そして二人はまた歩き出す。

 幸いにも交番はすぐ近くにあった。

 

 

「すみませーん、ちょっと盗難届と匿ってほしい子がいるんですが」

 

「はぁ?」

 

 

 交番の中で書類を整理していた警官が怪訝な顔をして灰人たちのほうを見たが、すぐに対応してくれた。

 

 

「この子、さっきストーカーに追いかけられてたみたいで……後、俺の財布も掏られたみたいで」

 

「そうでしたか、とりあえずストーカーと聞きましたが」

 

「はい、俺じゃなくて彼女……名前教えてくれなかったんですけど、鳴海探偵事務所の左 翔太郎っていうおっさんに追いかけられてました」

 

 

 そういうと警官の目が変わった。

 そして、次に開かれた言葉は―――――

 

 

「その人はスーツに帽子を被った探偵ではありませんでしたか?」

 

「そうそう、そんなおっさん」

 

「なら大丈夫ですよ。 あの人はこの街の探偵、ストーカーではありません」

 

 

 おそらく追いかけていたのは本当に事務所の依頼だからでしょうと言ってあっさりとストーカー被害を否定した。

 

 

「え、あのおっさん……そんなに有名なの?」

 

「えぇ、良くも悪くもこの街では有名な人ですよ?」

 

 

 そう言いながら財布の盗難届の準備を済ませた警官が次に行きましょうかと言ってペンを差し出してきた。

 

 

 

 

 

 財布の盗難届を出し終わった二人は元の公園に戻ってきていた。

 しかし先ほどと違い、少女はぼーっとしているし灰人も頭を抱えている。

 

 

「なんなんだこの街、だいぶ前に来たときはあんな探偵の名前なんて聞かなかったぞ」

 

「探偵、探偵……人から依頼を受けて貼り込んだり調査して隠された真実を暴く人たちのことだね」

 

「……マジでなんなのこの子、人間〇ィキペディアか何かか?」

 

「〇ィキペディア、〇ィキペディア……」

 

「あぁもう!! 調べなくていいから!!」

 

 

 そんなことをしているうちに灰人の腹の虫が鳴った。

 しかし、財布がないのでコンビニで弁当を買うこともできない。

 不良狩りしようにも鴨はこの近くにいないので八方塞がりだ。

 

 

「お腹鳴ってるけど、食べないの?」

 

「財布掏られ……盗まれたから何も買えないんだよ」

 

「そっか……」

 

 

 そういうと少女は眼を閉じてまたつぶやく。

 

 

「『灰人』、『財布』、『現在地』……これかな?」

 

「あん?」

 

「場所、わかったよ。 着いてきて」

 

「は?」

 

 

 そういって彼女は灰人の手を取って走り始めた。

 最初は少し慌てたものの、すぐに体勢を整え直して走る。

 

 

「待て、わかったって何がだよ!?」

 

「カイトの財布の場所、本で調べたの」

 

「意味わかんねぇよ!? てか本なんて持ってなかっただろ!?」

 

「……黒い折り畳み式の財布、値段は1200円くらい、中身は……身分証明書と写真が一枚あるだけね」

 

 

 灰人はその答えを聞いてゾっとした。

 それは間違いなく今朝、掏られた財布の特徴と一致しているからだ。

 中身が身分証明書と写真一枚だけというのは金を除けばそれくらいしか入れてないから、金を抜き取られていないのなら一致していると考えていいだろう。

 問題なのは全くの初対面である少女が寸分の狂いもなく見た目と値段を言い当てたことだ。

 

 

「キミ、本当に何者だ? 本で調べたってどういうことだ?」

 

「本は本だよ?」

 

「いや、持ってないだろ!?」

 

「あるよ、ちゃんとここに……」

 

 

 そして、灰人は身をもってその言葉の意味を知ることになった。




次回はちゃんとライダー出るはず
(但し仕事の都合でかなり遅れる)


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始まりのA/悪魔の小道具の名は

 風都市内にて大型のトレーラーが走っていた。

 それ自体は特に気にするようなことではない、どこにでもある日常風景の一つだからだ。

 問題なのはその中だ。

 トラックの中には赤と灰色のボディをしたバイクが一台。

 そして、いくつかの備え付けられたパソコンたちと数人の男たちと拘束された男が一人。

 どう見ても普通のトラックではありえない内装をしている。

 

 

「さて、無事風都には入れたな」

 

「えぇ、ここまでは予想通り問題なくいけましたね」

 

「当然っちゃ当然なんだが、問題なのかここからだろ」

 

 

 そういって男はパソコンに繋がれたベルトのバックルのほうに目を向ける。

 非常に大きなバックルで、機械の塊のようなディテールをしていた。

 中央にはレンズ、その横には何かを差し込むスロットがある。

 バックルの裏にはUSB端子を差し込むスロットなど、明らかに普通のベルトではない。

 

 

「ミキシングドライバーの調整と準備はどうだ?」

 

「ドライバーは問題ありません。 万全でございます」

 

 

 機械仕掛けのバックルーーーーーミキシングドライバー。

 彼らが作った作品の一つであり、切り札の一つ。

 街のヒーローを殺すために作られた対抗兵器。

 

 

「ですが、やはり相性の良い適合者はなかなかいませんね」

 

「ウチの適合者は三名、その中の一人は盟主様だからな。 リバーサルドライバーは貴重な一機を持ち逃げ出されたせいで外に出させてもらえないのが痛すぎるぞ……ったく」

 

「……班長はミキシングドライバーだけでは不足と?」

 

「当然だろ。 幾度となくドーパントと戦ってきた歴戦の兵……いくらスペックで勝とうとも負けるという可能性は十分ある」

 

 

