夜の王と魔物の王 (変人集袋)
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物語の始まり

エルデンリング×転スラが無かったので
拙い文章ですがもし読んでくれる方は温かい目で
見守って下さい


…落ちた葉が伝えている

偉大なる、ヴェルダナーヴァは死んだ

次元の彼方、見知らぬ異郷、魔大陸で

竜皇女ミリムは残され

美しい、夜魔の女王が生まれた夜、神祖が次に死んだ

神祖の成果たる亜人と人間たちはその知恵故に歪み、狂い、覇権戦争を起こし…

終わらぬ争いの末に

大いなる星王竜に、見放された

おお、だからこそ褪せ人よ

王となり、なお死にきれぬ英雄達よ

かつて我等を導いた祝福が、再び我等を呼ぶ

暴風竜、ヴェルドラよ

爆炎の支配者、井沢静江(シズエ・イザワ)

迷宮(ラビリンス)、ラミリスよ

策謀の 神楽坂優樹(ユウキ・カグラザカ)

導きの大賢者(エイチアルモノ)

 

 

そして、失われた祝福は三度、もたらされる

エルデの王となった、褪せ人の元に

次元の彼方に向かい、魔大陸に至り

魔大陸の王となる者に見えよ

そしてその王と共に歩むが良い

 

 〜

 

俺はリムル。通り魔に刺されて転生し、スライムになった。

こんな異常事態でも落ち着けているのは俺のスキルの大賢者のおかげだ。(説明的自己紹介)

落ち着けたとしても何もすることがないから

草食ったりとかしかしてなかったんだけど…

 

「…(パッチ座り)」

 

誰コイツ。何かいつの間にかいた。草食ってたら

新しい草持ってくるし、たまに撫でてくる。

大賢者。コイツ何?

 

《解。不明。装備している防具には『投擲壺威力上昇』

『足音完全抑制』『戦技攻撃力大幅上昇』

『戦技消費FP低下』などの能力が確認されました。

また、全属性に対する微量の耐性も確認されました。》

 

何か色々気になる単語が出てきたな、コイツ。

また撫でてきた。優しい撫で方だ。

まぁ悪いやつじゃないのか…?鎧はかっこいいけど何で壺被ってるんだ?まあ壺男(仮)とでも呼ぼうか。

まあ今の目的はここからの脱出だ。そろそろ出発するとしよう。

特に何事もなく進み、地底湖から地上へ至る洞窟を進むと、扉があった。

水刃で切り刻もうかと考えていると壺男が扉を開けてくれた。バキッて音したけど。

気が効くじゃないか!壺男に感謝を示し、進もうとすると

いきなり持ち上げられて物陰に引きずりこまれた。

何すんだ!と、思ったんだが

 

「あれ!?何で開いてんだ!?」

「えー…それ大丈夫なんですかー?」

「鍵もぶっ壊れてる…この中で生まれたモンスターが

外に出たと考えるべきだな…」

 

なんだか騒がしい3人組が入ってきた。

そう言えば何で言葉が分かるんだ?

 

《解。意志が込められている音波は、魔力感知の応用で理解できる言葉へ変換されます。》

 

ほーん。現地語を覚えなくていいのはいいな。

壺男は…頭を抱えている。まあ鍵を壊した張本人なんだから当然っちゃ当然だな。

3人組の様子を伺っていると痩せ気味の男が何かしたのか、急に3人の姿がぼやける。でも見えないほどではない。

モンスター対策かなんかだろうか?

俺がそんなことを考えていると、3人は奥へ進んでいった。

3人の気配がなくなったのを確認し、移動を再開する。

壺男も付いてきてるな、ちょっとしょんぼりしてるけど。

こうやって見てみるとスタイルいいな…何でこんなとこいるんだろうな。

暫く進むと道が複雑に分岐している地点に到達した。

どれが地上への道なのかなんてわかる訳ないので壺男に適当に進む道を指し示してから進むことにする。

 

「…(リングのポーズ)」

 

大丈夫らしい。選んだ道を進むと、

 

チロチロリ!

 

目が合った。前世とは比べ物にならないくらいでかい蛇。

硬そうで、刺々しく真っ黒な鱗。めっちゃ強そう。

俺がビビり散らかしていると、壺男が前に出た。壺男がいつの間にか武器を持っている。

でかい剣だ!どこにしまってたんだ!?

壺男は剣を片手で構え肩に担ぎ、片手を地面についた独特の低い姿勢をとると、横に回り込んで、跳んだ。

空中で一回転し、その勢いのままに大剣を黒蛇の首に振り下ろした。

その一撃で黒蛇の首をいとも容易く刎ねた。

驚く程の速さだった。回り込みも一瞬消えたように見えたし、あの斬撃も恐ろしい威力だ。すると壺男が黒蛇の身体と首をこっちに持ってきた。これは…喰えってことか?

せっかくだし捕食して解析することにする。

壺男は嬉しそうだ。黒蛇を捕食したら『熱源感知』と『毒霧吐息』というスキルを取得した。

さて、本来の目的はこの洞窟から脱出することである。

まだまだ進んでないからな、どんどん進もう。

 

 

黒蛇戦から三日たった。俺も戦わせてもらって『水刃』をマスターした。しかし、一向に脱出できない。壺男が色んな色に光る石を置いてくれているお陰で同じところをグルグル回ることは回避出来ているが、どうしたもんかな…

なんかいい方法無い?

 

《解。脳内に、現在通った道を表示しますか?》

 

!?そんな便利な機能があるのか!早速使ってみよう!

…おかしい。何で同じところをグルグルしているんだ?

進んで無い方向に行ってみると、巣を光る石で飾り付けた蜘蛛を見つけた。お前か…

その蜘蛛を『水刃』で切り刻んで捕食してやった。その間壺男は光る石を回収していた。貴重品なんだろうか?

さあ、漸くまともに進めるぞ。

 

 

段々地表に近づいてきたのか雑草が目立つようになり、薄明るくなってきた。モンスターも増えてきたがな。

全部倒して捕食した。すると、スキルも必然的に増えるわけだが、その中に気になるスキルを見つけた。

吸血蝙蝠の『超音波』だ。『吸血』?捕食者の下位互換!以上!

そんなことよりもこれを使いこなせれば喋れるようになれるかもしれない!

さぁ特訓だ。これからの為にもこれは必須だぞ。

………

……

不眠不休で歩きながら研究した結果。

 

「ワレワレハ、ウチュウジンデアル!」

 

成功だ!扇風機の前で喋った様な声だが、発声に成功した!

ただ、壺男が耳(?)を抑えていたので音量を調整する必要があるかもしれない。

暫く練習していい感じの音量になったと思うので、壺男に話しかけてみることにした。

「聞こえるか?」

壺男がうなづく。

「俺の名前はリムル・テンペスト。お前の名前は?」

やっと聞けた。壺男って呼ぶわけにはいかんからな。

「…」

あれ?何で黙ってるんだ?怒らせちゃったかn

「…ワ…ワシ…ノ…」

聞こえた!若い男の声だ。男と言うか少年?ってかワシて。

「…ナマ…エ…ハ…uhh…ahh…名前は…シルシテイ。シルシテイだ。」

「シルシテイか!改めてよろしくな!」

「ああ、よろしく頼むよ。」

これで会話するのは二人目だ。どうやら声を出すのが久しぶりだったからか、うまく出なかったらしい。せっかくだし色々話したいな。

 

 

「お前ヴェルドラは知ってるか?でかい竜なんだけど」

「ああ、あれか。見つけた時にはもう飲み込んでいる最中でな」

「そうか…お前もヴェルドラを解放したら話すといいよ。いい奴だよ。」

「うむ。是非そうさせてもらおう。竜と話す機会なんてなかなか無い。」

「そういえば何でお前はあそこにいたんだ?」

「いや、いつの間にかいたんだよ。そしたらドラゴン取り込んでるスライムがいるわけだ。面白そうだから着いていこうとおもっての。」

「その壺と鎧は?」

「この壺は友からの贈り物でな、きっと似合うと言ってくれたからずっとつけてる。鎧は見た目が好きだからだな」

「あの大剣は?中々の業物じゃ無いか?」

「腕のいい鍛治士がいたからな。他にも色々あるから機会があったら見せてやろう」

 

色んなことを話した。壺がそんな大切な物だったなんて…あと聞いた感じだと彼は転生者と言うより転移者だろう。鍛治士とか鎧とかもう俺のいた世界じゃないの確定じゃん…

話しながらも迷わず上に向かっている。

段々明るくなってくる。そして遂に…!

 

「外だ!おい見ろ太陽が見えるぞ!」

「おお、太陽だ!太陽万歳!(太陽賛美)」

「お、何それ!俺もやる!(太陽賛美)」*1

 

スライムの触腕を伸ばしてポーズを真似る。

俺たち二人の機嫌は最高潮に達していた。

数ヶ月ぶりの太陽だぞ?テンション上がるに決まってる。

ある程度ふざけて気が済んだ俺たちは、

 

「森か…」

「どうしたシルシテイ?森でなんかあったのか?」

「…恐ろしい話を良く聞いたからなぁ。まあここではないだろうが」

「へー」

 

目の前の森について話していた。

とりあえず真っ直ぐ進むことにした。何もわからんからな。

 

「ガルルルルル」

「あん?」

「キャイーーーーーン。゚(゚´ω`゚)゚。」

「今のはあれか?スキルってやつかの?」

「いや、凄んだだけなんだが…」

 

旅は順調に進む。木端の魔物は少し睨むだけでどうにかなる。そんな事を繰り返しているうちに俺に近づくモンスターはいなくなった。

日が傾き始め、俺が野営の提案をしようとした時だった。

俺の魔力感知が30匹程の魔物を感知した。

しかしあまり強くなさそうだ。

 

「おいルーン、なんか来るぞ。」

「強そうかの?」

「いや全然。俺一人でもどうとでもなるな。」

「ヴェルドラ以外全部そうなんじゃ無いかね」

 

軽口を叩いていると件の魔物が姿を現した。

その魔物は全身霞んだ緑色で小柄だった。耳は少し尖っていて粗末ではあったが盾や剣、斧や弓を持つ個体もいた。

そう!俺たちの前に現れた魔物は小鬼族(ゴブリン)だったのだ。

でも、やっぱり怖くないな。どうしてくれようか…

そんなことを考えていると群れのリーダーらしき個体が話しかけてきた。

 

「グガッ、強キ者ヨ……コノ先ニ、何カ用事ガ、オアリデスカ?」

 

ゴブリンって喋れるのか。魔力感知の応用で分かるのかな?

って強き者って俺たちのことか?ルーンの方を見てみる。

(がんばれ)

そんな感じの顔?とジェスチャーをしていた。おい!

まあ、世話になってるし、任されてやるか。

 

「初めまして、でいいのかな?俺はスライムのリムルという。この先には別に用事があるわけではないが」

名持チ(ネームド)ノ方デシタカ!実ハコノ先ニ我々ノ村ガアルノデス。強力ナ魔物ノ気配ガシタノデ、警戒ニ来タ次第デス」

「強い魔物の気配?そんなのいるか?」

「いや貴公のことじゃ無いか?」

「俺そんなに強いか?スライムだぞ?」

「少なくともわしはどでかいトカゲや蜘蛛の首を簡単に刎ねれるスライムは見たことがないのお」

「オオ、ヤハリアナタハ、オ強イノデスネ!…トコロデ、隣ノ人間ノ方ハ?」

「リムルの友人ってとこかね。それなりに強いぞ。蛇の首刎ねれるからな」

「オオ、アナタモオ強イノデスネ!…御二方、オ疲レデハナイデスカ?セッカクデスシ、我々ノ村デ休ンデイッテハイカガデショウ?」

「…どうする?俺は行ってみたいんだけど」

「ワシもいいと思うぞ。行くあても無いしな。」

「まあ、それもそうだな。よし!お前たちの村に案内してくれ。」

「ワカリマシタ!サァ、コチラデス」

 

 

俺たちはゴブリンたちに色んな話を聞きながら村へ向かった。

そして会話を続けている内に、相手の言葉をスムーズに聞き取れるようになった。

『魔力感知』の応用でする会話に慣れてきたみたいだ。

人間と話す前にゴブリンで練習できてよかったかもしれない。

そんな事を話しながら村に向かったわけだが…

「…」

「…ふむ。」

村はえ?言いたくなるほど、小汚い感じだった。

言わなかったけどな?所詮ゴブリンの巣穴、期待してはいけなかった。

俺たちはその中でも一番マシに見える建物?に案内された。

「お待たせいたしました。お客人」

年老いた一匹のゴブリンが入ってきた。

先ほどまで俺たちを案内していたゴブリンリーダーも付き添っている。

 

「いえ、それ程待っていません。お気遣いなく」

「何、最近は忙しいんじゃろ?みんなボロボロで疲れとるわ」

 

ルーンはこの村の事を先程の短い時間で把握したらしい。年の功ってやつかね。なんでそんなボロボロで疲れているかと言うと、3ヶ月ほど前に彼等が信仰する神が居なくなって、魔物たちが活発化したらしい。装備も力も貧弱な彼等は格好の餌であり、つい最近名付きの戦士までもがやられたらしい。俺のせいかもしれん…

その戦士たちが命懸けで手に入れた情報によると牙狼族って言うのがもうすぐ100匹くらいで攻めてくるらしい。ちなみにこいつ一匹でゴブリン十体で勝てるかどうからしい。

 

「…中々厳しいですね」

「厳しいってか無理じゃ無いか?」

言ったよコイツ。事実だけども。しかしルーンは続けて

「だから我々を雇いたいのだろう?」

!?何言ってんだコイツ!

「おいおい、俺はスライムだぞ?そんなに活躍できると思えんが」

「いえリムル様、アナタからは恐ろしいほどに力が溢れております」

村長がそう言った。どゆこと?

《告。現在、身体から魔素が溢れ出しており、それがオーラとして認識されているようです。》

え、マジ?ダダ漏れなの?

《はい。》

うわー…ちょっと恥ずかしいな。抑えれないの?

