ホビアニTCG世界にカードとして転生したから目立とうとしたけど、何かがオカシイ。 (夢泉)
しおりを挟む

TURN 0:PROLOGUE
俺と契約してカードファイターになってよ!



TCGやホビアニに対する意見は作者の偏見に塗れています。お気をつけ下さいませ。


 気付いたら長方形のカードになってました。

 重力無視してフヨフヨ浮いております。上下左右に動けます。

 

 いや、こんな意味不明な事ある?

 

 ガラスに映った姿を見たら、真っ白で薄く輝いていますね。まだイラストとか文字は刻まれていないようです。

 何処の制作会社だ、こんな手抜きカード作ったの。出てこい。

 てか、ここ何処?見たことない街だよ?

 ビルが立ち並んでるし東京のようにも見える……

 あれ?「東京」って何だ?

 そもそも、「俺」は……。

 んん?「俺」?「俺」は男か?

 記憶が無いでござる。でも、男の子だった気がする。多分。

 死んで記憶無くして転生したパターンかな、これは?

 

 とりあえず、現状を把握するためにフワフワ街中を散策。

 発展した現代都市。ファンタジーっぽさは見受けられない。俺の存在が一番ファンタジーまである。

 

「召喚! 俺の相棒! カオス・ジャスティス!」

『HAHAHA! 俺を呼んだか、少年!!』

 

 ごめん。嘘。

 なぜ、公園でカードゲームしてる少女の背後に巨大なドラゴンが居るんですかね?

 なぜ、相対してる少年の背後に2メートルくらいで全身赤タイツ&仮面&マントのThe・ヒーローが出現したんですかね?

 しかも、動いてるし。喋ってるし。

 

「いっけぇ!ジャスティス!」

「やっぱ、ジャスティスかっけぇよな!」

「そこだ!やっちゃえ!」

「負けないで!」

 

 周りの子、見えてるっぽいけど誰も疑問に思ってないし?

 ははーん。分かったぞ。完璧に理解した。俺の前世はノーベル賞クラスの天才だったに違いない。

 

 これはTCG世界だな、間違いない。

 

 TCGとは「トレーディングカードゲーム」の略。TCG世界とは、そのカードゲームが何故かグローバルスタンダードになっている謎世界である。

 あらゆる対立事……時には世界の行く末を決めるハルマゲドン的最終決戦さえカードゲームで決められる狂った世界だ。

 基本的に他の種類のTCGは存在せず、1つのカードゲームしか存在しないのも特徴の1つ。あっても極端に競技人口が少なく、マイナーゲームだったりする。

 また、対戦中に召喚すると、カードのイラストのモンスターや人物を実際に現実世界に顕現させたり出来ることも多い。紙切れに過ぎないカードの力で天変地異が起きたりもする。

 対戦中に実際にダメージを受ける事も珍しくなく、時には死者が出たりする事も。……やっぱ頭おかしいな?警察と国は何してるんだ、さっさと規制しろ。あ、駄目だ。警察とか大統領とかもプレイしてたりするもんね。遊んでないで仕事しろ。

 

 それで、多分だけど。これアレだな?TCG原作のホビアニ世界だろ?俺は詳しいんだ。

 

 ホビアニとは「ホビーアニメ」の略。玩具・ゲーム(ホビー)の販売促進を目的として作成された(基本的には子ども向けの)アニメの事である。

 後ろに資金力に定評のある大手玩具メーカーが控えてたりするので、アニメの話数が膨大なのが特徴。深夜アニメが12話・13話の枠を争う中で、日曜朝の時間帯に軽く50話くらい放送する。元ネタの玩具が軌道に乗れば、話数が3桁軽く超えることも珍しくない。声優だって超有名声優をポンポン採用する。

 あとは、「友情!努力!絆!勝利!」が基本テーマであることが多いな。小難しいテーマを捏ね繰り回すのではなく、単純明快な勧善懲悪・熱血展開であることが普通。奇をてらった珍しい設定・展開もあるが、基本は少年少女が世界を脅かす悪と戦う。最終的に、世界や宇宙や人類やら救ってハッピーエンドになる。

 だが、決して単純でつまらない物語ではない。ライバルとの手に汗握る熱いバトルや、敵だった者との和解・友情、甘酸っぱい恋愛、別れや再会など最高に面白い展開がこれでもかと詰め込まれている。

 それもそのはず、作品を支える根底は「子ども心に誰もが抱く夢」なのだから。ホビアニを「つまらない」「子どもっぽい」と鼻で笑うようになった時、その人は「大人になった」という事なのかもしれない。それが良い事か悪い事かは議論が分かれるだろうけども。

 

 ……なんて。

 物凄くどうでも良い事を考えながら、カードの俺はフヨフヨと浮遊。上空から街行く人々を観察し続けている。

 探しているのは、主人公適正・主人公パワーを有する子供だ。

 もう転生してしまったのなら受け入れるしかない。ジタバタ足掻いても何が出来るわけでもないしね。

 そして。折角ホビアニTCG世界に転生したのなら、主人公陣営で目立ちたいじゃない?アニメ50話通して一瞬しか登場しないゴミカードとか嫌じゃん?毎回、召喚の生贄とかエネルギーとかで終わるのとか悲しいじゃん?

 というわけで。俺は俺を使うに相応しい存在を探している。

 

 多分、この真っ白イラストも意味があるのだ。持つべき存在の手に渡った時にイラストが浮き出し、カードとして完成するのだろう。きっと、アニメ第一話で描かれる感動のシーンだ。

 

 とはいえ、だ。

 狙うべきは主人公の陣営の誰かくらいが丁度いいだろう。

 無論、ホビアニ特有の超熱血主人公クンの相棒というのも最高に楽しいだろう。少年の成長を最も傍で見守るのは得も言われぬ魅力がある。

 けど、多分すぐに出番が無くなる気がする。販促目的のTCGアニメでは、主人公のデッキは凄いスピードでメンバーが入れ替わるのだ。一番子供たちの注目を集める人物の使うカードだからこそ、たくさんの新規カードを売るためにもコロコロとメンバー変更が起きる。強いカードも続々集まってくるだろう。直ぐに俺はリストラされる可能性が高い。

 主人公が闇落ちしたり、挫折したりするとガラリとデッキ変わるしね。

 

 だから、狙うのは「主人公陣営の誰か」だ。

 主人公の友達とか、ヒロインとか、そういう子。主人公よりはデッキ変更は控えめで、それでいて出番もあるしね。

 ま、あとは。折角ずっと一緒に居るなら女の子が良い。

 

 ……おや?何か暗い顔をしてる女の子が居ますね?

 長い黒髪と黒い瞳。ホビアニ特有の珍しいカラーリングの髪ではないけど、むしろ個性になりそう。

 うーむ?彼女、かなり良いんじゃないかな?何かを抱えた女の子がカードゲームや熱血主人公クンと出会って変わっていく……アリだと思います!

 それにさ。

 まぁ、「カード」なんてオモチャに転生したわけですし?

 元を辿れば、人に遊んでもらって笑顔にするのが仕事なわけですし?

 うん、俺はあの子を笑顔にしよう。

 

 へいへーい、嬢ちゃん。俺と契約してデュエリストになってよ!

 

 フヨフヨと少女の下へ向かう。

 

「あれ……これって……」

 

 少女の手が伸ばされ、俺に触れた。

 すると、漆黒の光が溢れ出して、俺のカードにイラストと文字が刻まれていく。

 ん?漆黒?

 

「ふふ、ふふふ。このカードがあれば、全部全部ぶっ壊せるわ……ふふふ……」

 

 んん?あれぇ?

 何か、オカシクね?

 

 

◆◆◆

 

 

『ティティム・クルデーレ』 

■レア:SCR(スーパー・カオス・レア)

■属性:  ■適正:近攻  ■深度:4

■所属:カオス・エンパイア

■種族:イミタシオン/カオス・パペット/スペルビア/アヴェンジ・クローバー

■パワー:ATK/VIT:4444/0

■イラスト:【挿絵表示】illus.さすらいの支援絵侍

■詳細:左が金色、右が黒色のオッドアイが特徴的な長く白い髪の少女。真っ黒な服に身を包み、巨大な鎌を両手に持っている。

■能力:

【∞】-The ONE-

 このモンスターがバトルゾーンにある時、名前に「ティティム・クルデーレ」とあるモンスターを召喚する事は出来ない。

【Θ】召喚時、手札4枚 & 山札の上から4枚 を墓地に置く。さらに、バトルゾーンの味方4体を「イミタシオン」「カオス・パペット」「スペルビア」が全て揃うように選び破壊する。(上述のどれか1つでも達成できない場合、このモンスターを破壊する)

【○】「Θ」にて墓地に送った枚数のカードを、他プレイヤー全員の墓地以外のエリアから選択して墓地に送る。

【○】このモンスターが攻撃する時、バトルゾーンの味方モンスターを1体選んで破壊する。破壊した場合、相手の墓地以外のエリアからカードを1枚選択して墓地に送る。

 

【覚醒】全プレイヤーの墓地にあるカードの合計枚数が44枚以上の時、このモンスターは以下の「▼」能力を得る。

【▼】ATK・VITが44444になる。

【▼】Q(カトル)クラッシャー(相手のライフを4つ破壊する)

【▼】このモンスターがバトルゾーンを離れる時、離れる代わりに自身の墓地のカードを4枚手札に戻す。

 

■フレーバーテキスト:

 ――「消してあげる! 全部全部!」

 

 

 

★編集部コメント★

 味方を犠牲に敵を殲滅する! 情け容赦なく全てを切り捨てていくぜ!

 

 





挿絵は「さすらいの支援絵侍」様が、「七三ゆきのアトリエ」様(https://nanamiyuki.com/)の協力の下で書いてくださりました!
ありがとうございます!


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

TURN 1:デッキ構築篇
Draw 1:オモチャの力で容姿が変わるのは何ゆえに。


※当小説にはTCG及びホビアニへの偏見が随所に見受けられます。
※これらは全て作者及び各キャラの主観に基づくものであり、事実とは異なる場合がございます。


 

 少女……「死世神(しせがみ) 偽華(にせか)」に拾ってもらった後、彼女は俺を手に持ったまま帰宅した。

 ちなみに、とんでもなく大きな豪邸である。

 まぁ、何故か知らないけどTCGの敵役ってお金持ち多いよね。世界を牛耳る大企業のトップとか、財閥の長とか、そういうの。

 やっぱり、兵器とか出して派手な展開に出来るからかな?それとも、お金があれば強いカードが買えるよ、と子供たちに教えて……それは無いな、うん。無いと信じたい。

 ……けど、豪邸なのに誰も彼女を出迎えなかったのが気がかりだな。親とか使用人とか誰も見かけない。彼女が暗い顔をしていたことと何か関係があるのだろうか。

 

 ま、今考えても仕方があるまい。情報が少なすぎるし、何も分からないのだから。後で追々考えるとしよう。

 

 それよりも考えるべきは。

 フヨフヨ浮いて鏡に姿を映す。

 そこには、ちゃんとイラストとテキストが刻まれたカードが映っている。最初の手抜きカードとは違う。

 ほうほう。名前は「ティティム・クルデーレ」ね。可愛い名前じゃないか。

 カードもキラキラしてるね。ホログラムで黒いカードがキラキラしてる。キラカードって奴だ。低レアの別バージョンでも無ければ、高いレアリティなのは間違いない。

 それは良い。

 しかし。

 描かれているのは、左が金色、右が黒色のオッドアイが特徴的な長く白い髪の美少女。真っ黒な服に身を包み、巨大な鎌を両手に持っている。

 

 ……なんで俺、TSしてるの?

 ……しかも、両手に巨大な鎌って何?どんな女の子だ?

 

 いや、まぁね?俺が男の子だったというのは、何となく思うってだけで証拠はないし。百歩譲って性別は良いよ。

 けど、何この見た目と能力?

 このTCGのルールやら強さについて詳しくないけれども。

 武器が鎌で?種族が「闇」で?基本色が黒と白で?やたらと「4」が続く能力で?味方を殺しまくって敵も殺すみたいな能力で?種族に「スペルビア」=「傲慢」と「アヴェンジ」=「復讐」があって?

 何この、一目で分かるヤバイ子。可愛いけど、絶対にヤバイ。

 少なくとも、熱血主人公陣営に居るべき子じゃない。

 というか、召喚された時の口調とかどうしよう?

 見た目的に一人称は「私」かな?口調とかどうしよう?フレーバーテキストが書かれてないから分からないけど……。絶対にヤバイ言動する子でしょ、この子。

 すると。背後からガチャリと戸を開ける音が聞こえた。

 

「ふんふふ~ん♪」

 

 そして。上機嫌な鼻歌を歌いながら少女がカードである俺の方へと向かってくる。

 全裸で。

 

 何で!?

 いや、理由は明らかなんだけども。体から湯気が昇ってるもんね。お風呂に入ってたんだよね。

 でもさ!なんで服を着ることもせず、俺を掴んでマジマジと見つめてるの!

 早く服を着てよ!カード状態だと目を瞑るとかって機能が無いの!手で掴まれてると向きを変えることも出来ないの!見えちゃうの!

 不味い不味い不味い不味い。

 俺の精神は男の子っぽいから、本当にマズイ。バレたら破かれちゃうのでは?

 必死に意識を逸らす。目は逸らせないから意識だけを逸らす。あれは絵画だ。芸術品だ。ミロのヴィーナスとかそういう系のソレだ。冷静になれ、冷静に。

 

 いや、そうだ。アレについて考えよう。今も視界に映っている明らかな異常事態。

 何を隠そう、俺の視界の上部に位置する偽華(にせか)ちゃんの髪について。

 

 ……何故に、彼女の髪は色が変わってるんですかね?

 

 何が起きたのかと言うと。

 ついさっきのことだ。俺を掴んで黒い奔流が出た直後、彼女の髪の色が変わったのである。自分でも何言ってるのか分からないけど、そうなったのだから仕方がない。

 漆黒の長髪が、白と黒が混じった髪……メッシュというんだっけ?……に変わったのである。

 本当に一瞬だった。

 当たり前だけど美容院に染めに行ったりしていない。

 玩具の力で身体に変化が起きるってどういうことなの?確実にヤバいのでは?病院行った方が良いかもよ?

 ……ただ。彼女が全く問題にしていなそうだし、多分この世界では普通の事なんだろうね。

 少なくとも、ホビアニにピッタリの奇抜な髪型であることは間違いない。あと可愛い。普通に凄く似合ってる。

 ま、可愛ければ、ヨシ!(思考放棄)

 

「さて、じゃあティティム。貴女を中心にデッキを構築するわね。……全てを壊すために。ふふふふ」

 

 まぁ、何はともあれ。

 世界を壊すでも何でも良い(良くない)けどさ!

 とりあえず、早く服を着て!

 



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

Draw 2:優しい先輩がたくさんいるアットホームな職場death。

※当小説にはTCG及びホビアニへの偏見が随所に見受けられます。
※これらは全て作者及び各キャラの主観に基づくものであり、事実とは異なる場合がございます。


 

 遂に偽華ちゃんによるデッキ構築が始まった。

 あ、ちゃんと服は着ている。あの後、直ぐに服を着た。本当に良かった。主に俺の精神的に。

 ただ、直後に別の問題が俺の精神をガリガリと削るようになったのだけど。

 その問題とは。

 

「……あと5枚けずらなきゃ駄目ね」

『やだやだやだやだやだやだやだやだ!!』

『オノレ3枚入ってるやろ! 1枚キレや!』

『びえぇぇぇ!! 次のリストラ私だぁぁ!! 絶対そうだぁぁ!!』

『やめて! 真っ暗なホルダー暮らしはもう飽きたの!』

 

 ――この職場、地獄過ぎませんかね?

 

 

◇◇◇

 

 

 偽華ちゃんは几帳面な性格らしく、カードは見事に整理整頓されていた。

 大きな箱やバインダーなどを使って、綺麗に分類されている。

 ただ、その美しく並んだカードたちの実態は阿鼻叫喚の地獄絵図。互いを罵り合ったり、暴言を吐いたり、泣き叫んだり。目も当てられない惨状である。

 どうも、近くにあるカード同士はテレパシー的なモノが共有され、会話が可能になるようだ。会話だけで姿は見えない。

 ちなみに、これらの声は偽華ちゃんには聞こえていない、と思う。聞こえてないと信じたい。聞こえているのに容赦なく切り捨ててるのだったら怖すぎる。

 

『テメェは良いよなァ……。コネ入社だもんなァ……。心穏やかに見てられるよなァ……』

 

 俺の隣に置かれたカードが直接話しかけてきた。『嫉妬人形/エンビビ』さん。紫色の骸骨をデフォルメしたような人形のイラストだ。

 ……俺はカード界隈ではコネ入社になるのか?