 加えてと男は言って手に持っているUSBメモリのようなものに目を向ける。

 それぞれ赤、灰、青、黄、緑……そして透明のメモリたち。

 デザインはどれも共通で洗練されているが、日常生活で使うには少し大きいものばかりだ。

 

 

「これらを駆使できたとして、数少ない使い手がコレだからな……」

 

 

 うんざりしたような目でUSBから庫内の一番奥で拘束されている男に向ける。

 拘束された男は髪がなく、眼も微妙に焦点があっていない。

 まるで薬物中毒者のように乾いた笑みを浮かべながら班長と呼ばれた男の手にあるUSBを見ている。

 もっとも本当にUSBを見ているのかは怪しいが。

 

 

「強く作ることが出来たはいいものの、使い手を選ぶ仕様になってしまいましたからね」

 

「だからVの方を使いたいと要請したんだけどなー」

 

 

 適合率もあっちの方が高いしとぼやきながら班長は俯いて嘆く。

 ほぼ薬物末期症状の狂人よりまだ会話の成り立つ相手のほうを使いたいと思うのは誰だって同じだろう。

 性能が良いなら尚更だ。

 

 

「ま、失敗したらしたでコイツも死ぬから、上からしたら都合のいい廃棄処分なんだろうよ」

 

 

 もったいないと同時に無駄なことをと班長は思う。

 鬼が居ると分かっていながら近づくバカは普通はいない。

 だが、上はあえてそのバカをやろうとしている。

 

 

「……藪をつかなきゃ蛇だって出てきやしないだろうに」

 

 

 それでも指示を出された以上、動かないといけないのが下っ端の悲しいところである。

 そして車は進む、邂逅の時は近い。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 地球の本棚。

 地球という惑星が生まれてから今に至るまでの全ての情報と知識を記録している最古にして最大のデータベース。

 うっすらと天体が見える白の空間と無数に浮かぶ本棚という奇妙なこの空間で青年―――――フィリップは眼を閉じて本棚の情報を洗い出していた。

 この空間において膨大な情報一つ一つを調べるのは難しいを通り越して無理無謀。

 なので一つ一つキーワードを入れることで情報を絞っていくことができる。

 言ってしまえばこの膨大な本棚は世界最大のネットワークなのだ。

 調べられないことはほぼ無いと言っても過言ではない。

 

 

「……ダメだ、今のキーワードでは完全に絞り切れない」

 

 

 しかし、それはあくまでキーワードがある程度具体的であればの話で抽象的だったり絞り込むためのキーワードが足りなければやはり絞り込みが不足する。

 だから思いつくキーワードを並べてみても本は一定以上減らない。

 時鐘 正二の娘―――――時鐘 陽子。

 真っ先に入れたこのワードで大半の本は消えた。

 次に入れたワードは現在地。

 人探しならばこの時点でほぼ絞り切れる。

 特に時鐘という比較的に珍しい苗字なら猶更……しかし、本はこのワードを入れた時点で全て消失してしまった。

 それは居場所の記載された本が検索にヒットしないということだからだ。

 検索結果がヒットしないということは対象が死んでいるのかと言われればNoだ。

 何故なら死んでいたとしても死体の居場所という形で情報が残るはずだからだ。

 ならば、考えられる可能性として挙げるならば何かしらの方法で地球以外の空間に閉じ込められている……あるいは―――――

 

 

「やはり、何者かが隠蔽しているのか?」

 

 

 検索結果の妨害。

 かつての経験からこの二つのどちらかだとフィリップは判断した。

 念のために時鐘 陽子と死亡の二つのワードで検索するも、本が数冊……かつていたであろう故人の情報が出てくるだけなので死亡説は除外している。

 とりあえず現状ではどうしようもないのでフィリップは眼を開ける。

 すると本棚の空間は消えて、いつもの事務所の地下の風景に戻っていた。

 傍には所長の亜樹子も水を片手に持ってそこにいる。

 

 

「フィリップ君、どうだった?」

 

「あきちゃん……ダメだった。 翔太郎が何か手掛かりをつかんでくれるといいんだけど」

 

「難しいかもね……今回は思ってたより根が深いみたいだし」

 

「きな臭さばかりが増してくるね、今回は」

 

 

 そう言ってフィリップは亜樹子から水を受け取って一気に飲み干す。

 喉から肺へ、そして全身へひんやりとした感覚が行き渡って張りつめていた神経や気分が幾分か落ち着くのを感じる。

 それと同時に感じていなかった疲労感も……だが、だからといってまだ現状でやれることを全部やり切ったわけではない。

 フィリップは再び眼を閉じて意識を集中する。

 

 

「あきちゃん、僕はもう少し何か出ないか検索してみるよ」

 

「りょうかい!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 風都のとある裏路地。

 この場所はここ最近、非常にガラの悪い不良たちの溜まり場となっていた。

 違法賭博に暴力沙汰、カツアゲなどを始めとした犯罪行為が日ごろから起きている。

 警察も動いてこそいるが、とある事情で毎回逃げられていたので警察もかなり手を焼いていた……この日までは。

 

 

「よし、これでおしまい!!」

 

 

 そう言って灰人は溜まり場にいた不良六人、その最後の一人を殴り倒した。

 他の五人は既に地面を這いつくばっている。

 

 

「おーい、もう出てきていいぞ」

 

 

 そういうと少女が物陰からひょっこりと顔を出す。

 少女が少しだけ周囲を見渡して安全だとわかると灰人の傍まで小走りで近づく。

 

 

「それで、俺の財布持ってるのはどいつだ?」

 

 

 少女はすぐに灰人の足元に倒れている不良に向けて指を指した。

 それを見た灰人は不良の懐を探り始める。

 

