死にたくないから生きてるだけで (猿も電柱に登る)
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10000UA記念 ウマ娘実装時の掲示板


 お茶濁しです。

 掲示板に詳しくないので簡易掲示板ですが、ご容赦ください。
 後かなりネタバレが激しいので苦手な人はスルーしてもらってくださいな。



 7月8日修正

 前 『欧州三冠』

 後 『外国荒らし』


 

 ウマ娘総合スレ 【祝】 ジャポーネ実装

 

 

 1:名無しのトレーナー ID:WK5Ed4dOP

 実装おめでたいので勢いでスレ立て、ジャポーネについての雑談ならなんでもええけど、批判と喧嘩はダメやで!  

 

 2:名無しのトレーナー ID:OQaNvqWHD

 スレ立ておつ、オグリ世代の化け物筆頭ようやく実装か

 

 

 3:名無しのトレーナー ID:UJnoKW6sS

 タマモクロス「嘘やろジャポーネ……」

 

4:名無しのトレーナー ID:mPDgJlIoS

 これに関しては狙ってただろ運営

 

 

5:名無しのトレーナー ID:B7N7PEu0W

 運営 『次に実装するウマ娘はこの季節に伝説を作った競走馬です』

 

 

6:名無しのトレーナー ID:8jp490ps6

 天皇賞(秋)だな、なら春秋制覇のタマモクロス実装だ!、からの『オランジーネ』が凱旋門取ったから予定変更

 

 

7:名無しのトレーナー ID:hpbPJx462

 言うて凱旋門もほぼ同時期だから普通にこの時期に実装予定だったろ

 

 

8:名無しのトレーナー ID:ZRBo3Th0r

 シングレだと弱そうなイメージなんだけどそんなにすごい馬なん?

 

 

9:名無しのトレーナー ID:1Z0dRu362

 お前逆に知らないの

 

10:名無しのトレーナー ID:YvpJvQIuw

 喧嘩腰は止めとけ

 

 

11:名無しのトレーナー ID:ZRBo3Th0r

 すまん、ウマ娘から競馬に入った初心者なんや……

 

 

12:名無しのトレーナー ID:jowHNJ/eL

 日本初の凱旋門勝利馬だぞ。第二次競馬ブームを引っ張っていった一頭。

 

 

13:名無しのトレーナー ID:T6qf1w7hb

 出鱈目に初速が遅い馬で引き換えに気持ちが悪いスタミナと加速をしてる。

 

 

14:名無しのトレーナー ID:4l0/tJx5B

 というか肩書きは外国荒らしの方が正しくないか?

 

 

15:名無しのトレーナー ID:OF+dg8Q1a

 凱旋門は孫も取ったから分かりやすさならそっちかもね、その肩書きだとわかりにくいし

 

 

16:名無しのトレーナー ID:p2im+Kj16

 たし蟹

 

 

17:名無しのトレーナー ID:ZRBo3Th0r

 すまん、ありがとう

 

 

18:名無しのトレーナー ID:WPIVzlSzb

 素直におかしい経歴の馬ではあるから覚えておいて損はないぞ。

 

19:名無しのトレーナー ID:dtGVkhAHz

 やさしいせかい

 

 

20:名無しのトレーナー ID:rmHlqB1CN

 やさいせいかつ

 

 

21:名無しのトレーナー ID:8Y9WcxDjv

 あえてここでテンプレを切断するが、ジャポーネあんまりにも可愛すぎないか?

 

 

22:名無しのトレーナー ID:1HjpuqTXi

 えっ?、なんかめっちゃ辛辣やったけど……

 

 

23:名無しのトレーナー ID:PuZg3Q31U

 あー、お前お姉さまで遊んでるだろ

 

 

24:名無しのトレーナー ID:1HjpuqTXi

 せやな

 

 

25:名無しのトレーナー ID:g+mmpCAuQ

 たぶんリアルで育児放棄された話と父親と仲良しなエピからストーリーが性別で変化するっぽい

 

 

26:名無しのトレーナー ID:MRrC85ZYT

 へー、そんな話があったんすね~

 

 

27:名無しのトレーナー ID:u9IXGJQjh

 せやで、何かファザコンっぽい性格もその辺から来てるんやろうな

 

 

28:名無しのトレーナー ID:oUr7PWlDy

 でも育成ストーリーで女トレーナーにするとお母さん呼びをしてくるからそっちはそっちでかなりええで

 

 

29:名無しのトレーナー ID:7TqzD49OV

 まじ?、俺今からお姉さまになるわ

 

 

30:名無しのトレーナー ID:GaAUYnp7F

 オネエさまの間違いやろ

 

 

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127:名無しのトレーナー ID:k+9XH8erv

 結局だけど性能はどうなん?

 

 

128:名無しのトレーナー ID:xCN/7nM+d

 なんかレース見てるとバグかと思うけど普通に強いで

 

129:名無しのトレーナー ID:yzpE+W5U7

 ん?、どんな感じなん?

 

 

130:名無しのトレーナー ID:BPcSlgLf9

 おっ?、育成ウマ娘のレース見ない皆かお前は

 

 

131:名無しのトレーナー ID:OifsTZKQU

 んにゃ、俺のスマホに実装してくれない

 

 

132:名無しのトレーナー ID:USEHU02hf

 あっ……(察し)

 

 

133:名無しのトレーナー ID::OifsTZKQU

 天井したいと思えるほど思い入れのある馬じゃないし……。

 

 

134:名無しのトレーナー ID:UswMpftcr

 まあ、おっさん世代に人気な馬のイメージはあるからしゃーないかね

 

 

135:名無しのトレーナー ID:xCN/7nM+d

 ん……、話を戻してもええか?

 

 

136:名無しのトレーナー ID:JlfqMO6NV

 待ってくれとったんかい!、ありがてえ……

 

 

137:名無しのトレーナー ID:xCN/7nM+d

 よし、んじゃステータス紹介やな、スタミナに20%補正とスピードに10%補正の優良ステ

 

 

138:名無しのトレーナー ID:s2R9lA6W4

 おお、ええやん

 

 

139:名無しのトレーナー ID:xCN/7nM+d

 距離適性は中距離はB、長距離がA適正で短距離とマイルはG適正の悲しみ

 

 

140:名無しのトレーナー ID:C8Vmchvqr

 逆にマイルでも適正があるのはおかしい馬だから正常だよね

 

 

141:名無しのトレーナー ID:xCN/7nM+d

 でもダート適正はCやで!

 

 

142:名無しのトレーナー ID:9PjS/kYBd

 宝の持ち腐れもいい加減にしろ!

 

 

143:名無しのトレーナー ID:VyqT0/OwF

 洋芝を反映した適正なんだろうけどそれでもいらない適正じゃないかな?

 

 

144:名無しのトレーナー ID:QKjeNKlb7

 あー、そうやったダートは実質マイルやったな……

 

 

145:名無しのトレーナー ID:rLd36wYmL

 まあこれに関しては仕方ないな、そいで何でバグかと思ったんや?、正直それが気になるんや

 

 

146:名無しのトレーナー ID:xCN/7nM+d

 おっと、そうやった。驚くなかれ!、脚質適正は『逃げ』がAで『追い込み』がAや!

 

 

147:名無しのトレーナー ID:SHe/FAQlX

 ?????????

 

 

148:名無しのトレーナー ID:pYiuwywCd

 なんだろう相反する適正を両立するの止めてもらっていいですか?

 

 

149:名無しのトレーナー ID:XPYIKNrkf

 (そんなに違和感ないなと思った)自分に驚いたよね

 

 

150:名無しのトレーナー ID:1yRXvA4xa

 某さんの語録の使うのは止めるんだ!

 

 

151:名無しのトレーナー ID:lhecBGxtA

 実際、素人目で見ると追い込みにしか見えないんだけど、実際は全力で走ってるから逃げってことか……、てことはそのバグはもしかして

 

 

152:名無しのトレーナー ID:xCN/7nM+d

 せやで!、逃げにしたはずなのに順位が13位スタートやったからな!

 

 

153:名無しのトレーナー ID:mQIaxRx7t

 あー、それは本家再現か、さすがやな運営

 

 

154:名無しのトレーナー ID:TGuDPJxN+

 競馬初心者にも優しく教えてくれないっすか……

 

 

155:名無しのトレーナー ID:jMsH55kJD

 ええよ、それじゃ、あと頼んだ

 

 

156:名無しのトレーナー ID:HAVm3VkGp

 丸投げかい!、まあええよ、ジャポーネって馬は加速が遅い……、んにゃ遅いとは違うな説明するの難しいは

 

 

157:名無しのトレーナー ID:AnSp+Obuf

 シンプルにスタートが苦手でいいんじゃない?

 

 

158:名無しのトレーナー ID:HAVm3VkGp

 んにゃ、スタートはむしろ得意だからなんともいえないんよ

 

 

159:名無しのトレーナー ID:MVmj6GKXt

 んー、古い車って言えばわかるかな?、暖まるまでが遅いから速度が出るのが終盤になるんだけど、本馬は全力で走り続けてるんよ

 

 

160:名無しのトレーナー ID:TGuDPJxN+

 ?、つまり本気を出し続けていないと弱いタイプってことでええの?

 

 

161:名無しのトレーナー ID:vzIMQi9aZ

 せやな、勝負が長いほど圧倒的なレースになるタイプの馬だから長距離最強とか言われてたで

 

 

162:名無しのトレーナー ID:T3ofTGKVX

 長距離最強?なんだそれは!

 

 

163:名無しのトレーナー ID:vzIMQi9aZ

 くくく、それはな、ウマ娘のレース見てたらわかるかもしれへんけど、第三コーナーでごぼう抜きするのを見てないかな?

 

 

164:名無しのトレーナー ID:OkZ0aSuVm

 うむ、そうやったけど

 

 

165:名無しのトレーナー ID:vzIMQi9aZ

 距離が遠くてもスピードは落ちないどころか延々と加速し続けていくんやけど、コーナーでもスピードが落ちないから長ければ長いほど強いって言われてたんや。

 

 

166:名無しのトレーナー ID:rQZ16eb50

 はー、勉強になるっすねー

 

167:名無しのトレーナー ID:vzIMQi9aZ

 そいで第三コーナーに差し掛かる頃には普通の馬じゃ太刀打ちできなくて、それに2400mより長ければ並みの馬は勝てないからこの異名が付いたらしい

 

 

168:名無しのトレーナー ID:GTuVN3263

 でもそれって逃げ適正に分類されるん?

 

 

169:名無しのトレーナー ID:AR8IhWOaq

 たし蟹おかしいな……、どうしてそうなったんだ……

 

 

170:名無しのトレーナー ID:eTyy4CIW0

 たぶん主戦騎手のせいかな……

  

 

171:名無しのトレーナー ID:T/MbDJw2I

 主戦騎手ってあの人か……

 

 

172:名無しのトレーナー ID:SibM6KmPF

 アプリ版トレーナーに例えるとタイトレ系列の熱血男やで

 

 

173:名無しのトレーナー ID:A9tlgJaKr

 『こいつは逃げてるつもりなんですよ、ちなみに俺も逃げてるつもりですよ』

 

 

174:名無しのトレーナー ID:W5pjMUexO

 んなわけないやろ!ってツッコミ入れられてたけど、耳が聞こえないで気持ち良く大外を走ってるなら、他の馬の音とか聞こえてないかもしれんな……

 

 

175:名無しのトレーナー ID:w0WJSreFW

 その辺の逸話からの調整やろうな

 

 

176:名無しのトレーナー ID:BjgH2EiFG

 流石に作り込んでいらっしゃる

 

 

177:名無しのトレーナー ID:0FlGP68zd

 実際はどうやったん?、流石に逃げの走りには見えなかったんやけど

 

 

178:名無しのトレーナー ID:TWQPtkLlo

 んにゃ、本当にそうらしいよ

 

 

179:名無しのトレーナー ID:FoXYFZOsf

 やっぱ有名ジョッキーはいろいろとおかしい

 

 

           

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540:名無しのトレーナー ID:3nEyt3Joz

 このスレの更新早くないか?

 

 

541:名無しのトレーナー ID:hAL/SATPB

 いうて『ナンキョクコウテイ』の時と動きは変わらんやろ

 

 

542:名無しのトレーナー ID:IQbW3lSFl

 ペンギン……

 

 

543:名無しのトレーナー ID:pZ0QhT6jE

 『ほう、死にたいようだなトレーナー』

 

 

544:名無しのトレーナー ID:f5Xgc6Dx0

 許して!

 

 

545:名無しのトレーナー ID:D+POhENve

 息子の話になっとるで

 

 

546:名無しのトレーナー ID:QDrFzKYlG

 いや息子のインパクトは異常だったから、むしろお父さんの方が地味に見える

 

 

547:名無しのトレーナー ID:aqLgv3vdo

 勝負服がペンギンとか予想しててもシュール過ぎて吹いたは

 

 

548:名無しのトレーナー ID:aaEV1kgEh

 はい!、話を戻すぞ!

 

 

549:名無しのトレーナー ID:i6N1M3wQu

 すまん悪のり精神が働いた

 

 

550:名無しのトレーナー ID:wlGCFAlvh

 許す

 

 

551:名無しのトレーナー ID:9ck18GFo/

 で、なんの話してたっけ?

 

 

552:名無しのトレーナー ID:fJLcJUB2T

 自分で遡れ(キャラストーリーの話っす)

 

 

553:名無しのトレーナー ID:4KFBdw4YW

 ツンデレおつ、でも助かる

 

 

554:名無しのトレーナー ID:FvmfUzDgx

 実際、予想外なキャラクターだったよな

 

 

555:名無しのトレーナー ID:8cpeHfJA6

 『ラジって呼んでください!』からの『はっ?、突然馴れ馴れしいんですけど、まいいけどさ』

 

556:名無しのトレーナー ID:Tz0AV2jEj

 二重人格かと思ったら『いつでも明るいウマ娘を演じれば相手に突然近づいても不審に思われないでしょ』だもんな……、どうしてああなったんやろか?

 

 

557:名無しのトレーナー ID:DO5Kj6SH/

 レース中はダウナーだったらしいよ

 

 

558:名無しのトレーナー ID:ClMQbVzsQ

 会話ができる主戦騎手が便利すぎるから、あの人に聞いたイメージから構成されてるらしい

 

 

559:名無しのトレーナー ID:hHbaEbj00

 へー、そうなんか

 

 

560:名無しのトレーナー ID:tmr+oNhjH

 あとタマモクロスと同じツッコミ枠なのは今後が忙しそうなやと思った

 

 

561:名無しのトレーナー ID:4tAgkTdhf

 ツッコミが二人で足りるわけないんだよな……

 

 

562:名無しのトレーナー ID:3yvIVG9Qy

 『コウテイ、助けて……』

 

 

563:名無しのトレーナー ID:YLlwjAs8e

 恥も外聞も捨てて息子に助けを求める父親の図

 

 

564:名無しのトレーナー ID:b0Mca/B/0

 オグリとクリークに挟まれた上で、チヨちゃんとヤエノにも捕まってたから助けを求める方が普通なんよ……

 

 

565:名無しのトレーナー ID:aryJ2K3Tw

 それと地味に恋愛に強い

 

 

566:名無しのトレーナー ID:jkEGc8Y+r

 『ん?、今補聴器はずしてて聞こえないからもっと近づいてくんない?』

 

 

567:名無しのトレーナー ID:cxdxECkLo

 『お、良い筋肉してるじゃん』

 

 

568:名無しのトレーナー ID:lqxAqB73b

 『はっ?、何言ってんのトレーナー、夜遅くまで私の走りを考察して、最適なコースを選べるトレーナーがいんの?、いないからあんたに声をかけたんじゃないの?』

 

 

569:名無しのトレーナー ID:GXLi3kJPm

 「ボディタッチが多いから勘違いしそう……」

 

 

570:名無しのトレーナー ID:d7C8wb2KA

 オタクにやさしい委員長

 

 

571:名無しのトレーナー ID:YNKk3SCJW

 『どうしたのオグリちゃん?、お腹が空いた?、ん……、私も小腹が空いちゃったんだよね~、明日の朝ごはん分のためにたくさん作っておきたくもなったな~』

 

 

572:名無しのトレーナー ID:njdkRn44D

 ママ……

 

 

573:名無しのトレーナー ID:3Eq0XMIir

 独りっ子っていう描写があってあれは異常

 

 

574:名無しのトレーナー ID:UnZ3N/ICz

 ジャポーネは私の母になってくれたかもしれない女性だ

 

 

 

 

 以降、自分たちのママを決める戦いが始まったのだった。

 

 

 

 

 

 



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50000UA記念 掲示板回 ネタバレ注意


 アンケート結果がほとんど同じだったので、どっちも書くことにしました。
 結果、自分の掲示板製作の才能のなさに絶望しました。

 ウマ娘の方はとあるイベントの掲示板ということにしてくださいな。





 今回のイベント概要


 理事長「いかーん!!!」

 たずな「どうしたんですか!?」

 理事長「最近ウマ娘たちのライブへの意識が
     低くなっている!!!」

 たずな「そうでしょうか?……、皆さんしっかりと
     練習していらっしゃいますよ?」

 理事長「………、しかーし!、学園から有志を
     募りライブの素晴らしさを広める
     ためのイベントを開催する!」

 たずな「……、本気で言っていますか?」


 イベント『ウマドル最強決定戦』


 五つのウマドルグループのウマ娘を使用して、ファンを集めよう!

 ファン数を一定以上集めると報酬を獲得できます
 全体ノルマを超えるとオリジナルライブを見れるようになるので協力してみんなでファンを集めましょう。


 

 ウマ娘板 新規イベントについて ネタバレ注意

 

 

1:名無しのトレーナー ID:XD0pCD3Dv

 

 いろいろ言いたいことありそうだしスレ立て

 

2:名無しのトレーナー ID:5nVnLEhdH

 

 サンキュー

 

3:名無しのトレーナー ID:pJMyNMMoj

 

 ありがとう

 

4:名無しのトレーナー ID:iZfL3qPF5

 

 まあ、今回のイベは想定外ではあったよね

 

5:名無しのトレーナー ID:l3ggkub4e

 

 今までがレースとか育成関連のイベントだったから唐突にファン感謝祭系イベントが出たからビックリしたは

 

6:名無しのトレーナー ID:SvJPmwHHs

 

 まあ某社さんはこの辺のイベントに一日の長があるからねー

 

7:名無しのトレーナー ID:H9u60q4v1

 

 レンタル方式で育成ウマ娘が貸し出されるのはありがたかったよねー

 

8:名無しのトレーナー ID:kHpg1gpsJ

 

 おかげでオグリのストーリーが完走できましたー!

 

9:名無しのトレーナー ID:XVVwsjklB

 

 因子として使えないのは難点だけど育成ウマ娘を増やせるのはありがたい

 

10:名無しのトレーナー ID:anKk6ib8V

 

 グループを増やせば貸出しウマ娘も増やせるから良イベだったは

 

11:名無しのトレーナー ID:WKwg7KZbZ

 

 『ウマドル最強決定戦』とかいう現役時代も何もない特殊イベだったから楽しかった

 

12:名無しのトレーナー ID:DRhePox14

 

 不思議な組み合わせのグループがあって好きだった記憶、カレンチャンハカワイイデス!!!

 

13:名無しのトレーナー ID:yOoPwbGoc

 

 王道の『逃げ切りシスターズ』と三冠馬のグループの『プルーフ』とかカッコ良かったよね

 

14:名無しのトレーナー ID:mmyO1XJXY

 

 個人的にはそれぞれにノルマがあるのが好きだった。

 

15:名無しのトレーナー ID:hYK1UbTO0

 

 このチームしか選べない!、みたいなのじゃないのはありがたいよね、SSRサポカの配布も全体目標だったし、個人目標の報酬もピースで今までのレジェンドレースをしていれば実質的にキャラをゲットできたし

 

16:名無しのトレーナー ID:mYlldSTmT

 

 オグリ難民としては助かった

 

17:名無しのトレーナー ID:y6Hpxa3bC

 

 これでスズカを解放できたはー

 

18:名無しのトレーナー ID:qnnkQreZ8

 

 こっちもブルボンいけた

 

19:名無しのトレーナー ID:CdyUab1xC

 

 今回は全体的に良イベってことでいいの?

 

20:名無しのトレーナー ID:oDVXgeUsF

 

 うむ、結構好きな内容だった

 

21:名無しのトレーナー ID:tWEsIbVQJ

 

 個別ストーリーに、個別ライブと個別楽曲は気合いが入りすぎてるんだよな、これが神イベにならないわけがない

 

22:名無しのトレーナー ID:IExLmLb0x

 

 それじゃ、風呂入ってから『ツインKAWAI♡』のノルマがまだだからちょっと消えるね。

 

23:名無しのトレーナー ID:EDPkoDQ9w

 

 は?、ふざけるな先にノルマを達成しろ

 

24:名無しのトレーナー ID:UL1KLbSR/

 

 過激ファン怖いなぁ、戸締りしとこ

 

 

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257:名無しのトレーナー ID:93GvAsR0H

 

 マヤノとカレンチャンの絡みってサポカ以外だと初だったりするのか

 

258:名無しのトレーナー ID:8HLW/wzCC

 

 なんか似たような雰囲気のキャラクターだから意外だよね

 

259:名無しのトレーナー ID:QztoAv4ty

 

 個人的にはシンボリルドルフとミスターシービー、ナリタブライアンの異種格闘戦感が好きだった。

 

260:名無しのトレーナー ID:CsX4ZJ72/

 

 マイペース二人とそれに振り回されてる感じだよね、あれは尊いものだった

 

261:名無しのトレーナー ID:01tgv9v5+

 

 やっぱ、全体ストーリーで一番ゾクッと来たの一回戦の『プルーフ』と『葦毛三銃士』だな。

 お互いの主要メンバーがベテラン同士の戦いが一番始めにあるんだから格好良すぎる

 

262:名無しのトレーナー ID:e/603g6BB

 

 そのネタバレは大丈夫なん?

 

263:名無しのトレーナー ID:lXWhCQSQR

 

 掲示板名を見ろ

 

264:名無しのトレーナー ID:rf9T8kiuK

 

 落ち着いて掲示板を見直すんや

 

265:名無しのトレーナー ID:e/603g6BB

 

 すまん

 

266:名無しのトレーナー ID:Tq4rClFYd

 

 許す

 

267:名無しのトレーナー ID:g0ADp/Vob

 

 敗者復活で葦毛三銃士が勝つのは王道だなってなったな、ただ逃げシスがシード枠なのは笑った

 

268:名無しのトレーナー ID:mcD6X+WRS

 

 主人公ファルコ改めてラスボスファルコ

 

269:名無しのトレーナー ID:1rw4/x6AQ

 

 あとメジロ賛歌は冗談かと思った

 

270:名無しのトレーナー ID:/u5uvJz8O

 

 ツッコミ所が多すぎる……。

 

271:名無しのトレーナー ID:YeVHMWuCp

 

 本気でやったカレン、マヤノ、ペアに対してネタに走ったメジロ家

 

272:名無しのトレーナー ID:KUlHJot66

 

 一応本気でやってたんだよな……。

 

273:名無しのトレーナー ID:SBp0qauQM

 

 最後のライブでの王道展開も好き

 

274:名無しのトレーナー ID:DJKLpqtS+

 

 仲良しのお姉ちゃんが最後のライバルになった時のナンキョクコウテイは可愛かった

 

275:名無しのトレーナー ID:1itTCKrRW

 

 それでも熱い展開だったな

 

276:名無しのトレーナー ID:6rT+VCFMT

 

 最終的に全員でうまぴょい伝説を踊るのホントに好き

 

277:名無しのトレーナー ID:gCv1TU5ls

 

 それぞれのストーリーも良かったよね 

 

278:名無しのトレーナー ID:y+TTNECbU

 

 マヤノはマーベラスとローレルの二人がコーチとかいう謎のメンバーだったな、そしてカレンチャンも混ざるとまさに混沌だった

 

279:名無しのトレーナー ID:yQEl2sMtm

 

 混沌?、カワイイの間違いだろ

 

280:名無しのトレーナー ID:VIX1R7w+t

 

 まあ……、うんカワイイには違いないな

 

281:名無しのトレーナー ID:HQZo4OTTh

 

 ルドルフとナリブの生徒会メンバーとそうじゃないシービーだったはずなのにいつの間にかルドルフが置いていかれてるの好きだった

 

282:名無しのトレーナー ID:4CvZMFcIh

 

 最初はリアルな気不味さがあったのにね

 

283:名無しのトレーナー ID:yB4LG75Db

 

 不思議な関係と言えば1チームだけ性格面とかキャラクターとかが被ってない逃げシスが一番おかしいんだよな……

 

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 ウマ娘板 葦毛三銃士専用板 

 

1:名無しのトレーナー ID:Iotsju25J

 

 逃げシス板が盛り上がってたからついでに立てておいた、平成を愛するおっさんからウマ娘から始めた新人も好きに書き込んでね

 

2:名無しのトレーナー ID:CmK4+dkaa

 

 ありがとう、知らないおじさん

 

3:名無しのトレーナー ID:9We9l3vJS

 

 わざわざイベントにしか登場しないやつに専用板を立てるのかよ

 

4:名無しのトレーナー ID:NTUSTJHCE

 

 公式の動画にイラスト付きのやつが上がったから本格的に推すんじゃないかな

 

5:名無しのトレーナー ID:8gKYhE/pb

 

 少なくともうまよんに三銃士として登場してたからこの板は確実に残るでしょ

 

6:名無しのトレーナー ID:qs0iwfg5I

 

 プルーフも夢女子たちがスレ立てしてたから、なんならメジロ板とかも立ってたから今回のイベで個別にできると思うよ

 

7:名無しのトレーナー ID:fWpvEAcFa

 

 よし、話を戻そう 

 

8:名無しのトレーナー ID:5RsRewQXW

 

 そこは本題に戻ろうとかじゃないの?

 

9:名無しのトレーナー ID:FkDbtdWRa

 

 まあ、日本語難しいから許してあげて……

 

10:名無しのトレーナー ID:7Wl4V18gB

 

 個人的にはなんだけど今回のイベントでそれぞれのウマ娘の交友関係とかが詳しくなったからその辺を語りたい

 

11:名無しのトレーナー ID:+sLDeLDoY

 

 うん、ええやん

 

12:名無しのトレーナー ID:Xtplg2mqp

 

 それじゃ、三人部屋の実態とかの話しでもするか

 

13:名無しのトレーナー ID:eB16Ax4Of

 

 あれ、めっちゃ好き

 

14:名無しのトレーナー ID:U1Iz5Kp6J

 

 地方からやって来たオグリが馴染めるように性格の合うウマ娘を揃えていったらいつの間にか三人になってたってやつか

 

15:名無しのトレーナー ID:vd62vundN

 

 それで全員葦毛なのも面白くて好き

 

16:名無しのトレーナー ID:WKTHwksM0

 

 個人的にはラジとタマ、またはオグリとタマが一番良さそうだと思ったけど

 

17:名無しのトレーナー ID:k2ktVXpEr

 

 ラジちゃんとタマはあんまりにもリアルで仲が良すぎるんだよな……

 

18:名無しのトレーナー ID:ke6wSTHtN

 

 あの二人のリアルの話がヤクザのトップと若旦那だからな、お互い何故かボス馬的な役割を担ってたからね、何もかもおかしい

 

19:名無しのトレーナー ID:+SVCRFfj2

 

 ちょっと二次元に戻ろっか

 

20:名無しのトレーナー ID:dZuBsMe2S

 

 単体エピソードが少ないけどあの世代の栗東でのエピの1/3くらいに加担してるからね……

 

21:名無しのトレーナー ID:so/M1b7QT

 

 あ、ごめん

 

22:名無しのトレーナー ID:5hczmDmyU

 

 うまよんにあった葦毛の部屋とかいうパロディーネタが本家であるのは笑った

 

23:名無しのトレーナー ID:lBoFEUHNX

 

 広げやすさが段違いなんだよ

 

24:名無しのトレーナー ID:3exZ1LpfI

 

 ジャポーネは子孫関係、オグリは腹ペコ繋がり、タマは世話焼きだから選べるキャラクターが多すぎる

 

25:名無しのトレーナー ID:xLVg0r3fc

 

 今回はルドルフの鍋だったよね

 

26:名無しのトレーナー ID:qbahfty+q

 

 『前回の~』とか言ってた中にジンギスカンを食べたって話があったけどそれは絞れなかった?

 

27:名無しのトレーナー ID:cgyC0CuaE

 

 北海道は別格です

 

28:名無しのトレーナー ID:cko+o0S3q

 

 何頭いると思ってんの?

 

29:名無しのトレーナー ID:lCwdrNRVa

 

 流石にキツいって考察班が嘆いてた

 

30:名無しのトレーナー ID:3poO19FHM

 

 まあ無理だろ

 

31:名無しのトレーナー ID:PKkXysWi+

 

 育成ストーリーで知ってたけど負けず嫌いが三人だから熱血系になって驚いた

 

32:名無しのトレーナー ID:LB+3KQ7tk

 

 タマは少し違うかも?、でもウマ娘だとそんな感じになるよね

 

33:名無しのトレーナー ID:c92D2KfQs

 

 乗り気じゃなかったラジが一番全力で練習してるの解釈一致

 

34:名無しのトレーナー ID:dw/yFpMRB

 

 『えー、それ疲れるんですけど』と言った練習をやり始めてからは文句一つ言わずに頑張ってた馬だから……

 

35:名無しのトレーナー ID:ezr65c+WH

 

 終わったら『えっ、もう終わり?』みたいなことを言ってたらしいし不思議な馬だったから納得の行動だよな

 

36:名無しのトレーナー ID:YpRg7GJf9

 

 なんで馬と会話してるの……?、だから馬が不思議以前のお話だよな

 

37:名無しのトレーナー ID:TfzNVQQM2

 

 ごめんね後輩たち、おじさんたちは二次元のことが良くわからないのよ

 

38:名無しのトレーナー ID:Iotsju25J

 

 まあ、そういう方は専用板に行ってくださいね

 

39:名無しのトレーナー ID:VKNLVRrLR

 

 んじゃ話を戻して、オグリのモグモグモーションの追加ありがとう!

 

40:名無しのトレーナー ID:B1gfQm9gX

 

 めっちゃモグモグしてるの可愛いよね

 

41:名無しのトレーナー ID:SelcJpGsu

 

 タマとラジの方向性の違いとかネタ要素もたくさんあったのは良作の証

 

42:名無しのトレーナー ID:/fkcCNBcU

 

 『はっ!、関西風お好み焼きが美味しいのは認めますが本家は広島ですよ!』のキャラ崩壊よ

 

43:名無しのトレーナー ID:rrxKJUc5C

 

 『な!、広島言うたらお好み焼きやなくてモダン焼きやろ!、お好み焼きの本家は大阪や!!、名前が証明しとる!!!』

 

44:名無しのトレーナー ID:/Q77QbD7/

 

 『どちらも美味しいのと思うが……』でずれてるの可愛いよね

 

45:名無しのトレーナー ID:wJ76lZj70

 

 結局妥協したの面白いよね

 

46:名無しのトレーナー ID:9J2uFwiKq

 

 争いの種を蒔くのは危ないけど、どちらかの勝利を見たかったな~

 

47:名無しのトレーナー ID:aBv2ZX4yU

 

 あれはタマの勝ちでしょ

 

48:名無しのトレーナー ID:DaZZfqJ7M

 

 『今日はこの辺で勘弁してあげます』の捨て台詞感が強いからしょうがないけど負けてはないぞ

 

49:名無しのトレーナー ID:ForX3XSz3

 

 二人ともその辺は譲らないキャラクターだからね、ツッコミキャラの二人っていうこともあって止まらないから、でも常識人だから長引いても無駄だと理解している、この結果は納得だな

 

50:名無しのトレーナー ID:gCN3d6DT4

 

 楽しかったはー!

