バカとアクマと召喚獣 (レーラ)
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悪魔の転校生

シンフォギアの方のシナリオ展開に行き詰まり、息抜きがてら描いたものです。失踪はしてませんよ。

後悔はしてない……


 僕達が通う文月学園に、可愛い転校生がやって来た。肩まで伸びた淡い水色、宝石みたいに綺麗な紫の瞳で、胸もそこそこある女の子。しかもこの最下層クラス、Fクラスに。Fクラスは基本バカしかいないからむさ苦しい男が殆どで女子なんて(姫路さんと島田さんを覗いて)殆どいない。しかもこの教室の床は腐った畳、机と椅子じゃなくて卓袱台と座布団、ハッキリ言ってしまえばオンボロな教室だ。そんな野蛮人の巣窟に可愛い女の子が来れば、誰もがお付き合いしたいと舞い上がる。

 

「今日からこちらに転入しました、浦方 真梨香(うらかたまりか)です!マリって呼んでください!」

 

 彼女の明るくて活発な挨拶は、まるでアイドルのライブを思わせるんだ。まあ、そういうのは行ったことないけど。でも男達は雄叫びみたいに汚く叫んだ。

 すると、浦方さんは僕に気付くと

 

「あ、君はあの時の!やあやあ久しぶり〜♪」

 

 やめて!そんな眩しい笑顔で呼びかけないで!それとその右手で何かを揉むような手付きも!

 

「よ、吉井!どういう事?!アンタ彼女と知り合いなの?!」

「浦方さんとはどういう関係なんですか?!」

 

 島田さんも姫路さんも落ち着いて!そんなに問い詰められるような関係じゃないから!しかも他の人達からも明確な殺意が向けられている!ヤバい!下手したら僕の命に関わる!

  

 まさか、彼女は分かってやっているのか?!こうなる事を分かっていて!

 そうだ……僕は知っている。彼女は……一言で言えば悪魔だということを。

 

 ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 遡ること2週間前、文月学園に通う吉井明久はクラスの振り分け試験が終わって下校していた。この日の為に試験勉強に打ち込んだ為か、その分の疲労が重くのしかかる。

 

「疲れた……。だけど、やる事はやったんだ。後は結果を……」 

「よう幸薄そうな兄ちゃぁん。」

 

 そこにボタンを留めずに着崩した学ランに顔面傷だらけの坊主とオールバック金髪、金属バットを持ったモヒカン男といかにもな不良学生に絡まれてしまう。しかし明久が幸薄そうな見た目というのは間違ってはいない。

 

「ちょっと!失礼なこと言わないでよ!」

「あん?何言ってんだこいつ?」

「聞こえないの?!天の声が失礼な事言ってたよね?!」

 

 ややこしくなるので話を進める。

 

「進めないでよ!」

「何言ってんだこいつ?」

「俺達これから遊びに行くんだけどさぁ。皆して財布忘れちゃったわけ。だからさぁ、貸してくんない?」

 

 ベタな恐喝である。だが明久の腕っぷしはハッキリ言って凡人レベルに届くか微妙なラインである。当然このベタな不良達に逆らえば当然フルボッコになるのは目に見えている。もはやお金を差し出すしかないかと思われた。

 

「ねえ君達!」

 

 不良学生の背後から女子の声が聞こえ、三人は振り返った。すると、淡い水色セミロングのセーラー服を着ていた女子がこちらに向かって来た。その女子こそが浦方真梨香である。

 

「一人相手に三人で恐喝なんて、随分セコい事するじゃん。」

「おうおう姉ちゃん、ちょっと可愛いからって調子のんなよぉ?」

「あ、それよく言われる。結構可愛いって。」

 

 何言ってんだこいつ?みたいな目で真梨香を見る。一方真梨香は不良たちの威圧をものともしない。

 

「まあでも私、器も脳みそもタマも小さい男はタイプじゃないし興味ないの。ごめんねお付き合いできなくて。」

「はぁ?!」

「何フラレたみてえな扱いされなきゃなんねんだぁ?!あんまり生意気こいてると女だろうがボコすぞ!」

 

 激怒した坊主男が女子の左手を掴んだ。だがこれが彼らの大きな過ちの始まりだった。

 

「へぇ……気に入らないなら暴力ですか。なら仕方ないなぁ……。」

 

 そう言うと掴まれていない左手で右肩にぶら下げているかばんの口へ突っ込んでガサゴソと何かを探す。目的の物を掴むと、おっ、あったと言わんばかりの表情になり

 

「じゃあこれあげるから、何とかこれで収めてください……なっ!」

 

 そう言うと鞄から出した饅頭を強引に坊主男の口に無理やり入れた。

 

「むぐぅっ!な、なんだこ……」

 

 するの坊主男の顔が真っ赤になり、じわじわと両目から涙が出てきた。そしてそれを見た真梨香は悪魔の笑みを浮かべる。

 

「ぎゃああああああああああああああぁぁぁぁぁぁぁぁーーーーーー!!」

 

 坊主男の真梨香を掴む手はすぐに離れ、口元を抑えて大絶叫した。他の二人の仲間が心配して駆け寄る。

 

「どう?私特製のデスソース饅頭!」

 

 デスソース。それはハバネロの何十倍の辛さを誇る激辛ソース。一滴入れるだけでもその凶悪な辛さから、数多の人間を絶望に陥れた。

 さらに真梨香が使用したデスソースは、デスソースの中でも最も辛いとされるサドンデスソース。ギネスで最も辛いと登録されている唐辛子、ブートジョロキアを原材料とし、さらにその中に大量のハバネロも含まれている。そのソースを入れて作った饅頭は、まさに最凶の兵器である。

 

(何でそんな殺人兵器を作ったのぉ?!っていうか怖っ!!) 

 

 女の子とは思えぬ悪魔の所業に、明久はドン引きするが

 

「今のうちにズラかるよ!」

 

 そう言って真梨香は明久の右手を掴んで、引っ張るように走り出した。

 

「待てコラァ!」

「待ちやがれこのアマァ!」

 

 明久は一瞬振り返ると、二人が鬼の形相でこちらの後を追っていた。

 

「ちょっと!どこへ逃げる気?!」

「大丈夫!こんな事もあろうかと用意してあるから!」

 

 まさかこうなった時の為に逃げ道を作っておいた事に感心する明久だった。しばらく逃げていると二人は空き地へと逃げ込んだ。元は大きなスーパーマーケットだったらしいが、そこが経営難で潰れてからは空き地になり、今では焦げ茶の雑草がそこらかしこに生えている。しかし、その敷地内の中央まで走ると突然その足を止めてしまう。

 

「え?!何で逃げないの?!」

「いやぁもう逃げるのにも飽きたなぁって。」

「そんな気分で止まらないでよ!ほら来ちゃったぁ!」

 

 残った不良二人と、まだ激痛が収まらず口元を抑えながら息絶え絶えで追いかけてきた坊主頭に追いつかれてしまった。

 

「もう逃さねえぞ!」

「覚悟しやがれ!」

 

 ナメられた上に仲間が良いようにやられたのに腹を立ててるのだろうが、真梨香は随分と余裕そうだった。

 

「御託は良いから掛かってきなよ。私一人で相手してあげる。ヘイカモ〜ン!」

 

 そう言って親指以外の指をクイクイっと曲げて挑発する。

 

「舐めんじゃねえぞオラアアァァ!」

「イヤアァァァ!来たああぁぁぁ!!」

 

 男二人が真梨香に向かって襲い掛かり、明久は絶叫し、目を背ける。

 

 ズボッ

 

 が、何かが崩れる音が聞こえ、聞こえるはずの悲鳴が聞こえない事に違和感を感じた明久は目を開けた。すると、真梨香に近づこうとした男二人の姿が忽然と姿を消した。同時に真梨香の前の地面に大きな穴が空いていた。

 

「え?何これ……」

 

 明久は真梨香の方を見ると、彼女は

 

「ギャッハハハハハハハハ!!」

 

 大きく口を開けて笑っていた。しかも悪い笑みで。それだけで明久はこの穴が真梨香が作った落とし穴である事を察した。さらにそれだけではない。

 

「臭ええええええぇぇぇぇーーーー!!」

 

 落とし穴に落ちた二人が悲鳴をあげている。明久はその穴を覗こうと近づいたら

 

「臭っ!何これ?!」

 

 あまりの悪臭に鼻をつまむ。改めて穴を覗くと、落とし穴の中に何か落ちている。

 

「あれは……雑巾?」

「そう、私特製悪臭雑巾。」

 

 作り方は簡単。納豆、牛乳、焼いたくさやをバケツの中に混ぜ合わせ、その中に雑巾を染み込ませる。そして仕上げにドブ川の水を入念に染み込ませる。

 

 念の為言いますが、皆さんは絶対に真似しないでください。

 

 四重の臭いが混ぜ合わさった雑巾の臭さの威力は凄まじく、落とし穴に落ちた二人は急いで出ようとするが、二人は早く脱出したいが為に仲間を蹴落そうとしている。

 

「お、おい……大丈夫……」

「仲間を思うなら君も行ったら?」

 

 そう言うと坊主頭のケツを後ろから蹴飛ばし、落とし穴に落とした。どんな反応かは先に落ちた二人と同じものであった。

 

「悪魔だ……。」

 

 ゲラゲラ笑う真梨香を見て、関わってはいけない人間であると判断した明久はその場から立ち去ろうとするが

 

「あっ!そっちは駄目!」

「え?」

 

 が、既に遅く明久はもう一つの落とし穴に落ちてしまった。

 

「あっちゃぁ……大丈夫?」

 

 明久が落ちた穴へと駆け寄り、覗いて無事を確認する。

 

「あ、うん。大丈夫。」

 

 ちなみに穴は先程の激臭雑巾はなく、普通の落とし穴である。

 

「ほら、掴まって!」

 

 穴に落ちない程度まで身を乗り出し、右手を差し伸べる。だが明久は手ではなく、前腕掴んで思い切り引っ張ってしまう。

 

「ちょっ……きゃあぁっ!」

 

 思い切り引っ張られ、真梨香も穴へ落ちてしまう。

 

「痛た……。ごめん、大丈夫……あっ!」

「う、うん……痛いなぁ……。えっと……どうした……」

 

 明久の顔が妙に赤い。その目線の先を見る。なんと明久の右手が、真梨香の胸を掴んでいた。それに気付いた真梨香の顔も恥ずかしさで真っ赤になる。

 

「ご、ごめん!」

「ひゃあぁんっ!」

 

 我に返った明久だったが、思わず手に力を入れてしまい、揉んでしまう。揉まれたことで真梨香の悲鳴に似た嬌声が漏れてしまう。

 

「ご……ごめん!わざとじゃ……」

「い……いつまで触ってんだこのへんたあああああぁぁぁーーーい!!」

 

 明久の顔面に盛大なビンタが炸裂、明久を倒した真梨香は、倒れた明久を土台にして穴から出る。

 

「変態!獣!発情期!」

 

 そのまま明久を助ける事なく立ち去って行った。

 

「ご……ごめんって……。」

 

 

 ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 そんな出来事があったのは二人だけの秘密である。そういう事もあり、明久は自分を殺しに来たのだと思い恐怖しているのだが、本人にその気はない。むしろ今の彼女は満面の笑みで明久を見ている。

 

「これから一よろしくねっ、吉井君♪」

 

 真梨香はウィンクするが、明久にとっては死の宣告とも取れる。

 

これは悪魔の女子転校生、浦方真梨香が巻き起こす最低でハチャメチャな物語である。

 

 




シンフォギアの方を優先して描きますのでこっちの更新はだいぶゆっくりになります。
ご了承ください。

ちなみに今回出てきた激臭雑巾の元ネタ分かる人いるかな……。


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第一問 自己紹介

シンフォギアの方も着々と進行してます。

今回は何故真梨香がFクラスに入ったのかが明らかになります。


 ここ文月学園では他の学校にはない世界初の教育システムが導入されている。

 

 その一つは「試験召喚戦争」

 

 最先端技術で実現された、召喚獣によるクラス間の戦争である。召喚獣の強さは個人の成績によって大きく変動し、得点が高ければ召喚獣の戦闘力が高くなり、逆に低ければその戦闘力は貧弱なものになる。

 

 そしてもう一つが成績累進式の教室設備である。1年の終わりにクラスの振り分け試験を受け、そこでの成績によっては最上位のAクラス、最下位のFクラスまでの6段階のクラスに振り分けられる。

 

 浦方真梨香はその1年の終わり際に転入する事になり、通常の振り分け試験の日とは別で彼女にだけ振り分け試験が行われた。

 そして、2年生から新たに通う事になった文月学園最初の登校日。真梨香は盛大にやらかした。

 

「どうしてだよおおおおおぉぉおぉーーーー!!」

 

 新世界の神にも勝るとも劣らない絶叫をあげながら真梨香は走って学校へと向かっている、いつも使っている時計がどういうわけか5時を指したまま動かなくなっていた。一度その時間に起きたのだが、早すぎるとという事で二度寝した結果がこれだ。

 しかも両親は共働きで、父親は県外へ出張、母親は大事な会議があるという事でいつもより早く出てしまった事で、真梨香を起こしてやる人間がいなかったのである。

 

「もう出る前に起こしてくれたって良いじゃない!」

 

 母親はちゃんと声を掛けたが、真梨香は爆睡していたので気づいていなかった。結果的に8時20分に起きた事に気付いた真梨香は、慌てて制服に着替えて学校へと走っている。4月の始まりという事もあり、道路には桜が

 

「そんな事どうでもいいから!」

 

 あ、はい。そうですか。とにかくそんな満開の桜を眺める暇もなく、全力疾走していた。曲がり角の出会い頭に気付くのが遅れるくらいに。

 

「「え?」」

 

 その刹那、出会い頭に衝突した時、真梨香と相手の胸同士が衝突、その反動によって真梨香だけ大きく吹き飛ばされた。

 

「だ、大丈夫ですか?!」

 

 相手の少女が吹き飛ばされた真梨香を身を案じて駆け寄ってくれたのだ。

 

「だ……大丈夫……。」

 

 その少女は同じ文月学園の制服を着ていた。桃色のふんわりとしたロングヘアー、その横にうさぎの髪止めがされていた。一目で可愛いと認識出来るが、真梨香が注目したのはそこではない。

 

「な、なる程……豊かで張りのある……ナイスおっぱい……。私じゃなきゃ……見逃しちゃうね……。」

 

 あの一撃で満身創痍になっているにも関わらず、自身を上回る少女の巨乳を見て、原因を判断した。少女は何の事か分からないのもあるのだろうが、それよりも倒れた真梨香を心配している。

 

「あの……お怪我は……」

「大丈夫大丈夫。よっこいしょ。」

 

 すぐに立ち上がると、制服に付着した砂埃や桜の花びらを叩いて落とす。

 

「あの……本当に」

「本当に大丈夫だから!」

(だからそんな今にも泣きそうな目で見ないで!何か逆に申し訳なくなるから!)

 

 少女は今にも泣きそうな上目遣いで真梨香を見ていた。故に謎の罪悪感に苛まれそうになる。

 

「それよりも……早く行かないと遅刻じゃない?」

「あっ……。」

「とりあえず……急ごっか。」

 

 二人は駆け足で学園へと向かった。

 

 ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 多少遅刻したが学校に到着した。二人は既に息絶え絶えだった。

 

「遅いぞ!」

「て、鉄人……」

「西村先生と呼べ!」

 

 疲労でつい見た目で思った事を言ってしまった。この筋肉モリモリマッチョマンの大男は生活指導の西村教諭。趣味はトライアスロンという事から鉄人と呼ばれているのだが、真梨香はそんな趣味は知らないはずであるにも関わらず、真っ先に鉄人という2文字が出てきた。

  

「姫路、浦方、これがお前達のクラスだ。」

「なんで封筒で……?」

 

 西村が二人にそれぞれ封筒を渡した。真梨香が受け取った封筒には大きく浦方真梨香と書かれている。こういうものは掲示板に貼って発表するものでないのかと疑問があるが、真梨香は封筒の中身を確認するために封を開けた。その中には一枚の紙。

 真梨香の成績は悪い方ではない。英語と物理は致命的と言えるくらいに苦手であるが、それでも社会系は得意中の得意であり、ぶっちぎりのトップを飾れるくらいだ。自己分析で良くてB、悪くてDだと推測していた。そして四つ折りになっている一枚の紙を広げると

 

「……F?」

 

 無情にも大きくFと明記されていた。つまり、真梨香は最下位であるFクラスになったのだ。

 

「え……F……?Eの間違いじゃなくて……?」

「現実を見ろ浦方。お前はFクラスだ。」

 

 自己分析から大きく離れた、しかも最下位のFクラスであるという結果に悲しみと不満から手が震えている。

 

「な、な、な、何でじゃあああああああぁぁぁぁーーー!!」

 

 真梨香の汚い叫びが響いた。

 

「何でですか?!私日本史と世界史、地理、現社はぶっちぎりの高得点は間違いなく……」

「それなんだがな。」

 

 西村は真梨香の講義を咳払いで遮ると、その訳を話す。

 

「確かにお前の各科目の中にはAクラスに匹敵するものがある。ところがな、日本史と世界史以外の教科の氏名欄には、お前の名前が書かれていなかった。」

 

 試験において如何に解答が合っていても、名前が書いていなければ問答無用で0点になる。真梨香はそんな初歩的な所から過ちを犯してしまっていたのだ。

 

「嘘……あ……あ……」

 

 

 

 

 ア"ア"ア"ア"ア"ア"ア"ア"ア"ァァァァァァァーーーーーーー!!

 

 

 

 

 

 真梨香が汚く叫んだ後、彼女は姫路と並んでFクラスの教室へと目指すが、真梨香のその足取りは重かった。

  

「私って……ホントバカ……。」

「ま、まあそんなに落ち込まなくても……。私もFクラスなんです。」

「あ、そうなの?って事はクラスメイトか。」

 

 まさかの同じFクラスであると知って、闇落ちしそうな雰囲気から元に戻った。

 

「そうだ。名乗ってなかったね。私、今日からここに転校して来てきた浦方真梨香。マリって呼んでよ。」

「はい。私は姫路瑞希です。瑞希って呼んでくださいマリさん。」

「オーケェーイ!」

 

 いつものテンションの真梨香に戻ると、二人はFクラスの教室まで走った。その時、Aクラス教室の中から、その前を通った真梨香に向けられた一つの視線があった。

 

 

 ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 吉井明久は退屈していた。このFクラスには馬鹿しかいない。それに加えてこのクラスの殆どが男。知り合いはFクラスの代表である屈強な体格を持つ坂本雄二、ムッツリーニこと土屋康太。

 ただ約1名美少女と女子はいる。前者は木下秀吉。一見美少女と見間違えるが列記とした男子である。しかし、明久の中では美少女である。そして問題なのは後者の方である。

 島田美波。1年にドイツから転校してきた帰国子女。彼女のモデルのような体型なのだがいかんせん胸が残念なくらい小さい。そして暴力的で、先程の自己紹介で『趣味は吉井明久を殴る事』と言われてしまったのだ。

 まともな女子は秀吉(男です)だけというのに不満を募らせる中、ガラッと襖が開くとそこにいたのは、本来であればここにいるはずではない女子生徒がいた。よく見ると、もう一人がその後ろにいる。

 

「あの、遅れて……すみません……」

「すみません……遅れました。いやぁ……転校初日から遅刻にこの設備……最先悪いなぁ……。」

 

 その場にいるFクラスの生徒がざわつき始めるが無理はない。何故ならこの学園では有名人なのだから。その中で数少ない、平静なFクラス担任の福原が二人に話す。

 

「ちょうど良かったです。今自己紹介をしている所なので姫路さんと浦方さんもお願いします。」

「じゃあ私後で良いから、瑞希からどうぞ。」

「は、はい!姫路瑞希と言います。よろしくお願いします……。」

 

 教壇の横に立って自己紹介をする。Fクラスには似合わない可憐な姿が、より一層注目されているのが傍から見ても分かる。そんな時、一人の男子生徒が手を上げた。

 

「はい、質問です!」

「は、はい。何ですか?」

「何でここにいるんですか?」

(うわ……失礼な人……。)

 

 真梨香は内心毒づくがこれは全員が疑問を抱くものなのだ。

 姫路瑞希。学園次席の成績の持ち主であり、常に順位は一桁に名を残す優秀者。そんな彼女がこの最下位であるFクラスにいるなど、普通は考えられない事なのだ。

 

「その……振り分け試験の最中、高熱を出してしまいまして……」

 

 それを知ったFクラス連中はなる程と頷き、愁傷様と真梨香は思った。いかなる理由があろうと、途中退席は0点になる。しかも最後まで受けられなかったのだからいずれの教科も無得点となってしまう。

 

「そう言えば俺も熱の問題が出たせいでFクラスに……」

「ああ化学だろ?あれは難しかったな。」

「俺は弟が事故に遭ったと聞いて実力を出しきれなくて……」

「黙れ一人っ子。」

「前の晩、彼女が寝かせてくれなくて……」

「今年一番の大嘘をありがとう。」

 

 姫路の訳を聞いたFクラスの生徒が聞くに耐えない言い訳の声が上がる。福原は咳払いでそれを静める。

 

「では次に今日からこのこの学園の仲間になる転校生を紹介します。浦方さん、入ってください。」

「はい。」

 

 福原の指示で、真梨香は教室に足を踏み入れ、教壇の横に立つ。女子の転校生というだけで数人を除いた男子生徒達は発狂するような歓声を挙げる。

 

「転校生!しかも女の子だぁぁぁぁーーー!」

「女神だぁぁぁぁーーー!!」

「付き合ってくださぁぁぁーーい!」

 

 

 一瞬、告白のアプローチが聞こえが真梨香はそんな熱狂に動じる事なく笑顔を皆に見せ

 

「今日からこの学園に転入しました、浦方 真梨香です!マリって呼んでください!」 

 

 拍手喝采と共に、歓声の熱が更に高まった。そんな中、明久だけが一人顔が青褪めていた。

 

「どうした明久?」

「う、ううん!何でもないよ!」

(何かあったなあいつ。)

 

 雄二の問いに明久は慌てて恍けると

 

「よ、吉井君?!」

 

 明久の声に反応した姫路が隣に明久がいた事に驚いた。ちなみに姫路の席は左に雄二、右に明久と挟まれている。

 

「姫路、明久がブサイクですまん。」

「そ、そんな事ないですよ!目もぱっちりしてるし、顔のラインも細くて綺麗だし……」

 

 明久への罵倒同然のフォローに対して姫路は健気に明久の良い所を言っている間に、真梨香の自己紹介が終わり自分の席を探している。

 

「えーっと……空いてる席空いてる席……あっ、雄二じゃん!久しぶり〜!」

「おう。」

 

 自己紹介を終えた真梨香が席を探していると、雄二を見つけて驚いた。そんな雄二は素っ気なく返事をするが、随分と親しげのようだ。

 

「へぇ〜この学園にいたんだね〜。でも何で神童の雄二がFクラス?」

「色々あんだ。」

「え?雄二ってこの人と知り合いなの?」 

「ああ。小学校が同じでな……って何だお前ら?!」

 

 転校生の知り合い、しかも小学校からの馴染みと聞いた他の男子達が激しい憎悪の目を雄二に一点集中している。

 

「あ、君はあの時の!やあやあ久しぶり〜♪」

 

 今度は明久の方を見ると、右手で何か揉むような動作を見せつける。その意味を知っている明久は、あの一連の出来事を思い出して恐怖した。

 

「ん?何だ明久、お前知り合いなのか?」 

「よ、吉井!どういう事?!アンタ彼女と知り合いなの?!」

「マリさんとはどういう関係なんですか?!」 

「島田さんも姫路さんも落ち着いて!そんなに問い詰められるような関係じゃないから!」

 

 そして今に至るのであった。

 




バカテスト

以下の英文を訳しなさい。

This is the bookshelf that my grandmother had used regularly

姫路瑞希の答え
[これは私の祖母が愛用していた本棚です。]

教師のコメント
正解です。きちんと勉強してますね。

土屋康太の答え
[これは        ]

教師のコメント
訳せたのはThisだけですか。

吉井明久の答え
[☆●◆▽﹁♪*✕]

教師のコメント
出来れば地球上の言語で。

浦方真梨香の答え
[これは私の祖母が見せてくれたエロ本です。]

教師のコメント
未成年になんてものを見せてるんですか。




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第二問 戦いを始める前に

ここで真梨香の成績表
※()は本来であれば取っていた点数

浦方真梨香

現代国語 0点(210点)古典0点(194点)
数学0点(177点)物理0点(85点)
化学(150点)生物0点(201点)地学0点(221点)
地理0点(367点)日本史401点 世界史347点
現代社会0点(451点)英語0点(36点)
保健体育0点(151点)

総合科目 748点(2851点)


 さて、自己紹介も最後の一人となった。坂本雄二。かつて神童よ呼ばれる程の秀才だったが、今は真逆の悪鬼羅刹。そして最下位のFクラス代表であり、真梨香とは同じ水無月小学校に通っていた幼馴染(悪友)である。

 

「Fクラス代表の坂本雄二だ。皆に一つ聞きたい。」

 

 自己紹介かと思いきや、Fクラスの皆に問う。

 

「かび臭い教室、古く汚れた座布団、薄汚れた卓袱台。Aクラスは冷暖房完備の上、座席はリクライニングシートらしいが……」

 

 一呼吸置いてから

 

「不満はないか?」

 

 ここまでの格差を見せつけられたら誰だってこう叫ぶ。

 

 

大アリじゃあぁぁっ!!