 

「これは……こいつのだな」

 

 

 最初に見つけた財布は灰人のではなかったが、盗難の被害の詫びとしてこっそりと中の金は抜いておく。

 次に見つけたのは……

 

 

「……」

 

 

 次に見つけたのは禍々しい化石のようなデザインのUSBメモリだ。

 表面のディスプレイには凍り付いた骨で『I』と表示されている。

 

 

「悪い、他の奴もこのメモリと同じ形のやつを持ってないか探ってくれないか?」

 

「なにそれ?」

 

「……悪い薬みたいなもんだよ」

 

 

 そう言って灰人はさらに男を探り、自分の財布を見つけ出した。

 中を確認するが金は残ってはいなかった。

 既に使われたか、先ほど抜き取った金の一部になっていたか……どちらにせよ灰人にとって金などどうでもよかった。

 ……不良狩りや日雇いのバイトでどうにでもなる。

 問題なのはそれ以外のものだ。

 

 

「よかった、写真はまだ残ってた」

 

 

 一番大事な写真は捨てられずに残っていた。

 その事実に灰人はホッとしてのびてる他の不良たちの懐を漁る。

 

 

「ひぃ、ふぅ、みぃ……これで全部か?」

 

「多分」

 

 

 数分後、倒れた不良たちの懐をすべて探り終えた二人は見つけたメモリを地面に並べていた。

 デザインはどれも同じだが、ディスプレイに表示されている記号と色だけが違う。

 少女は物珍しそうに集めたメモリを一つ摘んで振ったりして遊んでいる。

 

 

「これ、名前なんて言うの?」

 

「ガイアメモリって言うんだよ、ふん!!」

 

 

 灰人はその辺の少し大きめの石を掴むと、その石を地面に並べたメモリに向けて全力で叩きつけた。

 そんなことをすれば当然メモリは粉々に砕け散る。

 だが、それでも灰人はまだ飽き足らないと言わんばかりに二度三度と大きめの石でメモリを粉々にしていく。

 

 

「勿体ない」

 

 

 少女はメモリを砕く灰人を見てそう言った。

 

 

「ちょっと調べたんだけど、これって凄いアイテムなんだね」

 

「は? いやそもそも調べたって……」

 

「ガイアメモリ。 地球の記憶を内包した特殊USBメモリで、使えば従来の人から人智を超えた超人に変貌させる」

 

 

 少女は手慰みに弄んでいた最後の一本を灰人に向けて差し出し、一言。

 

 

「貴方は使わないの?」

 

 

 悪魔が人を惑わすように蠱惑的に笑いながらそういった。

 だが、灰人は……

 

 

「要らん、それは俺のメモリじゃない」

 

 

 そう言って誘いを切り捨てた。

 そもそもガイアメモリは基本的に一度使えば使用者専用になる。

 例外や抜け道も存在するが、早々使える手ではないのでやはり持っていくという選択肢はない。

 

 

「そっか……じゃあもう要らないね」

 

 

 少女はそう言ってガイアメモリ捨てる。

 捨てられたガイアメモリは灰人の足元まで転がり落ちると、間髪入れずに踏み潰された。

 

 

「よし、とりあえず用事も済んだし飯にするか!! 財布の場所も教えてくれたから礼と言っちゃなんだけど、奢るけどどうする?」

 

「食べる!!」

 

「よし、じゃあ美味しい店知ってたら教えてくれ。 俺はこっちに来たばっかりでわかんないからよ」

 

 

 そう話しながら二人は裏路地から出ようと表のほうに身体を向けた時だった。

 一人の柄の悪い男が立っていた。

 手には色こそ違うがガイアメモリが握られている。

 

 

「お前ら、そこで何をしてる」

 

「何って……奪われたものを取り返させてもらっただけだよ」

 

 

 盗んだんだから因果応報だろと言って灰人はケラケラと笑う。

 少女は男のことなどどうでもいいのかボーっとして美味しいごはんと何回か連呼している。

 そんな能天気な二人を見て男の頭に血が昇っていく。

 

 

「じゃあ俺もやり返したって文句は言わないな?」

 

「やれるんならな」

 

 

 言外にお前には無理だという灰人の挑発は正しく男に伝わった。

 それが男のわずかに残っていた理性にトドメを刺したのだ。

 男は躊躇うことなくガイアメモリの電源を入れる。

 

 

『COCKROACH』

 

 

 起動したガイアメモリから内包した記憶の名前が木霊する。

 同時に男の腕に生体コネクタというガイアメモリを安定して受け入れるための痣が浮かび上がる。

 ここのガイアメモリを差すことで人はドーパントという超人へと変貌するのだ。

 

 

「ぶっ殺してやる!!」

 

「コックローチ……ゴキブリか、まぁどうにでもなるな」

 

 

 変貌し、ゴキブリの記憶によって男は変貌する。

 人から超人……あるいは醜い怪物へと見も心も変質させていく。

 しかし灰人からしてみればこの程度なら特に問題ない。

 

 

「死ねぇ!!!」

 

 

 怪人……コックローチ・ドーパントは超人的なパワーを持って灰人に殴りかかる。

 だが、変貌したからといって人型から大きく離れたわけではない。

 中には大きく変わるものもあるが、基本的にドーパントは人だった名残か……あるいはまだ自意識のどこかで人間であることを捨てきれていないからなのかはわからないが人型で留まっていることが多い。

 だから必然的に動きも人の動きからそこまで大きく変わることはないので灰人はシレっとコックローチの拳を避けることができた。

 

 

「この、この!! このぉ!!!!」

 

 