 

 

            ·

            ·

            ·

 

 ウマ娘板 ジャポーネ専6

 

567:名無しのシンデレラ ID:nLPr6Em5J

 

 だから今回はヤバかったの!

 

568:名無しのシンデレラ ID:HmcbBAbkI

 

 半ば確証が取れたのは大本のスレでも大騒ぎしてるからな

 

569:名無しのシンデレラ ID:LUakK3rpC

 

 なんか謎に盛り上がってるけどどしたん?

 

570:名無しのシンデレラ ID:y2lu5Ip/y

 

 今回の葦毛三銃士のストーリーでのコーチみたいなキャラクターが誰だったか思い出して

 

571:名無しのシンデレラ ID:s32NyJmVE

 

 プルーフは理事長、ツインは同世代、メジロはマックイーンだったかな、他はなかったくない?

 

572:名無しのシンデレラ ID:ZJc3ZpMaC

 

 たづなさん……

 

573:名無しのシンデレラ ID:kJj5NAHae

 

 えっ?

 

574:名無しのシンデレラ ID:eNgkO7eRW

 

 三銃士はたづなさんが担当だったよ

 

575:名無しのシンデレラ ID:SHBb2VUOs

 

 それがなんなん?

 

576:名無しのシンデレラ ID:HbzZWVeoJ

 

 ん、推定たづなさんとウマ娘で血統が関係してる馬で一番イメージが強いのは何?、そういうこと

 

577:名無しのシンデレラ ID:0ctesBbjx

 

 ザテトラークか……、てことは

 

578:名無しのシンデレラ ID:piVscXmuJ

 

 たづなさんがトキノミノル説の信憑性が上がったらしいよ、ただトキノミノルはダービーのイメージが強いから誰一人ダービーに出走してる馬がいないのが不思議ではある

 

579:名無しのシンデレラ ID:5Y2QF7DZU

 

 結局机上の空論だけどね

 

580:名無しのシンデレラ ID:ts45cSyhy

 

 んなことどうでもいいけど、今回のジャポーネの余所行き感ゼロな姿は正義

 

581:名無しのシンデレラ ID:5jAwHuCms

 

 お、話が分かりやすいのに戻った

 

582:名無しのシンデレラ ID:MVxMAbKRC

 

 わかる

 

583:名無しのシンデレラ ID:O3aFENFUB

 

 猫被りが消えるとキャラクターが変わる

 

584:名無しのシンデレラ ID:1y2auSwfx

 

 ダスカみたいにキャラの高低差が大きくないから変化はそこまでないけど、中盤まではトレーナーにもデレないから変化がでかく見えるよな

 

585:名無しのシンデレラ ID:OmRO8+kpe

 

 『トレーナーさんは私のコントローラーだけど、レース以外の干渉は止めてね』とかのセリフが多いからね、自然と避けるトレーナーもいそう

 

586:名無しのシンデレラ ID:NrUZS4QaO

 

 まあ強くはあるからストーリー見なくても使用者は多いけどね

 

587:名無しのシンデレラ ID:D2GittUtT

 

 トゥルーエンドは最高に可愛いのに……

 

588:名無しのシンデレラ ID:He0ddjJ9l

 

 勿体ないよね

 

589:名無しのシンデレラ ID:bt6X9GgEi

 

 最後のセリフが『逃がさないよトレーナー』のせいで重バ系ステークスに参加させられることが多いのに冷静になると『私が引退してもトレーナーを続けてよね』が前に来てるからラオウなんだよね

 

590:名無しのシンデレラ ID:9wNvK3g8f

 

 勉強不足なトレーナーは『耳が聞こえない中に見つけた運命の人』だと思うだろうけど実際は『丁度良いコントローラー』なのが、また現実的だよね

 

591:名無しのシンデレラ ID:UKs55YAJz

 

 トレーナーを気に入ったから逆スカウトではあるんだけども……

 

592:名無しのシンデレラ ID:5+Wx/34q1

 

 流石に声が聞こえないトレーナーとは組めないでしょ

 

593:名無しのシンデレラ ID:xq3Y5djyS

 

 他は聞こえないから聞こえる方がおかしい定期

 

594:名無しのシンデレラ ID:8csia2cXc

 

 それで有能トレーナーランキング上位のトレーナーを引き当てる幸運

 

595:名無しのシンデレラ ID:6FDoNeWSx

 

 史実が幸運な馬だから再現でしょ

 

596:名無しのシンデレラ ID:trg5GXzB4

 

 解像度が高い馬だから再現の遣り甲斐があるんだよね

 

597:名無しのシンデレラ ID:yfmc85bgV

 

 明るい性格は作り物、ダウナーな性格は素の姿、集中すると周囲が見えなくなるのはレース時の性格、命令に従順なのは気に入った存在への性格っていうのを頭に入れて育成するとより好きになれるゾ

 

598:名無しのシンデレラ ID:aVc4TfluK

 

 普通に助かるは

 

599:名無しのシンデレラ ID:Ra4yof397

 

 トレーナーが優秀だと理解した瞬間にキャラクターが変わるよね、次のストーリーで明るさを消して登場するの本当に面白くて吹き出した覚えがある

 

600:名無しのシンデレラ ID:euyqJQJq6

 

 女トレーナーだと凱旋門を越えないとデレないのにえらい違いだよな本当に

 

601:名無しのシンデレラ ID:lW/7FwC3z

 

 人間の女性を信用してないから仕方ない

 

602:名無しのシンデレラ ID:AjlUWzFOp

 

 この辺があくまでも利害関係の一致でトレーナーを決めてるよね

 

603:名無しのシンデレラ ID:222xGO2SA

 

 でもトレーナーは優秀なので問題ありません

 

604:名無しのシンデレラ ID:f9A0rPqQm

 

 女トレーナーは止めてもいいのによう頑張るよね

 

605:名無しのシンデレラ ID:sxdA85YaH

 

 あれでやっていいラインは見極めてるんだよな

 

606:名無しのシンデレラ ID:13j33x4+F

 

 小賢しい小娘だね!

 

607:名無しのシンデレラ ID:Bqd0KM3aY

 

 いまさらでしょ

 

608:名無しのシンデレラ ID:x+X33XHlC

 

 その小娘に目を焼かれたトレーナーだから仕方ないのよ、手放すという思考すらないでしょうから

 

609:名無しのシンデレラ ID:rRUZ24gKr

 

 自称二流ウマ娘を凱旋門で走らせたのはエグい

 

610:名無しのシンデレラ ID:tT2qq55rk

 

 何だかんだで、いたずら好きなトレーナーみたいの描写とか、優秀な描写とかでモテそうなトレーナーランキング上位の目を焼いてるから、独占欲あってもおかしくないのにトレーナーを止めるなって発言は本物の愛を感じる。

 

611:名無しのシンデレラ ID:dpmlUYLcK

 

 いたずら好きなの良いよね、それがお互いに対してだけなのもエモい

 

612:名無しのシンデレラ ID:jYhOQ1N9d

 

 一見固くて遊び心のなさそうな男がいたずら好きなのはギャップ萌えだし、それに影響されて無邪気になっていくの好き……

 

613:名無しのシンデレラ ID:xTZ+XKsTB

 

 結構クールなトレーナーだから驚いたけど現実の騎手の配慮って聞いて笑った

 

614:名無しのシンデレラ ID:NIJKy+GLr

 

 『自己に投影するキャラクターに現実の人間が連想できるのはどうかと思いましてね』だもんな、英断だよ熱血トレーナーだとウマ娘のジャポーネにはあんまりだったからさ

 

615:名無しのシンデレラ ID:/mUAaP5jn

 

 そうか?、どっちもいいと思うけど

 

616:名無しのシンデレラ ID:43lL/SdBx

 

 まあ、どっちでもええやん

 

 

 

 これから起こる戦争は醜いので割愛……。









 スマホ投稿の性質上、長く書くことができないのは面倒でございます。
 クソザコスペックな世代割れスマホということもあって5000文字以内に収めないとスマホが熱々になりますので中途半端なこのお話でも許してくださいな……。


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畜生道で輝く
二階級降格






 

 意外と良くあるバッドエンド。

 

 角から曲がってきた車に轢かれて死亡。

 

 私の人生はそんなテンプレによって締め括られた。

 

 とはいえ、死ぬことは怖くなかった。

 

 いや、怖くないというのは語弊があるだろう。

 

 私は『死にたくはない』のだけれど、別に生に執着があるわけでもない。

 

 要するに悟り系だの何だの言われているだけの普通の人間だ。

 

 良くある若者のはずである。

 

 夢もなければ、誇れるほどの勉学を積んでもない、趣味もなければ、特別快楽を求めるわけはない。

 

 何かを求めることのない欲のない人間であったはずだ。

 

 

 ならば、何故だろうか

 

 

 『ヒヒーン!』

 

 

 仏陀よ!私は畜生道へ堕ちるほどの悪事を働いたのでしょうか。

 

 それとも虫の一匹でも殺せば地獄行きと呼ばれる輪廻の輪の中では優しい行いなのだろうか。

 

 いや、二つも下の道へ堕とされるのはあまりにも無慈悲である。

 

 許せぬは六道を作りし神であるが、あいにくこの馬の身体は、そのような難しいことを思案するのにはいっとう向かないのだ。

 

 今はただ乳を飲み草をはむ生活に怠惰なまま甘えているのが良いだろう。

 

 それが幸せなのかと言われれば、とても幸せとも思えないが、今の私も生前と同じく、快楽を求めることはなく肥えさせられたならお肉になることも是としている。

 そんなこともあって幸せであることはなくとも、幸せではあるという矛盾を抱えていた私であったが、唯一楽しみと呼べるものがあった。

 

 「サチー、放牧だよー

 

 何を言っているかわからんだろう。

 私も彼ら人間の言葉を理解することはできていないが、その音のリズムでなんとなく何を語っているかはわかるのである。

 

 おそらく今のは

 

 「うまー、散歩にいくぞー」

 

 という意味合いの言葉であるだろう。

 

 この散歩というのが、怠惰で食べることと寝ることしか許されぬ馬の身において、もっとも楽しい遊びであった。

 生前は、人並みに遊ぶことをしていたものだが、それが趣味かと聞かれると途端に言葉に詰まる。

 

 勉学に励むよりはましである程度のものだ。

 

 そしてこの馬としての生活、比較となる勉学もなく、娯楽もないのなら、野山を駆け回る幼児のような行いすら、ただ暇を感じさせることのない素晴らしい快楽と言えるだろう。

 この人間、おそらく牧場の人であろう、は、随分と都合の良い存在であった。

 

 目の届かないような所へ走っても、怒鳴ることはなく、帰ってきたらナデナデと頭を撫でてくれる。

 おまけに飯をくれるときたものだから頭が上がらない。

 

 こんなに都合の良いことがあるとは、あとで揺り戻しがあるに違いないと身構えていれど、その時が訪れる気配はない。

 それどころか、昼だけであった散歩を夜にもして良いというのだ。

 

 これはたまげたと嘶く。

 

 どうやらここは畜生道ではなく、天道か極楽ではないかと、遊んでいるだけで飯を食える日々に喜んでいたのも束の間、仕事が舞い込んできた。

 

 「よし、ハミを着けるから大人しくしておくれ

 

 『バフッ』

 

 どうやら私は、乗馬の馬だったのだろうか、首に手綱らしきものを装着させられている。

 馬肉になることは当分先のことになるだろうと思って、喜びに震える。

 

 人間は私が不快に思ったのかと考え手綱の位置をずらしているが、さっきのが一番良かったもんだから、自分でちょっとずつずらしてその場所にしておいた。

 

 そしたら人間もずれたのかと思って直す、私かまたずらす、直す、ずらすといたちごっこになった。

 最終的にはずらした場所が一番良いと理解してくれたようで、そこにきっちりと固定してくれた。

 

 その次の日は鞍を背に乗せてもらったり腹巻きを巻いてもらったりと、気分は乗馬のされる前の気分、今すぐにでも乗せてやろうと屈むと、まだ何か着けるということで立たされてしまった。

 

 そんな幸せな日々は、まだ続く。

 

 「乗るぞー、サチ

 

 「ありがとうなサチ、お前はいいサラブレッドだな……、G1だって取れるかもしれないぞ………

 

 今度は立派な鞍にいつもの人間が乗っかってきた。

 始めは想像より軽いもんで、自分の世話をしている人間は小さな子供だったのかと驚いてしまったが、ぴょんと降りて頭を撫でる手はやはり大きくて、馬が車を引いていたという時代は本当だったのだと、密かに先人、否、先馬への敬意を抱いた。

 

 そういえは、友の話を忘れていた。

 

 人間に愛想を振り撒くようなことも、同じ馬に愛想を振り撒くこともしなかったが、群れのはぐれ者のような奴から、随分と懐かれたもんで、寄ると頬をすりすりとされ、離れるととてとてと着いてくる。

 

 正確な時がわからんもんだから、私がどれだけの年を生きてきたかを覚えてはおらんが、明らかに年下に対してこうも懐いてくるものだから友達などいなかったのだろう。

 

 もっとも、人間として生きることを止めさせられ畜生に身を堕とした私は人の言葉はわからん、そんでもってなまじ人としての性質が抜けず仕舞いなもんで、馬の言葉もわからん。

 

 楽しそうにペチャクチャと会話している姿は可愛らしいが、何かわからん言葉をぶつけられるのはなんだか腹立たしくて何度か蹴って追い払おうとしてみたものの、めげることなく私に語りかけてくるその姿には、健気なものを感じて、側にいることを許したというわけだ。

 

 そんな友は今日もペチャクチャと言葉を話すが、眠ることを優先した私には、その騒音も聞こえることはなかった。

 

 そんなある日のことだ。

 

 ドシンと音を立てそうなでかいトラックがブーンと音を立ててこちらへ来た。

 人間たちがヘコヘコし合っているのをみて、人とは大変なものだと思ったものの、果して誰が出荷されるものかと、不安になってきた。

 

 健気なあれは、若くないだろうから、馬肉にされることはないだろうが、万が一というものがある。

 もし、あれの小屋に行くようなものなら、足止めはしてやろうと強く誓う。

 

 だが

 

 「今からトレ·センに行くんだぞ、立派なサラブレッドになって、元気で帰ってこい

 

 ドナドナされたのは私だった。

 

 良くわからん場所に良くわからんまんま連れてこられたもんだから、びっくり仰天して、空を仰ぐ。

 馬の首で空を見ることの大変さを知るだけで終わった。

 

 それからの日々が地獄に変わったのかと言われれば、そんなことはなかった。

 

 ここでは私を肥えさせるという意思を感じないのである。

 その代わりといってはなんだが、坂道を延々と走らされたり、プールでの遊びが増えたりした。

 

 運動量は増えたが、それは楽しいもんだし、不快に感じることはない。

 

 ただ、ここまで来れば知識のない私でも流石に気が付く、どうやら私はサラブレッドのようだった。

 

 後ろから追ってくる馬を躱す訓練だとか、並んで走る訓練だとか思っていたそれは、おそらく実践形式の練習だったのだろう。

 

 となると、今度からの練習は本気で走った。

 

 上の人間に言われる通りに、全力で何度も走ったもんだから、自分の限界がわからなくなった。

 

 毎日全力で走る上に、言葉も話せない奴が後ろから追いかけてくるなんて恐怖でしかないだろうに、私の隣で走っていた馬たちは、良く頑張っている。

 すぐに追い越して、そのままゴールしたけれども………、彼らの健闘は素晴らしかったが、幼少期から意味もなく走り回っていたせいで、早く走る方法や疲れない走り方などは何となく知っている。

 

 おそらく、私は早熟な馬として、数回走ったあとに食卓に出されることになるだろう。

 屠殺されるときは、痛くなければ良いと切に願いながら、今日の夜を終えたのだった。

 





 途中で筆致が変わり続けているのは、作者が多重人格という設定にしておきます。


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不幸な馬


 一応、前世も今世も男の子です。



 

 灰色

 

 1985年、とある牧場に産まれた競走馬の卵

 

 名馬ザテトラークの血をひく、と言えば聞こえは良いが、その父も母も、挙げ句の果てには、祖父も祖母も聞き覚えのないような馬しかいない。

 ヘロド産馬を残したいという意思を持ったオーナーが、必死で集めた祖母であったのだが、その子供はろくに走らず、高まっていた競走馬への熱も冷めて、知り合いの牧場に預けた。

 

 そんな不名誉な馬である。

 

 曾祖父から譲り受けた葦毛は、その特徴的な斑模様ではなく、話題を呼ぶような真っ白なものでもなく、ただ少し黒い、灰色のものであった。

 いや、灰色の毛並みが悪いというわけではない。

 ただ葦毛は走らないという噂がまことしやかに囁かれているこの日本に置いて、中途半端な葦毛というのはハンデでしかなかった。

 

 そんな運命の元産まれてきた彼であったが、その出産もまた酷かった。

 

 特に暴れることもなく、安全に取り出されたと思いきや、突然母親から踏みつけられそうになり、職員に救出されてからも、母親からは嫌われ、冷たい目で見られることになった。

 

 故に母の元を去って職員の手で直接育てられることになったのだが、その姿は無気力で、いつも虚空を見つめていて、食欲も薄く、職員がどこを触っても怒りを露にすることもないという、全てを諦めたような馬であった。

 

 総数で見れば数えきれないほど多い競走馬に彼と同じような経験をした存在も多かっただろうが、牧場の職員たちは、その境遇を哀れんで、その仮の名前を

 

 『サチ』

 

 と名付けた。

 どうかこの子の一生に幸があらんことを、そんな願いを込められたその馬は、職員の助けによってすくすくと成長した。

 

 

 「サチー、放牧だよー!」

 

 無気力に思えたサチであったが、どうやらそれは杞憂に終わったのかもしれない。

 放牧を促すと、元気に走り回るのだ。

 全力で走っては止まったり、ゆったりと歩いては跳ねたり、曲芸でもしているかのような動きは、愛らしくて、職員たちも、そのたてがみをふさふさと撫でる。

 

 すると喜んでまた走り出す。

 

 そんな繰り返しで、貧相な身体は成長していき、職員の見えないところまで走って行きそうになるような元気溌剌な子に育った。

 

 これでサチという明るい名前に相応しい子になったのか、それとも名前の加護のようなものなのか、サチは幸せに過ごしているように見えた。

 

 だけれどもサチは馬の友達がいなかった。

 

 一頭、父親から話しかけられることはあって、随分と気にかけてくれている彼のことを気に入ってはいるようだが、友達と呼べるような存在はいない。

 

 なぜ友達ができないのかと思い、獣医に相談したのだが、その結果は残酷なものだった。

 

 「聴覚障害です……」

 

 サチは耳がほとんど聞こえていないというのだ。

 人間より圧倒的に耳が良い馬という動物の単位なので、どれほどのものかとはわからないが、同族の言葉がほとんど聞き取れていないそうだ。

 

 となるとなぜ人間の声は聞こえるのかと、当然の疑問が浮かぶが、それにも

 

 「男性からの言葉では反応が鈍かったりしませんか?」

 

 心当たりがあった。

 

 日常的に使う低音は、聞き取ることが難しいということらしい。

 

 となると、馬の群れに馴染むことは難しくなるわけで、競走馬としての道も、通常よりもハンデを背負っているわけだ。

 

 なんと、不幸なことだろうか。

 

 サチに幸せはないというのだろうか、あまりにも無慈悲な運命へ怒りの声をあげる。

 

 だが

 

 「代わりと言ってはなんですが、内臓機能が異常なほど強いようですね」

 

 天は二物を与えずとも、釣り合いの取れる一物を与えることを許したようである。

 競走馬として完成されたようなその身体機能は、他の馬とは一線を画すほどのものであり、その聴覚を除けば、素晴らしい名馬に育つ逸材であろう。

 

 だが聴覚のハンデは小さくない。

 それを乗り越えられるだけの才能があるか、それを見極めることができるほど、職員たちは馬に触れることを許されてこなかった。

 

 すがったのは蜘蛛の糸か、それとも太いしめ縄か、一頭の馬の命運を、一つの牧場の存続を賭けた大勝負が始まろうとしていた。

 

 

 「よし、ハミを着けるから大人しくしておくれ」

 

 競走馬としての一歩目、馬具を着けることを嫌がるかどうかだ。

 幸いにもサチは、首を撫でている間は、非常に大人しくしていてくれる。

 ハミを着けるところまでは成功した。

 

 『バブッ』

 

 おっと、どうやら場所が悪かったようである。

 少しずつ調整しながら、改めて着け直す。

 

 すると

 

 

 くいっ!

 

 ハミがずれる

 

 戻す

 

 くいっ!

 

 ずれる

 

 戻す

 

 くいっ!

 

 ずれる

 

 戻す

 

 

 そんなことを繰り返すうちに、どうやら初めの場所が一番良かったようで、満足そうに首を振る姿は、人間臭くて、思わず笑みが溢れるのだった。

 

 その後も、装具を着けていくことには抵抗のない様子で、人を乗せたらどうなるかと思い、それを結構した今日。

 

 「サチー、乗るぞー!」

 

 できるだけ高い声で叫びながら、その背中に乗る。

 今思えば、叫んでも驚いたりしないところからも、聴覚障害があることの理解はできたのだろう。

 自分たちの学の無さに不甲斐なく思う一方、サチに奥さんができたら、どうなるだろうかと夢を膨らませる。

 

 もっとも、競走馬は基本的にワンナイトラブ、一生を連れ添うお嫁さんはできないだろうが。

 

 特に訓練もしていないのに、乗り手を気遣うような素振りを見せるサチに、底知れない才能を感じながら、ゆっくりと、地面に降りる。

 

 「ありがとなサチ、お前はきっと一人前のサラブレッドに成れるさ、G1だって取れるかもしれんぞ!」

 

 サラブレッドとは、イギリスで改良された品種からの血脈のことなのだが、難しい言葉を使っても、馬はわからないだろうと思い、そのまま言葉をかける。

 

 当然のように馬が話を聞いている前提で会話をしているつもりになっている。

 これはいけないと、頬を叩いて正気に戻るが、撫でてと身体をすりすりするその姿に絆され、結局は意味のない会話をするのであった。

 

 そして彼の誕生から一年が過ぎる少し前、育成牧場に行くこととなった。

 

 同族と馴染めない彼にとって、それから追いかけられたり、隣にいることを強制されるのは恐ろしいことだと思う。

 もし、馴染めないようなら、うちの牧場に帰ってきてくれると嬉しい。

 大人しい子だから、乗馬用の馬としても活躍してくれるだろうし……

 

 そんな思いに……、名残惜しいと思っているのはこっちかとなる。

 

 

 

 「よろしくお願いします!」

 

 「いえいえ、それでその子は……」

 

 「あっ、それは……」

 

 輸送に来た育成牧場の人間である彼は、今日、受け取り来た馬に想いを馳せる。

 

 聴覚障害という欠点を持った馬。

 あまり期待してはいないし、話を聞くに観光客を乗せる乗馬用の馬になった方が良いと思えるが……

 

 「こいつですよ」

 

 

 灰色で小さい

 

 その姿を捉えた一瞬では、そんな感想しか出てこない平凡な馬。

 

 しかし

 

 「これが一歳未満の馬の馬体ですか……」

 

 それは、普通の競走馬を基準とした場合。

 その身体は明らかに大きく、落ち着いた姿で美しく、それでいながら足の筋肉は完璧な形で釣り合いが取れている。

 

 はっきり言って異常な馬であった。

 

 「遊ぶのが好きでして、良く散歩をしたりするんです、散歩した日は、良く食べてくれるもんだから、自分たちも嬉しくてですね」

 

 早熟だったとしても、早すぎる上に凄まじい勢いで成長し続けているというのだから、他の馬がかわいそうになるほど完成されていた。

 

 それでも

 

 「聴覚障害はどの程度ですか」

 

 馬自身が距離を測るのに重要な聴覚のハンデは、妨害や接触を回避することが求められる競馬において、大きなものであった。

 

 「かなり高い声じゃないと音として認識できないみたいです……」

 

 「聞こえはするんですか?」

 

 「?、はい」

 

 ひとまずは、大丈夫なようだ。

 

 「それではこちらへ」

 

 馬を輸送車に乗せる。

 

 『サチ』

 

 この馬は多くの幸運に恵まれている。

 

 これの行先は、光ある栄光の道か、それとも暗雲立ち込める凡才の道か

 

 これからの気になる馬である。

 

 大袈裟に手を振る牧場の人へ挨拶をして、目的地を目指すのであった。

 

 





 競馬界において、天才以外は全て凡才だと思ってる。

 次回は育成牧場でのお話


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我輩は馬である


 だいたい交互に視点が変化し続けます。
 でも、馬にとってあんまり良くわからないお話は人間のところでじっくりやることになるかも?

 あとタグ詐欺が怖いので、5話くらいから、ウマ娘になってからのお話があります。

 追記 ごめんなさい!、透明編集を忘れてました!



 我輩は馬である、名前はまだない。

 

 否、名前がないと言うのは語弊がある。

 人間たちは私のことを名前で呼んでいるのだろう。

 

 『オグリキャップ』だの『シンボリルドルフ』のようなイカした名前を貰っていることがありえるかもしれないと期待しているが、私が馬と呼ばれていると勘違いしたこととから、短く二文字の名前なのだろう。

 

 そんな自称名無しの権兵衛である私がいるのはおそらくトレーニングセンター?なのだろうか、良くわからない場所で立派な競走馬になるために日々研鑽を積んでいるわけである。

 

 そうであった。

 

 先日はさらりと流したが、私がこの場所にドナドナと送られてきた時の話でもしよう。

 

 まあ、馬肉にされるのかと、想像よりも短い一生になったなと半ば諦めの境地にいた私は、短い時とはいえ育ててもらった恩のある人間たちの血肉となれるならば本望だと考え、処刑台へ向かうマリー・アントワネットのように毅然とした態度でトラックに揺られていた。

 

 「さあ、行くぞ」

 

 人間からそんな声が聞こえた気がした。

 ゆったりと手綱を引かれ、その動きにも抵抗せずただ悠然と気高く、これから桜吹雪となるとは思えないような美しさを見せつけて。

 

 死にたくないから生きている。

 

 そんな輪廻から廻ってしまった先では、畜生に身を落としながらも、できれば長く生きたいと願っている。

 例えそれが怠惰の末にたどり着いたしょうもない結論であってもだ。

 

 これは皮肉なものだと、なぜ人として生きることを許された贅沢な日々を浪費することしかできなかったのかと、神とやらは、仏とやらは随分と悪意にまみれているではないか……。

 彼の虎に変じた李徴子も同じように絶望したであろう。

 誰にも理解できぬと嘆いていた彼の心を理解することなど、己には難しいであろう。

 

 彼の変じた虎は、傲慢と強欲の果てのもの、対して私の馬は無欲と自我の無さによるもの。

 結局、李徴子も私もその心を理解されることのない孤独な存在と成り果てたわけだ。

 

 この世界に私一人

 

 群れることで社会を作る人間が、本当の意味で一人きりというのも、珍しく先例の少ない事態に陥っているわけである。

 

 ああ、これは滑稽だ。

 

 舞台の演目になることだってあるかもしれない。

 誰にも知られぬ物語が誰かに知られるなど、それこそ滑稽な話なわけだが……。

 

 「ほれ、とりあえずお前の……、人間と同じ言葉使いを欲しいだったか……、お前の部屋はここだぞ

 

 悲観に暮れていると目的地に到着したようである。

 桜吹雪になる馬への待遇にしては、随分と普通の部屋に連れてこられたものだ。

 もしかしたら、そうならずに済むのか、それとも競走馬の方々は豪邸に住んでいるのか。

 

 妄想が膨らむのだが、あいにくそんなことを言ってられるほど、明るい状況でもないのだが。

 

 「今日は疲れただろうからな、ゆっくり休んで、明日から走るぞ

 

 バイバイと手を振る人間、どうやらこれでお別れのようだ。

 一思いにやってくれると嬉しい。

 死を恐れはしないが、痛みというものは普遍的で恐ろしいものなのだ。

 生前の私が生きたいと願っていたのは、命を落とす時に訪れるであろう痛みが恐ろしくて仕方なかったからである。

 持病の頭痛で痛みに鈍感ではあったが、それでも痛みを人一倍知っているとも言える。

 そのせいで、私は自分が自分に与える痛み以外が恐ろしくて、逆説的に、自分をつねったりすることが好きだった。

 

 異常な性癖を暴露したところで状況は好転しない。

 今ここから逃げ出したところで、私を匿ってくれる人間などいるわけがないのだから、通報されるのが関の山である。

 

 恐ろしい、恐ろしいと眠れぬ夜を過ごしたあと、昨日と同じか、そうでないかは定かではないが、人間が現れた。

 

 「よーし!新入り、飯だよー

 

 甲高い声、相変わらず意味を認識することはできないが、この明るい声。

 これが桜吹雪に対する態度であろうか、いや断じて違うだろう。

 

 だが、声と共に落とされたのは麦らしきものと、牧草が混ざった食料であった。

 途端に私は、最後の晩餐という言葉を思い出した。

 どんな悪人であっても、その最後には願いを叶えるために好きな食べ物を与えるという習慣があるらしいのだ。

 となると大変である。

 

 「食べていいんだよー?

 

 私はこれを食べてそのまま死ぬのであろうか、恐怖に震える私を見て、さらに甲高い声をあげる人間。

 

 だが恐れるのは無知のやること。

 死すら既知の範囲内である私にとって、その死に方すら既知であるなら本当に恐れることはないのだ。

 ただ毅然と、美しく、最後に引き金を引く人間の一生に残り続けるような馬へとなってみせようではないか。

 

 そんな悲壮な覚悟を決めていた私に人間は不思議なことを口にする。

 

 「今から放牧だけど、あんまり芝を食べちゃダメだからね

 

 ?

 

 今散歩と言わなかったか?

