Infinit Legends (fruit侍)
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二人目の男性操縦者とは、俺のことさ。いくぜ!
(動物園のパンダの気分だ……)
周りが女子
IS―――正式名称は「インフィニット・ストラトス」
今から約10年ほど前に、篠ノ之束と言う人物によって開発された、宇宙空間での活動を想定されたマルチフォーム・スーツである。
開発当初は全く注目されなかったが、その一ヵ月後に引き起こされた事件―――通称「白騎士事件」によって、ISは従来の兵器を凌駕するほどの性能を所持していることが世界へと知れ渡ることとなり、宇宙進出よりも飛行可能なパワード・スーツとしての軍事転用が始まってしまった。
しかし現在ではアラスカ条約を結んだことにより、ISは軍事利用は禁止されスポーツの一種として楽しまれている状態だ。
ISの最大の特徴は先ほど述べた従来の兵器を凌駕する性能ではない、ISの最大の特徴は『女性にしか扱うことが出来ない』という事である。ISが何故女性にしか反応しないのかは今も謎に包まれている。
しかし最近、ISを稼動させることができた男性が現れたとニュースになった。どういった原理で反応してしまったのか、それを知る為に何十万人の科学者が情報を得ようとIS学園の代表に質問攻めをしていた。また世界中では他にも男性操縦者が居るかもしれないとIS適性検査が行われている。
その一番最初にISを稼働させることができたという男性が彼、一夏である。
(ISは元々女子しか使えないから、実質女子校状態だって想像はしてたけど……視線がキツい……)
一夏は今、自身を360°囲む視線に苦しんでいた。女子校に男子がいたらそうなるのは必然なのだろうが、一夏が想像していた以上だったのである。
「……むら君! 織斑君!」
周りからの視線に耐えることに意識を集中させていた一夏は、自身を呼ぶ声に遅れて反応し、急いで立ち上がった。
「は、はい!」
「ごめんね、大声出して。『あ』から始まって今『お』なんだよね。自己紹介してくれないかな?」
山田先生の必死そうに頼む姿を見て『NO』とは言えなくなった一夏。もっとも、入学したてで自己紹介をしないなどあり得ないのだが。
「織斑一夏です! よろしくお願いします! 以上です!」
無駄にはきはきした声で言い放った一夏。その瞬間、彼以外の生徒が全員ズッコケる。
(あれ……俺なんか間違ったかな……)
生徒がズッコケた意味がまるで分からなかった一夏は、頭を掻きながらこうなった原因を考えていた。
その時、一夏の背後から人影が現れ、
ーーースパァァァァン!
と甲高い音を立てながら手に持っていた出席簿で一夏の頭を叩いた。
「いつつ……。げえっ! 関羽!?」
叩かれた場所をさすりながら一夏が叫んだ。
ーーースパァァァァン!!
二撃目が無慈悲に振り下ろされた。
「誰が三国志の英雄か、馬鹿者」
その人物は一夏の実の姉である織斑千冬であった。
その後千冬が自己紹介した直後に黄色い悲鳴があがって一夏の鼓膜が破壊寸前になったり、一夏と千冬が実の姉弟であることがバレたりしたが、無事自己紹介は終わった。
とここで一人の生徒が手を挙げて質問をする。
「先生ー、一つ空いてる席があるんですけどこれは何ですかー?」
生徒が言っているのは、一夏の前の席のことである。そこ以外は埋まっており、生徒達は入学初日から遅刻する不真面目な奴なんだろうと勝手に思っていた。
「おっと、すっかり忘れていたな。入ってきていいぞ」
千冬がそう言うと、前の扉から一人の男子が入ってきた。
しかしそう判断できるのは、彼が一夏と同じ男子用の制服を着ているからであって、顔は包帯と口周りを覆う布で全くと言っていいほど見えない。
「斑鳩、自己紹介しろ」
「おっ、もう喋ってもいいのか? じゃあ遠慮なく! 俺はオクタ……じゃなくって、
しかし見た目に反した陽気な声でその男子、司は自己紹介を始めた。
「「「「「「ええええええええええ!!!?」」」」」」
先程の黄色い悲鳴に負けないくらいの大音量で、驚愕の声が響き渡る。完全に不意を突かれた一夏は既にノックアウト状態だった。
「この包帯と布は諸事情で外せねえんだが、あまり模索しないでもらえると助かる。これ以外で何か質問ある奴はいるかい?」
「は、はい! 斑鳩君って、男?」
早速質問が飛んでくる。
「あー……体は男だな。でも女にもなれるっていうか……」
司は説明しかねていた。身体的には男ではあるが、それだけでは片付けられないくらい複雑で、口で説明するのが難しいのである。
「こりゃ実際に見てもらった方が早いか。織斑センセ、いいかい?」
「……許可する」
(おっしゃ! 出番だぜヴァルキリー!)
『アファーム』
千冬が許可を出すと、司の体が光りだす。光が収まると、見た目は先程と何も変わっていない司が喋り出す。
「んん、あー、あー。一組の皆さん、聞こえるかい?」
しかし聞こえたのは、先程の陽気な男性の声ではなく、凛々しさを感じさせる女性の声だった。
「「「「「「!!!?」」」」」」
生徒達は驚きすぎてもはや声すら出せなかった。
「ご覧の通り、私は男の声も出せるし女の声も出せる。性格もコロコロ変わるから一応多重人格ってことになる。だから声によって名前が違う。この声の時は今原カイリって名前だ。別に斑鳩って呼んでくれてもいい。間違いじゃないからな」
司がそう言うと司の体が再び光りだす。
「で、さっき言いそびれたが、この声のときはオクタビオ・シルバって名前なんだ。長ったらしいのは嫌いだからな、オクタンって呼んでくれよ! あ、もちろん斑鳩って呼んでくれてもいいぜ。んで、他に質問はあるかい?」
「はいはい! その人格って何人いるの?」
「おお、ちょうど話したかったんだ! 今の時点では、俺も含めて21人ってとこだ。放課後にできれば紹介するぜ。ああでも、ちょっと危ない奴もいるから全員は紹介できないが、そこら辺理解してくれ」
司が言い終わると同時に、チャイムが鳴った。SHRの終わりを告げるチャイムだ。
「は? もう時間?」
司としてはまだまだ話し足りないといった感じだ。
「まだまだ聞きたいことはあるだろうが、SHRは終了だ。各自、1限の準備をしておくように」
少し締りは悪いが、千冬の一言でSHRは幕を閉じた。
とりあえずお試しでこれも含め三話投稿します。好評なら続くと思われます。
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忠告だ。細かいことに拘るから、恥をかくんだぜ。
サブタイトルにレジェンドのセリフ使うの楽しいけど難しい……。
SHRが終わり、現在は1限前の休み時間である。ここ1組の教室では、新しい友達を作ろうとする者、次の授業の準備をする者とで分かれていた。
しかし他の学校と違ったのは、廊下に世界で2人だけの男性IS操縦者を見ようと他のクラスの生徒が集まってきていることだった。
因みに司は今から一週間前くらい前に存在が明かされた、二番目の男性操縦者ということになっている。一夏と違って突然すぎるタイミングで入学が決まった司は、世間一般には『ISを動かせる男性』であるということしか伝わっていない。
なので一組の生徒は司に対しては、前から一組に編入することが決まっていた一夏と違った反応を見せていたのだ。一組に編入されると思っていなかったし、男と判断する材料が制服しかなかったこともあり、「本当に男なのか」と。
その疑惑は先程の個性的すぎる自己紹介にて粉々に破壊されてしまったが。
暫く経つと、視線に耐えきれなくなったのか、一夏が席を立ち司の方へ歩み寄り声を掛ける。
「あ、あのさ……斑鳩司……だったよな?」
「そうだぜ! アンタは……」
「一夏だよ。織斑一夏」
「おおそうだそうだ! 入学する前に織斑センセに教えられてたんだが、すっかりド忘れしちまったよ。で、何か用か?」
今の人格はオクタンであるため、司は陽気な声で返す。
「ああ……男は俺とお前しかいないからさ、仲良くしようと思って……」
「何だそういうことか。ま、女子校に男子がいるみたいなもんだからな。肩身が狭いのは分かるぜ」
「そうだよな! たった二人の男なんだ! 仲良くしようぜ!」
「ハハハ! お前とは気が合いそうだなアミーゴ*1!」
二人はそう言いながら、お互い肩をバシバシと叩き合う。オクタンと一夏は、フレンドリー同士気が合うようだ。
そこに、黒髪ポニーテールの女子生徒がやってくる。
「ちょっといいか……」
「箒?」
女子生徒に気づいた一夏が呟く。
「アミーゴ、知り合いか?」
「ああ、俺の幼馴染の篠ノ之 箒だ」
司が聞くと、一夏は頷いた。
(成る程、こいつが
「篠ノ之箒だ。斑鳩……で大丈夫か?」
「おう! 大丈夫だぜ! で、何か用か?」
「一夏を借りてもいいか?」
「ああ、幼馴染って言ってたな。俺は別に構わないぜ」
司がそう言うと、2人は教室から出ていった。
するとそれを見計らったかのように、金髪碧眼の女子生徒が司に話しかけてきた。
「ちょっとよろしくて?」
「ん?」
司はその声がした方向を向く。
「まあ! 何ですの、そのお返事。わたくしに話しかけられるだけでも光栄なのですから、それ相応の態度というものがあるんではないかしら?」
「ハハハ、悪いな。自己紹介の時いなかったから、さっきの二人以外の名前を知らねえんだ」
司は笑って誤魔化すように言うが、彼女にはそれが気に入らなかったようだ。
「わたくしを知らない? このセシリア・オルコットを? イギリスの代表候補生にして、入試主席のこのわたくしを!?」
(なんだこいつ。ワザとでかい声で喋ってんのか?)
自分を知っていることがさも当然であるかの如く話すセシリア。これにはオクタンも思わず心で嫌味を言う始末。
「大体、なんですのそのヘラヘラした態度は! わたくしのような貴族と話すのなら、もう少し態度を弁えなさい!」
「貴族っつってもなぁ。アンタは今、IS学園の生徒だろ? そこに貴族云々の話を持ってくるのは違うと思うぜ?」
司の言う通り、ここはIS学園で、彼らは貴族だろうが平民だろうが皆等しくここの生徒。そんな立場に拘ったりする意味ははっきり言ってない。
しかし正論で返されたことが彼女のプライドに傷をつけたようで、顔を真っ赤にして彼女は言った。
「~ッ! 貴方と話してると不快極まりませんわ! 確か20人ほど人格がいると言っておられましたわね? それだけいれば立場を弁えてる方ぐらい一人ぐらいいるのではなくて?」
「おいおい、まだ何かあるってのか? アンタと話すことなんか何もねえぞ」
「こっちにはありますのよ!」
(って言ってるが、どうする?)
もう自分だけではどうしようもないと察したオクタンは、他の人格達に意見を求める。
『やめときなさい。彼女の言うことに従うだけ、時間の無駄よ』
オクタンにそう言ったのは、他の人格から『バンガロール』と呼ばれている人格、『アニータ・ウィリアムズ』だった。他の人格達も、バンガロールの言うことに賛同している。
「こいつらは、アンタに付き合ってるだけ時間の無駄だってさ。ま、そういうわけだから諦めてくれよ」
「な、なあ!?」
軽くあしらわれると思っていなかったセシリアは、あまりの怒りに言葉が出ず、口をパクパクさせていた。
「お、なんだそりゃ。魚の物真似かい? ハハハ!」
口をパクパクさせるセシリアがそれにしか見えなかった司が笑うと、一組の女子達も笑いだす。
と、丁度いい所で一限の始まりを知らせるチャイムが鳴る。
「っ………! また後で来ますわ! 逃げない事ね! よくって!?」
(もう二度と来なくていいぜ)
セシリアはそう言い残すと自分の席へ戻っていった。司は自分の席から動いていないので、動く必要がなかった。
尚、教室を出ていった2人はチャイムに間に合わず、千冬に出席簿で叩かれる羽目になった。
主語の使い分けについてですが、今回の一夏と気が合うみたいな、その人格しか該当していない時はレジェンド名、レジェンド達が主人公として行動している際は主人公の名前を主語として使っています。レヴナントとか絶対一夏と気が合うわけないですからね。
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アドバイスだアミーゴ。死にたくなけりゃ、自分の発言に責任を持ちな
オクタンのキャラが崩壊していると思われます。
司とセシリアのいざこざがあったが、一限は何の問題もなく終わった。一夏が参考書を古い電話帳と間違えて捨てた事実が発覚し、千冬に出席簿で叩かれていたが。
因みにセシリアは一夏にも一限の休み時間に絡みに行き、勝手に怒って勝手に帰っていった。その様子を司は「やれやれ」と言いながら見ていた。
二限では千冬が教壇に立った。
「それではこの時間は、実戦で使用する各種装備の特性について説明する」
千冬はそう言って授業を始めようとしたが、途中で何かを思い出したようにハッとして、
「ああ、その前に再来週行われるクラス対抗戦に出る代表者を決めないといけないな」
そんな事を言い出した。
「クラス代表者とはそのままの意味だ。対抗戦だけでなく、生徒会の開く会議や委員会への出席………まあ、クラス長だな。因みにクラス対抗戦は入学時点での各クラスの実力推移を測るものだ。今の時点で大した差はないが、競争は向上心を生む。一度決まると一年間変更はないからそのつもりで。自薦他薦は問わない」
千冬がそう言い終わると、
「はいっ! 織斑君を推薦します!」
「私もそれが良いと思います」
案の定、一夏が推薦される。選ぶ理由は9割物珍しさだろう。
「ちょ、ちょっと、待った! 俺そんなのやらな………」
「自薦他薦は問わないと言った。他薦されたものに拒否権など無い。選ばれた以上は覚悟を決めろ」
「い、いやでも……」
事態に気付いた一夏が抗議の声を上げるものの、千冬に三言で鎮圧される。
「じゃ、じゃあ俺は司を推薦する!」
一夏は司を巻き込む形で推薦した。
「俺が代表か! そいつは楽しそうだ!」
司は足をバタバタさせて代表になる気満々だ。
「では追加で斑鳩司……他には居ないか? 居なければこの2人で投票ということになるが………」
ところが千冬がそう言いかけた所で、セシリアが叫びながら立ち上がった。
「待ってください! 納得がいきませんわ! そのような選出は認められません! 大体、男がクラス代表だなんていい恥さらしですわ! わたくしに、このセシリア・オルコットにそのような屈辱を一年間味わえとおっしゃるのですか!?」
セシリアは興奮してきているのか言葉が荒くなっていく。
「実力から行けば、わたくしがクラス代表になるのは必然。それを、物珍しいからという理由で極東の猿にされては困ります! わたくしはこのような島国までIS技術の修練に来ているのであって、サーカスする気は毛頭ございませんわ! いいですか!? クラス代表は実力のトップがなるべき、そしてそれはわたくしですわ!」
セシリアは熱くなりすぎて、周りの空気が冷たくなり始めていることに気づいていない。
「大体、文化としても後進的な国で暮らさなくてはいけないこと自体、わたくしにとっては耐え難い苦痛で…………!」
そこからは日本に対する罵倒の嵐。周りのセシリアに対する視線でいいものは一つもない。
「こんの……! 言わせておけば……!」
一夏が耐えきれず反論しようとすると、
「待て、一夏」
司がそれを止めた。一夏は司の方を向いて何故止めたのかを聞こうとした。
「何で止めんだよ! お前はこのまま日本がバカにされっぱなしで「いいから黙ってろ」……ッ!」
しかし司に二度止められたことで気づく。司の纏う雰囲気が変わっていると。そして司は今、完全にキレていると。
「ですからわたくしは……!」
「それ以上は聞き捨てならねえな」
そう言って司が立ち上がる。
「ふん! どうしましたの? 侮辱されて腹が立ちましたの?」
対してセシリアは鼻で笑い、煽っていく。
