本当に一般的なモブだって輝きたい (血涙鬼・彼岸)
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凡庸?は舞い降りた
第一話 例えブタでも切り札だ


※:公式より来た設定をオークに追加


 

 

この世界の人里近くなら何処にでも必ずあるし何ならちょくちょく生えてくるFランク迷宮。最低ランクの……とは言え普通の人間の手には余る様な力を持った怪物が跳梁跋扈する地獄の釜底……の入り口

 

その中にある怪異怪物をどうにか出来る手段を獲得出来た者……昔は『サマナー』と呼ばれて今は『冒険者』と呼ばれる者達が日々命を賭けて迷宮を跳梁する怪異怪物を駆逐して迷宮の宝物を得て其れを糧として生きている

 

尤も、その『手段』は犯罪者では無くそれなりの金を積めば簡単に買える様なものであり。何なら其処ら辺の中学高校生でも最低限中学生であり貯蓄と保護者の許可が有るならその日のうちに簡単に『冒険者』になれる

 

……大概の学生冒険者は流行に流された小遣い稼ぎや『スクールカーストの向上』が目当てのいわゆる『エンジョイ勢』であり、強い目的やこの道に生きる気概のある者は基本的に少ない。まぁ大概の大人も小遣い稼ぎやスポーツ的なノリのエンジョイ勢や『休日冒険者』が大半だが

 

しかし……この物語の主人公は少なくともそれなり以上の気概を持った見習い冒険者ではある様だ

 

 

「ふむ……今日の探索次第なら新しいカードが一枚は何とか買えるかな?」

 

そんな言葉を一人呟きつつ……その前方に『人型の異形』を従えた一人の冒険者。その姿は俗に『タクティカルベスト』と呼ばれる防護服に大きなミリタリーリュックを背負った男……いやまだ少年か

 

まだ十五前後の高校生かどうか微妙にわからない年代の少年の前方にて少年を守る意図を以って佇む『人型の異形』……粗末な麻布製の服に身を包み、大きな鉈を持つ身長ニ米(メートル)の長身にいわゆる『固太り』とでも言うべきがっしりした体躯に豚頭の鬼

 

その『豚鬼』は俗に『オーク』と呼ばれる新米冒険者が大概入手する事になるだろう『Dクラスカード』の一種である

 

世界各国津々浦々の迷宮によくいて、基本的に腕っ節と頑丈さには定評があるがあまり賢くはなく動きは比較的鈍く不器用気味ではあり、総合力で辛うじて『Dクラス』として評価される程度の力量しかなく。そしてその見た目の悪さも相まって『不人気カード』という烙印を押されたモンスターの一種である

 

しかし……しかしながらその分安く、その気が有れば大量に入手するのも簡単であり、それなりに癖が無い

 

故に『新米冒険者の友』とも『奨学モンスター』とも『不人気カードの人気者』とも『Dクラスカード界のAK-47』とも呼ばれる新米冒険者の心強い味方としても有名なモンスターでもある

 

さて、この『Dクラスカード』と呼ばれる代物は……勿論、何処ぞの『財団』に隷属する死刑囚あがりの生贄などではなく。俗に『カード』と呼ばれる迷宮産出の魔法のアイテムだ

 

1999年の7月から発生した『迷宮』という謎の現象から発見された色々なものの中の一つである

 

そのカードに己の血を一滴滴らして『カードを使う』と念じれば自在にそのカードのモンスターを召喚・使役出来る、という魔法のアイテムだ

 

基本的に(とある例外を除いて)迷宮の中だけでしか使えないが。迷宮の中ならばその召喚したモンスターが所有者……マスターへのダメージを肩代わりしてくれる

 

 

その効果も有って『冒険者』という職業は誕生した。他にも色々と深刻な理由が……沢山あるけれどそれはいつの日にか語る日もあるだろう

 

先に言った『金で買える手段』こそがこの『Dクラスカード:オーク』であり、冒険者が必要最低限の初期投資である

 

オークの価格は最低ランクの値段ではある……それでも正規の手段で買うなら必ず百万円はする。普通に売られているDクラスカードの最低価格がこれだから仕方ない

 

他の冒険者とのコネ(と信頼)が有るなら其処から買ったり譲って貰ったり何なら借りても良い。要は『登録料十万円とDクラス以上のカード一枚』さえ有れば犯罪者以外なら誰でも……普通に大学などのサークルがそういうレンタル制度で新入部員を捕まえ、そしてそれをナンパの手段に使ったり。それこそその手段で浮浪者でも簡単に冒険者になれるのである(とある宗教団体……いわゆるダンジョンカルトが浮浪者の社会復帰によくやっている方法として有名である)

 

 

閑話休題(それはさておき)

 

 

少年は自らの僕にして大事な財産であるであるオークを先頭にこの迷宮……森林型の迷宮の最深部を目指す。

 

冒険者は基本的に迷宮内部に存在する怪異怪物……要はモンスターをカードモンスターを使って倒してその『戦利品』を頂く事で金銭などを獲得する

 

少なくともこの冒険者界隈というものは基本的に『金銭=力』だと言っても過言ではない。少なくとも最初は間違いなく『モンスターは銭で殴るもの』だと言って良いのである。しかしそれもある程度までしか通用しない前提だが

 

基本的にこのFランク迷宮ならばこのオーク一枚有れば軽々と攻略出来る……だからこそ法律は冒険者に『Dクラスカード一枚は必ず保有する事』を絶対的に義務化しているのだ

 

ちなみにもしもDクラスカードを如何なる理由であれ喪失したなら、一年に一度必ずある免許更新の際に停止若しくは剥奪される規則になっている……Dクラスは無いがそれ以上の等級のCクラスBクラスカードしかないのなら普通に大丈夫だが

 

 

そして、今日も少年とオークはこの地獄の入り口で己の糧を獲る為に戦う

 

 

 

【Tips】オーク

基本的に『指輪物語』の作者であるトールキンの想像した架空の種族(怪物)。闇の聖霊に仕える邪悪な勢力の兵士として有名な存在

 

近年ではまぁ(ごにょごにょ)な本やゲーム(ゴブリンスレイヤー的な)にて大活躍だがこの世界では基本的にそういう欲求は特に迷宮に出るモンスターとしては無い。この世界のモンスター達は『ごく一部のイレギュラー』以外は機械的に人間を襲うだけの存在である

 

基本的に本編にも書いた通りの初心者向けモンスターとして人気かつ有名であり、この作品の主人公もネットやギルド職員達の勧めもあって普通に購入した

 

基本的に『悪/鬼/妖精』の属性であり、普通は『ボアオーク』にマイナーチェンジしたり『オーガ』や『グレンデル』などのCクラスにクラスチェンジしたりするのが一般的……だが、実はクラスチェンジ先には『エルフ』も候補に入っている

 

オークはエルフの零落または堕落した姿だという説もある為だが『シーオーク』というエルフに似た異空間移動能力を持った美しい妖精系Cランクカードや『天蓬元帥』に『カマプアア』という高級路線もある(これらもCランク)

 

【種族】オーク

【戦闘力】100

【先天技能】

・集団行動:群れの中で生きる習性。集団での行動に対するプラス補正。

・頑丈:頑丈な肉体を持つ。生命力と耐久力を常時向上させる。

・怪力:人外の力を持つ。筋力が常時大きく向上する。

 

後天技能には従順や武術、斧術や庇うなどを持っている場合が多い

 

 

こういう『初心者向けの存在』というものを掘り下げたりピックアップしたりしていると世界観の新しい掘り下げが出来るんじゃないかと思ってこのたまに話に出てくるオークをピックアップしてみた

 

基本的に戦い以外の取り柄は無く……そして何より頑丈なところが初心者向けだと思う。とりあえずFランク迷宮ならただ戦うだけで攻略出来るし、何より頑丈なら初心者でも下手な采配でロストの可能性を少しは減らせると考慮出来る。ついでにDクラスカードの中でも特に沢山世に出回っている為入手もし易く何より安い

 

大概の学生冒険者はこのカード一枚から始めるのが普通だと思う。大概は『(南山や小野みたいに)親の金』だったり歌麿みたいに長い苦労の末に少ない資金をやりくりしてカードを得るのが普通だからこういうオススメから始める事が多い……稀に歌麿みたいなギャンブラーも居るが大概自爆で終わる



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第二話 狼と斧

 

 

鬱蒼と茂る森林型の迷宮の中で、少年はそれなりの……まだ一月其処らの付き合いである大事な商売道具である豚鬼であるオークと連れ立って歩く前にもう幾つかのやるべき行動を行った

 

直ぐに出せる様にタクティカルベストのポケットに入れていたオーク……ではないもう幾枚かのカードを引っ張り出してそのカードに『来い』と念じる

 

一番大事なオークのカードは別の……脇のカード用ホルダーに入れて大事に大事に持っている

 

低い獣の唸り声と共に現れたのは灰色のごわごわとした毛並みの大型犬……いや狼だ

 

これは他のFランク迷宮で見つけてから行使しているFランクモンスター『ワイルドウルフ』と呼ばれる……見ての通りの普通の狼だ

 

それなりに『強化』はしているが所詮はFランクモンスターなので大した戦力にはならないが、そのスキル的に少しだけ索敵と不意打ち対策が出来るので以外と重宝している従魔である

 

……少しはちゃんと使いこなせる様になる迄に3回はロストして今では四代目だが

 

そして、もう一枚……ギルドのワゴンセール的な新米サポート用設備からたまたま見つけた『掘り出し物』をそのままオークに渡す

 

そのカードは基本的に人間ではなくカードモンスターが使う為のものであり。そしてそれを使えば……

 

オークの手には先の大鉈ではなく、無骨ながらもしっかりした造りの非常に大きな両刃の戦斧……いわゆるバトルアックスが存在していた

 

これもまた迷宮産の魔法の道具『魔道具』と呼ばれる歴としたマジックアイテムである……が、非常に残念な不人気アイテムとして有名な代物だった

 

銘は『凡庸の大斧』、武器としてかなり頑丈かつそれを使うモンスターの戦闘力に+30という効果をもたらすが……それなり以上の体躯と腕力が無ければ使用不可能という制約のある装備アイテムだ

 

こういう序盤ならそれなりに役には立つがある程度力量が付けばむしろ邪魔なだけのお荷物になる程度の代物だ。それに『初期装備』というそのモンスターが最初から持っている装備と違って『壊れたらそれまで』だし

 

現に……この大斧も元の持ち主が廃品処分も兼ねてギルドに二束三文で捨て売りしたものをワゴンセールで見つけて買い込んで来た代物なのだ

 

ちなみにお値段はたったの十万円。迷宮踏破の際に出てくる通称ガッカリ箱から産出される……中でもかなりガッカリな代物として悪名高いアイテムである

 

売値はだいたい同じ重量の屑鉄程度、しばらくワゴンセールに置いて買い手が付かない場合は屑鉄リサイクル送りになる為……だが、一応は『カード化能力』のあるタイプだから売値は一万円でワゴンの中で埃を被るだけで済んでいただろう。それとカード化能力を持たないタイプなら一万円も有れば買えたかも知れない。下手すれば20kgはある物騒な鉄塊をえっちらおっちら抱えて迷宮に行かなくてはならないが……少なくとも対象カードに渡す迄は

 

しかし、こういう『きちんと育てたオーク』を使う初心者にとってはそれなり以上に有り難い道具でもある

 

『ゴレ……イイモノダ』

 

少々難のある発音ながらも(むしろこのオークはオークという種族にしては流暢に人間の言葉を操れている方だが)『武術』と『斧術』を両方しっかり後天技能として獲得しているこのオークは主人から貰った大斧を殊の外気に入った様である

 

新しい武器の素振りを終えて準備は万端……だが、あと何枚かカードはあると書いた。ならもう何枚か召喚して戦えば良いのでは無いか?と思う人もいるだろう

 

だが……残念ながらこのFランク迷宮では一人が一度に召喚・使役出来るモンスターは2体までと決まっている。一応『抜け道』はあるが今現在では無理だと断言出来る方法だが

 

迷宮では『ランク毎に召喚出来るモンスターの数が定められている』というルールがある。これは『普通の世界の普通の物理法則みたいなもの』とでも考えれば良い。先の『抜け道』は『鳥は空を飛べる、魚は水中を泳げる』みたいなものと考えれば宜しい

 

だから現状ほぼ唯一のメイン戦力であるオークと警戒・索敵要員のワイルドウルフを召喚して準備は完了だ

 

 

今回潜る迷宮は『森林型/九階層』のFランク迷宮としてはかなり高いレベルの代物だ

 

この『森林型』と言うのは『迷宮は森林の様な姿をしている』という意味であり、この迷宮が発生した場所が例えば都市部の新築の民家だったりしても外との関係は一切ない。勿論ちゃんと『管理』しておかないと後でえらい事になるけれど

 

そして階層は……これの数次第で『迷宮のランク』が決まる重要極まりない情報だ

 

もしもこの迷宮が『成長』したら直ちに『Eランク迷宮』に昇格してしまう程に

 

少年は『一つ星冒険者』と区分される、今居る様な『Fランク迷宮』にのみ侵入を許されているド新人でしか無い。一応は『これ以上の迷宮に合法的に侵入出来る裏技』も存在するが……先ず『コネ』が必要である

 

今Eランク迷宮何ぞに行こうものなら……多分唯一の主力であるオークをロスト、ついでに自分の命もロストしそうだから今は絶対に行かないが

 

 

閑話休題(それはさておき)

 

 

前方にオーク、やや後ろにワイルドウルフ、その内側の護衛対象として少年と、この程度の迷宮で今の戦力ならばかなり最適解だと言える編成と布陣だ

 

普通の新米冒険者なら編成はオークだけでそれを自分の傍らに置いてオークの邪魔にしかならないだろうが

 

少なくともワイルドウルフみたいな気休め程度でも警戒・索敵(兼囮)要員を用意する様な気の利いた者はあまり居ない

 

大半の新米冒険者はDクラスカード以下の下級カードを馬鹿にしてあまり使わない傾向にある……『女の子カード』だとか『有名なお役立ちカード』みたいな代物でもない限りはまずあまり使おう……ましてや育成するという発想には至らないらしい

 

 

基本的にこういうFランクカードは大概はギルドに売られるのが普通だ……女の子カードや人気のあるカードみたいな例外でも無い限り一律千円で売れる。そして学生冒険者はそれや他の収入をお小遣いとして豪遊したりするのが普通なのだ

 

そして……ちゃんとした上昇思考を持った学生冒険者は逆にその収入を貯めてゆくのがセオリーとなる

 

そうして学生冒険者は大半を占めるエンジョイ勢と少数かつ精鋭のガチ勢に別れてゆくのである

 

 

そうして……一人と一体と一匹が森林を進むと。この迷宮に棲まう怪物とでくわした

 

それは……黒ずんだ緑色の、卵が腐ったかの様な悪臭を放つ醜い小鬼だった

 

ゴブリン

 

世界中のどの迷宮にもほとんど必ず存在する冒険者にとっては日常的に見かけるありふれた魔物の中のありふれた魔物だ

 

この鼻が曲がりそうな悪臭のおかげでワイルドウルフは索敵要員としてやってゆけるのである……現にこの悪臭を遠くから嗅ぎつけたワイルドウルフが低い唸り声を上げて少年とオークに警告を促した。だからこのゴブリンには先手を仕掛けられる

 

少年は狼とオークに攻撃指示を出した

 

 

 

【Tips】ワイルドウルフ

 

大型犬サイズの灰色狼、ぶっちゃけてこれだけのFランク最弱クラスの雑魚モンスター

 

それでもきちんと武装していない人間ぐらいなら初期の……それこそ迷宮一階に出る最弱状態のワイルドウルフでも簡単に仕留める事が出来る程度には強い(原作最序盤程度に武装した一般人……歌麿レベルならまぁ一対一なら比較的何とかなる範囲だが)

 

一応は先天技能として集団行動を保有しているのでオークとはシナジーがある……それしか無い、というだけの話だが

 

一応は狼なのでスキルは無くとも嗅覚は敏感なので索敵・奇襲対策要員として起用した

 

属性は『獣/犬系統』でぶっちゃけ使い捨て前提の運用になる程度の強さしか無い……が、鍛えてEランクのヘルハウンドやDランクのライラプスなどにクラスチェンジさせる育成系マスターもたまに居たりする

 

 

【種族】ワイルドウルフ

【戦闘力】15

【先天技能】

・集団行動:群れの中で生きる習性。集団での行動に対するプラス補正。

 

後天技能で追跡や嗅覚、索敵、奇襲といった技能を獲得している事がある



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第三話 Fランク迷宮だって命懸け

 

結論から言えば……流石にゴブリン一体程度なら素手でも簡単に退治出来るオーク。しかも最低ランクとはいえ武装し、更にはそこそこ鍛えているそれなり以上に優秀な当たり個体。ついでにオークの鈍足をフォロー出来るワイルドウルフが付いている

 

十秒すらも要らずにゴブリンは撃破されて身体は迷宮の成分に還っていってしまった

 

そして……ゴブリンの斃れた辺りには小さな、黒曜石の様にも見える黒い小石が残されていた

 

その小石は俗に『魔石』と呼ばれるある種の万能資源である

 

このゴブリン辺りから採取出来る最低クラスの代物でも常に需要は豊富であり必ず一律の値段で秤り買い取りして貰える……なんでも、クリーンなエネルギーにも最高の肥料にも医薬品の材料にもなるとかならないとか?

 

そして……それは冒険者自身にも色々と需要は存在する。冒険者独自の使い道は何時か後述

 

そして……それから三十分もしない内に何体かのモンスターに遭遇するも簡単に撃破成功。そして幾つかの魔石ともう一種類の戦利品を獲得出来た

 

先のゴブリン……の姿が描かれたカード、そう。ゴブリンのモンスターカードだ

 

モンスターカードはこの様にその対象のモンスターを斃して獲得する物なのだ

 

モンスターカードは元々、迷宮が発生した時に稀に出てくる『何だかわからないカード』として今現在で考えたら間違いなく捨て値で市場に出回っていた代物である

 

そして……それから何やかんや紆余曲折の大騒動の果てにその正しい使い方が判明したのである

 

皆様は第一話の『サマナー』という言葉を覚えていらっしゃるだろうか?それがその何やかんや紆余曲折の大騒動の最中でカードを所有し、そして偶然カードの本当の機能を発見した『冒険者の前身系』である

 

その大騒動……『アンゴルモア』と呼ばれる未曾有の大災禍についてはまた何時か話そう。これはかなり長い話になる

 

そんなこんなでオークと狼を率いた少年は破竹の勢いで迷宮の最深部へと足を進めていった

 

この迷宮には雑魚の代名詞であるゴブリン、ワイルドウルフ、そして迷宮の掃除屋(またはスカベンジャー)たるスライムしか居ないらしい

 

あまり実入りの宜しくない迷宮の様である

 

少年の様な新米……アマチュアもアマチュアの『一つ星冒険者』にとっての収益は『モンスターを退治して獲得する魔石とカード』、そして最深部に存在する『お宝』と『攻略報酬』、後は『ギルドからの依頼』もあるが基本的に依頼は取り合い状態でアマチュアでは滅多にありつけない……原作主人公だって滅多にありつけないレベルで希少なのだ

 

普通の新米冒険者なら少なくとも此処まで速く手際よくは進まない。基本的に少年はモンスター達に出す指示は最低限にしてなるべく自由に彼らを運用していた

 

普通の新米冒険者だと……いちいち無駄に指示を出して逆にモンスター達の邪魔にしかならない事が多い。特に駄目なエンジョイ勢辺りにその傾向が強い様だ

 

そして……それらの要因を重ね重ねた後に手酷い失敗を冒し、少なくとも学生としてなら莫大な借金を背負い冒険者廃業の憂き目に遭う冒険者は毎年必ず一定数は存在していた

 

この借金は手酷い失敗から命だけは拾う為の緊急措置に関わる必要経費であるが……

 

中には莫大な借金では済まずに命を落とす冒険者だってそれなりの数存在する……そう、最低最悪の『イレギュラー』が迷宮には必ず存在しているのだ

 

 

閑話休題(それはさておき)

 

 

とりあえず今日も不運と踊らずにご安全に最深部のボス部屋に到達出来た様だ

 

鬱蒼とした森の奥深くにあるだいたい体育館程度の広場には今回の『普通の』迷宮主が居た

 

その姿を見て少年はひゅうっ、と口笛を小さく鳴らす。

 

その迷宮主は……今連れているワイルドウルフよりも一回り大きな狼、いや猟犬に見える。

 

犬としてならばドーベルマンが近いだろうか?しかし普通のドーベルマンと違う一点がある……

 

 

『炎を纏っている』

 

 

その猟犬の様な何かは『ヘルハウンド』と呼ばれるEランクモンスターの一種だ

 

イギリスの凶事に纏わる妖精の一種とも言われている怪物とも、墓守りの魔犬とも謂れる怪異の一つとも言われている存在である

 

同じ『黒妖犬シリーズ』の中では最弱の部類ではあるが……それでもEランクモンスターとしてはそれなり以上に強い怪物だ

 

しかもこいつは『ボスモンスター仕様』である為か迷宮からのバックアップを万全に受けている……恐らくは生命力が幾らか強化されたり下位同族の召喚が出来たり色々強化が施されている

 

ちなみに……この迷宮の基本的な情報は最初から購買済みであり。このヘルハウンドの情報も既に割れている

 

このヘルハウンドは下位同族の召喚と生命力倍加の特性を持っている事が多いらしい

 

まぁ……召喚出来るのは弱体化したワイルドウルフを二十秒に一匹召喚する程度だが

 

しかし、召喚出来るのが『弱体化ワイルドウルフ』だからと言って舐めてかかると痛い目に遭うだろう

 

こういう『眷属召喚』で召喚した魔物は基本的にその魔物の最低限スペックの八割程度の力量しか無い上にスキルも先天スキルしかない

 

しかし……ワイルドウルフの唯一しか無い先天スキルを皆様は覚えていらっしゃるだろうか?

 

『集団行動』

 

『群れで行動する事に補正が向上するスキル』である

 

そんなスキルを持っている存在が次々召喚される……はっきり言ってヒドい話である

 

しかし。それでも今回のヘルハウンドには元来無いスキルであり、所詮はFランク迷宮のボスモンスター。そのスキルで召喚出来る眷属には制限が存在する

 

『最大九匹まで』であり『一度に維持出来るのは三匹まで』

 

だけど……ヘルハウンド自身も炎を纏い、そう何度も出来ないが火を吹く能力を持っている。そしてワイルドウルフとは比べ物にならないレベルで強いモンスターでもある

 

まずオークの方がよっぽど強いけど

 

今回のボスは個人的にもかなり美味しいモンスターだ。少年は自分の側に侍るワイルドウルフを見て小さく祈った

 

 

『どうかこのヘルハウンドがドロップします様に』

 

 

この何気に使い勝手の良い狼を少しは強化出来そうな良いモンスターが来てくれたのだ。これは嬉しい話だ

 

冒険者にとって自分のデッキに組み込めて戦力として計算出来るカードの補強は常に大切な事だ。それこそ少年も授業中であろうともたまにその費用捻出に頭を悩ます程に

 

『新しいDランクカードを買う』か、それとも『このヘルハウンド辺りを買う』かで最近は少し悩んでいた……やはり冒険者にとって一番大事な『Dランクカードの頭数』を優先する事に天秤が傾いていた時にこの迷宮の存在を聞いたのだ

 

『運が良ければヘルハウンドを只で入手できるかも知れない』と、淡い期待を抱いてこの迷宮の地図やデータをギルドから買い取り(お値段凡そ一万五千円哉)明日は休みである事を利用して今日はがっつりゆく事が出来る

 

少なくとも『オーク一枚あれば余裕』と判断出来る……比較的雑魚しか居ない、かつヘルハウンドが良く出る迷宮を選んだ結果がこの迷宮だった

 

一応、今の戦力もちゃんと補強はしたし。ある程度の準備も出来た

 

初級攻撃魔法一発分程度の威力を持った魔法の石が三つ、軽度の骨折や多少深い傷なら瞬く間に癒す魔法薬一つ、それと熊撃退用催涙スプレー幾つか……まぁ、あのヘルハウンド相手に役立ちそうなアイテムはこのくらいだろうか?

 

少年は最下層の出入り口……要は『安全地帯』でもある階段付近で小休止をとる

 

オークとワイルドウルフに買って来ておいた鳥の丸焼きと飲み物を与え、自分はエネルギーバーをスポーツドリンクでゆっくり食べる

 

さて……どう挑んだものか?

 

 

【Tips】凡庸シリーズ

 

 

迷宮から時おり産出される『魔道具』の一種……なのだが、その中でもハズレ扱いの不遇な代物

 

近接系の武器ばかりであり、半々の確率で『カード化能力』を持っている……が、効果が『戦闘力+5から30』というだけしかない

 

+5なら短剣や杖みたいな軽い装備、+10から15なら普通の武具、それから+ 30と存在するが、その+ 30は少なくともオークみたいな怪力と頑強さが無いと使えない仕様になっている

 

+15迄なら普通の人間にも使える……けれど普通はカードに持たせて戦わせるだろう。そして使えるカードが増えたら大概ギルドに捨て値で売ったりする……前に壊れてしまうだろう。それなり以上に頑丈ではあるのだが

 

+5から15までなら需要は初心者を中心にそれなり以上にあるが、+ 30は余りにピーキーな仕様故に『カード化能力』を持たないものは大概迷宮に捨てられてゆく運命にある

 

+5から15迄ならだいたいどんなものでも三十万円もあれば買える……が、大概の冒険者はそんな金が有れば『新しいDランクカードの積み立て』に充てるだろう

 

+ 30の武具なら『オーク使い』ならば需要はある……が、そのオークに適した武具かは分からない。中には適応出来ずに無駄金になるだけだったというケースも多い……が、基本的にオークは不器用である

 

そしてデザインも全て『いかにもな量産品』といった風情なのでやはり人気がない



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第四話 戦うよりも狩りが好きです、でも収穫物はもっともっと大好きです

 

さて……このヘルハウンドに挑むにあたり。今の布陣では流石に駄目だろう

 

オークは良い、オークは最大の戦力だしこういう時こそ一番必要だ

 

しかし、流石にワイルドウルフは駄目だ

 

今のこいつは確かに『ワイルドウルフ』という種族としては最高の領域に仕上がっただろう……

 

だが、所詮はFランクモンスターである

 

ヘルハウンドの一撃までは辛うじてどうにかなる(かも知れない)が、残念ながらヘルハウンドは『素早いモンスター』なので出せばまず確実にロストするだろう

 

このワイルドウルフを強化する為に来たのにそれをロスト前提の運用……それは何の冗談だろうか?

 

ヘルハウンドは『準Dランクモンスター』として有名な、少年達(普通の)一つ星冒険者にとっての強敵だ

 

この猟犬を舐めてかかり(間違いなく)唯一のカードを失い、ギルドから貰った『冒険者ライセンス』という(人工の)魔道具で救難信号を発動する羽目に陥った冒険者は偶に存在する(そしてその『救出料金』で借金塗れになって廃業である。何しろFランク迷宮なら百万円、Eランク迷宮なら一千万円もの大金が必要なのだから……大事な商売道具もロストしているだろうし)

 

ちなみに……ギルドへの登録料はだいたいこのライセンスの料金だと言われいる

 

そしてこのライセンス、実はEランク迷宮ではそんなに過信は出来ない(理由は何時か後述)し……そして『本当に最悪の危機』にもまた役には立たない(これもまた何時かに後述)

 

まぁ……そんな微妙に当てにならない保険はさておき。少年はワイルドウルフをカードに戻した

 

『オーク一枚で挑む』などとヘルハウンドを舐めている訳では無い。流石にそれでは『賭け』になってしまう(少なくとも『賭け』として成立する程度には)

 

少年はギャンブルというものは基本的に嫌いなのだ。少なくともギルドに有った『カードパック』なるものに手を出そうとは思わない(せめて百万円が端金になる迄は)。無謀かつ無意味な賭けなぞ以ての外だ

 

一応、それなりにEクラスモンスターの強敵に挑んで撃破した経験はある。先に挙げた魔法の石や他の道具を利用したり、他の冒険者と簡易チームを組んだり、時には数だけはあるFランクカードを捨て石にして『勝負』をどうにか『狩り』の内に収めた経験もある

 

全て、この迷宮と同じく『深いFランク迷宮』での話だ

 

迷宮は基本的に『深度=難易度』だと思えば良い。大概のエンジョイ勢や休日冒険者達は浅い迷宮に潜って小遣い稼ぎを行なっている(そして深度の深い迷宮にうっかり入って先に挙げた末路を遂げる)

 

少年の様になるべく深い迷宮に潜って己とカードを磨き、次へ次へと邁進する……彼らみたいな存在を『求道冒険者』と呼ぶ(ある意味、原作主人公が結果的に至った境地である)

 

そして……少年もまた、先の様に『Fランクカードを次々捨て石にして辛勝』みたいな無様は出来ればもう二度とやりたくは無い(必要なら何時でも覚悟を決めて行うが)、どんなに安く簡単に入手できるカードとは言え一応は『財産』であるし

 

それと……その時、幸運にも獲得出来たその強敵だったEクラスカードなら一枚だけデッキに存在している(もう一枚有ったが……流石にゾンビだったから売り払って斧代の足しにした)

 

今まで使わなかったのは……ぶっちゃけそのカードは探索能力が碌に無い上に足が非常に遅い、というだけの理由だ

 

一応、この迷宮以外の場所でもそれなり以上に鍛えてはいるしコミュニケーションも取ってはいる(むしろ現在の対ボス戦ではオークの次に大事な戦力である)

 

そのモンスターは基本的に感情が希薄で会話能力も最初から無い。筆談しようにもペンなど握っても直ぐに壊してしまう馬鹿力なので動作による『YES /No』でしか会話が出来ないのだ

 

少年は、契約したカードをしまっているポケットからあるカードを引っ張り出して念を送る

 

そしてそのモンスターが召喚された

 

 

そのモンスターはオークと同じだけの背丈であり、オークよりかは少しだけシャープなシルエットをしている。

 

しかしその身体は石で出来ている

 

そのモンスターの名前は『ストーンゴーレム』、ユダヤ教のラビ(指導者とも祈祷師とも言える存在)が操るとされている魔法の操り人形の一種である(本来なら泥人形の事だが、そっちはFランクモンスターに存在している)

 

モンスターとしての性能は……言わば『劣化版オーク』である

 

基本的にオークと同じく腕力と耐久力、ついでに防御力には定評はあるが……敏捷性が無く、不器用の極みかつ判断力が全く欠如していて融通が効かないのでマスターがいちいち指示を出さないと上手くは運用出来ない

 

先にも言った通りに不器用の極みなのでオークの様に武装しての強化も基本的に不可能なのである(岩を投げるとか丸太を抱えて突撃とか程度しか出来ない)

 

その代わり疲労も痛感も無いのでどれだけでも動けるし、幾らでも酷使が出来る(何処かで『迷宮の外で召喚出来るなら重機やフォークリフト代わりに使えるのに』、とかぼやいている色々な兼業冒険者が居たとか居ないとか)

 

一応、このストーンゴーレムも育て方次第では感情を得て不器用を克服する事も可能らしい(そういうブログと育成記録が存在しているのだ……原作にも『イライザ』というケースがちゃんとある様に)

 

そんな今現在、少年にとっても貴重なEランクカード……切り札の一枚を切って猟犬に挑む準備は完了した

 

 

……それから十分後

 

 

大した苦労もなくヘルハウンドをオークの斧で仕留める事に成功していた

 

まぁ……普通なら素のオーク一枚でもヘルハウンドなら問題なく仕留める事は簡単だ(このヘルハウンドは『ボス補正』で強化されているが)

 

丁寧に育成したDランク&Eランクカード二枚相手なら多少強化された程度のヘルハウンド程度では最早事故などあり得ない話である

 

少年はこの一戦を『戦い』ではなく『狩り』にする為に色々な手間暇や資金を掛けてやってきたのだ

 

少なくとも今の状況で勝負や賭けなぞまず出来ない。今の少年にあるチップはオークのカード一枚と新しいカードの為の貯蓄、そして己の命だけだ

 

貯蓄だけならまた一から(直ぐにでも)出直せる。オークのカードだと出直しの時間はかなり掛かるがやはりまだ出直せる……しかし、命は一つだけでやり直しは効かないのだ

 

世間様の評価なら『中の上』とでも評価されるだろう平々凡々なありきたりな一般家庭の一人息子

 

中肉中背、何処にでも居る様な平々凡々な顔、成績も運動神経もだいたい平均的な今年中学三年生になったばかりの小僧だが……両親の説得と多少の援助を勝ち取って冒険者デビュー一月目

 

子供の頃、世界中の誰もが体験した『ありきたりな出来事』がきっかけで冒険者を目指し、そして今この場所で『狩人見習い』だ……まだまだ『冒険者』とは言えないかも知れない

 

『冒険者』ならは少なくとも『戦う覚悟』が必要だろう……断言しても良いが少なくとも今までの様な『狩り』ばかりでやってゆけるほど冒険者という稼業は甘くはない

 

『求道冒険者』として迷宮に潜るので有れば何時かは必ず『絶望』に出会すだろう

 

少なくとも……今遭遇すれば間違いなく悲惨な最期が待っているだろうその『絶望』に対処する為に『狩人見習い』みたいな金策とデッキビルドをせこせこ頑張っているのである

 

迷宮には沢山の夢がある……お宝や名誉、美少女モンスターみたいな幸せな夢だけでなく、危険で悍ましい災禍やら何やらみたいな悪夢だってある混沌の坩堝だ

 

少年は、その夢の坩堝の浅瀬で悪夢をおっかなびっくり避けつつ幸せな夢の欠片を拾い集める狩人見習い……いや、まだ只の採取人でしかない

 

今は『狩人としての武器』を作る為に頑張っている状態だ

 

そして……少年の新たな『武器』はどうなるだろうか?

 

 

『戦利品』を拾ってオークが少年の元にやってくる

 

そして……その手のひらには?

 

 

 

何時ものものより幾らか大きな魔石だけが其処にあった

 

要は『今回はハズレ』である

 

少年も『それが普通』だと理解しているのでもう一つのお楽しみに目を向ける。このFランク迷宮巡りで一月二枚ならむしろ普通に幸運の範囲である(そして一枚でも『使える』範囲のモンスターなら更に倍率ドンだ)

 

広場の中央に何やら豪勢な宝箱がある

 

それは迷宮攻略の報酬である『ガッカリ箱』だ

 

何故に『ガッカリ箱』かと言うと……ただ単にその箱の見た目と裏腹に中身は大概ショボいものばかりだからである

 

極めて稀に『良いもの』が出て一躍莫大な金を獲る冒険者の話もある……大概『宝籤当選者の未来』みたいなオチを迎えるらしいが

 

ちなみに……オークが持っているあの大斧もこのガッカリ箱からの贈り物らしい

 

ちなみに……こういう『迷宮攻略報酬』として出てくるガッカリ箱には決して罠は無い(少なくとも今まで一度もそういった報告は無い)

 

少年は宝箱に手をかけ、そしてその蓋をゆっくり開く

 

中身は……

 

 

どんなガッカリ箱にも必ず有る白い水晶みたいな石。俗に白魔石と呼ばれる……迷宮攻略達成の証である特別な魔石だ。この階層だから少なくとも九万円はするだろう(Fランク迷宮の白い魔石はだいたい『階層×一万円』が基本的レートである)

 

ちなみに……二つ星冒険者には『十ヶ所のFランク迷宮攻略』と『Dランクカード一枚の保有』で昇格試験を受講する権利を得られる。要は少なくとも十個はこの白魔石をギルドに納品することが条件だ

 

それと……大概ガッカリな結末に終わる『もう一つの中身』は?

 

 

『それ』は……何かの革で出来た。まるでモンスターカードや魔道具カードなどの様な『迷宮のカード』がピッタリ入りそうな、そんな薄いカードホルダーがくっ付いた黒いベルトだった(西部劇に出る様な『ウエスタンガンベルト』みたいな……ガンホルスターの代わりにカードホルスターの付いたデザインの)

 

……どうやら、今日はとんでもない『大当たり』を引いた様だ

 

 

それは『カードホルダー』と呼ばれるプロ……少なくとも三つ星からの必需品として有名な魔道具だ

 

保有しているモンスターカード、魔道具カード、手持ちには無いが使い捨ての魔法が使えるマジックカード等の『迷宮製カード』なら無限に収納出来てしかも所有者の意思で『欲しいカード』が手元にやって来てくれる機能すら付いた。しかも所有者以外には決してカードを取り出せない防犯機能付きのもの凄く便利なアイテムだ

 

ちなみに……値段は市場だと三千万円だが、余りにも人気が高く市場そのものに滅多に流れない

 

市場に流れるとするなら大体は『予備もあるけどダブった』とか『引退した冒険者が市場に流した』、レアケースだが『その冒険者の破産や犯罪等での賠償で没収、市場に流れた』だとかいった理由ぐらいだろう

 

もう一つ挙げるなら『金目当てに幸運なエンジョイ勢が即売った』とかか?

 

この少年の場合は勿論……

 

ベルトに収納しているナイフ……いわゆるサバイバルナイフを取り出して左親指に切っ先を向け。軽く刺した

 

ぷくりと少量の血液が珠の様に出たのでそれをベルトのバックルに垂らす

 

……要は『カードとの契約』と同じだ。これでこのカードホルダーは『少年のもの』となった

 

 

 

ちなみに……ヘルハウンドは三回目のリテイクでドロップした

 

 

【Tips】ストーンゴーレム

 

ユダヤ教のラビ(指導者とも祈祷師とも言えるユダヤ教の祭司みたいなもの)が断食や祈祷といった儀式を以てして作成し操る魔法の人形

 

本来なら泥人形の事だが、それはFランクモンスターとして存在している

 

以外とバリエーション豊富でFランクには泥、木、紙製のゴーレムが存在し、Dランクなら鉄と銅のゴーレム……他にも錬金術関連ならだいたいクラスチェンジ候補になるらしいしC、Bランクにも更にゴーレム系統が存在するらしい(ちなみに……このゴーレムの最終進化系統の一つには『フランケンシュタイン・モンスター』や『哪吒』などが存在する)

 

『(主に額などにある)核』を破壊しない限り決して破壊出来ないしぶとさを持ち、決して疲労もしない上に怪力持ち

 

但し……岩で出来た身体だから非常に不器用かつ鈍足でちゃんと育成しない限り決して複雑な命令はこなせない上に融通も効かないという欠点も存在する

 

普通なら『一芸特化型』としてDランクカードの代用扱いとして運用されるのが普通だが、真面目に育成すれば案件強くなる素養はある玄人仕様の渋いモンスターでもある

 

【種族】ストーンゴーレム

【戦闘力】80

【先天技能】

・自動人形(下級):魔力に因って作成された操り人形、しかし素材があまり宜しくない為デメリットの比率が高い(『生きた屍』の自動人形バージョン。絶対服従、状態異常耐性、知能低下、不器用、怪力、疲れ知らずを内包する)

・石の身体:身体が石で構成されている。刺突や斬撃には強いが打撃には普通、魔法攻撃にやや弱い

 

後天技能には火事場の馬鹿力などが多い……内包するデメリット技能の清算などが優先される事が多い

 

何気に絶対服従持ちなので訓練(プログラム)次第で色々成長できる……が、かなりピーキーな仕様なので大概のマスターは一時使いか使い捨てするのが普通の悲しい存在(見た目も悪いし所詮はEランクモンスターだしで)

 

『ちゃんと命令すればオークの代替品』というのがこのストーンゴーレムの評価だが余りに面倒くさい仕様なので人気は無い

 

しかし……ちゃんと育成すればする程どんどん輝きだす『冒険者を映す鏡』の様なモンスターでもある




まさか……まさか原作者自ら来てくれるとは、このリハ○の節穴ではわからなかったよ


真面目にありがたやありがたやです

そして……お気に入り登録してくれた人や評価してくれた、感想くれた人等々。全てのこの拙作を読んでくれた人に、ありがとうです


……それと最後にアンケートを一つどうぞ(三つとも必ず必要だから入れます、優先順位ですよー)

追記:この中に『女の子モンスター』は絶対に居ません。全て普通の不人気モンスターばかりです


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【不人気な】新米冒険者なら最初はこれ【人気者】

とりあえず……これが『アンケートのヒント』ですよ


39:名無しの新人冒険者

やはり最初はオークが鉄板だよな?

 

40:名無しの新人冒険者

そりゃ安い、硬い、力強いし頑丈だしでギルドも常にオススメしているしな

 

41:名無しの新人冒険者

同じ価格でホブゴブリンとかはどうよ?

 

42:名無しの新人冒険者

あれは……オークとは違ってまた良いカードなんだよな。何気に

 

43:名無しの新人冒険者

基本的にステータスは全て平均的、そこそこ賢くて個体ごとに特技はバラバラだから欲しい技能持ちを一から探す必要があるんだよな?

 

……正にモンスター界のGM

 

44:名無しの新人冒険者

オークはザクってか?

でも大概戦士、遊撃手や盗賊ばかりなんだよな

 

45:名無しの新人冒険者

魔法持ちもたまに居るけど値段ガガガ……

 

46:名無しの新人冒険者

メイジホブゴブリンってのも居るけど魔法系は初心者にはあまりオススメ出来ないよな?

 

47:名無しの新人冒険者

素人に魔力管理何て無茶だろ?だからオークとホブゴブリンがギルドのオススメモンスター何だぞ

 

48:名無しの新人冒険者

ギルドの忠告を聞かずに魔法アタッカー最初に買ってから迷宮深部で魔力切れで遭難、そして救助費用でアボンするアホの話はたまに聞くよな?

 

49:名無しの新人冒険者

それで現物支給されたジャック・オー・ランタンおいしいです

……実質二十万円でDランクカード買えた様なもんだしな

 

50:名無しの新人冒険者

魔法系アタッカー獲得にたまに有るよなそれwww

 

51:49

それでその魔法系アタッカーに八つ当たりしているアホ…いやアホ未満か、そんなのも偶に居るよな

 

……そのジャック・オー・ランタンも不信系マイナススキル付いてしまいました

 

52:名無しの新人冒険者

あー、それは……ご愁傷様だな

 

それで、そのジャック君はどうしたよ?

 

53:49

うん、それでも『何かの縁だ』と頑張って今じゃうちのスタメンだよ。忠誠も生えてきてくれたから名付けして大切にしているよ

 

そろそろクラスチェンジを考慮しているんだが何が良いかな?

 

54:名無しの新人冒険者

おいおい49、それは流石にスレチだろ?

 

でもお幸せにな

 

(以下、49とジャック・オー・ランタンへの祝福が続く為割愛)

 

88:名無しの新人冒険者

それはそうと……最近二つ星試験受けたいんだけど。何かオススメカード有るかな?

 

当方Dランク所持戦力はオークとライラプス、予算は二百五十万円也

 

89:名無しの新人冒険者

それなら……前衛と索敵なら大丈夫みたいだし、先ずは罠探知と解除持ちのホブゴブリンとかかな?一応遠距離対策にジャック・オー・ランタンとかも良いかも?

 

もう少し予算が有れば……いや、回復役は何気に高いからFランクのピクシーとかを複数用意するとか罠探知にはブラウニーとか色々節約テクニックはあるけど

 

90:名無しの新人冒険者

今のところは遠距離対策と罠探知に索敵が出来るなら脳筋編成の方がやりやすいかも知れないな

 

たまに『出物のキキーモラ』とかあるけど見てくれがアレだしな……見てくれさえ我慢出来るならかなり良い買い物になるだろうけど

 

……だいたい百八十万其処らだから俺らでも手が出せる。見てくれが悪いだけで

 

91:名無しの新人冒険者

なぁ、その見てくれの悪い出物キキーモラって何だ?キキーモラって女の子モンスターだろ?もしかしてウンコッコカードとかオススメしてんのか?

 

92:名無しの新人冒険者

いや、キキーモラには少女、幻獣、老婆の3タイプが存在している……ネイティブのロシア以外では

 

93:名無しの新人冒険者

キキーモラは大概少女、稀に幻獣……そして更に稀に老婆型がドロップするんだ(白目)

 

94:名無しの新人冒険者

『誰も喜ばないレア』だと三つ星界隈では悪名高い話さ……

 

95:名無しの新人冒険者

ついでに3タイプの中では一番性能低いし

 

96:名無しの新人冒険者

でもキキーモラ自体が『廉価版シルキー』だとも言われているんだよな。戦闘力が少し上がって眷属召喚スキルオミットの

 

97:名無しの新人冒険者

メイジホブゴブリンのなかで回復魔法持ちを探す方が一番早いまである……けどメイジホブゴブリンって魔法使いとしては微妙過ぎるからな

 

98:名無しの新人冒険者

そうそう……中途半端に戦士系スキルもあるからかなりとっ散らかった感じだしな

 

99:名無しの新人冒険者

そして回復ホブは実質老婆キキーモラよりも数が少ないしな……百五十万円が市価だけど

 

100:名無しの新人冒険者

Dランクに限らず回復系は女の子モンスターばかりだしな

 

101:名無しの新人冒険者

それでも……それでも装備型モンスターよりかは有るからまだマシなんだよな

 

102:名無しの新人冒険者

まあ、うん。装備型はマジで希少だしな……何だよリビングアーマー八百五十万とか金策マジ厄介過ぎるぜ

 

103:名無しの新人冒険者

一応は小袖の手とかEだけどリビングウェポン、手の目とかあるけど……皆リビングアーマーの劣化版だしな

 

一反木綿とかは装備型としては弱めだけど特殊能力凄いしな……まるで廉価版デュラハンだし

 

特に手の目とかマジ取り扱い難しいし……かなり珍しい能力だけどさ

 

104:名無しの新人冒険者

小袖の手なら割と面白い使い方出来るからマジお気に入り

 

……軽く四百五十万円はしたけど……しかもマイナススキル付きで(白目)

 

瑕疵無しならだいたい五百万らしいし

 

一反木綿は平均九百万だけど『飛行能力付与』はマジ貴重だよな

 

リビングウェポンならEランクだけどモノ次第で百万はかかる

 

手の目は……普通のEランク価格だけどな

 

105:名無しの新人冒険者

それでも空間型よりはまだマシだがな

 

106:名無しの新人冒険者

Dランクにも幾つかある空間型で代表的なウィンチェスター・ハウスでも最低価格一千万オーバーのガチ高級品だしな

 

Dクラス空間型って大概あまり落ち着かないし飯はあまり美味くはないしだけど

 

……なにあのオバケ屋敷?

 

107:名無しの新人冒険者

それでもCランク迷宮以降はマジ必需品なんだよなアレでも

 

ちなみにCランクのマヨヒガとか壺中之天とかだとマジ快適らしいけど女の子エルフやサキュバス並に貴重だしなあれ

 

市場に出たら絶対に最低一億からのオークションだぜ?

 

108:名無しの新人冒険者

……俺ら零細には空間型なんて無縁、はい論破(白目)

 

109:名無しの新人冒険者

あれ?今俺ら何の話してたっけか?

 

(以下、脱線だらけの為割愛)

 

153:名無しの新人冒険者

一応、『メイジホブゴブリン』何てのは俗称で種族は普通にホブゴブリンなんだよ。単に『魔法スキル獲得して珍しいホブゴブリン』ってだけで

 

154:名無しの新人冒険者

オークとかが魔法スキル獲得しても『メイジオーク』とは呼ばれるけどマジで珍しいだけで無意味なんだよな魔法スキルが

 

155:名無しの新人冒険者

魔法系スキルオーブ見つけてもオークしか手持ちがない。だからもったいないからと習得させた

 

これが『メイジオーク』を誕生させる唯一の方法だ

 

156:名無しの新人冒険者

オークに魔力や魔法の素質は皆無だしな

 

比較的マシな回復魔法だってバンドエイド程度だし

 

オークには『自分が魔法を使う』という発想はまず無いしな。普通に殴るのがあいつらの仕事だ

 

……魔法はせめてボアオークにマイナーチェンジしてからじゃないと(実体験)

 

157:名無しの新人冒険者

やはり俺らにオススメの魔法系はジャック・オー・ランタンか?

 

158:名無しの新人冒険者

そりゃそうだ、あれは『魔法版オーク』みたいなものだしな

 

火炎特化だけど目眩しやデバフも多少は出来る。

 

見てくれも割と愛嬌あるし

 

159:名無しの新人冒険者

南瓜(若しくは白カブ)くり抜いて作った様な提灯が頭の案山子だしな。基本的に白兵戦はダメダメだけど魔法は強力なんだよな

 

……知力判断力もオーク並みだけど。それはマスターの仕事だしな

 

160:名無しの新人冒険者

何せ案山子だしな。あれの運用は前衛かつ護衛役を入れる事から始まるものだし

 

……それでも流石にFランク程度ならタイマン余裕だけどな

 

161:名無しの新人冒険者

単純に遠距離欲しいだけなら遊撃手系ホブゴブリンかな?連中の中に弓使いとか居れば結構使えるぞ

 

最悪、俺らが最初に良く買うスリングショットを渡して使って貰うのもアリだしな……どうせ俺らじゃFランク迷宮でも持て余すし

 

162:名無しの新人冒険者

人工魔道具の弓矢とかあれば良いけど……あれでも百万はするしな

 

あれ買う前にジャック買うわ(きらきらおめめ)

 

163:名無しの新人冒険者

そう言えばライラプスってどうよ?

 

164:名無しの新人冒険者

あれね……基本的に遊撃寄りのアタッカーかつ索敵系かな?流石にホブゴブリンほど賢くはないけどオーク並みの知能はあるし

 

騎乗は一応出来るけど乗り心地はかなり悪い。犬だから手はない。あまり耐久力は無いけどな

 

オークやホブゴブリンは嫌っていうならそっちだろうな。ケットシーみたいに可愛くはないけど

 

165:名無しの新人冒険者

一応、Fランクの狼系とかヘルハウンド愛用している奴なら運用は容易いだろうな。オークとかホブ使いならテッパンスタイルだし

 

……そいつらのクラスチェンジ先のテッパンでもあるし

 

 

掲示板はまだまだ続く

 

 

 

【Tips】掲示板

玉石混交。真実と虚偽、誤情報の混じるネット内の闇鍋

 

この板は比較的信用のおける『枯れた情報』をメインにしているので真っ当な新人から人気が高い

 

『少年』も実はこの掲示板愛用者である

 

……初心者に『掲示板形式』は難しい(真顔)



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第五話俺の名は

これにてアンケート〆切とさせて頂きます。参考になりました

敬具


計四回でヘルハウンドのカードを獲得し。それからも迷宮攻略に勤しみながら早一月

 

少年は自宅の中にある自室の机の上で今まで貯めてきた黒い普通の魔石と幾つかの(昇格試験には関係しない余りや連続で行った迷宮産の)白い魔石、そして売り払っても構わないカードや魔道具、そして冒険者ライセンスに搭載されている電子マネーの残高を見比べながらギルドから頒布されているカードカタログやホームページに記載されている情報に眼を通す

 

その情報とは……ギルドが販売しているDランクカードの比較的安い、俗に言う『不人気カード』についての情報だ

 

何度も口を酸っぱくして言うが『不人気カード』何ぞと呼ばれていても最低価格が百万円というとんでもない世界のとんでもない代物の話だ

 

不人気カードの中でも特に『奨学カード』とか言われているオークやホブゴブリン、ライラプスやジャック・オー・ランタンみたいな供給数も多く瑕疵もない比較的扱い易いカード……ばかりでなく、大概はグール(グーラー)や黄泉軍みたいな下級アンデッドや河童みたいな弱くて扱い辛いカードや局地戦向け、若しくは何らかの瑕疵付きカードばかりである(一応、河童も奨学カードの一種である……水場系の迷宮が多い地域に限るが)

 

これが『女の子カード』や『可愛い動物カード』みたいな人気カードなら価格はぐんと跳ね上がり最低価格(大したスキルは無いが瑕疵もない状態)で五百万から開始の世界である

 

基本的に強いカードや凄い特技を持ったカード……掲示板で挙げたリビングアーマーやウィンチェスターハウスみたいな優秀な特技持ちやバーサーカーやボアオーク、水虎みたいな単純に強いカード、ユニコーン&バイコーンみたいな堅実かつバランスの優れたカードもまたやはり人気カードでありこちらも最低六百万からの世界である

 

そして……『女の子かつ強い(凄い)カード』として有名なシルキーという(Dランクの華として名高い)カードがある

 

基本的な戦闘力はそこまで高くはないが。このカードは(男にとって)非常に優秀なスキルを持つ確率が高い上に『眷属召喚』と呼ばれる非常に強力なスキルを先天的に保有している

 

このシルキーは稀にギルドに納品される事もあるが大抵は即完売である(長くて三十分以内には絶対に売れる)

 

ちなみにこのシルキーの市場価格は一千万である(瑕疵無しの通常版で)

 

このシルキーを得る為に冒険者となる男は常に後を絶たず。休日冒険者も専業冒険者もありとあらゆる労力を惜しまずにその目的に邁進する

 

彼らにとってシルキーは『嫁』なのだ

 

その逆に……凄く強くて強力なスキルもあるけど見た目などが問題で非常に扱いにくいカードも世の中には存在する

 

幸か不幸かそのカードはホームページには記載されていなかったが、流石に『それら』に手を出す勇気は無い

 

少年の軍資金は現在

 

・金銭〆て百万円

・魔石凡そ六十万円分

・不用なカード(全て売却すれば十万円)

・不用な魔道具(全て売却すれば五十万円)

 

全て合算すればニ百ニ十万円といった処だろうか?

 

今なら奨学カード二枚を揃えたり少しランクの高いカードを一枚揃えたり出来るかも知れない……わざわざ個別に分けて溜め込んだ魔石を換金すれば、の話だが

 

前に一度言ったとは思う……『冒険者にとって魔石には色々使い道がある』と

 

冒険者にも勿論『税金』というものがある……が、かなり控除条件が広いので節税はやりやすい

 

しかし……冒険者にとって特に大きな出費である『カードや魔道具の取り引き』はちゃんと『ギルドや専門の商人を通す必要』がある。厳密にはそれ以外との取り引きも構わない

 

しかし、それ以外との取り引きによる如何なる問題にもギルドは決して関与も協力もしない。そして税金の控除もされない

 

だからこそ冒険者達は冒険者同士では『魔石を使った取り引き』がデフォなのだ

 

尤も、それをやるならなるべく信頼できる知人との間に留めておくべきだが(やはりトラブルが起きる確率は高いのだ)

 

 

閑話休題(それはさておき)

 

 

今すぐに奨学カード二枚か?、それとも一枚と次の軍資金に充てるか?……若しくは『掘り出し物』を狙って今暫くは貯蓄を重ねるか?

 

もう少し頑張れば(今の少年には)貴重な回復役の入手も可能かも知れない。

 

今も一応は回復役をデッキに入れてはいるが……予備含めて五枚のFランクカードの『フェアリー』ばかりである

 

仮にも『回復魔法持ち』だから一枚一万円の(Fランクとしては)高額なカードだ

 

一応は『妖精系』だから同じ妖精系(でもある)ジャック・オー・ランタンを進化先にすれば万が一の割合で『回復魔法持ちのジャック・オー・ランタン』を作成する事は……無理だ

 

ジャック・オー・ランタンは何気にアンデッドとしての属性もあるため残念ながら回復魔法とは非常に相性が悪いのである(高位アンデッドなら話は別だが)

 

少年は……今の自分にとって一番の財産(比喩抜きで一財産、ギルドに適正価格で売っても確実にちょっとしたCランクカードが買える。何ならシルキーだって二枚買ってお釣りが来るぐらいだ……先に行った『魔石払い』なら五千万円は軽いだろう。ちゃんとした相手を探せればだが)であるカードホルダーから自身のデッキを取り出す

 

何気に頼れるストーンゴーレム

最近漸くクラスチェンジに成功した元ワイルドウルフ現ヘルハウンド

縁の下の力持ち、と言うには頼りないフェアリー×5

もしもの備え、として罠探知スキル持ちのブラウニー(ハリー・○ッターに出てくる屋敷しもべ妖精みたいなもの)

 

そして……この二ヶ月で己の心血を注いで鍛え続けてきた唯一の切り札であるオーク

 

ありきたりな安いカードではあるが……それでも成長限界まで鍛えあげて粗末なものだが適性に合う武具も調達出来た

 

そして何より、そこいらのオークよりも沢山のスキルを獲得出来ているのだ(後天技能としてだが)

 

武術、忠誠、火事場の馬鹿力……そして何より冷静沈着といった比較的ありふれた技能ばかりだがそれでも『戦士としての仕上がり』はかなりのものだろう

 

今のデッキ内容をもう一度精査して何が必要かを考えてみよう……

 

主力のオークは重戦士。ストーンゴーレムはタンク。ヘルハウンドは遊撃手兼探索手。フェアリーは回復役……だが正直力不足過ぎる。ブラウニーは罠専門の盗賊

 

ストーンゴーレムとヘルハウンド、ブラウニーはなるべく早くDランクでその枠を埋めておきたい処である(少なくとも二つ星を目指すならば最低限)

 

欲しい戦力をなるべく最優先……色々足りないものばかりだが今の少年的にはまず三つを挙げた

 

一つ:出来るだけ魔法系統の遠距離攻撃手段

Eランク迷宮は今までのFランク迷宮とは完全に別の代物であり、今の様にオーク一枚では絶対に立ち行かないのは基本的な前提だ

今のデッキ編成にもあるストーンゴーレムみたいな物理耐性持ちが連続で出る可能性のある環境だから『物理以外の攻撃手段』も欲しい

 

二つ:遊撃手若しくは戦闘力のある盗賊

オークは基本的に鈍重である。今限界まで鍛えてはいるがそれでもオークに素早さを期待するのは間違っている

ならばなるべく素早く手数系の戦士……むしろ『戦える盗賊』みたいな手札が欲しい

Eランク迷宮からは罠が実装される事を考えると真面目にその辺は対策を練らなくてはならないし

 

三つ:ちゃんとした回復役

今のフェアリー×5では間違いなく回復の手が足りなくなる。Fランク迷宮ならまだしもEランク迷宮ではなるべく即座……要は戦闘中にもちゃんと回復させられる手札が欲しいのである(落ち着いた時に行う回復役としてならフェアリー達もまだ暫くは現役が勤まるだろうが)

 

『装備型(若しくは装着型)』はある意味回復役よりも優先して欲しいがこれは流石にそうそう手が出ない(予算もそうだが……これもシルキーと同じ理由で供給が非常に少ないのもある。Eランクの装備型だって常に品薄である、それこそ『使えない』と散々な評価の『手の目』ですら)

 

基本的に装備型はまだまだ高嶺の華なのだ

 

この中で真っ先に優先するならやはり回復役。今なら少しはマシなカードも買えるだろう

 

さて……今日も迷宮に行って資金稼ぎに勤しもうかと思っていたら……

 

 

「大輝ー、ご飯の時間だから降りて来なさーいっ!」

 

 

……どうやら既に昼食の時間らしい。母が呼んでいる

 

少年……改め『佐藤(さとう)大輝(たいき)』は頭を掻きながらカードや財産達を片付けて部屋を出ていった

 

 

 

【Tips】佐藤大輝

 

この物語の主人公。第五話にて漸く本名が公開される

 

名前の由来は『日本で一番多い苗字』と『2003年に一番名付けられた男児の名前』から

原作主人公の『北川歌麿』と同い年の現在中学三年生。そこそこ長身中背普通の顔立ちの一般的な学生(但し学業はそれなり以上、冒険者となる為の両親との約束の為に)

両親もそれなりに『冒険者』というものを理解している人物であり……『現在の本当の世相』も理解している事から大輝が冒険者となる事を許可していくばくかの援助を施した(そして後に……)

基本的に目立つのが苦手ないわゆる『隠キャ』である為彼が『冒険者である事』を知る者はあまり居ない

性格は他者と関わる事が少し苦手な(先に言った通りの)隠キャであり一般的な学生冒険者(特にエンジョイ勢)が苦手

カード達には(根本的に自分が目上である為)それなりに強く出られるが『カードだからと言って無闇矢鱈と偉そうにするのはみっともない』と考え……いや自制している

それなり以上に育成への適性はあるが基本的に入手したカード達が(少なくとも今のところ)当たりなカードばかりなのでこの結果なだけである

結構運が良い(特に厄を回避する系統の幸運に恵まれている)……が、冒険者である限り何時かは絶対に『破滅的な災い』に遭遇する事は定められている(今はまだまだ準備期間に過ぎない)

巨乳派であり何時かは好みのタイプなシルキー(むしろ女の子カードならだいたいは)が欲しいと思ってはいるがそう思っているだけで実際にはむしろ『強いカード』や『便利なカード』を絶対的に優先する傾向にある

幼少期に世界中で起きた『とある大事件』の影響で『力』を求める性格になった(求道派冒険者あるある)

『冒険者になる』という目標の為に身体をそれなり以上に鍛えている(ちなみに普通に生きていたら『もやし、鶏ガラ体型』になっていた)

知人や彼を知る人間の一部は『白大根』に彼を例える者もいる

ある種の『漆黒の意思』みたいなもの(の萌芽)を魂に宿している

 

外見的には『アスキーアートのできない夫』で見ればだいたい合ってる

 

『やる夫』をモチーフにした先達が居た為。その発想が気に入って個人的に一番イメージがしやすく『小市民』を想起しやすい『できない夫』をモチーフにしてみた(『やる夫』の対になる『やらない夫』だと筋肉モリモリマッチョマンの変態になりそうだから却下し、『できる夫』と悩んだ結果で『できない夫』に決めた)

 




やっと主人公の名前決定です

主人公のデータを少し加筆修正しました


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第六話豚と蕪なら煮物が美味そう(但し材料費二百ン十万円)

アンケートの結果……彼が新しい仲間(魔)となりました


前回より一週間が経過した……が、回復役がこなせるカードは一向に姿を見せずにいた

 

迷宮攻略はそれなりに順調だが流石にそろそろ新しいカードを入手しておかねばならないと考え込んでいた

 

カードを手に入れたければ買うか狩るかのどちらかだが、カードは(基本的に)自力で育てなくてはならない

 

カードは契約を切れば初期化されてカードの戦闘力も記憶も消えてしまう……が、『獲得した後天技能』は別だ(勿論マイナススキルも)

 

不快な話ではあるが……マスターに酷い扱いをされ続けたカードは初期化されても様々なマイナススキル(だいたい恐怖症や反逆系など)を持って最早まともに取り扱う事も出来ない有り様になっている……らしい

 

そういう話はネットやら噂話やらにはごろごろ転がっているし。また別の噂話ではギルドが売っているカードパックの『当たり』は大概そういう重大な瑕疵カードばかりだとも聞いた。それもあるからカードパックには手を出したくはないのだ

 

そんな状態のカードでもちゃんと『使い道』はあるが……それはまたその『使い道』が必要な状況にでも話そう。今の大輝には無縁な使い道であるし

 

マスターの中にはカードを育成して優れた後天技能を仕込んだカードを売ったり依頼を受けて特定のカードを指定した技能を獲得したり弱点を克服したりさせる『育て屋』というスタイルも存在するが、基本的にちゃんとした育て屋は年単位の予約待ちだし、変な所に持ち込めばマイナススキルが付いたり持ち逃げされたりするのであまり参考にはしない方が良いだろう

 

少なくとも大輝にそんな余裕はない

 

そんなこんなでそろそろ腹を括って新しいカードを得るために最寄りのギルドに向かった

 

 

何処の街にも大概のギルドは駅ビルみたいな交通の要所などにある(電車の無い沖縄などでも交通の要所に沿ってギルドは建てられるが)。離島みたいな余程辺鄙な場所でも必ず役所や派出所にギルドの支部は存在しているし少なくとも必ず一人は居る二つ星冒険者資格を持った職員や巡査(許可を得る事が出来れば自衛隊以外の公務員でも冒険者は許される副業なのである……但しこういう僻地送りになる確率も爆増するが)がギルド員を兼任している。そして必要最低限の奨学カードや魔道具の販売もしてくれるし『いざという時の避難所』としても機能する。どんな辺鄙な場所でも必ず)

 

この街のギルドも大概の駅ビルギルドと同じく多目的な冒険者用施設になっている…… 地下に食料品店、一階に飲食店と冒険者用品店、二階は全て冒険者用品店、三階にスポーツジム、四階に冒険者ギルド、五階にカードショップ、六階に市役所と冒険者がすべての用事を一か所で済ませられるようになっていた

 

冒険者は体力も大事ではあるから今日も沢山の冒険者達がこのジムで汗を流している

 

普通のジムでは偶にアンチ冒険者……その中でも特に悪質な『ダンジョンヘイト』らの嫌がらせなどがある為、こういう『ほとんど冒険者専用施設』というものは冒険者にとって有難い代物なのだ

 

エレベーターで目的地である五階を目指す……が、四階で止まり職員に付き添われて同じ五階に向かうらしい同年代と遭遇した

 

大輝と同じ様な、何処にでも居そうな平凡な少年が様々な書類などを抱えて興奮している

 

まるでニヶ月前の自分である

 

その少年とギルド職員に先を譲り、大輝はカードショップの中を物色してみる

 

『Bランクの○○入荷、価格三億』

『女の子カード買い取り強化期間』

『Dランクカード特別セール中』

 

まるで……我々の現実にも存在するトレーディングカードゲームショップの様な店舗には色々なノボリやポスターといった様々な情報が氾濫している。今の大輝にとっては大事な情報も一つ見えた

 

『Dランクカード特別セール中』

 

丁度良い情報じゃないかとそのポスターを見て……少しガッカリした

 

「セールはセールでも瑕疵持ちカードのセールは流石に要らないよ……」

 

『安い』という事にはそれなりの理由があった様だ

 

そんなぬか喜びから立ち返った大輝に声をかけて来た者が居た

 

「あらぁん大輝ちゃん?今日こそ新戦力?」

 

口調は女性……だが、とても漢らしく野太い濁声が聞こえる(まるで悪役を得意としている声優の様な)

 

その人物は……四十歳は越えているだろうと見れる髪を短く清潔に刈り上げ、雄くさくゴツい風貌に青々とした髭の剃り跡が目立つ身長190㎝辺りの雄大で、それでいて美しい筋肉の塊みたいな男、いや漢だった

 

但し、そのゴツい益荒男はまるで女性の様にしなを作りながらこっちに向かってくる……良く見ると薄く化粧をしている

 

一応、ちゃんと男性用のスーツ姿だがその筋肉のせいか偶にスーツがみちみちと音を立てている……様に見える

 

このカードショップの責任者であり、このギルドに所属する創成期からのサマナーの一人にして半ば引退しているものの三ツ星冒険者でもある名物職員『メアリーさん(本名:鬼瓦権三郎)』である

 

……一応はちゃんとノンケらしい。何気に女房子供もちゃんと居るそうな(ちなみ奥さんも元サマナーかつ半引退した三つ星冒険者兼ギルド職員らしい)

 

「それで大輝ちゃんは今日こそ新戦力を買いに来たの?迷宮攻略には沢山のカードが必要だしね?アタシも現役時代にはね……」

 

少し話は長いがかなり親切なのでこの辺りの冒険者達からは慕われている……その趣味と普段の行動はさておいて

 

「はい、今日こそ新しいカードを買いに来たんですが……何か回復持ちの出物は有りますか?予算は最大二百五十万円で」

 

「……残念だけど、今Dからのちゃんとした回復持ちは三百万円のからね。回復持ちはそれだけで人気高いから仕方ないわね。私も現役時代にはそれで苦労したわ」

 

仕方がないので目星を付けた奨学カードを見せて貰う事にした

 

第一希望の回復持ちはやはり在庫が無い、いや有りはするが完全に限界予算オーバーだった……それなら新しいカードを一枚買って残りをまた回復持ち購入資金に充てよう

 

ちなみに瑕疵持ちカードは見てすらいない……流石に商売道具に妥協はしたくない、いや。まだそんな癖だらけのカードをマトモに育成できると思うほど自惚れてはいないつもりだからだ

 

そう決めて……メアリーさんに頼んで『この店舗が保有する奨学カード一覧』を見せて貰う。店舗のデータが入った専用のタブレットである

 

大輝の隣で先の少年が同じ一覧を真剣な表情で眺めている

 

大輝も……すぐそこの自動販売機で買ったお茶のボトルとメモ帳を置いてその一覧を眺める

 

だいたいのカードは百万のものばかり……中には軽度の瑕疵持ちも居るがその辺りは九十や八十万円に値引きされていたが(ついでに今買えば一枚だけ安いけど使い勝手の良いFランクカード付きらしい)

 

その瑕疵カードの頁には目もくれずに『少しお高いカード』の頁を見る

 

少しだけ良いスキルが付いたカード達を見ている

 

今欲しいカードは……既に方向性は決めている

 

 

『魔法によるアタッカーの追加』

 

 

今現在のデッキ編成はどう見ても脳筋編成以外の何物でもない。テレビでやっている様な特殊能力や魔法などを組み合わせて行使する。俗に言う『コンボ』みたいな高等テクニックなぞまず不可能だし、それ以前にそもそもまともな魔法使いそのものが居ない(最低限の回復役と罠対処枠を入れてはいるが)

 

だからこそ、回復手段が得られないなら『殺られる前に殺れ』という(元からの)スローガンに則って(予算の範囲内で)強力な魔法使いを調達する事にした

 

そう言えば……最初に買ったオークも少しだけ高い値段だったっけな……

 

(従順持ちだからでもあるし、両親の援助も多少なりとも有った事から)少しでも良いオークを買ったからこそ今の自分が居る……やはりあの時奮発して良かった

 

そんな事を考えながら一覧を眺めていたら……沢山のジャック・オー・ランタンだらけのイラストの中からとある一体を見つけ出した

 

そいつの値段は百三十万円……奨学カードの中ではかなり上質な部類である

 

そいつは黒マントを羽織った案山子の様な身体をした……人間の顔を模して彫り込まれた白蕪で出来た提灯だった

 

元来のジャック・オー・ランタンの頭は南瓜ではなく『萎びた白いカブ』である

 

南瓜が頭になったのは……嘗て大航海時代にアメリカでの移民が始まった時に、当時のアメリカではカブはあまり育つ環境では無かったので替わりに当時は良く採れた南瓜を代用品にしてハロウィンを祝った事が始まりである

 

このカードは分類するなら『実体の有る鬼火』の一種であり、その性質故に炎の魔法を使いこなす魔法使い系カードでもある

 

反面、身体はひょろひょろの脆い(Dランクカードの基準であるが)案山子なので身体能力は低い

 

こいつは基本的な個体よりも幾らか火炎魔法威力が高くなるスキルを保有している事、そして従順持ちである為に奨学カードの中でも高価な範囲なのである

 

大輝はそのジャック・オー・ランタンを何度か見て気に入った

 

だから即決でその提灯お化けをライセンスの電子マネー一括で……冒険者に(特にカード関連には)ローンは組めない……支払う

 

基本的に『冒険者』となった存在はローンが殆ど組めないし使えない……普通に考えて『何時死ぬかわからない人間』を相手に金を貸す奴はいないのと同じ理由だ(海外だとまた事情は異なるらしいが)

 

ついでにカードは保険の対象にはならない……『何時失うかわからない』という漁師の船や農家のトラクターなどと同じ理由である(代わりにカードそのものや魔道具は税金の対象にもならないが)

 

それと冒険者そのものは普通……よりも条件は厳しいが保険に加入はちゃんと出来る(『なるべく冒険者を増やしたい』という政府の思惑が有るとか無いとか……)

 

……まぁ、そんなこんなで新しい切り札の獲得に成功したのである

 

大輝が帰ろうとした時には、先ほどの少年も最初の相棒を決めたらしい

 

「このオーク下さい」

 

そんな声が聞こえて来たのだ

 

大輝はその少年に(心の中だけ)で『オークは良いカードだ、頑張れよ』と呟いていた

 

 

【Tips】ジャック・オー・ランタン

 

ヨーロッパにおける鬼火(妖精とも亡霊とも)の一種。日本でいうなら『お盆』の様なイベント『ハロウィン』のマスコットとして有名

 

元々は性質の悪い悪戯を重ねていた為に天国に行けず、悪魔にさえ悪戯した為に(賭け事という説もある)地獄にも逝けなくなった男の魂だと言われている

 

彷徨う男は夜道をあても無く歩く為にハロウィンの時期にはよく捨ててある萎びた蕪をくり抜いて提灯にした。それと男の名前から『提灯ジャック』となる

 

本編にも記載したが、大航海時代にアメリカに移民した白人達がハロウィンを祝おうとした……が、蕪はアメリカの(少なくとも当時の)土地には適応しなかった為に南瓜を代用品にしたのが現在のハロウィンの始まりである

 

カードとしては魔法特化そのもの。火炎系攻撃魔法メインだが幻惑、弱体化にも適性がある

 

物理的にはかなり弱く、相手がFランクでも白兵戦を得意とした『強いFランク』なら殴りあいは避ける方が無難なレベル(殴りあいに強いEランクならまずやめておくべき)

 

実は案山子としての身体はほとんど単なる飾りであり、本体は宙に浮く南瓜か白蕪の頭部(一応は案山子パーツも身体の一部なのでダメージ判定はあるが決して致命傷にはならない、案山子パーツは全損しても数日で完全復活する……が、この案山子パーツはジャック・オー・ランタンにとっては『服』みたいなものらしい)

 

ハロウィンに纏わる存在である為かほぼ全ての個体が『お菓子が大好き』という共通した性質を持つ……お菓子を沢山与えれば回復速度が幾らか早くなる程度には(先天技能に内包された特性らしい)

 

属性は『火炎/妖精/精霊/アンデッド』、進化先はかなり色々あるが個体ごとにバラつきがあるらしい(但し、必ず火の性質がつよくないと基本的にダメらしい)

 

大概の冒険者が二体目のDランクカードとして選ぶ事が多いカードとして有名な奨学カードの一種

 

【種族】ジャック・オー・ランタン

【戦闘力】110

【先天技能】

・除霊祭の提灯

ハロウィンの提灯として炎を以て悪霊を祓うジャック・オー・ランタンの灯火を示す。火炎特化攻撃魔法、初等状態異常魔法、空中浮遊、嗜好品回復(お菓子/軽)を内包する。

・案山子の身体

ジャック・オー・ランタンにとって案山子の身体は『服』と同じ扱いであり、万が一の時にはトカゲの尻尾の様に簡単に切り捨てられる。

一回だけ案山子の身体を身代わりにする事で致命傷を防ぐ事ができる……が、案山子の身体が再生するまで召喚を忌避する傾向がある(マスターの扱い次第ではその状態で召喚するとマイナススキル発生の恐れがある)。

耐久性低下を内包する

 

後天技能には火炎魔法強化や魔法系が多いが回復魔法と白兵戦技術はまるで駄目だった(回避能力向上は獲得したケースが結構あるらしい)




オネェやヲカマは強キャラだと思う


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第七話星を探す。仲間を顧みる

収納と手荷物関係を修正……通常はカード以外駄目でした


さて……新しい仲間であるジャック・オー・ランタンを入手してからというもの大輝の冒険者生活は『すこぶる順調』の一言だった

 

今まででもFランク迷宮のみしか潜れない一つ星冒険者としてなら……だが、非常に高ペースかつ順調な大輝である。それなり以上の『当たり』ではあるがオーク一枚とEランク数枚が主力としては破竹の快進撃そのものだ

 

大輝は少なくとも……最初に潜る迷宮では必ず情報をギルドから買い込んでから行う

 

大概のエンジョイ勢らはまず情報を買うという発想が無い。基本的に月に多くて四回……少なければ二回程度しか潜らないし、そもそも彼らは2から良くて4階層しかない弱い迷宮をちょろっと攻略するだけだ(そして主な狩場からあまり出ない……大半のエンジョイ勢は二つ星を目指さずに現状維持を求めるタイプが多いからか?)

 

それでも『お小遣い』や『アルバイト』としてならば破格なのもある…が、基本的に彼らは『学園でのマウント取り』の為に冒険者という立場を求めただけだ

 

『この物語の原作』でそれは非常に重要なファクターの一つではあるが……大輝のような求道派冒険者にはあまり意味がない(むしろソロ充タイプだからか?)

 

大輝の場合は……なるべくエンジョイ勢が近寄らないFランク迷宮の中でも深い迷宮や厄介な迷宮を巡るのが普通だ

 

今では大輝のデッキに入っているストーンゴーレムやヘルハウンドといったFランク迷宮ボスの中でも『強敵』にカテゴリーされるEランクモンスターが良く出没する迷宮や、Fランクでも性質の悪いモンスター……物理攻撃に耐性を持つタイプなどが出る迷宮などといった競争相手の比較的少ない迷宮を巡る日々を送っていた

 

Fランク迷宮ならば(ちゃんとしたルートと大輝レベルの戦力さえ在れば)一日で…いや、数時間もあれば攻略は可能だ(それこそ放課後帰りの学生でも)

 

ちなみに一流冒険者ならデータ無しでも十数分あれば余裕だ

 

勿論、無駄な戦闘はせずになるべく急いで最下層のボス部屋を目指す必要が有るが

 

……今の大輝は、新たなる仲間(魔)たるジャック・オー・ランタンとブラウニーの育成に勤しんでいた

 

ブラウニーはまだ使い道が(Fランク迷宮では)大して無いが……鳴り物入りで加入したジャック・オー・ランタンは大活躍だ

 

広範囲の敵を火炎魔法で薙ぎ払ったり、ストーンゴーレムみたいな物理に強く堅い敵を火炎魔法で焼却したりと獅子奮迅の活躍ぶりである

 

……その分、魔力の消耗も激しいし接近されると弱いが其処は歴戦のオークがカバーしてくれるから安定だ

 

傍はヘルハウンドとストーンゴーレムがカバーしてくれる点も大きい

 

ヘルハウンドと一緒ならば索敵、牽制を。ストーンゴーレムと一緒ならオークと同じくジャック・オー・ランタンをちゃんと守ってくれる(基本的に非常に鈍足なのでボス戦オンリーではあるが)

 

魔力が尽きれば安全地帯でジャック・オー・ランタンにお菓子を食べさせてあげれば良い……基本的に少食だからあまり食べないけど(そして食べ終わればカードに戻して暫く休ませれば良い)

 

もう一枚の長い付き合いのオークにも好物である焼き鳥とジュースを振る舞いながら……何となく子供っぽく感じたジャック・オー・ランタンに見せてみたアンパン○ンを何気に、しかし熱心に見ていたので話を聞いたらどうやら人間の物語に興味があるらしい事がこの前にわかった

 

とりあえず家にあった適当な漫画と小説を持って来てから休憩時間にオークに渡してみたら小説……それも時代小説が好みである事がわかった

 

一度運良く入手した『文庫本図書館』という魔道具に色々な本を詰め込んでカード達に貸している……この魔道具は一つしか無いから順番待ちだけど

 

ちなみに……ヘルハウンドはカリカリ系ドッグフードと骨のおもちゃを。ストーンゴーレムは何も求めず、何もたべなかった(ちなみにフェアリー達の嗜好は完全にジャック・オー・ランタンと一致していた)。ブラウニーは食べたりするよりもむしろ料理を作ったりレシピ集や家事に関わる本を見たりするのが好きらしい(屋敷妖精あるあるである)

 

その気になれば彼らを『奴隷』として働かせる事も……そもそも何かを与えず食べさせなくても(カードだから)平気だが、それでも大輝はカード達をそういう扱いはしたくなかった

 

少なくともデッキメインの彼らは非常に良く働いてくれているのだ。

 

何時か何らかの不手際や不運でロストしたり、また売る必要が出来たりする可能性だってある……将来のデッキ編成次第でリストラだってあるだろう

 

……しかし、それはまだまだ先の話だし容易くカードをロストする様な真似をする積もりは無い

 

それに何より……カード達にその程度の労いが出来ないほど儲けが無い訳でも無い

 

ジャック・オー・ランタンの加入で迷宮攻略の時間が大幅に短縮出来たし、何なら休日には数カ所のハシゴだって余裕で出来る(あまり冒険者の居ない地域だと尚良い)

 

『明日、学校が終われば明後日は休みか……そろそろキャンプ講座も受講しようかな?』

 

Fランク迷宮は基本的に日帰りで攻略出来る程度の浅い迷宮である……しかし、その一つ上のEランク迷宮では(よほど特殊な何かが無い限りは)最低限一泊は必要になる程に深い(高位の冒険者なら簡単に日帰り出来るが)

 

学生や兼業冒険者には結構、その条件は堪えるものなのだ

 

そして……Eランク迷宮からは『罠』という概念も考えなくてはならない

 

Eランクの罠ならばまだ直接的には殺傷力は控えめ(少なくとも更なる上位迷宮に比べれば)ではあるが……Eランク迷宮からは『進行ギミック』なども発生する

 

Fランク迷宮ならば基本的にちゃんとしたルートさえ探してしまえば割と容易く一発攻略が出来る(勿論、適切な戦力は大前提であるが)

 

……現に大輝もちゃんと情報を購入してなるべく早く沢山の迷宮攻略をこなしてあの大金を獲得している(いまならそろそろ……ちょっと奮発すればいけるかも知れない)

 

しかし、Eランク迷宮からは『別の場所にあるスイッチを押す』、『隠された本当のルートを探す』などなどの厄介なギミックが発生してくる

 

更にEランク迷宮では……嘗てFランク迷宮でボスを務めていたEランクモンスターが『普通の雑魚』として出てくるのだ

 

Eランク迷宮は少なくとも11階はあり、その11階からEランクモンスターが発生する

 

そして……Eランク迷宮からは全てのモンスター達の知能も若干向上してくる

 

Fランクでは奇襲など以外の作戦的な行為はせずに只脳筋的に襲いかかるだけだったモンスター達がそれなりに知恵を使って襲撃を仕掛けてくる様になる(Fランクでも群れで襲いかかる程度には)

 

Eランクモンスターに至ってはパーティーめいた編成を組んで冒険者を襲う様になる。中には『一芸特化型モンスター』などというスタイルのモンスター同士による天然のコンボで格上のDランクカード破壊も結構聞く話である

 

D一枚だけでEランク迷宮の攻略は……こういう厄介な『格上殺し』の存在で『無謀すら通り越した自殺行為』扱いとなっている(それ以前に……Fランク区域の突破さえかなり難しいだろうが)

 

そんな条件が重なる中で大量の荷物……数日分の食料品やキャンプ用品などをえっちらおっちら抱えて最低限でも一泊は必須の行程である

 

控えめに言っても普通に過酷な話だが……

 

『専業冒険者(の卵)』ならば割とこの関門は簡単に攻略出来る……何なら大学生などの比較的自由な時間のある者達ならばエンジョイ勢でも以外と多数攻略者(二つ星冒険者)が居る

 

……基本的に、このEランク迷宮に入る為には『二つ星冒険者になる』という条件が必要だが。実は幾つが(合法的な)裏技で一つ星冒険者でも入る事は出来る

 

一つは……入場可能資格を持った冒険者とチームを(一時的にでも)組んで貰ってその迷宮に入る。といった方法

 

一応は大学生冒険者(エンジョイ勢含む)や専業冒険者のレベリングなどに活用されているテクニックの一種だ

 

そしてもう一つ……これが大輝が今回考えているEランク迷宮入りの方法だ

 

『二つ星昇格試験』

 

ギルドが秘匿する試験専用Eランク迷宮を一ヶ月以内に攻略する。という(言うだけならば)簡単な試験を受ける事だ

 

必要な資格は『十ヶ所のFランク迷宮攻略実績とDランクカード一枚』だけあれば何時でも可能だ

 

……基本的に秘匿されている迷宮なのでギルドも内部の情報を売ってはくれない(一応の救済策はあるが)

 

大概の(普通の)冒険者は二度三度は落ちる前提でこの試験を受ける……普通は最低限二枚のDランクカードを用意してからが始まりだ

 

そして大概は三枚から出来れば四枚のDランクカードを揃えてこの関門を踏破するだろう(基本的に奨学カードばかりの編成ではあるが……稀に回復系を購入出来たら入れるパターンもある)

 

 

閑話休題(それはさておき)

 

 

さくっとその迷宮のボスを狩って魔石とガッカリ箱(中身は十万円相当で売れるいらない魔道具)を回収して……開いた脱出ゲートを出る前に一番会話能力と思考能力があるオークと話をする事にした

 

『そろそろ二つ星昇格試験を受けるべきかどうか?』

 

喉の作りで人間の言葉で話すのは不得手だが、それを補ってあまりあるその種としては破格の賢さと冷静沈着さを持ったこのオークは大輝が迷宮内で最も信頼する存在だ

 

……それこそ『名付け』を真面目に考える程に

 

普通のDランクカード、それも奨学カードであるオークの値段は『売る』ならたったの十万円だ

 

ちょっとした技能程度ではその価格は変動しない……ギルドに売るならば(ギルドでは三十万円出せば良い方だろうが)

 

しかし、此処まで育ったオークならば持っていく処次第では軽く三百万円で売れるだろうか?(いわゆる『育て屋』的な意味で)

 

そして更に良いカードを買ってを繰り返すのが一般的な冒険者だ(意中の女の子カード購入資金に充てる男性冒険者もまた多い)

 

だが大輝はこのオークを手放す気など全く無いが(このオークを手放すくらいらならまずその前にカードホルダーを先に手放すだろう)

 

そして……『名付け』とは、そのカードを永遠に自分のものとして扱い、己のデッキの主力として常に組み込む覚悟を込めた『そのカードとの絶対的な契約』である

 

『名付け』したカードは二度と初期化出来なくなり、他者に譲渡も決して出来なくなる(要は資産価値の喪失だ)

 

しかし、『名付け』にはそれを補ってあまりあるメリットも存在する

 

 

『蘇生可能』

 

 

普通、カードは死ねば(カードごと砕けて)それまでだが……『名付けカード』は『ソウルカード』と呼ばれる灰色のカードとして残る

 

どんな状態でも良いが必ず初期化された同種族同性のカード一枚を対価にその名付けカードを復活させる事が出来る(前にも挙げた『再起不能なカードの使い道』がこれだ)

 

『決して喪いたくない。最期まで自身で使いたいカード』の為に行う契約……それが『名付け』である

 

尤も……その『名付け』をカードが受けるかどうかはそのカード次第である(カードにとってもそれは非常に長い付き合いになるのだから)

 

そんな事を一緒に……頭の片隅で考えながらだが、大輝は最早『相棒』と呼んでも差し支えないオークと今後の事を話し合う

 

 

 

【Tips】『収納』

 

カードモンスターはカード化したアイテム以外はカードに戻す時に一緒には戻せない(無理矢理カードに戻すとその物品は消滅するらしい)

 

しかしこの『収納』というスキルがあればそのランクに限り荷物を保有できる

 

色々なランク差はあるが最低限技能となるなら押し入れ程度には収納量が存在する……プロを目指すなら何気に欲しい技能として密かに人気の技能である

 

ちなみに……なろう小説などによくある『収納鞄』みたいな魔道具は存在するが基本的に『所持禁止魔道具』としてギルドの強制買い取り対象となっている(幾らでも犯罪に使える代物につき)

 

その亜種である『カードホルダー』や『魔石袋』などの用途が限定的な物は使用や所持に制限が無い(カードや魔石は何気に嵩張るし)

 

基本的には一部の最初からこの技能を保有するカードか……賭けになるが『オーブ(何時か後述)』に頼る以外での獲得は難しい

 



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第八話星に至る壁は遠く厚く

今回は難産でしたね

新しい他モブ高の更新が励みにまりましたマジで……


さて……あの時オークと今後を話し合ってから二週間後。大輝は(なるべくの準備を行った後に)遂に『二つ星昇格試験』を受ける事にした

 

前にカードショップに有った三百万円の出物(幻獣型キキーモラ)は既に完売済みだった。今あるのは値段の割には弱い女の子カードが幾つかと……マイナススキル付きのユニコーンだけだ(流石にユニコーンはマイナススキル付きでもまだ手が出せない)

 

今の地点ではもう少しだけ……戦力の強化は諦めて指定されたEランク迷宮に『威力偵察』に行こうという事になった

 

……叶うならばもう一つ二他属性の魔法使いも欲しいし。なるべくなら奨学カードよりも上質のDランクカードや願わくば安くともCランクカードだって欲しい

 

現在は……オークをマイナーチェンジで『ボアオーク』に強化するか、それとも更に貯蓄を貯めてCランクでも特に安い分類の『オーガ』、そしてそれよりかは高価な『グレンデル』にクラスチェンジするかも考慮のうちだ

 

ボアオークとは……豚から猪に変化したオークといった見てくれのDランクカードの中ではかなり強い分類の人気カードであり、『眷属召喚』と呼ばれる貴重な特殊能力を保有している上にDランクカードとしてはかなり強い分類でもある高級カードだ(基本的なお値段約八百万円)

 

オーガとは……『Cランクのオーク』とも呼ばれている肉弾戦オンリーの純粋な戦闘用カードだ(戦闘以外には使えないとも言うが)。オークと違って敏捷性なども優れてはいるか魔法能力はオーク以下であり魔法抵抗能力も(Cランク基準では)最低クラスという代物である

その魔法抵抗能力の低さと頭の悪さ、そしてCランクの最低水準な戦闘力が仇となって基本的なお値段はCランク最低の一千万円

……大概の冒険者はこれを買う位ならまずウィンチェスター・ハウスかシルキー、若しくは他の優秀なDランクカードを買うか更に貯蓄してもっと良いCランクカードを買うだろう

 

グレンデルとは……オークやオーガに連なる巨人にして水魔の一種である

イギリス最古の英雄譚『ベオウルフ』に現れる怪物の一つである

Cランクとしてはあまり強い方ではないが……以外と多属性で巨人、魔人、水魔、夢魔等々の色々な属性がある為か結構な進化先がある事から『中継ぎ』として人気が高い(基本的なお値段二千五百万円)

 

オークの基本的な進化パターンは概ねこの三つがメインだが……実際には『豚、猪に纏わる存在ならだいたいはクラスチェンジ対象』でもある(わりと強くて高価なカードが多いから普通はあえて対象にならないだけで)

 

……やはり今はボアオークで差し当たりの強化が良いだろう

 

個人的には『天蓬元帥(いわゆる猪八戒)』か『カマプアア(ハワイ神話の豚の神)』にしたい処だ……けど最低価格で五千万円超え(通常価格だいたい六〜七千ン百万円)の強力なCランクカードばかりであるから現状ではまず入手不可能だが(カードホルダーを使ってもやはり無理だろう)

 

先ずはゆっくりボアオークを目指して貯蓄ライフしかない(中継ぎ扱いでも先のユニコーンよりも更に高価な人気カードだし)

 

今も沢山抱えている強化タスクだと……

 

1:ちゃんとした回復役の獲得

2:Eランクカード達のクラスチェンジ

3:オークをボアオークにクラスチェンジ

4:火炎以外の属性攻撃持ちの確保

5:装備型カードの確保(なるべくならばリビングアーマーとか)

6:なるべくならば『異空間系カード』も欲しい(まだ無理だけど)

 

1は急務ではあるがまだまだ目当てが見つからないから保留中

2は1の実行後の急務につきまた保留中

3……以降は全て現段階では不可能な話ばかりなので無視

 

……基本的に2以外は不可能だった(2も急務である1をこなして初めて取り掛かれる問題故に)

 

 

閑話休題(それはさておき)

 

 

今は回復役の出物が来るまで従来の型でEランク迷宮……の特殊な試験専用版に潜る

 

幾つかの契約書(全てこの迷宮に関わる情報の秘匿……昇格試験専用迷宮として)にサインしてギルドには既に提出済みだ

 

ギルドの規定で期限は三十日。それ以内にその迷宮の白魔石を納品出来れば晴れて『二つ星冒険者』である

 

大輝は……何時もの大きなミリタリーリュックをパンパンに重く膨らませながらえっちらおっちら歩いていた

 

重いなら(力のある)カードに持たせれば良い……と思うだろうがそれは浅はかな考えだ

 

基本的にカード達は護衛である。特にこれから先は重要な役割を果たすブラウニーみたいな『盗賊』に荷物を持たせるなど論外だし、オークの様な全ての要である存在も却下。ジャック・オー・ランタンは非力なのでやはり駄目……ヘルハウンドはそもそも犬だ

 

……そして消去法で大輝が荷物を背負う(そもそも荷物が必要なのは大輝だけだ)

 

この四枚をメイン編成にどうにか二泊三日プランの予定だ……幸い今日から夏休みだし

 

……リュックの中身は一人用のコッヘルと数日分の食糧と水、そしてバーナー(ちなみにこの水が一番場所を食うし重い)に最低限の携帯用トイレとシャベル、そして毛布などの冒険者基本セットだ(服は地上に帰宅用の服一式、現地にはパンツとTシャツ、タオルの替え数回分だけだ)

 

そして虎の子である魔道具と回復薬が幾つか

 

……今回ばかりはカード達にも食糧を与える余裕は無い(代わりに前回と次の通常探索時には少し奮発するが)

 

なるべく荷物は減らしてさぁ試験の始まりだ

 

 

 

 

 

……甘かった。本当に甘かった

 

この石作りで沢山の小部屋が連なる冒険者界隈にて『石室型』と呼ばれる迷宮にて……

 

最初っから色々な罠(クロスボウ、槍ふすま、毒ガス、落とし穴、アラーム、ぶちまけられる強酸等々)の『まだ、比較的易しい範囲のトラップ』の手荒い歓迎会から始まった

 

Fランクの雑魚ですら最初から数体で組んで襲撃してくるのだから驚いた……今までのFランク迷宮ならば最初は一体だけしか出ない。まるでFランク迷宮最深層の様な……いやそれ以上に酷い状態だ

 

沢山の連なる小部屋……小部屋とは言っても教室一つと半分ばかりの広さの玄室には最初から軽く六体のFランクモンスターが出現していた

 

群がるFランクモンスターを蹴散らし罠の対処に追われつつFランク迷宮よりも更に広く入り組んだ道を一日かかって漸く七層……この試験専用迷宮では地図はとある条件を満たさない限り決して購入は出来ない(しかも条件を満たして買ったデータも機密保持の為に試験達成か一月後に強制破棄だ)から迷宮用スマホの地図アプリでマッピングである……なるべく方眼紙にも『写し』を書いておいてもいる(もちろん、この写しも契約上破棄対象だ)

 

Eランク迷宮ではなるべくやっておく必要のある作業だ……やらないでいるとたまに死ヌ程苦労し後悔する羽目に陥る事があるのだ(理由はやはり後述)

 

罠のせいで動きは非常に遅くなる……この迷宮ではブラウニーが絶対に欠かせない。何でも用意出来なかった者達は主力カードで『漢探知(罠にはまる事前提の前進)』しながら進んで(早ければ)最初の階層で逃げ帰ったらしい(稀にカードをロストして低階層で救難信号が出る事もあるとかないとか)

 

ちなみにこういう事態は親の金で冒険者になった学生……特にそのカネで高いカードを入手して調子に乗った者ばかりがそうなる(自力やそれに準ずる新人達は間違いなく危機管理能力が高いからまず必ずそれなり以上の準備はする)

 

そういうボンボン冒険者を嫌う者や性格のよろしくない冒険者達はこれを『洗礼』と呼び……そしてこの事態からの救難信号を『臨時ボーナス』と呼ぶ(比較的簡単な低階層なので救助は容易く……救助費用である一千万円のうち冒険者の取り分である八百万円の報酬とギルド評価のセットである)

 

D二枚(全て奨学カード)でこの移動距離ならばかなり優秀だと言って良い範囲である……普通なら五層行けば良い方だ

 

まだまだカード達のダメージも大して無い。(少し頼りないが)回復役にも余裕はある……ガッカリ箱経由で溜め込んだ(効き目の良い)回復薬もストックは万全

 

『少なくとも……Eランク階層を見て体験する程度なら何とかなるだろう』

 

そんな事を考えながらどうにかこうにか二日目の夕方にはEランク区域……の階段前に到着した

 

今日はこの安全地帯でこの遠征最後のキャンプである

 

アルファ化米の袋にコッヘルで温めたお湯を入れ、そのお湯で鯖缶を温める……そしてその残ったお湯に乾燥野菜とジャーキーの切れ端、そしてコンソメスープと鶏がらスープを独自の配分で混ぜ合わせたものとお湯をカップに投入して即席野菜スープを作る

 

その作業の最中に少しだけ別にとっておいたお湯をタオルに付けて身体を拭く……そして最後に残った替えのTシャツとパンツに着替える

 

そして完全した今夜の献立はアルファ化米の炊き込みご飯、鯖の味噌煮(缶詰)、コンソメ式野菜スープと水だ

 

……それとやっぱり持ってきたお菓子の袋と切れ端以外のジャーキー一袋をカード達に渡す

 

やはり『自分だけ食べる』のには抵抗があり過ぎた。やるならガチ遭難した時とかぐらいだろう

 

(何時もより少なくても)無邪気に笑うジャック・オー・ランタンやピクシー達と静かに干し肉を噛み千切るオークとヘルハウンドを見ながら自分の取り分であるチョコレートの欠片を飲み込んで毛布にくるまる

 

『……明日は無理だけはしない、只でさえ既に『賭け』の域に達しているんだしな。此処が最下層でも絶対ボスには挑まねぇ……』

 

 

翌日もまた陰気な……光苔とかも生えていないのに普通に見える地下玄室の中で昨日と同じ様な朝食を取っていた

 

朝食は鮭缶とレトルト赤飯、そして乾燥野菜入りのレトルト味噌汁……非常食のハードタック(堅焼きビスケット)と水を除けば食糧はこれで最後だ(流石にもうカード達を労う分も尽きた)

 

その最後の食糧を噛み締めながら大輝はこの遠征で得たものについて考えていた

 

先ずは魔石だが……この二日で倒したモンスターの数と魔石の量から鑑みて凡そニ十万円が妥当だろうか?

 

そしてカードはFランクモンスターばかりとはいえそれでも百枚前後の数である……大概は一枚千円程度だが

 

そして…… こういう『石室型』には一つ他の迷宮には無いメリットが存在する

 

この『石室型』は一つの玄室をクリアする事に一つのガッカリ箱を出す……事がある

 

しかし、そのガッカリ箱は迷宮攻略報酬よりも更に当たりが少ない上に罠付きという意地の悪い代物である……下級回復薬やちょっとした消耗品魔道具ならマシな方で大概は五百円程度の魔石である

 

しかし……前に『オーブ(宝珠)』というものについて少しだけ言及した事を皆様は覚えているだろうか?

 

その『玄室製ガッカリ箱の数少ない当たり』こそが『オーブ』である

 

この宝珠はカードに与えると……そのカードが新しい技能を獲得出来る、という代物である(前に挙げたホブゴブリンやオークに魔法を覚えさせる方法や『収納』を後天的にでも習得する手段がこれである)

 

しかし……この宝珠もまたかなり厭らしい代物である

 

基本的に『宝珠の色』でその授かる技能系統は解るが…それから先は完全にランダムである

 

ランダムなので勿論『マイナス技能』も中には存在する(実際、掲示板のオーブ関係板は常に阿鼻叫喚である……ほぼ大多数だった『F Xで有り金全て溶かした人の顔』と『一部の高額宝籤当選者』の悲喜劇で)

 

かなり珍しい技能だが一応は『鑑定』というやはり非常に珍しい技能があればある程度(マイナス技能かどうか?かは)解る為に非常に良く重宝される(魔道具やポーションの正確な識別、魔石の価格査定にも使えるし)

 

少なくともこの技能か『収納』のどれか一つでも保有しているならそのカードは確実に百万円は査定が上がる(Fランクのゴブリンだって最低百万単位の取り引きになる……少なくともゴブリンは意思疎通がちゃんと出来るモンスターだから)

 

一応、鑑定にもランクがあるので今挙げた百万円は『下級鑑定』、『下級収納』での話だ

 

『なろう』でも鑑定能力と収納能力は何度も何度も大切なものだと口を酸っぱくして教えられただろう(こういう世界の一般常識として)

 

ちなみに……もう一つなろうでも重視されている『転移系スキル』だが……『今現状ではカード(モンスター)に保有している存在は確認されていない』、『消費アイテムや永続的に使用出来る魔道具には幾つかある……が迷宮内でしか使用出来ない』という条件で存在している為使用にも所有にも制限は無い(但し基本的にほぼ全ての転移アイテムはかなり高価だが……消耗品でも数百万、永続的に使用可能なら最低買い取り価格で一億というレートだ)

 

ついでに言えば……オーブは迷宮からは決して出せない(少しでも迷宮から出せばすぐに消滅してしまうのだ)、おまけに数時間もすればこれまた消滅してしまう厭らしさである

 

今回は残念ながらオーブは無かった(出た回復薬は大輝の疲労&靴擦れ回復に消費された)

 

……基本的に、普通にEランク迷宮をクリアするよりもその時間を沢山のFランク迷宮攻略に使った方が儲かる。とは良く言われている

 

様々な雑誌の冒険者特集などは常にそう嘯く

 

しかしEランク迷宮を攻略出来なくては『プロの道』などまず不可能だし……そしてEランク迷宮からは『とあるお楽しみ』も存在している

 

最後の身支度を済ませ。本来の目的である『Eランク階層の偵察』に来た大輝パーティーが最初に遭遇したのがそれだ

 

 

そのモンスターはまるで小型犬サイズの可愛らしい、額に赤い宝石の付いた栗鼠みたいなモンスターだった。

 

それと見窄らしい形をした座頭みたいな……手に眼が付いた怪異と二体で現れた

 

座頭はともかくその栗鼠を見た大輝は我を忘れて絶叫していた

 

「今すぐあのカーバンクルを仕留めろッ!!!、絶対にがすなぁ!!!」

 

絶叫しながらも直ぐにカード達の動きを邪魔しない様に後ろに退いて立ち回る

 

そして直ぐに二体のモンスターは退治された

 

そして……後には魔石が一つ、大粒の赤い宝石が一粒にカードが一枚残された

 

魔石はEランク基準のものより非常に大粒の高品質な……だいたい五千円で取り引きされるだろうCランクでも最高品質の良品だ

 

そして……これが本題。もう一つの『赤い大粒の宝石』についてだがこれは『カーバンクルガーネット』と呼ばれる女性たちに大人気な迷宮産の宝石だ

 

あの栗鼠みたいな魔物……Eランクから先の迷宮に稀に現れる暫定Eランクモンスターであり一種のボーナスモンスターでもある『カーバンクル』だ

 

『Eランク階層以上の迷宮なら何処にでも現れるEランクモンスター二種』のうち片割れにして『見つけたらラッキーな方』として全冒険者に(獲物として)愛されている人気モンスターだ(ちなみにもう一方の片割れは『ぶっちぎりの嫌われ者』だと言っておく)

 

カーバンクルが何故『暫定』でEランクモンスターかと言うと……『カーバンクルのカードは未だドロップした事が無いから』である(『カーバンクルのカード』と言えば冒険者界隈では悪名高い詐欺話の一種と広く認識されている程である)

 

このカーバンクルを倒す事が出来れば3つの『良い事』がおきる

 

一つ目がこのカーバンクルガーネットの確定ドロップである。これはよく恋人持ちの(若しくは意中の女性を射止めたい)冒険者達や宝石商などから求める声が殺到している人気な一品だ

 

どんなに安いレートでも絶対に二百万円以上で買い取りされているので新しいカード代の足しになってくれるだろう

 

そして二つ目を確認する為に今出しているモンスターのカードを確認する……どうやら『お目当て』も達成出来た様だ

 

ジャック・オー・ランタンの戦闘力が最大値に向上している上に回避向上スキルまで獲得していた

 

これがカーバンクル討伐における第二の良い事……トドメを刺したモンスターに限るが、そのモンスターに莫大な『経験値』を与えてくれるのだ

 

そしてまた最後の一つは……

 

戦利品を回収した辺りから今度は『金色のガッカリ箱』が出現した

 

カーバンクルは倒すとこの『金色のガッカリ箱』を出す。このガッカリ箱は迷宮攻略報酬として出るガッカリ箱と同じく決して罠は無い

 

むしろ普通のガッカリ箱よりも良い物が出る可能性が高いお宝箱でもある

 

……勿論、それでも普通にガッカリな品物が出る確率も高いが

 

金色のガッカリ箱の中身は……十枚のカードだった

 

魔法を一回だけ使えるマジックカード……いや、マジックカードは普通なら一枚だけしか入ってはいない

 

このカードはむしろアイテムカードと同じ形式や図柄だが『白紙』である、おまけにまるで数枚綴りのチケットか何かの様に一つに繋がっている

 

こんな代物は大輝が知る限り一つしか無い。非常に珍しい話だが実例は既に存在してはいる

 

 

この魔道具は……『所持禁止類魔道具』だ

 

 

 

【Tips】ブラウニー

 

身長1m程の襤褸布を纏った醜い……けれど何処か愛嬌のある小人型の妖精

 

イギリスの『お手伝い妖精』であり、基本的に真面目に働くが決して衣服を(靴下一つすら)与えてはならない

 

それを与える事は『ブラウニーの解雇』を意味し、そのブラウニーを確実にロストしてしまう結果になる(原典では『ブラウニーは衣服を求めて召使いをやっている』のだが)

 

基本的に掃除洗濯、子供のお守りなら得意で料理は……うん、『昔のイギリス出身』という事を考えればね(大輝のブラウニーが最初から持っているレシピが『ハギス』『鰻のゼリー寄せ』『スターゲイジーパイ』だという地点で察して欲しい)

 

料理なども一応は(レシピなどで)教えれば上達はするが……決して上位互換であるシルキーには敵わない(むしろそのシルキーに使役される存在がブラウニーである……オークがボアオークに、河童が水虎に使役される様に)

 

ほとんど純粋な『属性/妖精(それと家)』 なのでそのブラウニーが女性型ならばシルキーやキキーモラなどの上級のお手伝い妖精にクラスチェンジがオススメされ。男性型ならばドワーフやレプラコーンなどが基本だろう……日本の座敷童なども(家繋がりで)進化先に出来る

 

【種族】ブラウニー

【戦闘力】70

【先天技能】

・下級家妖精:人間の代わりに家事をしてくれる妖精。……が、迷宮内では家などないためいまいち使いどころは不明。みすぼらしい格好をしているが、衣服を与えるとロストしてしまうので注意。初等家事魔法を使用可能。

・初等状態異常魔法

 

後天技能に罠探知・解除などのお役立ち系技能や……稀に下級収納や下級鑑定を獲得する個体が出やすいとも言われている

 




謎のカード(二種類あるけど)は……また次回

追記:例のカード綴りを十枚に変更……公式も十枚綴りだし


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第九話曇天高くされど高く高く掲げよ大漁旗

これにて合計十話……まだまだ序盤で話は進みませんが皆様応援ありがとうございます

※指摘を受けて少々加筆修正


『所持禁止類魔道具』

冒険者は基本的に自身が迷宮で獲得した魔道具は自身の責任に措いてそれを使用したり売買する権利がある

 

しかし、この『所持禁止類魔道具』は違う

 

『所持禁止類魔道具』として指定された魔道具は迷宮で発見次第(迷宮帰還時)速やかにギルドに提出して売却しなくてはならない

 

これに指定された魔道具は『犯罪に便利な道具』ばかりである

 

『姿を消す装飾品』、『記憶を改竄する薬』、『惚れ薬』、『どんな荷物も収容出来る鞄』

 

そんな使い方次第でどんな悪事でも簡単にこなせる危険なオブジェクトを放置なぞ出来る訳がない

 

だからギルド(と国家)は絶対に『所持禁止類魔道具』を厳しく制限、管理しているのだ

 

 

そして今回の『所持禁止類魔道具』……十枚綴りのカード束は『白紙のカードの束』と呼ばれる代物だ

 

その効果は……一枚使う事に『使った道具をほぼどんな物でもカード化出来る』という効果がある

 

例えばコンテナに使えばそのコンテナを何時でもカードに戻してポケットにでも入れて持ち運べる様になる

 

では……その中に銃器なり麻薬なり金塊なり……死体なりを入れてしまえば?

 

この魔道具はやり方次第では本当に色々な犯罪行為が出来るから『所持禁止類魔道具』に指定された

 

……しかし、この魔道具は数多くの冒険者から重宝されている魔道具でもある

 

『一回百万円』で先に挙げたコンテナなどの様なものでもなければだいたいのもの(大容量の……千ℓ入りスーパーローリータンクやら簡易トイレ、簡易シャワー室、キャンプキットなど)や貴重な魔道具をカード化して貰うサービスも存在している(中には発電機付きプレハブ小屋などをカード化して安全地帯で使用する剛の者も居るとか居ないとか)

 

ちなみに……『その為の特別な建築様式にしている事』と数枚から百枚以上の『白紙のカード束』さえあれば建築物をカード化する事すら可能である(このサービスは『三つ星冒険者』かららしいが)

 

コンテナみたいなものでもちゃんと審査を受けて合格すれば普通にそのサービスを受けられるらしいが(主に登録と管理の為に)

 

ちなみに今挙げた物で市販している物なら冒険者ギルドで何時でも販売している(新品中古様々に)

 

これをギルドに持ち込むと(それなり以上のギルドなら必ず備え付けの)虚偽感知魔道具で何時何処でどう入手したかやら何やらを根掘り葉掘り聞かれ……少しでも引っ掛かれば今度は読心の魔道具(所持禁止類魔道具)を使っての厳しい尋問が始まる

 

……これを隠して『裏社会に流す』様な真似をやらかす馬鹿はまず居ない。普通なら裏社会の方からそいつをギルドに突き出すからだ

 

(普通の)裏社会でもそれは絶対的な不文律であり……まかり間違ってでもギルドにだけは喧嘩を売る様な真似はしない

 

これ関係でやらかす者は大概余程の馬鹿な食い詰め者……若しくは完全に頭がイッている物狂いか余程大規模な組織か何かだろう

 

この『白紙のカードの束』に纏わるお馬鹿なエピソードが一つ世の中に存在する

 

 

ある時、大輝と同じくこのカード束を運良く入手したエンジョイ勢が居た

 

そのエンジョイ勢はこの魔道具が『所持禁止類魔道具』である事……どころか『民間人冒険者はそれを所持、使用してはならない魔道具ないしそれに纏わる法律』を知らない阿呆だった(冒険者にとって必要最低限必ず教わる基礎知識である筈なのに)

 

その阿呆は五回ばかり悪戯にその使用禁止魔道具を使い……知り合いの冒険者にそれを警告されて怖くなったから残り五枚をギルドに持ち込んだ

 

そしてギルドからしこたま怒られ。免許停止三ヶ月という沙汰を受けたが……一応は『過失』を認められてちゃんと残り五枚のカードの買い取りはして貰えたらしい

 

今では笑い話の一つとして有名になり、その広まった笑い話のおかげでこの法律は完璧な一般常識にまでなれたのである

 

 

閑話休題(それはさておき)

 

 

この『所持禁止類魔道具』は所持や使用に非常に厳しい制限がある(一応は『民間冒険者でも合法的に所持出来る方法』はあるが……最低でも三〜四千万はかかるけど)

 

しかし。これをちゃんと法に則って行動出来ればかなり美味しい飴玉をギルドから貰える

 

迷宮帰還から直ちに入手した『所持禁止類魔道具』を提出すればかなり良い値段で買い取って貰える上にこれを売って手に入れたお金は完全に非課税となる……しかもギルドからの評価も大幅に上がる

 

今回の『白紙のカード束』ならば丁度十枚綴りなので一千万円でギルドが引き取ってくれる……これをギルドに隠れて使われるよりはちゃんとカード化と同額で引き取って『ギルドにもこれで儲ける気は無い』という意向を示して隠匿を防ごうという意向かららしい(少なくとも日本の法律では)

 

これをギルドに(直ちに)提出すれば大金と評価がやって来る……何時間かかるかわからない取り調べと引き換えにだが

 

少なくとも探られて痛む腹は無いから平気だし

 

 

そんな風に高揚する感覚と共に『最後に入手したカード』を調べてみる

 

流石に幻過ぎるカーバンクルではなかった……けれど、これはある意味では今までの幸運よりも凄まじい代物かも知れない

 

そのカードにはさっきの見窄らしい身形の座頭……『妖怪系Eランクカード/手の目』が描かれていた

 

【種族】手の目

【戦闘力】50

【先天技能】

・手目坊主:探知能力を向上させる……何らかの隠されたものを探る事が出来るとか?(詳細不明……但しマスターが『盲目』である場合は完全に行使可能らしい)

※:未だに未解明な処があるスキルなので何かしらの情報が有ればギルドにご一報を

・化けの皮:憑依型装備スキル。特殊なデメリットはあるが他のカード或いはマスターに憑依する事で自身の戦闘力の六分の一を加算させる事が出来る(マスターへの憑依は全ての戦闘力とスキルを共有できる)

 

【後天技能】

・座頭/検校位:座頭としての技能である『按摩、針灸』、『楽器演奏/琵琶、三味線』、『金融名人(経理、マネジメントの一種)』、『語り部、謡い手』『中級鑑定』、『虚偽感知』、『危険感知』、『礼儀作法』、『教導』等々を内包する。『検校』という座頭として最上位クラス(としての実力)を有する(言わば座頭版メイドマスター)

・心眼:詳細不明

・風が吹けば桶屋が儲かる:座頭などの盲人、職人、猫、鼠、風、砂の属性を持つカードにごく稀に現れるありとあらゆる因果事象から出鱈目な迄に幸運を招き寄せる運勢操作スキルの一種。基本的に現状では金運とトラブルに巻き込まれる確率が向上する程度。

・杖術

 

 

……先天技能は兎も角。後天技能がかなりぶっ壊れだ

 

戦闘力はEランク最低レベルだがまぁそれはどうでも良い。『装備スキル持ち』という巨大なアドバンテージだってある(その『特殊なデメリット』に付いては知ってはいるがどんな物かはいまいち理解出来ない…てそれを実体験しない限りは)

 

一応は探知系でもあるらしいが……それがどんな物かもまだわからない

 

そして後天技能だが……この『検校』というのは座頭の最上位の格だった筈だ

 

だからこそ座頭としての技能を高水準で保有している……上に金運向上系スキル(ちと不穏な気配もするが)、虚偽や危険の感知スキルやあまつさえ『中級鑑定』すら保有しているのだから凄まじい

 

『中級鑑定』ならばプロでも持っていない者も居るぐらいに貴重な技能だ……

 

このスキル持ちというだけで真面目に『腰のカードホルダー』にも匹敵するお値段がする(ちなみに『上級鑑定』だったら『億単位のオークションの目玉商品』ものだ)

 

求めるプロとの直接交渉ならば……もしかすれば七千から八千万円はいけるかも知れない

 

『心眼』なる詳細不明スキルはさておいて

 

ギルドでも(中級鑑定の価値だけで)三千万円の即決で買い取りしてくれるだろう

 

尤も、冒険者としての精進に生きる者がこのカードを手放す事なぞそうそう無いが(実際大輝もこのカードを手放す気なぞ一切ない)

 

……しかしこの出鱈目過ぎる幸運に頭がもう付いてこれない。今日はもう帰るべきだろう

 

余りにも続く幸運の連続に流石に頭が付いて行かない。今日は大人しく出直して数日後に仕切り直しである

 

 

帰路に大したトラブルは無かった。迷宮帰還から直ちにギルドに駆け込んで何時ものメアリーさんに事情を話して『白紙のカード束』の引き取りを願う

 

実際には一時間も掛からずに尋問は終わった。メアリーさん曰く

 

「大輝ちゃんは模範的……むしろ模範的過ぎるくらいに優良冒険者だから」

 

らしい

 

本人曰く『才能が無かったからプロ資格には至れなかった』らしいがそれでも大輝はメアリーさんを心から尊敬している

 

……前に一度言ったとは思うが、皆様は嘗ての『世界中の誰もが体験したとある大事件』というフレーズは覚えているだろうか?

 

その大事件……丁度八年前ぴったりのこの月に起きた『第二次アンゴルモア』の際に絶体絶命の危機に瀕した佐藤大輝、いや佐藤一家の命を救ったのがこのメアリーさん(とその奥さん)である

 

その時大輝は自分よりも更に幼い幼馴染を連れて必死にモンスターから逃げ隠れ……時には自身を囮に幼馴染を匿いながらの決死行だった

 

両親から『お守り』として渡されていたEランクカードを囮にしたり、周囲の器物を盛大に破損させたり色々やらかしたものだ(そのEランクカードはやはりロストした)

 

当時。辺りに居たのがEやFランク程度のモンスターばかりだった事と一枚だけとは言えEランクカードを持っていたのは不幸中の幸いだった

 

その時。佐藤大輝という少年は自分達を助けてくれた冒険者に憧れ、そして強くこの世界を蝕む危機を理解した

 

この『アンゴルモア』とは……要は『迷宮からモンスターが這い出して来る現象』である

 

平たく言えばそれだけだが。モンスターの持つ力は何度も何度も口を酸っぱくして述べたと思う……最弱クラスのゴブリンやワイルドウルフですら武装していない人間程度ならば簡単に殺してしまう程に強い、そんな化け物がうじゃうじゃ迷宮から湧いて出るのである

 

最初の……丁度十八年前の第一次アンゴルモアが(ほぼ先進国ばかりで)勃発し、世界中が大混乱に陥った

 

その騒動の中から『カードの使い方』をたまたま知った者達……嘗ての冒険者の前身型である『サマナー』がこの時生まれた

 

『アンゴルモア時にはモンスターが徘徊する状態だった事』が(極めて稀な)有効に働いた希少な事例だったのだ

 

単なる美術品として民間に出回り、そして起こったこの未曾有の大惨事にたまたま『カードの本当の使い方』を知った黎明期のサマナー達……そして世界各国の軍や警察が死力を尽くしてこの大惨事を抑えきったのである

 

……余りにも莫大な被害と引き換えに。だが

 

この大災禍が終わる頃には街はまるで怪獣映画のクライマックスだか世紀末だか分からない有り様だったらしい

 

『一人歩きの死神(イレギュラーエンカウント)』という特殊かつ非常に厄介な災禍の一つによって起きた人的被害やら何やらで起きた死亡者や『取り返しのつかない被害』に遭った犠牲者などの色々な惨劇の数々もある

 

しかし……それでも人類は逞しく繁栄を取り戻した

 

それもこれも『迷宮からの収穫物』や新しい技術などをフル活用した結果だ

 

迷宮から良く産出される回復薬……少なくとも欠損とかでも無い限り大概の傷でも再帰可能とした。大概の疾病や毒素にも有効な奇跡の医薬品(部位欠損や更なる疾病等にも有効な薬だってちゃんと有ったりする……何なら若返りや不老長寿の秘薬だって存在する)

 

先にも挙げた(白紙の)カードやら何やらを応用したり……何よりも『魔石』の存在が大きいだろう(前にも書いたが完璧なクリーンエネルギーだったり万能肥料だったり色々使い道が多すぎる代物なのだ……何せ『Fランクの魔石一個あれば平均的な四人家族の電力がひと月程度は賄える』のだから)

 

迷宮の攻略にも『モンスターカード』という光明が差し込んできた……嘗ての迷宮攻略は軍(自衛隊)が銃器弾薬をしこたま抱えて命掛けの生身探索だったのだから

 

それで何とかなっていたのは基本的にDランク階層まで……Cランクからは一日中弾薬を湯水の様にぶつけて倒せるならばまだ易しい方。むしろ『無効』だとか『すり抜ける』だとか言ったふざけた魔物ばかりが跳梁跋扈する魔境魔窟となる

 

そんな中で人々を護る為に常に生命を賭して戦ってきた軍人(自衛隊)は世界各国共通で『真の聖職者』として(この世界では)高い評価を受けている(尤も世界共通でなりたい職業は『冒険者』だが)

 

……ちなみに、こういう背景がある為か『最強の冒険者=軍人冒険者』は世界の常識である(噂では『冒険者としての秘匿技術がある』ともアングラでは囁かれているらしい)

 

それなりに対処や対策を想定した新しい都市計画が始まりそれから十年後に……今度は『本当に全世界でのアンゴルモア』が発生した

 

のちに『第二次アンゴルモア』と呼ばれるその災禍は……前回に比べれば非常に軽微な被害で済んだ

 

しかし……この大事件の後には何故か更に迷宮が大量に発生した(元々迷宮は常に発生し続けてはいたが……この期を境に更に酷く発生が進行し続けている、という事だ)

 

大半はFランク迷宮……Dランクカードが有ればどうにかなる程度の迷宮ばかりだが軍(自衛隊)にはそんな物に裂く余裕など無い。モンスターカードのおかげで多少なりとも余裕が生まれてはいるがそれでも彼らが対処する迷宮は『Aランク迷宮』、世界中全てに於いて未だに誰も攻略に達成していない難攻不落な地獄の(真なる)釜底だ

 

そのFランク迷宮も放置すれば局地的アンゴルモアの発生を招き、しかも成長までする始末だ

 

更に増えた迷宮の対処に苦慮し……とある冒険心に豊んだとある国が『冒険者制度』を発足した

 

そしてこれが成功し、世界の様々な国がこれを模倣した

 

……日本もその一国である(かなり早い内に模倣した方である)

 

そんなこんなで世界に『冒険者』が生まれた

 

初期の職員達は自衛隊を引退した元冒険者やアンゴルモア時にサマナーとして活躍した(していた)者達が主に雇用されていた

 

メアリーさん(夫婦)もそのうちの一人である

 

嘗ての佐藤大輝も……六つ七つの頃にこの災厄に(かなり悪い形で)巻き込まれてメアリーさんや自衛隊、ボランティアの冒険者達に救われた経験がある

 

 

これこそが『佐藤大輝が冒険者を目指し。今の様にストイックに強さを飢求する理由』である

 

『佐藤大輝の原風景(もしくは根源)』とも言って良いだろう

 

非常にありふれた『求道冒険者の根源』だ。割と何処にでもあるし良く聞く話である

 

それと普通の冒険者ならまず絶対にやらない様な……あんなハードな連日迷宮攻略も『ようやく冒険者になれた喜びからの暴走』みたいな物である

 

佐藤大輝という男は割と馬鹿なのだ(冒険者馬鹿という意味での)

 

そんなありふれた背景を抱えたありふれた冒険者……にしてはかなり強運な佐藤大輝は。今自身が最も信頼する先達にとある事でアドバイスを求めにも来ていたのだ

 

 

カーバンクルガーネットや『白紙のカード束』はまだ良い…けれどあの『手の目』は真面目にアカンのだ

 

 

こんな……只でさえ腰のポーチですらまだ不相応なのに今の身代では莫大な大金やらこんな凄まじいカードまで獲得してしまうと……

 

今までの順調すらも……嵐の前の静けさ。だとか圧倒的曇天の兆候に見えてしまう

 

まるで……まるで……これらが『死神からの招待状』としか思えないのだ

 

 

 

【Tips】所持禁止類魔道具

 

読んで字の如く法律に拠って民間冒険者は所有、使用そのものを禁止されている魔道具

 

魔道具は基本的に通常空間でも使用が可能である為、一部の『非常に便利だけど現代社会に於いては危険な魔道具』や『誰がどう考えても危険な魔道具』などを規制する為の法案と其れ等を示す言葉

 

代表例中の代表例であり作中にも出て来た『白紙のカード束』や『透明化装備シリーズ(指輪やマント、兜などがあるらしい)』、『どんな荷物でも無限に入る鞄』、『人の心を読む力を持った装飾品』などの便利だけど使い方次第で非常に危険な魔道具

 

『惚れ薬』、『忘却薬』、『目標を確実に呪い殺す藁人形』、『どんな願いも叶えてくれる何か(例:猿の手……この手の道具は非常に莫大な代償を求めてくる)』などの色々な意味で危険極まりない魔道具

 

そういった危険物を確保、収容、保護(管理)するのもギルドの重要な役割である

 

そういった危険物は発見次第(迷宮離脱時)直ちに(なるべく)最寄りのギルドに持ち込んでギルドに売却する義務が冒険者には存在する

 

基本的にこの法律がまともに効果を持つのは(チーム単位でも良いから)四つ星冒険者資格獲得時(Cランク迷宮攻略権獲得時)からなのだが……ごく稀にFランク迷宮のガッカリ箱からでもこれらが出る可能性もある為全冒険者にこの法律の存在は認知されている

 

ちなみに……これらを売却したお金は完全に非課税となる(ちゃんと義務を果たした冒険者に与える『飴玉』の一つだからでもある)

 

これらの魔道具らは……使い勝手の良いものはAランク迷宮攻略に血道をあげる自衛隊冒険者達に支給されたり、ギルドや警察が厳重に管理しながら使用したり。純粋に危険な魔道具は何処かの秘密倉庫に封印されている……らしい

 

 

 



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第十話その按摩、値千金也

 

 

大輝は……『白紙のカード束』を引き取って貰う算段中にメアリーさんに『相談』を持ち掛ける事にした

 

例の『手の目』に関わる事と……其処から来る不安に付いてである

 

(投げ売りしても)全て合わせればCランクのお高いカードも容易く買える程度の莫大な利益だ

 

しかもそれが開始一年未満の新米坊主が出した……偶然なのは間違いないが流石にここまで幸運が続けは普通は逆に不安になる

 

前回に挙げた『死神の招待状』という言葉を思い出して欲しい

 

『死神の招待状』とは……全ての冒険者が畏れ忌み嫌う厄災『一人歩きする死神(イレギュラー・エンカウント)』からの死地への招待状という意味だ

 

 

『一人歩きする死神(イレギュラー・エンカウント)』

 

 

それは……『全ての冒険者の死因筆頭案件』にして全ての迷宮の中に絶対に一体づつしか居ない非常に特殊なモンスター

 

食玩やカードゲームなどを嗜む人(というかコレクター)がそれだけ聞けば興味を示すかも知れないが……これらはそんな真っ当な代物ではない

 

迷宮の最奥に居る本来の哀れなボスの肉体を乗っ取り。そして其処にやって来たまた哀れな冒険者を襲う

 

基本的に『現れた迷宮のボスとしての戦闘力』しか無い(Fランク迷宮ならばEランクの戦闘力となる)……が。そんな易しい話はまずこのイレギュラーどもには通用しない

 

確かに戦闘力だけならばまだ『かなりその迷宮ボスとして強い範囲』ではあるが……連中には下手なAランクモンスターも顔負けの凶悪な技能が山ほど備わっている

 

そして何より厄介なのが……この『イレギュラー・エンカウント』という化け物どもは普通のモンスターと違って非常に厭らしく粘着的に人類に敵対してくるのだ

 

とあるイレギュラーなぞ殺した人間(しかも攫った幼い子供)をバラバラに切り刻んで出鱈目に接合してから自身のテリトリーに飾っているのである

 

しかもどうやらその子供の魂をその『残骸』に縛り付けて。である(『霊感が強い』と自称する一部のカードや更にごく一部の冒険者曰く)

 

……此処まで悪趣味なのは流石に少しは珍しい範囲だが、基本的に『イレギュラー・エンカウント』は普通の機械的に人類を襲うモンスターとは違って極めて人間的に襲いかかって来る

 

……特に。嘗て起きた『アンゴルモア』の際にはこいつらすらも迷宮から飛び出して様々な大惨事を齎していた

 

街一つを幻覚で滅ぼし尽くした奴

辺り一帯の子供以外を老衰で殺し。残った子供達を余命幾許も無い老人に変えた奴

姿を見ただけで身体中から鉄の帯を発生させて人体を破壊する奴

 

先に挙げた輩もこの時に幼な子を攫い……

 

本当に色々と危険かつ不快な能力を以って大暴れである

 

大概の冒険者は『分不相応の幸運』が起きるとまず最初にこれが『死神の招待状』……要は『幸運の揺り戻し』ではないかと不安になる

 

非常に厄場くて悪趣味な揺り戻しであるが

 

冒険者界隈では『糞と汚物の下水煮』と吐き捨てられるそいつらだが……少なくとも『決して対処出来ない相手ではない』という事だけは救いだろう

 

とある迷宮系カルトはこいつらの存在を『迷宮からの試練』と呼んで(裏では)崇拝対象(の一つ)にしているとかいないとか……

 

半ば都市伝説扱いされている実話だが……こいつらを冒険者が一人で撃破すると何らかのものすごい魔道具が与えられる。とも言われている(大概の冒険者がこいつらに遭遇して生還出来た者は『複数人パーティーだったから』というのが大半なので)

 

……Fランク迷宮に発生したこいつらを三つや四つ星冒険者が討伐しても必ず出す魔石以外は何も出さなかったが(力量差が激しいと駄目らしい)

 

 

閑話休題(それはさておき)

 

 

大輝は……『白紙のカード束』についての話し合いが終わったら直ぐにメアリーさんに『もう一つの相談』を持ち掛ける事にした

 

カードケースから例の『手の目』を取り出してメアリーさんに見せる

 

 

……メアリーさんもこれを見て流石にヒいた

 

 

「……な、なるほど。そりゃ大輝ちゃんも不安になるわねこんな壊れカード引いたら」

 

間違ってもこれはEランクカードではない。価値で言えば間違いなくCランク上位世界の代物だ

 

「……はい、最初に見た時は何の冗談かと心底ビビりましたよ」

 

出されたお茶を飲んで無理矢理喉を潤わせる。そうでないと喉の渇きで話が出来なくなってゆく

 

普通のEランクカードならば一度の戦闘ならば5%の割合で出るのが普通だ……しかしこの『手の目/検校位』はまず滅多に出るものではない

 

元々座頭系統のカードは非常に限られている上にあまり出ない一種のレアモンスターだ

 

大概の座頭スキルだと音楽系ばかりで按摩や鍼灸持ちは以外と少ないらしく、少なくとも座頭より高位の『勾当』でもないと片方だけでも持っている事は希少だ(技能は無いが一応技術はあるらしい……成長で技能が生えるらしい)

 

しかも座頭スキルは階級が上がるごとに持っている技能の精度や質が向上する……普通の座頭の琵琶は普通に上手い素人並みに、勾当ならば最低限プロを名乗れる範囲に、別当ならば一流のプロ……そしてこの検校位ともなれば。である

 

勿論、按摩も鍼灸、歌舞音曲も最高峰の達人クラスなのでその辺りを理由に『座頭系/検校位』は裏で大人気なのだ(長期間迷宮籠りが日常である一部のプロ冒険者達が懸賞金すら掛けて検校座頭カードやそれに類似するカードを求めていたりもする。音楽性が合うなら娯楽としても最高峰であるし)

 

カードモンスター界隈の座頭は金やコネで昇格は出来ない。全ては『座頭としての実力のみ』がものを言うだけなのだ

 

何でも……この検校座頭カードは世界中でもまだたったの十数枚其処らしか無い非常に良い貴重なカードだとか

 

先に挙げた『中級鑑定』が無くても二千万円其処らで取り引きが成立するだろう(所詮はEランクカードだし、『無くても決して困らないが有れば非常に有難い』だけの能力なのでこんなものだ)

 

『虚偽感知』や『危険感知』も便利ではあるが『下級鑑定』よりかはありふれた能力なので其処まで価格には関わらない

 

この『手の目』をギルドが査定して出した価格は五千万円。そりゃ大輝も深刻に事態を受け止める(総利益六千二百数十万円なのだから……)

 

こんな(一つ星……どころか三つ星でもそうそう無い利益)もんを引けたなら普通は絶対に『死神の招待状』を恐れる。誰だって恐れる。筆者自身も恐怖する

 

この『手の目』一つで出す処に出せば一億はいけるかも知れない

 

かの天下人が六つ目に好きだと公言しただけはある(一富士二鷹三茄子、四扇五煙草六座頭とね)

 

……これが『初夢の吉兆』ではなく『死神の招待状』になってしまう辺り非常に業の深い話であるが

 

ともあれ……冒険者として立身する気ならば先ずは『死神対策』だろう

 

今の状態なら良いボアオークを買ってマイナーチェンジが最優先だ。残った現金で今なら回復役だって買える……強いユニコーンとかだって何とかなる。なるべくならばヘルハウンドやストーンゴーレムのクラスチェンジだってしたい

 

予算に限りはある……しかし、これが本当に『死神の招待状』だとしてもしなくても何時かは必ず『奴ら』との遭遇は必然だ

 

何となく……何となくだが大輝には『予感』がある。連中は必ず『大輝が一人の時』を狙って必ずやって来る、という予感がするのだ

 

今の大輝が受けた試験……二つ星昇格試験は『一人でEランク迷宮攻略』が条件である

 

普通ならば今の陣営では厳しめではある……が、この『死神の招待状(仮)』で大幅な強化が出来る

 

もし仮に……仮に『二つ星昇格試験を達成せずに逃げる』という方法で逃げる事は可能だろう

 

しかし、もしもそれを実行したら今度は更に厄場い代物が唐突に現れてくる気がする。迷宮そのものから逃げても何時かは必ずおこる『アレ』で絶対に逃げ場はない

 

……今なら、今こそが唯一のチャンスだ。連中もこちらをまだ舐め腐っていると思……いたいがまずそれは無い

 

少なくとも連中は人間を態度では舐め腐ってはいるが実際に舐めてかかる事は決して無い。むしろその態度で油断を誘うのが常套手段だと言っても過言ではないくらいだ

 

『今こそが一番マシな状態』だと腹をくくるだけだ。覚悟なら冒険者を志した時から決まっているのだから……

 

その辺りは冒険者になる前からメアリーさん(とその嫁さん)から何度も何度も座学で叩き込まれた内容だ

 

大輝(ともう一人の幼馴染)が『冒険者になる』と決意した際のてんやわんやのすったもんだの騒ぎ末にメアリーさんが開設していた『冒険者の基礎講習』に参加する、という条件(のうち一つ)を出されたから来た(その存在を知れた)のだ

 

その講習会は非常にわかりやすく。大輝とその幼馴染の血となり肉となり……もし、この講習を知らなかったりちゃんと受講したりしなかったら此処までのペースはまず不可能だし、まかり間違えばオークをロストした上で借金まみれの廃業処分だってあり得ただろう

 

E、Fランクカードの有効な使い方、冒険者として必要な身体トレーニング、冒険者トラブルあるある、迷宮サバイバル基礎編、確定申告のやり方(合法的な節税テクニック含む)、冒険者法基礎概論、『奨学カード』について等々色々重要な事を教えてもらったものだ

 

時にはキャンプの基礎講習(実質林間学校や臨海学校)もあったり季節の色々なイベントを楽しんだりで本当に色々エンジョイしたものだ

 

『来年の四月』には冒険者稼業を始められるその幼馴染にちゃんとした兄貴風を吹かせる……いいや、『今度もこれからも護る為』にが本音か

 

 

『可愛い可愛い妹分だ……兄貴としてあいつを護らにゃなぁ』

 

 

兄妹も同然に育った幼馴染……妹分だ。ならばEランク迷宮製イレギュラー如きで尻込みしている場合じゃない。間違いなく『狩猟』ではなく『死闘』になるだろう……手持ちも何枚かはロスト前提の鉄火場になるだろう

 

心から俺を慕ってくれる可愛い可愛い妹分を護る為、そして明日の朝日(未来)を拝む為……大輝はこの『手の目』に関して起こりそうなトラブル対策をメアリーさんと話し合う

 

流石に現世のお偉いさん相手は分が悪すぎる……最悪、この手の目を手放してもなるべく銭を毟り取る算段と心構えだけは必要だ(交渉事は苦手だが今はしのごの言ってる場合じゃないし)

 

……とりあえずは『秘密にしておけば暫くは大丈夫、何なら名付けもアリかもね?』というメアリーさんの一言で話し合いは終わった

 

いざとなれば『名付け』も算段のうち……ちゃんとこの手の目との相性次第ではあるが

 

まぁそれ以前に『現在のデッキスタメン達』からだが……ちゃんとした名前を考えないといけない

 

……流石にキラキラネームは嫌だろうし、常識的に考えて

 

今日一番の大仕事を終えたら流石に自分が空腹である事を実感した

 

とりあえず今日は下のラーメン屋にでも寄ってから帰るとしよう……身嗜みは最低限整えてはいるが迷宮籠りの垢は早く落とすべきだし

 

 

明日は妹分の顔でも見に行こう。流石に高額な買い物には少しだけ時間を置いて冷静になって考えた方が良い……メアリーさんの受け売り言葉だが

 

今夜は家族で夕飯をしっかり食べて明日は妹分と遊びに行きたい……控えているだろう鉄火場はその時だけは忘れよう。明後日は(沢山は居ない)友人達と遊び倒すのもまた悪くない、早期に夏休みの宿題を片付ける為に集まるもまた良しだ

 

数日はオフ決定だ……けど一度あのEランク迷宮に戻ってカード達にも伝えてからこの数日の苦労を労ってやらないと

 

そんな事を考えながら特盛チャーシューメンを貪り喰らう大輝だった

 

 

 

……そして労いの際にブラウニーの召喚時にカードを見たら『低級収納』が生えているのを見て盛大に茶を吹いた

 

 

 

 

【Tips】高価値技能

冒険者界隈だけでなく世の中には『需要と供給』という概念がある

冒険者界隈にも『非常に希少かつ有益なスキル』というものがある

 

今の今まで散々『欲しい』と言っても得られない『回復系技能』から他にも『魔法系技能』や『感知系技能』などや特殊な『便利系技能』などが良く『高価値技能』として良く挙げられる

 

特に貴重な技能として有名なのが『収納系』や『鑑定系』である

 

この二種類の技能持ちカードは例えどんなに弱いカードでも最低百万円からの取り引きとなる(低級収納持ちゴブリンとかみたいな)

ちなみにDランクの女の子カードが『低級収納』持ちなら二百万円の増額になる(更に需要が増えるからだ)

 

中には『メイドマスター』や『座頭/○○位』、『女郎/○○位』みたいな職業系かつ階級型なスキルも存在し、物によってはとんでもない値段になる物も存在する

 

一部の『これらの技能を覚えやすい』と言われているカードでも修得率は基本的にかなり低い(『名付けしたカード』だと修得率はかなり上がるらしい……という都市伝説が有るとか無いとか)




ちなみに今回出た『大輝のヒロイン』は彼女一人だけです

ハーレム?何それ?美味しいの?

は伊達でも酔狂でもありません(真顔)


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間話その一 この世界ならどんなモブだってチャンスは必ずある話

うちの主人公のモブ(?)度が何か盛大に向上しているので書いてみました


 

 

大輝がジャック・オー・ランタンを買ったあの日を皆様は憶えているだろうか?

 

あの日、大輝と同じ場所同じ時間でオーク(値段百万円の通常品)を買った少年……彼もやはりまたその日のうちに冒険者となった

 

……そして『初心冒険者の洗礼』を受けていた

 

 

「あれ?ボスが居ない?」

 

最寄りの二層までしか無い草原型最弱クラスのFランク迷宮に来たは良いが……既にボスは狩られていた後だった

 

ボスモンスターは撃破からこの迷宮が現れた時間丁度に再度ポップする(ちなみに一度撃破した者は二十四時間以内にまたボスを撃破しても魔石もガッカリ箱も経験値も与えられないらしい)

 

こういう攻略も容易く人通りの良い場所には沢山のエンジョイ勢が『縄張り』にしているものだ

 

出てくるボスモンスターもちょっとだけ強化された程度のコボルト程度の非常に弱い迷宮なのでこれまた小遣い稼ぎに向いた(エンジョイ勢に)人気の迷宮である

 

そんな迷宮で今回少年が初仕事で得たものは……

 

・総額二千円程度の魔石

・ワイルドウルフのカード一枚

 

その程度だった

 

少年はその魔石には手をつけずに出入り口のダンジョンマートでオークにダンチキ(要はファ○チキやローソ○チキンのダンジョンマート版)を、家族に何かのお菓子を買ってから帰った

 

数日は最寄りのダンジョン情報を集めて比較的競合相手のいない低階層迷宮を探した

 

一応……墓地型の三階層があったのでそっちに向かう事にした

 

屍臭がたち込め陰気臭く……そして出るモンスターもスケルトンや大鼠みたいな不快な造形の代物ばかりな不人気迷宮だった

 

ボスモンスターも……腐乱臭がどぎついゾンビがデフォルトだったからオークにもきつかった

 

確かに不人気ダンジョンなだけはある。世の中『不人気には不人気なりの相応の理由がある』ものだ

 

一応はまだ普通に未熟なオークやこの迷宮で得た気持ち悪い大鼠(馬鹿デカいドブネズミ)やスケルトンを使い潰す事で安全マージンを稼ぐ

 

二、三日に一回は必ずこの迷宮で戦いオークを育て……そしてその過程でも何気に育ったスケルトンを見出してそれなり以上に大事に育ててみる

 

スケルトンというものは要は『動く骸骨』だ。カタカタカラカラ身体を鳴らして錆びた武器やら棒切れやらを振り回すだけのあの雑魚だ

 

一応、頭さえ潰されなければ不死身かつそのスカスカな身体は刺突武器を(多少は)避けやすい……けれど基本的にあまり力は無い、所詮は骨なので耐久性も低い(特に打撃武器には)。おまけに殆ど自我や思考能力が無いのでいちいち命令しないと自衛すら出来ない(おまけに命令をよく忘れる始末だ)

 

はっきり言えば戦闘力すらあのバトルウルフ以下……驚愕の戦闘力10である(これなら装備をちゃんと整えれば一般人でも低階層なら楽勝である……『凡庸シリーズ』の短剣や杖程度でも良いぐらいだ)

 

だが、迷宮が出来て当初はこのスケルトンによって沢山の軍人や自衛官が殉職する羽目に陥ったものだ

 

何せ『特定の方法でないと殺せない不死身の化け物』が相手なのだから(しかも軍人や自衛官のメイン武器は銃……わりと刺突武器である)

 

……これが世界各国全ての軍人とアンデッドの長い長い悪因の始まりだった(後々には『物理攻撃そのものが無効』なアンデッドが迷宮攻略を激しく阻害する未来が待っているのだから……カードの使い道が判明するまで)

 

良い所はあれど基本的には最低最弱の雑魚モンスターとしてスケルトンは(色々な意味で)有名だ

 

……まぁ、そんな雑魚でも使い方次第で化けるのがこの冒険者界隈。弱いカードだって使い方磨き方次第で色々変わるものなのだから

 

少年も運良くガッカリ箱から入手出来た『凡庸の短槍(非カード、攻撃力+10)』をスケルトンに持たせてオークの助手代わりに起用した

 

(少年自身が)重い槍をえっちらおっちら運び続け……何度も何度も繰り返し槍の扱い方を反復させて一月後には『槍術』が芽生えた時には泣いて喜んだものだ

 

 

それから……冒険者になって半年はその墓場型迷宮をメインに武者修行と資金稼ぎの日々が続いた

 

イレギュラーにも遭遇せず、多少の幸運もあってカードの補強もそれなり以上に出来た

 

あのスケルトンはゾンビよりも上等なDランクモンスター『グール』にクラスチェンジした……運良くグールの特売セール(むしろ投げ売り)があったのでそれを買った結果である(瑕疵無しでセール価格五十万円也)

 

今では『静かな心』にも目覚めて元気な屍食鬼として前線で槍働きに勤しんでいる

 

そしてオークは……『鬼』としての性質を利用して『瘟鬼(おんき)』という不人気Dランクカード(それでもやはりオークより高価で強い)にマイナーチェンジしている

 

この『薀鬼』という魔物は中国の『鬼』……中国では鬼は『幽霊』みたいな意味合いで用いられる言葉であるがこの薀鬼なるものは一応は天に仕える存在であり悪を誅する為に天より差し向けられる制裁役の様なものらしい。要は下級の鬼神である

 

五体一組で行動し、その頭は牛、馬、鳥、羊、兎などの型になっている(この薀鬼は牛型である)。そんな痩せこけた鬼だ

 

薀鬼は一体だけでも疫病を撒き散らす能力がある……のだが、その能力が厄介な事に撒き散らすだけで制御不可能という代物なのだ

 

その為に割と強いけれど非常に扱い辛い厄介者であり、ほとんど誰も触ろうともしない非常にマイナーな不人気カードである……実際大輝もこいつの余りのピーキーさにマイナーチェンジ先として一切考慮に入れてはいなかったし

 

尤も、病もへったくれもないアンデッドや無機物使いならばそのデメリットもデメリットたり得ないが(召喚者自身はカードそのものに守られているから大丈夫。薀鬼自身の力なので薀鬼そのものには無効であるからして)

 

ちなみにそのお値段(瑕疵無しで)二百万円という安さだ(割と珍しいカードであり供給も少ないが需要は更に無いから結果的にこのお値段である)

 

このカードを扱う者は基本的に『仲間と組む事が出来ない』、薀鬼の特性上扱うカードにも誓約が出るし……何より他者と組めば自動的にフレンドリーファイヤを誘発する様なものだ(他のマスターだと『カードがダメージの肩代わりをしているだけ』だし)

 

少なくとも『薀鬼使い』は『ぼっち冒険者』のレッテルそのものだとも一部では言われている……同じ『薀鬼使い』かその効果を無効化出来る特性持ちかでもない限りはだが

 

この少年は何を思い何をかんがえて『薀鬼使い』などという茨の道を歩むのか……

 

 

……実際にあの薀鬼はたまたまギルドで売っていた出物なだけで彼はそれと相性が良い(と彼は確信した)アンデッドとのシナジーだけで考えて、というだけの結果である

 

一応、この薀鬼の特性は『もう一体の薀鬼』が味方に居れば制御可能にはなる

 

しかし薀鬼には『二体一対スキル』なんぞという高級技能は無いからやはり召喚枠などの理由からも非常に不人気事情に拍車がかかっている(この二体の為に四百万円使うなら普通はその四百万円でちゃんとしたカードを買うのが普通だ。召喚枠だって勿体無いし)

 

この薀鬼もちゃんと五種類揃えればかなり強力な技能が使えるが……決して割に合う様な代物でもないのでやはり不人気カードである事には変わりない(似たような代物に『とりあえず七枚揃えればよい』という条件の『七人ミサキ』というCランク悪霊系カードも存在する……やはり不人気カードだが)

 

そんな駄目なカードをついうっかり選んでしまったこの少年……名は『鈴木翔』という

 

何処にでもいる冒険者に漠然とした憧れを持つだけのごく普通の少年であり、家もやはりごく普通のサラリーマンの父とパートタイマーな母に兄が一人の平々凡々な一般人だ(親がそれなり以上に偉かったり美少女な幼馴染がいたりといった特殊な背景なぞ一切無い中学三年生の小僧である)

 

とある幸運な偶然によって冒険者となる為のチケット……要は懸賞に当たってカード引換券を得て冒険者への道を歩んだラッキーマンである

 

この冒険者時代では『(それなり以上に大きな)懸賞』と言えば『Dランクカード』というのが既に常識となっている

 

今回、翔が当選した懸賞はギルド発行月刊誌のいわば『奨学懸賞キャンペーン』とでも言うべき代物だった

 

百万円丁度の奨学カード一枚引換券、ライセンス登録料無料チケット、それと最低限の装備(予算制限あり)引換券の俗に『冒険者奨学キャンペーンセット』と呼ばれるあまり裕福ではない学生向けの救済措置(の一つ)である(本当に一般家庭的にもまたありがたい話ではあるが)

 

こういう型やきっかけで冒険者界隈に入る(事が出来た)冒険者は実は以外と数多く。こういう話が多々ある地点で国や世論は真面目に『常に冒険者や軍人(自衛官)の頭数を求めている』という事がわかる

 

そして……逆に『冒険者向けの懸賞』というものも(カードパック以外に)存在する

 

例えば……ギルドで何らかの有料サービス使用につき一回の福引きやらハガキ懸賞冒険者用コースなどの方法で安いCランクカードや人気Dランクカード。魔石袋みたいな(比較的安価な方の)便利アイテム。そこそこの武具(カード化済み)やらキャンプ用アイテム詰め合わせカードなどが貰えたりする

 

こっちはエンジョイ勢をなるべくガチ勢に転向させたり、武具系魔道具の使い心地を知って貰ったり、普通にガチ勢(の卵)の応援といった意図がある

 

コストもそれなり以上にギルドに余っている比較的癖のない不人気Cランクカード(という名の不良在庫)を目玉に、大概はそれなり以上に在庫があるDランクカード、あまり使われないから在庫はそれなり以上ですらある武具や型落ちや中古品のキャンプアイテム詰め合わせカード、そして本当の目玉商品である魔石袋みたいな便利アイテムだってそこそこ在庫があるからかなり低コストだ

 

……流石に『カードホルダー』みたいな数千万円の超高級品は不人気デザインかつ不人気カラーを年に一度有るか無いかな大イベントの目玉としてがせいぜいだが(むしろ在庫そのものがほとんどないのだから)

 

そんなこんなでこういう幸運を掴み取れたそれなりの数の冒険者『懸賞上がり』は……少なくともそこいらのエンジョイ勢よりかは勤勉に冒険者稼業に勤しむものだ

 

少なくとも冒険者稼業はちゃんとやればかなり歩合も効率も良いアルバイトになる(初期投資がどぎつい事が最大のネックだが)。懸賞上がりはエンジョイ勢程度で終わるとしても通常のエンジョイ勢よりかは勤勉なものである(通常の『親の金で冒険者になれた勢』と違ってハングリーなだけに)

 

さて……その翔当人は更にもう一枚あるジャック・オー・ランタン(南瓜頭)とEランク勢の主力であるしっくり来たゾンビと餓鬼を並べて自宅で二つ星試験攻略の算段を立てていた

 

ゾンビをグーラーにするか?それともこの餓鬼を薀鬼二号にするか?である

 

……流石に前の様なセールはそうそう無いから確実に百万円は必要だろう(一応は女の子モンスターとも言えるけど……それでもグーラーが百万円以上という話は聞かない)

 

新しい薀鬼の為に育成していた餓鬼をなるべくならば早く薀鬼にしてやりたいというのもある

 

餓鬼というものは六道の一つである『餓鬼道』に堕ちた亡者の事であり、こいつはいわゆる『小財餓鬼』とも呼ばれるごく一般的な餓鬼だ

 

このゴブリンを更に小柄かつ凶悪な様相にした土気色の醜悪な小鬼は『餓鬼』というだけあって常に空腹に苛まれている

 

それが『餓鬼』という哀れな化け物の宿業だが……流石に自分のカードともなれぱ少しは哀れに思うしなるべくならその飢餓から救ってやりたいものだ

 

だから『薀鬼にクラスチェンジ』である

 

願わくば馬型薀鬼だと嬉しい……もしかしたら何時かは牛頭鬼、馬頭鬼にクラスチェンジの目だってあるかもしれないし

 

……尤も、今のまま一つ星でうだうだやっている様ならそれは夢のまた夢だが

 

だからこそ鈴木翔は今を一歩一歩踏み出してゆくだけである

 

 

「しかし……何だろう?迷宮内だとこいつらが考えている事が何となくだけど分かりやすいんだよな?」

 

餓鬼のカードを手にする

 

「こいつの場合は『オナカスイタ』ばかりだけどさ」

 

そう呟いてカードを机に戻そうとしたら……

 

『マスター、アリガト』

 

そんな声が聞こえてきた……様な気がした

 

……やはり明日は薀鬼の情報探しとついでにこの空耳についてメアリーさんに相談してみるかな?

 

そんな事を考えながらベッドに潜り込んで鈴木翔は眠りについた

 

 

 

……これから先、この鈴木翔は佐藤大輝と巡り合うかも知れないし巡り会わないかも知れない。その結末は筆者の筆の滑り具合次第ですが

 

 

 

【Tips】鬼

基本的に我々が認識している『鬼』というものは『桃太郎の敵役』や『地獄の獄卒』、『強い情念や怨念で人や獣が転じたもの』、あとは西洋の御伽噺の人喰い鬼の類だろう

 

しかし……この『鬼』という言葉は元々は『幽霊』や『何だかわからないもの』というのが原初の意味だったらする

 

要はこの『鬼』はカード属性として捉えるとかなり多種多様な性質を内に含ませる事が可能になる

 

邪悪なヒューマノイドや巨人、地獄の沙汰も金次第番人、幽霊や怪異そのものと多岐多様な性質を持っているからクラスチェンジやマイナーチェンジの対象には事欠かないという特徴がある

 

逆に『リンク属性』として考えるなら……実は非常に面倒な代物でもある

 

数多くの『鬼』という概念から自分に本当に適した概念を探さないと成長が中途半端になりやすいからだ(人に拠っては巨人属性だったり幽霊属性だったり……たまに鬼特化型なら全ての『鬼』を使いこなせるだろうけれど)

 

この鬼属性は。大概の冒険者達がオークを最初のカードに選ぶ傾向が多い為か後天属性に鬼が発生する可能性が高い事もあってかなりありふれた属性になっている



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第十一話(ある意味)最初から原作主人公に対して絶対的に勝利している件について

※:但し、当の大輝当人の勝利条件は別のものである

……ようやくタグの一つが成立したよ(難産だったけど)。美少女の描写はマジ難しいものだ(その動かし方も含めて)

それと今回から『リア充』とクロスオーバーをタグに入れます(他作品能力チートは絶対やりません。登場人物が欲しいのです……チートやるならモブ高らしく)

この世界ならやはり『金持ち』と『強運』はチートかな?一応はちゃんとリアルチートだから良いと思うけど(大輝自身がそうだけど)


夏休みも始まったばかり……朝も早いのに既にアスファルトには陽炎が浮かび太陽も本気を出し始めている

 

そんな灼ける道の中で何時もより心なしかちゃんとした身形(でもカードホルダーは決して手放さない)の佐藤大輝は最寄りのダンジョンマートで幾つかのお土産を買って『妹分』の家に向かう

 

ダンジョンマートとは……嘗ての第一次アンゴルモアで殆ど壊滅した迷宮周辺を政府が被災者支援を兼ねて一括買取りした際にあった政界のごたごた(野党の言いがかり批判)を利用して真っ先に迷宮産業に足を踏み入れた(この世界に於ける)コンビニエンスストアの絶対王者である

 

あの大破壊の恐怖から迷宮周辺のコンビニでは働き手が著しく希少となり、今までの大手は全て迷宮周辺から撤退した中で『無人販売システム』という新システムを引っ下げて迷宮に挑む自衛隊員相手に商売を始めたのが始まりだ(規律に厳しい自衛隊ならば万引きの恐れは無いだろうとの信頼もあった、そして自衛隊員が常に居る事から一般客も万引きがほぼ出来ない状態になったのも嬉しい副産物となった)

 

『ダンジョンマートがある=迷宮がある』という図式通りそのものなので最初は殆ど一般客が寄り付かず自衛隊員ばかりが客だった為に当初は苦しい状態だった

 

そして……日本にも『冒険者制度』ができてからダンジョンマートの快進撃が始まった

 

政府やマスコミも『冒険者制度』を盛大に支援するから(今まで頑張ってきた)迷宮産業は全て業績が右肩上がりで株価は鰻上り。何気に佐藤家も『妹分の実家』も結構なダンジョンマートの株を持っているから経済的には非常に裕福な分類にあたる(妹分の実家は更に裕福だが……むしろちょっとした富豪の範囲ですらある)

 

……何せ佐藤家も妹分の両親もダンジョンマート社員なのだから(しかも創設期から居る結構偉い立場の)

 

これが『大輝の家族が冒険者に理解がある』という文言の最大……いいや、第一次アンゴルモアの際にとある『座敷童使いのサマナー』に命を救われた事がきっかけであり、その経験とその時たまたまどさくさ紛れで入手した(そのサマナーがドロップを譲渡してくれた)Dランクカードをきっかけにサマナーとして活躍していたのをやはり同じくサマナーやっていた当時の『妹分のご両親』と知り合い、そして若き日のダンジョンマート社長に拾われてダンジョンマート(の前身)に就職した。という経緯を辿った事からだ

 

冒険者の存在でダンジョンマートは大躍進を果たしたのだ。だからダンジョンマートの社員にダンジョンアンチはまず存在しない(来ても確実に面接で落ちるしその素振りを見せれば確実に閑職送りからのクビだ)

 

そんな飛ぶ鳥落とす大企業で栄達(部長と常務)しているのが大輝と『妹分』の両親だ

 

 

ダンジョンマートの人気スィーツ数点を土産……今さら土産もへったくれも無い長い長い家族ぐるみの付き合いだが『昨日の出来事』みたいな事がおきればそれなりに上機嫌にもなる(『死神の招待状』云々は今だけは心の棚にしまっておいて)

 

流石にちゃんとしたケーキ屋とかも開いている時間ではないからまぁ仕方あるまい(全て『彼女』の好物ばかりだし)

 

そして目的地である『薬丸邸』に到着した

 

都心の一等地にある(家族三人にはちと広い)佐藤家の家屋もかなり良い物件なのだが……更に裕福そうな。まぁ『豪邸』に入る範囲の家屋だ(『第一次アンゴルモア』で崩壊した薬丸邸は大豪邸だったらしいが)

 

……まぁ勝手知ったる何とやらでインターフォンにたどり着きそれを鳴らす

 

「おはよー。にーさまいらっしゃーい、待ってたよー」

 

少し間延びしてはいるが非常に良く透る澄んだ可愛らしい。いわゆる『アニメ声』でそんな緩い応答とぱたぱた走る軽い足音が返ってきた……聞き慣れた『妹分』の声だ

 

それから直ぐにドアが開いて当の『妹分』が出てきた

 

身長は(長身の部類に入る)大輝より30㎝ばかり低い……が、小学六年生ならこの程度が普通だろう

そして特徴的な蜂蜜色……いわゆるハニーブロンドのサラサラと美しい腰まである長い髪。いわゆる『天使の輪』も例え夕闇や星明かりの中でさえ非常に映える程髪は艶やかだ

首には大きな黒いリボンとその瞳に合わせた翠玉のブローチ

上半身のボディラインを強調するお洒落な黒地の長いサスペンダー付きコルセットスカートに純白の凝ったフリルで装飾された涼しげな袖付きアメリカンスリーブブラウス(何気にブランド物、体格に合わせた特注品)、そして脚は黒いストッキングでコーディネートされた小柄で華奢……ではあるが『発育』はかなり素晴らしいものがあり、その恵まれたプロポーションはそのファッションでよくわかる

そしてその肌は艶やかで張りがある。大輝もよく彼女に抱きつかれているのでその肌の温かさも張りも弾力も柔らかさもその香りも全てを良く知っている……極上もまた極上だと

 

ちなみに先に挙げた翠玉のブローチ……あれは『人工魔道具』の一種で『エアコンペンダント』の亜種『エアコンブローチ』である(両親が大切な一人娘である彼女に送ったプレゼントの一つであり、彼女は他にも幾つかの装飾品型護身用魔道具や何枚かのカードを護身用に渡されている……無論、全て彼女の私物でもあるが)

 

何気にその持っているカードは今の大輝のデッキよりも(多少は)高性能だが

 

その顔は……時に、貴方は何故『女の子カード』が非常に高価な取り引き対象か。その理由をご存知だろうか?

