死んだ筈の戦友が戦術人形になって帰って来たんだが? (SUPER64)
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登場人物紹介

今作で主に登場するキャラ達の設定、と言うか簡単な説明です。今後新たにキャラが増えたり設定を色々と付け加える可能性あり。

読者からオリジナル戦術人形を纏めて欲しいと言う要望があったので1番下に裏話と一緒に追加しました。


サヴェージチーム

 

・マイケル・ウォーレス

本作の主人公の1人。親友のケネスを失ったことにより病んでいたがケネスが戦術人形として戻って来たことにより落ち着きを取り戻した。が、目の前でケネスを失ったのが若干トラウマになっており戦闘時以外でもケネスのことを気にかけている。乗り物系統が好きで知識も豊富でバイクから大型トラック、飛行機まで色んな乗り物を運転したりすることが出来き、自分の愛車のフィアット126は900cc、120馬力を発揮する大型バイクのエンジンを乗せてパワーアップさせ、初心者では扱えないじゃじゃ馬に作り替えている。使用する武器はM16A4。サブウェポンにはP320の9ミリ弾を使用するコンパクトモデルを装備。

 

・ケネス・サクソン/M27 IAR

 

 

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本作のもう1人の主人公。一度は任務中に敵に撃たれてしまい死んでしまうが不思議な事に戦術人形へ生まれ変わってしまう。最初こそ新しい身体に戸惑っていたが直ぐに慣れてしまった。だが自分が女であると言う意識が低いせいで無防備な姿を主にマイケルに見せてしまうことがありマイケルを困らせている。戦闘面では戦術人形になった事により人間の頃より強くなり中距離の狙撃からCQBまでオールラウンダーに闘うことが出来る。ケネスのことを知らない人にはアンジェと言う適当に決めた偽名を使っている。因みに、上のイメージイラストで上に羽織っている黒色のジャケットはケネスが男の頃に愛用していたジャケットにデザインが似ていた物をマイクに買ってもらった物で、彼女の髪がボサボサなのはケネスが手入れをめんどくさがって怠っている結果である。メインウェポンはM27 IARでサイドアームはM45A1。

 

・アラン・カッチャー

個性豊かなサヴェージチームを纏める隊長。実力もあり皆からの信頼も厚く頼りになる男。戦術人形のチーム「レイヴン」の指揮を担当する事もある。主に使用する武器はメインがSCAR-LでサイドアームはベレッタM92A1。

 

・ヘイル・フォスター

己の鍛え上げられた筋肉が自慢の黒人。その筋肉は飾りでは無く彼の好みでもあるデカくてゴツい銃火器を取り扱う事を可能にしている。その筋力から重い荷物などを運ぶ時は大体彼に任せられることが多い。主に使用する武器はPKM。サブウェポンとしてトーラス レイジングブルを持っている。

 

・ソン・ヤン

中国出身でメンバーの中で1番身長が低い(168センチ)と言うことをよく弄られるが近接戦闘が得意でかなり強い。同じ国出身の05と仲が良く一緒に彼女の好物の激辛麻婆豆腐を食べたりしている。主に使用する武器はM4A1。サブウェポンにはQSZ-92を使っている。

 

・スコット・ベイマー

様々な性癖を網羅しているまごう事なき変態。戦術人形チームのメンバーのことも良くない目で見ている。だがやる時ややるタイプの男でアランや他メンバーも戦闘の腕は認めている。主に使用する武器はSG556。サブウェポンにUSPのフルサイズの9ミリモデルを持っている。

 

レイヴンチーム

 

・QCW-05

 

 

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中国が開発したブルパップ式の消音サブマシンガンを使用する戦術人形。一人称が「ボク」で中性的な顔立ちと喋り方から顔だけを見れば青年に見えなくもないが身体の方は女性らしいボンキュッボンなスタイルなので男と間違えられることは無い。同じアジア出身のヤンとK2の2人とは特に仲が良い。常にニッコリと笑顔を浮かべているがその裏では何か企んではいるんじゃないかと噂されている。使用する武器の特性を生かした暗殺や近接戦闘が得意。彼女の着ているチャイナドレスは首の根本から肩にかけて大きく開いているデザインなのでそこから脇や横乳などが見えており基地の男達からはお色気枠の脇担当。又は横乳担当と密かに呼ばれていたりする。

 

・K2

明るく活発で誰にでも優しいレイヴンチームの隊長。人間、戦術人形関係なく世話を焼きたいと思っているお姉ちゃん気質な戦術人形。露出度の高い際どい格好をしていることから密かに男どもからはQCW-05やM1014と共にお色気枠として数えられており、胸やお臍の露出が多いことからお色気枠の胸担当やお臍担当と男達から呼ばれていたりする。

 

・VHS

服装から陽キャだと思われることがしばしばあるがそんなことは無くどっちかと言うとインテリで、1人の時は読書をしたり知恵の輪やルービックキューブで遊んでいることが多く、人と話すことは少ないが、無口と言う訳ではない。人好き合いが少し苦手で良く話しかけて来るマイクやスコット、お節介を焼こうとするK2などを面倒だと思っている。

 

 

・M14

誰にでも可愛らしい笑顔を振り撒き褒めると素直に喜ぶ姿からまるでワンコの様だと言われているチームのマスコット枠。人間、人形関係なく皆から可愛がられており中距離での狙撃を得意としておりチームのマークスマンとして活躍している。また、中距離での狙撃を得意とする彼女だがなんとスコープは使用せずにアイアンサイトで狙っている。本人曰く「こっちの方がしっくり来るし狙い易い」とのこと。

 

基地に来たばかりの頃は誰に対しても他人行儀で言われたことだけをこなす正に人形の様な感じだったがある日アランから自分を囮に使ったり捨て身の戦法で闘ったりすることを問い詰められその後から戦い方を改め、アラン、ケネス、マイクが面倒をよく見たこともあり徐々に仲間達と打ち解けて行き今の性格になった。

 

・M1014

セミオートショットガンを使用するオッドアイが特徴的な戦術人形。臆病、と言うか心配性で日常生活でも戦闘中でも必要以上に警戒することがある。ショットガンと言う近距離戦に特化した銃を使うと言う特性上、近距離戦の任務以外で出撃することがあまりなくそのせいで他の戦術人形達よりも出番が少なくなり、そのことを少し不満に思っている。高所恐怖症で余りにも高過ぎる場所の場合失神してしまうこともある。下半身の露出度の高い服装によりムチムチな太ももを曝け出していることから男達からの人気が高くお色気枠の1人として数えられており、お色気枠の下半身担当などと呼ばれたりしているが本人はそれに気が付いていない。

 


 

・多分本編では使われることのないオリジナル戦術人形の裏設定や裏話。

 

M27 IAR

 

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QCW-05

 

【挿絵表示】

 

 

実は初期案ではM27 IARではなくQCW-05をケネスにしようと考えておりM27 IARと言う名のオリジナル戦術人形は登場しない予定でした。ですが完成したQCW-05のイメージイラストを見ていて何か自分の考えているケネスってキャラには合わないか?と思い今のM27 IARがケネスになることに決定。QCW-05は仲間の戦術人形の1人と言う設定にして登場させました。

 

そして実はM27 IARとQCW-05の身長とスリーサイズも一応考えていてM27 IARは身長168cmでスリーサイズはB84 (Eカップ)W57 H83 でQCW-05の方は身長164センチでB86(Fカップ) W56 H85と言うことになっています。つまり胸の大きさで言えばQCW-05の方が大きい。そんなスタイルであんな露出度の高いチャイナドレス着ているんですからけしからんですよね。



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第1話 死んだ筈の戦友が戦術人形になって帰って来たんだが?

よくTS系にある男が女になって男友達が女になった友達にドギマギするって言うストーリーが好きなので書きました。


テセウスの船と言う言葉を知っているだろうか。実を言うと俺もこの言葉の語源となった話は詳しくは知らないんだが、例えばとある車があってその車のパーツ全てを新しいパーツに置き換えた場合、それは同じ車だと言えるのか否かと言う哲学の話だ。この話自体は昔からなんとなく知っていたがまさか俺自身がこの問題について考えさせられる事になるなんて思っていなかった。

 


 

俺の名前はマイケル・ウォーレス。ウェスタン・アーミーって言う名前のPMC、民間軍事会社に所属している何処にでもいる様な普通の男だ。今日は久しぶりの休日だったので街を酒を飲んだりして家でゆっくりして時間を過ごしていた。更に嬉しいことにこの休みは明日まである。PMCと言うブラックな職場で連休を貰えることは結構珍しいことなのでこれはとても嬉しい。

 

明日は何をしようか。久しく乗っていない俺の愛車に乗ってドライブするのも良いかも知れねぇな。ソファに座ってスマホを弄りながらそんなことを考えているとブーー!っと俺の家のチャイムが鳴った。が、今の時間は夜の12時過ぎ。普通こんな真夜中に家のチャイムを鳴らす奴は居ない。俺の住んでいるこの街の治安の悪さを考慮に入れて考えるにこの時間帯に来る奴の6割は人の家の金目の物を奪い取る為に来たクソ野郎どもだ。

 

俺は護身用にと用意しているスタームルガーのLCRxと言う名前の小型リボルバーを机の引き出しから取り出しシリンダーを横にスリングアウトさせて357マグナム弾がちゃんと装填されているのを確認して元に戻す。そしていつでも直ぐに撃てる様にハンマーを起こしておき、LCRXを左手に持つ。

 

ドアの前に立ちドアスコープで誰かを確認してみると意外なことにドアの前に立っていたのはどう見てもサイズが合っていない黒色のパーカーを着た少女だった。真っ白な髪と赤色の目が特徴的な少女で見た目的に年齢は多く見積もっても20歳程だろうか。にしても相手が女って言うのは少し予想外だった。こう言う場合の相手は男の場合が多いからな。

 

それにあの女の髪の色も気になる。歳行った老人とかなら分からなくもないが若い女性なのに髪が全部白色ってのは普通あり得ない。染めている可能性も無くはないが髪を白色に染める奴もそう居ない。だが相手が若い女だろうが髪が白かろうが油断して良い訳じゃない。相手が誰だろうが平等に容赦しない。相手に警戒されない様に何気ない感じを装って俺はドアの向こうの奴に向かって話しかけながらドアを右手で少しだけ開ける。

 

「こんな時間に何だよ。今何時か分かってんのか?」

 

少しだけ開けたドアの隙間から顔を出して俺は女と対面する。顔を確認してみるがやっぱり知り合いとかじゃない。知らない奴だ。因みに左手に持ったLCRxはドア越しに構えて女を狙っている。もし女が変な動きをしたらドア越しに撃つ。

 

「悪いな。この街に到着したのが9時過ぎでここに来るのにも時間がかかったもんでな」

 

ポケットから拳銃を出して金を出す様に脅迫したりするのかと思っていたんだが予想外な事に女はまるで友人に話すかの様な口調でそう俺に言って来た。

 

「誰だ?」

 

「・・・今からとんでもない事を言うけど怒ったりして撃たないでくれよ?」

 

「内容によるな」

 

コイツ俺が銃を構えているのに気づいているのか?まぁどっちにしてもこの状況だとこっちがある程度は有利だ。相手は武器は持っておらずこっちはリボルバーをいつでもシングルアクションを通用が出来ている。だがお互いの距離が近過ぎる。もし相手が近接格闘の上手い奴なら俺が負けてしまう可能性も多いにある。

 

「ケネス・サクソンって奴を知ってるだろ?」

 

俺はその名前を聞いた瞬間、この女への警戒度を一気に上げた。ケネスサクソン。俺の戦友であり親友だった男。丁度半年前に俺の目の前で敵に撃たれて死んじまった奴だ。そんな男の名前を出して来たこの女は何者だ?

 

 

「何処でその名前を知ったかは知らないがそっから先の発言には気をつけろよ。もしケネスを馬鹿にする様な事や侮辱する様な事を言ったら問答無用で殺すからな」

 

「分かった。でも今から話すことは別にアンタを馬鹿にしているつもりはないからキレないでくれよ」

 

そう言って女は一旦間を開けると真剣な表情で俺の目を見ながらゆっくりと話し始めた。

 

「オレは・・いや、オレがケネス・サクソンだ」

 

「は?」

 

今コイツは何て言った?俺の耳が度重なる銃声で遂におかしくなったんじゃなければ今のコイツはオレがケネスだとかほざかなかったか?いきなり何を言っているんだよコイツは。

 

「お前な、相手を騙したいならもっと調べてからにしろよ。ケネスは女じゃねぇ。男だ」

 

「そうなんだよな。男の筈なんだけどな。でも気がついたら女になってたんだ。信じられないだろうけどな」

 

確かに喋り方は相棒(ケネス)に似ている。だが似ているのはそれだけだ。年齢も容姿も性別も全部がケネスとは違い過ぎている。だがケネスと名乗るこの女の表情は真剣そのもので俺を騙そうとしている様には見えない。もしこの女が相手を騙すことのプロなら俺に嘘を悟られずに騙そうとしてくることもあるがもし本当に俺を騙そうとしているならもっと現実的な俺が信じ易い話をして来る筈だ。コイツが言っていることは余りにも荒唐無稽だ。

 

「全くだ。誰がそんなファンタジーな話信じると思ってんだ?まだガキの方がマシな嘘つくぞ。しかもケネスは半年前に死んでる。俺はこの目でアイツが撃たれて死ぬのを見た。誰がどう見てもアレは完全に死んでいた」

 

「知ってるよ。敵側のPMCの隊員に撃たれて腹に何発か食らって更に首にも食らった。多分大動脈に当たってたんだろうなアレは。首に当たったのが致命傷で大量の血と血のあぶくを吐きながらまともに遺言を残すことも出来ずに死んだよな」

 

「・・・・何でそれを知ってんだよ」

 

相棒の死に際の様子を知っているのは俺の仲間達だけだ。勿論その仲間達の中にこの女は居ないしアイツらがこの話をこんな怪しい奴に話すとも考えられない。本当にコイツは何者なんだ?LCRxを握る左手に力が入る。俺の戦友であり親友であり大切な相棒でもあるケネスを名乗るこの女にムカついて来た。その名前はお前なんかが気軽に名乗って良い名前じゃねぇんだぞ。

 

「何者か知らないが死にたくなかったらそれ以上変な事を言わずに消えろ。2度とその名前で名乗るな」

 

俺は普段より低い声でそう言った。別に相手を怖がらせようとわざとこんな低い声を出した訳じゃ無いが、怒りで自然とこの低い声が出ていた。だがこの女は怖気づいたりせずに話し続けた。

 

「そう言われてもオレは本当の事しか言ってないんだけどな」

 

「・・・分かった。それじゃ本当にお前がケネスかどうか確かめさせてくれ」

 

「OK。何をすれば良い?」

 

「ケネス本人しか知らない様なことを何でもいいから話してみろ」

 

「そうだな・・・・お前の愛車はまだフィアットの126か?」

 

「あぁそうだ。だけどそれだけじゃ証拠にはならないぞ。先に止めてある車を見て来た可能性もあるんだからな」

 

「そのフィアット、元は700ccの50馬力エンジンだったのをもっとパワーが欲しいからって900ccで120馬力のバイクのエンジンを乗せてバック用のエンジンを車に乗せる為にクラッチ、ミッション、バックギアとかを強化したり新しく作ったりしたよな。結局改造し終えるまでに1年ぐらい掛からなかったっけ?」

 

マジかよ。今コイツが話したことは全部合っている。俺は旧車のフィアット126に乗っていてもっとパワーが欲しいと思ってエンジンを大型バイクのエンジンに交換した。彼女の言う通り改造するのに時間はかかったが何とか完成した。

 

「んで、後部座席を取っ払ったりして軽量化したりして車重は600キロ以下になったのにエンジンは120馬力も出るもんだから改造し終わったフィアットはじゃじゃ馬になってたよな」

 

この話も彼女の言う通りだ。改造フィアットは軽呂ボディーに高馬力のエンジンをぶち込んだ結果アクセルを少し踏んだだけでとんでもない加速をするモンスターマシンに生まれ変わった。だがパワーがあり過ぎて素人には運転することが出来ない車になった。俺も何度制御出来ずに事故ったことか。

 

「・・・確かに今お前の話た内容は全部合ってた。だが車の話を聞いただけじゃまだ判断しかねる」

 

 

「オレがお前を呼ぶ時はマイケルじゃなくてマイクって読んでいる。お前がよく吸うタバコの銘柄はジタンとラッキーストライク。酒はバーボンをよく飲むよな。腹にはナイフで切られた痕があったよな。たしか任務の時に角待ちされていた奴に襲われてその時の傷だったけ?」

 

おいおい今言ったのも全部合っているぞ。まさか本当にこの女はケネスなのか?いや、だがケネスとは容赦が余りにも違い過ぎる。やっぱり信じられない。なら引っ掛けの発問をしてみるか。

 

「俺には彼女が居たがその彼女の名前を言え」

 

