俺、FWなの? (匿名で)
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プロローグ

 

──────あの頃は良かった。この頃は良かった。

 

 なんて言葉が日本にはある。社会人はこの言葉を学生の頃を思い返し使い、学生はたかだか数年前頃を思い返し発する言葉。

『若い頃は良かった』そんな言葉は時に両親から聞き、俺自身も「昔は良かった」なんて若い事を言う。

 

 先程から何故この様な昔話というかタラレバと言うか愚痴となる物を考えているのには理由がある。と言うのも、俺は春から進学し高校1年生となった。偏差値は普通の普通の公立高校。

 受験に無事晴れて合格した身として、そして今から始まる『高校生活』となる物に俺は胸を高鳴らせていた。あー友達出来るかな。『部活入ろうかな』勉強めんどくさい。と最初はこんな期待をしていた。

 けれどそんな期待が保ったのは最初の数ヶ月だけ。今じゃ薔薇色の高校生活なんて物には別れを告げて、吐いた息が白くなる様な学園生活を送っている。先程述べた様に最初は楽しかったのだ。友達も普通に出来て勉強も嫌々する。

 

 そう。中学生の頃と変わらない怠惰で退屈な日々が1ヶ月ほど続いたある日。俺は魔が刺してしまったのだろうか。──────とある出会いをする。

この出会いが吉と出るか仇となるか。そんなもん最初に分かるわけがなかった。

 

──────けどそれが俺の灰色の高校生活に色を与えてくれる様な気がした。

 

 

 

 

 

 

 

「パス! パス! ドフリーだって言ってんだろ!?」

「いや、ポジショニング悪いってお前。てか出したとこでお前なんか出来んのか?」

 

 どこかで聞こえる努声、喧騒。ここはとても賑やかな場所の様だ。こんなとこ早く抜けて家でゲームしてぇ。ここはとにかく騒がしい。今は先輩が日課の喧嘩をしてるし、別の場所では「ナイシュー!」「ゴラッソ!」とか言う嬉々した声も聞こえて来る。こんなうるさい場所でも自分の思考力には驚愕する。今じゃこの環境、サッカー部にも慣れ己の煩悩に思考を割いている。まぁ今でも先輩同士の喧嘩は怖いのだけれでも。

 

 

 ……ここは公立高校サッカー部。部員数は数百を超えそれなりの強豪らしい? 何故疑問系かと言うと俺も分からないから。春に入部し成り行きのまま来て現在、冬。俺は春にした選択を後悔しかけていた。そう。俺が薔薇色の高校生活にする為にした事が1つ。部活動入部。小中でのスポーツ経験、習い事をしてこなかった俺はアクションを起こした。

 

 

 『サッカー』それは210を超える国から愛される代表的な球技スポーツ。世界で最も人気があるスポーツと言っても過言ではない。(Wikipedia参照)

 

 そんなありふれたスポーツを俺は軽い気持ちで始めた。小さな頃から興味もないが聞いた事のあるスポーツだったし、幼き頃は夕日を見ながらボールを追いかけた俺だ。(遊び)そんな国民的スポーツに興味が出ない訳ない。……あとほら? ね? サッカー部てなんかチャラついてて楽しそうじゃん? 彼女の1人や2人くらい出来るか。……そんな浮ついた邪で曖昧な理由で俺が始めたサッカー人生。

 

 

 

「クロス行ったぞ!」

 

 

 そんな早口と同時に飛んで来た球体の名はサッカーボール。サッカーは点を入れたら勝つスポーツだ。実に分かり易いスポーツ。コンマ数秒で点は入り試合は動く。その数秒を考える暇なんてない。考えるより先に俺の身体は動いた。足を精一杯伸ばしボールに足を当てに行く。横から飛んで来たボールが前方に動き出した時、俺のゴールは確定した。倒れ込みながらのシュート。華がなく泥臭い。けれどサッカーと言うのはボールがゴールに入れば良い。俺のシュートはキーパーの意表を突いた。相手ゴールキーパーはピタリとも動かず俺のゴールを見送る事しか出来なかった。……これがノーチャンスて奴か。

 

 

「ゴラッソ」

 

 

 俺の一言が空を舞った。ゴールを決めた主人公に来るのはチームメイトの拍手喝采かそれまた興奮した俺の雄叫びか。……それは時間が解決してくれるだろう。

 

 

 

 

 

 

 

「ピピー。お前オフサイド」

「ラインちゃんと見ろって。俺、お前の後ろの奴狙ったんだけど」

「まぁまぁ。元々あんな速い球、俺は合わせられなかったし。ナイシューじゃん」

「「「ナイシュー」」」

 

 

 ……とまぁ。俺の実力がわかっただろう。サッカー歴半年。技術、知識、身体能力、部活内ヒエラルキー最下位。

 

こうしたからかいも、さっきの先輩の日課の如く当然になっていた。

 

「うっさいじゃぼけ! 合わせられたからゴールじゃ! キーパーも見送ってたし」

「いや、ギリオフサイやと思って見送ってた」

 

 と相手ゴールキーパー苦笑い。結論言うと、俺の根性入れまくったダイビングシュートはオフサイドで1点にはならず敵からは情けをかけられていたのだった。

 

「アレやなお前。ようあんなボール決めるわ」

「確かにあれは反応出来んて」

「お前部活で1番下手やけど点は決まるよな」

 ようやく俺の凄さが分かったのか。チームメイトは褒めて来た。いや馬鹿にしてんのか? 俺は起き上がりユニフォームに着いた砂埃を叩いた。

「「「ナイスダイビングシュート」」」

 

 やっぱり馬鹿にされていた。

 

 

 

「全体集合!」

 

 げっ。と言う言葉が似合う気がした。その人物が発した言葉と共にさっきまでの喧騒は静まり返る。監督からの号令。これを聞いた者は例えオフサイドゴールで浮かび上がっている状態でも集合しなければならないし痴話喧嘩をしている先輩も例外ではない。この瞬間は脳内がピリつく。煩悩は消え監督からの恐怖で俺は真っ先に移動し、監督に萎縮し硬直し恐怖し次の命令を待った。何十人と人が集まってくる。サッカー部総勢数百。その中で俺はとても小さく感じられた。

 

 

 

「……。全国大会へのスタメン及びベンチメンバーを発表する。今年もこの季節がやって来た。大会まで残り少し。発表された者はその自覚と誇り持ちサブメンバーは上級生、下級生関係なくサポートする様に。

ではメンバーを発表する」

 

────────────────────────────────

 

 

 

 

 

「あーさむ」

「それな」

「帰りコンビニ寄らね?」

 

 時と場合は変わり部活終わりの放課後。

 俺はサッカー部2人と帰路に着いていた。無意味で発言が皆無な様な軽い駄弁り。この時間にメリットがあるとしたら教えて欲しい。けど『こんな物が』青春。と言ってしまえば納得出来た。数年かそれよりも先か分からないが、能動的に勉学に励み、若かりし事のスポーツ経験に友達と過ごす放課後。これら全ては時々辛く楽しかったりする。この帰り道も習慣になったな。と考えられる程俺は今の生活に慣れてしまっていた。

 

「コンビニ別にする事ねーじゃん。それに金の無駄遣い。俺カラオケ行きたい」

「うわー。コンビニより無駄遣いじゃん。ブーメランて知ってる? で、どこの店行く?」

 

 耳が何故2つあるのかわかった気がした。どうでも良い事は片方から通り抜けて、もう一つの穴は聞きたい話を聞く為。奴らが上げた話題にどちらかと言えば後者だ。

 

「コンビニの横は? 安いし持ち込みOKでドリンク飲み放題」

「お、良いなそこ。ファミリーチキンと唐揚げくん買お」

「いや両方チキン。てか二つは店舗違う」

「はぁー。何言ってんだお前は。俺達『公立高校サッカー部』は練習終わりに栄養補給必須」

「あー、一応そっか。なら家帰って飯食えよ。愛しのお母さんがお前の帰りを待ってるぞ」

「母さん料理よりコンビニ飯が美味いのが悪い。それに部活終わりの遊びの誘惑! ここで家帰ったら俺は高校生じゃないねぇ」

 と言って、奴は俺に肩を回して来た。辞めろ汗臭ぇ。暑苦しくもある奴の誘いはうざったくはあったが嬉しさもあった。自然と頬が緩んだ。

 

「で、お前はどうする。期待の一年生さん?」

 

 

 からかいとも取れる薄い笑み掲げ奴は聞いた。この声を聞いて俺は今日あった出来事を思い出した。

 

 数時間前の部活。そこで確か大会でのメンバーが監督から発表された。3年生、2年生、が多く名を連ねる中、上背の奴の名前は呼ばれた。一年生ながらの抜擢。俺を含む大衆はそれに驚きを感じた。上背のコイツは「はい」と堂々と返事したのだった。

 

 

「揶揄ってんのか? 俺ベンチでセンバの変わりいねーからの補欠補完。背があるってだけで好きなポジションやらねーし」

「いや、ごめん。素直に凄いと思ったからなぁ。ベンチだけど一年で選ばれたんお前だけじゃん? 俺ら2人はベンチどころか人手不足の副審か女マネが役割じゃん」

「男子マネージャーて略して何て言うん? ダンマネてあんま聞かん気がする」

 俺は女マネて言いやすいなぁー。とジェンダーレスの時代に偏った考えしか持たず適当に話を合わせていた。そんな俺を

「コイツ。高校生活の部活の役割が女マネで良いって。ん? 女マネが良いのか? でもうち可愛い子居なくね?」

 

 前言撤回とまでも行かなくなくとも奴の発言は失礼極まりない事だった。やだぁ。奴とは距離取ろう。俺は女子に嫌われたくない。

 

「はは。まあお前らも頑張れよ。俺も頑張るからさ。2人がダンマネで良いってなら話は別だけど」

「はぁー? 俺達は『公立高校サッカー部』だぜ? このままサッカー以外の事でサッカー人生終えてたまるか。よし決めた! 俺は高校一のウィンガーになる!」

「俺もセンバじゃなくて、やりたいポジションで点を取りたい。俺はとりあえずトップのレギュラー目指す」

 奴は無邪気な笑顔で目標を掲げ、上背なコイツは爽やかな笑顔で目的を叫ぶ。各々の意見を言い合って満足したのか2人の目線が俺に回って来た。

 

「でお前は? このままサッカー部でサッカー以外の事をするのか?」

「それで満足なのか!?」

 

2人は冗談混じりに揶揄いながらも俺の答えを待つ。俺はそれにこう答えた。

 

「うーん。わかんね。でもとりあえずは」

「「とりあえずは?」」

「試合に出たい」

 

 俺がそう言うと。彼等はため息混じりに肩をすくめた。外国人が良くやりそうなジェスチャー。勝手なイメージだけど。なんだか2人がするそれはうざかった。

 

「正直、同情するわ」

「同感。サッカー歴半年で始めたのが高校生。基礎が出来てなけれゃあルールも曖昧」

「「お前よくサッカー部入ったな」」

「うるさいわ。自分でもどうかしてると思ってるよ。でもさ、ある日お前らみたいな奴が夢中でボール追いかけてるとこ見たんだよ」

 

 

 そんな恥ずかしい俺の言葉と共に沈黙が流れた。あれ、なんだろ。皆んな目標やら何やら言っていた空気じゃない。辞めろこの時間。こっ恥ずかしいじゃないか。心なしか余計に肌寒くなって来た。

 

「よし。俺も決めた。俺は試合に出てゴールを決める!」

 

 沈黙が耐えきれなくなって俺は夕陽に叫ぶ。ゴールを決める。ただそれだけなのにそこには強大な壁がある事ぐらい俺も少しは分かっていた。だからこれが俺のサッカー人生の目的であり目標であり夢だ。俺にはまだ彼等の様に強烈なサッカーへの情などない。けれどゴールを決めたい。それは俺の中で確立した考えだった。

 

 

 

「おー、その意気だ」

「ゴールて事は俺は2人をアシストするクロサーで」

「早いの頼む。出来ればフライの方で」

「OK。でお前の分は早くて低い弾道な。よ、未来のツートップ共!」

「はは。まだ気がはえーよ。3人でのホットラインな」

「パスとドリブルは俺に任せとけ。理想はお前がタメ作って、抜け出しは」

「……俺?」

 

 

 ぶわぁと笑い声が響く。「お前が点取るとか想像出来ねー」とか抜かしやがる。馬鹿野郎、今日、点取ったろ。……オフサイドだったけど。しかしここで俺にある疑問が浮かんだ。夢や目標を語り合った仲だ。分からない事は詳しい人に聞くのが良いだろう。

 

 

 

 

 

「俺、FWなの?」

────────────────────────────────

 

 

 

 

 

 機器たちが並びこの場所は薄暗く、広いのか狭いのかが分からないそんな場所に男は居た。大きなモニターの前に位置し映し出させている映像を淡々と事務的にそして機械の様に観ているこの男の脳内は不明だ。

 

 

 ただ映し出されている映像は汲み取れる。ディスプレイ、モニターが数々と並びその映像の内容はどれも似たよった物。この膨大な数の物をよく集めた物だ。男はそれをただ観ている。

 

 

「よくまぁこれだけの数集めましたね」

 

 男の頭上から聞こえた高い声1つ。どうやら若い女の様だ。

 彼女の声音には驚きと呆れの二つが混じっている様だった。

 

 

「国内トップリーグの全試合に留まらず、まさか全国の高校生サッカーの試合も観戦とは……。放送局や資金な事に目をやると頭が痛くなりそうです」

 

 

「しかも非公式の紅白戦、部活、クラブ内のミニゲームまで……」

「馬鹿言うんじゃないですよ。デカパイちゃん。国外の試合もフットサルの試合も観てるわボケェ」

「デカパイ!?」

 

 

 男のセクハラめいた発言に女は驚愕する。セクハラと暴言にも驚いたがこの男がしている仕業を。国内のプロサッカーの試合だけで数は50を軽く超える。それに加え国外のサッカー、フットサルともなると何百時間の試合や【サッカー】の映像をこの男は観てきたのだろう。帝襟アンリ(彼女)は男の持つ狂気じみた(サッカー)に感心した。

 

 

 

「お、3分経った。ま、これ観ながらだと冷え冷えの伸び伸びカップ麺になるんだけど」

「いくら仕事と言えど食事中は控えられては? それに今日それが1食目ですよね?」

「うるせいわ。だから太るんだよボール娘が」

「貴方て人はサッカー以外でどうやって生きてきたんですか……」

 

 男、絵心甚八(えごじんぱち)はカップラーメンを啜りながらも作業を辞めない。そんな彼の醜態を見て彼女はため息混じりに問う。

「高校生FW300人を集めたこの企画(ブルーロック)。選考も大詰めですね。……今日は居ましたか才能の原石(FW)は?」

 

 

 彼女の問いの後、幾分の時間があった。沈黙とも言えるその時間に彼女は緊張感を覚えた。固唾を飲み絵心甚八の答えを待つ。

 

「アンリちゃん、FWの役割て何だと思う?」

「……え? えっと、前線の守備、身体能力、テクニック、……エゴ?」

「それもそうだけど。そうじゃない。サッカーに置いてFWに1番求められるのはゴールだ。前線の守備? 身体能力? テクニックにエゴ。どれも素晴らしい要素だと俺は思う」