《解。可能です。実行しますか?》

ありがとう大賢者!そーかー、ダダ漏れだったかー。それっぽいこと言っとくか…

「ふっふっふっ、よく分かったな。君には見所がある。」

「おお、有難うございます。」

ルーンが震えている。笑いを堪えているらしい。シバくぞ。

「だが、ただで雇い入れるのは違う。そうだろう?ルーン」

「くっくっくっ、えっ?くふっ、まあ、そうだな。」

まだ笑ってるよコイツ。しかしツッコんでいる場合じゃ無い。

「そこでだ。お前たちは俺に、俺たちに何を差し出せる?」

すると村長を含めた全てのゴブリンが平伏し、村長が

「我々の忠誠を!心からの忠誠を捧げます!」

えぇ…。要らないよ、忠誠なんて。でも、覚悟はあるみたいだな。

「ルーン、お前はどうする?」

「うむ、ワシもお前たちを守ってやろう。人間と魔物合わせてもまともな奴は数えるほどしか出会えない土地に住んでいたからな。まともな奴等は護られなければならない。」

なるほど、こいつのいた世界は相当過酷らしい。それにまともの定義を会話できると仮定すると大多数が会話できない恐ろしい世界ということになる。

「さて、じゃあ早速始めようじゃないか」

「ああ、そうしよう。先ずは壁でも作ろうか。」

……

………

あれから俺達は村の強化と村人の治療を進めた。殆ど瀕死みたいな奴等ばっかりだったからな。そして、時間が空いたので、シルシテイにいろんなことを聞いてみることにした。

「…シルシテイはさ、何処に住んでいたんだ?」

「…狭間の地と呼ばれる場所だ。まあ、貴公の思う通り君の住んでいた所ではないよ」

「あ、やっぱり?」

秘匿をかけてもらった筈なんだが、…。まあ、そんな秘密にすることでも無いし時間もあるから、わしの身の上を明かしておこう」

「お、気になってたんだよ。少し楽しみだな」

……

………

シルシテイは小国の騎士であった。

恵まれた立地、肥沃な土地、豊富な鉱山資源。狙われるのは必然であった。

しかしその国は負けなしであった。シルシテイの力によって。

他の国のお座敷剣術ではお話にならない。優れた技量で剣を振るい、独特の剣技で敵を翻弄し、凄まじい生命力で生き残った。

しかし他の騎士はそこまで強いわけではなく、最終的にはシルシテイとシルシテイ直属の精鋭対軍の戦いになっていた。そこからがシルシテイの本領であった。敵の剣や盾、時には敵の死体を拾ってぶん投げ、敵の腕や脚、時には頭に直撃させた。百発百中であった。その様は獣の如く、いや化け物の如く。精鋭達はそこまでの戦い方では無いものも、彼等もとても強かった。

その戦い方はシルシテイもそれを慕う精鋭達も語らなかったが、ある生き残りがそれを伝えたことでかれは呼ばれるようになった。全てを使い、死者の死体までを武器にするその様から。

…「外道英雄」と。

 

 

ある時シルシテイは追放された。その戦い方故に。その国の傲慢故に。英雄達がいると鷹を括ったが故に。

シルシテイを慕った英雄達と民達が怒り狂い、内乱が起きた。その国のトップは英雄達となり、それ以降も栄え、平和であった。しかし彼等はシルシテイを探さなかった。

シルシテイの追放を言い渡された時の穏やかな笑顔を見て、連れ帰ろうと思うものは居なかった。確かにそれはまともな道を外れた者であった。それ以上にシルシテイは英雄だったのだ。

 

 

「最後の方誰から聞いたんだよ」

「その英雄達からじゃ。追放された時も旅立つ時も見送ってくれた。いい奴等だよ。年も若いのにねぉ」

「いくつぐらいだ?」

「よく戦ってたときで平均15ちょいぐらいだったかね?」

「そんなのを戦わせてたのか?…ひどい王様だったんだな」

「まあリンチされるような政治ではあったな。あと、この話はここからが本番でこれは前座だぞ」

「波乱すぎだろ」

 

 

 

あてもなく放浪していシルシテイであったが、転機が訪れた。光が見えた。戦士の末裔、褪せ人達を導く祝福が。

ああ、これが祝福か。わしも、褪せ人だったのか。シルシテイは悟り、その導きに従うことにした。特にやる事も無いから。自分を慕った英雄達にそのことと「着いて来るで無いぞ」と伝え、彼は旅立った。霧の彼方、褪せ人の故郷…狭間の地へ。

 

 

狭間の地は恐ろしい土地であった。百戦錬磨の英雄であっても太刀打ち出来ぬ化け物が跋扈する土地であった。輪廻転生を司る律が壊れ、まともな者は数えるほどしかいなかった。この旅の目標は王となること。彼は手段を選ばなかった。多くの者を殺し、奪い、自らの糧とした。謎の『二本指』なる上位者も「奪え」とほざいた。言われなくとも、シルシテイは略奪した。…略奪なぞせずとも、奴等は襲ってきたのだが。

旅の最中で多くのものを得た。多種多様な装備。生き抜く為の素材と製法書。驚異的な知恵と力(ステータス)。そして多くの同志(褪せ人)たち。それらはシルシテイを強くし、王へと導いた。偉大なる、夜の王へ。

 

 

「夜の王っていうのがその国の王様なのか?」

「うーむ、なんて説明したもんか…王様の種類みたいなもんだな」

「ていうか、さっきの言い方だと、お前が王様みたいな感じだけど…その夜の王って」

「もしかしなくてもわしだな」

「え?敬った方がいい?」

「いらんいらん、夜の王ってのも名前だけだ。統治なんぞしとらんし」

「夜の王にはどうやってなったんだ?」

「それも話そう。リムルにはいろいろ話すと決めたからな。…この話が終わったらリムルのことも教えてくれんか?」

「勿論だ。お前がこんなに話してくれてるのに、俺が話さないわけないだろう?」

 

 

 

ある時、シルシテイは出会った。隅々まで、罠が張り巡らされた「カーリアの城館」で。

最初は大きな建物だから強い武器も有るだろう、という邪な考えであった。

実際にいい武器(夜と炎の剣)もあったが、そんなのはおまけであった。

親衛騎士を倒し、辿り着いたのは三つの塔が並ぶ霧のかかった土地。

魔術師喰らいの竜を追い払って、真ん中の塔を登っていく。他の二つの塔は封印されていた。

しかし真ん中の塔は封印こそ無かったが竜が護っていた。きっと良いものがあるに違いない。

俗物的思考で駆け登り、頂点に辿り着いた。

そこには魔女がいた。白いとんがり帽子をかぶっている。

良く分からないまま話しかけてみる。

 

「ほう…?貴公のようなもの(壺頭)を招待した覚えはないのだが、何用だ?」

「いや別に。」

「特に用は無いのか?」

「強いて言うなら強い武器を探していたのだが…貴女の様な美女に会えたのはよかったかもしれんの。はっはっはっ」

「ふむ…どうだ?私に仕えてみないか?美女に仕えるなんて嬉しいんじゃないか?」

「いいぞ。」

「即答か。欲に正直なのは悪いことではないと思うが…。しかし良いのか?私は暗い路を行く。いづれ全てを裏切るだろう…その中にはお前も含まれているかもしれん。」

「構わんよ。こちとらクソハゲ(パッチ)に裏切られて崖から突き落とされたわ。貴女も裏切り、自分の目的を果たせ。なあに、わしも老人。若い者の役に立ち、死ねるのならばそれは無駄な死ではない。金にがめついハゲに殺されかけるよりずっと良い。」

「そうか…面白い奴だな。では私の為に早速働いてもらうとしよう。まずは私に仕えている他の者達に挨拶をせてくると良い。」

「おぉ、ぜひそうさせて貰おう。仲間がいると言うのは良い事だ」

「あとその鎧は女物だぞ」

「え」

 

 

「お前…その鎧って」

「言わんで良い。大丈夫、割と女顔じゃし、割と若いぞ?」

「じゃあなんで爺言葉なんだよ」

「精神年齢は別じゃ」

 

 

「新しい従者が増えたのは聞いたが、お前だったのか。改めて俺は半狼のブライヴ。同じ従者として、よろしく頼む。」

「あぁ、こちらこそ。」

「今俺はシーフラ河でノクローンに通じる道を探している。何か分かったら俺に教えに来てくれると助かる。あと…えー…」

「おぉ、たっぷり撫でてやろう。それにわしがいれば頼み事なぞすぐ終わる。そうすればラニにも撫でてもらえるぞ!」

「…ありがとう。恩に着る」

 

「おお、貴方の事だったのですか。こんなことになるとは私も見通せませんでした。改めて私は軍師イジー。宜しく頼みます」

「あぁ、こちらこそ頼むぞ。」

「困ったことがあれば聞いてください。私は軍師。知恵を使う場でこそ輝けるものです」

「じゃあ王族の幽鬼の弱点を教えてくれんか?あいつ死ぬほど面倒臭いんだが」

「うーむ…確かアレは回復祈祷が効いた筈」

「マジかい…試してみよう。ありがとう」

「いえいえ、これくらい」

 

「私は魔術教授セルブス。君みたいな下郎と働くのは勘弁して欲しいところなんだが」

シバクゾゴラァ!!

「ヒッ…。あ、ゲフン、まあ、頑張りたまえ」

 

 

それからは怒涛の勢いであった。デミゴッド最強のラダーンが星の運航を妨げていると分かってからは腐敗に侵されたラダーンの供養ついでに星の運航を再開させ、落ちた星の下にあいた巨大な穴に突撃した。そここそが永遠の都、ノクローンであった。奥へ奥へと進んでいく。銀の雫と言う既視感のある敵(ファランクス)や夜人達の猛攻を打ち払い最奥の宝箱を開けると、一本の刃物が入っていた。『指殺しの刃』。それこそラニの求める秘宝。早速ラニに渡した。するとラニは

「感謝する。これで漸く全てが揃った。後は私が行くだけだ。…私だけの暗い路を。」

そして彼女は『カーリアの逆さ像』をシルシテイに渡し、何処かへ消えた。隣の塔の封印が解けた。それは感覚で分かったが、その像を使ってから行くことにした。

…詳しいことは省く。置いて、デブをしばいて、登った。以上。狭かったのでそれなりの死闘だった。登った先にあったのは、『死のルーン』。かつて、神の身体に刻まれた『死』だ。それが刻まれた身体はボロボロではあったが、かろうじて女の身体であることがわかった。ラダゴンの光輪用の知力(知力31)からもたらされた真実。それは、ラニが陰謀の夜の黒幕であると言う事実だった。

指殺しの刃、死のルーン。おそらく彼女は神人である。それによってもたらされる運命から逃れようとしているのだろう。そこには自由が無いから。それは良くない。だから貴公、逃げたまえよ。忌まわしい運命から。変な奴(二本指)の傀儡なんてシルシテイであってもごめんである。

 

 

先程開いた3棟目の塔。そこにはラニの服と転送門があった。転送門の先、地の底の河の岸の石の棺。その中には小さなラニの人形が。怒涛の旅は再び始まる。

 

「聞こえるかー」ユサユサ

「…ええい。お前、存外しつこい奴だな

それとも、人形に話しかける趣味でもあるのか」

「しつこさだけならモーゴットにも負けんよ」

「確かにアイツは一度定めた相手は絶対に逃がさないからな。はあ…。知られてしまったからには、逃がしはしないぞ。協力してもらおうか。この地にいる、災いの影を探し出し、消し去るのだ」

「もとより逃げるつもりなどない。見つけて、殺す。わかりやすくて良い」

「では早速行くが良い。…よいしょっと。この中(ポーチ)の中で待っているからな」

「えぇ…」

 

「…少し、昔話をしようか。私は、かつて神人だった。デミゴッドの中で、ミケラとマレニア、そして私だけがそれぞれの二本指に見出され、女王マリカを継ぐ、次代の神の候補となったのだ。だから、私はブライヴを授かった。神人の特別な従者としてな。」

「あいつそんな凄い奴だったんか」

「…そして私は、二本指を拒んだ。死のルーンを盗み、神人たる自らの身体を殺し、棄ててでも私は、あんなものに操られたくはなかったのだ。」

「分かるぞ、なんかうねうね動いて気色悪いしの」

「分かってくれるか?…それ以来、私と二本指はお互いを呪っている。災いの影とは、あやつの刺客なのだよ」

 

「…私が、二本指を拒んだ時、それでもブライヴは、私の味方でいてくれた。…フフッ 神人たる私の、特別な従者であるというのに二本指にしてみれば、とんだ出来損ないだったろうな。」

「いや、二本指の使いにしては素晴らしい人物とも言える」

「ふふふ…ブライヴも、イジーも、私には過ぎた者たちだよ。知っているはずなのにな。私の行く暗い路の先を。私がいつか、すべてを裏切り、棄てることを…ああ、お前も加えるべきだったか?お人よしということでは、奴らとよい勝負だろうしな」

 

「…この姿だと、どうにも気が緩むな。余計なことを喋ってしまった…忘れろ。いいな」

「全身全霊を持って脳に刻みつけるっ」

「だーかーらー、忘れろーっ」

 

雷を纏った銀の雫達を退けた先、災の影がそこにいた。

百戦錬磨のシルシテイに影如きでは勝てやしない。

徹底的に切り刻まれ、絶命した。

 

「…見事な戦いだった。感謝する。手間をかけさせてしまったな」

「言うてみごとでもない気がするが(腐れブレス)」

「まあそう言うな。だが、これでやっと、あやつに至れる。…お別れだな、お前」

「…成し遂げるんだぞ」

「ああ。…ブライヴとイジーに、伝えてくれ。…愛していると」

 

 

ラニはそう言い今度は身体を残して居なくなってしまった。しかし、シルシテイはすぐに別のアイテムを見つける。『王家の鍵』。ラニにまつわる王家…。シルシテイは迷わずレナラのいる部屋の宝箱へ向かった。シルシテイの考えは正しく、その中にはあるアイテムが入っていた。

 

『暗月の指輪』

 

…。彼は走り出した。

 

腐れの沼を越え。

 

悪意の流星を討ち滅ぼし。

 

暗月の騎士の竜を打ち破り。

 

大教会に穿たれた大穴。その最奥にラニはいた。

身体はボロボロで人形の身体の体内が丸見えで、しかし二本指には勝利したようだ。シルシテイは迷わない。ボロボロのラニの薬指に『暗月の指輪』をそっと指した。

「…そうか。お前…いや貴方が私の王だったのだな。」

「そうだとも。わしこそが君の王だよ」

「…ふふっ。忠告など無駄な事だったか。だが、嬉しいよ。貴方が私の王で良かった。お前は王の道を歩んでくれ。そして、互いに全てが再び見えるとしよう。」

「ああ。すぐに会えるとも、待っていてくれよ。」

「待っているよ、私の貴方…ふふふ」

………

……

「その後の試練なんぞもう蛇足よな」

「ラブラブじゃねえか…」

「次に、わしのスキルをば」

「おー」

「といきたいところなんだが、話すにしても、実はどう言うスキルがあるかわしにも分からん。そこでな、わしを食えんかな?ヴェルドラみたいに」

えぇ…そんな無茶苦茶な事できんのか?

《解。対象に抵抗されなければ可能です。》

 

 

 

 

シルシテイのスキル…はっきり言って無茶苦茶だ。まとめるとこうだ。

名前:シルシテイ

種族:褪せ人

称号:外道英雄…夜の王

魔法:〜封印〜

能力:⁇??能力『鮟?≡荵玖シェ』(繧ィ繝ォ繝?Φ繝ェ繝ウ繧ー)

固有能力『王の召喚』『竜体化』(ドラゴンハーティド)『君主の諸相』

『大魔道士』
『大祈祷師』
『大戦士』

 

無茶苦茶だよ!