「いや、お前彼女なんか居なかっただろ。あーそう言えば巨乳の安産体型の美人な彼女が欲しいとか言ってたよな。その様子だとまだ理想の彼女はゲット出来ていないみたいだけどな」

 

引っ掛けの問題にも正確してしかも俺の好みのタイプの女まで当てやがった。

 

「俺とケネスが初めて出会った場所は?」

 

「ウェスタン・アーミー社のブリーフィングルーム。オレが入社して全員の前で挨拶をし終えた後にお前の方から話しかけて来たよな」

 

「ケネスの所属していたチームの名前とそのメンバーの名前は?」

 

「チーム名はサヴェージ(Savage)。メンバーは隊長がアラン・カッチャーで、筋肉バカの黒人ヘイル・フォスター、アジア人でメンバーの中で1番身長が低いソン・ヤン、変態だが腕は確かなスコット・ベイマー、そしてお前、マイケル・ウォーレスとオレだ」

 

到底信じられないがここまで全部コイツが言っていることは本当だ。メンバーの名前も間違っていない。なら、最後にこの質問をしよう。これこそケネスしか知らない話だ。

 

「・・・・ケネスが死ぬ直前、俺はケネスに何て言った?」

 

「あの時はオレも意識が朦朧としていて全部覚えている訳じゃないけど一部なら覚えている。大丈夫。大丈夫だ。弾は掠っただけだ。こんくらい擦り傷だ。だから死ぬな。しっかりしろ。とか色々言ってたよな。最後まで必死になってオレを助けようとしてくれてありがとうな。正直嬉しかったよ」

 

まだ完全にこの状況を理解出来た訳じゃないしコイツの話していることを信じられてはいない。だがこうして色々な質問に正解されるともう信じるしかないだろ。どう言う訳か分からないがオレの相棒が女になって帰って来やがった。

 

「・・・・どう言うことなのか説明してもらえるんだろうな?相棒」

 

俺はそう言うとずっと構えていたLCRxを下ろしてドアを開け、相棒を部屋の中に招き入れた。

 


 

「はぁ⁉︎それマジで言ってんのか?」

 

「マジもマジ。大マジだ」

 

家の中に招き入れた俺はソファーに座ったケネスから敵に撃たれてからの出来事を聞いて驚きの声を上げた。その内容は想像以上にぶっ飛んだ内容だったからだ。ケネスによると撃たれて死んだ後、見知らぬ部屋で目が覚めたらしい。そしてそこで自分が女になっているのに気がついたらしい。本人も相当驚いたそうだ。そりゃそうだよな。目が覚めたら自分が女になってたんだから。

 

だが驚くにはまだ早い。本当に驚くのはこれからだ。ケネスは何がどうなっているのか調べた結果、今自分が居るのがI廃棄されたI.O.Pの研究施設で何と自分が戦術人形になっていたんだそうだ。ケネスが女になったってだけでも信じられねぇのに戦術人形になっただと?設定盛りすぎだろ。だが余りにも荒唐無稽であり得ない話だからこそこの話は嘘じゃないと思えた。

 

「確かに人形は人間とそっくりだが・・・本当にお前戦術人形になっちまったのか?」

 

試しにケネスの腕を握ってみるがちゃんと人間の肌の感触があるし暖かさもあった。今目の前にいるのが戦術人形とは思えなかったが特徴的な赤い瞳と白色の髪も戦術人形だからとすれば合点がいく。

 

「あぁ。今のオレは戦術人形だ」

 

「う〜〜ん・・・見た感じはただの美少女だけどな」

 

整った顔立ちにサイズの合っていない服越しにでも分かるスタイルの良い身体。今のケネスの姿は正に美少女だ。

 

「それは褒めてんのか?」

 

「率直な感想だ」

 

「まぁ確かに美人だなとは自分でも思うよ。まぁそのせいで気持ち悪く思うんだけどな」

 

「ん?どう言うことだ?」

 

俺なら美少女になれたとなると歓喜、とまでは行かなくても結構嬉しく思うと思うんだけどな。いやまぁ実際に女になるかと聞かれたらならないと答えるだろうけど。

 

「こう・・・上手く説明出来ねぇんだけど・・・・この女の身体に慣れてないせいで凄い違和感みたいなのがあるんだよ。この声もそうだけど男の頃と違い過ぎて自分の身体じゃないみたいな感じがするんだ」

 

「なるほどなぁ。で?目が覚めた後はどうしたんだ?」

 

「自分が寝ていたベッドの横にあった端末で色々調べて自分が戦術人形だって知った時はめっちゃ驚いたよ。信じられずに同じ文章を10回くらいは読み返したな。その次に驚いたのは俺が死んでから半年も過ぎていたことだな。で、何とか落ち着いた後に装備を取りに行くことにしたんだ」

 

「装備?」

 

「ほら、戦術人形って決まった武器とか装備品を使うだろ?」

 

「あーなるほどな。そう言えば戦術人形としてのお前の名前は何て言うんだ?」

 

戦術人形の名前は全部使用する武器名から付けるのが主だからな。今のケネスの戦術人形としての名前を知れば同時に使用する武器も分かる。

 

「M27 IAR」

 

「知らない名前だな」

 

「まぁあんまり有名な銃じゃないよな。オレもこの姿になってから初めて知った。アメリカで開発された分隊支援火器だそうだ」

 

ケネスは立ち上がるとソファーの横に置いていた大きめのリュックを開けて中からHK416にそっくりな銃を取り出して机の上に置いた。

 

「これがM27 IAR?HK416にしか見えないんだが?」

 

「そりゃそうだろうよ。HK416に16.5インチのヘビーバレルを付けただけなんだからな」

 

「もうそれHK416だろ」

 

「それはオレも思ったが言うな。まぁ兎に角、銃や服、装備品を手に入れたりして準備を終わらせて、取り敢えず人のいる街を探して荒地をひたすら歩いた。そっからここに辿り着くまでに4日かかったけどな。まぁ早かった方だろ。途中何も飲まず食べずに動き続けたせいで死にかけたり賊に襲われたり色々あったな」

 

「よくぞまぁここまで辿り着けたな」

 

「本当だよ。あ、そうだ、風呂に入りたいんだが良いか?」

 

「風呂?」

 

「ほら、何だかんだでオレ4日間まともに体を洗えていないからさ」

 

「あ~そうか。どうぞご勝手に」

 

と俺はいつものノリで答えてしまったが直後に俺は重大な事を思い出した。そう言えば今のケネスは女じゃん。

 

「そう言えば着替えはどうするんだ?」

 

「あー考えて無かったな」

 

ケネスは今は女性だ。昔だったら俺の服とかを適当に貸していたが今のアイツにはそもそも服のサイズが合わないだろう。

 

「まぁ良いや。お前の服貸してくれよ」

 

「適当だなオイ。まぁ良い。適当に用意しておく」

 

「ありがとよ。じゃ、オレは風呂に入らせてもらうよ」

 

そう言ってケネスは風呂場へと歩いて行き、何故か途中で止まると俺の方を振り返って来た。

 

「覗くなよ」

 

「お前の裸なんか見ても嬉しくねぇっての。さっさと体洗って来い」

 

しっしっと言った感じであっちに行けとジェスチャーをしながら言うとケネスは「へーい」と言いながら風呂場に行った。それを見届けた俺はソファーにドスンと勢い良く座り込んだ。

 

「はぁ〜なんか無駄に疲れた」

 

壁に掛けている時計を見てみると現在時刻は1時15分。思ったより時間が経過していた。この短時間の間に色んなことが起き過ぎた。突然俺の家に女がやって来たかと思えばそれはケネスがで、しかも戦術人形になったとか話して来る。話の一つ一つが突飛でありえなさ過ぎる。

 

だが、今まで話した感じだと見た目こそ違えど口調や仕草、雰囲気などはケネスと同じものを感じた。あり得ないファンタジーな話だが俺はあいつの話を信じることにする。

 

もし偽物だった時は・・・いや、相棒を疑うなんてことはやめよう。

 


 

服を脱ぎ捨てたオレは浴室の中に入った。この体で目覚めて初めてのまともな風呂だ。目の前にある大きな鏡で自分の姿を見てみる。腰辺りまで伸びている白髪に赤色の瞳。モデルみたいな体型に整った顔立ち。今のオレの姿は誰もが美少女と認めるだろう。少しの間オレは鏡に映る自分の姿をぼーっと見て、溜め息を吐いた。自分の姿を見て美少女だと思ってしまい、更に自分の姿に若干見惚れてしまっている自分が悲しい。あまり体のことを意識しないようにしてオレはシャワーのハンドルを回した。シャワーノズルから適温のお湯が出て来て体に沿ってタイルの床に滴り落ちて行く。

 

男の時の感覚でシャンプーで髪を洗おうとして手が止まった。そう言えば女の髪なんて洗ったことがないが普通に洗って良いんだろうか?まぁ他にやり方知らないしいつものように洗うか。それに男だろうと女だろうと髪は髪だ。そう考えたオレは男の時と同じ様にごしごしと白髪の髪を洗って行く。

 

「・・・これ面倒くさいな」

 

この長い髪、見た目は綺麗で良いんだが洗う時はなかなか面倒だ。オレは長い髪を洗いながら今日のことを思い返した。本当に一か八かの賭けだった。普通見知らぬ女が「オレはケネスだ!」とか言っても何言ってんだコイツ?と思われるだけだろう。オレだって逆の立場だったら同じ反応をしてその女を無視するか精神病院とかにぶち込んでいただろう。だからマイクがオレの話を信じてくれるとはあまり思っていなかった。諦め半分、期待半分でマイクに話していたからマイクが信じてくれた時は表情には出さなかったがとても嬉しかったし安心した。

 

ま、まだあいつはオレが本当にケネスなのかどうか疑っているところだろうな。恐らく今は今後のオレの対応をどうするか悩んでいたりしているんだろう。今のオレにはオレが本当にケネスだって言うことを証明出来るものが自分の記憶以外何も無い。だからオレは相棒に信じてもらえる様に今までと同じ様に接しよう。

 


 

浴室から聞こえて来るシャワーの音が聞こえて来る。ケネスの着替えの服を用意して浴室の前の洗面所に置きに来た俺は一瞬動きを止めて半透明のドアの向こう側で動く人影を見ていた。この向こう側には一糸纏わぬ姿の美少女がいる・・・中身が相棒だと分かってはいるがそう考えると柄にもなくドキッとしてしまう。あ、言っておくが俺はホモとかじゃないからな?それによくよく思えば女を俺の家に上がらせたのは今回が初だったな。初の女が女になったケネスになるとは想像だにしていなかった。と言うか想定外だ。

 

だが幾ら相手が美少女でも中身は俺の親友であり戦友であり相棒のケネスだ。確かに今俺は変な想像とかをしてしまったが相棒には手を出さないし出す気もない。姿は変わっても相棒は相棒なんだからな。まだ俺はあいつがケネスだとは信じ切れていないが俺は昔から相棒を信じて来た。だから俺はあいつ言うことを信じて昔と同じ様に、いつも通りに接しよう。

 

「おいおい・・・」

 

着替えを置置こうとしたが浴室前のドアの下に服が散乱していた。どう見ても奴がさっきまで来ていた服だ。う〜ん、こう言う所は変わって無いな。昔からあいつ片付けとか整理整頓とか出来なかったもんな。洗濯機に相棒が脱ぎ捨てた衣服を突っ込んで行っているとパンツを見つけた。女性用のパンツではあったが期待していた様な物じゃ無かった。別にエロくも無いし可愛らしい見た目って訳でも無い。飾りっ気の無い灰色のスポーツショーツだった。下の方もスカートだったら面白かったんだが残念ながらコイツが履いていたのは半ズボンだ。

 

「ちゃんと脱いだのを入れろよな」

 

と言って脱ぎ捨てていた服達を洗濯機の中に突っ込んだ。すると風呂の方から「あぁ悪い」と言う返事が帰って来た。この何気ないやり取りも久しぶりで俺は懐かしさやら嬉しさやらで涙が出そうになったが堪えた。

 

「着替え置いといたからなー」

 

「おう、ありがとうよ」

 

ケネスに一声かけてから俺はリビングに戻った。ソファーに座ってスマホを弄っていると洗面所の方からこっちに向かって来る足音が聞こえて来た。どうやらケネスが風呂から上がったみたいだけど、意外に早かったな。そう思いながら顔を上げた俺は相棒の姿を見て目を奪われた。

 

風呂から上がって来たケネスの格好は上は白色のTシャツで下はパンツ一丁と言うとんでもない格好だった。そう言えばそうだった。風呂上がりのコイツは昔もよくこんな姿になってたな。男同士の時は特に気にしなかったが見た目が女だとその格好は大問題だ。

 

若干サイズの合っていないTシャツ、そのTシャツを押し上げられて強調される胸、そして若干サイズが合っておらずブカブカなせいで襟から少し見えている胸の谷間や鎖骨・・・何とも言えない色気がそこにはある。これじゃぁまるで彼シャツだ。

 

「って言うかこれっていわゆる彼シャツ的な状況じゃね?」

 

どうやらケネスの方も同じ発想になったらしい。だが相棒の際どい格好にドギマギしている俺とは違いケネス自身は特に深いことは考えずに言った様だ。その証拠にケネスは特に恥ずかしがったりする訳でもなくいつもの様に冷蔵庫を開けて中からミネナルウォーター入ったペットボトルを取り出して一気に飲み干している。その姿を見てみると見られていることに相棒も気がついた。

 

「ん?何だ?コレ飲んじゃダメだったか?」

 

「い、いや、そう言う訳じゃないんだけど・・・何かこうしてお前が俺の家に入って来て風呂に入ったり勝手に冷蔵庫の飲み物を飲んだりしている姿を見てなんか昔を思い出してた」

 

「あーそうか。俺にとってはそうでもないけどお前にとっては半年振りに出会うもんな」

 

「ま、まぁな」

 

咄嗟に嘘を吐いてしまったが今言ったことも嘘では無い。もう一生ケネスに出会いないと思って居たがこうして目の前に居る。姿は違うが言動はケネスのそれだ。自然と男だった時のケネスの姿が浮かんでくる様だ。だがそれはそれとしてやっぱり今の相棒の格好はヤバい。男の悲しい性と言うべきか動く度にチラチラと見える胸元や下の無防備な生足などをチラチラと見てしまう。だが余りジロジロと見られるのはケネスも良い思いはしないだろう。それに今まで通り接しようって心に決めたばかりだろうが。

 

そんなことを考えているとケネスは目の前のソファーに「はぁ〜疲れたぁ」と言いながら座った勿論今の格好で座ろうもんなら俺からはケネスの穿いているパンツが丸見えになってしまう訳で俺は顔ごと視線を晒した。

 

「・・・ふふっw」

 

「?」

 

するとケネスがもう堪え切れないと言った感じで吐き出す様に笑い始めた。俺は何がそんなに可笑しかったのか分からず首を傾げる。

 

「気づいてるぞ。胸とか足をチラチラ見てんの」

 

「すまん」

 

俺は良い訳などはせずに素直に謝った。やっぱり見てたのは気づかれていたか。

 

「別に謝らなくて良いって。そんなに気にしてねぇし」

 

「いや、でもお前女として見られたりするのは嫌なんだろ?」

 

「別に嫌って訳じゃない。それに女扱いされてしまうのは避けては通れない道だ。どんなにオレが嫌がろうと周りはオレを女として見るし扱う。これは仕方ないことだ。それにこんな格好していて注目しない方が男として終わってる。それと、実を言うとお前があたふたしている姿を見て楽しんでたしな」

 

「はぁ⁉︎」

 

「いや〜お前がチラチラ胸とかを見たりしてそれを必死に隠そうとしている姿は面白かったぞ」

 

「おいおい、こっちはお前を傷つけない様にって心配していたんのにお前俺の反応みて楽しんでいたのかよ!」

 

「ほれ」

 

そう言うと相棒は襟を引っ張って谷間を曝け出して来た。更に少し前屈みにしているお陰でその谷間がばっちり見えてしまっている。俺はほぼ反射的に首を別方向に背けた。

 

「ちょ⁉︎お前なぁ!今は自分が女だってこと分かってんのか?」

 

「分かってるからこんなことしてるんだろ?」

 

 

「お前実は女として見られるの気にしてないだろ」

 

「気にしていないって訳じゃないがお前相手だとそんなに気にならないんだよな。と言うかお前動揺過ぎだろw童貞のガキかってんだ」

 

「くっそ!鬼!悪魔!痴女!」

 

「痴女じゃねぇ!」

 

「どー見ても痴女だろうがよ!自分から男に胸を見せる女が痴女じゃなかったら何なんだよ!」

 

「痴女ってのは自分からS◯Xを誘って来る様な奴だろうが!」

 

その後もしょうもないやり取りを俺達はし続けた。再開の祝いとして酒を交わしながら最終的には昔と変わらない様な馬鹿騒ぎをしていた。ケネスと酒を片手に話しながら俺は懐かしさと嬉しさを感じていた。姿性別は変わりはしたがまた相棒とこうやって馬鹿騒ぎすることが出来たのはとても楽しかった




ここまで読んでくださった方々、ありがとうございます。もしこの小説に興味を持って下さったのでしたらまた次回も読みに来てください。

それと、マイクとケネスのそれぞれの一人称についてですが2人とも口調が似ているので区別し易くする為にマイクの一人称は「俺」ケネスの一人称は「オレ」にしています。

描いてもらったオリジナル戦術人形M27 IAR


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詳細なキャラ設定などは後日書こうかなと思っています。



ご感想お待ちしております!