「じゃあ、なら!」

「【サッカーは相手よりゴール奪う競技】だ。だから試合の円滑さや不平不満が出ない様にオフサイドなんてものがある」

「えーと、つまりどういう事ですか?」

「だからどんな形であれ【ゴールを決める】それがFWの仕事。派手なドリブルで相手を抜くのも結構。だがワンタッチでゴールを決める方がFWとしての効率は遥かに良い」

 

 絵心はそう言って端末を動かし、あるサッカー部の練習映像を帝襟に見せた。それを見て帝襟は困惑した様な顔でそれを見た。

()ですか? あ、すぐロストしてる。パスも力任せの適当蹴り……」

 

 帝襟はこの映像を見て更に困惑した。未来のW杯を担うFWとしては些か力不足。一言で言うと初心者。と言うのが印象だった。

 

「公立高校サッカー部。それはそれは強豪。全国の常連にコイツは在籍している」

「勿論、学校名からここのサッカー部の実績は知っています。有名ですから。しかし、彼を選ぶのなら他にも居たのでは? それこそ1年で全国大会に選出された長身の彼、快速のウィンガーにも魅力的な選手はこの部には居ます」

「アンリちゃん、これ見てみろ。コイツが今日の練習でしたミニゲームのゴール数は5ゴール。ワンゴールはオフサイド。センターフォワード(CF)として大役はこなしてる」

「彼、FWなんですか? え、サッカー歴半年でゴールを? 例えそれが練習だとしても」

「ああ。強豪でこの結果だ。奴らは良い買い物したんだろうな」

 帝襟の疑心が変わっていく。映像を見るにこのプレイヤーは初心者だと確実に分かる。けれどゴールを決めている。それも強豪チームでプレー歴半年でありながらだ。サッカーと言うスポーツは育成年代が組まれる程、幼少期の頃の教育が大事で、高校生でサッカーを始め活躍するのは一握りだと聞く。帝襟は不安は消えて行き、ゴールシーンを振り返って観てしまっていた。

「全部、……ワンタッチ」

 

 絵心はその呟きに表情一つ変えずこう答える。

 

「有名な話だ。あるスター選手が居た。彼は若かり頃はそのスピードとテクニックで相手を置き去りにしていく快速ウィンガー。しかし年を取るにつれそのプレースタイルに変化が訪れた。相手を派手に抜き去る華麗なプレーから中央に位置し、ゴール前にいるストライカー(・・・・・・)となった男はシーズン通しての二桁得点を量産。……何もドリブルを否定してるわけじゃない。ただドリブルに割くスタミナと時間をゴールに直結しただけ」

「つまり()のプレースタイルは【ワンタッチゴーラー】」

「そうゆう事。半年でコイツは自分が何処に居たらゴールを取れるか見極めている。オフザボール、瞬発力、出し手の確認」

「……ブルーロックは才能を開花させる場所。彼に足りない物を合わせたら」

「コイツはゴールを決めるだけにプレーするセンターフォワード(CF)になるだろうな」

 




読了ありがとうございます。
出し手がいたら活躍する主人公なので蜂楽君や氷織君と相性良さそう。


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1話

『拝啓、お母様、お父様、お元気にお過ごしですか。

 私目は山奥にあるこの刑務所の様な場所での監禁を余儀なくされ娯楽と言った物もなく自分を律する規則正しい生活を送っています。辛うじて食事、睡眠等などに支障はなく今、1番の困り事は性よ……』よし辞めよう。こんな気色悪い文通を送ったら家族から絶縁されるかもしれない。まぁ、この環境、施設(ブルーロック)に強制送還される直前の母の記憶は「あー、あんた怠けてばかりだから良いんじゃない?」だった。解せない感情もありつつ、自分のだらけきった生活が浮き彫りになり、自分の不甲斐なさに気付けたこのブルーロックは自己啓発所とかセミナーとか宗教関連の施設なのかも知れない。あ、最後に見た父親の記憶は背を丸めたスーツ姿の後ろ姿だったなぁ。と軽く考え心の中で敬礼しておく。まぁ何が言いたいかと言うと

「センタリング行ったで!」

「マーク! マーク! て、早っ!?」

「ドンピシャ」

 右側。やや後方から放たれたボール。相変わらず凄い軌道してんな。俺はそのアシストに足を出すだけ。前傾姿勢からの足での飛び込み。俺は勢いに逆らえずボールごとゴールに飛び込んだ。相変わらず

「ゴールへのパスはシュートと呼ぶ。お前のは味方への殺人シュート(アシスト)やぞ氷織(ひおり)

「何いーうてんねん。良いシュートやったやろ」

「センタリングてのはなんなんだったんですかね。お前シュート打つ時、自分でシュートて叫ぶ奴なんか?」

 俺がそう言うと氷織は腹抱えて笑い出した。

「ははは! そんな馬鹿な奴おらんわ! シュートてもんはドフリーの時に打つもんやて。それ自分からアピールするなんて阿呆やろ」

「それ小学生の頃やらんかった? 必殺ナンチャラシュートて叫ぶ奴」

「それやったわ。未だにパス技が存在せんの解せん。……まぁ、どうやった? 僕の必殺アシスト?」

「膝擦り剥いたわボケェ。まぁナイスアシスト」

「こっちもサンキューやでナイスゴール」

 そう言って氷織は掌を前に差し出してきた。俺はその意味を汲み取り力強く叩くのだった。

「握手ちゃうん!? 痛いわ」

「俺の膝小僧の痛み」

 

 俺はこのブルーロックに適応し始めていた。

──────────────────────────────────

 【ブルーロック】

 2018年W杯。サッカー日本代表は接戦、熱戦を繰り広げ日本中を歓喜の渦に包んだサッカーの祭典。ただ結果は決勝トーナメント敗退。ラウンド16となり日本代表の優勝は無くなった。そこで日本フットボール連合はある一大プロジェクトを始動した。それが【ブルーロック】。高校生FW300人をサッカーをする為(・・・・・・・・)だけの施設にぶち込み、己と己が頂点を目指し、脱落した者は未来永劫、日の丸を背負って戦う事が許されない地獄。

 

 急な告知に急な収容。通知書を馬鹿2人に見せたら「トレセンじゃね?」「それか合宿か」

「「まぁ、お前は大好きな家と何日間かのお別れだ!!」」

 と、ゲラゲラ笑ってきたアイツらを俺は許さない。家とのお別れは何日間どころではなく未だ現在、帰路の目処は立たない。こんな山奥で監禁され電子機器の全没収。脱走した所で自宅まで道が果てしなく遠い事ぐらいは分かった。……やってる事グレーじゃね? 年行かない若者を強制施設にぶち込む。国に訴えてやるぞこの野郎。……あ、国が運営しているブルーロックだった。

 今いる食堂もお国のお金だろう。ご飯と味噌汁がとても美味しい。食後にコーラとポテチが有れば最高だけど。人間の生活は簡単には変わらないんだなと適当に感じた。

「隣お邪魔。暇だしなんか話せよ氷織」

日一(ひいち)君はなんでブルーロックに入ったん?」

 食堂に居た氷織を見つけて隣の席に座り暇を潰す。娯楽と言った物もがないと人間は人を使って時間を潰すんだなとここの生活で学んだ。この生活は共同生活。寝床を共にし一緒に釜の飯を食う仲間も出来た。空いた時間は他の仲間と雑談交わし交流を深め、チームメイト10人の名前と顔ぐらいは覚えられた。そんな中で今、氷織が発した話題は深く喋った事がなかった。と言うのも。

「完全に絵心に話に夢中になった。サッカーをする為だけの環境。夢中になれる物を探してた俺が見つけた場所みたいだったから」

「なるほど。今はサッカーに夢中になれなくとも、やっていたら夢中になると?」

「ま、そうゆうこと。てかこの施設だぜ? サッカーが全ての空間だったら嫌でもサッカーの事考えるしかないだろ。けど、期間が無期限で共同生活で娯楽が無いなんて聞いてなかったけど」

「ま、そうやなぁ。僕もブルーロックでの生活に期限とか考えずに飛び込んだし完全にゲーム感覚やったわ」

「だよなぁ。でも俺はサッカーしてる時に【点を取りたい】だけ考えてる。だから絵心が言った世界一のストライカー論に納得出来るような気がした。日本で1番熱い場所てのはブルーロック(ここ)だろ?」

「せやな。299人の屍の上やし。最後の踏み台には日一君になってもらおかな」

「言ってろ。アシスト王」

「ストライカーにそれは最高に皮肉やな。今度からパス出さんで得点王。日一君の動き合わせられんのが僕なだけやで」

「ふ、これだから生粋のストライカーは困り者だぜ」

 俺の吹かした決め台詞に氷織は横目もくれない。箸を動かしご飯粒を摘んでいる。味噌汁を一口呑んで氷織は喋り出した。

「【合わせられんのが僕だけ】て意味わかる? 君の場合、毎回ポジションがオフサイドギリギリなんや。だから他の皆んながパス出したがらん」

「え、まじ?」

「まじ。初心者あるあるやなぁ。オフサイド分からん人。ゴール前に居たい=オフサイドや。反則ギリギリの人にボール出したくないやろ。日一君、一応サッカールール分かるやんな?」

 馬鹿野郎。俺はサッカー部だぞ。それにブルーロックはサッカー講義もある。人の学習能力を舐めちゃいかん。だからコイツに断言しよう。

「……えっと多分分かる。それよりも俺、皆んなから嫌われてんの?」

「沈黙が気になるけど言及しんとくわ。日一君は好かれてんで。初心者が居てくれて自分の身が安全やって」

 それ好かれてる嫌われてる以前に人畜無害と言うか無関心と言う事では? 見てろよ。いつか氷織含め見返してやる。

「京都人て嫌味多いらしいな。けど氷織、相談に乗って欲しい事がある」

「なんや?」

「【どうしたらもっと点が取れる】」

 俺の真剣な悩みに氷織は箸を置いた。手を顎に当てて考える仕草をし話し始めた。

「日一君のプレーは初心者も良いとこや。最初、強豪校出身て事で警戒してたけど蓋を開けてみたら、基礎やルールを理解しとらん」

「……言いたい放題だな」

「【けど君の強みはそこや】何をするか分からない不気味さ、出し手の意味を汲み取ったポジショニング。そこに走り込む貪欲さや一瞬でDFを躱す瞬発力や前線からの守備も出来るスタミナやなぁ」

「なんやねん、急に褒めるやん」

「褒めてないで事実や。君には良さはあるけど、まだ下手な部分の方が多いのも事実や。なんやねん今日のトラップは。ようやくバックパス覚えたけど。あと全ゴールがワンタッチて順序が逆や」

 氷織がまた橋を進めた。話していると消灯時間も近づいて来た。一先ずわかったのは俺のプレーは【予想できないプレー】。それは俺自身が初心者の部分がでかいがブルーロックで生き残るには大きな武器になる。あの強豪校出身てのもあるのか。

「氷織はあんのか自分の武器とか?」

「キック、パス、キープ力」

「即答」

「なんで自分の武器も分からん奴が人の武器が分かると思うねん。即答出来て当たり前やろ」

「それもそうか」

 

 氷織が味噌汁冷めてもーたとか呟いている。時計の針は進む。俺達は残ったご飯を掻き込みお盆を持って席から立ち上がった。

 

「まぁ、ともあれ君はジョーカーみたいなもんや。他のもんは学校名聞くだけで警戒してくんで。明日は宜しゅうな」

「了解。ミスせず堂々と。それが俺の初心者セオリー」

 

 明日はブルーロック始まっての勝敗戦の始まりだ。

 

 

 

 

 

 

 



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2話

 

──────その日、男は初めて痛感する。

 自分の弱さや無力さを。男は心の隅には少しの自信と驕りがあった。自分には才能がある。と言う小さなプライド。

【井の中の蛙大海を知らず】されど空の高さ知った。男にとってそんな日でもあった。己の実力、無知を知り男は青の頂点(ブルーロック)を目指す。──────これは日一京(ひいちきょう)が日本一のストライカーになる為の物語。

─────────────────────────────────

 

「本間呆れたわぁ。君、どこでボール蹴ってるん」

 俺はそんな呆れ声を頭上に感じつつ、俺はサッカーコートに大の字で寝転がっていた。肩で息をしながら、口からはぜぇぜぇ。と情けない吐息が俺自身だとすると情けない。

 

「……はぁ。どこって……。わかんね。つま先?」

「なんで疑問系……。まぁええわ。ドリブルにも色々仕方があるやけど個人差あるしそこは追々として。……日一君は本間日一君やわ」

「それ褒めてる貶してる? てかお前らが凄いだけ。パスだのシュートだのドリブルだの。あと何だっけ。ワンツー、無回転、ダブルタッチ、 メッシ、PKが凄いわ」

「その発言で日一君が凄くない事がわかるわ。あと最後の発言は信者に殺されんで」

 

 俺はそれに戦慄し直接かの如く起き上がった。まったく信者て言うのは。同じサッカーをして憧れを抱くプロなんだから負の感情を持ち出したらサッカーが面白く無くなるのに。……あれ? 俺、今良い事言った? 「なぁ氷織」と賛同を頂こうとした所で、ある球体が動いた。それすなわちサッカーボール(・・・・・・・)だ。

 

 

 

「ふざけんなよ!? 氷織! 今、肩で息してたところ!」

 俺は数メートル離れた所にいる氷織に叫んだ。……まったく俺達と言う生き物はサッカーボールが動いたらその後追う習性でもあんのか。そんなキラーパスを出した氷織は呟いていた。

 

「それ追いつけんの凄いわ。足の速さは普通やけどボールに対する執着凄いなぁ日一君は。がむしゃら守備にもそこは顕著に出てるし……」

 

 何やら彼は1人考えている様子。足の速さが普通なのは気にしてるんじゃボケェ。でも練習中やボールを追いかけている瞬間は、何だか脚が速くなったように、疲れを知らない身体になったかのように思える。それを氷織に聞いてみる。

 

「多分、それアドレナリンや。歩くだけでも脳から分泌される訳やから、サッカー中、日一君はキマッてるんやろ」

「なんだそれ。……薬物中毒みたいだな」

「え? そうやで僕達はサッカー中毒(・・・・・・)や」

「ひぇー、ブルーロック怖ぁ。中毒者の隔離施設かよ」

「実際そんな所やろ。君はまだ中毒じゃないと。尚更腹立つはぁ。半年でゴール決めて今のパスにも反応するし」

 氷織が顰めっ面を見せて来た。俺はそれを目視しつつ、足元のボールを脚でコロコロと動かす。足裏コントロールと呼ばれる物をして俺は氷織に再度質問した。

「氷織こんなんで上手くなれんの? 今んとこ対面パスとかボールタッチだけなんだけど」

「何言うてんねん。対面パスはインサイドキックの基本、トラップの基礎や。ボールタッチだって君が今してるそれも技術になる」

 氷織は「プレー中、君の中で足裏コントロールてのが選択肢になる。ボールタッチて言うのはプレー中どこで触るかていう練習にもなるんやで」

 と至極当然の様に正論を言う。ただ、人間の脳が悪いのか俺の脳が悪いのかどうしても単調な練習には飽きてしまう。俺は足元のボールを転がしながら考えていた。

「逆に君に質問や。日一君がいるそこはペナルティーエリア前。ゴールまでの距離はまだ20m。そこで君は何を考えてどうする?(・・・・・) 実践どうぞ」

 