 てか入社?会社なの?給料出るの?

 まぁ、良く分からんけど。1つだけ。

 

 心穏やかな訳ねぇだろ、ばぁぁぁか!!!

 

 周りの奴、ほぼ全員が俺のこと恨めしそうに見てるんだぞ!リストラされた奴の断末魔が響いてるんだぞ!呪詛とか呟いてるんだぞ!「闇」のカードの呪詛とか絶対効果あるヤツでしょ!止めろ!

 

 ……でも、賢明な俺は何も言わない。余計な発言で火に油を注がないよう、黙ってジッとしてる。

 小心者だからビクビクしてるだけじゃないよ。ちゃんと意味があるんだよ。ホントだよ?

 

『キャハハハ! ウケる! どいつもこいつも僻んじゃって情けな~い! 自分が弱いのが悪いだけなのにね!』

 

 ……やめて。『傲慢の魔法少女/メア・スペルビア』さん。そんなキラーパス投げないで。周りを見なさい、超ヘイト稼いでるじゃん。

 メアのイラストは10代程度の少女だ。髪と瞳は紫紺に染まり、服は露出多めで際どい漆黒ドレス。手にはハート形の宝石が埋め込まれたステッキ……だが、その中心には亀裂のデザインが刻まれ、色は真っ黒。同じく漆黒のハイヒールとタイツで脚部をコーディネート。

 はい。どっからどう見ても闇堕ち魔法少女ですね。100パーセント主人公陣営じゃないですね。本当にありがとうございました。

 わからせ展開に進みたいのか知らないけど、俺を巻き込まないで欲しい。

 

『ティティムだっけ? アンタもそう思うでしょ?』

 

 マジで止めて!俺も同類って見られたくない!

 肯定したら周囲のヘイトがヤバいし、否定したら魔法少女ちゃんに目の敵にされそうだし。どう答えれば良いのか分からず、沈黙を貫くような形になってしまう。

 

『なに? 新人の癖に無視するわけ? ちょっと生意気じゃない?』

 

 誰か助けて!もう俺の胃は限界だ!

 すると、横から威厳を感じる女性の声が聞こえてきた。

 

『ふん。少しは大人しくせよ、魔法少女。強者には強者なりの振る舞いが求められるのだ』

 

 声の主は『吸血女王/セレモア・ニュクト・ガーネット』さん。漆黒の長髪と紅の瞳を有し、紅のドレスに身を包んだ美しい女性のイラストだ。

 名前とイラストを見る限り吸血鬼っぽいけど、俺には女神に見えた。助かった……!

 と、思ったのも束の間。

 

『キャハハハ! 年を取ると小言が多くなるのね! 老害年増は黙ってなさいよ!』

『貴様、言ってはならぬことを言ったな!』

 

 2人は周りのカードたちの喧騒を打ち消す程の派手な言い争いを始めてしまった。

 もう嫌だ!この職場!

 転職したい!

 

 



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

Draw 3:ホビアニの敵キャラって意外と重い事情を抱えてたりするよね。

※当小説にはTCG及びホビアニへの偏見が随所に見受けられます。
※これらは全て作者及び各キャラの主観に基づくものであり、事実とは異なる場合がございます。


 

「はぁ……おい、()()。貴様の伴侶を止めろ。俺は魔法少女を止める」

「じゃれついてるだけだろ? セレが気を許せる友人は少ない。メアとの言い合いくらいは好きにさせてやってくれないか、()()()?」

「だとしても。新人が困惑している。程々にするべきだろう」

「……む。それは不味いな。了解した」

 

 誰もが好き勝手に喚く混沌とした状況に陥ったが、そこで1(まい)(カード)が動き出した。

 「魔王様」と呼ばれたカードが、セレモアさんの近くに置かれたカードに声をかける。

 対象は、「義賊」と呼ばれたカード。描かれているのは、紫紺の髪と金の瞳を有した青年のイラスト。顔の下半分は隠され、カードの上部には「月夜の義賊/ロイバー・クリステフ」と名前が刻まれている。

 彼がセレモアさんに話しかけると、セレモアさんは直ぐに大人しくなった。……間違いなく、アレはデキてるな。

 魔法少女メアの方へと目を向ければ、彼女もいつの間にか大人しくなっていた。「魔王様」……「刻魔王/エイジ・ククローク」が何かをしたようだ。

 そして、次に。

 その、黒髪と黒目、右に紅の瞳を有した男は。

 全てのカードに向けて告げた。

 

「――静まれ」

 

 その言葉は決して大きくは無い。だというのに、部屋中に響き渡った。

 騒ぎ続けたカードが全て、瞬時のうちに大人しくなる。

 

「ホルダー暮らしが嫌なのであれば、後ほど偽華(にせか)に言伝を頼めばよかろう。定期的にホルダーから出すなり、2軍を構築してもらうなり、やりようは幾らでもある」

 

 え、何このカード格好良い。正直、めっちゃ助かった。

 俺の精神は(多分)男だけど、惚れるレベル。

 

「さて、醜い姿を見せたな。申し訳ない。……む?貴様の種族……「イミタシオン」か。成程な」

 

 ん?成程って何が?

 確かに、俺のカードの「種族欄」は「イミタシオン/カオス・パペット/スペルビア/アヴェンジ・クローバー」ということで、「イミタシオン」なる種族が含まれているけども。

 それがどうしたんだろう?

 

「少し、俺の話に付き合ってはくれぬか?――あの少女、死世神 偽華についてだ」

 

 それは願ったり叶ったりだ。俺は偽華ちゃんの暗い顔を見て彼女の下へと飛んだ。彼女を笑顔にしたいと思った結果、「ティティム・クルデーレ」になった。

 彼女の事情を知れるのなら、それを断る理由なんて無い。

 頷きで肯定の意を示せば、彼はゆっくりと話し始めた。

 

「偽華は憐れな少女なのだ。彼女は――」

 

 

◇◇◇

 

 

 死世神。それは、この世界において有数の巨大企業『CHAOS(カオス) PHOENIX(ポエニクス)』――通称『CPX社』を牛耳る一族の名。

 この「日本」に蘇った「財閥」とも称される一族。

 かつて解体された財閥が蘇ったかのようだ――そんな意味を込めて、その急速な発展の歴史は「不死鳥」のようだと評される。一方で、成り上がるためには手段を選ばないやり方は、「死神」のようだと評す者も少なくない。

 そんな死世神の現当主「死世神 真贋(しんがん)」には、「真華(まなか)」という娘がいた。真贋の最初の子供であり、彼は彼女を大層愛していた。……全ては過ぎ去った過去の話だが。

 「死世神 真華」は完璧な少女だった。容姿端麗、頭脳明晰、人格も非の打ちどころがなく、TCG『CHAOS(カオス) ONE(ワン)』――略称『CO(シーオー)』の腕も優れている。そんな少女だった。

 だが、彼女は亡くなった。13歳という若さで世を去った。

 その悲劇に際し、深い悲しみに暮れた彼女の母親は、死世神の財力と技術力を用いて秘密裏に真華のクローンを創り出してしまう。

 しかし、それは犯罪。クローン人間を造り出すことは、法で罪と定められた禁忌。

 CPX社を背負う真贋にとって、これは大き過ぎる不祥事。そもそも、愛娘のクローンと言うのが彼には受け入れられなかった。

 故に。彼は隠蔽・根回しを徹底し、そのクローンを自らの3女であると戸籍を偽造する。

 そして、金と豪邸を与えて、使用人を差し向けるだけの存在とした。

 真贋および「死世神」にとって、「死世神 偽華」は大きすぎる爆弾であり、触れてはならぬタブーとなったのである。

 

 こうした経緯を経て。

 偽華は、「愛」の一切を受け取らずに育つこととなった。

 

 

◇◇◇

 

 

「――偽物の花、「偽華」。断じて親が子に愛をもって与える名では無い」

 

 辛く重たい話だった。俺は、偽華ちゃんが抱え苦しみ続けたモノを知った。

 ……あんなに騒がしかったカードたちが、偽華ちゃんの話の間はずっと黙っていたのも、理由は明らか。みんな、偽華ちゃんの境遇に思う所があったのだろう。

 だって。俺たちカードは誰かを笑顔にする「玩具」なのだから。

 

「ティティム・クルデーレよ。お前は「イミタシオン(Imitación)」。模造品、紛い物……或いは偽物。そういう種族だ。そして、偽華の写し鏡として成立した特殊なカードでもある」

 

 聞けば、そういった特別なカードは世界に幾つか存在しているのだという。

 それらは、「The ONE(ジ・ワン)」と呼ばれるカード。誰かの強い想いに応えるようにして顕現する、無二の存在。

 なんで、そんな特殊カードが公式大会とかで使えるのか、とかは突っ込んだら駄目なのだろうな。

 

「しかし。鏡はただ己を映すモノではない。己を客観的に観測し、変革を促すモノでもある。故に――」

 

 なるほど。

 鏡を見ながら化粧をする。衣服を整える。髪をセットする。

 これらは己を磨く行為。「今」を映す像が、「先」へ導くモノともなる。

 

「――貴様であれば、或いは。あの少女の救いとなれるかもしれぬ。決して同族の舐め合いではなく、お互いを支え高め合う存在……比翼の片割れとして、な」

 

 そうか。

 それが「俺」が転生した意味か。

 カードとして。性転換までして。

 よりにもよって、TCG世界に転生して。

 ――そして、彼女と出逢った。

 ――笑顔にしたいと思った。

 

「俺も親には悩まされた故な。あの少女の道行を照らすためならば助力は惜しまぬよ」

 

 これは「俺」の。

 否。「俺たち」が彼女を笑顔にするための物語なのだろう。

 

「――デッキ完成よ! これで全部ぶっ壊せるわ!」

 

 ……それはそれとして。

 手段がラスボスルートってのが問題ありまくりな気がするけども。

 





―あとがき―

★キャラ紹介
『刻魔王 エイジ・ククローク』

小説『俺「以外」の全員が「2周目」は流石に鬼畜仕様すぎる。』の主人公。
―カクヨム版URL―
―ハーメルン版URL―


具体的性能は後程。

この小説の性質上、膨大なキャラの設定が必要となります。そのため、私の過去作のキャラ設定を流用して使っていきます。
興味を持って頂いたら、元ネタの方も読んで頂けると嬉しいです。




以下、長文注意。読む必要はありません。



―追記(2022/07/03)―

先ず、この場を借りて誤字報告を送ってくださる方々に感謝を。いつも大変助かっております。ありがとうございます。

その中で。
「The ONE」を「ジ・ワン」とは読まないのではないか、というご指摘を数回受け取りました。ありがとうございます。

第一に、「The」は母音の前以外では「ðə(ザ)」と発音する。それは間違いなく正しいです。
ただし、「強調」する場合には母音の前でなくとも「ði(ジ)」と発音する事があると私は認識しております。

なので、この物語では意図的に「ジ」表記としております。
教育アニメではアウトかもですが、ホビアニとしてはインパクト大で許容範囲かなと考えている次第です。インパクトのある台詞の方が覚えられやすいですしね。

以上です。
この件に関しては、指摘を受けた後に色々と調べて、「問題なし」と結論付けました。
なので、この箇所の誤字報告を送る必要はありません。してくださっても、反映は致しません。予めご了承ください。


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

Draw 4:ホビアニの初陣補正は殆ど100%

「ティティム・クルデーレ」の能力変更(ナーフ)

レアリティ表記:UR→SCR
能力:
(変更前)『召喚時、バトルゾーンの味方「イミタシオン」4体 & 手札4枚 & 山札の上から4枚 を墓地に置く』

(変更後)『召喚時、手札4枚 & 山札の上から4枚 を墓地に置く。さらに、バトルゾーンの味方4体を「イミタシオン」「カオス・パペット」「スペルビア」が全て揃うように選び破壊する。』


※当小説にはTCG及びホビアニへの偏見が随所に見受けられます。
※これらは全て作者及び各キャラの主観に基づくものであり、事実とは異なる場合がございます


 

 

 デッキを構築した偽華ちゃんは、そのまま真っ直ぐに大きな会社に突撃。

 一人のオッサンに勝負を挑んだ。

 会話の内容を鑑みるに、ここは「CPX社」の地方支社らしい。

 そして、対戦相手のオッサンは支社のトップ。「死世神」一族の1人で、偽華ちゃんの叔父にあたる人物のようだ。

 決して良好な関係ではないみたいだけども。

 

 ……そうやって思考を巡らせているうちにも戦いは容赦なく進んで行く。

 そして――

 

「山札の上から4枚と、手札4枚を墓地に! そして!刻魔王エイジ・ククローク、嫉妬人形エンビビ、腹黒妖精シシシ、復讐人形ラッヘラッヘを生贄に!」

 

 ――ついに俺の出番みたいだ。

 記念すべき初陣! おっしゃ行くぞぉぉぉ!!

 

「召喚! 私の鏡像、ティティム・クルデーレ!」

 

 俺……否。「私」の身体が構築されていく。

 純白の長髪がフワリと風を切る。両の手に大鎌の冷たさを感じる。肺が新鮮な空気を飲み込む。

 カード状態とは明らかに異なる肉体の感覚。風を、光を、音を、熱を。全てを身体の器官が吸収していく。

 紙切れに過ぎない「私」に「命」が宿る。

 さぁ。記念すべき第一声を。

 これが私の産声。フレーバーテキストに書き込まれるだろう、私の言葉。

 偽華ちゃんの鏡像として。

 私が発するべき言葉は――

 

『――消してあげる! 全部全部! それが偽華の望みなら!』

 

 決まった!

 さて、と。召喚時効果を果たさなければならないな。

 偽華ちゃんの指示通り、味方に対して鎌を4回振り下ろす。

 

『確かに協力を惜しまぬとは言ったが!』

『もう出番終わりかよォ……!てか、その鎌、めちゃくちゃ痛ェ……!』

『びえええええ! 痛いよぉ! ちょっとは加減してよぉ!』

『ぎゃあああああああああああ!』

 

 いや、マジでゴメン。本当にゴメン。

 大鎌の二刀流なんか使ったことも無いから加減が分からないんだ。

 次はもう少し痛くないように頑張る。前向きに検討する方向で善処する。

 

「ティティムの召喚時効果発動! 貴方のバトルゾーンと手札から12枚を墓地に!」

 

 とりあえず、アニメで格好良く描写されるように。

 2つの大鎌をクロスさせるようにして振り下ろす。

 すると。私の一閃が空間を切り裂き、真っ黒な亀裂が発生。

 相手の手札7枚と、バトルゾーンのモンスター5体が消し飛ぶ。

 これで、相手のバトルゾーンには裏向き状態のカード……「伏兵(アンビュス)カード」というらしい……が1枚だけとなった。

 どうして偽華ちゃんは、あからさまに罠のカードを残したんだろう?私なら消し飛ばせたのに。

 

CO(シーオー)! 公表するわ! これで墓地のカード合計は48! ティティムは覚醒する!」

 

 ま、いいや。

 私はカード。プレイヤーの意思に従い鎌を振り下ろすのみ。

 ……どうやら、「覚醒」とやらが始まるようだ。

 足元から漆黒の光が迸る。全身が燃えるように熱くなり、力が湧き出す。気分が高揚していく。

 そして。不思議と、次に言うべき言葉はすんなりと頭に思い浮かんだ。

 

「目覚めなさい! これが私の唯一! 混沌とした世界に1度きりの終焉を!」

『私は貴女の唯一! 偽物でも! いいえ、偽物だからこそ! 本物の笑顔を貴女にあげられるの!』

「The ONE、ティティム・クルデーレ!」

 

 凄い万能感。今ならば何でも出来る気がする。

 すると、相手の小太りオジサンがニヤリと笑った。

 

「伏兵カード! 『狂ったやり直し(クレイジー・リセット)』! 儂のライフ2つを犠牲に、自身と相手のバトルゾーン全てを一掃する!」

 

 伏せられていたカードが表向きになり、ブラックホールみたいな物が出現。

 間違いなく飲み込まれたらヤバイ……!

