貰った特典、死亡フラグ (一方逃避)
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死亡フラグ貰いました。
1話:転生したけど死亡フラグ


新小説です。
感想、アドバイスなどよろしくお願いいたします。


 皆は昔、何に憧れた? 小さい頃ならテレビアニメのヒーロー、段々成長していくと本やドラマの主人公だったり。少なからず、こんな風になりたい、って思ったことないかな?

 

 俺はある。年相応にヒーローに憧れたし、物語の主人公になりたいって思ったこともあった。ダークヒーローにも憧れたね。主人公になれなくてもファンタジーな世界に憧れた。神隠しに会ってみようと言って、友達二人で山に入ったこともあった。残念ながら神隠しなんてなかったんだけどね。ああ、お盆の夜に墓場に行ったこともあったっけ?

 

 何でこんなことを話しているのかって? それは、この場所が……ファンタジーな世界かもしれないからさ

 

 

 

 

 

 

 

 

時は遡り……

 

「あー、はいはい。君、こっちの列ね~? あ、そこ横入り駄目言うとるやないか」

 

 いきなり真っ白な空間にいたらどうする?俺はまあ、呆然とするかな。

 

「ここどこ?」

 

「あれよ、ここはいわゆる地獄と天国の間。死者が集う場所。ちなみに俺は死者の列の誘導係。あ、これ名刺ね」

 

 いつの間に居たのか、後ろには金髪のお兄さん。

 

「前もこんな話してたなぁ。元気かな? あの子達」

 

 とりあえず、名刺は貰っておこう。

 

死者の列誘導係

 

K・HO☆N☆DA!

 

「どや? イカスやろ?」

 

 どこが!? という言葉を飲み込む。ノーコメントにしておこう。

 

「最近暇やからな~。良いことなんやけど。忙しかったのは最初の子の時だけやったな」

 

「えっと、地獄と天国の間というのは?」

 

「死者が地獄行きか、天国行きか、生き返えるか決める場所だよ。そういえば、転生もあの時から追加されたんだっけ」

 

「ということは……俺って死んだ?」

 

「そうそう、話が早くて助かるなぁ。前の子、ちょっとパニックになってたからさ」

 

 確かに俺には死んだ記憶がある。車にひかれたという、笑えない話だ。不思議なことにその事実を確認しても取り乱すことはない。達観した感じだ。

 

 しかし、地獄には行きたくないし、天国の方がましだとは思うが、転生も気になる。よく二次小説にあるようなものだろうか?

 

「天国行きとか、転生とかどうやって決めるんですか?」

 

「基本はその人が生きてるときにどんな生き方をしていたか、で決まるんだけど、最近はあの人の気まぐれかなぁ。転生したのはまだ二人だけだよ」

 

どうやら転生は希らしい。しかしそんな決め方でいいのか!?

 

「君も話してくるといい。天国行きかもしれないしね」

 

 誘導されて行くのは、何かおじさんの前。  

 

「あー、今回は君ねぇ。ふんふん」

 

 品定めをされる様に見られる。なんか紙に書いてるし。

 

「あの」

 

「なんだい?」

 

「俺って天国いけますか?」

 

 正直、不安だ。生きている頃は決して良いことばっかししていたわけではない。やっぱり悪いこともしていた。親の言うことを聞かないこともあったし、教師に反抗したこともあった。それに地獄にも色々種類があるから、昔の行いに対しての地獄があるかもしれない。

 

「それはわかんないなぁ。うん、あの子達も楽しそうにやってたしねぇ」

 

 度々、この人達の話に出てくる“あの子達”とは一体誰だろう?

 

「よし、君転生!」

 

「え!?」

 

「思い立ったが吉日! では早速。前はズコンだったから今度は……」

 

ヒュッ!

 

 この音が何の音なのか、音源はどこなのか考える時間もなかった。

 

「最近の流行りは落とし穴だね!」

 

「ちょっと待てやぁぁぁぁあぁぁぁぁぁあ!!」

 

 ドップラー効果を発声させながら、俺は落ちていった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ……あ?」

 

 気づくと俺は、草地に立っていた。というか、森? 落ちていたと思ったのだが。

 

「ここどこ? あれ、紙持ってる」

 

 俺の手には紙。“説明書”の文字。なぜかは知らないが筆書き。達筆!

 

「いつの間に? えーと」

 

『 転生における説明書

 

 どうだろう、びっくりしたかい? やっぱり、落とし穴だよね? 評価するなら拍手をどうぞ?』

 

「するか!」

 

 なんというか、死ぬ思いをした。他の人にはやらないことを願う。被害者を増やさないでほしい。

 

『この世界は、なんと! あの子達も転生した“魔法少女リリカルなのは”の世界です。それも“Force”。格好いい武器がたくさんだね?

 でも、先に転生したあの子達はその世界にはいないから。別の“魔法少女リリカルなのは”の世界にいるから。ご了承願う』

 

 出来れば、先に転生した人達に会いたかった。確率は低いが、転生したなら次元管理局に所属かもしれない。

 

「つーか、“Force”か……。ヒロイン達25歳だっけ?」

 

『恐らく、原作ヒロインにフラグを建てるのは絶望的かと思うが、安心してほしい。素晴らしい特典を用意した。それは……』

 

 俺の期待が高まる。素晴らしい特典と言うのだから、チート能力に違いない。“ゲート・オブ・バビロン”とか。あれが、一番いいと思う。

 

「その特典とは!?」

 

『君にはエクリプスウィルスをプレゼントしておいた! つまり君は感染している。殺戮衝動に、もしかしたら自己対滅とかあるかもしれないからお気をつけあれ。あ、ゼロ因子適合者(ドライバー)じゃないから』

 

「……あんの、糞ヤロウッ!! どーすんだよ、転生していきなり死への危機!?」

 

 紙を破り捨てなかった俺を、誉めてもいいと思う。転生してすぐ死ぬって冗談じゃない。いや、とりあえず冷静になろう。

 

『諸事情によりシュトロゼックは特典につけられませんでした。しかし、神は君を見捨てなかった! 君が寂しくないように本は用意しておいた。さらに君のディバイダーはリアクトすると様々な武器になる。

 これで原作キャラと戦っても大丈夫だね!』

 

「いや、シュトロゼックは必要だろ。本だけって寂しい」

 

 よく二次小説ではシュトロゼックも特典で貰っていた。俺もほしい。本ってほとんど喋らないし。

 

『君の本は蒼いから、蒼十字とでも呼んでくれ。クールにデレそうな声だね!

 一応、レアスキルも用意しておいた。二人目の子にあげたら好評だったからね。レアスキルやディバイダーについての説明は蒼十字がやってくれる。これで説明は終わりだ。

 

 PS.この紙は、読み終わったら爆発するとかないので、ポイ捨てせずにきちんと分別して捨ててくれ。健闘を祈る。リリカルマジカル頑張ってくれ 』

 

 なんだろう。今、とても“神殺し”の力がほしい。エクリプスウィルスなんていらないから。あの野郎は一発殴りたい。ていうかあいつ神なのか?

 

「おーい、蒼十字ー、とりあえず説明プリーズ」

 

ヒュッ

 

『ドライバー、承認。ご用件を』

 

 空中に浮かぶ、蒼い本。 おお、本当にクールにデレそうな声だ。聞いたことある気がするが誰だっけ?あの野郎は許せないが、蒼十字は俺の好みにマッチしてる。声だけ。

 

「俺のディバイダーとレアスキルについての説明をお願い」

 

『Jud.』

 

 ホライゾン?

 

『貴方のディバイダーはリアクター内臓型。故に血液認証によってリアクト可能』

 

「リアクトか。痛そうだよね、あれ」

 

 リアクトするには体にリアクターを取り込んでする。その時はリアクターを体にブッスリ刺したり、腕切ったりで絶対痛いだろう。あまり、やりたくない。

 

『レアスキル名称、翔翼。

 効果、加速術。

 長所、移動の際にあらゆる抵抗を無効。究極的に疲労、体重も無効。故に長時間の加速可能。

 短所、最大速度に至るまで時間が必用。

 発動条件、武器を持ち、攻撃し続けること。以上で説明終了』

 

「やっぱり、ホライゾンか。効果は原作通りか。えーと、ディバイダーは」

 

 原作をちゃんと読んでいたので、ある程度のことはわかる。しかし、できれば、大罪武装が欲しかった。エクリプスウィルスじゃなくて。まだ、死にたくない。

 

「ECディバイダー」

 

『Start Up.』

 

 俺の手に現れる、ディバイダー。やっぱり、実弾銃にナイフが付いている様な武器だ。これ、何の銃だろう? ディバイダーに書かれている文字は“React Clotho”と“3.14”?

 

「なにこれ? 円周率?」

 

『理由、趣味又は気紛れ』

 

「理由になってないだろ、それ」

 

 普通は、000とかじゃないか? 英語の方はかっこよかったのに。意味知らないけど。

 

ぎゅる~

 

「やべぇ、腹減ってきた。死ぬ前なんも食べてない。本当にここどこ?」

 

 ちなみに、今の俺の姿格好は前世とほぼ同じ。服も一緒。違うのは背が伸びていることくらい。

 

『半径1㎞捜索……結果、人影、建造物確認できず。無人世界と推測』

 

「歩くしかないかぁ」

 

 とりあえず、人の居る場所に行こう。飯を食ってそれからだ、これからのことを考えるのは。殺戮衝動とか起きなければいいな。

 

 俺、明日の朝日拝めるかなぁ。その前に今日の夕日を拝めるかすら、わからない。




Clothoとはクロトと読み、ギリシャ神話の運命の女神で運命の糸を紡ぐ女神です。
自分の考える、この主人公の運命の糸は『死』へ行くか、行かないかです。


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2話:出逢い、そして建つのか? 違うフラグ

ほのぼのが少し続きます。

10/27改訂しました。


「やった、夕日見れた…」

 

 森の中、俺は夕日を見れたことに対して涙を流していた。

 

 神から貰った特典、“エクリプスウィルス”。それはもはや死亡フラグに等しく、いつ死んでもおかしくはない。“Force”の主人公もメチャクチャ苦しんでいたし、自己対滅などがあるため、森をさ迷いながらいつ死ぬかビクビクしていた。

 

「良かった、本当に良かった。あんな肉塊になりたくないよぅ……。誰かぁ、助けてぇ~」

 

 もしかしたら転生してすぐに死んでいたかもしれないので――それもぐちゃぐちゃになる感じで――生に対する感謝が半端ない。

 

「腹が……」

 

 しかし、空腹感がヤバイので、次はもしかしたら餓死しそうだ。一難去ってまた一難。“エクリプスウィルス”ではなく、空腹で死にそうになるとは。

 

 森をさ迷い続けて、恐らく四時間程度。正直、もう動けなくなりそうだ。死ぬ前になにか食べておけば良かった。『今、なにが食べたいですか?』と問われれば、迷いなく『母の作ってくれる、味噌汁』と答える。死んでしまって、悲しんでいるだろうなぁ。親不孝か、俺は……。

 

「もう……無……」

 

 言葉は最後まで続かなかった。地面に倒れてしまう。土の臭いが鼻につく。顔を上げる力も出ない。こういう状況になると、生前の自分がいかに恵まれていたのかがわかる。

 

『ドラ…………ーの生……危機』

 

 蒼十字が何か言っているらしいが、よく聞こえない。このまま俺の人生はここで終わってしまうのだろうか?

 

(“エクリプスウィルス”じゃなくて空腹で死ぬのか俺は。はぁ、原作キャラには会いたかったなぁ……)

 

 目が閉じていっているのがわかる。視界が段々と暗闇になる。まるで、死へのカウントダウンの様だ。

 

 

 

 

 

『周囲100m圏内にて、生命反応を確認。急速接近中』

 

(え?)

 

 鮮明に聞こえた。その言葉で、腕に力が入る。暗闇が徐々に、徐々にと明るくなっていく。生への希望が芽生え始める。

 

「君! 大丈夫か? しっかりしろ!」

 

「誰か、人を呼んできてくれ! 管理局の人達も! 早く!」

 

(あ……助かっ)

 

 でも、やっぱり意識はもたなかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

「リアクト! あーはっはっは! 俺、最強!」

 

 俺は、何でかは知らないが、空にいた。体にはゴツい鎧の様なもの。何でこんなもの着てんだ?

 

「この力で、俺は最強を目指すぜ!」

 

 これがあれば、もう誰にも負けはしない。そんな風に思えた。

 

「まずは、何をしようかな~?」

 

「こらぁ! 何やってんだ!」

 

「へ?」

 

 そこにいたのは、父さん? 何でここに?

 

「遊んでないで、早く帰ってこい! 夕飯の時間だ!」

 

 父さんの姿はとても懐かしく思えた。ずっと一緒に過ごしていたのに。なぜだろう?

 

「ちょっ、痛い! 引っ張らないで!」

 

 いつの間にか、俺の身に纏っていた鎧は、普通のさっきまで着ていた服に戻っていた。

 

「痛い~!」

 

 

 

 

 

「いっ!」

 

 夢だったのか、目を開けた俺の前に迫り来るは、白い……液体?

 

バチャァッ!

 

「あっつぁーーーーーーーーーー!!!!!!」

 

 何これ! 熱い! ヤバイ、ヤバイって!

 

「ぐおぉぉぉおおぉぉぉ!!!」

 

 顔を押さえながら、地面を転げ回る。こんなに熱いものが顔にかかったのは人生で――生前を含めて――初めてだ。さっき新しい人生が始まって、終わりそうだったけどね。

 

「ほわぁ~、すいませ~ん!」

 

 謝ってるのは、女の子。髪は長い銀髪で、背は俺より小さいと思う。じゃなくて!

 

「何すんだ! 火傷するところだったぞ!」

 

 とりあえず、転げ回っている間に見つけたタオルで顔を拭いたが、まだヒリヒリする。

 

「ごめんなさい! ごめんなさい!」

 

 女の子は必死に頭を下げている。そうすると、逆に俺が悪いように思えた。

 

「どうしたの!? マリ!」

 

 息を上がらせて入ってきたのは、少女に似た、短髪で銀髪のこちらはお姉さん。

 

「お母さ~ん!」

 

 マリとは恐らくこの女の子のことだろう。泣きながら、今入ってきた人に抱きついていった。

 

 少女の母は――若くて姉に見える――俺の顔と濡れた服を見て、そして少女を見た後、ため息をはき、

 

「マリ、あなた、またこぼしちゃったのね?」

 

 いや、こぼしたとかそういう次元ではない。ぶっかけ! ぶっかけだよ!

 

「あなたは大丈夫? 火傷とかしてない?」

 

「えっ、あ、はい。大丈夫だと思います」

 

 不思議とさっきまでの顔がヒリヒリするのが、無くなっているような気がする。ミステリー。

 

「皆、ビックリしてたわよ? 森に倒れてるんだもの。元気そうで良かったわ。気絶している間に少しスープ飲ませたけど、余程お腹が空いてたのね。意識が無くても飲んでたわよ?」

 

「えと、はい。ありがとうございます」

 

 どうやら、あのまま意識を失った俺を助けてくれたのはこの人たちのようだ。感謝、感激!

 

「それにしても、何であんな所で倒れていたの? 誰かとはぐれた?」

 

「えーと……」

 

 ここは正直に言った方がいいのか。しかし転生とか言っても理解してもらえないと思う。

 

「それが気づいたら森の中にいて、さ迷ってたら、空腹で倒れました」

 

「もしかしたら、次元漂流者なのかしら。あなた名前は?」

 

「名前ですか?」

 

「そう。もしかして、覚えてない?」

 

 これも困った。名前は生前のものを名乗ればいいのかどうか。というか俺ってこっちで名前何?いや、でも“リリカルなのは”外国人っぽい名前多いかし。だから俺は

 

「ダ……ダレン」

 

 外国人っぽい名前で思い付いたのはこれしかなかった。若干考え込んでいたせいもあるだろう。これはあれだ、好きなものはスパイダーな少年の名前だ。感動したなぁ、あの小説。

 

「ダレンね。苗字は?」

 

「フ……フォスター」

 

 これは昔、英語の授業で“外国人の名前”というのを勉強した時に出た名前だった気がする。

 

「よろしく、ダレン君。私の名前はサーシャ。サーシャ・カーターよ。こっちは娘のマリ」

 

「……よろしくお願いします」

 

 さっきのことを気にしているのか、マリはサーシャさんの後ろに隠れている。俺も怒ったからなぁ。怖がられちゃったかな?

 

「大丈夫だから。もうさっきのことは気にしてないから」

 

「本当?」

 

「本当」

 

「本当に本当?」

 

「本当に本当」

 

「本当に本当に本当?」

 

 イラっとしてきた。しかし、ここで怒っていてはまた怖がらせてしまう。

 

「本当に本当に本当。大丈夫、オーケー、グッド」

 

「よかった~」

 

 やっと笑ってくれた。そんなに怖かったか? 俺は。

 

「サーシャさん、それでここは何処なんですか?」

 

「ここは第14無人世界の開墾地よ。私達は開拓者。ダレン君はどこから来たの?」

 

「それは……」

 

 確か地球は第97管理外世界だっけ? でも俺はこの世界の地球に住んでなかったし...