 氷織は腕を組みゴールとそして俺を見た。さぁ、やってみろ。とコーチの様な眼差しで俺を見ている。俺は直感を信じゴール目掛けて、力一杯ボールを蹴った。

 

 

「それが君の今の実力や。状況はドフリーでゴール前ど真ん中。DFからの激しいマークやコースの切り、そしてキーパーも居ない」

 

 俺のシュート(前に飛ばしただけ)はゴールポスト横を過ぎ、滑稽にそして俺の無様さを笑う様に俺の元へ帰って来た。

 

 

「でもシュートは打ったしゴールポストも掠めた。試合だっていつもみたいに上手くいくって」

 

 俺は後ろ髪を描きつつ氷織に作り笑い(・・・・)を浮かべる。試合ではない状況で、フリーで、そしてキーパーも居ない状況でも俺のシュートは入らなかった。それが現実だと分かったから辛かった。

 

「確かにシュートを打った事は悪くない。けど日一君、君は何も考えずただがむしゃらに動いただけや。日一君も知ってるやろ。ゴールの大きさ」

 

 

 

 俺が下を向いているとボール1つ転がって来た。氷織だ。氷織は俺の横にボールを置きその先(ゴール)を見据えていた。

 「縦2.44、横7.32。それが120mにも及ぶコートのゴール(1点)や。相手ディフェンスにコースを切られた。ならボールを1つ分横に動かせば良い」

 氷織はアウトサイドでボールを横にスライドさせる。

「ゴールまでまだ遠い。ならボールを動かせば良い」

 氷織はボールを前に少し蹴った。

 

「ほら。地味で退屈な練習もこう言った時に生きる。ここまで来たら簡単や。【得点はゴールへのアシスト】」

 

 

 氷織がそう言い、蹴ったボールはカーブもせず高く飛ぶ蹴り方じゃない。インサイドでボールを前に押し出しただけ。

───ボールは綺麗に飛んで行きゴールに入った。それはまるで最も簡単なシュートに見えて、氷織羊の今までの努力が積み重なったシュートの様に俺は見えた。

 

「【止めて蹴る】サッカーの基本や。そこに派手なテクニックもスピードもキック力も関係ない。こう言った積み重ねが僕をレベルアップさせてくれんねん。日一君はボールをトラップする事に何を求めてるん?」

 

「……【ゴールを決める為】。シュートを打つ為。トラップする為に良いポジションにいる事。それまでの間、ゴールに直結出来る様な考えを持って。て事で合ってる氷織?」

 

 俺は氷織羊と言うサッカープレイヤーを見据えた。彼が言ったサッカーの基本【止めて蹴る】を体現している(・・・・・・・)プレイヤーが彼だと思ったから彼の答えが欲しかった。

「ま、及第点やなぁ。トラップにもワンタッチで相手を抜かトラップとかももあるしなぁ。それでも日一君はパス練やボールタッチに不満があるん?」

「ない。ごめん氷織。俺の態度が悪かった。試合ギリギリまで練習付き合って貰ってるのに」

「本間やで。優しいわ僕。京都人は嫌味だけちゃうやろ? まぁ、1人嫌味だけな奴もおるけど」

「あと暴言もやなぁ」と氷織は誰かのこと思い返しブツブツ言っていた。

 

 

 

「試合まで残り数時間。出来る事はやってると思う。日一君。サッカーに置いて一朝一夕で身につく技術なんて少ない。今日の試合は君の長所を生かしていこう」

「ゴールを決める。それが俺の武器だと思ってる。……試合勝てるかな氷織」

「それは日一君が決める事じゃない。試合を勝つのは君でもあって、僕や他の皆んなでもある。いつも試合を勝つ(決める)のは自分自身やで」

────────────────────────────────────

【ブルーロック】

 第一次選考。五棟からなるブルーロックを一棟55名から5チーム作り、ワンチーム11名のサッカー試合。公式ルールから乗っ取りオフサイドなどの厳密な規則も適用する選考。

 

 各チーム、他チームと全試合し勝ち点3、引き分け1、敗北0となるポイント制で上位2チームがこの青い監獄で生き残れる。

 最初の鬼ごっことは違いこれはサッカーの試合だ。純粋に自分の力、自チームのチームワークが試される選考と言っても良い。下位3チームの中に一棟の得点王がいればソイツ1人は生き残れると言ったエゴイズム。他者を蹴落とし自分がのし上がるのも良しとするルールに俺は一抹の不安抱いていた。

 

 

 

 

 

【フォーメーション 4-4-2】

 このフォーメーションはサイド、中央に人を配置し、古来から攻守共にバランスが取れたフォーメーションと言っても良い。中高でのチームにこれが多いのも頷けるし、氷織含め俺やチームメイトも反論はなかった。ただ問題はポジション決め。なんせ全員がFWなのだ。当然、意義が上がったりを繰り返し、最終的にはチーム、ブルーロックランキング最上位者。氷織羊によってポジションは決められた。

 

【FW氷織羊 FW日一京】

 

 

 

 開戦の始まりが近づくに連れて他チーム11名がピッチに入場して来た。先にピッチに居た俺達はウォーキングアップ、ストレッチをし入念な作戦会議を開いた。

 

『戦術は基本、マンツーマンで行こう。前線の守備は僕と日一君が走るから、近い人が近い相手に着く。僕達はまだまだチームワークが足りない。試合中、声出しは基本的にやっていこう』

『あぁ。でも俺にも提案がある。やはり俺達はFWだ。そこで俺達の本気のプレーが出来る。疲労や体力の問題からツートップはローテーションすべきでは?』

『うん。そうやなぁ。君の言う通り僕らは全員FW。慣れないポジションでやりにくさがある。そこは試合中、皆んなの意見を尊重しよう』

『分かった』

『皆んな相手チームの選手に詳しいなら今の内に確認しておこな』

『長身の奴は俺と同じ関東のユース所属だ。やはりコイツはキープ力が高い』

『高いキープ力に同じユースねぇ。……わかった。その人がトップに居ると考えても良さそうやなぁ』

 その時、俺は一瞬だったが氷織の強張った顔を見た。その事が気になり率直に聞いてみた。

 

 

 

 

 

「来よったで。僕と同じ関西ユース所属の性悪が」

 ゾロゾロと相手チームがピッチに入ってくる。11対11が揃った時に氷織は俺に話しかけて来た。なるほど。アイツ(・・・)か。

 黒髪に泣き黒子。名前を先に聞いておりその風貌は名前が人を表すと言った具合の雰囲気を醸し出していた。

 

 烏旅人(からすたびと)

 氷織と同じ関西ユース所属で長身かつ技巧。高いキープ力と観察力が高いと氷織に教えられた。強力な相手。自由な時間は与えてはいけない特別な選手(・・・・・)だと言えよう。そんなプレイヤーがこっちに近づいて来て話しかけて来た。その顔にはうすら笑みが浮かんでいた。

「何や。お前、また女らしい顔なったんちゃう? 筋力は大丈夫なんか?」

「容姿いじりしか出来ひんの? 幼稚な奴やなぁ。焼き鳥にして食ったろか? (とり)野郎」

「はっ、相変わらず怖いわ。同じ関西人通し仲よーしようと思って。……そっちは新しい友達の日一京か?」

 一抹の会話を横目で聞きつつ俺の名前が烏に呼ばれた。別に知り合いでもはないし、これから互いの未来を潰し合う関係なのだから挨拶も無用だろう。俺は軽く会釈をした。

「ご丁寧にどうも。ま、大した事なさそうで安心したわ。アンタ良かったなぁ。こんな優しい奴がいて。パスが良かったら誰でも決められるで」

「あ? 言っとけよ。僻みか? 自分が点取れからって。俺の抜け出しに氷織が合わせてくれてんだよ」

 

 初対面で妙にうざったらしい烏に俺は少し苛立ったのかも知れない。氷織の事もあったし何より俺のプレーが否定されている様な気がした。

 

「めでたい奴やなぁ。初心者が点取れる訳無いやろ。全部は出し手や。90点のプレーできる奴に10点のプレイヤー居たら100点や。お前もお前やで。ここで言ったら自己主張、エゴが足りんのちゃう?」

「10点て誰の事だ。もう一回言ってみろ」

 

【両チーム、各自ポジションに着いて下さい。試合開始まであと3分です】

 

 無機質の機械音が響いた。それを聞いた烏は踵を返して行く。俺は頭を冷やし、アナウンスの指示通りポジション着こうとした。その時、横から氷織の声が聞こえた。

「気にせんで良いで。あーゆう奴やし。けどプレーは本物や。冷静にやで日一君」

「分かった氷織。いつもみたいにゴール前に早いの頼む」

 

 俺がそう言うと氷織からの返答はなかった。その沈黙の意味に俺は気付いていた。けれどこれ以上聞いてしまえば自分が傷付くのが怖くて聞かなかった。この過ちをもっと早く気づけば結果は変わっていたかもしれない。けれど時は進む。

 

【試合開始まで10秒前。5秒前】

 

「お前のラッキーゴールもここまでや」

 ニヤリと笑う奴の顔。挑発を受けとり

 

 

kickoff!

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3話

 試合始まって5分。

 現在ボールは自チームDFの1人が保持している。ディフェンスラインまで相手チームに攻め込まられたが、味方が奪い返した状況。

 味方は相手チームのプレスをあっさりと交わし、氷織へとパスを繋いだ。

 

 うめぇ。とプレーに感激したかの様に口から溢れる。流石、全員FWのチーム。足元があると感じつつ、俺は前方へとランを始めた。氷織とのタスク。それは氷織が少し降りてパスをはたく。そして隙を見て俺へのロングフィード。ボールは現在、氷織の脚。行けると確信した俺はランから全力で前に飛び出した。

 

 一瞬、氷織と目があった気がした。

 けれどパスは来ず1回目の抜け出しは失敗に終わった。パスカットに成功した選手が前線にフィードを送る。

 

 それをアイツ()は胸トラップし反転。右足を振り抜いた。

 ゴール。

 それは最も簡単に試合に出場してツータッチ目で烏は決めた。

 

 スコアボードにでかでかと記録が載る。

 

「お、あれ入るんかぁ。キーパーもDFもザルやなぁ。その辺はお互い様か」

 

 と烏旅人はゴールが入って当然かの如く言う。続々と彼に寄って行くチームメイト。ハイタッチをし嬉嬉した相手チーム達の表情を見てこう思った。ゴールはこうも簡単に入るのだと。

 

 

 

 2回目の抜け出しはゴール前に飛び込むスピードを変えてみた。徐々にスピードアップではなく最初からの全力疾走。氷織にパスを要求した。しかしそのパスはカットされた。俺はまた後退し抜け出しの機会を狙う。ただそれだけ。ゴール前に居たら誰かがパスを出してくれる。そう考えていた。

 

 

 

 得点の合図がした。得点者、【烏旅人】。

 その記録だけがこの試合の全てだった。スコアは2-0。

 

 相手のゴールでは悔しさや不快感、自分の無力さをこの時覚えた。

 烏はスリートップのCFとして輝いている。心の中で何かが崩れ落ちて行く。違う。この試合、点を決めるのはこのチームの俺だ。

 【ゴールを決めたい】それだけ為に俺は個々に立っている。

 【点を取る】烏旅人にはボールが集まる。ただゴールを決めるだけなのに俺はそれが出来ない。この試合に置いて俺と烏旅人とは対照的だった。

 

 経過時間40分。45分の前半が終わる。このまま終わってしまうのか? ボールに一度も触れない(・・・・・・・・・・・)まま? そんなのは嫌だ。氷織、誰か俺にパスを出してくれ。

 

 瞬間、ボールセンターサークル付近で飛んだ。俺はそのボールに無我夢中で奪いに行った。

 

「おー、怖。初心者て力の入れ方分からんくて対応に困るわ。でも初心者おるからこのチーム弱くて助かるわ」

「ボールを寄越せ」

「取ってみろ。素人」

 

烏旅人VS日一京

 

 烏旅人と距離数十センチ。これならドリブルと言う間合いも掴めない筈だ。やっとボールに触れる。その一心で俺はボールだけを見る(・・・・・・・・)烏の身体なんて払い退けばいいその思いで俺はボールに突っ込んだ。

 

「あかんで。ボールだけ見たら。頭上げてピッチ全体を見な」

「黙れぇぇ!」

 足を伸ばすあと数センチでボールが脚に届く。

「!?」

「ほら相手の身体も見な」

 

 烏は俺に背を向けて(・・・・・)片手で俺を俺をブロックしていた。

 完全なるキーププレイ。俺はその大きな背と手を身体全体で押す。それでもびくともしない。体幹が強いのか。いや、俺の力不足も要因の一つだろう。この状況を振り返る。ボールだけ見、安い挑発に乗った俺の落ち度だ。何としてもボールを奪わなければ。チームに貢献しなければ(・・・・・・)! 

