気分屋マヤノちゃんがクラシックを荒らす話。 (隣のAG/マヤノテイクオフ)
しおりを挟む

フライト準備
デビュー ~ ジュニア


マヤちゃんの本気が見たい。
私は見たいので書きました。

普段はお絵描きするくらいしかしてないので、拙い文章だったりしてもゆるして。

※6/27 19時 未保存分の文章を入れ忘れたのに気が付いたので足しました
※7/12 21時 ストーリー進行状況に合わせ冒頭微追記しました


「つまんなーいっ!」

 

 

 組んだ腕に顎を乗せ、ほほを膨らませた彼女は不機嫌そうにつぶやいた。

 橙色に近い栗毛の長髪をツーサイドアップに纏めた小柄な少女。

 それが私が担当して初のURA制覇、クラシック3冠を成し遂げた『変幻自在』の撃墜王、マヤノトップガンである。

 

 「ぶーぶー」というマヤノのほほをツンツンとつついてやると空気を抜いて、私の手の感触を楽しむことに切り替えたのか、されるがままになっている。

 耳も畳んですっかりリラックスモードだ。小動物のほほをむにむにしたくなるのは、このような愛らしさと癒しを感じるからかもしれない。

 そこがマヤノの魅力のひとつなのだろう。我ながら長い付き合いになったものだ。

 

 愛らしい少女の仮面の下には獰猛な野獣を飼っていたと、思い知ることになったのはクラシックの頃。最も忙しい一年間だったと言えるだろう。

 フライトジャケットのような勝負服に輝く勲章という名の撃墜した証。

 レースに出れば予測不能のノンストップガールに蹂躙されるとか、栗毛の悪魔とか色々と耳にした。

 逃げ・先行・差し・追込、全ての戦法でG1勝利を成し遂げたのは後にも先にも彼女だけだろう。

 

 撃墜王とも言われるようになったマヤノトップガン。

 彼女だけのチーム・アンタレス。アンタレスは火星の敵、つまりはトゥインクルシリーズを輝く(ウマ娘)たちを撃墜する敵。それが私達という訳だ。

 

 クラシック・シニア関係なく実力を示した彼女は、新人トレーナーと共に伝説となった。

 尻尾を脚に絡め、私に体重を預けるようにしたマヤノを撫でながら、今日もゆったりとした一日を過ごしている。

 

 

 

 そんな彼女との出会い、それは数年前に遡る―――

 

 

 

   ◇◇◇◇◇

 

 

 

 新米トレーナーとしてこの日本ウマ娘トレーニングセンター学園、通称トレセンの門を叩いたのはつい先日のこと。

 

 今年はトウカイテイオーや、かの有名な『メジロ家』メジロマックイーンを筆頭に有望株と噂されるウマ娘たちを目当てに、多くのトレーナーが選抜レースでスカウトをする為に集まっていた。

 有名なところでは「リギル」や「シリウス」、最近勢いのある「スピカ」といった強豪チーム率いるトレーナーもいるようだ。

私は、他の先輩トレーナー達に習い、最初は最前列で選抜レースを眺めていた。

 

 しかしながら、前の方でウマ娘のスカウトに情熱を燃やすトレーナー達の波に巻き込まれ、揉みくちゃにされたことに辟易してしまった私は、大人しく後ろの方で観戦することにした。

 

 数あるレースでトップクラスのウマ娘が集まるG1レース、一握りのウマ娘しか得られない勝利に夢を見たい。そういったトレーナーは多い。

私もそうだ。それでもクラシック3冠、トリプルティアラのように人生、いやウマ娘生で1度きりの舞台はさらに特別な価値を感じるものだ。

 

 私だっていつかはそんなウマ娘の手助けをできれば、と思っているトレーナーである。

 

しかしながら、専属にならず教官やチームのサブトレーナーとなり下積みを重ねる、といった経験の重要性を理解している。

いくらトレーナーの数がウマ娘に対して少なく足りていないとはいえ、無名の新人がいきなりスカウトできるのか、と言われるととても難しいのは確かである。

それこそ運命の相手といえるほど理想の出会いなんて、ほんの一握りといえる数で済むのだろうか。

 

 本日の最も期待を寄せられるウマ娘、トウカイテイオー。皇帝を継いでクラシック3冠も夢じゃないと言われるウマ娘らしい。

 彼女は選抜レースで圧倒的な強さをみせ、我こそはと彼女をスカウトする為に集まっているのを、私は遠巻きにみていた。

 彼女は難なく一着で走り抜け、引く手数多でトレーナーを選べる立場の将来を期待されるウマ娘。

 新人とはいえ私の目から見ても強いウマ娘であると思うほどだ。

 ありえないと思うが、仮にスカウトできたとしても、新人の私には手に余るだろうことは容易に想像できる。

 

 もう日を改めて戻ろう。そう思ったときだった。

 

 

「もう少し面白いレースかなーって思ったけど、ざんねーん」

 

 

 いつのまにか隣に立っていた少女の呟きが聞こえた。

 顔を向けるとトレセン指定の制服を着た栗毛のウマ娘が。

 小柄で橙色(栗毛に分類されるらしい)のウマ娘。長い髪を少し結び、ツーサイドアップにしており尻尾のように揺れている。

 生徒であることは確定だが、今日の出走リストでも、既にデビュー済みリストでも見た覚えがない。

 

 恐らくはまだデビューしていないウマ娘だろう。

 既に選抜レースに走っていたとしても私が覚えていなかったか、まだ走っていないのか、その判断はつけられない。

 どんな走りをするのだろうか。

 

 君は走らないの?とつい言葉がこぼれてしまった。

 

 口元に人差し指を置き「うーん」と呟きながら少し考えるウマ娘。

数秒待てば「つまんないから」と答えが返ってきた。

 

 調子が出ないからなのか、勝負にならないからか。

 前者なら単純に気分の問題もしくは気性難と呼ばれる方の可能性があるが、後者であれば大した自信というべきである。

 どちらにせよ、目の前にいるウマ娘はどう走るのだろうか。

 どう走るのか見てみたい。トレーナーを本気で目指した自らの性質ゆえか、素直にそう思った。

 

「ん-?」

 

 

 そこで初めて私のほうに興味が湧いたのか、じっとこちらを見つめ、この少女は私の周りを一周しながら何かを確認するようにする。

 理解したとでも言うように頷いた。

 

 

「マヤのトレーナーになってくれない?」

 

 

 まさかの逆スカウトに対して「え?」と気の抜けた返事しかできなかった。

無名どころか新人で、有名な家とも縁のない私が?彼女の琴線に触れる要素なんてあるのだろうか。

 たっぷり悩んでから、せめて一度、選抜レースで君の走りを見てからでは駄目かと返した。

 

 

「いいよ!じゃあ次の選抜レースでは走るから、マヤのことしっかり見ててね!」

 

 

 ユー・コピー?と確認を取ってから「また来週!じゃーねー!」と走り去っていく彼女――マヤノトップガンというらしい――をそのまま見送ってしまった。

 

 不思議なことに、この時の私はまだ走る姿も脚質も知らないウマ娘に、運命に似た何かを感じていた。

 

 

 余談だが、トウカイテイオーによるカイチョー布教の演説が、選抜レースが終わってから数時間続くことになったらしい。

 

 

 

   ◇◇◇◇◇

 

 

 

 翌週の選抜レースは、トウカイテイオーのような超有望株といった評価を受けたレベルのウマ娘はいないらしいが、それでも未来のスター候補であるのは間違いない。

 何より、先日出会ったマヤノトップガンが走るのだから、見逃すわけにはいかないのだ。

 

 

 

 

―――レース結果はマヤノトップガンが逃げで先頭を維持したまま終わった。

 

 

 

 

 先頭を走るマヤノトップガンは、先行策で追いすがる他のウマ娘たちのスパートを含め、1/2バ身までの差を維持したままゴールしたのだ。

 まるでスパートでどの程度加速するのかを理解したうえで、追いつきそうで追いつかない絶妙な速度を維持する逃げだった。

 圧倒的ではないが、ギリギリ勝ちをもぎ取った。私にはそう見えるレースだった。

 

 彼女をスカウトしようとするトレーナーは一定数いた。しかし気まぐれで急遽レースに出ないことも含め、気性難の評価も受けていると知れ渡っていたようでベテランの多くは渋っていたようだ。

 

「マヤの走り、どうだった?」

 

 真っ直ぐにこちらにやってきたマヤノトップガンに凄かったと返す。

走り終えたばかりだが、まだ余力がありそうな様子を見るに中・長距離の適正があるのかもしれない。

 君の走りをもっとみたい。叶うなら、最前列で。

…まだ新人だから、確固たる自信はないけれど、力になれるなら。私の全力を尽くしたい。

 そう思うままに答えた。

 

「マヤにムチューになっちゃった?」

 

 にぱーっと輝く笑顔をみせる彼女に、あぁと返す。

 改めて君の担当にさせてくれないか、と聞くと待ってました!と言わんばかりに頷いた。

 

 

「マヤから目を離しちゃ、ダメだからね!ユー・コピー?」

 

 

 マヤノトップガンが掴む勝利のその先へ、全力で支えていこう。この日そう心に決めた。

 こうして新人トレーナーと栗毛のウマ娘、二人三脚の歩みが始まったのだ。

 

 

 

 

   ◇◇◇◇◇

 

 

 

 マヤノトップガンは控えめに言って、天才である。

 

 

 トレーニングを考える中、すぐさまその天性の感覚によって2、3回で理解してしまう様を見せられ、頭を悩ませることとなった。

 

 さらには気まぐれで飽き性という点である。何度も同じトレーニングするのは「つまらない」と言う。今日はこれやりたいと言うのは可愛いほうだ。

 先輩トレーナーに頭を下げ、一般的なトレーニングはどういったものなのかを一通り実践してはいるが、それでもあの手この手で別のトレーニング方法を考えては、モチベーションを保つため頭を悩ませることとなった。

 

 逃げ・先行・差し・追込、脚質に捕らわれない彼女のスタイルは今までの常識を覆すものだったというのもあった。

 ほとんどのウマ娘が持つ脚質が、逃げ先行の前寄り・先行差しの中間寄り・差し追込の後方寄りと、例外を除いて大きく3パターンに分けられるのだが、マヤノトップガンはどれでもできてしまうのだ。

 ビデオで見せた過去のG1ウマ娘の動きをほとんど再現して見せたり、観戦していると「ここで右に動けば」とか「もう少しで開けるからそこでバーッと」とか一目で勝負所を見抜いてみせるのであった。

 

 ここまできたら、好きに走ってもらうのが一番良いのではないか。

そう思い平日は基礎的なトレーニングだけではなく、先輩トレーナーに頭を下げに行き、並走トレーニングを組むことが増えた。増えたと言っても月数回だが。

マヤノと同期でデビューするウマ娘がいないらしい先輩チームを優先しているが、せっかく先輩ウマ娘と直接並走することができるのだから、これを生かさない手はない。

様々な戦術をその一端だけでも触れることができれば、そのままマヤノの手札が増えるということなのだから。

 

 

 休日には「お出かけしよ!」とごねるマヤノとデートという名目で週末はレース場へ行くことにもなった。

というのはいくらアスリートであったとしてもウマ娘は多感な時期の少女であるのは変わらない。

 トレーナーとしてこの距離感は適切なのだろうかと不安になる。なるがトレーナーならばウマ娘第一だ。

 気分転換にもなるし戦術を学ぶいい機会でもあるだろう。そう思い諦め、いや開き直ることになった。

 

 

 そんなこんなで行われた6月前半のメイクデビュー戦、逃げで余裕を持った1着をとったのだった。

 

 

 これからは比較的条件が緩い年末のホープフル、クラシックの3冠出走条件を満たすスケジュールを考えておこう。実際にマヤノトップガンが3冠やティアラ路線を走りたいと思うかはわからないけれど。

 

 なお、マヤノは「面白くないもん!」と今年の年末に決めたレース以外のGⅡ、GⅢは出走を拒否した。

ウマ娘本人のコンディションは重要だ。好調か不調かで大きくパフォーマンスに差が出ることは過去のデータで示されている。来年を見越してゆっくりいこう。そう決めたのだった。

 

 

 

   ◇◇◇◇◇

 

 

 

 時は年末、ジュニア最初の大舞台であるG1ホープフルステークス。ここからクラシック路線を控えたウマ娘による中山で行われるレース、これから活躍するであろうウマ娘たちを見出すには絶好の機会だろう。

 今後走るような機会があってもなくても、中山の芝で走る感覚は前もって知っておくべきだ。

 そう思い一週間以上前から現地でのトレーニングにシフトすることにした。

これから有マ記念も控えているとなると、開催まで期間があるのに熱気を幻視するほどには、会場周辺が賑わっていた。

 

実は同室らしいトウカイテイオーからは「ここからムテキのテイオーさまの、サイキョー伝説が始まるのだ!」と何度も聞かされているとか。

 

「マヤはテイオーちゃんがどのくらい仕上がったか気になるの」

 

 レースに絶対はない。ないが本気を出したら勝てる。そう断言するようにマヤノは言う。

 

 だから、勝ち切ることは考えない、と彼女はいう。今後の障害足りえるか、ライバルになりうるか、マヤノトップガンの才能とトウカイテイオーの才能、現状どちらが上なのか。最前線で見極めたいらしい。

 

 それはマヤノが既にホープフルのレコードタイムを出せるレベルで逃げ切ることができる、という立場から言えることであった。

いくらレースに絶対はないと言っても、【逃げ】でそれができるというのは紛れもなく強みなのだ。

 

 

 

「テイオーちゃんはマヤを楽しませてくれるかな?」

 

 

 マヤノトップガンは不敵な笑みを浮かべて思いをはせる。

 

 

 

   ◇◇◇◇◇

 

 

 

 年末の中山レース場、G1ホープフルステークス。それはジュニア最後に輝く一番星を決めるレースだ。クラシックと違い出場条件は比較的緩く、ジュニア期のウマ娘であるという条件を考えると、クラシック3冠と同じように一度きりの挑戦となる。

 

「よう、新人!お前さんが担当のマヤノトップガンはどうよ?」

 

 最前列でマヤノを見届けるべく観客席で待っていると、トウカイテイオー所属のチームであるスピカトレーナーがやってきた。無敗の帝王伝説に期待を寄せる人も少なくないが、所属チームを率いる彼こそ最たる例だろう。

 先輩とはいえ、トレーニングのアドバイスを請うた以外で話をするのは久々なので、お久しぶりですと挨拶で返した。

 

「ウチのテイオーも負けていないが、ありゃ仕上がっているな。一度トモを触らせて欲しいくらいだ」

 

 ちょっとチャラそうな男性がウマ娘の足を撫でまわす光景は流石に犯罪臭がするので、きちんといくら先輩でもダメですよと言っておく。

 

「しかしまぁ、テイオーの話からは、今期はまだデビューしないんじゃねーかって聞いていたのだけどな」

 

 その話は初耳だった。「そりゃ、お前さんがトレセンにくる前の話だからな」と前置きして話を聞かせてもらった。

なんでも、そろそろ本格化を迎えるが、選抜レースは未参加でトレーニングで見かけることも少なく、適性もよくわからない気性難のウマ娘である。ただその走りから才能は垣間見えるが、チームの方針を考えると手に余るだろう。

というのが一部のトレーナー共通の認識だったとか。

おまけに同室のテイオーがデビューを決めた時期にも、「まだわからないかな」と答えていたらしい。

 

「トレーナーの先輩としてならアドバイスも少しはできるから、今後もよろしくな」

 

 期待の新人じゃねーかって応援しているんだぜ?と良い先輩からのありがたいお言葉と、テイオーがいるから良きライバル候補としてな。とついでの一言をもらった。

 

 

 

   ◇◇◇◇◇

 

 

 

 結果的に、最有力ウマ娘と注目された一番人気、トウカイテイオーは見事一着を勝ち取り、“皇帝”シンボリルドルフを継ぐ“帝王”としての第一歩を踏み出すことになった。

 

 今回はメイクデビュー同様に逃げの戦術だった。マヤノトップガンは序盤はハナを切り最終コーナー手前まで先頭を維持したが、追い上げ仕掛けてくるウマ娘たちをそのまま見送った。

 傍目からは逃げウマ娘がそのまま垂れてきたようにも見えるだろうが、マヤノはその末脚を全く見せないまま5着に入着した。

 マヤノは確かにスパートをしっかりかけていたようにも見えただろう。しかし、ハナを譲ったマヤノはそのまま、トウカイテイオーたちの背をじっと観察し、見定めているようにも感じられたのは、彼女のトレーナーだからだろうか。

 

 

「…ふーん、マヤわかっちゃった」

 

 その呟きはレースの音にかき消され、誰にも届くことはなかった。

 

 

 

 

 

 レースも終わった帰り道、マヤノは「決めたの」と口を開いた。

 

「クラシック3冠、マヤが全部、取りにいこうかなって」

 

 彼女は同室であるトウカイテイオーの夢を打ち砕く。そう言っているのだろうか。

 

「テイオーちゃんの夢だってわかってるの」

 

 でもね、と続ける彼女の瞳は冷たく感じた。

 

「テイオーちゃんじゃ足りないから、マヤが貰ってトレーナーちゃんにプレゼントしようかなって」

 

 傲慢にも見える無情な宣言をマヤノトップガンは下した。

しかし私はトレーナーだ。マヤノトップガンの走りに魅せられたのだから全力でサポートする。

 よろしくねトレーナーちゃん?ユー・コピー?と言われたらアイ・コピーと答える。

私の愛バは強い、と世に刻み付けることになる意味は、勝つことが誰かの夢をへし折ると真に理解する意味はまだ、そのときはわかっていなかった。

 

 

 

 

―――せいぜいマヤを楽しませてね。テイオーちゃん。

 

 

 今度のクラシックディスタンスは、間違いなく荒れる。

 

 だって変幻自在(マヤノトップガン)無敵の帝王(トウカイテイオー)に本気で立ちはだかることになるのだから。




ここのマヤノのステータスはジュニア期で平均Eが並ぶメンバーの中で、平均Cという圧倒的ステで蹂躙できる。という設定で考えています。

イママデホンキダサナイナンテワケワカンナイヨー!


クラシック期の流れは決めてありますが、完結させられるかわかりませんから期待しないで…
無敗の3冠はマヤに撃墜されます(確定)


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

本編:気分屋マヤノちゃん
クラシック ハートブレイク1 接敵


続きました(挨拶)


無敵の帝王伝説、背後に迫るのは変幻自在のファイター。


3冠を含めたクラシックディスタンス、そのG1レースに出走するに当たってひとつ大きな問題があった。

 

 優先出走権がない1勝ウマ娘なので、出走できないのだ。

ホープフルステークスを勝利したトウカイテイオーはともかく、マヤノトップガンは入着したもののメイクデビューしか勝利がない。

弥生賞を勝利すれば優先出走権が手に入るらしいが、皐月賞、ダービーと続けて挑むことを考えるともう少し期間を空けておきたい。

かといってトウカイテイオーの次走である若駒ステークスは避けたい。

そこで選んだのは2月前半に開催される、G3きさらぎ賞。マイルの1800mレースだった。

 

 あんまり好きじゃない距離だけど、このレースなら大丈夫そう。とはマヤノ談である。

今回も【逃げ】でいくらしい。

 

「まだマヤに注目するには早いもん。トレーナーちゃんだけが見ていれば十分だから」

 

 それに、切札はとっておきのタイミングで切るものだと、人差し指を口の前に持ってきて、まるで秘密だよとでもいうようにマヤノは言う。

世間にはまだ逃げウマ娘だ。そんなウマ娘がもしG1の舞台で逃げではなかったら?もし出遅れでもしてバ群に埋もれたりしたら?

バ群に埋もれた逃げウマ娘の末路は明らかだ。まず勝てない。そう思ってくれれば皐月賞は警戒されずに動きやすくなるだろう。

 

 今はまだ、逃げウマ娘がたまたま勝利をもぎ取った。そう見えるのがマヤノにとって望ましい。

それこそ見る目のあるトレーナーなら違和感を覚えるかもしれないが、まさか脚質自由なウマ娘とは夢にも思うまい。

 

 マヤノにとって気持ち良く飛ぶための、フライト前の入念な計器チェックに過ぎないのだから。

 

 マヤノは無邪気に笑う。

楽しいフライト(レース)の時間までは、まだ余裕があるのだから。

 

 

   ◇◇◇◇◇

 

 

 

2月。G3 きさらぎ賞 マイル 1800。

 

『1着はマヤノトップガン!見事に逃げ切り1/2バ身差をつけて勝利しました!』

 

 1勝ウマ娘はG3ウマ娘となった。

あとは皐月賞の抽選次第だ。

その日のインタビューでマヤノトップガンの次走は皐月賞であると公表した。

クラシックは面白そう!という回答だったマヤノだが、その内心は見た目ほど楽しみという訳ではないだろう。

勝てるから取りに行く。それだけなのだから。

 

「次も逃げ切るから、楽しみにしていてね!」

 素晴らしいです!!と感激するちょっと有名な記者の質問に、適度に濁しながら答えインタビューは終えた。

逆に、並みのトレーナー以上に鋭い観察眼を持った人だと感じられる部分が見られ、トレーナーでなく記者であるのが、不思議に思う人だったということが印象に残る人だった。

 

 

 

 

 

「―――へぇ、マヤノも皐月賞に出るんだ」

 

 でも、ボクが勝つけどね。

モニターを消した少女は部屋を後にした。

 

 

 

   ◇◇◇◇◇

 

 クラシック最初の冠、G1 皐月賞。

ここから3冠を賭けた最初のレースが始まる。

このレースでは最も早いウマ娘が勝つ。と言われている。

 

 あるウマ娘は3冠に至るユメを。あるウマ娘は一族の悲願を。

多くの人の願いを背負いウマ娘が走っていく。

いまだ新人に過ぎない私は、ホープフルステークス以上の熱気に圧倒されていた。

 

 だがきっと、マヤノトップガンが勝つだろう。

担当だからと多少は贔屓目で見ているとしても、間違いなく最も仕上がりが早いウマ娘はマヤノトップガンなのだから。

 

『注目の一番人気!期待のホープ、トウカイテイオー。8枠18番から出走です』

『よい仕上がりですね。調子も良さそうです』

 

『続いて2番人気!マキシムマイティ。5枠11番です。』

『この評価は少し不満か?』

 

『3番人気はこのウマ娘!マヤノトップガン。4枠9番から出走です』

『今回はどんな走りをみせてくれるでしょうか』

 

 

 

『各員ゲートイン完了』

『スタートしました!』

 

『おっと9番マヤノトップガン!大きく出遅れか!?』

 

 逃げウマ娘のマヤノトップガンは大きく出遅れ、バ群の後ろへと取り残されたスタートになった。

 

 

 

   ◇◇◇◇◇

 

 

 

 

『大きく離されてシンガリは9番!マヤノトップガン』

『なにかの作戦でしょうか?』

 

 

『注目の18番トウカイテイオーは前につけました』

 

 

 トウカイテイオーは最も得意な先行策。今回もいい位置につけた。

今回の逃げウマ娘はどこかの逃亡者のように、破滅的な逃げという訳ではないようだ。

このペースならいつも通りに足を溜めて、スパートに備えるだけだ。

気になるのは、逃げウマ娘のはずであるマヤノトップガンが出遅れたのか後方にいるようだが…

 

(マヤノはゲート苦手だったかな…?)

 

チラリと後方を見るが、バ群に埋もれたのか、それとももっと後方なのか、姿は見えず確認できない。

今いない相手のことを考えても仕方ない。

勝負は最終コーナーからなのだから。

 

 

 

   ◇◇◇◇◇

 

 

 

『最終コーナーに入りました』

『ここからスパートですね。中山の直線は短いぞ!』

 

テイオーは最終コーナーで抜け出す準備に入った。

ここからボクの勝ちパターンだ。コーナーを膨らみつつ加速し、直線で一気に置き去りにする。

チラリと左を(・・)見てハナを走っていたウマ娘を抜き去った。ここからテイオーの一人旅だ。

背後に迫る音は聞こえてこない。

 

あと100メートル…50メートル…ゴールは目の前だ。

ボクがサイキョーだ!このまま走り抜けるだけだ!

ムテキのテイオー伝説、その一つ目の冠が今―――

 

 

 

―――シュートダウン

 

 

 背後から迫る戦闘機(ファイター)が、目の前の敵機を撃墜し少しズレることで交わしていく。

テイオーの意識の隙間に滑り込むように、橙の影が内からハナ差を抜け出した。

 

 

『クラシック3冠最初の冠!勝ったのは―――!!』

 

 自分ではない名前を呼ぶ、実況の声はどこか遠くに聞こえる。

 

「…え?」

 

 今何が起こったのか確かめるように、自らの勝利だったハズのものを確かめるように。

トウカイテイオーは掲示板を右から振り返った。

 

 そこには自分のものではない数字が。あるはずがないと思いたかった誰かの番号9と、2着になった自分の番号である18、そして“ハナ差”の表示が。

 

 いったい誰が?ボクは負けた?

 

 

「テイオーちゃん」

 

 

 そこでやっと現実を直視することになった。

 

 

「マ、マヤ…ノ……?」

 

 普段の笑みはせずに真面目な表情のマヤノトップガンがいた。

ボクがサイキョーだって、相手にならないって、意識していなかった相手。そのハズだったのに。

 いつから?どうやって?

後ろに向いても誰もいなかったハズ、だったのに?

 

「まず一つ目だね」

 

 客席に向けて一つ、指を立てる。

ボクがやるはずだった、冠ひとつ取るごとに指を増やす。その勝利宣言を。

 

 ボクは混乱したままで、怒りも、悔しさも、哀しみも何も感じられずただ呆然としていた。

 

 

 

   ◇◇◇◇◇

 

 

 

 無事クラシック最初の冠、皐月賞を制したウマ娘。マヤノトップガンはどう走ったのか?

というと答えは単純である。マヤノトップガンにしかできない走りをしたのだ。

 

 今回は追込の作戦だった。

殿について足を溜める。それから最終コーナーまでを目安にじわりじわりと順位を上げる。

バ群にあえて突っ込み、トウカイテイオーがスパートする直前には真後ろにつけたのだ。

あとはトウカイテイオーの意識がどちらに向くかに合わせて、外か内か少し横に動く。

マヤノはトウカイテイオーがスパートするときは外に、最後の瞬間は内に。トウカイテイオーがどちらに意識が向く方向とは逆に動いたのだ。

あとはスリップストリームだけではなく、トウカイテイオー自身の足音にリズムを合わせて気配を消し、最後の瞬間の油断に合わせて抜き去った。

 

 照準はとっくに合わせているのに、あえて撃墜せず待っていたという訳だ。

間違いなくマヤノトップガンにしかできないだろう。なにせ本人の感覚だけで全てやってのけたのだから。

 本人に聞いても「わかっちゃった」と返ってくるだけだ。誰にも真似できないだろう。

 

 

 

 ウイニングライブを待つ間、スピカトレーナーと少しだけ話をした。

 

「してやられたぜ。まさか逃げ以外もいけるとはなぁ…」

 

私も驚きです。好きに走ってもらうことにしましたので。と返すと驚きを露わにした。

 

「マジか。どうりで逃げウマ娘にしてはバ体が…いやこれは後で洗い直しだな…」

 

思った以上に要注意だったなと呟くのが聞こえてくる。

 

「ともかくおめでとさん、これで新人君も皐月賞ウマ娘のトレーナーとなった訳だ」

 

実感は薄いです、と正直に返すと「そりゃそうだ」と苦笑された。

そろそろ励ましに様子を見にいくわ、と手をひらひらとさせながら去っていった。

 

 

 

   ◇◇◇◇◇

 

 

 クラシック3冠でしか聞けない選曲のウイニングライブを終え、控室でマヤノに改めて「おめでとう」と伝える。

 

「トレーナーちゃん」

 

 ゆっくり振り返ったマヤノは心なしか、少し気落ちした様子だった。

 

「…マヤはキラキラ、してた?」

 

 してたさ。誰よりも輝いていた。

 

「なら、いいのかな」

 

 …トウカイテイオーのことだろうか。

 

「うん。マヤがいなかったらテイオーちゃんは無敗で、皐月賞ウマ娘だったと思うから」

 

 勝つことは誰かの夢を砕くことでもある。トウカイテイオーの無敗で3冠を取る夢は今日、断たれたのだから。

 勝負の世界とは残酷である。それはトウカイテイオーだってわかっていたはずなのだ。

でも私は、マヤノの好きに走ってほしい。

 

 マヤノトップガンのフライト(レース)を、誰よりも楽しみにしているのは私だから。

 

「…もっとマヤにむちゅーにさせちゃうからね」

 

 

 レースは残酷だ。勝ちは最初に駆け抜けた者だけが手にし、他の全員が敗者となる厳しい世界。

しかし誰しもそこにユメを背負い駆けるのだ。

マヤノトップガンがこれからも勝つことになれば、その分だけ積み重なっていく。

 

 今日は同室でもあるトウカイテイオーのことも考え、外泊許可を取った。

寮長からはこればかりは仕方のないことだから。と快く許可が下りたという。

 

 

 

   ◇◇◇◇◇

 

 

 

 やっと自分が負けたのだ。そう自覚し始めた時にはもう、ウイニングライブは終わっていた。

ボクはうまく笑えていただろうか?ちゃんと踊れていただろうか?

控室に戻ったボクは、力無く椅子に座り込む。

 

 ボクはマヤノに負けたのだという、事実が段々と重く、重くのしかかっていくように感じた。

 

 

 

「ボクの、無敗も3冠も……終わっちゃった」

 

 

 その日の晩は、マヤノがいない暗い部屋でひとり、うずくまっていた。

 

 




短いかもしれませんがキリのよいとこで投稿です。
創作は勢い!

本当は3話完結で終わる予定でした。
でもそうすると永遠に投稿しないかもしれない。
モチベの限り、続きます。

名前の出ないモブウマ娘リスト
デンジャーゾビー、タドリツクレガシィ、バンバンシュート、バクソウチャリィ、ハイパワームテキ、クロノシスサーティ、他

次はダービー。


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

クラシック ブレイズ2 追走

続きました(挨拶)


二つ目の冠、日本ダービー。
その背中は誰のもの?


 皐月賞ウマ娘となったマヤノトップガン。

その担当ということで、ささやかながら小さなチームルーム(プレハプ小屋)を使えるようになった。

確かに、ミーティングをするのに雑多な共有部屋を使うわけにもいかない。使えるものはありがたく使わせてもらおう。

たとえ受け取るべき功績に見合うトレーナーとしての力量が足りないとしても。

 

 そんなチームルームは、入り浸るようになったマヤノによって、すぐさま当人の快適空間に変貌を遂げた。

とってきたと思われるゲーセンプライズ(ぱかぷち他ぬいぐるみ群)が置かれたソファ、マーベラス!なものらしい謎のオブジェ(この動物は一体…?)と戦闘機のフィギュアが飾られた棚、謎の葦毛ウマ娘が突然置いていった大漁旗(優勝旗のように置かれた)にマヤノがお祝いで受け取ったらしいお菓子等。

 

 特にあの葦毛のウマ娘、見たことあるような気がするけれど、あんなウマ娘いただろうか?

私が把握していないだけかもしれないが、会話もした覚えもないのでマヤノの知り合いの方かもしれない。

 

 いまだ同室のトウカイテイオーとはろくに会話をしていないらしい。部屋にいないときに戻ったり、起きてくる前に部屋を出ていたり、と殆ど顔を合わせないようにしているとか。

マヤノの感覚的には、もうしばらくかかりそうなのだとか。

同室のライバルというと、恨みつらみの衝動に任せて私物が荒らされるといったことが起きそうではあるが、そのあたりは「大丈夫」らしい。

 

 そもそもトウカイテイオーはスピカ所属なので、そちらが何とかしてくれると信じたい。

同じチーム内ならともかく、別チームの元凶となったライバルがメンタルケアするといった、マッチポンプはよろしくないだろう。

いくら放任主義と言われているとしても、チームスピカにはサイレンススズカをはじめとしたウマ娘達がいて、間違いなく実力派チームを率いているのだから。

マヤノから聞いた話だが、トウカイテイオーがライバル視しているというメジロマックイーンもいるらしい。

私達ができることはなさそうである。むしろ全力を持って相対するように、油断なく備えるべきではないだろうか。

 

 ダービーで対抗バなりえるウマ娘のデータ収集に勤しんでいると、部屋に呼び出し音が鳴り響いた。

 

「あ、マヤノのトレーナーさんですか?」

 

 扉を開けると赤と緑の耳当てをつけた鹿毛をツインテールにしたウマ娘が。マヤノの話によく出るナイスネイチャというらしいウマ娘の特徴と一致する。

はじめまして、と挨拶されたのではじめましてと返す。

マヤノに用があるのだろうかと思い、マヤノなら部屋にいるけどと続ける。

 

「あー…マヤノを少し借りてもいいですか」

 

 少し頬をかく仕草をするのが様になっているウマ娘だ。

どうせなら部屋を使っていいと迎えいれることにした。友人関係の話にトレーナーが同席しても仕方ないので、マヤノに少し買出しにいってくると伝え部屋を後にした。

 

 …お茶でも買ってこよう。

 

 

 

   ◇◇◇◇◇

 

 

 

「おいっすー、マヤノ」

「…ネイチャちゃん」

 

 気を遣って出掛けたトレーナーちゃんを見送って、お互いテーブルを挟んでソファに腰かけた。

 

「ネイチャちゃんがここにきたってことは、テイオーちゃんのこと、だよね」

「そうなるねぇ」

 

 ため息をつきたくもなる。そういう顔しているネイチャちゃんがこうして来る、ということは。

 

「テイオーちゃん、まだダメそうなんだね」

「外面はいつも通り笑顔を浮かべているけど、心配になっちゃって」

 

 さすがのネイチャさんもお手上げですよーと首を振る。

 

「テイオーはさ、折れたら立ち上がらないんじゃないかって、思ってしまうわけで」

 

「…天才肌で子供っぽいから、その確固たる自信が折れたら二度と立ち上がれない。そう言いたいの?」

「…それマヤノが言っちゃう?」

 

 これだから天才ウマ娘は…と小声が漏れてる。聞かなかったことにしておこう。

 

 マヤわかっているから。

私とテイオーちゃんは似ているって。同じ部屋になったのも運命なんじゃないかって、そう思ってしまうくらい。

 

「ネイチャさんみたいな平凡ウマ娘と違ってさ、キラキラしていても折れてしまったら、もう走れないんじゃないかって思ってしまう訳ですよ」

 

「ネイチャちゃんは平凡じゃないよ?」

「…それは今言わないで」

 

 ネイチャちゃんが髪をクルクルいじり始めた。ちょっとハズイと思っているときの癖だ。

 

「マヤノが今言えるのは、テイオーちゃんは立ち上がると思う。それだけだよ」

「…マヤノの感覚は、外れた試しがないのが恐ろしいところですなぁ」

「今すぐかはわからないけれどね」

 

 

 

「マヤノ」

 

 ネイチャちゃんは胸に手を当てて、真面目な顔で言った。

 

「ダービー、テイオーに手加減はしないでね」

「…」

「マヤノにはわかるかもしれないけど、それが一番つらいから」

 

「二度目はもっとつらいかもしれないよ」

「それでも、だよ。誰に対してもそう」

 

 だってウマ娘だから。敵わないって思っても結局は走るしかないから。

 

「…ネイチャちゃんはやっぱりいいオンナだよねぇ」

「ちょっとマヤノ!?それどういう意味!?」

 

 

 

 それはそれとして、そろそろ露骨に避けずに部屋でも向き合ってあげなさい、と言い残して帰っていったネイチャちゃんはとっても優しいウマ娘だと思う。

さすがにやりすぎたかもしれないから、部屋でゆっくり待つことにしよう。

 

 …ネイチャちゃんはやっぱり平凡じゃないよ。平凡なウマ娘が商店街のアイドルになんてならないよ。バーのカウンターに立っていても違和感なさそうだもん。

 

 きっと菊花賞あたりの長距離では手強い相手になるって、マヤわかってるから。

 

 

 

   ◇◇◇◇◇

 

 

 

 トウカイテイオーは最近、すっかり覇気がなくなったように感じる。

考えることを放棄してトレーニングをしているようだが、身が入っていない。

あくまで走るのは本人なのだから、勝つためのバ体作りを手伝うのがスピカとしての方針ではあるが、メンタルケアは専門外なのだ。

 

「テイオーさん、大丈夫でしょうか」

「さぁな?こればっかりは時間が解決するんじゃねーか?ほっとけほっとけ」

 

 相変わらずルービックキューブを回しながらゴルシが言う。

 

「マヤノトップガン、すげぇヤツだったぜ」

「そうね。私たちでも同じことはできないでしょうし」

 

「~~ッ!!じれったいですわね!もう見ていられませんわ!」

「あっおーいマックちゃん…まぁ、マックイーンなら大丈夫だろ」

 

 飽きたと言ってゴルシはルービックキューブをしまい将棋盤を取り出す。

まて。どこにしまっていたんだ?

 

 

「…いっちゃいましたね」

「…で、トレーナーはどう思うワケ?」

 

「硝子のメンタルだというのは薄々感じてはいたからなぁ…そっとしてやるしか」

 

 飴のストックを取り出しながら、まとめたデータを思い出す。

トウカイテイオーは子供っぽい性格だが、その才能は本物だ。今までが圧倒的だった分、もしその才能を上回ってくる天才と相対し、見事にへし折られたなら、立ち上がれるのか。

確かな不安はあった。直接憧れのシンボリルドルフとの並走をして、折れたときは立ち上がった。

 

 しかし今回は状況が違う。今までライバルとも思っていない相手だった。

その衝撃は計り知れない。

 

 トレーナーはメンタルカウンセラーじゃないからな。アスリートとはいえ、多感な時期の少女達であるウマ娘のサポートをする手前、最低限知識を入れてはいるが…

もう少し詰め込んでおくべきだったな。

 

「まー相手が急にバレルロールしたり、ビーム撃ってきてもどうにもなんねーしなー」

「バレ…なんて?」

「いや3モード変形だったか?」

「食べ物ですか?」

「マーヴェリックダゾしらねーのか?」

 

 

「…ゴルシの話はともかく、予想外の戦法ではあったな」

「まるでゴルシちゃんみたいにおもしれー走りだったぜ」

 

 …ゴールドシップみたいな?

こいつは追込が面白いってだけで先行も差しもいけるが。マヤノトップガンがゴルシみたいか?