なんだよこれ…暴れまくってんだけど…。まともに使えるのか?

《解。これらのスキルの殆どが封印されてあり、使用は困難です。》

なるほど、あれは封印されたからああなったんだな。…いやそれでもおかしいな。それは置いといて。

使えないのか、封印は解けそうに無いのか?

《解析の結果、一番脆い『黄金覇気』『大魔道士』『大祈祷士』『大戦士』の封印も無限牢獄よりも強力な封印が施されていました》

え、どうすんだよ。スキルなくても強いだろうけど、何があるか分からないのにそれは不安だぞ?

《そしてこれらの封印には、主人との繋がりが確認されました》

…はい?

*1
本来褪人は太陽賛美はできない




区切り方分からんくて長くなっちゃう…
不定期投稿ですんでよろしくお願いします


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増える仲間達

封印されたグレートソード

かつて、異形の鍛冶屋に鍛え上げられた業物の大剣
鍛冶屋により強くなったその力は今では封印されている
持ち主の力が解放されるごとに強くなるだろう

この得物は完全に解放されれば
異形の鍛冶屋の願いを叶えうる力を持っている
だが、その願いは別の武器によって叶えられている


…はい?

大賢者の爆弾発言に唖然となってしまった。いったいどういうことですかね、大賢者さん?

 

《解。この封印は強力でありながら不完全であり十全には使えないものの能力の一部なら使うことが可能です。

どのような能力かは確認できませんでしたが…。それが先程説明した「脆い封印」です。

その封印の脆い部分を解析した結果、主が個体名・ヴェルドラに魔力感知を教わった時期と同じタイミングに封印が綻び始めたのが確認されました》

 

なるほど、時期が全く一緒ってことか。

でも、それだけだとシルシテイの能力と俺が繋がっている証拠としては弱くないか?

 

《他にも、魔物を捕食して、能力を手に入れた時期の綻びも確認されました。》

 

なるほど、これは繋がってますね…。でも、封印が脆くなる原因がわからないな、なんだろう。俺が強くなったとき?新しい能力を手に入れた時、とかか?

まあ、とりあえずシルシテイに伝えるか。

 

 

「なるほどのう。心当たりのある能力ばかりじゃなあ。」

「心当たり?」

「祈祷も魔法も狭間ではよう使っとった。戦士と言うのは、わしが色んな武器を振るっていたからかもしれんな。」

「じゃあ、『黄金覇気』は?」

 

どんな能力か分からなかったので、もう心当たりのある本人に聞くしかないんだが。

 

「うーむ、それが心当たりがないんじゃよ。せいぜいわしが夜の王だってことぐらいじゃ。」

「覇気だもんな。そういえば能力の一部なら使えるらしいけど」

「ほう?…あーはいはい。わしが使ってた魔法や祈祷や武器の一部がまだ使えるらしい。」

「おお、魔法使いか。良いなあ。一部ってのは?」

「祈祷や魔術の中でも上位や伝説扱いされているものは使えないらしい。武器は伝説扱いされて無い一部の武器なら使えるってかんじじゃな。祈祷は信仰心が無いと教えても使えないとおもうが、魔術なら必要なものさえ有れば貴公も使えると思うぞ?」

「!? マジ?」

本気(マジ)じゃ」

「マジか…じゃあ、まだ時間もあるし、教えてくれよ!」

「いいぞ、いやーわしにも教え子が出来るとはな。」

「ん、先生って言ったほうがいいか?」

「いらんよ。わしは本物の先生には遠く及ばんでの。じゃあまずは基本の魔術からじゃ」

 

 

いやー色々教えてもらっちゃったよ。教えてもらったのは良いけど、シルシテイの所の魔術ってのは頭がいいほど威力が上がるらしい。つまり大賢者さんにも協力してもらった場合の威力は…。

 

「分かったかな?じゃあそこの木に『輝石のつぶて』を打ってみな」

「うん。それっ」

 

ドゴッ…

 

「嘘だろ…?」

「うーん、なんじゃこの威力。知力999かな?」

「強すぎるよ!大丈夫かこれ」

「いやー段々楽しくなってきたぞ、次は『輝石の大つぶて』じゃ!」

「でかくなってるじゃん!」

 

 

一時はどうなることかと思ったけど結構楽しかった。

本当は頑張って作ったオリジナル魔法とかがあるらしいけど、それも封印されたらしい。上位とか伝説並って事かよ。

さて、次は俺が話す番だ。

 

「じゃあ、俺のことも話そうかな」

「おー、いいのぉ」

「いやお前ほど面白くはならないからな?」

「なに、別の世界の話ってだけでも興奮するもんじゃよ」

 

そうか、確かにな。確かに別世界の話なんて聞く機会無いもんな。そして俺は俺の覚えてる限りの記憶の内容を話すことにした。

住んでた街とか、仕事の話とか。先に結婚した後輩、お世話になった先輩、ひどい取引先、それに友達や両親。そして…俺の最期。

 

「なるほどのう…中々発展している世界なんじゃな」

「そうだなあ。この世界でもそれくらいの生活がしたいな」

「お、いいじゃ無いか。出来る限りの協力をしよう。」

「是非頼むよ。完成した暁には体験者第二号にしてやろう」

「いいのぉ。楽しみになってきたわ!」

「…あれ、そういえば」

「なんじゃ?」

「お前ってこの世界に来る瞬間ってどう言う状況だったんだ?」

「ああ、実験してたら突然な」

「え、大丈夫か?お前嫁さんがいただろ?」

「大丈夫じゃ。ラニはわしに放浪癖があるのを知っとる」

「…それならまあ、なんとかなるかもな。」

 

もうツッコむのも疲れてきた。とは言え、割と平和な時間を過ごしていたんだが…

 

「…む」

「ん?今度はなんじゃ?」

「多分牙狼族だ。それなりの魔力をもった奴らが大勢来てるぞ」

「出番じゃな。初の防衛戦じゃ。気合い入れていくぞ。」

「おう。絶対に勝つぞ。」

「もちろん」

 

ゴブリン達が柵の内側にいることを確認した俺たちは門の前で待つことにした。そこは平原に面していて、走ってくる牙狼族がよく見えた。

 

ウォーーーーーーーーーーーーーン!

 

「うっせぇ、しかも丸見えじゃないか。殲滅する気あるんか?」

「多分格下だからって油断してるんだよ。お前は油断すんなよ。」

「当たり前じゃ。犬は強いと相場が決まっとる。」

「ふふっ、どう言う相場だよ。全く…」

 

軽口を言い合っている内に牙狼族が俺たちの目の前にやって来た。もう真夜中であり、空には満月が登っている。

 

「明るい月だな。異世界の月もなかなかどうして、美しい」

「でっかいな、いつか月見でもしようか。さて、おい!そこで止まれ。このまま引き返すのならば何もしない。さっさと立ち去るがいい!」

 

まずは話し合い。ゴブリン達が言うには話はできるらしい。どう出るか…うおっ!

 

サクサクサク ブシャー

 

あーあ。柵に施した仕掛けで、突撃した狼がどんどんバラバラになっていく。鋼線みたいな蜘蛛糸を張ってあるから、突撃すればご覧の通り、と言うわけだ。

さらに柵には矢狭間があり、ゴブリン達から一方的に矢を受けることになる。下手くそな弓術でも何発も撃てばさすがに当たる。突撃して運良く生き残ったやつも暫くすれば死んでいた。まあ所詮ケモノだ。この程度のケモノ如きが俺に勝つなど、ありえない。

…っと、群れのボスが動き出したな。周りから見たら消えたように見えるかもしれんが、俺からすれば欠伸が出るようなゆったりとした動きだ。

おっとそこにも粘糸が貼ってあるぞ。案の定引っかかるボス。その隙に俺は水刃を放ち、その首を落とした。

あれ、そう言えばシルシテイはどうしたかな。…!?なんだあのクソでかい棍棒!?ボスやその近くに控えている個体ほどでは無いものの結構でかい個体を殴り飛ばしたのが威圧になっているのか誰も近づかない。あれなら大丈夫かな。

さて、そろそろ終わらせようか。ボスに近づいて捕食する。

 

《解析が完了しました。擬態:牙狼を獲得しました。固有スキル『超嗅覚、思念伝達、威圧』を獲得しました》

 

頭の中に大賢者の声が響く。獲得に成功したようだ。ボスが喰われたってのに牙狼達は動く気配がない。仕方ない逃げ道を用意してやるか…

俺は牙狼のボスに擬態し、大声と一緒に威圧を放った。

 

「聞け!今回だけは見逃してやる!俺に従えないならば、ここから立ち去るがいい!」

 

と、牙狼達に宣言する。シルシテイもでかい棍棒を地面に叩きつけて威嚇している(首を捻っているのが気になるが)。これで犬どもと逃げ出すだろう。そう思ったが

(我等一同、あなた方に従います!)

服従の宣言と同時に平伏されたのだ。寝そべっているようにしか見えないが。従うならばそれでいい。

こうして俺たち初の防衛戦は終結したのである。

 

 

終わってないんだな、これが。戦いで一番面倒なのは後始末。無いのと一緒みたいな家も、ぶっ壊して壁にしたし、大体80匹の犬の面倒なんて誰がみるんだよ!とりあえずは犬とゴブリンに二体一組を組ませて一晩を過ごさせることにした。犬達はもふもふで暖かいだろうからな。

ゴブリン達が寝ている間、俺は太すぎる骨(?)を削っているシルシテイに話しかけた。

 

「お疲れー」

「ん、お疲れ様」

「なあなあ、あのでかい棍棒なに?なんか、不思議なかんじがするんだよ」

「おお、よう気づいたな。確かにあれはただのでかい木の棍棒ではない。黄金樹っちゅう特別なでかい木の枯れ枝じゃ」

「すげぇな…なんでも武器にするんだな。」

「なんでもじゃ無い、使えるもんだけじゃ。」

「聞いたことある気がするな…*1ところでさ、あれで地面叩いて威嚇してた時首捻ってたけどなんかあったのか?」

「あれは威嚇じゃないんじゃよ。本当は『地揺らし』をするつもりだったんじゃ。どうやら戦技も封印されているみたいじゃな」

「戦技?」

「ああ。戦技ってのは戦士達が戦いの上で習得した技のことじゃ。本来わしのような褪せ人が使うには武器に刻まれた記憶を使うしか無い。わしは自分で覚えたがな。」

「どんなのがあるんだ?」

「だいぶ前に蛇の首を切った技があったろ?あれが『獅子切り』じゃ。回り込みは『猟犬のステップ』じゃな。他にユニークなのは『回れ回れ』、『共撃の幻』とか…ああ、多すぎてきりが無いわい」

「色々あるんだなあ…。今度見せてよ。ところで話は変わるがお前ずっと起きてるけど眠く無いのか?」

「眠れるけれどま寝なくとも生きていけるからの。飯も食わんでも生きていける。食うけどな」

「良いなあ、便利だな。俺も飲まず食わず眠らずでも大丈夫だけど逆に飲んでも食っても味しないし眠れないんだよ。」

「あー、それは元人間なら辛いな」

「味覚は絶対手に入れる!その次には寝れるようになろうと思ってる」

「なんか良い方法がありゃいいんだがねー」

 

そうやって今後の話をしながら夜は更けていった…

 

 

日が昇り、ゴブリン達も起き始めた。村長を呼ぼうと思って彼らに名前がないことに気づいた。なので…

 

「村長、お前等を呼ぶのが不便だから名前をつけようと思う。」

「おお、名案だ。指示する時に不便だったんじゃ。」

 

すると、ゴブリン達がざわつき始めた。

 

「よ、宜しいのですか?」

「名前くらいいいだろ。うーん、まずは…」

 

それっぽい名前をどんどんつけていく。村長にリグルド、その息子にリグル、鼻の大きいやつにゴブタ、なんかぼーっとした顔のやつにゴブゾウ…

ゴブリンには名前をつけ終わったんで、最後に牙狼のボスの息子に嵐牙(ランガ)と名付けた。その瞬間、俺からごっそり魔力が抜き取られる感覚がした。

 

《告。体内の魔素残量が一定値を割り込みました。低位活動状態へ移行します。完全回復までは約三日掛かります》

 

え、なんでそんな魔素が持ってかれるようなことが…名付けか?もしかして名前を付けると魔素が持ってかれるのか?意識ははっきりしているが、身体が崩れていく…て言うかとろけていく。半液体みたいなことになった身体を誰かが入れ物に入れてくれたのか、身体が安定した。

 

(…んなことに…るとはな…とりあ…ず、今はやす…といい…)

 

どうやら壺の中に入れられたらしい。壺を覗き込み、話しかけてくるのは…声はシルシテイなんだが、顔が…思ったよりも女顔だった。なんか女物の鎧着ても多少は許される顔とか言ってたけど、ここまでとは…

 

 

 完 全 回 復 !