 

「お前らのチームの弱点は日一京(お前や)。プレーとか見ても分かる。お前だけ考えなしに突っ込む。ゴール前にとか関係なくボールに」

 烏は片手で俺をブロックしながらボールを少しずつ横へ前へと動かして行く。

 ファールにならない手の動かし方をコイツは熟知している。

 嫉妬、憎らしさを他所に俺は素直に思ってしまった。コイツは上手いと。

「ほら顔上げてみ。お前の非力さに痺れを切らして、お仲間がカバーに来てくれたで」

 そう言われて顔を上げてしまった。情けないが俺は1人では烏旅人に敵わない。でもサッカーはチームスポーツ。1人じゃ無理なら2人で! 俺はこっちに駆け寄ってくる氷織に期待を寄せていた。

 

「ま、流石に2人はキツいわ。と、なるとこっちに寄って来る相手選手1人。マークを抜けた味方1人(・・・・・・・・・・・)。ま、無難にパスやろな」

「な!?」

 

 そう言って烏は氷織がマークを開けた相手選手1人にパスを送る。そのパスは軽くて力が抜けたコンパクトな振りだった。

 ─────けれどそれが時にゴールに直結するキラーパスになる。

 

 

 

「ちゅーす。アシストあざーす」

 そう言って烏旅人のアシストは成立した。パスに抜け出した相手選手1人。スルーパス一1本で成立する2人のホットライン。烏旅人がボールをキープしパスを出す。乙夜影汰(おとやえいた)と言うプレイヤーの抜け出し。一瞬DFとの間合いを取って背後を取ったオフザボール(・・・・・・)。キーパーとの一対一。乙夜影汰は力みもなくその足を振り抜いた。

 

「ゴ〜ル。ま、3点目だからテンション上がらんけど。ナイスアシ。サンキュー」

「お前、良い抜け出ししとるわ。日一京。こうゆうのがオフザボールて言うや」

 

【3-0】

 スコア無常にも動く。こんな奴らから4点取らないと勝てない? そんなの無理だ。疲労と精神的支柱が無くなり膝から崩れ落ちる。その時前半終了を告げる音が響いた。

─────────────────────────────────

『どうすんだ氷織羊! ハーフで4点も取れる訳無いだろ!』

『そうだ! 最初から俺がFWに居れば良かったんだ!』

『……俺、脱落すんのか】

 

 前半終わりハーフタイム。ロッカールームに帰還した俺達の雰囲気は最悪だった。

 そんな中で俺は前半の醜態を思い出し唖然としていた。無意味な抜け出し、3点目に繋がるミス。このスコアになったのも俺のせいだ。自分の不甲斐なさ、無力さ無知さ知り俺は下だけを見ていた。俺が今まで点を取れていたのは練習だから。氷織、含めチームのパスが良かったからなのか。俺はそこに期待していた。

──────俺は他とは違う。点を取る事に才能がある。今日も俺の得点で勝てる。

 そんな楽観的で甘い理想を抱き、赴いた現実。俺は断言出来た。【このチームの弱点は俺だ】

 

 そんな事を気付いた所でもう遅い。俺の小さな自尊心は崩れ掛けていた。

 

 

「……後半は皆んなのポジションを変える。ツートップは変えん。ほんで僕はトップを譲らへん。……けど右に行く。左は左利きの君に任せたで」

「あぁ」

 

 俺はそれをベンチに座り無心で聞いていた。事実上の戦力外通告。俺はツートップから外れ右サイドハーフに移動。もう誰も俺から得点が生まれる事がないと宣言されている気分だった。

 このまま終わるのか? 何も出来ないまま? チームの足を引っ張って? そんなの嫌だ。────嫌だ嫌だ。嫌だ。

 

「下見てたら涙が溢れんで。泣く程悔しかったら結果だし。君にはその才能がある」

 

 涙で滲んだ視界に映る、床からの一足のシューズ。氷織だ。彼の言う通りだ。サッカーは90分。前半で終わりじゃない。それなのに諦めてどうする。サッカーに置いて短時間で飛躍出来る能力なんて少ない。なら、俺は今の実力で勝負するしかない。顔を上げろと自分を奮い立たせる。俺にしか出来ない事がある筈だ。

 

「……悪い。氷織。他の皆んなも。けど後半からは気持ちを入れ替える。俺にしか出来ない事があると思うから」

「お、言うなぁ日一君。泣きべそかいてたのに。けどその気持ちや。試合で負けてる時に気持ちでも負けてたらどうすうねん。後半、点取りに行くで」

「分かった。他の皆んなにも言っとく。後半も俺は走るのを辞めない。そこにパスが来なくとも俺は走り続ける。それが今の俺に出来る事だと思うから」

「そうや。君のフリーランは少なからず効いてる。相手も急増のDFで君へのマークは基本、烏が着いとる。それだけ君が怖いって事や」

「なる程。なら尚更走るわ。初心者の武器見せたる」

 

【後半開始まで間も無くです。各自フィールドに戻って下さい】

 

 アナウンスと共に俺達は歩いて行く。

 ゴールは遠い。それでも俺は進みたい。ゴールへと。

 後半で辿り着ける境地はと俺は走り込む。

────────────────────────────────

 

 

 後半開始の火蓋が開かれた。

 キックオフを行うのは烏旅人が率いるチーム。CFの烏旅人は横パス。それと共に前線へと駆け上がった。そのファーストアタックに烏旅人率いるチームが続く。ウィングの乙夜影汰や錚々たるメンバー。

 

 氷織羊が率いるチームは3-0で現状負けている。それを知っているから皆、全力で戻り全力で守備をする。後半とはまるで雰囲気が違った。いぜん、優勢なのは烏旅人チームなのだが氷織羊のチームががむしゃらにそれに喰らいついて行く。

 

──────シュートをされたら複数人でコースを切り、時には身体をぶつけに行く。

──────特別な選手(烏旅人 乙夜影汰)には数の力で。

 

 前半が終わり後半。彼らに特別な力が宿った訳じゃない。ただチームの気持ちはただ一つ【負けたくない】。此処に居る者全てサッカーに焦がれている。このブルーロックで負ける即ち()だ。負けたくない一心でチームも日一京も走る。

 

 

 

「なんやお前ら。ボールに集まりおって。なんか団子サッカーやなぁ」

「お、何だ? 焦ってんのか? 前半よりシュートも減ったしアンタもロストする様になったな」

「はっ、負け犬遠吠えか? 負けてたら何も言い訳もつかんで。初心者(へぼ)

「失う事ももうあんまないんだわ。負け犬の遠吠えさせろ。ほら遠吠えで仲間が寄って来たで」

「ちっ」

 

 烏旅人とのマッチアップ。当然、今の俺が彼からボールが奪える訳がなく、キープされてパスを出された。ただそれはバックパス。確実に相手も前半より上手く行かない事に焦ってる。

 

 俺はヘルプに来てくれたチームメイトに礼を言いつつ、スコアを考える。3-0。サッカーをしていてハーフ(後半)で取り返すには途方に難しいスコア。俺も皆もこの試合は勝てないかもしれないと思ってるかも知れない。──────けどまだ諦めていない。前半では醜態を見せて嫌な気持ちだけが残った。その理由はすぐ分かった。【俺がサッカーが好きだから】。だから諦めたくない。俺は走り続ける。

 

【後半30分】

 

 計75分の走力でピッチに立つプレイヤー達に疲れが見えてきた。荒い呼吸、膝に手をつく者。────それでも俺はプレーを辞めない。疲れ? 初心者? ミス? もうこの時、こんな考えはなかった。

 

【点を取る】ただその一心で疲れる守備もし、得点の為にボールを繋ぐ。

 

「パックパスで良い! 取り敢えず繋いで行こう!」

 

 チームメイトの鼓舞で自分を奮い立たせる。現在ボールはチーム保持。後半もあと少しで終わる。これが最後の攻めかも知れない(ワンプレー)。後方からのロングフィードに俺達が(・・・)走り出す。後ろはもう見ないその先(ゴール)だけ見据えろ。俺の脚は止まらない。

 

「インナーラップ!? サイド奴、気を付けろ! 凄い勢いだぞ!」

 

 インナーラップ(中央へ)。このポジショニングがそう呼ばれるのを今、知った。サイドに居るのに中への上がり。その動きは考えなし咄嗟に出来た動きだった。【俺はゴールを見てる】そこへの道標にFW、MF、DFの壁がいつも立つ。

 

──────ならその壁の外側へ

 

「な!? 何やってる! 何でSB(サイドバック)とCBがそいつ1人(・・・・・)に釣られてる!?」

 

──────見えた。【ゴールへの道標】

 元はCF(エゴ)の俺がお膳立てしたコースだ。決めろよ氷織羊。

 

 

 

「ほんま君は良い走りを(オフザボール)をする。感謝するわ日一京(ストライカー)

 

──────あぁ。キックが上手い奴がシュートが下手な訳無い。俺は氷織羊の脚に【ゴール】を託す。

 

 

 

 

降り抜け右足(ふりぬけみぎあし)

 

 そのシュートは弧を描くようなカーブでもなく、ストレートで伸び上がるボールだった。チームの状況と氷織羊と言うサッカー選手の魂の入ったような軌道。

 

 ゴールまでの距離20メートル。

 氷織羊(ひおりよう)はニアハイをぶち抜いた。

────────────────────────────────────────

 

 

【試合終了 最終スコア3-1】

 

 結果から見ると俺達は負けた。チームでも俺個人としても今日の試合は完敗だったと思う。試合終了の笛を聴いたチームメイトの反応は人それぞれだった。ピッチに崩れ落ちる者。それぞれの功労を讃える者。

 

 唖然とし何も考えられなくなる者。

 

 俺は負けた。悔しい。何も出来なかった。涙と共に沸々とした思いが込み上げてくる。上手くなりたい。上手くなりたい。上手くなりたい。もう誰にも負けたくない。

 

「ナイス、デコイラン()やったで。日一君。泣くのはかまへん。けどその気持ちを忘れん時や。試合中、君へのマークは激しかった。それだけ、烏やチームに警戒されてた事やから。君はやっぱり良い走りをする」

 

 そう言って氷織羊(得点者)は去って行った。俺の頭には1枚のタオルが被さっていた。俺はそれで涙を拭った。

 

「泣いてんのか? これやから初心者は。これからその想い(・・・・)いっぱいすんで。まぁ、お前にオフザボールの才能があんのは認めたるわ」

「うっさいわボケェ。粘着マーク野郎」

 

 俺がそう言うと、烏旅人は軽い笑みを浮かべて去って行った。残り物に嫌味と勝者の余裕を見せて。

 

 

 

 

 

 

【日一京。初戦敗退】

 

 彼の日本一へのストライカーの道はまだまだ続く。彼自身もようやくスタートラインに立っただろう。

 

【ブルーロック】

 それは頂点を目指すストライカー達の監獄。日一京のサッカー人生は始まった。

 

──────【点を取るFWに俺はなる】

 

 敗北を知った日、日一京は高らかに夢を叫んだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




これにて完結!(終わるとは言ってない)

閲覧、お気に入り、評価ありがとうございます!

朝、見てニヤケが止まりませんでした。上記の事をした人は知らない人間がお風呂で雄叫び上げていると想像しておいて下さい。


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間話

 

 ゴシゴシと歯ブラシをスライドさせて行く。

 口の横は歯磨き粉の泡でサンドされていた。鏡には自分の顔が照らされている。

 

 時刻は早朝。ここ(ブルーロック)に来るまでの生活でここまで早い歯磨きがあっただろうか。いや、ない。断言出来る。ぼやけた視界と脳を起こす為、俺は何往復目かの歯磨きをした。

 

「そんな磨いたら血出んで」

 

 右方から声一つ。その人物は、俺と仲良く2人並んで朝支度している氷織羊と言う人物だった。

 

「うっせー。念入りに磨いてんだよ」

「の割に動きもトロくなってるよ。日一君」

 

 瞬きすると眼から溢れる涙。脳が覚醒しないのか。俺はまだ寝不足による弊害を受けていた。あー眠。

 

「眼閉じてんで。せっかくの朝練も出来んくなんで。ほな僕はお先に」

 

 そう言って氷織は、綺麗な顔をタオルで拭き朝練(・・)に向かおうとする。氷織の背からの俺は遠く感じられのだろうか。氷織羊と言う【上手い選手】。彼の1日は誰よりも早く起き、支度をし【サッカー】への時間に費やす。ここへ来て【上手い選手】の生活を知った。

 

 

 俺は急足で顔を濯ぎ、足早に氷織羊の背中を追い越す。

 

 

「はい! 俺の方が早い! 氷織、消灯は頼んだ!」

「ちょ! はぁ!? 明らかに僕の方が早かったやろ! パス練付き合わへんで。(デコイ)

「お前ぇ……。俺のポジショニングを利用しやがって」

「ふ、朝支度もサッカーもまだまだやなぁ日一君は。口に泡付いてんで」

 

 

 

 俺は歯磨きでもコイツに負けるのか。と節々思い、血が出るくらいまでは口元をゆすいだ。

 

 結局、消灯は俺がやった。解せぬ。

────────────────────────────────

 

 ブルーロック練習場。

 

 此処には最新のトレーニングマシーンやサッカー用具、サッカーコートまでもが揃っている。この環境設備に俺は今更ながら感服する。

 マシーンやコートを好きな時間に使えてそこで各々が自由な練習に励む。少し前まで俺では当然、享受出来ない環境。

 

 【ただのサッカー部員】だった俺が今は未来を目指し他者(299人)を蹴落とすFWなのだから笑える。サッカー歴半年。サッカーへの情熱も目標もない俺がブルーロック(此処)に来て何かが変わってしまった。【サッカーで負けたくない】【点を取るFWになりたい】それら全ての想いは今の俺が───サッカーが好きだからに直結していた。

 

 

 5対5のチームメイトで行う練習(試合)

 

 ペナルティエリア前。側面から来たボールに俺は飛び込んだ。

 

 

 

 

 

「はぁー、疲れた」

「お疲れ」

 

 練習での試合を何セットかし、現在は休憩時間。

 チームメイト達や俺は各々と時間を潰している。俺は給水の為、ピッチから出て脇で尻餅を付いていた。タオルで滴る汗を拭く。側にはチームメイト数名と氷織が居り、労いの言葉は氷織からだった。

 

 場の静まり。沈黙時は皆、自由に過ごしていた。俺はボトルに注がれた水を飲んでいた。あー沁みる。喉の渇きと体力を回復しつつ、俺は周囲を観察する。ピッチには足早に練習する者。近くには俺と同じで休憩中の奴。俺の目線の対面がピッチに写るチームメイトだから無意識に彼を見ていた。

 

「彼、上手いよね。テクニックは僕らの中で1番ちゃうかな」

「静のテクニシャンが何言ってんだ。……氷織でも人を上手いって思うんだなぁ」

 

 俺がそう言うと、氷織は水を一口飲みこう答えた。

 

「まぁサッカー歴は長いで僕。自分に無いもんは知り尽くしてる。上手い人にそう思うんやったらそれが気持ちや」

 

 

 氷織は何ら恥じらいも嫉妬妬みも無くチームメイトを称えた。

 俺は氷織羊と言うサッカー選手を少しは知っている。普段の生活習慣、練習への姿勢。サッカーに対するストイックさ。今日の朝練も誰よりも早く来ていた。朝の支度さえなけれゃ俺が1番だったのにと2番目の俺は氷織に少し対抗心を燃やす。

 

「氷織が思うに彼の強みは?」

 

 氷織は顎に手を上げ少し考えてから話し始めた。

 

「まず彼の強みはドリブル。全身の脱力は勿論、足首の柔らかさは彼の強みやなぁ。急な方向転換やターンにも秀でている。あとは純粋に足の速さやなぁ」

「そうだよなぁ」

 

 俺は氷織に賛同しつつ、氷織の観察力に感心した。氷織は上手いと思うプレーを事細かく分析し何がその人物の強みなのか、言語化出来るほど氷織は彼を見ている(・・・・)。氷織羊の圧倒的なパス技術。それはチームメイトの彼や俺らを含めた【受け手】を常に考えているから出来るプレーなのだろう。俺は氷織羊の技術、思考力に改めて感心し自分なりに彼のプレーを考えてみた。

 

「氷織は凄いな。一瞬でプレイヤーの武器を見出す。何か秘訣とかあるのか?」

「取り敢えずその選手のプレーを見ることやな。ボールのない時の動き、体形、試合中、声出してるとかは見てすぐ分かる。日一君の良い所は分からん事をすぐ聞く事や」

「何だよ。急に褒めるやんけ。そうだな。俺から見れば皆んな上手いから。自分の頭や技術で考えるより上手い氷織やチームメイトに聞くのが早い」

「事実を言っただけやで。そうやって素直に人に聞ける(・・・・・)事はサッカーに置いて上達の道や。恥ずかしい話、サッカー続けると自信がつくねん。それがやがてプライドになる」

 

 氷織はそう言って顔をしかめる。

 まぁ、氷織の言う通りなんだろう。自信と言う物を得るには、そこで生まれた過程(・・)がある。以前、氷織は言っていた自分の武器と言う物が彼等には譲れない技術(プライド)なのだろう。ドリブルが上手い奴、パスが上手い奴にはそれ相当の努力がある。俺はそれをブルーロック(此処で)学んだ。氷織は俺に人に聞けるのは美徳だと言った。ただそれは俺個人としてまだ問題を解決出来ない。サッカーの実力がないと繋がっていた。