 

「ふははははははは! 所詮、貴様は偽物! この儂に勝てるなど思い上がりも甚だしい! 次のターンで儂の勝利だッ!!!」

「残念ね。貴方に次のターンなんて来ないわ」

「何ィ!?」

 

 けど。それだけ。私の身体が引っ張られたりはしていない。

 何故ならば。

 

「そんな手は読んでいたわ! CO! ティティムの覚醒能力発動! 墓地のカード4枚を手札に戻し、ティティムはバトルゾーンに残る!」

「馬鹿なぁぁぁぁぁぁぁ!?」

 

 成程ね。今のオッサンのライフは3。

 偽華ちゃんは、伏兵カードがどんなものかを予想していたのだ。

 発動コストでライフ5から3になったので……

 

「ライフにダイレクトアタック! Q(カトル)クラッシュ!」

 

 ……私の一撃がライフを4つ削ってオッサンのライフは0に。

 ライフが0になれば敗北だ。

 

「ゲームセットよ。これで、この支社は私のモノ。叔父様はさっさと出て行ってくださいな」

「こんなことをしてタダで済むと思うなよ……! 真贋には必ず報告してやる……! CPX本社を敵に回せば貴様など……!」

 

 珍しい「The ONEカード」である「私」をチップに、偽華ちゃんは「CPX社 西東京支社」を手中に収めたのである。凄い。

 でも、一歩間違えたら私がオッサンの所有物になっていたかもしれないのだ。金輪際、こういう事は止めて欲しいのだけど……。

 

「ふふふ、望むところよ。お父様にお伝えください。偽物の私が怖いなら、出て来なくても構いませんと。私は逃げも隠れもしない、と」

 

 うーん。無理っぽい。この娘、似たような事やりまくるわ。間違いないね。

 





突貫工事ですが。ホビアニ本編開始の準備が整いました。


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

TURN 2:ホビアニ本編開始篇
Draw 1:ホビアニ1話的な?


※当小説にはTCG及びホビアニへの偏見が随所に見受けられます。
※これらは全て作者及び各キャラの主観に基づくものであり、事実とは異なる場合がございます


 

 ――TCG『CHAOS ONE』!

 ――略して『COバトル』!

 其れは、あらゆる世界が集う世界「カオス」を舞台に繰り広げられる熱き戦い!

 

 戦士達の共通点は一つ。

 混沌とした世界で、己こそが唯一無二だと!

 絶対にして(ただ)一つの頂点なのだと!

 其れを示すべく、カードを手に8の「ライフ」を削り戦う!

 

 人は彼らを「COファイター」と呼んだ――!

 

 

◆◆◆

 

 

「やぁ、唯一(ゆいいち)くん。奇遇だね」

 

 俺の名前は火緒主(かおす) 唯一(ゆいいち)。真っ赤な髪がトレードマークの、混沌中学1年生。

 家から出て学校へと向かう途中、声を掛けられて振り返る。

 もっとも、声の主が誰かなんて明らかだ。

 

水貝(すがい)か……」

 

 俺的「朝から見たくない顔」ランキング堂々の1位。殿堂入りさえ目前のコイツは、「水貝(すがい) 天一郎(てんいちろう)」。小学校1年生からずっと同じクラスになり続けている、青い髪の男子。

 ありとあらゆる事でぶつかり合ってきた奴で、いけ好かない野郎だ。

 理由?

 直ぐにわかるさ。コイツの次の言葉なんて決まってる。一言一句同じ言葉を、何度も何度も繰り返し続けてるからな。もう飽きるほど聞いている。

 その予想は的中。

 水貝は、太陽を反射する黒縁メガネの中央に右の人差し指を当て、僅かに持ち上げながら言った。

 

「ちっちっち。僕の事は「ナイ()()()」と呼びたまえと何度も言っているだろうに。全く、これだから鳥頭は困る。この程度の事も覚えられないとは」

「覚えられねぇんじゃねぇよ! 知ったうえで拒否してんだよ! テメェのドコがナイスガイだ!」

 

 そして、俺も。いつもと変わらぬ返しをする。

 何度言われてもムカつくのだから仕方があるまい。

 

「美に対する審美眼を持たないとは哀れだね。よく見たまえ。僕ほどのナイス――」

 

 その瞬間、ドンッという大きな音と共に。

 老婆の、絹を裂くような悲鳴が響き渡った。

 

「きゃー! 引ったくり! 誰か捕まえて!」

 

 1人の白髪の婆さんが、走り去っていく全身黒ずくめの服と帽子&サングラス&マスクという明らかな不審者を指さして叫んでいる。

 走り去っていく黒男の手には大きなカバン。

 ざっと見た限り、婆さんは転んだりしていない。

 ならば!

 

「任せろ、婆さん! 待てや、コラァァァ!!」

 

 

◆◆◆

 

 

 ……クソっ!このままだと逃げ切られる!

 コイツ、手慣れてやがる! 逃走経路を熟知しているし、何より足が速い!

 俺は運動神経には滅茶苦茶自信を持っているが、それでもギリギリ。そして、逃げるのに慣れている分、向こうの方が有利。

 徐々に徐々に距離を離されていく。

 不味い不味い不味い……! あの角を曲がられたら、見失っちまうかもしれない……!

 黒ずくめの男が直角に曲がり、路地裏へと姿が消え……

 

「く、くそ……!放しやがれ……!」

 

 直後。

 その路地裏から黒ずくめの男が戻ってくる。

 両手を拘束された状態で。

 

「――引ったくり犯が逃走経路を確保してないわけないだろ? 全く。少しは頭を使いなよ。僕たちは“intelligent life”、知的生命体なんだよ?」

 

 男を拘束していたのは、先程まで会話していた水貝だった。

 

 

◆◆◆

 

 

「ありがとうねぇ。ありがとうねぇ。銀行から出て直ぐだったから、本当に助かったよ。ありがとうねぇ」

 

 その後。引ったくり犯は無事に警察に引き渡され、カバンは婆さんの手に戻った。

 俺と水貝は、婆さん本人やら警察の人やらに散々感謝されることに。

 嬉しい気持ちはあったが、その何倍も恥ずかしかった。なので、「学校に遅刻するから」と言って逃げるように立ち去る。

 日頃から「ナイスガイと呼べ」などと言っている水貝も、人並みの羞恥心は有しているらしい。俺が声を掛ければ、抵抗なく退散に従った。

 しかし。彼が大人しかったのはソコまで。賞賛する人々の輪を抜け出して暫くすると……

 

「あの場所から逃げるなら、あの路地裏を通ることは簡単に推測できるだろうに。なら、先回りして待ち構える事は十分に可能だろう? 少しは頭を使いなよ」

 

 いつも通りの腹立たしい野郎に戻りやがる。

 

「あぁん!? それは俺が追い続けたから成立した作戦だろうが!」

「ははっ。だとしても、君一人では間違いなく逃がしていた。そして、実際に捕まえたのは僕だ。なら、あれは僕の功績だろう?」

「百歩譲っても半々だろうが!」

「浅ましいね。僕の功績を50%も恵んで貰おうなんて」

 

 あー。分かった。そうか、そんなに対決が望みか。

 

「いいぜ! ならCOバトルで決着だ!」

「望むところだよ!」

 

 今日も遅刻だろうけど知った事か!

 

「何かで揉めたら『CHAOS ONE』で勝負!」

「常識だね!」

 

 

◆◆◆

 

 

「混沌の世界に燃え盛れ、俺の焔! 召喚、『種火(たねび)侍/翔火矢(かけびや) ヒダネ』!」

『応よ! 小さな火種が大きな破壊に繋がるのさ!』

 

 俺がカードを掲げれば、赤い髪の弓兵が現れる。

 グレード1の速攻モンスターであり、愛用している『ヒダネ』だ。

 

「相変わらずの侍デッキかい? 芸が無いね!」

「そういうお前だって、いつもと変わらない水涯(すいがい)デッキじゃねえか!」

「これが一番ナイスだからね!」

 

 ターンが移り変われば、水貝が眼鏡の中央に指を添える。

 そして。声高らかに告げた。 

 

「荒れ狂う水流さえ計算可能! ならば、如何なる混沌でも計算し尽くそう! 召喚、『最速計算/GUYGUY(ガイガイ)NICE GUY(ナイスガイ)』 」

 

 眼鏡をかけ白衣を身に纏った男が現れる。水貝が愛用する『NICE GUY』の一体だ。

 勝負は過熱していく――!

 

 

◆◆◆

 

 

「――『焼夷大将軍/徳炎(とくえん) イエヤス』でダイレクトアタック! トドメだ!」

「うあああああ!!」

 

 グレード3の強力なカード『イエヤス』による刀の一閃。

 巨大な火柱に襲われた水貝は衝撃で吹き飛ばされた。これで彼のライフはゼロ。俺の勝利だ。

 

「どうだ! これで俺の方が強いって分かっただろ!」

「残念だったね。これで僕も君も999勝999敗。同点だよ。ほら、これが記録」

 

 水貝がスマホの画面を見せてくる。ソコには彼が俺との戦いを記録し続けたデータが表示されている。

 確かに言う通りだった。奇跡的な引き分け状態だ。

 

「なら、もう1度勝負だ! 記念すべき1000勝目でどっちが最強か決めようぜ!」

「……いや、今日は止めておこう」

「何でだよ。怖気づいたのか!?」

「違うよ。僕たちの決着には最適な場があるというだけさ」

「はぁ?」

 

 すると、彼がスマホの画面を切り替える。

 そこには。

 

「第1回、『西東京CHAOSトーナメント』。『CPX社 西東京支社』主催の超巨大大会だよ」

 

 

 

――我こそが最強だと思う者。

――覚悟と共に来たれ。

 

『西東京CHAOSトーナメント』

 

――栄光の初代王者の座は誰の手に。

 

 

【大会詳細】

 

・特別な参加資格は不要。

 

・参加希望者は…………

 

 

 

「ここで。この最高の舞台で、僕たちの長い闘いに決着をつけようじゃないか」

「へへっ。水貝にしては最高の提案するじゃねぇか。面白れぇ! 今日だけはナイスガイって呼んでやる!」

「あ、ちなみに。参加するには参加希望者と戦って、星を10個集める必要があるよ。勝ったら相手の星を全てゲット。一度でも負けた者は「最強」を名乗ることは出来ないナイスなルールさ。僕は既に8個集めた」

「……おい、ちょっと待て。その締め切りって?」

「明日だよ。当然、参加できなかったら不戦勝で僕の勝利だ。西東京最強の名は僕が頂く」

「やっぱお前はクソ野郎だ!!」

 

 

◆◆◆

 

 

「ちょっと2人とも! またCOバトルしてて遅刻したんでしょ! 何度言ったら分かるのよ!」

「うるせぇなぁ、幾美(いくみ)……お前は俺たちの母ちゃんかよ」

 

 教室に入れば既に朝のHRは終わっていた。

 そして、栗色髪のショートボブ少女が怒鳴ってくる。

 彼女は、俺と水貝の共通の幼馴染「花ヶ前(はながさき) 幾美(いくみ)」だ。

 

「この馬鹿はともかく、僕は人助けというナイスな事をしていたんだよ花ヶ前くん」

「あぁ!? 俺もそれに関わってただろうが!」

「その件はCOバトルで決着しただろう? 見苦しい事はよしたまえ。君はただのサボり遅刻さ」

「それはオカシイだろ!」

「あぁ、もう! つべこべ煩い! 問答無用よ! 2人ともソコに正座しなさい! 今日という今日は許さないんだから!」

 

 大体、コレが俺たちの日常。

 俺と水貝がしょうも無い事で競って、COバトルして遅刻。幾美に怒られる。

 いつもと変わらないけれど、大切な日々だった。

 ……大切な日々だったんだ。

 

 

◆◆◆

 

 

 掃除当番やら日直やらで遅くなってしまった。

 さっさと街に繰り出そう。大会参加資格の星を集めなければならない。

 そう思い、椅子から立ち上がり、カバンを手にしようとして――

 

「大変よ! 唯一!」

「どうしたんだ、幾美。血相を変えて」

「水貝くんが大変なの! 闇デッキの使い手と戦って、それで……!」

 

 ――持ちかけたカバンを床に落としてしまう。

 バサバサと教科書の散らばる音が嫌に耳へ響いた。

 

「嘘だろ……。アイツが、負けた……?」

 

 俺は忘れていた。

 大切なモノは失ってから気付くという、よく知っていた筈の事を。

 

 






当作品は、基本の流れは「TCGホビアニあるある(=王道)」を踏襲。
主人公(ティティム)は予測不能な動きをしていこうかと考えております。

今後とも当作品をお楽しみいただければ幸いです。


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

Draw 2:TCGホビアニのカードは耐水性が異常。

☆大幅な変更☆

感想欄にて、「デュエ○スト」は商標登録されていると教えて頂きました。
なので、「デュエ○スト」→「COファイター」に変更。
教えてくださった方に感謝致します。

「グレード」→混沌っぽく「深度」表記に変更。
※この辺りは詳しいカードバランスとか詰めてないです。なんとなく、「深度を(I→Ⅱ→Ⅲ……のように)深めれば強いモンスターが出せる」くらいに考えておいてください。

TCG漫画みたいなカード能力表示を採用。今回の話で枠線に囲まれているところです。興味のない人は読まなくても大丈夫なように書いています。読み飛ばしてください。

他にも多くのご指摘を頂いております。誠にありがとうございます。
1つ1つ確実に検討し、反映してまいります。

※当小説にはTCG及びホビアニへの偏見が随所に見受けられます。
※これらは全て作者及び各キャラの主観に基づくものであり、事実とは異なる場合がございます。


 

 

「水貝……!」

「くっ……来ないでくれ……唯一くん……」

「そんな体で何を言ってやがる!」

 

 少し前に空模様は怪しくなっていたが、遂に雨が降り出す。

 水貝は。

 その雨の下。カードの散乱した地面に。

 ボロボロの身体で膝をついていた。

 

「今の僕は……全然ナイスじゃ……ない。君の前に……立つ資格が……ないんだ。……敗者への情けは……惨めになる……だけさ……」

「おい! しっかりしろ水貝! 水貝! 水貝ィィィィ!!」

 

 そして。

 水貝は力なく地面に倒れる。

 ……気を喪ったようだ。

 

「水貝くん! 大丈夫!?」

 

 俺を追って来ていた幾美も水貝に駆け寄ってくる。水貝の事は彼女に任せておけば、一先ずは大丈夫だろう。

 すると、俺たち3人以外の声が発せられる。

 

「私は宣言通り、切り札を使わないで勝ったわ。これで貴方の出場資格は取り消し。良かったじゃない、早く身の程が知れて」

「テメェか! 水貝にこんな事をしやがったのは! 何をしやがった!」

 

 水貝とCOバトルの対戦台を挟んで向こう側に居た、黒と白の髪の少女の声だ。

 綺麗な声ではある。だが、ちっとも惹かれない。

 彼女の紡ぐ言葉には熱が無いから。降りしきる雨よりもずっとずっと冷たくて暗い言葉だ。

 

「何って、COバトルよ? CHAOSトーナメント大会参加資格を賭けた、ね」

「じゃあ、なんで……!お前は水貝の集めた星を踏みつけてるんだ……!」

 

 彼女の足元には水貝が集めていた8の星が散らばり、その1つの上に彼女の足が乗っている。

 その理由を問えば、彼女の口は信じられない言葉を紡いだ。

 

「簡単な話よ。私は既に星を100個以上も集めてるから。今更こんなものに興味なんて無いわ」

「…………は? ……何を、言ってるんだ?」

 

 星を100個集めた?

 それなら、何で水貝と戦う必要がある?

 

「間引きって知ってるかしら?」

「間引き?」

「野菜や花を育てる時に用いられる方法の1つよ。最初はたくさん種を蒔いて、芽を出させるの。けど、中には育ちの悪い芽とかがあってね。密集し過ぎると育ちが悪くなるし、引っこ抜いて処分しちゃうの」

「それが何の関係がある……?」

 

 なんだ?

 彼女の言いたいことが理解できない。

 いや、違う。

 意味が分かるからこそ。それを俺は理解したくない。

 

「間引きをするから良い作物や花が育つの。人間も……COファイターも同じよ。私が大会前に弱い芽を刈っているの。理解できたかしら?」

「テメェは! テメェだけは絶対に許さねぇ!」

「大会の主旨を理解していないようね。書いてあったでしょ? 『――我こそが最強だと思う者。()()()()()()()()』って。「最強」の覚悟は軽くない。遊びじゃないのよ」

「御託は良い! デッキを出せ、COバトルだ!」

「……別に構わないけれど。貴方、参加申し込みはしているの?」

「これから申し込む予定だったけど関係ねぇ! これは燃え上がる俺の怒りのバトルだ!」

「ふぅん、そう。ま、いいわ。やってあげる。貴方も眼鏡の彼と同じく、この切り札『ティティム』を使わずに勝ってあげるわ」

「言ってろ! 俺の炎がお前の傲慢を燃やし尽くす!」

 

 どこまでも人を見下しやがって……!