なんだかんだで回復したし、魔素と魔力の総量が増えた気がする。もう一回同じことやったらまた増えるかな〜と思ったが、流石にやめておくことにする。とりあえず壺から這い出る。

 

「おはよう。目覚めはどうかの?」

「いい感じだよ、ありがとう。ところでその顔…」

「どうじゃ?結構イケとるじゃろ?」

「いや、いい顔なんだけど、絶望的に爺言葉が似合わないからさ」

「いやー矯正しようと思ったんじゃがな,全然治らんからもう諦めたわ」

 

そう言って壺を被るシルシテイ。

 

「え、それ被るの?」

「え?あー、なるほど。そう言うことじゃな。」

「うん。そうそう。」

「ほれ、やろう。」

『壺頭』

「そう言うことじゃねえよ!いや、俺が入ってたやつじゃん?大丈夫?臭わない?」

「あ、そう言うことか。それは問題ない。てかスライムの匂いってなんじゃ」

「そう?ならいいけど…これは(壺頭)?」

「貰ってくれていいぞ。親友の証ってことで。」

「じゃあ、ありがたく貰っておくよ。ちょっと被るには難しい体型だから仕舞っとくわ。」

 

壺頭を胃袋にしまう。

さて、村はどうなってるかね。

 

 

「お目覚めですか、リムル様!」

「お、お前は村長…いや、リグルドか?お前…て言うかみんなでかくなってね?」

「はい!我等一同は男はホブゴブリンに、女はゴブリナに進化しました!」

「えぇ…」

「いや改めて見ると凄いのぉ。名付けが、進化がここまでとは…」

 

どうやら名付けの影響により、進化したらしい。しかし、男のホブゴブリンはともかく女のゴブリナは出るとこが出ていて非常に色っぽくなっている。もはやメスゴブと馬鹿に出来ん。服も用意しなきゃなあ。さらに、犬…いや、その姿は犬とは呼ぶには凛々し過ぎる。漆黒の体毛は艶やかな光沢を放っており、先頭の一際でかい奴なんて額にある星形の痣から見事な一本角が生えている。

 

「御快復、心よりお慶び仕ります!我が主よ!」

「お前ランガか!?でかくなったなあ!」

 

どうやらこいつも進化したらしい。ランガの場合は『全にして個』であるらしく、牙狼達の完全支配を成し遂げ、種族全体が進化したとのこと。

食糧もペアになった狼と思念伝達が出来るようになり、行動範囲が広がるかつ、今まで狩れなかった魔物も狩れるようになったらしい。

しかし、強くなったとて、問題は山積みである。衣食住の内、衣と住がひどい有様である。んー、どうしたもんか…

 

 

「じゃあ行ってくる。留守は頼んだぞ、ルーン」

「おうとも。わしがいれば万が一もあり得んじゃろう」

 

あれから忙しなく動いた。勝利を祝って宴をしたり、見下さない、人を襲わない等のルールを決めたり、統治をリグルドに任せたり。

その中で、少し遠くにドワーフがおり、そいつらに頼れば服や家が作れるかも、との話を聞いた。なので、ありったけの金になるものと金を用意してもらって、早速出発する事にした。

シルシテイはその留守を受け持ってくれるらしい。ランガ達に乗って出発した。いやー速い速い。こんだけ速けりゃ割と早く着くだろうな。

 

 

side 三人称 ゴブリンの村

 

 

留守を受け持つとは言ったが、特別することがあるわけでもないシルシテイ。ふと、武器がかなり低質であることを思い出し、武器を使いやすくすることを考えた。

狩りに行こうとするリグルを呼び止め、武器を借りる。

 

「えーっと、君はリグル君だったかね?」

「はい、そうですが…どうかなされましたか?」

「君のその剣を貸してほしくてね。なあにすぐ終わらせるからさ」

「わかりました。この剣は、正直ルーン様の武器よりかなり弱いと思うのですが…」

「ああ、わしが使うわけじゃない。まあ見てなさい」

 

狩りに行こうとするリグルを呼び止め、武器を借りる。

そう言ってシルシテイは砥石刃を取り出した。砥石刃は本来なら武器に戦灰をつけるための物であるが、砥石でもあるため、武器を鋭くさせることも可能である。

刃と呼べるかも怪しいその石の棒を砥石刃で研いでいく。

五分ほどで作業は完了して、まともな石の剣となった。

 

「おおお…!ありがとうございます!」

「なあに構わんよ。他の奴らもやってあげようかねぇ…」

「あ、あの…」

「ん?どうかしたかね」

「不躾な願いだとは分かっているのですが、弓もどうにかできませんか…?」

「いいとも、いいとも。どんどん頼ってくれ。…しかしこの弓だったら作り直したほうがいいのぉ。どれ、ついてきなさい」

 

差し出された弓は曲がった棒に紐が張ってあるだけの弓であった。それをどうにかするより、作り直した方が良いとシルシテイは判断した。

細めの木を伐採し、縦に割り、断面を削って、木をしならせて狭間で手に入れた紐(亜人の者より上質な弓用のもの)を張った。紐の張り具合を確認してリグルに渡す。

 

「超即席じゃが、さっきのよりはマシなはずじゃ」

「何から何まで…本当にありがとうございます!必ず大物を仕留めて見せます!」

「じゃあ他の奴らの武器も強化してやるか」

「きっとみんなも喜ぶと思います」

 

その後、シルシテイは手斧や剣を研いだり、弓を作り直したり、矢を作った。武器が十分になったら今度は子供達の相手を始めた。

 

[You are beautiful.]

「あははは!なにこれなにこれ!」

[You are beautiful.]

「すげー!」

「すごい褒めてくるよー!」

「面白いじゃろ?一個あげよう」

「わー!ありがとうルーン様!」

「いいなー」

「まだ沢山あるから大丈夫じゃよ。ほれ」

「やったー!」

 

「あったかいねー…」

「だなー…」

「ずっとここいたいよ…」

「あかんよ。ほれ在庫はあるから寝る前に枕元にでも使いな」

『ぬくもり石』

 

リムル達が帰ってくるまでの間。シルシテイとゴブリン達は絆を深めていく…

 

 

side リムル

 

 

「ただいま〜」

「あ、おかえり。その人達は…?」

「ああ、ドワーフの職人達だよ。これで服とか寝床はなんとかなるはずだ」

「おう!ぜひ任せてくれ」

「頼もしいのぉ。こっちではのぉ…リグルド?」

「はい。実はリムル様にお客様が来ていまして…」

 

やってきていたのは別の村のゴブリンだった。曰く、俺の配下に加えてくれとのこと。正直面倒くさいが人手がないのも事実なので、加え入れる事にした。内部から裏切られたら、その時は皆殺しだ。裏切りは許さん。殺す!と簡単に考えてしまう自分に驚きつつ、こいつらの名前も考えなければいけない事に気づき、溜息を吐くのだった…。

 

 

名前つけなきゃなあとは思ってたんだけど…いや本当に多いな。4つの部族、あわせて五百ほど。

 

「多くね?全員の名前考えるの?」

「案を出すのはわしも協力しよう。リムルのアイデアが枯れてからだが…」

「全然それでいいよ。よし、思い立ったが吉日。早速始めるか。壺ここ置いとくから、溶けたらよろしく」

「わかった。頑張れよ」

 

「う〜ん…ぎぶ〜」ドロドロ

「はーい一旦中止じゃー」

 

「よっしゃ復活」

「はーい再開するぞー」

 

四日経ちました。やっと終わった…

 

「お疲れ。やっぱ溶けたのぉ」

「いや本当に頑張ったわ…」

「ああ、頑張ったと思うぞ。リグルドも昇格おめでとう」

「はっ!ありがたき幸せ!」

「がんばれよ。期待してるぞ」

 

名前を付ける際に、族長四人の内男三人にルグルド、レグルドログルド、女にリリナと名付け、ゴブリンロードとした。そして元々ゴブリンロードだったリグルドをゴブリンキングに昇格させたのだ。

 

「リムル様!たった今、全員の進化を確認しました!」

「よし、ご苦労。よし、早速始めるぞ。ドワーフ達の話をよく聞いて、間違いのないように家を建てるんだ。」

「了解しました!」

「おお、統治者然としておるの」

「うっせ。お前どうせしないだろ?俺が統治をする。だから、俺が困った時は協力してくれ。」

「勿論。死ね以外なら基本何でもやってやろう」

「じゃあ、ここら辺の木全部切ってきてくんね?運ぶのは俺がやる」

「早速か。見てろよ、三十秒で終わらせてやるわ」

 

全ては順調。作る規模は最早町である。それは、俺たちの新たな住処。

土地の開拓の始まり。それは俺たちの…

 

新しい国の始まりだ。

 

 

side 三人称 ジュラの大森林、広い道(名称不明)

 

 

シルシテイは一人で散歩をしていた。木の伐採が一通り済んで、やることが無くなった為だ。リムルには付近を散歩してくると言って出掛けていた。リムルは多少なら離れても思念伝達ができると言っていたので問題はないだろう、そうシルシテイは考えながら歩いていると広い道に出た。

 

「随分開けておるのぉ。街道にするならここか?…ん?」

 

ドドドドドド…

 

「…は?」

 

走ってくる四人の人影。だが、それよりも目立つのは馬鹿でかい蟻であった。

 

「…はぁ」

 

シルシテイはいつもの得物とはまた別の得物を構える。またでかい武器…ではなく紫色の石が付いた杖である。

『隕石の杖』。狭間の杖の頭には輝石と呼ばれる青い石がついているのだが、これは輝石ではなく名前の通り隕石が付いている。強化こそできないが、未強化でも強力な魔術補正が付いている。そしてこれから使う魔術にもピッタリの杖だ。

 

「ちょ、ちょっと〜!どいてくださ〜い!」

「あぶないからあんたも逃げるでやんす!」

「大丈夫じゃ、わしの後ろで見てりゃあいい。」

「はあ?何を言って「いいから隠れるのよぅ!」…はあ」

 

走ってくる蟻に対してシルシテイは静かに杖を構える。そしてすぐに魔法を発動させた。

紫色のオーラを纏った三つの岩が地面から飛び出してくる。その岩をシルシテイは迷わず飛ばした。

一つは片方の牙をおり、もう一つは足を砕き、最後の一つは脳天をかち割った。蟻は少し足をバタつかせた後、絶命した。

 

 

side リムル 建設中の町

 

 

シルシテイから連絡が来た。どうやら人間を保護したらしい。これが迷い込んだただの冒険者だったらよかったのだが、近辺に調査をしていた痕跡が残っていたそうだ。

三日三晩なにも食べていなかったらしく、手持ちの食べ物を食べさせているそうだ。

疲労が溜まっていそうだし、悪い奴等じゃなさそうなので何をしていたか聞くついでに休ませてあげたい、とのこと。

 

(ちなみに何を食べさせてるんだ?)

(茹でエビじゃ。結構好評じゃよ)

(いいなぁ)

 

 

臨時で用意したテントにて。

 

「初めまして、俺はカバル。一応このパーティのリーダーだ。こいつがエレンで、こっちがギド。Bランクの冒険者だ」

「初めまして!エレンですぅ!」

「ども、ギドと言いやす。お見知りおきを!」

「で、この人が道が一緒ってことで臨時メンバーになったシズさんだ」

「ゴクゴクゴク…シズです」

「本当にルーンさんには迷惑をかけた…すまない」

 

シルシテイが助けたのは、洞窟で出会った三人組だった。洞窟ではいなかった性別が想像できない仮面を被った女性はシズと言うらしい。

そして、こいつに対してとある予測を立てている。多分だがこいつは日本人だと思う。

お茶を飲む仕草、正座の仕方。そんなに多くの人間を見たわけではないが正座は珍しいんじゃないか?

…っといかん俺も自己紹介をしよう。

 

「初めまして!俺はスライムのリムル。悪いスライムじゃないよ!」

「ぶふっ!」

 

飲んでいたお茶を吐き出すシズ。仮面に阻まれ飛び散ることはなかった。

確かに渾身のギャグではあったがこんなにウケるとはな。改めて、三人組から事情を聞く事にした。

怪しい事が起きてないか調べて来いと言われここにきたらしい。そして怪しいものなんて言われてもわかんないよと愚痴を言い始める始末。

あと、蟻に追いかけられたのは大岩に開いた怪しい穴を、コレダ!と剣を突き刺したらでかい蟻…巨大妖蟻の巣だったらしい。何やってんの?

疑う事を知らんのか聞いたことも聞いてないこともベラベラしゃべる。

その間シルシテイはシズと話していたらしい。何か錠剤を渡している。シズはそれを迷わず飲んだ。

流石に毒を飲ませることはないと思うが…後で何を飲ませたか聞かなきゃな。

 

「ってかそんなに怪しいものなんてここら辺にあるか?強いて言うなら洞窟ぐらいじゃない?」

「いや、あそこには何もなかったんですぅ。邪竜が封印されてたらしいんですけど、中でニ週間も調べたのに何にもなかったんですよ!ほんと、骨折り損のくたびれ儲けって感じですぅ…」

「ってバカ!それは言ったらまずいって!」

「あー!知らないでやんす!」

 

どうやら口を滑らせたらしい。本当に何やってんだ…

それからは口を滑らせたから、隠しても仕方ないとでも言わんばかりに色々話してくれる。町を作っている事に関して聞いてみたが、流石に国の行動はわからないそうだ。

色々聞いたり話したりしていたらもういい時間である。

三人は町(完成していない)に泊めてやる事にした。俺が引き止めてしまったのに、さあ帰れはできない。

 

「リムル…シズさんについて話があるんじゃが…時間あるか…?」

「ん?別に大丈夫だけど…?」

 

随分深刻そうだ。さっき飲ませてた薬と関係があるのか?

 

「そうか、ありがとう。じゃあ、シズさん。説明してくれ」

「ありがとう。ルーンさん。えーっと…何から話せばいいかな」

「じゃあ出自から話すといい。()()()()()()

「元の世界?ってことはシズは」

「そうリムルさんの思う通り、私は異世界人。リムルさんの悪いスライムじゃないよって言うのも他の異世界人の子に教えてもらったの。だから思わず笑っちゃった」

「なるほどな。俺以外にもいるかもなとは思ったがこんなに早いとはな。俺は元の世界では三上悟って名前だったが…シズは?」

「私は井沢静江だった。またこの名前を言う日が来るなんてね」

「あ、そう言えばあの錠剤は?なんだったの?」

「それはわしが説明しよう。あれは「火抑えの錠」。わしの手作りじゃ。百個ほど飲んで試したが、なんら影響は無かったので安全ではある。して効果なんじゃが、これは身体の中にある火に関するあらゆる物を抑える効果がある。」

「ってことはシズの身体の中には…」

「そう、私の中にはイフリートって言う上位精霊がいる」

「それがなぁ、飲ませる前はもう後三十分も持たない感じだったから有無を言わさずに飲ませたんじゃ」

「え、持たない?暴走しそうだったってことか?」

「そうじゃ、それで問題があるんじゃ」

「鎮められたから問題はないんじゃないの?」

「それがあの薬がなあ、鎮めるとかじゃなくてあくまでも抑えるだけなんじゃ。しかも、イフリートの火がかなり強くてなぁ。明日の昼には限界がくる。しかもあの薬、試作品でさっきので終わりなんじゃ」

「それでリムルさん。お願いがあるんだ」

「…なんだ?」

「私が暴走した時…」

 

 

「イフリートを倒してほしい」

*1
「何でもは知らないわよ。知ってることだけ」物語シリーズ 羽川 翼




遅れましたごめんなさい
言い訳をするとですね、まずリアルが忙しかったってのとシズさん周りのイベントをどうすべきか大分悩んだのもあります
あとずっとエルデンリングやってました。もう4週してトロコンしたのに何やってんだろうね


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運命の人、新たな姿、飢えた豚と喰われた鬼

火抑えの錠

火に関係するあらゆるモノを抑える効果を持った錠剤
あらゆる火に対するために作られた物
制作可能なアイテムの一つ

発狂の蓄積を軽減する

これは狂い火の王の運命や巨人の火に魅入られる事を防ぐ事を目的とした物になるはずであった
しかし、外なる神の力は薬程度で抑えられるものではなかった

製作者は薬程度では神の力には勝てないと知っていた
それでも、可能性を信じて挑んだという


「イフリートを倒してほしい」

「…それはシズの身体は大丈夫なのか?」

「もし身体が無事でも私自身、イフリートがいないと長くは持たない。だから、気にしないでいいよ」

 

シズはどうやらイフリートのお陰で普通の人間ではあり得ないほど長生きだったらしい。

だが、それでも身体や精神に限界がきて、イフリートの暴走を抑えきれなくなっているらしい。今はシルシテイの薬でなんとかなっているが、やはり身体と精神が限界を迎えてしまうらしい。

…どうやら他に方法はないらしい。できることなら救いたかった。しかし躊躇してしまえば被害が出てしまう。

…覚悟を決めなければ。

 

「分かった。俺が何とかして見せる。幸いにも俺には『熱変動耐性』があるから、イフリートの火にも耐え切れる筈だ」

「わしも気合いで耐えて見せよう。炎属性なら輝石の氷塊や氷霧がよく効くはずじゃ」

「ありがとう…リムルさん、シルシテイさん…」

「おう、任せろ」

 

 

それからシズはいろんな事を話してくれた。

まずこれから戦うイフリートの話。

話しても大丈夫なのかと思ったが、イフリートが眠っている今しかないらしい。

そのあとシズは自分の身の丈を話してくれた。

自分を救った勇者の話。

聖騎士団長になった教え子と、自由組合と言う組合の長になった教え子の話。

置いてきてしまった子供たちの話。

その子たちも助けてあげて、と言われてしまった。その時、気軽に承諾してしまったが、男に二言はない。やってやろうじゃないの。心強い味方(シルシテイ)もいるしな。

聞いてあげているだけでもとても楽しそうだったが、楽しい時間はそう続かない物だ。

 

「…っく…んっ…はあ…」

「…もう、限界か。リムル、準備はいいか?」

「おう。お前は?」

「わしもとびっきりのやつを用意した。よっこいせ」ドスン

「でかっ」

「これは指紋石の盾っていう大盾じゃ。火には大盾の中で一番強い…はず。炎の精霊なんじゃ、死ぬほど高い温度だと考えたほうがいい。知ってるか?焼かれて死ぬのが一番辛いらしいぞ」

「怖えこと言うなよ…」

「…っごめん…なさい…」

「謝らんでいいよ、シズさん。わしは焼く程度じゃ死なんぞ。溶岩の上でタップダンスができる」

「俺は効かんしな。だから、任せてくれ」

「…頼んだよ……ううう… うぐっ…うぐぅあああああああ!!

