ポケットモンスター・ソード ホップに敗北RTA 水統一チャート (まみむ衛門)
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1-1

開いてくださりありがとうございます。
ぜひ最後までお楽しみください。


 ガラル地方でモブの人生を体験するRTA、はーじまーるよー!

 

 今回走るのはこちら、『ポケットモンスター ソード アナザーライフ』です。

 

 このゲームは、『ポケットモンスター ソード・シールド』(以下剣盾)のファンゲームで、ガラル地方で生活する「名もなきモブ」の人生を楽しむRPGです。今回走るのはそのソードの方ですね。

 

 

 このゲームでは、いくつかのモードがあります。

 

 マイナーリーグジムリーダーの一人としてメジャー昇格、ファイナルトーナメント進出、チャンピオンへの挑戦、そしてチャンピオン就任を目指す「マイナージムリーダー下剋上編」。

 

 危険なポケモンたちが生息するむき出しの大自然・ワイルドエリアにおいて、トラブルに巻き込まれた人たちを救う「ポケモンレンジャー大奮闘編」。

 

 これといって特別な立場ではなくポケモンと歩むのんびりとした人生を体験する「ポケモンスローライフ編」。

 

 ワイルドエリアに生息する一匹のポケモンとして、厳しい自然を生き抜く「ワイルドエリア生存競争編」

 

 

 

 

 そして今回プレイするのが、「四人目のセミファイナリスト編」です。

 

 

 

 

 原作では、ジムチャレンジを抜けた四人のチャレンジャーがセミファイナルトーナメントを戦いました。

 

 一回戦は主人公VSマリィちゃん、決勝が主人公VSホップ君でした。

 

 そして一回戦でホップ君に負けた名もなきモブが、「四人目のセミファイナリスト」なわけです。

 

 このモードは、その名もなき四人目として、ジムチャレンジを勝ち抜き、最後に「強制的に」ホップ君に敗北することを目指すモードとなっています。

 

 負けイベントとか、めちゃくちゃ強いとか、ゆえにレベルを上げまくったり裏技をすれば……という抜け穴はありません。バッジを全部集め、セミファイナルトーナメントにエントリーをしたら、そのままイベントに入り、ナレ死のごとく敗北したと語られ、そのままエンディングに入ります。

 

 そういうわけで、タイマーストップの瞬間は、シュートスタジアムにたどり着き、セミファイナルトーナメントにエントリーした瞬間とします。

 

 

 それではさっそく始めていきましょう。まずは本体設定をワイルドエリアが雨や雷雨が多い日付に設定して、ゲームを開始していきます。

 

 はい、よーい、スタート(棒読み)

 

 まず、このプレイヤーキャラクターとなるモブは、大きく分けて二種類います。

 

 一つが原作にも出てきた、トーナメント・チャレンジャーモブたちです。発売初期金策のキョダイコバン稼ぎで邪魔ものになるウェイ君とかが印象に残ってる方も多いのではないでしょうか。彼ら・彼女らのどれかになってジムチャレンジをすることになります。

 

 そしてもう一つが、原作未登場のオリジナルモブです。

 

 

 

 今回はオリジナルモブを選びましょう。

 

 

 

 オリジナルモブにする理由は一つ。手持ち自由度が高いからです。

 

 原作モブはオリジナルモブに比べて強い補正がかかるのですが、原作と同じタイプのポケモンしか手持ちに入れられませんし、さらに言えばほぼ原作と同じ手持ちを強要されます。ケンギュウとか引こうものなら序盤から前半をオンバットだけで乗り切る羽目になりますからね。

 

 一方でオリジナルモブは、手持ちの自由度が高いです。その分全体的に原作モブより補正が少ないので厳しい戦いになりますが、それを補って余りある戦略の幅が魅力です。

 

 

 

 

 さて、基本的に、年齢も生まれも性別も名前も見た目も完全ランダムですが、一つだけ決められることがあります。それが、「最初の手持ちポケモンのタイプ」です。

 

 オリジナルモブは最初に一匹ランダムで未進化ポケモンを持ってるのですが、そのタイプをある程度絞れるわけですね。

 

 

 今回は水タイプを選びます。

 

 

 そして水タイプの中でも、メッソン、キャモメ、シズクモのどれかを引くまでリセットします。

 

 

 

 

 

 

 

 さあ、これでオリジナルモブが生成されました!

 

 

 

 

 

 

 

 ではまず手持ちは……キャモメですね! ヨシ! 手持ち厳選は21回目での成功でした。

 

 そして、スタート地点が居住地なわけですが、ここは割とどうでもよくて……あ、バウタウンだ! よし、これは一番うま味な居住地です。

 

 では、次に、このモブの生い立ちを確認しましょう。

 

 

 

 

 お名前はスピカ。大学生の女の子。

 

 御覧の通り身長が高くスラリとしていますが、鮮やかな茶色の髪の毛はやや癖っ毛気味でしかもそれを直そうとしない。顔立ちも綺麗系ですが、目に覇気がなく、いつも眠そうでけだるそう。

 

 大学生といえど、あまり真面目に講義には出ておらず、なんとなく遊ぶ金欲しさに、バウタウンのレストランや市場でお気楽アルバイトをして過ごしてる、と。

 

 はー、なるほどねえ。ダメ女子大生ですね。

 

 

 そして今流れてるのは、導入ムービーです。ジムチャレンジャーとして推薦される場面から始まるわけですね。

 

 これは……バウタウンで行われている、初心者向けのポケモンバトル大会ですね。それで操作キャラのスピカちゃんは、幼馴染に無理やりエントリーさせられ、キャモメ一匹で準優勝、と。えー、なんかイマイチな結果だなあ。

 

 それでそれで、この大会を見に来ていた地元の名士かつジムリーダーのルリナさんから才能を見出され、ジムチャレンジャーとしての推薦状を手に入れました。

 

 

 で、これが推薦するときのルリナさんの台詞。

 

 

 

 

「特に、貴方、素晴らしい観察眼ね。お互いのポケモンや相手トレーナーのことをよく見ているわ!」

 

 

 

 

 オリジナルモブはこうして、推薦状発行の権限があるキャラから推薦状を受け取るわけですが、その際に、どんな才能を見出されて推薦されるのか、台詞で示されるわけです。そしてそれが、操作キャラの固有スキルになるわけですね。

 

 この台詞の場合は、スキルは「観察眼」。よくあるやつですね。

 

 で、このスキルの効果がこちら。

 

 

 

 

 

 

 

 観察眼

 

 目の前のものが細かいことまでよく見えて、さらによく気付くことができる。またそこから、理論的に推測を組み立てることもできる。ゆえに、初めて見るポケモンでもおおむねタイプが分かる。

 

 

 

 

 要は、初見ポケモンでもタイプが分かる、という効果を持ってます。

 

 

 

 

 

 

 

 

 大外れじゃねえか畜生!

 

 ポケモンのタイプなんてこちとら全部完璧に覚えとるんじゃ!!! 死に特性じゃねえか!!!

 

 ホップ君とか主人公みたいに、「英雄」「天性」「伝説」のフルセットとまでは言いませんけど、名前の通りとんでもない補正がつくこの三つのどれかか、はたまたせめてマリィちゃんやビート君みたいに「金の卵」「ポケモンの友」あたりが欲しかったです!!!

 

 

 

 

 

 

 

 うーんこれはリセット案件なんですけど……まあ、最初のポケモンガチャでようやく当たったし、スタート地点がバウタウンなのはかなりラッキーなので、とりあえず走ることにしました。

 

 そういうわけで、開会式に向かう前にちょっとバウタウンで寄り道しましょう。

 

 この街出身だと当然のように釣竿を持っているので、それを使って「つりのめいしょ」して……二匹目の仲間・チョンチーを捕まえましょう。

 

 確率は原作と同じ20%ですが……三回目で出ました。ままえやろ。はい、じゃあゲットします。

 

 ではこれでキリがいいので、今回はここまで。

 

 ご視聴、ありがとうございました。




『ポケットモンスター ソード・シールド アナザーライフ』
『ポケットモンスター ソード・シールド』の二次創作ゲーム。ガラル地方の住人やポケモンとして、「モブ」のそれぞれの生活を楽しむゲーム。様々なモードがあり、そのモードに応じてゲーム内容が全然違う。

「四人目のセミファイナリスト編」
原作にて語られることのなかった、セミファイナルトーナメントの一回戦でホップに敗北した名もなきモブになるべく、ジムチャレンジを攻略していくモード。
そのゲームシステムや画面は、モブを操作する剣盾そのもの。ただし、プレイヤーキャラが「モブ」である都合上、主にプレイヤーに不利な形で様々な制限がある。


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1-2

 さわやかな潮風と明るい陽射し、そして活気ある街並みが魅力的なバウタウン。

 

 そのある一角の民家の中は、外の街並みとは裏腹に、電灯はすべて消え、飾り気はなく一方で様々なものが散らかって雑然としており、わずかに薄いボロカーテンが通す陽光が差し込むのみの、陰気極まりない状態であった。

 

「もう、こんな時間だからね。はいるよー!」

 

 そんな家に、10代半ば程度の少女が、そう叫んでから不満げに頬を膨らましながら、ズカズカと入っていく。肩甲骨のあたりまで伸びた青いロングヘアーと海辺の町らしい爽やかな制服、そしてなによりもその顔立ちとプロポーションは、まるでアイドルのよう――事実アイドルに近いと言えなくもないが――であり、この家にはどこまでも似つかわしくない。

 

「スピカちゃん! ほら起きて! 午後の講義にはせめてちゃんと出て!」

 

 青髪の少女は玄関からさらにズカズカと部屋の中に入り、まるで勝手知ったる我が家のように一直線に、膨らんださびれたしわしわのベッドに向かい、手を伸ばして揺する。

 

 

 

 

 

 

「…………ふわあ、もうこんな時間?」

 

 

 

 

 

 そんな激しい目覚ましだったが、布団の中の人間の反応は緩慢だった。

 

 もぞもぞと布団の中で名残惜しそうに身じろぎすると、そのままぴたりと止まり、もう一度夢の世界に旅立つ。だが青髪の少女が無言で掛け布団を引っぺがして、叩き起こした。

 

「……グッモーニン、オリヒメ」

 

「今がモーニングなのはスピカちゃんだけでしょ!」

 

 時計は午後12時半を示している。怠惰な人間の休日でも、これを「朝」とはそうそう主張しないだろう。青髪の少女――オリヒメの言うことの方が、間違いなく正しかった。

 

 そうして布団を引っぺがされて不満げな部屋の主・スピカは、仕方ないと言わんばかりにのろのろと体を起こし、ベッドの上で胡坐をかく。ゆるゆるのシャツで、下は下着以外履いていない。そのあまりにもだらしない姿で無作法に大欠伸をすると、ぼさぼさの長い茶髪を無造作に掻き、もう片方の手で目をこすった。

 

 オリヒメには負けるが、このスピカという女性も、見た目は悪くない。

 

 ベッドの上で胡坐をかいているから分かりにくいが、それでも分かるほどに手足はすらりと長く、顔立ちも美人系で、鮮やかな色合いの茶髪の艶は良く、はかなさを感じさせる白磁のような肌も魅力的だ。

 

 ただ、長い茶髪はやや癖っ毛気味な上、今はそれに寝ぐせも重なって酷いことになっているし、さらに今の行動の通り彼女は怠惰そのものなので、これをほぼ整えることなく平気で外出する。綺麗な顔にある眼には覇気がなくいつも気だるげでクマも常にできていて、さらにやや猫背気味だ。服も、さすがに下着姿のままではないが、動きやすくて飾り気のない安物しか持っていない。極上の素材を持ちさらに気を遣って可愛さを磨いているオリヒメからすれば、もったいないことこの上なかった。

 

 

 ――この二人は、やや奇妙な関係だ。

 

 

 オリヒメは十代半ばの女子高生、スピカは二十歳になったばかりの大学生。

 

 その出会いは、スピカがトレーナーズスクールに通い始めたばかりのころ。たまたま家が近く、またお互いに一人っ子だったこともあって、まるで姉妹のように交流してきた。歳の離れた幼馴染関係である。

 

 当初は流石にスピカが世話を焼く側だった。だが、スピカの生来の怠惰と、オリヒメの真面目な性格から、いつの間にか、こうしてオリヒメが世話を焼くばかりになっていた。どちらが年上か分かったものではない。

 

「ほら、早く準備して。また遅れちゃうよ」

 

「……今日は休講でーす」

 

「嘘はダメ」

 

 最初は騙されたが、もう通用しない。スピカも分かっているようで、しぶしぶ準備を始めた。

 

 見ての通り、スピカは非常に不真面目な大学生だ。地頭は悪くなく、これといって自習や学習塾の利用をせずともクラスの平均よりやや上の成績を取ってきた。だがそうしたある意味マイナスの成功体験と怠惰な性格が重なり、通っている大学は、決して良いとは言えない近場のものである。大学に通った理由は、「何もしたくないから」。モラトリアムを求めただけに過ぎない。

 

 ちなみに大学はほどほどにさぼり、空いた時間はこうして家でごろごろしているか、バウタウン名物の海鮮レストランや市場で少しバイトをして、わずかな遊ぶ金を稼いでいる。

 

「提出課題も近いんでしょ。もう終わったの?」

 

「とっくに、ほら」

 

 こちらは嘘ではない。スピカが教科書を放り込んでいるバッグの中を示すと、そこにはきっちり規定分のレポートが準備されている。怠惰な性格だが、一方で要領が良く物事を効率的に進めるタイプなので、宿題や課題の類は「面倒くさい」以外は苦にならないタイプなのである。

 

 とにかく、飛び切りの怠惰が足を引っ張るタイプの女性であった。

 

「キャモォ……」

 

「あ、キャモメちゃんもおはよー」

 

 だらだら準備しているのを見守っているうちに、オリヒメが全開にした窓から、キャモメが入ってくる。彼はスピカが唯一連れているポケモンで、普段はこうして放し飼い同然にしている。怠惰な主人を見て呆れ果てた声で鳴いている通り、良識のある性格だ。

 

 そうこうしているうちに準備が終わり――ノロノロやってもこれだけの時間で終わるのは年頃の女性としては異常なまでにスピカが手間をかけないため――、緩慢な動作でスピカが立ち上がる。それを見たキャモメは慣れた様子でスピカの肩に止まった。

 

「ん」

 

 スピカも慣れたもので、ごそごそとモンスターボールを取り出し、キャモメを戻す。長い間一緒にいるから、お互いの間には確かな信頼関係が芽生えていた。

 

「あ、そうだ。スピカちゃんに渡すものがあるんだ」

 

「んー?」

 

 またいつものお節介なお洒落用品か。興味なさげにスピカはオリヒメを見る。

 

「はいこれ」

 

 渡されたのは封筒。何か郵便物だろうか。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『バウタウン・ビギナートレーナーズトーナメント エントリーチケット

 

 ナンバー9・スピカ』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「スピカちゃん、この大会、キャモメちゃんと出てね♪」

 

「…………は?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 スピカは、キャモメを連れている都合上ポケモントレーナーとして登録されているが、バトルはここ数年間全くやっていない。トレーナーズスクール含むこれまでの学校生活で、授業や遊びで何回もバトルをしたことあるが、それはほぼ全ての人間に共通だ。義務教育やよくある鬼ごっこやかくれんぼのような子供の遊びのようなものである。

 

 一応トレーナーズスクールに通っていたが、トレーナーは目指さず、普通のお勉強中心のクラスにずっといた。普通の学校よりもトレーナーズスクールの方が近かったので、普通の学校代わりに選んだに過ぎないのだ。そしてそのような子供や家庭は、一定数いるし、トレーナーズスクールもそのような需要を見越して、整った教育を提供している。

 

 バトルをしない理由は簡単。疲れるからだ。

 

 日常生活すら怠惰に過ごす彼女にとって、一瞬の刹那にすべてを集中するポケモンバトルは、非常に面倒で疲れる。楽しくないことはないが、ごろごろしたり本を読んだりネットサーフィンをしている方が性に合っているのだ。

 

 故に、いつの間にか勝手にエントリーされてたのは、当然戸惑った。

 

「スピカちゃんもキャモメちゃんもすっごく強いんだから、たまにはバトルしないともったいないよ!」

 

 とは、実行犯のオリヒメの言である。

 

「全く、トレーナーってやつはみんな強引なのか……」

 

 強引な性格でないトレーナーを何人も見てきているが、とりあえず呟く。そしてオリヒメに数々の「お世話」を止めると脅されたせいで断れなくなり、あれから二週間後、結局会場に足を運んでいた。

 

「あ、スピカちゃん来た! 頑張ってねー!」

 

 観客席ではなく、来賓に近い席にいたオリヒメが、ニコニコと華やかで可愛らしい笑顔で手を振る。こんな面倒を押し付けてきた張本人だが、これを見せられては何も言えない。スピカもつい笑顔が漏れ、ゆるゆると手を振り返す。

 

 オリヒメがなぜ勝手にエントリー出来て、さらにあんな席で観戦できるのか。

 

 

 

 それはオリヒメが、それなりに名の通ったトレーナーだからだ。

 

 

 

 彼女は幼いころからトレーナーズスクールで才能を発揮し、校長の眼鏡にかなって推薦を受け、去年度のジムチャレンジに参加したのだ。そのルックスと素朴で真面目な性格が受け、他地方よりもはるかに高度なエンタメ化されたジムチャレンジで人気を博し、それ以来、アイドル的人気のあるアマチュアトレーナーとしても活動している。ジムチャレンジも、初挑戦にしてバッジ二つを獲得し、今年度の推薦もゲットできている。いわば、地元で名の通った有望株エリートと言うわけだ。

 

 だから、本人の了承なしにエントリーできたのだろう。とはいえ、彼女もそれなりに無理をしたはず。理不尽な話だが、ふがいない結果を出したら、可愛い妹のような幼馴染の顔に泥を塗りかねない。

 

 幸い、この大会は、スピカ同様素人の集まりだ。ジムチャレンジ推薦候補すらまずありえない。ペットとちょっとした遊びのつもりで参加する一般人や、タイプ相性を勉強し始めたばかりの子供が参加するようなレベルである。自分が一番格下ということはないだろう。

 

「さて、と。じゃあほどほどに頑張りますかね」

 

 腰に下げているただ一つのモンスターボールが、覇気のない独り言に応えるように、小さく揺れた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ふう、それなりに頑張ったかな」

 

 参加人数は10数人と小規模。トーナメント形式なこともあり、すぐに大会は終わった。オリヒメのそば、やたら一か所だけ豪華な来賓席に、まさかのメジャージムリーダーで地元の名士・ルリナが現れたのには驚いたが、それ以外はこれと言って変わったこともなかった。

 

 結果は準優勝。決勝の相手はトレーナーズスクールでオリヒメの次に成績の良い子で、真面目にトップトレーナーを目指しているようだった。負けて当然であり、むしろ決勝戦まで進めたのは僥倖だった。オリヒメの顔に泥を塗ることは無かろう。

 

 身体は火照り、顔には汗が浮かび、心地よい疲労感がある。久しぶりに、心の底から楽しい時間だったかもしれない。

 

 準決勝まではそれなりに楽勝だったし、決勝もだいぶ格上相手に互角の戦いが出来た。キャモメも自分も、久しぶりのバトルにしてはよく動けていたし、相手の動きもしっかり読めて先回りも出来た。意外とバトルの腕は衰えていないようだ。

 

 そうして手作り感あふれるチンケな表彰台でぼんやりと閉会式を過ごす。一位の子には、ルリナ直々に、ジムチャレンジの推薦状が手渡された。しっかり見ていなかったが、そういえば優勝賞品としてこれが出るとチケットに書いてあったような気がする。遊びみたいな大会なのに、やけに豪華なものだ。

 

 その様子を横目で見守り、準優勝賞品が何だったかを思い出そうとしていると、ついに自分の番が回ってきた。

 

「準優勝おめでとう。素晴らしいバトルだったわ」

 

「はあ、どうも」

 

 なんとルリナ直々に渡してくれるらしい。こんな小規模なイベントでも嫌な顔一つせず、爽やかかつ格好良い笑顔を浮かべている。そしてそのルックスは、間近で見るとすさまじい。自分もかなり身長が高いが、彼女の脚の長さには到底かなわない。あの可愛いオリヒメですらちんちくりんのようだ。

 

 渡された景品はきのみお得セットだった。そう言えばそんなようなこと書いてあったような気がする。頑張ってくれたキャモメもさぞ喜ぶだろう。

 

「そして、これは特別なんだけど」

 

 ルリナがそう言って、手を腰の後ろに回す。なんと、サプライズ景品があるらしい。どこまでも太っ腹だ。

 

「貴方のバトルは、とても素晴らしかった。キャモメとも良い信頼関係が築けていて指示から動くまでがスムーズ。あまりバトルの経験はないってオリヒメから聞いたけど、信じられないぐらいだわ」

 

「え、と……ありがとう……ございます?」

 

 ルリナのような人間にこうも至近距離でべた褒めされては、さしものスピカといえど、照れと戸惑いが大きい。木の実セットを持っていないほうの手で、思わず後頭部を掻いてしまう。

 

「特に、貴方、素晴らしい観察眼ね。お互いのポケモンや相手トレーナーのことをよく見ているわ!」

 

「ど、どうも……」

 

 あまり自覚はない。自然観察にしろ、遊びのバトルにしろ、昔からよく言われてはいるが、実感は全くなかった。なんだか居心地悪くなってオリヒメに目線で助けを求めると、彼女は嬉しそうに満面の笑みでウンウンと頷いている。そういえば、一番そう言ってくれたのは彼女だった。

 

 訳の分からないまま、仕方なく成り行きに身を任せるしかない。

 

 そんなスピカに対し、ルリナは、モデルの時とは違う、子供のような純粋な笑みを浮かべて、上品なデザインの封筒を手渡してきた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「だから、私、ジムリーダー・ルリナは――――スピカ、貴方を、ジムチャレンジに推薦いたします!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「……………………はい?」

 

 会場が大盛り上がりするなか、スピカは、濃いクマが出来た目を丸めて、たっぷり数十秒、呆けるしかなかった。




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2-1

 君の知らないポケ物語なRTA、はーじまーるよー!

 

 前回は推薦状貰ってとりあえずチョンチーを捕まえたところまででした。

 

 それではさっそく、開会式会場であるエンジンシティに向かいましょう。そしてついでにムービーオフにしておきます。ちなみにムービーオフにしてもほとんどのイベントがカットできず主にホップ君のせいでテンポが悪いで有名な剣盾ですが、こちらのゲームは原作プレイ済み向けに作られたファンゲームのため、チュートリアルイベントのようなものはないです。サクサク進められますが、休憩時間がないのがRTA的にまず味ですね。

 

 

 エンジンシティに向かうルートですが、第二鉱山ルートで進みます。廃人ロードこと5番道路を通る方が野生ポケモンが弱くて安定するのですが、第二鉱山経由の方が近いので。それに今回はなんと同じチャレンジャーであるオリヒメちゃんが幼馴染であり一緒なので、彼女に大体のことを任せればここも大丈夫です。

 

 オリヒメちゃんですが、どうやら去年もジムチャレンジに出場して、バッジも二つまでは手に入れて、鬼門の三つ目が取れずに時間切れを迎えたそうです。だから、こうして第二鉱山ルートを選べるんですね。

 

 ちなみにこういった旅のサポート枠がいない場合は、素直にターフタウンルートを使います。

 

 オリヒメちゃん、原作の台詞だと、主人公たちと同じく初参加だったはずなんですけど……プレイヤーキャラが幼馴染として追加された影響で、何か変化が起きたのかもしれませんね。このゲームはプレイヤーによる原作からの変化を読み取ってAIがある程度色々改変してくれるんですよ。凝ってて嬉しいですけど、こういうランダム要素はチャートの敵なのでやめてほしいですね……。

 

 

 

 さて、エンジンシティにつきました。ここで初のトレーナーバトルが始まります。

 

 

 

 今回のパターンだと……ああ、やっぱり、オリヒメちゃんと戦いますね。

 

 

 

 オリジナルモブルートの場合、ここで原作モブチャレンジャーの誰かと戦うことになります。今回の場合は、チャレンジャーの先輩であるオリヒメちゃんが手加減して相手してくれるみたいですね。まあ一緒にいるからそりゃそうですよね。

 

 あ、そうだ(唐突)

 

 このモードは強制的に「かちぬき」戦闘です。まあRTA的にはどうせ「かちぬき」にするので、最初から勝手になっててくれるのは嬉しい……かというとそうでもないんですけど……。

 

 それはさておき戦闘!

 

 一匹目のコイキングはキャモメの「でんこうせっか」でしばいて、二匹目サシカマスはチョンチーに交代して「エレキボール」(クソザコ威力)、三匹目のシズクモはチョンチーとキャモメの二匹がかりでなんとか突破。これで終わり、閉廷!

 

 去年に二つ目のバッジまで手に入れてるので本来圧倒的な格上ですが、今回は手加減してくれてレベル低めになってます。本気出せば、10台後半ぐらいのレベルですかね?

 

 

 さて、ではホテルスボミーインにお泊りして、開会式を迎えましょう。原作で主人公とホップ君は別室でしたが……今回はオリヒメちゃんと同室ですね。チャレンジャーは別室でも同室でもタダなんですけど、これはスピカちゃんのキャラ設定のせいですね……。

 

 

 はい、開会式のムービーはスキップされます。

 

 

 

 それではジムチャレンジに、イクゾー!(デッデッデデデデン!)

 

 

 

 そして始まってすぐ、3番道路に向かいましょう。そしてその道中でポケモンセンターに寄って、技マシン「まもる」を購入します。ほぼ全財産失いました。そして両方のポケモンに覚えさせましょう。

 

 では改めて3番道路に向かいまして、元気の欠片だけ拾ったら……ガラル鉱山入り口で、のちにエンディングで負けることになるホップ君との戦いになります。

 

 ここのホップ君の手持ちですが、原作とレベルが違っていて、必ずこちらの最大レベル+1で、御三家については+2になってます。主人公やネームドと、ザコモブたちの間の「才能」の差が必ず示されるようになってるんですね。ちなみにここまでの間に頑張ってレベル100にすれば同じレベルで戦うことができます。

 

 

 とはいえこちとらプレイヤーキャラクターです。ここで勝利をもぎ取りましょう。

 

 まず先頭のウールーは、先頭にしてたチョンチーで「でんじは」のち「バブルこうせん」で、続くココガラは「エレキボール」で倒します。

 

 バウタウンスタートが運が良いと言ったのはここが理由です。水タイプは水タイプに弱い(哲学)のですが、電気タイプでさらに「でんじは」をすぐに覚えるチョンチーが速攻で手に入るからなんですね。ちなみにバウタウン以外スタートだったら、ワイルドエリアで狙うことになります。

 

 

 

 

 さあ、ここが最大のリセポイント。ホップ君の御三家です。

 

 

 

 

 出てくるのは……ッシャアアアアア! ヒバニーだあああああ!!!

 

 

 

 

 

 ここが序盤最大の運ゲーリセットポイントでした。ホップ君の御三家、すなわち主人公とダンデの御三家は、完全ランダムになってます。ホップ君とはラスト以外にも何回か戦うことになるので、一番強い御三家が炎タイプだと何かとやりやすく、逆にメッソンやサルノリだったら安定どころか普通に勝つのすら難しいので、ヒバニー以外だとリセットなんですね。

 

 最初に持ってる特性が「観察眼」みたいなゴミでもとりあえず続行したのはここが理由です。この非情な三分の一ガチャを当てなければクリアすら難しいので、試行回数を稼ぐしかなかったんですね。RTAは試行回数が大事ってそれ一番言われてるから。

 

 

 ヒバニーはエースなのでだいぶ強いです。チョンチーとキャモメの二匹がかりで突破しましょう。よし、勝ったぜ!!!

 

 

 

 原作と違ってここは別に負けても全回復してもらえてストーリーが進むのですが、やはり序盤の経験値は大事ですからね。

 

 そういうわけで、タイプ相性の差でなんとか勝ち! なぜか有利なのに「なんとか」勝ちなんですけどね……。

 

 

 あ、そうだ(唐突)

 

 今こちらは二匹で挑みましたが、もっと数増やせばええやろって思ったかもしれませんね。

 

 ポケモンの世界には、手持ちポケモンを多く持てるトレーナーはすごいって話がありましたね。レジェンズアルセウスの先輩(テル先輩かショウ先輩かは人による)が「六匹持つなんて考えられない(要約)」と言ってましたが、この世界でもおおむねそんな感じです。あの時代だからこそ「考えられない」ですが、今の時代だと「六匹持つのはとてもすごい」って感じですね。

 

 当然、原作モブ未満のオリジナルモブごときがそんな才能をいきなり持ってるわけありません。バッジの獲得数に応じて、手持ちの数に制限があります。

 

 まずバッジ一つまでは手持ち二匹まで。そこからは、三つ目獲得までは四匹まで、六つ目までは五匹まで、となっています。だから、最序盤で手持ちの種族値も技も貧弱な中、たった二匹で格上三匹に挑む羽目になったんですね。

 

 

 

 さて、ガラル鉱山と4番道路をトレーナーを確実に避けながら駆け抜けましょう。ここは絶対に避けてください。無駄トレは、みなさんが想像している以上に無駄トレです。理由は後述。

 

 あ、そうだ(唐突)

 

 ガラル鉱山の中には元気の欠片が二つ落ちてるので拾いましょう。それと余談なのですが、このモードはプレイヤーは所詮「モブ」なので世界が優しくありません。落ちているものは、原作でモンスターボールの形で表示されているものは拾えず、原作で光っていた通称隠しアイテムだけしか拾えないです。ちなみにこんな感じの強制地獄縛りマシマシなので、折を見て解説していきます。

 

 さて、そんなこんな言っている間に……着きました! 最初のジムがある町、ターフタウンです。さっそくジムに挑んでいきましょう。

 

 

 まずジムミッションをこなさなければなりません。一応先頭をキャモメにしておいて、ウールーの誘導をしていきます。まあでもここは簡単ですね。トレーナー避けも楽勝! ワンパチ? ふん、雑魚が。なんか犬っぽくねえよなあ(イヌヌワン!)

 

 

 

 さて、一人目のジムリーダー、ギエピーたちの名セリフことヤローさんに挑みましょう。

 

 

 

 

 

 

「ミッションをこんな速く抜ける子が今日は三人かあ。今年のチャレンジャーたちはすごいのう」

 

 

 

 

 

 ちなみにジムミッションを一定時間内にクリアすると、こんなセリフが聴けます。このプレイヤーキャラを除く二人とは、プレイヤーより先に挑んだ主人公とホップ君ですね。

 

 このゲームはこんな感じで、常に、主人公とホップ君が先行して、それを追いかける形になります。それは今みたいにRTAの爆速進行でも変わりません。あの二人は「英雄」たる才能に溢れていて、モブごときとは別世界にいるわけです。

 

 気づいた方もいるかもしれませんね。スボミーインでエール団のイベントもなく、ガラル鉱山でビート君とも戦いませんでした。あれら原作のイベントは、プレイヤーの前にさっさと主人公が片づけた、ということです。

 

 あ、ちなみに普通ぐらいの速度で進めて行くと、このターフジムの時点で、ビート君とマリィちゃんにも抜かされている描写が入ります。

 

 

 

 

 

 

 まあそれはそれとして、最初のジム戦を……デュエル!

 

 

 

 

 

 

 まずヤローさんが出してきたのは、ヒメンカ・レベル18です。

 

 はい、ここでマニアな皆さんは不思議に思いますよね?

 

 原作におけるここのヒメンカは、レベル19でした。原作より下がってます。

 

 弱いモブだから、ゲーム製作者が簡単モードにしてくれた?

 

 

 

 

 いいえ。このゲームの作者は鬼畜です。

 

 

 

 

 このゲームのポイントとして、ボスクラスの相手の手持ちは、「こちらの最大レベル+一定数字」のレベルになるように設定されてます。先ほどのホップ君もそうでしたね?

 

 ジムリーダーの場合は、「初挑戦時のこちらの最大レベル+3」を最低ラインとしています。切り札とかはもっと上になりますね。逆にジムリーダーは手持ちレベルを固定にしなければならないルールの世界観なので、一度挑戦してしまえば、そのあとはずっとそのレベル固定です。通常プレイではさっさと一度挑んでレベル固定してから、こちらのレベル上げをする、という流れが普通です。

 

 こんな具合に、主人公と違って、「モブごときには、ジムリーダーの壁は厚くて高い」ということが、システムによって表現されてるわけです。

 

 

 ここまで手持ちが貧弱なのにトレーナー避けをしてレベルを上げなかったのはこのためです。レベル上げをすればするほど相手が強くなるから、時間をかけて上げる意味がないってことなんですね。だから、初挑戦前のレベル上げは「覚えたい技or進化」までを目標とします。

 

 今回のチャートは、強制戦闘のホップ君戦に無理やり勝利して、キャモメのレベルを15まで上げました。ここまで上げれば、タイプ一致飛行技「つばさでうつ」を覚えます。だから、ホップ君に勝ってあとは戦闘を避ける必要があったんですね。

 

 

 

 さあ、わざわざ低速にしてそんな説明をしている間に、ゲームの方はヒメンカを倒して、ワタシラガ・レベル19へと進みました。

 

 相手はここでダイマックスしてきます。

 

 それではこちらもダイマックスして…………

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ダイマックスできません(デデドン)

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 大きくなれないとかEDかよって話なんですが、ここで原作を思い出してください。

 

 クリア後のトーナメントやバトルタワーで、モブたちはダイマックスを使ってきましたか?

 

 使ってきませんでしたね?

 

 そもそもダイマックスは願い星を持っていないとできません。そして願い星は、主人公やホップ君のように、ネームド補正のかかった、運命によって決められた「特別なキャラ」にしか降ってこないのです。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 モブごときにそんなの現れるわけないだろ、いい加減にしろ!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 というわけで、なんと、ダイマックスは絶対に使えません。相手はダイマックスを使えますが、こちらは小さいまま戦うことになるんです。

 

 さあ、これでこのモードのやばさが見えてきましたね?

 

 手持ちには制限がある。ボス敵は基本的にレベルで格上。特別なアイテムが貰えるイベントも全部主人公たちに先行されて終わってる。ダイマックスも使えない。

 

 そう、このモードは……

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 …………主人公補正なんざ全く存在しない、ウルトラハードモード剣盾というわけなんです!!!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 さすがファンメイドポケモン、古の改造ポケモンからの伝統で、鬼畜難度になっています。

 

 しかしこちとらRTA走者、そんな無慈悲な世界にもめげず、タイムのために、全てのジムを初チャレンジでクリアして見せましょう。

 

 さあ、皆さんに熱く語りたかったがために止めておいたゲーム画面を動かしましょう!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 まずは小さなキャモメがダイソウゲンを受けて……死にましたー↑☆

 

 続いてチョンチーを出して、グラスフィールド込みタイプ一致抜群ダイソウゲンを受けて……死にましたー↓☆

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 そうしゃは めのまえが まっくらになった

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 は?

 

 ガバじゃん

 

 リセしろ

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 こんなコメントが流れてくることが予想されますが、実はこれ、ちゃーんと、チャート通りです。

 

 なんでそうなるかというと……今回はここまで。ご視聴、ありがとうございました。




「四人目のセミファイナリスト編」②
プレイヤーキャラはあくまで「モブ」であるため、原作にあった様々なプレイヤー有利なシステム(=主人公補正)が排除されている。
手持ちの数がバッジ数に応じて制限される、ダイマックスが使えない、道具入手・使用に制限がある、など。ハードモードの剣盾と言えるシステムになっている。
ただしセミファイナルトーナメントにエントリーした時点でクリアであり、原作でそれ以降に戦うボスたちとは戦わなくても良い。

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2-2

 いきなりジムチャレンジ推薦状を貰ったスピカの旅立ちは、慌ただしいものとなった。

 

 開会式は明後日。明日には旅立ってエンジンシティに前日入りしなければならない。

 

「全く、なんでこんな急に……」

 

 薄暗い第二鉱山を、地元ブティックで急いで揃えた旅用の服・道具で身を包んだスピカが、ぶつくさ文句を垂れながら進んでいく。

 

 服や道具以外にも、いろいろ準備が必要だった。

 

 大学には休学申請をしなければならなかった。とんでもなく急な話なのに、推薦状を見せたら一瞬で申請が終了した。これはこれで大学としてはどうかと思う。

 

 家もしばらく空けるから、変な虫が湧かないようにそれなりに整理整頓しなければならず、戸締りや電気もしっかり確認が必要だ。

 

 また、キャモメ一匹では何かと不安なので、バウタウン出身者全員が得意とする釣りを駆使して、よく知っていてかつタイプ的にもバランスの良いチョンチーを捕まえた。

 

「もう始まっちゃったんだから文句言わないの」

 

「誰のせいだと思ってるんだ……」

 

 隣を歩くオリヒメは、スピカと違って上機嫌だ。第二鉱山の野生ポケモンはスピカにとっては危険だが、オリヒメにとっては奥まったところにいる「ヌシ」のようなものでなければ問題ない。

 

 そう、事の発端はオリヒメだ。

 

 いきなり大会に参加させられ、推薦状をルリナ直々に、衆人環視の前で渡された。ここで断ったら、ルリナの顔に泥を塗ることになる。

 

 そしてすぐ後に判明したのが、ここまでもオリヒメの仕込みだったということだ。

 

 曰く、裏でルリナにスピカを紹介し、もしお眼鏡に適ったら推薦状を渡してほしいとお願いしたらしい。

 

 そしてなぜか分からないがルリナの満足いく腕に見えたようで、見事推薦されたというわけだ。たとえお願いがあろうと彼女は自分が認めたトレーナーでなければ推薦状を渡さないだろう。ここは間違いなく、ルリナ本人の意志だ。

 

「前からずっと思ってたんだよね。スピカちゃん、絶対ポケモンバトル強いもん。もったいないじゃん」

 

「…………本当にそうか?」

 

 同級生とのお遊びバトルではほぼ負けることはなかったし、トレーナーズスクールでも頻りに先生からトレーナークラスに移籍するよう言われていたし、何よりもオリヒメから事あるごとに褒められてきた。

 

 生まれてこのかた、真面目にバトルに向き合ったことはない。それでもこれだけの経験があるから、人よりは才能があるとは思っていた。

 

 だが、年下のオリヒメをずっとそばで見てきて、彼女の才能には絶対に敵わないと知っている。そのオリヒメですら、初チャレンジとはいえ去年はバッジ二つで終わり、最初の鬼門を越えられず、四分の一で躓いたのだ。

 

 自分に才能がないわけでもないのだろう。だが、身近により才能とやる気のあるトレーナーがいて、その彼女ですら序盤で躓く。そんな世界に、自分が飛び込んでいる自信は、全くなかった。

 

「うん、本当だよ」

 

 二人の足音と声に反応して、コソクムシがそそくさと逃げていく。足元に気を付けていれば、マッギョに引っかかることもない。カメテテやズルッグのような好戦的なポケモンはおおむねオリヒメが対処し、その中でも弱らせたり弱そうだったりするポケモンは、オリヒメのサポート受けながらスピカが相手をする。カジリガメのような強いポケモンは隠れてやり過ごす。

 

 スムーズな対処。

 

 スピカに自覚はないが、オリヒメのサポート込みとはいえ、旅に出たばかりでこの第二鉱山でこうして安全に対処できているのは、間違いなく才能の証だ。ルリナの言う観察眼もそうだが、キャモメはもちろん捕まえたばかりのチョンチーともしっかり信頼関係が築けて、バトルに淀みがない。

 

 真っすぐな肯定が照れくさくてスピカは押し黙り、一方的にオリヒメが楽しそうにあれこれ去年のジムチャレンジの思い出を話しながら、ついに第二鉱山を抜け、エンジンシティに到着する。

 

「ふう、ようやく着いたか」

 

 スピカは張り詰めていた気分を解放する。隣にオリヒメがいるとはいえ、第二鉱山は、バウタウンで過ごす彼女にとっては、一番身近な危険地帯だ。いきなり旅立つことになり、その初っ端にそこを通るのは、やはり緊張した。エンジンシティには何回か来ているが、トレーナーでない他者と同じように、もっぱら列車でしか来たことがない。今回も列車で行こうとグズったが、「バトルの練習しなきゃいけないでしょ」と一蹴された次第である。

 

 ポケモンセンターでポケモンを回復させる。スピカはもともと究極の出不精だったこともあって運動不足であり、これだけの距離を緊張しながら歩いたので、すっかりお疲れで、回復を頼んでる間はソファで寝転んでまどろんでいた。一刻も早くスボミーインに泊まりたいところである。ちなみに別室でもジムチャレンジャー権限でなんとタダだが、オリヒメの判断で同室となった。お世話をしてくれる分には助かるので、スピカにも異存はない。依存はあるが。

 

 ポケモンの回復が終わり、いよいよスボミーインに向かう。

 

「ねえ、スピカちゃん。せっかくだからさ」

 

 だが、先導するオリヒメは、そのつもりはないらしい。

 

 ポケモンセンターを出たあたりから、彼女の雰囲気が変わっていたので、なんとなく察していた。

 

 

 

 

 

「旅立ってから初めてのバトル、しよっか?」

 

 

 

 

 

 全身からオーラをたぎらせ、可愛らしい目には獰猛な光が宿り、口元は嬉しそうに吊り上がっている。

 

 オリヒメの、いや、本格的なトレーナーが、「バトルモード」に入った証だ。

 

 

 

「…………お手柔らかに」

 

「もちろん」

 

 

 

 向かった先は、街の各所にある、バトル用のスペース。スピカは断れない。ジムチャレンジに挑む以上、ポケモンバトルをいつまでも避けるわけにはいかない。いわばこれは、「ポケモントレーナー」になるための「儀式」なのだろう。

 

 

 

 オリヒメは宣言通りに大きく手加減してくれて、さらにバトル中もいろいろ手を止めてアドバイスをくれて、わざと攻撃も受けてくれた。それでも、スピカは、なんとか勝利するのが精いっぱいだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

○○

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 スピカは目立つのが嫌いだ。それなりに図太い性格ではあるが人並みには緊張するし、注目されるということは責任を背負わされるということでもありそれが面倒くさい。そして、そうした重圧で疲れることが、何よりも嫌だった。

 

「開会式、すごかったねー!」

 

「もう何が何だか分からなくて、長かったような、一瞬だったような……」

 

 エンジンスタジアムに立っている間は、永遠のように長く感じられた。

 

 だが終わってみれば、何があったか、何を考えていたか、何を見たか、全く思い出せない。まるで時間を飛ばしたかのような、一瞬の出来事のようにすら感じる。

 

「スピカちゃんも、もう結構人気だったね」

 

「オリヒメが隣にいれば霞むと思ったんだけどな……」

 

 見た目が飛びきり可愛い上に素直で人当たりの良いオリヒメは、去年のジムチャレンジから、アイドル的な人気があり、またそれに近い活動をこの一年間、学業の合間を縫って少しだけやってきた。特技のダンスも、アマチュアトレーナーやアイドルとしてはレベルが高いと評判である。固定ファンもそれなりにいて、またこの開会式で新たにファンになった者もいるだろう。

 

 常識人ではないが常識的なことは十分に知っているスピカは、当然、ジムチャレンジがこのガラルのトップエンターテイメントであることも知っているし、その「主役」と言えなくもない立ち位置が自分たちチャレンジャーなのも知っている。

 

 目立ちたくないスピカは、オリヒメの隣で彼女の陰に隠れることを選んだ。

 

 だがまだまだ本業ではないとはいえアイドル的活動をしているオリヒメの手によって朝早くに叩き起こされて化粧され、髪の毛を整えられ、お洒落にアレンジされたチャレンジャー用ユニフォームに身を包まされたスピカは、生来の素材もあって、「美人のビギナーチャレンジャー」としてそれなりに注目されていた。

 

 ルリナには遠く及ばないが、その長身は人目を引くし、顔立ちは綺麗とも格好良いとも取れる程度には整っているし、スタイルも――自堕落極まりない生活をしているのに――良く、長くてすらりとした脚は特に目立つ。女性用ユニフォームはショートパンツの丈が短いが、オリヒメがスピカに用意したものはあえてのややぴっちりした長ズボンで、デニムを履く女性モデルのようにきっちりと決まっていた。

 

 とはいえ、今回初参加の新人の中で一番目立っていたのは、スピカではないのは確かだ。

 

 まず一人はホップ。スピカと同じく先日いきなり推薦を受けた少年だ。大勢の観客の前でも堂々としてはしゃぎ、開会式を全力で楽しんでいた。彼は無敵のチャンピオン・ダンデの弟で、そのチャンピオン直々に推薦を受けたというのが、すでに広まっている。

 

 そしてそのホップと幼馴染で、同じくチャンピオンから推薦を受けた少女・ユウリもまた、そのいきさつから注目を浴びていた。ホップと違ってだいぶ緊張した様子だったが、その素朴でありながらも垢ぬけた雰囲気も感じられる可愛さは、オリヒメにも負けていない。

 

「まあまあ、後半は私たちなんていないみたいな扱いだったんだしいいじゃん」

 

 推薦状を渡されてからずっと現実感のないふわふわした様子のスピカに対し、やはりオリヒメは二年目なだけあって落ち着いていた。

 

 開会式の後半。なぜか一人欠けていたが、ジムリーダーたちの入場が始まると、観客たち、そしてフィールド上のスピカたちの視線は、全て彼ら・彼女らに集まったのだ。

 

 その一人一人だけでも、サインの一つでももらえれば一生の宝物になるほどの傑物たち。このガラルを代表する、ポケモンバトルのトップトレーナーだ。その堂々とした立ち居振る舞いとオーラは、彼ら・彼女らの地位と実績に、これでもかと説得力を持たせる。

 

 だがそんなメジャージムリーダーたちも、最後に現れたチャンピオンの前では霞んでしまった。

 

「あのチャンピオンと戦うこともあるのか……」

 

 トッププロたちの戦いは、テレビやネットでは常に大番組として放送されており、スピカもそれなりに追いかけてはいる。だが現地観戦やイベントなどには参加したことがない。

 

 だからこそ、いきなり観客席よりも近い距離で見てしまったチャンピオン・ダンデの姿は、もはや眩しすぎてよく見えなかったとすらいえる。それでも、未だに瞼と脳裏に焼きついて離れない。

 

 ――ジムチャレンジ。

 

 ガラルリーグに参加していない「アマチュア」が、数多の試練を経て、あのチャンピオンに挑戦し、その地位を手に入れることができるかもしれない、ガラルの一大イベント。

 

 そのチャンピオンの姿を見て、ようやく、スピカは自身がその参加者になったという実感を得られた。

 

 とはいえ、良く言えば現実主義的、悪く言えば悲観主義的な彼女は、そのようなことを夢にすら思わない。今回の目標は「ルリナとオリヒメの顔に泥を塗らないように努力する」である。そういう表舞台は、それこそホップやユウリ、オリヒメのような才能あるトレーナーの特権だ。

 

 スピカの言葉に何か思うところがあったのか、オリヒメもまた、ぼんやりと口を開かない。視界の端では、特に元気そうに興奮しているホップが、雄たけびを上げながら旅立ちの一歩を踏み出し、スタジアムから出ていくところだった。

 

「…………ねえ、スピカちゃん」

 

 それをなんとなく見送っていると、オリヒメが、ようやく口を開く。そこに、いつもの素直な明るさとは違う重い何かを感じ取り、スピカは深呼吸をしてから、オリヒメの顔を見た。

 

 そのオリヒメは――顔いっぱいに笑顔を浮かべると……突然スピカの鼻先に、ビシ、と人差し指を突き立てる。

 

「今からしばらくは、あたしたちはライバル! チャレンジ中何回も会うかもだけど……セミファイナルトーナメントでも、絶対会おうね!」

 

 その笑顔は固い。きっと自分も今笑おうとすれば、同じような顔になるだろう。

 

 緊張。不安。弱気。そして何よりも、論理的な帰結としての、「それは無理だろう」という妥当な予想。

 

 それと一緒に、今まで戦うことのなかった幼馴染関係に、初めて「ライバル」という要素が加わった。

 

(…………なんだか、すっかり大人だな)

 

 それでもオリヒメは、可愛らしい顔いっぱいに笑顔を浮かべて、こう宣言して見せた。

 

 自分よりもはるかに立派な子だが、今この瞬間、特にそう思った。

 

「ああ、そうだな」

 

「じゃあ、あたしは先に行くね! 最初はターフタウン! ここから西のガラル鉱山を通るのが近道だよ! アーマーガアタクシーとかでズルしちゃだめだからね!」

 

 オリヒメは居ても立ってもいられないのだろう。まくしたてるようにそう言い残して、スタジアムから去っていく。

 

「……行くか」

 

 その背中が見えなくなってから、スピカもようやく、チャレンジャーとしての一歩を踏み出した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

○○

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「お姉さん、チャレンジャーだよな!?」

 

 3番道路を抜け、ガラル鉱山に入ろうかというところ。

 

 そこにはホップがいて、偶然目が合い、声をかけてきた。

 

「……そうだが?」

 

 彼は最初に駆け出したはずだ。なぜ一番最後に出た上に、色々寄り道していた自分が、彼に追いついているのか。あと三十人程度のチャレンジャーがいるなかで自分を認識していたのが不思議だった。

 

 よもや、ここでチャレンジャーに片っ端から話しかけているのか。そう思ったが、それができるほど落ち着いた性格には見えない。事実、スピカとは対照的な、光り輝くほどの元気オーラを放っている。

 

「やっぱそうだよな! 一人だけ長ズボンだったから印象に残ってたんだ!」

 

 そういえばそうだったかもしれない。

 

 自分のためだけに気合を入れて特別なユニフォームを準備していてくれたのは嬉しかったが、こうなると、あの可愛い幼馴染への恨みが募る。もしかしてこれからあれを着るたびに目立ってしまうのだろうか。

 

「よし、チャレンジャー同士が会えば、もうやるしかないな! バトルだ!」

 

「ちょっ!?」

 

 ホップがボールを構え、距離を取ってくる。

 

 やはりポケモントレーナーはバトルとなると血の気が多い。スピカは呆れながらも、気持ちを切り替え、チョンチーを出す。

 

「行け! 俺の相棒、ウールー!」

 

「バトルだ、チョンチー」

 

 腰に下げていたボールは三つ。相棒らしいウールーはバトルのやる気満々で、ホップとの信頼関係がその立ち居振る舞いからうかがえる。今年初めてチャレンジャーになったビギナーだというのにこれは、チャンピオンの弟の名に恥じない「才能」が垣間見えた。

 

「『でんじは』」

 

 手段を選んでいては勝てない。

 

 スピカが初めてのジムチャレンジで初めてのバトルで選んだ技は、まさかの、相手を状態異常に陥れる変化技だった。




「マイナージムリーダー下剋上編」
マイナージムリーダーからスタートし、メジャー昇格、チャンピオンへの挑戦、チャンピオン就任を目指すモード。
原作の3年前からスタートし、原作主人公が絶対にチャンピオンになってしまう年までに、ダンデを倒してチャンピオンになればクリア。
ゲームシステムはパワプロのサクセス風。原作キャラやオリジナルキャラとの恋愛を楽しめる。


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2-3

「うおお、お姉さんすごいぞ!」

 

「……どうも」

 

 少年は元気に跳ねまわり、女性はげっそりとしている。

 

 両者の間の勝敗は目に見えて明らか……ではない。

 

 少年ホップが敗北し、スピカが勝利したのだ。しかも、ホップはポケモンを三匹使い、スピカは二匹だけで。

 

 それで両者の間に実力差があったかと言うとそうではない。トレーナーとしての指示の素早さや反応速度、状況への対応、ポケモン自身の練度、その全てがホップが上回っていた。ただ少しばかり、スピカの頭が回り、作戦がハマったに過ぎない。

 

 そうしてスピカは、未熟な少年相手に、自身も超ビギナーだというのにいきなり搦手を駆使してなんとか有利な状況を作り出して勝利を収めた。

 

「お姉さん、ポケモンバトルの経験とかあるのか!? 去年のジムチャレンジにはいなかったと思うけど」

 

「子供のころにやったきりだな。ここ三日間で急に三回も戦うことになったが」

 

 自分からバトルを吹っかけたから、ということで、傷ついたポケモンをホップに回復してもらってる。元々遊ぶ金が欲しくなったらアルバイト、というだらけた生活を送っていた中で、急な旅立ちのために入用なものを買い、さらに途中ポケモンセンターでとんでもなく高い買い物をしたせいで、傷薬などは全く持ち合わせていない。一応大人の年齢だが、子供に道具をおごってもらった形になり、どうにもきまりが悪かった。

 

「それなのに、タイプ相性もばっちりだし、もう『でんじは』とかも上手に使ってるのか!? すごいぞ!」

 

 タイプ相性はポケモンバトルの基本だが、いかにも生物らしく、複雑極まりない。そのうえ、普通に生活していたら見たことないポケモンの方が大半であり、タイプが分からないということもある。

 

 だが、スピカは、ココガラにもヒバニーにも、きっちり弱点を狙って戦いを組み立てていた。およそ初心者とは思えない。

 

「……なんとなく、勘が当たっただけだよ」

 

 オリヒメといい、なんでこうも人を真っすぐに褒めることができるのだろう。ひねくれもののスピカは、照れてしまい、回復してもらったポケモンを受け取りながら、ぶっきらぼうに答える。

 

 ココガラは羽根で飛んでいたから飛行タイプ。ヒバニーは赤かったのと、あとホップが出した時に燃える炎が云々と言っていたから炎タイプ。こんな程度の予想でしかない。

 

 とはいえ、バトル中に一瞬でそこまで気づいてタイプ予想を立てるのは、いざとなると難しい。

 

(ルリナさんやオリヒメが言ってた観察眼ってやつか?)

 

 まさかな。

 

 自分にそんな才能があるわけない。

 

 真に才能があるというのは――

 

 

 

 

 

 

 

 ――きっと、この少年のことだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 チョンチーが倒され、キャモメも満身創痍。スピカの勝利はギリギリだった。

 

 ウールーとココガラを倒したもののすでに傷ついていたチョンチーは、かろうじて一太刀入れたがヒバニーに倒された。そしてキャモメも、ヒバニーに倒されそうになった。

 

 ――有利な水タイプ二匹がかりで、ようやくギリギリ倒せた。

 

 お互いに初心者だというのに、ホップはすでに、この瞬間に限っては、スピカのはるか上を行っていたということに他ならない。

 

「さすが、無敵のチャンピオンの弟ってところだな」

 

 スピカの何気なく漏らした一言に、意外にもホップは何か騒ぐことなく、笑みを浮かべて頷いただけだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

○○

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ホップとの戦いですっかり疲弊したスピカは、そこからトレーナーの視線を巧みに避け、野生ポケモンとの戦闘を最小限に抑えながら、ターフタウンへとたどり着いた。戦闘を避けながらゆっくり進んだせいか、自分の後を追う形になったホップにはもう抜かされたらしく、その元気そうな声が進行方向の遠くから聞こえたりもした。

 

(初日に挑むのが定番、らしいからな)

 

 ジムチャレンジの様子は、オリヒメが出ると言うので、去年テレビで何回か見た。

 

 ジムチャレンジャーは結局のところアマチュアだ。だが、そんなチャレンジャーが、いきなりあんな大舞台で、あれだけの観客に囲まれながら、憧れのトッププロの胸を借りてバトルすることになる。そのある意味での地獄に、初日から慣れておくべし、ということらしい。

 

 スピカはそのまま真っすぐターフジムへと向かう。チョンチーもキャモメも、ホップに回復してもらってから傷ついてはおらず万全だ。

 

(相手は草タイプ。いきなり鬼門だが……)

 

 チョンチーは相性最悪だが、それなりに耐久力はある。一撃耐えて「でんじは」を入れるぐらいはできよう。そして一番信頼できる十年来の付き合いのキャモメは、飛行タイプも持っているから、対等以上に戦えるはず。

 

 初めての大舞台。まさかそこに、自分が立つことになるとは思わなかった。

 

 去年のテレビに映った光景を思い出し、足がすくみながらも、受付を終え、例の目立つユニフォームに着替え、チャレンジに挑む。

 

 とはいえ、いきなり戦うのではなく、各ジムごとにミッションがあり、それをクリアすることが必要だ。バトル以外にも、「トレーナー」として必要な素養がある、ということだろう。

 

 何十匹もいるウールーを追いたてて転がし、所定に場所に導く。途中でジムトレーナーやワンパチの妨害があり、それを避け、失敗しても諦めずに何度も挑み続ける力が試されるのだ。

 

 ――この初めてのミッションは、拍子抜けだった。

 

 ウールーたちはよく飼いならされており、ヤンチャだったり変なことをしたりする個体は一匹もいない。全員が、状況に合わせて画一的に動いてくれる。

 

 それさえわかれば、どのようなときにどう動くか確定するわけだから、あとはじっくり観察して方法を定めたら、誘導するのは簡単だった。妨害役のワンパチやジムトレーナーも努めて機械的・周期的に走り回ったり見まわしたりするだけであり、意地悪などはない。

 

 そうして、意外なほどにスムーズに、初めてのジムミッションをクリアした。最初だから、きっと簡単に作られてるのだろう。

 

 

 

「……ついにか」

 

 

 

 そうして案内されたのは、スタジアムの、チャレンジャー用の入り口。大観衆の地響きのような歓声がここまではっきり聞こえてくる。

 

 ――そしてそれ以上に、自分の心音も。

 

 現実感のない、ふわふわした感覚が、また蘇ってくる。

 

 だが、深呼吸をして、それを抑え込み、光が漏れる出口を睨む。

 

 オリヒメの顔に、泥を塗るわけにはいかない。

 

 

 

 

 

 

 

 

 ワアアアアアアア!!!

 

 

 

 

 

 

 

 

 意を決してスタジアムに足を踏み出すと、熱狂した観客たちの歓声が爆発する。それに心臓が跳ね上がり、脚が止まりそうになるが、気合で最初の一歩を乗り越え、視界の端で誘導してくれる審判に従い、真ん中へと歩みを進める。

 

 喉が張り付いたように渇き、全身から汗が吹き出し、手足が震え、暑いのか寒いのか分からない。今までとにかく面倒なことや疲れることから逃げ続けてきた。こんな大舞台に立つのも、こんな感覚も、初めてのことだ。

 

「やあ、今年のチャレンジャーたちは優秀だなあ」

 

 ゆえに、視野狭窄に陥っていたスピカは、いきなり近くで聞こえた声に、ひどく驚いた。

 

 跳ね上がるように視線を上げ、声の主を睨む。そこには、柔らかな笑顔を浮かべた筋骨隆々の青年が、腕組みをして立っていた。

 

 こんな巨体にすら気づかないとは。スピカは思わず見上げ、それから一歩後ずさる。半日前に見た時よりも、さらに近い距離。

 

 ――ガラル地方のトッププロの一角・ジムリーダのヤローだ。

 

「あのミッション、最初だからそれなりに簡単に作ってるけど、今日は君含めて三人も、一回もミスせずに抜けてきたんだあ」

 

 先行してるはずのオリヒメは多分どこかでドジをしただろう。あの子はそういう子だ。そこがウケてアイドル的活動で来てるフシもある。

 

 ホップはきっとノーミスの一人だ。ウールーのことをよく知っていそうだし、どのポケモンともすぐ友達になれそうだ。

 

「……そうですか」

 

 何か気の利いた返事は出来ない。スピカの返事はぶっきらぼうで、失礼と捉えられても仕方ない。だがヤローは緊張でこうなるチャレンジャーには慣れたもので、何も言わず、笑顔で頷いた。

 

「さあ、ジムチャレンジは始まったばかり」

 

 審判員の指示に従い、お互いに背を向けて離れ、向かい合う。ヤローはなおも優し気に笑顔を浮かべたまま、語りかけるようにゆっくりと口を開く。

 

 

 

 

 

 

 そして、その巨体から、急に威圧感が噴き出した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「でも、簡単に負けるつもりはないぞお」

 

 

 

 

 

 

 

 

 ジムリーダーのヤローが、勝負を仕掛けてきた!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「――っ! バトルだ、キャモメ!」

 

 ルール上は同時だったはず。

 

 だが、まるで追い立てられるように、ボールを投げてしまった。本能が、まるですがるように、最も信頼するキャモメを選んだ。

 

(大丈夫、元々キャモメが先発の予定だ。ダイマックスを使ってくるのも知っている。こっちが一方的に使えないのは不利だが、それはオリヒメたちも同じ!)

 

 心の中で自分に言い聞かせながら、ヤローが出したヒメンカを睨む。

 

 ジムリーダーは本気ではない。ジムチャレンジ用に、大きく手加減したポケモンを使う。つまり、初心者でも勝てるように強さが設定されているはずだ。相手はトッププロだが、委縮する理由はない。

 

「『つばさでうつ』」

 

 キャモメは素早いポケモンだ。明らかにヤローのヒメンカのほうが鍛えられているが、先に動くことができた。

 

 先制で効果抜群の攻撃。大丈夫、戦えてる。ヒメンカもかなり痛そうにしている。

 

「タイプ相性は覚えてる、なるほどなあ。ヒメンカ、『このは』!」

 

 草タイプの基本的な技。飛行タイプを含むキャモメなら大丈夫なはず。

 

 だがその威力は、スピカの想像をはるかに超えていた。タフネスが弱いキャモメは、効果抜群の技を食らったヒメンカと同じぐらい、大きく弱ってしまう。

 

(なんて威力だ!)

 

 鍛え方が違う。対初心者用のポケモンでこれなのか。

 

 スピカからさっと血の気が引く。選ばれたトレーナーだけが挑めるジムチャレンジを、はっきりいって、ナメていたのだ。

 

「『つばさでうつ』!」

 

 それでも、スピカは心折れずにキャモメを信じて指示を出す。バトルに慣れておらずこの痛みも辛いだろうキャモメは、スピカの指示に応えて、その細い翼を精いっぱい振るい、ヒメンカをダウンさせた。

 

(残り一匹!)