 

『女の子カード』というものは基本的に主人に従順である……だけでなく『唯只管に顔が良い』からだ

 

いっそ『人工的』とさえ言って良い程に最高に整った容姿や黄金比のプロポーション持ちの従順な美女美少女である

 

そんな従順かつ美しい少女や美女が金銭次第で手に入るのだ。金銭次第で

 

殆ど大した能力も戦闘力も無い美少女カード(Dランク夢魔系)ですら六百数十万円の世界である(『夢魔である』だけで物凄い需要はあるが……主に若い男の冒険者に)

 

世の男性冒険者の一部……どれだけ大多数でも一部は一部だが…は『女の子カードを嫁(もしくはハーレムの一員、性○隷)にする』という目的(若しくは野望)の為に邁進する者も数多い

 

一部のアングラな話だが……『異空間カードを使った女の子カード違法風俗』やらとあるアミューズメントパークには『お偉いさん専用女の子カード風俗』などがあるやらと実しやかに語られている(事実だが)

 

八年前の第二次アンゴルモアでも先に挙げた夢魔系女の子カードに『人類最古の職業』行為をさせる反社会関係者などが居た……とも言われている(性犯罪抑止の見地……や『そのシェルター責任者も使っていた』事から黙認されていたが)

 

ちなみにこういう行為にカードを使う者達は『女衒冒険者』と呼ばれて一部の冒険者からは蛇蝎の如く嫌われている(逆に『顧客』もいるが……ちゃんと阿漕でなければだが)

 

夢魔系統のカードにとって『そういう行為』はぶっちゃけ『食事』みたいなものだから一概に悪いとは言えないので色々微妙な事にはなっているらしい(カードそのもののストレス発散にもなるし……特にカードが男所帯だと)

 

大輝も(ちゃんとした店に)オークをそろそろ連れて行ってやらないと。とは思っている(ついでに新人の手の目も『好きそう』だし)……大輝自身は欠片も興味がわかないが

 

そして大輝が『女の子カードにあまり(実際には全く)興味がない』事も彼女の存在が深く関与している

 

彼女の容姿を一言で言うならば……『女の子カードの中でも上位が狙える範囲』である

 

女の子カードの美貌はよく『作られた様な』とか『まるで人形の様な』などとよく言われている……が、彼女は『普通の人間』だ

 

しかし、逆にカードと違って『天然の造形』だともわかる。まだまだ未熟であり、何時かは成熟して老いて朽ちる定めを持った『人間の美しさ』を魅せる

 

カード達の様な宝石みたいな永遠不変ではなく。何時かは必ず儚く朽ちる花そのものの……柔和そうであどけなく今はまだ硬く閉ざされた蕾の状態の様な美しさだ

 

……まだ『蕾』の段階であのカード達に挑んでゆける。それだけで彼女の美しさはどんなものかご理解頂けるだろうか?

 

その彼女の……まるで生きている、蕩ける様な……しかしその中に強い意志力を秘めた最高品質の深い翠玉(エメラルド)の様な煌めき輝く瞳で大輝の姿を映しだしてその存在を捉える(捕らえる)

 

『絶対に逃がさない』という魂からの(それを当人自身が理解しているかどうかは別としての)常なる意思表示と共に

 

その妹分……『薬丸姫子(やくまるひめこ)』は大好きな『にーさま(大輝)』に全力で抱きつく

 

まるで主人を見た大型犬の様に

 

姫子の(歳不相応な)豊かなたわわが大輝の胸板にぎゅっと押しつけられる。華奢だけど柔らかく温かい腕の感触が大輝の首筋にかかる。姫子の細く華奢な身体通りの軽い体重全てが大輝の身体に負荷をかける

 

しかし大輝も未熟なれど仮にも『ガチ勢』の一人たる冒険者だ。小柄な少女一人を支えられないほどひ弱でも貧弱でもない……重い荷物を背負って迷宮を歩きまわる経験や日々のトレーニングは伊達ではないのだ

 

抱きついてきた姫子を優しく抱き抱えて……いわゆる『お姫様抱っこ』という型に直してやはり優しく抱え下ろす

 

もっと抱きついていたいからか、むーむー唸りながら大輝の胸板に頭を擦り付けながら抗議っぽい行動に走る姫子

 

これが、この二人の日常だ。大輝が本当に守りたいものだ。嘗てのアンゴルモアの惨禍から命懸けで護り抜いて得たものだ

 

 

今日も姫子の両親は仕事だ……尤もそれは大輝の両親も同じ事だが(飛ぶ鳥落とす大企業の幹部だから当然と言えば当然の話だが)

 

姫子の面倒を常に見てくれている専属のお手伝いさん(姫子が生まれる前からのベテランさん)に見送られて今日は一日中遊びにゆく

 

姫子にとって大輝と離れ離れになる経験はあまり無い。どんなに長くとも一週間しか無かった(三日前も大輝は夜明け前から迷宮に突撃していたし)

 

清楚な白い麦わら帽子に白い薄手のボレロタイプサマーカーディガンといった追加の出立ちとなった姫子と二人で街に繰り出す

 

……ちゃんと手を繋ぎながら

 

そして……その『遊びに行く事(実質的なデート)』は実に健全に行われた

 

普通に映画(姫子の趣味のアニメ映画)やウィンドウショッピング(無闇矢鱈な買い物は最初からしない……彼女自身も冒険者志願なだけに)、人気の喫茶店で評判の特大(カップル用)パフェを二人で食べたりと……実に彼らの日常そのものだった

 

……独り身の男達(それと一部のアレな彼女持ち)の怨嗟と激しい嫉妬(そして羨望)の眼差しはさておいて。だが(姫子と一緒に居ればそれもまた日常だから既に気にしない)

 

尤も、気にはしないが警戒はさり気なくされどしっかりとやるが

 

姫子の容姿(や歩き方一つ取っても優雅な立ち振る舞いなど)目当てにちょくちょくナンパや(大輝への)因縁つけ、アイドルやモデルへのスカウト(中にはAVのスカウトマンも多々居た。普通のスカウトに見せかけた悪質なAVスカウトマンや性犯罪者含めて)、時には何らかの新興宗教(カルト)からの『御本尊になって下さい』だの『貴女が御子様だ』などといった意味不明な寝言もあった

 

そのカルトは現在の流行りなのだろうか、いや世相か……全て弱小ダンジョンカルトだったが

 

今までのそういう不快なだけの有象無象の中でも時には面白い人物はごく稀に居たりはしたが……

 

その筆頭であるとある超一流大手芸能プロダクション所属の大男……まるで殺し屋か何かみたいな也して非常に温厚で礼儀礼節を解した好人物(プロデューサー)だった

 

……その強面のせいで警察に捕まってしまうオチと担当しているらしいアイドル候補生(姫子と同い年だった)に取りなして貰う一連の騒動を含めて(何気に縁も出来てしまったがまぁ姫子も楽しんでいたから良いだろう)

 

そのアイドルのサインを貰った事もまた良い思い出だ(今現在だとそのサインにとんでもないプレミアが付いているらしい)

 

また、姫子がそのアイドルといわゆる『メル友』となって後々その事務所所属の色々なアイドル達と仲良くなっていた。という余談もある

 

他にも色々な(優良なホワイト)事務所の素晴らしい(愉快な)アイドル達と(何気に)仲良くなってコネを多数作っていたりもするがやはりそれも余談である

 

大輝自身もその口下手な敏腕プロデューサーと(他にもちゃんとしたプロデューサーやスカウトマンらの一部と何故か)仲良くなってたまに連絡をやり取りしているのは更なる余談である(要は芸能界に面白いコネが出来た)

 

……幸いにも今日は無粋な痴れ者は現れずにデートは恙なく完了したが

 

そして夕暮れの公園で……

 

大輝と姫子は二人でブランコに乗りながらまったりと過ごしていた

 

どちらも何時両親が家に帰ってくるかまるでわからない環境である為、まだまだ余裕はある……実際はお互い単にもう少しだけでも一緒に居たいだけなのだが

 

そろそろ日が沈み夜の帷が落ちる頃に姫子は大輝にぽつり、と一言話しかけた

 

 

「……ねぇ、にーさま。何か悩みがあるの?」

 

 

大輝は内心少しだけ動揺した……姫子には決して内心の弱み怯みなぞ『八年前の大災禍』以来決して見せたくは無いから常に己を磨いていたつもりだったが

 

また、何時か必ず再発するだろう『第三次アンゴルモア』に対処する為に今まで精進を重ねてきたつもりなのだから

 

単に『男としての最低限の矜持』が冒険者になった理由だ。隣に佇む愛らしい妹分を最後の最後まで護りたいだけだ

 

 

『この可愛い妹分を何が何でも護りぬく』

 

 

只、それだけが本当の目的だ(両親や姫子の親、それほど沢山は居ない友人などもまた護りたい対象だが……姫子ほどではない。流石にここまでのモチベーションは無理だ)

 

『護りたいもの』に己の弱み怯みなぞ誰が見せたがるものか?故に『男として最低限の矜持』だ。痩せ我慢だろうが何だろうが最低最悪の化け物を相手にする(かも知れない)状況だろうと何だろうとこの少女を見ていれば闘志は常に湧き上がる

 

……それでも必ずこの妹分はこちらの弱った内心を軽く読んでくる。尤もそれはお互い様な話だが

 

『……また、ポーカーフェイスは失敗か』

 

少し悔しいけど……やはりこの可愛い妹分は人(俺)を良く見ているものだ

 

そんな事を考えながら大輝はぽつりぽつりと昨日の(心の棚にしまっておいた……つもりの)出来事を話す

 

カーバンクルと手の目座頭、そしてガッカリ箱からの莫大な収益に『死神の招待状』への恐れ……其処から来るぐちゃぐちゃとこんがらがった感情を、不安を話す

 

『師匠』に話せてほっとしていた……つもりだったが、やはり(中学生の小僧には)莫大過ぎる銭の話と『死神の招待状』のダブルパンチは結構効いていたらしい

 

内心の震えを自覚はしながらもやはりポーカーフェイスをキメて……

 

『柔らかい?』

 

気がつけば大輝の視界が『何か』に遮られていた

 

その『何か』はとても暖かく、柔らかく、良い匂いがした

 

その『何か』大輝も良く知っている……むしろ魂にまで染み込んだ最高の感触だ

 

『姫子が俺の頭を抱き抱えている』

 

その一言で片付く話だが……大輝の中の『何か』が沸騰しそうになる

 

滅茶苦茶柔らかくて暖かい極上の双つのメロンによる目隠し……それは激るだろう(大概の男なら)

 

流石にこれではポーカーフェイスなぞ無理だ

 

首筋に絡みつく二つの細い腕、この年頃の少女と童女の境界線上にある様な乳臭さを含めた香り、大輝の腕にかかるさらさらと一本一本がまるで金無垢の糸の様な髪の触感……

 

これも一つの黄金体験なのだろう

 

大輝は姫子のこの行為に何も言えなくなる。むしろこの経験に魂から浸っていたいぐらいなのだから

 

 

「ねぇ、にーさまは覚えていますか?」

 

 

唐突に姫子は大輝に語りかける

 

 

「昔、昔の八年前の今頃の話を」

 

 

前に少しだけ話した『第二次アンゴルモア』の話だ

 

当時七つの大輝はやはり当時四つの姫子と二人で唐突に起きた『第二次アンゴルモア』に巻き込まれてからの数時間の地獄の様な経験から生還した

 

嘗てメアリーさんやそれぞれの両親の懸命な捜査が間に合って二人は無事に保護された

 

被害は……大輝が何時も『お守り』として持たされていたEランクカード一枚と大輝の身体数ヶ所の骨にヒビが入り肋骨一本と右脚左腕の骨折に無数の打ち身捻挫切り傷とかなりの大怪我、それと背中に今も消えない大きな爪痕が。姫子は身体中小さな擦り傷だらけの泥だらけという状態だけで済んだ

 

大輝が命懸けで姫子を護り続けた結果だ

 

その時の過酷な……人間の本質本性全てを容赦なく暴き捻じ曲げる地獄の様な体験は大輝だけではなく姫子自身も盛大に変わる(成長する)には充分だ……むしろ充分過ぎた

 

大輝の様に『生き足掻く力』を求めて修羅の道を邁進する……むしろ『大輝の隣を歩む力』を求めて彼女もまた力を飢求する修羅とも化した娘に姫子も変じた

 

普段はあどけなくたおやかな深窓の令嬢以外の何者でもないが……大輝が居ない時は(まるで大輝を模倣するが如く)冒険者になる為の修練や『冒険者になる為の両親との約束』を果たす為の勉強や習い事に勤しむ日々を送っている様な娘だ(全てのトレーニングは体質、命運的に絶望的に筋肉にならず女性としての美貌とプロポーションなどの肉体的魅力が向上するばかりだが)

 

だから……今の大輝が抱く不安や恐怖は姫子にも良くわかる話だ

 

姫子は今の大輝の内心を決して馬鹿になどしない。自身にも同じ不安がある事は八年前から今まで常に抱き続けてきた感情だ

 

八年前にもあらゆる恐怖も苦痛も……そして絶望すら飲み下して私(姫子)を護り続けてきた大輝に対して想う感情は

 

 

『ただ、愛おしい』

 

 

常にそれだ

 

彼女も彼女で既に大輝と同じく『覚悟完了』しているのだ。むしろ同胞……いいや相方……それすら違う。そんな言葉程度では語れない関係の事柄だ

 

傍目なら兄妹……いや、むしろこの関係はそれだけでは決してない

 

『恋人』と言うには余りにも濃く。『兄妹』と言うにもまた違う。『夫婦』もまた微妙に違うと言える

 

……それでも『恋人』という言葉にも憧れはあるが(双方共に)

 

少なくとも今この瞬間はまだ『そういう関係』では無い……むしろ滅茶苦茶なりたい(双方共に)

 

まだ告白さえしちゃいない。まだそういう関係になるにはまだまだ未熟過ぎると自重しているだけだ

 

『何を今さら』と彼らを知る全ての知人縁者は口を揃えて言うだろうが……彼らにとっては『それが普通で今まで』だっただけである

 

お互い漠然と『何時か必ずくっついているんじゃないかな?』などと甘い考えだった

 

……この二人ならその甘めの了見でも放っておいても必ず普通に結ばれ普通に夫婦となり普通に同じ墓に弔われる未来を辿るだろうが

 

しかし……その時が『何時か』とは誰もまだ知らない。暫く先かも知れないだろう(どんなに遅くとも姫子が高校生くらいになる迄には確実に。だろうし)

 

今はまた『(大輝の)生命の危機……いや不安』を感じてその針が早まっただけだ

 

だから姫子は……

 

 

大輝の眼を覆っていた『幸せな目隠し』が唐突に外れる……もはや陽は完全に沈み夜の帷と月の光が誰も居ない公園を優しく包み込んでいた

 

あの『黄金体験』はかなりの時間を消し飛ばしてくれていた様だ……

 

しかし……大輝はこれから直ぐに『本当の黄金体験』を知る事になる

 

華奢で暖かいその両腕の拘束はそのまま……その感触だけでも値千金のその感触がまた激しく大輝の首筋を拘束する

 

また抱きつく……いいや、既に『本当に覚悟を極めた』姫子のこの行動はそんな生易しいものではない

 

最初は唇に感じる柔らかくて暖かく柔らかい感触……そして歯や唇を割って口内に潜り込む柔らかく暖かい小さな肉の様なそんな感触

 

そしてミルクの様な甘い至高の甘露味の中に混じる仄かな檸檬の風味

 

きす?キス?キッス?KISS?ヴェーゼ?接吻?口吸い?

 

状況をありのままに説明するなら……『姫子が大輝にキスをした』である(しかもディープな奴を)

 

口内で暴れる姫子の舌に大輝もまた……姫子の細い頸や腰に手を回して『舌戦』に応対する

 

(どちらとも)経験なんぞ一切無いが『お互いやりたかった事』だから抱き合って只ひたすら抱きしめあってちゅっちゅするだけだ

 

言葉も何もいらない二人のファーストキスからのイチャイチャちゅっちゅは……この数分後に見回りにきたお巡りさんを見て補導される前に(息継ぎの為に小休止中にその気配を察知する事に成功した二人がさっと撤退する事で)何とか薬丸邸に帰還する事で一時閉幕となった

 

これで補導された日には下手すれば冒険者活動に支障が出るだろうし(一応は二人とも『優等生』扱いであるので)

 

……流石に薬丸家のお手伝いさんには少し怒られたけど(夏の日が完全に落ちた状態では仕方あるまい)

 

既に大輝の両親は帰宅済みなので急いで帰らなくてはならない……残念ながら(お手伝いさんの目もあるから)これ以上のイチャイチャは不可能だ

 

最後は少ししまらない結末に終わったが……これで二人は『正式なお付き合い』を表明する事になる

 

 

大輝も『死神の招待状』への不安に真に立ち向かう気力を補充し……たが、両親に姫子との関係進展がバレてニヤニヤ厭らしい目(いわゆる『抜作先生アイ』)で笑いながら根掘り葉掘り聞き出そうとしてくるのは流石にどうしようか本当に悩んだ(友人……特に同年代のガチ勢冒険者仲間の家辺りに逃げようかと)

 

どうやら唇に付いた姫子の愛用する檸檬フレーバーのリップのてかり具合でバレたらしい

 

ちなみに姫子もお手伝いさんやご両親にバレて大輝と同じ目に遭ったそうな(こっちはまだ小学生なので逃げ道は無かったが)

 

 

※:モブがリア充だっていいじゃない。仮にも主人公だもの(by作者)

 

 

 

【Tips】薬丸姫子

 

本作品の主人公である佐藤大輝の妹分にして恋人(大輝のヒロインは絶対的に彼女一人だけである)

 

名前の由来は『日本の苗字ランキング一万位』と彼女の造形の最初の骨子となったとある純愛系成人指定漫画のヒロイン(アニメ化もしている)

小学六年生の十二歳で蜂蜜色に近い金髪に深く澄んだ翠玉の様な瞳、抜ける様に白い肌の小柄なロリ巨乳美少女(身長148㎝、B82/W53/H79のトランジスタワガママボディの持ち主)

 

大輝の両親と同じく嘗てサマナーとして活躍していた富豪かつ一流企業重役の両親を持つ一人っ子で非常に溺愛されているお嬢様。彼女自身も物心がつき始めた頃に『第二次アンゴルモア』に被災したが隣に居てくれた大輝が命懸けで護ってくれたおかげで被害らしい被害もなく窮地を脱する事が出来た

しかしその幼いなりに魂に刻み込まれた体験でやはり彼女も『力』を求める気質を得て冒険者を目指す様になる

 

学業はそこそこ出来るが基本的に努力と反復によるものが大きいタイプ、運動神経はあまり良い方ではないがこちらは努力でまだ補える範囲。しかし筋肉や筋力は絶望的につかない体質(代わりにその努力は女性としての肉体美や魅力にほぼ全て行き着く体質)

但し身体は非常に柔軟に出来ている上に(自分の)身体の関節外しも出来るという特異体質の持ち主である(ちょっとしたヨガなら見様見真似で簡単に再現出来るしI字バランスも余裕。縄抜けなども訓練無しである程度出来るレベル)。但しその(ロリ巨乳な)体型に妨害もされるので『潜り込み』はやや苦手(華奢ではあるのだが)、今はまだ多少阻害される程度だが成長するにつれて潜入能力は必ず低下の一途を辿る運命にある

一種のコミュ力お化けで交渉能力や語学力はかなりのものがあり、母国語除いて三カ国語の読み書きが通訳レベルで行える(最低限の会話なら更に五カ国はいけるらしい)

その為か人脈は(その歳にしては)かなりのものがある(ダンジョンマート社長とも直通のコネがあるらしいしエメラルド・タブレット社にも幾つか……ちなみにあの『エアコンブローチ』は『姫子の瞳』をモチーフにデザインされたもので実は一点物)

ちなみに音楽、芸術系統のセンスはかなりのものがある。家事は……お手伝いさんや母親から教わって勉強中(要は花嫁修行中……少なくとも『メシマズ』ではない事は判明している)

 

性格は基本的に天真爛漫なあどけない一面と『冒険者としての力(アンゴルモアでも生き残る力)』を常に飢求する修羅としての基本的に二つの性質を混ざり合わせた人間性の持ち主

根本的には『大輝や家族、なるべく友人達とちゃんとアンゴルモアを生き延びて幸せになる』という大輝と同じ望みを抱いて冒険者を目指している……といった所か?

 

実戦経験はまだ(流石に)無いが何枚か(両親がくれた)Dクラスカードを持っている(うち一枚は装備系カード)

カードや護身用魔道具などで常に武装している

 

中学一年生になったら即冒険者デビューが決まっている(そして大輝とチームを組む事を含めて)

大輝に近いレベルで運が良い……が、極稀に激しい不運やトラブルに襲われる事がある(大輝のおかげで大概無事に済むが)

 

人格などの基本的なデザインは『カードキャプターさくらの木之本桜』と『アイドルマスター・シンデレラガールズの神崎蘭子』をベースに色々混ぜ合わせて『修羅』を隠し味にした結果こうなった

ちなみに声は『丹下桜』でイメージしている

 

ちなみにこの話に出てきた『強面とお巡りさんをとりなした姫子の友人』は実は『神崎蘭子(現姫子と同い年)』そのものである

 

アスキーアートにするなら『赤王ちゃま』が近い……だろうか?




『アイドルマスターシリーズ』が少しだけクロスオーバー、但しそこまで多様もしないでしょうが(シンデレラガールズ十四歳組の出番が多い……かも?)


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第十二話 装備更新は幸せ(但し財布は軽くなる)

大輝に与えたチート(人間関係運と金運)だけだと『原作の現状』見てたらまだまだ全然足りないと思う(最も長い一日とか何あの地獄絵図?)

『チートはなるべく最小限』がコンセプトだから仕方ないけどね(あそこまでヒドいのは流石にやらないけど……)

まだまだどんな準備が必要やら……


姫子との逢瀬と関係進展……ニヨニヨ笑う両親はさておいて。大輝の精神は完全にリフレッシュされた

 

『ガチ勢やるならイレギュラーには絶対に遭遇する』

 

ガチ勢ならば当たり前の話だ。大概は運良くパーティー探索時にだが

 

それでもちゃんと『ソロでもイレギュラー撃退』はこのEクラス迷宮……頑張ってもDクラス迷宮までなら辛うじて何とかなるだろう(普通の冒険者でも)

 

だからこそ、だからこそ大輝も有り金はたいて次の日にはカードショップで新しいカードを得る事にしたのだ

 

休暇明けの今日もメアリーさんはカードショップで何時もの応対をしてくれた

 

どうやら今日は『これまでのお目当て』もちゃんと入荷していた……メアリーさんが取り置きしてくれていただけだけど

 

『高品質キキーモラ(老婆型、ニ百五十万円)』と『良質なボアオーク(九百万円)』

 

合わせて計一千百五十万という莫大な価格だが今の大輝ならば買える……魔石貯金に手を出さずとも余裕で買える

 

それに大輝には『とある秘密兵器』がある

 

皆様は『冒険者向け懸賞』という言葉を覚えているだろうか?

 

間話で述べたあの新人冒険者支援サービスの一種であり。その中には『女の子カードやウィンチェスター・ハウスなどの希少カード以外の高級Dランクカード割引きチケット』という比較的ハズレ枠も存在する(大概の男冒険者は女の子カードを求めて冒険者稼業に勤しむものだからだ……大輝みたいな希少な例外を除いて)

 

大概の一つ星冒険者ではその費用が貯まる前にチケットの有効期間が切れるケースばかりである事も不人気の理由だろう(これも滅多に出ない癖に有効期限は割と短い事も……だろうか?)

 

しかし資金を得た大輝みたいなガチ勢(かつリア充)には非常に有り難い代物である

 

大輝が持っているのは『八百万円以上のDランクカード半額チケット』という攻めに攻めた代物だ

 

ほとんど大半の当選者がゴミ箱に捨てていくだけのダントツの不人気景品だ(自分以外には使用不可という辺りもその不人気具合に拍車をかけている始末である)

 

これさえ有れば更に新しいカードが一枚二枚は買えるだろう。ちゃんとした武具系魔道具だってありだ

 

ボアオークとキキーモラを即座に購入してから余った四百五十万円と不要魔道具、虎の子の魔石の残高に……とある事情から出来れば手を付けたくないカーバンクルガーネット(本日の相場は二百四十万円也)を計算に入れてだいたい九百五十万円の残り資金がある

 

流石にもう使えるチケットは無い……願わくば狗や狼系統が欲しい(ブラウニーはまだ暫くそのままで起用だ……『低級収納』は貴重なので)

 

ストーンゴーレムの進化は……出来れば『しっくり来るとある妖怪系Dランクカード』で行いたいからまだ暫く進化待ちだ

 

……昔、姫子と二人で見たあのカードの威容がやはり忘れられない。願わくば何時かはそのカードが欲しい。父がサマナーとして使役していたあの妖怪が

 

ちなみにその妖怪はかの『妖怪の神』をラバウルで救った。という逸話を持つ超人気妖怪であり……発祥の地である北九州のダンジョン付近ではこのカード(ともう一種)を求めて多数の冒険者が殺到しているとかいないとか

 

流石に値段そのものならばだいたい七百万円其処らだが大人気カードである為非常に入手困難な代物として有名だ(供給がほとんど追いつかないという意味で)

 

先ずは予算範囲内でシナジーに適合する何らかの出物探しからだ

 

ヘルハウンド用の大概の狗系カードはライラプスばかりで偶にあるのはカーシーやヘアリージャックみたいなカードが多い……しかし何故かどれもこれもしっくり来ない。マタギだった母方の曾祖父の猟犬との触れ合いの影響と記憶のおかげで狗系統は割りと好きな筈なのだが……

 

そして……大輝は『そのカード』を見つけた

 

『送り狼』

 

正式には『送り犬』とも言われるが『送り山犬』という呼ばれ方もする東北から九州まで日本全国津々浦々に類似伝承が存在する妖怪の一種だ(同じDランクカードに『送り犬』という亜種も存在する……『迎え犬』という『二体一対スキル』持ちの奴が)

 

江戸時代の本所七不思議にも『送り提灯』や『送り拍子木』という亜種に纏わる怪談がある……ちなみに提灯はEランクカード鬼火系、拍子木はアイテムに存在しているのが確認されている

 

ついでに……Eランクにも一つだけ確認されている『空間系』が本所七不思議の一つを元にある

 

『燈無蕎麦』

 

『常に行灯の消えた担ぎ屋台』という型で現れるカードであり、一応蕎麦が(その屋台として普通の在庫までなら)出せる事(完全にセルフサービス)と傍らを寝床代わりに使える事しか出来ない『不便な二人用』だが一応は空間系カードだ(屋台のすぐ傍まで……蕎麦屋台だけに)

 

(日本は東京以外には出没しない上に出没自体も希少な為)非常に珍しいカードではあるが……市場価格は百万円だ(低級収納が付きやすいカードでもあるけど『戦闘力』が有っても動けないからまともに戦闘すらできないカードではあるが仮にも『空間系』である)。発見する事自体もかなり難しい事もありギルドでも完全な把握の出来ないカードとしてもある意味有名な代物だ(発見にはそれ用の能力持ちカードか魔道具が必要なのは空間系としての特性上必須だし)

 

一応は火炎魔法と水魔法なら使えるが……あまり魔力も無いから直ぐに戦力外になるけども(本来は蕎麦を湯掻いたり鍋に水を張る為の能力につき)

 

ちなみに……この七不思議の由来通りに『行灯に灯りを灯す』と不幸になる(要はこのカードがロストする)から要注意だ。しかも燈無蕎麦の中ではなるべく自前のライトなどもあまり付けない方が良い(こっちだとモンスターとのエンカウント率が高くなるとか何か不運を招きやすいとか?)

 

ついでに……この蕎麦は非常に絶品らしく、このカードにはごく一部の蕎麦好きが懸賞金を賭けて追い求めているらしい

 

同じく本所七不思議の一つである『足洗屋敷』もつい最近最近新種の空間系Dランクカードとして発見されたらしいが……かなり『アレ』な代物だったらしい(居住可能なDランク空間型カードは基本的に必ず何らかの欠陥住宅だから仕方ない話だが)

 

 

閑話休題(それはさておき)

 

 

夜道に山道を歩いていると……何やら『四足の獣』がひたひたついて来る気配を感じる事がある。もしもこの時走って逃げようとしたり転んだりするとその『四足の獣』に喰い殺される事になる(転んでも一休みのふりをすれば無事に済むパターンもあるらしい)

 

皆様も『親切を装ってうら若い娘さんを襲う悪い男』の事を『送り狼』と呼ぶがそれはこの妖怪を元に謂れた言葉だ

 

……されどそうは言われても逆に送り狼には『対象を保護して無事に目的地に送り届ける』という性質もあるのだが(これはこの妖怪の原型であるニホンオオカミの習性から来たらしい)

 

この『送り狼』というカードにもそれに纏わる能力がある……殆ど帰路に限定されたナビゲーション能力みたいなものでしか無いが

 

『とある事情』で精密機械が駄目になりやすいEランク迷宮以降に入る際のちょっとした命綱……とも言えるが所詮はDランクの比較的弱い分類のカードでしかない

 

『完全に頼りきるには心ともないが。万が一の命綱の一つにはなるカード』として送り狼はDランク下位なれど以外と人気のある『知る人ぞ知る優良カード』だ

 

その気になるお値段は……だいたいニ百五十万円。日本全国の迷宮から割と良く出るカードなのでそれなりにギルドも普及活動に勤しんではいるのだ(これは極めて一般的な代物だった)

 

『奨学カード』と言うにはちと高いが……このカードは何気に海外でも人気がある為奨学カードには出来なかったのである(日本だけなら奨学カードにも出来たかも知れない)

 

この送り狼に(大輝の知人であるアイドルプロデューサーや社長、専務達の言葉を借りて)『ティンと来た』からやはり即決で買う

 

そして次は……もう少しはマシな武具を(今はまだ)オークの為に調達したり何らかの魔法薬を見たりと色々考えなくてはならない

 

オークが使っているあの斧もそろそろガタが来た……刃こぼれやひび割れが見えてきたのだ

 

一応はたまにメンテナンスにはだしてはいたがそろそろ買い替え時だと言われたので今日は後で刃物供養に出しておくつもりだ(仮にも武具の類なので)

 

最近ではこういう『冒険者が使っていた武具の供養』を専門にする寺院もそれなりに増えて来たから武具の処理も楽になった……らしい(メアリーさん曰く)

 

最初はもう一度新しい凡庸シリーズをワゴンセールから探すつもりだったが……今の懐具合なら大丈夫だろうともう少しは良いものを物色する

 

通常の武具型魔道具は『カード化能力』を持ってはいない(凡庸シリーズみたいな一部の例外を除いて)

 

新品の武具だとカード化能力は期待出来ない。中古品ならたまにカード化しているものもあるが逆に品質に不安が残る

 

今の大輝ならば新品を買っても大丈夫だろう……求めるものがでかい斧だから結構な確率でカード化能力を有するだろうし。そうでなくともブラウニーの『低級収納』を使えばどうにでもなる

 

今回は丁度良い代物があった

 

それは『ラブリュス』と呼ばれるデザインの(青銅みたいな素材で出来た様に見える)両刃の大戦斧だった

 

鍛える前の通常のオークでは持て余す様な重量とサイズの長柄のこの馬鹿でかい斧には『カード化能力』が最初から付与されている(メアリーさんの見立てでは『低級収納では難しい』らしいからだろう)

 

しかし……オークをボアオークにマイナーチェンジすれば丁度良い塩梅になるとメアリーさんの太鼓判も付いている

 

この馬鹿でかい大斧……『ミノタウロスの戦斧』は先の凡庸の戦斧と同じ様な制限と『ひたすら頑丈』というだけの(使い手を選ぶが)ありきたりな魔道具だがこの手の武具としては安くて強い(価格は百万円ぽっきりで戦闘力+120という破格さだ)

 

……装備可能なのは『ちゃんと鍛えたかそれなり以上に強いDランク以上の怪力かつ頑丈なカード』に限られるが

 

ついでに予備で『凡庸の斧』でも買おうかとワゴンセールを見てみれば……

 

その中で少し『面白いもの』を見つけてしまった

 

 

 

 

【Tips】キキーモラ

ロシアを発祥とする妖精の一種。その語源は『家鳴り(家屋がキィキィ鳴る音)』から来ている

 

少女、老婆、幻獣の三つの姿を持つとされ、本場ロシアではその三つの姿を使い分ける事が可能とされている

 

屋敷妖精らしく働き者の主婦の手助けをするが怠け者の主婦を喰い殺すという一面を持つ

 

日本ではそれぞれ少女、老婆、幻獣の三つの形態で現れる(変身能力のオミット)。値段は高い順から少女、幻獣、老婆。希少性は老婆、幻獣、少女。総合評価は幻獣、少女、老婆となる

 

ちなみに……老婆形態だけは『とあるロシアの魔女』へのクラスチェンジが可能になる、という特徴がある(その『ロシアの魔女』は非常に取り扱いの難しい存在だが、老婆形態キキーモラをちゃんと育ててクラスチェンジすると取り合い易くなる……とも言われている)

 

属性は『妖精/家(時に獣や鬼女)』で主に空間系か家事、職人妖精などにクラスチェンジが一般的(幻獣系なら一部の獣系統、老婆系なら魔女や鬼婆などに適性を得られる)。勿論ネイティブカードにクラスチェンジもあり

 

 

【種族】キキーモラ

【戦闘力】130

【先天技能】

・中級家妖精:人間の代わりに家事をしてくれる妖精。……が、迷宮内では家などないためいまいち使いどころは不明。メイド、高等家事魔法を内包。

(メイド:メイドに必要な技能を収めている。料理、清掃、性技、礼儀作法を内包)

(高等家事魔法:高度な家事魔法を習得している。家事魔法は攻撃能力を持たないが、家の中でできることに不可能はない)

・中等回復魔法

・中等状態異常魔法

 

後天技能には『使用人(メイドに在らず)』や使用人として適切な技術を獲得しやすい

 

 

 

 

【Tips】送り狼

日本に以外と数多く存在する狼の妖怪の一種。今は絶滅したニホンオオカミの習性から生まれた妖怪

 

夜道を往く者(特にか弱い存在)の周囲(特に後ろ)に張り付き跡を付け……走り出したり転んだりすれば容赦なく襲いかかる……が、転んだ際には『休憩をとるふり』をすれば襲われないと謂れている

 

夜道の恐怖から生まれた妖怪は結構な数が存在するが……この妖怪もまたそんな妖怪の一種であり今も慣用句の中で生きている存在だ

 

外見的には基本的に普通の狼であり……ほとんど『ワイルドウルフ』と代わりない灰色狼(ワイルドウルフよりも毛並みなどは綺麗)だが、二張りの提灯を召喚して自由自在に操る能力を持っている

 

会話能力は無いがその提灯を使えば『YES /NO』での会話などや『行け/行くな』などの簡単な意志疏通は可能(この提灯には戦闘能力は一切無い。壊れても『Fランク魔石一個』で直ぐに再生産可能らしい……無くても半日で修復可能)

 

提灯の灯火には『多少の感知能力』があり、たまに『空間系カードの影』

を捉える事が可能(かなり注意深く見ないとわからないが)

 

そして……送り狼最大の能力は『帰路限定のナビゲーション能力』であり。例えワープや何かで全く解らない場所に居ても必ず迷宮の出口まで連れて行ってくれる(勿論、送り狼が生きて動ける事は大前提だが)

 

このナビゲーション能力には幾つかの『制約』があり、その『制約』を遵守しないと『帰路のライン』を喪失するから要注意

その一:最初に必ず送り狼を召喚して迷宮出入り口を見せる事。これをしないと『帰路のライン』を構築出来ない

そのニ:使用中は決して走らない……送り狼に襲われる代わりに『帰路のライン』を喪失するから注意

その三:使用中は決して転ばない……やはり『帰路のライン』を喪失するが、転んだ場合は直ぐに『休みを取るフリ(最低でも一分は必ず)』さえすればラインの喪失は免れる

 

このナビゲーション能力にはある程度の『エネミー感知能力(提灯由来)』もある……それを利用して帰路のモンスターを(ある程度は)やり過ごす事も可能だろう

 

その能力から『廉価版アリアドネの糸』とも呼ばれている(アリアドネの糸は非常に貴重な『何度でも使える転移系魔道具』だが)

 

属性は『獣(狼)/妖怪』で犬科の怪物か妖怪かが一般的なクラスチェンジルートとなるだろう。Cランクの『黒妖犬シリーズ/バーゲスト(ネイティブ)』やライカンスロープ(人狼)、犬神や鍛治が嬶(ばば)など多岐に渡るクラスチェンジ先がある

 

 

【種族】送り狼

【戦闘力】110

【先天技能】

・獣は老いても道を忘れず:送り狼の最大の特徴である『帰路限定のナビゲーション能力』と『提灯を操り敵を感知する能力』が内包されている(先に挙げた制約も含めて)。

・奇襲

・集団行動

 

後天技能にはやはり狼らしい技能などが多い……稀に『火炎魔法』などを習得できる個体も居るとか居ないとか

 




流石に色恋沙汰よりかはこういう話の方が書きやすい……やはりそういう話の書き方や糖分向上は今後の課題だね


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第十三話 冒険者衣食住今昔

※:カード化と魔石発電機に対する独自見解が入っています
※:とある企業の名前と存在を『土ノ子』さんからお借りしました(承認済み)
※:百均様の公式【Tips】を転載使用しました(承認済み)
※:男魂氏の指摘から得た着想を追記しました


カードショップで『ちょっとした玩具』を購入し(費用は十万円のカード化あり)、次はカード化できるキャンプグッズを見る事にした

 

本当に最低限の装備と食糧だけで迷宮に赴くのは流石にきついものだった……石畳に毛布一枚と枕代わりのジャケットだけだと流石に身体が痛かったし。水をなるべく節約する為にビー玉をしゃぶって唾液で渇きを誤魔化したりと非常に大変な旅路だった(飴玉だと糖分で余計渇きが増すからこういう時はそこら辺の小石や草の根でも以外と…である)

 

大容量のウォータージャグやちゃんとした寝具、最低限でも雨除け日除けの出来るテントにもっと沢山の食糧……必要な機材はやはりまだまだ沢山存在する

 

予算だけならば大した問題にはならない……本当の問題は『重量とそれを運ぶ手間、必要ならばそれらを躊躇いなく破棄する覚悟』だ(臥薪嘗胆の意気は確かに大事だがそれで身体を壊しては世話がない)

 

旧い冒険小説などにも偶に記載されている様にこういう機材や食糧。何より水は常に冒険者にとって重要であり悩みの種だ

 

荷駄を用意したり人足を調達したり……この前の大輝当人の様に自力で運んだりと色々な方法でこの難題に立ち向かっていったものだ

 

筆者も多少は知っている偉大な冒険者アムンゼン(歴史上初めて南極点に到達した冒険者)も……それこそ涙ぐましい程に幾多の努力を重ねて目的を達成した

 

ある時は極寒の地に住まう人々から生活の知恵を(実地で)伝授して貰ったり。またある時はペミカン(冒険者御用達の保存食。今現在で言うならばシチューやカレーのルウみたいなもの?、お湯とビスケットで簡易的なシチューにしたりそのまま齧ったりするもの)を敗血症対策に改良したり。南極では積み荷を削る為にソリやスキー板を軽量化したり(非常に限られた予算のなかで)必死になってかの大偉業を成し遂げた

 

この偉大な冒険者でもどんな冒険者でも『失敗』は常に冒険者の背後に必ず存在する。冒険者は常に『いざという時』を意識しなければならない

 

そしてその『いざという時』にはそれらを……貴重な積み荷や財産を棄てて非常に分の悪い賭けに出る必要もある(命だけでも拾う為に)

 

そして冒険には『収穫物』もある

 

何気に貯まり溜まった魔石だけでもかなりの分量になるしやはり数も積もれば重いものだ(大輝もその重さは帰り道で嫌という程思い知らされたものだ)

 

嘗ての冒険活劇でも『目も眩む様な金銀財宝』が見つかっても『それを全て持ち帰れた』という話はあまり聞かないだろう?

 

大概は『欲呆けた愚か者のやらかし』が原因だが……基本的に『持ち運べる様な量でも数でもない』からだ(多少の量でも運良く持ち帰れて地上げに対抗できたり屋敷を構える金持ちになれたりと色々ハッピーエンドはあるが)

 

しかし……今時の冒険者には『カード化キャンプセット』がある

 

これさえあれば大事だけど重い機材に悩まされること無く殆ど手ぶらで迷宮探索が可能になる逸品だ。ある程度の(決して腐らない)食糧や新鮮な水、そして重い収穫物も収納できる

 

迷宮探索の最前線である世界各国の軍隊や日本の自衛隊も常に基本装備の中に入れている程だ

 

やはりキャンプセットカードを何か探しておくべきだろう……ちゃんとした食材と調理器具に潤沢な水は最優先で欲しい

 

……ちなみにメアリーさんに聞いたらかなりの出物が存在していた

 

つい最近自衛隊で装備更新があったらしく。嘗ての『カード化キャンプセット』も更新されてその美品や予備が新古品や中古美品として捨て値でギルドに流れてきた

 

自衛隊からは『見込みのある若いガチ勢にはなるべく格安で売ってあげて欲しい』とも言っていた(新古品枠は大概その為に流されたらしい)

 

自衛隊としては恐らくは『優秀な冒険者は一人でも多く欲しいから』だろう。『Aランク迷宮』という名の迷宮最前線は比喩抜きの地獄絵図らしいから

 

少しでも(莫大過ぎる)手間を省く為にこうして見込みのある若手冒険者を育成支援したり……あわよくば『優秀な自衛官候補生』も獲得したいからだろう(それだけ自衛隊が必死だという事は……)

 

そしてメアリーさんは大輝を『見込みのある若手』に選んでくれたのだ

 

……ちなみにそのお値段はニ十万円ポッキリ。真面目に破格そのものだ(普通に売るならだいたい百万円辺りだろうか?)

 

軍用テントにバーベキューキット(調理器具付き)、エアーマットにシュラフ、ボアオークにも対応可能な折り畳み椅子四脚とテーブルにウォータージャグ(5ガロン入り2個)と大容量クーラーボックス、キャンプボックス三つ(大、中、小)とサバイバルキット一式。そしてちょっとした魔石発電機(型落ち旧式モデル)まで付いている(全て軍用品)

 

ついでに自衛隊用レーション三日分(新品)もおまけに付いている(キャンプボックスに『粗品』と飾り紙が貼られて入っていた)

 

キャンプセットは余裕で買える範囲(むしろ家にあるキャンプセットの方が上質だが)。カード化もまぁ最初の予算内(家のキャンプセットをカード化した方が早いまである)。しかし……この魔石発電機は一体?

 

『魔石発電機』というのは『人工魔道具』と呼ばれる『人類が作った人工の魔道具』とでも言うべき代物だ(姫子の『エアコンブローチ』もこれに分類される)

 

そしてその『人工魔道具』とは……迷宮から発見される魔道具を解析し研究した果てに人類がその技術や迷宮独特の素材を使って作成出来た『人類が作った魔道具』だ

 

先に挙げた『エアコンペンダント(ブローチ)』や『魔石発電機』、そして『冒険者ライセンスカード』など……他にも『非実体のモンスターや再生能力持ちを切り裂ける武具』、『息継ぎを長く、そして泳ぎを補助して装着者にとって良いデザインに変化する水着』や様々な魔法薬などが存在する

 

魔道具そのものならば『エメラルド・タブレット社』が、魔法薬なら『ニシモリ製薬』などが最も有名だが実はダンジョンマートもこの部門でも有名だったりする(少なくとも当初のコンビニエンス業務での経営不振はこの辺りで補えていた……と言えばその実力はご理解頂けるだろうか?)

 

実はこの人工魔道具なるもの……大半のものは制御機構などに精密機械を用いている為かEランク迷宮以降では使い勝手が悪い(むしろEランク以降は機械そのものが迷宮とは相性が悪いのだが)

 

これについてはまた何時か話をしよう

 

エメラルド・タブレット社製が最大手のこれはFランク魔石ひとつで一世帯一月分(この旧型なら三週間程度、これはダンジョンマート製)の電力を賄える(市販されているキャンプ用の中でも小型に分類される範囲の)発電機だ(佐藤家や薬丸家はそのダンジョンマート製大型高品質モデルが既に配備済みだ……有事に備えて)

 

『型落ちの旧式』とは言えそれでも一機百万円其処らの高級品だ……まぁそれにはこれが『単なる(見込みのある)新人応援』という理由があるからだ

 

これから向かうEランク迷宮以降では『人工魔道具や機械はちょくちょく壊れる消耗品扱い』なので自衛隊も新人へのちょっとしたサービス程度の気持ちでこういう事になっただけだ

 

ちなみに……こういうカードの中には(公式にも)『一月分の食糧(生鮮食品や調味料など)』がカード化されているものもある。これも何個かの段ボールやクーラーボックスなどを複数纏めてカード化したギルド(や公的機関、それなり以上規模を持つ民間全て)の避難所に必ず設置されている代物だ

 

『原作』で歌麿が入手したものは『家族四人が一月食べてゆける範囲の食糧入りカード』であり、有事に備えたい(富裕層の)民間人が買い求めるタイプだ(食糧を食べ尽くしても段ボールやクーラーボックスは保管庫に再利用が出来るし)。これは俗に『民生用』と呼ばれている

 

それと避難所に設置されているタイプは基本的に大型コンテナにみっちり段ボールに詰め込まれた型で存在している(大規模な避難民を食べさせる為の代物故に)。そしてこっちは『業務用』だ

 

『民生用』も『業務用』も中身を出せばまた再利用できる。段ボールもきちんと使えば再利用が可能と来た……実際問題百万円を費やしてこの保存食を買う理由はこの『容器』を買う為だと言う層も実は結構な数存在している

 

『冒険』というものにおいて食糧は非常に重要なファクターだ。人間は必ず飲食しなくては生きてゆけない

 

食糧なしならだいたいニ〜三週間。水なしなら数日……昔の冒険者(特に船乗り)は補給なぞ全く期待できない船上という名の地獄で濁った粗悪なラム酒と腐った水、やはり腐り果ててぐずぐずになった上に蟲の沸いたチーズや固焼きビスケットに腐った魚、干し肉に(新鮮ではある)蟲や鼠……時には革靴などで飢えを凌いでいた。時には『一日の食事:バター500g』という事すら普通だったらしい(ちなみに船上なのでまともに火を熾せない……船の湿気腐りや水腐り避けの塗料やタールのせいで実は船は結構可燃性だったらしい)

 

イギリスが大航海時代の覇者となれた理由に『極まったメシマズ耐性(非常に穏便な表現)があるから』等と言った冗句が世には出回っている程だ

 

昔は『船乗りになるぐらいならすっぱり○ね』とすら言われるほど船上は酷い環境だった(ちなみに海賊はかなりホワイト環境で船乗りとして一番ブラックなのはイギリス軍船の船乗り……比喩も冗談も抜きで『○んだ方がよっぽどマシ』と言われる程に酷く、そして悍ましい環境と酷使、搾取だったらしい)

 

その『イギリス軍船の船乗り』だが……その劣悪な環境と酷使、搾取は余りにも有名だった為に酷使用下級水夫は拉致監禁や詐欺(いわゆるパウント方式……酔っ払いを拉致したり金属製カップにコインを入れて飲み干したら『契約完了扱い』とか)などで『調達』していたらしい(もしも『使えない』なら海に棄てるだけ……という発祥の地であるイギリスでも今なお悪名高い『強制徴募法』である)

 

今でもイギリスのパブでは『パウントグラス』なる底がガラス状になったジョッキがあるらしい(底に沈んだコインが無いかを探る為に)

 

流石にこの話は……『特に悪質かつ悪辣な者達の悪目立ち』だが、冒険というものはこういう理不尽から始まる事もままある

 

まぁそんな悪魔もドン引きしそうな鬼畜の所業はさておき……そんな地獄絵図が嘗ての冒険だが……今は缶詰やフリーズドライなどの食糧保存技術が発達しているし(少なくとも冒険者には)人権というものも存在する

 

まぁ迷宮の中では食糧は決して腐らないのだが

 

『迷宮内では時間の進み方が違う』らしく、例えば熱々のおにぎりを迷宮に入れて一月放置しても冷めるだけで普通に美味しく食べられるし。また別の実験ではアイスクリームを迷宮に放置すれば普通に溶けるが決して腐らなかった

 

ちなみカード化した段ボール内にアイスクリームを入れて一月経過させると……アイスクリームは全く溶けずにそのまま美味しく食べる事が出来た(別の実験でも熱々の鍋はやはりそのまま熱々だった)

 

別の実験でカードの中に精密機器を入れて電磁パルスを浴びせると……その精密機器は完全に中身が灼き切れて壊れていたらしい(カード化した状態で水に一月沈めても大丈夫ではあったのだが)

 

カード化でも全て全てを守る事は出来ないらしい

 

カード化と迷宮内は似て非なるものだとその実験で認識され、今に至るまで自衛隊や世界各国の軍隊の築いてきた莫大なレジェメが今の冒険者を支えている

 

大輝や姫子もメアリーさんからその知識や技術を伝授されたが……その技術も元は自衛隊から齎されたものが起源だ

 

自衛隊から齎された起源とメアリーさん達起源の冒険者が編纂したこの技術は今もなお大輝達の様なメアリーさんの様なガチ勢が更に新しく更新して編纂し直し……人の世が続くか迷宮が消滅するかの何かの時まで連綿と継承されてゆくだろう

 

そんな中、明日の探索の為に今度は行きつけのスーパーで大量の買い物をしながら大輝は前回の探索の反省点(の一つ)を思い返す

 

『もう缶詰類はやめとこう』

 

前回持ち込んだ食糧は家にあった『通常保管していた賞味期限間近の保存食』ばかりだった

 

レトルトパウチやアルファ化米、アルミ袋包みのビスケットなどはまだ良いが……缶詰は空き缶が邪魔で仕方なかったのだ

 

だから今回は新兵器である『カード化キャンプセット』を有効活用して三泊四日をより快く過ごす為の準備を開始する

 

新鮮な肉、魚、野菜、卵、食パンや米にお菓子、お茶やコーヒーなどを(食事を取れる)カード達の分もしっかり大量に用意しておく

 

……その中でも一度あのカーバンクルガーネットをとある店に持ち込んでとある依頼もしておく

 

依頼料(むしろ人件費)と素材料でニ十万はかかった

 

依頼は二週間後に完遂できるらしい

 

今日は配送依頼を出しておいた沢山の食糧を待ち、そしてそれらをカード内にそれらを収納する

 

 

『明日はEランク迷宮で新しいカード達の慣らしからだ……早くちゃんとした名前も考えな……』

 

そして眠りに落ちていった

 

夏休みと二つ星昇格試験はまだまだ続く

 

 

 

 

【Tips】カード化

 

 冒険者ギルドでは、特殊な魔道具を用いて物品をカード化するサービスを行っている。小さな指輪だろうが一軒家だろうが一回百万でなんでもカード化してくれる。カード化されたモノは、モンスターカード同様所有者以外は召喚することができなくなるため、財産の保護などにも使われている。主人公のように転移の魔道具など持たない一般の冒険者たちは、このサービスで大量の物資をカード化し、泊まり掛けで深い階層へと潜っている。

 なお、このカード化の魔道具を入手した際は絶対にギルドに報告し売却しなければならないという法律がある。もしも隠し持っていたことが発覚した際は、即逮捕されて公安の厳しい取り調べを受けることになる。

 

(※:公式より百均様の許可を頂いて転載)

 

【Tips】カード化(追加項目&当作品設定)

 

建築物をカード化する際にはまずアンゴルモア(むしろカード化のシステムが解析されて)以降から出来た『カード化対応建築』してある建築物に限られ。そしてカードにも複数枚の白紙のカードが必要になる(ギルドには『何度でも使えるカード化魔道具』もあるがこれで『複数枚のカードが必要になるカード化』は不可能。必ず『白紙のカード束』が必要になる)

日本の通常家屋迄ならば一枚程度で済むが豪邸や通常の雑居ビルなら規模次第で数枚から十数枚、高層ビルディングなら数十枚は必要となる(病院や学校だと最低百枚は必要らしい)

 

原作にもある『一月分の食糧入りカード』は『家族四人が一月食い繋げられる分を段ボールなどに入れて』という型にしている

その段ボールを再利用すればまた『無限に保管出来る食糧庫』として再利用出来る……のは当作品の独自設定

 

キャンプセット一式のカード化もやはり当作品のオリジナル設定

 

沢山の器物を一纏めにカード化してからその器物(の一部)を破損したり紛失したりするとその器物はカード化能力を喪失する(ちなみにそれが機械製品などで中身が破損した場合なら『ガワ』だけでも残っていればガワを新品の中身に載せ替えてもう一度カード化が可能となる)

期限は『もう一度カードに戻す時まで』である

 

カード化した物品の温度や状態はカード化した瞬間に完全に固定される(アイスクリームを段ボールにいれれば一年経過しても冷たいアイスクリームのままだし、熱々のうどんを段ボールに入れて一年経過してもやはり熱々のうどんのまま)

 

カード化した状態で水中に放り込んでも中身には何の影響も無いが……どうやら電磁波パルスは防げないらしい(防ぎたいなら分厚い金庫か何かに入れておいた方が良いだろう……一部の冒険者達はEランク迷宮以降の『厄介なあれ』対策に分厚い金庫のカードをわざわざ用意している猛者も居る)

 

 

追記事項∶カード化能力を獲得した物品は基本的に必ず全て一緒に出てくる。複数の物品を一緒にカード化した場合はちゃんとカード化した時と同じ様に並べ直さないといけない。もしもきちんと並べ直さないでカードに戻した場合は『基点』となる物品(キャンプセットの場合は大概テント)を除いて全ての物品からカード化能力が喪失される

 

基本的にカード化能力は○級収納の下位互換として扱われる(安上がりかつ迷宮以外でも使える辺りは非常に大きなメリットではあるか)




設定は進む。話は進まず(反省)


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第十四話『化けの皮』

この手の目を手塚治虫の琵琶丸にするかこの決定稿にするか少し悩みました

最悪座頭ケチでも良かったかも?(決定稿に昇華させるプロセスもまた物語になるし)

※:百均様の公式【Tips】を転載使用しました(承認済み)
※:土ノ子様の作品キャラを小ネタに使用してます(承認済み)……わかるかな?


さて話は次の日の早朝

 

大輝はあの試験用Eランク迷宮の入り口から先の安全地帯に来ていた

 

前回はパンパンに膨らんでいた何時ものミリタリーリュックも今は『新兵器』のおかげで今日からは非常に軽い(最低限の荷物だけだし)

 

腰のカバー付き1ℓ水筒(自衛隊モデル、ダンジョンマート製)にやはり自衛隊モデルのポーチ(ダンジョンマート製)に使い捨ての魔道具や最低限の非常食と鞘に納めたサバイバルナイフ(ほとんど包丁代わり、勿論自衛隊モデルダンジョンマート製)に頭に巻いた小さなタオル一枚(ダンジョンマート創業十周年記念品)といった最低限の手荷物だけなのだから(ミリタリーリュックは直ぐにブラウニーに追加で用意した大容量ウォータージャグにお昼のお弁当と一緒に預けておく予定だ)

 

ちなみに魔道具以外はほぼ全てダンジョンマート冒険者グッズ部門製品コーディネートで全て揃えている(身内割が美味しかった)

 

その軽さに不安を感じはする……しかし、これで探索効率は飛躍的に上がるだろうと喜んでもいる

 

大輝達ガチ勢にとって『二つ星』というのは単なる通過点に過ぎない。フリでもガチ勢を目指すなら最低限『三つ星獲得』はしないと話にならない世界だ(但し『学生冒険者』だと話は異なるが)

 

大輝もそんな『通過点』でうだうだやる気は一切無い

 

そして……その一歩として先ずは『新人』との面通しから始める事にした

 

『最初はキキーモラからだな』

 

腰に取り付けたカードホルダーに『デッキ登録したキキーモラと手の目を出せ』と心で命じながらホルダーの出入り口に手を伸ばす

 

すると、傍目には空っぽのカードホルダーからニ枚のカードがふっと現れひとりでに、そして瞬時に大輝の手に収まった

 

これが幾多のプロ、セミプロ冒険者達や『札商』というカード専門の商人から『必携品』として重宝重用されている『カードホルダー』だ

 

このホルダーには無尽蔵に(モンスター、魔法、アイテム全てを問わず)カードを収納する機能だけでなく、そのカード情報を(所有者の網膜に)投影したり検索したり仕分けしたりする機能が備わっている

 

他にも……『デッキセット構築技能』もあり、瞬時に求めるカードを出してくれる機能もあって需要は常に高騰している

 

ちなみにこのホルダーは破損すると……中のカードが弾け飛んで辺り一面に撒き散らさるらしい(自衛隊最前線では偶にある光景だとか)

 

そして……もしもホルダーの所有者が何らかの理由で死亡した場合は『ホルダーのカードはホルダーを破壊しない限り二度と取り出せない』と判明している(やはり最前線の自衛隊からの情報で判明している)……が、これには一つの『対応策』があるがそれはまた次の機会に話すとしよう(『カードの所有者が死亡した場合』ともまた関連する事柄故に)

 

一応、カード化能力で箱に入れて運ぶという方法もあるにはあるか……いちいちカード解放から収納、カード化というしち面倒な手順が必要な上に整頓は自身で行わなくてはならないからプロやセミプロなどからは非常に不評だ

 

カードホルダーほど正確ではなく、スペースの限界もあるが一応『○級収納技能持ち』にも同じ事は出来る(それだと手渡しなどの別の手間も掛かるし迷宮以外では使用不能になるため)普通それをやる奴は居ない

 

このカードホルダーを模した『フェイクホルダー』なる商品も存在はする……基本的にどんなに分厚くして頑張っても十枚程度しか入らない様なイミテーションだけど(ちなみにお値段五千円から)

 

それなりに実用性もあるのでまだ運悪く入手出来ていないプロやプロ志願に見習い、後はファッションなどでエンジョイ勢辺りからは大人気だとか(大輝も最初はこれを脇ホルスター型で使っていたし姫子も何時も五枚入りレッグホルダー式をスカートの中に隠して持ち歩いている)

 

 

閑話休題(それはさておき)

 

 

大輝がカードホルダーから引き出したカードは昨日買ったばかりの『老婆型キキーモラ』と件の『手の目』だ

 

その中から老婆型キキーモラから召喚しての簡単な面通しから始める

 

何時もとは違う……スラヴ方面の女性用の(非常に色褪せて擦り切れた)民族衣装に身を包んだ灰色の長いざんばら髪を頭巾で押さえ込んだ小柄で痩せこけた皺くちゃの……何処か愛嬌のある老婆がエニシダの枝で作られた箒と木製のバケツ桶を持って現れた

 

大輝はキキーモラが召喚される最中でもう一度カードに記載されているキキーモラの情報を再確認する

 

 

【種族】キキーモラ(老婆型)

【戦闘力】125

【先天技能】

・中級家妖精:人間の代わりに家事をしてくれる妖精。……が、迷宮内では家などないためいまいち使いどころは不明。メイド、高等家事魔法を内包。

(メイド:メイドに必要な技能を収めている。料理、清掃、性技、礼儀作法を内包)

 

(高等家事魔法:高度な家事魔法を習得している。家事魔法は攻撃能力を持たないが、家の中でできることに不可能はない)

・中等回復魔法

・中等状態異常魔法

 

【後天技能】

・中等支援魔法

・妖精のお節介:親切でお節介焼きな家事妖精としての性質。簡単な失せ物探しや忘れ物回避が出来る他に主人のサポート等に非常に長ける。秘書、庇う、精密動作、従順スキルを内包する……主人の意図を汲むのが上手い

・機織職人:機織りの達人……但し迷宮ではあまり役に立つ機会は無いが

 

 

このキキーモラには回復や状態異常だけでなく(なるべくなら欲しかった)支援魔法まで内包した……『高品質キキーモラ』は伊達ではないらしい

『妖精のお節介』は『使用人妖精(メイド妖精に有らず)キキーモラ』などの使用人としての性質を持つ妖怪や妖精などに稀に付く技能(にして性質)だ。この技能を持ったキキーモラを扱う冒険者達からは高く評価されている(探索……以外の状況ほぼ全てで)

兎に角キキーモラは(とある目的の為に)『妖精のお節介』持ちを狙っていたのだ

 

「……おや、こんな皺くちゃのババァをお呼びとはまた珍しい主人様もいらっしゃる。さて、この婆に何か御用ですかな?」

 

……老婆型は確かに不人気ではある。だからこそ大輝みたいなガチ勢(見習い)は逆にこういう『優秀な不人気カード』を使ってなるべく早く安上がりに昇格を目指すものだ

 

このキキーモラ婆さんは大輝の傍で通常時は味方支援、敵の妨害に専念して貰う予定で起用した……まさか『庇う』まで持っているのは驚いた。一応は『護衛役』だとも言えるだろう(キキーモラ婆さんは脆いけど)

 

「あんたが優秀なお手伝いさんだからだよお婆ちゃん。無体はしないしなるべくちゃんとした扱いを頑張るから力を貸してはくれないか?」

 

大輝もキキーモラ婆さんの最初の言葉に真面目に返す

 

「おや……これは良さげなご主人様だ、あたしはお掃除婆さんのキキーモラ。あんまりこき使わないでおくれよ?」

 

冗談めかしてはいるが矍鑠とはっきりとしたしわがれ声で返してきた

 

 

そしてキキーモラを待たせて今度は例の手の目の召喚と面通しだ

 

 

【種族】手の目

【戦闘力】50

【先天技能】

・手目坊主:探知能力を向上させる……何らかの隠されたものを探る事が出来るとか?(詳細不明……但しマスターが『盲目』である場合は完全に行使可能らしい)

※:未だに未解明な処があるスキルなので何かしらの情報が有ればギルドにご一報を

・化けの皮:憑依型装備スキル。特殊なデメリットはあるが他のカード或いはマスターに憑依する事で自身の戦闘力の六分の一を加算させる事が出来る(マスターへの憑依は全ての戦闘力とスキルを共有できる)

 

【後天技能】

・座頭/検校位:座頭としての技能である『按摩、針灸』、『楽器演奏/琵琶、三味線』、『金融名人(経理、マネジメントの一種)』、『語り部、謡い手』『中級鑑定』、『虚偽感知』、『危険感知』、『礼儀作法』、『教導』等々を内包する。『検校』という座頭として最上位クラス(としての実力)を有する(言わば座頭版メイドマスター)

・心眼:詳細不明

・風が吹けば桶屋が儲かる:座頭などの盲人、職人、猫、鼠、風、砂の属性を持つカードにごく稀に現れるありとあらゆる因果事象から出鱈目な迄に幸運を招き寄せる運勢操作スキルの一種。基本的に現状では金運とトラブルに巻き込まれる確率が向上する程度。

 

 

手の目のカードを見ればやはりこの壊れ性能……この見窄らしい座頭は……普通に資料や極めて稀にネット上に挙がる痩せっぽちで髪をそりあげた襤褸の着流しと白木の杖持ちとは全く違う様相だ

 

蓄髪しているでっぷりとした(むしろ貫禄のある)髭面の中年男、まるで渡世人だか侠客だか何か見たいな也(旅装束)をしている……と言うかとある昔の『座頭』をモチーフにした映画シリーズの主人公にそっくりだこれ(こいつは1989年時代の最後に出たあれに)

 

そう言えば……前にメアリーさんが某『夢の国の蜂蜜熊』をでかい筋肉オバケに魔改造した様な謎のナマモノ(後に聞いた話ではあれは『バーサーカー』だったらしい)の売却を冒険者から頼まれて……売却拒否される様を他所のギルド出張中に見たとか何とか?

 

……如何に(ある意味)かの悪名高い『ジャパニーズ・エロゲモンスター』よりも厄い造詣だからってそれは流石にギルド職員としてアカンのでは?とはメアリーさんも大輝も一致した思いを抱いた(メアリーさんはそのギルド支部とは不仲だったのであまり強くは言えなかったし)

 

後日。そのギルド支部は(他にも色々あったやらかし含めて)かなり厳しい処分を受けたらしいがそれはどうでも良い話だろう

 

……そんな珍カードがあるならギルドは(研究素材として)必ず買い求めるだろうに

 

そして何気にその俳優のファンであるメアリーさんが一瞬とはいえ物欲しそうに眺めてはいたが……流石にこんな冗談みたいな値段のカードは容易くは買えないだろう(ギルド職員としての職業柄意識や倫理観もあるがこの付加価値だけでも大概なのに他の価値のえげつなさと来たらもう……)

 

それに……もしもこのカードをオークションか何かに流したらその映画(や俳優の)ファンまで殺到して更に大変な事態になるだろう(『更に声すら似ていた日には』と思っていたら……)

 

「お初に御目に罹りやす。手前生まれはこの迷宮の何処か、姓も名も無い盲の木端妖怪手の目というケチな野郎ににございやす旦那様」

 

非常にドスの効いた良い声で口上を切ってきた……やはりとは思っていたが声までかの俳優にそっくりだ

 

……この手の目は間違っても人目には出せない。どんなトンチキ騒ぎになるかもう考えるのも嫌だ(幸い見せたのはメアリーさんと両親、後は姫子だけだからまだ当座は大丈夫だろう)。出すなら最低限『名付け』か売却前提じゃないといけない

 

下手せずともファンな冒険者や好事家な富豪などが億……下手すれば何らかのBクラスカードとのトレードを希望してでもこの手の目を求めて大騒動だ

 

最悪売るとしてもダンジョンマート関連か友好的な存在。若しくは『その縁がダンジョンマートに有益な相手』じゃないといけないが(仮にも重役の息子かつ恋人の家族も考慮して)

 

……元より最初から売る気は全くわかないが

 

この手の目を見ていると大輝の『直感』が……昔見て頭にこびりつくとあるアニメの言葉を借りて言うなら『ゴーストが囁く』のだ

 

 

『こいつを絶対に手放すな』

 

 

八年前もその『ゴースト』に何度も何度も助けられて姫子も救えた……それ以外でも良く当たる(特に嫌な予感は)

 

だから大輝は自分の直感(ゴースト)を常に信頼し、その囁きを重視している

 

しかし……先ずは兎に角手の目の持つ『化けの皮』を検証してから考えるるべきだろう

 

『化けの皮』……手の目という妖怪は『追い剥ぎに貯めた銭を奪われ殺された座頭の怨霊(かつ妖怪)』だが、そのエピソードの一つに『長櫃に隠れた犠牲者を……長櫃も開けずに生皮だけを残して残りを吸い殺す』という能力とエピソードを持っている

 

それを理由として『化けの皮』は生まれたとされている(と、カード研究者達は推測している)

 

ちなみに……制約だらけだがこの能力は『逸話通りの使用方法も可能』らしい(数時間掛かる非常に面倒かつ使えない呪術扱いで……アングラな実験が何処かの違法研究所から押収された資料から発見された)

 

これは厳密には『手の目かじり』という非常に似通った近類亜種の特性だが『同じ手の目』だという事で習合した結果か何かだろう

 

そしてその特性が何をどうにかした結果でこいつの代名詞たる『装備化能力』となったのだろう(『皮』がキーワードになった。などと研究者達は言うが)

 

さて……『装備化能力』と口で言えば一言だが、この能力には色々な形がありその形次第で運用方法や価値ががらりと変わる

 

一番有名な『リビングアーマー』や『デュラハン』の様な正しい型での『装備化』……これは文字通りに『そのカードそのものを鎧として装備、いやむしろ憑依できる能力』だ

 

他にも『憑依』、『加護』、『呪い』などなど色々あるが……この手の目の場合は一番珍しい『呪い』が一番近いとされている

 

この『呪い』というものは装備なり憑依なり加護なり色々な型があるが……一貫して『発動すると激しい、若しくは厄介デメリットが存在する』ともれなく認定される唯でさえ希少な装備化能力の中でも特に珍しい代物だ

 

奇しくも手の目が持つ『化けの皮』がその『呪い/憑依型』だ。尤も『最も使えない装備化』だと悪名高い代物だが

 

果たして……この『化けの皮』なる能力が如何なるものかは今から記させて頂くとしよう

 

 

「手の目、先ずはお前の『化けの皮』を俺に試してくれ」

 

「へへ……合点でさぁ旦那」

 

言うが早いか手の目の姿が大輝の視界から消える……いや、消えたのは手の目ではない

 

 

『大輝の視界……いいや目が消えた』のだ

 

 

その異常と同じく今度は何らかの『ノイズ』の様なものが鼓膜……いいや脳髄に突き刺さる

 

テレビの砂嵐だかラジオのチューニングミスだか黒板を鋭い何かで引っ掻く様な……兎に角不快な雑音が大輝を苦しめる

 

いきなり視力を失い、更には謎の雑音……確かに身体に力が湧き上がる感覚はある。あるが……

 

大輝は雑音を堪えながら自らの両手に意識を集中する

 

 

掌に視界が戻っている

 

 

非常にぼんやりとピンボケした……遠近共に弱い弱視の様な視界だが掌に眼があるのだ

 

まるで『妖怪:手の目』そのもののようにである

 

盲目の人物はこの力で(迷宮内に限るが)一時的に視界を得られる事から需要は結構ある……けど普通に使うには余りにも扱い辛いのがこの『化けの皮』だ

 

大概の冒険者はこのカードを一度使えば大概手放す。基本的に使えないが需要はそれなりにある(ついでにこれを売るのはボランティア扱いもされるし)

 

しかし……大輝には『とある推測』があった

 

 

『呪い型』に分類されるカードが果たしてこの程度なのか?と

 

あの『謎のノイズ』は手の目の逸話に関係ない筈だ。と

 

 

この二つとメアリーさんの講習……その中でも『親の社会的信用』や『身内としてのコネ』と特に『大輝と姫子が勝ち取った人間としての信用』で特別に教わった『真の冒険者に必須の技術』はかなり密接に関係していると大輝は推測している

 

あの手の目を見つける前から大輝は『妖精のお節介』持ちでなるべく回復魔法持ちのカードを探していた

 

『妖精のお節介』に記載されているとある一文……『主人の意図を汲むのが上手い』という一文を思い出して頂きたい

 

この一文にこそ『その技術修得への鍵』がある

 

……最初は『従順』なカードなら何とかなるだろうと思ってあのオークを買ったが(その意図に関してだけは)とんだ期待外れだった

 

……いや、ちゃんと大切に育成してきたから今の修得率があるのだろう。『その技術にはカードも心を開く必要がある』のだから(毎日酷使状態ではあるがケアを欠かした事はほとんど無いし)

 

大輝も常に『その技術』を意識し、カード達を大切にしつつその技術修得への協力を頼みながらこれまでちゃんとやって来た

 

最近では『カード達の考えている事や望む事』がかなり的確に解る様になって来たが……それでは。その程度ではその技術の入門にすら至れてはいないレベルだ(そもそも戦闘に活用出来る様なレベルですらまだ無い)

 

……言ってはおくが『知識あり』で数ヶ月の修練によってこのレベルなら充分に『才能がある方』に分類される(普通なら数ヶ月程度の修行では『その程度』すら無理なのが普通だからだ)

 

しかし『真に才能がある者』ならば何一つ情報を与えずとも数ヶ月もあれば大輝と同じく『片鱗』に触れられたり『入門』に至れたり出来るだろうが(その辺りは『原作主人公』や『一条さん』が好例だろう)

 

……そして、世の中にはそんな『天才』は意外と居る処には居るのだ

 

 

大輝の知るその『天才』はまだ冒険者資格を持ってはいない……取れる年齢でも無いがそれはまたいずれ彼女が本格的に参戦してからの話だ

 

一応。冒険者資格の無い者でも幾つか合法的にカードの召喚が可能な場所などは存在するし大輝もその一つで簡易的な訓練を受けた事がある(某遊園地やダンジョンマート所有のプライベートダンジョンなどで許可を得れば可能だ……大輝はダンジョンマート重役の息子だから可能な裏技だが)

 

 

閑話休題(それはさておき)其ノ二

 

 

予めキキーモラにはこの技術……『リンク』について頼んでおいた。主人の意図を読むのが上手いというキキーモラの持つ『妖精のお節介』の特性をこの技術の為に利用させて貰う

 

 

そして……予想外の行幸である手の目の存在。こいつについても少し気になって調べていたらこんな特異極まりない個体の獲得に成功していた辺り自分は『持っている方』だと再確認できる

 

先ずは掌にある瞳を閉じて硬く拳を握り締める

 

そして……その場で座禅を組んで意識を自身の中にいる手の目に集中する

 

魂で感じる不協和音の中で大輝は……ちらちらと。だが少しずつ明確にあのドスの効いた渋い声をまるでピントと周波数が合い始めたラジオの様に知覚する

 

 

『……な、旦那、旦那、あっしの声が聞こえやすか旦那?』

 

 

どうやら大輝の意図をちゃんと汲んでこの座頭はずっと大輝に語りかけてくれていた様だ

 

『まさか……ちゃんとあっしらの力を理解してくれるお人に逢えるとは思っても見ませんでしたよ旦那ぁ……』

 

『装備化』しても普通の会話は可能ではある……が、今回の『これ』はお互い口を一切使ってはいない

 

 

『心と心で会話している』のである

 

 

『リンク』という技術は基本的にカードとマスターの間にある『繋がり』を利用して行う技術だ

 

最初にカードを自分のものにする際に血を一滴垂らして『マスター登録』が完成する

 

そうするとカードを使役するだけでなく『ダメージの肩代わり』もやってくれる(カードの基本的な能力の一つである)

 

まぁ、マスター自身がダメージを受ければ『カード全てが同じダメージを受ける』という事にもなる

 

これは『ダイレクトアタック』と呼ばれ、全ての冒険者が避けなくてはならない事柄の一つだ

 

この『繋がり』を利用して先ずは『カードと思念だけで会話する能力を得る事』からが『入門』であり……其処から更にこの『カードとの繋がり』を利用する技術技能の修得が『真のプロ冒険者』になる為に必須の条件である

 

……尤も、『プロ冒険者資格』はまだまだ無数の難題に挑まなくては得られない難関国家資格の一つだが

 

 

さて……この『手の目の能力』というものは言うなれば『リンク用のチューナー』みたいな代物だろう。盲人という存在は視界を失う代わりに他の感覚が非常に鋭敏になる、とは良く言われている

 

恐らくはその理屈で『リンク』という感覚を鋭敏にしてその技術修得や技術行使の補助が出来るのであろう

 

『化けの皮発動時のあのノイズ』は……冷静になって探れば大輝のカードホルダーが発信源だ

 

どうやらカード達の声がぐちゃぐちゃに混じりあって過剰に増幅された結果あのノイズだったのだろう

 

この『化けの皮』の本当の能力は『中途半端で弱い装備化能力』ではなく、『マスターの為のリンク用チューナー能力』だった

 

ほぼ視界を失うのは深刻なデメリットではある……が、それでもこの能力が有れば『リンク修得』が捗るだろう

 

……そして、今度は次のステップを経験しなくてはならない

 

手の目に頼んで次はキキーモラに意識を向ける

 

『……さま、ご主人様聴こえてますかい?ご主人様?』

 

ちゃんと聴こえてきた

 

 

どうやらこの実験は成功の様だ。もう少し頑張れば最低限の『入門』……『テレパス』がいける様になるかも知れない

 

暗雲はまだ行手には有れど……それを晴らす手段(の大事な一欠片)は見つけられた。後はその欠片を磨いて己のものに昇華するだけだ

 

 

 

【Tips】リンク

 カードとマスターの間には、見えないラインが存在している。マスターに対するダメージの肩代わりなどはこのラインを介して行われている。リンクはそのラインを利用して感覚や感情の共有を行う技術である。

 これにより、カードたちに迅速な指示が出せるようになる他、カード間の連携能力が飛躍的に向上する。

 しかしそれらはまだリンクの入り口に立ったに過ぎない。

 リンクにはさまざまな可能性が秘められており、リンクを使えない、使いこなせない冒険者はただカードを所有しているだけとも言える。

 

【追記】

Q:なんでリンクが一般に知られてないの?

A:天空闘技場で念の存在が知られていないのと同じ理論。

 

 主人公は、リンクの存在は知りませんでしたが、「プロはまるで手足のようにカードを操ることが出来る」「同じカードを使っても、プロの方が圧倒的に強い」ということぐらいは知っています。

 ではなぜリンクという単語を知らなかったのか。

 大きな理由は三つあって、一つは、リンクが基本的に秘匿されているから。カードの遠隔操作が可能となるリンクは、一見モンスターの襲撃に見せかけて他の冒険者を襲うことも可能となる為、一般には秘匿されています。このTVも、リンクについての情報はカットして放送されますし、SNSなどでリンクという単語を使うと不適切な単語として投稿できなくなります。ではなぜ重野さんがそんなことを普通に言っちゃったのかというと、彼が本職の実況ではないからです。重野さんも、このあとギルドで上司からしこたま怒られます。

 二つ目の理由。それは、リンクを使える冒険者の数は圧倒的に少ないから。一つ星や二つ星の、ただカードを持ってるだけで満足している冒険者たちは、リンクの存在を知っても「なにそれ、それどうやって使うのよ。俺使えねぇんだけど、デマじゃね?」となってしまいます。リンクの存在を知らないままグラディエーターになり、モンコロでフルボッコにされる者も結構多く、それを人は「洗礼」と(以下略)。

 三つ目の理由。これが最大の理由なのですが、……ぶっちゃけモンコロはリンクの存在を知らなくても楽しめるからです。現実のプロスポーツを見てても、選手たちの超高度な専門技術を知らなくても、雰囲気で楽しめます。これが、主人公や観客たちがリンクの存在を知らなかった最大の理由です。プロが手足のようにカードを使うのも、経験の差だろうと思っていた感じですね。

 ……そんな感じの裏設定で適当に書いていたのですが、微妙に矛盾が生じるし、本編内で説明不足過ぎるので、あとで適当に書き直します。

 なので、今は「天空闘技場で念が知られていないのと同じか」ぐらいの感覚で受け入れてくださると嬉しいです。

 

(※:公式より百均様の許可を頂いて転載)

 

 

【Tips】リンク(補足&追加設定)

 

今作主人公やその恋人みたいに登録前から『ちゃんとした冒険者』による(雇用などの)手解きを受けて冒険者を目指すタイプの……言うなれば『ブルジョワ勢』みたいなタイプは以外と存在する(原作のアンナみたいにちゃんとした冒険者を雇用して修得した者とか)

 

小夜や師匠みたいに肉親や知人からの縁故で教わった『縁故勢』みたいな者もいたり……中には自力でリンクの基礎を修得出来たマロの様な者もいる(これは『独覚』と呼ばれる最も優秀な素養の表れだ)

 

普通の冒険者は……三つ星以降から情報を集めて修得が殆どらしいが

 

 

【Tips】手の目

 

鳥山石燕の『画図百鬼夜行』に記載されている妖怪(若しくは怨霊)

 

座頭(盲目の弾き語りや按摩鍼灸師、金貸しなど)の姿で眼球が目ではなく掌にある妖怪。悪党に金を奪われ殺された盲人の怨みから生まれたとされる

 

この世界ではEランク迷宮でごく稀に(日本限定で)出没するレアモンスターの一種

 

『装備化能力』という珍しく、そして非常に重宝する能力を持つが……デメリットとして『眼球が掌に移る』上に『謎の雑音に苦しめられる』というマイナス効果がある為『役に立たない装備化能力持ち』のレッテルを貼られて即座にギルドに売却される哀しいカードである

 

この『掌に出来た眼』は本来の眼が盲目でも(弱視レベルとはいえ)ちゃんと視えるために病院などが常にこのカードを求めているため需要はしっかり存在する

 

 

……しかし、じつはそれは『カバーストーリー』で本当の手の目は自衛隊やギルド直属の冒険者達の訓練には必須な重要カードである(病院も求めている辺りは事実だが)

 

作中にもある通りこの手の目は『リンク用チューナー能力』を持った非常に珍しく重宝するカードだ。そして何故この能力が隠蔽されて『役立たずカード扱い』なのかは……『リンクは秘匿技術だから』という事と同じ理由だ

 

もしもこの能力を把握してギルドに報告すれば『口止め料』がそれなりの値段で貰えるだろう(何らかのDクラスカードとか)。ネットなどに書き込み……はブロックワードなどに阻害されるし仮に成功しても直ちに削除された上でギルドからの『警告』が来るだろう(勿論『口止め料』は無しだ)

 

嘘か真かこの手の目を使って戦う冒険者も居るとか居ないとか……そういう噂もあるらしい

 

 

【種族】手の目

【戦闘力】50

【先天技能】

・手目坊主:探知能力を向上させる……何らかの隠されたものを探る事が出来るとか?(詳細不明……但しマスターが『盲目』である場合は完全に行使可能らしい)

※:未だに未解明な処があるスキルなので何かしらの情報が有ればギルドにご一報を

・化けの皮:憑依型装備スキル。特殊なデメリットはあるが他のカード或いはマスターに憑依する事で自身の戦闘力の六分の一を加算させる事が出来る(マスターへの憑依は全ての戦闘力とスキルを共有できる)

 

後天技能に『座頭としての技能』が先に来るが……稀に『○級鑑定』に武術や杖術、一部の剣技を修得する個体も居るらしい

 

 




やはりこの技術はちゃんと出さないとね


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第十五話猪鬼将軍と手目坊主

オーク改めボアオーク君達の名前が決定しました

※:ガッカリ箱からの収穫物に関する独自解釈があります
※:百均様の公式【Tips】を転載使用しました(承認済み)

※:【Tips】ズンドコベロンチョ追加


手の目を使った実験は大成功だった

 

ちゃんとキキーモラや手の目自身ともテレパスが出来るし……特に慣れ親しんだオークやヘルハウンド、ストーンゴーレムにジャック・オー・ランタンといった大輝の主力陣とも可能である事もこの後の実験で判明した

 

残念ながらブラウニーやフェアリー×5はまだノイズの方が強くて駄目だったが

 

一応、手の目の『化けの皮』を解除した状態でもテレパスは可能になっていた……積み重ねた経験が活きたのだろう

 

流石に今の段階ではテレパスラインは一枚づつにしか出来ないが(手の目を介すれば四枚全てとちゃんと出来たが)

 

その最中でオークをボアオークにマイナーチェンジ、ヘルハウンドを送り狼にクラスチェンジを行う

 

 

結果を言えば……見事な大成功だった

 

どちらも戦闘力も後天技能も……そして先天技能一つを追加して継承に成功していた

 

オークは……今までのストイックさが出たのか身長はそのままにでっぷりした身体が非常に引き締まったマッチョボディになり、元々持っていた大鉈は戦斧になり、粗末な麻布みたいな服から硬革鎧に身を包んだ猪頭の戦鬼へと変化していた

 

普通のボアオークだと割とオークと(猪頭以外は)大差無い見てくれなのだが

 

ヘルハウンドは……体積はそのままではあるが。嘗てのワイルドウルフだった頃に似た狼になっていた(辺りを漂う二つの提灯、という追加要素は有れど)。しかしあの頃よりも圧倒的に毛並みが良く、力強さも文字通りに桁違いだ……そして、提灯を良く見ると提灯から炎を噴き上げていたりもする

 

成る程、ヘルハウンドの先天技能を継承した影響だろう

 

そして……嘗てはあまり喋る事が苦手だったオークいやボアオークが非常に流暢に会話を始める

 

 

「マスター、私を此処まで見捨てずに育ててくれてありがとうございます。今後とも末永くお側に……」

 

 

まるで……あの時姫子をスカウトしたあの強面プロデューサーそっくりな深く良く通るバリトンの美声でそんな事を言って来たのだった。嘗ては非常にくぐもった聞き取りにくいガラガラ声だったのに……本当に嬉しい話だ

 

大輝はこのボアオークの真意が聞けた事で……今からでもこのボアオークに『名付け』を行おうと思った。『善は急げ』と言うし

 

ボアオークは『名付け』を歓迎してくれている。大輝としてもやはり彼は『相棒』なのでその歓迎は分かっていても非常に嬉しい話だった

 

大輝もこのボアオークの名前をずっとずっと色々考えていた……『オーク』の語源である『オーカス』や『オルクス』みたいなのも良い、または彼の嗜好である時代小説の主人公なども考えた、故事から付けるのもまた有りだろう

 

しかし、やはりこのボアオークは大輝にとって初めての相棒であり己を映す鏡の様に思えてくる……そして彼は大輝にとっての剣そのものだとも言える

 

だから……それから、其処から彼の名前を選んだ

 

 

『剣(つるぎ)』

 

 

それがこのボアオークの名前だ。『大輝の剣』として名前を与えた

 

他にも送り狼、ストーンゴーレム、ジャック・オー・ランタンは即座に名付けを受けてくれた

 

流石に手の目、キキーモラ、ブラウニーはまだ縁が足りないから自重したが

 

最後に、例の新しい戦斧を剣に渡して第二次Eランク迷宮攻略戦線の開始だ

 

 

……ちゃんと構築した地図と激しく強化された戦力のお陰でその日の昼前にはあっさりEランクモンスターが出るエリアの安全地帯に到着していた

 

ついでに幾らか手の目の『慣し』もやってみた(結果は後述)

 

それを抜いて慣れれば更に時間短縮が可能だろう

 

今の編成は剣、送り狼、キキーモラ、ブラウニーといった編成にしている

 

剣と送り狼……いや『祝(はふり)』と命名した彼女(ワイルドウルフの時から老齢期の雌狼だったので)、そして最優先に育成したいキキーモラと対罠枠のブラウニーといった理由での編成だ

 

今はこの場で昼食休憩から後に本格的なEランク迷宮の探索行である

 

ちなみにこの安全地帯には自衛隊が仮設トイレ(工事現場や野外イベントなどで設置されているアレ、但しいわゆる『ポットン便所式』となる)を必ず設置していて冒険者はそれを(独占したり破壊したりしない限り)自由に使う権利がある

 

……ちなみにこの制度はほぼ日本だけがやっているらしく。他国では自分で『どうにか』するのが常で……特にこういった衛生面に頓着しない国の迷宮はまるで『中世のパリ』だか『◯態✖️親父の文面』みたいな惨状だとか

 

『迷宮内部では食糧は腐らない』が……逆にこういう『老廃物の分解もない』のだ。だから迷宮の公衆トイレは非常に臭い事を覚悟しなくてはならない(一応臭いが外部には漏れにくい仕様にはなっているが……熱いタイプの迷宮だと内部は正に地獄である)

 

だから日本では安全地帯のトイレまで我慢するか……自分で携帯トイレやカード化した仮設トイレを持ってゆくか最悪地面に埋める必要がある(比較的安全そうな迷宮内部で『催した結果』を埋めようとしたら『先客』と御対面した、などといった笑えない笑い話だってあるぐらいだ)。大輝が昨日手に入れたキャンプセットにも大人用の『おまる』がしっかり存在している

 

ちなみにこのトイレの為のトイレットペーパーは一応設置はされているが……『元から無い』と思った方が良いだろう(手洗い水は自分で持ち込んだ水かウォッシュペーパーで……所詮は汲み取り式便所なので)

 

このトイレの『中身を持ち出して処分する』というバイトがあるとかそんなこの世界特有の噂(都市伝説)もあるが……実際には自衛隊の新米やギルド職員の持ち回りなどで『ピュリファイケーション(浄化)』という初等補助魔法で浄化(消滅)させてからトイレットペーパーの補充を行うだけなのだが

 

……石畳だらけの此処みたいに『掘り返すことすら不可能』なタイプの迷宮ならば特にトイレは大切である(『催した結果』は自分で持ち帰るかトイレにちゃんと捨てるがマナーとなる……『小』の方ですらだ)

 

他にも色々な理由がまだあるが……少なくとも安全地帯で馬鹿をやる奴は居ない(居れば最低限でも即冒険者資格の剥奪と下手すれば莫大な賠償確定民事裁判から重い刑事裁判が待っている程の重罪であり、ギルドも常に何度でも警告してくれる程だ)

 

このトイレ事情一つ挙げるだけでも安全地帯の大切さは解るだろう

 

 

今回の迷宮の様に『試験専用迷宮』だったら非常に楽だが……これが人気のある(実入りが良い、人気カードが出やすい、攻略が楽などで)迷宮だと間違いなく場所取りで一悶着有ったりする(最悪の場合だと『トイレ近く』処か『場所すら無い』という事もままあるらしい)

 

まるで『朧車の誕生由来(牛車の場所取り)』みたいな悲喜劇が常に繰り広げられているらしい(その朧車もDランクの強カードとしてちゃんと存在している)

 

そんな中の一番良いポジション……兎に角トイレから遠い場所で持ち込んでブラウニーに預けた弁当(やはりダンジョンマート系列の弁当屋製……大輝のだけは朝一でそれを持ってやって来てくれた恋人手製だが)を広げてのランチタイムだ

 

ダンジョンランチ……ダンジョンマート系列弁当屋のものはカード達それぞれの嗜好などに合わせたものをチョイスしている(弁当不用な奴も多々居るが)

 

剣ならば特製スタミナ弁当(肉まみれ)、祝なら高品質のドッグフードと水、ジャック・オー・ランタンとフェアリー達にはケーキを、ストーンゴーレムは飲食不用でブラウニーにはミルクと蜂蜜にカットフルーツ色々、それとケーキを一切れ、キキーモラには故郷のものになるべく合わせたものを、そして手の目には握り飯を中心に手掴みしやすいものを中心としたチョイスだ

 

昼食は……Eランク迷宮の召喚制限もあるので三交代制三十分づつの計一時間半で行われた

 

姫子手製の弁当は……大輝的には最高だったらしい。少し型が崩れて中身の鮭が飛び出したおにぎりも、ちょっと塩気の強い唐揚げも、やはり少し甘過ぎる卵焼きも大輝にとっては幸せの味だった

 

ちなみに……この昼食でキキーモラは和食に興味を持っている事と、ある意味見てくれ通りにこの手の目は大食らいという事がわかった

 

姫子が皆の為に焼いてくれた(少し歪で焦げた処もある)クッキーを齧りながら大輝は『今後のスケジュール』について考える

 

今回はこの迷宮をなるべく深くまで攻略するのが目的である。一応この迷宮はEランクとしては結構深い『十八層』だという事だけはメアリーさんから聞けた(ごく稀でもイレギュラー対策の為に階層数だけは最初から教えて貰える……ちゃんと聞いたならば)のでそれ以外の箇所でパーティー強化と資金稼ぎから始める

 

今回の強化にも資金稼ぎにも重要なキーパーソンになるのは……手の目だ

 

それから……最後にあの安全地帯をきちんと清掃してからキキーモラに頼んでトイレに浄化魔法をかけて貰ってから直ぐに出現である

 

 

本格的に潜ったEランク迷宮は……あの時の戦力だとやはり少し厳しい代物だった

 

原作でもあった砂男と夢魔の必殺コンボや姿隠しに特化した妖精の『スプライト』と自爆特化の鬼火『ウィル・オ・ウィスプ』の地雷的な不意打ち、単純に強力なヘルハウンドやストーンゴーレムなどの準Dランクらの強襲といった手荒く厄介な大歓迎で迎えられた

 

その中でも特に警戒したのが『グレムリン』だ

 

こいつはEランクでも比較的弱い方のモンスターだが……嘗ての世界大戦の中の新兵器である飛行機の故障に纏わる機械関係の天敵として悪名高い魔物である

 

この迷宮でもその厄介さとこれから先もちょくちょく見かけて邪魔してくるだろう迷宮の嫌われ者……嘗てあの栗鼠の様な人気モンスターの話や他にも多々言及したEランク以降の脅威がこいつである

 

こいつには『機械破壊能力』がデフォルトで備わっており、その力で例えば迷宮の情報やモンスター、魔道具などの情報をダウンロードしたスマートフォンや電子機器、中枢は精密機器で制御している人工魔道具(冒険者ライセンスや……姫子のエアコンブローチなど)を全て破壊してくる

 

迷宮の道順を記したデータも消失するから大輝は『万が一の為』に方眼紙にそのデータを書き写していたのである

 

迷宮産の魔道具や金属などを加工したり配分を変えただけの機械を使わない『人工純正魔道具』などなら決してその能力の対象にはならないからこれから先の迷宮探索には非常に重要となる

 

一応、この能力に対応する策として『分厚い耐火金庫』などに電子機器などを入れておけば機械破壊を免れる事は出来る(一部の冒険者は真面目にそれで対応している……耐火金庫をカード化して持ち歩けば問題ないし)

 

勿論、多数の厭らしい罠も健在と来た

 

もしもあの戦力のままならきっと数回戦っただけで撤退を余儀なくされていただろう。Fランク階層よりも敵の連携能力は更に向上しているし、何よりシナジーのすり合わせすら考慮内の様だ

 

大輝も主力(剣)、遊撃兼索敵(祝)、補助(キキーモラ)と盗賊役(ブラウニー)といったEランク攻略には上等な編成で来ているから……油断さえしなければ普通にこの関門は攻略できるだろう

 

それに……今回からは『沢山の使い捨て戦力』を剣の力で沢山調達出来るのだ

 

時に、ボアオークというカードは非常に高価な人気カードだとは何度も言った。見てくれは美少女カードにはどう足掻いても到底叶わないが力も強く頑丈で元となるオークの欠点をより改善した優良カードである

 

しかし……ボアオークの真価は『眷属召喚』だ

 

『眷属召喚』とは、そのカードに縁のある下僕を召喚して更に支援する非常に有益かつ珍しい能力だ

 

このボアオークの場合はその下位互換であるオークの召喚が可能であり、その召喚スペックは一分間に一体の眷属オーク(素手、腰蓑一丁)を一日最大三十六体一度に六体まで召喚、使役可能というものだ

 

この『猪鬼将軍』は『水虎』という同じくDランク人気カードの『河童の大将』の陸戦仕様として知られている(基本的にオークと河童なら河童の方が強いが……水虎も河童も局地戦用カードである為評価は互角扱いである)

 

この眷属オーク達は戦闘力が通常かつ初期のオークの八割程度でしかも後天技能は一切無い仕様になっている

 

ちなみにこの眷属オーク達は召喚後に放置しても一時間程度で消える仕様になっている(倒せば即消滅する)

 

Eランク迷宮以降ではこの眷属オークで『漢探知』をするという荒っぽい手段で罠をどうにかする手段も時間短縮的にあるらしい(決して『完璧』とは言えない方法だが)

 

大輝の場合はブラウニーの育成の為にやらない手段だが

 

 

ともあれ……六体の(Eランク上位程度とは言え)追加戦力が追加された上に当の剣は新しく強い戦斧で更に強くなった

 

ボアオークの初期戦闘力は180、しかもそれにオークとして積み重ねた戦闘力100が追加されて280、更にあの戦斧で120追加される

 

結果……剣の戦闘力は400という倍近い向上である

 

しかもまだ成長の余地がある、という事も追記しておく

 

嘗てのオークだった頃でも(オークとしては)非常に俊敏かつ機敏な動きだったが……これがボアオークになれば最早その動きは『疾風』とでも評したくなる程にキレが増している

 

現地点で下手なCランクモンスターよりも強い練り上げられたボアオークである剣が大暴れである

 

しかも傍はこれまたFランクからの叩き上げである送り狼の祝と念願の支援役たるキキーモラだ

 

唯一のEランクであるブラウニーとて多少は戦いの心得はあるから足手まといにはならない

 

そして大輝も……リンクの初歩に入門出来たお陰だろう。今までの様に少なくとも足手まといではあっても邪魔者にはならない程度の立ち回りからちゃんとした役割に目覚め始めている

 

ブラウニーとキキーモラに守られながら戦況を俯瞰し……リンクの初歩である『テレパス』を行使して剣と祝にそれを伝える

 

言わば『オペレーター』としての役割を獲得したのである

 

そんなこんなで大輝達は沢山の魔石とEランクカードを得る事に成功したのである

 

 

そして……あの手の目が如何なる方法で戦力強化と資金稼ぎに役立つのかを話すとしよう

 

まず最初に……何故あの手の目があそこまで高額になったか?極まった座頭としての技量?伝説的な俳優のそっくりさんだから?リンクのチューナー能力?

 

一番の理由は『中級鑑定』だ

 

この迷宮では稀に『オーブ』なる宝(籤)が出るが『ハズレ』は非常にえげつない代物ばかりなので……正に当たるも八卦当たらぬも八卦である

 

その賭けに対する極めて合法的かつ推奨されるイカサマが『◯級鑑定』である

 

初級ではたまにハズレオーブを掴む羽目に陥るが(それでも無いよりはずっと良い代物ではあるが)……中級ならば悪い結果だけは必ず回避出来る。だからこそあれほどの値段になる

 

ちなみに上級ならばだいたいの効果も確実に鑑定できるそうだ

 

それを利用してある程度の目星と当て推量ではあるが……色々なスキルの習得が捗った

 

手の目が武術を得たり、ブラウニーの罠解除と低級収納が成長したり、剣が杖術を得たり……兎に角色々と良い技能を得る事に成功した

 

 

そして……もう一つの資金稼ぎについてだが。先ずはこの手の目のこの二つの技能について思い出して頂きたい

 

『風が吹けば桶屋が儲かる』と『心眼』である

 

『風が吹けば桶屋が儲かる』の効果でオーブの発見率と当たりオーブの発生率、それとカードとガッカリ箱の発生率が向上している(しかも大輝自身もかなりの豪運持ちである)

 

その豪運と『運勢操作能力』は何もオーブだけに来るものでは無い

 

この迷宮は試験用指定迷宮である……そして、またもう一つの側面もある

 

『シークレットダンジョン』

 

前に手の目と一緒に現れたあのカーバンクルが十一階層から必ず一層につき一体は存在する夢の様なボーナス迷宮である

 

普通、シークレットダンジョンは政府や自衛隊が完全に独占しているが……このタイプの弱い迷宮ならば偶に運良く試験用に使わせて貰える可能性がある(大輝は純粋な強運もあるがギルド職員の覚えが良いからこの迷宮が割り当てられただけである)

 

しかし……このカーバンクル達は様々な隠れ場所に身を潜めている上にその隠れ場所も偶に『塗り壁』に間違われているEランクモンスター『フロアイミテーター』という壁などに擬態して冒険者を惑わせるモンスターや隠し部屋などによって守られている(ちなみに塗り壁はDランクの渋好み勢や中高年、某妖怪シリーズ好きには大人気な強カードで実は大輝も求めている一枚だ)

 

しかも、この迷宮が『シークレットダンジョン』である事は決して教えては貰えないので大概の冒険者達はその幸運に気付かずカーバンクルを素通りして試験を終えるのが普通である

 

『探知能力の大切さ』を教える教材代わりかつ優秀な新人へのご褒美としてこの迷宮は存在する。ちなみにこの迷宮に入れるのはこの初めての試験期間かつ試験終了までで……二回目からは只面倒なだけのEランク迷宮での再試験となる

 

但し、こと大輝みたいに『それ』を探知する手札持ちにはそれには当てはまらないが

 

『手目坊主』という能力がある

 

前に言及した『犠牲者を探り当てる』ことに対応した手の目の基本能力だが……普通に装備化するだけではノイズや視覚喪失でほとんど使いこなせない能力だが『手の目の正しい使い方』を理解出来ればこの能力は一気に化ける

 

この能力は『非常に精密なソナー能力』であり、視覚以外のあらゆる感覚を鋭敏にして隠れている獲物や宝物を探り当てる能力へと至らせる

 

高位の堕天使や神格みたいに一階層丸ごと……みたいな規模は流石に不可能だが少なくとも半径50米は(普通の手の目がマスターと一体化すれば)射程圏内らしい

 

どうやら、マスターと一体化する事でマスターの思考も活用してこの能力を意図的に行使可能になるらしい……要は外付けハードディスクみたいなものだろうか?

 

要はちゃんと使いこなせれば手の目の『手目坊主』で隠れているカーバンクルを簡単に探り当てる事が出来ると言う事だ

 

ついでに言うならばあの詳細不明な後天技能『心眼』が……ちゃんと手の目を使いこなせるならばその真価を発揮出来る

 

この『心眼』の効果だが……言うなれば『視覚以外の感覚でものを視る能力』とでも言えば良いだろうか?まるで蝙蝠にでもなったか熱源を視るプレデターか何かにでもなったかの様な摩訶不思議な感覚で『視える』様になる

 

ついでにこの効果と合わさってこの手の目の『手目坊主』ならば半径300米は探知範囲になる(ついでに手の目単体でも半径50米の探知が可能である)

 

この力で今回の日程全てを利用して色々なオーブやカーバンクル、ごく稀に発生する設置型ガッカリ箱などを決して逃さず乱獲に成功した

 

 

(偶々見つけた)『燈無蕎麦』が一枚

幾つか使い道のありそうなEランクカードが数種類二十数枚

あまり使う気にはならないEランクカード百枚前後

Eランク女の子カード五枚(インプ三枚、スプライト二枚)

 

魔石がだいたい八十万円分

 

オーブが十三個(うちハズレが五個)

 

売却予定の魔道具色々(鑑定結果で二十万円分)

 

幾つかの役立つ使い捨て魔道具

 

カーバンクルガーネットが十個

 

金のガッカリ箱からは……アタリだと言える良いマジックカードが三枚と換金にしか使えない代物(貴金属の塊とか宝石とか)が三百万円分に市販価格がそれぞれ三百から五百万円辺りの五つの役に立つ魔道具と『最高のご馳走』が出た

 

一つ目は『魔石袋』、手のひらに収まる程度の小さな巾着袋だが魔石ならばどんなものでも無限に入るし重量も消す魔法の袋

 

二つ目は『無限水筒』、魔石を嵌め込む窪みが付いただいたい1ℓ程の容量の金属製丸型水筒だが……魔石を嵌め込めば非常に美味で健康に良い水を(魔石のエネルギー次第で)無限に出せる、Fランク魔石一つでも二十五米プール一杯分は余裕で出せる。ちなみに水道の様にも使える上に畑にやるとそれだけで作物も幾らか美味しく育つ。『薬水の水差し』の下位互換品

 

三つ目は『透明金庫』、所有者以外には見えない魔法の金庫で見た目よりも沢山入る(普通の小さな手提げ金庫だが下級収納ぐらいにはものが入る)

 

四つ目は『魔導書』、カードが装備する武具の一種であり、装備すると何らかの技能を(装備中だけ)獲得できる。これは銀細工で雪の印を象嵌した分厚い革表紙で羊皮紙綴りの典型的な魔導書そのものなデザインであり……保有技能は『中等攻撃魔法/氷結のみ』だった(今はキキーモラが装備している)

 

最後に『俊敏の銅剣』、今オークが持っている大戦斧と同じ様な青銅にも見える鋳物と思わしき『グラディウス』とも呼ばれる広刃の直剣。だいたい刃渡り50㎝の(青銅の鋳物であるせいか)肉厚な造りの幅広の小剣で戦闘力にだいたい+100の補正を与える良品かつ多少敏捷性を高める効果があると手の目が鑑定している(大輝&手の目が装備している)、魔道具だけにそれなりに頑丈でもある

 

どれもこれも真面目に冒険者やるなら有り難い品物ばかりである。全て市場価格で三百万円其処らの代物だ(全て『カード化能力』は無い)

 

『最高のご馳走』……それは稀にガッカリ箱から出る最高の珍味『ズンドコベロンチョ』だ

 

これは肉だか魚だか野菜だか果物だか穀物だか調理済みなのかすら分からない『謎の何か』だが非常に美味である事と人(カード)に拠って調理方法がガラリと変化する上にそれを作る当人すら理解出来ないし再現も出来ない事だけは知られている代物だ。しかも優れた調理技術が無ければ決して調理すら出来ない事、それとこれは決して腐らずそのまま放置しても絶対に大丈夫である事も追記しておく(カードなら料理技能必須)

 

大輝も幼い頃に一度だけ(姫子を守りきって生還した祝いに姫子と一緒に)食べた事があるが……どう表現して良いか分からないが素晴らしい体験だった事だけは理解出来たしまた食べたいと心底思える様な、そんなどう表現すれば良いか分からない至福だった

 

何故かこれはどういう理屈か飲食が不可能なカードでも食べられるらしく……今回はストーンゴーレムのために料理技能持ちのキキーモラがその日の夕食に調理してくれた

 

全員で仲良くつついた『ズンドコベロンチョ』は非常に美味だった。あれは多分鍋だったと思う。ストーンゴーレムも喜んでいた()

 

大食らいの剣や手の目すらお椀一膳で満足満腹する不可思議な美食体験だった……けど姫子には決して言えない秘密になってしまったが(次回は必ず『家に持ち帰る』とカード達とは約束済みである)

 

 

今回も探索は大成功だった。カーバンクル討伐で剣達は戦闘力が最大値まで高められたし、オーブ以外でも結構技能の獲得も出来た。皆で『ズンドコベロンチョ』を食べたり色々ちゃんと話し合ったせいかちゃんとブラウニーやフェアリー達とも『テレパス』が出来る様になった

 

非常に見入りの良い最良の探索だった

 

明日は姫子と夏休みの宿題をこなして明後日に海でご褒美デート、明後日はまた別にやりたい事をやってからこの試験の詰めだ……あのカーバンクル達は『迷宮主を倒すまで再配置されない』からもう旨味はあの迷宮には無い

 

今は八月の初めで……まだまだ帰還予定時刻ならばカードショップも普通に開いているからお宝の鑑定やストーンゴーレムやそろそろ良い頃合いになったブラウニー用のカードの代金の目処もついたから調査して貰ったり色々しないとならない事も沢山ある。新しい武具もカード化したり色々換金やら何やら色々やるべきことは沢山ある

 

詰めておくべき収穫物だけをリュックに詰め込んで大輝は迷宮を出た。四日ぶりの夏の日差しは非常に眩しかった

 

 

 

【Tips】ボアオーク

 

オークの先祖返りとも進化形とも言われるオークの上位種族。基本的に頭が猪になった事以外はオークそのものな外見……だが

 

オークの弱点である頭の弱さ、鈍重さ、不器用さに魔力の無さを全て克服している上に元からの強みも強化された紛うことなきオークの上位種族

 

そしてその真価は……『オークの上位種族としての特性』から来る固有の先天技能『猪鬼将軍』だろう。この能力は『眷属召喚』という能力の一種で一日に最大三十六体、一度に六体までの『眷属オーク』を使役出来る、という能力だ(その『眷属オーク』は全て全裸か腰蓑か褌一丁で素手という姿でカードのオークよりもかなり弱い代物ではあるが)

 

クラスチェンジ経路や属性なども基本的にオークと同じなので磨きあげたオーク使いはまずこのボアオークにマイナーチェンジするのが鉄板とされている

 

【種族】ボアオーク

【戦闘力】180

【先天技能】

・猪鬼将軍:『眷属召喚』の一種、カード版よりも劣化した『眷属オーク(後天技能無し、戦闘力八割)』を召喚使役出来る『上位オーク』としての特性

頑丈、怪力、統率を内包する

・武術

・威圧:強烈な迫力で敵の動きを鈍らせ、稀に怯ませる事が可能。但し臆病な気質持ちか『格下』にしか通用しない

 

後天技能は基本的にオークと同じだが魔法や一般技能もある程度習得可能

 

 

 

【Tips】グレムリン

Eランク迷宮からなら世界各国どの迷宮にも必ず出没する冒険者や軍人全ての嫌われ者

 

第一次世界大戦における飛行機の故障(実際には技術がまだ未熟だったせいだが)の原因として飛行機乗りに恐れられた近代の妖精とも悪魔とも言える存在

 

外見的には八十年代のあの有名な映画に出てくる『あのクリーチャーに纏わる最後の約束を破った後の姿に蝙蝠の羽根を追加した様な』小柄かつ醜悪な小鬼。羽根はあるが短時間の滑空程度にしか使えない

 

こいつの特性は『機械の否定』、幾らかの溜め時間と集中の後に放たれる特殊な電磁波で機械類を全て破壊する事ができる(懐中電灯や銃、手巻き懐中時計程度に複雑な機械なら確実に破壊出来る……実験の結果火縄銃や単純な構造のボウガン辺りならば使用可能ではあるらしい)

 

この効果は『人工魔道具』にも有効であり、冒険者必携の『冒険者ライセンス』などもこの効果で破壊されるし……冒険者の大事なツールである電子端末も勿論影響を受ける

 

その為、こいつが出るEランク迷宮からは通常のモンスターによる死者が出やすくなるので常に警戒が呼びかけられている(慣れ始めた頃によくある事故らしい)

 

基本的に悪戯好きで取り合いの難しいカードだから人気は無いが使いこなせれば逆に非常に便利な代物ではあるらしい(よくすれ違った他の冒険者に攻撃されるらしいが)

 

 

【種族】グレムリン

【戦闘力】60

【先天技能】

・機械の天敵:グレムリンを象徴する能力。二秒三秒の溜めと集中を必要とするがありとあらゆる機械類を破壊出来る電磁波を放てる

この能力は半径五十米が有効範囲となる

この能力は育て方次第で色々な成長の余地がある……らしい

・悪魔妖精:悪魔妖精の亜種、妖精にして悪魔。育成次第で悪魔にも妖精にもどちらにでもなれる存在。魔法に対するプラス補正

後天技能は基本的に魔法系と技術、知識がメインとなる

 

 

 

【Tips】シークレットダンジョン

 迷宮はそのすべてが公開されているわけではなく、希少な魔道具がドロップしやすい迷宮や、人気のあるカードが出現する迷宮は、国益の観点から国に独占されている。そうした軍の管理する迷宮をシークレットダンジョンと呼ぶ。

 冒険者に公開されている迷宮は、国からすれば旨味のない迷宮であり、それらの迷宮のアンゴルモア対策を冒険者たちに任せることで、限られた軍の戦力をリターンの大きい迷宮に集中させるのが冒険者制度の目的の一つである。

 シークレットダンジョンの一部は、プロ冒険者に限り公開されているものもあるが、ドロップアイテムの持ち出しの禁止や高額な入場料など様々な条件付きのモノとなっている。

 

(※:公式より百均様の許可を頂いて掲載)

 

 

【Tips】シークレットダンジョン補足項

今回みたいに『比較的旨味の少ない素人向けのシークレットダンジョン』は偶に『見処のある新人冒険者の試験用』に使える事がある。今回のシークレットダンジョンはEランク階層からカーバンクルが必ず一から最大三体発生するという仕様になっている(ついでに『金色のガッカリ箱』のアタリ率も高いらしい)

 

但し、普段はかなり発見は難しい隠し部屋などに隠れている上にこの迷宮がシークレットダンジョンである事は受験者当人が気付かない限り決して教えられる事は無い

 

大輝の場合はちゃんとこの迷宮に沢山のカーバンクルが居た事を報告したので(手の目の件も含めて)かなり良い『口止め料』が貰えた

 

『試験用ダンジョンには守秘義務がある事』と『政府や自衛隊は一人でも優秀な冒険者が欲しい事』から思いついた発想

 

 

【Tips】ズンドコベロンチョ

 

ありとあらゆる全てが正体不明の珍味。分かる事は『ガッカリ箱からごく稀に出る』、『一流以上の料理人や料理技能持ちカードでないと調理不能』、『ズンドコベロンチョという名前である事』だけである(全てのカード達が皆これを『ズンドコベロンチョだ』と証言し、非常に美味である事を教えてくれた)

 

今もこれの正体を探る為の研究は(食品系企業メインで)続いているが成果は未だ無い



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第十六話『札見ノ式』

原作で『リンク』を説明した時に出たあの作品を元にこの名前をでっち上げました

それと『大輝の豪運の代償』は今回見せる予定です


「大輝ちゃん……規則だからまた聞くけど。本当に私達以外の誰にも教えてはいないわよね?」

 

「だからいの一番に此処に来て報告してますよ、仮にも俺は貴方の生徒ですよ?姫子にすら言わずに来ましたし」

 

 

帰還して早々……大輝はギルド応接室でメアリーさんを筆頭にギルドの職員達に囲まれていた

 

きっかけは……あの迷宮から産出した『十個のカーバンクルガーネット』と『手の目に関する大輝のレポート』だ

 

大輝はあの迷宮が『まさかまさかの自衛隊の調査ミスで漏れたシークレットダンジョン』ではないか?という親切心と真っ当な冒険者としての矜持から見つけた『手の目の本当の特性など』や『カーバンクルの出現する隠し部屋などのデータ』についての資料をギルドに提出した

 

その結果がこれである

 

あの迷宮からこれだけの数のカーバンクルガーネットを持ち出し、あまつさえあの量の金銀財宝を(攻略せずに)出したという事は?

 

ギルドの職員達は全てこれが『必ず秘匿しなくてはならない情報』だと知っているので(心苦しいが)大輝に『誰かに喋ってはいないか?』と根掘り葉掘り聞かなくてはならない(前の所持禁止魔道具の件ぐらいには……少なくとも大輝は『あの迷宮に推薦された存在』ではあるがそれでも形式的に必要なのである)

 

『リンク』や『シークレットダンジョン』に纏わる情報は基本的に極秘扱いであるが……むしろ本題は『手の目についてのレポート』である

 

そのカバーストーリー上基本的に手の目は『役に立たないカード』の一つ扱いだが(実際はともかくとして)……今までの記録でもここまで優秀な個体は他に例が無い(自衛隊やギルド、研究機関には大概通常個体ばかり卸されている……基本的に手の目そのものの数が少ないから特殊個体なぞほとんど無いのだ)

 

こういう『非常に特殊かつ貴重なカードのデータ提出』は有り難い話なのだ(無論、それを売ってくれるのが一番ありがたい話だが)

 

その手の目に関する証言はしっかり録音(むしろビデオ撮影)された後にギルドや自衛隊の(後に幾らか流出して海外などの)研究機関に提出され……たが、大輝の夏休み終了数日前で『それだけでは足りない』とその研究機関(ギルド、自衛隊、ダンジョンマート等々の連名による)から呼び出し(兼依頼)を受けて夏休みの残りはほとんどその実験などに消費される事となったがそれは余談である(二つ星昇格試験でのどたばたの顛末もあったのが一番の理由でもあるが)

 

 

そんなこんなかつなんやかんやで大輝は金銀財宝と要らない魔道具を換金してそれなりの資金を獲得する事に成功した

 

これによる売り上げはだいたい『四百万円』……先のカーバンクルガーネットとの組み合わせ次第では良いDランクカードや安めのCランクカードを入手できるだろう。ウィンチェスターハウスもまた捨てがたいが

 

大輝の場合は……先ずは欲しいと思っていた『ストーンゴーレムのクラスチェンジ先』である『塗り壁』を求める事にした

 

『塗り壁』とは……九州北部(主に福岡県)を中心に出没する妖怪系Dランクカードの一種だ。主に狸や鼬が化けた姿とも岩の妖怪ともされている(それぞれ全く別の妖怪として扱われているが……今回は『岩の妖怪』としての方について語らせて頂こう)

 

かの有名な『妖怪神の妖怪漫画』については……日本で暮らす者なら一度はアニメか何かで見た事があるだろうか?あのアニメに登場する巨大な蒟蒻に手足の生えた様なあの厳つくも愛嬌のある妖怪の姿を思い出して頂ければそれで合っている

 

この『岩の方』はいわゆる『レアタイプ』であり、大概はアメリカのとある大学に収蔵されている妖怪絵巻にある『三つ目の獅子だか犬だか解らない怪物』みたいな姿が普通である(このタイプは獣系に分類され、主に幻術を扱うトリッキーな運用に適している)

 

大輝が求める方は幻術みたいな器用な事は出来ないし適性もないが……非常に頑丈かつ力持ちであり、しかも確実に『低級収納』を持っている。足も見かけによらず以外と(少なくともオークよりは)素早く、発話は苦手だが頭も悪くない……建築関係ならば以外に器用でもある

 

基本的に『気は優しくて力持ち』を地でゆく気性の持ち主なので素人でも(無体さえしなければ)扱い易い優良かつ優秀なカードである

 

嘗て大輝と姫子が絶体絶命の危機に瀕したあのアンゴルモアで……初めて父が見せてくれた父のカードの召喚された勇姿に大輝は惹かれた

 

 

『何時か自分だけの塗り壁が欲しい』

 

 

『姫子や家族友人達とアンゴルモアでも生き残って幸せになる』という大目的の中の小目的の比較的優先順位の低い目標(出来れば程度で良い、という程度)だが……もしかしたら、今ならその小さな小さな目的が叶うかも知れない

 

磨きあげたストーンゴーレムの『巌(いわお)』をアイアンゴーレムやブロンズスタチューといった妥当なクラスチェンジをさせずにいたのは……やはりまだ塗り壁を諦められないからだ

 

ストーンゴーレムを塗り壁にすれば進化ルートは確実に『無機物』から『妖怪』に変わるだろうし

 

さて……そういった小さな願望を胸に大輝がメアリーさんに聞いてようとした

 

そうしたら

 

 

「大輝ちゃん、ちょっと真面目な話があるから一時間後にあの迷宮に戻れるかしら?」

 

 

そう、真剣な表情でメアリーさんが言ってきた

 

流石に『師匠』からそう真面目に言われたらちゃんと応えねばなるまい。その一時間はメアリーさんの厚意で出された仕出し弁当(このビルテナントの商品)を食べて(大輝も会員登録している)ジムのシャワー室でさっと汗を流したら一時間経過していた

 

「悪いわね大輝ちゃん。少し師匠として貴方の『素養』を見せて貰いたいのよ」

 

そんな事を言いながら現れたメアリーさんは……今の大輝と同じ様な冒険者装束に身を包んでいた

 

 

それから……今だけは大輝専用のあの迷宮の出入り口にある安全地帯エリアで大輝とメアリーさんは向き合っていた

 

メアリーさんは腰に取り付けた『大輝のものと同じ様なカードホルダー』から数十枚そこらのカード……ほぼ全てDランクの人気、不人気、女の子等々が入り乱れる中に何枚かCランクも混じった一財産を取り出して大輝に手渡す

 

 

「大輝ちゃん……貴方も『入門』に成功したからには先ずは『これ』を試してみましょう」

 

 

『リンク』という能力には『属性』というものが存在している。善悪みたいな倫理観や秩序混沌みたいな社会性、その所属する国家や神話体系に天使や悪魔、妖怪や精霊、竜や獣にアンデット他沢山の要素があり、その中から『冒険者との相性』を見つけられる

 

例えば……ある冒険者は『女の子』が属性ならばその『女の子』であるカードとのリンクには補正や補助が付く

 

逆に、『女の子属性』が苦手な冒険者がその『女の子カード』とリンクしようとすれば『相性不一致』でリンクは上手くいかず下手をすれば一発で『不信系マイナススキル』を得てしまう可能性だってある……其処まで相性が悪いケースは逆にかなり貴重ではあるが

 

『リンク』に目覚めたてならば自らの『適性』が解る方法が一つある……基本的に必要なものが沢山あるが、それは貸与だろうと構わないだろう

 

さっきメアリーさんが一見無造作に渡してきたあの沢山のカードがそれだ

 

 

大輝が持っていないライラプス、黄泉軍、河童といった不人気カードや、シルキー、エンプーサ、鬼人などの人気女の子カード、ドラゴネット、バイコーン、一反木綿に欲しかった塗り壁といった実力派人気カードが色々バラけて入っている

 

Cランクカードは三種あり、それぞれ『筋骨隆々の鬼』、『片目片脚片翼のマガモに似た鳥』……それと、その、何だ『八岐大蛇……の卑猥なパロディ』みたいなふざけたカードだった

 

それぞれ『オーガ』、『比翼の鳥/雌』、それと『やまらのおろち』だ

 

メアリーさんが使用していない余りのカードらしい

 

気に入れば『比翼の鳥』以外はどちらもCランク最低価格の一千万円ポッキリなのでメアリーさんも実験後にそれぞれ超特価で売ってくれるそうだ(比翼の鳥は何気に高価なカードである為それを買うのは現実的ではない為である)

 

他のDランクカードでも魔石、カーバンクルガーネット支払いで非常に安く売ってくれるらしい(このサービスは『正直に色々な事を報告してくれた大輝へのメアリーさんからの個人的なご褒美』であり、今回限りの特例である……普通ならギルド職員としてこういう行動は厳に慎むが今回だけは特別だ)

 

レートもまず普通ではあり得ない超特価ときた

 

 

そして……これから大輝が何をやるのかと言うと

 

先ずは愛用のサバイバルナイフで左親指を傷付ける……そしてメアリーさんから借りたカードにその傷口から出た血を一滴づつかけてカード達と『契約』を結んだ上で

 

 

「すまないな手の目、もう少し頑張ってくれ」

 

「……まぁ、任せて下さいな旦那」

 

 

手の目を喚んで憑依して貰う……そして(掌の)目についたカード達を一枚一枚召喚して簡単なコミュニケーションを取る

 

これは(リンクを知る者だけに伝わる)『札見ノ式』というリンク能力に目覚めたての者に行うテストにして実験だ

 

この目覚めたての状態で沢山のカードを召喚、使役することでそのカードを見て感じる事で己の属性を知る事が出来る

 

 

大輝の場合……まず特筆すべき点として『女の子カードとは絶望的に相性が悪い』という事が判明した

 

 

召喚してもあまり良い感じが……さっぱりしないし手の目の力を借りても『リンクの糸』すらさっぱり見えないし女の子カード達も何やら気分が悪くなるとの事だった

 

その召喚したカード達にはお詫び代わりの魔石を幾らか与えて帰って貰ったからかどうにかマイナススキルは付かなかったが……流石のメアリーさんもこんな珍事は非常に珍しいと驚いていた

 

一方で相性の割と良い『女』のカードもあるにはある……が、それは『山姥』だの『奪衣婆』だの『ハッグ』みたいな老婆カードばかりだった

 

逆に相性の良いカードは『妖怪』、『鬼』、『狗(犬も狼も含む)』、そして幾らか落ちるが『妖精』と『老人(老婆含む)』の系統だという事もこの一時間以上かかった実験で判明した

 

休みに入ったばかりなのに力を貸して貰った手の目には褒美代わりにビルのテナントで大量に買っておいた握り飯とメアリーさんが出してくれた日本酒を出してから……全ての借りたカードの契約を解除してメアリーさんに返却する

 

そして……今日一番のメインイベントである『買い取り交渉』の始まりだ。持っているカーバンクルガーネットは十個全てと魔石がなんだかんだで四百五十万円分はあるから良い買い物が出来るだろう

 

……後々、この『珍しい体質』の検証などに協力する義務もまたあるが

 

 

「このライラプスと一反木綿と塗り壁、それと奪衣婆が欲しいかな?それと……用心の為に『アレ』も」

 

「それならこれだけで、ライラプスはおまけしてあげるわ」

 

「それと……従順持ちのオークと罠解除持ちホブゴブリン、後はケットシーとオーガ下さい」

 

「それならこのくらいかしら、そのオーガは瑕疵カードだからかなりまけといてあげるわよ?」

 

「比翼の鳥は……無理だな、相性そのものは最高だったけど」

 

「最低価格五千万だしね。あれはむしろ私が『雄』の方探しているからねぇ……むしろ私が売って欲しいぐらいね」

 

 

そんなこんなでの会話の後……大輝はぽつりと

 

「ねぇ、メアリーさん……」

 

大輝が何を言いたいのかはメアリーも分かっている。冒険者界隈で『女の子カードが使えない』というのは実はかなり深刻なハンディキャップである

 

不人気カードなどにしか縁の無いエンジョイ勢などなら特に深刻な問題ではない。しかし……これが大輝の様なガチ勢ならば話は違う

 

女の子カードは確かにDランク辺りではその性能の割には高い代物ばかりだが……その中でも強い、優秀なカードはちゃんとある

 

Cランクともなれば優秀なカードも更に増えるし……何より女の子カードは回復魔法を得意としているカードが沢山存在するし何よりカードの大半は男か女(稀に無性)だ

 

 

要は……大輝は結構な数のカード使用を禁じられた様な状態だという事だ

 

 

一応は『老婆系統』ならば女のカードでも使用は可能だし……自分の属性と絡めれば相性の良いカードだってあるのは救いだが

 

流石に歳若い少年に『これ』は流石に無いだろうに……

 

と思いつつ大輝に慰めの言葉を……

 

 

「女の子系統以外で何か優秀な回復魔法持ちって何か居たかな?確かユニコーン以外にはカラドリウスとかいう鳥カードがDには有った筈だけど……」

 

 

全く堪えてははいなかった

 

大輝にとって女の子カードは『戦力(若しくは『戦友』)』以外の何物でもない。前々から(無自覚ではあったが)女の子カードにそういう興味は薄かった

 

今では僅かにはあった筈のそういう興味すら失っている有り様だ

 

まぁ……その理由を挙げるのは野暮天も良いところだろう

 

 

ともあれ。佐藤大輝は最後に残った換金素材でヒッポグリフとカラドリウスを購入して今回の大チャンスをものにした

 

 

リザルト

 

Cランクカード

・オーガ(瑕疵あり、オーク二号強化後のクラスチェンジ素材)

・やまらのおろち(通常品質、一応の切り札として)

 

Dランクカード

・一反木綿(空戦用かつ装備化能力持ち)

・塗り壁(ストーンゴーレムのクラスチェンジ先)

・奪衣婆(追加戦力)

・ケットシー(ある程度強化後に……)

・カラドリウス(キキーモラとのローテーション用)

・ヒッポグリフ(空戦用かつ騎乗用)

(全て通常品質)

 

・ライラプス(追加戦力)

・オーク(二号、従順持ち、追加戦力)

・ホブゴブリン(罠解除持ち、ブラウニーとのローテーション用、盗賊ビルド型)

・ジャック・オー・ランタン(瑕疵カード、復活用)

(これらはおまけ、やはり基本的に通常品質)

 

カーバンクルガーネットは残り二つ、魔石は殆ど使い果たしたがとても良い買い物が出来た

 

そんなこんなで沢山の戦力を獲得に成功し、その日は帰って家族に新しいカードを見せようと思う。そして明日を楽しもうと思う

 

 

……残念ながら両親は急な出張が入って数日は帰らないらしい

 

出鼻を挫かれたけどまぁ電話で近況報告は出来るしメアリーさんのご厚意をちゃんと伝える事が出来たからよし。である

 

 

【Tips】カードの属性

 カードの種族にはそれぞれ属性が存在する。

 属性はスキルの対象先となるだけではなく、それ自体がステータスに影響している。

 そのため、同じ戦闘力であっても属性が多い方がステータスや状態異常耐性などが高くなる傾向にあるが、同時に属性を対象としたスキルに対する弱点を抱えることにもなる。

 またマスターによって、相性の良いカードの属性というモノも存在する。

 

(※:公式より百均様の許可を頂いて掲載)

 

 

【Tips】札見ノ式

最低限でも『リンク』を理解したばかりのリンク初心者マスターに推奨される行為

 

そのマスターの師匠(若しくはパトロン)などがそのマスターに取り行う

 

沢山の……なるべくバラバラな属性のカードをそのマスターに契約させてその使い心地を試させる事でそのマスターが保有している属性を推し量る

 

これによって『そのマスターと相性の良いカードの傾向』が解る様になり、デッキをその傾向で編成する(そしてリンク能力を高め易くする)のが目的

 

この『札見ノ式』は基本的に『その傾向がある程度推測できるだけ』なので他にもまだ見ぬ可能性が眠っている事は忘れてはいけない

 

 

【Tips】不適合属性

 

今作品オリジナル設定。リンク属性には極めて稀に『その属性とは致命的に相性が悪いマスター』が存在する

 

基本的に敬遠な十字教徒なら悪魔、メガテニストなら天使、若しくは恐怖症とその対象みたいにその属性を蛇蝎の如く嫌っていても普通なら多少相性の悪い食わず嫌いも同然の状態なのだが(現に原作でもダンジョンヘイトの連続殺人鬼がリンク能力を使い熟せて凶行を繰り返しているのが何よりの証拠である)

 

しかし……極めて稀にそういう好悪一切関係なくその対象とのリンクどころか召喚にすら悪影響を齎すマスターが存在する

 

『佐藤大輝』も極めて希少な『属性不適合』持ちの……それも特に厳しく珍しい『女の子』に対する『属性不適合』である(普通ならば『天使』だの『妖精』だの『アンデット』みたいな種族系統だけであるのが普通なのだが)

 

ちなみに……現在『女の子』に対する属性不適合持ちは佐藤大輝ただ一人だけだが『男性』に対する属性不適合者は一人だけ確認されている(ある意味大輝より酷い制限である)

 

この『属性不適合者』という存在にはその制限の対価として何らかの『冒険者としての強み』が必ず存在する……らしい(大輝ならばあの冗談みたいな豪運だろうか?)

 

そしてこの『属性不適合』だが……人に拠っては『その対象の召喚、契約すら不可能になる』事すらあるらしい(更に実例の少ない未確認情報だが)

 

 

【Tips】予備戦力

 

ガチ勢のカード達だって常に戦いっぱなしでは身体や心が持たない。だからちゃんとしたマスターはカード達にもある程度ちゃんとした休息を与えたり……万が一にも主力が全滅した際に備えて『予備戦力』を作る

 

ちゃんとしたガチ勢ならばこれは『一般常識』としてそれなり以上に稼げる様になれば行う不文律として扱われている話題だ



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掲示板回アラカルトその1

今回は少し短いけどちょっとした悪戯込みです


 

【欠陥住宅?】Dランク以下の空間型カードについて語るスレ005【いいえ仕様です】

 

プアでも(比較的)入手しやすいDランクかそれ以下の空間型カードについて語りましょう。冒険者ライフにも対アンゴルモアにも空間型は欲しい

 

19:名無しの冒険者

とは言え最近見つかったあの『足洗屋敷』ってどうよ?まだ情報が廻ってこないんだけど?

 

20:名無しの冒険者

Dランクでお屋敷系……普通に出回るうちなら一番マシなウィンチェスターハウスだってアレだしな

 

ヘドンホールハウス?市場にそうそう出回る様な代物じゃないだろアレは

 

21:名無しの冒険者

ウィンチェスターハウスは飯も微妙だけど自炊よかよっぽどマシなレベル……いやそこら辺のメシ屋よりちょい下程度なんだよな……

 

22:名無しの冒険者

飯はともかく俺はあの仕様が嫌なんだよ……昔アンゴルモアで入る機会あったけどビビリには辛い

 

23:名無しの冒険者

てか本所七不思議の足洗屋敷とか絶対ろくでもない代物だろ?

 

24:名無しの冒険者

多分……あの悪名高いアルカトラズとか以下だろうよマジで

 

25:名無しの冒険者

俺もアンゴルモアの時にアルカトラズに入ったけど……うん、マジであれは無いわ

 

26:名無しの冒険者

俺もあれ体験したから冒険者になって何とかウィンチェスターハウス入手出来たけど……評判悪いあれでも比べたら真面目に『天国だ』って思えたわ

 

27:名無しの冒険者

ぶっちゃけ独房だしなあれ……しかも便所も丸出しの

 

28:名無しの冒険者

しかも鍵は外からしか掛けられないんだぜアレ

 

29:名無しの冒険者

飯は不味いしシャワー室も看守長かマスター許可が無いと使えないし水の使用制限もかなり厳しいわでかなりキツかったわ……確か現実のアルカトラズも水は外から運ばないといけなかったか?トイレの水も看守の許可が無いと流せないしあれ

 

30:名無しの冒険者

ついでに起床消灯時間が非常に厳しいしな……マスターと『所長室』に入れる者以外には

 

31:名無しの冒険者

ついでに官房から出る事さえ看守の許可が必要だわでひたすら不自由だしな

 

おまけにシャワーも悪名高い『滝壺』だしな……痛いんだよアレ

 

32:名無しの冒険者

でもマスター専用の『所長室』はウィンチェスターハウスよりは上……心霊現象が無いだけで設備はどっこいどっこいだったぜ。こないだようやくゲット出来たぜ……所長室には専門シャワーとトイレだってあるしな

 

33:名無しの冒険者

マスター的には結構頼れるんだよなアレ。基本的に空間型のなかじゃかなり戦闘向けだし

 

34:名無しの冒険者

アンゴルモア時でもピーチクパーチク不平不満を喚くクソ避難民どもを黙らせるには最適だったぜ……あれさえあればクソ面倒な冒険者としての義務は果たせるしな、最低限でも

 

35:名無しの冒険者

不平不満を喚く糞オキャクサマは皆アンゴルモアの中に放り出した方が良い……それでも放り出すよりかは絶対に人道的だからアルカトラズは(マスター的には)良いカードだよマジで

 

36:名無しの冒険者

でも個人的にはチセコロカムイが欲しい……パーソナルスペースに他人入れるの嫌なんよ

 

37:名無しの冒険者

何それ?

 

38:名無しの冒険者

アイヌ神話系統のDランク空間系カード。一家族暮らせる程度の狭い空間だけどDランク圏内飯限定なら飯が最高に美味い

 

39:名無しの冒険者

俺持ってるけどやっぱり鮭のチタタプとルイベ最高なんだよね……アルカトラズ飯はありゃ飯って言うより『餌』って感じで……うん

 

40:名無しの冒険者

あれはマスターすら例外じゃないからきつい。まともな飯が食いたければ調理場か所長室備え付け簡易キッチンで自炊しか無いからな

 

41:名無しの冒険者

まぁ……ちゃんとした場所が欲しいならCランクからなんだけどね

 

42:名無しの冒険者

お父っつぁん、それは言わない約束だよ

 

43:名無しの冒険者

チセコロカムイだってまぁ……木製茅葺きだから基本的な居住性はお察しだしな。それでもアルカトラズに比べれば天国だけど

 

44:名無しの冒険者

でも極上のジビエ食べ放題は魅力的だよな……やり過ぎると飽きるけど

 

45:名無しの冒険者

あの囲炉裏でカネモチ焼くの好きなんだよな俺

 

46:名無しの冒険者

おっ、あの漫画か?

 

(以下、某北海道闇鍋和風ウェスタンストーリー漫画の……何故か変態話に脱線)

 

 

 

【装備しなけりゃ】装備アイテムについて語るスレ019【意味がない】

 

装備アイテムの普及と認知促進、それと情報交換の場です

 

173:名無しのコレクター

最近、無銘の名刀手に入れたよ……でもこれサーベルじゃね?

つ(軍刀の写真)

 

174:名無しのコレクター

それサーベル……軍刀サーベル仕様だから一応は『刀』にカテゴリされてるけどな

 

175:名無しのコレクター

紛らわしいけどサーベル仕様でも良いもの手に入れましたねー、それなら剣術でも刀術でも使用可能だから大事になさって下さい

 

176:名無しのコレクター

凡庸の大金槌ってもの拾ったけど……弱いし使えるカードいないしでその場に捨ててきたわ

 

177:名無しのコレクター

おいおい、カード化は試してみたか?凡庸シリーズは性能クソ雑魚だけど半々の確率でカード化最初から付いているぞ?

 

178:名無しのコレクター

マジか?

 

179:名無しのコレクター

カード化付いてても所詮は凡庸シリーズだから気を落とすなよ

 

180:名無しのコレクター

ありがと

 

181:名無しのコレクター

魔導書手に入れたけど……うん、貴重な魔導書手に入れたたけど

 

182:名無しのコレクター

72が有ったし?

 

183:名無しのコレクター

いやな、漏れが持ってる魔法系ってジャックだけなのに『初等攻撃魔法/火炎のみ』だったんだよ……てか765の歌姫ディスってんじゃねーよ182

 

184:名無しのコレクター

メンゴ(テヘペロ)

 

185:名無しのコレクター

割り込んですまないがこいつを見てくれ。これをどう思う?

(何やら旧い造りの太刀)

 

186:名無しのコレクター

凄く……強そうな太刀です

 

187:名無しのコレクター

おい……まさかこれ大明連か?あの三明の剣の?

 

188:185

>>187 お、良く解ったな……正解

 

189:名無しのコレクター

おいおい185、自慢かよ?

 

190:185

いやいや、誰か残りニ振りの所在知らないかな?と思ってな。神通力欲しいしさ

 

191:名無しのコレクター

おいおい185、大明連はあの三振りの中じゃ一番ありふれたものだぞ。大明連でCランク判定、小明連でBランク判定、顕明連Aランク判定の貴重品やぞ?

 

192:名無しのコレクター

しかも顕明連って日本じゃ今までに一振りしか発見されてない超絶貴重品らしいぜ

 

193:185

……マジか?皆ありがとう。このまま知らなかったらマジ恥かいてただろうから助かったよ

 

194:名無しのコレクター

ええんやで

 

 

(以下暫く『ええんやで』が続く)

 

 

213:名無しのコレクター

そんじゃこれからコレクション自慢と逝こうか?

 

214:名無しのコレクター

んじゃ俺の『俊敏の銅剣』を

 

215:名無しのコレクター

ならば俺の『ミノタウロスの戦斧』だ

 

216:名無しのコレクター

どっちもDランクじゃねーかよ

 

217:名無しのコレクター

んじゃ俺の魔導書、中等回復魔法が出来るぜ

 

218:名無しのコレクター

なら俺のカードホルダーだっ

 

219:名無しのコレクター

それは羨ましい。マジで羨ましい……

 

220:名無しのコレクター

凡庸の杖……だけど実は仕込み杖

(いわゆる仕込み長ドス型仕込み杖の画像)

 

221:名無しのコレクター

また変なものが出てきたな……確かに珍品だけど

 

222:220

ワゴンセールで見つけて、良い手の目と逢った記念に買った……けど直ぐ折れた

 

223:名無しのコレクター

実際仕込み杖ってあんまり使えないしな、しかも所詮は凡庸シリーズだから仕方ない……てか手の目とはまた奇妙なカードを

 

224:220

>>223 ありがと。でもあの手の目は最高だぜ

 

225:名無しのコレクター

按摩の達人か鑑定能力持ちか……スレチだけど良い手の目に逢えた様ですね

 

226:名無しのコレクター

>>220 とりあえず珍しいカード用鎧だぞ、これ見て元気出せよ

(ロリカ・セグメンタタ仕様の胴鎧の画像)

 

227:名無しのコレクター

こいつは珍しい……大概の鎧と言えばリビングアーマーが普通なのに。こんな珍品もあったんだな(感慨)

 

228:名無しのコレクター

一応、日本式の大鎧とか鎖帷子なら何度か見た事あるけど……マニアックだなぁ

 

229:220

>>225、226 ありがとう。でも代わりに良いアイテム手に入れたよ

(さっきのと同じ『俊敏の銅剣』の画像と『氷結魔法の魔導書』の画像)

……カード化で結構金トんだけど

 

230:名無しのコレクター

心配して損した……けどおめでとう

 

231:名無しのコレクター

妬ましいな畜生……でもおめでとう

 

232:名無しのコレクター

妬ましい……その運分けて

 

 

(以下、220への妬みと祝福が続く)

 

 



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第十七話 冒険者の醍醐味はデッキ編成とコレクション閲覧に有り

※:百均様の公式【Tips】を転載使用しました(承認済み)
※:土ノ子様のモンスター設定をお借りしています(承認済み)

今回初登場キャラが何のコスプレをしているか?そのカード達の元ネタが何かわかった人は筆者と同じウサミン世代です。わかるかな?

久しぶりにアンケートやります


 

『さぁ今回のメインマッチ、選手たちの入場です』

 

とある高級住宅地に建つ築七年最新鋭最高峰仕様、アンゴルモア対策もバッチリな佐藤家の(日本一般家屋としては)かなり広いリビングルームのやはりかなりの大型テレビ(少なくとも奨学カード一枚分程度の値段)からは古代ローマのコロッセオを模した造りの建造物で二人の男が対峙している姿が写し出されていた

 

これは『モンスターコロシアム(略してモンコロ)』というこの冒険者時代を象徴する競技……いやショーだ

 

ある特殊な迷宮(Cランクモンスター一体だけがボスとして現れるだけの特殊なEランク迷宮)の再利用の為に考案されたショーとも賭博とも言える代物で。今の『冒険者ブーム』を支える屋台骨でもある

 

ショーと一言では言ってもやる事はモンスターとモンスターの殺し合い(レギュレーションに拠っては違うが)であり、正しく現代に蘇った剣闘士興行だ

 

幾つかの相違点として……命を賭けるのは剣闘士たるマスターではなくカード達であり、マスターは経済的損失を賭して闘う(実際にはスポンサーから供給されるカードだが)

 

ともあれ、今時の剣闘士は嘗ての剣闘士の様な奴隷(だけでなく一応は『市民権持ちの剣闘士』も存在するが割愛)ではなくむしろ『人気スポーツのアスリート』みたいなものである(奴隷はカードの方だとこの競技に否定的な者は言うが)

 

この競技に参加出来るのは少なくとも三つ星冒険者から、という大変狭い門を潜れるだけの力量(若しくは金銭……だけではまず決して成功は無いだろう)が必要になる

 

今回の選手もその狭い門を潜ってこの場に立てるエリート冒険者にして剣闘士……いや、デュエリストである

 

片やまぁ顔は良い範囲だが軽薄さと傲慢さが鼻につく気障っぷりが印象的な若い男……見た目の良いカードでデッキ編成しているとか何とか言われてはいるが大輝とその身内知己一同的には印象の悪い選手が何かカッコイイはカッコイイとは言えるがどこか印象に薄いBGMと一緒に気取ったポーズで現れる

 

もう一人の選手は……大輝もその身内一同も好きな選手であり人気の実力派(イロモノ)選手だ

 

長閑で良い曲だが決して戦場にはそぐわない『はとぽっぽ(北京語バージョン)』をBGMに現れたその男はかなり奇抜な出立ちであった

 

赤ら顔に泥鰌髭で弁髪な……言うなれば『似非中国人』みたいな風態をした中年のおっさん(に見えるメイク、鬘、つけ髭)が青地に白抜きの八卦模様をあしらった道袍(霊幻道士の装束)姿で背中には太極剣を模した木剣(桃の木製)、首から白い頭陀袋を掛けてその頭陀袋から黄色い御札……状に切った紙片を撒き散らしながらもう片方の手で大きなハンドベルにも似た鈴を鳴らしながら悠然とゲートから現れる光景がテレビに写し出される

 

この男こそモンコロ有数の実力派兼イロモノ選手『金長選手』、またの名を『金長道士』である

 

道士装束のこの男、その身なり通りに殭屍(キョンシー)使いにして中華系カードの達人として有名な四つ星冒険者かつ中華系カード(特に殭屍系統)とキョンシー映画を推すダンジョンチューバーにしてダンジョンマート所属の凄腕冒険者でもある

 

ダンジョンチューバーというのは動画投稿サイト『My Tube』に迷宮内部の事柄を投稿する事を専門とする投稿者の総称であり、一般人が迷宮の内部を知るきっかけかつ娯楽として大人気なコンテンツだが大概の動画は美化に美化を重ねて脚色した内容ばかりなので話半分に見聞きした方が良いだろう(その美化を真に受けて現実に心をへし折られたルーキーなぞ毎年必ず現れるが)。彼の動画は逆に非常に泥臭い『現実』にも(非常にコメディタッチだが)対応しているので『真面目な冒険者』を目指すなら必見必聴扱いされている(ダンジョンチューバーは真面目な冒険者からは嫌われやすいが、彼はかなり貴重な例外としても有名だ)

 

彼の動画は常に過剰な中華系推しさえ目を瞑れば常に丁寧に色々(特に新人には)必要な情報をくれる良動画として人気である

 

流石にREIKA(レイカ)というこの界隈トップである四つ星冒険者兼アイドル程ではないが人気ダンジョンチューバーであり大輝達みたいな真面目な冒険者の一部からはある意味REIKA以上に支持されている存在でもある(大輝やその周囲の場合は縁故もあるが)。要は『玄人人気』という奴だ

 

この金長という男……実は大輝の父直属の部下でありメアリーさんの一番弟子でもある大輝や姫子にとっての兄弟子とも言える存在だ

 

尤も、彼は職務であるダンジョンマート所有のCランクプライベートダンジョン管理(攻略)と四つ星冒険者の義務である国家からの指定Cランク迷宮攻略の為に大輝の両親もその直上の上司たる姫子の両親にも月に数回顔を合わせられるかどうかだが

 

大輝や姫子、他の門弟一同からも好かれている陽気で気の良い兄ちゃんというのが『メアリー塾一門』一同からの彼への評価だ

 

 

閑話休題(それはさておき)

 

 

今回の『デスマッチ(十枚登録したデッキ全てを使い、一度には三体だけ出せて片方が全てロストするまで行うモンコロでも一番キツいタイプの試合ルール。一応ギブアップはあるが……)』だが……

 

大輝の見立て通りに金長さんがあっさりと……チャラ男の最後のカードであるCランク天使を最初から出ずっぱりなキョンシー達(『自爆持ち』で有名な太った少年型、太ったおっさん型、何か凶悪な造形の髭面)が元気に踊り喰いしている光景が(それを見て絶望して真っ白になっているチャラ男と一緒に。BGMは咀嚼音とその貪り喰われる天使の悲鳴と血飛沫に観客の歓声、チャラ男の絶望の嘆きで)テレビに写されていた

 

悪趣味な見せ物だがモンコロでは日常の光景だ(天使は某ゲームの影響で一部からは蛇蝎の様に忌み嫌われている事もあるだろうが)。時には金長さんのキョンシーが殺られる顛末だって普通にあるし

 

しかも……恐らくだがこれは『制裁試合』だろう

 

あのチャラ男は色々と評判が悪く、裏では様々な女性を……とか色々悪い噂があったが、恐らくそれが事実だったのだろう

 

その証拠にこの試合は『選手の完全自己負担ルール』と最初から言っていた(普通ならスポンサーがある程度立て替えてくれたりカードを支給してくれたりするのが普通である)

 

見てくれとコスプレ元が『頓馬な三枚目』である金長さんを舐めてかかった……その結果がこれだ

 

それで『モンコロの裏』を多少なりとも知る者は『あっ』と察するだろう(あのチャラ男もギブアップしなかった……いや、出来なかった理由がそれだろう)

 

そんなわかりきった結末(チャラ男のカードが割れる音、崩れ落ちる音、絶望の叫びにファンファーレと金長さんを讃える解説と大歓声)を尻目に大輝は一人一枚板のテーブルに並べた大輝のカード達を眺めている

 

そのカード達は今の大輝の主力達であるボアオークや送り狼、ジャック・オー・ランタンやクラスチェンジに成功した元ストーンゴーレム現塗り壁や新戦力のキキーモラに新たに得たカード達

 

その中で大輝が見ていたのは五枚のフェアリー達と二十数枚のEランクカード達だ

 

その中にあるグレムリン、インプ、スプライトといった妖精や小悪魔系統のフェアリー達のクラスチェンジに使える……勿論、全て男なカード達である

 

フェアリー達は基本的に男と女の確率は半々……それでもやはり全て男な辺り大輝の特性が出ているのだろう。無意識にすら女の子カードを避けているらしい(五枚とも男カードなので比較的安く売られていたから『とりあえずの繋ぎ』として買っただけだが)

 

少なくとも三体はスプライトとして育てるのは確定している。スプライトには昔……あの第二次アンゴルモアで世話になったものだ

 

スプライトは『姿隠しの妖精』、あの時は必死になってこの妖精の能力を活用して命懸けのかくれんぼを姫子とやっていた……ゆっくりゆっくりまるで缶蹴りの様にスプライトの力でモンスターだらけの地獄絵図から安全圏を目指していた

 

……最後の最後で失敗してそのスプライトを囮に逃げたり姫子を庇って大怪我したり(運良く再帰可能かつミドルポーション1瓶で完治する範囲だったけど)と色々あったものだ

 

ちなみにこのスプライトという妖精は……風の妖精(シルフ)とも水の妖精(ウンディーネ)とも、はたまた亡霊とも言われる少々起源が曖昧な妖精の一種だ

 

カードとして言うならば。このカードは先天技能にある『かくれんぼ』にこそ真価がある代物だ

 

『かくれんぼ』というのは…… 姿と気配を隠すことができる。透明化、気配遮断を内包するという身隠しに特化したスキルであり、大輝が両親から渡されていたものは大人一人分(幼い子供なら二人分)ぐらいは一緒に巻き込める特別な一枚だった(下手な奨学カードよりもお高いかも知れない)

 

気配を遮断するだけならポルターガイストという同じEランクカードもあるが……気配遮断だけでは余りにも心ともなかったのでこの特別製スプライトを大輝のいざという時のお守りにしたというエピソードがある

 

 

尤も、そのスプライトは『女の子カード』であり……大輝の特性が最後に仇となってそのスプライトを失い大輝は大怪我という結末だった(むしろ『スプライトと大輝自身の努力でその程度で済んだ』だろうか?)

 

大輝はそのスプライト達を偵察目的で運用するつもりである……残り二枚のフェアリーをどうするか?という問題もあるが

 

そのスプライトだけでなく……大輝はEランクカード達の中でも十枚はあるとあるカードを見る

 

 

ウィル・オ・ウィスプ

 

 

鬼火や人魂という近類亜種を持つ精霊とも亡霊ともつかない曖昧極まりない不安定なモンスター(カード)である

 

普段はただふよふよ浮かんでいるだけだが敵(人間やカード)を見かけた時には一変して俊敏に突撃して来て更には自爆である

 

スプライトや先のポルターガイストと組んで敵に忍び寄り……其処から自爆は何気に恐ろしいEランクのモンスターコンボの一種として悪名高い

 

このモンスターを冒険者が起用するならやる事は一つだ

 

 

『自爆』である

 

 

基本的にそれ以外の攻撃手段なぞ体当たりしか無い上にその体当たりもワイルドウルフ辺りを相手にするのが精々という有り様である

 

一応、霊体の類いに分類されるが中心にある『核』に少しでもダメージを受ければ即座にロストしてしまう程に脆い(人間でも何らかの鈍器を使って全力で殴れば撃破出来るだろう)

 

基本的にこのモンスターの戦闘力は殆ど全て『自爆用のエネルギーと自爆時の推進力』だと思えば良い

 

ちなみにその自爆の威力だが……マイナーチェンジする直前の剣辺りでも非常に高い確率で一撃ロストするレベルだと言っておく(十一層の最も弱い状態ですら)

 

Cランクでもものに拠っては一撃ロストもあり得る非常に危険なモンスターがこのウィル・オ・ウィスプみたいな通称鬼火シリーズである

 

ちなみにこのウィル・オ・ウィスプや鬼火、人魂の区別は『色と自爆した際の属性』でわかる

 

黄色っぽく自爆すると電撃を撒き散らすのがウィル・オ・ウィスプ、普通に赤い炎で自爆すると爆発するのが鬼火、青色かつ冷たくて自爆すると液体窒素を撒き散らした様な有り様になるのが人魂だ

 

ちなみに鬼火と人魂には面白い使い道が存在する

 

鬼火はそのまま料理や暖房……要は竈代わりに。人魂は冷房であり飲み物を冷やす役に立つ

 

とあるダンジョンマート所属冒険者がこの人魂を使ってアイスクリーム(要はダンジョン飯の除霊ソルベみたいなもの)を作る動画を挙げて盛大にバズった事がある

 

特殊な処置をした瓶にアイスクリームの素材と人魂をいれて紐で括って振り回すだけで完成するお手軽アイスクリーム(正確にはソルベ)だ

 

ちなみにその人物こそ先の金長道士で、彼が一躍有名になったきっかけでもある

 

ついでにこの通称『人魂アイスクリーム』はダンジョンマートが商標登録した超人気商品であり今も色々なフレーバーが出ているダンジョンマートの主力でありやはり後に現れるダンジョンマート独占商品である『死ぬほどうめぇ棒』にも比肩する超人気商品だ(この『死ぬほどうめぇ棒』はとある座敷童使いの影響で評価されての話であり……今から一年と数ヶ月後の話ではあるが)

 

話が逸れたが、この鬼火達はマスターにリンク能力さえ有れば追尾ミサイルの様にも機能するが機雷の様な使い道も可能である(実際にはこの使い道が普通だが……特にリンク能力の無い冒険者にとっては)

 

まぁ……リンク能力の無いマスターでも『更に上位の鬼火系カード』さえ有れば擬似的にではあるが(その鬼火系カードにコントロールを頼む事で)追尾ミサイルの様に使うことが可能となる

 

大輝ならば名付けしたジャック・オー・ランタンの『燈(ともしび)』にやって貰えるだろう

 

しかし……何であろうと『カードを使い捨てる』という事には変わりないので無闇矢鱈とこの戦法を使い過ぎると他のカード達に愛想を尽かされる可能性がある事は努努忘れてはならない

 

大輝は次の……このギフテッドを通り越してバグとしか言い様の無い手の目を除けばある意味一番貴重で珍しいEランクカード、少なくとも日本で判明している限りEランク唯一の空間型である『燈無蕎麦』を見る

 

あれは……Eランクが出る層の外れの袋小路にぽつねんと佇んでいた

 

尤も、空間型モンスターなので気配を完全に遮断してはいたが手の目の『心眼』と『手目坊主』ならば簡単に解るしまた『心眼』の機能で空間型にもある程度のダメージを与えられるし何なら『出入り口の発見』も可能という事もわかった

 

尤も、それはこの燈無蕎麦が素の手の目並みに弱いモンスターだから討伐可能だっただけでこれがあの有名なウィンチェスターハウスやアルカトラズみたいなDランクだとかなり手間暇がかかっていた(あれらはとても広いから『核』を探すだけでも一苦労だろう)

 

ちなみに先に挙げた『アルカトラズ』とは……恐らく世界一有名な刑務所にして軍事施設であるアメリカのアルカトラズ島そのもの(日本版は刑務所施設だけ)である

 

このアルカトラズは異空間カードの中でも珍しい区分に入る『要塞型』であり異空間系の中では戦闘能力が高く防衛力にも定評がある

 

収容人数は(日本版なら)ウィンチェスターハウスと同じ程度、しかも戦闘能力にリソースを割いている事と元が刑務所である事もあって居住性はお察しだ(居住空間は『所長室』を除けば全て独房、殆どプライバシーは無い、トイレさえ丸見え、一応シャワー施設と体育館程度の運動場、食堂はあるがやはり其処もお察しだ)

 

『核』は『看守長』と呼ばれる如何にも悪徳看守でございといった風態の中年男とその配下である数人から数十人の『看守』という名のEランク相当の眷属達を引き連れている

 

『所長室』とは、このカードの主人である者とその人物に招かれた者と『看守長』だけが入れる場所……要はこのカードのマスター専用のプライベートルームである(この中だけでも家族数人ならば普通に生活可能、施設も少なくともウィンチェスターハウス並みには整っている)

 

ちなみにネイティブ版ならばCクラスの強カードでありその範囲は『島一つ分の軍事拠点兼監獄』だ

 

尤も……日本版もネイティブも基本的に食事に関しては非常に評判が悪い(ウィンチェスターハウス以下、と言われているぐらいだがこれでも『刑務所の飯としてならかなり上等な部類』ではあるのだが)

 

一方、大輝が入手出来た『燈無蕎麦』だが……居住性は前にも挙げた通りにかなり悪い(アルカトラズ以下と言っても過言ではないだろう)

 

何せ担ぎ屋台がぽつんとあるだけの薄暗くて狭い空間しか無いのだから……その性質上明かりは灯せないから厄介だ(大輝のキャンプセットも発動不可能なぐらいに狭い)

 

しかし……蕎麦のみしか無いがこれだけならばあの有名なCランクのマヨヒガすらも凌駕すると謳われてさえいる

 

まぁ……一応は空間型である事と蕎麦の美味さ以外には大した取り柄は無いが。今の大輝にとっては非常に有難いカードである

 

時に……空間型カードとカードホルダーが揃うとちょっとした『裏技』が使える様になる

 

前にカードホルダーについて言及した際に挙げた『デッキ編成』という言葉を皆様は覚えていらっしゃるだろうか?