 

俺は杖を構えた。シルシテイも杖と石の塊みたいな大盾を構える。

シズは呻くのを止めると同時に静寂が訪れた。

シズの仮面にヒビが入り、そこから妖気が漂い出した。

そしてシズは詠唱を始めた。

 

side 三人称 ゴブリン達の町 建設中

 

 

建設中の町から離れた丘、そこから火が噴き上がる様子が町からも見えた。

 

「あわわわわわ…大丈夫ですよねぇ?何とかしてくれますよねぇ?」

「大丈夫だって!シルシテイさんは巨大妖蟻をあんな簡単に倒したんだ、きっと強い。リムルさんなんてスライムなのに喋れる時点で普通じゃねえし、何とかしてくれるさ、シズさんのことも…」

 

ぬわーーーーーっ!

 

シルシテイーーっ!

 

「…本当に大丈夫でやすか?」

「…多分大丈夫」

 

噴き上がる火を見たのは三人組だけではない。

 

「うわー…すげえ炎っすねぇ」

「うむ、まああのお二人ならば大丈夫であろうが…」

 

ぬわーーーーーっ!

 

シルシテイーーっ!

 

「「シルシテイ様っ!?」」

 

 

side リムル 名も無き丘

 

 

「ぬわーーーーーっ!」

「シルシテイーーっ!」

 

始まって早々にシルシテイが炎に巻かれた。

世界の声が響くと同時に周囲にはサラマンダー(大賢者調べ)が発生し、シズさんは炎の巨人、イフリートに変化した。そしてシズ…いや、イフリートは魔力波動を解き放ったのだ。俺はいい。衝撃はともかく、熱に関しては完全な耐性を持っている。だが、シルシテイは…

 

「あー、死ぬかと思ったわ」

「大丈夫そうだな、心配して損した。回復薬はいるか?」

「狭間時代からのとっておきがあるから大丈夫じゃ!それよりリムル、わしがサラマンダーとやらを相手する!お前はイフリートをどうにかするんじゃ!」

 

シルシテイは輝石のつぶてをそれぞれサラマンダーに撃ち、ヘイトを集めた。

そして、俺とイフリートは一騎討ちの状態となった。

過ごした時間は短いが、同郷を苦しめ続けたことは許せない。覚悟しろよイフリート…お前の技は俺には効かないからな。目指すは完全試合(パーフェクトゲーム)だ。

先に動いたのはイフリートだった。

炎が吹き荒れる。目の前でイフリートが分裂したのだ。

まあ知ってるんだが。やはり分身体は本体より弱いらしい。

さらに氷霧により、本調子を出せないまま消えていく。

どうせダメージは無いのだから、イフリートにのんびりと近づく。俺が油断していると見せかけてやるのだ。

ん?どうやら広範囲結界に囚われたらしい。

炎化爆獄陣(フレアサークル)。イフリートが持つ技の中でも最上位の炎系範囲攻撃である。

イフリートが自分の体を気化させ、その技を発動させようとした時、

 

オオオオアアアアアアアアアア‼︎

 

文字に起こしたらそんな音。だが、聞けばわかる。それは間違いなく竜の咆哮であった。

そこには水色の鱗の竜の頭があった。その頭の下は…見覚えのある下半身が。

 

「ルーン!?」

「どいておれ!巻き込まれるぞ!」

 

竜の頭からシルシテイの声が聞こえる。

竜の頭からブレスが吐き出される。

 

《告。このブレスは熱変動耐性等の耐性を持っていなければ危険なほどの冷気を持ったブレスです。また、単純にエネルギーの塊をぶつけているような物なので、聖魔耐性等が無い限り、防ぐことは困難です》

 

やばぁ…念のため避けてよかったわ…

ブレスが段々と弱くなり、完全に止まった。

イフリートはひざまづいていた。イフリートはもう弱っている。とある事を思いつく。

 

「ルーン。試したいことがあるんだがいいか?」

「ん?いいぞ」

 

俺はイフリートに近づき…

 

《ユニークスキル『捕食者』を発動しますか?YES/NO》

 

答えはもちろん、YESだ!

辺り一帯を光が包む。

 

「ぐわーーー!」

 

そして消える。

 

「あーびっくりした」

 

こいつ喧しいな…

後に残されたのは俺と、シズと、目を抑えたシルシテイだった。

 

「目が〜」

「しまらねぇな…」

 

 

あれからシズは目を覚まさない。俺やシルシテイで世話をしているが、もしかしたら…もう…

 

「…リム…ル…さん…?」

「! シズ!おいルーン!シズが目を覚ましたぞ!」

「シズさん!?大丈夫か!?」

「…イ…イフリートは…どうなった…?…あの三人は…?」

「あの三人は仕事があるらしくて帰ったよ。また来るって言ったたから挨拶をしに来ると思う」

「…ごめん…な…さい…私は…もう…長く無い…」

「…え?」

「…ねぇ…リムルさん。最期に…お願いがあるんだ…」

「…なんだ」

「…私を…食べておくれ…」

「は?」

「…イフリートを…食べてくれたんだろう…?…嬉しかったよ…。イフリートを取り付かせたやつには…文句を言いたかったけどね…」

 

静かに語るシズ。絞り出すように…ゆっくりと…

 

「…私は…この世界が嫌いだ…。でもね…この世界が…憎めなかった。まるで…あの男のようだ…。この世界に…あの男を重ねて…見ているのかもしれないな…。だからね…この世界に取り込まれたく…無いんだ…」

 

それを叶えることはとても容易い。しかし、その願いは俺を縛る呪縛となる。彼女の願いを、憎しみを、無念を、全て引き継ぐのだ。

しかし、彼女に安心して逝ってもらうことができるようにするためならば…迷うことは無い。それにもう引き受けてたしな。

 

「分かった。貴女の想いは俺が引き継ぐ。貴女を苦しめた男の名は、何という?」

「レオン・クロムウェル…。最強の魔王の…一人…」

「約束しよう!リムル=テンペストの名において!レオン・クロムウェルにきっちりと貴女のおもいをぶつけて、後悔させてやろう。…シルシテイ?」

「わしは、また救えないのか…」

 

シルシテイが頭を抱えてひざまづいている。そうか…。シルシテイは狭間の地ってところで戦い続けて…。救えなかった命があったのか…。まともな奴は少ないとは言ってたが、いることにはいたんだろうな。救えなかったのはそう言う奴らだったんだろうか。

 

「シルシテイさん…、私は貴女に救われたんだよ…?」

「…?」

「私は…暴走するところだった…。それを…貴女が止めてくれた…。あの炎化爆獄陣だって…発動してたら辺り一帯が焼け野原になってしまうところだった…。シルシテイさんには感謝してるんだ…。だから…自分を責めないで…?」

「…分かった。すまないな、死に際だってのに気を使わせて」

「ううん、大丈夫さ…」

「わしも夜の王シルシテイの名に誓おう。貴女の遺した願いを叶えると」

 

…ありがとう… 彼女はそう呟いた。目を瞑り、眠るように息を引き取る。

 

《ユニークスキル捕食者を使用しますか?YES/NO》

 

…安らかに眠れ、俺の中で。YES、と念じる。

苦しみ続けた彼女が、せめて俺の中で覚めることのない幸せな夢を見れる様に。俺は祈るなんてことはそうしないが、その時、久しぶりに祈った。

 

 

…二つの足音が聞こえる。

 

コツンコツンコツン…

 

ズリズリズリ…

 

彼女は頭を上げる。幼く、可愛らしい顔立ち。そして安堵し、微笑みを浮かべた。

 

(ここに、いたんですね!もう私を、置いていかないで!)

 

背筋の伸びた人影は少女に手を差し伸べる。少女がその手を取ると、その人影はもう一つの足音の主の腰の曲がった老婆について行く様に歩き出した。

頼りない青い灯火を持った老婆はゆっくりと進んでいく。

ある程度進むと、人影は少女を前に出す。老婆は前を指した。

そこには…

 

(お母さん!)

 

少女は走り出す。人影はもう消えていた。老婆は、少女が母の元へ辿り着いたのを見ると、足音を立たぬ様にゆっくりと去っていった。

 

薄幸の少女、井沢静江。彼女は正しく死んだ。眠るように、穏やかに、最期は幸せな夢を見て、死んだ。

 

 

シズは、逝った。

俺たちに、目標を与えて。一つは、魔王レオン・クロムウェル。もう一つは残された子供たち。

俺も、シルシテイも簡単に、だが決意を持って引き受けた。

約束を果たそう。

そして俺は彼女から三つのものを残してくれた。一つ目はユニークスキル『変質者』。名前があれだが変質する者という意味であって変な人ということではない。

二つ目はエクストラスキル『炎熱操作』だ。そういえばイフリートを宿していた。それが影響したのかもしれない。

そして三つ目は…

 

「ふふふ、ふはは、ふはははは!へーんしん!」

「おおー」

 

そう!人の姿だ!

俺は早速擬態した。

…あれ?擬態の時にいつも出る黒霧が出てこない。

どうなってんだ!?と思ったら視点がちょっと高くなった。

てか、手と足がある。

俺が体を確認している時、ふとシルシテイを見ると、なんかワナワナしている。疑問に思った次の瞬間、

 

「服をっ!着ろーっ!」

「あべしっ!?」

 

かっこいい鎧を叩きつけられた。

 

 

よーく調べた結果、小学生女児みたいな見た目になっていた。何もついてないとはいえ、裸ではまずいだろう。

シルシテイの配慮には感謝しなければ。この鎧もなかなかかっこよく、竜の翼や鱗が材料となっているらしい。

いらなくなるまで貸してやろうと言ってくれた。

話は変わるがこの体には、俺の息子もいなかった。まだ使ってなかったのに…

まあいい。分身体で確認したら見た目はすごい可愛かったし、問題はない(?)。

ちなみに分身体は黒霧を使うことで、色々な状態にできることもわかった。

なによりも、人の体を得た。これによる恩恵は沢山あり、その中の一つには…

 

「てか味覚あるんじゃ無いか?」

「そうだよシルシテイ!いやー何食べよっかな〜」

 

味覚を手に入れた!これは今まで手に入れたものの中でも上位に入るほど素晴らしいものだ!

嬉しくて小躍りしていたらシルシテイが声をかけてきた。

 

「それなら食べてほしいものがあるんじゃ」

「お、なんだ?楽しみだなあ」

「用意するからちょっと待ってくれ…よっこいせ」

 

鍋を用意して何かを準備するシルシテイ。

どうやら何かを茹でるようだ。

準備が終わって、水を茹で始めるシルシテイ。

なんかすげえ綺麗な装飾された瓶*1に入った水を塩を入れながら沸騰させた。

そしてそこに蟹をぶち込んだのだ。丸一匹である。

味付けは塩をかけたりしているので、それだろうか。

蟹を解体し始めるシルシテイ。完成したようだ。

ハサミの部分を俺に渡してくれた。俺は蟹を食う機会ってのはあまりなかったから分からないけど、あんな豪快にやるもんなんだな。

シルシテイは俺を見つめている。食べるのを待っているらしい。かつて、シルシテイが俺に蛇を差し出してきた、あの時を思い出した。って、そんなことより。

見れば見るほどうまそうだ。早速一口。

 

「…ッ!」

「美味いか?」

「美味い…」

「そりゃよかった」

 

なんて言うんだろ…。濃過ぎず、薄過ぎずの絶妙な塩加減で、とにかく美味い!