 

 …ん?いや待て。

逃げウマ娘としては不自然なトモにバ体、デビューとホープフルの逃げ、皐月賞の出遅れからの追込。

ウマ娘の好きに走って勝つ?ただの放任主義にしちゃ出来すぎというか。

 

「そうか、そういうことか!」

「おん?」

「脚質がそもそも【逃げ】でも【追込】でもなかった訳か!」

「どういうことなんですか?」

 

 だとしたら辻褄が合う。これに対策しろなんて無理だ。まずできるウマ娘がいないのだから。

 

「マヤノトップガン、奴は―――

 

 

 

   ◇◇◇◇◇

 

 

 

「テイオー、あなたいつまでうじうじするのですの?」

「マックイーン、ボクは別に…」

 

 いつものテイオーは私とお互いに張り合って、こいつにだけは負けない!そういうライバルだと思っていましたのに。

 一度の敗北。その一度で無敗と3冠、たった一度だけの機会をどちらも失ったのだ。

 

「無敗ではなくなったから、皐月賞を逃したから。それであなたは諦めるのですか」

 

「…………たくない」

「会長に並び、超えるウマ娘になる。その夢も諦めるのですか?」

 

 それはテイオーの夢であり、目標。いつの日かした、勝って見せるという宣戦布告だ。

 

「諦めたくないよ!!!」

「ダービーも!!菊花賞も!!無敗じゃなくたって!ボクは!」

「ボクは…いつか会長に勝つんだって」

「そのためにまずは無敗の3冠からだって」

「マックイーンにも勝つんだって」

「…思っていたのに」

 

 思わぬ伏兵がいたものだ。いままでその強さを全く見せていないというのに。

 

「マヤノさん、強かったですね」

「…うん」

「でもテイオーは彼女のこと、全く眼中にありませんでしたものね」

「ホープフルステークスで一緒に走ったのにね。マヤノのこと、わかった気になっていたかも」

 

 私も今回のことがなければ、逃げウマ娘のスタミナ不足だった。で終わり、気に留めもしなかったかもしれない。

もし天皇賞に出走してきたら、勝てるのだろうか。

(いいえ、私はメジロのウマ娘。勝てるかどうかではなく勝つ。その為に走るのです)

それはテイオーも変わらないはず。

 

「次は勝つ、そうでしょう?」

「うん。勝ってサイキョーはボクだって証明しなくちゃ」

 

 顔を上げたテイオーはもう、いつも通りの彼女だ。

 

 ありがとね。マックイーン。こぼれた感謝は聞かなかったことにして、スイーツ巡りでもしましょうと誘う。

 

「ボクはいいけど、食べて大丈夫?」

「私だってセーブできますわ!」

「ほんとかな~?」

 

 きっともう大丈夫。叶わなかったユメの形を変えてでも、走るのがウマ娘なのだから。

何度心折れそうになっても。諦めずに走るしかないのだから。

 

 

 二人を遠くから見守る影には、気が付くことはなかった。

 

 

 

   ◇◇◇◇◇

 

 

 

 G1レース 東京優駿、またの名を日本ダービー。

 

最も歴史と栄誉のあるレースということで、ダービートレーナーという称号はとても特別な意味を持つ。そうとらえるトレーナーも少なくはない。

 

 クラシック2つ目の冠は、最も運のあるウマ娘が勝つ。

 

 そう言われているが、皐月賞から続きダービーを取る、となるとその難しさは段違いであるということは歴史が証明している。

皐月賞では仕上がりが間に合わなかったウマ娘も、ダービーこそはと立ちはだかることになる。

またはダービーこそ大本命とばかりに、照準を合わせるウマ娘も多いからだ。

 

 ミスターシービー、シンボリルドルフ、ナリタブライアン。

 

 過去に3冠を成し遂げたウマ娘達は、決して他のウマ娘が弱かった訳ではない。

彼女たちが圧倒的な力量を見せつけたのだ。

もちろん記憶に新しい直近のダービーウマ娘、スペシャルウィークやアドマイヤベガが劣るという訳ではない。

マヤノトップガンはいずれ彼女たちに挑むつもりなのだろう。

クラシックでは物足りないかな。と同期のウマ娘に評価を下した彼女は、その前段階として先を見据えているように思える。

しかしマヤノトップガンは皐月賞ウマ娘だ。ダービーこそ大本命という陣営、2冠は絶対に阻止したいウマ娘からのマークは間違いなく多くなるだろう。

チームスピカのトウカイテイオーもまた、皐月賞での雪辱を晴らすという点で侮れない相手になるだろう。

 

 今回は前より楽しめそう。そう笑うマヤノトップガンの枠番は、8枠20番。大外だった。

 

 運すら捻じ伏せる走りができるなら、幸運とは何を指し示すのだろうか。

それは私にはわからない。

 

 

 

   ◇◇◇◇◇

 

 

 

『ついにやってまいりました東京優駿』

『クラシック2つ目の冠。その栄誉をかけて20人のウマ娘がターフに集まっています』

 

『3番人気はこのウマ娘!メガロディケイド。5枠11番から出走です』

『この評価は少し不満か?』

 

『僅かな差で2番人気となりました。皐月賞ウマ娘、マヤノトップガン。8枠20番から出走です』

『連覇なるか?このウマ娘の走りから目が離せません』

 

『1番人気はこのウマ娘!トウカイテイオー。1枠2番から出走です』

『皐月賞は惜しくも敗れましたが、今日の好走に期待です』

 

 今日はボクが勝つ。

ちらりとマヤノを見るが、客席の遠くを見ている気がする。

調子はバッチリ、枠番の運もいい。

リベンジを果たすには持って来いの好条件だ。

2度も負けてたまるもんか。無敗じゃなくなったけど、証明してみせる。

 

 

 

『ゲートイン完了』

 

『今、スタートしました!』

 

 サイキョーはボクだ!

 

 

 

『内から4番フォーゼリゴラ、ハナをきっていきます』

『一番人気トウカイテイオー、スッと上がっていく、6・7番手の絶好位につけました』

 

 トウカイテイオーはスタートした勢いそのまま、先行で良い位置につけた。

 

『2番人気マヤノトップガン、シンガリから5番手、内につけました』

 

 マヤノは先頭にはいない。となると今回も後方だろうか。

コーナーでチラリと後方を伺うと今回は見つけた。後方集団の内を走り囲まれているのが見えた。

今回は追込じゃないのか?しかしマヤノでも複数のマークを抜け出すのは容易ではないはずだ。

背後にいる訳じゃないのがわかるだけマシと言うべきか。

ボクが抜け出す準備は3コーナーからだ。直線の間に外側へコース取りする。

 

『おっと!3コーナーに入ってマヤノトップガン外を加速する!』

『さっきまで囲まれていましたが、気が付くと抜け出していましたね』

 

 3コーナーに入って観客席から死角になるとき、マヤノは右にいた。

「っ!」

目が合ったマヤノはここからスパートの加速に入るのか、そのまま抜け出していった。

マヤについてこれる?そう聞こえた気がした。

このまま差し切り体勢に入っているなら、ボクは追うだけだ。

マヤノを追ってスリップストリームでスパートの加速を得る体勢に入る。

 

『トウカイテイオーも後を追う!』

 

『さぁ最終コーナー、外を抜け出して先頭!マヤノトップガン!』

『トウカイテイオーも続き一騎打ちだ!』

 

 あと600…400…最後の直線、このまま全力で追い抜く!

より深く、力強く踏み込んだ。

 

 

 ピシリと嫌な音が聞こえた気がした。

 

 

「勝負だぁっ!!マヤノッ!!」

 

『後方に3,4バ身差をつける!マヤノトップガンか!トウカイテイオーか!』

『200メートルきりました!いまだ1バ身が埋まらない!』

 

 マヤノを追って懸命に足を回す。いままでで最も早いペースにも感じる。

間違いなく皐月賞より早いペースだけど、まだ脚は残っているのに。

 

 でも、1バ身は埋まらない。

 

届かない憧れに手を伸ばしたあの時(・・・)のように。

 

 この走りはまるで………

 

 

 

『1着はマヤノトップガン!』

『1、2バ身差をつけて2着トウカイテイオー!』

『3着は―――――!』

 

 

『マヤノトップガン!強い走りでをダービーを制し、2つ目の冠を手にしました!!』

 

 2本指を掲げるマヤノトップガン。

 

 その姿は憧れの皇帝(シンボリルドルフ)にダブってみえた。

 

 

 

   ◇◇◇◇◇

 

 

 

 ファンサービスで観客席へ手を振り、投げキッスをするマヤノトップガンに近づくトウカイテイオー。

その足取りは少し重かった。

 

「完敗だよマヤノ。ボクがまた、負けるなんて」

「テイオーちゃんは強かったけど、マヤがもっと強いから」

 

 好戦的な笑みを浮かべたマヤノ。対するテイオーは悔しさをはっきりにじませていた。

 

「…今回は負けたけど、次こそ負けないからね」

「次もマヤ、負けないから」

 

 テイオーから手が差しだされ、マヤノが握り返す。

そこでマヤノの表情が変わる。

 

 

「…テイオーちゃん、ライブは出ちゃダメだよ」

 

 だって、その脚折れてるから。

 

 

 ―――え?

 

 

 その日、ウイニングライブは行わず、検査に行くことになったトウカイテイオーが、全治6ヶ月の骨折と知れ渡ったのは翌日のことだった。

 

 

   ◇◇◇◇◇

 

 

 

 ダービーの興奮冷めやらぬ、黒に近い鹿毛と茶色に近い鹿毛の、2人のウマ娘。

 

「凄い!凄かったねサトちゃん!」

「トウカイテイオーさんもマヤノトップガンさんも強かったね!キタちゃん!」

「ダービー!いつか私たちもあの舞台に立つんだ!」

 

 決意を燃やす少女。あのウマ娘のようにと。

 

「キタちゃんは誰が好きなの?」

「私は――

 

 

 いつの日かトレセン学園に来てしのぎを削ることになる、かもしれないウマ娘。

 

 

「トウカイテイオーさんかな!」

 

 憧れはまだ、遠く。




迷いましたが、とりあえずキタちゃんはここではファンになっていることにしました。


次は菊花賞。かもしれないです。


出てこない出走モブウマ娘リスト
ギファードレイ、バリッドボルケーノ、ブラキジオー、ジャックリバィ、オウデンマンモ、ダブリューグル、ガクウライオン、ツーサイェビル、ジャジャヌコフ、他


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

クラシック アンタレス3 勲章

続きました(挨拶)


次の標的は宝塚記念。
マヤノトップガンは伝説への道を飛ぶ。


 

 

 トウカイテイオー骨折、全治6ヶ月。

 

 ダービーの後でマヤノから「折れてると思う」と聞きはしたものの、それは未だ新人トレーナーと分類される私には衝撃の内容だった。

3冠のうち2つは既にマヤノトップガンの手にわたったとはいえ、あとひとつというところで最有力候補のライバルウマ娘が実質、出走できなくなったのだ。

意地でも勝負を仕掛けてくるであろう相手が、当然のようにリベンジしにくるだろう。そう思っていた。

 

 スピカトレーナーに後で聞いた話だが、怪我の原因はよくわかっていないらしい。

現代でもいまだウマ娘について未解明な部分も多いのではっきりしたことはわからないという。

ウマ娘全体でも、特に身体が柔らかい方に入るトウカイテイオーでも骨折するということは、もしかしたらの話だが、特徴的な走り方に原因でもあるのか、硝子の脚と言われるほうなのか、真実は定かではない。

しかし、文字通り飛ぶように走るというのは多大な負荷がかかりそうでもある。

傍から見れば、人間で言うと常にハードルを飛ぶような走りに近いと思われる。ウマ娘だからできる走りなのかもしれないが。よほど頑丈なウマ娘にしかできないのかもしれないが、まず比べるデータがない。

素人意見ながらスピカトレーナーは「その発想はなかったわ」と有り得ない発想ではないことを認めていた。

 全力で間に合わせる為にどうにかする、それがトレーナーの役割だ。と迷いなく言えるその姿は尊敬に値するトレーナーの鑑であると素直に思えた。

 

 

   ◇◇◇◇◇

 

 

 

 なんだ、なんだあいつは。

 

 マヤノトップガン、あいつはバケモノだ!

あんな奴と私は、私たちは同世代になってしまったのか!

トウカイテイオーですら溢れる才能を感じるヤバイやつだったのに、もっと上の奴が今まで本性を隠していたのか!

ホープフルステークスでは全く片鱗を見せず、ただの逃げウマ娘だったのに!

皐月賞では出遅れて安心していると、いつの間にかトウカイテイオーの真後ろだ。意味が分からない。

 おまけにダービー。

あれはなんだ?

5,6人のウマ娘によって前も後ろも横も、完全に塞がれていたハズだ。

アイツのプレッシャーで焦り、戸惑い、ペースを乱されたウマ娘はその包囲網を崩してしまった。

一瞬の隙に抜け出したらそのまま3、4コーナーを外差し態勢に入ってからのスパート。

トウカイテイオー含め3,4人のウマ娘を抜いてさらに末脚を爆発させ、まとめて薙ぎ払ってしまった。

あれがクラシックウマ娘の出すプレッシャーなのか?

包囲網に加わったウマ娘の誰もが、玉座と紫電を幻視したのだ。

そのプレッシャーも、走りも、まるで。

 

 かつての皇帝シンボリルドルフのようではないか!

 

逃げ、追込、そして差し。複数の脚質で勝つようなウマ娘なんて、冗談だったらどれだけ良かったか!

あんなヤツにどうやって勝てというんだ。

トウカイテイオーが怪我で脱落してしまったら、かつてのシンボリルドルフ、ナリタブライアンの悪夢そのものじゃないか!

 

 

 

―――とあるウマ娘の独白

 

 

 

   ◇◇◇◇◇

 

 

 今後のことを見据えて、仮でもチーム名を決めて欲しいとたづなさんを介しての通達があった。

今はまだマヤノトップガンで手一杯なので、複数の担当を受け持つことは厳しいが、手続きの関係上必要になるときがあるので、チームを名乗ることが許されたのだ。

 どうしよう。悩んでも候補が浮かぶわけもないので、マヤノと相談して決めることに。

 

 

 さそり座α星A、アンタレス。

 

 

 それが現在唯一の担当であるマヤノトップガンが所属するチームについた星の名前だった。

というのも、マヤノトップガンが知っている、伝説的エースパイロットのコールサインに使われた星を選んだだけなのだ。

当然ながら、トレーナー業とウマ娘に費やした半生の若人にその手の知識があるはずもなく、マヤノの好きにしていいよ。とそのまま提出。受理された。

マヤノの父親がパイロットであるという話を聞いたので、その関係かもしれないとふんわり考えていた。

 …マヤノトップガンというエースパイロットが立ちはだかる敵を撃ち落とす戦果(ホシ)を上げる、という意味でコールサイン・アンタレスにあやかるのは悪くないかもしれない。

 そのついでとして、勝負服に撃墜したG1レースの意匠を凝らした勲章をつけていきたいということで、簡素なデザイン案と方向性を書き連ね、専門デザイナーに発注することになった。

 

 

 

 

 余談だが、父親は戦闘機で山岳地帯にあるトンネルを潜り抜けたことがあるらしい。

戦闘機が通り抜けるには狭いと思われるギリギリな幅と聞いた。それは本当に同じヒトなのだろうか?

ひとつ謎が深まったのは言うまでもない。

 

 

 

   ◇◇◇◇◇

 

 

 

 ダービーを終えたが、一大イベントといえるG1レースは残っている。

ファン投票で出走可能かどうかが決まる夏のレース。

 

 そう。宝塚記念である。

 

 多くのグランプリウマ娘を望むレースである宝塚記念。サイレンススズカやオグリキャップを始めとする人気のウマ娘への投票は多いものの、出走の可否は問わないので、実際には出走見送りと決まった時点でその次の順位になったウマ娘が、繰り上げで出走権を得るといったシステムである。

今年も海外遠征中のサイレンススズカは出てこないし、春の天皇賞を取ったメジロマックイーンのように、目標レース以外は積極的ではないウマ娘も勿論不参加を発表している。

 

しかし、現在2冠ウマ娘マヤノトップガンが、クラシックでシニア期のウマ娘に挑める絶好の機会を、逃すハズもなく…

 

「マヤね、宝塚記念に出ようと思う」

 

 宝塚記念には少しだけ感じるものがある。と言われれば止める訳にもいかない。

ウマ娘には運命を感じるレースが確かにあるのだ。ウマ娘の魂に刻まれたレースと言うべきものが。

別世界に存在する平行同位体が関係しているという、正直眉唾物の話もあるが、その真相を知るのは女神のみである。

 

 今回の宝塚記念出走バでの最有力候補は、エアグルーヴ、マチカネフクキタルらしい。

副会長を務める女帝エアグルーヴは言わずもがな、応援券がおみくじ感覚で扱われているが爆発力が恐ろしいマチカネフクキタル。

どちらもチーム・スピカが誇るサイレンススズカとしのぎを削った強敵である。

「今回はさすがのマヤもいけるかわからない」と言うくらいだ。クラシックとシニアの壁はそれだけ厚い。

 そもそもクラシックの時期に皐月賞、ダービーから続けて宝塚記念を取るのはシンボリルドルフすらしていない。正直に言うと厳しいローテになっていることで、マヤノトップガンにもしものことがあったら目も当てられない。

 夏の合宿トレーニング計画は完全に白紙となり、マヤノトップガンのレース対策をどうするかといったコンディション調整に注力することとなったのは言うまでもない。

 

 ひとつ安心できる点があるとするなら、私もマヤノも、負けたら終わりの背水の陣とでも言うべき覚悟を背負っている訳ではないということだ。

 連勝記録を望むファンには申し訳ないが、負けたら負けたでそういうときもある、程度の軽さであった。全力を尽くさないという訳ではない。

 

 

 

   ◇◇◇◇◇

 

 

 

 今年の宝塚記念は、現在連勝中の2冠ウマ娘マヤノトップガンが殴り込みを仕掛けるということで、大きな賑わいをみせていた。

 逃げ、追込、差しの全く違う走りを見せ、今度はどんな脚質を見せてくるのか、と各陣営のトレーナーもウマ娘もファンも、頭を悩ませている。

 クラシックを迎えてからは前からも後ろからも勝つ。という意味不明な戦績という偉業を既に残しているが、ここまでくるとどうすれば止められるのか、を考えるよりいかに自分のペースで勝利を目指すかを考えた方が有意義ではないか。と対策を諦めるしかない。

 チーム・リギルもエアグルーヴ本人のペースを崩されなければ勝てるだろう。というのがトレーナーの評価であり、最強のチームという称号は伊達ではないと、堅実な戦術と対策を持って臨むことになった。

 

 

 

『今年もスターウマ娘が集まりました宝塚記念!』

『1番人気はこのウマ娘!女帝、エアグルーヴです!』

『8枠12番からの出走です』

『最強のチーム・リギル、その実力を見せてくると期待されています』

 

『2番人気はこのウマ娘!現在3連勝中、2冠ウマ娘マヤノトップガン!』

『6枠9番からの出走です』

『本日はどのような走りをみせてくれるか、注目のウマ娘ですね』

 

『3番人気はこのウマ娘!マチカネフクキタル!』

『5枠7番から出走です』

『吉とでるか、凶とでるか、全く読めないウマ娘ですがその実力は本物です』

 

 

 会長のシンボリルドルフは気を付けろと言っていた。同時に気を取られ過ぎてもいけないと。

マヤノトップガン、フライトジャケット風の勝負には見慣れぬ勲章が2つ、新たについている。

どんな作戦であれ副会長として、リギルの一員としての実力を思い知らせるまでのこと。

 

 

『各ウマ娘ゲートイン完了』

『今年のグランプリの称号は誰の手に!今、スタートしました!』

 

 

 

『9番マヤノトップガン、すーっと前に行きます』

『今回は逃げでしょうか?』

『大きく4,5バ身差をつけて逃げるマヤノトップガン!大逃げか!?』

 

 

 

 なんだとアイツは!?かかっているのか?

 

『4番手につけましたエアグルーヴ』

『2コーナー回って向こう正面、依然として縦長の展開です』

 

 いまだクラシックのウマ娘が大逃げか?サイレンススズカならまだしも、そんなスタミナがあるとでも言うのか?

 くっ、どちらにせよ離され過ぎると、差し切って勝つには脚が残るかどうか…

後続にはマチカネフクキタルもいる。このままペースを保ちながら後ろも気にしなければならないとは。

 

『ややペースを落としたかマヤノトップガン、3コーナーに入ります』

『後続との差も詰まってきましたね』

 

 そろそろ最終コーナーだ。このまま差し切る!

 

「シィィィラァァオオオォォキィィサマァァァァッッ!!」

「何っ!?」

 

 凄い形相のマチカネフクキタルが、恐ろしいペースで上がってきた。

今日は“キテル”日だとでも言うのか!?

 

『3コーナー、マチカネフクキタルペースを上げてきた!』

『馬群を突き抜けて上がってきました!』

 

『先頭マヤノトップガン、最終コーナーに入り加速しました!』

 

 こうなるとは思いたく無かったが、マヤノトップガンが加速した。

マチカネフクキタルはスパートに入った私を置き去りにして、マヤノトップガンへ迫っていく。

 

 私は、私は…!届かない…!

 

『驚異の末脚マチカネフクキタル!』

『しかしマヤノトップガン粘る!マヤノトップガン粘る!』

 

『どっちだ!?マヤノトップガンか!?マチカネフクキタルか!?』

『両者ほぼ横並びでゴールイン!』

 

『少し遅れてエアグルーヴ!3着です!』

 

 

『写真判定に入ります』

 

『判定でました』

『1着は…』

 

 

『マヤノトップガン!ハナ差で見事グランプリウマ娘の称号を手にしました!』

『惜しくも2着マチカネフクキタルです!』

『あと数メートルあれば勝敗は変わっていたかもしれませんね』

 

 

 あいつにサイレンススズカの幻影を見てしまった。

それが私の明確な敗因だろう。速さの向こう側へ走り抜ける、そんな姿がよぎってしまったのだ。

 

 マヤノトップガン、間違いなく皇帝に並ぶかもしれない次世代のウマ娘だろう。

今の私ではまだ、スズカに届かないのではないか。あいつの影に動揺してしまった。私もまだまだだな。

しかし、敗者となったが勝者は讃えられるべきだ。

 この燻る思いに蓋をして、先輩をしてできることをせねば。

 

「おめでとう、マヤノトップガン」

 

 

 その日、マヤノトップガンの勝負服に輝く勲章がまたひとつ、増えた。




菊花賞といったな?あれは噓だ。
次回こそ菊花賞です。


まだ戦えると自分を鼓舞して続いております。
次回の更新はいまだ未定です。


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

クラシック トリガー4 三冠

続きました(挨拶)

グランプリウマ娘かつクラシック3冠。
マヤノトップガンは前人未踏の先を行く。


 ウマ娘の史上初、クラシック期の宝塚記念制覇と皐月賞・ダービーに続く変則3冠の達成。という大きすぎる話題で世間は賑わっていた。

 

 次に控える菊花賞も取れば、クラシック3冠なのだ。さらに言うとこの3冠を全て、異なる作戦で勝利した、というのも前例がなく、後押ししているのだろう。

 しつこい記者とマヤノが「いやなかんじー」と言う会社からの取材依頼は全て断っているものの、つても後ろ盾もない新人というこの身ではどうにもならない部分は、たづなさん経由でなんとか手を回してもらっている。

 

 …だけなら良かったのだが、“新人”の“初担当”ということで、同僚の妬みややっかみの声が大きくなった、というのはクラシック路線も折り返しの時期に大きな問題だった。

幸いにして、スピカやリギルといった一部のトレーナーは同情的というよりは、協力的な立場であるのがありがたいことだ。

 昔からトレーナー同士の情報共有がいくら低く閉鎖的と言われていても、人は共通の敵に対してここまで連携できるのかと関心してしまいたくはなかった。

 直接「お前には荷が重い」とか「いずれ才能をつぶす」とか言ってくるのは可愛い部類で、「私なら3冠どころか5冠になっていた」とか「賄賂をいくら積んだのか?」とか言われるのは流石に私も頭にくる。ウマ娘をなんだと思っているのか。

 さすがに手を出してくるトレーナー失格な方々に関しては「資格剥奪!」と理事長直々の追放処分が下された。

 嘘か誠か、のらりくらりと偶々落ちてきた植木鉢すら躱し、犯人を心底恐れさせたらしいマヤノに被害がないのが救いか。

 こうなると以前並走を頼んでいたチームにはもう頼れず、頼ってくれていいと言われたスピカや、これまたチームとして新しいカノープスか、となるが同期のライバルがいるチームには頼りにくい。

 

 本格的にお手上げ状態のまま迎えることなった夏は、意外にもリギルから合同合宿という形を取らないか、と誘いを受けたので夏合宿の間だけ同伴に与ることとなった。

 

 なおマヤノはレースの疲労を考慮してトレーニング自体は不参加である。

要はサブトレーナーのように手伝いをするということである。

リギルのように大きいチームとなれば、人数が多いのでどうしても全体をみることはできない。

トレーナーならストップウォッチを握るくらいはできるだろう。ということである。

 

 

   ◇◇◇◇◇

 

 

 

 ホテルに荷下ろしをした夜。

事前にトレーニングの手伝いをするという話はされていたが、初日は休息となった。

ウマ娘たちは近くの海に出かけたようだが、トレーナー二人、ラウンジで向かい合っていた。

 

「実はルドルフから一度話がしたいから機会を作れないか、と言われてね」

 

 珍しいことにスピカのバカ(スピカトレーナー)からも「お前を頼む」と頭を下げられたとか。

「本来ならば、有能な人材はサブトレーナーとして迎えたいところなのだけど」

 君は断るでしょう?と続けられはい。と即答した。

 マヤノ以外のウマ娘に目を向けてトレーニングやローテーションを考える、なんて余裕が自分にはない。

 

「ウマ娘に寄り添ったトレーニングメニュー、ね」

 

 マヤノのトレーニングに関する資料。全てとは言わないが、まとめた物をリギル・トレーナーに渡した。その資料を見ながらどこか懐かしむように言った。

「放任主義、というよりは色々しているみたいね」

 何事もマヤノのやる気が一番ですから。

それはマヤノの才能を目の当たりにして日々を過ごす中、くだした結論だった。素人の管理主義など足枷にしかならない。下手に縛り付けることはマヤノトップガンの強みを殺すことと同義なのだ。

ならば自分にできるのは、ほんの少しの後押しだけ。コンディションの維持に努めるのがトレーナーの仕事だ。

 

「若いわね。あなたのようにウマ娘を尊重し、任せる方針なんて、なかなかできないわよ」

 あの時、私の初担当のときもそうだった。そう言ったが、初担当といえばマルゼンスキーだろうか。

 マルゼンスキーさんの時は大変だったと噂は聞いていますが。

「あの頃はまだ、クラシックレースの出走制限も含めて、まだまだルール改訂がされていなかったから」

 マルゼンスキーのように海外生まれというウマ娘は、いくら日本に帰化していても出走できない。そういった制度があった。島国特有の排他的な考え、というものだが、いつまでも閉じこもっていては更なる発展はみられない。

さらには地方出身のオグリキャップが出走できない、といったものもあったが、ファン含む有志による強い働きかけの結果、それらは撤廃されたのだ。

 

 あなた達先人のおかげで、今のウマ娘達がユメを追うことができます。

 

「あなたは…誰よりもウマ娘を、担当を信じているのね」

 

 はい。担当を信じてこそトレーナー、でしょう?

 

「…話を聞く限り、リギルよりスピカの方があなたの方針にはあっているようね」

 

 …管理主義ではマヤノのトレーナーには、なれませんでしたでしょうね。

 

「お互い、才能溢れるウマ娘が最初になってしまうと大変ね」

 

 強い輝きは強い影が生まれるもの。賞賛と栄誉だけでなく、恨みつらみも手繰り寄せてしまうものである。他人事のようには思えない状況とも言っていた。この人もまたマルゼンスキーという天才によって苦労したのだろう。

 こうしてリギルからは並走くらいなら良い刺激になるから、と時々マヤノの並走トレーニングを引き受けてもらえるようになった。

 

 それからリギル合宿の手伝いをして、夏は過ぎていく。

マヤノは時々、軽く流す程度に砂浜でのトレーニングに混じったりと楽しんでいた様子だった。

 

 

 近くのちょっと、いやかなり古い宿にはスピカの面々がきているらしい。あのトレーナー私よりも予算と給料あるはずでは…?

 

 

 

   ◇◇◇◇◇

 

 

 

「マヤノトップガン。少し、いいかい」

 

 あと数日で合宿は終わる。そんなある日の夜の砂浜でマヤノトップガンはシンボリルドルフと相対していた。

 振り返ると目に入る長い鹿毛の髪をストレートに下したウマ娘、前髪に入った流星は三日月のようだ。

彼女こそトゥインクルシリーズで史上初の無敗でクラシック3冠を取り、シニアも含めて唯一の7冠を成し遂げたウマ娘。生徒会長シンボリルドルフ、絶対の皇帝。

 

 マヤがいつか、トレーナーちゃんと一緒に撃ち落とす相手。

 

「まずは変則3冠、おめでとう。クラシックウマ娘による初の宝塚記念制覇、見事だった」

 

「ありがとう、ございます?」

 会長さんはテイオーちゃんをまるで我が子のように、相当贔屓目でみている方だから、そちらの話からかなと思ったけれど。

「クラシック3冠も残すは菊花賞。シニアと戦える君にはもはや取ったも同然と言われている」

「マヤノトップガン、君は“絶対”と示す頂点になるだろう」

 

「…マヤは別に、“絶対”になりたい訳じゃないけど」

 会長さんは、“絶対”を体現する後継者を欲している。でもそういうことを聞きたい訳じゃないみたい。

 

「ではマヤノトップガン、君は何のために走るのかい?」

 

「マヤが走るのはトレーナーちゃんの為だよ。3冠なんて正直、どうでもいいけど」

 

 強い相手じゃないとあまり面白くはないけれど、それはそれ。マヤはマヤのことを信じて好きにさせてくれる、そんなトレーナーちゃんだから3冠をプレゼントしたいと思うの。

 

「…君は、傲慢だな」

 会長は苦虫を嚙み潰したように言った。それもそうだろう。

曲がりなりにも、全てのウマ娘に幸福を。そう公言しているのだから。

 勝つことこそが容易く他のウマ娘の夢を踏みにじる、残酷だがレースの必然だとしても。

 

 …でも会長さんは、同世代では足りなかったから、マヤのような相手と戦いたい。そういった“飢餓感”を感じてる。

 今のテイオーちゃんではまだ、相手にならないと認めているから。心配はしているけど。

 

「でも会長さん、レースは残酷なんだよ?誰もかれもが喜びを分かち合える訳じゃない。そうでしょ?」

「わかっているさ」

 

 わかってないよ会長さん。私ならどうやって勝とう、なんて闘志を燃やせるのが当たり前なわけじゃないもん。

 

「だからこそ、君の手を借りたい。生徒会を手伝ってはくれないだろうか」

 

 マヤに生徒会に入れっていうの?

 

「君の力が必要だ」

 

「マヤは嫌だよ」

 

 伸ばされた手は握り返さない。

 

 マヤを誘うのは悪手だよ。それこそネイチャちゃんやキングヘイローさんでも誘うべきだよ。

スペシャルウィークさんみたいに、才能に溢れすぎるウマ娘もあまり良くない気がする。

 当然のようにG1を勝てるウマ娘に、デビューすらできないウマ娘のことはわからないでしょ?

 

 カリスマがあったとしても、生徒会が強者への畏怖で支配するような場所じゃ、ダメなんだよ?

だって、生徒会長(シンボリルドルフ)のユメはノブレス・オブ・リージュという訳ではないし、副会長はどちらもG1を勝つ一握りの方だから。

 寄り添うことはできても、理解はできないのだから。

 根本的に間違えたやり方だって、言っても納得できないでしょ。

 

 だからマヤは応援しないよ。

 

「マヤはトレーナーちゃんの方が大事だから」

 

 

 

   ◇◇◇◇◇

 

 

 

 明日で合宿も終わりだ。最後の夜はマヤノに「海デートだね!」と引っ張られて砂浜に二人きり。

海風にゆれるマヤノの髪は普段のようにツーサイドアップに結ばれず、おろされていた。

波打ち際に立つマヤノの髪は月明かりに照らされ輝いていた。

 その小柄な後ろ姿を見て、私は彼女の担当であることは夢ではないのだと改めて感じた。

 

 マヤノにとってはほとんどバカンスだったが、中々できない貴重な経験をさせて貰ったので、チームリギルには感謝してもしきれない。

明日からはまた学園でマヤと二人三脚の毎日だろう。

 

「ありがとうね。トレーナーちゃん」

 

 マヤノはゆっくりと振り返る。

 

「トレーナーちゃんだから、マヤはここまで走れたよ」

 

 私はなにもしていない。マヤノができることを自由にやっただけだ。

 

「違うよ」

 

 …そう、だろうか。

 

「他のトレーナーさんだったら、きっと息が詰まる思いだった」

「自由に走るなんてきっと、できなかったから」

「トレーナーちゃんみたいな人、他にはいなかったよ」

 

 管理主義のトレーナーだったら、マヤノにとって足枷になったかもしれない。

でも、リギルもスピカも、きっと他にも、良いトレーナーはいたはずだ。

 首を横に振るマヤノは、それにねと続ける。

 

「トレーナーちゃんだけがマヤをどきどきさせてくれるの」

 

 少し顔を下げたマヤノ。彼女だって、年頃の少女だった。

 

「だから、最後までトレーナーちゃんでいてくれる?」

 

 

 もちろん、最後まで。何があってもマヤノトップガンのトレーナーだ。

 

「マヤのこと、ちゃんと見ててね!ユー・コピー?」

 

 月明かりに照らされて、マヤノは笑う。

 

 

 

   ◇◇◇◇◇

 

 

 

 クラッシック3冠、最終戦。G1、菊花賞。

京都で行われる、クラシック路線を締めくくる3000mの長距離レース。

最も強いウマ娘が勝つとされるこのレースを勝利することで、マヤノトップガンはクラシック3冠ウマ娘になることができる。

 

 今期無敗のウマ娘、マヤノトップガン。

既に変則3冠なのだから、1番人気に推されるのも当然だろう。

可愛い顔した魔王に挑む村人の気分はこんな感じだろうか。

 

 トウカイテイオーは復帰が間に合わなかった。

(なーんて、ネイチャさんに人の心配している余裕なんてないですよー)

 

『1番人気はこのウマ娘!5枠10番マヤノトップガン』

『変幻自在の戦術でクラシック3冠最有力候補です!』

 

『2番人気はこのウマ娘!3枠5番ナイスネイチャ』

『掲示板を逃さない好走で、変則3冠ウマ娘を阻止できるか!?』

 

『3番人気はこのウマ娘!8枠18番ラビラビタンタン』

『この評価は少し不満か?爆発力に期待です!』

 

(ネイチャさんは、マヤノトップガンに勝てると言われているのはトウカイテイオーだけじゃない、テイオーがいなくても勝てるウマ娘がいるぞーって証明したいところだねぇ)

 

 ほどほどに頑張りますか。そう気合いをいれて。

 

 テイオー。私は、私達はテイオーがいなくたって強いんだぞ。

 

『各ウマ娘ゲートイン完了』

 

 やるだけやってみますか!