 

これさえあればカード達は待機状態でもある程度のコミュニケーションが取れる。という隠し機能は案外知られてはいない

 

つまり……この『燈無蕎麦』があれば大輝のカード達はあの狭く薄暗い空間内ならば何時でも話し合う事も蕎麦を食う事も可能となる。または『低級収納』があるカード達に差し入れでも渡しておくなり何らかの箱をカード化しておけば多少はカード達への福利厚生が捗るのだ

 

勿論、それはマスターが空間型カードを使っていない……要はマスターが外界で日常生活を送る際の状況の話であり。そして残念ながら外界でカード達と会話する機能は無い(マスターがテレパスを修得していても、である)

 

後々……カードホルダーのこの機能を部分的にではあるが解明した結果でとある『奇跡の発明品』が誕生するがそれはまだ発表まで二年後の話である

 

さて、先ずはEランクの中からの『新しい戦力』と分類して良い……デッキ登録したり予定しているカード達はこんなものだろうか

 

次は……やはり主力となるDランクカード達と二枚の(意味は違えど)Cランク瑕疵カードの話だろう

 

先ずは塗り壁……ストーンゴーレムからのクラスチェンジ先に手に入れたカードだ

 

塗り壁には二種類あり、大概は鼬や狸が化けたものとされている(海外だと化け狸や狐、若しくは狢などは『シェイプシフター』や『ドッペルゲンガー』とも呼ばれているらしい)……が、こっちは日本の『道祖神』と習合した貴重な『国津神』に連なる『神格適性持ち塗り壁』だ(『零落した道祖神』という説もある)

 

能力的にはストーンゴーレムと同じく『タンク役』であり無機物の傷を(気休め程度には)癒す力や低級収納が使える、そして戦闘力は『準Cランク』と言って良い程強いパワーファイターでもある

 

ストーンゴーレムより機動力は有るが更に重い為に使い時は選ぶだろうが些細な欠点だ

 

『巌(いわお)』はあらゆる意味で強化されて洗練された。後は『慣らし』の後にEランク迷宮のボスを仕留めれば晴れて二つ星冒険者である

 

……尤も、ボスが『イレギュラー化』している気配、いや『予感』をビンビン感じるから厄介なのだが

 

その為……追加で『対イレギュラー戦力』だと言えるのはCランクの(瑕疵は決して無いがある意味では瑕疵だと言える)人前では決して出せないあの『ジャパニーズ・ヘンタイモンスター』のカードが切り札だろう

 

 

『八魔羅ノ大蛇(やまらのおろち)』

 

 

『百慕々語(ひゃくぼぼがたり)』なる古書(春画)に記載されている蛇頭が『魔羅(検索は自己責任で)』に置き換えられた零落に零落した八岐大蛇のパロディとされる下ネタ妖怪

 

そのゾンビ以下の最低最悪の外見のせいでCランク最安の超絶不人気カードだが実はかなり強い(特に『女』を相手にする際は)。ごく少数の覚悟完了した者やウケ狙い、若しくは更に一部の変態が使う事がある……勿論大輝は最初に挙げた『覚悟完了した者』である

 

一応は『零落した多頭蛇』なので多頭蛇や多頭竜ならば何にでもクラスチェンジが可能、蛇や竜の類いならほぼ全てのカードにマイナーチェンジが出来る……が、大概の蛇や竜系だとマイナーチェンジは逆に弱体化になるから要注意

 

基本的に性格的にはあまり癖は無いが非常に栗の花臭いのが更なる難点、こいつを扱う際は他の冒険者の視界には入れない(というか使わない)配慮は言うまでもない常識である

 

 

新規の即戦力はこんなものだろう。後はこれから育てる二軍枠達だ

 

・一反木綿

鹿児島の妖怪で柳田國男と現地の学者が共著による『大隅肝属郡方言集』に記されている。

 

一反というサイズの木綿みたい何かが空をひらひらと飛び、人の首や顔に巻き付き人を窒息死させたり人に巻き付いて攫うとされるが……かの『妖怪神』がこの妖怪を重用した結果として一反木綿は塗り壁と同じく一躍有数の人気妖怪へと躍進した(かの『妖怪神』の影響で『善属性』を獲得した上にあのアニメみたいな性格がデフォになっているぐらいだ……塗り壁と同じく)

 

カードとしての能力は飛行能力(かなり速い)にその飛行能力を与える装備化(羽衣の様に巻き付く)と騎乗能力(あのアニメの様に)を持っている。要は機動力特化タイプだが火炎と斬撃には非常に弱いが次に説明するヒッポグリフと違って音も無く飛べる上に気配遮断持ちなので偵察向きのカードとも言える

 

・ヒッポグリフ

グリフィンという獅子と鷲の合わさった幻獣と雌馬の間の仔であるこれまた幻獣の一種。馬はグリフィンにとっての『餌』である為普通は生まれる事の無い『有り得ない存在』を意味する

 

『狂えるオルランド』に登場し、シャルルマーニュ十二勇士の一人であるアストルフォの乗騎(後に解放してしまっているが)として有名だろう

 

カードとしては高い戦闘力を持ち空戦能力のある機動アタッカーといった処で騎乗能力も活かして空戦に使えるだろう

 

・カラドリウス

キリストの化身とも、神の使いとも言われている霊鳥の一種

 

危篤の王の枕元に現れ、回復の見込みがある(あるいは徳の良い)なら目をじっと見つめ、病を吸い取ってくれる。そうでなければ飛び去ってゆく。西欧では見ただけで病が薄まり、糞を飲めば不老長寿になると謂われている(ちなみにその糞もガッカリ箱限定で出てくるが……せいぜい『一年間の老化防止』程度の効果しか無い。しかし『とある最低最悪のイレギュラー対策』の為に非常に高値で売れる。売値だいたい一億程度で)

 

首にアヌビスの書かれた黒い袋を提げており、吸い取った病をその袋に貯める。貯めた病が最大量まで達すると卵を産む……と言われている為かキリスト教やローマ神話、エジプト神話など様々な宗教と習合出来るという何気に凄い特徴がある

 

カードとしてはやはり回復、治癒特化であり偶(数週間)に一度卵を産む能力がある。その卵は非常に美味で美容、痩身効果に長ける希少食材(要は美容特化ローポーションみたいなもの)である

反面戦闘力は額面通りとはいかずヘルハウンド辺りでも敗北する怖れがあるほど戦闘能力は低い

 

・奪衣婆

三途の河で亡者の服を剥ぎ死装束に着替えさせる老婆型の鬼にして日本仏教における冥界の官吏の一柱

 

剥いだ衣服は懸衣翁(けんえおう)という奪衣婆の夫とされる老人型の鬼が衣領樹(えりょうじゅ)という木の上にかけて亡者の罪を量るとされている

 

カードとしてなら何の変哲もない物理アタッカーだが、何気に『二体一心』持ちであり相棒の懸衣翁と揃えればその真価を発揮出来る様になる

 

この二枚が揃った時だけ使える能力は強力だが非常に使い時を選ぶ取り合いの難しい代物で、その容姿の悪さと基本的な戦闘力の低さもあって『二体一心』持ちとしては比較的安い分類に入る

 

・オーク(2号)

説明不用

 

1号たる剣と違って本当に標準的なオーク。腰蓑一丁に棍棒スタイル

 

・ライラプス

アルテミス若しくはゼウス(モブ高世界ではアルテミス説が有力とされている)がクレタの王ミノスに授けた猟犬(元はヘパイストスの作品だとも謂われている)

 

『どんな獲物も決して逃がさない』という運命を持つが『どんな存在にも捕まえられない』という運命を持った牝狐を捕まえる事になった結果永遠の追いかけっこが始まる前にゼウスがこの猟犬と牝狐を石に変えてしまった

 

ギリシャ神話における『矛盾』である

 

カードとしてなら追跡能力の高い斥候役(但し索敵用と割り切るべし)かつ『奨学カード』の一種として有名。戦闘能力はオークには流石に劣るがそれでもそこそこはこなせるだろう

 

・ホブゴブリン

『田舎のゴブリン』とも謂われている(ゴブリンの中では)親切な妖精の一種。但し悪戯好きな面は変わらないが

 

モブ高世界では近年のファンタジー要素が強く『上位のゴブリン』としての扱いになる

 

基本的に能力は(人間の様に)千差万別であるが大概戦士か盗賊に偏っている(魔法使いも居るが希少)

 

カードとしてなら先に挙げた通りの戦士かつ盗賊的な役割を担うだろう。大した強みは無いが代わりに弱点も無い万能とも無個性とも言えるカードである(全ては育て方次第だが)

 

・オーガ

瑕疵カード。『零落した存在』持ちでメアリーさんも持て余していた

 

・ジャック・オー・ランタン

南瓜型の瑕疵カード。『臆病』持ちで燈の復活用に買い取り(南瓜か白蕪かは復活には関係ない)

 

そして……最後の『ケットシー』だが、あれは育てはするが大輝のデッキには入らない。後々にある目的の為に使う予定だ

 

 

新しく入手したカード達はこんな処か?そして次は今までの主力達を良く見て新しいデッキをどう編成するかを熟慮しなくてはならない

 

 

 

次回に続く

 

 

【Tips】モンスターコロシアム

 冒険者たちがカードを使って戦うさまを観戦する新しい娯楽。プロ冒険者が互いのカードがロストするまで戦うデスマッチ、女の子モンスターオンリーのキャットファイト、複数の冒険者が一人になるまで戦うバトルロワイヤル、数十人の冒険者が赤軍・白軍に分かれて戦う軍団戦など、様々なコンテンツがある。

 残酷だ、人道に反しているなどの批判はあるが、このモンスターコロシアムが冒険者ブームの火付け役となったのは誰の眼から見ても明らか。

 飽食の時代、民衆はやはりサーカスを求めていたのかもしれない。

 

【Tips】ダンジョンチューバー

 動画投稿サイト『My Tube』に投稿することを目的として迷宮へと潜る冒険者の総称。その大半は一ツ星であり、動画再生による広告収入など雀の涙のようなものであるが、中には一ツ星にもかかわらずプロ以上の収入を得る者もいる。

 動画の撮れ高のために無茶なことをしたり、他の冒険者に絡んだりするダンジョンチューバーも多く、真っ当な冒険者からは嫌われる傾向にある。

※以下二つの【Tips】は百均様の許可を得て転載

 

【Tips】カードホルダー

迷宮産のカードであるならばモンスターカード、マジックカード、アイテムカード全てを問わず無限に収納出来るプロ冒険者や札商(政府公認のカードディーラー)の必需品

 

所有者以外以外はカードを取り出せない防犯機能やその時取り出したいカードが一番上に来る機能や内部の保有カードを検索して網膜にデータを映し出す機能、『デッキ登録機能(要はお気に入り登録)』……そして『空間系カード』をデッキ登録しているカード達の拠点としてデッキ登録カード達に(スリープ中は)解放する機能などが存在する



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第十八話 時には手札を整理整頓

とりあえず現状では『大輝のデッキ編成』はこんな感じですね

※:手の目、塗り壁、奪衣婆を弱強化


さて、次は今まで使い込んできた主力カード達の詳細を精査して新たなデッキ編成を行おう

 

大輝はそう考えながらカードホルダーから出した全ての主力カード達をテーブルに出して思案する

 

先ずは筆頭カードであるボアオークの剣(つるぎ)からだ

 

 

【種族】ボアオーク(剣)

【戦闘力】360(MAX!)+120(装備分)=480

【先天技能】

・猪鬼将軍:『眷属召喚』の一種、カード版よりも劣化した『眷属オーク(後天技能無し、戦闘力八割)』を召喚使役出来る『上位オーク』としての特性

頑丈、怪力、統率を内包する

・武術→武芸十八般(武術、斧術、杖術などが習合された結果CHANGE!):弛まぬ鍛錬の中で得た境地、実戦的な武術、体術、武器使用を熟せる兵(つわもの)の証。武術、斧術、杖術だけでなく剣術、弓術、槍術、投擲、騎乗、精密動作、見切りなどを内包する。初等忍術から習合

・威圧:強烈な迫力で敵の動きを鈍らせ、稀に怯ませる事が可能。但し臆病な気質持ちか『格下』にしか通用しない

【後天技能】

・士魂:真に忠誠を誓う主人を得た戦士の証。精神異常耐性(強)、忠誠、庇う、礼儀作法、冷静沈着などを内包する

・英明:その種族としては非常に賢い事を示す。知性強化と魔力強化を内包する

・火事場の馬鹿力

・俊敏:その種族にしては非常に機敏である事を示す。このボアオークの場合は『スマートな体躯になった事』で表される。敏捷性強化、器用性強化を内包する

・初等忍術:日本におけるローカルスキル・忍術を初等レベルで使用できる。忍術スキルは攻撃力には劣るものの、分身の術や火遁、水遁の術など敵を惑わすスキルが多い。武術、剣術、投擲、縮地、気配遮断のスキルを内包(縮地、気配遮断以外は武芸十八番に統合済み)

(縮地:一瞬だけ、自らの俊敏性を極めて大きく向上させることができる。使用には魔力と体力を消耗する……が、初等なので一日三回までしか出来ない上に体力と魔力の消耗が更に厳しいものになる。要は決して連発は出来ない)

 

 

『……これは本当にボアオークなのだろうか?もっと別のナニカではないのだろうか?』

 

剣のステータスを見たメアリーさんが真顔で。しかもトレードマークのオネェ言葉すらかなぐり捨てて男言葉で言っていたな

 

姫子や金長さん、他の兄弟姉妹弟子たちにも聞かせたかったな。凄く渋くて良い声だったし……何ぞと益体もない事を考えながら『その時には無かったローカルスキル(初等忍術)』について考える

 

あの迷宮のオーブから得たスキル……ただそれだけの話だ。尤もその話をオーブ板でやれば阿鼻叫喚の種一丁上がりだが(大輝の豪運も凄いが手の目の鑑定能力もまた……である)

 

もしも剣が『名付け』されてなければ『売ってくれ』という冒険者がちょくちょく出てくる騒ぎになりそうな、そんなレベルで凄い育成具合である(下手なCランクよりも強く優秀な能力値を示している……このカタログスペックを有効に活用出来るなら、だが)

 

 

そして次は送り狼の祝のデータだ

 

【種族】送り狼(祝)

【戦闘力】220(MAX!)

【先天技能】

・獣は老いても道を忘れず:送り狼の最大の特徴である『帰路限定のナビゲーション能力』と『提灯を操り敵を感知する能力』が内包されている(先に挙げた制約も含めて)。

・奇襲(迅雷に統合済み)

・集団行動

【後天技能】

・迅雷:その種族として最高レベルの素早さを獲得した証。奇襲、敏捷性強化、器用性強化、縮地を内包する。元から有った技能統合の結果発生した

・忠誠

・火炎提灯:提灯を使って中等攻撃魔法(火炎限定)を行使可能になる(提灯を無くすと魔法の使用は出来ない)

・鋭敏嗅覚

 

 

流石に剣と比べれば普通(に見える)がそれでも充分優秀な分類だ。元より敏捷特化の斥候役リーダー(他の斥候役は後述するブラウニー、スプライト三枚、そして新入りのライラプス)として運用する予定だ

 

かなり鍛え磨かれてはいるがまだ(一応は)普通の送り狼の範疇である

 

 

続くのは塗り壁にクラスチェンジを果たした元ストーンゴーレムの巌

 

【種族】岩塗り壁(巌)

【戦闘力】270(80UP!)

【先天技能】

・岩石の妖怪:身体が岩石で構成されている。刺突、斬撃への耐性が非常に高く物理ダメージに強い耐性がある。あと身体を何気に砂状に変えて細い隙間を潜り抜ける事も出来る。身体の何処かにある『核』を破壊しない限り消滅しない。怪力、頑強、疲れ知らず、火事場の馬鹿力を内包する

・低級収納

・漆喰生成:文字通りに漆喰(日本式)を生成出来る。その漆喰で他の無機物系統モンスターの治癒……実質的には一時凌ぎが出来る。塗り壁本体ならば再生力の向上として現れる(Dランククラスの魔石一個で大概の傷が即座に癒える……但し気力と魔力は別だが)。建築、自己再生を内包する

【後天技能】

・絶対服従

・静かな心

・状態異常耐性

・庇う

・剛力無双:その種族内でも非常に力強く頑丈である事を示す。怪力、頑強、疲れ知らず、火事場の馬鹿力、物理強化を内包する

(頑強:頑丈の上位互換)

・嗜好品回復/果物:岩塗り壁は何故か山葡萄を好むとされている影響からか稀にこの技能を得る個体が現れる事がある。とりあえず果物なら何でも好む

 

 

流石はDランクでも評判の人気カードなだけはある壊れ性能である(大輝の育成もあるだろうが)

前に食べた『ズンドコベロンチョ』の影響か『嗜好品回復』まで得たのは行幸だ。ブラウニーにフェアリーやスプライト達、それと燈の分もあるからさらに沢山果物を調達する必要があるだろう

 

 

次はジャック・オー・ランタンの燈(ともしび)だ

 

【種族】ジャック・オー・ランタン(燈)

【戦闘力】220(MAX!)

【先天技能】

・除霊祭の提灯

ハロウィンの提灯として炎を以て悪霊を祓うジャック・オー・ランタンの灯火を示す。中等攻撃魔法/火炎限定(高等攻撃魔法/火炎限定に強化)、初等状態異常魔法(中等状態異常魔法に強化)、空中浮遊、嗜好品回復(お菓子/軽)を内包する。

・案山子の身体

ジャック・オー・ランタンにとって案山子の身体は『服』と同じ扱いであり、万が一の時にはトカゲの尻尾の様に簡単に切り捨てられる。

一回だけ案山子の身体を身代わりにする事で致命傷を防ぐ事ができる……が、案山子の身体が再生するまで召喚を忌避する傾向がある(マスターの扱い次第ではその状態で召喚するとマイナススキル発生の恐れがある)。

耐久性低下を内包する

【後天技能】

・火炎威力強化

・従順

・天真爛漫:飾らずに喜怒哀楽を表す。その在り方を縛ることは誰にもできない。命令に対する行動にプラス補正。状態異常、拘束系スキルに対して耐性を持つ

・回避強化

・魔力強化

・知能強化

 

 

ストレートに強くなったものだ。火炎限定だがその威力は凄まじいものになっている。下手なCランクモンスターなら(相性次第ではあるが)この爆炎で撃破可能だろう……種族的な脆さは流石にどうにもならないが

 

 

次はブラウニーだ

 

【種族】ブラウニー

【戦闘力】140(MAX!)

【先天技能】

・下級家妖精:人間の代わりに家事をしてくれる妖精。……が、迷宮内では家などないためいまいち使いどころは不明。みすぼらしい格好をしているが、衣服を与えるとロストしてしまうので注意。初等家事魔法を使用可能。

・初等状態異常魔法

【後天技能】

・中等罠発見/解除

・低級収納

・器用性強化

・鋭敏感覚

 

 

物の見事に盗賊ビルドである。鍛えたので一応はそこそこの戦闘力もあるがやはり前線……それも鉄火場には出さない方が吉だろう

 

ブラウニー曰く『収納にオーブの力がいった』らしいのでクラスチェンジ先をメアリーさんに依頼済みであり、もう一つ欲しい『奪衣婆の相方』とどちらかが見つかったら購入予約してある(先着一件だけだが……流石に今二つ買う予算は無い……ブラウニーのクラスチェンジ先の方がまだ安くつく範囲ではあるが)

 

 

そして漸く得た回復役のキキーモラについて

 

【種族】老婆型キキーモラ

【戦闘力】200

【先天技能】

・中級家妖精:人間の代わりに家事をしてくれる妖精。……が、迷宮内では家などないためいまいち使いどころは不明。メイド、高等家事魔法を内包

(メイド:メイドに必要な技能を収めている。料理、清掃、性技、礼儀作法を内包)

 (高等家事魔法:高度な家事魔法を習得している。家事魔法は攻撃能力を持たないが、家の中でできることに不可能はない)

・中等回復魔法

・中等状態異常魔法

 

【後天技能】

・中等支援魔法

・妖精のお節介:親切でお節介焼きな家事妖精としての性質。簡単な失せ物探しや忘れ物回避が出来る他に主人のサポート等に非常に長ける。秘書、庇う、精密動作、従順スキルを内包する……主人の意図を汲むのが上手い(そして『リンクスキルの受信補助機能』にもなる)

・機織職人:機織りの達人……但し迷宮ではあまり役に立つ機会は無いが

・中等攻撃魔法/氷結限定(魔導書技能)

 

カーバンクルの撃破で戦闘力はかなり高まったが、流石にまだ前回一度しか使えていないので新しいスキルの獲得は出来ていない(それでも充分強い分類の回復役だが)

 

基本的に持っている箒や桶でぶん殴るか足の爪で引っ掻くかしか戦闘力は無かったが……運良く手に入れた『氷結の魔導書』のおかげである程度の戦闘力が身についたのはありがたい話だ(その魔導書もカード化済みだし)

 

 

そして次は……色々凄まじいあの手の目だ

 

【種族】手の目

【戦闘力】100(MAX!)+100(装備分)

【先天技能】

・手目坊主:探知能力を向上させる……何らかの隠されたものを探る事が出来るとか?(リンク補助/補強能力、視覚以外の感覚強化、秘匿された物体の捜索機能などが確認された)

※:未だに未解明な処があるスキルなので何かしらの情報が有ればギルドにご一報を(佐藤大輝は一報済み、口止め料込みの情報料獲得)

・化けの皮:憑依型装備スキル。特殊なデメリットはあるが他のカード或いはマスターに憑依する事で自身の戦闘力の六分の一を加算させる事が出来る(マスターへの憑依は全ての戦闘力とスキルを共有できる)

 

【後天技能】

・座頭/検校位:座頭としての技能である『按摩、針灸』、『楽器演奏/琵琶、三味線』、『金融名人(経理、マネジメントの一種)』、『語り部、謡い手』『中級鑑定』、『虚偽感知』、『危険感知』、『礼儀作法』、『教導』等々を内包する。『検校』という座頭として最上位クラス(としての実力)を有する(言わば座頭版メイドマスター)

・心眼:『空間型カード』への干渉能力、視覚以外の感覚補助などの機能が確認された(発見者/佐藤大輝)

・風が吹けば桶屋が儲かる:座頭などの盲人、職人、猫、鼠、風、砂の属性を持つカードにごく稀に現れるありとあらゆる因果事象から出鱈目な迄に幸運を招き寄せる運勢操作スキルの一種。基本的に現状では金運とトラブルに巻き込まれる確率が向上する程度。

・盲剣術(詳細不明、武術、杖術、剣術、精密動作が手の目に適合する型で習合した結果だと思われる)

・敏捷性強化(装備技能)

 

 

相変わらずの壊れ性能だが……まぁまた何やら怪しげな技能を得ているがこの手の目は『そういうもの』だと認識していた方が良いだろう。大食らいの酒好き、ついでに女好きだが頼れる奴なのは確かだ

 

最初に使っていたが大輝の技量が無かったせいで折れてしまった『(十二話で言及した)面白いもの』こと『凡庸の仕込み杖』は既に消滅してしまったが、その代わりに見つかった『俊敏の銅剣』は確かに良い代物だ

 

しかし……この剣のデザインは古代ローマの『グラディウス』である。この手の目にはあまり似合うものではない(何時見てもこのミスマッチさには首を傾げてしまう)

 

もしも良い得物が見つかったならばこの銅剣はブラウニー(若しくはクラスチェンジ候補先)にでも与えれば良い。何ならトレード品としても使えるだろうし剣の予備武具にしたって良い

 

少なくとも日本刀……願わくば仕込み杖で良い代物が欲しいものだ(手の目には飯と酒、あと女以外には拘りは無いらしいが)

 

この手の目が抱える本当の問題は……クラスチェンジ先と技能引き継ぎの問題だろう

 

この手の目は冗談抜きで希少技能の宝物庫みたいな代物だ。下手なクラスチェンジなぞしたらその技能をごっそり喪失しかねないだろう(何よりある意味うちの稼ぎ頭でもある……剣とは別の意味で)

 

大輝もこの一回の探索で真面目に『名付け』を考えている程だ

 

 

さて、続いては最初の回復役である残り二体のフェアリー達だ

 

【種族】フェアリー

【戦闘力】30(MAX!)

【先天技能】

・妖精の鱗粉:小さな蝶の翅を生やしたフェアリーの鱗粉には多少の治癒能力が存在する。見習い回復魔法(初等回復魔法に強化)、浮遊、小さな身体、耐久性低下を内包する

(小さな身体:人形の様に小さな身体である事を示す。物理的な攻撃力にマイナス補正がかかるが回避に莫大なプラス補正がかかる。召喚する場所を殆ど選ばない)

【後天技能】

・見習い支援魔法

・魔力強化

・回復強化

 

 

【種族】フェアリー

【戦闘力】30(MAX!)

【先天技能】

・妖精の鱗粉:小さな蝶の翅を生やした小妖精の鱗粉には多少の治癒能力が存在する。見習い回復魔法(初等回復魔法に強化)、浮遊、小さな身体、耐久性低下を内包する

【後天技能】

・見習い状態異常魔法

・悪戯心:稀に命令を無視することはあるが自由行動時に多少のプラス補正がかかる。状態異常魔法に強化がかかる

・見習い攻撃魔法

 

 

フェアリー達のうちこの二体は比較的『伸び代』が良かったので今はまだクラスチェンジを待って思案中だ

 

回復強化持ちは妖精にしては真面目で、悪戯心持ちはフェアリー達の中では自我が一番強い

 

残り三体はスプライトにクラスチェンジして新しい型で成長を模索する事にした

 

 

それがこのスプライト達だ

 

【種族】スプライト

【戦闘力】90(30UP!)

【先天技能】

・小妖精:小妖精としての魔力と魔法の素養、身体的な不利を示す。見習い魔法使い、浮遊、小さな身体、耐久性低下を内包する

・かくれんぼ:姿と気配を隠すことができる。透明化、気配遮断を内包する

【後天技能】

・魔力強化

 

【種族】スプライト

【戦闘力】90(30UP!)

【先天技能】

・小妖精:小妖精としての魔力と魔法の素養、身体的な不利を示す。見習い魔法使い、浮遊、小さな身体、耐久性低下を内包する

・かくれんぼ:姿と気配を隠すことができる。透明化、気配遮断を内包する

【後天技能】

・器用性強化

 

【種族】スプライト

【戦闘力】90(30UP!)

【先天技能】

・小妖精:小妖精としての魔力と魔法の素養、身体的な不利を示す。見習い魔法使い、浮遊、小さな身体、耐久性低下を内包する

・かくれんぼ:姿と気配を隠すことができる。透明化、気配遮断を内包する

【後天技能】

・身隠し妖精:かくれんぼを大人一人分まで他者に付与出来る様になる

 

 

残り三体は殆ど技能引き継ぎは無かったが……一体だけ希少な、そして思い出深い『身隠し妖精』を持っていた。願わくば残り二体にもこの技能を獲得して欲しいものだ

 

これで今までの大輝のデッキ編成だが……新しいカード達のステータスやデータもちゃんと精査しよう

 

 

先ずは……色々な意味で問題のカードからだ

 

【種族】やまらのおろち

【戦闘力】400

【先天技能】

・零落の多頭蛇:八つの蛇頭が魔羅に置き換わった零落した多頭蛇の妖怪。零落したとはいえ非常に強力な蛇妖である事は確かだが。巨体、剛力無双、自己再生。零落多頭龍、広視界、熱視界、柔軟、悪臭を持つ

(巨体:非常に大きな体躯を誇る。攻撃力に莫大な補正が掛かるが召喚する場所を慎重に選ぶ必要がある)

(零落多頭龍:複数の頭を持つドラゴン。すべての頭が別々に思考・行動が可能で同時に物理攻撃が出来る。但しブレスや魔法は同時には出来ない)

(広視界:複数の眼を持つ、多頭のモンスターが保有する。文字通りに非常に広い視界とその視界を情報処理する能力を持つ)

(熱視界:蛇や地下に棲まうとされるモンスターが保有する。所謂サーモセンサーみたいに熱で知覚出来る能力。透明化などを無効化出来る)

(柔軟:非常に身体が柔らかく柔軟に動ける。特定の行動時にプラス補正)

(悪臭:非常に臭い)

・女殺し:攻撃全てに『女』の属性を持つモンスター全てへの特攻がつく。男、無性には普通

・八魔羅ノ大蛇:Dランクカード『いやだひめ』と同時に召喚した際に発動可能。『非常に不快なデバフと強力かつ不快な攻撃』を周囲に撒き散らせる様になる。一日八回まで行使出来る

【後天技能】

・性技

・武術

・悪臭操作:悪臭持ちが稀に獲得できる技能。悪臭を文字通りに操作して無臭にしたり敵に集約して放つ事が可能

 

 

これでも割と基本的な『やまらのおろち』だが……その最低最悪の外見さえ無ければCランクでもかなりの人気カードになれていただろう

 

……メアリーさんからも何度も「本気で『コレ』を使うの?」と真面目に聞かれたぐらいだし(無論、真剣に覚悟を決めて選択したつもりだが)

 

基本的に物理特化型ではあるが『悪臭操作』で擬似的なデバフも熟せるしタンク役としても非常に心強い

 

その真価は『いやだひめ』を伴って初めて発揮されるが……大輝に『いやだひめ』は使えないから意味はない(それでも充分強力ではあるが)

 

『即戦力』としてはこれ以上は無いが……色々な意味で使う場所を選ぶのが珠に疵(致命傷)だが

 

 

そして……これからは『二軍枠』として入手したカード達だが。先ずは一反木綿からだ

 

【種族】一反木綿

【戦闘力】140

【先天技能】

・弔旗木綿:纏う事で装備化を、跨る事で乗騎化を行える特性を示す。基本的に初等クラスの装備化スキルであり。他のカード、あるいはマスターへと憑依することで、自身の戦闘力の四分の一を加算させることができる(マスターへの装備化の場合はすべての戦闘力とスキルを共有できる)。飛行、気配遮断、無音移動、切断耐性弱体化、火炎耐性弱体化を内包する

・迅雷

・木綿生成:木綿を生成出来る、一週間で無地白晒し一反(着物一着分)となる。その生成を止める代わりに限定的な自己再生を行使出来る。通常の木綿を与えても自己再生を発動できるがその前に魔石を与えた方がよっぽど早く安く済むだろう

(ちなみにその生成した木綿の質はまあ普通の範囲)

【後天技能】

・初等状態異常魔法

 

これは普通の……いや、後天技能が一つしか無い辺り一反木綿としては少々『弱い』分類だろうか?しかし敏捷性ならば相当な代物かつなんらかの戦闘能力の高いカードと組ませれば光るだろう

 

耐久性の低さが気になるが……それは木綿生成でどうにか出来る。魔石を与えての治癒速度もこの技能が補助してくれるだろう

 

 

次はヒッポグリフだ

 

【種族】ヒッポグリフ

【戦闘力】175

【先天技能】

・乗騎

・飛行

・回避強化

【後天技能】

・敏捷性強化

・鋭敏感覚

 

やはり通常のヒッポグリフ(雄)である。大輝の相棒である剣の乗騎として購入を決めた……が、何時かは同じキメラ系である鵺にクラスチェンジを検討している

 

 

お次はカラドリウス

 

【種族】カラドリウス

【戦闘力】140

【先天技能】

・癒しの神鳥:傷や病いを癒す聖なる鳥。高等回復魔法、飛行を内包する

・病気診断:その病いや傷が癒せるかどうかを診断出来る

・癒しの卵:数週間に一度だけ非常に美味で滋養のある卵を産む。その卵は高性能な美容特化型ポーションとして人気がある

【後天技能】

・回復強化

・見習い支援魔法

 

キキーモラに続く正式な治療役2号。殆ど完全な治療役でありあまり前線には出すべきではないだろう

 

 

次は奪衣婆だ

 

【種族】奪衣婆

【戦闘力】130

【先天技能】

・姥鬼:地獄の官吏にして鬼たる妖婆。怪力、頑丈、自己再生を内包する

・二体一対:このカードは半身と呼べるカードと二枚で一つである。二枚召喚しても迷宮の召喚枠を一つしか消費しない。また生命力を二枚で共有する

・衣領樹招来:相棒にして夫たる半身『懸衣翁』と同時召喚した際のみ発動可能な能力。衣領樹という地獄の樹木を召喚し周囲全ての衣服や装備を剥ぎ取り衣領樹に貼り付ける事が出来る(衣服、装備が全て衣領樹にワープする。という効果になる)。効果はだいたい十分程度(人間カードモンスター問わず全員全裸になる。元より全裸なら効果なし)

装着型限定だが『装備化能力』を十分間封印する能力もある(但しCランク迄が限界)

使用後には一時間のインターバルを必要とし、範囲内の全てを対象にするなど制約が少し面倒だが『憑依』や『装備化』を解除出来る貴重な能力でもある。それと『衣服が掛けられた枝のしなり具合』で対象の『罪業』を量る事が出来る(奪衣婆と懸衣翁の本来の職務がそれだが)

勿論、奪衣婆と懸衣翁、それと『同じ地獄の獄卒衆』には無効である

【後天技能】

・武術

・杖術

 

相棒の懸衣翁は居ないがそれでも割と戦闘向けのカード。ブラウニーのクラスチェンジ先と一緒に懸衣翁も探しているが……まぁブラウニーのクラスチェンジ先の方が見つかる公算が高いだろう(基本的に運次第だが)

 

 

次からは新しい奨学カード達からオーク2号だ

 

【種族】オーク

【戦闘力】100

【先天技能】

・集団行動:群れの中で生きる習性。集団での行動に対するプラス補正。

・頑丈:頑丈な肉体を持つ。生命力と耐久力を常時向上させる。

・怪力:人外の力を持つ。筋力が常時大きく向上する

【後天技能】

・従順

 

……あまり優秀ではない個体ではあるが、まぁ従順なだけ良いだろう

 

 

続けてホブゴブリンについて

 

【種族】ホブゴブリン

【戦闘力】100

【先天技能】

・集団行動

・群れの一員:基本的に色々な後天技能を獲得しやすくなるが、個体ごとに適性や素質がまるで人間の様に異なる性質を帯びる様になる

【後天技能】

・剣術

・中等罠発見/解除

・器用性強化

・鋭敏感覚

 

後天技能が多く感じるが、基本的にホブゴブリンはこういう代物だ。この個体は盗賊的な適性が強いタイプらしい

 

【種族】ライラプス

【戦闘力】100

【先天技能】

・月乙女の猟犬:アルテミスの猟犬としての機能。鋭敏嗅覚、奇襲、追跡を内包する

・敏捷性強化

【後天技能】

・牙爪強化:牙や爪を使った攻撃の威力が上昇する

・集団行動

 

送り狼の交代役に起用した斥候役だ。ワイルドウルフの頃から長らく磨き続けた送り狼程にはまだ頼れないがある意味新しい命綱(候補)となるから大切に育てないといけないだろう

 

そして……これは『戦力』と言うよりは『使い捨ての爆弾』とでも言うべき代物ではあるが……

 

【種族】ウィル・オ・ウィスプ

【戦闘力】50

【先天技能】

・揺蕩う雷火:幽体とも電気の塊とも言える不定形の怪火の一種。『核』を破壊しない限り倒せないがその核は非常に脆い。飛行、縮地、敏捷性強化、電撃強化、状態異常耐性、耐久性低下、知能低下を内包する

・砕ける雷火:このカード唯一の攻撃手段。対象に特攻をかけて自爆する

少なくともこのカードの戦闘力の三倍のダメージを対象に与えてこのカードはロストする

【後天技能】

自爆強化:文字通りに自爆の威力を強化する技能。このカードの自爆ダメージを更に2倍に強化する。この鬼火系統は更に上位の鬼火系統で自爆迄をコントロール可能

 

前に十枚ほど入手した代物であり……なるべくならば使わずに済めば良い代物だ

 

使う際にはちゃんと祈りを込めて行うべきだろう

 

 

それと……これはオーク2号を磨き上げた後に使う予定のカードだ

 

【種族】オーガ

【戦闘力】100(零落せし存在で−100)

【先天技能】

・人喰い鬼:頑丈、怪力、火事場の馬鹿力、自己再生、知性低下、状態異常耐性低下、嗜好品回復/肉を内包する

・動物、器物変化(劣):動物や器物に変化出来る……が、その精度は低く努力しても十分がせいぜい(器物なら簡単なものなら最低限使えはする、鳥になって飛ぶ事は出来るが一分以上飛ぶ事は不可能、その一分で変身も解ける)

『零落せし存在』で消失

・物理強化:物理的な攻撃の威力を強化する

【後天技能】

・零落せし存在:本来の存在より零落している。戦闘力を常時100マイナス、スキルが欠落しランクダウンする

・槌術

 

『零落せし存在』という糞技能のせいで只でさえCランク最弱不人気クラスのオーガなのに最早Dランク最弱にまで落ちぶれた状態のまさにウンコッコカード

 

一応、この『零落せし存在』は稀にクラスチェンジなどで消える可能性があるのでオーク2号を育成してこれにクラスチェンジすればまだ可能性は有りそうだと五十万円というおまけ価格故に購買

 

万が一に『零落せし存在』が残ってもまだオークよりかは強くなれるオーガとしての伸び代はあるから無駄にはならないだろう

 

所詮オーガなぞ『繋ぎ枠』でしか無いので鍛えた後でマイナーチェンジするだけだろう

 

 

最後に……今の大輝にはまだこれでさえ貴重な空間系カードについてだ

 

【種族】燈無蕎麦

【戦闘力】50

【先天技能】

・燈無蕎麦:本所七不思議に語られる燈の消えた担ぎ蕎麦屋台。担ぎ屋台型の極めて小さな異空間を展開できる(屋台を除けば人二人が横になって眠れる程度)

異空間系スキルを持たない敵からの干渉を受けない

内部に居る味方に蕎麦切り(若しくは蕎麦の実か蕎麦粉)を提供できる(蕎麦切りは盛りかかけのどちらかを選べる)。特別な効果は無いが非常に美味である

消えた行灯に燈を灯すとこのカードはロストしてしまう

手足が無いので身動きが出来ない(誰かが屋台を担げば擬似的に動ける)

料理/蕎麦切り限定、低級家事魔法、見習い攻撃魔法/火炎、水撃限定を内包する

・薄闇隠れ:燈を一切灯さない状況ならば『かくれんぼ』が行使出来るが、何らかの灯り(行灯以外に)を灯せば逆に敵を引き寄せる効果が出る

【後天技能】

・幸運付与:多少ではあるがこのカードのマスターの幸運を向上させる……らしい

・狐狸妖:燈無蕎麦の中では珍しく狐狸狢の類い(の幻影体)を出してマスターと会話可能となる。成長次第で人を化かす能力を得られるかもしれない

 

このカードは狸型の幻影体を出す能力があり、とりあえずの相談相手にはなるだろう(大輝は沢山のカード持ちだが)

 

少なくともこのカードさえあれば蕎麦限定ではあるが数人程度なら飢える事は無くなるだろう

 

このカードの真価は『カードホルダー』に登録する事でカード達に談話室みたいなものを与えられる事だろう。大輝のカード達に(蕎麦と収納持ちに渡した荷物の中身限定とはいえ)娯楽を与える事が出来る

 

大輝自身にももう少しだけプライベートな時間が持てる事もまた重要な事だろう

 

 

そんなこんなで大輝の今持っているモンスターカード達の説明は終わる

 

ついでに大輝が今持っている魔道具についても少々

 

・カードホルダー

・文庫本図書館(カード化)

・ミノタウロスの大戦斧(カード化)

・俊敏の銅剣(カード化)

・氷結の魔導書(カード化)

・無限水筒

・魔石袋

・透明金庫(自宅に保管)

・保険の首飾り(保険の魔法が込められている護符。一度限りの使い捨て。両親からの贈り物。人工純正魔道具)

 

それなり以上の価値があるものならばこんなものだろうか?

 

後はそれなりに貯まったマジックカードだが……その中でも貴重な代物は(前回の上がりを含めて)八枚

 

・プロテクション:高等補助魔法・防壁の魔法が封じられている。中等魔法レベルの一撃を完全に防ぎ、高等魔法レベルの攻撃をかなり軽減できる結界を張ることができる……一枚

・インシュアランス:高等補助魔法・保険の魔法が封じられている。マスターへのダイレクトアタックを一度防ぐ結界を張る……二枚

・レベルアップ:高等補助魔法・促成成長の魔法が封じられている。一時的に戦闘力が成長限界まで引き上げられる。ただし、その戦闘での経験値は得られなくなる……二枚

・遭難:転移系の魔法が封じられている。まだ到達していない階層へとランダムに転移する

後は高等攻撃魔法の封じられたカード(氷結、電撃)が一枚づつ

 

それと色々な使い捨て魔道具を幾つか

 

 

さて、今日はこの辺でカードを片付けて明日の為に英気を養おう……明日は姫子と海で(多分、正式な意味では初の)デートだ

 

 

 

 

本日の【Tips】は流石に数が莫大過ぎるので割愛。後々に『血涙鬼・彼岸のカードファイル その2』にて



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第十九話 だん☆キャン△(準備編)

大輝がどんどん凄い奴になってゆく……そろそろ真面目にタイトル変えようかな?

そして姫子の情報幾ら開示付き……ちなみに姫子は『かなり滅茶苦茶な壊れ性能』だと今のうちに公言します(『大輝と同じく重大な欠点持ち』でもあるけど)


 

さて……昨日は一日中カードを眺めたり夏休みの残った宿題を全て片付けていたり明日の仕度や明後日で決める予定の試験の準備をしたり昨日の試合を圧勝した金長さんに連絡を取り合って近況報告したりと色々やっていた

 

ちなみに昨日は姫子の夏休みの宿題を見てやろうと思っていたが……生憎と先約があった

 

姫子はクラスメイト達と宿題会を行なっていた

 

大輝と姫子の居る学校は『美城学園』という旧くから芸能活動に力を入れている有名な名門私立である(小中高大一貫、所謂マンモス校という奴だ)

 

学園の母体であるかの有名な346プロダクションの学生アイドルだけでなく天下に名高い765、961、876、283などの有名プロダクションに所属するアイドルや男性アイドル専門の315プロダクションのアイドル達も居る日本最強の芸能学校でもある(嘗ては女子校だったが近年共学になった経緯がある)

 

……要は961すら含めた『ポップリンクス状態』である

 

ちなみにこの学園にはもう一つ大きな特徴がある……それは『冒険者育成』にも全力で取り組んでいる。という特徴である

 

二度のアンゴルモアからの危惧とその最中で発生した通常のCランク迷宮からこの学園は『日本最初の冒険者育成科』を設立する事を決意し、紆余曲折を経て今に至る

 

教師は全て最低でも二つ星冒険者資格持ちでないとなれない上に人格審査が非常に厳しい事でも有名だ(入学する生徒もむしろ人格を最優先で調査される程だ。芸能育成科冒険者育成科普通科問わず)

 

人間として真っ当ならばこの学園は例え貧しい家庭であろうともちゃんと受け入れてくれる(但し、ちゃんと冒険者か芸能界への適性か奨学生としての資格は必須だが)

 

近年はアイドル達も容姿や歌、踊りだけではやっては行けず……今では『冒険者としての能力』もアイドル達には必須なのだ

 

大輝も姫子も『冒険者育成』に惹かれてこの学園に入った……が、姫子の場合は『芸能育成科』送りとなった(大輝は普通に『冒険者育成科』だが)

 

ちなみに『冒険者育成科』とは……中等部迄は座学だけだが高等部になると冒険者資格を獲得して最低限二つ星資格を獲得した上で一枚だけでもCランクカードを入手する事が卒業資格になる(只今絶賛試験稼働中の)学科である(勿論、中等部から冒険者になるのは自由である)。ちなみに大学部の卒業資格には『三つ星資格の獲得』が条件となる

 

この学園では高等部になると(科目を問わず)教科書と一緒に必ず一枚の奨学カードを選択支給(実際には原価を学費払い)されるかなりトんでいる学園だ(選択支給は中等部から冒険者をやっている者も勿論例外ではない)

 

姫子が『芸能育成科』送りになったのはそれもこれも全部『346プロダクション専務兼美城学園理事』である某ベヨネッ○似のとある女傑や他の理事である他の協力プロダクション社長一同、その全ての事務所プロデューサー達一同に拝み倒された結果である

 

少なくとも一度でも姫子を見たプロデューサー達や社長ら、そして専務は一度は必ず姫子をスカウトに走った経験があり、その為彼らはまだ姫子の存在を諦めたくはないのだろう(遂に正式に大輝とのお付き合いが始まった事はまだ知らないだろうが……まぁ知っても私欲と大義を履き違えて無理矢理理不尽にカップルを別れさせる様な愚かで下劣な手合いではないから大丈夫だろう。彼らは全員真性のアイドル馬鹿だが人間性は非常に確かな御仁ばかりだし)

 

そして姫子が所属するクラスは姫子以外全員がアイドルの女子限定クラスであり(中には……むしろお笑い芸人みたいな娘も居るがちゃんとアイドルである)。その中には常にTVやネット、あらゆるメディアに引っ張りだこな人気アイドルも居る

 

昨日は久しぶりに休暇を得たその友人達……そして他のクラスメイト達と一緒に夏休みの宿題に精を出していたのである(薬丸邸にて)

 

……もしも大輝との関係がバレたら多分昨日の薬丸邸は(黄色い声で)蜂の巣を突く様な大騒ぎだろう。今日は姫子との(お泊まり)デートだが彼女はバレずに来れたかはまだわからない

 

夜明け間近の早朝。まるでダンジョン攻略にでも行くかの様な物々しい出立ちで大輝は姫子の待つ薬丸邸に辿り着いていた

 

今日は薬丸家のお手伝いさんが車(お手伝いさんの私用車)でダンジョンマートの私有ビーチ(兼保有ダンジョン)まで送ってくれる手筈になっている(明日の帰りはタクシーだが)

 

今日と明日は姫子に『キャンプ練習と対モンスター訓練』という名目でダンジョンマートが保有する慰安用プライベートダンジョンの一つ(勿論Fランク)でキャンプするのだ

 

だから大輝は完全武装である

 

ちなみにこのプライベートダンジョンというのは……例えば学校施設や企業施設の様な『あまり部外者に入ってもらいたくないところ』に現れた迷宮の事であり、その管理のための冒険者を雇って一般の冒険者の入場を制限することがある(その為の冒険者がダンジョンマートの場合は件の『金長さん』である)

 こうした私的に入場を制限した迷宮を、プライベートダンジョンと呼ぶ

 大富豪の中には、リゾートタイプのFランク迷宮を土地ごと買い取ってプライベートダンジョンとしているケースもある(今、大輝や姫子がその恩恵に預かれる様に……社員の慰安用に解放されているパターンもある)

 

ちなみにこのプライベートダンジョンを管理する権限は『四つ星冒険者』……要はプロ資格持ち冒険者の特権である(日本でも三百人前後しか居ない貴重な資格持ちが必要という辺りかなり難しい維持条件だと言える)

 

ちなみに……大輝は『とあるプロ冒険者資格試験』を一つだけ既に合格している。ついでに言うなら『その資格』を得たからこそ両親は大輝が『本気である』と魂から理解して中学生から冒険者になる事を認めてサポートすらしてくれている(しかも完全なフリーハンドで)

 

それは……『筆記試験』。一応は冒険者資格を持たず、未成年でも受講は可能であるが難関な試験として有名だがそれでも合格を果たした(何もしなくても高校に上がれば自動的に冒険者になれたがそれでも大輝はやった)

 

四ツ星の筆記試験の合格に必要な勉強時間は平均して凡そ500時間ほどとされている。これは宅建士などの資格に匹敵する難易度だ(美城学園の中等部迄の生徒でこの試験に合格したのは大輝以外にはまだ居ない……何なら美城学園の歴史でも初めての快挙である)

 

……まぁ、学園には秘密にしているから快挙もくそも無いが(どんな騒ぎになるか知れたものでない。忘れられがちだが大輝のコミュ力は低い分類である、何れバレるならその前に色々対策だって必須だ)

 

両親もサマナーだけあって何枚かのCランクカードや切り札である(安価ではあるが)Bランクカードすら持ってはいるが皆名付け済み(自宅に隠してある非名付けカードは非常用なので手を付ける気はしない。それらは家の対アンゴルモア用の備えだから)なのでオーク一枚だけで挑む事を提案し、そのオーク(後の剣)を磨いて今に至る

 

ちなみに……非常用の備え付けカードのデッキ編成は

 

 

・アルカトラズ

・デュラハン

・アマルテイア

・アラクネ

・金剛力士二枚

・エジリ・フレーダ

・カラドリウス

※:全て通常品質

 

 

最低限生活と防衛が成り立つ様に……下手な学校施設よりも防災準備は整っているだろう(幾つかカード化したコンテナ級食料品や日曜雑貨やいろいろな魔道具だってあるし)

 

本当は『女の子カード』だろうと大輝が真面目に頑張って得たボアオークだろうと即座に買って貰って直ぐに二つ星昇格だって出来た

 

しかし、大輝は『とある事情』から経験獲得を優先する事で自分自身の地力を高める事にした

 

その結果今の大輝が出来たのだから時には(自発的)スパルタ式もまた悪くはないものだろう

 

ちなみにこの中にあるデュラハンとカラドリウスかエジリ・フレーダは実は大輝が高校入学か二つ星資格を獲得出来たら(プロ冒険者資格筆記試験合格記念も含めて)記念に与えられる予定だが大輝にはまだ教えられてはいないし大輝も予備カードの隠し場所は知っていても一度もそれを見てはいない

 

……ぶっちゃけた話、大輝は実際にはただ姫子に格好つけたかっただけなのだが(そして姫子もまたプロ冒険者筆記試験用のカリキュラムをちょこちょこ始めているが)

 

 

そしてこのプライベートダンジョンならば未だ冒険者資格を得られる年齢ではない姫子でも(大輝の付き添いと両親からの許可、そのダンジョンを所有する団体の発行する通行許可証さえ有れば)問題なくそのダンジョンに入れるのである

 

もしも普通のダンジョン(若しくは保有資格以上のダンジョン)に違法に入れば実行者は冒険者資格の剥奪で二度と免許の交付はされないだろう(同乗者も同罪で冒険者資格の獲得が出来なくなる)

 

美城学園はこういう初心者向けプライベートダンジョンに潜る(学習する)機会があるならばそれをむしろ奨励さえする。場合に拠っては小学生が潜る機会を得られれば『公休』すら許可するだろう(流石に高学年限定かつ大っぴらにはしないしやっても年に二、三度がせいぜいだが)

 

そうこう考えている内にインターホンの音と一緒にパタパタという足音が響く

 

……その足音は姫子のものである筈だが何時もよりも深く重く響いているのが大輝には分かる

 

それもそうだ

 

 

「にーさまお待たせー」

 

 

何しろ今からダンジョンに行くのだから……例え行楽(デート)目的でも

 

姫子の格好も殆ど今の大輝(ダンジョン攻略時)みたいな状態だ

 

成長期を考慮して少しサイズが大きい大輝とお揃いの(ダンジョンマート製自衛隊仕様)オリーブグリーン色に統一された野戦服……階級章や自衛隊関係の所属ワッペンの代わりにダンジョンマートの社章とメアリー塾のエンブレムワッペンをつけたジャケットと対迷宮鉄帽を小脇に抱えている。そして大輝のものとお揃いのミリタリーリュックを背負い、自慢の長い金髪はシニヨン(お団子状)に収めた……完全武装した姫子が家から出て来たのである

 

ただ……唯一靴だけは何やら古めかしいデザインの長靴であるが

 

仮にも『訓練』なので愛用のエアコンブローチは外しているのでまだ上半身は唯一身体にフィットする仕様の(割と下着に近い)黒いタンクトップとポーチ付き固定ハーネスだけだが……本当にこの娘は『※:まだ小学生です』である(その容姿とプロポーション的な意味で)

 

その年齢からすれば非常に豊かで深く重い谷間が覗き込める芸術品の様に整った……しかもハーネスでその曲線を強調された双峰と白磁の様な肌は言うに及ばす。その脇、頸、鎖骨にそれ用のフェイクホルダーを固定した左右それぞれの華奢ではある二の腕からその指先まで……下半身を包む少々ダボついているカーゴパンツからでも分かるその小ぶりのひきしまった良い桃尻に非常に華奢な腰回りの括れも含めてその実年齢を忘れてしまいそうな程に蠱惑的である

 

大輝の様にそれなり以上に着込んで身体に馴染ませた様なものとは違いそれはまだ真っ新な卸立ての新品ではあるがそれすらもしっかり着こなしている辺り彼女はモデルなどにも天性の才能があると言えるだろ

 

『美人は何を着ても似合う』という事だ

 

何時もの様にその魅惑的な身体で抱きついてくる姫子の頭……まるで最高の絹糸か金無垢の糸みたいに艶やかな髪をわしわししながら考える

 

『さて、今日はもっと真剣に挑まないとな』

 

 

そんなこんなのすったもんだの果てに早朝の空いた道を車で往きて一時間弱の後。そのプライベートダンジョンのある場所に到着した二人はダンジョンマート私有地内部……施設内部の売店も兼ねたダンジョンマートのセキュリティ前で警備員兼ダンジョンマート所属冒険者達(大輝の両親や金長さんの部下達)に一泊二日の通行、滞在許可証と大輝のライセンスを提出してダンジョンの出入り口……浮遊する謎の黒い球体に手を当てて迷宮内部にとびこんだ

 

 

その中は暑かった。その足元は沖縄やハワイの様な石ころ一つ無い珊瑚質の白い砂浜だった。そして辺り一面にはむせ返る様な潮の香りが漂いギラギラ輝く太陽に雲一つ無い青空

 

そして辺り一面全ての光景はエメラルドグリーンに光り輝く海だった

 

此処はダンジョンマートが所有するサマービーチ型ダンジョン。全三階層のFランクで出るモンスターは海ゴブリンことサハギンだけという行楽用ダンジョンである

 

 

全ての安全地帯には最新鋭の汚物浄化機能付きトイレと更衣室に東屋、備え付けの水瓶型魔道具(飲用兼水浴び用)とビーチパラソル、ビーチチェア。それとキャンプ、バーベキュー台が備え付けられている至れり尽せりの親切設計だ

 

ちなみにこの『汚物浄化機能付きトイレ』は比較的最近開発されて日本中の迷宮のトイレは徐々にこのタイプに置き換えられ初めているとかいないとか(今大輝が攻略中のあの迷宮は『まだ』という事だ)

 

全ての迷宮に『汚物浄化機能付きトイレ』が行き渡るのは恐らく来年の春から今頃辺りになるらしい

 

そんな中で二人はまず最初にやる事は……勿論、ダンジョンに来たならこれからだろう

 

 

『カード召喚』である

 

 

大輝は己のエースにして護衛であるボアオークの剣と敵探知役の送り狼こと祝を召喚した

 

既にジャケットやボディアーマー、ヘルメットをかっちり着込み済みの姫子もやはり二枚のカードを手にしている。そのカードは

 

「二人とも、お願い!」

 

そして召喚されたモンスターは……

 

「お嬢様、お呼びですか?」

 

非常に硬く澄んだ声で姫子に話しかけて来た一体目は凡そ二十代後半に見える長い……光加減で菫色にも見える黒髪をシニヨンに纏めた黒いパリッとしたサテン地ドレスに白い麻のやはり染み一つ無いエプロン、ビクトリア王朝式のメイド服……それも高位メイドに該当するレディースメイド (Lady's Maid……女主人付きの侍女)でありナース(Nurse……いわゆる乳母)としての能力を持つハウスキーパー (House Keeper……まぁメイド全ての監督、要はメイドマスター)たる姫子専属メイドである

 

その身長はだいたい160㎝、一見すればスレンダーだが出るべき処は出ている体型のややキツめの美女だ

 

種族はシルキー、名は『菫(すみれ)』。第二次アンゴルモアの際に両親がドロップしたカードの一枚から与えられて紆余曲折の結果名付けする事となった姫子の主力カードである

 

そしてもう一枚は……

 

「お嬢、お呼びでありんすか?」

 

澄んだ、陽気さを感じるが何処か油断ならない印象を与える京言葉の様でよく聴けば廓詞(遊郭固有の言葉使い。方言隠しの為に使われていた)で話しかけてきたのは……着物?である

 

いわゆる『小袖(袖口の狭い高級な和服)』が宙に浮いてその袖口から半透明な腕が生えている……そんな奇怪な存在だった

 

それは『小袖の手』という付喪神の一種とも怨霊の一種とも言われる妖怪である

 

名は(その着物の柄や色と同じく)『桜』。やはり菫と同じ理由で姫子の元に来て名付けを受けたカードの一枚である

 

ちなみにこの小袖の手、実は『装備化能力持ち』かつ魔法使い系カードである(リビングアーマーとは別の意味で)人気カードの一枚である

 

……何気に取り扱いの難しいカードではあるが

 

姫子はその小袖の手を羽織り……羽織ろうとしたら小袖から羽織りに変化した。これもまた小袖の手が持つ能力『苦界の死皮』の機能(の余技)である

 

そして姫子はもう一枚のカード……装備カードを取り出してその中身を解放する

 

その中身は……長さだいたい60㎝程の長脇差を改修した様なサーベル。要は『警察官用サーベル』みたいな形状をした『無銘の軍刀』という武具である

 

姫子はその軍刀を腰のベルトに付いた剣帯に通してこれで準備は万端である

 

 

はてさて、彼女は本来ならば今こそが初陣の筈なのに何故カードに名付けが出来る程に親しくなれたか?何気に堂に入った動作所座を含めて彼女には何やら秘密がありそうではある

 

彼女はポーカーフェイスが上手かも知れないし何らかのブルジョワ専用の裏技強化かも知れない。彼女自身に特殊な背景があるのかも知れない……

 

 

しかし其れは次回への持ち越しだ

 

 

 

【Tips】プライベートダンジョン

 私有地などに現れた迷宮のうち、プロなどに管理を任せるなどして一般の冒険者たちには公開しない迷宮のことをプライベートダンジョンと呼ぶ。

 一般公開されている迷宮と比べアンゴルモアの可能性が高いプライベートダンジョンは、国によって厳しい基準を設けられており、Fランク迷宮であっても四ツ星以上でなくては管理できず、その依頼料も非常に高額となっている。

 そのためほとんどのプライベートダンジョンはFランク迷宮か、逆にCランク迷宮以上の準シークレットダンジョンとなっており、その所有者も個人ではなく法人が多い。

 プライベートダンジョンの管理は冒険者として非常に美味しい仕事だが、それだけに管理の仕事を任されるかどうかはコネ次第である。

 なお、プライベートダンジョンとは言えアンゴルモア対策のためゲートの設置は義務であり、一定期間攻略が行われていないことを感知すると即座にプライベートダンジョン認定が解除され、管理者の冒険者ライセンスも没収される

 

【Tips】プライベートダンジョン(追記:冒険者資格を持たない人物、未成年の入場について)

 

プライベートダンジョンには所有者の許可と最低限Dクラスカード二枚の所持(貸与でも良い)さえあれば冒険者ライセンスを獲得出来ない小学四年生からの入場は許可されている(とある特殊なダンジョン……東京ドームダンジョンやファンタジーランドジャパンみたいなものなら無制限だが)

ちなみにそういうダンジョンでも許可が与えられるのはFランク迷宮迄であり、それ以降のダンジョンにはちゃんと冒険者ライセンスを獲得してからになる

ちなみにプライベートダンジョン所有者が企業などである場合は貸与用の奨学カードなどを多数ストックしているパターンが多く、ごく稀にリンクへの非常に強い適性持ちをこれで探す、という裏目的もあるとかないとか……

 

 

【Tips】美城学園

 

大輝や姫子が通う幼稚園から大学院まで存在するマンモス学園。十八年前の第一次アンゴルモアでサマナーの一人として活躍した美城一族の一人の肝入りで『冒険者育成』の萌芽となった冒険者とアイドルの梁山泊的な学園として有名である

基本的に実力主義的な気質だが良識と倫理観が最優先視されている校風を持つ為かアイドル学園としては以外と長閑である(しかしアイドルや冒険者達は非常に実力派揃いだが)

この学園の生徒(教師)達は確かに良識や倫理観はしっかりしているが……それ以前に非常に灰汁の強い曲者揃いで有名(特に冒険者育成科と芸能育成科の連中は)

この学園施設内にはCランク迷宮が一つ存在し(勿論、ダンジョンマート付きで)。その管理は資本元である346プロダクションのプロデューサー(兼所属冒険者チーム)らが行っている

ちなみにそのチームのリーダーは『剣と声がそっくりなあの強面の御仁』である(勿論、四つ星冒険者資格持ち)



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第二十話 だん☆キャン△(実践編)

何とか型になりました……やはり恋愛系統は難しい


 

ギルマン……南米はアマゾン河にある半魚人伝説を起源に持つアメリカンホラームービーの主役だった怪物の一種。本拠地であるアメリカや南米では日本における河童と同じ様な扱いのDランクモンスターだが日本ではFランクだ

 

それでもギルマン特有の水中移動能力や高速水泳能力、水中からの奇襲は健在で非常に厄介なものである(通称が『劣化版河童』である)

 

ちなみにこの日本製ギルマン……実は『淡水生』で海水には適応しないという特性が存在する

 

そして此処は『海』である

 

Fランク迷宮だと偶にあるのだ、こういう微妙に不適応な環境に存在するモンスターが

 

こういう(人間にとって)都合の良い迷宮がプライベートダンジョンやリゾートダンジョンとして活用される事になる。これもまたシークレットダンジョンと同じ様に『迷宮の撒き餌』だと言う研究者も一定数存在する

 

要は此処のギルマン達は非常に弱体化しているという事だ

 

此処に一般的なギルマンのデータを記載しよう

 

 

【種族】ギルマン

【戦闘力】40

【先天技能】

・淡水魚人:淡水生の魚人、淡水内限定での水中移動、高速水泳、奇襲、治癒促進を内包するが海水内では使用不可

(水中移動:水中に適応する体質)

(高速水泳:水中なら陸上以上に素早く移動可能、水中に居るなら素早さに大規模な補正)

(治癒促進:傷の治りが早くなる)

海水内に居ると逆にダメージを受け、乾いた状態が長時間続くと戦闘力が半減する

【後天技能】

・集団行動

 

 

淡水内に限れば非常に優秀だ、むしろ壊れ性能だと言って良いだろう(沢や川、沼地などに現れるギルマンはFランクでも最強クラスの強敵として悪名高い、実際にこいつらの奇襲で何人もの自衛官達が殉職した時期があった)

 

しかし……海のギルマンは逆に弱い。まるで人間が水中で戦うか何かの様に

 

局地型モンスターというものは得てしてそういう強みとどうしようも無い脆さを宿業として抱えているものだ

 

ちなみに海外の河童も同じ様な状態らしい(Fランク局地型モンスターとして)

 

近類亜種に『サハギン』という海水生半魚人も存在するがそれはまぁどうでも良い話だろう(少なくともこの迷宮に出るモンスターでは無いし)

 

必殺技である水中からの奇襲も身体能力も何もかも封じられては居てもそれでもモンスターはモンスター、そこいらの人間程度ではどうにもならない怪物である……であるが

 

 

「にーさま、今度はこっちを片付けますねっ!」

「了解、俺も手の目に変えて……祝は戻ってくれッ!」

 

 

そんな感じでまるで藁束の様に簡単に吹き飛ばされてカードと魔石が辺りに散らばってゆく

 

このダンジョンはその広さの割には出てくるモンスターはこのギルマン(弱体化)だけな上にその数もそんなに多くはない(ギルマンにとっても不幸なだけの環境だからだろうか?)

 

だからこそこの迷宮は『プライベートダンジョン』となった訳だが

 

この場に出された二人の手札の中ならそれこそ一番肉弾戦が苦手なシルキーの菫だけ、技能を封じて素手でも容易く無双ゲームが出来る程である(この面子の力量ならばこの場が『淡水性の水場』でも大差無かっただろうが)

 

そんなこんなで一時間も掛からずに場のギルマン全てをカードと魔石の小山に変えて全員でそれを回収中の時の話だ

 

今回のこのプライベートダンジョンでは全て……カードも魔石もガッカリ箱の中身も全て『好きに貰って良い』との事だ(所持禁止類魔道具でさえなければ)……今回はカードと魔石は折半、ガッカリ箱の中身は姫子にあげる事になっている(『姫子のトレーニング』という名目があるし……何よりそれは『姫子の強化』にも繋がる事もある。例え下級のポーション一本でも姫子の美容には良い効果を齎すだろう?)

 

一応、最低限の義務としてガッカリ箱の中身は撮影して提出する必要があるけど(管理情報として)

 

プライベートダンジョンの産物は所有者によって色々と取り決めが存在する。大概のこういう行楽用ならば『好きにして良い』というケースが多い。Cランクの資源採取用ならば魔道具や魔石は一旦必ず所有者に渡して買い取りが一般的だろう(希望するなら逆に管理担当冒険者が買い取りするケースも多々ある)。カードドロップは完全に冒険者のものとなるのが一般的だろう(Cランクからのカードドロップは非常に珍しいし管理を担当する冒険者にカードは絶対的な必需品という事もあるし『冒険者の取り分』という不文律になってもいる)

 

そんな訳でこの使い道の禄に無いギルマンカードの山も魔石もそのまま等分割り(端数は姫子に)となった

 

ちなみにこのギルマンカードは『そこそこ優秀な局地戦用カード』だけあって一枚三千円というFランクにしてはそこそこ良い値段で売れる(沢地みたいな淡水域ならば優秀な使い捨て戦力にはなるのだ、ギルマンというカードは)

 

まぁ……この沢山のギルマンカードにも『今すぐやれる使い道』はあるが結構外道な行為なのでやる気は起きない

 

……最低限のモラルだけは捨てる気にはならない。あれはカード達もいい顔はしない(比較的だが外道の)行い故に

 

その『外道の行い』に付いては何れ語る機会もあるだろう、だがそれは今では無い

 

そして二階層でも同じ様にさっとギルマンの群れを撃破から戦利品回収の後に残るは最後のイベントである

 

そう、『ボス退治』である

 

この迷宮のボスは完全ランダム発生型でどんなボスが出るかはさっぱりわからないという少々珍しい仕様になっている

 

ある時はヘルハウンド、またある時はハイコボルト、珍しいものだと最下級のキョンシーや手の目、確認されている中では一度だけだが燈無蕎麦の発生もあったらしい

 

また、今までに二回だけだが『イレギュラー』が出たという話もある

 

今日は警備員の皆さんが(イレギュラー対策に)ちゃんと確認した結果、今回のモンスターはゾンビだったらしい

 

この炎天下の中……でなくてもハズレだ

 

ゾンビ……それはEランクモンスター内でも全世界指折りの不人気モンスターの一種にして『ガチ勢最初の試練』である(不動の一位は勿論グレムリン)

 

『強烈な腐臭を撒き散らす腐乱死体』……これだけで最早説明不用だが実はこのゾンビ、かなりの実力モンスターであるので非常に厄介なのだ

 

ぐずぐずに腐った死体だからか……痛覚なぞ無いし何気に頑丈だわ以外と力強いわ頭を潰さない限り撃破出来ないわで非常に厄介な代物なのだ(特にゾンビの代名詞である『組み付き攻撃』の悍ましさと来たら……)

 

大輝も一度手持ちのDランクが剣……だったオーク一枚の頃に入手した経験があり、一度はその高い能力としぶとさから『使ってみよう』と召喚してみた事もある

 

最初に対時した時は流石の忠臣オークもこの世の終わりみたいな表情をしていたのは印象深かった

 

何体かのFランクカードを使い捨てにして漸く倒した時にはもう大輝もオークも少し泣きそうになったもので、大輝はこの時から真面目に『ちゃんとした武具系魔道具や魔法の重要性』を理屈や知識でなく魂で理解した。と断言している

 

そして……安易な気持ちで『それ』を召喚したツケは召喚した瞬間から即座に取り立てられる事になった

 

『プンギビひぃィぃぃぃぃっ?!!!』

「……ゔぁお”え゛ツっ!!」

 

その強烈な、真夏に数週間密閉放置されてどろどろのぐずぐずに、既に液状化した生ゴミその生ゴミを更に何倍にも何十倍にも何百倍にも濃縮した様な正に地獄の釜底の底深くの様な、敵対時より更に強烈に感じる腐臭悪臭に……それこそマイナススキルになるレベルの強烈な臭いにあの忠勇無双のオークが悲鳴を上げる程だった(大輝も流石に吐いた)

 

即座にゾンビをカードに戻し、その探索が終わったら直ぐにギルドに売り払った(そのカードすら『臭い』と精神的にヤられてしまった為に)……ちなみにゾンビカードは五千円という安さだった(普通のEランクカードは最低でも一万円……ゾンビは需要が殆ど無い癖に供給だけは結構あるが故に。相場に拠っては千円に値下げや『買い取り拒否』すらある程である……ゾンビで五千円ならかなり運が良い範囲だろう)

 

だからこそ今までどんなに安く強くとも『悪臭』持ちである黄泉醜女ややまらのおろちには手出しせずにオーク一枚から堅実にやって来たのである(大輝はそれでも『フェロモン』、『悪臭操作』、『無臭(廉価版フェロモン、臭いが一切しない)』持ちを探して……最近漸く『悪臭操作持ちやまらのおろち』を得られた)

 

黄泉醜女ややまらのおろちは……今挙げたゾンビより尚酷い臭いらしい(ゾンビでも『悪臭系カード入門編』らしい)

 

そして姫子もある意味では『ガチ勢最初の試練』に直面する……いや、既に彼女は『とある事情により当に経験済み』なので(やはり最初は姫子も盛大に吐いたらしい……ゾンビ初遭遇時には)

 

『無言で』翳した左手から炎の塊を生み出してそれをゾンビに投げる。これは姫子が装着している小袖の手の保有、内包する能力『中等攻撃魔法/火炎限定』を姫子の意志で行使しているだけだ

 

こういう『魔法使い系装備カード』を纏うとマスターを擬似的にではあるが『魔法使い』になれると一部では人気が高い(尤も『リンク使い』だとまた別の意味合いでこういうカードを愛用する様になるのだがそれはまた別の話だ)

 

姫子/桜の放った炎の塊は『初等攻撃魔法/炎弾』という火炎魔法の初歩中の初歩である(大輝のジャック・オ・ランタンである燈も良く使う魔法なので大輝も良く知っている魔法だ)

 

しかし……ゾンビという怪物を相手にするなら魔法は非常に有効な手段である。特に火炎魔法はこういう肉体を持ったアンデットには効果的面。だからこそ大輝は『魔法の重要性』をきちんと魂で理解出来たのである

 

一つ星クラスでもちゃんと考えて動ければ(カードへの)無駄な負担は無くなるしカードだって主人に応えてくれる様になるものだという事もまたゾンビが(実践で)教えてくれた

 

机上での授業でもカードの取り扱いやケアについては何度も何度も繰り返し教えられたが……やはり実地実践は大事である(授業をちゃんと受けて『何が大事か?』という知識が無ければ『何を学んだか?』すらわからなくなる事もあるだろうが)

 

……姫子の様に最初から揃えられる手札は形振り構わず揃えてこういう時に余裕綽々とするのもまた正しいと言う事だ(要は大輝の様に『経験』を優先するか姫子の様に『安全』を優先するかのどちらかである)

 

遠距離から火炎魔法一発。ゾンビ退治の際におけるお手本みたいな手順で今日のダンジョン攻略は終了した

 

後は……バカンスの時間である

 

 

皆様は前に挙げた『リゾートダンジョン』という言葉を覚えているだろうか?

 

『リゾートダンジョン』とは、数あるダンジョンの中でも『観光、娯楽目的にも使えるダンジョン』の事だ

 

E Fランクの余り攻略の旨味が無い……しかしビーチや避暑地、ゲレンデになり得る形質のダンジョンはよく冒険者専用の娯楽場として冒険者達が(娯楽目的で)やって来る

 

勿論、最低限ちゃんと冒険者ライセンスを獲得し、少なくともDランクカード一枚が必要な(命懸けの)娯楽施設ではあるが(勿論、偶にうっかり死ぬ者が出るのはご愛嬌)

 

世間にあるキャンプ施設の様に入場料は(プライベートダンジョンでもない限りは)必要無いが……内部には(自衛隊が設置したトイレ以外は)施設なぞ普通は無い(このプライベートダンジョンみたいな豊富な設備があるリゾートダンジョンは非常に珍しいのだ)

 

ダンジョンでの宿泊は基本的に『主に出口、階段周囲にある安全地帯』でのキャンプが主流である……実力者や裕福な冒険者なら『異空間系カード』で宿泊するだろう

 

大輝も一応は『異空間系カード』を持ってはいるが……お世辞にも居住性が良いとは(決して)言えない様な代物しか持ってはいない(殆ど野宿と同レベル故に)。まぁ、唯一出せる食物である蕎麦切りは絶品だしいざという時の簡易シェルター程度にはなる代物ではあるが(どう無理をしても三、四人ぐらいしか宿泊収容出来ない狭い空間しか無い異空間系カード故に)

 

だから今回は大輝が入手したあのキャンプキットを構築してのキャンプである

 

四人から六人ぐらいが適正サイズのオリーブグリーン色をした煙突機能付きベルテントを設営する

 

基本的にコットン生地で通気性はそれほど良くは無いから夏のキャンプには向かない、ついでにペグ(固定用金具)が沢山必要なのが煩雑だが……まぁ、それはそれでキャンプらしいと言えるだろう

 

エアーマットを二人分(もう一つは姫子自身の持ち込み)膨らませて内部に置いた。ついでに流石に暑いからもう戦闘服は脱ぐ事にした

 

エアコンペンダント(ブローチ)を用意すれば簡単だが……あの手の人工魔道具は迷宮に拠っては使用不可能な場所もままあるので姫子も迷宮にあのブローチは持ち込まない事にしている(なんだかんだであのブローチは姫子のお気に入りだから壊れるのが嫌なのだろう)

 

全身に着込んだ戦闘服は……この炎天下では非常にきつい。大輝が菫(姫子のシルキー)に貸した『氷結の魔導書』のおかげで最低限の涼は取れるが、やはりきついものはきつい

 

大輝も姫子も既に戦闘服の下は汗でぐちゃぐちゃになっているぐらいだ。脱げるなら今直ぐにでも脱ぐだろう(『346きっての裸族』として有名な芸能育成科高等部の十時先輩宜しく)

 

『恋人同士』とはいえ流石にまだ『そういう関係(肌を重ね合わせる関係)』になるには(お互いの年齢的にも流石に)早過ぎる為、大輝はちゃんと更衣室に向かおうとした……が

 

 

「流石にもう限界ですわっ」

 

 

などと叫んだ姫子がゴツい戦闘服を脱ぎ捨てていた

 

一瞬呆気に取られたが此処は安全地帯で脱いだのはジャケットと鉄帽だけだ(一応、大輝以外にも男はこの場に居るし)

 

普段の(訓練時の)姫子ならまず絶対にこういう行動は取らない。少なくとも(今の状態程度に)脱ぐなら休憩時かテントの中かだろう(しかも安全地帯限定で)

 

今は『バカンスタイム』であり大輝が側にいる(一応、『他の男』として剣も居るが……彼は菫の方をチラチラ見ているのでまぁ問題ないだろう)から姫子も(外して良いと判断した)ハメを外しているだけだ

 

何気にその菫も剣をチラチラ見ている……剣の(ボアオークにあるまじき)逞しい肉体を。どうやら筋肉がツボらしい

 

朝と同じ彼女の身体にフィットする仕様の(やはり割と下着に近い)黒いタンクトップにメアリー塾メンバー揃いのドッグタグ(米軍式二枚型、首飾り仕様。前には氏名、生年月日、性別、血液型、塾員ナンバー。裏にはメアリー塾のエンブレムという造り)と『保護のお守り』を首から下げている

 

その年齢離れした豊かな双丘がジャケットを脱ぐ拍子に激しく揺れる。汗に塗れて身体にへばり付いたタンクトップが彼女の曲線を更に詳細に魅せてくれる。そして彼女の汗で濡れた肌に張り付いたうなじの金髪や頸のライン。激しい熱で赤く染まった頬……

 

その様子に大輝は……胸のドキドキが止まらないでいた。先に挙げた『346の裸族』とも言われるトップグラビアアイドルを筆頭に知己地縁のある色々なアイドル達や姫子のクラスメイト(こちらも皆アイドル)、自分のクラスメイトである(何気に美少女揃いの)女子達、カタログやテレビに見る女の子カード達を見ても『美人さんだな』とは分かっているがいまいちぼんやりとしか感じないが、近類縁者に美女美少女は多い方だとは思うがやはり姫子だけにしか感じなかった

 

つい最近『本当に姫子と恋仲になった時』以降からは彼女達を見ても誰を見ても殆ど完全に『そういう感情』を抱けない様になっていた……『姫子以外の全て』にである

 

むしろどんなハプニング(いわゆるラッキースケベ現象)も大概姫子関連ばかりが頻発し。偶にそれ以外のハプニングがあろうとも全て脳内で姫子関連に置き換わる始末だ

 

……そう言えば、多少は持っているエロ本も割と姫子に少しでも似ている女の子モンスター物ばかりだったりエロ漫画は幼馴染純愛系ばかり(しかも思い返せばいつの間にか姫子に脳内変換しながら)だった(NTRものは吐き気と脳破壊がきついからまず手出しはしたくない……と言うかぶっちゃけ大嫌いである)

 

まぁ、これから更にドキドキ出来るし素敵なデートの本題に入るのであるが。それはまた次回の話である

 

 

 

【Tips】リゾートダンジョン

『リゾートダンジョン』とは、数あるダンジョンの中でも『観光、娯楽目的にも使えるダンジョン』の事だ

 

E Fランクの余り攻略の旨味が無い……しかしビーチや避暑地、ゲレンデになり得る形質のダンジョンはよく冒険者専用の娯楽場として冒険者達が(娯楽目的で)やって来る

 

勿論、最低限ちゃんと冒険者ライセンスを獲得し、少なくともDランクカード一枚が必要な(命懸けの)娯楽施設ではあるが(勿論、偶にうっかり死ぬ者が出るのはご愛嬌)

 

世間にあるキャンプ施設の様に入場料は(プライベートダンジョンでもない限りは)必要無いが……内部には(自衛隊が設置したトイレ以外は)施設なぞ普通は無い

 

今回のプライベートダンジョンみたいな好条件のリゾートダンジョンは基本的にまず滅多に存在しない……が、大概は出入り口にダンジョンマートがあるから大概の簡易的な買い物や支度は其処で行うから大丈夫だろう




Tips リゾートダンジョン、


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【現地調達?】ダンジョン飯【やめとけやめとけ】

※:一部の食材には元ネタがあります、皆様は解るかな?
※:朝潮氏の指摘により一部改定


此処はダンジョンで食べるものについて語るスレです。

 

※:『現地調達は修羅、変態が自己責任で行うもの』とちゃんと認識しましょう。どの道動物性蛋白質は期待出来ないですから……貴方に昆虫食が出来るなら話は別ですがね

 

298:名無しの冒険者

やはり一番手っ取り早いのは空間系カードかその手のカードが出せる食事だよやっぱり

 

299:名無しの冒険者

でもそれ早く飽きて辛くなるから他のレパートリーとか必須だぜ?

……ウィンチェスターハウスだけどな、俺の空間系

 

300:名無しの冒険者

壺中乃天持ちの俺に死角は無い、しかもヘドンホールハウスからのクラスチェンジだから洋中なら幾らでもいけるぜ

 

301:名無しの冒険者

いやいやそんな高級カードを引き合いには出さないで下さいよ。てか300みたいなブルジョワジーは帰って下さい(ガクガクブルブル)

 

302:名無しの冒険者

やはり缶詰めはオススメ出来ない。空き缶嵩張るしなあれ

 

303:名無しの冒険者

やはり乾燥野菜、それと調味料とオートミールで雑炊が楽で良い……こないだ無限水筒ゲット出来たし

 

304:名無しの冒険者

カード達は鍋囲んでいるの好き、またはバーベキューとか

 

305:名無しの冒険者

いやいやカレーとかも最高だろ?……カード達の嗜好バラバラだから持ち回りで決めてるけどさ

肉だけでも鳥、豚、牛に海鮮から肉抜きと色々あるわルーか粉かとか野菜の編成に辛さ調節と色々あるしな

 

306:名無しの冒険者

酒屋殺しサイコー(飲兵衛感)

 

307:名無しの冒険者

現地調達って何で難しいんでしょうか?教えてエロい人

 

308:名無しの冒険者

>>307……先ずは迷宮についての基礎知識をWikiって見ると良いぞ?

 

309:名無しの冒険者

基本的に迷宮にいる生物は一応居るけどとある理由で一切食用にはならないな。でも植物か虫なら何とか食える(かも知れない)程度だしな

魚や貝も存在はするけどやはり一切食えないんだよな

 

310:名無しの冒険者

ついでに生えている植物も大概雑草雑木判定だからな(つまりとても食えたものじゃない)

 

311:名無しの冒険者

ごく一部の植物……芋みたいな味わいの植物の幹、一部の藻、また一部のキノコや果実、あと根菜類といった『迷宮の食える植物』はある(美味いとは言ってない)

 

312:名無しの冒険者

しかも調理が難しいし間違えたら腹下すことも多いから要注意だしな迷宮植物は

 

313:名無しの冒険者

幾つか代表的な食用迷宮植物について書くぞ(連投注意)

 

逆さ芋

石室、墓地型迷宮に良く自生している根っこに見える植物の幹みたいなもの。基本的に根っこにしてはかなり柔らかいから見分けが簡単な初心者用の迷宮植物

味は……まぁ美味くはない長芋?

 

花藻

色々な迷宮に自生している花みたいな藻。非常にわかりやすくて良い型で味もまるできくらげみたいだから希少な『外でも珍味として通用出来る迷宮植物』

よく『ダンジョン料理』だと言って出される定番だな……普通のきくらげの方が美味しくて安いけど

ギルドでも良く採取依頼があるから新米冒険者の小遣い稼ぎに偶に使われている

 

314:313

 

迷宮茸

基本的に八割以上はクソ不味いけど無毒な茸やそもそも人類には消化不可能な代物ばかりだけどこの迷宮茸は非常に美味……非常に良く似た迷宮毒茸に要注意だけど(解毒出来るならば食べる奴も居るけど。迷宮毒茸もやはり非常に美味らしいし)

ちなみに『毒のある植物』ってのも罠の一種である『毒茨』と同じく非常に珍しい特徴だな。迷宮植物としては

調理するならミドルポーションを一瓶入れてからやれば解毒出来るからオススメだな(標準的な鍋に迷宮茸300gぐらいで)

 

ダンジョンマンゴー

『マンゴーに似ている』ってだけで生態や自生地、味は全く違う代物。非常に高い木に成って味は……主食用バナナ?芋?

食べ過ぎるとマンゴーと同じく被れるから注意が必要

 

迷宮人参

まるで浜大根みたいに砂浜でだけ自生する小型人参……みたいな根菜類?味はえぐみが強い野生種の人参そのものって感じ。ちなみに葉はえぐみが強すぎてどう調理しても食えたものじゃない(普通の人参葉は食用だけど)

 

315:313

 

バカ大根

大根……というより見てくれ蕪だけど一応は『大根』に分類されるらしい(桜島大根みたいなもの?)。何気にかなり大きい(桜島大根に似ている為か?)

味は……桜島大根と違って非常に薄くて水っぽく筋張っているけどまぁ『大根だ』とは解る様なとりあえず食えなくもない不味さの大根もどき

実は地上でも(寒冷地限定で)育てられる珍しい迷宮植物の一種(むしろ現在唯一?)。多分どんな馬鹿でも畑を耕せるならば育てられるほど簡単に育てられる事から『バカ大根』と命名されたらしい。東北、北海道の様な寒冷地ならどんな荒地でも育ち、肥料も殆ど不用だが水だけはそれなり以上に必要らしい

気候の涼しく荒地系統のダンジョンなら結構何処にでもコロニー自生しているから発見は簡単

東北や北海道では第二アンゴルモア時に救荒作物として利用された事もある……育つまで基本的に二か月程度で済むので復興までの主食代わりになっていた事もあるらしい

米の節約としての『バカ大根雑炊』は炊き出しで皆覚えているんじゃないかな?

 

まぁ、代表的な食用迷宮植物はこんなものだろう

 

316:307

>>313ありがとうエロい人

 

317:313

だれがエロやねんwww

 

318:名無しの冒険者

ついでに……迷宮内の昆虫についてだが、基本的に普通の昆虫と大差ないな。蝉は羽根むしって素揚げにすれば食えるしカミキリムシの幼虫は結構マシに食える、バッタもまた悪くない

 

蜜蜂も居るから稀に『迷宮蜂蜜』だって手に入る(基本的に非常に貴重だけど)。ついでに蜂の子や蜜蝋だってある

 

あと非常に貴重だけど『迷宮蜜壺蟻』もだな、同重量の三倍の金で等価の希少食材の奴。熱帯系ダンジョンにごく稀に生息しているらしいあれな

 

迷宮蜂蜜、蜜壺蟻ハンターっていう専門ハンターも居るらしい……ほら、346のアイドルの一人が有名だろ

 

319:名無しの榊原里美ファン

あぁ、『ハニーハンター』こと榊原里美ちゃんだろ?俺ファンなんだよ

……やっべ、普通の蜂蜜で良いから食いたくなってきた。ちょっとパンとヨーグルト買ってくる

 

320:名無しの榊原里美ファン

お前だけには行かせない、俺も逝く

 

321:名無しの榊原里美ファン

やはり近所のスーパーか……いつ出発する? わたしも同行する

 

322:名無しの榊原里美ファン

花京院……

 

(以下、榊原里美ファンに掲示板はジャックされた末の暴走と悪ノリ続出につき長時間脱線……この世界ならアイドル関係だとよくある話だが)

 

 

514:名無しの冒険者

とりあえず…… 榊原里美ちゃんネタはもう禁止な?此処はダンジョン飯のスレだから

 

515:名無しの冒険者

正直すまんかった

 

516:名無しの冒険者

正直すまんかった

 

517:名無しの冒険者

正直すまんかった

 

518:名無しの冒険者

正直すまんかった

 

519:名無しの冒険者

ええんやで

 

520:名無しの冒険者

さっきまでの話に戻るけど……ダンジョン食材は基本的に食えはしても調理を間違えると腹壊すから要注意な(特に茸系統は)

 

521:名無しの冒険者

基本的に生で食えるものとかもあるけど……大概不味いし腹壊すからなあれ(ちゃんと調理推奨)。バカ大根なら生でも食えるけど不味いからオススメはしない、生だと硬くて筋張っているから一番不味いしあれの食べ方として

 

522:名無しの冒険者

アンゴルモア時のバカ大根雑炊の味……あれは暖かかったな。インフラ復活前の真冬だったから未だ覚えているぜ

 

523:名無しの冒険者

あぁ……塩と幾らかの調味料、多少の米に雑穀とバカ大根沢山の。今だとまず食いたくはないけど腹が暖まったな

 

524:名無しの冒険者

一応、迷宮瓜とか迷宮小瓜みたいなものもあるよな?

 

525:名無しの冒険者

あれは……結構限られた迷宮にしか無いからあまり話にはし辛いんだよな

 

迷宮瓜

ごく稀な迷宮に生息する瓜。メロンの半分くらいの体積で味は薄いメロンっぽい(あまり美味しくはない)

でもちょっとした薬効があるからダンジョン素材を扱う製薬会社とかが採取依頼を常に出している

 

迷宮小瓜

やはりごく稀な迷宮に生息するカラスウリによく似た小さな瓜。甘味の無いまるで胡瓜みたいな……でも水っぽい味わい

やはりちょっとした薬効があるのでダンジョン素材を扱う製薬会社が採取依頼を出している

 

Fランク迷宮にも自生しているポイントがあるのでやはり新米やエンジョイ勢の小遣い稼ぎに重宝されている

 

526:名無しの冒険者

迷宮の食用植物には食品として実は結構深刻な欠点があるのは忘れちゃいけないぞ?

 

527:名無しの冒険者

え?72それ詳しく

 

528:名無しの冒険者

『基本的に不味い』以外にも有ったのか欠点って?

 

529:名無しの冒険者

一つの迷宮に良くて3種あれば豊作の範囲だからか?

 

530:名無しの冒険者

まともな味にする為の調理が糞面倒な辺りか?しかもリカバリーしにくい辺りとかも?

 

531:名無しの冒険者

収穫量が少ない辺りか?自生バカ大根以外全てそうだけど

 

531:526

それもあるけど……それより>>527は後で屋上

 

基本的に迷宮食材は栄養価が殆ど無いんだよ。真面目に『一時的に腹を満たすだけ』なんだよな……実は虫すらもだ

 

だから迷宮食材だけでは決して長くは生きられないから要注意だ

……何故か薬としての効果はあるみたいだけどさ

 

532:名無しの冒険者

だから蜂蜜や蟻蜜、迷宮フルーツとかはダイエット食品として大人気なんだよな……美容効果も凄いけど

 

533:名無しの冒険者

迷宮食材の中でも一番栄養価高いのがバカ大根だったりするんだよな。普段は家畜用飼料だけど

 

534:名無しの冒険者

あれ、馬には割と好まれるんだよな……それでも栄養価はお察しだからちゃんとした飼料と一緒に与えないと馬が痩せ衰えるから御用心だがな

 

535:名無しの冒険者

だからこのスレのサブタイみたいになるんだよ、真っ当な冒険者なら必ず食材は持参するか異空間カードを調達するかが必須だしな

 

536:名無しの冒険者

そう言えば……何で虫以外の動物は食用にならないの?

 

537:名無しの冒険者

そう言えば言ってなかったな。皆は『バラムツ』って魚を知ってるか?結構有名な深海魚だが……

 

 

 

今日も冒険者達の四方山話は続いてゆく……



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第二十一話 だん☆キャン△(逢引編)

※:原作魔道具『マーメイドの水着』に対する超拡大解釈が入っています
※:土ノ子様のモンスター設定をお借りしています(承認済み)
※:大輝が盛大に壊れます(ある意味本性を晒すだけ)
※:次のクロスオーバー先(大輝の同胞兼ライバル)の情報が出てきます……わかるかな?


此処は真夏のリゾート型迷宮。まるで沖縄県の離島やハワイの様な澄んだ海面に珊瑚質の浜辺(いわゆる星砂)、空は雲一つ無い青空にカンカン照りの太陽……裸足では火傷しそうになる程熱いビーチにて

 

正に海水浴日和である

 

佐藤大輝も愛用の……『原作主人公と同じ理由(意味浅)』で学校でも愛用している『特別製の水着(実は魔道具)』とTシャツを着用して只今シャワータイム中の姫子とその配下達の準備を待っていた(ゾンビの悪臭は遠くからでもキツイものだし)

 

『この特別製の水着(トランクスタイプ)』なら大輝の『御立派ナル益荒男ノ証(♂)』を抑え隠してくれるし……悪目立ちもしないから大輝にとっては必需品である(しかも今回は『大輝が唯一猛り狂う存在付き』だし)

 

大輝の手札(仲魔)達の編成はエースであるボアオークの剣(レンタル魔道具製水着トランクス型着用)と……ちと助兵衛で大飯食らいかつ酒呑み博打好き、という正に見た目そのまんまな手の目(やはりレンタル魔道具製水着囚人服型着用)だ

 

助兵衛だが女子供には優しい『善き渡世人』であり手の目としての生まれ……悪党の狼藉の犠牲者としての性質からか悪事や理不尽を嫌う好漢だからまぁ問題ない

 

 

『偶には若い娘さんの気配を感じていたいんでさぁ、旦那』

「よし分かった。でも近いうちにちゃんとお前も剣も女の子カードの素敵なお店に連れて行ってやるからな……俺は興味がさっぱり湧かないけどさ」

『私は……いえ、むしろあの菫さんを紹介して欲しいですね。この身体になってから性欲とかかなり落ち着いて来まして……』

「それは良いけど……大丈夫か?お前はオーク族だから下手な禁欲は余り宜しくは無いから気を付けろよ剣?」

『お、青春ですかい剣の兄貴?』

『揶揄わないで下さい手の目、むしろ今性欲が菫さんに全集中しているから拙いんですよ』

「まぁ、スタイル抜群の美人さんだしな彼女。その気持ちは俺も良く解るから安心しろよ剣……でも『発散』だけはちゃんとやろうな?メアリーさんのコネで良いサキュバスのお店宛がってやるからさ」

『そいつぁ楽しみな話でさぁ、これからも気合い入れて頑張りますぜ』

「まぁ……兄弟子の一人が営業している札商の兼業店だから稼ぎがないと大変だがな。多分剣や手の目の次のカードはそっちで買う予定なんだから見積もり序でにかな?どうせまだ先の話だしな」

『むしろ私よりもやまらのおろちを連れて行ってあげた方が良いのでは?彼は……ああですから』

「安心しろ、希望者は皆連れて行くから……普通なら何らかの夢魔系調達して頼むんだが、残念だが俺の体質じゃそれは出来ないしな」

 

 

男三人揃えば何気に猥談……も兼ねた色恋話に花が咲く様だ(むしろ大輝は仲魔のケアと先の展望、自身の体質への愚痴だった気もするが)

 

寡黙な方ではあるが社交性はあるタイプの剣と結構お喋りな手の目と話しながら今の手持ち資産について考える

 

現金なら五百万円、それとカーバンクルガーネットが二つ(魔石や要らない魔道具は殆ど全て売り払ったり魔石買いに使ったので既に無い)、後は何かのカードトレード用素材のケット・シー一枚が現状の『資産』だろうか?(更なる『万が一の予備』としても使えるだろうし)

 

少なくともメアリーさんに依頼したカードはどちらとも少なくとも五百万円以上はするカードなのでどちらとも今すぐにとは行かないだろう(早くてもあと三日は返事待ちだろうし)

 

ちなみに今回のダンジョンアタックでは『非常に良いもの』が出たので姫子も大喜びしている。何しろこれで『大輝とお揃い』になったのだから

 

そんなこんなでキャンプの設営地で炭酸飲料(剣と手の目はビール)を飲みながら姫子とその仲魔達を待つ……

 

一応、他のカード達にも(低級収納持ちのカード達に渡した)差し入れを燈無蕎麦で宴席……と洒落込んではいる筈だ

 

……サイズがデカ過ぎる上に造形がアカンあいつ(やまらのおろち)にもまぁ頭一つ分くらいは出す事は出来るだろうから八本の日本酒(一升瓶八つ)は届いたらしいから良いだろう(暑さに強い奴は以外と少ない面子ばかりだし)

 

酒とオードブル、お菓子と果物は内部の面子には行き渡った、とは連絡役のブラウニーから伝えられた。後はこっちもバーベキュータイムである

 

スタッフが準備してくれていた沢山の肉、野菜、海鮮類を焼き、やはり注文しておいてくれた沢山の塩お握りとお菓子をテーブルに置いて待つ。タレか塩胡椒かは好きに決めろで通す

 

牛肉、鶏肉、豚肉、子羊肉、ソーセージ、厚切りベーコン、玉葱、ピーマン、エリンギ、馬鈴薯、玉蜀黍、南瓜に茄子……そして魚介類色々を3/4/3の割合で焼いて待つ(尤も、まだ火起こしの段階だが)

 

こちらもスタッフが用意してくれたクーラーボックス内には沢山のジュースがある(もう一つ用意してその中にはカード用のビールや日本酒がぎっしりだが)からそれらを熱中症防止の意図でカパカパ飲みながら野菜と魚介類をホイルに包んだり焼きそばを焼く準備をしたり(大輝のクーラーボックスにもまだまだ沢山飲食物はあるし)

 

ちなみにこのバーベキュー、本場アメリカでは大規模な大会が(現実にも)存在するが……この冒険者時代では全世界規模でバーベキューの大会が存在し、その大会出場上位レシピ本は人気が高い(ある意味では実用書なだけに)

 

バーベキューは塩一つでも塩胡椒、ネギ塩、ハーブソルト、ミル挽き岩塩、レモンライム掛けなど色々あるしタレだってメーカーごとに色々あるし醤油やポン酢派だって居る。自作派も含めたら更にごちゃごちゃした事になるだろう

 

バーナーで炭火を起こして金網を設置、そろそろ火加減も良さげな頃合いで姫子達が来た

 

先ず最初に来たのは……姫子の主力である(やはり水着姿である)シルキーの菫と、流石に着物に直射日光は辛いのか小袖の手である桜は離脱して。代わりに菫の肩にちょこんと乗った小さな美女が居る

 

身長はだいたい22㎝其処ら(いわゆるリカちゃん人形サイズ)、栗色のウルフカットで背中に蜻蛉と蝶を足して割った様な透明な翅を持った(そのサイズにしては)豊かなプロポーションをしてはいるが何処か子供っぽい印象を与える女性である

 

その美女は『ハイピクシー』と呼ばれるDランクの中でもかなり人気のカード。大概の初等魔法を使いこなし、特筆すべき点として『同ランク下位のピクシーを無限召喚出来る』という破格の能力を持った強カードである(剣の眷属召喚には制限制約があるが、このハイピクシーにはそれが無い)

 

『とあるゲーム』に出てくる大人気モンスターに良く似ている為か非常に人気の高いカードの一種として有名だ(殆ど女の子モンスターばかりだが稀に男型の個体も存在するらしい)

 

現にその能力である『妖精の輪』で召喚した眷属ピクシー達に辺りの警備を行わせている(当のハイピクシーの縮小版みたいな……身長15㎝の小人達と思えば宜しいだろう)

 

その体躯だから耐久性や白兵戦能力には一切期待出来ないが、後衛役としてならかなりのものだろう(流石にこの場のサハギン程度なら素手でも楽勝ではあるが……眷属ピクシーでも充分なぐらいだし)

 

今は剣の(制限のある)眷属召喚の代わりに十二体のピクシー達を辺りに出して歩哨の代わりにしている……本来のピクシーは自由気ままだが『眷属』だと殆ど自我は無いので命令をきちんと遵守してくれる辺りはメリットだろう(代わりに先天技能が実質一つ消えてしまっているが……そのシステムとの矛盾で)

 

普段はレオタードの上に着崩した和服(ちなみに眷属達はレオタードのみ)、といった独創的かつセクシーな格好だが……やはり彼女達も魔道具製水着姿である

 

菫の場合は普段のきっちりしたメイド服から一変して紺色のキーホールワンピースタイプ。基本的にビクトリアメイドな彼女としてはかなり大胆なセンスである(ビクトリア王朝期の人間に今時の水着……というのは非常に大胆な話だろう)

 

……彼女の視線をそれとなく追えばだいたいの理由は解るだろう(大輝のエースである猪頭のマッチョネスダンディーに行き着く辺りで)

 

そしてハイピクシー……いや、彼女には『撫子』という名前がちゃんと存在するからこれからは撫子と呼ぼう

 

撫子は結構攻めた黒いレイヤードビキニである。身体は非常に小さいがメリハリのある起伏に豊んだプロポーションを持つ彼女には非常にお似合いである……恐らくは346のカリスマギャルモデル兼アイドル(大輝の同級生)のグラビアでも参考にしたのだろう。姫子がファッション雑誌(水着特集)を持ち込んでいたし

 

そして少しだけ遅れて漸く『大輝の本命』が来た

 

 

「にーさま、お待たせー」

 

 

可愛らしい、いわゆるアニメ声で大輝を呼ぶ声が聴こえてくる。大輝にとって十二年前からずっと聞いてきた、けれど決して唯の一度一時たりとも飽きることなく聴きたい声だ

 

重武装だったさっきと違って今は裸足……ちょっとした護符としての効能を持った細い金細工のアンクレット(サンダル程度には脚を防護し、過剰な日焼けを防止するという程度の機能持ち)で足元のお洒落と日差しの防護は万全

 

『天使の輪』が現れる程に艶やかな長い金髪は三つ編みに纏めて愛用の清楚な白い麦わら帽子をちょこんと被っている(菫と桜がやってくれた)

 

首からはやはり『保護』の魔法がかかった金細工に赤い宝石……大輝のものとお揃いのカーバンクルガーネットが嵌め込まれているペンダントと(やはり大輝……や他の同門皆とお揃いの)メアリー塾の特製ドッグタグを掛けて

 

右手には貝殻で作ったブレスレットを(これもまた魔道具だが……その効果はもうすぐ判明するだろう)

 

腰には水着の色と同じ薄いフリルの付いたパレオに……今回のガッカリ箱からの戦利品である『太腿に装着するタイプの黒いカードホルダー』を隠している(まるで女スパイか何かの様に)

 

そして……姫子の水着姿だが、いわゆるフリルとリボンで装飾されたロリータデザインのビスチェビキニという奴である。丈長のブラジャーみたいなタイプの比較的露出の少ないタイプのビキニだ

 

ビキニにしては少し幼く可愛らしいデザインだが、姫子の実際の年齢とスタイルとプロポーションの良さを考えれば良い塩梅になっている

 

色はレモンイエロー、彼女のまだ幼いイメージと実年齢には非常に合うし……そのプロポーションとのギャップが得も言われぬ妖しい色香にもなっている

 

ちなみにこの姫子……だけでなく他の皆全員が着用している水着は魔道具だと言ったが、正確には『人工魔道具:マーメイドの水着』。この魔道具には水中での動きを補助してくれ、息を長持ちさせてくれるメインの効果のほかに、持ち主の望む通りのデザインに変化する効果もついている

 

普段は貝殻を模したアクセサリーで、所有者の意思一つで好きな水着姿に変化する能力を与えるが人間が使用する場合は一度全裸にならないと機能しないという制限がある(カードが使うならその制限は無いが)。先に挙げた姫子の右手のブレスレットや大輝のアンクレット、カード達の首に掛かったネックレスなどがそうだ

 

これも(一応は)人工魔道具なので……勿論、あの悪名高いグレムリンの能力で破損してしまう(カードならば『元の姿に戻る』で済むが、これが人間だと……まぁ、『皆様のご想像通りの結果を迎える』とだけ言わせて頂こう)

 

そしてこのマーメイドの水着には『人工純正魔道具としてのバリエーション』も存在する

 

その名も『理想の下着改』。基本的にはマーメイドの水着のデチューン版みたいな性能だが『人工純正魔道具』なのでグレムリンの悪影響を受けない。あの有名な『エメラルドタブレット社』の独占商品である(マーメイドの水着含めて)

 

機能はとても簡素で『装着者の体型に最高にフィットして体型を無理なく維持、補正してくれる事』と『衣擦れや汗疹などをおこしにくい事』だけである

 

単純だが非常に素晴らしい効能故に初期の『理想の下着』だった頃から世界中の女性からの垂涎の的だった

 

最初はスポーツ下着の上下みたいな代物だったし……『改』と付く仕様になる前はまだ『人工魔道具』だったからグレムリン相手に全損する欠陥を抱えていたりもした

 

ちなみにこの『理想の下着』を元に『マーメイドの水着』は誕生した、という裏話も存在する

 

今では『理想の下着』ならば五万円も有れば普通品質なもの程度ならば直ぐに買えるし……『理想の下着改』や『マーメイドの水着』でも五十万円有れば買える(大輝や姫子の様に非常に裕福な家庭なら自前で所持だって普通にある)

 

ちなみに迷宮からは稀に『マスター用の戦闘服』とでも言うべき人間用装備が発見される事がある。その機能をごく一部解明出来た結果この水着や下着みたいな『衣類系人工魔道具』が

 

最初期の『理想の下着』はセンスも色気も無い様な代物だったがそれでも軽く数百万円以上はしていたものだ(試作品だと一千万円オーバーと来た)……まぁ最初の家電製品などもそういうものだったし今なら一回使い切り分で一万円が相場の下位ポーションだって最初は似た様なものだった(何しろ当時は下位ポーション一つだって『世界各国の軍人達の生命の値段』みたいなものだったから)

 

『人工魔道具の歴史』というものは歴史はまだ浅い割に何気に奥が深い。エメラルドタブレット社やダンジョンマートの様な迷宮最前線企業やニシモリ製薬みたいな迷宮薬品関係のトップ企業の歴史でもあるから大輝や姫子には大切な話だ(実家が保有する莫大な株式やその縁でその大躍進による高い利益を享受する立場として……そして何より、『冒険者』として)

 

前に挙げた迷宮製の桃の木を削って作る木剣……全ては其処から始まり今ではこんな便利な道具が作れる様にもなった

 

日本では海の迷宮から塩造りで『祓魔の塩』という低級アンデッドに見習い状態異常魔法と見習い攻撃魔法をかける程度の効果を与えるアイテムの精製が初の人工(純正)魔道具だったものだ

 

ちなみに今でも『祓魔の塩』は対アンデッド戦ではそこそこ有用なので全世界の(海のある)迷宮で作成されているらしい(庶民の財布にも優しいアンゴルモア対策として……基本的に塩は腐らないもの故に)

 

 

閑話休題(それはさておき)

 

 

姫子の(可愛らしい)水着姿を見た大輝は……つとめて平常心を保つ様にしながら内心では滾り狂う情動に必死に栓していた

 

……要は『ルイズコピペ』という奴である

 

 

『姫子!姫子!姫子!姫子ぅぅうううおぁああああああああああああああああああああああん!!!

あぁああああ…ああ…あっあっー!あぁああああああ!!!姫子姫子姫子ぅううぁわぁああああ!!!

あぁクンカクンカ!クンカクンカ!スーハースーハー!スーハースーハー!いい匂いだなぁ…くんくん

んはぁっ!姫子のハニーブロンドの髪をクンカクンカしたいお!クンカクンカ!あぁあ!!

間違えた!モフモフしたいお!モフモフ!モフモフ!髪髪モフモフ!カリカリモフモフ…きゅんきゅんきゅい!!

今この瞬間の姫子かわいいよぅ!!あぁぁああ…あああ…あっあぁああああ!!ふぁぁあああんんっ!!

今日のデート楽し……いやぁああああああ!!!にゃああああああああん!!ぎゃああああああああ!!

ぐあああああああああああ!!!この瞬間は夢!!!!あ…こんな完璧すぎる美少女なんてよく考えたら…

姫 子 は 現 実 じ ゃ な い?にゃあああああああああああああん!!うぁああああああああああ!!

そんなぁああああああ!!いやぁぁぁあああああああああ!!はぁああああああん!!アンゴルモアぁああああ!!

この!ちきしょー!やめてやる!!冒険者なんかやめ…て…え!?見…てる?今姫子が 俺を見てる?

リアルの姫子が俺を見てるぞ!今十二歳になったばかりの姫子が俺を見てるぞ!可愛らしいレモンイエローのビキニ姿の姫子が俺を見てるぞ!!

現実の姫子が俺に話しかけてるぞ!!!老若問わず三千世界全ての姫子が俺を見ている?!!!よかった…これは現実なんだねっ! (最後だけ妄想です)

いやっほぉおおおおおおお!!!僕には姫子がいる!!やったよ父さん母さん、おじさんおばさん、メアリー師匠、由竹兄さん、高和兄さん、ハジメ、浩介、幸利!!ひとりでできるもん!!!

あ、姫子おぉおおおおおおおおおおおお!!いやぁあああああああああああああああ!!!!

 

ううっうぅうう!!ヒャッハー俺の想いよ姫子へ届け!!目の前の姫子へ届け! 』

 

 

何気に内心は(姫子が関わる限り)こんなもんらしい……ちなみに姫子も実は同じ様な内心を抱えていたりする辺り真面目に業の深さでは似たり寄ったりな恋人同士である(先の長台詞の『姫子』を『にーさま』に変換するだけで大体合っているだろう……『髪』を『胸板』とかに変換すると尚良し)

 

常に常識と良識で蓋が出来るだけ上出来だろうが

 

……まぁ、こういうお馬鹿な本性を隠し持ったこの(秘匿型)バカップルのデートはこれからが本番である

 

 

 

まだ次回に続く

 

 

【Tips】マーメイドの水着と理想の下着

 

『人工魔道具』というものの歴史を語る上ではかなり重要なものがこの『理想の下着』である。かの有名なエメラルドタブレット社が大迷宮時代の比較的初期の頃合いに開発に成功した大ヒット商品がこれだ

 

女性下着というものは少女期なら成長で直ぐにサイズが合わなくなったりするものだろう(特に成長の早い者だと)。妊娠や加齢などで体型が変化する事だって普通だし、女性下着には身体にフィットさせなくてはならない性質上汗疹や衣擦れによるダメージは常に深刻な問題となる

 

この人工魔道具の発明はそんな女性下着の問題を根本的に解決してくれた……ついでに体型維持能力も高いので世界中の女性から絶大な支持を得る事が出来た(ごく一部のダンジョンアンチ以外からは)

 

この女性支持がエメラルドタブレット社や迷宮関連企業への期待の種火(他にも沢山あるが)となり……第二次アンゴルモアの災禍も相まって迷宮関連企業は世界的に評価されて現在の様なトップ企業へと躍進を果たした

 

ちなみに……この『理想の下着』関連の技術は全世界のランジェリーメーカーがライセンス使用料をエメラルドタブレット社に支払っての販売形態をとっているらしい(エメラルドタブレット社に下着作成のノウハウなぞ全く無いから当然である)

 

それと……『マーメイドの水着』は通常の水着メーカーとは(今の処は)競合せずに別々になっている(『マーメイドの水着は高級品過ぎる』が故に普通の水着とは別の代物扱いとして)

 

基本的にまだまだ『マーメイドの水着』はセレブか冒険者専用という意味である




Tips マーメイドの水着と理想の下着

※:今回初登場の撫子さんは『アバドン王仕様のハイピクシー』と言っておきます(勿論、かなり珍しい仕様……原案元並みに)

・姫子のカード達の名付け由来と花言葉
桜=その着物としての柄と『精神美』『優美な女性』より(『純潔』という意味もあるが苦界出身では皮肉にしかならないのでこの花言葉は想定外だった)
菫=その髪の色(光加減)から。菫全般的に『謙虚』『誠実』、紫菫には『貞節』『愛』より
撫子=非常に珍しい『和服ハイピクシー』であり、彼女のイメージから付けた。基本的な花言葉は『無邪気』『純愛』、彼女の更なるイメージから白撫子ならば『器用』『才能』
姫子の名付けは『花縛り』となる

・大輝のカード達の名付け由来
剣(つるぎ)=『佐藤大輝の剣(にして相棒)』として(実際には斧使いだけど)
祝(はふり)=性別は雌で実年齢がお婆ちゃんなので古びてはいても雅やかで縁起の良い名前を考えた結果
巌(いわお)=元々が岩石のゴーレムであり、荒々しい程に堅く強い様を示す意図から
燈(ともしび)=元々が提灯お化けであり、その炎で大輝や姫子の往く道を照らして欲しい願っての命名
大輝の名付けは『漢字一文字縛り』となる


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第二十二話 だん☆キャン△(白夜編)

※:開幕姫子の壊れシーンから入ります
(何気に特殊タグの初使用込み)
※:漸くアンケートの結果が出せます(圧倒的だったけど)
※:百均様の公式【Tips】を転載使用しました(承認済み)


姫子サイド

『にーさま!にーさま!にーさま!にーさまぅぅうううにやぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁあん!!!

 

……以下、姫子の『乙女の尊厳』の為に強制カット

 

 

そんな(内面の)暴走沙汰は二人ともおくびにも出さずポーカーフェイス……いや澄し顔で楽しく健全なデートを楽しんでいた

 

安全が為に姫子は小袖の手を纏い、大輝は最近入手した一反木綿を纏っての海水浴(水着姿に羽織りを纏って海水浴する美少女とやはり水着姿に木綿の晒しを腹に巻いて海水浴する細マッチョという奇妙な光景はさておき)

 

その晒しの持つ能力で空中移動したりその晒し状態を解いた一反木綿にタンデム乗りで夏空を飛んだり(お互い密着状態を愉しんだり……スタイル抜群な美少女の密着である。そりゃ天国体験だろう)。普通に砂遊び(剣埋め)したりと海を満喫していた

 

それぞれのデッキに在るカード達にバーベキューを楽しんで貰ったり、二人もやはりバーベキューで舌鼓を打ったりと楽しく健全なデート(とカード達への慰労)を楽しんだ

 

 

そして真夜中

 

 

時計ではもう丑三つ時という奴だが此処は迷宮。常に真っ昼間の真夏の快晴である

 

迷宮の中は常に現れた時と全く同じ状況を維持し続けている。土砂降りの雨が降る迷宮ならば常に土砂降りの雨。豪雪地帯ならやはり豪雪地帯。夜なら常に夜といった塩梅だ

 

こういう常に昼間の迷宮での夜は(冒険者界隈では)俗に『迷宮白夜』と呼ばれている(ちなみに常に夜の迷宮の昼間ならば『迷宮極夜』となる)

 

少なくとも冒険者でプロを目指す気概があるのであれば……先ずはどんな状況でも直ぐに眠れる能力と直ぐに起きれる能力は必須だろう(要は早寝早起きは冒険者の資質)

 

それでも非常に暑い環境なのでやはり寝苦しいのは仕方ないだろうが(本当の探索ならば……今の様に水着にTシャツ姿ではなく殆どフル装備で眠る訓練になっただろうが)

 

二人の眠る寝台の側にあの魔導書で作った氷塊を盥に入れたものが置かれて(吹いてくる潮風も相まって)涼となっていた……がそろそろ溶けてきた様だ

 

多分……もうすぐあの魔導書を貸した菫が来るだろう頃合いだろうか?と思って隣を見ても姫子が居ない?

 

テントから這い出て外を見れば……大輝と同じく昼間の水着にTシャツ姿で直ぐ側のチェアに座って側の机に何枚かのカードを並べていた

 

大輝が側に居たらまず見せないだろうアンニュイな表情をしていた(大輝もそれはそれでドキドキだ)

 

オーク、スパルトイ、河童、トムテ、リビングアーマー、レッサーデーモンといった『男型、男性人格持ちのカード』を何枚か並べて思案に耽っている様だ

 

大輝は姫子がそのカードを持って思案に耽る理由がわかっている……『大輝自身と殆ど同じ理由だから』である

 

 

要は『姫子が男性型カードに対する重属性不適合者だから』である

 

彼女が両親から貰った十何枚かのDランクカードのうちの数枚……今に挙げた机の上のカード達は……彼女にとっては『召喚すら不可能』なので資産として運用するしか無い代物ばかりだ

 

思い起こせば姫子が初めてカードを使……おうとしたのはあの『ファンタジーランドジャパン』の開園式の時だった。第二次アンゴルモアの災禍から日本が立ち直って暫くの頃

 

当時まだ五歳だった姫子に貸し出されたシルキーとハイピクシー……例のあの二枚を初めて召喚した際に即座に『リンク能力』に目覚めたりしてリハーサル時は大騒ぎになったものだ(ちなみに大輝にも選んだガルムやカーシーが貸与されていたがまだ普通の反応だった……直ぐに懐かれはしたが)

 

ちなみに姫子はこの時まで『リンク』の事を何一つ知らなかった事を明記しておく

 

その騒ぎから姫子は即座にメアリー塾に入塾が認められたり……リンク能力のテストの際にまた『重属性不適合体質』が露見したりといったエピソードが存在する(その為、実はメアリー塾の塾生としては姫子の方が『姉弟子』という事になる。僅差ではあるが)

 

彼女のその(『完全な独覚型若しくはギフテッド』としての)才能と特異体質が相まって何度か(特例行使かつ自衛隊の手厚い護衛付きで)迷宮攻略は経験済みとなっているのが多少なりとも場慣れしている理由である(属性不適合体質は前にも言ったが非常に希少な特異体質なので自衛隊もギルドもダンジョンマートもエメラルドタブレット社も……全世界がデータは喉から手が出る程欲しい、という訳だ。無論、今挙げた組織達は姫子のプライバシーと身の安全の為に厳重な守秘義務契約を結んでのデータ提供だが)

 

その際に姫子の両親が(大輝の両親と一緒に)姫子の先を考えた結果……余りのDランクカード全てと『万が一の保険』を幾つか渡してもいるが(『保険』は上司……ダンジョンマート社長から格安でせしめて来たらしい)

 

ちなみにその保険とは……『魔人のランプ』と『カラドリウスの糞』と『アムリタ』と『緊急脱退のカード』である(全てカード化済み)

 

……合わせれば下手なBクラスカード位は買える様な高価な代物ばかりである(実は大輝も同じものをカード化して持たされているが……勿論緊急用であり、『イレギュラー遭遇』みたいな特に危険なアクシデントとかでもない限りこれに手を付けたら『冒険者廃業』という約束まである)

 

ちなみに当時の大輝は『筆記試験に合格するか高等部に入る迄は決してカードに触れない』と誓って筆記試験合格の為に猛勉強しながら身体を鍛えていた(リンク能力は普通みたいだから……先ずは己から鍛える事にしたのである……両親に早いうちからの冒険者資格獲得許可を得る為の準備も兼ねて)

 

要は姫子とは別のアプローチで冒険者を真剣に目指す事にしたのである

 

そして……その難関試験に合格するという試練を越えてもう一度カードを持つ資格を己に赦して厳選したオーク一枚を握りしめて冒険者となって今現在に至る(嘗てのガルムや)

 

しかし姫子は今の大輝の様なテレパス程度では無い。メアリーさんや周囲の話では彼女は既に更に上の『シンクロ』を非常にハイレベルに熟せているそうだ

 

この『シンクロ』というものは……『リンク技能の基本にして奥義』とでも言うべき技術だ

 

シンクロは、自分の意思をカードに乗せることで思い通りにカードを操る技術だ。これによりテレパスによる指示よりもずっと繊細な行動をカードにさせることが出来る

 

しかし……その反面人間の体ではありえない肉体の変化などには対応しにくいという側面もある

 

例えば獣型のモンスターや、体の一部分が他の生物になっているようなモンスターだと、カードに動きを任せた方がよっぽど上手く行くことも多い

とは言え、それはあくまでシンクロの表面的な部分に過ぎない。この技術の神髄は、カードの真の力を発揮させることにある

 

ちなみにその『カードの動きを操る』という効能を突き詰めたシンクロ技術『マリオネット』というものもあるにはあるが……その性質上デュエリスト以外のマスター達からは『邪道』として忌避されている(デュエリストには割と必須技能だが)。典型的なプロフェッサースタイルの大輝や姫子にはあまり必要の無い技術だが

 

通常、カードはその力を50%程度しか発揮できていないとされている。これは、カードの力が常に半分程度マスターのバリアに使われている為だ

シンクロはそのバリアに使われているエネルギーをカードに戻すことで、戦闘力の制限を解除する技術なのである。意識の共有やテレパスなどは、あくまでその副産物というかオマケでしかないのだ。

 

……当然、これにはマスターのバリアが薄くなるという欠点がある。

 そのため、シンクロによる戦闘力の向上はここぞという時の切り札として扱われるのが普通だ(この迷宮で姫子が全くシンクロを使わなかったのはそれが理由である)

 

例外は、魔道具によってマスターが保護されているコロシアムなどで、ここではむしろシンクロを使いこなせなければ戦いにすらならない……と大輝は金長さんや他の兄弟子達から教わっている……ちなみにメアリーさんはデュエリスト経験は全く無い

 

シンクロはテレパスに比べてかなり難易度が高く、姫子だと(絶好調なら)三体ずつシンクロが可能で、その力も7〜80%程度迄は調整出来るらしい(三体シンクロはやると後で酷い頭痛に悩まされるらしいが)。これが熟練者ともなると、パーティー全体にシンクロを使うことができるとも聞く。ちなみに大輝が聞いた話では金長さんなら四体までなら99%のシンクロが普通に可能らしい

 

一部の熟練冒険者は『リンク技能はテレパスとシンクロを極めるのが最優先、他は全て余技に過ぎない』とも言っているがある意味では真理だろう

 

今の大輝だと……どう頑張っても名付けした一体と60%がせいぜいだ(手の目のサポートを受けて……である。しかも今の段階でシンクロを行使すると姫子と同じく酷い頭痛に悩まされる)が大輝の習熟期間と成果ならば『非常に有望』だと言っても良いだろう(知っていても『テレパスのとっかかり』を得るだけでさえ一年だって本来なら早い範囲故に)。曲がりなりにもシンクロの触りだけでも出来るだけ凄まじい話である

 

少なくとも今の大輝は『ちゃんとしたテレパス』が普通に出来る様になるのが課題だろう(先ずは手の目のサポート無しでも……である)。手の目のサポート無しでは名付けカードかあのキキーモラとの短期間短時間のテレパスがやっとだし(長時間、長距離で無理にやると頭痛や鼻血、二日酔いにも似た症状に悩まされる)

 

何度でも言うが……訓練半年未満で『これ』なら非常に将来有望である。この実績だけでもプロチームからの持参金付きスカウトが何件かは確実に来るだろう(姫子の場合?自衛隊からもギルドからも熱いラブコールの嵐である……『メアリー塾』と『ダンジョンマート』の看板に守られているから無駄だけど)

 

姫子の冒険者としての進路先……それは既に確定している。それは非常に簡単な話で

 

 

『大輝が何れ作るプロチームへの所属』

 

 

唯それだけである

 

 

閑話休題(それはさておき)

 

 

アンニュイな姫子の向かいにあるビーチチェアに座った大輝は……自身のホルダーから二枚のカードを無造作に取り出して姫子の前に見せる

 

ケット・シー、ヒッポグリフといった大輝が『二軍候補』として調達したカード達の一部である

 

 

「……なぁ姫子、カードトレードやらないか?」

「良いの?にーさま?」

「お互い良い使い道の有りそうなカードは腐らせるよりも使うべきだろ?」

「確かに……私も前から空戦能力持ちは欲しかったけど……大丈夫?」

「なぁに、俺には一反木綿が居るから大丈夫大丈夫」

 

 

『カードトレード』とは……読んで字の如くカードの交換だ。例えば○○が欲しいから持っている者と自身の所有する等価の✖️✖️を交換して貰う……TCGを嗜んだ経験がある方なら分かるだろう行いだ

 

基本的にトレードするカードは等価交換が原則であり……その原則を破る輩は『シャークトレーダー(要は詐欺師)』として冒険者界隈で忌み嫌われるだろう(莫大な金銭によるやり取りなので現実のカードゲームのものとは訳が違うのである……基本的に百万円単位だと言っても良い取り引きだけに)

 

例えば……基本的にCランクとDランクのカードは売却価値からして違うだろう(Cランクは最低限にでも市価の半分、Dランクは市価の十分の一……市価でトレードしたらどうなるかは分かるだろう?)。他にも瑕疵カードである事を隠してのトレードなどもそうだ(原作でも【Tips:某サイトにおけるマイナススキルの評価基準】のうんこっこスキルの記載にもあったあれである)

 

今回は双方Dランクカードだけであり、また瑕疵も無い通常品質だけの構成だ……ならば後は値段だけで考えて良いだろう

 

ケット・シーはだいたい市価六百万円、ヒッポグリフなら七百万円が妥当な価格であり……一方の姫子の手札であるオーク、河童は百万円の奨学カード、スパルトイとレッサーデーモンならそれぞれ三百万円、トムテは六百万円……リビングアーマーならば八百五十万円といった所か?

 

先ずはケット・シーとトムテの交換が決まった……実はこれが大輝の手札であるブラウニーのクラスチェンジ先であり、大輝がメアリーさんに頼んでいたカードの一枚でもある

 

このトムテというカードは……平たく言えば『サンタクロースの原型』である。北欧はスカンジナビア半島に存在する良い妖精の一種であり、働き者の農家を守護すると言われている

 

少なくともブラウニーよりはマシな服を着て、必ず立派な赤い帽子を被った髭の長い四本指の小人の姿をしている。と言われている

 

性格は優しくはあるが非常に気難しく……粗末に扱ったり怠け者に堕ちればその家を容赦なく見放すドライさと悪戯には必ず仕返しを行う執念深さを持っている。言わばスカンジナビア半島的な座敷童みたいな存在でもある

 

この妖精はポリッジ(ヨーロッパ式の主に麦から作る粥)を好み、ユールの日(要はクリスマス)に必ず供える必要があるとされている

 

スカンジナビア半島がキリスト教化したときには一時は『悪魔扱い』されたりもしたが神仏習合の結果サンタクロースの一側面となった。その結果が今この場にあるカードである

 

基本的にあまり強いカードとは言えないが、少なくともブラウニーよりかは可愛い姿かたちであり……何より最初から『低級収納』を持った優秀なサポート役である(その見た目からか割と女性人気は高いのもあるが)

 

ちなみにケット・シーはアイルランドの猫の妖精、人間の様に二足歩行し流暢な会話能力を持ち魔法すら操るとされている。この伝承を元に『長靴を履いた猫』は創作されたとも言われている

 

ちなみにカードとしてのケット・シーはスピードタイプのアタッカーらしいが魔法修得の可能性もまた高いらしい

 

大輝が持っているタイプは標準的な翠色の瞳をした黒猫型である

 

この二枚ともう一つ……大輝のヒッポグリフと姫子のスパルトイ、レッサーデーモン、河童のトレードもまた成立した

 

姫子も昼間のデート(空中遊泳)で『空戦能力』はやはり必要だと肌で理解したと言っていた……今回のデートはやはり得るものばかりで何よりである。お互いに良い強化が出来た事だろう……姫子にはまだオークとリビングアーマーが残るがまぁまた何時かトレードに使えるだろう

 

 

『明日はちょっとだけでも姫子とレースごっこでもやってみようかな?』

 

 

そんな事を考える大輝だった

 

 

 

 

【Tips】テレパスとシンクロ

 マスターとカード間の感覚や感情を共有する技術をリンクの中でもテレパスという。テレパスはリンクの初歩中の初歩の技術であるが、これをさらに深化させることにより感情や感覚だけでなくマスター本人の意識そのものまでカードに乗せることができるようになる。これが、リンクの第二段階——シンクロである。

 マスターとカードが同一化を果たすことにより、マスターは自分を守るバリアからカードへとエネルギーを回せるようになる。これにより通常はバリアの維持により半分程度の出力しか出せていないモンスターが、本来の力を発揮できるようになる。

 初歩にして奥義となる技術。テレパスとシンクロを極めれば他のリンクは不要と言う冒険者もいる

(※:公式より百均様の許可を頂いて転載)

 

【Tips】カードトレード

読んで字の如くカードの交換。例えば○○が欲しいから持っている者と自身の所有する等価の✖️✖️を交換して貰う……TCGのものと基本的には同じもの

 

基本的にトレードするカードは等価交換が原則であり……その原則を破る輩は『シャークトレーダー(要は詐欺師)』として冒険者界隈で忌み嫌われるだろう(莫大な金銭によるやり取りなので現実のカードゲームのものとは訳が違うのである……基本的に百万円単位だと言っても良い取り引きだけに)

 

例えば……基本的にCランクとDランクのカードは売却価値からして違うだろう(Cランクは最低限にでも市価の半分、Dランクは市価の十分の一……市価でトレードしたらどうなるかは分かるだろう?)。他にも瑕疵カードである事を隠してのトレードなどもそうだ(原作でも【Tips:某サイトにおけるマイナススキルの評価基準】のうんこっこスキルの記載にもあったあれである)

 

勿論、これも魔石取り引きと同じく冒険者ギルドはこの行為に纏わるトラブルには一切合切関与しない(やっても弁護士の紹介ぐらいだろう)。魔石取り引きもカードトレードも根本的に全て『自己責任』である

 

【Tips】トムテ

北欧(スカンジナビア半島)におけるサンタクロースの原型、働き者の農家を守護すると言われている。少なくともブラウニーよりはマシな服を着て、必ず立派な赤い帽子を被った髭の長い四本指の小人の姿をしている。と言われている

 

性格は優しくはあるが非常に気難しく……粗末に扱ったり怠け者に堕ちればその家を容赦なく見放すドライさと悪戯には必ず仕返しを行う執念深さを持っている。言わばスカンジナビア半島的な座敷童みたいな存在でもある

 

この妖精はポリッジ(ヨーロッパ式の主に麦から作る粥)を好み、ユールの日(要はクリスマス)に必ず供える必要があるとされている。特に『ユールグロット』と呼ばれている米を使ったものにバターを入れたものをお椀一杯たっぷりとである(ちゃんとやらないと酷い悪戯をしたり隣の農家から食糧を盗んだりするらしい)

 

この地点ではまだ『貰う側』だった

 

スカンジナビア半島がキリスト教化したときには一時は『悪魔扱い』されたりもしたが神仏習合の結果サンタクロースの一側面となった(サンタクロース化した状態を『ユールトムテ』と言う)。その結果が今この場にあるカードである(ユールトムテはスカンジナビア半島限定でトムテの上位互換カードとして存在する)

 

基本的にあまり強いカードとは言えないが、少なくともブラウニーよりかは可愛い姿かたちであり……何より最初から『低級収納』を持った優秀なサポート役である(その見た目からか割と女性人気は高いのもあるが)。トムテは納屋や食糧貯蔵庫に棲むとされている為だろう

 

最初は強化ブラウニーみたいなスペックだが成長すると職人系技能を獲得したり稀に運勢操作系技能を獲得したりもする。斥候役としてなら即戦力枠だが

 

基本的には妖精だが……キリスト教に貶められていた時期の影響で『悪魔』としての素養も僅かながら存在する(約束への真摯さと仕返しの酷さ以外ではまず出てはこないが)

 

【種族】トムテ

【戦闘力】130

【先天技能】

・中級家妖精(農):人間の代わりに家事をしてくれる妖精。……が、迷宮内では家などないためいまいち使いどころは不明。農夫、中等家事魔法を内包

(農夫:農家として必要な技能を一通り習得している証。獣の世話なども可能)

・下級収納

・下級状態異常魔法

 

基本的に作業支援や農業(特に家畜の世話)が得意なのであまり戦闘能力には期待しない方が良いだろう

 

 

【Tips】ケット・シー

アイルランドの伝承にある猫の妖精。人前ではただの猫だが、本性は二本足で人間のように動き、言語と魔法を操る種族とされる。『猫の貴族』とも呼ばれるが、宗教の影響で悪魔扱いされた時期もある

 

貴族的か道化師的かのどちらかの振る舞いが基本的なケット・シーだとされている

 

カードとしてなら基本的にはスピードタイプのアタッカーだが魔法技能獲得もかなりしやすい駄目『魔法戦士』としての運用にも期待出来るし割と器用なので育て方次第では斥候役にも充分なれるオールラウンダー

 

妖精かつ猫の要素でクラスチェンジはその辺りから考えると良いだろう

 

【種族】ケット・シー

【戦闘力】150

【先天技能】

・猫妖精:猫型妖精、猫の基本的な能力、特性と魔法への高い適性を示す

・武術

・爪牙強化

後天技能には必ず一つは魔法が入る

 

 

【Tips】レッサーデーモン

『下級の悪魔』という概念そのもの。基本的に山羊頭で筋骨隆々の黒い全裸の大男の姿をしている。基本的に戦闘行為以外にはあまり使えない(オークと同レベルで)

 

一応はオークの上位互換扱い多少の魔法なら成長次第で扱えるしオークより少しは頭が良い

 

高位悪魔の眷属としてよく見かけるがこうしてちゃんとカードにも存在している

 

【種族】レッサーデーモン

【戦闘力】150

【先天技能】

・集団行動

・頑丈

・怪力

後天技能には武術や何らかの魔法(攻撃、状態異常限定)を習得する事が多い。稀に『飛行能力』を得られる個体も現れる事がある



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第二十三話 無明を往きて切らば、その果てに我は定めを識る

恋愛やデートはやはり難しかった

『名付け』を一番詳細にやってみた……これで『第一部の大詰め』が出来る

※:百均様の公式【Tips】を転載使用しました(承認済み)



 

その後は姫子と二人で眠り……あの薄着(水着姿)で抱きつかれてだったからこっそり『スリープクラウド』のマジックカードで姫子も巻き込んで強制的に眠りについた(もしも意識を残していたら……多分だが『大変な事』になっていただろう。流石に『中学一年生の母』は洒落にならない、いわゆるウサミン案件の極みだと言って良い古い鬱ドラマ『十四歳の母』展開なぞマジで真っ平御免被る)

 

そこそこ良い値段のカードだが理性が灼き切れる前に行使したのは英断だったと自認する

 

『ちゃんと準備が出来た状態』ならば今すぐにでも魂に隠した常に荒ぶり姫子に狂う狼さんが解放出来るけど……今はまだ流石に早すぎる

 

次の日も姫子と一緒に元気に(一反木綿とヒッポグリフによる)レース遊びをしたり泳いだり新規発生したボスの始末と色々やって昼過ぎには帰宅

 

そして直ちにメアリーさんに連絡してから『トムテの件』について話をしにいった……が、メアリーさんは既に『姫子の手札事情』なんぞちゃんと把握していたから問題は一切無かった(『この二人ならこうなる』と最初から予測していたらしい)

 

正式に『懸衣翁』の取り寄せ依頼ととある魔道具の買い取り後は家でゆっくり休んで決戦準備である

 

 

何事もなく二つ星昇格試験の舞台であるあの迷宮に戻りブラウニーをトムテにクラスチェンジさせる……勿論成功だ

 

次にやるべき事は……勿論、『名付け』である

 

 

『蔵(くら)』

 

 

大事な荷物運搬係にして斥候役……次のクラスチェンジではとある『鍛治職人な妖怪』にする意図を込めての命名である

 

まだまだ殆ど喋る能力は無いが蔵は喜んでくれたしカードにも名前がちゃんと記載されているから一安心だ

 

 

【種族】トムテ(蔵)

【戦闘力】200(70UP!)

【先天技能】

・中級家妖精(農):人間の代わりに家事をしてくれる妖精。……が、迷宮内では家などないためいまいち使いどころは不明。農夫、中等家事魔法を内包

(農夫:農家として必要な技能を一通り習得している証。獣の世話なども可能)

・中級収納:物を収納できる内部空間を持つ、中級は十畳程度程の広さ(CHANGE!)

・中級状態異常魔法(CHANGE!)

【後天技能】

・中等罠発見/解除

・器用性強化

・鋭敏感覚

・初等支援魔法

・妖精のお節介(NEW!)

 

 

……よもやよもやである。まさかこんなに早く収納が強化されるとは驚きだ。『名付けが成立した瞬間』にカードが輝いて下級収納が中級収納に格上げしたり『妖精のお節介』を新規獲得したりと色々あるものだ

 

ブラウニーだった頃の経験と習合した結果なのはわかるが……また珍しい話である

 

次は……色々な意味で問題児なあいつだ

 

 

『主人殿、初の召喚でありますな?それと一昨日の酒精まだありますか?』

 

 

……代表らしい『首?』からそんな声が聞こえてくる。見てくれの割には非常に礼儀正しい性格らしい(大蛇らしい酒好きさはともかくとしてだが)

 

このやまらのおろち、何気に涼やかな良い声をしている

 

普通のやまらのおろちは非常に烏賊だか栗の花だか臭く、そして基本的にそのなりに相応しい下品な性格なのだが……まぁ礼儀正しい分には良いだろう。少なくとも大輝はこいつの(最悪な)外見を受け入れる覚悟はちゃんと定めて購入したのだから

 

大輝には彼の相方である『いやだひめ』はまともに召喚出来ないからちゃんとその辺りも含めて話し合いが要るだろう。彼の要望などもちゃんと聞かなくてはならない(マスターとして)

 

『私の……要望ですか?』

 

やまらのおろちは真面目に考え込んで……そして真顔……顔?蛇というよりは亀の顔で絞り出す様に願いを言った

 

『この……卑猥な姿じゃなくてちゃんとした蛇になりたいです』

 

……確かに、確かにそれはそうだ。真っ当な羞恥心があるならそうだろう

 

『更に……更に願うなら、私の本来のあの姿になりたいです』

 

 

『八岐大蛇』

 

 

ネイティブならば文句なしのAランクカード相当だろう。民間人では決して入手出来ない超絶たる国家の切り札にして世界全てを探しても十数枚あるかどうかの秘宝そのものである(実在するかどうかの情報すら怪しい代物だが)

 

海外版ならBランクでも存在するだろうが……大輝が知る札商でもこれは流石に厳しいだろう(発見だけでさえ年単位は覚悟しなくてはならないし、購買ともなれば何十億もの大金が必要とされる)

 

ちなみに似た様なBランクモンスターに『ヒュドラ』がいるが……日本で手に入るバージョンでも売却価格二十億。最低限中の最低限価格でこれである

 

四つ星にでも成れば頑張れば何時かは届くだろうが……大輝の回答は

 

 

「今はまだマイナーチェンジすら無理……だが、ちゃんと頑張れば俺もお前たちに応える。少なくとも絶対にちゃんとした龍だか蛇だかにはしてやるさ、絶対にな」

 

 

流石に大輝だってこんな卑猥な怪物を何時までも連れ回す訳にはいかないだろう。自分でこいつを引き取ったのならこいつへの責任だけはちゃんと取らなくてはならないだろう

 

さて……少なくともやまらのおろちはCランク内なら結構な実力派モンスターである。少なくとも比較的安い方の龍蛇系統では単なる弱体化にしかならない。そもそも比較的安い分類のザウルス辺りには適性も無いし

 

少なくとも『来年の四月』迄には必ずこいつをマイナーチェンジ(出来ればクラスチェンジ)しておかなくてはならない……姫子はその時から普通に冒険者資格を獲得して大輝と合流する予定なのだから

 

それとこのやまらのおろちにはいやだひめへの執着はあまり無いみたいである。あれは姫子には非常に相性の悪いカードなので大輝には揃える機会は無いと判断しているからその辺りは有り難い話だ

 

大輝自身もちゃんと更に鍛えておかないと姫子のロケットダッシュに置いていかれそうだからやまらのおろち磨きにも気合いが入る

 

さて……八岐大蛇は大目標の一つ、当面は『やまらのおろちのちゃんとしたマイナーチェンジ』と『三つ星資格獲得』がこの試験終了後の目標だろう

 

勿論、他の連中もちゃんと鍛えてクラスチェンジも真剣に考えなくてはならないだろう。その予算獲得に何れ訪れる『真の目的』であるアンゴルモア対策だってある

 

やるべき事や必要な能力も手札も資金も機材も人材も何もかもが全く足りない……まだまだ要精進である

 

そして……後はやはり無難に手の目とキキーモラだろう。手の目は居るだけで稼ぎが違うし探知能力も高い、キキーモラは言わずと知れた回復、支援役である。勿論、一度は必ず祝を召喚して出口を記憶させてからだ

 

ちなみにキキーモラの婆さんはやまらのおろちをみてめ只『ご立派だね』と言うだけで赤面一つしなかった……流石に枯れた婆さん型だけはある

 

 

そんなこんなでまた探索……いいや、やまらのおろちとキキーモラのレベリングが始まった

 

さっとFランク階層を超えてEランク階層での修行が始まる

 

探してみるとまだカーバンクルは五匹は居た。もしかしたら再ポップかもしれないがまぁ非常にありがたい話である。手の目とて本格的な宝探し能力がある訳では無いから取りこぼしだってあるだろうし

 

入手した五つのカーバンクルガーネットややはり五つの金色ガッカリ箱も非常にありがたいものだが……一番はやはりやまらのおろちの戦闘力向上だろう(流石に技能はまだ生えないが)

 

沢山のガッカリ箱と五つある金のガッカリ箱だが……沢山のガッカリ箱は魔石やしょっぱい魔道具、良くて幾つかの下級ポーションと普通の金貨一枚(だいたい十万円相当)に一個だけアタリで残り全てがハズレのオーブばかりだった

 

ハズレオーブを適当なFランクで試してみても良かったが、手の目の顔を立て……るのもあるがそういう無体はあまり好きにはなれないからやめた

 

ちなみにそのアタリは手の目に使ったが……それは初等クラスではあったが『神通力』だった

 

そして金のガッカリ箱は

 

一つ目、無銘の名剣(広刃剣型)

二つ目、さっきの金貨三十枚入りの皮袋

三つ目、金磚(きんせん)。中国式の煉瓦の一種であり、『ある程度の追尾能力と投げても必ず帰ってくる能力』を持った『宝貝(ぱおべえ)』と呼ばれるタイプの魔道具の(比較的ありふれた)一種、勿論元が煉瓦なので強度はお察しである。または『劣化版タスラム』とも言う

四つ目、保護のブーツ(直ぐに履き替えた)

五つ目……個人的には保護のブーツ並みに大当たりな代物だった

 

前に挙げた姫子の軍刀……あれとだいたい同じ長さの長脇差サイズで反りのあまり無い造りの刀

 

そしてそれはいわゆる『白木造りの仕込み杖』と呼ぼうか?

 

何故か大輝の手の目に異様な程にしっくり来る無銘の名刀である

 

 

大輝は今まで手の目に使わせていた俊敏の銅剣を蔵に渡して代わりに手の目には仕込み杖を渡す……前に使って直ぐに折れた凡庸シリーズよりも手にしっくり馴染む

 

振って納刀を繰り返す。振って納刀を繰り返す。振って納刀を繰り返す……

 

最初は手の目だけ、次は大輝が『化けの皮』を使って融合した状態で何度も振るい納刀を繰り返す

 

風鳴り具合が凡庸シリーズだった時とはまるで違う。あの見てくれだけの鉄板擬きと違って振り心地が良い

 

納刀時にも違いが激しい……凡庸シリーズの時は『反り』が噛み合わずに抜刀も納刀も鞘にかかってばかりだったものだ

 

まぁ……凡庸シリーズの武具に鞘なんぞ本来なら無いから仕方ないのだが

 

そもそも『鞘』というものはあれで何気に高い技術と予算を必要とする代物であり……特に日本刀の鞘は非常に精緻精密に造り拵える必要があるものなのだ

 

日本刀という代物は大量に造る数打ちですら基本的に殆ど同じ仕様にはならない。西洋剣みたいな鋳造による画一過的な量産とは絶望的に相性が悪いものである

 

皆様も『反りが合わない』という言葉を聞いた事があるでしょう?その『反り』とは『鞘と刀が合わない』という意味から来ているものだったりする

 

西洋剣みたいな鋳造造りならばその寸法に合わせて革なり木なり金属なりで鞘造りは比較的簡単ではあるが……

 

無銘シリーズからは基本的に簡素な造りではあるがちゃんと鞘が付くのは有り難い話である(代わりに凡庸シリーズと違ってカード化能力は付いて無いが)

 

俊敏の銅剣も非常に良い物ではあったが、あの手の目が振るうにはちと違和感が強かった。あの銅剣はやはりトムテとなった蔵にこそ似合うと思うのだ……あの指輪物語のバギンズの一族が担ったつらぬき丸みたいで

 

後でこれだけでも必ずカード化はしておかなくてはならない。大輝はそう強く決意した

 

ちなみに……広刃剣の方は大輝が腰に履いて持ち歩く事も考えはしたが、今は無駄な荷物でしか無いから蔵に預けておく事にした

 

一応、カードホルダーは剣帯にもなる仕様だから剣を帯びるのも有りと言えば有りなのだが

 

今の大輝(手の目)ならばEランクの魔物程度ならばだいたいはどうにでもなる……多数に囲まれたりしなければ、ではあるが

 

そして……この手の目が開眼した『盲剣術』なる謎の技能についても少しだけ分かってきた

 

この『盲剣術』という代物は言うなれば『居合い術』に通じるスタイルらしい。この手の目の姿型の元となったあの映画の主人公の様に『視界に一切頼らない剣技』として使える事が(あの新しい仕込み杖で)理解出来た

 

そしてこの盲剣術、どうやら『心眼』とのシナジーもあるらしくむしろ視界の無い今の方が『視える』し感じられるのだ

 

あのウィル・オ・ウィスプの核を簡単に感知出来る程に繊細に刃を振る事も、林檎の皮を軽々剥く事も均等な八等分も簡単に出来る。何気に正確に文字も書けるし他にも木片に姫子の似姿を正確精密に彫り込んだりも出来た(最後の方はその日の就寝前の手慰みだが)

 

それに合わせて新しい能力である『神通力』も試してみる

 

初等クラスならば「念動力(神足通)」「地獄耳(天耳通)」「悪意の感知(他心通)」「物質の記憶を読み取る(宿命通)」「カルマを見る(天眼通)」「除霊(漏尽通)」という力が使えるらしい……が、割と手の目が元から持つ能力と被っている様な気もする(後でシナジー効果とか無いか試す必要があるだろう)

 

そんなこんなでやまらのおろちをメインに鍛え上げ、手の目の『盲剣術』と『心眼』、ついでに『神通力』について考察したりしながら一日は過ぎ去る

 

 

一応は室内であり、最低限引っ張り出したエアマットとブランケットで就寝していた大輝だが……少し催してきたのでトイレに向かう

 

……やはり普通の迷宮トイレは臭くて嫌になるものだ

 

まだまだ沢山残っているウォータージャグから水を出して手を洗う。その最中でまだ残っていた酒を呑むやまらのおろちの姿が見える

 

酔ってないなら別によし。そう判断して寝床に戻ろうとしたが……その近くに手の目が居た。どうやら手の目もちびりちびりと一杯やっている姿が見える

 

……大輝の頭に前々から考えていたあるプランがよぎる

 

 

『手の目に名付けしたい』

 

 

大輝も残っていたお茶のボトルを取って手の目の居る場所に向かう。善は急げだ

 

 

「手の目……ちょっと良いか?」

 

 

そう言って手の目の前に胡座をかく

 

 

『どうしたんでさぁ、旦那?』

 

 

大輝は頭をぽりぽり掻きながら手の目に単刀直入に告げる

 

 

「なに、お前に俺からの名付けを受けてくれないかと思ってな?」

 

 

手の目は『やはり』といった感で大輝を見つめ……そして真面目な口調でこう言った

 

 

『旦那。あっしは旦那からの名付けなら諸手を挙げて賛成しやすが……その前に一つだけ聞いて欲しい話がありやす』

 

「話?、そりゃ何だい手の目よ?」

 

 

手の目は酒を傍に置き、近くに有ったお茶のボトルからその中身を一気に飲み干す……手の目としてもこの話はなるべく素面でないと語れない気がするからだ

 

少なくとも『気に入ったマスター』に対しては真摯に接するべきだろう。気に入らないマスター相手ならまず名付けなぞ真っ平御免被る話だし……大輝が『本気で気に入らないマスター』ならばあえて名付けを受けて出来る嫌がらせだってある

 

今から手の目が話す内容こそがその『嫌がらせ』に纏わる部分なのだから

 

 

『旦那は、自身の『体質』については何処までご存知で?』

 

「まぁ……女の子カードとのラインが碌に見えない、召喚した女の子カードが苦しみだす、少しの時間でも下手したらマイナススキルが付きそうになるって事ぐらいかな?」

 

『へい、確かにそうでやすね。そしてあっしの能力はだいたい把握してはいやすね?』

 

 

大輝は無言で頷いた

 

 

『これは……多分でやんすが、旦那があっしに『名付け』を行うと旦那のいい人みたいに『女の子カードが二度と召喚出来ない体質になる』と思いやす』

 

「……は?」

 

 

手の目は大輝の疑問符から一拍おいてゆっくりと。またお茶を飲み干してから話す

 

 

『あっしは『手の目』の中でもかなり変わった個体でさぁ。このなりからして分かるでしょう旦那?』

 

「そうだな、そのなりだけでもお前は人気出そうだしな」

 

『なら話が早いってもんでさぁ……』

 

「手の目よ、お前はどうしてそんな発想に至ったよ?」

 

 

手の目も困ったように頭を掻いて苦笑いを浮かべる

 

 

『あっしの色々とある技能……それらが変に混ざって旦那のその体質を強化しちまうって今日得たばかりの神通力で感じたんでさぁ』

 

 

成る程……それは確かに説明が難しい話ではあるなと大輝は思った

 

 

「なら手の目、お前が感じた事を教えてくれ。お前の名付けにどんなメリットとデメリットがあるかも」

 

 

手の目はもう一度茶を呑み干して居住いを整える。そして告げる

 

 

『感じた事はさっき述べた通り……まずは悪い面からにしやしょうか』

 

 

悪い面を挙げるならこうだろう

・今の大輝の体質ならば女の子カードの召喚はまだ何とか可能であり、もしかしたら『相性の非常に良いカード』ならばリンクも名付けも出来る可能性が残っている。しかし……この手の目に名付けを行えば女の子カードの召喚能力は完全に消失して二度と取り戻せなくなる(但しキキーモラや奪衣婆などの召喚能力やリンク適性は変化しない)

 

良い面ならばこうだ

・手の目に名付けが出来る

・もしかしたら……その体質強化で大輝自身の『何か』が良い方にも強化されるかも知れない

 

 

良い面は非常にあやふやだが……まぁ手の目の主観からの発言だ

 

全てはあやふや、色々な意味での丁半博打みたいなものだろう

 

大輝自身は博打は嫌いだが……世の中には『絶対に避けて通れない博打』なんぞ幾らでもあるのが常識だ

 

手の目そのものなら幾らでも信用も信頼も出来る……だが今回の根拠そのものが非常にあやふやなものなので『実は間違いだった』というオチだってあるだろう

 

それが真実だったとしたら?

 

そしてそれが真実だった際にはやはりまたもう一つ賭けになる……『乗るか反るか』である

 

……しかし大輝は既に答えを出している。最初っから既に決めた答えがあるだけだ

 

 

『俺のカンは告げている……あいつは決して手放してはならないと』

 

 

……白状すればカンや実利だけではなく、ただ純粋にあの手の目を気に入ったというだけだ

 

確かに女の子カードにも極めて稀だろうが大輝と相性の合うものだってある可能性も……

 

そもそも、大輝自身は『この体質』を自覚する前から女の子カード何ぞ(戦力として以外で)求めた覚えが無い

 

後はキキーモラや奪衣婆の婆さん達とはそのまま……

 

嗚呼、それならば簡単な話だ。とっても簡単な答えだ

 

 

『俺には可愛い女の子カード何ぞ要らない』

 

 

手の目の言っていた内容、そして手の目と女の子カードを取り扱える可能性……天秤にかけたら手の目が簡単に勝っただけだ

 

『大切な存在の為に求める優秀な味方』と『綺麗だけど大して必要ないもの』を天秤にかけたら普通はそうなるだろう、大輝にとっては只それだけの話だ

 

 

「なぁ……手の目、いや『定(さだめ)』だな。お前のおかげで俺は自分の宿業をもう一度理解出来たと思うんだ」

 

 

手の目……いや『名付け』を受け入れた事は大輝の持つカードが光り輝く辺りで直ぐにわかる。その輝きが彼は単なる手の目から『定』という名前を受け入れた証なのだから

 

 

『……しかし、旦那も変わったお人でさぁ。可愛い女の子じゃなくてあっしみてぇなうらぶれた与太者何ざを選ぶとはね』

 

「既に『一番大切な存在』は見つけている。俺はお前らが気に入っただけだ、俺の『一番大切な存在』を護る力だと信じただけさ」

 

『なら……あっしも旦那に地獄の果てまで着いてゆくだけってもんでさぁ』

 

 

この期に及んで『仁義切り』も『盃事』も要らないだろう。元より親分子分の関係だから

 

だけど定と少しだけ酌み交わし呑んだ酒は……苦いけど旨いとも感じられた事を大輝は生涯忘れる事は無かった

 

そんな夜を超えて……その日もまたやまらのおろちや巌、キキーモラ達の育成に費やした

 

今日のガッカリ箱(オーブ)は全て不発だったしもうカーバンクルは居ない。それが当たり前だが

 

昨日や今日手に入れた殆ど全ての臭い袋……いや最初の奴を使った時にやまらのおろちから

 

 

『その臭いなら私にも再現が出来ますね。魔物寄せも出来ましょう』

 

 

と言われたのでやまらのおろちの『悪臭操作』で再現して貰う事にしたら常に臭い袋を使っている様な状態となり非常に沢山の魔物を狩る事に成功した

 

途中で投擲持ちの剣に金磚の使い心地を試してもらったが……まぁ剣の感覚だと『その辺の石礫のほうが使い易い』という評価だったので金磚は後で売るものに入れようと思う(後で分かった事には市価だいたい五十万円程度だった)

 

そしてこの日も最下層手前の安全地帯で一晩を過ごし……ようやくこの二つ星昇進試験も大詰めに入る

 

今日の決戦用編成は剣、定、祝、キキーモラの基本的な編成でいく事にした

 

最下層の階段から最下層そのものに足を踏み入れ……

 

 

ぞわり

 

 

まるで背筋に毒毛虫か何かでも這いずり回る様な不快感を感じた

 

ある程度の覚悟はしている。その為の備えだって今出来るうちならば万端だ

 

恐る恐る周囲を見渡せば……嗚呼、やはり

 

 

「やっぱりか、嫌な予感は良く当たるぜ……」

 

 

やはり想定は当たっていた

 

大輝達はイレギュラーに巻き込まれた

 

 

 

次回に続く

 

 

【Tips】イレギュラーエンカウント

 全迷宮において常に一体しか存在しない特別なモンスター。本来の迷宮主を喰らい、それを知らずにやってきた冒険者を狩るという習性を持つ。戦闘力はその迷宮相応となるがスキルは弱体化しないこと、迷宮のランクを問わず完全ランダムに出現すること、一度最深部に足を踏み入れたらイレギュラーエンカウントを倒さなくては生きて帰れないことから、冒険者たちに畏れられている

 迷宮もカード同様、高ランクほど数が少なくなるためイレギュラーエンカウントは主に低ランクの迷宮に現れる傾向がある。そのため、イレギュラーエンカウントの被害に会うのも新人が多くなるため、新人殺しの異名も持つ

 なお、イレギュラーエンカウントのカード化に成功した例は報告されていない




※ネタバレ:落選した懸衣翁は今回出すイレギュラー特効メタでした


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第二十四話 それは厄災の瓜蔓

オリジナルイレギュラーですよー

魔石に対するオリジナル見解入ります


一人歩きする死神(イレギュラーエンカウント)

 

 

この迷宮社会を生きる全ての冒険者……いや人類全てにとって最低最悪の災いとして忌み嫌われている『事象』だ

 

色々な種類が存在するがそれぞれ必ず世界に一種類しか存在しないとされている非常に特殊かつ凶悪なモンスターにして新米冒険者の死亡原因筆頭として悪名高い。大概は低ランクの……今大輝達が居る様なEランク、若しくはFランクの初心者が居る様な迷宮に出没して獲物を待ち構えている

 

その性質上『新米狩り』とも呼ばれているがそれは余談だろう

 

こいつらは『とある共通点』を必ず保有しており、その性質からこいつらの特性や性質、そして弱点をある程度は推測出来……はするが基本的にそれすらあまり頼れない『初見殺し』や『知っている際のペナルティー』を発生させるから非常に厭らしい

 

そのイレギュラー(クソッタレ)に狙われた佐藤大輝……さて、彼とそのカード達は一体何を眼にするだろうか?

 

 

まず最初に大輝の視界に入ったのは寒々しく鬱蒼とした山中の風景だった。大輝の母方の曾祖父が暮らしていた東北の山中に何処となく似た植生だと目星が付いたが……

 

何故か色々な蔦が生えている

 

よく見ればそれには色々な実が付いている。胡瓜、西瓜、南瓜、甜瓜(マクワウリもメロンも含む)、苦瓜、夕顔、瓢箪……兎に角色々な瓜科の植物とその蔦が至る処に繁殖している

 

……どれもこれも完全に腐っているが

 

そしてその甘ったるい腐臭の中に混じる……新鮮な血と脂の悪臭

 

腐り果てた様々なら瓜の中にその『発生源』は存在していた

 

それは『肉』だった

 

 

どうやら生皮を剥がされた……その特徴から恐らくは女だと推測できる死体が転々と転がっていた

 

 

大輝は……この惨事からこの場に存在するイレギュラー(クソッタレ)が何であるかを一発で推測、いいや断定出来た

 

山中であり、瓜科の植物、そして生皮を剥がされた女の死体……

 

日本全国にバリエーションが存在し、その中でも東日本式なら陰惨な結末になる御伽噺……

 

 

今回のイレギュラー(クソッタレ)は……『瓜子姫』だ

 

 

イレギュラーエンカウントという存在は必ず『御伽噺』をモチーフに現れる。その御伽噺に因んだ非常に性質の悪い能力を駆使して人類に災いを齎す存在だ

 

今回のは非常に悪質悪辣な性質ではあるが……今の大輝にとってはまだ比較的マシな部類のイレギュラー(クソッタレ)

 

戦闘能力に比較的振り分けられた特性と厄介な数の手下……腐った瓜の化け物どもと『知らなければ厄介、(今の現状ならば、と但し書き付きだが)知れば大した事は無い特性』を持っている。それに何より『知っている際のペナルティー』などは基本的に無いタイプである

 

尤も、ちゃんとした戦力を保有していなければ途方もない強敵である事には変わりないが

 

今の編成は主力のボアオークである剣、大輝のリンク補強役であり鎧でもある手の目の定、探査役たる送り狼の祝、そして回復役のキキーモラだが……

 

大輝は直ちに祝とキキーモラをカードに戻してやまらのおろちとジャック・オー・ランタンの燈を召喚する

 

眼前の地獄の様な風景と悪臭には一時でも構わないから心の棚に放り込む。自分で自分の頬を両手で叩いて簡易的な気付けを行う

 

ついでにやまらのおろちが【悪臭操作】で仲間達が感じる悪臭を軽減してくれた。完全に消してもまた悪影響があるから軽減で充分だ

 

無駄な恐怖や怒りで冷静さを失ってしまっては姫子(こいびと)に二度と逢えない末路に堕ちるだけ……だから姫子(こいびと)の身体の暖かさと唇の柔らかさを思い出す……さぁ気合いが魂から湧いて出る

 

言うだろう?『心はクールに、魂に熱を』ってな

 

さて……この手のイレギュラー(クソッタレ)相手ならばなるべく早く撃破を図るべきだろう。『奴』の眷属はほぼ無尽蔵故に物量戦や持久戦では非常に不利となる

 

通常の二つ星昇格試験に挑むレベルでは多分その物量に押し潰されてしまうのが関の山だろう……尤も、この物量だって所詮はまだ『露払い』でしかないのだが

 

しかし……佐藤大輝は物量ならばある程度は対抗出来る手札を調達している

 

剣の眷属であるオーク達……一度に六体、一日で最大三十六体まで(但し抜け道有り)と広範囲火炎攻撃が可能な燈、その巨体と複数攻撃能力が凄いやまらのおろちが鍵となるだろう

 

特に……本体の元に行く迄の行程では燈の火炎攻撃が重要になるだろう、当の瓜子姫を焼くにも有効だろうが

 

大輝個人としてもこのイレギュラー(クソッタレ)はその性質上特に激しく嫌悪し怨敵視しているのだ

 

さて……ならやる事は一つだ、今からこのクソッタレな空間に巣食うクソッタレの化け物をブチ殺して未来を奪い返すだけだ

 

 

最前線に出した六体のオーク達をVの字…所謂鶴翼の陣を組ませて腐った瓜の化け物どもから大輝達を守らせる

 

決意した瞬間から怒涛の如く沸いて出たジャック・オー・ランタン(南瓜型)や山魈、トウビョウといった瓜系統の外観なモンスターやゴブリン、獣らなどをグロテスクに模した瓜子姫の従僕ども……その実力はだいたいFランクの上位クラスだろうか?