 

 

 俺はピッチにいる彼のプレー脳裏に焼き付けていた。

 

「日一君は彼の強みは何やと思う? 次の試合の為の意見が欲しい」

 

 俺は口に出さそうか迷ったが、彼に感じたプレーを素直に口に出した。

 

「殆ど氷織と同意見。……ただ彼にはまだ武器(・・)がある。まずパスが上手い。ショートパス、ロングパスもバウンドなく綺麗な軌道で来るし、トラップがしやすい。けど」

「パスを出すのがワンテンポ遅いやろ? 僕も日一君と同意見やわ。彼にはドリブルて言う武器がある。けどそれに頼り切りで一人よがりのプレーが多い。1枚は確実に剥がせる技術があるのに」

「そうだな。俺は完全な【受け手】タイプだから分かった気がする。彼の1番手はドリブルで2、3人に囲まれたら2番手のパスを選択する」

「いくらドリブル技術があるからって2、3人はきつい。攻めも守りも必死や」

 

 

 俺と氷織が各々感じた事を言う。俺が思うに【氷織羊】と言う選手は完全なる【出し手タイプ】。抜け出し、ペナルティエリアでの密集地帯でのポジションニングをしている俺は2人のバス技術に一幕置いていた。

 

 感じた事を述べただけなので、氷織みたいに上手く言語化出来ていないかも知れないが俺は絞り出せる範囲で発言した。

 

 氷織はタオルで汗を拭出していた。そしてボトル起き、氷織は立ち上がった。

 

 

「この事は僕が彼に伝えとくわ。次の試合に勝つ為やし。けど驚いたわぁ。日一君が彼のプレーの武器、反対に弱みを知ってるなんて」

「生憎と初心者だから目が肥えてんだよ。俺の目には全員が上手いと思うから感じる事が多い。パスが上手けりゃそこに出す。ドリブルが上手いならこう動くとか。……気持ち悪いけど俺のプレーのイメージはお前らだ」

「……なるほど。君のポジニングの良さが分かった気がするわ。日一君は【共感覚】がある。聞きたいやけど君はフリーの状況を作る為に始めに何をする?」

「出し手……。パスやドリブルのアクションを起こす奴を見て、そいつらのプレーを想像して動く。俺が氷織なら此処にパスを出すとか考えて」

 

 

 

 俺等2人はもう立ち上がっていた。休憩時間も過ぎて行き、乾いた汗が冷たくなってきた。俺は足元のボールを転がしながら答える。氷織に伝えた様に俺の理想のプレーはこのブルーロック全選手なのだ。俺には氷織の様な圧倒的なキック技術がない。だからだ。俺が上手ければ、────そこに出す。氷織なら完璧なパスを出せると信じて走り出す。だがこの問題は

「……自己能力が低いから成せる能力(共感覚)。成る程。順序がデタラメや。フリーの状況を自分で作るんじゃなく作らせる。これは日一君の発想力の武器でもあるけど、弱点にも何で」

「それは自分でも思ってる。用は俺1人で通用しない事、もう1人のアクション待ちの選手に成り下がってるって事だろ?」

 

 

 氷織は静かに頷く。何か彼の考えがあるのだろう。こうゆう面を見ると俺はやはり試合中、アドリブで動く【直感的プレイヤー】。氷織の様な選手は【思考型プレイヤー】だと感じる。

 

 ともあれ俺の課題は山盛りだ。1人でどうする事も出来ない選手ではブルーロック(此処では)生き残れない。何から解決すべきか足りない脳で考える。俺は珍しく思考していた。

 

 

 

「日一君の点を取れる理由が分かって来たで。【共感覚による選手のプレーの予測】【日一君自身の技術力のなさから来る予測不可能なプレー】ゴール前に飛び込む気迫」

「……2つ目は貶してる? あー、でもさっきのゴールも前だけ見てた気がする」

「え、嘘? ボール保持者見ずにゴール()だけを?」

──────────────────────────────────────

 

 

 

 時刻は午後。

 

 俺達は今日、一次選考最終試合を終えた。【結果は2-1】の勝利。

 この塔での生き残りを賭けた運命戦の結果はグループ2位と言う結果で俺達のチームが勝ち上がった。最初の鳥野郎率いるチームへの敗退やドローでの試合はあった。しかし俺達は生き残ったのだ。(・・・・・・・・・・)心境と言えば何とも言えない感情だった。けど感情の高鳴りの様な物を俺は感じていた。

 

 

 もう後戻り出来ない所まで来たのだと実感する。……脱落した者の心境は俺には分からない。悔しいだとか、悲しいだとか。安直な考えしか浮かばず、俺はその事考えるのを放棄した。けれど俺の中で何かが変わったのは確実だろう。【上手くなりたい。負けたくない。点を取りたい】こんな想いが出るのは俺が【サッカーが好きだから】。サッカーの出会いで俺の人生は変わった。───そんなもん最初から分からなかった。でも今は感情の赴くままサッカーを愛し、この【ブルーロック】で勝ち続けよう。でも勝つ為には課題が山積みなのは明白だった。

 

 

 

「なにしけてんだよ!」

「そうだ! そうだ! お前も食べろ食べろ!」

 

 俺が珍しくノスタルチックに感傷に浸かっているとチームメイト共が肩に腕を回して来た。……2人も来るな痛い。

 

「自分のペースで食べるんだよ。あ、シューマイ貰い」

「てめー!? それは最後のシューマイだったろ! 俺のおかず返せ!」

「誰の提案で各自のおかずを共有しようて言ったんですかねぇ。あー、久しぶりの肉うめぇ」

「あ、察するわ。……お前チーム内最下位だもんなぁ。俺の肉まんあげる」

「何で中華縛りやねん。てかおかずが肉まんて。……お前も苦労してたんだなぁ」

「食べ物の恨みは何たらやなぁ。僕のお味噌汁も皆んな食べてええよ」

「氷織まじ? 白米におかず、汁物まで。俺、今度から食堂で恵んでもらおう」

 

 

 場所はチーム共有の相部屋。

 

 俺達は一次選考の祝杯会もと言い、打ち上げならぬパーティーなる物を開催していた。食事も持ち込みんでのどんちゃん騒ぎ。この部屋のムードは勝利一色だ。皆のテンションもハイになっている。その中には俺もいる。一言で言えば今の状況が楽しかった。俺達は生き残ったんだ。

 

 

 

 

 

「僕、おかわりとか貰ってくるよ」

「俺も付き添うわ」

 

 

 

 まったくコイツは私生活でもアシスト役なのか。と思える程の気の利いた動き。後でこのドンチャ騒ぎにコイツも入れよう。仲間間で生まれるウザさ楽しみを分けてやる。

 

 俺はそう思い氷織と共に食堂へ向かった。

 

────────────────────────────────────

 

 

「氷織は楽しめてんのか? 今も気を使いやがって」

 

 俺達はトレーに乗った皿やゴミなどを捨てていく。2人で並んでする作業にしては単調で簡単だったかもしれない。けど行きがあれば帰りもある。どうせチームメイト分のおかわりや飲料水を持って行くだろう氷織は。

 

「楽しめてるよ。僕こう言うの新鮮やねん。皆んなでご飯食べて皆んなで騒ぐ。関西のユース居た時はライバルも多かったし家でゲームしてたからなぁ」

 

 

 紙屑をゴミ箱に流し込みながら氷織は答える。

 

「あーじゃあ此処でも似た様な感覚とかあるのか? けど此処はサッカー命掛かってるもんな」

「そうやなぁ。ユース自体もポジション争いやきつい練習もあったけど此処は特別や。チームメイトとは運命共同体。サッカー命預けてる仲や」

「何だよ。変な情でも湧いたか? ……今日のアシストサンキュ」

 

 俺はそう言って氷織に拳を差し出す。所謂グータッチてやつだ。宙に浮く拳。数秒沈黙が流れて気恥ずかしくなって来た。

 

 

「はは。あれは日一君のゴールや。……そうやなぁ。命預けた仲間に情が沸かんほど僕は冷徹人間ちゃうで」

 

 氷織は俺の拳を握った。くそコイツこれじゃ握手じゃないか。

 

「氷織。今のうちに余裕こいてろ。こっからが俺のスタートだ。今はお前に使われる選手だけど、お前にパスを出させてやる。俺は使われる選手じゃない。────俺がお前を使う選手になってやる」

「はは。うん。ならそうなってもらおか。僕のプレーに考えに技術に身体能力。全てを僕の期待に応えてみてや。────僕に合わせられる選手になってや」

「俺に合わせろ」

「いや僕」

「……俺」

「……僕」

 

 

 

 両者譲れないプライド。あ、こいつ握手の力強めやがった。俺は氷織の手を握り返して答える。認めたくないが現状、俺は使われる選手だ。圧倒的技術(氷織)等の駒。俺はそいつ等のゴールまでに過程ままならない。【ラストピース】ではなく俺から組み立てが成立するストライカーへ。俺が氷織達にパスを出させるんだ。

 

「痛えわ! ハゲ!」

「君も意地固やなぁ。ファーストタッチも下手くそやのに」

「うっせー。点決めれたら良いんだよ」

「まぁ結論それやなぁ。現に日一君は(結果)出してるし。……でもこの先……一発屋では勝てへんで?」

「痛いとこを突いてくる。じゃあ今から練習付き合え」

「ええで。僕、合わせてあげんのは得意やねん」

 

 

 

 コイツ。俺に当たりきつい気がする。まぁサッカー漬けの1日の居残り練習に付き合う辺り氷織も俺も。

 

 ──────サッカーが好きなのだろう。

 

 

「氷織、俺は日本人で1番点を取るFWになる。今日の中で1番印象を残すFWだ」

 

 握手を解き、俺達はサッカーに明け暮れる。ゴールはまだ見えない。

 

 

 

 






ここまで読了ありがとうございます。
更新が遅くなって申し訳ないです。一次選考が終わり、この先の二次選考なども考えておりますが主人公の能力……。更新してたら温かい目で見てもらったら幸いです。

閲覧、お気に入り、ご評価、栞等なども本当にありがとうございます。


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間話②

 

「僕らが先に席に座ってた。譲り合うことも出来ひんの?」

「それ言ったらお前もや。他にもぎゃーさん席空いてんで。譲るのが大人の対応ちゃんか?」

 

 

 

 どうしてこうなった。

 

 側から聞こえる2人の声。その人物達の名を氷織羊と烏旅人(からすたびと)と言う。2人の語気には少しの怒りと鬱憤が混ざっていた。俺はそれを真横で聞いている。いやー怖いなぁ。どっか行ってくれないかなぁ。烏だけ。氷織は俺と飯を食おう。俺にはツレションするチームメイトも飯を一対一で食う飯友も居ない。だから氷織お願い。俺と一緒にご飯食べて。

 

 

 

 なんて思いを他所に、俺は近くにいる男に喋りかけた。

 

「良いのか? ほっといて」

「良いんじゃね? 俺に弊害ないし。あー茶が沁みる」

「おぉ、流石忍者の末裔。様になるなぁ。あー茶が沁みる」

 

 

 この男の名を乙夜影汰(おとやえいた)と言う。俺らは横並びに座り茶を啜っていた。喋った感じ悪い奴ではない。見た目とは裏腹に、出身が忍者の末裔と言う名家出身。茶を啜る姿もなんだか絵になる。俺も乙也に習い茶を啜る。あー身体に沁みる。やっぱ日本はお茶だわ。ブルーロックの食堂にはお水、お茶が完備されている。疲れ切った身体にホットのお茶は毛嫌いしてたけどこれはこれで。

 

「あったかいお茶も良いな。なんか落ち着く」

「だろ? なんだ結構わかるじゃん。古家の数少ないしきたり」

「なんかかっこいいなそれ。普段着とかは着物? サッカーの事とかも教えてくれよ」

「全然かまわーねよ」

 

 

 此処に1人、お茶友達が出来た。聞けば、乙也は毎日この時間帯には居るらしい。サッカー漬けの日々にも少しの休養が必要だろう。その発散方法がお茶なのだからとても平和的だ。この閉鎖空間で他所のチームメイトと争う事なく、お茶で親睦を深め合う。

 

 俺と乙也は今日学んだ。争い何も生まない。喧嘩良くない。

 

 

 

「明日も早いし帰るか乙也」

「賛成」

 

 俺達の意見は合致した。2人揃ってお盆を持ち立ち上がろうとする。それを拒もうとする人物2人。

 

 

「何帰ろうとしてねん。俺らまだ飯食ってへんねんぞ」

「違うとこ行こう日一君。……なんで2人は一緒のとこいるん?」

 

 

 ずずっと、お茶を飲み込む。あー温っけぇ。俺、このまま帰りたい。それで布団にダイブしたい。……ま、そんな行動を氷織 烏(2人)が許す訳ない。食堂からの脱出をこの守護神を前にしてどう動くか。俺はチラリと横目で乙也を見た。

 

 

「「だってなんか感覚でこの席が良かったから」」

 

 

 高らかな俺達の宣言は綺麗なハーモニーを奏でた。それを聞いた氷織と烏は唖然としている。用はあれだ。たまたま座ろうとした席が乙也と被っただけ。この先は意外と穴場だったりする。柱の後ろで、周囲の声も自分達の会話も遮蔽され静かで居心地が良い。それに何と言ってもドリンクサーバーとの距離が丁度良いのだ。

 

 

「……いや、待てや。ここは柱の後ろで会話が遮蔽されやすい」

「……出入り口も近い。日一 乙也(2人)はそれを計算していた……?」

 

 

「「何というポジショニング!?」」

 

 

 

 あーもうめんどくさいしそれで良いや。

──────でも見ている景色は乙也に似ているのか。

 

 まぁたかだか食堂での席取りが一緒だった訳。こうゆう日もあって良いのだろう。

 

 

 

 

 

 

 ご飯食べ終えた俺達だったが、氷織と烏の食後まで解放されなかった。解せぬ。

──────────────────────────────────

「ふぁー、眠い」

「昨日、遅くまで起きてたからだよ日一君」

「うっせー、そうゆう年頃なんだよ」

 

 氷織からの心配を悪態で返す。それを氷織は適当に受け流し、机に向かっていた。その反応に少しの退屈感と居心地良さを感じた。

 

 現在、嗅覚と聴覚には無しかなく、それら全ては俺の眠気を誘っている。あーこのまま机に突っ伏して眠ってしまいたい。その欲望を抑えつつ、俺は机の上に置かれた問題用紙に目を向けた。

 

 

『問い 

自分のいるポジションがオフサイドポジションだった。そこにボールと味方競技者が走って来た。その味方競技者は正当なプレーでオフサイドラインを超えプレーしよとしている。この時、自分はどう動くか。各自自由に答えろ』

 

 

 俺は問題を読み終え、考える。

 

 今はブルーロック内に置けるサッカー学習の時間だ。このサッカー以外の勉強の他には国語、数学、英語なんて一般教養もある。学生だった俺達がブルーロックに急遽入寮出来たのはこう言った環境、設備があるからなんだと感じる。お国の許可を得てるのはこう言った物があるからだろう。

 

 俺は考えを問題に戻した。

 

 

 