 

 

 

『今、スタートしました!』

 

 

 

   ◇◇◇◇◇

 

 

 

 …ボクが抱いたユメの舞台。

ボクが走るはずだったクラシック最後の菊花賞。

 

 なんで、ボクは観客席(こんなところ)にいるのだろう。

 

『まずは先行争い!4番手につけましたマヤノトップガン!』

 

『先頭を進みます――――!!』

 

 

 マヤノが走っている。ボクがもし、あの舞台で走るとしたらというイメージそのままで。

 

 まるでボクが、菊花賞を走っているみたいなユメの続きをみせている。

 最初の正面はまだ温存。ここから2周目だ。

 

 

 

『スローなペースです』

 

『ナイスネイチャは中団やや後ろにつけました』

 

 

 

 第3コーナーで抜け出し準備をして横に動く、スパートをしかける最終コーナーで抜け出して…

 

『ここでマヤノトップガン動いた!ハナを奪いました!』

 

そのまま直線加速して置き去りにする。

 

 

 

 

『マヤノトップガン!どんどん引き離していきます!』

 

 

『2番手はラビラビタンタン!2バ身後から追いすがる!』

『ナイスネイチャも突っ込んできた!』

 

『強い!強いぞマヤノトップガン!』

『変幻自在の撃墜王だ!』

 

『菊の舞台を制し、クラシック3冠を達成しました!』

 

 クラシック3冠に合わせて、3本の指を掲げるマヤノトップガン。

 

 

『2番にはラビラビタンタン!』

『3番にはクローズグレイト!4番手はナイスネイチャが続きました!』

 

 ボクは夢でも見ているのだろうか。なぜあそこにボクが立っていないのだろう。

 

 

 …でも、ボクは決めたんだ。

3冠ウマ娘に勝ったら、ボクはサイキョーでしょ?だから次は勝つ。

カイチョーと走るんだって、マックイーンと走るんだって約束したのだ。

 

「マヤノ、3冠おめでとう」

 

 サイキョームテキではないけど、ボクの本当の戦いはここからだ。

 

 

 ここから新しいユメを駆ける、そのために。




私はルドルフもスペちゃんも好きです。
なんならスペちゃんが生徒会長とか全然アリです。


あと2,3話で終わる予定
これも全部エボルトってやつの仕業なんだ

※1話目をちょこっと書き足しました。


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

クラシック ガルム5 領域

続きました(遅刻気味の挨拶)

誤字報告も助かっています!見返すと誤字いっぱいであれ?となりますね…
低評価でも一言いただけると、いいなぁ…って



5つ目の冠、ジャパンカップ。
流れ星を打ち落とす、その為には全身全霊を。



 秋シニア3冠のひとつ、G1ジャパンカップ。

 

 

 菊花賞のインタビューで「次はねー、ジャパンカップ!」と元気よく答えたマヤノトップガンに会場は多いに沸いたが、トレーナーとしては疲労と怪我が心配なので素直に頷けない。

 翌日の新聞では【マヤノトップガン、クラシック期に4冠目!ジャパンカップ制覇で皇帝超えの5冠か!?】と盛大に一面を飾った。これが面白くないのは各陣営のプライド高いトレーナー達だ。

 トレーナー向けの寮もあまりいたくはないので、チームルームで寝泊りが増えてきた。

上から見下すようなベテラントレーナーによる説教とでも言うべき、持論を長時間語られたときは、かなり心理的にくるものがあったが、いつの間にか現れた謎の葦毛ウマ娘に助けられた。

やけにお嬢様口調が様になっていたので、実はメジロの関係者と言われても信じてしまいそうだった。

 

 菊花賞の前にはジャパンカップの登録申請を出してしていたとはいえ、菊花賞から約一ヶ月のJC、さらに一ヶ月後は有マ記念。この強行スケジュールに臨むのは無謀である。

 というのはシンボリルドルフという前例が証明していた。タイトなスケジュール、クラシック3冠直後の不調な状態で挑むことになった、シンボリルドルフの数少ない敗北レース。それがジャパンカップ。

 しかしながら、それでも3着となり、合わせても2バ身と引き離されていないあたり、その強さは別格だろう。翌年のジャパンカップで忘れ物を取るように勝利している。

 だがこのレースは海外のウマ娘が挑戦しにくるという、グローバルなレースである。迎え撃つ日本のウマ娘は【日本総大将】といわれるほどだ。特に海外、凱旋門賞で前年度ジャパンカップ覇者のエルコンドルパサーを下した凱旋門ウマ娘ブロワイエがわざわざ来日した翌年のジャパンカップ。

日本一のウマ娘を目標に掲げるスペシャルウィークが、見事勝利したレースは記憶に新しい。

 

 …とここまでレースの度に過去のデータや映像を漁っては、頻繫にチームルームでマヤノと共に鑑賞会が開かれているのは最早恒例行事になっている。

 最近では寛ぐマヤノが「膝枕!」とソファに座る私の脚に頭を乗せてくるので、ゆっくりと撫でることが多い。ついでとばかりにそっと耳を優しくマッサージすると、悩まし気な声を漏らすが、決してうまぴょい(意味深)ではない。しかし私の愛バはとても愛らしいと思う。

 ジャパンカップに出てくるのは、スペシャルウィークとエルコンドルパサー。どちらもジャパンカップで勝利したシニアウマ娘だ。宝塚記念でさえ、マチカネフクキタルを相手にハナ差数センチのギリギリで勝利だったのだ。今度も簡単には勝てないだろう。

 

 私がマヤノトップガンにできるのことは彼女を信じること。マヤノトップガンは私の輝く星なのだから。

 その日、マヤノを膝に乗せたままの私は、疲れがたまっていたのかいつの間に眠っていた。

 

 

 

「トレーナーちゃん」

 

 

「今度はマヤのホントの全力、みせてあげるね」

 

 

 完全に眠りに落ちるその前に、マヤノの声が聞こえた気がした。

 

 

 

   ◇◇◇◇◇

 

 

 迎えたジャパンカップ当日。

 

 東京レース場には日本国内外の強豪といえるウマ娘が集まっていた。

その中でも数少ないクラシック期のウマ娘である、マヤノトップガンは目立っていた。

 「こんなチビは帰っておねんねしな」「クラシックとは冗談だろう?雑魚は大人しくしてな」といった挑発(おそらく)を意に返さず、マヤノは終始ニコニコしていたという。

 不気味な奴だった。とトレーナーは後のインタビューで知ることになる。

 

 今年度は黄金世代と名高いウマ娘がふたり。スペシャルウィークとエルコンドルパサーに期待がよせられていた。マヤノトップガンは伝説の新たな1ページとして、5冠目を手にするのかどうかに応援と批判が半々といったところ。

 

普段の穏やかな様子は鳴りを潜め、スペシャルウィークは強者の覇気を纏っているように見られる。そんな姿を本人へは悟らせず、マヤノトップガンはじっくりと見定めるように観察していた。

 

 (なるほどね)

 

 今日のスペシャルウィークは絶好調のようだ。まともに勝負するとまず、勝てないだろう。そうマヤノは理解し(わかっ)ていた。エルコンドルパサーも脅威ではあるが、度合いではスペシャルウィークが勝る。

あの流れ星のような領域を、どう攻略するか。次に有マが控えているからとはいえ、手札を温存していて勝てるほど、黄金世代は弱くない。スペシャルウィークを抑えられるなら、同様にエルコンドルパサーも抑えられるという予感がある。

 

 他の海外ウマ娘を一瞥しながら、マヤノはゲートへ向かう。

 

 今日の相手はほとんどが初めての相手だ。映像越しでしかマヤノトップガンを理解できていないだろう。だからこそ、使える手札がマヤノにはある。

 

「マヤわかっちゃった」

 

 

 マヤノトップガンは笑う。発進準備はオーケイ、テイクオフの瞬間を待つだけだ。今日も楽しいフライト(レース)になる。

 

『1番人気はスペシャルウィーク!日本一のウマ娘、かつての日本総大将が力を見せつけるか!?』

『流星のような末脚が、連勝に待ったをかけるのか!期待が寄せられます』

『チーム・スピカ注目のウマ娘ですね!5枠7番から出走です』

 

 

『続いて僅かな差で2番人気、マヤノトップガン!今年無敗の5勝、クラシックにして4冠ウマ娘、G1レース5つ目の冠を狙います!』

『変幻自在の撃墜王、その名の通り予測できない作戦に期待のウマ娘ですね』

『皇帝をも超える、前人未到の記録も期待されています』

『8枠14番の大外から出走です!』

 

『3番人気はエルコンドルパサー!』

『凱旋門は惜しくも敗れましたが――――』

 

 

 トレーナーのためにマヤノトップガンは本気になれる。人気順等関係ない。今はトレーナーの一番なのだから。

 

 

 

 

 始まりを告げるファンファーレが鳴り響く。

 

 

『ゲートイン完了しました。まもなく出走です!』

 

 

 

   ◇◇◇◇◇

 

 

 

『素晴らしいスタートです!』

『さぁ先頭争い、フラッシュデッカー、スカイトリガー前に行きます!』

 

 スタートの勢いのまま、スペシャルウィークは中段で速度を抑えた。

エルコンドルパサーは前に、マヤノトップガンは後ろのようだ。

 

 不自然なペースのウマ娘が外からこちらに寄ってくる。接触を回避するため少し下がって躱しながら、第1コーナーへと入る。

 今度は前のウマ娘が不自然に垂れてきたので少し外へと膨らむように躱した。

(…?)

 妨害にしては不自然な動きだが、スペシャルウィークは落ち着いて対処した。

 

 

『第2コーナーに入り、先頭ふたりから3、4バ身あけて、フューチャーガンマ、エルコンドルパサー続きます』

『凱旋門有力ウマ娘フォトンアース、5番手から前へと位置を上げて行きます!』

 

 まただ。なにかから逃げるように不自然に加速したウマ娘がスペシャルウィークを抜いてから失速する。スペシャルウィークは走りづらさを感じていた。

 

 まさか、マヤノトップガンが皇帝(ルドルフ)のようなプレッシャーで目の前にいたウマ娘をけしかけて、スペシャルウィークへとミサイルのように飛ばしたとは、スペシャルウィークにはわからなかった。

 

『向こう正面に入りました!エルコンドルパサー現在3番手』

『中段につけましたスペシャルウィーク、ここにいます!』

 

『シンガリはマヤノトップガン!』

 

 そろそろ直線も終わりコーナーに入る。2つのコーナーからスパート争いが始まるのだ。

 

(ここ!)

 

 直線も終わりに差し掛かるところで、外に動き差し切り態勢に入る。

ここから第3コーナー、加速して位置を上げ、スパートに入る。ここからじゃないと間に合わない!

 

 流星の輝きがスペシャルウィークの身に纏われる、そのときだった。

 

 

 

―――緊急発進!(スクランブル)

 

 

 

 声と共にスペシャルウィークの後方から、ターフは空の蒼へ塗り替わる。いつのまにか大空を飛んでいるかのようだ。

 

(これはまさか、領域!?)

 

 いったい誰の…?ちらりと振り返るスペシャルウィークに見えたのは、4機の戦闘機編隊。

 

 マヤノトップガンが戦闘機編隊を引き連れて迫りくる。

 

 今まで使っていなかった、使わなかっただけなのか、マヤノトップガン本来の領域が展開される。

マヤノトップガンを1番機として、生真面目な2番機、お調子者の3番機、あどけなさが残る4番機が続いていく。

 マヤノトップガンの背後から別れた戦闘機たちは、己の隊長の道をこじ開ける為、流れ星(スペシャルウィーク)を打ち落とす為、前を走るそれぞれの背後を狙い襲い掛かる。

コーナーに入る前にスペシャルウィークの後ろにいたウマ娘達は、背後を取った戦闘機による攻撃を受けた。ミサイルや機銃を掃射したのち、横に躱して次の標的へと迫りくる。

 戦闘機の標的となったウマ娘は例外なく、撃墜されたかのようにペースを崩し垂れていった。

スペシャルウィークも例外ではなく、その攻撃に晒され、流星の輝きは失われる。

前に走るウマ娘達もまとめてペースが崩れたようだ。

 

 やがて役目を終えた戦闘機は華麗にターンを決めて、引き返していく。その際にチラリと見えたコックピットからは親指を立てて隊長に挨拶する様子が。

そして彼らは帰っていくとターフの緑を再び感じることができた。

 それは夢と錯覚するには長い、一瞬の領域によって生み出された幻覚だった。

 

『第3コーナーでしかけるスペシャルウィーク!位置を上げていきます』

 

 落とした筈の流れ星に再び光が灯る。予想外のプレッシャーと壁を躱すのに手間取っても、その加速力は圧倒的だ。

 強いウマ娘との経験はシニアで走っている分、幾度となく経験している。領域の影響を受けただけでは、スペシャルウィークもエルコンドルパサーも止められはしない。

 そろそろ加速を始めるであろうエルコンドルパサーを追い抜かして前へ行くため、ひとり、ふたりと外からの抜いて流星の輝きは増していく。

 

 その後ろを追うマヤノトップガン。流星の残光を道標にしたマヤノトップガンはスペシャルウィークの背後に迫る。

 流星をカタパルトにして、マヤノトップガンは飛び立つ。

 

 

『第4コーナーを曲がり直線に入りました!』

 ここから直線だ。横並びになったエルコンドルパサーと、スペシャルウィークは先頭争いに入った。

「私が!世界最強!デェェェェスッ!」

 負けじと加速するエルコンドルパサーとの競り合いになる。

 

『これから上り坂!エルコンドルパサーを僅かに抜いてスペシャルウィーク先頭!』

 

 一気に駆け上がるスペシャルウィークとエルコンドルパサー。

 

『続いてマヤノトップガン!スペシャルウィークに追いすがります!』

 

 背後を追うマヤノトップガンだが、もうすぐ坂は終わる。全身全霊をかけて走り抜けるだけだ。

 

『内からマヤノトップガンきた!内からのマヤノトップガン!』

 

 直線もあと僅かというところで、マヤノトップガンはいつの間にか、エルコンドルパサーと入れ替わるようにスペシャルウィークの内へいた。

 

 エルコンドルパサーはいないはずの誰か(グラスワンダー)、と思わせる薙刀のように鋭いプレッシャーに体勢を崩されてしまったのだ。そのままするりと入り込んだのはマヤノトップガンだ。観客にもエルコンドルパサーが突然失速したようにしか見えないだろう。

 

 僅かにスペシャルウィークは動揺してしまった。そこで再びマヤノトップガンのプレッシャーがくる。まるで戦闘機に載せられた光学兵器で薙ぎ払われたような感覚だった。

 それでもスペシャルウィークは足を止めない。日本一のウマ娘となった意地があるのだ。

 

『先頭僅かにマヤノトップガンか!?』

『スペシャルか!マヤノトップガンか!』

『マヤノトップガンわずかに内か!?』

 

 

 

「マヤの勝ちだよ、スペシャルウィークさん」

 

 

 

 ゴール板を走り抜ける瞬間に見たのは、ハナ差を先に抜け出したマヤノトップガンだった。

 

 

『勝者はマヤノトップガン!海外と日本総大将すら打ち負かし、クラシック5冠目を手にしました!』

『変幻自在の撃墜王が、流星を打ち落としました!』

 

『1着マヤノトップガンと2着スペシャルウィークはハナ差、2バ身あけて3着にはエルコンドルパサーとなりました!』

『他の追随を許さないマヤノトップガン!ウマ娘の新たな伝説の1ページがまた、作られました!』

 

 

 マヤノトップガンは、新しい絶対になるのだろう。ファンサービスに投げキッスをするマヤノトップガンを見ながら、そうスペシャルウィークは思ってしまった。




次回で本編終了です。


遅くなった理由はライバルが浮かばなかった。これにつきます。
普段小説書こうと思わないからか、勝つか負けるか、ギリギリのちょうどいい相手に迷ったわけですね。

という訳で、もうちょっとだけお付き合いください。


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

クラシック メビウス6 未来へ(終)

続きました(最終話)

トップガン、初めて見てきました。マーヴェリックだけ。
これがエスコンの元になったと言われる作品ですか…
とてもいいですね


 トウカイテイオーが怪我から復帰をしたが、「マックイーンとの約束だから」と有マ記念は回避し、天皇賞春に向けての調整に入るらしい。

 それはもうすぐ有マ記念の出走バが公表される、ある日の自室での会話でなされた話だった。

 

「マヤノ」

 

 これから朝の走り込みだろう。学園のジャージを着こんだトウカイテイオーが、今日はゆっくり眠る日と決めて寝ぼけまなこのマヤノに向けて言った。

 

「なぁに?ティオーちゃぁん…」

 

 ふわぁと欠伸混じりのマヤノだが、話はしっかり聞ける程度に目覚めてはいた。

 

「有マ記念もさ、勝ってよ」

 

「んー?」

 

「マヤノはそのうちボクが倒すからさ、それまで負けないでよ」

 

 それだけ、と振り返らずに出掛けたトウカイテイオーの表情は見えなかったが、ちゃんと前を向いているらしい。

 

(…なんて、テイオーちゃんの夢を知った上でぶち壊したマヤが心配するのは、違う気がするけど)

 

 負けたことで成長した。ユメ破れはしたものの、トウカイテイオーはより魅力的なウマ娘になったのだ。

ただし、骨折のような大きな怪我をしたウマ娘が復帰してG1レースに勝利するのは、一般的に難しいとされている。

トウカイテイオーの戦いはこれからなのだ。

再戦の約束も何年後になるのか、トゥインクルシリーズの間には難しいかもしれない。

それこそウィンタードリームのような特別レースになる可能性は高い。

 

(…あ)

 

 そういえば、理事長が新しい特別レースを開催する準備をしているという話があった。

ダート、芝と距離別全ての部門を用意する、全てのウマ娘が“最も得意な馬場、距離で走れる夢のレース”をということらしい。

 

 確か…『URAファイナルズ』だったかな。

 

 きっと中距離が最も得意なテイオーちゃんとの約束には相応しい場所だろう。

 

(そのためには、あとひとつ)

 

 有マ記念を制し、最強のウマ娘として帝王に立ちはだかる。それはきっと楽しいレースになるのだろう。

 

(簡単には負けられなくなっちゃった)

 

 誰かのユメを、想いを背負うウマ娘。応援するファンに、仲間やライバル、ウマ娘をよく知らない誰かの想い。レースを走り、勝つということは、自覚の有無に関わらずそれらを背負っていくことになる(トゥインクル)になることである。

 

 この日、マヤノトップガンはトウカイテイオーの想いを受け取った。

トウカイテイオーが不屈の帝王となるのは、まだ先の話だ。いつの日か相まみえることになるが、それはまた別のお話である。

 

 

 今日は絶好のフライト日和。窓から見える青空には飛行機雲が尾をひいていた。

 

 

 

   ◇◇◇◇◇

 

 

 

 ジャパンカップや有馬記念をクラシック級のウマ娘が勝利した記録は存在する。しかしながら、宝塚記念をクラシック級ウマ娘が勝利した記録はないらしい。

これに関して確かなことは言えないが、もしシンボリルドルフがクラシック級の間に出走していたら、勝利していた可能性はある。

その場合ダービーを捨てるローテーションにでもしないと厳しいのではないだろうか。

しかしマヤノトップガンは伝説の先へと挑戦する状況になった。

 

 クラシック3冠ウマ娘が同一年度のシニア混合レースでさらに3冠、6冠に挑むという前代未聞の挑戦であろう。

無敗でないことが不思議なほどの大記録。クラシック期で無敗の連勝中だが、唯一の敗北がジュニア最後のホープフルステークスである。

それはともかく、年間無敗での6冠となると話は変わるだろう。

世紀末覇王と呼ばれるテイエムオペラオーの年間無敗、1年間でG1を5勝するという記録でさえ、シニアになってからの話である。

クラシック期はメイショウドトウ、アドマイヤベガ、ナリタトップロードという強敵と同世代になりながら3冠候補の一角であったが、結局のところ皐月賞のみである。それでも十分過ぎる程に凄いことだ。

 ではマヤノトップガンはどうか?

皐月賞、ダービーでは筆頭候補のトウカイテイオーを差し切った。菊花賞もナイスネイチャ他のウマ娘を抑えて勝利した。黄金世代とまではいかなくても、決して簡単に勝てる相手ではなかったが、シニア混合の2大グランプリはさらに難しい。

 

 今年の年末を締め括るグランプリ、有マ記念は名立たるウマ娘が集まる夢のレース。

マヤノトップガンがいくら強くても難しいレースになるだろう。もう決まった出走リストと枠番を確認しながら、あとはマヤノトップガンがレースを楽しめることを願い、観客席から見守ることしか、トレーナーにできることはなかった。

 私がマヤノトップガンのトレーナーなのだから。

 

 

 


 

 

――有マ記念 出走リスト――

 

出走ウマ娘人気順

メジロマックイーン8番

セイウンスカイ5番

シーシーレイオン11番

ダイタクヘリオス9番

ナイスネイチャ10番

グラスワンダー6番

ヒシアマゾン3番

ナリタブライアン2番

コーラフェニクス12番

10マヤノトップガン1番

11メジロアルダン7番

12ゴールドシップ4番

13アクエリアスポーツ13番

14ライフガーディワン14番

15ドスコルペピオン15番

 

 

 


 

 

 

『今年もやってきました年末の最後のG1レース。グランプリ、有マ記念!』

『あなたの夢、私の夢を乗せて15人のウマ娘達が中山を走ります!』

『大注目のレースには3冠ウマ娘がふたり!』

 

『今日、トゥインクルシリーズの新しい頂点が決まります!』

 

 

「なぁ、3冠ウマ娘対決、どっちが勝つと思う?」

「今ノリに乗っているマヤノトップガンは確かに強い。だが宝塚、ジャパンカップよりシニアのウマ娘が多い今回は厳しいだろう。マークする相手が増えれば負担も増える。怪物グラスワンダーも侮れない筆頭だろう」

「どうした急に」

「2大グランプリレースの有マ記念は―――」

 観客席ではふたり組のちょっと詳しいファンの会話が繰り広げられている。

 

 

『出走ウマ娘の紹介に移りましょう』

『1番人気はこのウマ娘!いまだクラシック級にして前代未聞の5冠ウマ娘!マヤノトップガン!』

『変幻自在の撃墜王!自由な脚質で現在6連勝中です』

『宝塚記念、ジャパンカップと続き今回もシニアウマ娘を薙ぎ倒すのか!?』

『新しい伝説となるか!?予測不能な走りに期待です』

 

『2番人気はナリタブライアン!新旧3冠ウマ娘による夢の対決です』

『どちらの3冠ウマ娘が強いのか、今日決まるか!?』

『シニアの格の違いを見せつけるか、目が離せませんね』

 

『3番人気はヒシアマゾン!』

『3冠ウマ娘を纏めて撫で斬りにするのか!?』

『女王のタイマンに大注目です』

 

 

 ゲートインの直前、ナリタブライアンが周りの観察をしていたマヤノトップガンに近づく。

 

「今日のレース、楽しみにしていた」

 

 ニヤリと口角を上げて獰猛な笑みを浮かべている。飢えた獣のようなウマ娘だとマヤノトップガンは感じていた。

 

「ブライアンさん。マヤ、負けないよ」

 

 フッと笑ったナリタブライアンは「せいぜい楽しませろ」と自分の枠番に向かっていった。

途中タイマンだ!という声が聞こえたのはヒシアマゾンか。あの追込は嵌れば厄介な相手だろう。

しかしマークされたら怖いのはグラスワンダーの方。

日本生まれではないハズだけど、鎌倉武士デース!と言われているだけある。こちらを射殺さんばかりの目付きだった。

 

 もうゲートインの時間だ。ふと目線を感じたがセイウンスカイだろう。

マヤノトップガンは振り返らず、ゲートに入った。

 

 

『ゲートイン完了。体勢整いました』

 

 

 ゲートが開かれる。

 

 

『スタートしました!!出遅れはありません!』

 

『まずは先頭争い、セイウンスカイ前に出ます』

『前がぼうっと固まりました』

 

 セイウンスカイさんが前に出る。このまま引っ張る形でペースを握りたいのだろう。しかし、逃げウマ娘はひとりではないのだ。ここはダイタクヘリオスさんを煽ることにしようかな。

マヤノトップガンは背後についてプレッシャーを与えていく。

「ひっ」と小さい悲鳴を上げたダイタクヘリオスはハナを奪い大逃げのペースに変わる。

 

『ゴールドシップ、シンガリにつきました』

『最後方2番手にはヒシアマゾンです』

 

 セイウンスカイさんは嫌そうな顔しているだろうなぁ。そんなことを考えながら中団へとマヤノトップガンは下がっていく。すぐ後ろにはメジロマックイーンさんとナリタブライアンさんだ。

 

『ナリタブライアン好スタートです。中団の外につけました現在5番手』

 

『マヤノトップガンはメジロマックイーンと3,4番手の先行争いです』

 

 ブライアンさんのスパートが一番の強敵だけど、マックイーン・アルダンさんのロングスパートはどうしようもないかな。少しは焦ってくれるといいけど。少し背後をつつくように動きかける。

 

『ハナを進みますダイタクヘリオス!続いてセイウンスカイ』

『2バ身離してメジロマックイーン、メジロアルダン、マヤノトップガンが続きます』

 

『中団の外ナリタブライアン、後方にはグラスワンダー、ナイスネイチャです』

 

 第4コーナーに入ってダイタクヘリオスさんは思った通りさらにペースを上げている。セイウンスカイさんはさらにペースが崩れて、広がる差にマックイーンさんもアルダンさんも本人は自覚していないだろうけど、ペースが上がっている。

 

『第4コーナーから一周目、スタンド前です。ややペースが早いか?』

 

 ちょうど後ろにきたウマ娘の背後に回り、プレッシャーと共にマックイーンさんに仕掛けさせる。

もうひとりはブライアンさんの前くらいで垂れる程度に仕向け(発射し)た。皇帝(ルドルフ)さんのプレッシャー戦術の見よう見まねだけど、このくらいはマヤには朝飯前なのだ。

 後方から様子を伺うナイスネイチャは、一部始終がバッチリ見えてしまった為、「うわ、えぐー」と小さくこぼしたが。

 ここからあと一周だ。ちらりと観客席を見回す。トレーナーちゃんは…いた。観客席で真剣な眼差しだった。

 

『第1コーナーに入りましたが、ダイタクヘリオスペースダウンです』

『変わって先頭はセイウンスカイ!』

 

 いつも以上のペースに煽ったからか、バテて垂れてしまったダイタクヘリオスはマックイーン・アルダンに続けてかわされた。

 

「まじ無理…やばたにえん…」

 

 ごめんねヘリオスさん。セイウンスカイさんを崩すにはヘリオスさんくらいしかいなかったから。

 

 マヤのすぐ後ろにはブライアンさん、グラスワンダーさんか。グラスワンダーさんはブライアンさんをマークしているみたい。

『第1コーナーを抜けてカーブし終えました』

 

『先頭セイウンスカイ、1バ身離してメジロマックイーン、メジロアルダン』

『続いてマヤノトップガン、ナリタブライアンここです』

 

『中団後方にはダイタクヘリオス、グラスワンダー、ナイスネイチャ』

『最後方ヒシアマゾン、ゴールドシップ』

 

 第2コーナーに入り、ブライアンさんのプレッシャーが大きくなってきた気がする。

周りのウマ娘から動揺が感じられた。

 

『第2コーナーカーブから向こう正面の直線に入りました』

 

 ミシリ、と空気が揺らぐ感覚がした。

 

『ナリタブライアン外から上がっていく!先頭まで8バ身の位置』

『ゴールドシップもロングスパート開始か!?』

 

 ブライアンさんの領域が広がっていく!それに続くのはゴールドシップだ。

 

「そろそろゴルシちゃんもまぜろぉぉいっ!」

 

 一歩ごとにナリタブライアンから衝撃が広がっていく。ゴールドシップは振り回した錨をナリタブライアンに投げつけ、引っ掛けるがナリタブライアンのペースは全く落ちない。

 

 ここかな。

 

 マヤノはスパートに向けて位置を上げた。

 

 4番手についてから、マヤノトップガンも領域を広げる。青空が前も後ろも包み込んでいく。

 

―――全機発進(テイクオフ)

 

 マヤノトップガンの背後に現れた僚機達は散開して各ウマ娘へ向かっていく。

 

『向こう正面、中間地点あと800mを過ぎました』

 

 さすがのシニアウマ娘。ゴールドシップが振り回す錨で機銃は防がれている。ナリタブライアンは身に纏う衝撃で戦闘機が近づけない。理解していたけれど、他のウマ娘もこの程度ではあまり効いてないようだ。

 

『第3コーナー、尚も外から上がってくるナリタブライアン!』

『ヒシアマゾンもペースを上げ始めます!ナイスネイチャも続く!』

 

 まずはメジロマックイーンとメジロアルダンだ。壁になると厄介なので早急に撃ち落とさせてもらおう。

ペースを上げたマヤノトップガンは、スパートを始めるメジロマックイーンの背後から加速準備に入った。

 複数の領域同士がぶつかり合い、マヤノの領域もひび割れていく。ナリタブライアンの領域は思った以上に頑丈なのか、まだ保たれている。

マックイーンとアルダンへ3機が集中砲火で垂れてきたのを躱し、2番手だ。

 

 

『第4コーナーカーブから直線に入ります!ナリタブライアンがゴールドシップが、グラスワンダーが迫りくる!』

『セイウンスカイ苦しいか!』

『ナイスネイチャも内からじわじわと狙っているぞ!』

 

 セイウンスカイを躱し、迫りくるナリタブライアンを再び迎え撃つ。しかし強固な領域に機体が損傷していく。焦れた3番機が急接近したが、一瞥したナリタブライアンに砕かれ撃墜されてしまった。

 その隙にマヤノを抜いてハナを奪っていく。

 

『ナリタブライアンが抜けた!マヤノトップガンと一騎打ち!』

 

 マヤノトップガンの領域がさらにひび割れていく。

撃ち落されるごとにナリタブライアンが差を広げる。部隊は壊滅し、残ったのは隊長機(マヤノ)だけ。

 ゴールドシップも、グラスワンダーも迫りくる。

 

 

 もうマヤノトップガンの領域は限界だった。

 

 このままではナリタブライアンに追いつくのは難しい。あと少しが足りないとわかってしまった。

 

 負けちゃうの?ウマ娘が簡単に諦めるの?

 

(トレーナーちゃん)

 

 いくら気分屋でも、強敵と負けて何も感じない訳じゃない。

 今までで最高の舞台。最強の相手。諦めたらトウカイテイオーに失礼だ。

 

(やっぱり、マヤも負けたくないよ)

 

 下げた顔を前へ向け、力を込める。

 

 領域は一度だけ。それはどのウマ娘も変わらない事実。

ただし、特殊な例外はある。領域は進化することがあるらしい。

幼虫が蛹から羽化するように、姿を変える。

 

 マヤノの機体は燃え上がり、ひび割れていた。

 

 燃え上がる炎は青くなり、罅は大きくなっていく。しかし、剥がれ落ちる罅の中から覗く黒い姿が露わになっていく。

 

 それはトレーナーと出会ったからこその奇跡。

 

 壊れかけの領域で今一度、飛び立つ。青き炎の中から、白き1番機は、新しき翼へと生まれ変わった。

 

(トレーナーちゃんと、勝利のその先へ!)

 

 完全に剝がれ落ち、露わになったその姿は、ステルス機に見られる漆黒のボディだが、戦闘機らしかなぬ特徴を持つ歪なモノであった。

 硝子で覆われたコックピットはなく、大型のボディと大型のブースター。まるで未来から来たとでも言うべき不思議な形状である。

 

 例えるなら、黒い鷹とでも言うべきか。

 

 機首が展開し大きな砲台が姿を見せる。収束した光が、勝利への道を抉じ開けるために、薙ぎ払われた。

 これにはナリタブライアンも動揺した。マヤノトップガンは半バ身距離を詰める。

あと少し。

 

『ナリタブライアンか!マヤノトップガンか!』

『ナリタブライアン半バ身を保つが一歩も譲らない!』

 

 なら!こっち!

 黑き翼に格納されていたミサイルカバーが展開され、マルチロックミサイルが飛び立つ。

 

 ダメ押しのマルチロックミサイルを発射して限界だった機体は崩れ去ってしまう。マヤノの領域は完全に砕け散ってしまった。

 

 しかし、ナリタブライアンの勢いを削ぎ、マヤノトップガンはさらに加速する。

 

『マヤノトップガン差し返した!』

 

 最後の最後で、今度はマヤノトップガンが半バ身突き放した。

 

『マヤノトップガン!3冠対決を制したのはマヤノトップガンだ!』

『新たな伝説が並み居る怪物を打ち落とし!グランプリの先へと飛び立ちました!』

 

 

 走り抜けたマヤノはそのまま倒れ込むように膝をついた。

 

『惜しくも2着はナリタブライアン!』

『3着にはナイスネイチャ!』

 

「おっと」

 それを支えたのはいつの間にかいたゴールドシップだった。

「ゴルシちゃんちょっとチューニングが甘かったかなー」

 4着だったしよぉー。じゃ帰る。バイビー。マヤノが立ち上がると、そう言っていなくなっていた。

 

 トレーナーちゃんは血相を変えて走ってくる。

心配したと泣きそうなトレーナーちゃんをゆっくりと抱きしめた。

 

「マヤ、どうだった?輝いていたかな?」

「勝利のその先を、トレーナーちゃんに見せたくて」

 

 うん、うんと頷くトレーナーちゃん。

 

「マヤにもっとむちゅーになっちゃった?」

 

 もうなってるって、言わなくてもわかってる。

 

 おめでとう、マヤノ。その言葉が嬉しくて。

 

 ネイチャちゃんの「ひゅー、お熱いですなー」なんて呟きも聞こえず抱き合っていた。

 

 

 

   ◇◇◇◇◇

 

 

 気分屋なウマ娘がクラシックを盛大に荒らした1年間は終わった。

 

 それから2年間、マヤノトップガンは表舞台から姿を消した。

 

 世間はトウカイテイオー3度目の骨折から復帰した、奇跡の有マ記念で賑わいをみせた後。

 

 ついにURAファイナルズが始まる。

 

 

―――伝説が帰ってきた。




無事完結できました
ここまでこれたのも皆様の評価と感想、なにより見たい人がいると感じられたからです。

後はもしかしたらですが、ちょっとだけ後日談のおまけと設定まとめで、この作品は本当に終わりです。
皆さんマヤノちゃんがうまぴょい(意味深)すると思っておりますが、
しません。

続きは皆様の想像にお任せします。

約一ヶ月と短い間ですが、ありがとうございました!

隣のAG/マヤノテイクオフ


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

おまけと設定
EX01 残光


もうちょっとだけ続くんじゃよ。

実は1話冒頭の加筆と各話前書きいじってきました。気が付いたかしら?

あとついでに仮表紙を置きました。

【挿絵表示】



 

有マ記念を制したマヤノトップガンとチーム・アンタレスは一躍時の人となった。

 

 まるで自分の手柄のように話す者、お前には相応しくないという者、手のひらを返して擦り寄る者もいる。しまいには私のアドバイスのおかげだろう?なんて言ってもいない話をする者もいる始末。 

 この手の類は富と権力と名声にしか興味がない輩なのはわかりきっているので、たづなさん越しに丁重にお帰りいただいた。ついでに理事長に報告である。

 インタビューや独占取材の電話もひっきりなしだが、マヤノがこの人!と決めた人以外は全てお断りしている。おかげで一部週刊誌はあることないこと書いているが、それに関しては、既に名誉毀損で法的手段に出ています。と事後報告と共に、その出版社からの今後一切の取材を受け付けませんという宣言を、チーム宣伝用SNSで公表した。ファンによる追撃も合わさり、該当の出版社は大炎上しているらしい。

 

 マヤノトップガンのクラシック年間戦績はなんと、7戦7勝。うちG1が6つという驚異の大記録だ。

 

 それだけでないのが、マヤノトップガンが複数の歴史を塗り替えたという事実だ。

 まずは年間無敗記録。これに関してはG1レースを6つ含めたクラシック期であるという点だ。過去の3冠バでこの数のG1を勝利したという例がまずない。そもそも無敗で3冠のシンボリルドルフでさえジャパンカップで敗北しているのだ。

 …まずクラシック年度に6つのG1レースをこのローテーションで走ることが極めて珍しい。

 マヤノトップガンが怪我無く走り切ったことが奇跡なのだ。少しの無茶で大怪我に繋がりかねないということは知識あるトレーナーならはっきりと理解しているだろう。

 

 2つ目はクラシック期ウマ娘による宝塚記念制覇。

 

 これは前例がなかった記録である。人気投票上位のウマ娘によるシニア混合レースで競うには、ダービー後の時期ではまず難しいということだ。

 ジャパンカップと有マ記念は既に前例があるので初という訳ではない。

 

 3つ目、クラシック3冠ウマ娘が同一年度のジャパンカップを制覇したこと。

 

 これは意外なことだが、そもそも3冠ウマ娘自体が珍しい例なので、そうそうあってたまるか、と言われても仕方がない。

 シンボリルドルフはともかく、ナリタブライアンはジャパンカップに未だ出走してすらいないので、それもそうかという記録である。

 

 唯一の敗北はホープフルステークスということもあり、無敗の7冠が達成される可能性もあったという事実が議論を熱くさせているらしい。

 

 マヤノトップガンが年度代表ウマ娘に選ばれるというのは、当然の結果といえるだろう。むしろこれで選ばれなかったら人間性を疑われる。

 年度代表となった特典として、新しい勝負服を頼める権利が貰えたが、偶然にも有名デザイナーのビューティー氏の目に留まり、名乗りを上げた翌週にはもう出来ているらしい。

 仕事が早すぎる。お詫びに細かいチェック含めた確認やら調整やらを普段以上に対応する他、1点物のコーディネートもまとめてつけるとか。

 

 表彰式翌日に早速届いたサンセットブーケというらしい勝負服は、マヤノトップガンのためだけの花嫁衣装であった。

 

 正直、ウエディングドレスの勝負服です。と言われて聞き間違いではないかと思い、何度も聞き返して確認をとったところ、本当にドレスであった。

 

 なお、試着したマヤノトップガンによって写真と共に報告を受けたマヤノパパは泣いた。

嬉し涙ではなくガチな方の号泣であった。娘に突然、結婚しますと報告をされた父親の姿そのものであったので、トレーナーは静かに合掌した。

 泣きながら娘の相手は!?と問い詰められる身にもなって欲しい。新しい勝負服なんです。と誤解を解くのに数時間かかった。

 

 

 

 しかし、いいことばかりではないのが現実である。

 

 理事長直々の呼び出しで部屋によばれたトレーナーとマヤノトップガン。URAからの“出走制限”という通達は、本部からやってきた樫本理子氏によってもたらされた。

樫本氏も理事長も、掛け合ったものの取り下げられることはなかったという。

 

 マヤノトップガンの出走は、天皇賞・有マ記念含む一部のレースを除き認められない。

 

 回りくどい言い回しを全て省いた内容は、実質トゥインクルシリーズをほぼ出走するなということであった。天皇賞は認める、と多少の妥協があるあたり、シンボリルドルフに続く7冠ないしはそれ以上の偉業を達成する可能性は、残してあげようという考えが透けて見えるかのようだ。

 悔し気なふたりだが、当の本人であるマヤノトップガンは「わかっていたことだから」と気にした様子ではない。むしろ以前から進めていた新しいレースの方が気になるらしい。

 URAファイナルズ、というらしい新しいレースは早くても2年かかるだろう。ということだ。

 

「じゃあ、それまでトゥインクルシリーズでのレースは走らないから」

 

 いいよね、トレーナーちゃん?と笑顔のマヤノトップガンの様子に集まった大人たちは頭を抱える

こととなった。

 

 URAの上層部が思うようなレースの顔として、または新しい伝説の象徴としてという意図は、気分屋なマヤノトップガンにとってどうでもいいことなのだ。

 

 

 

   ◇◇◇◇◇

 

 

 

 後日、マヤノトップガンがクジ引きで見事引き当てた温泉旅館の宿泊券があったので、ふたりきりのぷち旅行へ行くことになった。

お高めの料理に舌鼓をうちつつ、温泉へ入る。仮にもウマ娘とトレーナーである。余程仲が良いとしても一緒の風呂に、なんてことはしない。

 

部屋ではマヤノが膝に座り体を預けるので、撫でながらゆっくりと過ごした。大型犬を乗せてだき抱える感覚ってこんな感じなのだろうか。

 こうしてゆっくり休めるのは本当に久々な気がする。何かと慌ただしい1年だった。トレーニング、取材の対応、同僚への対応etc.

 新人トレーナーのはずが、急に肩書いっぱいのベテラントレーナーのような状態になってしまったというのに、全くの実感がないのである。

 思えば遠くにきてしまった。

 振り返っても、毎日を必死になってマヤノトップガンのために費やした日々があっという間だった。としか言えないのだ。

 その結果として、トレーナーの誰もが羨む欲しいものを、纏めて手にしたウマ娘の担当になってしまった。

 夢のような日々だ。いつの日か覚める夢のように、平凡なトレーナーのひとりとして特に何も残すことなく何年過ぎたある日に正気に戻り、消えてしまうのではないかと思ったこともある。

 マヤノトップガンは自分には勿体ないくらい、凄いウマ娘だ。

 何故、私だったのだろう。その答えは3女神だけが知るのかもしれない。

 

 夜は布団を並べていたが、しっかり抱きつかれて動けない状態で寝ることになった。

尻尾も脚に絡めて、逃げられない状態だった。逃げはしないが。

 だが、偶にはこういうのも悪くないだろう。

 

 初めての担当となった愛バであるマヤノを抱きながら、微睡に身を任せていった。

 

 

 

   ◇◇◇◇◇

 

 

 

「おやすみ、トレーナーちゃん」

 

 眠りに落ちたトレーナーの顔を胸に抱きながら、マヤノトップガンはこの慌ただしい日々に付き合わせてしまった相手を振り返る。

 

 間違いなく、マヤノトップガンの運命を変えた出会いだった。

 あの日、このトレーナーと出会うことが無ければ、こんなに早くデビューすることはなかっただろう。

 つまらない日々を見送りながら、2,3年後あたりに妥協できるトレーナーを見つけ、デビューを迎えるだろう。

 このトレーナーちゃんのように、自由気ままに過ごす日々なんてなく、トレーニングの重要性を理解させようと根気よく付き合うような相手だろう。

 それまでは夢を追いかける相部屋のトウカイテイオーを、スヤスヤと眠りながら見送る日々なのだろう。不思議なことに、そう確信をもっている。

 トレーナーの長めの黒髪を弄びながら、マヤノは寝顔をゆっくり見れる今を楽しんでいた。

 

「…今だけは、マヤだけのトレーナーちゃん」

 

 来年からは、新しいウマ娘の担当が増えるかも知れない。マヤノに振り回された結果もあるが、随分とトレーナーらしい顔になったと思う。

 

 トレーナーちゃんはマヤが育てた。なんちゃって。

 

 まぁ、真面目なトレーナーのことだ、経験不足を補うことも考え、暫くはサブトレーナーのような仕事をすることになるだろう。

 

「大好きだよ、トレーナーちゃん」

 

 口づけを落とすように、胸に抱いたトレーナーにそっと、囁くように言う。

 もし、違うトレーナーだったとしたら、恋に恋する乙女のマヤノトップガンだったのであろう。

 独占欲の象徴として首あたりに証を残すのも良いかもしれないが、そういう関係になりたい訳ではないのだ。これはきっと、恋を通り過ぎてしまったのだろう。

 トレーナーとウマ娘。この関係だから許されるものが確かにあって、これから数多くの経験と苦難が待ち受けているだろうトレーナーの最初のウマ娘だと、誇りをもって言いたいから。

 愛しさを感じるトレーナーの未来を切り開く翼として、マヤノトップガンは走るのだ。

 

 

 君と。ユメを、想いを、願いを乗せて。マヤノトップガンは走る。

 

 

 今はまだ、ふたりだけの勝利のその先へ。

 

 

 

   ◇◇◇◇◇

 

 

 

 夢を見ている。どこかふわふわとした浮遊感を感じる私は、そう感じた。

 

 壁には無敗の3冠の文字(トウカイテイオーのものだろう)、戦闘機のポスター(こちらはマヤノらしいと思う)。スヤスヤと眠るマヤノトップガンだけがいる部屋。

 話には聞いていたが、ここがマヤノトップガンとトウカイテイオーの部屋なのだろう。基本的にトレーナーは立ち入り禁止な為、中に入ることはないので、たまに聞く部屋での出来事からうかがうことしかできない。

 もし夢なら、会話できるのだろうか?試しに呼びかけてみるのもありかもしれない。幸い、マヤノトップガンはいる訳だから。

 

 マヤノ、そう呼びかけると「うにゅ?」と可愛らしい反応が返ってきた。

 

「…だぁれ?」

 

 寝ぼけまなこのマヤノトップガンはこちらに振り向きながら、そう答えた。

 

 …おや?私の知るマヤノとは、雰囲気が少し違う気がする?