 

しかもその蔦を使った即席の罠などもまた厄介だ

 

吊るし罠、爆弾の様に破裂する腐った瓜やらいわゆるベトコンスパイク、尖った先端を利用したパンジ・スティックやら草結びなど……足場の悪い山道でこれだから厄介だ

 

ちょくちょく眷属オーク達が罠にはまって負傷したり消滅したりもするが即座に剣が補充する。いわゆる督戦隊方式だ

 

これで計十二体の消費、そしてまた二体損失間近……

 

勿論、剣も金磚礫を撃ちながら大輝の護衛も努めている

 

やまらのおろちは辺り一面で大暴れして貰っている。一応は『蛇の妖怪』なので山中というのは彼にとっても過ごし易い環境なのだろうか?罠なぞ物ともしない大暴れである。流石はCランクの強カードだけはある(戦闘力だけなら今の剣にも匹敵するほどだし……これもだい豊猟だったカーバンクル狩りのお陰だ)

 

まだ連携が上手く出来るほどの付き合いは無いのでこういう運用が今は一番良いだろう

 

あのぬらぬら光る卑猥な八つの頭部を辺り一面に叩きつけながら当たるを幸いと周囲全てを薙ぎ払って進む

 

大輝も『見てくれに惑わされずにあいつを買って本当に大正解だった』と真面目に思っている(その見てくれが致命的に悪いのがやまらのおろちの最大の欠点だが)

 

ついでに……被害者のものと思われる遺体だけはなるべく避けてだ。何気に紳士的である

 

定と大輝はレーダー役かつ司令塔だ、定の能力で辺り一面の敵影や罠の気配を探って仲間達に報告する。多少は近寄る化け瓜らを盲剣術式居合い一閃で切り捨てながら

 

そして現状一番のMVPである燈は……何時もよりも非常に沢山の火炎魔法を行使していた

 

この瓜の化け物どもはやはり植物である為か火炎攻撃が有効だ。燈の中級範囲火炎魔法の一発で容易く薙ぎ払える

 

しかし……まるで津波か何かの様に押し寄せる化け瓜どもやごちゃごちゃとした罠を焼き払い続けるのは流石に厳しい

 

しかし、だからこそ大輝は調達したとある魔道具……どんな冒険者でも、いや冒険者じゃなくても今現在の人類全ての誰もが絶対にその恩恵に預かる魔道具で対処する

 

それこそが

 

魔石

 

 

しかし魔石と言ってもそんじょそこらの只の魔石じゃない、Dランクモンスターの魔石である

 

魔石というものには生産系の消費量を増やしたり、眷属召喚の召喚スピードを上げたり制限数増加したり、スキルを使う時に媒介とすることで威力を上げたり魔力体力の消耗を抑えらたり、カード達の体力魔力を回復したりと色々使い道が存在する

 

しかし……世の中そう美味い話ばかりでもない。Dランクモンスターに魔石をそういう意図で使わせるならちゃんと等価としてDランク相応の魔石が必要となる、という制約も存在する

 

また。眷属召喚にもスピード向上はそれほど役には立たず、召喚数の増加も制限数の半分までがせいぜいでありだいたい制限超えした個体は三分の一から半分くらいの時間で消滅してしまうし幾らか弱体化もする、媒介としての威力向上だとせいぜい一発で一割、負担軽減でも数回の行使で一割程度といった塩梅だ

 

体力魔力の回復ならば体力か魔力を選択して一割程度の回復だ(ちなみにじんわり時間が掛かる)。ついでにある程度までなら疲労回復だって出来る

 

悪魔系統のカードの中には魔石強化が乗りやすいという能力を持った存在も居るらしいし高位悪魔の使役には魔石が欠かせないとも聞く

 

他にも重要な使い道があるがそれは割愛しよう……どうせ後で嫌でも使う事になるだろう

 

ちなみにDランク魔石は売値でだいたい千円から千五百円程度、やまらのおろち用になるCランク魔石なら二千円から五千円。一応ちゃんと市販もされているがだいたいその三倍其処らが市価となっている(前に売ったカーバンクルの魔石や迷宮踏破報酬の魔石、そして今回の件が上手くいけば入手出来る特別な魔石はまた別の価格判定になるがそれは割愛だ)

 

一発三千円から四千五百円其処らでそんな真似は普通はやらないだろう……そう、『普通』ならばだが

 

今はイレギュラーエンカウントが跳梁跋扈する地獄の釜底だ。どんな僅かなリソースだって重要だし必要だ

 

大輝の場合は普通に冒険者ギルドから百個を即買い出来た(ついでにCランク魔石をニ十個も含めて)

 

これ以上は購入制限で出来なかったがまぁ良いだろう(ちなみにお値段計八十万円也)

 

ついでにメアリーさんが主力である剣用に『聖銀製の戦斧(カード)』を貸してくれた。『後で必ず返しに来なさい』という言葉と一緒に

 

もしもイレギュラー(クソッタレ)がアンデッドなら効果的面だし、予備の武具として非常に良いものでもある

 

大輝も出来れば手斧でも良いから聖銀製の武具は欲しかったからこれは嬉しかった

 

……一番嬉しかったのはこのカードに託された『必ず生きてこれ返しに来なさい』というメアリーさんの意図だが

 

 

そして……そんな苛烈な波状攻撃をどうにかこうにかいなして振り払って『目的地』に近づけた

 

山中の中にぽつんと佇む一軒のあばら屋……しかしその周囲には

 

 

無数とも言える女の生皮が干されていた

 

そしてその『生皮』達が蠢いている

 

何か……何か悍ましい音が響く

 

 

タスケテ……タスケテ……

 

 

小さく、囁く様な音が聴こえる……発生源は言わずともわかるだろう

 

『無数の生皮』からだ

 

 

その見てるだけで気が触れそうな光景とBGMに……大輝は唯

 

 

煮え激る怒りを燃やすだけだ

 

 

その感情とは裏腹に平坦な声と表情で自らの配下(なかま)達に告げる

 

 

『よし、殺す(やる)ぞお前ら』

 

 

かくして戦線布告は為された

 

 

 

 

次回に続く




特殊フォントや機能の練習したりイレギュラー戦を考えていたりペルソナ5ロイヤル(Switch)やっていたら……二か月以上お待たせしました。すみません(土下座)


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第二十五話 戦争は支度八割

短いけど最後の決戦準備から

※:【Tips】を土ノ子氏からお借りしています
※:魔法効果などに筆者の独自見解が入っています


 

さて……

 

とうとうイレギュラー(クソッタレ)の拠点間近に到達した(周囲一帯の悍ましいオブジェは……後でしっかり『対策』が居るが)

 

前哨戦を支えてくれたカード達の状況は……

 

 

剣:本体は軽症、疲労は魔石一個で完全に回復する程度。渡していた金磚は度重なる酷使で破損済み。眷属は六体出して(残り時間だいたい五十分はある)四体追加可能

 

定:本体は軽症(大輝自身含めて)、やはり疲労は魔石一個で完全に回復する程度(定自体は『酒と旨い飯が欲しいから後で頼む』との事)

 

燈:本体は無傷……だが魔力の消耗が激しいから虎の子のマナポーション(魔力回復用ポーション、通常のポーションより結構お高い上にあまり市場には出回らない)と魔石回復で(気力含めて)完全回復済み

 

やまらのおろち:そこそこダメージはあるがミドルポーション一つとCランク魔石一個で回復済み、気力もやはりCランク魔石で回復

 

残りの面子はまだ温存しているので万全な状態である

 

 

さて、カード達はこうして色々無理が効くしそもそも体力気力が人間とはモノが違う……しかし人間はこうはいかない

 

大輝だって人間だ、流石にカードほど都合の良い体質でもないしそもそも体力気力の元値だってカードとは違う

 

しかし大輝にも『こういう事態が起こる』と予め予想は出来ていたし覚悟だってある

 

だからこその対応手段だって既に用意済みだ

 

手早く支度しながらポーチから二つの小瓶と小さなスキットル、そして丸薬一錠を引っ張り出す。スキットルには度の強い火酒(ウォッカ)が入っている(消毒、気付用の品)

 

二つの小瓶はそれぞれ『やる気ポーション』、『ワーキング24』という人工純正魔道具の一種でそれぞれ気力回復効果と『飲めば24時間、眠らずに絶好調で動き続けられる薬。しかし、24時間後には、通常の三倍の眠気と疲労が襲ってくるため注意。連続使用は二本まで』という効き目が存在する

 

ちなみにこの二つは『ニシモリ製薬』の人気商品(のシリーズ)であり大輝自身も友人の家業(のアルバイト)で偶にお世話ななっている……やはり大人気ゲーム会社(ナグモゲームズ)でのデバッガー業務や漫画家稼業(のアシスタント)は身入りは最高だが件の薬にしょっちゅう世話になっているぐらいには切羽詰まるハードなものだった(だからその分も身入りもボーナスも非常に高いのだが)

 

このバイト経験が剣の購入資金になったのは有り難い話だったが

 

そして最後の丸薬だが、これは迷宮産の純正魔道具の『完全消化薬』。こいつはプロや軍人冒険者御用達の逸品だ

 

『体内の消化効率を上げ、食べた物をすべて吸収できるようになる丸薬。有害なモノは、取り込まれずに分解される。トイレに行かなくて済むため、軍人や冒険者御用達の一品。ただし、太りやすくなるため、使いすぎに注意』という説明文が魔道具辞典に記載されている(大輝の冒険者用スマホにもアプリとして入っている)

 

その油紙みたいな包装紙に包まれていた一錠限りの丸薬を二種類の薬とウォッカでちゃんぽんになった口内に放りこんで飲み下す

 

これは下級(ロー)ポーションとだいたい同じ頻度でガッカリ箱から出る上割と安く買えるから殆ど全ての冒険者ギルドや高ランク迷宮に設置されているダンジョンマートなどで簡単に買い求める事が出来る(市価一つ十万円はするが)

 

大輝もこれからの鉄火場を察してその対処対策に用意しておいた(先の二つはバイト先からの支給品の余り、丸薬はダンジョンドロップをそのまま貯蓄していたもの)

 

そのちゃんぽんがまだ少し口にある状況で更にあるモノを出して包装を解く

 

こっちはダンジョンマートが開発した冒険者用超濃縮カロリーバー(フルーツ味)だ

 

これはカロリーメイ○に似てはいるがその含有するカロリーは桁違いの逸品で一本で一気に2,500キロカロリーが摂取出来るとこういう鉄火場の軍人やプロ達から大人気の一品である

 

ちなみに魔道具などではないがその製法を応用して作成されたと言われている。自衛隊に卸す為にダンジョンマートが開発した比較的初期の人気商品だったが今では世界中でライセンス生産されていてそれぞれのお国柄が出ているとかいないとか

 

大輝もバイト先やメアリー塾での遠足行程(長時間耐久移動訓練)、稀に新製品のテスター依頼などでやはりちょくちょく食べる機会があって大概の国産フレーバーや海外の人気フレーバーなら結構実食済みだ

 

味は良いが非常に味気なくパサパサするのが難点なので食べるのに水分が欠かせないが腹の中で結構膨らむから腹持ちも非常に良いとされている正に戦闘糧食(コンバットレーション)

 

特に極地(雪原、砂漠、湿地帯など)の過酷な環境下を往くプロや軍人達から重宝されている(前に大輝が貰ったレーションパックにも封入済みだ)、ついでに言うなら対遭難用の非常用キットや民間でもアンゴルモア対策の持ち出し袋に必ず二つ三つは(非常用備蓄水と一緒に)入っているのが普通だ(消費期限も五年は持つから非常用としてもまた優秀なのだ)

 

一度二度食べるには良いかも知れないがこういう鉄火場か極地でのカロリー補助、若しくは非常用に使う為の食品として節度を以て食べるべきだろう……そのカロリーは洒落にならないほど高い代物故に

 

 

閑話休題(それはさておき)

 

 

水筒の水でちゃんぽん液とパサパサのカロリーバーを飲み下せば大輝の身体やコンディションはこれで大丈夫だろう(実質的には『体力気力を未来から前借りしているだけ』だが今この瞬間とこの鉄火場踏破こそが肝心肝要だから良し、である)

 

カード達が魔石……普通よりも上質な代物(C、Dランク魔石)を噛み砕いて嚥下は当に終わらせている。後は最後の支度だろう

 

大輝はカードホルダーから何枚ものカードを取り出す。一つは虎の子である高等補助魔法:促成成長(レベルアップ)が封じられている魔法カード

 

次の一つもやはり虎の子である高等補助魔法:保険(インシュアランス)が封じられた魔法カード

 

もう一つは……幾つか予備のある中等クラスの魔法カードだ

 

それは中等回復魔法:免疫(イミュニティ)、やはり買うには高いが先に挙げた二枚よりかはまだ発見し易いから使い易さもある

 

効果は『範囲上の対象全てに状態異常への耐性を与える』という決戦では非常に重要な効果だ……一応、大輝の手持ちであるキキーモラやカラドリウスなら使えはするがカードに戻すとかけた補助、支援魔法は効力を失う為今回は魔法カードで一気に行う事にした

 

ちなみに大輝がこの前に使ったのも中等状態異常魔法:誘眠(スリープ)という代物でありやはり幾つかは予備もある……一応は強力な睡眠効果もあるがその効果で必ず自分も巻き込む為半ばジョークアイテム扱いの不遇カードとして有名な魔法カードである(それでも需要は以外とあるけど)

 

出来れば攻撃力、防御力、敏捷強化などの魔法カードも有れば良かったがまぁ今回は巡り合わせが悪かった様で手持ちには無い

 

今出したカード達には任意で使える様に殆どの魔石を分散して持たせた。回復手段として中等クラスの治癒魔法カードに中等(ミドル)ポーションや高等(ハイ)ポーションだって備蓄を椀飯振る舞いだ

 

そして最後にやる事は……

 

 

「燈、やれ」

キホッ(アイアイサー)

 

 

そんなやりとりと魔法カード発動の果てに燈の最大威力かつ広範囲に拡大した高等火炎魔法が構築される。魔石を……Cランクを何個か使って少しは溜めすら行った必殺必滅の火炎魔法だ(ついでに鎮痛剤を飲み下しながらシンクロだって行使する、今は少しでも威力が欲しいから)。狙いはあの干された生皮全て、『開戦の狼煙』には丁度良いだろう

 

()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()。それだけだ

 

 

 

しかし……今大輝達が対峙するのは『糞と汚物の下水煮』、『クソの肥溜め漬け』、『迷宮最大最悪の害悪』とも謂われる厄災の化身が一つだ

 

()()()()()()()()()()()()()

 

 

 

『ギヒヒィ、駄ァ目じゃナイか?ヲぉとメのオ着物焼こうナんてサぁッ!』

 

 

悍ましい……唯悍ましいとしか表現出来ない女の声が響く。それと同時に何かが高速で燈にブチ当たる!!!

 

 

燈を貫通したのは……山刀にも見紛う様な出刃包丁だった

 

 

 

 

次回に続く

 

【Tips】ニシモリ製薬

 土ノ子氏オリジナル企業。主に迷宮から産出されるポーション類を取り扱っており、そのシェアは国内最大手を占める。その隆盛は迷宮時代最大の成り上がり企業であるダンジョンマートに迫る勢い。

 二十年前の迷宮出現による劇的な世界の変化にもいち早く適応し、ポーションの流通促進に一役買った経緯がある。逆に旧来の医薬品製造にこだわり続けた企業の未来は芳しくなかったという……。

 迷宮産の各種ポーションやアイテムを組み合わせたオリジナルのポーションレシピを多数開発・販売する現代の錬金術師の集まりであり、蓄積された技術は世界でもトップクラス。

 ちなみに社長夫妻は国際結婚。跡継ぎの長男がイギリスに留学した際に優れた薬学者だった妻と出会い、恋に落ちた。夫人の旧姓はウェストウッド。彼らの馴れ初めは互いの名字が互いの母語で同義語だった奇縁から始まったという

その社長夫妻の末妹は冒険者となったが大輝達との縁があるかは未だ不明(但し面識は多少はある様だ)



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第二十六話 ⬛️⬛️姫

 

その出刃包丁は……()()()()確かに燈の胴体を上下半分に切断していただろう

 

時にジャック・オー・ランタンというカード(モンスター)は基本的に耐久力が無い。はっきり言って紙装甲も良い処だ

 

それもこれもやはり殆ど全てのリソースを火炎魔法に極振りした存在だからだろうか?

 

だからこそその火力を警戒したイレギュラー(クソッタレ)は真っ先に(大砲)を狙ったのだろう

 

しかし……『それ』をあの狩人や狼の様に用心深く毒蛇や狐の様に執念深い佐藤大輝が見逃すだろうか?

 

 

否、断じて否である

 

 

前話で支度という言葉を一度使ってぼやかしたが、今の大輝の編成は前哨戦とは少しだけ違う

 

手数かつ現状最大の戦力である剣、リンク能力を支えると共に大輝の最後の鎧でもある定、そして今襲撃された燈の三体はそのままだ

 

ならば何を外したか?今更言う迄もなくやまらのおろちだ

 

そして誰を代わりに出したかと言えば……

 

 

まるで刃物を大岩か何かに力の限り叩きつけたかの様な轟音が響く

 

 

燈と大輝の足元間近にあった砂場が一瞬で隆起し、大きな壁となって燈を護りきったのである

 

その壁……いいや大輝を護る砦とでも言える塗り壁の巌が仲間である燈を護り庇いきったという事だ

 

 

「よし、よくやった巌ッ!!!」

 

 

大輝の言葉に無言でサムズアップを返す巌……『岩石の妖怪』を駆使して燈の足元で彼を護衛していたのである。ついでに言えば『庇う』も一緒に行使しながらだ

 

先程の高等補助魔法:促進成長(レベルアップ)はこの巌に使い、更にはもう一つの手段として巌に持たせた手札もある……たった一枚しか無い高等補助魔法:防壁(プロテクション)

 

元からの防御力のお陰で巌はほぼ無傷で済んだ。高等補助魔法:防壁(プロテクション)はまだ温存が出来る

 

 

『流石は塗り壁()だ、何ともないぜ!』

 

 

そんな風に考えながらも今は砕け折れてまるで風化したかの様に崩れ去ったあの山刀だか鉈だかわからない様な出刃庖丁の飛んできた辺りを油断も隙もなく警戒する

 

まだイレギュラー(クソッタレ)はあばら屋の中に居る様で姿は見えない

 

大輝の見立てが確かならそろそろゆっくりとあのイレギュラー(クソッタレ)はあのあばら屋から出て来るだろう

 

()()は恐らく『先ずは己の姿を見せつけたい』だろうし『まだ暫くはお着替えタイム』でもあるだろう

 

無論。その『お着替え』というのは辺り一帯の女の生皮のどれかだろう。あのイレギュラー(クソッタレ)にはその逸話上()()()()()筈だ

 

……そろそろ燈の『溜め』も終わった

 

「定、シンクロ補助と同時に燈の狙撃を支援してくれ。燈はシンクロ接続が出来たから目標あの廃屋の生皮。撃て」

『合点承知でさぁ旦那』『キホォッ(アイアイサー)

 

そんなこんなで燈最大の切り札上級火炎魔法:獄炎(インフェルノ)が成立する。この魔法は長い溜めが必要かつ使い手の魔力と気力をかなり激しく使う事で発動可能な殆ど産廃としか言えないネタ魔法だが威力と効果範囲は絶大だ

 

燈が上級火炎魔法を習得した際に覚えはしたが……その時は少しガッカリもしたけど今ちゃんと役に立っている(護衛役の巌も居るのもちゃんと使える理由だが)

 

 

まるで小さな太陽か何かでも落っこちて来たかの様な光の奔流と激しい爆発音が辺り一帯に響き皆の鼓膜を痛めつける

 

 

その中で大輝は『ある自身の変化』に気付いていた

 

 

先のシンクロで……今までの自身の限界である『10%返却』に挑んでもその副作用(頭痛)が起きてはいない。むしろ今定のサポートを切ってもギリギリ単独でやれそうな気さえする

 

今日は最初から定を纏っての連戦だったがテレパス疲れは無かったし……何より()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()という事実を思い出す。今までならそっちもちゃんと時間を置いて定のサポートが有って初めてちゃんと成立する程度の精度しか無かったのだが

 

 

『やはり、定との名付けが良い方向に向いたか?』

 

 

そんな事を頭の片隅に思いながら油断なくあばら屋……が有った場所を探る

 

『万が一の際』には役立つかも知れないが今はそんな不確定要素には頼れないし

 

例の忌まわしき洗濯物は……ほぼ全て消し飛んでいる(尤も、所詮は幻同様の代物でしか無いが……現状だけならばこれで充分だ)。ついでにあばら屋も完全に消し炭と化していた

 

あの辺り一帯の女の生皮も切れ端燃え滓が少々あるだけ

 

この一撃であのイレギュラー(クソッタレ)が消し飛んでくれれば喜んで万歳三唱だが絶対にこの程度ではまず死にはしないだろう。それこそ此処がFランク迷宮でもだ

 

実際に…… イレギュラー(クソッタレ)はちゃんと生きて(?)居る

 

あの廃屋が有った場所から気配が残っている。それに何より奴らもモンスターだから死ねばドロップが……最低限魔石が残るしこの場所も元の石室に戻る

 

結果的に言えば…… イレギュラー(クソッタレ)は無事だった。あのあばら屋に存在する残り全ての女の生皮を盾にして身を守っていた

 

その炭化して崩れて行く女の生皮から出て来たのは……一人の人間(に見せかけただけのイレギュラー(クソッタレ)だ)

 

 

身体は非常に小柄で凡そ150㎝も無いだろう

 

女物だと思う襤褸の……恐らくは血と人脂で汚れた着物を雑に着ていて……その体格ははだけた部分から非常に豊かなプロポーションだという事が解る

 

そしてその髪は豊かな金髪……本来ならば非常に肌理細かく美しく艶やかなものだが先程の灰を浴びたせいかそれとも血と人脂のせいか非常に燻んで見える

 

その細い手にはまるで鉈か山刀と見紛う様な大きく刃こぼれだらけで血脂に染まった出刃庖丁

 

瞳を閉じてはいるが、その非常に美しい顔には大輝も見覚え……いや、常に見て感じて生きてきたその顔は……

 

 

薬丸姫子の顔だった

 

 

……しかし、今の大輝にその顔は見えない

 

今の大輝は『手の目』でもあるから『見る』という身体機能は最初から棄てている

 

確かに姿型は大輝にとって最愛の存在(薬丸姫子)ではあるだろう……が、大輝からすればその『臭い』は誤魔化せない

 

 

その吐き気を催すドギツイ血脂と腐臭は誤魔化せない

 

 

大輝は一見すると凪いだ様に見える。冷静に、落ち着いている様に見える。その一見冷静を保っている様に見える状態で……

 

 

勿論、内心は怒り狂い腑は煮えくり返っていた

 

 

大輝の見立て上あの イレギュラー(クソッタレ)は間違いなく薬丸姫子()の姿で現れる事は読めていた。あの怪異達はその御伽噺(逸話)を悪意と汚泥と理不尽の糞尿漬けとでも言うべき型で人類の前に姿を現す

 

 

例えば……沢山の子供を攫いその屍を弄び喰らう溝鼠の王たる【ハーメルンの笛吹き男】

 

例えば……街一つ分の人々を幻覚の中で破滅に追いやった【マッチ売りの少女】

 

例えば……現れたら最後周囲を強制的に老化させる【浦島太郎】

 

例えば……理不尽極まりない謎かけを押し付けてくる【狼と七匹の小ヤギ】

 

例えば……その姿を見ただけで胸の内部から鉄の帯を弾けさせて『解剖されたカエル』の様な無惨な死を齎す【カエルの王子様】

 

 

一例を挙げるだけでご覧の有り様だ

 

あのイレギュラー(クソッタレ)どもという厄災に救いがあるのなら……()()()()()()()()()()()()()()()()ぐらいだろう。少なくとも()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()。普通なら

 

イレギュラー(クソッタレ)どもが真価を発揮する厄災の刻『アンゴルモア』ですらイレギュラー(クソッタレ)どもには縄張りの様な棲み分け……とでも言うべき習性(の様なもの)があるらしく、()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()だろう……とされている

 

そういう風にも言われてはいるが……まぁあのイレギュラー(クソッタレ)どもが口裏を合わせて三味線を弾いているという可能性だってあり得るという考えもまたあるが

 

要は人類をそう油断させて……というフィクションにままある筋書きだ

 

大輝が所属するメアリー塾では『アンゴルモア対策』にそういう思考実験もされていてそういうディスカッションもまた盛んに行われている(これもまた『最悪の事態の考慮』である)

 

メアリー塾の塾生達やメアリーさん当人中にはイレギュラー(クソッタレ)遭遇経験者は結構な数存在している(全員再起可能状態で生還に成功している、とも言っておく……大概はパーティーでだが)

 

そのディスカッション内でも今回のイレギュラー(クソッタレ)についての情報は有った。そのイレギュラー(クソッタレ)は『今回みたいなソロでの討伐の方が逆にマシかも知れない』という評価を下されている

 

さて、今回大輝が遭遇したこのイレギュラー(クソッタレ)について考えてみよう

 

 

1:日本らしき山中が舞台

2:瓜や蔦の化け物を配下に襲撃して来た

3:女の生皮をコレクションしている様だ

4:被害者の恋人想い人などに化ける能力がある

5:そして少なくとも被害者のそういう思念などを察知知覚する能力があると見て取れる

 

 

……日本の御伽噺に確かこんなものが無かっただろうか?

 

瓜から生まれた美しい機織り娘は幸せに暮らしていた

しかし……嫁入りを控えた直前に邪悪な鬼に騙されて殺された

その邪悪な鬼がその機織り娘の生皮をはいで娘になりすます

しかし愚かで粗忽者の鬼に手弱女のふりは土台無理であった

直ぐに鬼の悪事はばれて鬼は人々から成敗されて終わる

 

要約すればそんな御伽噺だ

 

 

その逸話からあのイレギュラー(クソッタレ)大輝の心だか経歴だかを盗み見たという事だろう

 

しかし……普通に見れば確かにあのイレギュラー(クソッタレ)は『薬丸姫子そのもの』に化けていると言えるだろう(服とかはさておき)

 

しかし……大輝からすれば一目で粗悪・粗雑・劣悪な模倣だと直ぐに解る

 

先ずは臭いだ

 

多分、今纏う定の力が無くともその腐臭は大輝相手では誤魔化せない

 

更に言えば肌艶も髪質も大輝なら一目で『全くの別物』だと分かる。佐藤大輝の知る薬丸姫子の髪も肌も全てが究極と言って良い代物だ

 

(大輝曰く)その程度の雑な模倣で佐藤大輝の眼は、聴覚は、嗅覚は、触覚は、感性は、そして魂は決して誤魔化されない

 

……尤も、本来この非常に性質の悪い怪異の模倣を見破るのは普通の冒険者ではほぼ不可能に近いのだが、これもまた大輝の姫子への想いの深さなのだろうか?それとも『定の名付けの影響』かはたまた……

 

 

計らずしも大輝は(ある意味では)このイレギュラー(クソッタレ)に対するメタの極地みたいなものになっているらしい

 

しかし……幾らメタを張れたとは言え相手はこの世最悪の厄災が一つ、容易くいく様な相手では決して無い

 

……それに、このイレギュラー(クソッタレ)が真価を発揮するのは(色々な意味で)間違いなく『アンゴルモア時』なのだから

 

 

大輝は……そのイレギュラー(クソッタレ)に向かって語りかけ……いや、啖呵を切る

 

 

「ようイレギュラー(クソッタレ)、今から邪魔なお前をブチ殺して家に帰るわ。それとその下手な化粧落とせよ?そのみっともない面で人の彼女のフリとかイタいンだよこの糞附子(ブス)が」

 

 

その啖呵に返すイレギュラー(クソッタレ)の解答は……

 

 

『へぇ……イッてグれる邪なイ、可愛イボウや。こノホウ丁でいっバいあそンでアゲるからその啖呵の分は派手に唄いなザいよ?』

 

 

非常に汚らしく掠れてはいるが、普通に聴けばやはり『薬丸姫子の声』そのものだ

 

 

そして大輝は……

 

 

「はっ、唄うのはお前だイレギュラー(クソッタレ)……いや、いちいちテメェ相手に口開くのももう面倒だな

 

なぁ?

 

 

瓜子姫?」

 

 

 

第二十六話『瓜子姫』

 

 

【Tips】瓜子姫

※:このデータは只今閲覧不可能となっています

 



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第二十七話 イレギュラー

すみません、激しく爆風スランプしてました(ウサミン案件)

※:奪衣婆の説明に幾らか補強入れました(前に述べた奪衣婆と懸衣翁が『瓜子姫メタ』という話の説明の為)

第六部正式版アップ記念に


 

 

瓜子姫

 

日本各地に存在する民話の一つである

 

大まかな内容は『瓜から生まれた少女』が人々から愛され幸せに暮らし、その少女が祝言(結婚)する直前にやって来た『天邪鬼』に殺害されてその生皮を奪われ……そして瓜子姫になりすました狡賢いが間抜けな天邪鬼も直ぐに馬脚を現したり瓜子姫の無念から生じた小鳥に告発されたりで遺族に殺される

 

その天邪鬼殺し(過程)において蕎麦や(あわ)の茎に天邪鬼の血が付いて以降その茎が赤くなったという所謂(いわゆる)『ハイヌウェレ系民話(殺害などによる食料起源神話や民話)』がそれである

 

一応、このパターンが一般的な東日本式ではなく西日本式ならば瓜子姫は生きていてハッピーエンドになるパターンもあるが……『イレギュラーエンカウント』という存在の性質上そのパターンでは無い事は確定的だろう

 

 

そして……『イレギュラーエンカウントとしての瓜子姫』についてだが

 

基本的に犠牲者が複数人居る時、なるべくならば女性が多く出来ればカップルが居る対象の前に現れ易いとされている

 

その理由は……先に挙げた『天邪鬼の行動』を鑑みれば自ずと解るだろう(逸れた犠牲者を暗殺、そして生皮を剥いでその犠牲者になりすます、という能力があるからだ……犠牲者達の技量が低いなら眷属をけしかければ割と容易く分断出来る)。恐らくはイレギュラーらしく『なるべく犠牲者達を嬲りいたぶり恐怖と苦痛、そして絶望の果てに殺したい』というだけの話だろう

 

更に……(イレギュラーとしての)瓜子姫の一部とも言えるこの天邪鬼という怪物には『心を読む』という厄介な能力も存在する。この能力を利用してテリトリーに入った犠牲者の情報を読み取り擬態に役立てるが、広範囲に発動する為か戦闘に役立つ様な仕様では無いらしい

 

一説には『他の特性がメインでありこの能力は天邪鬼の側面から来る余技だから』とも『天邪鬼の迂闊さが制限になって弱体化している』ともいう推測もされている(これもまた瓜子姫が三味線を弾いているだけかも知れないが)

 

この『瓜子姫』という怪異は所謂(いわゆる)『軍勢型』にして『暗殺擬態型』とでも言うべき非常に厄介なタイプのイレギュラーエンカウントである

 

一応、基本分類としては『戦闘型』と言うべき代物なので戦闘力も非常に高い。開幕からの莫大な眷属(腐った瓜や蔓の化け物)の大攻勢で半端者の冒険者(エンジョイ勢など)を最初の揮にかけて来る

 

それを越えても今度は前に挙げたあの悪趣味なオブジェ(干された女の生皮)が立ち塞がる

 

先に挙げた眷属どもがあの生皮を纏って強化されるからだ

 

この『瓜子姫』という怪異には『装備型』としての特性も存在する事が判明している……しかも生還者達の証言を纏めるとどうやら『装備/呪い型』ではなかろうか?という話だ(『犠牲者の生皮が必須』だからだと推論されている)

 

しかもその生皮を纏った眷属どもの中から『瓜子姫』本体が暗殺を仕掛けて来るという鬼畜コンボが非常に厄介だったという証言もある

 

……()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

 

しかし……先の様に大輝がやった様に『先手を切って生皮を焼く』という手段は有効だ(ランクが高まれば高まるほど難易度は増すが)

 

Eランクならばあの程度でもまだどうにかなった……多分Dランクまでならギリギリ何とかなるだろう(少なくとも今の燈程度の……下手なCクラスカード顔負けの練度や戦闘力と砲撃手を守る防衛力が必須だが)

 

その『装備型能力』にも何らかの距離的な何かの制限や欠点があるのだろう。少なくとも最初から『皮を被って奇襲する』のは(少なくとも低レベルな迷宮では)出来ないらしい

 

その辺りが『これは呪い型であり、その何某かの制約の為』ではないかと考察される根拠のもう一つだ(『低ランクでの舐めプ』とも『単なる三味線弾き』だとも警戒はされているが)

 

『瓜子姫』というイレギュラーエンカウントは、莫大な数の下僕とその最大の戦闘能力である『装備化』を使った人海戦術(からの暗殺)が最大の武器である。しかし低レベル迷宮ならばある程度はその『装備化』を封じる手段もある

 

その辺り……今の低レベル迷宮製、しかも『装備化封じ』に成功した状態ならばイレギュラーとしては比較的弱い範疇だとは言えるだろう(『ギミック』を破られたギミック型イレギュラー程度には)

 

 

ちゃんとあの生皮全てを焼却出来ているならば、だが

 

 

瓜子姫はイレギュラーの中では(比較的)愚かで迂闊な存在ではある……が、それでも狡賢い振る舞いは得意だという一面もまた存在する(主に天邪鬼としての狡賢さではある。瓜子姫だけでは単なる騙され易い小娘でしか無いだろう)

 

勿論、あのこれ見よがしに干してあったあの生皮も戦力ではあったが……仮にもイレギュラーがこの程度で完全に無力化出来るなら誰も苦労はしない

 

辺り一面に森からぞろぞろ現れた闖入者らが其れを物語ってくれるだろう

 

 

ずるり……ずるり……うじゅる……うじゅる……

 

まるで身体の中身がぐちゃぐちゃに潰れて、それを無理やり固めて操り人形の様に『それら』は動いている

 

『それら』は一見すれば襤褸を纏った人間の女……の様に見える

 

しかし動く度に身体がボコボコと蠢き。よく見れば眼球が無く、その眼窩や口……穴という穴からは腐った蔦がうねうねと這いずり出ている

 

纏う襤褸も良く見ればまた別の人の生皮だ

 

どうやら、こいつらは先の『女の生皮』を纏ったあの眷属どもの軍勢だろう

 

大輝の鋭敏になった嗅覚に瓜の、草木の、血の、人脂の腐臭が感じ取れる

 

そして、大輝の耳にはこんな音も聴こえてくる

 

 

『タスケテ……タスケテ…』

 

『イタイ……クルシイ……』

 

『ダレカ……ダレカ……アア……』

 

 

『生皮』にされた被害者達の呻き声だ

 

 

普通ならば空耳か何かだと感じる……感じられるだけでも非常に耳が良いか鋭敏(繊細)な感性かをしていると言えるだろう

 

しかし……今の大輝の様に非常に、神がかりめいた鋭敏な感覚を得られた存在。しかも定には『神通力』という更なる強い感知能力も備わっている

 

先程までの『生皮を纏うナニカ』は間違いなく『瓜子姫の強化を享けた眷属』だろう

 

瓜子姫だって流石に示威行為だけの為に己の切り札を全て晒す訳が無い。ある程度は分散しておいたのだろう

 

元から用意していた『予備戦力』とでも言っておくべきものだろう。基本的にイレギュラーどもは性根が腐れて捻くれているものだし(性根云々以前に『戦う為の備え』ぐらいは普通ちゃんとやるものだが)

 

……まぁ、今回は示威行為を優先して沢山の生皮を見せ札にしていた様だ(低ランク迷宮での舐めプとでも言ったつもりか?いや、むしろ『低ランクを利用した撒き餌』だと大輝は見ているが)

 

今回の『生皮』どもはだいたい百体前後と見れる。『基本的に一体一体が瓜子姫とほぼ同等の戦闘力がある』と見て良いだろう

 

先に焼いたあの生皮を含めれば……最低でも一桁は増えていたと見て良い

 

もしもあの時ちゃんとあの生皮(見せ札)を処理出来ていなければ更に大変な事になっていただろう(あの眷属どもを超えられる『だけ』の冒険者達も普通ならこの生皮津波で殺されているだろう……数の暴力に今度は『質』が追加されるのだから)

 

……ちなみに、一度だけCランク迷宮でこいつが発生した事があるらしいが。その時にはBランク基準で途方も無い数の生皮軍勢が発生して対応したプロ級冒険者チームの数人が死亡したり再起不能になったりと酷い事になったらしい(再起可能な者達もかなり酷い被害だったらしい……主に戦力的な意味で)

 

さて……佐藤大輝はこの百体其処らのCランク内に入っているだろう怪異の集団とEランク最高レベルかつほぼ無尽蔵の物量に挑む事になる

 

もしも……もしも大輝があの時懸衣翁を入手出来ていれば『生皮集団(軍勢でも)』どうにかなっていただろう

 

『衣領樹招来』……これさえあれば十分間ならあの生皮集団を封印する事は出来る

 

()()()()()()()()()()という事だ

 

無論、この能力での対処は今のレベルなら充分大丈夫であり何なら次のDランクまでなら恐らくどうにかなるだろう(それ以上になったらもうこの能力では手に負えないが)

 

更に言えば()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()という実践例もある(このランクの瓜子姫に遭遇した冒険者がやぶれかぶれに試みた結果大成功して一命をとりとめたという話がある)

 

『瓜子姫』というイレギュラーは()()()()()()ある程度対処の容易な代物ではある(その戦闘力は純粋に高いし数の暴力は凄まじいが)

 

瓜子姫を倒すには無数の生皮集団に隠された『本体』を探し出して撃破しなくてはならない……ならないが

 

殆ど(そのレベル的には)無尽蔵に沸き出る連携能力の非常に高い瓜子姫(生皮)軍団を掻い潜ってその中にある『本体』を探し出さなくてはならない。しかも(本当にほぼ無尽蔵の)眷属の軍勢も執拗に妨害してくる(やはり連携能力は非常に高い)

 

瓜子姫は対処法を知っていても基本的にはどうにもならない。非常にマイナーかつマニアックな珍しいカード(しかも二体一心という貴重能力持ち)が対メタにはあるがあまり人気の無いカードである

 

()()()()()()()()()()()と鍛えに鍛えた絆で繋がった千里眼や順風耳といった()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()でもあれば『瓜子姫の本体』を探し出して撃破出来るかも知れない(そしてそれをなし通す戦力も必須だが)

 

 

そして、皆さまは忘れてはいないでしょう()()()()()()()()()()()()()()()()()()という事実を。あの異常としか言いようの無い壊れカードを

 

 

そう、今回の切り札は『手の目の定』である

 

 

大輝は既に『泥縄を編む事』に成功していたのである

 

大輝/定の『視え(認識す)るもの』からはこの世界が良く視え(認識)

 

 

聞こえる音は沢山の生皮に魂を縛られた犠牲者達の悲鳴

 

嗅げる臭いは犠牲者達の鉄錆の様な腐臭

 

舌に感じるは滑りざらつく腐った瓜と血脂の悍ましい甘さ

 

肌に触れるは犠牲者の救いを求める意思と灼けつく悍ましい悪意

 

この空間の中から……

 

聴こえる。その悲鳴の中から更に深く感じる悪意の息遣いを

 

嗅げる。その鉄錆の腐臭の一番キツい場所が

 

舌に障る。腐った瓜と血の一番凝り固まったものを感じ取れる

 

肌に感じる。絶望渦巻くその中にある悍ましい悪意の源を

 

女の子カード(安楽)を棄て、真に手の目()と一体になった事で得たこの感知能力

そして僅かなりともちゃんと存在する神通力

手の目が元来持つ『手の目かじり』とも呼ばれる犠牲者を探し出して生皮以外を啜り取る妖力

詳細は不明ながらも間違いなく役に立っているだろう『心眼』

大輝自身が生来持っている下手な獣よりよほど鋭敏な直感、そして激烈な幸運……いや最早『神がかりの豪運』とでも言うしかない運の良さ

 

これらが一体となってその全てを以て『権能』の域にその身を捩じ込む事に成功した

 

……しかし、しかしだ。それでもまだ『瓜子姫討伐の鏑矢を射れる』というだけだ

 

『その鏑矢を当てて瓜子姫の首級(しるし)を挙げる』にはまだまだ関門は幾つもある

 

先ずはその瓜子姫本体の元に向かう必要があり、そしてその瓜子姫を倒すだけの戦力を用立てる必要もある

 

そして大輝の考えた作戦は……

 

 

先ずは息を深く深く吸う。穢れに穢れた不快な空気ではあるが少なくとも吸える空気である事は変わらない

 

カードホルダーと最低限のポーション入れ以外の邪魔なジャケットや装備はほぼ全て脱ぎ捨て蔵を経由し巌から渡された魔道具のカードを使う。ついこの間まで重宝していた『俊敏の銅剣』を左逆手に持ち、右手には白木の仕込み杖。背中に無銘の名剣を背中に背負うという出立ちだ

 

脱ぎ捨てた装備やジャケット、白木の鞘を収納した蔵を戻してやまらのおろちを出す。今回は攻撃一周等の一発勝負だ

 

今の大輝の戦力は……

 

大輝自身&定、大輝の切り札(エース)である剣と眷属オーク達、瓜子姫対メタの一つであるやまらのおろち、そして広範囲攻撃担当の燈だ

 

そして作戦……と言うには単純なものだが

 

1:大輝&定と遠距離攻撃手段兼護衛役である燈以外の全てが先ずは大輝/定の指示で突撃

2:そしてなるべく瓜子姫の隙を狙って大輝/定が三本の刀剣で瓜子姫を刺して固定

3:そして全ての力を振り絞って瓜子姫をタコ殴り

 

それだけだ

 

しかし……この一歩間違えれば下手すれば死ぬより悲惨な末路を遂げそうなこの状況。流石の大輝も内心では恐怖で体が震えてきてしまう

 

心臓がまるで早鐘の様に激しく鳴り響き、喉は激しく枯れて呼吸を慎重に行わなくてはならない

 

今まで愛用していた(普通の)水筒の水を一気に飲み干して放り捨てる

 

水を飲む為に一旦地に刺した仕込み杖を抜く

 

もう一度、姫子の抱き心地と唇の暖かさを思い出す

 

そして最後に一気に深呼吸をして……戦叫の雄叫び(ウォー・クライ)を挙げる

 

 

「雄雄雄雄雄雄雄雄愚ギア゛っ悪悪悪悪悪悪悪ッアッア!!!」

 

 

戦叫の雄叫び(ウォー・クライ)と言うよりむしろ獣の咆哮になってはいるが、それでも賽は投げられた

 

大輝(とその仲魔達)が明日を得られるか?それとも全てを喪うかはこの一戦に掛かっている

 

 

 

 

そしてその結末は?

 

次回に続く

 

 

【Tips】瓜子姫(その1)

 

日本各地に存在しないする御伽噺……をモチーフにしたと思われる死神(イレギュラーエンカウント)の一種

 

一見すれば襤褸を纏い山姥が持つかの様な凶悪な出刃庖丁を持った人間の美女(老若問わず)に見えるがその姿はこの死神が嘗てアンゴルモアで殺した女の姿である。そしてその襤褸も『人間の生皮』である

 

このイレギュラーはその出刃庖丁で他者の生皮を剥いで他者に化ける能力を持っているが、前に言った『美女の姿』もまた『嘗ての犠牲者の姿』である

 

その本当の姿は生皮を剥がれた人間と鬼が融合したかの様な悍ましい怪物だとこの死神に遭遇した生還者達から証言が寄せられている

 

この死神にはある程度の読心能力があるらしく、戦闘などには使えないが代わりに『他者を欺き騙す』事には無類の効果を発揮する(恐らくは『天邪鬼としての特性』だという説が研究者内では有力視されている)

 

読心能力で犠牲者の来歴や基本的な癖を真似るのが非常に巧く、余程の観察眼か獣の様な直感でも無いと初見ではそうそう気付く事は出来ない(服も剥いでちゃんと着てくるというのもあるからだろう)

 

この死神は他の死神と違い『パーティー攻略する者達が遭遇する方が更に危険』という珍しい性質を持っている

 

瓜子姫相手に多人数で挑むと……

 

【Tips】瓜子姫(その2)に続く




私が良く使う特殊フォントは『怨霊フォント』、次点で『吐き溜フォント』、『暗黒ゾン文字フォント』です

ホラーやグロテスク描写の強い味方です

二巻発売ブーストォ!!!


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第二十八話 結末


一応第一部の山場は簡潔に完結です(脳に酔った六代目シンデレラガールを憑依させながら)


 

勝敗の結論だが……幾つかの犠牲は払ったものの瓜子姫の討伐は成功した

 

 

『愚否卑……お゛魔エ゛のがオ゛ば、覚えダぞグぞ餓ギぃッ!!!』

 

 

そんな断末魔の声とドロップアイテム、そしておまけのガッカリ箱を遺して死神は消え失せた

 

さて……佐藤大輝は如何にしてあの悪夢の化身たる死神(瓜子姫)の魔の手を振り切ったかを少しだけ時間を巻き戻して見てみよう

 

 

 

あの雄叫びから大輝達の行動は迅速だった。雄叫びを挙げる行程の中でこっそりと『テレパス』でカード達に最低限の指示を同時に出していたのだ(今の大輝が此処まで器用な事はまだ本来なら出来ない。今が緊急事態故に何らかのリミッターが外れた状態だから出来たのだろう。これも一種の『火事場の馬鹿力』かも知れない)

 

 

……ぽたり、ぽたり

 

 

その代償に大輝は鼻血を出して目が激しく充血している、そして滅茶苦茶頭が痛い。何らかの負荷がかかってしまったのだろう

 

勿論、その鼻血と眼の充血に頭痛は即座にポーションパックから適当に掴んだポーションで治しておいた(ミドルポーションだった様だ)

 

しかし、その僅かな情報共有は値千金の価値があった

 

真っ先に突き進んで当たるを幸いに生皮の群れを千切っては投げ千切っては投げと活躍するのはやまらのおろち。今現在の限られた、大輝の持つ切れる切り札(虎の子)たる高等補助魔法・促成成長(レベルアップ)を行使して大輝の(エース)にも遥かに勝る戦闘力となっている(何せこの状態ならば下手な未使用Bランクより余程強いぐらいである……『女』を相手にするのならば)

 

元来Cランクとしてなら強い(基礎戦闘力400)上に高等補助魔法・促成成長(レベルアップ)で倍加、更に『女殺し』で強化されている……他諸々の(カードや魔石によるバフ込みで)額面上の戦闘力だけなら辛うじてAランク(最下級)の世界である

 

見た目と臭いの酷さのせいで評価は致命的に低いもののその分安く……セール期間ならばCクラス最弱候補のオーガよりも安くカードショップなどで買えるし売る際には激しく買い叩かれたり在庫次第で買い取り拒否すらある程だ(時にはオーク以下の捨て値で売られている事すらある……勿論、それはマイナス技能持ちだが)

 

稀に出る『買い手』もその外観や(特に)臭いの酷さで直ぐに手放してしまう(基本価格一千万円だがギルド売価は五十万円が普通という……中には買取り拒否で塩漬け状態というのもよく聞く話だ)

 

ちなみに……大輝の今持つこのやまらのおろちもメアリーさんの塩漬けCランクカードだった(もう一つの瑕疵オーガ含めて)

 

あの『生皮』どもは『美女の生皮』である為に『女』という属性が僅かなりとも付与されている(『瓜子姫』は言わずもがな)

 

まぁ……そんな訳で

 

 

『ぐバぁッ!!!』

『ゴがぁ!!!』

『ひギィっ!!!』

 

 

まるで熱々の湯槽に入れた泥団子か何かの様に『生皮』どもが溶けて砕けてゆく……ゆくが

 

 

ぐじゅるうぞうぞうぞぐちゃぐちゃうぞぐちゃうぞうぞッ!!!

 

 

まるで無限に、無辺に、無尽に沸き出る腐れた瓜蔓の群れ……もはや腐樹の津波としか言いようの無い『眷属』の無限沸きだってある

 

不快な甘さと穢れを纏う草木や実で出来た蜚蠊(ゴキブリ)どもの無尽蔵の責め……どうやら死神(瓜子姫)も今あるリソースで本気を出して来た様だ

 

『瓜子姫』……いいや『イレギュラーエンカウント』というものは割合低ランク迷宮では所謂『舐めプ』に走る事が多いらしい(『見どころのある獲物を探す為』だとか何だとか研究者は言っているが)

 

……大概の半竹者の冒険者達はその『舐めプ』であっさり死ぬが

 

まさか、まさか此処まで『自分に直撃ガン刺さりメタ仕様冒険者』が来るとは流石の死神(瓜子姫)でも想定外だっただろう……例え低ランクでしか効かない仕様でもだ

 

良く磨かれた『ジャック・オ・ランタン』()や最高に磨かれた『ボアオーク』()ならまだ普通だ……しかし『やまらのおろち』みたいな酷いカードだけでなく、あの『手の目()』みたいな奇跡の産物みたいな酷すぎるチートカードまである上に他にも様々な予備カードを沢山持っているという有り様と来た

 

普通なら良くてやまらのおろちや奪衣婆・懸衣翁コンビのどちらかが来れば上出来の部類である。中には金にあかせて下位の(比較的従順な)Bランクカードで蹂躙しにかかる金満エンジョイ勢(下品な輩)『イレギュラー狩り』(専門家)もいるがこいつら(大輝パーティー)はそれらとは訳も質も全てが違う

 

限りある資源で手間暇かけて真剣にこの地獄を想定して(私達を想って)挑んでくる(くれる)ちゃんとした冒険者(強く惹きつけられる怨敵)』だ。本気のガチ対策(最高のおもてなし)

 

……尤も、それで絆されて簡単に殺させてくれるならイレギュラーエンカウント(彼女ら)は此処まで恐怖と厄災の権化として扱われはしない

 

尤も、『小さな勇者(メタ)』を出されて即自決(嫌がらせ自爆?)をかました陰険ピエロ野朗(ハーメルンの笛吹き男)も中には居るが

 

この怪異はどうやら佐藤大輝を『何が何でも絶対に殺す(欲しい)』と思った様だ……勿論、殺意だけなら両想いだろう

 

……『本当にそう思ったかどうか』は知らないが

 

だから『瓜子姫』はイレギュラーらしく今盛大に佐藤大輝に興味(殺意)を向ける……『婚前の娘を面白半分に惨殺した(婚前に惨殺された女の)怪異』らしく

 

 

『ヤるねェ゛、ながナか殺ルジャないカい坊ヤぁ゛?』

 

 

『瓜子姫』の言葉……今までは只悍ましいまでの殺意と悪意だけが詰まった空虚な言葉だったが今のその言葉に『熱』が感じられる

 

 

『男ノ皮はいらなイゲどアん゛だノ皮ハ゛戦リ品にデも゛頂グわァ!!』

 

「そうかい……その要求は却下だ死神(クソッタレ)

 

 

それだけで返した大輝/定は……辺り一面の腐った瓜蔓から反響する瓜子姫の声の出所に突撃する

 

やまらのおろちの補佐に回していた剣と後衛の燈を伴いながら瓜蔓津波を掻き分け切り裂き焼き払いながらの決死行だ

 

その中で剣の眷属オークは全て討死し、燈も案山子の身体を破壊された……尤も、眷属オークならDランク魔石を代価に追加召喚させているからまだ眷属召喚は機能してはいる

 

その眷属オーク達の動きは本来の眷属よりも少し鈍く貧弱に思えるが、まぁ肉壁や漢探知には充分に使えるから当場は凌げるだろう

 

まだ魔石の余裕はある……だからこそなるべく余裕のある内に全てのカタを付けておきたい(やまらのおろちの方だけはあまり余裕は無いが……Cランク魔石は貴重故に)

 

序でに言うなら剣に持たせていた『ミノタウロスの戦斧』も刃毀れが酷くなって来た。一応軸や重心からの違和感は無いらしいが少なくとも後で必ず研ぎが必須ではある(上質の出物ではあるが所詮これは中古品だ、むしろ良く此処まで持ち堪えてくれたものである)

 

ちなみに、こういう『純正の武具型魔道具』という代物は研いだりする事は出来るが補修や打ち直しは基本的に『そういう技能持ち』でも調達したり(そのマスターを)雇用したりしないと不可能だ。壊れたら只のガラクタになるか消滅するかのどちらかだ(余程特殊な魔道具でもなければ壊れたら直せないのだ)

 

 

「剣、使えッ!」

『承知!!』

 

 

間髪入れぬやり取りで大輝は背負っていた『無銘の名剣』の背負いベルトを手に持つ刃で切り捨てて鞘ごと剣にぶん投げる。ぼろぼろになった戦斧をカード化しながらその名剣をさっと掴んで邪魔な鞘を一振りで放り捨てて再突撃を仕掛ける剣

 

一番長い付き合いだけあって正に阿吽の呼吸だ

 

 

キキィ、キホキホォ!!(身体が無いとキツいよぉ!!)

 

 

首だけになっても大輝の背にしがみ付いて火炎魔法で支援を続ける燈だっている

 

 

『不快な雌と草臭さですねぇ、臭くて臭くて嫌になって来ますよ』

 

 

……そんな暢気な事を呟きながらやまらのおろちは当たるを幸いに大暴れ。何か不穏な感じの台詞を吐いているがそれはさておき

 

そんな中で定の声が大輝という発信局からテレパスを通して仲間達の魂だけに響く

 

 

『旦那、そろそろ奴の本体ですぜ』

 

 

定のドスの効いた渋く深い声が示す先に……確かに『奴』は居る。『眷属』の群れに隠れ潜み今尚諦めずに大輝の生皮(首級)を狙う『瓜子姫』が居る

 

 

『血イ゛っ、ミヅがッダか!!』

 

 

既に『生皮』はカンバン(弾切れ)らしくざっと観たところ最早姫子のパチモノ皮だけしか無い様だ

 

 

「……その不快なコスプレは、今すぐ辞めさせて貰おうか化け物(クソッタレ)

 

『愚腐ッ、れでぃのヌゥどが観ダいの゛がイ坊ヤ?』

 

「そいつは失礼化け物(クリーチャー)!!!」

 

 

軽口?罵倒?の応酬の果てに大輝(定&燈)は瓜子姫とぶつかり合う事に成功した

 

瓜子姫という怪異は基本的に接近戦タイプの怪異である。その特徴的な出刃庖丁と『鬼(天邪鬼)』としての牙や爪で襲いかかって来る

 

ある意味では読者貴兄も良くご存知の『ハーメルンの笛吹き男』に近いスタイルだとも言える(瓜子姫は決してあそこまで賢い怪異では無いが)

 

無数に……本来ならば(その迷宮のレベル基準ならば)無数と言えるぐらい存在する『生皮』からの奇襲こそがこの瓜子姫の必勝戦法である

 

一方の大輝も自分の得物を一瞬で確認する……仕込み杖は腐汁でべたべたに濡れている。柄の木や軸に僅かに違和感を感じる、沢山の刃溢れの中に僅かな(ひび)があるのが解る。目釘が折れかけてもいるのだろう

 

少し、辺りの木に(わざと)軽くぶつけてその反響音で理解出来た

 

多分、この仕込み杖はこの戦いを持ち堪えられるかどうかだろう。仕込み杖というものの宿命だ(所詮は脆い暗器である、仕込み杖はその機構的な脆さ故に良くて『珍品』扱いであり普通にマイナー(産廃)武器扱いなのだ)

 

一方の『俊敏の銅剣』は……腐汁に塗れてはいるし幾らかの刃毀れはあるがまだまだ普通に使えるだろう。やはり仕込み杖と同じ方法で確認しても大丈夫だった

 

鋳造式西洋剣という代物にはこういう『性質的な頑丈さ』という利点だけで愛用する冒険者が多い(刀型魔道具だと『銘有り』なら非常識に頑強だが無銘シリーズ程度だと……である)

 

尤も、今回のケースなら『非常に苛烈な荒試し』よりも更に苛烈な実戦である為『良くぞ今まで持ち堪えた』という評価が正しいだろう。大概の素人なら途中……いや序盤戦どころか道中でへし折ってしまうのが関の山だ

 

大輝からしても定からしてもあの『仕込み杖』は非常にしっくり来る代物だから今の仕込み杖の状態はとても残念な話なのである(むしろこの鉄火場に来てくれた事を感謝する感情の方が大きいのだが)

 

しかし今は『たられば』何ぞ気にしても仕方ない。今ある、今までの帰結で調達出来た手札だけでどうにかするまでだ

 

 

豪ッ!!!

 

凍ッ!!!

 

 

大輝は今まで温存しておいた二つの高等攻撃魔法のカードで紫電と氷河をばら撒いて道を切り拓く。運良くその中の氷河が『瓜子姫』の脚を捉える

 

 

『ヂい゛っ、殺ッ゛でぐレルネ糞餓鬼ィ゛!!!』

 

 

脚を封じられた『瓜子姫』があの凶悪な出刃庖丁を何本も投げながら大輝達を牽制する

 

 

『吻ッ!!!』

 

「厄介だねぇ!!!」

 

 

生来武器である戦斧で軽々と出刃庖丁を弾き飛ばす剣、そして寿命間近な仕込み杖を盾に乾坤一擲の突撃を繰り出す大輝/定/燈

 

後数歩で『瓜子姫』という地点で奴……『瓜子姫』は更なる悪足掻きに出た

 

 

『擬非卑、最高ニ゛最悪だネあン゛ダらァ!!!』

 

 

ぞんっ!!!

 

 

『瓜子姫』は……何と氷河に囚われた己の両脚を躊躇いもなくその出刃庖丁で切断して大輝達から更に距離を取ってきた

 

 

ブシャァ!!!

 

 

『「ぐげっ、腐あっ!!!」』

 

 

まるで烏賊(イカ)章魚(タコ)の様にその脚の切断面から吹き出す腐った血を煙幕代わりにする、という置き土産付きでだ

 

これには流石の大輝達も一瞬面食らったらものだ。眼には見えずともその腐血は激しい音とゾンビ……いややまらのおろち以上に強烈かつ悍ましい悪臭で流石の大輝/定でさえ聴覚と嗅覚、そして味覚が一瞬馬鹿になる程だった

 

 

大輝と定が同時に吐きそうになる程に

 

 

そして、その一瞬の、絶好の隙をあの往生際の悪い『瓜子姫』が見逃す筈は無い

 

確かに『瓜子姫』は(イレギュラーの中でも)頭のあまり宜しくはないタイプではあるが、流石にこの状況でこのチャンスを棒に振る様な間抜けでは無い

 

 

ぐじゅる……ぐじゅる……

 

 

即座に切り落とした脚の代わりに『眷属』を巻き付かせて代用の脚……いや蛇胴をでっち上げて来た

 

まるで『腐った蔓の姦姦蛇螺』とでも言った様な塩梅の姿になった『瓜子姫』。この『瓜子姫』は『眷属』を四肢を損傷した(こういう)状況に四肢の代替(こういった)具合で使うという情報は既に存在はしているが少し希少なケースだったりもする

 

ずるずる……ずるずる……と正に姦姦蛇螺の様に他多数の眷属どもの津波にまた身を隠そうと足掻く……しかし

 

 

ザシュッ!!!

 

 

『瓜子姫』の胴体、その背中からを『何か』が貫き深く地面に喰らい込ませる。それはやはりあのボロボロになった仕込み杖だ

 

 

「……この鉄火場に悠長に悶えてられるか、馬鹿野郎(バケモノ)

 

 

口から酒臭い胃液を涎の様に垂らした大輝が突撃を止めずに突き刺した仕込み杖。それが『瓜子姫』を地面にまるで昆虫採取の蟲の様に留めている

 

 

『……ッの、糞゛餓゛鬼゛が悪悪悪亞亜ッ!!!』

 

 

『瓜子姫』の絶叫をどこ吹く風と無視しながら背中を踏み付けてその背を小剣で滅多刺しにする大輝/定。更にはとっておきの縮地で大輝の傍らに馳せ参じる剣(間髪入れずに『瓜子姫』の腕を切り落としてもいる)

 

しかもやまらのおろちが頭の半分で『瓜子姫』の蔦蛇胴を喰らい引き裂きながら燈と『眷属』を牽制している

 

『瓜子姫』を封じる仕込み杖は割と直ぐに折れてしまったがその功績は最後の最期まで莫大だった

 

悲鳴と罵声をがなり立てる『瓜子姫』をバラバラに切り刻むのに暫く時間が経過して話は冒頭に繋がる

 

『瓜子姫』の残骸から響く(あの冒頭の)断末魔から漸く……漸く『死神の招待状』は棄却出来た

 

後は身支度と戦利品回収後に帰るだけだ

 

 

 

 

 

次回に続く




漸く……漸く『第一次瓜子姫討伐』が完了です。後は後始末ですね


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第二十九話 イレギュラー・リザルト

呪いのアイテムでも贈り物は贈り物?


 

 

あの緑の死地が本来の広い石室に戻った事と……手負の獣か何かの様にギラギラと血走った眼差しでさっきまでの死闘の結末たる瓜子姫の消滅と戦利品、そして何時もの様に無駄に豪華なガッカリ箱の出現を最後の気力できっちり確認した大輝は

 

 

けぽけぽけぽけぽ

 

 

盛大に崩れ落ちて四つん這いに蹲り……地面に向かって盛大に吐瀉物を吐いていた

 

……無理もない、安全を確認した瞬間に全ての緊張の糸が切れ、おまけにさっき浴びた悍ましい体液(瓜子姫の腐血)を直接被る羽目に陥り、更にはその瓜子姫を滅多刺しにしていたため、腐血だけでなく腐肉も全身に被っている有り様だ

 

ついでに腐ったあの空間内の瘴気に鼻や喉、肺をやられた。というのもある

 

さっきまでは唯気合いだけで耐えていただけだ。その気合いが必要な理由も無くなって緊張の糸も切れたからリバースしているのだ

 

……その最中、腰のカードホルダーが何やらピカピカ輝いている事にさえ気付けぬ程に

 

ひとしきり吐きに吐いた後で何とかまた適当に掴んだポーション……ミドルポーションを一息に飲み干してから一時的に蔵とキキーモラを召喚する

 

先ずはダメージの激しいやまらのおろちと剣からキキーモラに治して貰いそれから巌、燈、定の順番で診て貰う

 

燈の身体は早く直してやりたければ日曜大工か何かで直ぐに造るかギルドで良質な出来合を買うかする必要があるがカード達は皆無事だ

 

 

『キキホッ、キホッ、キホォー』(あまり見ないでくれよおやびんー)

 

 

ジャック・オ・ランタンとしての習性を圧し込めてでもあの地獄を支えていてくれた燈にちゃんと感謝の言葉を述べて直ちにカードに戻す

 

良質な案山子ボディはジャック・オ・ランタンにとっては『普段着より良いお洋服』だから良いケーキと一緒に早く買ってあげれば喜んでくれるだろう

 

今居るのは剣、定、蔵、キキーモラといった編成だ

 

迷宮内なら例え攻略後でも絶対に必須の護衛役たる剣以外はこれから後の後始末やリザルトに欠かせないメンバーばかりだ

 

しかし……武器は結構ボロボロなので直ぐにギルドかカードショップに依頼して要手入れだ

 

ギルド職員達に預ければ職員達のドワーフや一本ダタラみたいな職人系カード達に簡易的な修繕整備してくれるサービスがある

 

少なくとも『やらないよりはやった方が武具は持ち堪えるだろう』という程度だが、まぁ割と安い値段でやってくれるので武具持ちからの評判は良いが

 

剣から受け取った無銘の名剣はキキーモラがさっき切り落とした背負いベルトと鞘を拾ってあっさり修繕してくれたので今はきちんとそれを納刀した後で蔵に収納して貰っていた布に巻いておいておく

 

冒険者免許があるからと言っても好き勝手にこんなおっかない長物をこれ見よがしに持ち歩く権利は無い。特に大輝は『プロ検定筆記試験』を合格している身だ

 

もしもそんなチョンボをやらかしたら……少し間違えばプロ昇格資格剥奪か下手すれば冒険者免許剥奪ものだ。大輝のライセンスの特筆事項にもきちんと『プロ限定筆記試験合格証』が付いているから万が一やらかしたら言い訳一つ許されないだろう

 

この合格証もとい資格はプロ冒険者だけでなく迷宮法に纏わる法律家や冒険者ギルド上級職員の必須資格でもある。大輝も『この世界がちゃんと滅ばずに存在し続けるなら』という条件下ならば今現在で勝ち組になれるチケットは習得済みだと言える

 

まぁ……あまりそのルートには期待出来ない、と大輝の勘は告げているのだがそれはどうでも良い話だ

 

 

「……また、短い付き合いだったけどこいつは本当に頑張ってくれたよな」

 

 

ぼろぼろの、口から下は吐瀉物(ゲロ)まみれで瓜子姫を貫いて地面に留めてくれたある意味MVPと言えなくもない仕込み杖……の辛うじて残ってくれた残骸を掴む

 

刀身は三分の一しか残らず、残された刀身も目に見える激しい罅や刃毀れ疵だらけ。柄の目釘も完全に砕け折れている上に柄本体も罅が入っている、そんな無残な有り様だ

 

幸い、投げ捨てた鞘……先に挙げた名剣の方の鞘やついでに水筒の回収も含めて出来てはいる

 

その残骸を鞘に納める……罅や刃毀れ、刀身そのものの歪みのせいで残念ながらあの手に馴染む様な見事な納刀は最早出来なかった

 

 

『定に合う刀、どうしよう?……いや、それ以前に身体中が臭いなオイ』

 

 

気を取り直して考えた通りにキキーモラに頼んで『初等補助魔法:浄化(ピュリファイケーション)』を使って貰って吐瀉物の処理をして貰う

 

ついでに蔵に預けておいた無限水筒と蔵の家事魔法から出して貰った石鹸で身を清めてもおく。あの穢れに穢れた空気や吐瀉物……瓜子姫の消滅と同時にあの悍ましい体液や肉片も消失はしているがその穢れも早く落としておきたかったからだ

 

その間にキキーモラが汚れた戦闘服を洗濯乾燥までしっかりやってくれていた。こういう時に家事魔法は便利なものである

 

 

『旦那、そろそろ戦利品を回収しねぇと……』

 

 

やはり家事魔法で出して貰ったタオルの様な布で身体を拭いて外に出る為の着替えを済ませたら瓜子姫撃破からもう三十分、まぁそろそろ『現実逃避』は出来ない

 

 

「……そうだな。そろそろちゃんと『目の前の現実』に向き合わないとな」

 

 

大輝は先ず『瓜子姫のドロップ』からは眼を逸らしてガッカリ箱から取り掛かる

 

今回の目的である『白い魔石』はちゃんとある。これをギルドに提出すれば晴れてその場で『二つ星昇格』だ

 

ちなみにこの白い魔石はこの迷宮の階層から考察して……だいたい三十五万円前後といった処だろう。普通の魔石より魔力の含有量が多く人工魔道具の重要な材料にもなる事と局地的アンゴルモア対策の報奨金分も有って結構な値段で売れるのだ

 

そして箱の中のもう一つのアイテムは……糸玉?の様な何かだった

 

定に鑑定して貰いながら手持ちの端末でその糸玉(らしき何か)についてこちらでも調べてみる。予想が的中しているなら恐らくこれは……

 

定みたいな高い鑑定能力持ちが手札に有れば拾ったばかりの謎のアイテムだって直ぐに戦力に出来る。一応端末に入れたアプリとかでも簡易鑑定は出来るが間違って呪われた魔道具や所持禁止類魔道具をうっかり使ってしまったら後が怖い。勿論アプリ鑑定何ぞでオーブ鑑定何ぞまず不可能だ……それから待つ事一分すらかからず

 

 

『旦那、こいつの正体が判りやしたぜ』

 

 

定曰く、これは『転移系統の力を持った魔道具』らしい。安全地帯でのみ使用可能で行き先は迷宮の出入り口のみという転移系魔道具としてはありふれた機能の代物だった

 

しかし……この魔道具は『何度でも使用可能』という素晴らしい特性もあるらしい

 

大輝の予想はドンピシャだ。これは『アリアドネーの糸』と呼ばれる非常に珍しく貴重な代物である

 

 

『アリアドネーの糸』……それはギリシア神話に登場するクレタ王ミノスと妃パシパエのあいだの娘アリアドネの名を冠した魔法の糸である。テセウスがクレタ島の迷宮より脱出する手助けをする為に必要な道具として非常に有名だろう。ちなみにアリアドネという名は「とりわけて潔らかに聖い娘」を意味する(あのゼウスの数多居る孫故に半神の類いでもあるのだろう)

 

この魔道具を所有している一部のゲーマー達は何故か大の栗鼠嫌いになるとかならないとか?そんな与太話が冗談混じりに有ったりもする(『栗鼠はこの魔道具を盗みに来る』とか何とか?)

 

今から先の大輝にとってもこの魔道具は非常に有益だろう。『回数制限の無い転移系魔道具』……その中でも一番安くありふれた代物だとしてもその価格はこちらの売却価格でも最低一億超えだ、買値だと最低三億で済めばむしろ詐欺を疑うべきレベルだし普通ならまず間違いなくオークション行きだ

 

ちなみに類似品に『アリアドネーの冠』という代物もあるらしい(機能は糸と完全に同じだけど珍しさと美術品としての価値で最低五億はするとか)

 

これさえあれば迷宮探索でも帰りの時間を沢山節約出来る。次は最短ルートをちゃんと把握出来ていれば良い

 

これからは更にマッピングが重要になるだろう。マッピングの精度次第ではEランク迷宮攻略が捗るだろう。最短ルート開拓がちゃんと出来るならば

 

次の『三つ星昇格』……アマチュアなら最高峰の資格にも案外早く、もしかすれば高校入学迄に達成出来るかも知れない。その時は冬休みが勝負の分かれ目だろう

 

今の戦力……相性次第とはいえEランク級イレギュラーを撃退出来るならまず不可能ではないだろうが冬休み迄は更なる増強をしないといけない

 

戦力増強だって今回手に入れた金貨袋や五粒のカーバンクルガーネット、それと『イレギュラーの懸賞金』だってあるからもしかすればそこそこ程度なら他のCランクカードだって入手出来るかも知れない

 

手持ちの資金は現金だいたい五百万円とカーバンクルガーネット二粒。推定収入を合わせて推測するならだいたい三千万円其処らの予算が入手出来るだろう

 

……いや、先ずは取り寄せ中な懸衣翁の購入でそれなりに予算を使うからだいたい二千万円程度と考えておくべきか?

 

まだ半月以上はこの迷宮の専有権があるからカーバンクル狩りとガッカリ箱強化はなるべくやりたいが……まぁあまり欲をかかずにちゃんとギルドにこの迷宮を返却しよう。ギルドからの信頼でこの迷宮に宛てがって貰ったのだからなるべく誠実に接しておこう。『この一回はイレギュラー討伐の余録』とかあまり良くない。下手すれば推薦してくれた師匠(メアリーさん)の顔に泥を塗る結果になるかも知れない

 

取った取らぬな狸の皮算用を繰り返し……たいが『現実』は冷たい。そろそろ『アレ』を直視しないといけない

 

先ずは……『瓜子姫の魔石』だが、これはサイズだけなら普通のDランクモンスター基準で言えばまぁ大きめの範囲ではあるが普通だ。しかし……普通の魔石と違って『凝固してドス黒く固まった血の様な赤色』という意味では違う代物だろう

 

普通の(黒、白)の魔石は使い切れば砕け散るが……この赤い魔石は一度使い切っても一日も有れば完全に回復する凄い代物である。だからギルド(国家)は常にこの赤い魔石を求めている。勿論危険極まりないイレギュラー討伐賞金も兼ねているが

 

ちなみにこのEランクイレギュラーの魔石なら一律一千万円。Fランクなら百万円、Dランクなら一億円とランク向上ごとに賞金兼魔石代が十倍に増してゆく

 

『その困難さ』は兎も角として……普通なら一千万円という大金と『アリアドネーの糸』というガチ勢垂涎のお宝を獲得したのに大輝は何故かうかない顔をしている

 

その理由が『もう一つの瓜子姫のドロップ品』である

 

 

『それ』は……『瓜子姫』が持っていた代物である

『それ』は……持ち歩けば間違いなく警察にしょっ引かれる代物である

『それ』は……非常に血腥く、見てくれは酷いものだ

 

 

大輝は『それ』について師匠や兄弟子達からその有効性と其れを遥かに上回る危険性を様々な意味で叩き込まれてきた

 

 

『それ』は……『瓜子姫の出刃庖丁』

『それ』は……死神からの贈り物(イレギュラーのマーキング)

 

 

ある意味では非常にもの凄いブッ壊れ魔道具であり……それを贈った死神からの『必ずまた殺しに来る』という意思表示であり、また他の死神を引き寄せる可能性を持った危険極まりない誘導装置(ビーコン)である

 

大輝は……何時か必ずあの『瓜子姫』と再戦する因果をこの出刃庖丁で押し付けられたのである

 

 

 

【Tips】死神からの贈り物

 イレギュラーエンカウントたちが残す特殊な魔道具は、ただの便利な道具ではなく彼らが獲物と認めた者たちへの勲章であり、マーキングとしての側面を持つ

 そのため死神からの贈り物を持つ者はイレギュラーエンカウント全般とのエンカウント率が上がり、特に贈り物の主とはいずれ必ず再会する定めとなっている

 それは仮に贈り物を手放し、冒険者を辞めて迷宮に潜らないようにしても避け得ぬ運命である

 再会の際、それが死神たちを失望させるものだった場合、運よく生き延びられたとしても贈り物に込められた力は没収される。

 もしそれが嫌ならば、自らが獲物に相応しいことを証明し続けるか、死神たちに真の意味で認められなければならないだろう

今回の佐藤大輝の様に師匠や兄弟子達の経験則と教導でその危険性を知る者は実はあまり多くは無い

一部の好事家などが使えもしないのにコレクションしたりもするらしい

 

※:公式より百均様の許可を頂いて転載




出刃庖丁の詳細は……次回を待て(をい)


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第三十話 イレギュラー・リザルト その2


まだ二つ星試験の後始末が続きます

あと大輝の人間関係や周囲の評価を一部情報解禁


 

とんでもない厄介物(瓜子姫の出刃庖丁)今は亡き戦友(仕込み杖の残骸)をやはり無銘の名剣と同じく一反木綿の能力で生成した白い木綿布に包み、用意しておいたそれ用のバッグとで二重に仕舞い込んで迷宮を脱出する。入手した武具を収納する為の冒険者の最低限の嗜みだがダンジョンマートでも使い捨て前提でよければ一応は売っている

 

時間はだいたいお昼前……夏の鮮烈な日差しとアスファルトを灼くあの臭い、そして少し遠くに陽炎が立ち上る正に真夏日だった

 

先ずは出口のダンジョンマートから最寄りかつギルド行き経由のFランク迷宮に行ってそのダンジョンマートで沢山の惣菜、お菓子、ジュースを買い占める勢いで買ってから蔵に渡してカード達に仮の打ち上げをして貰う。酒は残念ながら未成年者の大輝には買えない

 

大輝自身はダンジョンマートの人気商品である『人魂アイスクリームバニラ味』を暑気払いを兼ねて買い食いしながら次の目的地に向かう。勿論先方へのアポイントメントは忘れない

 

適当な喫茶店で幾らか時間を潰し、大概の役所の昼休憩時間の終了に合わせてから目的地である試験を受けた冒険者ギルドに赴いて列に並んで登録申請から整理券を貰ってソファーで順番待ちしながら保護のブーツを(あらかじめ蔵に預けていた)前の靴に履き替えておく

 

 

『……前の靴もかなり上質な代物の筈なのに、今履いてみたら違和感が酷い。あの酷い足場でさえまるで舗装された道みたいだったし本当にこの『保護のブーツ』は凄いものだ』

 

 

そんな事を考えながら大輝は大人しく近隣のカードショップのカタログを見ながら待つ

 

通常のクエスト受注や二つ星試験申請みたいに昇格試験やイレギュラー討伐報告はスマホ一つで出来る訳が無い。どちらも『証拠品提出』が必要なのだから

 

ついでに使っていた武具の整備依頼や『カード化』が必要な魔道具の処置やカードショップで燈の為の新しい案山子ボディの購入もあるから絶対に来なくてはならない。もしかしたら懸衣翁がそろそろ入荷しているかも知れないし

 

『Eランクイレギュラー討伐』は流石にそこそこ大事だったか?少々慌ただしくなったカウンターの中を眺めていたら……そこそこ早い三十分後に担当のメアリーさん(師匠)に試験達成と件の魔石二種と『禍々しいあの物体X(瓜子姫の出刃庖丁)』、それと『カード化したい収穫品ら』と刃物供養の為に仕込み杖の残骸を提出する

 

 

「……ゔぁ゛。まさか本っ当に『アレ』が出るとはね、たしかに大輝ちゃんの勘は昔から凄かったけど」

 

 

流石に古参サマナーであるメアリーさんも大輝の勘の鋭さにはびっくりだがそれは当然だ

 

『イレギュラーの出没を勘で予測する』なぞ普通は先ず出来ない。その程度で予想出来るなら世のイレギュラー被害はまだ多少はマシなものになるだろうし

 

大概のイレギュラー対策というものは『長時間迷宮から出ない冒険者』の居る迷宮を調査して確認、もしも『居るならば対処する』という事しか出来ない

 

数多くの予兆予測実験を繰り返し繰り返し……それでも殆ど有効性のある手段は見つからない有り様だ

 

そういう背景から『イレギュラー対策』に特化したプロも世の中には存在していて、中には『死神殺し』とも呼ばれる有名人も居たりする

 

大概のプロでも『死神駆除』は非常に危険なのでやりたがる者は非常に少ない。死神の種類によってはFランククラスだろうとプロを殺せる奴も居るし、勿論あの悪名高い『浦島太郎』は言うまでも無いだろう

 

世の中には『的中率一割以下』ではあるものの『イレギュラーの存在を感知出来る魔道具』という物も存在する。勿論、非常に貴重な代物なので先ず滅多にお目にかかれる様な代物ではない。世界中のプロ冒険者や富豪が鎬を削る最高クラスのオークション会場なら稀に?という程度だ

 

ちなみにその魔道具の名前は『炭鉱の金糸雀(カナリア)』と言って嘗ては『低確率な危険察知』が出来るだけのハズレ魔道具としてほぼ捨て値で取り引きされていたり酷い時にはその場で捨てられていた様な代物だった

 

それが何故今の様になったのかと言うと……日本のサマナー達を前身としたオタク冒険者組合、正しくは『オタク文化を守る会』の一人がたまたまこの魔道具を愛用しその予兆を信じて活動していた事がきっかけだった

 

この魔道具を馬鹿にする者達を無視し、ボス部屋手前でもこの『金糸雀のお告げ』を信じて時に大儲けを棒に振っても彼は愚直に冒険者生活を続けていた

 

しかし……その彼が忌避したボス部屋に割り込みで入った冒険者がイレギュラーに遭遇する、という事案が何度か発生した

 

その複数あるケースや実際にイレギュラーが出現した迷宮などで精査した結果、件の『炭鉱の金糸雀(カナリア)』の本当の特性が明らかになった

 

 

『ある程度以上にイレギュラーが出る確率があるなら鳴いて警告してくれる能力』

 

 

有り体に言えばそれだけだが、少なくともこれの指示に従えば『まず迷宮でイレギュラーには遭遇しなくなる』という訳だ

 

勿論デメリットもあり、これが鳴く時は『大儲けの確率』も高くなる事も判明した。先に挙げた『大儲けを棒に振った』というのもこの辺りから来る

 

しかし……それでも非常に貴重かつ珍しい『新しい対イレギュラー用魔道具』の発見だ。そしてこの『炭鉱の金糸雀(カナリア)』は二束三文のガラクタから最高クラスオークションの目玉商品にまで昇格した

 

まぁ『原作』にもある『天岩戸の注連縄』みたいな遍歴を辿った魔道具の一種だと思えば良いだろう。魔道具の商取引にはこういうギャンブル要素みたいな一面もあるから侮れない

 

 

閑話休題(それはさておき)

 

 

先ずはカード化処置の為の手続きからだ。対象は『無銘の名剣』、『保護のブーツ』、『アリアドネーの糸』と……まぁあと一つあるがそれはまだ後の話だ

 

『無銘の名剣』は活用するなら銃刀法関連と何より物理的に嵩張るから必要。『アリアドネーの糸』は防犯上の理由だ、捨て値で売ってもちょっとしたBランク並みの値段がする代物だから絶対にやらなくてはならない。『保護のブーツ』は日常使いしたければ必要不可欠だ……市価五百万円のこれを学校の下駄箱に無造作に突っ込めるか?と考えれば宜しい

 

そしてそれと一緒に『俊敏の銅剣』と『ミノタウロスの戦斧』のカードをマスター権を破棄しながら提出する。手入れには必要不可欠な手順だ……魔道具整備が出来るカードがあればその面倒な手間暇は必要無い。それが可能なカードは大概Cランクか珍しいDランクだからまぁ仕方ない

 

ちなみに自分の所有するカードならば何時でも幾らでも『貸与』という型で持たせて使用させる事が可能だ。同じ所有物というカテゴリ同士だから可能な事だ

 

それと……カードに何か私物を与えたければ『お道具箱』か何かをカード化してそのカードに与えれば良い。カード内か迷宮での休憩時間にそのお道具箱の中に収納した娯楽を楽しんでいるだろう

 

三つの物品と二枚のカード、そして『禍々しいあの物体X』を提出した後は『二つ星昇格試験』の合否判定だが……勿論満点合格だ

 

むしろちゃんと期日以内に課題を達成した上に『イレギュラー討伐』という難題を追加で攻略した者を逆にどう不合格にすれば良いのか?むしろその戦力なら既に三つ星資格持ちレベルの逸材だ

 

大輝のデッキ編成ならある程度は知っているメアリーさんでもこの『一つ星詐欺』でしか無い新米にあるまじき凶悪極まりないデッキ編成には軽くヒいたものだ(そのデッキ編成の構築に協力した身ではあるが)

 

ついでに言えば『あのボーナス迷宮』でちゃんと一度の攻略後に迷宮攻略権を返納した辺りもギルド的に高評価だ。三十日以内ならばあの迷宮は大輝が不文律として独占可能だったが仮にも『シークレットダンジョン』だという事を理解して即返納してくれたのは……ちゃんとギルドの顔を立ててくれたからだろう

 

いや、『イレギュラーが発生した』という情報をちゃんと伝える義務の為にその不文律の権利を放棄してくれたからだろうと推測する。ギルド的に大輝みたいなガチ勢かつ優良で誠実な冒険者の存在は非常にありがたい。多少の贔屓枠に入れる事に周囲も更に深く納得してくれるだろう

 

もしも……出来るならメアリーさん的には後々には大輝にギルドでの後継ぎになって欲しいという欲もある。この歳で『プロ冒険者筆記試験』を合格した上にほぼ自力で構築した戦力でイレギュラー撃破したり二つ星試験合格したりと非常に優秀な逸材だ。唯一の欠点であるコミュ力は『まだ成長の余地がある』と言える年齢だから大丈夫、大丈夫

 

大輝の身柄はダンジョンマートも要チェック中なので非常に難しい案件でもあるのもまた欠点だが『優秀かつ信頼できる人材』は値千金だから当然の話だ

 

……年齢が間違いなく合わない上に大輝自身が彼女持ちなので娘の婿には出来ないしそもそも娘は既婚者だし既に孫だって居るけど。もし出来るなら大輝を直で養子にしたいぐらいである(言ったら大輝の両親や姫子の両親と即サドンデス・バトル開幕案件だが……まぁ家庭板案件よりかは大人しいだろう)

 

メアリーさんが純粋に『佐藤大輝』という男をそれだけ気に入ったというだけの話だが

 

下手を打てば冒険者ギルド(メアリーさん)ダンジョンマート(佐藤・薬丸夫妻)の一触即発案件だが……実は自衛隊のスカウト達も大輝を狙っているらしい

 

自衛隊はギルド以上に慢性的かつ深刻な人材不足に喘いでいる。訓練は厳しく給料は安く『冒険者の収入』に比べれば間違いなく雀の涙であり義務で雁字搦めなので実は就職先としては不人気だ

 

一応、優秀な冒険者になる為の育成レジェメは確りしているし一部の『所持禁止魔道具類』の公務限定での使用許可もある。強いカードや魔道具も潤沢に支給貸与されはするしちゃんと勤務すれば引退時には最低でもCランクカードが一枚は無償で払い下げられる。勤務年数や功績次第ではBランクカードだってあり得る

 

極まったガチ勢の中には『自衛隊に入隊後に冒険者デビュー』という方針を取る者も多く、プロ資格を得た者達の大半が自衛隊上がりを占めているという情報もある

 

大輝も最初は自衛隊修行も考慮には入れたが……資金面的に宜しくなく自由が無くなる事や退官しても義務が多い事からその方針は切り捨てた

 

ちなみに自衛隊のスカウトマンが大輝を狙っているのはだいたい『姫子の勧誘の為』が最初の動機だったりする。要は『抱き合わせ』だが大輝自身も『メアリー塾のちゃんとした門下生だから』という理由もある……『メアリー塾の門下生』というのは冒険者界隈では何気に強い立場故に

 

そんなこんなで大輝が作ったあの試験迷宮のデータを精査してから破棄し、そして『この迷宮の情報を秘匿する』という契約書に改めてサインをすれば晴れて大輝は『二つ星冒険者』だ

 

簡素な白い旧カードを返納し少し高級感のある赤銅色(ブロンズカラー)の真新しいライセンスカードを受領する

 

そのライセンスの表面には大きく星二つと所有者の顔写真、氏名、住所、登録した場所が記載されている。裏面には所有者の実績が載っており各ランクの迷宮の踏破実績と賞金首の討伐実績が書かれている。大輝の場合なら特筆事項として【☆瓜子姫(E)】と【プロ資格筆記試験合格】が書かれている。Eランクの迷宮で瓜子姫討伐済み、そしてプロ資格筆記試験は合格という意味だ

 

ライセンスにはイレギュラー討伐実績や迷宮関係資格が特筆事項として記載される。ちなみにイレギュラー討伐のあの白い星(☆)は『ソロ討伐』の証で複数人での討伐なら黒い星(★)となる

 

プロになるには先ず白銀色(シルバーカラー)の三つ星資格を獲得し、最低限八枚のCランクカードの入手。更にDランク迷宮百ヶ所攻略と『実技試験』だ

 

三つ星試験にはDランクカード最低一枚(合格したければ実質最低限六枚)の所有とEランク迷宮十ヶ所攻略から可能となる

 

さて、だいたい二十分其処らの時間で書類提出や迷宮データ提出は終わった……が、本題は此処からだ

 

 

「……さて大輝ちゃん。やはりあの出刃庖丁は『死神からの贈り物(イレギュラー・ギフト)』だったわ」

 

 

……分かりきっていた事だが、やはり改めて聞くと血の気が引いてしまう。その強烈かつ非常に特殊な魔道具の話は目の前の師匠や兄弟子達から良く聞いている

 

『奴ら』が目を付けた討伐者に贈る勲章にしてマーキング。そして『殺害予告状』だ

 

一般的には『勲章』としての側面だけが取り沙汰されているが……それは恐らくなるべく強い冒険者が育ってくれる事を望む政府などの意向で偏向的に残りの負の側面をそれとなく隠されている

 

そして大輝は……この非常に強力ではあるが忌まわしい呪具の使い道を教わる事になる

 

 

 

【Tips】武具整備

 

魔道具の武具は基本的に壊れたら直せない……が、ちょっとした刃毀れや罅、切れ味の摩耗など普通の武器と同じ様にある程度ならきちんとこまめに整備修繕すれば長持ちする

基本的にCランクのドワーフやイッポンダタラみたいなその魔道具の素材に適応する職人技能を持ったカードには対応する魔道具の整備修繕が可能になる

ギルドではそういうカードを持たない冒険者の為に比較的安価で整備修繕代行をやってくれるサービスが存在する。ちなみにだいたい三日から一週間の時間がかかりだいたい五千円から五万円ぐらいの費用を要求される

それなり以上の冒険者で魔道具を多用する冒険者なら必ず対応する職人系カードを保有する事は嗜みの一つとされている

ついでに整備修繕を担当する職員は刃物供養も担当してくれる

 



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第三十一話 一難去ってもまた一難(※準備期間中)

※:今の手札事情でも普通にDランク迷宮までは充分いけます

しかし……イレギュラーは、特に瓜子姫は何時か必ず現れる事は確約されている事を念頭に入れておきましょう(真顔)


 

死神の贈り物(イレギュラー・ギフト)』の機能と判別しているデメリットの詳細をメアリーさんから聞いた……が

 

 

『……うわぁ、何これ酷すぎ。頭おかしいんじゃねーのコレ?』

 

 

その壊れに壊れた性能とか色々『こいつはひどい』と思いながらあの出刃庖丁もカード化処置を依頼する。実験・実証などは少なくとも預けた武具の整備修繕が終わるまで待つべきだろう

 

基本的に『死神の贈り物(イレギュラー・ギフト)』という代物は魔道具の中でも異様な程に高性能かつ時に魔道具としての常識すら足蹴にするデタラメな機能を持った真性の異常物品だ。魔法の道具通り越して最早SCPオブジェクトか何かの様な理不尽さだ……その裏に共通して潜む理不尽極まりない特性(殺害予告状)含めて

 

普通ならこんな危険物は全て『所持禁止類魔道具』か何かに指定されてギルドや政府に没収されそうな代物なのだが……これらは『死神からの勲章』でもある為か『使用者制限』が存在する

 

『贈られた本来の所有者』以外には単なるガラクタであり、その機能を唯一解放出来るのが『本来の所有者』だけなのでギルドや政府も余程悪用出来る機能持ちでもない限りはむしろ獲得者の使用を(それとなく、だが)推薦すらしている。政府的にも『再戦も自助努力でどうにか生き残ってくれ』とでも考えているのか?

 

『イレギュラー討伐実績』というまるでゲームのトロフィー・システムみたいな制度もこの『死神の贈り物(イレギュラー・ギフト)』の所有者を管理・把握する為のシステムだと都市伝説的に実しやかに謂れている。所有者の足取り次第で『死神が発生する迷宮が判別出来るかも知れない』まであるだろうか?

 

要は『一難去ってもまた一難(準備期間中)』という事だ

 

……全ては。恐らくはいまも増えて減る事など無い迷宮への対策やこれから先の未来にあるだろう『第三次アンゴルモア』への備え、といった事柄の為だろう

 

自衛隊は兎に角Bクラス迷宮攻略ローテーションやAランク迷宮制覇に血道を挙げているからなるべくCランク以下は民間冒険者に回して貰いたいという意図もあるのだろう。比較的楽な方のBクラス迷宮攻略だって数ヶ月スパンの難行だしAランク迷宮に至っては民間では使用禁止の魔道具を盛大に解禁し、最低億単位からのBランクカードをガンガン、数千万単位のCランクカードに至っては湯水の様に使っても未だ攻略の糸口すら掴めない地獄絵図らしい

 

勿論、殉職者や離職者は常に出るから人材不足は深刻極まりないとか

 

常に人員不足の自衛隊的にはCランク迷宮攻略が出来る技量のある冒険者はなるべく多く育って欲しいのは当然の事だろう。なるべく、出来るだけでも自衛隊員の温存は必要だ

 

遂には自衛隊以外の警察官や消防署員、役人などの国家公務員にも『冒険者限定なら』と副業が許可される有り様である。今では『冒険者』は年齢的に出来ない者、犯罪者や過去にやらかして資格剥奪された者とか以外なら金と真っ当なDクラスカード一枚さえ有れば誰でやれる稼業だ

 

尤も、その大半は効率の良い小遣い稼ぎ程度の感覚だが

 

 

そんな事を考えていたら……どうやら『カード化処置』が終わった様だ

 

 

「大輝ちゃん、依頼されていた四点のカード化終わったわよ」

 

「ありがとうございます、メアリーさん」

 

 

カードになった四枚のうち一枚をやはりメアリーさんに預ける。瓜子姫戦で蛮用した『無銘の名剣』だ

 

 

「了解したわ、全部完了したらその地点でメールに贈るから確認はしっかりね?」

 

「了解です」

 

 

そんな風に事務的なやり取りの後は『イレギュラー討伐の報奨金』についてである

 

Eランク迷宮に出没したなら魔石代を含めて一千万円が支払われる。今回はそれと一緒に迷宮産金貨袋の換金も頼んでおいた。カード化の費用を差っ引かれても結構な上がりになるだろう

 

 

「換金結果よ」

 

 

そんな言葉と共にだいたい三十枚か其処らの金貨が無造作に詰め込まれた袋の枚数と値段が分かった

 

迷宮産金貨計三十四枚、本日のレートは変動無しの十万円其処らてあった。当て推量で三十枚ぐらいだと見ていたがまぁこんなもんだろう

 

ついでにカーバンクル・ガーネットの相場は……うん、今日は売らない方が良いだろう

 

今回の収益は、何時もの様に冒険者ライセンスに紐付けされた愛用の銀行口座行きだ。冒険者をしていればある程度現生だって必要だし電子マネー不可な店も稀に居るから全て全てを電子マネーには出来ない。特に『三つ星資格』を得た後に必須となる『遠征行脚』においては

 

大輝の場合は冒険者ギルドや兄弟子達との潤沢なコネ(友好関係)のおかげで必要なアイテムはちゃんとした値段や格安で買えるしコネも手厚い。学園の友人知己らからもギブ&テイクだって有りだ……それに冒険者同士の取り引きならやはり魔石売買や物々交換に限るし、公的認可のあるカードショップや札商相手にこそ金銭や電子マネー取り引きが最適だ

 

そして得た金額はだいたい九百四十万円という大金だ、前にストックした現金分を合わせてだいたい千四百数十万円はあるし一粒最低二百万円に換算出来るカーバンクル・ガーネットも七粒ストックがある

 

尤も、この手続きが終われば直ぐに懸衣翁の引き取りがあるし燈の新しい身体を買って引き渡しもあるから今日はまだまだ忙しい。出来るならカードショップで新しいカードに目星をかけたり知己の札商の手札を見せて貰いたい

 

……そう言えばそろそろ戦闘服もこの服も少しキツくなってきたな、と左の二の腕に力を入れる

 

 

みちっ!

 

 

筋肉で袖口や胸板、肩幅が結構張っている、まだまだ着れはするがそろそろ新しい服が必要かも知れない。特に野戦服は

 

ズボンも良く見れば脚が伸びてきた様でこのカーゴパンツの裾とも合わなくなって来た様だし腿の筋肉でそっちも少しキツくなって来た

 

姫子(相棒)を見てれば解るが……(バスト)のサイズが合わなくて四苦八苦するのは大変なんだと自身で体感すればその大変さを心から理解出来る。お互い(俺も姫子も)まだまだ成長期だし

 

 

『そう言えば最近、エメラルドタブレット社が遂にサイズ変更能力付き冒険者服を発表していたな?』

 

 

その新しい野戦服がちゃんと人工純正魔道具ならいっそ後で予約入れておくか?と成長期を悩みつつ残りの事務手続きを済ませる……やるなら最低限ダンジョンマートがライセンス契約を結んで自衛隊仕様を発表してからだが。ダンジョンマート関係者として

 

そんな事を考えながら、その全ての手続きが終わったのはそろそろ昼下がりを超えて夕方間近とでも言うべき時間だった

 

大輝が『御守り代わり』にと貸してくれていた『聖銀製の戦斧』を返してのその別れ際にメアリーさんは言ってくれた

 

 

「大輝……一人前の『男』の表情になったな、その年齢でイレギュラー単騎撃破は間違いなく誉れだぞ」

 

 

非常に珍しく、メアリーさん(愉快なオネェ)としてではなく『古強者:鬼瓦権三郎』としての顔と声で大輝の功績を褒め称えてくれた

 

 

「でもなるべく早く家に帰るのよ?まだ大輝ちゃんは中学生何だから」

 

 

……直ぐに何時ものオネェに戻ってしまったけど

 

それから直ぐにギルドの購買部でジャック・オ・ランタン用の案山子ボディ(ニ万円)を買ってまた適当なEランク迷宮にとって返して燈の身体接続作業。それが済めば今度は懸衣翁を予約したカードショップに行って懸衣翁の引き取り、費用は二体一対持ちにしては格安の四百万円だった……珍しい二体一対持ちでも見てくれ、戦闘力、合体技能のピーキーさからあまり人気が無い代物だからだろう

 

フェニアとメニア、獅子と狛犬みたいに可愛い女の子やカッコいい動物などではなく鬼の爺婆では仕方ない話だ

 

その懸衣翁という妖怪だが、地獄の『衣領樹』と呼ばれる樹木に相棒にして妻だとされる『奪衣婆』が亡者から剥いだ服を掛けてその枝の垂れ具合でその亡者の犯した罪を測るとされている

 

奪衣婆は結構有名だが、こちらの懸衣翁は知名度はあまり無い。一部では『奪衣婆は閻魔大王の妻』だという説もあったり、日本には『民間による奪衣婆信仰』……恐らくは『姥神信仰』との習合も有ったりする。ご利益は厄病避けや咳止めと謂れている

 

しかし、懸衣翁も歴とした地獄の官吏なので『虚偽察知』や『怪力』などの非常に有益な技能の習得率も高い隠れた優良カードでもある

 

その懸衣翁のデータだが……

 

 

【種族】懸衣翁

【戦闘力】130

【先天技能】

・翁鬼:地獄の官吏にて鬼たる妖爺。中等状態異常魔法、頑丈、自己再生を内包する

・二体一対:このカードは半身と呼べるカードと二枚で一つである。二枚召喚しても迷宮の召喚枠を一つしか消費しない。また生命力を二枚で共有する

・衣領樹招来:相棒にして妻たる半身『奪衣婆』と同時召喚した際のみ発動可能な能力。衣領樹という地獄の樹木を召喚し周囲全ての衣服や装備を剥ぎ取り衣領樹に貼り付ける事が出来る(衣服、装備が全て衣領樹にワープする。という効果になる)。効果はだいたい十分程度(人間カードモンスター問わず全員全裸になる。元より全裸なら効果なし)

装着型限定だが『装備化能力』を十分間封印する能力もある(但しCランク迄が限界)

使用後には一時間のインターバルを必要とし、範囲内の全てを対象にするなど制約が少し面倒だが『憑依』や『装備化』を解除出来る貴重な能力でもある。それと『衣服が掛けられた枝のしなり具合』で対象の『罪業』を量る事が出来る(奪衣婆と懸衣翁の本来の職務がそれだが)

勿論、奪衣婆と懸衣翁、それと『同じ地獄の獄卒衆』には無効である

【後天技能】

・初等攻撃魔法

・体術

・杖術

 

 

一見支援系っぽいが頑丈でもあり多少の攻撃魔法もイケる、ついでに護身も万全という以外な掘り出し物だった

 

奪衣婆との連携だけでなくとも最前線の護衛からサポート、鍛え方次第では色々優秀なカードになるだろう

 

一方の奪衣婆は純粋な戦士ビルドだが訓練次第では魔法を習得したりも出来るし、懸衣翁も大変ではあるが怪力や火事場の馬鹿力を会得出来る可能性もある。前に挙げた『虚偽察知』を習得出来る可能性などを考えれば、見てくれの悪さと初期戦闘力の低さにさえ目を瞑れば何気に良カードだ

 

……先ずは他の二軍枠カード達と共に鍛える必要があるし何より一軍連中のクラスチェンジ先の調達が最優先課題だが。仮に今他にカード(追加戦力)を求めるならば先ずは火炎以外の属性攻撃が出来るカードだろう

 

先ずは剣の強化を優先したいが……先ずはグレンデルみたいな手頃なカードでゆくかそれとも天蓬元帥みたいな高価なカードを貯蓄して得るかだけでも悩みの種だ

 

やまらのおろちはまだまともなクラスチェンジは不可能だから考慮外になる。どう考えても相性抜群のヒドラとか無理だ。ヒドラはBランクでも結構高価な代物と来た。もう一つ言うならマイナーチェンジだってやまらのおろちに比肩する様なまともな見た目の適合カードなぞそうそう無いから今は探すだけだ

 

最優先はやはり定だろう……座頭系統なぞあまり無いからどうクラスチェンジするかは今も難航中だ。適応する『装備系カード』とかも一から洗い直して探した方が良いだろう。同じ装備系の一反木綿には無反応だったが、前に姫子が持っていたリビングアーマーを一度定に見せてみるのも有りだろう……夏休み中は予約依頼の都合でクラスチェンジは不可だが

 

なるべくなら燈無蕎麦のクラスチェンジだってしたい、流石にあれは狭いからせめてちゃんとした家レベルの異空間が欲しいものだ

 

それと……特に出来の良い二体のフェアリーのクラスチェンジだって考慮しなくてはならない。うち一体の方なら今なら宛になるカードが手元にあるがもう一体をどうするかも考えなくてはならない

 

そんなこんなとカードショップの閉店間際……夜八時近くまで貸与されたタブレットと自前の付箋と手垢だらけの大学ノートと睨めっこしていた大輝はまだ纏まらない状態ではあるが閉店アナウンスが流れて来たのを察知してテキパキとテーブルと椅子を正してゴミは分別、そしてタブレットを従業員に返却してさっとカードショップを出た

 

今の時刻ならそろそろ家に帰るべきだろう……両親は明日出張から帰還する予定なので夕飯は適当な処で食べて帰れば良いだろう

 

そんな風に考えて帰り道を歩き出したその時、大輝のスマホから着信音が鳴った

 

相手を良く見れば……前に何度か言及した『札商になった兄弟子』からだった

 

 

 

【Tips】被服問題

 

この物語の主人公(大輝)ヒロイン(姫子)みたいに中学生からの未成年冒険者は戦闘服をちょくちょく変更する事が必要になる、成長期だとままある事だが

主人公(大輝)なら自衛隊用の大柄サイズから選べば良いがヒロイン(姫子)みたいなケースだと特注を余儀なくされる

ガチ勢ならば何度だって戦闘服を更新するだけだが、大多数のエンジョイ勢だとこの手間や費用支払いか面倒になってカジュアルな服装で……という冒険を舐めた格好で活動する様になる

戦闘服は確かに頑丈でちょっとした鎧みたいな代物ではあるが、やはり通気性や重さなどからエンジョイ勢などからは嫌われている

そして大半のエンジョイ勢達は『カードのバリアがあるから』とカジュアルな格好でFランク迷宮のみを潜ってゆく

そしてこの判断が稀に生死を左右するのだが……

 




皆さんは『いい男』は好きですか?


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第三十二話 ウホッ、いい男

やはりあの二人は『い◯じ&海◯』じゃないと違和感が半端ない、アニメ化は四月馬鹿じゃないから吃驚仰天だったよ

※:プロ資格筆記試験では冗長過ぎると思うので『迷宮士資格・検定』と今後は設定捏造しますんで

※:今回結構下ネタ多いです


 

 

『札商』となった兄弟子……幾らか前に色々思う処と事情が有ってプロを引退して札商に転向した男からの電話内容はこんなものだった

 

 

『直ぐ近くにたまたまお前を見かけた、そろそろ夜だから家まで送ってやるから此処に来てくれ』

 

 

『彼』は見習いを漸く脱して駆け出しになってからの札商としての仕事も終わってこれから開店準備中の事務所予定地兼自宅に戻る際に期待の弟弟子(大輝)を見かけてこの時間は少し不味いと判断して家に送る事にした

 

……出来れば大輝が手に入れた『例の手の目』を拝観したい。という下心も無くは無いが

 

師匠(メアリーさん)が大輝に塩漬け札だったやまらのおろちや大瑕疵オーガを格安、いや捨て値で譲ったという話は聞いていたが……まさかそれを使ってイレギュラー対策をガチで行っているとは驚いたものだ。彼も嘗てやまらのおろちを使ってはいたがリンク相性そのものはあまり良くは無かったのもまた懐かしい話だ

 

『彼』は待ち合わせ場所であるカードショップ間近の駐車場に来た大輝を発見した。前に会った時よりも非常に成長している……少しだけ『好みのタイプになって来ているな』とか何とか考えつつも流石に『未成年のノンケ、しかも彼女持ちの弟分でしかもその彼女は俺にとっても妹分なのに手を出すとかマジ無いわ』と良識ある思考に立ち戻る

 

 

「久しぶりだな大輝、かれこれ一年振りか?」

 

「電話やLINEとかだと結構話はしますけど、そうですね高和兄さん」

 

 

この深く良く透るバリトンの効いた、まるで歌手の様な美声で大輝と会話するのは兄弟子の一人である『阿部高和』。角刈りで今の大輝以上に長身で筋肉質、男くさく掘りの深い『何処となくワルっぽい』という印象を持つ端正な美男子……いやむしろ『いい男』とでも言うべき二十代後半から三十前半に見える男盛りな元プロ冒険者で現新米札商だ

 

彼はその逞しい身体にきちんとした夏用スーツを纏い、愛車である魔石式自動車の中で大輝を待ってくれていた

 

 

『……冒険者時代なら愛用の一張羅(ツナギ)で充分だったんだがなぁ』

 

 

元来からの自由人の気質からか今でも窮屈だと思うスーツに辟易しながらエアコン腕時計……エアコンペンダントの姉妹品で一般的な社会人や富裕層に人気の一品にもまた窮屈さを感じはするが、今日はお気に入りの弟弟子との会話を楽しみながらのドライブである

 

 

「……って訳で『瓜子姫』の撃破にどうにか成功したんだよ」

 

「おいマジか!?」

 

 

……案の定、大輝の今日の大金星に驚愕する事になった

 

突発的な死神襲来を返り討ち、ぐらいならば高和にだって幾らか経験があるしなんなら彼自身も一つだけ死神の贈り物(イレギュラー・ギフト)を持っているし第二次アンゴルモアで再度返り討ち経験だってある

 

その為、一応プロ引退はしているが未だ冒険者としての鍛錬は欠かしていない……いや、むしろ欠かせない。『死神の贈り物(イレギュラーの呪い)』を受けた者の宿命だ、あれは『真にその贈り主が認めた』としても他の死神を惹き寄せる性質がある故に

 

これから逃れたくば『再戦時にその贈り主から失望される事』ぐらいしか無いだろうが、まぁそうなって生存出来るなら相当な運の持ち主だろう。代償は常に大きいだろうが

 

高和が一番驚いたのは……死神討伐や贈り物、高価値魔道具の獲得ではなく『大輝の直感』である

 

普通なら『嫌な予感』程度で死神襲来を予兆は出来ない。大輝の勘の良さや豪運は高和も良く知ってはいるし師匠兄弟子一同でその情報は秘匿しているが……下手したらこの勘の良さ一つ知られただけでプロチームが大輝の奪い合いをやらかしかねない

 

ましてやメアリー塾一同やダンジョンマートの太いコネ、その馬鹿げた豪運やかなり優秀なリンク才能、その年齢で『プロ資格筆記試験(迷宮士資格)合格』やらトドメに『リンク能力の鬼才(薬丸姫子)』まで必ず付いて来る

 

高和がもし現役時代に大輝と他人でその情報を得たら即形振り構わずスカウトに行っている

 

……これが偶然であるならまだ良いが間違いなく今のリンク能力だけでもプロは大輝を要マークするだろうし、何なら『欠陥持ちEランク装備系カード(手の目)』でEランク迷宮製死神相手に肉弾戦挑めるクソ度胸だけでも注目されるだろう

 

少なくともそんな覚悟ガンギマリの大馬鹿野朗は目の前の大輝(こいつ)以外に見た事は無い。如何にそれが一番勝率高い作戦だとしてもだ

 

高和とて『瓜子姫』の性質にはそれなりの知識はある。実際の遭遇経験は無いが少なくとも大輝と同じ年齢時、同じ状況でそれが出来るかはまず断言出来ない

 

高和が二番目に驚いたのはその辺りだ。基本的に死神(イレギュラー)どもはその迷宮のボスを乗っ取って出現するからあれは少なくとも、タネの割れたギミック型でさえ(今回のケースで説明するなら)Dランクを限界カリッカリに強化して下手すればAランク級先天技能を搭載した壊れに壊れた鬼畜仕様の怪物だ

 

そんな化け物を相手に魔道具でガチガチに武装したとはいえ格下の……しかも『視界を喪う』という致命的ハンデ付き装備カードで挑む、というのは流石に命知らずを通り越して自殺志願か何かを疑っても仕方ないだろう

 

尤も、あの時の大輝の状況と『あの手の目の真価』を理解しているならその判断は『むしろ最高の模範的解答』だと判断するだろう。これ以上を求めるのは最早只の粗探しの範疇だろうか?

 

この件については九割五分は大輝を褒め称えるべきだとは思うのだが……良識ある大人としては叱るべきでは?という五分の考えもある

 

高和は内心その考えに少し懊悩していたが……残念ながら佐藤家は結構近くにあるのでその懊悩は打ち切りせざるを得ない

 

しかし……車が着いて大輝が礼の言葉と共に降りる手間でこんな事を言って来た

 

 

「高和兄さん、明後日辺りに兄さんのカード(商品)を少し見せて貰えないかな?お礼代わりに手の目(うちの定)観せるから」

 

 

その言葉は高和にとっても渡りに船だった。今さっき悩んでいた事をさっと解決したいなら『手の目()を強化する』ならば仮に『次回』が直ぐに来ても多少は状況がマシになる、間違いなく未来の上客候補である大輝とちゃんとした商取引の嚆矢にもなる

 

……ついでにあの手の目の拝観だって出来る

 

勿論、あの素晴らしい手の目の拝観料はきっちり払うし何なら『大輝のイレギュラー討伐の(一人前の戦士になった)記念』を祝してという口実だってある。先ずは大輝の他のデッキ編成や予算次第だが……まぁ少なくともDランクカード二枚ぐらいは大丈夫だろう

 

そんな事を考えながら大輝の言葉に快諾する。明後日はそもそも休暇なので問題ないが待ち合わせ場所の都合で姫子(妹弟子)と一緒とはいかないのが残念だ

 

いや、ある意味では明後日の会合には居ない方が好都合かも知れない

 

大輝にとっても高和にとっても『カード達のガス抜き』という目的があるからだ

 

……嘗て大輝はカード達に『いいお店に連れて行ってやる』と言っていたが、それがこの札商店だ

 

高和は『夢魔使い』としてプロ時代は有名な冒険者だった……先天後天問わぬ最早『天性』としか言いようの無い真性の女夢魔使いとして非常に高名な冒険者だった

 

普通の男なら幸せな話だろう。高い冒険者の素養に相性抜群なのが女夢魔で社会的にも大成功した男というものは

 

 

……しかし、しかし阿部高和という男は女には全く持て女には興味を持てない男だった。むしろ性的、恋愛的全てに於いて同性にしか興味を持てない男……いわゆる『ガチホモ』である

 

嘗て言及した事もある筈だが……女夢魔という存在は男の精を食事と同様に求める存在だ、という事を思い出して欲しい

 

高和にとって『女夢魔を抱く=真性ノンケがガチムチ兄貴や可愛い男の娘とヤる』と等価の意味がある、控えめに言って拷問である。高和自身もその辺りなど全てを覚悟しての冒険者稼業ではあるが……まぁキツいものはキツい

 

高和もその対応の為にボアオークやインキュバス、やまらのおろちなどを用いて『代用品』を自身の主力カード達に宛てがってはいるがそれでは女夢魔達の『飽き』が早い。高和も彼女達のケアは綿密にしなくてはならないという問題もある

 

其処で……愛妻家、恐妻家、女嫌い、高和の同胞等々様々な事情で女の子カードを持てない、持たない冒険者の知己の男カード達を呼んでの『相互リフレッシュ』である。まぁ、女夢魔達にとって基本的に男の精も所詮は嗜好品でしか無いが……それはそれで、と思うのが一般的な女夢魔という存在だ

 

一切お金のやり取りは無いし人間のマスターは基本的に対象にはしないのでまぁ白寄りのグレーである……希望するノンケは自己責任だが

 

その『カード達のガス抜き』と『高和の深いスキンシップ(意味浅)の軽減』も兼ねてのサービス……要は『実りすぎた野菜のお裾分け』みたいなものだと言っておこう

 

 

閑話休題(それはさておき)

 

 

家に帰った大輝は高和の厚意による出前(近くの人気飯屋の豪華スタミナ定食)を完食していざ眠りに……と思っていたら

 

 

イレギュラー討伐時にワーキング24を服用していた事を思い出してしまった

 

 

火酒だのやる気ポーションだのはまだ良い、しかしワーキング24はまずい。明日の朝迄は決して眠れない効果があれにはあるし……前に使った眠りを齎す魔法のカードも既に在庫切れだ

 

ついでに豪華スタミナ定食で精が付いた上に……更に

 

 

掻い潜った死線の反動でムラムラする自分に気付いてしまった

 

 

……今一瞬、間違いなく姫子に夜這いを仕掛けたいと真剣に絶叫する自分の本能(ケダモノ)の聲が聴こえてきた

 

大輝は……部屋に鍵をかけて換気MAX、つい数日前の海水浴デートでの画像脳内妄想似た様ないやらし本他姫子コレクションを引っ張り出す。隣に新しいティッシュを置く。ついでに無限水筒も近くに置く

 

 

……まぁ、その後の顛末は大輝自身の名誉の為に秘させて貰おう

 

 

これで、最後は少々しまらない結末だが『佐藤大輝の二番目に長い一日』はこれで終わった。後もまだまだ様々な後始末や換気、沢山の丸めたティッシュの親にバレない処理もあるがまぁ良い終わり方だろう

 

 

 

第一部 

 

 

 

【Tips】札商

 カードを専門に扱う商人。迷宮が現れた当初、まだカードの使い方が判明していなかった時代、カードは美術品の一種として扱われていたため、札商のビジネスシステムは画商のそれを踏襲している

 国から正式に認められた職業であるため、札商から買ったカードは年末調整でちゃんと経費として認められる

 

(※:公式より百均様の許可を頂いて転載)

 

 

【Tips】メアリー塾(その1)

 

『第一次アンゴルモア』直後に『鬼瓦権三郎氏』が立ち上げたサマナー達の相互扶助組織を前身とする日本最古かつ最高峰の冒険者育成私塾

塾長、副塾長の鬼瓦夫妻を筆頭に『Bランク迷宮踏破実績持ち』である『首狩り兎』『中華大帝』『夢魔の王』などの日本有数の冒険者達を生み出した『プロ冒険者の梁山泊』とも一部では呼ばれている

鬼瓦夫妻そのものの実力は『非常に優秀なアマチュア』だが、その人間性や若手育成の巧みさなどから『冒険者業界の亀仙人』、『メアリー師匠』などなどと呼ばれて業界内では慕われている

鬼瓦夫妻はギルドの幹部でもあるのでギルドにも非常に強いコネがある。またこのメアリー塾のサマナー訓練方法は幾らか自衛隊にも輸入されている為か自衛隊にも強いコネがある

最近は『リンクの鬼才』『中学生迷宮士』の二人を筆頭に数々の優秀な若手が出て来ている様だ




いい男達が大好きです、でも魅力的な美女美少女はもっともっと大好きです

みんなもモブ高生二次……やらないか

勿論、まだまだ続きます(夏休み期間は『幕間』とでも思っておいて下さい)


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一章幕間その1 家族会議とこれから

夏休み明け迄は幕間、第二部開幕は夏休み明けからですね

夏休み明け迄どれだけ出来るかな?


 

あれから……あの死闘の余波である理性と本能の第二次死闘をどうにか理性が制して朝に力尽きて次日の早朝まで激しく爆睡して眼を覚まし……最低限必須の身嗜みと『臭い消し』をしてからリビングに向かう。実質育ち盛り的には長時間絶食状態になっていたからとにかく栄養補給を求める大輝を待っていたのは

 

 

「おはよう。さて、とりあえず座ろうか大輝?」

「ちょっとおはなししよう?」

 

 

勿論、家族会議だった

 

 

……迷宮でイレギュラー遭遇から討伐という非常に危険な所業をやらかせばまぁ普通はそうなるだろう

 

昨日の昼に出張から帰還した佐藤夫妻、『佐藤源輝(サトウゲンキ)』と『佐藤稲穂(サトウイナホ)』も第一次アンゴルモアからの叩き上げサマナーで迷宮に入れば必ずその確率がある事は分かっている、分かってはいるしちゃんと大輝が冒険者になる許可を与えもした、何なら色々支援だってしているしこれから本格的にやる予定だ。一昨日の昼前にLINEで『二つ星昇格』と一緒に連絡もちゃんと来た。そもそもどんな形でもイレギュラー遭遇からの生還は冒険者の誉れであり決して叱るべき事ではない、むしろ褒め称えるべき事柄である。況してや『討伐』、しかも単騎でならば倍率ドンだ

 

しかし……しかしそれでも大輝から根掘り葉掘り全てをちゃんと聞きたい

 

そしてこの家族会議にはもう一人の参加者が居る

 

佐藤夫妻にとっては最早義娘であり、大輝にとっては色々表現は複雑だが……今一番近い表現は『恋人』だろうか?

 

 

薬丸姫子、見参!!!

 

 

今日はその長く艶やかな金髪を一つのシニヨンに纏め、結構ダボついてはいるが非常に質の良い男性用の純白のシャツを羽織り……良く見れば大輝が嘗て着ていたシャツに彼女の身体にフィットした黒いTシャツとスリムジーンズに何時ものエアコンブローチと『保護のペンダント』にメアリー塾揃いのドッグタグ、それとあの海水浴デートでゲットしたカードホルダーという何気に活動的な出立ちだ

 

彼女は、大輝がこの時間まで眠っていると辺りを付けてこの大輝が起きる時間ドンピシャに佐藤家に訪問していた……大輝が空腹状態だという事も予想して手製のお弁当も大きなバスケットに詰めて用意し、更には(未来の義父母となる)大輝の両親にもきっちり連絡根回しを忘れない。家族会議参加や朝食用弁当持参等々全てに抜かりはない

 

大輝がとんでもない修羅場に巻き込まれていた事、そして大輝自身が真っ先にやらなくてはならない事後処理やらワーキング24の副作用等々あれこれを考慮すれば……事態の詳細を識る為にはかなり速く正確に行動だと言える。ついでに言えば大輝の両親の心象だって良くなるというメリットもある。元から良好ではあるが更に稼いで損は無い

 

そんなこんなで空腹状態の大輝に必要なエネルギー補給……沢山のサンドイッチアラカルトとポットに詰めたコーンスープ、それとカットフルーツというご機嫌な編成を四人で頂いた後に家族会議?いやむしろ報告会が始まる

 

 

 

「……なるほど、色々危なっかしい事はしているけどイレギュラー相手だしな。アレを『カンで予測出来た』とか我が子ながら意味不明過ぎるけど」

 

「確かに非常に危なっかしくて無茶苦茶だけどあれが不可抗力対処への最適解なのは確かよね……メアリーさんも高和も頭痛かったでしょうけど」

 

「イレギュラー討伐には少なくともそのぐらいは覚悟が必要なんですね、私が今まで聞いた話だと普通はそこまでするするとは行かないらしいですから。やはりにーさまは天運凄いですね」

 

「まぁ、手札と金に糸目を付けずの大盤振舞だったからな。割と手に残ってくれたし賭けにも馬鹿勝ちって……いや言えないな。あン畜生倍プッシュ入れやがったし」

 

 

大輝の話を聞いた三人それぞれのコメントと大輝の回答がこれだ。まぁ少なくともこれは大輝の行動を糾弾する為の集まりなどでは決して無く……むしろ大輝がどう『イレギュラー襲来』という災禍を乗り越えたか?という事を聴いてコミュニケーションを取る為の会談だ

 

 

「まず、間違いなく今回のMVPはこの手の目……いや、『定』だったよ。こいつが居なかったら俺のカードは良くて半壊だっただろうな」

 

 

大輝はどんな状況でも必ず持ち歩く……風呂や海水浴程度なら一切傷付かない自己保存能力をデフォルトで持つカードホルダーから今回対瓜子姫戦で使ったカードを引っ張り出す

 

大輝の一番の相棒にして渾身の力作であるボアオークの『剣』、瓜子姫に有効な火炎魔法のエキスパートであるジャック・オ・ランタンの『燈』、スポット要員としてだが大輝達を瓜子姫の奇襲から護り切った鉄壁の岩塗り壁こと『巌』、その造形の酷さから隠してはいるが……Cランク最安の実力派カードことやまらのおろち、そしてある意味大輝の手持ち内で一番高価かも知れなかったEランクカードにして『死神の招待状』こと手の目の『定』だ

 

ついでに一昨日カード化した重要な戦利品二点もテーブルに置く、一つは忌々しげかつ少し乱雑な扱いだ

 

それと他の主力であり索敵役かつ万が一の時の帰還ナビゲート役である送り狼の『祝』……今その隣に丁重に置かれている『アリアドネーの糸』を得たとはいえ帰路の為には必ず安全地帯を必要とするし安全地帯は帰路に必ず存在するのでこの『獣は老いても道を忘れず』は未だ有用であるしむしろ『アリアドネーの糸』のおかげで更に有用性が上がったぐらいだ。『アリアドネーの糸』さえ有れば何処の安全地帯からでも一瞬で帰宅出来るのだから

 

他にも……対罠係で荷運び手(シェルパ)として非常に優秀なトムテの『蔵』、大輝が『リンク能力』を覚醒させる為に必要なファクターの一つだった老婆型キキーモラ、現状では非常に貴重な航空戦力の一反木綿、一昨日漸く揃った二体一心の奪衣婆・懸衣翁コンビに沢山の予備戦力達……

 

少なくとも……『奨学カード一枚と幾つかのEFランク数枚』から冒険者を初めて半年未満の、しかも色々な意味で中学生の小僧の編成するデッキでは無い。大輝が姫子と同じく厄介な『体質』を抱えているにしてもだ

 

普通の男子中学生ならばまず予算があるならこんな『実用的だが見てくれの悪いカード』なぞ見向きもせずに流行りの強いと言われているカード、カッコイイカードや女の子カードを相性なぞ一切考慮せずに最優先で獲得しようとするだろう。大概の男子中学生はやまらのおろちなぞ決して見向きも認識もしたがらない

 

まぁ……これは『ガチ勢と大概のエンジョイ勢の差異』だが、同じガチ勢でも大輝の様なスピードとペースでこれだけの手札を揃えるのは基本的にまず不可能だろう。大輝の強いコネと人並み外れに外れた豪運の賜物だ

 

また殆ど全てのガチ勢すら忌避する事で悪名高い、『その外見だけで重篤の瑕疵カード』だとされているやまらのおろちを躊躇せずに使いこなす胆力……羞恥心やら何やらを無視出来る意思力とも面の皮の厚さとも言えるものもあるだろう。大輝は『必要』と判断するば他のジャパニーズヘンタイモンスターだろうと何だろうと構わないで使える強さがある(実際大輝もこのやまらのおろちを名付けして使い続ける心算を抱いている……彼との約束だってあるし)

 

そのカードデッキ一つ見るだけで非常に優秀な大輝……まだまだ大輝には色々な特徴が存在する

 

 

一つ。冒険者歴半年未満の中学生にして二つ星昇格

一つ。その類稀な豪運……Dばかりだが充実した手札やカードホルダー&アリアドネーの糸とか

一つ。メアリー塾やダンジョンマートなどとの非常に強いコネ

一つ。その勤勉さ、特に『中学生で迷宮士資格獲得』は殆ど例が無い偉業だ

一つ。イレギュラーに遭遇……特に悪質な惨虐趣味持ちを相手にしても挫けない、やまらのおろちを平気で扱えるメンタルの強さ

一つ。手の目装備(盲目状態)でその格上イレギュラー相手に白兵戦を挑めるクソ度胸(勇者ぶり)と勝負勘の強さ

一つ。この年齢で既に……『入門レベル』とはいえリンク能力を獲得済み

一つ。カード達を大切にする精神と育成センスの良さ

 

おまけに最近長年のトレーニング効果が出たのか成長期かはさておき父親に似た筋肉質……いや、長身で筋肉モリモリマッチョマンの変態に変態し初めてさえいる。最近服のサイズが小さく感じて仕方ない

 

 

……誰だ、こいつ捕まえて『モブ』と言った馬鹿は?

 

 

今の大輝がもし夏休み明け辺りで学園の学生冒険者達にその偉業や功績を知られでもしたら大変な乱痴気騒ぎ(勧誘戦争)になるだろう。一応、学園そのものや教師達は大輝本人の意向で『迷宮士資格獲得』の辺りは秘匿してくれる約束は取り付けているがその情報の『漏れ』は遅かれ早かれ必ず漏洩されると前提した方が良いだろう

 

尤も、『二つ星昇格』や『Eランク迷宮イレギュラー単騎討伐』は既にある程度知られてはいるだろう。見る目のある者なら既に大輝の腰にあるカードホルダーで目を付けているし二つ星昇格の手続きを見た者もいるかも知れない

 

『迷宮士資格』だって夏休み明けにバレても仕方ない。むしろ今までよくバレずに此処まで来れたものだと大輝も自分の豪運と悪運強さに呆れ感心しているぐらいだ

 

今なら『独立宣言』だって充分可能だろう。大輝達の『美城学園』は『学生冒険者の梁山泊』とも呼ばれるガチ勢学生冒険者のメッカみたいな場所だがその内部は学内利権(正しくは学園保有迷宮攻略代行権)狙いの派閥争いが常体化した修羅の巷だ

 

大輝自身には学内迷宮関連の利権には興味なぞ無い、後の上司となるだろう金長さんに付いてダンジョンマートが保有する準シークレットダンジョンに行く為の鍛錬さえ出来るなら特に迷宮に拘りはない、むしろ願うならより過酷な迷宮攻略がしたいとは思う……イレギュラー襲来は真っ平御免被るが

 

しかし……大輝の保有する『迷宮士資格』はこの派閥争いの中では非常に重要なファクターになる

 

この資格は中等部組には未だ大輝以外に保有者は存在せず。高等部で漸く数人、大学部でも十数人しか保有者の居ない激しく貴重な資格だ

 

そしてこの『迷宮士資格』はCランク迷宮に潜る為には絶対的に必要な資格の一つである

 

ちなみに他の資格として『三つ星資格』を前提条件に『Cランクカード八枚所有』、『Cランク迷宮単独攻略』、『Dランク迷宮百種攻略』、『実技試験』がプロ資格(四つ星)獲得の為必要になる

 

大輝の場合は『迷宮士資格』とCランクカードも一応二枚は達成している(やまらのおろちは兎も角、オーガの方は本当に『数合わせ』でしか無いが)。一応『ちゃんとしたリンク能力』があるなら実技試験だけなら何とかなるかも知れない。前提条件の三つ星資格も大輝ならどんなに遅くとも今年の冬休みまでには獲得出来る……今の手勢でも充分、いや余裕綽々で攻略出来るだろうが

 

とは言っても今の大輝ではCランク迷宮は無理だ。行くなら探索チームの見習い兼雑用程度がせいぜいだろう……今の冒険者歴や手札でも見習いが務まるなら非常に優秀ではある。普通の成り立て二つ星程度では『単なる足手纏い』でしか無い、『単なる役立たず』でも上澄みだろう

 

そんな理由も多々有って『佐藤大輝』という男は言わば『存在自体が莫大なレアメタル鉱脈』みたいな存在だ。パーティーメンバーに居れば間違いなく最高の貢献をしてくれるだろうし、何なら最低限居るだけで『絶対に幸運を呼ぶ置物』にはなってくれる

 

この場合、一番楽なのは『相性の良い大手』にでもさっさと所属する事だろう。一応大輝もあまり多くはない友人の縁故でも頼るか『オタク文化を守る会』関係にでも所属を考慮した事もある。もしも最初から覚悟出来ていたイレギュラー戦での被害が甚大で立て直しに手前が掛かりすぎると判断した場合の最悪時の緊急避難ルートや修行のやり直しとして大手所属も一手の内に考慮はしていた

 

しかし……大輝はイレギュラーの襲来をそう大した被害も無く撃退に成功した。だから『独立ルート』を選ぶ事が出来る

 

『独立ルート』というのは既存の冒険者チームには所属せずに自分で独立した冒険者チームを形成するルートの事だ。基本的にはこれまでと何ら変わらないがちゃんと学園に『冒険者チーム登録』を行う事である程度の支援……特に数日程度ではあるが『冒険休学日』を貰える様になるメリットがある

 

ちなみに『冒険者チーム登録』を行うには最低限二つ星資格を得ることが必須条件となる……他にも『イレギュラー討伐実績』や『迷宮士資格獲得』が有れば即承認されるだろうし些少ながら優遇だってされる。尤も、中学生で『迷宮士資格』持ちなぞこの学園ですら大輝以外には前例なぞ無いが

 

ちなみにその『優遇』というのは『部室』が与えられる事である。学園内の通称『冒険者長屋』と呼ばれる二階建てプレハブ……大規模な建築現場に仮説されている様な代物が学園敷地内に幾つか存在して数組の冒険者達でシェアしている

 

ちなみに『部室授与』には少なくとも『三つ星』か『イレギュラー単独討伐者がリーダーをやる』、または『迷宮士資格獲得』のどちらかを達成せねばまず書類受付すらして貰えない。『部室授与』は学園からの実力と信用を認められた証故に

 

 

大輝の次の目標は『部室付き独立達成』、それに失敗すれば仁義……はあるが熾烈極まりない大惨事勧誘合戦の開幕だろう

 

独立勢力として必須の『冒険者チーム登録』は夏休み明けからしか出来ないので明日からはEランク迷宮攻略を出来るだけ沢山行い手札強化を図る必要がある。我ながら生き急いでいる様な有り様だが、今ちゃんと動かないと欲しい未来には到達出来ない

 

勿論、宿題は既に全て終わらせている。夏休み最後の数日にある指名依頼はしっかりやるし姫子との逢瀬だって盛大に楽しむつもりだ

 

そんな感じで夏休み明けからは『独立勢力化』を目指した活動となるべく早い『三つ星昇格』を目標にやってゆくつもりだ

 

……尤も、大輝以外のメンバーなぞ今のところ姫子ぐらいしかいないが

 

 

そんなこんなで昼前まで家族会議は続いたが、最後に源輝と稲穂が大輝に一つの大型フェイクホルダーを見せて来た

 

そのフェイクホルダーには見覚えがある。大輝も姫子も『万が一の時に使いなさい』と大輝の両親が隠し場所を教えてくれた非常用カードデッキの入ったフェイクホルダーだ。ちなみに薬丸家の非常用カードデッキの隠し場所も彼らは知っている……どちらも地下シェルターに隠されているが

 

その打ち分けは……

 

 

・アルカトラズ

・デュラハン

・アマルテイア

・アラクネ

・金剛力士二枚

・エジリ・フレーダ

・カラドリウス

 

 

の、Cランク五枚にDランク異空間型一枚、回復特化型二枚の下手な公共施設防衛用デッキセットよりもちょっと充実した編成になっている

 

源輝は、そのフェイクホルダーの中から三枚のカードを引っ張り出して大輝の前に置いた

 

Cランク装備型のデュラハン、Dランク回復特化型の二枚だ

 

 

「大輝、少し遅くなったけど迷宮士資格と二つ星昇格、ついでにイレギュラー単独討伐祝いだ。Dの方は選択だけど受け取ってくれ」

 

 

大輝は……今の段階でこんな高価なカードって大丈夫か俺?と内心で思いつつも真面目にこの話は有り難い事なので先ずはメインの贈り物であるデュラハンを手に取り……凍りついた

 

 

そのデュラハンは……『女の子カード』だった

 

 

 

【Tips】独立勢力

 

美城学園の学生冒険者達は大概『複数ある大規模な学園ギルド』に加入して行動する者が多いが、稀に『独立した勢力』を旗揚げする者も居る

大概は大規模なギルドのどれかに吸収合併されて終わるがごく稀に逆に大規模ギルドを『喰う』強者が現れるケースも存在する

基本的に『ソロ派』や一匹狼などが独立勢力として気ままにやってゆくパターンが多いが更に稀に『独立独歩の自由主義者』や『大規模ギルドに馴染めない気性の持ち主』などが立ち上げることがある

その上位存在である『部室付き』になる為には『三つ星資格持ち』、『イレギュラー単独討伐実績持ち』、『迷宮士資格持ち』のどれかが必須資格となる

ちなみに『部室付き』は純粋なソロでも資格さえ有れば書類申請だけで受理される

与えられる『部室』は八畳一間の古いエアコン、冷蔵庫と折り畳み椅子にテーブルだけの簡素な空間になっている(改装は自由だが部室返却時には片付ける必要がある、当たり前の話だが)

 

 

【Tips】学園ギルド

 

美城学園名物の一つ、生徒会や風紀委員みたいなノリで学園内部にあるCランク迷宮攻略を主目的に集まった学生冒険者達の組合(ギルド)

最初は対イレギュラーやCランク迷宮の悪辣な特性などに挑む為の集まりだったが利権やら何やらが集中し過ぎて色々ややこしい事になっている。要は派閥争いの深刻化だ 

人間関係は人それぞれではあるが主要ギルド上層部の仲は結構悪くない。下手に不仲になれば学園からの介入だってあり得る為らしい

唯、どのギルドもライバル意識は激しく内部力学の柵もあるので『やれる抜け駆け』があるなら躊躇せずにやるだろう……『優秀な未加入者の勧誘』とか特に



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一章幕間その2 冒険者とカードの相性問題

 

 

皆様は佐藤大輝の抱える特異体質を覚えているだろうか?

 

 

『女の子カードを殆どまともに召喚出来ない』

 

 

この冒険者業界では非常に珍しく、そして深刻な欠陥だ。今のDランク程度なら大した問題ではないだろう……しかしCランクからは決してそうは言っていられなくなる。Dランクなら『可愛い』というだけであの値段だがCランクともなると話は盛大に変わってくる

 

そもそもDランクカードというものは『アマチュア、エンジョイ勢、見習い用』という扱いの代物だ。だから『可愛さ』という曖昧模糊な概念や理屈で女の子カードらはあの馬鹿高さに繋がっている……まぁ『夢魔系』ならば娼婦としての役割を強く期待されているから、というのもあるだろうが

 

そしてCランクになると状況は一変する。Cランクからは『プロ用』となり見てくれなど(やまらのおろちみたいな酷すぎる例外を除けは)そこまで深刻に商品価値には左右されない……エルフやサキュバスみたいなCランクでも特筆に値する美貌持ちでも無い限りは、だが

 

そして大輝が両親からの贈り物として貰ったデュラハンというカードだが……これはアイルランドの『悪しき妖精』とされる存在で、外観は戦車と戦馬に乗った首なし騎士という存在であり。Cランクカードの中でも代表的な人気……いや『プロ用人権カード』とすら評価される人気カードの代名詞だ

 

先ず代表的な『中等クラスの装備化能力』……過酷なCランク迷宮攻略の為には絶対的に必要になる能力だ。これとあと二つ(異空間型、眷属召喚型)を合わせて『プロ三種の神器』と俗称されてさえいる

 

他にも『戦車に仲間を乗せて高速移動』といった非常に有益なスキルと高い……やまらのおろちに匹敵する程の戦闘力とついでに敵に呪いをかける能力が特徴だろうか?

 

そのプロ御用達の貴重品が大輝に送られて来た。大輝の相性次第だが冒険者をやる子供に親が贈る物としては女の子カードや只強いカードよりも非常に気の利いた代物だろう

 

 

つい最近判明し、数日前に更に悪化した『大輝の特異体質』さえ無ければ、だが

 

 

このデュラハン……基本的に男女に分かれその比率は半々、普通こんな特異体質持ちはそう滅多に存在しない故……いや、大輝の隣に居る唯一人の前例だけが引き起こせる間違いなく前代未聞の大珍事である

 

このデュラハン……ごく僅かな胸なので判りづらいが歴とした女の子カードである。どちらかと言えば兜の中の貌も中性的な美貌なので更に判りづらいから源輝も稲穂も男だと勘違いしていたのだ

 

大輝の場合……このカードに触れた瞬間にこのカードが女であると本能的に察知出来た。恐らく大輝の抱えるあの厄介な特異体質の副反応だろう。姫子も似たような特異体質で同じ事が出来るから前例がある

 

大輝がこのデュラハンと契約したら……いや、下手すれば契約すらまともに出来ない、とは(手の目)が言っていた筈だ

 

ならばこのカードどうしよう?と四人で頭向き合わせて悩む……が、大輝の今日の夕方からの予定を思い出した

 

 

「「「「高和(兄さん、おにーさん)に相談だ」」」」

 

 

今日大輝は『札商』である阿部高和と会談する予定だ。札商ならばこのカードを何か大輝に適合するカードと交換する事が可能だろう

 

大輝は残った二枚のDランクカードを選んでエジリ・フレーダを貰った。そしてそれを姫子のリビングアーマーとトレードしたりして何気に姫子を強化した後に稲穂と姫子の未来義母娘の作ってくれた手料理に舌鼓を打つ

 

今日は大輝の嗜好に合わせたカレーライスだった。勿論、稲穂が大輝の食嗜好とその手法を姫子に伝授する為だ。昼食後は皿を片付けて姫子と少し、彼女に与えられた部屋で話をする……今の大輝の部屋は少しマズいし

 

 

「なぁ姫子、そのエジリ・フレーダを触った具合はどうだ?」

 

 

エジリ・フレーダとはヴードゥー教の女神でDランクカードにあるまじきレベルの回復魔法特化型カードだ。ネイティブカードだと話は違うが日本製だとそういう認識でいい

 

その逸話上、女神でもあるがむしろ夢魔に近い性質や『Dランクの純然たる女神』という非常に希少な性質……女神系統にリンク適性(相性)が合う者や好事家、夢魔系統と相性の悪い男性冒険者などから非常に人気が高い

 

 

「悪くはない、悪くはないですかね?それとにーさまはそのリビングアーマーとはどうですの?」

 

 

リビングアーマー……新人冒険者からプロ志願まで様々な冒険者が大概一度は入手を求める超人気かつ有名カードの一種だ

 

先に挙げたデュラハンの劣化版みたいな代物であり、まぁそのデュラハンを獲得する迄の繋ぎみたいに扱われもするが間違いなく優秀なカードである

 

大輝のカードにもある手の目に一反木綿、姫子の小袖の手と同じく『装備化カード』という代物であり幾多の若手冒険者の命やカードをダイレクトアタックから守ってきた若手冒険者の守護神みたいな代物である

 

基本的にほぼ無性で稀に人格が備わっているタイプも存在するがこの件のリビングアーマーには『男性人格』が備わっていたので姫子には取り扱えなかったのである、代わりに相性抜群の……本来なら予備だった小袖の手をメインに姫子は戦う事になったがまぁその話は良いだろう

 

 

「こっちも悪くはない、悪くはないんだが定のクラスチェンジには使えないから微妙なんだよな……今は予備に回して風向き次第でトレードかな?」

 

 

基本的に冒険者……特にリンク能力を得た冒険者にとって『カードとの相性』というものは非常に重要だ。リンク能力なぞ無い新米やそういう工夫なぞまず考えないエンジョイ勢だと『強いカードを揃える事こそ冒険者の強さだ』と考える傾向が強い

 

しかしリンク能力を得た冒険者の場合は完全に違う、リンク能力者にとって強いカードとは『己と相性の良いカード』の事だ。強いだけで相性の悪いカードではちゃんとした戦い方は出来ない、自分の手足や器官の一部の様に巧みに使えるカードこそが『本当の冒険者の強いカード』なのである

 

リンク能力持ち(優秀)な冒険者なら入手した強いカード、良いカードを買ったりトレードしたり運良くドロップしたりプレゼントされたりしても相性が宜しくなくて手放したりコレクションやトレード保存したりするケースは常にある

 

大輝と姫子はそれが非常に極端になる。何せ大輝は推定女の子カード全般に相性極めて悪く、姫子は人間的な姿をした男カード全ての召喚不可故に……大輝の場合はまだ暫定的な話でありその悪化具合をテスターとしてデータ調査される予定なので正確な事は言えないが

 

だからと言って大輝は男カード、姫子は女カード全てに高い相性がある訳でも無い。先のエジリ・フレーダやリビングアーマーみたいに『あり、なし』それぞれに傾いてはいるが微妙な代物やデュラハンの様に相性の悪いカードだって結構ある。ついこの間のメアリーさんが行ってくれた『札見ノ式』にも男性人格持ちリビングアーマーとか色々強い男カードは有ったがどれもこれも引っ掛かりを感じて交換対象にはしなかった

 

嘗て言及した『刀の鞘と反り』では無いが、この業界で一人前……リンク能力者にもそれとだいたい同じ事が言えるだろう。カードとの相性と乗りや反りとそれに携わる直感は決して無視してはいけないものだ

 

あの時大輝が選んだのは全て『相性の良いカード』ばかりである……流石に復活用のジャック・オ・ランタンだけは相性なぞ無関係で得たカードだが

 

ちなみに姫子にこのデュラハンを試しに渡して見た……が

 

 

「……うーん、多分悪い娘ではないだろうけど感覚が合わないみたいで余り使いたい感じはしませんね。私の桜や菫、撫子ともクラスチェンジ適合しないみたいですし」

 

 

どうやら姫子との相性もはっきり悪い様だ

 

もしもこのデュラハンと姫子の相性が良ければ大輝は何時か姫子に(多少のサービスはするが)売る為に温存していただろう。姫子と相性が悪い……ついでに姫子の手札とクラスチェンジ先にもならない。『装備化カード』や『妖精』という特徴上多少はいけるか?とは思ったがこっちも駄目だった様だ

 

二人ともそれぞれ普段から持ち歩いている分厚く付箋だらけのゴツい手帳……まるでインディー・ジョーンズか何かが愛用していそうなそれを取り出して真面目にこのデータを記したりお互いの情報を再確認する

 

迷宮内で情報面で今一番頼れるのはカードの能力を抜かせば紙媒体だろう。電子媒体はグレムリン一発でパァになるからそう頼れるものではない

 

大輝も姫子もメアリー塾の門下生になった時から常にメモ癖を付ける様に指導されてきた。それとある程度ちゃんとしたマッピング技術だってそれに併設して指導されてきた……先の試験用迷宮のデータだけは記憶はしているがデータの書き写しは契約上決してしない事にしている

 

大輝のメモ帳の一つには今まで潜った迷宮のモンスターや地図などのデータ写本や私見、小遣い稼ぎや依頼の為の採取、採掘ポイントやら他にも気付いた些細な事が事細かに記載されている

 

今現在でも冒険者用スマホなら高性能なマッピングアプリなどもあるが、Eランク以降からはグレムリンが怖く、Cランク以降にもなればもう頼るのは止めた方が良いだろうしBやAランク迷宮ともなれば最初からまず持ち込む事すら無い

 

今回のメモ帳には触ったり関わったりとしてきたカードとの相性推測やら何やらのデータ用メモ帳……大輝のはまだ比較的薄いが姫子のそれは大輝の何倍もある。彼女が五歳の頃からの被験データだからだろう

 

最初の頃は正に幼稚園児のお絵描きだった……実際に幼稚園児だったが。それから少しずつ絵日記から小学生の作文、そして少しずつ夏休みの自由研究にまで昇華して今ではきちんとした報告書やレポートの体裁が出来ている。最近ではお絵描きや絵日記状態だった初期のデータレポートを現在の仕様に改稿作業中らしい

 

研究者達からもこのファイルは『薬丸ファイル』と呼ばれて何気に重宝されているとかいないとか……姫子のその姿勢からか将来的に、冒険者引退後の未来で良いから姫子がこの業界に来る事をその実験に携わる研究者総意で願っている事は確かである

 

五歳の頃から非常に素直で可愛らしい上に研究の趣旨をきちんと理解してくれる最高の被験者兼見習い研究者だ……一部の研究者達の間では『実子より可愛い』とか『是非とも養子に迎えたい』だの『息子の嫁になってくれんかな?』だの果ては『むしろ嫁に』とか呟いた輩も居るとか居ないとか?

 

近ごろではこの研究者達一同が手慰みの時間を見つけては姫子がちょこちょこ初めている『迷宮士資格試験対策』を伝授したり講義したりしてくれている……メアリー塾の聴講を含めれば多分日本でも最高峰の受験環境だろう。ついでに学校の勉強だって教えてくれる

 

そしてそろそろその夏季講座の時間(学校勉強編)の時間が近づいてきた……しかし、大輝の隣に座る姫子の柔らかな感触や甘い香り。そしてその長い金髪をシニヨンにして纏めているからこそ少々珍しく見えるうなじ……

 

一応『自家発電』は爆睡手前までしっかりしてスッキリしておいたからまだまだ理性は大丈夫だがまぁそれでも来る本能の絶叫はおくびにも出さずに何時もの涼しい顔(ポーカーフェイス)で姫子を慈しむ

 

まぁ、そんな何時もの光景だが薬丸家のお手伝いさんの車が来た。名残惜しいが姫子を送らなくてはならない

 

荷物を手早く片付けながら姫子は……

 

 

「……ねぇ、にーさま?」

 

「どうした姫子?」

 

 

何か微妙な表情で姫子は大輝を呼ぶ

 

 

「うん、にーさまの剣さんについてなんだけど……」

 

 

大輝はその一言で姫子が何を言おうとしているのかはっきり分かった

 

 

「高和兄さんの店には必ず行くけど……あいつは『サービス』には乗り気じゃ無かったからな。出すにしても多分クラスチェンジ先のチェックぐらいだろうさ」

 

「……うん、ありがとうにーさま。菫も『覚悟を決めた』って私に言っていたんだ」

 

 

稀な話ではあるが……『カード同士の色恋沙汰』というものはちゃんと存在する。大概は同じマスターに仕えるカード同士だが恋人、夫婦、家族、親友などの近しい間柄同士のカード達による『カード遠距離恋愛』も更に稀ではあるが存在する

 

基本的にその感情の行き先はマスターの性格と匙加減、そのカード達のそれまで決まる。貢献度にもよるが性格の良いマスターなら普通に認めるだろう、そのカード自身がどうしようもない輩だったり性格の悪いマスターならそれを決して赦さないパターンや特に酷いと片割れを何処かに売るなりその片割れの見てる前で……といった悪逆三昧という鬼畜過ぎるケースもある

 

ちなみに大概のガチ勢達はまず間違いなくそれを認めて祝福さえする。こういう自由を認めての御恩奉公はカード達との仲を円滑にしてくれるし彼らも気持ち良い頑張ってくれる様にもなる

 

大輝も女の子カードはそういう『配下に嫁を宛てがう為』という目的で欲しかったのだが……『こういう特異体質』だからそのプランは消えてしまった

 

大輝にとっても剣は相棒であり幾多の闘いを……特にイレギュラーとの壮絶な死闘を共に乗り越えた大切な相棒だ

 

また。姫子にとっても菫は彼女が五歳の頃からの非常に長い付き合いであり、彼女が関わってきた実験でも常に彼女の侍女兼乳母として長く長く尽くしてくれて来た相棒である

 

そんな二人の幸せの為なら一肌二肌でも脱ごうというものだ

 

まぁ……そんな感じでそれぞれのカード(配下)の恋路を応援する為に本格的に動く事を決めた二人だった

 

 

……もう少しだけいちゃいちゃしていたかったが既に近くに足音、いや忍び足が聴こえてくる。恐らく薬丸家のお手伝いさんがスマホ片手に二人のラブシーン盗撮か何かを企んでいるのだろう、ついでに大輝の両親も間違いなくグルだ

 

今日のストロベリー・タイムは剣と菫の新たなカップルの為に譲る事にした

 

 

 

【Tips】カード同士の色恋沙汰

 

基本的にカードはそのマスターと色恋沙汰になる場合が殆どだが、稀にカード同士が色恋沙汰になる場合もある

そういう事が起こった時はマスターの胸先三寸次第であり……そのカードの性格や貢献度、マスター自身の人間性によって結果は大きく変わる

ガチ勢の場合は大概それを受け入れるパターンが多い……『その権利を与える事で恩義を得る』という実利や、歴史に残る『テーバイ神聖隊(ヒエロス・ロコス)』と同じ理屈(愛する者の前では無様を晒さず、互いに生き残る為に奮戦出来る)だ

更に稀な話だが、別のマスター同士のカード達が恋愛関係になったりするケースもあるし……更に。そして世界に数件しか例の無い話だが『マスター以外の人間を愛したカードの話』もあり、その実話を元にしたドラマも存在する



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一章幕間その3 カード・リザルト

 

やや事務的に終わってしまったが姫子との逢瀬を楽しみ……その逢瀬を覗き見ようとする大人達とのアホな攻防後、大輝はまた一度身嗜みを整えてから次の目的地に向かう

 

何時ものギルド間近にある雑居ビルの一つのとある階、其処に阿部高和が作った札商事務所が存在する

 

 

『阿部カードトレーダーオフィス』

 

 

とある高名な札商の師事から認可を経ての独立したばかりと、小さなものではあるがちゃんと政府認可を持った店舗である

 

今はまだCランクが中心で商品になるBランクは数点しか無い様な駆け出し店舗ではあるが……まぁそれでも札商業界だけでなく冒険者業界にも強いコネを持つ将来性の高い優良店舗でもある

 

大輝が駅からこの事務所に向かおうとしたらLINEに気付いた。相手はこれから商談他諸々に入る阿部高和からだ

 

 

『大輝、悪いが予定より一時間後で大丈夫か?緊急で大口依頼が舞い込んで来てな』

 

 

そんな入電が有ったので適当な喫茶店で時間を潰す事にした

 

その喫茶店はあまり人気のない落ち着いた雰囲気の店舗だった。大輝は奥の席で時間潰し代わりに今まで確認出来なかったカード達……特に『瓜子姫戦』で使ったカード達の状況を確認する事にした

 

 

ブッ!!

 

 

注文して口に含んだアイスコーヒーを少し吹いた

 

……まぁ、確認した五枚が軒並み進歩して新しい技能を得たりすればそうなるだろう

 

まず最初に剣だが……縮地の制限が解除されていた。あの瓜子姫戦で見せたアレを制限解除で出来るのは真面目に有り難いし回数制限が無いなら訓練だってやり易い

 

しかし……剣は愛用してきた大戦斧だけでなく剣術の扱いにも優れていた、やはり『武芸十八般』?いやあれは多分剣自身の資質や素養だろう。だから他にも槍とか色々、最低限無銘名品シリーズを調達して試してみるのも今後の小課題に入れておくべきか?聖銀製でお茶を濁す気にはならないし

 

次に巌……こっちはランクアップの副作用で戦闘力は向上しなかったが、あの瓜子姫の強烈な一撃を完璧にブロック出来た事がきっかけにでもなったか『硬気功』という魔力気力を対価に防御力や耐久力を一時的に高める技能に目覚めていた。その防御力に更なる磨きがかかった巌、さてこれからどう磨くかを考えておかなくてはならないだろう

 

次はやまらのおろち……巌と同じくランクアップの副作用で戦闘力向上はなかったが今これを見てこいつの『本当の性質』が理解出来た

 

 

『カイロネイアの片獅子』

 

 

これは『テーバイ神聖隊』を意味する称号であり『唯一人の番』を飢求する衆道者、要は『番を求める同性愛者』という事である、だからこそあいつはいやだひめに対する欲求や衝動が薄い……いやむしろ皆無な訳だ。思い返せばあいつの発言の節々にこの性質を伺わせるものが稀に有った

 

『この技能に目覚めた』という理由でそのカードを気味悪がって手放す男性冒険者は結構多い。しかし大輝の場合はその衆道者なら知己いや同士同胞に沢山存在する、大輝にとって彼らとの真っ当な付き合い方なぞ『普通の人と全く同じ』でしか無い。今から会う高和やその仲間達だって好みのタイプには実は結構五月蝿いし粗雑なフィクションテンプレートみたいなノンケを無闇矢鱈に無理矢理襲う様な性犯罪者では決してない

 

この技能はその内容的に一般的にはマイナススキル寄りの扱いだが、大輝みたいな厄介かつ希少な特異体質持ちにはある種の福音にもなり得る……この理由で求めるのは世界広しと言えど大輝&姫子ぐらいしか居ないが

 

この『カイロネイアの片獅子』は番となるカードを揃えれば真価を発揮出来るタイプの技能だが、他にも『男女別の、番で召喚する事で真価を発揮するカードの異性の方の代わりになれる』という特性もある……この能力の対象は他のカードと組んでもその能力を使えなくなるという制約を得るが、その対象となったカード同士ならばちゃんと使えるという訳だが流石に『二体一心』迄は模倣出来ない様だ

 

要はやまらのおろちの塩漬け状態だったスキルである『八魔羅ノ大蛇』をちゃんと戦力に換算出来る、という訳である……彼、そして大輝自身とちゃんと波長の合うもう一枚の『カイロネイアの片獅子』さえ見つかれば、だが

 

それにちゃんとやまらのおろちにも『つがい』が自力で用意出来るのはありがたい。後で商談の一つに盛り込んでおこう

 

大輝にとってもこういう技能……いや性質の持ち主はむしろ好ましいぐらいだから丁度良い話だ

 

次に今回本当に頑張ってくれた燈だが……かなりの技能強化や複合が発生している。先ずは従順が忠誠に、これは恐らくあの瓜子姫戦で案山子の身体を失って尚大輝に付き従って激戦を潜り抜けた結果だろう。そして知性強化と魔力強化が英明に統合された、これは燈の中でこの二つの技能が成長した結果だと思う

 

そして新たに『詠唱短縮』と『火炎魔法範囲制御』という技能にも目覚めていた、これは読んで字の如く魔法詠唱時間の短縮効果と、『火炎魔法の範囲を制御出来る』という極めて珍しい技能だ。この技能さえ有れば火炎魔法に限れば範囲変更の魔力消費や手間が易しくなる上に『範囲指定』といった器用な真似だって出来る様になれる……訓練次第ではあるが

 

そんな特技を得た燈はやはり鬼火系統として更なる火炎特化型に育成・クラスチェンジするべきだろう……燈自身の意見も聞いてからだが

 

そして最後に……今色々な意味で悩みの種であり大輝のデッキの屋台骨と言える定についてだが

 

あの一件から一つの技能を得ていた、それは『二刀流』という代物で効果は『片手で扱える武具型魔道具であれば二つ問題なく扱える』という代物だ

 

『装備するだけ』ならば普通に出来るし特殊能力があるならばどれだけ装備していても使うだけなら出来はするが、どれだけ装備していても上がる戦闘力は利き手にもっている一つだけだし能力もマトモに制御は効かないというルールが存在する。故に大概の冒険者は一枚のカードに装備させる魔道具をなるべく多くはしない傾向にある

 

あの瓜子姫討伐時に定/大輝がやったのは『仕込み杖を盾代わりに使って最後に杭代わりに瓜子姫にブッ刺して地面に磔にしてから解体ショー』という使い方だからまぁ問題ない

 

この『二刀流』という技能は……片手剣や片手斧みたいに片手を想定している二本持ちの武具型魔道具の戦闘力を『高い方+低い方の半分』に出来る能力とそれぞれの手にある武具の特殊能力の制御補助が出来る。武具型魔道具がメイン戦力の定みたいなカードには非常にありがたい技能である

 

先に挙げた通り武具を多用、重用するタイプの冒険者からは垂涎の技能だがその習得方法は未だいまいちハッキリとはわからないからこの技能の希少性は非常に高い……だいたいカード次第ではあるがそこそこ良い程度のお値段、いやDランクカードならばニ百万円追加程度だろうか?

 

勿論、武具型魔道具を持っていなければ宝の持ち腐れでありそれを知らずに手放したり乱雑に扱ってその幸運を台無しにして泣く冒険者の話は稀に聞く

 

 

『見てくれから何となく予想は付いていたが……まさか此所まで武闘派だとは』

 

 

心の中で大輝はそう思いながらこの定の為のクラスチェンジ先や新しい得物について思案する

 

クラスチェンジ先だが……はっきり言って座頭系はあまり強くは無いし数も少ない。入手したリビングアーマーみたいなガチガチの甲冑と座頭系ではクラスチェンジ先には出来てもそもそも相性が悪すぎる。大概の手の目が拒否する

 

一反木綿なら割と相性は良いが手の目によると『何処かしっくり来ない』らしい。後は高和頼みで大輝が目星を付けたとある装備化カードの入手が必要だろう。そのカードは日本固有で海外では大人気だが日本では『使って戦うのはリビングアーマーや小袖の手より怖い』と敬遠されがちな代物なのだ……何せ『生身で戦え』とでも言う様なビジュアルだ、アレは

 

……間違いなくリビングアーマーより強いし愛好家もかなりの数存在する、ついでに希少だからお値段もかなり。間違いなくリビングアーマーよりお高いのが珠に疵だが

 

定の戦力化に必須の武具型魔道具……これも最初の凡庸の仕込み杖(なまくら)は兎も角、瓜子姫戦で最期まで奮戦してくれた無銘の仕込み杖(業物)みたいな代物はそうそうお眼にはかかれない、そもそも武具系魔道具は結構なお値段だし使い潰しを前提にしないといけない代物である。だから武具系魔道具をあまり好まない冒険者も一定数は存在する

 

大輝も一度両親が持っている無銘の刀(打刀)を借りて定に持たせたりもした、俊敏の銅剣よりはしっくり来るが流石にあの無銘の仕込み杖の様にはいかなかった。どちらかと言えば脇差しや小太刀みたいなリーチが適合するサイズなのだろうか?(姫子の軍用サーベルみたいな?)