 

 

 案の定Fクラスの生徒達は魂の叫びを発した。

 

「だろう?俺だってこの現状は大いに不満だ。代表として問題意識を抱えている。」

 

 雄二の演説に呼応する様に、Fクラスの生徒達はこの格差に不満を吐く。それを聞いて満足したのか、雄二はある提案をする。

 

「これは代表としての提案だが、FクラスはAクラスに試験召喚戦争を仕掛けようと思う。」

 

 試験召喚戦争、略して試召戦争は召喚獣を用いたクラス単位の総力戦であり、下位のクラスが勝てば負けた上位のクラスの設備と交換する事が出来る。逆に下位クラスが敗れれば、現時点の設備より1ランクダウンしてしまう。卓袱台の時点で机とは言い難いがFクラスが敗れれば、卓袱台よりさらに低品質な設備、悪ければその台すら用意されない可能性だってある。

 

 さらに召喚獣の強さは個人の成績によって変動する。この学園のテストには上限がない為、200点や300点を超える事だって可能だ。しかし、Fクラスは最下位、つまりバカの集まりであり、3桁など得意科目か余程の奇跡でもない限り現れない。対するAクラスは300点は当たり前、それどころか上位であれば400点オーバーはザラである。成績が試召戦争の鍵を握るのであれば、AクラスとFクラスではまさに天と地の差、勝ち目など万に一つもない。設備を落とされるのが目に見えている。

 

勝てるわけない……

これ以上設備を落とされるなんて嫌だ……

姫路さんがいたら何もいらない……

助けてマリさん……

 

 このように熱狂から一転、悲鳴に変わる。途中、姫路と真梨香への求愛が聞こえたがそれは置いておく。

 しかし雄二は

 

「そんな事はない。必ず勝てる。いや、俺が勝たせてみせる。」

 

 高らかに宣言するが、無策で……いや、策があっても戦力差が違いすぎるが故に否定的な意見が多い。雄二はそれについては百も承知であるが

 

「根拠はあるさ。このクラスには試召戦争で勝つ事の出来る要素が揃っている。それを今から説明してやる。」

 

 不敵な笑みを浮かべた雄二は壇上に達、皆を見下ろす。

 

「おい康太。畳に顔をつけて姫路とマリのスカートを覗いてないで前に来い。」

「……!(ブンブン)」

「はわぁっ!」

「ひゃぁっ!」

 

 必死に否定しながら壇上へ上がった康太だが顔面に畳の跡がついている。真梨香と姫路はスカートの裾を押さえるが最早手遅れであった。

 

「土屋康太。こいつがあの有名な寡黙なる性識者(ムッツリーニ)だ」

 

 土屋康太という名前はそこまで有名ではないが、ムッツリーニという名前はこの文月学園に名を馳せている。女子生徒からすれば軽蔑でしかないが、男子生徒には畏怖と畏敬が込められている。

 康太ことムッツリーニはそれでもなお必死に否定するが、畳の跡がそれが真実であると物語っている。

 

(もしかしてムッツリスケベとムッソリーニをかけてムッツリーニかな?)

 

 真梨香の推測はあながち間違いではないだろうが、真相は定かではない。

 

「姫路の事はは説明する必要もないだろう。皆だってその実力を知っているはずだ。」

「え?私ですか?」

「ああ。ウチの主戦力だ。期待している。」

 

 学力の低いバカの集まりに、Aクラスレベルの姫路がいればこれ程心強いものはないだろう。

 

「そしてもう一人の主戦力、それはマリだ。」

 

 真梨香の名前を挙げた途端、Fクラス生徒達は一斉に真梨香の方に向いてざわつく。

 

何でだ?!

マリさんだって点数が低かったからウチに来たんだろ?

 

 ここにいる者の殆どは転校生である真梨香の事を知らない。数少ない女子とはいえ、学力に関して懐疑的になるのも無理はない。しかし、同じ小学校に通っていた雄二だからこそ知っている事実がある。

 

「マリは特定の教科を除けば、姫路とまでは行かないだろうが、俺どころかAクラスに匹敵する。」

 

 

な、何だってえぇぇぇーーーー?!

 

 

 皆が口を揃えて驚愕した。今回、真梨香がFクラスに入った理由は名前を書き忘れただけであり、それさえなければ、今頃AかBクラスに入っていたはずだ。

 

「マリには戦力としてもだが、俺の補佐についてもらう。」

「私が雄二の?」

「悪知恵なら俺より働きそうだからな。」

「悪知恵とは失礼な!悪戯と言ってもらおうか!」

 

 どっちも同じである。

 

「木下秀吉だっている。」

 

 木下秀吉。彼は演劇部のホープとAクラスにいる双子の姉、木下優子の弟である事で有名なのだが、学力に関してはあまり聞かない。当然秀吉の事を知らない真梨香には何の事かさっぱりである。

 

「当然俺も全力を尽くす。」

 

 彼は今でこそ悪鬼羅刹として他校の不良達に恐れられているが、かつては神童として名を馳せていた。中学校が違っても悪鬼羅刹の時も関わり合っていたとはいえ、その気になれば上位のクラスに行ける事を真梨香は知っている。

 そして雄二には不思議なカリスマ性を持っており、今もクラスの士気を上げさせている。先程まで絶望していたFクラスは皆やる気に満ちている。

 

「それに、吉井明久だっている。」

 

 しーん……

 

 明久の名を挙げた途端、先程の歓声とは真逆、教室は静寂に包まれた。

 

「ちょっと雄二!どうしてそこで僕の名前を呼ぶのさ?!全くそんな必要は関わり合っていたよね?!」

 

 誰だよ吉井明久って?

 聞いたことないぞ。

 

「ほら!せっかく上がりかけてた士気に翳りが見えてるし!僕は雄二と違って普通の人間なんだから普通の扱いを……って何で僕を睨むの?!浦方さんもそんな哀れみの目で僕を見ないでぇ!」

「そうか、知らないようなら教えてやる。こいつの肩書きは……《観察処分者》だ。」

 

 その肩書きが出た瞬間、明久の顔は青褪めた。そこに真梨香が手を挙げる。

 

「ねえ、その観察何とかって何?」

「観察処分者っていうのは、学園生活に支障をきたす問題児につけられる、言ってしまえばバカの代名詞だ。」

「身も蓋もない事を言わないでよ!」

 

 すると今度は姫路が手を挙げる。

 

「あの……それってどういうものですか?」

 

 Aクラスレベルの姫路には観察処分者なんて単語とは関わりないであろうから知らないのも無理はない。

 

「具体的には教師の雑用だな。力仕事とかそういった類の雑用を特例として物に触れる召喚獣でこなすと言った具合だ。」

 

 召喚獣は基本的に物に触る事は出来ない。明久の召喚獣にのみ物に触る事が出来る。

 

「そうなんですか?それって凄いですね。試験召喚獣って見た目と違って力持ちって聞きましたから、そんな事が出来るなら便利ですよね。」

 

 姫路から羨望と尊敬の眼差しが向けられる。悪い気はしないだろうが明久は少し恥ずかしい。

 しかし、ここで真梨香が再び挙手をする。

 

「でもさ、物に触れられるって事は、感覚も共有されるんじゃないの?」

 

 図星を突かれた明久の心臓にグサリと精神的なダメージが入った。

 

「その通りだマリ。初めてにしては良い所を突くな。」

 

 観察処分者の召喚獣、先程述べた事がメリットに聞こえるかもしれないが、実際はその逆、デメリットの塊である。召喚獣というのは基本的に教師の監視下でなければ呼び出せない。明久本人が使いたい時に使えるわけではない。

 そして最大のデメリットは先程真梨香が聞いた感覚の共有である。物に触れた召喚獣の負担は使用者本人にも何割かにフィールドバックされて返ってくる。当然作業中に召喚獣にダメージが入ってしまえば、その痛みも使用者本人にも共有される。

 自分の為に使えるわけでもないのに疲労やダメージも共有されるなんてものを到底便利だなんて言えない。観察処分者の召喚獣とは、言わばバカに与えられるペナルティである。

 

「じゃあ吉井君、おいそれと召喚獣を呼び出せなくない?」

「気にするなマリ。どうせいてもいなくても変わらない雑魚だ。」

「雄二!そこは僕をフォローする台詞を言うべきだよね?!」

「とにかくだ。俺達の力の証明として、まずはDクラスを征服してみようと思う。」

 

 明久の想いはスルーされた。可哀想に。

 

「皆、この境遇は大いに不満だろう?」

 

当然だぁ!!

 

「ならば全員(ペン)を執れ!出陣の準備だ!」

 

おおぉぉーーーー!!

 

「俺達に必要なのは卓袱台ではない!Aクラスのシステムデスクだ!」

 

 うおおぉーー!!

 

「お、おー……」

「おーう!」

 

 Fクラスの熱狂に押され、姫路はぎこちないが、真梨香はこの流れに乗った。バカがトップに下剋上、こんな刺激的な事は他にあるだろうかと。さて、Dクラスの人達にどんな悪戯を仕掛けてやろうか、真梨香はそれを考えるだけでワクワクしてきた。




バカテスト 国語

以下の意味を持つことわざを答えなさい
(1)得意なことでも失敗してしまうこと
(2)悪いことがあった上に更に悪いことが起きる喩え

姫路瑞希の解答
『(1)弘法も筆の誤り』
『(2)泣きっ面に蜂』

教師のコメント
正解です。他にも(1)なら『河童の川流れ』や『猿も木から落ちる』、(2)なら『踏んだり蹴ったり』や『弱り目に祟り目』などがありますね

土屋康太の答え
『(1)弘法の川流れ』

教師のコメント
シュールな光景ですね。

吉井明久の解答
『(2)泣きっ面蹴ったり』

教師のコメント
君は鬼ですか。

浦方真梨香の解答
『(1)誰にだってそういう時はある』
『(2)それが人生なのだから』

教師のコメント
テストでポエムを作る人は初めて見ました。


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第三問 試召戦争 VSDクラス編

新年明けましてございます!レーラです!

シンフォギアと鬼滅を差し置いて、こっちで新年の挨拶となりました!

追々更新しますので少々お待ちを……

また今回からこの小説は一人称視点に戻します。


 吉井君がDクラスへ宣戦布告へ行っている間、私は雄二に呼び出された。一応言っておくけど告白じゃない。私は雄二に恋愛感情はないし、反対に雄二だってそうでしょう。まあ私が小学校を転校して以降、雄二とは中学時代に何回か会った事はあるけど、そこで好きになったりはしなかったし。

 話を戻して、私を呼び出したのはDクラス戦での私への指示だった。そこで告げられたものとは……

 

「戦わずに隠れろってどういう事?」

「今回の主戦力は姫路を使う。お前は回復試験が終わってもここで待機だ。」

 

 さっきFクラスの皆の前で、私の事をもう一人の主戦力だって言っていたくせにどういう事?私と瑞希ならDクラス相手に無双出来ると思うけど。

 

「何でそんなことをする必要があるの?」 

「Dクラスの代表、平賀源次を確実に討ち取る為には、主戦力である姫路とお前のどちらかを使うしかない。だが姫路の点数は、ここに通ってる連中なら誰でも知ってる」

「つまりAクラスに勝つ為の布石として、データが存在しない私の情報を徹底的に隠すつもり?」

「その通りだ。だからDクラスでお前の出番はないと言っても良い」

 

 それなりの理由があるなら受け入れる。けどさ、それじゃあつまんないんだよ!

 出番が無いんじゃDクラス戦ずっと暇じゃん!私にも何かやらせてよー!

 

「不満か?まあ敵の足止め工作くらいなら構わない。だがやりすぎるなよ?」

 

 お任せあれ。この浦方マリ、妨害工作は得意中の得意。

 試召戦争は召喚者同士は直接手を出してはいけないルールがある。だけど裏を返せば直接手を出さなければ(・・・・・・・・・・)どんな悪戯もし放題ってわけだ。こりゃあ腕が鳴るぞ。

 

「ちなみにAクラスの代表は誰だと思う?」

「え?何なの突然?」

「良いから、答えてみろ」

 

 Aクラスの代表。つまり学年の中で一番の高得点者、主席という事になる。

 だけど、そんな凄い人想像出来ない……いや待てよ?もしそのAクラス代表が知らない人だったら、雄二が態々こんな問いを出すわけがない。まさか知り合い?だとしたら、一人しか思い浮かばない。

 

「まさか……この学園にいるの?」

「察しが良くて助かる。そう、Aクラスの代表はあの翔子だ」

「やっぱり……」

 

 霧島翔子。水無月小学校に通っていた時の同級生。雄二とは対象的にあまり口数は多くないけど、あの子は将来、絶対に美人になると確信してたなぁ……。

 でも翔子とは私が小学校を転校して以来、一度も会っていないから、ちょっと気まずいかも。

 

 彼女は覚えた事は絶対に忘れない。だから私より成績は優秀なんだよね。確かによく考えてみれば翔子が学年主席っていうのも納得出来る。

 

「だがそれ以外の連中なら、お前の実力はこのクラス以外知らない。Dクラス連中との戦いで、お前の実力を知られれば、Bクラスでの戦いで姫路以上に警戒されるだろう。だからこの戦いではお前の実力は徹底的に隠す。」

 

 そういう事なら仕方ないか。

 

「分かった。今回は大人しく、裏工作に回る……」 

「騙されたぁ!!」

 

 おや、Dクラスへの宣戦布告の使者を務めてきた吉井君が帰って来た。何か襖をものすごい勢いで開けて教室に転がり込んできたんだけど……何があったんだろ?

 

「やはりそう来たか。」

「やはりって何だよ?!やっぱり使者への暴行は予想通りだったんじゃないか!」

 

 確か戦国時代だと使者を殺したりするのは道理から外れた下衆な行動って聞いたことあるけど、まあ今は戦国じゃないしそれはどうでもいいか。にしても吉井君の制服ボロボロじゃん。

 

「吉井君……大丈夫ですか……?」

 

 瑞希は優しいねぇ。真っ先に吉井君の身を案じるなんて。可愛いし優しいし、勉強も出来る。こんな三拍子揃った子はなかなかいないよねぇ。

 

「あ、うん……大丈夫。ほんのかすり傷だから。」

「吉井、本当に大丈夫?」

 

 わぉ……一瞬モデルさんかと思っちゃった。彼女もFクラスなんだね。へぇ、2人の女子に心配されるなんて、吉井君ってモテるんだねぇ。

 

「ウチが殴る余地はまだあるんだ……。」

 

 前言撤回。暴力的な台詞が聞こえるのはまあ置いといて。あ、名前聞いてなかったな。

 

「あ、浦方さん……だっけ?ウチ、島田美波」

「あ、よろしく。マリで良いよ。」

「じゃあウチの事も美波って呼んで。」

 

 さっきの暴力的なセリフは吉井君限定なのかな?でも結構フレンドリーな人だから気が合うかもしんないね。

 

「お前ら、屋上でミーティングを行うぞ。マリ、裏工作は任せたぞ。」

「オッケーイ」

 

 屋上へ行っている間、私は裏工作の準備だ。念の為に鞄の中から護身用にデスソース饅頭をブレザーの内ポケットに入れておく。これは私が最初に開発したひみつ道具なのだ。あとは胡椒団子と……っ!曲者!

 

「……!」

 

 ちっ……デスソース饅頭を避けたか……!私とした事が、鞄に注意がいっていたせいで土屋君が姿勢を低くしてスカートを覗き見しているのに気付かなかった……。一体この人は何者なの?

 

「土屋君。私のスカートを覗くなんて良い度胸だね?」

「……!!(ブンブン)」 

「畳の跡が残ってるよ。」

「……!!(ブンブン)」

 

 こいつ白切りやがった!……っといけないいけない。思わず素が出る所だった。けどここまでバレてるのに否定し続けられるその精神力は本当に凄い。逆に感心しちゃうわ。

 

「何色?」

「紫……っ!」

 

 おっと失礼。うっかり胡椒団子を投げちゃった☆

 

 胡椒団子。泥団子の中に大量の胡椒を混ぜてこねて、さらに砂と故障をまぶして纏わせる。割れた時に砂と胡椒が舞うので目潰しにも使える。

 

 しっかしこの距離で避けるなんて、どんな身体能力をしてるんだか……。まあいいや。お仕置きは後でどうとでもなるし。さて、まずは地形把握の為に視察だ。

 

 

 うーん、Dクラスへ行く為には渡り廊下を行くしかない。もしここに仕掛けをしたら味方を諸共巻き込んでしまう。だけど正面からぶつかっても、学力で勝てるわけがない。 

 

「あ、そういえばFクラスの正面に文化部の部室があったような……。」

 

 というわけで文化部の部室、お邪魔しまーす。このカーテンにロープ……お、良いものあるじゃぁん!これなら渡り廊下にも使えるし……ちょっと骨が折れるから男子の何人かに手伝ってもらうか。ふっふっふっ……楽しみだなぁ!

 

 

 ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 ついに始まった試召戦争。雄二の指示通り、私と瑞希は回復試験に臨んでいる。

 私は日本史と世界史以外の強化をある程度回復出来ればそれで良い。

 今回の主役はあくまで瑞希。なるべく高得点で出陣出来るよう、私は150点くらい稼いですぐに戻らなきゃ。

 万が一もないと思うけど、帰って来てたらもう雄二がやられてました、なんてなったら洒落にならない。英語と物理は100点以下でも他が取れていればそれで良いんだから。 

 

『て、鉄人?!嫌だ!補習室は嫌なんだ!』

『黙れ!捕虜は全員この戦闘が終わるまで補修室で特別講義だ!終戦まで何時間かかるか分からんが、たっぷりと指導してやるからな!』

 

 あ、鉄人の声。召喚獣の体力はテストの成績と同じ数値になる。もし0になったらその時点で戦死、補修室へ連行されて、そこで待っているのは鬼の特別講義。嫌だなぁ……。

 

『た、頼む!見逃してくれ!あんな拷問耐えきれる気がしない!』

『拷問?そんな事はしない。これは立派な教育だ。補習が終わる頃には趣味は勉強、尊敬するのは二宮金次郎、といった理想的な生徒に仕立て上げてやろう』

 

 流石の金ちゃんもそんな教育は望んでないと思う。

 

『お、鬼だ!誰か助けっ……い、イヤアァ(バタン、ガチャッ)』

 

 嗚呼……可哀想に。アーメン。だけど、一々気にしていたらキリがない。今は集中。

 

 数十分後……

 

「高橋先生、採点お願いします!」

「では、点数を確認します。」

 

 2-A担任であり、2年の学年主任。いかにも見た目がキャリーウーマンの高橋先生。メガネをクイッと一度上げると、赤ペンを出して採点を始めた。

 ヤバい、何か緊張してきた。けど今度は名前もちゃんと書いた。流石にあんなことがあったらもうそんな凡ミスはしない。

 

「確認しました。それでは試召戦争に参戦して結構です。」

「え?!は、はい!」

 

 いや早っ!え?あれだけの量をもう点数だしたの?!いや、でもそれはそれで好都合!急いでFクラスの教室へ向かう。

 

「雄二!状況は?!」

「もう帰って来たのか。まあ大方予想通りの展開だ。」

 

 Fクラスの教室に戻った私は前線には出ず、その後ろから戦いを眺める。今木下君率いる前線部隊が渡り廊下でDクラスの人達と交戦しているけど、DクラスとFクラスの点数の差を見ればどうなるか大体予想はつく。

 

 それはさておき、前線のメンバーがが減ってるなぁ……。木下君も危ないって聞こえたし。そろそろやるか。

 隠し持っていたインカムのスイッチを入れてと……

 

「始めるよ、準備してね。」

『了解ですマリさん!』

 

 二階の渡り廊下に待機させた男子数名に通達したし……

 

「誰か!島田さんが錯乱した!本陣に連行してくれ!」

「島田落ち着け!吉井隊長は味方だぞ!」

「違うわ!こいつは敵!ウチの最大の敵なの!」

 

 味方どうしで何が起きたの?まあとりあえず、秀吉君は戦線から離脱させよう。

  

「全員戦線後退!渡り廊下から離れて!」

「承知した!全員後退じゃ!」

 

 おっ木下君、機転が利くね。皆を上手く纏めて後退した。って吉井君まだ動揺してる?!もう逃げ遅れてるじゃん!まあ一人取り残されても良いか。

 

「逃がすな!追え!」

「待ってくださいお姉様ぁー!」

 

 よし、Dクラスの人達が来た。さて、いよいよだね。

 

「今だよ!」

『了解です!』

 

 Dクラスが渡り廊下を渡る途中で黒い天幕が降りた。

 

「さあ、レッツパーティターイム!」

 

 ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 明久side

 

 まずい……僕らの戦い方を見て、時間稼ぎをしてるって事に気付かれた。

 しかも斥候の報告で、Dクラスは数学の木内先生を連れ出したみたいだ。

 木内先生は採点が早い。このままだと一気にケリをつけられる……!

 

「レッツパーティターイム!」 

 

 何か浦方さんの声が聞こえたような……

 

 バサァ バサァ

 

 えぇっ?!何で天幕が降りたの?!っていうか見えないんだけど?!

 

「ぶぇっくしょん!」

「な、何だこれ……ふぁっくしょんっ!」

 

 ハァックション!な、何これ?!胡椒?!ハァックション!! 

 

 ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 

 ふっふっふーん。あの天幕には私お手製の故障団子を砕いて、それを乾燥させた故障と砂を大量に馴染ませた、名付けて胡椒天幕。

 幕が広がった瞬間、埃のように撒き散らされた胡椒が、包囲されたDクラス生徒を襲う!

 

「は、ハックション!」

「な、何だこれぇ?!」

「め、目がぁ!目がああぁ!」

 

 よし、効果的面!いくらグラサン掛けた大佐であっても、それだけじゃ防ぎきれないよ。

 

「何で僕までえぇぇ?!」

 

 あれ吉井君?何で逃げ遅れてるのかな?

 

 狭い渡り廊下に胡椒と砂が舞えば、視界を奪われくしゃみが止まらない。そうなれば、すぐにでもその場から離れる。でも、私はそれを読んでおるわ。

 

「五十嵐先生!召喚許可を!」

「ゲホッ!ゲホッ!しょ……承認します!」

 

 そう、あの渡り廊下にはもう一つ階段がある。だけご胡椒と砂が舞ってる空間にいては、意識から外れて、真っ先にDクラスの教室へと向かうでしょうが、そこに辛うじて化学が得意な人達で奇襲させれば……

 

「戦死者は補習!!」

 

 いくらDクラスといえども、視界も奪われては召喚獣を上手く操れない。しかも、こっちはゴーグルとマスクのフル装備。だからこっちが俄然有利。

 

「よし、奇襲部隊はすぐにそこから離脱!2階を経由してFクラスへ!」

 

 とは言っても奇襲部隊の数は限りなく少ないし、点数だってそこまで高くはない。本当に不意討ちの為のもの。

 引き際を見誤れば奇襲部隊が全滅して戦力を失ってしまう。もちろん逃走経路もちゃぁんと確保済みだからね。だって……

 

「のわああああぁぁぁーーーー!!」

 

 二階の廊下に貼ってあるテープを切ったら小麦粉が落ちるようにしておいたから。

 本当は床にローション塗りたくりたかったけど、色々後が面倒になるからこうなったんだけどね。

 

 それはそれとして吉井君は大丈夫かな?

 

「何て事をするんだ君は?!」

 

 あ、吉井君が裏から帰って来てた。

 

「あれ仕掛けたの浦方さんだよね?!」

「当たり前じゃん。」

「さも当然みたいに答えないでよ!」

 

 だって聞いてきたんだから答えたんじゃん。そもそも逃げ遅れた吉井君が悪い。  

 けど、ここまでやればもう十分かな?後は雄二の作戦に任せよっ。

 

 ピーンポーンパーンポーン

 

 《連絡致します》

 

 あ、校内放送だ。この声は……誰だっけ?巣鴨君だっけ?

 

 ※須川です

 

 《船越先生、船越先生。吉井明久が体育館裏で待っています》

 

 ん?体育館裏で待っている?告白のシチュエーションにピッタリな場所に何で……ん?告白?