 まさか散歩までさせてもらえるとは、どうやら私が死ぬのはもう少し先になるようだ。

 だが、冷静に考えてみると解体する時に、胃の中に草が入っているのでは、やりづらいからではないのか。

 そんな邪推も生まれる。

 人と言うものは、一度思い込んでしまうとなかなかそれを止められない生き物であり、今世が馬である私にとっても同様のことが言えるのである。

 

 覚悟を決めては、それを崩され、おっかなびっくり向かった先には、先日まで私の住みかであった草原に良く似た風景であった。

 違うところは、馬の数であろう。

 二桁に届かない馬しかいなかったあの場所と違い、この場所では、黒、白、茶色と様々な馬がいる。

 これだけの馬がいる場所が屠殺の場所なはずがないと、改めて確信を得た私は、そのまま草原を走り回るのだった。

 

 「休んだら本格的な調教だからな

 

 よくわからん言葉をかけられながら、連れられたこの先は、円形のコースであった。

 ああなるほど、私は馬術かなにかの馬であったかと、初日にして気付けた私の脳は素晴らしいと言えるが、それはそれとして、何をするのだろうか。

 故郷の人間たちのように背に乗せての訓練となるのだろうか、装具を着けられ待機する私を、引っ張っていく人間、良くわからないから着いていく。

 

 引っ張る

 

 着いていく

 

 引っ張る

 

 着いていく

 

 引っ張る

 

 これはなんなのだろうか?

 訓練というよりも見張り着きの散歩のようなこれは、果たして訓練と呼べるのだろうか……。

 

 やがて、驚いたように手綱から手を離すと、装具に足を掛けているようで、ああ乗ろうとしているのかと思い、少し体勢をずらす。

 すると乗っかったまま手綱を緩められる。

 何がしたいのかと見つめると、お尻をポンポンと叩かれる。

 前に進めと言うことかと、のんびり歩き始めたが、どうやら違ったようでさらにポンポンと叩かれる。

 痛くはないが、鬱陶しくはあるので、何ですかと顔を向けると、ポンポンは加速する。

 

 ああ、歩くのではなく走れと、そんな指令であったのかと、一を聞いて三くらいを知った私は、トコトコという擬音が似合う歩きから、しゅーんという擬音が似合う走りへと移行するべく足を速める。

 

 先ほどまで辿っていた道を完璧になぞりながら、走り続ける。

 鞭が飛んでくるかもと思ったが、そんなことはなくただ延々と同じ速さで走り続ける。

 

 満足したのだろうか、手綱をくいっと引く感触にゆっくりと足を止める。

 すぐに止まると身体に悪いというから、少し歩いてはいるが、するとまた手綱をくいっとされたので、今度は停止する。

 

 上にいる人間が何やら独り言を呟いているが、かわいそうだからすりすりして癒してやろうと思い、頭を擦り付けようとしたものの、冷静になれば馬上の人間にしてやれることなんてないなと諦めた。

 

 その後、この身体を診てくれる人?、に身体を弄くり回されて、夕飯を食べて、夜にわしゃわしゃと身体を頭を撫でられて、その日は終わったのだった。

 

 友達がいないこと以外は順調な滑り出しであると言えるのではないか。

 

 そんな虚しいことを思いながら、床に着く。

 まあ、床に身体を寝そべって眠ることは、生前の「馬は横になると死ぬ」という噂のせいで、恐ろしくてできないのだが、足に体重を乗せる時に、一本だけ力を抜いているので、休むことはできているのだが。

 

 意識も薄れ始めた。

 

 今日のお話はここまでにしよう。

 

 それでは、また機会があれば

 

      zzz zzz zzz





 この子、馬になってから、頭が回らなくなってるのよ……、コースを見たら競走馬だと思いそうなものですけどね……。

 それはそれとして、ろくにドライビングの訓練もしていない馬が、自分の指示に従って動いてくれたことに気付いた人間はSANチェックです。


 お気に入り多いの怖い……、期待されると私が胃痛で瞬殺ですよ。
 1話の頭にあるように、面白くなるように頑張ってはいますけど、作者の腕では、そんなに面白い小説になることはないですからね……

 別名義の小説と比べて矢鱈とお気に入り登録が多いので怖くなって書いてしまいましたが、登録そのものは嬉しかったり……複雑な作者心なのです。
 楽しんで読んでくださっている方はありがとうございます。


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幸福な馬


 ハーメルンで感想もらったの始めて……。
 感想の返信を書くことが楽しくて、一時間もスマホの画面を眺めてました。
 あと、今回は人物像が上手に作れなかったので、かなり滅茶滅茶でございます……。
 というか、読み飛ばしてくれて大丈夫です。



 1986年

 

 初の牝馬三冠である『メジロラモーヌ』に、マイル最強候補の一角である『ニッポーテイオー』、大波乱を巻き起こした有馬記念の『メジロデュレン』。

 

 記憶に残るレースも多かった年。

 

 

 とある小さな牧場のお話だ。

 

 新入りが来る。

 

 特段不思議なことでもないのに、繰り返し全体に周知させるような事態であるとは、新入りは余程荒々しい馬なのかと考えるが、どんな馬であろうと厳重注意の連絡を必要とすることはなかった。

 となると、先例のない何かを持っている馬であるのかと戦々恐々しているこの場所は、繰り返すが小さな育成牧場である。

 

 そして、その場所へ運ばれて来たのは………。

 

 「よし、行くぞ」

 

 平凡な馬であった。

 

 特別大きく、下手な真似をしたら踏み潰されるような圧倒的な力を持つわけではなく

 

 特別小さく、下手に触れたら壊れてしまうような貧弱な身体を持つわけでもなく

 

 少し灰色で、走らないと言われている葦毛ではあるが、それでも珍しいと全体周知をするほどのものではない。

 

 だが

 

 そこには気品があった。

 間違えなく貴い生まれの馬だと確信させるような気高い何かがあった。

 彼の皇帝『シンボリルドルフ』が暴君でライオンと例えられているならば、ここにいる灰色は儚くも気高い白鳥と言ったところだろうか。

 醜いアヒルの子供が、灰色の小鳥が美しく育ったように、この馬は何かを成し遂げてくれるとそう思わせる『何か』がある。

 

 悠然と歩むその姿を見た職員たちの心は1つになった。

 

 この馬を勝利へ導いて見せると………

 

 この辺りは後の世に作られた創作であり、実際は耳の悪い馬とやらの世話のための情報集めに没頭していたのだが。

 

 

 さて、手綱を引く厩務員さんは、あまりの抵抗のなさに、何か気分が悪いのではないかと思い始めている。

 けれども、この子の実家の牧場の職員さんから話を聞くに、大抵の指示に大人しく従ってくれるとのことなので、野生でいたら簡単に喰われるんだろうなと思う程度には、大人しいこの姿にもさほど違和感を覚えずに済んだのだが

 

 『人懐っこい子なんですよ』

 

 そんな言葉を聞いた後であるため、こちらへ何のアプローチもしてこない姿は、知らない相手には弱い部分を見せない野生の獣のようでもある。

 相反する二つの側面を持つその姿は、馬という生き物を育て導くことの難しさを改めて感じさせるのであった。

 

 

 「ほれ、ここがお前の部屋だぞ」

 

 さあ、目的地へたどり着いたが、部屋に入ってくれなかったら……、大人しく部屋に入った。

 

 ここまで来ると不気味である。

 

 もしかしてこの馬はアンドロイドか何かではないかと勘繰ってもみるが、筋肉の動きに違和感はないので、ロボットでもないようだった。

 

 っと、真剣にバカなことを考える程度には、この馬に魅了されていたようである。

 

 「とりあえず今日は、ゆっくり休んでくれ」

 

 ··· ··· ··· ··· ··· ···

 

 コミュニケーションに行き詰まっている中で思い出されるのは……。

 

 『この子は賢いので、馬ではなく人に話しかけるようにしていただけると嬉しいです。

 あとは、触れてあげると喜ぶので、頭を撫でてあげて欲しいですね……、って、すみません余計なことを』

 

 そんな言葉だ。

 

 まさか今までの塩対応がそんなことで変わるわけ、いやそもそも馬と人間的なコミュニケーションをしようとしていることがおかしいはずなのだが、秋の紅葉のように真っ赤に温まった頭は、正常な判断をしてくれない。

 

 「えーと!、なぁ兄弟、お前の好きな食べ物ってなんだ!?」

 

 錯乱して日本語翻訳した後のアメリカ人のような口調になっているが、頭を撫でながら、世間話を続ける。

 

 「最近彼女と喧嘩してさ、仲直りの方法を探してるんだが、なんか良い方法はねーかな……」

 

 その馬は不思議と聞き上手で、彼の言葉を聞いて頭を撫でられ続けても、気持ち良さそうに目を細めるだけで、落ち着いた様子だった。

 正気に戻った後も、この奇妙な会話は続き、今日はゆっくりと休んで欲しいと思っていた心は、彼にもっと話を聞いて欲しいという心に代わっていた。

 

 「うちの近くのうどん屋が美味くてな、今度一緒に……、は無理だな」

 

 どれ程の時間が経っただろうか、辺りはボンヤリとした月明かりに照らされている。

 まぶたが閉じそうになりながらも、会話を試みようとしている自分を哀れに思ったのだろう。

 

 『バフゥ』

 

 優しく鼻を鳴らした後、その馬は、いやサチは優しく身体を擦り付ける。

 そして彼が眠った後は、誰かを呼ぶように一度大きく嘶き、そのまま同じように眠りについたのであった。

 

 もちろん、仕事をすっぽかした彼は、職員全員から説教されたのだが、それでも充実した一日であったと胸を張れるような一日になっただろう。

 

 

 翌日

 

 不思議な魔力にやられた彼はしばらく出禁となり、低い声を聞き取りにくい彼の世話に適任である女性の一人に世話を任せることになった。

 

 「よーし!、新入り、ご飯だよ!」

 

 明るく甲高い声をした彼女の声ならば反応するだろうと思っていたのだが、そこにいるのは虚空を見つめる馬がいるだけだ。

 

 「食べて良いんだよー?」

 

 聞こえていないのだろうとポンポンと頭を叩いて、エサ箱にもポンポンと手を置く。

 すると気付いたのだろうか、エサに首を伸ばして、むしゃむしゃと草を食む。

 今までは本当に気付いていなかったのかと、間の抜けた様子は堂々とした昨日の態度とは違って愛らしく思えてくる。

 そんな愛らしい馬の頭を撫で回すと、嬉しそうに目を細めるのと同時に、どこか空を見上げるように虚しい表情を見せる。

 哀愁のある姿は、故郷の家族を思っているのか、はたまた、ただ食事が口に合わなかっただけなのか。

 

 おっと

 

 「これから放牧だけど、あんまり芝を食べちゃダメだからね」

 

 すると、悲しみを秘めた瞳は光が灯った気がした。

 

 「ん、放牧……、んにゃ、散歩が好きなのかな?」

 

 嬉しそうに鼻を鳴らす姿は、幸せそうでほとんど聞こえない耳で放牧という言葉を覚えたという事実が思われて、悲しいような、微笑ましいような複雑な心境をもたらす。

 

 「よし……、行くよ!」

 

 牧場にたどり着くいて、手綱を外すと、跳ねるように飛び出す。

 

 走って、止まって、跳ねて、叫んで

 

 幸福を冠する名前と同じように、ただ幸せを全身で表現する。

 

 その姿は灰色の肌と違ってとても目を惹いた。

 

 「綺麗だったよ」

 

 こちらに帰ってきた彼に思わずそう声をかけたのは、当然のことだったと思う。

 

 

 「休んだら、本格的な調教だからな」

 

 たくさん遊んで疲れたあとは、お昼寝、なんかで終わるほど競走馬の一日は甘くない。

 放牧のあとは、ウォーキングマシンなんかで、ウォーミングアップをしてから調教が始まる。

 

 とはいってもこの時期は騎乗をせずに、ハミから二本のレールを出して後ろから馬を動かすドライビングで、手綱を使った動きを覚えさせるのである。

 

 装具を着けて、前に歩かせる。

 

 少し方向を変えるように動かしてみると面白いほど思い通りに動いてくれる。

 こいつは凄いとジグザグに歩かせてみると、これまた上手に動く。

 

 馬術にでも向いているなと、思いつつも競走馬を熱望されている子であるため、そうもいかないと手綱を取り直す。

 

 すると

 

 『バフゥ』

 

 こちらを向いて、何かを語りかけるように鼻を鳴らす。

 

 まさか

 

 「走りたいのか?」

 

 『ブゥフ』

 

 縦に首を振る。

 偶然にしてはできすぎた反応、恐る恐る手綱を手放すが、走る様子はない。

 やはり杞憂だったのかと、再度手綱を取ろうとすると、少しだけ身体を傾ける。

 

 

 「はっ……?」

 

 冷や水を浴びせられた気分だ。

 

 この馬は今何をした……。

 

 自分に走ることを促し、そして

 

 「乗れってのかよ」

 

 その背に乗ることを、乗せることを望んでいる。

 

 馬術向き?

 

 冗談じゃない

 

 

 こいつの魂は競走馬だ。

 

 

 俺が乗って手綱を緩めると再度こちらを見る。

 

 彼なりの何かがあるのだろうか、良く見るとその視線は手綱を握る手に向いている。

 

 思い付くのは………

 

 『触れてあげて欲しいっす先輩』

 

 そんな後輩の言葉

 

 その後ろ足を叩く

 

 ゆっくりと前進が始まる。

 

 更に速く叩く

 

 加速が始まる。

 

 その加速は止まらない。

 

 今まで歩み続けたその道をジグザグに、だが加速は止まらない。

 

 カーブに差し掛かっても減速はしない。

 

 膨れることも、レーンの内をはみ出ることもない。

 

 永遠の加速。

 

 このままだと光を超えて地球を飛び越えて

 

 

 こえて

 

 超えて

 

 こえて

 

 

 圧倒的な浮遊感

 

 

 この世界から消えてしまうような感覚

 

 

 とんとんとん

 

 

 無意識に手綱を引いた。

 

 

 どうしてだろう

 

 

 このまま消えても良かったはずなのに

 

 

 怖い

 

 

 怖い

 

 

 怖い?

 

 

 そんな理由で手綱を引いていたのか……。

 

 

 無意識に身体を抱きしめる。

 

 

 それでも震えは止まらない。

 

 

 この馬は危険だ。

 

 

 あの浮遊感は消えたはずなのに。

 

 

 自分がここにいることを異常だと思っている。

 

 

 崩れ落ちるように鞍から降りる。

 

 

 心配しているのだろうか、身体を擦り付けるその愛らしいはずの姿は恐怖の象徴にしか思えない。

 

 

 この日、一人の厩務員がその仕事を辞めた。

 

 

 また、全力で数分間走り続けたとある馬には、一切の筋肉の疲労も見えなかったと聞くが、それは彼の今後の人生には関わりのないことである。

 




 はい、すっごく速いフレンズです。

 イメージとしては、エンジンが温まるまで遅い変わりに、延々と加速し続けるタイプ。
 下手に人間の思考力があるから、レースコースを選んで、最適解を導き出す。

 引き換えに乗ることができる人間が限られる、

 そんなラスボス系です。


 ちなみに、サチに延々と話しかけていた人は嘶きのあと自分で起きました。
 不憫なことに聞き上手だと思われていサチくんは彼の話を聞いていないどころか寝ていました。


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走れサチ


 評価バーに色がついていて驚きました!
 
 それと、誤字報告ありがとうございます!、ろくに見返しもしないで、投稿しているものですから、本当にありがたいです!

 あと、サチくんは自分の耳を聞こえていると、馬になったから人の声が聞こえないものだと思っています。

 あと今回は短いです。
 人間界でのお話は長くなりそうですが、馬世界のお話にするとあっという間に終わってしまう不思議。


 

 「よし!、いくぞジャポーネ!」

 

 私は激怒した。必ず、かの邪智暴虐なジョッキーを除かねばならぬと決意した。

 私には競馬がわからぬ。私は馬である。今まで草を食み、厩務員と遊んで暮らしてきた。しかし、鞭による痛みには馬一倍敏感であった。

 

 というのは建前である。

 私として出鱈目に加速が遅い馬にわざわざ騎乗してくれるような方や名乗り出てくれる馬主がいたことは感謝の極みである。

 それはそれとして彼はなぜ鞭というものをもっていないのだろうか。

 確かに鞭は恐ろしい、私も痛みは大嫌いなものだから、トントンと叩く形で合図をしてくれるのは嬉しいのだが……。

 

 おっと、そうであった、私にも馬主と騎手らしき者ができたのだ。

 

 先日、それは桜舞う春の日であった。

 

 ゲート訓練に、体力向上の基礎訓練、小さくとも設備は十二分なこの場所を気に入っていた私。

 

 唐突にパリッと決めたいつもの厩務員に久しく車に乗せられて出掛けた先、ああついにこの時が来たのかと恐れているが……。

 まあ、何度目の経験かわからないがいつものように屠殺場には見えない。

 ああ、死なずに済んだと思うと同時に、いい加減にこの天丼が起こらないような確固たる心を持つ必要があると認識した。

 そもそも、私を連れていく時にえらくカッチリとした服装をしていた時点で気付くことができたはずだ。

 馬の耳に念仏と言うが、瞳も節穴であったようである。

 あんまりな脳みそは人間であった名残を見せていないものではっきり言って馬に心までも侵食され始めているようである。

 絶望的な現実に瀕死となった彼、いつものように手綱に引かれて歩んだ先は裁判所のような円形の椅子に囲まれた場所であった。

 私が何か罪を犯したのか……、なんて思うほどバカではないぞ!

 言ってしまえば『セリ』と呼ばれるものだろう。

 

 私にはどれ程の値打ちがつくのか少し興味がある……。

 

 始まったばかりのバナナの叩き売りのようなシンと静まり返った会場は、自分の値打ちはその程度だと嗤われているようで居心地が悪くなる。

 馬主になるような大金持ちにとって競走馬など所詮、ただのステータスか、肉にされることに哀れみこそ覚えるものの、救う価値はないおもちゃか……。

 盛り上がったのかそうでないのかも良くわからず、ただ一頭の馬は買われたのか、桜吹雪となるのかもわからず、延々と一点を見つめるだけであった。

 

 全てが終わり牧場に帰る前、初老?くらいの人間が自分を訪ねてきた。

 

 「えっと、よろしく頼むよ『ラ·ジャポーネ』、僕の最初の競走馬くん……?

 

 静かに言葉らしきものを紡ぐ姿はどこか寂しそうで、身体を擦り付ける。

 

 「おっと、人懐っこい子なんですね……

 

 「あ……、そのどちらかと言えば撫でてくれた人へのお礼としての側面が強くて……、自分から行くのは珍しいですね

 

 「くすっ……、そうですか、これはもしかして運命というものなんですかね

 

 何か良くわからないことを話している二人から手綱をこちらから引いて、気を引いてみる。

 

 「おっと、すみません

 

 「いえいえ、こちらこそ、呼び止めてしまって

 

 ん、どうやら終わったらしい。

 待ちぼうけをするのも悪くないが、もうすぐでデビューするであろうこの競走馬人生。

 少しでも身体を動かして、身体を仕上げておきたいのである。

 

 「おいおいサチ、あの人はお前の馬主になる人なんだぞ、ご機嫌を損ねたらダメだからな

 

 『馬主』

 

 人の言葉はリズムで覚えてきた私にとって始めて理解できた人間の言葉は、図らずもこの馬生を生きる上で最も大切な言葉だった。

 

 ならさっきまで私が身体を擦り付けていたのは、かなり失礼にあたるのではないか……、途端に恐ろしくなったものの、頭を撫で撫でとしてくれたものだから、気に入ってくれたと思うのも良いかもしれない。

 ポジティブにならなくては、ビクビクと怯える姿ばかり見せていては、同族から侮られるに違いない。

 怯えるのではなく、俺に着いてこいと人を引っ張れるような馬になる必要があるのやもしれない。

 

 その後も、たまに来て頭を撫でて帰っていく謎多き馬主さん、気に入られたのは本当のことのようで、あの時のような黒いカッチリとした服ではなく、白シャツにジーパンらしきものを着ている様子、いつもの甲高い娘ちゃんの反応からして、ファッションセンスのないイケメンオジらしい。

 イケオジが馬主になってくれるなんて、ドラマチックな展開を期待するしかない。

 

 おっと、謎の馬主さんの話も良いが、もっと面白いのが私の上にいるジョッキーさんである。

 

 「今日はどう走りたいんだ?」

 

 『大外』

 

 「了解だ!」 

 

 いるだけで気温が上がるような気分になる熱々の男である。

 スポーツマンは皆こんな感じという偏見を持っていた私の期待に見事に当てはまっている彼、乗せていて楽しいと思えるような人が上にいてくれることに感動の涙が出そうだ。

 さらに言えば、この人は私の言葉を何となく理解しているらしく、一方的ながら、会話することもできるのだ。

 そのお陰か、好きなように走っても途中から膨らむこともなく、コースの内側に入り込むこともなくなったのだが、はあ、本職の人はずいぶんと凄いなと、馬と話すことができなければジョッキーは成り立たないのかと驚愕しつつ、質問した。

 結果、馬の声が聞こえたのは始めてのことだったらしく、実際はどうかわからないとのこと。

 ただ明らかに独り言でない会話らしきものを馬としている人もいるらしく、ああ、彼らの世界とは魔境だなと思い知らされた。

 

 

 まあ、そんなこともあって、走るのが楽しくなってきた今日この頃、そして遂にその時が訪れた。

 

 

 「いつもみたいに行くぜ!」

 

 『あいよ』

 

 新馬戦だ

 

 三歳馬たちが集まる競走馬最初の門、ここを越えることができなければ、デビューすることすら許されない戦い。

 言ってしまえば最も重要なレースの1つ、敗北は許されない。

 

 

 ならば勝てば良いだけだ。

 

 

 ゲートに入るは若き獅子たち

 

 

 そこにいたのは走らぬと嗤われる葦毛ではなく

 

 

 ただ一頭の獣である。

 

 

 さあ、ゲートが開く

 

 

 勝利の栄光か

 

 

 敗北の苦渋か

 

 

 そこにあるのは二つに一つ

 

 

 けれど阻むは数多のライバル

 

 

 歩みを止めぬ者にだけ勝利は訪れる

 

 

 さあ、新馬戦の始まりだ

 





 サンプル(実際のものとは違う可能性が高いです)


 真剣



 トレセン学園

 

 数多の競走バを排出してきたその場所で、最強の馬と言えば誰を思い浮かべるだろうか?

 

 後の世まで、そこに到達した馬がいないと呼ばれた伝説の五冠バ『シンザン』

 

 クラシック三冠こそ出走できなかったものの、現役全てのレースで勝利した『マルゼンスキー』

 

 無敗の三冠を含め、七つの冠を持ち現役生徒会長でもある『シンボリルドルフ』

 

 他にも、故障でダービーこそ出られなかったものの、二冠に加え春の天皇賞を勝利した『ミホシンザン』、禁忌を侵したとすら呼ばれる三冠バ『ミスターシービー』

 

 地方からの刺客『ハイセイコー』、そのライバルであるダービーバ『タケホープ』

 

 TTG時代と呼ばれる三強の時代を生み出した流星の貴公子『テンポイント』、天馬『トウショウボーイ』、緑の刺客『グリーングラス』

 

 ざっと挙げていくだけで、これほどのウマ娘の名が挙がる。

 決めてしまえば最強なんてものは一人しか得られないつまらない称号となってしまうが、『最』も高い頂きに立った『強』き者にしか名乗ることを許されない称号。

 

 今日もまた、その座を目指すウマ娘が一人。

 

 さて、彼女はどんな物語を紡いでくれるのでしょうか。




 四本の足を持って大きな鹿のような生き物となって、野原を駆け回る。

 輝く栄光たち、『ミホシンザン』や『シンボリルドルフ』、『マルゼンスキー』の背中を走り続けて、光を追い続けて、その全てを追い越した後

 目の前が真っ暗になった。

 背中を追いかけてくれる同族はいる。

 隣を走っている同族もいる。

 それでも、その目の前は真っ暗。

 やがて、諦めたのか後ろを振り向く。

 すると、在りし日の自分と同じような存在が自分を追い越そうと追いかけてくる。

 そして思い出したかのようにまた走り続けるのだ。


 私にはわからない。

 その夢が何を示しているのかも

 歩みを止めなかったその正体も

 でも忘れたらダメだと思った。

 だから心に仕舞い込む

 落とさぬように

 忘れぬように





 
 ほのぼの日常



 「ほんならいくでー!」

 「炊飯器はまかせろ」

 「食器はここにならべておくね?」

 ここはトレセン学園の『栗東寮』、世にも珍しい三人部屋に住むのは葦毛三銃士。

 最年長の『タマモクロス』、次点の『オグリキャップ』、一番年下の『ラ·ジャポーネ』といっても皆同級生です。
 それぞれいくつもの勝利を重ねてきた実力者ですが、今日は揃って鉄板パーティーのようです。

 もともとは食堂で満腹になる前に追い出されるオグリのお腹を満たすために、ジャポーネがお好み焼きを作ったのが始まりで、今となっては寮長も含めた多くのウマ娘が参加するお祭りとなっています。
 それぞれが好きなものを持ち寄って作るという性質上、ごく稀にゲテモノ料理が生み出されることもあるけど、それもまた楽しみの一つです。

 さあ今日のお客さんは……

 「三人で食べるなんて久しぶりだね」

 「んっ、タマのたこ焼きもラジのお好み焼きもどちらも美味しいからな、私はこれで満足だぞ」

 「誰が作ると思ってんねん……、ただ!、食べるんやったら腹膨れるくらいたくさん食べんとあかんで!」

 「オグリちゃんに言うのは無粋だと思うよ?」

 いないようです。
 葦毛三銃士は皆料理こそできますが、それぞれの得意分野が違うので、この場所では様々な美味しそうな匂いが部屋いっぱいに広がります。

 「ほな、いくでー」

 黒々とした穴空き鉄板に、生地を流し込んでいるのはタマモクロス。
 どうやら今日はたこ焼きのようです。
 関西人らしく粉ものが好きな彼女ですが、だいぶ前には串カツを揚げていたりしました。
 カラッと揚がったうずらの卵を見た時は、そこにいる全員のお腹が鳴ったものです。

 「はい、タマちゃんネギだよ」

 「タマ、天かすも置いておくぞ」

 「はいはい、急かしたって早くできるわけやないで、たこ焼きに肝心なのは見極めやからな」

 急かす二人を抑えながら、生地が固まっていくのを待ちます。
 流し込んですぐに具材を入れるのが正解とはいえ、小さなタコさんしか入らない貧乏たこ焼きではあるけど、いやだからこその拘りがあるようです。

 「今!」

 差しきるタイミングを見るかの如く、最善のタイミングで具材が投入されていきます。

 溢れないように丁寧に、でも一気に、確実に。

 全てが投入されたら再度待つ時間です。

 『パシャ』

 シャッター音が聞こえた気もするが、機嫌の良いタマモクロスは特別に見逃してくれます。
 食事中に携帯を触っている姿は許されませんが、矢鱈と長い自撮り棒を使っての想い出づくりのためのものであると聞いているので、そのくらいは許してくれるようです。

 さあ、そんなことをしている間に、生地の状態はクライマックス、ひっくり返すための箸を持って準備万端!。

 「いくで!」

 そこからはまるで曲芸です。

 一度に複数の球体が空を舞い、カリカリに焼けたそれには、黄金色の削り節が乗せられ、ぱっぱっと青のりが振りかけられる。

 仕上げにソースをかけて、マヨネーズはお好みで!

 皿にコロンと転がされ、はい出来上がり!

 「ほんなら手を合わせて」

 「「「いただきます!」!」!」

 熱々の生地はカリカリで、中に入っている天かすも良い味を出しています。
 適切なタイミングで入れたネギは、あまりにもカリカリで、別の何かと錯覚してしまいそうですが、その独特の風味によって原型を取り戻します。
 小さめのタコも、ほどよく口に残る固さなので、しっかりと存在感を示していて、とても美味しいたこ焼きです。

 ぱくっ

 口を火傷しないように、ふーふーと息を吹き掛けますが、それだと削り節が飛んでしまい、かといってそのまま食べようとすると、ほかほかの衣に包まれた中にある灼熱の如き中身が舌を焼く。

 取れるのは二つに一つ、三人が選んだのは後者でした。

 「あふあふあふ、あっふ!」

 「ん!」

 「ん、なかなかええんやないか?」

 三者三様の反応はあれど皆の心は一つ!