 絶対に勝ってみせる……!

 

 

◆◆◆

 

 

 そうは言ったが……!

 くそっ!

 コイツ、強ぇ!

 水貝に勝ったのはマグレなんかじゃねぇ!

 

「『傲慢の魔法少女/メア・スペルビア』でライフにアタック!」

『きゃはは! 喰らいなさい!』

 

 

傲慢の魔法少女/メア・スペルビア
深度Ⅲ

属性:闇  所属:カオス・エンパイア

種族:魔法少女/スペルビア

ATK/VIT:4000/4000

【Θ】召喚時、味方「スペルビア」を1体破壊する。

【○】-傲慢Ⅲ-

 このモンスターがバトルする時、自身の山札の上から1枚 & 手札1枚 & バトルゾーンの「深度2」以上のモンスター1体を破壊しても良い。その場合、このモンスターのATKとVITの値は2倍になる。

【○】このモンスターがバトルに勝利した時、深度を1つ深めても良い。

【○】D(ドゥ)クラッシャー(相手のライフを2つ破壊する)

 

 

「『熱砂の獣魔人/べステア』でガード!」

『私は化け物。けど、この力で誰かを守れるなら……!』

 

 

熱砂の獣魔人/べステア
深度Ⅱ

属性:火  所属:ヘリオ・セントリス

種族:ヒューマン・エネミー/ガーディアン/カオス・ソング

ATK/VIT:0/4000

【○】このモンスターが破壊された時、自身のライフが4以下であればライフを1つ回復する。

【絆】他の味方「カオス・ソング」のVIT+1000。

 

 

「メアの特殊効果発動! 私の山札の上から1枚と、手札1枚、そしてバトルゾーンのグレード2以上の味方1体……『月夜の義賊/ロイバー・クリステフ』を墓地へ! これにより、メアのATKは+4000! ATK8000! ベステアを破壊!」

『きゃはは! 弱い癖に前に出てくるから!』

「くっ……! ベステアの効果で俺のライフを3から4に回復!」

 

 次々と味方を切り捨てていく戦法!

 容赦のない冷酷な戦い方が全く読めない……!

 しかも!

 

「さらに! ロイバーの特殊効果発動! バトルゾーンから墓地へと移動したとき、『セレモア』と名の付くカードを山札から手札に加える! 『吸血女王/セレモア・ニュクト・ガーネット』を手札へ!」

『俺は一時撤退だ。あとは任せるぜ、セレ』

「さらにさらに! 手札から捨てた『腹黒妖精/シシシ』の能力発動! 山札からカードを2枚引く!」

『シシシ! ただでは死なないシシシ!』

「これで、私の墓地にカードが15枚。墓地に置かれた『静穏の墓守/ネクロア・テルア』の特殊効果発動! 防御状態で特殊召喚!」

『私に近づけば、死にますよ』

 

 止まらねぇ! コイツのコンボが!

 まるでカードたちが彼女の下に集うかのように! 連鎖し続ける!

 このままだと負ける……!

 

「ターンエンドよ」

「……っ! 俺のターン! ドローッ!!」

 

 引いたカードを見る。

 それは――!

 

「来た来た来たぁ! 燃え盛る混沌乱世に降臨せよ、『焼夷大将軍/徳炎 イエヤス』!」

『いざいざ参ろう! 如何なる混沌も余が平定してみせようぞ!』

 

 

焼夷大将軍/徳炎 イエヤス
深度Ⅲ

属性:火  所属:ヘリオ・セントリス

種族:SAMURAI/ソレイユ・ドラゴン/カオス・ジパング

ATK/VIT:5000/4000

【○】-BUSHIDOⅡ-

 味方がバトルに勝利した時、山札からカードを1枚引いても良い。

【絆】味方「ヘリオ・セントリス」のATK/VIT+1000

【絆】他の味方「ソレイユ・ドラゴン」のライフ破壊数+1

【○】T(トロワ)クラッシャー(相手のライフを3つ破壊する)

 

 

「そして! 伏兵カード『日出国之夜明(ジパング・サンライズ)』発動!」

 

 

◆◆◆

 

 

 攻める攻める攻める攻める。

 サンライズの効果で呼び出した仲間たちが攻める。

 「絆」で結ばれたモンスターたちが苛烈な攻撃を続ける。

 そして、ついに。

 

「くっ……!」

「ターンエンド! どうだ、逆転したぞ!」

 

 相手のライフは3。今の俺のライフは4。

 そして、味方も揃っている。

 これなら勝てる!

 

「私のターン、ドロー。……謝罪するわ。正直、貴方の事を見くびっていた」

「はっ、負けそうになってから何を言っても遅いぜ」

 

 負け惜しみか、と思ったのも束の間。

 

「だから。最初の宣言は撤回。――ここからは本気で戦わせて貰うわ」

 

 少女が一枚のカードを抱げる。

 黒い光の奔流が、そのカードを中心に集まっていく。

 

「召喚! 私の鏡像、ティティム・クルデーレ!」

 

【挿絵表示】

 

『待ちくたびれたわ、ニセカ! さぁて、消してあげる! 全部全部!』

 

 現れたのは、オッドアイが特徴的な長く白い髪の少女。

 真っ黒な服に身を包み、巨大な鎌を両手に軽々と持ちながら。

 闇の奔流の中で、クルクルと楽しそうに舞っている。

 そして――。

 

「――【覚醒】」

 

 消されていく。

 消されていく。

 俺の仲間が。作戦が。全て全て。

 

「ぐわぁぁぁぁぁぁ!!!!」

 

 最後に。

 俺の視界を黒い闇が塗りつぶした。

 

 

◆◆◆

 

 

「待ち、やがれ……!」

 

 ボロボロの身体を無理やり動かす。

 切れそうになる意識を無理やり繋ぎとめる。

 そして、精一杯の虚勢を張って。

 無理やりに声を張り上げて告げる。

 

「俺の名前は唯一! 火緒主 唯一! お前を倒す男の名前だ!」

「そう。私はニセカよ。……トーナメントの頂上で、期待せずに待っててあげる」

 

 それだけ言うと。

 少女は……「ニセカ」は、一切の興味を無くしたように立ち去っていく。

 

「絶対に、俺が、お前を、倒す。覚えて、おき、やが、れ……」」

「唯一! 唯一! 唯一ぃぃ!!」

 

 最後に。駆け寄ってくる幾美の姿が視界に映って。

 俺の意識は闇に飲まれた。

 

 

◇◇◇

 

 

「まさか、私が宣言を曲げることになるなんて……」

『うーん? ニセカ、言葉の割に少し楽しそう?』

「……冗談。勝つから楽しいの。壊すから楽しいの。負けそうになる事が楽しいなんて、そんなの馬鹿げてるわ」

『そういうものかなー?』

「そうよ。そうに決まってるわ。そうでなければ私は――」

『どうしたの?』

「――何でもないわ。帰りましょう、ティティム」

『おーきーどーきー!』

 

 少年との戦いを終えた少女は道を往く。

 その右手に1枚のカードを持ちながら。

 

「それにしても、火緒主 唯一。「火緒主」……まさか、あの男の……」

 

 そして。

 一度だけ振り返って。呟く。

 倒れた赤髪の少年の所に、栗色髪の少女が駆け寄る光景を視界に収めながら。

 

「……だとしたら、本当にふざけた巡り合わせ。こんなモノが運命だって言うのなら、それこそ私が壊してあげる。完膚なきまでに、ね」

 

 黒と白の髪の少女は往く。

 破壊の道を、真っ直ぐに。

 

 





なんでこんな事になったのかの舞台裏は後程。


【あとがき】

な、な、なんと!
この作品のファンアートを描いてくれた方がいました!

【イラスト表示】illus.さすらいの支援絵侍

綺麗! 可愛い! 強そう! ヤバい!(語彙力)
「さすらいの支援絵侍」様、誠にありがとうございます。嬉し過ぎます。

早速、今回と、第0話のイラスト挿絵に使用させて頂きました。


なお。
このイラストは、七三ゆきのアトリエ様(https://nanamiyuki.com/)にて提供されている素材を一部加工したものらしいです。(管理人様からの許可もあるとのことです)


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

Draw 3:子供が経営するのも、カードが実体化するのもホビアニなら良くあること。

今回は舞台裏。多分、アニメでは描写されないやつ。

※当小説にはTCG及びホビアニへの偏見が随所に見受けられます。
※これらは全て作者及び各キャラの主観に基づくものであり、事実とは異なる場合がございます。



 

 明らかに主人公な赤髪の少年と、恐らく友達兼ライバル枠の青髪の少年。基本的に、ホビアニの重要人物は奇抜な髪色か格好してるから直ぐ分かる。

 そんな彼らを偽華ちゃんが容赦なく叩きのめす悪役ムーブ事件が起きてしまったわけだけど。

 そもそも何故、そんな事態になってしまったのか。

 話は、一か月ほど前に遡る。

 

 

◇◇◇

 

 

『――以上だ。妹とて容赦はせん。精々、震えて待て』

「……早くも動き出したわね」

 

 偽華ちゃんが開くパソコンの画面には、何やら20歳くらいに見える男性が映っていた。

 髪の色こそ黒だけど、長く立派なポニーテールが特徴的だ。

 その人からのビデオメッセージが直前まで再生されていた。

 

「この機会に西東京支部を潰して吸収してしまおうって魂胆ね。それで兄様が動き出したのでしょう」

 

 どうにも、その人物は偽華ちゃんの兄らしい。

 名前は死世神(しせがみ) 真王(しんおう)で、23区を軸に関東全域を統括する大物。

 どうにも、西東京支部というのは閑職・窓際とでも言うべき支部らしく。叔父さんは大して能力がないけど、現当主の弟ということで、そのポジションに収まったようだ。変な気を起こして不祥事とか継承争いに繋がらないよう、そこそこの立場を与えて飼いならし……みたいな感じかな。

 ともかく。そんな場所だった支部を偽華ちゃんがCOバトルで奪っちゃったので、これを機に奪いに来た……らしい。

 偽華ちゃんの推測では、父親の指示ではなく、真王さんの独断のようだ。自らの影響力を高める機会と見て取ったのかもしれないとのこと。

 

「それは分かったけど、それと大会に何の関係があるの?」

「向こう側が提示してきたのは代表者による5対5の団体戦。なら、この地のファイターの実力を底上げしないといけないわ」

「それを大会でするってこと?」

「その通りよ、ティティム」

 

 ちなみに。この一通りの会話中、私は偽華ちゃんの膝の上に居る。

 叔父さんとの戦いの後、何か分からないけど実体化した。COバトル中でなくても自由に顕現可能になったのである。

 何故か3頭身のSDちびキャラになってるし、質量保存の法則が行方不明だけど知った事か。私は考えることを止めた。

 ……聞けば、他のカードは無いけど、「The ONE」カードには良くある事らしい。この世界やっぱオカシイ。

 とにもかくにも。偽華ちゃんが実家やら何やらを叩き潰すために、『西東京CHAOSトーナメント』なる大会が開かれることになったのだ。

 ちなみに。偽華ちゃんは中学生なのに、普通に大人に混じって大会運営を進めていた。

 ついでに。支部で働いている大人たちは、「トップがカードバトル1回で変わった事」にも、「中学生がトップである事」にも、「その中学生が大人よりも有能である事」にも、一切の疑問を抱いては居なかった。

 ワケわかめ。

 

 

◇◇◇

 

 

 ……と、そういう訳で。予選開催と並行して、大会が突貫工事で準備されて行った。

 予選自体は、スマホの特殊なアプリと、偽造不可能な特殊機能付き「星型バッジ」によって、自動的に進行されている。

 星を1つ貰うためには住民票とかが必要らしく、1度でも負けたらゲームオーバーの過酷な戦いのようだ。

 故にこそ、真の実力者たちが集まってくると思われたのだが……

 

「よぉし! 申し込んできたな。じゃあ、さっさと負けて星を寄越せ。一体もモンスターを召喚するんじゃねぇぞ。したら、分かってるな?」

「ひぃ……勿論です……!」

「……………………ぶっ壊すわ」

 

 どんなルールでも悪用したり抜け穴を見つける奴は居るもの。

 気の弱い子を脅して大会申し込みをさせ、わざとCOバトルに負けさせる……という手法を取っているゴロツキを偽華ちゃんが見つけてしまった。

 それで、偽華ちゃん直々に、「最強を決める大会」に相応しくない雑魚を叩き潰す事にしたらしい。

 CPX社西東京支部が管理運営している大会アプリの対戦記録を参照して、「所有する星が8個以上」かつ「たった1日で7回以上勝利した人物」をリスト化。該当する人物は不正の可能性が大きいとして、潰して回っていたのである。

 確かに、ほとんどは弱すぎる不正ファイターだった。

 けれど時々、例外的に本当の実力者もいたりして。

 そして。青髪の眼鏡男子は、その例外の側だったのだけれども。

 偽華ちゃんの辞書に妥協とか容赦とかという言葉は存在せず。トラウマになるレベルで完膚なきまでに叩き潰したのだ。

 ……あのナイスガイ君、大丈夫かな。あとで「ウチの子がすみません」ってお見舞いに行ってあげるべきかもしれない。

 とにもかくにも。

 この様な経緯で、偽華ちゃんは主人公陣営(+テレビの前の子供達?)に完全な悪役ムーブを披露しやがりやがったのだ。

 間違いなく、「ティティム=悪役」で認識されたよね。もう絶対に引き返せない所まで来ちゃった。泣きたい。

 

 

 






【あとがき】

寄せられる感想を見て、みんなTCGやホビアニ好きなんだなって思って嬉しくなった今日この頃。


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

Draw 4:超強い玩具を無料で渡す正体不明の男……もしもしポリスメン?

ホビアニ主人公サイド。


◇◇◇

 

「イエヤスでダイレクトアタック! トドメだ!」

「うわあああああ!」

 

 ……これで10個目の星。CHAOSトーナメント出場決定だ。

 すると、後ろで観戦していた幾美が近づいてくる。その顔は決して明るくはない。

 理由なんて明らかだが。

 

「おめでとう、唯一。……ねぇ、水貝くんのお見舞いに行かない?」

「何度も言ってるだろ。行ってどうするんだよ。何を言えば良いってんだ」

「それは……そうかもだけど。でも! 友達でしょ!」

「友達だからこそ。……違うな。俺とアイツはライバルだからこそ。今は近づかないでくれってアイツの望みを俺は尊重する」

 

 少女とのCOバトルで大きなダメージを負った水貝は、近くの病院に入院している。

 検査入院程度で、数日後には退院できるらしいけど。

 ……俺にとっての水貝は。ドが付く程のナルシストで、いつだって自信に溢れていて、ムカつく笑みで挑発してくる……その裏で、誰にも見つからないように、誰よりも努力を積み重ねる男だ。

 俺は、水貝が陰でしている努力を知っている。尊敬もしている。だけど、ずっと見ない振りをしてきた。それがアイツの望みだからだ。アイツは他者に……特に俺に、「ナイスガイ」な自分だけを見て欲しいと思っている。

 なら、今回も同じ。俺はアイツの弱い部分を見たりしない。

 

「行きたいなら、幾美だけで行ってくれ。悪いな」

「唯一……」

 

 水貝は絶対に立ち上がってくる。前よりも更に強くなって。

 今の俺に出来ることは。CHAOSトーナメントに出場して、あの女を倒すことだけだ。

 

 この時の俺は。

 本気で、そんなことを考えていたのだ。

 悠長に。呑気に。何も知ろうとせずに――

 

 

◇◇◇

 

 

「――大変よ! 唯一! 水貝くんが病室から居なくなっちゃったの!」

 

 

◇◇◇

 

 

 降りしきる雨の中を駆けずり回る。

 傘もささず、当てもなく町中を。

 

「くそっ……! どこに行ったんだよ、水貝! 何を考えてるんだよ!」

 

 水貝が失踪した。

 病室には手紙が2つだけ残されていた。1つは水貝の家族に宛てた手紙。もう1つは俺への手紙だった。

 そこには、ただ簡潔に。「僕は強くなる。そのための場所を見つけたんだ。誰よりもナイスになって君の前に現れる」とだけ書いてあった。

 意味は分かる。ライバルとして、その意思を尊重したいとも思う。

 でも。

 毎日、アイツと下らない事で争って、COバトルして遅刻して、幾美に叱られて――そういう、当たり前の日常を俺は大事に思っていたのに。

 それはもう、戻って来ないのだろうか。

 

 ――大切なモノは。失ってから初めて、その本当の価値に気付く。

 ――兄さんがそうだった。父さんもそうだ。

 ――俺はまた……

 

「少年よ。何か悩んでいるようだな」

 

 そして。俺は出逢った。

 

「アンタ、誰だよ」

「俺かい? 俺は……そうだな、Mr.ハラキリとでも名乗ろうか」

「なんだ、そりゃ。死んでるじゃねぇか」

「はは、だからこそだよ」

「はぁ?」

 

 明らかな偽名の男。

 砂漠でも進むかのような分厚い布で全身を覆い。

 顔には、顔全体を少しの隙間もなく隠す黒い仮面が付いている。

 声は若そうだが、怪しさしか無い男だ。

 けれど、不思議と警戒感が湧かなかった。何故か、どこか懐かしい感じがしたのだ。

 

「少年よ。君の悩みが何かを俺は知らない。だが、それが何であろうとも。打ち壊し、超越し、切り拓く力を俺は知っている」

 

 そう言うと、男は懐から何かを取り出して差し出してきた。

 びっしりと隙間なく、漢字のような文字が書き込まれた白い布。包帯のようなソレがグルグルと巻かれた物体だ。

 ……まるで、呪文を刻んで封印しているようにも見える。

 

「これは……?」

「The ONEカード「カオス・ノブナガ」。君の道行を切り拓くカードさ」

 

 この日。俺は出逢ったのだ。

 俺のThe ONE。唯一無二の相棒に。

 





感想、お待ちしております。


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

幕間 てぃてぃむ はじめて の おつかい !