「いや、何も知らないお姫様に忠告しようと思っただけだ。その言葉は、アンタの首を絞めるだけだってな」
「何を訳の分からないことを……」
セシリアは司の言うことの意味が分からず、静かに司を睨む。
「じゃあいくつか質問するぜ代表候補生さんよ。第一問、ISを作った人は誰で、その人は何人だ? 第二問、第一回モンド・グロッソで優勝した人は誰でその人は何人だ? 第三問、今この教室にいる人間の大半は何人だ?」
「それは……あ、ああ、ああああ…………!!」
それで全てを理解してしまったセシリアが顔を蒼白くして震える。今自分は、とんでもないことをしてしまったのだと。
「それじゃ正解発表だ! 第一問、篠ノ之束で日本人、第二問、千冬センセで日本人、第三問、この教室の大半は日本人だ! アンタは今、イギリスという国の代表として日本に喧嘩を売ったんだ!」
セシリアは踞って、歯をガチガチ鳴らしながら震えており、聞こえているかは分からない。しかし司は続ける。
「このことがアンタの国のお偉いさんに知られちまったらどうなるかな? もちろんいい結果にはならないだろうな! 言い逃れなんかできないぜ。ここにいる全員が証人だ! そこまで分かっててさっきの発言をしたんだろ? 流石代表候補生さんだ、肝が据わってんねぇ! ハハハ!」
セシリアに対する皮肉で締める司。するとセシリアは、再び立ち上がり、謝罪の言葉を口にした。
「……皆さん! 先ほどわたくしが日本を乏しめてしまった事を取り消させていただくと共に謝罪いたします。本当に申し訳ありませんでした!」
その腰は綺麗に90°に曲がっており、真摯な謝罪であることが誰の目からも見て取れる。
「大体よ、織斑センセが自薦他薦は問わねえって言ってたんだからよ、普通に自薦すりゃよかっただろ。自分で自分の首絞めて、何がしたいんだよアンタは」
司はそれに対しても厳しい言葉を投げ掛ける。
「はい、仰る通りです。ですので、改めて自薦します。クラス代表に相応しいのはこのわたくしだと!」
セシリアは頭を上げ、胸に手を当て凛とした態度でそう言い放った。すると千冬がまとめに入る。
「さて、話はまとまったな。織斑、オルコット、斑鳩で勝負を行う。日時と場所は一週間後の月曜の放課後、第三アリーナ。3人はそれぞれ用意をしておくように。それでは授業を始める!」
千冬の号令で授業が始まった。
オクタンって普段キレない分、キレたら絶対怖いと勝手に思ってる。
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お待ちかね! 人格紹介の時間だよ!(全員できるとは言ってない)
午後の授業が終わり、放課後となった。一組の女子達にとっては、待ちわびた時間だ。
日直の号令で挨拶を済ませ、千冬が教室から出ていくと、一組のほとんどの女子が司の方に集中する。
司に集中する理由は次のことが主だ。
「斑鳩君! 人格のこと教えて!」
司はSHRの時に、放課後に人格を紹介すると言っていたのだ。もう一人の男性操縦者である一夏のことは目にも入れていない。
その一夏も、女子の波に埋もれながら司の人格について知ろうとしていたが。
「お、そうだったな! じゃあ紹介できるだけ紹介するぜ!」
司はそのことを思い出すと、帰る準備をしていた手を止めて、席を立つ。
「声も性格も特徴あるやつばっかだからな、覚えやすいと思うぜ。 それじゃ、変わるぞ!」
女子達が息を飲んで見守る。するとSHRの時と同じように、司の体が淡く光り始めた。
そして光が収まると、司が喋りだす。
「私はブロス・フゥンダル。ブラッドハウンドと呼んでくれ。もちろん斑鳩でも構わない。一年間、互いを高め合おう」
ガスマスク越しに喋っているような声で喋る司。その声は男の声とも女の声とも取れる中性的な声だった。
「えっと……ブラッドハウンド……君……でいいのかな。男? それとも女?」
一人の女子生徒が質問する。
「申し訳ないが、その質問には答えられない。私は主神に遣わされし狩人とだけ言っておこう」
「あ、うん……(主神って誰だろう……?)」
ブラッドハウンドに対する反応は薄い。
司の体が再び光りだし、光が収まると司が喋りだす。
「ようお前さん達。俺様はマコア・ジブラルタルってんだ。何か危険を感じたときは、俺様の後ろに隠れな。俺様が盾になって、守ってやるからな! ハハハハハッ!!!」
野太い声で喋る司。イケメンが言えば一発で心を射抜かれてしまいそうな言葉だが、野太い声なので女子生徒はむしろ、頼れそうだという気持ちの方が強かった。
そして司の体がまた光りだし、司が喋る。
「アタシはアジャイ・シェって言うの。皆からはライフラインとも呼ばれてるわ。怪我したら、アタシのとこに来な! アタシが治してあげるから!」
高い女性の声で喋る司。急に女性の声になったことに、生徒達も少し驚いていたが、SHRの時ほどではない。
そしてまた違う声で司は喋る。
「やあみんな! 僕はパスファインダー! よろしく! 君達皆と友達になりたいな!」
明るい機械音声で喋る司。その声に少し違和感を感じる生徒もいたが、パスファインダーがハイタッチを要求してきた際にその違和感も消え去ってしまった。
司はさらに違う声で喋る。
「私はレネイ・ブラジー。またの名をレイスよ。一年間、よろしくね」
どこかミステリアスさを感じさせる女性の声で喋る司。その雰囲気に、生徒達は無意識に惹かれていた。
「私はアニータ・ウィリアムズ。皆からはバンガロールと呼ばれてるわ。ISのことなら何でも聞いて。教えられることは全部話すわ」
キリッとした女性の声で喋る司。頼れる姉貴分のような存在に一夏は、今度勉強を教えてもらおうと決意した。
そして司が更に続けようとしたときだった。教室の扉の前に千冬が立っており、司達に言い放った。
「おいお前達。下校完了時間はとっくに過ぎている。早く寮の自分の部屋に向かえ」
ハッとして教室の時計を見る司達。時計は、下校完了時間をとっくに過ぎていた。入学初日の放課後は、教師陣の会議などが色々と詰め込まれているため、下校完了時間が短めに設定されているのだ。
「というわけで申し訳ないけど、今日はここまでよ。また機会があったら紹介するから、それまで待ってて。それじゃ私はこれで」
司は人格をバンガロールのまま、準備を素早く済ませて鞄を持ち、教室を出ていく。あまりにも一瞬の出来事だったため、それを近くでみていた生徒達は唖然としていた。
「……お前達は部屋に向かわないのか?」
目を細くしている千冬が未だ唖然としている生徒達に言う。その言葉に我に返った生徒達は、大急ぎで下校の準備をし始めた。
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
「ここが俺達の部屋か」
校舎から寮へと移動している間に人格をオクタンに切り替えた司は、寮のとある部屋の前に来ていた。そこは、SHRの前に千冬に言われた部屋だった。
「おお、中は思ったより広いじゃねえか!」
元々は二人で使うことを想定して作られているため、一人で使うには当然広い。
『広いからって、走り回ったりするんじゃないよ! シルバ』
「分かってるよ姉貴。おお! ベッドもデカいな!」
ライフラインに言われたことも瞬時に忘れ、二人用ベッドに走っていき、飛び込む司。
「こりゃあ最高の寝心地になりそうだな!」
『寝る前に風呂には入りなさいよ』
「ったく、分かってるっつーの。姉貴は俺のお袋か何かか?」
司はライフラインに言われた通り、部屋に設置されている風呂に向かう。因みにIS学園の寮には大浴場があるが、一夏と司は使えない。理由は言うまでもないだろう。
司は制服を脱ぎ、顔に巻かれている包帯と口元の布を取る。
「はぁ~……風呂に入る度に
司は鏡に反射する自身の体を見て言う。
鏡に反射している司の体は、あちこちが黒ずんでいたり腫れていたり、ツギハギだらけだったりと、見るのも辛いほどにボロボロだった。
『アタシの能力でもこれが限界なのよ。
「おいおい、姉貴のせいじゃないんだ。気にすんなって」
司はライフラインを励ましつつ、風呂に入る準備を始めた。
「さあ、辛気臭い話は終わりだ! 風呂で思いっきりリラックスするぜ!」
司はタオルを肩に乗せ、風呂の扉を思いっきり開けて入っていった。
とりあえず初期メンツ6名を一組に認知させておきました。
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俺は、奴等にとって貴重なデータに過ぎない
今回は読んでも読まなくてもいい話だと思います。伏線を張ってるだけなので。
「斑鳩、織斑だ。開けろ」
消灯前に、千冬が司の部屋にやってきた。そろそろ寝ようとしていた司は、面倒だと思いながらも部屋の扉を開けた。
「こんな時間に何の用だ? 織斑センセ」
「教師には敬語を使わんか……いや、そんなことよりだ。斑鳩、お前に第二アリーナの使用許可が降りた」
知らない間にアリーナの使用許可を与えられていたことに、司は驚く。普段使われている第一アリーナは、上級生達の予約で完全に埋まってしまっているため、特別な事情がある場合にしか使用許可が降りない第二アリーナの使用許可が降りたのだ。
「何だそれ。頼んだ覚えはないぞ?」
「ああ、上からの指示でな。お前には明日からクラス代表決定戦までの6日間、放課後の時間を使って戦闘訓練をしてもらう。もちろん強制だ」
それを聞いて、司は上の目的を瞬時に見抜く。
「なるほど、大方俺たちのデータが欲しいってとこだろうな。どこの記録にも残ってない
「そういうことだ。……すまないな。それはお前が望んで手にしたものではないというのに、私達の都合に付き合わせてしまって……」
「気にすんな。悪いのはこっちの都合を考えずに自分の利益ばっか優先する奴らさ。多分
「織斑先生だ……と、今くらいはいいか。
千冬は今まで見せたことがなかった笑顔を司に向ける。その笑顔は、親友の前でしか向けないような、心からの笑顔だった。
そこから二人は消灯まで話し合った。世間話から学園関連の話、千冬の愚痴など、普段なら絶対に話すことがないような内容も、二人は自然と吐き出していた。
そして、消灯の時間がやってきた。
「だいぶ長話してしまったな……もう消灯時間だ。見回りに来たときに起きていたら、反省文を書かせるからな?」
「へへっ、安心しな織斑センセ。俺は夜更しは嫌いなんだ。眠くて走れなくなっちまうからな!」
ふっ、と短く笑って、千冬は去って行った。
「さーて、明日から忙しくなるな」
司は背伸びをすると、部屋に入って一直線にベッドに向かった。
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
「……眠れませんわ」
千冬が司の部屋へ向かっている頃、セシリアは部屋のベッドで目を覚ました。隣のルームメイトは既にぐっすりである。それを羨ましく思いながら、セシリアはベッドから降りる。
(普段ならこの時間帯にはもう寝ているはずですのに)
セシリアは代表候補生だ。故に体調管理や生活リズムには抜け目がなく、消灯時間の30分前には寝る準備に入る。寝る前に携帯などを見たりすることもないため、こんなことは初めてだった。
ーー、ーーだ。ーーろ。
ーーーな時間にーーーだ? 織ーーンセ
廊下から話し声が聞こえる。セシリアはその声に反応し、何を思ったか、部屋の扉を少し開けて聞いてみることにした。
(この声は……織斑先生とあの包帯男?)
セシリアの言う包帯男とは、司のことである。
「……ことよりだ。斑鳩、お前に第二アリーナの使用許可が降りた」
(!?)
それを聞いたセシリアは驚愕した。第二アリーナは、よっぽどのことがない限り生徒に貸し出されることはないからである。
「何だそれ。頼んだ覚えはないぞ?」
「ああ、上からの指示でな。お前には明日からクラス代表決定戦までの6日間、放課後の時間を使って戦闘訓練をしてもらう。もちろん強制だ」
(……第二アリーナは代表候補生ですら使わせてもらえないと聞いたことがありますわ。やっぱり男性操縦者だからと、贔屓してるんですのね)
二人の会話を聞いて、セシリアは内心歯軋りする。どんなに努力したところで、『男性でもISを操縦できるという事実』には勝てないのだと思ったからである。
セシリアはこれまで数えきれないくらいの努力をしてきた。ISについて幼い頃から学び、戦闘訓練をこなし、何百何千といる候補生の中から選ばれて専用機を与えられた。本来なら自分が、クラスを、IS学園を引っ張っていく存在である。それは決して傲慢などではない。今まで自分がしてきた努力が、それに見合う量だと確信しているからだ。
故に、自分の努力を真っ向から否定してくるような存在である男性操縦者が、許せなかった。
しかしその怒りは、次の言葉に一瞬にしてかき消される。
「なるほど、大方俺たちのデータが欲しいってとこだろうな。どこの記録にも残ってない『21機』のデータが手に入るチャンス。そりゃ欲しがって当然だ」
(…………え?)
最初は自身の耳を疑った。次に司が嘘を言っている可能性も考えた。
ISは、要となるISコアが世界に現時点で467個しか存在していないため、世界に存在する機体数もそれと同じ数である。故に専用機を与えられるということは、大変名誉なことなのだ。
もし自分の耳が可笑しくなったわけでも、司が嘘を言っているわけでもないのなら、司は現在世界に存在しているISの、約22分の1を使えるということになる。
ISはたった一機を使いこなせるようになるのにもかなりの年月を要する。詳しくは省くが、代表候補生のセシリアでさえ、自身の専用機を使いこなしているとは言い難い。
彼に、一体何があったのか?
セシリアは純粋にそう思った。代表候補生どころか国家代表でさえ持てるISは1機のみだ。それを21機も所持しているとなると、並大抵では説明できないような事情が何かあるのだろう。
(絶対に、突き止めてみせますわ)
セシリアは6日後のクラス代表決定戦で、その謎を突き止めることを決意し、自身のベッドに戻った。
アンケートはもうすぐ締め切ります。今のうちに投票をお願いします。
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オクトレインとやりあう準備はできてるかい?
おそらく、自分の小説の中で一番白熱したアンケートだったと思います。最初はパスファインダーに票が入り、次にオクタン。ヴァルキリーの票が少ないと思いきや一気に票を伸ばしてオクタンに並び、オクタンが最後の最後で引き離す。見ててめちゃ楽しかったです。
因みにヴァルキリーが選ばれてたら、試合の最後に冗談半分で口説いて、セシリアが超赤面するエンドでしたw
色々書きまくってたら、5000字を越えてしまった。
1週間後。遂にクラス代表決定戦の日を迎えた。
司はこの日までに、第二アリーナを使って訓練を積んでいた。やれるだけの準備はしてきたと思っている。
(脚の準備は万端だ。早く戦いたいぜ!)
司は興奮を抑えながら、順番を待つ。司の出番は二試合目からである。
因みにその横では、一試合目に出る一夏と箒が話している。
「……なぁ、箒」
「なんだ、一夏」
「気のせいかもしれないんだが」
「そうか。気のせいだろう」
「ISの事を教えてくれる話はどうなったんだ?」
「…………」
一夏の言葉に箒は目をそらす。
「目・を・そ・ら・す・な!」
箒が目をそらした先に回り込んで一語一語発音する一夏。
司が聞いたところによると、一夏はコーチを箒に頼んだのだが、実際にはISではなく、剣道ばかりしていたらしい。話が違うと箒を問い詰めている真っ最中なのだ。
(ま、俺達と違って一週間程度で覚えれることなんかたかが知れてるだろうからな。純粋に体を鍛えてる方が効果があるって考えたんだろ)
司はそれを見てずれた解釈をする。
すると、千冬と山田先生がやって来る。
「千冬姉……」
一夏が呟いた瞬間、
――パァン!