 「おいひい!」

 「美味しいな」

 「うまい!」

 さあ全てが終わりお皿を片付ける三人。

 今日も今日とて空腹なオグリのために、ストックしていたお好み焼き用の粉が消えたのは、また別のお話。



 アンケートですが、よほど大差でもない限り、その時々で書き分けることになると思います。


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運命の馬


 いつも間にか10000UA突破していてびっくりです!、記念に何かするべきなのかと考えていますが、皐月賞まではのんびり書き進める予定なので、それが終わったら何かしようかと考え中です。

 ちなみにウマ娘の方は、余裕があれば後書きにほのぼの日常を書くことにしました。
 真面目(真面目になるとはいってない)版はあちらの方にゆっくり書きますがあんまり期待しないで待っていてくださいな。


 『馬主にでもなってみたらどうだい?』

 

 妻に先立たれ、娘も自分で家庭を持った寂しい老人にそんな話を持ちかけたのは、自分の古い友人であった。

 特に趣味もなかった私は、日々を過ごすだけなら定年前に集めた貯金を切り崩す必要もなく、年金生活で生きていけたものだから、その貯金を恵まれない人に投資でもしようかと考えていた。

 遺産として残すのも悪くないが、娘もその夫もしっかりした子たちである。老人のお節介などいらないから好きなようにお金は使ってと、いやむしろ使いなさいとはっきりと口にしてくれた。

 

 それじゃあ、やはり寄付をするかと考えていた最中、久しく友人が訪ねに来てくれた。

 寂しい老人にとって家を賑やかにしてくれる友人というものは、何者にも替えがたい存在である。

 

 そんな友人にお金の使い方を聞いた時のことだ。まるで同好の友を見つけたと言わんばかりに目を輝かせて、前述の言葉を口にした。

 

 その時の私は馬主というものを良く知らず、成金どもの道楽程度に考えていたものだから、ああ、私は馬というものにも競馬というものにも興味はないと言ってやった。

 するとそいつは、最初は皆そういうもんだと、やってみると楽しいもんだと、まるで宗教の勧誘のようなことを話す。

 ああ、そこまで言うなら行ってやろうと春のセリとかいう馬を買う場所へ足を運んだ。

 友人が話すに、育成牧場とやらで半年鍛えた馬で馬主がいない馬を買うトレーニングセールと呼ばれるものだそうで、実践さながらの馬の調教でタイムを見てから買うことができるらしい。

 そんなことを言われても何もわからないが、友人としては馬を見極めるのに実際の数字が見れるからやり易いのだと。

 

 さあ、それを見ようとコースへ向かうと、随分と短い距離を走るようで、コースはほとんど使われないようだった。

 

 さあ、一斉にスタートした馬たちはあっという間にゴールへ走り去った。

 けれども一頭、灰色の馬が目に見えて遅れて走って来たのが見える。

 ああ、この子はもうダメだなと諦観の気持ちで見たその馬は、決して諦めてはいなかった。

 ただ、最初から一生懸命に走るものだと、逆に感心をさせられたのだった。

 

 その後、実際に馬を買うことになったわけだが、ポンポンと手が上がる中、あの遅れた馬の出番となると、皆しんと静まり返って言葉を手を下ろす。

 四百万という大金、されど軽く一千万以上の値が着く競走馬としてはあんまりな値段。

 やはりと言ってはなんだが、その馬を買う声が挙がることはなかった。

 

 すると

 

 目があった。

 

 いや、私の勘違いかもしれないが、それでも確かに目があった気がしたのだ。

 私に買って欲しいのかと、こちらから目をあわせると、頷くように頭を動かす。

 

 すると脳裏にはあの時の一生懸命な走りが思い出されるのだ。

 

 ドラマチックな言葉になるけれども私はこの出会いを運命だと思った。

 

 どんな種族でも、若い者が必死で努力しているのなら、それに応えてやるのが老人の役目。

 さっと、手を上げる。

 最低額で買うのも気が引けるので、少しだけ値を上げて五百万で勝負をする。

 いや、勝負ではなく一人だけの落札なのだが。

 

 案の定、他に手の上がらなかったこともあり、ポンと落札できた。

 

 他の馬の紹介もほどほどに、自分が買った馬に会いに行く。

 すると若い厩務員が嬉しそうに頭を撫でている様子が見える。

 ああ、あなたがこの子を買ってくれたのかとその嬉しそうな雰囲気のままに自分に手を伸ばす。

 その手を取ってブンブンと動かすと、さらに嬉しそうに握り返してくれた。

 こんなに良い人に育てられているのなら、この馬も良い子に違いないと思い再度目を合わせて

 

 「よろしく頼むよ」

 

 そんな言葉をかける。

 そう言えば仮の名前しかついていなかったようなと思い、その場で名前を考えることにした。

 うむ、何から連想すべきかと、灰色の身体からシンデレラにするべきか、それともこの立派な体格から力士の名前でもつけようか。

 迷っているうちに咄嗟に浮かんだのは、妻の生前、美術館で見たあの作品。けれど名前にするには少し語呂が悪い、さらに言えばあれば赤である。

 

 ならば

 

 「ラ·ジャポーネ、僕の最初の競走馬くん?」

 

 うむ、老人のセンスにしてはなかなか良い線ではないだろうか。

 

 すると彼は私の胸に頭を擦り付ける。

 まるで撫でてくれと言っているようで、随分人懐っこい子なんですねと聞くと、自分からすり寄ってくるのは珍しいとのことで、ああ、やはりこの出会いは運命であったかと幸せな心地になる。

 しばらく話していると、厩務員くんの服の裾をくいっと引いているようで、ああ退屈なのだなと引き留めたことを謝罪しながら、今日はその場を離れた。

 

 「ほれ、ジャポーネ」

 

 最近では彼に会う日を特別な日として、牧場へ足を運んでいる。

 願わくば彼が、日の本の名を冠した彼が長生きしてくれることを強く願う今日この頃であった。

 

 

 

 「はは、できれば知り合いにお願いしたくてね、どうか引き受けてくれないだろうか?」

 

 親父の古い友人だという人からそんな依頼を受けたのは、俺がこの仕事を辞めようと思っていた時だった。

 血統もそこそこで、才能も確かにあったはずの馬を預かったのに、ろくな重賞も取れずに引退させてしまって、それが何度も続いて、ジョッキーなんて辞めちまうかと嘆いていた。

 まあそんな時だったもんだから、その人の申し出に素直に了承するわけにもいかなかったんだよ。

 もともと今の仕事を辞めても親父の牧場を継げば良いわけだからな。

 

 それでも顔を見るだけってその人は畳み掛けるように言ったわけさ。

 そこまで言われたんじゃあ、しょうがねえとその馬を見に行った。

 

 まあなんて言うのかね……。

 

 こんなおっさんが言うのは気持ちが悪いと思うんだけども……。

 

 

 運命って奴を見たんだよ。

 

 

 そいつは出鱈目に立派な身体をしているわけでも、とんでもない血統をしてるわけでもなかった。

 

 

 でもよ

 

 

 『ん?、誰?』

 

 

 喋る馬ってのは運命を感じるのには充分だろ?

 

 

 まあそれでな、喋る馬ことジャポーネなんだが、こいつがまた賢いんだよ。

 俺の言葉の意味は良く理解できてないんだが、一度教えたことは大抵のことができてな、この前にはナポレオンのポーズをしようなんてバカなことにも付き合ってくれた。

 その後、落馬しそうになって格好付かなかったけどな。

 

 ああ、そんなこたーどうでもよかったな。

 

 こいつの面白い所は、賢いからでも、喋れるからでもねえんだ。

 

 『いくよー』

 

 止まらねえ所なんだ。

 

 加速して、加速して、加速し続けて

 

 明らかに速度が限界を超えたと思っても加速が緩むことはない。

 

 このままだと壊れてちまうんじゃないのかってレベルで加速し続けてんのに、獣医の人に見てもらったら疲れ一つ見られないときたらもうとんでもない。

 

 でもこいつはバカなんだよ。

 

 加速してその先をまるで見てない。

 

 柵にぶつかるとか、他の馬目の前にいるとか、そんなことを一切考えてない。

 

 目指すのはスピードの限界。

 

 まるで人間のアスリートじゃねーかってな。

 

 ふざけた身体とふざけた頭、ついでに言葉も喋れる。

 

 そんな化け物に乗せてもらったならどうしても夢を見たくなる。

 

 こいつと夢を見たくなる。

 

 

 新馬戦は2000m

 

 

 こいつの真価を発揮するにはちょいと短いが……。

 

 

 「いつもみたいに行くぜ!」

 

 

 『あいよ』

 

 

 こいつをこの国に見せつけるのには充分だ。

 

 

 さあ、おっ始めようか新馬戦

 




 ご都合主義タグを着けることを決意させたキャラクターの登場ですよー。


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新馬戦


 あんまり改善できてないですが、それでも良ければ……。


















 1987年 阪神競馬場 新馬戦 2000m


 未来を約束された名馬の子供たち


 その華が集うこの場所で、水に溶かした墨汁のような灰色とシンプルな青いが1つ


 その背中に期待はない


 彼らに賭けるものは、大穴狙いの勝負師か


 「気を付けるんだよ、ジャポーネ」


 あるいは純粋な希望か


 背負うものは少ない


 けれど温かい


 ならば


 その温もりに応えるだけだ


 ゲートが閉まり、各選手が出揃った


 さあ

 
 新馬戦の始まりだ


 

 「そんじゃ相棒、二回でダッシュだ」

 

 『ポンポンね、おっけー』

 

 初めて競馬場のコースを走るレース、いわゆる新馬戦というものであろうこの戦いはおそらく決して負けてはいけない。

 

 『ねえ』

 

 「なんだ?」

 

 『ん、本当に()()()()()()いいの?』

 

 「ああ、そのスタミナと加速が相棒の持ち味であって戦える唯一の武器なんだよ」

 

 『良くわかんないけど、わかった』

 

 

 シン

 

 

 虫の羽音一つもしない静寂

 

 

 新馬戦って言うくらいだから、みんなうるさい奴ばっかりかと思ってた。

 大人しい馬は人気らしいから、私の人気は高いものかと思ったけど、この感じだと大したことないのかも……。

 

 

 でも

 

 

 『この方が集中できるね!』

 

 

 最高の環境で合図を待つ。

 

 

 今の私はたぶん最強だ!

 

 

 

 ありえない喧騒……

 

 いやまあ、新馬戦なんてこんなもだけどな。

 

 観客の叫びにゲートを拒む馬の嘶き

 

 「それに引き換え、お前は良いやつだな」

 

 落ち着き払ったその姿のまま、自分の合図を待つ姿には、たいして良い血統でもないのに八頭中5番に推されたのも納得だ。

 

 

 でも……

 

 

 「ちょっと物足りねえよな」

 

 血統主義は絶対の理に違いないし、時代遅れな血統の馬が走るなんて思われないだろう。

 実際、今から共に走るのは天皇賞(春)を制した『タイテエム』の血を引くもの、三強時代を作り上げ、ミスターシービーが記憶に新しい『トウショウボーイ』の子どもまでいる。

 

 総じて長距離のG1を勝利してきた実績のある馬たちの血を引くものたち。

 

 たいしてこっちは辛うじて『トキノミノル』の名が挙がるものの、それ以降の産馬で日本で活躍した馬がいない血統、おまけに長距離は未知数ときてる。

 

 

 だから

 

 

 「ひっくり返してやるぞ」

 

 

 幸い外枠にいることもあって確実に邪魔されずに加速することはできる。

 

 

 ここを俺たちの色に染めちまおうぜ……

 

 

 さあ……

 

 

 とん

 

 

 一瞬の静寂

 

 

 バン!

 

 

 ゲートが開いた!

 

 

 トン!

 

 

 

 音を失くしたこの世界

 

 

 

 全てを賭けて突き進もう!

 

 

 

 『三番カリスタベット、先頭を進みます』

 

 

 まだ前は意識するな……

 

 

 『続いて五番ディクターブレイブ、さらに続いて……』

 

 

 『おっと、六番ラ·ジャポーネ出遅れています、あれは厳しいかもしれませんね』

 

 

 

 はは!勝手に言ってな

 

 

 

 俺はそんなことよりも

 

 

 「やっぱりお前に乗ってる時が今までで一番楽しいぜ!」

 

 

 遅いスタート

 

 しかし、確実に加速し続けるその姿は今までで俺が乗ってきた馬とは明らかに違う。

 今まではどれだけ終盤までスタミナを残せるかを、どれだけ馬群に呑まれないかを考えていた。

 

 だが、こいつは違う。

 

 ただ不安を感じさせないように好きに加速させて、俺はその手綱を握って他の馬を避ける。

 

 言ってしまえばそれだけだが、全てを無視して歩み続けるこの馬を操るのは至難の技。

 

 だから、こいつは楽しいんだよ!

 

 

 『一番ルビークラウンも上がってきました』

 

 

 もっとも今はそんなことを考えるよりも差が開きすぎてることが問題だけどな!

 

 

 

 『さあ、六番ラ·ジャポーネやはり大きく出遅れています』

 

 「ジャポーネ………」

 

 自らの愛馬の名を口にする。

 

 そのスタートはあまりにも遅く既に前方の馬からは5馬身ほど差をつけられているようだ。

 

 このままでは勝負は見えている。

 

 だが

 

 「やっぱり諦めてないんだな……」

 

 その走りは全力

 

 諦めることはない

 

 ゆえに

 

 「がんばれ…‥」

 

 いい年をしたおっさんが恥ずかしいと嗤われるかもしれない。

 

 なぜ勝てる見込みのない馬に賭けるなどただのバカではないと嗤われるかもしれない。

 

 しかし

 

 「がんばれ!」

 

 この衝動は鳴り止まない

 

 恥? 嘲り?

 

 そんなものはどうでも良い

 

 

 「がんばれ!」

 

 

 加速して 加速して 加速して

 

 

 『六番ジャポーネ最後尾を捕えた!』

 

 

 「いけー!!!」

 

 

 この衝動のままに!

 

 

 

 『六番ジャポーネとてつもない勢いで加速していく!、ここでついに!』

 

 

 「あはは!、お前の馬主さんの応援が聞こえたか!!、こっからが正念場だぞ相棒!!!」

 

 

 馬群の最後尾を追い越したとはいえ、広がったこれを抜けていくのは困難。

 

 

 けれどそれを成さなければ勝利はない。

 

 

 「なら俺が足掻くしかないよな相棒!、そんまんま全開で頼むぜ!」

 

 

 まずは一つ!

 

 隙間を縫うようなレースは難しい

 

 

 次に二つ!

 

 なら大外に広がればいい

 

 

 三つ!

 

 

 『六番ジャポーネ!、大外を上がっていく!、そして今!ディクターブレイブを抜き去った!!!』

 

 

 新馬戦で大外に広がるバカのカバーなんて考えやしねーだろ!

 

 

 こいつで五つ!

 

 

 それまでのペース配分も!

 

 

 相手との距離を測るのも!!

 

 

 内側を狙う努力も!!!

 

 

 全て水泡に帰せ!!!!!

 

 

 最後に先頭を抜き去るその場所は

 

 

 『第四コーナーを曲がって、先頭にいるのは!!』

 

 

 『ジャポーネだ!!!』

 

 

 最終直線の前!

 

 

 「チェックメイトだー!!!」

 

 

 

 『六番 ラ·ジャポーネが上がってきました』

 

 2000m

 

 榛原くんがギリギリだと睨んでいたその距離

 

 

 その差が

 

 その不利が

 

 できるだけ内側を狙うその努力を

 

 

 大外から嘲笑うかのように加速は続く

 

 

 『六番 見事なごぼう抜きを見せる!』

 

 

 興奮で口調が乱れる実況

 

 

 何もかも呑み込んで全てを抜き去る。

 

 

 『第四コーナーを曲がって先頭にいるのは!!』

 

 

 『ジャポーネだ!!!』

 

 

 余力を残していたと言わんばかりにその力強い走りは止まらない。

 

 そして

 

 

 『その加速は衰えない!、直線に入ってからむしろ速くなっていく!』

 

 

 『これが2歳馬の走りなのか!!』

 

 

 『後続に六馬身差をつけて!』

 

 

 『一着は六番 ラ·ジャポーネ!!!、最後尾から全てを抜き去っていった!!!』

 

 

 先頭に走り続けるのは『ジャポーネ』だった。




 他の馬の名前はウイポの馬を文字ったりしてますね。
 あと、実際のジョッキーさんはこんなに叫んだりしないので、勘違いしたらだめだぞ!

 追記

 私の勝手な都合で一度消してしまって申し訳ない……、今後はこのようなことがないように何度か推敲をしてから投稿させていただくので、此度のことは許していただけないでしょうか……。
 推敲してもたいして変わらないので、再度同じことが起こるかもしれませんが温かい目で見守っていただけると嬉しいです……。


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初勝利は無音の拍手


 タイトルの明治文学縛りは難しいので止めときますが引用は多いです……。
 あと今回も短いです……、書き方を忘れた感じがするので、ウマ娘編の投稿が増えるかもしれません……。


 

 「止まっていいぞ」

 

 くいっ くいっ

 

 『ん、終わった?』

 

 一切の歓声もなく、かといって怒号を浴びせられることもなく、始まった時の静寂のまま終わったレース。

 人気のない馬の勝利に馬券を投げると噂の競馬場おじさんがいなかったようで、どうやら順当に人気な馬が勝利したのかと肩を落とす。

 周囲に誰もいないように感じられたのは、周回遅れの先頭であったのかと、落胆と失意に沈む私であったが、友から聞こえるはずの悔しい叫びが漏れていないことからもしかしてと思いじっと見つめる。

 

 「ん、どした?」

 

 『誰が勝ったの?』

 

 「ああ!、勝ったのかってことか、ああそうだぜお前の圧勝だよ、六馬身差だぜ、新馬戦だとしても2000mに勝ったのは控えめに行って奇跡だぞ!」

 

 『ん………、勝ったのか』

 

 「おうよ!」

 

 ならばこの静寂はなんなのだろうか

 

 私が一番人気だった?それだとしたら嬉しいがそれでも歓声の一つは聞こえるものではないか……。

 この時代がいつのことかは知らぬが、勝利を称えることもなく、敗者へ感情をぶつけることもなく、ただ無味乾燥の極みのような静寂に包まれるこの空間は、果たして競馬場と呼べるのだろうか……。

 

 それでも喜びに叫ぶ友がいることが私の唯一の救いだが、それでもこの虚しさはどうすればよいのか。

 

 怒りとも悲しみとも呼べぬ、えたいの知れない不吉の塊が私の心をおさえつけている。

 

 これを抹消しえるのは何なのかという疑問を消し去ることもできずに

 

 『神よ、なぜこの身にこのような半端な心を残したのか!』

 

 ただ誰にも伝わらぬ咆哮に思いを乗せるだけ

 

 

 なぜ私はこのような不吉を背負っているのか?

 

 まさかとは思うが……

 

 

 歓声を浴びたい?

 

 努力を認められたい?

 

 

 そんな理由か……

 

 

 ああ、それだとしっくりくる

 

 

 しっくりきてしまう……

 

 

 なんだ私は……。

 

 まるで子どものようではないか……。

 畜生に転じた身体が人間の心を蝕もうとしているのかと考えるが、そのような思考に至ったこと事態が既に答えを示していることを直感では理解してしまう。

 

 ああ、例え望まぬ形であったとしても、大いなる自然の理に反し、前世の記憶とやらを持ち生まれてしまったことの報いがこのような形で発現するとは、嘆くことを忘れようとしたこの思考すらも忘れてしまう未来が来るのか……。

 

 ならば死を恐れたこの心も馬のいや、生物の本能だったというのか……。

 

 なんということだ!

 

 望んだ生は紛い物で、既に人の心を失っているのではないか……。

 

 いや……、これこそ彼の荘子の語る胡蝶の夢というものではないのだろうか。

 私が人間として生きていたという記憶は、実は胎児の時にこの馬が見ていた夢であり、人間から馬に転じたという奇妙な現象は、ただ夢から目覚めたというだけであり、人の心というものは夢の中の意識だったのではないか。

 

 だとしたら納得だ。

 夢というものが記憶から薄れていきことは決して不思議なことではないし、少し残った人の心は産まれ直しによって、改めて生を始めようとしているということで、思考が子どもに寄っていくことは自然なことだ。

 

 いや、輪廻の輪を廻ったとなれば超自然と呼ばれるものだが、夢というのなら自然なこと……、のはずだ。

 

 そうとわかれば……、とはならないが、すぐに取り乱す必要はないとわかると途端に疲れが出始めて、運ばれるトラックの中、こくりこくりと船を漕ぐことになるのだった。

 

 いつもの部屋に入ると、少し潮の匂いがする初日に世話をしてくれた男がいた。

 潮……、いや涙か、を流す男は、私が勝利したというのに、悲しそうな表情を見せる。

 なぜそんな顔をするのだと尋ねても、言葉が届くことはない。

 

 そういえば……。

 

 彼から香水の香りが消えている。

 

 『あっ……』

 

 私に愚痴を垂れている節がある彼が私の部屋で泣きながらぼやいているとなればこっぴどく振られたに違いない。

 ほれ、私がいるぞと身体を擦り寄せてみるが、余計に涙が流れるようで、こちらも少しイラっとして小突くとようやく泣き止んで強引に口角を上げて笑っている姿は少し痛々しいけれど何とか立ち直る覚悟は決めたようである。

 

 「うう……、そうだよな一番悲しいのも、一番辛いのもお前だよな……

 

 ふむ、おそらく『ありがとう』言っているのであろう。

 そんなに誉めなくても良いとのんびりと頭を擦り付けるとやっとわしゃわしゃと頭を撫でられた。

 

 「それじゃあ、あんまり長くはいられないが、いつでも帰ってきてくれよな……

 

 そのまま何かを呟いて帰っていった

 

 

 翌日

 

 『走りたい……』

 

 「ん、身体が鈍っちまったか?、走りたいなら付き合うぜ」

 

 『お願い』

 

 完全には消えない不安を解消するために走ろうと思いバカみたいに足を動かすが、そのこともガキ臭いように思われて、その足は止まる。

 ほんの少しの絶望の繰り返しで人は成長すると、どこかの漫画に記してあったが、成長はこの紛い物の人の心を失うことを意味していると思うと生きるということに意味を感じられなくなる……。

 

 

 いや

 

 

 それは私が、偽物であった、平凡にすらなれなかった夢のない人間であった時と変わらない

 

 

 なら

 

 

 私はこれだけを

 

 

 生きる意味を

 

 

 死ぬことが怖いんじゃない

 

 

 ただ

 

 

 死にたくないから生きていると

 

 

 それを忘れずに生きてみよう

 

 

 そしたら

 

 

 胡蝶の夢に終わった彼の慰めになると

 

 

 夢として終わった人間と人を捨てた馬と

 

 

 入れ替わるのは何気のない日

 

 

 今日はこれでおしまい………。

 

 その終幕が醜いバッドエンドだとしても

 

 それでも、必ず明日は来ますよ

 

 絶望の未来が待っていたと知っていても

 

 だって、彼らは生きることを決めたのですから




 温度差で風邪を引いてくださいな

 まあ、スマホ時空はこのくらい明るい世界線だとは思ってます。




 『我ら葦毛三銃士』


 「それはおかしいやろ……」

 「うむ……」

 「声をかける相手を間違えてないの?」

 現役時代も終わり暇を持て余す相部屋組。

 基本的に別々に外出していることが多い三人が同じ場所にいるのは……。

 「お願いします!」

 「私たちはアイドルと言うより、お笑い芸人の方が適任じゃないかな……」

 一人前のウマドルを目指すアイドル系ウマ娘『スマートファルコン』の頼みを受けたからなのです。

 その内容とは……
 
 「どうか私たちの『逃げ切りシスターズ』と対ウマドルをしてくれないでしょうか!」

 イベントにアイドルとして出て欲しいというものでした。
 最近は暇になった三人でしたが、かなり人気のあったウマ娘たち、ステージでセンターに立つことも多かった三人は、なるほどアイドルも向いているかもと思わせる何かがあります。
 とはいえレースの高揚感のままに踊っていたあの時と違って、素面のまま歌うことを望まれるアイドルでは比較的常識人なタマモクロスとラ·ジャポーネが本気で引き受けてくれるとは思えません。
 さて、彼女は何の勝算があってこの三人に声を掛けたのでしょうか?

 「実は……、優勝した陣営に焼き肉食べ放題の一年分チケットが貰えるんですよ!!!」

 「ん!」

 「む!」

 「え?」

 なんと!

 これは多くのレースを勝利しても、家族が多く食費がバカにならないタマモクロスと圧倒的な大食で基本的に食料があっという間に消えるオグリキャップ、この二人には刺さるものです。

 しかし

 「私にはメリットがないけど……」

 お金持ちと言わずとも、散財するような趣味を持っていないジャポーネが、基本的にメリットとデメリットを思考する彼女がこの提案を受け入れるとも思えません。

 やはり声を掛ける相手を間違えているようです。
 
 さあ、こうなるとどうするべきでしょうか?、『マヤノトップガン』と『ニシノフラワー』の二人で『心はレディ』というユニットでもお願いすべきでしょうか……。

 かなり無理のある要求だったようにも思われるので、素直に諦めようとしたスマートファルコンでしたが……

 「ん、そういえば逃げ切りシスターズにはラジの妹分もおるんやなかったかいな?」

 「ナンキョクちゃんですね!」

 「妹分にええとこ見せるってのはどうやろか?」

 「………」

 おっと身内をエサに釣り出す作戦のようです。
 昔から付き合いのある『ナンキョクコウテイ』の名前を挙げて、心を動かそうとしているようです。

 実際、ジャポーネも絶対に勝てないと嗤われている凱旋門挑戦を控えた彼女のために何かをしてあげたいと考えていたところ。
 渡りに船と呼べるほど都合の良い手段ではありませんが、こうして直接応援する機会が手に入ること事態は悪くありません。

 「いいでしょう………」

 渋々ですが了承したジャポーネ、嬉しそうに目を輝かせる三人をジト目で見つめてはいますが、その心は決意に染まっているのでした。


 「動きが甘い……、やる気あんの?」

 「落ち着いてーなラジ!」


 普段は妥協と諦めを許容して肯定する友人の鬼教師っぷりに驚く二人でしたが、すぐに、現役時代もやる気のある事象においてはこんな感じだったなと昔を懐かしむ余裕が生まれたようです。

 簡単に後輩に負けてやるわけにはいかないという気持ちもあるようで、三人の連携は徐々に完成へと近づいて行きます。

 まあ、逃げシスにはマルゼンスキーという圧倒的な年上がいるわけですが……。

 裁縫上手のタマモクロスに衣装を作って貰ったり、料理の時間すら勿体ないと出前を頼んだりかなりガチになっているようです。
 一番やる気のなかった人間が最も熱中するというのは良くあることですが、全員がここまで燃え盛っているのは依頼をしたスマートファルコンも想像していなかったでしょう。


 さて、本番当日


 そこそこのイベント会場で行われる予定だったそれは、驚くべきことに数万人単位の人間を呼び込む大イベントへと発展していました。

 これはお祭りの事前告知ラジオにてゲストのアイドルグループの名前を発表したからです。

 その名は


 『葦毛三銃士』


 同世代を競いあった伝説のウマ娘たちが集う葦毛のアイドルグループです。

 伝説を生み出した有馬記念からCMで引っ張りだこの怪物『オグリキャップ』

 初めて両方の天皇賞を勝利し宝塚でも勝利した白い稲妻『タマモクロス』

 数多の勝利の末、いくつものレコードを塗り替えてきた絶望『ラジャポーネ』


 根強いファンの多い三人の集まったグループ


 皆それぞれをテレビで見ることは多くても、ステージに上がることの少ない三人のグループ。

 詰めかけたお客さんは普段の数倍。

 とてつもない『熱さ』に驚く彼女たちでしたが、そこはウマドル!、その完成を力にしてさらに熱く炎の如く燃えています。

 準備は万端!

 まずは逃げ切りシスターズ!!

 さあ、ライブの始まりです!!!


 「みんな!、今日も来てくれてありがとー!」

 初めの曲はメンバーの一人、『サイレンススズカ』の後輩たち、黄金世代の曲。


 明るい曲調は場を盛り上げるのにぴったりです。


 周囲を取り巻く熱を力に変えて!

 ウマドルは力を増すのです!!

 その息の合った振り付けで!


 全てを使って!


 会場を盛り上げます!!


 「最後まで聞いてくれて!、ありがとー!!」


 おおおおおお!!!!!!!


 会場のボルテージはMAX


 そしてそこには三人の勇者たち


 センターにいるのはタマモクロス!


 「さあ、いくで!」


 彼女たちが歌う曲

 
 それはクラシック三冠の歌


 一人は出走を許されず

 一人は遅すぎて

 一人は諦めてしまった


 そんな歌


 しかし


 その歌声には間違いなく魂が籠っている


 そして、その歌声は愛らしく魅せるものじゃない


 ファンと共に歌うものでもない


 思わず言葉を失わせる
 

 勝利への執念と覚悟を籠めた引き寄せる歌声


 「すごい……」

 「流石はジャポーネさんたちです……」

 
 会場は先ほどと、うってかわって歌声以外が聞こえないような静寂


 しかし


 「激熱ね」


 全ての観客が噴火寸前の火山の如き感情を秘めている


 それに応えるように


 歌にも熱が籠められて


 さらに熱は加速する


 さあ


 世界を燃やし尽くすほどに


 「           」


 うおおおおおおおおお!!!!!!!


 そして今、噴火する。


 飛び交うアンコールの声


 すると


 「忘れていないか?」


 「今回は私たちだけのステージじゃないよ!」


 「さあ!、うちらとやろか!」


 もちろん最後はあの曲!!!


 「はーい!」


 「みんな揃って!!」


















 楽曲が何も使えなくて悲しくなりました……。

 なのでみんなの脳みそで補填してね……。

 さて、本編の方は雑なタイトル回収なんてしてる暇があればお話を進めた方がいいんですけどね……。
 正直、原作人気でここまでたくさんの方に見てもらっている感じなので、これからどれだけの人に見てもらえるのかと思うと不安でございます。


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お別れの馬


 キリを良くすると短くなりますね……。
 しばらくは短めのお話が続きますがご容赦していただけると嬉しいです……。


 

 『うおおおおおお!!!!!!』

 

 大歓声と共に迎えられるのは勝者

 

 例え自らの賭けた馬でなかったとしても、彼らは伝説の誕生を見たのだ。

 

 それだけでもなんとも言えない雨模様の空を無視して、ここまで来た甲斐があったというもの。

 

 六馬身以上の差を覆すどころか、それを全てを引き離しての勝利、誰でも夢を載せたくなるものだ。

 

 それ故に熱は増して行く

 

 

 最高潮の興奮に浴びせられるは歓喜の叫び

 

 

 これこそ勝者の特権だ。

 

 

 祝福するかのように射し込む光りがその灰色の姿を照らす。

 

 「ああ! 、勝ったのかってことか、ああそうだぜお前の圧勝だよ、六馬身差だぜ、新馬戦だとしても2000mに勝ったのは控えめに行って奇跡だぞ!」

 

 突然の喧騒に驚いたのだろうか、誰が勝ってるのかわからないというような思念を飛ばす相棒に俺たちの勝利を伝える。

 一緒になって喜ぶと思った相棒が冷めた姿をしているのは少し気になるが、それでもこの喜びは何物にも変えがたい。

 

 喜びを共有するためにポンポンと相棒を叩いていると

 

 

 『          』

 

 

 爆音の嘶きが響いた。

 

 

 その姿は周囲には勝利を誇る嘶き

 

 

 スポットライトの当たるかのような太陽の光

 

 

 英雄の勝鬨に見える………

 

 

 だが

 

 

 「何がそんなに悲しいだよ相棒……」

 

 

 消え入りそうなその感情は

 

 

 ただ一人、帰る場所を失くして

 

 

 雨に濡れる子供のように思えてならなかった。

 

 

 

 「きついな……、こんなの慣れっこなはずなのによ……」

 

 新馬戦まで馬の体調を気にして延期にしてもらっていたトレーニングセンターへの輸送が三日後に定まった。

 そんなわけで厩務員一同は皆、何ともいえない虚無感に襲われていたのだ。

 昔、問題児を育てていた時、彼が旅立っていった時の感覚にも似ているそれは、彼らの心に穴が空いたような感覚をもたらした。

 とはいえ彼らもプロである。

 すぐに持ち直して、仕事に取り組むわけだが、そのうちの一人、始めにジャポーネを連れてきた彼は人一倍失意に沈んでいた。

 彼にとってその馬との語らいは日常の一部となっている。

 本馬にその意識はないだろうが、彼女に振られた日も、友人関係の相談も、その語らいによって救われてきたことは多い。

 

 故に

 

 「ずっとここに居てくれねえのか……」

 

 そんな女々しい言葉をジャポーネに吐き出していた。

 

 いや、それが難しいこと、というか不可能なことは誰よりも理解しているし、似たようなことは腐るほど経験してきた。

 それでも、この別れは寂しいものである。

 

 そして涙を流す彼にいつものように……、いやどこか期待していた通りに

 

 『バフッ』

 

 身体を近付ける。

 

 いつもなら嬉しいはずのそれは、明らかに高い声色でどうもバカにしているような口調なのが腹立たしい。

 少しイラっとして背中をいつもより強くポンポンと叩くが、それも堪えていないようで、少しだけ早く叩くと流石に気になったようで頭をゴツンとぶつけてくる。

 

 そしてその顔を、悲しみで直視できなかったその瞳を見ると……

 

 「泣いてるのか、お前……」

 

 その瞳は濡れていた。

 宝石のような輝きを持つその瞳は、普段よりずっと濡れていて、妖しい輝きを秘めている。

 

 「そういえば今日、榛原さんが……

 

 『悲しみ咆哮が聞こえたよ……、もしかしたらあいつもわかってんのかもな

 

 『お別れの日が近いことを』って言ってたっけな……」

 

 そう思うとこの明るい声は痩せ我慢のようにも見える。

 

 「お前もわかってんのか……?」

 

 

 『ふーー』

 

 

 肯定するように首を振る……

 

 その姿はうちに来た時と同じ様に堂々と、しかし気高くあったが、それでも、別れに涙を堪えきれてない様子である。

 

 「そうだよな……、一番悲しいのも、一番辛いのもお前だよな……」

 

 立ち上がり自分の頬を叩く

 

 「それじゃあ、あんまり長くはいられないが、最後まで仲良くやろうぜ」

 

 ゆっくりと背を向けて歩きだす。

 

 今生の別れでははずなのに、この足は動こうとしない。

 

 そんな女々しい自分に嫌気が差す。

 

 覚悟を決めたはずじゃないか…… 

 

 再度頬を叩こうとした瞬間

 

 

 『              』

 

 

 世界が割れるような轟音と共に嘶く馬があった。

 

 

 激励

 

 

 大したことでもないのにくよくよと悩む俺への激励だ。

 

 今までどれだけ女々しい相談をしても聞くことはできなかったその嘶きが、別れを惜しむだけで立ち止まっている男に向けられている。

 

 ならば

 

 「いつでも帰ってこいよ!」

 

 こちらもバカみたいに、今すぐの別れでなくとも言ってやるのだ。

 

 またいつか会える日を

 

 

 共に語り合う日のことを

 

 

 「いつか」

 

 

 いつかお前が帰ってきた時に

 

 

 「また語り明かそうぜ」

 

 

 そんな一方的な約束と共に

 

 

 夕日に向かって歩み始めた

 





 季節を逆行中


 最終決戦兵器KOTATU

 「やっぱりお鍋はこの季節やな」

 「シンプルなお鍋も悪くないね」

 ここはトレセン学園の東栗寮

 いつも愉快な葦毛三銃士の住むこの場所は、今日も今日とて美味しい匂いが漂います。

 さまざまなウマ娘が集まり、騒ぎ、怒られる。

 そんな日常が繰り広げられるこの場所、さて今日のお客さんは……?