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第2話 服なんても物は着れれば問題ない

お待たせしました〜第2話です。今回は短めの話です。


「んん・・・・あ゛ー?」

 

机に突っ伏した状態で目が覚めた。一瞬何でこんな所で寝ていたのか分からなかったが直ぐに昨日夜遅くまで酒を飲んでいたからだと思い出した。昨日はそんなに飲まなかったお陰か二日酔いにはなっていない様だ。しかし喉が渇いた。

 

「誰だ⁉︎・・って、そうだった・・・・」

 

突っ伏していた机から起き上がると隣にソファーで仰向けで寝ている見知らぬ女を見て一瞬驚いたが直ぐに昨晩のことを思い出した。背伸びをして冷蔵庫に向かうと冷蔵庫の中から水の入ったペットボトルを取り出し一気に飲む。冷たい水が身体中に染み渡るみたいだ。ペットボトルに入っていた水を半分ほど飲み干してから俺はペットボトルに蓋をして冷蔵庫に戻した。

 

改めてソファーで寝ている相棒の姿を見てみる。昨日の馬鹿騒ぎのせいなのかそれともこいつの寝相が悪いせいなのか分からないが着ていたTシャツが乱れて、サイズが合っていないせいもあって襟から肩が出ている。

 

「う〜ん事後に見えなくもないな」

 

などとバカなことを考えつつ俺は机の上に置いていたジタンの箱を手に取り中から一本取り出し口に咥える。そしてジタンの近くに置いていたジッポーで火をつけた。

 

「ふぅ〜〜」

 

煙を吸って吐き出す。うん。やっぱりこの独特の香りと味は良いな。ラッキーストライクとかと違ってずっと吸ってても飽きないクセのある味と匂い。相棒は「臭い」とよく言っていたがそんなことは無いと思うんだがなぁ。

 

「う・・・あ゛ぁ〜〜」

 

どうやら相棒も起きた様でホラー映画に登場するゾンビの様な声を出しながら起き上がる。

 

「おいおい、女の子が出しちゃいけない声出してるぞ」

 

「うっせぇ。と言うか臭ぇんだよそれ」

 

大きく背伸びをして、頭をぼりぼりと掻きながらさっきの俺と同じように冷蔵庫から新品のペットボトルを取り出してラッパ飲みする。

 

「ふぅ。で、確か今日までお前休みなんだよな?」

 

「あぁ。そうだ」

 

「何か予定は?」

 

「特にねぇな。街をドライブしようかと思っていたくらいだ」

 

「じゃぁちょっと付き合ってくれ」

 

「あぁ別に良いぞ。因みに何をするつもりなんだ?」

 

「服を買いに行く」

 

「服・・・?あぁ成る程そう言うことか」

 

今の相棒は女性になっている。そして相棒も俺も普段着などは男用の服しか持っていないからな。

 

「そう言えば昨日お前が着て来た服は何処で手に入れて来たんだ?」

 

「目が覚めたばかりの時は専用の服を着てたんだが良くも悪くも目立つ服装だったから途中で寄ったスラムで買った」

 

「専用の服ってのは?」

 

「目が覚めた時俺は真っ裸で、何か服はないかと探していたら真空パックされた服を見つけんだ。その時は妙にサイズがピッタリな服だなとしか考えていなかったんだけど後から調べた時にその服はM27 IAR専用。つまり今のオレ専用の服だってことが分かった」

 

「その服はどんな服なんだ?」

 

「コレだよ」

 

ケネスはリュックの中から雑に入れられていた服を引っ張り出して床に広げた。その服を見た俺の第一印象はナイトクラブとかで見るバニーガールの着ている服。相棒が出したのは上はアメリカンスリーブになっていて下はハイレグになっている灰色のボディースーツだった。触ってみた感じ伸縮性のある素材だ。他には灰色のタイツがありコレで全部らしい。こんな格好の奴が居たらそりゃ目立つわな。

 

「おいおいナイトクラブで働く女じゃねーんだぞ」

 

「説明によると戦術人形の戦闘時の激しい動きにも対応できる動き易い戦闘服を考えた結果こんな形になったそうだ」

 

確かに、体操競技など激しい動きをする競技で着用されるレオタードも似た様なデザインになっているが戦闘用の服でこんなデザインなのはどうかと思ってしまう。動き易さって部分を見ればこの服は良いデザインなのかも知れないが。

 

「それに最先端の繊維素材を使っていてある程度の防弾性能もあるらしい」

 

マジかよ。そんなに厚みは無いようだが防弾性もあるのかよこの服。ふざけた見た目の割に開発には最新の技術が使われているってことか。と言うか研究者達が真剣にこのデザインのボディースーツを開発していたと思うとちょっと笑えるな。

 

「それじゃこのタイツも何か凄い機能があったりするのか?」

 

「この服見たいな防弾性能とかがある訳じゃないけど普通のタイツより激しい動きを想定して丈夫に作ってるらしい」

 

「成る程なぁ」

 

「まぁ実際着てみた感じは着心地も悪くないし説明通り動き易かったし良い服だと思うよ。だがら戦闘時は着ても良いかなと思っている。だが日常的に着ようとは思わないな。主に見た目の問題で。だから新しく服を買いに行こうと思ってる訳だ」

 

「どんな服が欲しいとかあるのか?」

 

「特に何も。変な見た目の物じゃなければ着れれば良いって感じだな」

 

「ファッションに無頓着なのも変わってないな」

 

「人はそう簡単に変わることは出来ないさ」

 

「戦術人形になったお前に言われても説得力ねーよ」

 

「確かにそうだな」

 


 

と言うことで朝食を食べて簡単に身支度をした後、俺は相棒を連れて服を買う為に街の商店街へ来た。ここはちゃんとした店もあるが少しでも金が欲しい連中が狭い道にひしめく合う様にしてバザーの様に色んなものを売っており、商店街と闇市が混在している状況だ。余り金を持っていない奴だったりそんなに金を使いたく無い奴なんかは闇市を利用することもあり普通なら手に入らない様な違反な物が格安で手に入ることもあるから闇市だかといって舐めれない。対する店の方は当たり前だが闇市と違って中古ではなく新品の物が買えたり、品物の質や保存状態が良かったり、騙されて偽物なんかをつかまされることも殆ど無い。

 

「ここは変わってないな。本当に半年も経っているのか分からなくなるよ」

 

まともな服がなかったので結局昨日相棒が着ていたサイズが合っていない黒色のパーカーを来ている。相変わらず大勢の人が行き交い活気付く商店街の様子を見たケネスがそう言う。確かにここは昔から変わっていない。今も昔もうるさくて小汚くて、でも何故だか嫌いにはなれない場所だ。

 

「昔からここはごちゃごちゃしているからな。多少変わってもその変化には気づかない」

 

「確かに」

 

市場の周りには闇市が大量にあり今俺達もその中を通過している訳だが流石に相棒の服をそこら辺の闇市やバザーから買おうとは思っていない。ちゃんとした店で買うつもりだ。

 

「なぁそこの美人なお嬢さん。アクセサリーに興味は無いかい?中古だけど良い物が揃っているよ」

 

「あ、いえ。大丈夫です」

 

「お嬢さんお嬢さん、美味しい缶詰があるんだけどどうだい?」

 

「間に合ってます」

 

「お嬢さん、生活用品は足りてるかい?」

 

「幸運のお守りはどう?」

 

「ドラッグは?」

 

2人で歩いていると妙に相棒だけが色んな奴らから声を掛けらまくる。相棒も最初は一人一人丁寧に断っていたが次々と来る客引きにうんざりして来た様で声をかけられても無視する様になった。多分こんなに声をかけられるのはその容姿の良さも影響しているんだろう。と言うか流石闇市と言うべきか怪しげな物からヤバい物まで何でも路上で売っている。

 

「人気者だな」

 

「面倒なだけだ」

 

そう言って相棒はパーカーのフードを深く被った。まぁフードは被った方が顔も隠れるから注目をこれ以上集めることもないだろう。

 

「お二人さんカップルかい?大人のオモチャがあるんだが買って「「いりません!」」そう言わずに。今なら安くしとくよ」

 

真っ昼間に堂々となんて物売ってんだよこのオッサン⁉︎しかも誰がそんないかにも中古な奴買うかよ。使ったらエイズとかに感染するんじゃないか?まぁ兎に角、これ以上変な物を買わされようとする前に俺達は足速に闇市を通り抜けて行った。

 

人混みの中を何とか通り抜け何とか闇市ではなく普通の商店街がある所までやって来た。特に高い服とかを買う必要も無いし、ケネス自身ファッションに無頓着で着れれば良い見たいな性格の奴だから適当に目に付いた小さな服屋に俺達は入った。

 

「いらっしゃい」

 

店のカウンターの方から店員の声が聞こえて来た。見てみると椅子に座りながら雑誌を読んでいるやる気のなさそうな男が居た。どうやら店員はあの男だけの様だ。店員は俺達の方をチラッと見て来たがまた直ぐに雑誌に視線を戻した。こう言う店員は別に珍しいことでも無いので俺は構わず店内を歩いて女物の服を探した。

 

「何か着たい服とかは?」

 

「特に」

 

「だと思ったよ」

 

「あーでも、こう言うパーカーが良いかな」

 

「了解」

 

パーカーは直ぐに見つかった。他にもTシャツや短パン、ジーンズなど相棒は服を選んで行ったがおおよそ女の子らしくは無い服だった。いやまぁ逆にケネスがノリノリで可愛らしい服とかを持って来てもどうしたお前?ってなっていたが。そんな風に服を適当に選んでいると相棒が何か見つけた様で足を止めた。

 

「買うか?」

 

相棒が見ていたのは黒色のジャケット。それは昔ケネスがよく着ていたジャケットによく似ていた。

 

「そうだな。頼む」

 

そして下着の方も選んで行く。パンツはスポーツショーツタイプの物を幾つか選んだ。

 

「なぁそう言えばお前今までブラって付けてるのか?」

 

俺はカウンターに座っている店員に聞こえない様に少し声のボリュームを下げて聞いた。

 

「いや」

 

「だろうと思った。お前自分の胸のサイズとか知ってるか?」

 

「84のEだ」

 

「知ってんのかよ」

 

ダメ元で聞いてみたんだがまさか把握していたとは。ケネス曰く身体を調べた際に今の身体についての詳細なデータが出て来てそれにはスリーサイズもちゃんと記載されていたそうだ。まぁ何にしろサイズが分かっているならそれに合うサイズのブラを探すだけだ。

 

「あんまり女っぽい奴はやめてくれよ」

 

どうやら相棒はブラを付けるのには抵抗がある様で購入には余り乗り気では無いようだ。まぁ気持ちは分かる。パンツや服はまだしもブラは女が付ける物だから男のケネスには抵抗があるよな。

 

「分かってるよ。これとかどうだ?」

 

俺が相棒の前に出したのは灰色のスポーツブラ。運動用こブラだから動き易いし飾りっけが無いからそんなに女っぽくも無い。それに付け易い。

 

「あーまぁ・・・それで良い」

 

相棒も納得してくれたのでパンツと同じ様に同じ種類の物を複数選びさっき選んだ服とかと一緒に纏めて購入した。それなりの値段になってしまったがまぁ仕方ない。俺の財布が軽くなってしまったのも仕方ないことさ・・・。




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第3話 かつての仲間 新たな仲間

お待たせしました〜第3話です。最近クソ暑いですよねぇ。皆さんも熱中症にはお気を付けて家にいる時はクーラーを付けましょう。電気代気にして節電して病院に行くことになったらクーラー代より高い治療費を払うことになってしまいますからね。


服を買い終わったオレ達はマイクの家に帰り家でゆっくりしていた。オレは買って貰ったTシャツと短パンを早速着ていた。今まで着ていた物と違ってサイズも合っているし新品だから変な匂いもしない。良いね。にしても家に泊まらせて貰ったり服を何着も買って貰ったりとマイクには世話になってばっかりだな。今は色々とバタバタしてて出来てないが余裕が出来たら何らかの形でちゃんと礼をしなきゃだな。

 

そんなことをマイクから貰ったコーヒーを飲みながら考えているとドアのベルが鳴った。オレがドアに近かったのでドアスコープで相手を確認すると見覚えのある茶髪のツインテールが特徴的な少女、戦術人形のM14が居たがその隣には見知らぬ中性的な顔立ちのチャイナドレスを着た長い髪を三つ編みにした少女も居た。恐らく彼女も戦術人形なんだろう。

 

「誰だ?」

 

シャーリーン(M14)とチャイナドレスを着た奴だ」

 

「あーチャイナドレスの方はお前が居なくなった後に着た奴らの1人だ。QCW-05って奴でお前と同じ戦術人形だよ」

 

「オレは隠れてた方が良いか?」

 

今オレがマイクの家に居るのを事情を知らない他の奴らが見たら変な勘違いを起こしたり面倒なことになる可能性があるからな。

 

「いや、どうせ明日には説明しようと思ってたんだ。隠れる必要は無いが・・・ちょっとアイツらを驚かせようか。ちょっと俺の愛人のフリをしてくれよ」

 

ニヤリと悪い笑顔を浮かべながらオレにそう提案して来た。イタズラ好きなのは変わってないのな。別にアイツらを驚かせるのは構わないがオレがマイクの愛人のフリをするって言うのはちょっとな。確かに今のオレの姿は美少女のそれだが中身は男のままだ。オレはホモじゃねぇ。

 

「冗談だろ。流石に愛人のフリはキツいって」

 

「キツいってなんだよキツいって。傷つくぞ。じゃぁ友人ってことで良いか?」

 

「OK」

 

「それじゃぁ俺が開けるからな。女っぽく振る舞えよ」

 

「努力する」

 

オレは大人しくコーヒーを飲みながらソファーに座っておく。マイクは「今行く」と言いながら玄関の方に行きドアを開けた。

 

「よぉ。何の様だ?」

 

「近くを通ったので寄ってみようかなと思って。またお酒ばっかり飲んでたんじゃないんですか?」

 

「今日は飲んでねーよ」

 

「今日はってことは昨日は飲んでたんですね。飲み過ぎはダメですよ?」

 

「確かに昨日は飲んだが少ししか飲んで無い。客もいたからな」

 

マイクのうんざりした様な言い方から察するに似た様なことを何度も言われているんだな。マイクはそんなに酒を飲みまくる感じじゃなかった気がするんだけどな。

 

「客?」

 

M14が首を傾げるとマイクが振り返りソファーに座っているオレの方に向くとM14とQCW-05も同じ様にオレの方を見て来た。するとM14は驚いた様な表情になった。

 

「え⁉︎あの人誰ですか?」

 

「え?俺の愛人」

 

「えぇ⁉︎」

 

愛人発言を聞いて更に驚くM14。さっきは特に反応の無かったQCW-05もこれには驚いている様でオレとマイクの顔を交互に見ている。って言うかやめろって言ったのにアイツ愛人設定をゴリ押しやがったな。まぁ取り敢えず女っぽくも振る舞うか。

 

「誰が愛人だっての。ただの友達でしょ?」

 

「つれないなぁ。そこは俺の冗談に付き合ってくれよ」

 

「え、って言うことは愛人って言うのは嘘なんですか?」

 

「まぁな。アイツが言った通りただのダチだ」

 

「なんだぁ〜ビックリしましたよ。そうですよね。マイケルさんがそう簡単に愛人とかを作れる訳ないですよね」

 

「オイ、どう言うことだよそれは」

 

M14とマイクの会話を聞いているとM14がオレの知っているM14よりもフランクにマイクと接しているなと思った。オレがまだ男達だった頃は基地に来たばかりってこともあって他人行儀で今みたいに冗談を飛ばすことも無かった。玄関で話していたマイク達だったがマイクが「どうせなら入れよ。飲み物程度なら出すぞ」と言って部屋の中に招き入れた。

 

「で、飲み物は何が良い?」

 

「ならコーヒーで!」

 

「烏龍茶」

 

「ねーよそんなもん」

 

「ならあそこの棚に置いてある紅茶で良い」

 

QCW-05は棚の隅に置いてあった紅茶のパックを指差して言った。マイクは紅茶を飲んだりすることは殆ど無いから恐らく誰かに貰ったりした物をずっと置きっぱなしにしていたヤツだろう。

 

「悪いが俺は紅茶の淹れ方は知らないんでね。それにコーヒーと紅茶ってそれぞれ用意するのも面倒だからな。お前もコーヒー飲んどけ」

 

「ちぇっ」

 

マイクがコーヒーを淹れに台所へ向かいM14とQCW-05が向かい側のソファーに座った。

 

「えっと、お名前は?」

 

M14が名前を聞いて来て咄嗟に俺はケネスと本名を言いそうになったが声にだす前に止めれた。しかし名前か。考えてなかったな。ここは適当に思いついた名前を言っとくか。

 

「アンジェ」

 

「私は戦術人形のM14です。隣の娘は同じく戦術人形のQCW-05です」

 

「よろしく」

 

見た目もそうだがQCW-05は声も中性的で女の声にも聞こえるし青年の声に聞こえなくもない。ニコッと笑顔を浮かべてはいるが何処か裏がありそうな嫌な感じのする奴だ。

 

「よろしく」

 

俺は挨拶しながらQCW-05の差し出して来た右手を握り握手を交わす。コイツの着ているチャイナドレスもオレの戦闘服と同じ様な感じでなかなか露出度が高いデザインをしているな。普通のチャイナドレスと違って首の根本から肩にかけて大きく開いていて腕は勿論脇やそこ割と大きな胸の横側まで見えてしまっている。下の方も垂れ幕みたいな布が垂れ下がっているだけなので少し激しい動きをすれば下着が見えてしまいそうだ。それにニーソを履いているのでまだ良いがそれでも太ももがガッツリ見えており思わず視線がそっちの方に行きそうになる。こんな格好で街中歩いていたら注目の的になるのは間違いなしだな。

 

「マイケルさんとは古い仲なんですか?」

 

「いや、数ヶ月前に知り合ったばかり」

 

「そうなんですか。ケネスさんのことは知っていますか?」

 

突然オレの話題を振って来るとは・・まさかオレの正体に気がついたってのか?