 二度三度繰り返すも当たらず、四度五度に至ってはカウンターで逆に殴られるくらいだ。

 しかし、動きこそ変わらないものの大きく変わるところはやはりある。

 それは体力だったり、腕力だったりと基礎スペックはやはり超人なのだ。

 長期戦になれば灰人はまず負ける。

 というか現時点でもこのままでは勝ち筋自体がない。

 だから、灰人も使うことにした。

 

 

「さて、ここからは俺も使わせてもらう」

 

 

 懐から取り出すのは灰色のガイアメモリ。

 ディスプレイに表示されるのは崩れ行く灰の楼閣を現した『A』

 左の手のひらに生体コネクタが現れる。

 

 

『ASH』

 

「……変身」

 

 

 一言、合言葉を唱えて灰人は醜い怪物(ちょうじん)へと変身したのだった。



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仮面ライダー死使
仮面ライダー死使


こちらはボルメテウスさんの新作でごさいます。
ヒューマンバグ大学とのクロスオーバーです!


俺の名前は瓜生龍臣。

 

「ウリのおじさん!メロンパン買いに来たよ!」

 

「お!幸太君、いらっしゃい」

 

移動式メロンパン屋を営む・・・元殺し屋だ。

 

恨み辛みというのは人の世とは切れない物。

 

利害関係・・・ふとした切っ掛け・・・殺意を抱く理由は無限だ。

 

人を呪わば穴二つなんて有り難い格言は誰も覚えちゃいない。

 

特に財政界の妖怪共やマフィアのボスなんかは、大金を払ってでも消したい奴はごまんといる。

 

勿論奴らは自分の手など汚さない。

 

実際に命を賭けるのは、マフィアなど、子飼いの犬達や、俺のような殺し屋。

 

殺しのニーズは無限だ、世界中のビックマネーが動く。

 

そんな俺は闇のアサシングループに所属していた。

 

感情のない殺戮マシンを生み出す暗殺のスペシャリスト軍団。

 

孤児となった小柿を囲い込み、徹底的に殺しの技術を叩き込む。

 

人種問わず、世界中の子供がいる。

 

俺も気づいたら、そこにいた。

 

俺は世界中を飛び回り、連日連夜指定された人間を殺す。

 

そこに罪悪感など上等な物は入り込む余地はない。

 

殺し屋を組織されるような奴の最後はいつも醜悪であり、目撃者も消す。

 

そうした8年間で俺が消した人間は1000人を超えた。

 

俺の能力は組織でも飛び抜けており、最強の殺し屋だった。

 

そうして、いつからか俺は『死龍』なんてコードネームで呼ばれるようになった。

 

『死龍に狙われたならば、絶対に逃れられない』それがこの世界での語り草となった。

 

証拠は何一つ残さない。

 

依頼を受けたならば確実に殺す。

 

ただそれだけ、餓鬼の頃から洗脳された結果だ。

 

殺しに手を染めていた8年間は俺の味覚を壊していた。

 

どんな物を喰っても、血の味しかしなかった。

 

鉄のあの嫌な味に耐える。

 

食事ととはただそれだけ。

 

人を殺せば殺す程、俺は人から離れていった。

 

命を金に換算する狂気の世界でも、依頼を選べる立場になってからは、欲に濡れたゲスだけを殺した。

 

細やかな抵抗だ。

 

それは、俺がまだ優しかった母の温もりを微かに覚えていた。

 

その記憶のおかげか、俺はギリギリでただの殺戮マシンにはならなかった。

 

だが、それでもあの生活を続ければ、いつかは心が完全に壊れてしまっただろう。

 

けれで、そんな俺に転機が訪れた。

 

それは依頼を終えて、公園のベンチで座っていた時だった。

 

「あら、お兄さんの顔、まるで死んでるみたいね」

 

そう俺に話しかけたのは、まるで童話の中でしか見た事のないおばさんだった。

 

「えっ?」

 

今思えば、あれは運命の出会いだったんだろう。

 

「これ、サービスしてあげる、どうぞ」

 

そんなおばさんが俺に差し出してくれたのは

 

「メロン・・・パン?」

 

焼きたてのメロンパンをサービスしてくれたんだ。

 

どうせ何を食べても、血の味。

 

ため息と共に、メロンパンを食べた瞬間。

 

「あぁぁはああああ!うっまああああぁ!!!」

 

大袈裟じゃないい。

 

無色だった俺の世界が一気に色彩を取り戻したんだ。

 

暖かさ・・・甘さ・・・柔らかさ。

 

メロンパンの優しい味が俺を人間に戻した。

 

そう、メロンパンの美味しさに放心していると。

 

「ねぇ、あなた、私の跡継ぎしない?

 

探しているの」

 

そう、おばさんが、いや師匠が、俺をメロンパン屋に誘ってくれた。

 

俺は気がついたら、組織に飛んで、戻っていた。

 

「はぁ、メロンパン屋をやるだと!?

 

冗談だろ、死龍!」

 

そう俺の事場に、ボスは机を強く叩き、睨み付ける。

 

「紛れもなく、本気です」

 

そう、俺はボスに引退する意思を伝えた。

 

「お前のような究極とも言えるアサシンがなんでだ!!