 「今日の鍋奉行は私がさせてもらおうか」

 「なんだかんだ今年は初かな……、それじゃあ、できたら言ってください」

 「流石に任せっきりはダメやで」

 なんと!、あの多忙な『シンボリルドルフ』が鍋奉行を勤めてくれるようです。
 どうやら数多のウマ娘が参加するこの食事会は、生徒会長の癒しの場にもなっているようです。

 そして今日の夕食はお鍋

 冬場、それも炬燵に入っている時には、最上の料理であるといえるでしょう。

 「オグリも来れば良かったのに」

 「年末の休みくらい家に帰りとうもなるやろ、うちもそろそろ実家に帰らんとあかんしな」

 どうやらこんなに最高のタイミングでオグリキャップは実家に帰ってしまったようです……が、彼女にとって食材の心配をせずに食事ができる環境は、みんなでつつく鍋よりも安心できるのかもしれません。

 カチチチチチチチ

 さあ、コンロに火がつきました。
 あらかじめ作っておいた特製だしを入れた鍋が、ことことと音を立てて火にくべられています。

 「はじめは……、白菜が良いだろうか?」

 「はい……、まあ、好きなので大丈夫ですよ」

 「鱈……、なんてものはあらへんから、せやな、つみれとか鶏肉とかも入れたらええかもしれん」

 何だかんだ鍋奉行はいますが、横に二人料理の上手な人がいるので、結果的にみんなで作るお鍋となっていますね。
 ですが、これこそお鍋の醍醐味、焼き肉にはない何かがそこにはあります。

 ちゃぽん

 様々な具材が投入されていくのを見ると年末の訪れを感じざる終えません。
 実際、炬燵に籠る三人は、幸せそうな表情でお鍋の完成を待っています。

 ことこと煮込まれるお鍋のからは、何ともいえない幸せな香りが漂います。

 なんだか心地よくて眠たく……


 「ん、そろそろかも」


 はっ!、いけません。

 意識を失いそうな心地よさにやられないように、しっかり目を覚ましてから、一度火を弱めて、蓋を開けます。
 すると、モクモクした湯気の中から、白菜、鶏肉、つみれに豆腐、お鍋の定番オールスターたちが勢揃いの素晴らしい光景が広がっているのです。

 「もらい!」

 バシッ!

 反射的に伸びた箸は、それよりも長い菜箸に止められてしまいます。

 「私が鍋奉行なのだから、均等に分けさせてもらうぞ」

 トレセン学園早食い競争があれば、最高のスタートダッシュを決められたであろうその箸は、平等を愛する会長の技に止められてしまいました。

 「行儀悪いからやめーな」

 バチバチに火花を散らす二人を尻目に、のんびりと白菜を取り分けていくタマモクロス。
 ある意味、いつも通りの光景が広がる中、それぞれの皿に盛られた食材を見て、二人は一時休戦を決めるのでした。

 はふ

 「あっふー!」

 「ちゃんと、ふーふーして食べんのやから熱いに決まっとるやろ……」

 まずは白菜

 主役になることの少ないこの野菜ですが、キムチと鍋においては、最強の主役といっても過言ではない働きを見せてくれます。

 瑞々しく、柔らかい中にも食感の残る姿に、良くだしを吸っているが故にこれ単体でも美味しい一品です。

 ですが

 ツンツン

 ポン酢につんと浸けると、そのだしの旨味とポン酢のほどよい酸味が、鼻の中を抜けていきます。

 これぞ絶品と言えるでしょう!

 「早う食べんと豚が入らへんで」

 はっ!

 こんな調子では豚肉を食べることができません。

 しっかりとだしの入った豆腐に、自分自身がだしを出しながらも、しっかりと味の残っている鶏肉、独特の食感に、ショウガを少し加えた特製つみれを紹介できないのは残念ですが、これも全ては豚肉のため

 え?

 さっき白菜が主役とか言ってなかったかって?

 うるせえな!

 お鍋に脇役なんていねえんだよ!!!


 そんなわけで投入されるのは豚肉!

 ただでさえ大量のだしを使ったこのお鍋は、今までの戦いの中で進化している!
 そんな主人公系だし汁は、みんな味覚を刺激します。

 昔オグリが『このだし汁だけで炊飯器を空にできる』と豪語しただけのことはあるようです!

 そしてその力を借りた豚肉は、某カードゲームプレイヤーが、思わず『サティスファクション』と叫ぶほどには美味しいのです。

 「ほい、順番やでー」

 はっ!

 何かに意識を乗っ取られましたが、なんとか持ち直せました。
 さて、出来上がった豚肉は、タマのオカンから皆へ配られていきます。
 途端に早まる補食スピードに焦るタマモクロスを置いて、あっという間にお鍋の具材は消え去ります。

 「ちょっ!、うちの分も残しといてな」

 さあ慈悲はないと言わんばかりに減っていく中身に、熾烈なデッドヒートが繰り広げられる。

 まあ結局はオカンの鉄槌によって正気に戻されるのですが。


 「今日はありがとう」

 「いえ、こっちも牡蠣なんて食べる機会はないんで」

 「せやな、うちらには豚バラが限界や」


 宴も終わり、帰ろうとするルドルフ

 しかし

 「外は寒いだろうか……」

 「まあ、寒いですよね」

 「せやな、でもこれ以上遅なると帰れんくなるで」

 「もう少しここにいていいか?」

 「いいんじゃないですか」

 「せやな、オグリもおらへんし」

 凍てつく冬の夜

 対して温かい炬燵

 「執務室で凍えるくらいならこっちで寝てもらって大丈夫ですよ」

 「うむ、お言葉に甘えさせてもらおう」

 
 zzz zzz zzz


 こうして三人は、炬燵という牢獄から抜け出すことができずそのまま寝てしまいましたとさ。


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親分との出会い


 持病で寝込んでました……。
 これからは頑張って更新を早めるので、許してヒヤシンス。
 あと、ウマ娘編のジャポーネとこっちのジャポーネは違うということを改めて。


 

 『ほれ、行くで鼻垂れ』

 

 やあ、同士よ。

 

 まあ座りたまえ、私は二度目の引っ越しを乗り越えて、ここに来た。

 

 そして今、ボスらしき馬に気に入られている!

 

 ああ、かつてないこの高いテンションに皆さん驚いただろうが、この馬生にて始めて意思の疎通ができる同族と出会ったのだから許して欲しい。

 このボスらしき馬の名前も、本当にボスであるのかも知らぬが、周りから恐れられているのを見ると、間違えなく隣にいれば他の馬へ対応する必要性がなくなると考えれば、たまに蹴られる心配にも耐えられるというものだ。

 

 『いつまで寝とるんや鼻垂れ!』

 

 『へいへい』

 

 ボスが呼んでいるからな続きは後にしよう。

 

 

 『相変わらず遅いな、お前は』

 

 『あと二キロくれたら、ボスの足を潰せる自信はありまっせ』

 

 『はは、抜かせ!返り討ちにしたる』

 

 

 それではいつものように、ここに来た時のことを語るとしよう。

 

 ふむ……、三度目の引っ越しともなれば流石に取り乱すことはなかった。

 どれだけ歓声のないつまらない勝利であったとしても、新馬戦に勝利した馬を殺す必要性はないであろう。

 特に問題を起こしていない上に、基本的に人間様の命令に背いたりもしていない私をここで殺す必要性も薄いのだから。

 

 そんなわけで気楽な旅行を終えてここに来たわけなのだが……。

 

 大きいな……。

 

 基本的に同年代の馬たちは私よりも小柄であったため、言葉を無視してくるような馬が相手であったとしても、手が出しにくかったのであろうが、ここにいるのは成熟しきった馬。

 おそらくシニア?と呼ばれる階級を走ってきた歴戦の猛者たちなのであろう。

 そんな中でコミュニケーションができない馬が一頭混ざればどうなると思う?

 ああ、囲まれてのリンチであろう。

 

 『おうおう、お前!、先輩に挨拶もせずに何をしとるんや?』という具合にボスからハブられて、子分に潰されるに違いない。

 

 そんな新たな恐れに震えていた……、いや気楽な旅という言葉は取り消そう。

 今回もいつものように、心が粉々に砕け散っていたのだ。

 

 そんな私を救ってくれたのがボスだった。

 

 いつも厩務員、彼女に振られた彼である、に手綱を引かれて、トレーニングセンターらしき場所に到着した私を待っていたのは、前述の巨大な馬たちである。

 いや、巨大と呼ぶには語弊があるのだが、威圧感なども含めたものだと思ってもらえるとわかりやすいやもしれん。

 新入りである私をじろじろと眺める奴らが、何かをぼやいているように口を開くのを見るたびに、恐怖で震えることしかできなかった。

 だが何よりも、隣の部屋に、顔を見合わせることができる程度には解放感のある、いた馬が恐ろしかった。

 

 『ん、新入りかいな』

 

 『ひえっ……』

 

 『ん?、失礼なやっちゃな、何を突っ立っとるんやおどれは?、それと何や?人を見た途端に悲鳴とは、食われたいんか!』

 

 体格は大したことないのだが、放たれる覇気のようなものが抜き身の刃のような誰も近づけないようなものなのだ。

 見れば放牧の時も、彼に近づくことを恐れる馬が多く、一人でむしゃむしゃと芝を食んでいる。

 

 馬基準でも恐ろしい存在であることを知った私は、どうしてもっと分厚い、それこそ顔も出せないような檻に奴を閉じ込めていなかったのかと、怒りの余り寝込みそうになった。

 

 しかし、数時間後に冷静になれば思うのだ。

 

 『なぜ彼の言葉が聞こえるのか……』

 

 そう、今まで聞こえなかった馬という生命体の言語がすらすらと頭の中に流れ込んでくるのだ。

 私の馬主やジョッキーとは違う、明確に頭の中に言葉が流れてくる。

 それこそ、トレーニングセンターに馬がいることと同じように、当たり前のことのようにその馬の言葉が理解できる。

 

 だが、これを好機に馬の言葉を解読しようと考える前に、人間の言葉に変換されるものだから結局このお隣さん以外と会話を行うことはできんでいたのだった。

 この時ほど……、いや、産まれた時から人間の記憶を持ったことを恨んではいる。

 

 『あのー……親分?』

 

 『ん、邪魔やぞ鼻っ垂れ』

 

 『後ろ失礼させていただきやす……』

 

 となると私にできることは一つ、この抜き身の刃のような馬に気に入られることだけ。

 

 それからはいろいろとやってきた。

 

 『何で人間どもはわいに芝を走らせんのやろうな?』

 

 『親分があんまりにも力強いもんだから人間どもも勘違いしてるんでさ』

 

 『世辞ならいらんで、ほれ走るで』

 

 『あいあいさー』

 

 レースでなかなか勝てないという親分の機嫌を取ったり、愚痴を聞いたり。

 

 『おら!、白いの!、もう帰る時間だぞ』

 

 『あ!?、おどれごときに従うわいやないわ!』

 

 『(良くわからんが)そうですぜ、親分の言う通りでさ!』

 

 放牧中も鬱陶しいボス?らしき馬を一緒に追っ払ったり。

 

 『ん、それ旨そうやな?』

 

 『へい、どうぞ親分』

 

 『いや、止めとくは』

 

 別に好きでもない果物を譲ったり。

 

 

 まあ、いろいろとやってきて、やっとこさ受け入れてもらったわけだ。

 そのお陰もあって、ボスらしき馬以外から言葉を浴びることは消え、やっとこさ、親分の背中を歩くことを許された。

 

 これで、ようやく大手を振るってこの場所を闊歩することを許された。

 

 

 これまた唐突な話なのだが……。

 

 ここでの訓練は随分と真剣だ。

 

 いや、あの場所でのトレーニングが温かったのかもしれない。

 とはいえ私の気分でトレーニングを決めることは許されなくなった。

 しかし、親分との会話以外では暇な私にとって大抵のことは暇潰しとなるし、その疲れすら気持ちのようものになる。

 

 そんなスポコン漫画展開を乗り越えたことで、私は筋肉モリモリマッチョマンの変態競走馬に近づいた。

 

 

 そして運ばれるトラックの中

 

 試される大地にて……。

 

 

 「ここも久しぶりだな」

 

 『いや始めてだけど?』

 

 「今日はあの時よりも短けえからな、いつもより気張っていけよ」

 

 『は?、無理でしょ』

 

 地面に水溜まりができている。

 

 そして

 

 『雨降ってるけど』

 

 たしかにぐちゃぐちゃのダートを走らされたことはあったが、実際にびしょびしょに濡れながら走るのは始めてである。

 遅れを取るつもりはないが、誰かを背に乗せて落ちることを考慮しながら走るのはきつい。

 

 「おいおい、安心しろ、いつものように走れば大丈夫だ」

 

 『かなり派手に曲がるよ?、しっかり捕まってないと落ちるよ?』

 

 「上等だ!」

 

 『……、まあいっか』

 

 「おう、気楽にいけ、気楽にな」

 

 

 それでは改めて

 

 

 

 日本一の雪の大地は

 

 今は青い空のまま

 

 

 再び入る真っ白ゲートは

 

 酷く窮屈に思えてならない

 

 

 ここに咲くのは秋の桜

 

 

 それじゃあ

 

 始めるとしよう




 ウマ娘の方は反骨精神の塊みたいなタイプなのでギャップが大きすぎるかも……?と思っての注意書きです。


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おかしな馬


 評価が黄色とオレンジで行ったり来たり

 誰にも見られないでしょ、くらいの気持ちで始まったこの二次創作、たくさんの方々に評価していただいているのにこのようなことでモチベーションと投稿ペースを下げてしまって本当に申し訳ないです……。
 まあ、筆者は多重人格なので馬視点を書いているメンヘラ人格がダメージを受けていますが、人間視点の人格は健在なので、しばらくはウマ娘の投稿が増えるかもしれませんが、これからも楽しんでいただけると幸いです。



 

 思えばおかしな馬だった。

 

 「まあ、お前に任せるよ」

 

 おとなしくて、言うことをしっかり聞いて、人間のバカみたいな話にも頷いてくれるのも

 

 「流石に先輩にお願いしますよー」

 

 始めて会った日を思い出させるような堂々とした歩く姿勢も

 

 「なんだかんだお前が適任だろ、しっかり届けてやるんだぞ」

 

 レースの時に見せた圧倒的な走りも

 

 「ほれ、泣くんじゃないよ男だろう?」

 

 今、こうやって手綱を引いていても思うのだ。

 

 やはりおかしな馬であったと

 

 とある厩務員は、実際に馬に乗る騎手でもないのに、馬との出会いを運命だと直感したらしい。

 

 自分とこの馬の出会いはきっとそれと同じようなものだったと思う。

 

 ただ日々の世話をするだけの仕事

 

 馬からは舐められることもあるような自分たちが感じた運命。

 

 

 その運命を

 

 

 たった一頭の運命を乗せて

 

 

 いつものようにトラックは行く

 

 

 永遠と続いて欲しいこの時間は

 

 

 一息と共に流れていった。

 

 

 「よし、頑張れよ」

 

 何と言うか……、こいつからもくどいと思われていそうなほど別れを繰り返したが、最後の別れは笑って見送ってやれそうだ。

 大手なんてものではない、関西の馬を一手に引き受けると言っても過言ではないこの場所の人に口が酸っぱくなるほどの注意の言葉を重ねたことは、改めて考えても野暮なんてものではないことだったと思う。

 

 それでも、昔、といっても半年程度だが、ジャポーネの産まれ故郷である牧場の彼らも同じように口を酸っぱくしていたのを思い出すと、やはりこの馬には我々人間を魅了する何かがあるのだろう。

 

 手綱を向こうの厩務員に渡す。

 

 少しも拒む様子を見せないのは癪だなと頭を撫でる。

 

 最後は日常のように

 

 おそらく別れを理解していたにも関わらずこの冷たい別れ。

 

 改めて人間臭い奴だと思う。

 

 「それじゃあ、よろしくお願いします」

 

 「はい、しっかり預からせていただきます」

 

 大袈裟に振った腕と同じように振り返された尻尾に少し吹き出した。

 

 やっぱり笑って見送れそうだ。

 

 

 

 おかしな馬ですね……。

 

 始めての人間に懐くというのは特別なことではありませんし、ここに始めて来たのならば他の馬の大きさに驚いて、こちらに助けを求めてくる馬も出会ったことはあります。

 

 おまけに彼の隣には気性の荒い馬が一頭。

 

 耳が聞こえないのであれば、人間に助けを求めることは自然なことですし、気にかけてくれているボス馬であったとしても恐れることは当然だと思います。

 

 ですが……。

 

 「懐く相手が違うじゃないの?」

 

 彼がその身を寄せたのはなんと隣のヤクザのような馬でした。

 いえ、人間より遥かに善良な心を持っている動物たちに対して、そのような表現はどうかと思われますが、その馬は、同族であろうと人間であろうと噛みついてくる猛獣のような馬です。

 友とするのにも、ボスと仰ぐにも適した存在であるとは言い難いです。

 況してや、馬というものそのものを恐れるような馬が信頼を寄せるというのはおかしなことです。

 

 このようなことになった経緯ですが……。

 

 

 「とても人懐っこいですが、馬との関係は基本的に無視してばかりなので苛められないように……、いや、賢い子なので正当だと思えば反撃する可能性も……、できるだけ他の馬とは……

 

 「あはは、大丈夫ですよ」

 

 あっ!、すいません話し込んでしまって……」

 

 「ふふ、賢い子なんですね」

 

 「はい!、耳が聞こえないはずなのに人の……、

 

 多くの厩務員さんは意外と馬への思い入れがないことが多いのですが、この方はとても可愛がっていた様子。

 特別可愛がられた馬はその人に懐きやすいので、彼の言う『人懐っこい』というのは当てになりにくいですが、のんびりと待っている姿を見るとおとなしいというのは確かなようです。

 

 あ……」

 

 「どうかされましたか?」

 

 「いえ、さっき自制したはずなのにまた長々と……」

 

 「いえいえ、可愛い子を預けるのですから心配になるのも当然ですよ」

 

 そんなお節介焼きの彼の手綱を預かって、ゆっくりと部屋へと歩き始めます。

 大袈裟に手を振る姿に、合わせるようなリズムで尻尾を振っているのは非常に愉快な子だなあと感じさせますし、一切の抵抗のない姿に驚きながらも、新入りに視線を送る先輩たちから隠れるように私の影に入った時は本当に愛嬌があるなと思わされます。

 

 この性格なら、群れのボスに気に入られないとろくに周りに馴染めないかもしれませんね。

 

 ですが、私は失念していました。

 

 馴染む、馴染めない以前に彼の部屋の隣には気性の荒い馬が一頭います。

 

 『タマモクロス』

 

 人間にも、同族にも牙を剥く獣のような、いえ、馬は獣ですが……、馬です。

 

 案の定、彼に見つめられたこの子は私に助けを求めるように目を向けます。

 完全に我々の調整ミスなので、早めに部屋割りを変えないといけません。

 落ち着いてと頭を撫でますが必死で身体を寄せるのを見ると、やはり可哀想で、付きっきりで隣にいたくなります。

 この仕事を続けると、男であったとしても母性のようなものが芽生えるものです。

 

 「大丈夫ですよ」

 

 とりあえず落ち着いてくれれば良いと耳もとで声をかけながら頭を撫で続けます。

 

 すると少し瞳を閉じて、落ち着いてくれたようです。

 

 耳が聞こえないという割には、随分と音に信頼を置いているのかと驚きながらも、その日にまた顔を合わせることはありませんでした。

 

 さあ、翌日

 

 早朝の放牧のために厩舎を訪れたのですが、やはり怯えた様子で私の顔を見た途端に駆け寄ってきます。

 

 隣の部屋を見るとふてぶてしく眠っている馬が一頭。

 

 いけません

 

 この子には何かお節介を焼きたくなるものがあるようです。

 本来なら平等であるはずの厩務員が贔屓目で見てしまっているようです。

 

 「あなたは人を魅了する魔女のようですね」

 

 そんなことを口走りたくなる程度には、この馬の魔性にやられてしまったようです。

 

 「それでは行きましょうか」

 

 とりあえず別の場所に放牧する方針の通りに周りの馬からは見えない場所に放します。

 

 すると水を得た魚のように跳ね回ったのです。

 

 現金と言うべきなのでしょうか、周囲の馬の視線が消えた途端に幸せを全面に出しています。

 

 群れることもできず、周囲の音を聞くこともできず、それでいて穏やかな気性をしたこの姿を見ると野生で生きることが絶対にできない馬であると思ってしまいます。

 そして一瞬の加速で逃げることができないとなるとあっという間に食べられてしまいそうです。

 派手に暴れた後、疲れましたというようにぐったりしている姿も母性を刺激してきます。

 

 数日はこのようにこの場所に慣れるための放牧が続きました。

 

 その時からその片鱗は見えていたんでしょうね。

 

 その馬の背中を追いかけたり、目を見合わせることを見かけることも増えたり……。

 

 いえ、かなり露骨でしたね。

 理由は全くもって理解できないですが、引っ越しから数日で馴染んでいた様子ですし……。

 

 葦毛という点に置いて、何か通じ合うものがあったのかもしれません。

 

 そして集団放牧デビューの日

 

 そこにいたのはタマモクロスの背中に着いて歩く彼でした。

 

 職員一同で呆然唖然です。

 

 始めて顔を合わせた時の怯えとは何だったのでしょうか!?

 

 困惑と幸せそうなその背中に対する安心で心の中がごちゃごちゃになります。

 

 とはいえ、こうもぴったり張り付いたように近づいていると職員たちが手を出せないほど……、いえ、出す必要がないほど仲の良い様子なのですが、の信頼関係を感じられます。

 

 そんな不思議な二頭はのんびりと草を食み、時折駆けっこをするように走り始めます。

 

 唐突に喧嘩を始めたりはしないかとハラハラしている我々の心配を置き去りにして、数年来の友人であるかのように振る舞うのを見ると、心配は霧散してゆくのでした。

 

 さて

 

 そんなおかしな馬でしたが、そのおかしさは調教の際にも発揮されます。

 

 集中力がありすぎるのでしょうか?

 

 眼前に馬がいたとしても、一切の加速を止めることなく突っ切ろうとするのです。

 そして自分の限界を上手く理解していないのか、延々と走り続けてコースの中で寝てしまうのです。

 

 どれだけ振動を与えても眠ったままの姿は、はっきり言って邪魔なので調教の時間をずらすことに決まりました。

 

 ほとんどの調教で、すやすやと眠るものですから周囲からは眠り姫と呼ばれる始末です。

 

 そんなおかしな彼の二回目のレース。

 

 その名前は『コスモス賞』

 

 中央のオープンレースの一つです。

 

 当日は雨の予定

 

 どんな時でも眠っていた彼に心配は無用でしょうが、少し不安になってしまいます。

 

 可愛い弟分が旅立つのを兄貴も見ているようです。

 

 激励をするように鼻を近づけた二頭。

 

 そして、そのまま別れた二頭。

 

 その日のタマモクロスは普段より少しおとなしかったのでした。



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秋桜の咲く場所で


 コスモス賞 函館 (現 札幌) 1700m



 

 「やっぱヤバイかもな……」

 

 

 『どれが強いの?』

 

 

 聞こえていないと思ったのだろうか、先程の元気付けるような明るい口調はどこへ消えたのか、私の上にいるジョッキーはずいぶんと弱気である。

 どうやら共に走る馬に矢鱈と強いのがいるようだが、生憎仕上がっている私は、相手がなんであろうと負ける気がしない。

 

 ならさっきまでの心配はなんであったのかと笑われてしまうだろうが。

 

 自信は過剰な程度で良い。

 

 ここ最近に学んだことであり、レースに勝つために必要なことである。

 弱腰になると周りを見てしまい自然と足を止めてしまうものなのだ。

 

 折角の持ち味が潰れてしまう。

 

 そんなことを危惧した結果生まれたひとつの解であった。

 

 まだ幼少のことなのだから、大した根拠のないことを盲目的に信じてみるのも、悪くない。

 

 どこかで聞いた言葉を参考にした結果である。

 

 だがそれも

 

 『 ザー…… 』

 

 この雨がなければという前提の言葉ではあるが。

 

 いや、雨というには語弊があるだろう。

 本当の敵というものは大したことのない雨ではなく、どろどろの芝と呼ぶのすら憚られるこのコースであるだろう。

 日本の芝というものは質が良いものだと聞いていたし、その事に違いはないのだろうが、そもそも土というものが雨にはすこぶる弱いのだと思い知らされた。

 

 似たような土を走ったことはあるが、それも一人でのこと。

 いざ走るとなれば他の馬に集中を切らされて敗北する可能性がある。

 

 となると信じるのは馬上だけ。

 

 

 『何も見るな』

 

 

 今日の方針は決まった。

 

 

 となれば後は……。

 

 

 『勝つだけだよ』

 

 

 

 

 「無理……、とは言わねえがちょいと厳しいか?」

 

 別定戦

 

 馬の性別や年齢、レースの実績などで積量を増減させるレース。

 三歳馬(現二歳)との新馬戦では調子が上がらない中での勝利ということもあり、その実力は確かなものであると証明できた。

 ならば、ひとつ年上の馬が出馬する可能性のあるこのレースで腕試しと考えたんだがそこまで都合の良く望みの馬は現れず、皆揃って三歳馬。

 

 それだけなら良かった。

 

 いや、これからの経験という点では良くないがここで勝利してクラシック戦線へ向けて弾みをつけるのも良いだろう。

 

 しかし

 

 「トウショウボーイの娘ね……」

 

 それでいて新馬戦を七馬身差で圧勝したと聞く。

 

 現実がどうだったのかわからない。

 

 その結果に至るまでの間に何か事件があったのかもしれないし、他の馬の調子が悪かったのかもしれない。

 

 それでも七馬身差だ。

 

 2500m以下は本気じゃないと確信を持って言える自信はあるが、新馬戦の2000mでは他の馬はバテていた可能性が高い。

 

 言ってしまえばそこそこの距離があった。

 

 それで六馬身差だ。

 

 

 1200mで七馬身差。

 

 それが雨の中の重馬場。

 

 距離としても、実績としても敗北している。

 

 

 今日が不良までいくのなら運の勝負、まだ勝機はあったかもしれないが……。

 

 

 それを示すようにスコアボードの人気は二番手、面白い走りをするという点からの前回付いたファンを含めても一番人気には届かない。

 

 

 ただ

 

 「俺が弱い気でどうすんだ!」

 

 頬を叩く。

 

 相棒からは勝つという意志だけを感じる。

 

 気持ちで負けてたらどうすんだってやつだ。

 

 

 行くぞ

 

 

 

 シトシトと雨音が響く函館

 

 

 瞬きひとつ許さぬレースで瞳を瞑るは灰色の馬。

 

 

 曇天の空は誰に微笑むか……。

 

 

 トン

 

 

 合図はした。

 

 

 この雨音に掻き消されないことを祈りながらゲートが開くのを待つ。

 

 

 『 バン 』

 

 

 とん

 

 少し鈍い音で開いたゲートと同時に、二度目の合図にしっかりと反応した相棒は、新馬戦とは比べ物にならない力強さで大地を踏み締める。

 

 ぬかるんで滑りそうになるなら上から踏み固めてやるという力業。

 

 

 『さあ、綺麗なスタートで始まりました、やはり大外を走る二番人気、五番ジャポーネは今日も遅れてのスタート、対して一番人気クララトウショウは素晴らしい走りです』

 

 

 『いえ、スタートこそ綺麗でしたがペースの遅いレースですね、昨日からの雨によって不良とまではいかずとも重となっていたのでそこも注目したいです。

 先頭は三番、次点は六番ですが馬群の中にいるのでアドバンテージはないと言っていいでしょう』

 

 

 実況の言葉の通り、ペースの遅いレース。

 

 相棒は瞳を閉じて完全に俺に委ねるとかいう馬鹿みたいなことを提案しているから影響を受けちゃいないが、他が辛そうだ。

 

 「それも……」

 

 『ペースを作っているのはクララトウショウです、やはり意識しなければならないのでしょうか?』

 

 『先頭を走る馬も、下手にペースを速めると喰われかねませんからね、後方から詰めてくるジャポーネも相まって他の馬は走りにくいでしょうね』

 

 

 モヤモヤと漂う湿気が絡み付く、どれだけ加速しようとも爽快感のないレースに息が詰まりそうだ。

 

 

 「大丈夫かあいぼ……、聞いちゃいないか」

 

 

 泥を撥ね飛ばすような走りではないが、確実に踏み固める走りは乗り手に安心感を与える。

 身体も温まっているようだし、こちらとしてはかなり安心できる。

 

 

 『現在は順位は動いていないようですが……、おっと!』

 

 

 『おっ、ジャポーネが上がってきましたよ』

 

 

 『それと同時にクララトウショウも馬群から抜け出したー!』

 

 

 『そして乱れた馬群によって他の馬は詰めるに詰められない状況になりましたよ』

 

 

 前との差はざっと三馬身、前回に走ったであろう1200mはとっくに通り過ぎた。

 

 

 となれば

 

 

 「こっからは俺たちが主役だぞ」

 

 

 追い越しには十分な加速。

 

 

 それに対して有り余った体力で速度を速める背中。

 

 

 差し掛かったコーナーで一瞬だけ距離を詰めたものの、その背中は遠い

 

 

 『後方の馬が詰めることができないのは何故でしょうか?』

 

 

 『ここであの二頭を追うと入着すら不可能なほど体力を使いますからね、安定を取ったということでしょう』

 

 

 実況の声が聞こえる。

 

 

 ならば

 

 

 「見るのは前だけだ!」

 

 

 奮起するように速まる足を頼りに、全てのリソースを割く。

 

 

 「いくぞ!」

 

 

 『最終コーナーを回って先頭にいるのはクララトウショウ、しかし、ジャポーネの足は十分に温まっている!』

 

 

 『直線を走る二頭、両者凄まじい速さでゴールへ向かっていきます!』

 

 

 こんにゃろ!