 

「ねえ雄二、船越先生って何者?」

「船越は45歳の独身女だ。婚期を逃して、単位を盾に生徒に交際を申し込む……」

「ゑ?」

 

 そんな人いるんだ…… 

 

 《生徒と教師の垣根を越えた、男と女の大事な話があるそうです》

 

「吉井隊長!アンタぁ男だよ!」

「感動したよ!まさかクラスの為にそこまでやってくれるなんて!」

 

 何かFクラスの皆が感動してるけど、当の本人は貞操の危機に瀕してるせいか、絶句してるよ。

 

「皆!吉井隊長の死を無駄にするなぁ!」

 

 その死は社会的な意味で?

 

「須川ああああぁぁぁーーーー!!」

 

 怒りで泣き叫びながら逃げてっちゃったよ……。 

 

 まあけどDクラス正面の道のりは胡椒天幕でガラ空き。攻め込むなら今しかない。

 

 

 じゃあ後は頼んだよー

 

 

 その後、姫路瑞希Dクラス代表・平賀源二に奇襲を仕掛けて討ち取った事で、Fクラスの勝利を納めた。

 

 




バカテスト 物理

問 以下の文章の( )に正しい言葉を入れなさい。

『光は波であって、( )である』

姫路瑞希の答え
『粒子』

教師のコメント
よく出来ました

土屋康太の答え
『寄せては返すの』

教師のコメント
君の回答にはいつも先生の度肝を抜きます

吉井明久の答え
『勇者の武器』

教師のコメント
先生もRPGは好きです。

浦方真梨香の答え
『バルス』

教師のコメント
私は例の大佐ではありません。


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第四問 戦後処理と再会

 無事、Dクラスとの戦いには勝利した私達。大歓声を挙げる中、一人貞操の危機に瀕して泣いている吉井君。

 

 この奇襲作戦は、瑞希あってのもの。瑞希がいなければ成り立たない。まさかAクラスレベルの生徒がFクラスにいるなんて思いもしないだろう。

 

 吉井君は何だか申し訳なさそうだけど、騙し討ちも立派な戦略の一つだよ。

 

 とはいえ、試召戦争で下位のクラスが上位のクラスに勝利した場合、設備の交換が認められる。

 これで晴れて、カビた畳と折れかけの卓袱台と綿なし座布団とはおさらばー!

 

「いや、設備は交換しない」

 

 なんて事にはならなかった。まさかの雄二の一声で、設備交換は消えた。吉井君が雄二に疑問を投げかけた。

 

「雄二、それはどういう事?折角普通の設備を……」

「一つはモチベーションの問題かな?」

「浦方さん、どういう事?」

「確かにこのクラスはFクラスより良い。だけど、あの教室よりいい環境に馴染んでしまったら、それに満足してしまう輩が出ちゃうんだよ」

 

 ただでさえFクラスはバカの集まりだからね。短絡的な発想でそうなる可能性も少なくはない。それで試召戦争をやりたがらない人を出してしまうと、纏まりのないクラスになってしまう。そうなっては打倒Aクラスどころじゃなくなる。

 

 Aクラスに勝つ為には、少しでも不安要素は取り除かないと。

 

「その通りだ。あとはもう一つ理由がある」

 

 え?まだあるの? 

 

「クラスを交換しない代わりに、俺が指示を出したらあれを動けなくしてもらいたい」

 

 雄二が指してるのは、エアコンの室外機?けど、このクラスにエアコンなんてついてないはず……

 ん?待てよ?確かDクラスの隣には、この教室より倍くらいの広さがあるBクラス。じゃああれはBクラスの室外機か。

 設備を壊したら教師に睨まれるのは間違いないけど、事故だったら厳重注意くらいでどうにでもなるか。

 あれを壊すだけで設備を交換しないで済むのなら、Dクラスは得でしかないね。

 

「分かったろさ。その提案、ありがたく呑ませてもらおう」

「タイミングについては後日詳しく話す。今日はいいぞ」

 

 そんなこんなで戦後処理は早く終わり、明日の回復試験の為に解散となった。

 

「さて、あの天幕片付けなきゃ」

 

 一応私が悪戯に使った道具達の後処理はちゃんと済ませて帰らなきゃ。それで対策されるようになったら目も当てられない。

 

 そして片付けが終わり……

 

 さてさて、天幕片付けてたらもう夕方になりかけてるよ。急いで教室から鞄取って帰らなきゃ。

 

「憎い!その男が憎い!」

 

 ん?何かFクラスの教室から聞こえてきたぞ?終戦直後だっていうのに、まだハッスルしてるのは一体誰だぁ?障子をそっと覗くくらいにして……あれは、吉井君と……瑞希?

 

 瑞希が持ってるのは……手紙?まさかラブレター?!瑞希、アンタって子は……けど、誰宛?気になるなぁ。

 けど、いつまでもこうされていると入れないから、なるべく自然な形且つ聞いてないように見せかけて入ろう。それ、ガラッとな。 

  

「あーつかれたー(棒)」 

「ひゃぁっ!ま、マリさん?!」

「う、浦方さん?!」

「どうしたの二人して?」

「「い、いや(いえ)!何でも(ありません)!」」

 

 わぁ息ぴったり。それじゃあ何かありますって言ってるようなもんだよ?

  

「鞄取りに来ただけだから、私はとりあえず帰るよ」

「は、はい……」

「ま、また明日」

「ほーいお疲れ様〜」

 

 軽く手を振ってFクラスの教室から出る。あの二人、何かいい感じだったな。けど瑞希の手紙は誰宛だったんだろうな?

 

 まあ良いや。帰ろっと。階段を降って下駄箱からローファーを取って履き変える。

 

「さて、明日は回復試験だし、寄り道せずにさっさと帰り……」

 

 

 

 

「マリ……!」

 

 後から聞き覚えのある静かな声で呼ばれた私はドキッとして、校門から出ようとしたその足を止めた。その声で私をマリと呼ぶ人なんて、一人しか思い当たらない。

 

「久しぶり、マリ」

「翔子……」

 

 振り返った先には、小学校の時よりも可憐な美少女に成長していた友達、霧島翔子がそこにいた。

 

 ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 霧島Side

 

 あの時、見間違えたんじゃないかって思ってた。

 

 Aクラスの前を通ったあの水色の髪。まるで星のように輝いていたあの瞳。

 

「まさか……」

「代表?どうしたの?」

「ごめん優子……何でもない」

 

 きっと見間違いだろうと、私は諦めていた。ここにマリがいるはずがない。そう思ってた。

 

「ねえ、代表。そういえばFクラスに転校生が入ったんだって」

「転校生?」

「確か高橋先生によると、点数はAクラスに匹敵するらしいわ。けど、うっかり名前を書き忘れて殆ど0点になったって」

 

 そんなうっかりさんがいる事に少し驚くけど、別にそれだけ。あまり興味はなかった。

 

「確か、浦方さんって言ってたような……」

「浦方……?!」

 

 優子からその名前を聞くまでは。 

 

 FクラスがDクラスとの戦いで勝利に歓喜する群衆の中に、マリがいた。

 

「やっぱり……あなたなのね……」

 

 マリが小学校を転校して以降、あの子とは一度も会う事は無かった。連絡先も分からなかったから、電話で話す事も出来なかった。

 もしかしたら、私の事なんて忘れてるかもしれない。だけど私は、あの時のように、また3人と楽しく学校に通いたい。

 

「マリ……!」

「翔子……?」 

 

 おかえりなさい、マリ。

  

 ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 やっぱり、翔子だね。小学校の時も思ってたけど……やっぱり美人になったよなぁ。

 私が男の子だったら、迷わず告白するくらい綺麗になった。

 

「どうしたの?」

「ひゃぁいっ!い、いや……その、5年も見ないとこんな美人になるんだなって……」

 

 何を口走ってるんだ私は?!そしてそこ!ポッと顔を赤くしないでよ!こっちまで恥ずかしくなるじゃん!

 

「マリ、どうして?」

「え?」

「マリの成績なら、Aクラスに入れた。どうして?」

 

 何でAクラスにいないのかって?言えない……言えるわけがない。名前を書き忘れたなんて、口が裂けても言えない!

 

「名前を書き忘れるなんて、マリらしくない」

 

 いや知ってるんかい!焦って損したわ!

 

「まああの時は、私とした事が馬鹿やったなーって思ったよ。名前書き忘れるとか人生で初めてだし……」

「マリのうっかりさん」

「うぐっ!」

 

 翔子、アンタって人の傷えぐる才能あるよ……。

 

「けどさ、こうしてまた同じ学校に通えるんだし、クラスが違っても良いじゃん」

「良くない」

「え?」

 

 翔子は何処か不満げだった。私がAクラスに行かなかった事がそんなに気に入らないのか、怒っている。

 

「マリはAクラスにいるべき。Fクラスには似合わない」

「そこまで言う?」

 

 

 一体何が翔子をそんな物言いにさせるのか、私には理解が出来ない。

 

 翔子は昔からそうだった。時々、何を考えているのか分からないし、私が予想しえなかった行動を突然やりかねない。

 今回だって、何を考えてあんな事を言ったのか分からない。私をAクラスに引き込みたい理由が気になるけど、ちょっとカマかけてみるか。

 

「今のセリフ、雄二やFクラスのみんなの前で言えるの?」

「……!」

 

 分かってるよ。翔子がFクラスに対する偏見がないってことくらい。そんなつもりで言ったわけじゃないのは分かってるよ。

 普段の翔子なら、そんな事は言わないのは分かってる。けれど、もしそれが感情的なった事での失言だったとしても、他の人が聞いていたら許せないだろうね。

 案の定、翔子はやってしまったと後悔しているみたい。

 

「翔子。私ね、AクラスだとかFクラスだの、そんなのはどうでも良いんだ。今目の前にある楽しみを満喫しまくる。今の私は、それで充分」

「マリ……」

 

 そんな悲しそうな顔しないでよ。何か気まずくなるじゃん。

 

「今の私は雄二のやりたい事に付き合うし、全力で戦う。だから翔子、アンタも全力で来てよね」

 

 これは翔子への個人的な宣戦布告。小学校の時も、こうやって翔子に挑んだっけ。

 おっと、懐かしさに浸ってる場合じゃないや。そろそろ帰らないと。

 

「楽しみにしてる、マリ」

 

 私達は互いに手を振ってそれぞれ家路へとついた。

 

 




バカテスト

問 以下の問いに答えなさい

『調理の為に火にかける鍋を製作する際、重量が軽いのでマグネシウムを材料に選んだのだが、調理を始めると問題が発生した。この時の問題点とマグネシウムの代わりに用いるべき金属合金の例を一つ挙げなさい』

姫路瑞希の答え
『問題点……マグネシウムは炎に掛けると激しく酸素と反応する為、危険であるという点。合金の例……ジュラルミン』

教師のコメント
正解です。合金なので『鉄』では駄目という引っ掛け問題なのですが、姫路さんは引っかかりませんでしたね。

土屋康太の答え
『問題点……ガス代を払っていなかったこと』

教師のコメント
そこは問題じゃありません

吉井明久の答え
『合金の例……未来合金(←すごく強い)』

教師のコメント
すごく強いと言われても。

浦方真梨香の答え
『問題点……マグネシウムに火をかけると火の勢いが強くなる   フラッシュペーパーを包めたものに火をつけてそれを投げつけ……(以下略)』

教師のコメント
浦方さん、後で職員室に来るように


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第五問 打倒Aクラスの壁

この小説を書くにあたって、ある壁にぶち当たった。


それは、悪戯のレパートリーの少なさである……


どなたか真梨香にしてほしい悪戯はありませんかああァァ!!


 次の日、消費した凶悪兵器たちを補充した私は走って学校へと向かう。運動代わりにもなるし。

 

 ちなみに朝食はウィダーinゼリー。これなら10秒で必要なエネルギーを摂取出来るから便利だよね。マスカット味美味しい。

 

 そして、摂取し終えたらこの袋をあのゴミ箱へボレーシュウウゥーーート!! 

 

 カランコロン←ゴミ箱に入った音

  

「超☆エキサイティング☆」

 

 決まった……!これはガッツポーズせずにはいられない!

 

「何してるの?」

「ひゃいぃっ!何だ翔子か、ビックリした……」

 

 後ろから急に話しかけられるとビックリするよもう……。そういえば、翔子の両隣にいる女の子達は、翔子のクラスメイトかな?って、え?!

 

「どうしたの?私の方を見て……」

 

 秀吉君が女子のスカートを履いているだとぉ?!初めて会った時からやっぱり女の子なんじゃないかって思ってたけど……可愛い……!

 

「秀吉君、薄々感じていたけど……やっぱ女の子だったんだね……」

「違うわよ。秀吉は私の双子の弟。私はその姉の木下優子」

 

 え?双子?まさか〜

 

「何よその何言ってんだお前みたいな目は?!失礼な人ね!」

「マリ、本当の事。この子は優子。」

「うん、翔子が言うなら信じるわ……ごめんってごめんって!お願いだからその眼力で私を殺そうとしないで!」

 

 ヤバい、今にも殺しに掛かる優子さんの目……!私と同じものを感じた気がする。

 

「アハハ!君、なかなか面白いね〜。あ、浦方さんだっけ?代表からよく聞いてるよっ」

 

 そこの緑色の短髪女子、笑い事じゃないよ。っていうか、どなたです?

 

「僕は工藤愛子だよ。好きなものはシュークリーム。趣味は水泳と音楽鑑賞」

 

 おや、この中でも一番まともそうな子だ。

 

「ちなみに今日はスパッツを履いてるよ」

 

 前言撤回。ヤバいやつだった。こんな朝っぱらから自分が履いている下着を堂々と言いふらすかね?

 

「君が今履いている下着の色を当ててあげよっか?」

「するな!当てるな!聞くな!」

 

 うん。私、この人苦手だわ。この流れ、私も名乗らないわけにはいかないか。

 

「一応名乗っておくか。私は浦方真梨香。ケアレスミスでFクラスになったバカです」

 

 最後のはこれは逃れようのない事実。まあ仲良くしておいて損はないと思う……かな?

 今の自己紹介での反応は……

 

 工藤愛子・・・吹き出した後爆笑

 

 木下姉・・・苦笑い

 

 翔子・・・無表情で首を傾げている

 

 やめて翔子。そのリアクションが一番キツい。

 

「アハハハ!面白いね!」

 

 そうだ、そうやって笑うがいいさ。その反応が私を救ってくれる。

 

「どうして?」

「え?」

「マリはバカじゃない」

 

 ドキンッ

 

 ヤバい、一瞬ときめいちゃった。落ち着け浦方真梨香。相手は女の子だ。このまま堕ちたらガールズラブになってしまう。読者の皆様からしたら美味しい展開になるかもしれないけど、私は男の子と恋をしたい。

 

「ねえ、一緒に学校に行こう?」

 

 あ、はい。行きます。この流れで拒否する事、私には出来なかった。

 

 ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 翔子達と登校して、クラスが違う私はAクラスの教室前で分かれた。話してみるとなかなか悪い人達ではなかった。

 

 木下姉こと優子さんはいかにも真面目で品行方正って感じだけど、この中では一番まともな人物だった。

 まあ工藤愛子は……うん、変わらない。けど、ムードメーカーみたいな感じだったな。

 けど相手はAクラス。模範的生徒の優子さんはともかく、工藤愛子も高得点者なのは間違いない。

 

 あの三人を真正面から倒すとなると、骨が折れる……いや、多分勝てる見込みなんて万に一つくらいかな。多分大勢で奇襲を仕掛けても、返り討ちに遭うのが目に見えている。

 対策が一向に見いだせないまま、Fクラスの教室に入って自分の席(卓袱台)に伏せた私は溜息をついた。

 

「最悪……」

「おはようマリ……ってどうしたの?!」

 

 教室に入るや否や、私が体調が悪いと思い込んだのか美波が駆け寄った。私は首を右に回して美波の方を見る。

 

「そーだねー。ちょっと高い壁(・・・)にぶち当たった」

「なっ?!マリもウチのことをそんな風に……やっぱりあんたは悪魔なのね……!」

「え?」

 

 まあ悪魔とはよく言われるけど……どうして崩れ落ちる?何か私、美波を傷つけるような事を……あっ。

 壁=ペッタンコと思い込んだのか。いや、高い壁って、打倒翔子の事を言ったんだけど……。

 けど、誤解させたままなのはちょっと気分悪いよね。

 

「美波、誤解してる。壁っていうのはAクラスの……」

「浦方さん?」

 

 待て吉井君。何故君がそこにいる?嫌な予感しかしない。

 

島田さん(かべ)がどうしたの?」

 

 何故君は火に油を注ぐのが上手いのかい?そうこうしているうちに、美波の関節技が吉井君を襲う。

 

「吉井君。悲鳴が煩くて寝れない」

「助けてよ浦方さん!いだだだだだだだ!!」

(とりあえず、新しい悪戯でも考えるか。今まで使ったやつは、多分翔子達にバレて対策されると思う……いや、翔子にそんな事は出来ない)

 

 あの子に悪戯は出来ない。小学校の頃、一度だけ胡椒団子を使った事がある。だけど、あの子が涙を浮かべて苦しそうな姿を見た瞬間、罪悪感が凄かった。

 

 あの後、正直に謝って許してもらった後、翔子には二度と悪戯をしないと決めた。

 

 突然入った回想終わり。

 

 とはいえ、まだBクラス(前座)が残ってる。まあその人達には何の思い入れもないし、特に親しい人もいない。

 

(遠慮なく使ってやるわグェッヘッヘッへェ!)←誰にも見せられない悪い顔  

 

 ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 さあお昼休みだ。朝ご飯があれだけだったからお腹空いちゃった。ちなみに隣には午後の授業が控えているのに、既に満身創痍な吉井君が卓袱台に伏せている。

 

「元気出しなよ。船越先生の件は何とかなったんでしょ?」

「そうだけど……どっと疲れた……」

 

 そう、昨日の試召戦争のアナウンス。あれから吉井君は朝っぱらから船越先生と一悶着あったようで、とりあえず年齢39歳のご近所さんのお兄さんを紹介したらしい。ん?お兄さん?まあ良いや。

 

 けど、昨日の試召戦争は大変そうだったし、私は裏工作以外はまだ何もしていない。ちょっとは労ってあげよう。そんなに疲れてるなら……

 

「私が膝枕してあげよっか?」

 

 吉井君の耳元で囁いてあげた。すると、吉井君が変な奇声を挙げながら慌てて後退る。

 

「そんなに嫌……?」

 

 何気にショックなんだけど……

 

「ちちち、違うよ浦方さん!そそそそ、そりゃあ浦方さんの膝枕なんて嬉しいけど……」

 

 可愛いな吉井君。そんな反応されるとますますイジりたくなるじゃないか。

 

「だ、駄目ですよマリちゃん!」

 

 後から顔を赤らめている瑞希が怒り出した。

 

「えっと……瑞希?」

「こ、こんな、公衆の面前で、膝枕なんて……明らかな不純異性交遊です!」

「ま、待って瑞希。私は何もそんな如何わしい事をしてるわけじゃ……」

「そうよマリ!そういうのは絶対ダメなんだから!」

 

 今度は隣から美波に怒られた。私はただ労ってあげたかっただけなのに…… 

 

「分かりましたか?」

「いや、お二人さん?私はただ……」

「分かりましたか?」

「……はい」

 

 何でだろう。瑞希から得体のしれない圧を感じた。

 

「何やってんだお前ら?昼飯食いに行くぞ」

 

 今のやり取りを見て呆れていた雄二が勢いよく席から立った。そういえば今のでお昼ご飯の存在を忘れていた。

 

「私も食べる。皆ははどうする?」

「うむ、無論じゃ」

「ウチも一緒したい!」

「……(コクコク)」 

 

 秀吉君、美波、土屋君も一緒ということで。あとは吉井君と瑞希だね。

 

「じゃあ僕も今日は贅沢にソルトウォーター辺りを……」

「あ、あの……皆さん……」

 

 そこに瑞希が徐に声を掛ける。

 

「お昼なんですけど、その……昨日の約束を……」

「約束?何の話?」

「ああ、浦方は知らなかったのう。作戦会議の前に、姫路が弁当を作ってくれるという約束をしての」

 

 何それ?!初耳なんだけど!っていうか瑞希態々お弁当を作ってくれるなんて……!

 私なんてお弁当作ってないで、適当にサンドウィッチとかにしてるのに。

 

「迷惑じゃなかったら、どうぞっ」

 

 瑞希が後ろに隠していたバッグを出した。これは確かに、如何にもって感じのやつだ!

 

「迷惑なもんか!ね、雄二」

「ああ、ありがたい」

 

 吉井君と雄二がそう言うと、瑞希は笑顔になった。なんて良い子なんだろう。この人の結婚相手は、間違いなく幸せ者になれるよ。

 

「じゃあさ、屋上で食べない?食堂だと狭いし、ここじゃ不衛生だし」

「そうだね」

「それから俺は飲み物でも買ってくる。昨日頑張ってくれた礼も兼ねてな」

 

 おっ、太っ腹〜。じゃあお言葉に甘えて。けど一人じゃ流石にキツそうだし、私も付き合うかな。

 

「あ、それならウチも行く!一人じゃ持ちきれないでしょ?」

 

 と、思ってたけど一足先に美波が雄二に気遣った。三人も行く必要はないし、ここは美波にお願いするか。

 

「悪いな。それじゃ頼む。おいお前ら、俺達の分も取っておけよ」

 

 そう言うと雄二と美波は財布を持ってジュースを買いに行った。

 

「僕らも行こうか」

 

 ということで、それ以外のメンバーは屋上まで歩いた。

 

この絶好のお弁当日和の青空で、まさかあんな事になろうとは、この時は誰も知る由もない。




バカテスト

問 以下の問いに答えなさい。

時に食用に出来る地下茎を持つ英語で『Lily』という名の植物を答えなさい。

姫路瑞希の答え
『ユリ』

教師のコメント
正解です。流石ですね姫路さん。
地下茎は鱗茎と呼ばれ、養分を蓄えて厚くなった茎で、ネギやらっきょうなども鱗茎に含まれます。

吉井明久の答え
『里芋!ジャガイモ!サツマイモ!』

教師のコメント
食用以外にも目を向けてください

浦方真梨香の答え
『女の子同士が奏でる蜜のように甘い禁断の恋……。それは百合!』

教師のコメント
答えは合っていても内容は不正解です


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第六問 凶悪兵器はほどほどに

 今日の空、まさに快晴。雲なんて殆どない。何て素敵なお弁当日和なんだろう。

 瑞希がビニールシートを用意した。他に人がいない事もあり、貸し切り状態となった。もうこれ軽いピクニックだよね。

 

 それはそれとして、気になるな〜瑞希のお弁当。

 

「あの、あんまり自信はないんですけど……」

 

 そう言うけど、瑞希が出した重箱の蓋を開けた。

 

「おおおぉぉっ!!」

 

 私達は一斉に歓声をあげる。唐揚げ、エビフライ、おにぎりにアスパラ巻き、定番と言えば定番だけど問題はそこじゃない。

 こんな綺麗に納められた食べ物達、しかもおかずの一つ一つがとても良く出来ている。特におにぎりなんてお米一粒一粒に艶がある。美味しそう……ん?だけど何だろこの匂い?何か僅かに変な匂いが……

 

「それじゃ、雄二には悪いけど先に……」

(ヤバい!この匂い……)

「……(ヒョイ)」

 

 匂いの正体に気が付いた時には遅かった。吉井君がつまみ食いしようとした時、素早い動きで土屋君がエビフライをつまんで口に運んでいた。

 

 バタッ ガタガタガタガタ

 

 土屋君が豪快に倒れて痙攣してる。それを見た私達は顔を青ざめてしまっている。いや、青ざめて当たり前だろう。

 

「わわっ!土屋君?!」

 

 慌てた瑞希が皆に配ろうとしていた割り箸を落とした。

 が、途端に土屋君が起き出し……

 

「……(グッ)」

 

 サムズアップ。けどまだ痙攣してるし、顔色悪すぎでしょ?!明らかに瑞希のお弁当が原因だよね?!何でそんな『美味い!』みたいなリアクション?!

 

「お口に合いましたか?良かったですっ」

 

 アンタの目は節穴かぁっ?!サムズアップする前の反応見たらそんな満面の笑みで喜ばないでしょうがよ!

 

「良かったらどんどん食べてくださいね」

 

 ヤバい、瑞希のような可愛い笑顔で勧められると断りにくい!

 この子自覚ないだろうけど、この子の方が本物の悪魔だよ!こんな無自覚に作り出した凶悪兵器をそんな満面の笑みで勧めるなんて!

 だけど瑞希の笑み、男子にはかなりの破壊力だよ!特に吉井君が!

 

(吉井君、秀吉君、死にたくなかったら食べるんじゃあない!)