 

「…」モグモグ

「…」ニコニコ

 

俺は一心不乱に蟹を食べて。シルシテイは嬉しそうに蟹を茹で続ける。

穏やかで、幸せで。でも、約束を守る為の確かな決意を抱いた夜は、静かに更けていった。

 

「あ、そういえばあの竜の頭は何?」

「ああ、あれは祈祷じゃ。強力だけども隙もでかい。そう言えばリムル。最近段々上位の魔法や祈祷が使えるようになってきたんじゃ」

「お、魔法も?また教えてくれよ」

 

そんな話もしながらね。

 

 

数日後

 

side 三人称 ジュラの大森林 街から離れた地点

 

 

シルシテイは訳もわからず戦っていた。おかしい、狩りについてきただけのはずなのに。

相手はオーガ。一人一人が強力な力を持った強者であった。

一応事情があると思われるでトリーナの灯火とトリーナの剣に眠り壺という眠りに特化した装備で戦っていた。

かなり強力な眠りで戦技の範囲も広いため黒髪のオーガと紫髪のオーガの無力化には成功している。

ただ、それでもあと四人のオーガがいる。殆どの者は桃髪のオーガに魔法で眠らされてしまった。

残ったのはランガ、ゴブタ、リグル、そしてシルシテイ。

そのうちの一人、ゴブタも今は救援を出してもらう為に離脱している。

ランガは青髪と戦っており、リグルは白髪と戦っている。

シルシテイは赤髪と桃髪の二人を相手にしていた。

しかしこの二人、シルシテイのとって最悪のコンビであった。前衛の赤髪と後衛の桃髪。

赤髪に攻撃しても桃髪に攻撃しても残った方になにかしらの方法で塞がれてしまう。

実に面倒な相手であった。

神肌の二人だってもうちょっと隙はあったぞ。

シルシテイはそんなことを考えながら戦える辺りまだ余裕があると言える。

赤髪はその余裕がわかるようで、悔しそうにしていて、また焦っていた。

焦りからか、攻撃が読み易くなっており、全て避けられてしまう。

また、焦りとは体力を奪うものであり、実際赤髪は肩で息をしていた。その隙を見逃さずシルシテイは猟犬ステップで回り込み…桃髪を狙った。

今まで見せなかった素早い移動に不意をつかれる二人。

シルシテイはいつのまにか剣を仕舞っていた右手から巨大な竜の腕を出現させ桃髪を掴んだ。

身動きの取れない桃髪に左手の灯火による眠りの炎を吹き付ける。

傷つけることなく眠らせる優しい炎は桃髪を穏やかに眠らせた。例えそれが竜の手の中であったとしても。

 

「さあ、これで一対一じゃな。なんで戦っとるかは分からんが、とりあえずあんたらには落ち着いて貰わないかん。」

「邪悪な魔人め…よくも姫を…!」

「何が邪悪かもいまいち分からんが…。…あららら」

「大丈夫ですか、若」

「こっちは終わった。そっちは…かなり強いらしいな」

 

どうやらランガもリグルも無力化されてしまったらしい。

怪我はしているが、死んではいないようだ。

もう二対一ではない。三対一となった。

これはもう眠らせるだけでは無力化は無理。シルシテイはそう判断した。

再び竜腕を出現させ大きめの木を一本引っこ抜き薙ぎ払う。薙ぎ払った先にあった小さめの木々は折れて飛んでいき、多少凸凹してはいるが広場ができた。

そこにシルシテイは跳躍し、竜腕を保ったまま語りかける。

 

「なんだったかな…。ああ、そうだ。『殺さない。』『無力化はする。』。両方やらなくっちゃあならないのが今のわしのつらいところだな」

 

オーガたちは突然振るわれた凄まじい力に動けないでいる。

そんなオーガたちにシルシテイは続けて言う。

 

「覚悟はいいか?わしはできてる」*2

 

そしてシルシテイは咆哮をした。

それと同時に三人のオーガが襲い掛かる。

激しい戦いが幕を開けようとしていた。

 

…ちなみに咆哮により、竜腕が邪魔であまり眠りの炎で焼けなかった桃髪が目覚めてしまっている。

これにより、シルシテイは四対一となった。

 

 

side リムル ゴブリンたちの町

 

 

リグル達を見送ってしばらくしてから。俺は人の姿の時用の服を作る為の採寸をしたり、洞窟で自分のスキルの実験をしたりしていた。

そしてシズさんの仮面をつけることで、今まで少し漏れていた妖気が完全に抑えられることも分かった。

問題が一つ解決して満足した俺は地上に向かった。

帰ったら焼肉が待っているんだ!と、思っていたんだが…

洞窟から出ると凄まじい戦いの雰囲気を感じた。

どうしたもんかと考えているとゴブタが走ってきた。

曰く、救援にきたゴブリンライダー達をすぐに無力化できる実力者達がいてリグルとランガとシルシテイが戦っているらしい。

シルシテイはともかくリグルとランガがやばいらしい。

俺は今すぐ向かうことにした。

 

 

「ここかゴブタ!」

「はいっす!…リグルさん!?」

「怪我は…あんまり酷くないみたいだな。ランガも大丈夫そうだ。回復薬でどうにかなるだろう。で、シルシテイは…!?」

 

シルシテイは戦っていた。それも、凄まじい戦いだった。

あの茹で蟹を食べた夜、色んな祈祷が使えるようになったと話していた。

シルシテイはそのうちの一つの竜腕を使って戦っていた。

だが、相手は四人のオーガ。それもかなり強力そうだ。全員に立派な角が生えている。同じような角を生やしたオーガが二人倒れていた。

生きてはいるので、無力化されたのだろう。

シルシテイはと言うと、かなりきつそうだ。

体中に傷が刻まれており、その竜腕にも傷が付いていた。

 

「争うのを止めろ」

 

シルシテイとオーガ達が動きを止める。

 

「ルーン!大丈夫か!」

「フーッ、フーッ、ああ、大丈夫だ、フーッ」

「すげぇ息切らしてんじゃん、代わろうか?」

「頼むわ、ふ〜」

「ま、ゆっくり休め」

 

さて、選手交代だ。シルシテイは竜腕を消してゴブリンたちの元へと向かった。そして何かを飲むと傷が一瞬で治った。

その様子にオーガ達が目を見開く。

イフリート戦で言ってたとっておきかな?

 

「もういけるぞ」

「はえーよ。…じゃああの桃髪を相手してくれ。魔法使ってたんだろ?ゴブタから大体の話は聞いた。あ、殺すなよ?」

「任せな。いやー、何でこんなことになったんだか」

「しらばっくれるな!そこの邪悪な者達を使役するなどただの人間にできることではないだろう!我らの里を滅ぼした豚共を操ったのも貴様らの仲間なんだろう?たかがオーク如きに我らが負けるなど考えられん。全ては貴様ら魔人達の仕業なのだろうが!」

 

ん?何かすげぇ誤解が生じている気がする。

オークなんてこの世界じゃ会ったことも無いぞ。

シルシテイもそれに気づいてか、反論しようとする。

 

「オーク?ちょっと待て。もしかしてそりゃ誤解じゃnいてぇ!?」

「むむ、確かに頭を撥ねたと思ったんじゃが…」

 

白髪のオークがいつのまにか背後におり、シルシテイの首を狙っていた。

一応当たってはいたがシルシテイの脅威の耐久力が防ぎきったらしい。どうなってんだよ…

 

 

「いたたたた…ったく、わしの後ろについたところで首は落とせんよ。まあ、もうできんがな」

 

シルシテイが武器を取り出した。刀の様だが…いや長い長い。軽く人の背丈ほどはあるぞ。

 

「何、次は外さんぞ」

「言っておくが、わしとの戦いでまともな斬り合いができると思うなよ?外道の技の数々、見せてくれるわ」

 

どうやらあそこでの勝負になった様だ。悪役ムーブやめろ。赤髪も「死ね、同胞の仇め!」と言いながらシルシテイに襲い掛かろうとしたので、

 

「おっと、お前の相手は俺だ。ランガ、すまんが桃髪のオーガの相手をしてくれないか?」

「勿論です我が主よ。ご武運を」

「ああ、お前もな。さて赤いのと青いの。話を聞いてもらいたところだが、実力の差がわからないと話も聞いてくれないだろう?俺の実力を見せてやる」

 

そんなことを話しながらスキルを変質者を使って改造していく。

 

《告。ユニークスキル『捕食者』の擬態、スライムの固有スキル『溶解、吸収、自己再生』をユニーク『変質者』にて統合、エクストラスキル『超速再生』を獲得しました。また、『捕食者』の擬態と、『変質者』の統合分離の合成能力として、エクストラスキル『万能変化』を獲得しました》

 

ありがとう大賢者!という訳でスキルを二つ手に入れた。さっきの白髪の斬撃は俺が喰らえば多分普通に切れるだろうから、強力な再生能力として超速再生が必要だ。万能変化も戦略を広げる上では大変便利でよい能力だ。

こんだけの能力があればまあ、勝てるだろう。

 

「どうした?かかってこいよ」

「くそっ…いくぞ」

「ああ」

 

赤髪と青髪が同時に襲いかかってきた。

青髪の一撃は腕を硬質化させて防いだが、赤髪の技量が思ったより高く腕を切り落とされてしまった。

俺はすぐさま切れた腕を掴み取り一旦後退する。

 

「ハン!片手を失って仕舞えばもう終わりだろう?」

 

()()()()()()ごもっともなことを言いながらも、連撃止めない赤髪。青髪も的確に急所を執拗に狙っており厄介極まりない。

だが、問題はない。俺は右腕を取り込み、『超速再生』を使って再生させる。

オーガ達は驚いている。勝ち筋が見えたのに一瞬で再生されたら、驚くのも無理はない。

 

「はーっはっはっは!腕を切り落としただけで勝ったと思うなよ!だが、少々お前たちを舐めていた様だ。少しだけ本気を出してやろう」

 

そう言いながら仮面を外す。

驚いていたオーガ達は俺の溢れ出した妖気に危機感を抱いたのだろう。

 

「化け物め、貴様は絶対に殺さねばならん!焼き尽くせ、鬼王の妖炎‼︎」

 

奥の手なのだろう、途轍もない熱を持つ炎熱攻撃を赤髪が放った。だが…

 

「効かんな。そんな炎じゃ、俺は殺せないぞ?」

 

自分の切り札が効かない、その現実に赤髪は少しだけ怯えを見せた。だがそれを、強い意志でねじ伏せたらしい。

しかし赤髪は抑えつけた怯えを再び見せた。

原因を探ろうとした瞬間、シルシテイが相手にしているはずの白髪がこちらに飛んできた。

そして、見事な着地を見せた。

 

「どうした!大丈夫か!?」

「いえ大丈夫です、若。ですがあれは力も技も術も我らに迫る…いや、超えるかもしれませんぞ」

 

オーガがそんな話をしているとシルシテイが近づいてきた。

燃えている。身体と刀が燃え上がっている。

そういえば白髪のオーガは怪我こそしていないが服がところどころ焼け焦げている。

 

「ルーン!?なんで燃えて…ああ、あれか!」

「そう、前言った祈祷じゃ。刀は炎撃で燃やした。だけどもこれちょっと強すぎる。奴の刀を折るところじゃった」

 

祈祷とは、『火よ力を』という術のことである。

なんでも、物理の力と、火の力を強くする術らしい。

武器が燃えているのは炎撃と言う戦技のせいらしい。

 

「…さてリムルよ。そろそろお前の力の一端を見せてやれ」

「…ああ、なるほど。いいだろう」

 

シルシテイはオーガが動かない今、力の差を見せつけるという作戦でいくつもりらしい。

なるほど、これで心が折れれば話を聞かせる事ができるってことか。

まあ、これで折れなかったら…もう慈悲はない。

 

「いいか…これが本当の炎ってものだ!」

「見た目は似るが別物の、命を蝕む悍ましい炎も見せてやろう」

 

そう言いながら左手に黒炎を撒きつかせる。

シルシテイも似たような色の炎で刀を燃やした。不思議なことに炎が綺麗に刀に纏わりつく。

どちらも演出くさくて笑いそうになるが、ビビらせる為なので我慢する。

 

「お、お兄様…あの…あの炎は…お兄様のような幻妖術の類ではありませぬ!」

 

と、桃髪がいい感じにビビっている。

すると、シルシテイから小声が。

 

(リムル、もう一押しいけないかね)

(確かに決定的に折れてはいないんだよな。よし、俺は『黒雷』を使う。お前はどうする?)

(わしは、オリジナル祈祷でいい感じのがあるから、それ使うわ)

 

念話で打ち合わせを終え、

 

「ふふふふ、その通り。だが、より面白いものを見せてやろう」

「あの炎を投げてもいいのだがな、俺だと迫力に欠ける。より強力で、迫力のあるやつを見せてやる」

 

俺は魔力の出力が三割程度になる様に調整する。

シルシテイは跪いて祈っている。

 

「見ろ!これが俺の、真の力だ!」

 

そう言って『黒雷』を大岩に放った。黒雷は大岩を凄まじい音をたてながら、蒸発させた。

いや、やばすぎ。燃費はシルシテイから教わった魔法の方がいいが、威力だけなら黒雷の圧倒的勝利である。

黒雷も本当は燃費がいいんだけどな。

シルシテイはもう一つの大岩を狙っている様だ。

先程の大岩と形がそっくりである。観光名所とかじゃないよな?

シルシテイが立ち上がり手を突き上げた。

瞬間。

 

『狙い澄ます古竜の雷撃』

 

大岩に赤い雷が直撃した。たったの一撃でその大岩は完全に蒸発した。

凄まじい威力、とんでもない飛距離。デメリットは祈りの長さと、燃費の悪さだ、と寸前の打ち合わせで聞いた。

聞いてはいても、やはり恐ろしい技である。見えていればどこまでも届くとも言っていたので、それも燃費の悪さの原因なのだろう。何発も打ってるのでちょっと締まらないが。

さて、オーガの反応次第だが。

どうか、負けを認めてくれ…

 

「…ここまでとはな。我等では貴様達には遠く及ばないらしい。だが俺も、力ある種、オーガの頭領として育てられたのだ。無念に散った同胞達の恨みを晴らさんで、何が頭領か。届かないとしても、せめて一矢報いてくれよう!」

「御伴致しましょうぞ、若」

「ああ、覚悟はできている」

 

逆効果だった様だ。シルシテイは頭を軽く抑えている。

覚悟を決めた戦士は殺さずに制圧するのは困難だ。始末するしかないのか…

するとシルシテイは今にも壊れそうな壺を渡してきた。

 

(顔にぶつけろ、眠るから)

 

なるほど、シルシテイはまだ諦めてはいないらしい。

いいぞ、最後まで付き合ってやろう。失敗しても死にはしないだろう。

覚悟を決めたオーガ三人と、壺を持った俺ら二人。

動き出そうとしたその時、

 

「お待ち下さい!」

 

オーガ三人と、俺ら二人はその声で、動きを止めた。

その声の主は桃髪のオーガ。赤髪達の前に立って手を広げ、制止の声を上げたのだ。

 

「お兄様、考えてみてください。これだけの力を持つ魔人様が、わざわざ豚共をけしかける理由がありません。お二人の内、一人でも本気を出せば我らは皆殺しにできますよ。この方々は確かに異質ですが、里を襲った者共とは無関係なのではないかと…」

「なんだと!だが、言われてみると…」

 

桃髪は続ける。

 

「それに、あの壺を被った魔人様のあの竜の腕は手加減をされていました。あの力を本気で振るわれたら、死んでいましたよ?」

「よく見抜いたな、やはり後衛職ってのは厄介だな」

 

あの全力に見えた戦い、手加減をしていたらしい。

 

「まじ?」

「マジじゃ。もうちょっと力を込めれば衝撃波も発生するし、薙ぎ払ったら地面を抉ったり、掴んで叩きつけたりとか応用が効く。ただ、スタミナが無くて肩で息をするまでになっちまった」

「そうだったのか…申し訳ない、追い詰められて勘違いしてしまった様だ。どうか謝罪を受け入れてほしい」

 

どうやら勘違いを認めてくれたらしい。

これで一件落着…とはいかないだろうな。

 