 

 

 『後方から迫ってくる、ジャポーネ!、しかしまだ届かない!』

 

 

 『どちらも譲らないですよ』

 

 

 辛うじて並べる距離。

 

 

 『ジャポーネが抜いたか!?、いやまだか!、クララトウショウが粘り……、いやジャポーネが前に出た、いやすぐに抜き返す!』

 

 

 いけ!

 

 

 『そして今!、両者ほぼ並んでのゴール!』

 

 

 『パッと見だとどちらが体勢有利なのかもわからないですよ』

 

 

 

 『そして六番、四番と順番にゴールです』

 

 

 『見応えのあるレースでしたね……』

 

 

 結果は……。

 

 

 『今、結果が出ました』

 

 

 『一着は……』

 

 

 『五番、ジャポーネです!』

 

 

 「っ!」

 

 

 最後まで縺れ合ったレース

 

 

 秋桜の主に選ばれたのは……

 

 

 その鮮やかな色とは正反対の

 

 

 灰色の馬であった。





 正直怒られそう。
 爽快感がないですし、レース描写は勉強が必要だなと思い知らされました。
 あと、昔の資料がないので脚質がわからないのが意外と大変だったり。


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聴こえなくとも


 今回は(も)短めになります……。
 登場させられるキャラクターが少ないので短くなる、短いからキャラクターの掘り下げがしにくいという悪循環ですね。

 他の馬転生ものを拝見するとたくさんのキャラクターを制御していて、見事だなと思わされます。



 

 速く

 

 

 はやく

 

 

 

 ハヤク

 

 

 

 何も聞こえないのは、音を置き去りにしたと思い込め

 

 

 何も見えないのは、光を置き去りにしたと思い込め

 

 

 自分が天才だと叫べ

 

 

 自分が最強だと叫べ

 

 

 自分を集中させるために自己暗示を繰り返す。

 

 

 風を遮るものはない

 

 

 私を阻むものはない

 

 

 何度目かのコーナーを乗り越え……。

 

 

 これが最後のコーナーだと直感する。

 

 

 しかし、隣には風を遮る何か。

 

 

 ああ、ここまで着いてこれるか……。

 

 

 基本的にここまで来たのなら着いてこれる馬など今までは一頭もいなかった。

 

 

 自分の世界の狭さを知ると同時に負けられない意思が足を動かす。

 

 

 疲労はない

 

 

 加速は続く

 

 

 しかしその風を振り切れない。

 

 

 いけ

 

 

 いけ

 

 

 いけ

 

 

 どこか他人事のように身体を動かし続ける。

 

 

 そして

 

 

 振り切った風は消え

 

 

 生温い雨の降る現実とが帰ってきた。

 

 

 勝利したのかもわからない戦い

 

 

 ただあるのは何とも言えない不完全燃焼。

 

 

 それでも……

 

 

 開いた瞳が始めに映したのは……

 

 

 

 『          』

 

 

 

 万雷の拍手であった。

 

 

 確かに聴こえないのだ。

 

 

 怒声も、歓声も

 

 

 しかし

 

 

 それは確かにそこにあった。

 

 

 少し早くないだろうか……。

 

 

 報われるのはもっと先、G1の舞台が良いのではなかったのか……。

 

 

 ゆっくりと止まった身体を馬上から伸びる手がそっと撫で付ける。

 

 

 「あはは、勝ったな」

 

 

 クライマックスな空気感。

 

 

 これを通過点と見れる人間というのは、なんと強欲で、向上心の強い生き物なのか。

 二回目の戦いで負けそうになるとは、私という馬の世界はどれだけ狭かったのか。

 

 

 延々と降り続ける空は私の肌のように灰色。

 

 けれど

 

 確かに残された視界から見えるのは空色の青。

 

 

 見上げる空は美しい

 

 

 輝き続ける太陽の赤も、永遠を象徴する星々の輝きも、何物にも代えられない不変のものだ。

 

 

 でも

 

 

 『帰ったら特訓だね』

 

 

 「お、まだやる気だな、相棒!」

 

 

 『ちょっと頑張るだけじゃ足りなさそうだし』

 

 

 見下ろした先にある、例えば

 

 

 母のように包み込む海も、人が作り出した仮初の光も、きっと美しいはず。

 

 

 「それじゃ、帰るぞ相棒」

 

 『うん』

 

 

 

 

 

 『ただいまです、親分』

 

 『んー、やったらしいやないか鼻垂れ』

 

 『そうらしいっすよ』

 

 『なんや、自覚はないんか?、随分と強いのに辛勝やったらしいやって聞いたで、鍛え直しやな』

 

 『なんで知ってるんすか……』

 

 帰って早々、いや、隣にいるのだから1番に会話するのは当然であろうが、親分から歓迎を受けた。

 しかし、先日のレースで入着こそしたが、一着になれなかったことで嫌みでも言われると思っていたものだから、このさっぱりとした対応に驚かされる。

 いや、そんなことよりも私のレースの詳細を彼に語った厩務員の方がよっぽど驚きの存在であるだろうが。

 

 何て失礼なことを考えながら、生産性のない会話に応じる。

 

 全力で走った後、いつもなら眠気に襲われるはずの暗闇でも、二頭の夜は深まっていゆく。

 

 

 『ん…‥』

 

 翌朝、長く語り合っていたと思っていたが、朝日と共に目が覚める。

 馬に限らず草食動物は長く眠くことができないとも聞くが、生きている間にそんな経験はなかったはずであったもので、迷信でしかないと思っていた。

 しかし熱の冷めきっていない日、野生ならば日常茶飯事のことであろう、は、浅い眠りをするようだ。

 

 隣にいる親分がまだ眠っているようで、起こすのも憚られる時間ということあり身体を揺らしながら厩務員を待つ。

 待ったところで何があるのかと言われれば、トレーニング前の朝飯前の挨拶程度のご利益しかないのだが、食物というもの、正確に言えば食べるという行為は生きることそのものでもある。

 ならばそれを与えてくれる存在には何であれ敬意を払うものだろう。

 そんなこともあり、今生での『いただきます』は食べる命と作ってくれた厩務員への感謝を込めて二回唱えるようにしている。

 

 「飯だぞー、っと今日も礼儀正しいなお前は

 

 おっと、そんなことはどうでも良いのだ。

 まだ眠っている親分を起こすために少し足を鳴らしながら、現れた厩務員にお辞儀をする。

 この会釈が、彼にどう思われているのかはわからないのだが、これをすると頭を撫でてもらえるので好きな行為であったりする。

 むしゃむしゃと今日の飯を食みながら再度足を動かす。

 疲れは残っていないようで、今日からでも調教に参加できるだろう。

 もっとも、前回はしばらくの間、少し軽いメニューに変更されていたので、いつものような調教をする必要はないだろうが。

 

 「放牧にいくぞー

 

 ん、今日も今日とて散歩のようである。

 眠気眼の親分を置いて、散歩に出かけるとしようと思ったのだが……。

 

 

 

 『ぶふぅ』

 

 これが失敗であったようだ。

 親分の腰巾着として常に尻を追いかけてきた私は他の馬からの認知が薄かったのであろう。

 顔も知らぬ馬たちから囲まれてわちゃわちゃと揉みくちゃにされている。

 もっとも、敵意ではなく興味の感情による馬ボールであるため、特に不快感があるわけでもないのだが。

 

 わちゃわちゃ

 

 わちゃわちゃ

 

 わちゃわちゃ

 

 とはいえ暑苦しいのは事実。

 成長の結果、回りを囲む若い馬たちよりは立派な体格をしている自信はあるのだが、頼りがいのある馬というわけではないだろうに、どうしてここまで囲まれるのか。

 

 うむうむと頭を捻っていると、嗅ぎ慣れない匂いを感じる。

 視線を向けると同じく見慣れない人間。

 

 遠くにいるものだから恐れる必要はないのだろうが、若い彼らには不安なのだろう。

 いや、私より若い馬などここには一頭もいないように思われるのだが……。

 ならばもうしばらくこの馬ボールの中心にいるのも悪くない。

 そう思い周囲の馬たちに鼻を押し当てて不安を和らげるため奮闘するのだった。

 





 誤字修正民ありがとうございます。
 直接感謝をする機能があると嬉しいのですが、なかなかお礼も言えず‥……。  
 これからも、というと訂正の努力をしていないようでなんですが、報告していただけると感無量でございます。


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人道もわりと救えない
入学式は睡眠時間



 とりあえずの真面目なお話

 現実だと一つ年上のタマモクロスってこっちだと同級生になりそうですよね、おまけにダートレースを走ることなく芝を走ってそうだし。
 でも今作はリアル準拠でいくよ、調整が難しすぎるんだもの。
 なんなら当然のようにクラシックを走ってるオグリキャップとかいう化け物もいる世界ですし、難易度はルナティックじゃないのかな、アプリ世界。



 真っ白でもなく、真っ黒でもなく

 

 中途半端な灰色の髪。

 

 望まれていた白銀の色が見えなかった時、泣き声一つ上げない赤子を見つめた時。

 赤子はたった一人の母親から産まれた途端に首を折られかけた、らしい。

 

 珍しく家でお酒を飲んでいたお父さんが泣きながら話してた。

 それなりに高貴な家の出身であった母は、実家から強いウマ娘を産むことを望まれていたらしい。

 その中で走らないと有名な葦毛のウマ娘が産まれ、あろうことか。話題性すらないであろう灰色の身体の子どもが産まれたらしい。

 

 何かが壊れた音が聞こえたらしい。

 

 らしい、らしいと繰り返えすけども、私にとっては全部らしいのお話だもの。

 

 残ったのは狂気に心を支配された母親と息を止めた赤子、怒号を挙げる人々。

 

 今でこそ病院で騒がしくするなんて非常識だなと他人事のように思えるわれるかもしれないけど、当時は大変な事件であったらしい。

 

 私がトレセン学園に入学するという話を聞いた時、復縁の話があった。

 

 まあ、本格的に顔を見たこともない母親なんていないのと一緒。

 

 どれだけこんな事情があったから許して欲しいと乞われても、母親がいない生活は辛いと説得されても、はいそうですか、と生返事をすることしかできなかった。

 

 当然といえば当然だけど、どんなに苦いものもそれしか食べてこなかった人には、その事がわからない。

 同じ様にこの母親のいない生活に辛いと思った経験なんて知る頃には、一人で大抵のことはできるようになっていた。

 

 そもそもトレセン学園は寮生活で比較的ずぼらな私が相部屋の人に迷惑をかけることは恐ろしいけれども、母親と顔を合わせることなんてろくにないだろうし、下心が見え見えで逆に滑稽で面白かったのかも。

 

 いや

 

 私の耳がほとんど聞こえないって知ったら、バカにしたように嗤ってたっけ?

 上から目線で『スポンサーになってあげても良いのだけど』とかほざいてたから、やっぱり滑稽でバカだったんだろうね。

 

 まあいっか、あんなのどうでもいいし。

 

 私としてはお父さんが独り暮らし能力の高い人だったから、家事のやり方を教われたことだけはあの母親らしき生き物に感謝してあげても良いかも。

 

 というか私って恵まれてるよね。

 家事万能で、いつも遊びに付き合ってくれて、お仕事もしっかりとこなしてくれる。

 僕の考えたパーフェクトお父さんだよね、ここまでくると。

 そんな人類最高峰に恵まれた私だけど、そんなお父さんと離れなくちゃいけないんだよ。

 別に一人で生きていくことも難しくないだろうけど、実家から通うって話したら『ルームシェアなんて、滅多にない経験だから一度試してみたらどうだい?』って言われちゃったし、じゃあ寮生活するかとなったんだよ。

 

 別に嫌とかじゃないんだけど、同じ部屋のウマ娘が潔癖症とかだったら耐えられる自信はないからさ。

 いやまあ、最悪の場合は家事をしないどころか、全ての行動を召し使いにでもやらせてたお嬢様になるんだろうけどね。

 

 あー、なんの話をしてたっけ?

 

 まあいっか

 

 それじゃあ華の女学生の通学シーンでも眺めててよ、世の中にはそれだけで喜ぶ人が数えきれないほどいるらしいしさ。

 

 

 んっ、つまんなかった?

 私が食パンを加えて遅刻ギリギリに走って学校に行くウマ娘だと思ってたのなら、その幻想は捨てた方がいいよ。

 そもそも私は食パン苦手だし、甘すぎるスイーツも嫌いなんだよね。

 どれだけ甘くても、高級みかんの甘さを越えたら食べれないんだよ。

 だから冬場は、クリスマスケーキとかチョコレートとか作んないし、食べないで、人間をダメにする炬燵って兵器に引きこもってみかん剥いてるんだよね。

 

 あー、引っ越し準備をしたかだっけ?

 それはだいぶ前に済ませてるよ、今学校に行ってるのは、入学式ってやつ。

毎年駆り出される三年生が大変そうなあれだね。

 とはいってもトレセンって高専みたいに五年生だから、働くのは四年生の仕事らしいよ?

 なんで五年生じゃないのかって言われたら、わかんないだけど、五年生は忙しいからね。

 現役でレースを走るのは四年生までなんだけど、それ以降は就職活動で大変らしいよ。

 コネ作れないと大変なんだよね。

 みんながみんなニートになれるような大金をスポンサーから貰えるわけじゃないし、重賞を取れる実力があったとしても、目立つ子じゃなきゃお金は貰えないらしいから。

 

 

 「新入生の諸君、これから君たちは………」

 

 んー、眠い。

 無敗の三冠馬からのありがたいお言葉が授けられてるんだけど、あんまり興味がない。

 なんかお堅い人に見えるんだよね。

 これなら去年のカツラギエース先輩が会長の時代に行きたかったよ。

 というか現役のミスターシービーに会いたかった。

 私が走るきっかけをくれた先輩で、同じような走り方が得意ってのもあって、めっちゃ尊敬してたし参考にしようとしてた。

 まあ、私の足に爆発的な加速力はないから、真似したらめっちゃ雑魚になるんだけどね。

 

 それで、会長の話が全部終わって良く寝たって伸びをしたんだけど、そこを見られそうだったんだよね。

 そしたら隣の娘が必死に隠そうとしてくれて、ああ優しいって思ったから、後のやつはちゃんと聞いてあげた。

 聴きたくて、聞いてるわけじゃないんだから、任意で聞くか寝るか選ばせて欲しい。

 

 頑張って起きていたら、めっちゃ疲れたから早く寮で休みたいって思ってたんだけど、とりあえず教室に集合ってなって、なかなか広いから迷う奴がいるかもなー、なんてことを考えてたんだけど、案の定迷ってるのがいた。

 

 「えっと、ごめんなさい!、一年二組の教室って………、あっ!」

 

 「ん!?、さっきぶりだね♪」

 

 それが、入学式の時に世話になった娘でびっくりしたけど、しっかりものなのか、抜けているのか、どっちか曖昧なその娘の名前は、『サクラチヨノオー』ちゃんだとか。

 ん?、そんなことよりお前のその口調はなんだって?

 しょうがないでしょうが、こっちは耳が飾りみたいなもんだから相当密着しないと音が聞こえないんだよね。

 だから、相手に突然抱きついても違和感ないキャラクターに猫を被ってんだよ、なんか文句あるなら表に出てこい!、そこには誰もいないけどさ。

 

 「えっと、その一緒に行きませんか!」

 

 「オッケー♪、目的地はあっちだよー!」

 

 この娘は声が大きめだからそこまで気にならないけどさ、ボソボソ話す娘だった時とか大変なんだよね。

 補聴器はあるんだけど、アクセサリーに見えるタイプだから申請しないと使えないし、今日は着けてきてない。

 あっ、声が大きい娘って手を繋ぐことなら抵抗ない人が多いからそういっただけで、今は良く聞こえてないんだよ。

 

 「憧れのウマ娘の先輩さんってどなたなんですか!?」

 

 「んー、前会長さんと前副会長さん」

 

 「そうなんですか!、私はマルゼンスキーさんなんですよ!」

 

 じゃあ、なんで会話が成立してるのって質問されたら、読唇術って奴だね。

 口が大きく開く娘限定だから、ろくに使えないんだけど……、五人に一人くらいには役に立つ。

 

 というか前生徒会って面白すぎるよね。

 実績で選ばれそうになってたシービー先輩がカツラギ先輩に押し付けて、泥沼の戦いが起こってた。

 結果、二人とも重要なポストに入れられて、さらっと巻き込まれたギャロップダイナ先輩が書記に入れられて……、混沌としてたよなー……。

 本気でキレたダイナ先輩にドロップキックされたって、シービー先輩が言ってたっけ?

 

 そんなわけで色々話してると教室に着いた。

 他にも迷子がいたみたいで、私たちの地味な遅刻は許された。

 

 同室の娘がこんなタイプの人だと嬉しいな、なんて思ってるけど、たぶんチヨちゃんみたいな娘は珍しいからなー。

 

 あ、私の番か

 

 今からあるのは自己紹介だね。

 進級したら定番の行事だけど、あんまり乗り気じゃないかな。

 

 でもまあ義務だし……。 

 

 「はい!、ラ·ジャポーネです、気軽にラジって読んでくれると嬉しいです!」

 

 聴覚障害のことは隠す。

 学園に来て早々に舐められるのは避けておきたい、健全な学園生活を送ることくらいは許して欲しい。

 

 小学校の時は、先生からそれを暴露されて(悪気はなかったんだろうけど)かけっこで勝つと、他の子のは遠慮するのに、私の耳を握って引っ張ってくるクソガキどもの『聞こえないならいらないだろ!』なんていう理屈は言えて妙だと思ったんだけど、普通に痛いんだから止めて欲しかった。

 

 全てが終わって、いやレクリエーションの過程だよ?、さあ寮に帰ろうとすると、チヨちゃんがわざわざお喋りしに来てくれた。

 何これ聖人かなって思うんだけど、その視線が足に向いているのを見ると、この娘もウマ娘なんだなと思い知らされた。

 でもまあ、お喋りは楽しかったから、その辺はプラマイゼロってことで許しちゃう。

 一緒に駄弁りながら寮に向かうと、そもそも寮の場所が違うことが判明した。

 ブンブンと派手に手を振る姿が可愛らしくて、こちらも腕が飛ぶほどの勢いで振り返す。

 すると、あちらも尻尾と一緒に振り返す。

 無限ループになりかけた時、あちらの寮長であるビゼンニシキ先輩に首根っこを捕まれて連れていかれてしまった。

 

 さあ、新生活の始まりだ。

 

 扉をガチャンと開く音、おお、同居人が出てきたんだなと中を覗くと

 

 「やっぱりこれおかしいやろ!」

 

 「私に言われてもな……」

 

 既に二人の先客がいた……。

 

 ふたり?

 

 二人!?

 

 狭い部屋に女三人

 

 オマケに揃いも揃って葦毛

 

 敷かれた布団は見事に三つ

 

 私に気付いた視線は二つ

 

 どうやら、我々特例のよう。

 

 やっぱり、私に平穏はない。

 

 「えーーーっと、御二人の名前は?」

 

 「うちは!

 

 「私は

 

 タマモクロスや!」

 

 オグリキャップだ」

 

 健全な学園生活を送れるのはいつになるのか……。

 

 見上げた空は茜色に染まって、逃げ場はないかと悟りながらも、この面倒な状況から逃げたいと、切に思うのでした。

 




 時系列は1984年世代が最年長で、そこから順に下がっていく感じ?です。

 分かりやすくウマ娘に出てる有名所さんを優先して並べると

 5年 シンボリルドルフ

 4年 シリウスシンボリ

 3年 メジロラモーヌ

 2年 イナリワン

 1年 オグリキャップ

 正直7年制にするか悩んだけど、調整してるとボロが出まくるので、やりませんでした。
 というか!、時代が滅茶苦茶でやりにくいんですよ!!!
 ウマ娘になった馬でクラシック三冠馬の二人は絶対に離さないと大変だし、そしたらそれはそれでミホシンザンとシンボリルドルフとかいうドリームマッチがクラシックで衝突とかいうトンでも時空が生まれるし……。

 結果、脳死でシービーに卒業してもらって、タマもクロスとイナリワンたちを年上にして………、史実と同じ年代になりました!

 許してください……!
 最悪の場合はのんびり時空とガチガチ時空を分断します。


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偶然の出会いは必然に


 ウマ娘を書くのはあれが最後といったな

 あれは嘘だ。

 今回は同居人とのお話。
 ウマ娘の二次なのにレース描写がまだないというダメダメ状態ですが、許してくれる嬉しいです。


 

 「改めて言うで、うちの名前はタマモクロス、家事全般は任しとき!」

 

 「私はオグリキャップだ、家事は……、料理なら少しできる。推薦で地方から来たがしばらくは地方のレースを走ることになると思う」

 

 「えーと、私はラ·ジャポーネっていいます!、家事全般はできるので、頼って貰えると嬉しいです!」

 

 ちゃぶ台を囲んで本格的な自己紹介を始めたんだけど、何か空気が一世代前だよね。

 なんで今を生きるJKたちが夕日をバックに某ウルトラ男7のワンシーンを再現してるのかな……。

 

 そしてこの二人はこの状況にツッコミもないようだし……、オグリちゃんに至っては数分に一回のペースでお腹を鳴らしてるし……。

 

 

 お父さん、私にはシェアハウス無理かも……。

 

 

 

 「そりゃあ、うちは家事もある程度できるし、兄弟もたくさんおるから、こういうのに慣れとるってのはわかるんよ」

 

 そんな私は先輩の愚痴を聞き中です。

 

 「せやかて急に寮長から『ここ広いから三人部屋にするか』やで!、なんや先輩が卒業したからって横暴やろ!」

 

 「えーと……、大変でしたよね、私たち一年の面倒を見るだけでも重労働なのに、それが二人もいるなんて……」

 

 ビールでも飲んだの?ってくらい顔を真っ赤にしながら愚痴を話す先輩の姿は、茹で上がったタコみたいでなんだか面白い。

 いや、人が怒ってる時に不謹慎だとは思うけどさ、関西弁を話す人からタコを連想した時点でかなりヤバかった。

 でも、必死に吹き出すのを我慢するために真剣な表情をしてたから、あちらさんの反応はよろしいみたい。

 

 「ん、悪いなー、別に関係ない愚痴を聞かせてしもうて……」

 

 「いえいえ、こちらこそ迷惑をかける側なので、こんなことでもお役に立てば光栄です」

 

 『グー……』

 

 まずい……、先輩の真剣なお話の最中に何をしているんだ私の胃袋!

 油を差し忘れたブリキのようにギリギリと恐る恐る先輩の方を向くと

 

 「あはは!、大人びとるかと思ったら、子供らしいところもあるやないか!腹減ってきたんやろ?、食堂に行こか」

 

 許された!

 校長先生の朝礼の時に唐突にお腹の音を鳴らしてどこかに連行された雪くんの二の舞にならずにすんだ!

 

 そんなわけで私がいるのは食堂

 

 食券を買うタイプの場所だったから、とりあえず別々の列に並んでそれから合流することになったんだけどさ……。

 

 ドン

 

 もしかしてトレセン学園って割り込みオッケーなのかな……、やたらと私の前に割り込んでくる奴がいるんだよね。

 イラッとしたから軽く腹パンして声をあげさせないまま仕留めたんだけど、もしそうだったら申し訳ないことをしたなーって思ってる。

 死屍累々の私の列を見て、上級生が絶句してたのを見ると、やっぱり早い者勝ちの文化が根付いているのかも。

 流石は競走馬の卵たち、どんなことにもどんな相手にも負けたくないんだね。

 

 私には良くわかんないけどさ。

 

 そんなわけでカツ丼の食券を買うと、おばちゃんがおまけにで目玉焼きを付けてくれるとのこと、なんだか哀れみの籠った瞳だったから、もしかしたら割り込みは新入生への歓迎の意味があるのかも?

 たどり着くことができたら、おまけをくれるけど、そうでないなら夕食にはありつけない。

 なるほど、これなら新入生が食事の時間に遅れることはなくなって早く来るようになるだろう。

 

 なかなか合理的じゃないか……。

 

 

 「ん……大丈夫やったラジ?」

 

 「いえ、特に……、でもおばちゃんから目玉焼きをおまけしてもらえましたよ」

 

 「ならええんやけど……」

 

 そんなことを思いながら歩いていると、タマモクロス先輩を発見。

 心配そうにこちらを見つめる視線は、母親のようで、いや私に母親なんていないけど、なんだかくすぐったくなってしまう。

 

 こほんと咳払いをして、そのまま会話を続ける。

 

 得意な料理は何かとか、兄弟はいないのかとか、当たり障りのない会話だったけど、まともな友達があんまりいない私にとってそれは至福の時間だった。

 

 「はーい!、ジャポーネちゃ~んカツ丼ができたよー!」

 

 私の耳にも(補聴器はさっき着けたけど)聞こえるくらい大きな声で、おばちゃんのできましたコールが届く。

 うどんより早いとは思わんかったな~と口にするタマモクロス……、長いからタマ先輩にしよう、に急かされて、注文を取りに行くと、そこにはカツ丼に半熟の目玉焼きが乗せられているという食べ盛りのウマ娘には嬉しい一品があった。

 

 先輩も呼ばれて、うどんと白飯のセットを取りに行ってたけど、おかず無しでそれを食べれるのかと思い、小皿にカツを一つと四分の一の目玉焼き置いて、あちらのお客様からごっこをしたりもした。

 

 おばちゃんはなかなかノリがいいね。

 

 そんな遊びをしながらもサクサクのカツ丼を頬張る。

 カツ丼には大まかに分けて二つの種類があるのだけれども、これはトンカツを重視したタイプっぽい。

 カツ丼としての勝利かトンカツとしての勝利か、取れるのはどちらかに一つなのだ。

 

 これはサクサクを重視してトンカツそのものへのリスペクトを感じる。

 味付けそのものは決して濃くはないし、カツ丼としての存在を示している。

 でも、べちゃべちゃした衣ではなくサクサクの衣になっていながら、肉を柔らかくし過ぎない噛み応えのあるものに仕上げているのだ。

 

 素晴らしいの一言に尽きる。

 

 「おお!、このトンカツもなかなかええな!」

 

 ふふふ、そうであろう、っと魔王ごっこと食レポはこのくらいにして、のんびり食べますかね。

 

 

 「ごちそうさまでした」

 

 

 食事を終えると日は暮れていて、あとは寮に帰るだけ。

 

 今年からクラシックを走るタマ先輩は少し走り込みをしてくるとのことで、私は一人でゆっくり帰ってさっさと寝ようと考え中。

 けれども何だか寂しい気もして、そこから動かず停滞中。

 

 慣れていたはずの孤独にすら耐えられなくなっているようで、人間というものの弱さを再確認。

 とはいえ、少し待てばこの孤独から解放されるかなと部屋に行くと

 

 「ん」

 

 同居人がいた。

 

 そういえばこの部屋は三人部屋、一人欠けてもまだ誰かいたのだった。

 

 ただその同居人の様子が異質だった。

 

 「カップ麺ですか……」

 

 しっかり片付けてはいるものの、周囲に広がる匂いからしてカップ麺でも食べていた様子。

 この時間だし私も運動していたら小腹が空いていた可能性はあるかもだけど、夕食後はどうなん?

 いや近所のラーメン屋にウマ娘盛りとかいう面白そうなメニューがあったから、一部のウマ娘の食欲が常識を超越してることはしってるけど、夕食後ってどうなん?

 

 「…………えっと、その」

 

 「別に怒ってないですよ、ただ身体に悪いので食べ過ぎは止めてくださいね」

 

 少し膨れたお腹を隠しているオグリさんが可愛らしくて、威圧するふりをしちゃったけど、この子すごく可愛い。

 というか、ゴミ箱を見るとたくさんあるカップ麺の容器を見ると……。

 

 「もしかして、おゆはん、食べ損ねた?」

 

 こくり

 

 あの洗礼を受けたみたいだね……。

 

 「まだお腹空いてますか?」

 

 こ……、こくり

 

 「うふふ、引っ越し祝いに美味しいニンジンを貰ったんですけど、何か食べたいものはありますか?」

 

 「コロッケ……」

 

 「良いですよ」

 

 こんな感じで後輩同士の助け合いを促すのも、もしかしたら目的かもね……。

 

 まあ

 

 タマ先輩の表情と他の新入生の反応からして……。

 

 

 露骨に葦毛は侮られてるのかな?

 

 

 だとしたらわざわざ三人部屋に私たちを押し込めたのもなっとくかな。

 良家のお嬢様方は違うみたいだし……。

 

 

 『新入生の諸君、これから君たちはこの学園で様々な経験を積んでいくだろう。この学園は努力する者全てを平等に扱う、決して努力を欠かさず……』だったっけ?

 

 「味な真似をするじゃん、トレセン学園」

 

 

 この感じだけど私たちが三人部屋なのは……

 

 

 平等を謳うトレセン学園

 

 

 随分と面白い真似をするじゃん

 

 

 それじゃあ

 

 

 偶然だけど必然のこの出会い

 

 

 惜しくもないこの命なら

 

 

 やっと出会えた友のため

 

 

 賭けて散るのも悪くないかな

 

 

 目指す壁は高ければいい

 

 

 それこそ

 

 

 凱旋門とかね?





 次回!、模擬レース&トレーナーとの遭遇!