 

「やっぱり、覚えてない?」

 

「はい、気づいたらここにいたので」

 

 覚えてないんということにしておこう。どの世界に存在していたのかわからないしね。

 

「そう。ちょっと待ってて。今、管理局の人達を呼んでくるから」

 

「あ、はい」

 

 サーシャさんは外へと出ていく。管理局。確か次元世界を管理する、警察と裁判所が一緒になった様な組織だっけか。

 

「あのぅ」

 

「なに? えっと、なんて呼べばいいかな?」

 

「マリでいい。わたしもダレンって呼ぶから」

 

「わかった、マリ。どうした?」

 

「さっきはごめんね。わたしドジだから、ああいうこと結構あるんだ」

 

 あはは、と笑っている。やっぱり気にしているのだろう。

 

「本当に大丈夫だって。見てみろよ、俺の顔。火傷なんてしてないだろ?」

 

「ほんとだ~、不思議。あんなにかかっちゃったのに」

 

 そう言いマリは、俺の顔をペタペタさわってくる。少しくすぐったい。そして恥ずかしい。

 

「ふふ、よかった~」

 

「ダレン君、呼んでき……あら、マリったらもうダレン君と仲良しね」

 

 部屋の入り口のところで微笑むサーシャさん。言われて気づいたのだろう。ものすごい速さで離れるマリ。その時に少し爪が引っかかって痛かった。

 

「ち、ち、ち違うよ! 火傷! 火傷がないか確かめてたの! ね、ダレン!」

 

「あ、うん。そうだな、そうそう!」

 

「マリもやっぱり年頃の女の子ね。私の若い頃を思い出すわ~」

 

 マリ、俺の隣でずっと慌てていないでくれ。俺だって恥ずかしかった。

 

 管理局の人達に聞かれた話はサーシャさんから聞かれたことと一緒だったので同じように答えておいた。後日、俺を管理局の方へ連れていくらしい。身元確認のために。

 

 その後はもう夜だったので、サーシャさんお手製のシチューを食べた。ちなみに、マリが俺にぶっかけたのもこれだったらしい。シチューってどの世界にもあるんだな。このことに感動。

 あと、マリの父親にも会った。すごく豪快な人だった。その時に「マリの婿になって、一緒に開墾するか!」と言っていたが、一応断っておいた。マリが物凄く顔を赤くして、あたふたしていたのは言うまでもないだろう。

 

 そして、就寝時間。

 

「問おう、何故マリの部屋なのか」

 

 俺がいるのはマリの部屋。サーシャさんに「部屋が無いから、マリの部屋ね」と言われて、半ば叩き込まれた。その時に、マリの着替えを目撃してしまったのは、完全なる事故である。

 

 というか、知り合って間も無さすぎる男を娘の部屋に寝かせていいんですか? 間違いがあってからでは遅いんですよ! 起こせるわけないけどな!

 

「どうせ俺は、へたれだよ!」

 

「大丈夫、ダレン?」

 

「全然、全く大丈夫じゃない。それにいいのかよ、マリは?」

 

「大丈夫……かな。あ、ダレンは今日、ベッドで寝てね~」

 

「え、なんで?」

 

 ここは、マリの部屋だしベッドで寝るのは普通マリじゃね? 俺は布団をしいて。

 

「なんでって、ダレン今日倒れてたんだから、具合悪くしたらいけないよ~」

 

「いや、ただの空腹で倒れただけなんだけど……」

 

「それでもです! ダレン少し、フラフラしてるでしょ? 大丈夫、今夜は見ててあげるから、安心して寝てね~。これでも、看護師さんになりたかった時もあったんだから~」

 

 まぁ、体力もあんまり戻ってなかったから、フラフラしてたんだけど。こいつ、よく見てるな。この気遣いは、これはこれで、嬉しかったりする。

 

「ジ~~~~~」

 

「あの、マリ。擬音で表現しながら見つめるのやめてくれないかな? すごい、恥ずかしい……」

 

 マリはベッドで寝ている俺の顔を、ニコニコしながら見つめていた。これじゃあ、寝れんよ。

 

「だ~め~。こうしてた方がいいの。お母さんが言ってた。よく、お父さんにしてたんだって~」

 

「そうですか……」

 

 相変わらず、マリはニコニコしながら俺を見つめていた。でも、寝ていると不思議なもので段々と眠くなってきた。そうして、俺はマリの視線を受けながら眠りについた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「(あらあら、マリったら。良いわね~、若かった頃を思い出すわ~。あの頃はよくアルさんに添い寝をね~)」

 

「(若い頃……、青春って素晴らしいなぁ!)」




主人公のディバイダーがリアクトした状態をどのような武器にするか募集したいと思います!こんな武器があったらいいな、これはかっこいい! と思うのがありましたらお願いします。
案がございましたら、感想、メッセージ、活動報告の方にお願いします。
来た案はすべて使いたいと思います。武器色々なので!
よろしくお願いいたします!
自分は双剣型を考えています


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3話:それは、つかの間の平穏 前編

新たに、もう一日マリとの時間を追加します。

10/27改訂しました。
前編、後編になります。


「なんて素晴らしい朝なんだ」

 

 時刻は7時半。太陽はもう高く登っている。

 

 幸いにも俺は“エクリプスウィルス”で死ぬことはなかった。あれ? 発症ってどんな感じになるんだっけ?

 

(思い出せねぇ……)

 

 なんというか、その記憶だけがなくなっている感じだ。殺戮衝動などは覚えているのに。

 

「んぅ~」

 

 俺の寝ている隣から、声が聞こえた。しかも、なんかもぞもぞ動いている。そういえば、ベッドで寝てたんだっけ……あれ? じゃあ、誰が……。

 

「みにゅ~~~~~」

 

 顔を出したのはマリだった。俺の思考が一瞬止まる。何でいんの? え、添い寝までしてくれたの!?

 

(いやいや、焦ってはならん)

 

 こういう時こそ冷静に朝の挨拶。。よくあるじゃないか、添い寝なんて。慣れてるだろ、……ゲームで。

 

「マリ、お、おはよぅ」

 

「ふぁえ。あ~、ダレンだ~」

 

 そうして、目を擦りながら起きてきた。寝ぼけている。出てきたのは、まずは顔。その次は白いはだ……裸ぁ!?

 

「な、なな、おま……」

 

「どうしたの~? 顔まっか~」

 

 マリは笑っているが、さすがに俺は目をそらす。大丈夫だ、何も見えてはいない!

 

「なんでそっち向くの? 人と話すときは目を見ないと」

 

 そう言って、俺に近づいてくる。後退りするが、ここはベッドの上。限られたスペース。しかも、俺が寝ていたのは壁側なので、すぐに壁にぶつかった。

 

「いや、お前、上半身、上半身!」

 

「何を唐突に…………げ」

 

 やっとお気づきになられましたか~、ってヤバイ! 早くここから脱出しないと!

 

「ふえぇぇぇぇぇ~~!?!?」

 

 叫び声をあげながら、マリは俺に枕投擲3秒前。マリの上を飛び越え、急いで出口へと走る。“翔翼”使うこんな感じかなぁ。

 

 ボフッと枕が俺に当たる。地味に痛い。扉を閉め、寄りかかる。勢い良く閉めすぎたかも。

 

『ダレンの変態~!』

 

「冤罪だ、このやろう!」

 

「あらあら、若い子達は朝から元気ね~」

 

 目の前に立っていたのは、サーシャさん。とてもにこにこしていた。

 

「あ、サーシャさん。おはようございます」

 

「おはよう。どうしたの? そんな、朝起きたら、隣にマリがが寝てて、マリに声をかけたら、寝ぼけて眠い目を擦りながら上半身裸で起きてきて、目をそらしたら逆に近づいてきて、やっと気づいたと思ったら叫ばれて枕を投げられて、変態呼ばわりされた様な顔をして」

 

「サーシャさん」

 

「なぁに?」

 

「見てました?」

 

「もちろん!」

 

 やだ、この人。見てるんなら助けてほしかった。変態呼ばわりされることをした覚えはない!

 

「でも、肌白くて綺麗だったでしょう?」

 

「え、あ綺麗で、じゃなくて! サーシャさんは知ってたんですか? マリがああやって起きてくるのを!」

 

「知ってたわよ。朝がどうなるか昨夜から楽しみだったわ~」

 

 そう言ってすたすたと台所の方へ行ってしまった。ほんと、なにが目的なんだろうか?

 

「でも、綺麗だったのは否定できないな!」

 

 そうだな、見ちゃったものは仕方ない。やましい気持ちなんてない、ないぞ!

 

「なにが綺麗だったのかなぁ? ダァレェン~」

  

「うわっ!」

 

 気がつかなかった。俺の後ろには怒っているというのすら越えているマリが……。あれか阿修羅すら凌駕する存在か。懐かしいなぁ。

 

「この変態! 女の子の着替えを、しかも二回も見ちゃうなんて! 変態! 変態!」

 

「いや、どっちも事故だから! 見ちゃったのは否定しないけど、あと綺麗でした!」

 

「へ、綺麗?」

 

 お、これは許してくれるか?

 

「うん、綺麗だった! かわいい! グッド! ……あ、でも胸ぇっ!」

 

 ドスッ! という音という音をさせて、俺のみぞおちにマリが手を突っ込んだ。

 

「ぱうっ、みぞおち……やめ」

 

「やっぱり、ダレンの変態~~!」

 

 それから10分ほどマリに追いかけられた。結果はマリが転んで涙目になって終了。仲直りはできました。適度な運動の後の朝食はとても美味しかった。あと、サーシャさん達のにこにこ顔がハンパなかった。

 

 

●●

 

 

 う~、ダレンに裸を見られちゃった。上半身だけだから良かったけど、物凄く恥ずかしい……。忘れてた、ダレンが一緒の部屋にいたこと。

 

 綺麗って言われたけど、胸がどうしたのだろう? 反射的にやってしまったけれど……。う~ん、平均的だと思うけど。

 

 でもダレン、寝てるときにうなされていたけど大丈夫かな?

 

 

●●

 

 

「ダレン、こっち~」

 

「お願い、ちょっと待って……」

 

今、俺達がいるのは開墾地の周りの森。俺は何でここにいるのだろう。てっきり、皆の手伝いでもするのかと思っていたのだが。いきなり、遊んでこい、だからなぁ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 それは、朝食を食べ終わった後。

 

「いよっし! レッツ開墾!!」

 

 俺の頭の中には、クワを持って高笑いしている俺のビジョンが。ザックザック、物凄いスピードで畑を耕している。

 

『イヤッハ~ッ! 楽しい~!』

 

 素晴らしいなぁ……。ワクワクしてきた。

 

「そういえば、ダレン君」

 

「はいっ! なんなりとっ! 早速、クワでザックザックですか?」

 

サーシャさんからの呼び掛けに、俺は準備万端をアピール。あとは、クワを持って外へと駆け出していくだけだ! 開墾への熱意は急上昇。

 

「えーと、今日はやらなくていいわよ?」

 

「へ?」

 

 その言葉に、スーっと俺の開墾に対する熱意が冷めていくのを感じた。なんで? やるんじゃないんですか?

 

「ダレン君、昨日倒れてたじゃない。だから、いきなり働くんじゃなくて、

少し体動かして慣らさないとダメよ?」

 

「いや、でも……」

 

「だーめ。アルさんからも言われてるし。マリと少し遊んできなさい。あぁ、若い男女2人きり。アルさんとの昔のことを思い出すわ~」

 

 また始まった。朝食の場でも聞かされた、惚気話。マリはまたか、という顔をしながらも楽しそうに聞いていた。

 

「そういうことで、マリと一緒に遊んできなさい」

 

 遊ぶといっても俺、17歳だし、大人だし。それにしてもマリと2人きりにして危ない、とか思わないのだろうか? まぁ自分、ヘタレですから。

 

「じゃあ、行ってきます」

 

「ええ、いってらっしゃい。マリは玄関にいるわ。エスコートちゃんとね?」

 

「わかりました」

 

 サーシャさんに言われた通り、玄関にマリはいた。左手に何か持ってるけど何だろう?

 

「あ、ダレン来た~」

 

 笑顔で振り返るマリの左手にはギラリと光る鉈が1本。……殺される!?

 

「ひいぃぃぃぃっ!」

 

「ちょっ、どうしたの!? ダレン!」

 

「どうか、お命だけはっ! なにとぞっ!」

 

 土下座をし、拝む。そうか、もしかしたら、裸見られてたのまだ怒ってるのかっ!?

 

「大丈夫だからっ! この鉈は木を切るためだから、ダレンは切らないから!」

 

 良かった。俺は切られずにすむのか。マジで死への危険を感じた。

 

「そうか、なら気を取り直して……。行きましょうか、お嬢さん」

 

 マリにスッと手を差し出す。まるで執事の様に。いや、本物の執事知らないけど。

 

「おっ、お嬢さん?」

 

 マリが驚いた顔をしている。エスコートってこんな感じじゃないの? テレビでよくやってるし。それとも、マドモワゼルの方が良かったのかな? ところで、マドモワゼルって何て意味?

 

「サーシャさんに、エスコートちゃんとしなさい、って言われたからこんな感じかと」

 

「そういうことね。びっくりしたよ~、いきなりこんなことされたから~」

 

 そう言ってマリは俺の差し出した手を握る。これって……

 

「まるで、付き合ってる男女みたいなあぁぁぁぁぁっ!?」

 

 言った瞬間にマリが顔を赤くし、体を回転させる感じで握っている右手をおもいっきり、振りほどいた。そうすると、左手に持っている鉈が襲いかかってくるわけで。

 

「おぅっ! 死ぬかと思った!」

 

 そして、左手からすっぽ抜けた鉈はマリの家に刃が食い込んでいた。ドジッ娘にも程がありすぎるっ!

 

「もうっ! いきなりそんなこと言うからっ!」

 

 俺のせいかよ。まぁ、手を繋ぐ提案をしたのは俺だけど……。危なかった。

 

「まぁ、悪かったと思ってるかも。それより、早く行こう?」

 

 これ以上ここにいると、墓穴を掘りそう。いや、マジで。

 

「どこに行くかわかってる?」

 

「……ごめん、わかんない」

 

 そういえば、聞いてなかった。遊びに行ってこい、って言われただけで。これではエスコートできないな。

 

「もうっ。森で遊ぶついでに薪取りに行くんだよ? それじゃぁ……エスコートよろしくね、ダレン!」

 

 そう言ったマリは、まさに眩しいと言える笑顔だった。ほんと、可愛いなぁ! 左手に鉈を持っていて少し怖かったけど。

 

 

●●

 

 

「ダレン君はちゃとエスコートできるかしら?」

 

 ダレン君とマリの様子を窓から覗く。鉈が飛んできたときには、正直驚いた。

 

「なに、大丈夫だろう。マリのドジッ娘は相変わらずだなぁ!」

 

「もうっ! 笑ってる場合じゃないですよ、アルさん」

 

 今は落ち着いているが、昔はもっとひどかった。歩いては転び、皿を持っては落としていた。でも、一番は……

 

「なに心配するなサーシャ、ダレンならマリのことを守ってくれるかもしれないさ。マリだって……そう思ってる」

 

 私の心配を思ってか、アルさんがそう言う。やっぱり、人の心の変化には敏感な人ね。そこが好きなのだけれど。

 

「そうね。マリが認めたダレン君だものね」

 

 マリはダレン君を見て少し、良い方向へと変わったのかもしれない。




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4話:平穏の終わりは唐突に

日常は終わります。
そう、突然に


 外から鳥のさえずりが聞こえる。朝日が窓からわたしに向かって射し込んでいる。

 

「はむ~」

 

 まだ、起きる時間には早い。もう少し寝ていようかなぁ。ダレンもまだ寝てるだろうし~。

 

「……あ」

 

 そうだった。今日は早く起きようと思ってたんだ。昨日みたいにダレンの後に起きちゃうと、また裸見られちゃう。それは恥ずかしいよ~。

 

 わたしは相変わらず上半身裸で起きていた。少し寒い。急いで脱いでいた上を着る。なんで、こんな癖がついちゃったんだろう?

 

「む~。んしょっと」

 

 眠い目を擦りながら、ゆっくりと床に足を降ろす。音をたててダレンが起きてしまったら、意味がない。歩くときもゆっくりと。抜き足、差し足、忍び足。

 

 そうして、ダレンの近くまで来ると、ダレンの寝顔が目に写った。まるで、小さな子供の様なその寝顔。つい、つんつんしたい衝動に駆られるがそこはグッと我慢。起こしてしまっては意味はない。昔、お父さんとお母さんとで3人で寝ていた頃、よくお母さんと一緒にお父さんの寝顔をつんつんしていたのが懐かしい。

 

 わたしは、お母さん達みたいな結婚生活に憧れている。いつも仲良くて、時々喧嘩するけど、すぐ仲直り。そんないつまでも仲良しな夫婦。わたしも毎朝、旦那さんの寝顔をつんつん、なんてしたいなぁ~。

 

「わたしのこと、守ってくれるって誓ってくれたもんね~」

 

 あ、その前に着替えないと。ダレンが起きる前に。着替えは、寒いしベッドの上でしよう。

 

 

●●

 

 

 何か物音がする。それで俺は目が覚めた。しかし、まだ寝たりない。もう少し、寝ていたい。

 

(ダメだ、ダメだ! マリが起きる前に起きて、部屋から出ないとまた目撃してしまう!)

 

 見なければいいだけの話かもしれないが、昨日みたいにマリが近づいてきたら困る。眠いが、ここは我慢して起きよう。

 

「とりあえず、マリを起こさないように……」

 

 布団から体を出した俺。すると、どうでしょう。目の前にはなんと、今まさにベッドの上で、上着を着ようとしているマリの姿が。

 

 マリが着ている姿がゆっくりと見えた。俺はその場から、動くことは出来なかった。マリに見惚れていたというのもあれば、この後に起こるであろう、惨劇に恐怖していたのだ。怒った女の子ほど、怖いものはないよね! 特にマリっ!

 

「ふ~~~」

 

 完全に上着を着終えて、服から顔を出すマリ。そうして、バッチリと目が合う俺達。とりあえず、朝のあいさつかな?

 

「お……はよう」

 

 マリが俺のあいさつに答えようと、一呼吸。

 

「にゃ~~~~~っ!!!?」

 

 ところが、返ってきたのは悲鳴。そりゃそうだよね。マリは俺に向けてビシッと指を指し

 

「また! ダレン見た! 絶対見た! 何で起きてるのさ、この変態!」

 

「いや、俺早起きしようとしただけだし、見てねぇよ!」

 

 ここは嘘をついておこう。正直に言って、昨日の様なことになりたくない。

 

「ピンク!」

 

 ん? ああ、胸当て、俗に言うブラの色か? 違うな……、色は

 

「白だあぁぁぁぁぁぁあぁおぁおあべふっ!!!」

 

 間違えていたからといって、訂正するべきではなかったらしい。答えた瞬間、背負い投げの様なことをされて、ベッドに叩きつけられた。マリは俺にのしかかって、顔を近付けて、凄んでくる。あのー、顔近すぎだと思います。

 

「やっぱり、見たんだ~。どうして?」

 

「いや、どうと言われましても……」

 

 マリは俺の両腕を押さえ付けて、起き上がれないようにしている。痛い、力強すぎ。

 

「あのー、マリさん。なぜこの様な技をお持ちで?」

 

「お母さんに教えてもらったんだ~。地球って世界の“ジュドー”って競技」

 

 ああ、“柔道”ね。俺、痛いから苦手なんだよね、あれ。それにしても、上手すぎだろ。

 

「2人とも、朝から何をしてるの? ご近所迷惑……あらあらあらぁ?」

 

 騒ぎすぎたのか、サーシャさんが部屋にはいってきた。なぜか、物凄くニコニコして。なるほど、よく考えてほしい、今の俺とマリの体勢を。マリは俺の上にのしかかり、顔を近づけている。しかも、ベッドの上。マリが俺を押し倒している様に見えなくもないのか? 