 

 この調子なら。

 

 数的有利を取った。キャモメは大きく傷ついたが、飛行技が大きく有効なのは間違いない。

 

 次は最後の一匹のはず。ダイマックスが来る。

 

 大丈夫、予定通りの動きをすれば。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「さあダイマックスだ! 根こそぎ刈りとってやる!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 だがその直後、スピカの心は、折られた。

 

 ヤローが出したワタシラガは、先ほどのヒメンカの比ではない強さだ。縄張りの主の如く振舞っていた明らかにレベルの高い3番道路のアオガラスの比ではない。第二鉱山で最初から挑む気すらしなかったカジリガメと同じ強さにすら見える。

 

 しかもそのワタシラガが――巨大化(ダイマックス)したのだ。

 

「な、な……」

 

 ダイマックス。存在は知っている。テレビで何度も見た。生でも一回だけ見たことがある。

 

 だが、彼女は、ダイマックスと戦ったことはない。

 

 その威容を見上げ、完全に気圧される。

 

 戦いはまだ終わってないが、もう終わったも同然。

 

 完全に、「格付け」が終了した。

 

 こんなの、準備していた作戦なんて、全く意味がない。

 

 

 

 

 

 

 

 スピカが呆然としている間に、ダイソウゲンを二回撃たれ、一瞬にして、彼女の初めてのチャレンジが終わった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

○○

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「す、スピカちゃん……?」

 

 何が起きたのか分からないまま、とりあえず反射的にヤローにお辞儀をして、ふらふらとした足取りでジムを出て、ポケモンセンターにキャモメたちを預けた。

 

 その回復を待っている間、スピカは、ぼんやりとソファに座って、抜け殻のように背もたれに身体を預けていた。

 

 自分のチャレンジもあるというのに親友のデビュー戦をどうしても見たくて、ジムミッションからずっと観客席で見守っていたオリヒメは、心配になってここに駆けつけた。去年あれだけ苦労した最初のバッジを早々に初回でゲットした嬉しさは、今や吹き飛んでいる。

 

 そこで、放心状態のスピカの姿を見つけ、戸惑いながら話しかける。

 

「…………ああ、オリヒメか」

 

 だらけきった寝起きの時よりは反応がよい。だが、目を開けてしっかり起きていたにしては、あまりにも気づくのが遅かった。

 

「負けたよ。惨敗だ」

 

「え、えっと……」

 

 いつも覇気がない顔には、今や生気すら見えない。

 

「どうすればいいのか、全く分からなかった。トレーナーとしての腕は完敗なのは当然として、ポケモンの鍛え具合も全然違う。それにあのダイマックス……あんなのと、オリヒメたちは戦っていたのか」

 

 茫然自失。思い浮かぶ言葉で例えるならそんな状態。

 

 だが、スピカの口からは、彼女の考えてることが、平坦な早口で矢継ぎ早に紡ぎ出されている。

 

「事前に作戦は考えてきてた。今私ができる最善だ。キャモメは有利なはず。チョンチーだって仕事はあった。だけど、それは全部無駄だった。弱い。私も弱いし、キャモメたちも弱い」

 

 異常。

 

 壊れた機械のように淡々と、抑揚もなく、まるで無造作に長い長い一本の線をボールペンで引くように。

 

 いつものスピカを知るオリヒメからすれば、今目の前にいる人間が、ずっと一緒にいた姉のような親友とは思えなかった。

 

 抑揚はいつもないほうだが、一本調子ではない。口数は少なく、気だるそうに呻くように緩慢に話す。それがいつものスピカだ。

 

「スピカちゃん!」

 

 居ても立ってもいられず、オリヒメはスピカの隣に飛び込むように勢いよく座り、その両肩を掴んで激しく前後にゆする。

 

「しっかりして! 今は考えるのは止めよう!?」

 

 いつの間にか目にたっぷりとたまっていた涙は、すでにあふれ出している。

 

 スピカがこうなったのはなぜか。ジムチャレンジでいきなり全く手も足も出なかったから。

 

 では、そんな世界に彼女を叩き落としたのは誰だ。

 

 ――オリヒメだ。

 

「ごめん、ごめんね、スピカちゃん……」

 

 揺する力はだんだんと弱くなる。そしてついにそれは止まり、引き寄せる勢いで、その胸に顔を押し付け、抱きしめる。

 

 ――オリヒメは心が強い方ではない。

 

 去年のジムチャレンジも、ボールの中の仲間(ポケモン)たちはやる気に満ち溢れていたのに、オリヒメ本人は、開会式の前から「ビビッて」いた。いざ開会式が終わるとその熱気に当てられ、「勝利して皆を興奮させちゃう!」と張り切ったが、初めてのジム挑戦の前には未知のジムミッションに足がすくんだ。

 

 そして、今年と同じウールーを誘導するミッションに盛大に失敗したのだ。

 

『ヤローさん意外と意地悪かも……』

 

 のちのジムミッションに比べたら簡単に作られていたが、初めてのそれに、心折られたときの自分の独り言が思い出される。

 

 ――そして今年。

 

 そんなジムミッションを、スピカは、初挑戦で、しかもノーミスでクリアした。

 

 観客席から見える巨大モニターでその様子を見ていた彼女は、盛り上がる観客たち以上に喜んでいたが、しかし驚きは少なかった。

 

 このジムミッションは、「ポケモンと向き合う」という、ポケモントレーナーに最も重要な素養が試されている。その点で言えばスピカは、昔から、周囲には並ぶ者がいなかった。だからこそ、自信を持って、ルリナに推薦するよう頼んだのだ。

 

 去年の自分よりも、ずっとポケモンと向き合えている。

 

 ……だがそんな彼女ですら、ジムチャレンジの洗礼に飲み込まれた。

 

 大好きな親友にこれほどのショックを与えてしまったのは、ほかならぬ、オリヒメだ。

 

「……なあ、オリヒメ」

 

 数十秒後。

 

 ぐすぐす泣くばかりで何も話せなくなったオリヒメに、スピカが、精魂枯れ果てた声で、絞り出すように話しかける。惨敗のショックでぐるぐると高速で駆け巡るマイナス思考が、オリヒメに揺すられたことで、ようやく途切れた。その声は未だ一本調子で平坦だが、いつもの緩慢で気だるそうな話し方に戻っている。

 

「去年のお前も、こんな気持ちだったのか?」

 

 ジムチャレンジの様子をテレビで追いかけていたから知っている。

 

 オリヒメは、最初のジムから躓いていた。なにせ、ジムミッションすらろくにクリアできなかったのだ。そしてヤローに挑むところまでこぎつけても、何回か負けている。

 

「…………どうなのかな。確かに悔しくて、ショックで、一晩中泣いちゃったけど…………」

 

 果たして今のスピカほどに、魂を失っていただろうか。

 

 結局最後はどうにか勝って、当時二番手だったカブにもなんとか勝った。三番手のルリナには歯が立たずそこで終わってしまったが、最終的には良い思い出だった。だからこそ今年も参加し、そして信頼する親友を誘った。

 

 だが、思い出してみれば、最初はとても辛かったのだ。そしてスピカは、もしかしたら自分以上に傷ついている。

 

「そうか。オリヒメは……ここから、再チャレンジしたのか」

 

 スピカが思い出すのは、ジムチャレンジが終わった後のオリヒメだ。

 

 毎日のように会っていたから、しばらく会えない時間が妙に長く感じた。

 

 そうして久しぶりに会ったオリヒメは、眩しくて直視できないほどに、人間的に成長していた。

 

 こんなに辛い思いをしてもなお、挑み続けて、そして乗り越えたのだ。

 

 

 

 

 

 

 

「…………オリヒメ」

 

 

 

 

 

 

 

 だらりと力なく投げ出されていた手に力を入れる。震える腕を持ち上げ、大切な親友の背中に回し、抱き返す。

 

「私は……まだ、ジムチャレンジャーじゃなかったみたいだ」

 

「……え?」

 

 言っている意味が分からず、オリヒメは、思わず顔を上げ、至近距離で親友の覇気のない顔を見上げる。涙でぐしゃぐしゃになり、整ったメイクの崩れた、可愛い妹のような親友の顔は酷いものだったが、スピカにはなぜだか、いつもよりも愛おしく見えた。

 

「私は、『オリヒメとルリナさんの顔に泥を塗らないように』を目標にしていた。最初から、挑戦なんて気持ちじゃなかったんだ」

 

 いつの間にか、完全にいつもの話し方になっている。

 

 だがオリヒメは、抱き返されて感じる体温以上に、その言葉に、確かな「熱」を感じた。

 

「ごめん、オリヒメ。お前にも、ルリナさんにも、迷惑をかけるかもしれない」

 

 オリヒメの背中から腕を外し、代わりに両肩に手を置いて、グッと力を入れて押す。悲しみと申し訳なさと戸惑いで力が抜けていたオリヒメは、それで簡単にスピカから離れた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「決まった。私は勝ちたい。だから、今から……この『チャレンジ』を、私だけのためのものにする」

 

 

 

 

 

 

 

 

 オリヒメを残して、スピカは立ち上がる。

 

 とっくに回復は終わり、二人の様子を遠巻きに見つめて声をかけるべきかどうか迷っていたスタッフに歩み寄り、そのボールを受け取った。

 

 そして、まだソファの上でぽかんとしているオリヒメに向き直り、ボールを腰にセットしながら、深呼吸をして、宣言した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「だからオリヒメも、私を放っておいて、先に行け」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 オリヒメは驚いた顔をして、そして涙をまたボロボロと流しながら顔をゆがめると……アイドルをやっている時よりもはるかに眩しい、満面の笑みを浮かべた。

 

「――――――うん! わかった! 約束だよ、スピカちゃん! 絶対、追いついてきて!」

 

「ああ!」

 

 スピカは力強く踏み出し、ポケモンセンターの外へと出る。

 

 今から急いで鍛え直しだ、他地方のバッジ集めと違って、厳しい時間制限がある。

 

 そしてオリヒメは洗面所に向かい、あえてキンキンに冷えた水で顔を洗い、メイクを整える。

 

 オリヒメは、ポケモントレーナーで、ジムチャレンジャーで、ダンスの得意な可愛い女の子だ。こんな姿を、人に見せるわけにはいかない。

 

 

 

 

 

 

 ――そして一番好きな自分の姿で、大好きな親友を、この先で出迎えたいのだ。



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3-1

「敗北者じゃけえ」なRTA、はーじまーるよー!

 

 前回は初めてのジムチャレンジで敗北したところまででした。

 

 全部のジムを一発クリアしないとリセ。普通のポケモンRTAを知ってる方なら当然そう思うでしょう。

 

 

 ですが、前回説明した通り、このゲームはウルトラスーパーハードモードです。特に、いくらレベル上げしても相手が絶対レベル上なのと、一方的にダイマックスを使えないのが辛すぎます。

 

 そういうわけで、普通に戦ったら無理なんですね。

 

 そこで、ここは一旦、通常プレイのような進め方をします。

 

 

 これも前回お話しした通り、ジムリーダーのポケモンは、「初挑戦時のこちらの最大レベル+3」を最低ラインとするという話でした。また逆に、これ以降いくらレベル上げして挑んでも、レベルは初挑戦時で固定ということもお話ししましたね。

 

 

 

 これを利用して、初挑戦時にわざと低いレベルで挑む→レベル上げして勝利、という流れで、ヤローについては攻略します。通常プレイでもまず絶対初挑戦クリアは無理なので、一旦挑んで負けてからレベル上げをすることになります。

 

 

 

 そしてここでRTAのポイントが、「道中のトレーナーは絶対に避ける」ことです。

 

 

 

 

 普通のポケモンRTAのように、戦闘時間が長引くから避ける。それは当然です。

 

 そしてこの「四人目のセミファイナリスト編」RTAでは、さらに二つの大きな理由があります。

 

 一つ目は、初挑戦時のレベルを無駄に上げてジムリーダーを強くしないため。

 

 二つ目は、レベル上げ効率が野生より良いトレーナーを一旦敗北後に取っておくため。

 

 こうすることで、相手のレベルを低く抑え、こちらのレベルを後から上げやすくすることができます。

 

 

 

 だから、絶対にトレーナーを避ける必要が、あったんですね。

 

 

 

 あ、ちなみにオリヒメちゃんとホップ君には無理やり勝ってキャモメのレベルを15まで上げて「つばさでうつ」を覚えさせた理由ですが、一匹目のヒメンカを突破して、経験値の足しにするためです。

 

 

 

 

 さあ、では来た道を戻って、残しておいたトレーナーたちを狩りにいきましょう。

 

 目標レベルですが、「キャモメがワタシラガのマジカルリーフを80%以上の確率で2耐え」するまでです。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 つまり何レベルかと言うと……24です(デデドン)

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 この近辺のトレーナーは、良くてもレベル15やそこらが最大です。

 

 そんなのを相手に、24レべまで上げなければいけません。

 

 そういうわけで、RTAにあるまじき、長時間レベル上げ、スタート!!!

 

 

 

 こんなの見ていてもつまらないので当然早送り。

 

 まあこのレベル上げ自体は原作よりは楽です。原作と違って主人公をピンポイントで狙うかのような通せんぼは存在せず、レベル帯が上の5番道路へも出張できるからです。

 

 さて、そんなことをやってる間に、キャモメが16レべから24レべになりました。

 

 

 

 さあさあ、今度こそイクゾー!(デッデッデデデデン! カーン! デデデデン!)

 

 

 まずジムミッションは前回同様楽々クリア! トレーナーも当然……避けません!(スペちゃん)

 

 ここのトレーナーを倒すレベル上げが、最後の仕上げです。

 

 これによってキャモメは24レべから25レべになりました。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 そして、ついにペリッパーに進化しました!!!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

  はい、「キャモメがマジカルリーフ80%以上の確率で2耐え」のレベルが、ほぼピンポイントでペリッパー進化レベルなんですね。種族値も爆上がりするので、ようやくラインにたどり着いた途端急にドカンとステータスが上がる嫌がらせ仕様です。20とかで進化だったら、なんなら事前に20レべにして初挑戦突破とか出来たのに……。

 

 

 

 

 

 

 もしこれがシズクモチャートだったら、レベル上げは21まででよいです。同じようにジムミッション中にわざとトレーナーと当たり、22レべにしてオニシズクモに進化させます。一つ目のバッジゲットまでのタイムは、シズクモチャートが圧倒的に最速で、世界一位兄貴もこれです。

 

 

 じゃあなんでキャモメで妥協して走ってるのかと言うと、まあ、ホップ君御三家ガチャ外したら元も子もないから心折れてるのと、あとペリッパーはペリッパーで良い点があるからです。その理由はそのうち。

 

 

 

 はい、ではヤロー戦二度目です。

 

 やろー! さっきはよくも!!!

 

 

 

 まず一匹目のヒメンカは、爆上がりした種族値とレベルによる「つばさでうつ」で一撃!

 

 さあ、そしてついに、因縁のワタシラガです。

 

 相手がダイマックスをしてきますが、ここからが見所!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 まずは相手のダイマックス初ターンに合わせてペリッパーで「まもる」!

 

 次はチョンチーに交換してグラスフィールド込み「ダイソウゲン」を受ける! チョンチー君おやすみ!

 

 そしてペリッパーをまた出して、もう一回「まもる」!

 

 相手のダイマックスが切れたこのターンは、元気の欠片をチョンチーに使います! おはよー!!! そしてグラスフィールド込み「マジカルリーフ」を受けたペリッパー君は犠牲になったのだ!

 

 そしたらチョンチーを出してまた「まもる」! これでグラスフィールドが切れるのでペリッパーに元気の欠片! おら、さっさと起きろ!(鬼畜)

 

 で、チョンチーがここでやられてペリッパー降臨!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 これによって、グラスフィールドもダイマックスも切れた状態を作ることができました。

 

 あとは相手の「マジカルリーフ」をしっかり耐えて、上から「つばさでうつ」二回で終了! 終わり、閉廷!

 

 はい、最初のジムは地獄のような戦術を使って、なんとか勝利をもぎ取りました。こんなことされたら観客ヒエッヒエでしょうが、ゲームの演出上盛り上がってくれてます。

 

 

 

 

 手持ち戦力が揃ってない状態で、いきなり水タイプ二匹で草ジムに挑む。こんなの草も生えません。

 

 ですがタイムのためには、色々理由があって、水タイプを選ばざるを得ません。よって、手持ちはなるべく草タイプに有利なポケモンが必要です。

 

 だから、最初の手持ちで、キャモメかシズクモを引く必要があったんですね。

 

 ちなみにメッソンでもオッケーなのは、単純に性能がバカ強いからです。あとコソクムシは虫タイプが入ってますが、種族値も技もクソ貧弱な上進化レベルが遅いので、不採用です。

 

 

 

 

 そして道中なぜ寄り道ロスしてまで「まもる」の技マシンを買い、元気の欠片を拾い集めていたのか。

 

 それは、御覧の通り、ダイマックスを凌ぐためです。

 

 二度目のジムチャレンジの前に25レべまで上げてペリッパーにしておいてポケセンのカフェで「エアスラッシュ」を思い出させればこんなことしないでもダイマックス相手に真正面からエアスラ連打で良いのですが、少しでも速くするためにはこの方法が一番です。

 

 しかしながら、「つばさでうつ」は「エアスラッシュ」に比べて威力が低く、またペリッパーは特攻種族値の方が圧倒的に高く、しかもワタシラガの性格は防御補正がかかる呑気で、「つばさでうつ」のダメージは「エアスラッシュ」に比べたらだいぶ低くなり、ダイマックスと打ち合ったら負けます。

 

 そこで、購入しておいた技マシン「まもる」と元気の欠片ゾンビ戦術を使って、ダイマックスとグラスフィールドターンを凌ぎ、安全な状態で上から「つばさでうつ」を二回できる状況にしておくわけです。

 

「エアスラッシュ」は命中95なので万が一外す可能性があり、またグラスフィールド下「マジカルリーフ」は急所に当たればペリッパーが落とされます。

 

 最初の手持ちガチャとホップ君御三家ガチャ、そして全トレーナー避けといった関門を乗り越えた末に、圧倒的有利と言えど運要素が絡む戦いは出来ません。

 

「エアスラッシュ」連続外しや急所連続被弾といった確率の低い事象が万が一起きても大丈夫で、かつ速度を求めるには、この複雑なチャートが一番です。

 

 だから、「まもる」を購入してかつ元気の欠片を拾っておく必要が、あったんですね。

 

 

 こんな感じで、原作再現要素として、モブでも一戦中に二回まで道具が使えます。原作では元気の欠片や持ち物は主人公の特権でしたが、そこまで制限するとゲーム世界観的に不自然になるからか、これらのアイテムも許されます。まあ原作主人公はアイテム使い放題なんで、やはり原作に比べたらウルトラハードモードですがね。

 

 あ、ちなみに、そのくせ戦闘中ドーピング(プラスパワーなど)は、不自然になるのも覚悟の上なのか、使えない仕様になってます。意地でも難易度爆上げしたいみたいですね……。

 

 そんなこんなで、二度チャレンジさせられるわ、長い長いレベル上げをさせられるわで、初っ端のジムから地獄みたいな内容になりました。それでもなんとか、無事、一つ目のバッジ、ゲットだぜ!(ピッピカチュウ!)

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 それでは今回はここまで。ご視聴、ありがとうございました!

 




「ポケモンレンジャー大奮闘編」
危険な大自然・ワイルドエリアにて、ポケモンレンジャーの一員として、様々なトラブルを解決していくモード。
ゲームシステムとしては、依頼が舞い込んでくるのはモンスターハンター形式で、クエストは「ポケットモンスターLegendsアルセウス」形式。

ご感想、誤字報告等、お気軽にどうぞ


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3-2

 オリヒメと別れたスピカは、わき目も振らずに、元来た道、4番道路にもどり、旅に出たばかりのジムチャレンジャーたちと戦おうと待ち構えているトレーナーたちに、片っ端から勝負を仕掛けた。そうして経験値を重ねていくと、今度はガラル鉱山内のトレーナーも倒し、続いて鉱山内の野生で頂点に立っているトロッゴンたちを一撃で叩きのめした。そしてもう満足いかないとなると、ターフタウンを挟んだ5番道路に向かい、そこでもトレーナーや野生ポケモンを片っ端から倒していく。ワイルドエリアをまたぐ橋の方では何やらトラブルが起きていたらしいが、それを気にする余裕はなかった。

 

「…………いい感じだな」

 

 開会式に出て、慣れない旅をして、慣れないジムチャレンジをして、さらに急ピッチで武者修行をした。もう太陽はすっかり沈み、のどかな農園が多く民家の少ないターフタウンですら、町明かりが眩しくなっている。そして遠くの方では、随分と久しぶりな気がする生まれ故郷のバウタウンの明かりも爛々と輝いている。

 

 当然、心身共に、酷く疲労している。そもそも、半日以上寝転がる生活をし続けてきたので、これだけ長い時間起きていたのすら久しぶりなのだ。もはや一歩も動けないレベルである。こうしてポケモンセンターでポケモンたちを回復させるのを待ってる間も、ソファの上でそのまま翌朝まで寝てしまいそうだ。漏れ出た言葉とは裏腹に、人生最悪の体調だ。

 

 だが、フレンドリィショップで買った、人間には強すぎるポケモン用の栄養ドリンクを一気飲みして、無理やり気つけにする。そうして待っていると、ついに、ポケモンたちが戻ってきた。

 

「……っ」

 

 ポケモンセンターを出て、ターフジムを睨む。

 

 のどかな農業地域の夜にふさわしくない煌々とした電灯と、バトルの爆発音と、大観衆たちの叫び声。ただ、その叫び声は、昼よりもだいぶ少なくなってきている。遅い時間になり、観客たちもぽつぽつ帰り始め、残ったもの好きも疲れてきているのだ。

 

 もうすぐ、ジムチャレンジ初日が終わる。

 

 あのダイマックスの恐怖を思い出して、一瞬足がすくんだ。

 

 今は心身共に疲れ果てている。ポケモンたちはともかく、スピカの体調は最悪に近い。今日はゆっくり休んで、明日万全の体調で挑むべきだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ――だが、震える脚に鞭を打って、ターフジムへと向かう。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 その足取りはまるで、電灯に惹かれる虫ポケモンのよう……とはならない。ひどく疲れていて意識ももうろうとしているのに、ワイルドエリアを闊歩する大型ポケモンのように力強い。

 

 そのまま時間制限ギリギリに滑り込みで申請をして、本日最後のチャレンジャーとして、ジムミッションに向かう。

 

 ウールーを追いかける足取りは、疲労からかやはり昼に比べたら緩慢だが、それでも迷いがなく淀みない。ウールーたちも彼女のことを覚えているのか、スムーズに言うことを聞いてくれた。

 

 そして、昼と同じように、最初の関門をミスなく越えようとしたその時。

 

「……おい、バトルしろ」

 

 スピカは、あえてジムトレーナーに話しかけた。

 

「ひっ」

 

 ジムリーダーに似て優し気な雰囲気のジムトレーナーは、小さく悲鳴を上げる。

 

 スピカの雰囲気は、昼のどこかふわふわとした様子とは違う。

 

 オリヒメにセットしてもらった髪はいつも以上にぼさぼさで、頬はたった四半日でやせこけ、元からやや鋭い目つきはギョロリと悪タイプポケモンのようになっている。その割に、着替えたばかりのユニフォームは、ピカピカで真っ白だった。

 

 そんな長身の女にいきなりバトルを吹っかけられたのだ。彼が怯えてしまうのも無理はない。

 

 そして、昼にジムリーダーとのバトルをモニターで見た時とは比べ物にならないほど成長したキャモメに、可愛がって鍛えてきたヒメンカが一撃で倒される。勝鬨を上げるキャモメは、その特性が「うるおいボディ」であるにも関わらず、同種が持つ別の特性「するどいめ」なのではないかと思うほどに、闘志に満ち溢れていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 そして、そのキャモメが突然、強く光り輝く。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「念には念を入れて、だな」

 

 ジムトレーナーのソウタは驚くが、十年来の相棒が突然見せた異変に、スピカは驚かない。

 

 ヤローにリベンジできると踏んだ強さまで鍛えたが、よく見ると、あと一押しで、一気に何かが変わりそうな雰囲気があった。だから、ジム内での準備運動がてら、このジムトレーナーを糧に、最後の一押しをすることにしたのだ。「いい感じ」とは、キャモメの成長具合の事。

 

 

 

 

 

 

 

 

 キャモメは ペリッパーに 進化した!

 

 

 

 

 

 

 

 

「…………十年以上一緒にいたのに、姿が変わっても、全然違和感ないな」

 

 そこでようやく、鬼気迫る表情だったスピカは、わずかに微笑んだ。そして、大きくなって力強くなった体を存分に堪能しているペリッパーを優しく撫でる。

 

 進化に驚きはない。「何か」とは、こういうことだと、その持ち前の観察眼で気づいていた。

 

「…………さて、『根こそぎ刈り取ってやる』か」

 

 ヤローが気合を入れる時の言葉を借りて、スピカは次の段階へと踏み出す。

 

 ソウタは、その雰囲気と声音のせいで、あのヤローですら、何か酷いことになってしまうのではないかと、不安になってしまった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

○○

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「お昼ぶりだなあ」

 

 スピカが姿を現した時、本日最後のチャレンジャーと言うことで、観客たちはもうひと踏ん張りとばかりに大歓声で迎えた。

 

 だが、その姿がモニターにアップで映されると、途端に歓声が収まる。

 

 その、古い時代のシンオウ地方に生息したと言われる化け狐ポケモンのごとき鬼気迫る姿は、昼の素材が光る美しいチャレンジャーとは対照的であった。

 

 だが、そんなスピカと数時間ぶりに対面し、睨みつけられているヤローは、穏やかな笑みを崩さない。とはいえ、昼の、まるで緊張する子供を相手にするかのような雰囲気はなくなり、その笑顔で腕を組む姿からは、闘志があふれ出ている。

 

 バトルをする前から、今のスピカの状態が、警戒に値すると判断した証拠だ。

 

 そしてその闘志をこの近い距離で浴びても、スピカは動じない。本当に昼とは別人のようだ。

 

「なるほどなるほど。一皮むけたんじゃな。チャレンジャーのこの瞬間を味わえるのは、一番手の特権じゃ」

 

「……」

 

 とはいえ、ヤローは結局動じてはいない。

 

 平然とスピカから目線を切り、背を向けて、所定の位置へと歩き出す。

 

(うんうん、大きく育ったなあ)

 

 ジムチャレンジ初日。お昼前から今までバトルしっぱなしだった。一番手はふるい落とされたチャレンジャーがおらずまた開会式直後しばらくにチャレンジが集中するので大忙しになるが、農業とリーグで鍛えた心身に疲労はないし、むしろ今日の中で最も調子が高まっている。

 

 この初日にジムを突破したのは六人。

 

 チャンピオンの弟・ホップ。同じくチャンピオンから推薦を受けたユウリ。ジムリーダー二位のネズの妹・マリィ。リーグ委員長ローズが推薦したビート。ベテランのチャレンジャーで過去にセミファイナル出場経験もあるテーミン。ドラゴン使いの一族・ケンギュウ。そして目の前にいる「鬼」の幼馴染で二年目のチャレンジであるオリヒメ。

 

 また、今年のチャレンジャーは特に優秀で、毎年八割程度しかこの最初の関門を乗り越えられないが、今年は全員ルリナに任せることになりそうだ。

 

 では、初日最後の挑戦者であるスピカは――「七人目」になれるか。

 

「さあ、勝負じゃあ!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 チャレンジャーのスピカが 勝負を仕掛けてきた。

 

 

 

 

 

 

 

「いけ、ヒメンカ!」

 

「バトルだ、ペリッパー!」

 

 昼に見たころはまだキャモメで、このヒメンカとの間にすら、タイプ相性を無視すれば実力差が開いていた。

 

 だが今はどうだろう。たった四半日で大きく成長し、さらには進化までしている。初挑戦の時にこちらがつけていた以上の「格の違い」が、今は立場が逆転して発生している。

 

 昼に見た時からすでに、キャモメとの深い信頼関係を感じ、良いトレーナーだとすぐに分かった。だが、これほどだとは、さすがに予想外だ。

 

 そしてペリッパーがボールから出ると同時に、空からぽつぽつと雨が降り始め、そしてすぐに、数秒立っているだけでずぶ濡れになる程の大雨になる。ペリッパーの特性・あめふらしだ。そしてそんな豪雨に打たれてびしょ濡れになりながらもこちらを睨むボロボロのスピカの姿は、この輝かしいスタジアムにふさわしくないほどに、悍ましさと恐怖を感じさせるだろう。歴戦のヤローは全く動じないが、生半可なトレーナーだったら、委縮してしまいかねない。

 

「『つばさでうつ』」

 

「『マジカルリーフ』!」

 

 ヒメンカは何とか一太刀浴びせようとしたが、効果抜群の一撃でノックダウンする。戦いを積み重ね、さらに進化したことで、その翼の威力は、昼とは段違いだった。

 

 これはきっと、ヒメンカのみならず、最初のジムとしては強すぎたかもしれないと当初危惧していたワタシラガすら、あのペリッパーは大きく超えている。

 

 だが。

 

 こちらには、一方的なアドバンテージがある。

 

 ただただ「運命」によって持つ者と持たざる者が決まる、圧倒的な差。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 そんな、「キョダイ」な壁を乗り越える、トレーナーにとって大切な力を測るのが、このジムチャレンジなのだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ウオオ! ぼくたちは粘る! 農業は粘り腰なんじゃ!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 だからこそ、大きな壁として、旅立ったばかりのトレーナーたちの前に立ちはだからなければならない。

 

 今日何度目か分からない、ワタシラガのダイマックス。大きくなったポケモンは一時的に体力が増大し、ダイマックスエネルギーによって、強力な技を連発できる。

 

「『ダイソウゲン』!」

 

 ワタシラガが大きくなった全身にエネルギーを迸らせ、全力の技を放つ。

 

 その範囲は余りにも大きく、また過剰なまでに威力が高い。観客たちが一体となる応援歌が一時的にかき消されるほどの爆音と地震が発生する。

 

「『まもる』」

 

 だが、その攻撃は、ほとんどが通らない。

 

 スピカは、昼の、恐らく初めて対面したダイマックスを見た時と違い、実に冷静だ。ペリッパーは全身のエネルギーを集中させ、身を丸めることで、とてつもない攻撃から身を「まもる」。それでも少しだけ、それでいて確実に、ダメージを負っていた。あの強力な守りすらも貫くのが、ダイマックスなのだ。

 

「さあ、次はどうする? 『ダイソウゲン』!」

 

 ダイマックス技は威力と範囲のみならず、その莫大なエネルギーは様々な変化をもたらす。草タイプのエネルギーがフィールドに満ち溢れ、グラスフィールド状態になる。そのエネルギーは接地しているポケモンを癒し、また草技の威力を上昇させる。

 

 一発目は「まもる」で防げた。だがさらに威力が上がる二発目は、「まもる」ではまず防げない。あの技はとても集中力を要する。連続で成功するのは、どれだけ鍛えられたポケモンでも、偶然に頼るしかない。

 

「バトルだ、チョンチー!」

 

 それに対してスピカは、拍子抜けの選択をした。

 

 最も信頼している相棒であるペリッパーを引き、チョンチーを出す。飛行タイプを持たないチョンチーに、草技は効果抜群だ。しかもグラスフィールドが乗ったダイマックス技。場に出た直後にそのエネルギーが直撃したチョンチーは、一瞬で倒れ伏した。

 

「……すまない」

 

 スピカは小さく呟き、チョンチーを戻し、今度は何も叫ばずにまたペリッパーを出す。

 

 きっと、ここでまた身を「まもる」ことでダイマックスを凌ぎ、お互いに対等の条件で戦おうというのだろう。ワタシラガは遅いポケモンなので、あのペリッパーが先行する。そうなれば、ヤローが不利だ。

 

 ならば。

 

「『ダイアタック』!」

 

 ここで、ジムリーダーとして、さらに大きな壁として、さらなる試練を与えなければならない。

 

 ポケモンバトルは、常に上手くいかないことの連続だ。それを、どう乗り越えるのか。

 

「『まもる』」

 

 スピカの声は冷静だ。「ダイソウゲン」ではないことに驚きもしない。

 

「ダイアタック」の効果を知らないのだろう。

 

 この「ダイアタック」は、相手の素早さを下げることができる。これでワタシラガはペリッパーより先に動けるようになり、グラスフィールドの恩恵を受けた「マジカルリーフ」で多く攻撃できる。物理防御に優れたワタシラガは、効果抜群と言えど「つばさでうつ」を耐えることもできる。

 

 ノーマルエネルギーの一撃はペリッパーを包み、防御を貫通してダメージを与え、その素早さを下げる。それと同時に、ワタシラガのダイマックスエネルギーが切れて、元の大きさにもどった。

 

 さあ、どうする。

 

 ヤローは高まる気持ちが抑えられない。

 

 優れたチャレンジャーたちが、それぞれの発想で、自分を乗り越えていく。本当に、一番手は特等席だ。

 

「『マジカルリーフ』じゃあ!」

 

 グラスフィールドのエネルギーが乗せられた特殊な葉っぱの刃がペリッパーに襲い掛かる。ペリッパーは特殊耐久はそこそこあるポケモンだったはずだが、「まもる」越しとはいえ二回ダイマックス技を受けて確実に削られた体力ならば、この一撃で落ちるだろう。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「……すまない」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 だが、スピカは、ペリッパーを見殺しにした。

 

 なんら指示を出すことはない。ペリッパーは何もできず、この一撃で倒れ伏す。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「なるほどなあ」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ヤローは感心した。

 

 そう。

 

 ポケモントレーナー。人間よりもはるかに強力なポケモンを従え、ポケモンに立ち向かう。

 

 競技化されたポケモンバトルでは無縁になりつつあるが――その本質は、「何でも使って生き残る」ことだ。

 

「バトルだ、チョンチー!」

 

 スピカが使ったのは元気の欠片。ダウンしたポケモンを、ダメージは大きく残った状態ではあるが、復活させることができる。

 

「『マジカルリーフ』」

 

「『まもる』」

 

 持たざる者。

 

 ジムチャレンジャーは皆、信頼できるものによって推薦された、才能あふれるトレーナーだ。

 

 そんな優秀なトレーナーたちすらもふるい落とされるのが、このジムチャレンジ。

 

 真っ先に突破していった、ホップ、ユウリ、ビート、マリィは、ダイマックスを使えた。

 

 オリヒメは去年からさらに成長し、時間と経験という大きなアドバンテージを持って、勝利を掴んだ。

 

 テーミンとケンギュウはヤロー以上に経験豊富なトレーナーで、しかも強力なポケモンたちも持っている。

 

 だが、目の前のスピカは……目に見えるアドバンテージを、「何も持っていない」。ジムチャレンジャーの中では、「持たざる者」だ。

 

 だがそれでも。

 

「『このは』!」

 

「……私が弱いばかりに」

 

 持たざる者であることを自覚し、ポケモンたちに痛みを強いてしまう目の前の女性は。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「バトルだ! ペリッパー!!!」

 

 それでも、誰しもが持つことを許される、「道具」を使って、生き残ろうとしたのだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「『つばさでうつ』!」

 

「『マジカルリーフ』!」

 

 一度倒れてボールにもどったことにより、素早さはリセットされ、ペリッパーが先に動ける。そして返す刀の「マジカルリーフ」はグラスフィールドの恩恵が時間稼ぎによって消えたため、ダメージを残すペリッパーを倒しきれない。

 

 そして。

 

「『つばさでうつ』!!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 一度敗北して「死んだ」スピカは、また戻ってきて、ついにヤローを倒し、本格的なジムチャレンジという「大海」へと泳ぎ出し、「大空」へと羽ばたいた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

○○

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「いやあ、完敗じゃった。すっかり収穫されてしまったなあ」

 

 思わず勝鬨を叫んだあとに、疲労がどっと押し寄せ、膝から崩れ落ちそうになった。だがなんとかこらえて、ほとんどヤローから歩み寄ってもらう形で、握手をする。

 

「まさか数時間でここまで成長するとはびっくりだあ。あの作戦も、あの後考えて用意してきたのかなあ?」

 

「……すみませんね、あんな勝ち方で。ダイマックスが使えないので許してください。私はネズさんじゃないので」

 

「いやいや、ルールで認められてることだし、ぼくたちだって傷薬を使うことはあるからおあいこじゃ」

 

 ヤローはそう言ってぶんぶんと握る手を振りまわしながら快活に笑う。

 

 なるほど、これも想定内どころか、むしろ意図的に「こんな戦い方」をされるようにルールが設定されているのだろう。確かに、手加減されている手持ちとはいえ、ジムリーダーという圧倒的格上相手に大半がダイマックスが一方的に使えないなんて、ともすれば悪趣味な虐殺ショーだ。

 

「……後からではなく、最初から考えていた作戦です。だから、エンジンシティで大枚叩いて技マシンを買って、道中で元気の欠片を見つけては拾ったんです」

 

 最初から、ダイマックスへの対策は準備していた。もし道中で元気の欠片を見つけてなかったら、初日にいきなり挑むなんて真似は流石にしない。そこまで無謀ではない。

 

 ただ、いざダイマックスと向かい合うと、その絶望に、心が折れたのだ。とはいえ、そもそもあの時のキャモメとチョンチーではたとえ同じ戦術をしたとしても勝てなかっただろう。

 

 今思えば、あの通り道のポケモンセンターのショップに、いきなり「まもる」の技マシンが売っているのも、「ダイマックスを凌ぐ」ためにヒントだったのかもしれない。つくづく、このジムチャレンジのシステムは良く考えられている。伊達に一大イベントになっていないわけだ。

 

「そうなのかあ。いやあ、やっぱり今年のチャレンジャーは特に優秀だなあ」

 

 そう笑ってヤローは、ようやく握手からスピカを解放する。本人的には優しく握ったつもりだが、怠惰生活で貧弱極まりないスピカの手は、すっかり痺れていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 そしてその手には、いつの間にか、草バッジが握らされていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

○○

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「すごい、すごいよスピカちゃん!」

 

『ッシャア!』

 

 バウタウンのポケモンセンター宿泊施設の一室。そこに備え付けられたテレビからは、なじみ深いはずの親友の、聞いたことのない声での勝鬨が鳴り響く。

 

 初日に無事ヤローを突破し、そこからは次の挑戦に備えてバウタウン周辺で鍛えていたオリヒメは、その夜、どうしても気になって、メインチャンネルで長い時間を取って放送されてるジムチャレンジ番組を開き、スピカの再挑戦を見守っていた。

 

 ズルズキンも裸足で逃げ出すような姿が映った時にはギョッとしたが、すぐに安心した。地元のさほど有名ではない安全圏大学にするりと入学するつもりが模擬試験で思ったよりも余裕がないことに気づいてスピカにしては必死になって勉強する羽目になったあの時に、今には遠く及ばないにしろ、そっくりだ。彼女が真に本気を出して追い込んだらこうなる、ということを知ってるのは、彼女の家族とオリヒメだけだろう。

 

 スピカはたった四半日で見違えるほど強くなった。経験も才能もダイマックスも、バッジの数のわりに強いポケモンも、何も持っていない。それでも、持ち前の知恵をフル回転し、道具を駆使して勝利した。この土壇場で、自分の実力を過信せず、冷静に道具を頼ることができるか。これもまた、ジムチャレンジで見られるトレーナーの資質だ。競技は別として、むき出しの大自然であるワイルドエリアでは、そうでもしないと生き残れない。この本質にオリヒメはまだ気づいていないが、その一端に、親友を通して触れることができた。

 

「スピカちゃん……良かった、本当に良かった」

 

 画面の中でヤローと握手するスピカは、無理した疲労がここに来て蘇ったのかフラフラしているしサニゴーンのような顔色だが、それでも晴れやかな笑顔が浮かんでいる。パワーのあるヤローの握手に振り回されてはいるが。

 

 そんな親友の活躍を見て、オリヒメは我がことのように泣き出す。

 

 ――スピカの才能と人格を信じて、ジムチャレンジに誘ったはずだった。

 

 だが、昼の様子を見て、つい、自分を、そしてスピカを信じきれず、後悔してしまった。

 

 だが、そのあとにスピカと話して、そして今この瞬間を見て、その後悔は吹き飛んだ。

 

「良かったね、スピカちゃん……」

 

 のちにスピカはインタビューを受けて「二度と味わいたくない。死ぬかと思った」と本気で嫌そうに答えるが、それはご愛敬だ。

 

 そうして延長したジムチャレンジ番組は終わり、ニュースの時間になる。

 

 オリヒメはテレビを消し、顔を洗うと、明かりを消してベッドに入る。

 

「……うん、あたしも、頑張るぞ」

 

 明日はいよいよ、ルリナとの戦いだ。

 

 去年もバッジは二つ手に入れた。順当にいけば勝てるはず。

 

 だが去年の二番手は、相性の良い炎タイプ使いのカブだった。

 

 そして三番手、前半の鬼門として立ちはだかったのが、去年のルリナだ。

 

 水タイプ使い同士の戦い。お互いに有利であり不利でもある。トレーナーとポケモンの実力差がはっきりと出る戦いだ。

 

 そしてオリヒメはルリナに惨敗を繰り返し、一回目のジムチャレンジを終えたのだ。

 

 彼女にとってルリナは、地元のヒーローで、憧れで、目標で、一番大好きなジムリーダーで、そして敵であり、トラウマであり、仇だ。

 

 

 

 

 

 そんなオリヒメの決意に呼応するように、四つのボールが、大きく震えた。




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4-1

投稿ガバぶちかまして2-3の投稿忘れて二日も放置してました。申し訳ございません。
めっちゃ重要な話なので、まずは2-1から読み返して2-3の内容を確認していただければと思います。
許してください!なんでもしますから!


 ジムチャレンジを頑張るRTA、はーじまーるよー!

 

 前回はヤローにリベンジして一つ目のバッジをゲットだぜ! したところまででした。

 

 開会式イベントから一定のプレイ時間が経ってしまったので、強制的にお休みイベントになり、翌朝からスタートします。

 

 ここでRTAらしく急いでバウタウンに向かってさっそくチャレンジ……かというと、そうではありません。

 

 まずはポケモンセンターのカフェで進化したペリッパーの技思い出しをして、武者修行とジムチャレンジでカツアゲした賞金でボールなどの道具を整え、ポケセンを出ます。

 

 するとここでロトム自転車受け取りイベントが入ります。原作主人公は廃人ロードの上でしたが、モブたちも自転車がないことには水の上渡れないし、ゲーム的にも不便だしで、ちゃんと貰えるようになってます。

 

 で、アーマーガアタクシーでエンジンシティに戻り、この人生初のワイルドエリアに行きます。

 

 そう、一個目のジムバッジを手に入れたので、手持ちが四匹まで入れられるようになったんですね。

 

 

 

 

 では捕まえていきましょう。狙いは、オタマロとカラナクシです。

 

 

 

 どちらも生息範囲も出現率もうま味なので、確実に捕まるでしょう。またカラナクシは最悪条件が合わなくても第二鉱山でついでに捕まえられるので、多少のロスはありますが問題ありません。このためにゲーム開始時間を雨や雷雨が多いやつにしておきました

 

 

 

 

 

 

 またここでポイントですが……このモードでは、マックスレイドバトルに参加する権利がありません!

 

 

 

 

 

 光の柱を見つけて好き放題できるのは主人公の特権で、モブはそれに乗じて参加するしかありません。ソルロックのシュウスケとか、皆さんも覚えありますよね? あのクソカスザコゴミどもです。しかしながら、その乗じる機会が存在しないため、レイドバトルができないんですね。

 

 あ、そうそう。

 

 同じように、このモードでは通称・夢特性、隠れ特性のポケモンを使うことは出来ません。それもまた、主人公と一部ネームド、それにバトルタワーモブの特権です。

 

 こんな具合に、とにかくこのモードは原作に比べて制限が多いんですよね。ウルトラハードモード剣盾です。

 

 

 

 

 さて、そんなこと言っている間に、早送りしたゲーム画面では、無事カラナクシとオタマロを捕まえました。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 スキル・みずタイプつかい、を手に入れた!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 そしてこのスキルが、このRTAのポイントです。

 

 一つ目のジムバッジを手に入れて手持ち四匹が解放され、その後手持ちを同じタイプのポケモンで埋めると、この「○○タイプ使い」のスキルが手に入ります。

 

 発動条件は、タイプ統一にすること。これによって、ポケモンたちのステータス全体が5%ほど上昇します。性格補正の半分しか上昇しませんが、全ステが1でもアップしてくれるだけでとても助かります。

 

 

 

 ポケモンはそれぞれ生態がバラバラで、故に複数ポケモンを従えるのはとても難しいこととされています。ジムリーダーやネームドボスクラスですら、手持ちがタイプ統一ですからね。

 

 当然、モブにとっては、それよりもさらに大変です。

 

 そんな世界観がこのゲームにもご丁寧に反映されていて、タイプ統一にしたらこうして大きなボーナスが入り、また複数の違うタイプが混ざれば混ざる程、レベルが上がりにくい、ポケモンが懐きにくい、ステータス下降補正、努力値取得下降補正などのデバフがかかるようになっています。

 

 つまり、RTAでなるべく早くクリアしようとすれば、タイプ統一のステータス上昇ボーナスを狙うほかないんです。だから、タイプ統一する必要が、あったんですね。

 

 あ、ちなみに、通常プレイではどうかと言うと、このモードがそもそもウルトラハードモードなので、そちらもタイプ統一ボーナスがないとクリアは難しいです。

 

 

 あとこれもあくどい仕様なのですが、このスキルを手に入れてから一瞬でも所定タイプを含まないポケモンをゲットすると、このスキルはそのセーブデータでは一生剥奪されます。ボックスの中にいるだけでも駄目です。製作者が意地悪すぎますね。

 

 それとさらにちなみに、このRTAで登場するスキルはこれが最後です。メリットスキルはどれも手に入れる条件が難しいので。

 

 

 さて、そんなこんなで無事目的の二匹をゲットできました。特性も狙い通りで一安心。

 

 

 では、アーマーガアタクシーに乗って、バウタウンに向かいましょう。原作では一度行ったことある町じゃないと飛べないことになっていますし、このゲームでもそうなのですが、バウタウンは故郷なので例外です。バウタウン出身じゃなかったら、エンジンシティに戻ってから列車でしたね。

 

 

 さてさて、実はこのポケモンゲットタイム、制限時間に追われていました。このモードは、原作のように主人公の進行度に応じてイベントが進むのではなく、プレイ時間に応じて世界が進んでいきます。世界は主人公を中心に回ってるのであって、モブを中心に回ってるわけではないので。あ、でもジムチャレンジの制限期間はプレイヤーキャラがトーナメントにエントリーした瞬間に終わるようになってるので安心です。

 

 

 で、そのイベントとは……幼馴染・オリヒメちゃんの観戦イベントです。

 

 オリジナルキャラクターが生成されるにあたって世界が微妙に改変され、それに合わせてAIが自動で「この世界だけの出来事」を紡いでくれます。これが同人ゲーってマジ?

 

 そういうわけでイライラタイムです。タイムの邪魔だろ、さっさと勝つか負けるかしろ!!!

 

 まあでもどっかしらでこういう強制イベントはどのセーブデータでも必ず入るようになってるので。(これはガバ運じゃ)ないです。

 

 それにどちらにせよムービースキップ機能で自動的に飛ばせますし、なんならバウタウンに着いた瞬間に強制的にバウジムに強制送還されたので、移動ロスもさほどではありません。ポケモン原作もこのイベントカットのテンポ感見習え!!!

 

 

 

 

 さてイベントも終わったことですし、さっそくジムに挑んでいきましょう。

 

 

 

 

 ジムミッションは原作と同じく水スイッチパズルです。こんなの覚えていて当然なので、さっさと最短手で終わらせましょう。

 

 あ、そうそう。ジムトレーナーの相手は、全部チョンチーでします。

 

 最初のジムが一番鬼門なのになんでチョンチーを捕まえたの? バカなの? って思ったせっかちホモ兄貴もいらっしゃるかと思いますが、この水ジムも鬼門で、しっかり育てて成長したチョンチーがいないとお話になりません。ハスボーを捕まえられれば楽なんですけど、今回はソードであり、ハスボーはシールドでしか出ません。悲しいなあ……。

 

 そうしてチョンチーのレベルを上げて行くと……よし、27レべでランターンに進化しました! これが今回の主力です。さっきカラナクシとオタマロ捕まえに行くときも、主力のペリッパーではなくチョンチーを先頭に出していたのは、電磁波麻痺によるゲットにしやすさもそうですが、レベル上げのためでもありました。このジムは強制戦闘トレーナーが多いので、ここで経験値を稼いでもまず味にはなりません。

 

 レベルを上げてしまうとジムリーダーのポケモンも強くなるのでは? と思うかもしれませんが、ヤローを突破するためにペリッパーにしばらく経験値を集中させたため、ランターンに上げようとも、ペリッパーが最大レベルです。つまり関係ありません。

 

 なんて美しいチャートなんだあ(自画自賛)

 

 

 さて、ごちゃごちゃ言ってる間に、ミッションが終わりました。傷薬でチョンチーを回復して、「まもる」をオタマロとカラナクシにも覚えさせて……ヨシ!(現場猫)

 

 

 

 

 

 

 二つ目のジムチャレンジ、イクゾー!(デッデッデデデデン! カーン!)

 

 

 

 

 

 

 

 まず最初のトサキントはランターンの「エレキボール」二発! 30レべまで上げないと特殊電気は基本的にクソ火力の「エレキボール」しか覚えません。バウタウンなら威力55の「エレキネット」の技マシンが落ちてるだろって話になりますが、あれは主人公が必ず先に拾うので、モブごときは当然持てません。また、レイドバトルに参加してワットポイントも稼げないので、技レコードも使えません。なんだこのゲーム……。

 

 

 続くサシカマスもエレキボール二回で撃破! 相手はレベル上でかつこちらがクソ火力なので、二匹を倒すのに、抜群技なのに合計四ターンもかかりました。相手の方が素早いので上から攻撃を貰いまくり、ランターンも満身創痍です。

 

 でもそんなの関係ねえ!

 

 相手がいよいよラストのカジリガメを出してきました。レベル33ってなんなんだよ。原作レベル24だろ……。

 

 

 とりあえず最初のダイマックスは恒例の「まもる」で凌いで、その次はランターンに犠牲になってもらいます。

 

 で、そのあとはカラナクシを出して、また「まもる」。これでダイマックスが切れました。

 

 カラナクシは特性・呼び水で、「シェルブレード」も「みずてっぽう」も効きません。また、少しでもレベルを上げようとチャレンジ前に捕まえました。

 

 しかし、カジリガメは種族値もこの時にしては鬼高い脅威のA115ですし、「ずつき」とかいう威力70のこの時にしては強すぎる技を持ってますし、レベル差もえげつないです。

 

 ですが、このカジリガメ、なんと性格はA下降補正の控え目ですし、特性もなんか知らないけど隠れ特性のすいすいで、頑丈顎ではないので「かみつく」が破格の威力90になったりもしません。これにより、カラナクシはギリギリ「ずつき」を耐えることができます。まあやることないので、念のため元気の欠片でランターンを蘇らせましょうか。

 

 さて、相手のダイマックスも終わって、カラナクシもやられたので、ついにエースの登場! いけ、ペリッパー!

 

 

 

 ペリッパーの特性は、当然のようにあめふらしです。もし最初のキャモメの特性が鋭い目だったらリセットでした(いっ敗)

 

 この雨は相手の水技の威力を上げてしまう上、なぜか隠れ特性のすいすいなので素早さ倍化させてしまいますが、ペリッパーはもともと水技半減ですし、レベルが5も上のカジリガメより元々遅いのでモーマンタイ!

 

 

 相手は岩タイプを含んでいますが、岩技を覚えておらず、また最初の二つと言うことで普通のダイマックスのため、「キョダイガンジン」も使ってきません。比較的ペリッパーでも戦いやすくなっています。

 

 それではここで、雨補正のかかったタイプ一致「みずのはどう」をぶつけましょう。うん、高確率で三発で倒れるぐらいですね。一方「ずつき」のダメージはそこそこの確率で三発で倒されるぐらいです。

 

 これなら上手くいけば、ペリッパー生存で倒せてタイムも経験値もうま味ですが……あー、まあ、やっぱこんだけ上から殴られたら怯みますよね。三回耐えたのですが、三回目で怯んで、四回目で倒されました。バトル時間が延びてタイム的にはまず味ですが……まあ、織り込み済みです。

 

 あとはペリッパーがいっぱい削ってくれたので、ランターンの「スパーク」を当てて、終わり、閉廷! ちなみにここで鬼の怯みが起きたら、オタマロを犠牲にしてもう一回ランターンを蘇らせましょう。

 

 

 はい、これで二つ目のジムバッジを、なんと一発で手に入れることができました。このゲームのジムリーダーは全員レベルが絶対こちらの3~5上になるので鬼のように難しいですが、どれだけ一発突破できるチャートを組めるかで、タイムが大きく変わってきます。最初のヤローはどうしても無理ですが、そこから先はこんな具合に、知恵と強運を振り絞って、一発突破を目指していきます。

 

 

 それでは今回はここまで。

 

 ご視聴、ありがとうございました。




あ、そうだ(今更)
ジム戦はこちらの曲を流しながら読んでいただけると臨場感が増すと思います
https://www.nicovideo.jp/watch/sm36064588


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4-2

 草バッジを手に入れたスピカは、そのままバトルフィールドから退場すると同時に、体力も気力を尽きて倒れた。農業で鍛えられたターフジム女性スタッフたちによってポケモンセンターに運ばれて点滴――ポケモンセンターは診療所レベルなら人間向けの軽い治療も行える――を受けてほんの少し回復し、そのままシャワーだけ浴びてから、泥のように眠った。

 

「…………こんなに早く目が覚めること、あるんだな」

 

 翌朝。スピカはさっぱりと目を覚まして時計を見ると、なんとまだ九時だった。これでも一限から講義があったり、はたまたサラリーマン・OLなどだったら遅起きだが、スピカからすれば、こんな早い時間に起きたのは、大学受験当日以来だった。

 

 しかも、その目覚めはとてもすっきりしている。心地よい程度の眠気しか残っていない。いつもならこれより遅い時間に起きたとしても即座に二度寝を決めこむほどだが、今日は二度寝しようとは思えなかった。

 

「…………」

 

 とりあえず寝起きのシャワーを浴びながら、ぼんやりと考える。

 

 昨日は人生ぶっちぎりで最大に、心身共に疲れ果てたはずだ。その翌日である今は、その疲れが残り、当然のようにベッドから起き上がれないで然るべきである。

 

 ではなぜ、こんなにもすっきりと目覚めたのか。

 

 おそらく、異常に疲れていたから寝つきが良く、しかもずっと熟睡できた、つまり睡眠の質が良かったのだろう。いつもはベッドに入って消灯してからスマートホンをだらだら弄ることもあるし、疲れるような生活を一切していないので眠りも浅い。だから、長い時間寝たがったのだろう。

 

「…………考えないでおくか」

 

 今までどれだけ無駄な時間を過ごしたのか、とネガティブな発想に飛びそうになり、全てを忘れることにする。こんな図太い思考だからこそ、これまでの人生で堂々と怠惰で居続けられたのだ。

 

 シャワーも浴び終わり、サービスの良すぎることに勝手に洗濯してもらって乾かしてもらっていた私服に着替える。下着は流石に触られてないみたいだが、これは仕方のないこと、複数セット準備してある下着をつける。

 

 そうして着替えてる時に、丁寧にたたんでテーブルの上に置かれた服の横に、小さいながらも確かな輝きを放つものが、当然目に入る。

 

 緑色のバッジ。

 

 

 

 

 

 ――昨日、死に物狂いで手に入れた、草バッジだ。

 

 

 

 

 

 

 

「ふふっ」

 

 つい口元がほころび、笑いが漏れる。

 

 ああ、あれだけやる気がなかったのに、結局あんなに頑張って、全力で手に入れた。

 

 こんなにも、これを手に入れたことが嬉しく思えるなんて。

 

「オリヒメの気持ちがわかった気がするな」

 

 スピカ一人でやったにしてはあまりにも速く準備を終え、宿泊用スペースから出る。今日も忙しいはずだ。

 

 昼過ぎには外せない用事があるし、そこまでに済ませておきたいこともある。

 

 まず、やるべきことは。

 

 

 

 

 

 

 

 ――人生で足を踏み入れる機会が全くないと思ってた、第一級危険地帯・ワイルドエリアに行くことだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

○○○○

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「あっぶな、ギリギリだった!」

 

 アーマーガアタクシーから降り、バウタウンの見慣れたメインストリートを小走りで駆け抜ける。

 

 ワイルドエリアは恐ろしい危険地帯だった。そこら中に狂暴なポケモンがうろうろしているし、中には今のスピカでは逆立ちしても勝てない個体まで当たり前のようにいる。天気は激しく移り変わり、舗装された道などほぼなく、むき出しの自然が襲いかかる。

 

 このガラルのある意味中心の地だ。嫌でも耳に入るし、まず「行くな」と耳にタタッコを通り越してオトスパスができるほどに言われてきた。

 

 そして、いざ初めて入ってみると、聞きしに勝る危険地帯だったのだ。かなり慎重に回って目的のポケモンを捕まえたが、正直、二度と行きたくない。

 

 せっかくポケモンセンターで洗ってもらって乾かしてもらった私服は、今はもう着替えている。ワイルドエリアでは雨や雷雨の中にわざと突っ込んでいかなければならなかったのだ。そしてワイルドエリアで時間を食いすぎて予定にはギリギリであり、アーマーガアタクシーを呼んでその中で着替え、濡れた私服はバッグの中でかさばるうえに重たいお荷物と化している。ちなみにスピカが着替えている間、タクシーの運転手はとても気まずそうだった。スピカは立派な女性だし、顔もスタイルも人並み以上に良いのである。ここまでデリカシーのない女性客は、ワイルドエリアまでくるほど経験豊富なアーマーガアタクシー運転手でも初めてだろう。

 

 そうしてバウジムに入ると、チャレンジャー用ではなく、観客用の受付に向かう。そこでトレーナーカードと推薦状を見せたら、ジムチャレンジャー専用の、特等席とはいかずとも、上等な席に案内される。

 

『ついたぞ。がんばれ』

 

『来てくれたんだ! ありがと! がんばっちゃうぞー!(* ̄0 ̄)/ 』

 

 そしてスマホロトムで開いたメッセージアプリで、このようなやり取りをする。

 

 相手は、幼馴染のオリヒメだ。今日この時間に挑むと決めていたみたいで、今朝にメッセージが届いていたのだ。絶対に、スピカにも見てほしいらしい。

 

 それにしても、随分返信の速いことだ。

 

 今時の若い娘――スピカも本来それに入る一人であるはずだが――らしく、オリヒメはいつも返信が速い方だし、SNSもこまめに更新している。

 

 だが、今は、送った瞬間に既読がついたし、すぐに返信が来た。彼女にしても速すぎる。恐らく、ずっとこのメッセージアプリを開いていたのだろう。もうジムの控室で待機しているだろうというのに。

 

「……悪いことをしたかな」

 

 きっと、緊張で何も手につかず、縋るようにして、スピカが来てくれるのを待っていたのだろう。これはうぬぼれではない。普段はオリヒメにお世話されてばかりだが、不思議なことに、オリヒメはこんな自堕落なスピカを信頼してくれている。

 

 嬉しいのは確かだ。

 

 一方で、それに疑念と、不安を感じなくもない。

 

 なんで私なんかに。こんな私に構わず、オリヒメはもっと活躍しても良いのに。

 

 オリヒメが地元で頭角を現しはじめてからずっと、いや、もしかしたらその前から、そう思ってきていた。

 

 いつか、向き合わなければいけないのかもしれない。

 

「…………頑張れよ、オリヒメ」

 

 だが今は、その時ではない。

 

 向き合うのが怖い以上に。

 

 今は、大事な戦いの前だ。

 

 余計なことは、考えないに限る。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

○○○○

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ルリナのジムミッションは去年と同じく、流水と色違いスイッチを使った論理パズルだった。去年とコースが変わっていたので多少時間はかかったが問題なく進み、またジムトレーナーとのバトルも、水タイプ同士なので泥試合になりがちなはずだが、すいすい勝つことができた。

 

「貴方と戦うのは去年ぶりね」

 

 そして迎えた、ルリナとの戦い。

 

 今まで何度も見てきたし、二人きりで個人的な話やスピカの推薦についてお願いができる程度には良い関係が築けている。同じ水タイプ使いとして、ルリナ直属の弟子ともいえるジムトレーナーへのお誘いも何度も受けた。

 

 だが、ルリナの言う通り、バトルは去年以来、一度もしていない。単純にルリナが忙しく、またトッププロと、バッジ二つがせいぜいのアマチュアのバトルが成立するほうがむしろおかしいからだ。

 

「……この時のために、あたしはずっと、頑張ってきました」

 

 去年のジムチャレンジを通して有名になり、アイドル的活動でもそこそこ人気が出て、またアマチュアの大会にもお呼ばれするようになった。その経験、そしてそれらに報いるための努力。この一年で、大きく成長した自信がある。

 

「最初は、ルリナさんに勝てればいいと思っていました。あたしの憧れで、去年は結局、一矢報いることすらできなかったから」

 

 だけど、もう違う。

 

「ですが……今のあたしの目標は、もっと先です。あなたに勝たないと、それを目標とする権利すらない」

 

「……そう……成長したわね」

 

 勇気を振り絞り、真正面から見据えて、宣言する。

 

 勝利宣言を越えた宣言。その言葉を受けて、ルリナは、嬉しそうに、優しく微笑んだ。

 

 そして、審判の指示が出て、お互いに背を向けて、所定の位置へと歩いていく。

 

「でも、せっかくバウタウン(海の街)へ帰ってきたんだから……」

 

 お互いに振り返り、向き合って、ボールを構える。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「――通過点なんて寂しいこと言わないで、ゆっくり溺れていきなさい!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ジムリーダーのルリナが 勝負をしかけてきた!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「いけ、トサキント」

 

「――っ! オニシズクモちゃん! オンステージ!」

 

 優し気な笑みが一転、顔が引き締まると同時、大波の如きプレッシャーがルリナから放たれる。

 

 それに一瞬怯むが、負けじとボールからポケモンを繰り出す。

 

 現れたのは、頭に水泡をまとった巨大な蜘蛛。トサキントとの体格差もある。水ポケモンの中でも強力なパワーを持ち、時にはワイルドエリアですら主として君臨することもあるオニシズクモだ。

 

「『つのでつく』!」

 

「『むしくい』!」

 

 オニシズクモは巨体でパワーもあるが、反面、その素早さは進化前のまだエネルギーの足りないポケモンにすら劣る。トサキントは猛然とその頭にある鋭い「つのでつく」が、物理攻撃はあまり得意ではないのか、わずかなダメージにしかならない。

 

 対する「むしくい」は、オニシズクモのパワーが存分に活かされる形となり、一撃でトサキントの身体に大きく傷をつける。

 

 開会式直後はまだシズクモだったが、ヤローのジムミッションの途中に、オニシズクモに進化したのだ。パワーの高いポケモンは進化が遅い傾向にあるが、オニシズクモはそのポテンシャルの高さがありながら、虫ポケモンゆえか進化レベルが比較的早い。

 

「もう一度『つのでつく』」

 

「しっかり受けて『むしくい』!」

 

 比較的鈍重なオニシズクモでは、ひらひら身軽なトサキントから一方的に攻撃を受けてしまう可能性がある。下手に防御したり躱したりしようとせず、どっしり構えてダメージを抑えつつ、確実にカウンターを狙わなければならない。

 

 そんな、いわば「痛みに耐えろ」というトレーナーの指示を、オニシズクモは迷わず遂行した。鋭い角が脚の関節を捉えるが、それと同時に身体を振り回して「むしくい」を決め、トサキントをダウンさせる。

 

「へえ、やるじゃない」

 

 去年とは見違えたようだ。ルリナは感心する。

 

 エキスパートゆえ、水タイプポケモンのトラブル解決によく乗り出すルリナは、今のバトルの意味をよく分かっていた。

 

 オニシズクモはパワーがあり狂暴だが進化は比較的早い。まだ未熟なトレーナーがうっかり進化させてしまい、言うことを聞かなくなって手が付けられなくなるというトラブルが年に一回ぐらいあるのだ。

 

 だが、オリヒメの指示を、オニシズクモは、難しいものまで含めよく聞いていた。シズクモといた時間が長いのもそうだが、オリヒメという「トレーナーの格」をプライドの高いオニシズクモが認めている証だ。

 

 進化後のポケモンを連れている、というのは、一つの実力の証なのである。

 

「いけ、サシカマス! 『かみつく』!」

 

「横から受けないよう正面で受けて『むしくい』!」

 

 サシカマスはトサキントよりもさらに速さに優れるポケモンだ。

 

 また「かみつく」という技は勢いよく牙を突き立て上手く痛いところを捉えることができれば怯ませることもある。今この場面では、「かみつく」で怯まされて余計な攻撃を食らうのが一番まずい。

 

 オニシズクモはその指示をしっかり遂行した。サシカマスはまっすぐ進む速さこそ自然界随一であるものの、小回りはきかない。案の定猛スピードでこちらに真っすぐ向かってきて、真正面から噛みついてきた。オニシズクモはそれを水泡で受けて勢いを弱めてダメージを軽減し、怯むことなくカウンターの「むしくい」を決める。トサキントよりもタフではないサシカマスは、その一撃でダウンした。

 

「よし!」

 

 オリヒメにとってもオニシズクモにとっても、サシカマスはなじみ深いポケモンだ。戦術は立てやすい。なにせ、コイキングと同じく、昔から一緒にいるからである。今でこそ進化が速く草ポケモンと戦う機会が多かった都合で戦う機会が多く主戦力になっているが、オニシズクモが一番の新入りである。

 

 ついにルリナの手持ちはラスト一匹。度重なる攻撃でオニシズクモもだいぶダメージを背負ってるが、こちらは三匹残っている。

 

 だが、ここからが本番だ。

 

「最後の一匹じゃないの。隠し玉のポケモンなのよ」

 

 ガラルのバトルのバトルを体現した、ルリナのルーティンのような言葉。

 

 それに呼応するように、会場の熱も高まってくる。

 

 そこかしこで歓声が激しくなり、訓練された鳴り物のリズムが変わり、立ち上がる観客が増える。

 

「いけ、カジリガメ!」

 

 現れたのはカジリガメ。

 

 ジムチャレンジ用にまだあまり育てていない個体だが、このポケモンは常に、ルリナの「隠し玉」だった。

 

「スタジアムを海に変えましょう! カジリガメ、ダイマックスなさい!」

 

 一度出したカジリガメをすぐボールに戻し、それを抱えると同時に、そのボールが大きくなる。そして集中するように少し目をつむって止まると、そのまま流れるようにスマートに、後方へと巨大化したボールを投げた。

 

 そして、スタジアムの歓声は、一つのまとまった「歌」となる。

 

「『バブルこうせん』!」

 

「『ダイアタック』よ!」

 

 だがその歌は、オリヒメの耳に入らない。もはやお互いとポケモンしか、その意識にはない。観客を意識するべきアイドル的トレーナーとしては失格だが、そんなことは気にしていられない。

 

 カジリガメはその巨体ながら、オニシズクモよりも素早く動き、ノーマルエネルギーを凝縮させた攻撃を放つ。すでにダメージが蓄積していたオニシズクモは、「バブルこうせん」を放つことなくダウンしてしまう。

 

「――――!!!」

 

 あの頼りになるオニシズクモが、一撃。

 

 いくらダメージの蓄積があったとはいえ、それでも、ダイマックス技の威力を改めて思い知らされる。

 

 残りは二匹。だがどちらも、体力や防御力に自信があるわけではない。

 

 オリヒメは少し迷ってから、意を決してボールを手に取る。

 

「サシカマスちゃん! オンステージ!」

 

 バウタウン出身のトレーナーならなじみ深いポケモンだ。その素早さと攻撃力には、何度も助けられてきた。

 

「『アクアジェット』!」

 

「『ダイアタック』」

 

 その素早さを活かした出の速い技は、相手に確実にダメージを与えられる。だが、その代償に威力が低く、巨大化とともに体力も増えているカジリガメにとっては、もはや蚊が止まったようなものだ。

 

 そして返しの「ダイアタック」は、防御面ではあまりにも脆いサシカマスを一撃でダウンさせる。皮肉にも、先ほど「むしくい」が上手に決まって一撃で倒れたルリナのサシカマスと同じ形だ。

 

 それは、最後の一匹を引きずり出した、という点でも同じ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 だが、両者の間には、大きな違いがあった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「…………そんな……」

 

 いっぱい鍛えてきたはずだった。

 

 周囲の誰よりも努力をしてきた。結果も残せるようになってきた。大好きな姉のような幼馴染というトレーナーの後輩もできた。去年何とか運も絡んで突破したヤローに、今年は実力で初回で勝つことができた。

 

 それでも。

 

 ルリナには、また勝てないのか。

 

 トレーナーの習性でサシカマスをボールに戻す。

 

 残ったポケモンは一匹。

 

 だがそのボールに手を添えるものの、握って投げる決心がつかない。

 

 

 

 

 

 

 

 

 最後の一匹は、コイキング。

 

 

 

 

 

 

 小さいころから、それこそスピカとほぼ同じころに出会った、大切なパートナーだ。

 

 コイキングはすばしっこさこそあるものの、攻撃力も防御力も弱く、また基本的にただその場で跳ねるしかできない、図鑑にすら書いてあるほどの、情けないポケモンだ。友達には何度も馬鹿にされたし、トレーナーズスクールの先生すらも表には出さないがどうしたものかと困っていた。

 

 それでも、大切なパートナーだ。

 

 オリヒメが初めてバトルに目覚めたのは、近所の子供同士の、戯れのようなバトル。カムカメを使うガキ大将相手に、なんとコイキングだけで勝利したのだ。その様子をたまたま見ていた先代バウジムのジムリーダーがオリヒメを見出し、トレーナーへの道を開いた。

 

 コイキングはオリヒメのポケモントレーナーとしての原点だった。

 

 だがそれでも、種族の壁は厚い。トレーナーズスクールに入学してしばらくしたらサシカマスをゲットし、またスクールで優秀な成績を残してジムチャレンジに推薦されてすぐにシズクモを捕まえた。

 

 そうしたら、あまりにも弱いコイキングは、ほとんどバトルに出なくなった。出したとしたら、それは、「隠し玉」ではない。「最後の一匹」だ。それはつまり敗北を意味する。今でもコイキングは大好きだが、いつしか、コイキングは「敗北の象徴」となっていたのだ。

 

 負けたくない。

 

 負けたくない。

 

 そのせいで、コイキングを出すことができない。

 

 出すことはすなわち、敗北に身を投げ出すのと同じだからだ。

 

 だが、いつまでもこうしてはいられない。

 

 審判に促され、慌ててボールを握り、腰から外す。

 

 だが、いざ投げようとしたところで、全身が震え、どうしても投げることができない。

 

(どうしよう、ごめ、ごめんなさい……!)