 

 何とかアイコンタクトで伝える。

 二人は気付いてないけど、さっきの匂いの正体は塩酸だ。っていうかどんな思考回路をしたら料理に塩酸をぶちこもうなんて考える?塩麹と間違えたんだよね?きっとそうだ。そうに違いない。

 

 とはいえこれが悪戯だとしても、これは明らかに度を越している。悪魔である私ですら悪戯でも料理に塩酸を使おうなんて真似はしない。

 けど瑞希の性格上、そんな事はあり得ない。つまり、これが瑞希の料理の腕だ。

 

 しかしどうしたものか、瑞希を傷つける事なくこの殺傷力満点の凶悪兵器を処分する方法が思い浮かばない。いやそもそも……これ詰んでるっぽい。

 そんな方法なんて、最初からどこにもないんだ。多分悪戯したツケが回ってきたのかもしれない。神様、どうもすみませんでした。

 

「わ、私が食べ……」

「おう、待たせたな。へぇ、こりゃあ美味そうじゃないか。どれどれ?」

 

 ここで飲み物を買ってきた雄二が卵焼きを口の中へと放り込んだ。

 

「あ……」

 

 雄二が来たのに気付くのが遅かった。とはいえ、今度は雄二が犠牲になった。

 見事に倒れた雄二をまともに見ることなく、この危機的状況を回避する為の策を思案する。雄二が何かアイコンタクトを取っているが、今はそれどころではなぁい!

 

「ちょ、坂本?!どうしたの?!」

 

 美波、君が知る必要はない。

 

「あ、足が攣ってな……」

 

 そうだ、君は足を攣ったんだ。

 

「あはは、ダッシュで階段の昇り降りしたからじゃないかな」

 

 ナイスアシスト吉井君。

 

「そうなの?坂本ってこれ以上ないくらい鍛えられてると思うけど」

 

 こらぁ美波ぃ。余計な事を言うんじゃぁない。こうなったらここは美波には退場してもらうしかない。

 

「あ、美波」

「どうしたの?」

「さっき、虫の死骸がついてた」

「えぇっ?!早く言ってよマリ!」

 

 まあ、嘘なんですけどね。けど騙された。

 

「早く手を洗って来なよ」

「そうね、ちょっと行ってくる」

 

 何とか邪魔者は消えた。だが別に解決策が思い浮かんだわけじゃない!どうする?!久しぶりだよこんな進退窮まった状況!

 一先ず、生き残りの皆と作戦ターイム!

 

(浦方さん!何か良い方法はないの?!)

(そんなすぐには思いつかないよ!)

 

 私は悪知恵に関しては機転が利くが、それ以外に関しては凡人なのだ。

 

(明久、今度はお前が行け!)

 

 あ、雄二まだ生きてたんだ。てっきりお陀仏になったかと思ってたけど、もうその一歩手前まで行ってるよね。

 

(無理だよ!僕だったらきっと死んじゃう……)

 

 普通だれが行っても死ぬと思うな。秀吉君も流石に躊躇ってるみたいだし……しかたない、もうこれしか方法はない。

 再び吉井君とアイコンタクトと野球でよくあるサインを吉井君以外にバレないように送る。

 

(吉井君、私が時間を稼ぐ。そうしたらそのおかずを……)

(分かった!)

 

 とりあえず伝わった。よし、ブレザーのポケットから蜘蛛のおもちゃをさり気なく投げる。とりあえず屋上の扉の方に投げたら

 

「あっ!瑞希!そこに蜘蛛の死骸が!」

「ひゃぁっ!な、な、な、何ですかぁ?!」

 

 よぉし!瑞希の注意を逸した!今だ吉井君!

 

(おらぁっ!)

(もごぉっ!)

 

 瑞希が見ていない隙に、吉井君が凶悪兵器(おかず)を雄二の口の中にねじ込んだ。

 もう犠牲者を出さずにこの凶悪兵器を片付ける事を諦めた。だったら犠牲を最小限にしようと、雄二をスケープゴートに選んだ。

 雄二って、小学生の頃にデスソース饅頭を三個も平らげたからね。まあ私の悪戯で本物のこし餡の饅頭とすり替えたんだけど。

 

 こら、吉井君!雄二の口からお米が一粒落ちたよ!米粒一粒も残さず食べましょう!

 

「これでよし」

 

 何とか片付いたみたいだね。これで私はお役御免になった。蜘蛛の死骸と偽った玩具をポッケにしまって、あたかも捨てたように振る舞う。

 

「これでオッケー。あービックリした」

「そうですね。私もビックリしました……」

 

 安心した私達が振り返ると、なんてことでしょう……野生の赤毛ゴリラの死体が目に映るではありませんか。

 

「お主らも存外鬼畜じゃのう……」

 

 秀吉君が何か言っているが、気にするな!

 

「あ、もう食べ終わっちゃった?」

「うん。美味しかったよ。ご馳走さま」

「うむ、大変良い腕じゃ。」

「早いですね。もう食べちゃったんですか?」

「雄二が半分以上食べちゃったんでしょ?アイツってば、小学校の時も給食が足りないからって私の分も食べてたんだから」

 

 ※なお今の話は半分だけ本当にあった出来事です

 

「そうですかー。嬉しいですっ」

 

 ほにゃぁっとした笑顔の瑞希。そんな笑顔を見せられては、何でも許したくなってしまう。

 

「あ、ありがとうな……姫路……」

 

 ほら、こんなゾンビみたいな状態になった雄二もこの通り。けど、本当にヤバそう。目が死にかけてる。

 

「あ、そうでした」

 

 瑞希が何か思い出したかのように、ポンッと手を打った。

 

「どしたの瑞希?」

「実はですね……」

 

 ガサゴソと鞄を探ると……

 

「デザートもあるんです」

 

 な……な……何だとおおおおぉぉぉーーーー?!そんなの聞いてないぞおおおぉぉーーー!!

 

「あっ!姫路さんあれは何だ?!」

  

 よし、吉井君が瑞希の注意を逸した!けどどうすればいい?!既に死にかけの雄二にあの殺人ヨーグルトを食べさせたら確実に命はない!

 

 どうする?!もう流石に都合のいいスケープゴートはいない。吉井君と秀吉君にあれを食べさせるのは流石に気が引ける…… 

 

(俺なら良いのかマリ……!)

 

 何か雄二の幻聴が聞こえてきた気がする。これはあれか……もう腹を括れということか。仕方ないか……後ろで作戦会議をしている三人(そのうち一人は死にかけ)の間に割って入る。

 

(私が行く……)

(浦方?!お主正気か?!)

(駄目だよ浦方さん!そんな事をしたら死んじゃうよ!)

 

 うん、そうかもね。けどさ、もしかしたらデザートは大丈夫だったりするかもよ?

 

「じゃあ瑞希。ヨーグルト頂戴」

「はい。あっ、ごめんなさい。スプーンを教室に忘れちゃいましたっ」

 

 確かに容器に入ってるフルーツミックスヨーグルトを箸では食べられないわな。   

 

「取ってきますね」

 

 階段を降っていった瑞希。けど、見ていない方が都合が良かった。

 

「じゃあ、この隙に食べますか……」

 

 本当は嫌だけど。

 

「すまんマリ……」

「ありがとう浦方さん」

「すまぬ……」

「良いよ三人とも。そうだ」

「どうしたの?」

「もし私が倒れた後でお腹空いたら、そのサンドウィッチ食べていいよ」

 

 多分、これを食べた後は私お手製のサンドウィッチを食べている余裕はないからね。それに、お腹空かせたままっていうのも気が引けるし。

 さて、瑞希が戻って来る前に食べるとしますか。

 

「いただきます!」

 

 容器のヨーグルトを口の中に注ぎ込んで、それを飲み込んだ。

 

 

  

 

 

 

 

 

 

 

 あ、お婆ちゃん……会いたかったよ……

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 バタッ     チーン

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「浦方さああぁぁーーーん!!」

 

 一輪の花が、儚くも散った。




バカテスト

問 以下の問に答えなさい
マザーグースの歌の中で、『スパイスと素敵なもので出来ている』と表現されているものは何でしょう

姫路瑞希の答え
『女の子』

教師のコメント
正解です。流石ですね、姫路さん。
女の子の材料は砂糖とスパイスと素敵なもので、男の子の材料はカエルとカタツムリと仔犬の尻尾と歌われています

吉井明久の答え
『カレーライス!』

教師のコメント
女の子は食べ物ではありません

浦方真梨香の答え
『瑞希のお弁当……ゴハァッ!』

教師のコメント
一体何がありましたか?


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第七問 初めての召喚獣

真梨香、初めての召喚獣でございます。

また遅ればせながらプロフィールも作りました


 ふぅ、危うく三途の川を渡るところだったよ。マジで死ぬかと思った。あんなのデスソース饅頭を作ってる時以来だよ。

 何はともあれ、地獄の昼食を乗り越えた私達は何とか復活。そのままお茶をしながら今後の方針について話し合う。

 

「正直に言おう。どんな作戦でも、うちの戦力じゃAクラスには勝てない」

 

 戦う前から降伏宣言。雄二らしくもないけど、実際雄二の言う通りだ。瑞希レベルの生徒がAクラスには何人もいる。

 特にAクラス代表の翔子なんて、Fクラスが何人囲んでもハエのごとく叩き潰される。仮に私の悪戯が効いたとしても、勝てる見込みなんて皆無だ。

 

 けど、それで諦める雄二じゃない。次のBクラス戦にも、必ず理由がある。

 

「クラス単位では勝てないだろう。だから一騎討ちに持ち込む」

「一騎討ちに?どうやって?」

「Bクラスを使う」

 

 なるほどね。大体予想はついた私は頷いた。

 

「マリはもう勘付いているだろうが、一応説明はしておく。試召戦争で下位クラスが負けた場合の設備はどうなるか知ってるな?」

「え?も、もちろん!」

 

 あ、吉井君これ知らないやつだ。

 

(吉井君はさ、下位クラスは負けたら設備のランクが一つ落とされるんですよ)

 

 瑞希がこっそり助け舟を出した。なんて優しい。

 

「設備のランクを落とされるんだよ」

「……まあいい。つまり、BクラスならCクラスの設備に落とされるわけだ」

 

 Cクラスの設備は少し見たけど、まるで国立大学みたいな設備だったなぁ。

 

「では、上位クラスが負けた場合は?」

「悔しい」

「ムッツリーニ、ペンチ」

「ややっ、僕を爪切り要らずの身体にするうごきがっ」

 

 上位でなくても負けたら悔しいでしょうよ、吉井君。

 

「上位が負けたら、相手のクラスの設備に入れ替わるんでしょ。この場合、Fクラスに負けたら最低ランクの設備になるわけね」

「その通りだマリ。そのシステムを利用して交渉する」

「Bクラスに勝ったら、設備を交換しない代わりにAクラスを攻めてこいって?」

「そうだ。設備を入れ替えたらFクラスだが、Aクラスに負けるだけならCクラス設備で済むからな」

 

 それなら多少の痛手は負ってもFクラス設備に入れ替わるよりはマシだもんね。

 

「そしてそれをネタにAクラスと交渉する。『Bクラスとの勝負直後に攻め込むぞ』といった具合にな」

 

 なるほど、Aクラスは勉強が出来る集団でも体力面ではそうはいかない。一部例外はいたとしても、戦争直後は披露もかなり残る。

 ましてや相手は最下位クラス。Aクラスは下のクラスに戦争を仕掛ける理由も、仕掛けて得るもの なんて微塵もない。

 体力面もモチベーションも、Fクラスの方が勝っている。それでも問題は山積みだけど、雄二が立てた作戦で、勝てる見込みは少し見えてきたかな。

 

「とりあえず、俺達はBクラスをやる。細かい作戦は後で話す。明久、今日のテストが終わったら、Bクラスに宣戦布告して来い」

 

 あ、また吉井君がフルボッコにされるやつだ。

 

「断る。それなら雄二が行けばいいじゃないか」

「やれやれ……それならジャンケンで決めないか?」

 

 それなら吉井君にもまだ救いの道はあるね。

 

「よし、負けた方が行くで良いな?それと、ただのジャンケンじゃつまらねえ。心理戦ありで行こう」

 

 心理戦か。なるほど、あれをやる気か。吉井君正直者だから馬鹿正直に「グーを出す!」って言いそう。っていうか、それ系統のやつを言ったら負け確定なんだよね。何故なら……

 

「分かった。なら、僕はグーを出す!」

 

 はい、吉井君の負けは画定しました。あ、言い忘れてた。何でそれ言ったら負けなのかというと……

 

「なら俺は、お前がグーを出さなかったら……ブチ殺す」

 

 ほらね。こうなる。不意を突かれた吉井君が慌てふためいている。

 

「はい、ジャンケンポン!」

 

 私の合図で吉井君と雄二が手を出した。

 

 吉井君(グー) 雄二(パー)

 

「ほら、行ってこい」

「絶対に嫌だ!」

 

 まあ初見の人間からすれば納得いかないよね。

 

「それなら大丈夫だ」

 

 突然、雄二が吉井君の肩に手を置いてやる。

 

「Bクラスは美少年好きの奴が多い」

「そっか、それなら大丈夫だね」

 

 それ自分で言う?

 

「けどお前、不細工だしな……」

 

 なら意味ないよね。

 

「失敬な!365度(・・・・)何処からどう見ても美少年じゃないか!」

「5度多いぞ」

「実質5度じゃな」

「頑張ってね……吉井くププッ……w5度って……w」

 

 駄目だ、何か変なツボに入った……w

 

「三人なんか嫌いだあぁ!」

 

 吉井君は涙を流しながらBクラスへと宣戦布告しに行った。

 

「いやぁ、雄二も汚い手を使うね〜」

「抜かせ。あれは元々お前がやってたやつだろ」

 

 そう、あれは小学生の時にクラス委員長を決めるジャンケンだった。私はあの仕事をやるのがとにかく嫌だった。

 候補として残った雄二と私でジャンケンをすることになり、そこで心理戦を持ちかけた。

 

「俺はチョキを出してやる!」

「なら、私は雄二がチョキを出さなかったら……胡椒団子をぶちまける」 

 

 そう言って、慌てた隙をついて勝利した。いやぁ懐かしいなぁ。

 回想終わり。

 

「そうだ。Bクラス戦は私も出ていいんだよね?」

「ああそうだ。だがすぐには出さん。俺が合図を出すまで、お前は裏工作に徹してろ」

「りょーかい」

 

 とりあえず、ちょっくら裏工作の準備でもしますか。下見の道中、ボコボコにされた吉井君と通り過ぎた。うん、同情する。

 

 ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 さてと、今日のテストは終わって放課後になったわけなのだけど、鉄人に頼みをしてるから今は体育館にいる。

 え?何でかって?ほら、一年生の時は違う学校だったから、私は召喚獣の操作を知らない。Bクラス戦で初めて召喚獣を触って操るなんて結構無理がある。

 というわけで、テスト前に鉄人にお願いしたのだ。訳を話したら快く承諾してくれた。

 

 体育館の中であぐらをかいて待っている内に、ガラッと扉が開いた。鉄人がやって来た。

 

「待たせたな」

 

 その声でそのセリフを言うのはやめて。バンダナを巻いた某蛇にしか見えなくなる。

 

「どうした?」

「いえ、何でもありません。それよりも、急にお願いして悪かったですね」

「いや、浦方だけは召喚獣の操作実習を受けていなかったからな。それでは不公平だと思ったまでだ」

 

 堅物かと思ってたけど、良い人なんだねこの人。

 

「では、始めるぞ。まずは俺が教科フィールドを展開するぞ」

 

 鉄人が右腕を掲げると、体育館の中にバリアのような壁が展開された。

 

「この中でのみ、試験召喚獣を召喚出来る。試しに試獣召喚(サモン)と宣言してみろ」 

「はい。試獣召喚(サモン)!」

 

 私の喚び声に応じて、私の足元に幾何学的な魔法陣が展開された。その上から私にそっくりな私が現れた。

 見た目は80センチくらいで、ちびキャラみたいな感じ。これが私の召喚獣か……

 

「今回はお前が召喚獣を操作する、言わば特別講義だ。内容は召喚獣の簡単な操作だけであるが、試召戦争に対応出来るだけの技術である事は保証する」

「ありがとうございます」

  

 じゃっ、やってみますかぁ!

 

 

 そして、特別講義が終わった夜……

 

 疲れた……何か召喚獣を扱うって結構大変だな……。何とか家に辿り着いた私だけど、既に日は落ちていた。その上、両親はまだ仕事中で帰ってきていない。

 誰もいない家に帰って来た私は真っ先に自分の部屋に入った。パジャマに着替えると、ベッドにダイビングする。

 

「疲れた……けど、召喚獣の使い方は少し分かったし……後は……」

 

 そのまま私は深い眠りへと落ちた。

 

 

 

 

 

 

 次の日

 

「遅刻してしまう!」

 

 朝8時に起きた私。完全に寝過ごした。急いで制服に着替え家を飛び出した。ウィダーinゼリーを摂取しながら走って学校へと急ぐ。

 

「うおおおおぉぉーーー!!全力疾走じゃああぁぁーー!!」

 

 何か道の先に液状化してはぐれたメタルがいる。経験値多く貰えそうだが……

 

「邪魔だぁっ!」

 

 私は華麗に飛び越える!

 

「おい!経験値要らねえのかよ?!」

「そんなもんは要らん!」

 

 私に必要なのは速さ!誰よりも速く駆ける脚力だあぁぁーーー!! 

  

 




プロフィール

浦方真梨香

イメージCV(ハヤテのごとく 綾崎ハヤテ)

文月学園に転校した女子高生。
水色のセミロング(肩に少し届くくらい)瞳は紫。
スタイルが良く、アイドルのような可愛らしい言動とは裏腹に、本性は悪戯好きで、一言で言えば悪魔。

 悪知恵だけなら雄二を超え、ターゲットと定めた相手を悪戯で陥れる。
相手を必要以上に痛めつけない、また怪我をさせない程度と決めているが、その所業は相手の精神を完膚なきまで叩き落としている。

 一応勉強も出来る。得意教科は社会科系。苦手なものは英語と物理。総合科目の点数はAクラスに匹敵する。


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第八問 試召戦争 VS Bクラス イタズラ編

さあ真梨香のゲスいイタズラが炸裂します


「なんとか間に合った……」

 

 教室に入った私の第一声。もう限界まで走ってたからね私。授業と試召戦争を前に、私だけ満身創痍になっている。自分の席、もとい卓袱台に伏せる。

 

「必要な仕掛けの材料はカバンの中にあるし……仕掛けは後にするか。それよりも、テストをどうにか乗り越えなきゃ」

 

 今日は全科目のテスト。Dクラス戦で少ししか点数を補給しなかったから、今回は取りに行かないと。さて、頑張りますか。

 

 そして総合科目テストを終えて……

 

 よし、取れるだけ取ってやった。後は本番あるのみ。今回は私も参加するから結構やる気は溢れんばかりあるんだよね〜。 

 

「さて皆、総合科目テストご苦労だった」

 

 代表の雄二が教壇に立った。

 

「午後はBクラスおの試召戦争に突入する予定だが、殺る気は充分か?」

 

 おおぉーー!!

 

 おぉ……流石Fクラス。モチベーションは最高潮だね。

 

「今回の戦闘は敵を教室に押し込む事が重要になる。その為、開戦直後の渡り廊下戦は絶対に負けるわけにはいかない」

『おおー!』

「そこで、前線部隊は姫路に指揮を取ってもらう。野郎共、きっちり死んで来い!」

 

 死んだら意味ないでしょうが。

 

「が、頑張ります……!」

 

 ほら、瑞希もこの男のノリについていけてないよ。まあけど、男子達の士気は……

 

『うおおぉーーー!!』

 

 言うまでもなかったね。けど彼らは瑞希というお姫様を守る騎士。あの子を守って死ねるのであれば本望だろう。

 お姫様かぁ……私には無縁だな。

 

 キーンコーンカーンコーン

 

 あ、昼休み終了のベルだ。同時に、試召戦争開幕の合図。

 

「よし行ってこい!目指すはシステムデスクだ!」

『サー、イエッサー!!』 

 

 Fクラスの男子の殆どが勢い良く教室から飛び出し、渡り廊下へと走る。この教室にいるのは代表の雄二、秀吉君、そして私だけ。

 

「ねえ、Bクラス代表ってどんな奴?」

「それがのう……どうもBクラスの代表は根本らしい」

「根本?」

 

 誰ですかその人。

 

「奴は根っからの卑怯者だ。とにかく勝つ為ならば手段を選ばん。噂じゃカンニングの常習犯だ、球技大会じゃ相手チームに一服盛っただの、喧嘩に刃物は当然(デフォルト)装備だの、とにかくいい噂は聞かないな」

 

 ふーん、噂限りじゃ悪魔の私より性根が腐ってるね。けど、その方がかえってありがたいかな。だって思考が似ていればその分相手の行動が読めるし。

 

「ねえ雄二、私はまだ出番ないんだよね?」

「ああ。お前はここで待機だ。所で、裏工作の方は……」

「うーん……そのつもりだったんだけど、そんな暇無くなっちゃったんだよね」

「お前な……」

 

 思いつくのは簡単だけど、それを一人で作れなんて無理があるんだよ!Dクラス戦のやつだって、皆で作った賜物なんだから!

 

「まあ、今からでも仕掛けられない事はないから、代表は文化部の部室で待ってて。ほら、出てった出てった」

「お、おう。頼んだぞ」

 

 雄二達を追い出したから、今やこの教室は私と秀吉君だけ。さて、鞄の中にワイヤーが……あったあった。

 

「一体何をするつもりなのじゃ?」

「まあまあ何も聞かずに手を貸してよ。卑怯者には上がいるって事を教えてやらなくちゃねぇ!ヒャッヒャッヒャッヒャッ!」

(どっちが悪者か分からんのう……) 

 

 さて、やりますか←(ゲス顔)

 

 ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 さて、Fクラスの教室に仕掛けを充分に仕込み終えた私と秀吉君は、急いで向かいにある文化部部室に潜んでいる雄二と合流しようとした。

 

「あれ?いない?何処行ったんだろ雄二」

「この部室で待つように言ったはずなのじゃがのう」

 

 雄二のやつ、どこに行っちゃったの?やってもらいたかった事があったのに…… 

 

「仕方ない。雄二に手伝ってもらうはずだった事、申し訳ないけど秀吉君にやってもらうよ。」   

「じゃが、本当に成功するかのう?」

「安心して待ちなさい。今にも獲物が掛かってくるから」

 

 秀吉君の心配を余所に、私は部室の戸を隙間程度まで開けて様子を見る。

 

「誰か来た……」

 

 文化部の部室の戸を隙間程度まで開けて除き見ていた私は声を潜めて秀吉君に知らせる。

 予想通り、Fクラスでは見ない顔が旧校舎の階段を登って教室に近づいていた。

 

「ここで良いんだよな?」

「ああ、奴らの筆記道具や器材をとにかく壊しまくれってよ」

 

 おーおーこれは穏やかならない事を聞いちゃったねぇ。数はひー、ふー、みー……三人か。

 

(あれは、Bクラスの人達だよね?)

(筆記用具を壊して、回復試験を妨害する算段じゃろう)

 

 そうこうしている内にBクラスの連中がFクラスの教室に入っていった。しかも、日本人の性と言うべきか、畳の部屋に入る時はちゃんと上履きを脱いでいる。うん、予想通り。

 

 

 

 

 バコォーン!

 

 

 

 

 プッwたらい落としに引っかかった音がキレイに聞こえた。二つの内、どちらの出入り口が開いたらたらいが落ちるように仕掛けておいたんだよね。

 

「ハァックション!な、何だこれ……ハックション!」

 

 ちなみに残りの片方には胡椒団子が落ちるように仕掛けてある。当たりを引いた君、おめでとう!

 

「お、おいどうする……ハックション!」

「構うな。このまま続け……痛ええぇぇ!!」

 

 ギャハハハハハハ!!座布団の裏に仕込んだレゴブロックを踏んだなこれぇ!Fクラスの座布団の殆どに綿は入ってないから実質布切れなんだよなあれ!

 ヤバい、笑いが止まらない!!必死に声を抑えてるけど……ウヒヒヒヒ!!

 

「えげつない事をするのう……」

 

 秀吉君はドン引きしてるけど、こっちは笑いが止まら……ハハハハハ!!ご丁寧に上履き脱いでから入っちゃって馬鹿だよねええぇぇ!!

 

 さて、もう少し笑いたいけどトドメに入るか。今ならレゴブロックを踏んだ痛みでのたうち回っているし。

 

(秀吉君、手伝って)

(何をさせるつもりじゃ?!)