と、一夏の頭に炸裂する出席簿。
「織斑先生と呼べ。学習しろ。それと……斑鳩」
千冬が司の方を向く。
「織斑の専用機の搬入が遅れている。よって斑鳩、お前とオルコットの試合を先に行う」
「おお、先にやっていいのか? よっしゃ! 早くやりたくてウズウズしてたんだ!」
司は足をその場でバタバタさせる。
因みに一夏が何故専用機を持っているのかというと、学園が保有している打鉄という訓練機ISの予備がないため、特別に学園で専用機を用意することになったのである。
「さて、こいつのお披露目だ!」
司はカタパルト前に立ち、ISを展開する。
司の体が強い光に包まれる。そして光が晴れると、ISを纏った司が立っていた。
司の顔には緑色のゴーグルと黒いマスク、頭にヘルメットのようなものが取り付けられており、今までの包帯と布を巻いている姿とは全く違う。そして何より、装甲が最低限しか取り付けられておらず、ほぼ全身剥き出しの状態だった。更には全ISの共通装備である、カスタム・ウィングが無い。要するに、飛行が出来ないのだ。
これが、飛行が出来ない代わりに陸上での機動力に全てを費やし、陸戦型ISという新しい枠組みに分類されることとなった、第三世代型IS『オクトレイン』である。
「それが……司の専用機……!」
一夏は初めて見る司の専用機に興奮を隠せていない。
「オクトレイン、出発進行!」
司はアリーナ内に向かって走って行った。
そしてピットから飛び降り、空中で見事な一回転を決めると、綺麗に着地して見せた。
「ヒャッホー! 何回「いいね」が貰えるかな!」
司が前を向くと、セシリアがIS『ブルー・ティアーズ』を纏い、空中で待ち構えていた。
「やっと来ましたのね………って、あら? 最初はあなたが相手ですの?」
「悪いな。一夏の専用機の搬入が遅れてるみたいでな、先に俺が戦うことになったのさ」
「そうですの……それはさておき、それが……あなたの専用機ですか」
セシリアはじっくり見定めるように司の全身を見る。
「何と言うか、装甲が少なすぎではありませんこと? そんなのでは、かすり傷ですら致命傷になりかねませんわよ?」
「ハハハ、大丈夫さ! それが強みでもあるからな! さて……あれこれ話すのは後にしねえか? こっちはもう準備できてんだ」
「そうですわね。言っておきますが、手加減はしませんわ」
「当たり前だ。手加減なんかしたって、どっちも面白くない」
司とセシリアが互いに相対した。
『両者とも、準備はいいか? それでは、試合開始!』
千冬の掛け声と共に、試合が開始された。
セシリアは、スナイパーライフルを構えて躊躇なくレーザーを放ってくる。
それを予想していた司は、その一撃を難なく避けた。
「流石に初撃は避けられましたわね……」
「試合開始前からずっと俺の方を見てるんじゃ、狙ってますって言ってるようなもんだぜ?」
「それは盲点でしたわ」
しかしセシリアはそれでも余裕の笑みを浮かべている。
「それならこれはいかがっ!」
セシリアはレーザーを何発も放つ。逃げ場を完全に埋められており、これは常人ではまず避けられない。
だが、司は違う。
「レディ、ステディ、ゴー!」
司は避けようとするのではなく、なんと自らレーザーに向かって走り出した。
(ふっ、血迷いましたわね)
セシリアはそれを見て勝ちを確信した。弾幕が如く濃密に迫るレーザーを見て、血迷ったと思ったのだ。
しかし、そんなことは全くなかった。
司はレーザーが目前まで迫った瞬間、飛び上がって体を捻らせてレーザーをスレスレで回避した。
「「「「「「!?」」」」」」
セシリアも含め、会場にいる人間全員が驚愕の声を挙げた。
だがセシリアはすぐに我に返り、司に向けて幾つものレーザーを再び発射する。
「ふっ、ほっ、ハハ!」
しかしセシリアの放つ全てのレーザーを、僅かな隙間を掻い潜るようにして避けていく司。それを見たセシリアは追撃も忘れ、思わず声を荒げて聞いた。
「ど、どうすればそんな無茶苦茶な回避方法が思い付きますの!?」
「こっちの方がスリルもあって楽しいからな!」
司はかなり速い速度でセシリアに近づいていく。純粋な陸上機動力で、オクトレインに勝てる機体は、今のところ存在しないだろう。
(くっ……速い……! 最低限の装甲しか付けていないのは、これほどまでの驚異的な陸上機動力を産み出すためだったということですのね!)
レーザーを放ちながら、セシリアはそう考えた。
セシリアが放つレーザーは、ことごとく司に避けられている。撃つ場所を変えても、フェイントを入れても、全て避けられてしまう。
このままでは、自分の苦手な近距離戦に持ち込まれてしまう。
しかしセシリアは冷静に次の一手を考えていた。
(ですが見た感じ、彼のISにはカスタム・ウィングがついておりません。恐らく飛行能力と装甲を犠牲にすることで、あれほどまでのスピードを出せるようにしているんですわ。それなら、空を飛べるわたくしの方が有利!)
セシリアはレーザーを撃つのを止めると、高度をとりだした。
そして背面にあった4枚のフィン・アーマーを展開する。
「そろそろ本気で行かせていただきますわ。これが我がイギリスが誇る第三世代型IS『ブルー・ティアーズ』が誇るBT兵装………その名も同じ、〝ブルー・ティアーズ〟ですわ!」
その4枚のフィン・アーマーが射出されると、縦横無尽に動き回り、その先にある銃口からレーザーが放たれてくる。
「おお! ようやく本気のお披露目か!」
司はそれすらも回避する。しかし全ては避けきれず、一本のレーザーにかすってしまった。
(流石にこのスピードじゃ避けきれねえか。そろそろ反撃に移るとするか)
司がそんなことを考えていると、セシリアが一旦攻撃を止めて話しかけてきた。
「そろそろあなたも本気で来ませんこと? 先程から回避ばかり。最初は驚きましたが、このまま回避だけを行うのなら、わたくしが勝ってしまいますわよ?」
「ああ、俺もちょうど反撃に移ろうと思ってたところだ。もうスリルは十分に楽しんだからな。今度はこっちの番だぜ?」
司はそう言うと、右手にナイフを出現させた。
「それがあなたの本気?」
「いんや、こいつはメインウェポンさ。俺には、こいつが一番合うんだ」
「それはいいのですが、その短いナイフでわたくしとどう戦うつもりですの? 言っておきますが、あなたの専用機が飛べないことは既に見抜いておりますわ」
セシリアは既にオクトレインが飛行能力を持たないことに感づいていた。故に、自身の間合いでかつ司が絶対に攻撃を加えられないであろう上空へ飛び上がったのだ。
「ハハハ、ISは大半が飛べるからな。むしろオクトレインみたいな飛べない奴の方が珍しい。でもって、対抗策を持ってないとでも思うかい?」
そう言うと司は脚部に神経を集中させた。すると脚部の装甲が開き、そこからスラスターらしきものが幾つも現れた。
「それは……?」
「直ぐに分かるさ。そして、こいつも追加だ!」
司はは両肩から伸びているコードを掴むと、オクトレインの両脚部に接続した。
「レース開始!」
そして司はセシリアの方へ走り出す。その速度は、先程の比べ物にならない。
(ッ! 先程より速い!)
それを視認したセシリアは驚愕するが、慌てずにフィン・アーマーに命令を下した。
「さあ踊っていただきますわ! このわたくし、セシリア・オルコットとブルー・ティアーズの奏でる
「悪いな!
その言葉と共に、フィン・アーマーから幾つものレーザーが射出された。
「ハハハ! こんなもんかい? これくらいなら目を瞑ってても避けられるぜぇ!」
とてつもない速度でアリーナを縦横無尽に駆け回る司。セシリアは司を狙い何度もレーザーを射出するが、今度はスレスレですらない。
(速すぎる……! 目で追うのがやっとですわ!)
流石に瞬時加速には及ばないが、並のISの飛行速度は優に上回っている。ここまで速く動くものを狙った経験がセシリアにはなかった。
そんな想定外の状況は焦りを産み、焦りは油断を産む。
「ここだ!」
セシリアが油断し、フィン・アーマーの攻撃が疎かになったのを司は見逃さず、脚部のスラスターを起動させる。
「緊急脱出を開始!」
司がそう言った瞬間、スラスターが一斉に射出し、司はウサギのように一気に飛び上がる。
司は途中に浮いていたブルー・ティアーズのフィン・アーマーを次々と踏み台にし、セシリアの方へ一直線に向かっていった。
「……はっ!?」
セシリアが司が直ぐそこまで近づいていることに気づき振り向くが、もう遅い。
「捕まえたぜ! ほらプレゼントだ!」
司はセシリアの背面装甲を掴むと、腰の辺りから手裏剣のようなものを取り出し、思いっきり突き刺した。
そして司はセシリアをナイフで切り付けると、スラスターを射出させてセシリアを踏み台に、地面へ戻っていった。
「くぅっ! 一体何ですのこれは!?」
セシリアがスラスターの射出に耐えながら、自身の背中辺りについた手裏剣のようなものについて司に問う。
「気を付けな。そいつは、」
ピ、ピ、ピ、ピピピ……!
不穏さを感じさせるその音が手裏剣のようなもの『アークスター』から発せられた瞬間、セシリアは全てを理解し、顔を青ざめさせた。
「爆弾だぜ」
司がそう告げた直後、アークスターは炸裂した。
ーーーーボガァァァァン!!!!
「あぐぁっ!」
ゼロ距離爆発の衝撃に耐えきれず、真っ逆さまに落下してしまうセシリア。直ぐに体制を立て直そうとするが、違和感に気づく。
(何故、体を起こせませんの?)
最初は訳が分からなかったが、セシリアはすぐに答えにたどり着いた。
ブルー・ティアーズが、機能を停止していたのだ。
それはつまり、体制を制御する方法どころか、飛行する能力でさえも失ったということ。
何故、ブルー・ティアーズが機能を停止しているのか? これには先程司が使った爆弾、アークスターに秘密がある。
アークスターは特殊な爆弾であり、爆発には距離に応じて機器の機能を一時的に停止させる効果がある。それはISも例外ではない。
故に、ゼロ距離で爆発を食らったブルー・ティアーズは、文字通り全ての機能を停止したのだ。
全ての機能を停止したブルー・ティアーズは、シールドバリアーどころか絶対防御すら機能していない。このまま地面に激突してしまえば、物言わぬ肉塊になってしまうのは言うまでもない。
「いっ、嫌ぁぁぁぁぁァァァァ!!!!」
自分が肉塊になることを想像したセシリアは、死に対する恐怖から悲鳴を挙げる。しかしあと数十メートルで地面に激突するというところで、ブルー・ティアーズが再起動する。
だが、セシリアにその地面に激突する前の数秒で、体制を立て直す能力はなかった。
アリーナに轟音が響き渡り、砂煙が舞い上がる。その光景を息を飲みながら見る生徒達。
砂煙が晴れると、そこにはボロボロなセシリアがいた。絶対防御により死にはしないが、シールドバリアーは落下時の衝撃に優に突破されているため、セシリア自身に対するダメージは相当のものだ。
「……っ……! ……ぅぅ……っ!」
それでもなおセシリアは立ち上がる。
「まだやるのか?」
司はセシリアに尋ねる。
「当たり前……ですわ……! わたくしは……イギリスの……代表……候補生……にして……オルコット家の……当主……! こんな……ところで……挫けて……いられませんわ……!」
息も絶え絶えに答えるセシリア。機体も身体もボロボロな彼女を支えているのは、彼女の代表候補生としての、そして名高いオルコット家の当主としてのプライドだった。
「そんなんで戦っても、お前の勝利は万が一にもあり得ないぜ?」
「それでもっ……! わたくしは……あなたに……立ち向かわなきゃ……いけないん……ですのよ……!」
(わたくしはまだ……あなたについて……何も知れてない……!)
輝きを失っていない真っ直ぐな目で司を見据えるセシリア。セシリアには、この戦いで司の謎の真相を突き止めるという目的があった。しかしそれは未だに達成されていない。加えてセシリアには、先程言ったようにプライドがある。その両方が相まって、セシリアに立つ気力を与えているのだ。
「お前はよくても、お前の身体と機体はよくないって言ってるぜ。終わらせるぞ」
「っあ……!」
司はセシリアに向かって、ナイフを突き出す。セシリアはそれを避けようとするが、身体が十分に動かず、避けられなかった。
ナイフが当たると、残り僅かだったブルー・ティアーズのSEが全て削られる。SEが0になると、既に身体的な限界を迎えていたセシリアもその場に倒れてしまう。
『そこまで!! 試合終了! 勝者、斑鳩司!』
そのアナウンスが聞こえた瞬間、会場内が歓声に包まれた。しかし司はあまり喜んでいないようだ。
「……試合に勝って、勝負に負けるとは、こういうことを言うのかね」
司は倒れたセシリアを担ぐと、脚部のスラスターで飛び上がり、ピットへと戻っていった。
機体名『オクトレイン』
SEを少し消費してとてつもない速度で走るという単一仕様能力を持つ機体。身軽さと機動力を重視した結果、装甲が最低限しかなく飛行能力を持たない。その代わり両肩から伸びるコードを両脚部に接続することで、SEを脚部に付いている特殊なスラスターで推進力に替え、とてつもない速度での走行を可能としている。スラスターの射出の出力を調整し瞬間的に射出することで、その軽さ故に上空へ跳び上がることもできる。
一応機体の解説を入れておきます。分かりづらい方は、オクタンのアビリティとウルトをISの単一仕様能力に置き換えたものだと思ってください。
最後はオクタンにとって、ちょっと納得のいかない終わり方となりました。ただのクラス代表決定戦にも関わらず、本気の殺し合いをしているかのごとく自分を酷使するセシリアを、あまり快く思わなかったようです。
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アリーナの観客に一言言わせてくれ。調子はどうだ?
セシリアを担いで司がピットに戻ると、一夏が出迎えた。
「すげぇな司! ビューン! って走って、ピョンピョーン! って跳び上がって! ドカーン! って! 見てるこっちがハラハラしたぜ!」
一夏は興奮し過ぎているのか、語彙力が死んでしまっている。それでも司には、なんとなく言いたいことが分かった。
「こいつはそういう戦い方が得意な機体だからな。で、織斑センセ。一応こいつ持って帰ってきたが、どうすりゃいい?」
司が言っているのは、未だ司の背中で気絶しているセシリアのことだ。
「先程救護班を呼んだ。直にやって来る。それより、次は貴様等の試合だぞ。斑鳩は補給を受けてこい。その様子だと、すぐに終わるだろう」
「え!?」
一夏は急に予定が変更されていたことに驚く。因みに本来の予定ならば、三試合目に司と一夏の試合は行われる予定だった。
「俺と司の試合は、三試合目じゃ……」
「馬鹿者。気絶までしている負傷者に戦えと言うのか」
千冬の言う通り、セシリアは随分と負傷している上に気絶している。いつ目を覚ますかも分からず、今この場で目を覚ましたとしても、戦える状態とは言えない。
「織斑、早く展開しろ。時間は有限だ」
千冬が一夏に言う。先程の試合中の時間を使って、初期化と最適化は済ませたため、一次移行は完了している。晴れて一夏の専用機となった『白式』は今は待機状態で、一夏の腕にガントレットとして装着されている。
ところが今までISに乗ったのは、先程の初期化と最適化が初めてだったため、一夏は展開の仕方を知らない。
「とは言っても……展開のやり方なんて……」
「織斑君。自分が、ISを纏っている姿をイメージしてみてください」
山田先生が一夏に助言をする。一夏は目を閉じて言われた通り、先程の白式を纏っている自分をイメージしてみる。
すると目を開けた時には既に白式を纏っていた。それを見た千冬は補給を受けていると思われる司に目を向ける。
「斑鳩、補給はまだか?」
「丁度終わったところだぜ!」
司が補給を終え戻ってくる。
「よし。では準備が出来次第、第二試合を開始する。貴様等は、アリーナで待機しておけ」
千冬がそう告げると、一夏と司はカタパルトに立つ。
「白式、行くぜ!」
「オクトレイン、出発進行!」
一夏は飛行し、司は走る。そして二人ともほぼ同時に、ピットからアリーナへ飛び出した。
そして一夏が、出てきたピットから奥の方、司が手前の方に立った。
「言っとくが、手加減はなしだぜ」
「おう。種がバレてる分、今回は最初から本気で行かせてもらうぜ」
一夏は『雪片弐型』と呼ばれる刀剣、司はナイフを構え、お互い相対する。
『それでは、試合開始!』
千冬の掛け声が聞こえた瞬間、一夏が司に突っ込んだ。
「はあああっ!」
「おっと!」
両肩のコードを脚部に接続しようとしていた司は、コードから手を離し回避を行う。
避けられても残心で直ぐに司の方を向く一夏。
「そいつを使わせるわけにはいかないぜ」
初撃は避けられてもいい。コードを脚部に繋がなければ、あのとてつもないスピードは出せない。あのスピードになったら、自分の手に負えなくなると一夏は確信している。
「ハハ、なら普通の速さで戦うしか無さそうだな」
司はコードを脚部に繋がず、ナイフ片手に突っ込んで行った。
ーーーガキィィィン!!