 

「えぇまぁ。詳しくは聞いてないけど仲が良かったって聞いてる。半年前に戦死したって言うのも」

 

「成る程。貴方も数ヶ月前から知り合っていたなら感じていると思いますがケネスさんを失ってからマイケルさんは元気を無くしてしまっていたんですよね。前より笑わなくなったり人と話さなくなったり、酒に溺れる様にもなりました」

 

M14からその話を聞きオレはとても驚いた。オレと話している時にはそんな感じじゃ無かったのに。確かにオレが撃たれて死んだことでマイクが悲しんだろうなとは思ったがそこまでとは予想外だ。

 

「なので私はこうしてマイケルさんの様子を見に来たりしてたんですよね。今日はいつもより元気そうで安心しました」

 

台所で沸かした湯をコーヒーカップに注いでいるマイクに聞こえない様に声のトーンを落としてM14はオレに教えてくれた。前からそうだったがやっぱりM14は優しい奴だな。

 

「何処か暗い雰囲気があったのはそう言う理由だったのね」

 

「ですね。なので貴方もマイケルさんには出来るだけ優しく接してあげてください」

 

「分かった」

 

そんな話をしているとコーヒーカップを2つ持ったマイクがやって来てM14とQCW-05の前の机に置きマイク自身はオレの横に座った。

 

「コソコソと何の話をしてたんだ?」

 

「貴方は乙女心が分かっていないって話を」

 

「まぁ確かに女、それも若い女が考えていることは分かり辛いよな」

 

「そんなんだから彼女が出来ないんじゃない?」

 

コーヒーを一口飲んだQCW-05がマイクにそう言った。

 

「うるせぇ。さっきから2人して俺は彼女出来ないとか言ってるけどな、作ろうとしていないだけで俺が本気を出せば1週間以内に作れるんだからな」

 

マイクがそう言うとオレも含めた3人がほぼ同時に失笑した。その反応を見て「あー!信じてねぇなぁ⁉︎」とマイクが騒ぐが全員聞く耳を持たない。

 

「・・・それで、貴方何者?」

 

「ん?」

 

「貴方、人間じゃないでしょ?」

 

突然、QCW-05がそう発言したことにより一気にその場の空気が凍り付いた。反射的にオレとマイクは目を見合わせた。M14は突然のQCW-05の発言に「え?」と疑問の声を上げていた。

 

「オイオイ、それはどう言う意味だよ?」

 

「そうそう。いきなり何なの?私は人間以下の奴とでも言いたい訳?」

 

「別にそう言う訳じゃないよ。そうじゃなくて貴方人間じゃなくて私達と同じ戦術人形でしょってこと」

 

表情には出さなかったがオレは内心とても驚いた。別にバレる様な素振りとかはしていなかった筈なのになんでコイツはオレが戦術人形だってわかったんだ?

 

「どうして私が戦術人形だって思うの?」

 

「まぁ確たる証拠がある訳じゃないんだけどね。ボクの感ってところかな。キミからはボク達戦術人形と同じニオイがする」

 

「そんな匂いする?」

 

オレはそう言いながらわざとらしく自分の匂いを嗅いで見せる。勿論本気で匂いがするとは思っていない。悪足掻きだとは思うが相手が油断してくれるのを期待している。

 

「マイクを狙ったのは傷心している人間の心に漬け込む為かな?キミは何をする気?返答次第ではココから帰す訳には行かなくなるね」

 

落ち着いた口調でそう言った後QCW-05はコーヒーを一口飲んだ。今までと変わらない何を考えているか分からないにこやかな表情をしているが、ここにいる全員が彼女が状況次第では本気でオレを襲うつもりだと感じているだろう。M14は何がどうなっているのかよく分かっていない様で突然緊張状態になったことにオロオロしている。マイクの方はもうネタバラシをした方がいいんじゃないか?とアイコンタクトをして来るがちょっとコイツがどれだけの腕の持ち主なのかを試したくなった。

 

「それは困る。私もずっとここにいる訳にはいかないし」

 

オレも余裕の表情を崩さずにコーヒーを一口飲む。M14も流石戦術人形と言うべきかオロオロしながらも最悪の状況に備えて腰の方のホルスターに手を伸ばしていつでも引き抜ける様にしている。

 

「なら正直に答えてくれないかな?そしたら痛い間に合うこともなく死ぬ事もないから」

 

「死ぬ事も無いって物騒な事を言うけど貴方、私を殺すつもりなの?そんな直ぐに人を殺そうとするから人形嫌いの人が居なくならないんじゃないの?」

 

「確かにボクは人を殺す為に作られた人形だけどだからってそんな簡単に人を殺しまくる殺人マシーンって言う訳じゃないよ。それに自分の本当の正体を隠してコソコソと裏で何かを企んでいるキミの方がタチが悪いと思うけど」

 

「だから私は怪しい人間じゃないって。ただのマイクの友人」

 

「ただの友人だったらボクがこうして脅していたらもっと怖がると思うんだけどな」

 

「それもそうか」

 

オレはそう言って短パンのポケットに右手を入れて拳銃を取り出す動作をした。本当はポケットに拳銃は入っていない。ただのフリだ。するとM14が腰に付けていたホルスターからグロック26を取り出しQCW-05も同じ様にホルスターから目にも止まらぬ速さでQSW-06を取り出してオレに狙いを定めた。

 

「ストップ!ストップ!そこまでだ!」

 

2人が拳銃のトリガーを引きそうになった瞬間、マイクが叫び2人は撃つのを止めた。

 

「お前死にたいのか」

 

マイクが呆れたように言って来る。それにオレは「悪い」と素直に謝った。M14は何がどうなっているのかますます分からなくなっている様でグロック26を持ったままマイクとオレを交互に見て首を傾げる。QCW-05は拳銃をホルスターに戻してマイクの方を見ると「どう言うことなのか説明して欲しいんだけど?」と言った。マイクとオレは今までのことを包み隠さずに全部話した。

 

「え・・・えぇ⁉︎それって本当なんですか⁉︎」

 

「流石にボクもその話は信じられないな」

 

話し合えると2人ともとても驚いて困惑している様だった。そりゃそうだろう。当事者のオレだって何でこうなっているのかさっぱり分からないんだからな。

 

「まぁ信じられないのも無理はない。ぶっちゃけオレ自身も信じられないからな」

 

「え、は、ほ、本当にケネスさん何ですか?」

 

「あぁ。見た目はアレだが中身はケネス・サクソンご本人だ。何なら証明の為にお前の昔の話でもしようか?」

 

「お願いします」

 

「まだお前が来たばかりの頃、お前は誰に対しても他人行儀で戦術人形だからとか言う理由で誰よりも前に出て戦うし、戦闘では誰にも頼ろうとせずに1人で戦っていた。それに自分を囮や捨て駒に使う戦い方をしていたよな。それで隊長のアランから怒られたよな。「俺達はクソテロリストじゃない。PMCだ。だから大切な仲間を囮や捨て駒に使ったりする様な作戦は立てないしそんな行動をするお前の様な奴を許さない。戦術人形だからとか、ある程度破損しても修復すれば問題ないとかそんなのは関係無い。確かにお前の言う通り仲間は大切にするべきだが自分自身も大切に出来ない奴が仲間を守れる訳無いだろうが!もっと自分を大切にしろ、もっと仲間を頼れ。確かにお前は強い。だがお前に守って貰わないといけないほど俺達は弱くも無い。俺達は互いに協力し合って戦うチームだ。お前1人で背負い込んで戦おうとするな!」ってな。そんなお前が今じゃこうしてマイク相手に冗談を言ったりする程にフレンドリーになったんだから変わったなと思うよ」

 

「今の話は本当なの?」

 

QCW-05の問いかけにM14は信じられないと言った表情のまま何度も首を縦に振って答えた。

 

「これで信じて貰えたかな?オレはケネス本人だ」

 

「ほ、本当にケネスさんなんですか?」

 

「だから言ってるだろ?オレはケネスだって」

 

「う・・・うぅっ・・・・ケネスさんっ!」

 

「うおっ⁉︎」

 

M14は俯き肩を震わせていたが突然涙目になりながらオレに飛び付いて来た。

 

「帰って来てくれて良かったです!また会いたかった!」

 

「お・・おお・・・まさか泣かれるなんて思って無かったよ」

 

「そりゃ泣きますよ!ケネスさんにはチームの皆んなと仲良くなるきっかけを作ってくれたり色々とお世話になったのに、恩返しもさよならも言えないままお別れすることになっちゃったんですから!」

 

「ごめんな」

 

オレは抱き付いたまま泣くM14の頭を優しく撫でてやりながら謝った。マイクもそうだがオレが思っていたより皆んなオレが死んだ事を凄い悲しんでくれていた。それ程オレは大切に思われていたのかと嬉しくなるがそれよりもこうして泣く彼女の姿を見て申し訳なさが込み上げて来る。あの時オレは多少悲しんでくれれば良いなぁ程度に思っていただけだった。オレが他の人達からどんなに大切に思われていたのかも知らずに。何が悲しんでくれれば良いなだ馬鹿野郎。

 

「それで、これからどうするつもりなんですか?」

 

泣き止んだM14がオレに聞いて来た。そう聞く彼女の表情はまた戻って来てくれるんですよね?と言いたげな表情だった。だからオレはその期待に応えるべくオレは笑顔で言った。

 

「チームに戻るよ」




と言うことでまさかのオリジナル戦術人形2人目です。実を言うと当初の予定ですと今のM27 IARではなくQCW-05を主人公にするつもりだったんですがケネスのキャラ的にチャイナドレス姿は嫌がりそうだなーとか思い変更しました。

それはそれとしてチャイナドレスを着たキャラって個人的に好きなんですよね。あの妖艶さと綺麗さを兼ね備えた感じのデザインが良い!と思います。

QCW-05イメージイラストはこちら。

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詳細なキャラ設定は今度書きますのでお楽しみに。

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第4話 再会と出会い

と言うことで第4話投下です。感想、誤字指摘ありがとうございます。モチベーション向上と維持にも繋がるので感想などはどしどし下さい。


「「「「はぁー⁉︎」」」」

 

数人の人達の驚きの声が重なりブリーフィングルームに響き渡った。ここはPMC、ウェスタン・アーミー社の基地にあるブリーフィングルーム。昨日M14達と合った俺とケネスは再びチームに戻ると宣言し、そして今日、こうして基地に来てケネスの所属していたサヴェージチームのメンバーとこの会社の社長だけを集めて相棒のことについて全て話した。そしたら案の定この有様だ。全員俺の横に立つ相棒の姿を見た後に俺に詰め寄って来た。

 

「いやいやいやいや。マイク、遂に頭がイカれたか?」

 

筋骨隆々の黒人ヘイルが俺に聞いて来た。まぁそう言いたくなる気持ちは分かるが俺は正常だ。

 

「これ以上無い程正常だっての」

 

「ケネスが女に、それも戦術人形になって現れたとか信じられるかよ⁉︎」

 

「お前、本当にケネスなのか?」

 

ウチの部隊で唯一のアジアの出身である中国人のヤンが相棒に聞いた。相棒は肩をすくめると「自分自身も信じられないけどな」と答えた。

 

「D-55地区の任務覚えてるか?」

 

「過激派反戦団体の基地に襲撃したヤツか?」

 

「それだ。任務中にハプニングが起こったんだが何が起こったか言えるか?」

 

「アレは忘れねぇよ。奴らの基地をやっとの思いで制圧したと思ったら捕まえた基地のボスが自爆してよ。爆発前にお前が気がついて助けてくれたからオレは軽症で済んだよな。あの時はあんがとよ」

 

「ふむ・・・言動はケネスと似ているな」

 

黙ってケネスの話を聞いていたヤンは暫く考えた後にそう言った。驚きながらも冷静に状況を把握しようとしているのは流石ヤンだ。ギャーギャー騒ぎまくっているヘイルの野郎とは大違いだ。

 

「確かに喋り方とかは似てたが・・・本当にこいつがケネスだって言う証拠にはならねぇぞ」

 

「オレも証拠が出せれば出すんだが生憎オレだと証明出来る物は持ってなくてね」

 

じゃぁ・・・・俺達の名前をフルネームで言ってみてくれ」

 

隊長のアランが相棒に提案する。相棒は分かったと言うとアランから順に指を刺して行く。

 

「アラン・カッチャー。ソン・ヤン。スコット・ベイマー。ヘイル・フォスター。そしてさっきから顎に手を当てて考え込んでいる髭面のオッサンがウチの会社の社長のグレイグ・ブラック」

 

相棒はすらすらと全員の名前を言い当てた。それを聞いた皆は互いに相手の顔を見て「マジなのか?」などと話し合っている。

 

「俺もこいつと会った時に色々と聞いてみたんだから今みたいに全部言い当てた。それにヤンも言った通り姿こそ全く違うが言動は昔のケネスと同じだ」

 

「だが、俄には信じられないな。死んだ筈の男が戦術人形として生まれ変わるなんて言うのは」

 

顎に手を当てて考えていたのかブラック社長がそう呟いた。

 

「俺だって信じられねぇよ。相棒が戦術人形になって蘇ったなんて。だが実際こうして目の前にいるわけだし信じるしかねぇだろ。それに別にこの女をケネスと信じなくても新しい戦術人形ってことでウチの会社に入れれば良いじゃねぇか。実際タダで戦術人形を手に入れるチャンスなんだしさ」

 

もしかしたら今の発言は相棒を傷つけてしまったかも知れないが社長を説得する為なんだ。すまん相棒。

 

「まぁ確かにそうだ。無償で戦術人形を貰えるのは有り難い。それに別に君と彼女・・いや、ケネス話が嘘だとは思っていない。余りにも突飛な話だから信じられなかっただけだ」

 

「まぁケネス本人かどうかはこれから一緒に仕事をして行けば分かるさ」

 

ヤンはそう言うと相棒の隣に行き肩を組んだ。

 

「それに俺と同じような身長の奴が増えてくれたのは嬉しいしな」

 

ヤンは俺らの中で1番身長が低かったから昔から低身長なことを色んな奴らからイジられていたもんな。今の相棒の身長はヤンと変わらないくらいの身長だ。確かヤンの身長は168だったから今の相棒もそれくらいなのか。

 

「いや、女と身長で並んだところでお前の身長イジりは終わらねぇからな?と言うか男の癖に女と同じ身長だってことで新しいイジりネタにするだけだ。

 

「言ってろこの筋肉ダルマが。アジア人は身長が低い人種でお前らがデカ過ぎるんだよ。それに世の中身長が高ければ良いってもんじゃねぇんだぞ?」

 

またヤンとヘイルの言い合いが始まった。俺達はこの2人のやり取りに慣れるどころか飽きる程聞いて来たので2人を無視して話を続けた。

 

「いや〜にしてもあのケネスがこんな美少女になるなんてまだこのクソったれな世界も捨てたもんじゃないな。ありがとう神様!」

 

予想通り女好きのスコットは相棒の姿を見て大興奮。相棒の体のあちこちをイヤらしい目で舐め回すように見ている。

 

「胸の大きさは他の戦術人形達と比べる大きいとはいねないが大き過ぎず小さ過ぎない程よい大きさだ。太もももM1014みたいな肉付きの良いむちっとした太ももで大変よろしい。なぁ、その胸揉んでも良いか?」