 

「…あ、はじめまして(・・・・・・)トレーナーちゃん?」

 

 はじめ、まして…?混乱する私に「わかっちゃった」とマヤノは続ける。

 

「そっちのマヤは、いいトレーナーちゃんに出会えたんだね」

 

 そっち?やはり私の知るマヤノトップガンではないのだろう。より幼げな性格に見える。

 

「きっとココロだけこっちに迷い込んだよ」

 

 ココロだけが別の世界へと迷い込んだ、ということらしい。不思議なことに、ここは違う未来を歩んだ世界で、トウカイテイオーは無敗の2冠をとったばかりらしい。

 せっかくならお話聞かせて欲しいと言うので。マヤノトップガンとの鮮烈な一年間をざっくりと話すことにした。

 

「いいなぁ、そっちのマヤは楽しそう。マヤもいつか、いいトレーナーに出会えるかなぁ」

 

 きっと、出会える。マヤノトップガンならきっと。

 

「えへへ、なんだか不思議だなぁ。はじめてあったヒトなのに、こんな気持ちになるなんて」

 

 ぽかぽかと胸の奥があったかくなる。不思議だね。そういうマヤノトップガンはやはりどちらの世界でも変わらないのだろう。

 

「そっちのマヤによろしくね!ユー・コピー?」

 

 アイ・コピー。そういつも通りの返事はできず、意識が遠のいていった。

 

 

 

 部屋には寝間着姿のマヤノトップガンがひとり。

 

「…いっちゃった」

 

 そこに慌ただしくトウカイテイオーが帰ってきた。

 

「ただいまー!あれ?さっきまで誰かとお話でもしてたの?」

 

 マヤノの笑い声が聞こえた気がするけど、そう言うトウカイテイオーは不思議そうに辺りを見回すが、誰かがいた跡が何も感じられない。

 あれ?おっかしいなー?電話にしてははっきりと会話していたような?ううん?と首を傾げている。

 

「うん?誰もいなかったけど?テイオーちゃん」

 

「え…?」

 

 不思議そうに返すマヤノだが、トウカイテイオーにとって求めていた答えは帰ってこない。

 

 固まるテイオーの顔がゆっくりと青ざめてくる。いや、まさか。幽霊?いやいや。まさかそんな訳と認めたくない事実がマヤノトップガンならあり得るのだと。

 天才肌でなんでも「わかって」しまうマヤノトップガンは、冗談をあまり言わない。それは今まで一緒に過ごしてきたテイオーにはよくわかっている。

 気分が悪くなってきたテイオーは回れ右して、ゆっくりと部屋を出ていった。いつものマックイーンをからかう姿はどこへやら。耳は尻尾はすっかり垂れていた。

 

 再び静かになった部屋で、窓の外を眺める。

 

 今日は絶好のフライト日和。あの飛行機雲はパパの乗った飛行機だろうか。そう思いながら。

 

 

「…無事に帰れたかな、あのトレーナーちゃん」

 

 泡沫の夢のように、世界を越えて魂だけが迷い込んだトレーナー。きっと3女神のイタズラに違いない。

 

 しかし、育ち盛りのマヤちゃんは、スヤスヤマヤちゃんに戻るのでした。




書いていたら長くなりそうなので、区切りの良さそうなところで上げます。
気がつくと5千字手前ですし。
もう少し続きます。


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

EX02 TM・M/オーダー:3冠ウマ娘

もちっとだけさらに続く


せっかくテイオーを描いたので、自給自足するスタイル。


 

 

「ええっ!?マヤノ、レース出ないの!?」

 

 

 

 新しい伝説となったマヤノトップガン、そのシニア1年目の出走予定は、チームルームにやってきた本人によって唐突にもたらされた。

 

 ここは今日からお世話になることになった、チーム・スピカの部室。

スピカ・トレーナーと交わした契約によって、チーム・アンタレスは開店休業もとい、一時的にチーム・スピカの実質的な傘下となった。本人達の要望によって、サブトレとして手伝いをするという形での業務連携である。

 既にチームとして独立したトレーナーがサブトレーナー業を行うという、順序が逆の異例な事態ではあるが、チームを解体する訳でもなく1年という期限つきだ。

 

「どうやら本当のようですわ、テイオー」

 

 これから放送の時間ですわ。と番組の予定を確認してあったメジロマックイーンは既にモニターをつけて待機している。

 

 顔を向けるとモニターに映るのは、インタビューを受けたマヤノトップガンの姿が。

これは先日行ったもので、今日のこの時間帯まで公表を控えて欲しいという、有無を言わさぬ笑顔による“お願い”の結果である。

 もし守られなかったら?という前例は以前に問題となったインタビュー関係の騒動によって証明されている。

 

『今年でシニア1年目ですが、出走予定はどうなさりますか?』

『既に6冠ということで、皇帝に並ぶ記録に挑む期待の声も…』

 

 記録、世間の期待といったワードが溢れる中、ゆっくりとマイクを持ち上げたマヤノトップガンの様子に、記者たちは期待と共に静かに言葉を待った。

 

『今年のレースは、でないよ!』

 

 衝撃の発言により一瞬、会場が静まり返ったが、すぐに質問攻めが始まり騒がしくなる。

 

『だって気分が乗らないんだもん!』

 

 記録が、栄誉が、といった声は多く聞こえるが、騒がしいインタビューはそのままお開きとなった。

 

 なお去り際にマヤノだけが聞こえたトレーナーへの侮辱をこぼした者は、不思議なことに出版社のスキャンダル発覚で大炎上したという。

 

 

 

「というわけで、1年だけよろしくね!」

 

 混乱からかトウカイテイオーの指先はモニターとマヤノを往復している。スピカ・トレーナーは苦笑いだ。

 心強い仲間にスペシャルウィーク・ウオッカ・ダイワスカーレットは純粋に喜んでいるが、同世代でのライバルで実際に競った相手であるトウカイテイオーとメジロマックイーンは困惑の表情を浮かべていた。

 

 

 

   ◇◇◇◇◇

 

 

 トウカイテイオーの次の目標は天皇賞・春。そこでメジロマックイーンとの約束も果たすという話だ。

 それまではリハビリと共に長距離を走りきるスタミナをつけることになる。スピカ・トレーナーは対決の時まで、今回に関しては並走も一緒のトレーニングも禁止する方向でいくらしい。

 トウカイテイオーにはウオッカとダイワスカーレットが、メジロマックイーンにはスペシャルウィークとゴールドシップが付くが、マヤノトップガンはというと両方を手伝う。

 トウカイテイオーとメジロマックイーン、どちらも間近で戦った相手なのでその走りを再現することがマヤノにはできる。そこでどちらにも肩入れせず、週替わりで仮想敵としてトレーニングを手伝う形だ。

 敵に回ると恐ろしいけれど、チームならこんなに頼もしいウマ娘はいませんわ。とはメジロマックイーン談だ。ひとりで様々なウマ娘の走りを再現できるのは、マヤノの専売特許である。

 もちろん週末はトレーナーちゃんとのデート、という名目でいつも通りレース場に観戦しに行くのは変わらない。

 

 ただひとつ、解決しなければならない問題がある。

 それはスピカ・トレーナーと交わした条件のひとつ、最低でも一人は新しい担当ウマ娘を見つけることだった。便宜上、契約期間の2年間はスピカ所属の扱いになるが些細な問題だ。

 まともにスカウトした試しがないトレーナーには難しい話である。

 

 そんなある日、マヤノから「面白そうなウマ娘を見つけたから連れてくる」という連絡が入り、伝えられた名前のウマ娘について、データを集めることとなった。

 

 

「ミホノブルボンです。よろしくお願いします」

 

 綺麗な姿勢から、機械のように正確で滑らかな動作のお辞儀をするウマ娘。

クラシック3冠を目標に掲げる、スプリンターと言われているらしいウマ娘、ミホノブルボン。

 

 3冠を目標にしたウマ娘トウカイテイオーと、6冠を撃墜したマヤノトップガンに続く新しい3冠候補が、チーム・スピカにやってきた。

 

「私の目標はクラシック3冠です」

 

 表情の変化に乏しいが、確かな意思を感じさせる声である。

 

「クラシック3冠を制したマヤノトップガンさん、そのトレーナーさんであれば私の目標達成に最適なトレーナーである、そう認識しました」

 

 アンタレスの方に入りたいというウマ娘たちについて確認したものの、正直このウマ娘だという子は見つけられなかった。

 初めての担当がマヤノトップガンだったことで、ハードルが高くなり過ぎている可能性は否定できないが、経験不足であることも大きな要因と思われる。

 しかし、マヤノが「面白そう」と言うなら模擬レースだけではわからない、秘められたモノがあるのだろう。

 これからよろしくと、私はその手を取った。

 

 

 

   ◇◇◇◇◇

 

 

 

 ミホノブルボンはスプリンター、らしい。

 

 と、いうのも模擬レースの短い距離で、スプリンターとしての十分な加速力、スピードを既にもっているというのが実態だ。

長距離を走るにはスタミナが足りないが、それを鍛えるなら既に持っている才能を磨くべきだ、というトレーナーばかりだったらしい。

 叶えられるかどうかはともかく、ウマ娘の夢に寄り添い、支えるのがトレーナーの仕事では?と思ってしまうのは、まだ新参者だからだろうか。

 あくまでも走るのはウマ娘達なのだから、他の道が良いと提示されても、納得して選べるかは別だ。どちらがうまく行くかはわからないのだから。

 

 

 現状でスピードは十分、スタミナの問題とペース配分の問題が3冠を取るために最も重要だろうか。

 坂路とプールを中心にメニューを組み、ひたすらスタミナ作りのトレーニングとなった。

 トレーニングの際、マヤノの呟きによって正確な時間感覚があると確信が得られたので、活かせる策を探し、ついにミホノブルボンなら可能であろう戦術を見つけた。

 

 それはラップ走法というものらしい。

 

 決められた区間をペースを維持して走る、というペース走。これを利用してレースレコードを出すためにハロンごとのペースを設定し維持する。

 意図的にレコードを出せるなら、レースも勝てるよね?という理想論の作戦とも呼べるだろう。

 ミホノブルボンが逃げ気質なのもあり、他のウマ娘にペースを乱されることがなければ、デビューは容易いかもしれない。

 

 逃げと言えばサイレンススズカがチーム・スピカにはいるものの、彼女は大逃げなので参考にならない。

 ただこれにも弱点はあって、相手が圧倒的格上だと難しいだろうし、レース相手が想定を超えて強くなられるようなら勝てないこともあり得る。

 

 普通であれば、の話だ。しかし、並走はマヤノトップガンである。

 

 想定外が起こりえるなら、あらゆる想定を身をもって覚えればいい。

 無茶苦茶なことを言っているが、マヤノトップガンだ。当然のように、ありとあらゆる手段でプレッシャーをかけ、焦らせ、ペースを乱すという方法を再現できる天才である。

 人数が多くないとできないトレーニングについては、スピカのメンバーにもたまに協力して貰うことで解決する。

 

 

 こうして後に新たなる3冠の伝説は、着実に始まりが迫っていた。

 

 

 

―――数年後、いつかのインタビューで語られることになる後日談。誰が言ったか分からないが、最も的確な言葉でその伝説はまとめられる。

 

 

 ミホノブルボン3冠RTAと。

 

 

 恐らく【】書きで動画タイトルのように、マヤノ最強や、なるほどわからん、前人未到、(これが一番早いと思います)といった言葉で挟まれるでしょう。

 

 

 大きすぎる爪痕は、マヤノトップガンという伝説に続く鮮烈なアフターグロウで、クラシックを再び荒らすのだった。

 

 

 

   ◇◇◇◇◇

 

 

 

 天皇賞・春、そのレースを目前にしたある日。

 

 トウカイテイオーは復帰レースを見事に勝利し、メジロマックイーンとの“約束”を前に順調に調子を上げていた。

 懸念事項であるケガ再発と、脚への負荷を考慮して走法自体を変えるというのは期間的に間に合わないと、スピカ・トレーナーとの相談の結果判断した。

 スパートの距離を伸ばして加速を緩やかにするという方法で、急激な負荷を減らそうという作戦を選んだのだ。そのためにミホノブルボンと共に、プールトレーニングも多かった。

 本職のステイヤーであるメジロマックイーンやゴールドシップのようにロングスパートとはいかないが、加速力とレース勘は天性のものだ。不利ではあるが、良い勝負になるだろう。

 

 今日はマヤノもブルボンもトレーニングはお休みであり、マヤノがブルボンを連れてお出掛けで不在だった。

 そんな夕方に、勝負服を纏ったトウカイテイオーが待っていたかのように佇んでいた。

 

「キミも座りなよ。ちょっと話したくてさ」

 

 そう言われた私はトウカイテイオーの近くに腰掛ける。

 

 

【挿絵表示】

 

 

「なんか調子くるっちゃうんだよね」

「違うチームのはずなのに、思った以上に全力で協力してくれるし、感謝してる」

「ありがと」

 

 自分はスピカ・トレーナーの手伝いを少ししただけだ。それ以外はほとんどマヤノに任せきりになってしまって申し訳ないくらいだ。

 

「そういうとこだよキミィ。仮にもマヤノは6冠ウマ娘だよ?」

「ライバルに安売りして言い訳?」

 

 マヤノの好きにさせるのが私たちのやり方だから。本当にダメなことではない限り、私が断る必要もないだろう。

 

「…ボクもキミの担当だったら、違う未来もあったのかもね」

 

 少し羨ましいかなと続いたその呟きは、聞かなかったことにした。

 

「ボクはキミたちに感謝をしたい。だから、勝つんだ。マックイーンに」

「それを伝えにきたんだ」

 

 夕陽に照らされたトウカイテイオーはどこか、シンボリルドルフの面影を感じられた。

 

「だから有難く勝負服姿を拝むとよいぞー」

 

 

 あぁ、もしかしたら違う未来で彼女は無敗の2冠、もしくは3冠ウマ娘だったのかもしれない。

 

 

 

 

 

 

 …そんなトウカイテイオーの決意も虚しく、天皇賞・春の盾を手にしたのはメジロマックイーンだった。

 

 ハナ差数センチの2着。本来の運命より壮絶な競り合いになり、僅かな差で負けてしまった。スタミナがついたことで実現した、使わないつもりだった2段階のスパート。それでも届かなかった。

 

 負荷が重なった結果なのか、症状は軽いものの、2度目の骨折となってしまった。

 

 

 そして続く3度目の骨折、マックイーンも不調で屈腱炎が発覚したことで、トウカイテイオーのリベンジするという約束も、永遠に果たされないものになるかもしれない。

 

 マヤノの出走予定は未定のまま更新されず。ファンのモヤモヤは募るばかりかもしれないが、申し訳ないと思うものの、それどころではないのだ。

 一番辛いのはスピカ・トレーナーだ。放任主義とはいえ、不調に敏感なトレーナーが疲れもあってか、不調を見抜けなかったのも応えているようだった。

 

 マヤノの希望もあり、1年限りの契約は2年目に延長されることになった。





アニメのときから思っていたことなのですすが、せっかくなので。

 ウマ娘の成長速度って一般的なヒトど同様という設定、どこかにあるのかしら?
中等部、高等部のくくりはあるものの、実際の年齢が本当に中学生並みかというと疑問に思うのですけど、全く触れる人がいなくてよくわからない。
下手すると中等部でも、普通に1桁台…いや、この話はよそう。
現役を何年続けているかも謎ですが。

まぁ、実際のところその辺り触れると面倒なので、ヒト基準にしてるというのはありそう。

…でもハローさんもたづなさんも年齢不詳だから誤差やな!

考察、反論お待ちしてます。


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

EX03 憧れへの光跡

まだ続きました

てぇんっっさぁいマヤちゃんのミホノブルボン3冠RTAはじまるよー
よーい、スタート



 

 マヤノが出走しない宣言から2年目、世間では出走制限説・ケガ説・引退説、3つの噂に分かれ論争が繰り広げられていた!

 

―月刊ターフ4月号 記事要約

 

 

 マヤノトップガンさんの所属するチーム・アンタレスは、今年いっぱいまで一時的にチーム・スピカの所属扱いで活動するとのことです。

 また、マヤノトップガンさんのためだけの曲について情報が提供されました。

 続報は表記されたURLにて公開とのことです。

 

→URL:http:Antares○○○○…

 

―月刊トゥインクル4月号 乙名史

 

マヤノ:来年になると思うけど楽しみにしててね!ユー・コピー?

 

   ◇◇◇◇◇

 

マヤノ:アンタレスの部屋はみんなの休憩場所として使っているの!

 

 クラシック期 4月後半

 

 記録者:ミホノブルボン

 

 

 チーム・アンタレス、私のトレーナー。いえ今はチーム・スピカの期間限定サブトレーナーというべきでしょう。

 契約の際、困惑しながらも私がマスターと呼ぶことを許してくださいました。

 チーム・スピカでのトレーニングも1年が経過。G1も無事勝利ということで、改めてメモリーに記録したいと思います。

 

 目標であったクラシック3冠の一つ目である皐月賞を無事、勝利することができたのは、マスター及びチーム・スピカの皆さんのおかげでしょう。

 マヤノさんがいなければ、マスターと共にクラシック3冠の舞台に、立つことができたのかもわからないですね。

 

 この1年はひたすらスタミナをつけるトレーニングでした。

 しかしながら、長距離に挑むにはまだ難しい。それがマヤノさんとマスターの意見です。

 既に相手が並みのウマ娘なら勝てる。と太鼓判をもらえましたが、ライスシャワーのように生粋のステイヤー気質のウマ娘が、立ちふさがるだろうとの見立てでした。

 今のところ、よくわかりませんですが、マスターとマヤノさんが言うならそうなのでしょう。

 

 マヤノさん主導のあらゆるプレッシャー対策も、パターン300を超えました。

 マヤノさんはやはり、凄いウマ娘です。

 逃げ・先行・差し・追込、どの走りでもG1を勝利し、たったの1年で6冠を取る。誰もが真似できない偉業を達成してしまいました。

 彼女が「わかっちゃった」と言ったとき、過程を飛ばして回答しているように見受けられます。

 凄まじい直感と、実行できる天才性。彼女ほどのウマ娘なら、皇帝を超えたと言われても納得の凄さです。

 

 

 3冠最初のレース皐月賞は無事終えたご褒美ということで、先日マヤノさんから実際に“領域”について教えていただきました。

 シンボリルドルフさんを含み、過去G1の舞台に立ったウマ娘の多くが持つとのこと。

 強いウマ娘なら目覚めていることが多く、ウマ娘が持つ憧れ、想い、祈り、そういったものが形作ることが多いという話です。

 マヤノさんは他のウマ娘の走りだけでなく、その領域すら再現できるとまで言っていました。

 

 私にも領域の片鱗は感じられるらしいです。よくわかりません。

 相手が目覚める可能性もあるので油断はできません。マヤノさんは、やはりライスシャワーさんが目覚めるだろうと言っていました。

 

 

 マヤノさんの領域は凄まじいプレッシャーでした。

 私たちはターフを走っているのに、どこか違う風景が見える、という経験は未知の感覚です。

 背後から迫る戦闘機に撃ち落される。体を貫く光景が確かに見えたのに、実際にそうではないという不可思議な現象に思えました。

 マスターは、高密度に指向性のもったプレッシャーが、リアリティのある幻覚をみせているのではないかと言われていると。

 実際に走り、相対したウマ娘にしかわからないので、VRゴーグルをかけているのがウマ娘、かけていないのがそれ以外の人々。と表した方が良いかもしれません。

 

 私にもいずれ、“領域”を物にする日がくるのでしょうか。

 先の見えぬ宇宙を、迷いながら旅する宇宙船のような感覚です。

 

マヤノ:ブルボンちゃんが触っただけで機械が壊れちゃうの不思議だね!でもお祝いにゼンマイ仕掛けの懐中時計を買ってきたの!

 

   ◇◇◇◇◇

 

 

 

 クラシック期 7月前半

 

 記録者:ミホノブルボン

 

 クラシック2つ目の冠、日本ダービーを無事勝利できました。聞くところによると、ルドルフ会長以来の無敗2冠ウマ娘であるらしいです。

 私のスタミナが十分戦えるほどについてきた、と実感できました。

 ひとつ懸念される問題はライスシャワーさんです。レース中に彼女の視線とプレッシャーを常に感じますが、彼女もまた驚異といえる力をつけているのも確認できました。

 あれでマックイーンさんと同じ、ステイヤーが本領というのも恐ろしいと言えるでしょう。菊花賞では今までのままだと敗北する可能性は極めて高いと言えます。

 より勝利を確実にするため、私もこの合宿で鍛えねばなりません。

 

 ダービーで一瞬見えた景色、広大な宇宙《ソラ》とそれを翔けるための翼。あれが領域というものかもしれません。

 幼き頃に見た、ヒト型機動戦士が宇宙へと手を伸ばすあのアニメのようでした。無限の宇宙、銀河を越える宇宙船。まだ見ぬ世界へ希望を抱き、未知を切り拓く旅路―――

 

 

 

 骨折明けのテイオーさんが2度目の骨折をしているので、夕方に海を眺めているのをよくみかけます。

「ボクにできなかったことだから、応援してる」と言っていましたが、どこか悔しさと諦観?を感じられました。

 テイオーさんがシンボリルドルフさんのように、無敗の3冠を目指していたという話は聞きました。マヤノさんがそれを阻み、立ち塞がったことも。

 夢を叶えることができるのは、ただひとり。私は、そのレースに全てを賭けるウマ娘に勝てるでしょうか。勝ちたいと、思えるでしょうか。

 

マヤノ:ブルボンちゃんなら大丈夫!マヤだいたい理解っちゃったから!

 

   ◇◇◇◇◇

 

 

 

 クラシック期 10月後半

 

 記録者:ミホノブルボン

 

 菊花賞を勝利し、私の目標であったクラシック3冠という契約は、無事達成されました。ステータス・高揚を確認。父にも良い報告ができます。

 やはり立ち塞がったのはライスシャワーさん。限界まで引き締められたそのバ体は、まさしく鬼が宿っていると形容できます。見るものを圧倒し、怯えさせるオーラを感じられました。事実、他の一部ウマ娘は圧倒され、出遅れが発生していたそうです。

 ふたりだけの競り合いとなったスパートは、やはり引き離すことができず、ラップ走法を投げ捨てての根性で逃げるだけになってしまいました。

 しかしながら、それはマヤノさん達といくつかのパターンをシミュレートした内の、想定の範囲を出ることはありませんでした。

 

マヤノ:結局、マヤの感覚を超えなかったね。もしかしたらをちょっと期待したんだけどなぁ

 

 彼女こそ私のライバル、というものでしょう。彼女がいたから、私はより強くなれたのです。

 私だけの“領域”が初めて完成されました。広大な宇宙と飛ぶ為のカタパルト。戦闘機とヒト型、その中間形態の3つの姿を使い、曲芸のように宇宙《ソラ》を翔る翼。皆さんの声を背に道を切り拓く景色。

 

 しかし、喜ばしいことだけではありませんでした。

 9月にはテイオーさんは3回目の骨折、続いて10月始めにマックイーンさんは屈腱炎の発症。どちらも復帰は絶望的といえます。

 テイオーさんは引退を決意していました。しかしツインターボさんのお陰で年末の有マ記念を復帰レースに、奇跡を起こす決意をされました。

 有マ記念が終われば、いよいよ以前から企画されていたURAファイナルズが、半年ほどかけて始まるということで、マヤノさんは忙しく動いているそうです。

 このミホノブルボン、マヤノさんに任されたオーダーにより、テイオーさんを完璧にサポートしてみせます。

 

 

 

 

 

 

 

 

マヤノ:みてるよ。聞こえているんでしょ?

 

 

 

 

相手になるから、URAファイナルズにきなよ

マヤが撃墜してあげるから

 

シンボリルドルフ




 もうひとつ考えている話はあるのですが、ひとまずここまでといたします。これにてマヤノちゃんの2年間の空白についてのおまけは終わりです。

 URAの後にグランドライブシナリオが始まるという構想ですが、恐らく書きません。



 表紙?

 …ッスー まだかかりそうですねぇ

 おまけのおまけが始まる頃には仕上げたいですね

 私の気分が乗った頃にまたいつか、お会いしましょう!

 追伸:テイオーの挿絵に関する感想もお待ちしております。


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

☆設定まとめ

雑多な設定まとめを詰めるだけいれました。
質問もあれば追加されます。たぶん。

残りのおまけは未定。

仮置きされた表紙ラフは完成したら差し変わります。

9/20 ミホノブルボンについて追記。

11/6 IFシナリオの解説枠を現時点分まで追加。完結したら追記予定。


 ◇◇本作のきっかけ◇◇

 

 

 天才キャラの子が最強へと駆け上がる。という点では、非常に良い素材と思いました。

けれどもマヤノトップガンが、となるとほぼないですね。

 やはりドラマもあるし、有名だし、という点でもサイレンススズカやトウカイテイオー、シンボリルドルフのような子の方が多くなりますよね。

あと本筋を大きく外れないという点では、似たり寄ったりになってしまう欠点はあるものの、やっぱり好きな子書きたいよねと思うと頷けます。書きやすいもん!

 

 つよつよマヤノちゃんが生まれた元凶トップ3

元凶1、某スズカさんとマヤちゃんがカワイイ作品。マヤちゃんがとても可愛い。続き、待ってます。

元凶2、あほあほ栗毛ちゃん。可愛い。

元凶3、最近のめっっっっちゃ強いスペちゃん。執筆のやる気スイッチ入りました。

 

 

 原案の時点でまだアオハルまでしかシナリオがなかったので、クライマックスシナリオ実装でだいぶ助かりました。

追込みや差し育成が楽しくなったのはいいですが、やっぱりマヤノちゃんの活躍する小説は少ないよね…

 最初はざっくり、とりあえずクラシック3冠、そこからシニアで春秋天皇賞と有馬あたりかな。くらいに予定していました。そこから宝塚はいけるのかな?史実でマヤノトップガンの勝利レースにあるやん!入れよう。となってこうなりました。どうして?

 

 

 あとは私の拙い文章でどれだけ描写できるのか、という点ですね。

筆者は馬も戦闘機も詳しくありません。エスコンはTASさんで履修したくらいのふんわり知識です。

大まかな展開は決まったし、とりあえずレース映像とかみて考えるしかないや…

 

 本作の根幹をぶれてはいけないのもあります。ウマ娘といえば、想いや夢を乗せて走る。

そう、2期OPの「ユメヲカケル」です。

歌詞を思いだしながら、悩みに悩みました。残念ながらチームメンバーはマヤノトップガンのみですが、歌詞を大きく逸れてなければいいな…

 

 再三と言いますが、筆者は絵描きです。これを投稿するころに本来の垢名にもどっているかと思いますが、普段は読専です。レースのシュミレートはできても文章に出力するのはちょっと…

しかし、この内容のような作品はもしかしたら一生生まれないかも?

3話完結の予定だったけれど、書けるところまで仕上げて投稿するしかねぇ!

 

で、できあがった訳ですね。

 

 

 

 ◇◇キャラ設定◇◇

 

・トレーナーまとめ

 

 新人。サブトレ経験なし。名門出身でもなく一般枠。研修時の先輩がスピカトレーナーという設定。

アプリトレーナーより明らかに才能はない。が視野は広い。

しかし本作のマヤノとの相性という点ではパーフェクトな対応ができる、ただそれだけ。

アプリマヤにトレーニングの重要性を理解させるとかは恐らくできない。

 

明確に男性とはきめてない。女性も全然ある。

性別をしっかり明記してないのはそれが理由。

自称ベテランの先輩からパワハラを受けると考えると、新人トレのほうが舐められやすさ的にも都合が良さそうかなぁと思っていた。

しかし、マヤノとはお互いに一目惚れというべき関係性である。

マヤノトップガンにウマ娘観をぐちゃぐちゃにされた被害者と思うと、この先のトレーナー業が心配される。

しかしその手腕は解っちゃったマヤノトップガンによる調きょ・・もといパワーレベリングによりベテラントレーナー手前にされている。

 

 

 

・マヤノトップガン

 

 アプリで見られる本来のマヤノより、本作は精神的に成熟している。

URA制覇したけどシニア路線は走りません。

初めはつまらないから楽しみたい、だったが次第にトレーナーの為にと変わっていきます。

こいつらいちゃいちゃしてら。

 

本作のマヤノトップガンは完結時で8勝1敗と、ホープフル以外負けていませんが、負けないわけではありません。全盛期ルドルフのような圧倒的格上や、何があっても崩れない同格以上のウマ娘にはあっさり負けます。

他作品に触れ過ぎるのもアレなので、具体的な強さは言えませんが圧倒的強者として覚醒している系には所見では勝てません。(同期は除く)

 チートみたいな強さで無双する話にしてないのは、好みです。散々読み漁ったなろうでお腹いっぱいなのもありますが、単純に余程上手く書ける人でない限り、単調でつまらないものになりやすいからですかね。

 

 マヤノステータスをアプリで例えると

クラシック皐月賞時点で平均B+賢さS+ 金スキル5つくらい

常にプレイヤーの2ランク上からステの暴力で襲いかかるイメージ

脚質がランダムで決まるのに絶対に垂れない恐ろしい存在。

固有スキルは普段隠していて発動しないという手加減。ラスボスかな?

 

 急遽採用した本作のみの固有スキル(領域)

仮名称 スクランブル・ゾーン

元ネタはエスコンよりハートブレイクワンの隊長離脱後にブレイズが隊長機となり…

という編成。マヤノ≒ブレイズとなり4機の戦闘機編隊を引き連れる

このためにサブサイで仕込みを行った必要があった訳ですね(違います)

有馬で覚醒したマヤノ≒ブレイズはあの伝説の超兵器、ADF-01に変化する(スタ○ドでいうレクイエムと思っていただければ)

ジャパンカップ時点で片鱗は見せていましたが、不完全なまま。

 

 マヤノトップガンの作戦

当初はクラシック3冠をBNWの再現でという案でしたが、アニメの時系列的にボツに。

ブルボンとライスも同様の理由でボツに。

きさらぎ賞はツインターボ、皐月賞はゴルシ、ダービーはルドルフ、宝塚はサイレンススズカ、菊花賞はテイオー、ジャパンカップはシービーとかモンジューあたりだったような。

有馬記念は史実のマヤノを元に作りましたね。

 

 

 

・本来のテイオー

 

マヤノトップガン最大の被害者。

皐月で動揺、ダービーでぽっきり。じっとり病みテイオー。僕の王の力が(違う

でもスピカパワーで蘇って!

本来はもっとボロボロなる予定だった

そういえば同室だし、スピカ書きたい。そう思うといつの間にかマイルドに

 

 

√闇王ルート

 

 アンチ・ヘイトタグがある最大の理由。以下反転。

 

皐月敗北→今までは手加減?→憤怒のダービー、本来以上に全力でボロボロに→

夏、無敗の2冠を取った世界の夢を見る→マヤノがいなければ?→最近のテイオーが怖い。と噂に

→菊花賞に復帰間に合わず→春天までの復帰もできず→宝塚記念で復帰。脚を砕きながら勝利

→復帰後の有馬記念で再戦。復讐鬼になったテイオー

 

 …ボツですわね。おまけでも私は書きません。

 

 

・ナイスネイチャ

数少ない理解者としておきたかった被害者2。バーテンダー兼ママさんが似合うウマ娘ナンバーワンですわね。

菊花賞でテイオーのありえたかもしれない姿を見せられるという地獄でも、関係が悪化していないしたたかなウマ娘。

 

 

・エアグルーヴ

 エアグルさんかドーベルちゃんか、で考えたらこちらになりました

スズカさんと対決した関係者二人を並べたかったのと、単純に書きやすさ、あとアニメ。

 

 

・マチカネフクキタル

 もしマヤノではなくスズカなら、もっと引き離したかもしれません。

竹さんではないときのスズカの走り、というイメージで走らせたとき、フクキタルなら劣化スズカに勝つのでは?と思った次第。

表記はないですが、マヤノがペースを崩した。

ストーリーの都合を考えてハナ差数センチで勝たせかったので、スズカに勝てる凄い相手が欲しかった。

 

 

・シンボリルドルフ

 領域(固有スキル)の話をさせる…という便利な解説ポジションを予定だったテイオーパパ。

四字熟語はぱっと浮かばないので正直喋らせたくなかった子

何故か生徒会を全否定する話に。なぜ?

 

 

・スペシャルウィーク

 ジャパンカップで対決させるのはいいが、出来れば格上であって欲しい。かつ、アニメ時空をあまりいじりたくはない。領域の初披露も急にしたくなってきた。せや!スぺちゃんにしよう!

と思いつく限りを詰め込みました。

 

 

・エルコンドルパサー

黄金世代でジャパンカップ…といえば、の選出。

といっても消去法なのだが。グラスとスカイは有馬、キングは短距離マイルで走るなら…と考えると他にいませんでした。ツルちゃん?わからないのでナシ。

グラスのプレッシャーをを再現したマヤノの被害者に。

 

 

・セイウンスカイ

 自由気ままに見えて戦略をじっくり練るタイプ。とするとマヤノトップガンが天性の感覚で全てぶち壊しにくる被害者。

絡ませる予定があった名残。

 

 

・グラスワンダー

 一方的にライバル視している鎌倉武士。マヤちゃん的にも要警戒対象ではあるものの、ナリタブライアンという明確な脅威と比べるとどうしても…

チーム・リギルであったのが最大の敗因。

 

 

 

・ナリタブライアン

 ラスボス。マヤノトップガンを語る上で外せない相手といえばというウマ娘。

本作ではマヤノトップガンのデビュー等時系列が歪んでいるので、より手強い相手にしておきました。

 

 

・ゴールドシップ

 謎の葦毛ウマ娘。

ゴルシ語は難解なので思考シミュレートを諦めましたが、陰ながらトレーナーちゃんを助けてくれる正体不明のウマ娘さん。

なおマヤノには最初から気づかれていた模様。

なにさせてもゴルシだから…で解決するあたり便利なキャラですよね。

 

 

・チームスピカ

 書く予定はなかったその1。

テイマク関連でやっぱり小話入れたいなと思い追加。

新人トレの先輩ポジションに置くには非常においしい。

テイオーの闇ルートがボツになった最大の要因。

 

 

・チームリギル

 なんやこの厨パァ!といいたくなるレジェンド欲張りセット。

苦労も実績もある女性トレ、という非常に理解と共感を得られそうなトレーナーなので書きたくなった。

 

 

 

・モブウマ娘

 主にネタで雑につけられている

エグゼイド、リバイス、ビルド、ウルトラマン、ボトルマンDXより。

全部わかったかな?

 

 

・マヤノパパ

 別にブレイズとかトリガーとか呼ばれてはいない。

アプリでもマヤちゃんにウエディングドレスの自撮りを送られているのかわいそう。

パイロットの話はあるけれど、別に戦闘機乗りではなかったはず。

いったい何クルーズ似なんだ…

 

 

・ミホノブルボン

 

 期待新人サイボーグウマ娘。マヤノの気まぐれによって鋼の意思で他を圧倒し、レースレコードを出しまくるミホノブルボン育成RTAが始まってしまった。

なおさらに強くなったライスシャワーの出番は消えた。

ちなみに3冠までスピカの手伝い中なので、表向きスピカの功績となっている。

 スピカトレは「そういう契約ではなかったはずだけど」と後に語っている。

 本作では領域が変化して、マ〇ロス的な戦闘機がブルボンを追従するように飛ぶ。

 

 

 

 

 ◇◇その他の要素◇◇

 

・世界線

 アニメ時空よりのアプリ時空、という感覚でふんわり。

あと数年待っていたら、アプリマヤノトップガンルートが始まるかも?

 

 

・参考レース

 トウカイテイオー、マヤノトップガンのレースから枠順、着順、人気順をつけたりをしばしば

3冠以外は後付けで構成されています。

 

 

・サブタイトル

 メビウス ブレイズ トリガー ガルム ファルコ アンタレス ガルーダ ウォーウルフ

といった歴代のAC主人公コールサインより。

例外のハートブレイクワンといえばあの隊長機。テイオーのハートブレイクとかけて、ダブルミーニングってやつですね。あくまでマヤノがブレイズ枠であるのもここから。ホープフルでは文字通り、掲示板の“ブービー”だった訳なので。

 

トップガンネタがないのは、そもそもトップガン未視聴だからですね。

唯一みたのは完結目前にマーヴェリックのみ。

エスコンはTASさんでふんわり履修しました。

 

 

 

 

 ◇◇気分屋マヤノちゃんIF√◇◇

 

 

 新しく生えたIFシナリオ。基本的に本編の再構成を元に加筆修正をする方針。

 なおレース描写は疲れるので全カット。

 新人トレーナー君ちゃんは本編より同業の恨みを買うことに。

 殺害予告十数件、未遂数件が既に発生しており、本編よりストレスがマッハである。どうしてこんなことになったのやら。

 

 

 ・マヤノトップガン

 本編のところで散々語ったので、基本的に語らない部分はほとんど同じ行動をしている。とみて構いません。

 テイオーがいるのでルドルフ関連の問答して険悪になったりはしてない。

 本編とはローテーションや出走レースそのものが違うので、どの程度本気を出しているかは当人しか知らない。

 

 

 ・IF√トウカイテイオー

 IFシナリオが生えたきっかけ。本編と違い、チーム・アンタレスはマヤノひとりじゃなくなったことで、あくまで仮ながら部屋まで使えるようになった。

 本来ならば4,5人は必要らしいが、本作はアオハルシナリオではないので。

 本編ではできなかった、無敗の3冠を目指し走り続ける。

 

 

 

 ・アストンマーチャン

 IFシナリオに追加された3人目。

 これがやりたかったので、考えていたら突如実装され、この子以上に相応しいウマ娘はいないので、本来の予定キャラから変更された。

 アクセス権限がありません。

 

 

 

 ◇◇Q&A◇◇

 

 >>質問がきたらここに増えます。<<

 

 Q.うまぴょいしたの?うまぴょいしたんですね?開けろ!うまぴょい警察だ!