 

望む額を稼げるんだぞ!!」

 

そう、俺を引き留めようとするボス。

 

だけどね。

 

「ボスは分かってねぇ、メロンパンはねぇ、平和の味がするんですよ」

 

こちらに睨み付けるボスに対して、俺は笑みを浮かべる。

 

「いいか、死龍。

 

掟破りは一生組織から狙われる羽目になる。

 

その覚悟は出来てんのか?」

 

「勿論、ですが俺も組織最強の暗殺者。

 

ただじゃ、死にませんよ」

 

俺はそう、ボスに言うと共に殺し屋を引退した。

 

俺はそのまま師匠の弟子となり、修業に励んだ。

 

永久凍土のように凍り付いた感情が徐々に熔けていった。

 

そして、殺し屋時代で培った技術は、メロンパン作りに役に立った。

 

そして、遂に移動式メロンパン屋を師匠から受け継ぐ事ができた。

 

「やっしゃあ!瓜生のメロンパン出陣じゃあああ!!」

 

「良かったわね、これでゆっくりとできるわ」

 

その時には感情が戻りすぎて、熱血型の男に仕上がっていたのだ。

 

師匠の知り合いを引き継げたお陰で売り上げは上々。

 

この街の人達共、上手く馴染む事ができた。

 

そして、そんな街の人々は、殺し屋時代にはなかった暖かい心にしてくれた彼らは、全員が恩人だ。

 

しかし、最近、この町で不穏な事が起きた。

 

それは、とある飲みの席での話だ。

 

「娘が誘拐された中村さんが痛々しくてよ」

 

「一人娘、まだ19歳だよな」

 

「無事を祈るしかないッス」

 

若い女性が連続して攫われている。

 

そんな事件は残念ながら、この街では頻繁に起きている。

 

中村さん家族は俺の常連さんだった。

 

最愛の娘を突然攫われ、絶望の淵にいると聞く。

 

それから、数日経ったある日の事。

 

声が聞こえ、見てみると、そこには見覚えのない少女がいた。

 

「いらっしゃい!お客さん、どのメロンパンにしますか!!」

 

初見さんかと思い、俺は笑顔と共に話しかける。

 

しかし、その少女は、まるで蛇を思わせる目でこっちをじっと見る。

 

「えっと、お客さん?」

 

「あんたが、死龍か」

 

「・・・」

 

そう、俺が言っている間に、こちらを見つめた少女から出た言葉。

 

それに俺は密かに構える。

 

「組織からの刺客か」

 

俺はそう、鋭い眼光で、彼女を見つめる。

 

「お前に依頼があって、ここに来た」

 

「悪いが、俺は既に組織じゃない」

 

「知っている。

 

だからこその依頼だ」

 

そう言い、少女が取り出したのはスーツケースだった。

 

かなりの大きさのようだったが。

 

「私は沢渡アカネ。

 

これから、ある怪物を殺して貰いたい」

 

「怪物だと?」

 

どうやら、目の前にいる奴は相当頭がいかれているようだ。

 

「あのな、お嬢さん。

 

悪いけど、俺はそういうのはやっていないんだよ」

 

そう、俺は目の前にいる子、沢渡にそうゆっくりと問いかける。

 

「その怪物が、中村の娘を誘拐していると言ってもか」

 

「なんだってっ!」

 

その一言に、俺は思わず戦慄してしまう。

 

中村さんの娘さんが誘拐された事に、なぜ関係しているのか。

 

問いただす前に、沢渡はそのまま歩き出した。

 

「気になるなるんだったら、ついてきな。

 

歩きながら話すよ」

 

そう言った彼女はとても少女の目とは思えない冷たい目だった。

 

それでも、ここで中村さんの娘を助ける事ができる可能性がある。

 

俺はすぐにメロンパン屋の営業を止め、少女の後ろについていく。

 

「それで、さっき言っていた怪物って、なんだよ」

 

「人の歪んだ心が生み出した存在よ」

 

「そんなの、幾らでも見て来たよ」

 

殺し屋時代、まるで人の皮を被った悪魔のような奴を、俺は殺していた。

 

「そんな奴らじゃないよ。

 

本物の怪物だよ」

 

そう言った沢渡の眼光が鋭くなる。

 

けれどそれは一瞬だけのことだ。

 

その視線の先にあったのは、町外れの廃墟ビル。

 

そのビルの一室に俺達は入っていく。

 

一室の扉の裏側から、そっと耳を近づける。

 

「ひひっ、どうだぁ、熱いだろう、なぁ!!」

 

そのゲスとも言える言葉。

 

同時に、扉の外からでも感じる熱。

 

それが異常だと察すると共に聞こえたのは。

 

「たすけて」

 

「っ!」

 

俺はすぐに扉を蹴り破った。

 

同時に見えたのは、まさしく怪物だった。

 

真っ赤に赤くなった鍋をまるで兜のように被った凶人。

 

その凶人が、鍋から出てくる血のようなマグマが、中村さんの娘を取り囲むようにしている。

 

「あれは『火頂責め』の業モンか」

 

そう、まるで他人事のように呟く沢渡を無視し、俺は走り出す。

 

暗殺者時代の脚力で、瞬く間に野村さんの娘を抱き抱えた俺は、すぐに廃ビルの窓からすぐに脱出した。

 

「なっ、貴様っ待てぇ!!」

 

そんな俺を追うように、後ろにいる業モンとか言う奴が追ってくる。

 

「おいおい、マジかよ」

 

幾ら、廃ビルとは言え、コンクリートをあっさりと溶かして、追ってくる姿には恐怖を感じざるを得ない。

 

それでも俺は足を止めるわけにはいかない。

 

この子だけは絶対に守らなくてはいけないんだ。

 

「はあああああああッ!!」

 

叫び声を上げて必死に逃げ続ける。

 

だが逃げても逃げても追いかけてくる。

 

そしてついに壁際に追い詰められてしまった。

 

背後からは業モンが迫ってきている。

 

どうする?どうすればいい?! その時だった。

 

「それで、依頼は受けるの?」

 

聞こえたのは、沢渡の声だった。

 

それと共に沢渡が問いかける。

 

「あいつを殺す依頼だったな」

 

そう、俺は言う。

 

沢渡はそのまま未だに無表情でこちらを見る。

 