 

その悩みも……もしかすれば『定の新しいクラスチェンジ先』が大輝の予想通りにいけるならばもしかすれば解決出来るかもしれない

 

その辺りは定にそのカードを直に見せて相談するだけだ

 

 

そんな思案に耽っていたら約束の時間が近づいていた。そろそろ店を出て商談やら何やらせねばならない頃合いだ

 

 

 

【Tips】装備型魔道具のシステム

 

『手に持つ武具タイプ』で片手持ちならば盾型魔道具と併用可能、両手持ちならば『片手で扱える力』が有ろうとも両手でしか扱えない。そして武具型なら『特技な技能持ち』でも無い限り基本的に一種類しか有効化出来ない

『甲冑型』、ならば勿論一種類限定であるが『一部の衣服型』、『陣羽織(サーコート)型』や『外套(マント)型』などの様に『甲冑と一緒に扱える羽織り』みたいなものならばどれか一種類だけ併用可能

盾型を二つ装備は……やれなくもないが戦闘力の向上はなく扱いが非常に難しいのであまりオススメは出来ない

しかし例外として『両手バックラー』だけは格闘技使い達の一部で使われている

アクセサリー系統は……指輪なら左右の指合わせて二種類、首飾りなら一種類、腕輪、足環それぞれ一種類、冠も一種類、衣服も外套(マント)もそれぞれ一種類といった制約が存在する

非常に稀だが『義肢型魔道具』という物も存在する、勿論その該当する四肢が欠損した者にしか使えないがこれにはそれ以外の制限は無い(理論上の話だが『重要臓器以外全てが魔道具に置き換わった人造人間』というものも……出来なくはない、らしい)



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一章幕間その4 御札商売

今日は久しぶりにアンケートやります


 

『阿部カードトレーダーオフィス』

 

一見単なる結構小綺麗な雑居ビル……だが実際には新米札商:阿部高和の所有する拠点(オフィス)であり自宅(居城)

 

半引退……既にプロ資格を返上しているとはいえ未だ現役が務まる超一流冒険者でもあるので冒険者事務所としての側面もある。超一流冒険者の拠点らしく様々な装備とセキュリティ、そして対アンゴルモア備えも万全の正に『漢御殿』である

 

実際、彼の嘗てのパーティーメンバーにして『札商:阿部高和の専属冒険者達』の為の拠点……いや、プライベートルームである最上階は彼らのハーレム御殿とでも言うべき環境でもあるのか?まぁ完全にプライベートの話なので特に『そっち方面』に興味の無い同胞同門や客人には関係ない話か

 

大輝も何時かは必ずこういう『立派な拠点(居城)』を築きたいと思ってはいるがそれは何時の日になるかまだ分からない……少なくともアンゴルモア前迄にはちゃんとした拠点作りは大目標の一つには入っているが

 

……尤も、大輝の場合は『姫子との愛の巣』と言った方が正確かも知れないが

 

事務所内ではどうやら商談を終えたばかりらしい高和が煙草を灰皿に入れて揉み消しながら大輝を出迎える準備をしていた

 

 

「よぅ大輝、待たせちまったな?」

 

「なぁに、大口の商談だったんでしょ?構わないよ」

 

 

気安い応酬から二人は連れ立って事務所を直ぐに出て最寄りのDランク迷宮に向かう……今回は攻略なぞ考えてもいない。何せ『大輝のカードとの面談と適応するカード探し』が主目的なので入り口の安全地帯だけで全て事足りる。攻略だって高和なら一人でも数時間有れば容易く出来るだろう。今のスーツ姿でも簡単にだ

 

大輝も腰のカードホルダーに『準備』は何時だって万全に出来ている……未だ『装備系魔道具』は整備から帰って来てはいないがまぁ大丈夫だ

 

高和の免許……シルバーカラーの三つ星免許でDランク迷宮に入る。大輝だけでは決して入れない場所である。ついこの間の姫子の立場になった様な気分になる

 

最低限の免許さえ有れば理論上は一つ星だろうと合法的にAランク迷宮に入場出来る……入手資格のある冒険者と一時的にでもチームを組めれば、だが

 

これは『チーム制度』と呼ばれる制度の……所謂一つの『裏技』みたいなものであり、普通は上位冒険者が自分の部下や弟子などを鍛える為に使われる裏技だ。先の例に挙げた様な『一つ星をいきなりAランク迷宮に連れてゆく』様な倫理的にもとる使い方は殆どどう言い繕っても『自殺幇助』にしかならない事を明言しておく

 

今の高和が大輝みたいなタイプを連れて……本当に攻略してしまうのは大いにアリだ

 

出入り口付近は確かに安全地帯だが警戒の為に即座に大輝は即座に定とあの戦いで使わなかった他のカード達を一瞬で選んでホルダーから引き抜いて召喚する

 

今回の編成は定、祝、蔵、キキーモラ、オーク二号、ホブゴブリンという編成だ

 

定と祝は索敵兼前衛、蔵とキキーモラは後衛、オーク二号とホブゴブリンは前衛追加……今回の主旨的にこいつらも『貴重な戦力』だから選択した。剣は『既に予約済み』だから高和の思惑的には戦力外だ

 

定に渡す得物は今整備中だが一応は持っている凡庸の刀をカードのまま渡しておく、今の環境(Dランク迷宮)からしても今まで使っていたもの(ご機嫌な武具)に比べてもまるで頼りにならない貧弱なナマクラだがまぁ無いよりは絶対にマシだ。最悪大輝のサバイバルナイフ……自衛隊仕様らしく純聖銀造りだってある

 

一方の高和は……悠然と一枚のカードをやはり腰のカードホルダーから引き抜いて召喚していた

 

それは洋館だった……洋館型と言えば普通はウィンチェスター・ハウスかDランク最高値のヘドンホールハウスが挙げられる、しかしこの洋館はウィンチェスター・ハウスの様に無秩序に改築された様には見えないしヘドンホールハウスよりも圧倒的に強い存在感がある

 

そして、洋館とは言ってもむしろ和の混在した異人館と擬洋風建築の間の子の様な印象を感じるから恐らくは日本に纏わる異空間型だろう

 

大輝の見立てでは恐らく……ヘドンホールハウスかシルキー辺りからのクラスチェンジで洋館風になったマヨヒガか何かだろう、同じ日本製の猫又屋敷という可能性もまたある。しかし最近発見された足洗屋敷は無いだろう。あれはこんなに綺麗な屋敷ではない筈だ

 

……その洋館から出て来たのは大正浪漫を思わせる女給姿で、スレンダーながらもメリハリの効いたやや小柄なショートボブの黒髪が美しい妖精の様な女性だった。この美女は高和の迷宮での拠点であるマヨヒガの本体である元シルキー、高和の旧くからの仲魔で確か名付けもされていると言っていたのを今思い出した

 

マヨヒガ、それは東北、関東地方に伝わる奇談の一つでかの民俗学者柳田國男が遠野物語に記載した事で有名になった。その性質は『山神からの贈り物』であり、約束事または隠り世の掟さえ護れば福を齎すとされている

 

カードとしては『異空間型』の一種だが……大輝が持っている燈無蕎麦とは比べ物にならない程に隔絶した差を持つ

 

大輝の燈無蕎麦は辛うじて二人が鮨詰め状態でギリギリ避難所代わりに使える様な貧弱貧相極まりない代物である……尤も、その貧弱極まりないカードでも『現状、入手出来ただけ非常に運が良い』と断言出来るのだがそれはまぁ良いだろう。一応『蕎麦だけは絶品』という明確な取り柄だってある

 

本当に最低限ではあるが屋台型だけに調理施設もあるし丼や箸、飲み水だって出せる、ついでに火鉢もあるから暖も取れる(寒い迷宮では以外と休憩時間に重宝した)

 

大輝の燈無蕎麦だって『住めば都』だと言えなくもないが流石にこの豪邸とは比べ物にはならない(てか出来ない)

 

そしてそのマヨヒガの中もまるで石油洋燈やガス灯の様な……でも辺りをはっきり見渡せる不可思議な照明と女中の案内に誘われる様は正に洋風なのに何処かに和が入り混じった大正浪漫チズムを感じさせる。大輝はまるで江戸川乱歩の小説……少年探偵の小林君にでもなったかの様な気分に少しだけなっていた。迷宮内なのに少しだけ歳相応に戻った様な高揚感を感じてしまう

 

今回の『明智探偵』たる高和は、やはり悠然と自分専用の迷宮拠点であるマヨヒガに大輝を手招きで呼び寄せる。こういう隠り世(かくりよ)に人を招くならやっておいて損は無いだろう……迷宮そのものが黄泉とも地獄とも幽世(かくりよ)とも言えるからあまり意味は無いかも知れないが

 

少し浮ついた気分にもなりはしたが、これから先は商談だ。武器や魔法の代わりに金銭やカード、魔道具(資産)を使う戦いだ……相手は『胸を貸してくれる格上(兄弟子)』だが

 

 

「さて大輝……先ずはそっちの最高にいい男を俺に紹介してくれるか?」

 

 

大輝の側に控える定が応じ、まぁ普通に対話は始まった。こういう場合は仁義切りも必要はない、やるのは親分である大輝だろうが高和と大輝の関係なら今更が過ぎるしそんな冗長な遊びをやる趣味はお互いあまり無い

 

軽い雑談から大輝は……自分が思った『定に合いそうなクラスチェンジ先』を高和に告げる。そのカードが在庫にあるかどうかだ

 

高和も『そのカード』を告げられて少々驚いた。普通の手の目ならまずそのカードに適合する事は無いだろう、そのカードの性質と手の目の性質で似通う特徴なぞ『日本のカード』と『装備化カード』である事ぐらいだ

 

しかし……大輝のこの手の目はバリバリの武闘派であり何より『抜刀術の達人』という点に高和は注目した

 

 

「なぁ大輝……まさかとは思うが、お前が『これ』に眼を付けた理由って」

 

 

ことり、と腰のカードホルダーから出した『件のカード』を伏せ置きした高和は大輝にその発想に至った経緯を聞いてみる

 

 

「ん、高和兄さんの考えた通りだよ。定には普通の座頭系は逆に合わないと思う、だから先ずはこのカードから定に試して貰いたいと思ったんだ」

 

 

出された紅茶を啜りながらこう返答してくる大輝、高和から見てもこのクラスチェンジは一見突飛で普通なら上手くいかないと思う……そんな奇異な代物ではある

 

何せ……手の目の次が『呪われた刀』と来たものだ

 

高和は伏せたカードをひっくり返してそのカードを晒す

 

 

【種族】贋作妖刀/打刀

【戦闘力】150

【先天技能】

・贋作村正:一応は『村正』と銘打たれてはいるが倒幕の意を込めた徳川幕府に不満や復讐心を抱く者……特に維新志士の弦担ぎによって生まれた贋作妖刀の幾多ある一振り

初等クラスの装備化スキルと浮遊を内包する、支持肢が無いので物を持ったりなどは基本的に出来ない

・倒幕妄執:幕府に不平不満や復讐心を持つ者達の怨念怨嗟が概念的に染み込んでいる、しかし所詮は贋作なのでそこまで強い力は無い

その性質からか器物系統としては強い自我を持つ

無下に扱うと反逆系マイナス技能に目覚め易い

剣術、武術を内包する

・贋作模倣:所詮は村正の贋作に過ぎない無銘刀ではあるが、それが故に模倣もそれなりには出来る

『日本刀型魔道具』ならば取り込んでその能力を自身の能力として扱える様になる。この能力を使えば『物品憑依型』として扱えるが代わりに武器型魔道具の装備スロットを消費した状態になる

その取り込んだ日本刀型魔道具が壊れたら元の刀身に戻りその日本刀型魔道具は消滅する。擬似的ではあるがその日本刀型魔道具を身代わりにする能力とも言える

要はジェネリック付喪神みたいな能力であるが、取り込んだ魔道具の再生能力は無い。しかし通常の武器型魔道具と同じ様な修繕は可能

【後天技能】

・気合一閃:気力や魔力を消費する代わりに次の一撃の威力が跳ね上がる。剣、刀状の武具を装備していないと使用出来ず、発動させればその武具の耐久性が大幅に低下する

・礼儀作法

 

 

贋作妖刀、このカードは日本津々浦々に存在する『妖刀伝説』を元に生み出された……いや、むしろ粗製濫造された村正擬きの妖刀達の一振りだ

 

『妖刀』と言えば誰もが『村正』と答えるだろう。村正の存在した時代は戦国から徳川幕府の時代で時の絶対権力者たる徳川幕府への反逆の旗印代わりに適当な数打ち刀に『村正』と勝手に銘打つ者が後を絶たなかった

 

このカードはその『粗製濫造された村正擬き』としての性質か非常に個々の質のバラつきが激しい。大概は下手な数打ち刀ばかりだがごく稀に『名刀』と言える様なクオリティーを持ったカードも混じっている事があるらしい

 

カードとしての性能だが、間違いなく『装備化カード』としては優秀ではあるが『刀一本だけ』という絵面が非常に怖いと大概の冒険者達は忌避する傾向にある様だ。リビングアーマーみたいに全身をきちんと防護出来ないイメージが強くて扱うのが怖く感じるとかどうとか言われている

 

それにその性質上反逆的な気性の強いカードでもあるので取り扱いには注意が必要である

 

要は『使うのにひたすら勇気が必要』という性質から来る欠点でマイナーカードとして扱われるピーキーな一枚という訳だ

 

勿論、このカードを愛用してモンスターと肉弾戦をやれる真性のガチ勢達からはひたすら好評ではある。生身を晒している様でも一応ちゃんとバリアだって存在するし贋作妖刀がダメージを肩代わりしてくれるから実際にはリビングアーマーと同じではあるのだが

 

それに、このカードを使う様な気骨の持ち主ならば大概このカードは主を認めるものだ、余程のへそ曲がりでも無い限りは

 

そしてこの贋作妖刀には類似種のリビングウェポンと同じく色々な種類が存在する。今ある打刀型や短刀型、珍しい処だと槍型と『村正シリーズにあるもの』ならだいたい同じものが存在する。仮にも『村正の贋作』であるが故に

 

基本的に癖は強いがかなり強力なカードである事は確かなのでガチ勢からは信頼厚い代物として(ガチ勢や日本被れの外国人からは)非常に人気の高いカード、それがこの贋作妖刀である

 

ちなみに『真作の村正』は様々ある銘ごとに幾つかがCランクカードと化して存在している。村正の切れ味を遺憾なく示す『千子村正』、吉原百人斬りで有名な妖刀としての側面が一番深い『籠釣瓶』、村正の作たる名槍『蜻蛉切り』などといった真作達が存在していたりする

 

そして……その妖刀(擬き)は今、定の前に置かれた。定の反応は?

 

 

 

【Tips】冒険者の拠点

 

プロやプロ志望の所謂ガチ勢は人にもよるが大概三つ星資格を得た地点から間違いなくチームを組む。プロクラスであるCランク迷宮からは間違いなく難易度が爆増する為と恒久的チームを組んで登録すると税金控除などの特典があったり……何より組む相手次第ではあるが三つ星だけでもCランク迷宮に挑む権利を得られたりするからだ

そんな恒久的チームは大概集合場所や入手出来た成果の集積・保管施設、メンバーの憩いの場、装備の保管所や……対アンゴルモア備えなど様々な目的の為に地上様にも拠点を作成・設置する

その拠点も冒険者の性格やチーム規模……そしてその冒険者の懐事情によって様々であり。ある者は一軒家、またある者は雑居ビルを買ってまるまる拠点化、更にある者は豪邸や専用施設を最初から建築したりと様々な様式で拠点を作成する

学生冒険者が所謂『冒険者部』を作るのも言ってしまえばこの拠点設営の一種だと言える……勿論、期間限定でしか使えない代物ではあるが

冒険者の拠点は最低限必ず高いセキュリティでの警護が必須となっている。冒険者の装備……カード以外の装備だって結構なお値段だし何より収穫物や予備カードなどの非常に高価値な資産がある為だ

 



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一章幕間その5 遅ればせながらマスコット参上

アンケート終了、結果は今回を読めば分かると思います


 

結果から言うと定と『贋作妖刀』は……ベストマッチだった。明らかに定は興奮すらしていた

 

 

『……お、おおっ!?』

 

 

何時も悠然としている定もご覧の状態だ……だが、残念ながら定のクラスチェンジはメアリーさんからの依頼で暫く禁止だ。恐らくはその依頼期間内の実験か何かのタイミングになるだろう

 

とりあえず定もその事をちゃんと思い出してくれたので今は贋作妖刀を高和に返却した

 

そして続く話は…… 『カイロネイアの片獅子』についてだった。高和もその性格や性癖的にそういうカードは幾つか持ってはいる、何ならコレクションしていると言っても良いがそのカード同士の相性が良い組み合わせはまだ一つも巡り合った試しが無い

 

逆に『女の子カード同士の百合』ならば偶にあるらしい。この場合は『清き白百合の誓い』と呼ばれる様だ

 

その高和のコレクションを見せて貰う……オーク、オーガ、エルフ、ドワーフ、高和が持っているのはヒューマノイドタイプのカード達ばかりだ

 

先ずは相性確認の為に異空間に外に出て召喚から試す必要があるだろう。高和もこのコレクションカード達には所有権を付与してはいないので借りるのは簡単だ

 

指をカードホルダーに収納してある針で刺して出た血をその数枚のカード達に掛けてそれぞれを召喚してからの面談となる

 

定以外の皆には一度帰還して貰い、今回の件で一番重要なやまらのおろちを召喚する。そして残りの召喚枠全てで今回借りた彼らを召喚してみる

 

先ずは大輝が召喚して『相性が良い』と判断した者達だけを残しての面談となるが……大輝が『本当に相性が良い』と思えたカードは三枚だけだった

 

オーク、オーガ、そして『それ』は……

 

 

『ジャパニーズヘンタイモンスター』の一種だった

 

 

『それ』は後ろ姿だけなら美女の様にも見える。しかし振り向けば……いっそ落武者か何かの様に禿げているのにそれ以外は殆ど毛むくじゃらな赤ら顔の醜悪な中年男の姿という酷い容貌の妖怪だ

 

これは『いやみ』と呼ばれる妖怪の一種で……その性質から『ジャパニーズヘンタイモンスター』の一種として悪名高い(有名な)カードだ

 

非常に灰汁の強い類いではあるが黄泉醜女に比べればまだ余程素直な性質の、Dクラスとしては間違いなく非常に強い一枚でありその性質上好事家や好色者から何気に(コアな)人気の高いカードであり、高和も最初は性癖的な面も無くは無いがむしろ自分の夢魔達の為に得たカードではあるが……まぁ『あの技能』を得た事でそれはご破産になった訳だが

 

やまらのおろちと三枚のカード達は向かい合い……何やら見つめあって何かを探りあっている様に見える

 

まぁ……今は彼らをそっとしておこう。大輝はやまらのおろちに『片付いたら連絡入れてくれ』と残し、ついでにマヨヒガ製の酒もしこたま置いてまた商談に戻る事にした

 

……下手したら地獄絵図が展開されかねないし

 

まぁ、あの面子で一番高い殆ど瑕疵無しオーガでも今の大輝なら自前予算だけで充分買えるから問題は無いだろう

 

そして……また新しい商談に入る。今度はフェアリー用の新しいクラスチェンジ先についてだ

 

『悪戯好き』の方は姫子と前にトレードしたカードの一枚に適合するものがある、しかしもう一枚はまだ見つけてはいないので高和の商品に頼る事にした

 

何枚か見せて貰ったカードの中に一枚『ティンときた』ものを見たからそれと『真面目な』フェアリーを召喚してそのカードを見せてみる

 

そのカードは……姫子のデッキにも主力一翼に入っている代物だ

 

 

『ハイピクシー』

 

 

ピクシーと呼ばれる妖精の上位互換……大輝のエースである剣と同じく下位互換のカードを眷属召喚する能力を持った人気カードの一種である

 

……フェアリーは基本的に喋れないが、大輝がテレパスを行使して感想を聞いたところ、どうやら非常に満足している様である

 

贋作妖刀と一緒に購買リストにいれておく……そう言えば大輝には使い道に無いEランク女の子カードも結構死蔵ドロップがあったのを思い出す

 

前に入手したインプやスプライト合わせて五枚に前回の探索で得た追加五枚のそれぞれ五枚づつの瑕疵無しをついでに引き取って貰うのも良いだろう。高和みたいな若手札商的にもこういう安価な女の子カードは小さな取り引きやおまけなどにも扱い易いのでまぁ損な取り引きではないだろう……大輝の豪運でもあれだけしこたま乱獲しても十枚程度しか出ない代物なのだから

 

全部瑕疵も特徴もない普通の女の子カードばかりなので一律十五万円で引き取って貰える事になった、勿論その代金は今から支払うカード代と相殺になる。ギルドなら数万円其所ら、直接売買なら数十万円……Eランク女の子カードに十五万円ならまぁ双方に得だといえるか?

 

そしてそのフェアリーを今は送還して次に召喚したのは……『蕎麦』の看板が掛かった担ぎ屋台だった

 

これは『燈無蕎麦』という大輝が唯一持っている異空間型カードであり問題だらけではあるが間違いなく『持っているだけ上出来』だと言える程貴重なカードである

 

その担ぎ屋台からひょっこりとまるでデフォルメされたかの様な二頭身の、まるでぬいぐるみの様な頭に葉っぱを乗せ、蕎麦打ち作務衣を着た二足歩行する小狸がひょこひょこ短い足で出て来た

 

これはこの燈無蕎麦が持っている非常に珍しい後天技能『狐狸妖』の効果で出た燈無蕎麦の『口』……いや言って見れば『義体』みたいなものだ

 

 

『ご主人、どうしたポコよ?オイラをこんなすげぇ上位異空間に呼ぶなんてポコ?』

 

 

普通なら会話能力なぞ無い燈無蕎麦だが、この『狐狸妖』で質量を持った幻影、要は擬似的な肉体を得て会話や飲食だって熟せる。何ならこの身体で蕎麦作りや配膳だってやれるし姫子がもふもふしたりだって出来た……本体である担ぎ屋台は一切動かせないし其所から遠くには行けないが

 

大輝自身もこの小首を傾げる愛くるしい小狸を撫でながらひょいと頭の上に乗せて高和に聞いた

 

 

「高和兄さん、こいつに適合しそうな異空間カードって無いかな?」

 

「……とりあえず頭からは降ろしとけ、あとそいつちょっと触っていいか?」

 

 

頭から降ろして高和にその小狸を差し出す大輝……膝に乗せて優しくもふる高和。暫く無言で和む二人

 

しかし、和んでばかりもいられない。高和は小狸を大輝に返す……少々名残り惜しそうではあるが

 

この『狐狸妖』……比較的近年発見された新種同然のカードの技能である為かまだレアリティーははっきり判明はしていない。自衛隊やギルドでも未だその価値を決めかねているぐらいだ

 

……その可愛らしさから最近徐々に人気は増えて来ているが

 

その愛くるしい小狸を見ながら高和は……Dランク異空間カードの在庫を思い出しながらカードホルダーに触る

 

そして出したカードは三枚。Dランク異空間の定番中の定番であるウィンチェスターハウス、非常に小さいが居住性と食事は最高なチセコロカムイ、最後に……近年、この燈無蕎麦と同じく発見された『足洗屋敷』の三枚を出してきた

 

アルカトラズは燈無蕎麦とは絶対に相性が悪いだろう、ヘドンホールハウスは生憎在庫切れだから出さなかった……そもそも大輝自身とヘドンホールハウスの相性が非常に悪いから先ず有っても出さなかっただろうが

 

その三枚を見せられた小狸は……大輝の腕の中から出てその三枚を見たり触ったり匂いを嗅いだりして何かを探っている

 

それからだいたい五分ほど経過して……小狸はある一枚のカードを大輝の前に持って来た

 

 

『足洗屋敷』

 

 

燈無蕎麦と同じく江戸の『本所七不思議』に纏わる妖怪や怪現象の一種であり、これも燈無蕎麦と同じく異空間型カードの一種である

 

その形状は旗本屋敷とも武家屋敷とも言われる江戸時代でもそこそこ良い方の屋敷で、それなり以上に広く快適な家屋となっている

 

この足洗屋敷は『要塞型』とも呼ばれるタイプの異空間型カードでもあり、Dランク異空間型としてはかなり高い戦闘能力を保有している

 

ついでに言えば出せる食事もDランク基準ならばかなり美味しい部類に入る……ヘドンホールハウスやチセコロカムイには間違いなく負ける範囲ではあるが

 

しかし……しかしこの足洗屋敷には一つ致命的な欠陥が存在する

 

その致命的な欠陥というのがこの足洗屋敷の本体である

 

異空間型カードには必ず『本体』というその空間の『核』とでも言うべき何かが備わっている。今居るマヨヒガは(本来ならば)無色透明な何かだったり、大輝の燈無蕎麦ならあの担ぎ屋台、ヘドンホールハウスならばシルキーに似た妖精だか幽霊だかの姿、チセコロカムイならば家の最深部の壁にある神聖な窓『カムイプヤㇻ』が該当する

 

そしてこの足洗屋敷の場合は……大きくて毛むくじゃらかつ非常に汚い足である

 

しかも『脚を洗え』としか喋れない上にちゃんと定期的にその汚い足……『悪臭』のマイナススキル持ちを洗わないとロストしてしまう厄介極まりない弱点が付いている

 

その余りにも酷い弱点のおかげでこのカードはDランク異空間型カードとしては破格の五百万円が市価として定まりかけているという有り様だ

 

しかし燈無蕎麦は何故にこんな致命的な欠陥持ちを選んだのか?彼に先ずは話を聴いてみると……

 

 

『オイラはこいつじゃなきゃ駄目なんだって思ったポコよ。旦那、オイラを信じて欲しいポコ』

 

 

小狸の眼は真剣だ。カード同士だから伝わる『何か』があるのだろう……大輝自身も何か勘が呟いている感覚を覚える。この足洗屋敷をクラスチェンジに使うべきだとそう告げている

 

ならばやるべき事は一つだ

 

 

「よしわかったぞ燈無蕎麦、お前の意見を尊重しよう」

 

『旦那……ありがとうポコよ……』

 

 

足洗屋敷も買い取りリストに入れてさて……そろそろもう一つの『本題』に入らなくてはならない

 

大輝は自身のカードホルダーからとある一枚のカードを取り出した

 

 

デュラハンのカードだ

 

 

大輝の体質では召喚さえ不可能な女の子カードであり……姫子とも余り相性の良くないカードだったので札商である高和と何らかのCランクカードや魔道具か何かとトレードして貰う為に今此処に持ち込んだものである

 

勿論、贈り主である大輝の両親も承認済み……いやむしろ推奨すらしている。当然だ、佐藤夫妻が息子(大輝)に贈りたいのは価値があるだけで使えないカード何ぞではなく『安全』なのだから

 

少なくとも瑕疵の無い通常品質のデュラハンである。市価ならだいたい八千万円から九千万円はするCランクでも特に高価な人気カードであり、品質や在庫次第ではオークションにも出品される事だってある。高和ならば少なくとも可愛い弟弟子に阿漕な真似などせずに良い取り引きをしてくれるだろう。最悪大輝が求めるカードや魔道具が無かったとしてもトレード用に残しておくだけだし

 

そして高和の反応は……

 

 

「大輝……いや本当に助かるわ」

 

 

何やらデュラハンを要急募で求める案件があるらしい……先の『大規模な商談』でどうやらなるべく沢山のデュラハンが必要になっているらしく明日から同門や知己に電話をかけたりして余りや予備のデュラハン買い取りを行ったりする必要があったそうだ

 

ちなみに大輝の持っている一枚さえあれば手持ち在庫と合わせて必要指定枚数に届くとの事だ。後は増えれば増えるほど先方の印象は良くなるらしい

 

勿論、大輝のデュラハンは即買い取りで対価は先のDランクカード全てにやまらのおろちが選んだ『相棒』の半額値引き……それと高和が出したリストからCランクカード二枚が対価として支払われる事になった

 

デュラハン一枚でそれはかなり豪気な話ではあるが……まぁそれも『需要と供給』である。高和的にも特に期待している可愛い弟弟子には幾らかサービスしてやりたい気分でもある

 

それと小さな下心……大輝の豪運ならば良いカードの供給源になってくれそう、高い確率で必要なカードを持って来てくれそうだという期待と、今から出す『条件』も好奇心と『阿部カードトレーダーオフィス』の名をちょっと売るきっかけを掴む為の行動だ。要はちょっと恩を売りたいだけだ

 

その条件とは……契約で今はクラスチェンジ出来ない定以外全ての今日トレードしたカード達のクラスチェンジを撮影する権利と願わくば後の定のクラスチェンジシーンの動画提供である

 

メアリーさんから渡された契約書を調べたりメアリーさん当人に電話で聴いても特に問題なく定のクラスチェンジシーンなら提供出来るらしい

 

ついでに今からやる撮影も……高和に電話を代わってと少々興奮気味に言っていたので高和に代わる

 

その二人の対話中、リストを見ながら大輝は今Cランクにクラスチェンジ出来そうなカードらの事を考える

 

先ずは大輝のエースである剣、早くもボアオークでは窮屈になってしまっている様だ。なるべく良いカードを与えてやりたいが……リストからは適合しそうなカードは一枚だけ発見出来たが気に入るかはまた別の問題だろう

 

次に対瓜子姫戦で大奮闘してくれた燈、元が奨学カードなのでそろそろ本格的に戦力向上が必要になってくるだろう……こちらも運良くリストから適合しそうなカードが一枚見つかったがやはり燈との相性次第ではある

 

次は索敵役であり帰路限定ではあるがナビゲート能力持ちの祝……彼女のクラスチェンジ先は幾つか候補はあるが対象がかなり珍しいカードだったりプレミア的にお高いカードだったりで多分リストにはない代物だと思う

 

最後に……大輝のメイン装備カードである定、もし運が良ければ大輝も定を一気にCランクまで向上させておきたいと思っていた。妙法村正や千子村正、もしかしたら村雨だってあり得るだろう

 

……やはり祝と定に適合するカードは無かった。そろそろ話し合いを終えた高和に目星を付けたカードについて相談しようと思ったその時

 

大輝がテーブルの脇に置いていたとある四枚のカードのうち二枚が輝いていた

 

そのカードを確認して見ると……一枚目はやまらのおろち、変化は『カイロネイアの片獅子』が『カイロネイアの獅子』に変化していた。どうやらやまらのおろちは相方を運良く見つけられたらしい

 

そしてもう一枚の輝いていたカードがこれだ

 

 

【種族】いやみ

【戦闘力】195

【先天技能】

・イロ気妖怪:『色欲の気』とでも言うべき空気より重いピンク色のガスを精製する能力と『非常に卑猥な戦闘能力(射撃、束縛)』を内包している

・変化の術:色々な動物や人間に化ける事が出来る。人間化の『固定の姿』以外は長時間は持たない(『固定の人間化』だけならいつまでも、他はだいたい三十分程度。服装変化ぐらいなら二時間は持つ)

・色欲の塊:読んで字の如く。敵味方問わず『異性(稀に同性)』と呼べる存在が居れば士気と総合的な能力が向上する。性技を内包している

性的な誘惑に非常に弱い(『カイロネイアの獅子』の効果でこの弱点は消失)

※:『ヲカマ一代男』の効果で同性に固定済み

【後天技能】

・ヲカマ一代男:完全に同性志向のヲカマ者である事を示す。同性へのアクションにプラス補正、クラスチェンジ先に一部の女の子カードが使用可能になる

性技を内包する(色欲の塊に習合済み)

・武術

・カイロネイアの獅子:『男同士の番』を示す。『番』と同時に召喚すると全てのステータス向上、特殊な能力発動の代替などが可能になる。同時召喚時のみ生還の心得、庇うが習得状態になる。『番』若しくはマスターを庇う対象にする際のみ庇うは『献身の盾』と同じ扱いになる

性的な誘惑に対して非常に強い耐性を獲得するが『番の誘惑』は決して跳ね除けられない

番以外と『そういう関係』になるとこの技能は即何らかの相応しいマイナススキルに変化する

但し同時召喚しないと全てのステータスが僅かに低下する

友情連携を内包する

 

 

……なんともはや、やまらのおろちの相方もやはりジャパニーズヘンタイモンスターだったか

 

大輝のデッキはどうやら非常に灰汁の強いカードが集まり易いらしい……まぁ覚悟は最初からしていた。未熟者が最初から強いカードを求めるならばそういう灰汁だらけのカードを使うか剣や燈みたいに一から鍛えるかしか道は無い

 

元より大輝には女の子カードや只見目が良いだけのカードなぞ最初から求める気は無い。欲しいのは信頼出来るカードかつ次のアンゴルモアやイレギュラー襲来でも問題なく生き残る力を持ったカードである

 

今回の件で幾つか手札の補強も出来た。高和も必要な時に必要なカードを得られた。先ずはやまらのおろちといやみの話を聞いてから考えよう

 

 

 

 

【Tips】カイロネイアの獅子

 

本作オリジナル後天技能。『愛のスパルタ』とも呼ばれる『テーバイ神聖隊』の称号。『男同士の番』が150組で構成された戦士集団でありその戦闘能力は伝説のスパルタ戦士に匹敵すると謂われる

 

『己の番』を見つけていないカードの場合は『カイロネイアの片獅子』という殆ど何の能力も無い技能でしか無いが『番』を見つけた際に『カイロネイアの獅子』になる

 

得られる能力は莫大ではあるが『番以外は決して抱かない』という制約がありそれを破るとこの技能は即座に重いマイナススキルに変化する




大輝のデッキにも多少は彩が欲しい……大輝は実用・実戦主義だけど

この程度なら大輝だってやります(燈無蕎麦と相性が良いのもあるけど)


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一章幕間その6 起きて半畳寝て一畳とは言えど

皆様もコロナにはマジで注意しましょう。かかったら五日は喉が潰されます。唾すらまともに飲めません、下手したら咳、痰、激痛で睡眠どころか呼吸すら出来ないキツい時期だってあります。おまけに真夏でも厚着必須の寒気付き高熱に苦しめられます(私の症例だけど)

なるべく検査キットは常備してなってしまったら激痛覚悟で水を大量に摂取しましょう。病院で症状に適合するお薬を忘れずに


 

 

さて……大輝と高和はやまらのおろちといやみの顔を見に館の外にもう一度出てみた

 

 

『主様……貴方は本当に私達の事を慮って下さっていてくれていますね。私の性癖にもこんなにも前向きに応じてくれて……』

 

 

其処に居たやまらのおろちから本気で感謝されていた。それはそうだろう

 

やまらのおろちの見てくれは正直素面では直視出来ない程酷く、本来なら更に悍ましい悪臭を漂わせる、一見すると滑稽でもあるが基本的に非常に厭らしく醜悪な形相である

 

このやまらのおろちは『悪臭操作』でその悪臭を武器に出来るが普通のやまらのおろちではその悪臭が最大最悪のネックになって使用を思いついた者達の心を折る、『悪臭』がマイナススキルなのは伊達ではない

 

ちなみにこの『悪臭』は……マイナススキルとしての評価はAに限りなく近いBランク。もしも『悪臭操作』や『フェロモン』みたいな対抗スキルや打ち消し方が無いなら間違いなく『うんこっこ』が確定する程重い代物だ

 

……まぁ、ごく稀にこの悪臭に適応するマスターも存在はするらしい。シュールストレミングの愛好家か何かだろうか?

 

そんな不人気カードワースト最有力候補にこうまで応えてくれるマスターなぞ非常に稀少だろう。普通ならスポット使用後に塩漬けや使い捨て使い潰しがせいぜいだ(一部のプロや自衛隊員らはそうやってやまらのおろちみたいな強い不人気カードを使い潰すらしい)

 

大輝自身もこのやまらのおろちを何気に気に入っているから此処までちゃんと彼に向き合っている。だからこそ似たような気色悪いいやみ何ぞを受け入れてやまらのおろちの番として認めたのである

 

 

『あらん、貴方様があきちのご主人ですかえ?まさかあきちにこんな素敵なダァリンを最初から授けて下さるとは……』

 

 

敢えて言うならば『ヲカマ言葉』とでも言うべきか?ちゃんと話せばかなり渋い声なのに無理矢理伸ばした女言葉を使うこのいやみ。まぁ見てくれの気持ち悪さはさておき性根は悪く無さそうだったので大輝はこのいやみを正式に採用する事を真面目に考慮している

 

まぁやまらのおろちの『カイロネイアの獅子』としての片割れだからほぼ確実に正式採用枠ではあるが

 

ちなみに残ったオークとオーガはそれぞれの趣味嗜好が被って相性が悪いとか何とか……何だよ、『男の娘相手に女役で』とか?何気に後方で『そういうのもいいよな!』面する高和を意図的に無視しながら平常心を保つ大輝

 

大輝(あなた)知らない(知りたくない)世界』の話は兎も角、やまらのおろち達をカードに戻し、借りたカード達を高和に返却してから次だ

 

次は大輝にとっても何気に癒し枠である燈無蕎麦……さっきの狂った会話によるダメージを癒す為に小狸の方を抱き抱えながら高和がデータ記録の為に用意した媒体設営を待つ。姫子さえ居れば今すぐそっち抱き抱えて姫子に小狸を渡しているだろうが

 

通常の撮影機材だけでなく、迷宮製の魔道具的な記録媒体……そんな機能を持った中に『視』、『聴』という文字が何処から覗いても見える摩訶不思議な人間の眼球サイズの水晶球『視念珠』、『聴念珠』も出してのガチ仕様である

 

この『視念珠』という魔道具は迷宮から稀に見つかる『魔道具式記録デバイス』とでも言えば良い代物だ。Cランク迷宮以降から機械製品は不燃ゴミに成り下がる環境と化してしまう為こういう魔道具を記録デバイスの代替品として自衛隊……だけでなく世界中の対迷宮に挑む軍隊やプロ冒険者が記録媒体として愛用する一品だ

 

しかしこの『視念珠』には『音声録音は出来ない』という面倒な欠点があり、それを補うかの様に『聴念珠』という視念珠の音声バージョンが存在している

 

……残念ながらプロでも常に自衛隊が全権力を以ってこれらを買い漁る為、大概のプロ冒険者ではどちらか片方持っていれば幸運というぐらいには貴重品である

 

流石は『元・五つ星』だけあって高和は両方揃えている。まぁ高和でもこの二個一組だけしか持っていない……予備は全て嘗ての部下達に渡しているし

 

 

閑話休題(それはさておき)

 

 

さて、撮影機材は全て完成した。一応燈無蕎麦も一度はカーバンクルにトドメ刺させたりして結構鍛えてはいるし一つ技能を得ている。今の彼の状態は……

 

 

【種族】燈無蕎麦

【戦闘力】85

【先天技能】

・燈無蕎麦:本所七不思議に語られる燈の消えた担ぎ蕎麦屋台。担ぎ屋台型の極めて小さな異空間を展開できる(屋台を除けば人二人が横になって眠れる程度)

異空間系スキルを持たない敵からの干渉を受けない

内部に居る味方に蕎麦切り(若しくは蕎麦の実か蕎麦粉)を提供できる(蕎麦切りは盛りかかけのどちらかを選べる)。特別な効果は無いが非常に美味である

消えた行灯に燈を灯すとこのカードはロストしてしまう

手足が無いので身動きが出来ない(誰かが屋台を担げば擬似的に動ける)

料理/蕎麦切り限定、低級家事魔法、見習い攻撃魔法/火炎、水撃限定を内包する

・薄闇隠れ:燈を一切灯さない状況ならば『かくれんぼ』が行使出来るが、何らかの灯り(行灯以外に)を灯せば逆に敵を引き寄せる効果が出る

【後天技能】

・幸運付与:多少ではあるがこのカードのマスターの幸運を向上させる……らしい

・狐狸妖:燈無蕎麦の中では珍しく狐狸狢の類い(の幻影体)を出してマスターと会話可能となる。成長次第で人を化かす能力を得られるかもしれない

・フェロモン:フェロモン物質を認識し、自在に操ることが出来る(New)

 

 

このフェロモンで足洗屋敷の悪臭をどうにかする、というだけである。基本的にクラスチェンジ先だろうが何だろうがマイナススキルは必ず次のカードに継承されてしまうものではあるが、こういう対抗する技能があるとそのマイナススキルを緩和、封殺出来る事が確認されている

 

尤も……その対抗の為の技能を継承出来るかどうかは間違いなく運次第であるが

 

佐藤大輝という男は『賭け』というものがはっきり言って嫌いなタイプの人間だ……しかし、今回は大輝の賭けではない。言わば『燈無蕎麦自身の試練』である

 

燈無蕎麦自身が己の意思で覚悟して選んだこの『足洗屋敷』をクラスチェンジ先にして自身の有用性を示したいのだろう

 

大輝もこの燈無蕎麦をリンクの相性やその見てくれ……見てくれは二の次三の次な大輝にしては珍しく見てくれの良いカードをメインデッキ編成で重用してはいるが大輝の性格上基本的な優先度は相性と実力だろう

 

まぁ……確かに大輝は超実力主義ではあるが『情』というものも大切にする男ではあるが

 

ともあれ今は高和から渡された足洗屋敷を持ってこの大博打……何だかんだで大輝にとっても大きな博打であるクラスチェンジ挑戦の時間だ

 

大輝は渡された足洗屋敷のデータを一目見る

 

 

【種族】足洗屋敷

【戦闘力】180

【先天技能】

・足洗屋敷:武家屋敷型の異空間を展開出来る。招かれざる客を物理的に拒み、異空間系スキルを持たない敵からの干渉を受けない。『大足』という核を倒さない限り決して死なない。敵意感知、中等家事魔法、怪力(大足限定)を持つ。意志疎通が難しく、定期的に臭くて汚い大足を洗わないとロストするので注意が必要(『悪臭』のマイナススキル程臭くはないが家来衆以外の手で行う必要がある)

・家来衆招集:足洗屋敷の手にして番兵たる『家来衆』を召喚出来る。家来衆はカードには存在しないがだいたい戦闘力100ぐらいで集団行動、何らかの武器技能を持っている。最大で十数体出現させる事が可能であり、倒しても新たに(足洗屋敷の魔力が続く限り)補充が出来る

・低級収納

【後天技能】

・武術

・礼儀作法

 

 

まぁ……平均的な足洗屋敷である

 

大輝は意を決して小狸にその足洗屋敷と小狸そのものである燈無蕎麦を渡す。小狸はその二枚を合わせた

 

二枚のカードが光に包まれ一枚のカードに変化する。クラスチェンジは成った

 

 

そして小狸は……其処に居た。衣服が蕎麦打ち作務衣から三角巾と割烹着に変化しているが

 

そしてあの見慣れた担ぎ屋台は……高和のマヨヒガに比べれば小さく随分と見劣りするがちゃんとした武家屋敷になっていた

 

大輝は主として足洗屋敷の『核』を恐る恐る呼び寄せる……そして来たのは

 

 

『ほい来たぞご主人、オイラが核だポコよ』

 

 

小狸が『核』になってくれていた。恐らくは『狐狸妖』で出来た幻影体が『核』として登録する為に必要なファクターだったか?それとも起源……本所七不思議を同じくする親和性から来たのか?どちらも正しいか違うかははっきり言ってわからない。先ずはカードを見てデータ確認からだ

 

 

【種族】足洗屋敷

【戦闘力】215(+35)

【先天技能】

・足洗屋敷:武家屋敷型の異空間を展開出来る。招かれざる客を物理的に拒み、異空間系スキルを持たない敵からの干渉を受けない。核を倒さない限り決して死なない。敵意感知、中等家事魔法を持つ。

『狸核』によってデメリットと怪力をロスト

・家来衆招集:足洗屋敷の手にして番兵たる『家来衆』を召喚出来る。家来衆はカードには存在しないがだいたい戦闘力100ぐらいで集団行動、何らかの武器技能を持っている。最大で十数体出現させる事が可能であり、倒しても新たに(足洗屋敷の魔力が続く限り)補充が出来る

・低級収納

【後天技能】

・幸運付与:多少ではあるがこのカードのマスターの幸運を向上させる……らしい

・狸核:元は幻影体だったが『核』として相応しい存在に成った事を示す。燈無蕎麦だった頃の蕎麦作りを完全に継承済み

料理(蕎麦切り限定)、見習い攻撃魔法(火/水系統限定)を内包する

・武術

・礼儀作法

 

とりあえずフェロモンと怪力を代償に扱い易い足洗屋敷をゲットに成功した様だ

 

これでEランク迷宮攻略が非常に捗るだろう。高和と屋敷を調べてみると……普通にキャンプするより快適だろう事が分かる

 

古びてはいるが快適に過ごせそうな屋敷であり、食事もまぁちゃんと食べられる範囲の出来栄えの江戸時代レシピで出るしちゃんとした布団や浴衣だってある……トイレは汲み取り式だが臭くはないので充分だ

 

何より五右衛門風呂形式だがちゃんと湯船だってある

 

特殊な効果は無いが少なくとも迷宮生活で深刻に困る事は無いだろう。これ以上を求めれば本当にきりがない

 

そして……次は残ったフェアリー達のクラスチェンジ、そして本番の『Cクラスにチェンジする二枚の面談』である

 

 

さて、今回チャンスを得た剣と燈に適合するカードなのかどうかは次回に判明するだろう

 

 



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一章幕間その7 怪火と森の妖精

今回のとあるカードは百均様からデータを頂いたものです。本当にありがとうございます

ハイピクシーは土ノ子様から使用許可を頂きました。本当にありがとうございます


 

 

結論から言ってフェアリー達のクラスチェンジは上手くいった

 

『真面目な』フェアリーにハイピクシーを、一方の『悪戯好きな』フェアリーには姫子とのトレードで得たレッサーデーモンである

 

前に試しで悪戯好きな方にこのカードを渡してみたら強く反応したので後で真面目な方に適合するDランクカードを得たらクラスチェンジの約束をしておいた

 

FとDなのでEランク経由用に適当なインプを置く、そして実践した結果がこれだ

 

 

【種族】レッサーデーモン

【戦闘力】180(30UP!)

【先天技能】

・集団行動

・頑丈

・怪力

【後天技能】

・初等状態異常魔法

・悪魔の萌芽:妖精よりも悪魔に適性がある証

稀に命令を無視することはあるが自由行動時に多少のプラス補正がかかる。状態異常魔法に強化がかかる

いわゆる『悪い妖精』ならばクラスチェンジ、マイナーチェンジで妖精系統に戻る事が可能

(CHANGE!)

・見習い攻撃魔法

・槍術

・友情連携(NEW!)

 

やはりこの(元)フェアリーは悪魔としての適正持ちだった様だ。元の少年形態よりも蝙蝠羽根の生えた山羊頭の黒い大男になったし

 

とりあえず今はレッサーデーモンで我慢して貰わなくてはならない。次はもう少し良いカードを調達してやらねば……

 

もう一方の真面目な方だが……これは中々のものになった

 

 

【種族】ハイピクシー

【戦闘力】180(30UP!)

【先天技能】

 ・妖精の気まぐれ:妖精の気分は山の天気よりも変わりやすい。自由行動に対する大きなプラス補正、精神異常への耐性、一部の拘束スキルの無効化。たまにマスターからの命令を無視する。

 ・妖精の輪:下位種族であるピクシーを無限召喚する。

 ・初等魔法使い

【後天技能】

・魔力強化

・回復強化

・中等回復魔法

・友情連携(NEW!)

 

こっちはフェアリーだった頃と同じ様な姿……ハイピクシーサイズには成長しているが、だった

 

回復役として成長し、更には眷属召喚を得たのは大きいだろう

 

そしてこの二枚にも大きな特徴が存在する事が判明した。『友情連携』である

 

この『友情連携』という技能は非常に相性の良いカード同士で発現する……言ってしまえば先の『カイロネイアの獅子』の安定版だ。あれほど強い効果も制約も無いという意味では

 

少なくともこの二枚も先のジャパニーズヘンタイモンスターズみたいにコンビ運用が前提となる。二軍チームは割とコンビ運用が多く感じるがまぁそれは良いだろう

 

次は本命のCランクカードについてだ。今のリストからは燈と剣に適応するカードが入手出来るだろう

 

先ずは燈のカードだが……これは熊本を中心とした九州に現れる怪火の一種である『不知火』だ。基本的に戦闘力はCランクとしては高く無いが色々便利な能力を持った便利屋として活用出来る

 

制約に守れば強烈な眷属召喚や送り狼の上位互換の様なナビゲート能力、非常に限定的で居住性なぞまともに無いが空間型能力持ちの欲張りセット持ちだ

 

このカードを燈に見せたら非常に強く、そして良い反応を見せている。このカードは確実に『買い』である

 

そして……剣に適合しそうな一枚だが、これは少々お高そうな一枚だった

 

 

エルフ

 

 

褐色肌で長身ガチムチマッチョ美男子の……要はダークエルフ型のカードだ。何気に今の剣並みの見事な筋肉である

 

こいつは所謂『C+』と呼ばれるCランクカードの中でも強い人気カードの一種である。ちなみにやまらのおろちは辛うじて『C+』規格には満たない

 

このカードは純粋に高い戦闘力と多彩な技能、そして森林等への高い戦闘補正と魔法戦士としての能力が売りだ

 

このカードの値段は『女の子カード』であるならば億から始まりのオークション直行だが、男カードならば平均的なものなら八千万円前後が平均価格になるだろう。ちなみに不知火は五千万円前後が平均価格だ

 

ちなみに先の『カイロネイアの片獅子』持ちとは完全に別の一枚である、あれは典型的白エルフで高和のコレクションカードでこっちは純粋な商品だ。剣にも一応見せてはみたがクラスチェンジ先には出来るらしいが非常に嫌そうだった……剣も大輝と同じく純粋な彼女持ちノンケであるが故か?

 

一応、大輝も高和にこの二枚(不知火とダークエルフ)を提示してみたが反応はこうだった

 

 

「そのリスト二枚と最初から言っただろ?迷宮士資格、二つ星昇格、イレギュラー単騎撃破の御祝儀さ……それに今瑕疵無しデュラハンがどうしても必要だったしな」

 

 

デュラハンは何気に貴重なカードだ、この緊急納品に対処する為に少なくとも今直ぐに入手する為に一億五千万辺りを予算として想定していたが大輝の持ち込みで非常に助かったという訳だ

 

両方とも強く高価なカードではあるが今回は『時間勝負』だった

 

ついでに大輝が恩義を感じてくれるなら最高だ、高和的に一番期待しているこの忍耐力にも根性にも恵まれた豪運持ちの弟弟子なら後で何か良い儲け話なり何なりを持ち込んでくれそうだし。また今回みたいに都合良く緊急納品の品を持ち込んでくれる可能性だって期待出来る

 

多少の下心はあるが、可愛い弟弟子への感謝であり御祝儀であるのもまた確かだ。ついでに足洗屋敷の件で貴重なデータも入手出来た、あれなら色々良い交渉材料になるだろう

 

そして当の本人である剣も……非常に良い反応を見せている。ボアオークとは思えないレベルでシェイプアップした身体に反応したのだろうか?

 

『オークはエルフが零落した姿である』という一説がこの二種類のお伽噺の存在が強い知名度を得た原因である『指輪物語』で定義されている。その影響でこの二枚には強いクラスチェンジ適性が与えられている

 

剣のあのボアオーク離れした身体付きは一種の『先祖帰り』の結果かも知れない

 

しかし、大概オークを使っている者達はオークなぞ間に合わせとばかりに他の良いカードを得たら良くて売ったりレンタルに回したり予備カードに回したり、普通に塩漬けにしたり、悪ければ使い潰したりといった扱いなのでその事実を知る者はあまり多くは無い……オークだけに

 

この風潮は『デュエリスト』と呼ばれる一般知名度の高いプロ冒険者が流した風聞だとも、『カードへののめり込み抑制』の為に政府や一部のプロ冒険者が流した風聞だとも裏では言われているが、大輝達『メアリー塾組』はむしろカードを大切に自力で育てる流派であり名付けはむしろ推奨すらしている比較的非主流派であるが

 

オークをボアオークにマイナーチェンジするだけでもオーク持ちとしては非常に気の利いた部類であり、これからオーガやグレンデルといった比較的安価なCランクにクラスチェンジする者は世界的にも結構珍しい部類だ

 

ましてやオークから始めてエルフに至らせる者はかなり珍しい部類だと言えるだろう

 

普通の冒険者ならカードを『資産』と見做してクラスチェンジやマイナーチェンジなぞ決してせずに買い替えスタイルが主流だ。大輝と同じ立場ならオークをボアオークに替える時はオークを売ってボアオーク購入の足しにするといった塩梅になる。勿論『名付け』なぞ以ての外だ

 

例えばカードパックに封入される様な重篤のマイナススキルを得る程酷い扱いを受けたカード……とある臆病なクーシーや心を閉ざした座敷童みたいな存在も多々存在する、という冒険者社会の闇にも連なる話で非常に複雑かつ厄介な問題にも連なる

 

まぁ……善悪合否問わずそれもまた冒険者のスタイルではあるが。成長を引き継ぐかどうかは育成や愛情の掛け方、それと運次第であるのだから

 

カードに愛情なぞ無く『単なる商売道具』として認識するならそのスタイルが正しいのだろう。メアリー塾の塾生にもそのスタイルを貫く主義だって一応は存在している……彼らの伸び代は低いが

 

 

閑話休題(それはさておき)

 

 

もう一度機材の準備は整った。先ずは燈のクラスチェンジからだ

 

燈の結構皺々な白蕪頭を撫で、もうこのクラスチェンジ後には味わえない感触を楽しみながら燈のカードと不知火のカードを合わせる

 

勿論、ちゃんと成功だ。そして結果は……

 

 

【種族名】不知火(燈)

【戦闘力】430(110UP!)

【先天技能】

・晦夜ノ親火:闇夜若しくは暗い環境下そして海上において起きる怪火を示す。今挙げた環境下(水上であれば大丈夫、たとえそれが水溜りでも)であればEランクモンスターであるウィル・オ・ウィスプ、鬼火、人魂を一秒にニ体づつ召喚・使役可能。暗い若しくは水上なら三秒に一体、条件外の明るい環境でも三十秒に一体づつなら召喚・使役可能。召喚数に制限は無い

先に挙げたカードがあるならそれを取り込んで更に威力を高めて発射する能力もある

火炎の身体、上級攻撃魔法/火炎、中等攻撃魔法、浮遊を内包する

(火炎の身体:肉体が火炎そのもので出来ている。火炎そのものを吸収したり敵に接近するだけでダメージを与えられるが火炎そのものなので味方も近づけばダメージを受ける。基本的に物理攻撃は無効だが圧倒的な水などに沈められたりして火が全て消えたら即ロストしてしまう)

・火国ノ漁火:伝承元である熊本が『火の国』と呼ばれる様になった由来から発した能力。景行天皇(日本武尊または倭建命の父)を遭難から救った人ならざる迎え火、そしてこのカードの名前が定まったエピソードを示す

迷宮内部ならば出口、若しくは最寄りの安全地帯への行き先を示す能力……要はナビゲート能力がある

ちなみにアンゴルモア時には『なるべくモンスターの少ない、比較的安全な場所に導く能力』を発揮する

・蜃気楼:現実を少しだけ歪めてごく弱い異空間を形成出来る。作成できる異空間はその場所そのものであり生活設備や資材を形成する能力は無い

空間はせいぜい十二畳間四方程度のごく狭い空間でしか無く収納能力などもない。文字通りの蜃気楼そのもの故に

森林なら森林、砂漠なら砂漠、草原なら草原と位相をずらした簡易避難所を作るだけの能力である

中等状態異常魔法を内包する

【後天技能】

・火炎威力強化

・忠誠

・天真爛漫

・回避強化

・英明

・詠唱短縮

・火炎魔法範囲制御:火炎魔法、火炎の身体といった自分自身の火炎に纏わる事象を制御出来る。乱戦状態でも対象だけを焼いたり火炎の身体を一時的にオフにしたりと色々出来る

・嗜好品回復(お菓子/軽)

 

基本的にジャック・オ・ランタンだった頃に持っていた引き継ぎ出来そうな先天技能は不知火の先天技能に有ったものと同一だったから後天技能全継承という結果になったのだろう、嗜好品回復だけは継承出来たが

 

今は不知火になった燈。ジャック・オ・ランタンだった頃の姿ではあるが身体が炎で出来ているからもう大輝も彼には触れない……筈だった

 

しかし、今の燈ならば『火炎魔法範囲制御』でその炎と化した身体を制御出来る。普通にジャック・オ・ランタンだった頃の身体に戻れる

 

尤も、嘗ての案山子の身体みたいに身体を身代わりにする能力は喪失しているし今のままなら長時間水に浸けられたらロストしてしまうが……制御はだいたい今なら一日に二時間、成長や訓練次第で常時可能だろう。これもまたメアリー塾流カード育成法のメリットだ

 

緊急避難に非常に適した能力二つと条件さえ整えれば非常に強力な眷属召喚、それと純粋な中等攻撃魔法で非常に優秀な魔法アタッカーとして進歩を果たした

 

燈の大進化にほくほくしながら次は大輝のエースである剣の番だ

 

これは決して別れではなく成長、大輝と剣は無言で拳を打ち合わせてから剣のカードと件のダークエルフを重ね合わせる

 

その結果がこれだ

 

 

【種族】エルフ(剣)

【戦闘力】630(180UP!)

【先天技能】

・山精木魅:森の精霊としての性質を持つ。森への侵入者を察知し、森の中にいる間、持続回復及び魔力消費軽減。中等補助魔法を内包する

・剣戟森々:森を住処とし、森の中で真価を発揮する戦士。森の中で戦う際、ステータスが大きく向上し、スキルにプラス補正。狩人スキルを内包する

(狩人:狩人に必要な技能を収めている。武術、弓術、遠見、追跡、気配遮断スキルを内包する)

・初等魔法使い

【後天技能】

・怪力

・頑丈

・統率

・武芸十八般

・威圧

・士魂

・英明

・俊敏

・中等忍術(仮):縮地がとりあえずだがちゃんと使える様にはなった為中等(仮)に昇格した忍術。それ以外はまだ初等と変わりない

 

 

多少ながらも魔法スキルや狩人技能に目覚め、先天後天問わず様々な技能を継承出来た……まぁ眷属オーク(肉壁)作成能力を失いはしたが眷属召喚は先ず滅多に継承出来る能力では無いから仕方ない

 

そして剣の現状は……非常に逞しい褐色の偉丈夫だ、頭に何故か猪を模した、ボアオークだった頃の頭みたいな覆面を付けているが

 

多分、元ボアオークだった頃の名残りだろう

 

その覆面を脱ぐとキツい三白眼ではあるが中々の美男子になっている。一応写真を撮って姫子に送る事にしよう……菫の為にも

 

そして剣、一時的ではあるが火炎の身体をオフにした燈、それとクラスチェンジに成功したレッサーデーモン&ハイピクシー、クラスチェンジ待ちの定と高和のマヨヒガで出された美食に舌鼓を打ちながら今後について軽く打ち合わせをする

 

例えば剣のこれからの武具をどうするか?やレッサーデーモンの槍をどうするか?とか新しい眷属運用や抜けた眷属オークの穴をどうするか?様々な思案事が存在する

 

明日から装備返却が済み次第適当なEランク迷宮行脚と金策の日々になるだろう……夏休み最後辺りの依頼と姫子とのデートが最優先ではあるが

 

出来れば高和から何か定用の適切適当な無銘の名刀か何かでも売って貰いたい処である……ちなみに無銘の名刀や幾つかの無銘シリーズ武具を高和が持っていたカード化していたものをおまけでくれた。「どうせもう使わないホルダーの肥やしでしか無いお古だから」と

 

そして食後は定とオーク二号、ホブゴブリン、それと新しいカップルであるやまらのおろちといやみを召喚して『遊び』に行かせる。リンクは完全に切って指定された客室で学校の予習復習、そして迷宮士としての勉強に充てる

 

そろそろ夜が更けてきたから寝てしまう……定や新人達はまぁ宜しくヤってリフレッシュしているだろうか?

 

その辺りはどうでも良い……明日は冒険かそれともデートのチャンスか?どちらでも楽しみにしていようか……

 

適温適湿の空間で暖かく柔らかな布団に包まりながらスマホ待受の姫子(水着姿)を眺めながら大輝は眠りに落ちてゆく

 

 

 

姫子と送るより幸せな明日を夢見て




その百均様からデータを頂いたカードはエルフ……二巻で出た彼女の同族(但しこちらの練度は恐ろしい事になっている)ですね

わらしべ長者も真っ青な豪運ですね


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一章幕間その8 これは足洗屋敷ですか?多分バグだと思います

 

「……もうこんな時間か、急がないとな」

 

 

指定していたアラームの耳障りな電子音で朝早くに目覚めた大輝は……手早く身支度を整えて『遊び』に行った五枚を叩き起こす意図で念話を送る

 

 

『そろそろチェックアウトの時間だ、お前ら全員さっさと起きて身支度を調えろ!』

 

 

家主の高和はこれから身支度後に方々で追加のデュラハン集めに向かう為なるべく早く出て行く必要がある

 

家主の高和に会って今回のカード分の代金であるデュラハンのカードと九百万円を電子マネーで渡し、お楽しみを終えて朝帰り状態のカード達をさっと回収してから帰る

 

懐は非常に寂しくなったが、まぁ戦力増強は出来たし福利厚生は爆増したから良しだ

 

腰が軽くなったか、軽快に歩む定を筆頭に同じく腰が軽くなったオーク二号、ホブゴブリンは夢見心地でふらふらしながら。やまらのおろちといやみからは非常に感謝された……こいつらの逢瀬はあまり想像したくないが

 

何気に定はお相手の夢魔を骨抜きにしていたらしく、その夢魔にまた何時か来てくれるか?とその主である大輝に詰め寄ったりもしていた……どうやらその辺りも見てくれと同じく女遊びも上手いらしい

 

今度は高和への出張マッサージ辺りでも理由に何時か機会を作って来るからと約束はしておいて早朝の街に出る。残念ながら此処はDランク迷宮だ、未だ二つ星でしかない大輝には高和無しではこれ以上滞在出来ない

 

まだ陽が登り始めたばかりの夏の早朝、その昼間に比べれば涼しい道のりを歩んで始発の電車で家に帰る。途中で両親や姫子にクラスチェンジ後の剣と燈の写真を送る……姫子には今日の予定を聞きながら

 

大輝が家に着く頃には姫子からの連絡が返って来ていた

 

今日はクラスの友人達と遊びに行く予定らしい、更にこれから三日間は用事だとか……ならばそれまで迷宮行脚である。なるべく早く三つ星資格欲しいし

 

家に帰って迷宮攻略の準備を手早く行い暫く仮眠を取る予定を立てる。そろそろ手入れに出した装備の返却がされる頃合いだろうから

 

その仮眠をする迄もなくだいたい朝八時頃に整備完了のメールが来た。そして回収に直行である。その最中でギルドの奥から何やら『ドスンッ!!!』ともの凄い音がする

 

大方、プロチームか何かがカード化した戦利品入りコンテナを実体化したのだろう。あれは確かに迷宮内の嵩張る荷物を運ぶ役には立つがコンテナという物は総鋼鉄製だからそれ単体でも凄まじく重い

 

実体化の際にはある程度地面と距離があるので、余程上手く実体化させないとこの様に凄まじい物音がする、という欠点がこのコンテナカードにはある

 

その為市街地では大概実体化は法律で規制されている……ギルドの鑑定室みたいな専用の場所か役所から許可を得て指定の場所、時間にやらないといけないという制約もある

 

今の大輝にはあまり関係無いが……何時かは『無限鞄』がプロ冒険者に解禁されればこういう光景も見れなくなってゆくのだろうか?

 

いや、無限鞄そのものが自衛隊でもまだ不足だと喘いでいるらしいからまだまだこの光景が無くなる事は無いだろう。願わくば『迷宮士資格』さえ有れば所有する権利を得られれば万々歳なのだが

 

まぁそんなこんなで整備終了した装備を回収して最寄りのEランク迷宮に向かう大輝

 

今回の迷宮は十一層で夜の平原型、照明必須の暗い迷宮だ。その暗さと足場の悪さ……草が生い茂って下が見えない厄介さから不人気迷宮の一種として忌避されやすい場所だ

 

今回はクラスチェンジ組……燈、レッサーデーモン&ハイピクシーに罠対策枠のホブゴブリンという編成だ。燈には照明役になって貰う必要があるからこの迷宮では完全に出ずっぱり確定、レッサーデーモン&ハイピクシーはコンビ運用が前提、Eランク以降からは罠対策は必須だからホブゴブリンを鍛える目的で出す

 

Eランク階層以降からはまた新しい編成になるだろうがFランク階層ならばむしろ今でも割と過剰戦力かも知れない……燈だけですら

 

星明かりはあれど非常に暗く、足場も宜しくない夜の平原。その中で大輝はレッサーデーモンに高和からお古で貰った無銘の名槍を渡して具合を確かめさせる。ついでにホブゴブリンにも高和から貰った無銘の名剣を渡しておく

 

高和から貰ったお古は残り無銘の名刀ニ振り、無銘の名剣一振りの計五振りだ。長く使って来たからか結構擦り減ってはいるが今も充分長持ちさせる事が出来るだろう……粗末に扱ったり何らかの強敵、イレギュラーか何かに遭遇するでもない限りだが

 

それと並列して燈とハイピクシーには眷属を召喚して貰う。燈はなるべく沢山の鬼火を囮兼機雷として、ハイピクシーにはピクシーを偵察・斥候役として、それと眷属ピクシーらに初等補助魔法である暗視魔法を使って貰う為だ

 

基本的にこの迷宮はこの暗視魔法さえ使えれば逆に容易い部類の迷宮だ。この暗さだけがネックであり後の罠もモンスターも逆に非常に弱い部類なので地図さえちゃんと有れば余裕綽々で攻略可能だ……別の言い方をすれば『碌に旨味の無い迷宮』とも言える

 

 

『キキィ、任せてくれオヤブン!』

『了解ですボス』

 

 

燈もハイピクシーもクラスチェンジでちゃんとした会話能力を獲得出来た様だ。それに燈は滑舌?いや少し情緒も成長した気配がある……英明獲得の影響もあるのだろうか?

 

 

そして……この闇夜のEランク迷宮は爆炎に依って蹂躙された

 

 

Dランクカードの中でも結構優秀な部類の攻撃役に眷属召喚持ちの魔法使い、ちゃんとした罠対策役兼斥候……それにこいつ単体でもオーバーキルもいいところな眷属召喚持ちCランクカードの編成だ。それはもう『蹂躙』以外の何だと言えば良いのか?

 

おまけにこの迷宮の地図やデータは既に購入済みだ。試験時とは違い無駄は全て省いて最短距離を一直線である……この迷宮には本当に大した旨味なぞ無い。ボスも固定で奨学カードだし

 

それから今日の夕方前にはこの迷宮のボスであるオークをあっさり爆殺して次の迷宮に向かう……ガッカリ箱からの収穫は灯油式八面型デザインの無限に使えて明るさも自由自在な『魔力灯』というランタンだった、まぁそこそこ使える良い魔道具である。魔道具にしてはかなり安い部類ではあるが、自分から買う気にはあまりならない。けれど最初にガッカリ箱から出たら少し嬉しい魔道具の一種として有名だ

 

……そしてだいたいはダブりにダブるのが冒険者あるあるだが

 

次の迷宮は今攻略した迷宮に一番近いありふれた廃坑型で十七層のランダムボス型。Eランク内なら難易度は高い部類だが運が良ければ良いカードが入手出来るかも知れないし鉱脈からちょっとしたお宝が見つかったり稀にガッカリ箱が有ったりする『アタリ』の迷宮だ……運の良い事に、今は誰もこの迷宮に入ってはいないらしい。迷宮前のゲート端末を調べれば分かる

 

今回の編成は……剣、定、蔵、奪衣婆&懸衣翁の編成にした。今回の迷宮は見入りもそれなりに有りそうながらも結構難易度の高いタイプだ、ならば最初から良い手札を切って稼ぎに出るべきだろう

 

大輝のエースである剣はエルフにクラスチェンジしてから身体が幾らか小さくなったので狭い廃坑で活躍して貰う、蔵はこの難易度の高い迷宮のやはり難易度が上昇した罠の対策要員として、定は勿論探査役兼お宝探し要員だ、奪衣婆&懸衣翁は新米枠から選んでみただけだ……今のうちに新米を鍛える必要だってあるし

 

この迷宮に入る前にやはり装備の再編成を行う。定には無銘の名刀ニ振り、これは二刀流の効果を有効的に活用する為だ。蔵には俊敏の銅剣、そして剣にはいつものミノタウロスの戦斧を渡す予定……だった

 

……前にも言ったが剣の体格はエルフにクラスチェンジした為結構小さくなっている。その為かミノタウロスの戦斧を振るう具合に違和感を感じてしまうらしい

 

今の剣は身長1m90㎝で、前より更に引き締まった筋肉を持つ褐色肌の尖り耳美男子になっている……猪の面を外せばだが。そして装備は弓矢と長剣でエルフ的な銀の鎖帷子を仕込んだケルトっぽい民族衣装的な服、といった正に典型的エルフスタイルといった塩梅だ

 

とりあえずミノタウロスの戦斧は剣に預け、今は前に拾って瓜子姫戦で活用した方の無銘の名剣を渡しておく。弓矢は今は消して後で余裕が出来た時にでも試せば良い

 

後は奪衣婆&懸衣翁コンビと簡単な面談をしてから探査開始だ

 

 

『ヒェヒェヒェ、こんな爺と婆を使おうとは中々奇特な趣味ですなご主人?』

『あたしらは年寄りじゃて、あまりこき使わんでくだされよ?』

 

 

まぁ普通の対話になった。ちゃんとした労働条件で働いて貰うし福利厚生はしっかり……予算範囲だがやるのは規定事項だ、まぁその辺りはちゃんと行動で示すだけなので今は言う処は無い

 

『昨日の福利厚生』のおかげか新米の中でもいやみ、オーク二号、ホブゴブリンらは忠誠心も士気も高い。ホブゴブリンは昨日の件で従順を獲得し、オーク二号は従順が忠誠に変化していたりと何気に強化されていた……やまらのおろちといやみからも忠誠が生えていたりとかなり良い変化が発生していた

 

やはり部下への福利厚生は大事なものである

 

そんなこんなで二回目の身支度からまた二回目の迷宮攻略、今回はEランク階層までは大した旨味は無いので一気に突破してのキャンプとなる

 

何時もならば安全地帯でキャンプセットを出して設営して料理の為の支度、睡眠時もあまり休まる環境ではない……で結構手間暇かかるが今回からは違う

 

今なら『足洗屋敷』があるから常に宿には困らない、食事だって直ぐに出来立てのものが食える、キャンプより遥かに快適で安全な睡眠が約束されている

 

プロやプロ志願者が挙って異空間カードを求めるのはこういう理由があるからだ。いざとなれば安全地帯以外でもこれなら比較的安全なキャンプ地に出来る

 

この足洗屋敷は元となった燈無蕎麦のおかげか実は料理が普通の足洗屋敷より遥かに美味しく、Dランク空間型の範囲ならば最高評価のヘドンホールハウスやチセコロカムイにも迫る程……だと後々判明する

 

通常の足洗屋敷は何と言うか……まぁウィンチェスターハウス以下ギリギリアルカトラズ以上といった程度の不味い飯しか出せないのが普通で更に大輝の足洗屋敷よりも圧倒的に食事レパートリーが少ないらしい

 

普通の足洗屋敷だと眷属が下手くそな男料理を作るだけであり、大輝の足洗屋敷の様にそれなり以上の料理の腕前を持つ『核』が作る訳ではない。本来の足洗屋敷は汚い土足でアルカトラズは悪徳警官か何かにしか見えないし、ウィンチェスターハウスはそもそもお化け屋敷だからこの面子に料理を求めるのがそもそもの間違いだ

 

一応、シルキーやヘドンホールハウスをウィンチェスターハウスにマイナーチェンジする事で『比較的飯の美味いウィンチェスターハウス』を作る事は出来るが素直に素材だけ出して貰ってシルキーに作って貰うなりそもそもヘドンホールハウスをそのまま使う方が余程効率的だろう

 

室内気温湿度は常に快適で、布団はまるで卸したてみたいにふわふわふかふかだし畳の手触りも最高だ

 

問題があるとすれば……室内は常に暗く、照明は外部の日差しか薄暗い菜種油の行燈や蝋燭頼りなのが難点だろう

 

ついでにトイレは汲み取り式ではあるが臭いが無いし汚物は即効浄化されるからむしろ安全地帯のトイレよりもよっぽど快適なぐらいである……あのトイレはどう足掻いても臭いし下は地獄絵図だし

 

そして大輝の足洗屋敷には通常の足洗屋敷との最大にして究極的な差異が一つ存在する……それが

 

 

『ご主人、オイラを洗って欲しいポコよ?』

 

 

この屋敷の『核』である可愛らしい小狸の存在である

 

通常の足洗屋敷なら『足を洗え』としか言えない汚くて臭い大足が『核』であり、その大足を定期的……少なくとも半月に一度、長期間使用していないならその度に洗わなくてはロストしてしまう厄介なデメリットを抱えている

 

しかし大輝の足洗屋敷ならばその汚くて臭い大足の代わりにこのふかふかふわふわで可愛らしい小狸が『核』なのでそのデメリットも最早デメリットでは無い

 

一応、そのデメリットも怪力と一緒に消失してはいるがそれでも誰かに洗って貰うのが好きだという足洗屋敷の本能迄は消えていないらしい

 

大輝もカードの知識は人よりある方ではある……しかしこれは、このクラスチェンジはレアケースもまたレアケース、いっそ『バグ』だと言っても良いレベルだと思っている

 

備え付けの五右衛門風呂……今で言うならドラム缶風呂みたいな風呂で命と小狸の洗濯を済ませる。木組の壁の向こう側ではこの足洗屋敷の眷属である『家来衆』達が台所でも使う薪を割っていたり風呂窯に火を焚べて温度調節していたりといった光景が見える

 

今日の夕餉……夕飯を江戸時代っぽく言う気分になっただけだが今日の献立は炊き立ての玄米飯に秋刀魚の塩焼き、根深汁に根菜と(鶏肉)の煮付け、そして胡瓜の浅漬けとおやつの団子という中々ご機嫌かつ豪勢(江戸時代基準)なメニューだった

 

護衛役には巌、祝、オーク二号を起用して明日の宝探しの為にゆっくり寝てしまう。薄暗い行燈の代わりに魔力灯を明かりに買っておいたこの迷宮の地図を手早く書き写し、じっくりこの足洗屋敷?の詳細をレポートしてからだが

 

 

そして次の日は早朝から地図のデータにある鉱脈ポイントを重点的に、そして大輝と定の勘任せで目的地を適当に決めながら探索……と言いたいが、大輝の手札で鉱脈系統は手出しが出来ない。そもそも採掘能力持ちなぞ居ないから仕方ない。もしもこれが蔵を大輝が想定するクラスチェンジ候補にクラスチェンジ出来ていれば鉱脈採取もやっていたかも知れない

 

だから大輝と定の勘任せでお宝探しを手早く、そしてなるべく早くこの迷宮攻略を達成するだけだ。今日の編成も昨日と同じ、今日は大輝自身も定の二刀流を試しがてら勘任せのお宝探しである

 

そして二箇所の隠し小部屋……稀にランダムガッカリ箱が置いてある場所でそのガッカリ箱を発見することに成功した

 

そのガッカリ箱からは……前に見た迷宮金貨が皮の小袋に三十枚、それと小さな宝箱みたいなものが出た

 

これはそのまんま『宝箱』であり、『ガッカリ箱の中に入ったガッカリ箱』とも呼ばれるものだ

 

こういう『単なる運試しの玩具』みたいなものは大輝も嫌いではない……大輝が嫌いなものは『賭け事』である

 

この小箱を『何か面白そうだ』と直ぐに開く大輝、そして出てきた次のお宝は……『片手でも両手でも使えそうな炎を纏う両刃戦斧のカード』だった

 

これは『炎の魔斧』、少なくともちゃんとした『魔剣(斧)』と言える範囲の魔道具だ。無銘の武具よりかなりお高く、強度は低い上に戦闘力は無銘シリーズと大差無い、そんな何処か頼りない代物ではあるが『火炎攻撃に弱いモンスター』に挑む際には非常に役立つ武具だ

 

今の剣の体格にも適した戦斧ではあるが強度が心伴ないのでメイン使用は控えるべきだろう

 

このカードも剣に預けてボス戦に挑む。早朝から昼の二時辺りには到着した

 

今回のランダムボスはボアオーク、剣の進化前の姿……いや、通常のでっぷり太った猪頭の化け物であり、眷属オークを十二体引き連れてこちらを待ち構えている

 

 

……剣があっという間に叩きつぶしたが

 

 

そして見ればカードが落ちている、ボアオークのカードだ

 

そのカードを拾ってガッカリ箱を開ける。中身は何時もの白い魔石と箒だった

 

定に鑑定して貰った結果は……これはキキーモラやシルキーみたいなお手伝い妖精の為にある様な『鬼祓い箒』という祓魔の力を秘めた箒だ。割と安い魔道具ではあるがそのキキーモラやシルキーのマスター達が挙って求める為需要は結構ある為か市場では以外と見つけにくい

 

キキーモラ婆さんを召喚してこの箒を見て貰う、近くを履き清めながらその箒の具合を確かめる婆さん……その結果は

 

 

『これは……本当に良い箒ですな、手に吸い付き馴染みますねご主人様』

 

 

その答えで大輝はこの箒のカード化を決める。その事を告げるとキキーモラ婆さんは心から感謝してくれた様だ

 

さて……それから明々後日の朝まで大輝は近隣のEランク迷宮連続攻略行脚を繰り返して合計七つの迷宮攻略と足洗屋敷?レポート作成を済ませる事に成功した

 

今回四日間のリザルトは……

 

カード

ボアオーク

瘟鬼(馬)

Eランク女の子カード三枚

E、Fランクカード沢山

 

魔石

Eランク白魔石七個

魔石だいたい百万円分

 

魔道具

魔力灯(攻略報酬)

カード化炎の魔斧(宝箱より)

鬼祓い箒(攻略報酬)

ハイポーション一つ(攻略報酬)

ヒュプノスの枕(攻略報酬)

完全消化薬(ガッカリ箱)

サラマンダーの外套(金のガッカリ箱より)

ローポーション三つ(攻略報酬より一つ、ガッカリ箱より二つ)

遭難のカード(攻略報酬)

レベルアップのカード(攻略報酬)

 

換金アイテム

迷宮金貨三十枚(隠しガッカリ箱より)

カーバンクルガーネット一粒(撃破者:オーク二号)

 

 

四日間の弾丸ツアーにしては凄まじい数と質の収穫である。残り五つのEランク迷宮は比較的簡単なところをハシゴしてこの結果だったが

 

オーク二号を出している時にカーバンクルに遭遇出来て撃破成功したのも大きいだろう。オーク二号はクラスチェンジの先が既にあるから……瑕疵カードだけど

 

これから暫く先ももっとデッキを研ぎ澄ませておくまでは例え今すぐ三つ星昇格が出来てもまだまだEランク迷宮が普段の狩場だろうし……実力ではなく主に時間的な都合で、だが。もしもアリアドネーの糸が無かったら連休だけが攻略チャンスだっただろうし

 

時間に縛られるのは学生冒険者の宿業だから仕方ない話ではある

 

ともあれ今回の弾丸ツアーは大成功の内に終わった。後は足洗屋敷で朝風呂を浴びて身支度からの帰宅である

 

今日は流石にカード達にも完全休暇を与えるべきだし金貨や白魔石の換金提出だってあるし鬼祓い箒とヒュプノスの枕、サラマンダーの外套のカード化だって必要だ

 

 

そして大輝は人間社会に帰ってゆく……姫子の居る場所(帰巣本能)の赴くままに

 



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一章幕間その9 三つ星昇進RTAと皮剥庖丁

※:今回情報解禁する『イレギュラーの贈り物』は百均様の監修が入っています。本当にありがとうございます

……今更書き忘れを思い出した間抜けは私です


 

第一次Eランク迷宮弾丸攻略から直ぐに姫子とのデートや二日で済んだ残り三つの迷宮攻略に幾つかの買い物……用事や友人達の宿題の面倒を見たりしつつ、戦力なら兎も角マッピングと謎解き、それと強化メンバーの戦闘力向上にこそ一番時間を費やした弾丸ツアーDランク迷宮攻略試験の結果遂に八月二十三日、約束の日二日前にその迷宮極夜に覆い隠された古城型迷宮の主と御対面に成功した

 

それは……青白い貌の中世貴族めいた冷徹そうな貴公子だった

 

 

ヴァンパイア

 

 

なるほど、古城に相応しくCランクでもかなり強い人気モンスターの一種であり、敵対するならその能力の高さと不死の怪物らしいしぶとさが厄介な怪物だ

 

しかし……今回大輝はしっかりと聖銀武具を幾つか調達して不死の怪物(アンデッド)対策はバッチリだ。この古城には何気にアンデッドが沢山居たから先ずは準備しておいた。せいぜい戦斧と長剣一振りづつだが

 

今回の編成は剣、燈、定、巌、祝、キキーモラの殆ど最初期メンバー編成でいく。こちらの最大戦力である剣には聖銀の斧を持たせてヴァンパイアの不死対策はバッチリ。燈は下に無限水筒製水溜りを敷いてからヴァンパイアをこんがり焼いて貰う為。定には神通力があるから何時もの二刀流無銘の銘刀を装備させる……が、今回は戦力としてではなく従来の司令塔兼リンク補強に専念して貰う。巌は燈の、祝は大輝/定の護衛でキキーモラは回復役、ついでに最低限ではあるがヴァンパイアへの攻撃手段があるからの起用となる

 

やまらのおろち&いやみは隠し札として戦況次第で投入予定だ

 

ヴァンパイアは迷宮ボスとしての強化で眷属グールを五十体程従えて古城の玉座の間にて待ち構えていた

 

なるほど……確かに生半可な戦力ではこのグールの群れにカードが擦り潰されておしまいだろう。ちゃんと鍛えたDランクカードを六枚……なるべくなら予備戦力の準備や魔道具の準備、それと切り札となるCランクカードの一枚でも用意すべき強敵であり要は『ハズレ枠』だ

 

普通の挑戦者ならギブアップしてもう少し弱い相手になるのを待つ方が賢い選択かも知れない……普通の挑戦者なら

 

しかし佐藤大輝という男は決して『普通の冒険者』とは言えない存在だ……最早そう、なってしまったのだ

 

それに大輝からすれば二つ星昇格試験の時の『死神(アレ)』に比べれば野良ヴァンパイアなぞ単なる可愛い坊やに過ぎない……このヴァンパイア(坊や)風情にあの狂気や邪気、犠牲者の悲鳴と怨嗟に絶望、そして何よりあの禍々しく悍ましいにも程がある悪意を出せるものか?

 

何より、嘗て挑んだ死神の時よりも今のデッキ編成は圧倒的に豊富で潤沢なデッキ編成を成立させているのだ。決して『気組み』だの何だのといった精神論だけの話ではない

 

『単騎で死神に打ち克つ』という経験は決して伊達でも酔狂でもない……そもそも『死神に挑む事』そのものが狂気の沙汰扱いの危険行為だが

 

 

閑話休題(それはさておき)

 

 

初手は燈の眷属召喚からだった。迷宮極夜という環境かつ一応は下に水溜りがある状態……不完全ではあるが一応『条件』を満たせたので一秒に一体の鬼火を召喚してグールの群れに投げつけるのと同時にカリカリに強化された火炎魔法の乱舞で開幕の花火とした

 

まるで木っ端の様に吹っ飛ぶグールの群れ、群れ、群れ!その中に片手持ちの戦斧を構えてまるで颶風の様に突っ込む黒い影。勿論それは大輝のエースであるエルフの剣だ

 

嘗て使っていた大戦斧の様にはいかぬ、それでもオーク時代の生得武具(大鉈)程度には強度のある聖銀武具ではあるが、剣の主観では何とも頼りない強度の聖銀の戦斧を振り翳しながら大輝(主君)が為に敵将たる吸血鬼の頸を狙って雑草の群れ(グール)を刈りながら本丸に辿り着く

 

ヴァンパイアは……まるでこの古城の主の様に玉座に座りながら妖精の武者()を見下した様に、如何にも『退屈な』と言いたげに剣を見ていた

 

確か……ヴァンパイアという怪物はエルフに匹敵する戦闘力に、敵の血を吸って回復する能力があり、闇夜ならばほぼ不死身で状態異常に強く攻撃魔法を操るんだったか?

 

ヴァンパイアの情報……かなり有名なモンスターだから大輝も即座に正確な情報を思い出して『テレパス』で仲間達と情報を共有する。今日までの弾丸探索で鍛えあげているからこの程度のリンクは定抜きでも容易く出来る

 

今の大輝/定なら『シンクロ』で単体だけなら50%其処らのバリアにかかる力を無理なく返還可能だ、無理すれば80%はいけるだろう。複数ならば最大三体に20%返還が出来る

 

大輝単独ではテレパスは普通に、今のDランク迷宮の規模なら出来る。感覚共有だって万全だ……シンクロはまぁがんはれば一体に30%がせいぜいだが

 

今回は剣に無理ではない限界値50%のシンクロだ……大輝は意識を剣に合わせる

 

大輝/剣/定……未だ上手く一体化出来ては大輝と剣の意識を定が調整してどうにかこうにか二つの意識を重ね合わせる。大輝/剣とその箍にして外付け制御機構と化した定の歪で不格好な三位一体の動き

 

しかし、それでも大輝と剣は『主従一体の境地』に至る……まだ手習い程度ではあれど、それでも至る事には成功している

 

プロからすれば『未だ拙く未熟』と言われる範囲ではあるが、それでも『今の年齢かつ半年未満の冒険者経歴でこれが出来る』ならば間違いなく非常に高い評価を得られるだろう

 

目に見えて素力、早さ、技のキレが増した剣の猛攻でズタズタに切り刻まれてゆくヴァンパイア。迷宮極夜ならば殆ど不死身……である筈が剣が持つ武具は聖銀製、その傷は決して直ぐには治らない

 

グールの群れも既に全滅して援軍のアテなぞ勿論無い。ボスとして強化された力だけでこのバケモノ(剣/大輝)をどうにかするのは不可能だろう……仮にこのバケモノを撃破出来ても次は別のバケモノ()が来るだけだ

 

更には後詰めに新たなバケモノ(やまらのおろち)が居る事を知らないのはこのヴァンパイアにとって幸せ……かどうかは意見が分かれるだろうか?

 

しかし……それでもヴァンパイアは諦めない。そもそも迷宮のモンスターは『不利だから』と諦める様な存在では無い。そもそもこの十数年の迷宮史で普通に逃げるモンスターなぞカーバンクル以外にはまず存在しない

 

ヴァンパイアの最後の策は非常に簡単だ、マスター(大輝)にダイレクトアタックする、というだけの事だ。これに成功さえ出来れば形成逆転サヨナラホームラン勝ちだろう……出来るものならば、だが

 

そう考えて実行する為に動こうとした地点で聖銀の戦斧で手足を切り捨てられていたし喉も切り潰されて挙句の果てには剣にのし掛かられていた。最早……最早このヴァンパイアには何も出来ない、もう転がってぶつかる事すら出来ない

 

しかし、佐藤大輝という男は迷宮のモンスターをこういう風に生かしておく様な男だったか?事務的にモンスターを駆逐はするがこういう風にモンスターを嬲る趣味はまず無い筈だ、何より彼はそんな暇人では無い

 

今ヴァンパイアを潰しながら生かしていた理由……勿論、それはちゃんとある。それは大輝のカードホルダーから出したあるカード、アイテムカードらしいそれを実体化した際に分かるだろう

 

 

『それ』は禍々しい瘴気を放っている

 

『それ』は一見、非常に大きいが刃毀れに塗れ細かい罅が処彼処に入った襤褸の出刃庖丁に見える

 

『それ』は血脂と血錆に覆われ、微かだが良く嗅げば分かる悍ましい臭気を漂わせている

 

『それ』には最悪の悪意がこびり付いている

 

そう、それは大輝が撃破したあの瓜子姫の武器にして贈り物である

 

 

『瓜子姫の出刃庖丁』

 

 

強烈かつ凶悪な、呪われた悍ましい呪具である

 

 

大輝はその悍ましい呪具……出刃庖丁でヴァンパイアの急所である心臓と脳を一思いに深く突き刺す。その二撃で完全にヴァンパイアの息の根を止める。この出刃庖丁には『非実体モンスターでも普通に切れるし殺せる』という能力が副次的に備わっているが、この悍ましい呪具の本当の使い方は全く別の処にある

 

普通、倒したモンスターは魔石なり運次第ではカードになったりとして消滅するのが普通だがこの出刃庖丁で殺した場合は少しばかり事情が変わる

 

 

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そんな特性を持っている……が、これは『本当の特性』を行使する為の準備段階に過ぎない

 

 

時に……話は変わるが、貴方は『瓜子姫』という御伽噺の内容をご存知だろうか?

 

『瓜子姫』という御伽噺は日本中に存在するが時代や地方の差異でどんどんマイルドなものになったりもするが……『イレギュラー』が関わるならその物語は古今東西全てで必ず『一番酷い過程や結果』をより悪意的に再現してくるだろう

 

例として浦島太郎を挙げるが……最後に玉手箱を開けて老人になるが、それから更に太郎は鶴となってのエピソードは省略されて只『理不尽に老化する』という結末だけが残る。グリム童話の系統ならば簡単だ……より『原典』に近づくだけで充分だろう

 

そして瓜子姫だが……瓜子姫は天邪鬼に騙されてすり替えられる。しかし何をどうやって?マイルド版なら瓜子姫の服を剥いで瓜子姫を木に縛り付けるだけだが、主に西日本で伝わる謂わば『ハード版』なら非常に陰惨かつ惨虐なものに変わる

 

 

天邪鬼は瓜子姫を殺して生皮を剥いで化けた

 

 

という非常に血腥く救いの無い内容になる。恐らくこれが『瓜子姫の原典』なのだろう

 

そしてこの悍ましい出刃庖丁は瓜子姫のこのエピソードを再現する能力を備えている

 

 

ぐじゅ、ぐじゅ、ざしゅ、ざしゅ

 

 

大輝は暫く残るヴァンパイアの屍骸から『あるもの』を剥ぎ取る。非常に不愉快で慣れない……いや、決して慣れてはいけないその冒涜的かつ猟奇的な作業を黙って淡々と、しかし急いで行う

 

この出刃庖丁には『その作業』を的確に、適切に行う事を補助するおまけ機能も存在する……肉や魚に限ればかなり楽に解体できる。が、こんな悍ましく不衛生な庖丁で解体した肉なぞまず食えたものではないだろう。倫理的にも衛生的にも

 

大輝がヴァンパイアから剥いでいるもの……先に挙げた瓜子姫のエピソードが答えだ

 

 

大輝はヴァンパイアの生皮を剥いでいた

 

 

いくらバケモノ相手とはいえ、仮にもヒトに限りなく近い造形の『それ』から躊躇なく生皮を剥ぐ光景は正気の人間には余りに不快な、猟奇的で冒涜的かつ悍ましい作業だろう

 

唯一救いがあるとすれば……物音の気持ち悪さに反してその作業そのものは非常に簡単に出来てしまう事だけだろうか?

 

その酷く悍ましい作業は容易く、だいたい五分も掛からず簡単に終わりを迎えた。その作業終了から直ぐに消滅するヴァンパイアだった肉塊と衣服の切れ端……この出刃庖丁の能力と生皮の代償としてこの手順でモンスターを退治するとカードどころか魔石を得る事さえ不可能になる

 

しかし、この手順を経て手に入れた生皮にはもの凄い力が備わっている。今はまだ使う訳にはいかない……何せこの生皮の使い道は使い捨てでもあるから

 

そしてこの生皮を今度は庖丁に突き刺して念ずる……すると不思議な事にその生皮は庖丁の中に吸い込まれて消えた

 

なに、これはこの生皮を使う為にストックする為の手順だ。言うなれば『登録』でありその『登録』はこれから先の『本番』の為に絶対に必要な作業だが

 

もう一度この出刃庖丁に念じて『確認』を行う

 

 

※:ヴァンパイアの皮

※:オークの皮

※:グールの皮

 

 

今現在『登録』されている生皮のリストが頭の中に思い浮かぶ……他にも幾つか生皮はあったが『使った』からもう無い

 

さて此処からが本題だが……この不気味で悍ましい物体を如何なる目的で如何なる用途に使うのかと言うと、だ

 

 

被り纏う為、である

 

 

ひたすら悪趣味かつ不気味な行いだろう。しかしそれにはちゃんとした意味と効果がある

 

この生皮は『登録』したものを『発動させる』と念じれば一度だけ、一時間ほど具現化出来る。そしてその生皮を被り纏えばそのモンスターの姿そのものになり能力を得られる。要は『変身能力』だろうか?

 

その性質は、とある学者らの見識や被験者らの言葉に依れば『変則的な装備化能力みたい』らしい。所有者は他者にもこの生皮を被り纏わせる事でその他者にもこの変身能力を与える

 

そしてそのモンスターが存在する階層限定、という前提条件はあるがその迷宮階層では襲われる事はない……勿論、その生皮の持続時間までではあるし、一度でも攻撃行為を取ったり一言でも喋ったりすればその『モンスターに同種であると思い込ませる擬態効果』は失われてしまうが

 

勿論、この出刃庖丁の能力にも色々な制限や制約がある。先ずは最初に先の『解体作業』が必須であり、次に『登録』などにも色々ある

 

死体固定化は一日一回だけ、最大登録数は十体分まで、一度発動させれば必ず一時間ほどで生皮は消滅する、被り纏い心地は最低最悪等で終われば必ず腐った血脂でべったり汚れる々挙げればキリがない

 

しかし、その能力の凄まじさと『他にもある隠し球』など色々と使い熟せれば非常に強い力となるだろう

 

大輝は『やりきった』とばかりに頭から無限水筒の清水を浴びて不快な血臭を洗い清める。ついでにキキーモラ婆さんに浄化もして貰う

 

そして最後にガッカリ箱を開ける……目的の白魔石の他には、今日は刀が入っていた。定に鑑定して貰った結果は『最上大業物•長曽禰虎徹』だった

 

こいつは新撰組局長たる近藤勇の愛刀であり、かの有名なフレーズ「今宵の虎徹は血に飢えておる」で有名な名刀の中の名刀だ。そしてこの虎徹は特殊な能力は無いが、『戦闘力+300』という強力な切れ味と刀系魔道具の中では最高クラスの頑丈さで有名である

 

一流クラスの刀使いな冒険者からはこの頑丈さから愛好家が沢山存在する銘品として知られている。これを求める冒険者の数は非常に多く市価はだいたい三千万万円其処らだろう

 

勿論、大輝的にはこれから必ず使用する事にはなる……が、それは多分少し違う使い道になるだろう

 

前回三つのEランク迷宮と今回の金銭的リザルトはこんなものだった

 

後は帰るだけだが……いや、やはり足洗屋敷で一風呂浴びてからにしよう。三つ星資格は逃げないし、身嗜みは実際大切だ

 

そんな事を考えながらカード達を労いつつ足洗屋敷の準備をする大輝だった

 

 

カード

エンプーサ

グール×2

黄泉醜女

レッサーデーモン

Eランク女の子カード十枚

E&Fランクカードたくさん

 

魔石

Eランク白魔石三つ(納品)

Dランク白魔石(納品予定)

通常魔石だいたい二百万円分

 

魔道具

無銘の戦鎚(金色のガッカリ箱より)

銘酒・酒屋殺し(金色のガッカリ箱より)

白紙のカード十枚セット(金色のガッカリ箱より、帰還後即冒険者ギルドに引き渡す予定)

『最上大業物・長曽禰虎徹』(攻略報酬)

 

換金アイテム

カーバンクルガーネット三粒

不用魔道具だいたい百万円分

 

特殊

ヴァンパイアの皮

オークの皮

グールの皮

 

 

 

 

【Tips】皮剥庖丁

 

イレギュラーエンカウント『瓜子姫』が稀にドロップする魔道具の公式名称

 

天邪鬼が瓜子姫に化けるエピソードを再現するかの様に『特定の手順』を行使すればモンスターに化ける能力を得られる。しかし非常に多くの制限や欠点を抱えている為用法にはくれぐれも注意が必要

 

その酷い見てくれに反して切れ味は非常に鋭いが、その傷口は酷くぐちゃぐちゃに悪化する作用がある。大剣からダガーサイズまで伸縮自在で負傷悪化と非実体攻撃可能の作用を持つ攻撃力+100の武具型魔道具として使えるが耐久性は無銘の武具程度なので武器としての使用はあまりオススメ出来ない

 

肝心要の能力は『一日一回だけ、モンスターの死体を僅かな時間だけ消滅を抑える事』、『そのモンスターの死体から生皮を非常に効率的に剥ぐ事』、『その剥いだモンスターの生皮を皮剥庖丁に登録、収納する』、そして最大の特徴にして能力は『登録、収納しているその剥いだモンスターの生皮を被ってそのモンスターに化ける能力』だ

 

この庖丁の所有者曰く『装備化能力持ちのモンスターを装備している感覚?』らしい。実際この生皮を被り纏うとその皮の元を装備している状態になるらしい

 

そしてこの生皮を被り纏っている状態だと、その皮の元のモンスターに成りすまして他のモンスターに認識されず攻撃されないという効果もある。しかし一度でも攻撃行為や発音したりするとその擬態効果は直ちに消失するから要注意……恐らくこれは『瓜子姫に化けた天邪鬼の擬態がお粗末なもので必ずバレている事』が由来の効果だと思われる

 

また、この生皮の内側は血脂なぞ一切取ってはいない……掃除する暇さえ無い、ので被り纏う時は非常に不快な体験をする事になるので所有者は覚悟が必要になる。効果時間が切れたら皮はぼろぼろに崩れ去るけど腐敗した血脂が身体中にべったり張り付くので清掃手段はあった方が良いだろう

 

この庖丁は自分自身や自身のカードにしか使用出来ないが、皮を纏わせる事ならそれ以外の他者にも可能だが……但し皮のストック次第ではある

 

皮のストックは最大十枚まで。『固定化』は一日一回だけ。モンスターの皮は迷宮外でも出せるが、直ぐに崩れ去る。皮を被り纏うと非常に不快な体験をする。一度出した皮はもうストックには戻せない。皮の使用期限はストックから出して一時間以内等々の沢山の制限制約はあるが非常に強力な魔道具である事には変わりない

 

一応、違法な研究者の遺したファイルに『人間の皮』でやればどうなるか?の実験結果もあるが……単なる『剥がされた人間の皮膚』のままだった為この魔道具は『人間に化ける機能は無い』と判断されている。その為所持禁止類魔道具には登録されなかった。瓜子姫も何らかの人ならざる存在だったからでは?という推論がされている

 

『カードに対して使う』という実験も行われていて、この庖丁には『カード破壊能力』もあり、それで壊したカードのデータを奪う力もある……それをやると元のストックは全て消失、そのデータを解放するまで殆ど只のオンボロ庖丁に戻ってしまう事、そのデータも最大五日ぐらいしか持続しない事、そのデータを直ぐに使おうとも一月ほどこの庖丁は能力を喪失したままになる事などの制限制約がある。恐らくは『カード化したモンスターのデータ数』をこの庖丁では許容出来なかった為だろうと推論されている

 

ちなみに『名付けしたカード』だと死亡扱いで『ソウルカード』になるらしい、そしてその『ソウルカード』はこの庖丁でも破壊不可能である

 

『データ解放』には幾つかの使い道があり。一つは普通にそのデータの生皮を召喚して何時も通りに使う事、もう一つはそのカードの記憶を視て聴く事が出来る、ついでに『視念珠』と『聴念珠』が有ればその記憶のダビングも可能

 

非常に癖が強く、使い手の精神力を削る仕様ばかりではあるが『使う覚悟と精神力』があるなら非常に強力な魔道具だといえる代物



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一章幕間その10 三つ星とて一里塚、四つ星もまた一里塚

 

長風呂でどうにか血臭を拭い切って三つ星資格試験から帰って来た大輝は、直ちにギルドに出頭して所持禁止類魔道具の提出を最優先にしながら今回一番必要な『Dランク迷宮の白魔石』を提出する……ついでに刀や戦鎚、酒瓶のカード化依頼も忘れない

 

今日の担当はメアリーさんではないが、大輝はこの行きつけのギルドでは評判の良い冒険者……なので割と直ぐの一時間も掛からずに解放された、一応この手間は最低限必要な時間なので仕方ない

 

未成年者による酒屋殺しのカード化だけは少し渋られたが、ギルド側も大輝の特異体質やデッキ編成にはある程度知識があるので直ぐに処理手順を行なってくれたのは余談だろう。世の中には酒系魔道具は結構あるし

 

そして……大輝の習得一月未満の赤銅色のライセンスは殆ど新品ではまま返納されて代わりに白銀色に三つの星が記されたセミプロの証である『三つ星ライセンス』が配布された

 

この『三つ星ライセンス』は言わば『冒険者の上澄みの証』とも言われている。前にも何度か言及したと思うが……一つ星ライセンスは金かコネさえあれば誰にでも入手可能な言わば『道楽』である。一方で二つ星ライセンスはその『道楽』から間違いなくそれなり以上の労苦を以て得る必要がある代物であり、少なくとも『最低限の試練を超えた証』として世間や一定以上の冒険者からの信頼を多少なりとも得られる力はある

 

そして件の三つ星ライセンスだが……これは準プロ、セミプロの証とも言われているものであり、言うなれば『優秀な一般冒険者の証』である。だいたい三十数万人の冒険者人口を持つ今現在の日本ならだいたい一万二千人前後くらいはその資格持ちらしい

 

この資格さえ有ればだいたいどこの……ダンジョンアンチの息が掛かった企業以外なら大概の企業から高い評価を得られるだろう。企業次第では即日雇用だってあり得るし大企業には所属してくれる一戦級冒険者はなるべく沢山必要である。迷宮の秘宝カードはどれだけ有っても良いし何より『迷宮終末論』だってある

 

ちなみにその企業の中で上澄み中の上澄みこそが佐藤大輝や薬丸姫子の両親が重役として所属している『ダンジョンマート』であり、大輝も一応はこのダンジョンマートに就職希望している身だ……文明社会がそれまで無事なら、という但し書きが追加されるけど

 

世間からすれば三つ星ライセンスは社会的成功を約束してくれるゴールドチケットみたいな扱いだが、こと大輝にとっては単なる通過点に過ぎない。大輝的には言うなればDランク迷宮への通行許可証でしかなく、せいぜい自分の自由と独立を守る為の小道具に過ぎない

 

それでも……仮にも三つ星ライセンスを得られる実力を示せたならば、時期と都合が合う『メアリー塾の兄弟子達』にCランク迷宮に臨時戦力として連れて行って貰える可能性だってあるかも知れない

 

それに大輝は単なる三つ星ライセンス持ちではなく、ちゃんと『迷宮士資格』に『Eランクイレギュラー単独撃破実績』すらある強者であるし『拙くともリンク能力に覚醒済み』でもある。中学生かつ冒険者歴半年未満の小僧としては破格の実績だ、ついでにCランクカード四枚持ちのむしろ大人でも滅多にいない領域の実績だ

 

 

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大輝と姫子の在籍する『美城学園』は、世界的に見ても有数……いや、トップクラスに『学生冒険者』の在籍数が豊富な珍しい学園だ。しかもこの学園にはFからCまで一つづつ学園専用迷宮が存在し、学生達は良くこの迷宮に入っては己を鍛えて冒険者としての研鑽に勤しんでいる

 

だからこそ……冒険者の多いこの学園では『冒険者社会』とでも言うべき独特な秩序が形成されている。基本的には七つの『冒険者部』と沢山の泡沫の様に生まれては消える『サークル』が存在する

 

大輝みたいな野に埋もれていた実績持ちの存在が判明したら……部もサークルも問わず熾烈な勧誘合戦は間違いなく確定事項になる。大輝みたいな腕も立ち、度胸もあり、コネも豊富で、特に『迷宮士資格持ち』という辺りが一番高評価だろう。ついでにその豪運も見る人は見ている

 

大輝の場合夏休み明けには間違いなく熾烈な勧誘大戦になるだろう。だからこそ大輝はなるべく早く昇格して『独立』を守る為に立ち回っているのである、他所のカラーにはなるべく染まりたく無いし自分の陣営には憧れがある

 

学生冒険者にだってプロに昇格できる……いや、日本でも二百人弱しか存在しない冒険者の頂点と呼んで差し支えない存在だが、一応は片手の指で数えられる範囲では存在するが今はまだ高校生や大学生ばかりである。今現在の最年少記録は『高校ニ年生が夏休みに昇格』らしい

 

 

閑話休題(それはさておき)

 

 

所持禁止類魔道具の引き渡しが手順とアイテムのカード化、三つ星ライセンス資格獲得者用の講習……だいたい三十分程度が終わり、大輝は身内一度に連絡して三つ星ライセンス獲得を伝える

 

「今日はご馳走」らしい……今はまだ午後二時なので学園制服販売店に向かう、夏休み前の制服がそろそろ怪しくなってきた。夏服のシャツのボタンや二の腕辺りがかなりキツい、いやむしろ胸ボタンが弾けたし。スラックスの太腿辺りがミチミチいっている上に脚の丈がもうあまり合わない

 

夏休み前までは騙し騙しどうにかなってはいたが流石にもう限界だ。夏休み開始前に試着したら袖や股の部位が裂けてしまったから夏休みが終わる迄にちゃんとした制服の買い替えが必要だ……いや、ジャージもだった

 

今の大輝は身長187㎝、体重89㎏の筋肉モリモリの『巨大な狼』めいたナイスバルクである……一見すると普通の体格に見えなくもないが、非常に筋肉質な体付きをしている

 

……流石にこのサイズや筋肉だと特注扱いになるらしく、納品は五日後となるらしい。どうも迷宮に潜る様になってからか身体の成長が著しい気がする

 

ちなみに大輝の父親である『佐藤源輝』は身長190㎝体重100㎏、大輝が歳を重ねればこうなっていく見本みたいな熊を彷彿とさせる男性フェロモンの塊みたいな大多数の筋肉と健康的な脂肪率を誇るガチムチマッチョのナイスガイ……阿部高和のチーム一同全員やその同胞たる『さぶ』な人達から凄く人気らしい

 

母親である『(旧姓:谷垣)佐藤稲穂』は身長172㎝体重(検閲削除)の狐めいた印象のする長身グラマラス美人である……マタギの家系だが祖先にアイヌの占い師が居たとか何とかで非常に勘が鋭く、大輝も母の血をこの勘の良さで受け継いでいるのだろう

 

ちなみに両親共にかなり運が良い方らしい……大輝の豪運程では決して無いが

 

ついでにそろそろ窮屈になり始めて来た野戦服やボディーアーマーも買い替え兼グレードアップをダンジョンマート系列店で図る……大輝の体格は自衛隊なら結構多く居るので直ぐに調達出来た。簡単な裾の調整だけで即日持ち帰りが出来るから有り難い話だ、しかし大輝の場合『メアリー塾のエンブレムワッペン』や『ダンジョンマートの社章ワッペン』を入れる必要があるので受け取りは明日になるだろう

 

前まで使っていた最早窮屈な野戦服やボディアーマーはその系列店に引き取って貰う。系列店ではその古着を洗濯手入れし直して格安で売ったり嘗て挙げた『奨学冒険者キャンペーン』の支給品にしたりする、そしてなるべく一人でも優秀な冒険者が育つ土壌を作る。これは世界各国『冒険者システム』を起用している国ならどんな冒険者用装備販売店でも必ず行う事だ

 

社会はそれだけ冒険者……少しでも迷宮攻略を行う冒険者を欲している、という事だろう

 

今日は最後にカードショップに寄って何か良いCランクカードが無いかを物色しに行ってみる、Cランクは基本的に在庫がダブっているDランクカードと違って割と希少なものばかりである。オーガやケンタウロスみたいな頻繁に出る様な代物ややまらのおろちみたいな超不人気カードでもないかぎりはまぁまず在庫がない、まるで回転寿司か何かの様に絶えず流動するカード達から目当てのものを探して引き上げる必要がある

 

今日の目玉はライカンスロープのオスと男吸血鬼……他のカードも余り良いカードは無い

 

Cランクカードの良いものは基本的に自衛隊が最優先、次にプロが買い漁る……特にカード消費の激しいデュエリストとか。だからカードショップに流れ着くCランクカードはあまり良いカードは無い事が多いので冒険者として大成したいなら『良い札商との縁』は本当に大切なものになる

 

まぁ……カードショップにも稀にピーキーな掘り出し物が流れ着いてくる可能性もあるから偶には顔を出してみるのも悪くはないだろう。基本的に瑕疵カードも販売はしているが『復活用』だと念押しが必ずされる

 

魔道具も大都市レベルの大型ショップに限るが基本的に聖銀武具や『無銘シリーズ』の定番武具やハイポーション辺りまでなら比較的安定供給される……それ以上の高品質魔道具はやはりCランクカードと同じく運次第だろう

 

今日は珍しくカードホルダーが売り出されていたが既に『sold out』のマークが入っているし

 

タブレット端末にももう良いカードや魔道具は無い。もしも良いカードが有れば『取り置き』をして貰っていたが

 

この『取り置き』というシステムは……カードショップにあった『良さげなカード』をある程度の『保証料』を払う事で暫くの期間取り置きして貰うシステムである。期間内に買い取りが出来ればその保証料は返金されるが買えなければ保証料は没収される。まぁ良くあるそんなシステムだ

 

ちなみにこのシステムは冒険者免許が有ればDランクカードからなら誰だって出来る……『ブラックリスト入り』でもする様なやらかしさえしなければ。そしてCランクカードからの取り置きは三つ星からの権利になる

 

カードショップと札商はある意味似た存在ではあるが、カードショップは『素人、新米向け』で札商は『プロ、玄人向け』で区分される。カードショップでは沢山のDランクカードと比較的頻繁に出るタイプのCランク、ごく稀に出る弱いが扱い易いBランクカードがカードショップの基本的なラインナップだが基本的に『親方日の丸価格』とでも言うべき適正価格で手早く販売してくれるし『チケット』があれば格安販売だってあり得る

 

一方の札商はCランクカードからが始まりであり、『横の伝手』やら子飼いの冒険者の力などで顧客の依頼に応じたカードを探したりする。普通のカードショップでは見つからない類いの良カードや珍カード、例えば海外ネイティブカードなどが欲しい冒険者は札商にたよる必要があるだろう。運が良ければ女エルフやサキュバス、猫又屋敷みたいなオークション前提の激レアCランクカードや高位Bランクカードだってオークションよりかは安く入手できるかも知れない……時間はかかるだろうが

 

だからこそ『信用出来る良い札商』との縁はプロやプロ志願にとって値千金の価値がある訳だ

 

なるべく早く『カードホルダー』みたいなプロ冒険者必携魔道具を入手したいならこれも札商に頼るべきだろう。札商は魔道具も普通に扱っている、以外と忘れている貴兄も多いだろうがむしろカードそのものが元より魔道具の一種である

 

やはりカードショップにも出物掘り出し物は無かったので今日は大人しく帰る……家では両親と薬丸一家だけでちょっとしたパーティーになった。なるべくその情報を明かさない大輝の方針を考慮しての事だった

 

酔っ払った薬丸夫妻は寝室に、両親は寝室のベッドに置いて……ちゃんと服は緩めてサイドテーブルに常備の水ボトルとついでに新聞紙を貼った洗面器を保険で置いておく、家の一室にある『姫子の部屋』に眠っている姫子を優しく抱き抱えてベッドに繊細にそっと姫子を横たわせる。姫子の部屋は大輝が偶に清掃したりするので何時も清潔だ、ついでにパーティー中こっそり姫子の部屋のシーツや枕カバーは替えておいた

 

流石に姫子の服……薄いフリルで飾られた純白のワンピースを脱がす事は出来なかった、大輝(青少年)の理性的な意味だけでなく絵面的にも不味いだろうし

 

ちなみに……佐藤夫妻と薬丸夫妻は子供達には教えていないが『とある賭け』を行なっている

 

『姫子が十六になる迄に大輝手を出したら、大輝は薬丸家への入り婿ルート、手を出さなかったら姫子が嫁入りルート』

 

まぁそんな賭けだ……何気に佐藤家が不利過ぎる気もするが

 

薬丸夫妻としては『むしろバッチこい!』かも知れない。さて、大輝の未来はそのまま『佐藤』か入り婿で『薬丸』か……多分『薬丸ルート』だろうな、と作者自身も予感しながら話は続く

 

 

 

【Tips】迷宮士

 

『原作』における『プロ冒険者資格に必須の筆記試験』の事、プロ冒険者以外にも迷宮関係の法律家やギルドの高位職員、大企業の迷宮関係者には必須の資格となっている

 

必要勉強時間500時間程で宅建士資格に匹敵するとされている難関資格ではあるが、比較的他のプロ資格試験よりは簡単……いや、一応は努力だけで何とかなる資格の為『プロに至る素質の無い専業冒険者』の中にも結構この資格持ちは多い。間違いなくこの資格を持つ者は『ガチ勢冒険者』だと断言出来る

 

しかし、学生冒険者の場合はこういう面倒極まりない試験は忌避されやすい傾向にある為かこの資格を持つ学生冒険者は日本中探しても薄い名簿が出来る程度にしか見つからない

 

 




原作より多少冒険者の数や質が向上しているのは『メアリー塾』や『美城学園』などの存在や『奨学冒険者キャンペーン』みたいな企画によるバタフライエフェクトです

※:大輝父は某『スケベマタギ』に、大輝母はその嫁である某『誑かす狐』に瓜二つです


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一章幕間その11 被検体ぐらし

エピソード夏休みはこれで最後……何話かかるかはさておき


 

ささやかなパーティーを経て次の一日をゆっくり骨休め……朝から仕事に行く四人の為に二日酔いに良い朝食と弁当を朝一で姫子に料理技術を教えるついでに作ったり二人でモンコロ観戦したりデッキ議論したり夏休みの宿題に抜かりは無いかを再確認したり大輝の新しい冒険者装束を取りに行ったり姫子の膝枕で安眠したりと平和な一日を過ごしていた

 

割とどうでも良い話だが、新聞紙を貼った洗面器は今回は使わずに済んだ様だ

 

夏休みの終わり……ニアピンした様だが姫子も昨日大輝と同じく夏制服上着の胸ボタンがキツくなって弾けてしまったり『理想の下着』のホックが痛んできたので新しい制服や下着を買いに行っていたらしい、何とも変な処で似るカップルである

 

佐藤夫妻も薬丸夫妻も昨日はちょっと無理をして大輝(一人息子/義息子)の為に集まってくれた……その代償として三日は仕事漬けになるらしいが大輝と姫子には一切教えてはいない、明日は二人とも朝一番でギルド依頼だったりするからだ

 

前に……大輝の夏休みの始まり、二つ星試験最初の頃のあの話は読者貴兄も覚えておられるだろうか?

 

大輝が特異な手の目()を見つけ、その特異性からあの迷宮がシークレットダンジョンである事を暴き、その情報提出&秘匿、そしてその産物である所持禁止類魔道具(白紙のカード)即刻持ち込みのご褒美で超格安で師匠(メアリーさん)から沢山の追加戦力用Dランクカードと瑕疵Cランクカードを少々買い込めたあの日の事を

 

あの一件をきっかけに大輝は一夏で二つ星超えて三つ星資格を電撃取得出来たものだ、そしてその一件で起こった様々な突拍子のつかない事象や珍現象の解明とデータ採取の為に八月二十五日の朝からから二十九日の夜までギルド、自衛隊、ダンジョンマート、エメラルドタブレット社、ニシモリ製薬等々親方日の丸から『ダンジョンマートとそれなり以上に仲の良い企業』の研究者達がそのデータを真っ先に入手する為にやって来る

 

大輝の特異体質……『女の子カードに対する重度の不適性』とあの特異極まりない手の目()の調査実験、そして同じく『人間に近い男性型カードだと召喚さえ出来ない特異体質』持ちの薬丸姫子とのクロステストがこの五日間でみっちり行われる予定である

 

八月二十五日にギルド職員の送迎によって目的地……大輝も長らく通っている姫子もその所座を知らない、に通され手厚い歓迎を受けた大輝は先ず人間ドッグみたいに採血や身体検査、そしてもう一度『札見』を行なって大輝の適性を試す、そして様々な実験に協力する事になるだろう。最終日以外は健康診断程度で済むが

 

一緒に来た姫子はまた別の実験協力中である

 

それと……高和が持ち込んだ例の件である『足洗屋敷』も何気に注目されている。このカードは新発見されたばかりのカード空間系カードだが殆ど欠陥住宅としか言いようの無い代物だった、まぁ『住宅』ではなく『砦』として使う分にはまだ救いはあるかも知れないが

 

その足洗屋敷をちゃんとした住居系拠点に出来た事は大発見だと言って良い。今までクラスチェンジやマイナーチェンジで足洗屋敷を少しでもちゃんとしたものに直そうとしてもあの大足は据え置きだった

 

しかし大輝のクラスチェンジであの大足が可愛らしい小狸になった件で研究者達が大輝に更に強い強い興味を示してきた理由でもある

 

ちなみに……研究者達の間ではこのクラスチェンジによる『核の変化現象』についての推論は既に出ている。元々あの大足は『狸が化けたもの』という説があり、それを起源を同じく狐狸が化かしにくるエピソードかつ同じ『本所七不思議』である『燈無蕎麦』とのシナジーが効いたからではないか?との説が有力視されている

 

尤も普通の燈無蕎麦ではこの現象は起きず、普通の足洗屋敷になるだけだったが……日本各地のギルドから『狐狸妖』持ちを探して……マスター無しと名付けして愛用するマスター持ちのを一枚ずつ発見しての実験も行われた

 

結果は……マスター無しの方は普通の足洗屋敷になり、マスターが居る方は大輝の足洗屋敷と同じ状態になった、そっちは小狐型だったけど

 

更に同じ方向のアプローチとして『本所七不思議』である『送り提灯』を使った調査実験も行われた……これもちゃんと『名付け』して大切に扱われたカードならば『核』が提灯お化け型になる事が分かった。これも狐狸系統に化かされた話だからだろうか?

 

それと大輝が自分から付けていた『足洗屋敷(改)のレポート』もある。後々の評価に依ればその情報もまた良い参考資料になったらしい

 

こうして……『Dランク最悪の欠陥住宅』と悪名高い足洗屋敷にもちゃんとした使い道がある事が判明した、これで一般的なエンジョイ勢が少しだけでも『カードを大切にする事の重要性』を理解してくれる事を祈りたいものだ

 

兎に角、こうして足洗屋敷に纏わるあれこれは初日で解決した。しかしまだまだ大輝の特異体質に関わる調査や特別過ぎる手の目の調査だってある

 

スマホや電子機器は最初から持ち込み禁止なので数冊のまだ読んでいない本を用意する……この場所で過ごす大先輩である姫子からあらかじめ教わっていた『この場所でなるべく快適に過ごす為のテクニック』通りに積んでいたラノベと最新版の迷宮士資格用参考書にノートは用意済みだ

 

この場所は自衛隊が保有するシークレットダンジョンの一つであり、確かDランク迷宮だと聞いている。その中の安全地帯に駐屯地代わりに召喚されたマヨヒガ(通常仕様)の一室に大輝は通される予定だったが今回は大輝自身が召喚した『足洗屋敷(改)』で大輝自身と姫子、そして十数人の研究者が日替わり宿泊する予定に変更された

 

やはり研究者たるもの『実践』出来るならばやりたいものだろう

 

 

「……でだ剣、すまんが最終日前夜までは暫く待っていてくれ」

『……いえ、この状況ですし菫も分かってくれてますよ』

 

 

何処か哀愁を漂わせながらそんな会話を交わす益荒男(大輝)妖精武者()、今日は晴れて付き合い始めた剣と姫子のシルキーである菫の逢瀬の場にこの足洗屋敷(改)を貸す予定だったが……まぁ研究者一同がこの甘い空気を一切読まずに『この足洗屋敷の住み心地を知りたい!』と訴え倒した為にこの状況と相なった

 

今回の趣旨的には間違いなく研究者一同が正しいので……決してその不満や義憤をおくびにも出さずに承認しておいた。流石に最終日前夜だけは『私用に使う必要がある』とは断言したが

 

もしもこの機会を逃したら次は最悪七ヶ月後になってしまう……せめて一夜だけでも素敵な逢瀬を二人に楽しませてあげたい処である。大輝的には一番付き合いの長いエースへの労いと自分の体質では出来ない嫁の斡旋に、姫子的には長年仕え尽くしてくれた……この研究協力の時間ずっと支えてくれたもう一人の乳母()の『女としての幸せ』の為に

 

ちなみにこの『足洗屋敷暮らし』を体験した研究者達の証言で『大輝の足洗屋敷は他の足洗屋敷より圧倒に飯が旨い』という事実が判明した。普通の足洗屋敷だと品数少なく煮物が塩辛かったり魚の焦げが酷かったりと正に『不精男の雑な飯』であるのが普通だからである

 

そして次の日だが……大輝の体質実験からだった

 

大輝に沢山の……全て女の子カードなDからCランクのカード沢山とBランクカード何枚かを渡して『契約』をして貰う事から始まった

 

大輝が自分の指に針を刺して血を目の前に有ったカードに擦り込んでみた……しかしその血はカードに全く染み込まず、まるで鉄板やガラス板に水を掛けたかの様に血が流されて地面に落ちた

 

研究者達は顔を見合わせてその現象……今まで八年前から見続けてきた現象と全く同じだった

 

 

薬丸姫子が起こす現象と全く同じだった

 

 

佐藤大輝もまた世界で今現在二人しか発見例の無い『極度の重召喚不適合体質』である事が確定した

 

この『召喚不適合体質』というものは特定のカードとその性質……例えるならば『天使』系統を召喚するだけでその召喚した天使が悶え苦しみマイナススキルを獲得したりする。というこの体質としては軽い症状から『契約は出来るが殆ど召喚出来ない』という中度の症状、そして『その契約さえ不可能』な重度の症状まで基本的に三つの症例パターンが存在する

 

この体質持ちは世界各国津々浦々を探しても未だ百人其処らしか発見されていない。しかもこの体質が判明するのは『リンク能力に少しでも目覚めた時』かららしい。その証拠に世界各国のこの体質持ちはだいたい二十代から若くて十代迄だ……日本に居る『五歳でリンク能力に目醒め、しかも世界で一番重い症状と深い不適合属性を抱えた女児』という例外中の例外を除けば、だが

 

やはり今出された女の子カード全てと契約すら出来なかった佐藤大輝も齢十五の小僧なので間違いなく貴重なサンプルになる、しかも世界各国でも貴重な深い不適合属性持ちだ……更にはその症状が最初の報告よりも更に重くなっている

 

『色々なスキルを平然とガン積み出来る特異な容姿の手の目』に名付けした結果こうなったらしいが……この辺りは本当に再現性が無い、その貴重な手の目はまず何をどうやれば見つかるか?という話だ

 

その特異な……出す処に出せば莫大な金銭になるその容姿と色々珍しく強力な技能をガン積みした、恐らくは所謂『ギフテッドカード』であり『エラーカード』だと思う存在ではないかと研究者達がコメントしている

 

そして次は大輝のリンク能力調査だ。先ずは渡されたFランクカードのゴブリン三枚で大輝自身のリンク能力を、そして次は手の目()の装備化込みで

 

 

「……っ!」

 

 

最初は通常の最大出力、次は限界まで……僅かな時間ではあるが頭痛がキツい。しかし『我が恋人』(姫子)は日常的にこれを経験しているらしい、だからこそポーカーフェイスで涼しげに耐えてみせる。なぁに、イレギュラーとの実戦と違って命に別状はないから楽なものだ

 

自衛隊員が操るゴブリン相手の実戦という名の試験中、使い捨て前提のゴブリンらに的確に『テレパス』で指示を送り、未だ未熟な『シンクロ』でゴブリンからのバリアのエネルギーを返還してゴブリンの力に戻す……大輝と一体化しているゴブリンは苦しげだが今は試験中だから情は捨ててかかる

 

今の大輝ならば定抜きでも『テレパス』は普通に出来るが流石にまだ多重シンクロは上手く出来ない……大輝の場合は一体に集中した方が良いみたいだ、要は『多重シンクロは未だ苦手』という事だ

 

一方で『単体シンクロ』には適性が高いらしく、前のヴァンパイア戦で新たなコツを掴んだか通常状態でも20%は可能になり、やはり頑張れば35%はいける程度に強くなっていた

 

そして定を装備化しての実験だが……シンクロ率は通常状態でも複数シンクロが25%はいける様になっていた、無理をすれば40%でもいける様になっていた

 

単体シンクロも無理をしなくても55%はいける、しかし無理をしても80%以上にはならない……大輝が鼻血を垂らしながら踏ん張ってもだ

 

恐らくは手の目によるチューニング能力の限界なのだろう。一体でも99%の『パーフェクトリンク』が出来るならその地点で『真なるプロの力量』を得た証だともリンク能力を知る者達の間では言われている

 

そして普通の手の目では単体シンクロ補助しか出来ず、その限界は普通に30%、優秀な個体でも50%がせいぜいだと言われている

 

如何に手の目がリンクチューニング能力を持っているとはいえ所詮はEランクカードである。もしもこのリンクチューニング能力がプロの使用に耐え得る代物ならば今頃手の目はプロ必携カードだ

 

要は『手の目』というカードは『プロ志願冒険者の歩行器』みたいなものだと言って良い。手の目の介助が必要なくなれば最早単なる欠陥だらけの弱い装備化能力持ちというだけの存在だ

 

しかし……大輝の手の目()ならばその利便性や戦闘能力、そしてその莫大なリンクチューニング能力で値千金の価値があるだろう

 

つくづく佐藤大輝という男は『引き』が鬼の様に良い、こんな凄まじい手の目を一発で引き当ててその重要性に気付いて『名付け』してまで離さないようにする勘の鋭さを見ていればわかる

 

もしも今、大輝がこの手の目に名付けをしていなければギルドも自衛隊も大義を以って強権を使い大金なりBランクカードなりを押し付けてでも大輝から無理矢理取り上げていただろう。そして自衛隊やギルドの貴重な備品なり研究資材なりにされてしまっていただろう

 

……運が悪ければ横槍を入れた何処かの好事家のコレクションとして大切そうに死蔵されたり、真に最悪のパターンとして性質の悪いカルト宗教(星母の会)か何かに横流しされる末路を迎えていたかも知れない

 

しかしその定にとっての破滅の未来は無くなった。既に彼に『(さだめ)』という名前があり、やはり既に『大輝専用のカード』だからである

 

 

定としてもそんな暮らしは真っ平御免被りたいだろう。今の主(大輝)みたいに仕事はハードでイレギュラーと戦う可能性のある危険な環境ではあるが……それでもちゃんとカード達に福利厚生を考えて実践してくれるし希望を聞いてくれる、何よりちゃんと強くしてくれる良い主が大輝なのだ

 

 

『……あっしみたいなチンケな野朗にいい女抱く機会をくれたり、可愛い女の子よりもあっしを選ぶ奇特で最高な親分でさぁ』

 

 

『名付けはダサい』、『女の子カードでハーレム』だの何だのといった風潮なぞ知った事ではない、と我が道を肩で風切りながら征く佐藤大輝……その彼に付き従うカード達は多かれ少なかれこの定の胸の内と同じ様な事を考えている

 

大輝も知らない定の胸の内のほんの一欠片……これからも定は大輝の生命が尽きる日まで大輝の傍らで生きている。本当の『名付け』とはそういうものだからして

 

 

さて……次は三日目からの話になるだろうか?次回に続く



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一章幕間その12 他人の眼から見たあいつ

今回から少し新しい試みをやってみます


 

三日目の実験は定をメインに貸し出されたDランク奨学カード……オーク×2、ライラプスの仮編成でこのDランク迷宮攻略だ。何人かの自衛隊も一緒なのでまず間違いなくこの攻略は安全なものになるだろう。更なる大輝自身の安全確保の為に大輝自身のエースである剣と罠対策に蔵も召喚済みだ

 

ちなみにこのDランク迷宮は三つ星試験と同じ古城型であり。E、Dそれぞれの適当に選ばれた階層において『とある方法』で大量発生した……いや、させたモンスターを駆除する事になる

 

『何か禍々しい印象の笛』を同行する自衛隊員の一人が吹く……恐らくは大輝の持つ『皮剥庖丁』の同類だろう悍ましい気配を放つ呪物の力で一瞬にして大輝達は目的地の広場に辿り着いていた

 

その呪物は『ハーメルンの笛』、幾つかの制約制限は有れど迷宮内なら好きな場所に何度でも転移出来るもの凄い代物だ

 

大輝の『皮剥庖丁』と同じく『イレギュラーの贈り物』であり、『贈られた者以外には使えない』という共通の制約があるが、冒険者界隈では『英雄の証』みたいに見られるトロフィーみたいなものだ

 

大輝自身も幾らか『実物』を見た事はあるが……大概の冒険者らはこれらの存在を良くて『噂に聞く』、普通に『半ば都市伝説』扱いが普通だが

 

……尤も、その笛を持つ自衛隊員も何時かは必ず『その呪物を送ったイレギュラーと再戦する運命』である証でもあるが。大輝が何れ必ず『瓜子姫』と再戦する様に

 

 

……確かあの笛は『ハーメルンの笛吹き男』が落とすんだったか?

 

 

その気配すら非常に気持ち悪い……その笛を見ているだけで『ハーメルンの笛吹き男』の不快で悍ましい気配を感じるからなるべく見ない様にはしながらだが、あの笛の知る限り詳細な情報を思い出していたが『準備』は既に出来ていた。最初から他の自衛隊員は先回りして行なっていた様だ

 

 

その階層は異様な気配に包まれていた。安全地帯の向こう側は既に沢山の怪物がひしめき合う地獄絵図が見える、普通ならば安全地帯の辺りは滅多にモンスターは出ないものなのだが

 

……大輝はその現象に心当たりがある。基本的にあまり人気の無い不人気迷宮を攻略し続けてきた大輝にはあまり縁の無い現象だがこれは

 

 

モンスターハウス

 

 

冒険者が一つの迷宮に沢山入ったり、一人の冒険者でも沢山のカードをロストしたりすると起きる非常に厄介でもありちゃんと対応出来るなら強い恩恵を齎す迷宮事象の一つだ

 

内容はひたすら単純。普段は一定数きっちり現れるモンスター達が異常増殖して迷宮内に溢れ返る……そしてその異常な事態に呼応するかの様に迷宮内に居て場に出している冒険者のカード達に僅かながら経験値を齎してくれる

 

そして……この状況である一定の数のモンスターを撃破すると、まるで『迷宮からのご褒美』か何かの様にガッカリ箱が出てくる。このガッカリ箱は『白魔石の入っていない攻略報酬入り』とでもいった具合のものが出てくる

 

今回は『人為的なモンスターハウス発生』だ、良く考えてみて欲しい……()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()のだ

 

一応、ちゃんと『掃除』はバッチリやっているし大輝達は決して安全地帯から出てはいないからまぁ少なくとも大輝や姫子、研究者達は大丈夫だろう。長時間放置してもモンスターどもは『共食い』で勝手に数を減らすし

 

今日は大輝にも実験がてらこの階層とあとDランク階層一つの間引き作業が今日の課題だ。大輝と定の性能を見る為に『万が一の保険』であり、普段は魔法援護と罠対策以外禁止された剣と蔵以外は貸与された奨学カードで武具も『虎徹禁止』という制限を抱えて戦う事になる

 

同行する自衛隊員達は『本当に万が一の護衛かつ撮影係』であり、大輝が『掃除』に成功すれば次のDランク階層に行く事になるだろう。ちなみにDランク階層では剣と蔵の制限は解除される事になっている。流石にこの制限でDランク階層は酷い話である

 

勿論、少しでも『危ない』と剣が判断すれば即座に介入する許可はある

 

大輝はまず……敵に向かう前に召喚した貸与カード達に話しかける

 

 

「お前たち……最初から不躾な話だが『これ』は大丈夫か?」

 

 

そう聞きながら『テレパス』で貸与カード達に語りかける

 

 

『この方法だが大丈夫か?』

 

 

貸与カード達の反応は……

 

 

『……ぐるぅ!』

 

 

大丈夫なのはライラプスだけだった、これは相性の問題故に仕方ないので残りのオーク達は適当にやらせておくしか出来ない。リンク能力が無い者は基本的に『そのカードの好きにやらせる』のが一番だし

 

このニ体を『使い潰す』という前提ならば無理矢理テレパスで繋いでしまっても良いがそれは大輝的には大嫌いな行いだから決してやらない。リンク能力は馴染んでいないカードには凄まじい不快感を齎すものだ、自分の為に戦わせる配下……しかも借り物だから無体はしたくない

 

オーク二体は大輝の周囲で適当にモンスターに対処して貰う、……そしてライラプスはお供にEランク階層はこの四体編成で挑む

 

さぁ征こうか?

 

 

視点変更〜とある自衛官〜

 

 

俺は、今回『非常に珍しい体質持ちの少年のデータ採取』という任務の為にこの秘匿されているシークレットダンジョンに来ていたが……この少年こと『佐藤大輝』の異様さと凄まじさに度肝を抜かれていた

 

最初に彼を見たときは……まだ齢十五の少年だと聞いていたが、あの体躯ならむしろ我々自衛官の一員では無いか?と思う様な己を鍛えに鍛え上げた結末の逞しさを感じたものだ。思えば初対面の時から彼には『戦士としての気骨』を感じていたのだろう

 

自衛官として鍛えてきた俺とほぼ同じ身長に、俺達自衛官と同じぐらいの筋量の逞しい体躯、しかし顔はまだ彼が『十五歳の子供』だとわかる様なそこそこ整ってはいるがまだ幼い顔つき……しかし眼の輝きには非常に強い意思の力を感じる

 

そして彼の経歴を見て更に驚かされたものだ、何せ『冒険者になって半年未満で三つ星資格持ち』だの『Eランクイレギュラー単騎討伐&贈り物保有』……この辺り迄は『才能豊かな若者』なら稀に聞く話である。この地点で『なるべくならスカウトしたい候補』に入るだろう。既に彼のマークは始まっている筈だ

 

しかし……『冒険者資格獲得前に迷宮士資格獲得』というのは余りにも珍し過ぎる経歴だ。何でも『両親を説得する材料として頑張った』らしい

 

普通の中学生……いや、確か彼は小学生の地点から迷宮士資格を得る為の勉強や迷宮に挑む身体作りをしていたらしいが、何というか凄まじい理性と忍耐力、そして根気だな。普通の子供なら間違いなく遊びを優先してそんな目的なぞ忘れてしまうものだが……うちの息子の様に

 

この実績だけで個人的には彼を『是が非でもスカウトしたい候補』入りだ、仮に彼が『親から貰った強いカードの力』だけで三つ星資格なりイレギュラー単騎討伐なりをしていたとしてもその『自力で迷宮士資格獲得』は絶対に『自分自身の力』だけで成し遂げた功績だ。そしてその鍛え上げた見事な肉体は嘘を付かない

 

まず間違いなく彼は己の力と意思であの試練や災いを踏破したのだろう。歴戦の我々(自衛官)なら彼を見れば直ぐに分かる

 

確か『我々にとってのお姫様』の為に長く苦しい鍛錬を重ね続けて来たんだったか?なるほど、だから彼は『彼女の王子様』なのか。出来れば私とて彼女を娘に欲しいと思う……中には妹にだのあまつさえ彼女にだのとほざく阿呆も居るがまぁそれはさておくか

 

俺の部下の中にも一人『彼女に欲しい派』が居るが……スカウト成功した佐藤氏と同じく『Fランクイレギュラー単騎討伐者兼贈り物保有者』だがまぁ負けん気の強い跳ねっ返りの新兵小僧だ……しっかり『教育』はしておいたが

 

佐藤氏にライバル意識を持ってはいるみたいだが少なくともこの場で佐藤氏に噛み付く様な真似はしない程度に教育済みだから大丈夫だろう……やったら一月は泣いたり笑ったり出来なくなるまでガチ教育だしな

 

まぁ、あいつも自分がやっているのは『単なる横恋慕』だとわかっているだろうし……何よりあいつの年齢だとロリコン以外の何物でもないだろうあれは。仮にももう成人だしなあいつ

 

……あの美貌と齢不相応のたわわにでも頭ヤられたかあいつ?

 

まぁ、あの容姿以外にも彼女の魅力は様々に挙げられるがそれは別の話だ、彼の事についてだが……

 

先ずは彼が書いた『足洗屋敷(仮)レポート』を読んでみたが……何気にちゃんとしたレポートだった。彼は他の『普通の足洗屋敷』についてはギルドが一般に流した情報以外はあまり知らないらしいが、それでも良く書けてはいた

 

あの最近発見された『最初から瑕疵カード』扱いのアレをちゃんとした型で活用する方法の発見は素晴らしいものだと思う……自衛官にはやり辛く難易度は高い手段だが

 

この情報はギルド発行月刊誌である『冒険月報』の特集に載る事が確定している……発見者である彼の名前と共に

 

この特集は『名付け派』のちょっとした福音になるだろうか?いや彼はまだ元燈無蕎麦だった足洗屋敷(仮)に名付けはしていなかった筈だ。ちゃんと大切にはしていたらしいが

 

そして夜の話だが、彼は自身の足洗屋敷(仮)を自身のエースであるエルフ……男とはいえまさか中学生の子供が持つ様な代物ではない、と我々にとってのお姫様たる『薬丸姫子』嬢の乳母みたいなシルキーの『菫』のハネムーンの場所として解放する準備をしていたな

 

……乱入してきた研究者連中に押されてそのプランは台無しにされてしまったけど、確か『三つ星資格持ちでリンク能力者』

 

我々としても佐藤氏のやる事には賛成してあげたいが……まぁある意味此処は研究者連中の言い分も正しい。そして『今は仕事中』だと佐藤氏やエルフの『剣』も即座に認めてくれたおかげで場は平和に収まった

 

俺的には『カードをちゃんと扱う冒険者』という存在には好感が持てる。どんなに『物扱い』だとしても、それでも『命懸けの場所に挑む』というのならばちゃんと最低限絶対に『その物を大切に整備する』のは自衛官として必要最低限の事だ。例え物……普段使いの備品でも自衛官ならちゃんと大切に手入れはやるし粗末に扱えば激しい修正が待っている

 

『物だから』と粗末に扱ったり、あまつさえ虐待する様な奴は自衛官的には論外にも程がある。確か『横浜モグラ』とかいう迷惑系ダンジョンチューバーみたいなカードに酷い無茶振りをして嘲笑う輩が居るらしいが……アレは無いとしか言えない。やはりダンジョンチューバーはREIKAか中華大帝に限るわ……そう言えば資料に『佐藤大輝は中華大帝の同門で弟弟子』ってあったな

 

中華大帝の弟弟子という事はあの名高い『メアリー塾』の門下生だったか、その中でも若手最高峰クラスの強者みたいだけど……うん、真面目にスカウトしたいものだ

 

……おっと話が逸れた。その次の日には彼の『特異体質』の調査と手札である手の目で名前は『定』の性能試験だった

 

先ずは彼の抱える厄介な特異体質である『女の子カードに対する重篤の属性不適合』についての調査だ、これは世界で最初かつ最年少記録で発見された『人型の男カードに対する重篤の属性不適合』持ちの薬丸姫子に次ぐ世界でも漸く二人目に該当する重篤かつ非常に広範囲の属性不適合症例である

 

研究者連中は『これで彼女との比較材料が出来た』だの『新しい研究対象が来た』だのとはしゃいでいるが……二人とも何とも難儀な特異体質を背負ったものだと真面目に思う

 

薬丸姫子の体質は……序盤が一番厄介だろう。何せ安く取り回しの良いオークは封印状態で女の子カードという奴はDランク程度では大概は高い癖に弱いから難儀である

 

一方の佐藤大輝だと……最序盤は良いだろう、基本的にDランクなら安くても使い勝手の良い奨学カードでだいたいどうにかなる。しかしCランク以降からはやたらと使い勝手の良い女の子カードが爆増する上にBランクだと最強格は女神が多い

 

二人とも最初から『覚悟完了』しているみたいだから大丈夫だろうけど

 

しかし……この研究とやらで研究者連中はいったい何をしようとしているのか?俺にわかるのは『この特異体質の治療法探し』ぐらいしか思いつかないが、まぁぐだぐだ考えてもわからないものはわからないだけだ。何時かは学者先生らが何かの発表でもしてくれるだろうさ

 

そしてやはり……佐藤氏は『例の特異体質』である事がわかった。報告前はまだ『辛うじて女の子カードの召喚は出来る状態』だったらしいが?

 

研究者連中が彼を囲んで問いただしている……いやお前ら少しは落ち着け

 

そしてその答えに研究者連中が盛大に興奮している。何でも……

 

1:彼の手の目に『名付け』をやると何故か『特異体質の深度?症状?が増して深刻化する』と告げられる

2:『だからどうした』と即名付け

3:そして本当に深刻化した

 

という三条書きになったらしい……いや思い切りが良すぎるだろ?それともやはりこれも『覚悟完了』しているからか?

 

『素質が殆ど無いから』と言って若い男がごく僅かでも残っている女の子カードとの縁を即座即決で切り捨てて強く優秀だがおっさんカードを手にするとかどういう精神していたらそんな選択肢を取れるんだ?

 

いや、彼には『最高の恋人』が側に居るからだろうな。ならば『他の女なぞ要らん』とその僅かな糸をかなぐり捨てる訳だわ

 

『佐藤大輝』という少年……いやあれは(おとこ)だな。しかもその判断でイレギュラーに対する強烈な戦力まで土壇場で獲得するとか彼は本当に『持っている』と思う。それに彼のデッキ編成は件のイレギュラーである『瓜子姫』に対するかなり強いメタになっている辺り本当に彼は強運みたいだ

 

……偶然だとは思うが、彼は『勘でイレギュラーを予想した』とかいう話もあるが、まぁ多分偶然だろう。もし本当なら彼が『ダンジョンマート重役子息』だろうが『メアリー塾の寵児』だろうが『ギルドのお気に入り』だろうが形振り構わず即座に勧誘する、絶対に、絶対に!、絶対に!!絶対にだ!!!

 

 

いや落ち着け荒ぶるな俺。民間人を無理矢理勧誘とか何処の独裁国家の話だオイ、自衛官として駄目過ぎるだろうそれは……

 

 

幾ら俺達があのイレギュラー(クソッタレ)どものせいで幾度も幾度も煮え湯を飲まされているにしても民間人の……しかも未成年の子供をあの地獄に無理矢理引き摺り込むとか無いわ。いくらこの間『浦島太郎』が出現して優秀な連中が老化し過ぎて引退してしまったとはいえ

 

 

Bランク迷宮攻略だってこなせる自衛隊のエースチームだったってのに……後輩だった重野とかまだ若かったのに

 

 

いやいや今から佐藤氏のリンク能力テストだ、未だ未熟らしいが彼相手に気は抜けないな。さて彼はどれだけ出来るだろうか?

 

 

……ふむ、普通の状態で『これ』なら『リンク能力有り』ではあるが流石に四つ星試験は無理だ、あの試験は三体リンクで50から60%は出せないと合格は出来ない。しかし冒険者歴半年未満でこれならあと一年以内には間違いなくプロ認定レベルのリンク能力に至るだろう。鍛錬をきちんとやればの話だが

 

未だ『初心者』の領域でしかないのには少しほっとした、流石に我々のお姫様(薬丸姫子)みたいな天才通り越して異常なレベルの鬼才ではなかったか。彼女の上達ぶりで才能だけはある跳ねっ返りの若造どもの何人かが心へし折られたりもしたが……後々全員彼女を口説こうとするアホ、いやロリコン?に変異したのは誤算過ぎたな

 

いや何度話が逸れるかな?とりあえず彼の基本的なリンク能力は分かった。『まだまだ未熟だが才能と伸び代は上々、五つ星を目指すに充分な素質がある』かな?願わくば自衛官に志願して欲しい逸材とも言いたい

 

そして今回のメインイベントである『定を装備してのリンク能力試験』だが……これは凄まじいな

 

一体だけなら55%程度には強化可能で本気でやれば短時間とはいえ80%はいけるか、それだけでも手の目としては規格外にも程があるのにまさか『多重シンクロ補助』さえ可能とは……見てくれ通りと言うか何と言うか?『名付け』さえされてなければ冗談抜きで何らかのCランクカードセットなりBランクカードなり何なら数億は出してでも強制買い取り対象待ったなしの逸品だなこの手の目は

 

自衛隊の手の目でも良くて単体を50%補助がせいぜいだと言うのに……いや、気概のある冒険者が扱うならばまぁ良好な結果だから良いだろう。其処らのエンジョイ勢や好事家連中のコレクションだとかよりは絶対にこの方が良い、最悪変なカルト宗教や違法研究所の手に渡る結末だってあり得るしな

 

何より……その手の目()を観ればだいたいわかる、彼は非常に幸せそうだ。自衛隊や研究施設の備品として過ごすより絶対に幸せなのは間違いないだろう

 

そして今夜は俺も泊まりなので佐藤氏の足洗屋敷(改)のお相伴に与る事になった……一度普通の足洗屋敷の飯を食った事はあるが米は焦げていたし魚も焼き加減がきつく漬物は塩気が強く感じて正直あまり期待はしていなかった

 

しかし……今日出された飯はざる蕎麦に夏野菜と海老の天麩羅、まぁいわゆる天ザルという奴だった。どうやら元である『燈無蕎麦』から能力を継承出来ていたらしい

 

『燈無蕎麦』と言えば……世界でも唯一の『Eランク空間系カード』であり、また『蕎麦に限れば究極の絶品』と有名なカードだ、何でもBランクの美食に纏わるカードですらこと蕎麦切りにかけてだけは燈無蕎麦に完敗したらしい

 

鼻腔をくすぐる蕎麦、そして鰹出汁と醤油の香り……啜れば程よい喉越しの蕎麦と蕎麦汁の程よく冷えた感触と味、味変の薬味は刻み葱と擦りおろした山葵……新鮮な夏野菜と海老の天麩羅を箸休めにすれば本当に天にも昇る様な心地に至る絶品のざる蕎麦だ

 

ふと気が付けば何度かのお代わりをしていた。この異空間の核である小狸が『腹八分にした方が良いポコよ』と止めてくれなければ限界まであの絶品ざる蕎麦を貪り食っていただろう……わんこ蕎麦でも無いのに反省反省

 

朝食は玄米飯に焼きめざし、豆腐と葱の味噌汁と白菜の漬け物といったまるで民宿の朝食の様なメニューだった……味はDランク空間系カードの中でも上位に入るチセコロカムイやヘドンホールハウスに迫る勢いで美味だった。下手な定食屋よりは間違いなく美味い

 

あの住居としては最低最悪な足洗屋敷も発見次第ではこうも変わるものなのか……やはり迷宮の世界は未だ未知だらけである

 

そして……今日は佐藤氏の戦闘能力テストだが、研究者連中は彼に適当に選んだ瑕疵無し通常品質の奨学カードを三枚ばかり渡して幾つかの制限を与えていた

 

1:テスト中はこのカードらと定、そして探索役と護衛役のカードだけで戦う

2:探索役、護衛役はEランク階層ではなるべく手出し禁止、Dランク階層なら合流許可

3:装備魔道具は無銘シリーズまでかつ定のみ

 

そして我々自衛官チームは万が一に備えた護衛兼記録係かつアイテム回収役だ……拾った魔道具や魔石、カードから佐藤氏への『今回の報酬』を出す事になっている。だいたい三割其処らだろうか?

 

もしも報酬に不満があるなら『シークレットダンジョン入場無料回数券』だの『カード化無料チケット』だのに代わるはずだ……多分、今の地点でも多少のサービスや下心込みで何枚かは追加報酬で与えられる筈だが

 

一応、この場所はシークレットダンジョンだ。普通なら民間人が入るにはプロ資格が必要であり、出たアイテムは全て没収されるルールになっている。今回は佐藤氏を『是が非でも』と招いての依頼だからこういう塩梅となった

 

本当なら『戦利品はそれを得た冒険者の物』というのが道理だが自衛隊にはその正論を果たす余裕なぞ無い。普通なら何枚かの『入場無料回数券』や『カード化チケット』でお茶を濁すだろうが……まぁ今回は『撒き餌』だとお偉いさん方を宥めすかしておいた。多少は好印象を持ってくれるとありがたいが

 

自衛官の様に酷い薄給……冒険者に比べれば酷過ぎる薄給なのは間違いないだろう、に突き合わせるのは酷い話だが自衛隊も人員人材で常にピィピィ言っているのは確かなんだ。最低限でも彼にはプロになって貰ってBとは言わないからせめてCランク迷宮の掃除をやって欲しい処だ

 

勿論、Bランク迷宮の攻略は一番ありがたい事だし……もしかしたらAランク迷宮の攻略すら彼なら可能性があるかも知れない

 

まぁ、そんな遠い未来だろう夢物語はともかく。彼が手の目を装備する……何時見ても気味の悪い装備化だ、眼球が皮に消えてまるで眼の辺りだけがのっぺら坊みたいに見える

 

しかもあの状態になると視界は殆ど無いと来た、なのにあの状態で普通に戦う……どころかイレギュラーとガチの殺し合いまでやらかしたというのだから凄まじい話だ

 

あの手の目の能力を聞いていても正気を疑う話だが……実は『それ』こそがあの状況下で一番マシな判断だったのだからまた恐ろしい話である

 

彼は……視界を喪っているとは思えない威風堂々とした動きで悠然とニ振りの打刀たる無銘の名刀を持ち、その鞘を自身のエースであるエルフの偉丈夫に託す

 

そして既に召喚していた貸与カード達に軽い『テレパス会話』を行いその結果を試す……どうやらライラプスだけは適応出来た様だ

 

ちゃんとカード達を使い捨てにせずに彼なりの方法ではあるが大切にしている……やはり彼は自衛隊(うち)に欲しいものだ

 

さて……彼は今から動く様だが、先ずはどう行動するかお手並み拝見と行こうか?

 

 

 

次回に続く

 

 

【Tips】世界の軍隊

 

1999年から始まった『大迷宮時代』以降の世界で『軍隊』という存在の意義は大きく変化し、そしてその重要性は非常に高まった

 

『迷宮という異界から現れる神代の怪物に挑む現代の戦士』、『色々な意味で真の聖職者』とも呼ばれる程の彼らの献身挺身とその犠牲によって人類は『カード』という迷宮に挑む為の手段を得るまで……そしてそれを得てからも彼らは己の国、いやこの世界を守護する誉れ高き戦士となった

 

しかし……やはり『正義や誉れだけでは飯は食えない』という現実もあってそのシェアは年々冒険者に取られて各国の軍部は人材人員不足に喘いでいるのが世界各国の実情になっている

 

一応は『軍隊だから出来る特権』や『特殊な技能講習』などで人員を集めて、除隊後に使用していたカードの払い下げなどの工夫で人員確保に奔走してはいる……その方法で入隊した奴は必ず後で冒険者に転向するがまぁ優秀な冒険者が増えれば国防に良いのでその辺りはなぁなぁで済まされている様だ。国家的には『優秀な冒険者』も喉から手が出るほど欲しい、という実情もある

 

しかし……カードの存在を知る前から大して効かない銃器弾薬を担いで国民を護る為に大いなる災い相手でも命をかけて戦ったのは彼らである。故にこの世界では『最前線の軍人=真の聖職者』である



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一章幕間その13 妖刀、その銘は『定』

ようやくこいつのクラスチェンジ、そして何体かの名付けの時間です


 

例の試験の為に大輝/定は……先ずはオーク二体を前面に出して最前衛とし、制約で支援しか出来ない剣を後衛に、一応『罠探知と解除役』としてなら自衛は許されている蔵はその役目に専念させ、大輝/定とテレパスが出来るライラプスは遊撃というポジションだ。乗り心地は悪いがライラプスには乗ろうと思えば乗れるのでライラプスには『脚役』も勤めて貰う

 

そしてこの古城型迷宮だが……まぁ前回と違って夕方みたいだが陽がある環境なのでアンデッドの類はあまり出ない仕様になっている。出るのはコボルトみたいな獣人型やロックゴーレムやリビングウェポンみたいな無機物系が多いの環境の様だ

 

基本的に無機物系統は幸いにもどちらも鈍器持ちであるオークらに任せ、獣人系統は大輝/定とライラプスが担当する……しかしそれでも大輝チームが無機物系統とやり合う必要は必ず出てくる。そんな時はライラプスを庇いながらロックゴーレムやリビングウェポンの『核』を狙って刃を一閃する

 

確かに普通にやり合うよりも刀の負担は減る……しかしそれでもやはり岩や鉄を刃物で相手どるのはキツいものがある。その日の試験を終えた後に良く見れば無銘の名刀は刃毀れが目立つ有り様だったし納刀にもやや『つっかえ』が出来ていたぐらいだ

 

定の剣には納刀が重要であるから悲しい話だ

 

しかし……それでもまだちゃんと整備し直せば直る範囲の損傷であるなら上出来も上出来だ。『それ』を理解しているらしい監視役の隊長さんもその過程と成果を興味深げに眺めていたし

 

普通ならこの環境で刀何ぞつかえば下手な奴でなくとも大概は刀を折るのが普通で良くて再起不能な刃毀れを作ってしまうのがオチだ。ちゃんと再起可能な損傷で済ませられるなら上出来だ

 

こういう時は普通なら鈍器系統を使うのが定石である。自衛隊でもメアリー塾でもそう教えている程に定石だ

 

この場で大輝の手持ち最強の武器型魔道具である『虎徹』だったらその『下手な奴』でも刀身に疵罅なくゴーレムもリビングウェポンもまるでバターでも切るかの様に楽々切り捨て御免出来るだろうが……それでは『虎徹試し』にしかならないだろう

 

大輝達の目的は『定の性能試験』である

 

さて、その結果だが……Eランク階層間引きは大成功に終わった。Eランク階層ぐらいならばちゃんと奨学とはいえDランクを三枚揃え、初級魔法のサポートに罠対策を確り行えば普通なら楽勝だ

 

しかも大輝は『イレギュラー討伐実績持ち』で『リンク能力者』だ、この程度の縛りなら普通にやれる

 

そして……それはDランク階層でも顕著に現れた。それはそうだろう、特にC+ランクの代表格であるエルフの剣を解禁すればそうなる

 

ついでに無銘の名刀も自衛官の一人の手持ちであるドワーフがあっという間に全て直してくれたからそちらも問題ない

 

このDランク階層が終わる頃にはオーク達もテレパスをどうにか受け入れてくれる程度には慣れてくれたし、ライラプスはリンク接続を受け入れる程には慣れてくれた

 

大輝もライラプスは頼めば売ってくれるだろうか?と真面目に考慮する程だ……ついでにオーク達も三軍枠でもやるなら考慮するのも良いかも知れない。特にライラプスは『かなり好感触で相性が良い』と感じるし

 

ライラプス二号とオーク三号&四号の雇用はさておき……空いた時間もあったのと自衛官達のご厚意で迷宮ボス討伐も出来た

 

……今回はオーガだった。カードにもならず皮を剥ぐ見どころも無い非常にしょっぱいボスだった、ランダムボスとはいえこれはガッカリである。『一騎討ちならば』と『試し斬りに丁度良い木偶が出た』からと解禁された虎徹装備の大輝/定単騎で容易く膾に出来たぐらいだし

 

少なくともイレギュラーが来るよりはよっぽど良い話ではあるのだが、それでもガッカリはガッカリだ。その切れ味と納刀具合の良さに気を良くしたからか、虎徹を持つ際のお約束としてオーガの血を一反木綿が出してくれた木綿布の端切れで拭う時に

 

 

「今宵の虎徹は血に飢えておったわ」

 

 

とかやったりもした、ついでに攻略ガッカリ箱も普通にしょっぱい代物だった

 

そして当日のリザルトだが……

 

 

カード

ボアオーク

オーク三枚

アイアンゴーレム二枚

ブロンズスタチュー

リビングアーマー二枚

グーラー

リビングウェポン十二枚

ハイコボルト八枚

他Eランク有象無象

 

アイテム

金のガッカリ箱十六個から

宝籤一セット

白紙のカード二セット

宝箱一つ

無銘の名剣二本

無銘の名槍

保護のブーツ

封印の札二枚

魔力の粉塵二袋

籐籠の飯入れ

河童の妙薬

宝しゃもじ

ハイポーション(攻略ガッカリ箱より)

 

換金アイテム

金色のガッカリ箱から出た財宝五百万円分

カーバンクルガーネット十六粒

魔石三百万円分

 

 

……なんだか凄い事になった、自衛隊側の取り分は封印の札と魔力の粉塵に白紙のカード、それとカーバンクルガーネット半分で良いらしい。御禁制品である白紙のカードや自衛隊の重要な資金源であるカーバンクルガーネット以外の二つは自衛隊でも常に深刻な供給不足だから非常に助かったらしい

 

ちなみに自衛官達の言葉によると。今日の収穫はかなり、いやまず滅多に無いぐらい良い分類だとか……普段ならポーションや大した事のない魔道具や換金アイテム辺りで無銘シリーズが出れば『割りとアタリ』扱いらしい。彼らは金色とはいえガッカリ箱から白紙のカードやら封印の札だの魔力の粉塵だのなど見た事などそうそう無いと口を揃えて言っていた

 

ついでに言うならDランクカードの獲得率も中々高いと言える、人気カードのボアオークやリビングアーマーといった所謂『アタリ』なカードを引き易い運にもまた注目している

 

大輝が居るなら……何時かはBランク迷宮で優秀なBランクカードの乱獲もいけるかも知れない。出来るならアテナや斉天大聖みたいなAランク攻略には必須なカードをガンガン入手出来るかも知れない

 

隊長辺りはそんな欲を内心に抱きながら大輝の収穫品を適当な頭陀袋にいれてそれを見ていた

 

大輝とは絶対に友好的に接するべきだろう、少なくとも彼ならば何時かは五つ星に至れるだろうし少なくとも余程の事が無い限り四つ星は確実だ。自衛隊に入隊してくれなくても自衛隊に割と友好的で話のわかる人財……間違いなく人財は重要極まりない

 

もしかしたら……今回の様なちょっとした『幸運のお裾分け』だってあり得るだろう。魔力の粉塵や封印の札は非常に貴重で支給は滅多に無い、むしろ現地調達がメイン……いやむしろAランク攻略組の為に供出する必要さえある有り様だ

 

今回の札も粉塵も即座に供出する必要がある。もしかすればこの供出分のおかげでAランク迷宮攻略の糸口が繋がる可能性だって僅かながら向上するかも知れないし

 

自衛隊は常にカツカツなのだ……一見Bランクを激しく消耗し、Cランクなぞ湯水の様に使い潰している様に見えてもだ

 

そんな自衛隊の困窮具合はともかく……三日目はこれで終わり、次の日は漸く手の目()をクラスチェンジ出来る日が来る。定からは非常に好感触ではあるが……さて、この結末はどう転ぶかはわからない

 

なので今日は定にたらふく酒と飯を与えて英気を養わせる事にした……それとついでに大輝がこの前手に入れたエンプーサを姫子に与えてそのエンプーサに定の『お世話』も姫子経由で依頼しておく

 

明日には刀になるので下手をすれば食欲とか消えたりしそうなので……まぁ今のうちにドンチャン騒ぎでもさせておく事にした。ドサクサ紛れで姫子も戦力強化……いや、残念ながらそこまで姫子と相性の良いカードでは無かった。一応二軍枠には入れられる範囲ではあるので予備戦力強化にはなるだろう

 

まぁ……何時か相性の良いカードか姫子向きの魔道具辺りとトレードするのもアリだから無駄にはならないだろう。なんだかんだで一応はちゃんと使えるカードであった事は幸いだ

 

後に聞いた姫子付きの自衛官達の話だと姫子は夢魔の類いとの相性はあまり良くは無いらしい……あのエンプーサはむしろ夢魔系統としては相性が非常に良い部類だと言っていた

 

被験者としての協力で判明した話らしい

 

この間のデュラハンの件や今回のエンプーサの件から見ても分かる通り、如何に姫子がリンクの才能才覚が天才鬼才と言えど『カードとの相性』だけはどうにもならないものだ

 

一応は『後天属性』ならば長い努力で変更は出来るだろうが非効率的極まりないもの……ごく稀に『全てのカードと平等に相性が良い』という性質を持った冒険者も居るらしいがあれはあれで大変らしい。使用するカードの属性を均一にしないと属性が偏ってその性質を失い易いらしいと聞いた事がある

 

その事情から鑑みるにある意味大輝や姫子みたいに属性が非常に偏っているタイプの方が楽なのだろう。鍛えるべき箇所が判り易いし

 

それでも……適合属性だからと言っても『相性の良いカードであるとは限らない』ので相性適合するカードは希少なのである。一部の『解っている冒険者』達は初期で見つけた『相性の良い鍛えたカード』をわざわざクラスチェンジしたりして強化を繰り返しているのだ

 

一般的な冒険者……所謂エンジョイ勢やデュエリストと呼ばれる者達、いやカードを『資産』としてのみ認識する者らはそれを非効率的だと言うが、それは完全に『見解の違い』という物だろう

 

問題があるとすれば……社会的に知名度の高いデュエリストがクラスチェンジや名付けに否定的な意見を出しまくるせいで一般的にクラスチェンジや名付けへの風評被害が激しい事になっている辺りだろうか?

 

『カードは資産』というのが一般的な認識ではあるし、カードの購入には冒険者になる為の最低限費用であるDランクの奨学用でも新品の軽自動車並みの購入費用が掛かるからそういう認識も当たり前だろう

 

クラスチェンジで嘗てのカードが持っている戦闘力や技能の引き継ぎがされるかどうかは殆どギャンブルみたいなものだからそういう評価や風評も『仕方ない』の一言で済むのもあるからだろうか?