 

 てか、これ普通逆じゃね? 女の子に押し倒されるってすごい負けた気がする。マリって以外と力強いんだね。

 

「これじゃあまるで、……マリがダレン君を押し倒しているみたいね!」

 

「ふぇ、え、は……いにゃああああああああっ!!」

 

 サーシャさんに言われ、マリは今自分がどんなことをしているのか理解したようで、“翔翼”びっくりの速度で部屋から出ていってしまった。助かった。ていうか、叫び声か普通じゃなかったな。

 

「まあ、ダレン君。また、マリの裸見ちゃった系かしら~?」

 

「そうです。背負い投げされました」

 

「あらまあ、マリが? 教えたこと実践できたようね~。懐かしいわ~、私もよくアルさんに技をかけて、マウント取って、あんなことやこんなこと、え! そんなことまで!? をしたものよ~」

 

 や~ん、とクネクネしているサーシャさん。良かったですね、あなたの血はマリに流れてますよ! 

 

 その後、マリを探すのに10分、顔を赤く染めたマリをなだめるのに13分かかったことを一生覚えておこう。この先、どうやってもマリの裸を目撃してしまいそうで怖い。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「おう、ダレン君。こっちに持ってきてくれ」

 

「わかりました!」

 

 朝食後、俺が一宿一飯の恩義としてやっている仕事は家造り。ログハウスの様なものだ。この開墾地に建っているほとんどがそれである。いや、もう2宿2飯かな。

 

 木材を担いで積み上げる。結構つらい。が、働くというのは良いものだ。

 

「ダレン君、こっちにも」

 

「はーい!」

 

 ここの人達はとてま気さくで、いい人達ばかりだ。暖かい雰囲気、前世では味わったことはない。

 

「疲れてねぇか? ダレン」

 

「少し……」

 この人はアルさん、マリの父親だ。筋肉もりもりである。最初見たときは絞め殺されるかと思った。娘に手を出しやがって! みたいな。でもそんなことはなく、逆に婿に来てと言われた。サーシャさんはアルさんとの惚気話をよくするしね。おもしろい人だ。サーシャさん、よくこんな人背負い投げできますね。

 

「じゃあそろそろ休憩にするか。昼も近いしなぁ!」

 

 午前中からやっていて、もうへとへと。俺ってあんま体力なかったんだなぁと思う。中学校は運動部だったけど高校から帰宅部だったし、体力は落ちているだろう。

 

「ダレーン!」

 

 マリがこっちに走ってきた。後ろにはサーシャさんもいる。提げているのはバスケットだろう。昼飯か?

 

 ダレンというこの世界での俺の名前だが、時々忘れることがある。それこそ俺自身が意識していないと呼ばれても自分のことだとわからないこともある。

 

「マリ、転ぶなよー」

 

「大丈夫だひゃわぁ!」

 

「はっはっは! マリは慌てん坊さんだなぁ!」

 

アルさん、笑ってないで助けてあげましょうよ。

 

「ダレン、助けて~」

 

「あー、はいはい」

 

 マリと俺との距離は10m程度。走ってくる必要もなかったと思うのだが。

 

「大丈夫か?」

 

「痛かった~」

 

 体を起こすマリだが、服には泥が結構ついている。はらってやろうと手を伸ばすが

 

「っ!?」

 

 ビクッとされた。もしかしてまだ朝のことを気にしているのだろうか? 2回目ですからね。でも完璧なる事故ですよ?

 

「いや、泥はらってやろっかなーって思ってたんだけど……」

 

「……それでも女の子の体にいきなり手を伸ばしたら誰だってビックリするよ。それに……」

 

 もしかしたら、サーシャさんに言われたこと、まだ恥ずかしがっているのか?

 

「よくわからないけど、そういうもん?」

 

「そういうものなの!」

 

 大体、ダレンは女心がうんぬんかんぬん言われるが、今はそれどころじゃない。早く、昼飯を!

 

「あらあら、マリ。そんなことしてたら時間が無くなっちゃうわよ? それにダレン君の為に作ったんじゃなかったっけ?」

 

 なんですと! マリが俺の為に……。これが男の憧れる女の子の手料理ってやつですか? ならば早くしなければ!

 

ガッシとマリの腕を掴んで立たせる。怪我はないな、バスケットは、よし無事だ。

 

「早く、食うぞ、マリ!」

 

「え、ああうん、そうだね! 早く食べよう! 手繋がれてるの気にしなくていいよね、あはは!」

 

 テーブルのあるところに移動して、バスケットを開けてみるとそこには

 

「これは、サンドウィッチ……正にサンドウィッチ」

 

 とりあえず、二回言ってみた。王道のBLTから玉子サラダのものまである。

 

「これをマリが?」

 

「そうだよ~。わたしだって家事は人並みにできるし、料理作るの好きだしね。あと、お菓子造りも最近やり始めた~」

 

「ダレンに食べてもらうんだって張り切ってたもんね」

 

「ちよっとお母さん!」

 

「あら、いいじゃない。青春って感じだわ~。私も昔はアルさんと……」

 

「そうだなぁ、懐かしいなぁ!」

 

そんな会話は耳に入らず、俺はBLTサンドを手に取り、一口。

 

「うまい!」

 

「本当!?」

 

「ああ、すごいなマリ。いいお嫁さんになれるぜ!」

 

「じゃあダレンのお嫁さんにしてくれる?」

 

「いや~、それはどうっぱは!」

 

 今日二度目の失言。やっぱり俺は学習しないらしい。これが俺の悪い癖。

 

「やっぱりさ~、ダレンには女心のなんたるかをさ、一から体に叩き込んだ方がいいと思うんだけど、どうかなぁ~」

 

「まずは食ってる最中にみぞおち狙うのやめて欲しいです。食べられなくなったらどうする……」

 

「大丈夫~。口に突っ込むから」

 

「やめてー!」

 

サンドウィッチは全部食べました。途中食べきれなさそうなので、マリと半分こした。あと、アルさんにサーシャさん。口移し、口移しとはやしたてるのやめてください。超恥ずかしいです。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「俺のこと、ですか?」

 

 午後、今いるのはマリの家のリビング。居間かな? どっちでもいいか。

 

「そうだ、ダレンは自分について覚えていないのか?」

 

 一緒にいるのはアルさんとサーシャさん。マリは子供達と外で遊んでいる。良きお姉さんだなぁ、ドジだけど。俺がマリと一緒にいると子供達の――特に男の子――視線がこわい。メチャクチャにらんでくる。あれか、マリは子供達に大人気か。

 

「覚えてるのは自分の名前くらいです。どこの世界にいたのかまでは……」

 

 転生どうのこうのの話は黙っておく。話したって混乱するだけだと思う。騙しているみたいで、心が痛む。こんなにいい人達に対してはさらに。

 

「そうか。なら提案なんだが……もしよかったら、ここで暮らさないか?」

 

「ここで、ですか?」

 

「ダレン君が良かったらだけどね」

 

 俺は“エクリプスウィルス”に感染している。それは殺戮衝動を引き起こすし、周りに人がいると危ない。今はまだ発症していないが、もし症状が出てきたら俺はここからすぐ立ち去るつもりだった。俺にこんなにも優しくしてくれた人達を殺したくはない。

 

「管理局に行っても、もし親御さんが見つからなかったら、いや見つかって欲しいんだけど」

 

「でも……」

 

「マリそんなこと言ってたわね」

 

 マリ。この世界に転生してから始めてできた友達。しかも女の子。前世で女子の友達はおろか話すらしたことはなかった。

 

「ダレン君は17歳?」

 

「はい、一応」

 

「マリもねぇ、同い年よ」

 

「ええ!」

 

 これには驚いた。少なくとも2歳くらいは年下かと思っていた。背の高さのこともあるし、何よりドジっ娘というか雰囲気が年下だったのだ。

 

「マリはねぇ、実は結構人見知りなのよ? でもダレン君を見たときに、わたしが手当てします、って言ったの。ダレン君とは合うと思ったのかしら。それにマリは同い年の友達がいないのよ」

 

 確かにここにはマリと同い年の子供がいない。2、3歳年下か年上はいるが本当の意味で同い年はいない。それに大人の方が多い。子供達に人気があるのはそのためだろうか?

 

「俺には人見知りしないからって、マリの部屋に叩き込んだんですか?」

 

「そんなことない訳じゃないが、マリだってまんざらでもなかったぞ? 案外お似合いなんじゃないか?」

 

「出会って2日すら経ってないのにわかるわけないじゃないですか」

 

「でも君はマリのこと、嫌いなわけではないだろう?」

 

「そりゃそうですけど……」

 

 俺としてはどうなんだろう? 俺はマリのことをどう思っているのか。ドジな妹? 違うなぁ。

 

「まぁ、そこらへんをふまえて今夜2人っきりで話し合うといい。まさに逢い引きだな!」

 

「そうね、頑張ってねダレン君!」

 

なんだろう、めまいがしてきた。ホントに視界がぐるぐる回っている気がする。

 

「それで、君に話したいこと……どうした? ダレン」

 

「いや、なんか……」

 

 そう言い、立ち上がろうとしたが、

 

ガダンッ!

 

力が入らず、逆に床に倒れてしまった。

 

「ダレン君!」

 

「熱がある。早く誰か呼んできてくれ!」

 

(やっちまった)

 

この発熱は恐らく“エクリプスウィルス”が発症した合図。このままでは周りの皆、そして俺自身も危ない。

 

「ダレン、どうしたの!?」

 

 視線だけ向けるとそこにいたのはマリ。俺はこの娘さえ殺してしまうんだろうか?それだけは絶対に阻止しなければならない。

 

 体を起こそうとしたが、力が入らない。そのまま、俺は意識を失った。




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5話:平和な日々は望めない。望めばフラグ

マリが依存系、またはヤンデレになりそうな気がする
マリよ、永遠に......


「ダレン……」

 

 倒れてから、3時間。わたしのベッドで寝ているダレンはとても苦しそうだ。熱はもう上がってないけど、39度もある。

 

「ダレン、水飲める?」

 

 熱がある時は水分をとらないといけないと聞いたことがある。汗をいっぱいかくから脱水症状になるとか。

 

「マ…………リ、お……れはい……から外……出と……け」

 

「何言ってるの、そんことダレンが具合悪いのにできるわけないでしょ! あ、ダメだって!」

 

 ダレンはずっと体を起こしては倒れ、起こしては倒れを繰り返している。まるで、ここから早くいなくなりたいと言っているかのように。

 

「早……くし……ない…と、皆が」

 

「だから、ダメだって! ほら、水飲も?」

 

 一人で起きようとするダレンを支えてあげる。ダレンはずっと同じことを呟いている。皆とはここにいる人達のことだろうか? 支えてあげたダレンの背中は、汗でびっしょり濡れている。やっぱり、水分をとらせないと!

 

 こくこくと、水を飲むダレンの姿は少しかわいい。こんな時に不謹慎かな。

 

「はぁ……俺にか……ま……う な……」

 

「だから、何でそんなこと言うのさ! それにここはわたしの部屋だよ? わたしがいていいし、それにダレンもここにいていいの!」

 

「ダ……メだ、俺が……ここ……いちゃ」

 

 起きようとするダレンを、ベッドに押し戻す。こんなことを続けていたら具合がもっと悪くなっちゃう。

 

「マリ」

 

「お母さん」

 

 部屋に入ってきたお母さんは、薬と水の入ったコップを持っている。

 

「ダレン君はどう?」

 

「熱はもう上がってないけど……あ、また!」

 

 起き上がろうとするが、やっぱりダレンは倒れる。何でこんなことをしているのだろう。こんなに動いてたら、余計に汗をかいてしまう。わたしの手もダレンの汗で濡れている。

 

(ちょっと、しょっぱいかな~……)

 

「ダレン、ずっと俺はここにいちゃダメだ、早く行かないとって言ってるの」

 

「そう。でもマリは……ダレン君と一緒にいたいのよね?」

 

「うん」

 

 わたし自身も不思議だった。自分の口からそんな言葉が出てくるなんて。

 

 あれは、ダレンのためにサンドウィッチを作っていた時。その時も、誰かのためになんてことをしているのも不思議だった。お母さんの「もし、ダレン君の親が見つからなかったら、ひきとって一緒に暮らそうと思う」という言葉。それに対して、わたしも自然と「わたしもダレンと一緒にいたい」と言った。

 

 それは本当に不思議だった。いつものわたしなら考えられないくらい。わたしは人と接するのは苦手だし、しかも相手は会って2日すら経ってない男の子。それにわたしは、ダレンの手当てをしたいと言った。どうしてここまでこの少年に関わりたいと思うのだろうか? もしかしたら、“あのこと”と関係があるんだろうなぁ。 

 

「マリが一緒にいたいと言うのなら、一緒にいてあげなさい。大丈夫、ダレン君もきっとその内わかってくれるわよ。一緒の部屋で寝た仲じゃない」

 

「そうだね~、がんばる。あ、ダレンダメだって!」

 

 ダレンは相変わらず起き上がろうとする。わたし達といたくないのか、と思うとちょっぴり悲しくなってきた。

 

「頑張りなさい。お母さんは夕飯の準備するから。今日はダレン君にはお粥かしら。マリも少し休みなさいね」

 

「わかった~」

 

 まずはダレンに早く具合を良くしてもらわなければ、何も始まらない。

 

「大丈夫、わたしがずっと一緒にいるよ、ずっと一緒に。だから、早く元気になってね~」

 

 ベットの上、ダレンの顔の近くに顔をうずめる。そうすると、すぐに眠気はやって来た。

 

 

 

 

 

 

 

 

「んふ~」

 

 わたしは頭の上に何かがある気がして目が覚めた。あったかい、何か。それはダレンの手?

 

「今、何時だろ?」

 

 時計を見ると7時半過ぎ。結構寝ていたらしい。それにしても、頭の上にダレンの手があってビックリした。なでられていたのかなぁ~。

 

「それにしても外、明るいなぁ~」

 

 最近はもう7時になると外は薄暗くなる。しかし今日は夕日の様なものが輝いている。ゆらゆらと陽炎のように。そして聞こえるのは……怒号と悲鳴!

 

「何かあったのかな? ダレン、ちょっと行ってくるから動いちゃダメだよ。すぐ戻ってくるから!」

 

 

●●

 

 

「何かあったのかな? ダレン、ちょっと行ってくるから動いちゃダメだよ。すぐ戻ってくるから!」

 

 マリの声がする。残念ながら声の方向に顔を向けることはできなかった。すぐに部屋の外へと出ていってしまったからだ。それにしても外が騒がしい。

 

「蒼……」

 

『Jud.ご用件を』

 

「外で……何……起きて……る?」

 

『何者かによる襲撃。検索作業続行。ドライバーの記憶領内から検索。キーワード検索、第14無人世界、開墾地、開拓者、襲撃。……検索結果、襲撃者フッケバイン構成員“サイファー”と推測』

 

「な!?」

 

 サイファー。フッケバインのかなり強い剣士。そうか、ここはサイファーが虐殺する場所で、シグナムが昔来たことがある場所。

 

(くそっ、何で気が付かなかったんだ!)

 

 本で読んでると、すぐ忘れそうな小さな情報。だがこの世界では実際に人が殺されてしまう確かな真実!

 

「皆……助け……」

 

 ベッドから起きようとするが、もはや力が入らない。なので、転がるようにしてベッドから床に落ちた。

 

「っ!」

 

 痛い。そのまま這いずるようにして部屋の出口を目指す。やっとの思いで到達したがドアノブに手が届かない。

 

 その瞬間勢いよくドアが開いた。

 

「! ダレン、動いちゃダメって、いやそんな場合じゃない! 早く逃げよ!」

 

 こんな時、俺はマリを救えるのだろうか……

 

 

●●

 

 

 外に出てみると、そこはまさに火の海といったものだった。炎が揺らめいている様は綺麗に見えた。皆ががんばって造った家は焼け、人が倒れている。

 

「だ、大丈夫ですひっ!」

 

 倒れてい人を起こしてみると、血を沢山流していた。片腕もない。

 

「誰が、こんな……」

 

「マリ!」

 

「お母さん!」

 

  こっちに走ってくるお母さんは片腕を押さえていた。頭からは血を流している。

 

「お母さん! 何でこんなっ」

 

「マリ、早く逃げなさい! ここにいては危ないわ、ダレン君を連れて早く!」

 

「でも、お父さんは……」

 

「いいから、早く逃げなさいあなた達だけでも早く!」

 

「ぐほぁぁぁぁぁぁぁぁ!」

 

 どこからか悲鳴が聞こえた。ここから近い!

 

「マリ、行きなさい!」

 

 わたしは状況がよくわからないまま家の中に入っていた。するとわたしの部屋から大きな音がした。

 

「! ダレン、動いちゃダメって、いやそんな場合じゃない!早く逃げよ!」

 

ダレンは起き上がろうとして、ベッドから落ちたのだろうか。いや、そんなことを気にしている暇はない。早く逃げなくては!