 

A.うまぴょいしないって言ったでしょ!!

 

 

 

 Q.海外挑戦しないの?

 

A.しません。ジャパンカップでも海外勢を纏めて薙ぎ払ったので。

 

 

 

 Q.6冠で終わりなの?

 

A.トゥインクル・シリーズに関しては、もう走りません。なのでドリーム・リーグ等で増えることはあり得ます。

 

 

 Q.デンジャーゾーンが流れそう

 

A.流れるのはエスコンの方だと思います。そもそも聞いたことがない。

 

 

 Q.ミホノブルボンとライスシャワーは本作だとどれくらい強いの?

 

A.菊花賞時点で本来の春天マックイーン(2連覇)より強いです。

 

 

 Q.もしもトウカイテイオーが担当ウマ娘だったなら?

 

A.IFシナリオの分岐します。

 

 

 Q.3人目は生贄ですか?

 

A.そんな訳ないでしょう。解釈違いなのでお帰りください。




アンケート結果にお答えしていれました。
表紙は未定。


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

異聞:気分屋マヤノちゃんたちがクラシックを荒らす話。
IF01 分岐点


アイデアが生えてきたIF世界線です
模擬レース後から分岐√
ネタバレは野暮というものさ。くれぐれも内密にね。
気分次第で続く。


 

 おや?見知らぬ誰かさん

 

 あぁ、どうしてキミはここに気がついてしまったんだい?

 知らなければ良かったと、後悔するかもしれないよ?

 

 物語は終わった。これはその続きではないのに

 

 これは夢だ。夢をみている。

 

 

 どんなに良いハッピーエンドとして描かれたとしても、それは存在しない未来だ

 だってこれは、夢なのだから。

 ふむ。せっかくなのだから、ちょっとした遊びをいれてみよう

 面白いかどうかは、保証しかねるがね

 

 【エラー:演算を停止】

 

 【シミュレート:2080541967番Tの終了】

 

 全てが終わってから、改めてくるといいさ

 

 諦められず、閉じ込められたユメの片鱗が見せているのだろうか。

 

 

 

 【入力値を変更。再試行を開始…失敗】

 

 

 

 もしもがあったなら、ボクは。

 

 

 

 【演算開始地点を変更】

 

 

 

 あの日、マヤノの話に乗っていたら。

 

 マヤノとボクは、違う関係だったのかもしれない。

 

 

 

 

 【目標設定:無敗の3冠ウマ娘固定】

 

 

 

 

 

 キミとだったら、運命だって越えていける。

 

 仲間でライバル、2人じゃなくて3人で。

 

 キミもボクも、無敗で3冠で。新しい伝説を、勝利のその先へ。

 

 そんな未来もあったかもしれないって。

 

 

 

 

【分岐点:マヤノトップガンで再検索】

 

 

 

 

 

 これは泡沫の夢。ありえざる平行世界の記録。可能性の片鱗。

 

 始まりを告げるファンファーレが、鳴り響く。

 

 運命(はじまり)の日、気分屋ウマ娘(マヤノトップガン)の気まぐれが、物語の分岐点だった。

 

 ここはそのありえざる記録の観測点。

 

 

 

 

 

 

 【エラー:不正アクセスを確認】

 

 

 【行動予測にエラー発生…再演算開始】

 

 

 

 

 

 

 

 いま改めて。キミとユメを翔けるよ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 きっと、今度はうまくいくから。

 

 

 

 【因子継承を開始…】

 

 【演算入力を開始】

 

 【新しい行動分岐を確認】

 

 【シナリオ:■■■繝輔ぃ繧、繝翫Ν繧コにエラー】

 

 【繧キ繝翫Μ繧ェ?壹Γ繧、繧ッ繧「繝九Η繝シ繝医Λ繝?け繧偵Ο繝シ繝】

 

 

 

   ◇◇◇◇◇

 

 

 

 本日は次のデビューへの足掛かりとなる選抜レースの日。

 

 待ち望んでいた運命の日。観客席を見つめるウマ娘がひとり。

 

「みつけた」

 

 トレーナーを見つめるウマの呟きは、空に解けていった。

 

 

 

 

 あの人だ。

 

 

 今日が運命の分岐路だったんだ。

 

 

 これは何度目の夢だったっけ

 

 

 トレーナーはウマ娘に夢を見る。模擬レースはスカウトには新人もベテランも関係ない、共に夢を叶える為の契約をする、出会いの場のひとつである。

 

 新米トレーナーとして、この日本ウマ娘トレーニングセンター学園、通称トレセンの門を叩いたのはつい先日のことだ。

 

 本日の最も期待を寄せられるウマ娘、トウカイテイオー。皇帝を継いでクラシック3冠も夢じゃないと言われるウマ娘らしい。

 彼女は選抜レースで圧倒的な強さをみせ、我こそはと彼女をスカウトする為に集まっているのを、私は遠巻きにみていた。

 彼女は難なく一着で走り抜け、引く手数多でトレーナーを選べる立場の将来を期待されるウマ娘。

新人とはいえ、私の目から見ても強いウマ娘であると確かに感じる。

 ありえないと思うが、仮にスカウトできたとしても、新人の私には手に余るだろうことは容易に想像できる。

 

 しかし、トウカイテイオーは今日、誰のスカウトも受けることがなかったようだ。

 スカウトの難しさを目の当たりにした私は、次レースで走るウマ娘のリストを確認することに決めた。

 

 ひとつだけ、気になったのは、先ほど入着したウマ娘で、誰にも声をかけられていなかった子だ。

 確か―――アストn…

 

 

「もう少し面白いレースかなーって思ったけどなぁ、ざんねん」

 

 

 いつのまにか隣に立っていた少女の呟きが聞こえた。

 顔を向けるとトレセン指定の制服を着た栗毛のウマ娘が、私の資料を横から覗き込んでいる。

 小柄で橙色の栗毛ウマ娘。片側には黒いリボンで、長い髪をツーサイドアップにしており、尻尾のように揺れている。

 今日の出走リストでも、既にデビュー済みリストでも見た覚えがないウマ娘だった。

 

 いつの間にかいたウマ娘に混乱する私をよそに、じっとこちらを見つめ、この少女は私の周りを一周しながら何かを確認するように見定めているようだ。

 やがて満足したのか、理解したとでも言うように頷いた。

 

「マヤのトレーナーになってくれない?」

 

 とびきりの笑顔で、名前も知らぬウマ娘は言った。

 

「そうだ!後でひとり連れてくるから!」

 

 逃げないでね!と言い残し嵐のように走り去ってしまった。

 どこで待ち合わせるのか、このまま待つべきなのかわからぬまま呆然と見送ってしまった。

 

 「あの人はマーチャンが見えているのでしょうか」

 ただひとり、自分の姿をはっきりと見ているトレーナーらしき人。

 他の人と同じように忘れてしまうのか、様子を見てみようと決めた。

   ◇◇◇◇◇

 

 

 

「この人がトレーナー?ふぅん」

 

 不満気が表情を隠す気もないウマ娘、トウカイテイオーの言葉に棘を感じるが、新人トレーナーである私に返せる言葉はない。

 模擬レースの後、仕方なく観客席でしばらく待っていると、マヤノトップガンというらしいウマ娘によって連れてこられたが、トウカイテイオーだった。

 

「ボク、スピカに入るつもりだったけど」

 

「でもね、テイオーちゃん。この人が一番テイオーちゃんの夢に近づけると思うの」

「根拠は」

「マヤの勘!」

「マヤノの勘は侮れないからなぁ、うーん」

「ふたりだけのチームというのも悪くないかもーって」

 

 すっかり置いてけぼりで話が進んでしまうところだが、私はスカウト以前に初対面なのだ。

 いったん日を改めてもらえないか伝えたら、「じゃあ来週!ここにきてね!」ということで解散になった。

 そのあと、あるウマ娘と私は出会った。

「あなたはマーチャンをみえていますか?」

 これがどこか消えてしまいそうな、不思議なウマ娘との出会いだった。

 

   ◇◇◇◇◇

 「マーチャンを写すレンズに、なって貰えますか?」

 何故か人の記憶に残らない彼女、アストンマーチャン。

 誰かの記憶に残る手伝いのため、彼女にできることはないだろうか。

 

 後日、契約することとなったマヤノトップガンとトウカイテイオー。

 そして、アストンマーチャンを加えた3人のウマ娘。

 チーム申請が無事通り、新人トレーナーが率いるチーム・アンタレスがこの日誕生したのだった。

 

 すぐにチームルームはたづなさんによって手配され、使えるようになったのでマヤノトップガンとトウカイテイオーの方針を確認することにした。

 ただ、アストンマーチャンの名前にはまるで聞き覚えのないかのように、首を傾げる姿が気になった

 部屋に何を置くかで盛り上がるウマ娘達、放っておいたらこの二人に部屋が改造されるのも時間の問題だろう。

 

 トウカイテイオーは会長みたいなサイキョームテキのウマ娘になる。というのが目標らしい。

 会長というとやはりシンボリルドルフだろう。どこか面影を感じるが、実は親戚という可能性もありそうである。

 マヤノトップガンは面白そうだから!と答えたので、目標の固まっているトウカイテイオーとは対照的だった。

 

「でも、マヤもせっかくだし、最強ってやつ?撃ち落としてみようかな」

 

「むー、マヤノには負けないもんね!クラシック3冠は渡さないぞ」

 

 マヤノトップガンとトウカイテイオーは得意な距離適性が被っているらしい。

 同期でそうなると、チーム内で3冠の奪い合いという例も確かにあるようだ。

 

「大丈夫だよテイオーちゃん。マヤはせっかくだし、ティアラ路線で最強になるから」

 

 3冠ウマ娘と3冠ウマ娘、もしなれたら最強のチームだと思わない?まるでそうなる未来が見えているかのように、どこか確信めいた言い方のマヤノトップガン。

 

「いいね!面白そう。ボクは負けないけど、マヤノも負けないでね」

 

 

 

 笑いあう二人のウマ娘。私はその夢のような話に、どこか運命めいた確信を感じた気がしていた。

 

 

 ここが、運命の分岐点。

 

 

 

 「チームならもうひとり、必要だよね?大丈夫だったの?」

 それなら大丈夫だと返したが、トウカイテイオーは「ふぅん」と返して特に興味はないようだ。

 

 

 マヤノトップガンだけは全て理解(わか)っちゃったと、ほほ笑んでいた。

 

 

 

 

 ここから紡がれるのは本来の物語ではない異聞録。

 

 気分屋なマヤノちゃんだけがクラシックを荒らす話ではなく、

 変幻自在(マヤノトップガン)無敵の帝王(トウカイテイオー)がウマ娘がクラシックを荒らしていく。

 そしてアストンマーチャンもまた、スプリンターとして蹄跡を残していくことになる。

 帝王は皇帝を超える。新たな女帝は歴史を塗り替える。

 

 

 波乱の一年間を駆け抜ける、気分屋マヤノちゃんたちがクラシックを荒らす話。

 

 

 

 これはその、始まりの1ページ。

 

 

 「アストンマーチャンかぁ、面白そうなウマ娘だよね!」




本編で頑張ったので、レース描写は全カットでお送りいたします。

 マーチャンはここにいますよ?


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

IF02 ジュニア王者

「尻尾ハグ」の存在によって、尻尾を絡ませるような相手は“特別”な相手であることが証明されましたね
この空白について、匂わせ以上の感想は控えて貰えると助かります
あれ、ということは本編のマヤちゃん…


 

 

 チーム・アンタレスの部屋は、一ヶ月もしないうちにテイオーとマヤノの私物で溢れることになった。

 

 

 

 取ってきたと思われるゲーセンプライズ(大きなぱかぷち含む)が置かれたソファ、マーベラス!なものらしい謎のオブジェ(金の鯉…?)と戦闘機のフィギュアが飾られた棚、謎の葦毛ウマ娘が突然置いていった大漁旗(黄金船と書かれている)にお気に入りのお菓子等。 マーチャン人形は真ん中に鎮座している。

 「あれこんなぱかぷちあったかな?」とテイオーの身に覚えのない物もあるが、それはトレーナーが貰った物である。チーム宣伝の際にマスコットにする予定だと言ったら、ならセンターだよね、と他より大きいのもあって、ぬいぐるみたちの中心へと配置された。

「マーチャンは楽しいお仲間がいっぱいですねー」

 当人もカメラで保存しているし、これはアリらしい。

 それはさておき、頭を抱えたくなる問題が発生していた。新人トレーナーには何が正解かわからない問題である。

 

 

 マヤノトップガンとトウカイテイオーは控えめに言って、天才である。

 アストンマーチャンもまた、秀でたスプリンターの才能をみせている。

 

 特にマヤノトップガンはトレーニングを考える中、すぐさまその天性の感覚によって2、3回で理解してしまう様を見せられ、何をさせるべきかわからない。

 

 さらには気まぐれで飽き性という点である。何度も同じトレーニングするのは「つまらない」と言う。今日はこれやりたいと言うのは可愛いほうだ。

 先輩トレーナーに頭を下げ、一般的なトレーニングはどういったものなのかを一通り実践してはいるが、それでもあの手この手で別のトレーニング方法を考えては、モチベーションを保つため頭を悩ませることとなった。

 

 逃げ・先行・差し・追込、脚質に捕らわれない彼女のスタイルは今までの常識を覆すもの。マヤノトップガンはどれでもできてしまうのだ。

 ビデオで見せた過去のG1ウマ娘の動きをほとんど再現して見せたり、観戦していると「ここで内に躱す」とか「もう少しでよれるからそこでバーッと」とか一目で勝負所を見抜いてみせるのであった。

 マーチャンにもできるウマ娘は知らないですねーと言われるくらいだ。

 ここまできたら、好きに走ってもらうのが一番良いのではないか。

 そう思い平日は基礎的なトレーニングだけではなく、先輩トレーナーに頭を下げに行き、積極的に並走トレーニングを組むことになった。

 マヤノと同期でデビューするウマ娘がいない先輩チームを優先せざるを得ないが、せっかく先輩ウマ娘と直接並走することができるのだから、これを生かさない手はない。

 様々な戦術をその一端だけでも触れることができれば、そのままマヤノの手札が増えるだろう。

 

 

 

 一方でトウカイテイオーについてだ。

 期待の3冠候補と有力視されていたこともあり、契約したことで同業者からの妬みはひどくなったが、そんなことに対応している場合ではなくなった。

 

 マヤノトップガンがある日言った、このままだとクラシック3冠を取る前に骨折してしまうだろうという話だ。

 なんでもすぐに理解ってしまうマヤノトップガンの言葉を、有り得ないと断ずることはできない。

 ウマ娘にケガは付き物だ。今までも多くのウマ娘がケガに悩まされ、引退の原因となった例が少なくない。

 しかし、クラシック3冠となると2年以内ということだろう。トウカイテイオーはとても身体の柔軟性があるウマ娘だ。柔らかさでケガを防げないとなると、走法をどうにかするしかないだろう。

 ただでさえ同期や他のベテランを名乗るトレーナー達からの妬みやっかみで、頼れる同業者は少ない。研修時にお世話になった、スピカ・トレーナーを訪ねることにした。他につてがないともいう。

 

 そこで1年かけて、ジュニア期の内になんとかしよう。と協力を取り付けることに。対価として並走の機会を優先的に求められたが、距離適性が近いウマ娘ばかりで願ったりである。

 短距離のウマ娘はいないので、アストンマーチャンの為にも1度だけリギルのトレーナーと話す機会を設けてもらえたのは感謝しかない。

 この恩はいずれ必ず。金欠の噂もあるので食事代くらいなら全然苦にならないが。

 

 アストンマーチャンの記憶に残す、ということに有効な策は現状思いついていない。

 仮に重賞を勝利することができたとして、有効であるかがわからない。

   ◇◇◇◇◇

 

 

 

 休日には「お出かけしよ!」とごねるマヤノ達に引っ張られて、デートという名目で週末はレース場へ行くことになった。記録と研究用にビデオカメラも持参である。

 テイオーははちみーなる濃厚な蜂蜜ドリンク(というより原液?)を飲んでいるが、あれで1杯2千円とかだったような。いいところのお嬢様という噂は本当だったのだろう。なおマーチャンはビデオカメラを構えたトレーナーのレンズに写るようにうまく位置をとって手を振っている。

 

 そんなこんなで年末に向けて準備は順調に進んでいった。

 

 

 それぞれがデビュー戦を難無く勝ち、話題の新星チームとして注目されることになった。

 が、トレーナーへの風当たりは比例するように強くなっている日々は、あまり気分がよろしくない。マーチャンによって助けられた機会も多く、存在感の薄さで助かったことは喜べない。

 トウカイテイオーに直接手を出すことがないのは、なによりあの生徒会長(シンボリルドルフ)のお気に入りであるというのが大きいだろう。

 万が一があれば社会的に抹殺されるのは目に見えるのだから。

 

 

 トウカイテイオーはクラシックの足掛かりとして、ホープフルステークスを。

 マヤノトップガンはティアラ路線ということで、比較的に苦手なマイルで走る経験を増やす為にも、朝日杯フューチュリティステークスを初のG1レースに選ぶことになった。

アストンマーチャンは阪神ジュベナイルフィリーズが初のG1となる。朝日杯と同じく阪神なのは日程的に困らないこともあったが、彼女の目的のためにも重賞を走ることは必要だろう。

 

 

 結果から言うと、それぞれがG1勝利をもぎ取り、チーム・アンタレスはジュニア期の年度代表バを独占することになった。

 このままクラシック3冠、トリプルティアラの最優力候補としてマークが厳しくなるだろう。トレーナーは現実感の薄さにあまり喜ぶ余裕はなかったのだった。

 

 

 なお、新年早々トレーナーの身に、大惨事になりかけたことがあった為、トレーナーの身の安全の為にも一時的にリギル預かりとなり、暫く厄介になることが決定したと記しておく。

 

 仮にも生徒会のトップとその顧問なのだ。未来のスター候補を同業者の不祥事で失うわけにもいかない。

 

 

 リギル・トレーナーの当時の苦労話も聞くことになり、先輩としての株が上がったのは言うまでもない。

 

 チーム広報用アカウントは、マスコットキャラクター扱いのアストンマーチャン人形をどれも使っているのだが、ウマ娘の“名前がわからない人形”と人形自体は少しずつ認知されているようだ。

 そして、トウカイテイオーはシンボリルドルフへ宣戦布告を行った。





【挿絵表示】

「はい。アストンマーチャンです」

「マーチャン人形を置いておきます」

「マーチャンだと思って大切にしてくださいね?」


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

IF03 波乱のクラシック

 筆者はアストンマーチャンを引いていません。
マーチャンに関する回答はしません。ごめんね
 なので本編に出るのは…いつでしょう?
この空白について、匂わせ以上の感想は控えて貰えると助かります


 

 4月。いよいよクラシック期ウマ娘達がしのぎを削る一度きりの舞台。クラシック路線とティアラ路線が始まる。

 

 皇帝を超えるというユメの第一歩。クラシック路線のテイオーひとつめの冠、皐月賞。

 

 怪我をしない為の走法の改良は間に合ったが、ギリギリの勝利となった。

以前のテイオーならもう2、3バ身は引き離していたのかもしれない。

空へ掲げた一本指は、きっと観客席にいるであろうシンボリルドルフへと向けられているのだろう。

 宣戦布告した通りに、皇帝を超える。その意思表示を世間にも見せつけるようだった。

 

 余り時間の余裕はないが、このままならダービーには調整が間に合うだろう。そうなれば今回より余裕を持って2つ目の冠に挑めるだろう。

 あとは時の運次第だ。

 

 ケガ予防とは別にテイオーの抱えている課題もある。

 

 実は長距離に関してマヤノの方が得意であった。

 距離適性はある程度延ばすことができるとはいえ、去年のメジロマックイーンのような本物のステイヤーウマ娘が出てきた場合、菊花賞は難しいだろう。

 

 スタミナの問題は去年からも取り組んでいる。

 負荷も少ないプールや坂路を多くとり、戦術の調整はマヤノが様々なウマ娘の戦術を模倣して並走することで補っていた。

 有力なウマ娘が持つ“領域”というらしいモノをある程度再現できるらしい。マヤノトップガンに頼りきりだった。

「マーちゃんもマヤノちゃんのおかげで助かりますねー」

 

 

 マヤノはティアラ路線最初の冠、桜花賞だ。中長距離が得意であってマイルの短さはマヤノの試練だろう。

 桜花賞はマイルである為、ここが最大の関門である。

 逆にスプリンターであるマーチャンとの並走で調整している。

「これで苦手と言うと、スカーレットが泣いちゃいますよ?」

 しかし、 心配をよそにマヤノも無事勝利した。

 本当に苦手なのか?と疑問に思うほど、後方に控えたマヤノが見せたのは見事な差し切り勝利であった。

「ウオッカみたいな差し足でしたねー」との談。 

 マヤノもテイオーと同じように指を1本掲げ、不敵な笑みを浮かべていた。

 

 

 

 チーム・アンタレスがクラシック路線とティアラ路線の初戦をどちらも勝利したことで、3冠最有力候補と話題になっている。

 同じチームからG1を勝利したウマ娘が同期デビューというのは中々見られない快挙である。

 なお、マスコットの知名度は徐々に上がっているらしい。

 しかし、これが序章に過ぎないとはトレーナーも含め予想していなかっただろう。

 

 

 

   ◇◇◇◇◇

 

 

 

 5月、ダービーを目前に控えたある日。マヤノと共にNHKマイルカップの観戦デートにきていた。

 

 

 ティアラ路線でぶつかるかもしれない注目ウマ娘の偵察もあるが、今回は純粋に応援である。

 アストンマーチャンが走るのだから当然である。

 今回出走ウマ娘はさすがに、ダービーやオークスに続けて出るようなキツイローテでない限り当たらないと思われるが、秋華賞あたりなら十分あり得るだろう。

 

「もしくるとしたらあの子と、あの子かなー」とマヤノはライバル候補を吟味している。

 

 ティアラ路線ではマヤノトップガンがいたことで、勝つためにこちらを選んだなんてウマ娘もいるらしい。

 パドックの様子で気になるのは、番が終わったはずなのに、舞台袖で観客に手を振っているウマ娘だ。

 

 …と思ったら、気が付いたスタッフに連れていかれたようだ。

「マーチャンをよろしくお願いしますねー」

 連行されながらも、アピールを欠かさないのは流石というべきなのだろうか。

 

 NHKマイルカップは久々にレコードタイムが大きく塗り替えられる、見ごたえのあるレースとなった。

 

 しかしながら、レコードを塗り替えたレースにしては控えめな歓声だったように思える。

 

 普段はにこやかに笑うマヤノが、険しい顔で見つめていたのが、不安に思えるほど印象的だった。

 勝利したのはアストンマーチャンである。レコードを大きく塗り替える快挙を成し遂げたのだが、ほとんど話題にならなった。

 まるで世界そのものが彼女を異物とでも言うように。

 私もまた、彼女をいつか見失ってしまうのだろうか。

   ◇◇◇◇◇

 

 

 

 続く東京優駿。またの名を日本ダービー。

 

 運のいいウマ娘が勝つらしいこのレース、トウカイテイオーは1枠1番での出走となった。

 調整も終わり、万全の体制となった彼女を並みのウマ娘に止められるはずもなく、空へ掲げられたピースサインによってその強さを示した。

 

 トウカイテイオーにとって唯一の不満はマヤノトップガンだ。

 

 並走で何度も苦汁をなめることになったのは、同期でもマヤノだけである。

 今までの模擬レースはいくら走法を根本的に調整中だったとはいえ、手加減されたマヤノトップガンに圧倒的に負け越しており、同じチームで路線が違うことをこれ程嬉しく思ったことはない。

 

「クラシック期当時のカイチョーとどちらが強いんだろう?」

 

 ふとそうこぼしたテイオーの言葉に、答えを返せなかった。トレーナー自身もそう思ったことは1度や2度じゃない。

 

 そんなマヤノトップガンのティアラ2戦目、オークス。

 

 マヤノトップガンの圧勝だった。

 

 もとより中・長距離が得意なのだ。本調子のトウカイテイオーと同等のウマ娘が、全てを薙ぎ倒しにくるのはたまったものではないだろう。

 今までが手加減だったとでも言うかのように、追込で最後方につけてから、スパートで7バ身差をつけて勝利した。

 

 クラシックはトウカイテイオー、ティアラはマヤノトップガン。どちらも無敗で2冠を手にしたウマ娘に世間の盛り上がりとは裏腹に、同期ウマ娘を抱えたトレーナー達はお通夜ムードである。

 G1勝利を目指して路線を変えたら、逃げた先のG1でラスボスが控えてました。という感じだ。

 無敗の3冠ウマ娘が1年で二人も出るかもしれないと、迷惑な記者もくるのはいただけない。

 

 しかしながら、チーム・アンタレスを率いるトレーナーはいまだ新人。

 そんな世間の評価を気にしている余裕は全くないのであった。

 

 取材やら宣伝やら、の話はお世話になっているリギルとたづなさん経由で、ほとんどシャットアウトしてもらえた。

 

 トウカイテイオーとマヤノトップガンはグッズ販売の方も人気が高まっているらしく、宝塚記念の投票による出走の可否は問題ないくらいに、票が集まっているらしい。

 テイオーは次が菊花賞であり、長距離レースとなることで調整に万全を期す為、見送ったがマヤノが出走を発表した。

 マヤノの走る理由は勝ち負けより面白そうかどうか。シニア期のウマ娘相手のレースだが、「楽しそうな相手だから出る!」と言われては断れなかった。

 

 チームの知名度ついでに、マスコット人形も商品化にこぎつけ、小さめながら販売されるようになった。

 喜ばしいことに、チームの知名度が高まって量産版マーチャンぱかプチ(小)も売れているらしい。

 マーチャンの認知自体はあまり広まりがよろしくない。

 勝利したのに見知らぬウマ娘の勝利と思われているのだろうか。

   ◇◇◇◇◇

「マーちゃんだけでは商品化は無理でしたので、トレーナーさんのおかげで助かってますよ」

「なので、マーちゃんができることはマーちゃんがします」

「マーちゃんを、しっかり映してくださいね?」

 クラシックで数少ないシニアウマ娘と競える舞台、マイルレースG1、安田記念。

 テイオーもマヤノも出るわけではないが、応援にくるのはよくあることだ。

 ビデオカメラをしっかり回し、トレーナーも準備万端である。

 最終コーナーからよく見えるベストな位置取りを確保できた。

 

 

 徐々に話題になっているらしいウマ娘も出走ということで、期待十分のレースだ。

 前年の勝者も出るらしく、期待の新人とどちらが勝つかで盛り上がっているらしい。

 マヤノも真剣な顔つきだった。

 

 

 熾烈な先頭争いを制し、そのウマ娘はスパートで後続を突き放していく。

 

 1バ身、2バ身…と差をつけていき、5バ身の圧勝だった。

 

 前年の覇者さえも置き去りにしたウマ娘に湧き上がる歓声。

 レースレコードさえ更新し、今まで目立っていないウマ娘が見せた、鮮烈な輝きに拍手喝采だった。

「どきどきしました?わくわくしました?」

 

 ファンサービスをするウマ娘の姿に、なぜか嫌な予感がした。

 

 

 

 ゆらり、歩き出した身体が傾く。

 

「あれ…?」

 

 倒れるその姿がスローモーションのように感じられた。

 

 アストンマーチャンが崩れ落ちていく。

 

 マヤノ!と反射的に呼んだ声に「アイ・コピーッ!!」とすぐさま動き出した彼女を見送り、すぐさま救急搬送の為の連絡を始めた。

 動揺する思考とは裏腹に、身体はよどみなく動く。自分で動かしていないかのように。

 

 

 倒れる彼女を寸前で受け止めたマヤノトップガン。

「マーチャン!」

 マーチャンの顔色はあまりよくない。レース前に不調は見られなかったが…?

 

 すぐさま歓声は悲鳴に変わった。

 

 

 

   ◇◇◇◇◇

 

 

 

 その後介抱したウマ娘に付き添う形で病院へ。

 

 

 幸いにも、レース後の疲労によるものだけなのか、念の為その日の検査入院程度で済んだようでなによりだった。

「マーチャンは病院があまり好きではありません」

 そう言って窓の外を眺める彼女は、どこか達観しているようだった。

 レコードで走り抜けたウマ娘だが、自分のことより私が持っていたビデオカメラの心配をする不思議なウマ娘だった。

「私のレンズさんにちゃんと写してもらえないと、困りますから」

 そうだ、一着なのにお祝いを忘れていた。おめでとうと共に、あまり無理はしないようにと伝える。

「ありがとう、ございます」

 

 後で聞いた話だが、レースの“領域”は負荷の大きいウマ娘もいるらしい。

 思いを力に変え、限界を超えるというそのチカラは、多くのスターウマ娘に発現しているという。

 しかし、“領域”の形はウマ娘の数だけ。景色が見えたりプレッシャーを強めたりと様々だ。

 

 ただ、全てを出し尽くすようなものもあるらしい。

 彼女もそういう類ではないか、という話だ。

 

 そう思うとどこか危ういものを感じてしまう。

 

 マヤノトップガンとトウカイテイオーの“領域”は、大丈夫なものだろうか?

 

 

 

   ◇◇◇◇◇

 

 

 

 

 運命を変え、乗り越えるための“領域”。

 

 

 

 ウマ娘の待つ運命を打ち破ること。それは限界を超えることで引き起こされる。

 

 

 

 相応の出力には、それだけ支払うものは大きい。

 

 

 

 ただし、多大な負荷は身体を蝕む、言わば力の前借りである。

 

 

 

 ウマ娘の選手生命は短い。

 

 

 

 たとえ長く走れないとしても。

 

 

 

 その輝きを強められるのならば。

 

 

 

 ユメを、叶えられるならばと。

 

 

 

 その先へと手を伸ばすことを、どうして止められよう。

 

 

 

 誰よりも、本人が一番わかっていて、走り続けるしかないのだから。

もしも、変えるための運命も、想いも、願いも足りないとして、そのために代償が必要だったなら

足りないモノを補う代償はどこから支払われるのだろうか?

想い?絆?記憶?それとも―――

 勝利の、その先を目指して。ウマ娘は走り続ける。

 

 




「はい、アストンマーチャンです」

「みんなのマスコットのマーちゃんですよー」

「ぱかプチもいっぱいです」

「マヤノちゃんもテイオーちゃん人形も一緒ですよ」


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

IF04 過行く夏

IFはネタが尽きた頃に終わると思います。
マーチャンと空白について、匂わせ以上の感想は控えて貰えると助かります
とりあえず、あと3話くらいは続くかも?
感想はありがたいですが、過度な内容は消すのでご注意を。
ついでに☆設定まとめに気分屋マヤノIFの項目を現時点分まで足しました。


 

「過労ですね」

 

 

 病室で医師の診察結果を、ベッドの上目覚めたトレーナーは告げられた。

 

 

自覚があっただけにショックが小さく、ここ最近の日々を振り返り、やっぱり駄目だったかと思った。

 

 

 

 

 6月後半の宝塚記念、マヤノトップガンは見事勝利し、クラシック期のウマ娘にしてグランプリウマ娘の称号を得る快挙となった。

 

 それを最前列で見届けたまでは良かったが、慌てた様子のマヤノが駆け寄ってくるのをどこか他人事のように感じながら、意識は遠のいていった。

 

 

 そして運び込まれた病院で目を覚ました、というのが事の次第である。

 

 

 過労、と聞いて思い当たるのはここ1年のことだ。複数の担当をして、嫌みな同僚を受け流し、記者の対応をする。

 マヤノトップガンだけでも手に余る新人トレーナーが、トウカイテイオーとも契約して忙しい日々を送った結果だ。 さらにアストンマーチャンという3人目もいる。

 

 ベテラントレーナーのように、器用に立ち回ること等できない新人には当然の結果だった。

 

 ウマ娘の体調管理をするのがトレーナーの仕事ではあるが、自分の体調管理を怠ってしまった。

 担当がクラシック期に入ったことで、本格的にG1レースの研究を以前よりもする必要性を感じ、あまり疲労感は抜けないままエナドリやサプリメントで誤魔化そうとしたが、ついには限界がきたところだろう。

 

 ときどき向けられた、マヤノのちょっと呆れたような表情の理由もわかった。

 その日に限って「今日はおでかけしたい!」とテイオーが引きずられる形でトレーニングを休みにするので、マヤノなりの気遣いだったのだろう。

 マーチャンも「忘れた買い物があったのでした。いやーうっかりですねー」とどこか行くことが多かった。

 

 

 しばらくして、戻ってきたマヤノ達に診断結果について伝えた。

 

「はぁ、ボク急に倒れる人の介抱とか初めてだよ」

 

 呆れたテイオーに返す言葉もない。

 心配をかけてしまった。

 安心したのかマヤノは抱き着いたまま寝てしまった。ゆっくりとその栗毛の髪を撫でる。

 

「まぁ、マヤノもわかっていたから急にトレーニング休みにしてたのかな」

 

「…ボクは、自分のことでいっぱいだったから」

 

 顔を伏せるテイオー。誰だってそういうものだ。マヤノがたまたま気が付いただけかもしれない。

 私だって周りを見るほど余裕があるわけではない。

 同期のトレーナーなんて桐生院トレーナー以外の交友があった試しがない。

 

「トレーナーは単純に人付き合いが苦手なだけじゃないのかなぁ…」

 

 耳が痛い話だ。嫌味な人達と友好的になる余裕は、現状ないのだから。状況が落ち着いても、仲良くなれるほどタフなメンタルはしていない。

 

「しばらく夏合宿なんだから、トレーナーも無理せず十分にお休みしてよね」

 

 あまり負荷のかからないトレーニング中心にして、夏はしっかり体を休めるように予定を組もう。元からそのつもりだった予定は、あまり変化しなかった。

 マーチャンは不調を顔に出さないウマ娘だった。そう気づかされたのは倒れたときだ。

 ごめんなさい。その言葉から彼女は続けた。

「マヤノちゃんには気づかれていましたけど、マーちゃんも無理してました」

「トレーナーさんが無理しないように、マーちゃんも控えます」

   ◇◇◇◇◇

 

 

 

 夏の合宿。アンタレスは人数が多いチームではないので、海も近くにあるいいホテルが使えるところを選んだ。

 

 あまり負荷の大き過ぎるトレーニングをする訳にはいかないので、軽いものを中心に砂浜でできるメニューを組んでおいた。

 それ以外はG1レースの疲労を抜くためのバカンスというのが目的だ。特にマヤノは宝塚記念まで挑むローテーションだったので、心配であった。

 テイオーは菊花賞からジャパンカップ、有マ記念と短期間の3戦が控えている。皇帝が成しえなかった偉業のため、脚のことも含めて万全を期して臨みたい。

 

 

 ところだったが、抜けきっていない疲労からか、先に夏バテしてダウンしたのはトレーナーの方だった。

 アストンマーチャンも夏バテしてるが、普通にトレーニングしようとするところをマヤノに知らされた。

 一緒に日陰で涼みながら、マヤノ達を眺めていた。

 チーム・リギルも合宿にきているので、あまり便りすぎるのも申し訳ないが、トレーニングを行う際はふたりが混ざることを了承してもらえた。

 なお、たまに遠くで腕組みして見守る皇帝の姿があったそうな。

 マヤノからは「パパみたいなことしてる」と生暖かい目を向けられている。

 夏の間、マーチャンによく合う日傘をマヤノと共に選び、プレゼントした。

 とても気に入ってもらえたのか、このときからアストンマーチャンは、晴れの日には日傘を差していることをよく見るようになる。

 

 

 ある日、近くの商店街では夏祭りがあるらしく、マヤノのテイオーは二人先にお祭りへと向かった。

 

「トレーナーちゃんも後で一緒にまわろうね!」

 

 と橙色の浴衣に身を包んだマヤノに、トレーナーは後から行くと伝えて、ひとり波打ち際へと来ていた。

 先客であるマーチャンはひとり、海を見つめていた。

 慌ただしい1年の折り返し地点まできた。今までを振り返る。

「人の記憶は曖昧です。だから、マーちゃんからのお返しです」

 これまで大変だったが、これからも大変だろう。

 マーチャンから渡されたのは匂い袋だった。

 貰った匂い袋を眺める。赤と緑、そして王冠の刺繡がされていた。

「忘れる順番、最後に残るは匂いだそうです」

 花火の音がして顔を上げる。

「だから、私のレンズさん。マーちゃんを覚えていてくださいね」

 海辺に咲く色とりどりの花。長い時間をかけて準備されていても、その輝きは一瞬のもの。

 忘れるものか。私は彼女たちを支えるトレーナーなのだから。

 長い人生の中でも、トゥインクルシリーズという瞬きのようなあまりにも短い期間。

 彼女の夢もまだ、これからなのだから。

 私は私にできる限りをしよう。そう決意を新たにした。

 

 

「遅いよトレーナー!ボクたち待ちくたびれちゃったもんね!」

 

 と頬を膨らませたテイオーに怒られたのは余談である。

 マヤノは理解ってると何も言わず、トレーナーに腕を絡めその後の祭を楽しんだ。

「トレーナーさんはモテモテですねー」

 束の間のバカンスもあっという間に終わりを告げた。

 

 

 

 9月後半、テイオーの菊花賞とマヤノの秋華賞を控えた日に行われた、短距離G1レース、スプリンターズステークス。

 アストンマーチャンの晴れ舞台だ。

 並み居るシニア期ウマ娘をなぎ倒し、そこでクラシック期のウマ娘が勝利した。

 

 クラシック期ウマ娘での勝利はニシノフラワーに続く快挙だけではなく、レースレコードを大きく更新。

 後に続くウマ娘達が破るのはとても難しい偉業という、鮮烈すぎる蹄跡を残して世間は大いに賑わっている。

 マーチャンの記憶に残す目的は、着実に進んでいる。

 今年は3冠ウマ娘への期待だけではないと、今までにない盛り上がりをみせている。

 次世代のウマ娘たちの見せる輝きに人々はユメをみるだろう。

 

 この後に続くクラシック3冠とティアラ3冠、無敗の3冠は達成されるのか、それとも他のウマ娘が伝説的偉業を阻むのか。

 

 着実に、決戦の日は近づいている。

 

 新たなる帝王と女帝の誕生を、世間は待ち望んでいた。

 

「トレーナーちゃんならきっと、大丈夫」

 

「マヤはヒントしか出せないけど、きっと」

 ユメのその先へ。今回は、きっと。

   ◇◇◇◇◇

 

 

 

 

 私はあと何回、走れるのだろうか。

 

 命は流れていくもの。

 

 上流から下流へ。それが理。

波の音が聞こえる。

 まだ大丈夫。まだ大丈夫。

こっちへおいでと私を呼んでいる。

 まだその時じゃない。

その声に応えるわけにはいかない。

 まだこれからなんだ。

ユメを叶えるまでは。

 誰もいない部屋を後にするのは、人形だけが見ていた。




 今日も、誰かにみせる訳ではない映像を残す
「今日の記録終わりです」
 誰もいない部屋での撮影を終え、カメラを止める。
「その時がきたら、人形の中に入れましょう」
 きっと、こないことを願う日々。
「蹄跡は忘れてしまうかもしれません」
 でもそれは叶わないのでしょう。
「ですが、確かに残っているハズです」
 人形をそっと、元の位置に戻す。
「覚えてもらうことと、思い出すこと。似ていても違うことです」
 あなたと見たユメも忘れてしまうかもしれません。
「覚えていなければ、思い出せないのです」
 マーちゃんはちょっぴり。ちょっぴり寂しいですが。
「だから、アストンマーチャンを覚えていてくださいね」
 もう半分、叶ってしまいましたから。


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

IF05 掲げるユメを

私はここまで続くとは思っていませんでした。
みなさんのコメとお気に入りで続いております。
空欄とIF本編のマーチャンについて、匂わせ以上のコメはNGです。ごめんなさい
エタらないようにできるだけがんばります。
えい、えい、むん!