ナイフと剣がぶつかり、甲高い音を響かせる。
司は余波を入れず何度も何度もナイフを一夏に向けて振るう。
「ハハハ、どうした? 防戦一方だぜ?」
司の猛攻に、一夏は守りに徹せざるを得なかった。
(速すぎて守ることしかできねえ! どうすれば……)
「ほら、俺からのプレゼントだ!」
このままナイフで攻撃し続けても埒が明かないと判断した司は、腰からアークスターを取り出し、一夏に投げる。そして一夏の雪片弐型を踏み台にし、一気に後方へ下がった。
(ヤバいっ! こいつは爆弾だ!)
急いで自身にくっついたアークスターを剥がす一夏。剥がしたアークスターを司に向かって投擲するが、あっさり避けられてしまう。アークスターを避けた司は、ナイフを真っ直ぐに一夏目掛けて突き出す。防御が間に合わなかった一夏は、ナイフを諸に食らってしまう。
「ぐあああっ!!!」
司のナイフを諸に食らい、衝撃で後方へ吹き飛ぶ一夏。なかなか高威力だったようで、気づけば白式のSEは半分まで下がっている。
「おお、今のは痛そうだったな」
倒れ伏した一夏に向かって呑気なことを言う司。
「位置について、用意ドン!」
司は両肩のコードを脚部に接続し、脚部のスラスターを出現させる。次で決める気のようだ。アリーナを駆け回り、助走をつける。
「ハハ、緊急脱出を開始!」
スラスターを射出し、上空へ跳び上がる司。ナイフを両手で構え、逆さの体制になると再びスラスターを射出し、一気に降下する。
「アミーゴ! なかなか楽しかったぜ!」
一夏に司のナイフが迫る。当たれば一夏は間違いなく敗北する。
観客全員が目を塞いだ。
その時、一夏の雪片弐型が変形し、エネルギーの刃を形成した。
「!」
司は本能的に危険を感じ、スラスターを横に射出し体を横に翻した。
しかし、若干遅かった。
「はぁっ!」
「うおあっ!」
エネルギーの刃が、司を若干掠める。そう、これは一夏の『死んだふり』作戦である。
着地に失敗し、転がり込む司。
「クソっ……痛えよ……」
司は少しふらつきながらも立ち上がり、オクトレインのSEを確認する。そして司は、そこで見た数値に驚きを隠せなかった。
(は……30!? さっきの加速でSEが減ってたとしても、さっきの掠りだけで600近く減ったってのか!? これじゃ速く走れねえ!)
直撃ならまだしも、掠めるだけでここまで減るのは異常だ。先程危険を感じて回避に徹していなかったら、間違いなくSEが0になっていただろう。
これが、白式の単一仕様能力『零落白夜』。自身のSEを力に代え、圧倒的な攻撃力で相手のSEを全て削り取るという、諸刃の剣の能力である。
「避けられたか……」
「久々にビビっちまったぜ。ちょっと掠っただけでSE殆ど持ってかれちまうんだからよ。でもこれぐらいが丁度いいハンデだろ?」
「もう守ってばっかじゃないぜ。そう言ってられるのも今のうちさ」
先程の零落白夜で一夏のSEも、司のSEと大差ない。次の一撃で、決着が着くだろう。
「さあ、もう終わりにしようぜ」
「おう、望むところだ」
両者得物を構え、睨み合う。
そして同時に走り出した。
「そらよ!」
司がアークスターを投擲する。
「二度も食らうか!」
対して一夏は雪片弐型でアークスターを一刀両断する。
「「はあああああああ!!!」」
両者共、得物を突き出し、ぶつかり合う。
直後、静寂が訪れた。
観客が見守る。
少し経ち、千冬のアナウンスが響いた。
『斑鳩のSEが織斑より0.1秒早く0になった。よって勝者、織斑一夏!』
会場内が歓声に包まれる。
司はその場に座り込む。
「リーチの差には、勝てなかったか……」
勝敗を決めたのは、リーチの長さだった。一夏の雪片弐型が、司のナイフが一夏に当たるより先に司に当たったのだ。
一夏が司の元にやって来る。
「お疲れ司。流石に純粋な操作じゃ、司には敵わないな」
「一夏も、初めてとは思えないくらいよかったぜ」
司は一夏から差し出された手を取り、立ち上がる。そして一夏の肩に手を置くと、一言だけ告げた。
「じゃ、クラス代表頑張れよ」
一夏はセシリアを余裕で倒した司に勝ったのだ。結果から、クラス代表になるのはほぼ間違いないだろう。
それを聞いて一夏は先程の清々しい表情から一転、焦りの表情を浮かべ、
「忘れてたああああああぁぁぁぁぁぁぁ!!!!」
と叫んだのだった。
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俺は地獄を超えてここにいる。お前も同じことが言えるか?
今回の話は今のうちに投稿するか迷ったんですけど、どうせ後々投稿するし、今読んどいたほうが今後の話も読みやすいかなと思って投稿しました。
それと、今回自分が深夜テンションで考えた主人公の設定の大半が明かされます。めちゃくちゃだと思われるでしょうが、頭空っぽにして読めることを前提にしているので、あらすじにも書いてあった通り設定に対するツッコミは基本なしでお願いします。
シリアス、グロ注意です。
IS学園の保健室。
そこは大型病院にも劣らないどころか、下手したら上回るレベルの医療設備が完備されている。逆を言えば、ISの事故はそれほどの設備が必要になるほどの惨事をもたらすこともあるということだ。
そこにずらりと並べられた真っ白なベッドの一つには、一人の生徒が眠っていた。
「…………」
セシリア・オルコットである。
彼女は今日行われたクラス代表決定戦にて負傷し、保健室での救護が必要と判断され、保健室に運び込まれた。
そして今はやれるだけの処置を施され、安静にしているというわけである。
「……っ……ぁ……?」
時間は既に夕方。夕日の強い日差しに目を照らされたセシリアは、ゆっくりと目を覚ます。
「よお、目が覚めたか」
そして窓際に寄っかかって立っていた司が、目を覚ましたセシリアに声をかける。
「斑鳩さん……? そういえば……代表決定戦は、どうなったんですの?」
セシリアが司に問う。今セシリアが知りたいのは、クラス代表決定戦の結果である。
「一夏がクラス代表になったよ。ちょっと油断しちまって負けちまった」
「斑鳩さんが……負けた……?」
「ああ」
セシリアが司の表情を伺うが、司から悔しそうな表情は見て取れない。
「悔しくないんですの?」
「悔しくない……って言えば、嘘になるな。でも本気でぶつかり合えたから、俺はそれで満足さ」
ハハ、と短く笑う司。
「じゃ、目も覚めたみたいだしな、俺はこれで失礼するよ」
そう言って司は保健室を後にしようとする。
「お待ちください!」
しかしセシリアが引き留めた。
「少し……お話に付き合っていただけませんか?」
「……ま、ちょっとくらいならいいか」
司は体を翻し、セシリアがいるベッドの方へ戻った。
「で、話ってのはなんだ?」
「その、怒らないで聞いてくださいね……。わたくし、どうやらあなたと部屋が隣のようで……それで昨日の夜、わたくし聞いてしまったんですの。あなたと織斑先生の会話……」
「…………」
司は黙って聞いていた。
「も、もちろん悪気はありませんのよ! でも、そこで聞いたことが、あまりにも衝撃的で……」
司が黙っているのは、怒っているからではないか? と思ったセシリアが、徐々に言葉の勢いを弱めていった。
「ああ、気にしてない。続けろ」
しかし司が言うには気にしていないようだ。
「そ、それじゃあ続けますわね。……その、本当ですの? あなたが、21機のISを持ってるっていうの……もし本当でしたら、どうやって手に入れましたの?」
セシリアは司を見る。司は腕を組んで何かを考えているような仕草をしている。言おうか言うまいか、悩んでいるようにも見える。
少し経つと司が重い口を開いた。
「……確かに、俺は21機のISを持ってる。だが勘違いするな。これは望んで手に入れたわけじゃない」
「それじゃあ尚更、どうして?」
「……こっから先は
セシリアは迷わず言い放った。
「是非お願いしますわ!」
その様子を見て、司は肩を一瞬だけ竦めた。
「じゃあまず最初に、この包帯と布を取った姿を見せてやる。早速ショッキングだが、聞くと言ったからにはこれくらいでビビるなよ」
そう言うと司は頭の包帯から外していく。司の顔が露になるにつれて、セシリアは瞳を小さくし、口を開けていく。
そして、包帯と布が完全に外れた。
司の顔は、あちこちにツギハギがあり、目は閉じられている。髪もストレスによる影響か、所々白くなっている。
「ど、どうしたんですの……!? それ……!」
「ISを21機持った代償さ」
司がそう言うが、セシリアは司が言葉を発した時に、
「どうして、口を開けていないのに喋れるんですの?」
「お、気づいちまったか。話すと長くなるから……簡単に言おう。俺達は
「!?」
(ということはオクタビオさんも、この前少しだけ出てきた今原さんも、ISの人格ということですの!?)
セシリアはとても驚いていた。今まで話していたのがクラスメイトではなく、
代表候補生であるため、ISに意思のようなものがあるということは学んでいる。そして、国家代表クラスになると、ISと会話できるほどになるということも。
「おう、すげえ驚いてるみたいだな!」
「驚きますわよ! 今まで話していたのがISの人格で、斑鳩さん本人ではなくて……ああ~! 頭が痛くなってきましたわ~!」
セシリアは自分の言っていることが分からなくなり、痛くなってくる頭を押さえる。
「まあ落ち着けって。それで話を戻すが、この前21人の人格がいるって話したろ? それは全員ISの人格だ。人間みたいに声帯を使って話してるわけじゃないからな、声もそれぞれ違うんだ」
「そうでしたの……」
納得したように呟くセシリア。実はセシリアも、一人の人間からどうやって違う声を何種類も出しているのか、少し疑問に思っていたのだ。
しかし納得したと同時に、セシリアに新たな疑問が生まれる。
「でしたら、斑鳩さんの人格はどちらに? 元々斑鳩さんの肉体なのですから、人格が存在しないということはあり得ないでしょう?」
セシリアが気になったのは、肉体の持ち主である『斑鳩司』本人の人格のことだ。
「それは、司の過去について知ってもらえれば、すぐ分かる。今から話すから、一語一句たりとも聞き逃すなよ?」
そこから、司の過去についての話が始まった。
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
ISは女性しか動かせない。
これは現代では小学生でも知っている常識で、現代社会に『女尊男卑』という歪みを生んだ原因でもある。
女尊男卑は現代社会をあっという間に侵食し、その歪みに呑まれた男性は、悉く女性の食い物にされ続けた。
その結果、生まれたのは更なる歪み。ISなんぞにしか頼れない女性より、男性の方が優れているという既に無くなっていたはずの歪み、『男尊女卑』。そしてそれを謳う『男性権利団体』。
世間では女性権利団体の悪評が広まっていたが、男性権利団体の方が実際にやっていることは凶悪である。
数を挙げればキリがないが、中でも酷かったのが『男性操縦者計画』。ISの男性操縦者を人工的に作り出し、自身達の使い勝手のいい戦闘兵器として運用しようとした計画である。
彼らの持論は、ISコアを男性の心臓部に移植し、そのコアと男性が適合することで、男性は初めてISを使えるというもの。そのためにはいくつもの耐久実験を行わなければならず、それに耐え切れる者のみがISと適合するとされた。もちろん、科学的根拠等は一切ない。
世界中で密かに行われていたその計画で犠牲になった男児の数は、数百万を下らないと言われている。
そして、斑鳩司もその計画の被害者だった。
ISが開発されて何年か経った頃、司は計画の研究をしている団体に連れ去られた。
それからは地獄だ。
研究所で『耐久実験』と称されて行われる数々の拷問。
液体窒素に足を漬け込まされたり、焼けた鉄を素手で持たされたり、濃度が高い酸を体のあちこちにかけられたり、人間が感電死する寸前の電流を数秒流されたり……まだまだあるが具体的な例はこのくらいだ。この耐久実験だけで、連れ去られた男児の約9割は死んだ。
司は死にこそしなかったものの、地獄を絵にしたかのような痛みに何度も何度も心を折られ、絶望した。
そして、『もう痛いのは嫌だ』と自分の人格を、自身の深層へと追いやってしまったのだ。
この実験を耐えきった者達に明るい未来が待っているかというと、そんなことはない。先程の実験が生温く感じるほどの地獄が、次に待っている。
耐久実験が終わると、いよいよ本題のISコア適合手術である。男児達が暴れぬよう麻酔は一応使用されるものの、効果を十分に発揮しているとは言い難かった。
中途半端な麻酔により感覚を中途半端に断たれた男児達は、自分の体に何か得体の知れない物が移植される感覚に、脳が掻き回されるような気持ち悪さを覚えた。
ここまではよかった。とてつもない気持ち悪さに襲われるが、死にはしない。しかし問題は、ISコアを移植した後だった。
適合手術を終えた被験者の男児達の麻酔が切れた途端、男児達が今まで挙げたことのないような絶叫を次々に挙げ始めたのだ。
理由は、移植されたISコアに対する拒絶反応。どんなに頑張っても、ISは機械である。そんなものを移植すれば、体は異物を排除しようと動く。そして結果的にISコア周辺の心臓部を破壊し、死に至らしめる。
しかし司は違った。
適合手術を終えて麻酔が切れ、何時間経っても、司の体は拒絶反応を見せなかった。
これは司が自身の人格さえも閉じ込め、感覚のほとんどを遮断した植物状態に近い状態へとなっていたためだが、そんなことを考え付く脳を研究員達は持ち合わせていない。
そして司が反応を全く見せないことをいいことに、研究員達は司の体に次々とISコアを移植していった。
それからも何も反応を見せない司を、研究員達は『過剰適合者』とし、自分達が持っているISコアを全て移植し、男性ながら何十機もISを扱える自分達の切り札としようとした。
しかしある日それは、一人の女性によって阻止される。
同時に、司に移植されたいくつかのISコアが、人格を発現させた。そして不思議なことに、司の生命維持器官として機能し始めたのだ。これが、ISコアが初めて人体に適合した瞬間だった。
こうして司は、その一人の女性と移植されたISコア達によって一命を取り留め、再び人間として生活することができるようになった。
しかし司の人格だけは、戻ってくることはなかった。
ーーーーーーーーーーーーーーーー
「とまあこんな感じだ」
司が話し終えると、セシリアは顔を青ざめさせて自身を抱き込んで震えていた。セシリアがそうなってしまったのは、司が『耐久実験』のことについて話した辺りからだ。
「俺達も、何で司に適合できたかは分かんねえ。だがこれだけは言える。今の俺達は、司の心臓とも言える存在になってる。つまり、俺達が機能を停止したら司も死ぬし、司が死ねば俺達も機能を停止しちまう」
セシリアは震えたまま反応を見せない。
「聞こえてるかどうかは分かんねえが、一応言っておくぜ。司は、今も苦しんでる。お前達の見えないところでな」
それだけ言うと、司は顔に包帯と布を巻き直して保健室から出ていってしまう。
司が出ていった後、セシリアは震えながら呟いた。
「どうして……ISで人が苦しまなければならないんですの……」
改めて読むと、色んな意味でとんでもない設定だな……と自分でも思いますね。
次の話が投稿された時点で、アンケートは締め切ります。なので投票を済ませていない方は、お早めに投票されることをお勧めします。
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おお、君が代表に選ばれた。確率というものは不思議なものだね。
そしてアンケートの結果、セシリアはヒロインになることになりました!