 

「ん、重い……」

 

 やっぱり、ダレンを支えて歩くのは大変だった。わたしより身長が高いから当然だが、ダレンの体に力が入っていないこともあるのだろう。ダレンはさっきより苦しそうだ。

 

「何で、あんなことが……」

 

 お母さんの必死の表情。まるでこのままでは死んでしまうかもしれない様だった。確かに死んでしまっていた人もいた。

 

「ダレン、大丈夫。わたしが絶対助けるから!」

 

 今まともに動けるのはわたししか、いない。だったら、ダレンを助けるのはわたし、そうするしかない。

 

 やっとの思いで、近くの森に逃げたわたし達。ここまで来れば安全かもしれない。そう、思っていた。

 

「全員殺したかと思っていれば、まだ残っていたとはな」

 

 目の前にいたのは、日本の剣を持った隻眼の女性。剣には血が付いていた。

 

「ひっ!」

 

 女性は段々と近づいてきた。それはまるで、一歩近づくごとにわたし達の死が迫っているかの様だった。

 

「なるほど。いやに抵抗する銀髪の女がいたがこのためか?まあ、いい」

 

 銀髪の女? まさか、お母さん!? 許せない! この人がお母さんを、皆を!

 

「何でこんなことするのっ!?」

 

「私も別に好きでやっているわけではないが、生きるためには必要でな。不本意なことだが」

 

 何かこの女を殺せるものを!許せない、絶対に!

 

 周りを見ると、近くにノコギリが置いてあった。書いている名前はアル・カーター。お父さんの物……。

 

「ほう、そんな物で私を殺せると思っているのか?」

 

「許さない、許さない! あぁぁぁぁあぁぁあ!」

 

 わたしは目の前の女に突進して、ノコギリを振り下ろす。しかし、ノコギリは女に当たるなり、粉々に砕け散った。

 

「邪魔だ」

 

「きゃっ!」

 

 呆然としていたわたしは腕の一振りで飛ばされた。ダレンのすぐ横に。そうだ、ダレンはわたしが守らないと!

 

「なるほど、さっきから気にはなっていたが、これはおもしろい」

 

「なに……を……」

 

「娘、お前の横にいるやつは私と同じ、感染者だ。つまり私と同じ殺戮者だよ」

 

「感染者って、ダレンはただの風邪………」

 

「エクリプスウィルスと言ってもわからんか。まぁいい、そいつは連れて行こう。娘、お前は死ね」

 

 わたしを殺そうと近づいてくる女性。このままじゃ、ダレンが危ない!

 

「ダレン!!」

 

 ダレンをぎゅっと抱きしめる。するとわたしの腕のなかでダレンが動いた気がした。

 

『Start Up』

 

 

 

 

 

 

 

 

 誰かが俺を呼ぶ声がする。なぜか顔の周りをが温かく、鉄臭い。視界が段々と安定し来る。熱による体のダルさもあまりない。そして見えてきたのは

 

「マ……リ? マリ!」

 

 マリは俺に寄りかかっていた。いくら揺さぶろうとも反応しない。まさか!

 

「やっと起きたか」

 

 顔をあげると、そこには見たことがある顔。隻眼の剣士サイファー。

 

「バイクで来てたのでな。どうやって連れて行こうかと思っていたが、起きたのならちょうどいい。しかし、さっきのには驚いたな」

 

 こいつは何を言っている? なんでマリを、皆を殺してこんなに飄々としていられるんだ?

 

「お前がマリを、皆を! 殺したのか!?」

 

「ここのやつらを殺したのは認めるが、その娘を殺したのは私ではない。よく見てみろ、自分の手を」

 

何を言ってるんだ?ひとまず俺は自分の手を見る。すると俺の瞳に映ったのは、

 

俺の手の中に、ディバイダー3.14があったこと。そしてその刀身がマリの胸に深々と刺さっていたこと。

 

「な……こんなこと……」

 

「大方、殺戮衝動でもあったのだろう。私がやろうとしたらいきなり、剣先が見えたのでな。驚いたが、これでわかっただろう? その娘を殺したのは紛れもなくお前だよ。もはやお前は普通の人生は遅れない、いや感染した時からといった方が正しいか」

 

 サイファーの言っていることはもはや聞こえない。

 

 この日俺は、守ると誓った女の子を、俺のことを守ると言ってくれた女の子を、殺してしまった……。




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6話:建てたフラグはフッケバイン。見つけたものは生きる意味

自分の作品を評価してくださった方々、お気に入り登録してくださった皆様。
本当にありがとうございます!


 俺がマリを殺してしまった。これは紛れもない真実。だが、俺はそれを受け入れることはできなかった。

 

「嘘だっ! そんなことできるわけねぇだろ!」

 

「嘘ではない。お前の本に聞いたらどうだ?記録しているかもしれないぞ」

 

 そんなことを言われても信じることはできないが

 

「蒼……」

 

『Jud.記録映像を開示』

 

 そこに映ったのは今はもう動くことのないマリと、俺の姿。

 

『ダレン!!』

 

 マリが俺のことを抱きしめ。名前を呼ぶ。その時、俺が動き出した。

 

『Start Up』

 

『がぁぁあぁぁぁぁ!!!』

 

『ダ、ダレン落ち着っ?』

 

グチュッ

 

 マリの胸から大量の血が吹き出した。その血は俺の顔に降りかかっている。マリは俺の方に倒れかかり、俺も倒れた。

 

『記録映像終了。もう一度再生しますか?』

 

 自分の顔に手を当てる。そこはとても濡れていた。赤くて、紅い綺麗な色。そして、思い出すのはマリの背中から飛び出すディバイダーの刀身。

 

「そんな……だって、俺がこんな……」

 

「これでわかっただろう。その娘を殺したのはお前だ。その事実は歪めることはできない。一番親しい人間さえ殺してしまう。もはや、お前は人を殺さずには生きていられない。それがエクリプスに感染した者の宿命だ」

 

 違う! そんなことあるわけがない! そんなことあっていいわけがない!

 

「どう足掻こうと、お前は世界にとって毒でしかない。私達の所へと来い。そうすれば、幾分かはマシになる」

 

 サイファーが何か言っているが何もかも聞こえない。まるで時間が止まったかの様だ。

 

「何でアイツは俺にこんなものをくれたんだろうなぁ。神の試練ってやつかなぁ……」

 

「何を言っている? 言っておくが、神が、例えいたとしてもお前を救うことなどできんよ」

 

 本当に何でこんなことになってしまったのだろうか。俺はあんなにも優しくしてくれたマリを殺してしまった。親しい人間さえ殺してしまうなんて、あんまりじゃないか!

 

――憎いか?

 

何が……

 

――マリを殺させた、お前にこんなことをさせた、“エクリプスウィルス”が。

 

憎い!

 

――こんな思いをもうしたくないだろう?

 

そうだ。こんな苦しいこと……

 

――お前が親しい人間さえ殺してしまうのなら、そんなもの作らなければいい。

 

作らない? そんなこと……

 

――そのままではいつか同じ過ちを繰り返す。ならば、そんなものは要らない。そうすれば、今の苦しみを二度と味わうことはない。

 

もう、こんな思いはしたくない。誰かを失うなんてっ!

 

――ならば、その手に武器を取れ。目の前の者を叩き潰せ、差し出された手は振り払え、邪魔するものは消し飛ばせ!

 

俺には力がある。これがあれば!

 

――そうだ、もう何かを失う苦しみを味わうことはない。憎悪の炎を身に纏え。目の前にあるものを全て破壊しろ。仲間なんて要らない、強者は独りでいい。まずは目の前の女を殺せ! 苦しむことはもう要らない!

 

そうだ、俺はあいつを…………殺!!!

 

「ぐおあぁぁあぁぁぁぁぁぁぁぁおおぁ!!!!」

 

体の中から何かが吹き出した気がした。俺の体を包んでいく、鎧。その力で全てを、殺す!

 

『リアクト確認。ドライバーの補助要請を受諾。外敵因子を確認、攻撃体制に入ります』

 

「破壊、蹂躙、殲滅、壊す、滅す、殺す、滅ぼす!」

 

後にはもう、戻れない。

 

 

●●

 

 

(厄介なことになったな……)

 

 目の前の男が目を覚ましたら、連れていこうと思っていたが、まさか暴走するとは思わなかった。時間を無駄にはできない。長居し過ぎると、管理局の連中が来るかもしれない。そうすると面倒だ。

 

「仕方がない。少々、本気でいかせてもらう。手足の1、2本無くしても恨むなよ?」

 

相 手は適合したばかりの初心者、私はまぁそれなりには長い。油断しなければ、負けはしないだろう。

 

 だが、その考えは数分で間違っていたことに気づいた。

 

『翔翼展開。ブースター点火』

 

 まずは、レアスキルかと思われる“翔翼”。速さは大したことはないが、なぜか相手に疲労が見られない。そして一番の問題はこの男の持つ得物。ランスの中に銃器を無理矢理突っ込んだ様な形の両手に持つ二本一対の武器。それだけならまだ良かった。しかし、これは“飛んでくる”のだ。

 

ヒュボッ!

 

「くっ!」

 

 柄の後ろからミサイルの様に火を吹き出しながら、飛んでくる。例え避けても、

 

『再点火』

 

 私の後ろでクルリと半回転し、また飛んでくる。再点火は一回飛ばした後に一回だけという制約があるようだが、かなり厄介だ。

 

 そして、鎧。ビルの様なものではないが、頭を口以外覆う構造で、鎧も動きやすいようにするためか面積はあまり大きくはない。

 

「お前、なかなかやるな」

 

「お褒めいただき、光栄至極なンだよねェ!」

 

 そして、最初と違い意識もはっきりしてきたのか、動きの切れも良くなってきた。だが

 

(筋は良いが、雑だな)

 

 やはり、初心者臭さは否めない。感染者同士の戦いは特殊な経験値が必要だ。しかし、この男にはそれが皆無。最後には経験の差がものを言う。段々と男は私の動きについてこれなくなっていた。

 

「はあぁぁぁぁ!!」

 

「おォォォォォ!!」

 

ガキィッ!ガッ!ギイィンッ!ガギッ!

 

(ここだ)

 

「左腕、貰うぞ」

 

ザシュッ!

 

「ふん、やはり甘い、なっ……!?」

 

 おかしい、確かに斬ったはずだ。なのに何故、腕が繋がっている?切断する感触は確かにあったはず。

 

「らあァァァァァァァ!」

 

ガギッ!

 

「ならば、左腕!」

 

 しかし、斬ったはずなのにやはり繋がったままだ。

 

(再生能力にしてはおかしい。ビルの病化も似たようなものだが、これでは速すぎる!)

 

 エクリプス感染者にはかなり強い再生能力がある。そして、ビルの病化は“高速再生”。しかし、この男のはそれを遥かに越える。言うなれば“瞬間”

 

(少し、試してみるか)

 

『翔翼展開』

 

 この男は私が距離をとると、“翔翼”を使い、すぐに近づいてくる癖がある。そこを狙う!

 

「ふっ!」

 

ザシュッ!ズシュッ!

 

 今ので見えた。この男の病化は、恐らく回復系であることは間違いない。右腕を斬ったが、なんと斬った所からすぐに繋がっていた。これでは切断できるわけはない。血を流させて、意識を飛ばすこともできない。しかし、妙だ。病化は適合を終えてからすぐに始まるわけではない。個人差はあれどこの男はあまりにも速すぎる。

 

(殺す気で行かなければ、駄目だな……)

 

 無敵に見えるが弱点はあった。今思い付いた。

 

「行くぞ」

 

 男は突進してくるが、それを横に避ける。いくら速くても直線的であれば避けることは容易い。これも経験の差だろう。

 

そして、私は男に剣を突き刺す。そしてそのまま地面に縫い付ける。そう、突き刺したまま(・・・・・・・)

 

「なっ、くっ、抜けねェ!」

 

「やはりな。お前の病化が邪魔をしているんだ。そう簡単には抜けん」

 

 一見、無敵そうな病化だが回復速度の速さ故の弱点はある。突き刺したままだと、傷を回復しようとして皮膚などが繋がろうとする。そうすると剣は繋がろうとする皮膚などが邪魔をして抜け抜けにくくなる。かなり力を入れれば抜けるだろうが、相応の痛みを伴うだろう。

 

「少々、てこずったがこれで終わりだ」

 

ガギンッ!

 

「くそっ!蒼!」

 

『防御体制に移行』

 

「遅い!」

 

ズドオォォォォォォォォォッ!!!

 

 撃ってみたが、どうやら相手の防御は失敗したようだ。本の方もダメージを受けている。男は……気絶したか。

 

『ザザッドラジッバー、気絶。戦ザッ続行不ザザジッ自己防衛シジビッ移行』

 

 そう言うなり、本は消えていった。

 

「しかし、初心者にしては良くやった方だな。鍛えればかなりの強さになるかもしれん」

 

 それにしても、気絶してしまったからどうやって運ぼうか。バイクで来てしまったから連れていくことができない。

 

「仕方ない。アルでも呼ぶとするか」

 

 とりあえずは、バイクの有る所までこいつを運ぶことにしよう。

 

 

 

 

 

『ザッ生体データジッインストール開始。記憶、人格データジビッコピー開始。管制人格の上書き開始ザザジップログラム体の作成ビジッ開始』

 

 

 

 

 

 

 

 

「ダレン」

 

 あれ? 誰かが俺を呼んでいる気がする。俺がいるのは真っ白な空間。また、死んでしまったのだろうか?

 

「こっちだよ、ダレン」

 

そう言われても、辺りは何もない。そして何処から声が聞こえるのかもわからない。

 

「後ろにいるよ、ダレン」

 

 振り向いた先にいたのは、死んでしまった、いや、俺が殺したマリ。どうしてここにいるのだろう。もしかして、全ては夢だったのかもしれない。

 

「マリッ!」

 

 ただ、手を伸ばした先にはもう、誰もいなくなっていた。

 

「マリッ!」

 

 目を開ける。俺がいるのは真っ白な空間ではなく、色があった。だが、どちらかと言うと白が多かった。

 

「どこだ、ここ? 確かマリを殺した映像を見てそれで……」

 

 そこからが全く思い出せない。ただ、憎しみの感情が渦巻いていた気がする。というか何で俺、イスに縛られてんの?

 

「やっと、起きたな。これ以上気絶などするなよ?」

 

 そこにいたのはサイファー。なんとか動こうとするが、縛られているので動けなかった。

 

「おっと、抵抗はしないでください。殺さなくていいものを、殺さなければならなくなりますから」

 

 どうやら、この部屋には二人いたらしい。この優男みたいなのは確か……フォルティスだったか。

 

「おはよう、いや、もうこんばんはですね。気分はどうですか?ダレン君」

 

「いいわけねェだろ。てか何で縛ってンだよ」

 

 イスに縛られているのに最高に元気です! とか言うやつはいない。というか、身体中が痛い。鈍痛。体の鎧みたいなのが、ゴツゴツ当たる。

 

「縛っている点に関しては、我慢してください。仕方のないことです。僕はフォルティスといいます。隣はサイファー。はじめまして」

 

 そんなことは前から知っている。その後は、EC感染者は人を殺さずにはいられないとか、フッケバインは犯罪組織でとか、僕達はウィルスを御する方法を知っているなど、マンガ言っていたことを色々説明された。

 

だ が、目の前のフォルティスという男は説明にさりげない嘘を混ぜることに定評がある。どこを信じればいいのかがわからない。

 

「どうやら、君はおもしろい力を持っているようですし、ひとつ提案があります」

 

「なんだよ?」

 

「僕達の一家(ファミリー)に加わりませんか?」

 

 やっぱりか……。主人公にも同じこと言ってたしな。

 

「エクリプス感染者は親しい人さえも殺してしまいます。しかし、僕達の仲間になりウィルスを制御すれば大丈夫です。同じエクリプス感染者です。僕達はダレン君、君を歓迎します」

 

そ う言って、俺に手を差し出してくる。この手を取って、仲間になれと言いたいのだろう。

 

 だから、俺はその手を…………

 

取るしかなかった。

 

 もとより、エクリプス感染者はろくな人生を遅れない。それは身をもって体験した。マリを殺したということで。

 

 俺にはもう、失うものはない。そんなものは全て自分の手で殺してしまった。そして俺は前から思っていたが、この世界で“エクリプスウィルス”というものを造りだしたヤツを許せなかった。本の中のことに怒ることなど、おかしいかもしれないがそれでもだ。

 

 そして、俺はこのウイルスを俺に感染させたアイツに抗いたいと思った。もしかしたら、俺のこの過ちを見て楽しんでるのかもしれないし、もしかしたら見ていないのかもしれない。だが、このまま死ぬことなど俺自身が許せない。マリを殺したのは俺だが、そもそも“エクリプスウィルス”がなければこんなことにはならなかったのかもしれない。

 

 責任転嫁かもしれない。おかしいと思うなら笑えばいい。だけど俺はこの思いを胸にこの世界で生きていく。

 

 そうして、俺は“フッケバイン一家”に入った。犯罪、人殺しにはなれると言っていたが、その通りだった。慣れなければやっていけない。文字通り、俺は人間を喰らう獣となった。

 

 色んなことがあって、3か月後。俺はその時には、管理局員、民間人、犯罪者含めて26人の人間を殺した。




次はキャラ設定をはさんでの投稿になると思います。
鎧のイメージが湧かない……

蒼十字の書クールにデレそうな声ですが、皆様はどんなキャラを思い浮かべますか?
自分としてはタバサです


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キャラ設定&事件報告書(一部抜粋)

キャラ設定に関しては、後々付け足すかもしれないです。


フラグ沢山主人公:ダレン・フォスター

 

性別:男

 

身長:177.6㎝

 

年齢:17歳

 

誕生日:平成7(新暦64)年10月21日

 

容姿: 黒髪、黒目。前世の容姿そのままである。

 

 死亡し、『魔法戦記リリカルなのはForce』の世界に転生させられた。原作知識は5巻まである。特典として、“エクリプスウィルス”と“蒼十字の書”、レアスキルを貰う。

 “エクリプスウィルス”の殺戮衝動によって、マリを殺してしまい、一度は暴走するが、サイファーによって撃破。そして、フッケバイン一家に入り、“エクリプスウィルス”を生み出したやつを探しだすこと、感染させて転生させたアイツ――もしかしたら、神――に抗うために生きている。

 今までに殺した人間は26人。殺した人間の名前と年齢、性別は記録している。(犯罪者など例外あり)

 何もない時は、読書かゲームをしている(ダレンの持っている金は、大半はこれにつぎ込まれている)。最近のお気に入りは“ビッグブレイカーズ!”。近々新ヒロインを追加したものが出るらしい。