 

 歯がガチガチと鳴り、脚からは力抜け、それでも手が痛くなるほどにボールは強く握って話すことができない。

 

「敗北」を決定づけることが、どうしてもできなかった。

 

 この時、オリヒメは初めて――トレーナーにとっての敗北が、本質的に「死」である、ということを体感した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 途端に、手の震えが、さらに激しくなる。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「…………え?」

 

 傍から見たら、オリヒメがショックでさらに震えたようにしか見えない。だが当人にとっては違う。自身が震えたのではなく――ボールが震えたのだ。

 

 手に握る、コイキングを入れた、もっともボロボロで、そして一番大切に磨いてるモンスターボール。

 

 その中にいるコイキングが、暴れている。

 

 すぐに出せ。戦える。まだ負けていない。

 

 そう闘争心を露にして、オリヒメに訴えかけているのだ。

 

 コイキングはその弱さにたがわず臆病な性格でバトルは好まない。オリヒメのコイキングは種族としては闘争心が強い方だが、サシカマスよりかは大人しい。

 

 そんなコイキングが、自分から勝手にボールに出るのではないかというほどに、暴れている。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 まだ負けていない。

 

 いや、勝てる、と。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「どうしましたチャレンジャー、早く次を出してください。失格にしますよ」

 

 審判が反則を示す旗を掲げようとする。

 

「まあ待ちなさい。面白いものが見られるわよ」

 

 その審判を、ルリナは止めた。ジムリーダーと言えどバトル中は審判の言うことは絶対だが、両者の間にある生物としての格と、ルリナの迫力に、審判は負けてしまった。それは彼もまた、こうして審判ができるほどに優秀なトレーナーである証でもあるだろう。

 

 そしてそのやり取りは、オリヒメの耳に入らない。

 

 大きくなったカジリガメ、そしてルリナという、大海のように強大な「敵」を前にしてもなお、オリヒメは、コイキングとの気持ちのやり取りに集中していた。

 

「……うん、そうだよね。今まで、ごめん」

 

 大切なパートナー。両親やスピカと並んで、いつも一緒にいた大事な「家族」みたいなものだ。

 

 そんなこの子を信じてあげなければ、トレーナー失格だ。

 

「……あと、ありがとね」

 

 もう迷わない。

 

 オリヒメは、アイドルとしてステージやフィールドに立つときの華やかな笑顔とは比べ物にならない、爽やかで晴れやかな笑みを浮かべて、流れるような動作で振りかぶり、モンスターボールを投げる。

 

「コイキングちゃん! オンステージ!」

 

 勢いよくボールから飛び出してきたのは、地上でビチビチと無様に跳ねるコイキング。

 

 だがその跳ね具合は激しく、間抜けなはずの表情は鬼の如く険しくて、飛び跳ねるたびに衝撃で地面が揺れる様にすら感じられる。

 

 先ほどまで二人の間にあった差は、もうない。

 

 オリヒメは、残った一匹を、信じきれるようになった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「最後の一匹じゃない! 隠し玉のポケモンなんだから!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 トラウマで、天敵で、そして憧れのルリナの言葉を借りて、宣戦布告する。コイキングと同じだ。まだ負けていない。勝ってみせる。

 

 コイキングの登場で困惑し乱れていた観客たちの「歌」が、オリヒメの叫び声によって巨大な歓声として爆発し、より大きな歌になっていく。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 それと同時に、コイキングが激しい光に包まれた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「『ダイアタック』!」

 

 ルリナの本能が警鐘を鳴らす。

 

 これは危険だ。

 

 飛びぬけて優れたトレーナーであるルリナは、敗北という死に特に敏感であった。それは、死と隣り合わせの大自然・ワイルドエリアで磨かれたガラルのトップトレーナー全員に共通する本能だ。

 

 本来、チャレンジャーの全力を全て受け止めてこそのジムリーダー。「何か」が起きそうなら、手抜きにならない範囲で待つべきである。

 

 だが、つい、指示を出してしまった。

 

 カジリガメは一瞬困惑したが、それでも忠実に指示に従い、「ダイアタック」を敢行する。

 

 そうしている間に、強く拡散していた光は次第に収束していき、そこに向かってノーマルエネルギーの破壊が放たれた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 そしてその攻撃を受けたギャラドスは、まだまだ元気だとばかりに、激しく雄たけびを上げた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「――――やった、やったよ、コイキ……ギャラドスちゃん!!!」

 

 オリヒメはその姿に目を見開き、大粒の涙をボロボロとこぼしながら、喜んで跳ねまわる。

 

 遠い地方では、弱い弱いコイキングが、激しい滝を登り切る試練を越えた時に巨大な龍になるという伝説がある。今でこそそれがギャラドスへの進化を指し示すということが分かっていて、それとともに、コイキングというポケモンの進化がいかに大変かを示していた。

 

 だが、今この土壇場で、ついに、コイキングは進化した。

 

 コイキングは、いや、コイキングとオリヒメは、巨大な逆流を乗り越えたのだ。

 

「いくよ、ギャラドスちゃん! 『かみつく』!」

 

 ゴオオ! と咆え、大きな口を開けて、巨大なカジリガメの太い脚へと「かみつく」。その牙は鋭くて太く、顎の力は強い。大きさに歴然の差があるというのに、カジリガメはよろけ、それと同時にダイマックスエネルギーが切れて、元の大きさに戻る。

 

(まずい!)

 

 ルリナはギャラドスを睨む。

 

 土壇場になっての進化。先達たるジムリーダーとしては、チャレンジャーの大きな成長は喜ばしくはあるし、ましてや気にかけていたオリヒメだから感動はひとしおだ。だがそれはそれとして、ルリナはポケモントレーナーである。今目の前にある大きな敗北の可能性に、トップトレーナーとしての感性が敏感に反応している。

 

 よく知っているポケモンだ。

 

 ギャラドス。体が大きくてパワーが強く狂暴なポケモン。ポケモンによる大災害の例で真っ先に名前が上がり、遠く離れたジョウト地方のもの中心に、事実・伝承問わず多くの話が残っている。ガラルにおいても、ギャラドスはあのワイルドエリアでは常に生態系の頂点に君臨し続ける「ドラゴン」として名を知られている。

 

 そして例こそ少ない――コイキングを進化させるのがとても難しいから――が、うっかり進化させてしまって手がつけられなくなり大惨事になってしまうポケモンの代表でもある。

 

 とはいえ、今更それを心配したりはしない。この進化の経緯を見れば、あのギャラドスがオリヒメの言うことを聞かないなんて、万に一つもあり得ない。

 

「カジリガメ、落ち着くのよ。大丈夫、条件は対等よ」

 

 先ほどの「ダイアタック」を見て分かった。カジリガメはギャラドスの特性・威嚇で委縮し、攻撃に力が入らなくなっている。そしてその怯えは時折、攻撃以外の様々な面に影響を及ぼす。ポケモンもまた、感情を持った生物なのだから。

 

 威嚇で攻撃力を下げられた。このカジリガメは、物理攻撃力に優れるこの種族の中では、特に物理攻撃が苦手な個体である。故に、逆に得意な特殊攻撃技も習得しているが、あいにくながら「みずでっぽう」のみであり、ギャラドスには効果今一つだ。ルリナが「まずい」と思ったのはそこである。

 

 だが一方で、本来種族的にはギャラドスの方が素早いが、本能的に選んだ「ダイアタック」のおかげで、こちらのほうが素早くなっている。この点で言えば対等だし、十分に勝機はある。

 

「『ずつき』!」

 

「もう一度『かみつく』!」

 

 二つの巨体がぶつかり合う。

 

 カジリガメもまた強いパワーを持つ狂暴なポケモンで、第二鉱山では奥まったところでなければ生態系の頂点にいるし、ワイルドエリアでもその位置にいることがある。海辺のバウタウンでは群れを成したヨワシと並んでよく騒ぎになる強大な存在だ。その強さとプライドは、ギャラドスにも負けていない。

 

 お互いに相手の攻撃を回避しようとせず、ひたすらにぶつかり合って、相手に攻撃を浴びせる。原始的な死に物狂いの争いに見えて、真正面から受け止めることで相手の攻撃が想定以上に強く入ってしまわないようにお互いにしている、高度な戦いだ。

 

 その、お互いを傷つけ合い、お互いを殴り合い、そしてお互いを認め合う激闘に勝利したのは――――

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「自慢の最強メンバーなのに、まとめて押し流されちゃった!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ――悔しそうに頭を掻きむしり天を仰ぐルリナと対面する、勝鬨を上げるギャラドスと、それに抱き着いて泣いているオリヒメだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

○○○○

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「そう、貴方も来たのね」

 

 それから数時間後、もうすぐアフタヌーンティーの時間というころ。

 

 ルリナは新たな挑戦者と対面していた。

 

「二日ぶりですね」

 

 ずいぶん長いこと旅をしていたような気もするが、彼女に推薦されたのは開会式の前日。つまり一昨日だ。昨日がとても長い一日だったので、つい時間の感覚が狂ってしまう。

 

「オリヒメから何回か聞いてる。怠け者だけど、頭が良いって。本当に、冴えた頭脳の持ち主なのね」

 

「はあ……」

 

 この学問の敷居が下がった時代に、さほど有名ではない大学の入試の直前に焦って勉強する程度の頭脳だ。冴えているかどうかは疑問が残る。スクールでのテストも、真ん中より下に落ちたことはほとんど――テスト中うっかり寝てしまって0点になってしまったとき以外は――ないが、トップ層ではなかった。

 

 だがスピカは、スイッチと流水を使ったパズル迷路のジムミッションを、初挑戦で、一度もミスすることなく最短手でクリアした。それも考えるために止まる様子は一度もなく、動きには一切淀みがない。それどころか、走って移動する程に思考の余裕があった。それこそまるで、流れる水の様。ルリナや先代の経験の中でも、ぶっちぎりの最速だ。

 

「でも、その冴えた頭でどんな作戦を繰りだそうとも。わたしと自慢のパートナーが、すべて流しさってあげるから!」

 

 ある意味では、負けるのがジムリーダーの務めでもある。

 

 だがだからと言って、簡単に負けるつもりはさらさらない。

 

 そもそも、いくら使用ポケモンの強さや技や戦略が制限されているとはいえ、それは「チャレンジャーとある程度同じになるように」設定されているに過ぎない。それで負けるとはすなわち、「トレーナーの腕が負けてる」証だ。

 

 そんなこと、そうそう起こさせるわけにはいかないのである。

 

「いけ、トサキント!」

 

「バトルだ、ランターン!」

 

 たった二日しか経っていないのに、もういっぱしのトレーナーのように、進化後のポケモンを二匹も連れている。先ほど自分を負かしたオリヒメの言っていること、そして二日前の自分の判断は正しかった。

 

 ――この後ルリナは、このジムチャレンジで九度目、今日四度目の敗北を喫した。




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5-1

 ジムチャレンジを攻略していく水統一RTA、はーじまーるよー!

 

 前回はルリナを倒したところまででした。時間的にはまだ滑り込みでチャレンジできそうです。バウタウンの市場で潮のお香五つと買えるぶんだけの復活草を買って、アーマーガアタクシーでエンジンシティにいざデ鎌倉!

 

 そして即座にエンジンジムに入って、エントリー! ヨシ、間に合った!

 

 それじゃあ、行きますよ~イクイク。

 

 

 

 ここのジムミッションは、ジム内に放たれたポケモンを、捕まえたら二点、倒したら一点もらえて、合計五点獲得すればクリアです。この際必ずジムトレーナーがこちら側にいますが、全力で妨害してきます。対処法を事前に準備してなかったらストレスがたまるで有名ですね。

 

 そして、原作剣盾RTAの場合は、事前にクイックボールを準備しておいて爆速で捕まえてポイントを稼ぐことでも有名です。

 

 また通常プレイでも、ヤクデやヒトモシといった普通の進行では手に入れにくいポケモンを捕まえられる救済スポットとしてもまた有名です。

 

 

 では、この有名な三つの要素があるチャレンジですが……

 

 

 

 

 

 

 ……全部ありません!

 

 

 

 

 

 

 全部、潮のお香を持たせたオタマロの「バブルこうせん」でぶっ殺していきます。

 

 というのも、まず事前準備してあるからイライラ要素は少ない。

 

 それに前回お話しした「水タイプ使い」の仕様のせいで、水タイプを含まないポケモンをゲットできないんですよ。

 

 そういうわけで、RTAにあるまじきことに、コツコツ五匹倒します。

 

 ですが、これにもメリットがありまして……

 

 

 

 

 

 

 

 

 ……じゃじゃーん! オタマロはガマガルに進化した!

 

 

 

 

 

 ではカブ戦です。

 

 これまでは進化前ポケモンが必ずジムリーダーの手持ちに入っていましたが、今回は三匹とも最終進化です。しかも最終進化の中でも比較的種族値が高い方で固めています。他ポケモンシリーズで言えば四つ目相当の構築と言えるでしょう。また、ここからジムリーダーの切り札がいよいよ特別なダイマックス・キョダイマックスになるんですね。

 

 そういうわけで、通常プレイでは難度が高いで有名です。実際原作中でも、ここが鬼門だと言われていました。このゲームのRTAでも、ここは各チャート様々な工夫が凝らされています。

 

 では、このチャートの工夫を見ていただきましょう。

 

 

 

 まずは初手ペリッパーを出して雨を降らせたらガマガルに即交代! 打破せよ、ガマガル!

 

 そのあとは、特性すいすいで倍化した素早さで、種族値の暴力の上から雨「バブルこうせん」! キュウコン突破!

 

 もういっちょ上から雨「バブルこうせん」! ウインディ撃破!

 

 そしてキョダイマックスしたマルヤクデにも上から雨「バブルこうせん」!

 

「でんこうせっか」二回分と「ダイワーム」のせいでガマガルがやられましたが問題ありません!

 

 へい、エースペリッパー降臨! 雨「みずのはどう」で、マルヤクデ爆殺!

 

 

 

 

 

 

 

 あ^~水統一強いんじゃ^~

 

 

 

 

 

 

 はい、こんな具合で、雨を降らせてすいすいでアイテム補正付雨水技連打すれば勝てます。

 

 ガマガルが25レベで、ペリッパーが29レベで、相手のレベルが32と34なのにこれですよ!

 

 Foo! 気持ちぃ~!

 

 水統一は、こんな具合で、雨パが非常に強いのが特徴です。

 

 特にここのカブ戦は、難度が高いのにむしろ一番イージーウィンできるのが魅力なんですねえ。

 

 そういうわけで、炎バッジ、ゲットだぜ!

 

 

 

 これで時間制限が来てしまったので、ホテルスボミーインでまた強制お休みです。当然主人公たちが先にクリアしているので、エール団イベントもありません。

 

 

 ♪~♪(ドラクエの宿屋)

 

 

 さて、ここから次のジムがある、ラテラルタウンに向かいましょう。

 

 普通のRTAなら原作と違ってさっさと列車に乗って移動するのですが、ここは原作主人公たちと同じく、ワイルドエリアを通って行きましょう。

 

 そしてそこで、三つ目のバッジを手に入れて五匹手持ちに入れられるようになったので、シズクモまたはオニシズクモを捕まえます。超強力な反則特性・水泡、そしてストーリーでは弱点となる鈍足が特徴です。しばらく戦力にならないし、捕まえた時点で進化レベルは越えてるので、オニシズクモでもシズクモでも構いません。強いていうなればオニシズクモを直接捕まえれば、進化演出と図鑑演出が短縮できてお得なのですが……今回は親譲りの安定のためにシズクモにしましょう。

 

 理由は簡単。運ゲーになるから。

 

 ストーリー中のワイルドエリアの進化後野生は、こちらの手持ちよりレベルが高い傾向があります。それはすなわち、捕獲率の大幅な低下を意味します。原作RTAにおいて、ウインディとドリュウズを使う通称・ウインドウズチャートで、ドリュウズがいつまでも捕まらなくて大幅ロスする光景は有名ですよね。

 

 今回もそれは避けたいです。こちらは水タイプで固めてるとはいえ、オニシズクモは雨の中しか出現せず、つまりこちらに雨水泡水技をガンガンぶつけてきます。特性呼び水はいますが進化レベルが遅くてまだカラナクシ(クソザコナメクジ)のままなので、普通に倒されます。

 

 そういうわけで、シズクモを捕まえました。

 

 ここで攻めたい人は、オニシズクモを狙っても良いです。幸い水虫タイプなので、クイックボールが失敗してもネットボールが有効ですし、ランターンの電磁波もありますからね。水統一チャート自体、最初のガチャがクソなだけであとは安定チャートなので、ここで攻める余裕は十分あります。私はしませんがね。

 

 

 そして、ナックルシティについたらそのままラテラルタウン直行ではなく、回復がてらポケセンに寄りましょう。

 

 

 

 ジョーイさんに、ポケモンを元気にしてもらいました。

 

 ポケモンを、元気にしてもらいました(意味深おやこあい)

 

 

 

 またこの時に、技マシン「しおみず」を買っておきます。

 

 効果は「相手のHPが半分以下なら威力が二倍になる」と、RTA向きではありません。しかし、耐久が高い相手を少しずつ削った後の一手としては有効で、格上との戦いには使えます。つまり格上と戦い続けるこのRTAではむしろそれなりに便利なんですよね。また、同じ威力65の「バブルこうせん」を素で覚えるランターンとオニシズクモは良いですが、他は威力60の「みずのはどう」です。わずか威力5の違いですが、ミリ残しに泣くことが無いようしっかり更新しましょう。

 

 で、ラテラルまでの道中である6番道路は常に晴れです。ペリッパーを先頭にして常に晴れを雨に上書きしながら戦うのが一番楽ですが、天候変化演出とか雨が降り続いている演出があまりにもロスなので、水技以外で戦っていきます。当然、無駄トレはスーパーロスになるので、ヤロー戦の前並に慎重に避けましょう。

 

 とはいえ、トレーナーと戦う数が多くなってしまうし階段の上り下りもあってロス極まりないのですが、ここで寄り道して不思議な飴を拾っておきます。道中に落ちてる不思議な飴は全部回収しておきましょう。実はヤロー戦敗北後の修行でも、こっそり不思議な飴を一個回収しています。

 

 

 それはさておき、ここからラテラルタウンまで長いので、前回のイベントについて説明しましょうか。

 

 オリヒメちゃんのジムチャレンジ観戦イベントという話でしたね。当然走ってる時はスキップしましたが、あとでギャラリーで見返してみると、とんでもない内容でした。

 

 

 

 オニシズクモで前座のトサキントとカマスジョーをサクッと倒すまでは良かったのですが、そこからカジリガメのダイマックスにこれまたサクッとオニシズクモとカマスジョーが倒されます。

 

 すると最後に残ったコイキングを出すときに、今までの色んな思い出や感情があってコイキングを出すことができずオリヒメちゃんは震えて投げられません。するとコイキングがボールの中で暴れて語りかけ、オリヒメちゃんがガラルのポケモンバトルを体現するルリナの台詞を借りながら、決心してコイキングを出します。

 

 

 するとなんと、「バトル中」なのに、ギャラドスに進化して、カジリガメに威嚇をいれてAを下げ、そのアドバンテージを活かして殴り合いで勝利を収めました。

 

 

 

 

 おかしいポイントその1!

 

 なんでバトル中に進化してるんだよ!!!

 

 それはアニメの特権だろ! それも主役級またはメイン級の!!!

 

 ゲーム内では主人公ですらやってないの!!! しかも、最初からずっと相棒だったコイキングが、因縁であり憧れのジムリーダーとの戦いでギャラドスになるって!!! お前が主人公かよ!!! こちとら元気の欠片ゾンビ戦術じゃ!!!

 

 

 

 

 おかしいポイントその2!

 

 ルリナがプレイヤーの時に比べて弱すぎる!!!

 

 ギャラドスに進化して、そこから「たきのぼり」でなく「かみつく」を使ってるってことは、進化レベルは20だな!? 威嚇があっても、どう逆立ちしたって真正面から、私が戦う羽目になった33レベのカジリガメには勝てねえよ!!!

 

 おそらく、プレイヤーキャラ以外と戦う場合のジムリーダーの手持ちは、原作と同じレベルです。あのカジリガメも24レべでしょう。そうでもしないと納得できません。

 

 

 

 このゲーム、ファンメイドなんですけれど、プレイヤーキャラを投入するにあたってそれによる世界の変化を自動的に生成し、さらにそこからテキストやイベントも自動で生成する、オーバーテクノロジーゲームなんですよ。AIが作る割にガバストーリーが少ないで有名です。私も長年このゲームで様々なイベントを楽しんできました。

 

 ですが、このムービーレベルで色んな文脈や変化が重なって上手に感動的になってるのは、初めて見ました。RTAが絡まなかったら、大泣きしながら、このムービーに至るまでも含めて動画にしていたかもしれません。

 

 

 さて、そうこうしている間に、ラテラルタウンに着きました。

 

 このタイミングだと……はい予定通り。ホップ君との戦闘イベントです。

 

 このころのホップ君はビート君に負けたこともあり、色々スランプ気味です。進行も、主人公よりちょっと遅く、プレイヤーより三歩ほど速い、ぐらいです。

 

 ではやっていきましょう。

 

 

 

 相手は初回と同じく、こちらの最大レベル+1が最低ラインとなっています。

 

 まず最初のウッウはランターンで迎え撃ちます。さて、抜群の電気技で……と見せかけて、「バブルこうせん」! すると、相手はスナヘビに交代しているので、交換読み交換が決まって、抜群で入ります。そのままもう一度種族値の差で上から「バブルこうせん」!

 

 続いて出してくるのはエレズンです。これも「バブルこうせん」でOKです。こちとら特性蓄電なので、電気技はむしろウェルカムなので問題ありません。

 

 さて、続いて現れたのはラビフット。なんとこちらの最大レベル+4です。

 

 ランターンはとっておきたいので、ここでペリッパーに交代します。「にどげり」「りんしょう」を一発ずつ貰ってしまいますがモーマンタイ! 雨「しおみず」で勝ち!

 

 残りのウッウはまたランターンに交代してスパークで勝ち!

 

 

 

 ふん、出直してきな。

 

 

 あ^~モブなのに原作最強ライバルに勝つの気持ちええんじゃあ^~

 

 モブになって、恵まれない立場と縛りを色々世界からかけられながらも、原作最強格を倒す。

 

 まるで(異世界転生)ものみたいだぁ(直喩)

 

 

 さて、じゃあポケセンに入って回復したら、ラテラルジムに俺もいっちゃうううううううううううううンギモヂイイイイイイイイイ!!!

 

 

 

 ここはコーヒーカップでくるくる回るやつですね。アクション性が強いですが、何回も練習してます。当然ガバなんかありません。見てろよ見てろよ~。

 

 ここのモブは強制戦闘です。本来ならペリッパーでサクッと「エアスラッシュ」連打で倒したいところですが、エースで倒し続けるとどんどん手持ちでのレベル格差が広がり、ジムリーダーなどのボス戦が辛くなります。涙を呑んでペリッパーには待機してもらい、ランターンやガマガルに任せましょう。傷薬、そして苦い苦い復活草があるから大丈夫だよぉ(ゲス顔スマイル)

 

 

 では早送りしている間に、もし最初のポケモンでキャモメ以外が選ばれていたら、のお話をします。

 

 

 まずシズクモが選ばれていた場合ですが、今回と同じくチョンチーは開会式前に捕まえておいてルリナ戦に備えてじっくり育てます。ヤロー戦が終わったら、キャモメとオタマロを捕まえます。カラナクシが後回しになるのがポイントですが、こうなった場合、四匹時点での構築パワーは爆増しますが、水無効がいない分、ルリナ戦での安定感が減ります。カラナクシを生贄にしての道具連打や「どろかけ」デバフとかが出来なくなるので。

 

 ただしオニシズクモのパワーがえぐいので、ルリナ戦自体は素早く終えることもできます。この時点でペリッパーとオニシズクモにしておいて雨水泡でゴリ押せるんですね。キャモメを育てるのに結局時間がかかるのでそこまではしませんが。

 

 

 次にメッソンが選ばれていた場合ですが、こうなったら、ワイルドエリアでシズクモかキャモメを捕まえて、最初のヤロー戦をなんとか突破します。最初にワイルドエリアで捕まえる手間がかかるのが欠点ですが、それはバウスタート以外のチョンチーと変わらないので問題ありません。

 

 

 どちらにせよ、最終メンバーはさほど変わりありませんね。キャモメ・シズクモに至っては最終的に同じメンバーになります。

 

 

 さて、そうこう話している間に、ついにサイトウ戦です。

 

 相手の手持ちは、こちらの最高レベル+3のカポエラーとゴロンダ、+4のネギガナイト、そして+5のカイリキーです。ついに相手の数が四匹になり、また全員最終進化系となっています。そうそうたる面子ですね。ホウエン地方のアスナとか同じ4つ目なのに強いエメラルドの方でもドンメル、マグマッグ、バクーダ、コータス(7世代魔改造前)だぞ!?!?

 

 

 これで主人公様だったら初手ダイマからのダイジェットで抜群突きながらS上げて勝ち!!! なんですけれど、そうはいきません。

 

 

 はい、やっていきます。

 

 

 まずは初手ペリッパー! 相手はカポエラーです。

 

「エアスラッシュ」二回でOKです。意地っ張りテクニシャンカポエラーの「リベンジ」と最後っ屁の「でんこうせっか」を食らって結構痛いですが、持たせた木の実によってある程度回復できますので問題ありません。

 

 

 次に出てくるのはゴロンダ。このレベルまで成長していたら、こちらの方がギリギリ素早さで勝っているので、上から「エアスラッシュ」を二回ぶちこんで勝ち! ……と行きたいところですが、ダメージ増覚悟で二ターン目に「おいかぜ」しておきましょう。大丈夫、相手は二ターン目からはすぐやられると踏んで効果今一つの先制技「バレットパンチ」を選ぶので。

 

 

 

 続くネギガナイト。レベルも+4になり、本来素早さが少し抜かされがちなのですが、先ほど「おいかぜ」をしておいたので、上から動けます。初手は「みきり」で時間稼ぎしてきますが、もう一ターン「おいかぜ」が残るので、上から「エアスラッシュ」を一発ぶち込んで、一旦退場です。「みきり」のターンに「はねやすめ」や傷薬使う手もあるのですが、「はねやすめ」はまだ覚えない上に技スぺも足りず、傷薬はラス一キョダイマックス相手に復活草でゾンビするために道具使用回数を減らしたくありません。

 

 で、ペリッパーが退場したら、捕まえた後のレベルアップで速攻進化したオニシズクモを出します。相手に先制「ぶんまわす」で削られますが、潮のお香+水泡で強化した「バブルこうせん」で一撃です。

 

 

 

 

 さあそしていよいよ出てきたのがカイリキーです。キョダイマックスしてきました!

 

 まず最初は「まもる」! 次のターンはペリッパーに復活草! これでオニシズクモがやられるので、三ターン目はランターンを出し、ここで「でんじは」で麻痺させます。これでキョダイマックスが切れました。

 

 ここテクニカルポイントです。

 

 別にネギガナイト相手にはあの後どれ出してもいいんですが、虫タイプのオニシズクモを出すことで、最初の二ターンに効果今一つとなる「キョダイシンゲキ」を相手が打たなくなり、急所率上昇を抑えることができます。これにより、三ターン目のランターンは「まもる」をせずとも高確率急所に怯えずに「でんじは」ができます。まあ素急所引くこともありますけど(2敗)

 

 

 さて、これで急所率一上昇・麻痺のカイリキーが出来上がりました。あとは半分になった素早さの上からゴリ押していきましょう。多少時間がかかっても色んなポケモンをここで出して経験値を増やしたいですが、急所率上昇被ダメ「リベンジ」が怖すぎるので、ランターンとペリッパーの二匹がかりでさっさと倒します。戦闘に出さなくてもデフォで手持ちに経験値が入るのは良い仕様ですね。

 

 

 

 

 こんな感じで、サイトウ突破!

 

 ペリッパーが「エアスラッシュ」を基本技で覚えてくれるのがうまテイストでしたね。また超火力戦力オニシズクモが格闘半減なのもいい味出してました。

 

 あとここでカラナクシがトリトドンに進化しました。これで戦力として十分です。

 

 

 

 それでは今回はここまで。ご視聴、ありがとうございました。




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5-2

 ペリッパーで雨を降らせたせいで本日二度目のびしょぬれになった髪を乾かして下着を替え、ぐしょ濡れのユニフォームも追加され、湿った荷物が二倍になった。これからはジムに挑む前に色々考えなければならないかもしれない。野良バトルでは傘の使用も要検討だった。

 

 そんな後始末が必要だった、スピカのルリナへの挑戦を、オリヒメは見ていてくれたらしい。憂鬱な荷物を抱えてぐったりしながら挑戦者用出口から戻ってきたスピカを、オリヒメが出迎える。

 

「スピカちゃん、かっこよかったよー!」

 

「ああ、ありがとう。オリヒメも……あれはすごかったな」

 

 当然、オリヒメのコイキングや、彼女との関係については、スピカもよく知っている。一番仲が良いポケモンだが、最近のバトルではめっきり出番はなく、一番最後に出てほぼ敗戦処理めいた役割しかしていない。

 

 だが、あの土壇場でついに、コイキングが溜め込んだ気持ちと経験が解放され、「龍」になった。

 

 コイキングを長いこと連れ、ギャラドスにまで育て上げ、しかもお互いに信頼関係を築いて従えている。ドラゴン使いも驚くような存在に、オリヒメはなったのだ。

 

 あれに比べたらスピカの戦い方は泥臭い。有利なポケモンで最初の二匹を倒し、ダイマックスは数と道具の力で誤魔化し、最後は雨でびしょ濡れになりながら勝つ。理論的で効率が良いという点ではスマートともいえるが、感情面でのスマートさは欠片もない。

 

 とはいえ、ルリナの仕掛けた論理パズルをぶっちぎりの歴代最速・最短手でクリアし、まるで作戦通りと言わんばかりにルリナを追い詰め、そして豪雨に打たれぐしゃぐしゃになりながらも鋭い眼光でバトルに挑んだスピカもまた、ヤローに勝った時の姿も記憶に新しく、大きく話題になり始めている。本人は知らないが。

 

「オリヒメ、スピカ」

 

「「ルリナさん!?」」

 

 そうしてバウジムから出ようとしたところで、二人はユニフォーム姿のルリナに呼び止められた。まさかの、憧れであり地元の名士でありトッププレイヤーの彼女にここで呼び止められるとは、思ってもいなかった。

 

「直後にも言ったけど、さっきの戦いは、本当に素晴らしかったわ。二人を推薦した私の目に、狂いはなかったね」

 

 スピカはもちろん、オリヒメも今年はルリナから推薦されていた。二人のこの勝利は、ある意味では「恩返し」とも言える。

 

「それで、さっきのバトルを見て感動した人がいてね。私を通して、オリヒメに正式にスポンサー契約の話が来てるのよ」

 

「え、うそ!? やったあ!」

 

「おめでとう、オリヒメ」

 

 この話を聞いたオリヒメは飛びあがって涙を流しながら喜び、スピカは祝福する。

 

 バッジも初ジムチャレンジで二つ集められる程度には実力があり、見た目や立ち居振る舞いに華があって、そこそこ人気もあり、アイドル的活動をしている。そんな彼女にとって、大会ごとの一時的なものではなく、正式なスポンサーがつくというのは悲願であった。スピカもそれは知っているので、バトル中の恐ろしげな顔が嘘みたいに、柔らかい笑顔で祝福する。

 

 ジムチャレンジはガラルで最も人気なイベントの一つである。その主役ともいえるジムチャレンジャーは、ガラル全土から、そして他地方のマニアから、注目を集める存在だ。そんな彼女ら・彼らのスポンサーとなって宣伝をしようという企業は多い。スポンサー紹介料としてリーグ委員にそれなりの金額を出す事にもなるが、それでもしょせんアマチュアへのスポンサーなのでスポンサー料は安く、宣伝効果のコストパフォーマンスがとても良いのである。

 

 そして、アマチュアトレーナーであると同時に交渉初心者である本人という「弱者」に直接交渉して甘い汁をすするのではなく、百戦錬磨のプロであるジムリーダーを通して話そうということは、「わかっている」スポンサーでもある。大手、もしくは優良スポンサーだろう。

 

 しかも、トップモデルでもあり芸能界をよく知るルリナが話をこちらまで通すということは、彼女のお眼鏡にもかなうスポンサーということだ。まずはほぼボランティア価格の地元町会や互助会から……と考えていたオリヒメにとっては、ひっくり返る程の話である。

 

 そういうわけで、オリヒメは一旦ジム内に設けられたスペースでスポンサーと面談することになった。ルリナに可愛がってもらえてるからか、彼女の紹介した代理人まで傍にいてくれるらしい。一方スピカはまだ初参加だし今までの活動歴もゼロということもあって、そのような話は来ていない。そのまま次のチャレンジへと進むことになった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

○○○○

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ようこそ! 僕が炎タイプのジムリーダー・カブだ」

 

 しれっと自然にチャレンジャー用入場口で横に立っていて、一緒に並んで入場するという奇妙なファーストコンタクトをしてきたくせに、平然とこんな挨拶をしてくる。バトルの前から精神攻撃だろうか。スピカは妙に気疲れさせられた先ほどのミッションを思い出しながら、「はあ、どうも。スピカです」と気の抜けた返事をする。

 

「草タイプのヤロー、水タイプのルリナをしりぞけよくぞここまできたものだ!」

 

 それは自分でも思うことだ。一週間前の自分にここに立ってるなんて伝えたら、変な夢を見たと思って二度寝を決めこむだろう。

 

「ミッションは……トレーナーとしての覚悟が決まっていたね。迷わず、あそこまで自分の得意を貫き通せるのは、良いトレーナーの素質だ」

 

 スピカはゲットでの二点に目もくれず、ジムトレーナーの繰り出す妨害も気にせず、ただひたすらに、水ポケモンの水技で淡々と炎ポケモンを倒して一点ずつ稼ぎ、ミッションをクリアした。結果的にこの方法で最後までやったから、妨害もほとんど受けていない。

 

「自分を曲げてしまうと、いざという時に自分もポケモンも信じられなくなる。スタイルが馴染まなくて、調子が出ないこともある。だけど、それを乗り越えた先には、また新しい世界が開けるはずだ。君はそちらにも傾きそうだから、老人としてアドバイスさせてもらったよ」

 

 スピカは押し黙る。

 

 衝撃的な初対面のわりに、あまりにも刺さる言葉だった。

 

 ジムミッションでは初志貫徹したが、今までのジムリーダーとのバトルでは、事前に策をこねくり回して手を変え品を変えやってきたイメージが自分でもある。最も得意なスタイルから外れることもあろう。

 

 そしてそれは、カブのトレーナー人生と重なるものだった。

 

 彼は勝ちへの執念のために一度自分を曲げ、挫折し、そしてかつての感情と新しい戦術を融合させ、こうしてメジャージムリーダーとしてまた活躍している。

 

 何も返さないスピカに対し、カブは何も反応しない。聞いてないのではなく、何か思うところがあって黙ってしまったのが見透かされたのだろう。

 

(いや、今は考えるな。ここは鬼門の三つ目。事前に用意した作戦でとりあえず進むべきだ)

 

 背を向けて所定の位置へと歩きながら、額に手を当て、ゆっくりと首を横に振る。それと同時に会場のボルテージがどんどん上がってきた。バトルが近づいてるのが分かったのだろう。

 

 そしてトレーナー用スペースにつき、振り返ってまたカブと対面する頃には、もう気持ちも切り替わっていて、闘争心が湧き上がり、目の前のカブを睨みつける。

 

 

「バトルだ、ペリッパー!」

 

 

 炎の聖地に豪雨が降り注ぐ。それによってすぐにびしょぬれになり、ぼさぼさ気味の長髪もあってその姿はあっという間に乱れていく。だがそんな自分を気にせず、バトル相手を睨んで冷徹に戦いを進めていく。

 

 観客の中にはその姿に、雨の中に現れるワイルドエリアの容赦ない野生ポケモンたちの姿を重ねる者もいた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

○○○○

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 結局、スピカは一日にワイルドエリアであえて雨の中に突っ込んだのと二回のジム戦を行ったのとで、三回もびしょぬれになった。エンジンジムの控室にあったチャレンジャー用急速乾燥機で乾かしたユニフォームも、またぐしょぐしょになっている。私服や下着ともども、ホテルスボミーインのサービスに期待しよう。

 

 そして翌朝、ゆっくり寝たスピカが再び旅立つ頃。早朝一番にエンジンジムに挑み、一発でクリアしたオリヒメが、スピカに抱き着くように飛びついてきて、そのことを報告してくれた。彼女はついに、前回の自分を越えたのだ。

 

 タイプ相性の差が大きかった。二人の感覚としてはそんな感じだ。二人とも、自分を曲げず、彼我の相性差を押し付ける戦術を選んだのだ。それにしたって、スピカの戦い方はどこか容赦のない印象があり、オリヒメのは華やかで応援したくなる印象があるのだから、つくづく性格が出るものだな、とスピカは自嘲する。

 

 そうして再会した二人はすぐに別れた。スピカはワイルドエリアで新たな戦力を探すのである。

 

 そして、普通に列車でナックルシティに行ってからラテラルタウンに行こうとしたオリヒメは――

 

 

 

 

 

 

「やあ、先ほどぶりだね」

 

 

 

 

 

 

 ――駅の前で立っていたカブに声をかけられた。

 

「お、おはようございます! 先ほどはありがとうございました!」

 

 オリヒメは慌てて挨拶を返す。芸能界の一端に触れた彼女はとても礼儀正しく、腰が一瞬で直角に折れ曲がり、頭は深くまで沈んでいる。

 

 このガラルでトップクラスの有名人にいきなり道端で会ったのだ。こうなるのが普通であろう。カブは慣れているから――ではなく彼特有の天然が発動して――オリヒメのこの行動を止めず、ただ見守っていた。

 

「おお、来ましたかあ」

 

 そして、駅の入り口からヌッと現れた巨体は、ジムリーダーのヤローだ。

 

「や、ややや、ヤローさんも!? お、おはようございます!」

 

「うん、おはようございます」

 

 オリヒメの驚きと緊張は限界に達した。どちらもジムバトルでは本気の本気で倒しにかかったが、憧れのトップトレーナーであることに変わりはない。いきなりこんなところで会えばこうもなる。それに対するヤローは、その鷹揚な性格から、のんびりと挨拶を返すだけだった。

 

「お、おお、お二人とも、これからどこかへお出かけですか?」

 

 もう大方の挑戦者が抜けたヤローはともかく、カブはこれから挑戦者が集まるタイミングだ。それなのにここにいるのは不思議である。

 

「実は君と、スピカ君に用があったのだが……」

 

「え、っと、スピカちゃんはワイルドエリア経由でナックルシティに向かうそうです……そ、それで、何か、ご、ご用、と、は……?」

 

 この二人がわざわざ自分なんかを駅で待ち構えるなんて。一体何の用だろうか。まさか、何か粗相やルール違反があったのか。オリヒメの脳内を嫌な想像が渦巻く。ルリナ経由のスポンサーがついて、さらについ先ほど鬼門の三つ目を突破してウキウキ気分だったのが、一気に半狂乱へと変わっていく。

 

「ジムバッジを三個集めるというのはとても難しい。ここで諦めるトレーナーは数多くいる。だから……せめて僕に勝った者は、みんな見送ることにしているよ」

 

 オリヒメの緊張具合を見て、カブはゆっくり語りかけるように、用件を説明する。

 

「そ、そんな、あたしなんかのために……」

 

 オリヒメは畏まって委縮してしまう。ヤローとルリナがともかく、カブに対しては相性差と運の差があった。きっと列車の中ではもうウキウキ気分が消え、次のジムこそが本番だ、と心臓が早鐘を打っていただろう。

 

 そんなオリヒメの心中を、多くの若者を育て見送ってきたカブは、すっかり読み取っている。

 

「何か勘違いしているようだけど。僕は相性が悪いからといって簡単に負けることはない。ルリナ君やマクワ君にだって大きく負け越してはいないよ」

 

 確かにそうだ。とんでもない失礼をしでかしたと、オリヒメはまた慌ててしまう。

 

「ルリナ君から聞いているけど、スピカ君は仲の良いお友達らしいね? あの子も同じことを思ってそうだから、これは伝えておいてほしい。君たちが勝ったのは、まぎれもなく実力だ。バッジを三つとれず諦めてしまった多くのトレーナーのためにも、胸を張って欲しい」

 

「は、はい……はい!」

 

 ジーン、と、胸に温かいものが染み渡る。

 

 燃える漢・カブの言葉は、オリヒメの心に暖かな火をともした。

 

「いつもならルリナさんも来るんだけど、今日はいろいろ立て込んでて来れないらしいんだな。まあ、二人ともルリナさんとお知り合いらしいし、きっと昨日にお話してるでしょう」

 

 和やかな笑みを浮かべて、ヤローが本題に引き戻す。そう、目的は、オリヒメと、そしてもったいないことに不在のスピカの見送りだった。

 

「そういうわけで、エールを送ることにする。ここにいないスピカ君にもきっと届くよう、いつもより気合をいれるよ」

 

 そう言ってカブは、大きく息を吸うと――目を見開いて、大きく叫んだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

「いけいけオリヒメ! やれやれスピカ!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 そのスピカはというと、エンジンシティを出たばかりのワイルドエリアのキバ湖・西で、不運にもいきなり猛吹雪に見舞われ、やるせない気持で必死にロトム自転車をこぎ進めていた。

 

 当然、炎の漢・カブの燃え盛るエールなど届いているはずもなく、心はすっかり冷え切ってしまっていた。




「ポケモンスローライフ編」
他モードと異なり、ガラルに住む一般人として生活する日常シミュレーション。ポケモンたちと一緒にお仕事をしたり遊んだり家事をしたりして生活する。ゲームシステムや画面はおおむね「どうぶつの森」「牧場物語」あたり。

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5-3

モンハンに夢中であれだけ夢中でやってた剣盾1週間以上触ってないので初投稿です


 ラテラルタウンについたスピカは、もう疲労困憊に近かった。

 

 ワイルドエリアではいきなり吹雪に遭い、そこからも雨やら雷雨やら砂嵐やらで大変だった。ナックルシティでポケモン回復と技マシン購入のために立ち寄ったポケモンセンターでしばらくぐったりしてしまったほどだ。タチの悪いことに、目的のポケモンであるシズクモは雨の中しか出現しない。砂嵐や吹雪はともかく、雨は「運が良かった」証である。

 

 これでついにスピカは傘を購入し、使う決心をした。そしてそれは、さっそく役に立つことになった。

 

 ラテラルタウンの道中・6番道路はカンカン照り。まさかの初仕事が「日傘」であった。

 

 当然、待ち構えるトレーナーや野生ポケモンとの戦闘は、水ポケモンばかりのスピカには不利だ。

 

 だが彼女は結局ここまででペリッパーを出して天候を一時的に雨にしたりはしていない。

 

 理由は簡単。強い日差しと雨が頻繁に入れ替わったら、体調を崩してしまいかねないからである。いくら一番の相棒と言えど、迷惑なものは迷惑だ。主にランターンと新加入したばかりのオニシズクモに頑張ってもらった。

 

 そうして満身創痍の末にたどり着いたラテラルタウンは、遺跡が多く残る歴史の古い町だ。何やら昨日、チャレンジャーの一人がその遺跡をぶっ壊して処分されたというニュースが流れていたが。

 

 それはさておき、ポケモンセンターでゆっくりと休み、ジムに挑もうとする。

 

 

 

 

「ん? おー、あの時のお姉さんじゃないか!」

 

 

 

 

 だがその手前の長い長い階段で、聞き覚えのある元気な声が聞こえてきた。

 

「……おま……君か」

 

 いつものくせで「お前か」と言いそうになるが、一応20歳越えの自覚はあるので、子供に「お前」は使ってはいけないと抑える程度の常識はある。

 

 声をかけてきたのはホップだ。相変わらず元気そうで何よりである。だがどうにも、あの時に比べたら元気がない。それでもスピカのマイナス二倍――スピカの元気は0未満である――ぐらい元気だが。

 

「よし、目と目が合ったらバトルだ! 準備はいいか?」

 

「……今からジム戦に挑む予定なんだがな」

 

 そう言いつつも、スピカはボールを構える。断ったら「じゃあ待ってるぞ!」とか言い出しかねない。ジム戦後に戦うのはしんどいので、準備運動がてらに相手するのが一番だ。

 

 

 ポケモントレーナーのホップが、勝負を仕掛けてきた。

 

 

「いけ、ウッウ!」

 

「バトルだ、ランターン」

 

 

 ウッウは比較的珍しいポケモンだが、水タイプ故に、バウタウン育ちのスピカでもよく知っている。水・飛行タイプだ。対するこちらは電気・水ポケモンのランターンで、非常に有利だ。ただし、意図したわけではない。特性・蓄電と、弱点が少なく技が豊富なランターンは初手にぴったりと判断しただけである。

 

「くそ、戻れウッウ!」

 

 ホップは苛立たしげにウッウを戻す。やはり、あの時と調子が違う。何か嫌なことでもあったのだろうか。

 

「いけ、スナヘビ!」

 

 続いて出したのは、新戦力の地面ポケモン・スナヘビだ。相変わらず水ポケモンであるランターンに不利だが、電気には有利。ウッウを狙った電気技は受けられる。

 

 

 

 

 

 だが場に出たばかりのスナヘビにいきなり突き刺さったのは、「バブルこうせん」だった。

 

 

 

 

「なっ!?」

 

「見えてたぞ」

 

 初めて戦った時に分かった。彼は色々なタイプのポケモンを連れられる、飛びぬけた才能があるトレーナーだ。故に、交換の選択肢も豊富である。仮にウッウに居座られても問題は薄いし、電気技を受けられるポケモンを出すと判断して、「バブルこうせん」を指示していたのだ。そしてそれが、どんぴしゃではまった。

 

 容赦なく追撃して、スナヘビは何もできずダウンする。

 

「さ、さすがだぞ! ここまでできるなんて!」

 

 ホップの動揺は激しい。完全に読み切られ、何もできずに一匹ダウンした。非常に悔しそうだし悲しそうだし、どこか苛立っている様子も見える。だがそれでも、スピカの見せたファインプレーを、心の底からの笑顔で賞賛してくれた。あまりにも性格が良い。元気すぎて少し話しただけでも疲れるが、スピカですら、ホップを嫌うことはできない。

 

「なら、いけ、エレズン!」

 

 出てきたのは知らないポケモンだった。

 

 だが、目つきが悪く紫色で、またバチバチとエネルギーが漏れ出ているから、毒、電気、悪あたりが入っているだろう。とりあえず電気技を選んでくれるならラッキーだが、おそらくそれはしてこないだろう。

 

 エレズンの技は「ようかいえき」と威力が低く、元気なランターンのダメージにならない。また「バブルこうせん」二回で倒した。エンジンジムのジムミッションの時から思っていたが、バウタウンで購入した潮のお香による威力アップの恩恵が著しい。市場でバイトした時にこんなのがあったことを覚えておいてよかった。

 

「くっ……こうなったら……いけ、ラビフット!」

 

 ホップの焦りは激しい。そんな中で選ばれたのは、あの時のヒバニーの進化系であろう赤いポケモン・ラビフットだ。恐らく炎タイプなのには変わりない。ランターンには不利だ。

 

 だというのに、スピカは思考のギアを一段階上げる。

 

 ラビフットを出した時のホップの特に信頼した様子。出てきた直後の立ち居振る舞いと威圧感。そしてかつてヒバニーのころに大逆転されそうになった経験。

 

 こうした知識と観察眼が重なって、「最も警戒するべきポケモン」として、即座に判断できた。

 

「戻れランターン! バトルだ、ペリッパー!」

 

 炎技の威力を減退させる雨を降らせるため。ランターンはウッウや予想後続に残しておくため。そして何よりも、最も信頼できるパートナーに任せたいから、ペリッパーを出し、同時に雨対策で傘をさす。ようやく本来の使い方だ。

 

 ランターンを狙って出された「にどげり」がペリッパーに突き刺さる。効果今一つだというのに、すさまじい威力だ。

 

「『りんしょう』だ!」

 

「『しおみず』!」

 

 炎も格闘も駄目。ならばノーマル技とばかりにホップが指示を出す。対するスピカも、覚えさせたばかりの技で対抗した。

 

 ラビフットの方が格段に素早く、ペリッパーはすさまじい威力の「りんしょう」で脳を揺るがされる。もう体力は半分も残ってないだろう。だがしっかりと「しおみず」を返し、ラビフットを一撃で沈めた。

 

「っ! いけ、ウッウ!」

 

「もう一度だ、ランターン!」

 

 スピカの判断は早かった。再び圧倒的に有利なランターンを出し、そのままとても効果抜群の電気技で止めを刺す。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「クソ、負けた!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ウッウをボールに戻しながら、ホップが崩れ落ち、悔しそうに地面を叩く。その姿に、スピカは二重の驚きを覚えた。

 

 敗北を、ここまで思いつめるような子だっただろうか。

 

 何よりも。

 

 

 

 

 

「おい……あの時の、ウールーとココガラはどうした?」

 

 

 

 

 初めて会った時のあの二匹がいない。

 

 どちらも旅の初期に連れていた仲間だろう。タイプ的にも外す理由はない。それなのに「負けた」ということは、今は連れてないということだ。

 

「…………ユウリにも、ビートにも何度も負けて、負け続けて…………アニキの、チャンピオンの名前に恥じないように、負けないように、色々メンバーを考えてるんだ…………」

 

「そ、そうなのか……」

 

 ビートはよく分からないが、ユウリは話題になってるから知っている。あのチャンピオンから推薦状を貰い、そしてジムチャレンジをすべて一発で、そして最速一番手でクリアしている。連れているポケモンもタイプは様々で、10年前のダンデの再来と騒がれていた。

 

 だが、ホップにとっては、どんなに「すごいやつ」でも、幼馴染なのだ。

 

 それに何度も負ける。その苦しみは、果たしてどれほどなのか。

 

 バトルの面で、きっと対等に過ごしてきたのだろう。いや、ダンデの影響のぶん、少し先輩だったかもしれない。それが、トレーナーとして旅立ってからは一度も勝てず何度も負けている。彼のショックや苦悩は、「チャンピオンの弟」という立場もあって、大きいものになっているのかもしれない。

 

 スピカのように、早々にオリヒメが才覚を表わし、一方自分は自他ともに認める怠惰だったら、最初からあきらめはつく。五歳ほど年下の妹のような存在だが、恥も外聞もなく甘えっぱなしだ。ホップの気持ちをわかることはないが、なんとなく、「そうかもしれない」のような予想はつく。

 

「あー、そうか。……私からは何も言えないけど…………その、あまり無理するなよ。ポケモンたちも、お前の判断を尊重してくれるはずだ」

 

 おそらく、ラビフット以外の三匹は、直前に加入した新入りだろう。それでも、ホップのことを信じ、彼の言うことをよく聞いていた。運よく相性や初手の差でスピカが勝ったが、もう一度やったら分からない。ポケモンの育て具合や練度は、ホップの方が上である。彼もまた、飛びぬけた才能がある。

 

 そういうわけで、気まずくなったスピカは、そんな、自分でも「わかったようなことを」と思うようなことを言い残して、そのままジムへと向かう。

 

「ああ、ありがとな……」

 

 しょげていたホップは立ち上がれずまた顔も下げたままだが、それでもお礼を絞り出した。どこまでも律義で良いやつだ、とスピカは感心する。そしてそんな彼ですらこうなるのだから、「チャンピオン」という存在がいかに重いのかを思い知らされた。

 

 

 

 

 

 

「くそっ!」

 

 

 

 

 

 

 スピカがジムの扉を開く直前、ホップの叫び声が、背中にわずかに届いた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

○○○○○

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 コーヒーカップに乗って斜面を滑り降りてゴールを目指す。

 

 コーヒーカップは自ら回転させることが可能で、回転方向に応じて進行方向が変わる。

 

 また斜面の壁にはところどころにパンチンググローブマシーンが仕込まれていて、それに弾き飛ばされることもある。

 

 コーヒーカップには、自分が滑り降りている斜面をリアルタイムで俯瞰できるモニターが付いていて、それを見ながらチャレンジする。

 

 ラテラルタウンのジムミッションはおおむねこのような感じだった。

 

 

 

 

「頭おかしいだろ!!!」

 

 

 

 

 一つ目のミッションをクリアし終えたスピカは、コーヒーカップからなだれ落ちるように降りる否や倒れ込み、跪きながら、人生最大の大声を出した。

 

 そう、乗り物に乗って斜面を滑り降りるだけでもかなり大変だ。それに加えて、自分が乗っているコーヒーカップを状況に応じて自ら高速回転させなければならず、さらにパンチンググローブに弾き飛ばされたときの勢いは強いためとんでもない慣性がかかる。

 

 自分が乗る乗り物が高速回転し、さらに急加速や急な衝撃を繰り返す。しかもそれにただ揺られるアトラクションなら良いが、自らそれを操作してゴールを目指さなければならない。

 

 はっきり言って、ただの地獄だった。

 

 ジム側もその自覚はあるようで、ゴール直後には、観客モニターからは死角になっているスペースがあり、そこで休憩が――または何かしらを「出す」ことが――可能になっていた。ご丁寧に排水溝の広い洗面台まである。

 

「あー、やっぱそうなりますよねえ」

 

 ジムミッションでトラブルがあった時に対応するため控えているスタッフも苦笑いだ。

 

「一応、コンセプトはあるんですよ。場のみならず体のコンディションも悪い状態でもまともにバトルできるかっていう。ほら、ワイルドエリアでは何が起きるかわかりませんから」

 

 少なくともこんなことがワイルドエリアで起きるわけないだろ! と言い返したいが、あいにくながらそのような元気はない。

 

 そして、スピカは知らぬことだが、実際のワイルドエリアではそのような事例がたまにある。毒ポケモンなどのガスによって酷い酩酊状態にいつのまにか陥り、その状態で襲われたベテラントレーナーが大怪我を負って命からがら逃げ延びたのだ。サイトウはそのような事例を知ったうえで、この楽し気ながらも身体的に一番つらいミッションを用意したのだ。

 

 そうしてしばらく休憩したスピカは足取りがおぼつかないながらもなんとか休憩スペースから這い出て、ジムトレーナーに挑みかかる。

 

 

 これがあと二回、しかもさらに長く難しく激しくなることに気づき絶望するのは、この数分後の事であった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

○○○○○

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ペリッパーに頼りたいのはやまやまだが、他ポケモンの育成もしたい。幸いここはワイルドエリアではなくジムであり、多少手を抜いても死にはしない。そこで、あえてペリッパーほど育っていない他ポケモンを育成することにした。

 

 そうしてなんとか、本当にやっとこさ、実にギリギリのところでジムミッションを乗り越え、ついにサイトウに挑むところまでたどり着く。何とは言わないが、出さなかったのは奇跡というほかない。

 

 対面するのは、オリヒメと同じころかやや年下くらいの、浅黒い肌の少女。これでも、格闘タイプ担当ジムリーダーでは、過去にチャンピオンの座にいたころのジムリーダーに次ぐ天才と言われている。「この若さなのに」という言葉に、一切の同情や驚きや侮りはない。ただただ、その天才性と努力と実力に対する畏怖が籠められるのみだ。

 

「ようこそ、ジムチャレンジャー。わたしはサイトウです。あなたたちの心、どんな攻撃にも騒がないのか……わたしが試すとしましょう」

 

 あいにくながら、今のスピカはメンタル的に絶不調だ。何せジムチャレンジで徹底的に体力と気力が削られた。未だに慣れないこの大観衆の中での戦いのプレッシャーと視線はヤローに初めて挑んだ時並に強く感じてしまっているし、激しく容赦ない攻撃で有名なサイトウの攻めにも耐えられるか、今から不安だった。

 

 そんな不安を振り払うように、腰のボールが揺れる。新品ばかりの中で一つだけ経年劣化している、長年連れ添った相棒だ。

 

 そう、今までは我慢していたが――

 

 

 

 

 

 

 

 

「いけっ! カポエラー!」

 

「バトルだ! ペリッパー!」

 

 

 

 

 

 ――この大一番で、出し惜しみはしない。

 

 ペリッパーが出ると同時に、バトルフィールドに雨が降り注ぎ、あっという間にスピカたちを濡らす。そのスピカの代名詞としていつの間にか認識されるようになった雨に、会場の歓声が爆発するが、スピカの耳にはもう入らない。ただただ、サイトウとカポエラーを、恐ろし気な目つきで睨むのみだ。

 

「『エアスラッシュ』!」

 

 ペリッパーの得意な特殊飛行技で、カポエラーには効果抜群。その一撃で、すでに満身創痍になっている。だが、カポエラーは全身にエネルギーをみなぎらせ、すさまじいパワーでペリッパーを殴りつけた。

 

「『リベンジ』。わたしたちは相手の攻撃に耐え、それを自らの力にする術を心得ています」

 

 飛行タイプだから格闘技はさほど効かないはず。それなのに、ペリッパーはもうだいぶ苦しそうだ。相手の攻撃を受けた後に放てば威力が二倍になる「リベンジ」は、タイプ相性の壁を越えて、確かなダメージを与えていた。

 

 だがその代償に、カポエラーはペリッパーの「しおみず」で倒される。雨で威力が増し、体力も半分以上削れていたから威力も倍加している。オーバーアタックに等しいダメージがカポエラーを襲い、当然のようにダウンさせた。

 

「チッ、厄介だな」

 

 だが「リベンジ」の直後、その攻撃の勢いを活かして、素早い追撃を差し込んできていた。「でんこうせっか」だ。ペリッパーはもうだいぶ苦しそうである。あのカポエラーは、小技が得意で強く攻撃できる、いわば「テクニシャン」なのだろう。

 

「いけ、ゴロンダ!」

 

 続いて現れたのは、筋肉質で目つきの悪い毛むくじゃらの獣、ゴロンダだ。あのガラの悪さからして悪タイプが入っているかもしれない、とスピカは見当をつける。

 

「『エアスラッシュ』!」

 

「『つじぎり』!」

 

 どちらにしてもやることは変わらない。ペリッパーはほんの少しゴロンダより素早く動き、先に『エアスラッシュ』を叩き込む。それに負けじとゴロンダも、鋭い爪でしたたかに切り裂いた。

 

「急げゴロンダ! 『バレットパンチ』!」

 

 相手の方が少し素早い。もう一度悠長に普通の攻撃をしていたら、何もできずに倒される。水タイプのペリッパーに効果今一つだが、拳を鋼のように固めて放つ素早いジャブを指示する。

 

「『おいかぜ』だ!」

 

 だが、スピカの指示はそれを上回っていた。ペリッパーはダメージが限界と見て大きな口の中に隠していたオボンの実をむしゃむしゃ食べて回復しながらその横っ面に鋼のジャブを受けるが、それに構わず大きな翼を振り回して風を操る。この風に乗れば、しばらく素早さが大きくアップするだろう。

 

「やりますね! もう一度『バレットパンチ』!」

 

 安易に先制技を選んでしまった。サイトウは自らの未熟を戒め、そしてスピカを褒めたたえながらも、初志貫徹とばかりに同じ技を指示する。

 

「『しおみず』だ!」

 

 スピカも今度は普通に攻撃を選んだ。ペリッパーは「おいかぜ」に乗って素早く動くが、ゴロンダの拳が確かに突き刺さる。それに対してペリッパーは痛そうにしながらも、至近距離で威力の増した「しおみず」をぶつけ、先ほどのカポエラーのように、ゴロンダを戦闘不能にした。

 

「どんどんいきます! いけ、ネギガナイト!」

 

 続いて出てきたのは、凛々しい顔をした純白の鳥だ。その両手には、植物でできた立派な盾と太くて長いランスを持っている。「ナイト」の名にふさわしい。

 

(鳥……飛行タイプ? だが手にネギを持っている。草タイプもあるか? だが、ここはジムだ。別タイプを使う例外はいくらでもあるとはいえ……それにあの立ち居振る舞い)

 

 その立ち姿は「武人」と呼ぶにふさわしい。サイトウと似た精神性がある。ただしサイトウは、明鏡止水の「静」とすべてを壊す荒々しい「動」が同居する格闘家タイプなのに対して、このネギガナイトは、力ある者に与えられる責任を全うする紳士然とした騎士タイプで、違う面もあるのだが。

 

「『エアスラッシュ』!」

 

「『みきり』!」

 

 とにかく、格闘や草を含んでいそうなら、どちらにせよ飛行技は効果抜群だ。一撃目はその大きな盾で防がれてしまうが、そのまま指示した追撃は、「おいかぜ」に乗って素早く動いたことでネギガナイトよりも先に大打撃を与えることができた。

 

「『ぶんまわす』!」

 

 だが、攻撃もここまで。ネギガナイトはそのランスを力強く「ぶんまわす」。その直撃を受けたペリッパーは、途中栄養豊富な木の実を食べて体力を回復させたものの、度重なるダメージによってついにダウンした。

 

 これで「おいかぜ」は止み、いつの間にか雨も止んでいる。サイトウのポケモンを二匹倒し、ネギガナイトもかなり削ったが、スピカはフィールドの理と、一番信頼している相棒を同時に失った。

 

「――バトルだ、オニシズクモ!」

 

 そしてスピカは少し迷った末、新たに加入した強力な仲間・オニシズクモを場に出す。バウジムでのオリヒメのオニシズクモを見て、自分のパーティにぴったりだと考え、ワイルドエリアで捕まえたのだ。

 

「『ぶんまわす』!」

 

「『バブルこうせん』!」

 

 サイトウの指示に、スピカはひっそり胸をなでおろした。あの見た目だ、飛行タイプが入っている可能性はぬぐえないし、ランスを使って疑似的嘴にして「つつく」ような攻撃もあり得た。オニシズクモを出すのは怖かったが、どうやら杞憂だったらしい。

 

 オニシズクモは勢いよく振り回されるランスをどっしりと受け止め、反撃に泡の光線をぶつける。タイプ一致に加え、さらに特性・水泡によって威力が増し、さらに水タイプのパワーを活気づける潮のお香も持たせている。「エアスラッシュ」も食らっていたネギガナイトは、たまらずダウンした。

 

「素晴らしいです。このコンディションだというのに、その戦術、その闘志、その迫力、その観察眼、その勇気! わたしは心の底から、あなたを尊敬します」

 

「それはどうも」

 

 バトル中のジムリーダーにこれを言われるとはすなわち、一切手加減をしない宣言だ。嬉しく、誇らしくはあるが、チャレンジャーとしては素直に喜べない。

 

 サイトウが出したポケモンはカイリキー。ワンリキーの時点でもパワフルだが、そこからゴーリキーになって格段に体も筋肉も大きくなって、そこからさらに大きくパワーアップした、格闘タイプの中でも特にポテンシャルの高い種族である。

 

「もう! 全部、壊しましょう! 尊敬をこめて――キョダイマックス!」

 

 ボールを突き出して、カイリキーをまた戻す。それを握る手に込められた万力の握力は、丈夫なハイパーボールすらきしませている。

 

 そしてそのボールは巨大化し――小さな体のどこにあるのかというほどのパワーで、高く高く放たれる。

 

 

 

 

 

 

 

 

 そうして現れたのは、四本の太く隆起した腕を持つ巨人、否、巨神であった。

 

 

 

 

 

 

 

 その全身に満ちたエネルギーはすさまじく、血管のように全身を流れているが光が漏れ出ている。その目からもエネルギーは漏れていて、太陽のように爛々と輝き、スピカとオニシズクモを見下ろして睨んでいた。

 

「『ダイアタック』!」

 

「『まもる』!」

 

 だがこれも予定通り。あちらが一方的にダイマックスできるのだ。観客は巨大ポケモンによるパワフルなバトルを望んでいるが、それはジムリーダー同士や「選ばれし者」の戦いで存分に楽しんでくれればいい。自分は泥臭く戦うのみ。

 

「『ダイアタック』!」

 

 さらなる「ダイアタック」をオニシズクモは身を「まもる」ことなく、主を信じて全身で受け止め、潔く散る。その間に主は、栄養たっぷりの植物・復活草を煎じた薬を倒れたペリッパーに無理やり飲ませ、戦線復帰させていた。信頼するペリッパーが吐きそうな顔をしてスピカを恨めし気に睨むが、容赦なく無視してボールに戻す。

 

 古参のペリッパーも、一番新入りのオニシズクモも、この扱いに不満がないわけではない。だが、何よりも優先するべきは、自分たち「群れ」の勝利だ。そのために、あの強力な「群れ」を相手に、なりふり構っていられないのも事実。思うところはさておきとして、自分たちが認めた「群れのボス」を信頼して従うのみだ。

 

「バトルだ、ランターン!」

 

 続いて出したのはランターン。スピカの手持ちの屋台骨だ。とびぬけた取柄はないが、全体的にまとまった能力と優秀なタイプと手札の多さで、その戦術を支えている。

 

「『キョダイシンゲキ』! わたしのカラテとパートナーの技を重ねるっ!」

 

 そしてついに、サイトウの得意な技が飛び出す。

 

 その巨大な拳型のエネルギーを放つ攻撃は、全身の「気」をみなぎらせ、これからの攻撃がより相手の辛い所に刺さりやすくなるのだ。今まではオニシズクモが虫タイプを含んでいたため我慢していたが、ここがチャンス。

 

 それと同時に、サイトウに疑念がよぎる。

 

 ここで復活させたペリッパーを出せば、この恐ろしいパワーアップは防げたはず。一体なぜランターンを……?

 

 そんな疑問の答えはすぐに返ってきた。

 

 元の大きさに戻ったカイリキーは、気合こそ十分だが、全身の筋肉が痙攣して苦しそう震えている。

 

 攻撃らしい攻撃はなかった。

 

(なるほど、『でんじは』ッ!)