 

「やめろ気持ち悪い」

 

両手をワキワキと動かしながらぐへへへと笑って近づいて来るスコットを押し退けようとするがスコットは諦めない。相棒は「気持ち悪いわ!」と言ってスコットを思いっきり殴った。「ゴボァ!」とか声を上げながらスコットはその場に倒れて動かなくなった。

 

「だが他の奴らにはどう説明する?こんな話しても信じて貰えないだろうし」

 

「まぁ私の方から新しい戦術人形を導入したと言っておくよ。中身がケネスだと言う話は君達と戦術人形達とその他ごく一部の人達に話すだけにしておく。そう言えばケネスはあれからM14以外の戦術人形が増えたことはしっているかな?」

 

「昨日M14とQCW-05には会った」

 

「成る程な。他にも後3人戦術人形がいるから紹介しよう。ここに招集させるからちょっと待っててくれ」

 

そうしてブラック社長が放送で戦術人形達にブリーフィングルームに集合する様に言ってから3分程で全員ブリーフィングルームにやって来た。既にケネスの事を知っているM14とQCW-05はケネスの姿を見て呼ばれた理由を理解した様だ。

 

「もしかして新しい戦術人形を導入したんですか?」

 

ケネスの姿を見てそう思ったんだろう。戦術人形のチーム、レイヴンの隊長を努めているK2がブラック社長にそう聞いた。

 

「まぁそんなんだが少し、いや、かなり特殊な事情があってね。今から話すことはとても信じられない話だろうが真実だ。私の隣にいる彼女は、K2の言う通り新たにやって来た戦術人形なんだがー」

 

ブラック社長がさっき俺が話したのと同じ内容を戦術人形達に説明をすると、M14とQCW-05以外の3人がさっきのアイツらと同じ様に「「「えぇ⁉︎」」」と言う驚きの声が返って来た。

 

「まぁそう言う訳で何でか戦術人形のM27 IARになっちゃったケネス・サクソンだ。と言ってもM14以外はオレのこと知らないと思うけどな」

 

「え、ケネスってよくマイケルさんが話していた人ですよね?」

 

M1014が俺に聞いて来たので頷いて答えて見せる。だがやっぱり理解しかねる様で「え、えぇ?」と困惑している。

 

「正に事実は小説よりも奇なりとは良く言ったものね」

 

ケネスの姿を見ながらVHSが冷静にそう言った。さっきからコイツ反応が薄いんだよな。

 

「意外と冷静だな。有り得ない!とか驚くかと思ったんだが」

 

「有り得ないなんてことは有り得ない。有り得ないと言って全てを否定するのは馬鹿のすることよ。まぁ確かにとっぴげた話で驚きはしたけどね」

 

やっぱりクールな性格してるなコイツは。もっとM14みたいな分かり易いリアクションしてくれよ。

 

その(戦術人形)の身体は人間とは違うこともあるだろうから困ったことがあったら何でも相談してね」

 

「分かった。ありがとう」

 

K2は飲み込みが早いのかそれとも深くは考えてないのか知らないが特に困惑する様子も無く笑顔でケネスに話しかけた。

 

「まぁ色々と思うことはあるだろうがこれから彼のことを頼む。同じ戦術人形として分からないことなどを色々と教えてあげてくれ。あ、それとケネスは君達を知らないから自己紹介もしてやってくれ」

 

「K2だよ!戦術人形としては私の方が先輩だから困ったことがあったら頼ってね」

 

「あぁ。もしもの時は頼らせてもらうよ」

 

「VHS。まぁよろしく」

 

「よろしく」

 

「M1014です。よろしくお願いしますね」

 

「こちらこそ。よろしく頼むよ」

 

「そう言えば昨日は自己紹介してなかったね。QCW-05。よろしくね」

 

「よろしく」

 

「そう言えば貴方のことは何て呼べば良いの?M27 IAR?それともケネス?」

 

「どっちかと言うとケネスって呼んでもらった方が助かる」

 

「それじゃぁケネスって呼ぶわね」

 

「さて、挨拶も済んだことだし後は皆好きに時間を過ごしてくれ。ケネスは一緒に来い。新しい部屋に案内する」

 


 

昔のチームのメンバーと戦術人形の奴らに挨拶を終えたオレはブラック社長に案内されて基地の横に隣接している宿舎にやって来た。実はオレが社長に自分が寝泊まりする部屋を用意して欲しいと頼んでいたんだ。ずっとマイクの家にお邪魔する訳にあかないからな。

 

「昔君が使っていた部屋は今は他の奴が使ってしまっているから君には新しい部屋を使って貰う」

 

「何処の部屋も間取りは一緒だし何処でも良いですよ」

 

宿舎の部屋なんてどれも同じだ。狭い部屋にロッカーとベッドと机、タンスとかが置いてあって窓が一つあるだけだ。

 

「で、戦術人形を見た感想はどうだ?」

 

横を歩いていたらマイクが聞いて来た。にしてもこうやって話す時に俺は昔より身長が低くなっているせいで見上げる様にしてマイクと話さないといけないのは何か腹立つ。

 

「個性豊かなメンバーだなと思ったよ。特にK2の服装が気になった」

 

「やっぱり?」

 

「そりゃあんな胸とか臍とか色々見えちゃってる痴女みたいな露出度の高い服着てたら気になるだろ」

 

「スコットとか「いやーそれはエッチ過ぎるでしょ!」って大興奮だったからな」

 

「まぁ、そうなるよな」

 

「と言うかスコットは戦術人形全員を良くない目で見ているからな。戦術人形の連中もそれには気が付いていてスコットには警戒している」

 

「アイツも変態じゃなければ普通に使える奴なんだけどなぁ」

 

「でもアイツも本気で嫌がっている女相手にはいつものセクハラ行為はしないから最低ラインは守っているのかもな」

 

「最低ラインだけはな。それで、彼女達の実力の方はどうなんだ?」

 

「そこんところはご心配なく。全員戦術人形らしく実力は確かだ」

 

「一緒に任務をやったりしたのか?」

 

「テロ野郎供と戦った時とかにぶっちゃけ俺いらないんじゃね?と思うほどには強かったよ。特にM1014は背中に盾を付けてるんだけどアレがまぁ便利でな。敵に撃たれそうになった時とかに彼女が直ぐに盾を展開して俺を守ってくれたんだよ。あん時はアイツが凄い頼りになるカッコイイ奴に見えたね。普段は心配性な女の子って感じなんだが」

 

そう言えば昔オレがまだ男だった頃にM14と戦った時も彼女の戦闘力の高さに下を巻いたな。素早く照準を合わせて次々と敵を撃ち殺して行く姿は見惚れそうな程だった。

 

「あぁそれと、VHSって娘が居たろ?」

 

「あぁ」

 

「アイツには気を付けろ。神経質って言うかあんまり他人とは喋りたがらないタイプだ」

 

「成る程。確かに挨拶した時も素っ気なかったな」

 

「まぁ悪い奴じゃないんだけどな。扱いが難しい女だよ。前に1人ぼっちだったから話しかけてみたら「今集中してるから静かにしてくれる?」とか言われたしな」

 

「一匹狼なタイプか」

 

「だな」

 

「ここが君の部屋だ」

 

廊下の奥にあった部屋の前で社長はそう言って止まった。社長が鍵を挿して回しドアを開けた。荷物も何も置いていないので部屋の中はとても殺風景だったがオレにとっては見慣れた光景だ。

 

「生活に必要な最低限の物はこちらで用意する。それ以外の物は自分で買ってくれ」

 

「了解。色々とありがとうございます」

 

「気にするな。それじゃぁ私は仕事がまだ残っているから執務室に戻る。マイク、今度は友人を失わない様に気をつけるんだな」

 

そう言い残して社長は去って行った。取り敢えず部屋の中に入ったオレはマイクの家から持って来ていたオレの私物(主に買って貰った着替えの服)を部屋に置く。部屋を見渡したオレは誰に向けた向けた訳でもない呟いた。

 

「ただいま」

 

「おかえり」

 

マイクのその優しい声で言った「おかえり」と言う言葉には色んな感情が込められている気がした。

 


 

ブラック社長からM27 IARことケネスの紹介を受けた後、戦術人形の面々は娯楽室に集まっていた。

 

「あの戦術人形どう思う?」

 

QCW-05は周りの戦術人形達に向かってそう聞いた。皆少し考え込むが12面のルービックキューブをやっていたVHSが答えた。

 

「あの話は信じられないけど、あのケネスって人は嘘を言っている感じじゃなかった」

 

「マイクさんはあの戦術人形をケネスと言う人だと信じている様でしたしね」

 

VHSの隣で12面のルービックキューブの色が揃って行く様子を興味深そうに見ていたM1014が答える。

 

「私はあの人はケネスさんだと思います!何で言うか昨日一緒に話しててケネスさんだって感じがしたんです」

 

両手を胸の前に持って来て興奮気味に言うM14。そこでK2はQCW-05が言っていた昨日ケネスに会ったと言うの話しを思い出しM14に聞いた。

 

「そう言えばQCW-05とM14は昨日ケネスと会ってたの?」

 

「はい。昨日マイケルさんの家に行った時に会いました」

 

「なら昨日と今日ケネスさんに会ってみてQCW-05はどう思ったの?」

 

「そうだな〜少なくともVHSが言う通りあの人が嘘を言っている感じはなかったね」

 

「そっかー。でも本当不思議だね。人間が戦術人形になっちゃうなんて」

 

「魔法みたいですよね!」

 

「M14の言う通り魔法としか思えないよね」

 

「本当にあの戦術人形の中身がそのケネスだと言う確証は無いから本当に本人かは分からないけどね」

 

VHSがそう言うとQCW-05も「そうなんだよねぇ」と言ってソファーに座ったまま天井を仰ぐ。

 

「まぁ誰だろうと新しい仲間なんだし仲良くして行こうよ!」

 

「ほんと、K2はポジティブだよね」

 

「変に疑い過ぎるのも良く無いと思うし」

 

「K2の言う通りですね。中身が誰だろうと仲間なのには変わりませんし、仲良くして行きましょう。それにケネスさんが来てくれたお陰でああやってマイケルさんの元気が戻っていましたし」

 

「確かにね。あんなにニコニコ笑っているマイケルはあんまり見たことが無かったね」

 

「ずっと暗い雰囲気でいられるよりは良いけど元気を取り戻してうるさくなるのはちょっと嫌だけどね」

 

「でもマイケルさんが前みたいに元気を取り戻して本当に良かったです」

 

「私達の目の前では無理に元気に振る舞っていたのが逆に痛々しかったですよね」

 

「取り敢えず、あのケネスさんは悪い人では無さそうだしマイケルさんのこともあるし今は様子見ってことで」

 

戦術人形達による密会はこの後も暫く続いた。




主要メンバーも一応登場したのでここでキャラ紹介のページでも作っとこうと思います。

ご感想待ってまーす。


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第5話 First mission

小説の題名英語にすればカッコ良く見える説。と言うことで皆さんお待たせしました。第5話、投下します。題名でも分かる通りケネスくん戦術人形になってから初めての任務です。

そして高評価と沢山のお気に入り登録。そして沢山の感想ありがとうございます。とでも嬉しくてモチベーションアップにも繋がっています。


どちらかと言うと朝が弱い俺はセットしていた目覚まし時計によって起こされた。うるさい目覚まし時計に舌打ちをしつつ俺は起き上がるとベッドから降りた。ここは俺の家、ではなく基地にある宿舎の部屋だ。休日くらいにしか家には帰らず基本的にこの宿舎の部屋で寝泊まりしている。部屋の壁に掛けてある時計を見てみると午前6時30分丁度。大きく欠伸をした後に背伸びをした俺はさっさと身支度を済ませると部屋を出た。

 

廊下に出た俺は階段を上がってから廊下を歩き奥にある相棒の居る部屋にまで来た。ドアをノックして「おーい。起きてるかー?」と声をかけてみると直ぐにドアが開いて白色のシャツに短パンと言うラフな格好のの相棒が出て来た。

 

「よぉ。今回はちゃんと起きれたんだな」

 

「その言い方だと俺がいつも寝坊しているみたいじゃないか」

 

「実際何度も俺に叩き起されていただろ」

 

懐かしいな。確かに昔はよく長期の任務中とかでなかなか起きれない俺を「起きろ寝坊助野郎」とか言いながら文字通り叩き起こして来てたな。

 

「本当に文字通り叩き起こされているんだよなぁ。蹴ったり叩いたりするんじゃなくてもう少し優しく起こして欲しいもんだよ」

 

「そうでもしねぇとお前起きねぇだろ」

 

「起きるわ。その証拠に今こうやって俺は起きてお前の部屋に来ている」

 

相棒と話しながら俺は相棒の部屋にお邪魔した。やっぱり整理整頓出来ないのは女になっても変わらないらしく早速部屋は散らかっていた。

 

「相変わらずお前の部屋は散らかってんな」

 

相変わらずの相棒の部屋だが変わった部分もあった。まず1つはベッドの上やその周辺に散乱している服に混じって女性用の下着が混じっていること。どう反応していいのか分からなねぇ。そして部屋の匂いが違うことも変わった部分だ。野郎特有の臭さが無い。まぁまだ住み始めだからと言う理由もあるんだろうが女性特有の良い香りがする様な気がする。これは相棒が女になったからと言う理由もあるじゃないかと俺は思うが、この匂い云々は気にしないことにしよう。匂いまで気にし出したらいよいよ俺がスコットと同類の変態になっちまう。

 

「・・下着くらい片付けろよ。一応今のお前は女なんだしさ」

 

「いいだろ別に。わざわざオレのパンツを盗る奴も居ないだろうし」

 

「いやそう言う問題じゃなくてだな?」

 

やはり相棒は自分が女だと言う意識が足りていない気がする。いや、俺が気にし過ぎているだけか?だが男がいるってのにパンツをそのままにしているのはやっぱりダメだと思うんだが・・・。

 

「もうちょっと片付けた方が良いぜ。せめてパンツだけでもっ⁉︎」

 

パンツだけでも片付けた方が良いぞと言おうとしたら何かを踏みそして床から摩擦が無くなったかの様に足が滑った。そのままバランスを崩した俺は前の方に倒れ、そして目の前にいた相棒をも巻き込み一緒に床に倒れてしまった。

 

「す、すまん。大丈b・・・・」

 

相棒に謝りつつ顔を上げ今の状況を理解した瞬間俺は息を呑んだ。目の前、それも相棒のまつ毛の本数が数えれそうなくらいの至近距離に相棒の顔がある。どうやら俺は転んだ時に前にいた相棒を押し倒す様にして転んでしまった様だ。まぁこれだけならまだ良い。「すまん」とか謝って立ち上がれば良いんだが・・・。

 

受け身を取るために咄嗟に出した両手のうち右手が思いっきり相棒の胸を鷲掴みにしてしまっていた。こうやって実際に掴んでみて実感するが思ったより大きいな。いつもはパーカーとかの厚みのある服を着ているから胸の大きさが分かり辛いがこうして触ってみると確かな膨らみがあるのが分かる。そう言えば胸のサイズはEカップだって本人が言ってたな。想像していたより柔らかい。擬音で表すならムニュと言う感じだ。と言うかこの感触は・・・・。

 

「・・・もしかして、今ブラとかは付けてない?」

 

「まぁ寝る時とか部屋に居る時とかは外しているな。やっぱりブラを付けるのは違和感があるんだよな」

 

通りで柔らかい感触しかない訳だよ。内心胸を鷲掴みにしてしまっている事態にどう対応して良いのか分からず焦っている俺に対して相棒は普段と変わらない落ち着いた様子。いつまでもこの体勢でいる訳にもいかないので起き上がる。

 

「す、すまん。大丈夫か?勢い良くお前に倒れ込んじまったが」

 

「あぁ。大丈夫だ。後頭部を軽く床に打ち付けただけだ」

 

そう言えば俺は何を踏んで転んでしまったんだ?そう疑問に思った俺はさっきまで立っていた場所を見てみると床にぐしゃぐしゃになった雑誌が落ちていた。コレか。

 

「で?どうだった?オレの胸は」

 

「それ聞く⁉︎」

 

相棒も嫌な思いしただろうなと思って胸を触ってしまったことには言及しないでこのまま水に流せると思ったのにお前の方から掘り返して来んのかよ!