 

 とりあえず私と秀吉は二つの出入り口の障子の穴から消化器のホースを入れて

 

「行くよー秀吉君ー」

「待つのじゃ!これは明らかにやり過ぎではないか?!それに、これは召喚者の戦闘として、ルールに反するのではないかのう?!」

「大丈夫大丈夫。直接殴り合うものでもなければ何をしても良いんだよ。これは戦闘じゃなくて裏工作だよ」

 

 物言いようってやつだね。 

 

「それにね、私に裏工作で勝とうする身の程知らずに分からせるにはこれくらいしなきゃ」

 

 私は消火器のピンを抜いてレバーを引く準備に入った。

 

「秀吉君!早くピンを!」 

「ええい!こうなればどうにでもなるがよい!」

 

 腹を括った秀吉君もピンを抜いた。

 

 私達は同時にレバーを引くと、ホースの噴射孔から消火剤が撒き散らされた。中は当然消火剤塗れになって、視界も利かなくなる。隙間風が入るとはいえ窓は閉めてあるからそう簡単には漏れ出ない。

 

 つまり、今Fクラスの教室は真っ白な世界に早変わりしたわけだぁ! 

 

「な、何だこれ?!」

「助けてくれぇ!」

「窓を開けろ!空気を入れ替えて……って痛えぇ!」

 

 中でパニックになったBクラス(カモ)達は足場なんて気に回らないからレゴブロックを踏んで盛大に転がったな馬鹿めえぇ!!

 

「痛っ!お前!どこ見てんだ?!」

「お前こそ何処に目つけてんだ?!」

 

 惑え虫けら共おぉ!!真っ白でよく見えない教室じゃあ下手に動いたら味方同士でぶつかるよねえぇ!!仲間割れしてる声なんて愉快愉快ー!!

 

「私に歯向かうとこうなるのだあぁーー!!覚えておきたまへえぇぇーー!!オーッホッホッホッ!!イィーッヒッヒッヒッ!!」

 

 愉快すぎて笑いが止まらねえぇぇーー!!ヒャーッハッハッハッハッ!!

 

 ※絶対に真似しないでください

  

 ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 あの後、吉井君率いる前線から離脱した部隊に哀れな獲物(Bクラス)達に処分させて、補習室送りにした。

 筆記用具を壊して回復試験を妨害しようだなんて、やる事が小っちゃいな。私なら全部の出入り口を塞いで、隙間からシュールストレミングを教室に放り込むけどね。

 

「根本のやつ、本当に仕掛けてくるとはのう」

「けどそんな小細工も通用しない事が分かれば、Bクラスは堂々と戦うしかない!だよね雄二?」

「いや、そう簡単には上手く事は運ばん」

 

 それは同感。根本ってやつの事は知らないけど、これで終わるなら卑怯者なんて呼ばれない。どこかで絶対に何か仕掛けてくるはず。

 っていうかさ……

 

「どこに行ってたの雄二?部室で待っててって言ったのに……」

「あの直後に、向こうから協定を結びたいと申し出があった」

「協定じゃと?」

「ああ、四時までに決着がつかなかったら戦況をそのままにして、続きは明日午前九時に持ち越し。その間は試召戦争に関わる一切の行為を禁止する。ってな」

「承諾したの?」

「そうだ」 

 

 何か怪しい。その協定裏がありそう。だけど、それは雄二も分かっているはず、何でそんな胡散臭い協定に承諾したかな?

 

「ウチとしては体力勝負に持ち込めば有利になるが、その場合姫路が持たん」

「あ……」

 

 Fクラスは馬鹿な分、体力だけはバカみたいに高い。だけど瑞希はその逆。もし体力勝負に持ち込めば、瑞希は必ず疲れる。そこに突け込まれでもしたら、Fクラスの主戦力を失い、士気もガタ落ちになる。

 そう考えれば、瑞希を温存させる方が良いね。けどその代わり、Bクラスに攻め入る時間はもう残されていない。確実に明日に持ち越しになる。

 

「っ……!」

「どうしたの瑞希?」

「い、いえ!何でもありません!」

「じーっ……」

 

 慌てて不自然な笑顔。何かあったな。ジト目で見続けるけど、瑞希は恥ずかしがるだけで話してくれない。仕方ない、ここは諦めるか。

 

 




真梨香がやるイタズラを募集します!

もし真梨香にこんなイタズラをしてほしい!っていうものがあれば是非教えて下さい!

もしかしたら真梨香がそのアイディアを採用するかも……?


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第九問 VSBクラス 謀略編

この作品で初めて感想を貰い喜ぶ私

是非とも感想のほど、よろしくお願いします!


 さて、卑怯な真似をしようとしたBクラスの刺客が襲来したというハプニングはあったものの、私の愉悦……ゲフンゲフン、策略によってあっさりと撃破。

 

 とりあえず吉井君と瑞希は前線に戻り、秀吉君も前線に加わる。私と雄二は再び教室へと戻った。イタズラの後処理も済ませたし、私は彼らの悲鳴を聴けたし、満足満足☆

 

「私はここでのんびり待ってますか」

 

 とりあえずお茶を一服。はぁ〜美味い!一仕事終えた後のお茶は格別だぁ〜!

 

「大変だ!島田が人質に取られた!」

 

 え?美波捕まったの?ちょっとそれは予想してなかったなぁ……。何で捕まった?

 

「心配すんなマリ。そのうちすぐに戻って来る」

 

 何か軽いノリでそう言うけど、そんな簡単に戻ってくるわけ……

 

 

 

 しばらくして……

 

 

 

 四時になったので、協定通り今日はここまで。それに伴って皆が戻って来たよ。ボコボコにされた吉井君を引っ提げて。十中八九島田さんがボコボコにしたんだろうなと、容易に想像がつく。

 

「聞いてよマリ!吉井ってば、ウチの事を偽者って言って攻撃したのよ?!」

「ん?偽者ってどういう事?」 

 

 とりあえず吉井君を瑞希に預けて、私は文化部の部室で美波の言い分を聞く。

 美波によると、自身がBクラスの罠に掛かって捕まって、今すぐ退かないと美波の召喚獣を倒すと脅しに来たのだとか。だけどどういうわけか、吉井君は捕まった美波を偽者呼ばわりして攻撃を仕掛けたのだ。

 結果的に美波は助け出されたけど、偽者呼ばわりされた本人からすればたまったものではない。美波が怒るのも頷ける。

 

「ん?そういえばさ、何で捕まったの?」

「その、吉井が怪我をして保健室に運ばれたって聞いて……それで駆けつけたら……」

 

 何を言っているんだこの人?まさか吉井君を保健室送りでは足りないからトドメを刺しに?!

 

「違うわよ!本当に心配したんだから!なのに……なのに吉井は……」

 

 え?涙ぐんでる……?まさか美波って、吉井君の事?でも何で自己紹介で趣味は吉井君をボコすことって、満面の笑みで言ったのかな?ツンデレにしては、バイオレンスなツンだし……

 

「確認するけど……美波って、吉井君の事が本当に好きなの?」

「な、なななな!」

 

 ヤバい、美波が顔を赤くしてる。そして何で言っているか分からない。明らかに英語じゃないよね?

 だけど、このリアクションから好きっていうのは間違いないね。

 だとしても……吉井君が美波を偽者呼ばわりするのも頷ける。いつも嬉々として暴力を振るってくる相手が急に優しくしてくれるなんて怪しまれても仕方がない。

 

「美波。今からでも遅くはないから、吉井君に素直になりなさい」

「え?!な、何で?!」

「何で?!ではなーい!」

 

 いくら好きでも暴力を振るうのは良くないと思います。というより常識です。

  

「とにかく、ちゃんと二人で話すんだよ!好き人を取られたくないならなおさら!」

「だ、だからウチは……」

 

 分からず屋の言い分を聞いてやる程、私は優しくない。けど置いていくのは可哀想だから一緒に部室から出てFクラスの教室に戻る。もう皆帰っちゃってる頃だろうし、吉井君もそろそろ起きる頃でしょ。

 

「あ、島田さんに須川君。ちょうど良かった。Cクラスまで付き合ってよ」

「待って吉井君。何でCクラス?Bじゃなくて?」

「それが……」

 

 吉井君に話を聞くと、どうやらCクラスが試召戦争の準備をしていると、土屋君が情報を仕入れてくれたのだという。

 

 試召戦争中はルールによって、戦争中のクラスに宣戦布告する事は出来ないが、それ以外であれば可能になる。つまり勝利したクラスが苦労して上位設備を手に入れた途端、それを横から掠め取ろうと狙って来るという事だ。 

 

「このタイミングでCクラスが動くの?」

 

 Aクラスの設備を狙うならまだしも、それよりワンランクダウンの設備を狙おうとしている。Cクラスの代表もなかなか賢いと見える。

 

 雄二はCクラスと協定を結ぼうと、吉井君、瑞希、土屋君とCクラスに行くところだという。

 

「ふーん……」 

「どうしたマリ?浮かない顔だな」

「別にー?」

 

 確かにおかしな流れは無い。無さすぎて逆に怪しく感じる。

 

「じゃあ私は教室で待ってるから、協定なんとかしてよねー」

「おう。留守は任せた」

 

 手を振ってCクラスへ行くみんなを見送った。

 

「さて、秀吉君。私はこの使ってない消火器を持って渡り廊下で待ってるわ」

「浦方!お主また良からぬ事を……」

「念の為だよ。思い過ごしなら、それに越した事はないし」

 

 まだ二本未使用のやつがあるからそれを抱えて渡り廊下で待っている。けど、流石に二本は重いなこれ。さあて、待ってる間は何してようかなー

 

「逃がすな!坂本を討ち取れ!」

 

 物騒なセリフが大声で聞こえてきた。やっぱり罠だったか。誰の声か分からないけど、Bクラス連中なのは間違いないね。

 

「さて、撤退の援護をしますか」

 

 一本の消火器のピンを抜いて、結んであるホースを解いて持って構える。

 

 すると、Cクラスから逃げ出した雄二達がこっちに向かって走って来た。その中には須川君だけがいない。恐らくCクラスに残ったのだろうが、こうなっては助けられない。

 

「雄二!早くこっちへ!」

「マリ?!何でこっちに来た?!」

「良いから早く!」

「姫路さん!」

 

 しまった!瑞希が逃げ遅れている!

 

 運動が苦手な瑞希では雄二の全力疾走にはついていけない。しかも、Cクラスから出てきたBクラスの連中、数学の長谷川先生を連れて来てる……!

 今日の試召戦争、数学で戦ってた。瑞希はAクラスレベルとはいえ、前線で戦ってかなり消耗してるはず。これでは瑞希が袋の鼠だ……!

 咄嗟に消火器を投げ捨てた私は急いで瑞希の方へと走った。あんなもの抱えて行っても邪魔なだけだ。

 

「浦方さん?!まさか?!」  

「吉井君達はさっさと逃げる!」

「待って!ウチも行くわ!」

 

 吉井君に構わず走る。その際に美波も一緒について来てくれた。

 

「Bクラス工藤信二、召喚を……」

「ちょぉっと待ったああァァ!!」

 

 何とか間に合った!瑞希を守るように、私達は追ってきたBクラスの連中の前に仁王立ちする。

 

「こっからは私らを倒してからにしてもらおうか!」

「誰も通さないわよ!」

「マリちゃん?!美波ちゃん?!」

 

 瑞希はもう体力の限界だ。こうなったら私が撤退まで稼ぐしかない。

 

「あいつ、Fクラスに転入したっていう奴だ!」

「Fクラスならアイツもバカだ!さっさと倒してしまえ!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「……あぁっ?!」 

 

 

  

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 流石にキレたわ。

 

「カッチーン……」

「マリ?!落ち着きなさいって!」 

 

 邪魔しないで美波。今の私、マジで機嫌が悪いから。

 さて、遊んで(殺して)やるか。

  

 

「行くぞ!試獣召喚(サモン)!」 

「Fクラス浦方真梨香、試験召喚獣召喚(サモン)!」

 

 互いに召喚獣を召喚した。

 

 私が出した魔法陣からは練習の時とは違い体操着ではなく、全身にスパイスーツのような黒いボンテージ風の忍び装束に、手には棘鉄球付きの鎖鎌を持っている。

 

 

 Fクラス 浦方真梨香 VS Bクラス 工藤信二

 265点 VS 159点

 

「う、嘘ぉ?!ウチより高い!」 

「な、何だこの点数はぁ?!」

 

 今日まで隠して来たけど、もう必要ないよね。

 

 私の意思に合わせて動いた召喚獣が、工藤信二ってやつの召喚獣を鎖鎌の刃で両断した。

 

「そ、そんな……」

 

 討ち取られた工藤信二はその場にへたりこんだ。まあ相手が悪かったね。恨むなら私を敵に回した自分を恨むんだね。

  

「さあて、さっき私の事バカって言ったよね?すぐに討ち取れるんだよね?ほら、掛かってきなよ」

「む、無理だろ!Fクラスに姫路以外の奴がいるなんて、聞いてないぞ!」

 

 高得点もあって私が威圧的になると前線にいるBクラス連中が後退る。よし、ここは揺さぶりを掛けるか。

 

「何で逃げようとするのかなぁ〜?まさかFクラスに負けるのが恐いのかなぁ〜?そりゃあそうだよね〜!いくらこんな可愛い女子に、しかも最下位クラスのFクラスに負けるなんて、そんな汚点残したくないもんね〜!仕方ないか〜!しょせんBクラスはAクラスに入れなかった、敗北者じゃけぇ〜!」

 

 敵に対しては徹底的に挑発する。特にBクラスは最後に言った事はかなりのコンプレックスになってるだろう。そこを煽ってやれば……

 

「敗北者……?取り消せよ、今の言葉ぁ!」

「おいお前ら!挑発に乗るな!」

 

 おや、どうやら一番後ろにいる男子が冷静になるように指示を出してるね。黒髪で短く刈り揃えたあの男子……あいつかな?Bクラスの代表の根本ってやつは?

 だけど余計な事をされては困るから、もっと盛大に煽ってやるか。

  

「取り消せだって〜?断じて取り消すつもりはなぁい!Aクラスになれずに、Bクラスに甘んじる。終いには卑怯な代表の命令に従う忠実な犬。その代表を守る為に鬼の補習送り。実に空虚じゃありゃせんか?ほら、美波も何か言ってやって」

「え?!そ、そうよ!アンタ達何かウチらの敵じゃないんだから!」 

「悔しかったら掛かって来なよ!ゴミ山代表敗北者ー!オーッホッホッホッ!」 

「お前ら!そんな子供騙しの煽りに引っ掛かるな!」

 

 無駄だよ根本君。たとえKGBが戒厳令を引いたところで、民衆の不満はもう抑えられないさ!

 っていうか、そうであってくれないと逆に困る。 

 

「やっちまええぇぇーー!」

「容赦するなーー!」

 

 よし、掛かった。

 

「逃げるよ美波!」

「えぇっ?!」

 

 急いで美波の手を取って逃げる。向かう先は教室……ではなく渡り廊下の階段!

 

「何で逃げるの?!っていうか教室に行くんじゃ?!」

「そのまま逃げたって面白くないからさ!少しからかってやるんだよ!」

 

 急いで階段を降りて、一階の廊下を走る。後ろから物騒な声が聞こえるけど、こんな狭い所で足並みも揃えずに追いかけても遅くなるだけ!

 

「美波!この窓を飛び越えるよ!」

「そ、そんないきなり?!ってえぇっ?!」

 

 追いつかれない内に窓を開けて庭へと飛び込む。って何をしてるの美波?!

 

「早く!右斜め前(・・・・)に飛び込んで!」

「わ、分かったわよ!ええい!」 

 

 指示通りに右斜め前(・・・・)に飛んだ美波をキャッチ。そしたらそこから少し離れてBクラスが来るのを待つ。

 

「いたぞ!外に逃げた!」

「逃がすなぁ!」

 

 私達を見つけたBクラスの一人が庭に飛び込んだ。真っ直ぐ(・・・・)に。

 

「え?」

 

 飛び込んだ瞬間、足場が消えた。当然そこに出来た穴へと落下した。

 

「プギャァァァーハハハ!バーカ!まんまと掛かったなぁ!」

 

 そこの足場は予め落とし穴に変えておいたのよ!そこは右斜め前(・・・・)以外の着地地点は全部落とし穴になってたんだよ!

 

「俺達に散々偉そうな事言いやがって!お前こそ卑怯者じゃないか!」

 

 窓越しから何か吠えてるけど、あんなショボいやり方しか出来ない奴と一緒にするな。それにあんな挑発にバカ真面目に乗った方が悪い。

 

「さてどうする?もう下校の予鈴まで時間がないよー?」

 

 試召戦争だってずっと出来るわけではない。先生だって忙しいんだから、いつまでも付き合っているわけにはいかない。 

 

「だったら他の窓から飛び超えればぁっ!」

 

 私がそれを考えてないと思っていたのかい?そこにも落とし穴が仕掛けてあるから、飛び込んだ男の子は落下した。しかもそこには……

 

「臭えええぇぇぇぇーー!!」

「ギャッハハハハハハ!!そこは激臭雑巾が入ってるから超臭いよアハハハハハ!!」

 

 ヤバいwwwお腹がよじれるwww呼吸困難だよwww

 

「臭っ!何これ?!」

「激臭雑巾。常温放置しておいた牛乳やくさや、納豆を混ぜたものに雑巾を染み込ませたやつ」

 

 少し離れているとはいえ、流石にここまで臭うからちゃっかり鼻に洗濯バサミを挟んで鼻の気道をを塞いでおく。

 

「美波もつける?」 

「ウチはいいわ……。ねえマリ……あんたって、おっかないわね……」

「今頃気づいた?」

 

 そう言っている内に下校時間を知らせる予鈴がなった。これで今日の試召戦争は本当の意味でお預けとなった。

 

「じゃあ美波、帰ろっか」

「え、ええ……」

 

 一仕事終えた私達は何事も無かったかのように教室に入った。ちなみに教室につくまで美波は顔を引きつっていた。

 

 




平気で洗濯バサミを鼻に挟んだり、夜○月並のゲス顔になったりするヒロインなんてなかなかいないでしょうなw

おまけ

浦方真梨香の召喚獣

衣装
首まである全身ボンテージ風の黒い忍装束。金の胸当てと篭手、具足。首には紫のマフラー

武器
棘鉄球付きの鎖鎌


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第十問 VS Bクラス 奪われた大切なもの編

「あー楽しかったー」

 

 気の抜けた声でFクラスの教室の戸を開ける。そこにはまだ雄二達が留まっていた。

 

「ようマリ。どうだった初陣は?」

「最高っす!」

 

 これ以上の言葉が他にあるだろうか?いや、無い。楽しみが増えたし、ついでに一人討ち取って何人かは罠にハマったし、脳汁がドバドバァ!

  

「浦方よ。他人には見せられぬ顔になっておるぞ」

「女の子がしていい顔じゃないよねそれ」

 

 え?あ、失礼。ついつい気持ちよくなってしまっていた。我ながら良くない。ありがとう秀吉君、美波。

 

「で、どうするの?CクラスがBクラスとグルだと分かった以上、万が一この戦いに勝ってもそのままCクラス戦とやり合う羽目になるよ?」

「それについては問題ない。万が一の為に秀吉をここに残しておいたのが功を奏した」

 

 万が一?秀吉君を使って何をするつもり?

 

「なに、明日になれば分かる。今日の所は解散だ。明日もよろしくな」

 

 そう言うと雄二は鞄を持って教室から出て行った。何を企んでいるのか分からないけど、お手並み拝見と行きますか。

 

「じゃあ私も帰るわ。バーイ」

「あ、あのマリちゃん!」

「ん?どうしたの瑞希?」 

 

 何か潤んだ目でこっちを見てる。

 

「あの……あの時は助けてくれて、ありがとうございました!」

 

 突如瑞希が頭を下げた。お礼は嬉しいんだけど、何かさっきの潤んだ目の後だと何か心なしか罪悪感に近い何かを感じる。 

 

「え?!あ、いや……そりゃあ友達なんだから助けるのは当たり前だっての!」

 

 私も何ツンデレみたいな事言ってるんだろ。

 

「とにかくさ、助かったんだからそれで良いじゃん!」

 

 何だか瑞希が相手だと調子が狂うなぁ。何でだろ?

 

「あの……今度よろしかったらお弁……」

「だああぁぁーーーしゃしゃぁぁーーい!!わっしょおぉぉーーーい!!あ、もうこうなじかんだ!私そろそろ帰らなきゃ!というわけでまったねー!」

 

 今まで出したことない奇声で聞こえないふりをして、全力で教室から逃げ出した。

 あんなT-○○ルスもビックリなバイオテロ兵器を食べさせられては命がいくつあっても足りないわ!

 

「何か疲れた……」 

 

 急に疲れがのしかかって来た。夕飯はカップ麺でいいか。どうせ今日はお父さんもお母さんも帰って来ないだろうし。

 

 

 ピロピロリン♪

 

 

 ん?メール?雄二からだ。何だろ?

 

 

 

『お前の制服が欲しい』

 

 

 

 何言っちゃってんだコイツ?雄二、お前さ疲れてるんだよ。きっとそうだ、雄二は疲れているんだ。

 まあ私も疲れたし、カップ麺食べて寝よ。

 

 ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 次の日

 

 さあて、試召戦争二日目がそろそろ始まるぞ。と張り切っていると、ケータイのランプが点灯している。何だろ?

 

 不在着信が10件?!こんなに来たの初めてなんだけど!一体誰が……

 

 あ、雄二だ。

 

 こんなに着信して……どういうつもり? 

 

「おはよう雄二。今日もいい朝だね」

『何を呑気に言ってやがるんだ?昨日メールしたってのに返信も来ねえし、8時から電話してるってのに出なかったろ?』

「もうとっくに寝てた。仕方ないじゃん疲れたんだから」

『ったく、まあいい。昨日のメールは見たんだよな?』

「メール?あ……」

 

 お前の制服を貸してくれ。

 

 あ、思い出した。

 

「あのメール何?もしかしてそういう性癖に目覚めたの?」

『違う。今回の作戦に必要なものだ』

「作戦?」

 

 何考えてるのか知らないけど、まあ良いか。

 

 

 

 

 まあそんなこんなで予備の制服を持って学校に来た。けど、雄二ってば言い出しっぺのくせに遅いな。とりあえずお腹空いたからパン達でも食べるか。

 

 まずはチョコデニッシュ。うん、チョコが甘くて美味い。とりあえず牛乳を一口。あ"あ"あ"ぁぁ!最高この組み合わせ!

  

「よう、マリ」

 

 あ、雄二が来た。 

 

「遅いよ雄二。朝からパン何個食べさせるつもりだったの?」

「お前も人を待たせすぎだ。例のものは?」

「当然」

 

 鞄の中から予備の制服を出した。

 

「よし。お前ら、昨日言っていた作戦を実行する」

「作戦?でも、開始時刻はまだだよ?」

 

 吉井君の言う通り、開始時刻は午前九時。まだ午前の八時半だ。

 

「Bクラス相手じゃない。Cクラスの方だ」

「なるほど。そんで何をすんの?」

「秀吉にコイツを着てもらう」

 

 そう言って出したのは私の予備の制服。なるほど、これを着たら姉の秀吉君のお姉さんである優子さんそっくりになる。

 あれだけそっくりって事は、木下姉弟は一卵性双生児なのかな?

 

「それで優子さんを装って、Aクラスの使者としてCクラスに喧嘩を売りに行くわけ?」

「その通りだ。っていうかお前木下優子を知ってるのか?」

「うん。こないだ少しお話した」

「そ、そうか。とりあえず秀吉、用意してくれ」

「う、うむ……」

 

 まあそういう反応になるよね。けど何だかんだで秀吉君が生着替えを開始……

 

「どうじゃ?これで良いかのう?」

 

 えっ?!速っ!もう着替え終えたの?!

 

「…………(ガクッ)」

 

 男子達が大歓声を挙げる中、カメラを構えてスタンバイしていた土屋君だけが崩れ落ちた。撮れなかったのが悔しかったのかな?

 にしても、本当に優子さんかと見間違えちゃうよね。これ入れ替わっていてもバレないんじゃない?