まるで、最後の問いかけのように思えた。

 

だから俺は。

 

「分かった、やるよ」

 

俺は、覚悟を決めたように大きく息を吸い込んだ。

 

「そう、だったら、これ」

 

そう、沢渡が俺に渡してきたのは、スーツケースの中にある物だった。

 

それは小型のスマホを思わせる物と、日本刀を思わせるバックルだった。

 

「それを、腰に」

 

「これをか?」

 

沢渡に言われるままに俺は腰にスマホを置く。

 

すると、スマホから伸びたのはベルトだった。

 

『Assassindriver』

 

ベルトはまるで俺の腰に合わせるように伸び、そのまま装着され、その音が鳴り響く。

 

「アサシンドライバー?」

 

「そのまま画面に指を触れ、腰にバックルを差すんだ」

 

「手順が早い早い」

 

そう言いながらも、俺は中村さんの娘をゆっくりと地面に寝かせると共に、沢渡の言う通りに指示に従う。

 

『URYU!Access Granted.』

 

鳴り響く音声と共に、俺はそのまま手に持った腰にバックルを置く。

 

「なんか、ヒーローみたいだな。

 

変身」

 

そう、言うと共に、まるでそれに合わせるようにベルトが光る。

 

『Kamen-rider-SiSi!AkoARMOUR』

 

それと同時に俺の身体は瞬く間に包まれる。

 

驚きを隠せない中で、俺は近くにある鏡で姿が見えた。

 

全身に鎧を身に纏っているのは、確かに俺だ。

 

見た目としては、戦国時代の鎧武者を思わせる姿だ。

 

同時に、腰にあるバックルは先程までの形から一転、本物の日本刀と変わらない大きさへと変わっていた。

 

「これは一体」

 

「仮面ライダーシシ。

 

それが、その姿あの名前だよ」

 

「仮面ライダー?」

 

疑問に思った。

 

しかし、同時に腰にあるバックルが巨大な日本刀へと変わっている事にも気づく。

 

「なるほど、身体が軽い。

 

これだったら」

 

そう、俺は笑みを浮かべながら、目の前にいる業モンに目を向ける。

 

「さて、さっきはよくもやってくれたな。

 

こっからは反撃だぁ!!」

 

その言葉と共に、俺は腰にある日本刀をゆっくりと抜き、目の前にいる業モンへと構える。

 

それに合わせるように、奴もまた動き出した。

 

先程のように、コンクリートを簡単に溶かす程の熱量を持った炎弾が次々に飛んでくる。

 

僕はそれを全て避けながら走る。

 

「おぉ、軽い軽い」

 

最初は鎧武者という事で、動きが重くなるかと思ったが、実際には羽のように軽い。

 

しかも、多少擦った炎弾でも、全くダメージがない。

 

「それじゃ、とりあえずその腕、いらないよな」

 

その事に驚きながら、俺はその手に持った日本刀を真っ直ぐと薙ぎ払う。

 

言葉の通り、真っ直ぐと、奴の腕を斬り裂く。

 

腕を斬り裂かれた事に気づいた奴は、当然悲鳴をあげる。

 

とても人間とは思えない悲鳴だ。

 

それでも、容赦をするつもりはない。

 

『業』の塊のようなこの怪物を倒すには、殺すしかない。

 

同時に俺はその手に持つ日本刀を、目の前の怪人に向けて振り下ろす。

 

怪人は俺の動きに反応して、その頭には鍋を思わせる兜で防御する。

 

しかし、それでは、堅さが足りなかった。

 

俺は日本刀は、その鍋を丸ごと斬り裂く。

 

「----」

 

声にならない悲鳴。

 

それが業モンはそのまま後ろへと下がる。

 

「そいつは腰にある鞘に収めるんだ。

 

それと共にベルトにもう一度押したら、必殺の一撃が放たれるよ」

 

「必殺の?」

 

よく分からない。

 

それでも、俺は瞬時に、鞘に日本刀を入れる。

 

それを、ゆっくりと息を吸いながら、ベルトに指を押す。

 

同時に鞘に収めた日本刀は、まるで炎が溜まっていく。

 

「っ!」

 

それと共に、日本刀をそのまま抜く。

 

『raid slash!』

 

そして刀身に宿った炎を刀閃に沿う形でウェーブ状に放ち、その斬撃は真っ直ぐと向かう。

 

『───ッ!』

 

業モンはそれを防ぐように構える。

 

だが、それは防ぐ事はできなかった。

 

「あっあぁあ」

 

それが業モンの最後の言葉だった。

 

そのまま後ろへと倒れ、そのまま爆散する。

 

「ふぅ」

 

俺はため息を吐いた。

 

久し振りに感じた人を殺した感触。

 

それは、もう今では慣れたくない感覚だ。

 

けど。

 

「中村の娘さんは」

 

「気絶しているよ」

 

そう、沢渡という少女は答える。

 

そのまま俺は彼女を抱える。

 

「話は後で良いか?