 

「動揺し過ぎだって」

 

「いやいや、女の胸揉んで動揺しない方がおかしいだろ!」

 

「でもお前よく女の胸揉みてぇ〜って言ってただろ?それにオレは中身は男なんだし問題ないんじゃね?」

 

「いや問題大有りだろ。何度も言ってるけどお前はもっと自分が女だって言う自覚を持て。そんな無防備だったら性欲を持て余したジャンキー共に襲われても知らねぇぞ?」

 

「安心しろ。今のオレは戦術人形だからな。ジャンキー相手にはそうそう負けない」

 

「そう言って油断している奴からやられて行くんだよ」

 

「ま、気をつけるよ。また胸を揉みたくなったら言ってくれよ。何時でも揉ませてやるから」

 

「野郎の胸なんていらねぇよ。それに俺はもっと巨乳の方が好きなんだ。だから理想の彼女を手に入れて好きなだけ揉みしだく」

 

「そんな奴に彼女なんて作れねぇよ。じゃ、着替えてくっから待っててくれ」

 

「おう」

 


 

朝っぱらからちょっとしたハプニングがあったが着替え終わったオレはマイクと一緒に食堂に行き雑談をしつつ朝食を食べていると急に放送でオレ達のチームと戦術人形達のレイヴンチームが招集された。直ぐにブリーフィングルームへ来るようにとのことだった。今までの経験上こう言う急な招集の時は任務が言い渡させる時だ。だがまさか基地に着てから1日しか経っていないのにもう任務が来るとはな。やっぱり今のご時世PMCは大忙しだ。取り敢えずオレ達は残っていた朝食を掻き込むと食器を返却口に戻してブリーフィングルームへ向かった。

 

ブリーフィングルームに来ると既にレイヴンチームとサヴェージチームの面々が集まっていた。オレ達がパイプ椅子に着席して更に遅れてスコットが着席して全員が揃ったのを確認したブラック社長は話を始めた。

 

「さて、皆んなおはよう。朝食はちゃんと食べてきたかな?」

 

ブラック社長の問いかけに「はい!食べました!」や「うーす」、「はーい」などと十人十色な返事をして答える。その答えを聞いた社長は部屋の明かりを消すと壁にプロジェクタで地上の航空写真を投影し指示棒で差しなから説明を始めた。

 

「皆きちんと食べている様で何より。さて本題だ。昨晩、我が社に依頼が来た。依頼内容はここにある汚染水浄化施設から約30キロ南下した所にある難民キャンプへ水を輸送することだ。元々はこの汚染水浄化施設から難民キャンプまでパイプが繋がっていたんだがどっかのバカがそれを破壊したせいで今難民キャンプは乾燥地帯ということもあって深刻な水不足に悩まされている」

 

壁に投影されている映像が地上の航空写真から破壊されたパイプを色んな方向から撮影した写真と難民キャンプの写真が出て来た。

 

「君達の任務は破壊されたパイプの修理が完了するまでの間貴重な水を輸送することだ。たかが水と思わないでくれよ。君達の住んでいる街の場合、最悪腹を壊すのを覚悟で水道の水を飲むことが出来るが向こうは違う。水道から水が出て来るのが奇跡なレベルだ。今の世の中綺麗な水を巡って争いが起こることは珍しく無い。21世紀の石油や蒼い宝石と呼ばれることもあるくらいだからな。だからその水を狙って襲ってくる武装集団も当然居ると思われる。そもそも今回このパイプを破壊したのも水を独り占めしようとした武装集団である可能性が高い。敵の規模、武装、練度などに関しての情報は錯綜していて正確な情報は無いがある程度の人数とAKなどの自動小銃で武装しているのは確実だから充分に気を付けてくれ。現地までは距離があるからストリングバッグで現地まで移動する。更に向こうで水を運ぶ為の給水車1台と護衛車2台を用意するそうだ」

 

ストリングバッグと言うのはこの基地で運用している中型多目的ヘリコプター、Mi-17の愛称だ。何でも運ぶ方ができ、輸送、偵察、近接航空支援なども行うことが出来る使い勝手の良さから、何でも入る買い物袋に例えてストリングバッグとオレ達は呼ぶ様になった。そしてヘリで移動すると聞いてM1014が嫌そうな顔をしたのをオレは見た。後からマイクに聞いた話だと何と彼女は高所恐怖症らしい。人形にも高所恐怖症があるのかと思ったよ。

 

「今回の任務は1週間以上長期になる可能性が高い。全員そのつもりで荷物は用意してくれ。それと、これは私からのお願いなんだが現地の人達には愛想良くしてくれ。ウチの会社に悪印象を持って欲しくないからな。今回の任務には今集まって貰っているサヴェージチームとレイヴンチームで行って貰う。何か質問はあるか?」

 

「現地での交戦規定は?」

 

礼儀正しくパイプ椅子に座っていたM1014が手を上げてからブラック社長に質問した。

 

「向こうは難民、山賊、その他武装集団が居るからぱっと見じゃぁ敵味方の識別が困難だも思われる。民間人を誤って撃つと言う事故を防ぐ為にも交戦規定は撃たれるまで撃つなだ」

 

「了解です」

 

「もし給水車が敵の襲撃で破壊された時はどうすんだ?」

 

M1014の次はヘイルが手を上げたりはせずに足を組んだ状態のまま質問した。

 

「修理可能だったら君達が早急に修理して、もし完全に破壊されてしまった場合は代わりの車を見つけるか、ポリタンクとかで地道に運んでもらうことになるな。そんな面倒で非効率なことをしたく無いのならば頑張って給水車を護衛することだ」

 

「他に質問のある人は?」

 

「長期の任務になるってことは状況によっては弾が足りなくなると思うんだがそん時は?」

 

これの横に座っていたマイクが手を上げながら質問した。確かに食料とかは現地で調達出来るだろうが弾薬はそうもいかないからな。

 

「必要とあればこっちからヘリで輸送する。他には?」

 

「出発は何時だ?」

 

足と腕を組んで話を聞いていたヤンが手を上げて質問した。

 

「あぁそうだった。すまない。言い忘れていたよ。今日中に発ってもらう」

 

そう言った瞬間スコット、ヘイル、マイクなどから「今日かよ!」とか「社長の寄越す任務はいつも急だよな」など色々と文句が飛び交った。

 

「うるさいうるさい。文句があるなら難民キャンプにいる依頼主に言ってくれ。他に質問は?」

 

「私達の寝泊まりする場所はありますか?」

 

手をビシッと綺麗に上げたM14が次に質問した。任務によってはオレ達は野宿することも珍しくは無いが出来ればちゃんとした所で寝たいもんな。

 

「難民キャンプの空いている場所を貸してくれるそうだ。難民キャンプの人達は主にテントで生活しているからまぁ君達もテントだろうな」

 

「分かりました!」

 

取り敢えず野宿しなくてすむと言うことが分かりM14は嬉しそうだ。

 

「他に質問がある人は?」

 

「ちょっと今ふと思ったんだがストリングバッグで水を運ぶのはダメなのか?」

 

スコットが手を上げて質問した。確かに、ストリングバッグことMi-17は機内、あるいは機外に吊り下げる形で4トンまでの重さの荷物を運ぶことが出来る能力を持っている。つまり水で換算すると4000リットルもの量を一度に輸送出来る。

 

「そうしたいのは山々なんだがヘリを使って輸送していたらヘリの整備費用やら消費した燃料代やらでこっちが赤字になるんだ。それにもしヘリが現地の敵に撃ち落とされたりでもしたらそれこそ目も当てられない」

 

「お金の問題かぁ」

 

「ま、楽して稼ぐことは出来ないってことだな」

 

スコットの横にいたヤンがどんまいと言う感じにスコットの肩をポンポンと叩いた。

 

「他には?」

 

ブラック社長は数秒間待ったがこれ以上手を上げたり声を上げる人は居なかった。

 

「よし、それじゃぁ幸運と任務成功を祈る」

 

ブラック社長の話が終わると前に座っていたアランが立ち上がって話し始めた。

 

「1時間後にヘリポートで集合。集まり次第出発する。必要な物纏めて忘れ物するなよ!」

 


 

ブリーフィングが終わり自分の部屋に戻ったオレは衣装ケースから例の戦闘用のボディースーツとタイツ、そしてマイクに買ってもらった黒色のジャケットを引っ張り出した。そして着ていたパーカーとジーンズを脱ぎ捨てると先ず先にタイツを履き、そして次にボディースーツを着て行く。ボディースーツは水着の様に身体にピッタリとフィットするが着心地は悪くない。ボディースーツを着終わると上から黒色のジャケットを羽織る。試しに軽くストレッチをして動きを確かめるが特に問題ない。

 

着替え終わったオレは次に机の上に置いていたバッグパックを持って来るとそれにサバイバルキットや医療キット、水筒、着替えの服など必要な物を詰め込んで行く。

 

「雨具は・・・向こうは乾燥地帯って言ってたし要らないか」

 

迷彩柄のポンチョとテントがあると言う話だったが一応寝袋も用意する。雨具のイメージの強いポンチョだがちゃんとした迷彩柄の付いたポンチョだとギリースーツみたいに身体を隠すことが出来る良いアイテムだ。バッグパックに必要な物を入れ終わったオレは部屋から出て廊下で待っていたマイケルと合流すると武器庫へと向う。

 

基地内は基本的に武器の持ち歩きは禁止されておりこうして任務に行く時は武器庫で武器と装備を整えてから行くことになっているからだ。もし武器庫で火災などが起きた時の為にと重厚に出来たドアを開けるとロッカーがズラリと並んでいる。そのロッカーの一つ一つにその武器の持ち主の名前が書いてあり奥の方にあるロッカーには「ケネス」と少し雑に書いてある。そのロッカーのドアに鍵を挿して回し、開ける。

 

中には戦術人形となった今のオレには自分の半身とも言えるM27 IARとサイドアームにはオレが昔使っていたのと同じM45A1、そしてその他装備が入っていた。先ず、一度上に着ていたジャケットを脱ぐとロッカーの中から取り出したチェストリグを着る。そして無線機類、ニーパッド、M45A1用のホルスター、ハードナックルグローブなどの装備品も付けていく。全ての装備品を付け終わるとまたジャケットを上から羽織り、M45A1に弾の入ったマガジンを入れてホルスターに入れた。最後にM27 IARのマガジンをチェストリグのマガジンポーチに入れて行き、残ったマガジンをM27 IARに入れる。

 

そしてオレはマガジンに入っていない散の5.56ミリ弾を60発程を医療品や食料などを入れているリュックに入れる。この弾は予備の予備だ。もし戦いが長期戦になり弾が足りなくなった時はこの散の弾をマガジンに装填して戦う。まぁコレを使う時は結構切羽詰まった状況だろうから使う状況が来ないことを祈るよ。M27 IARを手に取りロッカーを閉めたオレは武器庫を後にした。

 

準備を整えヘリポートに来ると既にMi-17がエンジン音を響かせながらメインローターとテイルローターを回し飛ぶのを今か今かと待っていた。

 

「よぉ。それがお前の新しい戦闘服か。似合ってるぞ」

 

先に来ていたヘイルがオレの服装を見てそう言ってくれたのは良いんだが、その横に居たスコットがまたしてもオレをイヤらしい目で見ている。オイオイ、見た目は確かに女だが中身は男なんだぞ?

 

「成る程成る程。K2やらQCW-05やら戦術人形ちゃん達はなかなか際どい格好の娘が多いがケネスくんの格好もなかなか良いねぇ。肌の露出こそ下はタイツを履いてるし上はジャケットを着ているから少ないけど上に着ているボディースーツとタイツが身体にフィットしているお陰で身体のラインが出ていてそれが良い。この灰色のタイツも太ももの肉感とか脚線美を強調させていて実に良き!そして太ももにホルスターを付ける為にベルトで締めていてそのお陰で太ももの肉がこうむにっとなっている感じも実に良い!・・・太もも触っても?」

 

「良い訳ないだろ!」

 

「ごふっ!」

 

どうした急に。と言いたいくらい突然コイツはすごい早口でオレの着ている服の良さ?に喋り始めた。多分今のコイツの喋る速度は銃のレートで言うと700以上はありそうだ。そしてあいも変わらず腕をわきわきと動かしながら触ってこようとするスコットの顔面にパンチをお見舞いした。

 

「おいおい、まだ出撃してないのに負傷者を出すなよ?」

 

一連のやり取りを見ていたアランが呆れた様子で注意して来た。

 

「大丈夫。ちゃんと急所だ」

 

「何処が大丈夫なんだよ。っておいスコット、またお前必要以上に弾持って来てるだろ」

 

スコットの肩にベルトリンクを掛けた格好と異様に大きいバッグパックとパンパンに膨らんだリュックを持っているのを見たアランがツッコミを入れる。

 

「オレのメインウェポンはマシンガンなんだぜ?お前らの使ってる銃なんかより大量の弾を消費するんだよ」

 

「それにしても持って来すぎだし弾を消費し易いのはお前が必要以上にバカスカ乱射するのが悪いんだろ。お前は適度と言う言葉を辞書で調べろ」

 

「あー知ってる知ってる。不味いよなアレ」

 

「はぁ・・取り敢えずお前は乱射せずにもうちょっと弾薬を節約しろ」

 

「知らないのか?マシンガンってのは乱射するものなんだぜ?」

 

「撃ち過ぎて腔発しないように精々気をつけるんだな」

 

「そんなヘマしねーよ」

 

「どうだか。今まで何回そのPKMをジャムらせたりしたと思ってるんだ?」

 

「そんなに沢山はしてねぇだろ」

 

「してるだろ。まぁ良い。いや良くないが。取り敢えずケネス、ヘイル、あそこの格納庫の入り口の前に置いてある物資をヘリに積み込むのを手伝ってくれ」

 

「「了解」」

 

アランに言われた通りオレとヘイルは格納庫の前に置かれていた大量の飲料水を台車に乗せてヘリの後部ドアから中に乗せて行く。向こうは少しでも水が欲しい状況だからこうしてヘリの持っていける重量ギリギリまで入れるらしい。と言ってもオレ達の座るスペースも必要だからそんなに沢山は入れることは出来ないが。筋肉自慢のヘイルと戦術人形ならなったことで力が増したオレは次々と荷物をヘリに乗せて行く。ヘリに積み込みが終わると荷物を固定用のナイロン製ベルトでヘリの床と繋げて動かない様に固定する。

 

荷物の詰め込みが完了したのをアランは確認するとオレ達の方を向いて、「全員乗れ!行くぞ!」とヘリのエンジン音に負けない様に大声で言った。オレ達は後部ドアからヘリに乗り込みお互いに向き合う形で狭い座席に座って行く。荷物+サヴェージチームとレイヴンチーム合計11人が乗ると流石に狭く感じる。と言うか狭い。アランは全員乗ったのを確認すると大声で話し始めた。

 

「さて、ただ水を運ぶだけと思って気を抜くなよ!向こうは生きる為に必死だ。俺達が運ぶ水を是が非でも奪って来ようとするだろう。向こうの気迫に押されるな。根性で押し返せ!」

 

「「「了解!」」」

 

アランは運転席の方に行くとパイロットに向けてサムズアップして準備完了だと言うことを知らせた。パイロットもサムズアップでそれに答えスロットルを動かしエンジンの回転数を上げるMi-17の機体がローターによって生み出された揚力によってふわっと浮き上がる。ヘリコプターが上昇する時の感覚はエレベーターに乗っている時に感じるあのふわっとしする感じをもっと強くした感じだ。Mi-17は一定の高度まで上昇すると期待を前に傾け、目的地に向けて飛んで行った。




何でヘリがMi-17と言うロシア製のちょっとマイナーなヘリを登場させたかと言うと自分の好きなヘリだからです。ドルフロ本編に登場しているブラックホークヘリでも良かったんですけどどうせなら他の人が登場させない様なマニアックなヘリを出したいと思って今回登場させました。アメリカの有名なヘリ達と比べてちょっとメイドは低いですけど優秀な機体なんですよ?