 

「浦方よ、そんな見つめるでないぞ……///」

「あ、ごめん……何か色っぽくってつい……///」

 

 いかんいかん。ときめいてどうするよ。けど無理もないわ。だって可愛いもん。

 それはさておき、秀吉君は優子さんを装ってAクラスの使者として喧嘩を売りに行った。これは宣戦布告ではないから、試召戦争を行う必要はない。

 だが問題は喧嘩を売られた側であるCクラスだ。はい、今私はCクラスに見つからないよう、遠くから盗み聞きしている。

 

『静かにしなさい、この薄汚い豚ども!』

 

 優子さん(中身は秀吉)がCクラスに入った矢先に放った第一声。これは酷い。

 

『な、何よアンタ?!』

『話しかけないで!豚臭いわ!』

 

 自分から喧嘩売っておいてそれはないよ。

 

『アンタ、Aクラスの木下ね?ちょっと点数良いからっていい気になってるんじゃないわよ!何の用よ?!』

 

 完全に優子さんだと思い込んでる。これも雄二の狙い通りね。

 

『私はね、こんな臭くて醜い教室が同じ校内にあるなんて我慢ならないの!貴女達なんて豚小屋で充分だわ!』

 

 うーん……話してみた限り、優子さんがそんなセリフを言うとは思えないけど……

 

『なっ!言うに事欠いて私達にはFクラスがお似合いですって?!』

 

 あ、私Cクラスの代表嫌いだわ。豚小屋=Fクラスと言った辺り、完全に見下してるわあいつ。

 

『手が穢れてしまうから本当は嫌だけど、特別に今回は貴女達を相応しい教室に送ってあげようかと思うの。ちょうど試召戦争の準備もしているようだし、覚悟しておきなさい。近いうちに私達が薄汚い貴女達を始末してあげるから!』

 

 そう言い残すと優子さん(中身は秀吉)がCクラスの教室から出て行った。

 

「これで良かったかのう?」

 

 あ、おかえり秀吉。

 

「うん。上出来……」

『Fクラスなんて相手にしてられないわ!Aクラス戦の準備を始めるわよ!』

 

 すんごいヒステリックな叫び声に遮られた。

 

「マリ、アイツ、キライ」

「何故急に片言になる?」

 

 作戦は成功したけど……うん、やっぱりアイツ嫌いだわ。とりあえずFクラスに戻るか。

 

 ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー 

 

 さあBクラス戦2日目の開幕だー。……とは言ってもまた私は前線のバックアップだ。そりゃああれだけの点数差を見せられたら下手に私を出すわけにはいかないよね。

 

「私とした事が後のことを考えてなかったなぁ……」

 

 まあ作戦は……『敵を教室内に閉じ込めろ』だってさ。とりあえず、Fクラスの皆は命令を遂行しようと雄叫びを挙げながら特攻している。だけど……

 

「何かヤバくない?」

 

 そう、押されている。何とか押しとどめているけど、左側の出口が突破されそうになっている。

 

「瑞希!左側が……えっ?」

 

 明らかにピンチなのに、この作戦の要であるはずの瑞希が指示を出していない。駄目だ、瑞希がアテにならない。

 

「吉井君!どうなってるの?!」

「分からない!姫路さんの様子がおかしいんだ!」

「様子がおかしいって……もう、こうなったら私が出張るしかない!」

 

 Bクラスの連中が教室から出してしまったら、真っ直ぐに雄二の所へと突撃されてしまう。そう簡単にはやられないとはいえ、数の暴力で押し込まれたらおしまいだ。

 幸いにも左側は古典。やや得意!

 

「浦方真梨香、試験召喚獣召喚(サモン)!」

 

 召喚獣を召喚して、包囲の突破を図ろうとする敵の召喚獣を鎖鎌で斬り落とした。

 

「ま、マリさん?!」

「マリさんが来たぞ!」

 

 私が来た事で、劣勢に立たされていたFクラスの士気が高まった。私の古典の点数は409点。そう簡単には殺られはしない。

 

「あいつだ!あいつを討ち取れ!」

「マリさんを守れ!」

 

 私に気がつくと、躍起になって討ち取りに来たBクラスから守らんと後詰めのFクラスが左側に集結する。

 

「皆!ここは任せたよ!」

「任せください!」

「死んでもここは守り抜きます!」

 

 これで何とか時間は稼げるけど、それも長くは持たない。瑞希、一体どうしちゃったの?!

 

「瑞希!総司令官のアンタがちゃんとしないでどうするの?!」

「ま、マリちゃん……その……」

 

 何か今にも泣きそうだけど、泣いたって何も変わらないでしょうが!

 

「浦方さん落ち着いて!姫路さん、さっきから様子がおかしいよ?一体……」

「な、何でもありません……」

 

 苛立つ私と違って、吉井君は優しく問いただしているけど、瑞希は答えようとしない。

 

「右側の出入り口、現国に変更されました!」

「数学教師はどうした?!」

「Bクラスに拉致された模様!」

 

 何か明らかにヤバい報告が聞こえてきた。

 

「わ、私が行きま……っ!」

 

 出張ろうとした瑞希が立ち止まってしまった?瑞希の視線の先には……Bクラス代表の根本?アイツがどうかしたのか……あっ!

 

「吉井君あれ!」

「あれって……!」

 

 私は見てしまった。アイツが手にしている可愛らしい封筒。アイツのものじゃないのは見て分かる。しかもあの封筒、あれは瑞希が三日前に持っていたラブレターだった。

 まさか、初日に回復試験を妨害しに来たBクラスの連中に盗まれたのだとすぐに分かった。

 してやられた。それに気付いた私は悔しさのあまり、壁に殴りつけた。

 

「浦方さん?!」 

 

(私の落ち度だ。撃退したと思い込んで、友達がなけなしの勇気を持って書いた乙女の手紙を掠め取られた……)

 

 それを盾に瑞希を無力化した。あの協定も、瑞希を無力化出来ると分かってやったんだ。私の仕掛た罠によって、奇襲部隊が殺られたのは想定外だったろうけど、その日の試召戦争が終われば鬼の補習もお預けになる。その後に根本にラブレターが渡ったんだろう。

 クッソ!私とした事がここまでしてやられるなんて……!  

 

「吉井君、ちょっと来て」

 

 吉井君を廊下の四階まで続く階段へと連れ出す。

 

「浦方さん……痛くないの?」

 

 こんな時まで人の心配なんて、優しいね吉井君。

 

「平気だよ。それより、吉井君。一緒に面白い事しない?」

「面白い事……なるほど」

 

 お、バカな吉井君も分かったみたいだね。意外と気が合うみたいだね。

 

「浦方さん、僕に考えがある。手伝ってほしい。」

「愚問だよ」

 

(Bクラス代表根本……)

(アイツだけは……)

 

 

「「ブチ殺す」」

 




次回、Bクラス編終幕!


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第十一問 VS Bクラス 終幕編

初めてイタズラの案が来ました!ありがとうございました!

まだまだ募集してますので、是非案を教えて下さい!


「雄二!」

「うん?どうした明久と……マリか?」

 

 私と吉井君が教室に入る。まあ吉井君はともかく主力その二の私が戻るなんて普通考えない。

 

「話があるんだ」

「……とりあえず聞こうか」

 

 冷かすわけでもなければ真面目に吉井君の話を聞こうとしている。それだけ吉井君は真剣なんだ。無論、私もだけどね。

 

「根本君の着ている制服が欲しいんだ」

「ブッw」

 

 この真剣な空気だというのに、吉井君ときたらそんな変態的な事をかましてくれた。お陰で私は思わず吹き出した。

 

「お前に何があったんだ?」

 

 当然の反応だよね。

 

「あぁ!いや、その……えぇっと……」

「まあ良いだろう。勝利の暁にはそれくらいは何とかしてやろう」

 

 あっさり受け入れられた。まあ雄二は吉井君の事を変態的な意味で捉えてるし、良いか。私に害が及ぶわけじゃないし。

 

「で、それだけか?」

「それと、姫路さんを今回の戦闘から外してほしい」

「理由は?」

「言えない」

 

 カッコいいねぇ吉井君。さっきのくだりが無ければ。

 

「どうしても外さないと駄目なのか?」

「どうしても」

 

 雄二が顎に手を当てて考え込む。そりゃあそうだ。主力の一人、しかも最大戦力の瑞希を外すなんて正気じゃない。下手すれば一気にこちらが劣勢になるどころか敗北しかねない。だけど、あのラブレターを人質に取られた今の瑞希はハッキリ言って戦力にならない。

 酷い言い方になるけど、『真に恐れるべきは有能な敵ではなく、無能な味方である』とナポレオンが言っていたそれとまさに同じ状況だ。

 とはいえ事情を説明せずに瑞希を戦線離脱させるなんて、かなり無茶を言っているのは明らかだろう。

 

「条件がある」

 

 しばらく考え込んでいた雄二の口が開いた。

 

「姫路が担う予定だった役割をお前らがやるんだ」

 

 おっ、吉井君の意思を汲み取ってくれたみたい。正直瑞希の役割を吉井君が担うというのは無茶かもしれないけど、その無茶を何とか押し通すしかない。

 

「もちろんやってみせる!それで、僕は何をしたら良い?」

「タイミングを見計らって根本に攻撃を仕掛けろ。科目は何でもいい」

「皆のフォローは?」

「ない。しかもBクラス教室の出入りは今のままだ」

 

 私が瑞希の代わりにその役割を果たせれば良いんだけど、如何せん瑞希のように全科目がAクラスレベルってわけじゃない。

 さらにBクラスの教室にいる戦力は大幅に削られてしまっている。私がフォローに入らなければ破られるのも時間の問題だ。

 仮に奇跡的に私が蹂躙出来たとしても、根本を倒せるだけの点数なんて残らない。だったらここは吉井君に任せるしかない。

 何より、涙を流すヒロインを助けるのはヒーローの仕事だしね。

 

「じゃ、私はBクラスの出入り口で遊んでくるわ」

「待て、それなら俺も……」

「あ、そうだ雄二。その前にやってもらいたい事があるんだ」

「やってもらいたいだぁ?」

 

 乙女の純情を弄んだアイツには100倍にして返さなきゃね。とりあえず便箋と、ペンが鞄に……あったあった。

 

 カキカキカキカキ……。適当に折りたたんで……出来上がり。

 

「はいこれ。職員室にいる適当な先生に渡しておいて」

「おう……。げっ……お前、よくこんなエグい事を……」

「おっと、それ以上は言わない事。それじゃ、雄二の代わりにDクラスに合図出すから、よろしくね〜」

 

 振り返りもせずに手を振りながらFクラスの教室を出た私。

 

 さて、根本……。私を出し抜いてふざけた真似をした事、社会的な意味での死を持って贖ってもらおう。

  

 ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 さて、Bクラスの教室の前まで来ました。予想よりもだいぶやられちゃってるねぇ。これじゃ作戦を始める前に破られるかな。

 しかも援軍が来ないで諦めムードになりかけてるし、本当にマズい。何とかして士気を高めないと……お?ちょっと待てよ?

 

 ニヤリ←悪魔のような顔

 

 

「皆!」

「ま、マリさん?!マリさんが来たぞ!」

「俺達の戦女神が来たぞぉ!」

 

 え?私いつのまにかそんな渾名つけられてたの?

 まあいいや。とりあえず、この状況で手っ取り早く士気を上げる方法が一つある。だけど一つ、確認しなきゃいけない事がある。むしろこれに全てが掛かっている。

 

「皆よく聞いて!皆は女子と付き合った事はある?」

「い、いきなり何ですかマリさん?!」

「そりゃあ……俺達はバカだから女子とは無縁だし……」

「俺も」

「俺もです!」

 

 よし、それでいい。寧ろそうであってくれないと逆に困る。

 

「そうかそうか。それはさぞかし同情するよ」

「え?どうしたんすか?」

 

 こんな大事な戦いの最中にこんな話をするなんてどうかしてると、我ながらそう思う。だけど、こっからが本番だ。

 

「だって向こうの大将、根本にはガールフレンドがいるんだからねぇ!」

 

 な、何いいいいぃぃぃーーー?!

 

「相手はCクラス代表、バレー部のホープと謳われている小山って人だぁ!」

 

 何いいいいいいいいいぃぃぃーーーー?!

 

「しかも……手作りのお弁当まで作ってもらってるそうだあああぁぁ!!」

  

 

 

 

 なあぁにいいいいいいいいいいぃぃぃーーーー?!

 

 

 

 

 理不尽な怒りが頂点に達した時、異端審問会FFF団は鬼の補習など諸共せず、容赦無き殺戮の使者となる。

 

 by 福原先生

 

 え?何で今福原先生が出て来た?ま、良いか。それよりも、皆死神みたいなローブを着てる。予想よりかなり凶悪なカルト集団が出来上がっちゃったよ。傍から見たらヤバい集団だよ。

  

 だけど……計画通り☆  

 

 手っ取り早く士気を高める方法。それは怒りだ。日本の一向一揆も然り、欧州の革命や現代の集団デモもそうだけど、民衆を動かすには倒すべき敵が必要になる。そしてそれは、自分達が虐げられた事による怒りによってさらに激しくなる。

 今回はFクラス男子の劣情を煽って、憎悪すべき敵を殺めんと躍起にさせる。そうなれば彼らは死兵となって死にもの狂いで戦うだろう。例え根本を倒せずとも、Bクラスの連中を道連れに出来る。

 

(だけど本当に付き合ってるか分からないし、100%の適当で言ってるだけなんだよね)

 

 だってその二人の事について転校してきたばかりの私が知るわけないし。

 

「卑怯者の塊がリア充、それがBクラス代表、そして私達を見下している!悔しいか?!」

 

 

 悔しいでぇす!!

 

 

「奴が憎いか?!」

 

 

 死ぬ程憎い!!

 

 

「リア充はぁ?!」

 

 

 爆殺じゃあああぁぁーーー!!

 

 

「その意気だ!野郎ども!殺っちまええぇーー!!」

 

 イエスマム!!

 

 誰がマムじゃ。

 

「殺せえぇぇ!!」

「な、何だこいつ等?!補習が怖くないのか?!」

「く、来るな……ぎゃああああぁぁ!!」

 

 あーあ。召喚獣も死神になってるよFクラスの人達。だけどその勢いは凄まじい。正直ドン引きだよ。 

 同時に助かった。これ以上戦力を削られたら、作戦はオジャンになる。

 

「あと三分……!」

 

 作戦開始は午後の三時。時計は今は二時五十七分を指している。だったら私も一暴れするか。

 

召喚獣召喚(サモン)!」

 

 召喚獣を召喚した私は比較的兵力が少ない左側の出入り口の戦いに参加する。昨日根本の奸計で囮役を買った時も数学で戦ってたけど、一点も削られなかったから戦える。

 

「根本くーん!一緒に遊びましょー!!」

 

 とりあえず適当な挑発。けど少しテンションがハイになってたのか、何か薬やってるみたいな感じになってる。

 

「浦方か。生憎お前とやる気はないんでね。お前ら!あいつを仕留めろ!」

 

 根本の命令で、前線から控えていた後詰めの連中が追加で押し寄せてきた。

 

「コイツらじゃ相手になんないよ。すぐに片付けてやるよ!」

 

 

Fクラス 浦方真梨香 VS Bクラス1

              Bクラス2

              Bクラス3

 

 

数学   265点   VS  151点

              146点

              171点

 

「「「おい!俺達の名前は?!」」」

「モブなんぞに構ってる時間はなぁい!」

 

 決して考えるのが面倒くさかったわけではない。

 

 私が一度に三人の召喚獣を相手にしないと、タイマンで戦ってる他の人の方へと流れてしまう。今は私が出来る限りBクラスを削らないと、作戦に支障をきたす。

 

「おらぁっ!」

 

 私の召喚獣が持つ鎖鎌で、早速一人を仕留めた。さらに、私の背後を取ろうと襲いかかる不届き者には鎖についている棘鉄球を顔面にぶつけて討ち取る。

 だけど、倒す度に次々と戦力が投入され続ける。ただでさえ私は召喚獣の扱いに慣れていない。攻撃を受け止めるだけでも点数は一桁削られてしまう。

 しかも私は三人を一度に相手している分、削られるのも早かった。 

 

 265点→201点

 

 何とか猛攻を凌いでいるけど、他の皆が次々と倒れ始めた。これは本当にヤバくなってきたぞ。

 

「そろそろ諦めたらどうだ?昨日から教室の出入り口に集まりやがって。暑苦しい事この上ないっての」

 

 お?投降勧告かな?けど、アンタがリア充(適当)である限り、私達はアンタに頭を下げるつもりなんて毛頭ない。

 

「生憎、軟弱な代表の手下にやられる私達じゃないっての。そっちこそ、そろそろ出て来ないと(色んな意味で)ヤバいんじゃないの?」

「頼みの姫路さんがいないFクラス相手に、態々俺が相手してやるほど暇じゃないんでね」

 

 ムカつくわその上から目線。

 

「ま、あんた相手に瑞希は勿体ないからね」

「けっ、口だけは達者だな。だがそうだなぁ……お前が俺達の味方をするなら、お前の設備だけはそのままにしてやる。何だったら、俺の右腕として……」

「オロロロロ!」

「やめろ!吐くなぁ!」

 

 私とした事が、今の提案には吐き気がしたわ。いや、ヤバすぎて吐いちゃったよ。これじゃヒロインじゃなくてゲロインだよ。

 

「さっきからドンドン壁が煩えな何かやってるのか?」

「さあねぇ〜?人望の無いアンタへの嫌がらせじゃない?」

 

 マジで何やってんだろ?

 

「けっ、言ってろ。どうせもうすぐ決着だ。お前ら!一気に押し出せ!」

「よし、体勢を立て直すよ!みんな下がって!」

 

 死神軍団を一旦下がらせる。そして私が殿を務める。チラッと時計を見ると、午後三時になった。

 私の役目は果たされた。

 

 

 

 

「だああぁぁーーーーーっしゃああああぁぁぁーーーーー!!」

 

 

 

 

 雄叫びと共に、Bクラスの壁が豪快に破壊された。崩れた壁の向こうのDクラスの教室にいた吉井君率いる奇襲部隊がやって来た。

 召喚獣で壁を壊したから、その分の痛覚が本人にも伝わっている。その証拠に吉井君の右手が赤く腫れ上がっている。 

 

「なっ?!」

 

 流石に壁を壊してやって来るなんて予想出来るわけがない。根本もこれには動揺している。 

 すかさず奇襲部隊の一人、美波が根本に勝負を申し込む。

 

「遠藤先生!Fクラス島田が……」

「Bクラスの近衛が受けます!」

 

 まだ戦力を削り足りなかった。破壊した壁から根本まで20m。Bクラスの広さを呪ってやりたい。

 

 だけど、それこそが吉井君の狙い通りだったのだろう。

 

「ムッツリィィィィーニ!!」

 

 吉井君が叫んだのが合図となった。何と窓から二人がBクラスの教室に入って来た。

 Bクラスのエアコンの室外機が壊れた事で熱が籠もっていたのを換気する為に窓を開けていた。当然、室外機が壊れたのが雄二の戦略とは露知らず、開けてしまったのが根本にとって仇になった。

 

「Fクラス土屋康太、Bクラス代表根本に保健体育勝負を申し込む。」

 

 近衛部隊がいない根本は文字通り丸裸。保健体育の教師、大島先生が召喚獣召喚フィールドを展開した。これで根本は勝負せざるをえない。

 

「くそぉっ!」

 

 

Fクラス 土屋康太 VS Bクラス 根本恭二

 

保健体育 441点  VS  203点

 

 

 土屋康太が召喚した召喚獣の小太刀が根本の召喚獣を一閃で仕留めた。

 

これによってFクラスの勝利が決定した。

 

 

 

 

 

 




根本への制裁は次回へ持ち越し!さあて、どうなるかなぁ?


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第十二問 根本への制裁

お待たせしました!今回募集していたイタズラを使います!


 Bクラス代表の根本が倒れた事により、私達Fクラスの勝利が決まった。え?勝因は何だって?そりゃあ、卑怯さのレベルってやつかな。

 

 それはともかく、壁をぶち壊して入って来るなんて私ですら予想できないけど、秀吉君曰く「明久らしい作戦」との事だった。

 

「さあて、戦後交渉のお時間だよ。負け犬代表」

「くっ……!」

「マリ。それは俺の仕事だ」

 

 えー。せっかくやりたい放題出来ると思ってたのにー。けど種は蒔いといたし、後は花が咲くのを待ちますか。

 

 とはいえ、あれだけ散々卑怯な手段を使っては煽っ    て来たくせに見事に大敗したからね。あの強気な態度は一体何処へ行ったのやら、今は見事に凹んでいる。

 

「本来なら設備を明け渡してもらい、お前らには素敵な卓袱台をプレゼントする所だが、特別に免除してやらんでもない」

 

 それを聞いたFクラスの面々は何故だと言わんばかりに騒ぎ始める。

 

「前にも言ったが、俺達の目的はAクラスだ。ここがゴールじゃない」

 

 そう。Bクラスはあくまで通過点。こんな所で満足されたらAクラス戦なんて出来やしない。

 

「ま、Bクラスが条件を呑めば解放してやろうかと思う」

「条件とは何だ……?」

 

 お、潔いね。

 

「それはお前だよ、負け組代表さん」

「俺だと?」

「ああ、お前には散々好き勝手やってもらったし、正直去年から目障りだったんだよな」

 

 うわぉ凄い言われよう。一体何をしたらそこまで言われるのだろうか?しかもBクラスの面々は誰一人として彼を庇うような素振りはない。信頼も人望も欠片もないね。

 

「そこで、お前らBクラスに特別チャンスだ。Aクラスに行って、試召戦争の準備が出来ているとせんげんしてこい。そうすれば今回の設備については見逃してやっても良い。但し宣戦布告はするな。すると戦争は避けられないからな。あくまでも戦争の意思と準備があるだけと伝えるんだ」

「それだけで良いのか……?」

 

 それだけで設備が守られるなら、乗らない手はないよね。それだけだったらね(・・・・・・・・・)

 

「ああ。Bクラス代表がコレを着て言った通りに行動してくれたら見逃そう」

 

 そう言って取り出したのは私の予備の制服。これを着て喧嘩を売りに行くなんて男の尊厳を奪われるようなものだ。

 

「ば、馬鹿な事を言うな!この俺がそんな……」

『Bクラス生徒全員で必ず実行させよう!』

『任せて!必ずやらせるから!』

『それだけで教室を守れるなら、やらない手はないな!』

 

 まさかのBクラス全員が代表を裏切るという暴挙。ここまで人望がないとは……まあ彼は卑怯なだけでそれ以外は大した事ないからなぁ……。

 

「お、おい!寄るな変態……ぐほぉっ!」

「とりあえず黙らせました」

「お、おう。ありがとな」

 

 拒否する代表を容赦なく腹パンで気絶させたよ。この変り身の早さには流石の雄二も引いてるよ。

 

「では着付けに移るとするか。明久、任せたぞ」

「了解」

 

 吉井君がノリノリで根本の制服を脱がせる。

 

「うん……ぅ……」

「ていっ!」

「ぐほぉっ!」

 

 目を覚ましかけた根本に追加攻撃。君も案外やるね。だけど女子の制服の着付けなんて全然分からないのか、なかなか手こずっている。

 

「あ、私がやってあげるよ」

 

 Bクラスの女子が手伝ってくれるようだ。

 

「そう?悪いね。それじゃ折角だし可愛くしてあげて」

「それは無理。土台が腐ってるから」

 

 プッw

 

 とりあえず、根本はその女子に任せて吉井君は根本の制服を探る。お目当てのものがあったのかそれを出した。そう、瑞希のラブレターだ。

 お目当てのものが見つけたらもう用無しになった根本の制服をゴミ箱へと押し込んだ。ゴミはゴミ箱にってか。 

 

「ところでさ雄二」

「ん?何だ?」

「あの制服、もう着られないんだけど」

 

 秀吉君に着せるならまだ良い。女の子みたいなものだし、可愛かったし。但し根本、テメーは駄目だ。いくら女子らしくない私でも、あんな小者が着た制服を着るなんて御免だわ。

 

「ま、礼として制服の弁償くらいはするさ」

「話が早くて助かるわ。じゃ、私はそろそろこの辺で」

「おい、何処へ行くんだ?」

「雄二と吉井君はこれで気が済んだかもしれないけど、私はまだまだ足りないんだよねぇ」

 

 私を出し抜いた罪はまだ贖っていない。奴には本当の地獄というものを見せてやらなきゃね……ヘッヘッヘッヘッ!

 

 ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 翌日、敗戦直後から女装でAクラスに宣戦布告を示唆する発言をするという屈辱的な仕打ちを受けた根本恭二。

 しかも普段着ている制服は吉井明久によって捨てられた為、そのまま家に帰らねばならなくなった。今は予備の男子制服で登校している。 

 

「クソッ……!Fクラスめ、覚えていろよ……いつか必ず……!」

 

 復讐に燃える根本だが、試召戦争のルールにより試召戦争に負けたクラスは三ヶ月間宣戦布告が出来なくなる。

 これは試召戦争に負けたクラスがその仕返しで宣戦布告するという泥沼化を防ぐ為のルールである。

 

 打つ手がないまま根本は重い足取りで登校する。学園の玄関の下駄箱から上履きを取ろうとした時、何かが入っている事に気付いた。

 

「ん?これは?」

 

 それは一枚の便箋だった。その中身は…… 

 

 

 

 私はずっと前から根本君の事が好きでした。

 

 何とか勇気を振り絞って、この手紙を出すと決めました。

 

 ホームルームの前に一度、私に会ってください!お時間は取らせません!

 

 体育館裏で待っています!