 

 ……私は人形か?

 何を馬鹿なことを問いかけているのか。私の種族は「カオス・()()()()」。正真正銘の人形。ただの玩具。それ以上でもそれ以下でもない。

 そうだ、私は人形だ。長方形の紙切れから生まれた仮初の命。人ならざる存在。

 故に。人間とは別の種族なわけで。生物学的に考えて、ホモサピエンスに対して卑猥な感情を抱くなんて有りえないわけでして。

 

「ティティム、湯加減はどうかしら?」

 

 煩悩退散色即是空空即是色諸行無常生者必滅会者定離寂滅為楽……ッ! 

 

 

◇◇◇

 

 

 私が実体化してからというもの、偽華ちゃんは常に私にベッタリだ。仕事でパソコンに向き合う時も、休憩をする時も、ずっと膝の上に私を抱えている。眠る時だって、抱き枕みたいにされて同じ布団で一緒に寝る。カード状態になっていても、謎パワーで強制顕現させられる。

 ……それは、お風呂に入る時も。

 元々は紙切れの私が温水に浸かって大丈夫なのは何故なのだろう本当に意味が分からないよね石鹸付けても平気だしシャワー浴びても気持ち良いだけだし「洗いっこしよっか、ティティム」にゃあああああああああああああああああ!!!!!!!!!……落ち着け落ち着け落ち着け私は人形だ私は玩具だ。

 そうだ、こういう時は素数を数えよう。……あれ? 1って素数?

 ……………。………………………。

 よし、こういう時は円周率を数えよう。3.1415……次なんだっけ?

 ……………。………………………。

 ……ま、まぁ、私は前世の記憶が曖昧なわけだし仕方ないよね!

 ともかく!

 煩悩退散煩悩退散煩悩退散煩悩退散煩悩退散煩悩退散煩悩退散煩悩退散煩悩退散煩悩退散煩悩退散煩悩退散煩悩退散煩悩退散煩悩退散煩悩退散煩悩退散煩悩退散…………ッ!!

 

 

◇◇◇

 

 

 さて、困った。私の心が休まる時間がない……じゃなくて、これではナイスガイ君の所へ謝罪に行けない。偽華ちゃん自身は「謝罪? 何それ美味しいの?」を地で行くゴーイングマイウェイ娘だから行く訳がないし。かといって、私も常にべったり拘束されてて身動き取れないし。

 今は偶然にも偽華ちゃんが仕事の関係で呼ばれて、「ちょっとココで待っててね」と言われて自由な状態だが。

 ……待てよ? そうだ、いつもCPX社の会議の時だけ、私はカード状態のままだ。流石に、大人数が集う場所で私を抱え続けないくらいの常識はあるのだろう。

 これを利用すれば、謝罪に行けるのではないだろうか?

 そんな事を考えていると、丁度いい所に社員2名が通りかかる。しかも、有能で話が分かるし、人柄も良い者達ではないか。彼と彼女を利用しない手はない。

 

「ねぇ、田中と鈴木」

「こんにちは、ティティムさん」

 

 彼女は鈴木。鈴木 理海(りうみ)。黒髪のシニヨンと黒スーツが似合う女性。24歳彼氏募集中。成果至上主義のCPX社で、入社2年目にして幾多の実績を積み上げているバリバリの出来る女である。

 

「おや、ティティムさん。どうかされましたか?」

 

 彼は田中。ただの田中だ。

 

「かくかくしかじかで、偽華がぶっ潰した男の子へ謝罪に行こうかと」

「え、あの子そんな事しでかしたんですか!? 大問題じゃないですか!」

「……成程。報告ありがとうございます。……確かに。幼い少女が謝罪すれば、先方も怒るに怒れないかもしれませんね。ティティムさんは見た目だけですし、子どもを利用したという批判も躱せます。第一、本人が行くと言い張った体にすれば良いのですし……」

 

 田中がブツブツ呟いてる内容が怖い……というか、汚いさすが大人きたない。

 

「しかし、田中さん。その少年の名前や居場所が分からない事には……」

「偽華CEOは少年と「スターバッジ」を賭けて戦った……つまり、トーナメント予選バトルとして、バッジとスマホアプリに情報が記録されている筈です。それらは全て此処に集約されますから……あ、ありました。少年の名前は水貝 天一郎くんですね。現在はCPX社系列の混沌総合病院に入院中のようです」

 

 鈴木の疑問に、タブレットを操作しながら答える田中。

 CPX社は各支社それぞれが、ほぼほぼ完全独立状態で経営している。それで、業績やら何やらを競って勢力争いを続けているとか。その競争体制こそがCPX社躍進の原動力と言われているらしい。なので、偽華ちゃんは正真正銘のCEOなのだ。

 ちなみに。田中はCIOだかCTOだか良く分からん役職についているらしく、社の情報は殆どが彼の手中にあるとか。その役職に弱冠27歳で上り詰めたらしいので、凄いことなんだと思う。多分。知らんけど。

 

「良いですか、鈴木さん。経費で落としますので、菓子折りには手を抜かないように。また、入院費用を社で全額負担し、賠償金も支払う方向で進めて下さい。……概ね、この範囲に収めて下されば問題はありません。これ以上に必要となる場合は――さんに連絡を。話は通しておきますので、彼女の指示に従って下さい」

「はい。了解しました」

「ティティムさん、偽華CEOは私が会議に足止めします。何としても時間を稼ぎますので、そちらは宜しくお願い致しますね」

「おーきーどーきー!」

 

 ま、私はカードだ。人間共の社会構造など知った事か!

 立場ある人物相手でも、態度を変えるつもりはない! これが「ティティム・クルデーレ」の設定だと言い張る!クハハハハハ!

 ……もしかして、偽華ちゃんの「敵キャラ属性」が伝染してきてる?

 

 

◆◆◆

 

 

 私は鈴木。日本におけるCOカード関連業を始め、多くの分野を支配する大企業CPX社、その西東京支社の社員。

 一か月ほど前、前CEOがCOバトルで姪の「死世神 偽華」氏に敗北。そのまま社の代表が入れ替わるという大事件が発生したが、うまく会社は回っている。むしろ、以前よりもずっと働きやすくなった。

 既存の固定観念・常識・慣習・制度などなど、あらゆるモノを「邪魔」の一言で壊していく新CEO。その姿勢に冷や冷やしっぱなしだし、付いていくのは大変だ。

 それでも、最終的には前よりも良くなっているから。だから、私も含めて、急激な変化であっても社員たちは付いていくのだろう。田中さんのような地位と実力のある人が彼女を全面的に支持しているのも納得だ。

 ……けれど。思い付きで後先考えず破壊して歩く偽華CEOに、私たちは振り回されてばかりだ。

 たとえば、今日だって。彼女のしでかした事の後始末に駆り出されている。

 何でも、トーナメント参加者を主催者自ら「間引き」と称して潰して回っていたらしい。基本的には不正ファイターを叩き潰していただけとのこと(それも十分に問題)だが、途中、何も悪くない善良な中学生ファイターにトラウマレベルの容赦ない戦いを披露しやがりやがったようなのだ。

 

「菓子折り菓子折り~」

「まぁ、この程度であれば十分でしょう」

「いらっしゃい、お嬢ちゃん。お母さんと買い物かい?」

「いえ、私は……」

「この人は私のお姉ちゃんだよ!」

「へぇ、そりゃ失礼した! 姉妹揃って仲良く買い物ってわけか! いいねぇ!……ほれ、これは間違えた詫びだ、姉ちゃんと一緒に食べな!」

「わーい! ありがとー、おじさん!」

 

 なんてシーンを挟んで菓子折りを入手して。……「お姉ちゃん」と言われたのは、仕事中にも拘わらずキュンとしてしまった。

 ……そう。今回の仕事は私一人ではない。偽華CEOの相棒「ティティム・クルデーレ」も一緒だ。

 こんなに可愛い(なり)をしているが、COバトルになれば敵味方問わず大鎌で斬り伏せていくのである。

 

「……ここですね。混沌総合病院」

「病室は?」

「333号室ですね。3階のようです」

「把握。あとは任せて」

「え!? ちょっとティティムさん!?」

 

 初歩的な事を軽視していた! あの子は「The ONEカード」が実体化した、正真正銘の「モンスター」! 人間とは比べ物にならない肉体のスペックを有している!

 彼女は、車の助手席からヒラリと飛び出すと、そのまま病棟の3階まで、僅かな凹凸を利用して駆け上がってしまう。

 

「不味い! 何をやらかすか分かったもんじゃないですよ!」

 

 急いで車を駐車。病室を目指す。

 流石に院内を走ることは出来ないが、歩きながら院内地図を頭の中で整理。最短最速の経路を導き出す。

 幸い、この病院はA棟やらB棟やらと複雑。誕生して一か月の彼女が、333号室を直ぐに見つけられるとも思えない。

 何か取り返しのつかない問題が起きる前に間に合ってくれ、と。それだけを願いながら進む。

 そして、目的の病室に辿り着くと……

 

「この前は完膚なきまでに潰して、正直すまんかった。本人はココに居ないけど、偽華も反省している。多分。……この高級菓子で勘弁してくれると助かる」

「えっと、これに僕はどんな反応を示せば良いんだろうか……?」

 

 病室には、誠意の欠片も見られない謝罪を披露する白い髪の少女の姿と、それに戸惑う青い髪の少年の姿があった。

 遅かった……!

 

 

◆◆◆

 

 

「……成程。事情は分かりました」

 

 突然、あの日に戦った少女の切り札……「The ONEカードの実体化存在」と名乗る少女が病室にやって来た時は驚いたけれど。

 僅かに遅れてやって来た女性が平謝りするのを何とか止め、彼女の丁寧な話を聞いてみれば全容を理解する事が出来た。

 要するに、僕は不正ファイターと間違われて「間引かれて」しまった訳だ。

 ……そうだとするならば。

 

「はは、だとすれば。貴女方が謝る必要なんて無いですよ。無論、彼女……偽華さんと言いましたか。彼女が謝る必要もありません」

「それは……一体、どういうことですか?」

「ドMなの?」

「申し訳ありません、水貝くん。ティティムさん、お願いですから黙っていて下さい。後でお菓子買ってあげますから」

「……なんだか、子ども扱いされてる気がする」

 

 賑やかな人たちだなぁ。

 こんな人たちに囲まれているのなら、きっと偽華という子も悪い子ではないのだろう、と思える。

 ……まぁ、そもそもの話。

 

「そもそも、僕は怒ってなんていないんですよ。本当です」

 

 悔しさはある。辛いとも思う。でも、怒りは無い。

 あるとしたら、ナイスではない自分への怒りだけだ。

 

「ただ、自分の弱さに気付いただけ。彼女が戦いを挑んできた時、それを受け入れたのは僕。そして、負けたのも僕」

 

 僕が弱かったから負けてしまった。それだけの話なのだ。

 最強を目指す大会……遅かれ早かれ僕は彼女や彼女クラスの強者と戦う事になっていた筈で。結局、そこで僕は負けていただろう。それが少し早まっただけ。「間引き」される育ちの悪い芽……という指摘はぐぅの音もでない正論だ。

 それに。自分の弱さを棚に上げて強者(勝者)を責めるなんて、全然ナイスじゃない。

 

「全ては僕が強ければ良かっただけの事。もっともっと強くなって、彼女にもライバルにも、誰にも負けない高みを目指しますよ」

 

 ライバルに恥ずかしい所を見せてしまった。何よりも、それが悔しい。

 「最強を決める舞台で雌雄を決しよう」なんて言っておいて、僕が早々に予選で敗退したんだ。こんなにナイスじゃない事はそうそう無い。

 ……そう、悔しい。悔しくて悔しくて仕方ないのだ。

 だから。

 僕は強くなる。この悔しさを糧にして。二度と同じ悔しさや惨めさを感じないように。

 

「……貴方、見所がありますね。もし宜しければ、CPX社のCOファイター養成スクール『カオス・ウェベン』に所属してみませんか? 貴方が更なる高みを望むのであれば、私の方で推薦状を出しておきます」

 

 すると。鈴木さんから、思いがけない提案が飛び出す。

 CPX社が独自に運営するファイター養成所。膨大なデータを用い、最強のファイターを育成する特殊機関。

 ……その内部事情の一切が秘匿された完全なブラックボックス。入校も、CPX社側からスカウトされなければ不可能なのだと聞く。

 そんな場所に。僕は今、スカウトされている。

 目の前に2度と無いような機会が転がって来た。

 

「ただし。そこは過酷な場所です。「ウェベン」の名の由来は「自ら立ち上がる者」というエジプト語です。設備やメソッドは他の追随を許さない程に充実していますが、溢れんばかりの向上心が無ければ直ぐに振るい落とされます」

 

 鈴木さんは真剣な目で告げる。

 聞けば、彼女もそこの出身らしい。彼女の目には真剣さと、僅かな心配の色がある。間違いなく、想像も絶するほどに過酷な場所なのだろう。

 それでも。

 

「行きます。正真正銘のナイスガイになるために」

「――覚悟は固いようですね。……分かりました。親御さんや学校への説明は私がしておきましょう」

 

 ――僕は、その道を選んだ。

 

「悪の秘密結社へようこそ、少年。君の闇落ちを歓迎しよう」

「これは闇落ちなのかい、ティティム君……?」

「CPX社はホワイトです!……多分、きっと、恐らく

 

 ……少しだけ不安は残るけれど。

 唯一君。僕は強くなるよ。

 1000勝目の決着は暫くお預け。

 互いがそれぞれの道を歩み、突き抜け、走り抜けた先で。

 今よりもずっとずっと高い所、それこそ日本中……いや、世界中の人が注目するような大舞台で。

 そこで、最高のCOバトルにて雌雄を決しよう。

 

 

 


 

 

【用語】

「カオス・ウェベン」

 「CPX社」=「CHAOS PHOENIX」

  →「phoenix」

  →意味「不死鳥」

  →源流「ベンヌ(エジプト神話)」

  →語源「ウェベン(立ち上がる者)」

 

【キャラ】

ティティム(ティティム・クルデーレ)

 「俺」が、キャラ設定をロクに考えずに見切り発車したので言動が変。

 基本的にSD状態では子供っぽく振舞っている。が、それは「幼い子供」だと色々とサービスしてもらえたりするから。ゲスい。

 

ニセカ(死世神 偽華)

 ティティムに強い執着を見せ始めている? データ不足。

 

ナイスガイ水貝(すがい) 天一郎)