 

クラスチェンジによる強化はそれ以上……いや、その程度の費用すら『必要経費』だと認識出来る修羅や豪の者専用のコンテンツだと言える。こういう背景があるから大概の冒険者がマイナーチェンジを知らないのも無理はない話だろう

 

そのリスクを許容してでもカード達が獲得した経験や視野は確保する為にクラスチェンジは行われる。その経験や視野は正に値千金だからだ

 

まぁクラスチェンジを躊躇なく出来る所謂ガチ勢やプロフェッサーみたいな者達は良くも悪くも『我が道を往く』タイプばかりなのであまり他者の言葉なぞ気にする者はあまり居ないからその問題は表面化しないのだが

 

やはりクラスチェンジはある意味非常にリスキーなギャンブルだという理由もあるから仕方ないと割り切っているのも理由だろうか?一般人からすれば大金をドブに捨てる様な行為に見える故致し方ない話である

 

 

閑話休題(それはさておき)

 

 

兎に角今は定の新しい船出(クラスチェンジ)の為に行われている宴席……『定の外見のモデル』のファンは何気に多かったらしく何気に十数人の中高年自衛官達が大輝の足洗屋敷に押し寄せて来たのは予想外だった……何気に将官クラスの姿さえ有るし

 

まぁ、隣で美女(エンプーサ)がお酌してくれているからか定はご機嫌だから良いだろう。そもそも定自身も大飯食らいかつ酒好き女好き博打好きなお祭り野朗であるからこういうドンチャン騒ぎは大好きなのだ

 

その定の主である大輝は……逆にこういうドンチャン騒ぎは苦手であるがそもそもどんなに形は鋼の如くゴツい筋肉モリモリの益荒男でも彼はまだ中学生の少年であり酒が飛び交うキャバクラ紛いの宴席なぞに出る事自体が問題過ぎる。他の参加者らも手持ち夢魔系統召喚しだしたし

 

流石に酒と憧れでテンションが暴走している中高年達でも大輝がこの場に居合わせる事の不味さを理解するだけの常識や理性は存在する……それに彼らの『目的』はその場にいるので概ね問題はない。元より定は既に『名付け済み』だから譲渡交渉なぞ最初から不可能であるし

 

むしろ今来た彼らは大輝については『女の子カードをかなぐり捨ててでも定に実戦的な意味で目をつけて大切にする性根と気概』を以て彼に敬意を払っているのでこの場で定との交流の機会をくれた事に感謝しか無いぐらいだ……それに彼らは大輝は『Eランク非戦闘用装備カードでDランク相応イレギュラーと殺り合える豪傑』である事も高く評価している

 

そして当の大輝は……

 

 

「にーさま、お加減はどうですか?」

 

「あぁ、最高だね」

 

 

近くの自衛官の一人が保有するマヨヒガ(通常)の一室の縁側で浴衣姿の姫子に膝枕をされながら耳かきをして貰っていた

 

昨日の様に薄暗い足洗屋敷で大輝自身にもたれかかって午睡する姫子を眺めながら夕涼み気分を味わうのも風流ではあるが、今日は昨日より明るいマヨヒガの中なので姫子のふとももの感触を愉しみながら耳かきをして貰う……それもまた風流で良いものだ

 

お互いの手札には何気に酒好きが多いのであの宴席に出して只酒を楽しませているから今は二人きりだ……他人の保有する異空間カードの内部だから変ないちゃつきは最初から一切する気は無い、道徳倫理的に考えて。それに今は休憩中とはいえ依頼中だ

 

縁側の土間に置いた氷とラムネ瓶らと麦茶入りの薬缶に満たされた金タライの氷が溶けて瓶と薬缶を揺らす音が小さく響く

 

 

「あっ、大きいのがとれましたよ?」

 

 

遠くの客人やカードらの宴席から聞こえる歓声と小さくとも美しくはっきりと響く姫子のキャンディーボイス。その音を子守唄にモンスターハウス状態と、夏休み中からイレギュラー撃破や二つ星三つ星獲得に至る『生き急いでいる』と言われても反論出来ない度重なる過酷な連戦に次ぐ連戦の疲労からかそろそろ優しい眠気がやって来る……

 

一応最後まで気合いで眠らない様にはして、耳かきが済めば姫子の膝を解放して即座に深い眠りに落ちた事までは覚えている

 

 

『浴衣姿の姫子のうなじ、ふともも、谷間……最高だったな』

 

 

その気合いは煩悩由来だった。中学生だしね仕方ないね

 

 

そして次の日……

 

大輝の足洗屋敷は死屍累々の地獄絵図と化していた

 

酔っ払いの群れが二日酔いで悶え苦しんでいる中でけろりと連中を介抱する大輝&姫子のカード達

 

足洗屋敷の『核』である小狸が大量に蜆の味噌汁を作り二日酔いどもに飲ませておく、古来より二日酔いにはこれだ

 

まぁ二日酔い程度ならローポーションでも飲めば一発で完治するが、足洗屋敷の厚意を優先して味噌汁をしっかり平らげてから飲んだらしい

 

足洗屋敷は掃除と酒気抜きの為に暫くは放置……客達が足洗屋敷にチップ代わりに魔石を積んでいたがその魔石は大輝が足洗屋敷そのものに与え、そして大輝はこの足洗屋敷に『名付け』を行なってもいた

 

 

(うたげ)

 

 

これよりこの足洗屋敷は『宴』という名前を得た訳だ

 

後は老婆型キキーモラとやまらのおろち、そしてやまらのおろちの『妻』であるいやみの名前だが……今その名前を決めたので三体を喚び出して名前を与える。キキーモラの方は最初から酔っ払いの介抱を任せる為に召喚済みだったから呼ぶだろうか?

 

 

キキーモラには『(きよ)

 

やまらのおろちには『(はがね)

 

いやみには『(たま)

 

 

ずっと彼らに相応しい名前を考えていたが……漸く『すとん』と納得出来る名前を見つける事が出来た。一つの胸のつかえが取れた気分だった、それに彼らの反応も悪くない

 

いやみとはまだ縁浅いが……生涯ちゃんとあのやまらのおろちを使いその行く末に責任を負う事への意思表示として敢えて名付けを行う

 

何気に二体合わせて『玉鋼』……日本刀を作る為の砂鉄を意味する。彼らは既に一心同体とも言える存在故にそう『名付け』する事にした。ちなみに逆だと『鋼玉』、ルビーやサファイアに非常に近い鉱石の『コランダム』になる。ダイヤモンドに準ずる程に硬い石だ

 

そして足洗屋敷に宴と命名した理由だが……あの宴席のドンチャン騒ぎを殆どメインで捌ききった実績を見て思い立ったのが命名理由だ

 

キキーモラに清は、キキーモラはお掃除妖精の一種であり、その有り様を思い返す為だ……何より、これから予定しているクラスチェンジ先はかなり凶悪なカードなのでその凶暴性に飲まれない事を祈る意図もある

 

やまらのおろちに鋼は……あの忌まわしき『瓜子姫』との死闘の際の印象から付けた。まるで鋼の如く雄々しくあの腐ったバケモノどもを蹴散らす様からだ

 

いやみに玉は……鋼を磨く玉であり、またある種の『隠し玉』とも言える運用法が彼にはあるからだ。彼の特性は大輝の抱える厄介な体質へのささやかな対処になるだろう

 

その様を背後からこっそり覗き、直ちに用意出来る撮影機材で撮影していた研究者達……二日酔いを気合いで堪えながらそれらをこなす様は正に研究者魂の賜物だろうか?

 

名付け終了してカードを再確認しようとした時にはその研究者達が我先に押し寄せカードを見せる羽目に陥ったのはまぁ余談だろう

 

そして……今日で『手の目としての定』とはお別れだ。多分クラスチェンジで『リンクチューニング能力』は喪失するだろう、しかし大輝もいつまでも歩行器を使って歩く練習とはいかない。これからは自力で歩いて自力で走る必要があるのだから

 

……この前のイレギュラー戦では『その歩行器でイレギュラーをタコ殴り』みたいな暴挙に出たのもあるし

 

定は……これから行う事の為か近くにあった茶を飲みながら静かに握り飯を平らげている。定は出会った頃からひたすら大飯食らいの酒好きだったな、と定とのまだ短い筈なのにひたすら長い時間共に過ごし鉄火場を駆け抜け続けていた様な気さえする

 

その定の隣で虎徹を肩にかけて静かにクラスチェンジの時を待つ……まぁその時間は既にもう十分すら無いが

 

周囲が撮影機材や観測機器の最終調整が佳境に入る頃、大輝と定は二人静かに舞台(実験場)へと向かう

 

既に合意は果たした。だから言葉はいらない

 

 

さて、その実験場……御大層な言葉だが単なる安全地帯の広場に撮影機材や観測機器を置いただけの場所だ、の中央に大輝と定は立っていた

 

観客は研究者達を中心に『定のモデル』のファン達と手空きの自衛官達に姫子だ

 

そして大輝は何時もの、既に『愛用の』と言って良いカードホルダーから例のカードを抜いて研究者達に見せる

 

『贋作妖刀』

 

新しく定になるカードだ。多少ばかしピーキーなカードではあるが非常に攻撃的かつ実戦的な良いカードである

 

今まで実際に召喚はしていないのでどんな性格かなどは分からないが、まぁその辺はどうでも良い。人格は今から定になるだけだ

 

 

「定、準備は良いな?」

 

『応』

 

 

短いやりとりから一拍で大輝は定と件のカードを合わせて『クラスチェンジ』を行う。普通なら成立しない筈のクラスチェンジはちゃんと成立した事を示す光となり二枚のカードは一枚になった

 

そしてそのカードはご覧の有り様だ

 

 

【種族】贋作妖刀/仕込み杖(定)

【戦闘力】200(50UP!)

【先天技能】

・贋作村正:一応は『村正』と銘打たれてはいるが倒幕の意を込めた徳川幕府に不満や復讐心を抱く者……特に維新志士の弦担ぎによって生まれた贋作妖刀の幾多ある一振り

初等クラスの装備化スキルと浮遊を内包する、支持肢が無いので物を持ったりなどは基本的に出来ない……が、幻影体生成能力で支持肢喪失は解除済み

『心眼和尚』の効果で仕込み杖化している

・倒幕妄執:幕府に不平不満や復讐心を持つ者達の怨念怨嗟が概念的に染み込んでいる、しかし所詮は贋作なのでそこまで強い力は無いその性質からか器物系統としては強い自我を持つ

無下に扱うと反逆系マイナス技能に目覚め易い

剣術、武術を内包する(盲剣術に統合済み)

・贋作模倣:所詮は村正の贋作に過ぎない無銘刀ではあるが、それが故に模倣もそれなりには出来る

『日本刀型魔道具』ならば取り込んでその能力を自身の能力として扱える様になる。この能力を使えば『物品憑依型』として扱えるが代わりに武器型魔道具の装備スロットを消費した状態になる

その取り込んだ日本刀型魔道具が壊れたら元の刀身に戻りその日本刀型魔道具は消滅する。擬似的ではあるがその日本刀型魔道具を身代わりにする能力とも言える

要はジェネリック付喪神みたいな能力であるが、取り込んだ魔道具の再生能力は無い。しかし通常の武器型魔道具と同じ様な修繕は可能

【後天技能】

・心眼和尚:詳細不明、要検証。しかし『手の目』としての感知能力を継承している事だけは確かな様だ

保有する装備化スキルを一段階向上させるが『常に盲目』の制約が付与される、要は『装備化スキルに呪い属性を付与する』という事だろう。装備化能力が高等クラスになった際にどうなるかはデータ不足につき不明

装備化能力を『盲剣術』に適した形状に適応させてくれる

『幻影体』を造る能力を保有している

座頭/検校位、心眼、風が吹けば桶屋が儲かる、盲剣術、神通力/初級を内包する

・二刀流:本来ならば『武具型魔道具は一つしか装備出来ない』というルールを緩和する技能

『片手用武具』に限り二つまで装備可能であり、その装備の中でも戦闘力の低い方の戦闘力を半分追加出来る様になる

・気合一閃:気力や魔力を消費する代わりに次の一撃の威力が跳ね上がる。剣、刀状の武具を装備していないと使用出来ず、発動させればその武具の耐久性が大幅に低下する

 

 

……後天技能が中々にシェイプアップされてはいるが、非常に強力になって帰って来た様だ

 

『手の目』としての能力も引き継いでいるみたいなので後で要検証だ……夏休みもあとほんの僅かだが、まぁ少なくともそれまでには必ず帰る心算ではある

 

しかし……この新たな『贋作妖刀』だが、その型は正に仕込み杖だ。直刀造りで鞘を含めて三尺三寸、刀身はだいたい二尺ばかしだが何気にずしりと重い。刃紋は仮にも『村正』だからか直刃の駆け出し刃といった造りの朱鞘になっている

 

これは『一番出来の良い座頭市リメイク』みたいな造りになっている様だ……今はまだ『贋作妖刀』だからだろうか?それとも『未だ未熟だから』だろうか?

 

大輝はその贋作妖刀()を持ち、その刀身を天に翳して『定の再誕』を無言で祝う。今はまだ『幻影体』の事を知らないから酒でもかけたら喜ぶだろうか?とか考えながら

 

 

 

【Tips】変異型クラスチェンジ

 

普通のクラスチェンジでは不可能な珍しいクラスチェンジの事。一般的には『オークはエルフにクラスチェンジ可能』辺りだろうか?一応判明はしている変異型クラスチェンジではあるが『オークは堕落零落したエルフ』であり、『堕天使が天使に戻るのは非常に難しい』事からも分かる様に普通はエルフをクラスチェンジ先には出来ない……筈だった

 

しかし、ごく稀に成長次第で『シェイプアップに成功したオーク』などがエルフに回帰出来る事が判明している……実は世界的にもかなり類例の無い話ではあるが

 

普通ならオーガやグレンデルみたいな比較的安いCランクカードでクラスチェンジするのだが、高級志向のカマプアアや天蓬元帥かシーオークみたいなクラスチェンジになる

 

基本的に『特異な性質を持った鍛えに鍛えて愛情を注がれたカード』にこそ起きる一種の奇跡扱いの現象である

 

この現象については今尚解明されている事は少ない。比較的見られる『堕天使を天使にクラスチェンジ』や『オークをエルフに回帰』ですら資料の少なさから解明は難しいらしい

 

今回の『手の目が贋作妖刀になる』のもやはり激しいレアケースなので研究者達は大はしゃぎのお祭り騒ぎ沙汰になっている




久しぶりに難産でした。皆様待たせて申し訳ない

キマリスマロ……うちと同じくリア充の道を往けると良いが……マロ、リア充の道は良いぞ(サムズアップ)


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一章幕間その14 ぎゃんぶらぁ嫁中心派


ifマロパワーでエネルギー充填

割とifマロはうちの大輝と似た者同士かもしれん……大輝のデッキは女っ気皆無の魁! 男塾状態だけどな


 

さて……定が『贋作妖刀』に生まれ変わってから即座に大輝は研究者連中に胴上げ担ぎで、まるで蟻が収穫物を巣にでも運ぶかの様に攫われての研究対象ライフが再開した

 

簡易的な健康診断から定を振るう所座を確認されたり装備化しての素振りや居合いの所座確認、出せる様になった『幻影体』の仕様確認までまるで真っ裸にひん剥いて穴という穴を調べ尽くすカンカン踊りか何かの様な気分になる様な、いっそ拷問か何かみたいな激しい検査地獄だった

 

そして……そのねちっこい迄の調査で分かった事だが

 

 

1:『リンクチューニング能力』は喪失しているが、代わりに『宝探し能力』がこの迷宮の一階層程度には増強していた。これで標準的な『宝探し能力』の平均値だろう

2:手の目だった頃の様に眼球が消失したりはしないがやはり装備化すれば盲目になるのは変わらない

3:視覚以外の感覚は前より更に鋭敏かつ繊細なものになり、様々な耐性も補強されている感覚がする

4:『本体』である仕込み杖は非常に大輝の手に馴染む造り……いや、むしろ『佐藤大輝専用』だと言って良い代物になっていた

大輝か大輝のカード以外の誰かが柄を握っても重心が非常に悪く感じる様だ

5:定の感覚からの情報だが『手の目としての能力』は『リンクチューニング』以外はどうやら全て残っているらしい。あの非常に扱い辛く大輝自身も殆ど忘れていた『手の目啜り』も

6:『幻影体』の定は今までの定と殆ど変化は無いが……眼球が眼窩にちゃんと存在している。『例の大俳優』にそっくりな瞳だった

7:『幻影体』は本体からだいたい十米は離れられない様でそれ以上離れれば幻影体の方が消失する様だ

8:幻影体は装備化能力を使用中には出せないが、本体を振るって戦えるし実体化だって出来る

実体化して『色々な遊び』だって出来るので定的には非常に喜ばしいらしい

 

 

今すぐ分かった情報はこんなものだろう。そして今度は『装備化能力』を試してみる事になる

 

安全地帯から少し出ればFランクモンスターが犇くモンスターハウス状態ではあるが、今回もやはり昨日と同じ場所で昨日と同じ……いや、支給されたカード達は成長しているから『全て同じ』という訳でも無いが、まぁだいたいは同じ条件だと言って良いだろう

 

今回は『素の状態の定』との装備化による検証から『無銘の名刀』を取り込んだ状態の検証、そして後はEからD、そしてボス部屋と昨日と同じ工程を繰り返す

 

昨日は昼下がり辺りでボスを攻略したのでその時間辺りからボス討伐となる。それまではモンスターの間引きに専念だ

 

 

大輝は……今定を逆手に持って昨日と同じ様にストーンゴーレムを一刀で切り捨てながら考える

 

 

『切れ味だけじゃない、湧き出す力も疾さも身体のキレも反応も何もかもが段違いだ。まるで今までは重りでも付けて動いていた様な気分になるぐらいに』

 

 

そう、本来の地力がクラスチェンジで劇的に向上し、定自身も純粋な戦闘には余計なリソース(リンクチューニング)を削除して戦闘にそのリソースを注ぎ直した結果だろうか?今までとは比べ物にならないほど身体が動き力が漲る

 

やはり眼は見えないが、それでも感じて『視える』世界は非常に鮮明かつ鮮やかに感じられる

 

前回を今と比較して例えるならばまるでガタの来たブラウン菅テレビを見ている様な気分だったが、今はそれから新しく新調した最新型テレビに変えた気分である……流石に色とかはわからないモノクロではあるが

 

通常の視界が欲しければ他のカード達の視界を借りれば解決はする……ガチ戦闘中にはやる暇は無い。今みたいな雑魚散らしならそのまま切り捨て御免で解決だ

 

 

『ふむ……、昨日みたいに無銘の名刀が負けてない。この新しい身体は絶好調みたいで何よりだ』

 

 

定から見てもこの身体は今までより圧倒的に良いものの様だ。例えるならば今までだと身体中に鉛か何かが詰め込まれたか何かで、現状はその鉛を抜いてちゃんと身体を治した様なものだろうか?

 

今は大輝と直でリンクからのシンクロ状態ではある……しかし、歩行器(リンクチューニング)という甘えを捨てる覚悟が影響したのか、今までは自力では単独シンクロしか出来なかったのに今なら追加で一体は出来そうな気さえする。ついでに言えばシンクロも割合が幾らか増している様にも感じる

 

仕込み杖()と無銘の名刀の二刀流でこうだから定に研究チームから支給された一振りの無銘の名刀を取り込ませればまた話は変わってくる

 

『贋作妖刀』というカードは『憑依型』であると同時に『物品憑依型』としての性質も存在する……様に見えて『心眼和尚』の効果で完全に『呪い型』だが。憑依型同士で同じ対象に装備化は出来ないが呪い型と憑依型ならば同時に装備化が可能となる……他の『物品憑依型』や『祝福型』という更に稀少な装備化能力持ちを合わせれば倍率ドンといけるがそれはまだ考えなくても良いだろう。そもそも『祝福型』なぞそうそう入手できる様な代物ではない

 

大輝の場合は定を持って腹に一反木綿を巻いた任侠スタイルになれば高速移動したり飛行したりしながら戦えるだろう……昨日入手したリビングアーマーを試してみるのも有りかも知れないが一反木綿みたいな戦闘以外の一芸特化型の方が良いとは思う

 

マスターの方……と言うよりは贋作妖刀の方に憑依するシステムだからそのままやれば多少の戦闘力付与程度にしかならないだろうが、そこはテレパスさえ出来れば最低限でも機動力の足しにはなるだろう

 

後で実験する必要があるが、今は兎に角怪物狩りからだ

 

 

昨日よりも圧倒的に早く『掃除』を済ませる事に成功した……刀は両方とも罅も刃毀れも疵痕も一切無い綺麗なものだしカードらも大輝自身も大した疲労はない

 

そして最後はボス部屋……今の編成をちゃんと確認するなら

 

定:カーバンクルを大量に仕留めたおかげかあっさり戦闘力はMAX化している。ついでに実験は終わったので今は『虎徹』を取り込ませている状態だ。無銘の名刀は一振り大輝が腰に履いている

剣:三つ星試験やDランク階層のカーバンクル乱取りでやはり戦闘力MAX化済み。無銘の名剣装備済み

蔵:それなり以上に前線に出ているからやはり戦闘力MAX状態、俊敏の銅剣装備中

ライラプス二号:今なら大輝のシンクロにも耐えられる逸材。何気に従順で気配察知にも目覚めた優秀な個体。戦闘力+40

オーク三号:嘗ての剣と同じ様な粗末な服を着て片手持ちの戦鎚(メイス)と粗末な造りだが頑丈そうではある木盾持ち。ちゃんと武装している辺りから見て中々優秀そうな個体、知性も高く大輝に好印象を抱いている様にも見える、もう少しすれば『シンクロ』もいけそう。戦闘力+30

オーク四号:褌一丁に釘打ち棍棒姿の非常に普通なオーク。従順持ちな辺りはポイント高い。戦闘力+25

 

 

とりあえず現状はこんなパーティー編成になる。テレパスなら今のDランク迷宮の制限である六体程度なら最早容易くこなせる、少なくともイレギュラーが出没でもしない限りは大丈夫だろう

 

……もし出たら即ガチパ編成に切り替えるし、自衛官達も全力で共闘してくれるだろう

 

ボス階層へ偵察に行っていた自衛官らが帰って来た。とりあえずイレギュラーは居ないらしい……が、出たモンスターは珍しい代物だったらしい

 

 

「わぁお、こいつは確かに珍しいわ」

 

 

それは……大輝も引き連れているモンスターだ

 

それは……見た限りならば歳の頃なら二十代前半ばかりの女性だろうか?

 

それは……とても美しい容姿をしている。言うなれば『神がかった』とでも言うべきか?

 

 

白く透き通る様な肌、肌理細かく美しい金髪、そこだけは『人間ではない』と分かる尖った耳、その種族としては比較的豊かな分類ではある……だろうがそれでも『スレンダー』だと言い切れる体躯

 

 

『エルフ』

 

 

大輝のエースである剣の同種であるが、資産価値なら天と地の差がある程別物ではある……だからこそ今の大輝でもどうにか入手出来たのだが

 

何処か……大輝と姫子共通の友人知人であるとあるオッドアイのトップアイドルを彷彿とさせる容姿と雰囲気を感じる

 

そのエルフは一体だけだが……『ボスモンスター』だけに非常に強いだろう。その気配から前に倒して生皮を剥いだヴァンパイアにも勝る強者だろうと思う

 

しかし大輝/定は『あの時』とは雲泥の差がある。少なくともカタログスペックだけならば完全に別次元の存在だ

 

少なくとも『Cランク最下位クラス』相手とはいえCランクモンスターをEランク最弱クラス単騎で膾にした実績や、そのEランク最下位クラスでDランク相応イレギュラーを滅多刺しにして殺しきった実績の持ち主である大輝ならばまぁ問題ないだろう

 

大輝には他にも単なるオークの頃からカリッカリに鍛え磨いたエルフ()だって側にいる。カードホルダーには最大戦力(Cランクカード)がまだ二枚有るし主力、予備、追加、資産それぞれで沢山のDランクカードだって豊富にある

 

先ずは……『取らぬ狸の皮算用』かも知れないが、このモンスターを倒した後の事を考える

 

出来ればカードが欲しい……売るとかそれ以前に姫子の相棒だと言える『菫』のクラスチェンジに使えそうだし、剣との門出にこのカードを送ってクラスチェンジさせてあげたい

 

さて……そうなると今度は護衛兼監視役である自衛官達と交渉する必要がある。流石にこのレベルのカードがドロップしたら権利問題は大変な事になるだろうし

 

しかし、普通Cランクカードのドロップ率は0.1%しかない。だから大輝の取り分であるカーバンクルガーネット一粒を対価に自衛官達と賭け……をする事にした

 

佐藤大輝という男は『賭け』というものは大嫌いだが……今回ばかりは『賭けたい』と生き死ににも関わらないのに珍しく賭けに出た

 

……負けてもカーバンクルガーネット一粒という『宝くじ』だからまぁ大丈夫だろう。それにローリスクやノーリスクなお遊びギャンブルにまで目くじらを立てていたら息が詰まってしまう

 

敢えて例えるならば『エルフの皮を譲渡する権利をカーバンクルガーネット一粒で買った』とでも言えば良いかも知れない

 

自衛隊や研究者側からしてもこれはちょっとした余興にもなるし……何よりこれで『大輝の豪運』の検証実験にもなる

 

 

『不適合属性を抱える者はリンクの才能だけでなく運も非常に良い』

 

 

世界各国に存在する僅かな事例と報告でそんな仮説が立てられている。少なくとも日本にも彼ら以外に二人ほど同じ不適合属性体質者が存在するが、彼らも比較的優秀な冒険者であり比較的幸運な人物ばかりだった

 

『召喚不適合が世界一重い体質』として研究者界隈で有名な『薬丸姫子』を見れば何となくわかるだろう。彼女は様々な意味で満たされ愛されている性根の良い幸せな少女であり……この暖衣飽食の世で『冒険者(戦士)』として己を鍛え研く気概気骨の持ち主でもある

 

それに匹敵するレベルの召喚不適合体質者である佐藤大輝のデータは研究者的にも非常に重要である……彼らの強運とスペックならば良いカードや魔道具が沢山入手できる可能性も増すし、優秀な冒険者が増える事はその国を豊ませるのに必須事項。それに何より『Aランク迷宮攻略の糸口』かも知れない、という期待もある

 

大輝や姫子みたいに『優秀かつ協力的な冒険者』は自衛隊には本当に有り難い存在だ。一番は『自衛隊に入隊してくれる優秀な冒険者』だがそこまで贅沢は言えない……その天性の豪運の影響かメアリー塾やダンジョンマートやギルド、美城学園にエメラルドタブレット社やニシモリ製薬といったダンジョン関係と大小様々なコネを持つ二人なので過度の勧誘行為は御法度沙汰だ

 

……多分、このままアンゴルモアとか起きずに平和なら二人ともダンジョンマートに就職してメアリー塾の師範をやって生きてゆくだろう

 

しかし、要請の内容次第ではあるだろうが自衛隊の依頼なども普通に協力してくれる優れたコネであるのは間違いないので大輝&姫子の強化はむしろ願ってもない話だ

 

何度でも言える話だが、国家としても自衛隊としても『冒険者は一人でも多く欲しい、特に優秀な冒険者は』という事情がある。そしてそれは『何処のどんな国でも同じ』だという事だ

 

そんな訳で大輝は昨日と同じ様にボスモンスター(女エルフ)の討伐に挑む

 

女エルフは堅革鎧を纏い、腰に細剣(レイピア)を履いて背に矢筒を背負いながら弓を持つ。という典型的なエルフスタイルの武装という出立ちだ

 

恐らくは『戦闘能力強化仕様』なのだろう。前の吸血鬼みたいに配下を従える能力の替わりに戦闘力を向上させる仕様のようだ。大輝の傍らに有りし剣にも似た迫力が感じられる

 

そしてそのエルフは既に侵入者の気配には勘付いている様で既に弓に矢を番えて大輝/定に一矢を撃ち放ってきた

 

 

ガギンッ!

 

 

しかし『虎徹』としての特性を付与された定の一振りで矢は弾き飛ばされて真ん中から折れ砕けて散る

 

生半可なDランクカード、いや下手なCランクカードでもあの一閃一射で即撃ち殺されてロストしていただろう。しかしこの贋作妖刀()はそんじょそこらの生半可なDランクカードでない事はご存知だろう

 

そしてこの妖精(エルフ)もすかさず『それ』に気付いた様だ。少なくともオーク二体と狗は大した敵ではない……が、即座に送還されて消えた。替わりに巨大な壁の化け物や人型の炎、そして卑猥な怪物が替わりに現れて陣形を組んでくる

 

唯一、今のエルフでも普通に倒せそうな小人も『壁の化け物』に護られている

 

自身の同族と思わしき『猪面の戦士』も練りに練り上げられた強さが見ただけで分かってしまう、壁の化け物はかなり時間を掛ければ倒せなくはないだろうがそれまで他の連中が黙ってはいないだろう

 

『卑猥な怪物』は挑む事すら論外だ

 

今のエルフにとって唯一あり得る勝ち筋は……やはり『マスターと思わしき戦士』を一騎打ちに持ち込んで討つことだけだろう

 

そう短い時間で判断したエルフは即座に邪魔な弓も矢筒も捨てて『敵たるマスター(大輝)』に細剣を抜き放ち挑みかかる

 

しかし……皆様は忘れてはいないだろうか?我らが主人公である佐藤大輝という男は戦士と言うよりはむしろ

 

 

『狩人』

 

 

だという現実を

 

大輝に向かう道筋には既に人型の炎()が見えにくい人魂を配置して簡易地雷源を既に設置していた

 

 

『……くうっ!』

 

 

間一髪でその罠から逃れて跳躍に成功したエルフだったが……彼女の命運は其処で尽きた

 

 

ドシュッ!!

 

 

『先の返礼』だと剣が射った矢がエルフの土手っ腹に命中する、そして崩れ落ちるエルフ

 

 

『……っ、あ嗚呼ッ!!』

 

 

大ダメージに苦咽を漏らしながらも取り落とした細剣にも構わず辛うじて立ち上がって大輝/定を睨みながら隠し持っていた短剣(ダガー)を抜き放ちまた挑む

 

しかし……

 

 

『申し訳ございませんが、主様はお忙しいのでお引き取りを』

 

 

あの卑猥な怪物()が既に彼女の背後に回り込んでいた。そしてその質量を以てエルフはあっさりと討ち滅ぼされて終わった

 

 

そして……彼女が居た辺りを見れば

 

 

一枚のカードが其処にあった

 

大輝が珍しくやった『賭け』は見事に成功した様だ。これで剣の嫁取りは大成功以上の結末になるだろう

 

 

次回に続く



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一章幕間その15 祝言

『道具箱』はTipsにて説明します


 

 

さて、強化されたエルフを討伐完了し……『女の子エルフのカード』という最大の戦利品を得た大輝達だったが忘れてはいないだろうか?

 

 

戦利品はまだあるのだ

 

 

何時ものガッカリ箱を開けて見れば……何時もの白魔石と『無銘の武具』だった、しかし今回の無銘の武具はある意味では嘗て大輝が入手した『無銘の仕込み杖』とまではいかないが間違いなく珍品奇品だった

 

 

『無銘の名盾』

 

 

いわゆる『円形盾』という代物で、硬く重く頑丈な木の厚板にやはり厚い革を貼り鋲打ちが施されたヴァイキングシールドに近い造形の盾だ

 

戦闘力は+75と大した事はないが、逆手で使えるので防御力を飛躍的に向上させる事が出来る。それに対飛び道具や対射撃系魔法、矢除けには最適な防具なので割と需要は高い

 

今のところこれを使うなら剣にでも持たせるのが良いだろう……多分直ぐに投げ捨てて突撃になったり弓矢を射る邪魔になりそうではあるが

 

面白い武具ではあるがある意味面倒でもある代物だ。まぁ今は自衛隊の皆様に預かって貰っておくとしよう……未使用美品なら割と高値で売れそうでもあるし

 

そんなこんなで今回のリザルトだが、今回もまた中々……いや、前回以上に良いものが多々発見された

 

 

「……オイオイオイ、何だよこれ?」

 

 

そのとんでもない収穫物を確認したとある自衛官の漏らした呟きからご想像頂きたい

 

 

カード

Cランク一枚

エルフ(女の子)

Dランク十二枚

オーク二枚

ホブゴブリン二枚

リビングアーマー三枚

グール四枚

ヘドンホールハウス一枚

有用Eランク十二枚

送り提灯一枚

鬼火五枚

ウィル・オ・ウィスプ五枚

燈無蕎麦一枚

Eランクカードたくさん

 

 

魔道具

攻略報酬

無銘の名盾

 

金色のガッカリ箱(17個)

送り拍子木

無限鞄

ブラックカード(所持禁止類魔道具)

カードホルダー三つ

アムリタ

緊急避難のカード

空飛ぶ箒

肉人

大通連

ズンドコベロンチョ二つ

保護のブーツ

無銘の甲冑

妖精の鎖帷子

 

換金アイテム

カーバンクルガーネット十七粒

迷宮金貨五十枚入りの袋

白魔石一つ

通常魔石三百万円分

 

 

……シークレットとはいえDランク迷宮でこれは凄まじい成果だろう。少なくともこの迷宮でここまで凄まじいお宝はそうそう見られるものではない

 

カードホルダーや保護のブーツ、ズンドコベロンチョは前にも見たが、他の送り拍子木、無銘の甲冑、妖精の鎖帷子、大通連、空飛ぶ箒、肉人、アムリタ、緊急避難のカード……そして無限鞄とブラックカードはどれもこれも特筆に値するお宝だろう

 

送り拍子木は……ちょっとした魔物避けの力を持つ拍子木型の魔道具であり『送り提灯』なるカードと何でも良いからCランクカードさえ居ればある程度の魔物避けは出来る力があるプロ冒険者的にも実用性豊富で素敵なお宝だ

 

無銘の甲冑は……無銘シリーズの中では一番珍しい代物で戦闘力+150で『サイズ補正能力』という効果があるだけの重く頑丈な西洋甲冑一式だ。一応ちゃんと甲冑箱に納められているのでカード化は其処まで面倒ではない、しかし装備するのにひたすら手間暇が掛かり過ぎるのが難点だろう。『甲冑術』に心得のあるカードなら装備着脱は簡単に出来るし軽く動けもする。ちなみに大輝なら素でこれを装着しても最低限ちゃんと動き回れる筋力体力がある、一般的な中世騎士程度には

 

妖精の鎖帷子は……一見すれば長袖シャツの様にも見える細い聖銀にも似た金属を編んで作られた鎖帷子だ。装備すれば戦闘力+200も補正してくれるのにまるで羽毛の様に軽く防御力は非常に高いと防具としての性能だけでも破格であるが、決して音を漏らさぬ隠密性と多少ながらも魔法補助能力も兼ね備えた正に妖精の秘宝。ついでに『サイズ補正能力』も完備している

 

大通連は…… 持つ者に神通力を与えるという伝承を持つ三明の剣の一振り。カードに神通力のスキルを与え、戦闘力+200という効果を持つ。残りの三明の剣と同時装備で効果向上、三明の剣シリーズの中では一番ありふれた一振りではあるが非常に高価なお宝

 

空飛ぶ箒は……空飛ぶ絨毯の姉妹品みたいなもので、完全に一人用ではあるが落下防止、風除け機能付き、最高速度は時速80キロ程度。但し長時間使うと股が痛くなるので注意が必要

 

肉人は…… ぬっぺふほふとも(ほう)とも呼ばれる人型かつ人間大の肉塊である。カードに食べさせると『怪力』のスキルを得られる。優先して得る予定であり定に与えたいと思っている

 

アムリタは…… 大輝が両親から与えられた緊急キットに入っている魔道具の一つ。ありとあらゆる傷や病を癒し、一歳ほどであるが若返り効果を持つ霊薬。その効果から非常に高額で取引されている

 

緊急避難のカードは……やはり大輝が両親から与えられた緊急キットに入っているカードの一つ。その階層の安全地帯に即座に転移出来る効果がある魔法のカード、それから転移のカードなり大輝ならば『アリアドネーの糸』を使うなりで安全な脱出が可能になる

 

そして大トリの無限鞄とブラックカードだが……これは大規模ギルド支部には最低一枚は必須だとも自衛隊のAランク迷宮攻略に絶対必須だとも言えるアイテムであり非常に高価かつ希少な所持禁止類魔道具の一種だ。少なくともこの迷宮で『これら』が出たのは初めてらしい。これらを持ち込めば在庫次第ではあるが高価かつ人気のC、Bランクカードで引き換えだって普通にやってくれるだろう。特にブラックカードならば

 

今回の自衛隊側の取り分はこのブラックカードと無限鞄だけとなり、それでも多額の『お釣り』が必要なぐらいなので大輝の持っている希望する魔道具ら全てのカード化や配下たる一軍二軍の契約カード達の為の『道具箱』をカード化して貰ったりカード化回数券五十回綴りやら、その正規引き取り価格分の減税やら、そして希望するCランクカード三枚の譲渡という結果になった。そのカードはファイルを渡すので明日迄にそれから選んで欲しいそうだ。通常報酬と一緒に渡してくれる予定らしい

 

自衛隊からすれば使い潰し前提のCランクカード数枚や沢山有ってもカード化と回数券だけで常に飢求する重要資財が入手出来るのだから有り難い話ではある。そもそも『道具箱』なら沢山ストックはあるのでそれをそのまま大輝に渡すだけで良い

 

先の魔力の粉塵や封印の札以上に絶対的に不足している道具ばかりなので本当に有り難い話らしい……Aランク迷宮では自衛官の殉職率が非常に高い上に『装備を破棄してでも撤退しなくてはいけないケース』は『まれによくある』からこれらの補充は常に急務らしい

 

それ以外のお宝も確かに貴重かつ高価な実用品ばかりではあるが……この極まった豪運持ちで才覚豊かで自衛隊に友好的な逸材の育成は後で重要な見返りが期待出来るだろうと判断もある……一年に一度かつ一つだって良いからBランク迷宮攻略出来る人財は自衛隊としても非常に稀少である。その手間で最前線の自衛官達を少しは休ませる事が出来るだろうし

 

それに……大輝そのもの以外にも『ダンジョンマート最重要幹部の子息』や『日本最高峰の冒険者私塾の優秀な門弟』という立場から来る信用が影響しているのも理由の一つだろう。世の中血筋やコネは大切だという事だ、時には実力以上に評価される項目だと言える

 

少なくとも鋼のクラスチェンジ資金はブラックカードの正式売買価格さえ有れば入手は出来るかも知れないが『まぁ良い貯金ができた』と大輝は思っている。それと何気にカード回数券とか非常にありがたい話だ……最初の報酬でもカード回数券とか色々あるから当分はカード化は只である

 

 

そして収穫品のカードについてだが……特筆すべきは三つ、エルフとヘドンホールハウス、そして送り提灯だろう

 

何気に『歌姫』スキル持ちの……凄く希少なエルフは姫子の菫の婚礼用に使う予定であり、送り提灯は大輝がワンポイント要員として送り拍子木と一緒に採用が確約された

 

定が感知して定の力……どうやら研究者達が調べた結果で判明した『手の目啜り』の応用らしい力で異空間をこじ開けて得た『シルキーの亜種』とも言われているヘドンホールハウスは……女の子カードだから大輝が足洗屋敷(改)を入手していなくてもそもそも使えないので先に預けたエンプーサ共々結納品にしてしまう。亜空間カードはガチ勢冒険者ならば必須必携カードであるし

 

このヘドンホールハウスの『核』は殆どシルキーなので姫子との相性は多分悪くないだろう

 

良く見れば『燈無蕎麦』には『狐狸妖』持ちなので研究チームに差し出しておく。研究チームからは真面目に感謝された。替わりに貸与されていた例のカード三枚を譲渡してもらった、あの燈無蕎麦は重要な研究素材になるらしい

 

……悪いがズンドコベロンチョは婚礼用の席に出すものと佐藤薬丸両家への土産なので決して渡せない

 

その沢山の凄まじい『大成果』でも今のところは『嫌な予感』はまだ無い……今のところは、だが

 

そうして大輝も仕事終了からそろそろ夕方間近なので出口のある安全地帯の広場に戻る……即座に宴と清に来て貰って祝言の準備に取り掛かる

 

 

「なぁ定、この辺はこういう作法で良いのか?」

 

『へい、この場なら略式で大丈夫だからこの辺りは案外適当でさぁ』

 

『……しかし、それでも婚礼というものは大変なものですね』

 

 

祝言の馳走にはズンドコベロンチョを、花嫁衣装としてエルフのカード、結婚道具にエンプーサとヘドンホールハウスのカードや幾つかの武具を封じたカードを準備しながら何気に秘書、礼儀作法スキル持ちのインテリでもある定監修の元に祝言作法を暗記しながら身支度をする宮司役の大輝と花婿である剣

 

皆それぞれ風呂を近くのマヨヒガから借りておく……宴の風呂場は基本的に五右衛門風呂だから狭いのでこういう状況では扱い辛いからである

 

一応は『武家屋敷』である宴の衣装箪笥から剣と菫用の婚礼衣装……裃と白無垢を出しておく、式の前に剣と菫それぞれに着て貰う必要があるので準備は早めにだ

 

出席者は大輝&姫子とそのカード達……それと十六名の厳正な籤引きで選抜された自衛官や研究者メンバー達となる。非常に珍しいイベントなのでやはり撮影から何から色々行いたいらしい

 

宴をメインに清と蔵が屋敷内を飾り付けしたり行燈を準備したりズンドコベロンチョの調理過程に入ったりと大忙しに中で姫子も準備を行っていた。大輝から手渡された例のカードを菫の前に持ってゆき……最後の確認を取る

 

 

「菫……このカードは適合する?」

 

『大丈夫ですわお嬢様、私もびっくりする程適合するカードですわ』

 

 

姫子も本来は自力で菫のクラスチェンジ用カードを探すつもりだった。五歳から続けてきた実験協力などで貯まったお給金や任期明けで研究機関や自衛隊から下げ渡される予定のCランクカードなどから行う予定だった

 

しかし……まさか自身とこの菫の恋人が此処までやってくれるとは流石に思わなかった

 

普通なら『運絡み』とはいえ『誰が此処までやれと言った』という沙汰だろう……挙式の地点でそう言われるだろう。カードにここまでしてやる主なぞ非常に珍し過ぎる、いっそ前代未聞かも知れない

 

その心意気を汲んで姫子は大輝からエルフのカードを受け取る……ついでにヘドンホールハウスは預かる気分だ

 

大輝にヘドンホールハウスは扱えないとしても、だ。ヘドンホールハウスというカードは間違いなく『初手で確定オークション行きなDクラスカードの中で一番高価なカード』であるからして

 

ちなみにこのヘドンホールハウス……やはり姫子との相性は最高だった

 

そして姫子サイドが菫をクラスチェンジする前に菫の今までのデータをチェックする

 

 

【種族】シルキー(菫)

【戦闘力】240(MAX!)

【先天技能】

・中級家妖精:人間の代わりに家事をしてくれる妖精。……が、迷宮内では家などないためいまいち使いどころは不明。メイド、高等家事魔法を内包

・使用人召喚:Eランクモンスター・ブラウニーを召喚する。無限召喚型。

・中等魔法使い(CHANGE!)

【後天技能】

・メイドマスター:メイドに必要な技能を必要以上に極めている。明らかにメイドに必要のない技能も極めている。メイドスキルの効果極大向上。パーティー内のメイドスキルを持つ者の行動にプラス補正。メイド、下級収納、秘書、教導、演奏、舞踏、武術、精密動作、庇うスキルを内包する

・良妻賢母

・忠誠

・殉死:マスターへのダイレクトアタックによって他のカードがロストしかけた際、すべてのダメージをこのカードが肩代わりすることができる。生還の心得を内包する

・剣術

 

 

……優秀な魔法使いであり、サポーターとしては『神性能』としか言いようの無いレベルで錬磨されたシルキーだ。姫子とは七年の間頑張ってきた結果だ。短い時間ばかりではあったけどそれでも姫子は『最高に佳い冒険者』だという証の一つだと言える

 

そしてこのシルキー()がどうクラスチェンジするかと言うと……

 

 

【種族】エルフ(菫)

【戦闘力】570(+120UP!)

【先天技能】

・山精木魅:森の精霊としての性質を持つ。森への侵入者を察知し、森の中にいる間、持続回復及び魔力消費軽減。中等補助魔法を内包する

・剣戟森々:森を住処とし、森の中で真価を発揮する戦士。森の中で戦う際、ステータスが大きく向上し、スキルにプラス補正。狩人スキルを内包する

(狩人:狩人に必要な技能を収めている。武術、弓術、遠見、追跡、気配遮断スキルを内包する)

・中等魔法使い(CHANGE!)

【後天技能】

・メイドマスター(高等家事魔法を追加内包済み)

・良妻賢母

・忠誠

・殉死

・剣術

・歌姫:歌手に必要な技能を必要以上に極めている。何故か歌手に必要のない技能も沢山極めている。歌手スキルの効果極大向上。合奏相手の行動にプラス補正。魔歌、歌手、合唱、美声、絶対音感、中級収納(CHANGE!)、集団行動、教導、性技、礼儀作法、農業、採取、製薬を内包する

・魔力の泉:尽きることない魔力の源。魔力量と魔法の威力を常時大きく向上させて魔力消費を抑える効果がある。魔力回復、魔力強化、魔力消費軽減を内包する

・使用人召喚

 

非常に珍しい事に『眷属召喚』含めて全て継承出来ている。大輝の剣でも『眷属召喚』だけは流石に継承不可能だったが……まぁそれ以外の殆どは継承出来ている辺り間違いなく大輝の剣は『非常に高位のギフテッドカード』であるという証だろう

 

そして菫だが……基本的な容姿容貌はシルキーだった頃と大差はない。光加減で菫色にも見える長い髪をシニヨンに束ねた、歳は二十代半ばに見える比較的小柄だがスタイルの良い美女だ

 

しかしその衣装は盛大に変化していて……例えるならば『メイド服を基調とした堅革鎧仕様のドレスアーマー』だろうか?メイド服の部分はサテン生地や麻生地にも見えるエプロンなどで構成されている様にも見え、堅革鎧は葡萄色に染め上げられている様に見える

 

そして腰には嘗てのエルフが持っていた細剣を履き、やはり背に矢筒と弓を背負った姿だ

 

カードから見たイメージは魔法寄りの魔法戦士だろうか?剣は清々しい迄に魔法(も一応使える一騎当千の)戦士だったが

 

まぁ彼はオーク上がりという珍しい経歴持ちだからほぼ純粋な戦士にビルドされるのは当然の結末だろう

 

そしてそのドレスアーマーは姫子と桜や他の姫子の手持ちらに早々に脱がされてマヨヒガ温泉で念入りに洗われて白無垢の着付け作業へと入る。それは遊女スキルの最高峰持ちな桜が筆頭となって行われる

 

女の子にとって『素材の良い女を好きに着せ替えさせる』のはやはり楽しい事なのだろう。姫子以下カードらもウッキウキで楽しんでいる……姫子に至ってはクラスメイトの『登山家』宜しく両手をわきわきさせてノリノリである……姫子自身がその『登山家』の被害者筆頭なのに

 

菫が身を清めて白無垢に身を包む。角隠しでも長い耳は隠せないが

 

同時期に大輝達の方も定の幻影体監修の元に剣を裃の着付けが行われる。やはり定はこういう時には間違いなく一番頼りになる文化人だ

 

少なくとも陽気で愉快ではある祝言準備……そしてその準備が終われば粛々と儀式の始まりだ

 

定&桜監修の元に……テレパスを駆使して恙無く進行する儀式。祝詞や三々九度もやはり恙無く行われる

 

一応、現代の式でもあるので指輪交換も行われるが……その儀式用に大輝が持っている迷宮金貨とカーバンクルガーネットを素材に自衛官達のドワーフに急ピッチで作成して貰った

 

さて、皆様は嘗て『大輝が得た最初のカーバンクルガーネット』の事を憶えておられるだろうか?あれは大輝が『指輪』にして姫子に贈る為に用意していた『婚約指輪』である。ちなみに、姫子に贈るものは『人工純正魔道具』の一種であり『保護』の魔法が付与された一つの御守りでもある

 

今はまだ渡してはいないが……参考資料としてドワーフ達にこの指輪を見せて簡易的ながらも模倣して貰ったものだ

 

一つのカーバンクルガーネットを半分に割って『合わせれば本来の型になる』様に研磨した宝石を象嵌した迷宮金の指輪……ついでにちゃっかりカード化もして貰ったそれを送り合う二人の姿を見ながら『あと最短四年か……』とか考える大輝&姫子

 

そして結婚式は終わり後は披露宴だ

 

 

「……久しぶりに食ったけどやはりズンドコベロンチョは美味いものだ」

 

「……初めて食えたけど、噂以上に美味いものなんだなこれ」

 

「……何時かは家族にも食わせてやりたいものだ」

 

 

大輝の豪運と慶事のお相伴に与れた運の良い参加者達のそんな囁きと定の三味線伴奏をBGMに白木造りの結婚式用折敷に盛られた……食材すら空気を読んだからかたまたま出来た『ズンドコベロンチョ懐石膳』をつついて披露宴もまた恙無く終わる

 

さて……後は剣と菫を二人っきりにしての初夜のお時間だ。何処ぞの因習奇習にある様な『初夜後の血の付いたシーツを旗みたいに振り回す』様な奇習を行いはしないが、後で間違いなくカードデータを調べられはするだろう

 

大輝は無言で剣と拳を合わせてからのサムズアップという無言のエールを贈る……最後に親指を人差し指と中指の間に挟む卑猥な『キメてこい』のエールをやろうかとも思ったが自重した

 

姫子は桜を羽織り宴を抱き抱えながら菫に『頑張って』というエールを贈る。姫子には未だ菫と剣がやる事にはあまり詳しくは無いが『菫が女の子として大切なものを剣に差し出す』という事ぐらいは分かっているつもりではある……何時かは自分も『それ』を大輝に差し出す日が来るのも分かっている。『それ』を差し出すには自分はまだ余りにも幼すぎる事も含めて

 

……当の大輝は既に『理性と本能の争い』真っ只中ではある。後は姫子の年齢問題と自覚だろうか?

 

剣/菫とのリンクは完全に遮断してはおいたが……今日はマヨヒガの一室にて二人、いや姫子が羽織る桜とぬいぐるみ宜しく抱き抱える宴が居るから決して二人きりではないが、最終日に備えて今日もなるべく早く寝る

 

今も実際には『依頼中』であるが故に

 

 

 

次回に続く

 

【Tips】道具箱

 

カード達を大切にするタイプのマスターにとって重宝するアイテム。一応は魔道具だとは言えるが……何らかの箱をカード化しただけの代物

 

カード達は基本的にカード化したものか魔石ぐらいしか所有する事が出来ない、だからカード達の娯楽などの為にこういう『私物入れの箱』を調達してそれに本やおやつ、酒などの私物を入れてカードの中でも暇つぶししたり無聊を慰めたりさせる事がしやすくなる様にさせられる

 

一部のプロ冒険者曰く……『ただ魔石を与えるだけ、よりもモチベーションが高くなる』というコメントもあるがデュエリスト系は否定的なのであまりメジャーな行いではない

 

カード達へのケアを欠かさないタイプのマスターなら必携品



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一章幕間その16 夏休みの終わり


これで一章はおしまい(予定)

『土ノ子』様からカードのデータを(許可の下で)拝借させて頂きました

加筆修正入ります


 

夜は明けて……この迷宮は常に夕暮れ時ではあるが。それでも朝は来る

 

今日はある程度ちゃんとした身体検査で開放予定で次回は姫子と簡易的なクロステスト漬けらしい……やはり大輝の体質も非常に稀少なものである事は確かな様である

 

大輝自身は『百ヶ所のDランク迷宮攻略』という過酷な課題があるのであまり頻繁には実験に参加は出来ないのだが……

 

そしてこの『百ヶ所のDランク迷宮攻略』というのは『プロ資格試験』の課題の一つである

 

『プロ資格試験』……または『四つ星資格試験』には様々な難題を埋めて初めて達成出来る『現代に於ける戦士英傑の資格』とでも言うべき代物だろう。それこそこの資格は現在日本でも三百人前後ぐらいしか保有していないのだから

 

前にも幾らか『四つ星昇格試験』について記載はした。そして今現在大輝が達成したり取り組めている課題をタスク化して考えると……

 

 

達成

・筆記試験(迷宮士資格)

・三つ星資格獲得

 

取り組み中

・Cランクカード八枚以上保有(現状ちゃんと『戦力』と言えるのは三枚、今日から追加三枚獲得)

・Dランク迷宮百ヶ所攻略(現在一ヶ所攻略済み、この迷宮は『攻略』とは認められない)

 

先送り

・実技試験三種:Cランク迷宮単騎攻略、特殊迷宮攻略、プロ級冒険者との対戦

 

先送りのうち『プロ級冒険者との対戦』は一昨日お試しは出来た……が、まだまだ実力不足で不合格だった

 

極論すれば……三つ星攻略とCランクカード八枚なら金次第でどうにかなる。筆記試験やDランク迷宮巡りも努力すればどうにかなる

 

しかし……残りの三実技だけは金や努力だけではまずどうしようもない代物ばかりである

 

一昨日実体験したプロ級冒険者との対戦……うん、せめてちゃんと三体同時シンクロ出来なくては話にもならないだろう

 

Cランク迷宮単騎攻略は……その余りの危険性故に比較的容易い『試験用迷宮』を用立ててくれるが、それでもCランク迷宮はDランク迷宮の比ではないほど過酷なものだ

 

『特殊迷宮』は……今の大輝では絶対に攻略不可能な試験である事だけは確かな難関難題だとは言っておく。現に大輝自身も『今はまだ無理だ』と自覚している程だ

 

実技の方は今の大輝では無理だ、技量も実力も装備もぜんぜん足りないしお話にもならない。今は『取り組み中の課題』をこなして地力をつける必要があるだろう

 

大輝の見立てでは実技試験に挑む為にはあと二年三年は修行が必要だろう……しかしそれでも迷宮士資格試験の為の試験勉強と筋トレ漬けの雌伏期よりも『必要な、求めるものが積み上がる感覚』があるのはありがたい話だ

 

現に今この瞬間にアンゴルモアが来ても今なら多少はマシに生き残れるだろう……()()()()()()()()()()()()()()()()()、だが

 

今の大輝ならばアンゴルモアに罹災しても単独……少数の保護対象が居ても先ず何とかなるだろうし、大概の避難所に入れば間違いなく『その場を護る優秀な戦士』として極めて尊重尊敬されるだろう

 

まぁ……それでも今に満足なぞしないし出来ない、まだまだ時間はある筈だしやるべき事ややれる事は沢山ある、Dランク迷宮巡りに託けて日本の美味いものや温泉巡りだってやりたいものだ。もう暫く待てば姫子も正式な冒険者になれるので彼女を連れての旅だって出来る

 

まぁ……今は東京のDランク迷宮巡りからやるべきだろう。東京の迷宮は本当に沢山あるのだから

 

それに手札も資金も装備も資材資源様々なものが全く足りてなぞいない。今は兎に角稼ぐだけである

 

さて、先ずはその『稼ぎ』の為に必要不可欠な相棒(戦力)であり昨日めでたく結婚出来た剣だが、今カードホルダーから剣のカードを出して確認してみる

 

新しい技能を得ている、名は『比翼連理』……男女のカード同士で恋愛関係になった時に稀に現れる技能で、鋼と玉の『カイロネイアの獅子』の男女版だと思えば良いだろう

 

……ん?

 

 

「なにこれ?」

 

 

カードのスキル欄を見れば後天技能の最後辺り、非常に薄く掠れた文字で

 

 

【固有技能】

 

 

なる謎の文言が浮かび上がっている。眼を凝らして見てもやはりその謎の文言は存在する

 

はてこれは一体何なのか?先ずは研究者達に相談してみよう

 

 

「……え、にーさまの剣さんにも?私の菫にもそれが浮かんでましたよ?」

 

 

……どうやら姫子にも同じ反応が、それも話題の渦中にある剣の妻となった菫にもだ

 

さて、その件を聞いた研究者達は……うん、まぁ絶食中の獣に餌を見せればどうなるか?を考えればだいたいは想像がつくだろう

 

超一流冒険者が丹精込めて鍛えたカードにも殆ど見られない稀少中の稀少事項の一つとして先の『固有技能』なる謎の概念があるそうな……研究者達の間でも噂にはなっているらしいが殆ど眉唾物扱いらしいが

 

その『固有技能』を開花させたカードにもはっきり言って『それ』が何なのかはまともに説明出来ないしそのマスターも決してその概要を教えてはくれない……そのマスターの強さの秘訣故に仕方ない話ではあるが

 

『固有技能』なる正体不明の何かについて分かる事は非常に少ない。本当に辛うじて判明した事を挙げれば

 

 

1:全て『名付けしたカード』だった

2:そのカードは間違いなく全て非常に高い練度を誇っている

3:そのカードは恐らく全て『ギフテッドカード』の類いだと思われる

4:そのカード達は皆マスターから本当に大切にされていた

 

 

はっきり言って分かるのは推論や予想を交えてもこの程度である。他にも様々な情報はある筈だが所有者達が頑なに秘匿しているので分かるのはここまでだった……所持者にとっては死活問題故に仕方ない話だ

 

今の大輝と姫子には掠れに掠れた『固有技能』という文言が辛うじて見えるだけであり、はっきり言ってそれが何の意味や能力を持つかなど全く皆目見当もつかない有り様ではある

 

しかし……しかしである。研究者達にとっても未知の中の未知である『固有技能』に小さくか細くとも確かな糸口が見えた事は巨大な朗報である

 

剣と菫のカードを写真に写したりしてその貴重なデータを余すところなく採取する研究者連中……まさかとは思うが新婚さんの居る愛の巣(宴の異空間)に突撃取材しようとする馬鹿は居ないとは思う、多分

 

大輝と姫子はそれぞれのカード達にテレパスで連絡を送ってはおく……万が一を考えての配慮だ

 

二人にちゃんと身支度をさせて研究者連中の処に向かわせる……やはりと言うか何と言うか、二人の新婚初夜の余韻なぞ一切気にせずにインタビュー地獄が勃発している

 

気丈ながらも流石に少し内股気味になっている菫を労りながら理性を置き忘れた研究者(ケダモノ)どもの暴走から護る剣……大輝と姫子、そして自衛官有志で押さえ込まなければ暴動沙汰だっただろう

 

それから大輝&姫子も健康診断……いやちょっとした人間ドック並みの検査が始まった。本当ならば健康診断程度だったがそれほど迄に『固有技能』のデータが欲しいのだろう

 

 

「……菫から『体験談』、聞きたかったな……」

 

 

姫子のそんなお年頃でおしゃま……と言うにはちと生々しい呟きが聴こえた。早く、もっと『足場』を固めないといけないだろう……既に『覚悟』は出来てはいるつもりが未だ『準備』は整ってはいない

 

少なくとも『一線』を超えるなら資金も資材も足りず拠点も欲しい。最悪『出来ちゃった』案件で姫子と少なくとも出産迄は持つ駆け落ちランデブーの資金機材隠し拠点等々はちゃんと出来る様にしないと……ヤるなら責任は重大である。それでもちゃんと学生生活だってやれる内はやりたいものだ、何時アンゴルモアが発生するかわからないこのご時世故に

 

そんな新たかつ何処か迷走気味の覚悟を胸にしつつ、昼間にはややこしい検査やインタビューも終わってマヨヒガでの懐石を頂きながら今回の報酬を頂く事となる……周囲で狂奔し喧々諤々する研究者らの姿が見える。『もっと居てくれ』とこちらを凝視しながら

 

数多くのカードやカード化した魔道具、莫大な数の魔石や金貨袋にカーバンクルガーネットといった歩合給以外にもちゃんと報酬は存在する

 

先ずは口止め料こと依頼金五百万円……むしろこれでは功績と発見に足りないかも知れないと、研究者達の総意で倍額の一千万円になった、むしろこれ以上積んででも大輝達に来て欲しいらしい

 

続いてはDランクシークレットダンジョン無料入場券五枚。本来ならば四つ星クラスにしか入れないシークレットダンジョンだが、この入場券……いや優待券で内部で得たものの半分は持ち出しが出来る

 

普通のシークレットダンジョンならば入手したカードや魔道具は全て没収であるのだが、こういう『ギルドや自衛隊、ひいては国家への貢献者への飴』としてこういう完全非売品の優待券が存在する

 

そして大輝の追加報酬として確約されていた『十枚綴りのカード化回数券』が五束に更に本来の報酬分で二束の計七十回分のカード化無料券に大輝の保有する戦力認定されたカード全てに支給する『道具箱』と三つ星なので所有資格のある大輝用の『コンテナのカード』二枚もおまけで貰えた……コンテナも道具箱も全て自衛隊の払い下げや備品からだが

 

そして迷宮関係の権威や大企業などに使える『国、ギルド、自衛隊多数共同執筆の紹介状』すらも渡されている。日本国内の迷宮関係者や大企業はこれさえ出せば絶対にちゃんと『客』として出迎えてくれるだろう……少なくともこの国がちゃんと存在し技能している間は

 

最後に……大輝が得る一番大きな報酬の話をしよう

 

昨日のうちにカードショップと同じ様な専用のタブレットに入った品書きからそれらを選んだ

 

今見えるカードからは祝と蔵に適合する……彼らに『そのデータ』を見せたら割と好感触だったので先ずはその二枚を選ぶ

 

祝に関しては……本来ならライカンスロープなる強い狼系Cランクカードが必ずボスとして出没する迷宮に行ってお百度参りでもやる予定だった。運が向けばドロップしてくれるだろう、仮に出なくても周回すれば資金は貯まるから良し

 

蔵に関して……二つある候補は少なくとも東京にあるDランク迷宮ではランダム系ボスでしか存在しないので予算が出来たら高和に注文する予定だった

 

最後の一枚は新規、新しいく強く興味を引いたカードを『試し』てから貰う事にする。非常にトリッキーな一枚であり、恐らくは今の大輝のデッキにも適合する代物だろう

 

さて、タブレットを回収がてら記載した希望のカードを持って来た自衛官……大輝の実技試験を担当したあの隊長さんが来てそのカードを大輝に託す

 

その三枚は……『一つ目一本脚の鍛治師みたいな妖怪』と『鉄鍋を頭に被った白毛の狼』、そして『妖気を纏った襤褸の刀』の三枚

 

『一つ目一本脚の鍛治師みたいな妖怪』は一本だたら、和歌山などで知られる山神とも鍛治に纏わる妖怪とも謂れる存在であり鍛治やサポート系統に長けた妖怪だ

 

『鉄鍋を頭に被った白毛の狼』は鍛治が(ばば)、『千疋狼』という説話に纏わる妖怪の集合体でDランク相当の狼を無限召喚出来る

 

最後の『妖気を纏った襤褸の刀』は付喪神、定のクラスチェンジ先である贋作妖刀に似た性質を持つ中々にトリッキーな装備化能力持ちだ

 

どれもこれも妖怪系統ばかりだが、大輝の場合妖怪系統との相性はバッチリ高いのでそれが良いのだろう

 

最後に蔵と祝に件のカードを見せて相性を確かめて貰う……どうやらちゃんと適合する様なので一安心だ

 

一本だたら以外は比較的マイナーなカードであるがガチ勢からは中々に評判の良いカードばかりだ。特に付喪神は装備化使いという『濃い』界隈にとってある意味デュラハンに匹敵するほど重要なカードとして知られている……まぁ『装備化使い』みたいに気合いの入った冒険者の絶対数は非常に少ないから付喪神もマイナーカード扱いである事は間違いないのだが

 

そんなカードを入手して先ずはそのまま使う付喪神のカードに針で刺した指から出る血を掛けて登録完了、そして直ちに喚んでみる

 

 

【種族】付喪神

【戦闘力】450

【先天技能】

 ・物々交換:中等クラスの装備化スキル。他のカード、あるいはマスターが装備することで、自身の戦闘力の半分を加算させることができ、また自身の後天スキルを共有するがマスターへの装備化の場合はすべての戦闘力とスキルを共有できる。アイテムを取り込むことで、その効果を内包できる。新しいアイテムを取り込む際は、前のアイテムの効果は廃棄される

、勿論取り込んだアイテムは戻ってこない。また使用回数のあるアイテムを取り込んだ際はその回数を使い切るとロストする。通常同じタイプの装備化スキルは同時使用できないが物品憑依型は複数同時に装備化可能

・食を願わば器物:取り込んだアイテムが時間経過で修復される。破壊寸前でも時間を置けば復活する。一日に一度だけ同一アイテムを二重に取り込むことで一時的にステータスが二倍に上昇する。二重に取り込んだアイテムは戻ってこないため注意。自己再生を内包

・良工は先ず其の刀を利くす:取り込んだアイテムを強化するスキルのようだが詳細不明。強化倍率の法則性について検証中

【後天技能】

・武術

・影の形に随うが如し:使用者の意図を汲み取り、的確にサポートする。秘書スキルに類似性があるが、より瞬間的な判断が求められる戦闘に特化していると考えられる。その精度はまさに影が本体に付き従うかの如し

 

 

カードイラストになっている、触ってもわかる錆や刃毀れだらけのこの襤褸刀は恐らくは凡庸の刀……いやそれ未満のお仕着せのなまくらだろう。このなまくらは早々に消して新しいものを取り込むべきであり様々な選択肢があるが先ずは定石通りに定の様に、定と同じ様に刀を取り込ませて使うのが一番良いだろう

 

防具を取り込ませたりアクセサリーを取り込ませたりと色々戦闘力増強手段にもなるだろう。他にも本当に様々な使い道があるが今は『逆手に持つ刀』として使うつもりだ……そもそも利き手には定一択である、Eランク最弱から慣らし続けて来た大輝のメインウェポンは伊達では無い。同じ装備化能力持ちでも戦闘力だけなら一反木綿の方が強いぐらいだったし

 

そして『逆手刀』として扱うにもまた二つの選択肢が出てくる……『即戦力』か『切り札』か?である

 

即戦力としてなら大通連を取り込ませれば良い。その分強くなるし神通力の補正が多少は増すだろう

 

切り札ならば無銘の名刀を、比較的入手し易いから『食を願わば器物』で一日一回だけのブーストが出来る。このルートなら大通連は剣に与えるのも良いだろう

 

……まぁ、それは後で考えれば良いだろう。少なくとも大輝自身とこの付喪神の相性はそう悪くはない様だ。付喪神(こいつ)は自我は薄めと言うか無口と言うか器物という性質故かは未だ性格は掴み辛い、テレパスは相性が良いからかスムーズに出来る気はするが今はまだある程度の感情しか伝わってこない様だ

 

そして次は祝と蔵のクラスチェンジ……さてどう出るか?

 

 

【種族名】鍛治が嬶(祝)

【戦闘力】530(110UP!)

【先天技能】

・千疋狼:その説話の屋台骨である『千匹の狼を呼び出して使役する能力』。千匹とは言えどその実態は無限召喚であり、その狼達を的確に指揮する能力を内包する

この狼達は『提灯の無い送り狼』として扱う

統率を内包する

・縄張りの主:自身を中心としたテリトリーを形成可能。テリトリー内では味方全員の能力が向上し、持続回復の効果がある他、テリトリー内に侵入した敵の気配を察知することが可能となる

一方で、自身の存在を周囲に知らしめる形となるため自身よりも弱い敵を遠ざけ強い敵を惹きつけてしまう。また、テリトリーの範囲は周囲の敵の弱さに比例する

・三種の変身:本来の姿である『鉄鍋を被った老いた白狼』と巨大な化け猫、鬼婆の三つの姿を持つ。鬼婆の姿になると戦闘力が少し低下するが会話能力が付き道具の使用が可能になる

・本能の覚醒

【後天技能】

・迅雷

・忠誠

・中等火炎魔法

・鋭敏嗅覚

・気配察知

・気配遮断

・戦士:戦士に必要な技能を収めている。武術、剣術、槍術、弓術、騎乗スキルを内包する

・乗騎

 

 

【種族名】一本だたら(蔵)

【戦闘力】520(140UP!)

【先天技能】

・たたら鬼:鍛治に特化した妖怪……いいや零落したとはいえ鍛治神である事を示す技能。零落しているとはいえ鍛治、採掘、精錬などの技能を内包している

充分な金属が有れば一週間掛かるが『無銘シリーズ』を作成可能。但し作刀作法や儀式もあるので必ずぶっ通しでやらなくてはならない

金属製魔道具の修繕や整備なども可能

熱、火炎攻撃への完全な耐性を持つ

・零落の鍛治神:金属製品や基本戦闘力+30程度の武具を即座かつ無限に具現化する事が出来る

己の保有する空間以外のちゃんとした金属を対価にすればその金属の分まで基本戦闘力+100の武具を具現化出来る

この効果は壊れるか一本だたらが場に存在する限り永続する

・山野の鍛治師:鍛冶場型の……いや、鍛冶場特化型の異空間を形成する能力を保有する。殆どは鍛冶場や炉心、能力行使の為にだけ使える石炭や鉱石・金属や作成品置き場であり、あまり生活空間は無い

一応四畳半の休憩室と水、塩の備蓄だけはある

倉庫(中級収納)もあるので荷物の積載は出来る。上級収納に変化済み

・山の妖怪:山岳に居る限り強い補正がかかる。寒さ、氷結への完全な耐性を持つ

【後天技能】

・中級家妖精(農)

・中等状態異常魔法

・中等支援魔法

・盗賊の心得:一人前の盗賊的な技術を持つ者の証。高等罠発見/解除、器用性強化、鋭敏感覚、気配察知、かくれんぼ、武術を内包する

・妖精のお節介

・忠誠

 

 

中々に壮観なものだ、二枚とも滅茶苦茶強くなってくれた……これは嬉しい話だ。例え後天技能や戦闘力を継承出来なかったとしても彼らを大事にする事に一切変わりは無いがそれでも嬉しい事は嬉しいものだ

 

 

『……ふふふ、ようやく普通に話が出来るねご主人。あたしみたいなババァを此処まで大事にしてくれるとか本当にありがたくて少しだけでも話をしてみたかったんだよ』

 

 

これは祝の第一声。嗄れてはいるが何とも張りのある良い声だが、今までは狼や犬でしか無かったから吠える事しか出来なかったが……それでも今なら『鬼婆形態』ならばちゃんと話が出来る

 

この鬼婆としての姿だが……嘗て西洋の魔犬を経由したからか黒く頭以外のほぼ全身を隠す飾り気の全く無いドレス姿で長身痩躯のしゃんとした背筋の通った銀髪の老婆の姿になっていた。いわゆる『カッコいい婆さん』だろうか?

 

普通の鍛治が嬶ならばステロタイプの鬼婆だが、クラスチェンジを重ねて磨き上げたカードには時にこういう些細な変化が起きるものだ……宴みたいなレアケースだってあり得るのだし

 

 

『ゴ……主人。オレダ、く、蔵ダ』

 

 

ある程度発音会話は出来るらしいがその鉄仮面みたいな頭の影響か喉の構造か、どうやら蔵は喋るのが苦手らしい。それでも少しでもまともに喋れるならば大輝と話がしたかったのは祝と同じだ……他にも会話能力の無いメンバーは結構居るからその代表として話がしたかったからというのもある様だ

 

そんなクラスチェンジした二枚と和やかな対話……やはり大輝のデータに飢えた研究者連中がそのクラスチェンジデータを採取はしていたが『非常に理想的なクラスチェンジ』というだけだったので其処でお開きと相なる

 

まぁ、それでも多少のお喋りをする時間ぐらいはあるので大輝は今回はある意味一番気になる展開を迎えた一番の家来(相棒)である剣と静かに今後を語り合う

 

 

「やっぱりお前と菫を織姫彦星状態にはさせたくないわ……自分達に置き換えたら尚更な」

 

『しかし……その負担は大丈夫なのですか?』

 

「なぁに、この数日みたいな日々なら俺にも良い骨休めになるさ」

 

 

やはり大輝がこの依頼を定期的に受諾して姫子()と迷宮で逢うチャンスを掴む方針で行く事に決めた。多分研究者連中のアプローチは非常に執拗かつ苛烈なものになるだろうし

 

それでも一月半に一度。そして夜は剣と菫を二人きりにしてやる環境を作る事は確約しなくてはならないだろう

 

二人は辺りに用意されていたラムネ瓶を呷りながら今後の事を考える……

 

 

一方姫子と菫……希望していたらしいので小袖の手の桜とハイピクシーの撫子も参戦して来た

 

その、何だ。女の色恋話や猥談にはあまり関わらない方が良いだろう……大輝や剣にもあまり聴こえない辺りでこそこそやっている様だし

 

 

なんやかんやで時間はあっという間に過ぎてそろそろ帰るべき時間である。大輝と姫子が自衛官から預けていたスマホ……冒険者仕様のクソ重くて頑丈な事が特徴なお揃いの品を受け取って履歴を見ればびっくりだ

 

何せ昨日から何件かのLINEから電話からの着信履歴がある

 

そしてその履歴はただ一人からのものだった

 

 

『南雲 ハジメ』

 

 

大輝の友人いや親友の一人であり、大輝が冒険者をやる前のバイト先である非常に有名なゲーム会社の御曹司兼主力デザイナー兼『オタク文化を守る会』と『八重樫道場』に所属する三つ星冒険者にしてクラスメイトである

 

要は大輝が夏休み終了後に頼る可能性を考慮した伝手の一つだ

 

その内容は……やはりと言うか何と言うか、何時もの『救援要請』だった。ハジメの両親が共に修羅場やら極道入稿状態に陥ったらしく臨時ヘルパーとしての救援要請だという

 

今直ぐに通話から南雲家に直行する必要が出来た。大輝には南雲家に恩を返す好機である……南雲家は本当に良いバイト先だった。修羅場地獄や極道入稿地獄とか考えなければ

 

 

「大丈夫ですわにーさま、私も一緒にお手伝いしますわ」

 

 

そんな言葉で死地(南雲家)へ向かう二人……なんやかんやで少なくとも夏休み最終日の夜中にはちゃんと家に帰れはしたらしい

 

やはりしまらない結果ではあるが佐藤大輝の夏休みはこうして終わりを告げた。さて、次章は何時のどの時期から始まるかは今はまだわからない……しかしそれでも大輝は姫子と歩む道を自作するだろう

 

 

 

今日は幸運、明日は謎……だから誰もが賽を投げて一天六地の結末に右往左往

 

賽の目が何であれそれでも明日を征くから未来に往ける。泣いても笑っても時は待ってはくれぬ

 

佐藤大輝は薬丸姫子と未来を……自分の手のひらの大切なものの為に未来を切り拓く。この黄昏刻の繁栄の中を、今は未だ優しい準備期間の中で

 

 

 

第一章:完




 ちなみに祝の人間(鬼婆)形態は『からくりサーカスのルシール婆さん』、蔵の姿は女神転生でイメージしてみて下さい


今回アンケートやります


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血涙鬼・彼岸のカードファイル その1

初出のカードは使うかも知れない、使わないかも知れない

皆様もモブ高二次作成ライフの参考にどうぞ


エジリ・フレーダ

 

ブードゥー教の愛と美の女神。

『誰とでも寝る女神』として知られる。

3人の夫を持つため、結婚指輪を3つつけた姿で表される。 常に命の短さと愛の儚さを嘆き悲しみ泣いているとされる

 

多夫一妻制度の背景としてブードゥーの古典に於いて女性は部族単位の共有財産であり子供もまた『部族全体の子』として養育されていたからだと推測されている

 

が、エジリ・フレーダという女神はかなり自由な存在らしく愛と美に付随する『贅沢』も司るとされる。宝石、踊り、花、虹も司るとされている。性格は愛深く嫉妬もまた深い女神らしい女神である

 

キリスト教とハイチの土着宗教が習合する際に『聖母マリア』としての性質を獲得している為Cランクのブラックマリアにクラスチェンジが可能

 

能力的には回復魔法と性技(を内包した良妻賢母)とか辺り……ネイティブならローカルスキルのブードゥー魔術を保有している。稀に『宝石を齎す能力』に目覚める個体も現れるらしい

 

 

【種族】エジリ・フレーダ

【戦闘力】175

【先天技能】

・高等回復魔法

・良妻賢母

 

 

小袖の手

 

鳥山石燕の妖怪画集『今昔百鬼拾遺』などの江戸時代の古書にある日本の妖怪。小袖(袖口の狭い高級な和服)の袖から、幽霊らしき女性の手が伸びたもの

 

元は遊女の死皮(死者が残した衣服)で『苦界(遊郭)から自由になる為の身請け金』を求めて今も手を伸ばしている(若しくは『ちゃんとした身飾りがしたかった』という無念から。というパターンもある)

 

その執念から『着物』であるなら如何なる型にも変化する能力や短時間(二時間)なら人化する能力がある(カードにも『人間形態が本体である小袖を着た姿』)で現れる

 

その性質上『装備化スキル』もあるが基本的に状態異常、火炎オンリーの攻撃魔法を使う(火炎は類話である『振袖火事』から来た)純魔法使いビルド

 

ちなみに『装備化』する際には『羽織り』にするのが良いとされている(比較的動きを阻害しないから)

 

基本的にDランク最低クラスの戦闘力なので流石に白兵戦ではリビングアーマーみたいな専門家には(普通にやれば)勝てないが魔法行使や『霊体の腕を伸ばす』などのトリッキーな使い方が出来たりするのでマスターに応用性(とリンク能力)があるならむしろリビングアーマーよりも使い勝手が良いと一部では評判が良い

 

鍛えて武術や武器扱い系統技能を持たせると更に良い感じになると一部のマスター達から評判だ

 

その逸話上守銭奴が多く、必ず『女郎スキル(夜鷹から太夫まで)』を保有している

 

 

【種族】小袖の手

【戦闘力】100

【先天技能】

・苦界の死皮:小袖の手の基本的な特徴である装備化スキル。基本的に初等クラスの装備化スキルであり。他のカード、あるいはマスターへと憑依することで、自身の戦闘力の四分の一を加算させることができる(マスターへの装備化の場合はすべての戦闘力とスキルを共有できる)

『身飾り』を求める女郎の怨念からマスターの望む着物(基本的に女性用限定)なら何でも変化出来る

・振袖火事:類話である振袖火事と習合して出来た能力。中等攻撃魔法(火炎限定)と自爆能力を内包する

・中等状態異常魔法

 

後天技能には必ず『女郎スキル(最低夜鷹から最高太夫まで)』を保有している。女郎スキルは『娼婦版メイドスキル』みたいなものである

 

 

キョンシー

 

正式?には『僵尸』と書く。意味は『硬直した死体』

 

僵尸となると尸体であるにもかかわらず一切腐敗せずに生前同様にふっくらとしていて、髪の毛も長く生えている。性格は凶暴で血に飢えた人食い妖怪である。さらに長い年月がたつと、神通力を備えて、空を飛ぶ能力などももつとされる。清朝の野史である『述異記』も湖南省の村で出たという記録を残しているが、伝説の域を出ない

 

 

キョンシーには八つの階級が存在する。その一覧は

 

第一級-紫僵:最も低い階級のキョンシー、身体が硬い形態。ネイティブである中国でもEランク(日本ならギリギリEランク)映画の一般的なキョンシー達は基本的にこれだと思った方が良い

 

第二級-白僵:腐敗を脱したキョンシー、妖気を蓄え始める(中国ならD最上位、日本なら辛うじてD)。通常の道士がまともに取り扱えるのはここまで

 

第三級-緑僵:皮膚が緑色になり、地上のキョンシーの高い階級。生前の記憶を一部回復し、知能もだんだん高くなる。いわゆるあの映画の『親方』レベル。日本なら普通のDランクカードとして扱われる(ネイティブならCランク下級レベル)。初期の頃のボスキョンシー(いわゆる『親方』レベル)。その見た目(肌が緑色)からあまり人気はなく気に入った姿の白僵からのランクアップが余裕のある冒険者間では一般的に行われている

 

第四級-毛僵:皮膚の毛髪が再生し始める。皮膚は5色に輝き通常は地上のキョンシーの王者であり、初歩の法力や特殊能力を使用できるようになる。あの映画で言えば『ベビーキョンシー』。日本ならDランク高位、ネイティブならCランク中級でこの辺りからローカルスキル習得の可能性が芽生える

 

第五級-飛僵:飛行能力を獲得したキョンシー。この段階になると知能は完全回復しており、力は熊のようで人間とは外見が異なり修練により法力を獲得している。飛僵の体毛は全身に30cmほどあり、全身を覆っている。光の中にも出ることが出来、自由に空を飛び、雷に打たれても死ぬことは無いが、鳥銃(火縄銃)で倒すことが出来る。

日本ではこの階級までしか出ない。これから先の階級はネイティブオンリーとなり、ネイティブなら確実にローカルスキルを獲得している(日本ならCランク下位、ネイティブならBランク最下級)

 

第六級-遊屍:”天雷”を会得した後のキョンシー、地仙級の法力があり、神仙の遁術を自由に使用できる。いわばヨーロッパ圏内の『リッチ』みたいなもの。Bランク中級の戦闘力持ち

 

第七級-伏屍:”陰火”を会得した後のキョンシー、天仙級の法力があり、身を消すことが出来、神遊太虚の名前を得る。Bランク最上位の戦闘力持ち

 

第八級-不化骨:最後の”贔風”を会得したキョンシー、大羅金仙級の法力を持ち、天地と同じ寿命を持ち、永遠に変わらず、この階級まで到達できるキョンシーはほとんどいない。完璧にAランク

 

 

ほぼ九割男型であり男型なら容姿体型は様々、年齢もまた様々だが稀に女の子型も出る(基本的に女の子型だと必ず美しい容姿であり老人型は無い)

 

あるキョンシー使いは『特殊霊魂の子供達』、『親方』、『デブ署長』、『ベビーキョンシー』に似たキョンシーを中国全土から探し出してキョンシーブームの再燃の為にモンコロ人気選手になったとか何とか

 

基本的にアンデットとしての特徴とキョンシーとしての弱点と強みはだいたい持っているが基本的に凶暴化はしない、ついでにキョンシーに殺されてもキョンシー化する事は無い(ゾンビでも吸血鬼でも同じく)

 

能力データは日本版第ニ級-白僵より

 

【種族】キョンシー/白僵

【戦闘力】110

【先天技能】

・僵尸:キョンシーとしての基本的な特徴一式。怪力、屍喰い、生きた屍、絶対服従などを保有する。生の餅米や童貞の尿などの伝承上の弱点や火炎攻撃に弱く基本的に不器用(道具をほとんど使えない)

・虚ろな心

・武術

 

後天技能は基本的に千差万別であるが魔法はあまり期待できない

 

 

スパルトイ

 

ギリシャ語で『撒かれた者』を意味する

 

テーバイの始祖であるカドモスがアテナの協力の元に竜の牙より生み出した屈強な兵士達、彼らは生まれたその瞬間から同族と争い五人を残して全滅した

 

これはその五人以外の『撒かれた者』であり、彼らは人造人間にして死者でもある戦士である。そのスケルトンに酷似していて素人目には判別が難しい(ギリシャ風のスケルトンにしては上等な装備をしている辺りと動きの滑らかさで判別は可能)

 

アンデット、無機物の属性持ちにしてはかなり扱い易い為無機物、アンデット使いからは人気が高い(スケルトンの進化経路としても)

 

『奨学カード』にするには少し出現率が低い事と強すぎる事と癖が強い為そのカテゴリー行きは見送られた

 

 

【種族】スパルトイ

【戦闘力】140

【先天技能】

・撒かれた者:生きた屍、絶対服従、虚ろな心を内包した屍にして廉価版人造人間たる生命体

・武術

・火事場の馬鹿力

 

後天技能は必ず一種類以上の武器技能を保有する。戦闘に関わる技能以外の覚えが悪い

 

戦闘力こそ低いが黄泉軍の上位互換扱いで黄泉軍よりは高い(虚ろな心と絶対服従を最初から内包しているのでアンデットの中では扱い易い区分に入る)。だいたい三百万円くらいが相場

 

 

 

オーク

 

基本的に『指輪物語』の作者であるトールキンの想像した架空の種族(怪物)。闇の聖霊に仕える邪悪な勢力の兵士として有名な存在

 

近年ではまぁ(ごにょごにょ)な本やゲーム(ゴブリンスレイヤー的な)にて大活躍だがこの世界では基本的にそういう欲求は(特に迷宮に出るモンスターとしては)無い(この世界のモンスター達は『ごく一部のイレギュラー』以外は機械的に人間を襲うだけの存在である)

 

基本的に本編にも書いた通りの初心者向けモンスターとして人気かつ有名であり、この作品の主人公も(ネットやギルド職員達の勧めもあって)普通に購入した

 

基本的に『悪/鬼/妖精』の属性であり、普通は『ボアオーク』にマイナーチェンジしたり『オーガ』や『グレンデル』などのCクラスにクラスチェンジしたりするのが一般的……だが、実はクラスチェンジ先には『エルフ』も候補に入っている(オークはエルフの零落または堕落した姿だという説もある為)。『シーオーク』というエルフに似た異空間移動能力を持った美しい妖精系Cランクカードや『天蓬元帥』に『カマプアア』という高級路線もある(これらもCランク)

 

【種族】オーク

【戦闘力】100

【先天技能】

・集団行動:群れの中で生きる習性。集団での行動に対するプラス補正。

・頑丈:頑丈な肉体を持つ。生命力と耐久力を常時向上させる。

・怪力:人外の力を持つ。筋力が常時大きく向上する。

 

後天技能には従順や武術、斧術や庇うなどを持っている場合が多い

 

 

こういう『初心者向けの存在』というものを掘り下げたりピックアップしたりしていると世界観の新しい掘り下げが出来るんじゃないかと思ってこのたまに話に出てくるオークをピックアップしてみた

 

基本的に戦い以外の取り柄は無く……そして何より頑丈なところが初心者向けだと思う。とりあえずFランク迷宮ならただ戦うだけで攻略出来るし、何より頑丈なら初心者でも下手な采配でロストの可能性を少しは減らせると考慮出来る。ついでにDクラスカードの中でも特に沢山世に出回っている為入手もし易く何より安い

 

大概の学生冒険者はこのカード一枚から始めるのが普通だと思う。大概は『(南山や小野みたいに)親の金』だったり歌麿みたいに長い苦労の末に少ない資金をやりくりしてカードを得るのが普通だからこういうオススメから始める事が多い(稀に歌麿みたいなギャンブラーも居るが大概自爆で終わる)

 

 

ワイルドウルフ

 

大型犬サイズの灰色狼、ぶっちゃけてこれだけのFランク最弱クラスの雑魚モンスター

 

それでもきちんと武装していない人間ぐらいなら初期の……それこそ迷宮一階に出る最弱状態のワイルドウルフでも簡単に仕留める事が出来る程度には強い(原作最序盤程度に武装した一般人……歌麿レベルならまぁ一対一なら比較的何とかなる範囲だが)

 

一応は先天技能として集団行動を保有しているのでオークとはシナジーがある(それしか無いが)

 

一応は狼なのでスキルは無くとも嗅覚は敏感なので索敵・奇襲対策要員として起用した

 

属性は『獣/犬系統』でぶっちゃけ使い捨て前提の運用になる程度の強さしか無い……が、鍛えてEランクのヘルハウンドやDランクのライラプスなどにクラスチェンジさせるマスターもたまに居たりする

 

 

【種族】ワイルドウルフ

【戦闘力】15

【先天技能】

・集団行動:群れの中で生きる習性。集団での行動に対するプラス補正。

 

後天技能で追跡や嗅覚、索敵、奇襲といった技能を獲得している事がある

 

 

 

ストーンゴーレム

 

ユダヤ教のラビ(指導者とも祈祷師とも言えるユダヤ教の祭司みたいなもの)が断食や祈祷といった儀式を以てして作成し操る魔法の人形

 

本来なら泥人形の事だが、それはFランクモンスターとして存在している

 

以外とバリエーション豊富でFランクには泥、木、紙製のゴーレムが存在し、Dランクなら鉄と銅のゴーレム……他にも錬金術関連ならだいたいクラスチェンジ候補になるらしいしC、Bランクにも更にゴーレム系統が存在するらしい(ちなみに……このゴーレムの最終進化系統の一つには『フランケンシュタイン・モンスター』や『哪吒』などが存在する)

 

『(主に額などにある)核』を破壊しない限り決して破壊出来ないしぶとさを持ち、決して疲労もしない上に怪力持ち

 

但し……岩で出来た身体だから非常に不器用かつ鈍足でちゃんと育成しない限り決して複雑な命令はこなせない上に融通も効かないという欠点も存在する

 

普通なら『一芸特化型』としてDランクカードの代用扱いとして運用されるのが普通だが、真面目に育成すれば案件強くなる素養はある玄人仕様の渋いモンスターでもある

 

【種族】ストーンゴーレム

【戦闘力】80

【先天技能】

・自動人形(下級):魔力に因って作成された操り人形、しかし素材があまり宜しくない為デメリットの比率が高い(『生きた屍』の自動人形バージョン。絶対服従、状態異常耐性、知能低下、不器用、怪力、疲れ知らずを内包する)

・石の身体:身体が石で構成されている。刺突や斬撃には強いが打撃には普通、魔法攻撃にやや弱い

 

後天技能には火事場の馬鹿力などが多い……内包するデメリット技能の清算などが優先される事が多い

 

何気に絶対服従持ちなので訓練(プログラム)次第で色々成長できる……が、かなりピーキーな仕様なので大概のマスターは一時使いか使い捨てするのが普通の悲しい存在(見た目も悪いし所詮はEランクモンスターだしで)

 

『ちゃんと命令すればオークの代替品』というのがこのストーンゴーレムの評価だが余りに面倒くさい仕様なので人気は無い

 

しかし……ちゃんと育成すればする程どんどん輝きだす『冒険者を映す鏡』の様なモンスターでもある

 

 

ジャック・オー・ランタン

 

ヨーロッパにおける鬼火(妖精とも亡霊とも)の一種。日本でいうなら『お盆』の様なイベント『ハロウィン』のマスコットとして有名

 

元々は性質の悪い悪戯を重ねていた為に天国に行けず、悪魔にさえ悪戯した為に(賭け事という説もある)地獄にも逝けなくなった男の魂だと言われている

 

彷徨う男は夜道をあても無く歩く為にハロウィンの時期にはよく捨ててある萎びた蕪をくり抜いて提灯にした。それと男の名前から『提灯ジャック』となる

 

本編にも記載したが、大航海時代にアメリカに移民した白人達がハロウィンを祝おうとした……が、蕪はアメリカの(少なくとも当時の)土地には適応しなかった為に南瓜を代用品にしたのが現在のハロウィンの始まりである

 

カードとしては魔法特化そのもの。火炎系攻撃魔法メインだが幻惑、弱体化にも適性がある

 

物理的にはかなり弱く、相手がFランクでも白兵戦を得意とした『強いFランク』なら殴りあいは避ける方が無難なレベル(殴りあいに強いEランクならまずやめておくべき)

 

実は案山子としての身体はほとんど単なる飾りであり、本体は宙に浮く南瓜か白蕪の頭部(一応は案山子パーツも身体の一部なのでダメージ判定はあるが決して致命傷にはならない、案山子パーツは全損しても数日で完全復活する……が、この案山子パーツはジャック・オー・ランタンにとっては『服』みたいなものらしい)

 

ハロウィンに纏わる存在である為かほぼ全ての個体が『お菓子が大好き』という共通した性質を持つ……お菓子を沢山与えれば回復速度が幾らか早くなる程度には(先天技能に内包された特性らしい)

 

属性は『火炎/妖精/精霊/アンデッド』、進化先はかなり色々あるが個体ごとにバラつきがあるらしい(但し、必ず火の性質がつよくないと基本的にダメらしい)

 

大概の冒険者が二体目のDランクカードとして選ぶ事が多いカードとして有名な奨学カードの一種

 

【種族】ジャック・オー・ランタン

【戦闘力】110

【先天技能】

・除霊祭の提灯

ハロウィンの提灯として炎を以て悪霊を祓うジャック・オー・ランタンの灯火を示す。火炎特化攻撃魔法、初等状態異常魔法、空中浮遊、嗜好品回復(お菓子/軽)を内包する。

・案山子の身体

ジャック・オー・ランタンにとって案山子の身体は『服』と同じ扱いであり、万が一の時にはトカゲの尻尾の様に簡単に切り捨てられる。

一回だけ案山子の身体を身代わりにする事で致命傷を防ぐ事ができる……が、案山子の身体が再生するまで召喚を忌避する傾向がある(マスターの扱い次第ではその状態で召喚するとマイナススキル発生の恐れがある)。

耐久性低下を内包する

 

後天技能には火炎魔法強化や魔法系が多いが回復魔法と白兵戦技術はまるで駄目だった(回避能力向上は獲得したケースが結構あるらしい)

 

 

ブラウニー

 

身長1m程の襤褸布を纏った醜い……けれど何処か愛嬌のある小人型の妖精

 

イギリスの『お手伝い妖精』であり、基本的に真面目に働くが決して衣服を(靴下一つすら)与えてはならない

 

それを与える事は『ブラウニーの解雇』を意味し、そのブラウニーを確実にロストしてしまう結果になる(原典では『ブラウニーは衣服を求めて召使いをやっている』のだが)

 

基本的に掃除洗濯、子供のお守りなら得意で料理は……うん、『昔のイギリス出身』という事を考えればね(大輝のブラウニーが最初から持っているレシピが『ハギス』『鰻のゼリー寄せ』『スターゲイジーパイ』だという地点で察して欲しい)

 

料理なども一応は(レシピなどで)教えれば上達はするが……決して上位互換であるシルキーには敵わない(むしろそのシルキーに使役される存在がブラウニーである……オークがボアオークに、河童が水虎に使役される様に)

 

ほとんど純粋な『属性/妖精(それと家)』 なのでそのブラウニーが女性型ならばシルキーやキキーモラなどの上級のお手伝い妖精にクラスチェンジがオススメされ。男性型ならばドワーフやレプラコーンなどが基本だろう……日本の座敷童なども(家繋がりで)進化先に出来る

 

【種族】ブラウニー

【戦闘力】70

【先天技能】

・下級家妖精:人間の代わりに家事をしてくれる妖精。……が、迷宮内では家などないためいまいち使いどころは不明。みすぼらしい格好をしているが、衣服を与えるとロストしてしまうので注意。初等家事魔法を使用可能。

・初等状態異常魔法

 

後天技能に罠探知・解除などのお役立ち系技能や……稀に下級収納や下級鑑定を獲得する個体が出やすいとも言われている

 

 

キキーモラ

ロシアを発祥とする妖精の一種。その語源は『家鳴り(家屋がキィキィ鳴る音)』から来ている

 

少女、老婆、幻獣の三つの姿を持つとされ、本場ロシアではその三つの姿を使い分ける事が可能とされている

 

屋敷妖精らしく働き者の主婦の手助けをするが怠け者の主婦を喰い殺すという一面を持つ

 

日本ではそれぞれ少女、老婆、幻獣の三つの形態で現れる(変身能力のオミット)。値段は高い順から少女、幻獣、老婆。希少性は老婆、幻獣、少女。総合評価は幻獣、少女、老婆となる

 

ちなみに……老婆形態だけは『とあるロシアの魔女』へのクラスチェンジが可能になる、という特徴がある(その『ロシアの魔女』は非常に取り扱いの難しい存在だが、老婆形態キキーモラをちゃんと育ててクラスチェンジすると取り合い易くなる……とも言われている)

 

属性は『妖精/家(時に獣や鬼女)』で主に空間系か家事、職人妖精などにクラスチェンジが一般的(幻獣系なら一部の獣系統、老婆系なら魔女や鬼婆などに適性を得られる)。勿論ネイティブカードにクラスチェンジもあり

 

 

【種族】キキーモラ

【戦闘力】130

【先天技能】

・中級家妖精:人間の代わりに家事をしてくれる妖精。……が、迷宮内では家などないためいまいち使いどころは不明。メイド、高等家事魔法を内包。

(メイド:メイドに必要な技能を収めている。料理、清掃、性技、礼儀作法を内包)

(高等家事魔法:高度な家事魔法を習得している。家事魔法は攻撃能力を持たないが、家の中でできることに不可能はない)

・中等回復魔法

・中等状態異常魔法

 

後天技能には『使用人(メイドに在らず)』や使用人として適切な技術を獲得しやすい

 

 

送り狼

日本に以外と数多く存在する狼の妖怪の一種。今は絶滅したニホンオオカミの習性から生まれた妖怪

 

夜道を往く者(特にか弱い存在)の周囲(特に後ろ)に張り付き跡を付け……走り出したり転んだりすれば容赦なく襲いかかる……が、転んだ際には『休憩をとるふり』をすれば襲われないと謂れている

 

夜道の恐怖から生まれた妖怪は結構な数が存在するが……この妖怪もまたそんな妖怪の一種であり今も慣用句の中で生きている存在だ

 

外見的には基本的に普通の狼であり……ほとんど『ワイルドウルフ』と代わりない灰色狼(ワイルドウルフよりも毛並みなどは綺麗)だが、二張りの提灯を召喚して自由自在に操る能力を持っている

 

会話能力は無いがその提灯を使えば『YES /NO』での会話などや『行け/行くな』などの簡単な意志疏通は可能(この提灯には戦闘能力は一切無い。壊れても『Fランク魔石一個』で直ぐに再生産可能らしい……無くても半日で修復可能)

 

提灯の灯火には『多少の感知能力』があり、たまに『空間系カードの影』

を捉える事が可能(かなり注意深く見ないとわからないが)

 

そして……送り狼最大の能力は『帰路限定のナビゲーション能力』であり。例えワープや何かで全く解らない場所に居ても必ず迷宮の出口まで連れて行ってくれる(勿論、送り狼が生きて動ける事は大前提だが)

 

このナビゲーション能力には幾つかの『制約』があり、その『制約』を遵守しないと『帰路のライン』を喪失するから要注意

その一:最初に必ず送り狼を召喚して迷宮出入り口を見せる事。これをしないと『帰路のライン』を構築出来ない

そのニ:使用中は決して走らない……送り狼に襲われる代わりに『帰路のライン』を喪失するから注意

その三:使用中は決して転ばない……やはり『帰路のライン』を喪失するが、転んだ場合は直ぐに『休みを取るフリ(最低でも一分は必ず)』さえすればラインの喪失は免れる

 

このナビゲーション能力にはある程度の『エネミー感知能力(提灯由来)』もある……それを利用して帰路のモンスターを(ある程度は)やり過ごす事も可能だろう

 

その能力から『廉価版アリアドネの糸』とも呼ばれている(アリアドネの糸は非常に貴重な『何度でも使える転移系魔道具』だが)

 

属性は『獣(狼)/妖怪』で犬科の怪物か妖怪かが一般的なクラスチェンジルートとなるだろう。Cランクの『黒妖犬シリーズ/バーゲスト(ネイティブ)』やライカンスロープ(人狼)、犬神や鍛治が嬶(ばば)など多岐に渡るクラスチェンジ先がある

 

 

【種族】送り狼

【戦闘力】110

【先天技能】

・獣は老いても道を忘れず:送り狼の最大の特徴である『帰路限定のナビゲーション能力』と『提灯を操り敵を感知する能力』が内包されている(先に挙げた制約も含めて)。

・奇襲

・集団行動

 

後天技能にはやはり狼らしい技能などが多い……稀に『火炎魔法』などを習得できる個体も居るとか居ないとか

 

 

手の目

 

鳥山石燕の『画図百鬼夜行』に記載されている妖怪(若しくは怨霊)

 

座頭(盲目の弾き語りや按摩鍼灸師、金貸しなど)の姿で眼球が目ではなく掌にある妖怪。悪党に金を奪われ殺された盲人の怨みから生まれたとされる

 

この世界ではEランク迷宮でごく稀に(日本限定で)出没するレアモンスターの一種

 

『装備化能力』という珍しく、そして非常に重宝する能力を持つが……デメリットとして『眼球が掌に移る』上に『謎の雑音に苦しめられる』というマイナス効果がある為『役に立たない装備化能力持ち』のレッテルを貼られて即座にギルドに売却される哀しいカードである

 

この『掌に出来た眼』は本来の眼が盲目でも(弱視レベルとはいえ)ちゃんと視えるために病院などが常にこのカードを求めているため需要はしっかり存在する

 

 

……しかし、じつはそれは『カバーストーリー』で本当の手の目は自衛隊やギルド直属の冒険者達の訓練には必須な重要カードである(病院も求めている辺りは事実だが)

 

作中にもある通りこの手の目は『リンク用チューナー能力』を持った非常に珍しく重宝するカードだ。そして何故この能力が隠蔽されて『役立たずカード扱い』なのかは……『リンクは秘匿技術だから』という事と同じ理由だ

 

もしもこの能力を把握してギルドに報告すれば『口止め料』がそれなりの値段で貰えるだろう(何らかのDクラスカードとか)。ネットなどに書き込み……はブロックワードなどに阻害されるし仮に成功しても直ちに削除された上でギルドからの『警告』が来るだろう(勿論『口止め料』は無しだ)

 

嘘か真かこの手の目を使って戦う冒険者も居るとか居ないとか……そういう噂もあるらしい

 

 

【種族】手の目

【戦闘力】50

【先天技能】

・手目坊主:探知能力を向上させる……何らかの隠されたものを探る事が出来るとか?(詳細不明……但しマスターが『盲目』である場合は完全に行使可能らしい)

※:未だに未解明な処があるスキルなので何かしらの情報が有ればギルドにご一報を

・化けの皮:憑依型装備スキル。特殊なデメリットはあるが他のカード或いはマスターに憑依する事で自身の戦闘力の六分の一を加算させる事が出来る(マスターへの憑依は全ての戦闘力とスキルを共有できる)

 

後天技能に『座頭としての技能』が先に来るが……稀に『○級鑑定』に武術や杖術、一部の剣技を修得する個体も居るらしい

 

 

ボアオーク

 

オークの先祖返りとも進化形とも言われるオークの上位種族。基本的に頭が猪になった事以外はオークそのものな外見……だが

 

オークの弱点である頭の弱さ、鈍重さ、不器用さに魔力の無さを全て克服している上に元からの強みも強化された紛うことなきオークの上位種族

 

そしてその真価は……『オークの上位種族としての特性』から来る固有の先天技能『猪鬼将軍』だろう。この能力は『眷属召喚』という能力の一種で一日に最大三十六体、一度に六体までの『眷属オーク』を使役出来る、という能力だ(その『眷属オーク』は全て全裸か腰蓑か褌一丁で素手という姿でカードのオークよりもかなり弱い代物ではあるが)

 

クラスチェンジ経路や属性なども基本的にオークと同じなので磨きあげたオーク使いはまずこのボアオークにマイナーチェンジするのが鉄板とされている

 

【種族】ボアオーク

【戦闘力】180

【先天技能】

・猪鬼将軍:『眷属召喚』の一種、カード版よりも劣化した『眷属オーク(後天技能無し、戦闘力八割)』を召喚使役出来る『上位オーク』としての特性

頑丈、怪力、統率を内包する

・武術

・威圧:強烈な迫力で敵の動きを鈍らせ、稀に怯ませる事が可能。但し臆病な気質持ちか『格下』にしか通用しない

 

後天技能は基本的にオークと同じだが魔法や一般技能もある程度習得可能

 

 

グレムリン

Eランク迷宮からなら世界各国どの迷宮にも必ず出没する冒険者や軍人全ての嫌われ者

 

第一次世界大戦における飛行機の故障(実際には技術がまだ未熟だったせいだが)の原因として飛行機乗りに恐れられた近代の妖精とも悪魔とも言える存在

 

外見的には八十年代のあの有名な映画に出てくる『あのクリーチャーに纏わる最後の約束を破った後の姿に蝙蝠の羽根を追加した様な』小柄かつ醜悪な小鬼。羽根はあるが短時間の滑空程度にしか使えない

 

こいつの特性は『機械の否定』、幾らかの溜め時間と集中の後に放たれる特殊な電磁波で機械類を全て破壊する事ができる(懐中電灯や銃、手巻き懐中時計程度に複雑な機械なら確実に破壊出来る……実験の結果火縄銃や単純な構造のボウガン辺りならば使用可能ではあるらしい)

 

この効果は『人工魔道具』にも有効であり、冒険者必携の『冒険者ライセンス』などもこの効果で破壊されるし……冒険者の大事なツールである電子端末も勿論影響を受ける

 

その為、こいつが出るEランク迷宮からは通常のモンスターによる死者が出やすくなるので常に警戒が呼びかけられている(慣れ始めた頃によくある事故らしい)

 

基本的に悪戯好きで取り合いの難しいカードだから人気は無いが使いこなせれば逆に非常に便利な代物ではあるらしい(よくすれ違った他の冒険者に攻撃されるらしいが)

 

 

【種族】グレムリン

【戦闘力】60

【先天技能】

・機械の天敵:グレムリンを象徴する能力。二秒三秒の溜めと集中を必要とするがありとあらゆる機械類を破壊出来る電磁波を放てる

この能力は半径五十米が有効範囲となる

この能力は育て方次第で色々な成長の余地がある……らしい

・悪魔妖精:悪魔妖精の亜種、妖精にして悪魔。育成次第で悪魔にも妖精にもどちらにでもなれる存在。魔法に対するプラス補正

後天技能は基本的に魔法系と技術、知識がメインとなる

 

 

オーガ

 

ヨーロッパに伝わるヒューマノイド型の人喰いモンスター。基本的に凶暴で残忍な性格とされているが稀に臆病な個体もいるらしい

 

基本的に力は強いが頭が弱くよく御伽噺のヒーローとなる農夫などに騙されて自滅するが何気に動物や器物に変身する能力を持つがあまり上手くは使いこなせない。絵画などでは豊かな髪の毛とぼうぼうのあごひげをはやした大きな頭とふくらんだ腹と強靭な肉体をもつ大男として描かれている

 

スカンジナビア半島の国々ではオーガはトロールと関連付けられている。彼らは山の中に建てられた城の主人であり、莫大な財宝をもっていると考えられている。

 

元々は人食い怪物のことで明確な名前があったわけではなかったが、オーガ(オグル)という名前がシャルル・ペローの小説『長靴をはいた猫』で初めて与えられた。日本では「鬼」と訳されることが多い(『人喰い鬼』として)

 

オークとも関連性があり、オークやボアオークの『つなぎ』としての進化枠や金持ちの新米冒険者などが偶に使う事があるだけで基本的にCランクきっての弱小不人気カードである(戦闘力はCランク最弱レベル、容姿悪し、頭も悪く状態異常にも弱い為)。偶に『四つ星昇進試験受講条件の為の数合わせ』に使われる事もある(そういう手合いは大概不合格だが)

 

それでも『戦う事だけ』に特化したカードなので使い様次第ではCランク中堅クラスにも何とか喰い付ける可能性がある(鍛え方次第だが)

 

 

【種族】オーガ

【戦闘力】200

【先天技能】

・人喰い鬼:頑丈、怪力、火事場の馬鹿力、自己再生、知性低下、状態異常耐性低下、嗜好品回復/肉を内包する

・動物、器物変化(劣):動物や器物に変化出来る……が、その精度は低く努力しても十分がせいぜい(器物なら簡単なものなら最低限使えはする、鳥になって飛ぶ事は出来るが一分以上飛ぶ事は不可能、その一分で変身も解ける)

・物理強化:物理的な攻撃の威力を強化する

 

物覚えは悪いが肉体的な技能は比較的習得スピードが高い。知性低下や状態異常耐性低下も訓練次第で解除可能(オークなどを鍛えてクラスチェンジ素材にするのが一番手っ取り早い)

 

 

リビングウェポン

 

意志を持つ武器。いわゆる『竜の探究』に出てくる『ひとくいサーベル』みたいなもの(但しこれは自律移動不可だが)

 

戦闘力がその器物次第で変化し、大概はEランクになる(ナイフだけは『蠢くナイフ』というFランクの別モンスター扱いになる)

 

装備化能力持ちであり、その能力は非常に低いが(付喪神みたいな同種以外なら)併用も可能(但し『無銘シリーズ』を使った方がよっぽど効率的だが)

 

リビングアーマーと同じく『嘗ての所有者の怨念が憑いた武器』でありモンスターとしては人型のモンスターなどに所有されて現れる。そのモンスターはリビングウェポンを装備している分強くなっている

 

基本的なデザインは凡庸シリーズによく似ている(むしろ凡庸シリーズがリビングウェポンの出来損ないという説もある)が、リビングウェポンには必ず何らかの宝石が取り付けられている(宝石としての品質はかなり低品質でもある)

 

 

【種族】蠢くナイフ

【戦闘力】40

【先天技能】

・生けるナイフ:初等クラスの装備化技能。他のカード、若しくはマスターに装備させる事が可能。カードならば自身の戦闘力の四分の一、マスターならば全ての戦闘力とスキルの共有ができる(但しマスターが他のカードを装備中なら戦闘力の四分の一加算させるだけ)。状態異常耐性を内包する。装備化しない限り行動不可能

 

後天技能はその武具として必要な武器技能(短剣術)や武術、心に纏わる技能が来やすい

 

 

【種族】リビングウェポン/長剣

【戦闘力】75

【先天技能】

・生ける武具:武具に怨霊の宿った存在。武具の何処かにある核(長剣ならば鍔や柄頭に付いた宝石など)を破壊しない限り消滅しない。状態異常耐性を内包する。装備化しない限り行動不可能

・装備化:初等クラスの装備化技能。他のカード、若しくはマスターに装備させる事が可能。カードならば自身の戦闘力の四分の一、マスターならば全ての戦闘力とスキルの共有ができる(但しマスターが他のカードを装備中なら戦闘力の四分の一加算させるだけ)

 

後天技能は基本的に蠢くナイフと同じ



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血涙鬼・彼岸のカードファイル その2

今回は魔道具図鑑その2と繋がっています


 

やまらのおろち

 

『百慕々語(ひゃくぼぼがたり)』なる奇書(春画)に記載されている蛇頭が『魔羅(検索は自己責任で)』に置き換えられた零落に零落した八岐大蛇のパロディとされる下ネタ妖怪

 

そのゾンビ以下の最低最悪の外見のせいでCランク最安の超絶不人気カードだが実はかなり強い(特に『女』を相手にする際は)。ごく少数の覚悟完了した者やウケ狙い、若しくは更に一部の変態が使う事がある

 

一応は『零落した多頭蛇』なので多頭蛇や多頭竜ならば何にでもクラスチェンジが可能、蛇や竜の類いならほぼ全てのカードにマイナーチェンジが出来る……が、大概の蛇や竜系だとマイナーチェンジは逆に弱体化になるから要注意(他国版八岐大蛇を取り寄せたり日本ならヒュドラを使ってクラスチェンジするケースが多い)

 

その見てくれとは逆に基本的に性格的にはあまり癖は無いが非常に栗の花臭いのが更なる難点、こいつを扱う際は他の冒険者の視界には入れない(というか使わない)配慮は言うまでもない常識である

 

『百慕々語』に同時に記されている『いやだひめ』というDランクカードと一緒に召喚する事でその真価である『八魔羅ノ大蛇』という強力な攻撃が可能となる能力と、それが『女』であるならばある程度以上の格上でも屠れる『対女特効スキル』が最大の特徴

 

非常に巨体なので狭い場所や足場が不安定だったり脆かったりする場所では召喚すら不可能だがその巨体から来る攻撃力と八つの頭から繰り出す連続攻撃は非常に強力である

 

もしもその外見がもう少しだけでもまともなら……と優秀ながらも残念なカード筆頭枠である

 

【種族】やまらのおろち

【戦闘力】400

【先天技能】

・零落の多頭蛇:八つの蛇頭が魔羅に置き換わった零落した多頭蛇の妖怪。零落したとはいえ非常に強力な蛇妖である事は確かだが。巨体、剛力無双、自己再生。零落多頭龍、広視界、熱視界、柔軟、悪臭を持つ

(巨体:非常に大きな体躯を誇る。攻撃力に莫大な補正が掛かるが召喚する場所を慎重に選ぶ必要がある)

(零落多頭龍:複数の頭を持つドラゴン。すべての頭が別々に思考・行動が可能で同時に物理攻撃が出来る。但しブレスや魔法は同時には出来ない)

(広視界:複数の眼を持つ、多頭のモンスターが保有する。文字通りに非常に広い視界とその視界を情報処理する能力を持つ)

(熱視界:蛇や地下に棲まうとされるモンスターが保有する。所謂サーモセンサーみたいに熱で知覚出来る能力。透明化などを無効化出来る)

(柔軟:非常に身体が柔らかく柔軟に動ける。特定の行動時にプラス補正)

(悪臭:非常に臭い)

・女殺し:攻撃全てに『女』の属性を持つモンスター全てへの特攻がつく。男、無性には普通

・八魔羅ノ大蛇:Dランクカード『いやだひめ』と同時に召喚した際に発動可能。『非常に不快なデバフと強力かつ不快な攻撃』を周囲に撒き散らせる様になる。一日八回まで行使出来る

後天技能は武術や身体能力の強化に悪臭操作、そして必ず『性技』を最初から持っている。以外と高い確率で神通力に目覚めるという報告もある

 

 

いやだひめ

 

やまらのおろちと同じく『百慕々語』に記されている……恐らくは奇稲田姫(くしなだひめ)のパロディだとされている

 

一応…… 奇稲田姫の零落した姿だとされているらしいが奇稲田姫はいやだひめを非常に嫌っているらしい(複数のカード実験にて判明した)。まぁ『自分自身の卑猥なパロディ』なぞ誰が好き好むのか?という話ではあるから仕方ないが

 

奇稲田姫は美女だがいやだひめは……『人間基準でも不細工』である(その為、ほとんど『女の子カード』としては扱われない)

 

奇稲田姫はBランクの非常に強力な『装備化能力持ち』であるがいやだひめにはその能力は無い(櫛になる事を『いやだ』とでも言ったからだろうか?)

 

一応はそれなりの回復、支援魔法は使えるがいやだひめの真価はやまらのおろちとの同時召喚にある。やまらのおろちの『八魔羅ノ大蛇』を発動させる鍵として必須なのだ

 

一応、奇稲田姫はいやだひめを嫌ってはいるがいやだひめから奇稲田姫へのクラスチェンジは可能である(ちゃんと育てないと反逆系マイナススキルが付く可能性があるけど)。また、その『不細工』である性質からか『石長比売(磐長姫ともいう)』にもクラスチェンジが可能

 

ちなみにこのカードを経由すると奇稲田姫以外の方法でちゃんとした『女の子カード』を使うと容姿が必ずいやだひめのものとなる

 

その為このカードは非常に(女の子カード使い、大概の女の子カードそのもの達からは)嫌われている

 

ちなみにマスターが美女美少女だと余りそりがあわず簡単にマイナススキルを得る様になるから要注意

 

Dランクカードとしてなら優秀な部類ではあるがその容姿と取り扱いの難しさから基本的に最低価格で投げ売りがデフォである(但しいやだひめ自体が黄泉醜女と同じく希少であり、やまらのおろち使いの需要はあるしごく稀にいるいわゆる『ブス専』が常に買い漁っているらしいので市場には滅多に出回らない)

 

【種族】いやだひめ

【戦闘力】150

【先天技能】

・中等治癒魔法

・中等状態異常魔法

・八魔羅ノ大蛇:Cランクカード『やまらのおろち』と同時に召喚した際に発動可能。『非常に不快なデバフと強力かつ不快な攻撃』を周囲に撒き散らせる様になる。一日八回まで行使出来る

後天技能で極稀に奇稲田姫の装備化能力のデッドコピーみたいな能力に開花する可能性がある

一応は女神の類いなので神通力に目覚める可能性もある

やまらのおろちと同じく最初から必ず『性技』を獲得している

 

 

アルカトラズ

 

アメリカに実在していた世界一有名な刑務所。実際には島で軍事施設だったが後に刑務所に改修された後に閉鎖されて現在は観光施設となった

 

アメリカのネイティブ版ならば島一つ分の準異世界レベルの軍事要塞(都市)だが日本版は刑務所施設としての機能のみとなる(居住性はマスターとその周囲以外には最悪、マスターにとってはウィンチェスターハウスより少し上、但し食事事情はウィンチェスターハウス以下)

 

収容人数は(日本版なら)ウィンチェスターハウスと同じ程度、しかも戦闘、防衛能力にリソースを割いている事と元が刑務所である事もあって居住性はお察しだ(居住空間は『所長室』を除けば全て独房、殆どプライバシーは無い、トイレさえ丸見え、一応水か熱湯しか出ない俗に言うネイビーシャワー的な痛いシャワー施設と体育館程度の運動場、食堂はあるがやはり其処もお察しだ)

 

『核』は『看守長』と呼ばれる如何にも悪徳看守でございといった風態の中年男とその配下である数人から数十人の『看守』という名のEランク相当の眷属達を引き連れている

 

『所長室』とは、このカードの主人である者とその人物に招かれた者と『看守長』だけが入れる場所……要はこのカードのマスター専用のプライベートルームである(この中だけでも家族数人ならば普通に生活可能、施設も少なくともウィンチェスターハウス並みには整っている)

 

ちなみにネイティブ版ならばCクラスの強カードでありその範囲は『島一つ分の軍事拠点兼監獄』だ

 

尤も……日本版もネイティブも基本的に食事に関しては非常に評判が悪い(ウィンチェスターハウス以下、と言われているぐらいだがこれでも『刑務所の飯としてならかなり上等な部類』ではあるのだが)

 

その防護性能からアンゴルモア時にも大活躍したがやはり避難民からは大不評だった(それはそうだ)

 

カードホルダーにコネクトしている場合、ちゃんとカード達を所長室に入れておかないと反応が悪くなり安くなる(場合によっては反逆系マイナススキルが芽生える可能性も増大する)ので注意が必要である。牢屋に入れられて喜ぶ奴はそうそう居ないのは常識だろう?

 

ちなみにこれでも一応善属性である(見た目悪徳っぽいけど)

 

 

【種族】アルカトラズ

【戦闘力】180

【先天技能】

・刑務所砦:軍事要塞にして刑務所であるアルカトラズの『刑務所としての部分』を模した異空間を展開出来る。招かれざる客を物理的に拒み、マスターの意志次第だが中の囚人(客人)の行動を物理的に制限出来る。異空間系スキルを持たない敵からの干渉を受けない。居住性のリソース(快適さ)を削る代わりに内部の防御力を多少向上させる。『看守長』という核を倒さない限り決して死なない。中に入るゲスト(『客』と『囚人』のうち『囚人』)は『アルカトラズの規則』に従う義務が発生し、破れば直ちにこの異空間から放り出されて最短一週間は出禁となる(『客』は自由行動が認められている看守以上看守長以下の施設操作権限が与えられる)。悪意感知を内包する

・看守隊点呼:アルカトラズの手足と言える『看守』を召喚出来る。看守はカードには存在しないがだいたい戦闘力80ぐらいで集団行動、初等家事魔法、悪意感知持ちのEランクモンスターと同等の強さとある程度のアルカトラズ内部の施設操作権限を持つ(『囚人』は彼らに頼まないとトイレも流せないし檻からも出られない)。通常なら数体だが収容された囚人次第で一度に数十体の看守が出せる、ちなみに戦闘時ならほぼ無限に出せるがアルカトラズからは決して出られない(アルカトラズの魔力が尽きるまで出せる)

・中等家事魔法

後天技能に尋問や虚偽感知、武術や拘束術、状態異常魔法、収納能力などを獲得出来る

 

 

ギルマン

 

南米はアマゾン河にある半魚人伝説を起源に持つアメリカンホラームービーの主役だった怪物の一種(通称海ゴブリン)

 

本拠地であるアメリカや南米では日本における河童と同じ様な扱いのDランクモンスターだが日本ではFランクだ

 

それでもギルマン特有の水中移動能力や高速水泳能力、水中からの奇襲は健在で非常に厄介なものである(通称が『廉価版河童』である)

 

日本製ギルマンには『淡水生』で海水には適応しないという特性が存在する

 

淡水内に限れば非常に優秀だ、むしろ壊れ性能だと言って良いだろう(沢や川、沼地などに現れるギルマンはFランクでも最強クラスの強敵として悪名高い、実際にこいつらの奇襲で何人もの自衛官達が殉職した時期があった)

 

しかし……海のギルマンは逆に弱い。まるで人間が水中で戦うか何かの様に(海ギルマンは逆に雑魚の代名詞扱いである)

 

局地型モンスターというものは得てしてそういう強みとどうしようも無い脆さを宿業として抱えているものだ

 

ちなみに海外の河童も同じ様な状態らしい(Fランク局地型モンスターとして)

 

河童がクラスチェンジ先としては一般的だろう

 

【種族】ギルマン

【戦闘力】40

【先天技能】

・淡水魚人:淡水生の魚人、淡水内限定での水中移動、高速水泳、奇襲、治癒促進を内包するが海水内では使用不可

海水内に居ると逆にダメージを受け、乾いた状態が長時間続くと戦闘力が半減する

後天技能は集団行動持ちが非常に多い。稀に最初から槍術や短剣術持ちも居る

 

 

足洗屋敷

 

本所七不思議の一つ、とある旗本屋敷に現れた怪異で毎晩毎晩『足を洗え』という大声が響き天井を突き破って巨大で汚い足が降りてくる。という迷惑な怪談。狐狸妖怪の悪質な悪戯とも言われている

 

この怪談には色々なバリエーションはあるがモンスターとしてならば『異空間要塞型』に分類される。アルカトラズほどではないがかなり堅牢な造りの武家屋敷になっている、そこそこ強い『家来衆』という(カードにはないが)眷属の護りは堅く、また核である『大きくて汚い足』もかなりの強敵である

 

カードとしてならば……とある一点さえ目を瞑ればDクラスでもかなりの良空間系カードだが(それでもヘドンホールハウスには負けるけど)

 

その『とある一点』とは……やはり核である『大きくて汚い足』である。定期的に洗わないと不潔だし、ちゃんと定期的に洗わないとロストするという特徴があるので非常に面倒な空間系カードである。ちなみに『足を洗え』以外の発声が出来ない(通常の足洗屋敷なら)

 

意志表示にその大足を振り回す性質がある(恐らくは逸話再現だと思われる)。その足の振り回し方と『足を洗え』の抑揚で主人は足洗屋敷の意図を測らなくてはならないので非常に面倒くさい(テレパスが使えれば必要無いが)

 

ごく最近発見されたばかりで現在その対処対策が検討中となっている……通常の狐狸妖怪系カードではクラスチェンジやマイナーチェンジは不可能なので現在難航中らしい

 

このままならばその取り扱いの難しさから五百万円くらいが市価となる予定である

 

【種族】足洗屋敷

【戦闘力】180

【先天技能】

・足洗屋敷:武家屋敷型の異空間を展開出来る。招かれざる客を物理的に拒み、異空間系スキルを持たない敵からの干渉を受けない。『大足』という核を倒さない限り決して死なない。敵意感知、中等家事魔法、怪力(大足限定)を持つ。意志疎通が難しく、定期的に臭くて汚い大足を洗わないとロストするので注意が必要(『悪臭』のマイナススキル程臭くはないが家来衆以外の手で行う必要がある)

・家来衆招集:足洗屋敷の手にして番兵たる『家来衆』を召喚出来る。家来衆はカードには存在しないがだいたい戦闘力100ぐらいで集団行動、何らかの武器技能を持っている。最大で十数体出現させる事が可能であり、倒しても新たに(足洗屋敷の魔力が続く限り)補充が出来る

・低級収納

後天技能には武術や感知系統、気配遮断や威圧などを獲得する事が多い

 

 

送り提灯

 

本所七不思議の一つ、灯りもなく夜道を行く者の前に現れて悪戯を仕掛ける怪異の一種。これも狐狸系統の妖怪の仕業とされている

 

会話能力はなく、送り狼と同じく提灯の点滅で意思疎通が出来る

 

やはり送り狼と同じく帰路限定のナビゲート能力がある(ナビゲート能力だけなら送り狼以上に優秀だが代わりに索敵能力が無い)

 

『送り拍子木』という魔道具と対にして使うと優秀な魔除けになるが何気に珍しいカード(モンスター)なので市場には滅多に出回らないのが難点

 

基本的に妖怪系だが鬼火、狐狸系統にも分類される

 

【種族】送り提灯

【戦闘力】60

【先天技能】

・送り提灯:『帰路限定のナビゲート能力』を保有し、送り狼みたいな制約は無いが代わりに敵感知能力も無い。『送り拍子木の能力を高める能力』と浮遊、耐久性低下を内包する

・見習い状態異常魔法

後天技能は火炎限定の攻撃魔法や感知系統能力に目覚めやすい様だ

 

 

スケルトン

 

ヨーロッパを中心に世界各国に伝承を持つ怪異、要は『動く骸骨』だ。カタカタカラカラ身体を鳴らして錆びた武器やら棒切れやらを振りまわすあの怪物……の中でも最弱の部類に存在するものだ(バリエーションには色々強力な代物も存在するが)

 

一応、頭さえ潰されなければ不死身かつそのスカスカな身体は刺突武器を(多少は)避けやすいが基本的にあまり力は無い、所詮は骨なので耐久性も低い(特に打撃武器には)。おまけに殆ど自我や思考能力が無いのでいちいち命令しないと自衛すら出来ない(おまけに命令をよく忘れる始末だ)

 

はっきり言えば戦闘力すらあのバトルウルフ以下……驚愕の戦闘力10である(これなら装備をちゃんと整えれば一般人でも低階層なら多分どうにかなる範囲だろう)

 

だが、迷宮が出来て当初はこのスケルトンによって沢山の軍人や自衛官が殉職する羽目に陥ったものだ

 

何せ『特定の方法でないと殺せない不死身の化け物』が相手なのだから(しかも軍人や自衛官のメイン武器は銃……わりと刺突武器である)

 

……これが世界各国全ての軍人とアンデッドの長い長い悪因の始まりだった(後々には『物理攻撃そのものが無効』なアンデッドが迷宮攻略を激しく阻害する未来が待っているのだから……カードの使い道が判明するまで)

 

良い所はあれど基本的には最低最弱の雑魚モンスターとしてスケルトンは(色々な意味で)有名である

 

クラスチェンジ先は……ゾンビ、グール、上級スケルトンとでも言うべきスパルトイが一般的だろう(キョンシーにクラスチェンジしたい場合はゾンビを挟んだ方が良いだろう)

 

【種族】スケルトン

【戦闘力】10

【先天技能】

・動く骸骨:死に最も近く死から最も遠い存在。頭部を破壊しない限り消滅しない。状態異常耐性、貫通攻撃回避、打撃耐性弱体化、知能低下を内包する

後天技能は……修得速度は遅いが反復訓練でどうにかなるものなら大概修得出来る。初期は無い場合が多い

 

 

サハギン

 

ギルマンの海水性タイプ。原典は『D &Dシリーズ』、作中では「温暖な塩水に棲む過激な捕食者で、スポーツ感覚で獲物を食い散らかす“海の悪魔”」とされている凶暴な半魚人

 

基本的に海水性である事を除けばギルマンと同じでこちらは『川ゴブリン』と揶揄されている

 

ギルマンは磯くさいがこっちは泥くさいのが見分けるコツ

 

【種族】サハギン

【戦闘力】40

【先天技能】

・海水魚人:海水性の魚人、海水内限定での水中移動、高速水泳、奇襲、治癒促進を内包するが淡水内では使用不可

淡水内に居ると逆にダメージを受け、乾いた状態が長時間続くと戦闘力が半減する

後天技能は集団行動持ちが非常に多い。稀に最初から槍術や短剣術持ちも居る

 

 

ゾンビ

 

平たく言うならば『動きまわる死体』、本来ゾンビとはハイチにおけるヴードゥ教の呪いによる生き人形と化した者の事を指す言葉だったが世界各国津々浦々に存在する『動く死体』全ての概念(の基礎)を指す言葉となった

 

モンスター(カード)としてのゾンビは『動きまわる腐乱死体』であり非常に臭くて不潔な怪物である

 

戦闘力はDランク最下位クラスのグールに肉薄出来る程度には強いがその外見の酷さと腐敗臭で大概のマスターはこのモンスターの行使をまず考えないだろう(グールは『腐敗具合がマシになったゾンビ』だとも言われているほど戦闘力の差が少ない。ゾンビもまた準Dランクの実力があると言える)。付いた渾名が『Eランクの黄泉醜女』

 

クラスチェンジ(マイナーチェンジ)ならグール、黄泉軍か黄泉醜女がオススメだと言える。キョンシーの『紫僵』でマイナーチェンジしてキョンシーのクラスアップを目指すのもまた良いだろう

 

【種族】ゾンビ

【戦闘力】95

【先天技能】

・動く腐乱死体:何故か動く腐乱死体、頭部を破壊しない限り消滅死なない。物理攻撃耐性(弱)、状態異常耐性、火事場の馬鹿力、火炎、神聖属性耐性低下、器用性低下、知能低下、悪臭を内包する

・屍喰い

後天技能……修得速度は遅いが反復訓練でどうにかなるものなら大概修得出来る。初期は『生前の技能(という設定)』を一つ二つ修得している、かなりガチャな状態らしい

 

 

錆喰い

 

八本脚のでかい甲虫(ゴキブリ)に見える何か……に何本かの触手が付いた様な赤錆色の魔物。Cランク以降から一部の迷宮に現れる非常に厄介な魔物として悪名高い。そのサイズは大型犬並み

 

『装備、魔道具破壊能力』を保有する(触手に触れる、噴き出す吐息などにその効果がある。金属なら錆だらけにし、非金属なら腐らせる)。それを食す習性を持つ(自分で作った錆の塊や腐敗した汚物などしか食べられないらしい)。その効果で破壊した物品は非常に厄介な魔力汚染物質と化してしまい、その汚染物質は『その汚染物質を作った錆喰いだけが食べる事』で処理できる

 

迷宮内部の物体(内部が石造りとか)だと無効であり、何故かアンゴルモア時でもこの魔物だけは迷宮内部から出て来なかったらしい。その理由は不明(存在自体が汚染物質だからだろうか?『迷宮は地球の意志』という一部の学者や宗教家の持論の根拠となっているとかいないとか?)

 

それ以外ならそこそこ強いDランク程度の戦闘能力しか無いが割と素早いので貴重な魔道具や装備を破壊される恐れがある為プロ冒険者や自衛隊員からはグレムリン以上に嫌われている

 

せめてもの救いとして出没する迷宮はかなり少ない事とグレムリンよりも需要はある事(ギルドに高値で売れる、ギルドは常に錆喰いを求めている)が挙げられる(危険かつ有害な魔道具の破壊用に)

 

こいつの固定ドロップである『魔力の粉塵』も色々と需要があるので専属的にこの魔物を狩る(高価な魔道具にあまり頼らないスタイルの)冒険者も居るらしい

 

何故かクラスチェンジ不可能かつクラスチェンジ対象にもならない(このままでしか使えない珍しいカードでもある)。決して『名付け』にも応じないがマイナススキルも付かず従順な性質を持つ。後天技能もほとんど獲得出来ず、酷使しても何とも思わないが『食べ過ぎ』には要注意

 

その性質上冒険者ギルドが常に一律三千万円で買い取りしている(一枚でも売ればギルドからも高い評価を得られるだろう)

 

【種族】錆喰い

【戦闘力】200

【先天技能】

・錆喰い御器噛:器物、特に魔道具を破壊して捕食する能力を持つ、触手やその身体に触れたり口殻に当たる部位からの吐息に当たるとその物品は直ちに錆まみれになり金属以外は腐る。そして保有している魔力が失われてしまう

その効果に拠って腐敗した物体は『魔力汚染物質(魔道具図鑑その2に記載)』と化してしまい、その処理はその魔力汚染物質を作った錆喰いが捕食するか『魔力の粉塵(魔道具図鑑その2に記載)』を使って除去する必要がある

『器物破壊能力』に限界は無いが『その捕食』には制限がある(だいたい一日で10kg)、それを超えて魔力汚染物質を食べさせると『破裂(ロスト)』するので要注意

複数動作、攻撃力弱体化を内包する

(複数動作:複数の手足や触手がある場合、その二分の一、最低でも二回同時に攻撃行動が可能となる。魔法や吐息などの複数化や同時行使は出来ない)

・謎の蟲:詳細不明、従順ではあるがクラスチェンジもマイナーチェンジも出来ず『名付け』にも決して応じない、後天技能も殆ど習得出来ない謎の特性を有する

・敏捷性強化

後天技能は殆ど無い(ごく稀に吐息範囲強化などは習得するケースがあるらしい……非常に鍛えて漸く)

 

 

カラドリウス

 

キリストの化身とも神の使いとも言われている霊鳥の一種

 

危篤の王の枕元に現れ、回復の見込みがある(あるいは徳の良い)なら目をじっと見つめ、病を吸い取ってくれる。そうでなければ飛び去ってゆく。西欧では見ただけで病が薄まり、糞を飲めば不老長寿になると謂われている(ちなみにその糞もガッカリ箱限定で出てくるが……せいぜい『一年間の老化防止』程度の効果しか無い。しかし『とある最低最悪のイレギュラー対策』の為に非常に高値で売れる。売値だいたい一億程度で)

 

首にアヌビスの書かれた黒い袋を提げており、吸い取った病をその袋に貯める。貯めた病が最大量まで達すると卵を産む……と言われている為かキリスト教やローマ神話、エジプト神話など様々な宗教と習合出来るという何気に凄い特徴がある

 

カードとしてはやはり回復、治癒特化であり偶(数週間)に一度卵を産む能力がある。その卵は非常に美味で美容、痩身効果に長ける希少食材(要は美容特化ローポーションみたいなもの)である(ちなみにこの卵や糞については魔道具図鑑その2に詳しく記載されている)

反面戦闘力は額面通りとはいかずヘルハウンドやゾンビ辺りでも敗北する怖れがあるほど戦闘能力は低い

 

【種族】カラドリウス

【戦闘力】140

【先天技能】

・癒しの神鳥:傷や病いを癒す聖なる鳥。高等回復魔法、飛行を内包する

・病気診断:その病いや傷が癒せるかどうかを診断出来る

・癒しの卵:数週間に一度だけ非常に美味で滋養のある卵を産む。その卵は高性能な美容特化型ポーションとして人気がある

後天技能は支援魔法や回復魔法の強化や魔力補強など、偶に癒しの卵の産卵率向上などを覚える可能性も存在するらしい

 

 

塗り壁(岩)

 

九州北部(主に福岡県)を中心に出没する妖怪系Dランクカードの一種だ。主に狸や鼬が化けた姿とも岩の妖怪ともされている(それぞれ全く別の妖怪として扱われているが……今回は『岩の妖怪』としての方について語らせて頂こう)

 

かの有名な『妖怪神の妖怪漫画』については……日本で暮らす者なら一度はアニメか何かで見た事があるだろうか?あのアニメに登場する巨大な蒟蒻に手足の生えた様なあの厳つくも愛嬌のある妖怪の姿を思い出して頂ければそれで合っている

 

この『岩の方』はいわゆる『レアタイプ』であり、大概はアメリカのとある大学に収蔵されている妖怪絵巻にある『三つ目の獅子だか犬だか解らない怪物』みたいな姿が普通である(このタイプは獣系に分類され、主に幻術を扱うトリッキーな運用に適している)

 

通常型の様な幻術みたいな器用な事は出来ないし適性もないが……非常に頑丈かつ力持ちであり、しかも確実に『低級収納』を持っている。足も見かけによらず以外と(少なくともオークよりは)素早く、発話は苦手だが頭も悪くない……建築関係ならば以外に器用でもある

 

基本的に『気は優しくて力持ち』を地でゆく気性の持ち主なので素人でも(無体さえしなければ)扱い易い優良かつ優秀なカードである

 

『零落した道祖神』という説もある(『妖怪は神の零落した姿』とも言われる故に)

 

【種族】岩塗り壁

【戦闘力】190

【先天技能】

・岩石の妖怪:身体が岩石で構成されている。刺突、斬撃への耐性が非常に高く物理ダメージに強い耐性がある。あと身体を何気に砂状に変えて細い隙間を潜り抜ける事も出来る。身体の何処かにある『核』を破壊しない限り消滅しない。怪力、頑強、疲れ知らず、火事場の馬鹿力を内包する

・低級収納

・漆喰生成:文字通りに漆喰(日本式)を生成出来る。その漆喰で他の無機物系統モンスターの治癒……実質的には一時凌ぎが出来る。塗り壁本体ならば再生力の向上として現れる(Dランククラスの魔石一個で大概の傷が即座に癒える……但し気力と魔力は別だが)。建築、自己再生を内包する

後天技能は身体能力の強化がメインだが稀に支援、状態異常魔法の習得もあり得る更に稀に収納能力の向上や……非常に稀な話だが何らかの異空間系統の能力に目覚める可能性もある



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血涙鬼・彼岸のカードファイル その3

こっちの筆がノってしまったので……


 

 

七人ミサキ

 

四国、中国方面に伝わる亡霊(若しくは悪霊)の集団。起源は戦国武将とも性質の悪い山伏、殺された女のお遍路、水死者とも様々に謂われている

 

七人ミサキに遭った人間は高熱に見舞われ死んでしまう。1人を取り殺すと七人ミサキの内の霊の1人が成仏し、替わって取り殺された者が七人ミサキの内の1人となる。そのために七人ミサキの人数は常に7人組で、増減することはないという(少なくとも『モンスターとして現れる場合』は必ず七体全て揃って現れる……Dランク迷宮ボスとして現れる場合とアンゴルモア時に消耗した場合は例外だが)

 

アンゴルモア時に消耗した場合は発生した迷宮に帰ったり『迷宮ボスや他の消耗したはぐれ』と様々な手段で合流したり何やらして再補充したりする習性がモンスター時にはある(消耗した場合や迷宮ボスらは『逸れは居らぬか?迎えに参ったぞ』と叫びながら合流を試みのでそれで識別出来る)

 

七体揃えてその最大の特徴を行使すれば下手なBランクよりも強いがその最大の特徴を発揮すると七体のうち何れかが必ずロストするという制約が存在する。勿論モンスターとして現れる場合にもそれには要注意だ

 

それ以外はほぼ劣化版レイスといった処だろうか?市価はだいたい千五百万円が相場となる

 

運用方法は『切り札』を行使しないなら偵察などが一般的な運用方法になるだろう。(価格も相まって)それなりに知性もあるので比較的運用し易い死霊系ではあるが基本的に(一部の人気のある種族以外全ての)アンデッド系統は運用に難ありなので素人にはあまり推奨されない(カードショップの職員が先ずは諭す程度には)

 

こういうタイプは『揃え型』と呼ばれている。『二体一対』や『複数体』みたいなタイプと違って行使には召喚枠を激しく制限されるがその代償に莫大な効果を持っているのが常である(複数の仲間冒険者と同時に行使しても能力発動は可能……但しシンクロは不可能になる等の制約もある)

 

【種族】七人ミサキ

【戦闘力】200

【先天技能】

・中位悪霊:悪霊系モンスターの中でも中級クラスである事を示す。幽体化、飛行、自己再生、闇視、エナジードレイン等の悪霊らしい特技を保有するが『核』に直射日光を浴びると即ロストする。それと神聖系統の攻撃に弱い

・七人同行:七人ミサキ最大の特徴。味方に七人ミサキが七体揃ってそのマスター全員が発動許可を出せばその七体全ての戦闘力を七倍に強化出来る

その発動時間は49秒だけ。発動後に必ず七体のうち誰かがランダムでロストする。一週間に一度だけ発動可能

・集団行動

・中級状態異常魔法

 

後天技能はその形状に依ってまちまち。侍型なら武術系統、山伏やお遍路型なら稀に神通力に目覚める可能性有り、水死者型なら水場強化や水中移動など個体毎にさまざま

 

 

瘟鬼

 

中国の妖怪かつ鬼神、そして厄病神の一種

 

疫病や伝染病をひとびとにもたらして苦しめるという存在である。季節ごとにこれらを迎えたり送ったりして病害が大きなものにならぬよう祈りをささげる行事などが民間に広く伝承されていた

 

また、天の神々がふとどきな行いをかさねている人間たちに対して罰を下すために瘟鬼などを向かわせるという伝承も古くは存在しており、天界にはそのための瘟神・瘟鬼たちが詰めている瘟部(おんぶ)という場所があるとも伝えられていた(要は天界の下級役人としての面もある為『鬼神』としての性質も存在する)

 

カードとしては曲がりなりにも『鬼神』である為かDランクにしてはそこそこ強い……が、それを損なって余りある特性のせいで非常にピーキーな不人気カードとなってしまっている

 

『五瘟使者』という『疫病(風邪に似た様なランダムな状態異常魔法)』を無差別に撒き散らす特性の為非常に取り扱いに難がある為基本的に捨て値に近い扱いをされている

 

五種存在する瘟鬼(それぞれ馬・牛・鶏・羊・兎など別々の禽獣の頭で判別出来る)が全て揃えば強力な特技が発動可能だが召喚にかかる枠やその労力に見合うとはあまり言えない為基本的にやはり不人気カードである事は変わらない。これも『揃え型』の一種

 

ちなみに『瘟鬼持ちのマスター』とアンデッド、無機物には完全に無効

 

見てくれは先に挙げた獣の頭をした(古い中国の……横山三国志とでも言えば良いだろうか?)下っ端兵士みたいな衣装に身を包んだ痩せっぽちの男の姿をしている。青銅製に見える共通の小剣と槍で武装している(やはり下っ端兵士スタイル)

 

ちなみにこいつは(モンスターとしても)必ず五体揃って現れるとは限らず、迷宮でも五体全種揃うのは割と珍しいケースだとも言っておく

 

【種族】瘟鬼

【戦闘力】160

【先天技能】

・瘟部衆:天界の瘟部に所属する下級役人である事を示す。武術、集団行動を内包する

・五瘟使者:瘟鬼の最大の特徴である『疫病を撒き散らす能力』を示す。一体の瘟鬼が居れば周囲50米に微弱なスリップダメージと風邪の症状に似たランダムな状態異常魔法(中級)を無差別に撒き散らす(制御不能)

但し『瘟鬼を出したマスター』、アンデッド、無機物系には無効

二体居れば『オン/オフ』が可能になる

三体居れば範囲操作が可能になる(最大100米迄)

四体居れば対象指定が可能になる

全て揃えば上級魔法クラスに威力が増してスリップダメージも威力が向上する様になる

そして一日一回だけ耐性を無視する事が可能(対象は一体限定、『瘟鬼持ちのマスター』でもアンデッドでも無機物でもありとあらゆる対象に有効)

下級状態異常魔法を内包する

・槍術

 

後天技能には怪力や火事場の馬鹿力などや他の武器技能などを持っている。偶に何らかの他の魔法を獲得した個体も存在するらしい

ネイティブなら稀に仙術を習得することがある(日本製ならごく稀に神通力を獲得したケースもあるらしいが半分都市伝説扱いの眉唾情報扱い)

 

 

チョンチョン

 

南米の妖怪。羽根の様に肥大した耳を持つ生首の化け物、赤い肉垂を持った七面鳥のような巨大な鳥の姿になるとも言われるがこっちの姿はネイティブでも珍しいらしい。「コン、コン」または「チィエ、チィエ」と鳴きながら、巨大な耳を翼の代わりにして空を飛んで移動する。

 

鳴き声が聞こえた時に地面にソロモンの円(一種の魔法陣)を描く、チョッキを脱いで決まった作法で地面に置く、等の方法でチョンチョンを捕える事も可能。但し、別のチョンチョンが捕えられた仲間を助けに集まって来る事があるので、基本的に一般人がチョンチョンに立ち向かう行為は非常に危険とされている

 

一種の疫病神的存在で、奇怪な叫びを上げながら独り暮らしの老人や病人の枕もとに現れ、血を吸うと言われている。その為、チョンチョンの出現は死の前兆とも考えられ、恐れられた

 

ちなみに頭と胴を分離する術を会得した邪悪な魔術師のなれの果てと言う伝承もあり、隣人の首が夜中に分離してチョンチョンになった、或いはチョンチョンらしき鳥を殺し、首を切り落として吊るして置いたら死体が消えうせ、数日後(チョンチョンの本体である)首の無い身元不明の死者が出た、などの伝承がある(日本の抜け首や中国の飛頭蛮という類似の妖怪みたいなもの。それらにクラスチェンジ可能)

 

日本ではFランクモンスター、見てくれの悪さから人気は非常に悪い(結構ピーキーな性能なので使い方次第では……)

 

【種族】チョンチョン

【戦闘力】35

【先天技能】

・抜け首妖怪(下級):空を飛ぶ首だけの妖怪。飛行、集団行動、吸血を持つが支持肢(腕)が無い、『チョン』としか鳴けない、直射日光に弱いなどの弱点を多々持っている

 

後天技能は……何らかの能力強化や牙強化を最初に持っていれば優秀な個体と判断しても良いだろう。通常なら後天技能無しも珍しくない

 

 

ワイルドベア

 

迷宮に出没する羆に似た熊。基本的に世界中全ての森林系迷宮で発見できる

 

殆ど野生の羆と大差無いがちゃんとマスターの命令には従う程度の知性はある。勿論会話能力は無いからちゃんとした意思疎通がしたければリンク能力は必須(無いとかなり扱い辛い)

 

基本的に『劣化版バーサーカー』みたいなものだと思えば良いだろうか?更に取り回しが難しくピーキーな代物ではあるが。ちなみにバーサーカーや熊に纏わるカードにクラスチェンジが可能

 

一応は騎獣としても扱えるけどちゃんとした騎獣として運用するなら要訓練(基本的に乗り心地はかなり悪いので注意)

 

毛皮はゴワゴワしていて獣臭いので定期的に洗うマスターも

 

【種族】ワイルドベア

【戦闘力】85

【先天技能】

・本能の覚醒:野生の本能を解放する。理性と引き換えに身体能力を向上させ、同時に精神異常への耐性を下げる

・巣籠熊:兎に角食事を与えると回復機能が活性化する、一定以上食べさせておくと防御力にもバフがかかる(脂肪蓄積効果)

空腹時には防御力にデバフがかかりスリップダメージが発生するが『狂化状態』も発生可能になる(食事を与えると解除可能になる)。本能の覚醒と重複可能

食事は魔石で代用可能

怪力を内包する

 

後天技能は火事場の馬鹿力や爪牙強化などがデフォルト。稀に乗騎を最初から持つ個体も存在する

 

 

餓鬼

 

仏教に於いては生前に贅沢に溺れたため、六道のうち餓鬼道に落ちた亡者。 いくら食べても飢えを満たすことができず、あるいは食物に触れるとそれが燃え上がるなどにより食することができず、土を食い泥水までも飲む苦厄に苛まれる存在

 

餓鬼には様々な種類が存在するが基本的には『小財餓鬼』と呼ばれるタイプがモンスターとしてはスタンダードに現れる。マスターからの施し(若しくはマスターからの許可)さえ有ればまともな食事が可能なので割と餓鬼は従順な性質がデフォになる(餓えからある程度は解放されるから)

 

見てくれは痩せ衰えて腹が異常に出た醜悪な小鬼そのもの。ゾンビに比べればかなりマシな範囲だがやはり臭い(屍臭や糞尿臭による)為人気が殆ど無い、一応洗えば臭いはそこそこマシになる

 

鬼であり亡者でもあるので割とクラスチェンジ先は多く上手く使いこなせれば優秀な冒険者になれるだろう

 

【種族】餓鬼

【戦闘力】65

【先天技能】

・餓える亡者:常に飢餓に苦しむ地獄の亡者。無機物や糞尿すらも喰らうほど常に餓えている

マスターがちゃんと食べさせていれば非常に従順かつ献身的な性質となる

マスターが最低限一日一回は握り飯一つか魔石一個でも与えればその日は餓えに苛まれずに済むらしい(カード時でも供える方が良い。『食事を仏壇にお供えする』のと基本的に同じ様なものである)

従順、屍喰いを内包する

・火事場の馬鹿力

 

後天技能には稀に火炎魔法や状態異常魔法を獲得する個体が現れる。恐らくは餓鬼の一種である『焔口餓鬼』による影響だろう

普通なら爪牙強化や身体強化系統、極めて稀に巨大化といったケースもある

 

 

ブロンズスタチュー

 

赤銅や青銅などの銅素材で出来た動く銅像。1ランク下のストーンゴーレムよりも更に滑らかに動ける様になり自己判断能力も最初から多少はある仕様になっている(ストーンゴーレムの知能低下が解除され不器用が緩和された様なもの)。但しアイテム装備などは未だ出来ない

 

やはり頭部などに『核』があり、ストーンゴーレムと同じく非常にしぶとい

 

『奨学カード』にするには少々高くつく上にやはりまだ融通がきく方では無いのでその話は流れた経緯がある

 

これの上位機種にはCランクの『青銅の巨人タロス』が存在する(勿論、ブロンズスタチューの有力なクラスチェンジ先)

 

基本的に美男子型が多いが美女型も存在する(全て無性属性だが)

 

【種族】ブロンズスタチュー

【戦闘力】135

【先天技能】

・自動人形(下級改ニ):魔力に因って作成された操り人形、素材を最低限使える範囲のものに変更したので最低限まともな仕様になれた(『生きた屍』の自動人形バージョン。絶対服従、状態異常耐性、知能弱低下、不器用弱、怪力、疲れ知らずを内包する)

・銅の身体:身体が銅で構成されている。刺突や斬撃には強いが打撃、魔法には普通

・火事場の馬鹿力

 

後天技能は基本的にストーンゴーレムと同じ様な状態。しかし訓練次第で最低限のアイテム装備能力が芽生える可能性もあるし武術獲得の可能性も普通にあり得る

 

 

アイアンゴーレム

 

鉄製のゴーレム、基本的にはストーンゴーレムの純粋な強化バージョン。ブロンズスタチューと違って純粋に機体スペックの向上に傾いた仕様になっている(思考能力はブロンズスタチューと同じレベルだが)

 

後は殆どブロンズスタチューと同じだがCランクの上位機種に『蒸気人形(オートマトン)』と呼ばれるスチームパンクのロボットみたいなカードがありそれにクラスチェンジ可能(『蒸気探偵団』みたいなデザインだと思えば宜しい)

 

ストーンゴーレムと違って割と造形的には良い(量産型ロボット風味)なのでそこそこ人気がある

 

【種族】アイアンゴーレム

【戦闘力】170

【先天技能】

・自動人形(下級改):魔力に因って作成された操り人形、しかし素材があまり宜しくない為デメリットの比率が高い(『生きた屍』の自動人形バージョン。絶対服従、状態異常耐性、知能弱低下、不器用、怪力、疲れ知らずを内包する)

・鉄の身体:身体が鉄で構成されている。物理攻撃全てには強いが魔法攻撃には普通

・火事場の馬鹿力

 

後天技能はやはりストーンゴーレムと殆ど同じだが稀に武術を獲得出来る個体が存在する

 

 

バイパー

 

世界各地の迷宮色々な場所で発生する毒蛇型モンスター。その外観はその迷宮次第(日本でも饅頭蛇(コブラ)やガラガラ蛇などが普通に見られる)

 

『毒蛇』と言うだけあって勿論毒はあるが下級ポーション一つで治るしことカードにはちょっとした状態異常魔法と微小なスリップダメージ程度の効果しか無い

 

一応は蛇系統なら何にでもクラスチェンジ可能であり普通の蛇より遥かに賢いので愛情を込めて育てると実は何気に『化ける』事もある

 

事情が有って蛇を飼えない蛇好きが世界各国の蛇カードをコレクションしたりする為か実は以外と人気がある

 

【種族】バイパー

【戦闘力】25

【先天技能】

・毒蛇:普通の毒蛇としての機能とその制約全て。毒は人間には致死毒(その毒性は外観次第)だが下級ポーション一つで簡単に治る(通常の蛇毒全ても同じだが毒による肉体の壊死は上級ポーションが必要だし切断は勿論ポーションでは回復不可能)

モンスターにはちょっとした状態異常魔法と微小なスリップダメージ程度にしかならない

 

後天技能は奇襲や気配遮断などを獲得しているパターンが多い。何気に偵察役としても優秀

 

 

ジャイアントリザード

 

その名の通り大きな蜥蜴。外観は2米は有る巨大な蜥蜴

 

基本的には『爬虫類(レプタイル)』かつ『恐竜(ダイナソー)』に分類されるタイプのモンスターであり、クラスチェンジ次第ではリザードマンやドラゴン系に昇華させる事だって可能

 

その戦闘力やランクの割には結構強いので序盤の数合わせ候補に入れるのも良いしきちんと育ててクラスチェンジ育成するのもまた良し

 

【種族】ジャイアントリザード

【戦闘力】45

【先天技能】

・大蜥蜴:蜥蜴の基本的な特徴や機能、制約全て。壁を歩いたりごく僅かだが再生能力が有ったり色々出来るが熱変化に弱い

 

後天技能には爪牙強化や奇襲、気配遮断など。何気に(良い意味で)ランク詐欺として有名かつこのモンスターが出没する迷宮はFランクとしてはかなり危険な準Eランク扱いさえされるほど

 

 

チセコロカムイ

 

チセコロエカシとも呼ばれる「ハシイド」という名のモクセイ科の樹木を顕現体とする神。

 

“チセ”とはアイヌ語で<家>という意味であり、その名の通り家を守護する男性の神であり、地域によっては火を司る女神・アペフチと夫婦だとされ、夫婦と共に家族を見守っているといわれている。

 

また、チセコロカムイは一代限りの神である為、家主が死んだときや家を取り壊す際は神の魂を天上界へと送るという

 

Dランクの異空間カードの一種でありその外観は木造で壁を樹皮で葺いたサㇵチセ(夏の家)の様な構造になっている。気温はその構造で快適に過ごせる様に一定に保たれている

 

食糧はアイヌ文化圏のもののみだが非常に美味(ヘドンホールハウス以上、マヨイガ以下)だが供給数は少ない(一日十人程度)。トイレ(汲み取り式)と高蔵(収納スキル用)、それと『熊の檻(ヘペレセッ)』にそこそこの庭と五右衛門風呂レベルだが温泉が併設されている

 

異空間カードとしてはかなり狭いので冒険者の拠点としてはまぁ充分だろうが大人数の収容は難しい(普通に暮らすなら数人程度だろう)が、此処で暮らすと多少の気力、疲労回復効果があり何気に快適だったりする(快適さだけならDランクでも最高クラス)

 

但し戦闘力はお察し(Dランク最低クラスな上に本体は殆ど戦闘スキルとは無縁ゆえに)だがヘペレセッから召喚出来る熊(ワイルドベア相当)と『家人』としてニ、三体の眷属が居る(家人ならある程度の距離(百米)までなら外にも出せる)

 

『核』は家の最深部の壁にある神聖な窓「カムイプヤㇻ」。その辺りを壊せばロストしてしまう

 

このカードの市価はだいたい千五百万円が相場だが需要に反して供給が少ないので欲しいなら二千万円の予算を用意しておくべき

 

【種族】チセコロカムイ

【戦闘力】100

【先天技能】

・チセコロカムイ:原始的な見た目に反して非常に快適な家(チセ)型の異空間。非常に狭く数人程度しか暮らせないが暮らすだけで気力、疲労回復が早まる特性を持つ。食事もDランクなら最高クラスだがアイヌ料理に限定される、何気に小規模ながらも温泉付き

Eランク扱い(カード化されてはいない)の眷属を一日ニ、三体召喚出来る

上級家事魔法、初級治癒魔法を内包する

・ヘペレセッ:『熊の檻』、本来なら『イヨマンテ(熊送り)』の為の幼熊だが此処ではチセコロカムイの護衛として存在する

この熊はワイルドベア相当だが『上位眷属体』として現れる(つまり普通のワイルドベアより強い)

・下級収納

 

後天技能は便利系や魔法能力向上系を、後は治癒魔法や収納の強化だろう(稀に熊の為の物理戦闘技能を習得出来る個体も存在する)。異空間カードの中では比較的気配遮断などを修得し易いらしい

家人眷属は戦闘力だいたい70、集団行動と奇襲を持っている(毒矢と山刀を主装備にしている)

 

その狭さと戦闘力の低さか、食糧供給能力の低さからアンゴルモア対策にはあまり向かないがソロ冒険者の拠点としては非常に快適であり、そして『自分自身だけで生き残る』という(ぼっちとしての)確たる意志があるなら逆に非常にアンゴルモア向きの異空間カードだと言える

 

 

・河童

 

ほぼ日本各地に存在する川の妖怪。または零落して妖怪になった水神とも神の使いとも水子霊とも謂われている

 

基本的に小柄な人型生物。体格は子供のようで、全身は緑色または赤色で頭頂部に皿がある。皿は円形の平滑な無毛部でいつも水で濡れており、皿が乾けば力を失い、また割れたりすると死ぬとされる。口は短い嘴で、背中には亀のような甲羅が、手足には水掻きがあり肛門が3つある。体臭は生臭く、姿は猿やカワウソのようにも見える

 

両腕は体内で繋がっており、片方の腕を引っ張るともう片方の腕が縮み、そのまま抜けてしまう、これは、中国のサル妖怪で、同様に両腕が体内で繋がっていると言われる「通臂猿猴」の特徴と共通している

 

活動には水が必要(魔石でも代替は出来るが非常に非効率的である、淡水海水問わず……流石に汚水は嫌がるが)、水が有れば有るほど活力を増して下手な同ランク人気カードよりも強くなるが水が無い環境だと非常に弱体化するピーキー極まりないカードである

 

水場の多い迷宮ならば奨学カード扱いされるがやはり取り扱いは難しいのでジャック・オー・ランタンと同じく『二枚目以降に買うべき奨学カード』として扱われている

 

その小さな見た目に反して怪力で武術(相撲)の達人揃い。修行次第で傷薬作成や尻子玉抜き(祟り若しくは状態異常魔法)、水属性限定攻撃魔法などを習得出来るので以外と後天的なスペックの高さも評価されている

 

【種族】河童

【戦闘力】120

【先天技能】

・河童:河の妖怪。水中、若しくは身体が濡れている間は非常に強い(戦闘力プラス50される)。但し頭頂部の『皿』が完全に乾くとこの技能は使用不可能になる上に戦闘力にも激しいマイナスが付く(戦闘力マイナス75)、『皿』を割られると即ロストする

怪力、水中移動、高速水泳、奇襲、治癒促進を内包する

・通臂猿猴腕:河童の両腕は体内で繋がっており、片方の腕を引っ張るともう片方の腕が縮み、そのまま抜けてしまう

それを体術(相撲)などに活かして河童は白兵戦を行なったり水中からの奇襲に活かしたりする

・武術

 

後天技能は先に挙げた通り色々あるので常に要精進。水神や更に強い水の妖怪にクラスチェンジしたり上位互換の『水虎』にマイナーチェンジが代表的な進化先となる

 

 

スプライト

 

このスプライトという妖精は……風の妖精(シルフ)とも水の妖精(ウンディーネ)とも、はたまた亡霊とも言われる少々起源が曖昧な妖精の一種だ

 

カードとして言うならば。このカードは先天技能にある『かくれんぼ』にこそ真価がある

 

『かくれんぼ』というのは…… 姿と気配を隠すことができる。透明化、気配遮断を内包するという身隠しに特化したスキルであり、作中の主人公(大輝)が両親から渡されていたものは大人一人分(幼い子供なら二人分)ぐらいは一緒に巻き込める特別な一枚だった(下手な奨学カードよりもお高いかも知れない)

・身隠し妖精:かくれんぼを大人一人分まで他者に付与出来る様になる

 

気配を遮断するだけならポルターガイストという同じEランクカードもあるが……気配遮断だけでは余りにも心ともなかったのでこの特別製スプライトを大輝のいざという時のお守りにしたという作中裏エピソードがある

 

【種族】スプライト

【戦闘力】60

【先天技能】

・小妖精:小妖精としての魔力と魔法の素養、身体的な不利を示す。見習い魔法使い、浮遊、小さな身体、耐久性低下を内包する

・かくれんぼ:姿と気配を隠すことができる。透明化、気配遮断を内包する

 

後天技能は魔法技能強化や先に挙げた『身隠し妖精』の獲得などを目指すと良いだろう

 

 

フェアリー

 

欧州圏内なら『この世ならざるもの全て』を現す(『女神転生における悪魔』みたいな言い回しだと思えば良いだろうか?)