「普通に考えて自分はボールに触りに行かない」

「だな。自分もボールに行かずラインが下がるのを待つか、オンサイドに戻る」

「そうやね。……でも試合中、オフサイドて確証出来る事ある?」

「それは……」

 

 どうやら俺が熟考してる間に個人の意見を言い合う場、ディスカッションが行われてたらしい。2人の意見があるように、普通は自分がオフサイドポジションに居たならば、ボールに行かない。プレーに干渉しようとしない。もしそれをしてしまったら相手に間接フリーキックを与えてしまうからだ。だから2人の答えは正当だと思う。

 

けど「僕はこの問題みたいなシチェーションはチャンスだと思う。自分がオフサイドか確証を得なくて相手にFK与えるかもしれんけど、僕はオンに戻らんとそこのポジションに居る。─────プレーに関与せんとスルーしたらいい」

 

 

 スルー。トラップをしないと言う選択肢。

 オフサイドとは、相手競技者よりゴールラインに近い所でプレーに干渉する、相手競技者に干渉する、もしくはその位置にいることによって利益を得る場合に発する反則。

 

 氷織の答えは、最後の【その位置にいることによって利益を得る】と言う反則に近い。自分がオフサイドをしたならば相手チームに間接FKが与えられる。氷織はそれを見越しての発言。スルーと言う選択は審判によってオフサイドと判断する者もいるだろう。それを氷織羊は【チャンスボール】と捉えた。その選択肢はリスキーで勇気あるプレーだと感じた。

 

 

「日一君はこの問題みたいな時どうする?」

 

 

 氷織の視線がこちらに飛んで来る。俺はそれに答えた。

 

「そうだなぁ。……2人の答えが1番難易度も低いしやり易い。氷織のはリスキーだし難易度が高い。でもこの問題の答えて自由だろ? 俺なりの答えはあるつもり」

「と言うと?」

「オフサイドは反則だけど、オフサイドポジションにいる事は反則じゃない。干渉するとか利益だとは置いといて、俺はオフサイドポジションにいる事はラインを壊したラインブレーカーだと思う。

 

──────だから俺は味方競技者とボールの後追いをする」

 

 

 

 氷織の言葉を借りるならその場面は味方と俺自身がフリーになる局面だ。想像してみろ舞台はワールドカップ決勝。味方のフィードに抜け出した選手1人、─────ソイツを後から追い、並走する選手1人。それは俺だ。ゴール前、キーパーとの局面は数的有利。俺はソイツに横パスさせゴールを打ち抜くだろう。想像しただけで興奮する。

 

 

「なるほど。オフの自分を囮にして、オンの味方の背からゴールを狙うストライカー作戦か」

「そそ。氷織が言ったように俺達は試合中、オフサイドだと確証を得るには動いてみるしかない。それが相手に間接FKを与えるピンチだとしても」

「なるほど」

 

 一呼吸置いて落ち着いた頃には皆、机に各々の答えを書いていた。ある者はペンを転がし思考する者、ある者は解答用紙とにらみっこする者。一人一人に答えがあるのだろう、俺も答えがまとまり解答用紙にペンを走らせた。

 

 

 

【やぁやぁ、才能の原石どもよ。お勉強は順調ですか?】

 

 

 キーン、と耳鳴りの様な現象が起こる。室内にあるスピーカーから聞こえたのは男、絵心甚八(えごじんぱち)の声に俺達は驚いた。絵心の肉声を聞いたのは最初に集められた会場だけだ。あとは今みたいに機械越しの声。素性等はいっさい知らずこの男の言ってる事が分からなくなるが、不思議なオーラを纏った男だと感じていた。

 

 

 

【あーあー、えっと肆号棟やほかの棟奴らも続々と解答用紙を出してる。オンサイドに下がる、ラインが下がるまで待つ。とか色々答え出してるけど正解はないから各々答えてよし】

【あ、ちょっと絵心さん! カップラーメン3分過ぎてますよ!?】

【まじ? また伸び伸びラーメンの完成だ」

 

 

 突如、声を発した人物が人物だっただけに俺達は警戒していた。いつもは奇人、変人の様な発言をする人間だ。いつもみたいに「後進国のサッカーで満足しているお前らは二流」とか言いそうなのに、今は帝襟さんに怒られている。なんとも弱々しい印象を抱いた。

 

 

「今日はどうしたんです? 一次選考も終わってやっと落ち着いてきた時なのに」

【あー、そんなお前達に良い知らせがある、只今より【ニ次選考】の開始だ】

 

 

 氷織の発言を皮切りに会話が進んで行く。絵心はニ次選考だと言った。と言う事は

 

「またサッカーが出来んのか絵心?」

【まぁそうだね。お前達にこれからニ次選考の説明と脱落の話をする。悩んで足掻いてみせろストライカー(才能の原石共よ)

 

 

──────あぁ、また始まる世界で一番サッカーが熱い場所が。

 

 

 

 

 

────────────────────────────────

 

【プロフィール】

日一 京(ひいち きょう)

16歳 高校1年生。

 

サッカー歴半年の初心者。部活の練習がきつ過ぎて死にそうですがついて行ける体力はある。ポジション経験はSB、サイドハーフ、シャドー、トップ。体格は小柄な設定。てかブルーロックの平均身長高過ぎぃ。

 

 名前の由来は潔世一君とサッカー選手から。世一がいるならその日の1番や日本で1番もいるかもと響きで決めました。名の方は好きなサッカー選手からです。

 氷織君とはゲームの話、プレースタイルがお互い合っていたので、練習や試合以外でも会話する様になり仲良くなったと。考えてくれたら幸いです。あとは主人公が関西圏出身て事にしときます。

 

【能力】

・ワンタッチシュート

ワンタッチでのシュートが得意です。トラップが下手くそ。なら早めに打っちゃえ的な潔君と似たような考えで生まれました。ただ潔君と違ってボールの芯を捉えるボレーシュートや威力のあるシュートなど難しいシュートはまだ打てません。早いクロスや後方からのフィードに取り敢えず合わせてる感じです。(胸とか腹とか)

 

・共感覚

人のプレーのイメージが得意です。氷織君の技術なら個々にパスを出す。ならそのスペースに走り込もうとか。これのおかげで点を取れるポジションに居たり後方からのボールに合わせられます。

 

・身体能力並みです。

強いて言うなら、ボールに飛び込む根性と瞬発力、守備するスタミナなぐらい。この身体能力ではブルーロックで生き残れないと感じ上記の能力が生まれました。共感覚とかブルーロックぽいなと思って。

 

 

 

ブルーロックのアニメ面白いし、W杯が楽しみすぎる。

 

ニ次選考が難儀で色々と原作に関わってきますし、誰とチーム組んで脱落するのかとか悩んでいます。でも好きなキャラと関われるので皆さんの意見とか欲しいです。

 

 

 

 

 

 

 

 



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二次選考
4話 加筆あり。


次の話に繋げたくて12月20日加筆しました。栞等付けていたら申し訳ありません。


 

──────あぁ、没頭しろ。一瞬で世界は変わる。

 

「ぉい、、!パ、しろ!」

「ま、り見ろ!」

 

 うるさい。今、良いとこなんだよ。俺のサッカー(プレー)の邪魔すんな。

 余計な事は考えるな。今は周囲の声や影響も俺には邪魔だった。加速して行く身体とボール。それだけが今の俺の全てだ。

 

あぁ、これが──────FLOW(挑戦的集中)か。

 

 ゴールの前に立つ全てが邪魔だ。俺はもっと速くなる。

 

 

────────────────────────────────────

【ブルーロック 二次選考】

 各自、一名が部屋に入室した瞬間、開始されるブルーロックの2番目の試練。試験内容はブルーロック特製のブルーロックマン(ホログラム)からの100点奪取。制限時間は90分のシュート制度をはかる試験だ。

 

 一次選考は突破したチームは10日間のフィジカルトレーニングを課せられこの二次選考が始まるまでボールにいっさい触らなかった。その10日間と言うといのも地獄も地獄だった。吐いたら泣いたりした事も一度ではいない。1日の中で風呂が唯一の楽しみになったのは笑った。

 

 俺は頬を叩き、深呼吸をした。大丈夫だ。落ち着け、集中しろ。俺は自分の立場を理解している。非力で技術も身体能力もある訳ではいない。けど分かってる事はただ勝ちたいそれだけだ。

 

 相対するGK一機。

 ソイツには独特で謎の圧迫感があった。世界一のストライカーを作る為だけに用意された人形。内心、いくら掛かってるんだろう。1人ぼやく。

 

【試験開始まで1分前です】

 

 室内にシャープな声音が響く。その声は凛としてとても聞きやすい。ただそれが運命をかかったカウントダウンの始まりだ。───あぁ、始まる俺のサッカー人生が掛かった試練が。表示された数字が0になった瞬間、俺は右足を振り抜いた。

 

────────────────────────────────

 

 レベル1、レベル2、レベル3とゴールを繰り返す。レベルが上がる事に難易度も跳ね上がる。DFが1人2人増えたら、GKのセーブ率が上がったり。それでも時間は進む。俺はチラリと時計を確認した。残り〈55分と46秒〉。視線をゴールへと戻す。時間を忘れろ。焦りや緊張も忘れろ。サッカー歴半年の俺のキックなんてしれてる。だから躍起になって無心になれ。俺には考える時間も無駄だ。変則に射出されるボールに喰らい付いていく。

 

 ゴールまでまだ遠い。ならトラップで距離を縮めたらいい。

 

 俺は何十回をも超えるボールを撃ち抜いて行く。元々トラップが苦手な俺はダイレクトシュートの方が打ちやすかった。この試験で模索して考えろ。如何に効率よくゴール出来るか再現性があるゴールなのか。時は待ってくれる事なく進んで行く。

 

 

──────────────────────────────────

 

 

 

 どうしてこうなった。

 

 周りの雰囲気は賑やかにも殺伐とした雰囲気にも思えた。側で聞こえる声は一つや二つではない。2、3人の少人数ではなく10人は超える人だかりがこの空間にはあった。

 

 場所はブルーロック二次選考1stステージ突破してから入った大部屋。つまりはだ。ここにいる奴、全てが狭き門を超えたトッププレイヤーだと言えよう。俺が何故かその中にいる。

 

 結論、どうしてこうなった。

 

 

 

 俺は壁にだらしなーくもたれながら熟考していた。

 

【二次選考2ndステージ】

 3人組チームを使って他チームと戦い、勝ったチームは負けたチームからメンバーを強奪できる花一匁方式。一名引き抜かれたチームは2人なり、1回負けると脱落。選手生命が終わると言う超実力的選抜。

 

 

 そんな試験をどうしようかな。とぐらいにしか考えられなかった。うん。だって誰も喋りかけてくれないんだもん。

 

 あー、どうしよう。変なとこで人見知り発動しちゃう。俺は項垂れながら、もう1人壁面に寄り掛かっている人物に声をかけた。

 

 

「あー、あんたはチーム組めそ? 大丈夫? お腹痛くない?」

「……」

「あれ聞こえてる? 下まつ毛イケメン君?」

「…………」

「てか、あんた背たけーな。そんだけありゃセンバ出来そう」

「………殺すぞ。てめぇがチビなだけだ。……俺はストライカー(FW)だ」

 

 

 

 ぎぎっと首が動く。目線から何まで激おこぷんぷん丸の様だ。コイツ友達少なそう。あ、現にチーム組めてない。この真横にいる高身長下まつ毛君と仮称しよう。彼と俺の仲は20分を超える。俺達は部屋の隅で壁にもたれながら仲良く談笑していた。飛び交った暴言、殺害予告は数え切れないけど。何とも言えないやりとりを俺は下まつ毛君としていた。

 

 

「あー、もうなんかアンタで良くなってきた。チーム組むの。アイツも遅いし。てかワンチャンはぶられてる」

「……てめーが誰待ってるか知らねぇけど、一つだけ聞かせろ」

「なに?」

「なんでお前はランクが高い? No.5の実力には見えねえ」

「……なんでだろうね」

 

 

 んな事を言われたって分からないものは分からない。腕に示されたナンバー一桁。【No.5】

 

 俺はそれを凝視し、手で擦ってみたけど数字は消えなかった。この試験では100人を超える脱落者が予想させれる。それを加味してでの

 

【No.5】嫌だなー、怖いなぁ。なんかヒソヒソ声が聞こえる。

 

『あんなのがNo.5? にわかに信じられねぇ』

『だな。たっぱもないしフィジカルがつえーようにも見えない』

『同感』

 

 聞こえてんだよな。このランクの話は置いといて、てめーらがでけえだけなんだよ。あと最近は筋肉も付いてきた。低身長舐めんな。と心の中で応戦しておく。まぁ、多分こんなランクが高いのは

 

「完璧、運だよ。運。俺はタイミング良く二次選考が始められたからだろ」

「……実力隠すつもりか。1つてめーに聞いておく。お前は俺に使われるか?」

「勝手に言ってろ。FW(エゴイスト)。俺がお前を使ってやるよ」

 

 どいつもコイツも自分の事しか考えないのは一緒らしい。でもブルーロック(此処)はそうゆう所だ。己の実力を何よりの権力とし、点を取る事だけを考える。この【No.5】は印だ。この転がってきた【運】を利用してこの糸師凛()も利用しろ。そうして勝ち続ければいい。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「えらい遅ーなったなぁ。なんや盛り上がってるやん(日一君)

 

 まったく此処いる奴ら全員自己主張が激しいな。どこをどう切り取って盛り上がってると判断したのだろう氷織(こいつ)は。俺は悪態をつきつつ氷織に聞いた。

 

「この下まつ毛君、素で口悪い。それにお前来るまで沈黙も多かったぞ」

「あーそうなんや。日一君に友達出来て嬉しかったのに。残念やわ」

 

 と、何も残念がらずにため息を吐く氷織。こいつ俺が如何に友達作り苦手なんか知ってんのに。さっきチームメイトだった奴に無視されたのも見てたのかもしれない。てか、こいつ

 

「結構遅かったな。待ち疲れたぞ」

「言うようになったなNo.5。ああゆう試験は考える人の方が時間かかんねん。日一君も無心着で良かったわ。──No.5」

 

 含みもある言い方を氷織はしてくる。こうゆうからかいも慣れてしまった。俺は痺れを切らして、待ち侘びたていた言葉を口にする。

 

 

 

「氷織、俺と戦う(やろーぜ)。別にお前が嫌いな訳じゃない。ただ俺はお前に勝ちたい」

 

 

 俺の手本はお前だ氷織(ひおり)

 止める・蹴るの体現者。サッカーに対するメンタリティ。俺はお前のプレーに惚れている。俺はお前に勝ちたい。───これは俺の挑戦だ。

 

「……。ええで。勝っても負けても恨みっこなしや。いい加減君を知りたかった。なんで君が点を取るのか」

 

 

 氷織の眼が鋭く光る。俺はそれに答える。今はもうチームメイトの氷織じゃない。もうお前にパスを要求するFWじゃない。俺達は相手だ。お互いの未来潰し合うのライバル。この試合を申し込んだ時分かった。俺はもうお前の下じゃない対等(・・)なんだと。

 

「で、チームはどうするん?」

 

 氷織の問いにもう1人の人物が答えた。

 