 ラ·ジャポーネのヒミツ①

 実は、ニンジンが苦手





 ジャポーネのキャラクターですが、興味がない存在には明るい仮面を着けたまま対応して、一度気に入ったら面倒見の良い本性がでてくる。
 本当に気に入った相手なら大抵のことを許してくれる肯定ボットになります。
 現実に存在したら怖い人ですね……、あっという間にダメ人間にされそう。

 例『ん、どうしたんオグリ、ああ私のカップを割っちゃったのか、別にいいよ、また買えばいいし。それより明日はレースなんでしょ、私が片付けとくからゆっくり寝てなさいな』


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出会うは相棒か足枷か


 トレーナーはアプリ版ではマルゼンスキー系の普通の人だけど相性が良いみたいな感じになるのかな?と思案中。

 どの道、共犯者が一番相性が良さそうですが。



 「模擬レースか……、ええんやないか、うちはサボってたせいでトレーナーを見つけるのに苦労したから早めに終わらせるのは正解やないやろか?」

 

 そんなわけで思い立ったが吉日、とりあえず嘗められないような走りで何人か潰すかと考えてたんだけど……。

 ぶっちゃけトレセンの一年ってどんくらい強いんかな?、オグリちゃんと並走したときは出鱈目に強かったから、地方であのレベルなら中央とか絶対勝てないんだけど。

 

 あっ、オグリちゃんとは結構仲良くなれたよ。

 ただあれだよね、私が作ったコロッケを食べてから態度が軟化してたのは心配かな……。

 なんか美味しいもの食べさせてあげるとか言ったら簡単に着いていきそうでめっちゃ不安……。

 

 いや、財布を消し炭にして終わりかな……。

 

 て、話がずれたね。

 

 一応、食堂で見てたんだけど、一部を除いてたいして鍛えてなさそうだったからたぶん大丈夫なはず……、いや抜群のセンスで努力を覆してきたらどうしようもないけど。

 

 でもトレセン学園って将棋で言うところの奨励会みたいなものらしいからあり得ない話じゃない。

 

 

 「あっ!、おはようございますラジちゃん!」

 

 「ん~、おはよチヨちゃん」

 

 

 

 さて数学の授業、ぶっちゃけ私はこれが苦手なんだよね。

 正確には途中式を書き込むのが嫌い。

 フィーリングで何とかしてる私としては、それを使えないものになると一気に弱体化するから。

 

 ん、授業は辛くないのって?

 

 「ここの計算式はわかるか」

 

 まあ、今まで会った教師陣に葦毛への差別的な思考を持つ存在はいないから大丈夫。

 

 ただこれだと、ルドルフ会長が辛いわけだ。

 

 教師っていうのは大人だから、基本的にその行いの責任は本人に返ってくる。

 だから大したことのない問題も大々的に取り上げることができるし、余程金持ちとか権力のある人間でもなければそのことを公表することができる。

 もちろん、そんなことしたらこの学園の評判に関わるだろうけど、あの会長さんがそんなことを気にしてウマ娘の良き未来を諦めるとは思えない。

 

 そんな感じだから下手な真似をしたら教師であろうと潰せる会長としては、むしろ古臭い考えを持った教師がバカをやるのを潰してから生徒にも注意喚起して……、みたいな方法が一番良かったのだと思う。

 

 ただここにいる先生方はまともな人ばかり。

 

 いや、終わったあとかもしれないけど

 

 でも現状はガキのバカみたいな喧嘩の範囲……、された側はたまったもんじゃないけど、で済まされている状態はむしろ足枷になってるわけ、か……。

 派手に行動をするような奴がいたらそいつ白羽の矢にしてしまえばいいけど、嫌がらせの範囲……、なんで弱いと思ってる奴らに嫌がらせしてるんだ?

 

 いや、楽をしたいだけかもしんなけいど。

 掃除当番を押し付けられたりはしたからこれが正解かもしんないけど。

 

 合理性のある差別なんて存在しないから思考の無駄かな……、人間ってめんどくさ……

 

 「おい!、ジャポーネお前だぞ」

 

 「あっ、ごめんなさい良くわからないて……」

 

 「なら返事をしてくれ、ここはだな……

 

 おっと、考え事はこれが終わってからにしようか。

 

 

 「大丈夫?、ラジちゃん……」

 

 「だいじょうぶだよ!、ただ難しくてね」

 

 「あっ!今度ヤエノさんと勉強会するんだけど、一緒にやらない!」

 

 「いいね!」

 

 んで、考え事の続きなんだけど、『大事』にするだけなら理不尽を無視したりしてヘイトを溜めて、んで自殺未遂でもすればどうにかなると思ってたんだけど、クラシックを控えてるタマ先輩の精神に負担をかけたくないし、目の前のかわいい友人の涙は見たくないからやりたくないね。

 

 そんなわけで純粋な強さでなんとかするしかないこの現状は搦め手を使いにくいこの状況はあんまり好ましくないのですよ。

 

 それでもやるしかないからね。

 

 模擬レースの出走登録ほいっと申請しておきます。

 

 

 

 

 『何だかんだで、そこまでやれたんでしょうが!、ならあんたはすごい子だよ。なんでも良いから上を目指してみんしゃい』

 

 ほどほどに頑張らない

 

 何ともいえないその信条のままに生きてきて早十六年。

 普通に高校に行って、普通に大学を出て、普通に就職でもするのかと思ってた人生が変わったのは、中学の時だった。

 っても、空から美少女が降ってきたとか、特別な力に目覚めたわけでもない。

 

 お袋の言葉だ。

 

 常日頃から広言してるわけでもないが、この信条は家族にもなんとなく伝わっていて。

 

 今までは『最低限できればいい』とか『お前が一人で生きれればそれでいいんじゃないか』とか言われてた俺にとって、上を目指せっては新鮮で聞き馴染みのない言葉だった。

 高校生になっても特に努力も成長もせずに進んでいたけれども、その言葉は頭から離れなくて、ふとした瞬間に今のままで良いのかって想いが胸の中を暴れまわる。

 

 そんで俺はその想いに負けた。

 

 いや、世の中の皆さんの意見は誘惑に勝ったなんだろうが、その時の俺は何ともいえない負けたという感覚に陥っていた。

 それでまあ、必死とは言わなくても普通の努力を重ねて、普通の人間はほどほどに努力する人間になった。

 

 その結果は特別なものではなくて、ただテストの赤点が減ったとか、評定の平均が上がったとか、そのくらいだ。

 

 それでも先生方からは、ろくに提出物を出さない不良生徒の成績が突然上がったもんだから、職員室でも話題が挙がる程度には、大事だったらしい。

 

 それが、ほどほどに頑張らないが、ほどほどに頑張るという信条に変わった時だったりする。

 

 そんな自分に変わってからは、理由もなくいろいろと挑戦したさ、とりあえず日本一周とか、ろくに英語も話せないのにアメリカ横断とかな。

 

 俺は努力ってのは、地道で辛くて、泥臭いもんだと思っているから、そのことが楽しいと思っちまったら努力じゃないと考えてる。

 そんだから俺は結局、努力のできないダメ人間になった。

 

 でもよ

 

 中学の時の俺と大学の時の俺に見せてやりたい。

 

 

 「おい、俺……、今お前はトレセン学園のトレーナーやってるぞ」

 

 

 そんな夢みたいな現実を

 

 

 まあ、そんな夢みたいな状況になったのは、大学時代の俺のお陰だから、そこんところは感謝してるよ。

 お前が理由もなく片っ端から取っていった資格だの検定だとの中に偶然

 

 「揃えるとここで働けるような資格があったんだからな……」

 

 まあなんだ。

 ウマ娘のトレーナーの資格は、一つで成立するものと、いくつかのものを集めて得られるもがあったんだよ。

 ただ、寄せ集めの方はチームが作れないんだけどな、担当ウマ娘も一人しか取れないし。

 

 そんな制度に頼るほどトレーナーは不足してるし、試験の合格は難しい。

 まあ、そんなトレーナーという仕事を任されたのは、いわゆるコネだ。

 正確に言えば、友人からのSOSに応えてのことなんだが、これもコネだろ。

 

 理事長に挨拶をして、個室の鍵を貰って、んで見てこいカルロって言われて……。

 

 そんで、今は模擬レース?とやらを見てるんだが、なんというか酷い。

 いや、比較対象がうちの身内……、まあシービーとかと比べるのはおかしいんだろうが、駆け引きも殆どない運動会の駆けっこかよと言いたくなるようなレースを見せつけられたんじゃ、こうも言いたくなる。

 

 二つほどそれを覗いて、ああダメだこりゃってなってから、三つ目に光るものを感じさせる奴はいたんだが、既に担当がいた。

 

 

 諦めかけた四つ目

 

 そこにいたのは一人の灰被り(シンデレラ)だった。

 

 灰色の姿にジャージを着たその姿、周囲から向けられる嘲りの感情。

 

 ああ、いかにもな奴がいるなって笑ってしまった。

 

 ただこれのお陰で興味が湧いたから、結果的にはその目立つ……、かは微妙だが特徴的な容姿に感謝している。

 

 

 そして

 

 

 レースが始まった。

 シンデレラは最下位、なんだ、まさかシンデレラストーリーみたいに逆転するんじゃないだろうな……。

 

 前から距離を離され、後方をポツンと一人旅……。

 

 周りにいるトレーナーらしき人も、そいつには視線を向けずに、かなりハイペースに進むこの馬群の先頭や周囲に期待を寄せている。

 

 とはいえ、大したことがなさそうなのは事実だから俺はそのシンデレラを眺める。

 

 すると気付くわけだ。

 

 「あいつ、ずっと加速してんのか……」

 

 前から離れすぎているが故に、しっかりと確認することはできないが、確実に加速して

 

 そして

 

 「あはは!!!、轢きやがった!」

 

 垂れてきた奴らを一人、二人と薙ぎ倒し、上位に肉薄したところで、五着に倒れた。

 

 1000mでやる走りじゃないし、普通に負けているが、それでも

 

 「君!、うちの担当にならないかい!」

 

 「いや、うちなら確実にG1を!」

 

 めっちゃ、声がかかってる。

 

 そりゃそうか。

 あと少し距離があれば全てを轢き倒していた可能性の高い実力者だ。

 人気にもなるし、自分で確保したくもなる。

 

 

 ただ……。

 

 

 「私が日本一になれると思いますか?」

 

 「私を日本一にしてくれますか?」

 

 そんなバカげたことを口にするウマ娘には、若いトレーナーは応えられないだろう。

 それを実現できる可能性を秘めた熟練のトレーナーは半分彼女を諦めている。

 理由としては……、まあ日本に長距離のレースが少ないからだろう。

 活躍させることはできても試行回数が少ないからG1を取らせることは難しい。

 数合わせで有馬記念を長距離としているくらいだから、ステイヤーの活躍しにくい日本において、彼女を取るメリットはない。

 そんなら、中距離に強い馬でも育てた方が楽だろうしな。

 

 いやでも

 

 「海外ならいけるか……」

 

 いや、無理だな。

 

 俺はこいつを諦めて別の……。

 

 

 おい!、なんでこっちに来る!

 

 

 「担当トレーナーになってください!」

 

 

 「ガラスの靴を拾った覚えはないんだがな」

 

 

 「あら、シンデレラですか?、ならあなたは王子様ですかね♪」

 

 

 「そこは魔女だろ……、王子様なんて柄じゃねーぞ……」

 

 

 トレセン学園出社の初日……。

 

 面倒なことになりそうだよ、母さん……。

 




 現実時代同様に、トレーナーの声だけははっきり聞こえています。

 主人公は狂人にしたいですけど、常識人ポジションの方が映えるんですよね。
 あとエセ関西弁でごめんなさい……。
 これまでのお話からなんとなくわかるかもしれませんが、私は別に関西人ではないので、不自然になりますが、その時は暖かい目で見守ってくださると嬉しい


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大胆な告白は美少女の特権


 タイトルにその手の意図はありません。

 あと今回は難産さんなので、いろいろとツッコミたくなるでしょうが、それは感想の方でよろしくお願いします……。


 『大胆な告白は美少女の特権』

 

 その輝きだけで全てを満たすような美少女ならば、ロマンチックな告白でなくとも成功するという意味合いの言葉なのだが、俺は今、それを激しく実感している。

 

 

 「それで、王子様、返事はどうでしょうか?」

 

 先のレースのシンデレラ

 

 惜しくも敗北に沈みながらも圧倒的な存在感を示した彼女は、なるほど前述の言葉に十分に当てはまる美少女。

 そしてここで断られるとは微塵も思っていないであろう輝きに満ちた瞳の奥……、面倒事の匂いがこれでもかというほどに漂ってくる。

 というか目の前にいる冴えない男を迷いなく王子様と語るこいつと仲良くできる自信はないんだから、こいつを上手く導く手段も思い付かない。

 

 だが、我々のような根底が陰の者たちは基本的に女の子の言葉を断れない。

 それが目が覚めるような美少女ならば尚更断ることはできない。

 それは、アメリカ横断の旅ではっきりしている。

 

 だから俺は……

 

 「少し考えさせてくれ……」

 

 「良いお返事を期待していますね♪」

 

 話を先延ばしにした。

 

 ああ、笑ってくれ

 きっと俺の同士たちは『美少女の願いを断るなんて!』と怒りの咆哮を響かせているだろうが、これでもトレーナーになったという自覚はある。

 だからこそ、俺みたいな経験のない人間にこれを任せるべきかと言われたら違うだろ……、と思う。

 

 いや、正確には先延ばしだからこれから何が起こるかはわからない、でも答えは見えているようなもんだな……。

 

 半ば逃げられないことを悟りながら、貰った個室の鍵をもて余すのだった。

 

 

 

 はい、ジャポーネです。

 

 申請していたレースは、想像よりもずっとレベルが低かった。

 いや、勝てなかったのだからそんなことを言う資格があるのかという話だけど、模擬レースは1000m。

 1500mを超えてからじゃないと十分な加速ができない私に抜かれた子たちは正直今後が大変だと思うかな……。

 

 おっと、そんなことどうでも良かった。

 

 なんと

 

 トレーナーらしき人と約束できたのですよ。

 別に特別なことでもないし、確約でもないから大袈裟に喜ぶことのは何か違うんだけどさ。

 

 でも、スッゴい嬉しい

 

 遠くにある醤油ラーメン屋さんが地元に出店した時の喜びと同じくらい嬉しい。

 

 あの人が良くて強いタマ先輩ですら苦戦したスカウト(逆だけど)を半分くらい成功したんだから嬉しいなんてものじゃないかも。

 

 そんな喜びに震えながら、軽くトレーニングをしていると、何やら視線がピカリ。

 

 不思議に思って振り向いた先にいたのは

 

 「んー?、どうかしたのオグリちゃん?」

 

 相部屋の大食漢……いや大食乙女のオグリちゃん。

 

 同じく模擬レースを走っていたのか体操服を纏っている彼女は、ほんのりと蒸気が立ち上っていて、満足そうな表情をしてる……、いや違うかもなんかものすごい音が鳴ってるし普通に飢えてるかも。

 

 目を合わせると恥ずかしそうにお腹を擦るポーズをするところを見ると、やっぱり空腹の様子。

 

 

 夕焼け沈む黒い空

 

 軽やかに行く食堂の道

 

 いつもは重たい歩みでも

 

 二人で行けば白い道

 

 いつかの平和な未来のために

 

 今は手を取りとことこと

 

 

 「ん、着いたかな」

 

 「ああ、それじゃあ」

 

 「うん、頑張ってね!」

 

 

 食堂は戦場

 

 誰が言ったかもわからないその言葉は実に的を射ていと思されるよ、ほんと

 初日は洗礼を喰らった私たちも、数日すれば立派な同士として認められたのかも……。

 そんな希望的観測を抱きながらも、テキパキと食券を買って、今日の夕食を確保。

 怯えるような、警戒するような視線は、もう何年も前に愉悦の感情へと変換されるようになって、心配するような友人の視線にダメージを受けている自分に心も屈折したんだなーとちょっとショック。

 

 「ラジは何にしたんだ?」

 

 「鯖かな~」

 

 やっぱりそこまで心配していない雰囲気の友達と肩を並べて席に着く。

 周りにいたはずの人は少しだけ消えて、都合がいいなと笑いながら窮屈なくらいに肩を寄せて隣のお茶碗を覗く。

 

 「オグリちゃんは何で食べてるの?」

 

 「?」

 

 比喩抜きで山のように積まれたご飯をどうやって消費してるのかを尋ねながら、自分の定食をつつくことにする。

 

 もしかして私の周囲のウマ娘って少食だったのかなと、ああご飯三杯で音をあげるようじゃ強くなれないのかなと、見てるだけでお腹が膨れるようなスピードでご飯を吸い込んでゆく姿は恐ろしいけど……、あのレベルじゃないとG1を取るのは無理なのかも。

 

 よし

 

 「おばちゃん、おかわり!」

 

 走れば消えるよね……。

 

 

 「ん、二人とも随分と速いなー」

 

 「ん、タマか」

 

 「その早いってもしかして……」

 

 いつの間にか揃っていた同室組は、少しガランとした食堂に明るさを取り戻す。

 それが全てを照らす太陽か、忌々しい紫外線かはそこにいる彼女たちにしかわからないだろうけど。

 

 「ふー、なかなか美味しかったです」

 

 「せやな、しょうが焼きがあんなに奥の深いもんやとは思わんかったわ」

 

 「タマも作れるのか?」

 

 「あのレベルは無理やな」

 

 「私も無理だねー」

 

 和やかに歩く帰り道

 

 干した布団を取り込んで

 

 川の字になり眠るのでした。

 

 

 

 間が悪かった

 

 言い訳をするつもりはないが、本当にこの言葉に尽きる。

 

 生徒会長『シンボリルドルフ』は、今年入学してきた『ラ·ジャポーネ』というウマ娘が引き起こした事件に頭を抱えている。

 かなり顔の知られたトレセン学園の出資者の子供さんでありながら、その存在を認知されなかった彼女はお嬢様と呼べるような御淑やかな姿を見せないマイペースの極みのような生徒だった。

 

 そして割り込みをした生徒に暴力を振るう程度には好戦的なウマ娘だった……。

 

 それだけなら良かった‥…。

 

 ああ、良くはないがまだ良かった。

 

 しかし

 

 「よりにもよって今か……」

 

 彼女が学園の上層部と協議していた()()のウマ娘への半ば合法化された差別行為の改善のための校則案の検討。

 いや、集団での行為は一人一人の力が教師に相談できない程度に弱くとも積もり積もって心を蝕んでゆくものだから、即効性のある改善策と呼べるかは微妙だが、それでも可視化された法に抗ってまでその行いを続けるような恨みがその一部に集められることはない……。

 

 はずだった

 

 今年の推薦によってここに来た『オグリキャップ』、新馬戦を終えて新たな可能性を探っている『タマモクロス』、素晴らしい実力のウマ娘も揃っている以上、実力という点で侮られることも減ってゆく……。

 

 はずだった

 

 だが

 

 彼女は葦毛だった。

 

 そして

 

 自分たちの押し付けた理不尽を棚上げにしてはいるのだが

 

 悪意を向ける正当な理由を持つ相手だった。

 

 そして先に挙げたウマ娘たちは見事に彼女の同室でいつも一緒にいる。

 

 

 もう少し遅ければ……

 

 

 キリキリと痛む胃に薬を流しながら、今後を憂いていると扉を叩く音

 

 「入ってくれ」

 

 彼に何とかできるだろうか……。

 

 叩かれたドアの外にいる『彼』のことを思いながらため息を吐くのだった。




 本人は暴力とか悪意とかが嫌いなんですけどね……、それに浸っているといつの間にかその熱さに慣れてしまうんですよ。
 それが自然だと思い込んでしまったら終わりの始まりですが、辛うじて耐えているようですね。

 ルドルフは胃痛で瀕死です。


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契約成立は断れない


 アンケートを置いてますので気軽に入れてくださいな



 

 『入ってくれ』

 

 唐突に呼び出された先は執務室。

 

 今年の生徒会長である『シンボリルドルフ』が半ば住んでいるというこの場所。

 始めて聞いた時は寮にも帰れないなんて不憫だなと思っていたのだが、自分がこうして呼び出されてみるとその同情も消え去る。

 何が悲しくて胃がキリキリと痛むような緊張の中に放り込まれるような場所で、あの生徒会長の話を聞かなくてはならないのか、もっと生徒指導室のような暖かい場所でやっていいんじゃないかと不満を吐き出す。

 もっとも解雇の通達なら彼女から直接話をする必要もないのだから仕事を失う心配はないのだろうが、この場を設ける必要があるような問題となるとあの時のことしか考えられない。

 

 「失礼します」

 

 「ああ、そこに掛けてくれ」

 

 始めて近くで見たシンボリルドルフは、ああ、確かに三冠馬の貫禄を認めることができる。

 ただ、その威圧感も少し窶れた目元と明らかな疲労感を持ったその雰囲気で多少薄れているようだ。

 

 「今回呼び出した件なんだが……」

 

 休憩もそこそこに本題が始まった。

 

 「昼の模擬レースで君に接触したウマ娘がいるだろうが……、彼女が君を逆スカウトしたという話は本当だろうか?」

 

 「はい……」

 

 やはり察していた通りのあれだ。

 ぐだぐだと前置きをしてから話を切り出さないところを見ると、やはり疲労、そして単純に時間がないのだろう。 

 

 「彼女のスカウトを受けてはくれないだろうか」

 

 スカウトの強制は、相手の自由を阻害するということもあってお偉いさんに囲まれて半ば強制的に行われるものだと思っていたのだが、裂ける人材も少ない……、もしくは臨時トレーナー一人なんてどうとでもなると思っているのか。

 とはいえ、ここで働かせてもらえないとまともに飯を食べるための金もない。

 

 なら

 

 「一つだけいいですか?」

 

 一つだけ聴くとしよう。

 

 「何だ?、余程のことでない限り叶えてやれると思うが」

 

 「大したことじゃないですよ」

 

 

 あの全てを抜き去らんとする豪脚

 

 

 それに魅せられた

 

 

 あの中途半端に被った猫の皮

 

 

 それに腹が立った

 

 

 あの全てを諦めたように灰色の瞳

 

 

 それに見せてやりたくなった

 

 

 

 「ああ、言ってくれ」

 

 

 なら

 

 

 あれだけの感情をくれた相手なら

 

 

 「クラシックの一部が終わったら海外に行かせてもらえませんか?」

 

 

 外の世界ってやつを見せてやりたいんだ。

 

 

 「つまり……」

 

 「ええ、彼女が日本で最も活躍できるレースを放棄します」

 

 目の前の皇帝が彼女のことをどれだけ理解しているのかはわからない。

 

 「本人の意識は確認してくれ……、私から言えるのはそれだけだ……」

 

 

 「その辺は本人から確認済みです」

 

 

 怪我によってそれを諦めた彼女にこの言葉をかけるのは残酷なことかもしれない。

 

 

 それでも

 

 

 「取りますよ」

 

 

 「おそらく君の願いというものは不可能だ……」

 

 

 「なら勝手にやりますよ」

 

 

 「海外が強いというわけでも、私たちが遅いというわけでもない」

 

 

 「知ってますよ」

 

 

 「あまりにもレース場の質が違う……」

 

 

 「そうですね」

 

 

 「君の目指すであろう金色の冠は、あの門は…‥、並大抵の覚悟では越えられない、潜ることも許されない」

 

 

 知っているが故にその壁の高さを理解できるのだろう。

 

 

 「わかってい

 

 

 「だがな『全てのウマ娘を幸せに』これが私の願いであり信条だ。

 まだ実績も見せていない者が口にしたとは思えない大言壮語であろう通してやる。

 

 捕らぬ狸の皮算用にならなければいいな?

 

 もっとも、その皮になる程度の覚悟は決めてもらわないと困るぞ?」

 

 

 あはは、重々身に沁みて……」

 

 

 今日の練習風景を見せてもらったが、あいつの走りを全て理解したつもりはないが、それでも、夢を見るには十分な走りだった。

 

 故にこの啖呵を切ったつもりだったが何とかなったようである。

 

 疲労で倒れかけの皇帝を獅子のごとき圧倒的な覇気を放つやる気の状態にしたのは誤算だったが……。

 

 「ふむ……」

 

 ほら、なんかカレンダーを確認し始めたし……、あっ、予定書き込んでるんだけど……。

 

 「こりゃあ、ほどほどじゃ無理だな……」

 

 ちょいと大変な三年間になりそうだ。

 

 窓から見えた模擬レースにいる怪物たちが夢を阻んだとしても

 

 たとえ逃げたと嗤われようと

 

 「成し遂げないと終わりだな」

 

 勝手に決めて勝手に作ったこの夢

 

 随分と楽しいことになりそうだ。

 

 

 

 

 私、ラ·ジャポーネが逆スカウトをしたレースから三日後のことだったかな?、いや正式にトレーナー契約を貰ったのは五日後。

 例のトレーナーらしき人は、当たり前だけど、やっぱりトレーナーだったらしい。

 いや、らしいじゃなくて本当にそうだけったけど。

 

 まあ、そのトレーナーさんと真剣なお話をした。

 

 そんなこと言われても良くわからないだろうから、少しだけ過去に戻ろっか。

 

 それじゃ

 

 ぽんっと

 

 

 

 「疲れたなー」

 

 思い立ったが吉日と始めた模擬レースの後、わりと初めてかもしれない真面目なトレーニングをやってる。

 この前はレースで気が強くなってたから『私に抜かれた娘は酷い』みたいなことを考えてたし、なんか良くわからないくらいスカウトを貰って舞い上がってたけど、冷静になれば普通に負けてるし、三馬身の差での大敗だったから全然良くなかった。

 もし1000mとかいうハンデがあったとしても、あの程度の相手なら圧倒的に勝たないとG1は絶対に勝てない。

 

 そんな考えと共にやはり思い立つは吉日。

 

 個人で調べながら練習の予定を立ててみたんだけども、これは結構楽しい。

 予定を立てるのは嫌いだったし、誰かから課せられるノルマなんて大嫌いだったけど食わず嫌いってのはやっぱり食べてみないとわからないと思う。

 

 とはいってもトレーニングの予定を立てるなんて自分の客観視ができてないと成立しないんだから自分で作るのは間違いなわけだ。

 

 結局、やっぱりトレーナーが欲しいなーに落ち着くんだよね。

 あの保留トレーナーさんが逃げないことを祈っておくとしよう。

 

 ぐぅー

 

 まあ、何があろうと腹は減る。

 

 今日は運動をしただけあっていつもよりずっと早い空腹時間。

 こうなると私は秋ごろの熊より気性が荒くなる。

 

 日替わり定食のメニューがお米にぴったりなものになった時は空腹のシャチより攻撃力が上がる。

 

 まあ、今日の定食はニラ玉がメインだったからスルーしたんだけど。

 乙女に口臭の原因になるものを食べさせようとはなんてことだ!、って感じ。

 いや、ニンニクがたくさん入った八宝菜が好きな私がそんなことを言っても説得力ないけどね。

 

 ん、今日は食レポとか食堂ドラマとかないよ。

 

 一人寂しく夕食をもぐもぐしてたからね。

 

 

 「ただいまですー!」

 

 とりあえずの帰宅。

 今日は皆さん忙しいようで、部屋には誰もいなかったんだけど、最近毎日のように言うようになった『ただいま』に返ってくる言葉がないとなると、少し寂しかったり。

 

 まあ、すぐに自主練行くと伝えているし、今日は遅くまで誰もいないんだろうけどね。

 

 トコトコと歩く先。

 

 深夜にも関わらずトレーナーとウマ娘の群れ。

 

 貸し切りになるかも思ってたけど、そんなに甘くはないみたい。

 それでも一部のコースはガラガラで、別に距離が欲しいわけでも、砂でも、芝でもどっちでも良かったから自主練に支障があるわけでもない。

 

 んじゃ始めよっか……。

 

 

 

 

 「やっぱりお嬢様は頭がおかしいな…」

 

 世の中のお嬢様を敵に回すような言葉を口にしたのは、この前のシンデレラがトレーニングをしている姿を目的したからだ。

 いろいろと聞きたいことがあったからありがたいこっだが、運命とかいう恐ろしいものに引き寄せられているような、自分の意志を操作されているような感覚に襲われる。

 

 さて、件の灰色のお姫様は、そのドレスを脱ぎ捨てて野暮ったいジャージに身を包んでいる。

 もともと、庶民的なお嬢様だったというわけだろうが。

 

 そんな彼女はインターバル走を繰り返している。

 

 ざっと二時間ほど……。

 

 多くのウマ娘が食堂に走ってから、食べて終えるまでの時間、全くの休憩をせずに走り続けている。

 不思議な加速をしているとは思ったが、スタミナもイカれてるとなると本格的に長距離の身体をしている。

 

 おもしろい身体をしている。

 

 そんなおもしろいお姫様は少し息を整えた後、静かにこちらを向いた。

 

 「んー!、なんですかー!」

 

 間違いなくこちらを認識した彼女は、嬉しそうに手を振ってきた。

 とりあえず手を振り返しながら、ゆっくりと歩き始める。

 

 美しい姿をしたお嬢様は、汗水を垂らして働いた灰被りのように疲れた表情をしている。

 

 「もしかしてスカウトのお答えを貰えるのでしょうか?」

 

 その疲れた表情を顔から消して、幸せに天真爛漫なお嬢様を演じる。

 こうもひっくり返るように雰囲気を変えるとなると、まるでカメレオンのようだ。

 

 「いや、お前さんが俺をスカウトした理由を聞きたくて探してたんだよ」

 

 「うふふ、ガラスの靴が収まるかどうかを知りたいんですね?」

 

 この様子からすると、こちらが興味を持っていることを理解しているようだ。

 いや、こんな時間にこの場所を探している時点でバレバレか……、まあ、この前のせいで俺が詩的な表現が好きな人間だと思っているのかもしれないし、ちょうど満月のこの夜を自分で選んだと睨んでいる可能性もある。

 

 そんな彼女が自分を選んだ理由。

 

 何となく察してはいるそれを聞きたくてここにいる。

 

 「私がトレーナーさんをスカウトした理由は単純ですよ?」

 

 「もしかして……」

 

 「はい、私のことを海外に挑戦させてくれるんですよね?」

 

 やっぱり……。

 

 どうやら凄まじく耳が良いようだ。

 大海へ旅立つことに憧れがあるのか、何かしらの勝算があるのか。

 

 いや、わかりきってはいるが。

 

 「一応、聞いておくが何か理由はあるのか?、お前さんの足なら天皇賞レベルの長距離なら取れるだろ」

 

 「本気で言ってるんですか?」

 

 まずいな……、ギャルゲーでいうバッドコミュニケーションってやつだ。

 とはいえ、それを聞かないといろいろと始められない。

 

 「一応と言っただろうが……、ただ理由だけは教えてくれ」

 

 「理由ですか……?」

 

 「ああ、理由だ」

 

 

 

 

 理由かー?