 

このフェアリーは『現在の狭義における妖精』の姿だと思えば良い。だいたい10㎝の可愛らしい小人に蝶々の翅が付いた典型的な妖精の姿をしている

 

ちょっとした回復魔法(見習い回復魔法)を使えるので新米冒険者が薬箱の代わりに起用して愛着が湧いてクラスチェンジしてゆくのは冒険者あるある(一番安く簡単に入手出来る可愛い女の子カードの代名詞故に)。ちなみにに男女比は五分五分

 

……一部のコアな紳士(へんたい)の間では専門のスレさえ存在する(公式にもきちんと存在するネタ、知りたければ『サポーター限定近況ノート』を調べてみよう)

 

【種族】フェアリー

【戦闘力】15

【先天技能】

・妖精の鱗粉:小さな蝶の翅を生やしたフェアリーの鱗粉には多少の治癒能力が存在する。見習い回復魔法、浮遊、小さな身体、耐久性低下を内包する

(小さな身体:人形の様に小さな身体である事を示す。物理的な攻撃力にマイナス補正がかかるが回避に莫大なプラス補正がかかる。召喚する場所を殆ど選ばない)

 

後天技能には魔法技能だろう。まず物理的な戦闘能力は期待出来ないので後衛として育成するのが定石

嘘か誠か……『巨大化』を習得して人間サイズになったフェアリーが存在するとかしないとか?(やはりサポーター限定近況ノートネタ)

 

 

ウィル・オ・ウィスプ(鬼火/人魂)

 

同ランクに鬼火や人魂という近類亜種を持つ精霊とも亡霊ともつかない曖昧極まりない不安定なモンスター(カード)

 

普段はただふよふよ浮かんでいるだけだが敵(人間やカード)を見かけた時には一変して俊敏に突撃して来て更には自爆である

 

スプライトや先のポルターガイストと組んで敵に忍び寄り……其処から自爆は何気に恐ろしいEランクのモンスターコンボの一種として悪名高い

 

基本的にそれ以外の攻撃手段なぞ体当たりしか無い上にその体当たりもワイルドウルフ辺りを相手にするのが精々という有り様である

 

一応、霊体の類いに分類されるが中心にある『核』に少しでもダメージを受ければ即座にロストしてしまう程に脆い(人間でも何らかの鈍器を使って全力で殴れば撃破出来るだろう)

 

基本的にこのモンスターの戦闘力は殆ど全て『自爆用のエネルギーと自爆時の推進力』だと思えば良い

 

ちなみにその自爆の威力だが……マイナーチェンジする直前の剣辺りでも非常に高い確率で一撃ロストするレベルだと言っておく(十一層の最も弱い状態ですら)

 

Cランクでもものに拠っては一撃ロストもあり得る非常に危険なモンスターがこのウィル・オ・ウィスプらみたいな通称鬼火シリーズである

 

ちなみにこのウィル・オ・ウィスプや鬼火、人魂の区別は『色と自爆した際の属性』でわかる(黄色っぽく自爆すると電撃を撒き散らすのがウィル・オ・ウィスプ、普通に赤い炎で自爆すると爆発するのが鬼火、青色かつ冷たくて自爆すると液体窒素を撒き散らした様な有り様になるのが人魂だ)

 

【種族】ウィル・オ・ウィスプ(鬼火/人魂)

【戦闘力】50

【先天技能】

・揺蕩う雷火(爆裂/冷気):幽体とも電気(爆発物/液体窒素)の塊とも言える不定形の怪火の一種。『核』を破壊しない限り倒せないがその核は非常に脆い。飛行、縮地、敏捷性強化、電撃(火炎/氷結)強化、状態異常耐性、耐久性低下、知能低下を内包する

・砕ける雷火(爆裂/冷気):このカード唯一の攻撃手段。対象に特攻をかけて自爆する

少なくともこのカードの戦闘力の三倍の(保有する属性)ダメージを対象に与えてこのカードはロストする

【後天技能】

自爆強化:文字通りに自爆の威力を強化する技能。このカードの自爆ダメージを更に2倍に強化する。この鬼火系統は更に上位の鬼火系統で自爆迄をコントロール可能



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血涙鬼・彼岸のカードファイル その4

 

いやみ

 

否鳥山石燕の妖怪画集『今昔百鬼拾遺』にある日本の妖怪。哉(いやや)とも『エロモドキ』とも呼ばれる。後ろ姿は和服に被り傘の美女(に見える)だが……正面から見たら汚らしく醜悪な老人や中年男といういわゆる『ジャパニーズヘンタイモンスター』の一種(少なくともこの世界ではそうなる)

 

その正体は首が無く一つの巨大な眼と口を持ったずんぐりむっくりな怪物。前に上げた様な女装汚っさんに化けたり色欲の()(またはイロ気ともいう)を操る能力を持つ、他にも……まるで『やまらのおろち』や『さくそうず』の様に魔羅(砲)や陰毛(縛り)などを武器に戦う能力を保有している(この戦闘方法やイロ気操作、そしてその基本的性質のせいでこのカードは『ジャパニーズヘンタイモンスター』の一種として扱われている……残当な話だが)

 

ちなみにDランクの範囲内なら非常に強いカードとして有名(特に女モンスターを老若美醜問わず相手にするなら)

 

その基本的性質は……狒々(ひひ)攫猿(カクエン)猩々(しょうじょう)などの様に『女を攫って子供を作る類いの猿妖怪』と同じく非常に性欲旺盛(但しカード相手の性行為は一切妊娠を起こさない……と、されているが)。そういう特殊な趣味の女性冒険者や濃い趣味の兄貴らから人気が高い(カード娼館などが『イロ気』を使ったサービスなどにも用いられるし、高齢の富豪などから回春剤代わりに求められたりもする)

 

ちなみに……こういう夢魔(むしろ色魔)の類いはほぼ全ての異性(と呼べる存在全て)を性欲の対象に出来るし美醜には興味が無いという特性があり、大概のガチ勢らは自分の(男な)カード達や(特に男なら)自分の為に一枚は夢魔系を持つのが普通だとされている(下世話な話だがいわゆる『慰安用』という奴である)。夢魔にとって『そういう行為』は食事と全く同じ事なので(そういうマイナススキルでも無い限り)むしろ大歓迎されるだろう

 

……余談だが『そういう行為』に自分の女の子カードを仲間や部下(カードなど)に貸し出して俗に『寝取らせ』と呼ばれる特殊性癖を満たす為に冒険者になった者も居るとか居ないとか?

 

一応、このいやみは『のっぺら坊(狐狸系)』の一種ではあるが当ののっぺら坊からは非常に嫌われているのでのっぺら坊にはなるべく会わせない事をオススメする(のっぺら坊は正統派妖怪でいやみはジャパニーズヘンタイモンスター扱い故に仕方ないだろう。ジャパニーズヘンタイモンスターはその元となったカードやモンスターからは非常に嫌われているのが通例故に)。ちなみに『モンスター』である時は性欲など欠落したかの様に人間には殺意以外の感情は向けて来ない(その辺りは普通のモンスターと同じである……例えジャパニーズヘンタイモンスターですらも)

 

そこそこ戦闘も出来るがイロ気操作能力が芯軸なので最初はデバフ系サポートとして起用を考えた方が良いだろう(イロ気は悪臭操作やフェロモン、突風などで無効化出来るし精神力次第で人間にも抵抗は可能である、ちなみにCランクまでなら相性次第でどうにか……と言っておく)。基本的に成長はアタッカー系だが

 

本来のいやみにはこういう女装親父である事以外に変態的な逸話や由来は無い筈なのだが……専門家の仮説に曰く『隻腕の妖怪神様の影響(肉付け)』ではないか?らしい(『実際には人を襲う妖怪』である一反木綿や子泣き爺だって非常に善良な性質がデフォルトになっている辺りがその仮説の根拠となっている)

 

属性は狐狸系妖怪、夢魔、ジャパニーズヘンタイモンスターなど。ちなみにこのカードは見てくれの酷さの割に需要は(前述した通りに)そこそこあるから以外と高価だったりする(市価だいたい三百万円其処ら)

 

【種族】いやみ

【戦闘力】195

【先天技能】

・イロ気妖怪:『色欲の気』とでも言うべき空気より重いピンク色のガスを精製する能力と『非常に卑猥な戦闘能力(射撃、束縛)』を内包している

・変化の術:色々な動物や人間に化ける事が出来る。人間化の『固定の姿』以外は長時間は持たない(『固定の人間化』だけならいつまでも、他はだいたい三十分程度。服装変化ぐらいなら二時間は持つ)

・色欲の塊:読んで字の如く。敵味方問わず『異性(稀に同性)』と呼べる存在が居れば士気と総合的な能力が向上する。性技を内包している

性的な誘惑に非常に弱い

 

後天技能は武器技能や武術などの肉弾戦系統に明るい様だ(後は性関係などから優先的に来る)

 

 

ヘルハウンド

 

イギリスに伝わる不吉な猟犬型の妖精(黒妖犬(ブラックドッグ))の一種。たいていの場合は、燃えるような赤い目に黒い体の大きな犬の姿で夜中に古い道や十字路に現れる

 

16世紀イギリスの劇作家シェイクスピアの『マクベス』の作中で魔女が言及する『魔女の女王である地獄の女神ヘカテーの猟犬たち』がそのイメージの根源と考えられている。『新月と魔術と三叉路の女神』とも呼ばれるヘカテーは中世以降のヨーロッパで『松明を掲げて犬を従え、夜の三叉路に現れる』とされ魔女が信仰していると考えられていた

 

ヘカテーの本来の姿は古代ギリシアの新月の女神でありその眷族には犬や狼が挙げられる。月のない夜を象徴するヘカテーの従者は当然ながら黒い色で想像された。ヘカテーは再生と共に死も司る女神であり、彼女に従属するブラックドッグたちは、死の先触れや死刑の執行者としての側面を持つ(ちなみにヘカテーは日本製ならBランクの非常に高価かつ貴重なカードなのでそうそうお眼にかかれる代物ではない)

 

このヘルハウンドはその黒妖犬の中でも一番ありふれたタイプの存在であり、そのシリーズの中で一番弱いとも言われている(勿論、Eランク内なら非常に強力なカードではあるが)

 

『大柄な黒いドーベルマン』とでも言うべき造形で常に炎を纏っている、という特徴持ち。ちなみにその炎は意志一つで出し入れ可能なので身体を洗う事も出来る(基本的に水は苦手だが)……長時間炎を出せないだけだが

 

一応、『炎の吐息』を使えはするがそう何度も使える訳ではない(内部エネルギーの都合によるから魔石チャージは可能)

 

基本的に『ワイルドウルフ』の上位互換みたいな性能だが妖精系にクラスチェンジも可能

 

【種族】ヘルハウンド

【戦闘力】80

【先天技能】

・炎の魔犬:最下級クラスなれどヘカテーの眷属たる証、炎を纏い炎の吐息を吐く力を保有する。水場や水を苦手とする

集団行動を内包する

・追跡

 

後天技能は基本的にワイルドウルフに似通うが火炎属性の強化にゆくパターンもある

 

 

梅乃振袖

 

明暦の大火と呼ばれる日本史上最大級の大火事に纏わる呪物とも妖物とも言える何か(付喪神とも怨霊とも言える)。明暦3年1月18日から20日(1657年3月2日 - 4日)までに江戸の大半を焼いた大火災。かつてはこの年の干支から丁酉火事、出火の状況から振袖火事、火元の地名から丸山火事などとも呼ばれる

 

『梅乃』というお江戸は麻布の裕福な質屋遠州屋の娘が本郷の本妙寺に母と墓参りに行ったその帰り、上野の山ですれ違った寺の小姓らしき美少年に一目惚れした事から全ては始まった

 

梅乃はその小姓が着ていたものに似た荒磯と菊柄の振袖をかき抱いたまま病に罹ったとも恋煩いで儚くなったともその恋心に付け入った悪党どもに騙され念仏講(隠語)されたとも言われるが……そのどれかが原因で命を落としたとされている。両親は葬礼の日、せめてもの供養にと娘の棺に生前愛した形見の振袖をかけてやった

 

当時、棺にかけられた遺品などは寺男たちがもらっていいことになっていた。江戸時代はリサイクル文化とも言って良い文明スタイルなのでこういう再利用はむしろ奨励されるし寺男達の給料みたいなものだ。この振袖は本妙寺の寺男によって転売され街の娘が買ったが……買った娘という娘が何度も若い身空で亡くなってしまう。そして振袖は何度も棺にかけられ、本妙寺に運び込まれてきた。

 

さすがに寺男たちも因縁を感じ、住職は問題の振袖を寺で焼いて供養することにした。住職が読経しながら護摩の火の中に振袖を投げこむと、にわかに北方から一陣の狂風が吹きおこり、裾に火のついた振袖は人が立ち上がったような姿で空に舞い上がり、寺の軒先に舞い落ちて火を移した。たちまち大屋根を覆った紅蓮の炎は突風に煽られ、一陣は湯島六丁目方面、一団は駿河台へと燃えひろがり、ついには江戸の町を焼き尽くす大火となった

 

これが『明暦の大火』、またの名を『振袖火事』とも呼ばれる世界史有数の大火事である(他にも多数の諸説はあるが)

 

このカードはその原因とも謂れる『呪われた振袖』そのものである。非常に稀少な(日本にしか存在せず、出現迷宮もほぼ東京限定という)代物なのでまだ知名度のある『小袖の手』と勘違いされ易い(小袖の手からクラスチェンジしたら更に分からなくなるだろうし)

 

しかし『小袖の手』よりも華美かつ禍々しいオーラ(瘴気)を放っているので直ぐに只の『小袖の手』では無い事がわかる

 

基本的には『小袖の手』が更に強くなった様な性能だが……この梅乃振袖の装備化能力は『呪い属性』が更に付与される様になる(関わった娘達の最期や大災禍の元という性質故に)。『呪い属性』としては非常にスタンダードな『生命力、魔力が削れる事』と少し珍しい『病気耐性低下』が有るがその能力は非常に高い(通常の)高等スキル並みに強化されている程に(通常、Cランク装備化はせいぜい中等ランクだが)

 

マスターに余程の体力か精神力が無い限り基本的に短期決戦仕様……ですら厳しいピーキーの極致みたいな装備化カードの一種として有名である

 

後は火炎魔法や呪力がグレードアップしているし基本的に戦闘力もCランクでも高位クラスにまで向上している。特に飛行能力を得て機動力が劇的に向上しているのは特筆に値するだろう(基本的に梅乃振袖は魔法使い系カードだが)

 

比較的マイナーながらもその強烈かつ凶悪なエピソードと『呪い属性』の為に使い手を非常に選ぶカードではあるが『根性ある小袖の手使い』達が挙って求める為とこのカード自体の稀少性、そしてその強力なスペックも有って基本的にこのカードはCランクの中ではかなり高価な分類となっている(流石にサキュバスや女エルフみたいなオークション直行クラスでは無いが少なくともデュラハンに色を付けた程度の予算とかなりの強運が必須だろう)

 

そのままでは非常に癖の強過ぎるカードなので『練り上げに練り上げた小袖の手』からのクラスチェンジに使うのが一般的だろう。時には『苦界の死皮』を継承して後述する『厄災ノ死皮』と切り替えたりも出来たケースも存在する(ちなみに……女性人格なら一反木綿もこれにクラスチェンジ可能である)

 

【種族】梅乃振袖

【戦闘力】450

【先天技能】

・厄災ノ死皮:梅乃振袖は所有者に死や火災を齎らす悍ましき呪物ではあるが、そういう呪物にこそ強い力が秘められている

呪い属性中等(通常の高等)クラスの効果(呪い)でマスターや他カードに自身の戦闘力と『装備化』以外の先天スキル一つと保有後天スキル全てを完全に付与共有が可能となる

極めてレアな呪い型であり、装備化スキルの等級が同ランクカードよりワンランクアップしている。このカードは装備化対象と一緒にしか動けないがスキルなどでサポートは可能。強力な効果の代償に『常時装備化対象の』生命力と魔力が失われていく。このスキルを使用中回復魔法を受け付けず『病気耐性低下』も付与してくる(解除は何時でも可能)

マスターが装備している場合は疲労以外は梅乃振袖本体にダメージがいく

『苦界の死皮』と同じく他の衣服への変化や短時間なら人間体になれる能力もある

・明暦大火:俗称である『振袖火事』ではなくその正式名称であるかの歴史的大火災を表したスキル。火炎、疾風限定の高等攻撃魔法、火炎威力強化、魔力強化、詠唱短縮、自爆能力を内包する

・厄呼び:元が『厄を呼ぶ呪物』である為厄災を引き寄せる性質を現す

カード化しているので制御は出来ているがその厄気とも瘴気とも言えるものを噴き出す性質は変わらない。その効果で敵を引き寄せる性質を帯びる(オンオフ可能)。それを応用してヘイトコントロールも可能

中等状態異常魔法を内包する

モンスター時には『味方を引き寄せる能力』となる

・飛行

 

後天技能は魔法系統がメインになるだろうが……稀に魔法戦士なビルドになる事もある様だ(下位互換の小袖の手と同じく)

 

 

トムテ

 

このトムテというモンスターを平たく言えば『サンタクロースの原型』である。北欧はスカンジナビア半島に存在する良い妖精の一種であり、働き者の農家を守護すると言われている

 

少なくともブラウニーよりはマシな服を着て、必ず立派な赤い帽子を被った髭の長い四本指の小人の姿をしている。と言われている

 

性格は優しくはあるが非常に気難しく……粗末に扱ったり怠け者に堕ちればその家を容赦なく見放すドライさと悪戯には必ず仕返しを行う執念深さを持っている。言わばスカンジナビア半島的な座敷童みたいな存在でもある

 

この妖精はポリッジ(ヨーロッパ式の主に麦から作る粥)を好み、ユールの日(要はクリスマス)に必ず供える必要があるとされている(カード化したトムテなら少なくとも何らかの『新しい好物』でも構わないが)

 

スカンジナビア半島がキリスト教化したときには一時は『悪魔扱い』されたりもしたが神仏習合の結果サンタクロースの一側面となった。その結果が今この場にあるカードである

 

基本的にあまり強いカードとは言えないが、少なくともブラウニーよりかは可愛い姿かたちであり……何より最初から『低級収納』を持った優秀なサポート役である(その見た目からか割と女性人気は高いのもあるが)

 

最初は強化ブラウニーみたいなスペックだが成長すると職人系技能を獲得したり稀に運勢操作系技能を獲得したりもする。斥候役としてなら即戦力枠だが

 

基本的には妖精だが……キリスト教に貶められていた時期の影響で『悪魔』としての素養も僅かながら存在する(約束への真摯さと仕返しの酷さ以外ではまず出てはこないが)

 

【種族】トムテ

【戦闘力】130

【先天技能】

・中級家妖精(農):人間の代わりに家事をしてくれる妖精。……が、迷宮内では家などないためいまいち使いどころは不明。農夫、中等家事魔法を内包

(農夫:農家として必要な技能を一通り習得している証。獣の世話なども可能)

・下級収納

・下級状態異常魔法

 

基本的に作業支援や農業(特に家畜の世話)が得意なのであまり戦闘能力には期待しない方が良いだろう

気配遮断やかくれんぼなどもその性質や逸話上習得し易い辺りも斥候役に適する、と評価される所以である

 

 

ケット・シー

アイルランドの伝承にある猫の妖精。人前ではただの猫だが、本性は二本足で人間のように動き、言語と魔法を操る種族とされる。『猫の貴族』とも呼ばれるが、とある宗教の影響で悪魔扱いされた時期もある

 

貴族的か道化師的かのどちらかの振る舞いが基本的なケット・シーだとされている

 

カードとしてなら基本的にはスピードタイプのアタッカーだが魔法技能獲得もかなりしやすいので『魔法戦士』としての運用にも期待出来るし割と器用なので育て方次第では斥候役にも充分なれるオールラウンダー

 

妖精かつ猫の要素でクラスチェンジはその辺りから考えると良いだろう

 

【種族】ケット・シー

【戦闘力】150

【先天技能】

・猫妖精:猫型妖精、猫の基本的な能力、特性と魔法への高い適性を示す

・武術

・爪牙強化

 

後天技能には必ず一つは魔法が入る

 

 

レッサーデーモン

『下級の悪魔』という概念そのもの。基本的に山羊頭で筋骨隆々の黒い全裸の大男の姿をしている。基本的に戦闘行為以外にはあまり使えない(オークと同レベルで)

 

一応はオークの上位互換扱いで多少の魔法なら成長次第で扱えるしオークより少しは頭が良い

 

高位悪魔の眷属としてよく見かけるがこうしてちゃんとカードにも存在している

 

【種族】レッサーデーモン

【戦闘力】150

【先天技能】

・集団行動

・頑丈

・怪力

 

後天技能には武術や何らかの魔法(攻撃、状態異常限定)を習得する事が多い。稀に『飛行能力』を得られる個体も現れる事がある

 

 

・ライラプス

アルテミス若しくはゼウス(モブ高世界ではアルテミス説が有力とされている)がクレタの王ミノスに授けた猟犬(元はヘパイストスの作品だとも謂われている)

 

『どんな獲物も決して逃がさない』という運命を持つが『どんな存在にも捕まえられない』という運命を持った牝狐を捕まえる事になった結果永遠の追いかけっこが始まる前にゼウスがこの猟犬と牝狐を石に変えてしまった

 

ギリシャ神話における『矛盾』である

 

カードとしてなら追跡能力の高い斥候役(但し索敵用と割り切るべし)かつ『奨学カード』の一種として有名。戦闘能力はオークには流石に劣るがそれでもそこそこはこなせるだろう

 

【種族】ライラプス

【戦闘力】100

【先天技能】

・月乙女の猟犬:アルテミスの猟犬としての機能。鋭敏嗅覚、奇襲、追跡を内包する

・敏捷性強化

 

後天技能はワイルドウルフと似たり寄ったりが基本だが習得速度やバリエーションは豊富になっている

 

 

大鼠

 

馬鹿デカいドブネズミそのもの。中型犬サイズでカピバラより更に巨大になっている

 

感覚が鋭くどんな物でも齧って喰らい集団行動にも長けるが非常に弱くて臭いので余程の物好き以外は使用すら考えない不遇カードの一つ

 

【種族】大鼠

【戦闘力】5

【先天技能】

・溝鼠:不快かつ汚らしいドブネズミである事を示す。悪食、集団行動、悪臭を内包する

(悪食:ほぼどんな物でも食べて回復速度を早める事が出来る……出来るが腐ったもの以外の毒と通常の生物が消化出来ないものを食べればその悪影響は免れられない。毒耐性を内包する)

 

後天技能は鼠らしいものならなんでもいける。牙(前歯)や感覚の強化、無音移動などが例になる

 

 

一反木綿

 

鹿児島の妖怪で柳田國男と現地の学者が共著による『大隅肝属郡方言集』に記されている。

 

一反(凡そ十m)というサイズの木綿みたいな何かが空をひらひらと飛び、人の首や顔に巻き付き人を窒息死させたり人に巻き付いて攫うとされるが……比較的マイナーだったこの妖怪をかの『妖怪神』が何故か重用した結果として一反木綿は塗り壁と同じく一躍有数の人気妖怪へと躍進した(かの『妖怪神』の影響で『善属性』を獲得した上にあのアニメみたいな性格がデフォになっているぐらいだ……塗り壁と同じく)

 

この辺りは『カードの性質は人間の認識に左右されるのでは?』という研究でも重要な証拠として研究者達もこの妖怪を重視している(それもあってこのカードはDランク内でも高価な分類になっている)

 

カードとしての能力は飛行能力(かなり速い)にその飛行能力を与える装備化(羽衣の様に巻き付く)と騎乗能力(あのアニメの様に)を持っている。要は機動力特化タイプだが火炎と斬撃には非常に弱いが音も無く飛べる上に気配遮断持ちなので非常に偵察向きのカードとも言える

 

衣類や布に纏わる存在なら大概クラスチェンジの対象に出来る

 

【種族】一反木綿

【戦闘力】140

【先天技能】

・弔旗木綿:纏う事で装備化を、跨る事で乗騎化を行える特性を示す。基本的に初等クラスの装備化スキルであり。他のカード、あるいはマスターへと憑依することで、自身の戦闘力の四分の一を加算させることができる(マスターへの装備化の場合はすべての戦闘力とスキルを共有できる)。飛行、無音移動、気配遮断、切断耐性弱体化、火炎耐性弱体化を内包する

・迅雷

・木綿生成:木綿を生成出来る、一週間で無地白晒し一反(着物一着分)となる。その生成を止める代わりに限定的な自己再生を行使出来る。通常の木綿を与えても自己再生を発動できるがその前に魔石を与えた方がよっぽど早く安く済むだろう

(ちなみにその生成した木綿の質はまあ普通の範囲)

 

後天技能として更に機動性を上げたり状態異常魔法を覚えたり色々出来る様だ

 

 

ヒッポグリフ

 

グリフィンという獅子と鷲の合わさった幻獣と雌馬の間の仔であるこれまた幻獣の一種。馬はグリフィンにとっての『餌』である為普通は生まれる事の無い『有り得ない存在』を意味する

 

『狂えるオルランド』に登場し、シャルルマーニュ十二勇士の一人であるアストルフォの乗騎(後に解放してしまっているが)として有名だろう

 

カードとしては高い戦闘力を持ち空戦能力のある機動アタッカーといった処で騎乗能力も活かして空戦に使えるだろう

 

ネイティブカードだと『異空間移動』を持っているらしい(日本製が獲得してという話は未だ聞いた事は無い)

 

クラスチェンジは基本的にグリフォンがオススメだが鵺やキマイラなどもイケるだろう

 

【種族】ヒッポグリフ

【戦闘力】175

【先天技能】

・乗騎

・飛行

・回避強化

 

後天技能はその敏捷性などを活かしたり爪牙を更に強化したり色々やれるだろう

 

 

ホブゴブリン

 

田舎(ホブ)のゴブリン』とも謂われている(ゴブリンの中では)親切な妖精の一種。但し悪戯好きな面は変わらないが

 

モブ高世界では近年のファンタジー要素が強く『上位のゴブリン』としての扱いになる

 

基本的に能力は(人間の様に)千差万別であるが大概戦士か盗賊に偏っている(魔法使いも居るが希少)

 

カードとしてなら先に挙げた通りの戦士かつ盗賊的な役割を担うだろう。大した強みは無いが代わりに弱点も無い万能とも無個性とも言えるカードである(全ては育て方次第だが)

 

体躯の小さなゴブリンと違って身長体躯もほぼ人間並みになっている(知性含めて)、Dランクではオークに並ぶ有名な奨学カードである(オークと違って癖は無いが基本的に全てが平坦な成長をする)

 

冒険者ギルドやカードショップなどで常に『初心者へのオススメカード』としてオークと双璧に並ぶほど評価が高い(見てくれはオーク並みだがこっちは細く引き締まった身体をしている)

 

……『重戦士』や『肉壁』をお望みなら素直にオークを使うべきだが

 

『妖精』または『鬼』の性質があるが希少な魔法使い型ならかなり妖精向きだと言える(魔法使い型は『妖精タイプへの先祖返り』という説もある)

 

とりあえず適性は持っている初期装備と後天技能から見て考えると良いだろう

 

【種族】ホブゴブリン

【戦闘力】100

【先天技能】

・集団行動

・群れの一員:基本的に色々な後天技能を獲得しやすくなるが、個体ごとに適性や素質がまるで人間の様に異なる性質を帯びる様になる

 

後天技能は様々な技能や戦闘技術を獲得し易い、初期でも三つ四つは必ず後天技能を保有している

 

 

ライディングホース

 

乗馬(ライディングホース)の名前通りに通常の乗用馬そのものなカード。騎乗可能なカードに慣れる為の練習用としての需要がある

 

基本的に脚が速くて乗れる、そしてそれ専用の準備は要るが荷運びにも使える(ボアオークまでなら普通に騎乗可能、オーガ辺りは流石に無理だが)

 

Eランクの動物型カードとしては非常に賢い部類に入るが喋る事は出来ない

 

カードの効果が判明した最初期の頃は世界各国の軍隊で騎乗から荷運びまで重宝されていたが新しく強力なカードや魔道具によってほぼお役御免になってしまった

 

今でも一部の乗馬愛好家などが重用されてはいる(当時の自衛官や軍人なども一部混じっている)

 

『馬に纏わる存在』ならほぼ何でもクラスチェンジ対象になる

 

【種族】ライディングホース

【戦闘力】65

【先天技能】

・乗騎

・荷重強化:通常よりも沢山の荷物が持てるし牽ける。但しマスターなどがちゃんと荷物を固定しないと持ち運びは出来ない

この技能はほぼ動物型限定技能となる

 

後天技能は敏捷性や耐久力を高めたり感覚を強めたり……馬的に優秀になる様なものになるだろう

 

 

ウォーホース

 

軍馬(ウォーホース)の名前通りにライディングホースの一番正統的な進化型

 

基本的な処はライディングホースと大差無いがそれなり以上に戦闘力が増して勇敢な性格になっている。大型化した上に怪力なのでオーガ辺りなら騎乗可能になっている

 

乗馬戦闘をやるなら最低限求められる資質はある(上は果てしない世界だが)

 

今も軍隊の一部ではこのカードは細々と使われているらしい(詳細は不明だが)

 

【種族】ウォーホース

【戦闘力】120

【先天技能】

・戦馬:優秀な馬である事を示す。乗騎と荷重強化を内包する

・怪力

・持久力強化:スタミナが付いて長時間動く事が出来る

 

後天技能はライディングホースとほぼ同じ

 

 



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血涙鬼・彼岸のカードファイル その5

先に一章最終話あります。間違えない様にご注意を

『土ノ子』様のオリジナルイレギュラーについての考察が少し入っています。ちゃんと確認許可はとってます


 

ポール・バニヤン

 

アメリカ開拓時代のホラ話の巨人。身長三メートルから最大百メートルまで自由自在の大男であり今のアメリカの地形を作り出したと謂れる様々な開拓道具を持つオーバーオール一丁姿をした世界で最も新しい開拓の巨人

 

『気は優しくて力持ち』を地でいくおおらかな性格で木こり仲間や彼を知る者全てからは非常に好かれていた。非常に大食らいでアメリカ五大湖を自分で作ったり、赤子だった頃から五十頭の牛のミルクを一度に飲み干したりと様々な伝承を持っている

 

その性質上イレギュラーエンカウント化しているのでは?とも最初は推測されていたが『国産みの神話』や『巨人伝説』の方に引っかかったのか通常モンスターとして海外で出没しているのが確認されている。日本の類似神話である『ダイダラボッチ』との相関性などもあるかも知れない。ちなみに本場アメリカでの出現報告はあれどカード化は未だされていない

 

カードとしての能力は『擬似安全地帯作成』を筆頭に『大規模な地形開拓操作』、『莫大な食糧精製』、『強烈な吹雪を引き起こす』、『ベイブという青い雄牛召喚』が挙げられる。日本ではBランクカードだが弱い分類扱いされる……が、このカードの真価は戦闘以外なのは確かだろう、基本的にポール・バニヤンには戦闘的な逸話はあまり無いが人々の為に動く心優しい巨人なので彼の存在する場所はほぼ常に安全地帯である

 

その性質上『自然』を司るカードとはあまり相性は良くないので運用には注意が必要。ちなみに世界中何処にでも現わる可能性はあるがその確率は非常に珍しいものである。生涯を冒険者として生きても出会えない可能性の方が高いぐらいには

 

『対アンゴルモア用カード』としてそれに対抗対処する者達の一部が大切に秘蔵しているらしい。それとその性質上アメリカは常に血眼でこのカードを求め渇望している

 

【種族】ポール・バニヤン

【戦闘力】550

【先天技能】

・足は地面で頭は大空:アメリカを開拓したホラ話の巨人、アメリカ開拓魂の象徴。開拓に関わる技能全てと教導、巨大化、頑強、怪力、火事場の馬鹿力、料理、肉体系状態異常無効、大食らいを内包する

(・肉体系状態異常無効:毒、麻痺、病気などの『肉体的に悪い状態』を全て無効化する)

(・大食らい:食べられる物なら際限なく食べる事が出来る。食べた分だけ回復する。限定的な再生能力を内包する

燃費が非常に悪くなる。扱う為には沢山の食糧か魔石が必要であり魔石を必要とするなら同じランクの数倍は必要になる

※:ポール・バニヤンの場合は『湖いっぱいの豆スープ』のおかげで大食らいのデメリットを殆ど無効化出来ている)

・建国の巨人:ポール・バニヤンの象徴である開拓能力を示す。山一つなら一日あれば容易く平地に出来たり山を作ったり河を埋めたり掘ったり湖を作ったり出来る。但し植物を操作出来る訳ではない。湖分の飲料に適した水を精製する能力、湖いっぱい分の水を沸騰させる能力もある

一日一回、十二時間分の『擬似安全地帯』を作成可能

・湖いっぱいの豆スープ:誇張無しで一日に湖一杯分の豆スープを精製出来る。ちゃんと出す分量は調節出来るので安心して使うことが出来る

何気にアメリカ開拓時代の大雑把な家庭料理や素材なら何でも出せるし作れる。パンケーキが一番美味と評判

・ポップコーンの吹雪:彼が食べたポップコーンの殻を動物達が吹雪だと勘違いして凍死したエピソードの再現。自身を中心に非常に広範囲に高等氷結魔法を極大威力で行使出来るが手加減、範囲指定は一切出来ないがマスターと自身の眷属には被害は一切無い

・ヘイ、ベイブ:ポール・バニヤンの相棒である青く巨大な雄牛ベイブを一日一回、一頭だけ召喚出来る。自身が召喚したベイブに対する友情連携を内包する

ベイブはカード化はしていないが『高等眷属体』であり怪力、火事場の馬鹿力、乗騎、荷重強化、持久力強化、自身を召喚したポール・バニヤンに対する友情連携を持つ戦闘力750のモンスターとして扱われる。一度召喚すればポール・バニヤンが居る限り送還するかベイブが死亡するまで存在し続ける事が出来る。ベイブは死亡しても一週間かBランク魔石一個で復活可能

但し、ポール・バニヤンはベイブを粗末に扱う事を決して赦さない事を忘れてはならない

ベイブに対する友情連携を内包する

 

 

後天技能は建築や料理などの技能系に更に強くなってゆく傾向がある。戦闘能力はBランク下位だが『擬似安全地帯作成能力』故に非常に高価なカードでもある。だいたい九十億円が世界的評価額だがアメリカではアテナより高価に買取りしに来る。むしろアテナか他の優れたBランクカードとトレード要求してくるし、所有者の情報を得たら必ずエージェントが買い取り交渉に駆け付けてくる

 

 

贋作妖刀

 

世に多々ある妖刀伝説……の中にある妖刀の贋作達。例えば『倒幕』を志した侍達が『徳川家に仇なす』とされるかの伝説の妖刀の名を自身の刀に勝手に付けたり、純粋に単なる贋作や、その銘元の数打ちや弟子の習作などだろうか?

 

その妖刀は本来『実用性と切れ味』にこそ特化した『安い、切れる、すぐ作れる』の三拍子揃った戦場向けの実用品であり人斬り包丁そのものである

 

しかし現在ではその逸話のせいか戦場での実用の果てに失われたかで殆ど現存するものは無く……そもそもその『銘』を象嵌した本物は非常に希少である為か今では殆ど『幻の刀』扱いではあるが

 

その逸話のせいかこの贋作妖刀は『ジェネリック付喪神』とも言われている性質を保有している。日本刀型に限定ではあるがそれらを取り込む能力を保有している。付喪神の様にその取り込んだものを回復させたりは出来ないがその取り込んだものを犠牲にする事で擬似的ではあるがロストを回避する能力を保有している

 

また、装備型能力持ちの中でも珍しい事に『憑依型』と『装備憑依型』のどちらかに切り替える能力を保有している……但し切り替えには結構な代償が必要不可欠なので要注意

 

普通ならリビングウェポンからクラスチェンジが普通だが……近年『手の目』でこれにクラスチェンジする事もあるらしいが非常に希少なケースにつき情報が常に求められる

 

基本的に手が無いので物を持ったりすることは出来ない。殆ど『装備化』に特化した仕様のカードになっているのがこのカード最大の欠点だろうか?いや……『倒幕妄執』で比較的反逆的な性質があるのが恐れられているからだろうか?

 

【種族】贋作妖刀/打刀

【戦闘力】150

【先天技能】

・贋作村正:一応は『村正』と銘打たれてはいるが倒幕の意を込めた徳川幕府に不満や復讐心を抱く者……特に維新志士の弦担ぎによって生まれた贋作妖刀の幾多ある一振り

初等クラスの装備化スキルと浮遊を内包する、支持肢が無いので物を持ったりなどは基本的に出来ない

・倒幕妄執:幕府に不平不満や復讐心を持つ者達の怨念怨嗟が概念的に染み込んでいる、しかし所詮は贋作なのでそこまで強い力は無い

その性質からか器物系統としては強い自我を持つ

無下に扱うと反逆系マイナス技能に目覚め易い

剣術、武術を内包する

・贋作模倣:所詮は村正の贋作に過ぎない無銘刀ではあるが、それが故に模倣もそれなりには出来る

『日本刀型魔道具』ならば取り込んでその能力を自身の能力として扱える様になる。この能力を使えば『物品憑依型』として扱えるが代わりに武器型魔道具の装備スロットを消費した状態になる

その取り込んだ日本刀型魔道具が壊れたら元の刀身に戻りその日本刀型魔道具は消滅する。擬似的ではあるがその日本刀型魔道具を身代わりにする能力とも言える

要はジェネリック付喪神みたいな能力であるが、取り込んだ魔道具の再生能力は無い。しかし通常の武器型魔道具と同じ様な修繕は可能

 

後天技能は剣術を補強したりする技能に目覚め易い様だ

 

 

 

不知火

 

不知火は九州に伝わる怪火の一種。旧暦7月の晦日の風の弱い新月の夜などに、八代海や有明海に現れるという。千灯籠、または竜灯とも呼ばれる事もある

 

海岸から数キロメートルの沖に始めは一つか二つ、『親火』と呼ばれる火が出現する。それが左右に分かれて数を増やしていき、最終的には数百から数千もの火が横並びに並ぶ。その距離は4〜8キロメートルにも及ぶという。また引潮が最大となる午前3時から前後2時間ほどが最も不知火の見える時間帯とされる

 

この火には誰も近寄る事は出来ず、この火は『龍神の使い』とも言われていてこの火が出る時は漁は禁じられている

 

景行天皇(ヤマトタケルの父皇)がクマソを征伐した時期に海で遭難してしまった事がある。しかしこの怪火に依って陸地を見つけて難を逃れたという記録がある。その地が肥後(熊本)であり肥後が『火の国』と呼ばれる由来となった

 

カードとしては『親火』に当たる怪火が本体となり、他の火は『眷属召喚』で再現されている様だ。景行天皇を導いた事からナビゲート能力や蜃気楼に近い性質からか限定的ではあるが『異空間カード』としての能力もある。基本戦闘力はやや低めで色々ピーキーかつ環境制約の多い、結構扱いの難しいカードではあるが……使いこなせれば非常に優秀なカードである事は間違いない

 

【種族名】不知火

【戦闘力】320

【先天技能】

・晦夜ノ親火:闇夜若しくは暗い環境下そして海上において起きる怪火を示す。今挙げた環境下(水上であれば大丈夫、たとえそれが水溜りでも)であればEランクモンスターであるウィル・オ・ウィスプ、鬼火、人魂を一秒にニ体づつ召喚・使役可能。暗い若しくは水上なら三秒に一体、条件外の明るい環境でも三十秒に一体づつなら召喚・使役可能。召喚数に制限は無い

先に挙げたカードがあるならそれを取り込んで更に威力を高めて発射する能力もある

火炎の身体、上級攻撃魔法/火炎、浮遊を内包する

(火炎の身体:肉体が火炎そのもので出来ている。火炎そのものを吸収したり敵に接近するだけでダメージを与えられるが火炎そのものなので味方も近づけばダメージを受ける。基本的に物理攻撃は無効だが圧倒的な水などに沈められたりして火が全て消えたら即ロストしてしまう)

・火国ノ漁火:伝承元である熊本が『火の国』と呼ばれる様になった由来から発した能力。景行天皇(日本武尊または倭建命の父)を遭難から救った人ならざる迎え火、そしてこのカードの名前が定まったエピソードを示す

迷宮内部ならば出口、若しくは最寄りの安全地帯への行き先を示す能力……要はナビゲート能力がある

ちなみにアンゴルモア時には『なるべくモンスターの少ない、比較的安全な場所に導く能力』を発揮する

・蜃気楼:現実を少しだけ歪めてごく弱い異空間を形成出来る。作成できる異空間はその場所そのものであり生活設備や資材を形成する能力は無い

空間はせいぜい十二畳間四方程度のごく狭い空間でしか無く収納能力などもない。文字通りの蜃気楼そのもの故に

森林なら森林、砂漠なら砂漠、草原なら草原と位相をずらした簡易避難所を作るだけの能力である

中等状態異常魔法を内包する

 

後天技能は鬼火系統としての特性に因んだものが多い

 

 

一本だたら

 

一本踏鞴、または一つだたらとも呼ばれる日本に伝わる妖怪の一種で熊野地方の山中などに棲む。一つ目で一本足の姿の妖怪とされるが、地方によって伝承内容には違いが見られる

 

鍛治に非常に縁深い妖怪であり一つ目一本足は炉の火で目を、鑪踏みで脚が萎えたせいだとも言われている。一説に拠れば鍛治神である天目一箇神(あめのまひとつのかみ)の零落した姿だともされている

 

故に一つめ一本脚である事に変わりは無いが、毛むくじゃらの獣みたいな姿だったり鍛治師みたいな姿だったり色々外見にバリエーションがあるが性能は変わらない

 

様々な諸説はあるが、この一本だたらは『十二月二十日』という日に強い縁がある。この『果ての二十日』だけに山に現れて山の入った者を喰い殺すとも言われている。これは同類亜種である『猪笹王(Bランクカード)』との共通する特徴である

 

カードとしての特徴はやはり『鍛治師としての能力』に尽きるだろう。金属製の魔道具の修繕能力と『鍛冶場』に特化した異空間能力持ちである点だろうか?迷宮の鉱脈から鉱石を採掘したりその鉱石を精錬したりその金属で武具や道具を用立てたりする事が出来る

 

『そこそこの武具』程度ならば即座に具現化する能力もあり、『武器を扱える眷属』に供給したり、時間はかかるが『無銘の武具』を作成する能力もある

 

まぁその代わり戦闘能力はかなり低めだが武具系魔道具使いや眷属召喚使い的には非常に便利……を通り越して必須必携のサポートカードだと言える

 

クラスチェンジするなら『鍛治師として正当進化』するならやはり天目一箇神、『戦闘能力を追加する方針』ならば猪笹王を……やはりこの二つのパターンが一般的だろう

 

【種族名】一本だたら

【戦闘力】380

【先天技能】

・たたら鬼:鍛治に特化した妖怪……いいや零落したとはいえ鍛治神である事を示す技能。零落しているとはいえ鍛治、採掘、精錬などの技能を内包している

充分な金属が有れば一週間掛かるが『無銘シリーズ』を作成可能。但し作刀作法や儀式もあるので必ずぶっ通しでやらなくてはならない

金属製魔道具の修繕や整備なども可能

熱、火炎攻撃への完全な耐性を持つ

・零落の鍛治神:金属製品や基本戦闘力+30程度の武具を即座かつ無限に具現化する事が出来る

己の保有する空間以外のちゃんとした金属を対価にすればその金属の分まで基本戦闘力+100の武具を具現化出来る

この効果は壊れるか一本だたらが場に存在する限り永続する

・山野の鍛治師:鍛冶場型の……いや、鍛冶場特化型の異空間を形成する能力を保有する。殆どは鍛冶場や炉心、能力行使の為にしか使えない石炭や鉱石・金属や作成品置き場であり、あまり生活空間は無い

一応四畳半の休憩室と水甕、塩の備蓄だけはある

倉庫(中級収納)もあるので荷物の積載は出来る

・山の妖怪:山岳に居る限り強い補正がかかる。寒さ、氷結への完全な耐性を持つ

 

後天技能は技術系統が先に来るが怪力や武術、鎚術などの武器技能などにも目覚め易い様だ

 

 

猪笹王

 

非常に複雑な由来を持つ一本だたらの獣や山神、鬼神若しくは荒神としての『鍛治神』以外の様々な側面を示す存在

 

大和国(奈良県)吉野郡・川上村の伯母峰峠に現れたといわれる妖怪で元は熊笹がつく程の旧い大猪だったが猟師にうち殺されてしまう。処に拠っては猪ではなく猫だという説もある

 

火縄銃と犬を嫌い、それに纏わるトラブルで大暴れしていたが丹誠上人なる高僧に封印される……が、『果ての二十日(十二月二十日)』だけは封印が破れて山中に存在する全ての人間を襲う為その周辺の者達は決してこの人だけは山には入らないそうだ

 

ちなみにこの『果ての二十日』は近畿地方全域の忌み日であり、『山神が荒ぶる日』とも『罪人の処刑日』ともされている。この日にこの魔物が出る迷宮に入って痛い目を見る冒険者も稀にいるらしい

 

カードとしての猪笹王は、まぁ『比較的手頃な価格のBランクカード』だろうか?一本だたらを幾らか召喚する眷属召喚能力と一本だたらの基本的能力、そしてそれなりに高い戦闘能力を保有する……が、犬と火縄銃を苦手とする弱点もあるので運用には注意が必要

 

最大の特徴は……暦次第で莫大な力を得る特性『果ての二十日』だろうか?実際の暦関係なので取り扱いは非常に面倒ではあるが決まれば莫大な力を発揮出来るだろう

 

稀にカードショップなどで販売されるBランクカードの代表的存在……のうち一つ、荒々しい性格ではあるが『神のプライド』などは無いのでそれなりに従順でもあるからかセミプロなどからも『Bランクにしては扱い易い』と評判が良い

 

 

【種族名】猪笹王

【戦闘力】600

【先天技能】

・猪笹王:このカードそのものの名を冠したこの技能は『一本だたら』としての全ての能力を内包し、その一本だたらを眷属として召喚出来る。一度に六体までという制限はあるが数に限りは無い

但し……犬、火縄銃に弱いという弱点も内包する

・果ての二十日:『実際の暦の十二月二十日』には本来かかる封印が解けて自由に動ける様になる。という逸話からその日が来ると『猪笹王』に内包された全ての弱点が消え、その戦闘力が三倍になる

既に束縛されているからか束縛無効を内包する

・忌み日の獣:忌み日に荒れ狂う獣、怪力、火事場の馬鹿力、本能の覚醒、気配察知、自己再生を内包する

・武術

 

後天技能は主に戦闘系になりやすい様ではあるが鍛治関連のスキル獲得には積極的になりやすい様だ

 

 

天目一箇神

 

『あめのまひとつのかみ』と読む鍛治神の一柱。一本だたらとは密接な関係があるがそれは一本だたらが天目一箇神の零落した姿だからだとされているからだ。ちなみに『火男』の原型だとも謂れている

 

日本の八百万の神の一柱であり天津神の一柱であり、鍛治だけでなく精銅から製鉄を司る神格でもある。習合の結果別側面として扱われる隻眼の龍神である『一目連』から得た天候神としての側面もある

 

鍛治師の宿業故に『目一箇(まひとつ)』の名通りに一つ目(若しくは隻眼)であるが一本だたらと違って一本足ではない様だ。それとダイダラボッチとも何某かの縁がある様である

 

カードとしては殆ど純粋な鍛治神として一本だたらの完全上位互換であると同時に当の一本だたらを無限召喚出来る能力を保有している

 

最大の特徴は……貴重な迷宮素材を沢山使うし月一度限定ではあるが『武具型魔道具ガチャ』みたいなものが出来る能力と鍛治神の権能だろうか?そのガチャは最低でも無銘の武具程度から攻撃力+500クラスの伝説の武具作成まで様々なものがランダムに作成出来るらしい。ついでに『無銘の武具』なら一日に一振りは作れる

 

ちなみに『鍛治神の権能』の一つには『鍛治でどうにかなるなら武具型魔道具の耐久性回復する能力』もある。勿論代償や制約はある。その代償は貴重な迷宮素材の消費、制約はその回復分その魔道具の最大強度は落ちてゆく事とそうそう容易くはない様だ

 

習合した一目連の力で限定的ではあるが天候操作能力もある……但し本来の一目連の様な『天候神の権能』ではないので風を操作する事に限定されているし権能ほど強くも強制力もない

 

運が良ければ『伝説の武具コレクション』だって出来るが、そもそもこのカード自体が非常に稀少である……まず市場には出回らずどんなに安くとも五十億はかかる、いや五十億ならむしろ詐欺を疑うべきだろう

 

 

【種族名】天目一箇神

【戦闘力】700

【先天技能】

・たたら場の神:鍛治と採掘、製鉄を担う天目一箇神の権能。今挙げた技能は勿論、それに関連する全ての技能を最高の水準で保有する

火や熱に対する完璧な無効化を内包する

一本だたらを無限召喚出来る

・岩戸隠れの段:鍛冶場特化型の異空間を作成する能力。一本だたらの『山野の鍛治師』に似てはいるが全てが圧倒的にグレードアップしている

少なくとも快適なDランク異空間カード並みの居住性はある

上級収納を内包する

・神具作刀:金属製品か基本戦闘力+100の武具を即座かつ無限に具現化出来る

この効果は壊れるか天目一箇神が存在する限り永続する

一日の時間と必要な迷宮素材があれば無銘の武具を作成可能

月に一度だけ貴重な迷宮素材を多数消費してランダム武具作成が可能

・風神の側面:風神にして天候神たる一目連の力を限定的に行使可能。風をある程度操作出来る……が、基本的に大雑把なものでしかない

疾風、寒さ氷結への完璧な耐性を持つ

・上級攻撃魔法(火炎、疾風限定)

 

後天技能はやはり鍛治に纏わる事を優先的に覚えてゆく様である。また半々の確率で『神のプライド』を持っている……が、運用法が運用法なので鍛治だけをやらせておけば良いからまぁ何とかなるかも知れない

 

 

鍛冶が嬶

 

日本の狼に纏わる説話『千疋狼(せんびきおおかみ)』に纏わる妖怪。要は『夜間にオオカミの大群に襲われた人間が木の上に登り、オオカミたちが梯子のように肩車を組んで樹上の人間を襲おうとするものの後一歩で届かず、オオカミが自分たちの親玉の化け物を呼びつける』というものである

 

そしてその呼ばれる親玉こそが『小池婆』『弥三郎婆』とも呼ばれ色々な……化け猫だったり鬼婆だったり様々な姿で現れるが鍛治が嬶は鉄鍋を被った白狼の姿であらわれるとされる

 

カードとしての鍛治が嬶はその千疋狼の逸話通りに千匹……実際には無限召喚で狼を呼び出す能力と『テリトリーを確保する能力』を保有している。ついでに鍛治が嬶としてだけでなく、小池婆や弥三郎婆としての姿とも習合してそれぞれの姿である化け猫や鬼婆の姿に化ける能力もある(本家ロシアのキキーモラと同じく)

 

戦闘力や性能は確かではあるが……鉄鍋を被った老いた白狼だの凶悪な形相のデカい老猫だの鬼婆だのといった見てくれの悪さがと稀少さがネックになって人気は今ひとつではある

 

唯……メインが狼なので主には比較的従順な性質であり大事にすれば尽くしてくれるから相性の合うガチ勢からは人気と信頼は厚い

 

 

【種族名】鍛治が嬶

【戦闘力】420

【先天技能】

・千疋狼:その説話の屋台骨である『千匹の狼を呼び出して使役する能力』。千匹とは言えどその実態は無限召喚であり、その狼達を的確に指揮する能力を内包する

この狼達は『提灯の無い送り狼』として扱う

統率を内包する

・縄張りの主:自身を中心としたテリトリーを形成可能。テリトリー内では味方全員の能力が向上し、持続回復の効果がある他、テリトリー内に侵入した敵の気配を察知することが可能となる

一方で、自身の存在を周囲に知らしめる形となるため自身よりも弱い敵を遠ざけ強い敵を惹きつけてしまう。また、テリトリーの範囲は周囲の敵の弱さに比例する

・三種の変身:本来の姿である『鉄鍋を被った老いた白狼』と巨大な化け猫、鬼婆の三つの姿を持つ。鬼婆の姿になると戦闘力が少し低下するが会話能力が付く

・本能の覚醒

 

後天技能は気配遮断やかくれんぼといった隠蔽系をメインに、後は狼らしいものがメインになってゆくだろう。稀に名前に引っ張られたか鍛治に纏わる技能を得るケースもあるらしい

 

 

ドワーフ

 

ファンタジーの定番である山岳と洞窟、鉱山の妖精。恐らくは源種だろう『北欧神話の黒小人』という存在も在るがそちらは日本でもBランクカードとして別に存在している

 

ドワーフの造形は恐らく原種と思われる北欧神話の黒小人をモチーフに『指輪物語の鉱山妖精』を以て出来たと思われる。ちなみに一部の『イレギュラーエンカウント』にも同名の存在は現わるが恐らくは『とある夢の国の物語』と同じく『独逸の民間伝承』を由来にしていると思われる……イレギュラー製のアレは非常に悪意に満ち歪められた代物ではあるが

 

このカードとしてのドワーフにはちゃんと男女の区別があり、男のドワーフはやはり髭面で小柄だが筋骨隆々の豪傑にして職人という一般イメージ通りの存在である。また女性のドワーフは逆に童顔かつ小柄な美少女……しかも人間基準でスタイル抜群なので女の子カードとしての人気は非常に高い、もう一つのイメージである『女も髭面』なのはBランクの『黒小人』の方になる。ついでに女ドワーフの能力も殆ど男ドワーフと大差はない

 

殆ど同類である『一本だたら』と違いかなり高い戦闘能力を保有する戦士でもあるが、保有する技術は殆どランダムであり鍛治師だとは限らない。鍛治師、採掘師、細工師、木工職人、硝子職人などなど様々な技能を保有しているのでお好みの技術持ちを探して見ると良いだろう

 

非常に大食らいかつ大酒飲みであり、酒と美味いものさえあれば大概ご機嫌ではあるが本質的に頑固な性質なので取り扱いにはやや注意が必要となる。ちなみに良く『ドワーフは斧や鎚以外の武器は使いたがらない』と思い込まれてはいるが、全くそんな事はなく剣や槍の方が好みだという個体も珍しくはない

 

様々な意味で鉱脈系ダンジョン探索の強い味方として男でも何気に人気が高い

 

 

【種族名】ドワーフ

【戦闘力】470

【先天技能】

・妖精技師:様々な職人としての高い技量を保有している。少なくとも一つは何らかの職人として達人の域に達している

職人としての技能習得に非常に強い補正が入る

・鉱脈の妖精:鉱脈に生きる妖精としての能力や特性を表す。鉱山などの狭く暗い空間に居る限り非常に高い補正が掛かる

金属製魔道具の修繕、整備も出来る

鍛治師、採掘師と闇視を内包する

・妖精重戦士:ドワーフは優れた職人でもあり優秀な重戦士でもある。ひたすら頑丈かつ力強い頼れる戦士である事を示す

斧術、鎚術、武術、頑強、怪力、火事場の馬鹿力を内包する

 

後天技能はまず真っ先に職人系技能が来るが、稀に回復魔法を獲得出来る個体が現わる事もある

 

 



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魔道具図鑑 その1

皆様のモブ高二次創作にどうぞ

ダグザの大釜を改定。このままではアンゴルモアの役に立たないし


 

・鬼祓いの菖蒲

十二枚の菖蒲の葉を束ねたもの。『鬼』の属性を持つモンスター(カード)に範囲系特効ダメージを与え、風呂に入れれば強い鬼属性モンスター避けが出来る(味方カードにも効くから注意)

どっちの使用方法でも一回こっきりの使い切り

市価だいたい50万円

 

 

・束鬼刃

鬼刃とは鋸の三十二段、柄に最も近い箇所にある刃の事。これはこの部位を集め束ねて作ったとされる連接剣の一種。剣とも硬鞭とも軟鞭ともなる変形武器でもある(通常は硬鞭状である)

『鬼特効』の性質を持つが非常に扱い辛いという欠点がある(仕掛け武器としてはかなり頑丈な部類である)。『牛鬼祓い』の力もあるらしい

攻撃力+150(鬼には二倍、牛鬼には三倍)

市価だいたい一千万円

 

 

・送り拍子木

本所七不思議にある『送り拍子木』そのもの。Dランク以上のカードに装備させて鳴らしながら『火の用事』と唱えさせ続ければFランクモンスター避けになる

Cランクカードに持たせればEランクモンスター避けが出来るがこの拍子木で払えるのはEランクモンスターまでである(グレムリン避けには重宝するので需要は以外と高い)

ちなみに同じ本所七不思議のEランクカード『送り提灯』にこの拍子木を与えてCランクカードを同行させればDランクモンスター迄は避けられる様になる。Dランクカードと同行ならEランクモンスター避けにはなる(送り提灯にこの拍子木を与えればそれだけでFランクモンスター避けになる)

市価だいたい500万円

 

 

・宝しゃもじ

一日一度だけ一粒の米を鍋にいれてこのしゃもじで掻き回せば一升の炊いた飯になるしゃもじ。但しこのしゃもじを使っている処を誰かに見られるとこのしゃもじは壊れて力を失ってしまう

制約さえ守れば何度でも使えるがこれを使っての商売は法律違反なので注意

市価だいたい200万円

 

 

・『魔女に与える鉄槌』

『魔女狩り』の元となった伝説の悪書。活版印刷の初期に刷られた三冊で一セットの魔女狩りマニュアル

魔導書の一種であり、その効果は拷問技能、黒魔術(ヨーロッパのマイナースキル)、天使、キリスト教の聖者系統全てへの特効付与が付いている

この魔導書には強力かつ重篤な広範囲精神汚染効果(著者の邪念)が染み付いている為『所持禁止類魔道具』に指定されている

市価取引禁止。ギルド引き取り価格一律5000万円

 

 

・籐籠の飯入れ

蓋を開けば一日三度だけ二つの握り飯(具材と米の種類は所有者の趣味と気分で変わる)と三切れの沢庵が入っている不思議な籐籠の弁当箱

味は塩気も握り具合も上々で美味い。沢庵もまた美味い

『マヨヒガ』がよくドロップする……と言うかマヨヒガ製握り飯そのもの

市価だいたい200万円

 

 

・三枚のお札

あの有名な民話……これはその性質上イレギュラーエンカウントにはならずに普通の魔道具となった様だ

民話の如く身代わり、追跡妨害、火炎、津波などの好きな効果を発揮する……が、その真価は対イレギュラーエンカウント用である(イレギュラーエンカウント関連の災いの身代わりになってくれる……老化や防御貫通、リドル封じなど色々と)

一枚あれば一体のイレギュラーエンカウントの特殊能力を防いでくれるが『真のイレギュラーエンカウント』にはある程度の防護に落ちてしまうから要注意

極めて稀にCランク以上の山姥系統からかガッカリ箱からドロップする……事がある

市価……最低五億から(三枚一組で分割不可)、市場に出れば間違いなくオークションにかけられる(その最低価格が五億から)

 

 

・姦淫聖書

『モーセの十戒』の記載文である『汝、姦淫をするなかれ』が『汝、姦淫をするべし』と誤記入された聖書

当時重い借金を背負っていたとある競合印刷業者とその協力者が当時聖書の印刷権を持っていた業者から聖書の独占印刷権を奪うため、姦淫聖書に意図的に誤植を混入させたのではないか、という説もある

現実でも存在するが殆どが焚書された(現在では非常に)貴重な書物である

魔道具としての効果は天使、キリスト教系統の聖者としての性質を持つモンスターへの特効付与と中等妨害魔法を付与する事が出来る

市場価値はだいたい三千万円ぐらい

 

 

・鬼払い箒

一部の民間信仰などにおいて箒は鬼(幽霊)を払う(祓う)効果があるとされている。その効果で不死殺しの特性を持った武器としも使うことが可能である魔法の箒……が、所詮は箒なので攻撃力も耐久性もお察し

しかし箒や掃除に縁のあるカードならば下手な武具魔道具よりも有効に使いこなせる(戦闘力の向上や強度増強などが発動する、掃除技能を武器戦闘技能代わりにに行使出来る)

シルキーやキキーモラ使いなどから人気が高い

戦闘力+100(掃除、家事系統技能保有カードのみ)

市場価値はだいたい100万円ぐらい

 

 

・桃木剣(人工純正魔道具バージョン)

桃の木には魔や厄を祓う力があるとされ、普通の(ダンジョンに自生しているもの限定の)桃の木製でも『鬼』としての属性を持ったアンデットには効き目がある

ダンジョンが発生してから最初期の中国で『もしかしたら』と様々な伝承を元に対モンスター実験が行われたうちでの数少ない成功例の一つがこれである

その効果は『鬼属性持ち限定の不死殺し』……だが、所詮は脆い桃の木製の木剣なのでほとんど使い捨て同然かつ威力もお察しだった

しかもちゃんと『そういう木剣を作る手順』を守らないと効果が無いので製作コストの面からもあまり良いものではなかった

後々に『聖銀製の武具』がその立場に取って代わり桃木剣はすっかり過去の遺物と化した

しかし……桃木剣は『人類が初めて作った人工魔道具』にして『人類にも魔道具は作れる』という事実の象徴として世界各国の魔道具研究所のシンボルとして今も飾られているし、一部のファンや新米冒険者などが稀に今も実用している

戦闘力なし

市場価値はだいたい五万円(殆ど作成時の人件費)

 

 

・真桃木剣

ダンジョン内部から発見された真の桃木剣、制限の無い不死殺しに桃木としては異常な強度と柔軟性を持ち簡単には折れない

そこそこの攻撃力もあり、仙術や神通力の補助機能もある

剣術技能で使用可能だが切断は不可能

戦闘力+50

市場価値はだいたい500万円ほど

 

・銭剣

真桃木剣の上位互換。やはり不死殺しかつ強い戦闘力を誇る

銭を束ねる紐を解き、そのばらけた銭を敵に撒けば使い捨ての広範囲対不死特効攻撃が出来る

その見てくれだが真桃木剣よりも頑丈。ついでに何故か切断攻撃が出来る

剣術技能で使用可能

戦闘力+100

市場価値はだいたい一千万円から一千五百万円ほど

 

 

・施餓鬼米(餅米)

アンデット一体によく効く浄化の米入り小袋。特に『鬼』の属性持ちなら更に効果的面である(普通のDランクまでならいちころである)

『屍毒』に分類される毒に対しての強力な浄化作用もある

市場価値はだいたい20万円ぐらい

 

 

・白沢図

古代中国の瑞獣白沢から得た1万1520種に及ぶ天下の妖異鬼神の知識の集大成たる書物(現実にも存在していたらしいが失われている)

所有すれば全ての……イレギュラーを除く全てのモンスターとスキルの基礎的な知識を得られ、またそのモンスターが特殊な毒や呪いを持っているならその全ての対処法を理解出来る様になれる(但し、『零落せし存在』や『幼体』、『小さな勇者』、『限界突破』みたいな特殊な技能のデータはイレギュラーエンカウントと同じ条件でのみ解放される)

ちなみにこの図を持つ者がAランク状態(本体)のイレギュラーを撃破出来ればそのイレギュラーの基本的なデータが全ての白沢図に一挙に記載される(白沢図にも数体だけそのデータが存在する)

市価だいたい五千万円(但し非常に希少品)

 

 

・銀のスプーン

ヨーロッパの伝統である『銀のスプーンを送られた赤子は無病息災かつ食べる事に困らなくなる』と言う言い伝えのあの銀無垢のスプーン

赤子(妊婦)限定で強力な魔除け病除けになり、アンゴルモア時にもイレギュラーエンカウントの跳梁跋扈や悪意にも『赤子(妊婦)であるなら』全てのモンスターや魔法の被害を防ぐ効果があると判明している(『浦島太郎』の被害すら防ぎ、『ハーメルンの笛吹き男』も近寄れないのである)

『豊玉姫命のお守り』の上位互換としての機能もあり安全無痛の出産を保証してくれる上にそれを持つ赤子がちゃんと健康的かつ健全に産まれる事を保証してくれる

但し、普通の災厄(事故)や人災(人間の悪意)は防げない

市価最低十億から(即オークション行き)

 

 

・ダグザの棍棒

ケルト神話の主神ダグザが所持する巨大な棍棒。巨人か巨人化能力にしかつかえず、最低でも剛力無双持ちか複数の怪力持ちでないと『武器以外での使用』が出来ない程重い

使えれば無双の力を得られるがその真価は『復活の力』にある。この棍棒を逆さに持ってソウルカード(死亡状態の名付けしたカード)に『復活してくれ』と念じて当てるとそのカードが復活する

但し、復活の力をつかうとこの棍棒は消滅する

戦闘力+500

市価最低でも一億から(オークション行き)

 

 

・ダグザの大釜

ケルト神話の主神ダグザが所持する巨大な粥鍋。願えば無尽蔵に美味しく加護の付いたオートミール粥を出す力と水や酒を入れれば万能薬にもなる力を持つ

キリスト教の『聖杯』はこれが由来だとも言われている

この中にソウルカード(死亡状態の名付けしたカード)と必要な量の魔石(大釜が要求する分量)を入れて煮込むとそのカードを復活させる事が出来る。その分量はそのカードのランク×十倍の魔石

但し、その復活させるカードのランクに応じてその全ての能力が使用出来なくなる制約がある

Dランクならば一時間、Cランクなら四時間、Bランクなら十二時間といった処である

その破格の能力と希少性からまず市場に出る事は無く。確実にその国の政府か大企業……若しくは発見者が秘匿している秘宝の一種。文句なしのAランク判定魔道具の代名詞である

ちなみに……判明しているだけで世界に三件だけ存在が確認されている(現在行方不明合わせて)

市価取引不可(ギルド引き取り最低百億……ぼったくり搾取価格で)

 

 

・七里走破の靴

いわゆるセブンリーグ・ブーツ。着用者に『迅雷』のスキルを与え……るが、人間が装備する場合その能力は『装備化能力持ち』を装備しない限り発動不可能

しかしこの靴には『疲れ知らずの加護』、『脚護りの加護』があり……この靴を履いていればかなり疲労は軽減され、靴擦れや水虫などを決しておこさない効果がある(元から水虫持ちならそれ以上悪化しない)

市価だいたい五千万円から

 

 

・照魔鏡

姿を隠す能力を持った魔物や幻術を破る破魔の鏡。要は『何度でも使えるアダーストーン』である

『空間系モンスター狩り』には必須アイテムとされている

限定的ではあるが変装を暴く効果もあるが、下手に女性を映すとそのすっぴんを暴いてしまう為スパイや犯罪者だけでなく一部の女性からは非常に嫌われている魔道具でもある

銅鏡だが以外と脆いので取り扱いは慎重に

市価だいたい三千万円。在庫次第でオークション行きもあり得る

 

 

・無限水筒

魔石を嵌め込む窪みが付いただいたい1ℓ程の容量の金属製丸型水筒だが……魔石を嵌め込めば非常に美味で健康に良い水を(魔石のエネルギー次第で)無限に出せる、Fランク魔石一つでも二十五米プール一杯分は余裕で出せる。ちなみに水道の様にも使える上に畑にやるとそれだけで作物も幾らか美味しく育つ。『薬水の水差し』の下位互換品

市価だいたい500万円

 

 

・俊敏の銅剣

青銅にも見える鋳物と思わしき『グラディウス』とも呼ばれる広刃の直剣。だいたい刃渡り50㎝の(青銅の鋳物であるせいか)肉厚な造りの幅広の小剣で戦闘力に結構な補正を与える良品かつ多少敏捷性を高める効果があると手の目が鑑定している(大輝&手の目が装備している)、魔道具だけにそれなりに頑丈でもある

これもまた『魔剣』の一種

戦闘力+100

市価だいたい500万円

 

 

・天狗の隠れ蓑(隠れ灰)

所有者に『かくれんぼ』と『無音行動』を与える魔法の蓑。天狗の宝物シリーズの一つであり有名な所持禁止類魔道具の一種

ちなみに火に弱く直ぐに灰になるがその灰を被っても『かくれんぼ』と『無音行動』を一時的に獲得出来る

市価取引禁止(ギルド引き取り価格隠れ蓑五千万円/隠れ灰一千万円)

 

 

・天狗の侘び状

詳細不明かつ判読不能な文章が綴られた書状

日本妖怪や神格、天狗当人に聞いても『侘び状である』という回答以外は得られなかった

何らかの魔力を感じられるがその本当の効果は未だ判別出来ていない

(※:『零落せし存在』用のアイテム)

市価現状だいたい千円(後々は一千万円)

 

 

・河童の妙薬

河童が作ったとされる塗り軟膏。大概の河童は相撲好きなのでその稽古の際に負った傷を癒す為に作ったとされている

悪戯を懲らしめられた河童が詫びとして人間に製法などを齎した事もある……らしいが河童の妖力(神通力)が必要なので完全な妙薬にはならなかったとか何とか

ちなみにこの妙薬は切り傷に特に有効であり……切断したてならば手足の継ぎ直しも容易に行える効能がある(ちゃんと切断面を洗って数日は安静にする必要があるけど)

ごく稀にこの妙薬を作れる河童があらわれる事もある(弥々子河童みたいなネームド級の上級河童ならかなり高い確率でこの妙薬作成能力がある。由来上弥々子河童は確実に作成できる)

類似品に『鎌鼬の傷薬』が存在する

市価だいたい一千万円(基本的に三回分は有る)



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魔道具図鑑 その2

今回はカードファイルその2と繋がっています


 

・赤い靴

あの御伽噺と同じく履くと永遠に踊り狂い続ける呪いの靴。もしも履いたら(人間なら)その両足を切り落とす必要がある(切断した足はそれでも踊り狂い続けながら赤い靴ごと消滅する)

カードに装備させると『踊り』のスキルを獲得出来るがその忌まわしい性質上ほぼ間違いなく反逆系マイナススキルが芽生えるだろう(踊り狂い続ける特性は変わらない、無理矢理引き剥がす事は出来るがカードに大怪我を負わせる事になるし)

市価取引禁止。ギルド引き取り価格一律一千万円(危険物処理として)

 

 

・魔法の粥鍋

小さな鉄鍋、この鍋に『おかゆよ、ぐつぐつ』と(所有者が)唱えると美味しい黍粥が現れる。元ネタの御伽噺の様に町一つを飲み込む様な事にはならない

やはり何度でも使える

市価だいたい100万円(黍粥の需要はあまり多くはなく、一人用の鍋だから)

 

 

・幸運の銅貨

何処の時代かも国かもわからない謎の銅貨。持っているとほんの僅かだけカードドロップ率が上がる

この銅貨を持っている時になんらかの致命傷を負う様なダメージを受けるとこの銅貨が砕け散ってその致命傷は『命には直ちに別状の無い大怪我』程度に置き換わる能力がある(複数枚持っていても全て砕け散って効果は重複しない)

要は劣化版保険のお守りである

市価だいたい五十万円(結構良く見つかる)

 

 

・八塩折ノ酒

八岐大蛇退治の際に用いられた非常に酒精の強い酒。『七回絞った強い酒』らしく八岐大蛇を酔い潰す意図を以て造られた

酒好きな魔物……特に蛇、龍系の魔物を引き寄せる効果とそれらを絶対に酔い潰す効能がある

その味は非常に良いので好事家から大人気である

実はこれも『零落せし存在』用のアイテムである(八岐大蛇になる為の)……他にも必要なアイテムは有るが

市価だいたい一千万円

 

 

・金蚕蟲

別名『食錦虫』、中華の邪術である巫蠱の一種。錦だけを食う蚕(の様な何か)

これを飼う内は金運が非常に良くなるがその代わり最低でも一年に一度は誰かを殺す必要がある(出来なければ家族の誰かが死に、家族が居ないならば所有者自身が死ぬ事になる)

実際には金運の向上ではなく『近くの他人から金運を奪う能力』というのが正しい(これを持っている家の周囲ではよく色々な不幸が続くので所在が分かり易い)

手放す際にはこの蚕を得た時から得た金銭や財宝と一緒に捨てて誰かに押し付ける必要がある(ちなみにこの蚕は何をやっても死なない)

勿論、この性質からこの魔道具は所持禁止類魔道具である

市価取引禁止、ギルド引き取り価格一律一千万円(危険物処理として)

 

 

・カラドリウスの卵

Dランクカードカラドリウスが数週間に一度産む卵(勿論無精卵)。その卵は非常に美味で美容、痩身効果に長ける希少食材(要は美容特化ローポーションみたいなもの)である

市価だいたい五千円

 

 

・カラドリウスの糞

非常に珍しい秘薬の一種。カードのカラドリウスは決して糞をしない(と言うかごく一部を除いてカードにそうそう生理機能は存在しないが)

極めて稀にガッカリ箱から、稀に薬学に纏わるCランク以上のモンスターからドロップする

伝承では不老長寿の秘薬だがこの魔道具は『一年間の老化防止』程度に収まっている(要は劣化版黄金の林檎)……が、とある最低最悪のイレギュラー対策にプロ冒険者や最前線自衛隊員達は(見つかれば必ず)常備している(このアイテム巡っての刃傷沙汰すらあったとか何とか)

市価最低でも一億(出回れば即オークション行き)

 

 

・封印の札

道術における『禁術』と思わしき文言の描かれた魔除けのお札。モンスターの特殊能力の発動(一つだけ)を一時的に抑える力が備わっている

強力な特殊能力や魔法の発動、二体一身の封印など色々な効果を齎すが長時間は続かない( Fランクモンスターの能力でも十分程度、イレギュラーならどんなランクでも一瞬程度がせいぜい)

しかし使い方次第では非常に便利な効果が期待出来るアイテムとしてプロ冒険者や自衛隊員からは好評(滅多に見つからないけど)

市価だいたい三千万円(確実に自衛隊やプロ冒険者が買い漁る為市場にはまず出回らないが)

 

 

・魔力の粉塵

魔力を遮断する錆粉にも似た粉塵が詰まった皮袋。この粉を魔道具にかけるとその魔道具は完全に破壊される(人工、純正人工問わず)

そして無機物系モンスターに対しても非常に高い効き目がある(Cランクモンスターでも一撃でいける)

皮袋一つ分ちゃんと掛けないと効き目はない(要は分けては使えない)

『錆喰い』というある意味ではグレムリンよりも嫌われているCランクモンスターが偶にドロップする

先に挙げた金蚕蟲みたいな厄介な魔道具破壊の為にギルドは常にこの魔道具を買い求めている(『錆喰い』含めて)

それを作った『錆喰い』以外で唯一『魔力汚染物質』を除去する能力を持っている貴重な物質でもある(一袋につきだいたい1kgの除去が可能)

ギルドによる(何かやらかしたが比較的まだ『やり直せる』と判断されたプロ級冒険者への)懲罰ミッションとしてこれを規定数集めるという伝統的な制裁プランは有名である(これを自主的にやれば逆に非常に高評価となる)

市価だいたい一千万円(但しギルドが常に消費する為あまり出回る事はない、稀に違法に金蚕蟲みたいなものを持った者がその処分の為にアングラでこれを求める事もある)

 

 

・保護のブーツ

七里走破の靴の廉価版。『迅雷』の能力は無いが『疲れ知らずの加護』、『脚護りの加護』がかかった魔法の靴

長く靴を脱げないプロ冒険者や自衛隊員らに非常に人気が高い(これが無い冒険者や自衛隊員らは大概水虫を持病として抱えている為……水虫は魔法やポーションなどで治してもしょっちゅう再発するらしい。大概汗は頑丈な靴に溜まってゆくものだから)

七里走破の靴と同じく所有者の足にフィットする能力と簡単に脱げる能力……それと抗菌、抗臭能力を保有している(それとサンダルより脱ぎ易くサンダルより履き易い)

世界中の足問題に悩む人々が常にこの魔道具を求めているので地味に超人気魔道具の一種

市価だいたい五百万円(人気商品につき欲しいなら即座に買う方が良いだろう)

 

 

・魔力汚染物質

『カード化した錆喰い』が生成してしまう赤錆の塊や何らかの汚物。魔力的な放射線物質みたいなものであり存在するだけで色々な不都合を撒き散らす(魔道具の破壊や生物への悪影響、他にも迷宮に有ると『イレギュラーエンカウントの発生率増大』や『アンゴルモア時のイレギュラーエンカウント強化』など……イレギュラー強化は人類には未だシークレットとなっている情報だが)。特徴的な赤黒い瘴気を放つので簡単に識別出来る

如何なる方法を以てしてもとある三つの方法以外では除去不可能(Aクラスの攻撃や権能すら無効化する)

一つは……その魔力汚染物質を生成した錆喰い自身がそれを捕食する事(それ以外の錆喰いはまず見向きもしない)

もう一つは……『錆喰い』がドロップする『魔力の粉塵』を使っての除去

最後かつ最悪の方法として……イレギュラーエンカウントが捕食する、という方法がある(そのイレギュラーの強化になるが)

『大食い鞄(後述)』を使ってもこれの除去は出来ないが『迷宮の石畳』など迷宮の構成物質ならばこれの汚染は防いである程度の保存は可能となる

勿論、所持禁止類魔道具

市価取引不可能(処分費用1kgにつき最低一千万円)

迷宮で発見した場合、通報すれば金一封、処理出来れば魔力の粉塵の代金立て替えと金一封(増額)

 

 

・大食い鞄

『どんな荷物でもほぼ無限に収容出来る鞄』……の悪質なパチモノ、数時間はその『無限鞄』と同じ様に扱えるがその数時間が経過するとその物品は(一部の例外を除いて)消滅してしまう。それには魔道具も含まれる

非常に有害な魔道具(金蚕蟲や猿の手などの様な捨てても戻ってくる呪いの魔道具)を収容、封印することにも使える(消滅させる事は不可能だが代わりに封印は出来る様である)が魔力汚染物質だけは駄目である(これを入れるとすぐに大食い鞄も無限鞄も壊れてしまうので要注意)

通常のゴミ処理や……犯罪行為の隠蔽などに用いられる事もある為所持禁止類魔道具として扱われる

また、危険な魔道具保管庫としても活用されていると言われている

市価取引禁止、ギルド引き取り価格一律三千万円

 

 

・無限鞄

『どんな荷物でもほぼ無限に収容出来る魔法の鞄』そのもの。とりあえず一般的な家具程度のサイズなら間違いなく一気に収納が可能(大食い鞄と同じく)

実験の結果通常の八階建て雑居ビル一つ分の体積と重量迄は入る事が判明している(その結果鞄が破裂した事で実験終了)、その直前でも重さは一切変わらなかった

その後、この鞄に所有者登録すれば容量確認や収納リスト確認、検索などの便利機能が開放される(大食い鞄との差異はこれで判別出来る)

その破格の利便性から所持禁止類魔道具に認定され殆ど自衛隊(自国の軍隊)が独占保有状態だったが近年では企業やプロ冒険者達から『所持禁止類魔道具指定解除』を激しく訴えられている

市価取引禁止、ギルド引き取り価格一律一億円

 

 

・ユニコーンの角

真っ直ぐ伸びた白にも金にも見える螺旋状の美しい角。これを素材に水質浄化系統の純正人工魔道具が作れる

水に漬ければほぼ無尽蔵に水を浄化出来る(但し25米プール迄しか出来ない)。小さな欠片を使って飲用可能な清水に変換するシステムが一部のダンジョンには存在するが一度でもその場所を破壊すれば二度とそのシステムは機能しなくなる(そのダンジョン全てにおいて)。その行為は『安全地帯への悪戯』に匹敵する重罪として扱われる為要注意

普通に道具として使う場合は毒や病を癒す効果を持つ。5~10回は使用可能(浄化能力はその使用回数に比例する)

グリフォンの爪の上位互換

市価だいたい五千万円

 

 

・清水の大甕

無尽蔵に水が湧く魔法の水甕。前に挙げた無限水筒の姉妹品であり、魔石無しでもほぼ無尽蔵に水が湧くが無限水筒の様な作物の育成補助みたいな能力は無い

砂漠地帯や飲み水に恵まれない地域で常に激しい需要がある(これ一つ有れば日本の平均的なダム一つ分の水事情を賄えるレベル)

甕そのものは結構普通の造りなので破損には注意すること(カード化して出てくるけど)

市価だいたい一億円(海外からの需要かま半端ない為)

 

 

・汚物浄化機能付きトイレ(人工純正魔道具)

エメラルドタブレット社とダンジョンマートが自衛隊からの要請で協力して開発した最新鋭の迷宮用トイレ(アンゴルモア対策の一環でもある)

野外活動(工事やフェス、イベントなど)に設置されている仮設トイレそのものみたいなデザインかつ機能だが……あまり臭くない(普通の仮説トイレよりかは余程)

嘗てのトイレはその仮設トイレに近い汲み取り式であり……その臭さから自衛隊員、冒険者問わずに大不評だった(それでも『海外のトイレ事情』よりかはかなりマシだが)

万が一の際(グレムリンの接近など)を考慮して魔道具を応用して作った『バイオトイレ』の一種(通常のバイオトイレよりも高速で汚物を発酵浄化する機能付き……迷宮内部でも発酵浄化出来る機能付き)

元々は水栓式仮設トイレだったが稀にグレムリンの能力の影響で壊れる事から汲み取り式仮設トイレが主力となった(冒険者が持ち込む仮設トイレもだいたいそうである……グレムリン対策の為)

やはり汲み取り式も大不評だったのでこの最新鋭トイレが開発された

市価だいたい200万円(カード化付きで300万円)

 

 

・ズンドコベロンチョ

ありとあらゆる全てが正体不明の珍味。分かる事は『ガッカリ箱からごく稀に出る』、『一流以上の料理人や料理技能持ちカードでないと調理不能』、『ズンドコベロンチョという名前である事』だけである(全てのカード達が皆これを『ズンドコベロンチョだ』と証言し、非常に美味である事を教えてくれた)

これは肉だか魚だか野菜だか果物だか穀物だか調理済みなのかすら分からない『謎の何か』だが非常に美味である事と人(カード)に拠って調理方法がガラリと変化する上にそれを作る当人すら理解出来ないし再現も出来ない事だけは知られている代物だ。しかも優れた調理技術が無ければ決して調理すら出来ない事、それとこれは決して腐らずそのまま放置しても絶対に大丈夫である事も追記しておく(カードなら料理技能必須)

カード達に食べさせるとマスターへの忠誠心や好感度が爆上がりする(稀に何らかの技能を獲得したりマイナススキル解消したりもする)

今もこれの正体を探る為の研究は(食品系企業メインで)続いているが成果は未だ無い

通称『反ミーム食材』

市価だいたい時価制度(五千万円で平均的価格)



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魔道具図鑑 その3

筆がノった結果これが出来ました

カードの能力が知られる前に少し思いを馳せて
……聖銀の詳細が知りたい

※:百均氏が名前だけ出した魔道具の詳細を勝手に捏造しています


 

・咒法琵琶『耳無芳一』

 

見た目は古ぼけた琵琶と撥。これで『源平合戦関連の楽曲』を奏で謡うとその出来次第で基本的にEランクまでの鬼火、亡霊系カードを『眷属扱い』で召喚出来る様になる

とりあえずちゃんと奏で謡えるならEランクなら一体、優れた琵琶弾きならEランクで六体、全て集中させればCランクなら一体まで眷属扱い召喚が可能。その召喚時は絶対に『源平合戦に纏わる曲』を奏で謡う必要があり、途中で途切れるとこの効果で召喚していたカードは即カードに戻る

但しこの琵琶を使うと代償として使用する間聴覚を喪失する。そして元から視力の無い者が使うと効果が倍になる(最高クラスの盲目の琵琶弾きならばCランクなら二体、Bランクなら一体という事だって可能)。謡い手がマスターでリンク能力があるならそのカード達にもシンクロ可能

そして……この琵琶は使い過ぎる(一回かつ十分以内で使ったら使用後は三日ぐらいのインターバルをおけば大丈夫)と一定の確率で使用者の耳を削ぎに来る亡霊武者(Bランク相当)が現れるという副作用もあるので濫用は厳禁。インターバルを無視して六回使えば確実に出て来る

万が一亡霊武者が出た場合は琵琶を破壊すれば脅威から逃れられる(倒しても良いが非常に強い事を忘れてはいけない、インターバル期間内なら何体でも使った分だけ現れる)

『楽器演奏/琵琶』か『語り部、謡い手』持ちカードなら使い方が見ただけで分かるしデメリットも即理解出来る。使用には最低限で良いから両技能が必要(実質ほぼ座頭専用アイテムだと言って良い代物)

市価だいたい一千万円(希少かつ強力だが非常に使い手を選ぶ制限と強烈なデメリットによる査定結果による)

 

 

・試作型戦闘用鎖鋸『神殺し壱號』

 

エメラルドタブレット社が開発した比較的初期の試作型人工魔道具。ダンジョン製の鉄(俗に『迷宮鋼』と呼ばれる無銘シリーズの素材)や聖銀などからの合金製の刃を持った非常に大型のチェーンソー

エメラルドタブレット社が『量産可能な強い威力を持った武具型魔道具作成』の為に開発された試作機の一つ。色々エンジンなども強化した上に小型魔石発電機を搭載している

その強化でだいたい戦闘力は+200は保証出来る上にとあるゲームのネタから取ったその名前に肖る為の追加素材などによって神属性モンスターに対して多少程度の補正を獲得している

しかし非常に取り回しが難しくその複雑な構造(機械)故の脆さと重さが仇となって使い手を激しく選ぶ仕様になってしまっている。最大の欠点はグレムリンどころか水を被っただけでもアウトになる機械としての脆弱性だろう

聖銀も素材に使ってはいるからか幽霊系アンデッドにもダメージは与えられるがそのダメージは半減している

一応、本来のチェーンソーとして発展させた後継機種は林業関係者などから結構な人気商品にはなっている

武器としてのバージョンも少数ながらも製品版が存在している(一部の熱烈なファンが付いている為)

市価(このバージョンは)非売品、一部の関係者や好事家が保有する現物以外はエメラルドタブレット社の倉庫の何処かにあるらしい

 

 

・炎の魔剣

 

『魔剣』と呼ばれるカテゴリーの魔道具としてはかなりありふれた代物

一応は無銘シリーズと同等の攻撃力(+100相当)に炎を纏う能力と切っ先から火球(才能値が低いモンスターが使う初等攻撃魔法相当)を発射する能力がある(炎を操作する能力発揮にはある程度のクールタイムが必要)

しかし無銘シリーズ程の頑丈さは無いから使用には注意が必要。ついでに亡霊系アンデッドにダメージを与えられはするがかなり威力は弱体化する(この効果を求めるなら素直に聖銀製の武具を買った方が良いだろう)

よくある類似品に雷の魔剣と氷の魔剣が存在する(価格もだいたい同じ程度)

『無銘シリーズ』と似たような造りになってはいるが仄かに炎を纏っているので判別は容易。ちなみにこの炎の魔剣ならその特性から『無限松明』として照明代わりに使用可能だったりする(この状態では物を燃やす様な能力は無いし壊れればその力を失う)

『魔剣』とは言いつつもそれが『武具』だと言える代物ならば様々なバリエーションが存在する

市価だいたい一千万円其処ら(一般的な剣ならば)

 

 

・無銘シリーズ

 

『ちゃんとした魔剣』としての最低限の基準と言える魔道具のカテゴリ一式(若しくはガチ勢志願者の友)

基本的に『攻撃力+100(武器の型によって多少増減はする)』とかなり頑丈である事以外の特徴は無いが比較的武具型魔道具としては一般流通しているので入手は割と容易に出来るのが強み(大概の大手カードショップなら幾つか在庫があるぐらいには)

大概のエンジョイ勢らやカード育成を面倒だと思う者らにはあまり人気が無いがガチ勢や育成を嗜む者達からは割と人気がある

大概の『魔剣』は壊れたら基本的にそれまでではあるがドワーフなどの対応出来る職人系カードならばある程度の修繕や研ぎ直しが出来る

基本的に様々な武具が存在する(全て需要供給のバランス次第で値段や在庫が決まる)、勿論その武具のサイズなどなどで増加する攻撃力もやはり増減するのは言うまでもない

ちなみに……前に挙げた『ミノタウロスの戦斧』は非常に似通ってはいるが『無銘シリーズ』ではない(サイズや攻撃力が同じ大戦斧でも『無銘シリーズ』の方が取り回しが良いが『ミノタウロスの戦斧』の方が頑丈なので)

この『無銘シリーズ』は俗に『迷宮鋼』や『迷宮樹』と呼ばれる金属や木などを用いて造られている

非常に大型の代物ならば『カード化能力』も付いている事がある

最近エメラルドタブレット社がこのシリーズの廉価再現に着手しているらしい

市価だいたいニ百万円(一般的な剣の場合)

※:百均氏が名前だけ出したものを個人的に解釈しています

 

 

・凡庸シリーズ

 

これだって一応は『魔剣』だが『魔剣(笑)』扱い

ガッカリ箱からちょくちょく出てくるハズレ枠魔道具の代名詞みたいな代物。俗に『迷宮租鉄』『迷宮雑木』と呼ばれる低品質の金属や木で出来た造りの粗いなまくら武具である(魔道具製武具としてはだが)。『無銘シリーズ』などとは違い鞘などは無い抜き身の状態で出てくる事が多い(稀に鞘付きもあるが造りは非常に粗雑)

大概のそこそこ慣れて来た冒険者なら殆ど見向きもしないガラクタ扱いだが初心者にはそこそこ有り難い代物ではある(僅かなりとも直ぐに出来る攻撃力の増強にはなるから)

一応は『カードやモンスターが最初から装備している武具』よりかは強いしそこそこ頑丈ではあるので『使い捨て前提の武具』としてなら割とアリだと一部のプロやガチ勢からは評価されている

そしてこの『凡庸』シリーズには一つだけ通常の武具型魔道具には無い特徴が存在する。『最初から半々の確率でカード化能力を有する』という特徴だ

冒険者ギルドなどはこの魔道具を使って冒険者達に『カード化意義や有用性』などを広報している(普通のカード化していない武具はそれ用のケースや封をしていないと銃刀法違反で職務質問の対象になるし悪ければ逮捕にも繋がる。冒険者だから『専用ケースや封で持ち運びが許されている』とも言えるが)

ちなみに……たまにマナーの悪い冒険者がゴミとして(違法に)捨てたこのシリーズ(カード化能力なしの使い古し)を拾ったり身内が放置したガラクタ置き場などからちょろまかしたりして他の子供達に見せびらかす子供などが居たりする(そして先生や親などから没収されて処分されるのもまた偶に見られる風景である)

エメラルドタブレット社はこのシリーズの再現には一応成功はしているがカード化は無しで作成コストが幾らか嵩張るのでまず誰も買わない(一応は『人工純正魔道具』として成功はしているが)

市価だいたい二十万円(カード化能力付きの一般的な剣の場合)、三万円(カード化能力無しの一般的な剣の場合)

 

 

・金磚(きんせん)

中国式の煉瓦の一種であり、『ある程度の追尾能力と投げても必ず帰ってくる能力』を持った『宝貝(ぱおべえ)』と呼ばれるタイプの魔道具の(比較的ありふれた)一種、勿論元が煉瓦なので強度はお察しである。または『劣化版タスラム』とも言う

基本的に中国の迷宮から特に良く出るが世界各地の何処の迷宮でもちょくちょく出てくる。恐らくこれはこの宝貝が『習作用の簡易宝貝』か何かの一種だからだとも言われているからだろう(封神演義において哪吒にこれを与えた大乙真人もこれを『おまけ』だと言っていた事から)

基本的に宝貝は『投げた相手の頭に必ず命中してその頭をカチ割る』という効果を持っているパターンが多い。これが『習作用の簡易宝貝』だと言われている所以だろう

市価だいたい五十万円

 

 

・落宝金銭

宝貝の一種、昔の日本にも存在する古い銅銭の束状(一束必ず百枚ジャスト)の魔道具。一回こっきりの使い捨てだが飛び道具や射撃系魔法などから持ち主を護る結界を張る事が出来る

ちなみに日本の古い銅銭は大概中国からの輸入品である(私鋳銭という粗雑なコピーも存在するし擦り切れた古銭などもあった。これらこそが世に言う『鐚銭』である)

使用方法は束を解いて銅銭を護りたい対象の周囲に撒いて束紐を持ってから『疾(チッ)』と唱えるだけ(基本的に宝貝のほぼ全てがこの文言に依って起動する)

中等攻撃魔法数発程度のダメージならきちんと防いでくれる(Cランクの射撃攻撃や高等攻撃魔法でも一発ぐらいまでならかなり軽減してくれる)

範囲防護結界なので数人ぐらいは一度に護れるのが強み

市価だいたい五百万円

 

 

・迷宮銀の弾丸(人工純正魔道具)

かつてカードの能力が知られていなかった時代から作られてきた最古参人工純正魔道具の一つ、または『世界一沢山作られた魔道具』

桃木剣とほぼ同期に色々開発されたが迷宮産出の銀だけが有効だった(聖銀に非ず)。一応はDランククラスの非実体アンデッドならこれでも倒せはするが殆ど(一応は弾丸の効く)Cランクモンスターを相手にする様なものだった

現在、世界全ての警察、自衛隊(軍隊)の銃弾はこの『迷宮産出の銀製』となっている(一番の脅威が他国ではなく自国の迷宮な世界故に)。一応は気休め程度ではあるが非実体モンスターに有効な最も安価で揃え易い魔道具として世界的に有名な代物

故に『銀鉱脈のある迷宮はシークレットダンジョン』として扱われていた時代もあったが今では『銀鉱脈があるだけのダンジョン』ならシークレットダンジョンとしての規制は破棄されている(今ではカード最優先社会故に)

一応、やはり迷宮産の希少な聖銀をごく僅か混ぜているおかげでちゃんと弾丸として機能している(通常の銀は実は弾丸にも向かない)

上位互換は勿論純聖銀の弾丸やコールドアイロンの弾丸

市価一応は嘗ての銃弾の倍ぐらいのお値段

 

 

・迷宮銀の武具(人工純正魔道具)

迷宮銀の弾丸と同時期に作られた魔道具、これも必ず迷宮産百%の純銀(地球産を混ぜる事すら厳禁)で作成されている(合金などすら基本的には禁止だが上位互換の聖銀の合金とは言える素材ではあるが)

銀の基本的な性質故にナイフ以上のものを造っても役には立たないので殆どが銃剣や比較的小型なナイフなどばかりではあるが嘗ての軍人達はこの頼りないナイフを使ってあの危険極まりないモンスターに挑んでいった歴史がある

やはり一応は非実体モンスターにダメージを与える事は出来るが威力はあまり無いしナイフとしての強度もお察しなので聖銀製銃剣が軍隊や自衛隊に満遍なく行き渡る迄の間に合せでしか無かった

一応、民間でも聖銀製武具の廉価版として今でも市販されている(冒険者になった身内などへの贈り物として何気に人気があるらしい)

市価だいたい五万円そこらから(デザインや聖銀の配合率次第で値段は変動する故)

 

 

・迷宮銀

迷宮の鉱脈などから産出したりガッカリ箱から出たりする迷宮産の銀

先に挙げた最初期の対迷宮武装の資源として非常に多用されていた……が、今では『人工魔道具の素材』としての需要に変わり初めている(流石に対迷宮武装時代よりかは需要も落ち着いてはきたが)

厳密には『魔道具』ではなくなくその素材でしかないがこれ自体にもちゃんと魔力は込められているのでこれも広義の魔道具だとは言える

地球産の銀は通常の素材やアクセサリーとしてなら使えるが魔道具の素材として使う為の方法は只今調査中という状況らしい(この世界では地球産の銀を迷宮産だと偽る行為は余裕で即死刑レベルの非常に重い罪が課せられる為余程馬鹿な犯罪者でもそうそうやらない愚行の一つとされている)

その為地球銀の価値は結構落ちて迷宮銀の価値は爆上がり状態だったが今では一応その傾向は落ち着いてきている

市価迷宮銀一gだいたい二百円ぐらい(地球銀は一gだいたい五十円弱)




サバイバルルートヤッター!


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魔道具図鑑 その4

今回は三連続投稿なので多分二つ前に本編があります

……スランプ中の手慰みですが


 

落武者の鎧

 

その名の通り落武者の着ていた鎧……みたいに一見ぼろぼろになった(様に見える)いわゆる足軽用の御借具足(おかしぐそく)(徴用した農民兵に貸し出す防具一式の事)

『何か呪われてそう』と思えるぐらいデザイン性は悪いがそこそこ戦闘力を上げる上に自壊と引き換えに『生還の心得』を一度だけ発動出来る様になる(その性質上付喪神に与えるのは非常にオススメ出来ない)

そのぼろぼろな甲冑だが、比較的マシな部位だけを集めた共食い整備や迷宮素材を使った丁寧な修繕などで『荒武者の鎧(後述)』に仕立て直す事も可能

ちなみに、そのぼろぼろの部分だけの再利用で『山賊鎧(後述)』をでっち上げる事も出来る(比較的マシな出来なら非常に廉価で販売もされるが大概廃材利用程度だと言っておく)

『甲冑術』という技能で補正が向上する。稀に甲冑系の装備カードや戦士系カードなどが保有している事がある(前提条件として『武術、体術』を保有している必要がある)

リビングアーマーなどの甲冑などに装備させると(ぼろぼろではあるが)当世具足風(武将が自費で保有する高価な甲冑)にグレードアップする(外観だけだが)

リビングアーマーを和装甲冑にしたい海外冒険者などが常に求めている(日本では稀に和装甲冑仕様のリビングアーマーも存在するが)

カード化してもやはり一式装備するには時間が掛かるのが欠点(常に装備し続けるのもまた難しい程着心地も悪いし)、巨人でもなければ実は結構フリーサイズ対応(ゴブリンからオーガまでサイズ補正は自在)

ぼろぼろではあるが具足葛籠も付いている

戦闘力+50

市価だいたい三百万円

 

 

荒武者の鎧(人工純正魔道具)

 

落武者の鎧を分解し、比較的マシな部位を共食い整備(だいたい落武者の鎧3〜5式)する事や迷宮素材を使った丁寧な修繕で偶然造られたかなり初期型な人工純正魔道具の一種

人工魔道具の研究の一環から生まれた

外観の向上以外には……戦闘力の向上と『生還の心得』を発動しても完全には壊れなくなった事が挙げられる(勿論、こちらでも一度しか使えない能力なのは変わらない。ついでにこの能力発動後は即座に後述する『山賊鎧』へと変化する)

リビングアーマーなどに装備させると比較的状態の良い当世具足姿に変化するし甲冑術で補正向上も変わらない

ちなみに……この荒武者の鎧を小袖の手の様な非常に女性的な装備カードに装備させると『姫武者の鎧』と俗称される状態になる(要は和装姫騎士装束みたいなもの?)

人工純正魔道具化の影響でサイズ補正機能は喪失しているので基本的に使い手のサイズに合わせたオーダーメイド限定される(人工純正魔道具故に)、着付け時間も落武者の鎧より更にかかるのが難点

後述する『理想の下着』を参考に試作された近代型ならサイズ補正機能が維持出来ている(但し人工魔道具扱いになる、やはり後述の『理想の下着改』を元に造られた最新試作型なら人工純正魔道具だが費用がとんでもない事になる)

近代型、最新試作型になるにつれてデザインや着心地は向上する……それだけだけど

戦闘力+100

市価最低ニ千万円(手間暇かかる趣味品故に)、オーガ用なら三千万円はかかる(更なる趣味品)

近代型ならサイズ補正機能付きで二千二百万円、最新試作型なら一億円

 

 

山賊鎧(人工純正魔道具)

 

落武者の鎧を共食い整備の為に解体して残った比較的マシな部位をつなぎ合わせてでっち上げた代物

戦闘力は落武者の鎧から更に半減している上に『生還の心得』は無い

『合戦後の死んだ侍から剥いだ具足』みたいなものでままはっきり言って品質も着心地も最悪(但し頑丈さだけはそこそこ保証はある……凡庸シリーズ程度には)

基本的に殆ど市販はされない(稀に何処かの工房などが新人の習作に造ったものを死蔵したり試し切りの巻藁代わりに使ったり程度)

かなり稀にカード化している『元荒武者の鎧』がワゴンに捨て値で売られている事がある程度

そんな駄目な品質なので着付けは割と雑に簡単に出来るのは強みか?

戦闘力+20

市価買い取り不可(ワゴンで五万円程度でごく稀に売られている事もある)

 

 

落武者狩りの竹槍

 

落武者狩りに使われた竹槍……だと思われる代物

見た目よりもそこそこ頑丈ではあるが数回使えば壊れる程度だが後述する『対象』に投げれば百発百中で当たって突き刺さる

『対象』として『逃げる相手』や『戦士系モンスター(カード)』に対して特効作用がある(攻撃力+500扱い)

主にカーバンクル狩りや戦士対策に使う

市価だいたい二百万円(無傷未使用品のみ)

 

 

墓荒らしの薬酢(現在人工純正魔道具)

 

ヨーロッパ全土で黒死病が蔓延していた時代にとある四人組みの墓荒らし(ペスト患者の家を狙う泥棒という説もある)が居た

その彼らが使っていたとされるペスト除けの薬酢(当時のヨーロッパでは酢は疫病祓いに役立つとされていた)

この薬酢に『ダニ避け』になる薬草も入っていた事(ペストは鼠やダニから感染するとされている)から彼らはペストに感染せずに済んだという

発見当時から非常に有効なペスト予防薬として伝説にもなった(今でも『四人の泥棒の酢』として有名である)

この魔道具を身体に塗る(振りかける)と病気への耐性が付与される

通常(地上)の感染症ならほぼ予防出来る。迷宮のモンスターや罠によるものでも高い耐性を与える事が出来る

一瓶につき四回使える(これは『製作者の墓荒らしは四人組み』という事からだろう)、一度につき半日は有効だと臨床試験で判明している

ちなみに全て迷宮素材で作ればこれと全く同じ効能の薬酢が作れる事が判明している(ニシモリ製薬の研究成果として)

それ以外にも料理や掃除にも使える(長く細く病気予防に役立つ)

日本ならともかく、衛生環境の宜しくない海外の迷宮では半ば必需品扱いされている

市価だいたい一瓶十万円、人工純正魔道具になる前なら一瓶につき百万円

 

 

能力補強のアクセサリー

 

一部のRPGにありがちな僅かながらも色々な能力を補強してくれるアクセサリー、腕輪指輪足環ネックレスイヤリングピアスブローチ他色々な凡そ『アクセサリー』と呼べるものならば全ての種類が存在する

補強してくれる能力は基本的に一種類のみで、筋力敏捷力器用さ知力魔力運勢などなどやはり様々

必ず純金製であり補強具合はそのアクセサリーのサイズと付いた宝石の質次第になっている。アクセサリーとしての出来は稚拙なものから精巧なものまで非常に様々(頑丈さは一律されている)

大きなアクセサリー(腕輪や冠など)なら二つ、小さい指輪やペンダントなら最大四つまでならちゃんと効果が出る(それ以上身に付けると効果を中和してしまう)

基本的には『気休め』程度にはなるのでここ一番の補助などに使う冒険者も居る(常時使いはあまりオススメ出来ない、脆い純金製故に)

何気に『サイズ補正機能』が完備されている

これを装備したカード達曰く『ちゃんと効き目はある』との事だ

基本的に魔道具と言うより普通の人間用アクセサリーとしての需要が強い。ある意味では『天然の芸術』として愛好するコレクターも世界各地に存在する(基本的に『金持ちの道楽』だが)

市価……様々(普通ならば五十万前後)。小さくて人気の無いデザインなら一万円でワゴン行きもあり、人気なデザインならば最低価格五百万円からオークション行きもある

 

 

エアコンブローチ(人工魔道具)

 

大きな翠玉を嵌め込んだ金線細工の非常に精巧なブローチ

とあるエメラルドタブレットの技術者が縁者であるとある少女の為に作成した一品物

基本的には通常のエアコンペンダントだがデザインの質が違う

その制作者は『もう一度同じものは作れない。あれはデザインとしてなら私の最高傑作だ』とコメントしている

もしもグレムリンの能力などで壊れても内部のエアコンブローチパーツを交換する事で再利用可能

市価取引不可(その制作者のファンが知れば何気に大変な事になるとは言っておく)、通常のエアコンブローチならエアコンペンダントと同じ価格になる

 

 

サンダルアンクレット

 

細い金細工のアンクレット。装備すると裸足でもサンダルを履いた程度には防護し、過剰な日焼けを防いでくれる効果がある

富裕層や冒険者などが海遊びの際に使ったりする

サイズ補正機能付き

市価十万円

 

 

理想の下着(人工魔道具)

 

ごく単純に『装着者の身体に絶妙にフィットする』、『衣擦れ、汗疹を防ぐ』というだけの下着

洗えば生涯使えるがグレムリンの能力一発で破壊されてしまう欠点が存在する

最初期の頃は単なるスポーツ下着の上下程度でしか無かったが制作元である『エメラルドタブレット社』がその技術を全世界の下着メーカーとライセンス契約する事で世界中にこの技術と下着は行き渡った

現在では余程のダンジョンアンチかEランク迷宮以降を往く冒険者以外の全ての人々(女性)から愛顧されている

原作にも存在する『マーメイドの水着』のプロトタイプとも言える

『高級品』には『汚れ耐性』も僅かながら付いている

市価だいたい五万円前後(通常品質)、高級品なら三十万円。試作型なら(製作コストが)一千万円、最初期型は三百万円で販売開始されていた

 

 

理想の下着改(人工純正魔道具)

 

通常の人間サイズまでならサイズ補正能力(と衣擦れ、汗疹避け能力)を保持したまま人工純正魔道具化に成功した文字通りの『理想の下着改』

魔道具の中にある『衣類型の魔道具』を参考に様々な偶然の果てに奇跡的に部分的再現が(人工純正魔道具でも)可能になった『人工純正魔道具の夜明け』とも(主に女性冒険者から)称された新しい魔道具

旧来の理想の下着より流石に値は張るがセレブや優秀な女性冒険者はこぞってこれを求めている(嘗ての理想の下着ではグレムリンのせいで迷宮ではマトモに使えなかったからだ。それまで大概どんな女性冒険者も迷宮ではスポーツ下着一択だった)

現在はこの技能をマーメイドの水着にも転用する事を目標としている(水中ダンジョンの攻略に有れば役立つだろう)

未来に於いて『とある一大プロジェクト(後のカードギア)』の礎(の一つ)となる魔道具である

作中世界ではまだまだフルオーダーメイドのみの超高級下着扱いになっている

市価だいたい五十万円(フルオーダーメイドのみ)

 

 

反魂香

 

ちゃんと脳が無事で肉体が生前同様に存在する死体に限り一時間だけ擬似的に蘇生させる魔香(遺体が負傷しているなら必要な分だけポーションを用意する必要がある)

迷宮内かつその香を焚きしめている閉鎖空間(安全地帯や異空間カードの室内などが望ましい)でしか蘇生は出来ないがその死者が知る知識や情報、何故死んだかなどを聴ける(主に『遺族との最期の別れ』などや遺産相続問題などに使われる……稀に死者が男なら『跡継ぎ作りの胤とり』に使われる事もあるらしい)

その香を絶やさず込めれば一時間と言わず理論上なら無限に……とはいかず、この香が炊かれた空間では死者の肉体は急速に劣化してゆく為どう頑張っても半日しか持たない事が実験で判明している(三時間が限界だった)

そもそもこの香も非常に貴重かつ高価な代物なので普通は連続使用なぞ考えたりはしない

一度この香を使うと次はもう効かなくなる

この香を『死神の被害者の亡骸に使うと魂に救いが齎される』という噂もある(但し真偽不明)

市価だいたい三千万円(在庫と状況次第でオークションとなる事もある)

 

 

死に水

 

非常に小さな小瓶に入った水。この水を死体の口に含ませる(最低限対象の髑髏と顎骨さえ有れば良い)と水を含ませた者に対して五分間だけ三つの質問に正直に答えてくれる(その死体が知り得る事に限るが)

非常に小さく厚い小瓶なので一瓶で一回だけ、しかも綿か何かで湿らせてから作法通りに死に水を添えないと作用しない

警察組織などが(裏で)常に求めているのでギルドからは納品依頼が絶えない

この水にも反魂香と同じく『死神の被害者を救う力がある』という噂がある(やはり真偽は不明)

市価だいたい一千万円

 

 

狼煙袋

 

乾燥して固まった狼の糞が入った小袋。これを袋ごと焚火に焚べて『色と対象一人』を念じると同じ迷宮内ならその対象の側にその念じた色の煙が対象の目に視える(アンゴルモア時の地上なら『普通の狼煙が視える範囲内』迄が有効射程になる)

袋一つにつき一回だけ、迷宮内でしか使えないが万が一の際(グレムリンによる機械破壊や罠による分断など)の際の符牒や命綱として機能してきた

結構容易く見つかる魔道具なのでパーティーを組んでいる者なら(プロやガチ勢ほど)組んだパーティー人数分持ち合わせているのが半ばエチケットと見做されている

古来の『狼煙』とは狼の糞を使ったものだとされている。それが型になった魔道具なのだろう(場所に拠っては蓬、羊の糞、石油などになる)

ちなみにどのタイプでも結構臭いが袋を一度でも開けなければ無臭であり袋を壊さない限り決して中身は漏れ出さない(袋は普通の布袋に見えるが)

勿論、イレギュラーエンカウントに遭遇している状況では使えない

市価だいたい二千円



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魔道具図鑑 その5

前に一章最終話あります


 

 

勾玉

 

魔法をある程度の威力まで充填して発動出来る宝玉。アジア圏内の魔道具であるが日本から一番出やすい

 

素材によって等級が決まり。低等級の石製なら初等魔法一回で壊れるが、最高等級の翡翠製なら高等魔法を何度でも余裕で持ち堪える耐久性がある

 

古来日本で扱われてきたアクセサリーにして呪具の一種であり、その素材となる『玉』の素材次第でその効能が決まる。低等級の軟質の滑石や蛇紋岩製なら割と良く出てくるが一番貴重な翡翠製はまず滅多に出ない貴重品だ

 

軟質の滑石や蛇紋岩などの低等級から、水晶、琥珀、玻璃の中等級、瑪瑙や青玉の高等級……そして最高等級の翡翠製といった具合で等級が決まる

 

市場価格:低等級なら五十万円、中等級なら五百万円、高等級なら五千万円、最高等級なら五億スタートからのオークション行き

 

 

七草(人工純正魔道具)

 

四月に粥にして食べる七種の野草(セリ、ナズナ、ゴギョウ、ハコベラ、ホトケノザ、スズナ、スズシロ)。迷宮内でもこの野草は見つける事が可能であり、それら全てを味付けは塩だけで粥にして食べると数日は病や毒を除ける事が出来る。水や塩を迷宮素材にすれば十数日は効能が持つ

 

比較的見つけ易い食用迷宮植物ばかりなので人工純正魔道具としては安く民間人にも馴染み易い迷宮食として人気が高い……『本当の七草』を再現しようとして出来た紛い物ではあるが

 

市場価格:だいたい五千円、冒険者なら自分で迷宮に行って採取する方が早いだろうけど

 

 

七草

 

ガッカリ箱から非常に稀に出る『本当の七草』、一人前の七草全てと粥一人前の米に水の入った瓶、それと紙包に入った塩に小鍋と作り方のセットで構成されている

 

作り方の手順通りに粥を作り、それを自分で食べれば一年若返り病毒をやはり一年間無効化出来る。作り手以外が食べれば単なる野草粥になるだけ

 

七草からして迷宮素材として自生するものとは違い、米もどうやら普通のものでは無い、やはり塩も水も普通のものでは無いが、瓶や小鍋に紙類は普通の素材みたいだと研究者達は言っている

 

市場価格:一億円(オークション行き)

 

 

猿酒

 

恐らく柿……かそれに近い何かをベースにした果実酒だと思われる何か。『酒が木の空に詰め込んだ果実がそのまま発酵して出来た酒』という伝説の産物だと思われる

 

迷宮から産出される酒の中でも非常に美味な果実酒だが効果はそれだけ。しかしその味だけで高価に取り引きされる換金アイテムの一種

 

※:『零落した存在』用のキーアイテムになります

 

市場価格:一千万円

 

 

幽霊飴

 

『飴買い幽霊』の逸話に出てくる飴。水飴型と白飴型、人工魔道具の琥珀飴型の二種類がある

 

本来の姿である水飴型はガッカリ箱やCランク以上の女幽霊型モンスターからドロップする。その効果は赤子に与えれば赤子の無病息災に繋がり、それ以外が食べれば一日は空腹を感じなくなる上に一日を生きる為に必要な栄誉を得られる効果があり味は非常に美味……但し栄養価は赤子基準になる

 

一応は古くから存在する麦芽糖型の水飴だが、その性質上一切のアレルギーに反応しない為一部の料理人や菓子職人などが隠し味に使う事があると言われている

 

白飴型はやはりガッカリ箱やCランク以降の女幽霊型モンスターからドロップする。三粒紙包みで基本的に水飴型に近い性能はあるが硬めなので保護者がある程度舐めて柔らかくしてやらないといけないという制約があるので幾らか安く需要が薄い、しかしのど飴としてなら何故か非常に優れているので芸能人や政治家などがここ一番の時に使う事もある

 

琥珀飴型は人工純正魔道具の一種であり得られる栄養価を大人基準に変えてその一日トイレに行かなくても良い様にしてくれる効果がある。硬いので勿論赤子には与えられない(赤子の無病息災の力は喪失している)、ついでに結構薬臭く水飴型には劣るが味はやはり非常に美味

 

琥珀飴型はそのコストの為に今では殆ど流通はなく、余程金持ちな物好きがごく稀に製造元であるニシモリ製薬に注文する以外には見られない。水飴型一つと完全消化薬一錠で五粒分のメイン材料になる。完全消化薬は安いが製法が複雑かつ工場の動きを一時的に止める必要もあるので手間賃が非常にかかる

 

この琥珀飴型も歴とした魔道具なので決して腐らないから自衛隊基地の何処かに死蔵されていたり緊急用装備の中に紛れ込んでいる可能性はある……かも知れない

 

市場価格:五百万円(水飴)/三百万円(白飴、三粒紙包み)/六百万円(琥珀飴型、五粒セット)

 

 

避妊薬

 

読んで字の如くな代物。小瓶に入った液体で飲めば三十日きっかり妊娠しなくなる効果とどんな生理痛でも完全に癒す力がある、しかし既に妊娠している場合は効果はない

 

人間同士のカップルや生理痛に悩む女性から非常に人気の高い魔道具だがローポーション並みにありふれた代物でもあるので基本的にハズレ枠扱いされる薬系魔道具である

 

ニシモリ製薬が人工魔道具化に成功したのでハズレ枠化に加速がかかった

 

市場価格:一万円

 

 

殭屍札

 

殭屍を操り操作する為の札、黄色い紙に墨汁と鶏の血を混ぜた様な物質で描かれた例の札そのもの。勿論通常の迷宮素材などを使って似たような代物を作っても再現は出来ない(殭屍使いの第一人者である金長プロの調べに曰く)

 

おでこに貼り付ける事で自我の殆ど無いアンデッド系カードに『絶対服従』を付与する事が出来る、映画と違って剥がれても暴れないので安心

 

殭屍系統のカードならば月の光を浴びた時の凶暴化を抑制する効果もあるので殭屍使いには必須と言える魔道具

 

※:中華系カードの『零落した存在』に対応する事があるカードでもある

 

市場価格:百万円(零落した存在用カードである事がわかれば一千万円)

 

 

ジョニーの林檎種

 

アメリカの伝説的開拓者ジョニー・アップルシードがアメリカ各地に植えた林檎種十粒の入った小さな頭陀袋

 

この種を植えれば一晩で林檎の木が成り同時に実も成る。勿論食用だが古く野生に近い品種なのでそこまで美味しい林檎ではない……が、非常に栄養価は高く病気予防効果も高く、これ一つで一食分の飢えと渇きは満たせるので健康食品や食に拘らない冒険者の糧食として人気が高い。何度も食べると直ぐに飽きるし普通に腐るので注意は必要である

 

全ての実を採取すると自動的に枯れてゆくが早く木を切れば材木にもなる

 

※:アメリカ開拓期に関わるカードの『零落した存在』に対応する事があるカードでもある

 

市場価格:ニ百万円(零落した存在用カードである事がわかれば一千万円)。林檎は一つ千円

 

 

迷宮清水

 

迷宮で採取出来る清水、非常に水質が良く検査でも即座に飲めると太鼓判を押される程上質、やはり飲んでも非常に美味

 

冒険者にとっても癒しの一つでありこの迷宮清水が湧く水場は安全地帯に準ずるアンタッチャブルゾーンという不文理すら存在する……要は『第一級の独占禁止エリア』である

 

故に大概のFランク迷宮の湧水ポイントでは新米やエンジョイ勢な冒険者達が列になって水汲みをする光景が見られる

 

薬系人工純正魔道具の作成を筆頭に様々な人工魔道具の作成に欠かせないのでこの迷宮清水が湧く迷宮は企業などから非常に人気が高い

 

市場価格:なし(但しこの水を汲んで来るという依頼は結構多い)

 

 

迷宮塩(人工純正魔道具)

 

海があり昼の迷宮でならその海水から塩が採取出来る。味は非常に良く今では一般家庭でもシェアが非常に高まっている。むしろ政府が推奨すらしている

 

ごく僅かではあるが破魔の力もあるので気休め程度には幽霊系モンスター対処の役に立つ……部屋の隅四角に盛り塩をしておけば僅かに幽霊系モンスターなどは忌避し、近寄ればその盛り塩が黒ずむ事で幽霊系モンスターの接近を示してくれる効能もある

 

アンデッド系統迷宮に行くなら持っていって損はない

 

市場価格:1㎏200円

 

 

魔力灯

 

灯油式に見える八面型デザインのランタン。つまみを捻ればばずっと光り続けるだけの魔道具

 

つまみの捻り具合で光量は調整可能で燃料は不用。壊れるまで半永久的に使える冒険者なら一つは持っていても良い魔道具の一種……しかしちょくちょく出るので処分に困るまでが冒険者あるある

 

たまにワゴンセールなどに投げ売りされている様だ

 

市場価格:一万円(ワゴンセールなら半額が基本)

 

 

道具箱(人工純正魔道具)

 

何らかの箱を『カード化』しただけの代物。カード達に『私物』を持たせる為に使う

 

カード達は基本的に魔石か『カード化した道具』しか持てないが、この『道具箱』さえあればある程度の私物を保有できるカード達の福利厚生を考えるマスター達の必携品

 

ちなみに『原作』にもある『カード化された食糧(一月分の生鮮食品や調味料などの詰め合わせ)』を詰め込んだ段ボールや三つ星冒険者御用達のコンテナボックスも全て『道具箱』である

 

藤籠の葛篭や通常の収納ボックス、他にも子供用の玩具箱にアンティーク仕様の宝箱などなど様々なものが市販されている

 

市場価格:百万円+その箱の値段

 

 

無銘の盾

 

無銘シリーズの防具バージョン。魔道具のシステム上普通の武具は基本的に一つしか持てないが、この盾ならば片手武器を持っていても逆手で装備可能となる

 

盾にも古今東西様々な形状があるが基本的に戦闘力+75にはなる。なおこの戦闘力はサイズで幾らか増減する様である

 

無銘シリーズの防具は武具よりもやや珍しいので少々市場価格がお高く入手が大変なのが難点だろう

 

市場価格:だいたい四百万円。大概標準サイズばかりで特殊なサイズの盾は割り増し価格になる事が多い

 

 

無銘の甲冑

 

無銘シリーズで一番高価で強力、しかし扱いの難しい代物

 

殆ど全身用の甲冑であり、装着に非常に手間がかかるという難点はあるが戦闘力+150で『サイズ補正能力』があるので誰でも着用出来るのが強みとなっている。通常の甲冑は完全にオーダーメイドでありサイズ変更でも時間や費用が物凄くかかる

 

だいたい10kgあるが甲冑としては非常に軽く動き易い仕様になっている。『甲冑術』という技能があれば更に扱い易く着脱も容易に出来る、ついでに着用していると『痒み』を一切感じなくなるが脱ぐとその痒みは一気に来るし暑さ寒さへの耐性は無い、ついでに『保護のブーツ』みたいに水虫避けなども無いので中古品を買う際はくれぐれもご用心(浄化一発でちゃんと再利用出来るが)

 

モンスターカードの正しい使い方が分かっていなかった頃はそれぞれの軍が『これは』と選抜した兵士にこれとなるべく良い武具を貸与してモンスターと死闘を繰り広げていた歴史があり、今では胸部に国旗を象嵌したこの甲冑を勲章と一緒に『大功を挙げた兵士に送る』という風習になっている

 

市場価格:だいたい一千二百万円、胴鎧だけのパターンなら五百万円そこらで売っている

 

 

租鉄の鎧(人工純正魔道具)

 

迷宮租鉄と呼ばれる凡庸シリーズの素材でもある迷宮産出の鉄……の低品質なものや正しい精錬に失敗した粗製の鉄で造った鎧

 

簡易的な兜、胴丸、肩当て、手甲脚甲という簡易的な鎧一式になっている。最初期から『無銘の甲冑の量産簡易版』として一般兵にも行き渡らせる為に開発されていた……が、性能性とコストの目処が付いた処で『モンスターカードの本当の使い道』が判明した為幾らかの試作品と共にお蔵入りになった最初期の人工魔道具

 

総迷宮素材を工場生産で造っただけの簡易鎧なので戦闘力+25がせいぜいではあったが、それでも当時は画期的な発明品であり一般兵士達はこの簡易鎧の供給を心待ちにしていた、という記録がある

 

現在では博物館に収蔵されていたり軍関係の倉庫に死蔵されているが、一部の趣味人冒険者が手持ちのドワーフや一本だたらみたいな鍛治能力持ちに作らせていたりするという噂も存在している

 

市場価格:不明(軍資料版はまず出回らない、私鋳版は基本的に殆ど迷宮租鉄の原価で買い叩かれるのがオチだからである)

 

 

妖精の鎖帷子

 

一見すれば長袖シャツや肌着の様にも見える細い聖銀にも似た金属を編んで作られた美しい鎖帷子、普通のTシャツどころか羽毛よりも軽く着心地が良いが仮にも金属製なので流石に素肌で着るのは推奨出来ない

 

その薄さ軽さで戦闘力+200という強力な補正がある上に他の鎧系魔道具や服系魔道具と重ね着だって可能な正に『秘宝』の名に相応しい代物、ついでにある程度の魔法耐性や高いレベルの『サイズ補正能力』もあるので巨人から小妖精サイズまで様々なカード達が使用可能の逸品。若しくはマスター本人が万が一の為に装備するのもアリだろう

 

大事に使えばちゃんと長持ちするので入手したならマメに整備するのが吉だろう。少なくとも月に一度は整備に出すなりドワーフなどを得るなりしておいた方が良いだろう

 

市価:三億からのオークション

 



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セーブデータ その1


大輝のカード達の区分、次章の為のデータとして

一軍:名付けしたカード、名付けしていなくても(章終了地点で)主力クラスのカード
二軍:基本的に予備戦力。功績や大輝との相性次第で一軍入りもあり得る
ワンポイント要員:基本的にクラスチェンジしない、限られた活用法特化カード(現状では送り提灯のみ)
資材:現在保有している、主にトレードや売買用のカード。大半はカードホルダーのこやし状態

という事にしてます

大輝のデッキ、所有魔道具、所持金のリザルトです……間違ってなければ良いが


 

一軍枠

 

No.001

【種族】エルフ(剣)

【戦闘力】900(MAX!)

カードランク:C

【先天技能】

・山精木魅:森の精霊としての性質を持つ。森への侵入者を察知し、森の中にいる間、持続回復及び魔力消費軽減。中等補助魔法を内包する

・剣戟森々:森を住処とし、森の中で真価を発揮する戦士。森の中で戦う際、ステータスが大きく向上し、スキルにプラス補正。狩人スキルを内包する

(狩人:狩人に必要な技能を収めている。武術、弓術、遠見、追跡、気配遮断スキルを内包する)

・初等魔法使い

【後天技能】

・怪力

・頑丈

・統率

・武芸十八般:弛まぬ鍛錬の中で得た境地、実戦的な武術、体術、武器使用を熟せる兵(つわもの)の証。武術、斧術、杖術だけでなく剣術、弓術、槍術、投擲、騎乗、精密動作、見切りなどを内包する

・威圧

・士魂:真に忠誠を誓う主人を得た戦士の証。精神異常耐性(強)、忠誠、庇う、礼儀作法、冷静沈着などを内包する

・英明:その種族としては非常に賢い事を示す。知性強化と魔力強化を内包する

・俊敏:その種族にしては非常に機敏である事を示す。敏捷性強化、器用性強化を内包する

・中等忍術(仮):縮地がちゃんと使える様にはなった為中等(仮)に昇格した忍術。それ以外はまだ初等と変わりない

(縮地:一瞬だけ、自らの俊敏性を極めて大きく向上させることができる。使用には魔力と体力を消耗する)

・比翼連理:『カード同士の夫婦』である事を示す。『番』と同時に召喚すると全てのステータス向上、特殊な能力発動の代替などが可能になる。同時召喚時のみ生還の心得、庇うが習得状態になる。『番』若しくはマスターを庇う対象にする際のみ庇うは『献身の盾』と同じ扱いになる

性的な誘惑に対して非常に強い耐性を獲得するが『番の誘惑』は決して跳ね除けられない

番以外と『そういう関係』になるとこの技能は即何らかの相応しいマイナススキルに変化する

但し同時召喚しないと全てのステータスが僅かに低下する

友情連携を内包する

・初等神通力(大通連の装備効果による)

 

固有技能

 

佐藤大輝の相棒兼筆頭カード、俗に『奨学カード』と呼ばれるオークから此処まで昇格した叩き上げの強者。中学生でこのランクを持っているのは非常に凄い事だと言える

ある意味原作の『イライザ』枠だと言える存在

褐色肌で逞しい体躯かつ何故か猪の仮面を被ったエルフ。恐らくは猪の仮面はオークだった頃の名残りだろう

武骨ながらも紳士的な性格で時に主人である大輝の御意見番役も務める逸材、オークだった経歴からかエルフにしては珍しく肉好きでオークだった経歴があるにも関わらず当時から女遊びには余り興味を持てない性格だった……元よりオークとしては非常に賢かった影響だろうか?

嘗ては大斧を愛用していたが、体躯が幾らか変化した影響で現在は刀剣類にシフトチェンジ中、エルフである為弓矢も使うが弓矢系統の魔道具は無いので予技みたいな扱いになっている

最近では重戦士にも軽戦士にも魔法戦士にもなれる言わば『万能戦士』とでも言うべき状態にある

主の恋人である薬丸姫子の相棒『菫』と結婚した結果何やら面妖な技能の萌芽が芽生えた様であり様々な研究者達から密かに目をつけられてしまった

その結婚式の時に得た結婚指輪が宝物でカード化して常に大事に持ち歩いている。ついでに武具防具の取り扱いに一番長けている為色々な武具防具のカードを大輝から支給されている

 

進化経路:オーク→ボアオーク→エルフ(現在)

 

所持魔道具

・大通蓮(戦闘力+200、初等神通力付与)

・無銘の名剣(戦闘力+100、予備)

・ミノタウロスの戦斧(戦闘力+100、サイズ制限に障わり使用時に弱マイナス補正、予備)

・炎の魔斧(戦闘力+100、攻撃に火炎属性付与、予備)

・聖銀製の戦斧(不死殺し、予備)

・妖精の鎖帷子(戦闘力+200、魔法行使に弱補正付き)

・無銘の甲冑(戦闘力+150、普段は使用しない)

・無銘の名盾(戦闘力+75、普段は使用しない)

 

 

No.002

【種族名】不知火(燈)

【戦闘力】840(MAX!)

カードランク:C

【先天技能】

・晦夜ノ親火:闇夜若しくは暗い環境下そして海上において起きる怪火を示す。今挙げた環境下(水上であれば大丈夫、たとえそれが水溜りでも)であればEランクモンスターであるウィル・オ・ウィスプ、鬼火、人魂を一秒にニ体づつ召喚・使役可能。暗い若しくは水上なら三秒に一体、条件外の明るい環境でも三十秒に一体づつなら召喚・使役可能。召喚数に制限は無い

先に挙げたカードがあるならそれを取り込んで更に威力を高めて発射する能力もある

火炎の身体、上級攻撃魔法/火炎、中等攻撃魔法、浮遊を内包する

(火炎の身体:肉体が火炎そのもので出来ている。火炎そのものを吸収したり敵に接近するだけでダメージを与えられるが火炎そのものなので味方も近づけばダメージを受ける。基本的に物理攻撃は無効だが圧倒的な水などに沈められたりして火が全て消えたら即ロストしてしまう)

・火国ノ漁火:伝承元である熊本が『火の国』と呼ばれる様になった由来から発した能力。景行天皇(日本武尊または倭建命の父)を遭難から救った人ならざる迎え火、そしてこのカードの名前が定まったエピソードを示す

迷宮内部ならば出口、若しくは最寄りの安全地帯への行き先を示す能力……要はナビゲート能力がある

ちなみにアンゴルモア時には『なるべくモンスターの少ない、比較的安全な場所に導く能力』を発揮する

・蜃気楼:現実を少しだけ歪めてごく弱い異空間を形成出来る。作成できる異空間はその場所そのものであり生活設備や資材を形成する能力は無い

空間はせいぜい十二畳間四方程度のごく狭い空間でしか無く収納能力などもない。文字通りの蜃気楼そのもの故に

森林なら森林、砂漠なら砂漠、草原なら草原と位相をずらした簡易避難所を作るだけの能力である

中等状態異常魔法を内包する

【後天技能】

・火炎威力強化

・忠誠

・天真爛漫

・回避強化

・英明

・詠唱短縮

・火炎魔法範囲制御:火炎魔法、火炎の身体といった自分自身の火炎に纏わる事象を制御出来る。乱戦状態でも対象だけを焼いたり火炎の身体を一時的にオフにしたりと色々出来る

・嗜好品回復(お菓子/軽)

 

佐藤大輝が二番目に買った奨学カードであるジャック・オ・ランタンがクラスチェンジした姿。普通の不知火は怪火そのものだがこの燈はジャック・オ・ランタンの姿をした怪火というアレンジ体になっている

火炎攻撃特化……に見える形をしてはいるが様々な属性魔法を使いこなせる魔法アタッカー枠の要、勿論一番得意としているのは火炎魔法である事に変わりないのだが

不知火にクラスチェンジしてからは会話能力も向上してお喋りが出来る事を喜んでいる

性格はまだ幼い子供……大輝の特性上小さな男の子みたいな人格を保有する。技能になるレベルの甘党で大輝から貰うお菓子が大好物

 

進化経路:ジャック・オ・ランタン→不知火

 

 

No.003

【種族名】鍛治が嬶(祝)

【戦闘力】530(110UP!)

カードランク:C

【先天技能】

・千疋狼:その説話の屋台骨である『千匹の狼を呼び出して使役する能力』。千匹とは言えどその実態は無限召喚であり、その狼達を的確に指揮する能力を内包する

この狼達は『提灯の無い送り狼』として扱う

統率を内包する

・縄張りの主:自身を中心としたテリトリーを形成可能。テリトリー内では味方全員の能力が向上し、持続回復の効果がある他、テリトリー内に侵入した敵の気配を察知することが可能となる

一方で、自身の存在を周囲に知らしめる形となるため自身よりも弱い敵を遠ざけ強い敵を惹きつけてしまう。また、テリトリーの範囲は周囲の敵の弱さに比例する

・三種の変身:本来の姿である『鉄鍋を被った老いた白狼』と巨大な化け猫、鬼婆の三つの姿を持つ。鬼婆の姿になると戦闘力が少し低下するが会話能力が付き道具の使用が可能になる

・本能の覚醒

【後天技能】

・迅雷:その種族として最高レベルの素早さを獲得した証。奇襲、敏捷性強化、器用性強化、縮地を内包する

・忠誠

・中等火炎魔法

・鋭敏嗅覚

・気配察知

・気配遮断

・戦士:戦士に必要な技能を収めている。武術、剣術、槍術、弓術、騎乗スキルを内包する

・乗騎

 

大輝がワイルドウルフの頃から使い鍛え上げてきたある意味剣以上の叩き上げ枠。偵察や敵感知といった斥候役として大輝の目となり鼻となりやって来た

ある意味原作における『ユウキ』枠……かも知れない

初期から雌の老狼であり、今の鍛治が嬶に適性が現れたのもその『雌の老狼』という性質から来たものだと思われる

鍛治が嬶としての三形態は『鉄鍋を被った白毛で老いた雌狼』、『凶悪な形相の化け猫』、『鬼婆』の三つの姿であり、『鬼婆形態』は普通の鍛治が嬶と違って黒く頭以外のほぼ全身を隠す飾り気の全く無いドレス姿で長身痩躯のしゃんとした背筋の通った銀髪の老婆の姿になる

鬼婆形態だと戦士として武器を握れる様になったから大輝から『無銘の名剣』を与えられてそれを装備して戦う様になる。勿論本業である斥候としての活躍がメインであるが

 

進化経路:ワイルドウルフ→ヘルハウンド→送り狼→ 鍛治が嬶

 

所持魔道具

・無銘の名剣(戦闘力+100)

 

 

No.004

【種族】贋作妖刀/仕込み杖(定)

【戦闘力】200(50UP!)+300(虎徹吸収分)

カードランク:D

【先天技能】

・贋作村正:一応は『村正』と銘打たれてはいるが倒幕の意を込めた徳川幕府に不満や復讐心を抱く者……特に維新志士の弦担ぎによって生まれた贋作妖刀の幾多ある一振り

初等クラスの装備化スキルと浮遊を内包する、支持肢が無いので物を持ったりなどは基本的に出来ない……が、幻影体生成能力で支持肢喪失は解除済み

『心眼和尚』の効果で仕込み杖化している

・倒幕妄執:幕府に不平不満や復讐心を持つ者達の怨念怨嗟が概念的に染み込んでいる、しかし所詮は贋作なのでそこまで強い力は無いその性質からか器物系統としては強い自我を持つ

無下に扱うと反逆系マイナス技能に目覚め易い

剣術、武術を内包する(盲剣術に統合済み)

・贋作模倣:所詮は村正の贋作に過ぎない無銘刀ではあるが、それが故に模倣もそれなりには出来る

『日本刀型魔道具』ならば取り込んでその能力を自身の能力として扱える様になる。この能力を使えば『物品憑依型』として扱えるが代わりに武器型魔道具の装備スロットを消費した状態になる

その取り込んだ日本刀型魔道具が壊れたら元の刀身に戻りその日本刀型魔道具は消滅する。擬似的ではあるがその日本刀型魔道具を身代わりにする能力とも言える

要はジェネリック付喪神みたいな能力であるが、取り込んだ魔道具の再生能力は無い。しかし通常の武器型魔道具と同じ様な修繕は可能

【後天技能】

・心眼和尚:詳細不明、要検証。しかし『手の目』としての感知能力を継承している事だけは確かな様だ

保有する装備化スキルを一段階向上させるが『常に盲目』の制約が付与される、要は『装備化スキルに呪い属性を付与する』という事だろう。装備化能力が高等クラスになった際にどうなるかはデータ不足につき不明

装備化能力を『盲剣術』に適した形状に適応させてくれる

『幻影体』を造る能力を保有している

座頭/検校位、心眼、風が吹けば桶屋が儲かる、盲剣術、神通力/初級を内包する

(座頭/検校位:座頭としての技能である『按摩、針灸』、『楽器演奏/琵琶、三味線』、『金融名人(経理、マネジメントの一種)』、『語り部、謡い手』『中級鑑定』、『虚偽感知』、『危険感知』、『礼儀作法』、『教導』等々を内包する。『検校』という座頭として最上位クラスとしての実力を有する。言わば座頭版メイドマスター)

(風が吹けば桶屋が儲かる:座頭などの盲人、職人、猫、鼠、風、砂の属性を持つカードにごく稀に現れるありとあらゆる因果事象から出鱈目な迄に幸運を招き寄せる運勢操作スキルの一種。基本的に現状では金運とトラブルに巻き込まれる確率が向上する程度……だと言われているが正しい詳細は不明)

・二刀流:本来ならば『武具型魔道具は一つしか装備出来ない』というルールを緩和する技能

『片手用武具』に限り二つまで装備可能であり、その装備の中でも戦闘力の低い方の戦闘力を半分追加出来る様になる

・気合一閃:気力や魔力を消費する代わりに次の一撃の威力が跳ね上がる。剣、刀状の武具を装備していないと使用出来ず、発動させればその武具の耐久性が大幅に低下する

・怪力

 

色々な意味で佐藤大輝の運命に深く関わるカード。ある意味では原作における『蓮華枠』かも知れない

元は手の目という感知能力特化仕様の厄介な呪い属性装備化カードだったが、その非常に特異かつ目立つ外見と『座頭:検校位』という破格の能力持ち故に採用され……手の目の本当の能力である『リンクチューニング能力』で名付け採用されるに至る(そのリンクチューニング能力はクラスチェンジにて喪失)

このカードへの名付けによって大輝はごく僅かに残っていた『女の子カード召喚能力』を完全に喪失して本当の意味で『女の子属性不適合者』となった。大輝的には『要らないものを切り捨てて必要なものを手に入れただけ』だと言うだろう

故に彼は『佐藤大輝が本当の意味で腹を括るきっかけ』であり『佐藤大輝の運命そのもの』だと言える

性格はその外見通りに大飯食らいの酒好き女好き博打好きといった一面もあるが情にも厚い渡世者的な好漢である

『盲剣術』という独自技能に開眼して刀を使いこなす。大輝と一体になって戦う影響か何気に手の目時代から『格上殺し』に縁がある

贋作妖刀になってから大輝から授けられた『長曽禰虎徹』を取り込んで強化されている

 

進化経路:手の目→贋作妖刀

 

所持魔道具

・長曽禰虎徹(戦闘力+300、吸収済み)

 

 

No.005

【種族】岩塗り壁(巌)

【戦闘力】380(MAX!)

カードランク:D

【先天技能】

・岩石の妖怪:身体が岩石で構成されている。刺突、斬撃への耐性が非常に高く物理ダメージに強い耐性がある。あと身体を何気に砂状に変えて細い隙間を潜り抜ける事も出来る。身体の何処かにある『核』を破壊しない限り消滅しない。怪力、頑強、疲れ知らず、火事場の馬鹿力を内包する

・低級収納

・漆喰生成:文字通りに漆喰(日本式)を生成出来る。その漆喰で他の無機物系統モンスターの治癒……実質的には一時凌ぎが出来る。塗り壁本体ならば再生力の向上として現れる(Dランククラスの魔石一個で大概の傷が即座に癒える……但し気力と魔力は別だが)。建築、自己再生を内包する

【後天技能】

・絶対服従

・静かな心

・状態異常耐性

・庇う

・剛力無双:その種族内でも非常に力強く頑丈である事を示す。怪力、頑強、疲れ知らず、火事場の馬鹿力、物理強化を内包する

(頑強:頑丈の上位互換)

・嗜好品回復/果物

 

 

実は大輝にとって最初のボスにして強敵だったストーンゴーレム、それが運良くカード化した存在。色々印象深いカードなので重用している

重戦士と言うよりは純タンク枠であり、大輝の盾として活躍している……少なくとも戦闘型イレギュラー(Eランク迷宮産)の攻撃でも防げるレベルで

ストーンゴーレムの頃と比べれば圧倒的に自我を得てはいるが基本的にまだ希薄な状態なので更なる精進が求められる。それでも果物に目がないので褒めたり働いてくれた時に備えて果物は沢山準備する必要がある

Cランクにクラスチェンジする為に必要なカードは結構貴重なので資金や運の両方が必要なので気を長く探す事になるだろう

 

進化経路:ストーンゴーレム→岩塗り壁

 

 

 

No.006

【種族】老婆型キキーモラ(清)

【戦闘力】200

カードランク:D

【先天技能】

・中級家妖精:人間の代わりに家事をしてくれる妖精。……が、迷宮内では家などないためいまいち使いどころは不明。メイド、高等家事魔法を内包

(メイド:メイドに必要な技能を収めている。料理、清掃、性技、礼儀作法を内包)

 (高等家事魔法:高度な家事魔法を習得している。家事魔法は攻撃能力を持たないが、家の中でできることに不可能はない)

・高等回復魔法

・中等状態異常魔法

 

【後天技能】

・中等支援魔法

・妖精のお節介:親切でお節介焼きな家事妖精としての性質。簡単な失せ物探しや忘れ物回避が出来る他に主人のサポート等に非常に長ける。秘書、庇う、精密動作、従順スキルを内包する……主人の意図を汲むのが上手い(そして『リンクスキルの受信補助機能』にもなる)

・機織職人:機織りの達人……但し迷宮ではあまり役に立つ機会は無いが

・杖術

・魔力消費軽減

・魔力回復

・中等攻撃魔法/氷結限定(魔導書技能)

 

大輝が貯蓄をはたいて買った回復役。キキーモラのなかでは一番珍しくそしてハズレ枠扱いの老婆型キキーモラだがその性能はDランク回復役カードとしてはかなり優秀

回復魔法とバフ、デバフを得意とする回復役であり迷宮内部での炊事洗濯汚物浄化等々色々戦闘以外でこそ輝くサポートタイプのカードである

最近は氷結魔法の使える魔導書とお手伝い妖精用の魔法の箒で武装しているので戦闘能力も向上している

Cランクにクラスチェンジする為には結構貴重なカードが必要なので今は雌伏の時である

 

進化経路:キキーモラ(老婆型)

 

所持魔道具

・氷結の魔導書(中等攻撃魔法/氷結限定)

・鬼祓い箒(戦闘力+100、不死殺し、家事/清掃技能持ち限定)

 

 

No.007

【種族名】一本だたら(蔵)

【戦闘力】520(140UP!)

カードランク:C

【先天技能】

・たたら鬼:鍛治に特化した妖怪……いいや零落したとはいえ鍛治神である事を示す技能。零落しているとはいえ鍛治、採掘、精錬などの技能を内包している

充分な金属が有れば一週間掛かるが『無銘シリーズ』を作成可能。但し作刀作法や儀式もあるので必ずぶっ通しでやらなくてはならない

金属製魔道具の修繕や整備なども可能

熱、火炎攻撃への完全な耐性を持つ

・零落の鍛治神:金属製品や基本戦闘力+30程度の武具を即座かつ無限に具現化する事が出来る

己の保有する空間以外のちゃんとした金属を対価にすればその金属の分まで基本戦闘力+100の武具を具現化出来る

この効果は壊れるか一本だたらが場に存在する限り永続する

・山野の鍛治師:鍛冶場型の……いや、鍛冶場特化型の異空間を形成する能力を保有する。殆どは鍛冶場や炉心、能力行使の為にだけ使える石炭や鉱石・金属や作成品置き場であり、あまり生活空間は無い

一応四畳半の休憩室と水、塩の備蓄だけはある

倉庫(中級収納)もあるので荷物の積載は出来る。上級収納に変化済み

・山の妖怪:山岳に居る限り強い補正がかかる。寒さ、氷結への完全な耐性を持つ

【後天技能】

・中級家妖精(農)

・中等状態異常魔法

・中等支援魔法

・盗賊の心得:一人前の盗賊的な技術を持つ者の証。高等罠発見/解除、器用性強化、鋭敏感覚、気配察知、かくれんぼ、武術を内包する

・妖精のお節介

・忠誠

・敏捷力強化(俊敏の銅剣装備効果による)

 

大輝が最初期に買ったカードの一枚だった、二つ星試験を想定して訓練していたので盗賊的なスキルが高い

戦闘能力は然程でもないが罠関連の斥候役として大輝的には無くてはならないカードの一枚……鍛えた盗賊は迷宮では絶対的に必須である

一章最後のクラスチェンジで鍛治師の能力(主に鉱山系迷宮での採掘や金属系魔道具の整備)を得た

このカードにも異空間展開能力はあるが非常に限定的で扱いにくい代物である……昼の砂漠迷宮だと地獄だが雪山迷宮や夜の砂漠迷宮なら狭さと機材資材の無さ以外ではありがたいかも知れないが

最初は料理に興味を持っていた……初期に持っていたレシピが『イギリスの特にアレな料理レシピ』だけだった反動からだろうか?清や後述する宴から料理を教わったりもしたが今では『大輝が一番喜ぶだろう』と鍛治関連にシフトチェンジする決意を決めた

 

進化経路:ブラウニー→トムテ→一本だたら

 

所持魔道具

俊敏の銅剣(戦闘力+100、敏捷力強化付与)

 

 

No.008

【種族】足洗屋敷(宴)

【戦闘力】235(+55UP!)

カードランク:D

【先天技能】

・足洗屋敷:武家屋敷型の異空間を展開出来る。招かれざる客を物理的に拒み、異空間系スキルを持たない敵からの干渉を受けない。核を倒さない限り決して死なない。敵意感知、中等家事魔法を持つ。

『狸核』によってデメリットと怪力をロスト

・家来衆招集:足洗屋敷の手にして番兵たる『家来衆』を召喚出来る。家来衆はカードには存在しないがだいたい戦闘力100ぐらいで集団行動、何らかの武器技能を持っている。最大で十数体出現させる事が可能であり、倒しても新たに(足洗屋敷の魔力が続く限り)補充が出来る

・低級収納

【後天技能】

・幸運付与:多少ではあるがこのカードのマスターの幸運を向上させる……らしい

・狸核:元は幻影体だったが『核』として相応しい存在に成った事を示す

料理、見習い攻撃魔法(火/水系統限定)を内包する

・蕎麦の匠:蕎麦料理を極めた証。蕎麦料理だけなら2ランク格上のカードにも匹敵する技量と味で作れるが特殊効果は無い。燈無蕎麦だった頃の蕎麦作を継承済した結果だと思われる

・武術

・礼儀作法

 

大輝の迷宮における移動拠点にして生活空間そのものである異空間カード。元は蕎麦が絶品なだけの担ぎ屋台である燈無蕎麦から来た

足洗屋敷はDランク異空間カードの中では確かに強いカードではあるが生活拠点としては致命的な欠陥だらけの代物であった、しかし大輝とこの宴がちゃんとした使い道を発見出来たおかげで少し脚光を浴びる事が出来たらしい

本来の足洗屋敷の飯はかなり不味いが『佐藤大輝式足洗屋敷』だとDランク異空間カードの中でも非常に飯が美味い部類になるらしい。ついでに『核』が可愛いデフォルメ小動物になるので女性冒険者からも注目されたとかされないとか?

大輝自身も時々この宴を抱き枕代わりにしたり姫子が持って行ったりしているらしい

 

進化経路:燈無蕎麦→足洗屋敷

 

 

No.009

【種族】やまらのおろち(鋼)

【戦闘力】800(MAX!)

カードランク:C

【先天技能】

・零落の多頭蛇:八つの蛇頭が魔羅に置き換わった零落した多頭蛇の妖怪。零落したとはいえ非常に強力な蛇妖である事は確かだが。巨体、剛力無双、自己再生。零落多頭龍、広視界、熱視界、柔軟、悪臭を持つ

(巨体:非常に大きな体躯を誇る。攻撃力に莫大な補正が掛かるが召喚する場所を慎重に選ぶ必要がある)

(零落多頭龍:複数の頭を持つドラゴン。すべての頭が別々に思考・行動が可能で同時に物理攻撃が出来る。但しブレスや魔法は同時には出来ない)

(広視界:複数の眼を持つ、多頭のモンスターが保有する。文字通りに非常に広い視界とその視界を情報処理する能力を持つ)

(熱視界:蛇や地下に棲まうとされるモンスターが保有する。所謂サーモセンサーみたいに熱で知覚出来る能力。透明化などを無効化出来る)

(柔軟:非常に身体が柔らかく柔軟に動ける。特定の行動時にプラス補正)

(悪臭:非常に臭い)

・女殺し:攻撃全てに『女』の属性を持つモンスター全てへの特攻がつく。男、無性には普通

・八魔羅ノ大蛇:Dランクカード『いやだひめ』と同時に召喚した際に発動可能。『非常に不快なデバフと強力かつ不快な攻撃』を周囲に撒き散らせる様になる。一日八回まで行使出来る

『カイロネイアの獅子』の効果でいやだひめではなくパートナーに限定する様になった

【後天技能】

・性技

・武術

・悪臭操作:悪臭持ちが稀に獲得できる技能。悪臭を文字通りに操作して無臭にしたり敵に集約して放つ事が可能

・忠誠

・カイロネイアの獅子:『男同士の番』を示す。『番』と同時に召喚すると全てのステータス向上、特殊な能力発動の代替などが可能になる。同時召喚時のみ生還の心得、庇うが習得状態になる。『番』若しくはマスターを庇う対象にする際のみ庇うは『献身の盾』と同じ扱いになる

性的な誘惑に対して非常に強い耐性を獲得するが『番の誘惑』は決して跳ね除けられない

番以外と『そういう関係』になるとこの技能は即何らかの相応しいマイナススキルに変化する

但し同時召喚しないと全てのステータスが僅かに、低下する

友情連携を内包する

 

大輝が師匠から捨て値で買って初めて入手したCランクカード、『八岐大蛇の非常に醜悪かつ滑稽なパロディ』とでも言うべき超絶不人気カード

通称『ジャパニーズヘンタイモンスター』の一種

……その見てくれの酷さと臭ささえ許容出来れば非常に優秀かつ従順な良カードではあるのだが、その見てくれと臭いの地点で致命的過ぎる欠陥カードになってしまっている

このカードは臭いだけはどうにか出来てはいるからまだ運用はし易いだろう

このカードは同性愛の性的傾向持ちであり、大輝が探してくれた『波長の合うカード』と出逢えた事で『カイロネイアの獅子』という非常に珍しい技能を獲得出来た

その見てくれ上他の冒険者が居る場所だと自重する必要があり、またサイズが非常に大きいので召喚場所は選ぶが非常に強力なカードである事は間違いない

現在の大輝の目標はこのやまらのおろちのクラスチェンジだが……二、三十億という莫大な費用がかかる為現在の大目標の一つに分類出来るだろう

 

進化経路:やまらのおろち

 

 

No.010

【種族】いやみ(玉)

【戦闘力】390(MAX!)

カードランク:D

【先天技能】

・イロ気妖怪:『色欲の気』とでも言うべき空気より重いピンク色のガスを精製する能力と『非常に卑猥な戦闘能力(射撃、束縛)』を内包している

・変化の術:色々な動物や人間に化ける事が出来る。人間化の『固定の姿』以外は長時間は持たない(『固定の人間化』だけならいつまでも、他はだいたい三十分程度。服装変化ぐらいなら二時間は持つ)

・色欲の塊:読んで字の如く。敵味方問わず『異性(稀に同性)』と呼べる存在が居れば士気と総合的な能力が向上する。性技を内包している

性的な誘惑に非常に弱い(『カイロネイアの獅子』の効果でこの弱点は消失)

※:『ヲカマ一代男』の効果で同性に固定済み

【後天技能】

・ヲカマ一代男:完全に同性志向のヲカマ者である事を示す。同性へのアクションにプラス補正、クラスチェンジ先に一部の女の子カードが使用可能になる

性技を内包する(色欲の塊に習合済み)

・武術

・カイロネイアの獅子:『男同士の番』を示す。『番』と同時に召喚すると全てのステータス向上、特殊な能力発動の代替などが可能になる。同時召喚時のみ生還の心得、庇うが習得状態になる。『番』若しくはマスターを庇う対象にする際のみ庇うは『献身の盾』と同じ扱いになる

性的な誘惑に対して非常に強い耐性を獲得するが『番の誘惑』は決して跳ね除けられない

番以外と『そういう関係』になるとこの技能は即何らかの相応しいマイナススキルに変化する

但し同時召喚しないと全てのステータスが僅かに、低下する

友情連携を内包する

・忠誠

 

先の『鋼』の相方、大輝が兄弟子から買った実用性の高いジャパニーズヘンタイモンスターの一種である。真性の衆道趣味の好色者でありヲカマでもある

自身や相方の変態性や最悪の見かけにも怯まずに大事にしてくれる大輝に心から忠誠を誓っている

付き合いもまだ浅い範囲なので大輝も彼の性格はあまり完全には掴めていない様だ

 

進化経路:いやみ

 

 

No.011(暫定)

【種族】付喪神

【戦闘力】450+100(無銘の名刀分)

カードランク:C

【先天技能】

 ・物々交換:中等クラスの装備化スキル。他のカード、あるいはマスターが装備することで、自身の戦闘力の半分を加算させることができ、また自身の後天スキルを共有するがマスターへの装備化の場合はすべての戦闘力とスキルを共有できる。アイテムを取り込むことで、その効果を内包できる。新しいアイテムを取り込む際は、前のアイテムの効果は廃棄される

、勿論取り込んだアイテムは戻ってこない。また使用回数のあるアイテムを取り込んだ際はその回数を使い切るとロストする。通常同じタイプの装備化スキルは同時使用できないが物品憑依型は複数同時に装備化可能

・食を願わば器物:取り込んだアイテムが時間経過で修復される。破壊寸前でも時間を置けば復活する。一日に一度だけ同一アイテムを二重に取り込むことで一時的にステータスが二倍に上昇する。二重に取り込んだアイテムは戻ってこないため注意。自己再生を内包

・良工は先ず其の刀を利くす:取り込んだアイテムを強化するスキルのようだが詳細不明。強化倍率の法則性について検証中

【後天技能】

・武術

・影の形に随うが如し:使用者の意図を汲み取り、的確にサポートする。秘書スキルに類似性があるが、より瞬間的な判断が求められる戦闘に特化していると考えられる。その精度はまさに影が本体に付き従うかの如し

 

定とのコンビネーション運用を想定して自衛隊から得た一枚、しっかり鍛えて定の逆手に担う刃になる事を求められている

一応、定のクラスチェンジ先にもなり得るので彼の運命は大輝/定との相性次第だろう

無銘の名刀ならば『切り札に使っても代わりが調達し易いから』と吸収先に決めた

この無銘の名刀は真っ新な新品をショップで購買して来た

名付け候補生その1(筆頭)

 

進化経路:付喪神

 

所持魔道具

無銘の名刀(戦闘力+100、吸収済み)

 

 

二軍勢

 

オーガ(Cランク)

三つ星資格試験中に戦闘力MAXになったのでオーガ(零落)でクラスチェンジを達成、残念ながら『零落した存在』は残ってしまう。名前は無いが大輝への忠誠心は高い

もう少しちゃんとしたマイナーチェンジ先を用意する算段を立てている

名付け候補生その2

 

オーク三号(Dランク)

嘗ての剣を彷彿とさせるぐらい賢いが従順と言うより『限りない向上心を満たしてくれる良い主』だと認識している様だ

名付け候補生その3

 

オーク四号(Dランク)

従順である事以外には特筆すべき事はない、リンク相性が良いから二軍入り出来た

 

ライラプス一号(Dランク)

戦闘力はMAXになり祝の仕事ぶりをそれなり以上に理解し、彼女の代役だと言えるレベルに仕上がってきた

名付け候補生その4

 

ライラプス二号(Dランク)

大輝と即座にテレパスを繋げられた期待の新米。その地点で名付け候補生その5

 

ホブゴブリン(Dランク)

盗賊系スキル持ち、盗賊役は冒険者にとって大切な存在なので大切に育てる予定。大輝への忠誠心がオーク二号並みに高い。無銘の名剣を貸与されている

名付け候補生その6

 

一反木綿(Dランク)

このデッキには未だ数少ない空戦用カード。木綿の反物生成能力で作った反物は蔵や宴が保存している……最近は使い方や販売先とかも探す事を考慮に入れている状態

名付け候補生その7

 

河童(Dランク)

水中戦用に姫子とトレードした一枚、今はあまり活用出来てはいないがちゃんと訓練はしている

 

奪衣婆&懸衣翁(Dランク)

貴重な二体一対カードなので未来のために要育成枠。設定上夫婦らしいが現地点では久しぶりに会った親戚レベルのカード関係の様だ

文句なしに名付け候補生その8&9

 

カラドリウス(Dランク)

現状では救急箱に近いワンポイント要員状態。回復特化過ぎて最近ではワンポイント要員枠に移動も検討に入っている

優秀な回復要員なので大輝も手放す気は今のところ全く無い

 

スパルトイ(Dランク)

大輝のデッキは戦士系統が多い為かあまり目立たないが、剣の腕だけならかなりのものではある、感触は悪くない

 

レッサーデーモン&ハイピクシー(Dランク)

友情連携に目覚めた元フェアリーズの出世頭。実は名付けに王手がかかっている状態

レッサーデーモンは無銘の名槍を貸与されている

名付け候補生その10&11

 

リビングアーマー(Dランク)

最近大量にカード化した中から特に相性の良いものを二軍に取り立てた。とりあえず今は試験運用期間

 

スプライト×3(Eランク)

偵察、斥候役かつ隠密活動用カード。磨き方次第で一軍にも二軍継続にもワンポイント要員にもなり得る

少なくともワンポイント要員としてなら間違いなく安泰ではある

 

 

ワンポイント要員

 

送り提灯(Eランク)

Dランク迷宮をなるべく早く進む為に必須の正にワンポイント要員。剣や燈などのCランク陣と組む事が常

送り拍子木を貸与されている

 

 

資材枠

 

オーク五枚

ボアオーク二枚

ホブゴブリン二枚

瘟鬼(馬)

グール五枚

グーラー

黄泉醜女

レッサーデーモン

アイアンゴーレム二枚

ブロンズスタチュー

リビングアーマー五枚

Eランクカード沢山

Fランクカード沢山

 

ボアオークとリビングアーマーは高価値Dランクカードなので『何らかのトレード用弾丸』にはなりそうである、ボアオークなら配下オーク達の間に合わせのマイナーチェンジにも有効に使えそうではあるが

 

 

所有魔道具

 

装備

カードホルダー四つ

ミノタウロスの戦斧

魔石袋

無限水筒

透明金庫

氷結の魔導書

俊敏の銅剣

無銘の名剣五振り

無銘の名刀二振り

無銘の名槍二振り

無銘の戦鎚

無銘の名盾

無銘の甲冑

妖精の鎖帷子

大通蓮

保護のブーツ3

アリアドネーの糸

魔力灯

炎の魔斧

鬼祓い箒

サラマンダーの外套

ヒュプノスの枕

藤籠の飯入れ

宝しゃもじ

送り拍子木

空飛ぶ箒

銘酒・酒屋殺し(濁酒タイプ)

 

特筆消耗品

『緊急避難セット(アムリタ、緊急避難のカード、カラドリウスの糞、魔人のランプ)』

アムリタ

緊急避難のカード

宝籤

宝箱

 

イレギュラーの贈り物

皮剥包丁

 

保持している皮

ヴァンパイア

オーク

ボアオーク

グール二枚

 

 

財貨

 

所持金

2700万円

 

換金アイテム

カーバンクルガーネット43粒

 

魔石

1100万円分



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Tips その1


自作Tips限定でも非常に莫大な文字数に……第二部からはまぁ少しは低下するかも?