 

 

 Fより

 

 

「F?誰だ?」

 

 差出人は本名ではなくFと書いてある。態々本名を伏せる意味は分からないが、可愛らしい筆跡から見て女子であると考えられる。

 

(ふっ……モテる男は辛いものだな。だが悪いが友香がいる以上、付き合うわけにはいかないな。とはいえ、会うだけならば問題ないだろう)

 

 付き合っている女子がいるとはいえ、満更でもない様子。とりあえず、上履きを履き替えるのをやめて体育館裏へと向かった。

 

 だが根本が着いた頃には既に一人、体育館裏で佇む者がいた。

 

「待たせたか?そう機嫌を悪くしないでくれ。俺と付き合いたいっていう話を聞いて、俺も少し驚い……た……」

 

 だがその相手を見た時、根本は絶句した。

 

「……あ、あんたは……!」

 

 その相手は、仕事の為に婚期を逃した独身女教師、船越だった。

 

 ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 ギャアアァッハッハッハッハ!!まんまと騙されたなバカめ!その自己中心的な性格が仇となったなぁ!

 

 読者の皆は予想していると思うが、私からネタバラシ。あの手紙は根本をおびき出す為に私がわざと可愛らしく書いた偽の手紙!

 宛名であるFは船越のF!多分本当はHなんだろうけど、Fクラスの私が書いたという意味も込めてFにしておいた。

 

 昨日私が書いた便箋、それを適当な先生に渡しておいてと雄二に頼んでいたけど、あの中身はこうなっていた。

 

 

 船越先生、Bクラス代表根本恭二は、あなたが熱心に生徒を指導する姿を見て、今までの自分の行動に恥じ、身も心も改めたいと思いました。

 これを気に、先生とのお付き合いを考えています。明日の朝、体育館の裏で会えませんか?ご検討のほど、よろしくお願いします。

 

 

 

 と、書いていたのだぁぁーー!そして体育館裏におびき寄せて二人っきりの写真を土屋君に撮ってもらう。

 

「どう?良いアングルで撮れた?」

「……抜かりなく」

 

 カメラに関しては土屋君の右に出る者はいない。しかも隠密スキルも非常に高く、シャッター音もオフにしている。これならば見つかる心配はない。

 

「うわ……船越先生、壁ドンしてるよ……」

 

 熱烈なアプローチだねぇ。さて、いい感じに撮れたところで、そろそろ印刷しますか。そうねぇ、掲示板に大きくデカデカと貼り付けますか。あそこなら注目される事間違いなし。

 

 

 ついでに新聞部にタレコミますか。

 

 

 そうして私は土屋君に保健体育の参考書(エロ本)を提供し、質の良い写真を印刷。それを昼休みに掲示板の隅々まで貼り付けた。

 

 当然そこは生徒が必ず通りかかる所であり、根本と船越先生のツーショット写真によって二人が付き合っているという噂が瞬く間に広まった。

 

「な、何だこれは?!クソッ!一体誰が?!」

 

 あ、根本だ。ちなみに私は彼が絶望に堕ちる様子を見る為に、この近くに潜伏している。

 

「マジかよ……あの根本が船越先生と……」

「えぇ〜?それはあり得なくない?」

「けどあいつラブレターまで書いてたらしいぞ?」

「ら、ラブレター?!」

 

 まあ、そのラブレター自体が私が書いた偽物のラブレターなんだけどね。

 

「ち、違う!俺は……」

「恭二……?」

 

 根本が背後を振り返ると、そこにいたのはCクラス代表である小山友香だった。本当に付き合ってたのか。

 

「ち、違うんだ!これには訳が……ま、待ってくれ!何も言わずに去るな!友香あああああぁぁぁぁーーーー!!」

 

 ギャッハハハハハハハ!!まさかこんな事で破局を迎えるなんてザマァだアハハハハハハハ!!

 けどこれで瑞希の純情を弄んだ罪の制裁は済んだし、そろそろAクラス戦に向けて準備しますか。

 

 

 にしてもあの負け組代表が小山さんに泣きつく姿は……クヒヒヒヒィッ!ww

 

 




バカテスト

問 以下の問いに答えなさい。
『女性は()を迎える事で第二次性徴期になり、特有の体つきになり始める』

姫路瑞希の答え
『初潮』

教師のコメント
正解です。

吉井明久の答え
『明日』

教師のコメント
随分と急な話ですね。

浦方真梨香の答え
『インキュベーター』

教師のコメント
アニメの話はしていません。

土屋康太の答え
『初潮と呼ばれる、生まれて初めての生理。医学用語では生理のことを月経、初潮のことを初経という。初潮年齢は体重と密接な関係があり、体重が43kgに達するころに初をみるものが多い為、その訪れる年齢には個人差がある。日本では平均十二歳。また、体重の他にも初潮年齢は人種、気候、社会的環境、栄養状態などに影響される』

教師のコメント
詳し過ぎです。


というわけで、イタズラの案を考えて下さり、ありがとうございました!


 感想の所だとリクエスト行為になってしまうみたいなので、イタズラの案については活動報告にて募集いたします。


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第十三問 最後の標的

活動報告にて、イタズラ案を募集しております!

是非、皆様の素敵なアイディアをお願いします!


またAクラス戦はオリジナル展開をかなり盛り込む予定です。


 Bクラス戦から二日後、つまり根本への粛清を済ませた翌日、私達は点数補給のテストを終えた。いよいよ最終目標であるAクラスへと標的として定める。ここまで長いようで短いように感じた。

  

「まずは皆に礼を言いたい。周りの連中には不可能だと言われていたにも関わらず、ここまで来れたのは他でもない、皆の協力があっての事だ。感謝する」

 

 壇上に立つ雄二の口からそんな言葉が出るなんて珍しい。明日槍でも降るんじゃない?

 

「どうしたのさ雄二?らしくないよ?」

 

 あ、吉井君も同じ事を考えてたみたい。

 

「ああ。自分でもそう思う。だがこれは、偽らざる俺の気持ちだ。ここまで来た以上、絶対にAクラスに勝ちたい。勝って、生き残るには勉強すれば良いってもんじゃないという現実を、教師共に突きつけるんだ!」

 

 ここまで不可能だと思われていた下剋上がまさに果たされようとしている。それを実感している皆の雄叫びが教室内に響く。

 

「残るAクラス戦だが、これは一騎討ちで決着をつけたいと考えている」

 

 試召戦争は本来クラス同士で戦う、言わば団体戦のルール。一騎討ちはその反対の個人戦。余計な横槍が一切はいらない、正真正銘の真剣勝負ということになる。

 

「やるのは当然、俺と翔子だ」

 

 クラス代表同士の一騎討ち。これはある意味当然の流れとも言えるね。だけど相手はあの翔子。Aクラス代表=学年主席、つまり一番強い相手に雄二がたった一人で戦わなくてはならない。

 ハッキリ言って…… 

 

「馬鹿の雄二が勝てるわけなあぁぁっ?!」

 

 同じ事を思っていた吉井君の頬にカッターナイフが掠った。あと何センチか違ってたら多分顔に刺さってた。

 

「次は耳だ。まぁ明久の言うとおり、確かに翔子は強い。まともにやりあえば|勝ち目はないかもしれない。だがそれは、Dクラス戦もBクラス戦も同じだっただろう?まともにやりあえば俺達に勝ち目はなかった」

 

 確かにその通り、DもBも真正面から戦うような真似は何一つしていない。主に私が罠を仕掛けまくったからねw

 

「今回だって同じだ。俺は翔子に勝ち、FクラスはAクラスを手に入れる。俺達の勝ちは揺るがない」

 

 無謀とも思える戦いを、雄二が勝利へと導いてくれた。だからこそ、今回も無謀とも言える戦いが、無謀出ないと、勝てると信じられる。

 

 私だけを除いてね。

 

「ところで雄二、翔子相手に勝算はあるんだよね?」

「ああ。日本史の小学生レベル、方式は百点満点の上限あり。召喚獣勝負ではなく、純粋な点数勝負だ」

 

 私と翔子、雄二が幼馴染だからこそこの方法を取ると予想出来た。どういった狙いがあるのかも。

 

 だけどそれを知らない吉井君がそれにツッコむ。

 

「でも同点だったらきっと延長戦だよ?そうなったら問題のレベルも上げられちゃうだろうし、ブランクのある雄二には厳しくない?」

 

 吉井君の言いたい事は分かる。私も雄二と翔子を知らなかったらきっと同じ事を言うと思う。

 

「おいおい、あまり俺をナメるなよ?いくらなんでも、そこまで運に頼り切ったやり方を作戦などと言うものか」

「そそ。雄二はアレを狙ってるんでしょ?」

「アレって何じゃ浦方よ?」

 

 意図が読めない秀吉君が聞いてくるけど、それは本人の口から聞いてもらおうかな。

 

「俺がこのやり方を採った理由は一つ。あいつは、一度覚えたものは忘れない」

「それなら、尚更こっちが不利じゃないか!」

 

 それだけを聞いた吉井君が騒ぎ立てる。翔子は昔から記憶力がぶっちぎりに良かった。言わば、絶対記憶能力。

 だから私は殆どの教科で翔子に勝ったことがない。日本史を除いてね。 

 

「そこが落とし穴だ。あいつは、『大化の改新』を無事故の改新、625(・・・)年と間違えたまま覚えている。それが出れば、俺の勝ちだ」

 

 正しくは大化の改新が起きたのは645年。小学生の時、雄二は翔子に625年と間違えて教えてしまったのだ。だから私が転向するまで、ずっと日本史だけは翔子に勝ち続けた。

 翔子の唯一の弱点を突けるよう、この作戦にしたんだよね。

 

 

  

 だけど、その作戦には致命的な欠点がある。 

 

「待って雄二!」

「何だ明久?」

  

 お?もしかして、この作戦の穴に気づいたのかな?

 

「大化の改新って、794年じゃないの?」

 

 ぶっw

 

 全然違うよそれ!それは鳴くよウグイス(794年)平安京の遷都!掠りもしてないよ!

 

「吉井君、大化の改新は645年だよ」

「えぇ?!そうなの?!」

 

 吉井君、小学生でも分かる問題でもこれなのか。

 

「マリの言う通り、大化の改新は645年だ。この情報は本物だ」

 

 とりあえず吉井君のバカさは置いといて……

 

 

 

「異議あり!!」 

 

 

 

 私は大きく手を挙げた。

 

「な、何だマリ?」

「雄二。悪いけど、私はこの作戦に乗る事は出来ない」

 

 雄二を除いたFクラスの全員が仰天の声を挙げる。雄二だけが冷静に腕を組んでこっちを見ている。

 

「訳を聞こうか?」  

「崇峻天皇の後に即位した天皇は?」

「え?いや……そ、それは……」

 

 意地悪かもしれないけど、これだけはハッキリさせなきゃいけない。この作戦の大きくて、致命的な穴を。

 

 案の定、雄二は答えられなかった。

  

「正解は推古天皇だよ」

 

 よく女性初の天皇は誰かと聞かれたら答えられるけど、崇峻天皇を知ってる人があまりいないから、この問い方をされた途端に答えに詰まりやすい。

 

 もうこの時点で証明されちゃってるけど、一問だけじゃ本人が納得しないだろうから二問続けよう。

 

「はぁ……だったら江戸時代、一橋派が将軍候補に推していたのは誰?」

「……」

 

 答えられてないじゃん……。答えは一橋慶喜、後の十五代将軍徳川慶喜。元々養子で徳川に来たからね。

  

「じゃあ『東海道中膝栗毛』の作者は?」

「……十返舎一九」

 

 遅いけど、合ってたからおまけの正解……。最後のやつは高校生レベルのやつだけど、これで証明されてしまったね。

 例え大化の改新が問題に出たとしても、他の問題に答えられなければこの作戦は成り立たない。つまり、雄二では翔子に勝てない。 

 そのせいもあって、ここまで雄二を信頼していたクラスメイト達が不信感を抱くようになった。

 

「だから雄二」

「ん?」

 

 雄二の肩に、私の手を置く。

 

「翔子の相手は、私がやる」

 

 

 

 

 

 えええええぇぇぇーーーーー?!

 

 

 

 

 

 そこまで驚く?けど、さっきの件を聞いていたら、そんな反応になるよね。

 

「私は日本史で翔子に負けた事はない。アンタが悪鬼羅刹になっても、私は勉強を続けてたからね。私なら勝つ確率が上がると思うけど?」

 

 今の翔子がどれくらいの点数かは分からないけど、社会科系なら同等、日本史に絞るならさっきも言ったけど負けた事はない。

 それに翔子とは、個人的にもう一度やり合いたかった。翔子となら、イタズラせずに堂々と戦える。

 

「絶対に勝ってみせる。だから……お願い」 

 

 私は頭を下げた。Bクラス戦の吉井君並に無茶を言っていると、重々承知している。だけど多分、翔子と正面から戦える機会なんて今しかない。

 雄二は腕を組んだまま、目を伏せる。ため息をつくような声が聞こえた。そして……

 

「分かったマリ、翔子との戦いはお前に任せる」

「任された」

 

 何とか認められた。これで私は尚更翔子に負けられなくなった。だけどそれで良い。その方が萌える……じゃなかった、燃えるじゃないか。

 

「あの、坂本君に浦方さん」

「ん?」

「どしたの瑞希?」

「霧島さんとは、その……仲が良いんですか?」

 

 あ、そっか。言ってなかったね。

 

「私達は幼馴染なんだよ。ほら、前に言ってたと思うけど、私と雄二は小学校が一緒だって……」

「総員狙ええええぇぇ!!」

 

 私が説明してる途中だというのに、吉井君率いる死神軍団FFF団が上履きを構えた。

 

「待てお前ら!俺に何の恨みがあるというんだ?!」 

「遺言はそれだけかぁ?!……待つんだ須川君。靴下はまだ早い。それは押さえつけた後で口に押し込むものだ」

「了解です隊長」

 

 あの死神軍団、吉井君が隊長だったのか。

 

 

 ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 まあそんなこんなで私達はAクラスに宣戦布告&その戦争について交渉を行う為にAクラスにやって来ました。

 Fクラスの使者として雄二を筆頭に、吉井君、瑞希、秀吉君と土屋君、そして私が来たわけなんだけど……何この教室広っ!!黒板じゃなくて大型スクリーンに一人一人にシステムデスク、リクライニングチェアはもちろん、個人用冷蔵庫にフリードリンク、お菓子食べ放題?!

 

 もうこれ高級ホテルじゃん……。

 

 おっと、話の本筋から脱線するところだった。とりあえず、雄二が一騎討ちを申し込んだ。

 

「何が狙いなの?」

 

 雄二の交渉のテーブルについているのは優子さん。まあ翔子の性格上、交渉向きとは言えないからね。それなら比較的社交性があるだろう優子さんが出て来ますわな。

 

「もちろん、俺達Fクラスの勝利だ」

「面倒な試召戦争を手軽に終わらせる事が出来るのはありがたいけどね、だからと言って態々リスクを冒す必要もないかな」

 

 確かにその通り。Aクラスは最上位クラスだから態々下位のクラスに戦争を仕掛けるどころか、そもそも戦争をするメリットすらない。

 だからと言って、それで負けて設備を取られては元も子もない。

 

「ところで、Cクラスの連中との試召戦争戦争はどうだった?」

 

 ここで雄二が聞く。

 

「時間は取られたけど、それだけだったよ?何の問題もなし」

 

 Cクラスといえば、優子さんに扮した秀吉君が汚い言葉で挑発にまんまと乗せられてAクラスに戦いを仕掛けた。まあ結果は言わずもがな、というやつだ。

 

「Bクラスとやり合う気はあるか?」

「Bクラスって……昨日来ていたあの……」

「ああ。アレが代表をやっているクラスだ。」

 

 あ、確か私の制服で宣戦布告した小者の根本(キノコヘッド)か。

 

「けど、BクラスはFクラスに負けたのだから、三ヶ月間は宣戦布告出来ないはずよ?」

「知ってるだろ?実情はどうであれ、対外的にはあの戦争は『和平交渉にて終結』ってなってる事をな。規約にはなんの問題もない。Dクラスもな」

 

 Dクラスを持ち出す辺り、もはや脅しだよこれ。

 

「分かったわ。何を企んでいるのか知らないけど、代表が負けるなんてあり得ないわ。その提案受けましょう」

「あれ?受けるの?何かアッサリすぎない?」

 

 思わず私が聞くと、優子さんは……

 

「浦方さんは、あんな格好した代表のいるクラスと戦争したい?」

「絶対ヤダ」

 

 これには即答する。

 

「でもこちらからも提案。代表同士の一騎討ちじゃなくて五対五で三回勝った方の勝ち。それなら受けても良いわ」

 

 お、キッチリ警戒してるね。

 

「良いだろう。但し、対戦科目は俺達が貰う。それくらいのハンデは良いだろう?」

「え?うーん……」

 

 悩む優子さん。確かに、代表ではない自分の判断でクラスの命運が決まる。そう考えたら迂闊に「はい」なんて言えない。

 

「受けても良い……」

 

 どこからともなく翔子が出て来た。普通にビックリするよそれ。

 

「その提案、受けても良い……」

「良いの代表?!」

「……その代わり、条件がある」

「条件?」

 

 翔子が頷くと、雄二を見た後に瑞希の顔をじっくりと観察するように見ている。それが終わると、雄二に向けて言い放つ。

 

「負けた方は……何でも一つ言う事を聞く」

 

 おっとこの展開……。さっきの瑞希の件のせいで何か百合ぃな感じに見えてしまうのは私だけだろうか?

 いや、土屋君が一眼レフを構えている。やっぱり気のせいじゃなかった。

 

「じゃあこうしましょう。選択科目の五つの内、三つはそっちが決めさせてあげる。二つはうちが貰うわ」

 

 妥当な妥協案だね。

 

「よし、交渉成立だな。お前ら、一旦教室に戻るぞ」

「オッケーイ」

「……待ってマリ」

「ほぇ?」

 

 他の皆が教室から出て行く中、私だけが翔子に呼び止められた。他に何かあったかな?

 

「楽しみにしてる」

 

 そう言った翔子。顔には出ていないけど、心なしか笑ってるようにも見えた。

 

「首洗って待ってなよ!」

 

そう言い残し、私はAクラスの教室を後にした。

 

 




バカテスト

問 以下の問に答えなさい
『人が生きていく上で必要となる五大栄養素を全て書きなさい』

姫路瑞希の答え
『①脂質②炭水化物③タンパク質④ビタミン⑤ミネラル』

教師のコメント
正解です。

吉井明久の答え
『①砂糖②塩③水道水④雨水⑤湧き水』

教師のコメント
それで生きていけるのは君だけです。

浦方真梨香の答え
『①辛子②胡椒③唐辛子④デスソース⑤シュールストレミング』

教師のコメント
食べ物は人を苦しめる道具ではありません。

土屋康太の答え
『初潮年齢が十歳未満の時は早発月経という。また十五歳になっても初潮がない時を遅発月経、さらに十八歳になっても初潮がない時を原発性無月経といい……』

教師のコメント
保健体育のテストは一時間前に終わりました。



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第十四問 互いの想い

 翔子、あんたまた大化の改新を間違えたの?何度も言ってるじゃん。無事故の改新645年だって。

 

 

 うん……。だけど、雄二に教えてもらったから……

 

 

 はぁ……それじゃあいつまで経っても、社会じゃ私に勝てないよ?

 

 

 他ではマリに勝ってる。

 

 

 ぐっ……それ持ち出すのはズルくない?

 

 

 ねえ、また勝負しよう?

 

 

 え?

 

 

 いつか、社会で私が勝った時は……

 

 

 ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 Aクラスへの宣戦布告から翌日、私は朝早くから日本史の回復試験を受けた。何とか時間内に出された全ての問題を解いたけど……流石に疲れた……。

 けど、出来るだけ多く点を稼がないと翔子には絶対に勝てない。皆の前で啖呵を切った以上、絶対に負けられない。負けるわけにはいかない……負けるわけには……

 

 

 

 

 

 

 

 

 ……zZZ ……zZZ ……zZZ ……zZZ

  

 ハッ……!今私、立ちながら寝てた?!いかんいかん!気を緩めては駄目だ。よし!

 

 何とか目を覚ました私はFクラスの教室に到着。屏風に手を掛けて開ける。

 

「ただい……ま?」

 

 屏風を開けるとなんてことでしょう。吉井君の左掌と卓袱台が一体化しているではありませんか。

 

「これは、一体どういう状況?」

「おうマリ、帰ったか。いや、ちょっとバカが騒いだだけだ」

「バカとは何だバカとは?!」

「うん、それは見れば分かる」

「浦方さんまで?!」

 

 そりゃあ卓袱台と一体化する人間なんて聞いたことないもん。そして面白そう。

 

「どうした?こんな面白そうな明久(オモチャ)が目の前にあるのに、お前にしちゃあ薄い反応だな」

「……え?あ、ああ……。ちょっと、この吉井君(卓袱台)の使い道を考えてた」

「今二人で僕を人扱いしてなかったよね?!おい雄二!」 

「屋上に行くぞマリ。作戦会議始めるぞ」

「ほーい」

「僕の話を聞いてよ!!」

 

 屋上には雄二、吉井君、美波、土屋君、秀吉君、私の六人が集まった。瑞希は所用で席を外すとの事だった。

 吉井君の左手にくっついている卓袱台に適当なお菓子と飲み物を置いて作戦会議を始める。

 作戦とは言っても五対五の順番と科目を決めるだけ。一応向こうが何を指定してくるかを想定した上でどう戦うかを決めるだけなのだ。

 

「良いの雄二?あんな約束しちゃって」 

「俺達が勝つんだから関係ない。向こうが言いなりになる特典がついただけだ」

「本当に良いのか?あの霧島翔子という代表には、妙な噂があるようじゃが」

 

 その噂とやらは気になる。内容次第によっては噂を流した人間にはちょぉっとお話し合いしなくちゃだね。

 

「成績優秀、才色兼備。あれだけの美人なのに、周りには男子がおらぬようじゃ」

「へぇ。モテそうなのにね」

 

 秀吉君の話を聞いた美波が相槌を打つ。確かに翔子は美人だから彼氏がいてもおかしくないとは思っていたけどね。

 

「噂では、男子に興味がないらしい」

男子には(・・・・)って……まさかっ!」

 

 やめなさい吉井君。確かにそう思いたくなるのは分かる。あの瑞希を観察した件のせいで、脳内で翔子と瑞希が生まれたままの姿で百合の花が咲いているヴィジョンが写ってしまう。

 

 ……うん、やっぱそんな百合ルートはあり得ないな。

 

「ままま、まさか……そんなはずは!それって変だよ!そんな事が身近にあるわけないじゃない!ねえ島田さん?」

「ある」

 

 へぇ……あるんだ

 

「そんな変な子、身近にいるわ」

「見つけましたお姉様ぁ〜!」

 

 突如どこからともなく、オレンジ色の二つの縦ロールの女の子が美波に抱き着いた。あれ?けどあの子、どっかで見覚えがあるような、ないような?

 

「酷いですわお姉様!美春を置き去りにして、こんな汚らわしい豚どもとお茶会なんて!」

 

 それ私も含まれてる?失礼だね君は。そして君は誰だね?