 フッケバイン一家の皆とは、仲はいい。カレンからは“私の肩揉み係”に任命され、サイファーとは戦闘訓練をしている。筋は良いが、雑らしい。しばしば、ステラを肩車してフッケバイン内を走り回っている。

フッケバインマークの刺青は、最初両の手の甲に入れる予定だったが、病化特性の効果により断念。フッケバインマークのペンダントをしている。

 服装はいつもジャージ。同じものを、かなりの数持っている。ジーパンはポケットに物を入れにくい、などの理由で好まない(前世も同じ理由で、全くはいたことはない)。

 

呼称

カレン:姉ちゃん、首領

 

ドゥビル:ビル、でっかい方

 

フォルティス:フォルティス、フォル、細い方

 

ヴェイロン:ヴェイ

 

サイファー:サイファー、サイサイ(こう言うと、斬ってくる)

 

アルナージ:アル、砲撃魔

 

ステラ:ステラ、妹ちゃん

 

 

『蒼十字の書』

 

 貰った特典のひとつ。

 蒼いのは本の部分であり、十字の部分は銀色。ただ、これ自体はリアクターではなく、“銀十字の書”とは区別するため、そう呼べと言われたため、そう呼ぶ。

 ドライバーの戦闘補助機能もあるが基本、要請されないと攻撃も防御もなにもしない。ドライバーの戦闘の続行が不可能と判断するとすぐに消える。その他、録画機能、ドライバーの転移機能などがある。

 声がクールにデレそうな声である。

 最近、動作が重いというか、遅い。

 

 

『ディバイダー3.14』

 

 貰った特典のひとつ。

 刻まれている刻印は、“React Clotho”と“3.14。

 リアクター内臓型のため、血液認証によりリアクトが可能。

 なぜ、3.14なのかは趣味か気紛れらしい。

 銃はシングル・アクション・アーミー。リロードしてレボリューションができそうだ。

 

 

『ディバイダー3.14 クロト・リアクテッド』

 

 ディバイダー3.14をリアクトした姿。武器は様々な形状をとるが、種類としては剣・ランスまたは槍・近接系・銃器の4種類である。

 リアクトすると、鎧を身に纏う。ドゥビルの物と比べて、装甲は薄い。サイファーと戦った時、鎧は不完全だった。

 ダレンはその時の気分によって、リアクトの血液認証の場所を変える。血液認証の時は、病化特性の効果により、深く切りつけなければならない。

 

 

病化特性『瞬間回復』

 

 回復系の病化特性。負傷箇所を瞬間的に回復する。このため、フッケバインマークの刺青を入れることができなかった。

 腕などを切っても、切られたはしから瞬間的に回復するため切断ができない。ただ、えぐるようにして切ると可能な時がある。

 また、回復速度が速すぎるため、剣などを刺したままにされると皮膚などが繋がろうとして抜けなくなり、その時は刃に肉が食い込むためかなりの激痛。抜く場合もかなりの力が必要。

「傷口に剣山刺して、グリグリやるより痛いと思う」(ダレン談)

 

 

レアスキル『翔翼』

 

 元ネタは“境界線上のホライゾン”の加速術。

 長所、移動の際にあらゆる抵抗を無効。究極的に疲労、体重も無効。なので、長時間の加速が可能。

 短所、最大速度に至るまで時間が必用。

 発動条件、武器を持ち、攻撃し続けること。武器を手から離したり、攻撃を止めれば、加速も止まる。

 進行方向に並べられた、“翔翼”と書かれた枠の様なものを通って加速する。

 

 

 

包容力のある、癒し系ドジっ娘:マリ・カーター

 

性別:女

 

身長:154.4㎝

 

年齢:17歳(当時)

 

容姿:銀髪で長髪、碧眼

 

誕生日:新暦64年11月2日

 

 カーター夫妻の一人娘で、ダレンにとってこの世界での始めての友達。しかし、ダレンの殺戮衝動により命を落とす。

 結構な人見知りだが、ダレンには大丈夫だった。

 家事は人並みにできるようで、料理は好き。お菓子作りもやり始めていた。ほんわかしているが、怒るとみぞおちを攻めてくる。これは、母子共にらしい。年齢に対して背が低いのは気にしていない。

 包容力があって尽くすタイプだが、ドジっ娘。語尾が間延びする時がある。ダレンを好きなそぶりを見せていた。

 なぜか、上半身裸になって起きる癖がある。

 小さい頃に何かあったようだが、今となっては知るすべはない。

 

 

 

何年経ってもラブラブ夫婦:アル・カーター(夫)&サーシャ・カーター(妻)

 

アル

性別:男

 

身長:188.9㎝

 

年齢:44歳(当時)

 

誕生日:新暦37年4月5日

 

容姿:金髪で短髪、碧眼。そして、かなりの筋肉持ち

 

サーシャ

性別:女

 

身長:166.9

 

年齢:40歳(当時)

 

誕生日:新暦41年11月17日

 

容姿:銀髪の短髪、蒼い瞳

 

 マリの親。サイファーに殺害される。アルとサーシャは最後までサイファーに抵抗していた。

 結婚したのは20年前。3年経って、マリを産む。

 アルは豪快、サーシャは優しいお姉さんといった感じ。夫婦仲はとても良好。

 マリが人見知りしなかったダレンを、マリと恋仲にさせようとしていた(マリ自体はまんざらでもなかった様子)。

 ダレンの親が見つからなかった場合は開墾地で一緒に暮らす予定だった。

 食事の場では、昔の話や結婚するに至った経緯、惚ろ気話をよくする。

 マリ同様、サーシャも怒るとアルのみぞおちを攻める。

 

 

 

 

 

 

 

 

●●

 

『第14無人世界、開墾地での殺人事件報告書(一部抜粋)

 

 先日起きた、第14無人世界、開墾地での殺人事件だがフッケバインが関わっている可能性が高い。

 犯行の手口などから見て、まず間違いないと思われる。

 付近の森のなかに戦闘があった形跡あり。

 

・被害者

民間人68名、管理局員12名

計80名

その内、死亡者78名、行方不明者2名

 

死亡者78名に関しては別紙に記載

 

行方不明者2名について

 

ダレン・フォスター(17)

 事件の前日に、森のなかで倒れているのを発見、保護される。後の捜査によって、どの世界にも同名の戸籍なしと判明。

 記憶喪失であり、次元漂流者の可能性が高い。

 違法研究所などの関連については不明。

 血痕、遺留品は発見されていない。周辺の森を捜索したが発見できず。

 事件発生のタイミングから見て、フッケバインとの関連を捜査中。

 

 

マリ・カーター(17)

 被害者、カーター夫妻の一人娘。

 付近の森で彼女のものと思われる大量の血痕を発見。戦闘の形跡があった場所とは約900m程離れている。血痕は致死量のため、死亡したと思われる。

 血痕のあった付近を捜索したが、発見できず。




武器の種類は付け足すと思います。
鎧のイメージは雷電のスーツガンダムの装甲がついたような感じです。


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自分の流儀を貫いて。
7話:原作開始。そして謎出現


遅くなり、申し訳ありません!

サブタイに“フラグ”と入れられなくなってきた。


「こいつか……」

 

 飛空挺フッケバイン、居住区自室(一応)。

 

 つい先程、ヴェイロンが“ディバイダー”と“リアクター”を研究所から奪ったとされる少年に会いに行って、帰ってきた。たぶん、原作主人公のトーマだろうな。マンガのセリフと同じこと言ってたし。そして、サイファーが確かめたいことがあるそうで、地上に降りていった。

 

 この日原作が始まるまでの3か月間、人をたくさん殺した。民間人も犯罪者も管理局員も。もう慣れてしまって、なにも抵抗はなくなってしまった。逆に殺しに行くことが、面倒だと思ってしまう始末。もはや、ただの作業。もう、親に顔向けできないな。

 

『べ、別にアンタと一緒に戦場に出たい訳じゃないんだからね!』

 

「うわー、ツンデレかぁ」

 

 俺が今やっているのは、PCゲーム“ビッグブレイカーズ!”。この世界にもPCゲームがあったのか! と感動したのを今でも覚えている。ちなみに、恋愛ゲー。テーマは戦場での友情と絆、そしてそこで生まれる愛。そういえば、ソフトとパソコン買う金が無いから、管理外世界の犯罪者のアジトを1つ潰しに行ったんだっけ。

 

『アンタのマグナムなら受け取ってあげないこともないわよ? 感謝しなさいよね!』

 

 今の場面は、誕生日プレゼントをヒロインに渡すシーン。誕生日プレゼントに銃あげないだろ、普通。しかも、マグナム。エロいな……。

 

 ちなみに、俺はツンデレが好きというわけではない。どちらかと言うと、苦手。一番好きなのはクーデレだ。クーデレのヒロインは一番に攻略した。泣いたなぁ……。最後死にそうになるんだもん。

 

 俺が泣いていると、ステラがティッシュで涙を拭いてくれた。その優しさにさらに泣いた。だって、皆俺が泣いてると引いた目で見んくるんだよ? ひどいよね。

 

「やる気なくなるなぁ、このヒロインは」

 

『キャー! なに見てるのよ、今防弾チョッキ着てるの! 覗かないでよ、変態!』

 

 色気もなにもないシチュエーション。キャラによってここまで雰囲気違うのか……クーデレの娘はもっと、可愛かった!

 

→『いや、事故なんだ!』

『覗かれてしまう、その油断が戦場では命取りだ!』

 

 この場合、どっちがいいんだ? どっちも地雷だろう、戦場だけに。

 

「じゃあ、油断が命取りの方を」

 

『だまれ、変態! この鉛玉でも喰らって、反省しろ!』

 

ズギュゥン!

 

『ぎゃあぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!』

 

『ユーアァー、デェッド!』

 

 画面に表れるのは、“But End”の文字。ヒロインに銃で撃たれて、死んだ。なにこのゲーム、クーデレヒロインの時はこんなことなかったはず。選択肢間違ったか? ならば……

 

『事故なぁぁぁぁぁぁぁっ!』

 

 言い終わる前に銃で撃たれ、死亡。どっかで選択肢間違ったな。前の選択肢に戻らないと。

 

「セーブデータはっと、げっ、ねぇ!」

 

 どうやら、セーブし忘れていたらしく、今までの、このヒロインを攻略したデータがなかった。なんたる、不覚!

 

「最初からやんの、めんどくせぇ……」

 

 あの選択肢まで、かなり長かった。それなのに、なぜセーブしていなかったのか。しかし、過去はもう取り返すことはできない。

 

「でも、やるしかな……お、ステラ、どうした?」

 

 俺の座っている横には、いつの間にかステラがいた。全然気づかなかった。隠密とか得意なのだろうか?

 

(まぁ、俺が熱中し過ぎてただけだろうなぁ)

 

 ステラはわたわたと手を振りながら、口をパクパク動かしている。ステラはフッケバインが自動操縦中だと、思考・計算機能の大半を使用するから、言語能力と複雑な思考能力失ってしまい、日常生活には支障はないけど、しゃべれなくなってしまう。何を言いたいのか理解できるようになったのは、最近。それまでは、アルの通訳頼り。本当はステラ、饒舌で強気な性格。初めて見たときは、かなりビビった。

 

「えっと、『ご飯食べないの?』かな?」

 

うんうんと頷きながら、さらにジェスチャーを続けるステラ。

 

「うーん、『ダレンお兄ちゃん、食べてないよね? なくなっちゃうよ?』か……いや、俺今からゲームの続きをしようと思ってたんだけど」

 

 そう言うと、ステラは俺をグイグイ引っ張ってきた。必死になにか伝えようとしている。

 

「『ダメ、食べなさい!』って? でもなぁ」

 

 そう言っても、グイグイグイグイ。延々と続きそうだ。仕方ない。

 

 俺はパソコンを持って立ち上がり、

 

「わかったよ、行くよ」

 

 そうすると、ステラは笑顔になった。それを見て、思い出すのはマリの笑顔。俺のこの世界で初めての友達。そして、……いや、あれは違うか。

 

 俺は自分が今どんな顔をしていたのかはわからなかったが、きっと思い詰めていたような顔をしていたのだろう。ステラが「どうしたの?」とでも言いたげな顔をしていた。実際、しゃべることができたのなら、言っていたかもしれない

 

「大丈夫、早くいくか行くか。ほら、肩車~」

 

 ステラを肩車して、ダッシュ。前に一度、ステラにやったらお気に入りになったらしく、度々やっている。いつもより、高い所から見る景色と、流れていく風景が好きらしい。フッケバインの中だから、壁しかない。今度外でやってみるか。

 

 あぁ、来るべき“約束の日”には備えておかないと。

 

 しかし、最近マリのことをかなり思い出す。寝てもあの頃の思い出が夢として現れる。そして、最後は決まって血にまみれたマリの姿。やはり、あれのせいかな。俺がマリを殺した時の記録映像。

 

それは、1週間と3日前……

 

 

 

 

 

 

 

 

 いつかは乗り越えなければならないと思って見ていた、記録映像。今までで一番辛い過去。

 

 マリをこの手で殺したためか、俺はマリと同年代の女の子は殺せない。殺ろうとしても、あの光景がフラッシュバックして、手が止まる。民間人も管理局員も、例え犯罪者でもそれは変わらない。

 

 1ヶ月前は、この映像を見ると過呼吸になったりしていたが、今はましになってきた。悪くて、視界がチカチカするだけだ。

 

『ダレン!!』

 

『Start Up』

 

『がぁぁあぁぁぁぁ!!!』

 

『ダ、ダレン落ち着っ?』

 

 ここで、俺は目を逸らした。ここは何度見てもちゃんと見ることができない。

 

「あれ……」

 

 少しだけ見たときに、マリの口が動いた気がした。気のせいか?

 

「蒼、もう一度だ」

 

『Jud.』

 

 今度こそは、目を逸らさない!

 

『がぁぁあぁぁぁぁ!!!』

 

『ダ、ダレン落ち着っ?』

 

 マリが俺の方に倒れかり、俺も倒れる。やっぱり、マリの口が小さく動いていた。

 

「蒼、この部分を拡大して、音を拾え」

 

『Jud.映像拡大、音声を拾います』

 

『がぁぁあぁぁぁぁ!!!』

 

『ダ、ダレン落ち着っ?』

 

マリが倒れた。そして、

 

『ダ……わた……をこ……あ……う、だ…………』

 

 全て聞こえない。音が小さすぎる。

 

「蒼、もっとだ!」

 

『これ以上の拡大、不可能』

 

「くそっ!」

 

 マリが最後、何を言っていたのか。俺に対してかもしれないし、別の誰かかもしれない。俺に対してならは、恐らく俺に対する怒りだろう。殺戮衝動といえ、俺がこの手で殺してしまったのだ。何を言われようが受け止めなければならない。しかし、今はマリのその言葉でさえ聞くことはできない。マリはもう、この世にはいない。

 

「マリがさ、俺のことどう思ってたかは聞くことはできないけど、俺は守りたかったよ? 俺のこと助けてくれて、友達になってくれて、ほんわかしてたけど、ドジだったマリをさ……」

 

 それはもはや、叶わぬ夢。守りたいものを、この手で無くしまったのだから。

 

 

 

 

 

 

 

 

「おー、ダレン。飯か?」

 

「そうだけど、お前は食い過ぎだ、アル」

 

 思い出しながら歩いていれば、いつの間にか着いていた。犯罪者でも、家族なんだと時々思う。犯罪行為などしていなければ、ただの厳つい顔が揃った仲のいい家族に見えるかもれない。

 

「お前も早く食わねェと、アルに前部食われちまうぞ」

 

「そう思うなら止めろよ、ヴェイ」

 

「うるせェ、俺が言ったって意味ねェんだよ」

 

 できれば意味がなくても止めてほしかった。体で。

 

「はぁ……食うか」

 

 とりあえず、ゲームをやりながら食べられる物。手が汚れないのは肉かな。骨の所にアルミホイル巻いて……。

 

「ダレン、まだそんなのやってんのかよ」

 

「いいだろ、別に。面白いんだから。やべっ、汁垂れた!」

 

「たく、そんなの買うためにあたし付き合わせやがって」

 

 アルが言った通り、犯罪者のアジトを潰すのに手伝って貰った。まぁ、感謝はしている。俺はまだ、未熟だから。ついでに、初回限定版買うのを手伝ってほしかったのだが、断られた。

 

「はいはい、ありがとうございました」

 

「まったくあたしにはわかんねェなー」

 

「俺もわかんねェ」

 

 2対1で俺の負けか? いや、まだステラがいる。

 

「ステラならっ……」

 

 結果、ステラどっか行った。

 

「まったく……そういえばサイ姉、バイクで行ったけど帰りどうやって連れてくるんだろう」

 

「は?」

 

「坊主とリアクトプラグ、バイクじゃ2人連れてこれないじゃん。背負うわけにもいかないし」

 

 そういえば、そうだっけ。それにあと1人追加するからまぁ、バイクで連れてくんのは無理だな。

 

「そんじゃ、迎えにいきますか」

 

「いってらー」

 

「お前も行くんだっつーの、男手も必要なんだよ」

 

「いや、俺はこれをやんないとっ! それに“約束の日”もあるから!」

 

 だって、シグナムとか居るでしょ。俺勝てないよ。あ、サイファーに倒されてるんだっけ。でも、行くと帰ってこれない気がする。

 

「いいから来い」

 

 抵抗むなしく、俺はアルに引きずられていった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 第23管理世界ルヴェラの森(多分)。俺は今、絶賛迷子中。

 

 なぜなら、アルが1人で走って行ってしまったのだ。森はどこも同じに見える。簡単に迷った。

 

「あのやろーーっ!」

 

 管理局の人達の近くに出た時はビビった。捕まるわけにはいかないので、全速で逃げた。事件になってんのかよ。

 

「アールー、サイファー!……お、いたいた」

 

 やっと見つけた。暗い森の中は心細いことこの上ない。

 

「遅い! ダレン」

 

「だまれ、くそアマ。お前が1人で走って行くからだ!」

 

 足元には拘束されて眠らされている、主人公&ヒロインズ。ゴツいな、トーマの鎧。俺のより格好いい気がする。あとは、リリィとアイシスだったか。リアクトプラグと爆破魔さん。アルでもてこずるんだっけ。

 

「あぁそうだ、ダレン。私と殺り合った公僕の言っていたことだが」

 

「公僕?」

 

 シグナムのことだよな、多分。

 

「あの娘、どうやら行方不明らしいぞ」

 

「って、誰?」

 

 娘と言われても、誰も思い浮かばない。唯一マリだけだが……。

 

「お前と私が初めてあった場所。第14無人世界にいた、マリ・カーター」

 

「え?」

 

 いや、そんなはずはない。マリは俺がこの手で殺してしまった。行方不明なんて、そんな……。まさか、見つかってない?