ご感想お待ちしております。


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第6話 難民キャンプ

お待たせしました!第6話投下でございます。

お気に入り登録、高評価、コメント、誤字報告なと本当にありがとうございます。この小説を読んでもらっているんだなーと実感出来てとても嬉しいです。


Mi-17ヘリコプターに乗って運ばれること約1時間。どうやら目的地に到着した様だ。後ろにある窓ガラスから外を見てみると乾燥した荒地が広がっていて、その中にポツンと難民キャンプがあった。想像していたよりも難民キャンプの規模は大きくテントが所狭しに並んでいる。俺達を乗せたMi-17は難民キャンプの縁にあったヘリポート、と言うかただの空き地に砂煙を撒き散らしながら着陸した。するとヘリを見た難民達が大小様々なポリタンクやタライなどを持って着陸したMi-17へ走って来た。ヘリポートに居た警備員が駆け込む難民達を抑え込もうとするがたった2人の警備員が何十人もの人を止めれるわけも無くあっという間にヘリの周りは難民達によって囲まれてしまった。未だ高速で回転しているメインローターやテールローターに巻き込まれてしまわないかとヒヤヒヤする。

 

「人が多過ぎる!後部ドアが開けれねーぞ!」

 

想定外のことに慌てる俺達。ひとまず外に降りようとするが難民達がヘリに接近し過ぎて外開きの後部ドアを開けることが出来ない。

 

「今は無理に開けるな!今ドアを開けたら機内にまで人が入って来て大混乱になる。全員機内に待機!パイロット!このままじゃいつ人がローターに巻き込まれてもおかしくない!早くエンジンを止めてくれ!」

 

アランが隊長らしく冷静に状況を判断してそれぞれに指示を出して行く。そして無線機を手に取り現地の人間に応援を求めた。

 

「こちらウェスタン・アーミー社の物だがヘリポートに難民達が溢れてヘリから降りられなくなった。すまないがそっちで難民達をどかしてくれ。・・・・分かった。我々はヘリの中で待機する。現地の警備員が周りの人間をどかしてくれるそうだからそれまで大人しく全くぞ」

 

それから約5分後にヘリのエンジンが完全に停止し、更に25分過ぎてようやくヘリポートに殺到していた難民達は警備員の説得となかなか俺達が降りてこないのを見て諦めた様で徐々に数を減らして行った。ヘリが着陸してから約40分後に俺達はようやく機外に出ることが出来た。ヘリから降りると若い男性が出迎えてくれた。事前の説明で知っている。この男が今回俺達に依頼をして来た依頼主でありこの難民キャンプで支援活動を行なっているアラリス難民支援協会と言う名のNGOに所属している奴だ。確か名前はアイク・シラック。こんなご時世にわざわざ人助けをしているんだから凄い奴だよ。アランがシラックの前に立ち握手をしてからお互い自己紹介を始めた。

 

「ウェスタン・アーミー社から派遣されたチームのリーダーのアラン・カッチャーだ。難民達を移動させてくれてありがとう」

 

「アラリス難民支援協会からここに責任者を任されているアイク・シラックです。先程はすいませんでした。本当はああならない様にゲートが設置してあったんですがどうやら閉まる前に入られてしまった様で」

 

「仕方ありませんよ。あの人達も生きるのに必死なんですから。量は少ないですが食料や医療品、そして水を積んで来たので使ってください」

 

アランはケネスも含めた戦術人形達がヘリから降ろしている荷物の方を指差しながら話す。

 

「それは有難い!特に水不足は深刻だったので本当にありがたいです」

 

「それで、ここの今の状況は?」

 

「ここは何もかもが不足していますが依頼した時に話した通りなのより水が今が無いです。ここ最近は気温が高いせいもあって熱中症で倒れてしまう人も多いですしまともに水が飲めずに脱水症になって倒れている人も多いです。泥水を飲んでいる人なんて当たり前の様に居ますし人によっては動物の尿を飲んで喉を潤そうとしている人もいます。勿論衛生的に良くないので感染者にかかったりして死んでしまったりする人もいます」

 

「成る程。となると貴方も水はまともに飲めてない状況ですか?」

 

「そうですね。ちゃんとした綺麗な水は難民達に優先的に配っていますから」

 

「ならこれを。依頼主に倒れられても困りますからね」

 

アランは自分が腰に下げていた水筒を手に取りシラックに渡した。渡されたシラックは「良いんですか⁉︎」と驚きつつアランに聞きアランが首を縦に振って見せると嬉しそうに水筒の蓋を開けて勢い良く飲んで行く。

 

「ぷはぁーーっ!美味い!冷えた水なんて久しぶりに飲みましたよ!」

 

アランの持っていた水筒は魔法瓶になっていたから中の水はまだキンキンに冷えていた様だ。あんなに水を旨そうに飲む奴もそうそういないだろうな。

 

「ありがとうございます。美味しかったです」

 

「それは良かった。さそれで、水を運ぶ為のクルマなどはそちらで用意してくださると言うことでしたがどうです?」

 

「ちゃんと用意してます。給水車1台と四駆を2台用意しています。給水車の方はタンクに5トン分の水を入れれます。四駆の方も我々の方で改造して多少の防弾性は持たせました」

 

「わざわざ防弾装備を付けて下さるとは。有難いです」

 

「私としても我々の為に貴方達には死んで欲しくないですからね」

 

「それと、貴方達が寝泊まりする為の場所も約束通り用意しました。と言っても難民キャンプの一角にテントを設置しただけなんですけどね。ここから近いので直ぐに行けますよ」

 

「テントだけでもあるだけで有難いですよ。何から何までありがとうございます。取り敢えず持って来た荷物を置きたいので用意してもらってテントまで案内してもらっても?」

 

「良いですよ。ついて来てください」

 

と、言うことでシラックに案内されて俺達はこれから最低でも1週間は暮らすことになるテントにやって来た。先ず俺達が寝泊まりする小さいテントが用意されていて話によると2人で一つらしい。そしてそのテントの中で一際大きいテントは俺達が作戦会議をしたり武器などの荷物を置く為のテントらしい。小さいテントの中を見てみるととても狭いがちゃんと人数分の寝具が用意されていた。嬉しいね。背負ってたリュックから今は必要の無い物を大型のテントの方に置いておく。

 

「それじゃぁお前らは誰と一緒に寝るかとかを決めといてくれ。その間に俺はシラックと今後の任務について話して来る」

 

そう言ってアランとシラックは大型テントの中央にある地図を置いた机を挟んで話し合い始めた。俺達の方は言われた通り寝る場所を決める為に話し合いを始める。

 

「コイツとは嫌だって言うのは居るか?」

 

ヤンが全員に向かって聞くとアランも含めた戦術人形達全員から「スコット(さん)」と返答が来た。まぁそう言う返答が来るとは思ってたよ。M14からも嫌って言われるのは相当だぞ。

 

「何でだよ⁉︎」

 

「そりゃあんな狭い空間にボク達と一緒に寝たりしたら何して来るか分かったもんじゃ無いし」

 

「前みたいにいきなり太ももを触られたりするかもしれませんし」

 

そう言ってM1014が自分の足を手で隠しながらスコットから距離を取った。因みに彼女は高所恐怖症なのでヘリになっている間は外を見てしまわない様にずっと俯いていた。

 

「私は胸を突然揉まれたりしました!」

 

ぷんぷんと言った感じで起こった様に言うM14。まさか彼女にも手を出していたとは。

 

「いや、何でお前胸揉んでんだよ?」

 

「いや、あんまり注目されていないけどM14って結構胸デカいんだよ」

 

「いやだからって本人の許可も無く揉むなよ」

 

こう言う系の話だとコイツとはまともな会話は出来ない。普通胸がデカいから揉もう!とはならないだろうよ。

 

「それじゃ、スコットはヘイルと寝ろ」

 

「えぇ⁉︎何が悲しくてこんな筋肉ダルマと一緒に寝なきゃならねーんだよ」

 

「彼女達に手を出した報いだ。ヘイル。コイツは雑に扱って良いぞ」

 

「OK」

 

「NOオォォォォ‼︎」

 

叫びながらスコットはその場に膝から崩れ落ちた。それを俺達は無視して話し合いを続ける。

 

「さて、1組出来たが後はどうする?」

 

「私は静かな人と一緒が良い」

 

VHSならそう言うと思ったよ。彼女は1人の空間にいることが多いからな。もっと他の人と話したりしても良いと思うんだけどな。だがこのメンバーで静かな奴って誰だ?

 

「ならボクと一緒に寝る?」

 

「ん。良いよ。前に貸した本の続き読む?」

 

「あ、良いね。アレの続きが気になってたんだよね」

 

QCW-05の提案をVHSはあっさり飲んだ。意外な組み合わせだ。彼女自身はよく喋る方だがVHSがああやって即決したと言うことはVHSの前では大人しくしているのか。それに2人の会話を聞く感じQCW-05はVHSから本を借りて読んでいるのか。

 

「なら私はM14ちゃんと一緒に寝よっかな♪」

 

「良いですよ!」

 

K2はM14と一緒になる様だ。世話好きのK2と後輩ワンコキャラのM14はしっくりくる組み合わせだ。

 

「あれ、私余っちゃいましたね」

 

余ってしまったM1014がそう言うとケネスが「ならオレと一緒に寝るか?」と提案して来た。

 

「え、あ、大丈夫です!私はソンさんと寝るので!」

 

「宜しく」

 

「あれ、オレ嫌われてる?」

 

「あ、いえ!別にそう言う訳ではないです!」

 

「冗談だよ。気にして無いからそんな謝んなくて良いよ。さてと、それじゃ一緒に寝るか」

 

「え?」

 

何故俺と一緒に寝るってことになった?と思ったがそう言えば残りは俺達とケネスとアランだけだった。アランは大体1人で寝ることが多いし多分誘っても来ないだろう。となると必然的に俺はケネスと一緒に寝ることになる。そこで俺はハッとした。まさかM1014、と言うか戦術人形の奴ら俺とケネスを一緒にしようと画策していたな?いつものM1014ならスコットならまだしもケネスの提案を断ったりはしない筈だしな。

 

「あ、あぁ。そうだな」

 

「何だよ。お前もオレと一緒は嫌か?」

 

「そう言う訳じゃねーよ」

 

するとケネスは何かに気がついたのか納得した様な表情をするとニヤリと何か良からぬことを考えてそうな嫌な笑みを浮かべて来た。

 

「何だよその笑みは?」

 

「分かった。オレが今は女だから一緒に寝るのにドキドキしてるんだろ」

 

「ちげーよ」

 

「そう恥ずかしがんなよ。お姉さんが優しくしてやるから」

 

「だからちげーって!」

 


 

「よーし全員集まれ。これからのことを話す」

 

どうやらシラックとの話が終わった様でアランが全員を招集した。直ぐに大型テントの中にある机の周りに集まりアランが机に広げられた地図を指差しながら説明を始めた。

 

「今日の夕方、4時頃から水運びを始める。先ずここから北に30キロ行った所にある汚染水浄化施設に行き水を補給。そして来た道を戻り難民達に水をやる訳だが幾つか問題がある。先ず一つが行きと帰りの道中で盗賊や今回パイプを破壊した武装集団に襲撃される恐れがあること。そして運良く水を持って難民キャンプにたどり着いたら次はさっきのヘリの時の様に難民達が我先にと雪崩れ込んで来る恐れがあること。特に雪崩れ込んで来る難民達をどう落ち着かせて順番に並ばせるのかが問題だ」

 

「俺達が銃を持って給水車の前に立ったけばビビるんじゃないか?」

 

「もしそうなら着陸したばかりのヘリに群がったらしないと思うぞ」

 

スコットの提案はヤンによって直ぐに否定されてしまった。まぁあの感じだと例え銃を向けたとしても怖がったりすることはなく来そうだよな。

 

「暴動が起きたりする可能性もあるしもしもの為に備えて水を配る時も全員銃は待っていてくれ。多少ああでも銃を持っている姿を見れば怖気付くと思うしな。列に並ばずに無理に来ようとする奴らはレイヴンチームが頼む。戦術人形だから普通の人間より力があるからな。サヴェージチームは水を配る仕事だ。良いな?」

 

「「「了解」」」

 

「さて、次に水を輸送する際だが先ず給水車の運転はマイク、良いか?」

 

自慢じゃないが俺はバイクからトラックまで色々な乗り物を運転することが出来る。ヘリコプターだって運転経験がある。だからこう言う乗り物の運転は俺が任されることが多い。

 

「良いですよ。因みに給水車の車種は?」

 

「詳しくは知らないが旧ソ連製のトラックらしい」

 

「それなら運転出来ると思いますよ」

 

旧ソ連製のトラックとかは大量生産されて世界中にばら撒かれ使われているから乗る機会も多い。実際何度も運転したことがあるし問題無く運転することが出来るだろう。

 

「ならケネス、前は給水車の助手席に座っとけ。護衛の四駆は4人乗りだから1人余るんだ」

 

「了解」

 

「さた、護衛車の方はサヴェージチームとレイヴンチームに分かれて乗る訳だがどっちのチームが先頭を走る?」

 

「私達で!」

 

K2が元気よく手を上げて言った。俺としてはどっちでも良かったので別に異議は無い。それは他の奴らも同じだった様てアランは異議が無いのを確認して頷いた。

 

「分かった。誰が何処に座るかとかはそっちの方で適当に決めててくれ。次に襲撃が予想されるポイントだがまぁぶっちゃけて言うと何処で襲われてもおかしくは無い。あえて言うなら道の横が丘になっているこことかここ。緩やかなS時カーブになっているこことかも車の速度が落ちるから狙われる可能性がある。難民キャンプ近くと汚染水浄化施設近くで襲われることはないだろうが警戒はしててくれ。道中に不審物があった場合は特に注意してくれ。IEDの可能性も考えられるからな。だが社長にも言われた通り間違って民間人とかを撃つ可能性があるから相手から撃たれない限り例えクソ怪しい奴がいてもこっちからは撃つなよ」

 

「「「了解」」」

 

「説明は以上だ。時間になるまではゆっくりしといてくれ」

 

説明が終わり各々適当に時間を過ごす。俺は相棒と雑談をしながら任務に向けて持って来ていたM16A4を分解して整備を始める。

 

「この任務、上手く行くと思うか?」

 

「逆に予定通りに行ったことの方がまずらしいだろ」

 

「まぁな」

 

戦闘と言うのはいつも予定通りに行かない。大まかには予定通りでも細部で問題が発生したり予定が大きく変わってしまう事態になることだってある。重要なのは予定通りにやろうとすることじゃ無くてその予定外のことが起きた時にどう対処するかだ。だが予定通りに事が進んでくれるならそれに越したことはない。面倒なことにはならないでくれよと祈るばかりだ。




水不足が原因で戦闘が発生すると言うのは現実にも起きていることなんですよね。更にドルフロのあの世界ですと核やらコーラップスやらで更に飲める水は少なくなっているでしょうし地獄でしょうね。

水道水だって飲めちゃう日本に感謝です。そして無駄使いしない様にしようと改めて思いました。でも皆さん熱中症には気をつけて下さいね。こまめな水分補給を忘れずに!ケネスくんとの約束だぞ!もし約束を破ったら狙撃されるから気をつけるんだぞ!

ご感想などお待ちしております!


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第7話 Hyena Road

お待たせしましたぁ。第7話投下します。

最近リコリス・リコイルと言うアニメを見始めているんですがとても良い意味で期待を裏切ってくれました。滅茶苦茶リアルな銃撃戦!って訳ではありませんが主人公の女の子がC.A.Rシステムなどを使って戦うシーンはとてもカッコいいです。そして主人公の女の子が底抜けに明るくて声優さんの素晴らしさもありとても可愛いキャラに仕上がっています。もしまだ見ていない方がいましたら是非とも見てみてください。可愛い女の子とカッコイイ銃撃戦、そして女の子同士の尊いやりとりを見ることが出来る素晴らしい作品です。

そして感想、誤字報告、高評価ありがとうございます!


雑草も殆ど生えていない荒野を3台の車が列を成して砂煙を巻き上げながら走って行く。盗賊とかが出没し難い時間と言われている夕方の4時からオレ達は水の輸送を始めた。先ず難民キャンプからジープ・ラングラーと給水車のウラル-4320に乗って30キロ北にある汚染水浄化施設へと向かった。運が良かったのかどうかは知らないが道中敵の襲撃を受けることはなくただただ暇なだけのドライブになった。そしてそこで汚染水浄化施設を警備している別のPMCと会った。オレ達のことは事前に知らせていたので簡単な挨拶と現在のパイプの修理状況を聞いたりしながら給水車に水を溜めた。

 

水をタンクにたっぷりと補給し終わるとオレ達は来た道を戻り難民キャンプへと向かった。片道約36分。往復で約1時間。道中は何にもない荒地をただひたすら走り続けるだけだから景色は同じ様なのが続き変わり映えしない。つまり暇になる訳だ。いつ敵が襲撃して来るか分からないから警戒はしているが何にも喋らず約1時間の間、窓の外の景色と睨めっこしているのは流石に無理だ。だからオレはマイクと雑談をしていた。

 

「やっぱこのトラックは整備し易いしオフロードも走れるしどんな物でも運べる万能車だから好きだ。ちょっとコイツはギアが固くてギアチェンし難いがもしかしてコイツあんまり手入れされてないのか?ミッションオイルはちゃんと交換してんだろうな?」

 

雑談と言うかケネスが一方的に話している車話をオレがたまに相槌しつつ聞いているだけなんだけどな。

 

「帰ったら一度見てみる必要があるかもな。ついでにエンジンとかも見といた方がいいかもしれねぇな。もしミッションオイルを劣化したまま放置してんならエンジンとかもメンテしてない可能性とあるかなら。幾らロシア製で丈夫だからと言っても限度があるしな。それにこれに乗ってて薄々思ってたんだがブレーキの効きも悪い。滅茶苦茶悪いって訳じゃ無いがブレーキを踏んでから車体が直ぐには止まらない。ブレーキを踏んだ時の感覚から考えるにブレーキパッドかブレーキキャリパーが原因っぽいな。まぁメーターの表記がぶっ壊れているから分からんが走行距離は100万キロとか行ってるだろうしブレーキパッドが摩耗してんのかブレーキキャリパーが壊れてんのか、はたまたブレーキオイルが劣化してんのか。でも踏んだ時に鳴くからオイルってよりはブレーキパッドとかブレーキキャリパーが原因なのかもな。表示がぶっ壊れているから分かんなーけどコイツの走行距離どうせ100万キロ以上あるんだろうからな」

 

「そんなに色々と良く分かるよな」

 