序盤から中盤はヒロインにしない派が優勢で、する派が追いかけるけどギリギリ抜けないっていう状況が続いてて、これはしない方向かな、と思って最終確認したらする派が逆転してたという。今回もなかなか面白かったです。
「では、1年1組代表は、織斑一夏君に決定です。あ、1繋がりでいい感じですね」
クラス代表決定戦の翌日。SHRで山田先生が笑顔でそう言った。クラスの女子達も、大いに盛り上がっている。
因みにこの場にはセシリアもいる。まだ傷は完全には治っていないが、代表候補生がこのくらいの怪我で授業を休むわけにはいかない、と本人が希望した結果だ。
「へへっ、頑張れよ一夏」
「お、おう」
(元々なるつもりは無かったんだが……)
司の言葉に反応しながらもそんなことを思う一夏。
一夏は推薦されただけで、やるつもりは一切無かったため、正直辞退したかった。
しかしそれは昨日のクラス代表決定戦の意味を無くしてしまうため、そんなことを言えるわけがなかった。
「やっぱり世界で2人だけしかいない男子がいるんだから、同じクラスになった以上持ち上げないとね!」
そんな言葉が飛び交う。
「つっても、俺まだ一回しかISに乗ってないバリバリの初心者なんだけど……」
一夏が呟くと、セシリアが言う。
「あら? 代表候補生であるわたくしをいとも簡単に負かした司さんに勝った織斑さんが、ただの初心者な訳はありませんわ。知識や操縦技術は確かに未熟な所がありますが、それは逆に言えば、伸び代があるという事です。クラス代表ともなれば、実戦には事欠きませんし、才能を伸ばすには丁度良いかと」
「うう……そう言われると……」
できるなら逃れたかった一夏だったが、セシリアの言葉に返す言葉もなかったので、大人しく引き受けることにした。
項垂れる一夏に箒が言葉をかける。
「安心しろ一夏。〝私が〟教えてやるからな」
私が、の部分を妙に強調する箒。
「言いたい事は言い終えたか? とにかくクラス代表は織斑一夏だ。これは先日の代表決定戦の結果から決まったことだ。異論は一切聞き入れない。分かったな?」
「「「「「「「「「「はーい」」」」」」」」」」
千冬の言葉に、クラスの女子生徒達の声が唱和した。
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
「ふい~、終わった終わった」
一日の全ての授業が終わり、司は自身の部屋のベッドに寝転がっていた。
「何か今日はあんまり走る気が起きねえな。今日は早く寝るか」
昨日の疲れが溜まっていると思った司は、早く寝るために今日出された課題を済ませようと、放り投げられた自身の鞄の方へ向かう。
そして、司が鞄を拾い上げようとした時だった。
コンコン
何者かによって、司の部屋のドアがノックされた。
(誰だ? また織斑センセか?)
少し前に自身の部屋に千冬が来たことを思いだし、また千冬が来たのかと思う司。拾い上げようとした鞄をスルーし、ドアへ向かう。
そしてドアを開けた司は、困惑した。
「……何しに来たんだ?」
そこには、少し多めの荷物を持ったセシリアが立っていた。
「本日から、わたくしが司さんと同室になりますの。よろしくお願いいたしますわ」
「俺は何も聞いてないぞ?」
「わたくしと織斑先生で決めたことですの」
(……本人の許可ぐらい取れよ)
勝手に話を進めておいて許可すら取りに来なかった千冬に、少し苛立ちを覚える司。
「それで、入ってもよろしくて?」
「そんだけ準備させといて、帰れなんて言えるわけないだろ。ま、入れよ」
「お邪魔しますわ♪」
ニッコリと笑って部屋に入るセシリア。
部屋に入ってすぐに荷解きを始めるセシリアに、司は問う。
「で、何で俺の部屋にわざわざ移ったんだ?」
前のセシリアの部屋は、司の部屋の一つ隣である。ここよりさらに遠くだったらまだ分かるが、部屋を一つだけずれるなんて、意味があるとは司には思えなかった。
「実は……」
ーーーーーーーーーーーーーーーーーー
時は遡ること昨日。
司が退室した後、セシリアの元に千冬がやって来た。担当する生徒が保健室に行った以上、担任として状態を把握しておかなければならない。
「……それで、怪我の具合は?」
千冬がセシリアに聞く。
「少し痛む場所がありますが、日常生活で支障をきたす程ではありませんわ」
「明日は出席できるか? 一応大事を取って、休むこともできるが」
「出席いたしますわ。この程度で授業を休むのは、わたくしの代表候補生としてのプライドが許しませんもの」
そうか、と千冬は返す。
「それと、織斑先生」
セシリアはこの際、先程司がした話についても聞いてみようと考えた。今保健室にいるのは、セシリアと千冬のみ。他の場所では、誰かに聞かれてしまう可能性がある。
「何だ?」
「先生は以前からご存知でしたの? 司さんが、『男性操縦者計画』の被害者であるということを……」
セシリアがそう聞いた瞬間、千冬の纏う雰囲気が変わる。
「……何処でそれを知った?」
「さ、先程司さんがここに来られて、そこで色々と教えていただいたんですの!」
千冬は黙ったままだったが、少し経つと殺伐とした雰囲気を解いた。
「……あいつ自ら話したということは、お前のことを信頼しているということなのだろうな」
(胸が締め付けられるような重いプレッシャー……人間が出せるものじゃありませんわ……)
プレッシャーを直に浴びたセシリアは、プレッシャーから解放された瞬間荒く呼吸をした。
「このことは、本人を除けば学園内で私しか知らない。その意味をよく考えろ」
「……!!」
セシリアは改めて、その事実が機密中の機密であることを理解した。
「それで、そのことを私に話してきて、どういうつもりだ?」
「お願いがありますの。わたくしを、司さんと同室にしていただけませんか?」
セシリアは真っ直ぐな目で、千冬に頼み込む。
「お前がそうしようと思った訳を聞かせてもらおうか」
千冬はその目を見て試す価値があると判断し、自分にそう頼んできた理由を聞いた。
「ISは全ての人に夢を与え、その夢を実現するものだとわたくしは信じています。わたくしにとってもISは誇りであり、全てといっても過言ではありません。ですから、司さんのようにISで苦しんでいる人がいることを見過ごせませんの。今もなお苦しみ続けている司さんを、助けたいんですの!」
セシリアの訴えるような目を、千冬はじっと見ていた。
少し経つと短く笑って言った。
「ふっ、どうやらお前の覚悟は生半可なものではないらしい。いいだろう、同室を許可する」
「先生……!」
先程の真剣な表情と変わり、セシリアは千冬に感謝するように笑った。
「ただし部屋が変わるのは明日からだ。手続きには最低一日必要だ。放課後に今の部屋の荷物をまとめて斑鳩の部屋へ行け。斑鳩にはお前から事情を説明しろ。それと……斑鳩の過去について一切口外しないと誓え。これが出来なければ、問答無用で部屋を戻す。いいな?」
「はい!」
セシリアはキレのある返事をした。
ーーーーーーーーーーーーーーーーーー
「なるほどなぁ……」
司はセシリアがここに来ることになった経緯の一部始終を聞かされ、納得していた。
「俺達としても、司を助けてくれる奴が増えるのは嬉しいことだ。だから歓迎するぜ」
「……!! では改めて、よろしくお願いいたしますわ!」
「おう! 俺達の方こそよろしくな!」
セシリアは両手で、司は片手で握手する。
(絶対、助け出してみせますわ!)
司と握手しながら、改めて心の中で宣言するセシリア。
そしてこれが、二人の運命を大きく変えることになろうとは、二人とも思いもしなかった。
今はあまりヒロインムーヴしてないし主人公のことも『好き』ではないですが、まだまだこれからですのでお楽しみに。
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あぁ、転校生ね? 早く会いたいわ
少し遅くなりましたが、その間今後の展開を書きやすくするために、アニメ1期を見ておりまして、現在は臨海学校の前半まで見終えました。とりあえずトーナメント戦までのプロットは粗方できたので、これからはそれに修正を入れてくって感じですね。受験勉強? ナ、ナンノコトカナー
追記
若干の修正を加えました。
セシリアが司と同室になった日の翌日。
「織斑君、斑鳩君、おはよー。ねえ、転校生の噂聞いた?」
一夏と司が話していると、一人の女子生徒が二人に話しかけてきた。
「転校生? 今の時期に?」
「入ってくるタイミングが不自然だな」
一夏と司の言う通り、入学してまだ一ヶ月も経っていない。明らかに時期がおかしい。
「そう、なんでも中国の代表候補生なんだってさ」
「ふーん」
一夏は呑気に相槌を打っている。そこに横から箒が言う。
「このクラスに転入してくるわけではないのだろう? 騒ぐほどの事でもあるまい」
一組に転入してくるのなら、事前に連絡が入るはず。しかし今回はそういったものは一切なかった。なので転入してくるとしても、別クラスだろうと箒は予想したのだ。
「どんな奴なんだろうな?」
「む………気になるのか?」
箒は一夏の言葉に反応し、一夏に目を向ける。
「ん? ああ、少しは」
「……ふん……」
不機嫌そうに鼻を鳴らす箒。一夏はその行動の意味がまるで分からなかった。
「頑張ってね織斑君!」
「フリーパスの為にもね!」
「今の所、専用機持ちのクラス代表って1組と4組だけだから、余裕だよ」
女子達が一夏を応援する。何せ、クラス対抗戦で優勝したクラスには、食堂のデザート食べ放題のフリーパスが配布されるのだ。甘いもの好きが大半な女子にとって、喉から手が出るほど欲しかった。
(だから俺、素人なんだけどなぁ……)
専用機を持っているとは言え、一夏はまだ一度しかISの実戦経験がない素人中の素人。そんな一夏が優勝できる確率など、寧ろ低いだろう。
そんなことを考えていた一夏だが、口には出さず苦笑いを返しておいた。
その時、一組の教室の入り口から声が聞こえてきた。
「その情報、古いよ」
その声がした方向に、一組の生徒全員が顔を向けた。そこには、一人の女子生徒が腕を組みながら立っていた。
「鈴……? お前、鈴か?」
そしてただ一人、一夏が驚いたように呟く。それに答えるように、その女子生徒は宣言する。
「そうよ。中国代表候補生、凰鈴音。私が新しく二組のクラス代表になったから、今日は宣戦布告に来たってわけ」
(二組? そういや、二組の担任と副担任って確か……あの二人だったよな……)
司はその女子生徒、鈴音に顔を向けながらも違うことを考えていた。
すると、
「何格好つけてるんだ? すげえ似合わないぞ」
「んなっ……!? なんてことを言うのよ、アンタは!」
一夏は空気をぶち壊す一言を放った。
「織斑さん……もう少し空気を読んだ方がよろしいのでは?」
セシリアが呆れたように呟く。
司が鈴音のことを一夏の幼馴染である箒に聞こうとすると、
「……誰だ……何故一夏とあんな親しそうに話している……」
箒も鈴音のことを知らないようで、眉を寄せながら小声で色々と呟いている。仕方なく司は一夏に聞こうとするが、
「おい」
その前に聞き覚えのある声が短く響き渡った。
鈴音は後ろから突然声を掛けられたので、不機嫌そうに振り返り、振り向き様に文句を言おうとした。
「何よ……うぎゃっ!?」
だが、文句が口から出る事は無かった。
文句が出る前に、鈴音の頭に出席簿が炸裂したからだ。
「もうSHRの時間だ。教室に戻れ」
「痛た……え!? ち、千冬さん………」
先程の威勢は何処に行ったのか、尻込みしたように千冬の名を呟く鈴音。
「織斑先生と呼べ。さっさと戻れ、そして入口を塞ぐな。邪魔だ」
「す、すみません………」
次から次に出る千冬の言葉に、鈴音は謝りながらドアの前を退く。
そして気を取り直して、
「また後で来るからね! 逃げないでよ! 一夏!」
そう言い残して去ろうとするが、
「さっさと戻れ!」
「は、はいっ!」
千冬の一喝に、最後まで格好つけることが出来なかった鈴音だった。
因みにこの授業中、一夏と鈴音の関係を気にしていた箒が授業に集中できず、何発も出席簿で叩かれていた。
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
昼休み。
大半の生徒が食堂で昼食を摂る時間であるが、司は食堂ではない別の場所へ行っていた。
その場所は、二組の教室である。
「よお、一組の斑鳩司だ……って、誰もいねえのか」
「いるわよ~」
全員が昼食を摂りに食堂へ行っており、もぬけの殻だと思った司は立ち去ろうとすると、教室の奥から声がする。司は踵を返し、二組の教室に入っていった。
「久しぶりだな、スコール」
「もう。ここではスコール先生、でしょう?」
彼女の名はスコール・ミューゼル。二組のクラス担任である。
司が二組の教室に来た理由は、彼女にあった。
「この場には俺ら二人しかいないし、こっちの方が話しやすいだろ?」
「ま、それもそうなんだけどね。それで、わざわざ昼休みに来るってことは、何か用かしら?」
スコールは脱線しかけていた話を元に戻し、本題に入らせる。
「転校生が朝にうちに来てな。一夏と何か関わりがありそうだったから、それについて聞きに来たんだよ」
クラス担任であるスコールなら、転入生である鈴音の経歴などを書類を通して知っていると司は考えたのだ。
そして、とある事情からも。
「そうなの。わざわざご苦労様。それで彼女についてなんだけど、彼女は小5の時に日本にやって来て、中2の頃に中国に帰っているわ。織斑一夏と関わりを持ったのも、そこでしょうね。因みに篠ノ之箒は小4の時に引っ越してるから、入れ替わりってとこかしらね」
「なるほど。分かりやすく言うなら、篠ノ之はファースト幼馴染、凰はセカンド幼馴染ってことか」
一夏が鈴音のことを知っていたのに、幼馴染である箒が何故知らないのかという司の疑問が今解決された。二人はすれ違うように転入転校していたので、会うわけがなかったのだ。当然お互いのことを知っているはずもない。
用は済んだので帰ろうと思った司だが、今用件を思い出したように戻ると、スコールに尋ねた。
「そういや、オータムはいないのか? 一応ここの副担だし、ついでに会っておこうと思ったんだが……」
「購買の大好物が売り切れちまうって、授業が終わった瞬間飛び出して行っちゃったわ。今何処にいるのかは、流石に私でも分からないわね」
「そうなのか? ま、会うのは今度でいいかな」
「出来れば近い内に会ってあげてね? 本人も会いたがってたから。それと、マドカと博士にも時々電話してあげてね?」
「おう。もちろんさ。じゃあな!」
司はそう言って二組を立ち去り、昼食を摂りに寮の自分の部屋へ向かう。顔にある尋常じゃないツギハギと所々白くなった頭髪のため、公共の場で包帯と布を外すことはできない。
そのため学園敷地内で唯一外しても大丈夫な、自分の部屋で食事は摂るようにしているのだ。一度食事を貰いに食堂か購買へ寄る必要があるが、顔や頭髪を見られるよりかは何倍もマシである。
(セカンド幼馴染、しかも代表候補生ときた。へへっ、面白くなりそうだ)
司はこれから面白くなることを確信し、密かに笑っていた。
というわけで亡国機業の三人は味方ポジです! この話が投稿されたことにより、タグ一覧に『亡国機業は味方』タグが追加されます。
ですが原作を読んでいるわけではないので、三人の話し方だったり人の名前の呼び方だったりが間違っていることもあると思われます。その時は遠慮なくご指摘ください。
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おぉい誰だよ!? 知らないISを呼んだのは!