システム:シミュレーションT□□□□番を停止

システム:分岐番号5□□68□番の検証開始

「…おや、またきてしまったのかい?」

「また秘密を知りたくなった、そんなところだろう?」

「空白に隠された真実があるんじゃないかとね」

「今、キミの求める答えを言ったらつまらないだろう」

「まして、ネタバレはナンセンス。そうだろう?」

「おっと、他人に教えるのもナシだ。少なくとも今は、まだ」

「まぁ、そうだな。これくらいならいいか」

 …

「世界は観測者がいるから存在が許されるものさ」

「たとえどんなに救いがないとしてもね」

「しかし君は見守るしかできない。干渉はNGなのさ」

「さて、おしゃべりはこれくらいにしておこう」

「次があるかは、わからないがね」

 また、ユメを見ている。

 

 

 また、いつかを繰り返している。

 

 

 本当にユメなのだろうか。痛みも、苦しみもあるこの時間が。

 

 

 これはボクが選ばなかった可能性。

 

 

 ルームメイトのマヤノと、知らない誰か。スピカよりも少ないチームメイト。

 

 

 リギルでもない。シリウスでもない。知らないトレーナー。

 

 

 一緒にユメを追いかけている。笑って、喧嘩して、競い合って。

 

 

 マックイーンと競い合って、いつかの対決を約束して。

 

 

 ボクは無敗の2冠ウマ娘だった。怪我で諦めたはずの3つ目の冠に、手を伸ばそうとしている。

 

 あれ、ネイチャが3冠ウマ娘だったっけ?

 マヤノが3冠ウマ娘だったっけ?

 それともボクがシルバーコレクターだったっけ?

 

 ありえたかもしれない、ユメの続きを。見られなかった景色を目指して、ボクは翔ける。

 

 

 何度だって。脚が折れても。何度目だったっけ。

 

 

 あとひとつ。あとひとつでカイチョーの背中はもうすぐ手が届く。

 

 

 届かなかったその背中に。運命を越え、今度は。

 

 

 ユメ、なのかな。ユメなら、覚めなければいいのに。

 

 

 やっと見つけた光なのに。

 

 

 でもボク(キミ)はもし、ユメを叶えたら―――

 

 

 このボクのユメは、終わってしまうのかな。

 

 

   ◇◇◇◇◇

 

 

 

 

 

 クラッシック3冠の最終戦。G1、菊花賞。

 京都で行われる、クラシック路線を締めくくる3000mの長距離レース。

 

 最も強いウマ娘が勝つとされるこのレース、勝利することでトウカイテイオーはクラシック無敗の3冠ウマ娘になることができる。

 シンボリルドルフに続く、無敗の3冠はもう手の届くところにある。

 マヤノも「今のテイオーちゃんなら負けないよ」と断言するほどの仕上がりではあるが、トウカイテイオーは原因不明の不調に陥っていた。

 

 菊花賞が近づくにつれ、テイオーの不調は増すばかりだった。どんどん悪くなっていく症状に食欲が減り始めたのは、大きな問題だった。

 トレーナーとしては、このまま出走を考えるなら無理にでも栄養をとって体重を保って欲しいところだ。消費できるエネルギーがなくなってしまえばどうにもならない。苦しい選択である。

 今のところは、比較的に喉を通しやすいエネルギー飲料やプロテイン等で誤魔化せているが、トレーナーならこのまま悪化する可能性を考えて、出走を取りやめるべきだ。

 

「倒れるとわかっていても走るから」

 

 そう覚悟を持った表情で言われて、トレーナーは止められなかった。

 なんでも理解っちゃうという、マヤノもあまり良い表情ではなかった。

 

「いまのテイオーちゃんの仕上がりをできるだけ保てれば、なんとかなるかも」

 

 トレーニングを終えたマヤノはテイオーを支えて楽な姿勢を取らせる。

 幸いにして、今のところは不調によって、身体機能が大きく弱っている訳ではなく、検査でも原因不明と匙を投げられた。

 

「本当にダメなら止めるから、トレーナーちゃんは信じて」

 

 …私はトレーナー失格かもしれない。

 ウマ娘の体調が悪いを理解していながら、レース出走を止めないと決めてしまったのだから。

 それでもできる限りのサポートをする。資料を漁り、寝る間を惜しんで。

 菊花賞のすぐ後にはマヤノの出走する秋華賞もある。

 

 トレーナーは信じて送り出す。それしかできないのだから。

 

「マーちゃんは、テイオーさんの気持ちもわかります」

「ウマ娘は、無茶でも走るしかないのです」

「きっと、みんなの記憶に残るでしょう」

「マーちゃんは少し、少しだけ羨ましいです」

   ◇◇◇◇◇

 

 

 

 

 

 もうすぐ菊花賞が迫るある日、トウカイテイオーは軽度のトレーニングを終えて部屋に戻るところだった。

 

(参ったなぁ…トレーナーの前ではなんとかいつも通り振る舞えたと思うけど)

 

(マヤノは続けようとしたら凄い顔で睨んできたし、やっぱりバレているよねぇ。)

 

 トレーナーには見えないようにうまく位置取りを考えている辺りも含めて、確信的だ。この後トレーナーに伝わるのも時間の問題だろう。

 距離的にも近いチームルームで休息を取るべきだった。逃げるように帰ることを優先したからか、意識も少し危うい。

 

(今日はちょっとマズいかも)

 

 それでもゆっくりと歩を進め、もうすぐ寮につくところまできた。

 

「―――ぁ、ぉーぃ……ぉー」

 

 早く帰って寝よう。マヤノもすぐ来るだろうけど、他のウマ娘に見つかるのもあまり良くない。壁にもたれかかったテイオーは、気合いを入れ直して歩きだそうとした。

 

(あ、マズ…)

 

 ふらりと、踏み出そうとした身体は言うことを聞かず、テイオーはゆっくりと地面が迫りくるのを感じていた。

 

「テイオー!?」

 

 危ないところを誰かに抱き留められた。この特徴的なもふもふツインテールといえば…

 

「…ネイチャ」

 

 よりにもよってあまり見つかりたくない相手のひとりだった。

 

「ありがとうネイチャ、助かった」

「大丈夫なの?テイオー。菊花賞までもうすぐなのに体調悪そうだよ?」

「大丈夫。ちょっとフラついただけ」

 

 できるだけいつも通り、笑顔を浮かべて答える。

 

「テイオー、大丈夫な顔色には見えないよ」

「ネイチャはライバルなんだから、ライバルが減るなーって喜んでもいいのに」

「冗談じゃなかったらいくらアタシでも怒るよ?」

 

 そうじゃないからネイチャなんだよね。

 

「…ネイチャはいいオンナってやつなんだろうなぁ」

 

 ネイチャの肩を借りながら、寮に歩き始める。盛大なため息と共に。なぜだろう。

 

「………この天然王子様系ウマ娘め」

 

 ぼそりと呟かれた言葉は聞こえなかった。

 

「止めても菊花賞、出るんでしょ?」

「うん」

「…負けるかもしれないとしても?」

「ボクは負けないから」

「不調のテイオーに負けるほど、みんな弱くはないよ」

「わかってる」

 

 はぁぁ、と二度目のため息。

 

「ボクは地べた這ってでも出るから」

「そこまできたらテイオーのトレーナーさんが大丈夫じゃないでしょ」

「許可はとったもん」

「うわぁ、トレーナーさんがかわいそう。さすがのネイチャさんもドン引きですわ」

 

 ジト目が向けられるけど、取ったものは仕方ないもん。そこまでいく前にマヤノに止められると思うけど。

 むしろ原因不明の調子の悪さ以外、大きい怪我をした訳じゃないし、死んでも出てやる!というウマ娘は一定数いるはずだ。

 それだけクラシック3冠という舞台は大きいものじゃないかな。

 

「ボクは、負けないよ」

「…テイオー」

「サイキョームテキのテイオーサマだからね」

 

 はぁぁぁぁ、と3度目のため息。呆れたと言いたげだけど、最初よりいい顔になった。

 

「テイオーが無茶苦茶なのは今更ですもんねぇ」

「よくわかってるじゃんネイチャ」

「じゃ、テイオーにはしっかり休んでもらわないね」

 

 ライバルなのに、部屋まで付き添ってくれるお人好しウマ娘。

 ネイチャは寮長とか似合いそうだなぁ。

 

「ありがと。ネイチャ」

「手加減なんてしないからね」

 

 じゃぁねと帰るネイチャを見送り、扉を閉じたボクは、そのままベッド倒れ込む。

 もう、限界だった。

 

 そして泥のようにボクは眠った。

 

 

 

 

 

   ◇◇◇◇◇

 

 

 

 

 

「…そうか、テイオーが」

 

 部屋には3人のウマ娘。

 

「ここ最近、体調不良での欠席が増えているようです」

「もうすぐ菊花賞、となれば皇帝サマも心配か」

「…会長はあまり、過度な肩入れする訳にもいかないからと見守るだけに徹している」

「なんだ?距離感を図り損ねたお父さんか?」

「…はぁ。言ってやるなブライアン」

 

 グサりと刺さる物言いに図星だからか、窓の外を見るその姿は、哀愁漂うお父さん(ションボリルドルフ)とでも言うべきか。

 皇帝の威厳はどこへやら、心配性のお父さんが物陰から見守っているようにしか見えない。

 

「そんなに心配なら直接訪ねればいいだろう。姉貴ならそうする」

「それができれば苦労しない」

「ヘタレだな」

「う”っ」

 

 きゅうしょに あたった

 

「…会長にも思うところはあるのだろう」

「次の女帝候補とは頻繫に会っているだろうに」

「…それは、その。様子見ついでに取引をだな」

「会長」

 

 口が滑ったとばかりに明後日の方を向くルドルフに、エアグルーヴの視線が鋭くなる。

 

「いやなに、大したことはしてない。ちょっとマナーの悪い記者をけん制する意見を貰っただけさ」

「ほう、なかなか勘の鋭いヤツだと思っていたが」

 

 やけに早く的確な対策を講じるなと思ってはいたが、そういうことかとエアグルーヴは理解した。

 ナリタブライアンは面白そうなヤツが、おもしれーヤツに昇格したようだ。テイオーより満たされる相手かもしれないと目をつけられたか。

 

「そういえば会長、今年度のスプリンター部門、年度代表バ候補のウマ娘ですが―――」

 

 

 「アストンマーチャン、だったか?」

 

 そういえば中央にそんな名前のウマ娘は、いた気がする

 

 

 

 

 

 そっと部屋を後にするウマ娘がひとり。扉が動いたことに気づかせず去っていった。

 

 

 

 …ちょっとお話するだけでも、テイオーちゃんは喜ぶと思うけどなぁ。

 

 ヘタレな会長さん。




「みなさんこんにちは。こんばんは?」
 配信コメント:キター
「マーチャンネルのお時間です」
 配信コメント:たのしみ
「トウカイテイオーちゃんは菊花賞で3冠に挑むです」
 配信コメント:今年はテイオーできまりだな
「無敗の3冠、シンボリルドルフに挑みます」
 配信コメント:勝ってくれ~
「気合い十分です」
 配信コメント:現地で応援するぞー!
「アストンマーチャンでした」
 配信コメント:もう一ヶ月もないのか


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

IF■■/06 ユメの3冠ウマ娘

 なぜか3人目、4人目の幻覚をみる方がいらっしゃいますが、存在しない事象にお答えはしかねます。
現状では透明文字に触れるコメは控えてもらえると助かります
 本作は基本ハッピーエンドの予定ですが、予定は変更される場合があります。


アーカイブ:IFエンディングNo.■■

 

 迎えた菊花賞。無理に無理を重ねたトウカイテイオーだが、トレーナーは出走を止めることはなかった。

 絶不調のトウカイテイオーに走りきる体力はない、そう言えるだろうとわかっていながら送り出してしまった。

 

 文字通りの命懸け、なけなしの全てを燃やし尽くすように走るトウカイテイオーは見事に勝利し、無敗の3冠ウマ娘となるユメを叶えた。

 雁字搦めの宿命という、魂に刻まれた鎖を力任せに引きちぎり、限界すら超えてみせた。

 

 ボロボロの身体に鞭を打ち、無茶をした代償は大きかった。

 

 皇帝に続く帝王、その偉業に誰もが歓喜した矢先のことだったが、ゴールしたテイオーが倒れ込んだそのレースは、“沈黙の日曜日”に続く大きな悲劇として人々の記憶に刻まれることになる。

 

 次世代のスターウマ娘トウカイテイオー。その才能あるウマ娘の喪失はURAの大きな痛手であった。

 

 意識不明となったトウカイテイオーは未だ目覚めず、そのウマ娘の担当トレーナーは強くバッシングを受け、悪意ある人々が好機とばかりに便乗した結果、大炎上の騒ぎとなった。

 その若手のトレーナーは責任を取り辞職に追い込まれたらしい。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 テイオーは無敗の3冠というユメと引き換えに、二度と走れなくなった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 生死の境をさまよい、ついにテイオーが目覚めたときには全てが終わっていたのだ。

 偶然にも見舞いに来ていたメジロマックイーンによって、全ての話を聞いた。

 トレーナーが辞職したことで、チームは解体となりマヤノトップガンは学園から姿を消したらしい。

 残ったのはユメを叶えたが、無気力に日々を過ごすトウカイテイオーだけがおいていかれてしまった。

 辛いリハビリを終えても、二度と走ることはできないでしょうと告げられたが、やっぱりという納得だけだった。

 命すら使い潰す走りで、今生きている方が奇跡だったと思っていた。

 

 形式上はスピカへ移籍となっていたが、トレーニングを見ることもせずどこか遠くを見ていることが増えた。

 確かにあったユメも、情熱も失ったトウカイテイオーは、かつての快活さも笑顔も無くし、無気力なウマ娘そのものであった。

 もう使えないチームルームに置かれた物達は、大切なものを中心にできるだけテイオーの部屋に移された。

 

 病と闘いながらも復帰したマックイーンや、ナイスネイチャらは最後まで気にかけていた。

 テイオーの背に憧れてここにきたというウマ娘、キタサンブラックと言ったっけ。

 スピカに入り活躍する姿を見ても何も感じられなかった。

 トゥインクルシリーズの後に控えるドリームシリーズへの出走を薦められることもあったが、テイオーが再び立ち上がることはなかった。

 

 トウカイテイオーは二度とターフを踏むことはなく、見ることもないだろう。

 マックイーンとの決着も、シンボリルドルフへの挑戦も、二度と叶うことはない。

 

 

 

 

 

 ユメのレースは、ユメでしか有り得ない。

 

 全てを懸けたことに後悔はないのだから。

 

 

 今日も帰らぬ人たちの残した品々に囲まれ、ひとり部屋で空を見上げていた。

 

 

 

 

 

 

 

システム:トレーナーの死亡を確認しました

 

 

 

 

 

 ボクも連れていってくれたらよかったのに。

 

 

 

 

 

 

 

 あぁ、今回は駄目だったよ。

 

 あんなに願ったユメなのに。

 

 燃えるような思いは失って。

 

 残ったのは消えかけのろうそくだけ。

 

 だから、キミはボクになっちゃダメだよ。

 

 このユメも、もうすぐ終わる。

 

 もしやりなおせたら、もっとうまくやれるのかな。

 

システム:対象の再起不能を確認

システム:シミュレーションを終了します

「会いたいよ、トレーナーちゃん」

 かすかな願いは海に溶けていった。

 

システム:因子継承を開始します

 

   ◇◇◇◇◇

 

 

 救われないユメを見た気がする。

 

 

 

 迎えた菊花賞当日。テイオーの調子の悪さは回復せず、ピークを迎えていた。

 

 

 ひたすら現所維持のためだけの最低限のトレーニング。テイオーの様子が急変するかもしれないと思うと気も休まらず、細心の注意を払い精神をすり減らす日々だ。

 そうなるとマヤノのトレーニングに付き添うなんてほとんどできない。本人は「秘密の特訓するから楽しみにしててね!」と言っていたが、正直申し訳ない。

 

 体重や筋肉量のパフォーマンスに関しては、なんとか維持できたことが奇跡のようで、アップで身体を温めるほどの体力は殆どない。

 なけなしの体力でぶっつけ本番に挑むのが精一杯のところだ。ゴールする前に倒れ込むことすらあり得るだろう。

 もしもに備えての医療スタッフもあらかじめ人員を回してもらった。

 

 あとはもう、トレーナーにできることは無事を祈るだけだ。

 パドックでいつも通りのパフォーマンスをみせたテイオーが、絶不調だとわかっていながら送り出したのだ。

 

「テイオーちゃんは大丈夫。」

 

 マヤノだけが、どれほど悪い状態なのか理解っている。

 それでも勝算が、追い続けた“無敗3冠”というユメを叶えるだろうと信じるのがトレーナーだろう。

「きっと、勝つから」

 マヤノは確信を持って言う。

 

 

 

 

 

 

 

 

 今度は、きっと。

 

 

 

 

 

 ここではマヤノトップガンだけが理解している、枝分かれする数多の可能性の先。

 

 それはトウカイテイオーがたどり着く可能性のひとつ。

 

 あなたたちはきっと、その可能性に触れたことがあるだろう。

 

 夢のような世界の中で。

 

 知ってしまったら触れてはならない。

 

 マヤノトップガンだけは理解っている。

 

 

 勝利の、運命の、その先へ。キミとなら。

 

 

 魂に宿した願いも、想いも。その背に乗せてウマ娘は走る。

 

 

 そのために奇跡だって起こせるのがウマ娘なのだから。

 

 

 

   ◇◇◇◇◇

 

 

 

 もしかしたら、出走したことでトウカイテイオーの選手生命に関わる可能性があるだろう。

今更トレーナー自身の評価がどう転ぶかは気にしていないが、テイオーに万が一があればこれ幸いにとトレーナーを責任を取らせる、なんてこともあり得る。

とのことで生徒会が動いていることをトレーナーは知らない。

 

 それでも走ると決めたのはトウカイテイオー自身だ。

 

 脚が重い。

 

 控室に戻った途端にで寄りかかるように座り込んだテイオー。

 そこに入ってきたのはシンボリルドルフだった。

 

「久しぶりだなテイオー」

「…カイチョー」

 

 マヤノかトレーナーくらいしかこないと思っていたから油断していた。

 よりにもよって、憧れの相手に今見られたくはなかったので顔を逸らしてしまった。

 

「やはり、体調は良くなっていないな?」

「止めに、きたの?」

「いや、止めても出るだろう?」

 

 こうして二人きりで話すのはいつ振りだろう。

 

「私だって、あの時テイオーと同じ状況になったとしても、走るだろう」

「まぁ、その結果がその後のジャパンカップなのだが…情けない話さ」

 

「…カイチョーはさ、全て捨てることでユメが叶うなら、捨てる方を選ぶ?」

 

「…」

 

 それはユメ。いつかの未来かもしれない。違うボクなら選んだだろう結末。

 そんなこともあったような気がするという、かすかに残る記憶の残肖。

 

「ひとりだったら、選ぶかもしれないな」

「リギルがなくて、トレーナーがいなくて、誰もかれもが信用できない敵、そういう状況だったらね」

「でも、選ばなかったから良いチームメイトに、トレーナーに、そしてテイオーに出会えた」

「私はそれを否定したくないんだ。テイオー」

 

「それにだ。あの日のファンだった君がここまできたのを見れて嬉しいんだ」

「だから、無事に帰ってくること。いいな?テイオー」

 

「ボクは…うん、大丈夫」

「答えはもう出ていたとわかったから。ありがとうカイチョー」

 

 言いかけた言葉を飲み込んで、意識を切り替える。もうすぐ時間だ。

 

「いってくるね」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 テイオーの背中を見送ってからシンボリルドルフは呟く。

 

「あの日のファンのひとりだった君がここまでくるとはね」

 

 まだクラシック期のウマ娘に過ぎない自分の、ある日のインタビュー。

 私みたいに凄いウマ娘になる。そう言ったウマ娘の小さなファン。懐かしいものだ。

 人の顔を忘れない私ではなくても、印象深いファンになるのは間違いない。

 いまやあの日の言葉が実現まであと一歩というところだ。だからこそ。

 

「君の絶対を見せてくれ、テイオー」

 

 君だけの絶対を。ウマ娘の可能性を。

 たとえ無敗の3冠でなかったとしても、私はこう思うだろう。

 

 今はただ、無事を祈っている。

 

 

 

 

 

   ◇◇◇◇◇

 

 

 

 

絶不調のトウカイテイオーはその疲れからか、スタートを出遅れ後方から追う形のレースとなった。

 適正が中距離のトウカイテイオーにとって未知の距離であるが、結果的に体力の温存に繋がり良かったかもしれない。

 

 最終コーナーも間近に迫っていても、速度に乗り切れないテイオーは次第に焦り始めていた。

 続々と後ろのウマ娘たちが追い抜いていくのを眺めるだけ。

 遠くなる背中はそのまま、ユメが遠ざかっていくようだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ―――また、諦めるの?

 

 

 嫌だ。

 

 

 ―――全てを捨てて掴んでみせる?

 

 それも嫌だ。

 

 

 

 ボクは欲張りだから。

 

 マヤノも、トレーナーも、勝つため手段を考えてくれた。協力してくれた。

 

 今度こそ、ボクは。ユメを掴むんだ!

 

 

 

 

 

 

 

 

 玉座のようなテイオーの領域が広がる。

 マントを翻して青い稲妻を纏い加速する。

 勝利の為の飛ぶ走り(テイオーステップ)ではない、新しいカタチ。

 そこをどけ。ボクが通る。

 横に振るった腕に合わせて研ぎ澄まされたプレッシャーの広がりに、前のウマ娘が僅かに横にズレる。

 

 いままでは雲に手を伸ばすように、届かない背中を追うしかできなかった。

 でも、今は違う。

 

 模倣の稲妻を振り払い、見据えるのはたったひとつの勝利への道(ウイニングロード)

 その身は絶不調ながら、溢れる不屈の炎は翼へと姿を変える。

 

 地平線を越えて、その先まで。どこまでも翔けていく。

 

 トウカイテイオーは今、3冠ウマ娘へのユメを翔ける。

 

 

 

 今にも意識が飛びそうだとか、ひどく脚が重いとか、そんなことは知ったことか!

 

 

 

 ボクが、サイキョーのウマ娘なんだ!

 

 

 

 

 自身の不調すらねじ伏せてトウカイテイオーは殻を破る。

 

 なりふり構わない破滅の走りではなく、既に限界のパフォーマンスをギリギリで留まり巧く走るという奇跡の走りだった。

 

 

 

 

 やはり天才というものはいるものだ。悔しいが。

 

 最後に抜き去られたナイスネイチャは、そこに眩しいほどの輝きを見た。

 

「…キラキラ、してるなぁ」

 

 

 

 

 

 

 

 無敗の3冠ウマ娘となったトウカイテイオー。

 

 既に限界だった彼女はゴールしてから、3本指を観客にみせるまではなんとか耐えたが、すぐ眠るように気を失った。

 

 絶不調ながら奇跡の走りを見せたトウカイテイオーの姿に、世間は大きく賑わった。

 

 そのすぐ後の秋華賞のマヤノは蹂躙といえるだろう。

 全員が失速し、墜落していくかのように見える圧倒的なレースだった。

 無敗の3冠ウマ娘に続いて、無敗のトリプルティアラウマ娘の誕生だ。

 二人の世代最強は、奇しくも同じチームから生まれた大波乱の年となる。

 

 

 菊花賞を過ぎてからは、テイオーは噓のように回復し、続くジャパンカップへの調整を始めていた。

 

 

 皇帝を超える帝王、その歩みは止まらない。

 

 

「すごいなぁテイオーさん!私もいつか、あんな風になるんだ!」




「みなさんこんにちは。こんばんは?」
 配信コメント:お、きたきた
「マーチャンネルのお時間です」
 配信コメント:たすかる
「トウカイテイオーちゃんの次走はジャパンカップです」
 配信コメント:3冠ウマ娘のジンクス破ってくれ~
「皇帝さんを超えるとやる気たっぷりです」
 配信コメント:無敗3冠ですらすげぇのによ
「もし勝利したらウマ娘初の偉業らしいです」
 配信コメント:私もテイオーさんみたいになりたいです!
「アストンマーチャンでした」
 配信コメント:ありがとうマスコットちゃん


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

IF07 クラシックの終わり

あけましておめでとうございます!!
クラシック期が終わりますが、本編とは違いIFルートなのでもう少し続きますよ

更新が遅くて申し訳ありません。
次かその次あたりで、悶々としていた方も思う存分感想に書いてもよくなると思います。
それまで我慢。


 菊花賞の熱が冷めやらぬ冬。

 

 トウカイテイオーはクラシック無敗の4冠目への挑戦としてジャパンカップへ、マヤノトップガンはトリプルティアラに連なるティアラ路線のエリザベス女王杯へと挑んだ訳だが、驚くほどあっさりと勝ってしまった。

 

 こんなにあっさりと勝てるものなのだろうか?と自分の感覚を見つめ直す程には、トレーナーが最も実感のない勝利であった。

 それもそのはず、初担当2人のウマ娘が無敗記録を重ね、名立たるG1レースを勝利してしまう天才だ。最も凡人寄りの感性なのはトレーナーである。

 果たしてトレーナーとしての自分の実績と言えるのだろうか?と疑問に思っている。

 たまに言われる「担当に恵まれただけ、お飾りの実績」という話はその通りだなと感じている。

 嫌がらせ自体はたづなさんやリギル繋がりを警戒してか、減ってはいるが陰口はどうにもならない。

 

 マヤノは今年度最後のレースである。エリザベス女王杯は実質的に4つ目のティアラとも呼べる。

 つまり4つのティアラを1年で獲得し、夏の宝塚記念をも制した最強の女王が、いまだクラッシック期のウマ娘から誕生した訳だ。ウマ娘の歴史に名を刻むことになっただろう。

 

 ちなみに身に余る功績を手にしたせいで、新人トレーナーの給料以外の+αが増えた結果、ちょっと通帳を見るのが怖くなったり、突然生えてきた親戚からの電話も少し増えた。

 

 

 

   ◇◇◇◇◇

 

「おはようございます、マーチャンですよー」

 

 

 有マ記念はトウカイテイオーとマヤノトップガンのどちらも、ファン投票上位に入ったことで出走条件は満たしている。

 しかしながら、マヤノは事前に「気分が乗らないので出ないよ!」とチーム公式アカウント、インタビュー共に不参加表明をしている。

 トウカイテイオーはこのまま、皇帝を超えクラシック路線の前人未到である「クラシック期G1で年間無敗の5勝」を掲げて調整しているところだ。

 ライバル候補として有力視されていたナリタブライアンは、あくまでマヤノトップガンと対決したいと言っており辞退、来年の宝塚記念か有マ記念に出走予定があれば狙っているとのこと。

 来年度はついに、乙名史氏らの協力によって実現された、クライマックスシリーズの開幕ということで名のあるウマ娘たちのドリームレースが行われる。そちらで対決したいという話もあるかもしれない。今季最強とまで既に言われている、うちのトウカイテイオーとマヤノトップガンも是非にと呼ばれているので、有り得ない話ではないだろう。

 ドリームシリーズの枠もいくつか設けるという話もあるらしいので、真の最強決定戦と言えるとんでもないレースになるかもしれない。

 

「マーちゃんも適性があれば、出てみたかったなぁって」

 しかしそれは、叶わないユメなのだ。

 

 今日はトレーニング休みの日。トレーナーは以前から協力関係になっているアグネスタキオンの研究室へときていた。

 

 

 アグネスタキオンとマンハッタンカフェ。あまり良い噂はなかったが、耳にしたことはあった、意図的に走らず研究に没頭するウマ娘の話。

 あの皇帝、シンボリルドルフも評価する程に実力があるのだが、選抜レースに出ることはないウマ娘たちだ。

 アグネスタキオンは何やら怪しげな実験を繰り返していて、マンハッタンカフェは関わると不幸が起こるともっぱらの噂だ。

 もちろんいくつかは誇張された内容だが、半分くらいは実際にあったことであるらしい。

 少なくともマンハッタンカフェに関しては「お友達」や悪意ある幽霊によるもので、本人の意図しないものである。

「マーちゃんちょっぴり親近感ありますねー」

 トレーナーは足りない知識と経験を補うために、なりふり構っていられなかったのもあり、一度訪ねてみることにした。

 ちなみにマヤノがたまたま遭遇したアグネスデジタルを捕獲(もとい連行)して紹介して貰ったツテ、らしい。

 

 テイオーのデータ提供とちょっとした対価の代わりに、未だメイクデビューすらしていない彼女達に協力すること。少しでもテイオーの問題を解決できるならと。

 その結果、データと進捗の共有ついでに、なにかと相談したり実験に付き合う関係が2年程続いているのだった。なお7色に輝く怪しい薬を飲んだりはしていない。

 しかし、彼女たちにも当然タイムリミットは存在する。

 担当なしで過ごせるのは今年が限界という話だった。ひとまずチーム・アンタレス所属という扱いで猶予時間を引き伸ばし、もし担当トレーナーが見つかったら引き止めないという仮所属だ。

 

「やぁやぁトレーナーくぅん、待っていたよ」

 

 持ってきたお茶請けはマンハッタンカフェに渡して、アグネスタキオンにはここ最近のデータをまとめたものを渡した。他に頼まれていた物はテーブルに。

 ついでにチーム・アンタレスプレミアムぱかプチ3点セット(限定品)を置いておく。

 マンハッタンカフェが「…ここなら大丈夫です」と示した場所だ。

「いい場所ですねー」

 ついでに後で投稿する用の写真を撮っておく。

 

「テイオー君のデータをみる限り、負荷の軽減に関してはうまくいったと言えるだろうねぇ」

 

 いつも通りであるなら砂糖多めの紅茶を少し舐めて、アグネスタキオンはデータを流し見て言った。

 

「次は有マ記念か、今回とりあえずは大丈夫だろうというのが、私の予測だねぇ」

 

 そのあたりは違和感に敏感なマヤノも同意見なので、ひとまず安心といったところか。

 

「…脚の脆さはウマ娘にとって致命的だ」

「他ならぬ私自身がそうなのだから。」

「おかげで模擬レースすら満足にできないからねぇ」

 

 自虐的な言いようだが、アグネスタキオンが走らない、いや走れない問題というのは、確かに致命的な問題だ。

 デビューしたところで、一度きりのクラシック路線のようなレースにいざ挑むときに限り、不調で出走できないなんてこともあるだろう。

 私はともかく、栄誉ある称号を手にしたいトレーナーにとってはたまらないだろう。

 ただ、その脚の脆さに関する噂は流れていない。謎の実験をしている癖ウマ娘として知れ渡っているからだ。

 

「正直、半信半疑なところはあったが、1年以内に折れるだろうという計算は出ていたさ」

「菊花賞前の不調に関しては不思議なことに、全くと言っていいほどよくわからないというのが結果さ」

 トウカイテイオーに関しては私より詳しいだろう、アグネスタキオンでもわからなかったことか。

「…私からみても、悪霊の類が悪さをしているようには感じられませんでした」

「私としては、もっと別の…ウマ娘の根幹に関わるモノかもしれないと思えるねぇ」

 

 ウマ娘の、根幹?

 

「キミも知っての通り、ウマ娘は魂に刻まれた名前を持って生まれるだろう?」

「ならば魂に刻まれた運命のようなものがあったとしよう」

 

「仮にだ、トウカイテイオーは菊花賞を走れない運命を持つとしたら、どうなると思う?」

 

 運命だとしたら。突然の故障、原因不明の体調不良が、そうあることが当然のように逃れられない現象が起こるとでも?

 それこそ、神のいたずらとでもいうように…?

 トウカイテイオーだけではない。チーム・スピカのサイレンススズカに関する話を聞いたが、いまなら違和感を感じる。

 

「思い当たる節はあるようだねぇ?お互いに」

 そうだとしたら、彼女には何が待ち受けているのだろうか。

「どのウマ娘にも当てはまる話さ。3女神なら知っているのかもしれないねぇ」

 

 直接聞くことが叶わないことだ。誰もその声を聴いた、姿をみたという話はないのだから。敬虔深いウマ娘やトレーナーがいた話はあるが、神託を受けたということは全くないらしい。

 

「しかしだ、キミ達がウマ娘の可能性を見せてくれた」

 

 私たちが?

 

「運命だとしても、変えられる可能性。私だけでは見つけられなかったモノさ」

 

 そこでアグネスタキオンが取り出したのは、チーム加入申請書。書かれた名前はアグネスタキオンとマンハッタンカフェのものだった。

 

「…タキオンさんが思いの外、ごねましたので」

 

 私は付き合わされただけで最初から決めていました、というマンハッタンカフェは素知らぬ顔でコーヒーを飲んでいる。

「カ~~フェ~~~?」

 アグネスタキオンからジト目が送られるも、全く見向きもされていなかった。

「お友達が見えずとも、存在を感じられるヒトは今までいせんでしたから」

 

 …そうだった。一度だけ白いウマ娘の幻を見た。そう言ったときに素質があるのだと言われていたのだ。『お友達』も積極的に目覚めさせるような刺激はしない、らしいがたまに白い後ろ姿だけは見えることがある、ような気がする。定かではないが。

 

「よろしく頼むよ?トレーナーくん」

「…今後もできる限り、協力は惜しみませんので」

 

 

 

   ◇◇◇◇◇

 

 

 

 

 

 

「さて、トレーナー君にはできない話をしようか」

 

 

 

 

 

「…結論から言いましょう、あなたはもう、走るべきではありません」

 

「知名度が上がったとはいえ、記憶に残りにくいという現象は、科学的にアプローチするには限界があるからねぇ」

 

 …わかっています。

 

「次どうなるかもわからないというのにかい?」

 

 それでも、走らなければならないのです。

 信じたくはないですが、それが運命なのかもしれません。

 

「ふぅん?わかりきっていたかようにいうねぇ」

 

 流れ落ちる水を止めることは、私にはできませんので。

 

「…あなたは―――」

 

 

 

 

 

   ◇◇◇◇◇

 

 

 

 

「彼女、不思議なウマ娘、としか表現できないのが悔しいところかねぇ」

 

 紅茶のお代わりを注ぎながら、顔を上げずにアグネスタキオンは呟く。

 

「お友達ですら、見えにくいと言っているのは異常なことです」

 

 マンハッタンカフェは彼女について纏めたノートをぱらぱらと捲る。

 『お友達』はお手上げとでも言うように手をひらひらとさせたのをみて、ため息を吐く。

 

「機器の計測では時より不自然に測定不能になる、興味深い現象ではあるけどねぇ」

 

 どの計測機器であっても、僅かの間だけ全てがエラーを吐くのだ。その後は何事もなかったように元に戻る。

 一度だけなら偶然だろう。しかし、何度も起こりえるものなのか?答えは否だ。

 

「この世界に嫌われてる、というにはいささか過剰な気がしないかい?」

 

「…彼女は、突然現れたとしか言えない存在、そうお友達が言っていました」

 

 そう、ある日突然現れたウマ娘。それはあのトレーナーがきた頃だった。

 

「誰もが口を揃えて、そんなウマ娘がいたかと疑問に思う。異常としか言えないさ」

 

「まず忘れないであろう、たづなさんや会長ですらだ」

 

「デジタル君から話が聞こえてもおかしくないが、それもなかった」

 

 しかし、彼女は確かに存在する。学生証も、彼女の部屋も。

 

「使いたくはなかったが、実家のつてで調べても痕跡すらなかったという話さ」

 

「それは…」

 

「果たしてキミは、どこから来たのだろうねぇ」

 

「もしかして、未来あるいは過去、別の世界や平行世界、そう呼ばれるところからきたとでも言うのかねえ」

 

 わからなくないこそ知りたいと感じてしまう、アグネスタキオンは生粋の研究者だった。

 

 

 

 

   ◇◇◇◇◇

 

 

 

「今週はクリスマス!みんなでパーティしよ!」

 

 

「せっかく年度代表ウマ娘になったし、盛大にいこうよ」

 

「定番はチキンですかねー」

 

 有マ記念目前で行われた抽選会、そこで年度代表ウマ娘に当然のように選ばれたふたり。クラシックの中長距離路線からトウカイテイオー、マイル含めたティアラ路線で結果を残したマヤノトップガンのどちらも、今季無敗のウマ娘だ。当然とも言えるだろう。

 そして、来年度末に開催が決まったクライマックスシリーズについても正式に発表された。

 

 今をときめく二人と名だたるウマ娘たちがしのぎを削る、最強を決めるレース。

 思ったよりも世間が好意的であって良かったと思う。

 

 トレーナーは大切な担当ウマ娘と共に、クリスマスパーティの準備に街へ繰り出した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 そして、トウカイテイオーは有マ記念を制し、無敗の6冠ウマ娘となった。

 

 

 

 トウカイテイオーは運命の先へ辿り着いた。

 

 

 

 

 

 

 チーム・アンタレス、もう一つのお話はここで終わらない。

 

 しかし運命の足音は、彼女へと着実に迫っていた。

 

 覚悟はできていますか?




「マーちゃんです」
『…?』
「みえていますか?」
『放送事故か?』
「きこえていますか?」
『嘘だろ?そこにいるじゃないか』
「私の次走を発表しますね」
『は?人形しか写ってないが??』
「高松宮記念です」
『可愛いマスコットウマ娘人形ちゃんですね』
「楽しみにしてくださいね」
『幻覚ニキはウマ娘がみた過ぎてみえないもの見えているな?』
「マーちゃんでした」
『いつものマスコット映像放送でしょ?』

『このマスコットちゃんのモチーフウマ娘ちゃんて誰だっけ?』

『たのしみだなぁ、高松宮記念』


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

IF08 忘却

おまたせしました。
結末は決めていますが、中々筆が乗らず遅くなりました。

運命は待ってくれない。覚悟を決めるときです。
お待たせしました。感想の制限はもうありません
最終話09も翌日更新される予定です。


 有マ記念の後はチームみんなで温泉旅行へ行くことになった。

 マヤノが以前温泉旅行券を当てたので、いい機会でもあった。

 アグネスタキオンとマンハッタンカフェはデビュー自体が来年以降の予定だが、せっかくなのでチーム全員で行くことに。

 3人部屋を二つとトレーナーは個室で部屋をとり、小旅行を楽しんだ。

 マヤノとアグネスタキオン、テイオーとマンハッタンカフェという部屋割りにしたらしい。

 普段から関わり合いのある同士だったので、少し意外に思えた。

 マーチャンはマヤノとタキオンの方にしたらしい。

 時折カフェの『お友達』にちょっかいをかけられて、見えない相手にビビらされたと私の部屋へ逃げてくるテイオーをなだめつつ、年末のウマ娘特番を見ていた。

 

 …思えば、あまり気が休まる暇もない1年だったように思う。

 この2年間はあまり気が休まらないものだったと言えるだろう。

 一人担当するのも大変なのに、一度に複数は無茶な話だった。

 

 有マ記念の振り返りが終わり、紹介されるのは3冠ウマ娘特集。あぁ、一握りの高みにいるウマ娘が二人もいるのだと、改めて実感する。

 

「…目の前にいるのに、画面のボクを見て面白いの?」

 

 面白いか、というよりはこういう意見もあるんだなと思っている。

 

「カイチョーのことはともかく自分のはちょっとなぁ」

 

 そういうものだろうか。ウマ娘は勝ち星上げると必然的に有名人なるものである。避けては通れないことだが、担当トレーナーである私も有名人と言えるだろう。

 …あまり紹介されたくはないなぁ。

 

 

「そういえば、パパとママもトレーナーに一度会いたいって言ってたけど」

 

 …前向きに検討させていただきます。

 

「それ、断る人の言い訳じゃん!」

 

 ソ、ソンナコトナイデスヨ…?