「車は好きだからな」

 

考えを纏めたい時や夜眠れない時などオレは銃の分解整備をすることが多いんだがマイクの場合はそれが車になる。マイクの姿が無い時は車庫を探せた大体居るくらいだ。車を整備したら適当にドライブしてみたりしている。車好きが行き過ぎてアイツの愛車の魔改造フィアット126は初心者には扱いきれないマシンになっている。

 

因みにその魔改造されたフィアット126の助手席に初めて乗ったのは勿論オレだ。ある日遂に完成したから来てくれと興奮気味のマイクに電話で呼び出され来てみると有無も言わされずに助手席に座らされてドライブに発進した。マイクが改造したフィアット126は最高速度こそそこら辺のスポーツカーやスーパーカーなどには劣っているが900キロも無い軽量な車体に大型バイクようの大排気量のエンジンを乗せたことで加速はとんでもないことになっていた。思い通りの車を作ることが出来て機嫌を良くしたマイクはオレを助手席に乗せたまま街中をドリフトしたりしながら暴走した。

 

今となってはいい思い出だが当時はいつ事故るのかもヒヤヒヤしていた。フィアット126は古い車で車体も丈夫とは言えないしマイクが軽量化の為に必要じゃ無いと思った物は片っ端から外してしまっているから余計に車体の強度に不安があった。もし事故った場合車体がペシャンコになって押し潰されてしまうんじゃないかと思っていたよ。

 

「実はここに入る前は車屋をオープンさせようかなって思ってたんだよな」

 

「マジ?それは初耳」

 

だがマイク程の腕が有れば実際に車屋で働いて行くことも可能だろうな。毎日顔をオイルで汚しながらカルマを弄っているマイクの姿が簡単に想像出来る。

 

「けど直ぐにアランにウチに来ないかって誘われて今のご時世PMCとして働いた方が稼ぎ良いと思って今に至る訳なんだけどな。ドアの方はここに入る前は何か他にやろうと考えていた仕事とかはあったりしたのか?」

 

「そーだなぁオレの場合両親に捨てられてホームレス生活をしていた時に社長に拾われてそのままPMCとして働いていたから特に無かったかな。兎に角働ければそれで良いみたいな感じだった」

 

「いや待て待て待て。その話こそ初めて聞いたぞ」

 

「聞かれなかったからな」

 

「孤児だったってことか?」

 

「まぁそうだな。父さんと速攻離婚した母さんが一人で育ててくれていたんだが家庭が貧しくてオレを養う金があるなら自分に使うってことで9歳くらいの頃に捨てられた。それからはスラムのおっちゃんに拾われて育てて貰った。それからしばらくなってここに入ったって訳だ」

 

「貧しいからってふつう我が子を捨てるかね?」

 

「まぁ仕方ないさ」

 

「いや仕方なくないだろ。でもそのおっちゃんとやらに拾われて良かったな」

 

「あぁ。あの人には本当に世話になった。実はオレが仕事で稼いだ金の一部はそのおっちゃんに送ってたんだ」

 

「そうなのか。じゃぁお前が居なくなってた半年間は金も来なくなって何か有ったんじゃないかって心配してるかもな」

 

「そうなんだよな。今はこんなナリになっちまった訳だしどう説明をしようかねぇ」

 

そんな風に雑談をしつつ何も無い荒野を走っていると先頭を走っているレイヴンチームの乗ったラングラーが急に速度を落とした。勿論こっちも速度を落とし後ろを走っているサヴェージチームのラングラーも速度を落とす。ここは何も無い一本道の筈だから普通速度なんて落とさなくて良い筈だ。

 

『前方に人が立っていてこっちに手を振っているんだけど、止まってあげた方が良いかしら?』

 

K2の無線越しの報告でオレも前の方に人が居るのに気が付いた。路肩に車が止まっていてその車の持ち主と思われる人間がこっちに向かって手を振っている。

 

『難民キャンプの関係者の可能性もあるから一応止まれ。だが少しでも怪しい動きを見せれば撃て』

 

『了解』

 

ここにいる人は誰が敵で誰が民間人なのか見分けるのは難しい。なら怪しい奴は全員無視するか殺せば良いじゃないと思うかも知れないがオレ達はPMCであって殺し屋じゃない。確かにオレ達はそれ相応の金を貰えばその敵を殺すが関係の無い人を殺す事はない。助けを求める人が居れば無視したりせずに助ける。

 

アランの言う通り敵の可能性も充分に有り得るから手に持っていたM27 IARのチャージングハンドルを軽く後ろに引いてちゃんとチャンバーに弾が装填されているのを確認していつでも撃てる様にセレクターレバーをセーフからセミオートに切り替えた。運転してあるマイクも腰に付けていたホルスターに入れていたP320のコンパクトモデルの安全装置を外す。

 

やがて手を振っていた若い男の前にレイヴンチームのラングラーが止まりそれに合わせてこっちも止まる。男はレイヴンチームのラングラーの運転席の方に歩いて行くがその時にオレは男の履いているズボンの後ろのポケットに拳銃が入れてあるのを確認出来た。直ぐに無線機を手に取って全員に繋げる。

 

「銃だ。今レイヴンチームに接近中の男のズボンのケツポケットに拳銃を隠しているぞ。気をつけろ」

 

『了解』

 

『銃を手に取る動作をしたら撃て。敵はアイツだけとは思ない。伏兵に気をつけろ』

 

ニコニコと笑顔を浮かべラングラーに接近した男は運転席に座るQCW-05に笑顔を浮かべたまま話しかける。それに対してQCW-05もいつもの様にこやかな笑顔を浮かべて対応する。QCW-05がわざと無線機をオープン状態のままにしていたのでその男との会話はこっちもバッチリ聞くことが出来た。

 

『これは驚いた。ゴツい四駆に乗っているのがこんな美人さん達とはね』

 

『女が四駆に乗ってたらダメなの?』

 

『いや、別になんの問題もないよ。にしても大きいトラックを連れているけど何を運んでいるんだい?』

 

『そんなに大した物じゃないよ。貴方こそこんな所で貴方は何をしているの?』

 

『あーそれはな』

 

と言いつつ男は右手をさり気なく後ろに回してポケットに入れていた拳銃を手に取った。オレは直ぐにM27 IARを構えてソイツを撃とうとしたがそれよりも早くQCW-05がホルスターからサイドアームのQSW-06を取り出して男のおでこに銃口を突き付けた。銃を構えようとしていた男は逆に銃口を突き付けられたことでポケットから拳銃を取り出したまま動きを止めた。

 

『ちょ、待ってk』

 

男が命乞いを言い終わる前にパンッ!と乾いた銃声が鳴り響き頭を撃たれた男はその場に倒れた。その瞬間何処に隠れていたのやら地面に伏せて擬態していたと思われるAK-47や拳銃、ショットガン、モシンナガンらしきボルトアクション銃など様々な銃火器を持った人間が現れこっちに向かって撃って来た。

 

「行け!行け!出せ!」

 

幾らドアの裏側に鉄板を貼り付けているとはいえ絶対に貫通しないとも言えないしこの鉄板の厚みから予測するに敵の何人かが持ったいるモシンナガンの弾とかなら貫通する可能性もある。それに水を入れているタンクに防弾性は無いから撃たれたら水が漏れ出してしまう。だからこっちが撃たれる前にさっさと発進した方が良い。だが5000リットルの水を積んだこのトラックはそんなに加速力は高く無い。助手席側の窓を開けこっちに向かって撃って来ようとする敵に撃ち返す。

 

この敵はそんなに戦闘には慣れていない様に見える。こうして奇襲して来た所までは良いが奇襲って言うのは相手が予想外、又は突然の攻撃に驚き混乱している内に効果的な攻撃を与えて制圧するやり方だ。アイツらの場合、十中八九狙いはこのトラックの運んでいる水だろうから先ず走って逃げれない様に先頭のレイヴンチームを襲い、その次に後ろのサヴェージチームを襲いトラックが後ろに逃げれない様にする。そしたら後はトラックだけになるから比較的簡単に制圧することが出来る。

 

だかアイツらは連携が取れておらず各々好き勝手な方を狙っているし何か遮蔽物に隠れたりすることもなく地面に中腰の姿勢で撃っていたり棒立ちのまま撃って来ている奴もいる。こっちとしては撃ち易くて良いんだがな。こうなると射撃練習場で的を撃っている時とそんなに変わらない。それに敵の何人かは銃の持ち方もちゃんと出来ていない。AKのストックを脇に挟んでフルオートで撃って来ている奴もいる。そんな撃ち方じゃリコイルコントロールも上手く出来ないし何より狙えない。

 

後ろのラングラーに乗っていたヘイルは後部座席からPKMを乱射する。こう言う時に機関銃はとても活躍する。弾は当たらなくても大量の弾丸が飛んで来ると言うのは撃たれている側からするととても恐ろしく物陰に隠れたまま身動きが取りにくくなる。その間に徐々に速度を上げていたトラックは撃ちまくって来る敵達を置き去りにして走り去って行く。ヘイルは走り去る時に路肩に止めてあった車をPKMを蜂の巣にした。タイヤやエンジンなどに多数の弾丸を食らっているからアレじゃぁこっちを追いかけて来ることは無いだろう。完全に敵から逃げ切ってからアランから全員に対して無線で話しかけて来た。

 

『全員大丈夫か?負傷者などがいる場合は報告してくれ』

 

『こちらレイヴンチーム。負傷者、死者どちらも無し』

 

「こちら給水車、こちらも被害無し。タンクの方は大丈夫か?そっちから見てくれ」

 

『了解した。こっちから見る限りタンクに被害は無い。水漏れも確認出来ない』

 

「了解」

 

難民キャンプまで残り道のりはまだ残り半分以上残っている。普通ならこれ以上同じ様に待ち伏せ攻撃を喰らう事は無いが戦闘に絶対は無い。2度目の待ち伏せ攻撃が来る可能性も無いとは言えない。だから周囲を注意深く見る。そのお陰だろう。道のない荒野からピックアップトラック3台がこっちに向かって走って来ているのを見つけることが出来た。

 

「3時の方向。ピックアップトラック3台がこっちに並走しつつ接近中!先頭を走っている一台の荷台に軽機関銃!」

 

『了解した。ヘイル!威嚇射撃!』

 

右側から並走しつつこっちに接近して来ているピックアップトラック達に対してヘイルが再びPKMを乱射する。たがあくまで威嚇なので敵のピックアップトラックには当てずに近くの地面に撃つ。

 

軽機関銃を撃たれたことにより動き驚いたのかふらついたが急停車したりする事は無かった。もしかしたら単純にこっちが外したと思われた可能性もあるな。まぁ何にしろ敵は止まることなくこっちに接近して来た。

 

『威嚇射撃の無視を敵対と判断する。全員撃て!』

 

アランの指示した直後右側を走るピックアップトラック3台に対して一斉に撃ちまくった。オレもM27 IARを構えて先頭を走っているピックアップトラックの運転席を狙ってセミオートで撃つ。相手との距離が近かったこともあり、そして戦術人形の正確な射撃能力もあって3発撃った弾の2発が運転手に命中した。運転手を失ったピックアップトラックはクラッシュこそしなかったが派手にスピンして後続のピックアップトラックに激突した。3台目のピックアップは急カーブすることで1、2台目の衝突事故をギリギリ回避したが全員からの一斉射撃を受けて中になっていた人間全員が蜂の巣にされた。結局敵はこちらの圧倒的な弾幕により1発も撃つ暇なく全滅してしまった。

 

『全員残弾の確認とリロードをしておけ。そして周囲警戒も続けろ』

 

「『了解』」

 

何とか敵の2度の襲撃をやり過ごしたオレ達は引き続き周囲の警戒をしつつ難民キャンプへ向かった。

 

すったもんだありながらも何とか難民キャンプに到着したがこれからが本番だ。難民キャンプの正面ゲート前に止まった給水車の姿を見つけた難民達は予想通り水を手に入れようとバケツやポリタンク、タライなど水を入れれそうな物を手に持って閉じているゲートにワラワラと集まっていた。このゲートが開いたら駆け込んで来るのは目に見えている。

 

「よーし、ケネスを含めたレイヴンチームは予定通り押し寄せて来る人間の整理を。俺達レイヴンチームは水を配るぞ」

 

アランがゲートの前に立っていた警備員達に対して合図を送りその合図を確認した警備員はゲートを鍵を開けゆっくりと開けようとしたが鍵が開いた瞬間難民達はゲートを無理矢理押してゲートを開けると一斉に給水車の方に雪崩れ込んで来た。

 

「走らないで!並んでください!」

 

「落ち着いて!走らないでください!」

 

「並んでください!」

 

オレ達は横一列に並んで走って来る難民達に立ち塞がり「走らないで」「並んで」と繰り返し叫ぶが必死な難民達は聞く耳を持たずオレ達の後ろにある給水車に向かって走って来た。走って来た難民達を何とか押さえ込もうとするが幾ら戦術人形が通常の人間より力があるとは言え大勢の人間を抑え込むことは流石に出来ない。それに戦術人形の人数はオレも含めて6人なのに対して押し寄せて来る人数はその倍以上の人数はいるから圧倒的に人数が足りない。結局やって来る難民達の交通整理は上手く出来ずヘリの時みたいに給水車の周りに難民達がワラワラと集まった。だがそんなに集まられても蛇口は給水車の後ろに4つあるだけだから一度に水を補給出来る人数は限られている。なので自分が水を先に手に入れようと先に水を補給していた人間を殴ったり蹴ったりする奴まで現れ始めた。さらに折角手に入れた水も他の奴が奪い取ろうとして喧嘩になりさらに漁夫の利を狙って別の奴が水の入った容器を奪いに来たりともう現場は混乱状態だ。

 

オレ達は給水車の周りに集まる難民達を何とか並ばせようと説得したり引っ張ったりするが水を手に入れることに必死過ぎで言うことを聞かないし人数が多過ぎる。給水車の周囲はまるでゾンビの大群に襲われている様な状態だ。ヘイルやマイクなどサヴェージチームのメンバーは「おら!大人しく並べ!」などど叫びながら無理矢理引っ張って給水車に近付く難民達を引き剥がしたりしているがK2やM1014、M14などと言った優しい性格の奴が多いレイヴンチームは手荒なことが出来ないまま必死に説得をしようと試みているがそれは全部無視されてしまっている。

 

「アラン!やっぱり相手の人数が多過ぎて対処が出来ない!」

 

難民達の怒号や悲鳴などで仲間との会話も困難になっていたのでオレは無線機を使ってアランに話しかける。

 

『だな。それに全員必死過ぎてこっちの話を聞いちゃいない。社長からは難民達には手荒な真似はするなと言われているがこのままだと水を巡って難民達同士で喧嘩とかになりかねない。ケネス。給水車の上に登って1発威嚇射撃しろ。流石に銃声がなったらコイツらも話を聞くだろう。頼めるか?』

 

「あぁ。ちょうど目の前に梯子がある」

 

オレは梯子を登って給水車のタンクの上に登るとM27 IARのセレクターレバーをセーフからセミに切り替えて銃を上に向けて引き金を引いた。1発だけだったが165デシベルにもなるその強烈な音は難民達を驚かせ黙らせるには充分か威力を有していた。驚き静まり返った隙にオレは大声で言う。

 

「全員並べ!子供、老人、女性、障害のある者が優先だ!そして既に水を手に入れた人から水を奪おうとするな!水の量は1人最大4リットルだ!言うことを聞かない奴はこちらも実力行で黙らせるぞ‼︎」

 

そうオレが言うとサヴェージチームのメンバーは各々アサルトライフルを手に持っていつでも撃てる体制になった。コイツらはノリが良くて助かるよ。勿論実力行使で黙らせるとは言ったがオレも含めて銃殺しようと考えている奴は居ない。だがこうしてビビらせないとコイツらも話を聞いてくれないと思ったからやった。そしてこの脅しは効いた様で難民達はさっきとは打って変わって大人しく並んでくれた。

 

「やり過ぎたか?」

 

「いや、良くやった」

 

説明を終えてタンクの上から降りたオレはアランに聞いてみたがアランは親指を立てて見せた。その後の水の配給は大きな混乱もなく順調に進み3時間程経った頃に給水車のタンクが空になった。かなりの人数に水を渡すことが出来たが受け取ることが出来なかった人もいた。

 

なので明日からは一日中最低でも2回は水の配給をする必要があると言う話になった。だが初日でも給水車が襲われたことを考えると1日に2回も同じ道を行き来するのは危険じゃないかと言う意見が出たがそこはこちらの警備を更に厳重にすることで対応すると言うことになった。警備を更に厳重にすると言うのは人手を増やすと会う訳ではなく今までは撃たれるまでは撃たないと言う交戦規定に則って戦っていたが明日からは怪しいと思ったら即攻撃と言う方針に変更となった。

 

にしても今日だけでも水の配給は大変だったってのに明日からは最低でも2回はやることになるんだからこりゃ思っていたより大変な仕事になりそうだ。




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