 

 キョダイマックスの強力な一撃の余波に隠れて「でんじは」を流し、筋肉への神経伝達を悪くしたのだ。これにより、カイリキーは少し気を抜いてしまえば力が抜けて動けなくなるし、そもそも全身が上手く動かなくて鈍くなる。

 

 スピカの戦術は、ルーキーとは思えないほどにクレバーだった。

 

 闘志をみなぎらせて恐ろし気に睨んでくる「怪物」は、その実冷静で、冷酷に「敵」を打ち破り、負かそうと――つまり「殺そう」としている。

 

 刈り取ろうとするヤロー、押し流そうとするルリナ、燃やし尽くそうとするカブ、破壊しようとするサイトウ。トップトレーナーたちの暴力的ともいえる勝利へのメンタリティが、スピカなりの姿で形成されているのだ。

 

「『バブルこうせん』!」

 

「『リベンジ』!」

 

 どうせ動きが鈍くなるなら、相手の攻撃を受けるためにあえて行動を遅らせる「リベンジ」のデメリットはないも同然。カイリキーは苦しそうにしながらも極彩色に輝く泡の光線を耐えきり、溜め込んだパワーを解放してランターンを殴りつける。

 

 その威力はすさまじく、巨大化したカイリキーの背丈の半分ほどの高さまで打ち上げられた。カイリキーのパワーで得意の格闘技、しかも威力が大幅に上昇しているうえに、クリティカルヒットまでしたのだ。

 

「すまない、ランターン」

 

 そんなランターンが、ぐちゃぐちゃに乱れたフィールドにしたたかに打ち付けられる直前、スピカが慌ててボールを構えて戻す。殴られた時点で、審判の判断がなくとも一瞬で気絶していた。さらにあの高さから落ちて打ちつけられるのを待つなんて、スピカにはできない。

 

「さあ、バトルだ、ペリッパー!」

 

 そうして満を持して再び登場したのがペリッパー。

 

 最初の雨と「おいかぜ」でぬかるんだうえに乱れ、さらに巨大化したカイリキーの攻撃の余波でぐちゃぐちゃになったフィールドに、再び激しい雨が降る。

 

 スピカの代名詞が、またこの場面で現れた。

 

 雨の中に現れる修羅が、サイトウを追い詰める。観客のボルテージは、サイトウがキョダイマックスを披露した時をさらに越えて盛り上がっていた。

 

「『エアスラッシュ』!」

 

 だが、当人たちにそれは関係ない。

 

 ペリッパーは空気の刃をカイリキーに浴びせ、その鋼の肉体を切り裂く。カイリキーは「リベンジ」で対抗しようとしたが、麻痺からか、はたまた攻撃に怯んだからか、膝と一つの拳を地面について跪いてしまう。

 

「『しおみず』だ!」

 

 そしてそこに、今日三度目の、弱った相手をさらに傷つけ止めを刺す無慈悲で冷たい水の奔流が襲い掛かり、大きくたくましい体躯を飲み込む。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「お見事です」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 サイトウは目を閉じ、小さく呟く。観客の大歓声と雨音と「しおみず」の水音でよく聞こえないはずなのに、スピカにはやけに響いて聞こえた。

 

 審判の判定を待つまでもない。

 

 サイトウは戦闘で乱れた道着風のユニフォームを結びなおして整え、ゼンリョクを尽くして戦い合った相手に感謝をする。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ありがとうございました!」

 

「カイリキー、戦闘不能! よって勝者、チャレンジャーのスピカ!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 サイトウが頭を下げて一番の大声で挨拶をし、審判が試合の結果を宣言し、観客が今日一番の大歓声を上げる。

 

 それらがほぼ同時に起こる中、スピカは、頑張ったペリッパーを撫でようとしたが、絶妙に我慢できる程度の強さで突かれて、先ほどの所業の抗議を受けるのだった。




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6-1

 クイズノックならぬクイズロックなRTA、はーじまーるよー!

 

 前回は四つ目のジムバッジを手に入れたところまででした。

 

 さて、ラテラルジムを出たら、ルミナスメイズの森を通って、真っすぐにアラベスクタウンに向かいましょう。

 

 向かっている間に、原作とこのゲームの時間経過の違いをお話ししましょうか。

 

 

 このゲームの時間経過は、現実やゲームハードの時間ではなく、ストーリー中においては、ゲームのプレイ時間が反映される、というのは以前にお話ししましたね?

 

 現在は三日目です。

 

 

 一方、原作のストーリー中は、ワイルドエリアを除いたら、ストーリーの進行度合いによって時間が変化します。

 

 一日目は開会式をやってルリナを倒してエンジンシティに戻ってきてホテルスボミーインでマリィと戦ってお終い。二日目はそこからジムバッジを全部獲得してセミファイナルトーナメント終わってローズタワーイベントまで終わらせます。

 

 

 こうやって見ると、本ゲームはすでに原作時間軸ならジムチャレンジが終了し、セミファイナルトーナメントまで終わっていますね。

 

 ですが、さすがにそこまで合わせると色々とゲームとして地獄なので、ある程度プレイヤーの進行に寄り添ってくれるようになっています。例えば、どんなにプレイ時間が延びて何百日と経過していても、ジムチャレンジ終了にはなりません。こんなことするぐらいならいっそ原作と同じくストーリーの進行に合わせて時間変更にすればよかったと思うんですが、モブは主人公とホップ君に絶対遅れる、という作者様の強い意思が反映されていますね。

 

 

 さて、そんなことを話しているうちにアラベスクタウンに着きました。先頭をランターンに変えて、さっそく挑みましょう……の前に、ここでオリヒメちゃんが追いついてくるイベントがあって、その流れでバトルを挑まれます。ここは、エンジンシティでの開会式の前に戦った原作モブと戦うイベントでして、今回の場合はオリヒメちゃんというわけです。

 

 

 負けてもストーリーは進みますが、ここは勝ちましょう。

 

 オリヒメちゃんの手持ちレベルは、こちらの手持ちの最低レベルを除いた平均値です。つまり最大レベルはこちらの方が上ですね。

 

 オリヒメちゃんの初手はペリッパー。最初の手持ちにも、バウジムイベントの時もいなかったはずですが、そこからラテラルジムに挑む前に加入した、という設定ですね。

 

 これも見越して、ランターンを先頭にしてました。ここまでのバトルでレベル30に到達し、まともな電気技の「ほうでん」も覚えています。これをひたすら連発すれば、終わり、閉廷!

 

 ちなみにここの原作モブの手持ちですが、最初に戦った時の手持ちに、原作で使ったポケモンからランダムで合計四匹になるように追加されます。今回はペリッパーでしたが、もしガマガルだった場合は、ガマガルだけにはオニシズクモをぶつける予定でした。こういうところで運命力の差が出るんですよ。ええ、私はチルドレンですがガバ運はありません(なお初期スキル観察眼)

 

 

 

 こんな感じでパパパッと叩きのめして、では改めてアラベスクジムに挑みましょう。

 

 

 ここは原作と同じくクイズが出されます。ただし、それは初回のみで、それ以降はゲームにあらかじめ設定された違うクイズがランダムで出題されるようになります。ここは原作との相違点ですね。

 

 で、皆様ご存知の通り、正解すればこちらにバフがかかり、不正解ならデバフがかかります。当然、全問正解を目指しましょう。

 

 

 ミッションは我らがオニシズクモ兄貴の水泡水技ごり押しで突破します。未だに得意の物理水技を覚えないのが不満ですが仕方ありません。所詮モブには、店売りまたはジムリーダーから貰える技マシンしか許されないので。技レコードも使えません。

 

 最初のクイズは鋼・毒どっちも正解。

 

 二人目は「コト」。三人目はガラルだからカレー……と見せかけてオムレツが正解です。

 

 

 

 

 さて、オニシズクモ君がボロボロですが、ポプラ戦です。

 

 まず直前にしっかり回復して、準備万端。

 

 イキますよー、イクイク!

 

 

 

 まず先頭はペリッパー! 相手はマタドガスです。

 

 そして即座にランターンに交代!

 

 そして一ターン目の終わりにポプラから最初のクイズ! 正解は「魔術師」! これで素早さが倍になるので、鈍足気味のランターンでも先手が取れます。

 

 あとは雨「バブルこうせん」を上からぶつけていけば勝てます。マタドガスとクチートはこれで突破!

 

 

 さて、問題はトゲキッスです。こいつはステータスが全体的に高いんですよねえ。

 

 ですが、これもなんとかなります。

 

 雨が降っているうえにアイテムも「潮のお香」ですが、ここはようやく覚えたまともな電気技の「ほうでん」で攻撃しましょう。相手の「げんしのちから」連打によるステータス上昇が怖いですが…………今回は起きませんでしたね。

 

 あ、ちなみにクイズの正解は「パープル」です。じゃあ「ピンク」ってなんだよ……。

 

 

 

 そしてラストがマホイップ! 与えたダメージのうち一定量を回復する「キョダイダンエン」を使ってきますが、無問題ラ!

 

 初手「まもる」! ここでクイズを出してきますが、16歳で正解! 攻撃特攻が二段階上昇!

 

 次のターンは念には念を入れて「でんじは」! RTAなら攻撃しろよって話ですが、どうせ「キョダイダンエン」の効果で回復されるので。

 

 そして次のターンは念のために力の根っこで回復します。D二段階上昇があるので、しっかり回復すれば楽勝ですね。急所当たるなよ……よし、当たらなかった!

 

 

 そして小さくなったら、あとは上昇したステータスの暴力で殴りまくってお終いです!

 

 

 フェアリーバッジ、ゲットだぜ!(ピッピカチュウ)

 

 

 

 

 大体レベル格上との戦闘になるのですが、クイズのおかげで、非常に珍しく、ステータスの暴力を味わうことができますね。

 

 

 

 さて、終わったら速攻でアーマーガアタクシーを呼んでナックルシティに向かい、ポケセンに立ち寄って「ウェザーボール」の技マシンを買って「ウェザーボール」をペリッパーとガマガルとトリトドンに覚えさせたら、逆方向のキルクスタウンへと直行します。ちなみにこの時少し寄り道して、ナックルシティ西側の階段を上って不思議な飴を回収します。

 

 で、7番道路はともかく、ここ8番道路は、立体的で道が狭く、またシンボルポケモンのサイズが大きいし、トレーナーも徘徊していたりと、戦闘のメッカです。これで必須トレーナーばかりならタイム差でないんですけど、なんと絶対戦わなければならないのは最初のドクター一人なんですよね。プレイヤーの腕が試されます。

 

 そして、私はRTA走者なので、無駄戦闘一切なしで抜けました。当たり前だよなあ?

 

 

 で、キルクスタウンについてしっかりポケセンで、ポケモンを元気にしてもらいます。

 

 ポケモンを、元気にしてもらいます。

 

 ポケモンを、元気にしてもらいます(意味深すいりゅうれんだ)

 

 ここはラテラルジムと同じく、ソード・シールドでジムリーダーが違うジムです。シールドなら氷タイプのメロン、ソードなら岩タイプのマクワです。

 

 当然、水統一チャートなら、マクワ一択ですね。

 

 

 水統一チャートで走るうえで、シールドにはハスボー族がいるという大きなメリットがありますが、オニオンきゅんはともかく、メロンはヤロー以上の難敵になり得ます。

 

 一方ソードだったらそれが岩タイプで、しかも切り札のセキタンザンは鈍足水四倍ですからね。水統一で走るならソード一択でしょう。

 

 だから、ソードを選ぶ必要が、あったんですね。

 

 

 ジムミッションは、ダウジングで落とし穴の位置を探知して、それを回避していく迷路です。ステージは三段階あって、後になるほど長く、そして砂嵐で視界を奪われます。

 

 当然ながらこれはRTA、穴の位置は全部暗記済みです。ガンガン進んでいきましょう。落ちるなんていうロスはあり得ません(5敗)

 

 ここの原作との相違点ですが、原作では穴に落ちた場合中間地点に戻されるのに対し、このモードでは各段階の入り口に戻されます。原作で使えた必須トレーナースキップは使えません。仕方ないのでしっかりと戦っていきましょう。

 

 戦闘に出すポケモンはガマガルです。そしてここで経験値を稼げば……

 

 

 

 

 

 

 

 ……予定通り、ガマゲロゲに進化しました!

 

 

 

 

 このガマゲロゲは強力ですよ~。水地面タイプで範囲が優秀で、種族値も高く、特性がすいすいです。必須トレーナーとの戦闘もただの無駄な戦闘ではなく、そのあとに繋がる。なんてすばらしいチャートだあ(自画自賛)

 

 

 

 はい、それではマクワ戦です。

 

 まあこれは楽勝ですね。

 

 まず初手はランターン。あちらはガメノデスです。普通に電気技で倒しましょう。

 

 で、次に出てくるのはツボツボなので、そこでペリッパーに交代。相手は「パワーシェア」を使ってこちらの火力を下げてきます。

 

 当然これは知っているのでこちらは進化したばかりのガマゲロゲに交代。ペリッパーが飛行タイプなので「ストーンエッジ」をぶつけてきますが、ガマゲロゲなら半減です。

 

 

 あとはすいすいで二倍になった素早さで、潮のお香+雨「ウェザーボール」を三回ぶつけて、終わり、閉廷!

 

 

 ここは楽勝でしたね。

 

 さて、ではジムを出て、スパイクタウンに向かうべく9番道路に入ると、ホップ君と戦闘になります。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 で、このホップ君なんですが…………手持ちの最低ラインが、こちらの最大レベル+5です。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 いや無理無理無理!

 

 勝てないって!

 

 ってなりますが、実際これは負けイベントです。おちんこでたり悩んでたりしてたホップ君がようやく目覚めて、手持ちにもバイウールーが戻ってきてるんですね。そうなった英雄様に、モブが勝てる道理はありません、という演出です。ここは抵抗しても時間の無駄なので、さっさと負けましょう。ほら、ちょうどジム戦で手持ち消耗してるしポケセンがてら、ね。

 

 はい、ではエンディングの運命が垣間見えたところで、今回はここまで! ご視聴ありがとうございました。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 今日の一問はこちら! デン!

 

『このチャートでネズを倒した後に加入する6匹目のポケモンはなんでしょう?』

 

 動画見てくれてありがとうございます。

 

 チャンネル登録・高評価もお願いします。概要欄にツイッターなどもあるのでフォローしてください。

 

 それでは、また次の動画も見てくださいね。




最初のくだりと最後のくだりの元ネタです
https://www.youtube.com/c/QuizKnock

ご感想、誤字報告等、お気軽にどうぞ

追記
クイズの解答は感想に、と思っていましたが、考えてみれば感想で展開予測みたいなの禁止だった気がするので、こちらの活動報告を解答欄にしてください
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6-2

 四つ目のジムバッジを手に入れたスピカは、幻想的なルミナスメイズの森を抜け、アラベスクタウンに到着していた。ポケモンセンターに寄って、カラナクシもトリトドンに進化し、いよいよ全員進化済みという非常に頼もしい手持ちになってきたことを実感する。

 

 10何年もキャモメ一匹だったのに、たった三日間でこれだ。もういっぱしのトレーナーであり、ポケモンを使った仕事にはさほど困らない程度の実績と手持ちである。よその地方のジム巡りは、トレーナーなら全員に参加資格がある一方で、大体の場合が年単位、場合によっては半生かけてバッジを集めるという。それをたった数日間でこなさなければならないガラルのジムチャレンジは、他地方のものと違って「旅」ではなく「旅行」「スタンプラリー」レベルで道が舗装されているとはいえ、ポケモンバトルという一点に限れば別格のハードさである。

 

 そんな感慨深さとともにアラベスクジムに足を踏み入れようとしたスピカの背中に、聴きなれた声がかけられた。

 

「スピカちゃん!」

 

 スピカは即座に振り返る。今朝に会ったばかりであり、まだ半日どころか四半日も経っていないが、ずいぶん久しぶりなような気がする。

 

「オリヒメか」

 

 太陽の光は木々に覆われて差し込まず、わずかな木漏れ日と電灯と不思議なキノコが放つ光で生活している町だ。そんな幻想的ながらも薄暗い町だというのに、オリヒメは相変わらず華やかで可愛らしい。道行く人も、この静かな雰囲気の町で大声を出したこともあるだろうが、オリヒメに注目していた。

 

「ふー、やっと追いついた!」

 

 スピカの傍に子ワンパチのように駆け寄ると、両ひざに両手をついて息を整える。昔からダンスが得意でそれなりに体力もある方だが、あのルミナスメイズの森を駆け抜けたとなれば、相当疲れただろう。

 

「スピカちゃんったら、寄り道とかほとんどしないでどんどん行っちゃうんだもん! 追いつくので精いっぱいだよ!」

 

 スピカとしては、オリヒメが「後から追いついてくる」のは予想外だった。

 

 何せ今朝は、スピカはエンジンシティからワイルドエリアでシズクモを捕まえながらナックルシティに向かった。一方オリヒメは列車を使ったはずだ。自分の方が先行しているのが、不思議でならない。

 

「多分ラテラルタウンについたのはあたしが先なんだけど、そのあとあたしは一旦ワイルドエリアでポケモンを探してたの! 多分それでスピカちゃんに抜かされちゃったのかな?」

 

「それなら私と一緒に最初からワイルドエリアに来ればよかったのに」

 

「アーマーガアタクシーがあるんだから、後からでも全然大丈夫でしょ?」

 

「…………確かに」

 

 スピカは愕然とする。

 

 そうすれば、ラテラルタウンのポケモンセンターにいらない荷物を預けてから身軽にワイルドエリアでポケモンを探せる。起きて早々、一日の初めにあの地獄天候を長距離移動しないでもよかった。

 

 ……まあ、ラテラルタウンまでの道中でオニシズクモに育てられたから、ジムを速く突破できたのだし、それで良しだ。そういうことにしておこう。

 

「スピカちゃんはもうすぐにポプラさんに挑戦するんだよね?」

 

「ああ、そのつもりだ」

 

「じゃあ…………どっちが先に挑むか、勝負で決めよう!」

 

「まじか」

 

 ポケモントレーナーはやはり血気盛んだ。スピカは呆れながらも、オリヒメの楽しそうな様子につい口をほころばせつつ、ボールを投げる。

 

「バトルだ、ランターン!」

 

 オリヒメは水ポケモンしか持っていないはず。ランターンを初手で出すのが安定だ。

 

 そして、オリヒメが出したポケモンは、しっかり予想通り水タイプで――

 

 

 

 

 

 

 

「ペリッパーちゃん、オンステージ!」

 

 

 

 

 

 ――その一方で、予想外だった。

 

 出てきたのはペリッパー、見慣れたポケモンだ。だが、オリヒメの手持ちにいるのは知らなかった。先ほどワイルドエリアに行ったと言っていたが、そこで捕まえたのだろう。

 

「ほうでん!」

 

 こんなところでずぶ濡れになっては困る。頭上に小型の雨雲が即座に形成されるのを見たスピカは即座に傘を開きながら、ランターンの新技をぶつける。水・飛行のペリッパーには大きくダメージが入り、その一撃でダウンした。

 

 そこからの戦いは一方的だった。オリヒメの残りは、見慣れたオニシズクモと、見慣れたポケモンたちが進化したカマスジョーとギャラドスだ。

 

 オニシズクモはランターンより遅いがその耐久力で一発耐えて、カマスジョーとギャラドスは先に動いて攻撃してきたが「ほうでん」の一撃で倒れた。つまり、その三匹からの攻撃に一発ずつさらされた。三匹とも強いパワーを持ったポケモンであり、ランターンもかなりボロボロだったが、力の根っこのおかげもあってか、ランターンで四タテに成功する。

 

「すごい! やっぱスピカちゃんは強いよ!」

 

 負けたというのに、オリヒメは満面の笑みで心から喜んで拍手している。一方勝者、それも圧勝したはずのスピカのほうは、反応が鈍かった。

 

「オリヒメ……ペリッパーなんていつの間に捕まえたんだ?」

 

「サイトウさんに挑む前だよ! 格闘タイプならこの子! て思って」

 

 確かに理に適っている。ギャラドスは飛行タイプこそ入っているが、それは宙に浮き「そらをとぶ」または「とびはねる」、ないしは空力を操って「ぼうふう」を起こす力ぐらいしかなく、翼を持たないため、現段階で有効な飛行技は覚えないだろう。それならば、ペリッパーを採用しても不思議ではない。

 

「その、スピカちゃんとペリッパーちゃん、すごくかっこよかったから!」

 

 少しためらいがあったが、思い切って顔を赤らめながら、そんなことを言ってくれる。要はスピカに「憧れて」マネをしたのだ。スピカのオニシズクモもマネと言えばそうだが、単純に戦略的に参考にしたに過ぎない。オリヒメがペリッパーを新たな仲間として迎え入れたのは、参考にしたトレーナーへの感情もある。オリヒメもそれは自覚してるのだろう。

 

「そ、そうか……」

 

 スピカも照れくさくなって、目を逸らしながらぶっきらぼうに答える。オリヒメのこういう真っすぐな好意は、昔から何度も体験しているが、眩しすぎて未だに慣れない。

 

「それじゃあ、あたしは回復してくるから! スピカちゃん、頑張ってね!」

 

「あ、ああ」

 

 オリヒメはもう気を取り直しているが、スピカはまだ照れくささが残って、曖昧な返事しかできない。大きく手を振ってポケモンセンターへと去っていくオリヒメの姿を見送ったスピカは、その姿が見えなくなると、緊張の糸が解けたように、ため息を漏らす。

 

 なんだか、元気をもらってしまった。

 

(それにしてもオリヒメ、強くなってたな)

 

 手持ちが進化済みポケモンばかり。自分だけでなく、彼女もそうなっていた。きっとここまで進んだチャレンジャーは、みんなそうなのだ。

 

 そしてそんなチャレンジャーたちと競い合わなければならないし、さらにいえば、そんなチャレンジャーたちですら突破できない難敵がジムリーダーだ。

 

 ジムチャレンジは、やはり難しい。

 

 オリヒメに元気をもらい、このチャレンジの厳しさを改めて教わった。スピカは珍しく気合を入れて、アラベスクジムへと改めて足を踏み入れる。

 

 

 

 

 ――背中を向けた時のオリヒメの表情に、彼女が気づくことはなかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

○○○○○

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 アラベスクジムのチャレンジャー用通路を通る。いつもだったらここで大層なジムミッションが待ち構えている。今回はどんなびっくり設備が飛び出すのか、ラテラルジムのトラウマもあって身構えていたスピカは、拍子抜けと驚きを同時に味わうことになった。

 

 まず、たどり着いたのは、派手さの欠片もない武骨な舞台裏。証明は暗く、大道具やパイプなどが整然と置かれ、壁はコンクリートがむき出しだった。

 

「来たね」

 

 そして特大の驚きが、いきなりジムリーダー・ポプラがそこで待ち構えていたことだった。

 

 スピカが目を丸くするのをよそに、ポプラは説明しだす。

 

 曰く、ここはクイズがジムミッションとのこと。バトル中にクイズが出され、その答えに応じて賞罰があるらしい。

 

「ああ、それと、今回は見学の子がいるけど、気にしないでおくれ。後継者探しも兼ねたミッションだが、ようやく見つかったよ」

 

 そうして指で示されるのは、ムスッとした顔をしてテーブルに頬杖をついてそっぽを向いている、見覚えのある少年だ。確か開会式にもいた気がする、ジムチャレンジャーだ。そして先日ラテラルタウンで起きた遺跡破壊事件の犯人として、大々的にニュースにもなっていた。

 

 訳アリか。

 

 そうすぐに勘づくが、気にするなと言われたからには気にしないことにした。

 

(クイズか)

 

 気にするなら、自分のことだ。

 

 お勉強が苦手なわけではないが、別に特別得意というほどでもない。

 

 どうやらポケモントレーナーたる者、ルリナのジムで試された論理的思考力だけでなく、こうして知識も試されるらしい。――この勘違いが正されるのは、十数分後の事であった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

○○○○○

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 なんだか滅茶苦茶なジムミッションだった。

 

 ポプラへの挑戦権を得たスピカは、通路で入場合図を待ちながらげんなりしていた。

 

 最初のクイズからツッコミどころ満載だ。何せ二択のどちらもが正解である。だがこれはポケモンに関する知識だからまだ良いとすらいえる。

 

 二人目のクイズは「さっきのジムトレーナーの名前は?」だった。ポケモンに何も関係ない。対戦相手の名前を覚えるのがトレーナーとしての礼儀なのか、はたまた些細なこともちゃんと覚えてなければ生き残れないということなのか、分からなかったが、トレーナーとしての知識が問われていないことは確かだった。

 

 そして三問目「朝食は何を食べた?」で確信に変わる。知るか。適当にオムレツと答えたら正解で、ポプラが驚いていたのが印象的だったが、もういろいろひっくるめて心底どうでもいい。

 

 頭痛をこらえているうちに、入場の合図が出た。なんだか緊張感がすっかり抜けてしまったが、興奮する大観衆の前に出れば、つい数日前までただの一般人だった彼女には大きなプレッシャーとなる。

 

「ここまでのクイズは全問正解。ルリナが言っていた、観察眼に優れるっていうのは本当みたいだね」

 

「さあ、どうだか」

 

 ジムリーダー同士である程度そういう話はしているらしい。スピカとしては未だに実感がわかないので、適当にはぐらかした。

 

「ピンクじゃないねえ。まあいい。ちょっとばかし、おばあちゃんがお灸をすえてあげよう」

 

 スピカは実際の態度はともかくとして、口先だけは礼儀正しいふるまいは出来る。勤怠評価の接客面は最低ラインぎりぎりではあるが、こう見えてもアルバイトで市場の店員とレストランのウェイトレスという接客業をやってきたからだ。

 

 だが、今から戦う相手にそんなのは不要だ。いや、スポーツマンシップ的に考えると最もリスペクトするべきではあるのだが、そもそもあちらからふっかけたようなものである。ならば買うのが逆に礼儀だ。

 

「さあ、あんたのピンク、見せてみな!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ジムリーダーのポプラが勝負を仕掛けてきた!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「バトルだ、ペリッパー」

 

「出番だよ、マタドガス」

 

 腰の曲がった老人だというのに、いやだからこそか、相変わらずジムリーダーの放つプレッシャーはすさまじい。だがもうこれで六回目だ。怯むことなく、事前の作戦通り、最も信頼できる相棒を出す。

 

 対するポプラが出したのは、ガラル特有の生態を持つマタドガスだった。

 

 そして、アラベスクスタジアムの上空が暗雲で包まれ雨が降り出し、整えられた芝生と、お互いを濡らす。期待通りのスピカの代名詞の登場に、会場は大盛り上がりだ。

 

「『ヘドロこうげき』」

 

「バトルだ、ランターン!」

 

 だがそんなペリッパーをすぐに下げて、スピカはランターンを出す。マタドガスの「ヘドロこうげき」はさほどランターンへのダメージにならなかった。

 

 そうして次のやり取りに進もうとしたとき、首元につけられたマイクを通して、スタジアムにスピーカーからポプラの声が響き渡った。

 

 

 

「問題!」

 

「ここでもクイズなのかよ!」

 

 

 スピカのツッコミは黙殺される。

 

「あんた……あたしのあだ名、知っているかい? 魔法使いか、魔術師か」

 

「なんだそれ……メルヘンというよりかは悪女っぽいな、魔術師だ」

 

「ピンポーン! お見事、正解だよ」

 

 魔女が選択肢にあればそれ一択なんだけどな、という憎まれ口を叩く間もなく正解判定が出され、ポプラが何かの瓶をランターンに放り投げる。その液体がランターンにかかると力がみなぎり、素早さがぐーんと上昇した。

 

「ステータスアップアイテムか」

 

 なんでもありすぎる。とりあえず美味しいが、逆に不正解はかなり酷いことになりそうだ。やる気にはならないが、慎重に答えなければならない。

 

「『バブルこうせん』!」

 

 何はともあれ、相手が塩を送ってくれるなら利用しない手はない。素早くなったランターンは機敏に動いて「バブルこうせん」を浴びせ、特殊防御の弱いマタドガスと、それに続いて出てきたクチートを一方的にダウンさせる。

 

「いきな、トゲキッス」

 

 そうして出されたのは、丸みのあるボディに可愛らしい翼の生えた白いポケモンだ。

 

(飛行タイプ、だと思うが)

 

 見た目でタイプの判断はある程度はつくが、全部が全部当てはまるとは限らない。

 

 それに、このポケモンの放つ雰囲気が、スピカの警戒心を刺激する。

 

 一見可愛らしく平和の象徴のようなポケモンだが、種族としてとんでもないパワーを秘めていそうなのだ。

 

 だが、怯えてばかりもいられない。

 

「『ほうでん』!」

 

「『げんしのちから』」

 

 予想通り飛行タイプだったようで、「ほうでん」はかなり効いた様子だった。一方で反撃の「げんしのちから」は岩タイプの技でありなおかつ威力が低いため、ランターンにさほどの打撃にならない……と思いきや、それなりのダメージになっている。やはり、強力なポケモンのようだ。

 

 

 

 

「問題! あたしの好きな色は? ピンクか、パープルか」

 

「服を見ればパープルだな」

 

「深い紫……いいじゃないか」

 

 

 

 

 じゃあ口癖のピンクは何だというのだ。

 

 そんなツッコミも今は入れている余裕がない。ランターンの耐久力が大きく上昇するのを感じながら「ほうでん」を指示し、トゲキッスを倒しきる。

 

「ふうむ……ヤンチャな若者に、特大のピンクを見せてやろうじゃないか」

 

 いつの間にか雨は止んでいる。それでもぐしょぐしょになったスピカは、そのくせっ毛気味でボリュームのある長髪が濡れて垂れ下がっていることもあって、悪鬼のように見える。ヤンチャしているバッドガールのように見えても不思議ではないだろう。最も、ポプラの口調は、スピカをその手の不良とは思っておらず、いわば言葉遊びのような感じであったが。

 

 ただ、マホイップを出してからすぐ戻すときのその貌には笑顔が浮かんでいる。見開かれた目と裂けるよう吊り上がった口のせいで、スピカとはまた違った恐ろしさだ。

 

「今は後継者が見つかって気分がいい! 特別仕様のピンクの大舞台さ! 『キョダイダンエン』!」

 

 本人の言う通り、とても機嫌がよく、そして調子が良いのだろう。かつてガラルどころか世界の人気をかっさらった大女優のその立ち居振る舞いは、相手を飲み込み場を支配する力がある。キョダイマックスしたマホイップの威容も相まって、生半可なトレーナーならこのまま倒されるだろう。

 

「『まもる』」

 

 だがこんなプレッシャーは、スピカには慣れっこだった。未だに一番怖かったのは、初めてヤローに挑んだ時。あの時に、スピカの中の何かが弾けたのだ。

 

「問題!」

 

 そしてこんな時でもクイズを出すのは変わらない。未だに慣れないが、ペースをつかませるつもりはさらさらない。

 

「さてと……あたしの年齢は? 16歳? 88歳?」

 

「はあ?」

 

 覚悟に反して案の定見事に乗せられたスピカは素っ頓狂な声を上げて思考停止してしまう。そのせいでランターンも戸惑い、その隙にマホイップが攻撃準備を始める。

 

 答えなければポケモンに指示も出させない。そんな迫力を感じた。

 

「あー……まだまだ若いと思いますよ、16歳ぐらいですかね」

 

 こんなババアがオリヒメと同年代なわけあるか。

 

 ひねり出したジョークはあまりにも酷い。自分でツッコミを入れてしまう。

 

 まったく、多少若く言う分には良いが、ここまでサバ読みしては逆に失礼だ。これは不正解だな。ペースを握られたせいでそれに逆らおうと変な答えを出してしまった。

 

「あんた……いい答えだよ!」

 

「正解なのかよ!」

 

 この老人の言うことは分からない。スピカが頭を抱える中、ポプラが瓶をランターンに投げてその中身を浴びせると、攻撃力がぐーんと上がる。

 

「大団円は何度も望まれるのさ! 『キョダイダンエン』!」

 

「あーもう、『でんじは』!」

 

 そして息つく暇もなく攻撃だ。

 

 予定ではここでランターンが倒され、ペリッパーに戻して最終ターンを「まもる」で凌いでから勝負にする予定だった。だが予想外のクイズで、ランターンの耐久力は大きく上がっている。これなら耐えられると踏んで、自信を持って「でんじは」を選んだ。

 

 そしてそれは、まさしく大正解だった。ランターンはかなり苦しそうながらも耐えて、「でんじは」を浴びせて麻痺させる。特殊なキョダイマックスなせいで「ダイフェアリー」の状態異常無効がないのがポプラにとって逆に仇となった。

 

「さあ、アンコールだ! 『キョダイダンエン』!」

 

「回復だ」

 

 スピカは「でんじは」の指示を出した直後にもう準備をしておいた力の根っこを煎じた薬をランターンに飲ませる。とても苦しそうにしているのと裏腹に、体力がみなぎってくるし、みるみる傷が塞がっていく。ポケモンの生態は不思議だ。

 

 当然、「キョダイダンエン」も余裕を持って受け止めることができた。そしてマホイップは元の大きさに戻っていく。

 

 

 

 そこからはまた一方的だった。

 

 ステータスが大きく上昇したランターンを止められるはずもなく、マホイップは成すすべなく倒される。

 

 こうしてスピカは、初挑戦で、五つ目のバッジ・フェアリーバッジを手に入れたのであった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

○○○○○

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「やっぱすごいなあ、スピカちゃんは」

 

 次なる挑戦者として控室モニターで試合を見ていたオリヒメは、明るい声で一人で呟く。

 

 クイズに心を乱されていたが、結果的に全問正解で、そのご褒美のアドバンテージをしっかり活かして勝利を収めた。

 

 バトルが始まるとともに雨を降らせ、それでずぶ濡れになって恐ろしい見た目になりながらも、闘志をみなぎらせてジムリーダーを睨みつけ、冷徹ともいえる戦術で攻略していく。

 

 その姿は人々の間で一躍話題となり、いつのまにか「鬼雨(きう)」とあだ名がつけられていた。

 

 水ポケモンを操る可憐な姿と純真な性格が現れる振舞いから「リトルマーメイド」「竜宮の乙姫」などの可愛らしいあだ名がつけられたオリヒメとは対照的である。

 

 恐らくスピカに自覚はないだろう。列車や控室など時間が空いたらエゴサーチをしているオリヒメと違い、スピカは「自分が注目されている」とは全く考えていない。「戦うトレーナー」として自覚を持っているが、このイベントの「主役」だなんて、未だに思ってないのだろう。

 

「……よし、あたしも頑張るぞ!」

 

 もうすぐ出番だ。

 

 胸に走るわずかな痛みと虚しさを押さえつけ、可愛らしい顔を柔らかな両手でパンパンと叩く。チャンピオン・ダンデのルーティーンの真似だ。

 

 スピカはヤロー以外ここまで全部一発でバッジ獲得している。自分も負けていられない。

 

 

 

 

 

 

 

 ――そんな気合とは裏腹に、オリヒメは、この後、今年のジムチャレンジで初めての敗北を喫した。




全快の本編にあったクイズの解答は感想に、と思っていましたが、考えてみれば感想で展開予測みたいなの禁止だった気がするので、こちらの活動報告を解答欄にしてください
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6-3

 中にはアラベスクタウンからナックルシティまで徒歩で戻るもの好きなチャレンジャーもいるらしいが、スピカは当然アーマーガアタクシーを使用した。そしてポケモンセンターで新入荷した技マシンを買うと、まっすぐにキルクスタウンを目指していく。

 

 その道中の8番道路は切り立った岩場で、ドッコラーやタイレーツといった力強い野生ポケモンが多く生息する、危険な環境だった。かろうじて、人間が通れるように各所に梯子が設置されているし、ここを修行場とするトレーナーも多くいるため、さすがにワイルドエリアほどではない。だが、果たしてここに「道路」と名付けるのはどうなのか。野生ポケモンに気をつけながら慣れない梯子の上り下りを何度もさせられて疲労困憊のスピカは、そこに疑問を覚えないでもなかった。

 

 そうして到着したキルクスタウンは、年中雪が降り注ぐ厳しい環境だ。つい先ほどまで、カンカン照りで渇いたラテラルタウン周辺と、うっそうとした森の中であるラテラルタウン周辺にいたスピカとしては、この雪と寒さはギャップがありすぎる。とはいえ彼女は朝一番に吹雪と雷雨と砂嵐の三連コンボをワイルドエリアで味わったわけだが、それはそれ、これはこれである。

 

 ポケモンセンターでポケモンを回復させたスピカは、さっそくキルクスジムに挑戦した。

 

 ジムミッションは、落とし穴が仕掛けられた人工荒野を抜けるというもの。他地方では現役バリバリの所もあるらしいがガラルでは使われないダウジングを使って、落とし穴を探知することが可能らしい。おそらく落とし穴の縁に機械が仕掛けられていて、それにダウジングを真似したセンサーが反応する仕組みなのだろう。

 

 最初は穴に落ちて這いあがってやり直し、という面倒と無様が無いように慎重に進もうとしたが、ダウジングの反応が思ったより良いし、よくよく見れば落とし穴らしき場所は少しだけ周りとは違う。そのためスピカはサクサクとミッションをクリアしていった。そして途中と途中に挟まるジムトレーナーとのバトルで、ガマガルがガマゲロゲに進化した。

 

「マクワといいます。……落とし穴の場所、事前に知っていたんですか?」

 

 そんなスピカと対面したマクワは困惑していた。

 

 落とし穴の整備にはかなり気を遣っていて、周囲と見比べても見分けがつかないレベルにしている。ダウジングの感度はかなり良いが、手に伝わる振動は当然多少遅れるわけだから、ずんずん突き進んだら間に合わずに落ちる可能性が高い。

 

 今年初めてのジムチャレンジ。最初のヤローで躓いたが、そこからは全部一発でクリア。バウタウン出身らしく水ポケモン使い。観察眼に優れている。相棒のペリッパーが降らす雨とその時の姿と戦い方から、「鬼雨」と異名がつく。

 

 その見た目の通り芸能人としても活躍するマクワは、世間の反応に敏感だ。そんなガラルの注目を集める目の前の女性の異様さに、改めて感服させられる。

 

「いや、知りませんでしたよ。よく見ればわかっただけです」

 

 何事もないように、本当に当たり前のように、謙遜も誇張もなく、スピカはそう思っているらしい。

 

 仮に彼女の言うことが本当だとしても、後半の砂嵐は恐ろしい密度のはずだ。そんな中でも「見えた」というのは、恐ろしいの一言に尽きる。

 

「……まあいいでしょう。あなたには申し訳ありませんが、僕のポケモンたちの強さをアピールするいい機会です」

 

 マクワはこうして六番目を任される、つまりガラルのトッププロであるジムリーダーの中で三番目に良い成績を残すほどの実力者だ。ただし強さにムラがあり、去年はマイナージムリーダーに甘んじていたのも事実。同世代のダンデがチャンピオン、キバナがジムリーダートップ、そしてルリナは今年最下位ながらも安定してメジャージムリーダーとして在籍し続けている。彼ら・彼女らに比べたら、一回り格落ち扱いされかねない。そして事実、「今回の活躍は偶然」という心無い評判もあった。

 

 だからこそ、このジムチャレンジは気合を入れていた。だが現実は非情で、すでに三人も通してしまっている。ジムリーダーの妹・マリィ、一番の才覚を見せていて不覚にも対面した瞬間少しだけ足がすくんでしまったユウリ、そして一度は退けたが再チャレンジで一皮むけて突破してきたホップ。

 

 スピカは水ポケモン使いであり、マクワはとても不利だ。しかもトレーナーとしての活動歴がほぼゼロで初挑戦ながら初回以外一発突破。自分の実力を示すのに申し分ない。

 

「さあ、崩せるものなら崩してみなさい!」

 

「……そうですか。なら、ありがたくそうさせてもらいましょう」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 チャレンジャーのスピカが、勝負を仕掛けてきた!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「いけ、ガメノデス!」

 

「バトルだ、ランターン!」

 

 水ポケモン使いへの先発として適性があるガメノデスを先頭に据えたが、読まれていたようで、初手はランターンだった。これまでほとんどペリッパーが初手だっただけに、マクワの驚き、そして観客の拍子抜けは大きい。マクワも観客も、「鬼雨」が降ると思っていたのだ。

 

「『ほうでん』!」

 

「負けるな! 『がんせきふうじ』!」

 

 タイプ的には不利だが、こちらのポケモンの方がよく鍛えられている。ガメノデスは素早く動いて岩石を巧みにぶつけてダメージを与えつつランターンの素早さを奪うが、やはり放たれた電撃は痛い。結局小技の「がんせきふうじ」を二回入れただけで、ガメノデスは倒されてしまった。

 

「まだまだ! いけ、ツボツボ!」

 

 素早さも攻撃力もポケモンの中で最低クラスだが、圧倒的な防御力が特徴のツボツボ。そしてその弱点を補い、強みをさらに活かせる戦術も用意している。

 

「バトルだ、ペリッパー!」

 

 そして「鬼雨」が降り注ぎ、鬼が現れる。

 

 観客たちの興奮をよそに、マクワは口角を吊り上げた。

 

「『パワーシェア』!」

 

 スピカは、今までのバトルの立ち回りからして、間違いなくポケモンの知識が豊富だ。きっとツボツボの耐久力を考えて、雨で水技の威力を上げようと、エースを出したのだろう。だがそのエースのパワーは、あまりにも低いツボツボと折半される。

 

 これで相手の攻撃力は大幅ダウンし、ツボツボは大幅アップする。圧倒的耐久力を持つツボツボによるこの戦術は、ガラルや他地方のトップ、さらにはあのチャンピオン・ダンデすらも苦しめた実績がある。ましてやこのような搦手、トレーナー歴の浅い彼女には効いただろう。もしかしたら、何をされたのかすら分からないかもしれない。

 

「面倒なことを。まあいいか。バトルだ、ガマゲロゲ!」

 

 だが、スピカは何か厄介なことをされたことは間違いなく分かっている様子だ。惜しげもなくペリッパーを戻し、ガマゲロゲを出す。ツボツボに指示した「ストーンエッジ」は強力な技だが、地面タイプを含むガマゲロゲにはあまり効かない。

 

「『ウェザーボール』!」

 

 雨が降る中の水タイプからの攻撃。強力な水技が来る!

 

 ルリナと戦い勝利したこともあるマクワは、当然そのことは予想していた。

 

 だが、水タイプのエネルギーが凝縮された玉は、そんな予想を超えるほどの威力だった。耐久力に優れるツボツボが、効果抜群とはいえ一撃でダウンした。

 

「そんな技まで使うのか!?」

 

 驚きで動揺し、サングラスがズレる。それを慌てて直しながら、新たにイシヘンジンを出しつつ叫ぶ。そのイシヘンジンもすぐに「ウェザーボール」を食らって一瞬でダウンした。

 

「ウェザーボール」は、バトルフィールドの天気に合わせてタイプが変わる技だ。しかも、威力も二倍になる。マクワもまた、岩ポケモン使いとして、「すなあらし」と組み合わせたこの技のお世話になっている。貴重な特殊の岩技だ。

 

 しかしながら、天気を操作する必要があるうえ、状況次第では思った通りのタイプ・威力にならない、使い勝手の悪い技である。採用されることは少ないマイナーな技だ。そんな「ウェザーボール」すらも、このルーキーは知っていて、使いこなしている。

 

 マクワは何も言わずに、イシヘンジンを戻し、エースのセキタンザンを出した。そして観客が望む通り、キョダイマックスさせる。だがその瞬間すら、いつもの観客を沸かす言葉を叫ばない。

 

 ――「まだ崩れさっていない」とは、もはや言わない。

 

 最後まであきらめず、巨大な岩壁のようにどっしりと戦う、トップトレーナーらしい諦めない性格だ。だがさすがに、この状況では、そんなことは言えない。

 

 全ての攻撃を退ける「ダイウォール」で粘る気すら起きない。完敗だ。

 

 

 

 

 

 

 

 巨大化したセキタンザンは、雨が降りしきる中、その体からするとあまりにも小さい水タイプエネルギーの塊をぶつけられ、大爆発しながらダウンした。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

○○○○○

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 タイプ相性のおかげで、三番目のジムの次の鬼門と扱われる六つ目のバッジも手に入れた。

 

 いや、タイプ相性だけでなく、その中でもさらに手持ちの相性すら良かった。カブの時以上に感じる。例えば、スピカの仲間にペリッパーとガマゲロゲがいなかったらタイプ相性を覆す実力差のせいで厳しかっただろう。

 

 だがそれでも、すんなりとクリアできた。雨でずぶ濡れになった身体をチャレンジャー用のシャワールームでしっかり洗って着替えてから、次なるジムへと向かう。

 

 とはいえ、ワイルドエリアを駆け抜けたあとにさらに三つもジムを回ったからか、もう日が落ちて暗くなっている。これはスパイクタウンでジムに挑む前に宿泊になりそうだ。

 

 キルスクタウンには高級ホテルがあり、チャレンジャーはそこも無料で使える。さびれたスパイクタウンのポケモンセンターに泊まるよりかは、今日はここでとどまっておいた方が良い。

 

 だが、いつの間にやらジムチャレンジに熱が入るようになり、居ても立ってもいられないスピカは、逸る気持ちが抑えられず、今日のうちにスパイクタウンに向かうことにしたのだ。およそいつもの彼女では考えられない。両親やオリヒメ、および数少ない友人が聞いたら、びっくりしてそのままゴーストポケモンの仲間入りをしてしまうかもしれない。

 

「おお! お姉さん、昼ぶりだな!」

 

 だが、そんなスピカに、高い少年の元気そうな声がかけられる。

 

「ホップか」

 

 ジムを三つも挟んだからか、彼の言う通り昼ぶりなのに、これまた久しぶりに感じる。

 

「よーし、昼のリベンジするぞ! バトルしてくれ!」

 

「ああ、いいとも」

 

 ジムで戦ったばかりで「少し」消耗しているが、イージーウィンだったのであくまでも「少し」でしかない。ポケモントレーナー同士、いつでも「目と目が合ったらバトル」なので、この程度は言い訳にならないのだ。もっとも、本当はバトルしたくないし時間的にも遅いのでさっさと先に進みたいのだが。トレーナーの文化には、怠惰なスピカもそうそう逆らえない。

 

「バトルだ、ランターン」

 

 マクワとの戦いから先頭にしていたランターンをそのまま出す。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「いくぞ、バイウールー!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 そして出てきたポケモンを見て、スピカは「絶望」した。

 

「なっ!?」

 

 人間の本能が、急成長したトレーナーの経験が、未だ自覚してない優れた観察眼が、警鐘を鳴らす。

 

 あの時のウールーが進化したものだろう。昼の時と違ってホップは何か吹っ切れた様子だったので、こうして手持ちに戻ってきたのだ。

 

 問題は、その――――生物としての「格」。

 

 鍛え上げられた、そのパワー、スピード、タフネスは、見ただけでも、スピカの手持ちではどれも敵わないことが分かる。強い・弱いの次元ではない。ワイルドエリアのボスや、ジムリーダーの最後の一匹(かくしだま)のような、根本的な「格の違い」が分かる。

 

 自分はこのジムチャレンジを通して急成長した。そして実績もこうして出せている。その自覚はある。自分が実力あるトレーナーになったという確信だ。

 

 その成長と確信があるからこそ分かる。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 勝てない。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ジムリーダーと戦う時のように、道具とタイプ相性を駆使して、なんて小手先すら通じない。ホップの放つオーラから、このバイウールーが最高戦力なのではなく、この同格があと四匹いることが分かってしまう。

 

 

 

 

 結局その予感通り、また突きつけられた格の差に打ちのめされて精神的に最初から負けていたこともあり、ヤローに初めて挑んだ時以上の完敗を喫した。

 

 スピカは目の前が真っ暗になり、意識があいまいなままポケモンセンターでペリッパーたちを回復してもらい、無料で使えるはずの高級ホテル・イオニアに向かう元気もなく、ポケモンセンターの簡易宿泊施設で、現実から逃げるように眠った。




「ワイルドエリア生存競争編」
ワイルドエリアに生息するポケモンとなって、生態系の頂点を目指すモード。
他ポケモンを倒し、捕食して成長して強くなっていき、そのステータスを見つけた仲間と子供を残して引き継いでいき……を繰り返していく。要はトーキョージャングルと同じシステムだし、ゲーム性もおおむね同じ。
ポケモンの殺し合いと捕食を明確に描写し、ポケモン同士の交尾をほのめかす描写もあるので、賛否両論がありそう。

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7-1

 急に今までと違うルールになるジムチャレンジRTA、はーじまーるよー!

 

 前回はホップ君に敗北したところまででした。

 

 そういうわけでホップに敗北RTA、ここでタイマーストップ!

 

 完走した感想ですが、最初にガラル鉱山前で戦った時、いやせめてラテラルタウンで戦った時に負けておくべきでしたね。そうすればタイムはかなり早まってたので、次回への反省にしたいと思います。

 

 

 

 

 ……なーんてことはなく、まだまだゲームは続きます。セミファイナルトーナメントで負けないと意味ないので。

 

 

 

 

 ちょうどホップ君に負けてポケセン送りにされた所で一定時間が過ぎ、強制宿泊イベントになりました。

 

 ここまで世界記録ペースです。

 

 世界三位まではキルクスジム突破と同時に宿泊イベントに入ってます。一方、今回は私の中で過去イチ順調に進んでいるので、ホップ君に負けるところまで進めることができました。世界二位と同等のペースで、そしてチャートとランダムセーブデータの効率上、ここから私のが一番有利なので、追い抜く可能性が高く、走っている時は緊張と喜びでドキがムネ(にかけて)ムネ(に!)でした。

 

 

 さて、では改めて、スパイクタウンに向かいましょう。ただしその前にポケセンのカフェで、ガマゲロゲ君の「ちょうおんぱ」(目力先輩)を忘れさせて、「ドレインパンチ」を思い出させます。

 

 

 そして9番道路・キルクスの入り江では、水辺で待っている自転車好きの電気土方の兄ちゃん(年齢不詳)に、ワシ(20歳)のロトム自転車を著しく(いちじく)改造(かんちょう)してもらい、水上も走れるようになりました。これをアクアモードというらしいです。アクアモードでぶっ飛ばしていけ!

 

 ここはトレーナーが雪の降りしきる中なぜか水泳してたり、オトスパスが迫ってきて触手レイプしようとしてきたりする、無駄戦闘回避が難しいポイントです。それでも頑張って回避しましょう。世界一位ペースだからね、ガバ一つが命取りです。あと戦闘回数増えるのを承知で、大幅に寄り道して不思議な飴を回収します。

 

 そして当然のように無駄戦闘無し(王者の風格)で突破しました。

 

 マリィちゃんと主人公は運命補正でプレイヤーに先行してクリアしているので、入り口はもう開いています。真正面から入って、怒られて落ち込みモードのエール団スタッフに声をかけ、チャレンジスタートです!

 

 

 

 ここスパイクタウンについては、ジムトレーナーはすべて必須戦闘です。また今までみたいにタイプ相性やクイズ補正で一匹で全部突破……ということもできません。それなりに頭を使う必要があります。

 

 

 まず一人目、マッスグマです。悪・ノーマルタイプで格闘四倍なので、ガマゲロゲの「ドレインパンチ」が抜群です。ここは悪専門ジムなのでドレインパンチが有効です。だから、思い出させておく必要が、あったんですね。

 

 二人目、フォクスライは、先頭ガマゲロゲのままです。「ドレインパンチ」で突破しましょう。

 

 そして三人目の手前で先頭をペリッパーに入れ替えます。出してくるポケモンはズルズキン。格闘タイプが入っているので虫技は等倍、飛行技が弱点です。ただここは「ウェザーボール」でオッケーです。「エアスラッシュ」は一致弱点ですが、「ウェザーボール」は威力倍化・雨補正・アイテム補正がかかって、「エアスラッシュ」より火力が出る上に、命中も安定なんでね。

 

 四人目はまたガマゲロゲを先頭にして、氷を含むため格闘四倍のマニューラをワンパンします。この時、ペリッパーを必ず二番目にしておきましょう。

 

 そして五回目のバトルは、二人同時に襲ってくるダブルバトルです。三人には勝てないけど二人には勝てる!

 

 出すのは先頭ガマゲロゲと二番手ペリッパー。雨を降らせてすいすいを発動することで素早いレパルダスの上からガマゲロゲが「ウェザーボール」一発で沈め、ドラピオンはペリッパーの「ウェザーボール」をぶつけます。

 

 

 さて、ではここで、今までちょくちょく拾って溜め込んでいた不思議な飴タイムです。

 

 相手のレベルがこちらの最大レベルに依存して上昇していくのでレベル上げがあまり意味ないという話でしたが、ステータス大幅上昇する進化や、有用な技を覚えるタイミングを狙う上では、レベル上げはやはり大事です。ここまで使うタイミングの無かった不思議な飴を解放しましょう。

 

 一番新入りなのにパワーが強すぎていつの間にかトリトドンとガマゲロゲのレベルを抜かしていたオニシズクモに、レベル44になるまで飴ちゃんを上げましょう。幸い、手持ち最強のペリッパーも44レベなので、デメリットはなしです。これによって強力な虫技・「とびかかる」を覚えました!

 

 あとこの時に先頭をペリッパーに入れ替えます。

 

 

 よし、じゃあネズとのバトル、いきまーす!

 

 ネズの特徴ですが、ジムリーダーなのにダイマックスを使いません。ダイマックスエネルギーが多くなくてダイマックスできない地元・スパイクタウンの誇りです。それなのに七番手、つまりジムリーダーで二番目に強いということなので、実力は相当ですね。

 

 

 

 相手の先頭はズルズキン! こっちはペリッパー!

 

 このズルズキン、隠れ特性の「いかく」です。ジムリーダーばっかりずるい! ズルズキンだけに! 私もゲームん中でズルズルして気持ちよくなりたい!

 

 そして初手は「ねこだまし(ちえんこうい)」してくるので「まもる」。次に「ウェザーボール」をぶつけて、三ターンかけて三ターン! で突破です。

 

 次に出てくるカラマネロは、ペリッパーで「おいかぜ」して、そのあとオニシズクモに交代。さっき覚えさせた四倍弱点「とびかかる」一撃で倒します。

 

 次のスカタンクは、最初は「おいかぜ」が一ターン残ってるので上から「バブルこうせん」、相手は「バークアウト」で特攻を下げてくるので、仕方なしに「とびかかる」を連打します。物理水技習得するのは50レベだから……。

 

 

 そして最後に出てくるのはタチフサグマ! そうしたらオニシズクモをペリッパーに交代して雨を降らせます。すると「じごくづき」を食らってペリッパーが倒されるので、そのまま流れるようにガマゲロゲを出しましょう。

 

 ここでポイント。こちらがS上取ってると、AIが優先的に「ブロッキング」を選びます。「まもる」のように攻撃を防ぐ技で、直接攻撃してしまうとB二段階ダウンしてしまう、遅延な上に厄介な技です。適当に「ウェザーボール」でもしておきましょう。

 

 そして二連続では失敗する確率が高いため絶対打ってきません。上から「ドレインパンチ」! これで七割削れました。「カウンター」でガマゲロゲもぶっ飛ばされますが問題ありません。後はランターンを出して「でんじは」撒いたら適当に攻撃連打です。すごい傷薬の遅延がうざいですが、はい勝ち!

 

 

 

 それでは最後のジム、ナックルシティに向かいたいところですが、その前にアーマーガアタクシーでバウタウンへ。市場で最後のお買い物です。最後まで漢方薬にはお世話になります。お前ら(ポケモンたち)は苦いの我慢しろ!

 

 

 さて、ナックルシティにまた飛んだら、いよいよ最後のジムです。

 

 

 

 ここのジムリーダー・キバナは、ドラゴン使いで、天候使いで、ダブルバトルを好み、かつチャンピオン・ダンデのライバルで、最強のジムリーダーで、高身長筋肉質で、博物館の貴重な展示物を守る番人にして学者でもあり、普段は垂れ目で紳士的で、バトルの時は釣り目になって好戦的になり、そして超イケメンです。属性盛りすぎだろ!

 

 こんなんだから、発売当初の盛り上がりはすごかったですね。夢女子たちの憧れの的で、そして受けに適性がありすぎるので腐女子からも人気でした。多くの女を抱き多くの男に抱かれた男です。

 

 そのジムミッションはいたってシンプル。同じくダブル勢で天候使いのジムトレーナー三人との連戦です。ここもスパイクタウンと同じく、頭の使いどころさんです。

 

 

 まず一人目。先頭はガマゲロゲとランターンにします。

 

 相手が出してくるのはペリッパーとヌメイル。ランターンは「ほうでん」の一撃でペリッパーを倒し、ガマゲロゲはヌメイルに「ドレインパンチ」。その次のターンで二匹がかりでリンチして勝ちです。

 

 

 二人目。先頭はそのままです。

 

 相手が出してくるのは、夢特性・日照りのキュウコンとバクガメスです。

 

 こちらは初手でランターンをペリッパーに交代して雨に塗り替え、すいすいで上を取れるようになったガマゲロゲの「ウェザーボール」でキュウコンを瞬殺。次のターンにバクガメスに「ウェザーボール」集中で勝ち!

 

 

 三人目。先頭はガマゲロゲとペリッパーです。

 

 相手が出してくるのはユキノオーとジャランゴ。

 

 雨が降りますが、相手のユキノオーの方が遅いので天候塗り替えられました。この流れ完全にロスなんですが、利用させてもらいましょう。

 

 まず一番素早いガマゲロゲが「ウェザーボール」でジャランゴを倒します。霰を降らしてもらったので、氷技になりかつ威力100、効果抜群ですからね。そしてペリッパーはユキノオーに「ウェザーボール」。「エアスラッシュ」でも耐えられるので、「こうかはばつぐんだ!」のメッセージを節約できます。相手AIはアホなので、「はっぱカッター」でガマゲロゲを倒そうとせず、天候にこだわって「オーロラベール」をします。

 

 そして次のターンは上から「ウェザーボール」二回でお終いです。

 

 

 

 ジムチャレンジが終わってジムにまた転送されたら、先頭をトリトドンとガマゲロゲにしてっと。

 

 よし、じゃあ道具で回復して、キバナ戦、イクゾー!(デッデッデデデデン! カーン!)

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 キャアアアアアア!!! 表情変わる瞬間かっこいいいいいいい!!! ホモになるうううううう!!!

 

 

 

 

 

 

 

 

 相手の初手はギガイアスとフライゴン。フライゴミと言いたいところですが、今回はまあまあ厄介なのでこっちがツライゴンです。いや、タイム的に考えるとむかつくのでやっぱゴミで(キョダイフンゲキ)。そしてギガイアスが砂嵐を撒いてきます。

 

 初手でトリトドンは下げてペリッパーにします。これで天候塗り替えて雨、ガマゲロゲが一番速くなるので雨「ウェザーボール」でギガイアスを瞬殺。フライゴンは初手こちらがどっちも地面タイプなので「かみなりパンチ」が出来ず、ワイドブレイカーです。ふん、こちとらどっちも特殊だよ!

 

 次いで出してくるのはサダイジャ。ペリッパーを下げてトリトドンにして、サダイジャは雨「ウェザーボール」で一撃! ただし砂を吐かれます。砂を吐いたってことは、砂を食べてるんですか……。いや、ホモビはもっと汚いもの食べてますね。

 

 そしてフライゴンのペリッパー狙い「かみなりパンチ」はトリトドンが無効で受けます。

 

 

 

 こうしてほぼノーダメージで二匹倒し、ジュラルドンを迎えました。ジュラルドンというポケモンは防御と特攻が非常に高く、素早さもそこそこあり、タイプも優秀なので、ランクバトルでも活躍して「ました」。スカーレット・バイオレット発売までの最後の年とかずっと伝説ありだったし、その前から準伝説投入とかで性能今一つになってたので……。鎧の孤島が出るまでは主にダブルバトルで大活躍でしたね。シングルでも特性が死んでますがそれなりでした。

 

 で、こんな優秀なジュラルドンですが、なんとこのキバナのジュラルドンは不得意な物理型という舐めプ仕様です。これジムバトル限定じゃなく、本気設定のトーナメントでもそうなんですよ。ダンデのリザードンを倒すため、という設定でしょうけど……。

 

 そういうわけでここは楽勝です。

 

 まずトリトドンをまたまたペリッパーに下げて雨を降らせ、上からフライゴンにガマゲロゲの雨「ウェザーボール」をぶつけて削ります。フライゴンはやることなくて「ワイドブレイカー」、ジュラルドンはドラゴンタイプのキョダイ技「キョダイゲンスイ」をガマゲロゲにぶつけてきますが、不得意な物理な上に媒体がクソザコ威力の「ワイドブレイカー」なので耐えられます。

 

 次のターンはペリッパーをトリトドンにまたまた戻して、ガマゲロゲは何度目か分からない「ウェザーボール」でフライゴンを撃破! ジュラルドンは効果抜群と天候優先AIの兼ね合いで「ダイロック」をペリッパー方向に打ってきますが、トリトドンで半減上可能です。

 

 キョダイマックスラストターンは、トリトドンは「だいちのちから」、ガマゲロゲには満タンの薬を使用して全快にします。HPが少ないガマゲロゲを優先して「キョダイゲンスイ」して倒そうとしますが、回復したので耐えました。

 

 そして相手が小さくなったら、ガマゲロゲは「まもる」、トリトドンの「だいちのちから」で終了です。ガマゲロゲの「まもる」は、ここで「マッドショット」や「ドレインパンチ」をしても倒せないので、それなら「ワイドブレイカー」のAダウンメッセージを短縮するために、という行動です。

 

 

 

 いやー、天候塗り替えまくったのでその度にキバナの台詞とカットインが大量に入ったのでスーパーロスでしたが、戦いとしては楽勝で勝てました。

 

 これが水統一チャートの魅力です。

 

 最初のヤローとルリナはそれぞれ鬼門ですが、オニシズクモやペリッパーやランターンといった豊富な戦力のおかげで戦えます。

 

 そしてカブからネズまでは、全員水技が抜群・等倍なので、店で買える潮のお香に加え、雨・すいすい・一致水技を駆使して有利に戦いを進められます。さらに後半は「ウェザーボール」という激やば技もありますからね。

 

 しかも、ラストのジムリーダー・キバナはドラゴン使いでタイプ不利、砂嵐で天候も奪ってくる、と最後の最後で不利要素がありますが、使ってくるポケモンはドラゴンじゃない上に水抜群のギガイアスとサダイジャ、そして地面が入ってるから水等倍のフライゴンです。ジュラルドンは厄介ですが、特防がペラペラで、そして水タイプには特殊地面技を覚える強いポケモン・トリトドンがいますので、やはり有利です。今まで活躍の機会はありませんでしたが、連れていたのはこのためでした。だから、トリトドンを仲間にする必要が、あったんですね。

 

 

 

 こんな具合で、ついに全てのバッジを揃えました!

 

 あとはシュートシティに向かい、トーナメント参加申請して、ホップ敗北でナレ死するだけです。

 

 そんなわけで次回最終回! ご視聴、ありがとうございました!




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7-2

 翌朝の目覚めはさっぱりとしたものだった。ジムチャレンジはガラル中を一日中めぐるし、バトルも多く、心身共に負担が大きい。その疲れで夜はぐっすりと眠れるのだ。

 

 だが、気分は最悪だった。

 

 昨日の夜の惨敗が忘れられない。四匹かけて辛うじてバイウールーは倒したが、その次に出てきたカビゴンには一太刀浴びせるのがせいぜいだった。

 

「はあ、やっぱそうなるよな」

 

 調子に乗っていたのだろう。

 

 初めてのジムバトルであるヤロー以外は一発で突破してきた。特に昨日は敗北なしで一気にバッジを三つも獲得したし、マクワには快勝だった。なまじ客観的にジムチャレンジを見る時間が長かったからこそ、「自分は強い」と思ってしまったのだ。

 

 だが、現実はあれだ。

 

 同じ初参加のルーキーだが、こちらは曲がりなりにも二十を超えた大学生で、あちらはオリヒメよりもさらに年下の子供。だが、その「才能」の差は歴然だ。チャンピオンの弟、という「ステータス」に逃げ道を求めたくなるが、違う。あの才能は、だれだれが血筋で、などはもはや関係ない。本人が持つ「天性」だ。

 

 深く眠れたおかげで気分に反して疲労がさほど残っていない身体をのっそりと起こし、旅の準備をする。昨日は雑に放り投げてしまったので、洗濯も終わっていない。ジムチャレンジャー特権で洗濯・乾燥は最優先で使えるが、旅に出る前に何かと用意が必要である。

 

「才能、か」

 

 思えばこのジムチャレンジは、よその地方では考えられないシステムだ。

 

 ジムを巡ってバッジを集めるというのは変わらないが、よその地方では年単位の時間をかけて、誰でも参加できる。だがこのガラルでは、参加するにも確たる推薦が必要で、いきなり大観衆の前に晒され、そしてたった数日で全てを突破しきらなければならない。

 

 努力や積み重ねではなく、才能がものを言うシステムだ。

 

「……私は、場違いだったのか?」

 

 そんな暗い考えがよぎる。もうリタイアしてしまおうか。仮にバッジを集めきってセミファイナルトーナメントに出場したところで、あのホップには勝てない。

 

 だが、そんな考えとは裏腹に、ジムチャレンジ前の彼女では考えられないほどに準備がてきぱきと進む。先へ先へ、と逸る気持ちは、昨夜から変わっていない。

 

 次のジムに、早く挑みたい。

 

「…………少なくとも、『トレーナー』であるのは、確かか」

 

 自分の変化に、スピカは皮肉気に苦笑する。

 

 未だに「目と目が合ったらバトル」のような血の気の多さには慣れないが、バトルをすっかり楽しむようになった。

 

(なら少なくとも、他地方だったら、場違いではないな)

 

 なにせもう、すっかり「ポケモントレーナー」なのだから。

 

 手早く準備を終えたスピカは、足取り軽くポケモンセンターを旅立った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

○○○○○

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 スパイクタウンへの道中は厳しいものだった。

 

 人間の身一つでは渡れない水場で、しかも雪が降っていてすこぶる寒い。同じ水辺でも、温かな気候の海辺であるバウタウンとは大違いだ。

 

 そして他地方と違い、ガラルではポケモンの背に乗って移動するのは、緊急時以外は特別な免許がいる。

 

 そんな時に住民たちが水を渡るには、「泳ぐ」か「漕ぐ」しかない。

 

 水上を「漕ぐ」、といっても、恐ろしいことに、ボートや船ではない。

 

 自転車である。

 

 

「くそ、最悪だ……」

 

 なんとかキルスクの入り江を渡りきったスピカは、もしかしたら昨夜以上に不機嫌だった。

 

 入り江では技術者が待機していて、ジムチャレンジャー向けにロトム自転車を「アクアモード」に改造してくれた。これで水上を渡れるには渡れるが、スワンナボートのように壁や天井があるわけではなく、バランスもとても取りにくい。そのせいで乗り心地は最悪な上、水は跳ねるし、雪にも晒される。そしてこんな寒い中その身一つで泳いでいる変わり者や狂暴な水棲ポケモンがバトルを挑んでくる始末だ。二度と体験したくない。もっとも、ワイルドエリアの水上はこれよりもはるかに危険なので、チャレンジを通してその練習をさせるこの構造は、間違いではないのは確かである。

 

 そうしてようやく到着したのが、スパイクタウンであった。

 

 先日までは何かトラブルがあって入り口が閉まっていたらしいが、今は解放されている。そしてそのトラブルを起こした張本人たち、およびジムチャレンジ中に各地で妨害行為を働いていたエール団は、このスパイクタウンの住民かつジムトレーナーである。

 

 だが、そんな連中のいつもの騒がしさは、鳴りを潜めていた。なんだかしょんぼりとしている。

 

(何かあったのか?)