 

 正直に言えばそんなものはない。

 

 一つあるとしたら現状の破壊だけど、そんなものは今の私にはあんまり関係ない。

 友達もいるし、世代のライバルもいるこの生活。

 何か気持ちの悪い奴らがいること以外は、順風満帆な学園生活を送れている。

 

 わざわざ海外を目指す理由はない。

 

 

 「トレーナーさん」

 

 「なんだ?」

 

 「ひとつおかしなことを言ってもいいですか?」

 

 「いいぞ」

 

 「実はですね」

 

 「ああ」

 

 「海外を目指す理由はですね」

 

 「ああ」

 

 「実はですね」

 

 「ああ」

 

 「ないんですよ」

 

 

 たぶん幻滅される。

 

 見たところ熱血トレーナーには見えないけど選択肢に海外がある辺り、上を目指すウマ娘を応援するタイプのトレーナーだよね。

 

 なら

 

 「そうか」

 

 「ふぇ?」

 

 おかしい

 

 この人おかし……。

 

 「それでだな、仮担当」

 

 「はい」

 

 「俺もひとつ良いか?」

 

 「はい」

 

 「少し考えさせるような内容だがな」

 

 「はい」

 

 「それでいて普遍的な内容だがな」

 

 「はい」

 

 「ひとつだけだからな」

 

 「引っ張り過ぎです」

 

 「ああ、いくぞ」

 

 

 「お前の夢は何だ?」

 

 

 それによってお前の未来を考える。

 

 

 その言葉は少し前に聞き慣れたはずなのに、自然と耳に残った。



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夢というもの


 シリアスと三回唱えましょう。



 

 『「お前の夢は何だ?」』

 

 言い回しは違っても腐るほど聞いてきた言葉。

 

 そんなものがないと生きちゃいけないのかと思いながら適当な言葉を口にしてきた。

 

 嫌に耳の中に残るその言葉。

 

 『野球選手です』 は?

 

 『アイドルです』 は?

 

 『プロゲーマーです』 は?

 

 大人は子供の夢を応援しているけれど、同時に現実の厳しさというものを痛いほど知っている。

 

 『中学の先生です』 うん!

 

 『銀行員です』 うん!

 

 『プログラマーです』 うん?

 

 もしそれが望まぬ結果であったとしても、幸せな未来を進んで欲しいと願っている。

 

 

 「『君の夢はなんだい?』」

 

 

 『……………』

 

 

 小さな頃の夢は『素敵』なお嫁さんだった。

 

 

 お母さんには会ったことはなかったけど、友達の家で見たそれは、優しくて、でもちょっと厳しくて、とにかくそれが欲しかった。

 それが手に入らないことは何となくわかってたから、自分がそれになろうと思ってた。

 

 ただ1つの『おかえり』が欲しかった。

 

 今となってはただの想い出だけど。

 

 

 その次の夢は何だったっけ……。

 

 

 ああ、バスガイドさんだった。

 

 

 お父さんはいつも遊んでくれたけど、私を遠くまで連れていってくれるだけの余裕はなかったみたい。

 だから、他の家の子が旅行に行く話を聞いたり時に、いろいろな場所を歩んで見たかった。

 

 その次の夢はなんだっただろうか……。

 

 いや

 

 その時からだっけ?

 

 

 『夢』なんてものを羨ましいと思ったのは……。

 

 

 『「ありません」』

 

 

 『これから見つけてしまえばいい』

 

 

 ほとんどの答えはそれだった。

 

 

 真剣に悩んでる問題を先送り、先送り、先送り

 

 

 もちろんそれは正解だと思う。

 

 誰かに決められた道を『夢』だと思って歩くのは疲れるし、やる気も続かない。

 

 それでも、私には『道』が欲しかった。

 

 一人で歩く足はあると。

 

 もちろん他の人より不自由で不器用な身体だけど、決して立ち止まるだけじゃないと。

 

 そう言って叫びたかった。

 

 でも

 

 一緒に探してくれる人はいなくて、歩くだけで邪魔だと思われるような道を辿ってきて……。

 

 

 だから私は決めたんだ。

 

 

 『G1に勝ちたいです!』

 

 

 綺麗なお面を被って

 

 

 『委員長やります!』

 

 

 綺麗な正解を纏って

 

 

 『大丈夫ですか!?』

 

 

 綺麗な『私』を作って

 

 

 自分を失くせば

 

 被っていたはずのこれが顔に貼り付いて取れなくなってしまえば

 

 

 『私』と一緒に探してくれる人も、『私』の道に踏み込んでくれる人も見つかるはずだと……。

 

 

 でも『自分』は強くて

 

 

 『あの娘、調子乗ってない?』

 

 少しの悪意も

 

 

 『なんであんたみたいな奴が……』

 

 少しの嫉妬も

 

 

 『余計なお世話なんだよ』

 

 少しの理不尽も

 

 

 許してあげられなかった。

 

 

 

 『レースが始まったら、そこはアタシたちの世界、でしょ?』

 

 

 

 本格的にトレセン学園を目指すようになった。

 

 

 始めの道は想像よりも優しかった。

 

 

 この『私』を捨てようと思った。

 

 

 やっとスタートラインに立てたと思ってた。

 

 

 一緒に遊んで

 

 

 一緒に切磋琢磨して

 

 

 一緒に泣いて

 

 

 一緒にお腹いっぱいになって

 

 

 一緒に『ただいま』を言える。

 

 

 そんな友達が手に入ると思ってた。

 

 

 でも

 

 

 解き放たれた『自分』は邪魔で

 

 

 相変わらず『私』が必要で

 

 

 『自分』も『私』も邪魔で

 

 

 別の『私』が必要で

 

 

 欲しいものが手に入っても消えなくて

 

 

 だから

 

 

 消えてなくなれば良いのにって

 

 

 消えたいのに『夢』なんて……。

 

 

 「『夢なんてものはありませんよ」』

 

 

 いつもみたいに当たり障りのないことを言えばいいのに口は止まってくれない。

 

 

 「『会長のような大義もなく、その場の勢いだけで大言壮語を口にして、才能もないのに無駄にプライドが高くて、欲しいもの全てがあるはずなのにこの場所にいることが嫌で、何を望んでいるわけでもないのに歩きたいと願っているんです……』」

 

 

 「幻滅しましたか?、トレーナーさん」

 

 

 私は何がしたいんだろうか……。

 

 

 今度こそ終わりかな。

 

 

 少しだけ閉じた瞳によって世界を黒く染める。

 

 

 これで何も見えないし、何も聞こえない。

 

 

 どれだけ怖くても大丈夫。

 

 

 『「いや、全然」』

 

 

 え………。

 

 

 なんで………?

 

 

 「むしろ海外行くって言ってたにしては普通の思考回路で安心したよ」

 

 

 「なんで……?」

 

 

 「ん?、ただ質問を変えるぞ」

 

 

 なんで……。

 

 

 全てを失ったはずの世界で

 

 

 私の吐き出す息の音以外を失くした世界で

 

 

 ポツンと1つ響く音。

 

 

 「お前は何が好きなんだ?」

 

 

 「なんで……」

 

 

 「質問の意図か?」

 

 

 貴方の音は消えてくれない。

 

 

 瞑った瞳には何も映らないのに、貴方の音は耳から離れない。

 

 

 「何もできないなら、できることからって言うだろ?、トレセン学園はレースをするウマ娘にとっても最高の場所だが、それ以外でも三番目くらいの場所だからな」

 

 

 でも

 

 

 貴方に、道を探せと言って欲しくない。

 

 

 「わかんないです、夢の形も、好きなものも、だから大嫌いです」

 

 

 だから突き放す。

 

 

 

 貴方は目を伏せる。

 

 

 そして

 

 

 「少しだけ昔話をするか……」

 

 

 そのまま語り始めた。

 

 

 

 

 

 昔、太平洋をヨットで渡った人間がいた。

 

 昔って言ってもその時には大型のフェリーや飛行機が既にあった。

 

 だけど人間はたった一艘のヨットで大海原を渡ったんだよ。

 

 確かにそれは偉業だ。

 

 でも、冷静になれば非効率的で、満足感以外に何もない行いだった。

 

 

 昔、世界で一番高い山に登った人間がいた。

 

 それまで複数の調査隊を前提とするような危険な山を一人で登りきったんだよ。

 

 それは確かな偉業だ。

 

 でもさっき言ったように登るだけなら複数の調査隊がいれば良いっていうオチもある。

 

 

 たった一人で成し遂げたはずの偉業は冷静になればただ命を危険に晒しただけの無意味な行いだった。

 

 

 なんだったら嗤われてもおかしくないかもな……。

 

 

 その偉業は教科書には乗らないし、彼らの伝記を手に取る人間はたくさんいても後に続こうと願う奴なんてほんの一握りだろうな……。

 

 でもよ

 

 『かっけえ……!』

 

 憧れたガキがいた。

 

 そのガキは本気でなろうとしたのさ

 

 『冒険家』って職業に

 

 

 「羨ましい……」

 

 純粋な、故に狂気的な言葉を呟く。

 

 「重症だな、流石に止めてくれ……」

 

 

 まあ、そのガキは冒険家になるために何が必要かを考えて、英語を覚えるとか、身体を鍛えるとかじゃなくて、とにかくいろいろな場所を歩くことだった。

 

 あはは、一人で隣町まで歩いたり、県を跨いだりして叱られたっけな。

 

 まあそんなことはどうでも良くてな。

 

 とりあえず、ガキは冒険家を目指したってことだけ理解してくれればいいよ。

 

 

 本気で冒険家になろうとしてた。

 

 

 中学に進学した。

 

 

 結果、ガキは少年になって諦めを覚えた。

 

 

 『本気で言ってるのか?』ってな。

 

 

 バカにされるとか嗤われるとかじゃなくて心配されたのさ。

 

 本気でそれになれると思ってるのかってな。

 

 

 少年がそれで奮起できるなら本当に冒険家になれたかもしれないが、少年は諦めた。

 

 

 それからは普通に

 

 

 死なない程度に生きればいいと思ったのさ

 

 

 ほどほどに頑張らないってな。

 

 

 そっからはそうだな。

 

 

 『何だかんだで、そこまでやれたんでしょうが! 、ならあんたはすごい子だよ。なんでも良いから上を目指してみんしゃい』

 

 

 やる気がない俺の気分は山の天気のようにコロコロと変わったんだよ。

 

 

 それからはとりあえず何でもやった。

 

 目の前にいる男がエベレストを登頂したって言ったら信じるか?

 

 線路とバスで世界一周したって言ったら信じるか?

 

 

 「トレーナーになったって言ったら信じるか?」

 

 

 「わかんない、でも最後だけ規模が小さい」

 

 

 「そこは嘘でも信じとけ、あとトレーナーになるのは意外と大変なんだよ」

 

 

 だからな

 

 

 「とりあえずやってみろ」

 

 

 「何を……」

 

 

 「んー、海外だろ?、じゃあ凱旋門とかどうだ?」

 

 

 「ん!」

 

 

 「響いたか?」

 

 

 「いや、少し前に思ってたの、凱旋門が取れたらみんな私たちを認めてくれるかなって」

 

 

 「おうよ、いけるぜ」

 

 

 「じゃあね、凱旋門が欲しい」

 

 

 「ちょっと重たいがな」

 

 

 「物理的にじゃないよ?」

 

 

 「わーってるよ」

 

 

 「そしてね」

 

 

 「何だ?」

 

 

 「トレーナーが欲しい、夢も欲しい、この無駄な誇りに見合う強さが欲しい、大言壮語を事実にできる覚悟が欲しい、欲しいものが欲しい」

 

 

 「努力次第……、とは言わねえよ、全部叶える道は整えてやる」

 

 

 だから

 

 

 「走れよ?」

 

 

 「わかった」

 

 

 それじゃ、契約成立だ。

 

 

 「よろしく頼むぞ担当ウマ娘、見せてやるから、魅せてくれ」

 

 

 「よろしく、担当トレーナー、辿っていくから、見せてあげる」





 少し仲良くなりたい相手には猫を被ります。

 仲良くなった相手には素が出ます。

 興味のない相手には狂犬となります。


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勉強会はサボる口実


 リアルの都合で投稿が滞っていました……。
 一週間くらい開けて書いているのであからさまに繋ぎ目が見えている場所があったり…。

 というか、どうして世間様はお盆休みなのに私に休みをくれないのですか!


 

 「おお、良かったやないか!」

 

 自分のことのように喜んでくれるタマ先輩の笑顔に癒されつつ、カレンダー片手ににらめっこ。

 

 どうしてこんなことになったのかと言われれば、昨日の夜のこと。

 

 

 自分で組み立てていた練習の予定は、トレーナーの登場で白紙に戻されて、インターバル走を明らかに無茶だろと心配されて休みをもらってしまった。

 すぐにトレーニングしよう!、とトレーナーに訴えたのはいいけれども、こっちも忙しいとのことで、強制的にお休みをさせられたのでした。

 

 「ん、おかえり……」

 

 そんな何ともいえない感情のまま部屋に戻ると、少し眠そうな声での『おかえり』が聞こえた。

 気付くと時計の針は門限をとっくに過ぎていた。

 もちろん、申請しているので説教を受けることはないけど、態々起きていてくれたのかと申し訳なく思う。

 しかし、三人ともベッドは肌に合わないという性分なもので、川の字に敷かれた布団は、二つとも膨らんでいて、眠るのは私だけとなっている状況だった。

 

 不思議に思って布団を注視すると、むにゃむにゃと口を動かしていたタマ先輩。

 ああ、眠りながらもこうやって帰ってきた同居人を迎えてくれたのだなと嬉しくなり、その柔らかい頬を少しだけつついてしまった。

 

 

 翌朝、冒頭の光景に戻る。

 

 正式にトレーナー契約が成立した。

 朝食の前に、そんなことを口にしたのは、この喜びを共有したかったのか、自慢をしたいという子供のような心からか……。

 結果として二人からは祝福の言葉をもらったのだけども、何だか恥ずかしくなってしまって瞳を閉じてしまう。

 少しだけ盛り上がった朝食は、みんなそれぞれの秘蔵っ子を取り出して半ばパーティーになってた。

 

 そして、そのまま空いてしまった予定の話もできないで、それぞれ部屋を離れたのでした。

 

 

 「えっとね、ラジちゃん、明日って空いてるかな?」

 

 そんな日だったから、代わり映えのない授業が終わった後、チヨちゃんから話しかけられたのは幸運だったと思う。

 なんだかんだで勉強会の誘いを断ってきたものだから誘ってくれないようになるかもしれないと肝を冷やしていたけど、こんな私を友達と認めてくれる彼女はとびきりお人好しだ。

 

 そんな彼女の友達というと、同じ様にとびきりお人好しなんだろう。

 もちろん美浦寮の誰かだろうから、直接的な接点もないし、顔を合わせて何を言われるかはわからないけど。

 

 着替えるのが面倒だったから教科書と財布の入った鞄と制服の上に羽織るパーカーだけ着てから寮を出る。

 これでおしゃれ番長とかが来たら、強制的に服屋に連れていかれるんだろうなっていうクソダサファッションは第一印象を悪くすること受け合いだろう。

 

 まあこれは後から思ったこと。

 寮の仲間以外と外出なんて一度もないんだから、かなり気が緩んでいるし、正解なんて知らないんだから許してほしい。

 

 『ラジちゃん、準備できた?』

 

 コンコンとノックの音。

 想像の三倍のスピードでされたノックに驚きながら、早すぎる準備に何か恐ろしいものを感じつつ、扉を開く。

 すると尻尾を幻視するような明るい雰囲気を纏った制服姿のウマ娘が、目の前にいる。

 サクラ色の瞳に吸い込まれそうになりながら、寮から出ると見るからに鍛えているといわんばかりに発達した足を見せる少女の姿もあった。

 

 「お待たせ……」

 

 私と君が別れて十分も経ってないよと視線で抗議する。

 後ろにいる彼女も同じ気持ちなのだろう、少しの抗議と七割の同情の籠った瞳で、チヨちゃんを見つめる。

 

 ただ残念、たぶん私が初めて誘いを受けてくれたのが幸せなんだろう、今の彼女に人間の言葉は通用しないようだ。

 ならば、ワンと吠えてみるのも悪くないが、それをやるとただでさえクソダサファッションの印象が、唐突に吠え始めるヤバイやつにグレードアップする。

 もちろん、上がるのは不審者レベルであるから上がるのは幸せなことではないだろう。

 

 だから特別何をするまでもなく、後ろを着いていくことにした。

 

 

 「えっと、申し訳ありません……」

 

 そう頭を下げるのは、準備が足りなかったのだろう、私と同じ様にぶかっとしたジャージを着た少女である。

 今は夏前なのだからそんなものを着て大丈夫なのかと不安になったが、後から聞くと稽古の一貫とのことだ。

 

 理由は何もわからなかったが、不思議な人であることだけはわかった。

 

 「こっちこそ変に誘いを受けちゃってごめんね……」

 

 初対面であるのに気が合うように感じるのはきっと私だけじゃないはず。

 もっとも彼女も修行のために厚手の服を着るという良くわからない方のようだが。

 

 「いえ……、その、名前を教えて、あ、私はヤエノムテキです」

 

 「えーと、私はラ·ジャポーネって言います!、長い縁になりそうですし、よろしくね♪」

 

 明るい彼女に振り回されてきたのだろう。

 ほんのり疲れの見えるヤエノさん、その原因は眼前にいるサクラ色な彼女に他ない……はず。

 

 まあ、先頭を進む彼女にその思いは届かないのだろうけど。

 

 

 「何を食べよっか?」

 

 勉強会の場所はファミレス。

 学校の図書館でも悪くないんだろうけど、何だかんだ喋りながらやれた方が楽しい、らしい。

 

 詳しくは不明。

 

 とりあえず注文すべきかと思って取り出したメニュー表は、定番のフライドポテトから、変わり種のいかゲソなんかもあった。

 誰も疑問に思っていないようだから、もしかしたらいかゲソはファミレスの定番のひとつなのではないか、なんてことを考える。

 

 「みんなで食べれるものがいいですよね?、それなら……」

 

 「ポテトか唐揚げでしょうか、それとドリンクバーは皆さん頼みますよね」

 

 「「うん!」♪」

 

 サクサク決まっていく注文に、ピンポンと鳴らす呼び鈴。

 ファミレスの効果音は想像よりも明るくて、口が回りやすい雰囲気を演出してる。

 

 「それじゃあドリンクバーにいきましょう!」

 

 「あ、私は待っておきます」

 

 「ごめんねー」

 

 声こそ明るいものの、皆、本来ならわちゃわちゃと動くはずの尻尾が小腹の空いたお腹を示しているようにしょぼんとしている。

 まあ、ドリンクバーを注ぎ始めてからすぐに横振りの動きに切り替わったのを見るとあんまりにも自分があんまりにも現金な生き物だなと思わされるのだけど。

 

 注がれたオレンジジュースは同時に入っていた謎の液体で薄められて……、はないよう。

 始めに入れた氷の方がよっぽど薄める力を持っている。

 

 さて、注文したメニューが届く前から、ガサゴソと鞄を探す三人。

 

 それぞれ取り出した教科書がバラバラな点を除けば、最高のスタートダッシュが決められたのだろうけど、ウマ娘も十人十色。

 得意な教科は違うし、そもそもの成績も違う。

 

 比較的万能型の私でも数学は好きになれないし、隣にいるヤエノさんも文系とのこと。

 そして目の前にいるチヨちゃんの得意教科は見事に文系。

 

 そう。

 

 数学を教えられる人がいない!!!

 

 のでした。

 

 そのせいで、ストイックなヤエノさんは数学。

 

 みんなと話したいのであろうチヨちゃんは理科。

 

 私が逃げの社会。

 

 バラバラの教科をバラバラに始めることになりそうな状況下。

 

 「えっと、折角の勉強会だしみんなで同じ教科をしない……」

 

 まあ、私が言わなくてもこうなってただろうけど、一応ね。

 囲んで食べるご飯も、話題が合わなくちゃ美味しくない、最近知ったことだからさ。

 

 それならそうしようよかと、再度ガサガサ。

 

 三人で取り出したのは初日にある古典。

 

 といっても何を勉強すればいいのかわからないこれ、うんうんと頭を捻っている間に取り出したりますは単語帳。

 こつこつと作っていた渾身の単語帳は、タマ先輩のアドバイスの賜物。

 

 とんとんと読み上げを繰り返すと薄いノートは唐揚げを半分にする頃に閉じられる。

 

 となると次は何をするかと考える。

 

 なら社会でもやろうかとペンを取る。

 

 しかし、若い娘が揃ったならば……。

 

 摘ままれる唐揚げ、減っていくポテト、弾む会話、消えていく教科書。

 

 おしゃべりタイムの始まりだろう。

 

 

 「金剛八重垣流……、良くわからないけど空手?的なやつかな?」

 

 「いえ、空手というよりは徒手武術ですね、足は使わないものです」

 

 「えっ、それでその太股!?」

 

 

 「好きな食べ物か……、ソースをかけて美味しいものかな~」

 

 「たこ焼きとかでしょうか?」

 

 「え、そこはお好み焼きじゃないの!?」

 

 

 「今度演舞を披露しましょうか」

 

 「え、見たいです!」

 

 「わかる、すごく気になる」

 

 

 そして

 

 

 「だからタービーを取ります」

 

 ウマ娘という生き物は、ただ喧しいだけ乙女ではなく競争を愛する存在だと思い知らせるような覇気で私を見つめるのは穏やかなはずのサクラ色。

 

 

 「マルゼンスキーさんが一番強いですよ」

 

 「は?、シービー先輩が一番でしょ?」

 

 

 それは、尊敬する人から、推しウマ娘議論という不毛な争いが始まったことに起因する。

 

 「マルゼンスキー先輩とか古いでしょ?、何年前の話だっけ?」

 

 「なっ!、それを言ったらシービーさんは前世代のルドルフ先輩に!」

 

 「は?、それ以上は禁句だよ喰われたいならいいけど」

 

 

 「シービーさんは確かにすごいです、でもマルゼンスキーさんの方がもっとすごいです!」

 

 

 「無敗は強くとも三冠には及ばないでしょ」

 

 

 『趣旨とは違うかもしれませんが私は祖父を尊敬していますね』

 

 

 そんなことを語っていたヤエノムテキは、二人の熱量に恐怖している。

 取り繕う明るい空気を消したラ・ジャポーネのインパクトに、凄まじい熱量で応じるチヨノオー。

 

 

 「さんか!、ダービーは出れさえすればマルゼンスキーさんが勝っていたんですよ!」

 

 

 「さて、どうだったかね?、ダービーは運とも言うし、それを得られなかったのならそれまででしょ」

 

 

 なら!

 

 

 ここが公共の場ということを忘れた二人。

 

 

 立ち上がって宣言するのは……

 

 

 「私がダービーを取ります!、運だけじゃないって!、マルゼンスキーさんの無念を晴らすためにも!」

 

 「証明して見せます」

 

 「彼女の最強を!」

 

 

 見開かれた瞳は変わらぬ桜、しかしその奥は燃え盛る炎が広がっている。

 

 

 無論、冷静になれば彼女の勝利に意味はない。

 

 マルゼンスキーはダービーに出られず、ミスターシービーが三冠を取ったことも変わらない。

 

 しかし

 

 「わかった……、なら私はタブーを犯すよ」

 

 

 最早二人は止まらない

 

 

 「目指すは凱旋門、最下位からぶっ飛ばす」

 

 

 

 

 

 もう一度繰り返すが彼女たちの行為で証明されるのは、自分の力だけだ。

 

 憧れの何かが変わることはない。

 

 

 だが

 

 

 「絶対見て「絶対見てろ」てください」

 

 

 熱しにくい意識が焼けた時は

 

 

 そう簡単に冷めはしない。

 

 

 目指す場所も願う未来も違うが

 

 

 二人は確かにここに誓った。

 

 

 その夢は誰かのもの?

 

 

 否

 

 

 二人が創ったもの

 

 

 新馬戦まで後少し

 

 

 揃うは若き獅子たち

 

 

 さあ

 

 

 時代を紡ぐのは、桜か、灰か

 

 

 それとも……

 

 

 『私のトレーナーさんになってくれませんか?』

 

 

 『こんな私でよければ、よろしくお願いいたします』

 

 

 顔も知らない猛者たちか

 

 

 激動の夏が来る。





 最後はガチギレしたヤエノにげんこつを食らって終了。











 美浦トレセンとは関わりがないので、どうするべきか思案したけれども、物語の始めで仲良くなってしまった以上、この話は書きたかった。

 許してくれると嬉しい。

 こいついっつも許しを乞うてるな……。


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修行パートは消されがち


 一週間以上空いた状態が続くと罪悪感があるので投稿。


 

 「ご機嫌だな……」

 

 意味があると理解しながらやる練習は楽しい。

 そんなことを口にしていた眼前のウマ娘は、気持ち良さそうに加速を続けている。

 はっきりいって身体が壊れるんじゃないかと思うような速さで走り続けているのは異常なんだが、それ以上におかしいのはバランス感覚だな。

 速度が増すのだから足が回りすぎて転ける可能性もあるし、綺麗にコーナーを曲がることなんて不可能なはずだ。

 それを可能にしているのは、頑丈な身体と倒れることを恐れない度胸だろう。

 失速さえさせなければ最強に至ることも難しくないと思える程度には魅力的な走りだ。

 

 『お前にインターバル走は正解とはいえないな、短所を減らそうとしても、そこまで極端に才能がないと磨くだけ無駄だ、G1にゃ届かねえよ』

 

 『なら何をすればいい?』

 

 『お前の得意分野はなんだ?、スタートか?、加速か?、スタミナか?、短所は大きいが長所もまた極端に大きいんだからよ、そいつを伸ばしちまえ、磨がれるだけ尖っといた方が確実に強い』

 

 『了解』

 

 そんなやり取り一つで練習メニューに階段ダッシュを入れたわけだが、これが気持ち良いほどにハマっていた。

 階段という走るだけでも躊躇するような環境で、速度を緩めずに、レースのコーナーよりも短い距離で曲がることを求められるこのトレーニングは、控えめに言って普通のウマ娘には勧められないタイプのものだ。

 そもそも、俺がこの寺の住職の友人であり、近所の人への許可を取っているから許されているのであって、こんな場所で早朝からトレーニングさせていることが困難なんだが。

 だが、それを踏まえてもこいつは良い。

 ただでさえ尽きないスタミナを更に強化できるのに加え、最大効率のコーナリング、平地から傾斜への対応、瞬時に坂道に切り替える力、一つの石で鳥の群れを全滅できるんじゃないだろうかと思えるほどのメリットが詰まっている。

 

 「休憩いれるぞー!」

 

 「わかった」

 

 「急に止まるなよ!」

 

 ウマ娘が本気で減速するとブレーキ跡のような形が残るからな。

 コンクリートだからといって油断していると大変なことになる。

 新馬戦に向けて最高レベルのコンディションなわけだからここで怪我でもしようものなら良いことは何一つない。

 

 「ぷはぁ!」

 

 美味しそうに水を飲む、担当。

 初めて出会った時のお嬢様な演技は鳴りを潜め、次に出したダウナーなキャラクターも薄まって、最後に出てきたのはゲームで良く見るクーデレタイプの少女だった。

 まあ、クーデレ状態は本人も自覚していないように思えるが、それは仕方のないことだ。

 強引な成長を促される環境にいたのだから、今くらいは少女らしく大人に甘えて欲しいという思いがある。

 

 「次は何をすればいい?」

 

 「朝言ったことを忘れてないだろうな……」

 

 「新馬戦前だからある程度セーブしろだっけ……、自分の限界くらいわかってるけど

 

 「限界を知ってる奴はトレーニングが終わった途端に眠ったりしないんだよ!」

 

 かといって、トレーニングの後にすぐ眠るのは勘弁して欲しい。

 シャワーを浴びろだとか、飯を食えだとか、その辺は大事なことだが迷惑はかからないだろう。

 でもな、ベンチや眠れる場所があったらどこでも眠るってのは正直面倒だから止めて欲しいんだが!

 こいつの背丈が大したことないから何とかなっているが、人間とは筋密度が違うウマ娘はそもそも重いんだよ。

 それを毎日抱えて寮まで運ぶ俺の身にもなってくれ、頼むから。

 

 そんな担当の新馬戦は二日後。

 本来なら似たようなコースで一日中慣らし運転と行きたいところだが、そんな権限を持ってるトレーナーは極一部、俺みたいな新米がコースを借りるのは難しいってのもある。

 だからこそのこの寺なわけだ。

 かなりの角度がある階段、いつでも座禅していけとふざけたことを口にする住職、近くにいる全ての存在にお菓子と麦茶を配る奥さんとスポーツマンにはありがたいものが揃ってる。

 座禅に関しては集中力を鍛えるためにってやつだな、某野球ゲームで選択枝にあるだけはある。

 特にうちの担当は集中力を切らしたらその時点で敗北が決まっているような極端な奴だから余計に。

 

 「ん?」

 

 くりくりとした瞳がこちらを覗く。

 ほんのり濡れた口元を向ける姿は無邪気な子どものようだ。

 いや、子どもであることには違いないが、実年齢よりもずっと幼いように見える。

 

 「よし!、座禅して終わらせんぞ」

 

 「わかったけど、あれって意味あるの?」

 

 「毎度、棒でしばかれてる奴が言っても説得力がないんだよ」

 

 意味がないと思ったことには、我慢弱いところもまだまだガキンチョだな。

 そわそわと動く耳に所在なく動く足と尻尾。

 聞けば、普段の学生生活では威風堂々、喧嘩上等らしいじゃないか……。

 悪意のない面の皮が厚い、とはまた違うんだろうが随分と擬態が上手いんだなと思わされる。

 

 『いつかそのままの自分でいられるといいな』

 

 心の中の呟きが叶うようにそっと神様にでも祈っておく。

 いや、仏さんが正解かな。

 

 ちょいとばかり急ぎすぎた蝉が鳴いている。

 

 ミンミン、ミンミンと 眠眠……

 

 案の定、石段に寄りかかってい眠っている担当を起こしながら、小さく拳骨をいれるのであった。

 

 

 「んじゃ、明日は軽い練習で解散だからな、今日の疲れはしっかり取り除いておけよ」

 

 「わかった」

 

 今日のトレーニングは終了っと。

 

 二週間前に、トレーナーから外部の施設に行くって言われたから、ジャージで行くのもなあと思っていたけど、たどり着いたのは郊外の山。

 ウマ娘の先輩方が必勝祈願をするという神社の近くにあるお寺だった。

 どうにも理解ができなくて、いろいろと訪ねることになったけど、お寺の境内を使ってトレーニングをしろと言われたから、初めは、罰当たりかもとビクビクしてた。

 まあ、トレーナー曰く、ここに奉られているのはウマ娘と人間の平和を願った菩薩様らしいから大丈夫らしいけど。

 一番驚いたのは凄く若い住職さんから繰り出される異次元の棒捌きなんだけどさ。

 すごいよね、全力で回避に思考を裂いたウマ娘に攻撃を当てるなんて普通なら無理だよ?

 

 そんなトレーニングの果てに目指すは新馬戦。

 所謂メイクデビューなんだけど、長距離がないから、少し短い2400m。

 正直、本番を一度も経験してないウマ娘に走らせるには、長すぎると思うんだけど、それを理解した奴らが揃うのなら楽しい戦いになりそう。

 楽に勝てるのも好きだし、どうでも良いも言うのも本音だけど、何だかんだ闘争本能は人並みにはあると思っていたい。

 

 『そこそこ楽しめるかな?』

 

 帰り道、蝉たちの子守唄に耳を傾けながら歩く。

 喧しいと嫌う人がいることが信じられないほど優しいその音は、寮の玄関にたどり着いた私を容赦なく寝かしつけるのでした。

 





 アプリでダウナーが最終段階なのは、マイルドになっているからです。


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