 闇落ち(?)した。親御さんは天下のCPX社直々のスカウトに御満悦。

 

鈴木(鈴木 理海(りうみ)

 彼氏欲しい。仕事は出来る。

 

田中(田中)

 田中。



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

Draw 4.5:謎の情報通キャラと、引退した強キャラってのも王道。

※当小説にはTCG及びホビアニへの偏見が随所に見受けられます。
※これらは全て作者及び各キャラの主観に基づくものであり、事実とは異なる場合がございます。

※(NEW!)当小説には「西東京」に関する誤った情報が見受けられることもあります。
⇒一時期「西東京」に住んでいた筆者が、昔を思い出しながら書いております。そのため、今の状況とは齟齬がある可能性が高いです。予めご了承くださいませ。



◆◆◆

 

 

「流斗さん。今、席空いてますか?」

「お、唯一か。ギリギリ空いてるぜ。今日もいつもと同じで良いのか?」

 

 ここは『銀河亭』。個人的に一番美味いと思うラーメン屋だ。

 今は10時30分という時間帯だから比較的マシだが、昼時になれば長い行列が出来る人気店。常連は混雑時間を避けて、少し早めの昼食にする傾向がある。

 店主は「星地(ほしじ) 流斗(りゅうと)」さん。黒髪黒目の青年。弱冠20歳で自分の店を切り盛りしている凄い人。

 ……7年前に失踪した兄さんと同級生だった人で、その繋がりで何度も世話になった。俺が、実の兄のように慕っている人物である。

 

「モチっス。地球ラーメン一丁。玉ねぎマシマシで」

「はいよ。座って待っててくれや」

 

 この店の人気メニュー「地球ラーメン」は醤油タレの醤油ラーメン。液状の透明なラードがスープの表面に浮き、トッピングに刻み玉ねぎが用いられていることが特徴。ラードは玉ねぎのシャキシャキとした触感そのままに、辛味を抑えて自然な甘さを引き出してくれる*1

 辛うじてカウンター席が空いていたので、そこに座りながらラーメンが出来上がるのを待つ。

 すると、隣の席のオジサンが話しかけてきた。

 

「お、唯一か。随分と久しぶりじゃねぇか」

「先週の土日に来なかっただけじゃないですか」

「そうだっけか? 年を取ると、その辺が曖昧になるから困る。年は取りたくねぇもんだ」

 

 彼は食楽道(しょくらくどう) 情字(じょうじ)さん。ここの常連の1人のオッサン。

 名前以外は年齢も職業も知らない。一応、40代くらいには見える。

 ちなみに。学校がある俺は土曜か日曜に昼食を食べに来るのだが、この時間帯だとほぼ100%彼が居る。

 平日でも毎日この時間帯に来店するらしく、謎の多いオッサンだ。午後に働く仕事をしているのかもしれない。特に興味も無いので聞くことはしないが。

 

「それで? 何があったんだ、先週に。何かよくない事があったんだろ?」

 

 突如。オッサンが妙な事を言いだした。

 図星ではある。確かに先週、俺は黒と白の髪の少女「ニセカ」にCOバトルで敗北。そして、水貝が俺の日常から居なくなってしまった。

 しかし、なぜ分かったんだろう?

 疑問に思っていれば。

 

「付き合いは浅いかもしれんが、ここで毎週顔を合わせてるんだ。顔を見りゃあ、多少の事は分かる。どうだ? 今は店も混んでるしな、ラーメンが来るまで話に付き合ってやるよ。道に迷う若者に手を差し伸べるのは、オジサンの特権だからな」

 

 下手糞なウインクをしながら、オッサンは言った。

 

 

◆◆◆

 

 

「……偽華。死世神 偽華か」

「知ってるんですか?」

 

 俺が「ニセカ」と名乗る少女に敗北した事を話し終えると、オッサンが何やら意味深に呟く。

 どうやら、オッサンは彼女について知っているようだ。

 

「死世神 偽華、13歳。死世神財閥当主、死世神 真贋の3女。現CPX西東京支社CEO。真贋の子供は何人か居るが、ほんの最近まで一切の情報が表に出てこなかった謎多き存在だな」

 

 尋ねれば、オッサンはゆっくりと話し始めた。

 そこまで詳しくは知らなかったが、CPX社くらいは俺も知っている。超巨大な会社で、COカードの販売も担っている会社だ。

 

「だが、分かっていることもある。……アイツは破壊者さ。COバトルでCPX西東京支社を完全に乗っ取っちまった。それから一か月。あらゆる既存のモノをぶっ壊し続けてやがる」

「破壊者……」

「あぁ。「壊す」という概念が人の形を取った少女。それが「死世神 偽華」さ。関わるのは絶対にオススメしねぇよ」

 

 そうなのかもしれない。

 不思議とストンと納得がいった。あの少女には「壊す」ことしか無いのだ。あの時のバトルを見て、そう感じた。

 間違いなく、危険な存在だ。

 それでも。

 

「それでも俺は彼女と戦って、勝ちます。COバトルは破壊のためにあるモノじゃない。それを教えてやります」

「覚悟は変わらねぇって感じか。なら、精々COバトルの腕を磨くことだぜ。仲の良い友達やライバルとばかりじゃなく、色んな奴と戦え。戦いの中で学ぶのさ」

「はい」

 

 そして。

 俺には、1つの確信がある。今この瞬間も、水貝は強くなるために邁進し続けているという確信だ。具体的な根拠なんて1つもないけれど、間違いない。

 だって、あいつは俺のライバル。俺が強くなろうと思っているのなら、あいつも同じことを考えているに違いないのだから。

 ならば、俺も止まるわけにはいかない。

 カードケースから一枚のカードを取り出す。

 The ONEカード「カオス・ノブナガ」。コイツと一緒に、俺は俺の限界を超える。

 偽華とティティム……2人の少女が今の俺の限界だというなら勝利する。新たな地平を切り拓く。

 そして、その拓かれた地で。俺は水貝との決着をつけるのだ。

 

「へぇ。13歳の女の子がCEOをやってるたぁ、驚きですね。……はいよ、地球ラーメンお待ち!」

 

 そんな事を考えていたら、注文していた地球ラーメンを流斗さんが目の前に置く。

 数は2つ。どうやら、オッサンも同じモノを頼んでいたようだ。

 透き通った琥珀色のスープには、テラテラとラードのコーティングが光る。中にはスープが良く絡む中細の縮れ麺。上には、これでもかと乗せられたチャーシューにメンマ、そして刻み玉ねぎ。

 これだけで大盛ご飯が食えると評判の絶品味玉1つと、磯の香が香る海苔を脇役に。

 もう見た目から美味い。

 早速食べようとしたところで……。

 

「店長さん。死世神の3女は長女にソックリだって話だぜ。何か思う所があったりするんじゃねぇか?」

「……いえ? 俺はただのラーメン屋ですからね。同じ経営者として、その若社長に負けねぇように頑張りたいなって思うくらいですよ」

「……そうかい。ま、今はそれでも構わねぇさ」

 

 ……なんだ? 2人の会話が少し奇妙な気がする。なんだろう?

 

「ほら、熱いうちに食ってくれ! そろそろ行列も出来始める時間だからな!」

 

 ま、いいか! 今はこのラーメンを食べる!

 まずは、レンゲでスープをすくって口に運ぶ。ふわりと香る煮干し出汁の香り、そこに野菜や豚骨の味が加わって、それら全てを包み込んだ醤油スープが一気に口の中で弾ける。

 やっぱ、美味ぇ!!

 

 

◆◆◆

 

 

「流斗さん! 今日も美味かった! 明日は特訓するから来れねぇけど、また来週来るぜ!」

「おう! 頑張れよ、唯一!」

「はい!」

 

 赤い髪の少年が店を出て行く。

 

「……火緒主の野郎、何を考えてやがるんだ? 唯一たちに何をやらせようとしてやがる?」

 

 すると。

 店主の青年は、少年が置いていった丼を片付けながら怪訝そうに呟いた。

 

「動くのか? 店長……いや、スターゲイザー・リュート」

 

 それに答えるのは、ラーメンを食べ終わった癖に、真昼間から餃子の特盛なんか頼んでいる食楽堂。

 この店はラーメン以外の料理も美味いので、何も不思議な事では無いが。

 

「それは昔の名前だよ。もう俺は引退したんだ。今回だって動く事は無いさ」

「そうかい。ま、それでも俺は賭けるぜ。店長の「銀河デッキ」が火を噴く時が来ることにな」

「はは、アンタ昨日も馬券外したんだろ?」

「おっと、こりゃ痛い所を突かれたぜ」

 

 店主はチラリと目線を横に向ける。

 そこにはデッキケースが1つと、隣には写真立てが1つ。

 

「お兄ちゃん! 混沌ラーメン2つ注文はいったよ!」

「はいよ!」

 

 店を手伝う妹の声に大きな声で返事をして。

 店主は、それきり興味を無くしたように仕事に戻っていった。

 

 写真立てには、黒い髪の少年と、赤い髪の少年と、白い髪の少女が写っていた。

 

 

*1
モデルは東京都八王子市のご当地ラーメン「八王子ラーメン」





ちなみに。時系列がオカシイのは意図的です。


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

TURN 3:大会開始編
Draw 1:「開催宣言を聞く者たち」シーンのワクワク感は凄い。


 

『Attention, everybody!』

 

 現代に蘇りし、巨大なコロッセウム。

 蒼天に光るは、白き太陽唯一つ。

 

『待ち遠しかったよな、fighters! この日が遂にやって来た!』

 

 楕円のスタジアムのメインスタンドとバックスタンドにはアーチ形の橋が架かり、その側面から2つのサイドスタンドへ向け、開閉式の天井が開け放たれている。

 そして、アーチの中央から吊るされ、空中に浮かぶように存在する特大LEDビジョン。360度どこからでも視認できるソレには、マイクを右手にハイテンションで言葉を紡ぐ男が映っている。

 

『知っている人はohisashiburi! 初めての人はnice to meet you! My name is コルネオ! 今日は俺が、偉大なbattlesをSpecially実況していくぜぃ!』

 

 ブロンドのアイビーカットに彫りの深い顔。マッチョな身体を真っ青パツパツのシャツで包む男。用意された椅子から立ち上がり、前のめりに身を乗り出す姿からは、溢れんばかりの楽しさが伝わってくる。

 ありありと伝わる喜びの感情と、聞き取りやすく面白い実況。それによって、数々のCOバトル大会を盛り上げてきた人気者だ。

 

『そして! 今日の最ッ高の仲間たちを紹介するぜぃ! まずは解説! CO battleを語らせれば日本一、いやさ世界一! CO battle研究の第一人者ぁ!』

『ほっほ。米戸(こめと) 明説(めいせつ)じゃ。白日晴天、戦日和。本日は宜しくお願い致しますぞ』

 

 コルネオの言葉に、右に座っていた老人が応じる。

 御年90歳の白髪老人は、トレードマークの長い髭を撫でながら朗らかに言葉を紡ぐ。

 しかし、髭に負けず劣らずフサフサの眉毛の下からは、鋭い眼光がギラギラと見え隠れしている。

 

『ひゅ~! 天下分け目の戦日和! 痺れる言葉thank youだぜprofessor! そんでもってぇ、次の仲間……特別ゲストを紹介するぜぇ! さっきのopening ceremonyは最高だったよな、audience! CPX社公認! COアイドルぅ!』

『いぇ~い! みんな~! 盛り上がってる~? 舞姫として舞台で舞い、ファイターとして戦場を舞う。混沌歌姫とは私の事! COアイドル、舞歌(まいうた) マイカだよ! ――〝私の歌で救われなさい!〟……というわけで、よろしくお願いしま~す!』

 

 次に、老人の右に座っていた桃色ツインテールの少女が応じた。

 翠のクリクリとした目の右側を瞑ってウインク、右手をピースにして右目の前に置き、左手は左頬に添えるように……完全に「可愛く見られる姿」を熟知している振る舞いである。

 

『Yeaaaaaah! The ONE『ピエラ』の決め台詞で〆るのは流石だぜぇ! 参戦はしないのかい?』

『あはは。今回はアイドルとして呼ばれちゃったので~。本当に本当に残念です~。戦いたかったな~』

 

 しかし、彼女もまた一握りの強者。

 圧倒的実力を有し、「The ONEカード」に選ばれたCOファイターである。

 

『血を求めて彷徨う系アイドルの名は伊達じゃねぇぜ……』

『ちょっとお!? それ、どこの新聞社ですか!? それとも週刊誌!? ネット民!? ぶっ倒し……コホン。お倒ししちゃうぞ☆』

『ちっとも隠せてないぜ……っとと、どうやら主催者、死世神 偽華 CEOからの開会宣言が始まるようだ! 耳を傾けろ、audience! 画面切り替えろ、camera!』

 

 スタジアム中央。床が開き、そこから白黒メッシュの髪を有した少女が現れる。

 

「強さこそ全て。勝つことにこそ意味がある。勝者は全てを手に入れ、敗者には何も残らない。――それが道理。世の摂理」

 

 彼女の名は偽華。死世神 偽華。

 

「この混沌とした世界で、唯一無二の頂点になりなさい。他者を、限界を、運命を……立ちはだかる全てを打ち壊すの」

 

 年若い少女は、しかし、堂々と言葉を紡ぐ。

 そこに「幼さ」は微塵も見受けられない。

 

「それこそが、それだけが、己を証明する唯一の方法なのだから。――故に」

 

 有するは「狂気」。

 

「示しなさい!」

 

 或いは、「強さ」。

 

「己こそが! 最強なのだと!」

 

 少女は。

 良く通る声で、その場に集った者たちに……否。世界の全てに対して宣戦を布告するかのように。

 その言葉を紡いだ。

 

「――ここに、第1回『西東京CHAOSトーナメント』の開催を宣言するわ!」

 

 その瞬間、世界が震えた。

 集いしファイターの咆哮が。英雄たちの活躍を待ちわびる人々の声が。

 天へと轟き、大地を震わせる声、声、声。

 

 

◆◆◆

 

 

 その騒然たる諸声に混じって――

 

 

◆◆◆

 

 

「クスクス」

「ケラケラ」

「弱い奴ほどー」

「よく吼えるー」

「最強はー」

「ワタシたちー」

「なのにねー」

「ねー」

 

 ――水色髪の双子はケラケラと嘲りの笑みを浮かべ。

 

 

◆◆◆

 

 

「まー、頑張りますよー、そこそこにー」

 

 ――茶髪の少年は気怠げに伸びをして。

 

 

◆◆◆

 

 

「ふっ、まだまだ若造共には負けんよ」

 

 ――男は腕を組んで仁王立ち。

 

 

◆◆◆

 

 

ワガハイたちのモクテキはリカイしているな?

ナアム。あらたなThe ONEティティムおよびノブナガのチョウサ

よろしい。では、ニンムカイシだ。ゲンジテンより、キホンゲンゴを「日本語」にヘンコウせよ

「了解。コードネーム「古考(ここう) 土乃(つちの)」。行動を開始します」

 

 ――怪しげな者達が暗躍を始め。

 

 

◆◆◆

 

 

 

「………………」

 

 ――黒い仮面の男はスタジアムの屋根から会場を見下ろし。

 

 

◆◆◆

 

 

「頑張ってね、唯一!」

「おう! ありがとうな、幾美! 行ってくるぜ!」

 

 ――赤い髪の少年は駆け出し。

 

 

◆◆◆

 

 

「もぐもぐ……美味しい。田中、これ追加で10個買って来て」

「流石に食べ過ぎですよ、ティティムさん」

 

 ――少女は経費で出店の食事を貪る。

 

 とにもかくにも。

 大会の幕は開けた。

 覆水が盆に返ることは無く。時は巻き戻せない。

 ならば。

 

 あとは雌雄を決するのみ。

 

 ここに、戦いの火蓋は切られた――――!