 

今は」

 

「別に良いよ、それを受け取った以上は、覚悟はできていると思うから」

 

その言葉と共に、夜の道を歩いて行く。

 

その翌日、彼女、沢渡が再び来た。

 

「これは組織が開発した新たな暗殺道具であるアサシンドライバーだ」

 

「アサシンドライバー?」

 

そう言いながら、俺は改めて、アサシンドライバーを見る。

 

それはどう見ても、スマホであるのは変わりない。

 

「アサシンにとって、最も重要なのは暗殺道具。

 

それがバレないようにする為に、暗殺道具のカムフラージュとして開発されたのが、このアサシンドライバーだ」

 

「確かに、ある意味、こんなの暗殺道具だとは思わないよな」

 

実際に、あの時に業モンと呼ばれた奴を殺した日本刀も今ではただのおもちゃにしか見えない。

 

しかも、ポケットの中に簡単に隠せる程度の大きさだ。

 

「けど、こんな技術、普通は作れないだろ」

 

「だが、お前は知っているはずだ。

 

その技術を作れる組織を」

 

「それは、俺が元々所属している組織の事を言っているのか」

 

それに対して、彼女は頷いた。

 

「私からの依頼。

 

それは、組織のボスを暗殺する事」

 

「そんな危険な事、できるかよ」

 

「既にアサシンドライバーはお前を装着者として登録してある。

 

それを取り返す為に、組織は次々と刺客を送るだろう。

 

これまで以上にな」

 

「それが、狙いという訳か」

 

どうやら、始めから俺は目の前にいる少女の手の平に踊らされたようだ。

 

「お前にできる選択肢は二つ。

 

このまま組織に殺されるか。

 

私と共に、組織のトップを殺すかだ」

 

「なんで、そこまでトップを殺すのに拘るんだ?」

 

そこまで来て、俺は首を傾げながら聞く。

 

それに対して

 

「何、この業界ではどこでもある。

 

ありふれた復讐。

 

それが、私の目的だ」

 

そう言った彼女の目はどこまでも暗かった。

 

「奴らは既にこの街の外道を次々と業モンに変えている」

 

「その業モンって、一体何なんだ?」

 

彼女の目的、それは知る事ができた。

 

しかし、先日戦ったあれは一体。

 

「拷問というのは人類の負の歴史と言っても良いのは分かるよな」

 

「まぁな」

 

強引でも要求に従わせる為に。

 

精神を壊し、命の危機に追い込む所業。

 

「それらの負の歴史を、力にし、人に与え、怪物へと変えた存在。

 

それが、業モンだ」

 

「そんなの、まるでファンタジーじゃないかよ」

 

「そうだね。

 

けど、実際に存在する。

 

そして、それは組織にとっては大きな金にもなる」

 

「なんで?」

 

「業モンになった奴らにその力を売る。

 

そして、そいつらは大抵が外道だ。

 

そして、そいつらが邪魔になった依頼者から金を取る事ができる」

 

「つまり、組織からしたら、まさに金のなる木という事か」

 

胸糞悪い話で、反吐が出る。

 

「このまま放っておけば、今回のように街の奴らが犠牲になる。

 

それに対抗する力、お前も必要だろ」

 

その言葉に対して、俺はゆっくりとアサシンドライバーを見つめる。

 

「人の心を救う事ができるのは暖かな物、素晴らしい物だ。

 

そして、それらを簡単に壊す事ができるのが悲惨な物だ」

 

俺の心を救ってくれたおばさんや街の人々。

 

彼らが紡いできた物は、人を笑顔にする為に多くの人が紡いできた歴史だ。

 

そして、それと同じように、人を不幸にする物は確かに裏にはある。

 

それらは、簡単に、人の幸福を奪う。

 

負の歴史(拷問)を壊す事ができるのが、負の歴史(暗殺)しかないんだったら、俺は喜んで使う。

 

けど、この生活も捨てる気はないぞ」

 

「分かっている。

 

それで良い」

 

同時に手を伸ばす。

 

「契約は成立だな。

 

私は今後、お前を支援する。

 

だからこそお前は」

 

「あぁ、組織のボスを暗殺する」

 

それが、俺の、新たな戦いだ。



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精神

組織と再び戦う事になった俺だが、それでも何時ものメロンパン屋での日常は変わりない。

 

「よっしゃぁ!今日も良い感じに焼き上がった!!」

 

「あんた、結構五月蠅いわね」

 

そんな俺の日常に現れるように新たな人物もいる。

 

その人物の名は沢渡アカネ。

 

年齢としては、高校生ぐらいだが、その冷たい目に俺は思わず呆れる。

 

「お前な、なんでここにいるんだよ」

 

「別に。

 

組織の情報が来たら、すぐにあんたには働いて貰わないと困るから」

 

そう言いながら、沢渡はスマホを見ながら、こちらを見ようとしない。

 

俺が組織と再び戦うきっかけとなってしまった沢渡だが、1週間は過ごしたが、未だに分からない事ばかりだ。

 

それでも、無碍にする事はできず、俺はそのまま次のメロンパンを焼こうとした。

 

「あれ?」

 

そんな俺は、ふとベンチを見る。

 

ふらふらと歩きながら、まるで倒れ込むように座る人物。

 

彼は確か。

 

「佐藤さんか?」

 

少し前からいなくなった佐藤さんだった。

 

彼は普段はサラリーマンとして働いており、真面目な性格だ。

 

俺の店にも、時々メロンパンを買っているお得意様だが、様子が可笑しい。

 

「佐藤さん、大丈夫か?」

 

俺はその疑問と共に佐藤さんに話しかける。

 

すると、先程まで虚ろだった目で、ゆっくりとこちらを見つめる。

 

「あれ、ここは?