 

 スピカは知らない。

 

 ジムチャレンジを全て一発クリアし先頭を突っ走る少女が今年初めてネズを撃破したことを皮切りに、その直後にマリィが、そして今朝一番にホップが突破したことを。町の英雄のネズが立て続けに敗北し、それとついでに各所での悪さをみんなのアイドル・マリィにこっぴどくしかられたのを。

 

 スピカからすれば「こんな理由」というほかない。

 

 そんな間抜けな経緯があったこの町で、スピカのチャレンジがスタートした。

 

 ミッション内容は、町の最奥にあるネズの下にたどり着くこと。ただし、エール団による妨害があるので、それを退ける必要がある。

 

(こんな薄暗いスラム街みたいなところの何がいいのか)

 

 結果、町巡りみたいな形になっている。そうしてスパイクタウンについて知るにつれて、こんなところに住む人間の気が知れなくなってくる。

 

 そんなジムミッションは順調だった。悪タイプのジムということでガマゲロゲに覚えさせていた「ドレインパンチ」が活躍する場面が多く、ズルズキンのようなポケモンには、伝家の宝刀ともいえる雨「ウェザーボール」をぶつけた。途中で挑まれたダブルバトルは初めての経験だったが、ガマゲロゲとペリッパーのコンビネーションがシングルバトル以上に活躍した。

 

 そして、町の最奥のステージで歌を披露するネズの姿が見えたところで、スピカは立ち止まった。

 

(何の理由があるのか知らないが、ジムリーダーで唯一ダイマックスを使わない。このチャレンジでも使わないだろう)

 

 だがそれだというのに、七番目、つまり、このガラルのジムリーダーで二番目に強いことを示す。

 

 ダイマックスもなしに、全力のジムリーダーと渡り合って、好成績を残し続けているのだ。

 

 ――ネズの存在は、「持たざる者」の希望だった。

 

 ダイマックスは特別な人間だけに許される強力な戦術だ。それは、許可だとか資金だとか出生には関係しない。そのトレーナー自身の「運命」次第である。

 

 そんなあまりにも不平等な世界で、ネズはダイマックスなしでガラルを牽引している。本人のアウトローさとは裏腹に、ダイマックスを使えない大勢のトレーナーにとって、彼はヒーローでもある。

 

 あのネズも頑張っているんだから。

 

 ――そんな希望が、時には「呪い」になることを明確に知っているのは、ネズ本人とごく一部のトップトレーナーだけだろうが。

 

 何はともあれ、ネズは間違いなく、トップトレーナーの中でもさらに異質な「強者」だ。このまま挑んでよいものか。

 

 

「取っておいても仕方ないしな」

 

 

 そうしてバッグからスピカが取り出したのは、道中でしばしば見つけていた不思議な飴。実に不思議で、食べさせるとポケモンの身体にエネルギーがみなぎり強くなる。

 

 ここは悪タイプのジム。ガマゲロゲの得意ではない「ドレインパンチ」だけでは不安だ。ならば。

 

「オニシズクモ、食っていいぞ」

 

 一番の新入りだがメンバー随一のパワーファイターで、悪タイプに強い虫ポケモンであるオニシズクモに、それを全部与えることにした。

 

 オニシズクモは喜んで全部ボリボリとかみ砕いて飲み込む。するとみるみるうちに全身に力が湧き上がってきた。ポケモンの生態もさることながら、本当にこの飴は不思議である。なんか危ない成分でも入ってないだろうか。

 

 

 そんな心配がよぎりながら、ついにネズのステージに足を踏み入れる。

 

 

「はあ……」

 

 そして歌を中断したネズの第一声は、まさかの陰鬱な溜息であった。

 

「俺……だめなやつだからさ。仲間たちが変なことしてても、強く言えなくて。その揚げ句、昨日今日で三回も負けて、妹にも怒られて……」

 

 だからなんだよ。そう言いたい気持ちをぐっとこらえる。このモードに入った人間は、黙って話を聞いてやるのが一番だ。落ち込んでいる時のオリヒメの愚痴に延々と付き合ったことが何度もあるからこそ分かる。

 

「……ここはダイマックスが使えない、ジムスタジアムだからさ。分かりやすい派手さはないけど……妹の友達みたいに、楽しんでいってくれ」

 

 そしてまた、深いため息。

 

 だがそれと同時に、ネズの纏うオーラが、陰鬱で湿ったものから、鬱憤が爆発したような、暗くて激しいものに変わる。それと同時に、バンドの演奏も激しいものになった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「俺は! スパイクタウンジムリーダー! 悪タイプポケモンの天才! 人呼んで、哀愁のネズ!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 マイク越しのシャウト。そして観客のエール団が神話の海割りのように道を開けると同時、ステージから飛び降りて、フィールドを挟んでスピカの対面に降り立つ。

 

「負けるとわかっていても挑む愚かなお前のためにぃ! ウキウキな仲間とともにぃ! 行くぜー!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「「「「「「「スパイクタウン!!」」」」」」」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ネズとエール団の心を合わせた大合唱。それと同時に、スピカに準備させる間もなく、ネズが勢いよくボールを投げる。

 

「なるほど、今まで以上にアウェイってわけだ!」

 

 リーグの方針に反発するネズのわがままが認められている理由。それは感情面や、ネズが実力で黙らせているだけではない。

 

 このバトル環境、圧倒的なアウェイこそが、ワイルドエリアの常であり、そして最も「人を殺してきた」要因だからだ。何よりも、このジムチャレンジにふさわしい。

 

「みんなも名前を呼んでくれ! いくぜ! ズルズキン! いかくだ!」

 

「バトルだ、ペリッパー!」

 

 だが、「場」を支配することにかけては、スピカも負けてはいない。

 

 ペリッパーが場に現れると同時、天井近くに雨雲が形成され、屋内だというのに豪雨を降らせる。まるで怪物が降らせたようないきなりの雨。そしてそこに現れる、敵を睨みつける化け物。「鬼雨(きう)」の出現に、さしものエール団もどよめく。

 

「『ねこだまし』!」

 

「『まもる』!」

 

 ダイマックスの時間稼ぎ以外にも有効な技だ。悪ポケモンが様々な牽制技や小技を駆使してくるのは周知のとおりである。だからこそ最初の最初は、様子見が必要なのである。そんなスピカの目論見は成功した。

 

「『ウェザーボール』!」

 

 ズルズキンとて、小技だけでなくそもそものパワーの強いポケモンだ。だが、雨の中での「ウェザーボール」の凝縮されたエネルギーには敵わない。数発のやり取りの末、ペリッパーも確かなダメージを貰ったが、ズルズキンを打ち倒した。

 

「特性あまのじゃく! カラマネロひねくれちゃいましょ!」

 

(予想以上だ!)

 

 スピカは興奮する。だが逸る気持ちを抑えてペリッパーに「おいかぜ」を指示し、場を整える。

 

「バトルだ、オニシズクモ!」

 

 そうして場に出したのは先ほど不思議な飴を与えて状態の良いオニシズクモだ。「おいかぜ」にのったその巨体はいつもに比べたら俊敏で、その勢いのまま「とびかかる」。

 

 これによってカラマネロは大ダメージを受け、一撃でダウンした。不思議な飴を与えて成長したことで、強力な虫技をつい先ほど覚えたのだ。初めて見るポケモンだが、悪タイプは当然として、うねうねとした触手から漂う不思議な雰囲気から、エスパータイプも含むと一目でわかった。虫技は、二重で効果抜群だ。

 

「みんな、臭うけどいいよな! 『ふいうち』『どくどく』だ、スカタンク!!」

 

「『バブルこうせん』!」

 

「叫べ、咆えろ、がなりたてろ! 『バークアウト』だ!」

 

「おいかぜ」の効果が残っているうちに攻撃を仕掛ける。その判断は正解だ。スカタンクは激しく罵声を浴びせるように咆えて、オニシズクモのメンタルを削った。この調子では思ったような特殊攻撃が出せない。

 

「チッ、『とびかかる』!」

 

「『どくどく』!」

 

 こうなったら仕方ない。毒タイプも含むスカタンクに虫技は特別効くわけでもないが、物理的な水技はまだ覚えていない。こうなってくると、オリヒメのギャラドスが羨ましくなってきた。

 

 しかも悪いことに、時間がかかる展開になったところで「どくどく」を打ち込まれた。

 

 結局そこからスカタンクは攻撃を何度も耐え、「バークアウト」を浴びせていた。ネズの与えたすごい傷薬のせいでさらに長引いたのもさらに悪い。道具は使うと便利だが、使われると本当に厄介だ。

 

 そうしてスカタンクを突破したころには、もうオニシズクモの体力は風前の灯火でフラフラしている。もう限界だろう。

 

 

 だが、ネズもまた、最後の一匹だ。

 

 

「ネズにはアンコールはないのだ! 歌も! 技も! ポケモンも!!」

 

 ダイマックスはない。だというのにこのプレッシャーだ。周囲で盛り上がるエール団の歓声も耳障り。

 

「メンバー紹介! 甲高いうなり声が特徴のタチフサグマ!」

 

 そうして現れたのは、ブラッシータウン近くの湖の奥地やワイルドエリアで縄張りのボスを張る程に強力で狂暴なポケモン・タチフサグマ。ネズの紹介の通り、甲高いシャウトを上げ、場を盛り上げる。バトルはもちろん、「この場」での戦い方も心得ているようだ。

 

「バトルだ、ペリッパー!」

 

 だが、スピカはそれに心を乱されず、考えていた通りに進行する。マッスグマの進化系なら、タイプは悪・ノーマルのはず。準備していた流れの一つだ。

 

「とっておきのナンバーだよ! みんなに自慢してくれよな! 『じごくづき』!」

 

 再び雨が降り出すが、その音に負けないネズのシャウトとタチフサグマの咆哮。それとともに繰り出された『じごくづき』はペリッパーの喉元に深々と突き刺さり、元々ダメージが蓄積されていたのもあって、一撃でダウンさせる。

 

 切り札が登場し、スピカの一番の相棒であり代名詞であるペリッパーを一撃で叩きのめした。エール団のボルテージは最高潮になる。

 

 だがスピカとて、ただで相棒を犠牲にしたわけではない。今まで何度も助けられてきた「雨」が、スパイクタウンを、ジムスタジアムを、ネズのステージを濡らし、浸食していく。

 

「バトルだ、ガマゲロゲ!」

 

 悪・ノーマルならば、「ドレインパンチ」がよく効くだろう。雨のおかげでガマゲロゲが絶対に先に動ける。この勝負、スピカの勝ちだ。

 

「――っ! 待て、ガマゲロゲ! 『ウェザーボール』だ!」

 

 しかし、タチフサグマの様子から何かを感じ取ったスピカは、拳を構えるガマゲロゲを制止し、遠距離攻撃の指示をする。

 

 タチフサグマという名前。胸の前で両腕を交差する構え。あの足腰や立ち居振る舞い。

 

 狂暴に見えて、その実、弱いジグザグマを守るための本能が備わっているのだろう。そして長いこと一定のエリアで「ボス」であり続けるということは、下手に縄張りを広げて争うのではなく、住処を守り続ける、「縄張り意識」の強さを意味する。それはちょうど、生まれ故郷で大好きなスパイクタウンでジムリーダーを続けるネズにそっくりだ。

 

「『ブロッキング』!」

 

 スピカの観察眼と勘は正解だった。タチフサグマはどっしりと構えて防御姿勢を取り、とてつもない威力のはずの『ウェザーボール』を防ぎ、さらに受け流す。『まもる』と同系統の技だが、もしあれに直接攻撃しようものなら、受け流す動作によって体勢が崩され、防御力が大きく下がったに違いない。

 

「『ドレインパンチ』!」

 

 だがこの手の技は、とても集中力を要する。連続での成功はしにくいし、そんな博打に出るほどネズはバカではないはず。ガマゲロゲは今度こそ機敏に動き、ブロックの隙間に拳をねじ込んで、腹へと『ドレインパンチ』を叩き込む。

 

 

 

 

 

 

 

 ――瞬間、嫌な予感が駆けめぐった。

 

 

 

 

 

 

 

 

「ガマゲロゲ、離れろ!」

 

 ガマゲロゲが特性で大幅に素早くなっているとはいえ、タチフサグマが「遅すぎる」。何かとんでもないパワーをため込んでいる。至近距離のクロスレンジは危険だ。

 

 ガマゲロゲも慌てて離れようとするが、深々と拳を突き刺すために、かなり前のめりに突っ込んだ。そうそう飛び退けるものではない。

 

 そんな、効果抜群の全力攻撃を受けたタチフサグマは酷く苦しそうだ。だがスピカが叫ぶのとほぼ同時、痛みとダメージで一瞬光を失いかけた目に、鋭い眼光が迸る。

 

「『カウンター』!」

 

 ダメージを二倍にして相手に返す技。

 

 四倍に膨れ上がったダメージは、タチフサグマを一撃で満身創痍にした。だが、それを耐えきり、その倍のダメージをガマゲロゲに叩きこむ。ガマゲロゲがそれを耐えられる道理はない。

 

 その強烈な攻撃の交錯に、エール団たちが大盛り上がりする。

 

 タチフサグマさんすげえ! ネズさん最強! まだ負けてない! 二匹倒して、一匹はもうフラフラ!

 

 そう、彼らの言うことは事実。スピカはかなり苦しい状態だ。

 

 だが、もはやスピカは揺るがない。

 

 エール団の言うことも事実だが――もうあのタチフサグマは、倒れる寸前なのだから。

 

「バトルだ、ランターン! 『でんじは』!」

 

 容赦なく電撃を浴びせる。タチフサグマはネズに与えられたすごい傷薬で大きく回復するが、それと同時に全身を麻痺させられる。そこからは思ったように動けず、「バブルこうせん」や「ほうでん」を何度も浴びせられて、タチフサグマはついに倒れた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

○○○○○

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「あれが噂の『鬼雨』ですか」

 

 スピカが去ってしばらく。

 

 四度目の敗北を喫したネズは、ぽかんとしながら、先ほどのバトルを思い出す。

 

 だらりと長髪の隙間からのぞく睨みつけてくる眼光。

 

 さしものネズも、少し鳥肌が立った。きっと一昨日の彼女相手ならばこうはならなかっただろう。このジムチャレンジを通じて、その実力が、ネズにほんの少しの恐れを抱かせるほどになった。ジムリーダーたちには遠く及ばないが、十分な腕だ。

 

 そうして思い出すのは――ネズを本気で恐れさせた三人。

 

 マリィ。元々素晴らしい才能を持っていたが、手加減しているとはいえこうして兄を越えるほどに成長した。次のジムリーダーにふさわしい才能と実力を見せつけてくれた。同じ年齢のころのネズよりもはるかに強い。

 

 だがそれ以上に恐ろしかったのは、ホップとユウリだ。

 

 あの二人はまだまだマリィと同じ年ごろで、未熟で幼い子供である。それだというのに、ひとたび対面して、「格」の違いを思い知らされた。この後のキバナ、10番道路、そしてセミファイナルトーナメントを経たら、もう自分を越える力を身に着けているであろう確信がある。

 

 いや、もしかしたら、あのダンデすらも。

 

 10年間、ガラル内どころか他地方とのチャンプオンカップ含めても公式戦負けなしの無敵のチャンピオン。そんなダンデを「越えるかもしれない」と心の底から思ったのは、生まれて初めてだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

『あいにくながら、身の程は嫌というほど思い知らされたもので』

 

 

 

 

 

 

 

 バッジと技マシンを渡すときのスピカの態度が気になった。

 

 勝利したのだから、当然嬉しそうではあった。だが、何か鬱屈したものを抱えている様子でもあった。

 

 スピカの経歴は順風満帆だ。なにせ最初のヤロー以来、全てのジムを一発で、それもそれなりに安定した流れで、クリアしている。だというのに、どうしてああも暗かったのか。元々ダウナー同士、パーソナリティーにそこはかとなくシンパシーを感じたこともあって、なぜそうなのか問いかけた。

 

 その時の答えが、これだったのだ。

 

「ホップ、でしょうね」

 

 今朝挑みに来て一発で突破したホップが、「昨晩キルスクタウンを出るところで、チャレンジャーの長髪のお姉さんにリベンジしたんだ! 雨を降らせる!」と元気よく話していた。間違いなく、昨夜にホップに惨敗したのだろう。

 

 両者と戦ったから分かる。二人の間には、大きな才能の壁があった。それを昨夜に思い知らされたから、あんな暗かったのだ。

 

 同世代にダンデとキバナがいるネズは、こんなこともあり、スピカにシンパシーを感じていた。

 

 だからこそ、さらに問いかけた。

 

『この町はどうでしたか? いいところでしょう?』

 

 ジムチャレンジは、入り口から最奥まで、このせせこましくて薄暗くて汚くて、そして愛おしいスパイクタウンの全てをめぐる設計だ。チャレンジャーにこの町とその良さを知ってもらいたいからである。

 

 きっとスピカなら、気に入ってくれるだろう。そう期待しての問いかけだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『えーっと、あー…………ま、まあ、多分』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 この瞬間、ネズが感じていたシンパシーは吹き飛んだ。あの雨女は敵だ。

 

 もうそろそろ、そんな雨女が、「天候男」に挑んでいる頃合いだろうか。

 

 ジムチャレンジの期限はもうギリギリだ。挑めても二回が限度。果たしてあのキバナに勝てるかどうかは、ネズには判断しかねる。

 

 そして自分も、ここまで残った数少ないチャレンジャーを退けてきた。彼ら・彼女らの再挑戦は、せいぜいそれぞれ一回ずつが限度だろう。そして仮にそのチャレンジャーたちがネズに勝ったとしても、キバナには一回で勝たなければならない。

 

「はあ……はあ……お願いします、ネズさん!」

 

 そんな中でやってきたのは、今年初めて戦う、青髪が綺麗な美しい少女だ。だが、その青髪は乱れており、可愛らしい顔には汗が浮かび表情も歪んでいる。

 

(「リトルマーメイド」オリヒメ、ですか)

 

 ここまで残る猛者の名前は憶えてる。去年は鬼門の三つ目でリタイアしたが、今年は昨日にポプラで一度躓いた以外は順調に進んでいる。昨夜に再挑戦して勝ったという話も聞いているので、おそらくマクワは一度で突破したのだろう。

 

「ジムチャレンジの期限はギリギリです。他チャレンジャーとの公平性を期すために、一度しかチャレンジは受けられません。良いですか?」

 

「はい!」

 

 覚悟が決まっている。

 

 ルリナから聞いた話だと、先ほどの憎らしい雨女と年の離れた幼馴染で親友らしい。そして二人ともバウタウン出身らしく水タイプポケモン使い。戦い方も似ている。だがその戦いの様子は、鬼気迫る恐ろしさと、真っすぐな華やかさで、対比的だ。性格と見た目の違いだろう。

 

「……いいでしょう」

 

 昨日からもう四回負けている。エール団たちも意気消沈気味だ。

 

 だが、ユウリたち以外のチャレンジャーは退けてきた。まだまだ戦える。

 

 ネズが立ち上がりマイクを構えると、ギャラリーのエール団たちが、今日一番の盛り上がりを見せる。この圧倒的アウェイにオリヒメは少し怯えた様子で肩を跳ねさせるが、すぐにネズを真っすぐに睨んで、恐怖とプレッシャーを克服した。

 

 ポケモンたちも、エール団も、そして何よりもネズ自身も。

 

 ふり絞れる限りの全力で戦うのが、オリヒメへの礼儀だ。

 

「ネズにはアンコールはないのだ! 歌も! 技も! ポケモンも!!」

 

 手持ちが最後の一匹になった時の決め台詞を、あえて戦う前に叫ぶ。

 

 オリヒメにとって、これが自分との、最初で最後の戦いなのだから。




「4人目のセミファイナリスト編」における制限
原作で語られることのないモブの立場、というゲーム製作者の拘りにより、原作よりも主人公補正が排除され、多くの縛りが為されている
ダイマックス不可、バトル中の道具使用は二回まで、プラスパワーなど使用禁止、バッジの数に応じて手持ちの数に制限、所有ポケモンのタイプがばらけるほどデバフがかかる、バフスキルはタイプ統一以外ほぼつかない、道具は原作隠しアイテム以外拾えない、隠れ特性不可、ダイマックスレイド不可、どこでもボックス不可、技マシンは店売りとジム突破時のもの以外不可、技レコード不可、原作にあった道具を貰えるイベントなどはなし、など。

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7-3

 やたらと長く感じるが、ジムチャレンジはたった数日でガラル中をめぐりバッジを八つ集めるという、他地方からすれば無茶ぶりがすぎる弾丸イベントだ。他地方の制度と違い「旅」どころか「旅行」ですらないほどに道中サポートが整っているが、それでも、短期間で集めきるのははとてつもなく難しい。

 

 ましてや、ガラルのジムリーダーは、他地方のように「教育者」「地元の名士」などではなく、ガラル全土から選ばれた「トッププロ」である。その実力も、地元贔屓が多分に含まれる評価とはいえ、他地方のジムリーダーより高い。

 

「結構ギリギリだぞ……」

 

 ネズを倒して、ポケモンセンターで回復してすぐ。アーマーガアタクシーを呼んでナックルシティへと運んでもらい、すぐにジムに駆け込んで挑戦の手続きをする。もうジムには他チャレンジャーの姿は見えない。タクシーの中で確認したニュースによると、ホップ、ユウリ、マリィ以外は全員、すでにリタイアしたか、ネズ以前で苦しんでいるらしい。オリヒメが昨晩二度目の挑戦でポプラをなんとか乗り越えたと聞いた時は冷や冷やしたが、今朝に初挑戦でマクワを破ったと知って一安心した。

 

 ただ、人の心配はしていられない。自身が呟いた通り、無茶な日程のジムチャレンジは、もう期限が迫っている。キバナにチャレンジできるのは、間の修行も含めると、三回できれば良い方だろう。

 

「来たか」

 

 そうして手続きをすると、なぜか宝物庫に行くように指示され、スタッフの案内についていく。その宝物庫で待っていたのは、長身の美男子と、三人の真面目そうな、ナックルジムのユニフォームを着たジムチャレンジャーだ。

 

 スピカが入った時、口を開いたのは、明らかにオーラの違う長身の男。彼こそが、このガラル最強のジムリーダー・キバナである。

 

「一番手のチャレンジャーが来た時に確認したが、リタイアせずに残っているのは10人もいなかった。そしてついさっき確認したら、さらに数が減って六人だ。うち三人はこのオレさまを破り、シュートシティへと向かった。お前はオレさまに挑む四人目だな」

 

 もうそんなに減ったのか。

 

 自分とオリヒメ以外の動向をなんら気にしてなかったスピカは目を丸める。アーマーガアタクシーで確認したのはついさっきのこと。オリヒメは残っている六人のうちの一人、というわけだ。

 

「お前の噂は聞いている。今年初挑戦で、ヤローのやつに一回破れるも、そこからは全部初回でジムリーダーたちを突破している。世間ではルリナやオレさまを差し置いて『鬼雨』なんて呼ばれてるらしいじゃねえか」

 

「キウ?」

 

 キバナのみならず、その背後のトレーナーたちも全員猛者だ。そんなのが四人いるこの空間にいるせいで、ずっと緊張しっぱなしである。そんな中で飛び出した聞き覚えのないワードに、スピカは首を傾げた。

 

「化け物の降らせる急な雨のことだ。バトルが始まると同時に雨を降らせ、敵を射貫くようににらみつける。お前にぴったりだぜ」

 

 なるほど、どうやら「鬼雨」のことを言ってるらしい。

 

 いつのまにか有名人になっていたようで、異名がつけられたようだ。

 

「…………もっと他にあっただろうに……」

 

 スピカは額に手を当てて首を横に振りながらため息を吐く。

 

 スピカとて、二十歳を過ぎたとはいえ、逆に言えば二十歳になったばかりの女の子。そんなおどろおどろしくて無駄に詩的な異名よりも、もっと普通で可愛くて華やかなものがよかった。もっとも、そんなのをつけられたらつけられたで恥ずかしくて落ち込むだろうが。

 

「実際見事なもんだった。バウタウンは海の町だし、雨もキツいのが降る。水ポケモンと雨の戦い方をよくわかってるな」

 

「はあ、そんなもんですかね……」

 

 キバナとスピカはおそらく年齢的には同じ。キバナがこの態度なら、スピカも崩して構わないだろう。だが、相手はジムリーダーであり目上、という意識が、結果的にスピカに中途半端に崩れて逆に無礼な敬語を使わせていた。

 

「さて、そういうわけだ。ここまで勝ち残るやつはそもそもめちゃくちゃ(つえ)え。ここのジムチャレンジはいたってシンプル。オレさまが鍛え上げた三人のジムトレーナーをダブルバトルで相手してもらおう。その実力を、たっぷり見せてくれ。カモン、リョウタ!」

 

 キバナに応え、ジムトレーナーの一人が踏み出してきて、ボールを構える。

 

 こんなところで戦ってよいものだろうか、という迷いもあるが、スピカは少し考えた末に、二つのボールを構えた。

 

 ダブルバトル。野良バトルを含めても、片手の指で足りる数しかやったことない。まさか最後の二つが、ここまでの流れを崩してダイマックスなしとダブルバトルとは。

 

「いけ、ペリッパー、ヌメイル!」

 

「バトルだ、ガマゲロゲ、ランターン!」

 

 スピカが選んだ最初の二匹は、様子見の意味合いもあるが、戦略的要素も強い。ここのジムはドラゴンタイプ専門だが、一方でキバナがあらゆる天候を操るのは有名である。だからこそ、ペリッパーを後ろに控えさせた。

 

 その判断は正解だった。相手も同じく雨を戦術の核にしているらしい。慌てて傘を取り出して差しながら指示を出す。

 

「ランターンは『ほうでん』、ガマゲロゲは『ドレインパンチ』!」

 

 ペリッパーはよく知っている。となると、初めて見るヌメイルというポケモンはドラゴンタイプだろう。水技は半減。ならば「ドレインパンチ」が確実である。

 

 その判断は正解だった。ガマゲロゲは特性すいすいで素早く動いてヌメイルに「ドレインパンチ」を叩き込んだ。さほどのダメージになっていないところを見るに、耐久力に自信のあるポケモンらしい。その次に動いたのは、電気をまき散らすランターン。その攻撃は相手二匹にまとめて襲い掛かる。

 

 ヌメイルは予想通りドラゴンだったらしく、あまり効いた様子はない。一方ペリッパーは何もできずその一撃で沈んだ。

 

 そしてこの無差別電撃は、仲間も巻き込むリスクがある。だが、ガマゲロゲは地面タイプで、効果はない。これを見越しての最初の二匹だったが、とても上手く刺さった。

 

 ヌメイルが何とか反撃してくるが大したダメージにはならない。次のターン、二匹がかりの攻撃を加え、ヌメイルを戦闘不能にさせた。

 

「なるほど! なかなかやるな! 次は二人目、カモン、レナ!」

 

 次いでレナが出してきたのは、キュウコンと、熱のこもった甲羅が特徴的なバクガメスだ。あの見た目からしてドラゴンタイプで、炎タイプも含むとみられる。

 

 そんな初めて見る珍しいドラゴンに驚く暇はない。なにせ、キュウコンがボールから出ると同時に天に向かって吼えると、天井に小さな太陽が浮かび、燦燦と宝物庫を照らしたからだ。

 

(特性日照り? キュウコンがそんなことできるなんて知らないぞ!?)

 

 無理もない。キュウコンがそもそも人前に滅多に姿を見せないし、その中でもこの特性を持つ個体はとてつもなく希少である。

 

 だが、何はともあれ、ある程度予想の範囲内だった「晴れ」だ。

 

「バトルだ、ペリッパー!」

 

 不本意な異名だが、「鬼雨」の真骨頂を見せてやる。

 

 即座にランターンを戻して、相棒のペリッパーを場に出す。それと同時、小さな太陽は突然発生した雨雲に隠れて暗くなり、冷たい雨が宝物庫に降り注いだ。日照りからの突然の雨。「鬼雨」の名にふさわしい。

 

 雨が降って急激にコンディションが良くなったガマゲロゲの「ウェザーボール」は、当然キュウコンを一撃で叩きのめす。バクガメスは背中の甲羅を赤熱させているが、自ら動く様子はない。どうやらこの展開はレナの予想外だったようで、慌てふためいている。

 

「どっちも『ウェザーボール』!」

 

「トラップシェル」を知らないスピカは何が起きたのか分かっていないが、チャンスなのは確かだ。そのまま得意技で攻めたて、バクガメスもダウンさせる。

 

「ほう、ダブルバトルでの天候の戦い方もよくわかってるな。最後の三人目だ、カモーン、ヒトミ!」

 

 とぼとぼと戻るレナにそっくりな女性が前に出る。三番手にするということは、一番強いのだろう。スピカは少し迷った末、先ほどと違うボールを手に取る。

 

「いけ、ユキノオー、ジャランゴ!」

 

「バトルだ、ペリッパー、ガマゲロゲ!」

 

 ペリッパーが場に出て即座に雨を降らせるが、相手のユキノオーが少し遅れて霰を降らせ、結果的に天候を塗り替えられる。三人目だからそろそろ違う戦術を取るかと思って雨とすいすいを押し付けられる並びにしたのに、やや予定外だ。

 

 だが、これならこれで問題ない。

 

「ガマゲロゲはジャランゴに『ウェザーボール』! ペリッパーもユキノオーに『ウェザーボール』だ!」

 

 こちらの布陣にドラゴンと霰を併用してくれるなら好都合。雨に比べたら火力が大幅に落ちるが、氷技はドラゴンに効果抜群だ。ジャランゴはかなりのポテンシャルを感じる強力なドラゴンだが、この一撃でダウンする。ペリッパーのユキノオーへの攻撃は抜群の「エアスラッシュ」のほうが通るが、あのポケモンはいかにも耐久が高そうで、どちらにせよ一撃で落とせないならこれで十分だ。

 

 それなりに余裕を持って耐えたユキノオーは、不思議なオーロラをまとい、自分の周囲を覆う。スピカは知らない技だが、霰が降っている時に限り使える、極光が身を守ってくれる「オーロラベール」だ。

 

 だが、それはあまり効果をなさない。ユキノオーは遅いためガマゲロゲとペリッパー両方に先行を許し、その集中攻撃を受けて、あえなくダウンした。

 

「いいよなあ『ウェザーボール』! このオレさまがトップに立つこのナックルシティにぴったりだと思って、昨日入荷してもらったんだ! 買ってくれたなんて嬉しいぜ!」

 

 急に売るようになったのはこいつのせいか。

 

 スピカは興奮するキバナに呆れた目を向けながら、頑張ったポケモンたちに漢方薬を与えて――ポケモンたちは恐ろしく嫌そうな顔をしていた――回復させてからボールに戻す。

 

 とにかく、これでキバナへの挑戦権を得た。

 

 最後の、最強のジムリーダー・キバナ。

 

 ついに、彼と戦う時が来る。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

○○○○○

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「『鬼雨』の戦い方、たっぷりと見させてもらったぜ」

 

 ジムに戻り、お互いに準備を終え、スタジアムでキバナと向かい合う。

 

 観客の数はこれまでに比べて圧倒的に多い。最後のジムリーダーと、ここまでたどり着いたチャレンジャーの戦いだ。そのエンターテイメント性は、当然人々を惹きつける。その差は、観客がエール団だけだったスパイクタウンの直後なだけあって、余計に感じられる。もっとも、あちらは完全アウェイだったため、今はあの時ほどのプレッシャーは感じない。

 

「この目で見て改めて分かった。異名にふさわしい。今までのジムバトルの映像よりも、さらに成長している」

 

 審判の指示に促されお互いに背中を向けて離れてもなお、キバナの言葉は止まらない。普段は温厚で紳士的な青年らしいが、天候を使うチャレンジャーということで、興奮しているのだろうか。

 

 振り返り、またお互いに向き合う。興奮した様子だが、その垂れ下がった目もあって、まだまだ温厚な印象を受ける。

 

「だけどよお……気に入らねえなあ……水も滴るイイ男のオレさまを差し置いて、そんな異名をつけられるなんてよ」

 

 とっさに、本能的に、スピカはボールを構える。

 

 キバナの放つオーラが急激に大きくなった。ワイルドエリアで遭遇しかけた一帯のボスやネズの、そしてホップの比ではない。

 

 そんなスピカと違いキバナは余裕の表情でスマホロトムを使って自撮りする。

 

 

 

 

 

「そんな雨雲、全部オレさまが吹っ飛ばしてやるぜ!」

 

 

 

 

 だが直後、顔つきが急に獰猛に変わり、その全身からプレッシャーが噴き出した。

 

(これが、最強のジムリーダー!?)

 

 まだ何も起きていない。それなのに後ずさりしてしまいそうになる。それでもスピカは、まるで本人がドラゴンになったかのように吼えるキバナを睨みつけながら、ポケモンを出した。

 

「いけ、フライゴン、ギガイアス!」

 

「バトルだ、トリトドン、ガマゲロゲ!」

 

 いきなり歓声が爆発する。

 

 ここまでジムチャレンジでほとんど姿を見せていなかったカラナクシがトリトドンになり、最後の最後で姿を現したからだ。

 

「吹けよ風! 呼べよ砂嵐!」

 

 さらに、キバナが代名詞ともいえる天候操作をいきなり行ったのもある。砂嵐は観客から見えにくいため場合によってはブーイングが起こるが、キバナのそれは、彼の最大の特徴にして見せ場として、ガラルどころか世界全体に受け入れられていた。

 

 トリトドンへの驚きを、キバナの実績と人気が吹き飛ばした形だ。キバナの宣言通りと言える。ジムリーダーは興行の主役としてエンターテイメント性もカリスマも持つ。その頂点がキバナだ。

 

「バトルだ、ペリッパー!」

 

 だが、スピカはさらにそれを吹き飛ばす。驚きをもって迎えられたトリトドンをすぐに下げ、相棒を場に出した。すると上空を雨雲が覆い、すぐに雨が降り出して、吹きすさぶ砂を落とし、バトルフィールドを塗り替えた。

 

「そうだよなあ、やっぱ『鬼雨』はそうこなくっちゃなあ!?」

 

 バトルとなると途端に獰猛になるキバナに負けず劣らず、スピカも砂で汚れ雨でぬれて垂れ下がった長髪も気にせず、身の毛もよだつ姿で睨みつける。キバナの代名詞を即座に塗り替え、「鬼雨」が姿を現した。観客はさらに興奮し、広くて栄えたナックルシティ全体に響き渡る程の大声を上げる。

 

「ガマゲロゲはギガイアスに『ウェザーボール』!」

 

「鬼雨」の名にふさわしく、打ち付ける冷たい雨のように、彼女の戦いは冷徹だ。観客を沸かせる砂嵐を吹かせた強力なポケモン・ギガイアスをいともたやすく沈める。先行していたキバナの指示に従ってフライゴンが「ワイドブレイカー」でこちらの両方の体勢を崩すように薙ぎ払うが、大したダメージにならない。

 

「まだだ! 行け! サダイジャ!」

 

 続いて出てきたのは、砂色の太い大蛇。

 

(砂嵐戦術……蛇……フライゴンと同じ地面・ドラゴンか?)

 

 キバナがこの状況で使うなら十分あり得る。恐らく以前ホップが使ってきたスナヘビの進化系だ。だとしたら、少し厄介である。

 

「念には念を入れて……戻れペリッパー、もう一度だトリトドン!」

 

 ガマゲロゲは自分の仕事を分かっている。雨が降りしきる中真っ先に動いて、強力な水エネルギーの塊をサダイジャに浴びせた。見た目からするとかなりの耐久力がありそうだが、その一撃で倒れた。明らかに効果抜群。どうやらドラゴンタイプは含まれてないらしい。

 

「もう一度、吹けよ風! 呼べよ砂嵐!」

 

 だが、その衝撃を利用して、サダイジャが去り際に大量の砂を吐きだした。それは再び砂嵐となって雨雲を吹き飛ばす。

 

 判断は正解だった。一発耐えられて「すなあらし」で再度塗り替えられるのを警戒してのペリッパーバックだったが、結果的に上手くいったようだ。

 

 そしてさらに望外の結果ももたらした。

 

 フライゴンは身体のわりに小さい手にバチバチと電気を迸らせてトリトドンに殴りかかった。「かみなりパンチ」だ。当然、ペリッパーなどの雨を降らせるポケモンへの対策はしてある、というわけだ。だがトリトドンは地面タイプ、殴られた衝撃自体は感じるだろうが、ノーダメージに等しいだろう。

 

 これでキバナのポケモンを二匹倒した。一方こちらはほぼノーダメージ。雨のアドバンテージを利用してギガイアスとサダイジャを行動させることなく倒したのが大きい。

 

 

 

「荒れ狂えよオレのパートナー! スタジアムごと、鬼雨(やつ)を吹き飛ばす!」

 

 

 

 キバナが咆える。

 

 そう、これでもまだスピカは苦しい。

 

 場は砂嵐、そして出てくるのが、最強のジムリーダー・キバナの、最強の相棒・ジュラルドン。無敵のチャンピオン・ダンデのポケモンを最も多く倒し、あのリザードンと互角の戦いを繰り広げる。ジムチャレンジ用にかなり手加減してくれるだろうが、それでもなお、今まで戦ってきた誰よりも、間違いなく強い。

 

 牙を見せるように嗤うキバナは、ジュラルドンをボールに戻し、巨大化させる。そしてスマホロトムと息ぴったりに自撮りをして、後方に投げた。

 

 キョダイマックスしたジュラルドン。その威容は、巨大な塔のようであり、ダイマックスエネルギーが光となって煌々とあふれ出す。

 

「――っ! 雨雲を呼べ、ペリッパー!」

 

 心が萎えそうになる。それでも、この苦しい状況を、手持ちのポケモンたちが、そして何よりも信頼する相棒・ペリッパーが、吹き飛ばしてくれる。そうなるように、トレーナーとして、全力を尽くしてきた。自らが傷つかず、ポケモンたちに苦しい思いをさせる、ポケモントレーナーとしての、最も重要な役割だ。

 

「火照った体に雨が染み渡るなあ!」

 

 再び降り注ぐ雨に、キバナは嬉しそうだ。スピカの全力をその身に浴びて、ハイテンションになっている。

 

 そんな雨の中、ガマゲロゲは最初から分かっていたかのように臆することなく動き、フライゴンに雨で大きく強化された「ウェザーボール」を叩き込む。すっかり得意技で、動きが洗練されている。その強烈な攻撃は、ドラゴンタイプを含むため効果抜群ではないながらも、フライゴンを大きく弱らせる。お返しの「ワイドブレイカー」は、またさほどのダメージにならない。ペリッパーに交代する可能性は高かったが、トリトドンが交代しないことを考えると、「かみなりパンチ」はリスクが高すぎて選べない。

 

「いくぜ……竜よ、咆えろ! 必殺! キョダイゲンスイ!!」

 

 そしてついに、キバナのもう一つの代名詞が飛び出す。ジュラルドンがドラゴンエネルギーを凝縮させ、ガマゲロゲにキョダイな攻撃を浴びせた。その威力は見た目のわりに低くてなんとか耐えきっているが、代わりにガマゲロゲが少し調子悪そうだ。何が起きたかじっと見てみると、どうやら、技に使うエネルギーを奪われたらしい。

 

 だが、「ウェザーボール」はその場の天気のエネルギーを利用する技だ。雨が降っている時のその強力さとは裏腹に、ポケモンが消費するエネルギーは少ない。まだまだ大丈夫だ。

 

(キョダイマックスしか使えない技は今見た! となると他は普通のダイマックス技のはず)

 

 ジュラルドンとキバナを睨みつけながら、スピカの頭がフル回転する。

 

 ダイマックス技の中には、天候を変えるほどの莫大なエネルギーを持つものもある。天候使い・キバナの切り札だ。間違いなくその手札はあるだろう。

 

 ならば。

 

「また頼んだぞ、トリトドン!」

 

 ペリッパーはまだ大事にしておくべきだ。状況は有利に変わりないが、相手が相手、念には念を入れておくに越したことはない。

 

「まだまだだ! 吹けよ風、呼べよ砂嵐! 『ダイロック』!」

 

「読み通りだな、ガマゲロゲ、トドメの『ウェザーボール』!」

 

 ジュラルドンがダイマックスエネルギーを操作して地面から巨大な岩盤を引っ張り出すが、二度目の雨で素早くなったガマゲロゲのほうが圧倒的に速い。最初からずっと場にいたが今一つ活躍できなかったフライゴンをついに倒す。

 

 その直後、巨大な岩盤が倒れ、トリトドンに襲い掛かった。その衝撃で砕け飛び散った岩は砂となり、衝撃波と風圧で飛び散って、砂嵐となる。だがトリトドンは地面タイプ。さほど効いた様子はない。

 

 雨を降らせるポケモンとしてメジャーなペリッパーに効果抜群で、なおかつ砂嵐を起こせる。そして何よりも、ダンデのリザードンに二重の弱点となる。キバナのジュラルドンが、この技を持っていないはずがない。スピカの考えた通りだった。

 

(は、ははは、すげえ、すげえぞこいつは!)

 

 キバナは興奮する。

 

 彼の手持ちはそのどれもが珍しく、そして強大なパワーを持った、生態系の頂点たる「ドラゴン」だ。ルーキーのスピカにとって初めて見るものが多いだろう。だがそのタイプや性質を、恐ろしいほどの観察眼で一瞬で見破り、最も突き刺さる戦法で、相手のやりたいことを封じ込めて、容赦なく、豪雨のように流し去る。

 

 さらに、ジュラルドンの「ダイロック」も見破っていた。

 

 また生半可なトレーナーは、一手失う「交代」の選択肢を嫌うが、スピカは迷わず実行した。このバトル、動くのは常にガマゲロゲのみで、トリトドンとペリッパーは交互に場に出すだけ。だがその全てが、キバナの動きを誘導し、かつ完全に封じ込めている。読もうと思えば読めるが、その行動は相手が居座った場合を考えるとリスクが大きすぎるし、そもそもそのような強気の戦い方は、「ジムバトル」として禁止されている。

 

 ここまでの彼女のジムバトルを見て思った。スピカの戦い方は――彼女が持ちうる限りの「最善手」を選び続けている。

 

 この戦いでもそう。キバナは何もできていない。スピカの手持ちは一匹も倒せず、好き放題されている。

 

 

 

 

 

 鋭い闘争心で相手を睨みつけて持ち前の観察眼でその性質を即座に見破り、雨を降らせて場を支配して自分たちが最も有利なフィールドを確保して敵を巻き込み、容赦ない冷徹かつ論理的な戦術を組んで最善手を選び続ける。

 

 

 

 

 

 彼女は、このジムチャレンジを突破するにふさわしい逸材だ。

 

「だがまだ負けてねえ! 倒しきれ! オレさまを叩きのめしてみせろ!」

 

 キバナは叫ぶ。やれるものならやってみろ、と。

 

「『キョダイゲンスイ』!」

 

 今度はトリトドンをペリッパーに下げなかった。「ダイロック」で強気の攻めをしなくて正解だ。つくづく、恐ろしい戦い方をする。

 

 フィールドもポケモンもお互いも、雨と砂でぐちゃぐちゃだ。

 

 そしてそこにキョダイマックス技の膨大なエネルギーが降り注ぎ、それらを吹き飛ばし、そこら中に散らす。最強のジムリーダーの試合に相応しくないようで、何よりも相応しい泥臭さと汚さ。ポケモンバトルが、「厳しい野生での戦い」であるという根源を思い出させる。

 

 小技とはいえ二度の「ワイドブレイカー」、そして二度の大技「キョダイゲンスイ」を受けたガマゲロゲはついにダウンする。……そのはずだったが、ダメ押しとばかりにスピカが冷静にガマゲロゲを回復させていて、倒すには至らない。

 

 そしてその間にトリトドンは「だいちのちから」をジュラルドンに食らわせる。強力な鋼に覆われたジュラルドンは物理的な面では要塞の如き硬さだが、特殊防御の面では薄い。さらに効果抜群となれば、体力が大幅に増えていてもなお、大きなダメージとなる。

 

「まだだ、『ワイドブレイカー』!」

 

 元の大きさに戻ったジュラルドンに即座に指示を出す。

 

 だがその攻撃は、ガマゲロゲもトリトドンも、倒すことはできない。

 

 ああ、もどかしい。

 

 こんな、手加減を強要されるジムバトルではなく。

 

 本気で、コイツと戦いたかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

「トドメだ、『だいちのちから』!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 キバナは、倒れゆく相棒をボールに戻しながら、戦いが終わってもなお不完全燃焼な熱を抱えたまま、ここでひとまずの完敗を認めた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

○○○○○

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ハッ、ハッ、ハッ」

 

 華やかなジムで、大勢の観客の前で、素晴らしいバトルを繰り広げて、みんなを魅了させてきた。得意のダンスと、周囲、特にスピカからよく褒められるルックスを活かしてやってきたアイドル的活動も、とても楽しかった。そして今は本格的にスポンサーもついた。

 

 だがこの瞬間は。

 

 一人も自分を応援する人がいない、むき出しの壁に猥雑なポスターが張られた、日が降り注がず陰気な照明のみの暗い暗いステージで、オリヒメは、汗と雨でずぶ濡れになりながら、息を切らして跪いていた。

 

「終わりましたね」

 

 ネズがタチフサグマを戻す。周囲の怖い恰好をした人たちが、ネズの勝利に、そしてオリヒメの敗北に、下品な大歓声を上げる。

 

 激戦の末、なんとかタチフサグマを引きずり出した。だが、オリヒメの五匹のポケモンはすべて倒された。昔から連れ添ってきたオニシズクモとカマスジョーはそれまでの三匹に倒され、大好きな幼馴染に憧れて仲間にしたペリッパーとガマゲロゲ、そして何よりも大切なギャラドスは、タチフサグマに叩きのめされた。

 

 敗北。タチフサグマもかなりギリギリだったが、その接戦のすえにオリヒメは、ラストチャンスを逃したのだ。

 

「いい戦いでした」

 

 何を思ったか、ネズは周囲のエール団を一喝して黙らせると、オリヒメに歩み寄りしゃがんで、彼女に語り掛ける。

 

「俺もギリギリでした。お前は強い。よくここまで来ました」

 

「だ、だ、だったら!」

 

「でも、バッジは上げられません。決まりとか関係ない。俺に負けるやつに、このバッジを渡すわけにはいかない。それに渡したとしても、俺如きに負けるようじゃ、キバナには勝てないから」

 

「う、ううう、ううううう――!」

 

 分かっていた。

 

 それでもオリヒメは、改めて現実を叩きつけられ、声を上げて泣いてしまう。

 

 去年に比べて強くなった自信があった。そしてジムチャレンジ中にこれまでにない成長を何度も成し遂げた誇りがあった。

 

 だが、この戦いで負けた。もうチャンスはない。

 

 オリヒメのジムチャレンジは、終わってしまったのだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ネズさん! さっきの女、あのキバナに勝ったって!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 そこに、エール団の一人がスマホロトムを持ってどたどたとデリカシーなく駆け込んでくる。ネズは責めるような目線を向けるが、焦っている彼に届くことはない。そして彼の叫びを聞いた観客のエール団たちもまたざわめいてしまう。

 

 ネズが苛立ちまじりにひったくるように受け取ったスマホロトム。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 そこには、泥だらけのフィールドでぐちゃぐちゃに汚れながら握手し、キバナからバッジを受け取るスピカの姿が映し出されていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「スピカちゃん!?」

 

 顔を伏せていたオリヒメが、バッ、と顔を起こして、ネズからスマホロトムを奪って、食い入るように画面を見つめる。

 

「スピカちゃん……キバナさんに……勝ったんだ!」

 

「知合いですか?」

 

「幼馴染で、誰よりも大切な親友です!」

 

 オリヒメの顔に、また涙が滴る。

 

 悔しさと悲しさの涙が、うれし涙に変わった。

 

「そうか……スピカちゃん…………ジムチャレン、ジ、を……」

 

 だが、だんだんとその顔が暗くなり、また目線が下がり、だらりと全身から力が抜ける。

 

 この差はなんなのか。

 

 暗いステージで敗北し、リタイアが決定したオリヒメ。

 

 その先まで進んでバッジを獲得しきったスピカ。

 

 二人の間に、厳然とした「格」の違いを感じてしまう。

 

 お姉ちゃんみたいな幼馴染で、だけどだらけきって情けなくて世話のかかる妹みたいで、賢くてかっこよくて可愛いところもあって頼りになる尊敬する親友で、大好きな大好きなスピカ。

 

「なるほど」

 

 ネズは、オリヒメが何を思ってるか、すぐに分かった。目を静かに閉じて、そうとだけ呟くと、ゆっくり立ち上がって去っていく。

 

 まだチャレンジャーが控えている。時間はギリギリだ。彼ら・彼女らのラストチャンスへの道を開けるか、はたまた引導を渡すか、しなければならない。

 

 だが、考え直して、また踵を返して、うつろな表情で声も出さずに涙をだらりと流すオリヒメの前に屈んで、語りかける。

 

「気持ちがわかるとは言いません。俺、ダメなやつだから、気の利いたことは何も言えない」

 

 ネズも目を伏せる。根本的に、彼はネガティブだ。

 

「色々思うところはあるでしょう。ですが、これも勝負の世界。お前は今、そのさらに深い所に、足を踏み入れたんだ」

 

 敗北。勝負である以上、何度も経験した。ましてや相手は常にトップクラスたち。

 

 だが、敗北に慣れたことは一度もない。手加減を要求されるジムバトルですら、負けた後は悔しくて放心するし、ましてや試合本番で負けたら、その夜は眠れず、感情を音楽にぶつけるしかなくなる。

 

 このジムチャレンジではるかに強くなったオリヒメは、「バトル」の深淵を、ついに知ったのだ。

 

「お前もトレーナー、あの雨女(スピカ)もトレーナー。こうして差が出るのは当たり前です」

 

 ネズの言葉は冷たい。厳しすぎる現実だ。

 

 シビアな世界で生き、その中で誰よりも我を貫き通してきた彼のその言葉は、あまりにも重い。

 

 だがその内容とは裏腹に――声は穏やかだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ここは、お前なりの最高の方法で、お前が満足するやり方で、大好きな幼馴染を送り出してやるんだ」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 そう言い残して、今度こそネズが立ち去る。ポケモンを回復しなければならない。バトルで乱れたフィールドを整えなければならない。

 

 オリヒメも、女性のエール団員に支えられ、チャレンジャー用控室に運ばれる。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『お前もトレーナー、あの雨女(スピカ)もトレーナー』

 

『お前なりの最高の方法で、お前が満足するやり方で、大好きな幼馴染を送り出してやるんだ』

 

 

 

 

 

 

 

 

 ベンチで一人顔を伏せて泣くオリヒメの脳内に、その言葉が、何度も何度も反響し、まるでネズのライブで見せるシャウトのように、ひどくハウリングしていた。




みんなもダブルバトル、やろう!

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8-1

 敗北者じゃけぇ…なRTA、はーじまーるよー!

 

 前回はキバナを倒してついに全てのジムを突破したところまででした。

 

 あとはトーナメントに登録したらエンディングです!

 

 

 

 

 あ、そうだ(唐突)

 

 ネズを倒してバッジを七つ集めたことで一流トレーナーに認定されるので、手持ちに六匹入れられるようになるゾ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ではここでワクワクの六匹目を仲間に入れ……ないです。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 もうホップきゅんに負けるだけなんだし、対キバナはこの五匹で安定します。(今更仲間を入れる意味は)ないです。

 

 

 それでは10番道路に列車でGO!

 

 そのままこの雪山を登っていきます。ここは実質チャンピオンロード扱いであり、多彩かつ進化済み・高レベルのポケモンを使う必須戦闘トレーナーが多いです。

 

 まずは先頭をペリッパーにしておきましょう。霰が降っているので、雨に塗り替えたいですからね。

 

 

 最初の必須トレーナーはドクターのミノル(ホモのサイコパスではない)

 

 相手が使ってくるのはドチャシコポケモン(ノンケ)のサーナイトです。ただしオスです。やっぱりホモじゃないか!

 

 特防が高いため、雨「ウェザーボール」一撃では倒せません。へえ耐えられたんだ。良かった、じゃあ、死のうか(二発目)

 

 

 

 次のやまおとこは左側から華麗にスルー、そのままサラリーマンもスルー!

 

 そして次の必須戦闘が、タクシードライバーのコウタロウです。

 

 一匹目はアーマーガア。ランターンの「ほうでん」二回で終わり! 二匹目のフライゴンは分が悪いのでガマゲロゲに交代して、霰「ウェザーボール」二回で勝ち!

 

 次はやまおとこのガクです。

 

 先頭はガマゲロゲ。相手が砂嵐にしてきますが、初手で「あまごい」をします。そしたらそこから、二匹目のサイドンまで、雨「ウェザーボール」で勝ち!

 

 

 最後の必須戦闘は難敵・ジェントルマンのジュウシロウです。

 

 使ってくるポケモンはヒヒダルマ(ガラルの姿)、タイレーツ、オトスパスです。筋肉マッチョ、集団、触手と、ジェントルマン(意味深)らしい手持ちですね。

 

 

 まず最初はペリッパーの雨「ウェザーボール」で一撃です。ただヒヒダルマの方が素早く、しかも火力が鬼高いので、たった一撃でペリッパー君の命が風前の灯火です。

 

 次のタイレーツは先制技「であいがしら」があるのでやられてしまいますね。ガマゲロゲに交代して受けて、雨「ウェザーボール」二発で終了!

 

 次のオトスパスは、最後の雨ターンで「ウェザーボール」をして大きく削り、最後は「マッドショット」で倒します。

 

 

 

 で、最後って言いましたが、実は嘘(ホモは嘘つき)

 

 原作のRTAだったらどこでもボックスが使えるので、手持ちを一時的に一匹にしてダブルバトルを回避できますが、モブにはそれが許されません。

 

 よって、このダブルバトルは戦わざるを得ません。しかもこいつら、死ぬほど強いです。

 

 レポーターのミチとカメラマンのテル。原作では回避できるのにこのゲームでは回避できず、しかも最後の最後で難敵として立ちはだかるので走者から蛇蝎の如く嫌われています。通称マスゴミです。

 

 事故要素も多いので、チャート次第ではレポートしておきましょう。ただ今回はチャートが優秀(自画自賛)なので、レポートはいりません。

 

 

 先頭はガマゲロゲとペリッパーです。相手の初手はギギギアルとエレザード。

 

 このエレザード、水タイプの天敵である電気タイプな上、特性・乾燥肌で水技はむしろ回復に利用し、さらにさらに「かいでんぱ」でCを大きく下げてきます。

 

 またギギギアルも、対戦では何かと馬鹿にされがちですが、ストーリーではそのタイプとバランスの整った種族値は厄介です。

 

 

 はー、ほんまマスゴミ。

 

 

 まずペリッパーはトリトドンにバック。すいすいで最初に動けるガマゲロゲでエレザードに「ドレインパンチ」。エレザードの「かみなり」はトリトドンが受けて不発。ギギギアルは「ギアチェンジ」でS二段階・A一段階上昇します。強すぎィ!

 

 

 二ターン目。ガマゲロゲはエレザードにもう一発腹パンを上から喰らわせて退場。A上昇「ギアソーサー」は半減とはいえ普通に痛いです。そしてトリトドンは「ウェザーボール」。「だいちのちから」は抜群ですが、「ウェザーボール」のほうが火力出るし、抜群メッセージがない分わずかに速いです。

 

 

 三ターン目。エレザードの次に出るのはオンバーンです。こいつはとても素早い上にタイプも優秀で、「りゅうのはどう」「おいかぜ」「いかりのまえば」と火力も範囲も脅威で、さらにこちらのアドを奪う「おいかぜ」も覚えてます。はー、ほんまマスゴミ。

 

 ガマゲロゲはギギギアルに雨「ウェザーボール」で倒します。「おいかぜ」は甘んじて受け入れましょう。そしてトリトドンはオンバーンに「げんしのちから」。(ステータスアップは時間がかかるので嬉しく)ないです。

 

 

 

 四ターン目。七世代ピカ様枠のトゲデマルです。これで猫だましとか覚えてたらブチギレ案件ですが、そこまでではありませんでした。

 

 オンバーンが最初に動いて雨で必中の「ぼうふう」がガマゲロゲに襲い掛かります。あ、一発で混乱した。しかも自傷した。うーんマスゴミ。

 

 まあいいでしょう。チャートと展開次第では混乱して即自傷したら場合によってはリセなんですが、今回はただのロスで済みます。

 

 理由はリカバリーが楽だからです。ガマゲロゲが動けなくても、安全に動けるトリトドンの「げんしのちから」でもうオンバーンは倒せますし、トゲデマルは電気技と虫技しか覚えておらず、地面タイプのこちらに無力なので。もし地面タイプがいなかったら、「おいかぜ」+「びりびりちくちく」の怯み効果で大事故からのリセットが起こる可能性もありますが、それもいりません。

 

 そんなわけでトリトドンがオンバーンを倒し、次のターンに今更動いたガマゲロゲが「マッドショット」を当てて四倍弱点のトゲデマルを倒してゲームエンドです。

 

 

 

 

 よし、これで全部のトレーナーを倒しました。今度こそ、もう戦闘はありません。シュートシティでエントリーしてエンディングです。

 

 当然、もう戦闘はないので、手持ちはこのままでよいでしょう。ただここまでみんな頑張ってくれたので、せっかくだから回復してあげましょう。え? ロスだって? いいんだよ!

 

 そしてこの今までの旅の記憶を思い出に刻むためにじっくりレポート。ロスだって? いや、思い出は大事だってそれ一番言われてるから。

 

 

 

 

 さてさてさて、シュートシティに足を踏み入れて――――

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ――――目の前に、オリヒメちゃんが立ちはだかっています。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 というわけで、ちょっと短いですが今回はここまで。ご視聴、ありがとうございました。

 

 前回最終回と言ったが、あれは嘘だ。




クイズに答えてくださった方、答えを予想してくださった方、ありがとうございました!

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8-2

 ガラル中を数日で、しかもほぼ徒歩または自転車で弾丸ツアーするジムチャレンジなんてイベントに参加している今からは想像もつかないが、スピカは元来怠惰であり、身体を動かすことが嫌いであり、頭を働かせることが億劫であり、そして家から出ることを厭う筋金入りの出不精である。

 

 しかしながらさすがにバウタウンだけで一生を終えることはなく、20年と少しこのガラルで過ごしていて、他の町に行ったこともある。

 

 例えば一番近所でありガラルの中心的な街であるエンジンシティには月に一度ぐらいのペースで行くし、観光・芸術の中心地であり店や施設が豊富なナックルシティにも行ったことがある。そして、最も栄えていて、最も大きなスタジアムがある、ガラル経済の中心地・シュートシティも、当然行ったことがある。オリヒメがここでしか売っていないなんだかよく分からないがお洒落らしい洋服を買うとなった時に、ついてくるよう頼まれたのだ。

 

 だがその移動手段は徒歩などではなく、当然全部列車かアーマーガアタクシーだ。

 

 そんなことを思い出しながら、バッジをついに八つ集めたスピカは、列車に揺られていた。

 

 ナックルシティでキバナを倒し、ジムでのチャレンジは終わった。後は、時間ぎりぎりだが、シュートシティでセミファイナルトーナメントの申請をするだけだ。

 

 しかしながら、この列車は、シュートシティ「の方」には向かっているが、そこに直接向かってはいない。

 

 大都会の手前、ガラル経済の中心地へのアクセス道路とは思えないほどに険しい雪山である、10番道路に向かっているのだ。

 

 ジムチャレンジはジムをめぐるのみならず、ガラル中をその足で経験し、ポケモントレーナーとしての強さを磨く場でもある。多くのサポートがあるのは事実だが、他地方のバッジ集めの旅と似た要素があるのは確かだ。

 

 そういうわけで、しばしば公共交通手段が禁止され、わざわざ面倒な道路を自らの足で踏破しなければならないのである。

 

「行ったことがあるのに……」

 

 色々用はあるだろうから、と居住地だけは最初からアーマーガアタクシーで行けることになっているが、チャレンジが始まれば、チャレンジ中に行ったことある町までしか行くことができない。ジムチャレンジの趣旨は分かってはいるが、オリヒメと一度だけ行った経験があるため、そこに不条理は感じないでもなかった。

 

「そうだ、オリヒメは……ロトム、頼む」

 

 キバナと戦う前では、彼女は数少ないリタイアしていないチャレンジャーだった。だが、今はどうだろうか。

 

 スピカはジムチャレンジ関連のニュースをスマホロトムに口頭で頼んで出してもらう。「了解したロトー!」と列車の中だというのに無駄にでかい声で元気に返事をしたのちに、画面にニュースが表示された。

 

「【速報】チャレンジャー・スピカ、キバナを撃破。今年4人目のバッジコンプリート」などという記事が最上段に特集されていて、泥だらけの汚い姿でキバナと自分が握手する写真がでかでかと載っている。気恥ずかしさを覚えて、スクロールしてそれを即座に視界から外し、他チャレンジャーの動向を探す。

 

 ユウリ、ホップ、マリィがスピカに先んじて突破し、とっくにセミファイナルへのエントリーを済ませた。今回参加者の最有力候補であったドラゴン使いの一族・ケンギュウがネズに敗れ時間制限でリタイア。キルクスジムまでの六つのジムが今回の活動終了。

 

 そんな様々なニュースの先に、ついに目的の人物の名前が見つかる。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

【速報】チャレンジャー・オリヒメ、ネズに敗北。時間制限によりここでリタイア

 

 

 

 

 

 

 

「オリヒメっ……!」

 

 載っている写真は、彼女がマクワを初回で撃破して握手している時の晴れやかなものだ。スパイクジムはエール団が支配する閉鎖的なジムであり、記者が撮影できなかったのだろう。

 

 震える指で記事を開く。「まもなく到着いたします」という車内アナウンスは、今の彼女の耳には入らない。

 

 

 

 

 

 

 去年に続いて二度目の参加となったチャレンジャー・オリヒメは、順調にジムバッジを集めていったが、七人目の番人・ネズに敗れたことで、時間制限によりついにリタイアとなった。

 

 オリヒメは去年は初チャレンジでバッジを二つまで集め、さらにレベルアップした今年は四つ目までストレートでクリアする快挙を成し遂げた。「竜宮の乙姫」「リトルマーメイド」などのあだ名がつけられるきっかけとなった、ルリナとの決戦は記憶に新しいだろう。

 

 だが、魔術師・ポプラに敗北を喫し、なんとかその日のうちにリベンジを果たしたものの、ここでの足踏みが祟って、無情にも時間に追われる形となった。

 

 

 

 

 

 

 オリヒメのコメントなどは載っていない。これも同じく、スパイクタウンだからだろう。だが彼女の性格からすると、自分からメディアの前に現れて、何かしらのコメントはしそうなだけに、そこは不思議だ。アイドル的活動をしており、メディア露出に積極的なはずなのだが。

 

「それだけ……ってことだろうな」

 

 今年のオリヒメは、今まで見たことないほどに、強く、美しく、そして輝いていた。オリヒメ自身もそう思っていたはずだ。それなのに、現実はこうして高い壁がある。ショックで、メディア露出などを気にしている場合ではないのだろう。

 

 スマホロトムにバッグのポケットに戻ってもらうように指示をして、ぐっ、と汗ばむ拳を握る。いつの間にか車窓からは人の生活の気配が消え、雪が濃くなってきた。

 

 

 

 

 

 

 

 

「10番道路駅に、到着しました」

 

 

 

 

 

 

 

 

 電車が止まり、アナウンスが流れる。

 

 スピカは意を決して立ち上がり、早足で列車を降り、10番道路へと足を踏み出した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

○○○○○

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 険しい雪山の10番道路だが、「道路」と名付けられただけあって、一応人が通れる道はある。

 

 ただしそこにも酷く雪が降り積もり、道路も舗装されておらず、雪の下には踏み固められた地面があるに過ぎない。

 

 ワイルドエリアや孤島や雪原といった場所を除けば、ここはガラルで最も厳しい環境である。当然そこに住む野生のポケモンも強力かつ狂暴で好戦的だ。トーナメントに向けた最後の試練としても機能し、他地方の「チャンピオンロード」を真似てあえて開拓していないという噂もある。

 

 そんな噂が立つだけあって、ここにわざわざ集まるトレーナーも強者ばかりだ。まずここで生き残れるのが強者の証であり、そしてわざわざこんなところに来るということは、全員が好戦的なトレーナーだ。その目的は様々だが、まず一番多いのは、「バッジを全部集めたチャレンジャーと戦いたい」というもの。

 

 そういうわけで、ここは厳しい環境、狂暴で強力なポケモン、そして八つバッジを集めてトーナメントに向かおうとするチャレンジャーを倒してやろうとギラついた目的のある実力者たちが集まる。

 

「ペリッパー、『ウェザーボール』!」

 

 このような厳しい自然でのバトルでは、トレーナーの性格が出る。

 

 大別すると三つ。

 

 そのような状況を極力避けて、安全に戦える場のみを求める者。

 

 己の力を信じてその環境に耐え、またはこの状況すらも利用しようとする者。

 

 そして、環境そのものを変えて自分にとって有利なものにしてしまおうとする者だ。

 

 サーナイトに止めを刺すべくペリッパーに指示を出すスピカは、「雨」を防ぐために傘を差している。

 

 そう、雪が降りしきるこの状況はスピカにとって好ましくない。だからこそ、ペリッパーの雨降らしで、自分たちに有利な状況に変えてみせたのだ。

 

 初参加でその才能と能力をいかんなく発揮した「鬼雨(きう)」の実力をその身で味わったトレーナーは、賞金を払いながらも満足そうだ。一方のスピカも、バトルで勝利した高揚感はあるが、すぐに降り始めた雪によってテンションが下がり、こんな場所さっさと抜け出したいとばかりに早足で進んでいく。

 

(そう何度も戦ってられるか)

 

 期限はギリギリ。時間はない。爛々と輝く目で「獲物」を探すトレーナーたちの視線を、吹雪に紛れながら上手に避けていく。

 

 そうして二人ほど回避したが、ついに捕まってしまった。

 

 アーマーガアタクシーのドライバー。ガラル中を飛び回り、時にはここやワイルドエリアのような厳しい環境にも飛んでいき、乗客を安全に運ぶ。本人もアーマーガアも、間違いなく実力者なのだ。

 

「『ほうでん』!」

 

 アーマーガアをランターンの電気技で倒す。すると次に出されたのはフライゴンだ。ランターンでは分が悪い。すぐにガマゲロゲに変えて、先ほどとは逆に霰が降る天気を利用した氷タイプの「ウェザーボール」でフライゴンを一撃で倒す。

 

 ナックルジムのジムミッションの時にその場で思いついた戦い方だ。ジムチャレンジは、彼女の実力をかなりのレベルまで底上げしている。

 

 次に挑んできたのは、重装備に身を包んだ山男だ。彼もまたスピカとおなじタイプのトレーナーのようで、キバナのようにいきなりギガイアスで砂嵐に変えてきたが、ペリッパーがやられた後も雨を降らせられるようにとガマゲロゲに覚えさせておいた「あまごい」で塗り替え、有利な環境を奪い返して勝利する。

 

 次に遭遇したのは、こんな中でもスーツにハットにステッキというスタイルを崩さないジェントルマンだ。その立ち居振る舞いはこの極寒でも涼やかで紳士然としている。ジムチャレンジャー向けに無料貸し出しされる防寒具で全身を包み酷く息切れしているスピカに比べたら天と地の差だ。

 

「バトルだ、ペリッパー! 『ウェザーボール』!」

 

 降雪地域に特化したガラル特有の生態であるヒヒダルマのパワーはすさまじい。ただの一発で、ペリッパーの体力が一気に持っていかれる。その反面耐久力は低く、雨の「ウェザーボール」で一撃で倒せたが、厳しい状況だ。

 

「ガマゲロゲ、『ウェザーボール』!」

 

 次に出てきたタイレーツは格闘タイプなのでペリッパーは有利だが、場に出た瞬間のみ使える、出が速い「であいがしら」が選択肢にあることは知っている。ガマゲロゲに下げ、雨を利用して安全に倒す。

 

 最後に出てきたオトスパスも、「ウェザーボール」と「マッドショット」で倒しきった。

 

「ハッ、ハッ」

 

 息切れが激しい。口から出る息はあっという間に目の前を白く染め上げ、なんとか吸おうとする空気は恐ろしく冷たくて肺を刺す。防寒具で口元を覆っていなかったら、もう一歩も歩けなくなっていただろう。

 

 そしてそんな自分と同じく満身創痍のペリッパーに満タンの薬を与え、次なるバトルに備える。ジェントルマンと戦っている時から、道の先で一等ギラついた視線を向けてくる二人組がいるのだ。

 

「さあさあ、四人目のチャレンジャー、たっぷり取材させてもらいますよ!」

 

 レポーターとカメラマン。アナウンサーに比べたら裏方の存在だが、この二人は有名だ。生粋のバトルマニアであり、ポケモンバトル専門で仕事をしている。ジムリーダーたちからも、バトルへの理解がマスコミ関係者で一番深いと評判だ。

 

 その根源は、当人たちもまた実力者であること。ジムバッジを八つ獲得したチャレンジャーを、この地獄のような10番道路の最後の最後で待ち構え、取材と称して狂暴な笑顔でバトルを吹っかける。それをここ毎年できるだけの、図抜けた実力があるのだ。

 

(ダブルバトルなら、もっと厳しいのを経験した!)