「まあ、一先ず村に戻ろう。今日は宴をする予定だから和解の意も込めた宴だ。今日は焼肉だぜ?楽しんでいってくれ」

「困ったことがあるなら助けてやろう。止むに止まれぬ事情があったんだろう?宴の後にでも聞かせてくれ」

 

オーガ達は同意してくれた。

という訳で、眠っている奴らを全員起こして村に戻ることにした。解決してよかったよ、ほんと。

 

 

その晩、みんなで宴をした。

久しぶりに食べる焼肉はめっちゃ美味かった。シルシテイも美味しそうに食べていた。

嬉しい誤算だったのは桃髪が料理にも長けている事だった。

ゴブリナ達もその技を身に付けようと一生懸命に教わっている。向上心があることは良いことだな。

同じ女性の紫髪は、美味しそうに焼肉を食べていたが料理をするタイプではないらしい。

得意分野に合わせた事をする風習でもあったのだろうか。

それは良いことだと思う。

俺の作る国も、そうしたいものだ。

明日、オーガ達に何があったか聞いてみるか。

俺はそんな事を考えながら宴の夜は更けていった…

*1
『星の雫』と言うらしい。やばそう

*2
ブチャラティ「覚悟はいいか?俺はできてる」ジョジョシリーズ




いや〜エルデンキャラがオリ主以外で初めて出ましたよ!
腰が曲がっている灯火を持った婆さん…誰なんでしょうね(すっとぼけ)
今後の婆さんの出演予定は未定です。出ない方がいいけどね、役的に。
あと遅い言い訳をさせてもらうと、書いてるのがちょいちょい消し飛ぶんですよね。
だから書き直すのに時間がかかるんですよ。

シルシテイくんの現在のいろいろ
使える武器や魔術、祈祷から見た能力値(威力は別)
生命力 40
精神力 40
持久力 30
筋力  40
技量  40
知力  30
信仰  30 
神秘  30 

装備
頭 壺頭
胴 黒き刃の鎧
腕 黒き刃の手甲
脚 黒き刃の足甲

タリスマン
カーリアの徽章
アレキサンダーの破片
集う信徒の聖布
ミリセントの義手

武器
メイン 色々使うので割愛
サブ 竜餐の聖印 死王子の杖 滑車の弩

いろんなセリフを知っている理由(ジョジョ、物語シリーズのセリフ)

彼…というか他の奴等(〇〇袋達。他のゲームでも作る予定)もこれは知っています。
彼らには一度大いなる意志(俺ら)が宿っておりその啓蒙()の一部が彼らに伝わった…という経緯があります。


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スライム2度目のやらかし、鬼の目覚め

狙い澄ます古竜の雷撃

知られざる王都古竜信仰の祈祷
その新たに編み出された技

赤い雷撃を、対象に落とし周囲に迸らせる
その威力は凄まじく、射程も長い

不遜にも伝説を改変しようとしたこの技は
通常の王都古竜信仰の祈祷よりもFP消費が多い
だが、それに見合う性能である

自分に当ててから相手に当てるより、相手に直接当てる方が効率が良いのでは?
本来武器のように振るう雷だったため、その考えは効率の改良こそしなかったが、新たな技を生んだ


夜が明けた。

俺達はオーガ達に何があったのか聞くことにした。

場所はドワーフ兄弟三男のミルドが建てた立派なログハウス。

リグルドと四人のゴブリンロードとカイジン、俺とシルシテイとオーガ五人組の十四名。

リグルド達を集めたのはこの話が重要な可能性があるからだ。

なかなかの強者であるオーガ達を五人にまだ減らしてしまうなんて、只事では無い。

手加減していたとは言え、シルシテイをボッコボコにしていたのだ。

一体何があったのだろうか…。

 

 

オーガ達曰く。戦争が起き、オーガ達が敗北した。ざっとまとめるとそんな内容の話だった。

俺とシルシテイがイフリートと戦っていたくらいの時かな。

オーガ達も戦争に巻き込まれていたらしい。

森の中でも上位に位置するとされる(らしい)オーガに挑んで、勝つなど一体どう言うことなのか。

リグルド達も驚いていた。

 

「…あの糞オークどもめ!」ドンッ

「お兄様、落ち着いてください」

 

赤髪はブチギレていた。まあ当然だな。

オーク達はかなり質の良い装備をしていたらしく、里長を殺したオークに至っては全身を黒い鎧で包んでいたらしい。

そいつも似たような奴が四体いて、そいつらが里の精鋭である戦士達を皆殺しにし、そこから大量のオーク達による蹂躙が始まったとのこと。全てのオークが全身鋼鎧であることから、一人一人のオークの力もそれなりにあるだろう。

そして、そこにいたのはオークだけでは無いと言う。

凶悪な妖気を隠そうともしない、怒り顔の仮面を付けた魔人。

 

「我々が勘違いしてしまったのはその人物を見ていたからです」

「なるほど、わしは魔物を率いていて」

「「「「「「はい」」」」」」

「強力なオーラを放っていて」

「「「「「「…はい」」」」」」

「顔を隠していたから」

「「「「「「……はい」」」」」」

「共犯だと思ったわけじゃな?」

「「「「「「………はい」」」」」」

「うーむ、追い詰められとったんじゃな」

 

まあ、仮面と壺じゃ話は変わってくる。落ち着いていたならまともな判断も出来ただろう。

…いや、魔物を引き連れた壺頭はヤバいやつにしかみえない。

 

「そんなことよりよ、どうするリムル」

「…まあ、ここにも来るだろうな。オーガだけを殲滅する理由はない。目的もわからないし。しかも、そんなにいるのに気づかないなんて…しかも鎧なんてな。人間の国と手でも組んだか?」

「いや、オーク強くするより自分の国の兵を強くするじゃろ」

「うーん、それもそうか」

 

オークの武器、鎧の出所など、調べてもいないのにすぐわかるはずもなく、とりあえずわかったのはオークが森を侵攻していることだけだった。

 

 

で、だ。はいそうですかで終わるわけにはいかない。

ここも狙われるかもしれないのにのんびりなどしていられない。みんなに意見を聞いてみるか。

 

「オークの目的は恐らくこの森の支配権だと思われます」

 

と、リグルドが代表して答える。

 

「なるほど、それじゃここも…」

「うむ。来るじゃろうな」

「うーん、どうしたもんかな…」

 

皆、俺の様子を伺っている。今、俺たちに考えられる選択肢は三つ。戦う。逃げる。軍門に降る。

三つ目を選べば、オーガ達とは敵対するだろう。そもそも選ばないけどな。

それを知ってか知らずか、緊張感のある目でこちらを見つめている。

緊張感が高まっていく。

 

「とりあえずお茶おかわり」

「まじで言ってるのか」

 

シルシテイはおかわりを受け取る。

緊張が緩和され「ふう…。ありがとうな」…緩和されたな。

 

「はあ…まあいいや。オーガ達に、俺から提案があるんだ」

「…なんでしょう」

 

赤髪のオーガが答える。

 

「俺達に雇われる気はないか?と言っても、俺が出来るのは衣食住の保証くらいだがな」

「ほう、スカウトか。あれほどの強さを持っているなら、かなり心強いぞ。俺達って言われてもワシが出来ることなんて…武器の手入れ…武器の提供…うーん」

「俺たちを雇う…だが、それではこの村も危ないのでは?」

「もとから危ないから大して変わらんよ。むしろ戦力が増える分にはありがたいぞ」

「そうなんだよ。オーク達がどれくらいの戦力かわからない今は戦力はどんどん欲しいんだ」

「なるほど…」

 

赤髪のオーガは考え込んだ。断られるかな?それは…まあ、しょうがないよな。

自分達をボッコボコにしたよく分からない謎の壺がいるもんな。怖くてやってらんな「分かりました、是非よろしくお願いします」…引き受けてくれるみたいですね。

 

「それは良かった。契約期間は…オーク達の大将討伐まででいいかな?」

「はい、それで構いません」

 

オーガ達との契約も決まり、取り敢えず一安心である。

しかし…さっきから赤髪とか青髪とか、こいつらに指示するときにその呼び方はあまり良く無いよな…

 

「じゃあ、まずは君たちに名前をあげよう」

「へ?何を言って」

「おいおい、壺用意したほうがいいんじゃないかね」

「六人くらい大丈夫だって、へーきへーき(フラグ)。名前はすぐに思いついたんだよ。お前が紅丸(ベニマル)。お前が朱菜(シュナ)。お前が白老(ハクロウ)。お前が蒼影(ソウエイ)。お前が紫苑(シオン)。そしてお前が黒兵衛(クロベエ)だ!」

「大丈夫か?前えらいことになってたじゃろ?」

「大丈夫だよ、ほら何とも…な…い…」ポチャン

「「「「「「!?」」」」」」

 

瞬間、俺の体がとける。シルシテイはすかさずにその体を壺に収めた。

 

「それ見たことか。なんとなくダメじゃろうなあとは思っていたがな、次はちゃんと名付けをする時は対策するんじゃぞ」

「ス、スライムだったんですか!?」

「あ、そうか、話して無かったか。そうだぞベニマル君。コイツはスライムでな、訳あって人に変身できるんじゃ」

「…もしかしてシルシテイ様もでしょうか?」

「うむ、シュナちゃんが疑うのも無理はないが、わしは…一応人間じゃ。強い力を手に入れただけの、な」

「そうですか…。あれ…?なん…だ…か…ねむ…く…」

「んあ?ああ、進化すんのか。成程、しょうがないな。」

「…シルシテイ様、布団を持ってきましょうか?」

「お、リグルド君気が利くね。是非頼む。あと、座布団を持ってきてくれないか?この壺を飾…置いておく場所が欲しいんじゃ」

 

 

シルシテイは壺を抱えながらオーガ達を安全な位置に移動させる。リグルド達が持ってきた布団にオーガ達を寝かせ、壺(リムル入り)を座布団に飾…失礼、置くと、シルシテイは武器の手入れを始めた。封印により使えない武器も手入れをする。いずれくる戦いのために、自らの武器を磨く…。

 

「シルシテイ様!お昼時ですがいかが致しましょう」

「じゃあここに持ってきてくれ。こんなデカブツ食卓に持ってくのも悪いしの」

「わかりました!ちなみに今日は湖で取れた魚のスープですよ」

「お、いいねぇ」

 

…そんなに高尚な思いじゃ無いかもしれない。

 

 

side 三人称 ジュラの大森林 町のはずれのログハウス

 

 

ログハウスにて、眠りについたオーガ達。その中の一人が目覚めた。名をクロベエ。オーガ達…いや、鬼人達の鍛治師である。見た目は前とそれほど変わらないが、強いて言うならば多少野性味が薄れていると言える。

さらにいうと見えない部分で凄まじい進化を遂げているが、ここでは省く。

 

「おや、起きたか。飯はそこにあるぞ、クロベエ君」

 

クロベエに声をかける者が一人。名をシルシテイ。みなさんご存知の褪せ人である。コイツは未だに武器の手入れをしていた。武器一本一本に十何分もかけてりゃ当然だが。

 

「あ、ありがたく頂きますだ。…その刀は?」

「これか、これは隕鉄の刀って物だ。重力に由来する力を使えるイカした武器じゃ」

「す、すごい…こんな武器オラ見たことないだ…!」

「他にも色々あるぞ。見てくか?」

「お願いするだよッ!」

「お、おう。じゃあ次は…これはどうだ。巨人砕き」

「で、でかい…」

 

別世界の不思議な武器達。

人ならざる者たちに対抗するため作られた武器は

材料であったり、形からして通常とは異なる。

降る星より生まれし者、凄まじい巨体をもつ巨人。

生まれた時から強い強者達を倒す為に狭間の人々は知恵を絞った。

その発想はクロベエに刺激を与えるだろう。

 

「次は…これじゃな。ミエロスの剣」

「せ、背骨…?悪趣味な武器だけども…」

「ギザギザだからな、敵の身体を引き裂く事によって出血を強いることができる結構いい武器なんじゃ」

「凄い発想だ、オラには真似できねぇ」

「真似なんてせんでいい、ここにある武器だって真似して作ったわけじゃないじゃろうしな」

 

 

続いて目覚めたのはハクロウ。鬼人達の中で最年長の老人である。

しかし技量は恐ろしく高く、シルシテイの後ろに回り込んでその首を狙えるレベルの技量である(残念ながらシルシテイは首を切るより背中に突き刺した方が効くのだが)。そして進化した事で、なんと若返っている。死にかけの老人(スゴイ・シツレイ)から初老くらいまで若返った。

その技量はより研ぎ澄まされているだろう。シルシテイ危うし。

 

「目覚めはどうかね、ハクロウ殿。飯はそこにあるぞ。温めてあるから美味いぞ。あとクロベエはドワーフの鍛治師に会いにいったぞ」

「そうですか、有難う御座います。では遠慮なく。…武器の手入れをしているのですかな?」

「そうじゃな。数が多いからだいぶ時間が掛かっとる。朝からやってんじゃが、三割も終わっとらん」

「ほほほ、よほど多いのか、一つ一つ時間をかけているからなのか…」

「どっちもじゃな、がはは!」

「…つかぬ事をお伺いしますが」

「なんじゃ?」

「シルシテイ殿のあの凄まじい力、そして高い技量、一体どうやって手に入れたのですかな?」

「ああ、そりゃ簡単な話じゃ。腐った沼、水浸しの街と聳える城、ってか魔法学校、罠だらけの城館、金色の大地、疫病蔓延る火山、巨人が住まう雪山、etc.etc.…。そしてそこらに住まう化け物達をぶっ倒す為にあらゆる手段を使えるようにしたんじゃ」

「…」

 

英雄譚。ハクロウの頭にその言葉が浮かぶ。

その遥かな旅路。想像もつかない過酷な戦い。

あの技量も筋力も謎の力も、すべてそこで手に入れたのだろうか。

 

「まあ、詳しいことは覚えとらん。見た目より遥かに歳を取ってる故、ボケとるんじゃ。自分で言うのもあれだが」

「それはもう、しょうがないもの。受け入れるしか無いですじゃ」

「それもそうじゃな。がはははは!」

 

暫くして、ハクロウも家を出る。

曰く、情けないゴブリン達に修行をつけてやるとの事。

シルシテイは再び手入れに集中する。

傍らにある壺に眠る、友人の目覚めを待ちながら。




残りの人達(人でない)は次回。てか遅すぎる。
とんでもない遅筆です。許してください(懇願)
短めにして、ペースを上げたい。
そして、シルシテイはボケが入っている様です。
これは、リムル君にも話し忘れてる事がありそうやなぁ


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続く鬼の目覚め、あとスライムの目覚め

星の茹でカニ

星の雫を使って茹であげられたカニの身肉
プリプリとして汁気もある見事なもの
塩加減にコツがあるらしい

一定時間、物理カットを大きく高める

また、星の雫を使ったこの茹でカニは
不思議な力が染み込んでいて
ゆっくりとFPを回復する効果がある


…目覚める。次に目覚めたのは紫髪の鬼人。名をシオンと言う。

脳筋のような…て言うか脳筋の彼女はシルシテイと戦う際も無骨な棍棒を振り回して戦っていた。早々に眠らされてしまったが。

さて、目覚めたそこには未だに武器の手入れをしているシルシテイが。はよ終わらせろ。

 

「おお、起きたか、シオン君。君で…ええと…そう、三人目だ」

 

無心になって武器の手入れをしていたせいで軽く記憶がとんでいる。

 

「ちなみに先に起きたのはクロベエ君とハクロウ君だ。二人ともそれぞれ外に出かけていったぞ」

「あ、はい。ありがとうございます」

「さてさて、君とは何を話そうかな…」

 

彼の中では何か話さなければならない流れになっているらしい。別に誰もそんなこと求めてないが。

するとシオンがシルシテイに問う。

 

「あの、リムル様は…?」

「ん?ああ、それ。そこの壺の中」

 

クッションの上に置かれた壺。貴重な壺とかそういう訳ではない(ある意味では貴重とも言えるが)。リムルが入っている壺である。

それなりの時間が経ったが未だ目覚めないリムル。上位存在になるほど名付けは高リスクと言うことを彼は知らなかった。

シルシテイは大変なんじゃの、と他人事のように考え、話を続ける。

 

「君は何かしたいことがあるかね?」

「オーク達を殺したいです!」

「ああ、そういうことじゃ無くて…」

 

当然とも言える返答だが、シルシテイの求めている答えではない。起きがけだからこそ何かしたい事があるのでは?