細かい部分を描写するために勉強そっちのけで単行本と小説両方買ってしまう始末。
時は流れてクラス対抗戦当日。
司はセシリアとクラスメイトの女子数人と共に、アリーナの観客席に座っていた。
アリーナには白式を纏った一夏と、自身の専用機であろう赤色がかった黒の機体カラーをしたISを纏った鈴音が立っていた。
「お相手もなかなか派手な機体だな」
「ええ、第三世代型IS『
セシリアが鈴音のISについて解説する。これでも代表候補生なので、他国のISに関する基本的な情報は網羅しているのだ。
「まさか初戦から専用機持ちと当たっちゃうなんて……」
「織斑君大丈夫かな……」
「おりむーも特訓はしてたみたいだから、何もできずに負けるなんてことはないと思うけどね〜」
この三人は上から岸原理子、相川清香、布仏本音という女子生徒。常に行動を共にしている三人組であり、司とセシリアがアリーナの観客席へ向かうところを見つけ、着いてきたのだ。
「心配ないさ。なにせ、俺に勝った男だからな!」
司がそう3人に言った直後、試合開始のブザーが耳をつんざく勢いで鳴り響き、試合が開始された。
先手は鈴音だった。連結させた青龍刀を振り回し、一夏に斬りかかっていく。一夏も何とか対処し、被弾を抑えることには成功していた。
「ヒュー! 最初から迫力マックスだな! 一方的にやられるなんてことがなくて安心したぜ!」
「ですがこのままだと防戦一方ですわ。一度距離を取って、体制を立て直すべきですが……果たしてそれを凰さんが許してくれるかどうか……」
司は興奮するが、セシリアは違った。彼女が先程話した甲龍の特徴は、あくまで基本的な部分に過ぎないのであって、甲龍の最大の特徴とも言える『あの武装』がまだ使われていないからだ。
(そういえば凰の奴なんか不機嫌そうだな。一夏と何かあったのか?)
そして司は一夏を応援しながら、さながら怒り狂う龍のように怒涛の連撃を加える鈴音に対し、そんなことを考えていた。
試合では、このままでは埒が明かないと判断した一夏が、一旦距離を取ろうとしていたが、
「甘いっ!」
鈴音の言葉と共に、一夏が何かに殴り飛ばされたように吹っ飛んだ。
「おお!? なんだ今の! 幽霊にでも殴られたのか!?」
「それはいくらなんでも無理があるよ斑鳩君……」
すかさずツッコミを入れてくる清香。そこにセシリアが解説を入れてきた。
「あれはおそらく甲龍の切り札にして最大の武器である『衝撃砲』によるものですわ。空間に圧力をかけて砲身を作り、左右の翼から衝撃を砲弾として撃ち出していますの」
「分かりやすく言うなら、ドラ○もんの空気砲の砲身が見えないバージョンだね〜」
本音も付け加える。それで衝撃砲『龍砲』の強さを理解した三人は、一夏の方を見る。
そこでは、一夏が辛うじてだが龍砲を避けていた。
「よく躱すじゃない。『龍砲』は砲身も砲弾も見えないのが特徴なのに」
鈴音の言う通り龍砲は特性上、初見で対処するのは至難の業である。それをISに乗ってまだ間もない一夏は辛うじてだが対処できているのだから、大したものである。
鈴音が少し油断している事も理由の1つだろうが、一夏の本人も気づいていない才能によるものが大半だろう。
すると鈴音が喋っているその間に、一夏が一旦距離を置いた。
そして、真剣な表情で鈴音に告げた。
「鈴」
「何よ?」
「本気で行くからな」
「な、何よ……そんな事、当たり前じゃない……とっ、とにかくっ、格の違いって奴を見せてあげるわ!」
鈴音は一夏の真剣な表情と言葉に狼狽える。鈴音は感じ取ったのだ。一夏の纏う雰囲気が変わっていることを。
次の瞬間、鈴音に向かって一夏が猛スピードで突っ込んだ。
「しまっ……!」
鈴音が不意を突かれ、一夏の雪片弐型がその身に届こうかとした時だった。
【気をつけて! 上から何か来るわ!】
司が虚空からの声を聞いた直後、
―――ドゴォォォォォン!!
轟音と共にアリーナ全体に衝撃が響いた。
「おわっ! 何だ何だ!?」
司は反射的に叫んで立ち上がる。セシリア達も思いがけない事態に混乱している。
(落ち着け! 何かが、アリーナのシールドを突き破って中央付近に落ちてきたんだ!)
状況を一番最初に整理した人格、パク・テジュン(以後クリプトと呼称)が状況を説明する。それで状況を理解した司は、アリーナの中央付近に目を向ける。
そこからは、爆煙がモクモクと上がっている。
だがその直後、アリーナのシェルターシールドが閉まり、司の視界は閉ざされた。
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
「何事だ!?」
ピットで試合の様子を窺っていた千冬が叫ぶ。
「わ、分かりません! ですが、何かがアリーナのシールドを突き破って侵入した模様!」
山田先生はそう言うとすぐに一夏達に通信を繋げる。
「織斑君! 凰さん! 今すぐアリーナから脱出してください! すぐに先生たちがISで制圧に行きます!」
『いや、先生達が来るまで俺達で食い止めます』
一夏がそう発言する。シールドを突破してきた相手から観客の生徒達を護るためだ。
IS学園のアリーナのシールドは不可視だがとても強固なものであり、たとえジャンボジェット機が墜落してきても防ぐことができるものである。
それを紙切れのように破ってきたということは、相手は事故でアリーナに墜ちてきたのではなく、最初からアリーナへの侵入、侵略が目的であるということだ。
その相手を倒す、まではいかなくとも、生徒達が避難できるだけの時間稼ぎは誰かがしなければならない。一夏はそう判断したのだ。
「織斑君!? だ、ダメです! 生徒さんにもしものことがあったら……あっ!?」
「どうした!? 山田君!」
「織斑君達との通信が途切れました……おそらく戦闘を開始してしまったのだと思われます……!」
「……チッ! あの馬鹿ッ!」
千冬は舌打ちをしながら、山田先生の座っている椅子の背もたれをガンッ! と殴り付ける。その迫真の音に山田先生は「ひゃぅっ!?」と悲鳴をあげてしまう。
(いくら二人で一人が代表候補生とはいえ、一夏は素人同然だ。長くは持ちこたえられない……やむを得んか……)
千冬は携帯を取り出し、ある電話番号にかける。その電話番号の主は、すぐに電話に出た。
「……斑鳩! 聞こえるか、斑鳩!」
『おうよ織斑センセ! だが周りがうるさすぎて少し聞こえづらいな!』
その電話番号の主は、司だった。司の声の後ろから、阿鼻叫喚の叫び声が聞こえてくる。それで大体察せるが、千冬は今の観客席の状況について司に問うた。
「状況は!」
『観客席のドアがロックされちまってて、出ようにも出れねえ!』
やはりか、と千冬は顔をしかめるがすぐに戻し、指示を出した。
「現在、ステージに通じる扉が全てロックされている! 三年の精鋭達に解除させているが、あと何分かかるか分からん! 確かお前の所持しているISに、システムのハッキングが得意な機体があったはずだろう!」
『ああ、あるぜ!』
「ISの使用を許可する! 扉のロックを全て解除して、生徒達を避難させろ!」
『おう! 合点承知だ!』
「……頼んだぞ」
そう言うと千冬は電話を切った。
「……あの、織斑先生。先程の電話の相手……斑鳩君ですか……?」
山田先生は千冬に、何故司の電話番号を持っているのか聞こうとしたが、
「……山田先生、世の中には知らない方がいいこともあるんですよ?」
「はいぃぃ!」
千冬が出す圧の前に屈してしまった。
ーーーーーーーーーーーーーーーーーー
千冬との電話を終えた司は、電話を切り電話をポケットに突っ込んでいた。
「先程の電話のお相手は?」
隣で聞いていたセシリアが聞く。
「織斑センセだ! 俺にだけISの使用許可が降りたんだ! ちょっくら今から人格を変えるぜ!」
(てなわけでクリプト! 行けるか?)
(ようやく出番か。待ちくたびれたぞ)
司の体が淡く光り出す。光が晴れると、そこには見た目は特に変わっていない司が立っていた。
「さぁ、仕事の時間だ」
しかし司から発せられた声は、オクタンの陽気な声ではない男性の声だった。
「えっと、今はどちら様でしょうか?」
横からセシリアが聞く。少なくともセシリアは、クリプトのことを知らない。
「俺はパク・テジュン。他の奴等からはクリプトと呼ばれてる。だが司と呼んでくれてもいい。それでお前は、確かイギリスの代表候補生の、セシリア・オルコットで合ってるか?」
「は、はい!」
「よしじゃあオルコット、今から俺はISを展開して、観客席のドアをハッキングして開ける。俺がコア人格のISは、システムのハッキングが得意なんだ。お前にはその間、生徒達の避難誘導を頼みたい。出来るだけ他の奴等も巻き込んでな」
「分かりましたわ!」
セシリアは生徒達が集中している観客席のドアに向かう。
もしドアをハッキングして開けれたとしても、そこに生徒達が殺到していたら、二次被害が生まれる可能性がある。それを防ぐために、司はセシリアに避難誘導を頼んだのだ。
司はISを展開し、背中に備わっている五機のドローンを、観客席のドアにセットする。そして自身の目の前の画面に、ドローンがスキャンしたセキュリティシステムを表示させる。
第三世代型IS『タ・カムシウォン』。その名は韓国の言葉で『全てを監視する者』という意であり、情報収集をするためだけに作られたISである。そのためISとしては異例すぎる
「成る程。確かにこれは普通の奴なら、時間がかかる」
(それでクリプト、どれくらいで終わりそうだ?)
オクタンが話しかけてくる。しかしクリプトは冷静に言い放った。
「30秒で終わらせる」
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
「ちっ! また外した!」
「これで4回目よ! ちゃんと狙いなさいよ!」
「狙ってるっつーの! あいつが速いんだよ!」
攻撃が悉く外れイライラしているのか、些細なことで言い争う二人。現在二人は、アリーナのシールドを破ってきた『謎の全身装甲のIS』と戦闘中だった。
「ッ! 一夏、また来る!」
一夏の零落白夜によるバリア無効化攻撃を避けた謎のISは、攻撃を回避した時にのみ行ってくる、辺り一帯をなぎ払うような回転ビーム攻撃を再度繰り出してくる。
初見ではないため直撃することはなかった二人だが、これのせいで謎のISを追い詰められていないというのが現状だった。
「ああもう! めんどくさいわね!」
鈴音が謎のISに向かって龍砲を放つが、
「また防がれた……!」
まるで見えてるかのように、難なく対処してくる。
一夏は自身のSEを確認していた。
(SE的に零落白夜を使えるのはあと一回……だけど当たらなかったら今度こそ終わりだ……しかも鈴の衝撃砲も効かない……くそっ、どうすればいいんだよ!!)
一夏はこの状況を打破できる手段はないのかと必死で模索する。
とそこに、一夏と鈴音のプライベート・チャネルに、誰かが割り込んでくる。
『織斑! 凰!』
それは、司であった。
「つ、司!?」
「あ、あんた二人目の!」
『細かい話は後だ! それよりも二人に、手伝ってほしいことがある』
司は一切の質問を受け付けず、本題に入った。今は質問に答えている時間すらないためだ。
『俺が奴の動きを止める。俺が合図したら、二人は今できる最大火力の攻撃を奴に叩き込んでくれ』
「ちょ、ちょっと待って! どうやってあいつの動きを止めるのよ!」
鈴音がすかさず聞いてくる。相手は動きも速く、龍砲も通じない。そんな相手を一機でどう止めようというのか。
『秘策がある。安心しろ。奴がISなら、確実に止められる』
司の声は、自信にあふれていた。
「……分かった」
故に一夏は、司を信じてみることにした。
「一夏!?」
「このまま俺達だけで戦い続けても埒があかない。それに、向こうは逃してくれそうにないしな」
一夏が見ている方向には、鈴音と一夏をロックオンしている謎のISがいた。
『よし。俺は動きを止める隙を伺う。二人はその間、奴の気を引いてくれ』
「任せろ!」
「ったくもう、どうなっても知らないわよ!」
一夏と鈴音は、謎のISに突っ込んでいった。
まず鈴音が龍砲で牽制する。もちろん謎のISは防いでくるが、その間に後ろから一夏が斬りかかる。これを何度も何度も繰り返す。『攻撃』が目的ではないため、一夏は斬りかかって当てられそうになかったら退き、鈴音はどうせ防がれるならと、地面に向かって龍砲を撃ち、砂埃を撒き散らす。謎のISは、二人の戦術が変わったことに対し多少困惑しているようだった。
ついに痺れを切らしたのか、あの回転ビーム攻撃の予備動作に入る。
「ッ! 離れるぞ、鈴!」
「言われなくても!」
謎のISからビームが放たれる。二人は回避するが、また距離を離されてしまった。ビームを撃った直後は隙ができるのだが、距離を離されてしまうため、その隙を突くことができないのだ。
しかし、司はこの隙を見逃さなかった。いつの間にかアリーナに侵入させていた五機のドローンを、隙だらけの謎のISに近づける。
『EMPプロトコルを作動!』
五機のドローンから何かが放出され、弾けた。
五機のドローンの中心にいた謎のISは、身動き一つ取れなくなっている。
『今だ! 織斑、凰!』
その言葉を聞いた一夏が零落白夜を発動し謎のISに突っ込み、鈴音が龍砲にパワーを溜める。
謎のISは切り裂かれ、衝撃砲に蜂の巣にされ、機能を停止した。
「お、終わった……のか?」
動かなくなった謎のISを見ながら、一夏が呟く。
『そうみたいだな。俺のドローンが反応していない』
司が言う。その言葉を聞いて一夏は、
「っしゃあああああああああああああああ!!!!!」
勝利の雄叫びを挙げるのだった。
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
IS学園の地下50メートル。
その限られた権限を持つ者しか入れない隠された空間で、正体不明ISの解析が進められていた。
「織斑先生」
山田先生が千冬に話しかける。
「あのISの解析結果が出ましたよ」
「ああ、どうだった?」
「あの機体は………無人機です」
無人で動くIS。それは遠隔操作、独立機動と呼ばれる技術が使われているIS。そしてその二つは、世界中がISの開発を進めている中、未だにどちらも完成させていない技術だ。
あのISにはそれが両方とも使用されている。
「どの様な方法で動いていたかは不明です。機能中枢が粉々でしたので……修復も不可能です」
ISにはダメージレベルというダメージの度合いを示すものがあるが、今回の無人機は、それでも表せないほど大破していた。それは即ち、修復不可能を意味する。
「コアは如何だった?」
「……それが、どこの国にも登録されていないコアでした」
「やはりか……」
「何か心当たりがあるんですか?」
「いや、無い。今はまだ……な」
千冬はモニターに顔を戻した。
その顔は学園の教師の顔、というよりは、戦士を彷彿とさせる顔だった。
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
「ここなら誰もいねえかな」
場面は切り替わり夜。この時間帯は夕食を摂るため、殆どの生徒が食堂へ向かう時間帯だ。
そんな時間帯に、司は寮の裏庭にいた。その理由は、とある人物に電話をするためである。別に寮内なら電話を使っても問題ないのだが、相手が相手なので人が全くいない場所に移動したのだ。
「元気にしてっかな~」
そう言いながら司は携帯を取り出し、一つの電話番号にかける。コール音が三回も鳴らない内に、電話は繋がった。
『もすもすひもねす~! ひっさしぶりだね~つーくん!』
その相手とは、ISの産みの親にして天災科学者の、篠ノ之束だった。
「おう、久しぶりだな! 元気してたか?」
『ふむふむ~今は『おっくん』なんだね。もちのろんだよ~! 何てったって束さんは~、これまで一度も病気になったことがないのだ~!』
聞いての通り、束はそれぞれのコア人格名で呼び方を変えている。ISの産みの親である束にとってはISのコア人格も、皆等しく可愛い子供であるからだ。
「そうなのか? そりゃあすげえな! で、話を戻すんだが、聞きたいことがある。今日の昼に、IS学園のアリーナによく分からねえISが降りてきたんだ。しかも人が乗ってねえ奴がな。これについて何か知ってるか?」
司はタ・カムシウォンのドローンであの謎のISをスキャンした時に、その機体が無人機であることを知ったのだ。
『そんなことがあったんだね。けど残念ながら、束さんは一切関与してないよ。心当たりも一切なーし』
「ま、そうだよな。お前がんなことするわけないもんな」
『あったり前だよ~! つーくんが危険に晒されるようなことは、束さんはぜ~ったいしないし許さないんだから! でも、もしかしたらどっかのテロ集団が送り込んできたっていう可能性もあるね。こっちで調べてみるよ』
「悪い、助かる。そんじゃ、そろそろ切るぜ」
『え~!? もっと話したい~!』
電話の声から束が駄々をこねる様子が容易に想像できる。もう24才だというのに、精神年齢はこれからも変わりそうになさそうだ。
「ちょっとは自分の立場を理解してくれ。今も人が全くいない場所からかけてるんだ。でもいつ人が来るか分かんねえから「……斑鳩?」どわっ!?」
誰かいると思っていなかった司は声に驚くあまり、電話を落としてしまう。
司が声の方向に顔を向けると、そこには箒がいた。
『どうしたのおっくん!?』
「姉さんの声……!?」
束が司に何かあったのではないかと声を荒げるが、そのせいで電話から離れていた箒にも声が届いてしまう。
司は慌てて携帯を拾い上げ、「また今度な!」とだけ言い強引に電話を切る。
(畜生! よりによって一番聞かれちゃダメな奴に聞かれちまった!)