 

 二人とも有名人で実力者。だが、キバナに比べたら恐ろしくない。

 

「バトルだ、ガマゲロゲ、ペリッパー!」

 

 吹雪いているから確信は持てないが、このすぐ先はシュートシティで、もう流石にトレーナーは待ち構えていないだろう。ここは全力だ。

 

 一方相手が出してきたのは、エレザードとギギギアル。こんなところで戦うだけあってやはり進化しきったポケモンで、しかも明らかによく鍛えられている。

 

「ガマゲロゲは『ドレインパンチ』! ペリッパーは戻れ! バトルだ、トリトドン!」

 

 エレザードは電気タイプ。ペリッパーは危険だ。すぐにトリトドンに戻す。

 

 そしてガマゲロゲは、ノーマルタイプも含むエレザードに向けて効果抜群の「ドレインパンチ」を突き刺す。「ウェザーボール」のほうが威力が出るが、その肌がガサガサしていたことから、水タイプの技が恩恵になってしまう可能性を考え、安全策を選んだのだ。

 

 事実、エレザードは雨が降って嬉しそうだ。ペリッパーの雨雲を利用し、「かみなり」を意気揚々と落とす。だが、トリトドンには効かない。

 

 そしてギギギアルは「ギアチェンジ」をして、より攻撃的な回転をするようになった。

 

「もう一度『ドレインパンチ』! トリトドンはギギギアルに『ウェザーボール』だ!」

 

 エレザードは二回の痛い攻撃でついに倒れ、ギギギアルもかなりのダメージを負った。一方そのギギギアルからの反撃は大ダメージにはならない。タイプのアドバンテージが活きている。

 

 次いで出てきたのはオンバーン。とても素早く、特殊攻撃の威力も高いドラゴンだ。進化前のオンバットはドラゴンなのに臆病で力も弱い。さらに進化もとても遅いため、逆にペットとして人気なのだが……オンバーンまで育て上げたということは、やはり生半可なトレーナーではない。バッジ六つ分は確実な実力だ。

 

 ガマゲロゲはギギギアルにトドメを刺し、トリトドンは飛行タイプへの手段として隠し持っていた「げんしのちから」でオンバーンに深い傷を負わせる。だがオンバーンはその翼を使って、「おいかぜ」を起こし、次へとつないだ。

 

 そんな場面だというのに、カメラマンの男は悔しそうな顔をする。そうして少しためらいながら出したのは、可愛らしいまるっこいポケモン・トゲデマルだった。

 

(なるほどな)

 

 電気・鋼タイプだ。水・地面が二匹並ぶこちらに対してあまりにも無力だろう。

 

 その横で、レポーターがよく通る美しい声で指示を出す。だが、そんな指示に従って出された攻撃は、あまりにも暴力的な「ぼうふう」だ。大技ゆえにあたりにくいが、雨のせいで確実に起こるようになっている。直撃を食らったガマゲロゲは大きくダメージを負って苦しそうな上、巻き上げられたせいで目を回してしまい、倒れこんで身体を強打する。

 

 不運だ。混乱してしまったらしい。だが逆に幸運にもトゲデマルは「ミサイルばり」でチクチクとさほど効かない攻撃しかできないようだ。ほぼ無傷のトリトドンは「げんしのちから」でオンバーンに止めを刺す。

 

 そして、ガマゲロゲはようやく起き上がり、ふらつきながらも「マッドショット」の一撃で、トゲデマルを倒した。

 

(危なかった)

 

 特性「かんそうはだ」で水技が効かない上に雨を逆手に取る「かみなり」まで持つ電気タイプのエレザード。

 

 水技が効きにくいドラゴンなうえ、特性すいすいのアドバンテージをひっくり返されてしまう「おいかぜ」を持ち、同じく雨を逆手に取る大技「ぼうふう」を持つオンバーン。

 

 電気タイプで、ダブルバトルでは厄介な技が豊富なトゲデマル。

 

 ギギギアル以外の三匹が、水タイプしかいないスピカの手持ちに酷く刺さっている。トリトドンとガマゲロゲがいなかったら大惨事だっただろう。尤も、電気タイプとの戦いを見越してこの二匹を加えたのだから、それはありえないのだが。

 

「ようやくだ……」

 

 スピカは疲労困憊になりながら、レポーターとカメラマンから励ましの言葉を受け――バトルは仕掛けてきたくせにインタビューに答えられないのは分かっているのか何も聞かれなかった――、目の前に見える大都市の光を目指して一歩一歩進んでいく。

 

 これ以上絡む野暮なトレーナーはいないはず。

 

 だが念のため、スピカはなけなしの薬で手持ちを回復させた。意外と金は貯まっているのだが、いかんせん買い物の暇がなさすぎた。

 

 そうしてついに、吹雪から抜け、人の手が加えられた固い道路へと、味わうように一歩踏みしめる。

 

 

 

 

 

 

 たった数日だが、何年もかかったような気分だ。

 

 数日間確かに旅したが、一瞬のような気分だ。

 

 

 

 

 

 だがこうして、ついに、数多の試練を乗り越え、最後のバトルの地であるシュートシティに足を踏み入れることができた。

 

 そんな感動を覚えながらも、スピカは駆け足でスタジアムを目指す。もう、期限まで一時間もない。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「………………オリヒメ?」

 

「待ってたよ、スピカちゃん」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 そんなスピカの目の前に、チャレンジャー用ユニフォーム姿のオリヒメが、可愛らしい顔に険しい表情を浮かべて、立ちはだかった。




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9-2

(投稿の順番とかタイトルのガバでは)ないです

いよいよクライマックス


「………………オリヒメ?」

 

「待ってたよ、スピカちゃん」

 

 防寒具にも傘にも雪が降り積もり、明らかに満身創痍のスピカ。

 

 その前に、なぜかこのシュートシティの道のど真ん中で、真っ白なチャレンジャー用ユニフォーム姿のオリヒメが、立ちはだかっていた。

 

「スピカちゃん。キバナさんも倒して、バッジ、全部集めたんだね。おめでとう、本当におめでとう」

 

「あ、ああ……」

 

 オリヒメは薄く笑って、スピカを褒めたたえる。だが、この状況についていけないスピカは、ぽかんとしたまま、意味のない声を漏らすのに精いっぱいだった。そうなったのは、オリヒメの可愛らしいはずの笑顔に、とてつもない迫力を感じてしまったのもある。

 

「あたしはね、ダメだった。時間ぎりぎりで、ネズさんに負けちゃって」

 

「あ、あ、ああ……知ってる。その……残念だったな」

 

 そんなオリヒメは、笑みを自嘲的なものに変え、顔を伏せて、少し小さくなった声でそう続けた。その内容は、いわば「成功」を収めたスピカに対して、あまりにも気まずい「敗北」。スピカの言葉は、より曖昧で、そして遠慮がちで、薄っぺらいものになる。そして一方で、細くなったオリヒメの声が、やけに平坦なのも気になった。

 

「そっか。あたしのことなんて気にしてないと思ったけど……やっぱスピカちゃん、優しいね」

 

「そんな、そんなことは……」

 

 オリヒメはまた、スピカを讃えた時のような明るい笑みを浮かべる。だがその口から語られる言葉は、あまりにも自虐的だ。スピカはなんとかして否定する。

 

 違う。優しくなんてない。ただ、オリヒメのことを忘れるわけなんてない。

 

 訳が分からなかった。

 

 なぜ、こんなところで、こんな格好で、オリヒメが自分を待っていたのか。

 

 自分を見送りに来た。十分考えられる。オリヒメは、優しくて、素直で、人の気持ちがわかる良い子だ。自分ごときの幼馴染としてはもったいない。そしてそんな彼女に、散々甘えてきた。

 

 ならばなぜ、ここで足止めみたいなことをするのか。スピカにもう時間が遺されていないことは知っているだろうに。

 

「ねえ、あたしね。去年のジムチャレンジ、すっごく悔しかった。だけど、次も頑張ろうって思えて。いっぱい頑張って、いっぱいバトルして、見てくれる皆を魅了させようって」

 

「ああ、ああ、知ってる。知っているさ」

 

 オリヒメの両親かそれ以上に、その姿を一番傍で見てきた自負がある。オリヒメには恥ずかしくて伝えていないが、彼女が出る数少ないメディアや放送は毎回チェックしていた。少しずつ有名になっていくことが、自分の事のようにうれしかった。そしてそんなオリヒメの「足枷」になっている自分に少しずつ嫌気が差し、それでも彼女と離れるのが嫌で、甘えに甘えていた。

 

「だけど、やっぱりだめだった。今年こそは、って思ってたのに。八つ集めるなんて夢のまた夢。キバナさんに挑むことすらできなくて、ネズさんに負けて、終わり」

 

 オリヒメは笑顔のままだ。見惚れてしまいそうなほどに可愛い。だが、目を離せないほどに、そこに恐ろしさも感じてしまう。

 

 スピカは何も言葉が出ない。

 

 混乱。焦り。疲労。痛み。寒さ。汗。愛情。気まずさ。

 

 色々なものが、スピカのよく回る思考と、誰にでも反発してしまう口を、止めてしまっていた。

 

 

 

 気まずい、硬質な沈黙。

 

 大都会・シュートシティの喧騒だけが響き渡る。

 

 だが、スピカの耳にそれは入らない。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「――――でも! スピカちゃんは! 今年初挑戦で、もうここまで来れた!!!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 その沈黙は、オリヒメの爆発によって破られる。

 

 いつもはくりくりとした明るい目は見開かれて暗い光をたたえてスピカを睨みつけ、普段なら見る人を和ませる表情豊かな口元は獣の歯茎がむき出しになっている。強く握られた拳はプルプルと震えさせ、美しい青髪を振り乱して、激情を吐き出す。

 

「あたしのほうがポケモンバトルでは先輩なのに! スピカちゃんと違って小さいころからずっとバトルを頑張ってきたのに! 旅立ったばかりのころはあたしが手加減してやっとだったのに! 最初のヤローさんにすらスピカちゃんは負けていたのに!」

 

 スピカは震え、立ち尽くし、オリヒメを見ることしかできない。

 

 そんなオリヒメは、情けない姿のスピカを睨みつけたまま、なりふり構わず口から唾を飛ばしながら叫び続ける。周囲の驚きの目が集まるが、二人とも、全く気にする余裕はない。

 

「あたしとスピカちゃんで何が違うの!? 使うポケモンはどっちも水タイプだけ! バウタウンで育って! ルリナさんに目をかけて貰えて! ルリナさんたちが言ってたように観察眼!? でも、ポケモンのタイプなら、あたしだって知ってる! その場で予想なんかしなくても、スピカちゃんよりもずっと分かってる!」

 

 もうオリヒメも、自分が何を言っているのか分かっていないだろう。

 

 普段の彼女なら、決してこんなことは言わない。

 

「なんなら、水タイプの中でも、使うポケモンもほとんど一緒じゃん!? スピカちゃんを真似して、ペリッパーちゃんも、ガマゲロゲちゃんも捕まえて、いっぱい育てた! でも、ネズさんにすら勝てなかった!」

 

 ペリッパーと、ガマゲロゲ。

 

 ペリッパーはもちろん、ガマゲロゲは、スピカのジムバトルでとても印象的なポケモンだ。水・地面の優秀なタイプで、そもそもが三段階進化の最終進化で、特性すいすいによって雨が降る中では無類の強さを誇る。事実、カブとの戦いからずっと、ガマガル・ガマゲロゲは、ペリッパーと並ぶ主力であり続けた。

 

 そんな自分の戦いを、オリヒメは真似した。

 

 オリヒメは、なぜかは知らないが、こんな自分を昔から、そして今でも、姉のように慕ってくれて、時折真似するようなことがある。だが、ペリッパーだけでなく、ガマゲロゲまで。

 

 ――いつの間にか、ポケモンバトルですら、オリヒメが、追いかけ、真似をする側になっていた。

 

 そして、そこまでやっても、オリヒメはスピカに追いつけない。

 

「あたし、もうわかんない、わかんないよ……。スピカちゃん、何なの、何が違うの……?」

 

 大きな瞳からボロボロと涙をこぼす。そんなオリヒメの姿を見つめるスピカの視界も、滲んでくる。

 

 何も答えられない。なんとか答えようと、励まそうと、言葉を絞り出そうとするも、いつもの減らず口はパクパクとコイキングのように動くことしかできない。

 

 ……また沈黙。

 

 オリヒメは大粒の涙をこぼしながらスピカを睨みつける。

 

 スピカは立ち尽くしながら、涙を流して、ぽかんとするだけ。

 

 そんな状況が一分続く。そしてそれをまたも破ったのは、オリヒメだった。

 

 数度深呼吸し、呼吸を整え、静かに目をつむり、袖で強く涙をぬぐう。

 

「……だからね、スピカちゃん。あたしに教えてよ。あたしとスピカちゃん、何が違うのか」

 

 

 

 

 

 

 

 瞬間、オリヒメが叫んだ時以上の緊張が、二人の間に走った。

 

 

 

 

 

 

 

 ああ、分かっていた。これだけは分かってしまっていた。

 

 オリヒメが立ちはだかった時からずっと、スピカは何もできなかった。

 

 だが、ジムチャレンジを通して成長したトレーナーの本能が、スピカの身体を動かしていた。

 

 オリヒメがボールを構えると同時――――最初からずっと握っていたボールを、スピカも構える。

 

 訳が分からない。

 

 ただ、トレーナー同士が、こうして会ったら。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「じゃないと、スピカちゃんを、トーナメントに出してあげないから!!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ――――ポケモンバトルをするしかない。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ポケモントレーナーのオリヒメが、しょうぶをしかけてきた!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「バトルだ、ランターン!」

 

「ペリッパーちゃん、オンステージ!」

 

 お互いの先頭は、アラベスクタウンで戦った時と同じ。だが、スピカの観察眼と本能が告げている。あのペリッパーは、キバナの手持ち程ではないが、自分の仲間で最も信頼できるペリッパーと同じほどに強い。これほどの実力があれば、ネズは突破できたはず。ネズに負けてからの時間的に、これほど成長できるわけがない。オリヒメの激情をくみ取り、ポケモンたちが「今の限界」を一時的に越えたのだ。

 

「ここからは真剣勝負! お互いに持ち物も道具使用も禁止だよ!」

 

 潮のお香を筆頭とした持ち物。元気の欠片をはじめとする道具。どちらも、スピカの厳しいジムチャレンジを支えてきた。他チャレンジャーとの明確な違いの一つは、彼女の道具使いが上手かったというのがある。だが、それは禁止された。

 

「…………上等だ、オリヒメ」

 

 お互いにポケモンを出して、ようやく、スピカも気を取り戻し、覚悟が決まった。

 

 結局、ポケモントレーナー同士、最後はこうなるしかない。ならば、最大限の敬意と想いをこめて全力をぶつけ、大好きな幼馴染(オリヒメ)を倒し、セミファイナルトーナメントに出場する。

 

「戻って、ペリッパーちゃん! ガマゲロゲちゃん、オンステージ!」

 

 ペリッパーはランターンに対してあまりにも不利。逆に有利なガマゲロゲに、雨のアドバンテージもあって、この場を託す。迷わないスピカが異常なだけで、ポケモンの交代はリスクが伴うし複雑に状況が絡み合うため、多くのトレーナーが使わない。オリヒメも例外ではない。だがこの瞬間、急激に集中力が増したオリヒメは、普段からはあまりにもかけ離れた猛者として、大好きな親友(スピカ)に立ちはだかっていた。

 

「甘いんだよ! 『バブルこうせん』!」

 

 だが、スピカはさらにその先を行く。

 

 誰よりもずっと見てきた、大切な親友(オリヒメ)だ。彼女が今とてつもない力を発揮していることは、観察眼なんて役に立ったかどうかも分からないし自覚もない取柄のような何かがなくたって、分かるに決まっている。

 

 だからこそ、ガマゲロゲに交代すると読んで「ほうでん」ではなく「バブルこうせん」を打つと最初から決めていた。

 

 場に出て早々に、雨で威力の増した泡の光線を受けて、オリヒメのガマゲロゲは大きくのけぞる。地面タイプも含むガマゲロゲには大きなダメージになった。

 

 ペリッパーからのガマゲロゲ。スピカにとって最もなじみのある戦い方だ。その弱点も、当然把握している。

 

「ガマゲロゲちゃん、『マッドショット』!」

 

「バトルだ、ペリッパー!」

 

 電気タイプのランターンはガマゲロゲに不利。そして地面技を飛ばしてくると見越して、ペリッパーを出した。どんぴしゃだ。

 

「そんな……」

 

 オリヒメの動きが、完全にスピカに読まれてる。

 

 自身も、ポケモンたちも、これまでにないほど、想像もつかないほど、絶好調のはず。

 

 唖然として、スピカを見つめる。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ――そこには、雨でだらりと重く垂れ下がった長髪の隙間からこちらを睨みつける、恐ろしい「化け物」がいた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

(――――っ!!!)

 

 全身に、恐怖感と危機感が駆け抜ける。

 

 スピカは、普段は傘をさすが、真の正念場であるジムバトルでは傘を差さない。そして闘志をむき出しにして、雨に濡れるのも気にせず相手()を睨みつける。

 

 ジムリーダーのホームグラウンドであるはずのスタジアムを、黒雲で包み雨を降らせ地面を濡らして侵犯する、怪物。

 

鬼雨(きう)」と呼ばれる修羅が、オリヒメを睨みつけているのだ。

 

「っ……あたしだって、『リトルマーメイド』『竜宮の乙姫』だもん! 負けない!」

 

 だが、その恐怖を踏破する。明るくて前向きだが、その根っこは気弱なオリヒメは、鬼雨(スピカ)に真っ向から立ち向かう。そして場違いなことに、ジムリーダーだけに向けるほどの「本気」を自分に向けてくれたのが、たまらなく嬉しかった。

 

「さあ、歌声でみんなを魅了しちゃうよ! 『ハイパーボイス』!」

 

「押し流せ! 『ウェザーボール』!」

 

 喉袋を膨らませたガマゲロゲは、それを激しく震わせて爆音で叫ぶ。その声は鼓膜を破る程のパワーがあるが、一方で、どこか美しさがある。ペリッパーはその衝撃で身体をよろめかせるが、水エネルギーの塊を反撃でぶつけ、オリヒメのガマゲロゲをダウンさせた。

 

「まだまだ! カマスジョーちゃん、オンステージ!」

 

 次いで現れたのが、オリヒメの古くからの仲間・カマスジョーだ。そのポケモンの種としての性格はもちろん、特に攻撃的な個体である。特性すいすい、そしてオリヒメの想いをくみ取っているのもあって、かなり張り切っている。

 

「『かみくだく』!」

 

「バトルだ、トリトドン!」

 

 スピカの戦い方は賢い。ここで相棒を失う愚を犯さず、なおかつ雨が降る中での「アクアブレイク」を警戒し、特性は呼び水のトリトドンを出した。だが、オリヒメはこれを読んでいた。だからこその「かみくだく」だ。

 

「ペリッパーちゃん、オンステージ!」

 

 ならばまた交代だ。トリトドンはキバナとの戦いでようやく姿を見せた。その技は「だいちのちから」、そしておそらく「ウェザーボール」だろう。それを読んで、どちらもさほど効かないペリッパーを出した。ギャラドスやオニシズクモでも良いが、オニシズクモの攻撃もまた地面タイプで特性呼び水のトリトドンに効きにくいし、ギャラドスはもっとも信頼するパートナーなのでここで出したくはない。

 

「『げんしのちから』!」

 

 その判断は正解だった。

 

 トリトドンは岩技を隠し持っていたのだ。オリヒメの知らないスピカ。その衝撃が、スピカを真似したペリッパーに抜群の効果で突き刺さる。

 

「負けないもん! 『エアスラッシュ』!」

 

「ウェザーボール」に注目がいきがちだが、スピカが初挑戦にして挫折を経験し、そして初めての強大な敵を乗り越えた時に使ったのは、ペリッパーの飛行技だった。

 

 それがよりペリッパーにとって得意な形になって、トリトドンに襲い掛かる。さほどのダメージにはなっていないが、その風の刃は、トリトドンを怯ませ、その行動を止める。

 

「もう一度、『エアスラッシュ』!」

 

「止まるな! 『じこさいせい』!」

 

 再度その身に「エアスラッシュ」の直撃を受けるが、今度は怯まなかった。柔軟な体は傷を癒しやすい。体内のエネルギーを使って傷を「じこさいせい」する。カマスジョーとペリッパーで重ねたダメージが、ほぼ無に帰した。

 

「諦めない! 『エアスラッシュ』!」

 

「『じこさいせい』」

 

 オリヒメの奮闘もむなしく、トリトドンはまたも動いて「じこさいせい」し、ついに傷を完全回復させる。その次の「エアスラッシュ」にもひるむことなく「げんしのちから」を放ち、結果的に与えた傷が浅い状態でペリッパーが倒された。

 

「オニシズクモちゃん、オンステージ!」

 

 得意の虫技も、大得意の水技も、どちらも通じないが、相手からも有効打はないはず。ならば、苦手な草タイプとの戦いで無類の活躍をしてくれた、仲間たちのパワーファイターにここを任せる。

 

 ここは泥臭い戦いになった。オニシズクモはひたすら「かみくだく」し、トリトドンもその高い耐久力で耐えきって「げんしのちから」を連発する。オニシズクモは特殊防御が高い上、「げんしのちから」は効果抜群なもののダメージは低い。お互いに防御を捨てた殴り合いの末、効果抜群の攻撃を浴びせ続けたトリトドンが、最後には残った。

 

「頑張って! カマスジョーちゃん、オンステージ! 『かみくだく』!」

 

「『じこさいせい』!」

 

 ペリッパーの『エアスラッシュ』、オニシズクモの『かみくだく』三回、そしてカマスジョーの『かみくだく』。これだけの攻撃を、トリトドンは、満身創痍になりながらもなんとか耐え抜いた。そして、オリヒメの蓄積をあざ笑い絶望を叩きつけるかのように、その傷を癒していく。

 

 トリトドンは、オリヒメがほとんど知らないスピカのポケモン(一面)とも言える。そんな存在が、オリヒメの蓄積を、努力を、水の泡にして、どんどんオリヒメの仲間を倒していく。

 

 オリヒメに運が向かない面もあった。『かみくだく』をこれだけ入れたのに、一度も体勢を崩さず防御力が下がらない。「げんしのちから」の潜在能力解放もなかったが、統計的な確率の上では、やはりオリヒメの運が悪い。

 

 結果、カマスジョーの奮闘虚しく、「だいちのちから」二発で倒されてしまう。トリトドンは「じこさいせい」も挟んでいたため、傷は少ない。

 

 ついに、オリヒメは最後の一匹になった。

 

 一方スピカは、トリトドンがかなり疲弊していて、ペリッパーも満身創痍だが、誰もやられていない。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 圧倒的な差。

 

 経験豊富なはずのオリヒメがバッジ六つでリタイアし、これまでトレーナー経験すらほとんどない初参加のスピカがバッジコンプリートを果たした。

 

 両者の間に横たわる、トレーナーとしての「格の違い」。

 

 それがはっきりと表れている状況だ。

 

 

 

 

 

 

 

 だが、オリヒメは、歯を食いしばり、絶望から流れ出てしまった涙を乱暴にぬぐい、一番傷が多く、そして一番大切に磨いたモンスターボールを構える。

 

 そう、最後の一匹だ。

 

 いや、違う。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「最後の一匹じゃない! 隠し玉のポケモンなんだから!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 自分にとって最大の壁であるルリナを乗り越えた時の覚悟を思い出す。

 

 スピカも、奇しくも水ポケモン使い。押し寄せる大水の如き容赦のなさは、ルリナにそっくりだ。

 

 ああ、確かに自分は、結局途中リタイアした「敗北者」だ。

 

 だがそれでも――――大きな大きな壁を、大切なパートナーと一緒に乗り越えた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ギャラドスちゃん、オンステージ!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 そ圧倒的なパワーを持つ暴力の権化、水を支配する「竜」が姿を現す。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 水ポケモンを華麗に操る可愛らしい姿から、「リトルマーメイド」とも呼ばれた。

 

 その一方で、人々を震え上がらせる暴竜と心を通わす姿から、「竜宮の乙姫」とも呼ばれた。

 

 雨はいつの間にか止んでいる。「鬼雨」は相変わらず恐ろしげな姿で睨みつけてくる。

 

 それでも、ここは負ける気がしない。

 

 ガラルのトレーナーだ。最後に残ったポケモンこそが、勝利の決め手なのだ。

 

「『りゅうのまい』!」

 

 伊達に二年間厳しいジムチャレンジに参加していない。太古のエネルギーを具現化して放つ「げんしのちから」は、何発も打てるものではないと知っている。高価で珍しい特別な薬を使わなければ五回が限度。ペリッパーとオニシズクモが、その五回を消費しきってくれた。今のトリトドンに、ギャラドスを傷つける力はない。ならば、暴竜は激しく舞いその潜在能力を大きく高める隙になる。

 

 昔からコイキングはリズムに合わせて跳ねるのが好きだった。オリヒメもダンスは得意で大好きだ。この両者が出会ったのは、きっと運命だったのだろう。ギャラドスになってもこうして、力強く踊ってくれる。その姿は全然違うが、力強いギャラドスと可愛いコイキングを、つい重ねてしまう。

 

「バトルだ、ランターン!」

 

 スピカもそれが分かっていたのだろう。トリトドンを場に残して隙をさらし続けるのではなく、勝負を決めにくる。ギャラドスは電気タイプにとても弱い。ランターンは最初に出してすぐに戻して以来何もしていないから無傷だ。カマスジョー相手にもトリトドンで粘ったのは、ギャラドスとの戦いを見越しての事だろう。本当、どこまでも、周到で、容赦がなくて、賢い。そして自分の考えた作戦を信じ、覚悟を決めて遂行する姿は、初めて会った時からずっと持ち続けているかっこよさも感じる。

 

「これで終わりだ! 『ほうでん』!」

 

 いくらギャラドスのパワーが強大でも。さらに「りゅうのまい」でそれを増大させていても。スピカの手持ちの屋台骨を担うランターンは耐久力が高いから、一撃では倒せない。この勝負、スピカの勝ちだ。

 

 だがそれでも、オリヒメはすがすがしい気持ちで全力をぶつける。

 

 スピカはオリヒメに甘えっぱなしで、何度も我儘を聞いてもらった。

 

 だが、オリヒメもまた、感情豊かな女の子だ。スピカの方がだいぶ年上なのもあって、甘えることもあったし、わがままを言うこともあった。なんなら、スピカがジムチャレンジに参加しているのも、オリヒメの我儘だ。時間ぎりぎりなのにこうしてバトルを挑んでるのも、とんでもない我儘。まさしく大暴れだ。

 

 これもまた、暴竜たるギャラドスとぴったり。

 

 ランターンに最大ダメージを与えられる、全力全開の大技。

 

「ギャラドスちゃん、『あばれる』!」

 

 ギャラドスは咆え、その巨体をうねらせて衝撃波を撒きちらしながら、全力でランターンにぶつかる。

 

 ランターンは耐えるだろう。スピカはオリヒメの全力を受け止め、そして、一匹も倒されることなく、勝利し、華々しくセミファイナルトーナメントに進むのだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 だがランターンは想像よりもはるか遠くに吹き飛ばされ、石畳に強く打ちつけられ、そこから動くことはなかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「「………………え?」」

 

 オリヒメとスピカ。両方が、起き上がらないランターンを、ぽかんと見つめている。

 

 スピカの「ほうでん」の指示を遂行しない。いや、できない。

 

 明らかに、瀕死状態だ。

 

「まさか…………急所?」

 

 スピカの声が震える。

 

 ポケモンバトルでたまに起きる、当たりどころが良すぎる・悪すぎる瞬間だ。ダメージが大幅に上昇し、攻撃する側の不調と、攻撃を受ける側の好調が無効化される。

 

 スピカはぎこちない動きで、ランターンをボールに戻す。

 

 ギャラドスはその攻撃力ばかり注目されるが、耐久力にも優れる。スピカの残りの手持ちで、倒しきる手段はほぼ無い。しかも、攻撃力と素早さが上がっているから攻撃を耐えられるポケモンも少ないし、先に動くこともほぼできないだろう。

 

 大逆転。土壇場での奇跡が、オリヒメに勝利を、スピカに敗北をもたらした。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「スピカちゃん、まだバトルは続いてるよ!!!!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 そんな唖然として固まるスピカに、オリヒメが金切り声で叫ぶ。

 

 スピカは肩を跳ね上げ、弱気が表出した瞳で、おびえたようにオリヒメを見る。

 

「言ったよね。あたしに勝たないと、スピカちゃんをエントリーさせてあげないって! それは変わらないからね! そこにポケモンセンターはある。何度でも、何度でも戦うよ!」

 

「鬼雨」と畏怖を集めた姿は欠片もない。雨に打たれて凍えて震える哀れなワンパチの様だ。

 

 そんなスピカに、原因であるオリヒメは、言葉を浴びせ続ける。

 

「こんなところで諦めるスピカちゃんじゃないでしょ!? 『鬼雨』の異名は飾りなの!? ヤローさんに負けた時のことを思い出してよ!!!」

 

 初めてのジム戦で、巨大な壁が立ちはだかった。

 

 持つ者と持たざる者の差。半ば無理やり参加させられた大イベントで、衆人環視の前で、それを叩きつけられ、スピカは挫折した。

 

 だが、立ち上がったのだ。

 

 ジムチャレンジャーとして。一人のトレーナーとして。

 

 だからこそ、ここにいる。

 

 相棒をペリッパーに進化させ、ホームグラウンドのジムリーダーを雨で包み、一回で倒し続けてきた。

 

 そんなスピカが、ここで立ち止まるはずがない。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「――――――ああ、そうか、そうだな。そうなんだろう。そうかもしれない」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 しばし固まったスピカは――突然、雨でずぶ濡れになった長髪を掴み、ぐしゃりと握り潰す。絞られた雨水が、ぽたぽたとシュートシティの石畳に水たまりを作る。

 

「そう。そうだ。私はそんな感じだったかもしれないな。なーんにも自覚ないけどな。ちょっとバトルが上手くいって調子乗ってるだけの、怠惰で自堕落なダメ大学生のはずなんだが」

 

 完全に萎えていたスピカの気迫が、また噴き出してくる。

 

「お前に誘われて、ポケモントレーナーなんかになっちまった。バトルジャンキー、乱暴者、血の気が多い。私とは対極・真反対の存在だ」

 

 さらに強く髪を握りつぶし、激しく水が滴る。

 

 それは直接地面に落ちるのみならず、額からスピカの顔に流れ、涙を洗い流してくれる。

 

「でもよ、ああ、認める。参加して良かった。楽しかった。理不尽なダイマックスも、馬鹿みたいに素っ頓狂なジムミッションも、場所によって環境が全然違うガラルを無駄にその身で歩かされるのも、ワイルドエリアも、観客の反応も」

 

 たった数日で、こうも変わっちまうものか。髪で隠れた口元が、自嘲で歪む。

 

 20年間怠惰で貫き通してきた人生が、強い熱を帯び始めた。

 

 こんな、理不尽で、疲れて、馬鹿みたいで、危険で、確実性がなく、心乱されて――そして楽しい世界に誘ってくれたのは、オリヒメだった。

 

「なあ、オリヒメ、ありがとな。今までも、今も、色々と」

 

 髪から手を離し、腰に下げたボールに手を伸ばす。

 

 これで覚悟が決まった。

 

 勝ちもあれば負けもある。このバトルは、そもそもオリヒメが負け、スピカが勝ったから起きたものだ。そしてほとんどまたスピカが勝つはずだったのに、最後まで全力を尽くしたオリヒメが、勝ちを手繰り寄せようとしている。

 

 今まで大一番は全部作戦通りで勝ってきた。今回は違う。ここからが、常に危険と困難と予想外が待ち受けるポケモントレーナーとしての本当の実力が試される。

 

「バトルだ、ペリッパー!」

 

 そして爽やかに晴れ渡ったシュートシティに、「鬼雨」が降り注いだ。

 

 再び暗雲に包まれて空が暗くなり、降りしきる雨のせいで視界が悪くなり集中力が乱される。

 

 そしてその向こうに立つのは、こちらを睨みつける恐ろし気な怪物。そして、大切で、大好きな、一番の大親友だ。

 

「負けないよ! ギャラドスちゃん、『あばれる』!」

 

「『まもる』!」

 

 本能と闘争心と衝動に任せて「あばれる」この技は、ポケモンにも、トレーナーにも、コントロールが効かなくなる。同じように暴れ続けるしかできない。

 

 そんな暴力の塊から、ペリッパーは不思議なエネルギーによって身を「まもる」。これによって「あばれる」状態が強制的に終了し、その反動で、ギャラドスは前後不覚の混乱状態になった。

 

 まだだ。まだ負けていない。

 

 スピカはこぶしを握る。ギャラドスは混乱しながらもペリッパーに止めを刺したが、仕事としては十分だ。

 

「バトルだ、ガマゲロゲ!」

 

 ペリッパーが大きな仕事を成し遂げた。

 

 一つ。雨を降らせたこと。これで「りゅうのまい」をしたギャラドスよりもガマゲロゲが速く動ける。

 

 二つ。ペリッパーの「まもる」によってギャラドスは混乱した。ヤローに挑んだ時からずっと、一方的なダイマックスを凌ぐために使っていた技だ。いつしか使わなくなったが、ここにきて、ダイマックス並の暴力を抑え込むことに成功したのだ。

 

「『ウェザーボール』!」

 

 ガマゲロゲの手札では効果今一つだろうとギャラドスにはこれが最大打点だ。大自然の支配者に相応しいタフネスも持つギャラドスには同じ水タイプということもあってあまり効いた様子はないが、確実にダメージを重ねることが大事だ。

 

 だが、降り注ぐ雨はギャラドスにも好影響を与える。威力の増した『アクアテール』はガマゲロゲに直撃し、一撃で戦闘不能にさせる。

 

「バトルだ、オニシズクモ! 『とびかかる』!」

 

「頑張ってギャラドスちゃん! 『かみくだく』!」

 

 混乱しているというのに恐ろしい集中力でオリヒメに従い続けたギャラドスだが、ここにきてついに、身体が上手く動かず、石畳に落下して叩きつけられてしまう。激しく動こうとした勢いとその巨体の重さが全身に伝わり、大ダメージとなった。

 

 そしてそこに、オニシズクモが「とびかかる」。これで上昇していたギャラドスの攻撃力が元に戻った。

 

「『りゅうのまい』!」

 

「『とびかかる』だ!」

 

 だがようやく、ギャラドスが正気に戻った。再び宙に浮き全身をうねらせて暴れるように舞う。しかしその激しくも荘厳で流麗な舞を、オニシズクモが邪魔をした。再び集中力が乱され、素早さだけが上がるにとどまる。ギャラドスからすればオニシズクモは虫けらも同然のはずだが、確実に苦しめることができていた。

 

「だったら、『あばれる』!」

 

「まだまだ『とびかかる』!」

 

「りゅうのまい」はもはや無意味。ならば攻撃するしかない。

 

 だがオニシズクモとて軟なポケモンではない。その一撃をどっしりと耐えてまた「とびかかる」。ついに、ギャラドスからその恐ろしすぎる暴力の一端を奪うことに成功した。また、ここまで大した攻撃は貰っていないが、その蓄積と、何よりも混乱による自爆のせいで、ギャラドスもまた満身創痍だ。

 

 これならば。ギャラドスの攻撃は本調子ではない。オニシズクモがここからもう一度「とびかかる」をしてそのあと「かみくだく」をすれば倒しきれる。

 

 オニシズクモはギャラドスの「あばれる」を耐えて、また「とびかかる」。すっかりギャラドスの気力は萎えて、その動きに激しさはだいぶなくなっている。

 

 今度こそ、スピカの勝ちだ。

 

「『かみくだく』!」

 

「『あばれる』!」

 

 トドメの一撃を加えようと、鋭い牙で襲いかかる。だがギャラドスは、もうだいぶ緩慢になった動きで暴れて抵抗した。そのキレはないが素早い動きは、オニシズクモの身体を先にとらえ――――激しくその頭を跳ね上げさせ、ひっくり返させて、石畳に背中から叩きつけた。

 

「く、またか!?」

 

 オニシズクモはその衝撃で大ダメージを負い、ぴくぴくと動かない。

 

 間違いない。クリーンヒットした。ギャラドスの本調子ではない攻撃が、偶然オニシズクモの急所をとらえたのだ。

 

 スピカもついに、最後の一匹となったトリトドンにこの厳しい状況を託す。

 

 トリトドンからギャラドスへの有効打は無い。「だいちのちから」は効果がない、「げんしのちから」はもう打てない、そして二度目の雨もついに晴れてしまい、「ウェザーボール」はその本領を発揮できない。

 

 だが、もうやるしかない。「あばれる」状態が終わってギャラドスはまた混乱しているが、その目はトリトドンとスピカを真正面からとらえている。恐ろしい気力だ。自滅は期待できそうにない。

 

「さあ、これであたしの勝ちだよ! 『かみくだく』!」

 

「負けるか! 『じこさいせい』だ!」

 

 トリトドンもダメージを負っているが、攻撃力が半分になったギャラドスの攻撃ならば耐えられる。その身に負った傷を「じこさいせい」して塞ぎ、首をもたげて負けじとギャラドスに咆えた。

 

「『ウェザーボール』!」

 

「『あばれる』!」

 

 今まで何度も使ってきたこの技。

 

 だが、天気の無い状態で使うのは初めてだ。何も天気の力が籠められていない真っ白なエネルギー弾は、あまりにも小さい上に頼りない。実際、もうかなりボロボロのギャラドスにすら、止めを刺すに至らない。

 

 だがそれは相手とて同じこと。半分の力しか出せない攻撃は、トリトドンに致命傷を負わせることは叶わない。あれだけ恐ろしかった暴力は、ついにスピカによって押さえつけられたのだ。

 

「これで終わりだ! 『ウェザーボール』!」

 

 二度の「あばれる」をトリトドンは耐え、弱弱しいエネルギー弾を放つ。それはギャラドスの腹に直撃してのめり込み、その巨体を吹っ飛ばした。クリーンヒットではない。耐えきり抵抗し踏ん張る程の力が、ギャラドスに残されてないだけ。そして気絶したギャラドスが石畳に落下する前に、優しいオリヒメは、即座にボールに戻した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 勝った。

 

 ついに、勝った。

 

 オリヒメとの、魂をかけた一戦に、勝利したのだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「…………うん、おめでとう。スピカちゃんは、やっぱすごいや」

 

 

 

 

 

 

 

 パチ、パチ、パチ。

 

 オリヒメは震えた声でそう言いながら、柔らかな笑顔を浮かべて拍手をする。だが、その拍手にも声にも表情にも、力はない。

 

「……オリヒメ…………」

 

 バトルの影響でボロボロになった石畳を踏み、スピカは力のない早足でオリヒメに歩み寄る。

 

「やっぱり、スピカちゃんをジムチャレンジに誘って正解だった。スピカちゃんは、とっても強い、強い、つよ、いん、だか、ら――――」

 

 オリヒメはなおも笑顔で言葉を紡ぐ。だが、それはだんだんと途切れ途切れになり、震えが強くなって――そのまま、目からまた大粒の涙をこぼして、泣き出してしまう。

 

「――――なんで、なんで負けちゃうんだろう。ギャラドスちゃんたちもとっても頑張ってくれたのに……今までこんなことないってくらい、色んなものが見えて、たくさんの戦い方が思い浮かんで、運だってよかったのに……それでも、スピカちゃんに勝てない……」

 

「オリヒメ!」

 

 スピカはたまらず、オリヒメを強く抱きしめる。それがきっかけとなって、堰を切ったように、オリヒメは声を上げて泣き出した。

 

「悔しい! 悔しいよお! 分かんない! 分かんないよ! なんで負けるのか! あたしが何をしたかったのか! なんでスピカちゃんの邪魔をしちゃうのか!」

 

 きっと、何かを考えて、オリヒメはこんな行動に出たわけではない。

 

 ただ、何か深い激情があって、それに押されるがままここにきて、スピカに立ちはだかったのだ。

 

「私だって分からない……自分でも、なんでこんなところまで来れたか、分からないんだっ……!」

 

 スピカもまた、涙をぼろぼろと流して泣き出す。

 

 そう、バッジをついに八つ集めた。だが、現実感はない。それを噛みしめる暇もなく、その素晴らしさを自覚する間もなく、時間にせっつかれて、厳しい雪山を登ってここまでやってきて、そしてオリヒメとぶつかった。

 

 何が違うのか、さっぱり分からない。作戦、戦術・戦略、年齢による経験の差、運、相性、手持ちポケモンのほんの少しの違い、道具、タイミング、勢い……そのどれもが違う気もする。ただ、その全部でもある気がする。これらが少しずつ違って、結果的に、二人の間に大きな差が開いた。あと少し、何かが違えば、立場は逆だったかもしれない。

 

「ごめん、オリヒメ……! 今まで甘えてばっかりで、お前が悩んでいたことに、気づかなかった……!」

 

 オリヒメの後頭部を強く抱きしめ、その頭頂にうずめるように顔を伏せる。年齢差があるうえ、オリヒメは可愛らしい低めの身長で、反面スピカは高身長だ。だが、自分や他者と向き合うという点では、間違いなく、オリヒメの方が大人だった。

 

 ずっと、オリヒメは悩み、傷ついていた。

 

 いつからだろうか。

 

 去年躓いたルリナを、スピカが一回で突破したからか。それとも初参加だというのに、去年のオリヒメを越えてバッジ三つ目を悠々と獲得したからか。スポンサーとの相談での足止めを鑑みてもなおスピカの方が明らかにチャレンジを先行した時か。アラベスクタウンの真剣勝負で負けた時か。スピカが一回で突破したアラベスクジムでオリヒメが敗北して足を止めてしまった時か。ネズに負けた瞬間か。もしかしたら、もっとずっと前、ポケモンバトルに目覚めて経験を重ねるにつれ、真の強者と自身との差を自覚した時か。

 

 分からない。スピカはオリヒメのことを考えていたようでいて、何も見ていなかったし、知らなかった。ただただ、夢の中にいるように、ジムチャレンジという敷かれたレールをがむしゃらに走るのに精いっぱいだった。

 

「ううん、違うの。大丈夫、あたしは大丈夫なんだ。スピカちゃんは悪くない」

 

 そんなスピカの言葉を、オリヒメは強く抱き返しながら否定する。

 

「きっと、そういうものなんだよ、勝負の世界って……あたしたちが、ただ、今、ようやく気付いただけなのかも……」

 

 勝者と敗者。

 

 勝負には必ず、それが生まれる。

 

 輝かしい勝利と心が引き裂かれるような敗北。二人ともそれを経験して、分かった気でいた。

 

 ただ、そのことを、今ここで、ようやく実感したに過ぎない。幼馴染同士の穏やかな関係を引き裂き、対立することで、ようやく「勝負」が何なのかが分かった。

 

 そうしてただ、二人は抱きしめ合い、声を上げて泣き続けた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 パチパチパチパチパチ!!!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 そんな二人に、ようやく、周囲の音が届く。

 

 割れんばかりの拍手。大歓声。

 

 ジムバトルのスタジアムかと思うほどの爆音に、二人は驚き、涙が引っ込んで、周囲をきょとんと見回す。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 二人の周りには、多くのギャラリーが集まって、全員で二人を讃えていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「すごかったぞ!」

 

「かっこよかったよ!」

 

「さすが『鬼雨』スピカさんだ!」

 

「『竜宮の乙姫』のオリヒメちゃんもすごかった! ファンになっちゃった!」

 

「何があったか分からないけど、すごいバトルだったわ!」

 

「なんか、仲直りできてよかったな!」

 

「この後のトーナメントも頑張れよ!」

 

「スピカさん、ターフタウンの時からファンだった! 応援してるから!」

 

「オリヒメちゃんもすげー強かった! 去年から応援してます! 来年、今度こそ、トーナメントに出てください!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 大都会・シュートシティ入り口近くの道路で、何やら訳アリの激しいバトルを、今最も注目集める一人であるバッジコンプリートチャレンジャーであるスピカと、今年その実力で六つもバッジを集めた華やかで可愛らしいアイドル的トレーナーのオリヒメが、繰り広げていた。この二人が歳の離れた幼馴染であることは、主にオリヒメの取材対応によって有名なことであった。

 

 目立たないわけがない。

 

 誰しもがそのバトルに足を止め、そのまま魅入り、噂を聞いてさらに人々が駆けつける。

 

 結果、あの大きなジムスタジアムに負けないほどのギャラリーが、こうして集まったのだ。

 

 二人とポケモンだけの世界にいた二人は、それに、今ようやく気付いたのだ。

 

「あ、あはは、そっか、あたしのこと、応援してくれる人がいるんだもんね……」

 

 なんだか気が抜けたオリヒメは、嬉しそうに笑い泣きしながら、涙をぬぐう。スピカも人目があることにようやく気付き、なんだかとんでもないところを見せてしまったと自覚し、慌てて顔を乱暴にぬぐった。

 

「私にファンなんかいるのか……」

 

「知らないの? スピカちゃん、結構人気なんだよ。とっても怖いけど、強くてかっこよくて美人だって」

 

「趣味悪いな……」

 

「そう? あたしは分かってるなあって思うけど」

 

「なんだそりゃ」

 

 気の抜けた会話に、二人は笑い合う。

 

 二人だけの世界が、お互いを通して、ガラルへと広がっていく。

 

 自分の部屋に閉じこもるだけだったスピカの世界が、このジムチャレンジで、随分と広くなった。

 

「なんてったって、あたしはスピカちゃんのファン一号だもん。だから、ジムチャレンジに誘ったんだから」

 

「だったら私はオリヒメのファン一号だ。えーっと、何もしてないけど。……させてばっかだったな」

 

 二人で手をつなぎ、笑い合い、目の前のポケモンセンターに入っていく。いつも人が集まっているはずのそこは、二人のバトルを見るためにみんな出払っていて空いていた。

 

「さ、回復し終わったから。急ごう、もう時間がないよ」

 

「誰のせいだと思ってるんだ」

 

「あはは、ごめんごめん」

 

 ポケモンの回復を済ませ、その間に身だしなみをオリヒメに整えてもらい、開会式の時並に綺麗な姿になる。もう時間がない。整えてもらってなんだが、自転車で全力疾走する羽目になりそうだ。

 

「あ、そうだ。スピカちゃん。あのね、昨日の朝、エンジンシティを出る時にカブさんたちに会ったの。バッジを三つ集める人は少ないから、見送ってエールを送ることにしてるって」

 

「なんだそれ。私は知らないぞ」

 

「わざわざワイルドエリアを通る人は珍しいからね。駅で待ってたんだ。スピカちゃんも見送りたかったらしいけど」

 

「そうなのか……」

 

 スピカとて一般人だ。トッププロであるジムリーダーとそこらで直接話す機会があったのは、少し羨ましい。

 

「それでね、カブさんとヤローさんから、伝言預かってるんだ。ルリナさんはチャレンジャーが集まったからいなかったけど、いつもはその見送りに参加してるみたいだから、ルリナさんからの伝言でもあるね」

 

「……なんだ?」

 

 私なんかに、ジムリーダーたちが何を。

 

 スピカはジョーイさんから受け取ったボールを腰にセットしながら、首をかしげる。

 

「あたしも、スピカちゃんに、ちょうどこれを伝えたかったんだ。ヤローさん、カブさん、ルリナさん、それとあたしからの言葉」

 

 スピカは訳が分からないまま、オリヒメを見つめる。

 

 するとオリヒメは、大きく深呼吸をして――人がいないポケモンセンターで、目いっぱいの大声を出した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「いけいけスピカ! やれやれスピカ! ――さあ、頑張って!!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「――――――ああ、ありがとう!」

 

 オリヒメに見送られ、滲む視界を乱暴に袖で拭いながら、スピカはポケモンセンターから駆け出した。

 

 そしてそのまま自転車に乗り込み、全力で漕ぎ出す。

 

 道行く人はスピカのその様子に驚き、ついで彼女であると気づいて、声援を送る。みんな良い人ばかりで、わざわざ最短ルートまで道を開けてくれた。ここまでくると一番怖いのは交通事故だっただけに、とても助かる。

 

 そしてスタジアムの目の前に着くと自転車を飛び降り、階段を駆け上がり、息を切らしながらスタジアムに飛び込む。

 

「すみません、チャレンジャーのスピカです! バッジを八つ集めました! セミファイナルトーナメントに参加します!」

 

「はい、かしこまりました」

 

 時計を見る。制限時間の一分前。間に合った。

 

 スピカとオリヒメの激戦はここにも話が伝わってたのだろう。やけにスムーズに手続きが済んだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

○○○○○

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 そうして案内された控室で、ベンチに座り、バトルの時を待つ。

 

 今年ここまでたどり着いたチャレンジャーは四人。控室に流れてたニュース番組の取材に答えたヤローによると、今年のチャレンジャーは今まで体験した中で一番優秀だったという。それでも過去類を見ないほど数が少ないということは、それだけ、ジムリーダーたちが例年以上に強かったということだ。

 

 そんな厳しい戦いを突破した四人の戦いが、ついに始まる。

 

 トーナメントの組み合わせは、第一試合がユウリとマリィ。第二試合がホップとスピカだ。

 

「ホップ、か」

 

 今回のチャレンジャーの中ではオリヒメの次に見知った名前に、運命的なものを感じて、笑いが漏れてくる。

 

 勝者と敗者。勝負の世界。

 

 オリヒメとのぶつかり合いで、それが分かった。

 

 そうした流れで思い出したのが、この後の対戦相手・ホップのことだった。

 

 無敵チャンピオン・ダンデの弟で、その兄から幼馴染のユウリと一緒に推薦されて今年初参加。とてつもない才能を持っていて、ここまで勝ち上がってきている。だが、チャレンジ中に幾度となく行ったユウリとの戦いはすべて完敗だったらしい。

 

 だが、そんなホップですら、スピカには圧勝だった。

 

 スピカは二度勝っているので勝ち越しているが、あのキルクスタウンでの戦いが忘れられない。圧倒的な力の差。格の違い。

 

 

 スピカとオリヒメでは、スピカが勝者だった。

 

 ホップとユウリでは、ホップが敗者だ。

 

 だが、スピカとホップでは、ホップが圧倒的な勝者で、スピカはみじめな敗者である。

 

 

 冷静な彼女にはわかる。

 

 ホップはあそこからさらに力をつけただろう。

 

 もはやスピカには、勝つ見込みはない。

 

 

 

 

 

 

 

「知ったことか」

 

 

 

 

 

 

 それがどうかしたか。

 

 それでも最後まで戦い抜くのが、ポケモントレーナーだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

○○○○○

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 スピカとは反対側の控室。

 

 そこでは、スピカと同じように、ホップが一人でベンチに座り、闘争心を高めていた。

 

 無敵のチャンピオンで憧れの兄・ダンデ。ジムリーダーたち。幼馴染で最強のライバル・ユウリ。

 

 ここまで来た。彼ら・彼女らと戦えるステージまで来た。

 

 だが一方で、このジムチャレンジを通して、新たな世界へと目を向けることができた。

 

 ネズの妹マリィ。とても強くて、独特の戦略勘と感性を持つ。

 

 ビート。とんでもなくイヤミなやつだったが、彼との出会いがなければ、挫折も、模索も、そこからの復活もなかったかもしれない。彼がいなければ、もしかしたらここにいなかったかもしれない。

 

 他のジムチャレンジャーにも、出会ったら片っ端からバトルを仕掛けた。鋼使いのジェントルマン。ドラゴン使いのおじさん。水ポケモン使いでギャラドスが印象的だったお姉さん。

 

 そんな中でも、特に印象に残っているのが――ジムチャレンジ中に三度も戦った、スピカだ。いつ出会っても目の下にクマができていて疲れた様子で元気が無さそうで心配だが、そのバトルは大局的で冷徹。そして時に、勢いに任せて押し流すような荒々しさもあった。

 

 このジムチャレンジ中にたくさん負けた。ジムバトルでも負けたし、ユウリには結局一度も勝っていないし、ビートにはこっぴどく負けて心が一度折れた。だがそれよりももっと多く、たくさんの人に勝ってきた。

 

 そんな中で、スピカは彼を負かした一人だ。それも、二回も。キルクスタウンでの戦いは圧勝だったが、自分は負け越している。

 

「勝ちたい」

 

 ホップは万感の思いを込めて呟く。

 

 今彼がもっとも戦いたいのは、あこがれ続けた無敵のチャンピオンである兄ではない。

 

 昔からずっと一緒にいた、いつ戦っても手が届かない、幼馴染で大親友でライバルのユウリだ。

 

 だが、ユウリと戦うためには。

 

 まずはこの初戦で、「鬼雨」と恐れられ敬われているスピカを倒さなければならない。

 

 

 

 

 

「「よし」」

 

 

 

 

 

 離れた部屋で、二人の声が重なる。

 

 もう出番だ。

 

 二人とも、自分だけの、そしてそれぞれの大切な人の思いを背負って。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 この大舞台で、本気と本気がぶつかり合うのだ。




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9-1

本日一気に二話投稿しているうちの一話目です
こちらを先にお読みください


 さすがに本当に最後のRTA、はーじまーるよー!

 

 前回は、ラスボスのモブ・オリヒメちゃんと対面したところまででした。

 

 

 

 

 

 

 はい、前回、何度目か分からない嘘をつきました。マスゴミ戦がラストバトルではありません。

 

 

 

 

 

 このモードの真のラスボス、それは開会式直前に戦った原作モブなのです!!!

 

 今回の場合はオリヒメちゃんでした。そのセーブデータによって相手が違うので、ある程度柔軟にチャートを組む必要があります。私の組んだこの水統一チャートの場合は、原作モブの全員の内一人を除く14人分のチャートを組んであります(自慢)

 

 モブのバトルのラスボスはやっぱりモブ。モブはモブ同士、低レベルに争っていろ、という製作者の意地の悪さが見えます。

 

 

 

 

 ちなみにこのラストバトルはルールが特殊です。

 

 お互いに持ち物無効、戦闘中のアイテム使用禁止、敵AIがモブのくせに最高設定、相手の手持ちレベルは四匹がこちらの最高と同じで切り札は+1、相手の手持ちは原作トーナメント時と同じ、切り札は「ほえる」などをしない限り最後に出す、となっています。

 

 これが非常に難度が高く苦戦しますが、やっていきましょう。

 

 

 

 

 まず相手の先頭はペリッパー! こちらはランターンです。

 

 相手は当然ガマゲロゲに交代! どっこい、こちとらお前が最高設定AIだって知ってるんだ! 交代読み「バブルこうせん」!

 

 そして相手は「マッドショット」を打ってくるので、ここでペリッパーに交代! 地面技をすかして、次のターンに「ハイパーボイス」を上からぶつけられて死にかけになりますが、返しの雨「ウェザーボール」で撃破!

 

 

 その次に出してくるのはカマスジョー。「アクアブレイク」の威力がえげつないので、トリトドンの「よびみず」で受けましょう。まあこちらも水タイプなので、「アクアブレイク」をしてくる可能性はあまりないんですけどね。今回も御覧の通り、「かみくだく」でした。

 

 そうなったら相手は地面も水も半減で受けられるペリッパー、オニシズクモのどれかに交代してきますが、そこを狙って「げんしのちから」! トリトドンはキバナ戦までてんで出番がありませんでしたが、そこから先は、キバナ、マスゴミ、水統一同士のラストバトルと、大活躍してくれます。

 

 相手が出してきたのはペリッパーでした。次のターン上から「エアスラッシュ」されますが、連続怯みでもない限り問題ありません。特防高いので。もし怯んだら、「じこさいせい」で回復したうえで、全回復状態で相手の「エアスラッシュ」を受けたターンに「げんしのちから」で倒せるようにしましょう。今回は御覧の通り一回怯みましたが、二回目のチャレンジ突破できました。これで二匹目も撃破。

 

 

 次に出してくるのはオニシズクモです。ただこいつも、水技は無効で、虫技は半減ですからね。「とびかかる」はAダウンなので問題ありません。「じこさいせい」で回復しつつ「げんしのちから」を連打しましょう。するとPPが切れるぴったりの三発目で倒せます。

 

 ちなみにここ、相手は等倍の「かみくだく」を上から連打してきます。今回は引きませんでしたが、Bダウンを引いてなおかつ「げんしのちから」の追加効果で相殺できなかった場合は、一旦ペリッパーをクッションにしてデバフを消しましょう。

 

 

 次に出てくるのはカマスジョー。ここはランターンに交代して抜群技で……と行きたいところですが、最後の大仕事が残ってるので、引き続きトリトドンで「かみくだく」を耐えつつ「だいちのちから」で倒します。紙耐久だから等倍でも二発ですね。

 

 

 

 

 

 そしてついに出てきました。本当のラスボス、ギャラドスです! これは強いですよ~。

 

 

 

 

 

 まずはここでランターンに交代! 相手はトリトドンに有効打がないのを知ってるので「りゅうのまい」でAとSを上げてきます。

 

 は、だがもう遅いね。ランターンの体力はマックス、たとえA上昇ギャラドスの「かみくだく」がさらに急所に当たろうと、一発耐えて、返しの「ほうでん」一撃でイージーウィン!

 

 あ、ここ「あばれる」なんだ、へー。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 きゅうしょに あたった!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 あああああああああああああああああああああああああああああああ!!!!!!!!!!!(ブリブリブリブリュリュリュ以下略

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 あああああああなんでなんでなんで!?

 

 急所!? ここで急所!?

 

 無理無理無理!!!

 

 ギャラドスって水飛行じゃん!? しかもAS上がってるじゃん!? 種族値高いじゃん!?

 

 そんな相手を見越してランターンをじっくり育ててきたのに!!!

 

 あ~世界記録ペースだったのに、この長い戦闘の最初からリセかあ。これじゃあ世界三位すら怪しいですねえ。

 

 こうなったらもう意味ないので、諦め悪く、このまま戦いましょう。

 

 どうしよっかなー、とりあえずペリッパー君、いってみよー!

 

 技はとりあえず「まもる」。「あばれる」はランダムで二・三ターン連続で同じ行動して、その終わりに混乱します。三ターンの時に二ターン目の攻撃を「まもる」で止めた場合、「あばれる」状態は解除されて混乱もしません。ただ、終了ターンと「まもる」で防いだのが被った場合、混乱します。覚える技が弱いから技スぺスカスカで、対ダイマックス用に使う以外は使い道がないけど忘れさせる時間がもったいなくて残していた「まもる」が、ワンチャンを掴む礎になりました。頼む、二ターンであってくれっ……!

 

 

 

 っしゃあああああ!!! 混乱しました! まだワンチャンありけり!

 

 

 ペリッパーがここで選ぶのは「ウェザーボール」! 半減ですが、威力倍化+雨補正で結果「エアスラッシュ」と威力同じなんでね!

 

 しかしギャラドスはしっかり「かみくだく」で動きました。残念、ペリッパーはやられてしまいます。

 

 次に出すのはガマゲロゲ。「すいすい」のおかげでこちらが先に動けますが、相手の「アクアテール」も威力増加してます。「ウェザーボール」を一発入れて、相手の後攻「アクアテール」が突き刺さりました。Aも上がってるし、たまらずダウンです。

 

 

 

 まだワンチャンある!

 

 次に出すのはオニシズクモ! 

 

「とびかかる」でAをなんとか等倍まで戻します。相手は――っしゃああああ!!! 混乱自傷した! これはでかいぞ!!! いくぜ、「とびかかる」! 半減でダメージはゴミですが、なんとかAを下げました。

 

 次のターン、こちらが選ぶ技は「とびかかる」! 「かみくだく」の方が威力は出ますが、相手が「りゅうのまい」してくるかもしれませんし、仮に攻撃してきても一発耐えられるので、Aを下げつつ削ることができます。今回は見事に「りゅうのまい」をしてきました。

 

 

 賢いAIはここで無意味を悟って「あばれる」に切り替えてきます。そしてこちらはまた「とびかかる」!

 

 一段階・二段階下降「あばれる」を一発ずつ受けますが、これでもまだ耐えられます! ここまで削れば、あとは「かみくだく」で倒せ――――

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 いやああああああまた急所だああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああ!!!!!!!!!!!(ブリブリブリブリュリュリュ以下略

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ふざけるなふざけるなふざけるなふざけるななんでこんな大事な場面で急所二回も引くんだよデバフ貫通するなクソボケ!!!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 もうここまで来たらリセットなんてしてられるか!!! ここまでのロスがもったいない!!!(コンコルド効果)

 

 それに希望はあります。

 

 ガマゲロゲの雨「ウェザーボール」、ギャラドスのA上昇自傷、オニシズクモの二回の「とびかかる」。これで相手のHPもだいぶ減っていて、さらにA二段階ダウンですからね。

 

 こちらのトリトドンも、HPは減っていて、なおかつ「げんしのちから」のPPはありませんし、メインウェポンの「だいちのちから」は無効で、「ウェザーボール」は雨が止んだので使い物になりません。

 

 でももうやるしかねえ!

 

 相手の二段階下降「かみくだく」を受けてから、トリトドンは後攻「じこさいせい」でほぼ全快! これでBダウンまで引いたら色々破壊するところでした。

 

 あとはクソザコ威力になった「ウェザーボール」で削って…………勝ち!

 

 

 

 

 

 

 やった! 勝った! 勝ったぞ!!! うおおおおおおおおおおお!!!!!

 

 

 

 

 

 

 

 早くスタジアムに速くスタジアムにはやくスタジアムに!

 

 なんかいろいろ言ってますけど話がなげえ早くしろ!!!

 

 幼馴染設定だからかマジでなげえなおい!!! ムービーじゃないからスキップできねえ!!!

 

 よし会話終わり! スタジアムスタジアムスタジアム!!!

 

 道が長いんだよクソボケ!!!