そのようにもう一度言った。

 

「では…身体を洗いたいですね。恥ずかしい話ですがあまり風呂に入れていなくて」

「なっ…!(盲点だった…!ここには家も飯も服もあるが、風呂がなかった!何故それを忘れていたんだ!至急作らなくてはならん)」

「ど、どうかしましたか?やはり自分勝手なねg「風呂を作るぞ!」ひゃっ!?」

「シオン君、君のおかげで大事なことに気づけた!感謝するよ!」

「は、はい!?」

「そうと決まれば早速技術者達に相談せにゃならん!ドワーフの奴等は何処じゃ!」ドタドタドタ

 

そう叫びながら出ていったシルシテイ。数時間後、シュナが目覚める少し前に温泉が出来上がることになる。

そして少し先の話、魔国建国記と呼ばれる書物には『月光の温泉』という項目が出来上がることになる。

 

 

続いて目覚めたのはシュナ。姫と呼ばれた容姿端麗な少女。

多くの技術に精通しており、多彩な術でシルシテイを苦しめた強者でもある。

彼女は少しばかり不幸であった。

目覚めて早々に上半身裸の壺頭(HENTAI)を見てしまった。身体は傷だらけで、腹に重点的に包帯が巻かれていて痛々しかったが、それでも男の裸は年頃(?)の女の子には目に毒である。

 

「…えぇと、やあ。シュナ君」

「…服を着て欲しいです」

 

顔を真っ赤にして必死に見ない様にするシュナ。可哀想に。

しかし、不幸なことだらけでは無い。

 

「あ、そうそう。風呂ができてるから入りたかったら行くといいぞ。場所はあっちの方」

 

いつもの(黒き刃シリーズ)を着たシルシテイは風呂の完成を伝える。

 

「風呂…ですか。いいですね。早速入ってみても良いですか?」

「おお、構わんとも。男女分かれてるから安心すると良い。覗きを阻止する機能も付けた」

 

ここでいう覗きを阻止する機能とは目の座標が壁より高くなりそうな時にインプ像が引きずり落として拘束するという機能である。

王たるシルシテイはインプ像の作り方も心得ている。

…とは本人の弁である。

 

「…そう言えばシュナ君は何ができるんじゃろうか。巫女だからやはり祭事かね」

 

早々に風呂に行ってしまった彼女を今更呼び戻すわけにもいかず…あまり話のできなかったシルシテイであった。

 

 

また一人目覚める。此度目覚めたのは青髪の鬼人。

名をソウエイと名付けられた。

 

「おはよう、ソウエイ君。調子はどうかね?まあ普通に起き上がってるからいいと思うんじゃけど」

「はい、問題ありません」

「おお、そりゃよかった。リムルもぶっ倒れてまで名付けをした甲斐があったじゃろうて。あっはっは」

 

他人の不幸を笑う屑。まあ、自業自得でも有るので仕方ないのかもしれない。

 

「それにしても君のあの戦い方…暗殺者を思い出す戦い方じゃったの。ハクロウ殿も背後から攻撃こそしてきてはいたが致命の一撃を決めたのは君ぐらいじゃよ。あ、褒めてるからな?」

「ありがとうございます」

「もしかしたら君は隠密ならわしを余裕で上回るかもしれんな。隠れられたらわしもやばいかも」

「…そんなに弱点を言って良いのですか?」

 

ソウエイは当然のことを言った。弱点なんて身内にでも語るものではない。しかし、シルシテイは続けてこう言った。

 

「いや、最悪の場合は全部吹き飛ばせば良いからな。もちろん建物に被害は出さずに」

 

支離滅裂な思考、発言。しかしシルシテイにはそれを為す技、力がある。その一端を自身の身で味わっているソウエイは納得した。

 

「なるほど、確かにあれだけの力が有れば確かに為せるでしょう」

「じゃろ?とは言っても昔はそれが出来ずにボッコボコにされてたんじゃがな」

 

そう言ったシルシテイはある洞窟*1や封牢に閉じ込められた街*2を思い出していた。

 

 

最後の一人が目覚める。名をベニマル。赤髪の鬼人にして総大将…を継ぐ者であった。

 

「おはよう、君で最後…じゃねえな。まだリムルが起きてねえや。まあええじゃろ」

 

良くは無い。が、話は進む。

 

「さて、多分一番偉いであろう君に聞きたいことがある」

「はい、なんでしょうか」

「君たちの武器や防具は何処で手に入れたのか知りたいと思ってね。それか、誰から作り方を教わったのか」

「確か…かなり昔に、助けた人間から教えてもらったと聞きました」

「ほーん…(なるほど、多分転生か転移した奴じゃろうな。葦の地…じゃなくて多分リムルの故郷じゃろうな。それも古い時代の。やはり狭間の地からの転移者はいないかも知れん。ま、()()じゃな)

「…あのー」

「んあ、どうかしたかの」

「いや、心ここに在らずといった感じでしたので」

「ああいやいや、そんな大したことじゃ無い。それにしても君達はなんというか…かしこまりすぎじゃの。もっと砕けた感じでいいんじゃぞ?」

「まあ立場的には雇ってもらう形になってるので、これくらいは」

「それは確かにな。ま、しばらくはのんびりするんじゃな。そこの壺の中身が目覚めるまでは目立った事はせん予定だしな」

「…そういえば、リムル様は大丈夫なんですか?」

 

リムルを心底心配するベニマル。当然である、おそらく長いこと眠っていたであろう自分達よりも長く眠っているのだ。

もしやこのまま目覚めないなんてことも…と考えてしまう。

 

「いや、心配はない。名付けの度にこうなっとる」

「ええ…」

 

それはそれで心配になるベニマルなのだった。

 

 

鬼人とリムルが寝てから三日。未だ寝ているのはリムルだけとなった。

そして、リムルが安置されているログハウスには鬼人たちが集まっていた。

シルシテイが「多分リムル目覚める」という根拠の無い理由で集めたのだ。

集まった鬼人たちとシルシテイはというと…

 

「いや、あと少しのはずなんじゃ」

「私はまだ待てますので、大丈夫ですよ」

「私もですシルシテイ様!」

「いやそれでも…ねぇ?」

「俺たちも待ちたくて待っているので、気にしないで下さい」

 

割とのんびりしていた。集めてから一時間。結構経つが、未だ目覚めない。

どうしても手を離せない仕事がある!と血涙で話していたリグルドや、服や装備を整えるのに大忙しだったカイジン達も普通に仕事を終わらせてやってきた。他にも大勢が集まっている。

 

「そういえばシルシテイ様。リムル様とはどのようにして出会われたのですか?」

「え?ええと、そうじゃな、そう、知らん場所で彷徨ってる所で偶然出会ったんじゃ。んでもって意気投合してな…」

 

 

……ようやく目が覚めた。まさかこんなに眠ることになるとは…

どうやら三日は寝ていたようである。迷惑かけちゃったな…

自分はまだ例の壺の中にいるらしい。そして外には多くの魔物たちがいる。

待ってくれているのか?そろそろ出ようかな。

 

「おう、ようやく目覚めたか。ちと眠りすぎじゃないかね」

「不可抗力だよ、不可抗力」

 

おお…! ザワ…ザワ…

 

(なあシルシテイ)

(なんじゃ)

(これもしかしなくても心配かけちゃった感じ?)

(うん)

 

いや、そりゃそうだよね…いきなり溶けたら心配かけるに決まってるよね。

 

「リムル、じつはオーガ改め鬼人のみんなから話があるそうじゃ」

「おう。…ん?鬼人?」

「そう!実はみんな進化したんじゃよ!そうじゃろ?」

「はい、リムル様の名付けにより、我々は進化することができました」

 

言われてみると、めちゃくちゃに変わっている。

見た目に磨きがかかったり、若返ったりしてる。

何よりめちゃくちゃ強くなってる。やっぱ進化凄え。

 

「つきましては、リムル様!お願いがあります!」

「なんだ?」

「どうか、我等の忠誠をお受け取り下さい!」

「ちゅ、忠誠!?別にそこまでする必要はないよ!?」

(シルシテイ!傭兵って忠誠まで捧げるもんだっけ!?)

(普通はせんな。しかし、鬼人たちはベニマルだとか、ソウエイだとか、立派な名前を貰って尚且つ進化しとる。これは多分じゃが…この世界じゃとんでもない恩義じゃぞ)

 

な、なるほど…まあでも、こんなに強い奴等が仲間になるなら断る理由はないよな。

強すぎてちょっと怖いけど…

 

「分かったよ。じゃあよろしく頼むな。」

「…ッ!ありがとうございます!」

「おめでとう、今日から君たちも仲間じゃな。はっきり言ってこの町は人材が足りとらんから沢山働いてもらうぞ。無論わしも働いとるからかわからんことがあったら聞くといい」

 

 

鬼人たちの強さや技術は目に見張るものがあった。

地獄蛾って言う虫の糸を使った服なんかも作ってるそうだ。

中々優れた防御力らしいが…

 

《告。現在着用している『竜騎士』の装備は能力が封印されており、それでいて尚強力な防御力があります。その要因として竜の飛膜などの素材が余すことなく使われているためかと思われます》

 

まあ、竜の飛膜なんて豪華そうな素材使えばな…

しかも伸び代があるとか凄いな。

所で…

 

「わたくしがリムル様のお世話をしてもいいのですよ?」

「ご安心ください!リムル様の世話は私がしっかり務めますので!」

 

しゅ、修羅場じゃないか…(汗)

 

(シルシテイ…!ちょっと…!)

「んふふふふふふ」

(笑ってんじゃねえぞ!分かんねえのかこの状況が!)

 

他人事だと思いやがって…実際他人事なんだけどな。

 

「そ、その辺にしたってくれんかシュナちゃん。ほら、交代交代で、な?」

「分かりました、シルシテイ様がそこまで言うならば…」

 

おお、心の友よ!可愛い女の子に囲まれるのは嫌いじゃないしむしろ好きだが、喧嘩となるとちょっと怖いんだ!

何言っていいか分からないからさ、ね?

 

「ほら、リムル。他の奴等の様子も見にいくんじゃろ?」

「あ、ああ、そうだな。シュナ、ベニマル達って今何処にいるんだ?」

「リムル様が教えてくれた洞窟で模擬戦をしているらしいですよ」

「じゃあそこ行こうか。シオン、頼めるか?」

「はい!もちろんです!」

「模擬戦か…進化前も死ぬ程強かったのに、どんだけ強くなっとるんだか」

 

 

や、やべえ…何がヤバいって色々やべえ。

ベニマルの木刀が白い光纏ってるし、なんでハクロウは木刀で岩切れるんだよ。

 

「ええ…?うそじゃろ…?」

「こ、これは凄いな…」

 

俺とシルシテイが呆然としていると、決着がついた。

ハクロウがベニマルの首筋に木刀を当てていた。

 

「おや、リムル様にシルシテイ様。ここは静かでいい場所ですな。教えて下さり有難うございます」

「リムル様にシルシテイ様?ああ、恥ずかしいところを見せてしまったな」

「は、恥ずかしいところって…もう刀じゃ勝てん気がするわ」

「え、マジで?逆に刀以外なら勝てんの?」

「ほう…」

「え、刀が得手と言うわけではないんですか?」

 

興味を持ったらしいハクロウと、驚くベニマル。

ちなみにシオンは眠らされていたので当然覚えていない。

 

「刀も得意ではあるんじゃが、もっと使える武器があるってだけじゃ。例えば…」

 

シルシテイが話そうとしたその時、ベニマルの影から何かが出てきた。

どうやらソウエイみたいだ。影移動…こんなに便利とは。

ソウエイはどうやら報告があったらしい。

 

「地獄蛾の繭の回収し、帰還する途中にリザードマンの一行を見かけました。湿地帯から離れたここまでくるのは異常ですので一応報告を」

「リザードマン?どんなやつらじゃ?」

「私も見たことはないですけど、湿地帯の大きな穴蔵に住んでいるらしいですよ。あと、足に水掻きがあって、水辺の先頭が得意だとか…」

「へー、ありがとな、シオンちゃん」

「いえいえ!滅相もございません!えへへへ」

「リザードマン?どう言うことだ…?」

 

どうやらベニマルは違和感があるらしく、思案をはじめた。

オークの次はリザードマンか…これ以上の面倒ごとは勘弁して欲しいな。

*1
賢者の洞窟。例の松明はなく、怒りや星呼びが使えるステータスでも無かったので死

*2
典礼街オルディナ。洞窟とは違い、使えるステータスではあったが、それでいて尚死




やべえ。ちびちびちびちび書いてたら
DLCきちった。
でも投稿頻度は変えれないです。むしろ伸びるかも

シルシテイが今使える戦技

踏み込み(斬り上げ)
踏み込み(回転薙ぎ)
乱撃
獅子斬り
キック
我慢
ヒップドロップ
ウォークライ
野蛮な咆哮
誇示する咆哮
回転斬り
貫通突き
連続突き
二連斬り
剣舞
居合
クイックステップ
猟犬のステップ
構え
突撃
デターミネーション
炎撃
強射
貫通射撃
連続射撃
空撃ち
パリィ
シールドバッシュ
突撃バッシュ
戦技なし

…どう?だいぶ減ってるでしょ?


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