 

 3冠達成が成されたときにちょっとお話できませんか?と連絡がきたことを忘れていました。

 確か、これからも娘をよろしくお願いしますといった内容だったと記憶している。

 過保護気味に可愛がってくるらしいことはテイオーから聞いたように思うが、いつか家にも招きたいという話は丁重にお断りしたところだ。

 ウマ娘の力で強引に、ということはないと願いたいところだ。

 お金持ちのパワーでゴリ押しされる、といった事例が過去にないとは言えないのが悲しい現実である。どことはいわないが。

 

 

 それから、テイオーとゆっくりした時間を過ごした。

 

 

 

 

 

   ◇◇◇◇◇

 

 

 

 

 

 特番も終わり、いい時間になってきた。

 「お風呂!」と駆けていったマヤノもそろそろ戻ってくる頃だろうか。

 膝枕の状態から、テイオーはゆっくりと腕を回して抱き着いてきた。

 

「…ありがとね」

 

 囁くように、小声でテイオーは呟く。

 

「トレーナーがいたから、ここまでこれた」

 

 トレーナーの服に顔をうずめるようにして、表情は見せない。

 耳が下がり気味なのは照れ隠しでもある証拠だろうか。

 ゆっくりとテイオーを撫でる。

 

「…ボクのユメ、だいたい叶っちゃったなぁ」

 

 

 ゆったりとした雰囲気を壊すように扉が開き、テイオーは「ピェッ!?」と小さな奇声とともに飛び上がり距離をとった。

 テイオーを撫でようと持ち上げた手は空を彷徨う。

 

「むぅ、テイオーちゃんだけずるーい!!」

 

 飛び込んできたマヤノは、テイオーが離れた隙にしっかりと抱きついてきた。

 少し頬を膨らませながら、もう渡さないとばかりに胸元まで抱き寄せられる。

 ほのかに香る温泉特有のものと高めの体温に、湯上り直後に急いだのだと感じられる。完全にほどかれた長い髪も結ばずにきたほどで、まだ湿っているように思う。

 

「マヤのトレーナーちゃんだから、テイオーちゃんにはあげないもん」

 

 抱きしめ返したいくらいに可愛いウマ娘だが、抱きついてきたマヤノを引きはがし、生乾きな髪の手入れを始める。

 マヤノならくるかもしれないと思って、準備してあったのを思い出したのだ。

 

「…いやいや、ボク“たち”のトレーナーじゃん」

 

「でも、トレーナーちゃんはマヤにむちゅーだしぃ?」

 

 ねー?と聞かれたので頷いておく。マヤノ“だけ”という訳ではないが、間違ってはいない。

 私はマヤノ“たち”に夢中だと言えるのだから。

 はぁとため息をついたテイオーは背中側に回り、体を預けるように密着する。

 これからもこの3冠ウマ娘ふたりに振り回されそうだなぁと、少し諦め気味ながら嫌には感じないトレーナーだった。

 

 

 

 

 

 

 

 扉の外にもいることはマヤノ以外は知らない。

 

「…カフェは混じらなくていいのかい?」

 

扉を挟んだ二人は中へ入ることなく、マヤノが飛びつく様子を見送ったままだ。

 

「…いえ」

 

 相方の珍しい様子に、アグネスタキオンは興味が湧いた。

 私達は待ち望んでいたトレーナーという理解者を得たのだ。ちょっとくらい揶揄ってもいいだろう。

 

「遠慮する必要はなさそうだけどねぇ」

 

「遠慮というよりは、その」

 

「ん?」

 

 おや、思っていた反応とは違うような。

 

「…歯止めが、効かなくなったら嫌なので」

 

「歯止め」

 

 …何の?

 まさかの回答に、ちょっと揶揄ってやろうと思っていたタキオンの思考が停止してしまった。

 

「『お友達』もきっと、止めてくれないので」

 

 ちょっぴり頬を赤らめて言う様子に、具体的な内容は聞けなかった。

 あれ、ひょっとしたらトレーナーはマズイものを目覚めさせてしまったのでは。

 トレーナー君でちょっと薬の実験する発想があった自分のことを棚に上げて、タキオンはそう思った。

 まぁ、うん。トレーナー君には責任をとって貰うのがいいんじゃないかな。

 

 名のある家ほど強制連行というご招待はよくある話だし、思春期のウマ娘を支えたトレーナーが一生を共にするという話は、少なからずある話である。

 

 少しだけ、トレーナーという存在を哀れに思ってしまったタキオンは、これからも忙しくするトレーナーの負担を1割ほど軽くしたらしい。

 

 

「…マーちゃんにはちょっと、あそこは眩しすぎますね」

 

 

   ◇◇◇◇◇

 

 

 

 

 身体がふわふわとした浮遊感に包まれている。

 

 夢を、みているのだろう。

 

 微睡に揺れる意識の中で、誰かに似た白いウマ娘は私の手を引かれていく。

 

 グラウンド、チームルーム、河川敷と移り変わる非現実的な景色にはっきりとこれは夢だと感じた。

 

「…きっと、あなたは目が覚めたら忘れてしまうでしょう」

 

 やがて砂浜についたところで、手は離された。

 見覚えのある場所だが、どこの海岸だろうか。

 

「ここは境界の開く場所。異質な存在や、魔に魅入られた存在ほど引き寄せるところ」

 

 彼女が指さしたのは海の向こう側。薄暗い夜の海は静かに揺れている。

 

「ここは夢なので、本物ではないけれど」

 

 夢。つまり現実のこの場所が、そういった場所なのだろうか。

 私の考えを肯定するように頷いた彼女は続ける。

 

「彼女はここではない場所から流れついた」

 

 彼女、きっとあの子のことだろう。不思議なウマ娘の、アストンマーチャン。

 

「だから、気を付けて。彼女はずっと、呼ばれていると思う」

 

 海の向こうから?あの世とでも言うべき場所、もしくは彼女本来の居場所に繋がっているのだろうか。

 海といえば、生命の帰る場所。こぼれ落ちる水に例えた彼女にとっても終わり(はじまり)の場所。

 

「次はきっと最後の機会。だからトレーナーさん、どうか―――

 

 

 この場所をわすれないで

 

 

 薄れゆく意識の中、彼女の忠告は薄れていく。

 

 夢からは現実へ持ち帰ることはできない。

 記憶に残らないとしても、それでも込められた想いは残る。

 可能性を繋ぐことはできるのだ。

 

 どうか、運命のその先へ。乗り越える切欠とならんことを。

 

 カフェですら私には、助けることができないのだから。

 

 

 

 

   ◇◇◇◇◇

 

 

 

 

 

 激戦を制したトウカイテイオーのシニア1年目は、今年大事をとって休息とした。

 

 脚の疲労を取り除きたいので、年末のクライマックスシリーズまでお休みだ。

 クライマックスシリーズはトゥインクルシリーズとは別枠の特別レースという扱いらしく、どのような勝敗であっても数に入れないらしい。

 来年度から本格的にシンボリルドルフのG1勝利記録に挑むことになるだろう。

 または、シンボリルドルフさえ掴めなかった凱旋門賞へ挑む、なんてこともあり得るかもしれない。

 最近は以前のように、生徒会室によく遊びに行く様子が見られている。

 時期生徒会長候補では?とも噂されているらしいが、「そういうのはマックイーンの方が向いてるし」と否定している。

 「生徒会入りはするかもしれないけれど、手伝いくらいで留めてそもそも入らないかも?」と言っているので、ゆっくり考えるらしい。

 

 その一方で、マヤノトップガンは今年の予定として宝塚連覇を掲げている。

「せっかくブライアンさんに挑まれたからには、一度白黒つけないとって」

 この間のインタビューの際には、マヤノはそのように答えていた。 

 

 

 

 

 あと一ヶ月もしないうちに、トレセン学園名物の感謝祭が開催されるということで、レースを控えたウマ娘以外はそれぞれの催し物について準備をしているらしい。

 関係者以外の人がトレセンに大勢集まる数少ないファン交流イベントで、数少ない一般開放される機会でもある。

 クラスやチームで集まり行われることが多く、学園は準備で忙しいようだ。

 マヤノとテイオーは年度代表ウマ娘となったので、相応の対応が求められるだろう。

 こういった機会では、輝かしい功績を残したウマ娘が、握手会やちょっとした並走等、何かしらのファンサービスを行うことが通例らしい。

 しかし、アストンマーチャンに話は一切こなかったようだ。

 彼女もまた、名を連ねたウマ娘であるというのに。

 聞いた話では、フジキセキ監修テイエムオペラオーらによるウマ娘歌劇、「トゥインクル☆スタアライト」なるものも行われるらしい。

 マンハッタンカフェもどうですか?と話がきたようだが断ったとか。

 

 

 

 感謝祭当日は、チーム・アンタレスとしての催しといえば、限定チームぱかプチ3体セットを販売したくらいである。

 マヤノの気分次第でサイン付きになっているらしいが、私はどれがそうなのかを知らない。

 たまたまテイオーがきたときに来ていた、ファンを名乗るウマ娘2人組にはマヤノとテイオーがそれぞれサイン入りで渡していた。

 マヤノ曰く「きっといいライバルになるよ!」とのこと。きっと将来が楽しみなウマ娘なのだろう。

 

「せっかくなのでマーちゃんのサインもつけておきますね」

 

 

   ◇◇◇◇◇

 

 

 

 

 

 3月に開催される高松宮記念は、年度の切り替わりを考えると大阪杯と並び、最後のG1レースと言えるだろう。

 4月には長距離レースとしてかの有名な春の盾、G1レース天皇賞・春が控えているが、あちらと違い短距離レース。

 日本ではクラシックディスタンスといえば中距離が主流ということもあり、多少注目度が低いかもしれないが、立派なG1レースである。

 

 一昨年の覇者、キングヘイローの活躍は記憶に新しい。

 黄金世代と中・長距離で勝負していたウマ娘が短距離に路線変更し、勝利した。

 距離を延ばすより縮める方が難しいと言われるくらいなので、彼女は天性のオールラウンダーかもしれない。

 少なくとも、サクラバクシンオーがキングヘイローと同じように中・長距離で入着することはほぼ不可能だろうし、かのシンボリルドルフであっても短距離で勝利するのは難しいだろう。

 キングヘイローは今年の参戦も表明していたので、優勝筆頭候補と言われている。

 マーチャンの知名度自体は上がっていて、3番人気だったはずだ。

 他にも強敵といえるウマ娘達が多く、私には予想がつかないレースになりそうだった。

 しかし、マーチャンなら勝てる。そう思えた

 

 

 ファンファーレは鳴り響く。

 

 人々のユメと想いを乗せて。祝福のように。

 

 ユメの先へ、遠く、遠く。

 

 

 今日が、運命の日であると告げるように。

 

 

   ◇◇◇◇◇

 

 

 

 

 

 『勝ったのは■■■■■■■■■!!』

 

 『2着にキングヘイロー!!』

 

 激戦を制したのは、小さな王冠をつけたウマ娘。アストンマーチャンだ。

 彼女達の健闘を称える観衆と、応援していたウマ娘の敗北に悔しさを浮かべる人々がほとんどだった。

 

 私も勝利した彼女の名前を呼ぼうとして―――

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ズキリと突然、ひどく頭が痛んだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 反射的に頭を抑えていたことに気がつく。

 すぐに収まったので、掴んでいた手摺も離し再びターフに目を向ける

 

「トレーナーちゃん、大丈夫?」

 

 突然様子がおかしくなったトレーナーの姿に、マヤノが心配そうに服を掴んでいる。

 歓声もいつの間にかやんでいた。

 

 恐らく1着であろう知らないウマ娘が、観客席に向かって手を振っている。

 

 なぜか歓声はならなかった。驚くほど静かな観客席のままだ。

 それでも手を振る彼女の名は誰も呼ばない。呼ばれない。

 

『よかったぞキングヘイロー!』

 

 ポツリ、ポツリと観客席からウマ娘の健闘を称える声が出始める。

 しかし、彼女の名は呼ばれない。

 

 誰も彼女に気がついていないように。

 

 

 やがて彼女はこちらへ顔を向けた。

 観客席の様子に驚きはしてないようで、悲しんだようには見えなかった。

 

 

 …?

 

 彼女はにこやかに私のいる方向へ、口を開く。

 

■ー■■■はどうでしたか?レンズさん

 

 

 目が合った私に向かって、ノイズ交じりの名前を口にした。

 

 しかし、彼女の名前と思われる部分にに聞き覚えがなく、首を傾げた。

 私は彼女の関係者なのだろうか?全く身に覚えのないことだった。

 私ではなく周りに担当のトレーナーがいるのか?と辺りを見回してみるが、誰も彼女の方を見ていない。

 

 

「…あっ」

 

 

 私の顔を見た彼女は、驚きと共にゆっくり手を下ろした。

 信じたくないものを見てしまった、そんな顔だ。

 

 ゆっくりとふらつきながら彼女はターフを去っていく。

 

 途中、よろけてぶつかった記者の誰もが、彼女に気がつかない。

 

 

 …私は、彼女の知り合いだっただろうか?

 

 伸ばしそこねた手は、気づかぬうちに御守りのような匂袋を握りしめていた。

 

 

 

 そして彼女は消えた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「…あぁ、マーちゃんは失敗しました」

 

 涙は、出なかった。

 

 初めから、わかっていたことなのです。

 

 ユメは、醒めるものです。

 

 あの日と同じ舞台で、繰り返されたユメなのだから。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 それから、学園に戻るまでのことをよく覚えていない。

 

 いつの間にか部屋へと戻っていて、今日はユメでも見ていたのだろうか。

 

 小さな王冠をつけたウマ娘。あのウマ娘は、なんて名前だろうか?

 

 私はあのウマ娘を知っているのだろうか。

 

 小さな棘のような違和感が残る。

 

 昼か夜かもわからない黄昏の中で、意識は闇へと沈んでいく。

 

 

 

 

「ゆっくりおやすみ、トレーナーちゃん」

 

 

 

 

 マヤノの声だけは、はっきりと聞こえた。




IF世界、その秘密を知る覚悟は、ありますか?

もしあるなら、始めから黒く塗りつぶしてください。

隠された真実は残酷なものかもしれません。

彼女の名前を呼んであげてください。

彼女の軌跡を忘れないであげてください。

この世界を観測しているあなたならば、きっと。

貴方達の想いが集い、少しばかりの奇跡を生み出せるかもしれません。


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

IF09 名前を呼んで(終)

最後なので連続更新。

答え合わせを始めましょう



 気がついたとき、私はチームルームにいた。

 

 いつのまにか眠っていたのだろうか?

 

 なにかを忘れている気がする。

 

 今日はいつだろうか。

 

 立ち上がった私は、ふと目に付いたトロフィーの置かれた棚に近寄る。

 

 皐月賞、ダービー、菊花賞。クラシック3冠に桜花賞から始まるトリプルティアラ。

 たった1年間で揃ってしまった、多くのトレーナーが羨むトロフィーの数々だ。

 

 トウカイテイオーとマヤノトップガンによって荒らされたとでも言うべき、輝かしい功績だ。

 

 それだけではなく、目の前には見覚えのないトロフィーが置かれている。

 ■■■■■ー■■■?誰だろうか。

 そっとひとつを手に取り、安田記念のトロフィーに刻まれた、なぜか読めないその名前をゆっくりとなぞる。

 私はその名前を、知っているような気がする。

 知らないはずなのに、知っているように思う?不思議な気分だった。

 

 

 

 トレーナーちゃんは、知りたい?

 

 

 

 ふと聞こえた声に私は振り返る。

 

 

「トレーナーちゃん」

 

 

 部屋に差し込む夕陽を背にしてマヤノトップガンはいた。

 

 逆光でマヤノの顔はみえない。

 

「もう、休まない?」

 

 

 優しい声色で言われたそれは、堕落への誘いに思えるほど甘美な囁きだった。

 

 

「トレーナーちゃんはいっぱい、いーっぱい私たちの為に頑張ったよね」

 

 胸のあたりで手を重ねたマヤノは続ける。

 

 …そうだ。それが報われたのか、トウカイテイオーは無事にユメを叶えた。

 3冠ウマ娘となって、シンボリルドルフも成し遂げられなかった無敗のまま、有マ記念までもを制し無敗の6冠である。

 

 

「…だから、忘れてしまったとしても」

 

 続いた声は小さかった。

 

「…わからなくても、いいと思わない?」

 

 顔を上げたマヤノは、泣きそうな表情をしていた。

 

 トレーナーである私を、本気で心配しているとわかってしまった。

 

 

 

 

 

 …あぁ、それは、ダメだ。きっと、ダメなのだ。

 

 何がどうと、はっきりとしなくても。

 

 私は。私だけはしちゃいけないことだと思う。

 

「そうだね、トレーナーちゃんはそういう人だよね」

 

 何故かわからないのに、凄く苦しい。

 

 知らないはずなのに。

 

「うん」

 

 大切なモノを失ってしまうような気がして。

 

 小さな違和感がまだ、はっきりとしていなくて。

 

「思い出したい?」

 

 …思い出したい。

 

 私は、確かに約束した。そう思うから。

 

 

「…今ならまだ、間に合うよ」

 

 

 そう言ってマヤノは人形を指さす

 

 

「その子、覚えてる?」

 

 

 ずっと部屋にあったマスコット人形。

 

『私は、マスコットになりたいのです』

 

 そう願った誰かに貰った、大きいぱかプチ人形を手に取った。

 肩にかけられた小さな鞄は、小物入れのようになっているようだ。

 

 ふと何かが入っていることに気づいた。

 ポケットの中にあったのは、きっとあの子の匂袋。

 私は迷わず袋を開けた。入っていたのは貝殻とメモリーカード。

 マヤノに手渡されたビデオカメラに差し込んで、入っていた動画ファイルを再生する。

 映っていたのはこの部屋だった。ウマ娘の声もあるが、姿は映っていない。

 

 頭が痛む。

 

 …いや、彼女はそこにいる。なぜか見えないだけで、きっと。

 

 ■■■■■ー■■■。

 

 まだ、名前はノイズ混じりで思い出せない。

 

 ずっと、ずっといたのだ。

 

 少しずつ、虫食いのようにかけた記憶が蘇る。

 

『私のレンズさん』

 

 

 彼女のいた記憶さえ、白く塗りつぶされていたのだ。

 見えない空白に閉じ込めるように。なくても辻褄が合うように。

 

 彼女もまた、共に歩んだウマ娘なのだ。

 数々の記録を塗り替えた、凄いウマ娘なのに。

 

『だから、■■■■■ー■■■を覚えていてくださいね』

 

 

 私は、なぜ彼女を忘れていたのか。

 

 消えてしまいそうな雰囲気があった。

 

 病院が嫌いだと言った。

 

 送った日傘を大切にしていた。

 

 儚げで、放っておけない、あの子を。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 …行かなければ。

 

 今だに名前がノイズまみれで思い出せないのに。

 

「トレーナーちゃんなら、きっとわかるよね?」

 

 …あの海だ。

 

 そこに行けと、言われた気がした。

 

 あの海で、誰かと話した気がする。

 

 いまだ顔のよく見えない、あの子の記憶は確かに存在する。

 

 彼女はきっと、そこにいく。

 

 確かな確信があって、忘れるなと言われた気がする。

 

 だから、行かなければ。

 

 

「いってらっしゃい、トレーナーちゃん」

 

 

 

 

 

   ◇◇◇◇◇

 

 

 

 

 

 

「急ぎなさい。彼女が戻れなくなる前に」

 

 

 

 

 

   ◇◇◇◇◇

 

 

 

 

 

 日傘はもう、必要がなくなってしまいました。

 

 名残惜しいと感じながら、そっと浜辺に置いて、彼女は歩み始めた。

 

 こっちへおいでと、彼女を呼ぶ声が聞こえる。

 

 

 

 もう既に、ひざ下まで水に浸かってしまうところだ。

 

 

 

 ■■■■■ー■■■!!

 

 

 彼女を呼ぶ、あの人の声が聞こえて彼女は足を止めた。止めてしまった。

 

 

 

 なぜ、きてしまったのでしょう。

 

 もう決心はとうにつけていたのに。

 

 どうしてでしょうか。

 

 トレーナーさん。私の、レンズさん。

 

 あなたはひどい人です。

 

 私がまた、覚えていてほしいと、思ってしまったのです。

 

 やがて、私のことなど忘れてしまうというのに。

 

 

 

 

 

 トレーナーさん。私、二度目なんです。

 

 消えてしまったはずの私はなぜか、何かの悪戯か再びトレセン学園にいました。

 

 今までがユメだったのか、今がユメなのか、私にはわかりません。

 

 誰も、私を知らないのに、ちゃんと部屋も、籍もあるんです。

 

 三女神様ならなにか知っているのではないかと思いましたが、何もわかりませんでした

 

 不思議なことが起きると言われる場所に、再び行きましたが何も教えてはくれません。

 

 もしかしたら、ここでならできなかったことができるのではないかと、思ってしまいました。

 

 愚かなウマ娘は、願ってはいけないモノを願ってしまったのです。

 

 

 

 

 

 そんなある日、トレーナーさんに出会ったのです。

 

 ああ、この人なら、きっと。

 

 ウマ娘に寄り添ってくれる人だと、運命のようなものを感じてしまったのです。

 

 それからは夢のような日々でした。

 

 やがて泡のように消える日々だとしても、輝いてみえました。

 

 やむことのない歓声が聞こえなくても。

 

 

 

 

 

 …だからでしょう、愚かなウマ娘は気がつきませんでした。

 

 都合のいい話などありはしないのだと。

 

 望みを叶えるには支払う代償があると、よくわかっていなかったのです。

 

 私は、レースに出るたびに、領域を使う度に、代償として人々の記憶が消えていくようです。

 

 この世界の異物である故に、認識されにくい私の有限な力。

 

 やがて忘れ去られた私の存在は、消えていく。

 

 どうりで、マスコットの人気に反して名前だけが認知されない訳です。

 

 人々の記憶からも消えていく私は、やがて存在そのものが初めからなかったことになるのでしょう。

 

 

 ここが私のいるべき世界ではないのだから。

 

 

 

 

 

 そのことに気が付いたのは、あの夏です。

 

 日傘を貰った日、匂い袋を貰った、あの日。

 

 ふと、下を向いた私は、自分の影が薄まっていると気づいてしまったのです。

 

 その事実を知った私はもう、日傘を手放せなくなってしまいました。

 

 知られることを恐れてしまったのです。

 

 せめて、トレーナーさんに悟られてしまう訳にはいかないと。

 

 

 

 

 

 砂時計のように零れ落ちる、私という誰かの記憶。

 

 明確なタイムリミットを感じてしまった私は、映像を残すことにしました。

 

 私の顔も、声も、匂いも、蹄跡もきっと忘れてしまうかもしれません。

 

 …もう十分貰ってしまいました。

 

 

 

 

 

 だから、この海に呼ばれる声に惹かれるのも、悪くないと思ってしまったのです。

 

 私の番がきていたのに、流れに逆らうことを止める。それだけでした。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 あぁ、私の名前は、どんなものだったでしょうか?

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ■ー■■■!!

 

 

 

 

 …トレーナーさんはずるいです。

 

 幻聴であったら、良かったのに。そう思ってしまいました。

 

 

 服が濡れてしまうことを気にせず、あの人はきてしまいました。

 

 絶対に離さないというように、強く■ー■■■を抱きしめました。

 

 

 

 

 ■■■■、■ー■■■!!

 

 

 

 

 

 叫ぶように言う、ノイズまみれのその言葉は、きっと私の名前なのでしょう。

 

 酷い音です。

 

 そんな風に抱きしめられてしまっては、乱暴に振りほどく訳にはいかないじゃないですか。

 

 ウマ娘の力は強すぎるので、人間のトレーナーを振りほどけばケガでは済まされないでしょう。

 

 マヤノさんもテイオーさんもいるのに、私を止めにきてしまったのですね。

 

 

 

「■ー■■■は、もう終わりでいいじゃないですか」

 

 まだ、始まっていない。そうトレーナーさんは言います。

 

  ■■■■■ー■■■の蹄跡は、まだこれからだと。

 

「誰も、■ー■■■を覚えていませんよ?」

 

 私がいる。それに―――

 

「…それに?」

 

 まだ、取っていないレースがあるだろうと。

 

 チーム・アンタレスのマスコットは君しかいないと。

 

 チームだけでなく、みんなのマスコットには、まだなっていないだろうと。

 

「…そうですね」

 

 マスコットの枠は、譲るわけにはいきませんね。

 

 私は、■ー■■■は、みんなのマスコットになると、そう言いましたね。

 

 一緒に帰ろうと、トレーナーさんは私の手を引いていきます。

 

「…名前」

 

「…もう一度、読んでくれますか?」

 

 

 

 

 

 ア■■■ー■ャ■

 

 

 

 

 

「もう一度です」

 

 

 

 

 

 アストンマーチャン

 

 

 

 

 もう、ノイズまみれの酷い音ではなく、今度こそハッキリと聞こえました。

 

 

 そうでした。これが私の名前です。

 

 

 

 

「はい。アストンマーチャンです」

 

 

 

 

 

 

 

 

 …もうあの忌まわしい声は、すっかり聞こえなくなっていました。

 

 

 

 

 

 

   ◇◇◇◇◇

 

 

 

 

 

 私はトレーナーさんと共にトレセン学園へと戻りました。

 

 すっかり夜になっていて、寮長さんもカンカンです。

 

 スカーレットも、ウオッカも心配していました。忘れていると思っていたので意外です。

 

 ぱかプチ人形が、思い出す切欠だと言っていました。

 

 …はて?私は二人にあげたのでしょうか?ちょっと記憶にありません。

 

 次の日、私にとってはじまりの場所でもある、三女神像を訪れることにしました。

 

 また、ここに戻ってきてしまいました。

 

 

 あの日との違いは、皆さんがおかえりと言ってくれます。心配したと怒っていました。

 

 

「マーちゃんは、もう少しだけ頑張ってみます」

 

 

 

 トレーナーさん達がいる部屋へといくことにしましょう。

 

 踵を返したとき、一瞬だけ風が強く吹きました。

 

 4本足の動物が、マーちゃんの横を通り抜けていったように見えました。

 

『これは、特別ですよ』

 

 かすかに声が聞こえた気がしますが、きっと気のせいでしょう。

 

 システム:■■■を変換

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 マーちゃんは、トゥインクルシリーズでのレースは引退することにしました。

 

 マーチャンの問題は完全に解決した訳ではなく、レースに出るのは現状危険である。とのことです。

 

 あくまでも“現状は”なので、いつか走れる機会がくるのかもしれませんね。

 

 今するべきなのは、マスコットとしての再スタートです。

 

 はい、チームの広報大使兼、マスコットウマ娘のアストンマーチャンです。

 

 少しずつ、時間をかけて確実に。チームのみなさんも協力してくれます。

 

 今はすっかり、世界的な知名度となったらしいです。

 

 トレセン学園の宣伝大使という肩書もいただきました。

 

 

 

 

 やがて、いつの日かに行われるクライマックスシリーズ。

 

 そこで、マーちゃん達チーム・アンタレスは新しい伝説を作るでしょう。

 

 何度目かの開催で、マーちゃんも、その舞台へ―――

 

 おっと、未来のことを言い過ぎました。

 

 ここでマーちゃん達のお話は終わりなのです。

 

 続きは公式マーチャンネルで。

 

 

 

 みんなのマスコット、アストンマーチャンでした。

 

 

 

 

 

   ◇◇◇◇◇

 

 

 

 

システム:シミュレーションNo.■■■■■■■を終了します。

 

 

 

 はじめまして、でしょうか。それともおひさしぶり、でしょうか?

 また、ここへやってきたのですね。

 

 ここはだれかの夢が繋がることで、できた世界です。

 このIFの世界は分岐した世界、マルチバースのひとつと言えるでしょう。

 または膨大なシミュレーションのひとつの可能性というべきでしょうか。

 そこに紛れ込んでしまったバグ、ウマ娘アストンマーチャン。

 

 本来は消えてしまったはずのあの子。偶然にも迷い込んだ魂なのです。

 誰かが願って生まれた可能性のひとつであるので、世界を飛び越えて彼女はきてしまった。

 なぜなら、彼女もまた願ってしまったから。

 

 しかし誰かの想いを背負うウマ娘ですが、彼女への想いは消えてしまうもの。

 彼女は存在しないはずなのですから、時間が経てば消えてしまうのも当然です。

 

 だから、支払う対価は彼女自身で補う必要がありました。

 彼女を知る人々の想いを束ねる代償として、加速的に人々の記憶は薄まっていきます。

 足りない分は彼女の持つ名前に残された、どこか遠い世界の想いたちで埋めました。

 あのぱかプチが、彼女の時間をほんの少し稼く手助けになったのは少々意外でしたね。

 

 本来なら、あなた方がこの世界を観測することは有り得ないことなのです。

 つまりあなた方は、ここではない違う世界の住人なのでしょう。

 儚く消える偽りの世界であったとしても、込められた想いは偽物ではありません。

 あなた方の想いもまた、確かなものでしょう。

 

 ところであなた方は、『感想』や『お気に入り』といった方法で、想いを残すのでしょう?

 それなら想いを束ねて、ほんの少しばかりの奇跡を起こすには十分かもしれませんね。

 

 幸い、少しづつ彼女があの世界で歩んでいけるようする為に、都合のいいマスコットがありますし。

 時間と共に、人々は思い出すことでしょう。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 もうすぐグランドライブが行われます。

 

 トレーナーさん?お疲れでしょうか。

 

「う~ん、どんなユメを見ているんだろう?」

 

「マスターはお疲れです。しばらくそっとしておきましょう」

 

「トレーナーくんも中々大変だからねぇ」

 

「走るだけじゃ見えない景色が、ここにあるのですね」

 

 スマートファルコンさんに始まり、ミホノブルボンさん、アグネスタキオンさん、サイレンススズカさん。

 

 彼らの協力もあって、みんながセンターの特別なライブがついに行われようとしています。

 

「みんなのおかげでここまでこれた、ううん、これからだね!」

 

 ファルコンさんの言葉に皆頷きます。

 

 

 

 

 

 

 起きて、トレーナーちゃん?

 

 

 

 

 

「いくよみんな!テイクオフのときだね!」

 

 そして、マヤノトップガンさん。

 彼女とトレーナーさんなくしてこの日は迎えられなかったでしょう。

 

 見てますか先輩、勝ち負けだけじゃないウマ娘の可能性を。

 

 誰もがセンターとなる、もう一つのユメの舞台を。

 

 

 

 

 

 

 

 IF:気分屋マヤノちゃんたちがクラシックを荒らす話。 完




IF√は完結です。これにて終わりとなります。
拙い文章ながら、ここまでのお付き合いありがとうございました。

あとはIFの設定まとめを次回に更新くらいですね

ここまでありがとうございました!

隣のAG/マヤノテイクオフ


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

☆IF√設定まとめ

定期的に書くと感想評価乞食になってしまうこの頃。


 

 お久しぶりです。

 こうして設定まとめを作るのも2度目となりました。

 

 おそらくですが、IF√投稿時点の10/18で、ハーメルンにアストンマーチャンをメインに据えた作品はなかったはずなので、恐らく私が一番早いと思います。

 

 たぶん。

 

 

 

 

 

 IF√だいたいのネタバラシはしてしまったので、やはりモチーフとかの話をするべきでしょうか。

 

 まぁ、某鍵作品といえば、だいたい察するような気がしますが。

 日傘、影、海…あの子ですね。

 キャラソンも鍵作品で流れてきても違和感なさそうでしたし。

 そして、記憶…といえば、一枚使うごとに失われていく緑の、誰でしたっけ?

 

 

 アストンマーチャンですが、私はいまだにお迎えしていないので、ふんわりかじったシナリオを元に、キャラソンを聞きながらふいんき(なぜか変換できない)で本作を練っていました。…このネタ通じるかしら。

 

 実装1週間くらいの突貫工事だったと思います。

 

 なのでマーチャンはこんなキャラじゃない!という文句は受けられません。

 まとめ動画すらほとんど見ていないので。私にはよくわからない。

 

 

 

 マヤノちゃん本編と違うのは、終わり方が明確に決まっていた状態だったことでしょうか。

 

 とりあえずは、やりたかったことでもある、2度楽しめるストーリーにうまくなっていたら嬉しいですね。

 透明文字が無い、表はテイオーがメインとなる07話まで。

 透明文字を含めた、裏にマーチャンが主役となる09話まで。

 

 

 あるなしで変わるといった構成ですね。

 タイトルが“たち”なのもそれが理由。

 テイオーメインなら、テイオーor帝王とそのまま入れますし。 

 

 

 

 透明文字がどこからあるのか…についてはだいたいお察しの通りです。

 IF√なら基本的に毎話ありますね。あくまでもマーチャンがいるならば、ですが。

 感想でも度々触れられていますし、前書きに注意文いれたりとしてますし。

 ちょこちょこ差し込むには、長文だと無理があるので諦めました。

 その結果外伝のIF√が本編より長い。という謎の現象がおきてます。なぜ?

 

 

 

 

 補足として√分岐をまとめておきます

 

 

 

本筋:メインシナリオ

 

本編開始前 →→ 分岐A →→  マヤノちゃん本編  →→ 本編EX →→ グランドライブ(IF09より) 

 

IF世界線A:異聞シナリオ

 

分岐Aより  →→  マヤノちゃんIF  →  分岐点B  →→  IF06  →→ IF√EX

 

IF世界B:テイオーバッドエンドIF√版

 

分岐Aより  →→  マヤノちゃんIF  →  分岐点B  →→  IF■■

 

IF世界C:アストンマーチャンの経緯

 

アプリ共通√  →→  シニア3月から分岐  →→  IF√本編開始前  →→  マヤノちゃんIF

 

その他IF:

 

分岐点だけではなく、時系列がそれぞれ異なるので記載せず(未公開)

 

 

 メインシナリオもURAからクライマックスに変わっています。

 文字化けに気が付いたらわかるようにしました。

 

 

 

 

◇◇IF√キャラ設定◇◇

 

 

 新しく生えたIFシナリオ。基本的に本編の再構成を元に加筆修正をする方針でした。

 なおレース描写は疲れるので全カット。

 

 

 ・IF√新人トレーナー

 

 新人トレーナー君ちゃんは本編より同業の恨みを買うことに。

 殺害予告十数件、未遂数件が既に発生しており、本編よりストレスがマッハである。

 一部過激派はアグネスのお家が…自主規制。

 本編より覚悟ガンギマリ気味なので、マーチャンがもし消える場合は手をつないで一緒にいく程。

 

 霊感は少しだけ。本格的に心霊現象等に巻き込まれたりすれば、完全に目覚める可能性がある。

 

 IF■■エンドではテイオーの監督責任等を全て背負って消えてしまうエンド。

 最後はマヤノと共に眠る姿が…

 この場合タキオンとカフェも退学しており、文字通りチームは崩壊済みです。

 

 

 ・IF√マヤノトップガン

 

 本編のところで散々語ったので、基本的に語らない部分はほとんど同じ行動をしている。とみて構いません。

 テイオーがいるのでルドルフ関連の問答して険悪になったりはしてない。

 本編とはローテーションや出走レースそのものが違うので、どの程度本気を出しているかは当人しか知らない。

 

 

 ひょんなことから世界の秘密をしった彼女は、他人への過度な干渉を封じられた。

 マヤノ自身は本編と同様のスペックであり、2周目ではない。

 トレーナーを導くのはマヤノの役目。それが本作の変わらぬスタンス。

 

 霊感はない。ないが的確な牽制により『お友達』がびっくりすることもしばしば。

 

 

 

 ・IF√トウカイテイオー

 

 IFシナリオが生えたきっかけ。本編と違い、チーム・アンタレスはマヤノひとりじゃなくなったことで、あくまで仮ながら部屋まで使えるようになった。

 本来ならば4,5人は必要らしいが、本作はアオハルシナリオではないので。

 本編ではできなかった、無敗の6冠となった。

 

 

 因子継承によって別世界線のテイオー因子が継承された。というのが意味深なユメの真実。

 

 なおクライマックスでついに、皇帝との対決が行われる。

 

 

 

・アストンマーチャン

 

 IFシナリオに追加された3人目であり、真の主役。

 元々、この透明文字で2つの話にわけるのがやりたかったので、考えていたら突如実装され、この子以上に相応しいウマ娘はいないので、本来の予定キャラから変更された。

 

 もしも、アプリ世界線でマーチャンを救えなかった場合。というのが本来の彼女がいた世界線である。

 

 本編では不明ですが、少なくともIF√世界にアストンマーチャンは存在しない。

 このマーチャンの1周目は、スカーレットやウオッカに勝利するシナリオを選んでいない。初めからスプリンター路線として活躍している。

 ステータスは引き継いでいないが、経験とスキルはそのまま引き継いでおり、世界線を渡った時点で肉体も逆行している。因子盛りニューゲーム状態。

 

 また、IF■■の分岐世界では、彼女は存在しない。

 

 彼女が配って回るマーチャン人形、それをトレーナーがぱかプチとして全国販売の話をつけたことで、それを基点に彼女はこの世界の住人として救われることになった。

 モノに宿る想いを使ったちょっとしたアフターサービスである。

 

 余談だが、アプリのようにトレーナーが4コマ連載をしていたりはしない、マーチャンチョコを配ったりもしていない。

 

 

・アグネスタキオン

 

 テイオー√における功労者。

 彼女から得られたデータは自身の3冠達成によって反映されることに。

 トレーナーを光らせる薬は作っていないが、特製ロイヤルビタージュースは度々トレーナーに支給している。

 自分のクラシック路線に関して以外は、本格的にサポーターとして手伝うようになったので、なんだかんだチームに貢献している。

 ウマ娘のデータに関してはほとんど彼女がまとめていたりする。

 

 

・マンハッタンカフェ

 

 本作では初期案カフェくらい愛が重い系ウマ娘。

 ちょっと歯形をつけたいなぁ、くらいに思っていたかもしれない。

 

 マヤノちゃんの次くらいにトレーナーを気遣ってくれる、割と常識枠。

 タキオンが好き勝手するので、トレーナーを手伝っているのは主に彼女。

 マヤノ(気分)とテイオー(手伝えない)とマーチャン(チャンネル作業)とタキオン(研究中心)という濃いメンバーなので消去法ともいう。

 お疲れ様です。とコーヒーを置いていくカフェさん。よくない?