 

「ねえ、あの子誰?」

「……清水美春。二年Dクラス」

 

 Dクラスにいたんだ、へぇ。……ヤバい、私イタズラしかしてないから誰一人として覚えてないわ。

 もし私もDクラス戦に参加してたら、こんなアクの強い子、忘れようにも忘れないと思う。

  

 しっかし、あの清水さんよっぽど美波の事が好きなんだね。今も美波の腕にくっついて頬スリスリしてるし。

 

「ウチは普通に男子が好きなの!吉井!何とか言ってやって!」

 

 強引に腕を振り解いた美波は吉井君に助けを求める。

 

「そうだよ清水さん。女同士なんて間違ってる。」

 

 おっ、吉井君も言う時は言うねぇ。 

 

「確かに島田さんは、見た目も性格も、胸のサイズも男と区別がつかないくらいに四の字固めがあああぁぁぁ!!」

 

 うん知ってたこの流れ。そりゃあ足の四の字固めされてもしょうがないね。

 

「ウチはどう見ても女でしょう!」

「そうです!美春はお姉様を女性として愛してるんです!」

 

 そう言いつつ清水さんも吉井君の腕ひしぎ逆十字固めをキメている。

 

「見えっ……見え……ふごぉっ!」 

 

 そして土屋君はさり気なくスカートの中を見ようとするのはやめなさい。とりあえず彼には胡椒団子をぶちまけておいた。

 

「ギブ……ギブ……!た、助けて島田さん!何でも言う事聞くからぁ!」

「本当?!じゃあ今度の週末、駅前の『ラ・ペディス』のクレープ食べたいな!」

 

 ここぞとばかりに島田さんはご機嫌でそう言うけど四の字固めはやめてあげない。悪魔かね君は。

 

「え?!それだと僕の今月の食費が……」

「あぁん?!」

「い、いえ!奢らさていただきます!」

 

 島田さん、暴力で服従させるんじゃぁない。

 

「そ、それから!ウチの事は美波様と呼びなさい!ウチはアキって呼ぶから……!」

 

 別にこんな暴力的な事をしなくても、普通に名前で呼べば良いのに。

 

「それから……それから……///う、ウチのこと……『愛してる』って言ってみて!///」

 

 なら四の字固めはやめて差し上げて。それじゃ無理やり言わせた感しかしないよ。怒ったりご機嫌になったり照れたり、忙しないね。

 

「は、はい……い、言いま……」

「させません!」

 

 そうはさせるかと清水さんが腕を強く引っ張る。

 

「さあ!ウチのこと『愛してる』って言いなさい!」

「はい!ウチのこと愛してるって言いなさい!」

 

 吉井君、君は良いやつだったよ。

 

 

「このぉバカアアアアアアァァァァーーーーー!!」

  

 

 美波の怒号と吉井君の悲鳴&関節が外れる音が響いた。

 

「うわぁ……ん?」

 

 吉井君の悲惨な姿をよそに、ケータイにメールが入った。画面を開いて中身を確認する。

 

「さてと……」

「どうしたマリ?」

「先に戻ってる」

 

 画面を閉じて先に屋上の階段を降りる。このタイミングであの子からメールが来たなんて知られたら何を言われるか。

 とりあえず、私がいつも根城にしている空き教室に来るように返しておく。そのまま私は空き教室に入った。すると既に一人、先客がいた。

 

「もう来てたか翔子。早いね」

「……マリならここを選ぶと思ってた」

 

 考えてる事はお見通しってわけか。流石翔子。

 

「それで、話って何?まさか八百長しろなんて言わないよね?」

「そんなの必要ない」

 

 冗談で少しからかってあげようと思ってたけど、やっぱり動じない。

 

「マリに聞きたいことがある」

「ん?何なのかな?私のスリーサイズでも?」

「……雄二の事について」

 

 え?私のスリーサイズの件はスルー?だとしたら流石の私も凹むなぁ。これでもバストはDくらいはあるんだけどねぇ。

 

「雄二の事?それがどうしたの?」

「マリは……雄二の事、どう思ってるの?」

「私とって雄二は何か?まあそうねぇ……気が合う悪友って感じかな?」

「……それだけ?」

 

 それだけかと言われてもねぇ。

 

 小学校の頃、私と雄二の関係は、今より結構違ってた。アイツが神童って謳われていた当時、私が仕掛けたイタズラの反応が薄くて、とにかく勉強バカ。だけど社会科目だけは私の方が上で、何かと張り合ってた。

 だけどある日、私が転校してしまって以降、お互い別々の中学で再会した時くらいかな、今の関係になったのは。

 私が罠を仕掛け、アイツが正面からぶん殴る。気が合う悪友だった。

 おっと、これじゃあまるで私が雄二が好きなのかと勘違いされてしまう。念押ししておくけど、私はアイツに恋愛感情なんてこれっぽっちも無いからね? 

 

「じゃあ逆に聞くけど、翔子はアイツの事どう思ってるの?」

 

 私ばかり答えて翔子は聞いてるだけなんてズルい。ガールズトークは互いに思っている事を言ってナンボでしょ。

 

「さあ、答えよ翔子ぉ!」

「私は……私は……」

 

 何かゴニョゴニョしてなかなか聞き取りにくい。出来ればもう少しハッキリと言ってほしいな。

 

 

「私は……私にとって雄二は……!」

 

 翔子の口から、ハッキリとその事を告げてくれた。あの子が雄二に対して何を思っているのか、全部打ち明けてくれた。

 

「そっか……」

 

 

 それから数時間後、私達は互いに敵同士として相対した。




次回、Aクラス戦開幕


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第十五問 VS Aクラス戦

遂にAクラスとの戦いが開幕!


 突然だけど、今私達FクラスはAクラスの教室にいる。ここでAクラスとの五対五の一騎討ちが行われる。そして、三勝したクラスが勝利。至極単純なルール。

 

「では、第一試合を始めます。一人目の方、前へ」

 

 Aクラスの担任かつ学年主任の高橋先生が立会人を務める。

 

「アタシから行くわよ」

「では、ワシがやろう」

 

 お、いきなり木下双子対決と来た。Aクラスが相手であっても、姉の優子さんをよく知る秀吉君なら何か突破法が……

 

「所で秀吉」

「何じゃ?姉上」

「Cクラスの小山さんって知ってる?」

「はて、誰じゃ?」

 

 確か小山って……Cクラス代表の。確か優子さんになりすました秀吉君が汚い罵声を浴びせて……あっ。

 

「じゃあ良いや。その代わりちょっとこっちに来てくれる?」

「ワシを廊下に連れ出してどうするんじゃ姉上?!」

 

 秀吉君が攫われた!ヤバい!

 

『姉上、勝負は……どうしてワシの腕を掴む?』

『アンタ、Cクラスで何してくれたのかしら?どうしてアタシがCクラスの人達を豚呼ばわりしている事になっているのかなぁ?』

『ハッハッハッ。それはじゃな、姉上の本性をワシなりに推測して……あ、姉上んちがっ……その関節はそっちに曲がらな……』

 

 何が起きたかは語らないでおこう。すぐに優子さんが扉を開けて帰ってきた。顔に返り血をつけて。

 

「秀吉は急用が出来たから帰るってさ。代わりの人を出してくれる?」

「い、いや……ウチの不戦敗で良い……」

 

 ねえ、何でこの学校には私以外にもアクマがこんなにいるの?私の立場が無いんだけど。

 第一試合は雄二の申し出でFクラスの不戦敗になった。

 

 

Aクラス 木下優子 VS Fクラス 木下秀吉

 

生命活動   WIN     DEAD

 

 これは酷い。

 

「では次の方どうぞ」

「Aクラス、佐藤美穂。出ます」

 

 丸眼鏡を掛けたボブカットの女の子が名乗りを上げた。一見地味そうに見えるけど、どうなんだろうね?お手並み拝見。

 

「よし、明久。頼んだぞ」

「え?!僕?!」

 

 ウチのクラスからは雄二の指名で吉井君が出る。だけど吉井君って物理得意だっけ?これで負けたら後がないのに。

 

「大丈夫だ。俺はお前を信じている」

「ふぅ……やれやれ、僕に本気を出せってこと?」

「ああ。もう隠さなくても良いだろう。この場にいる全員に、お前の本気を見せてやれ」

 

 え?もしかして本当に得意なの?これ本当に勝っちゃうパターン?!だけど、こっそり聞いてみるか。

 

「ねえ雄二」

「何だ?」

「吉井君、大丈夫なの?」

「ああ、心配すんな。見てれば分かる」

 

 何か今の流れに裏があると見た。

 

「吉井君、でしたか?あなた、まさか……」

「ご名答。今までの僕は全然本気なんて出しちゃあいない」

 

 そう言って吉井君は左手にくっついた卓袱台の上に乗る。っていうかまだくっついてたんだそれ。 

 

「それじゃああなたは……!」

「そうさ、今まで隠してきたけれど実は僕……」

 

 

 

 

 

 

 

 左利きなんだ

 

 

 

 

 

Aクラス 佐藤美穂 VS Fクラス 吉井明久

 物理 389点      62点

 

 

 

 

 少しでも期待した私がバカだった。結局吉井君は召喚獣が受けたフィードバックをモロに受けた。ついでに卓袱台も粉々になった。

 

「捨て駒か」

「よし、勝負はここからだ」

「雄二!僕を信頼してなかったのか?!」

「勝つ方に信じていたわけではない!」

「本気の左を食らわしてやりたい!」

 

 まあそんなわけで、向こうが二勝してしまった。これでウチが負ける事は許されなくなった。そして、迎えた第三試合。

 

「……(ムクッ)」

 

 ここで土屋君がゆっくりと立ち上がった。

 

「じゃ、ボクが行こうかな」

 

 あれは工藤愛子か!一回だけ会った事あるけど、本当にAクラスなのか。いや、翔子の言っていたことを信じてなかったわけじゃないよ?けど何か、パッと見そんなふうに見えなくてさ。

 

「教科は何にしますか?」

「……保健体育」

 

 ここで土屋君が選択権を使った。保健体育は土屋君が最も得意とする教科。これならAクラスにも……

 

「キミ、土屋君だっけ?保健体育が得意なんだ。けど、ボクもかなり得意なんだよ?」

 

 あ、何かかなり余裕そうな態度。これはマズい。ここで工藤さんが勝ったら私が翔子と戦う前に負けてしまう。頼む土屋君、何としてでも勝ってくれ。

 

「それも君と違って……実技でね♪」

 

 ……それ関係ある?

 

「……実技」

 

 何を想像したのか土屋君の鼻の穴から大量の血が噴出された。そして土屋君はそのまま倒れた。

 

 やめて工藤さん!土屋君をこれ以上イジメたら出血多量で倒れちゃう!お願い死なないで土屋君!あなたがここで倒れたら、私と翔子の対決はどうなっちゃうの?!ここで耐えれば、土屋君は勝てるんだから!

 

 

「ムッツリーニ!何て事を、よくもムッツリーニを……」

「そっちのキミ、吉井君だっけ?キミが選手交代する?けどキミ勉強苦手そうだし、保健体育で良ければ教えてあげるよ。もちろん……実技でね♪」

 

 次回、吉井君死す。

 

「余計なお世話よ!アキには永遠にそんな機会無いから!」

「そうです!永遠に必要ありません!」

 

 もうやめて美波、瑞希。吉井君のライフはとっくにゼロよ!

 ま、まあ本気じゃないけど、吉井君が可哀想だし……ここは。

 

「じゃあ吉井君。私がその機会を与え……」

「マリもダメ!」

「そうです!いくらマリちゃんでも吉井君にはダメです!」

 

 別に保健体育(実技)を教えるわけじゃないのに、変な勘違いをした二人に全力で阻止された。

 

 だけど土屋君が徐に立ち上がる。鼻血は出ているけど、戦う力は残っているようだ。

 

「ムッツリーニ?!」

 

 あ、吉井君も復活した。

 

「……大丈夫」

「では、始めてください」

 

 高橋先生の合図で召喚フィールドが展開される。学年主任の高橋先生は全ての教科のフィールドを展開出来るからこその芸当だ。

 

召喚獣召喚(サモン)!」

 

 まずは工藤さんが召喚獣を召喚した。セーラー服姿に巨大な斧。あれはまさに一撃必殺の破壊力を誇るだろう……けどこれどういう組み合わせ?

 

「……召喚(サモン)

 

 土屋君の召喚獣。黒い忍び装束に逆手持ちの小太刀。

 

「実践派と理論派、どちらが強いか見せてあげるよ!」

 

 工藤さんの召喚獣が動き出した。振り上げた斧の刃が光る。

 

「バイバイ、ムッツリーニ君!」

「……加速」

 

 だけど、土屋君の召喚獣に装着されていた腕輪が光出した。その瞬間、光速とも言えるその速さの一撃が工藤さんの召喚獣を葬った。

 

「加速、終了」 

 

 土屋君が静かに呟いた。 

 

 Aクラス 工藤愛子 VS Fクラス 土屋康太

 保健体育 446点  VS  572点

 

「そんな……このボクが……!」 

 何が起きたのか分からず、そのままやられてしまった工藤さんはその場にへたりこんだ。

 

「っていうか、あの腕輪何?」

「知らないのかマリ?400点以上取った召喚獣にはああいう腕輪が付与される。点数消費する代わりに、様々な能力を発揮する代物だ」

 

 何それ凄っ。

 

「それでは第四試合を始めます」

「あ、はい!私が出ます!」

 

 ここで瑞希を出す。

 

「それなら僕が相手をしよう」

 

 眼鏡を掛けた男子が出てきた。彼は誰?

 

「久保利光か。厄介だな……」

「どうしたの?彼そんなに危険なの?」

「お前は知らないだろうが、あいつは学年次席だ」

 

 じゃあ翔子に次ぐ実力者って事か。確かに厄介だね。

 

「教科は何にしますか?」

「総合科目でお願いします」

 

 総合科目。全科目の点数が召喚獣に反映される。つまり順位がそのまま召喚獣の強さになってしまうというわけだ。

 

「それでは……」

「「召喚獣召喚(サモン)!」」

 

 Aクラス 久保利光 VS Fクラス 姫路瑞希

 総合科目 3997点 VS 4409点

 

 な、何いいぃぃ?!瑞希がぶっちぎりで超えているだとぉ?!しかも点数差が400点?!

 

「ぐっ……!姫路さん、どうやってそんなに強くなったんだ……?!」

「私、このクラスの皆が好きなんです。人の為に一生懸命な皆のいる、Fクラスが」

「Fクラスが好き……?」

「はい、だから頑張れるんです!」

 

 戦う理由が強い想いであればあるほど、人もまた強くなれる。それが二人の勝敗を分けた。

 瑞希の召喚獣が、久保君の召喚獣を聖剣で打ち払った。これで、二対二。これには高橋先生も予想外だったのか戸惑いが僅かに見て取れる。

 

「では最終戦を行います」

「……はい」

 

 遂にAクラスからは翔子が出てきた。となれば、その相手は……

 

「私が行きます」

 

 私が行くしかない。とはいえ、Fクラスからは代表が出てこない事にAクラスは戸惑っている。

 

『どういう事だ?』

『Fクラスは代表の坂本が出るんじゃないのか?』

 

 そう思うのも無理はない。だけどこれは五対五の一騎討ち。最後に代表が出て来なくてはならないというルールはない!

 

「坂本君からは伝達済みです。こちらは了承を得ています」

 

 私が事実上のFクラス総大将としてAクラスの代表、翔子と戦う。

 

「教科は何にしますか?」

 

 高橋先生が尋ねてきた。私的には当然、アレだ。だけど、向こうも同じ事を考えているはず。

 

「「日本史でお願いします」」

 

 一言も違える事なく、私達は言った。

 

「マリ。いつかの勝負、ここでやりましょう」

「望むところよ、翔子」

 

 ここまで来たんだ。負けてたまるかっての。

 

「「召喚獣召喚(サモン)!」」 

 

 同じタイミングで召喚獣が召喚された。さあ、決着と行こうかぁ!!

 

 

 

 



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第十六問 女の戰い

今回は途中で三人称視点になります


 Aクラス 霧島翔子 VS Fクラス 浦方真梨香

 日本史  612点    613点

 

『なっ?!一点差で代表に勝ってるだと?!』

『ま、マリさん凄ええぇぇ!!』

『彼女は何者なんだ?!』

「流石マリ……」

 

 FクラスがAクラスの代表に一点差で勝っている事に、クラス問わず衝撃を受けている。流石の翔子もこれには苦い表情が出ている。

 

「浦方さんの点数が、霧島さんの点数を上回ってる?!」

「凄いマリ!」

 

 吉井君と美波が褒めてくれる。だけどごめん。一点差じゃ安心出来ない。

 

「でも、ここからは召喚獣バトルの世界。少しの操作ミスが、負けに繋がります……!」

 

 その通り、少しのダメージが勝敗を分ける召喚獣バトル。一発デカいのを貰っただけで即死する可能性がある。

 Aクラスの重鎮達も、点数を見て焦りの表情が出ていたけどそれも一瞬。すぐに平静を取り戻している。

 とはいえ、負ける可能性が出てきた事でそれ以外の面々は不安に駆られている。

 

「今度こそあなたに勝つ、マリ……!」

「願いを叶えたければ、私を倒しなよ翔子!」

 

 互いの召喚獣が互いに駆け出した。

 

 

 ※ここからは召喚獣のサイズが等身大の身長になり、三人称視点になります。あくまでも召喚獣バトルのイメージであり、本人達が戦っているわけではありません。ご注意ください。

 

 ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

「そらぁっ!」 

 

 漆黒の忍び装束を纏った真梨香の持つ鎖鎌によって繋がれた棘鉄球がしなる。

 

「はぁっ……!」 

 

 武者鎧を纏い、翔子が日本刀で弾く。攻勢に出るべく走り出した翔子の持つ日本刀が振り下ろされる。

 鎖で防ぐも、その分の点数が僅かに消費される。だが咄嗟に翔子の腹に蹴りが入った。点数も消費され、後退った事で再び距離を取られた。

 

 霧島翔子《572点》VS 浦方真梨香《592点》

 

 頭上に表示されている点数。0になれば戦死、敗北を意味する。ちょっとした打ち合いでも点数はごく僅か消費する。

 たが真梨香の得物は広範囲で制圧出来る鎖鎌。刀では手数に劣るものの、懐に入ってしまえばその広範囲も形無しになる。

 翔子はなるべく懐に潜り込んで一撃を与えようと近付くも、辛うじて防いでいる。

 

「はぁ……はぁ……」

 

 浦方真梨香《562点》

 

 召喚獣の操作練度は翔子の方が上。まだ操作に慣れていない真梨香は攻撃か防御しか出来ない。

 

「徐々に代表が押してきた!」

 

 ギャラリーとして静観していた優子も、勝機を見出した事で声が出る。

 

「マズいな。召喚獣の操作に慣れていないのが知られてちまっては分が悪い」

 

 雄二が険しい表情になる。代表の不安は部下にも伝染する。勝つ気でいたFクラスの士気が落ちていくが……

 

「狼狽えるなぁ!!」

 

 だがここで真梨香が不安の雰囲気に呑まれ始めたFクラスに一喝する。そして、真梨香は雄二の方を見る。

 

「私を信じて、雄二!」

 

 絶対に勝つ。そんな事を言わずとも、その一言で伝わる。

 

「頼んだぞ、マリ!」

「オーケェイ!」

 

 不敵な笑みで翔子に向き直る。その翔子の表情はどこか睨んでいるようにも見えた。

 

 ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 翔子side

 

 私には、マリの笑顔が眩しかった。

 

 雄二の前で見せる本音に、無邪気な笑顔。悪戯をした時の活き活きとした姿。

 

 雄二を信頼しているからこそ見せているのは分かる。

 

 だから、不安になる。マリはひょっとして、雄二の事が好きなんじゃないかって。

 

 もし、大好きな親友の好きな相手が、私と同じ相手だったら?それでマリを傷つける事になったら?

 

 Fクラス戦を前にして、どうしてもこの迷いが私を悩ませた。

 

 この際、マリの気持ちを聞こう。そう思って私はマリにメールをした。アドレスを交換してから初めてのメールが、こんなメールだなんて……。

 

 私はマリが気に入りそうな空き教室でメールを送ると、そこで待つ事になった。

 マリは、誰も立ち寄らない静かな空間を選ぶ。小学校の頃から、何も変わっていなかった。

 

 少し待つと、空き教室の戸が開いた。

 

「もう来てたか翔子。早いね」

「……マリならここを選ぶと思ってた」

 

 大事な戦いで手を抜きたくない。迷わず私は、マリに気持ちを問いただす。

 

「マリは……雄二の事、どう思ってるの?」 

「私とって雄二は何か?まあそうねぇ……気が合う悪友って感じかな?」 

「……それだけ?」

「じゃあ逆に聞くけど、翔子はアイツの事どう思ってるの?」

 

 逆に問い返されてしまった。マリは昔から、大事な事は誰であろうと関係なく面と向かって話す。

 羨ましい。そんな風に思えたけど、私も本当に叶えたい願いがあるなら、マリのように面と向かって話さなくては。

 

「私は……私にとって雄二は……!」

 

 決意をしたんだ。話しなさい、霧島翔子……!

 

「たった一人、心から好きな人なの……!」

 

 マリに本当の想いをぶつけた。あの日、雄二はマリと一緒に私を守ってくれた。困っていた私を助けてくれた。

 たとえ雄二が誰からも蔑まれようとも、私は絶対に雄二の味方になる。雄二の傍に寄り添う。これだけは、マリでも譲れない。その想いを、全てぶつけた。

 

「……そっか」

 

 マリは満足そうに微笑んでる。

 

「マリ……?」

「やっと翔子の本音が聞けた」

「えっ……?」

「いやぁね。さっき、翔子が男子に興味が無いって噂を聞いてさ、そんなわけないって思ってたんだけどね」

 

 私が興味があるのは雄二だけ。他の男子と付き合うつもりがない。

 

「それで変な噂が広まったってわけか……ま、今はどうでも良いか」

 

 マリ、呆れてる?

 

「アンタの本音はよぉーく分かった。アンタが雄二にベタ惚れしてるって事も」

「っ……///」

「で、勝った方が何でも一つ言うこと聞く。勝って雄二と付き合おうって算段か。けど……」

 

 

 

 

 

 

 

 

 尚更、止めたくなったな

 

 

 

 

 

 

 

 

  

 

「……え?」

 

 どうしてそんな事を言うのか、すぐに理解出来なかった。何でマリがそんな意地悪な事を言ったのか、理解出来なかった。

 

「何を言ってるの……?マリ……」

「素直に応援してあげたいけど、それって私が負ける前提みたいに話されてさ……」

 

 そんなつもりで言ったわけではないのに、またマリを不快にさせるような事を言ってしまっていた。

 

「ごめんなさい……そんなつもりで……」

「翔子」

「っ……」

「本気で雄二が欲しい?」

「……欲しい」

「私を蹴落としてでも?」

 

 親友を蹴落とすなんて、気持ちのいいものじゃない。そんな意地悪な問いかけをされては、迷いが生まれてしまう。だけど、私には雄二しかいない。

 

「……うん」

 

 マリが腕を組んで天井を見上げる。少しすると、再び私の方へと向いた。

 

「だったら全力で私を倒しな。私も、全力で翔子を倒すから」

 

 マリがそう言うと、空き教室の戸に手を掛けた。そこで止まって、こっちに振り返る。

 

「私達が戦う教科。分かってるよね?」

「……うん」

「じゃあ、楽しみにしてる」

 

 フッと笑うと、マリは空き教室から出て行った。

 

「マリ、今度こそ私が勝つ。小学校の時、あなたに勝てなかった唯一の教科……絶対に」

 

 ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 鎌と日本刀の刃が激しく打ち合い、火花が散る度に互いの点数が少しずつ消費されていく。

 気がつけば、真梨香の点数は421点、翔子は427点。そこからまた1点ずつ削られていく。

 真梨香が召喚獣の不慣れがこの点数の差が開いてしまった。だが下手に攻撃して、決定打をくらえば真梨香は負ける。

 耐えるしかない真梨香に、この防戦一方はもどかしい。

 

「逃さない……!」

 

 何とか距離を取ろうとしても、すぐさま翔子の召喚獣が距離を詰める。日本刀が振るわれる度に、鎖鎌で弾いていくが、その分点数も消費されてしまう。

 

 真梨香 411点

 

(いける……だけど油断はしない……!)

 

 少しの気の緩みを真梨香は見逃さない。このまま迅速に畳み掛けて、勝負を決める。

 

(あんまり使いたくないけど……仕方ない……!) 

 

 だが真梨香もただでやられているわけではない。使用することで点数を消費する腕輪の力。真梨香こ召喚獣が、その腕にはめられた腕輪を天高く掲げる。

 

「使わせてもらうよ、腕輪の力!」

「そうはさせない!」

 

 すかさず翔子の召喚獣が刀を振り下ろされた。

 

 真梨香 411点→381点 

 

 だが点数が半分消費されたと同じタイミングで真梨香の召喚獣が真っ二つに一刀両断。

 

「獲った!」

 

 外野の優子がガッツポーズをする。だが、翔子はその手応えの無さに違和感を感じる。

 

「まさか……!」

 

 真っ二つになるはずだった真梨香の召喚獣が溶けるように消えた。

 

「残像……!」

「おらぁっ!」

 

 真梨香の召喚獣がライダーキックをかます。反応が遅れた翔子の召喚獣が大きく吹き飛ばされる。

 

 霧島翔子 427点→322点

 

 

「あの霧島翔子に一撃を!」

「凄いマリ!」

 

 観客として見守っていた秀吉と美波が声を挙げると、他のFクラスの面々も大きな歓声を挙げる。

  

「くっ……はっ……!」

 

 倒された翔子の召喚獣が起き上がろうとするが、頭上から真梨香の召喚獣が鎖鎌を大きく振り回して投擲する。

 

「でりゃあぁっ!」

 

 大きく投擲した鎌の刃が翔子の召喚獣を目掛けて襲い掛かる。ギリギリで弾くも、距離を取られた事で今度は真梨香の反撃が始まる。

 

「マイ、タァーン!!」 

 

 鞭のようにしなる鎖の先にある鎌と棘鉄球の猛攻が翔子を追い込む。圧倒的な攻撃範囲を前にして翔子は315点、301点、289点と少しずつ翔子の点数が消費される。

 

「代表……!」

 

 優子を始め、Aクラスの面々の雲行きが怪しくなっている。Aクラスとして敗北は許されないという矜持、敗北への恐怖、様々な不安に押し潰されそうになる。 

   

「翔子!!」

 

 猛攻をやめ、鎖鎌を手繰り寄せた真梨香が叫ぶ。

 

「私は……絶対に勝ぁつ!!」

「……勝つのは私」

 

互いに譲れない思いを胸に、二人は激突する。

 

  

 

 




次回、決着


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