 

「あの公僕、どうやらそこの連中とか関わりがあったようだ。色々聞かれたがな。お前のことも、娘のことも。そういえば、お前も行方不明扱いだったな」

 

「でも、マリはっ!?」

 

「私も知らん。死体になんぞ、手を出していないし、管理局が死体を見つけていなかっただけかもしれんが、まぁいい。早く行くぞ。管理局の連中が来れば面倒なことになる」

 

 サイファー達が歩いていくが、俺はそこから動けなかった。マリが行方不明? なぜ?

 

「ダレン、早く来い」

 

「あ……うん」

 

 まったく意味がわからない。なぜ、マリが行方不明なのか。生きてあるとは考えられない。生きていてほしいが、あの状況では絶対に無理だ。

 

 もしかしたら、管理局のやつらに話を聞く必要があるのかもしれない。




”ビッグブレイカーズ!“はパロディネタです。
ダレンがやる理由としては、
・暇だから
・マリのことを忘れられないから
です。

“約束の日”については多分次話で。

感想、アドバイスなどよろしくお願いします。
次は、対特務6課かなぁ。勝てないかも、ダレン


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8話:あるよ、守りたいものなら。無くしたけどね

今週最後の投稿です。
今回はいつもより、少し短いかもです。


 帰ってきてからどのくらい経ったのだろうか。俺はずっとサイファーの言っていたことを忘れずにいられないでいた。

 

『マリ・カーターが行方不明』

 

 マリは俺が確かにこの手で殺してしまった。その時にはマリはもう死んでしまっていた。もしかしたら生きている、という楽観的なことはどうしても考えられない。きっと誰かに弔われていると思っていた。

 

『あんたが助けに来てくれて、嬉しかった……。でも、ちょっとだけなんだからね!』

 

 ゲームの内容もまったく頭に入らない。とりあえず電源をつけてみたが、自動送り。ただの雑音程度でしかない。

 

「いったい、どうなってんだろ……」

 

 死んだ人間が勝手に動くなんて、考えられない。いくらこの世界に魔法があったとしても、それは無理だろう。他には誰かが持っていったという可能性もあるが、なぜマリだけなのか説明がつかない。サイファーは知らないと言っていたし、本当のことだろう。あいつは嘘をつかない。

 

「探しに行きたいけど、どこを探せばいいのかわかんねぇし……、トーマ達のこともあるし」

 

 トーマはついさっき目を覚ました。自己紹介だけはしたが、“エクリプスウィルス”についての説明はフォルティスとビルに任せた。説明役は俺ではないし、そもそもそんなことをしている心の余裕がない。

 

「どこにいるんだよ? マリ…………」

 

『現在、本機に向かって大型航空戦力が接近中』

 

「なんだ?」

 

 これは管理局が来たな。特務6課か。原作なら戦闘になってたな。

 

『対象はLS級管理局艦船。識別名称“ヴォルフラム”』

 

「めんどくせぇ……」

 

 だが、俺も出ないとダメだろう。“フッケバイン”が落とされることはないと思うが、万が一のことがあっても困る。

 

『フッケバイン乗務員、警戒通報。管理局艦船ヴォルフラムが接近中。先ほどから長射程魔導砲“アグウスト”による攻撃を開始。本艦へのダメージは無し。投降の勧告を送信してきています』

 

「仕方ないかぁうおっ!」

 

 今、結構揺れた。恐らく、“主砲”を撃ってきたのだろう。“フッケバイン”の中和フィールドを抜ける、AEC装備。高町なのは一等空尉の“ストライクカノン”。

 

『機体上部に大型エネルギー反応を確認』

 

 おっと、これはヤバイな。急がなければ、もしかしたら落とされるかも。俺という異分子(イレギュラー)がいるしな。何があってもおかしくはないと思う。

 

 ガゴォンッ!と上の方から音がした。これは確か、“プラズマパイル”。

 

『機体外壁に接敵。破損箇所から内部に侵入されました』

 

 侵入されちまったか。皆はと……。

 

「おい、フォルティス!」

 

「遅いですよ、ダレン。もう、侵入されています」

 

「皆は?」

 

「ビルとヴェイ、サイファーが迎撃に、アルは艦砲サポートです」

 

 そうだろうな。アルが中で好き勝手に撃ってたら、“フッケバイン”が内部崩壊する!

 

「僕はステラについていますが、そうですね、ダレンは……」

 

「俺は相手の“主砲”潰してくるよ、聞きたいこともあるしね」

 

「それはいいですけど、大丈夫ですか?」

 

 フォルティスは、マリのことで俺が気にしていると思っているのだろう。帰ってきてから、ずっと沈んでいたし。でも、やらなければなるまい。

 

「やるときはやるさ。捕まらない程度にね。“約束の日”もあるしさ」

 

「わかりました。気をつけて」

 

 目標としては、“ヴォルフラム”まで行くこと。そして、“主砲”に話を聞くこと。俺の目的もあるから、絶対に“フッケバイン”は落とさせない。そう、例えどんな手を使ってでも。

 

 

●●

 

 

 わたし、高町なのはが使っている、AEC装備はCW-AEC02X“ストライクカノン”。

 

「やっぱり、バッテリー消費が……」

 

 バッテリーの問題は、AEC装備最大の課題。それでも、EC(エクリプス)感染者にはこの装備でなければ、戦えない。

 

『なのはさん、緊急です! 上空から正体不明(アンノウン)が接近中! おそらくフッケバインです、注意してください!』

 

「え!?」

 

 見上げるとそこには、人がミサイルのように飛んできていた。

 

『接敵まで、約3秒前!』

 

 それは、空中でクルンと一回転してから着地した。姿はジャージ姿の少年だった。

 

「時空管理局、本局武装隊航空戦技教導隊5番隊所属、高町なのは一等空尉ですね」

 

 立ち上がりながら、その少年は言う。その顔は、どこかで見たことがあるものだった。確か……フッケバインが関わったとされる殺人事件の報告書。

 

「お初にお目にかかります」

 

 息を吸い、ゆっくりと

 

「フッケバイン所属、近接武術師(ストライクフォーサー)たまに遠距離、ダレン・フォスターです。そして」

 

 その少年、ダレン・フォスターは右手にECディバイダーと思われる物を出しながら、

 

「EC兵器を扱う者、俗にEC(エクリプス)感染者やEC因子適合者(エクリプスドライバー)と呼ばれる者の1人でもあります」

 

 そうだ、シグナムさんが言っていた、第14無人世界の開墾地で起きた殺人事件報告書にあった、行方不明の男の子!

 

「誠に勝手ながら、貴艦“ヴォルフラム”の主砲である貴女と話をしに、そして潰しに参上いたしました」

 

 

●●

 

 

(決まった……)

 

 “ヴォルフラム”に着くまで、どんなことを言おうか考えていたが、これを言って正解だった。格好いいな、とは思ってたし。途中で噛まないか心配だったけどね。

 

 俺がしゃべっている間に攻撃してこなかったのには、驚いた。優しいんだなぁ。けど、構えの姿勢は崩さなかった。やっぱり、俺の何倍も強いのだろう。俺が今まで戦ってきたのは、犯罪者に管理局員、そしてサイファー。もちろん、殺し合い。サイファーとは戦闘訓練をしたけど、俺の病化特性もあってか、本気で殺しにきていた。死ぬ危険が少ないから安心してやれる、だそうだ。物騒な女だね!

 

「えっと、ダレン・フォスター君でいいんだよね?」

 

「はい、そうです。高町なのは一等空尉」

 

 敬語で答える。タメ口には抵抗があった。年上だし、原作キャラだし。フッケバインの皆は仲間だし、家族だからいいけどね。そして呼ぶときは、呼び捨てではなく、階級をつけて。いきなり敵に呼び捨てされたら嫌だろう。俺は嫌だ。敵にさん付けする人も少ないと思うけど。

 

「えっと、何で君がここにいるの?」

 

「は?」

 

 なんでって、フッケバインのメンバーだから、と言えばいいのかな。

 

「事件の報告書読んだけど、たしか君って行方不明に……」

 

 そういうことか。サイファーも俺が行方不明扱いだと言ってたし。よかった、なのはさん事件のこと知ってた。これなら、話を聞けるだろう。

 

「俺についてはどうでもいいです。それより、マリ……マリ・カーターが行方不明というのはどういうことですか?」

 

 たとえ、捜査に関わっていなかったとしても、話くらいは聞いているかもしれないし、事件の報告書を読んだのならマリのことは知っているだろう。

 

「どういうことって? それに君、なんでフッケバインなんかに?」

 

 なにか、俺のことについてゴチャゴチャ言っているが、そんなことはどうでもいい。今、一番大事なのはマリのことだけだ。それ以外のことなんて聞きたくはない。

 

「俺の質問に答えてください。マリが行方不明ってどういうことですか?」

 

 声に少し、怒気を含ませて問う。

 

「マリ・カーターさんが行方不明っていうのは本当。捜索したけど見つからなかった……」

 

「そんなわけないだろ! マリは俺が殺してしまったんだ! なんで、なんでそんな……」

 

 なんで、行方不明なんだよ……きっと、誰かに弔われているのだと思っていた。行方不明なんて、浮かばれねぇじゃねぇか!

 

「ちよっと待って。俺が殺したって何?」

 

「マリは俺が殺しました。“エクリプスウィルス”の殺戮衝動で。サイファーではなく、俺が。真実ですよ」

 

「マリと呼んでるってことは、親しかったのかな」

 

「そうです。この世界で、初めての友達でした」

 

 そのマリを俺は殺してしまったんだ。管理局もマリのことについては捜査が行き詰まっているのか?

 

「他に何か知らないんですか!? マリのことは!」

 

「ごめんなさい。事件のことは機密事項だから、これ以上は教えられないの。君が事情聴取を受けてくれて、捜査に協力してくれるなら一緒に探せる。君とマリさんをきっと助けられる! だから、こんなことしてちゃ駄目だよ!」

 

 そうか……。やっぱり、駄目だよね、こんなことしてちゃ。時間の無駄だったのかなぁ。

 

「そうですね、そうなんですよね。こんなことしちゃ、意味無いですよね」

 

「わかってくれて良かった。だからこっちに……」

 

「ええ、よくわかりました…………どうやら、貴女に聞いても、いや管理局員全員に聞いても無駄みたいですね」

 

「え……?」

 

 希望は無くなった。どうやらこの人は、俺に逮捕されろと言っているようだ。しかしそれは、俺のこの世界での目的の崩壊を意味する。これ以上ここにいても意味はない。ならば、俺の目的を守るために行動すればいい。俺は俺の力でマリを見つけ出す!

 

「貴女に聞くことはもう、なにもありません。だったら俺は皆を守るために戦います」

 

 本当に俺は自分勝手だ。聞くだけ聞いて、あとは戦う。けど、そうするしか道はない。俺は捕まるわけにはいかない。この人は優しい人だ。でも、戦いの中では意味はない。それは、俺がこの3か月で学んでしまったことだ。優しさは意味がない、なんて正に悪役が言う言葉だな。そうか、俺、犯罪者だっけ。

 

「貴女たちが管理局の正義で戦っているように、俺は俺の正義で戦います。話を聞いてくれて、してくれてありがとうございました。でも、俺達は捕まるわけにはいかないので、“主砲”を、貴女を潰します」

 

 もう1人の“主砲”は後でいいだろう。まずは目の前の障害を。今日の気分は……手のひらにザックリと。

 

「リアクト。モード“剣鎧装(ソード・ナイト)”」

 

 グチュッ!っとグロテスクな音が響く。神経を通して、刃が肉に食い込むのがわかった。

 

「待って、話をっ!?」

 

 俺の両の手に現れるのは、二対の長刀。刀身はギザギザで、柄の部分には銃の機構。まるで、サイファーの武器みたいだ。そして、見に纏う鎧。

 

「話すことは何もありませン。話し合いはもォ、無駄です。ただ、俺達が捕まるわけにはいかないので、俺は戦います」

 

 ガシャンッ! と頭のバイザーが降りた。

 

『ドライバーのリアクトを確認。戦闘形態へ移行。要請を確認、戦闘の補助を開始します』

 

 青十字の書は準備万端。高町なのは一等空尉の方も既に構えていた。隙が全然見当たらない。やはり、この人は俺よりものすごく強い。

 

 でも、負けるわけにはいかない。俺にも守りたいものがあるから……。




次回は戦闘。けど、すぐ終わるかもしれません。
そして、明かされる“約束の日”。

マリのことになると、周りが見えなくなる主人公。
リアクトのモードの名称のセンスがない自分。
評価してくださった、感想をくださった読者様、本当にありがとうございます。

来週は投稿できるかわかりませんが、時間を見つけせめて一話は投稿したいと思います。

感想、アドバイスなどよろしくお願いいたします。


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9話:真実とは何が何で何なのか?

一ヶ月以上空けていたという……。
すいませんでした!


「らァ!!」

 

 力強く振り下ろす刀。だが、それは“ストライクカノン”によって防御された。もう片方の刀で切りつけるが、それも避けられる。

 

(強すぎだろ、この人っ……)

 

 切っては避けられ、砲撃されては避ける、そんな鼬ごっこの様な攻防を俺と高町なのは一等空尉はずっとしていた。それでも、互いの攻撃は少しではあるが当たっている。そして、俺は不利であった。

 

「ファイアッ!!」

 

 高町一等空尉の“ストライクカノン”から放たれる砲撃。それは俺の攻撃が止まるわずかな時間を狙い、“フッケバイン”に着弾していた。

 

「くそっ……たれが」

 

 踏んできた場数が違いすぎる。たった3ヶ月の短い期間を戦ってきた俺と、17年という長い間に戦闘技術を積み重ねてきた高町なのは一等空尉。その差はあまりに歴然だった。そして俺の強さはエクリプスウィルスの恩恵だ。それでもその3ヶ月がなければ、俺はこの人の前に立つことなど出来なかっただろう。

 

 そして、俺は確かに動揺していた。ここを突破して、早くマリを探したい。それだけを考えていた。それが俺のただえさえ単調な動きを、さらに単調にしていたのだ。

 

「俺は! マリを探さなきゃならないンだ! こんな所で捕まっちまう訳にはいかねェンだよォ!!」

 

 だが、そんな叫びを平和を守る側である特務六課が聞くわけにはいかないのは、重々承知している。仮に俺が特務六課に協力しようとしても、それは叶わぬ妄言でしかないのだ。この身体では協力など出来るはずがない。それに俺は人を殺しすぎた。今さら正義の領域に立てる人間ではない。いや、もはや人間ですらないのかもしれない。

 

「だったら、こんなことしてちゃ駄目! 武器を捨てて!」

 

 互いのかける言葉も、願っていることも、それは平行線を辿っている。正義の側と、犯罪者の側。譲り合うことなど出来はしない。こんな身体で誰かを守ることが出来るというならば、最初から誰も殺してなどいない!

 

「俺は……エクリプスウィルスなンて物を生み出したやつを必ず見つけ出す。そのためには、ここで武器を置くなンてことはァ、出来ねェンだ!」

 

 この世界はただのマンガなのかもしれない。元を見ればそれは、人々の娯楽のための物だ。それは1つの物語をつむぐ。言うなれば、それは1つの世界であるということだ。外から見ているだけではわからない、初めて中を見てわかる現実。たとえマンガであろうと人は生まれ、人は死ぬ。この“世界”に転生して初めてそれがわかった。この“世界”は俺にとって、俺が生きていく現実。物語の設定などではない、俺の生きていく世界だ。

 

(だから、俺だってやるしかねェンだよ!)

 

 俺の役目は“ヴォルフラム”の主砲の足止めをし、逃げる時間を作ること。とは言え、このままでは消耗戦になる。そうなれば、まず俺に勝ち目はない。そこまでの差がある。ならば……少し手法を変えてみよう。

 

「モード変更、“槍鎧装(スピードランサー)”」

 

 モード“槍鎧装(スピードランサー)”。その名の通り槍やランスを主な武器とした武装形態。俺の持つ武器が二刀一対の刀から二丙一対のランス――形状からして――となる。この武装形態は速さが売りだ。俺が最初に使ったモードでもある。

 

(問題は、これを使って対等に戦えるか、なんだがな……)

 

 “剣鎧装(ソードナイト)”よりは使い慣れている。なら、何故最初からこれを使わなかったかと問われれば、“剣鎧装(ソードナイト)”を実戦で使ったことがないからだ。試験的な意味で使ってみたが、痛い目を見た。

 

(主砲の“砲”は潰す。“主”の方はその後だ)

 

 リスクの高い方は選ばない。“ストライクカノン”を潰したら、逃げればいい。それに、カレンなら特務六課の連中は殺すな、と言うだろう。いや、実際に言っていたか。

 

(これ終わらせて、早く“約束の日”を……)

 

 これ以上はあまり、時間をかけられない。空にいるもう一人の“主砲”に来られては面倒だ。俺には予定が詰まっている。ここで逮捕なんて、冗談じゃない。

 

 “翔翼”を前方に展開し、加速の準備をする。更に、ランスの柄に付いているブースターを点火。“槍鎧装(スピードランサー)”最大の技。加速へ更なる加速。

 

(これでそろそろ終わらせる!)

 

 前へと踏み込む。“翔翼”とブースターのコラボ。周りの景色が後ろへと吹っ飛んでいく。超加速の突進。

 

「うらあァァァ!」

 

 二丙のランスを使った突進。この調子なら“ストライクカノン” を破壊できる。

 

(懐に入ってぶち壊す! まずはそっちだ!)