 

 『お友達』はトレーナーが霊感に目覚めない程度に配慮してくれている。

 が、テイオーでよく遊んでいる。

 

 

・アグネスデジタル

 

 マヤノに捕獲された哀れなオタクウマ娘。

 彼女こそが主役になる話、として考えていたハズなのに出番はないという。

 後輩としてチーム入りするのはキタサトとどっちか、くらいに迷う存在。

 彼女はマーチャンを認識できていなかった。

 

 …これで元々はアグネスデジタルの話にするつもりだった、というのはここだけの秘密です。

 

 

・チーム・リギルの皆さん

 

 本編よりかなり協力的な心強いみなさん。

 生徒会メンバーの引継ぎをアンタレスにしようと目論んでいるとかいないとか。

 ションボリパパ。

 比較的積極的に協力したのはグルーヴで、ルドルフ氏は後方腕組する。

 ブライアンさんはマヤノが気分で穴場スポットに行くと遭遇する。

 

 

・チーム・スピカの皆さん

 

 出番カットされたがテイオー以外のメンバーは変わらず。

 ゴルシは異世界旅行のため不在。

 スカーレットとウオッカはマーチャンとの関係良好らしい。ぱかプチは新人トレーナーが融通した。

 

 

・IF√で不在のゴールドシップさん

 

 彼女はこの世界に遊びにきていないので、存在せず話題にもでない。

 それでも大漁旗だけは勝手に部屋においてくる模様。

 あるときは女神的存在のように語り、あるときはネタバレ禁止令を語る。またあるときは世界の秘密を語っているかもしれない。

 

 彼女がたまたま彷徨っていた魂を釣り上げ、超!エキサイティンッ!とポイ捨てしたことで、迷い込んだという設定は、なくてもいいだろう。

 

 

 

 

 

 ネタとしてはある

 IF√気分屋マヤノちゃん青雲編、IF√走るオタクはバ場を選ばない編。を含むいくつかの一発ネタ(タブンネ)は未定です。

 

 気分屋マヤノちゃん備忘録という章分けしておくかもしれない程度なので、基本的に期待しないでください。

 リクエストも受けないので感想に書いてもダメよ。

 

 忘れたころに私の気分で生えます。予定は未定。

 

 むしろ誰か書いてください。

 

 書き忘れたことはもうないかしら?ヨシ!

 

 個別の質問はあれば感想欄で回答します。くればね…




 ここまで続いたことが驚きですが、マヤノちゃんが気分で最強になったり、引っ搔き回す作品は増えて欲しいです。
 マヤノトップガンの可愛さを感じて貰えたら嬉しいです。

 また気分次第で、いつか。


 隣のAG/マヤノテイクオフ


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

IFEX 愛を込めて

お久しぶりです。
上げるつもりはなかったので短いですが、ここにまとめました。
一番くじで無事マヤノちゃんだけ全部回収したので、初投稿です。


 

 

 

「…んぅっ」

 

 

 私はそっと、彼女の敏感な内側を傷つけぬように、そっと右手を動かす。

 

 くすぐったいからか、それとも異物感からか、少し身をよじるようにして漏れ出る声。

 

「…んんっ」

 

 この辺りだろうか?とあたりをつけ、のぞき込むように確認する。

 

 手を強く動かしては傷付けてしまう。

 

 少ししっとりとした内側へと、慎重に、しかし確実に。私だけが知るその奥へ責め立てる。

 

 

「…っ」

 

 

 少し荒い呼吸の彼女を、ゆっくり撫でて落ち着かせる。

 

 優しく擦りつけるように動かして、次は逆の壁へ。

 

 とろりと垂れた雫は、彼女の口から透明な橋をかける。

 

 身悶える彼女は、時折びくりとその身を震わせながら、私に身体を預けている。

 

 耐えるように服を掴んだその手は、時折ぎゅっと力がこめられた。

 

 

「…ぁっ」

 

 

 カリ、と大きく動かした時には、一際大きくビクリと動いた。

 

 すでにへにゃりと力なく垂れた耳に触れながら、私は続ける。

 

 気持ちがいいのだろうか。確かめるように顔をチラリと見た。

 

 すっかり蕩けきった表情の彼女は、上目遣いで囁く。

 

 潤んだ瞳は吸い込まれそうだ。

 

 

「…ぃぃょ…トレー……ナー…ちゃん…」

 

 

 少女から大人へと階段を上っていく途中の彼女は、目の離せない魔性の表情(かお)を私にだけ見せる。

 

 そんな彼女の顎に、そっと手を添えて―――

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「いや、耳かきでどんな雰囲気してるのさ!!??」

 

 …ふぅ。

 

「アッ」

 

 一息ついて、私は丁寧に綿棒を抜き出した。

 実はこうやって耳かきを行うことはたまにあったのだが、決まってテイオーがいない時だった。

 他のウマ娘は当然、マヤノがべったりとすること自体は勿論、周知の事実なのでテイオーは耳かきをする程とは知らなかったのである。

 誰かの断末魔が聞こえたが、彼女はいつも通りなので一旦スルーしておく。

 

 さきほどまで膝枕していた彼女は起き上がって、テイオーへと笑みを向ける。

 

「オトナっぽい魅力感じちゃった?」

 

「~~~っっ!!」

 

 揶揄われていると気づいたテイオーの顔はすぐに赤く染まった。

 

「オコッタモンネ!!」

 

 「きゃー」と楽しそうに逃げ始めるマヤノを追って、どこかへ行ってしまった。

 

 

 

「トウトミ…ハワワ」

 

 

 

「いやー、マーちゃんでもさすがにこの映像は使えませんねー」

 

 ひとりカメラを向けるのはアストンマーチャン。

 チーム宣伝大使のマーチャンは、よく日常の風景を撮影して記録に残している。

 そこからごく一部を時たまウマスタへとアップロードしている(勿論検閲済み)

 

 今回はファンの脳が焼かれてしまい、大事件になるのも目に見えるので、やめておくことを決めたマーチャン。

 現に魂が飛び出るウマ娘ファンガチ勢がいるので、彼女の反応レベル的にもダメそうです。トレーナーさんとまとめた、段階別反応リストと照らし合わせる必要もないでしょう。そうマーちゃんは結論付けた。

 とりあえずは編集してウオッカとスカーレットに見せてみましょう。と反応が面白い二人組に矛先が向くことに。

 

 後日、顔を真っ赤にした彼女ら二人組と偶然にも同席したメジロマックイーンの様子が見られたとか。バッチリ撮影してきたマーちゃんが報告するのは、また別の話。

 

 

 

「…先日のドラマであのような耳かきの話がありましたね」

 

 少し距離をとって、資料片手に向かい合っているのは、マンハッタンカフェとアグネスタキオンの二人。

 マンハッタンカフェはつい最近話題となった、ウマ娘同士の甘すぎる恋愛模様を描いたドラマを思い出して呟いた。

 尻尾ハグに始まり、肌色はないものの、ちょっと激しすぎるスキンシップに、ウオッカを筆頭とした純情ウマ娘は直ぐ根を上げると、よく揶揄われているらしい。

 

「いやいや、それよりいささか距離が近すぎる方はいいのかい?」

 

 ちょっとより甘すぎる紅茶で、喉を潤したアグネスタキオンが、先ほどの様子に全く目を向けずに聞いた。

 いつものことだけど、マヤノトップガンがトゥインクルシリーズを引退してからは、顕著になったと感じるタキオンである。

 

「まぁ、いいのではないでしょうか」

 

 …私も偶にオネガイするので。と小声で続いた言葉は幸い、タキオンの耳には入らなかった。

 

『例えば、ウマ娘の好意は運命を撥ね退ける要因となりうるか?』

 

 一連の可能性を検討してみたタキオンは、“愛の証明”というなんだか馬鹿らしい結論に達して、これはナシと考えるのをやめた。

 大人しく見えてカフェは過激な部類だったという点でも、参考にしない方が良さそうじゃないか?

 最近は“お友達”の干渉力が上がったのか、つつかれるようになったのだ。

 

 

「アァ…オフタリモシュテキデス…」

 

 

 

「チーム・アンタレスは今日も仲良しです、と」

 

 マーちゃんは日課のチームアカウントSNSの更新に、2枚の写真と共にそう書き込みました。

 

 マヤノちゃんを追いかけるテイオーちゃん。

 

 カフェさんに若干引き気味のタキオンさん。とそれを見守るデジタルちゃん。

 

 あれから2年。あの日のことがちょっと懐かしく思えます。

 

 タキオンさんもカフェさんも、クラシックで名を残しましたし、デジタルちゃんもデビューをしました。

 

 これから新しいウマ娘がチームにくる、なんてこともきっとあるでしょう。

 

 私たちの物語は、まだ続くのでしょう。

 

 

「なんて、マーちゃんは言ってみたかっただけでした」

 

 

 

 

 

 

 

 

 もし、この奇跡(出会い)をまとめるとしたら。

 

 タイトルはきっと、きっかけとなった彼女から。

 

 

―――気分屋マヤノちゃんたちとクラシックを荒らす話。

 

 

 これが一番しっくりきますね。

 

 出会いがあって、運命と向き合って、勝利のその先へ。

 

 きっとまた、貴方とユメを翔ける。そんなお話。

 

 別の世界、別のお話のマーちゃんには、別の未来があるでしょう。

 

 楽しいお話かもしれません。悲しいお話かもしれません。

 

 なので、この世界という、ユメのような奇跡の話は、ここでおしまいです。

 

 

 ウマ娘の未来を願って、チーム・アンタレスより、アストンマーチャンから愛を込めて。

 

 マーチャンをよろしくお願いします。なんてね。

 

 

 Fin.




 これにて書きたいものを書ききったので、本当に終わりです。

 質問があればお答えすることも、あるかもしれません。
 pixiv版と比べて違いをみてもいいかも?
 ボツネタを書くかと言われると、私の気分次第なので、期待しないでください。
 書く人いないかなぁーと、個人的には誰かに任せたいですね。私じゃ力不足なのでダレカカイテ
 個人的に見たいのは銀河眼使いのYPがGX世界に転生する話…ですかねぇ。
 私はもう見る専に戻ります。


 ここまで見てくださった貴方へ感謝を。

2023/6/19 隣のAG/マヤノテイクオフ


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

閑話:気分屋マヤノちゃん備忘録
IF√青空に描く雲模様:セイウンスカイ 前編


√セイウンスカイ編

 ここは本編、IFとは異なる時間軸。

 本来ならばありえざる可能性のひと欠けら達。
 紡がれるハズのない、断片たち(備忘録)
 忘れ去られた有り得ない可能性だからこそ、描かれる物語はあると。

 そのことを、ゆめゆめお忘れなく。


―――それでも飛行機雲は、描かれる。

 今はまだ、その時ではない。





 

 

「はぁぁ…」

 

 

 

 

 

 ため息が漏れてしまう。

 

 

 自由気まま、がモットーのワタシ、セイウンスカイ。

 

 最近は心穏やかにいられない日々を過ごしていたのだった。

 

 その元凶のウマ娘は最近付きまとう、というより狙って先回りされる後輩ウマ娘だ。

 栗毛のツーサイドアップと無垢な笑顔が小憎らしく思える、マヤノトップガンというウマ娘だ。

 

 天真爛漫で天才肌。気分屋の気性難。

 

 

 すこーし自分のアイデンティティに被っているのもあるが、セイウンスカイの評価は生意気な後輩。

 確かに可愛いと言えるが、フラワーの方が圧倒的に可愛い。そこは譲らない。

 

 圧倒的に才能溢れるウマ娘という点で余計にイライラする。

 持って生まれた才能というものを見せつけられた。

 自分は見えないところで力をつける質なのだ。本当の意味で全く努力せずに難しいことを易々と行う。

 その上で逃げから追込まで何でもござれ、オールラウンダーの天才はお手上げだった。

 

 

(セイちゃんの完全上位互換みたいでズルくない?)

 

 

 しかし、それだけならこんなに気分が荒れることもなかったはずだ。

 触らぬ神に祟りなし。関わらないという戦略的撤退は最善の策である。

 ちょっと見ただけで、そっくりそのまま自分の走りをトレースされた時に感じたのは、驚きよりも恐怖が勝った。

 

 

 

 気分で変えるお昼寝スポットに、必ずといっていいほど先回りしている変なヤツ。

 もう思考を盗聴されているのでは?と荒唐無稽なことを真剣に考えた程だった。

 

 同世代のキングたちを除いて関わりが多いニシノフラワーとはすぐ仲良くなってしまった。

 たまに一緒にお買い物したと、笑顔で報告される身にもなってほしい。

 

 自分の何が気に入ったのか、向けてくるのは好意と善意。

 放っておいて欲しいと思うのも仕方ないだろう。

 

 本格化が始まり、そろそろ真面目にトレーナーを見つけてデビューするべきだというのに。気分は晴れない。

 

 

 

 同室のローレル先輩に一度相談したことがある。

 

「マヤノちゃん?そんなに悪い子じゃないと思うよ?」

 

「わかりにくいけど、確かな目的があるんじゃないかな」

 

「えー、ほんとかなぁ…」

 

 それを実感するのは、トレーナーが見つかってからの話だった。

 

「どんなときにマヤノちゃんが来ているとか、法則があったりして」

 

「えぇ?そんなことはないと思いますけどー」

 

 

 マヤノトップガンと遭遇するタイミング思い返してみる。

 

 決まってちょっとさぼ…いや、お昼寝しようとしたときに限っていつもいるような?

 逆にこっそり利用者の少ない穴場スポットでトレーニングのときには見かけない。

 

 そういえば、教官のような監視役がいる場で走るときには偶に現れるくらいだった。

 その日に限って、ちょっと並走相手を探そうかな、と思うものだ。

 

「…あ」

 

 マヤノトップガンは、私のトレーニングを邪魔しに来たことは一度もなかった。

 

「思い当たること、あったみたいだね」

 

 花が開くようなローレル先輩の笑顔に、桜吹雪を幻視した。

 

 …不覚にもちょっとだけ、ちょぉっっっとだけときめいてしまった。

 

 

 

 

   ◇◇◇◇◇

 

 

 

 

 そしてある日、念願のトレーナーがみつかった。

 

 驚くべきことに、セイちゃんの自由にトレーニングしていいという、破格の条件を了承する物好きだった。

 好きなペースでやっていい代わりにいくつかの条件を設けた。

 腐ってもトレーナーだ。

 

 ひとつ、週ごとに決めた最低限のトレーニングプランだけは消化すること。他は自由。

 ひとつ、必ず行ったトレーニングの内容と時間を報告すること。

 ひとつ、不調はしっかり報告して、食事はきちんと取ること。

 ひとつ、トレーナーが必要なときは呼ぶこと。いないときはケガに気を付ける。

 

 週ごとに行うトレーニング内容は、本当に最低限だった。ゲート練習だけ、坂路を〇本だけなんて、ひとつしか書いてないこともほとんど。

 トレーニングの内容報告に部屋に行っても、パソコンをひたすらカタカタ言わせていることがほとんどだった。

 一度こっそり覗いてみると、セイちゃんのトレーニング記録に合わせて、考察やらデータをまとめているようだった。トレーニングに立会いを頼むことはあまりないのに、色々考えられているらしい。

 

 …おや?最初の週は確か、トレーニング内容をワザと報告しなかったものもあるような?

 実は見ていたとか?いや、まさかね。

 

 今気にしても仕方ない。

 

「セイちゃんはトレーニングに行ってきますね~」

 

 気をつけてねと言う言葉を背に、部屋を後にした。

 

 

 

 

 

 

 それからしばらくして、セイウンスカイが離れたことを見計らったように、栗毛のウマ娘が部屋へ入っていった。

 

 

 

 

 

 

 

   ◇◇◇◇◇

 

 

 

 

 メイクデビューは順調に勝利して、ジュニアウマ娘としての日々を程々に謳歌していたある日、私は運命に出会った。

 

 夏も終わり、この微妙な時期に編入してきたウマ娘、スペシャルウィーク。

 

 彼女こそ、セイウンスカイの3冠を阻む最大のライバル。未来のダービーウマ娘。

 

 グラスワンダー、エルコンドルパサー、キングヘイロー、ツルマルツヨシ、セイウンスカイという才能溢れたウマ娘、“黄金世代”のウマ娘と呼ばれるようになる、最後のひとりが遂にやってきたのだ。

 

 ダンスレッスンもまだまだ不十分な間に、難なくデビューしたようで、チーム・スピカではまともにダンスレッスンが行われなかったことが伺えてしまった。

 

「あちゃー、スペちゃんも災難というか…」

 

 通常、授業のダンスレッスンが行われるので、一通り振り付けの知識は同じようにトレーナーに求められ、出走目標レースに関しては優先的に面倒を見るハズなのだ。

 良くも悪くも、ウマ娘のトレーニングに対して意識を割きすぎて、その辺りを忘れるトレーナーのようだ。

 元リギルのサイレンススズカ先輩を除いて、壊滅状態というのも酷い有様だった。

 リギルのトレーナーはその辺り、抜かりないのはエルとグラスをみてもよくわかる。

 

(グラスちゃんは「トレーナーさんの中でも、運動能力が高い方だと思います」って言ってたっけ)

 

 運動音痴な実力派トレーナーはまずいないのでは?とは思うけれど。

 

まさか理事長代理があんなに運動音痴とは…流石のセイちゃんでも予測不可でしたねぇ

 

 

 そんなこんなで気ままにトレーニングと、サボりついでの敵情視察をする日々。

 

 

 待ちに待った弥生賞。

 このレースを試金石として、クラシック3冠に通用するのかを確かめる。

 トレーナーさんとの打合せでも、十分に勝機があるレベルだと言っていた。

 あとはキングヘイローとスペシャルウィークの仕上がり次第と言う話だった。

 キングはトレーニングでも目立つからよくわかる。

 問題はスペちゃんだ。トレーニングやレースをみても調子にムラがあるというか、チーム・スピカが独特すぎる。

 あれは急に覚醒する主人公タイプってやつだろう。

 

 ゲートインを待つ間に、さり気なく様子を探る。

 

(おや、今日はやけに落ち着いているみたいですなぁ)

 

 これは強敵かも。こういう予感はよく当たるから嫌になる。

 

 

 

 

   ◇◇◇◇◇

 

 

 

 弥生賞、3番人気となった私は、1/2バ身が縮まらず2着。

 

 コンマ1秒の差は、思っていた以上に遠かった。

 

(悔しい)

 

「いやー、スペちゃんは強かったですなぁ」

 

 思いとは裏腹に、軽いノリで言葉は紡がれる。

 やれやれと手を横に振り、素直に悔しがるキングヘイローの横で、私は。

 

(悔しい悔しい悔しい悔しい悔しい悔しい悔しいっ!)

 

 言葉を、表情を取り繕って周囲を騙すように。

 

「次の皐月賞、取るのはワタシ、キングヘイローよ」

 

 悔しさを感じられながら、素直に賞賛の拍手を送るキングは凄い。

 

「いやー、セイちゃんもうかうかしていられないなぁって」

 

 私には無理だ。煮えたぎる悔しさで、いっぱいいっぱいなのだから。

 

「あら、本気を出せば勝つのはスカイさんだと言いたいのかしら?」

 

「さぁ?どうでしょうねぇ」

 

 ジト目を向けられても、明後日の方向へ知らん振り。これはいつものやり取りだ。

 

「…でも、次は負けないから」

 

 ほんの一瞬だけ、取り繕うのも間に合わず、こぼれてしまった。

 

「…そんな真面目な顔もできたのね」

 

「えー、いつもセイちゃんは真面目ですよー?」

 

「まったく貴方はそうやって―――――

 

 

 はいはいと相槌を打ちながら、次こそは勝ってみせると、じっとスペシャルウィークを見つめていた。

 

 

 

 

   ◇◇◇◇◇

 

 

 

 ウイニングライブも終わり、トレーナーさんに思いの丈を私は全てぶつけた。

 

 ただ黙って、全て吐き出されるのを待ったトレーナーさんは、そう。とだけ呟いた。

 続けて出てきたのは、どうしたい?という言葉だ。

 トレーナーは私の言葉を待っていた。自分の考えを全て押しとどめて。

 

 

「勝ちたいっ」

 

 

「皐月賞だけじゃない」

 

 

「ダービー、菊花賞、3冠を全部」

 

 

 私は、ただ。勝ちたい。

 いつかの約束を果たす為にも。

 生まれだとか、血筋だとか、そんなものはくそくらえ。

 

 

「私が、私だって」

 

 

 あいつらに、世界に、

 

 

「刻み付けてやるんだ」

 

 

 

 

 そのためなら、なんだってしてみせる。

 

 普段のセイウンスカイを見ている人ほど、これほどまでに激情を露わにする姿は、驚きを覚えるだろう。

 しかし、トレーナーはわかっていたとばかりに、静かに頷いて、後は任せろとセイウンスカイに告げた。

 なんとかするのがトレーナーの役目だと。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 …そう意気込んで宣言した翌週。

 

 

 

「いや、セイちゃんもなりふり構わない宣言した手前、あまり言いたくないのですけど」

 

 

 トレーナーの“ツテ”で集められたウマ娘達は、あまりにも。

 

 

 あまりにも―――

 

 

「…加減って知ってますか??」

 

 

 そうぼやいてしまうほどに、頂点に近い輝かしい功績のウマ娘ばかりだった。

 

 

 

 

 まず、もうトゥインクルシリーズを走っていないとしても、近づき難い存在の“皇帝”シンボリルドルフ。

 無敗の3冠、G1レース7冠は、ウマ娘の歴史に残る偉業だった。

 

「カイチョーさんはリギル以外断ると思ってました」

 

「…私だって、頼まれたら喜んで並走の相手くらいするのだが」

 

「…そうなんだ」

 

 しょんぼりと「やっぱり怖がられいるのだろうか」と耳を垂らしている。

 微妙に刺さりにくい冗談も含めて、オーラやらシンボリ家やらで避けられているのではないだろうか。

 

 

 続いて、最速の逃げウマ娘といえば?真っ先に候補が上がる、スペちゃん(ライバル)のルームメイト、サイレンススズカ。

 

「好きに走っていいって言われまして」

 

 相変わらず、走ること以外ぽわぽわしてるウマ娘ですなぁ。

 と現実逃避したくなるほど、走ること以外興味ありませんとでも言いたげだった。

 

「一応スペちゃんのライバルなワケですが、いいの?」

 

「スペちゃんは気にしないと思いますよ」

 

「そうかなぁ、そうかも」

 

 本人は「私も一緒にやりたいです!」とか言いそうだなぁ。

 

 

 

 3人目、いつもバクシンする短距離王者、私の距離適性的にあまり縁のないサクラバクシンオー。

 今日も輝く笑顔を、自信たっぷりに向けている。

 

「バクシン的委員長にお任せください!」

 

「ほどほどで」

 

 …いつも通り何もかも全力のウマ娘だぁ。

 こういうタイプは苦手なんだよねぇ。

 

 

 なぜかきた。2人目の3冠ウマ娘のミスターシービー。

 ありがたいのだけれど、トレーナーは呼んだわけではないらしい。

 担当の方には連絡しないと、とこぼしていた。

 

「面白そうだから、きちゃった」

 

「トレーナーの方には…」

 

「もちろん、言ってないよ」

 

「…またか、シービー」

 

 ニコニコのミスターシービーの様子に、シンボリルドルフは頭を抱えていた。

 

 ミスターシービー、飄々としている自由人でも、実は相手をよく見るタイプと。

 あぁ、私と似たタイプなんだ。

 

 

 

 …そして私の昼寝スポットを、ことごとく先回りしてくる生意気後輩ウマ娘、マヤノトップガン。

 

「楽しみだね!セイウンスカイさん!」

 

 私は全部わかっています。とでも言いたげな顔は無性にイラッときた。

 悪態をついたところで、大した効き目がないことはわかっている。

 トレーナーさんも意地が悪い。

 去年から話は進んでいたというし、これから同じチームとして正式に決まったらしいけれど、この後半だけはお断りしたいくらい。

 この天才ちゃんは本物なのだ。目覚めたら手に負えなくなる、本物の怪物になれるだけの素質を持っているだろう。

 

 私はやっぱり。

 

 この後輩が(マヤノトップガン)、嫌いだ。

 

 

 

 この豪華なメンバーと共に、並走・模擬レース・一部トレーニングetc.

 期限は一ヶ月。皐月賞の目前まで、力を貸してくれるとか。

 

 シンボリルドルフからは、戦術を。

 サイレンススズカからは、その速さの一端を。

 サクラバクシンオーからは、坂路の駆け上がり方を。

 

 …予定外のミスターシービーは、今回は並走相手くらいだが。

 

 頭を下げて回ったらしいけれど、新人トレーナーが持っている人脈ではないと思う。

 研修時の縁とは言ってもいたけれど、トレーナーは一般家庭出身という話なので、家のツテではないという点は確かである。

 

 

 そして迎えた皐月賞。私のリベンジにして第一歩は、無事達成された。

 

 

 ここから。ようやく始まったばかりなのだ。

 皐月賞と同じくダービーは中距離。最後の菊花賞は長距離だ。

 次も同じように行くとは限らないのだから。

 より警戒されることはわかりきっていて、スペちゃんはきっと、強くなる。

 これは勘だけれど、ああいう子が主人公に選ばれるというのは、よくあるお話なのだから。

 

 

 

 

 ―――私はユメの、“本来の運命(セイウンスカイ)”の分岐点に立っているとは思いもしない。

 

 

 

 あぁ、ダービーがやってくる。

 

 

 

 

   ◇◇◇◇◇

 

 

 

 

 最も幸運なウマ娘、というのは何だろう。

 東京優駿。またの名を日本ダービー。

 一生に一度きりのレースは数あれど、なぜダービーだけ(・・)なのかと。

 

「まぁ、気にしてもしょうがないんですけどねぇ」

 

 今日のセイちゃんはお休みでーす。なんて。

 せっかくの屋上を、ひとりで満喫してみることにしたのだ。

 

 偵察にまわるのも悪くはないけれど、勝つために必要なパズルのピースが、足りていないような気がしていた。

 それを闇雲に探すのはキャラじゃないので、見つける取っ掛かりが欲しいなぁ、と感じていたのだ。

 

 …まぁ、こういうときの為にトレーナーさんがいる訳で。

 

 

 はぁ。偶には素直に相談するのも悪くはないかも。

 

 重い腰を上げて(気持ち的に)部屋へ向かうのでした。

 

 

 

 

 

 

 皐月賞では、勝ちやすいコース取りがあったらしい。

 前回の主な勝因はそこにあった。というところから始まり、今日はスペちゃんが、上り坂の短距離模擬レースをしていたと話を聞いた。

 

 「…坂かぁ」

 

 ダービーにも坂はある。皐月賞のレースで走った中山レース場と比べても、なだらかであるものの、上り切ってからは300メートルもある。

 何かしらの回答をスペちゃんが見つけていると考えても、私が勝負を決める為に必要な対策はそこだろう。

「ねぇねぇ」

 坂のロスを減らしながら、突き放して差はできるだけ広げたい。

 幸い、ありがたい先輩方のおかげで、ヒントはもう掴んだ。

 そのあたりを優先して、トレーニングメニューを組んでもらおう。

「おーい」

 キングに関しては、どうしよう。

 なるようになれ、としか言えない程度に不安定だし、油断ならないのは確か。

「聞こえてるー?」

 

 …はぁ。いい加減、無視するのも意味がないと理解するべきだった。

 

「今日のマヤちんはー、スペシャルウィークさんだからねー」

 

 

 後に知ることだけれど、フルパフォーマンスの“スペシャルウィーク(ダービーウマ娘)”を再現している、文字通りの天災に勝てなければ、3冠など夢のまたユメ、なのだから。

 

 

 

La victoire est à moi!(調子に乗んな)なんちゃって」

 

 

 

 生意気な後輩に、いつまでも負けていられない。

 楽し気なリズムを刻み、栗毛の髪は左右に揺れる。

 

 

 

 

 

 

 

 

 マヤノトップガンは、今日も無邪気に笑う。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 続きはない。






セイウンスカイの戦績

・ダービー
 スペシャルウィークを3バ身離し、1着。

・菊花賞コースレコードを更新
 史実より0.5秒縮め、1着。

and more...



 ウマ娘短編書いて♡って言うから…
 書きました。
 半年くらい寝かせた話で、続きは想像にお任せします。気分次第で続きます。

 マヤちゃんの作品がいっぱい増えたら起こして…( ˘ω˘)スヤァ


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

IF√優雅なる原石を磨いて:サトノダイヤモンド

サトノダイヤモンド編

だって、サトノダイヤモンドで書いて♡って言うから…


 諦めたくないのです。この手が届くまで。

 

 届くと、信じて。

 

 “いつか”はきっと、どこまでも近くて遠い、あと少しなのだから。

 

 

 

 

 

 

 

 

「1番人気ながら惜しくも敗れたサトノダイヤモンド!皐月賞3着っ!」

 

 

 流れ落ちる汗を拭い、私は電光掲示板を見上げた。

 1着からの着差は3バ身程。

 十分に勝ちを狙えるレースだっと思う。

 中盤コーナーのロスが、スパートのタイミングが…等々、考えたらキリがない。

 

 

 

 

 

 サトノの悲願、G1勝利。

 

 優秀なウマ娘を世に送り出している程に、大きい家でありながら、未だになされたことはない“G1勝利”という結果。

 G2・G3のレースでは数々の勝利を納めてきたが、惜しくもG1だけは勝てず、勝利の女神から見放されているのではないか、そう思ってしまうのも無理はない。

 中央に入学できるウマ娘は一握りであって、そこからメイクデビュー、OP、G3、G2を勝ち上がれるウマ娘はごく僅か。

 それだけで、サトノのウマ娘の優秀さはよくわかるだろう。

 

 

 それでも“サトノのウマ娘はG1で勝てない”というジンクスがある。

 

 

 それが世間に広まって信じられてしまう程に。

 私が、私こそが終わらせる。そう努力して、力をつけて、それなのに。

 また届かなかった。あと少しが遠かったと、打ちひしがれる姉のように思っている方々を見送った。

 

 

 未だに私、サトノダイヤモンドはG1未勝利のウマ娘だった。

 

 

 私もまた、届かなくて。

 家を、想いを、使命を背負って、どうしようもなく“また届かなかった”という結果に、悔しくて、悔しくて。

 私は声を上げて泣いた。

 

 

 

 私はまた、届かない。

 

 

 

 

 

 

   ◇◇◇◇◇

 

 

 

 

 

 

 思い起こすのは入学当初のこと。

 キタちゃんは憧れのトウカイテイオーさんと同じチーム・スピカへ。

 私はサトノ家の縁でサトノクラウンと共にチーム・カペラへ。

 

 やっとのことで見つけた、運命を感じたトレーナーさん、その人には既に担当がいて。

 せっかくのチーム所属のサブトレーナーなのに、歩み寄れずにいました。

 運命を感じたあの人の隣には、栗毛の2房を楽し気に揺らすウマ娘があって。

 

 

 

 とある昼下がり、マックイーンさんと共にベンチに座るある日。

 憧れのウマ娘からの呼び出しともあれば、踊りだすほどに嬉しいはずなのに、気分は沈んだままでした。

 

「悩んでおられるそうですね」

 

 そう告げたのは、憧れのウマ娘であるメジロマックイーンさんでした。

 

「…はい」

 

 膝に乗せた両手に力が入った。

 

「私は、サトノさんを羨ましく思います」

 

「…ぇ?」

 

 私は伏せていた顔を上げると、マックイーンさんは柔らかく微笑んだ。

 

「私は結局のところ、クラシックを満足に走れませんでしたから」

 

 マックイーンさんは菊花賞まで、走ることもままなならない日々でした。

 やっとのことで出走できた菊花賞から、ステイヤーとしてその実力を見せつけました。

 天皇賞連覇の後は、ウマ娘にとって不治の病との闘いでした。

 比べて私は病気やけがに悩まされず、ここまでこれたのです。

 なのに、私は。充分に恵まれているのに、これ以上を望んでいる。

 

「だからといって、気に病む必要もありません」

 

 メジロとして、悲願を背負い走り続けていたマックイーンさんだからこそ、

 

「焦らなくていいのです」

 

 私の手をそっと持ち上げ、もう一方の手を重ねられた。

 思っていたより、その手は小さく感じてしまうほど、私は大きくなっていたと実感する。

 入学前はあんなにも大きな両手だと思っていたのに。

 

「まだ、あなただけの輝きを見つける時間なのでしょう」

 

「私より多くのチャンスが、あなたにあります」

 

 それは、マックイーンさんがあの“メジロ”のウマ娘だったから言えることでした。

 期待を、家を、悲願を背負い、ついに成し遂げた、天皇賞の盾という証。

 どれほど重いものを背負っていたのでしょう。

 サトノ家と同じように、いや、それ以上のものかもしれません。

 今までは見ていることしかできなくて、やっと自分の番になった私は、マックイーンさんのようにできるのでしょうか。

 

「だから、もっとわがままであってもいいと思いますよ」

 

「テイオーだって、そうでしたから」

 

「テイオーさん、みたいに…?」

 

 思い起こすのはあのウマ娘。天真爛漫なあの子のようなウマ娘を、“わがまま”であると言えるのかもしれません。

 

「…わがままになってもいいのでしょうか」

 

 家や、立場、様々な重圧に縛られず、自由であり続けるあの子。

 私やキタちゃんのように、憧れへ手を伸ばす訳でもなく、そうしたいから走ると言っていた。

 

 

 その撃墜の星は勝負服へと―――

 

 

「…話を聞いてみれば、トレーナーさんとあまりコミュニケーションが取れてないと聞きましたわ」

 

「それは…」

 

 トレーナーさんの傍にはいつもあの子がいる。

 あの子のトレーナーであって、私はチームのサブトレーナーとしてのウマ娘であって、担当ではないのだ。

 

「普段はあれだけ金剛石のように揺るがないと言われていますのに、避けているように見えると」

 

「…そういう訳では」

 

 思わず、私は顔を背けてしまう。

 

「ふとトレーナーさんを目で追ってしまう様子が心配だと、キタサンブラックさんも言っておりましたわ」

 

 …うぅ、は、恥ずかしい。

 キタちゃんにそう言われてしまうということは、かなり頻繫に見てしまう程だということでしょう。

 

「マヤノさんの担当をしていらっしゃる、サブトレーナーの方でしょう?」

 

 マックイーンさんは、あの人について知っていたのでしょうか?

 メジロの方なら調べていてもおかしくはないでしょうが…。

 

「…はい」

 

「ダイヤさんが目を付けるだけはありますね」

 

「…ぇ?」

 

「チーム所属でなければ、メジロにお招きしていたかもしれませんね」

 

 

 それは―――

 

 

 

「困りますっ!!」

 

 

 

 あの人は、私にとって…

 

 …私にとって?

 

 勢いよく立ち上がってまで答えたものの、続く言葉が見つからず止まってしまった。

 

「あら?どうして困るのです?」

 

 どうして?どうしてだろう。

 

「…」

 

 

「あぁ、これは重症ですのね」

 

「マヤノさんが既に担当だから、それで期待を裏切られた気分になって、尻込みしてしまった」

 

「本当になぜかわかっていないのですか?」

 

 あぁ、耳を塞いでしまいたい。

 続く決定的な言葉を聞いてしまうのは、きっと…

 

 ため息をついたマックイーンさんは、呆れ気味に言葉を吐いた。

 

「その人に運命を、感じたのでしょう?」

 

 

 その言葉はすんなりと通ってしまった。

 

 

 …あぁ、つながってしまった。

 

 なぜ、あんなにも意識してしまうのか。

 なぜ、マヤノトップガンが羨ましく感じるのか。

 なぜ、私だけの担当ではないと、思ってしまったのか。

 

 なぜ、この人とならどこまでも、そう思ってしまったのか。

 

 

「必要なら、あらゆる手で家にお招きしたいと思うくらいなのですよね?」

 

 

「なぜ、何もしなかったのですか?」

 

 

 

 どうしてでしょう。

 普段の私はきっと、あらゆる手を尽くすはずだったのに。

 

 ライバルがいたら、諦める?否。

 

 仮にキタちゃんの担当だとしても、私は逆スカウトに動くでしょう。

 

『ダイヤなら直ぐに契約書叩きつけると思った』

 

 そうクラウンも言っていたのが不思議に思っていたのに。

 

 

 

 「どうやら、まずはトレーナーさんから対策を講じる必要があるようですね」

 

 それはそれは、とても良い笑顔でした。

 

 「…よろしく、お願いしますぅ」

 

 

 

 

 

 この後とことん話し合った結果、気がつけば夜になっていました。

 

 

 

 

 

 

   ◇◇◇◇◇

 

 

 

 

 

 数日後、私のありのままのの思いを、トレーナーさんに告げました。

 

 

「…ふーん、やっとその気になったんだ」

 

 そう言ったマヤノトップガンさんは、私が何も言う前にどこかへ行ってしまいましたが。

 

 

 

 

 

 私は正式にサブトレーナーさんの担当ウマ娘となりました。

 

 それからは、あっという間のような日々でした。

 

 半年ほど経って挑んだ菊花賞に勝利し、“サトノのジンクス”は終わりを迎えたのです。

 

 クラウンも最近調子が良いようですし、私はキタちゃんとの約束に備えています。

 

 いずれは凱旋門へと挑みたい、そう思います。

 

「“我がまま”であれ、かぁ」

 

 自分らしく、そして貪欲に。我儘であれ。それは誰に聞いた言葉だっただろうか。

 

 

 私は、この人とならきっと。

 

 とても、とても不本意ですが、マヤノさんの協力も非常に有意義なものです。

 

 ですが、トレーナーさんは譲れません。

 

 何れサトノ家にも必要な人材ですので、手放すわけにはいかないのです。

 

 

 

「ご覚悟を。トレーナーさん」

 

 

 このサトノダイヤモンド、名前のように金剛石のごとく強固な意志で、たとえ自由に飛び立つ翼を持つウマ娘が相手だろうと。

 

 

 

 

 

 

 

 

 ―――絶対に、逃しませんよ

 

 

 

 

 

 

 

 私は、どこまでも輝く為に貴方が必要なのですから。





・サトノダイヤモンド主な戦績
 天皇賞春、キタサンブラックに勝利。
 宝塚記念、勝利。
 翌年、凱旋門賞へと挑むことに…

 彼女と競ういあうように栗毛のウマ娘の姿もあったとか。



 この世界戦では、他チームトレーナーとは関わりがなく、最初からカペラ一本道です。
 これ以上特に思いつかなくなったのでここで終わりです。


 評価や感想をポチってもらえたら嬉しいです。
 王様戦隊キングオージャー凄い面白いので、みなさん見よう!

 それではまたいつか。


目次 感想へのリンク しおりを挟む




評価する
一言
0文字 ~500文字
※目安 0:10の真逆 5:普通 10:(このサイトで)これ以上素晴らしい作品とは出会えない。
※評価値0,10は一言の入力が必須です。また、それぞれ11個以上は投票できません。
評価する前に
評価する際のガイドライン
に違反していないか確認して下さい。