 

 

 





特殊フォントは読まなくても無問題です。
一応、コピペすると普通に読めたりします。


以下、どうでも良い話。
「Ladies and Gentlemen」も使わない方向性らしいですね。
一言一句、色々と調べながら物を書く日々です。
端くれとはいえ、物書きの矜持。


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

Draw 2:マスコットは現実の公式大会でも使いやすくて便利。

トーナメント表読みにくかったらすみません。図にしようか直前まで迷ったんですが……
PCじゃないと正しく読めない説ががが……
後で変えるかもです。ちなみに、読み飛ばしても無問題です。


◆◆◆

 

 

 第1回 西東京CHAOSトーナメント 

 

                  ┌─死世神 偽華 

              ┌─┤

                └─八王 牛頭(ごず)

          ┌─┤

              ┌─東村山 (つるぎ)

            └─

     A         └─龍太(たつた)沙穂(さほ)

      ┌─┤

              ┌─町田 神奈(かな)

          ┌─┤

            └─三鷹 詩風梨(しふり)

        └─

              ┌─立川 諏訪(すわ)

            └─

                └─調布 妖太郎(ようたろう)

優勝 ─┤

                ┌─府中 馬穂(まほ)

            ┌─┤

              └─惰気川(だきがわ) 台三(たいぞう)

        ┌─┤

            ┌─武蔵野 本宮(もとみや)

          └─

              └─日野 壬生狼(みぶろ)

      └─

     B         ┌─久留米 正一郎

            ┌─┤

              └─白覇(はくば) (はく)

          └─

                ┌─青梅 雪女(ゆきめ)

              └─

                 └─火緒主 唯一

 

 

 

  ライターの目 

 

~【前略】~

 優勝候補は「八王(はちおう) 牛頭(ごず)」選手、「日野(ひの) 壬生狼(みぶろ)」選手、「白覇(はくば) (はく)」選手の3名。

 昨年の関東CPX杯で8位となった 八王 選手は闇属性の「獄卒Z」デッキを愛用しています。また、新撰組デッキの使い手 日野 選手も数々の大会で実績を残してきた実力者です。

 しかし、優勝候補筆頭、大本命は「白色矮星(わいせい)」「Mr.W(White)D(Dwarf)」の異名を有するレジェンド、白覇 選手でしょう。「ハク大尉」の愛称で知られる光属性使いは今大会でどのような輝きを見せてくれるのでしょうか。

 また、CPX西東京支社CEOの座をCOバトルで勝ち取ったと噂の「死世神 偽華」選手にも注目が集まっています。

 その他の選手も実力者ぞろい。手に汗握る熱い戦いが繰り広げられることは間違いありません。

 

 ■記事書 伝朗(きじかき でんろう) COバトルライター

 

 

 

◆◆◆

 

 

 ――調査記録 “ティティム・クルデーレ”

 ――【時刻】 地球/日本/10:00:56

 ――【記録者】コードネーム「古考 土乃」

 

『今大会は厳しい予選を潜り抜けた16名のfightersによるknockout tournament、1対1の勝ち残り形式! 1回戦はA blockとB blockに分けて進行する!』

 

 今回の任務における調査対象は2体のThe ONE。AブロックにはNo.1 “ティティム・クルデーレ” ……その使い手の “死世神 偽華” が出場している。

 

『まずはA blockの1回戦4試合が同時進行で行われているが――!』

 

 会場は第1試合場。観察に最適な位置を確保することが出来た。

 調査対象No.2 “カオス・ノブナガ” 及び使い手の “火緒主 唯一” が登場するBブロックの試合は、Aブロックの第1試合が終わった後。今はNo.1の調査にのみ注力する。

 そのつもりだったのだが……。

 

「ねぇねぇクリオッチ! 風船ちょうだい!」

「私にも! 私にも!」

「俺も欲しい! その赤いジャスティスのくれ!」

「ずるいぞ! ジャスティスは僕のだ!」

「オネ~。喧嘩しちゃ駄目オネ~。ちゃんと皆の分あるから安心するオネ~」

 

 ……潜入調査の変装として「クリオッチ」を選択したのは失敗だったのではないだろうか。着ぐるみの周りに群がる小学生程度の子ども達を見て、強く思う。

 クリオッチはCPX社公認CHAOS ONE公式マスコットで、クリオネをデフォルメしたような見た目をしている。何故か二足歩行で、背中に小さな羽が付いているが、概ねはクリオネだ。

 精巧で声まで偽装できるレプリカを組織が造って送ってくれたので、今更文句なんて言えないのだけど。でも、纏わりつく子供は任務の邪魔だし、暑いし。あと暑い。すっごい汗かく。汗臭くなってたりしないかな……気になる。本当に、上は現場の苦労を知らなさ過ぎだ。

 ちなみに。本来のクリオネッチ(の中身)は今頃、他のエージェントによってグッスリ眠らされているのだろう。今日の分の給金はちゃんと振り込まれるから許して欲しい。

 

「あの試合どっちが勝つかな!?」

「そりゃ牛頭さんだろ! 関東8位があんなガキに負ける訳ねぇだろ!」

 

 お前だってガキだろ、クソガキ。

 ……なんて感想は置いておいて。着ぐるみ潜入任務も悪い事ばかりじゃない。こうやって、人々の率直な言葉を聞くことが出来る点は高評価だ。

 そう。 “死世神 偽華” と “ティティム・クルデーレ” の対戦相手 “八王 牛頭” は相当な実力者。正真正銘の優勝候補である。

 現に、ここまでの試合運びに危うげな所は一切見受けられない。

 彼の用いる “混沌の獄卒/GO-Z(ゴズ)” と “混沌の獄卒/ME-Z(メズ)” を中心に構成された「闇属性」の「獄卒Z」デッキは扱いが難しい部類に入る。というのも、GO-ZとME-Zの2体をバトルゾーンに揃えなければならないからだ。

 しかし、彼は見事にGO-ZとME-Zを召喚して見せた。懸念点と言えば、墓地の枚数が両者とも異常に多くなっている事くらい。普通に考えれば、このまま押し切って勝利できる。

 

『第1試合はfighter牛頭が優勢だよね、professor?』

『否! 見よ、試合が動くぞ……!』

『またまたぁ、そんな事があるわk……What the hell!!?? 』

 

 ――しかし。その「普通」を覆す存在こそがThe ONEである。

 

「鏡よ、鏡。今日は待望の晴れ舞台。私はどんな姿をしているかしら?」

『最高にお洒落にキマッてる! 貴女も! 私も!』

「ふふ。なら、血の雨を降らせましょう! 召喚! 私の鏡像! The ONEティティム・クルデーレ!」

 

  “死世神 偽華” が天に掲げた1枚のカード。

 そこから漆黒の光が迸り、禍々しい渦を形成する。

 そして。

 カードがバトルゾーンに置かれ――混沌より少女(怪物)が顕現する。

 左が金色、右が黒色のオッドアイ。長く白い髪。真っ黒な服に身を包み、巨大な鎌を両手に持った少女(怪物)

 

『あれが死世神の新星、rising star! 偽華CEOのThe ONE! ティティム・クルデーレ!!』

『うわぁ! あの娘すっごく可愛い!』

『むぅ!? なんじゃ、あの禍々しき力は……!? それに、あの姿は……!』

『何か知っているのかい、professor!?』

『刮目せよ! 歴史的瞬間になるぞ……!』

 

 記録する……! あのカードの有する力を……!

 

「山札から4枚、手札4枚、味方4体を生贄に! 破壊! 抹消! 消え去りなさい!!」

『消してあげる! 全部全部!』

『BuMOoooooo!?』

「馬鹿な! 俺のGO-ZとME-Zが一瞬で!?」

 

 一瞬だった。

 

『一体全体何が起きたんだっ!? Fighter牛頭のバトルゾーンと手札から全てのカードが消えてしまった――ッ!!』

 

 並べたモンスター、集めた手札、仕組んだ策略……その全てが消え去っていく。破壊されていく。

 ただの一瞬で盤上が引っ繰り返った。

 

「――CO! これで合計墓地枚数44! 無数の屍の上で舞いなさい!」

『それが貴女の望みなら!』

「これは私たちの宣戦布告!」

『森羅万象この世の全て! 私の鎌が刈り取るの!』

「覚醒! ティティム・クルデーレ! ……ライフにダイレクトアタック!」

 

 そして!

 まだ終わらない! 破壊は止まらない!

 その力は際限を知らず膨れ上がる!!

 

「ぐぅああああああああああ!!!???」

 

 4つあったライフが容易く粉砕され、0になる。

 ……勝負はついた。

 

『…………はっ! あ、圧倒的! 驚異的! 優勝候補 “牛頭” 選手を容易く粉砕! 一早く2回戦へと駒を進めた! これが死世神の、phoenixの持つ力なのか!? Winner、死世神 偽華――ッ!!』

 

 あまりの衝撃に、大会全体が数秒の沈黙に包まれる。

 そして。

 我に返った司会の勝者宣言をきっかけに、爆発的な歓声が轟いた。

 

 

◆◆◆

 

 

 何なのアレ! 何なのアレは!?

 どんな精神性だったら、あんな化け物が誕生するの!?

 ……とにもかくにも。早急に対策を練らないといけない。

 能力の凶悪さは十分に分かった。次は、 “ティティム・クルデーレ” と “死世神 偽華” の性質……精神性や環境の調査だ。 “カオス・ノブナガ” と “火緒主 唯一” の調査と並行して進めていかなければ。

 

 ……あ、でも。 “死世神 偽華” の試合は決着が早過ぎたので、Aブロックの他3試合はまだまだ終わってない。 “火緒主 唯一” の出場するBブロックはもう少し先だ。

 だから。とりあえず少しだけ休憩。着ぐるみの中が暑すぎて、水分補給しないと倒れちゃう。

 

 あー。でも、確か、着ぐるみって人前で脱いじゃいけないんだよね……。子ども達の夢を壊すとか何とか……。

 まぁ、ワタシ自身、あんまり姿を見られる訳にはいかないし。「着ぐるみの中身判明!」とかってSNSに写真をアップされたりしたら大変だ。

 とりあえず、人目につかない場所を探して……あ、あそことか良い感じ。

 

「ふぃ~。涼しい~!」

 

 なかなか良い場所を見つけた。ここなら誰かが来る心配も無さそう。

 制汗スプレーをかけたりしながら、ゴクゴクと水分補給をして喉を潤していく。

 

「あ―――――! 生き返る―――――!! 着ぐるみ行動キツイ! 誰か代わってくれないかな~!」

 

 ……なんてね。これはワタシの大事な任務だ。頑張らないと。

 まぁ、他のエージェントに代わってもらいたいのも嘘偽りない本心だけど。

 ……やめやめ! 愚痴の時間は終わり! この後も頑張るぞぉ!

 とか何とか心の中で叫んでいたからだろうか。それとも、暑さで想像以上に疲労していたのだろうか。

 ワタシは接近する存在に気付くことが出来なかった。

 

「助けを求める声が聞こえた。よし、私が代わりにやってあげよう。着ぐるみは借りていくぞ」

「へ!? は、はい。いや、ちょ、えっ!?」

「言質は取った。さらばだ」

 

 その存在は、白い髪でオッドアイの3頭身の幼女……てか、どう見ても “ティティム・クルデーレ” の実体化存在じゃん!?

 え、バレた!? ワタシの任務バレた!? 調査してるって見抜かれた!?

 疲労+想定外の襲撃+調査対象との突然の遭遇+任務失敗の可能性+意味不明な言葉……。怒涛の急展開に頭の中がしっちゃかめっちゃかになってしまい、ついつい「はい」なんて返事をしてしまった。

 そして。

 混乱している間に、幼女は着ぐるみを持ち去って行ってしまう。

 人間には真似できない速度でぐんぐん離れていく。

 

 ……はっ! あの着ぐるみは支給品! 極秘の技術もたくさん使われてるし、何よりも組織への連絡装置は着ぐるみの中だ! 不味い不味い不味い!

 

 そんな経緯で。

 ようやっと理解が追いついたワタシは、着ぐるみ泥棒捜索に乗り出した。

 

 

 





全部の元ネタ分かった人は凄い。名探偵。


【以下、どうでもいい後書き】

この話の次の話を考えていまして。

うわああああ! 「タッ○」・「アン○ップ」すら商標登録されてるの!?

……となりました。
悩んだ結果、「アクティブ」と「インアクティブ」にしたのですが、これも商標登録されている……などの場合はご指摘くださると幸いです。
また、何か他に良い案があったら教えて下さい。特に「インアクティブ」がダサい……(泣)

今後とも当作品をお楽しみいただければ幸いです。



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

Draw 3: Let’s 販促! 多々買え、子どもたち!

ひっどいタイトル……。

皆様、前回の件に関するご意見ありがとうございました。大変参考になりました。
検討の結果、「アクティブ」「ダウン(正式名称:クールダウン)」とする事と致します。
皆様のご協力に、重ねて感謝申し上げます。



◆◆◆

 

 

『A block1回戦の4試合全てが決着! 先ずは、wonderfulなbattlesを見せてくれた8人のfightersに最大限の敬意と賞賛、そして感謝を!』

 

 司会の声に続くようにして、わぁっと会場が沸く。

 Aブロックが終わったのだ。

 誰も彼もが凄い実力者だった。少なくとも、1か月前の俺……偽華という圧倒的な壁を知らず、自分の周りだけの狭い世界で生きていた俺では、手も足も出なかったような強者。

 あの日から、俺はひたすらに修行を続けてきた。高みを目指して走り続けてきた。

 デッキ構成を見直す。街に繰り出して多くの人と戦う。反省を活かして戦略を練る。その繰り返し。

 その過程で。色々な出逢いがあって、発見があった。たくさんのカードを見て、幾多のデッキと戦略を知ったのだ。

 

 今の俺は、前の俺よりも先に居る。

 

 ――見ていろよ、水貝。そして、偽華。此処が今の俺の到達点だ。

 

 

◆◆◆

 

 

「へェ~、コイツがオマエのライバルかァ。ケケッ、喰い応えありそうじゃン」

「許さないよ。妙な動きをするようなら……」

「おォっと! 怖ェ怖ェ。地雷踏んじまった。……安心しろよォ、狩りの流儀は弁えてるさァ。獲物の横取りなんてセコイ真似はしねェ。……っとと、試合が始まるみたいだぜェ」

 

 ――見ているよ。唯一くん。今の君の実力を見せてくれ。

 

 

◆◆◆

 

 

「ねぇ、田中。これはどういうこと? ティティムはどこに行ったの?」

「……申し訳ございません。少し目を離した瞬間に、モンスターの身体能力で飛び出していきました」

「言い訳は要らないわ。どこに行ったのか、と聞いてるの」

「正確には掴めておりません。ですが、監視カメラの映像を確認する限り、スタジアムの外には出ていないようです」

「……そう。使えないわね。……良いわ、私が探しに出る」

 

 溢れ出る焦燥感を隠そうともしない偽華CEO。

 ……成程。これはティティムさんの読みが正しかったですね。

 

「Bブロック1回戦が始まりますよ?」

「興味ないわ。田中から見て見逃せない選手が居たら、後で報告して」

「承知しました。一応、こちらを。変装用の帽子とサングラス。それと財布ですね」

「……やけに準備が良いわね? そして、なぜ財布を?」

「前者に関しては日頃からの備えというだけ。後者に関しては、ティティムさん捜索に役立つと考えた次第です」

「……どういうこと?」

「ティティムさんは、本日スタジアム内に出店している飲食店……その食事に興味津々でした。なので……」

「出店付近に居る可能性が高い、ということね。けれど、それなら店付近を探すだけで良いはずよ?」

「何らかの不満があって飛び出したのですから、それを解決しない事には直ぐに逃げられてしまいます。モンスターの身体能力に人間では太刀打ちできません。加え、ティティムさんは財布を……いえ、そもそも現金を持っていません。なので、見つけ次第、一緒に昼食でも取って来ては……と考えた次第です」

「なるほど……食べ物で足止めして原因を聞き出す、ということね。いいわ、採用する」

「ありがとうございます」

 

 そのまま、CEOは急ぎ足で主催者用の特別室から出て行ってしまう。

 すると、一連のやり取りを黙って見ていた鈴木さんが話しかけてくる。

 

「良かったんですか、田中さん? CEOを怒らせるような事をしてしまって」

「今回はティティムさんの主張に理がありましたからね」

 

 そう。今回の全てはティティムさんが提案し、私と共に計画した作戦。

 

「偽華CEOがティティムさんに依存し始めている。それも悪い方向に……という話ですよね」

「えぇ。このまま閉じた世界に閉じこもり続けるのは良くないですからね」

 

 鈴木さんは知らない事ですが、CEOの生い立ちは特異。その精神は歪にして未熟。このまま突き進めば何が起こるか分からない。

 そして、道に惑う子どもの先行きを照らすのは、私たち大人の役目でもある。

 

「鈴木さんはCEOの護衛部隊に加わってください。くれぐれも見つからないように気を付けてくださいね」

「了解です」

 

 さて、と。CEO直々の指示ですからね。私はBブロック1回戦を観戦するとしましょうか。

 

「……やはりMr. W・D、ハク大尉が最も強い選手ですかね。とはいえ、彼の戦いは既に完成している。あえて再び研究する必要性も感じられません」

 

 スターバッジで収集した予選の情報をタブレットに表示。Bブロックの選手を調べていく。

 

 第1試合。土属性「アニマル」デッキの「府中 馬穂」vs水属性「怠惰」デッキの「惰気川 台三」。怠惰デッキ……種族「アケディア」を主軸とした扱いにくく珍しいデッキ。

 偽華CEOのデッキは種族「スペルビア」主軸の「傲慢」デッキの亜種。同じ「枢要罪」デッキの使い手ですし、警戒して損は無いでしょう。

 

 第2試合。全属性「武蔵」デッキの「武蔵野 本宮」vs火属性「新撰組」デッキの「日野 壬生狼」。

 どちらも火属性定番の「侍」デッキから派生したデッキ。特に「武蔵」デッキは属性に縛られない自由でトリッキーな戦いが特徴のようです。

 

 第3試合。土属性「産革*1」デッキの「久留米 正一郎」vs光属性「白Y*2」デッキの「白覇 迫」。味方を大量生産していく産革デッキも興味深いですが、勝つのは白覇選手でしょうね。

 

 第4試合。水属性「雪崩」デッキの「青梅 雪女」vs火属性「戦国侍」デッキの「火緒主 唯一」。相手の攻撃を耐えて耐えて何倍にもして返す雪崩デッキは厄介なんですよね。それに相対するのは……おっと?