 

 

 

 うおおおおおおおおおおおおおおスタジアムに入ってええええええええ!!!!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 エントリーいいいいいいいい!!!!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ここで画面が暗転。タイマーストップです!!!!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ギリギリ世界記録でええええええええす!!!(一秒差)

 

 いえええええええい!!!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 えー、では、エンディングでも見ながら、完走した感想ですが。

 

 やっぱ水統一は強いですね。

 

 雨でタイプ一致の技が強化される水タイプはすいすいの恩恵もそのまま受けられます。例えば晴れだったら、威力が上がるのは炎タイプだけど、素早さが上がる葉緑素は草タイプだから、今一つ噛み合いません。砂嵐と霰は技の威力が上がりません。

 

 さらに、バウタウンという序盤でタイプ強化アイテムの潮のお香が複数購入できます。

 

 しかも、中盤は半減の相手がおらず抜群の相手が二人。

 

 加えて、後半は威力100の「ウェザーボール」まであります。

 

 そして、苦手なジムリーダーも、最初の二人には、水ポケモンの種類の多さから対抗手段が序盤からしっかり揃いますし、キバナも砂パなので雨水技で餌食にできます。

 

 最後に、キバナとマスゴミと水統一同士のラストバトルという点でも、ピンポイントでトリトドンが活躍してくれます。

 

 このように、水タイプはあらゆる面でこのゲームのこのモードのRTAに適合しています。今や世界トップ記録のほとんどが水統一チャートですし、大体が雨パです。今回はそれらの蓄積を私が改良に改良を重ねて作ったチャートでした。

 

 ちなみに、ラストバトルのモブの話ですが。

 

 水統一同士で長時間のロスになりがちでハズレに見えるオリヒメちゃんですが、まあまあ当たりの部類です。

 

 

 まず「大当たり」は、炎のマタハリ、地面のバーダン、岩のアケルナルです。

 

 次いで「まあ普通」の等倍組が入るのですが、ここの、なんと上位層に、タイムが長くなりそうなオリヒメちゃんが入るんですねえ。

 

 ここのターニングポイントは、「六匹目が必要かどうか」です。この動画を見ればわかる通り、チャート上は、オリヒメちゃん相手だと、五匹でおおむね安定して勝つことが可能です(安定するとは言ってない)。

 

 ちなみにこの「普通」の部類でも嫌な方、つまり中の下なのは、オーロットとブルンゲルがいるウェイ、全部等倍だけど弱点もつけないし全体的に耐久が高いノーマルのユエ、「フリーズドライ」がある氷のイザルです。

 

 逆に中の上なのは、トリトドンがぶっ刺さるので意外にも楽勝な電気のギェナーです。

 

 そして大外れ、いわば下の下が、草のカフ、ドラゴンのケンギュウです。

 

 カフはまだペリッパーとオニシズクモでなんとかなりますが、ケンギュウの手持ちは抜群が突きにくいし、なおかつ種族値と技が強力、という最悪の布陣です。ケンギュウを引いたら即リセです。だからチャートも作ってません。どうしてもケンギュウを倒したい場合は、ウオチルドンを化石から蘇らせて「フリーズドライ」します。

 

 

 

 さて、そんな解説をしている間に、ゲーム画面の方では無事ホップ君に惨敗したことが語られて、操作可能になっています。

 

 実はこのモードはエンディング後の世界もあり、これまでのプレイ記録に応じて原作が変更されて、AIが色々なイベントやテキストを作ってくれます。マジでこれシンギュラリティじゃん。なんで同人ゲーでこれなんだよ。

 

 つまり、ジムチャレンジが終わった後の、そのモブなりの人生をロールプレイできるんですね。それぞれのセーブデータによって色々なところが千差万別なので、何回やり直しても楽しいです。まあここからはRTAに関係ないのでおしまいにしましょう。

 

 

 

 それでは、最後までご視聴、ありがとうございました!




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10

本日一気に二話投稿しているうちの二話目です
先に一つ前のお話をお読みください

最終回です


 オリヒメとの衝突の末にロマンチックに見送られてなんだが、結局スピカはホップとの戦いに負け、早々にジムチャレンジからドロップアウトした。

 

 それも、接戦ですらない。完敗だった。

 

 スピカは粘りに粘って先発のバイウールーと、水タイプの天敵バチンウニ、そして前回立ちはだかったカビゴンまでは倒したが、アーマーガアの前で、ついに最後の一匹であったペリッパーが倒され、敗北した。ホップのもう一匹の相棒にして切り札・エースバーンを引きずり出すことはかなわず、そしてダイマックスを使わせることすらできなかった。

 

 ホップとスピカの間には、ダイマックスという大きなハンデがあった。だがその差が言い訳にならない敗北だ。

 

「結局、下馬評通りだったんだ」

 

「もう、スピカちゃん、拗ねないの」

 

 シュートスタジアム観客席。

 

 膝に頬杖をついて暗い表情のスピカが先日のバトルを思い出し、何度目か分からないため息を吐く。その隣でやけに近いくっつきそうな距離で座るオリヒメが苦笑を浮かべながら慰めた。このやり取りも、何回も行われた。最初の内はオリヒメもスピカを甘やかすのが楽しかったが、そろそろ苛立ちが勝ってくる頃である。

 

 あの後、マリィに圧勝したユウリと、スピカに圧勝したホップの、セミファイナルトーナメント決勝が行われた。そしてその戦いは、このジムチャレンジ公式戦のベストバウトとして名を残す激戦となった。ただし、ユウリは手持ちを三匹も残してホップに勝利したため、その差は歴然である。

 

 ユウリの戦いを見たのはこの時が初めてだったが、バトルフィールドに現れた瞬間、全身に鳥肌が立った。初めて強者の本気をぶつけられたヤロー、光り輝く才能を叩きつけてきたホップ、最強のジムリーダーとして全開の闘志をぶつけてきたキバナ。そのどれもが恐ろしかったが、遠くから見るだけで、その溢れんばかりの才能と輝きに、トレーナーとして、人間として、屈服してしまいそうになったのだ。

 

 そして今日は、ファイナルトーナメントと、チャンピオンバトルが行われる日である。ファイナルトーナメントはすでに行われた。なぜかジムリーダーになったビートの乱入などがあったりもしたが、そこでも、ガラルのトッププロ相手にユウリが完勝し続けて優勝し、今から行われるチャンピオンバトルに駒を進めたのであった。

 

「すごかったね。ルリナさんがあんなにやられちゃうなんて」

 

 オリヒメとスピカにとって、ルリナは憧れの存在だ。そんな彼女ですら、ユウリの手持ちを二匹倒すのが精いっぱいだった。

 

「キバナさんもけちょんけちょんだったな」

 

 最強のジムリーダーも、ユウリの手持ちを三匹倒したものの敗北した。あの、ダンデと幾度となく激戦・接戦を繰り広げたキバナが、完敗したのである。

 

 これは、もしかしたら。

 

 ガラル中に、期待と不安が渦巻く。

 

 十年間公式戦全勝の無敵のチャンピオンが、ついに交代するのか。

 

 長く続いた英雄の君臨が終わることへの、期待と不安。毎回ダンデのバトルで「どうせダンデが勝つ」と思っていたガラル中、いや、もしかしたら世界中の人々が、このバトルに注目していた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『ブラックナイト、始めちゃうよ!』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 だからこそ、リーグ委員長・ローズの乱心は、全ての人にとって、大きな衝撃をもたらした。

 

 ここ数日、ガラル各地で、ダイマックスできないはずの場所でポケモンが勝手にダイマックスする現象が起きていた。

 

 その原因は、強大すぎるエネルギーを持つ謎のポケモンを使って何かを企んでいたローズの仕業だった。そして、今日この日に限って、ローズは計画を断行。伝説に残る大災害・ブラックナイトを起こそうとしたのだ。

 

「な、なに、なんなの!?」

 

「知らん! とにかく逃げるぞ!」

 

「に、逃げるって言ったって!」

 

 スピカとオリヒメとはちょうど反対側の観客席で、突如誰かが連れていたであろうカムカメがダイマックスしてしまい、大惨事を引き起こしている。

 

 観客の中には、ポケモンをボールから出して観戦する者もいる。またスタジアムの内外でポケモンが活動している。それらが勝手に巨大化し、今目の前で起きているように、とてつもない大災害を起こしたら。スピカたちは、ただですまない。

 

 スピカは混乱して動けないオリヒメの手を握って引き、避難誘導する。不安なオリヒメは、縋るように手を握り返し、たどたどしい足取りでなんとか着いてくる。その柔らかな手は、恐怖で震えていた。

 

 幸い、このガラルはダイマックス事故・事件への対策は万全だ。ジムリーダーを筆頭としたトレーナーたちはジムチャレンジ経験者が多く、ダイマックスしたポケモンへの対応も慣れているし訓練されている。ワイルドエリアで発生したダイマックスポケモンが暴れまわり、下手すれば人が住む町にやってくることだって二年に一度ぐらいはあるのだ。そのための避難シェルターもある。ましてやこの巨大な街だ。シェルターはいくつもあるだろう。

 

 その一つを目指し、スタッフの避難誘導に従って進んでいく。下手すれば自然災害以上にいきなりすぎる状況で誰もが大混乱しているが、スタジアムの導線がよくできているからか、群衆がパニックになっているというのにスムーズに進んでいる。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「あああああああああああ助けてええええええええええ!!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 だが、それも長くは続かない。

 

 突然、大きなものが崩れる音と大震動が響き渡る。そちらに目を向けると、助けを求めて叫ぶ老齢の女性と、その目の前でどんどん巨大化する茶色いポケモンがいた。

 

 そしてそのポケモンが巨大化を終えると同時、大都会だというのに、急に砂嵐が吹き荒れる。それは人々の視界を遮り、肌を、目を、口を、細かく傷つけていく。

 

「カバルドンだ!」

 

 ここが比較的バトルフィールドに近い位置で助かった。巨大化したカバルドンの周囲に建造物は少なく、破壊は最小限に抑えられている。だが、バトルではないから抑えていたはずの特性砂起こしが暴走して酷い砂嵐が起きてしまっているのは最悪だ。

 

 そのカバルドンの足元の老齢の女性は、腰を抜かして動けない。明らかに体力がなさそうだし、その周囲に足が三股になった安定性の高い杖が転がっている。恐らく、あのカバルドンはあの女性の手持ちで、足腰が悪い彼女を誘導していたのだろう。こんな中でポケモンを出していたのか、と責めるわけにはいかない状況だ。

 

 スタッフたちがそのカバルドンを抑え込もうと取り囲んでポケモンを出すが、突然の事態だから連携が上手くいっていない。力を暴走させ不安で暴れるカバルドンが少し動いただけで、「技」ですらないのに破壊がまき散らされる。

 

「す、スピカちゃん! ど、どうするの!?」

 

 最悪なのは、今の破壊で、二人の逃げ道が塞がれたこと。女性とはいえ若い二人は、スピカの反応が速いことも会ってスムーズに進んでいた。つまり、二人以上に逃げ遅れた者が、この大惨事の中に、たくさんいる。

 

 このままカバルドンが暴れ続けたら、ここにいる全員が無事では済まないし、死ぬかもしれない。老齢の女性を誘導する程だからきっと深い信頼関係が結ばれていただろうが、恐らく初めてのダイマックスで、お互いに心のコントロールができていないから、言葉も届かないだろう。実際老齢の女性は、最も危険な場所だというのに、ショックで失神してしまっており、スタッフや成人男性客たちが果敢にも助けようとするが、崩壊した瓦礫で最悪の足場と砂嵐のせいで上手くいかない。

 

 せめて、砂嵐さえなんとかなれば。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「オリヒメ、いくぞ」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「え?」

 

 二人は立ち止まっていた。

 

 だが、スピカが、一歩前に踏み出す。突然の言葉に、オリヒメは、思考が停止して、ぽかんとスピカを見つめた。

 

「ここは、私たちがいくしかない。さもなければ、全員死ぬ」

 

 スピカがボールを構える。

 

 確かに、二人とも水タイプのエキスパートだ。カバルドン相手にも戦える。ましてやスピカはバッジをコンプリートしたセミファイナリストで、オリヒメも六つ集めた猛者だ。

 

「…………やっぱり、スピカちゃんは、かっこよくて、優しいね」

 

 そんな、自分から踏み出したスピカに、オリヒメは、こんな中だというのに、嬉しそうな笑みを浮かべる。

 

 面倒くさがりで怠惰で自堕落で何もしたくないとだらけていたスピカが。

 

 こんな中で、人を助けるために、自分から危険に向かおうとするなんて。

 

「バカ言え。私とオリヒメのためだ。他はまあ、あー、ついでだ!」

 

「はいはい」

 

 今一つ緊張感のないやり取りをしながら、二人は巨大化して暴れるカバルドンに対峙する。スタッフたちは倒すのではなくより安全な場所に追い込むことを優先してくれたおかげで、広く戦えるバトルフィールドにだいぶ近いところまで来た。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「バトルだ、ペリッパー!」

 

「ギャラドスちゃん、オンステージ!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 途端、上空を雨雲が覆い、雨が降り注ぐ。

 

 その冷たい雨は人々の不安を煽るが、今この瞬間は恵みだ。舞っていた砂は雨で落とされ、風も少なくなり、視界が改善される。

 

「鬼雨」。人々を震え上がらせた雨が、今度は人々を救う。

 

 それと同時に、ギャラドスが咆える。こんな状況で暴力の権化である竜が現れるのもまた、パニックを引き起こしかねない。だが、その特性・威嚇はカバルドンを委縮させ、暴れまわる勢いを落ち着かせた。

 

「竜宮の乙姫」「リトルマーメイド」。暴虐を手なずける水のプリンセスが、人々を救うべく立ち上がったのだ。

 

「『ウェザーボール』!」

 

「『アクアテール』!」

 

 雨で強化された二つの強力な水技が、カバルドンに襲いかかる。カバルドンはそれに怯えてよろめき、ついにバトルフィールドに足を踏み入れた。

 

「スタッフさん、あたしたちが引き受けるから、みんなを避難させてください!」

 

「雨が降ってるのは許してくださいね!」

 

 オリヒメは周りに気づかいができる。突然雨が降り優勢になって困惑するスタッフたちに、より多くの人が助かるようお願いをした。一方スピカは、こういう時に気の利いたことが言えない。つくづく、ポケモンバトルはトレーナーの性格が出る。

 

 ついに、あまりにも痛すぎる攻撃を受けたカバルドンは、本格的に暴れ出した。ダイマックスパワーの嵐が吹きすさび、カバルドンが大口を開けて咆哮し、バトルフィールドの地面から巨大な岩盤を出現させた。

 

「だ、『ダイロック』!?」

 

「まずい、ペリッパー、前に出て『まもる』!」

 

 オリヒメは混乱しながらも距離を取りつつギャラドスも直撃しないような位置取りをする。そしてスピカはオリヒメと自身を「まもる」よう、ペリッパーに指示を出した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「カジリガメ、『キョダイガンジン』!!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 だが、突然現れた激流が、「ダイロック」ごと、カバルドンを吹き飛ばす。

 

「あなたたち、よく頑張ったわね。バウタウンのジムリーダーとして誇らしいわ」

 

 カバルドンの側面。そこにはいつの間にかカジリガメがキョダイマックスして堂々と立っており、その前には、気の強い笑みを浮かべるルリナが腕を組んで立っていた。

 

「「ルリナさん!」」

 

 そう、この場には、このガラル最強のジムリーダーたちが集まっているのだ。

 

 今のルリナのように、各所で起きたダイマックス事故に、ジムリーダーや、スピカやオリヒメのようにここに集った強者たちが、自分の身を守るべく、人々を守るべく、そしてダイマックスして不安で暴れるポケモンを救うために、立ち上がっている。

 

「ルリナさんと肩を並べて戦えるなんて光栄です!」

 

「全くだ。ジムチャレンジ、推薦してくれてありがとうございます!」

 

 オリヒメとスピカの士気も上がり、ギャラドスとペリッパーもより闘争心を高ぶらせる。

 

 もう、負ける気がしない。

 

 今ならなんでもできる気がする。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 結局、三人はカバルドンを鎮めることに成功した。重傷者こそ出たものの、なんと死者はゼロ。これはスピカとオリヒメの早期参戦、そしてルリナの心強い協力があって成し遂げられたことだ。

 

 他の場所でも起きていたダイマックス事件もまた、全てが奇跡的に死者をゼロに収めた。

 

 それには、ジムリーダーやスタッフだけでなく、ジムチャレンジャーを中心とした有志のトレーナーの活躍が大きかった。

 

 これと同時にユウリとホップとダンデはローズの下に向かい、ユウリとホップは伝説に残る英雄と協力してムゲンダイナを鎮め、ガラルを滅亡から救った。そしてユウリはそのままチャンピオン・ダンデに勝利をおさめ、あらゆる意味でのガラルの英雄として君臨することになり、ホップもまたそのユウリのライバルであり救世主として、またのちにはポケモン博士として名を残すことになる。

 

 その新たな伝説となった英雄の裏には、語り継がれることはなくとも、確かな名もなき英雄たちもいたのだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

○○○○○○○

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 さわやかな潮風と明るい陽射し、そして活気ある街並みが魅力的なバウタウン。

 

 そのある一角の民家の中は、外の街並みとは裏腹に、電灯はすべて消え、飾り気はなく一方で様々なものが散らかって雑然としており、わずかに薄いボロカーテンが通す陽光が差し込むのみの、陰気極まりない状態であった。

 

「もう、こんな時間だからね。はいるよー!」

 

 そんな家に、10代半ば程度の少女が、そう叫んでから不満げに頬を膨らましながら、ズカズカと入っていく。肩甲骨のあたりまで伸びた青いロングヘアーと海辺の町らしい爽やかな制服、そしてなによりもその顔立ちとプロポーションは、まるでアイドルのよう――事実アイドルトレーナーである――であり、この家にはどこまでも似つかわしくない。

 

「スピカちゃん! ほら起きて!」

 

 青髪の少女は玄関からさらにズカズカと部屋の中に入り、まるで勝手知ったる我が家のように一直線に、膨らんださびれたしわしわのベッドに向かい、手を伸ばして揺する。

 

「あー、あと五分……」

 

「スピカちゃんの五分は一週間分ぐらいあるじゃん!」

 

 スピカと呼ばれたベッドの中の女性は抵抗するが、布団を引っぺがされてしぶしぶ起き上がる。ぼさぼさの長い茶髪、目の下のクマと覇気のない表情が足を引っ張るが、長身で美人といえなくもない女性だ。

 

「おはよー、オリヒメ。今日も仕事だっけか」

 

「そうだよ! だから早く準備して!」

 

 青髪の少女・オリヒメはぷんぷんと頬を膨らませて怒るが、全く迫力がなくて怖くなく、ただただ可愛いだけにしか見えなくて、スピカはつい笑ってしまう。

 

「はいはい、分かりましたよ、お嬢様っと」

 

「もー茶化さないでよ」

 

 ベッドから降りたスピカはスマホロトムを呼んで時間を確認し、相変わらず時間に余裕を持って行動してくれるな、とオリヒメに感心しながら、緩慢に準備を進める。そしてオリヒメは本人以上の手つきでそれを手伝いながらも、それと同時にスピカの髪を綺麗に整え、さらに一通り準備が終わった後はメイクまで施す。

 

 そんな慌ただしい準備が終わった末に出来上がったのは、先ほどの寝起きやいつもの姿が嘘みたいにカッチリ決まった、スーツ姿の麗人であった。

 

「じゃ、いくか」

 

 ボールが「六つ」下げられたベルトに手を伸ばして腰につけ、自分の荷物と、オリヒメの荷物を、両方軽々と持って出発する。

 

「自分の荷物ぐらい自分で持つのに」

 

「今を時めくアイドルトレーナー、『竜宮の乙姫』のオリヒメちゃんに、そんなの持たせられないさ」

 

「からかわないでっ!」

 

 怒ってはいるが、オリヒメは嬉しそうに笑っている。

 

 ――――激動のジムチャレンジが全て終わってから、三か月が経った。

 

 あの濃すぎる数日間は、二人を、そして二人の関係を大きく変えた。とはいえ、変わらないところもあるわけだが。

 

 オリヒメはルリナに勝利した後に正式にスポンサーがついた。そしてアイドル「的」ではなく、本格的にアイドルトレーナーとして活動を始めたのだ。事務所には所属しておらず、偉大な先輩・ルリナのアドバイスをもらいながらであるが、フリーランスアイドルトレーナーとして着実に前進している。

 

「今日の仕事は何だっけか」

 

「…………なんであたしがスピカちゃんのマネージャーみたいになってるの……。今日は大事なガラルトーナメントでしょ?」

 

「ああ、そうだったか」

 

 新チャンピオン・ユウリは、オリヒメよりもさらに幼い、可愛らしくて素朴な少女だ。しかしながらバトルとカレーに関しては人一倍「ジャンキー」ともいえるらしく、定期的にガラルの強者たちを集めた招待制の大規模なトーナメントをシュートスタジアムで開催している。

 

 そのトーナメントに集まるのはそうそうたる面子だ。

 

 元無敵のチャンピオンのダンデ、セミファイナリストでガラルを救った英雄であるホップ、現役ジムリーダーたち。その一員に、オリヒメも場違いながら入っている。

 

 ――このトーナメントには、今回のジムチャレンジに参加したチャレンジャーの中でも、特に優秀な成績を収めた16人が参加できるようになっていた。

 

 彼ら・彼女らはジムバッジコンプリートこそできなかったものの、信頼できる推薦を受け、ジムチャレンジを経験して大きく成長し、さらにブラックナイトではシュートシティを中心とした各所で、ダイマックス災害を抑え込む立役者となった。その実力と実績が認められ、このトーナメントに参加する権利を得られたのだ。

 

 オリヒメは今日、このトーナメントに出るのである。

 

 ジムチャレンジャーのネームバリューを最大限に活かした宣伝活動もしてきた。他のアイドルに比べたら、格別に恵まれた状況だ。このトーナメントは、その中でも最も大きなものである。

 

「前回も前々回も負けちゃったから、今回はせめて一回でも勝たないとっ! じゃないと、スポンサーさんに怒られちゃう!」

 

 オリヒメはアーマーガアタクシーの中で両こぶしを握って張り切っている。招待されるにふさわしい実力であるとはいえ、やはり本気を出したジムリーダーやダンデや英雄たちに勝てるわけがない。ここまでの成績は二戦二敗。それも格上相手とはいえ内容も良くはない。スポンサーも今回こそはと渋い顔だ。

 

 ちなみに、ルリナは色々アドバイスしてくれてはいるが、スポンサーの圧力からは守ってくれない。芸能人トレーナーをやるからには、実力と自力で勝ち取って見せろ、と中々のスパルタ具合である。とはいえ、格こそ全然違うが、二人は同じ立場であり、ある意味ライバルだ。この態度は自然だろう。むしろ他の部分で親身にサポートしてくれる方がおかしいことであり、ありがたい話だ。

 

 そうしてオリヒメがアイドルトレーナーを始めるにあたり、ルリナとその周囲から口を酸っぱくして言われたのが、「有名人の危険」についてだ。

 

 世の中には悪人がたくさんいる。なにせ1000年先のガラルを救うという純然たる善意でブラックナイトを起こす人間までいるのだ。そんな悪人は、有名人、とくに見目麗しい女の子を、それぞれの欲望を抱えて狙っている。しかも、ポケモンという分かりやすい暴力の手段を、一般人が容易く所有できるこの社会である。

 

 そういうわけで、オリヒメ自身がいかに実力者であろうと、常に一人では心配だ。仕事をサポートしてくれるマネージャーとは別に、ボディガードをつける必要があると、それはそれはもう強く言われた。過去の悍ましくて恐ろしい事件ファイルという実例まで突きつけられての説得に、オリヒメは震えあがりながら首を縦に振った。

 

 しかしながら、オリヒメを守る以上、彼女以上の実力者でなければ意味がない。また二人きりになる回数や周囲の変な勘繰りを考えると、女性が望ましい。だが、そんな好条件のボディガードを雇える伝手なんてどこにもない。

 

 

 

 

 

 

 

 

 そこで白羽の矢が立ったのが、自堕落で暇な大学生でありフリーター同然の怠惰生活を送っていたスピカであった。

 

 

 

 

 

 

 

 仕事中は一緒にいることになるが、大親友だから何も問題ない。意識低すぎる暇な大学生だから時間も大丈夫。実力はバッジコンプリート。ネームバリューも「鬼雨」と恐れられるほど。これ以上ない逸材だ。

 

 スピカもジムチャレンジで溜め込んだバトルの賞金をすぐに使い込んで――生活の計画性が欠片もない――しまったので金に困っており、「ギャラドス連れてるおてんば娘を襲うバカがいるか?」と疑問を持ちながらも、へらへらと了承した。なにせお馴染みの日雇いバイトに比べたら給料は格段に良い。

 

 ちなみにこの給料、確かにスピカのような人間を雇うバイトに比べたら破格だが、「それなりに人気のアイドルが雇うバッジコンプリートレベルのボディガード」の相場で言えば半額未満だ。雇い主兼護衛対象への礼儀作法が要らない、スピカがボディガードの面では未経験のド素人、信頼できる組織や会社やエージェントを挟んでない、などの理由である。お互いに破格だと思ってるウィンウィンの関係だった。

 

 そんなわけで、今のスピカの立場は、大学生兼日雇いバイトから、大学生兼オリヒメ専属ボディーガードアルバイト、となった。ジムチャレンジ前に比べたら幾分か外に出かけるように――元々がひどすぎたのもあって今も出不精極まりないが――なり、オリヒメから見るととても良い変化が出ている。

 

 また、こうして二人の立場や活動が変わった以外にも、色々な変化があった。

 

 例えばダンデはリーグ委員長に就任したし、マリィはスパイクタウンのジムリーダーになってネズは音楽活動を増やしたし、ホップはポケモン研究者を目指し、またマイナーリーグの毒タイプのジムリーダーが入れ替わったりもした。

 

 さらに、技レコードや技マシンが普及し、鎧の孤島や冠の雪原と言った厳しい環境にも立ち入れる人が増えたのだ。スピカはその一人であり、鎧の孤島と冠の雪原でそれぞれ一匹ずつ新たな仲間を加えた。今は合計七匹で、日や状況に応じて連れて行く六匹を決めている。

 

 このように、あのジムチャレンジを境に、スピカとオリヒメだけではなく、ガラル全体の世界が、大きく広がったのだ。

 

 そんなことを思い出してるうちに、シュートスタジアムに到着する。いよいよ、真剣勝負の幕開けだ。

 

「そういえば、今日はあたしだけど、来週はスピカちゃんが出るんだよね?」

 

「あー、多分そうだな」

 

 なぜスピカ自身よりもオリヒメの方が予定を知っているのか。その理由はさておき。

 

 そう、このトーナメントは、スピカも招待選手の一人である。しかも、バッジをコンプリートし、セミファイナルトーナメントまで駒を進めた実績があるため、オリヒメたちより好待遇だ。もっとも、オリヒメと同じく格上に負けて一回戦敗退の常連なのだが。

 

 ちなみに余談だが、オリヒメのスポンサーはスピカのスポンサーにもなりたがっていて、オリヒメやルリナを通して、しばしばラブコールを送っている。なにせオリヒメよりネームバリューは上だし、バトルも華やかさはないが「鬼雨」という外せないトレードマークがある。なおスピカ自身は「その金はオリヒメに回してほしい」と断り続けている。

 

「来たわね」

 

 二人で一緒に控室に入ると、今日のオリヒメの一回戦の相手・ルリナが腕組みをして待ち構えていた。あれ以来より交流するようになったが、未だに二人にとってあこがれの存在だ。こうして不意に会うと緊張してしまう。

 

「ねえオリヒメ。今日わたしが勝ったら、スピカともども、うちのジムトレーナーになってもらうわよ!」

 

 それと、こうして顔を合わせるたびに、ジムトレーナーへと勧誘してくる。

 

 光栄な話だ。憧れの存在から、直属の弟子への、しかもかなりの好待遇で、スカウトをされる。

 

「あ、あはは、えーと、その、お話は嬉しいんですけど……お断りします」

 

 そしてそれを、オリヒメは断り続けていた。これはこの控室ではおなじみの光景であり、周囲の参加者も慣れた様子で苦笑して見ている。

 

 そう、これ以上ないほどに良い話なのだ。しかし、オリヒメは何度も断っている。それでも、ルリナは諦めきれずに、事あるごとに勧誘しているのだ。

 

 何せ、オリヒメは水ポケモン使いとして飛びぬけた実力を持っている。特定のタイプのポケモンのみを使うトレーナーは数多く、そして水ポケモン使いは最も多い。その中でも、このガラルでは、ルリナに次いで強いのは、スピカかオリヒメであると確信がある。もし自分に何かあって、誇りと伝統あるバウタウンの水タイプジムリーダーを任せるとしたら、この二人しか今のところあり得ない。そのために、いまのうちからみっちり鍛えておきたいのだ。

 

「やー、ルリナさんは今日も振られましたかあ」

 

「二人ともすごいぞ! 自分の考えを曲げないなんて!」

 

 ヤローとホップが好き放題言ってくる。断られたルリナも、変に注目を集めるオリヒメも、なんだか居心地が悪い。

 

 オリヒメは来年のジムチャレンジこそバッジコンプリートして見せると意気込んでいる。ジムトレーナーはそのチャレンジのサポート役をする義務を負うし、そういう部分で特別扱いを許さない固さがあるルリナの下にいては、間違いなく参加できなくなる。ゆえに、こうして毎回断っているのだ。

 

「じゃ、じゃあスピカはどうなのよ!」

 

「お断りします」

 

 ちなみにスピカも断り続けている。理由は簡単。バウジムのユニフォームがほぼ水着で露出がありすぎて恥ずかしいからだ。周りが半ズボンまたはベリーショートパンツだった中で一人だけぴっちりしたタイプの長ズボンユニフォームをオリヒメに着せられたせいでやたらと目立ったのは恥ずかしい思い出だが、バウジムのユニフォームはその何倍も嫌だ。ちなみにスピカのプロポーションは、馬鹿みたいに自堕落怠惰な不健康生活をしているくせに、身体の起伏という面ではルリナ以上であるため、恥ずかしがらずに見せればいいのにとオリヒメが思っているのは余談だ。

 

「おーおー、あのルリナが随分とご執心だなんて、珍しいじゃねえか」

 

 そして、一番遅れてやってきた――とはいっても見た目に反して真面目な彼なのでこれでも約束の時間には30分の余裕がある――キバナが現れ、ルリナをからかった。

 

「キバナは引っ込んでて」

 

「おーこわ」

 

 ジムチャレンジが終わってからしばらく、ルリナとキバナはやや敵対関係だ。その理由がこちら。

 

「で、スピカ。ルリナよりも、オレさまんところに来るよな?」

 

 キバナは実に自然な動作で、ただの付き添いとして弁えて壁際に控えていたスピカに大股で近づき、俗にいう壁ドンで迫る。キバナの長身と甘いマスクでこれをやられれば、大体の女性は、いや、男性すらもイチコロだろう。

 

「お前の雨戦術は素晴らしい。このオレさまですら見習うところが多い。ナックルジムの鍛え上げたトレーナーの誰よりも、お前の雨は完成されている。お前は、オレさまのところに来るべきだ」

 

 そう、キバナもまた、スピカをしつこくスカウトしているのだ。そして、同じ天候使いという面では、ユウリやダンデよりもライバル視している節がある。出会うたびに手を変え品を変え、スピカをスカウトしたがっていた。今回の壁ドンはその中でも、特に積極的な部類である。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「断る」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 そしてそんなお誘いもまた、スピカは毎回冷たく断っていた。

 

 キバナのことは尊敬しているし嫌いではないしルリナと同じく光栄な話だが、なんだか、生理的に受け付けない。スピカの自堕落怠惰だらだらライフなパーソナリティと真逆の存在すぎるからだろう。

 

「は、振られてやんの」

 

「ルリナもだろ!」

 

 そういうわけで、スピカをめぐって、ルリナとキバナは対立気味なのだ。二人ともいざとなったら口喧嘩を厭わない気の強い性格なのもあって、これもまた顔を合わせれば恒例の光景だ。

 

「全く、なんでオリヒメじゃなくてボディガードが(やから)に絡まれるんだか」

 

 スピカは呆れ果てながらオリヒメの元に戻ってくる。なんと驚きなことに、顔を赤らめたり照れたりする様子がなく、心底迷惑そうだった。

 

(大親友だけど、スピカちゃんの男の子の趣味が分からないかも……)

 

 オリヒメはどちらの味方をすることもなく曖昧に笑いながら、内心でそんなことを思った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

○○○○○○○

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 結局オリヒメは一回戦でルリナに敗北した。スポンサーさんに怒られるととても落ち込んでいたが、今日は内容自体は良く、カジリガメのキョダイマックスまで引きずり出すことができたので、「次回に期待」という若干の恐ろしさもある評価を貰った。

 

「うーうー、また負けちゃったー」

 

「あー、どんまいどんまい」

 

 ボディガードの仕事なんか一度もしていない。もっぱら、オリヒメの話相手だ。夕暮れの空を飛ぶ帰りのアーマーガアタクシーの中、オリヒメはスピカに寄り掛かって抱き着き、甘えるように顔をこすりつける。ボディガードにもそれなりの格好が求められる、というルリナのアドバイスに従ってオリヒメが気合を入れて用意したオーダーメイドスーツが皺になるが、それはスピカは気にしない。雑に、それでも優しく、美しい青髪の頭を撫でて慰める。

 

 昼のように、スピカは今もオリヒメに甘えっぱなしだ。なんなら今は雇用者と被用者の関係ですらある。給料もスピカ基準ではとても良いため、元の仕事に戻る気にはなれない。今や「生活面」だけでなく、真に「生活」すらもオリヒメに握られ、甘えている状態だ。

 

 一方でオリヒメもまた、よくスピカに、こうして甘え、感情を露にするようになった。まるで昔の、お姉さんと妹のような関係に戻ったかのようである。スピカが思うに、やはり、オリヒメは「あたしがしっかりしないと」とスピカの前で気を張っていた面があるのだろう。その反省もあって、オリヒメからぶつけられる感情に、スピカは正面から丁寧に向き合うことにしていた。

 

 そんな穏やかなやり取りは、バウタウンに到着し、オリヒメの家の前へ歩くまで続いた。空はさらに赤く染まっている。海沿いのバウタウンは、ガラルの東海岸ながら、よく夕焼けが見えるのだ。

 

「……ねえ、スピカちゃん?」

 

「ん?」

 

 そんな穏やかな時間が、急に緊張感を孕んだ。

 

 オリヒメが、どこか真剣な様子で、スピカに話しかけたのだ。

 

「あたしね、いっぱい、悔しいこと、悲しいこと、辛いことがあったし、最後はスピカちゃんにあんなことしちゃったけど……それでも、ジムチャレンジに参加して良かったと思ってるんだ」

 

「ああ、それは良かったな」

 

 オリヒメがジムチャレンジが大好きなのは、自明の事であった。話の展開が見えないが、それだけは確かなので、自信を持って返事をする。

 

「でも……スピカちゃんは、結局、どうだった?」

 

 二人の身長差は大きい。頭半分ほどもある。オリヒメは不安そうにスピカを見上げ、問いかけてくる。

 

 突然の問いにとっさに答えられず、沈黙してしまう。夕暮れの冷たい潮風が、二人の髪と肌を撫でた。

 

「…………安心しろ。間違いなく、良かったさ。今もトレーナーの血の気の多さには辟易するけどな……こうしてトレーナーを続けてる程度には、いい経験だったと思ってるよ」

 

 そう、これも自信を持って言える。

 

 ジムチャレンジは面倒で疲れることも多かったし、辛い思いもしたが、楽しかった。人生で初めて、最高の充実を味わい、世界が広がった。

 

 オリヒメは、今も不安なのだ。あの時、スピカを誘ってよかったのか。何度も何度も迷い、その度に前向きになるが、それでもまた迷う。オリヒメは気弱なところもあるが明るい性格で、人を、特にスピカを、色々なことに誘う。だがそういえば、明らかに苦しみも伴うであろう出来事に誘われたことは、一度もない。きっと、あの強引な誘導は、オリヒメにとっても初めての事だったのだろう。

 

「だから、私はオリヒメに感謝している。ありがとう、ジムチャレンジに誘ってくれて」

 

 スピカはオリヒメに歩み寄り、そのたおやかな手を取って、両手で握りしめ、彼女の顔を真っすぐに見つめ、偽りのない想いを伝える。

 

 いつもひねくれて乱雑に歪んだ言葉しか出さない。だがこの瞬間は、本音を伝えたかった。

 

「スピカちゃん……」

 

 オリヒメはしばしぽかんとしていたが、スピカの言っていることを理解し、噛みしめ――顔がくしゃりと歪み、涙がこぼれてくる。

 

「ありがとう、スピカちゃん、あたしこそ、ありがとうっ……!」

 

 そしてそのまま飛びつくように抱き着いてきて、胸に顔をうずめて泣き始める。スピカもまた抱き返し、穏やかな笑顔で、ゆっくりとその綺麗な青髪を撫でる。

 

 ジムチャレンジを通して、離れることもあったし、ぶつかることもあった。こうして、関係や環境も変わった。ただそれでも、お互いの思いは変わらない。尊敬する、可愛い、かっこいい、賢い、頼りになる、離れたくない、大切で、大好きな幼馴染。

 

「ねえ、スピカちゃん。一つ、お願いがあるんだ」

 

 スピカの胸に顔をうずめながら、くぐもった声で、オリヒメが意を決して、本当に伝えたかったことを口に出す。

 

 

 

 

 

 

 

 

「来年も、ジムチャレンジ、出てくれる?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 そう、スピカはバッジこそコンプリートしたが、セミファイナルトーナメントで敗退した。つまり、来年はまたバッジ集めからやり直しであり、それは、参加する権利があることを意味する。

 

 オリヒメはリベンジに燃えていた。スピカもまた、リベンジの機会があるのである。

 

 オリヒメにこう言われてようやく、スピカは、自分がまた、ジムチャレンジに参加できることに気づいた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ああ、もちろんだ!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 スピカはオリヒメを強く抱き返し、胸を張って宣言する。

 

 来年もまたジムチャレンジに出る。今度は二人ともセミファイナルトーナメントに出て、その大舞台で決戦をするのだ。そして自分こそが、ファイナルトーナメントに出場する。

 

「あたし、今度は負けないからね!」

 

「私こそ、絶対に勝ってやる!」

 

 抱き着きから離れ、二人で顔を見合わせて笑う。お互いの瞳に自分の姿が映りそうなほどの至近距離。相手の顔が、もう暗くなってきたのに、とてもよく見える。

 

 だからこそ、泣いたり興奮しただけでは考えられないほどに、お互いの頬が、赤く染まっていることに気づいた。

 

 きっとこれは、夕暮れのせいだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 二人は、話し込んでる間に日が沈んですっかり夜になったことから目を逸らしながら、自分や相手がまだ隠している気持ちに気づかないように、夜の闇がまぎれるほどに、明るく笑い合った。




これにて最終回です。最後まで読んでいただきありがとうございました。
これから後日談的なおまけをいくつか投稿しますので、ぜひそちらもお楽しみください

ご感想、誤字報告等、お気軽にどうぞ


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ダブルバトルで燃える◯◯◯

前回までの本編を最後まで読んでくださりありがとうございました。
今回からは好き勝手に思いついたおま〇けのコーナーです。


 ジムチャレンジとローズの野望、そして新たなチャンピオンの誕生から半年ほど経ち、すっかりガラルは落ち着いた。今はメジャー・マイナーリーグそれぞれのジムリーダーによるリーグ戦が行われており、接戦・激戦の数々を繰り広げている。

 

「…………ずいぶんギラギラしたタワーですこと」

 

 そんな中スピカは、シュートシティでもシュートスタジアムからさらに奥まったところにある、ガラス張りで陽光を乱反射しているタワーを見上げていた。

 

 旧名・ローズタワー。今はリーグ委員長を受け継いだダンデにより改造され、ポケモンバトルマニアのためのバトル施設、「バトルタワー」となっている。

 

 スピカはカバンをごそごそと漁って封筒――適当に突っ込んだからやや折れ目がついてしまった――を取り出す。シンプルながらもやたらと肌触りの良い上質な紙で出来ていて、お洒落なことに赤い封蝋がなされている。

 

 スピカはため息をつきながらも、いつまでもここに立っていたら反射した陽光で焼け死にかねないので、さっさと中に入る。そしてメインカウンターにその封筒を見せた。

 

「スピカ様ですね、お待ちしておりました」

 

 リーグスタッフも一部はローズとオリーブの陰謀に加担していたらしく、それぞれが法による裁きを受けている最中だが、スタッフのほとんどは善良だ。リーグ直轄管理のここも当然、リーグスタッフが担当している。

 

 スタッフが封筒の中身を検める。

 

 その中には、『バトルタワー招待状』と書かれた紙があった。外面の封筒よりもさらに上質な紙だ。

 

 

 

 

 

 

 そう、スピカは、このバトルタワーに招待されたのだ。

 

 

 

 

 

 

 ここはただのバトル施設ではない。各地方それぞれに似たような施設があるが、そのどれもが、猛者・強者が集まり鎬を削る、究極のバトル施設なのだ。

 

 当然、そこに参加できる者は限られる。どの地方においても、運営者に認められたトレーナーしか参加できない。バッジコンプリートは当然として、プロトレーナーやジムリーダー経験者、果てはその地方のチャンピオンにまでなった殿堂入りトレーナー、そう言ったトレーナーのみが利用を認められる。

 

『オレさまが認めたんだ。お前はこのガラルで三番目に(つえ)え。胸張って参加して来い』

 

 美男子が無駄に高い背筋を伸ばしてこの招待状を押し付けてきた瞬間を思い出し、スピカは小さくため息をついた。

 

 そう、この招待状は、キバナから渡されたものだ。ついこの間まで10年間チャンピオンに君臨し続けたダンデのライバルな上、ここ数年メジャージムリーダー最強の座を渡していない。当然彼はこの施設の利用権利どころか、これだと思ったトレーナーに招待状を渡す権限すら持っている。

 

「こちらの招待状ですと、ダブルバトルでしか参加できませんが、よろしいでしょうか?」

 

「…………大丈夫です」

 

 ただし、認められたのは、「ダブルバトル」の腕だけだった。シングルバトルでは、各所の大会で残した結果の通り、バッジコンプリートに相応しい実力はあるものの、マイナージムリーダーにすら劣り、ジムリーダー候補と呼ばれるトレーナーとすらイーブンだ。およそバトルタワーに相応しいとはならない。

 

(あーあ、言っちまったよ)

 

 スピカはほんのわずかに罪悪感が生まれる。

 

 正直言って、「大丈夫です」は大嘘である。

 

 半年ほど前まで、スピカは名目上は別として実質はトレーナーですらなかった。オリヒメの謀りでジムチャレンジに参加させられ、そこでトレーナーとはなったし、夢で見ることすらおこがましい成績を残したものの、そのほぼ全てはシングルバトルによるものだ。ダブルバトルは、チャレンジの終わり際、ナックルジムと10番道路のマスコミコンビだけだった。

 

 そして当然、その後もシングルバトルが主であり、ダブルバトルの経験は少ない。キバナやそのジムトレーナー達の熱烈な誘導(ドッキリ)によって何回か大会に出た程度だ。オリヒメと言い、ポケモントレーナーとは強引なやつらばかりである。

 

(ふん、まあいいさ。とりあえず何回かやりゃメンツも潰さないだろ)

 

 だが、招待状を渡してきたのがキバナだったことを再確認し、罪悪感が吹き飛ぶ。悪いのはあのクソイケメンだ。天罰でいつもより幾分かきつめのSNS炎上をしてしまえばいい。

 

 そんなことを考えながら、事前にルールはきいていたので、厳選した四匹が入ったボールを腰にセットして、バトルフィールドに入る。

 

 ビギナー級から始まり、勝ち数に応じてランクが上がっていく。一応実績や実力が同じぐらいの相手と戦える仕組みになっているようだ。

 

(なら、ボロ負けはしないようにしないとな)

 

 明らかに自分は参加者の中で最下層だ。勝てるとは思っていない。だがボロ負けは違う。こう見えても、トレーナーの自覚はあるし、「負けず嫌い」が芽生えてきつつあるのだ。

 

 この際キバナのメンツなんかどうでもよい。

 

 せっかく、この猛者が集まるバトルタワーに参加させてもらえるのだ。

 

 よりハイレベルなバトルを、楽しもうではないか。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

○○○○○○○

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「おめでとうございます! ビギナー級・ランク3でも勝利しましたね!」

 

 キバナには感謝しなければな。

 

 スピカはいつもオリヒメの前以外ではほとんど浮かべない喜色満面の笑み――オリヒメ曰く「可愛いけどちょっとキモチワルい」――を浮かべながら、リーグスタッフの賞賛を受け取る。

 

 何回かやって終わりにするつもりだったが、数戦やった結果、スピカはすっかりバトルタワーのダブルバトルにのめり込んでしまった。あれからボディガードアルバイトや大学が休みの日を見計らって足繁くここに通い、勝ちと負けを積み重ねてきた。他地方のように連勝が求められるわけではないため、負けても最悪大きな損がないのが嬉しいルールだった。

 

 何回負けても構わない仕組みだが、勝ち負け収支はプラスだ。相手は当然のように最終進化ポケモンを使い、道具も技も戦術もハイレベルで、その全てが激戦だった。そんな中でもこの成績だ。一番下のビギナー級とは言え、中々悪くない成績だろう。

 

「さて、規定上、次勝てばモンスターボール級への昇格となります」

 

「……はい」

 

 昇格戦。そう言われては、さすがに緊張する。

 

「そこで、スピカ様が昇格するにふさわしい実力を持つのか確かめたいとおっしゃる方がいます。その方との対戦になりますが、よろしいですか?」

 

「……誰なんです?」

 

「対面してのお楽しみです」

 

 さすがかつてはあのローズが仕切っていた、ガラルトップの巨大私組織の直轄スタッフだ。浮かぶ笑みは穏やかだが、見た目年齢以上の老獪さを感じさせる。

 

「……まあ、いいでしょう」

 

 スピカは、ジムチャレンジをともに乗り越えた五匹と、そのあと――ルリナの強引な招待でオリヒメと一緒に連れていかれた――ヨロイ島とカンムリ雪原で捕まえた二匹、合計七匹の中から、改めて四匹を吟味する。一番対応範囲が広い上にパワーもある四匹だ。

 

「それでは、こちらにどうぞ」

 

 スタッフに促され、エレベーターを昇る。一体だれなのか。口ぶりからして、もしかしたらジムリーダーレベルが出てくるかもしれない。スピカは石のような固唾をのみ込む。ジムチャレンジ中に買ってから愛用している傘を持つ手の震えが、どんどん大きくなっていった。

 

(やばいぞ、これは)

 

 決して武者震いではない。どんどん近づいてくる「強者のオーラ」が、スピカを本能的に恐れさせている。

 

 いったい、誰なんだ。

 

 スピカは意を決して、相手が待つバトルフィールドへと足を踏み入れた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

○○○○○○○

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「やあ、久しぶり。バトルタワー管理人のダンデだ」

 

「……………………ポケモントレーナーって、ドッキリがお好きなんですか?」

 

 想像以上の人間が来た。

 

 最上級でキバナ自身が登場のマッチポンプドッキリ、上の方で引退ジムリーダーのポプラやネズが登場、どちらにせよジムリーダークラスだろうと予想していた。

 

 だが出てきたのは、元チャンピオンである。しかもついこの間まで無敵のチャンピオンとして10年間君臨した、現状史上最高の成績を収めてきている「生ける伝説」だ。そしてこのバトルタワーのトップであり、今のリーグのトップでもある。

 

 このガラルのトレーナー界で一番の大物。

 

 それがスピカの前に、いきなり姿を現したのだ。

 

 最後に会ったのは、一か月前のガラルトーナメントの控室だ。一回戦からキバナとの激戦を繰り広げて勝利し、そのまま勝ち進んで決勝でユウリにリベンジマッチを仕掛けて準優勝となった。ちなみにスピカは一回戦は新戦力の力でケンギュウに勝ったが、二回戦でビートに叩きのめされた。

 

「もう察していると思うが、ランク昇格戦の相手はこの俺だ」

 

 チャンピオン・元チャンピオンとして衆人環視の前に出るときは、特徴的なユニフォームに広告がたくさんついた分厚いマントだった。だが、リーグ委員長やバトルタワーの管理人として表に出るときは、今着ているようなやや個性的な正装である。初めてテレビで見た時は新鮮だった。

 

 ビギナーからモンスターボール級に上がるには、ダンデに勝たなければならない。

 

「……バトルタワーって、この上は全員チャンピオン級なんですか?」

 

「ん? ああ! いや、勘違いしないでくれ。昇格には必ず俺に勝つ必要があるけど、各ランクに合わせて一応手加減はしてるぞ。ジムチャレンジみたいなものだ」

 

 なるほど、そういうことか。

 

 スピカは安堵する。もし彼女の想像した通りであれば、ビギナー級を抜け出せるのは片手で収まる範囲になりかねない。流石にそのあたりはちゃんと考えているようだ。

 

「とはいえ、ジムチャレンジ程甘くはない。トレーナーである俺自身は本気だし、使うポケモンも俺が普段連れているベストメンバーだ。ただ、ポケモンたちの全力が出しきれないようになっているし、戦術に多少の制限は加えている」

 

 ダンデは朗らかに笑いながら、まだまだ出来たてで不安定なバトルタワーの制度を説明してくれる。

 

 そういうことなら問題ない。スピカは当初予定していた通りの二匹が入ったボールを手に取る。そしてスピカの覚悟が決まったのを見て取ったダンデもまた、いつの間にかボールを手に取っていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「それじゃあ…………いくぜ、元・チャンピオンタイムだ!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ポケモントレーナーのダンデが、勝負を仕掛けてきた!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「っ!?」

 

 一瞬にして膨れ上がった覇気に、スピカは思わず怯んでしまう。

 

 先ほどからずっと放っていたオーラ。あれはダンデからすれば抑えたものに過ぎなかったのだ。物理的な力を持たない、その存在すら精神的な錯覚とされる圧迫感。その迫力は、もはや急流の様だ。

 

「――バトルだ! ペリッパー、キングドラ!」

 

 だがスピカとて、ジムチャレンジやトーナメント、さらにはそれ以外でも、幾度となく強者と戦ってきた。力を増したジムリーダーたち。それに呼応するようにレベルアップしたオリヒメたち。新参なのにすでに頭一つ抜けた実力を持つビート。完全に吹っ切れ「伝説」まで従える格を持ったホップ。さらには、あのユウリや、本気のダブルバトルのキバナとすら戦ってきた。ダンデとはマッチングの都合で今回が初めてだが、動けなくなるようなことはない。

 

 スピカは準備していた傘を放り捨てながらボールを投げ、一番の古参にして相棒にして代名詞であるペリッパーと、新戦力のキングドラを出す。

 

 このキングドラは水・ドラゴンタイプで、そのタイプの通り、生態系の頂点に君臨する「竜」だ。ルリナに連れられて無理やりヨロイ島に修行に行かされたときに雷雨が急にひどくなった海上で偶然遭遇し、激戦の末に捕まえた。後で分かったことだがかなり珍しいポケモンらしく、ルリナがそのあといくら探しても気配すらなかったらしい。

 

「いけ! ゴリランダー、ギルガルド!」

 

 対するダンデが出してきたのは、チャンピオン決定戦であのユウリのインテレオンと激戦を繰り広げたゴリランダーと、いつも先頭を任される頼れる切り込み隊長・ギルガルドだ。

 

「ダブルバトルはあまり経験ないからな。キバナにも一回も勝ったことはないし引き分けすらない。お手柔らかに頼むぜ!」

 

「キバナさんの名前が出る時点で初心者扱いは無理があるでしょうよ!」

 

 自身もキバナから直々にスカウトされ無理やり色々教えを受けているのは棚に上げ、スピカは叫び返す。思わずジョークが飛び出すほどにテンションが上がっているダンデは、いざバトルになり、先ほどまでの朗らかなものではなく、嬉しそうに獰猛な笑みを浮かべていた。

 

 そんなダンデを目の前に、スピカもまた狂暴な姿を露にする。ペリッパーの力で屋内だというのに雨が降り注ぎ、スピカのくせっ毛気味の長髪を濡らして垂れ下がらせる。そしてその隙間から、鋭い眼光がダンデとそのポケモンを睨みつける。その姿を見たダンデは、本能的な恐怖と強者と対面した興奮で、激しく背筋を震わせ、より闘志をみなぎらせる。

 

「キングドラは『だくりゅう』! ペリッパーは『ぼうふう』だ!」

 

 先に指示を出したのはスピカだ。

 

 どちらに攻撃する、とは指定しない。「だくりゅう」は敵全体に攻撃する技だし、ペリッパーはバトルも慣れたもので、この状況なら明らかにゴリランダーを攻撃するべきだと分かっている。

 

 そして元無敵のチャンピオンのポケモンを前にして、圧倒的先手を取るのは間違いなく、新参のはずのキングドラだ。ポテンシャルが全体的に高くまたそのタイプも攻守ともに優れている海の覇者である「ドラゴン」。その特性は「すいすい」であり、雨の中だと素早さが倍加する。草タイプに強いドラゴンタイプも入っているため、スピカのパーティにこれ以上ないほどにぴったりだ。そして雨戦術の大エースを張れるドラゴンということで、キバナもとても興奮して欲しがっていた。なお彼もルリナと同じく空振りを連続し、サメハダーに襲われる日々を過ごす羽目になったのは余談だ。

 

 キングドラが先制攻撃を仕掛け、雨で強力になった『だくりゅう』を敵にぶつける。

 

 ――そのはずだった。

 

「『ねこだまし』!」

 

 倍の速さになっているはずのキングドラよりも先に、遅くはないが速くもないはずのゴリランダーが動く。太い腕を素早く起用に動かしてペリッパーに接近し、しかしその速さには似つかわしくないほどの軽い攻撃。だがそれはペリッパーの意識の空白を的確について驚かせ、怯ませて行動を止める。

 

 キングドラの「だくりゅう」が届いたのはそのあと。ギルガルドはシールドフォルムなら非常に硬く、ゴリランダーはタイプ半減のはずだが、雨で威力が増しさらに潮のお香も持たせているので、それなりのダメージになった。

 

 そしてその頑強な盾でしっかり攻撃を受け切ったギルガルドはシャキンと鋭い金属音を立てながらブレードフォルムに変化し、「シャドーボール」をペリッパーに放つ。盾を捨てて全てを切り裂く剣となったギルガルドは、耐久力こそ大幅に減るが、その攻撃力は物理・特殊共にポケモンの中でも随一だ。

 

(ちっ、『ねこだまし』があったか!)

 

 スピカは内心で舌打ちする。

 

「ねこだまし」はシングルバトルの場合は時間稼ぎと様子見と小さなダメージにしかならない。しかし、ダブルバトルの場合、相手のポケモン一匹を確実に止めるアドバンテージが大きい。その間にもう一匹を動かせるからだ。キバナはあまり使わないが、ナックルジムのトレーナーの中には使う者もいた。

 

「『かげうち』!」

 

「両方『ぼうふう』だ!」

 

 小技とはいえ確実なダメージになる「ねこだまし」とギルガルドのとてつもない威力の「シャドーボール」、これを受けたペリッパーはすでに苦しい。ギルガルドのその出の速さに見合わない威力の「かげうち」で倒される。だがそのお返しにキングドラの「ぼうふう」を通せた。ゴリランダーは「ドラムアタック」をしようとしたが、何もできず倒されてしまう。

 

「なるほど、キバナの推薦は間違いじゃなかったみたいだな!」

 

「こっちは相棒が倒されたんだ! そう言われても喜べませんね!」

 

 スピカの立場は苦しい。何せ一番の相棒であるペリッパーが早々に倒されてしまったからだ。

 

 ペリッパーは精神的支柱のみならず、戦術の軸でもあった。

 

 雨を降らせることができるし、苦手な草タイプ相手に「ぼうふう」の選択肢がある。「おいかぜ」で仲間の素早さを倍加させることもできる。だが、あっという間に戦闘不能にさせられた。しかも「おいかぜ」を使う前に。

 

 ギルガルドの「かげうち」は予想出来ていた。ペリッパーは「まもる」を選んで攻撃を凌ぎ、その間にキングドラが「だくりゅう」で脆くなったギルガルドを倒す、という考えも当然あった。

 

 しかしそれを読まれて得意の「キングシールド」で防がれ、ゴリランダーが「ドラムアタック」でキングドラを大きく削りつつ素早さを下げる、という流れになったら最悪だ。

 

 そして何よりも、後続を考えると、ゴリランダーはここで倒さなければならない。草タイプは天敵だ。結果、ギルガルドが「キングシールド」してくれるのを願いつつ、最悪ペリッパーが倒されても構わないとして、確実にゴリランダーだけは倒せるよう、両方に「ぼうふう」を指示したのだ。

 

(オリヒメのコネに感謝だな)

 

 まだまだ新人アイドルだが、可愛い妹のような親友・オリヒメの人気アップは止まらない。ジムチャレンジ中早々に声をかけてきた企業以外にもいくつかCMやスポンサー契約がついたし、仕事も増えてきている。その中には、ジムチャレンジ後大幅に普及した技マシン・技レコードを生産する会社もあり、そのつながりで、貴重かつ強力な技レコードをスピカが割安で購入できるようになったのだ。これがなければ、キングドラに「ぼうふう」を覚えさせられず、ゴリランダーを倒せなかっただろう。

 

(予想以上だ! キバナが信じただけはある!)

 

 だが、スピカに言い返されてもなお、ダンデは彼女を尊敬に値する「強者」とする想いを曲げない。

 

 確かにスピカは苦しい。「おいかぜ」を使うことなくペリッパーが倒されたのは事実だ。

 

 だが、スピカによって作られたこの状況は、ダンデにとっても苦しいものだった。何せ水タイプ使いに対して抜群の相性を誇り、ルリナのポケモンを何回も沈めた実績のあるゴリランダーが、ほぼ何もできず倒されてしまった。ペリッパーは雨を降らせるという最低限にして最高の成果を残したし、ダンデの手札にこの天候を覆すすべはない。

 

 

 

 

 

 

 

 

 ――そしてスピカは与り知らぬことだが、ダンデは「ルール違反」をすでに犯していた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 スピカが思っている以上に、バトルタワーの制度は整っている。昇格戦にダンデが出張る場合、その制限内容も厳しく規定されている。特に厳しいのは、ポケモンの手加減具合と技の制限だ。

 

 このモンスターボール級昇格戦において、ゴリランダーは、特にダブルバトルで強力な技である「ねこだまし」は禁止されているし、それは使おうとした「ドラムアタック」も同様だ。それにギルガルドの「シャドーボール」も禁止されている。それに本来手持ちはおおむねランダムなはずだが、相手がスピカということで、ゴリランダーを意図的に選んだ。

 

 こんなにもルール違反をして、スピカと戦っている。だというのに、現状はお互いに苦しい、いわば「イーブン」の状況だ。

 

 キバナはダブルバトルにおいてはガラルどころか世界最強とすら言われる存在だ。そんなキバナから肝いりで推薦を受けたのがスピカである。ダンデは一刻も早く戦いたくて仕方がなく、そして戦う上で、モンスターボール級昇格戦の制限はあまりにも歯がゆくてもどかしかった。だからこそ、バトルタワー管理人の強権を発動し、多くのルールを破ったのだ。このあと始末書は確定である。

 

「いけ、オノノクス!」

 

「バトルだ、ラプラス!」

 

 だが今はそんなことは気にしない。この勝負を全力で楽しむ。

 

 ダンデが出したのは強靭な巨体を誇るオノノクス。非常に狂暴かつ好戦的な「ドラゴン」であり、ワイルドエリアでもギャラドスやバンギラスなどと並んで一帯のボスとして君臨することが多い。

 

 一方スピカが出したのも、また非常に強力なポケモン・ラプラスだ。大人しく好戦的ではないが、そのタフネスは高いし、特殊攻撃力も優れている、水・氷タイプだ。キバナに連れられて無理やりカンムリ雪原に連れていかれた時に捕まえた新戦力である。常に厳冬の雪原に住まうポケモンはその全てがワイルドエリアの荒れている日並みに強力であり、その中でも水辺ではひときわ強い影響力を持つ種族だ。

 

「ギルガルドは『シャドーボール』、オノノクスは『ドラゴンクロー』!」

 

「ラプラスは『フリーズドライ』、キングドラは『まもる』だ!」

 

 キングドラとオノノクスはドラゴン同士、相性が良いし悪い。キングドラが確実に先手を取って打撃を与えられるが、あのタフなオノノクスを倒すことは叶わないし、その反撃で倒されかねない。だからこそ、その身を「まもる」ことを選んだ。

 

 シングルバトルにおける「まもる」は時間稼ぎ、またはダイマックス技をしのぐぐらいしか使われず、ジムチャレンジのようなシチュエーションでもない限り用途は限定的である。だが、ダブルバトルにおいては、その間にもう一匹が動ける。ダブルバトル人口が少ないゆえにあまり知られていないが、「ねこだまし」も「まもる」も、ダブルバトルにおいては非常に強力な戦術なのだ。

 

 その判断は正しかった。オノノクスは猛然と強靭な爪で切りかかるが、キングドラは周囲に水のバリアを展開してそれを受け流して「まもる」。その間にラプラスの「フリーズドライ」がオノノクスを凍り付かせ、効果抜群のダメージを与えた。代わりにギルガルドの強力無比な「シャドーボール」をラプラスが受けるが、特殊面でのタフネスは水ポケモン随一であり、まだまだ元気である。

 

(上手く決まったな)

 

 ラプラスもまた、スピカのパーティの穴にぴったりはまるピースだ。水技はドラゴンに通じにくいが、ラプラスは氷タイプが入っているし技も豊富である。また水タイプ同士の有効打が少ないマッチングにも強く、相手の水技は「ちょすい」で無効にできるし、こちらからは水タイプにも抜群になる「フリーズドライ」がある。

 

 キングドラとラプラスという新戦力によってスピカのパーティはより強力になり、苦手な相手への選択肢も増えた。オリヒメとの戦いも、ジムチャレンジ直後はイーブンかやや優勢程度だったが、今は大きく勝ち越している。

 

 そして今も、想定通り、苦手なドラゴンに打撃を与えることに成功した。さしものオノノクスと言えど、この一撃はかなり効いたはずだ。これならば十分。

 

「キングドラは『だくりゅう』! ラプラスは『フリーズドライ』!」

 

 最初に動けるキングドラの『だくりゅう』は未だ降り続く雨によってとてつもない威力である。ダメージは半減にされるし、ダメージも多少分散されるとはいえ、効果抜群の氷技で満身創痍のオノノクスを倒しきれる。しかも同時にブレードフォルムのギルガルドも流し去れるだろう。「キングシールド」で凌がれたとしても、今は問題ない。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「『ワイドガード』!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 だが、ダンデの戦術はそれを上回る。

 

 その技はスピカの予想していた「キングシールド」と同じく身を守る技だ。

 

 だがギルガルドはシールドフォルムになることはなく、ブレードフォルムのままだというのに、不思議な力で障壁を「広く」展開する。その壁は薄く、集中した攻撃を守れないが、分散された攻撃を退けるのには十分だ。

 

 ゆえに、キングドラの放った勢いの増した奔流もまた防ぎきる。ブレードフォルムのまま脆いギルガルドのみならず、ギリギリのところで耐えているオノノクスすらも、「だくりゅう」に飲み込まれることはない。

 

「なっ!?」

 

 スピカは動揺する。

 

「ワイドガード」という技の存在自体は知っていた。だが、今この瞬間は頭になかった。

 

 何せこの技はダブルバトルでしか効果を発揮しないためそもそもマイナーである。そして相手の範囲攻撃しか防げないことから、活躍の場面は限定的で、なんならダブルバトルですら見る機会はさほど多くはない。覚えるポケモンすら認知されておらず、スピカも、ギルガルドがそれを覚えるのを知らなかった。

 

 攻撃を防がれたキングドラが目を見開いていると、ダメージを受けなかったオノノクスが襲い掛かってきて、今度こそ「ドラゴンクロー」を決められ、キングドラがダウンする。その間にラプラスが一応放っていた「フリーズドライ」がオノノクスにオーバーキル気味に止めを刺すが、状況は一気に苦しくなった。

 

(……気が抜けていた!)

 

 スピカは悔しがる。

 

 ギルガルドは強力なポケモンだ。シールドフォルムで攻撃を受け、後からブレードフォルムで攻撃、相手の反撃はシールドフォルムに戻りながらの「キングシールド」で受ける。この攻防一体の戦術は、場に一匹しかいないシングルバトルにおいては理不尽ともいえる強さがある。

 

 だが、ダブルバトルにおいては、相手にはもう一匹いるため、弱点をさらしやすい。ゆえに、採用はためらわれるはずだ。だが、ダンデはこの場に出してきた。その意味を考えるべきだった。

 

 それにそもそも、ギルガルドは見た目のまんま、「盾」に関する技をよく覚える。「ワイドガード」を覚えられて当然だ。

 

 これだけの判断材料があったのに、それを予想できなかった。あのダンデとの戦いということで、冷静でいられなかったのだ。

 

「さっきのお返しだ。よく効いただろ?」

 

 ダンデは勝ち誇った笑みを浮かべてスピカに語りかける。キングドラの的確な「まもる」のせいで明確に不利になったが、これで取り返した。なおこんな表情をしているが、この「ワイドガード」採用もルール違反である。だが、ダンデはすっかりバトルに夢中で、もはや全く気にしていなかった。

 

「ええ、おかげで目が覚めましたよ」

 

 スピカは自嘲気味の笑みを浮かべながらキングドラを戻し、最後の一匹のボールを構える。

 

 そしてダンデもまた、最後の一匹だ。

 

 だが、どちらも「追い詰められた」という意識はない。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「イッツチャンピオンタイム! いけ、リザードン! キョダイマックスだ!」

 

「バトルだ! ガマゲロゲ!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ダンデは水タイプ使いのスピカを相手にすると分かってもなお、炎タイプであるはずのリザードンを、最も信頼できる相棒として選んだ。

 

 スピカは幾度も強敵を打倒してきた雨の王・ガマゲロゲを満を持して場に出す。

 

 そして「選ばれしもの」であるダンデは、リザードンをキョダイマックスさせ、その威容を従える。白光放つ巨体から漏れ出す業火は降り注ぐ雨を蒸発させている。

 

 一方、「ただの人」であるスピカは、ポケモンを巨大化させることができない。

 

 だが、これで今まで戦ってきた。あの強力なジムリーダーたちのミッションを乗り越えてきた。トーナメントでお互い本気を出した時も、ごくたまにだが、ジャイアントキリングを成し遂げたこともある。

 

 たとえ相手がダンデでも、負けるつもりはない。

 

「ガマゲロゲは『ウェザーボール』、ラプラスは『ハイドロポンプ』だ!」

 

 たとえあのチャンピオンのリザードンだろうと、雨が降る中のガマゲロゲよりは絶対に遅い。確実に上から雨が降りしきる中の全力の「ウェザーボール」をぶつけられる。たとえダイマックスして体力が倍加していても、効果抜群もあって、ダンデのリザードンは一撃で倒されるだろう。

 

 この勝負、スピカの勝ちだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「『ダイウォール』!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 だがかつての無敵のチャンピオンは、その先を行く。

 

 チャンピオンだったころは、その立場故に、戦術に自然と制限があった。

 

 観客を、見てくれる人を、全ての人を、対戦相手すら、沸かせ、楽しませ、興奮させるために。華やかで派手でエキサイティングな戦いが求められた。

 

 だが、今は違う。

 

 もはや自分はチャンピオンではなく、なんならジムリーダーなどのように、「トレーナー」としての肩書はゼロ。リーグ委員長でかつバトルタワー管理人ではあるが、一方で、「ただのトレーナー」でもある。

 

 だからこそ、「ワイドガード」や「ダイウォール」のような、相手の全力を否定する、その場しのぎのような戦術も使える。

 

 チャンピオンではなくなった。

 

 では、彼は弱くなったのか。落ち目なのか。

 

 違う。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 チャンピオンという「枷」から解き放たれたダンデは、目の前に数多の可能性が開け、そこからさらに大きく成長したのだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ガマゲロゲの強力無比な「ウェザーボール」は、巨大な障壁によって退けられた。ギルガルドにはその隙に「シャドーボール」を使うよう指示しておいたが、ラプラスの「ハイドロポンプ」が脆いブレードフォルムに突き刺さって先に倒されてしまう。本当はギルガルドも生き残らせるために「キングシールド」をしたかったが、「ワイドガード」の直後なため失敗する可能性が高く、選びたくても選べない。スピカもそこが分かっているようで、あくまでも冷静かつ冷徹に、確実にこちらの痛いところを的確に突いてきている。

 

 それでも、問題ない。この最強の相棒・リザードンさえ残れば、逆転できる。

 

(これで、雨は終わりだ!)