司は携帯を乱暴にしまい、警戒する。
「け、警戒しないでくれ! このことを言いふらす気はない!」
誤解されたと思った箒が慌てて弁明する。司はそれに対し警戒を多少解くが、完全には解かなかった。
「さっきの電話の相手……姉さん……なのか?」
箒が恐る恐る確認するように聞いてくる。箒と束はもう何年も会っていないし話していない。束は話したいと思っていたが、箒が拒絶していたのだ。
しかし血の繋がった家族だ。何も思わないわけではない。
「……ああ」
司は今更嘘は通じないだろうと、渋々答えた。
「……一つだけ、聞きたい」
箒は司に自分が今一番気になることを簡単に聞いた。
「姉さんは……元気か?」
それを聞いた司は警戒していた自分がバカらしくなり、
「ハハッ、もちろんさ。元気すぎてこっちが心配になるくらいだ」
といつもの口調で答えた。
「……そうか」
箒は少しだけ笑いながら返答した。
(ふー、結果的に大丈夫だったが、他の奴だとこうはいかねえよな。別の場所探すか)
司は束と電話をする時は、何かがあっても絶対に誰も来ないところでしよう、と心に誓った。
今回の話が投稿されたことにより、『白い束さん』のタグが追加されます。
8月中は主に理系科目の基礎固めに時間を使うため、更新がどうしても遅れ気味になります。申し訳ありません。
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新しい転校生? しかも二人だと?
ついに始まりましたねシーズン14! 新キャラのヴァンテージ使ってみましたがウルトが使いやすくて強い!
いろいろあったクラス代表戦から暫くの時が流れた。
6月上旬となり、今月末には学年別トーナメントと言う生徒全員参加のISによる勝ち抜き形式の大会の様な行事がある。IS学園の1学期では、一番大きな行事だろう。
クラス代表では無い生徒達にとって、これ以上無いアピールの場になる。その上三年にとっては最後であるため、アリーナや訓練機の使用は三年、二年、一年の順で優先される。
司がトーナメントで使う機体を考えながら教室に入ると、教室の一角で女子生徒達がひそひそと話し合っていた。
「ねえ、あの噂聞いた?」
「聞いた聞いた!」
「何々? 何の話?」
「学年別トーナメントで優勝すると、織斑君か斑鳩君と付き合えるんだって」
(…………………………は?)
司は一瞬思考が停止した。
「そうなの!?」
「マジ!?」
「どっちかと付き合えるってマジ!?」
流石に見過ごせなくなった司がその女子達に詳細を聞こうとしたときだった。
「おはよう! 何盛り上がってるんだ?」
一夏が教室に現れ、挨拶と共に集まっていた女子生徒達にそう尋ねる。すると、
「「「「「「「「「「なんでもないよ」」」」」」」」」」
息ピッタリに女子生徒達はそう言った。どうやら何があっても男子には知られたくないらしい。司は偶然聞こえてしまったとは言え、知ってしまったことを申し訳なく思った。
(これは、そっとしといた方がいいのか? いやでももし誰か優勝して本当に俺のとこに来ちまったらどうすんだ? マジでどうすりゃいいんだこれ!?)
司は今自分の置かれている状況がなかなかまずいことに気づく。
司が一人葛藤しているとSHRの時間になり、山田先生と千冬が教室に入ってきた。最初に千冬が今日からISの実践訓練をするという事を伝えると、すぐに山田先生と交代する。
忘れている人がいるかもしれないので言っておこう。
このクラスの担任は千冬である。
そう言われなければ山田先生が担任だと思われてしまうくらい、山田先生は仕事や雑務を押し付けられていた。
しかし当の本人は顔色も変えず、本題に入る。
「えぇっとですね。今日は転校生を紹介します! しかも2人!」
「「「「「「えぇええええええええええええっ!!??」」」」」」
山田先生の言葉に、クラス中が声を上げる。
もうこれで一学期に転校してきたのは計三人だ。一年間の間に一人でも入ってきたら珍しい方であるため、これは異常とも言える事態だった。
山田先生の「どうぞ」という声の後、教室のドアが開いた。
「失礼します」
「……………」
一人は一言添えて、もう一人は無言で入ってくる。
入ってきた人物の片方を見て、クラスのざわめきがピタリと止まる。何故なら、
「シャルル・デュノアです。フランスからきました。この国では不慣れなことも多いかと思いますが、皆さんよろしくお願いします」
転校生の一人、シャルル・デュノアは
「お、男…………?」
「はい。こちらに僕と同じ境遇の方がいると聞いて、本国より転入を……」
その呟きに頷きながら肯定し、言葉を続けようとした所で、
「きゃ………」
誰かが声を漏らす。
「はい?」
その反応に、シャルルが声を漏らした瞬間、
【耳を塞いで。気絶するわよ】
虚空からの声が聞こえてきたので司は咄嗟に耳を塞ぐ。それを見た一夏も、これから起こることを察し耳を塞ぐ。
次の瞬間、
「「「「「「「「「「きゃぁあああああああああああああああああああああっ!!」」」」」」」」」
歓喜の叫びが、クラス中に響き渡った。
耳を塞いでいたにも関わらず、司と一夏はダメージを受けた。
(うおおぉぉ……耳塞いでも防げねえって、どんだけデカい音なんだよ……)
(この子達は生物兵器か何かなの?)
思わずバンガロールがその声の威力に呆れながら言う。
「男子! 3人目の男子!」
「しかもうちのクラス!」
「美形! 守ってあげたくなる系の!」
「地球に生まれて良かった~~~~~!」
等々、クラス中の大半の女子達が歓喜の声を上げる。
「騒ぐな。静かにしろ」
鬱陶しそうに千冬がぼやく。
「み、皆さんお静かに! まだ自己紹介が終わってませんから~!」
山田先生が必死に宥めようとそう言う。
シャルルの他に転校生はもう1人いるのだ。
それは長い銀髪を持ち、左目に眼帯をした背の低い少女だ。
「…………………」
その少女は、先程から一言も喋っておらず、近寄りがたい雰囲気を纏っている。騒ぐクラスメイトを、腕を組んで下らなそうに見ているだけだ。
(あの雰囲気、おそらく軍人ね。それも下っ端じゃなくてまあまあの幹部よ)
バンガロールが少女に対する推測を述べる。
「……挨拶をしろ、ラウラ」
「はい、教官」
千冬の一言で、いきなり佇まいを直した。
(教官?)
一夏はその一言に心当たりがあった。
「ここではそう呼ぶな。もう私は教官ではないし、ここではお前も一般生徒だ。私の事は織斑先生と呼べ」
「了解しました」
その少女の織斑先生に対する態度は、軍人の部下が上官に向けるそれだ。
千冬にラウラと呼ばれた少女はクラスメイト達に向き直り、
「ラウラ・ボーデヴィッヒだ」
それだけ言って黙り込んだ。
「あ、あの………以上ですか?」
山田先生が若干狼狽えながら問いかけると、
「以上だ」
その言葉に冷や汗を流す山田先生。
その時、ラウラと一夏の目が合った。
すると、
「ッ! 貴様が……」
ラウラがつかつかと一夏の前まで歩いていき、
――バシンッ
と、良い音を立てて、一夏の頬に平手を見舞った。
「え?」
一夏は突然の事態に何が起きたのかわかってなさそうな表情だ。
「私は認めない。貴様があの人の弟であるなど、認めるものか!」
ラウラは、一夏を睨み付けながらそう言い放つ。
「お、おい! 何すんだよ!」
我に返った一夏はそう叫ぶが、
「フン……」
ラウラは一夏を無視し、つかつかと歩いて行き、空いている席に座ると、腕を組んで目を閉じ、微動だにしなくなる。
(……なあ、あのちっせえゴキブリ、駆除しちまってもいいか? 態度が気に食わねえんだよ)
そう不機嫌に言うのは、マーガレット・コヒーレという名の人格。人格達の間ではマッドマギーと呼ばれており、手加減という言葉を知らない人格達の中でも過激な人格の一人である。
(落ち着けマギー。俺も、あのガキの態度は気に食わねえが、場所が悪い。いつかぶちのめせる機会がきっと来るさ)
そうマッドマギーを宥めるのは、ウォルター・フィッツロイという名の人格。人格達の間ではヒューズと呼ばれており、マッドマギーのストッパーを担っているが、たまに楽しさ目的でマッドマギーに加担する、マッドマギーほどではないがまあまあ過激な人格の一人である。
(フン、そうだといいな)
ヒューズのおかけで、とりあえずマッドマギーは落ち着いた。
司の脳内はこんなにも騒がしいが、先程の一連の流れに教室は静まり返っている。
「あー………ゴホンゴホン! ではHRを終わる。各人はすぐに着替えて第二グラウンドへ集合。今日は2組と合同でIS模擬戦闘を行う。解散!」
千冬がそう言ってHRを終了させた。
「おい織斑、斑鳩。デュノアの面倒を見てやれ。同じ男子だろう」
千冬にそう言われ、一夏がシャルルに近付いて行く。
「君が織斑君? 初めまして。僕は………」
「ああ、いいから。とにかく移動が先だ。女子が着替え始めるから」
シャルルが近くにいた一夏に自己紹介をしようとすると、一夏がそう言って中断させ、シャルルの手を取る。
「悪いんだけど説明は後。こっからは時間との勝負だからな」
そう言って一夏はシャルルを連れて、司は一夏を追いかけるように教室を出る。
少し教室から離れたところで、一夏はシャルルに説明を始めた。
「とりあえず男子は空いているアリーナの更衣室で着替え。 これから実習の度にこの移動だから、早めに慣れてくれ」
「う、うん……でも、何でそんなに急いでるの? まだ授業開始まで少しあるけど……」
「それはだな……」
困惑していたシャルルが頷き、一夏に質問する。その質問に一夏ぎ答えようとした時だった。
「ああっ! 転校生発見!」
「しかも織斑君も一緒!」
「斑鳩君もいる!」
目の前にずらりと女子生徒達が現れた。その数は明らかに一年の人数を越している。
それもそのはず。同学年の他クラスだけでなく、2、3年のクラスからも噂を聞きつけた生徒達がやってきたのだ。
「いたっ! こっちよ!」
「者ども出会え出会えい!」
まるで武家屋敷のような掛け声をする生徒達。
「織斑君の黒髪もいいけど、金髪っていうのもいいわね」
「しかも瞳はエメラルド!」
「斑鳩君の素顔を今日こそは!」
「あの包帯を全部剥がして、その包帯で縛って、顔をじっくり拝んであげないと……!」
「きゃああっ! 見て見て! 織斑君とデュノア君! 手繋いでる!」
「日本に生まれてよかった! 産んでくれてありがとうお母さん!」
叫びながら司達にじりじりと迫ってくる女子生徒達。一部は危ない思考を持っているようだ。
(畜生! 捕まったらどうなるか分かんねえぞ!)
(ここは私の出番かしらね)
バンガロールが話しかけてくる。
(頼んだぜ!)
司は人格を切り替える。
「え? 斑鳩君が光った!?」
「ああ、説明しとかないとな。司は多重人格で、人格を切り替える時はこうして体が光るんだ」
「人格を切り替えると体が光る!? なんで!?」
多重人格というのは分かったが、なぜ光るのかの仕組みが一切理解できないシャルル。
光が収まった司が二人に話しかける。
「久しぶりね一夏。それとそっちの子は初めまして」
「こ、声が変わった! しかも女の声!」
「この声は、バンガ姉さん!」
シャルルは予想だにしない司の変化に、混乱し始めている。
一夏はたまにバンガロールに勉強やISの操縦を教えてもらっているため、今では名前と敬称で呼び合う仲だ。
「二人とも、私に捕まってて」
司にそう言われ、二人は司の手を掴む。司はISを肩の場所だけ部分展開する。
「スモーク注意」
肩から飛び出たキャノンからスモーク弾が放出され、辺り一面を煙で覆いつくす。
「ちょっと何これ!?」
「もしかして、煙幕!?」
「痛っ! ちょっと誰か知らないけどぶつからないでよ!」
女子生徒達は突然のスモークに混乱状態だ。
「さ、今のうちに逃げるわよ」
一夏とシャルルは、司に引っ張られながらその場を後にした。
その後もスモークを焚きながら廊下を進み続け、更衣室に到着した。
「はぁ……やっと着いた……」
「疲れてるとこ申し訳ないけど、さっさと着替えるわよ。時間は多く残されてないしね」
そして三人はやっとのことで着替えることができた。
司とシャルルの場合中にISスーツを着ていたので、制服を脱ぐだけで済んだのだが、一夏がそうではなかった。その結果一夏は始業開始に間に合わず、出席簿の一撃を受けた。
バンガロールの出番が結構多めの回でした。そしてサルボ組もちょっとだけ登場。
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教師と生徒の唯一の違いは、どっちがどっちを複数相手にしても圧倒できるかだけさ ※違います
ヴァンテージ初登場回ということで、タイトルをヴァンテージのセリフにしました。いいセリフがなかなか見つからず苦労しました……。
出席簿で叩かれた場所を押さえながら、一夏は1組の列へ入っていった。それを見た千冬が話を始める。
「では、本日から格闘及び射撃を含む実戦訓練を開始する」
「「「「「「「「「「はい!」」」」」」」」」」
「まずは戦闘を実演してもらおう。凰! オルコット!」
「「はい!」」
千冬に指名され、鈴音とセシリアは返事をする。
「専用機持ちならすぐに始められるだろう。前に出ろ!」
「めんどいなぁ………何で私が………」
「鈴さん、国の代表として、他の生徒の模範となるのも、立派な代表候補生の務めですわ」
面倒くさそうな鈴音に対してセシリアはそう言う。
それを見た千冬は、鈴音が傍を通りすぎるとき、小声で話しかけた。
何かを話された鈴音は一夏に視線を向ける。
「はっ!」
鈴音は何かに気付いたようにハッとし、
「実力の違いを見せる良い機会よね。専用機持ちの」
やる気満々にそう言った。
「今、先生なんて言ったの?」
明らかに不自然なやる気の変わり様にシャルルが一夏に尋ねる。
「俺が知るかよ……」
それもそのはず、千冬は鈴音に『一夏にいいところ見せられるぞ』と言ったのだ。一夏に分かるはずがなかった。
「それでお相手は誰でしょうか?」
「フフン。別にセシリアが相手でも構わないわよ?」
「その時には全力でお相手いたしますわ」
そう2人で牽制し合うが、
「慌てるな、馬鹿共。対戦相手は………」
千冬がそう言いかけたところで、
――キィィィィィィィィン!