「仲良しこよしはもう終わったか? 俺はこいつと組んでやる。馴れ合いの為に時間が割くのは嫌いだ。相手は誰でも良い」

「コミュ症なだけだろお前。良かったな。俺と組めて。一応よろしく糸師凛(いとしりん)

 

 糸師は会話無用という雰囲気で俺の声にも無視した。こいつは本心で試合に勝てたら誰でも良いなんだろう。No.1の男、糸師凛。この男の発言からは自己主張(エゴ)と合理的判断が伺える。3人チームの1人は決まった残すはあと1人だ。

 

「……No.1。糸師凛。君は有名やから知ってんで、兄に天才糸師冴(いとしさえ)を持つ弟。試験始まる前の見てたで」

糸師冴(あいつ)の話すんじゃねぇよ。対戦相手は誰でも良い。雑魚がそっちから寄ってきて有り難い肩書きだ」

「おー口悪。日一君も君にも口の言い方とサッカー教えたるわ」

「やってみろ氷織。うちの凛ちゃん舐めんな」

 

 

 糸師の敵意を受け取った氷織は嫌味で返す。糸師も俺も氷織との試合がご希望だ。ただ問題は。

 

 

 

 

 

「なんだよ。お前ら啀み合いやがって。もっと平和に行こうぜ」

「誰だてめぇ?」

「俺は士道龍聖(しどうりゅせい)。サッカーと強い奴を愛す世界一のFWだ」

 

 

 暴君の来訪と共に時は進む。





二次選考1stステージ、都合よく書いた事をお詫び申し上げます。あとランキングもなんかこうかっこよく描きたかったんです。まあ、主人公が挑戦的で集中していてふろーだった事にしといて下さい。


アンケート、ご回答ありがとうございます。皆さんが評入れてくれてなんかこう嬉しくなりました。意外とこのキャラ好きな人居るんだぁとか感じられて感謝です。

ここまでの読了ありがとうございます。更新してたらまた宜しくお願いします。


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5話

「あー、フォメーションはどうする? 俺、前にいたい」

「俺は良いぜ。俺がいりゃポジションなんて関係ねぇ」

「……ぬかしとけ。雑魚ども」

 

 俺はストレッチしながら考える。雰囲気悪りぃ。クソやりずらい。なんかこいつら無駄にでけーし。凛ちゃんはまだしも、この士道龍聖(しどうりゅうせい)て男、褐色の肌に言動から行動までも自己中心的かつ個性的だ。だって、チーム3人(俺達)が組めたのは、士道の「サッカーやろうぜ! お前ボールな!」みたいな勢いだったし。

 

「なぁ士道、なんで俺達とチーム組んだ?」

 

 

 士道はボールを足下に転がしながら答えた。

 

 

「俺は強えー奴は好きだぜ。No. 1No.5(お前ら)と組んで、───気持ちいいサッカーするんだ」

「……と言うと、お前はチームプレイせずに自分だけが気持ちよくなりたいと?」

「せいかーい」

 

 

 何の悪気もなく純粋に士道は答える。そうか。そうゆう事か。例え俺たちチームが負けたとしても、試合でゴールを決めていたら他チームに引き抜かれる可能性が高い。士道はそれを狙っている。コイツは独りよがりのプレーもするし、自己満足が1番の生粋のエゴイスト。ブルーロック内で初めて出会った人種だ。連携やチームプレイに徹しない事が分かった今、俺はコイツにある種の期待をしていた。フィジカルが強いのかテクニックかそれとも思考か。何にせよ士道龍聖と言う男のプレーは楽しみだ。

 

 

 

「オナドリ士道は置いといて、凛はどうよ? 利き足とかは右?」

「馴れ馴れしくすんな。つーか利き足とか言う概念捨てろ。試合中ベストな動きをする方が利き足だろ」

「さいですか」

 

 

 この男、糸師凛(いとしりん)も大概ではある。無視は多いし、喋りかけたら暴言か殺害予告。でも、サッカーについては思いの外饒舌だ。アップやさっきのポジション決めなんかはちょくちょく意見出してきたり、と。コイツ自身、チームで負けるのも嫌ぽい。それもそうか。糸師の腕には頂点の【No. 1】の冠。糸師からは圧迫感や支配感を感じる。プロ選手の兄を持つこの男のプレーも楽しみだ。

 

───────感情的な士道龍聖(しどうりゅうせい)

───────合理的な糸師凛(いとしりん)

───────未知数な(日一京)

 

 

─────────あぁ、もうすぐ始まる。俺の挑戦が。

────────────────────────────────────────────────────────────────

 

 

「良いんですか。 彼、元チームメイトでしょ」

「はは。それは言えてるなぁ」

 

 ブルーロックのピッチに今、6人の人物達がいた。今からその6人はお互いの未来を変える者同士だ。試合が始まるまで残り数分。二子一揮(にこいっき)氷織羊(ひおりよう)が会話を交えていた。氷織はアップをしながら二子の問いに答えた。

 

「情が湧かんほど僕は心を冷徹に出来ない。でもサッカーに私情持ち込むほど馬鹿じゃない」

 

 氷織はある人物を見据える。その人物は天才、糸師凛かも知れない。はたまたダークホースの士道龍聖か。それとも今までに苦楽を共にした仲間であり同士であった男かも知れない。氷織は日一京にある種の興奮、感情の高鳴りをしていた。

 

(君には驚かされてばかりや日一君。君の実力は僕が1番知ってる。基礎がなくて身体能力もサッカー脳がない事も。けど、このステージ立ってるって事は好敵手(ライバル)や。妥協も手加減せずに行くよFW(ストライカー)

 

 

 妥協せず本気で彼等(氷織羊 日一京)はサッカーをする。日一京は勝ちたいから。氷織羊は糸師凛(いとしりん)士道龍聖(しどうりゅうせい)、日一京(ひいちきょう)への興味から。昔の2人はもういない。彼等はもう好敵手だからだ。

 

 

 

「……。キーパーは誰がやる? 俺は前にいたい」

「………説明聞いてました? 剣城君。キーパーはブルーロックマンがやってくれますよ」

「はは……」

 

 

 

 6人の中に剣城斬鉄(つるぎざんてつ)と言う男もいる。何にせよもうすぐ試合開始だ。カントダンが始まる。

 

────────5、4、3、2、

 

「勝つのは俺だ。氷織」

「やってみい。得点王」

 

─────────kickoff!

──────────────────────────────────

 試合始まって数十秒。

 現在、ボールは俺達が支配してる。凛、士道、俺のトライアングル。

パス、リターンを繰り返す。試合が始まって分かった事は氷織が率いるチーム3人はプレスをせず、自陣に引いてのリトリートでの守備。徹底しているのはパスコースを切るぐらいか。相手チーム(氷織 二子 剣城)の共通認識、戦術なのだろう。序盤は飛ばし過ぎずに様子見、と感じられる。

 

 

「おいこら、引いてばっかだとこっちから行くぞ」

「同意」

 

 

 俺と士道が前線に駆け上がる。ボール供給者は凛だ。俺達にマークをつく2人。士道には二子。俺には────氷織だ。

 

 

 

「鬱陶しい! どけ氷織」

「ふりきってみい。走力勝負といこか」

 

 

 マッチアップ。

 現在、後方からのフィードを待っている俺だ。前にスペースを幾らでもある。前か右か左か。─────いや此処だ。俺は右ゴールポストのやや手前。ゴールからまだ20メートルの所で一時停止した。

 

 

「氷織、駆けっこは好きか? よーい、どんでスタートな」

「走力勝負の次は速さ比べかぁ。良いよ。ノッた」

 

 

 よーいどんでスタート切った。

 立ち位置的に俺は氷織よりゴールが遠い。氷織の背を追い越さなければゴールには近づけない。近づく事は当然、氷織が許してくれない。氷織との一対一。こうなってくると脚力勝負だ。右左と身体を動かして行くが、氷織は着いてくる。マンツーマンデイフェス。体幹で俺は氷織に負けている。進む方向や飛び出す速度を変えても氷織は持ち前の体幹で着いてくる。キーププレーが上手い事はある。身体全体を使ってでのディフェンスが上手い。ただ俺は知っている。

 

 

「背が高いのも考えものだな。チビ舐めんな」

「っ!」

 

 

 ボディフェイント。右にフェイクをかけ左にすり抜けた。俺は知っている。体幹では負けていてもスピードでは俺に分があると。完全に裏を取った裏抜け。────コースが見えた。俺に出せ凛。

 

 

「ボールねえとこでこそこそと。虫みてぇだな──お前ら」

 

 

 えーうそーん。こいつシュートモーション入ってる。俺達が必死に開けたど真ん中コースをセンターサークル付近からシュートを打とうとしてる。流石にその距離は……なんか入りそう。これは予感だ。俺は糸師凛と言う男の実力をまだ知らない。ただコイツには絶対的なプレーと自信がある。ペナルティエリア外数十メートルの【超ロングミドル】糸師凛は迷う事なくその足を振り抜いた。

 

 

「嘘だろ」

 

 その軌道は落ちる事なく真っ直ぐに飛んでいった。インフロントで蹴った伸び上がる軌道に近い。緩やかなカーブを描くシュートではなく鋭い右足一閃。その速度は時速100キロを超える。瞬きする瞬間に二つの音が爆ぜた。一つは凛のシュート音。もう一つは【ボールがクロスバーに当たる音】それを聞き俺の身体は動いた。

 

 

 

「ルーズボール!」

 

 誰かが発した声。それと同時にボールは地面に落ちて行く。その間一瞬か。その刹那の瞬間に俺達はボールに群がる。子供みたいに虫みたいに。俺達はそうゆう生き物だ。身体がボールに触れれば良い。精一杯身体を伸ばす。当たるのは足か頭か肩か腹か。そんなのはどうでいい。【ただのワンタッチ】それでゴールが決まる。ゴール前の混戦。それを制した者が勝ちだ。クソ、ボールが高い。跳躍して届くか曖昧だが俺は地を蹴った。

 

 

「つ、お前、高すぎだろ」

「脳ある鷹は爪を隠すだ。チビスケ」

 

 

 相対した男は剣城斬鉄(つるぎざんてつ)。跳躍したタイミングやポジショニングもこっちが有利だったはず。だが俺は空中戦(ルーズボール)に負けた。身長が185はある男との空中戦では部が悪い。悔しいが純粋の身体能力(フィジカル勝負)。クソ。死ぬ程悔しい。

 

 

 剣城がヘディングでクリアしたボールに鼓音する男が1人。

 

 

「脳筋ばっかで助かりますよ。僕は無駄なフィジカル勝負はしない」

 

 

 鋭い読みだ。ゴール前にボールがあれば混戦になるし、自然とボールに集中してしまう。俺は見事にそれに釣られた。今競り合ったバカ眼鏡もそうだが。ボールの落下位置の予測。これがプレーの先読み。剣城とは花色が違うプレイヤー。二子一揮(にこいっき)

 

 

 

「なら俺とダンスしよーぜ。前髪ちゃん」

「言ったでしょ。無駄なプレーは嫌いです」

 

 

 

 二子対士道の一対一。セカンドボールに反応したのは士道だったか。俺は士道の守備力をまだ知らない。これは数的有利を作った方がいいか。自陣に戻ろうとした時、二子が身体を翻して反転する動きが視えた。ファーストタッチで抜き去る【反転ターン】か。それを士道に伝えようと叫んだ時、奴はもう動いていた。

 

 

 

「ちまちまと無駄な動きが多いぜ。────前髪ちゃん」

「な!?」

 

 

 

 二子のターンは上手く決まっていたと思う。ただそれは士道龍聖の一振りでかき消された。

 

 

【ノールックモーションシュート】

 

 奴はボールを見ず、見た通り足を振りかざしただけだった。そのシュートはゴールに吸い込まれる。距離はまだ十分あった。しかし士道の枠内に決める技術、キック力。その要素が詰まった【ワンゴール】。ただこの芸道をやってのける胆力は凄まじい。今のシュートはファールになる確率が非常に高い。二子は士道に背を向けキーププレーだったし、もしシュートした足が二子に当たればファールになる。それを迷いなく踏み切る精神力。

 

 

 

「気持ちいーい。あーイキそ♡」

 

 

─────────糸師凛 士道龍聖(コイツら)イカれてる。

 

 

 




皆んな口調難しい。士道は理性ある時結構頭良さそうな喋り方する。(勘違い)

氷織君と二子君は二次選考の時、同じチームだった記憶あるので一緒にしました。剣城君は強キャラで好きだからです。二次選考は皆さんアンケートしてもらったりと、原作知識とか設定に矛盾があるかもしれません。大先輩ご教授お願いします。(原作揃えたい)

続話も閲覧して頂いたら幸いです。いいねー!くれー!


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6話

 

『VARの結果、相手選手及びプレーへの正当性を認め、士道龍聖のゴールとする』

 

 

 

「当たり前だぴょん♪」

「こえー、ディフェンスの時は慎重に」

「うるせぇよ、雑魚共。ささっと終わらせて次行くぞ」

 

 士道、糸師、日一のチームREDDによる先制。士道龍聖による予測不能のシュートは見事、ゴールを捉えた。これにより3人の勝率が上がる。

 

「次もお願いします。2人とも」

「お溢れやディフェスは任せたぜ。おチビちゃん」

「は? てめーも働け。雑兵1人でもいねーよりはマシだ」

「……そうですか」

 

 士気は上がらなかった。

────────────────────────────────

 

「ふー、取られたね先制点」

「……あれは自分のミスです。ただ、あの士道君は危険です。ファールプレーも厭わない凶暴性」

「そやね。あれは二子君のターン決まったと思ったで。ラフプレー覚悟で対峙しなあかんなぁ」

「……すまん。俺のクリアミスだ。次はもっと飛躍的に長く遠く飛ばす」

 

 氷織がゴールに入ったボールを手に取り、ピッチ中央に向かう。

 

「なら次は頼むわ。切り替えていこう」

「了解です。剣城君、ポジショニングについて話しが」

「なんだ? 二子」

 

 氷織、二子、剣城がポジションに着く。試合再開までもう少しの様だ。

 

 

 

 【スコア 1ー0】

 

 

 

 

 3人の士気と気持ちが高まる。彼等も生粋のエゴイスト。勝ちだけに拘る。

 

「ほな反撃行こか」

 

 氷織羊は負ける訳にはいかない。氷織は見据えている勝つ未来を。

 

(僕は負ける訳にはいかん。僕はまだブルーロック(ここ)にいたい。君が気付かせてくれた感情やで───日一君」

 

 

 時計の針は進む。試合再開と共に笛の音が鳴った。

──────────────────────────────────

 

 ピー。と試合再開の笛が鳴った。

 

 相手ボールからのリスタート。3人対3人の数敵同数。こう言ったフットサル形式の試合ではマンツーマンディフェンスが多い。コートのスペースが狭い事から、近い相手をマークするのは戦術的にも精神的にも楽だからだ。

 

「リベンジか氷織? 次も勝つ」

「目の前の事に囚われん時や。負けるつもりはないで」

「よし、ノッた」

 

 

 氷織の挑発を乗りボールを奪いに行く。俺が足をだしたら右、左、と足首でスペースを作るキーププレイ。相変わらず足首柔らけぇ。それを可能としてるのは氷織の落ち着きと観察眼。やっぱこいつからボール取れねぇわ。

 

「相変わらず上手い事で『静のテクニシャン』」

「君の場合まだ守備も単調や。突っ込み癖は相変わらずやね」

「舐めんなハゲ」

「フサフサやし」

 

 

 一瞬、脚を大きく出してしまった。次の動作に反動が加わる。

 

────氷織はその一瞬を見逃さない。

 

 

「キープするだけが武器とちゃうで。出来た時間で僕はチャンスを作る」

「ツっ!?」

 

 

 あぁ、この独特のモーション(・・・・・)。これは来る。氷織(お前)の代名詞が。

 

 

「おい2人共! マーク警戒!」

「俺に指示するな」

「りょりょのりょ」

 

 

 ピッチを駆け抜ける2人は剣城と二子だ。それに並走する凛、士道。

大丈夫、2人の身体能力なら走り空いで負ける事はないだろう。だからこそ俺は迷う。氷織のボールを奪いに行くか、自陣に全力で戻るか。その葛藤を氷織、剣城、二子(コイツら)は逃さない。

 

 

「受け取ってや。ストライカー」

 

 

 放たれたパスは弧を描くカーブ性。球質に速度。どれも100点(・・・・)のパスだった。相変わらずエゲツないキックしてるなぁ。ただし、そのパスはスペースに出すスルーパス。それに追い付くには無理があるんじゃないか。と思うボール。しかし、そのボールは見事ある男の脚に吸い付いた。

 

 

「ジャスコだ。氷織羊」

「な!?、だと」

 

 

 そこには凛のマークを解く剣城斬鉄(つるぎざんてつ)がいた。

 

 

 なんだあの速さ。背後から来たボールに脱力したようなトラップ。やっぱり基礎技術が高い。でもこのプレーを実現しているのは

 

 氷織(パサー)×剣城(スピードスター)の化学反応!