 

 このままなら成功する。だが……運命は、いやこの世界自体俺に味方をしなかった。

 

「かへっ……」

 

 空気が震えた。何が起きたのかはわからない。ただ、俺のリアクトが解除された。

 

 車は急に止まれない。加速した俺は止まれない。この現象によって、俺は姿勢を大きく崩し、“ヴォルフラム”の上を転がった。自分の姿勢を制御出来ないまま、そのままの加速。起こることはただ1つ。“ヴォルフラム”の上から下――海への落下。

 

「しまっ……」

 

 体は先ほどの現象のせいか動かず、飛ぶことすら出来ない。鎧装ではなく、生身のままの自由落下。

 

(そうか……さっきのは“ディバイドゼロ・エクリプス”!)

 

 “ディバイドゼロ・エクリプス”。トーマ・アヴェニールの、ゼロ因子適合者(ドライバー)の力。魔力結合だけではない。人間の生命活動、リアクトさえ分断する力! これほどのものか!

 

(でも、このまま落ちたら痛いだろうなぁ……)

 

 幸い、思考するだけの余裕はあった。海に落ちたとしても、病化特性もあるし、死にはしないだろうが、とても痛いだろう。例えば、着水による全身強打。

 

 どうやら、“ディバイドゼロ・エクリプス”の効果は、かなりのものらしい。段々と意識が薄れてきた。眼前には近づく海面。気を失ったら、溺死するかも。

 

(でも、死なないんだろうなぁ)

 

 薄れゆく意識のなかで見たものは、俺の周りに蒼十字の書のページが舞っている様子。それはまるで、天使の羽の様……。

 

 

 

 

 

 

 

 

 こんな話をしたことがある。

 

「将来の夢? 何だ、唐突に……」

 

 あの開墾地にいた頃の2日目、昼食後。腹一杯になった俺はイスに座って休憩していた。4人用のテーブルに、イスを4つ。マリは向かいの席に。俺のとなりはアルさんだったりする。

 

「だから、ダレンは何になりたいのかなぁって。私達くらいの年頃だとみんな、悩んでるからさ~」

 

 確かに17歳というのは高校卒業後の進路などを決めなければならない時期かもしれない。でも、それはこの世界でも同じなのか?

 

「でもなぁ、俺は記憶の方を……」

 

 ここでは俺は、記憶喪失ということになっている。真実は俺しか知らないし、下手にしゃべったら何かバレそうだ。それに、“特典”のこともある。今は、そういうことを考えられなかった。

 

「あ……そっか……ごめん、ダレン……」

 

「いや、そこで謝らなくてもいいんだけど……」

 

 俺が嘘をついている分、謝られてしまうと罪悪感がハンパない。それに、空気を悪くしたくない。マリには暗い顔なんてして欲しくないし……。

 

「いや、あれだ、マリはどうなんだ? 将来の夢。言い出しっぺなんだから、ちゃんとあるんだろ?」

 

 雰囲気が暗くなる前に話を進めてしまおう。俺のことを話題から逸らすんだ。

 

「え~私はね~」

 

 マリが両の人指し指をつんつんし始めた。照れている。良かった、雰囲気は暗くならなかった。

 

「なんだよ。恥ずかしがらずに言ってみろよ」

 

 相も変わらず、人差し指つんつん。少し、可愛い。だが、言いたいことははっきりと言って欲しい。たぶん笑わないから。

 

「えっとね、お父さんとお母さん達みたいな家族を作ることかなぁ~」

 

「あー、ラブラブだもんなぁ」

 

 マリが憧れるのもわかる気がする。いつまで経っても、仲良しこよし。良い両親だろう。だから、マリがこんなに良い子に育ったのか、と思わなくもない。

 

「お母さん達に言わないでね、ダレン。すっごく恥ずかしいから」

 

「いや、バレていると思う」

 

 あの2人はマリのことなら何でもお見通しだと思う。特にサーシャさんはとてもとても。あの人、絶対マリの反応楽しんでるよね。

 

 そして、台所からニコニコこちらを眺めているお2人さんを、マリは気付いていないのだろうか?後ろ見えないから、しようがないか。

 

「マリなら、まぁ……大丈夫だろ、絶対。かなりの高確率で」

 

 マリなら仲良しこよしの家族作れんだろ。俺にこんなにも優しくしてくれたし。それに、マリがだれかとケンカするっていうのが、思い浮かばない。

 

「ほんとに!?」

 

「ほんと、ほんと」

 

 俺の言葉を聞いて、マリはとても喜んでいた。でも、マリと結婚出来るやつは幸運だと思う。少し……そいつが羨ましいな。

 

「そっか、そっか~。うん、ダレンがそう言うなら大丈夫だね~! 安心した。それじゃあ、私は外行ってくるけど、ダレンも一緒に行く?」

 

「いや、遠慮しとく。子供達の視線に心折れそう」

 

 俺がマリと一緒にいると、子供達の視線が怖い。まるで、仇の様に見てくる。

 

「ふふっ、私は一緒にいて楽しいよ?」

 

「そうかい、そうかい。ま、早く行け。遅くなったら、俺が怒られそうだし。ね、マリお姉ちゃん(・・・・・)?」

 

「もう~、ダレン。行ってきます」

 

 怒った様で、でも嬉しそうな顔でマリが外に行った。てか、最初から最後まで、全部サーシャさん達に見られてたわけだけど、すっげー恥ずかしい。最後まで気づかないマリも、マリだけど。

 

「隠れたことになってないですから、それ」

 

「あらあら、やっぱりね~」

 

 やっぱり、マリは憧れるよね、この2人なら。良いご両親。羨ましい。

 

「あ、ダレン君。少し話があるんだけどいいかな?」

 

「へ?」

 

 思えば、これが始まりだったのかもしれない。

 

 

●●

 

 子供達は本当に羨ましい。無邪気で、とても楽しそうで。

 

「どうしたの? マリお姉ちゃん」

 

「え、あ、なんでもないよ~」

 

 ぼうっとしていたらしい。皆を見たまま突っ立っていた様だ。いけない、いけない。

 

「何か、嬉しさ半分、寂しさ半分な顔してたから。あ、まさかあの男の人が何か!?」

 

「いや、なんでもないよ~。ただ…………本当のことを話してしもらうためには、どうすればいいかなぁって……」

 

 私に話しかけた子はよくわからないという顔をしていた。まだ、難しい話なのかもしれない。

 

(本当は感じてるんだ……、ダレン。どうしたら、話してくれるのかなぁ……)

 

 私の知らないダレンがいる。私はそれが知りたい。だから……

 

 

 

 

そこに行くよ。




久しぶりなので、雰囲気が違うかもしれません。
戦闘を表現するのは難しいです。

新四話はもう少ししたら、投稿します。


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10話:自分で建てる、だめなフラグ

後書きに、今までに出たリアクトのモード紹介があります。


 つんっと塩の香りが鼻につく。周りでは、様々な音が鳴り響いている。

 

(あれ……何してたんだっけ……、ここ……どこ……?)

 

 段々と鮮明になっていく視界の中、まず見えたのは、飛空挺“フッケバイン”と“ヴォルフラム”。そして、遠くでは誰かが戦闘をしていたのが見える。あ、誰か落ちた。

 

「そうだ……俺、“ヴォルフラム”の上から落ちだんだっけか……」

 

 “ディバイドゼロ・エクリプス”を喰らい、姿勢制御ができず、加速の勢いをそのままに、海へと落下。カッコ悪い……。

 

「てか、あんなに辛いものだったのかよ」

 

 俺が落下して、どのくらい時間が経ったのかはわからないが、身体のダルさというか、震えがまだおさまらない。俺の身体が弱いのか、それとも“ディバイドゼロ・エクリプス”が強力なのか。恐らく、前者だと思うのだが……。

 

「それにしても、海に落ちて、全身打撲でもしてるかと思ったけど、大丈夫だったのか?」

 

 辛い身体にムチを打ち、なんとか起こしてみると、俺は“蒼十字の書”のページが敷き詰められた上にいることがわかった。どうやら、俺のクッションになっていてくれていたようだ。ありがたい。でも……“蒼十字の書”が勝手に何かをするというのはかなり珍しい。戦闘記録は毎回録っているようだが、“蒼十字の書”による攻撃や防御は一々要請しないとやってくれないし、戦闘が終わるとすぐにいなくなる。これは、ドライバーの保護機能かな? しかし、なぜか俺がゲームをしていると絶対に隣にいる。見ているのだろうか?

 

「何はともあれ、ありがとう、蒼十字」

 

『要請によるドライバーの保護、完了』

 

 たぶん、会話が噛み合ってない。てか、誰が要請したんだ?ここには俺しかいないんだけど……。

 

「まぁ、考えても仕方ないか。今、出来ることを探さないと」

 

 敷き詰められたページは、大きさが畳4つ分くらい。しかも、そのまま“フッケバイン”と“ヴォルフラム”と並走するように飛行していた。本当に多機能すぎる。最近は動作が遅いけど。

 

「とりあえず、もう一回“ヴォルフラム”に行ってか…………何あれ」

 

 見上げていると、そこに大きな氷の塊が出現した。それは今まさに“フッケバイン”の上に落ちようとしている。あれは、八神はやて司令の“ヘイムダル”だ!

 

「えっと……“ディバイドゼロ・エクリプス”が二巻の終わりだろ。で、“ヘイムダル”が出てくんのはたしか三巻の最後らへん……どんだけ俺、気絶してんだよ!? よく、捕まらなかったな!」

 

 これも、“蒼十字の書”のおかげか。とにかく、早く“ヴォルフラム”に行って状況の確認をしないと。可能なら、八神はやて司令を止める!

 

「念のため、転移の準備をしとこう。蒼、よろしく!」

 

『…………Jud。座標算出開始』

 

 俺は急いで、“ヴォルフラム”を目指して飛ぶ。様子見なので、リアクトはしない。その間にも状況は刻々と変化していった。“フッケバイン”を狙っていた“ヘイムダル”が誰かの斬撃によって真っ二つに割れる。あれは、サイファーか。だが、すぐに“ヘイムダル”は再氷結。さっきよりも、数が多い。さすがは、歩くロストロギアと呼ばれる人。そこにシビれるし、あこがれるかもしれない。俺は例え敵でも、すごい人は誉める方。

 

「ふ~、到着」

 

「あら、ダレン。たーだいま!」

 

「あれ……姉ちゃん」

 

 そこにいたのは、いつの間に帰ってきたのか、我らが首領、カレン・フッケバイン。俺の姉ちゃんである。何か、八神はやて司令から刀抜いてる最中だし。笑顔でただいま言われても、風景と合っていない。そして、“ヘイムダル”は雪となり散っていった。これは、八神はやて司令の配慮なのかもしれない。危険が無いようにね、周りに。

 

「あ、姉ちゃん!」

 

「おっ」

 

 八神はやて司令を刺されたことにぶちギレた、ヴィータとエリオ・モンディアルが今まさに姉ちゃんに襲いかかっていた。わかる、大事な人が刺されたらぶちギレる。もちろん、俺も。だが、その2人は姉ちゃんに返り討ちにされてしまった。

 

「うわー、“ストライクカノン”刀でぶった切るとか……」

 

 俺は出来ない。ヒビ入れる程度だろう。しかも、最後は本のページでザシュッと。容赦ない……。その本人は今、ステラと通信をしている。

 

「じゃー、ダレン。引き上げるよ?」

 

 そういえば、トーマのことは後回しなんだっけか。あー、でも俺“約束の日”あるしなぁ。こんまま行くかぁ。

 

「俺はいいよ。今日、“約束の日”だし」

 

「なんや……あんたら、まだなにか企んどるんか!?」

 

 傷口を押さえながら、八神はやて司令が追求してくる。確かに、犯罪者が今日の予定的なのを話していたら、怪しがるだろう。この人も、辛そうなのによく頑張るなぁ。自動治癒とかあっても痛いだろう。俺の場合は痛みとか、段々と慣れてくる。

 

「そういえば、私も知らないわね。何なの? “約束の日”って」

 

「あー、ゲームの発売日」

 

 簡単に言うと、予約して、発売日が今日だから“約束の日”。予約してるから、約束ってね。

 

「今日はね、“ビッグブレイカーズ! デリカシー”の発売日なんだよ! DXで、デリカシー! 新ヒロインと新CGを追加してね!」

 

 いやー、楽しみすぎる! 今日、絶対に捕まるわけにはいかなかった理由の約一割を占めている。

 

「……あー、そう……」

 

「……」

 

 しかし、姉ちゃんはどうでも良さそうな反応。八神はやて司令に至っては反応なし。え、何でそんなにマイノリティ?

 

「どうでもいいけど、早く帰ってきてね。色々収穫もあるから」

 

「うーい」

 

 さて、それでは行こうか! 約束を果たしに。転移してくか。

 

「蒼、転移よろしく。レッツゴー、ミットチルダァァ!」

 

『…………Jud。転移を開始します』

 

 俺の体は光に包まれ、転移を開始した。

 

 そうすると、段々と周りの景色が変わってくる。外の景色からから、中の景色へ。

 

「よし、着いた、着いた」

 

 転移をしたのは、ミットチルダにある、とあるホテルの一室。

 

「さっさと、チェックアウト済ませるか」

 

 なぜ、俺がこんな所にいるのかというと、ゲームの予約には住所とか、そういうのが必要だったのだ。でも、“フッケバイン”と書くわけにはいかないし、迷ったあげく、「旅してることにして、住所をホテルにすればよくね」という結論に至った。ゲーム屋の人には一応、妥協してもらった。だから、ここに泊まっているというわけではなく、仮の住所にしていると言った方がいいか。ここに前来たのなんて、チェックインの時だけだし。それに、管理局も特務六課も、まさかフッケバインがこんな所にいるとは思うまい。それにしてもこのホテル、まるで民宿みたいな雰囲気だったなぁ。ホテルってついてるから、ホテルなんだろうけど

 

「すいませーん、チェックアウトお願いしまーす」

 

「かしこまりました」

 

 全く、テンション上げてないとやっていられない。外見明るそうに振る舞っているが、心中穏やかではない。不安で一杯だ。この先、どうすればいいのかとか。

 

(買って帰って、少し落ち着こう)

 

 俺がゲームを予約したゲーム屋は、ホテルから約5分程度の所にある。このホテルを選んだのも、その近さも理由だったり。

 

 ホテルから出ると、外はもう暗かった。夜か。早くしないと、店閉まっちゃうかも。

 

「おっちゃーん、予約したの買いに来たー」

 

「おお、ダレン君」

 

 このゲーム屋の店主である、おっちゃんが出迎えてくれる。このゲーム屋、この人しか店員いないんだよね。曰く、趣味で始めた店らしい。

 

「あれ、入荷しました?」

 

「もちろん、してある。ちゃんと、限定版を3つだ、ほら」

 

「おお!」

 

 “ビックブレイカーズ! デリカシー”の限定版には、ゲームの原画集、そしてメインヒロイン、クリスティーヌ・ランウェイの2.5等身フィギュアが付属する。ちなみに、この店での予約特典は、ゲームのキャラが描かれたコースター。3つ買ったのは、それぞれ、保存用、観賞用、プレイ用に買ったからである。その分、コースターも多く貰えるしね。

 

「毎度、どうも~」

 

「新しいのが出たら、また来ます」

 

 俺はこの店の常連だったりする。だから、住所の件も妥協してくれたのだろう。この店は品揃えは豊富だし、他の店に無い物も、ここにはある場合が多い。店主の愛が感じられる。本当に好きなんだなぁ。一応言っておくが、この店は別に、恋愛ゲー専門という訳ではない。普通のもある。恋愛ゲーよりは少ないけど。

 

「早く帰って、インストールしよう。楽しみだなぁ、新ヒロイン」

 

 ウキウキと、小躍りしながら夜の町を歩く。ミットチルダは他の世界と比べるとかなり発展している。やっぱり、第一管理世界の名は伊達じゃないね。俺は、ミットチルダの町、それも夜の町を歩くのがかなり好きだ。店に来た帰りは必ずと言って良いほど、歩いている。夜景がきれいだからだ。ただ、今日は管理局のパトカーを多く見かける。何か事件だろうか?赤いランプが町を照らしていた。

 

「指名手配の犯罪者でも見つけたのか? 物騒だなぁ……あれ?」

 

 俺の進行方向には、管理局のパトカーが複数台停止していた。まるで、バリケードを築くように。

 

「うわ、通行止めかな? ここらで、転移するか」

 

 その時、俺の周りをたくさんの光が明るく照らした。なんだ、なんだ? 眩しいぞ!

 

「フッケバイン構成員、ダレン・フォスターを確認!」

 

「区画を封鎖、市民と市街の被害防止を最優先にしろ!」

 

 気がつくと俺の周りには、たくさんの武装した管理局員と、管理局のパトカーがあった。完全に囲まれている。え、何で!?

 

「管理局特務六課です。ダレン・フォスター、あなたを殺人、公務執行妨害等の容疑で拘束します。大人しく投降しなさい!」

 

 目の前でそう叫ぶのは、長髪のオレンジ髪。特務六課ということは、ティアナ・ランスター執務官か! すげー、美人!

 

 俺の今の状態はあまり良くない。両の手に袋に入れた“ビッグブレイカーズ! デリカシー”を持っている。これは傷つけたくはない。

 

(やばいな……それ以前にどうして俺がここにいるのがわかった!?)