と何処からか、空気を切り裂く音が聞こえた。
「ああああああああああああああああああああああああっ!!」
聞こえてきた悲鳴に生徒達が空を見上げると、
「ああああああーーーーっ! 退いてくださいーーーーっ!!」
量産型IS『ラファール・リヴァイヴ』を纏った山田先生が一直線に落ちてきた。どうやら操縦をミスって操作不能になっているらしい。
そして、落下地点にはお約束のように一夏がいた。
「え? ………ああああああーーーっ!!??」
漸く現実を把握できた一夏だが、あのタイミングでは回避が間に合わない。ISと生身の人間なので、衝突すれば確実に人間の方が死ぬ。
「仕方ねえ、緊急脱出する!」
司はISを展開し脚部にコードを繋いで、スラスターを最大出力で射出する。そしてその勢いのまま一夏を捕まえ、走り去る。
その直後、山田先生が地面に激突し、砂煙が舞う。
なんとか、一夏が肉片になるのは避けられた。
「ようアミーゴ、大丈夫か?」
「あ、ああ。ありがとな」
司は一夏を降ろす。そして山田先生の方へ向かい、
「大丈夫か、山田センセ?」
地面に激突した山田先生に声を掛けた。
「はい………お恥ずかしい所をお見せしました」
「ったく、気をつけてくれよ。もう少しで死人が出るところだったんだぜ」
「……はっ! ごめんなさい! 織斑君も、本当にごめんなさい!」
「い、いえ。司のおかけで無事だったので……」
山田先生は司の言葉にハッとして、二人に謝る。
「さて小娘共、さっさと始めるぞ」
セシリアと鈴音に向かって千冬はそう言う。
「2対1でって事? いや、流石にそれは………」
鈴音は遠慮しがちにそう言うが、千冬は鼻で笑いながら言う。
「安心しろ。山田先生は元代表候補だ。今のお前達ならすぐ負ける」
流石にその言葉にはカチンと来たのか表情を変える。
だが、セシリアが興奮しそうになる鈴音を宥める。
「鈴さん、落ち着いてください。山田先生はああ見えてもIS学園の教師です。生徒達を導くだけの力はあると思いますわ」
「だけどセシリア! 私達代表候補生2人を相手に1人で相手をするって言ってるのよ!? 悔しく無い訳!?」
鈴音がそう捲し立てる。
「山田先生は元代表候補と仰っていましたわ。それはわたくしたちもそうですが、わたくし達は代表候補生になったばかりの新人です。逆に、山田先生は、代表になれなかったと言えど、その代表と凌ぎを削った方ですわ。そして、山田先生の現役時代の代表と言えば?」
「…………あ」
セシリアの言葉に、鈴は思わず千冬に視線を向ける。
そう、山田先生の現役時代の代表は、千冬なのだ。代表になるためには千冬を越えなければならないが、並大抵の人間にそんなことはできない。
「そ、それは油断できないわね………」
漸く鈴音も山田先生の手強さに気付いた。そして先程の見下したような態度を改め、気を引き締めた。
それを確認した千冬は手を上げ、
「では…………始めっ!!」
振り下ろすと共に開始の合図を出した。
その合図と共に一気に上昇する3人。
模擬戦を開始された横で、千冬があることをシャルルに言う。
「デュノア、山田先生が使っているISの解説をして見せろ」
「あ、はい。山田先生が使っているISは、デュノア社製『ラファール・リヴァイヴ』です。第2世代開発最後期の機体ですが、そのスペックは、初期第3世代にも劣らない物です。現在配備されている量産ISの中では、最後発でありながら、世界第3位のシェアを持ち、装備によって、格闘、射撃、防御といった、全タイプに切り替えが可能です」
生徒はその説明を聞きながら模擬戦を観ていた。
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
模擬戦の結果はセシリア達の完全敗北。山田先生の操縦技術は、生徒の予想を遥かに越えたものだった。
まずセシリアの一斉射撃を軽々と避け、鈴音の見えない衝撃砲ですらあっさり避ける。
そしてカウンターでライフルによる発砲。これは分かりやすかったので二人とも避けることができたが、本当の狙いは二人を誘導することだったのだ。
回避先を見ていなかった二人は互いに激突。動きを止めてしまった。
そこに山田先生がとどめのグレネード弾を放ち、二人は呆気なく撃墜。二対一で有利だったはずなのに、少しもダメージを与えられず敗北するという結果で終わってしまった。
「………まさか、ここまで実力差があるなんて………!」
「……あんたねえ! 何面白いように回避先読まれてんのよ!?」
「確かにそれはその通りです。ですが、今思えば鈴さんも上手い事誘導されていましたわ」
二人は言い争う。
確かに山田先生の実力は相当高いが、二人にも改善点があるということを二人は知らない。
それに一番最初に気づいたのは、最近司の中に発現した人格、『ヴァンテージ』だった。
(金髪の子は狙いが素直すぎるね。あれじゃちょっと体をずらせば避けれちゃうよ。ツインテールの子は狙ってる場所を無意識に目で見てる。目線を辿ればどこに撃ってくるか分かるから、見えない弾とかあんま関係ないね)
(そうなのか? やけに詳しいんだな)
(これでも射撃は得意分野なんだ~)
詳細は省くが、ヴァンテージがコア人格のISは射撃、その中でも特に遠距離射撃に特化している。
ヴァンテージが話し終わると、山田先生がゆっくりと地上に降りてくる。
「これで諸君にも、教員の実力は理解できただろう。以後は敬意をもって接するように」
千冬はそう言うと、すぐに指示を出した。
「次はグループになって実習を行う。リーダーは専用機持ちがやること。では、別れろ!」
この実習では、女子生徒達がそれぞれの自由意思でグループに分かれるが……………
「織斑君! 一緒に頑張ろ!」
「デュノア君の操縦技術を見たいなぁ~!」
「斑鳩君のISに触れると見せかけて、斑鳩君の体を……!」
(何で俺のとこにはやべー奴が来るんだよ!?)
やはりと言うべきか男子グループに生徒が集中する。
そんなことになれば、千冬の雷が落ちるのは言うまでもない。
「この馬鹿者どもが………! 出席番号順に1人ずつグループに入れ! 次にもたつくような事があれば、今日はISを背負わせてグラウンドを100周させるからな!」
正に鶴の一声とはこのこと。女子達は先程まで騒がしかったのが嘘のように静まり返り、駆け足でそれぞれのグループに入った。
(静かに出来るなら最初からすりゃいいだろ……)
司は自分のグループに集まった女子達を見ながら、周りにバレないよう溜め息を吐いた。
模擬戦は丸々カットしました。単純に書く気力がなかったです。
キングスキャニオンのランク漁夫がきつい……元々ランクあんまやらないからどう立ち回ればいいのか分からないのも相まってランク上がんない……。それはそうと、ヴァンテージのウルト当てるの気持ちよすぎだろ!
↑一応受験生です。
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…………あっ、何か書くところ?
サブタイトルはパスファインダーのイントロ時のセリフ『話すところ?』の改変。でも(ry。
いいセリフを見つけられなかったので使いました。
専用機持ちは各々の班で割り当てられた生徒達にISの操縦方法を教えていった。
「ISっつっても自分の手足の延長だと思えばいいぜ。いつも歩いてる風に歩いてみな。……おお、やるじゃねえか! その調子だ!」
司の教え方はごく普通に、出来たら誉めて失敗したら助言する。司の人格達はISの人格ということもあって、ISをどう動かせばいいかを全て知っている。
なので少しずつ、出来るまで教える。それまでは次の項目には進まない。前の項目が出来なければ、次の項目など出来るはずもないからだ。
IS操作は基礎からしっかりやらなければ、上達しないのだ。
そんなこともあって、司の班の生徒の評判はとてもよかった。個別で教わりたい、と言い出す生徒まで出てくるほどだ。一夏やシャルルの班は訳あってクラブのような空気になっていたが、評判はよかった。
対して他の班はというと……
「歩行の際は膝を水平方向に対して90度上げて、次に足首を膝を軸に45度回転させて、最後に足首が向いている方向に足を出せば上手くいくはずですわ」
「ISの操縦なんて感覚よ感覚。自分ができるやり方で覚えるのが一番だわ」
「………」
(((((き、気まずい……)))))
上から順にセシリア、鈴音、ラウラ、そしてラウラの班員となった女子生徒達である。どの班も教え方が上手いとはお世辞にも言えない。ラウラに至っては教えることもせず、ただ女子生徒達に見下すような視線を向けるのみである。
(おいおい、この授業中に終わらなかったら放課後居残りだぞ? あいつらそれ分かってんのか?)
一番最初に班員全員の基本動作を終わらせた司が上述の三班を見ながらそう思うも、なんとか全員基本動作まで行い、授業は終わった。
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
その日の授業を終えて、司は部屋のベッドに横になっていた。セシリアは、アリーナで自主練に励んでおり不在だ。
話し相手もおらず司が退屈そうにしていると、部屋のドアがノックされた。
「斑鳩君、いますか? 山田です」
「おう、ちょっと待っててくれ」
司はベッドから跳ね起き、ドアを開ける。
「何の用だ? 山田センセ」
「お知らせですが、今月下旬から男子も大浴場が使えるようになります。時間別にすると、色々と問題が起きそうだったので、男子は週に2度の使用日を設けることになりました」
「そうなのか? そいつは嬉しいお知らせだな」
口ではこう言っているが、本当はそんなこと思っていない。理由は言うまでもなく、顔のツギハギと身体中にある傷痕だ。一夏に見られでもしたら、間違いなく問い詰めてくるだろう。
「なので、この事を織斑君とデュノア君に伝えておいて頂けますか?」
「イエスだぜ」
司は山田先生の要望に頷く。
「それではお願いします。わざわざ休憩中にすいませんね」
山田先生は一度頭を下げると、仕事があるのか少し早足で戻っていった。
「さあて、一夏の部屋までタイムアタックといくか?」
足の準備運動をしながらそう言う司。持っているスマホのストップウォッチを起動し、
「レース開始!」
その掛け声でスタートボタンを押してスタートした。
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
「記録は8秒43! なかなかいいんじゃないか!」
司はスマホのタイムを確認し、一人盛り上がる。
そしてここに来た目的を思い出し、一夏の部屋のドアをノックする。
余談だが、現在の一夏のルームメイトは箒ではなくシャルルである。そのためシャルルの部屋まで移動する必要はない。なにせシャルルの部屋はここなのだから。
「よお一夏、シャルル! 起きてるか?」
司がそう言うと、ドアの向こうからドッタンバッタンと忙しない音が聞こえて来て、慌てた様子でドアが開けられた。
「つ、司!? な、何の用だよ……!?」
一夏の様子が明らかにおかしく、表情を焦りの感情が大半を占めている。まるで、司がこのタイミングで来たことが非常に拙いと言う感じだ。
「山田センセからの伝言だ。今月末から、俺達も週に2回大浴場が使えるようになるみたいだぜ」
「そ、そうか! それは嬉しい知らせだな……!」
織斑は、焦った感情を隠そうと、無理矢理嬉しそうな笑みを浮かべようとしている。全く隠せていないが。
「どうしたんだ? 何かあったのか?」
「ッ!? そ、そんな事は無いぞ……!?」
「おいおい、明らかに動揺しすぎだろ」
全く隠せていない一夏に司は呆れる。
「ったく、とりあえず伝えることは伝えたからな」
司はそう言って自分の部屋に帰った。
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(ま、隠してることは十中八九、シャルルが女ってことだろうけどな)
部屋に帰りながら司はそんなことを思う。
シャルルの見た目や声は、男の娘という分類になるだろうが、仕草や反応は誰がどう見ても完全に女なのだ。
周りの生徒達は気づかなかったようだが、とある理由もあって司の人格達は全員気がついていた。
首を突っ込んだら間違いなく面倒ごとに巻き込まれるため、司は知らないふりをしておくことにしたのだった。
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司が一夏の部屋から自身の部屋に戻り、腿上げをしているところに、セシリアが自主練から帰ってきた。
「ただいま戻りましたわ」
「おう、お疲れさん」
セシリアが戻ってきても、司は腿上げを続ける。
対してセシリアは、不機嫌そうに自身の鞄をベッドに投げ付ける。
「どうした? 珍しく不機嫌そうだな。なんか嫌なことでもあったか?」
そのセシリアの行動を司は見逃さず、すかさずセシリアに問う。
「私、先程まで織斑さんとデュノアさんと合同で訓練していましたの。そしたら、急にボーデヴィッヒさんが織斑さんに戦いを挑んできた上に、織斑さんがそれを断った瞬間発砲してきたんですのよ。デュノアさんが防いでくれたお陰で全員無事でしたが」
放課後の第一アリーナでは、予約制だが自身の専用機もしくは学園の訓練機を利用して自主練を行うことができる。ただし監督者の許可がない状態での模擬戦は禁止されている。
「ハァ? バカなのか?」
それを知っている司はそんな言葉しか出てこなかった。
「私もそう思いましたが、どうやら織斑さんと彼女には、並々ならぬ因縁があるらしいんですの。どちらかと言えば、彼女が一方的に敵視してると言った方が正しいですが……」
「ふーん。あ、シャワーなら先に使っていいぜ。俺はあと腿上げ100回を10セットやってから入るからな」
「お気遣い感謝いたしますが……あまり無理はなさらないでくださいまし」
セシリアはシャワー室の方へ向かう。シャワー室がある洗面所のドアが閉まるのを確認して、司は腿上げを再開する。
「因縁ねぇ? あの一夏が、過去になんかやらかしてるとも思えねえが。もっと情報が欲しいところだな」
(奴の情報なら、もう既に集めてあるぞ)
司がぼそっと呟くと、それを待ってましたと言わんばかりにクリプトが言う。
(おおクリプト! いつの間に集めたんだ?)
(深夜にな。学園にいる人間の情報は、可能な限り集めている。これも司を守るためだ)
クリプトは人が寝静まる深夜に一人、ISを起動させてこの学園の人間全ての情報を集められるだけ集めていたのだ。そして裏がある、もしくは裏がありそうな人物をブラックリストに入れて、司になんらかの害がないようにしているのだ。
因みに司の人格全員がシャルルが女だと知っているとある理由というのは、クリプトによるシャルルの情報のリークである。
(奴はドイツ軍のIS特殊部隊、シュヴァルツェ・ハーゼの隊長だ。過去に『出来損ない』と呼ばれていた時期があったらしい。だが、織斑千冬の特訓を受けた結果、部隊最強の座に上り詰めた。そのこともあって、織斑千冬を狂信している)
(ん? じゃあなんでその弟の一夏を敵視すんだ?)
(第二回モンド・グロッソで織斑千冬が二連覇を逃したのは、織斑千冬の二連覇を防ぐために織斑一夏を誘拐した奴等がいたからだ。織斑千冬は織斑一夏を助けるために自ら誘拐犯の所に向かった。もちろん試合は不戦敗だ。因みに誘拐の件を織斑千冬に伝えたのは、ドイツ軍だ)
そこから先は、言われなくても理解できた。
(なるほど。愛しの教官サマが、二連覇を逃したのは一夏のせいだからってか。とんだ迷惑だ)
気持ちは分からなくもないが、恨む相手を間違っている。司は面倒な奴だな、と心の中で呆れる。
(アイツは今、復讐する対象がすぐ近くにいることで我を忘れかけてる。アイツの動向に注意しな)
ヴァルキリーが横から言う。彼女は元々、大切なものを奪われた人間の復讐のために作られたISだ。復讐に我を忘れる人間の目をすぐ近くでずっと見てきたため、復讐しようとしている人間がどんな目をしているか、彼女には分かる。
ラウラも、復讐に燃える人間の目をしていたのだ。
(ああもちろんだ)
司は腿上げをしながら答えた。
クリプトはラウラがなぜ『出来損ない』と呼ばれているかの理由も知っていますが、今後の展開の都合上省かせていただきます。
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