 

 今まで数多の猛者と戦ってきた。

 

 その中でも特に多くの激戦を繰り広げた相手がキバナだ。

 

 だからこそ、ダンデは天候操作を主軸とするトレーナーとの対戦経験が豊富であり、自分はあまり使わないが、この戦術に詳しい。

 

 故に、激しいバトルの中でも、体感でおおむねどれぐらいに天候が止むのかがわかる。いくら超常の力を持つ不思議な生き物・ポケモンとはいえ、バトルフィールド全体に影響を及ぼし続けるのは限界があるのだ。

 

 ダンデは確信している。この直後に、間違いなく雨は止む。

 

 そのために、リザードンに「ダイウォール」を指示したのだ。

 

 まだまだ雨が降る中で切り札のリザードンを引きずり出された。それでも「チャンピオンタイム」を宣言した理由。それは、この守りの直後に、自分たちのターンが来ると確信していたからだ。

 

 この後は、これまたルール違反で採用した「ソーラービーム」をベースにした「ダイソウゲン」を連打してお終いだ。この勝負、ダンデの勝ちである。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 だが、天井を覆う分厚い雨雲や、それが降らせる雨が、一向に晴れる様子はない。

 

 獄炎を身にまとう炎の竜が顕現してもなお、雨は降り続けている。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「湿った岩か!?」

 

 その理由に、ダンデは即座に気づいた。

 

 不思議な力を持った岩で、それを持たせたポケモンが降らせた雨は、より長く持続する。

 

 キバナはあまり採用しない。一回の戦いの中で複数種類の天候を目まぐるしく変えて状況をややこしくして相手の判断力を奪う戦いをするから、一つを長続きさせる意味が薄いのだ。

 

 だから、この可能性を忘れていた。

 

「ご明察。あいにくながら、湿った性格なんでね」

 

 スピカは口角を上げ皮肉に自嘲する。

 

 ダンデのような光り輝くチャンピオンであり立派な大人とは違う。ダウナーでニヒルで悲観的で怠惰が、スピカのパーソナリティーだ。「鬼雨」なんて名前を付けられる雨女にはぴったりだろう。

 

 チャンピオンタイムはまだ訪れない。

 

 まだまだ雨は降り続く。

 

 雨の中に現れる「鬼」は未だ、ダンデの前に立ちはだかっている。

 

 この瞬間初めてダンデは、闘争心よりも、「恐怖」が上回った。

 

 ジムリーダーたちからスピカの評判は聞いている。

 

 数多くのトレーナーと鎬を削り、ワイルドエリアではむき出しの野生に立ち向かい命の危機に瀕して乗り越えてきた彼ら・彼女らは、口をそろえた。

 

「スピカに恐怖を覚えた」、と。

 

 フィールドに雨を降らせて無理やり自分の戦いに引きずり込み、その向こうから恐ろし気に睨みつけてきながら、容赦なく、冷徹に、限りなく最適解で追い詰めてくる鬼気の化け物。

 

 ダンデはそれを過大評価とは思っていないし、当然ジムリーダーたちを軟弱とも思わなかった。そう言われるだけの説得力はある。

 

 

 

 

 

 

 

 だが、今この瞬間まで、「実感」はしなかった。

 

 

 

 

 

 

「それでも、俺たちは負けない! リザードンは『ダイソウゲン』!」

 

 そして、その恐怖はすぐに克服した。そうでなければ、10年間無敵のチャンピオンとして君臨し続け、他地方のチャンピオンたちと戦うなんてことは出来ない。

 

「ガマゲロゲは『ウェザーボール』! ラプラスは『かみなり』だ!」

 

 ガマゲロゲの『ウェザーボール』がリザードンに直撃する。その一撃に巨体を暴れさせて悶え苦しむ。

 

 この一撃は、ガマゲロゲの命も削っている。技威力が大幅に上がる代わりに体力を代償とする命の珠を持たせているからだ。

 

 雨、水タイプ、「ウェザーボール」、命の珠、効果抜群。

 

 これだけの要素が重なった、特大の一撃。

 

 たとえキョダイマックスしていようと、間違いなく、リザードンは倒れる。

 

 

 

 

 

 

 

 

「――――だがそれでも、俺のリザードンは耐えられる!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 攻撃を受ける直前、リザードンはその懐に隠し持っていた、巨体にはあまりにも似つかわしくないほどちっぽけな木の実を食べる。そして渾身の「ウェザーボール」をぶつけられ、もだえ苦しむが――かなり辛そうではあるが攻撃をしっかりと耐え、お返しとばかりに「ダイソウゲン」をガマゲロゲに食らわせる。水・地面には四倍のダメージ。耐えられる道理はない。

 

「イトケの実だと!? なんてピンポイントな!」

 

 スピカは叫ぶ。

 

 イトケの実は自生する木の実の一種だ。

 

 その効果は絶大で、効果抜群の水技を一度だけ半減にすることができる。リザードンが受けた場合、抜群ではなくなる、ということだ。

 

 それぞれのタイプに応じた木の実があり、そのどれもが珍しく、手に入りにくい。なにせワイルドエリアや孤島や雪原のような厳しすぎる大自然でしか自生せず、ガラルでの人工栽培は成功していない。その性質上市場に出回ることはそうそうないし、一タイプにしか効果がないからピンポイントすぎて採用されることも多くはない。それこそダンデのような強者または立場のある人間でなければ、手に入ることはないだろう。

 

「申し訳ないが、これも勝つためだ!」

 

 この堂々とした口ぶりからは想像できないが、こればかりは本当に申し訳なく思っている。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 何せ、これはこれまでをはるかに超える、特大のルール違反だからだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 本来ここでリザードンに持たせるのは、四倍弱点である岩技を抑えるヨロギの実と決まっている。だが水タイプ使いのスピカが来ると分かっていたので、彼女の言う通り、完全にピンポイントで、イトケの実を持たせたのだ。

 

 バトルタワーの趣旨は、事前に決めたポケモンたちで、ランダムな対戦相手と戦い、どんな状況でも勝てる強さを示すことだ。当然、相手に合わせて事前にピンポイント対策を組むなんてことは出来ない仕組みになっているし、出来たとしてもしてはいけない。ましてやその長であるダンデはなおさらだ。

 

 それでも。

 

 あのキバナが、ダブルバトルで、これまでの長い付き合いの中で、初めて猛プッシュしてきた相手だ。

 

 そんな相手に対して、意味のない道具を持たせるなんて、「バトルジャンキー」たるトレーナーのお手本のようなダンデが、出来るわけがなかった。

 

 リザードンは「ウェザーボール」を耐え、さらにラプラスの強力な電気技「かみなり」すらも倒れそうになりながら耐えた。覚えさせている水技「ハイドロポンプ」はとてつもない威力を持つが、コントロールが難しく命中しにくい。イトケの実を想像していなかったスピカは、仮に耐えられたとしても、雨雲により必中になっている「かみなり」で十分だと踏んでいた。

 

「かみなり」もまた大技であり効果抜群。スピカの判断は間違いではなかった。だが、やはり自身のタイプの技ではないので威力は上昇せず、その差のせいで、ほんのわずか、あと少しで耐えられた。

 

「これで終わりだ! 『ダイソウゲン』!」

 

 効果抜群のダイマックス技。いくら特殊面が特にタフなラプラスとはいえ、ギルガルドの「シャドーボール」のダメージもあるし、耐えられないだろう。

 

 今度こそ、この勝負は、数多の反則を重ねた結果だが、ダンデの勝ちだ。

 

「『まもる』!」

 

 だがスピカは諦めていない。ラプラスはその身が持つ未知のサイコパワーで障壁を形成し、草エネルギーの塊を凌ぐ。その絶大な力は一部貫通してラプラスに軽くないダメージを与えるが、耐えることに成功した。そして辛くなったラプラスは、たまらずオボンの実を食べて、体力を回復させて元気になる。

 

「くっ!」

 

 ダンデはこのバトルで何度味わったか分からない悔しさを再び体感する。

 

 ラプラスにまで「まもる」を覚えさせていた。それでダイマックス技を防ぎ、さらに木の実で体力を回復させ、相手のダイマックスを終わらせる。ジムチャレンジの前半で彼女が見せた戦法だ。状況に合わせて、事前に用意していた技と道具を的確に噛み合わせて相手を追い詰めるその姿が、多くの人々の尊敬と恐怖を集めた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ――スピカがジムチャレンジをクリアしてセミファイナルトーナメントに出場できたのは、多くの要因がある。

 

 

 

 

 

 

 

 

 本人の技選択や観察眼。ペリッパーを中心とした手持ちポケモンの圧倒的な噛み合い。そして本人が普段口にするように、偶然や運に助けられた節もある。

 

 そうした中に挙げられるものの一つが、道具の使い方だ。

 

 リアルタイムで激しく戦況が変化する中で、ポケモンへの指示や攻撃を我慢して道具を使う判断をするのは難しい。ましてや、適切な道具を選ぶことができるのは、バッジをいくつか持つ者ですら少ないだろう。

 

 そんな中でも彼女は、全くの初心者だったころから、適切に道具を準備し、ベストなタイミングで使用して、格上のダイマックス使いであるジムリーダーたちを下してきた。

 

 どの技を覚えさせるか、どのポケモンを出すか、どの技を使うか、どの道具をいつ使うか……彼女のバトル中の選択は、事前準備の精密さもあり、そのほとんどが「最適解」である。

 

 その「最適解」で、最高効率で、敵を冷酷に追い詰める。

 

 ダンデは今、完全に追い詰められていた。

 

「『ぼうふう』!」

 

 スピカの雨を利用しようと反則上等で覚えさせておいた「ぼうふう」をぶつける。とてつもない威力の飛行技はラプラスの巨体すら巻き上げ、さらに激しく床にたたきつける。

 

 だが、ラプラスは、全身傷だらけで息も絶え絶えだが、確かに耐えきった。

 

 オボンの実が有効に働いた。それだけではない、「ダイソウゲン」によって展開されたグラスフィールドによる回復もある。

 

「『フリーズドライ』!」

 

 ダンデのリザードンはもはや気力だけで保っていた体力を完全に消滅させられ、氷漬けになり、戦闘不能となった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

○○○○○○○

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「よう、どうだったよ、リーグ委員長サマ」

 

 スピカとのバトルとそのあとの手続きを終え執務室に戻ったダンデを出迎えたのは、来客用のふかふかのソファーに座るライバルにして親友のキバナだ。彼の見た目と態度からして膝立てで座りそうなものだが、意外とお上品に、それでいて堂々と座っている。

 

「想像以上だ。やっぱりキバナの目は確かだな」

 

「だろ?」

 

 仕事のための執務机の椅子ではなく、キバナの対面のソファーにドカリと腰を下ろす。リーグ委員長になってから雑な動作は頑張って控えていたが、キバナの前ならば遠慮は不要だ。それに、疲れている。

 

「アイツはオレさまが見込んだトレーナーだ」

 

 ジムチャレンジやトーナメントで見せている通り、スピカは強いトレーナーだ。

 

 だが、そこではほとんど見ることがなかった才能に、キバナは気づいた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「アイツ、とんでもねえダブルバトルトレーナーになるぜ」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 初めて戦い、敗北した時に気づいた。

 

 スピカは、自分すらも超えうるダブルバトルトレーナーになる。

 

 ダブルバトル発祥の地・ホウエン地方出身で、多少それをたしなむベテランジムリーダーのカブのことは、もうすでに超えたと断言しても構わない。

 

 大した経験もないのに、今のスピカは、このガラルで、ユウリとキバナに次いで、三番目に強い。無敵のチャンピオンであったダンデを超える、という確信がある程に。

 

 キバナはその話を伝えたうえで、ダンデにスピカを推薦したのだ。

 

「ああ、俺もそう思う」

 

 トレーナーとしてバトルを本格的に始めてからまだ一年経っていない。それなのにジムバッジをコンプリートした。

 

 いや、それならまだここまで話題にならない。偉業には違いないが、ダンデやキバナ自身、もっと幼いころに初参加でコンプリートし、キバナはジムリーダーに、ダンデはチャンピオンになっている。ルリナやマクワやネズといった同世代はもちろん、メロンやカブやサイトウやオニオンのような他世代のジムリーダーも、初挑戦でバッジコンプリートを達成した。いわば「ありふれた偉業」である。

 

 だが、「ほぼ本気を出したダンデを打ち破った」となったら、話は別になってくる。ダンデ自身もダブルバトルは専門外だが、少なくともスピカに比べたら10倍は経験がある。それなのに、スピカが勝利した。果たしてジムチャレンジ初挑戦のころのキバナが、今のダンデにダブルバトルで勝てるだろうか。「否」と答えざるを得ない。

 

 ユウリやホップほどではないにしろ。

 

 スピカは、本人が思っている以上に、それに次ぐような実績を挙げたのだ。

 

「このガラルに、とんでもねえ風が吹くぜ」

 

 温厚なキバナが、バトルの時のように目を吊り上げ龍のような笑みを浮かべながら、気炎を吐くように言葉を漏らす。

 

 ホップとマリィとビート、そして何よりもユウリと戦った時、キバナは確信した。ガラルのバトルはここを特異点として、大きく変わり、進化していく。

 

 そして、ダブルバトルにおけるシンギュラリティを、スピカに見出した。

 

「これから、もっと楽しくなりそうだな」

 

 そんなキバナと同じような表情を、ダンデは自然と浮かべていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ガラルのトレーナーたちがもっと強く。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 キバナの言う通り、ガラルに風が吹き、それがトレーナーたちの闘志の炎をより強くするのだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

○○○○○○○

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「キバナさん、また炎上してる」

 

「もうハローぐらいのもんだろ」

 

 翌日、仕事の移動中にSNSチェックをしていたオリヒメが苦笑いを浮かべていた。スピカも呆れ顔である。

 

 キバナはSNSを最も活発に利用するジムリーダーだ。そしてトップの有名人であり、その一挙手一投足が多くの人々から賞賛と中傷の対象となる。そしてインターネットの性質上、悪意を向けられることが多い。理不尽なものも多数だ。

 

 だが、中には自業自得なものもある。例えばナックルジムのダブルバトル合宿に無理やりスピカを参加させて撮影した集合写真をアップロードした結果、「ジムリーダーの模範が特例を行使しすぎだ」と叩かれ、トーナメントの控室で同じジムリーダーのカブからもやんわりと苦言を呈されていた。なおスピカは無理やり参加させられたことが周知されており、被害者として同情されている。

 

 オリヒメのスマホロトムを覗き込む。今回はどんな炎上だろうか。

 

 オリヒメが開いていたのはニュースサイトだ。珍しいことに、炎上沙汰を好んで扱う下世話なものではなく、それなりにお堅い新聞のネット版である。

 

 

 

 

 

 

 

 

「リーグ委員長・ダンデ氏、バトルタワーにて不正を働く」

 

 先代チャンピオンであり現リーグ委員長でバトルタワー管理人のダンデ氏は、先日、バトルタワーでのバトルにて、複数の不正を働いたことをSNSアカウントで告白し、謝罪した。

 

 ダンデ氏がバトルする場合、その手持ちや戦術には様々な制限が加わっているが、あるバトルにおいて、意図的にそれをいくつも違反したという。謝罪文の書きこみには、大量の始末書を背景に深々と頭を下げるダンデ氏の写真も添えられていた。

 

 なお、この書き込みとほぼ同時に、キバナ氏が、始末書に向き合って暗い顔をしているダンデ氏を背景とした自撮りを投稿しており、彼がこの不正を容認・加担、さらには計画したのではないかと、非難の的となっており、釈明に追われている。

 

 また、どのバトルにおいてどのような不正を行ったのかは、対戦相手のプライバシーに配慮して公開しない方針だという。

 

 

 

 

 

 

 

 

「もうあいつSNSやめろ」

 

「あ、あはは……」

 

 スピカが吐き捨てる。オリヒメも苦笑しているが、間違いなく呆れ果てているだろう。アイドルである彼女にとっては対岸の火事とはいかないが、キバナに比べたら無難な投稿しかしていないからまだ安心だ。キバナは一度、彼女からSNS講習を受けるべきだろう。

 

 きっと、ダンデが困ってる姿が、親友として面白おかしくて仕方なくて、ついやってしまったのだろう。バカな話だ。ドラゴン使いや強力な炎ポケモンを従える彼らも、この炎上にはさすがに参っただろう。

 

「それにしても、この時の対戦相手は可哀想にな」

 

 あのダンデが不正までしたのだ。きっと散々な結果だろう。

 

 スピカは、誰だか知らぬ対戦相手に、ほんの少しだけ同情した。




筆者はランクマそれなりにがっつりやってますが、シングルではなくダブル勢です。なお実績はない模様。
そういうわけで、今ダブルバトルは面白いぞという勧誘のお話でした。

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『週刊バウタウン』連載記事・ガラルのトレーナーたち 第△0回 オリヒメ

前の話は投稿時のガバでサブタイ間違ってました
今の状態が正しいです


 この連載も、皆さまのご好評のおかげで、節目となる第△0回目を迎えられた。ひとまず100回、そしてその先を目指して、記者・編集部一同頑張っていく所存である。

 

 さて、そんな本記事は、バウタウンを中心としたガラルのポケモントレーナーたちに一日密着取材し、その人となりや生活をお伝えするものである。

 

 今回は、半年前の大イベント・ジムチャレンジでの活躍が記憶に新しい、アイドルトレーナー・オリヒメちゃん――いつもは「氏」とするが本人の希望でこの敬称を使わせていただく――に密着取材した。

 

 

 

 

 

 

 とある平日の午前6時、うら若きアイドルに密着するということで、女性のみで編成した取材班が、オリヒメちゃんの自宅の前に集まる。早い時間だが、あくびを噛み殺すことはない。優れたトレーナーの朝が早いことは、我々にとっては慣れ親しんだものだ。

 

 バウタウンの街並みではありふれた白い一軒家。まだトレーナーズスクール高等部の生徒である彼女は、この家で家族と暮らしている。

 

「おはようございます!」

 

 約束の午前6時半から10分ほど早いころ、華やかな声が早朝の住宅街に一切の不快感なく響き渡る。

 

 そうして我々の前に姿を現したのが、今人気高騰中のアイドルトレーナー・オリヒメちゃんだ。

 

 ――おはようございます。本日はよろしくお願いします。

 

「はい、よろしくお願いします!」

 

 文面では伝わらないのがもったいない。この挨拶一つをとっても、聴く者の心を元気にしてくれる。この瞬間、取材班全員は、「役得」と判断した。

 

 ――こんな早い時間に何を?

 

 ナンセンスな質問だが、これはお決まりのルーティーンのようなものだ。

 

「はい、今から軽くランニングをしようかと思いまして!」

 

 彼女の格好は、ランニングに向かう若者そのものだ。

 

 ――毎朝ですか?

 

「はい、一年ぐらい前からやっています!」

 

 ――それは、なぜ?

 

「アイドルもトレーナーも、やっぱり体力と健康が大事だな、て思ったんです」

 

 その成果は、半年前のジムチャレンジで実を結んだ。

 

 彼女のジムチャレンジは二度目であった。

 

 スクールで優秀な成績を残していたことが校長に認められ推薦された一回目は、苦戦してジムバッジを2つ手にいれることが出来たものの、鬼門の番人・三人目のルリナに負け続け、タイムアップリタイアとなった。

 

 だが、半年前の二度目では大躍進を遂げる。

 

 バッジ四つまではストレートで順調に進んだ。彼女が「リトルマーメイド」「竜宮の乙姫」と呼ばれるに至ったルリナとの鮮烈な激戦は記憶に新しいだろう。魔術師・ポプラとの戦いに一度破れるもののリベンジに成功し、マクワはタイプ相性もあって一度目で突破した。ネズに敗れてリタイアとなったものの、二度目のチャレンジでバッジ六つ。かなりの結果だ。ポケモンを使う仕事ならば大抵で優遇されるし、トレーナーズスクールでもほぼ無条件で卒業分の単位としてカウントされるし、それ以外の職業でも「箔」としては十分すぎる。

 

 ――ジムチャレンジ後も、こうして続けているんですね。

 

「次こそ、セミファイナルトーナメントに出場するんです!」

 

 だが、彼女はここで満足しない。

 

 あれから努力を重ね続け、さらなるステップアップを目指しているのだ。

 

 それはアイドル活動も同じ。皆様ご存知の通り、彼女は今やバウタウンで、知らぬ者はほとんどいない有名アイドルなのだ。

 

 

 

 

 

 

 スクール生、アイドル、そしてトレーナー。

 

 この三足のランニングシューズを履いて、今日もオリヒメちゃんは、前へ、前へ、と走り続ける。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ランニングを終えると軽くシャワーを浴び、支度を済ませると、制服に着替えてトレーナーズスクールへと登校する。こうして制服を着て友達と並ぶ姿は、普通の高等部生の様だ。とはいえそれはあくまでも生活の様子だけ。見た目で言えば、彼女だけ可愛すぎて、明らかに目立っている。

 

 そんな、「普通の、可愛い子」だが、その腰には五つのボールが下げられており、その手のどちらかは、必ずボールを即座に取れるようにさりげなく構えられていた。

 

 ――ご歓談中のところ失礼します。スクールでボール五つは、やはり珍しいですね。

 

「そうですね。同級生のお友達でも、多くて三つだと思いますよ」

 

 彼女が所属するのは高等部のポケモントレーナー学科だ。つまり、ここに通う子は全員、学校で体系的にポケモンバトルを学ぶ、優れたトレーナーの卵である。

 

 そんな彼ら・彼女らですら、三匹が限度だ。

 

 だがオリヒメちゃんは五匹。それもただ数を集めただけではなく、その全員が、時代が時代ならジムリーダーの手持ちにもなれるほどに鍛え上げられた、優れた精鋭たちだ。

 

 彼女はその実績にたがわず、ポケモンを連れている姿もまた、一流トレーナーそのものである。

 

 ――失礼ながら、もうスクールに通う必要はないように思います。実力も単位も、卒業に十分なようですが。

 

「そんなことないですよ。まだまだ、あたしは知らないことがいっぱいあります」

 

 筆記テストもトップクラスである彼女はそう謙遜するが、その笑顔に、私たち取材班は一瞬背筋が凍り付いた。

 

 この記事のウリである失礼すぎる質問に彼女が怒気を露にしたからではない。

 

 彼女が浮かべた笑みは、可愛らしくて明るいながらも――獰猛な炎を湛えていた。

 

 トレーナーとしてのあくなき向上心。その原動力である、ワイルドエリアのポケモンたちの如き「獰猛な闘争心」が、我々の生存本能を刺激したのだ。

 

 優れたトレーナーに△0回、100回、1000回密着取材しようとも、この瞬間に慣れることだけは、一生ないだろう。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 とはいえ、やはり彼女の単位は余裕で足りている。

 

 午前で授業を終えたオリヒメちゃんは、学食で友人と昼食を取るとそのまま下校する。

 

 ――これからどちらに?

 

「今日は嬉しいことにアイドルのお仕事を頂いています!」

 

 密着取材である以上予定はこちらも知らされている。こんな茶番のような質問にも明るく答えてくれた。

 

 だが、彼女がこの時向かうのは、仕事の準備のための自宅でもなければ、仕事先でもない。

 

 オリヒメちゃんは自宅の前をスルーし、すぐ近所の別の家のインターホンを押す。バウの街並みに沿った白い一軒家だが、単身者向けで一般的なものよりもだいぶ小さい。

 

「もう、やっぱり寝てる」

 

 オリヒメちゃんは呆れ気味にため息を吐くと、ポケットから鍵を取り出して迷いなく差し込んだ。自分の家でもないのに、手慣れている。

 

「約束の時間だからね、入るよー!」

 

 ズカズカと遠慮なくオリヒメちゃんは入っていく。他人の家なので入ってよいものかどうか迷う私たちに笑顔で振り返ったオリヒメちゃんは、入っても大丈夫だとハンドサインで示してくれた。その笑顔が先ほどとは違う意味で少し恐ろしく感じた理由を、この一分後に知ることになる。

 

「もう、起きて! もう午後じゃん! 昨日9時に寝たのにまだ寝てるの?」

 

 そして足の踏み場もないほど散らかった部屋に入って、膨らんだベッドの掛布団を引っぺがす。

 

「…………ふわあ。……あー、オリヒメか、グッモーニン」

 

「もうアフタヌーンだよ!」

 

 起き上がった長身の女性の目の前にスマホロトムを突きつける。時間は午後12時半だ。

 

 オリヒメちゃんに起こされたその女性は、寝癖がついた頭を無造作にボリボリ掻いて大きな欠伸をすると……部屋の入り口で固まっている我々を見て、しばし固まった。

 

 

 

 

「……昨日が寒くて助かったな」

 

「全っ然懲りてない……」

 

 

 

 オリヒメちゃんが頭を抱えた。

 

 だが彼女はすぐに立ち直ると、そのまま女性をベッドから引っ張り出して、身支度をさせる。しかもオリヒメちゃんが、当人以上に手際よく手伝っていた。

 

「ここ、しっかり記事に書いてくださいね? スピカちゃんには恥をかいてもらわないと」

 

「なんだそれ、私なんか需要無いだろ。記者さんたちが可哀想だ」

 

 オリヒメちゃんに髪をセットしてもらいながらバッグにごそごそとものを詰め込む女性。そんな二人の会話に、私たちは苦笑いするしかない。

 

 そう、この言葉からわかる通り、この女性こそが、「鬼雨(きう)」の異名で有名なトレーナー・スピカ氏だ。彼女がオリヒメちゃんの年の離れた親友であるのは、皆さまもご存知であろう。

 

 それまでトレーナーとしての活動歴はほぼゼロながら、その才能に目を付けたオリヒメちゃんによってバウタウンのビギナー向け大会に出場して準優勝。来賓のルリナに認められてジムチャレンジに推薦される。

 

 そのような経歴だが、初挑戦である最初のターフジム以外全てのジムでジムリーダーたちを圧倒。バッジコンプリートの偉業を果たし、セミファイナルトーナメントにも出場した。

 

「はい、準備オッケー! さ、いくよ」

 

「はいはいかしこまりましたよ、お嬢様」

 

 オリヒメちゃんに手伝ってもらいながらスピカ氏はスーツに着替える。

 

 その姿は、先ほどまでの、失礼ながらズボラな様が幻覚とは思うほどだ。元々のスタイルの良さと長身もあって、「スーツの麗人」という言葉が霞むほどの格好良さになっている。

 

 これもまた、二人の関係に詳しい方はご存知だろう。アイドルであるオリヒメちゃんはいくら優れたトレーナーとはいえ、その身一つでは不安だ。そこで、親友であるスピカ氏が、彼女のボディガードを務めているのだ。

 

 ギャラドスを筆頭に強力なポケモンと連れ添う「竜宮の乙姫」オリヒメ。

 

 空を支配し冷徹な戦いで敵を追い詰めるバッジ八つ持ちの「鬼雨」スピカ。

 

 この二人を狙おうとする暴漢は、もはやこの世に存在しないだろう。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 アーマーガアタクシーで移動中、スピカ氏についても色々話を聞かせていただいた。当人は「オリヒメの取材なんだからそっちの話をしろよ」と口をとがらせていたが、これはスピカ氏当人だけが知らないことで、打ち合わせ通りだ。

 

 スピカ氏は取材に対するガードが堅い。トーナメントや大会の際は、インタビューにも二言三言答えるだけである。ジムチャレンジの時も、雨で酷く濡れているのとすぐに次のジムに向かいたいとのことで、取材に応じることはなかった。

 

 我々もこの特集のために何度か打診しているが、「私なんかじゃなくてオリヒメを」とそっけない返事ばかりだったのである。

 

 満を持してオリヒメちゃんに打診した際、編集部の一人がそんな愚痴を、失礼ながら漏らしてしまった。そんな時、オリヒメちゃんが、「だったら、スピカちゃんも一緒にいる時に密着取材していただけますか?」と提案してくださったのだ。こんなありがたいことはない。

 

 そういうわけでこの記事は、オリヒメちゃんのみならず、スピカ氏にも密着取材をした記事ともいえる。普段よりやたらとページ数が多いと思った読者の皆様は、勘が鋭い。

 

 ――お二人の出会いのきっかけは?

 

「家が近所だったので、家族同士で付き合いがあったんです。まだあたしがスクールに入る前ですね」

 

 ――それ以来、いつも先ほどのような感じで?

 

「さ、最初はスピカちゃんの方がお姉さんだから、あたしが妹みたいな感じだったんですけど……その、いつの間にかあんな感じで……」

 

「会って一年ぐらいだな」

 

 答えにくそうなオリヒメちゃんの言葉に、スマホロトムを弄っていたスピカ氏が補足を加える。

 

 どうやらスピカ氏は幼いころからあのような感じらしい。カントーには「ポッポの習性、ピジョットもあり」「三つ子の魂百まで」という諺があるらしいが、それに似たものを感じた。

 

 ――ちなみに先ほど、「寒くて助かった」とおっしゃっていましたが、どのような意図で?

 

「スピカちゃん、いつも下着でだらしなく寝ているから、皆さんに見せてちょっと恥ずかしい思いをしてもらおうとしたんですよ」

 

「取材があるなんてすっかり忘れてたからな。危なかった」

 

 オリヒメちゃんの作戦は天気の悪戯で失敗した。スピカ氏は悪びれもせず勝ち誇っている。

 

 こうして見ると、スピカ氏の方が手のかかる妹のようにも見える。二人の関係は、年の離れた幼馴染としては、どこか変わっていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「お疲れ様です!」

 

「お疲れ様です」

 

 今日の仕事は、シュートシティデパート屋上ステージでの合同ライブだ。その楽屋に入ったオリヒメちゃんの元気な挨拶が木霊し、少し遅れて遠慮がちに気配を消して入ったスピカ氏の落ち着いた挨拶が後に続く。

 

「お疲れ様ァ。今日はよろしくね」

 

 その楽屋に先客としていたのは、毒タイプ代表の座を先日受け継いだ新人ジムリーダー、マイナーリーグのクララ氏だ。

 

 思わぬビッグネームの登場に、我々はたじろいだ。クララ氏は新人でまだ無名な方でマイナーリーグとはいえ、このガラルで頂点に君臨するジムリーダーの一角だ。

 

「はい、よろしくお願いします!」

 

「うお、若さがオバサンには眩しいぞォ」

 

 クララ氏の呟きをばっちり聞いてしまった。せっかくなので、ここに残しておこう。

 

「クララさんとのお仕事は久しぶりですね! またお世話になります!」

 

「おー、そういえばそうだったね」

 

 ――失礼ながら、久しぶり、とは? 以前ご一緒されたことがあるんですか?

 

 話している途中のお二人ではなく、壁際でその様子を見守っていたスピカ氏に小声で問いかける。

 

「オリヒメが初めてのジムチャレンジの後にアイドル的な活動を始めて、一か月ぐらいだったかな。オリヒメはダンスが上手だし、顔もスタイルもいいし、歌も悪くないから、地下ライブの前座で出させてもらうことになったんです。その時オリヒメの次に前座をやったのが、クララさんだったんですよ」

 

 なるほど。我々は納得した。

 

 クララ氏も昔からアイドル活動をしていて、今もジムリーダー業の傍ら、それを続けている。

 

 今人気のオリヒメちゃんもクララ氏も、地下アイドルのさらに下積みだったことが、当然あったわけだ。

 

 ――人に歴史あり、ですね。

 

「おいコラ、誰が歴史ある年増だってェ?」

 

 ジムリーダーの耳の良さと迫力に、我々はすくみあがった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ジムリーダーと今を時めく「リトルマーメイド」。ガラル屈指の大型デパートとはいえ、その屋上ステージは、二人には狭くすぎた。

 

 客席には所狭しと人が集まり、座席は当然全部埋まり、立ち見もギュウギュウだ。こんな中、我々は舞台裏という特等席で見ることができる。役得だ。

 

 ――オリヒメちゃんがこうして人気になっているのを見て、何か思うことはありますか?

 

 そんな舞台裏から腕組みしてじっとオリヒメちゃんを見守るスピカ氏に問いかける。

 

「良かったと思いますよ。昔から、オリヒメが努力していたのは知っていたんで。ほとんど寝ている生活だったので、誰よりも見ていたとは言いませんが」

 

 そう自嘲するスピカ氏だが、その視線に宿る嬉しさや感慨は、まるで本当の姉の様だ。

 

 オリヒメちゃんのトークが終わり、歌が始まる。観客席から黄色い声援が湧き上がった。

 

 オリヒメちゃんのファンは若い女性が多い。成人男性が多いクララ氏とは対照的だ。同じアイドルでも、二人の音楽やタイプに違いがあるのだろう。芸能界に深くかかわる我々としては興味深いことだ。

 

 ――芸能界と言えば、スピカさんはそういった活動はなさらないんですか?

 

「需要無いだろ」

 

 ――オリヒメちゃんとはまた違った美人だとは思いますが……。

 

「バトルの時の姿を見ても言えるか?」

 

 ふと漏れ出てしまった失礼な質問に、スピカ氏も敬語を忘れて呆れた様子で答えてくれた。この方が人となりを知る上ではありがたいので、結果として成功と言える。

 

 どうやらご本人は、バトルの時の自分の姿がコンプレックスの様だ。確かにあの姿は恐ろしい。豪雨のワイルドエリアでオニシズクモやタチフサグマに遭遇したようにすら感じるだろう。だが今のスーツ姿を見ると、もったいないと思ってしまう。本誌のグラビアを飾ってもらいたい。諦めず打診していこう。

 

 そうこう話している間に、クララ氏の「クララにクラクラァ」の熱演も終わり、二人でのトークが始まる。

 

 会場のボルテージは高まりに高まっている。地下アイドル時代からのクララ氏を追いかける熱狂的なファンが、ステージ最前列で声援を送っていた。

 

 そんな中でもオリヒメちゃんは戸惑うことなく、円滑に進行していた。アイドル活動が増えてきたのと、何よりもジムチャレンジで肝が据わったのだろう。

 

「これなら何も起きなそうだな」

 

 腰のボールにいつの間にか手を添えていたスピカ氏は、そう言って一息ついた。

 

 その直後、会場で歓声が爆発する。

 

 ――いよいよメインイベントですね。

 

「ポケモントレーナーって本当、こんなやつばっかだよ」

 

 スピカ氏は呆れてそう言いながらも、嬉しそうに笑っていた。

 

 そう、ジムリーダーと有名アイドルトレーナーが集まったならば。

 

 ここはポケモンバトルしかないのである。

 

「可愛いを標榜するアイドル二人が集まってやることがポケモンバトルと来たもんだ。しかもそれがお遊びじゃなくてメインイベントなんだからな」

 

 スピカ氏の漏らした言葉に我々は思わずうなずく。

 

 アイドルトレーナーは数多くいる。だが、この二人ほどの本格派は見たことがない。

 

 毒タイプ特有のトリッキーかつ腰の据わった戦い方で相手を翻弄するクララ氏。

 

 水タイプ同士のシナジーを活かして強力なポケモンたちを操り水の中を舞うように戦うオリヒメちゃん。

 

 この二人の戦いを見て、「アイドル」と思う人がどれだけいるであろうか。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「あー疲れたー!」

 

 お仕事とクララ氏たちとの打ち上げを終えて、二人は帰りのアーマーガアタクシーに乗る。

 

 それと同時、オリヒメちゃんは座席に転がり、スピカ氏の膝に頭を預けた。

 

「おい、人前だぞ?」

 

「だいじょーぶ、恥ずかしいことなんてないもん」

 

 困った様子のスピカだが、顔には笑みが浮かんでいて、オリヒメちゃんの頭を優しく撫でる。こうなると、年齢と見た目通り、オリヒメちゃんが妹で、スピカ氏が姉の様だ。

 

 ――お楽しみの所失礼します。いつもこのような感じで?

 

「仕事についていくようになってから、仕事後だけこんな感じですね」

 

 スピカ氏の身体に顔をうずめてうとうとし始めたオリヒメちゃんの代わりに、スピカ氏が小声で答える。

 

 ――仲がよろしいのですね。

 

「まあ、幼馴染で、親友なので」

 

 そう答えるスピカ氏は、どこかその言葉が言いにくそうだった。照れくささとかではなく、もっと、複雑な何かを感じさせる。

 

 ――もうすぐ取材も終わりです。失礼ながら、踏み込んだ質問をさせていただいても?

 

「内容によりますがね」

 

 スピカ氏はオリヒメちゃんの頭を撫でながらリラックスした様子だ。

 

 だがそう答えながらこちらを見つめ返す眼光が、わずかに鋭くなる。「鬼雨」の睨みの、ほんの片鱗。それだけで、我々はわずかに怖気立った。

 

 だが、これだけは、聴かないと帰れない。

 

 ――ジムチャレンジでスピカ氏がバッジを集めきった後、シュートシティでの出来事ですが。

 

「「それかあ……」」

 

 二人の声が重なる。体を起こしたオリヒメ氏は眉尻を下げ、スピカ氏は顔をゆがめて、困惑した様子を隠さない。

 

 ――目撃者の話によると、あの時のお二人は何やら訳アリだったようですが。

 

「まあ、あんなのをおおっぴらにやればこうなりますよね……」

 

 オリヒメちゃんの表情が曇る。そんな彼女に代わってスピカ氏が何か言おうとするが、オリヒメちゃんはその口の前に人差し指を置いて言葉を止めさせた。

 

「大丈夫。これは、あたしが答えないといけないことだから」

 

 オリヒメちゃんがこちらに身を乗り出してくる。引き結ばれた口元は、あの華やかなアイドルの笑顔とは別人だ。

 

「ご存知の通り、スピカちゃんはトレーナーになるつもりは全くありませんでした。そんなスピカちゃんをジムチャレンジに巻き込んだのは、あたしです」

 

 ――はい、存じ上げております。

 

「あたしは昔からトレーナー志望で、スクールでも小さいころからポケモントレーナーコースに通っていました。でもスピカちゃんは普通コースと普通科です」

 

 バウタウン以外在住の方向けに説明しよう。バウタウンのトレーナーズスクールは、中等部までは年度ごとに移籍が比較的自由なコース制度、高等部からより専門的な学科制度になっている。

 

「あたしは、まだまだなのは分かっていますけど、これでも、かなり頑張ってきたつもりでした。ジムチャレンジ二年目こそ、絶対バッジを全部集めるんだ、って意気込んでいました」

 

 バッジを集めきる事こそできなかったが、この若さで二回目のチャレンジとしては素晴らしい成果であった。

 

「でも、スピカちゃんは、どんどん強くなっていって、あたしよりもずっと先を、駆け抜けていって……」

 

 だが、それを初挑戦ではるかに凌駕していたのが、オリヒメちゃんの後ろで何を言うべきか迷っているスピカ氏であった。

 

 オリヒメちゃんの方が、年齢に反して、トレーナーとしてははるかに先輩である。積んできた努力も違う。だが、様々な要因や何かしらの差があって、それが二人の明暗を分けた。

 

「それが、すごく……悲しくて、悔しくて、羨ましくて、妬ましくて……」

 

 彼女の胸中はどのようなものであっただろうか。このような仕事で多くのトレーナーを取材してきた。それでも勝負の世界に生きるトレーナーたちのこの感情を、言葉で表すのは難しい。当人であるオリヒメちゃんもまた、そう見えた。

 

「ネズさんに負けてリタイアになっちゃった時に、スピカちゃんがキバナさんにストレートで勝ったってニュースが入ってきて。とっても、嬉しかったんですけど……」

 

「そんなタイミングだったのか」

 

 スピカ氏は唖然とした様子だ。

 

 何でも話すような間柄だが、それでも、オリヒメちゃんは教えてなかったらしい。

 

 スピカ氏も我々も、同じことを思っただろう。「最悪のタイミング」だ。

 

「そこでネズさんに言われたんです。トレーナー同士、自分が思いつく最高の方法で送り出せ、って」

 

 あのネズが。我々は驚きを隠せなかった。何せ彼はライブ以外では我々に対してあまりにも冷淡だ。スパイクジムの様子も話を聞く限りではかなり排他的である。そんな彼が、オリヒメちゃんにこんなようなことを言っていたとは。彼もトレーナーで、そして無頼人に見えてその指導者のひとりだ。何か感じるところがあったのかもしれない。

 

「あたし、なんにも分からなくなっちゃって、でもスピカちゃんには会いたくて、急いでアーマーガアタクシーに乗って、シュートシティに向かって……気づいたら、ジムチャレンジユニフォームに着替えて、入り口に立っていました」

 

 そこからは誰もが知っていて、そして誰もが知りたかった所になる。

 

 オリヒメちゃんとスピカ氏、シュートシティの決戦だ。

 

「自分でも何考えてるのか分からなくて……ううん、そんなことすら意識していなかったかもしれません。ただ、スピカちゃんとバトルをしたくて、バトルをしないと気が済まなくて」

 

「悲しくて、悔しくて、羨ましくて、妬ましくて」と先ほど彼女は言っていた。きっとその全ての感情が当てはまり、それだけでは表せない感情もあったのだろう。

 

 ただ、何かがあったらポケモンバトル。トレーナーとして、自然とそこに行きついていた。

 

「スピカちゃん、すっごく強かった。あの時のあたし、多分今のあたしぐらい強かったと思います。でも、ほとんどスピカちゃんペースで……」

 

 バトルの様子をスマホロトムで撮影していた動画は、まずSNSにアップロードされ、そして動画サイトにも投稿されている。ニュースにもなっていた。

 

「勝ちたかった、勝ちたかったなあ……でも、それよりも、あたし、多分、スピカちゃんに、負けたかったのかもしれません。スピカちゃんが強いのは、誰よりも知っているつもりだったけど……あたしとスピカちゃん、違いは何だったんだろう、って、知りたくて」

 

 関係のない他人なら、残酷に「才能の差」と言ってのけるだろう。少し勝負事をわかっている人間なら「運命の差」と言うかもしれない。どちらにせよ、他人だからこそ、そのようなことが言えるのだろう。

 

 ――それで……その違いは、分かりましたか?

 

「いえ、全然」

 

 オリヒメちゃんは悲しそうに、だがあっけらかんとした笑顔でそう答える。

 

「全部が違うんだと思います。同じバウタウン出身で、同じ水タイプ使いで、女の子。ただそれだけ。それ以外の、全部が違うんです」

 

「……それに気づくのに、随分かかったもんだな」

 

 スピカ氏は夕焼け空をぼんやりと眺めながら、そう呟く。

 

 シュートシティでオリヒメちゃんと対面した時。いや、もしかしたらオリヒメちゃんのリタイアを知った時から。スピカ氏も同じような感情を持っていたのだろう。

 

 勝負の世界で、努力や経験をひっくり返してついた、「勝ち」と「負け」。その残酷な差は、一体どこで生まれるのか。実力、運、才能、環境……どの言葉も当てはまり、どの言葉も言い表しきれていない。それでも、ポケモントレーナーという人間は、その「勝負」を尊ぶ。

 

「私もオリヒメも、多分、あの瞬間に初めて、ようやく『ポケモントレーナー』になったんだと、思いますよ」

 

 勝負とは何なのか。

 

 それに身を預けるとは何を意味するのか。

 

 ジムチャレンジを通して、二人はついにそれを知り、一人前の「ポケモントレーナー」になった。

 

「あと、本当の『親友』にもね?」

 

「バカ、それは今言うな、恥ずかしい」

 

 悪戯っぽく付け加えたオリヒメちゃんに、スピカ氏は目を逸らす。その顔が赤いのは、夕焼けのせいだけではないだろう。

 

 この取材に当たって、そして記事を書くにあたって、あのシュートシティでの会話の証言の復習をしてきた。

 

 二人は仲の良い幼馴染だったのには違いない。お互いのことを何でも知っているかのような関係だった。だが、ジムチャレンジやバトル、対立を通して、まだまだ、相手のことも自分のことも、知らないことだらけだと実感したのだ。

 

 それでお互いの認識が改まり、関係が新しくなって、本当の「幼馴染の親友」となった。

 

 私は二人ではないのでわからないが、きっと、そう言うことなのだと思う。

 

 その後、バウタウンに着くまで、オリヒメちゃんとスピカ氏は二人で身体を預け合って、ぼんやりと会話をしていた。もっと取材したいことがあったはずだが、そんな二人と同じ空間にいる我々があまりにも煩わしく自分で感じてしまい、せめて邪魔しないようにと黙って見ているしかなかった。

 

 ――本日はありがとうございました。

 

「はい、ありがとうございました!」

 

 彼女はまだ高等部生であり、これ以上遅い時間の密着取材は厳禁だ。名残惜しいが、空が完全に暗くなったころにお別れとなる。

 

 ――最後に一言、読者の皆様にお願いします。

 

「はい! えっと、どんな記事になるのかまだわかりませんけど……あたしとスピカちゃんの記事を読んでくださって、ありがとうございます! なんだか恥ずかしいところも見せちゃったと思いますけど……これで、あたしたちのことを好きになってくださったらうれしいです。あと、ライブや大会もぜひ見に来てください! みんなのこと、魅了させちゃうんだから!」

 

 ――よろしければスピカ氏もどうぞ。

 

「読者じゃなくてあなたたちに一言。あの恥ずかしいくだりとか、私の家のくだりとか、全部カットしてオリヒメだけ追いかけた感じでやってくださいね」

 

 

 

 

 この記事を世に送り出した後、我々のオフィスに「鬼雨」が降らないか、心配である。




スピカとオリヒメの関係については、シュートシティの件が傍から見たらあまりにも不穏なので、下世話な週刊誌や噂があることないこと言っていたが、ルリナとキバナの権力に潰された(当人たちは噂されたことすら知らない)

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クララにクラクラァ

「「かんぱーい!」」

 

 シュートシティの少し高級なレストランにはやや場違いな華やかな音頭。それに続いて遠慮がちな音頭が続いて、グラス同士がゆっくりぶつかる涼やかな音が響き渡る。

 

「今日はお疲れ様ァ、楽しかったよ」

 

「はい、お疲れさまでした! あたしもすっごく楽しかったです!」

 

 オリヒメとスピカに密着取材がついた中での仕事であった、シュートシティデパートでの屋上ライブとバトルイベント。それを終えた打ち上げが、ここで行われていた。なお取材陣は邪魔にならないよう隣の部屋でひっそりと食事をしていて、一人だけ同席させてもらっている状況だ。

 

「今日はライブもバトルもいっぱいお勉強させてくれて、ありがとうございました!」

 

 ジンジャーエール――20歳に満たないアイドルが同席しているから飲酒はご法度だ――を豪快に呷るクララに、ジュースで口を少し潤したオリヒメが、満面の笑みで感謝を述べる。

 

 年齢も経験も実績も、アイドルとしてもトレーナーとしても、クララはオリヒメよりだいぶ先輩だ。そんなクララとの仕事は、オリヒメにとって貴重な経験であった。

 

「ふふっ、またよろしくね」

 

 クララはそれを受け取って、優しく微笑む。何かと毒々しい性格だが、オリヒメの明るさと素直さには、思わずほおを緩ませていた。

 

 ちなみに、メインイベントであったバトルの結果は、クララの勝利であった。

 

 オリヒメは序盤からペリッパーの雨を活かして水タイプのパワーとスピードで真っすぐに攻めたが、クララは毒タイプ特有の耐久力と小技でその攻撃をすべていなしつつ少しずつリソースを削り、最後は「トリックルーム」で素早さを逆転させたうえで一気に削り切った。

 

 オリヒメはともかく、クララの戦術はアイドルらしくない。競技者としてもエンターテイメント性に欠けると言えるかもしれない。

 

 しかしながら、観客はそのバトルを見て大満足した。

 

 観客たちの目が肥えているからレベルの高いバトルや搦手も楽しめる、というのもあるだろう。だがそれ以上に、クララの「魅せ方」が上手かった。

 

 相手の全力の攻撃を受けた、とは、すなわち、「相手の派手な持ち味を表に出させた」ということである。そのうえで、最後は一気に攻め返して、ド派手な快進撃を果たして勝利した。それはよほどバトルに精通していない限り、「大逆転劇」に見えるだろう。実際は、雨を軸にしたオリヒメの手持ちの長期戦力の低さや、ポケモンの残数に留まらない全体的な残りリソース、そして相手の手持ちを倒しきれるエースやパワーポケモンの温存具合を考えれば、終始クララが優勢であった。

 

 戦った当人として、そしてそれなりの実力者として、オリヒメも自分が「惨敗」したのは分かっている。それでいて双方のファンが満足するバトルに仕立て上げたクララの実力と手腕に、オリヒメはとても感動したのだ。

 

 そんな様子を、ただのボディガードだからと辞退しようとしたがクララに押されてこの打ち上げに参加したスピカが、ジュースをちびちびと飲みながらぼんやりと、そして少し嬉しそうに眺めていた。

 

 ちなみにスピカは酒もタバコも嗜めるが、現在どちらもやっていない。酒は一杯飲んだらすぐ眠ってしまうから、そしてタバコは火を消しきらないまま寝てしまってボヤ騒ぎを起こし、オリヒメと両親と消火をして煤だらけになったキャモメに死ぬほど叱られたからである。

 

 そうして隅っこの方で出しゃばらないよう大人しくジュースと料理にほんの少し手を付けて時間を潰していたスピカに、クララが声をかけてきた。

 

「オリヒメちゃんのマネージャーさん? も本日はお疲れ様でしたァ」

 

「……はい、お疲れさまでした」

 

 ボディガードであってマネージャーではない。ずぼらな自分にそんなことできるわけないだろう。

 

 そんなあれこれが浮かんだが、訂正するのも面倒なので、そのまま無難に挨拶を返す。確かに、傍から見ればマネージャーに見えるかもしれない。目の下のクマや覇気のない顔つきもオリヒメの化粧術で多少誤魔化されているから、そのスーツ姿は格好よいビジネスウーマンに見えることもあろう。

 

「そちらのスピカちゃんは、マネージャーさんじゃなくて、ボディガードさんなんですよ!」

 

 そうしてその場しのぎをしていたスピカの代わりに、オリヒメが訂正してくれた。ちなみにマネージャーのような役柄は雇っていない。セルフプロデュースかつ自己管理だ。ただついてくるだけのスピカがそれをしてあげられればよいのだが、自分の生活すらまともに管理してないのだから、無理な相談である。

 

「あはァ、なるほど、道理でねェ」

 

 それを聞いたクララが朗らかに笑う。だがその目元に、鋭い影が落ちているように見える。

 

「あの『鬼雨(きう)』がただのマネージャーなんて、おかしいと思ったんだァ」

 

 瞬間、スピカは思わず腰元のボールに手を伸ばしてしまっていた。

 

 クララは笑顔のままで、ボールを構えたり警戒したりしている様子は全くない。

 

 だが、笑みが浮かぶ顔の頬はわずかに引きつり力が入っている。そしてその身から、強者特有のオーラを放っていた。

 

「……知っていらしたんですか」

 

「それはもちろん、有名人さんだからね」

 

 スピカが思っている以上に、このガラルでのバッジ八つ持ち、そして「鬼雨」のネームバリューは強い。トーナメントやちょっとした大会以外ではジムチャレンジ以来露出はしていないはずだが、ポケモンバトル界隈に限定すれば、積極的に活動しているオリヒメよりも知名度が高いだろう。同期のセミファイナリスト三人がド派手なものだから、自分に注目なんて集まるわけがないと思っているのだ。

 

「色々話は聞いているぞォ。初参加なのに最初以外一発でジムをクリアしてセミファイナル出場、トーナメントでもジムリーダーとかの『格』持ちを除けば一番の実力者、次期ジムリーダー、キバナさんとルリナさんのお気に入り。メジャージムリーダーと戦って勝ったこともあるそうだねェ?」

 

「……偶然ですよ」

 

 ジムチャレンジ後もスピカの戦績は悪くはない。バトルタワーでの戦績は誰もが公表されない方針だから別として、トーナメントでも、オリヒメらセミファイナルに出場していない同期にはほぼ負けていない。逆にジムリーダーら「格上」にはほぼ負けているが、何回かジャイアントキリングを達成したこともある。この前は、新人ジムリーダーのマリィ、相性の良いマクワに、運も絡んだ勝利をおさめ、何の因果か決勝にコマを進めた。なお決勝は、チャンピオン・ユウリが繰り出したレジエレキとバドレックスに蹂躙されたのは余談である。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「それと、下手なマイナージムリーダーよりも強い、ってねェ?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 クララが語気を強めると同時、放つオーラがより勢いを増した。

 

 打ち上げ会場の空気がひりつく。彼女の気の弱そうなマネージャーが止めようとするが、口をパクパクとするだけで何もしゃべれず腰を抜かしている。普段の力関係が垣間見えるシーンだ。

 

(そういうことか)

 

 スピカは気圧されながらも冷静に判断できていた。なにせ普段からキバナの相手をして、先日はバトルタワーでのスーパーボール級昇格戦でダンデと二度目のバトル――一度目の不正オンパレードに比べたら苦しくない戦いだった――も行ったのだ。この手の圧力は「経験済み」だ。

 

「過大評価ですよ。トーナメントでもジムリーダーたちにはほぼ負けますし、他の大会で戦ったマイナージムリーダーにも大きく負け越してるんですから」

 

 スピカの言うことは事実だ。ジャイアントキリングはまず発生しないどころか、大体はダイマックスを引きずり出すことすらできず完敗する。他の大会で当たるマイナージムリーダーにも大きく負け越している。特にゴーストタイプ専門のオニオンと氷タイプ専門のメロンには、メジャージムリーダーだった実績もあり実力も頭一つ抜けていて、散々に負かされている。

 

「んふふ、謙遜しなくていいんだぞォ? いや、これは本気でそう思ってるかなァ?」

 

 どちらにせよ、と、ステージ上の彼女とはおよそ重ならない低い声で小さく呟く。

 

「どこかで戦えるの、楽しみにしてるよ?」

 

 そして、真逆の猫なで声でアイドルの顔になって、ファンだったら垂涎のウインクを飛ばしてきた。

 

(やっぱポケモントレーナーってなんか変だな……)

 

 食事のはずなのに、やたらと疲れてしまった。

 

「そういうわけで、お近づきのしるしに、スピカちゃんにプレゼントー!」

 

 そんなスピカに構わず、クララはズズイとスピカの手に何かを押し付ける。

 

「これは、リーグカードですか」

 

 リーグに認められたトレーナーはある種「芸能人」に近い扱いで、このようにそのトレーナーの写真とプロフィールの入った特別なカードが作られ、一般に公開・販売される。ジムリーダーのような役職持ちはもちろん、ジムチャレンジャーもその年限定で少数ながら作られている。オリヒメはアイドルトレーナーとして活動するために、去年のチャレンジが終わった後に正式にトレーナー登録して、常時販売されている状態だ。ルリナに勝った後ギャラドスに抱き着く瞬間の写真が採用されているレアカードはかなりの高額で取引されているとのことである。

 

 スピカが渡されたのはクララのリーグカードだ。あいにくながらレアではなく、キツい加工を入れたせいで背後のヤドランが歪んでいる面白写真ノーマルカードだった。ジムリーダーなだけあってたくさん販売されているので、金額はさほどではない。本人から渡されたものという付加価値はあるだろうが。

 

「そういえば、スピカちゃんはリーグカード持ってないのォ?」

 

「多分、作られてないんじゃないですかね」

 

「そんなわけないでしょ、ほら」

 

 オリヒメが呆れながらカードを見せてくる。先ほどの通り、ジムチャレンジャーはその年限りだが全員作られるのだ。スピカのものもある。

 

 オリヒメが見せてきたのは、オリヒメ特注の特殊仕様のチャレンジャーユニフォームに身を包んだ、死んだ目で棒立ちのスピカの写真を使った、全員に作られる初期リーグカードだ。

 

「ぷぷっ、スピカちゃんも女の子だから、もっと決めポーズとかするといいぞォ」

 

「そんな、似合わないですよ」

 

 写真を撮ると言われていたが、まさかこういうことに使われているとは。スピカは、てっきり希望者のだけ作られていると思っていた。ちなみにオリヒメのリーグカードは、ノーマル・レアともに本人から受け取っている。ルリナから頂いたレアリーグカードは宝物で、額縁に入れて飾ってある。キバナから押し付けられたレアリーグカードはネットオークションに流して中々のお小遣いになったのは余談だ。

 

 リーグカード交換はトレーナー同士の一種の文化だ。持ち合わせてなかったスピカの代わりに、オリヒメが見せたものをそのままクララに渡す。

 

「ふんふんふん、まあ初期カードだからこんなもんだねえ」

 

 渡されたクララが確かめたのは、その裏面。そのトレーナーの紹介文が書いてある。

 

 

 

 

 今年初参加のチャレンジャー。

 

 バウトレーナーズスクール普通科を卒業後、バウ産業大学に進学。

 

 先日行われたバウタウン・ビギナートレーナーズトーナメントにて準優勝。そのバトルでジムリーダー・ルリナに認められ推薦された。

 

 

 

 

 

 開会式直後に作られたもので、まだヤローに初めて挑んだ時の惨敗すらなかったころだ。たった半年前のことだが、今は随分と変わったものだ。

 

 ちなみに、参加二回目のオリヒメは、もう少し長いプロフィールが書いてある。

 

 

 

 

 

 バウトレーナーズスクール・高等部・トレーナー学科に在学。

 

 今年二回目の参加。去年は一度目にしてバッジを二つ獲得した。

 

 アイドル的トレーナーとして活動しており、そのルックスと華やかさが人気。

 

「今度は試合で勝利して、みんなを興奮させちゃう!」と意気込んでいる。

 

 

 

 

 

「それと、これもプレゼントしちゃうゾ!」

 

 そうしてリーグカードについてあれこれ言っていると、クララがさらにスピカに何かを押し付けてきた。

 

「これは……CD?」

 

 ショッキングピンクと紫と白のゴテゴテとした絵柄のジャケットだ。そこには燃え盛るような文字で「クララにクラクラァ」と書かれている。

 

 かつてインディーズアイドルをしていたころにもCDを出したが八枚しか売れず、こうしてジムリーダーになった後にリニューアルして再販したのだ。ネームバリューもあって今回は売れ行きも好調で、週間オリコンチャート一位も獲得した。

 

 クララ本人から渡されたCD。ファンならば喜んで卒倒するかもしれない。

 

 だが、スピカは、それを突き返した。

 

 

 

 

 

 

「いえ、これは結構です」

 

「――は?」

 

 

 

 

 

 

 瞬間、場の空気が冷え込んだ。

 

 オリヒメが即座に謝ろうとするが、クララの放つ本気の怒気に足がすくんで動けない。部屋の隅で大人しくしていた一人の取材陣も、本来ならスクープチャンスの場面なのに、固まってしまっている。

 

「どういうことォ? このクララちゃん直々に渡したCDをいらないって?」

 

 猫なで声が震え、その語尾は低く唸るようになっている。口の端はひくつき、こめかみには血管が浮かび、目元には影が落ちていた。

 

 そしてその瞬間、スピカは自分の失策を悟った。

 

 何か、「勘違い」をさせてしまったらしい。

 

「あ、あー、と、いえ、そういう話じゃなくて」

 

 スピカはガサゴソと慌ててバッグを漁り、取り出した中身を見せる。なんとなく使うかと思って持ってきておいて正解だった。

 

「私、もうその曲のCD持ってるんですよ」

 

 スピカが取り出して見せたのは、同じ「クララにクラクラァ」のCDジャケットだ。ただしそのデザインは、今のものに比べたらどうにも安っぽくそのくせゴテゴテとして悪趣味である。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「そ、それは!?!?!?!?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 瞬間、店員がすっ飛んできて出禁にされそうな声量で、クララが叫んだ。

 

 スピカから奪い取り、最近老眼気味だからか目をゆがめてしっかりと確かめる。

 

「『クララにクラクラァ』の初版じゃんんん!?」

 

 クララのこの言葉に驚いたのは、クララの関係者だけだった。スピカはもちろん、アイドル関連の情報収集を欠かさないオリヒメや、取材陣もぽかんとしている。

 

「それは、インディーズ時代のクララさんが出して、ほとんど売れなかったあの!?」

 

「後半は余計ィ!」

 

 マネージャーを足蹴にしながら、クララがスピカに向き直る。

 

「こ、これをどこで!?」

 

「どこって、ライブ会場で……」

 

「前一緒にやった時、オリヒメちゃんについてきてたり!?」

 

「そんな感じです」

 

 何が起きたのか分かってないスピカは、クララに至近距離で問い詰められて、キツイ化粧と香水の匂いにクラクラァしながら答える。

 

 地下ライブの前座だろうと、初ライブは初ライブだ。オリヒメの活躍を見に、重い腰を上げてついていったのだ。その狭いライブハウスの空気と雰囲気と音響は酷く頭痛がしたが、緊張していながらもいつも以上のコンディションで歌えたオリヒメの姿を見れて満足した。その時機嫌が良かったので、「まあ今後付き合いもあるか」と軽い気持ちで、物販に並んでた、質のわりにクソ高くて仕方ないCDを適当に見繕って買っていたのだ。その中に、クララのものもあったのである。

 

「そ、そのCD、すっごい頑張って収録して、お金と時間かけてたくさん作ったのに八枚しか売れなくて……余ったのは全部邪魔だし気分悪いから処分して、わたしの手元にすら残って無くてっ……!」

 

「は、はあ」

 

 まだ収入ほぼ無しの地下アイドル未満が意気込んで自費でCD作って八枚しか売れなかった。かなり悲惨だ。その挫折感は、アイドル活動しているオリヒメを見てきたこともあり、かなりのものだと想像できてしまう。だがそれはそれとして、いきなり涙をぼろぼろ流し出したクララの勢いにドン引きしてしまい、それどころではない。涙と興奮の汗で化粧が崩れて、「鬼雨」もびっくりの恐ろし気な化け女が誕生してしまっていた。

 

「ありがとおおお! それ買ってくれた人に会うの初めてだよおおお!!!」

 

 きっと熱心かつ運のよいファンは必死に大枚叩いて買っただろうが、「あの時」に買ったわけではないだろう。クララが無名も無名だったころに買った、いわば「伝説の八人」だ。しかもそれを今も持ち続けている。

 

「八枚、ですか……」

 

 いまひとつ現実感のないスピカは、ぼんやりとそんなことを呟く。

 

 この後クララは心の底から感激し、スピカとオリヒメにレアリーグカードのみならず、数量限定のスーパーレアリーグカード――リーグカードチップスという阿漕な商売に付属する本体(オマケ)の最高レア――までくれた。さらに気分が良いからとこの場の料金を全額奢ってくれた。なんならかなり多めにチップまで出したので、迷惑そうだった店側も一転ニコニコ笑顔であった。

 

 

 

「今の、絶対記事にはするなよォ?」

 

「ひゃ、ひゃい!」

 

 

「鬼雨」を恐れなかった取材陣も、さすがに現役ジムリーダーの本気の脅しには屈してしまった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

○○○○○○○

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「八枚、かあ」

 

 取材付きの仕事を終え家に着いたスピカは、スーツを脱いでしっかりメンテナンス――当初は脱ぎ捨ててそのまま着まわしていたがオリヒメに烈火のごとく怒られたのでやっている――しながら、ぼんやりとクララとのやり取りを思い出す。

 

  マイナーリーガーとはいえジムリーダーが全くの無名だったころに出して世に八枚しか残っていない初版CD。見る人が見れば、プレミア間違いなしだ。

 

 メンテナンスの片手間にスマホロトムに検索を頼む。

 

 ネットオークション、フリマサイト、マニア向けの取引サイトや個人ブログ。どこにも流れていない。

 

 ほんの一部に見つかるが、もう売り切れになっている。

 

 その金額を見たスピカは、思わずオークションサイトにアクセスし、出品画面を開いて…………

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「いや、さすがに毒殺されそうな気がするからやめた」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 …………未来の命のために、金の誘惑に屈してクラクラァしそうだった自分を、なんとか押しとどめた。




このゲームのこのモードの原作主人公手持ち(クリア後)は、
御三家どれか
ムゲンダイナ
ザシアンザマゼンタどっちか
ウーラオスどっちか
バドレックスどっちか
レジエレキ・レジドラゴ・ガラル三鳥のどれか
の6匹。なんやこの厨パぁ!?

これにて一旦おまけも最終回となります。ここまで読んでくださりありがとうございました。

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