 確か、この名前はCEOが辻COバトルで戦った……む。予選通過決定後にデッキの変更を申請している? これは一体……?

 ふむ。第4試合。確かめてみる必要性があるかもしれませんね。

 

 

◆◆◆

 

 

『B block1回戦第4試合! 繰り広げられるsnow()blaze()の喰らい合い! これはexcitingなbattleだ――ッ!』

『カウンターを得意とする雪崩デッキと、苛烈な攻撃を得意とする侍デッキ。氷が焔を封じきるか、焔が全てを溶かして燃え盛るか。これは、そういう戦いじゃな』

『凄い凄い! 炎と氷のアンチノミー! ライブの題材にしたい!』

『Battleは正に佳境! Fighter青梅のライフは6! 対するfighter火緒主のライフは4!

このままblazeが消えてしまうのか――ッ!?』

 

 ったく。好き勝手言ってくれやがって。

 よりにもよって消える? 俺の炎が?

 ははっ、それだけは絶対にありえねーよ。

 

「ふふ。キミの炎は暖かくて良いわね。消しちゃうのが勿体ないくらい」

「へへ、絶対に消えねぇから安心してくれていいぜ。直ぐに暑すぎるってくらい温めてやるからさ」

「ふぅん、それは楽しみ……けど、この私の守備を突破できる? これだけたくさんの守備モンスターが居るのよ?」

 

 確かに、相手の場にはブロック可能なモンスターが7体。内1体は特殊効果でVITが12000にも膨れ上がった『氷柱女妖(めよう)/カネコリリー』。

 対して、こっちのバトルゾーンはイエヤス一体のみ。ライフでも負けている。誰が見ても明らかな劣勢。

 それでも。

 俺の炎は全く消えていない。

 

「俺のターン、ドロー! ……発動! 日出国之夜明(ジパング・サンライズ)!」

 

日出国之夜明
深度Ⅲ

属性:火  魔術

【伏兵】このカードを裏向きにしてバトルゾーンに設置しても良い。

【Θ1】自身のバトルゾーンに深度3以上の「SAMURAI」及び「ソレイユ・ドラゴン」が存在する時、自分の手札を5枚捨て、この魔術を唱えても良い。

【Θ2】相手のターン中、このカードが「伏兵」状態で存在し、バトルゾーンから離れる時、自分の手札を3枚捨て、この魔術を唱えても良い。

【○】次の自分のターンの初めまで、全プレイヤーの混沌深度を「無限大」にする。

【○】「Θ」で捨てた手札の枚数×2枚、山札の上からカードを公開する。その中にあるモンスターを深度合計が10以下になるように好きな数選び、召喚しても良い。残りのカードは好きな順序で山札の上か下に戻す。また、このようにして召喚したモンスターは次の自分のターンの初めに破壊される。

 

「俺とアンタの混沌深度を(無限)に! 山札の上から10枚を公開して———!」

「無限ですって!?」

 

 山札の残り枚数。ここまで引いたカード。

 それらを合わせて考えた時、この10枚には間違いなく――

 

「――来たぜ! 歴史は此処から動き出す!」

『人間五十年、化天のうちを比ぶれば、夢幻の如くなり。一度生を享け、滅せぬもののあるべきか――なれば。貴様は何を求める』

「要するに全部超えられるって事だろ! なら、俺は勝って切り拓く! 俺が望む未来を!」

『――は。くくっ。くはははははははは!! 善き哉! 我らの時代を始めようぞ!』

「召喚! The ONE カオス・ノブナガ!!」

 

 その姿は人であり、龍。龍であり、人。

 (かみしも)に似た衣服を身に纏い、手には巨大な太刀……否。(むね)の側に銃が併せられているソレは銃剣と称するべき代物……を携えて。

 光背の如き焔を背負いて天に浮遊する。その姿、まさに日輪の如し。

 かの龍は、覇者の眼にて欲界の全てを睥睨する。

 

『What the hell!!?? The ONE!? 何なんだ、あのsuper COOOOOLなdragonは――――ッ!?』

『あれは! カオス・ノブナガ! 火緒主 唯一……そうか! そういうことじゃったか!』

『何か知っているのかい、professor!?』

『百聞は一見に如かず。かの龍の力、とくと目に焼き付けるのじゃ!』

 

 

カオス・ノブナガ
深度Ⅳ

属性:火  所属:ヘリオ・セントリス

種族:SAMURAI/ソレイユ・ドラゴン/カオス・ジパング/フェーム・クローバー

ATK/VIT:11000/7000

【∞】-The ONE-

 このモンスターがバトルゾーンにある時、名前に「カオス・ノブナガ」とあるモンスターを召喚する事は出来ない。

【Θ】このモンスターを召喚時、自身のライフを3つ破壊する。

【○】このモンスターはバトルに勝利した時、「アクティブ」状態になる。

【○】Tクラッシャー(相手のライフを3つ破壊する)

 

「燃え盛れ! 俺が! 俺たちが! 混沌世界に唯一無二の開闢(かいびゃく)を!」

『天上天下唯我独尊! 我こそは第六天魔王! 刮目せよ!』

「覚醒! The ONE、カオス・ノブナガ!」

 

【覚醒】相手のライフが自身よりも多い時、このモンスターは以下の「▼」能力を得る。

【▼】-BUSHIDO Ⅵ-

味方「SAMURAI」は攻撃時、全てのバトルに勝利する。

【▼】味方モンスターはバトルに負ける以外の手段によってバトルゾーンを離れない。

 

「なに、この熱さ……!?」

「さらに! サンライズの効果で、深度3『 水瓶割り (アクエリアス・ブレイカー)/カツイエ』! 深度2『龍田紅葉/ランマル』! 深度1『G(ギリ)O(ワン)B(ボンバー)/ヒサヒデ』! そして、ノブナガの召喚コストで俺のライフは1! カツイエの【背水】発動!」

『ノブナガ様! 儂の力、ご照覧を賜りたく!』

 

 水瓶割り (アクエリアス・ブレイカー)/カツイエ
深度Ⅲ

属性:火  所属:ヘリオ・セントリス

種族:SAMURAI/カオス・ジパング

ATK/VIT:7000/1000

【絆】味方「SAMURAI」のアタックを、相手「水属性」モンスターはブロックしなければならない。

【背水】自身のライフが1の時、上記【絆】の「水属性」を「全ての属性」に変更する。

【○】このモンスターがバトルに勝利した時、深度を1つ深めても良い。

 

「ノブナガでアタック! 強制ブロック! バトル勝利でアクティブ状態に! もう一度アタック!」

「止められない! 私の雪崩が溶かされる!? 」

 

 俺とノブナガの火は消えない! 何度でも何度でも立ち上がる! 燃え盛る!

 ノブナガの攻撃で敵モンスターを一掃!

 そして!

 

「ノブナガ、カツイエ、イエヤスでダイレクトアタック! とどめだぁ――ッ!」

 

 

◆◆◆

 

 

『1回戦第4試合ィ! 怒涛のattack(攻撃)! 止まらぬadvance(進軍)! SAMURAIのblaze()が雪崩を溶かし尽くしたぁ! Winner、 火緒主 唯一ィ――ッ!』

 

 司会の言葉に会場が沸く。

 それは正に。新たな英雄の誕生にして、新時代を切り拓く日の出の如し。

 

「……でっかいトカゲ。首を斬れば死ぬかな」

 

 白い髪の少女は、そんな光景をスタジアムの屋根から見下ろしていた。

 

 

◇◇◇

 

 

 どやぁ。

 すっごく良い感じのセリフが言えた。

 わざわざスタジアムの天井なんて “()える” 場所まで来たんだ。しかも、主人公の切り札お披露目の瞬間に。

 これはアニメで描写されるはず。間違いなく目立てた。嬉しい。

 激かわラスボス系ヒロイン(自称)としてのタスクはこんな感じで良いだろう。これで、世の少年少女たちは数多のパックを開けて私を求めるはず。いやー、人気者(自称)は大変だ。

 

 さて、と。あとは偽華ちゃんとの鬼ごっこを頑張るとしよう。

 私発案・田中計画の天才的な作戦はこうだ。

 

 私を見つけられない偽華ちゃん→(田中が配置した)CPX社社員たちに私の情報を聞く→彼らは何か困っていたりする→手助けする……の繰り返し。

 これによって偽華ちゃんは、仕事以外で自分から話しかける積極性と、人と助け合う社交性を学べる……という算段だ。やっぱり私の前世はノーベル賞クラスの天才だな、間違いない。

 

 さらに。私の突発的かつ天才的アドリブによって、クリオッチの中身の女の子も参戦した。

 長くて綺麗な栗色髪が特徴的で、しかも偽華ちゃんと同い年くらいの女の子を偶然見かけたので巻き込ませてもらったのだ。

 現状、彼女は私に関する最大の情報保有者。そして、着ぐるみを持ち去った私を探している。

 

 私が上手く立ち回る→偽華ちゃんと少女を誘導→合流させる→協力関係になる→仲良しフレンドになる→ハッピーエンド!

 

 ……ふっふっふ! 完璧な作戦だな! 私は自分の才能が恐ろしいぞ!

 

 

 

*1
産業革命の略

*2
白色矮星の略





突っ込みどころが多々ありますが、「カオスだからさ」で納得してくださいませ……。


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

Draw 3.5:偽物の華

10日間も沈黙すみません……。
再開します。

▽司会の英語が分かりにくいとの指摘→ルビで日本語を用いる事で対応。



◆◆◆

 

 

 私にとって、世界の全ては「どうでもいいモノ」だった。

 あっても無くても変わらないモノ。さして興味を持てない、無価値なモノ。

 それは自分自身も同じ。かつて居た「誰か」の紛い物、会ったことも無い「姉」の模造品。しかも、造物主たる親直々に「不必要」と断じている。

 最初の目的すら否定された人形に、意味なんてある訳がなくて。

 私には、「私が居る世界」と「私が居ない世界」の違いが理解できなくて。

 それでも、「有」と「無」が違う事だけは明白で。

 その差異を私は理解出来ないけれど。「有」が「無」になれば何かが変わっている。壊すことで意味が生まれる。そう思った。

 だから、私を「偽物」にした死世神の家も、血筋も。全てを壊してしまおうと思った。

 そうすれば。私は少なくとも、あいつら「本物」よりも価値があったことになるから。

 けれど、その手段を私は持たなくて。

 

 ただ無為な日々を送っていた時、私は出逢った。

 両手に大鎌を持った、白い髪とオッドアイの少女、ティティム・クルデーレに。

 

 The ONEカード。

 それは、強い想念によって世界に顕現するカード。

 どこより現れるのか、何故現れるのか。詳しい事は何1つ分かっていない。……死世神の歴代当主やCPXの中枢は何かを知っているだろうけれど。少なくとも、私を含めて殆どの者はその正体を知らない。

 ただ、1つだけ確かなことは。尋常ならざる力を秘めている事だけ。

 

 最初は、ただの道具としてしか見ていなかった。

 このカードがあれば、全てを壊して私の価値を証明できると。それしか考えていなくて。

 

 だから、最初の叔父とのバトルで賭けの対象にした。

 それが最も効率的だからという理由で、何の抵抗も無くチップに出来た。

 けれど。

 あの最初のバトルでティティムが発した言葉を思い出す。

 

『――私は貴女の唯一! 偽物でも! いいえ、偽物だからこそ! 本物の笑顔を貴女にあげられるの!』

 

 私はずっと、偽物では無い存在になりたいと願っていた。

 偽物なんて意味の無い存在だと思っていた。

 でも、彼女は。そうではないと言った。

 彼女は“イミタシオン”。彼女も偽物。

 だというのに、彼女には一切の疑問も迷いも無かった。ただ真っ直ぐ純粋だった。

 自らが偽物だと断じ、それを良しとした。

 偽物だからこそ出来ることがあるのだと。

 

 ――私を笑わせてくれると、そう言った。

 

 私は特定の何かに執着を持ったことが無かった。

 全てはあっても無くても同じモノ。そう考えていた。

 だけど、ティティムをもう1度「チップ」にすることは出来なくて。

 その理由が分からなくて。

 否。分かりたくなかった、というのが正確なのかもしれない。

 だって、それを理解してしまえば私の根幹が揺らいでしまうから。道を見失ってしまうようで怖かったから。

 

 ――それでも、認めるしかなかった。

 私はティティムが大切だ。ティティムが居ない世界なんて考えたくもない。

 ティティムだけは壊したくない。そう強く強く思ってしまう事を止められない。

 

 ――けれど、私は壊す以外の接し方を知らなくて。

 彼女が自分の意思で私から離れるのだとしても認めない。

 彼女の自由を壊そう。意思を壊そう。

 

 ――そうすれば、ずっと一緒にいられるはずだから。

 

 

◇◇◇

 

 

「まさか、こんな事になるとは思わなかったなー」

 

 スタジアムの屋上から、モンスター特有の超視力にて偽華ちゃんの様子を見ていたのだけれども。

 

「ティティムがどこに行ったか知らないかしら?」

「偽華CEO! 丁度良かったです! ティティムさんなら先程見かけましたが……申し訳ありません、少し手を貸して頂けませんか? 見ての通り、今は手が離せないのです」

「知らないわ。それが貴方の仕事でしょう? 給料分は働きなさい。それで? ティティムはどっちに行ったの?」

「あ、ですから手が塞がっていてですね……」

「その口は何のためについているの?」

「西口の方へ向かわれました……」

 

 

「至急応援を呼ばなければ大変な事になってしまうのです!」

「何のために無線機を持ってるの? それを使って呼びなさい。それで? ティティムはどこ?」

 

 

「ですから……!」

「くどいわ。さっさとティティムの居場所を教えなさい」

「はい……」

 

 

「減給」

「南側に向かったであります!」

 

 

 駄目だ、こりゃ。

 まさか、全部ガン無視で突き進むなんてなー。

 彼女のゴーイングマイウェイ度を見誤っていた。

 ゲームの「クエスト」みたいな感じだったのだけれども、まさか脅してでも聞き出す方向に行くとは。主人公がやって良いプレイではない。……まぁ、偽華ちゃんは敵側なのは間違いない感じなのだけれども。

 

 やはり、私のアドリブがあってよかった。

 クリオッチの中身の子。彼女の前にチラチラと姿を見せては離脱を繰り返し、上手く誘導している。このまま行けば間もなく偽華ちゃんと合流するはず。

 そして二人は力を合わせて仲良くなる。私の計画は完璧である。ふふん。

 

 お、ついに二人が合流するようだ。

 ティティムの仲良し作戦、開始……

 

「敵ね。潰すわ」

「なんでぇ――!?」

 

 あれれ? なんか雲行きが怪しい……?

 



目次 感想へのリンク しおりを挟む




評価する
※目安 0:10の真逆 5:普通 10:(このサイトで)これ以上素晴らしい作品とは出会えない。
※評価値0,10についてはそれぞれ11個以上は投票できません。
評価する前に
評価する際のガイドライン
に違反していないか確認して下さい。