 

というよりも、瓜生君なのか?」

 

「大丈夫ですか?」

 

明らかに様子が可笑しい。顔色は悪く、目は血走っている。

 

まるで何かに取り憑かれているようだ。

 

そして何より、彼の言葉使いもおかしい。

 

まるで別人のように変わっていた。

 

「一体どうなっているんだ……」

 

そう思いながらも、彼に事情を聴くことにした。

 

しかし、話を聞いてみると、やはりというべきか。

 

病院の話ばかりするのだ。

 

だが、聞いてみると、明らかに異常だ。

 

事の経緯はこうだ。

 

どうやら、佐藤さんは野上という犯罪者に間違えられて精神病院に入れられたらしい。

 

何度も自分は野上では無いと訴えるが聞く気が無い異常な職員達に「佐藤さんね、正常正常」等の暴言を吐かれた挙句自分は野上では無いという訴えを精神異常者の発狂と誤認され薬漬けにされ自我が崩壊しかける。

 

最終的に解放されるのだが自我崩壊寸前の交渉により誤認逮捕と名誉毀損等の慰謝料を正当に支払われずに、ここに来た記憶は僅かだ。

 

「ごめんな、瓜生さんにこんな事を言って」

 

「気にしないでください。

 

それよりも、メロンパンを良かったら」

 

「あぁ、久し振りのまともな飯だぁ」

 

そう、涙を流しながら佐藤さんは言う。

 

「さて、それじゃ、少し行きますか」

 

そう、俺は佐藤さんを少し慰めた後、彼が行ったという精神病院へと向かう事にする。

 

「あんた、行くつもりなの」

 

「あぁ、さすがに異常だからな」

 

俺の言葉に対して沢渡と共に向かう。

 

精神病院として、機能しているのか?

 

明らかに人権を無視するような所に、俺はそのまま病院に向かう。

 

その病院は、山奥の閉鎖病院。

 

周りには逃げ場などないように思えた。

 

そして、病院に入れば、あちらこちらから不気味で異常な声が響いていく。

 

中には、自分で眼球を二つを「いらない」と言う理由で摘出する奴までいる。

 

そんな異常な光景に対して、思わず戦慄する。

 

「本当に病院として、機能しているのかよ」

 

「ある意味、実験場としての方が正しいかもしれないね」

 

そう言って沢渡は冷静に呟く。

 

確かに、こんな異常な光景の中で、どんな事があっても問題ない。

 

そういう意味では、胸糞悪い。

 

「さて、ここの院長を探すか」

 

俺と沢渡はそのまま目的の人物を探すように歩く。

 

なるべく目撃者のないように、慎重に。

 

そうして辿り着いた先には一つの部屋。

 

そこには、気味の悪い奴がいた。

 

「キヒヒッ、この薬を売れば、ヒヒッ」

 

「あれは、まさか」

 

「薬だね」

 

それは、裏で出回っている麻薬。

 

その花だ。

 

まさか、ここは麻薬の製造所でもあるのか。

 

「その為の実験所か。

 

という事は奴は」

 

「あぁ、どうやら植物に関係する奴のようだね」

 

「とりあえず、奴は潰す」

 

その言葉と共に、俺はそのまま地面に降り立つ。

 

それと共にこちらに気づいた。

 

「だっ誰だ、お前はっ」

 

「この病院を燃やす親切な人ですよぉ」

 

その言葉と共に俺はそのままアサシンドライバーを腰に回し、そのままバックルを装填する。

 

「変身」『Kamen-rider-SiSi!AkoARMOUR』

 

その音声と共に、俺は死使へと変身する。

 

「こっこんな所で、死ねるか」

 

その言葉と共に奴は、その体が変わる。

 

姿は、まるで植物に、その各部には花が生えている。

 

だが、同時に気味の悪い印象の業モンだ。

 

『……』

 

 

 

業モンは、無言のまま右手を構える。

 

同時に、その身に宿ったツタが俺に襲い掛かる。

 

「……ッ!!」

 

俺はそれを横に跳んで避けながら、腰にある日本刀で切り裂く。

 

相手は後ろに跳び退り、そして手に持っていた蔦を鞭のように奮う。

 

俺はそれも難なく避ける。相手の武器はそれだけだ。

 

しかし、油断はできない。

 

蔦を変幻自在に操る業モンに対して、俺はただひたすら逃げていた。

 

逃げることしかできないのだ。

 

だって蔦とかムカデみたいな虫みたいに気持ち悪い。

 

それと共に、俺は負ける為に逃げる訳じゃない。

 

少しずつ、業モンに近づきつつ、必殺の一撃を繰り出すタイミングを見計らう。

 

「私はここでいずれトップになるんだぁ!!」

 

「あっそ、じゃあ、そのままハイになって、落ちてな」

 

その言葉と共に日本刀を鞘に納めながら、そのまま居合斬りで切り裂く。

 

「ぐっ、そんな一撃だけで」

 

「誰が一撃だ」

 

―――それはまるで……雨のような斬撃だった。

 

俺の持つ日本刀から放たれた無数の刃が、業モンに向かって降り注ぐ。

 

それによって、業モンは瞬く間に切り刻まれ、そして。

 

「ふぅ」

 

それが戦いの終了を合図した。

 

「にしても、こんなやばい奴がトップじゃな。

 

いや、トップじゃなくても、腐っているのか」

 

「病院は誰かの傷を癒す為の場所でね」

 

そう、沢渡は未だに無表情ながらも溜息を吐く。

 

「とにかく、あとはこの情報をマスコミでばらまくぞ」

 

それだけ言い、俺は事務所にある資料を取り、そのまま出ていく。

 

そうして、俺の資料をマスコミにばらまいた。

 

佐藤さんの話から聞いても、警察に渡しても無駄だ。

 

そうして、バラまかれた資料によって、精神病院は潰れた。

 

その精神病院にいた患者は別の病院へと移送されました。

 

しかし、また別の精神病棟に移されただけでした。

 

だが、それが正解かどうかは分からない。

 

それでも

 

「なんだか、少しすっきりしたような気がします」

 

佐藤さんは、そのまま警察から謝罪を受けた。

 

あまりにも理不尽な目にあっていたあの人が少しでも浮かばれば良い。

 

「さて、たぶん、そろそろだな」

 

「そろそろって」

 

「組織から刺客が来る」

 

その言葉に、俺は覚悟を決めなければいけないようだ。



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