 

 俺は知るよしもない。ミットチルダに転移する前の俺の発言から、八神はやて司令によって、ミットチルダの地上部隊とミットチルダにいる特務六課に応援要請がかかっていたことを。もちろん、俺を捕まえるためである。

 

 つまり、俺は自分で逮捕フラグを建てていた。




今までに出た、リアクトのモード紹介

 ダレンのティバイダーをリアクトした時の武器の性能は、その時のモードで決まる(剣鎧装や槍鎧装など)。ただし、武器の形状は決まっておらす、同じモードでも武器の形状はランダムである。(それでも、剣が剣であることには変わりわりはない。ほかのモードも同義)
 そのため、毎回モードが同じでも、同じ武器が出現する訳ではない。その時に出現した武器をどのように扱うかが、課題となる。
 基本、武器は2つで1つである。
 サイファーの病化特性『対鋼破蝕』に耐えられる強度は、一応ある。

モード『剣鎧装(ソードナイト)』

 出現する武器は剣。
 どんな形状でも、銃を撃つ機構は付いている。サイファーのケーニッヒ・リアクテッドと同じように威力はあまり高くない。
 剣を扱うのは、ダレンにとってあまり得意ではないので、そんなに出番はない。

モード『槍鎧装(スピードランサー)』

 出現する武器は槍またランス。
 『翔翼』との相性がかなり良く、ダレンが好んでよく使用するモード。ダレンが最初に使用したモードでもある。
 『剣鎧装』と同様、武器の形状がランスの場合は銃を撃つ機構は付いているが、槍の形状の場合はついていない。こちらも、威力はあまり高くない。 柄のブースターは槍とランス、どちらにも付いている。ブースターで飛ばすことが出来、その時の制御は蒼十字の書が担当する。
 ランスの形状で出現することが多く、槍の形状で出現したのは『槍鎧装』の総使用回数の2割程度。
 『翔翼』とブースターの加速により、高速の突進が可能。


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11話:主人公(ヒロイン)は遅れてやってくる

遅くなり申し訳ありません。

最近、時間がなくて辛いです。



 (やばい、本当にやばい。どのくらいやばいかと言うと…………考え付かない程やばい!)

 

 今の俺はまさに、四面楚歌や袋のネズミ状態である。周りは敵だらけ。逃げられるような余裕も無い。しかし、余裕がなくても、どうにかしなければならない。

 

(くそっ、何かねぇのか!?)

 

 余裕を作り出す方法なら、あるにはあるのだが、それも今の状況ではあまり意味を成さないだろう。不意をつくというのが大切なのだ。それに、特務六課の方も、俺が大人しく捕まると思っていないのか、油断も隙もなく構えている。

 

 俺としては、周りに被害なんて出したくないし、死人も極力出したくない。いや、殺す気など毛頭無い。だが、あまりに切羽詰まった時は……。

 

「ダレン・フォスター。大人しく、投降しなさい!」

 

 俺に投降を呼び掛ける、ティアナ・ランスター執務官。正直言って、今ここにいる六課メンバーが彼女だけで――もしかしたら、見えない所にいるのかもしれないが――良かった。高町なのは一等空尉とかフェイト・T・ハラオウン執務官とか、そこら辺のもはや最強クラスの人が来ていたら、俺なんて何も出来ずに捕まっていたに違いない。いや、この人でもそうなるかも……。

 

(とにかく、この状況を打破出来るもの……おっ!)

 

 周囲を見回し、俺が見つけ出したもの、それはマンホール。マンホールと言えば、下水道。すなわち……、マンホールから下に落ちれば、下水道通って逃げれんじゃね? よくあるドラマみたいに。

 

(ふっふっふ。甘いな、特務六課とその他大勢の皆さん!)

 

 俺はマンホールに向かって歩き出す。局員達の方は、俺が何をしているのか理解できないのだろう。だが、理解できないからこその警戒。俺の一挙動に気を配っていた。俺が一歩踏み出すごとに高まっていく緊張感。俺の鼓動も段々と高まっていく。そしてついに……俺はマンホールの上に立った!

 

「ところでさぁ……ティアナ・ランスター執務官さんはさ、主人公が脱獄する系の映画見たことないかな?」

 

「何……?」

 

 俺の聞いている意味がわからないようだ。そりゃそうだ、俺だって自分が何を言っているのかよくわからない。たぶん、テンションがおかしい。

 

「スプーンで壁に穴開けて脱出したり、牢屋の戸の鍵を隠し持った、糸ノコで切ったり、色々さ」

 

「止まりなさい! 何をする気!?」

 

 喋りながらも動く俺に、制止の声。ティアナ・ランスター執務官には訳がわからないだろうが、俺は話を続ける。それはまさに、試合後のヒーローインタビューの様に熱を持っていた。

 

「何ってそりゃぁ……これだよ! リアクト、モード“近接鎧装(ストライクファイター)”ァ!」

 

「なっ!?」

 

 俺がこの3か月間で編み出した技の一つ、“瞬間形成(ショートリアクト)”。それは、ディバイダーを一瞬間で出現させ、これまたものすごい早さでリアクトするというもの。もしも、俺がこの様な状況になった時のために日々練習していた。俺にはサイファーの様に上手く剣を扱うことが出来なければ、アルの様に銃を上手く扱えない。それに、分断能力も他のやつらと比べてそんなに高くはない。俺が伸ばせるのはこういう点なのだ。

 

(俺が得た結論は一つッ! 努力すればそれなりの成果は出るっつーことだ!)

 

 両手が塞がっているので、ディバイダーを顔の前に出現させ口で掴み、肩に刺す。周りは攻撃しようとしているが、遅い!

 

「うらァァ!」

 

 出現したそれは、俺の肩から手まで、そして足の部分を覆う強化外装。肘の部分にはブレードが付いている。俺は、足を思い切りマンホールに打ち付けた。

 

「はははははァ! 逃げるン……あァ?」

 

 だが、マンホールが壊れ、俺が下に落ちることはなかった。その代わり、マンホールを中心にして亀裂がはしる。周囲6m程の亀裂。

 

「あ、これはやばい……」

 

 ビキキッという音とともに道路が崩れ始める。周りにいる管理局の人達と車が落ちる。俺の罪状に器物破損が追加された瞬間だった。

 

「やッべ、蒼! 死ンじゃうと色々不味いから、助けろ!」

 

『……Jud』

 

 落ちた場合最悪死んでしまうので、俺にしたように“蒼十字の書”のページを下に敷いてクッションにする。まさか、こんなことになるとは思ってもいませんでした、はい。

 

「状況はともあれ、今のうちィっ!?」

 

 逃げようとしていた俺に襲いかかってきたオレンジ色のすさまじい量の魔力弾。分断出来るとは思うが、この量では全部出来ないかもしれない。足止めのつもりかっ!

 

「くそったれが! 秘技、全力分断☆(スーパーディバイド)封魔(ふうま)落としィ!」

 

 迫り来る弾丸に、拳による打撃を直接叩き込み、分断する。その打撃は“翔翼”によって、加速させる。それが、秘技、全力分断☆(スーパーディバイド)封魔(ふうま)落とし。分断効果を持った、高速の連打。両手に持っていた袋は宙に上げておく。

 

「うらァ! 分断分断分断分断分断分断分断分断分断分断分断分断分断分断……ッ!!」

 

 なんとか被弾せずに、全て分断仕切った。落ちてくる袋もちゃんと掴んだ。それに噛んでない。……それでは今度こそ逃げよう。

 

「蒼、短距離多重転移で!」

 

『……Jud、転移を開始します』

 

 周りの景色がものすごい速さで変わる。多重転移なら追跡される恐れもそんなに無いし、安心だ。それに、短距離だから転移の時間もそんなにかからない。

 

 そして、着いたのはどこかの公園。撒いたと思うし、少し休憩しよう。

 

「すげェ、疲れた……。何で見つかったンだろォ……?」

 

 俺には全く、見に覚えがない。どこかでボロを出した筈はないし、最初から管理局が知っていたとは思えない。

 

(色々謎だなァ……)

 

 公園のベンチに座りながら、空を見上げる。星がキレイだ。追っ手が来ていないか、辺りを見回すと、なんか2人の少女が格闘の練習みたいなのをしている。努力するのは素晴らしい。

 

『通信が入っています。発信者名、フォルティス』

 

「ほェ? 何だろ」

 

 何か俺に用事か……もしかして、買い出し?

 

『あぁ、良かった、繋がりま……ダレン、何故リアクトしているんですか?』

 

「あれ、ほんとだ」

 

 自分の体を見てみると、リアクトしたままだった。これでは、不審者に間違われてしまう。解除、解除。

 

『何があったんです?』

 

「いや、それがね。ゲーム買って帰る途中で、何でか知らないけど、特務六課に見つかっちゃって、少しばかり応戦してた」

 

『何をしているんですか、あなたは……。誰も殺していないでしょうね?』

 

「あー、そこら辺は大丈夫。ちゃんと考えてたから」

 

 実際はかなりギリギリだった。まさか、道路が崩れるとは思っていなかったし、蒼の助けもなかったら死人が出ていたかもしれない。今度、お礼に蒼を磨こう。

 

『全く……ああ、用件を忘れるところでした。カレンが、早く帰ってこいとのことです。なんでも、“本と銃剣の二人組”について正体を、掴んだらしいので』

 

「そうか……すぐ帰る」

 

『わかりました。お気をつけて』

 

 そして、通信は切れた。

 

 カレンが“本と銃剣の二人組”についての情報を掴んだ。それは、この世界の真実を知る手がかり。こんな所で休んではいられない。

 

「蒼、“フッケバイン”に転移」

 

『Jud。座標算出開始。転移を開始します』

 

 転移の時は浮遊感を感じる。転移する場所が離れているときは長く感じる。実はこの感覚は好きだ。

 

「帰ってきましたね」

 

「何だ、待ってたのか?」

 

 “フッケバイン”内に転移するとそこにはフォルティスがいた。転移した後にぶつかりそうで怖い。

 

「えぇ。捕まってないか、心配だったので」

 

「俺はそんなにやわじゃない」

 

 かなり危なかったけど、結果として捕まっていないのだから、大丈夫だろう。

 

「皆、食事をしています。ダレンはどうしますか?」

 

「あー、俺少し寝る。さすがに今日は疲れた」

 

 今日は色々ありすぎた。襲撃されたり、“ディバイドゼロ・エクリプス”喰らったり、逮捕されそうになったり。若くても、辛い……。

 

「わかりました。それでは三時間程したら、起こしますね」

 

「あれ、何かあんの?」

 

「お仕事です。第16管理世界にですね」

 

 襲撃か。てことは殺すことになるか……。一応生きるために必要だし。それに、“本と銃剣の二人組”に何か関係あるのだろう。カレンは無駄なことはしない。いや、時々あるか。

 

「りょーかい」

 

「では」

 

 去っていくフォルティスを見ながら考える。俺はいつまでにこいつらの仲間でいられるのだろうか、と……。

 

 

 

 

 

 

 

 

 感じたい、行きたい、戦いたい、ふれ合いたい、聞きたい、話したい……一緒にいたい……。

 

『身体構築完了…………』

 

 今すぐそこに……ダレン……。

 

 

 

 

 

 

 

 

「ダレン、起きてください!」

 

「あぁ?」

 

 寝ている俺を揺さぶり、声をかけるのはフォルティス。あれ、隣にステラもいる。もう、時間かよ、寝たりねぇ。

 

「もう……か。もう少し寝たい……」

 

「そんなことはいいですから、説明してください。これは一体どういうことですか!?」

 

「そうだよ、誰なの!? ダレンお兄ちゃんの隣で寝てる女の人!」

 

 あれ、ステラがしゃべってる。これ、夢か? ステラはリアクトしてる時以外にしゃべることが出来ないはずだし……。あれ、でも隣に誰かいる気配がする?

 

「夢じゃないの………………まさか、でも、え……」

 

 起き上がり、隣を見て俺は絶句した。そこにいたのは、ドジで、おっちょこちょいで、妹みたいな少女。俺が守ると誓って、俺が殺してしまった少女。銀髪が綺麗なその少女の名は…………

 

「…………マ……リ……」




努力は報われるものと信じています。

リアクトと技の詳しい説明は次回にやります。

アドバイス、感想などよろしくお願いいたします。


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12話:平穏は波乱の幕開け

長らく更新できず申し訳ありませんでした。


 ダレンは何も考えることが出来なかった。なぜマリがここにいるのか、なぜ隣で寝ているのかさえ。何も考えることができないまま、その瞳はただマリを見つめていた。

 

「…………少女誘拐?」

 

 ポツリと、誰かが言った。

 

「はっ……違う! そんなことしてない!」

 

 その言葉にわれにかえったダレンは必死の否定をした。彼は罪状にそんなものを加えたくないのである。

 

「なんだ、お前ら。騒がしいが、何かあった…………少女誘拐か?」

 

「ちっがーーーうっ! 来て早々、変なことを言うな、サイファー」

 

「何々、どうしたの?」

 

 ダレンの叫び声で、カレン、ヴェイロンなど全員が集まってしまった。部屋に入るなり、状況を見て固まってしまう。

 

「ん? 待て、この娘は……」

 

「そうだよ……マリに見えるよ。ったく、何がどうなってんだよ!」

 

「落ち着いてください、ダレン。僕たちが部屋に入ったときは既に彼女はいました。何か心当たりはありませんか?」

 

「そんなのはねぇよ、フォル。でも……何かあった気がするかも……」

 

 思い出せそうで、思い出せない。頭のもやもやは、全く晴れなかった。

 

「まー、とにかく、私たちは仕事があるわけで? このことについてはそれが終わってから考えましょう……ダレンの少女誘拐については」

 

「まさかの確定っ!?」

 

 この状況をうまくまとめたかに見えたカレンだったが、それは冗談も含まれていた。彼女はこの状況を楽しんでいた。

 

「ステラ、ダレンと一緒にお留守番お願いね~」

 

「わかった、お姉ちゃん」

 

「それじゃあ、よろしく」

 

 最後にウィンクを残して、カレンは部屋から出ていった。ステラとダレンを除いた他の者たちも後についていく。

 

「ふざけやがって、あの女……」

 

「ダレンお兄ちゃん、ちょっとかわいい」

 

「はぁ?」

 

「あんなに慌ててるの、初めて見たから」

 

「しゃべれるようになったと思ったら、生意気言いやがって」

 

「えへへ」

 

 一見、和やかに見える会話のなかでも、ダレンの心は穏やかではなかった。ダレンの想像をはるかに越えることが起こった。今までこの世界では、ダレンがあらかじめ知識として知っていることが起きていた。それ故に、知らないことが起きると、対処ができない。知識というものは、恐ろしい。

 

「しかし、起きないな」

 

「えっと、マリさんって、もしかしてお兄ちゃんが前に言ってた女の人?」

 

「そうだよ、わけがわからないよ」

 

「まだ、起きないね」

 

 そう言ってステラがマリに触れようとした時、マリがピクリと動いた。まるで、なにかに反応するように。

 

「う……ん、あれ、今何時だっけ……」

 

 マリが起きた。ダレンは動けずにいた。何を言えばいいのか、何をすればいいのか。頭の中がグチャグチャで思考がまとまらない、身体が動かせない。ステラが何か言っているが、それさえも聞こえず、反応できない。

 

「ここは………………あ、ダレン?」

 

「あ、あ、うえ」

 

「ダレン……だよね?」

 

「あ、うん。久しぶり。元気にしてた?」

 

 我ながら、馬鹿なことを言った、そう思うことさえできなかった。彼の今の頭では、これが精一杯だった。

 

「あれ……生き……てる……? わたし、生きてる!!」

 

 瞬間、マリがダレンに抱き、そして泣いた。まるで、あの日から今までの泣けなかった分を消費するように。

 

「よかった、本当によかった。ダレン……心配した……」

 

 そこで、やっと本来の頭の回転を取り戻したダレンはやはり、おかしなこのを言ってしまう。

 

「えと、おはよう?」

 

「おはようじゃ……ないよ……」

 

「確かに、朝じゃないよね」

 

「ステラ、意味が違う」

 

「う……ぐすっ……ひく」

 

(どーしたもんかなぁ……)

 

 マリが泣き終わるまでに、十五分はかかった。その時間はダレンにとっては永遠のように長く、しかし一瞬の出来事にも思えた。

 

「落ち着いたか? マリ」

 

「うん、なんとか」

 

「うわ、肩のところ濡れてぐちゃちゃだ……」

 

「すんっ……ごめんね」

 

 一時の落ち着き、だがダレンには確認しなければならないことがあった。彼の罪に関することを。

 

「本当にマリなんだよな」

 

「うん、わたしだよ」

 

「でもあのとき俺はっ……」

 

 ダレンのこの世界での最初の罪。忘れることのできない忌むべき記憶。いや、ダレンは自分で忘れない。忘れることをよしとしない。そのことは、何をしていてもダレンの後ろに付いてまわる。

 

「大丈夫だよ、ダレン」

 

 マリは優しくダレンの両手を包み込んだ。

 

「確かにあの時は痛かったし、苦しかったし、悲しかった」

 

 でもね、と一呼吸。

 

「うまくは言えないけど、ダレンだって、痛かったし、苦しかったし、悲しかったはずたよね。おあいこだよ。だから、気にする必要なんてない。それに、今こうしていられるのことがわたしは嬉しい。お母さんとお父さんを殺した人は許せないけど、でもダレンまでいなくなるともっと悲しいよ」

 

 そして、きゅっとマリはダレンを抱き締めた。

 

「あの、すごい言いにくいんだけどさ」

 

 見ている光景に耐えられなかったのか、今まで完全に蚊帳の外となっていたステラがおずおずと切り出した。

 

「マリ……お姉ちゃん、だっけ。その……服着ないの?」

 

「「……あ」」

 

「二人とも忘れてたんだ」

 

 そもそもマリは自分が服を着ていないことすら気がついていなかった。ダレンは頭が混乱しているうちに忘れてしまっていた。そして、導き出される答えはただ一つ。

 

「や、や、や」

 

「ちょっ、マリ落ち着け!」

 

「ダレンのヘンタイッ!!!!」

 

 ダレンは体が一瞬にして宙に浮くのを感じた。そして、思いきりベッドに叩きつけられていた。

 

「ダレンのエッチ、スケベ、何でこんな時にっ!?」

 

「いや、わかりません」

 

 何か着るものはないかと探したマリだが、そんなものは無かったので、ベッドのシーツで妥協した。それを体に巻いたマリは、顔を赤くしてうつむいてしまった。

 

「…………でも、こんなこと前にもあったよね」

 

「あー、うん。あの時も背負い投げされたっけ」

 

「ところで……その女の子は誰?」

 

 マリが指差すのはダレンの隣にいるステラ。

 

「あぁ、ステラって言ってフッケ……」

 

 この時、ダレンはまた思考が停止してしまった。まず、自分が犯罪者集団にいることを、今まで自分の行ってきた数々の殺戮をどう説明すればいいのか。

 

 そして、マリにとっての敵であるサイファーとの関係を。

 

 平穏とは所詮一時であり、すぐに波乱へと誘われる。




アドバイス、感想などよろしくお願いします。


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