 

 

 圧倒的な個を持つ者が実現出来る武器だ。

 

 くそ、やっぱりコイツら鬼強い。

 

 

「最速で撃ち抜く」

 

 

 スコアと共に時は進み出す。

 

 

 

 【スコア 1ー1】

 

 

──────────────────────────────────

「悪い。俺のプレッシャーが緩かった」

「あ? 何言ってんだお前。この攻撃を予測できなかった俺の落ち度だ。次は止める」

 

 

 凛に詫びを入れ謝罪する。

 

 絵心は、エゴイストでなければ1番の選手になれないと言うがサッカーはチームプレーだ。例えどんな凄い奴でも11対1には勝てない。だから俺は必要最低限のチームプレイは必要だしコミュニケーションは大切だと考える。だが、

 

「おい凛ちゃん。キックオフしたら俺にボールくれ」

「は? 渡すわけねーだろ。そんな非効率のプレーはさせねぇ。球遊びなら外でしとけ」

「よし。まずはてめーから奪ってやる」

 

 

 この通り凛と士道の体制は壊滅的。

 

 

 ボールを前線に運ぶ動きや守備面での協力的な構図はまだない。ここまで壊滅的だと感心する。自己中心的な士道もそうだが、凛も非効率なプレーや無駄な労力を避ける能率プレイヤー。士道には読めないプレーが多いがそれ以上に爆発力があるという事。サッカーはアドリブで動くスポーツだ。

 

───────────絶対なんてない。

 

受動(士道)能動型()が合わないなら仕方ない。俺が合わせやる。氷織言ってなかったな。俺も人と合わせんのは得意だ。感覚を研ぎ澄まして考えろ。2人ならどんなプレーをする。考えろ。俺が圧倒的技術と視野の広さ。身体能力、感情の高鳴りを持っていたら?

 

 ……よし、考えたら実戦あるのみ。

 

 

 

 

 

「ほな反撃と行こか」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




お気に入りに登録、評価、栞、閲覧ありがとうございます。


これを投稿したのが氷織君の過去回より以前だったので設定の矛盾……。サッカーに対する姿勢とかだいぶ違いますよね。……なんとかしなきゃ。

またよろしくお願いします。


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1点

 

 キックオフ。

 

 

凛が士道に渋々と言った感じで横パスをする。それを受け取り士道は……

 

「よっしゃー! ボール貰い。俺のごぼう抜きスタート」

 

 

 

 と。意気揚々に前にボールを蹴り出す。オナドリを始めた士道に俺と凛が並走する。いつでもサポートに入れる様にだ。相手チームは以前、ゾーンディフェンス。あちら側から飛び込んだりはしない。よく指示を出してるのはあの男(二子一揮)だ。俺はそれを警戒しつつマーク相手の氷織を振り切る。

 

 

「マーク抜けたぞ氷織ちゃん」

「僕も二子君も無駄な体力使うの嫌いやねん」

 

 

 なるほど。マークする必要もない存在ということか。俺は若干の屈辱を味わいつつゴール前に飛び出す。

 

「良いぜ。日一京。お前の抜け出し悪くねぇ。使ってやるよ」

「させません。君の相手は僕です」

「うっとしい前髪ちゃんだな」

 

 

 士道と二子の1on1。

 

 多分、このデュエルに勝つのは士道だ。一緒にプレーしてわかったが士道のドリブル技術は悪くない。一対一でも負けないキープ力にボールタッチや身体能力を使った士道のドリブルはどこか独創的だ。ボール持った時の姿勢や手の位置、顔は上がってる下がっているか。など見ても士道のドリブル技術は高いと思う。俺が彼からボール奪うことは簡単ではないなだろう。

 

 

「よーい。どん!」

 

 

 士道が空いてスペースにボールを蹴り出す。裏街道とも呼ばれる技。シンプルながらもこのドリブル技術は奥が深い。相手の駆け引きに勝利したのならあとは縦にも横にも抜ける技。それを可能しているのは士道龍聖の身体能力。

 

「なんで虫ってすばしっこいですかね。害虫なら尚更です。───頼みましたよ剣城君」

「了解」

 

 

 

 な!? ここで剣城か!? 剣城はマークしていた凛を解き、一瞬で二子との数的有利を作ってみせた。士道と二子からの距離は充分にあった。それを無にする圧倒的身体能力(スピード)。こいつやっぱり速すぎる。多分、俺がブルーロック内で見た誰よりも最速。

 

「俺が2体1ならパスすると思ったか? 前髪ちゃん。ノッてやるよ! バカ眼鏡もな!」

「ッ、馬鹿ノるな! 士道! 一旦凛に戻せ」

「……あの触覚野郎」

 

 

 俺と凛は急いでカバーに走る。それまで士道がボールをキープ出来ていればの話だが……。

 

「君が喧嘩早くて助かります」

「……ほんとうっとしいぜ。前髪ちゃん」

 

 

 くそ! 取られた。二子は士道からボールを掠め剣城にバックパス。剣城はパスを受け少し後退する。そしてポゼッションは3人に握られた。

 

 ……剣城のスピードにも驚かされてばかりだが二子の人の使い方が上手い。鋭い観察眼にリスクを冒さない堅実なプレー。フィジカルやスピードがあるタイプではないが、そのボールタッチや落ち着きから二子の経験値が伺える。剣城がスピードで相手を翻弄する起爆剤だとしたら、二子はそれを導く導火線だ。

 

 

「おい。触覚。もうお前はボールに触るな。自慰してーならピッチから出ろ」

「あ? 自慰よりキモチー事(サッカー)出来んのになんで出る必要がある? 眼鏡に押さえ込まれてるガリ勉野郎」

 

 

 うん。文句言いながらプレス行くのやめて欲しいです。チーム仲最悪じゃん。

 

「てめーら! 仲良くしろー! あと4点取られたら終わりなんだぞ」

「んなのはわかってる」

 

 

 ほんとにわかってんのか。凛と士道。エゴとエゴのぶつかり合い。彼等にFWとして点数をつけるとしたら100点だ。決定率と高い身体能力の士道。考えるプレーを実現できる能力持つ凛。コイツらがお互いを認め支え合ったら誰にも負けない【ブルーロック最強のツートップになるだろう】けどそれも今、現在機能していない。寧ろ互いがその良さを消しあってる。

 

 

「せっかくチームやねんから仲良くしーや。ま、そのおかげで隙だらけやけどなぁ」

 

 

 氷織にボールが渡った瞬間、やはり2人(剣城と二子)は走り出す。それが共通認識の戦術。氷織に対峙してるのは凛だ。

「縦にフィード出すだけしか出来ねぇのか? ぬるいんだよ」

「最近の一年生て口悪いなぁ。君しかり日一君しかり」

「カバー入ります」

「助かるわ。二子君」

 

 

 二子と氷織の華麗なパスワークで凛を置き去りにする。綺麗に見事までにワンツーが成立した。

 

「ゴール前で待ってます」

「道中気を付けてな」

 

 そう言って二子が氷織を追い越す。くそ、やっぱり氷織のロングフィードは強力だ。

 

「ついて来れるかチビスケ?」

「背中から倒したるわ斬鉄」

 

 そう言って斬鉄は加速する。絶対追いつけないスピードだ。ほんと後ろからはっ倒すぞ。バカ眼鏡。

 

 

 解き放たれたストレート性の速いボール。これはスピードスター専用だな。と思う。絶対領域のスピードに俺はまた1点を取られるのか? 至極シンプルな戦術だが強い。また、ヤられると脳裏によぎった。

 

 

「ッ! 読んでんだよそのぬるいホットライン」

「凛!?」

 

 

 俺の後方、数メートル前。凛がボールをクリアした。彼には珍しくその表示は硬い。決死のクリア。30メートル以上戻った後のそのワンアクションにどれだけの想い体力が注ぎ込まれたからわからない。

 

 

 けれどボールは空中舞いまた地面に舞い戻っていく。そのボールは無慈悲にランダムにある者の足に渡った。その男の名は二子一揮(・・・・)

 

 

 

 

 誰かが言った言葉が宙を舞った。

 

 

「ダイレクトシュート」

 

 

 

 ボールはゴールに入った。そして一点は動く。

 

 

      【ゴール】

 

 

 俺は見た。二子の瞳には一瞬誰かのプレーが写っていた。子供が好きなサッカー選手のプレーを真似る様なそんな瞳。スコアは再び動き出す。

──────────────────────────────────

 

「負けたら引き抜かれんな俺じゃね? 1点取ってるし」

「殺すぞ」

「ま、今から俺がハットトリックするから大丈夫」

「その薄い口が気にいらねぇ。お前は負けても良いのか」

 

 

 凛はボールをセットしながら俺に問う。

 

 

「誰が負けてやるなんて言った。そりゃあ勝ちてけーどこのままだと負けるだろ」

「じゃあ考えろその薄い頭で身体で。てめーも触覚もいねーよりかマシだ」

 

 

 凛は頭を上げ前を見据えている。その顔は険しい。スコアは【2-1】

 俺達はあと3点取られたら終わる。負けたらこの試験上、このチームとはおさらば。凛とも士道ともまた同じチームか対戦相手にならないともう2度と出会えない。寂しいとか思えるほど俺達は同じ時間を過ごしていないが、俺はこれだけは言えた。

 

 

 

「お前らもったいないな」

「あ?」

「なんだとコラ」

 

 

 凛と士道が詰め寄ってくる。凛の顔は強張っていて、士道はよく分からない。楽しんでるのか怒っているのか。ただ俺は言葉を続ける。

 

 

 

「お前ら2人がお互いの良さを消しあってるんだよ。凛は士道をどうしても使おうとするけど士道はそれに抗う。仲良くしろとは言わない。ただあと3点だぞ。このままだと負けるぞ」

「だったらお前はどうするんだ? 身体能力もテクニックもあるわけじゃねぇ。そんな下手くその言葉に何も響かねぇよ」

「あぁ。だから何も言わない。最後まで暴れとけよ天才と悪魔。俺も好きな様にやる。スタートは俺にやらせろ」

「ふぁ〜あほくさ」

 

 

 俺はそう言って凛からボールを奪う。時間があれば一悶着ありそうだったが時間がない。試合再開の指示が出てる。キックオフの合図を聞き俺は士道にパスをした。

 

 

 

 

「暴れてこい悪魔。お前がロストしたボール絶対拾う。凛ちゃんからも守ってやるよ」

「お、まじ? 俺のドリブルショー始まり始まり〜」

 

 

 そう言って士道はドリブルを開始する。1人は完璧に抜けた。2人目も辛うじて抜けた。そして3人目。

 

 

 

「僕、乱暴な人嫌いやねん。もう通行止めやで悪魔くん」

「昔のアニメかよ。イクぜ女顔」

 

 

 3人に囲まれてでのキーププレイ。もうこれは士道に流石と言うしかない。体幹、腕を使いながらキープしている。ただ圧倒的数的不利。キープは出来ても抜きからまでには至らない。取られるのも時間の問題。俺は前方にいる凛を見た。マークされていない中でも完璧なポジショニング。いつでもセカンドボールを取れる位置か。───感じろよ。凛ちゃん。

 

 

 

 

「あー! もううっとしい! お前らなんでボール取ろうとするんだよ!」

「……何言ってるんですか」

「……ばかだな」

「そうゆうスポーツやからなぁ」

 

 

 

 士道が意味不明なことを言っている。元からこんななので問題ない。大丈夫。士道が可笑しくて俺達は正常だ。でも、なぁ士道。

 

 

────────流石に4人はキツいだろ?

 

 

「俺が代わってやるよ士道」

「なっ! 味方からボールを奪った!?」

「持ってけ泥棒」

 

 

 

 隙を見て士道からボール掻っ攫った。盗った瞬間の士道のうらめしい顔は忘れない。俺は下手なドリブルでゴールを急ぐ。

 

 

「おら急げ! 凛ちゃん! 馬鹿ども戻ってくる!」

「……てめーが馬鹿だ」

 

 

 

 凛の一瞬呆気に取られた顔も忘れない。ただ状況を理解し俺に並走する。面白い事に俺達はゴール前に躍り出た。あとはボールを流し込むだけ。だがそれを氷織(ひおり)、二子(にこ)、斬鉄(ざんてつ)は許さない。……そして1番速く戻ってくるのは……

 

 

 

 

 

「……誰が馬鹿だ」

「お前だよな!? 馬鹿斬鉄!」

 

 

 

 

 自慢の俊足を活かし斬鉄が戻ってきた。こんなロケットマシーンから逃げる方が難しいだろう。────ただ俺はこれを狙っていた。

 

 

 

 

「くそー、追いつかれた凛! あとは頼む!」

 

 

 俺はそうして横にいる凛に視線や体の向きを向ける。

 凛は冷静に判断し、スピードを緩めず俺の横パスを待つ感じだ。

 

 斬鉄は目標を凛に絞り更に加速した。

 

 

 多分、凛は俺からのパスをダイレクトでシュートするつもりだろう。

 

 

─────あとはもう前にボールを飛ばせば良いだけなんだから。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「引っかかったな馬鹿どもめ」

 

 

 俺は軽くインサイドで足を振り抜く。ボールは綺麗に前に飛んだ。ゴールラインを通過するボール。軽くネットに当たった反発でコロコロとこちら側に戻ってきた。

 

 

         【ゴール】

 

 

 

 

 

 

 

 化け物しかいないこのステージでも俺は主張する。

 

 

─────────俺はFWだ。



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