 

 

第一話 例えブタでも切り札だ

 

【Tips】オーク

基本的に『指輪物語』の作者であるトールキンの想像した架空の種族(怪物)。闇の聖霊に仕える邪悪な勢力の兵士として有名な存在

 

近年ではまぁ(ごにょごにょ)な本やゲーム(ゴブリンスレイヤー的な)にて大活躍だがこの世界では基本的にそういう欲求は特に迷宮に出るモンスターとしては無い。この世界のモンスター達は『ごく一部のイレギュラー』以外は機械的に人間を襲うだけの存在である

 

基本的に本編にも書いた通りの初心者向けモンスターとして人気かつ有名であり、この作品の主人公もネットやギルド職員達の勧めもあって普通に購入した

 

基本的に『悪/鬼/妖精』の属性であり、普通は『ボアオーク』にマイナーチェンジしたり『オーガ』や『グレンデル』などのCクラスにクラスチェンジしたりするのが一般的……だが、実はクラスチェンジ先には『エルフ』も候補に入っている

 

オークはエルフの零落または堕落した姿だという説もある為だが『シーオーク』というエルフに似た異空間移動能力を持った美しい妖精系Cランクカードや『天蓬元帥』に『カマプアア』という高級路線もある(これらもCランク)

 

【種族】オーク

【戦闘力】100

【先天技能】

・集団行動:群れの中で生きる習性。集団での行動に対するプラス補正。

・頑丈:頑丈な肉体を持つ。生命力と耐久力を常時向上させる。

・怪力:人外の力を持つ。筋力が常時大きく向上する。

 

後天技能には従順や武術、斧術や庇うなどを持っている場合が多い

 

 

こういう『初心者向けの存在』というものを掘り下げたりピックアップしたりしていると世界観の新しい掘り下げが出来るんじゃないかと思ってこのたまに話に出てくるオークをピックアップしてみた

 

基本的に戦い以外の取り柄は無く……そして何より頑丈なところが初心者向けだと思う。とりあえずFランク迷宮ならただ戦うだけで攻略出来るし、何より頑丈なら初心者でも下手な采配でロストの可能性を少しは減らせると考慮出来る。ついでにDクラスカードの中でも特に沢山世に出回っている為入手もし易く何より安い

 

大概の学生冒険者はこのカード一枚から始めるのが普通だと思う。大概は『(南山や小野みたいに)親の金』だったり歌麿みたいに長い苦労の末に少ない資金をやりくりしてカードを得るのが普通だからこういうオススメから始める事が多い……稀に歌麿みたいなギャンブラーも居るが大概自爆で終わる

 

 

第二話 狼と斧

 

【Tips】ワイルドウルフ

 

大型犬サイズの灰色狼、ぶっちゃけてこれだけのFランク最弱クラスの雑魚モンスター

 

それでもきちんと武装していない人間ぐらいなら初期の……それこそ迷宮一階に出る最弱状態のワイルドウルフでも簡単に仕留める事が出来る程度には強い(原作最序盤程度に武装した一般人……歌麿レベルならまぁ一対一なら比較的何とかなる範囲だが)

 

一応は先天技能として集団行動を保有しているのでオークとはシナジーがある……それしか無い、というだけの話だが

 

一応は狼なのでスキルは無くとも嗅覚は敏感なので索敵・奇襲対策要員として起用した

 

属性は『獣/犬系統』でぶっちゃけ使い捨て前提の運用になる程度の強さしか無い……が、鍛えてEランクのヘルハウンドやDランクのライラプスなどにクラスチェンジさせる育成系マスターもたまに居たりする

 

 

【種族】ワイルドウルフ

【戦闘力】15

【先天技能】

・集団行動:群れの中で生きる習性。集団での行動に対するプラス補正。

 

後天技能で追跡や嗅覚、索敵、奇襲といった技能を獲得している事がある

 

 

第三話 Fランク迷宮だって命懸け

 

【Tips】凡庸シリーズ

 

 

迷宮から時おり産出される『魔道具』の一種……なのだが、その中でもハズレ扱いの不遇な代物

 

近接系の武器ばかりであり、半々の確率で『カード化能力』を持っている……が、効果が『戦闘力+5から30』というだけしかない

 

+5なら短剣や杖みたいな軽い装備、+10から15なら普通の武具、それから+ 30と存在するが、その+ 30は少なくともオークみたいな怪力と頑強さが無いと使えない仕様になっている

 

+15迄なら普通の人間にも使える……けれど普通はカードに持たせて戦わせるだろう。そして使えるカードが増えたら大概ギルドに捨て値で売ったりする……前に壊れてしまうだろう。それなり以上に頑丈ではあるのだが

 

+5から15までなら需要は初心者を中心にそれなり以上にあるが、+ 30は余りにピーキーな仕様故に『カード化能力』を持たないものは大概迷宮に捨てられてゆく運命にある

 

+5から15迄ならだいたいどんなものでも三十万円もあれば買える……が、大概の冒険者はそんな金が有れば『新しいDランクカードの積み立て』に充てるだろう

 

+ 30の武具なら『オーク使い』ならば需要はある……が、そのオークに適した武具かは分からない。中には適応出来ずに無駄金になるだけだったというケースも多い……が、基本的にオークは不器用である

 

そしてデザインも全て『いかにもな量産品』といった風情なのでやはり人気がない

 

 

第四話 戦うよりも狩りが好きです、でも収穫物はもっともっと大好きです

 

【Tips】ストーンゴーレム

 

ユダヤ教のラビ(指導者とも祈祷師とも言えるユダヤ教の祭司みたいなもの)が断食や祈祷といった儀式を以てして作成し操る魔法の人形

 

本来なら泥人形の事だが、それはFランクモンスターとして存在している

 

以外とバリエーション豊富でFランクには泥、木、紙製のゴーレムが存在し、Dランクなら鉄と銅のゴーレム……他にも錬金術関連ならだいたいクラスチェンジ候補になるらしいしC、Bランクにも更にゴーレム系統が存在するらしい(ちなみに……このゴーレムの最終進化系統の一つには『フランケンシュタイン・モンスター』や『哪吒』などが存在する)

 

『(主に額などにある)核』を破壊しない限り決して破壊出来ないしぶとさを持ち、決して疲労もしない上に怪力持ち

 

但し……岩で出来た身体だから非常に不器用かつ鈍足でちゃんと育成しない限り決して複雑な命令はこなせない上に融通も効かないという欠点も存在する

 

普通なら『一芸特化型』としてDランクカードの代用扱いとして運用されるのが普通だが、真面目に育成すれば案件強くなる素養はある玄人仕様の渋いモンスターでもある

 

【種族】ストーンゴーレム

【戦闘力】80

【先天技能】

・自動人形(下級):魔力に因って作成された操り人形、しかし素材があまり宜しくない為デメリットの比率が高い(『生きた屍』の自動人形バージョン。絶対服従、状態異常耐性、知能低下、不器用、怪力、疲れ知らずを内包する)

・石の身体:身体が石で構成されている。刺突や斬撃には強いが打撃には普通、魔法攻撃にやや弱い

 

後天技能には火事場の馬鹿力などが多い……内包するデメリット技能の清算などが優先される事が多い

 

何気に絶対服従持ちなので訓練(プログラム)次第で色々成長できる……が、かなりピーキーな仕様なので大概のマスターは一時使いか使い捨てするのが普通の悲しい存在(見た目も悪いし所詮はEランクモンスターだしで)

 

『ちゃんと命令すればオークの代替品』というのがこのストーンゴーレムの評価だが余りに面倒くさい仕様なので人気は無い

 

しかし……ちゃんと育成すればする程どんどん輝きだす『冒険者を映す鏡』の様なモンスターでもある

 

 

【不人気な】新米冒険者なら最初はこれ【人気者】

 

【Tips】掲示板

玉石混交。真実と虚偽、誤情報の混じるネット内の闇鍋

 

この板は比較的信用のおける『枯れた情報』をメインにしているので真っ当な新人から人気が高い

 

『少年』も実はこの掲示板愛用者である

 

……初心者に『掲示板形式』は難しい(真顔)

 

 

第五話 俺の名は

 

【Tips】佐藤大輝

 

この物語の主人公。第五話にて漸く本名が公開される

 

名前の由来は『日本で一番多い苗字』と『2003年に一番名付けられた男児の名前』から

原作主人公の『北川歌麿』と同い年の現在中学三年生。そこそこ長身中背普通の顔立ちの一般的な学生(但し学業はそれなり以上、冒険者となる為の両親との約束の為に)

両親もそれなりに『冒険者』というものを理解している人物であり……『現在の本当の世相』も理解している事から大輝が冒険者となる事を許可していくばくかの援助を施した(そして後に……)

基本的に目立つのが苦手ないわゆる『隠キャ』である為彼が『冒険者である事』を知る者はあまり居ない

性格は他者と関わる事が少し苦手な(先に言った通りの)隠キャであり一般的な学生冒険者(特にエンジョイ勢)が苦手

カード達には(根本的に自分が目上である為)それなりに強く出られるが『カードだからと言って無闇矢鱈と偉そうにするのはみっともない』と考え……いや自制している

それなり以上に育成への適性はあるが基本的に入手したカード達が(少なくとも今のところ)当たりなカードばかりなのでこの結果なだけである

結構運が良い(特に厄を回避する系統の幸運に恵まれている)……が、冒険者である限り何時かは絶対に『破滅的な災い』に遭遇する事は定められている(今はまだまだ準備期間に過ぎない)

巨乳派であり何時かは好みのタイプなシルキー(むしろ女の子カードならだいたいは)が欲しいと思ってはいるがそう思っているだけで実際にはむしろ『強いカード』や『便利なカード』を絶対的に優先する傾向にある

幼少期に世界中で起きた『とある大事件』の影響で『力』を求める性格になった(求道派冒険者あるある)

『冒険者になる』という目標の為に身体をそれなり以上に鍛えている(ちなみに普通に生きていたら『もやし、鶏ガラ体型』になっていた)

知人や彼を知る人間の一部は『白大根』に彼を例える者もいる

ある種の『漆黒の意思』みたいなもの(の萌芽)を魂に宿している

 

外見的には『アスキーアートのできない夫』で見ればだいたい合ってる

 

『やる夫』をモチーフにした先達が居た為。その発想が気に入って個人的に一番イメージがしやすく『小市民』を想起しやすい『できない夫』をモチーフにしてみた(『やる夫』の対になる『やらない夫』だと筋肉モリモリマッチョマンの変態になりそうだから却下し、『できる夫』と悩んだ結果で『できない夫』に決めた)

 

 

第六話豚と蕪なら煮物が美味そう(但し材料費二百ン十万円)

 

【Tips】ジャック・オー・ランタン

 

ヨーロッパにおける鬼火(妖精とも亡霊とも)の一種。日本でいうなら『お盆』の様なイベント『ハロウィン』のマスコットとして有名

 

元々は性質の悪い悪戯を重ねていた為に天国に行けず、悪魔にさえ悪戯した為に(賭け事という説もある)地獄にも逝けなくなった男の魂だと言われている

 

彷徨う男は夜道をあても無く歩く為にハロウィンの時期にはよく捨ててある萎びた蕪をくり抜いて提灯にした。それと男の名前から『提灯ジャック』となる

 

本編にも記載したが、大航海時代にアメリカに移民した白人達がハロウィンを祝おうとした……が、蕪はアメリカの(少なくとも当時の)土地には適応しなかった為に南瓜を代用品にしたのが現在のハロウィンの始まりである

 

カードとしては魔法特化そのもの。火炎系攻撃魔法メインだが幻惑、弱体化にも適性がある

 

物理的にはかなり弱く、相手がFランクでも白兵戦を得意とした『強いFランク』なら殴りあいは避ける方が無難なレベル(殴りあいに強いEランクならまずやめておくべき)

 

実は案山子としての身体はほとんど単なる飾りであり、本体は宙に浮く南瓜か白蕪の頭部(一応は案山子パーツも身体の一部なのでダメージ判定はあるが決して致命傷にはならない、案山子パーツは全損しても数日で完全復活する……が、この案山子パーツはジャック・オー・ランタンにとっては『服』みたいなものらしい)

 

ハロウィンに纏わる存在である為かほぼ全ての個体が『お菓子が大好き』という共通した性質を持つ……お菓子を沢山与えれば回復速度が幾らか早くなる程度には(先天技能に内包された特性らしい)

 

属性は『火炎/妖精/精霊/アンデッド』、進化先はかなり色々あるが個体ごとにバラつきがあるらしい(但し、必ず火の性質がつよくないと基本的にダメらしい)

 

大概の冒険者が二体目のDランクカードとして選ぶ事が多いカードとして有名な奨学カードの一種

 

【種族】ジャック・オー・ランタン

【戦闘力】110

【先天技能】

・除霊祭の提灯

ハロウィンの提灯として炎を以て悪霊を祓うジャック・オー・ランタンの灯火を示す。火炎特化攻撃魔法、初等状態異常魔法、空中浮遊、嗜好品回復(お菓子/軽)を内包する。

・案山子の身体

ジャック・オー・ランタンにとって案山子の身体は『服』と同じ扱いであり、万が一の時にはトカゲの尻尾の様に簡単に切り捨てられる。

一回だけ案山子の身体を身代わりにする事で致命傷を防ぐ事ができる……が、案山子の身体が再生するまで召喚を忌避する傾向がある(マスターの扱い次第ではその状態で召喚するとマイナススキル発生の恐れがある)。

耐久性低下を内包する

 

後天技能には火炎魔法強化や魔法系が多いが回復魔法と白兵戦技術はまるで駄目だった(回避能力向上は獲得したケースが結構あるらしい)

 

 

第七話 星を探す。仲間を顧みる

 

【Tips】『収納』

 

カードモンスターはカード化したアイテム以外はカードに戻す時に一緒には戻せない(無理矢理カードに戻すとその物品は消滅するらしい)

 

しかしこの『収納』というスキルがあればそのランクに限り荷物を保有できる

 

色々なランク差はあるが最低限技能となるなら押し入れ程度には収納量が存在する……プロを目指すなら何気に欲しい技能として密かに人気の技能である

 

ちなみに……なろう小説などによくある『収納鞄』みたいな魔道具は存在するが基本的に『所持禁止魔道具』としてギルドの強制買い取り対象となっている(幾らでも犯罪に使える代物につき)

 

その亜種である『カードホルダー』や『魔石袋』などの用途が限定的な物は使用や所持に制限が無い(カードや魔石は何気に嵩張るし)

 

基本的には一部の最初からこの技能を保有するカードか……賭けになるが『オーブ(何時か後述)』に頼る以外での獲得は難しい

 

※:恐らくはこのシステムが『原作』とこの作品における最大の乖離ポイントかも知れない

 

 

第八話星に至る壁は遠く厚く

 

【Tips】ブラウニー

 

身長1m程の襤褸布を纏った醜い……けれど何処か愛嬌のある小人型の妖精

 

イギリスの『お手伝い妖精』であり、基本的に真面目に働くが決して衣服を(靴下一つすら)与えてはならない

 

それを与える事は『ブラウニーの解雇』を意味し、そのブラウニーを確実にロストしてしまう結果になる(原典では『ブラウニーは衣服を求めて召使いをやっている』のだが)

 

基本的に掃除洗濯、子供のお守りなら得意で料理は……うん、『昔のイギリス出身』という事を考えればね(大輝のブラウニーが最初から持っているレシピが『ハギス』『鰻のゼリー寄せ』『スターゲイジーパイ』だという地点で察して欲しい)

 

料理なども一応は(レシピなどで)教えれば上達はするが……決して上位互換であるシルキーには敵わない(むしろそのシルキーに使役される存在がブラウニーである……オークがボアオークに、河童が水虎に使役される様に)

 

ほとんど純粋な『属性/妖精(それと家)』 なのでそのブラウニーが女性型ならばシルキーやキキーモラなどの上級のお手伝い妖精にクラスチェンジがオススメされ。男性型ならばドワーフやレプラコーンなどが基本だろう……日本の座敷童なども(家繋がりで)進化先に出来る

 

【種族】ブラウニー

【戦闘力】70

【先天技能】

・下級家妖精:人間の代わりに家事をしてくれる妖精。……が、迷宮内では家などないためいまいち使いどころは不明。みすぼらしい格好をしているが、衣服を与えるとロストしてしまうので注意。初等家事魔法を使用可能。

・初等状態異常魔法

 

後天技能に罠探知・解除などのお役立ち系技能や……稀に下級収納や下級鑑定を獲得する個体が出やすいとも言われている

 

 

第九話 曇天高くされど高く高く掲げよ大漁旗

 

【Tips】所持禁止類魔道具

 

読んで字の如く法律に拠って民間冒険者は所有、使用そのものを禁止されている魔道具

 

魔道具は基本的に通常空間でも使用が可能である為、一部の『非常に便利だけど現代社会に於いては危険な魔道具』や『誰がどう考えても危険な魔道具』などを規制する為の法案と其れ等を示す言葉

 

代表例中の代表例であり作中にも出て来た『白紙のカード束』や『透明化装備シリーズ(指輪やマント、兜などがあるらしい)』、『どんな荷物でも無限に入る鞄』、『人の心を読む力を持った装飾品』などの便利だけど使い方次第で非常に危険な魔道具

 

『惚れ薬』、『忘却薬』、『目標を確実に呪い殺す藁人形』、『どんな願いも叶えてくれる何か(例:猿の手……この手の道具は非常に莫大な代償を求めてくる)』などの色々な意味で危険極まりない魔道具

 

そういった危険物を確保、収容、保護(管理)するのもギルドの重要な役割である

 

そういった危険物は発見次第(迷宮離脱時)直ちに(なるべく)最寄りのギルドに持ち込んでギルドに売却する義務が冒険者には存在する

 

基本的にこの法律がまともに効果を持つのは(チーム単位でも良いから)四つ星冒険者資格獲得時(Cランク迷宮攻略権獲得時)からなのだが……ごく稀にFランク迷宮のガッカリ箱からでもこれらが出る可能性もある為全冒険者にこの法律の存在は認知されている

 

ちなみに……これらを売却したお金は完全に非課税となる(ちゃんと義務を果たした冒険者に与える『飴玉』の一つだからでもある)

 

これらの魔道具らは……使い勝手の良いものはAランク迷宮攻略に血道をあげる自衛隊冒険者達に支給されたり、ギルドや警察が厳重に管理しながら使用したり。純粋に危険な魔道具は何処かの秘密倉庫に封印されている……らしい

 

 

第十話 その按摩、値千金也

 

【Tips】高価値技能

冒険者界隈だけでなく世の中には『需要と供給』という概念がある

冒険者界隈にも『非常に希少かつ有益なスキル』というものがある

 

今の今まで散々『欲しい』と言っても得られない『回復系技能』から他にも『魔法系技能』や『感知系技能』などや特殊な『便利系技能』などが良く『高価値技能』として良く挙げられる

 

特に貴重な技能として有名なのが『収納系』や『鑑定系』である

 

この二種類の技能持ちカードは例えどんなに弱いカードでも最低百万円からの取り引きとなる(低級収納持ちゴブリンとかみたいな)

ちなみにDランクの女の子カードが『低級収納』持ちなら二百万円の増額になる(更に需要が増えるからだ)

 

中には『メイドマスター』や『座頭/○○位』、『女郎/○○位』みたいな職業系かつ階級型なスキルも存在し、物によってはとんでもない値段になる物も存在する

 

一部の『これらの技能を覚えやすい』と言われているカードでも修得率は基本的にかなり低い(『名付けしたカード』だと修得率はかなり上がるらしい……という都市伝説が有るとか無いとか)

 

 

間話その一 この世界ならどんなモブだってチャンスは必ずある話

 

【Tips】鬼

基本的に我々が認識している『鬼』というものは『桃太郎の敵役』や『地獄の獄卒』、『強い情念や怨念で人や獣が転じたもの』、あとは西洋の御伽噺の人喰い鬼の類だろう

 

しかし……この『鬼』という言葉は元々は『幽霊』や『何だかわからないもの』というのが原初の意味だったらする

 

要はこの『鬼』はカード属性として捉えるとかなり多種多様な性質を内に含ませる事が可能になる

 

邪悪なヒューマノイドや巨人、地獄の沙汰も金次第番人、幽霊や怪異そのものと多岐多様な性質を持っているからクラスチェンジやマイナーチェンジの対象には事欠かないという特徴がある

 

逆に『リンク属性』として考えるなら……実は非常に面倒な代物でもある

 

数多くの『鬼』という概念から自分に本当に適した概念を探さないと成長が中途半端になりやすいからだ(人に拠っては巨人属性だったり幽霊属性だったり……たまに鬼特化型なら全ての『鬼』を使いこなせるだろうけれど)

 

この鬼属性は。大概の冒険者達がオークを最初のカードに選ぶ傾向が多い為か後天属性に鬼が発生する可能性が高い事もあってかなりありふれた属性になっている

 

 

第十一話(ある意味)最初から原作主人公に対して絶対的に勝利している件について

 

【Tips】薬丸姫子

 

本作品の主人公である佐藤大輝の妹分にして恋人(大輝のヒロインは絶対的に彼女一人だけである)

 

名前の由来は『日本の苗字ランキング一万位』と彼女の造形の最初の骨子となったとある純愛系成人指定漫画のヒロイン(アニメ化もしている)

小学六年生の十二歳で蜂蜜色に近い金髪に深く澄んだ翠玉の様な瞳、抜ける様に白い肌の小柄なロリ巨乳美少女(身長148㎝、B82/W53/H79のトランジスタワガママボディの持ち主)

 

大輝の両親と同じく嘗てサマナーとして活躍していた富豪かつ一流企業重役の両親を持つ一人っ子で非常に溺愛されているお嬢様。彼女自身も物心がつき始めた頃に『第二次アンゴルモア』に被災したが隣に居てくれた大輝が命懸けで護ってくれたおかげで被害らしい被害もなく窮地を脱する事が出来た

しかしその幼いなりに魂に刻み込まれた体験でやはり彼女も『力』を求める気質を得て冒険者を目指す様になる

 

学業はそこそこ出来るが基本的に努力と反復によるものが大きいタイプ、運動神経はあまり良い方ではないがこちらは努力でまだ補える範囲。しかし筋肉や筋力は絶望的につかない体質(代わりにその努力は女性としての肉体美や魅力にほぼ全て行き着く体質)

但し身体は非常に柔軟に出来ている上に(自分の)身体の関節外しも出来るという特異体質の持ち主である(ちょっとしたヨガなら見様見真似で簡単に再現出来るしI字バランスも余裕。縄抜けなども訓練無しである程度出来るレベル)。但しその(ロリ巨乳な)体型に妨害もされるので『潜り込み』はやや苦手(華奢ではあるのだが)、今はまだ多少阻害される程度だが成長するにつれて潜入能力は必ず低下の一途を辿る運命にある

一種のコミュ力お化けで交渉能力や語学力はかなりのものがあり、母国語除いて三カ国語の読み書きが通訳レベルで行える(最低限の会話なら更に五カ国はいけるらしい)

その為か人脈は(その歳にしては)かなりのものがある(ダンジョンマート社長とも直通のコネがあるらしいしエメラルド・タブレット社にも幾つか……ちなみにあの『エアコンブローチ』は『姫子の瞳』をモチーフにデザインされたもので実は一点物)

ちなみに音楽、芸術系統のセンスはかなりのものがある。家事は……お手伝いさんや母親から教わって勉強中(要は花嫁修行中……少なくとも『メシマズ』ではない事は判明している)

 

性格は基本的に天真爛漫なあどけない一面と『冒険者としての力(アンゴルモアでも生き残る力)』を常に飢求する修羅としての基本的に二つの性質を混ざり合わせた人間性の持ち主

根本的には『大輝や家族、なるべく友人達とちゃんとアンゴルモアを生き延びて幸せになる』という大輝と同じ望みを抱いて冒険者を目指している……といった所か?

 

実戦経験はまだ(流石に)無いが何枚か(両親がくれた)Dクラスカードを持っている(うち一枚は装備系カード)

カードや護身用魔道具などで常に武装している

 

中学一年生になったら即冒険者デビューが決まっている(そして大輝とチームを組む事を含めて)

大輝に近いレベルで運が良い……が、極稀に激しい不運やトラブルに襲われる事がある(大輝のおかげで大概無事に済むが)

 

人格などの基本的なデザインは『カードキャプターさくらの木之本桜』と『アイドルマスター・シンデレラガールズの神崎蘭子』をベースに色々混ぜ合わせて『修羅』を隠し味にした結果こうなった

ちなみに声は『丹下桜』でイメージしている

 

ちなみにこの話に出てきた『強面とお巡りさんをとりなした姫子の友人』は実は『神崎蘭子(現姫子と同い年)』そのものである

 

アスキーアートにするなら『赤王ちゃま』が近い……だろうか?

 

 

第十二話 装備更新は幸せ(但し財布は軽くなる)

 

【Tips】キキーモラ

ロシアを発祥とする妖精の一種。その語源は『家鳴り(家屋がキィキィ鳴る音)』から来ている

 

少女、老婆、幻獣の三つの姿を持つとされ、本場ロシアではその三つの姿を使い分ける事が可能とされている

 

屋敷妖精らしく働き者の主婦の手助けをするが怠け者の主婦を喰い殺すという一面を持つ

 

日本ではそれぞれ少女、老婆、幻獣の三つの形態で現れる(変身能力のオミット)。値段は高い順から少女、幻獣、老婆。希少性は老婆、幻獣、少女。総合評価は幻獣、少女、老婆となる

 

ちなみに……老婆形態だけは『とあるロシアの魔女』へのクラスチェンジが可能になる、という特徴がある(その『ロシアの魔女』は非常に取り扱いの難しい存在だが、老婆形態キキーモラをちゃんと育ててクラスチェンジすると取り合い易くなる……とも言われている)

 

属性は『妖精/家(時に獣や鬼女)』で主に空間系か家事、職人妖精などにクラスチェンジが一般的(幻獣系なら一部の獣系統、老婆系なら魔女や鬼婆などに適性を得られる)。勿論ネイティブカードにクラスチェンジもあり

 

 

【種族】キキーモラ

【戦闘力】130

【先天技能】

・中級家妖精:人間の代わりに家事をしてくれる妖精。……が、迷宮内では家などないためいまいち使いどころは不明。メイド、高等家事魔法を内包。

(メイド:メイドに必要な技能を収めている。料理、清掃、性技、礼儀作法を内包)

(高等家事魔法:高度な家事魔法を習得している。家事魔法は攻撃能力を持たないが、家の中でできることに不可能はない)

・中等回復魔法

・中等状態異常魔法

 

後天技能には『使用人(メイドに在らず)』や使用人として適切な技術を獲得しやすい

 

 

【Tips】送り狼

日本に以外と数多く存在する狼の妖怪の一種。今は絶滅したニホンオオカミの習性から生まれた妖怪

 

夜道を往く者(特にか弱い存在)の周囲(特に後ろ)に張り付き跡を付け……走り出したり転んだりすれば容赦なく襲いかかる……が、転んだ際には『休憩をとるふり』をすれば襲われないと謂れている

 

夜道の恐怖から生まれた妖怪は結構な数が存在するが……この妖怪もまたそんな妖怪の一種であり今も慣用句の中で生きている存在だ

 

外見的には基本的に普通の狼であり……ほとんど『ワイルドウルフ』と代わりない灰色狼(ワイルドウルフよりも毛並みなどは綺麗)だが、二張りの提灯を召喚して自由自在に操る能力を持っている

 

会話能力は無いがその提灯を使えば『YES /NO』での会話などや『行け/行くな』などの簡単な意志疏通は可能(この提灯には戦闘能力は一切無い。壊れても『Fランク魔石一個』で直ぐに再生産可能らしい……無くても半日で修復可能)

 

提灯の灯火には『多少の感知能力』があり、たまに『空間系カードの影』

を捉える事が可能(かなり注意深く見ないとわからないが)

 

そして……送り狼最大の能力は『帰路限定のナビゲーション能力』であり。例えワープや何かで全く解らない場所に居ても必ず迷宮の出口まで連れて行ってくれる(勿論、送り狼が生きて動ける事は大前提だが)

 

このナビゲーション能力には幾つかの『制約』があり、その『制約』を遵守しないと『帰路のライン』を喪失するから要注意

その一:最初に必ず送り狼を召喚して迷宮出入り口を見せる事。これをしないと『帰路のライン』を構築出来ない

そのニ:使用中は決して走らない……送り狼に襲われる代わりに『帰路のライン』を喪失するから注意

その三:使用中は決して転ばない……やはり『帰路のライン』を喪失するが、転んだ場合は直ぐに『休みを取るフリ(最低でも一分は必ず)』さえすればラインの喪失は免れる

 

このナビゲーション能力にはある程度の『エネミー感知能力(提灯由来)』もある……それを利用して帰路のモンスターを(ある程度は)やり過ごす事も可能だろう

 

その能力から『廉価版アリアドネの糸』とも呼ばれている(アリアドネの糸は非常に貴重な『何度でも使える転移系魔道具』だが)

 

属性は『獣(狼)/妖怪』で犬科の怪物か妖怪かが一般的なクラスチェンジルートとなるだろう。Cランクの『黒妖犬シリーズ/バーゲスト(ネイティブ)』やライカンスロープ(人狼)、犬神や鍛治が嬶(ばば)など多岐に渡るクラスチェンジ先がある

 

 

【種族】送り狼

【戦闘力】110

【先天技能】

・獣は老いても道を忘れず:送り狼の最大の特徴である『帰路限定のナビゲーション能力』と『提灯を操り敵を感知する能力』が内包されている(先に挙げた制約も含めて)。

・奇襲

・集団行動

 

後天技能にはやはり狼らしい技能などが多い……稀に『火炎魔法』などを習得できる個体も居るとか居ないとか

 

 

第十三話 冒険者衣食住今昔

 

【Tips】カード化(追加項目&当作品設定)

 

建築物をカード化する際にはまずアンゴルモア(むしろカード化のシステムが解析されて)以降から出来た『カード化対応建築』してある建築物に限られ。そしてカードにも複数枚の白紙のカードが必要になる(ギルドには『何度でも使えるカード化魔道具』もあるがこれで『複数枚のカードが必要になるカード化』は不可能。必ず『白紙のカード束』が必要になる)

日本の通常家屋迄ならば一枚程度で済むが豪邸や通常の雑居ビルなら規模次第で数枚から十数枚、高層ビルディングなら数十枚は必要となる(病院や学校だと最低百枚は必要らしい)

 

原作にもある『一月分の食糧入りカード』は『家族四人が一月食い繋げられる分を段ボールなどに入れて』という型にしている

その段ボールを再利用すればまた『無限に保管出来る食糧庫』として再利用出来る……のは当作品の独自設定

 

キャンプセット一式のカード化もやはり当作品のオリジナル設定

 

沢山の器物を一纏めにカード化してからその器物(の一部)を破損したり紛失したりするとその器物はカード化能力を喪失する(ちなみにそれが機械製品などで中身が破損した場合なら『ガワ』だけでも残っていればガワを新品の中身に載せ替えてもう一度カード化が可能となる)

期限は『もう一度カードに戻す時まで』である

 

カード化した物品の温度や状態はカード化した瞬間に完全に固定される(アイスクリームを段ボールにいれれば一年経過しても冷たいアイスクリームのままだし、熱々のうどんを段ボールに入れて一年経過してもやはり熱々のうどんのまま)

 

カード化した状態で水中に放り込んでも中身には何の影響も無いが……どうやら電磁波パルスは防げないらしい(防ぎたいなら分厚い金庫か何かに入れておいた方が良いだろう……一部の冒険者達はEランク迷宮以降の『厄介なあれ』対策に分厚い金庫のカードをわざわざ用意している猛者も居る)

 

 

追記事項∶カード化能力を獲得した物品は基本的に必ず全て一緒に出てくる。複数の物品を一緒にカード化した場合はちゃんとカード化した時と同じ様に並べ直さないといけない。もしもきちんと並べ直さないでカードに戻した場合は『基点』となる物品(キャンプセットの場合は大概テント)を除いて全ての物品からカード化能力が喪失される

 

基本的にカード化能力は○級収納の下位互換として扱われる(安上がりかつ迷宮以外でも使える辺りは非常に大きなメリットではあるか)

 

 

第十四話『化けの皮』

 

【Tips】リンク(補足&追加設定)

 

今作主人公やその恋人みたいに登録前から『ちゃんとした冒険者』による(雇用などの)手解きを受けて冒険者を目指すタイプの……言うなれば『ブルジョワ勢』みたいなタイプは以外と存在する(原作のアンナみたいにちゃんとした冒険者を雇用して修得した者とか)

 

小夜や師匠みたいに肉親や知人からの縁故で教わった『縁故勢』みたいな者もいたり……中には自力でリンクの基礎を修得出来たマロの様な者もいる(これは『独覚』と呼ばれる最も優秀な素養の表れだ)

 

普通の冒険者は……三つ星以降から情報を集めて修得が殆どらしいが

 

 

【Tips】手の目

 

鳥山石燕の『画図百鬼夜行』に記載されている妖怪(若しくは怨霊)

 

座頭(盲目の弾き語りや按摩鍼灸師、金貸しなど)の姿で眼球が目ではなく掌にある妖怪。悪党に金を奪われ殺された盲人の怨みから生まれたとされる

 

この世界ではEランク迷宮でごく稀に(日本限定で)出没するレアモンスターの一種

 

『装備化能力』という珍しく、そして非常に重宝する能力を持つが……デメリットとして『眼球が掌に移る』上に『謎の雑音に苦しめられる』というマイナス効果がある為『役に立たない装備化能力持ち』のレッテルを貼られて即座にギルドに売却される哀しいカードである

 

この『掌に出来た眼』は本来の眼が盲目でも(弱視レベルとはいえ)ちゃんと視えるために病院などが常にこのカードを求めているため需要はしっかり存在する

 

 

……しかし、じつはそれは『カバーストーリー』で本当の手の目は自衛隊やギルド直属の冒険者達の訓練には必須な重要カードである(病院も求めている辺りは事実だが)

 

作中にもある通りこの手の目は『リンク用チューナー能力』を持った非常に珍しく重宝するカードだ。そして何故この能力が隠蔽されて『役立たずカード扱い』なのかは……『リンクは秘匿技術だから』という事と同じ理由だ

 

もしもこの能力を把握してギルドに報告すれば『口止め料』がそれなりの値段で貰えるだろう(何らかのDクラスカードとか)。ネットなどに書き込み……はブロックワードなどに阻害されるし仮に成功しても直ちに削除された上でギルドからの『警告』が来るだろう(勿論『口止め料』は無しだ)

 

嘘か真かこの手の目を使って戦う冒険者も居るとか居ないとか……そういう噂もあるらしい

 

 

【種族】手の目

【戦闘力】50

【先天技能】

・手目坊主:探知能力を向上させる……何らかの隠されたものを探る事が出来るとか?(詳細不明……但しマスターが『盲目』である場合は完全に行使可能らしい)

※:未だに未解明な処があるスキルなので何かしらの情報が有ればギルドにご一報を

・化けの皮:憑依型装備スキル。特殊なデメリットはあるが他のカード或いはマスターに憑依する事で自身の戦闘力の六分の一を加算させる事が出来る(マスターへの憑依は全ての戦闘力とスキルを共有できる)

 

後天技能に『座頭としての技能』が先に来るが……稀に『○級鑑定』に武術や杖術、一部の剣技を修得する個体も居るらしい

 

 

第十五話猪鬼将軍と手目坊主

 

【Tips】ボアオーク

 

オークの先祖返りとも進化形とも言われるオークの上位種族。基本的に頭が猪になった事以外はオークそのものな外見……だが

 

オークの弱点である頭の弱さ、鈍重さ、不器用さに魔力の無さを全て克服している上に元からの強みも強化された紛うことなきオークの上位種族

 

そしてその真価は……『オークの上位種族としての特性』から来る固有の先天技能『猪鬼将軍』だろう。この能力は『眷属召喚』という能力の一種で一日に最大三十六体、一度に六体までの『眷属オーク』を使役出来る、という能力だ(その『眷属オーク』は全て全裸か腰蓑か褌一丁で素手という姿でカードのオークよりもかなり弱い代物ではあるが)

 

クラスチェンジ経路や属性なども基本的にオークと同じなので磨きあげたオーク使いはまずこのボアオークにマイナーチェンジするのが鉄板とされている

 

海外では『ウルク・ハイ』とも呼ばれている

 

【種族】ボアオーク

【戦闘力】180

【先天技能】

・猪鬼将軍:『眷属召喚』の一種、カード版よりも劣化した『眷属オーク(後天技能無し、戦闘力八割)』を召喚使役出来る『上位オーク』としての特性

頑丈、怪力、統率を内包する

・武術

・威圧:強烈な迫力で敵の動きを鈍らせ、稀に怯ませる事が可能。但し臆病な気質持ちか『格下』にしか通用しない

 

後天技能は基本的にオークと同じだが魔法や一般技能もある程度習得可能

 

 

 

【Tips】グレムリン

Eランク迷宮からなら世界各国どの迷宮にも必ず出没する冒険者や軍人全ての嫌われ者

 

第一次世界大戦における飛行機の故障(実際には技術がまだ未熟だったせいだが)の原因として飛行機乗りに恐れられた近代の妖精とも悪魔とも言える存在

 

外見的には八十年代のあの有名な映画に出てくる『あのクリーチャーに纏わる最後の約束を破った後の姿に蝙蝠の羽根を追加した様な』小柄かつ醜悪な小鬼。羽根はあるが短時間の滑空程度にしか使えない

 

こいつの特性は『機械の否定』、幾らかの溜め時間と集中の後に放たれる特殊な電磁波で機械類を全て破壊する事ができる(懐中電灯や銃、手巻き懐中時計程度に複雑な機械なら確実に破壊出来る……実験の結果火縄銃や単純な構造のボウガン辺りならば使用可能ではあるらしい)

 

この効果は『人工魔道具』にも有効であり、冒険者必携の『冒険者ライセンス』などもこの効果で破壊されるし……冒険者の大事なツールである電子端末も勿論影響を受ける

 

その為、こいつが出るEランク迷宮からは通常のモンスターによる死者が出やすくなるので常に警戒が呼びかけられている(慣れ始めた頃によくある事故らしい)

 

基本的に悪戯好きで取り合いの難しいカードだから人気は無いが使いこなせれば逆に非常に便利な代物ではあるらしい(よくすれ違った他の冒険者に攻撃されるらしいが)

 

 

【種族】グレムリン

【戦闘力】60

【先天技能】

・機械の天敵:グレムリンを象徴する能力。二秒三秒の溜めと集中を必要とするがありとあらゆる機械類を破壊出来る電磁波を放てる

この能力は半径五十米が有効範囲となる

この能力は育て方次第で色々な成長の余地がある……らしい

・悪魔妖精:悪魔妖精の亜種、妖精にして悪魔。育成次第で悪魔にも妖精にもどちらにでもなれる存在。魔法に対するプラス補正

後天技能は基本的に魔法系と技術、知識がメインとなる

 

※:『原作』では『機械にかける呪い』という事になっているけどこの作品では『電磁波による機械破壊』として扱います

 

 

【Tips】シークレットダンジョン補足項

今回みたいに『比較的旨味の少ない素人向けのシークレットダンジョン』は偶に『見処のある新人冒険者の試験用』に使える事がある。今回のシークレットダンジョンはEランク階層からカーバンクルが必ず一から最大三体発生するという仕様になっている(ついでに『金色のガッカリ箱』のアタリ率も高いらしい)

 

但し、普段はかなり発見は難しい隠し部屋などに隠れている上にこの迷宮がシークレットダンジョンである事は受験者当人が気付かない限り決して教えられる事は無い

 

大輝の場合はちゃんとこの迷宮に沢山のカーバンクルが居た事を報告したので(手の目の件も含めて)かなり良い『口止め料』が貰えた

 

『試験用ダンジョンには守秘義務がある事』と『政府や自衛隊は一人でも優秀な冒険者が欲しい事』から思いついた発想

 

 

【Tips】ズンドコベロンチョ

 

ありとあらゆる全てが正体不明の珍味。分かる事は『ガッカリ箱からごく稀に出る』、『一流以上の料理人や料理技能持ちカードでないと調理不能』、『ズンドコベロンチョという名前である事』だけである(全てのカード達が皆これを『ズンドコベロンチョだ』と証言し、非常に美味である事を教えてくれた)

 

今もこれの正体を探る為の研究は(食品系企業メインで)続いているが成果は未だ無い

 

 

第十六話『札見ノ式』

 

【Tips】札見ノ式

最低限でも『リンク』を理解したばかりのリンク初心者マスターに推奨される行為

 

そのマスターの師匠(若しくはパトロン)などがそのマスターに取り行う

 

沢山の……なるべくバラバラな属性のカードをそのマスターに契約させてその使い心地を試させる事でそのマスターが保有している属性を推し量る

 

これによって『そのマスターと相性の良いカードの傾向』が解る様になり、デッキをその傾向で編成する(そしてリンク能力を高め易くする)のが目的

 

この『札見ノ式』は基本的に『その傾向がある程度推測できるだけ』なので他にもまだ見ぬ可能性が眠っている事は忘れてはいけない

 

 

【Tips】不適合属性

 

今作品オリジナル設定。リンク属性には極めて稀に『その属性とは致命的に相性が悪いマスター』が存在する

 

基本的に敬遠な十字教徒なら悪魔、メガテニストなら天使、若しくは恐怖症とその対象みたいにその属性を蛇蝎の如く嫌っていても普通なら多少相性の悪い食わず嫌いも同然の状態なのだが(現に原作でもダンジョンヘイトの連続殺人鬼がリンク能力を使い熟せて凶行を繰り返しているのが何よりの証拠である)

 

しかし……極めて稀にそういう好悪一切関係なくその対象とのリンクどころか召喚にすら悪影響を齎すマスターが存在する

 

『佐藤大輝』も極めて希少な『属性不適合』持ちの……それも特に厳しく珍しい『女の子』に対する『属性不適合』である(普通ならば『天使』だの『妖精』だの『アンデット』みたいな種族系統だけであるのが普通なのだが)

 

ちなみに……現在『女の子』に対する属性不適合持ちは佐藤大輝ただ一人だけだが『男性』に対する属性不適合者は一人だけ確認されている(ある意味大輝より酷い制限である)

 

この『属性不適合者』という存在にはその制限の対価として何らかの『冒険者としての強み』が必ず存在する……らしい(大輝ならばあの冗談みたいな豪運だろうか?)

 

そしてこの『属性不適合』だが……人に拠っては『その対象の召喚、契約すら不可能になる』事すらあるらしい(更に実例の少ない未確認情報だが)

 

 

【Tips】予備戦力

 

ガチ勢のカード達だって常に戦いっぱなしでは身体や心が持たない。だからちゃんとしたマスターはカード達にもある程度ちゃんとした休息を与えたり……万が一にも主力が全滅した際に備えて『予備戦力』を作る

 

ちゃんとしたガチ勢ならばこれは『一般常識』としてそれなり以上に稼げる様になれば行う不文律として扱われている話題だ

 

 

第十七話 冒険者の醍醐味はデッキ編成とコレクション閲覧に有り

 

【Tips】カードホルダー

迷宮産のカードであるならばモンスターカード、マジックカード、アイテムカード全てを問わず無限に収納出来るプロ冒険者や札商(政府公認のカードディーラー)の必需品

 

所有者以外以外はカードを取り出せない防犯機能やその時取り出したいカードが一番上に来る機能や内部の保有カードを検索して網膜にデータを映し出す機能、『デッキ登録機能(要はお気に入り登録)』……そして『空間系カード』をデッキ登録しているカード達の拠点としてデッキ登録カード達に(スリープ中は)解放する機能などが存在する

 

 

第十九話 だん☆キャン△(準備編)

 

【Tips】プライベートダンジョン(追記:冒険者資格を持たない人物、未成年の入場について)

 

プライベートダンジョンには所有者の許可と最低限Dクラスカード二枚の所持(貸与でも良い)さえあれば冒険者ライセンスを獲得出来ない小学四年生からの入場は許可されている(とある特殊なダンジョン……東京ドームダンジョンやファンタジーランドジャパンみたいなものなら無制限だが)

ちなみにそういうダンジョンでも許可が与えられるのはFランク迷宮迄であり、それ以降のダンジョンにはちゃんと冒険者ライセンスを獲得してからになる

ちなみにプライベートダンジョン所有者が企業などである場合は貸与用の奨学カードなどを多数ストックしているパターンが多く、ごく稀にリンクへの非常に強い適性持ちをこれで探す、という裏目的もあるとかないとか……

 

 

【Tips】美城学園

 

大輝や姫子が通う幼稚園から大学院まで存在するマンモス学園。十八年前の第一次アンゴルモアでサマナーの一人として活躍した美城一族の一人の肝入りで『冒険者育成』の萌芽となった冒険者とアイドルの梁山泊的な学園として有名である

基本的に実力主義的な気質だが良識と倫理観が最優先視されている校風を持つ為かアイドル学園としては以外と長閑である(しかしアイドルや冒険者達は非常に実力派揃いだが)

この学園の生徒(教師)達は確かに良識や倫理観はしっかりしているが……それ以前に非常に灰汁の強い曲者揃いで有名(特に冒険者育成科と芸能育成科の連中は)

この学園施設内にはCランク迷宮が一つ存在し(勿論、ダンジョンマート付きで)。その管理は資本元である346プロダクションのプロデューサー(兼所属冒険者チーム)らが行っている

ちなみにそのチームのリーダーは『剣と声がそっくりなあの強面の御仁』である(勿論、四つ星冒険者資格持ち)

 

 

第二十話 だん☆キャン△(実践編)

 

【Tips】リゾートダンジョン

『リゾートダンジョン』とは、数あるダンジョンの中でも『観光、娯楽目的にも使えるダンジョン』の事だ

 

E Fランクの余り攻略の旨味が無い……しかしビーチや避暑地、ゲレンデになり得る形質のダンジョンはよく冒険者専用の娯楽場として冒険者達が(娯楽目的で)やって来る

 

勿論、最低限ちゃんと冒険者ライセンスを獲得し、少なくともDランクカード一枚が必要な(命懸けの)娯楽施設ではあるが(勿論、偶にうっかり死ぬ者が出るのはご愛嬌)

 

世間にあるキャンプ施設の様に入場料は(プライベートダンジョンでもない限りは)必要無いが……内部には(自衛隊が設置したトイレ以外は)施設なぞ普通は無い

 

今回のプライベートダンジョンみたいな好条件のリゾートダンジョンは基本的にまず滅多に存在しない……が、大概は出入り口にダンジョンマートがあるから大概の簡易的な買い物や支度は其処で行うから大丈夫だろう

 

 

第二十一話 だん☆キャン△(逢引編)

 

【Tips】マーメイドの水着と理想の下着

 

『人工魔道具』というものの歴史を語る上ではかなり重要なものがこの『理想の下着』である。かの有名なエメラルドタブレット社が大迷宮時代の比較的初期の頃合いに開発に成功した大ヒット商品がこれだ

 

女性下着というものは少女期なら成長で直ぐにサイズが合わなくなったりするものだろう(特に成長の早い者だと)。妊娠や加齢などで体型が変化する事だって普通だし、女性下着には身体にフィットさせなくてはならない性質上汗疹や衣擦れによるダメージは常に深刻な問題となる

 

この人工魔道具の発明はそんな女性下着の問題を根本的に解決してくれた……ついでに体型維持能力も高いので世界中の女性から絶大な支持を得る事が出来た(ごく一部のダンジョンアンチ以外からは)

 

この女性支持がエメラルドタブレット社や迷宮関連企業への期待の種火(他にも沢山あるが)となり……第二次アンゴルモアの災禍も相まって迷宮関連企業は世界的に評価されて現在の様なトップ企業へと躍進を果たした

 

ちなみに……この『理想の下着』関連の技術は全世界のランジェリーメーカーがライセンス使用料をエメラルドタブレット社に支払っての販売形態をとっているらしい(エメラルドタブレット社に下着作成のノウハウなぞ全く無いから当然である)

 

それと……『マーメイドの水着』は通常の水着メーカーとは(今の処は)競合せずに別々になっている(『マーメイドの水着は高級品過ぎる』が故に普通の水着とは別の代物扱いとして)

 

基本的にまだまだ『マーメイドの水着』はセレブか冒険者専用という意味である

 

 

第二十二話 だん☆キャン△(白夜編)

 

【Tips】カードトレード

読んで字の如くカードの交換。例えば○○が欲しいから持っている者と自身の所有する等価の✖️✖️を交換して貰う……TCGのものと基本的には同じもの

 

基本的にトレードするカードは等価交換が原則であり……その原則を破る輩は『シャークトレーダー(要は詐欺師)』として冒険者界隈で忌み嫌われるだろう(莫大な金銭によるやり取りなので現実のカードゲームのものとは訳が違うのである……基本的に百万円単位だと言っても良い取り引きだけに)

 

例えば……基本的にCランクとDランクのカードは売却価値からして違うだろう(Cランクは最低限にでも市価の半分、Dランクは市価の十分の一……市価でトレードしたらどうなるかは分かるだろう?)。他にも瑕疵カードである事を隠してのトレードなどもそうだ(原作でも【Tips:某サイトにおけるマイナススキルの評価基準】のうんこっこスキルの記載にもあったあれである)

 

勿論、これも魔石取り引きと同じく冒険者ギルドはこの行為に纏わるトラブルには一切合切関与しない(やっても弁護士の紹介ぐらいだろう)。魔石取り引きもカードトレードも根本的に全て『自己責任』である

 

【Tips】トムテ

北欧(スカンジナビア半島)におけるサンタクロースの原型、働き者の農家を守護すると言われている。少なくともブラウニーよりはマシな服を着て、必ず立派な赤い帽子を被った髭の長い四本指の小人の姿をしている。と言われている

 

性格は優しくはあるが非常に気難しく……粗末に扱ったり怠け者に堕ちればその家を容赦なく見放すドライさと悪戯には必ず仕返しを行う執念深さを持っている。言わばスカンジナビア半島的な座敷童みたいな存在でもある

 

この妖精はポリッジ(ヨーロッパ式の主に麦から作る粥)を好み、ユールの日(要はクリスマス)に必ず供える必要があるとされている。特に『ユールグロット』と呼ばれている米を使ったものにバターを入れたものをお椀一杯たっぷりとである(ちゃんとやらないと酷い悪戯をしたり隣の農家から食糧を盗んだりするらしい)

 

この地点ではまだ『貰う側』だった

 

スカンジナビア半島がキリスト教化したときには一時は『悪魔扱い』されたりもしたが神仏習合の結果サンタクロースの一側面となった(サンタクロース化した状態を『ユールトムテ』と言う)。その結果が今この場にあるカードである(ユールトムテはスカンジナビア半島限定でトムテの上位互換カードとして存在する)

 

基本的にあまり強いカードとは言えないが、少なくともブラウニーよりかは可愛い姿かたちであり……何より最初から『低級収納』を持った優秀なサポート役である(その見た目からか割と女性人気は高いのもあるが)。トムテは納屋や食糧貯蔵庫に棲むとされている為だろう

 

最初は強化ブラウニーみたいなスペックだが成長すると職人系技能を獲得したり稀に運勢操作系技能を獲得したりもする。斥候役としてなら即戦力枠だが

 

基本的には妖精だが……キリスト教に貶められていた時期の影響で『悪魔』としての素養も僅かながら存在する(約束への真摯さと仕返しの酷さ以外ではまず出てはこないが)

 

【種族】トムテ

【戦闘力】130

【先天技能】

・中級家妖精(農):人間の代わりに家事をしてくれる妖精。……が、迷宮内では家などないためいまいち使いどころは不明。農夫、中等家事魔法を内包

(農夫:農家として必要な技能を一通り習得している証。獣の世話なども可能)

・下級収納

・下級状態異常魔法

 

基本的に作業支援や農業(特に家畜の世話)が得意なのであまり戦闘能力には期待しない方が良いだろう

 

 

【Tips】ケット・シー

アイルランドの伝承にある猫の妖精。人前ではただの猫だが、本性は二本足で人間のように動き、言語と魔法を操る種族とされる。『猫の貴族』とも呼ばれるが、宗教の影響で悪魔扱いされた時期もある

 

貴族的か道化師的かのどちらかの振る舞いが基本的なケット・シーだとされている

 

カードとしてなら基本的にはスピードタイプのアタッカーだが魔法技能獲得もかなりしやすい駄目『魔法戦士』としての運用にも期待出来るし割と器用なので育て方次第では斥候役にも充分なれるオールラウンダー

 

妖精かつ猫の要素でクラスチェンジはその辺りから考えると良いだろう

 

【種族】ケット・シー

【戦闘力】150

【先天技能】

・猫妖精:猫型妖精、猫の基本的な能力、特性と魔法への高い適性を示す

・武術

・爪牙強化

後天技能には必ず一つは魔法が入る

 

 

【Tips】レッサーデーモン

『下級の悪魔』という概念そのもの。基本的に山羊頭で筋骨隆々の黒い全裸の大男の姿をしている。基本的に戦闘行為以外にはあまり使えない(オークと同レベルで)

 

一応はオークの上位互換扱い多少の魔法なら成長次第で扱えるしオークより少しは頭が良い

 

高位悪魔の眷属としてよく見かけるがこうしてちゃんとカードにも存在している

 

【種族】レッサーデーモン

【戦闘力】150

【先天技能】

・集団行動

・頑丈

・怪力

後天技能には武術や何らかの魔法(攻撃、状態異常限定)を習得する事が多い。稀に『飛行能力』を得られる個体も現れる事がある

 

 

第二十七話 イレギュラー

 

【Tips】瓜子姫(その1)

 

日本各地に存在しないする御伽噺……をモチーフにしたと思われる死神イレギュラーエンカウントの一種

 

一見すれば襤褸を纏い山姥が持つかの様な凶悪な出刃庖丁を持った人間の美女(老若問わず)に見えるがその姿はこの死神が嘗てアンゴルモアで殺した女の姿である。そしてその襤褸も『人間の生皮』である

 

このイレギュラーはその出刃庖丁で他者の生皮を剥いで他者に化ける能力を持っているが、前に言った『美女の姿』もまた『嘗ての犠牲者の姿』である

 

その本当の姿は生皮を剥がれた人間と鬼が融合したかの様な悍ましい怪物だとこの死神に遭遇した生還者達から証言が寄せられている

 

この死神にはある程度の読心能力があるらしく、戦闘などには使えないが代わりに『他者を欺き騙す』事には無類の効果を発揮する(恐らくは『天邪鬼としての特性』だという説が研究者内では有力視されている)

 

読心能力で犠牲者の来歴や基本的な癖を真似るのが非常に巧く、余程の観察眼か獣の様な直感でも無いと初見ではそうそう気付く事は出来ない(服も剥いでちゃんと着てくるというのもあるからだろう)

 

この死神は他の死神と違い『パーティー攻略する者達が遭遇する方が更に危険』という珍しい性質を持っている

 

瓜子姫相手に多人数で挑むと……

 

【Tips】瓜子姫(その2)に続く

 

 

第三十話 イレギュラー・リザルト その2

 

【Tips】武具整備

 

魔道具の武具は基本的に壊れたら直せない……が、ちょっとした刃毀れや罅、切れ味の摩耗など普通の武器と同じ様にある程度ならきちんとこまめに整備修繕すれば長持ちする

基本的にCランクのドワーフやイッポンダタラみたいなその魔道具の素材に適応する職人技能を持ったカードには対応する魔道具の整備修繕が可能になる

ギルドではそういうカードを持たない冒険者の為に比較的安価で整備修繕代行をやってくれるサービスが存在する。ちなみにだいたい三日から一週間の時間がかかりだいたい五千円から五万円ぐらいの費用を要求される

それなり以上の冒険者で魔道具を多用する冒険者なら必ず対応する職人系カードを保有する事は嗜みの一つとされている

ついでに整備修繕を担当する職員は刃物供養も担当してくれる

 

 

第三十一話 一難去ってもまた一難(※準備期間中)

 

【Tips】被服問題

 

この物語の主人公大輝&ヒロイン姫子みたいに中学生からの未成年冒険者は戦闘服をちょくちょく変更する事が必要になる、成長期だとままある事だが

主人公大輝なら自衛隊用の大柄サイズから選べば良いがヒロイン姫子みたいなケースだと特注を余儀なくされる

ガチ勢ならば何度だって戦闘服を更新するだけだが、大多数のエンジョイ勢だとこの手間や費用支払いか面倒になってカジュアルな服装で……という冒険を舐めた格好で活動する様になる

戦闘服は確かに頑丈でちょっとした鎧みたいな代物ではあるが、やはり通気性や重さなどからエンジョイ勢などからは嫌われている

そして大半のエンジョイ勢達は『カードのバリアがあるから』とカジュアルな格好でFランク迷宮のみを潜ってゆく

そしてこの判断が稀に生死を左右するのだが……

 

 

第三十二話 ウホッ、いい男

 

【Tips】メアリー塾(その1)

 

『第一次アンゴルモア』直後に『鬼瓦権三郎氏』が立ち上げたサマナー達の相互扶助組織を前身とする日本最古かつ最高峰の冒険者育成私塾

塾長、副塾長の鬼瓦夫妻を筆頭に『Bランク迷宮踏破実績持ち』である『首狩り兎』『中華大帝』『夢魔の王』などの日本有数の冒険者達を生み出した『プロ冒険者の梁山泊』とも一部では呼ばれている

鬼瓦夫妻そのものの実力は『非常に優秀なアマチュア』だが、その人間性や若手育成の巧みさなどから『冒険者業界の亀仙人』、『メアリー師匠』などなどと呼ばれて業界内では慕われている

鬼瓦夫妻はギルドの幹部でもあるのでギルドにも非常に強いコネがある。またこのメアリー塾のサマナー訓練方法は幾らか自衛隊にも輸入されている為か自衛隊にも強いコネがある

最近は『リンクの鬼才』『中学生迷宮士』の二人を筆頭に数々の優秀な若手が出て来ている様だ

 

 

一章幕間その1 家族会議とこれから

 

【Tips】独立勢力

 

美城学園の学生冒険者達は大概『複数ある大規模な学園ギルド』に加入して行動する者が多いが、稀に『独立した勢力』を旗揚げする者も居る

大概は大規模なギルドのどれかに吸収合併されて終わるがごく稀に逆に大規模ギルドを『喰う』強者が現れるケースも存在する

基本的に『ソロ派』や一匹狼などが独立勢力として気ままにやってゆくパターンが多いが更に稀に『独立独歩の自由主義者』や『大規模ギルドに馴染めない気性の持ち主』などが立ち上げることがある

その上位存在である『部室付き』になる為には『三つ星資格持ち』、『イレギュラー単独討伐実績持ち』、『迷宮士資格持ち』のどれかが必須資格となる

ちなみに『部室付き』は純粋なソロでも資格さえ有れば書類申請だけで受理される

与えられる『部室』は八畳一間の古いエアコン、冷蔵庫と折り畳み椅子にテーブルだけの簡素な空間になっている(改装は自由だが部室返却時には片付ける必要がある、当たり前の話だが)

 

 

【Tips】学園ギルド

 

美城学園名物の一つ、生徒会や風紀委員みたいなノリで学園内部にあるCランク迷宮攻略を主目的に集まった学生冒険者達の組合ギルド

最初は対イレギュラーやCランク迷宮の悪辣な特性などに挑む為の集まりだったが利権やら何やらが集中し過ぎて色々ややこしい事になっている。要は派閥争いの深刻化だ 

人間関係は人それぞれではあるが主要ギルド上層部の仲は結構悪くない。下手に不仲になれば学園からの介入だってあり得る為らしい

唯、どのギルドもライバル意識は激しく内部力学の柵もあるので『やれる抜け駆け』があるなら躊躇せずにやるだろう……『優秀な未加入者の勧誘』とか特に

 

 

一章幕間その2 冒険者とカードの相性問題

 

【Tips】カード同士の色恋沙汰

 

基本的にカードはそのマスターと色恋沙汰になる場合が殆どだが、稀にカード同士が色恋沙汰になる場合もある

そういう事が起こった時はマスターの胸先三寸次第であり……そのカードの性格や貢献度、マスター自身の人間性によって結果は大きく変わる

ガチ勢の場合は大概それを受け入れるパターンが多い……『その権利を与える事で恩義を得る』という実利や、歴史に残る『テーバイ神聖隊ヒエロス・ロコス』と同じ理屈(愛する者の前では無様を晒さず、互いに生き残る為に奮戦出来る)だ

更に稀な話だが、別のマスター同士のカード達が恋愛関係になったりするケースもあるし……更に。そして世界に数件しか例の無い話だが『マスター以外の人間を愛したカードの話』もあり、その実話を元にしたドラマも存在する

 

 

一章幕間その3 カード・リザルト

 

【Tips】装備型魔道具のシステム

 

『手に持つ武具タイプ』で片手持ちならば盾型魔道具と併用可能、両手持ちならば『片手で扱える力』が有ろうとも両手でしか扱えない。そして武具型なら『特技な技能持ち』でも無い限り基本的に一種類しか有効化出来ない

『甲冑型』、ならば勿論一種類限定であるが『一部の衣服型』、『陣羽織サーコート型』や『外套マント型』などの様に『甲冑と一緒に扱える羽織り』みたいなものならばどれか一種類だけ併用可能

盾型を二つ装備は……やれなくもないが戦闘力の向上はなく扱いが非常に難しいのであまりオススメは出来ない

しかし例外として『両手バックラー』だけは格闘技使い達の一部で使われている

アクセサリー系統は……指輪なら左右の指合わせて二種類、首飾りなら一種類、腕輪、足環それぞれ一種類、冠も一種類、衣服も外套マントもそれぞれ一種類といった制約が存在する

非常に稀だが『義肢型魔道具』という物も存在する、勿論その該当する四肢が欠損した者にしか使えないがこれにはそれ以外の制限は無い(理論上の話だが『重要臓器以外全てが魔道具に置き換わった人造人間』というものも……出来なくはない、らしい)

 

 

一章幕間その4 御札商売

 

【Tips】冒険者の拠点

 

プロやプロ志望の所謂ガチ勢は人にもよるが大概三つ星資格を得た地点から間違いなくチームを組む。プロクラスであるCランク迷宮からは間違いなく難易度が爆増する為と恒久的チームを組んで登録すると税金控除などの特典があったり……何より組む相手次第ではあるが三つ星だけでもCランク迷宮に挑む権利を得られたりするからだ

そんな恒久的チームは大概集合場所や入手出来た成果の集積・保管施設、メンバーの憩いの場、装備の保管所や……対アンゴルモア備えなど様々な目的の為に地上様にも拠点を作成・設置する

その拠点も冒険者の性格やチーム規模……そしてその冒険者の懐事情によって様々であり。ある者は一軒家、またある者は雑居ビルを買ってまるまる拠点化、更にある者は豪邸や専用施設を最初から建築したりと様々な様式で拠点を作成する

学生冒険者が所謂『冒険者部』を作るのも言ってしまえばこの拠点設営の一種だと言える……勿論、期間限定でしか使えない代物ではあるが

冒険者の拠点は最低限必ず高いセキュリティでの警護が必須となっている。冒険者の装備……カード以外の装備だって結構なお値段だし何より収穫物や予備カードなどの非常に高価値な資産がある為だ

 

 

一章幕間その5 遅ればせながらマスコット参上

 

【Tips】カイロネイアの獅子

 

本作オリジナル後天技能。『愛のスパルタ』とも呼ばれる『テーバイ神聖隊』の称号。『男同士の番』が150組で構成された戦士集団でありその戦闘能力は伝説のスパルタ戦士に匹敵すると謂われる

 

『己の番』を見つけていないカードの場合は『カイロネイアの片獅子』という殆ど何の能力も無い技能でしか無いが『番』を見つけた際に『カイロネイアの獅子』になる

 

得られる能力は莫大ではあるが『番以外は決して抱かない』という制約がありそれを破るとこの技能は即座に重いマイナススキルに変化する

 

 

一章幕間その9 三つ星昇進RTAと皮剥庖丁

 

【Tips】皮剥庖丁

 

イレギュラーエンカウント『瓜子姫』が稀にドロップする魔道具の公式名称

 

天邪鬼が瓜子姫に化けるエピソードを再現するかの様に『特定の手順』を行使すればモンスターに化ける能力を得られる。しかし非常に多くの制限や欠点を抱えている為用法にはくれぐれも注意が必要

 

その酷い見てくれに反して切れ味は非常に鋭いが、その傷口は酷くぐちゃぐちゃに悪化する作用がある。大剣からダガーサイズまで伸縮自在で負傷悪化と非実体攻撃可能の作用を持つ攻撃力+100の武具型魔道具として使えるが耐久性は無銘の武具程度なので武器としての使用はあまりオススメ出来ない

 

肝心要の能力は『一日一回だけ、モンスターの死体を僅かな時間だけ消滅を抑える事』、『そのモンスターの死体から生皮を非常に効率的に剥ぐ事』、『その剥いだモンスターの生皮を皮剥庖丁に登録、収納する』、そして最大の特徴にして能力は『登録、収納しているその剥いだモンスターの生皮を被ってそのモンスターに化ける能力』だ

 

この庖丁の所有者曰く『装備化能力持ちのモンスターを装備している感覚?』らしい。実際この生皮を被り纏うとその皮の元を装備している状態になるらしい

 

そしてこの生皮を被り纏っている状態だと、その皮の元のモンスターに成りすまして他のモンスターに認識されず攻撃されないという効果もある。しかし一度でも攻撃行為や発音したりするとその擬態効果は直ちに消失するから要注意……恐らくこれは『瓜子姫に化けた天邪鬼の擬態がお粗末なもので必ずバレている事』が由来の効果だと思われる

 

また、この生皮の内側は血脂なぞ一切取ってはいない……掃除する暇さえ無い、ので被り纏う時は非常に不快な体験をする事になるので所有者は覚悟が必要になる。効果時間が切れたら皮はぼろぼろに崩れ去るけど腐敗した血脂が身体中にべったり張り付くので清掃手段はあった方が良いだろう

 

この庖丁は自分自身や自身のカードにしか使用出来ないが、皮を纏わせる事ならそれ以外の他者にも可能だが……但し皮のストック次第ではある

 

皮のストックは最大十枚まで。『固定化』は一日一回だけ。モンスターの皮は迷宮外でも出せるが、直ぐに崩れ去る。皮を被り纏うと非常に不快な体験をする。一度出した皮はもうストックには戻せない。皮の使用期限はストックから出して一時間以内等々の沢山の制限制約はあるが非常に強力な魔道具である事には変わりない

 

一応、違法な研究者の遺したファイルに『人間の皮』でやればどうなるか?の実験結果もあるが……単なる『剥がされた人間の皮膚』のままだった為この魔道具は『人間に化ける機能は無い』と判断されている。その為所持禁止類魔道具には登録されなかった。瓜子姫も何らかの人ならざる存在だったからでは?という推論がされている

 

『カードに対して使う』という実験も行われていて、この庖丁には『カード破壊能力』もあり、それで壊したカードのデータを奪う力もある……それをやると元のストックは全て消失、そのデータを解放するまで殆ど只のオンボロ庖丁に戻ってしまう事、そのデータも最大五日ぐらいしか持続しない事、そのデータを直ぐに使おうとも一月ほどこの庖丁は能力を喪失したままになる事などの制限制約がある。恐らくは『カード化したモンスターのデータ数』をこの庖丁では許容出来なかった為だろうと推論されている

 

ちなみに『名付けしたカード』だと死亡扱いで『ソウルカード』になるらしい、そしてその『ソウルカード』はこの庖丁でも破壊不可能である

 

『データ解放』には幾つかの使い道があり。一つは普通にそのデータの生皮を召喚して何時も通りに使う事、もう一つはそのカードの記憶を視て聴く事が出来る、ついでに『視念珠』と『聴念珠』が有ればその記憶のダビングも可能

 

非常に癖が強く、使い手の精神力を削る仕様ばかりではあるが『使う覚悟と精神力』があるなら非常に強力な魔道具だといえる代物

 

 

一章幕間その10 三つ星とて一里塚、四つ星もまた一里塚

 

【Tips】迷宮士

 

『原作』における『プロ冒険者資格に必須の筆記試験』の事、プロ冒険者以外にも迷宮関係の法律家やギルドの高位職員、大企業の迷宮関係者には必須の資格となっている

 

必要勉強時間500時間程で宅建士資格に匹敵するとされている難関資格ではあるが、比較的他のプロ資格試験よりは簡単……いや、一応は努力だけで何とかなる資格の為『プロに至る素質の無い専業冒険者』の中にも結構この資格持ちは多い。間違いなくこの資格を持つ者は『ガチ勢冒険者』だと断言出来る

 

しかし、学生冒険者の場合はこういう面倒極まりない試験は忌避されやすい傾向にある為かこの資格を持つ学生冒険者は日本中探しても薄い名簿が出来る程度にしか見つからない

 

 

一章幕間その12 他人の眼から見たあいつ

 

【Tips】世界の軍隊

 

1999年から始まった『大迷宮時代』以降の世界で『軍隊』という存在の意義は大きく変化し、そしてその重要性は非常に高まった

 

『迷宮という異界から現れる神代の怪物に挑む現代の戦士』、『色々な意味で真の聖職者』とも呼ばれる程の彼らの献身挺身とその犠牲によって人類は『カード』という迷宮に挑む為の手段を得るまで……そしてそれを得てからも彼らは己の国、いやこの世界を守護する誉れ高き戦士となった

 

しかし……やはり『正義や誉れだけでは飯は食えない』という現実もあってそのシェアは年々冒険者に取られて各国の軍部は人材人員不足に喘いでいるのが世界各国の実情になっている

 

一応は『軍隊だから出来る特権』や『特殊な技能講習』などで人員を集めて、除隊後に使用していたカードの払い下げなどの工夫で人員確保に奔走してはいる……その方法で入隊した奴は必ず後で冒険者に転向するがまぁ優秀な冒険者が増えれば国防に良いのでその辺りはなぁなぁで済まされている様だ。国家的には『優秀な冒険者』も喉から手が出るほど欲しい、という実情もある

 

しかし……カードの存在を知る前から大して効かない銃器弾薬を担いで国民を護る為に大いなる災い相手でも命をかけて戦ったのは彼らである。故にこの世界では『最前線の軍人=真の聖職者』である

 

 

一章幕間その13 妖刀、その銘は『定』

 

【Tips】変異型クラスチェンジ

 

普通のクラスチェンジでは不可能な珍しいクラスチェンジの事。一般的には『オークはエルフにクラスチェンジ可能』辺りだろうか?一応判明はしている変異型クラスチェンジではあるが『オークは堕落零落したエルフ』であり、『堕天使が天使に戻るのは非常に難しい』事からも分かる様に普通はエルフをクラスチェンジ先には出来ない……筈だった

 

しかし、ごく稀に成長次第で『シェイプアップに成功したオーク』などがエルフに回帰出来る事が判明している……実は世界的にもかなり類例の無い話ではあるが

 

普通ならオーガやグレンデルみたいな比較的安いCランクカードでクラスチェンジするのだが、高級志向のカマプアアや天蓬元帥かシーオークみたいなクラスチェンジになる

 

基本的に『特異な性質を持った鍛えに鍛えて愛情を注がれたカード』にこそ起きる一種の奇跡扱いの現象である

 

この現象については今尚解明されている事は少ない。比較的見られる『堕天使を天使にクラスチェンジ』や『オークをエルフに回帰』ですら資料の少なさから解明は難しいらしい

 

今回の『手の目が贋作妖刀になる』のもやはり激しいレアケースなので研究者達は大はしゃぎのお祭り騒ぎ沙汰になっている

 

 

一章幕間その15 祝言

 

【Tips】道具箱

 

カード達を大切にするタイプのマスターにとって重宝するアイテム。一応は魔道具だとは言えるが……何らかの箱をカード化しただけの代物

 

カード達は基本的にカード化したものか魔石ぐらいしか所有する事が出来ない、だからカード達の娯楽などの為にこういう『私物入れの箱』を調達してそれに本やおやつ、酒などの私物を入れてカードの中でも暇つぶししたり無聊を慰めたりさせる事がしやすくなる様にさせられる

 

一部のプロ冒険者曰く……『ただ魔石を与えるだけ、よりもモチベーションが高くなる』というコメントもあるがデュエリスト系は否定的なのであまりメジャーな行いではない

 

カード達へのケアを欠かさないタイプのマスターなら必携品

 

 



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間話その2-1 大輝の初陣〜ファーストコンタクト〜


お年玉代わりに偶には拙い昔話でも……


 

 

草木萌ゆる四月の春と冬の境界線の時期、齢14にして大志を抱く今は無名も同然……いや、ある意味既に一部の界隈では『要注目』認定されている少年である佐藤大輝は今日から冒険者として活動を始める事に内心わくわくしていた

 

一部の界隈で注目を集めるきっかけとなった『自らに課した大きな課題』を踏破して漸く作れた出来立ての冒険者ライセンスをFランク迷宮の有るダンジョンマートの迷宮出入り口に翳して迷宮の入り口……漆黒の、謎の球体に手を翳す

 

そして迷宮内部の所謂『安全地帯』で真新しい自衛隊仕様の野戦服とタクティカルベストの衿元を正し、それとミリタリーリュックから取り出した聖銀製コンバットナイフを腰に装着してから徐に脇のカードホルダー……フェイクホルダーに仕込んである僅かな時間を縫って出来たバイトや小遣いお年玉などの貯蓄、親の協力も有って購入出来た虎の子であるカードを引っ張り出す

 

 

【種族】オーク

【戦闘力】100

【先天技能】

・集団行動:群れの中で生きる習性。集団での行動に対するプラス補正。

・頑丈:頑丈な肉体を持つ。生命力と耐久力を常時向上させる。

・怪力:人外の力を持つ。筋力が常時大きく向上する。

【後天技能】

・斧術

・従順

・知性強化

 

 

初心者御用達の代名詞である『オーク』だ、はっきり言ってぱっとしないカードではあるがこれでも『従順』という初心者には心強い技能持ちなので無体な扱いさえしなければ良いカードになってくれるだろう……多分

 

見てくれは……大柄かつ固太り体型な豚頭の鬼であり、このタイプの魔物としてはかなりちゃんとした身嗜みをしている。このオークという魔物は大概股間を隠すだけの褌か腰蓑一丁に何らかの武器といったみっともない格好が普通なのだがこのオークは一味違う

 

粗末な造りではあるが麻布製の貫頭衣に膝丈までのやはり粗末な造りの麻布造りなズボンを履いてその腰は頑丈そうな荒縄で締められている。足には丈夫そうではあると分かるブーツ?とも見えるサンダル履き、手には大鉈と言った塩梅のオーク基準ならば非常に身嗜みの整ったお洒落なオークである

 

知性強化という技能持ちだけあってオークとしてなら彼は非常に賢い分類にある存在なのだろう。俗に『奨学カード』とも呼ばれるだけあって安い割に初心者向けの代名詞みたいな存在としてある意味大人気ではあるカードだが本来ならあまり頭の出来は宜しくない

 

大概のオークは武器を装備して相手を殴る事ぐらいしか出来ないが、こういう知性が強化された個体であればある程度はちゃんと道具が使えるし覚える機会に恵まれれば多少の魔法ぐらいなら使える様にはなるだろう

 

後ついでに言えば基本的に不器用であり脚は遅いとされているが少なくとも人間よりはよっぽど素早くはあるが基本的に肉弾戦をやらせるか単純な力仕事をさせるかしか出来ないが……それでも『新米冒険者の護衛役』としてなら間違いなくコストパフォーマンスも相まって最優のカードだと評価が高い一枚だ

 

見てくれは悪いが、予算の厳しい新人冒険者の心強い味方……それがオークである

 

尤も、大輝のオークは通常のオークよりも従順で賢い優秀なオークなので普通のオークよりも高値く付いたものだ、言うなれば新車を買う際に良いオプションを付けた様なものだろう

 

先ず護衛役のオークのカードを出した大輝は……今の手持ちの中で他に何を出すべきかを思案する。定石通りならば獣系カードを出して斥候役だろう、大輝の手持ちにも割と斥候向けだと言える『ブラウニー』という妖精が存在する

 

 

【種族】ブラウニー

【戦闘力】70

【先天技能】

・下級家妖精:人間の代わりに家事をしてくれる妖精。……が、迷宮内では家などないためいまいち使いどころは不明。みすぼらしい格好をしているが、衣服を与えるとロストしてしまうので注意。初等家事魔法を使用可能。

・初等状態異常魔法

【後天技能】

・中等罠発見/解除

・鋭敏感覚

 

 

新米も新米である大輝はFランク迷宮にしか潜れない……今の大輝にはこの大枚叩いて買った貴重な中等クラスの罠発見/解除も今は要らないスキルではある。普通に敵感知に向いた獣型を買えば安く済んだだろうがこれは未来を見越して買ったものではあるが

 

大概の冒険者……俗に言う『エンジョイ勢』はそんな索敵用のカードを買う、という発想がある者はあまり居ない。大概見た目を重視するか多少気の利いた部類でも戦闘能力を重視するだけである

 

ちゃんと安全対策や今後の成長を考慮してデッキ編成が出来る者は大概が『ガチ勢』とも『求道冒険者』とも呼ばれているだろう

 

しかし、斥候役には欲しい鋭敏感覚や初等クラスとはいえ状態異常魔法が使える辺りは非常に評価が高い、少なくともこのスキル編成ならこのEランクカードは結構良いお値段になるだろう。ちなみに今の大輝の手持ちで他に魔法が使えるカードは救急箱程度にしか使えない見習い回復魔法持ちのフェアリーが二枚……男カードなので安かった、ぐらいしか手持ちが無い。いやそもそも大輝の手持ちは今はこの四枚だけである

 

腰のポーチには最低限必須の備えだと言えるローポーションが五つ、それと気休め程度の効き目しか無いだろうが熊撃退用スプレーにスタンロッドと呼ばれる対モンスター用電磁警棒。せいぜいEランクモンスターに通用すれば上出来だろう……モンスターが振るう事前提程度である程度の代物だが、を持っている。人間が普通に使うなら弱いFランクモンスターにどうにか通用するかもしれない?という程度だろう

 

Eランク迷宮になれば多分直ぐに壊れてしまうだろう……尤もFランク迷宮の攻略中にでも壊れる時はあっさり壊れる程度の強度でしかないが

 

他にも一応の備えとして『モンスターが使う事を前提にした造り』であるスリングショットもあるが、そっちはブラウニーに渡して使い心地を確かめて貰う必要があるだろう……大輝も腕っぷしには自身のある方ではあるが、流石にこのスリングショットは弾くのにえらく苦労した。これに鉛玉を番えて撃つなぞ殆ど無理だ

 

本当ならリビングウェポンか何かを調達して使うのも考えてはいたが……装備化カード故にあまり見つからない類いのカードであり、大概はガントレットや鎌、大鉈みたいなキワモノ武器型か一番安くありふれた蠢くナイフぐらいしかショップには余り並ばないものだ。真っ当な武器型リビングウェポンは即時完売がデフォ故に

 

Fランク迷宮の制約上蠢くナイフ程度ではあまり活用はし辛いだろうから有っても買わなかっただろう。せめてEランク迷宮に挑めるレベルにならないとあまり買う価値はない……と思う、少なくとも蠢くナイフがダイレクトアタックに対する盾代わりになってくれるから需要は高まるだろう

 

大輝も半年後に自力で迷宮から入手するまで他人が使う処ぐらいでしか見た事が無かったぐらいだ……籍を置く冒険者私塾での訓練で一時的に使った長剣型の経験を除けば、だが

 

これも最初心冒険者のスタイルの一つである……腕っぷしや武術に自信のある者が比較的安くスタイルに適合する装備化カードと最低限必須の奨学カードという編成で迷宮に挑むというのもままあるパターンの一つだ。比較的安価だと言っても装備化カードは希少なので入手出来るかどうかは運次第ではあるしEランク装備化カードの代名詞であるリビングウェポンは奨学用Dランクカードにも迫るお値段の人気カードだが

 

リビングウェポンみたいにほぼ全ての装備化カードら大概の迷宮でレアドロップ扱い故に仕方ない話である。もう少し出現率が高ければこの系統こそが奨学用カードにでもなっていただろう

 

 

閑話休題(それはさておき)

 

 

大輝はその二枚のカード……あらかじめ『契約』、要は己の血を一滴そのカードにかけてカードの所有権を取得しておいた。冒険者をやるなら必ず何度でも指に針を刺して血を出す事になるだろう。冒険者垂涎のカードホルダーやそのイミテーションであるフェイクホルダーにも必ず針が収納されているものであるし

 

これはちょっとした下ネタ混じりの雑学だが、嘗て……カードが世に出た際に一部の研究者らが『血以外の体液』で代用が効かないか実験した事があるらしい

 

ちなみに結果は……血液以外は全て駄目だったらしい。恐らくは血液にはオカルト的な効果か何かがあるからだろうと推測されている、同じ理由で『精』にもそういう効果があるから可能性が見込まれていたが駄目だったらしい

 

まぁ……『精』なぞ染み込ませたカードなぞ誰も使いたがらないだろうから『カード契約には血液必須』で良かったと言えるだろう。下手したらセクハラ沙汰であるし不気味なモンスターのイラストに『ぶっかけ』なぞ普通はやりたくない

 

ショップや札商は必ず買い取ったカードを一度は除菌消毒しているとはいえ……である

 

大輝はそんなピカピカに磨かれた綺麗なカード……紙でも金属でもプラスチックでもない不思議な材質のそれを二枚手にして『来い!』と念じる

 

すると大輝の直ぐ側に二体の異形……豚頭の鬼と毛の無い眼だけがギョロリとデカいが非常に小柄な襤褸切れを繋ぎ合わせて作った服らしきものを纏った小人の二体が現れる

 

大輝が買ったオークとブラウニーである

 

大輝はまるで『クリスマスプレゼントに望んでいた玩具を貰えた子供』みたいな喜色満面の表情でその二体……大輝が八歳の頃からコツコツ積み重ねてきた苦労の成果は今この場に存在するのだ。それは喜色満面にもなろうというものだ

 

そして……これこそが中学生にして『迷宮士』という難関国家資格を獲得し、半年以内に三つ星冒険者にまで昇り詰める偉業を達成した佐藤大輝とその生涯の縁になる『剣』と『蔵』とのファーストコンタクトである

 

しかし、今現在でも所詮は『第一段階に入れた』というだけでしかない……未だ未だ前途は長く艱難辛苦である

 

そしてこの瞬間に彼らは最初の一歩を踏み出す事になる……この迷宮に潜む『最初の洗練』は彼らに一体何を齎すかは次回のお話



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間話その2-2 大輝の初陣その2〜出だしは順調?〜

 

大輝と二体のファーストコンタクトはそれなり以上に上手く行った……筈だ

 

基本的にコミュ力のある方ではない大輝ではあるが、一応はちゃんと冒険者私塾で修行を積んでそれなり以上の知識はある

 

そしてこの二体……オークは一応会話能力はあるが基本的に鳴き声の方が上げやすい喉になっているので会話能力にはあまり期待出来ない。ブラウニーの方はそもそも会話能力が無いので彼らとコミュニケーションを取る為にはジェスチャー頼るかハンドサインを決めておく方が良いだろう

 

ブラウニーは普通に筆談は出来る……但しどの国で出た個体でも英語と発生国の言語に限る、という注意書きが付くが兎に角出来る。オークだと普通の個体では出来ない……が、大輝のオークは『知性強化持ち』なのである程度の読み書きは最初から出来るらしい

 

 

『……おデ、ニポン、ゴデよみ゛ガギで、キまずゾマ゛ス……た゛ァ』

 

 

本来ならもっと短い音節……数事の単語を絞り出すのがせいぜいのオークの喉でこれだけ会話出来る彼はやはり『オークという種族としては』非常に賢い存在らしい

 

しかし、それでもオークという種族に人間の言葉を話させるのはかなりキツいものがある様だ、喉にクるものがあるらしい。オークの上位互換であるボアオークならば今のオークよりも流暢に会話が出来るらしいがそこまで強化するのは結構な時間が掛かる筈だ……ボアオーク一枚で普通のオーク八枚分の値段がするし

 

ちなみに……どの国のどんな国籍のカードだろうと基本的にありとあらゆる言語を理解出来るし(会話能力があるなら)会話は出来る。それなり以上の格を持つカード、だいたいCランクにもなれば世界中あらゆる言語の読みは出来るらしい

 

『書く』のは『権能』の範囲らしいとも言われているが、それはあまり冒険者には関係の無い話だろう……少なくとも今の処は

 

大輝はなるべくオークに無理に会話はさせない様に配慮しながらお互いに出来る事や出来ない事を擦り合わせてゆく

 

基本的にオークはあまり器用ではない為スリングショットは使えないものと判断するべきだしスタンロッドも振り回す程度なら兎も角電撃を発生させるボタンを押すと『怪力』が仇になってボタンを壊しかねないし振るううちに早く壊れそうだからやはりあまり向いた武器ではないらしい

 

確か……有名なダンジョンチューバーの、様々なカードの性質解説で著名なチョーカキンが言っていたオークに纏わる話にもそんな内容が有った筈だ。オークみたいな不器用な力自慢には最低限でも迷宮製の武具型魔道具である『凡庸シリーズ』を与えておく事を強く勧めていた

 

今はオークが最初から持っている大鉈……所謂『初期装備』でやりくりしてゆく必要がある。それほど強い武器では無いが武具型魔道具と違って壊れても時間経過で元に戻っているのが強みだろう

 

魔道具で強化勢はだいたいガチ勢であり、そのガチ勢の中でも武具型魔道具はコストが嵩むから使いたくないという派閥も有りはするがその辺りは人それぞれである

 

傾向的に言えば……所謂『装備化使い』と呼ばれる者達が魔道具強化派になりやすいらしい、自分の身体すら使った戦い方が出来る者達だと魔道具による強化の恩恵を身体で理解出来る様だ

 

大輝だって有るなら魔道具は欲しい、基本的に凡庸シリーズやその完全上位互換の無銘シリーズは剣か槍、刀ばかりで他の武具は割と珍しいから今回残念ながら斧は見つからなかった……斧は割とマイナー武器なので割と安く買える、凡庸シリーズなら偶にワゴンセールに来る事だってあるぐらいだが今回は残念ながら運が向かなかった様だ

 

俗に『プロフェッサー・スタイル』と呼ばれる傾向のプロは今の大輝では先ず手が出せない高価な無銘シリーズをガンガン使い潰して高難易度迷宮を踏破攻略してゆくらしい。無銘シリーズは一番標準的な長剣や刀型でもオーク二枚ぐらいの値段で取り引きされる代物だ……今の大輝ならそんな無理をせずに新しい奨学カードの一枚でも手に入れる事を目標に動いた方が余程建設的である

 

大輝が用意した様なスタンバトンやスタッフスリングを使いたいなら最初はホブゴブリンみたいな器用貧乏……いや汎用型のカードを使うべきである

 

オークはその頑丈さと怪力のおかげで基本戦闘力はDランク最弱クラスではあるが、その分戦闘特化な仕様のおかげで素で多少の戦闘力差を覆せるし、頑丈なのである程度の無茶が効く、それに何より『ドロップする絶対数のデカさ』のおかげで供給数も莫大かつ安価である。故に『新人冒険者の友(共)』と呼ばれるのだ。故に大輝もこのカードを最初に選んだ

 

そして……最初は先ずオークを前衛にブラウニーにはスタッフスリングや状態異常魔法で支援。大輝は足手纏いにならない様になるべく敵を回避して進む、である

 

今の大輝がスタンバトンなぞ持ってもあまり役には立たない、むしろ大輝へのダメージはカード達が肩代わりしなくてはならないから余程のことが無い限りは逃げてダメージを受けない事が貢献になるだろう

 

その為スタンバトンはブラウニーに渡して殆ど丸腰になっておいた。下手に得物があると無駄に戦う事になりかねない。中学生にしては非常に大柄な大輝よりもあの小柄なブラウニーの方が力が強いぐらいだし

 

大輝が前線に出る為には最低限装備化カードを入手してから……話は先ずそれからだろう

 

まぁ……そんな一時間そこらのブリーフィングの後に漸く迷宮攻略である

 

 

今朝一番に迷宮に入り、それから三時間……探索は順調に出来ていた

 

大輝は最初からこの迷宮のマップや出現モンスターのマップや出現モンスターのデータをギルドから買い取って持っているし何ならちゃんと紙媒体に簡単にではあるが写本して暗記すらしている

 

途中に存在する採取する価値のある薬草などを採取したり幾らか得た魔石をオークやブラウニーに振る舞ったりしながら初心者にしては非常に良い滑り出しを見せていた

 

 

『ギャン!』

 

 

これで何匹目かはもう忘れたが、ブラウニーのスリングショットでこの迷宮に良く出るワイルドウルフをまた討伐出来た

 

ワイルドウルフはFランク迷宮のモンスターの中でも非常に下位に存在する要は雑魚モンスターである。大輝でもスタンバトン辺りを装備すれば充分倒せる程度だ……ある程度は確実にするだろう怪我を度外視すれば、だが

 

 

今回のワイルドウルフは少し幸運な事にカードを落としてくれた様だ……これで四枚目である

 

 

【種族】ワイルドウルフ

【戦闘力】15

【先天技能】

・集団行動:群れの中で生きる習性。集団での行動に対するプラス補正

【後天技能】

・鋭敏嗅覚

 

 

Fランクでも弱い分類のワイルドウルフにしては珍しく『後天技能持ち』らしい。通常のFランクモンスターが後天技能を持っている確率はだいたい半々程度であり、後天技能持ちのFランクはギルドも少しだけ高価に引き取ってくれる

 

まぁ……せいぜい千円が千二百円ぐらいに値上げするだけなのだが

 

大輝もFランクカード……それも弱い分類なぞにはあまり期待などしてはいない。そのカードをタクティカルベストのポケット、近年に作られたタクティカルベストや野戦服には必ず一つは存在するカード用のそれに無造作に詰め込んで道行きを急ぐ

 

この時の大輝は知る由も無いが……このありふれた、どうでも良い筈のカードこそ大輝の生涯を共に戦う『祝』とのファーストコンタクトだった

 

この迷宮はFランク5階層で森林型、出るモンスターもワイルドウルフ、スケルトン、ゴブリン、バイパー、チョンチョンが主で稀な当たり枠にフェアリーが出るタイプの迷宮だ

 

フェアリーはFランクモンスターの中では間違いなく人気カードの一枚である。気休め程度ではあるが回復魔法が使えるカードであり、非常に小さいが見目麗しい女の子カードでもある……半々で男だけど

 

見つけて使うなり売って小遣い稼ぎするなり様々な利益のあるモンスターであるが……この迷宮は『不人気迷宮』である。さぁ何故だろう?

 

一番の答えは……この迷宮には幾つか厄介なモンスターが出るから、である

 

先ず、Fランクモンスターでは少々珍しい飛行型モンスターであるチョンチョンの存在だ。このモンスターは土気色の肌をして耳が羽根みたいに肥大した人間の生首……そんな不気味なモンスターである

 

しかも戦闘力がFランクモンスターとしては高い分類にあるのでダイレクトアタックの危険性が非常に高いのである……が、オークに印字打ち(投石)でもやらせるかブラウニーにスタッフスリングで解決する程度だ

 

そしてもう一つ……バイパーの存在だ。バイパーというのは読んで字の如く毒蛇であり、普通に人間が噛まれれば毒にやられるだろう

 

まぁ……最低限一枚でもカードを召喚していれば防げる被害ではあるし、仮に無い状態で噛まれても汎用ローポーションなり初等回復魔法さえあれば即全快する程度ではあるが『怖いものは怖い』という事だ

 

ついでに言うなら森林型迷宮という辺りが一番の不人気迷宮である所以だろう。割と暗めで足場が悪いしちゃんと装備を整えないと薮などの存在が不快なのがエンジョイ勢には嫌がられる。ちゃんとした戦闘服は暑いし着心地が良い訳でも無いのでエンジョイ勢らはまず慣れる前でもない限りはあまり着たがらないものであり、こういう足場の宜しくない迷宮ではちゃんとしたブーツが必須でそのブーツはやはり着心地がスニーカー辺りと比べればやはり宜しくない

 

ついでに言うなら……大半のエンジョイ勢らはカードの負傷などにあまり頓着しない。そういうカードへの無配慮が重なればカード達は不満を溜めてゆく。そしてそれは何時か必ず何らかのツケとなって彼らに帰ってくるだろう、稀にこの迷宮に遊びで入ったエンジョイ勢らのカードに何らかの反逆系マイナススキルが付く事が割と多い事も理由の一つだろう

 

状況を把握出来る者やガチ勢からすれば失笑ものの話ではあるが

 

後一つ、この迷宮が不人気迷宮たる所以もあるがその話はボス部屋に辿り着いてからにしよう

 

そんな理由で不人気迷宮と評価されるこの迷宮で大輝は自身の大事な資産にして手足であるオークとブラウニーを鍛えながら迷宮の最奥を目指す

 

その日の昼下がり……凡そ午後二時辺りの時刻に大輝達はボス部屋直前の安全地帯で対ボスミーティングを行なっていた

 

この迷宮のボスモンスターは割とよくあるランダムタイプであり、どんなモンスターが出るかはわからないのが少し怖い……運が良ければコボルトやブラウニーみたいな直接戦闘では弱いモンスターで済むだろう、少し運が悪いとロックゴーレムやヘルハウンドにワイルドベアみたいな強いモンスターやゾンビみたいな不快な奴、かなり悪ければ『Eランクのミサイル』こと鬼火シリーズの何れか、または『Eランク最悪の嫌われ者』ことグレムリンが出る可能性だってあり得る……『イレギュラー』という最低最悪もあるがそれだけは世界中全ての迷宮に言える事だ

 

これが、この迷宮が不人気迷宮である最後の理由だ

 

大輝のオーク&ブラウニーは戦闘力が10は上昇している……流石に技能は身に付かない、普通なら数ヶ月は掛かるらしいからそれが当然だろう

 

彼らのコンディションを維持する為にドロップした魔石は半分ぐらい彼らに与えているので士気は高い……筈だ

 

魔石を与え、フェアリー見習い回復魔法である程度の疲労は抜けている。フェアリー達にもちゃんと分け前の魔石は与えているので彼らも機嫌は良い

 

一応、通常のEランクモンスターに対処するには充分な『切り札』なら幾らか準備はしているし両親がくれた『最後の切り札』だってある

 

その『切り札』を幾つかと万が一の際に備えて今日の収穫である魔石を主力のオークに預けて安全策もバッチリ。さぁ、ボス攻略のお時間だ!

 



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間話その2-3 大輝の初陣その3〜今の強敵は明日の戦友〜

三ヶ日のお年玉、これにてラストです


 

そのボス部屋に居たのは……人型だった。大輝のオークと大差無い身長ではあるが幾らかシャープな体型をしている

 

しかしその身体は石で出来ている

 

そのモンスターの名前は『ストーンゴーレム』、ユダヤ教のラビ(指導者とも祈祷師とも言える存在)が操るとされている魔法の操り人形の一種である。本来なら泥人形の事だが、そっちはFランクモンスターに存在しているがどうやらそいつらも『眷属』として存在している様だ……二体だけみたいだが

 

モンスターとしての性能は……言わば『劣化版オーク』である

 

基本的にオークと同じく腕力と耐久力、ついでに防御力には定評はあるが……敏捷性が無く、不器用の極みかつ判断力が全く欠如していて融通が効かないのでマスターがいちいち指示を出さないと上手くは運用出来ない

 

先にも言った通りに不器用の極みなのでオークの様に武装しての強化も基本的に不可能なのである、例を挙げれば岩を投げるとか丸太を抱えて突撃とか程度しか出来ない

 

その代わり疲労も痛感も無いのでどれだけでも動けるし、幾らでも酷使が出来る……それこそ何処かで『迷宮の外で召喚出来るなら重機やフォークリフト代わりに使えるのに』、とかぼやいている色々な兼業冒険者が居たとか居ないとか

 

一応、このストーンゴーレムも育て方次第では感情を得て不器用を克服する事も可能らしい。そういうブログと育成記録が存在しているのだ……原作にも『イライザ』というケースがちゃんとある様にやり方次第では非常に『化けるカード』ではあるが余程の物好きな冒険者ぐらいしかやらない手間だろう

 

しかし……最初からこのストーンゴーレムが敵とは厄介な話である。このストーンゴーレムなる化け物は所謂『準Dランクモンスターとでも呼ばれる様な非常に強いEランクモンスター』である

 

動きは人間より少し鈍いが、力も耐久力も非常に高くおまけに疲れ知らずなので非常に厄介な怪物である

 

しかも……大輝の主力であるオークの得物は大鉈、基本的には『叩き切る』性質の武器であるが、それを石の塊にぶつければどうなるかは誰でも察せられるだろう

 

この大鉈もオークの身体の一部だと言えるのでどんなに壊れても後で勝手に直るから余り問題はない……が、下手な扱い方をすればストーンゴーレム討伐前にこの大鉈を失う羽目に陥るだろう

 

このストーンゴーレムという怪物は『奨学キラー』と新米冒険者からは恐れ嫌われている……最初の冒険でこいつに出くわして唯一のDランクカードをロストした奴は結構多い。そしてその理由は大輝のオークとの戦いで分かるだろう

 

大輝の手持ち武器は先に挙げた三つ……聖銀のナイフとスタンバトン、そしてスリングショットである

 

スタンバトンは殴打用である事以外はあまり有効とはいえないだろう、岩石の塊に電撃とか……まぁ他二つは論外も論外だが

 

さて……こうなるとブラウニーもほぼ戦力外だろう。状態異常魔法でデバフをなるべく多く掛けて貰って入手したFランクモンスター達を使い捨て前提で逐次投入する作戦で行く事にしよう

 

絶対必須のオークとブラウニーを護る為とはいえ、Fランクだからと言ってもあまり良い作戦ではないが、もうこういう作戦は使わないで済む様に次からちゃんと努力を重ねなくてはならないだろう

 

しっかりブラウニーの魔法で敵が弱体化したのを確認してから先ずはワイルドウルフで牽制を仕掛ける……流石に最弱クラスだけあって即座にストーンゴーレムに先ず向かわせれば単なる無駄死にだろう、先ずは泥人形に送り込んでみたがそれなりに健闘はしたが倒されてしまう。やはり後天技能も無いバニラでは流石に厳しかった様だ

 

ならば次はとゴブリン……Fランクモンスターとしてならそこそこ強い部類のカードを出しておく。黒ずんだ緑色の肌、皺くちゃの顔とガリガリに痩せた体に、ポッコリと出た腹部。地獄の餓鬼を思わせる容貌でまるで卵が腐った……いや硫黄臭か?の様な悪臭を漂わせる小鬼である

 

本当の餓鬼はゴブリンより余程強いEランクモンスターであるが、まぁその辺りはどうでも良いだろう

 

このゴブリンは腰蓑に石斧を装備したステロタイプなデザインではあるが、ありがたい事に斧術を持ったそこそこ優秀な個体である

 

普通のゴブリンよりも力強い斧捌きで軽度とはいえ状態異常の影響にあった泥人形に効果的なダメージを与えてゆく……ゴブリンは泥人形より多少は強いモンスター故に負傷はしたが泥人形を一体撃破してくれた、しかしやはりまた泥人形が『おかわり』と言わんばかりに召喚されて来る

 

そして今度の泥人形は状態異常魔法の影響下にはない……要は『先程よりも些か強化された個体』だと言っても良いだろう

 

二体の泥人形に囲まれたが、それでもその二体を道連れにして砕け散った、ゴブリンのカードが先のワイルドウルフ達の様にパリンと割れる

 

大輝が次に用意したのは……

 

 

『チ゛ョン゛!ヂョン!!』

 

 

何とも不気味な鳴き声を上げる人間の生首……に似た南米の妖怪チョンチョン、やはりこの迷宮でドロップしたカードだが戦闘力はゴブリンと同程度、道具はこの身体故に扱えないが飛行能力のある存在だ

 

大輝はこのチョンチョンにヒット&アウェイで泥人形に攻撃させる。チョンチョンの体当たり?頭突き?で泥人形らにちくちくダメージを与えながら泥人形らを牽制して貰う。チョンチョンは頭だけのモンスター故にFランクにしては思考能力がある方みたいでこちらの意図をちゃんとある程度は理解して動いてくれている様だ

 

そして……この迷宮の主であるストーンゴーレムと挑戦者たるオークの戦いはどうなっているかというと?

 

 

ひたすらに泥試合になっていた

 

 

オークもストーンゴーレムもどちらも『不器用だが頑丈な力自慢』であり、基本的にどちらとも決定打を打てる手札は無い。一応オークには大鉈はあるがこのストーンゴーレムには有効ではない……いや刃は既にぼろぼろでもうそろそろ鈍器にさえもうならない手前の有り様だから投げ捨てられているが

 

故に今はオークとストーンゴーレムの果てしない殴りあい……まるでロシアの壁対壁”を意味するスチェンカ・ナ・スチェンク争いみたいな様相である

 

殆ど交互に続く肉と石、拳と拳の応酬。普通に言えばオークの方が強い……のだが、流石にこのストーンゴーレムはボス仕様の強化版である。基本的なスペックならば現状はほぼ互角だがこれが『生身と岩塊の殴り合い』となると話は更に変わる

 

時に……貴方は、生身の拳で岩石を殴れるか?

 

要はそういう話だ。オークの拳は未だ大丈夫そうではあるが表情には苦痛が見られる……一応オークには今日の収穫ありったけの魔石を渡してはおいたから今は『ちょっと痛いだけ』で済んでいるがそろそろ魔石による回復も切れるだろう。そういった事情から最初期のオークが迷宮ボスのストーンゴーレムに押し負けたケースは実は以外と多いのである

 

対処法として総金属製のハンマーなり何なりの頑丈な鈍器を持ち込んで素手以外で強化ストーンゴーレムに挑むなりするか逃げるなりするのが一番簡単な対処法だろう。初等クラスでも良いから攻撃魔法が使えるカードを用意しておく方が更に良い

 

むしろそれなり以上に鍛えたオークなら迷宮ボス仕様のストーンゴーレム程度なら拳だけで容易く撃ち倒してくれるだろう、最初期でも鈍器使いか格闘術の使い手ならば何の問題もなくいける

 

そして……これから大輝が取る手段も有効な手段の一つである

 

 

『……よし、そろそろ頃合いか?』

 

 

チョンチョンに命じた通り泥人形らとストーンゴーレムの距離はそれなり以上に離せた。ならば大輝も『切り札』を切る頃合いである

 

 

「よし、いいぞオーク!頃合いだぁ!!」

 

 

大輝はオークがストーンゴーレムから急いで離脱したのを確認してポケットに忍ばせていた『とある石』を取り出してストーンゴーレムに向かってぶん投げる

 

これは『発火石』と呼ばれる魔道具の一種。この石一つで初等攻撃魔法一発分の威力を叩きつける使い捨てのありふれた代物である……オークとブラウニーを買う際についたおまけの一つである。ローポーション三つとこの発火石五つという粗品だった

 

 

ドンッ!

 

 

その発火石はオークがなるべく重点的に殴っていた部位の近くに当たって爆発する……それほど大した威力ではないがストーンゴーレムにはそこそこ有効打にはなった様である

 

そしてオークも大輝から預かった『切り札』……発火石を至近距離、左腕の掌打の姿勢でその石をストーンゴーレムに叩きつける!

 

 

ズンッ!

 

 

これでストーンゴーレムはもう罅だらけの死に体であり、今度は罅だらけの部位をぶん殴る事であまり痛みもなくストーンゴーレムの解体に成功した……もう一度拾った大鉈が役に立った。そして壊れて砕け散った

 

Eランク魔石でもあげれば一日もあれば再生する程度のものだがまぁそれは後だ。牽制役のチョンチョンは残念ながらボスを喪い消滅してゆく泥人形らと相打ちで……オークの大鉈と同タイミングでカードが砕け果ててしまっていた

 

後の大輝の感想的にゴブリンとチョンチョンは……あまり相性の良いカードでは無かったが、間違いなく優秀なカードだったと思い返した事がある。彼らが生きていれば多少は変化が……頑張れば二軍枠に収まっていたかも知れないが

 

大輝は傷だらけのオークの元に慌てて駆け寄りとっておきのポーションをオークの左手にぶっかけて手当してやる。そして後はフェアリーを交互に……この迷宮でドロップした追加三枚と合わせて後々まで役に立つ計五枚らに回復魔法をかけてなるべく完治させておく

 

オークの手当てが終われば今度は『収穫のお時間』である。ストーンゴーレムは……珍しい事に一発で出た。最初の強敵がまさか最初期から仲間になる展開とはありがたい話である

 

 

【種族】ストーンゴーレム

【戦闘力】80

【先天技能】

・自動人形(下級):魔力に因って作成された操り人形、しかし素材があまり宜しくない為デメリットの比率が高い(『生きた屍』の自動人形バージョン。絶対服従、状態異常耐性、知能低下、不器用、怪力、疲れ知らずを内包する)

・石の身体:身体が石で構成されている。刺突や斬撃には強いが打撃には普通、魔法攻撃にやや弱い

【後天技能】

・頑強

・庇う

 

 

このストーンゴーレムというカードは前にも言ったが『廉価版オーク』とでも言うべき性能のEランク層ならば非常に優秀かつ実用的なカードだと言える。市価はだいたい六十万円前後、ギルド売却価格は六万円を切る事は無いだろうか?頑強に庇う技能持ちとか護衛とか前衛に最適な代物である……その頑強のおかげで最初は大苦戦状態だったが

 

出来る事出来ない事が非常にはっきりしているので新米冒険者の一時的戦力補強にも優秀な一枚だ。最初に『特徴が無いのが特徴』とも揶揄されるホブゴブリンを選んだ冒険者などがこのカードを代理肉壁に起用したりする事もある、ホブゴブリン使いにとっては割と有名な定石らしい

 

逆に……大輝の様にオークを最初に選んだ冒険者はブラウニーみたいな器用なカードにオークに出来ない事を代用して貰う事もまたある様だ

 

多少脳筋めいた編成にはなるがオークとストーンゴーレムの二枚編成でボス攻略を容易く行くのもまた定石の一つである……普通の人間より鈍足という欠点はあるがオークでも厄介な防御力や耐久力を誇るストーンゴーレムを壁役にすればオークのロストというリスクを回避するにもアリな手段である事は間違いないだろう。少なくともオークさえロストしなければ巻き返しの機会は必ず存在するし何より下手すれば莫大な借金を背負って冒険者廃業の浮き目を見る事になる

 

万が一の際の救助費用は決してまからないし破産しようが必ず支払う義務が存在する……それが原因で未成年者の冒険者就業を忌避する保護者も多いという問題もある

 

そういう問題はさておき……今は目の前に有る無駄にキラキラした宝箱、通称『ガッカリ箱』からお宝を得ることが優先である

 

このガッカリ箱なるもの……迷宮のボスを撃破した証である『白い魔石』と『何らかのお宝』がランダムで出てくる不思議な話である

 

そしてこの箱の何が『ガッカリ』かと言うと……大概がその見てくれの豪華さに反して非常にしょっぱいものばかりだからである

 

前に挙げた凡庸の武具やオーク&ブラウニーのおまけに貰ったローポーションや発火石辺りの非常にしょっぱいものしか出ないのが普通である。一応迷宮のランクが上がれば良いものが出る割合が増えはするが……高難易度迷宮攻略の報酬が『大人の玩具』だったという笑うに笑えないエピソードもあるらしい。ぶっちゃけ大輝の通う冒険者私塾の兄弟子達が実際に体験した事である

 

恐る恐るガッカリ箱を開けてみたら……出て来たのは白い魔石と一枚のカード、これは魔法の力を一回だけ使える『マジックカード』だろう。しかも結構貴重な『レベルアップ』のカードである

 

このカードは使えば暫くの時間使ったモンスターの戦闘力を最大に高めてくれる効果がある……代償としてその戦闘での経験値は入らなくなってしまうが、今さっきみたいな状況には最適な魔法だろう。使い捨てではあるがこういう新米冒険者の命綱には最適な良い魔法である

 

この魔法は高等魔法の分類故に非常にお高い代物なのが玉に瑕だが、実際このカードはこれから後の『真なる死闘』の際に大いに役立った。これを入手した幸運……他にも様々あるうちの一つだが真面目にそれに感謝した

 

大輝にとってこのストーンゴーレムはやはり非常に長い、それこそ生涯の縁になる出会いの一つであり、後に『巌』と名付けする大輝の主力の一角とのファーストコンタクトとなる。正に『昨日の敵は今日の友』である。冒険者というものは時にこういう縁で新しい仲間を得る……まぁ、そんなありふれた(?)新米冒険者の初冒険はこういう型で幕を閉じた。やはり最初期にはオークと索敵役を用意しておけば大概は何とかなるものである

 

今回のリザルトだが……入手出来たものはワイルドウルフのカード五枚(一枚ロスト)、ゴブリンのカード二枚(一枚ロスト)、チョンチョン(ロスト)、フェアリー三枚、バイパー一枚(ガラガラ蛇型)、スケルトン四枚、それとストーンゴーレム

 

後は通常魔石(全て消費済み)、換金素材になる薬草(引き取り価格三千円)と白魔石(六万円相当)にレベルアップのカード一枚

 

この迷宮のデータはまぁ少しお高いものではあったが、それでもちゃんと収支は出ている。ストーンゴーレムは今は先ず決して売る気にはならないし残りのFランクカードらもいざという時には結構役に立つ事だって分かった

 

後はオークとブラウニー、それとストーンゴーレムの育成からだろう、新たな索敵役に後天技能持ちワイルドウルフを鍛えてみるのも良いかも知れない……ワイルドウルフは召喚した感覚的に『何かの歯車が合った感覚』

がした気がするし

 

さて、そろそろだいたい半年後の大輝にバトンタッチの時間だ。それなり以上に優秀な三つ星冒険者に成れた彼の活躍に話を移すとしよう

 

 

間話その2 終わり



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傭兵冒険者
第一話 新学期と姫子の進路、あとユニコーン



これより第二章開幕です

ネット上で件の幻獣の扱いってこんなもんですよね?


 

嘗てのバイト先への未だ返し切れた気のしない義理を返すデスマーチを超えてからの帰宅……しかしどんな事情があろうとも朝は必ずやって来る

 

数多くの優秀なカードや魔道具の獲得、クラスチェンジ達成に電撃三つ星昇格……そして、可愛い可愛い妹分(薬丸姫子)が正式に恋人となった最高に充実した夏休み。まぁ一つ悍ましい化け物とガチで殺し合いという嫌な記憶もある、ついでに必ず再戦する事が確約されてしまってもいるが……

 

一昨日までの様に冒険者としての戦闘服に身を包んで迷宮に逃避したい気分ではあるが……既に夏休みは終わり新学期が来てしまった

 

顔の造形はそれなりに端正ではあるが何処か地味な印象を持つ中学生の……齢十五の少年にしては非常に長身で筋骨逞しくも均整の取れた体躯の益荒男、名は佐藤 大輝(さとう たいき)。つい最近アマチュア冒険者としてなら最高ランクの『三つ星資格』を得た強者である

 

朝の決めた時間にきっちり起きる佐藤大輝、最近入手した魔道具の一つである『ヒュプノスの枕』……もう一つある嘗て両親がくれた愛用の方で最高の睡眠が毎日取れるので常日頃から快眠快調である……『枕が変わると眠れない』という言葉の意味を魂で理解出来たし身内の予備分確保も視野に入れているぐらいだ

 

ちなみに、最近入手した枕は迷宮に泊まり込む際に活用している

 

きっちり終わらせた宿題は既に通学鞄に放り込んでいる。それをちゃんと確認してトイレやシャワーに手早く入ってからサイズの都合で新調した夏服……白い半袖ワイシャツに黒のスラックスに身を包んで手早く鏡で身嗜みを整える

 

腰のベルトと一緒に装着する愛用のカードホルダー、その具合を確認しながら大輝は台所へと向かう。カードホルダー持ちは大輝の所属する学園であれば意外と見かけられる代物なので持ち歩いていても問題ない、持っていない者でもフェイクホルダーぐらいは持ち歩いているのが普通だしファッションとしてもあの学園の通例だ

 

……幾らかダブったカードホルダーを学園内のまだ持っていない知己に少し安く売ってやるのもまたアリだろう。それで多少の恩が買えるだろうし

 

時間は午前六時、忙しい両親は未だ寝ている……ダンジョンマートで買うのも良いが、今日は自分で作ろう

 

 

「……ふむ、野菜はこんなもんか、ならこれなら作れるな」

 

 

冷蔵庫の野菜室から取り出したキャベツ、玉葱、ニラ、もやしといった有り合わせの野菜を手早く洗って適切なサイズに切る、炊飯器の米はあらかじめ準備済みだから楽で良い

 

その野菜を炒めながら鯖缶を開けて入れる、味付けは簡単に麺つゆと塩麹少々。同時にお湯を沸かしてレトルト味噌汁の準備だ

 

同時にレンジのグリル機能で焼いた朝食用の鰤の照り焼きを取り出し、先に焼いていた弁当用の鶏もも肉の照り焼きを冷ましながら卵焼きを作る……やはりこれも麺つゆで簡単に味付けする

 

それらを三人分の朝食によそおう分と四人分の弁当分に分けて弁当に盛り付けておく。だいたいこの工程で七時になっただろう

 

弁当には梅干しをいれて多少は腐敗対策だってしている。味はまぁ中学生の小僧が作ったものとしては上出来な部類だと思う

 

さて、今日の両親はまだ幾らかは寝ていられるのでさっさと朝食を食べて姫子を迎えに行くべきだろう

 

両親の朝食分はラップして冷ました弁当と一緒に冷蔵庫に、それをLINEで連絡して手早く朝食を食べて後片付けを済ませて戸締りを済ませば登校時間である

 

二学期になっても季節は未だ真夏日でありアスファルトには陽炎が立ち込めている。昨日までなら家の前に打ち水でもやってこの不快な暑気でも祓っていただろう

 

しかし残念ながら今日から新学期なので学校……いや先ずは薬丸家に向かって急ぐ

 

佐藤家から歩いて数分の近所。この富裕層用地区のご近所である薬丸邸に着いた大輝、門を見れば既に手提げ鞄を片手に持った極上中の極上、掛け値なしの美少女……姫子は大輝を待っていた

 

彼女は美人揃いで有名な学園有数の……それこそ生身で女の子カードにだって匹敵する最高クラスの美少女である事在籍必須条件である『芸能科』でも最高峰クラスの美少女だ。それこそ女の子カードのBランクか何かの世界だろうか?

 

未だ齢十二の幼い童女と少女の境界にある微妙な立ち位置である為かあまり化粧っ気は無い……だからこそ幼くも『すっぴん』の状態でこの容姿である事が分かる。むしろ最近では『地味になる化粧術』を覚えようかと真剣に考慮しているらしい

 

その肌理細かく枝毛一つなく『天使の輪』が輝いて見える様な金糸細工の様な金髪はお気に入りのフリルが付いた大きなカチューシャで抑えている

 

その小柄な身長にしては長く柔らかくもハリのあるしみ一つ無い見事な美脚には大輝とお揃いの何時も愛用している『保護のブーツ』と呼ばれる大人気魔道具、そして黒のストッキングで隠している……良く見れば彼女がこの夏に手に入れたカードホルダーが右の魅惑的なふとももに括り付けられている、ストッキングを釣り上げるガーターベルトと一緒に

 

制服は学園の夏服……その小学六年生にあるまじきメリハリの効いたワガママな肢体を涼しげでセンスの良い白い提灯袖のシャツブラウスと細いリボン、紺のプリーツスカートといった出立ちでコーディネートしている。愛用のエアコンブローチは首元の細いリボンを抑えている様にさり気なく配置している

 

大輝に気付いた彼女は片腕を振りながら大輝の到着を歓迎する。その動作で彼女の制服の下にある純白の……多分シルク生地のシュミーズがちらりと見える。ブラウスが透けない様にする為の対策だろう、暑さ対策はエアコンブローチで完璧だろうし

 

 

「にーさまおはよー!」

 

 

何時聴いても良いし飽きないチェリッシュな甘く特徴的なアニメ声で佐藤大輝の恋人である『薬丸 姫子(やくまる ひめこ)』の何時もの挨拶だ。これを聴くだけで一日の気力が補充された気になる

 

 

「おう、お早う姫子!」

 

 

大輝も声変わり後にしてはやや高い声……割と美声で姫子に挨拶を返す。薬丸夫婦は今朝早くから仕事で飛び出しているので今は彼女以外誰も居ない

 

朝食は簡単なものなら彼女にも自作は出来るがお弁当は時間や手際の都合で出来てはいない……昨日姫子の両親から聞いた通りの状況だ

 

 

「……ほら、これ。おじさんおばさん今日は忙しいって聞いたからさ?」

 

 

大輝が作った弁当の四つ目。この為に作っておいたものだ

 

 

「……!?、ありがとー、にーさま!!」

 

 

大輝の不意打ち染みた気遣いに心から感謝する姫子、やはりもう少しちゃんと料理の勉強はやっておくべきだったと少しだけ後悔しながら大輝手製のお弁当をお弁当袋……カード化機能付きのものに閉まっておく。通学鞄のカード化は流石に通学中や校舎内では校則で禁止されているので出来ないが弁当をカード化するのは問題ない

 

普通ならまずやらないだろう。カード化はどんなものでも最低百万円という馬鹿高い値段からの話だ、百万円あれば奨学カードが一枚買えるのだから……姫子の場合は例の治験バイトで偶に報酬以外のカード化チケットが貰えたりするし偶にFランクダンジョン攻略をさせて貰えるのでその結果手に入れた副産物の一つがこのお弁当袋である

 

これさえあればお弁当は決して腐らずに新鮮かつ温かいまま食べられると、特に中国圏の富裕層や冒険者から大人気らしい……中国圏では『食は温かいもの』であり、冷えた飯なぞ出せば最大級の侮辱行為になるらしい故にだろう。中国なら何処の学校にも職場にも『弁当を温める為の窯と蒸籠』はあるらしい、無いなら多分レンジがあるだろう

 

カードをホルダーの……ふとももとガーターベルトが見えた辺りでちと『ある事』に気付いてしまった大輝

 

 

『こいつはアカン!』

 

 

こんな魅惑的な光景、自分自身以外の……特に他の男なぞに決して見せてたまるものか!

 

あのガーターベルトで抑えられたあの生足は俺のもんだ!他の有象無象如きに見られる可能性何ぞ我慢出来る訳がない!!

 

最悪……姫子の『魅惑の逆三角形』が他の男に見られる可能性だってあり得るのだぞ!!!……白のレースか

 

 

『よし、今すぐカードホルダーを交換しよう!!!』

 

 

真顔である

 

彼的に『姫子の艶姿』何て他の誰にも見せたくは無い、というだけの話だ。何気に佐藤大輝という男は嫉妬深い一面もあるのが分かる……いや、違う。彼は『薬丸姫子という少女の魅力を正しく把握しているだけ』である

 

何しろ薬丸姫子という少女は一人で町を歩けばナンパ、スカウト、DQN、他諸々の厄介事を全自動かつ無尽蔵に引き寄せかねない魅力の塊だ

 

彼女自身も非常に運が良い方であり、大概大輝や『兄姉弟子』らや他の友人ら……こちらもまた最高峰クラスの美少女達が一緒に居るので一度でも『そういう手合いの被害』何ぞに遭った事は無いが

 

それでも危険である事には変わりないので常に自衛意識は持っている。普段からあまり一人きりにはならず、悪所には決して近寄らず、弱味を握られて困る様な真似は決してせずに平穏無事をモットーに生きているぐらいである

 

……出来る事なら『芸能科』ではなく『冒険者科』に行ってしまいたいぐらいであるが学園のスポンサーや理事一同が決して許さないし逃がさないという不退転の決意で姫子の囲い込み包囲網を形成している今日この頃である

 

ちなみに『芸能科』の女生徒達は中等部になると必ず『ユニコーン』というカードを支給される事になっている。『清らかな乙女にしか背を許さない気高い幻獣』として有名なアレである

 

大概の芸能科女生徒らはそれなり以上にユニコーンと相性が合うのだが姫子の場合は……何故か今もちゃんと『純潔の乙女』なのに相性が非常に悪い様である

 

逆に『不浄の二角獣』ことバイコーンとの相性は普通に良い辺りは彼女の『体質』に関わる話か何かであろうか?いや、ある意味『純潔喪失一歩手前(彼氏持ち)』な姫子とユニコーンだから相性最悪なのは仕方ない話だろうか?一応その『理由』は判明しているが……

 

……大輝の場合はその『純潔喪失一歩手前』を何処まで維持出来るか?という課題?サブクエスト?がある。偶に大輝を姫子に期待するプロデューサーやら事務所社長らが縋る様な眼で見ている

 

勿論、『無視して直ちに一線突破』という選択肢だってあるし、大輝はそれを選択しても良いのだが

 

昨今アイドル活動とダンジョンは切っても切れない関係があり、迷宮内で活躍出来るのは歌唱ダンストーク等に匹敵するアイドルの重要技能扱いである

 

齢十六にして結婚引退した筈が最近娘共々復帰して来た『伝説のアイドル:日高舞』みたいに四つ星資格を引っ提げてアイドル業界に再殴り込みをかける破天荒な人物やダンジョンチューバーの先駆けと言われる『REIKA』や346プロダクション最強のアイドルこと『高垣楓』みたいな四つ星級冒険者アイドル達が業界を席巻しているのが現在の芸能界である

 

数多くのアイドル達が今までのアイドル技能に加えて冒険者としてのスキルを磨いて切磋琢磨している状態である

 

『女の子カード』が存在するこのご時世で真っ当にアイドルなどやろうと思うなら、少なくとも女の子カードにも負けない容姿か冒険者としての高い才能のどちらか。願わくば両方が必須だと言われている

 

そんな中で『薬丸姫子』みたいな逸材中の逸材をアイドル馬鹿一代揃いの学園運営らが見つければどんな結果になるか?

 

それが今の薬丸姫子が置かれている現状である

 

彼女なアイドルなぞ興味が全く無いタイプの人間であり、根本的な希望進路は『佐藤大輝の花嫁(永久就職)一択』であり、冒険者すらもその過程に過ぎない

 

故に彼女は『偶像(アイドル)』になれる能力や器は最高のものではあるがその魂は決してアイドルに適したものでは無いのだ

 

『才能とやりたい事が完璧に一致する』というのは本当に幸せな事であるが……それが一致する可能性というものは非常に稀であり、一致するしない問わずその才能を見出すのすら生涯かかっても出来ないケースの方が世の中大多数だろう

 

姫子以外の芸能科クラスメイト達は殆ど全員が『アイドルは天職』だと言い切れる連中ばかりだが……まぁ姫子含めて皆非常に性根が良く仲も良いのは間違いなく幸運だろう

 

そしてユニコーンを配布する理由だが……まぁ割と生臭い話ではあるが『このアイドルに男の気配はありません』というアピールの為だろう。昨今の性の乱れは甚だしいものであるが故に

 

そして今のところ判明しているユニコーンの習性の一つに『彼氏持ちだと処女でも余り懐かない』というものがある。一応(純潔を保ってさえいれば)背中には乗せてくれるが『彼氏の居ない処女』以外には懐きにくいのでガチ勢冒険者からは敬遠され易い傾向にある

 

基本的に非常に従順ではあるので男でも非処女でもいう事はちゃんと聞いてくれるが非常にストレスが溜まり易く運用するなら魔石消費を前提にしておいた方が良いだろう

 

このカードは『ずぶの素人にこそ向いているが、玄人にはあまり好まれないカード』の一種と評価されている。大輝も姫子も有名なダンジョンチューバーの『観る価値のある一人』である『チョーカキン』なる人物のカード評価で見たことがある

 

姫子当人の感覚でも『好ましいカード』だとは言えなかったし回復用ワンポイント要員としてもあまり使う気にはならない。それこそ大輝とトレードしたエジリ・フレーダ辺りをワンポイント回復要員に起用するだろう、大輝がカラドリウスをそうする様に

 

一応、ユニコーンだって男にも処女でない女性でも懐く事はちゃんとあるが結構希少なケースであり、それでも決して背には乗せてくれない……いや、乗せられない事情もある。乗せると深刻に弱体化する制約があるからだ。『対象外』を乗せた状態のユニコーンは殆ど単なる駄馬と化してしまうしユニコーンの忌避反応も激しいから仕方ない事情である

 

姫子の場合はそういう制約の無いバイコーン……よりも大輝とトレードしたヒッポグリフの方が圧倒的に相性が良い様で彼女自身もあのヒッポグリフを『乗騎』として非常に気に入っている。一泊迷宮デートや一昨日まであった治験バイトでそうなった様だ

 

ちなみにあのヒッポグリフは雌らしい

 

 

閑話休題(それはさておき)

 

 

まぁそんな姫子の今の進路状況やその進路上で必ず遭遇する事になる相性の悪い必携カードとか様々な問題はあるが、あまり大して考える事でもない。むしろ大輝自身の方が今差し迫った問題を抱えている状況だし

 

その前に姫子とどうカードホルダーを交換するかが問題だ……この間女の子エルフやエンプーサ渡したりしたから流石にそろそろもう『只で渡す』のはまずい、姫子自身が受け取らないだろう

 

姫子のガードの硬さは理解しているし信頼もしているが……これから自身に迫る厄介事すら忘れて大輝は懊悩する

 

『佐藤大輝』という男の物語第二幕はこういう魅惑的な恋人持ちの懊悩から始まった。そしてその大輝自身が抱える厄介事は本当にもうすぐ始まる予定だが……さて大輝はどうその厄介事に立ち向かうのか?

 

 

 

 

【Tips】ユニコーン

 

『一角獣』とも呼ばれる螺旋状の真っ直ぐな一本角を生えた白馬……実際には後述する差異のある、ある意味では『キメラ』だとも言える幻獣の一種

 

基本的に白馬ではあるが蹄は割れて尾は獅子、牡山羊の顎髭が生えた姿だとされているが、様々な姿で存在しているらしい。基本的にこれはネイティブユニコーンの姿だが、日本では『綺麗な白馬に金色の一本螺旋角』という日本でのイメージ通りの姿で現れる

 

基本的に『美しい処女』にしか懐かないとされていて、ネイティブのBランクだと非常に獰猛かつその特徴で取り扱いがひたすら難しい厄介なカードだが、日本では基本的に従順なDランクなので取り扱いは間違いなく日本版の方が容易……実力はあり従順だが懐きにくい性質上ずぶの素人にはまぁ良いだろうがガチ勢志願などにはあまり適したカードではない

 

日本では『処女にしか殆ど懐かない』、ネイティブだと『処女以外は◯ね!』なスタンスを崩さない辺りから『スケベ角馬』だの『淫獣』だの散々な扱いをネット上で受ける悲しい人気カードである

 

一部の幼年冒険者アイドル達は最初からユニコーンを事務所などから支給されて活動する事もあるが、そのユニコーンは大概デッキのこやしか良くてクラスチェンジしているか何かしているのが常となる様だ……慣れてくるとユニコーンって非常に扱い辛いカード故に(実際には……お察し下さい)

 

冒険者アイドルスレなどでユニコーン使いなアイドル冒険者が出るとスレの加速が始まるとか始まらないとか?

 

性能は……間違いなく優秀であり、それなり以上に戦闘力も高く回復、補助もこなせて非常に限定的ではあるけど騎獣としても優秀なのは間違いない

 

弱点として『純潔の乙女以外に騎乗されると大幅な弱体化』と『角が折れたら魔法が使えなくなる』という分かりやすい弱点があるので運用はくれぐれも慎重に……如何に優秀とはいえ女性冒険者にこれをおすすめしたりするのは間違いなく『セクハラ』になるが

 

【種族名】ユニコーン

【戦闘力】150

【先天技能】

・純潔の騎獣:純潔の乙女にしか騎乗出来ない幻獣である事を示す。騎乗、荷重強化、怪力、持久力強化を内包するが純潔の乙女以外を乗せると戦闘力が半減する上にこの技能の内包技能も封印されてしまう。また角が折れると回復するまで魔法が使えなくなってしまう

・中等回復魔法

・中等補助魔法

 

後天技能は、基本的に馬としての強化か魔法強化になるだろう

 




幾らか書き溜めが出来たので暫くは定期更新です……書き溜めが尽きるまでは日曜水曜の午前零時更新予定です


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第二話 登山家とダンジョンプレッパー


勇者(笑)……やはりこうなるか、まだ多くは語れないがまぁちゃんとモブ高らしい末路をプレゼント致しましょうか


 

 

さて……先の『カードホルダー問題』についてだが

 

 

「とりあえず、その件は後でちゃんと話し合いしような?」

 

「……確かに、にーさま以外の殿方には、ね」

 

 

放課後ちゃんと話し合いをする事になった。大輝が保有する他のホルダーは黒い脇ホルスター型、焦茶色と黒のガンベルト型の三つ、丁度よく大輝のものと同型のカードホルダーがあるのでそっちを姫子に渡す。大輝自身にも焦茶のガンベルト型を予備に持てば良いだろう

 

脇ホルスター型は学園の未だカードホルダーを持たない友人らに売れば良いだろう。魔石か魔道具辺りの物々交換で

 

まぁ、そんなこんなで二人手を繋いで学園に向かう。少しずつ他の生徒たちの姿も見えてくるが……恐らくは冒険者らしい生徒らの眼が大輝に集中している様だ

 

恐らくは『大輝の隠している実績バレ』か、いや『姫子といちゃついている場面を睨んでいる』のだろう。巌の如き益荒男と小柄だがスタイル抜群の金髪ロリ巨乳美少女のカップルとかそれは注目されるだろう

 

そして……大輝は背後に『とある気配』を感じた。敵意ではない、敵意とかそういう悪意的なものでも迷宮内の危機が迫る気配でもない、ないが……

 

その『気配』が動くのを感じる

 

まるで疾風の様に『それ』は姫子に向かって駆け込み駆け抜け襲い来る!

 

姫子の小学生にあるまじき豊かな双丘に向かって

 

 

「行きます飛びますいただきますー!むじゅる~、久しぶりに姫子ちゃんのお山げぇぇっとっ!!」

 

「やっぱりお前で安心したよ棟方ァ!!!」

 

 

その『それ』の襟首をひっ捕まえて軽く拘束する。傷は一切付けずに後頭部にアイアンクローを綺麗にキメる、何時も通りに

 

 

「や、やだなぁ大輝さん。あたしは姫子ちゃんに『挨拶』しようとしただけで……」

 

「ほほぉう、そのわきわきしている指でかぁ、棟方ぁ?」

 

 

『それ』は……だいたい姫子と同年代に見える少女だった。茶の長めの髪をお団子状にした非常に可愛らしい少女だが

 

まぁ、その、何だ?魂におっさんを飼っている様な女だと言っておく

 

名は『棟方 愛海(むなかた あつみ)』、個性派揃いにも程がある姫子のクラスでも間違いなくトップクラスの問題児である……ちなみに姫子は『芸能科所属でありながらアイドルにはなりなくない』という姿勢のおかげで彼女自身がクラス一番の優等生にして問題児として扱われているのはご愛嬌だろう

 

彼女自身が『何故か芸能科に居る冒険科生徒』故に仕方ない話だ。そろそろ真面目に『アイドルからの乖離具合』も深刻な状況である……何しろ『このクラス唯一の彼氏持ち』だし

 

愛海はクラスでも特に発育著しい姫子を最大標的に『登山行為』を働く痴◯擬きではあるがその問題行動以外は間違いなく良識的ではあるので大概の人から愛されてはいるクラス有数のコミュ強である。現に同じコミュ力お化けの姫子とも普通に仲は良い

 

今さっきの暴走は多分、登山行為がしにくい夏休み中で溜まった禁断症状のせいだろう……彼女のクラスメイトは皆非常に個性的だが間違いなく性根の良い何れ劣らぬ美少女揃い故に

 

降参して『登山』の意思は無くなったのを感じた大輝は愛海の襟首と後頭部を放して解放する。少なくとも彼女を無駄に傷付けたりする気なぞ先ず無い……万が一『登山成功』したら笑顔で顔面アイアンクローの刑だが

 

ちなみに大輝の握力はその逞しい体躯通りに自前かつ片手で林檎や胡桃の殻を砕けるレベルである……時間が結構かかるしやったら疲労困憊する程度の宴会芸レベルだが

 

そんな人間レベルとしては極上の腕力でも市販装備フル武装して漸くEランク中堅クラスのモンスターに一対一で辛勝の目がある程度なのであまり自慢出来る様なものでもない。現に大輝も怪力でも何でもない鶏ガラみたいなキキーモラの婆さん()と腕相撲してあっさり惨敗する始末だ

 

『人間とモンスターの身体能力は完全に別次元』という事だ、人間の怪力とモンスターの怪力は完全に別次元である

 

……しかし、それでも大輝は偶に市販装備だけでFランクモンスター相手に実戦訓練していたりはする。戦闘センスを身に付けるには良い訓練でもあるし

 

さて、そんな強烈な握力から逃れられた愛海は……『とある事』に気がついた様だ

 

 

「……ねえ、姫子ちゃん、大輝さん?」

 

「どうしたの愛海ちゃん?」

 

 

愛海は姫子と大輝に『ふと気になった事』を聞いてみる

 

 

「……二人とも、何かが変わってない?どう言えば良いのかわからないけどさ?」

 

 

大輝と姫子は内心『ドキッ』っとしていた……が、その内心は決して漏らさない。ポーカーフェイスの練習は大輝だって『塾』で講習している、辛うじて及第点とは認められる程度には出来る

 

姫子ならむしろ得意分野だ、それこそ『芸能科が切に請い求める才能才覚』は伊達ではない

 

 

いや(いいえ)?特に変わったところなんて無いぞ(無いですよ)?」

 

 

そう嘘で返す。少なくとも今この瞬間にバレれば『これから臨まねばならない厄介事』への対処が雑なものになってしまう、二人の進路への悪影響に繋がりかねない

 

それもこれも『大輝が打ち立てた幾多の功績』の副作用だろう

 

中学三年生で冒険者資格を得る前に迷宮士資格獲得。冒険者になってから半年以内に三つ星資格獲得。その半年以内に曲がりなりにも七つのCランクカード獲得。未熟ではあるが『真のプロ資格』には必須のリンク能力持ち。Eランク迷宮製とはいえイレギュラー単騎撃破実績……挙げれば近類縁者のコネやら冗談の様な豪運やら他にも様々なものがあるだろう

 

 

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それこそバレたらスカウトの嵐が巻き起こる。大輝と姫子の平穏と日常が崩壊しかねない

 

だからこそ対処対策しているのだが……今日辺りスカウト達が殺到してくるだろう。なるべく良い条件で大輝と友好関係を結んだり、あわよくば大輝に自分達が所属するグループに加入して貰う為に

 

彼らは『今切れる切り札』を惜しげもなく切って大輝を熱心に勧誘しに来るだろう

 

例えば……彼ら秘蔵の共有財産である強いCランクカードや何らかのBランクカード貸与とか

例えば……やはり彼ら秘蔵の希少魔道具。武具なり便利系なり様々な秘宝貸与とか

例えば……彼らが秘匿するリンク技術とかの教授辺り

 

まぁ、そういった様々な切り札を持ち出して大輝を執拗に勧誘してくるだろう。『少なくとも、それだけやってでも大輝はスカウトする価値がある』という意味でもあるが

 

ちなみに一般的なプロチームなら間違いなく大輝を更に上の条件……それら全てを兼ね、さらに貸与でなく譲渡した上で契約金を積むのは最低限必須、で即スカウトに入るだろう。その才覚や根性に強運、そして何より『大輝はカードフィリア』ではない事もあるだろう

 

カードフィリア(カード性愛癖)』とは、ルビの通りに『カードにしか性的欲求や恋愛感情を抱けない』という意味であり、基本的にプロ冒険者やプロ志願からは好まれない存在である

 

彼らは『現世と迷宮の比率が異様に偏っている』為か殆ど現世での人間関係などを放棄して殆どを迷宮で過ごして生きている……故に一般的なプロやプロ志願者らはそれらを『カードに魅入られた者』と呼んで忌避している

 

大輝の場合は……ハードワーク上等な修羅っぷりではあるし名付け派だが、そのデッキに『女っ気』というものが欠片も無い上にリアル彼女持ちなので間違いなくカードフィリアの類いではないだろう。その彼女がカード顔負けの金髪ロリ巨乳な超ド級美少女ではある辺り妬ましくもあろうが

 

大輝みたいな『未来への危機感』からガチ勢を超えて修羅勢に至ったタイプは『ダンジョンプレッパー』と呼ばれている。単に『プレッパー』でも良いだろう

 

この『ダンジョンプレッパー』という存在は『prepare(準備する、備える)』という言葉通りに嘗て実際に起きた『アンゴルモア』に備えて一般迷宮問わぬ様々な資源や魔道具、そして特に重要なカードを備蓄して次のアンゴルモアに対処対策を図る者達である

 

本来のプレッパーは他者……特に政府などや権力者層やマスコミはあまり信用しない個人主義の者が多いが、大輝や姫子、そして彼らの所属する『メアリー塾』みたいに『リベラル派』だとむしろ仲間どころか政府やギルドなどともちゃんと協力してアンゴルモア対応に精を出す派閥だって存在する

 

大輝や姫子は自分達の近類縁者(コミュニティ)をあの理不尽な大災害から護って幸せに生きて行きたい……という目的でこういう人生を歩んでいるだけであるが

 

ちなみに、数いるプレッパー達の中には『ダンジョンアンチ』に所属する旧世代式のカードや魔道具、迷宮資源を忌避しながらそれ以外の一般的素材のみでアンゴルモア対応を行おうとしている一派も居るらしいが、それはまぁどうでも良いだろう……アンゴルモアをそんな甘い了見で挑めばどうなるか?火を見るより明らかな末路が見えるだろうが

 

大輝と姫子は『他者との協力』には忌避感は無いが……今はまだ自分達の勢力を建てて自分達の脚で歩きたい、それに何より大規模なチームに巻き込まれたらプレッパーとしての活動に支障が出るだろう。手に入る戦利品とかも何かと面倒な事になるし

 

プレッパーの準備に『満足』や『もう充分』という言葉は無い、何時かのその時が起きるまでありとあらゆる準備に費やされるものなのだ

 

それ以前の問題として、他人の都合を優先しなくてはならないチーム加入では……姫子(大輝)とのデートがし辛くなるという理由で二人とも却下一択である

 

只でさえ姫子は色々メアリー塾を筆頭に様々な習い事がある上に治験バイトだってある。大輝自身もメアリー塾や様々な柵、そして姫子と同じく治験バイトや偶にだが古巣でのバイトだってある、勿論冒険者稼業もある

 

これが兄姉弟子や友人達と共同でCランク迷宮攻略とかならガンガン行く気にもなるが……あまり付き合いの無い者達と何度も何度も行くとなると大輝だってストレスが激しくなってしまう

 

大輝自身『コミュ力低め』という欠点だってちゃんとある。ちゃんとした知己ならともかくあまり知らない人と難解な迷宮行きは流石にキツい。姫子のクラスメイトの一人では無いが『むーりー』と叫びたいぐらいだ

 

もしもこの内心がバレたら『佐藤ォ!!!』とか叫んで大輝を無理矢理チームに所属させようとする輩が出る……かもしれない?いやそんな無法やらかしたらそのチームは他の勧誘チームから袋叩きに遭うだろうが。それで通用するのはその『むーりー』とその担当プロデューサーぐらいだろう

 

そんな理由で現在の大輝は『独立』を方針に学内でのスタンスを表明する事にしている

 

でもスポット参戦や『傭兵』ぐらいはちゃんと務める所存ではある……そもそも他者との協力が出来ない冒険者は決してプロにはなれないものだ、既にカード達に協力して貰っているという大前提だってあるし

 

要は大輝達自身にもある信条や都合上で所属勧誘は完全にお断り……だけど同盟や都合が付いた際のスポット参戦なら引き受ける。という意味だ

 

学生……それも中高生冒険者にプロ資格持ちなぞ普通はそうそう見られるものではない。それこそ複数人でそれぞれの資格を継ぎ接ぎしてどうにか一人分のプロ級資格をでっち上げてCランク迷宮に入る許可を得て戦力を増強するものだ

 

大輝ならば……『迷宮士資格』と『Cランクカード七枚所有』、そして三つ星資格がある

 

特に『迷宮士資格』は学園冒険者の中では貴重な保有資格だ……大半の学生冒険者らは実技やカード所有などを優先してその辺りを疎かにしている者が大半だ……冒険者にとって勉強は常に必須な事は以外とガチ勢の間でも詳しくは認識されていない

 

尤も、学生冒険者の場合は……迷宮士の資格以前に『学校の試験』こそが最優先事項であり、一部の学校では赤点を取ると冒険者免許の一時的没収などの措置が取られる所もあるとかないとか

 

まぁ……実技資格は実技資格で学生冒険者には凄まじい無理難題であり、大輝の事情と現状を正しく把握している友人らであり『同学年で最初に三つ星資格を得た三人』という意味から『三つ星三羽烏』とも呼ばれる彼らもその一つである『Cランク迷宮単独攻略』、『Dランク特殊迷宮攻略』、『プロ冒険者との対戦』をこの夏休み全てを賭してそれぞれ成功させた……と、大輝も昨日のバイト先で聞いた

 

あの凄まじく影の薄い……大輝も偶に見失う事すらある遠藤浩介もまた着実に成長している様だ

 

他にも『三羽烏』の二人である南雲ハジメがDランク特殊迷宮攻略達成、同じく清水幸利が大輝がつい数日前に挑戦して失敗したプロ冒険者との対戦で合格した。そう言っていた……三人とも『大輝の迷宮士資格獲得』に触発されたらしい。最近では八重樫道場に所属するプロ冒険者から教えてを乞うて迷宮士資格の受験勉強を本格的に始めるつもりらしい

 

他の実技は……『更にちゃんと鍛えてからでないと危ない』から出直し感覚で、らしい

 

迷宮士資格持ちである大輝を加えて……カード所有制約もハジメや浩介が最初から達成している、それに大輝だって貯まったカーバンクルガーネットを使えばCランクのそれなり以上に良いカードが一〜二枚は買える資金がある。魔石やカーバンクルガーネットは合法的な税金対策であり大切なへそくりでもあるのだが

 

この四人でなら多分学園内のCランク迷宮だってどうにかなるだろう……仮にもCランク迷宮単独攻略の実績持ちだって居る、四人ともちゃんとリンク能力持ちだ

 

『百ヶ所のDランク迷宮攻略』は三人の実績を継ぎ足せば間に合うのでその辺りも大丈夫だ。メアリー塾も八重樫道場も友好関係なので他所がどうのこうのといった柵沙汰もない。むしろ彼らの兄姉弟子一同並びに師匠達も歓迎してくれるだろう

 

……やるとしたら次の連休辺りで短期集中、最初からCランク階層狙い。帰還は大輝のアリアドネーの糸頼りだろう

 

Cランク迷宮はDランク迷宮までとは難易度も別次元であり収入もまた別次元だから収獲もまた凄い事になるだろう……大輝がつい数日前まで潜っていたDランクシークレットダンジョン並みかも知れない

 

『ボス攻略』という贅沢は言わないが、出来るなら一枚でも相性の良いCランクカードが欲しいものである、最悪トレードの弾丸か資産にはなるCランクでも構わない……ボス攻略でBランクカードドロップ、何て甘い夢は先ず叶わないものだし、それに出たら出たで権利関係が非常に面倒臭いものらしい

 

大輝兄姉弟子達が偶に愚痴っていたのを思い出す。まぁ彼らの場合はあらかじめ取り決めが出来ているので大した問題にはならないが

 

他所だと偶にパーティー不和や崩壊だってあるとかないとか言われているぐらいだ

 

大輝達がCランク迷宮合同攻略に乗り出す際には『ギルド売却額均等割り』という一番一般的なシステムでいく事になるだろう。それぞれバラバラのチームを組んでいるから『共有資産プール』とかは出来ない、もしもBランクカードが出たら売却一択になると思う……欲しいなら貯蓄するか単独Cランク迷宮攻略を達成するか、である

 

……暫く先の予定ばかり話してしまったが、今やるべきことは『暫くの間だけで良いから愛海を誤魔化す事』だろう

 

さて、どう誤魔化したものか?

 

 

 

【Tips】ダンジョンプレッパー

 

アンゴルモアが発生する前から存在する『プレッパー』が今現在に適応した存在

 

嘗てのプレッパーは『核戦争』みたいな世界の破滅が起きても自分達だけは絶対に生き残る事を目標に核シェルターや資材を備蓄する者達の事だった

 

現代の『ダンジョンプレッパー』は先ず冒険者になって迷宮内の資材……カードや魔道具を集めて来るアンゴルモアに対処対策する者達の事である

 

言うなれば『原作の十七夜月杏菜』みたいな存在だと思えば良い……アリとキリギリスの説話を思い出すのも良いだろう

 

世間からは奇異な目で見られがちではあるが、ガチ勢やプロ冒険者からは何気に友好的に接して貰える事が多い……恐らくは『モンスターやアンゴルモアの脅威を正しく理解している同胞』だと認識しているからだろう

 

作中の主人公&ヒロインが所属する『メアリー塾』はある意味『ダンジョンプレッパーの大規模最大手チーム』みたいなものだども言える。大半の冒険者私塾にはダンジョンプレッパーとしての性質が必ず幾らかは存在するものだ

 

ごく一部ではあるが……『ダンジョンアンチなプレッパー』という存在も居て、彼らはアンゴルモア以前の非迷宮仕様の世界崩壊対策を行っているらしい。はっきり言って『かちかち山の泥船』か何かみたいに非常に頼りない上に出来ても不便極まりない対処対策らしいが

 

 

【Tips】カードフィリア

 

カード性愛癖という意味。現実の人間にはあり得ざる美男美女ばかりなカード……しかもそれが自分を全肯定してくれる、という状況で『それ』にドハマりする者は一定数必ず存在する

 

そしてそれが行き着く処まで行き着くと現世の関わりを殆ど全て放棄して迷宮暮らしがデフォになってしまうらしい

 

一部……いや割と多数のプロ冒険者やガチ勢はそれを『カードに魅入られた』と忌避している

 

ちなみにプロ冒険者やガチ勢の中には『カードフィリア勢』という派閥もあり……はするが基本的に社会性が薄い連中ばかりなので小規模チームで纏まるのがせいぜいらしい。集まれば結構大規模な勢力にはなるのだが

 

いや、ある意味『オタク文化を守る会』は以外と多くの……比較的社会性のあるカードフィリア達が所属しているのである意味では『オタク文化を守る会』はカードフィリア勢だとも言えなくもないだろう……か?

 

近年では潜在的カードフィリアの急増で少子化問題が深刻化し始めているとかいないとか?故に政府も『人間に興味を取り戻させるプロジェクト』として影でアイドル育成に協力しているとか?という噂も存在しているらしい

 

関係無い話ではあるが……美城学園には政府の協力も結構されているらしい

 

 

【Tips】生身戦闘

 

アンゴルモアの最初期はカードの存在なぞ知られていなかったので世界各国の軍隊は生身で危険なモンスターに備えねばならなかった

 

文明の利器である銃器爆薬はEランク階層以降ではグレムリンの能力などで使用不能になったりした為当時は白兵戦技術が再評価される事になった

 

甲冑や武具型の魔道具は白兵戦の達人や力自慢にいち早く供給され、その量産型である『迷宮租鉄の鎧』やちょくちょく見つかる『凡庸の武具シリーズ』が量産化を渇望されていた

 

しかしカードの効能が発見されてからは白兵戦技術の重視は廃れ……るかと思ったら『装備化能力』に活用される事となった

 

今でも自衛隊や他の軍隊、冒険者私塾などでは『カードや魔道具に頼らない生身戦闘訓練』が存在している。万が一の際に己の力で戦う覚悟が必要になり得る事だってあるし……そもそも真面目に自衛官や冒険者をやるなら何はなくとも先ず度胸が必要という理由から今でも必須科目として存在している

 

通常の鍛えている人間ならちゃんとした装備……野戦服にボディアーマー、最低限凡庸の武具さえあればFランクモンスターと一対一の戦闘なら何とかなるだろう。但しEランクモンスター相手は非常に厳しいものがある

 

逆に一般的な……精神力が貧弱なエンジョイ勢辺りが挑んでも戦闘力最弱のスケルトンや大鼠などならともかくゴブリン辺りにはまず勝てないだろう。装備を甲冑型魔道具や無銘シリーズ、いや何かの伝説の武具にしても重さで押し潰されたりまともに振るえず惨敗するのがオチになる。比較的初期に金持ちのドラ息子などが無許可で迷宮に潜り込んでそういう事故を実際に引き起こしている

 

稀に生身を鍛えに鍛えた『現代の戦士』ならば弱いDランクモンスター相手でもどうにか出来る……嘗ての軍に所属する真の戦士達が実践していた。ちなみに冒険者私塾の最大手の一つである『八重樫道場』の免許皆伝試験は生身でDランクモンスターの撃破だと言われている。流石に無銘シリーズの武具程度は必須だが

 

ちなみに今でも『最初期の白兵戦士達』は軍民問わず特に尊敬される存在であり、今は装備化カードを使って最前線を駆けているという……今では殆ど全員殉職していたり再起不能になったり比較的良くて引退して教官をやっていたりするが



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第三話 人間関係バタフライエフェクト (改)

 

さて、愛海は無事にやり込める事には成功した……とは思う、思いたい、いや(姫子が)ちょっと後で覚悟しておく必要があるかも知れないが、そもそもの本題はまだ解決してはいない

 

通学路に増えゆく学生らから大輝を(激しい嫉妬で)睨みつける様に見る者達の視線……いや、そろそろ興味混じりで値踏みでもするかの様な視線が混じってきている

 

その興味と値踏みの視線は『ガチ勢っぽい学生冒険者』に見える者達から感じ取れる

 

 

『あぁ、やはりバレたか?』

 

 

大輝の実績は既にバレている、と念頭に入れておいた方が良いだろう。注意しながら観察していると……大輝が進む先に立って大輝の足取りをそれとなく止めようとする素振りを見せようとする者が居れば他の連中がそれをやはりそれとなく妨害している

 

恐らくは『紳士淑女協定』でも結んでいるのだろう。要は『抜け駆け禁止』といったところか?多分放課後辺りが正念場だろう

 

ひたすら面倒かつ厄介な話ではあるが……それでも気合いを入れてやらなくてはならない事だ。自分自身と姫子の自由の為にも

 

校舎が違うので姫子と別れた大輝は……粘りつく様な視線を受けながら下駄箱の辺りに辿り着く。室内履きを鞄から取り出しながら愛用のブーツ……姫子とお揃いの魔道具をするりと外してカードに戻す。足をしっかりガードして靴擦れや水虫を完璧に予防してくれるし疲れにくい、なのに着脱はサンダルより簡単なこの『保護のブーツ』はやはり素晴らしい

 

よく見ると辺りでもそれなり以上に腕が立ちそうな……大輝を見ていた連中も同じ保護のブーツを着脱しながらカードに戻している。間違いなく彼らも冒険者だろう

 

よく見れば彼らの他にも保護のブーツの代わりにカードホルダーを持っている奴、両方持っている奴様々な推定冒険者達が大輝を見ている

 

その異様な光景に少しヒいた大輝は即座に教室目掛けて小走りで急ぐ……大輝は今日は下駄箱に触らなかったから知る由も無いが、大輝の下駄箱には沢山の手紙が詰まっていた

 

大輝は放課後に知る事となるが、その手紙は全て勧誘の手紙だった

 

 

さて……異様な登校風景から一時的とはいえ逃れられた大輝だったが、クラスでも幾らか騒動が待ち構えていた様だ

 

五年前に完成した近代的なデザインの校舎……その中の中等部三年A組の教室に到着した

 

 

「夏休みの探索どうだった?」

「とりあえず目標のCランクカード買える程度には頑張った、ちょっと良い魔道具ゲット出来たのがデカいぜ!」

「……一昨日、相棒のオークが鬼火に殺られた、名付けはしたからカードさえあれば復活出来るけど誰か余りのオーク安く売ってくんない?」

「臆病の瑕疵持ちで良けりゃ魔石十万円分でいいぜ」

「冒険者稼業やり過ぎた!誰か夏休みの宿題写させてー!Eランクで良ければ何かやるからー!!」

「ほれっ……ってお前手持ちコボルトとかゾンビに……手の目かよ!、じゃあ手の目で勘弁してやるよ」

「ねーねー雫ちゃん、ハジメ君見なかった?」

「南雲君なら未だ来てないわよ、何時も通りギリギリじゃないかしら?彼何時も忙しいし……」

 

 

その性質上、冒険者っぷりがこれでもかと漂うこのクラスには大輝とそれなり以上に縁があり仲も……まぁ絶対に悪くはないと言えるクラスメイト達の半数が居る。残りの半数はまだ着いてはいないか朝練中か遅刻ギリギリの何かだろう

 

その中でも特に仲の良い『冒険者組』……このクラスは皆大半以上が現役冒険者か何らかの都合上未だデビュー前の冒険者志願しか居ない、その面子と言うかクラス全員が集まっている辺りに向かう。大輝の存在に気付いた彼らは大輝を即座に囲んできた

 

 

「……なぁ、大輝?」

 

 

自衛隊所属な姉が居てクラスで最初に三つ星昇格したベテランだと言えるこのクラスのリーダー格兼学級委員長である学生冒険者としてなら世に名の知られ初めて来た装備化使いの『折笠 勘太郎(おりかさ かんたろう)』が彼らを代表して真剣な表情で大輝に問いかける

 

 

「お前、夏休みでイレギュラー撃破したとか三つ星昇格……いや、それよりも」

 

 

勘太郎は大輝を真顔で見つめながら言葉を選ぶ様にゆっくりと大輝に問う

 

 

「……迷宮士資格、持っているのか?」

 

 

……直球で来たか、ならば少なくとも彼らには誠実に応えなくてはなるまい

 

 

「……そうだな、厄介事になりそうだから隠蔽するつもりだったけどイレギュラー撃破も三つ星昇格も。勿論、迷宮士資格も持っているぜ」

 

 

ざわざわ

ざわざわ

ざわざわ

 

 

冒険者組の騒めき……しかしそれは

 

 

パンパンッ!

 

 

勘太郎が手を叩く音で鎮まり返る

 

 

「……よし、わかった」

 

「何がだ、勘太郎よ?」

 

 

大輝は勘太郎にそう聴いてみる。そして勘太郎の回答は

 

 

「『それ』がバレたら確かにお前が大変な事になるわ……だから俺からも提案があるんだが?、一応はハジメ達とも前もって相談して考えた案だぞ」

 

 

勘太郎は一つ咳払いをしながら今居るクラスメイトな冒険者や志願者連中に円陣を組ませてヒソヒソと小声で『提案』を告げる

 

 

「なるほど……流石は勘太郎だ」

「そんなプランで大丈夫か?……けどこれよりマシな案と言われてもな……」

「だがこの学園……しかも中等部で初の迷宮士資格持ちだしな。そりゃ囲い込み対策しないと何処に引きずり込まれるかわかったもんじゃないしな」

「……私達だって佐藤君を、迷宮士資格持ち何て見たら囲い込みたい欲はあるわよ」

「てか、迷宮士資格無しでも大輝の価値はデカいだろ?何だよデビュー半年以内に三つ星とかEランクイレギュラー単騎討伐とかさ」

「大輝のデッキ編成……いや、あいつにその手の質問したらどんな地雷踏むかわからないからやめとこ。あいつ絶対二、三枚はCランク持ってそうだしな」

「唯、佐藤君のデッキだから先ず女の子カードは無さそうね……彼の性格考えたら」

「普通、中等部で迷宮士資格何て無理無茶無謀沙汰だしな……まさか『迷宮士資格に合格するまで冒険者デビューお預け』何て願掛けする奴が存在するとか普通は想定しないわ」

 

 

始業チャイムが鳴る。そろそろ体育館に集まらなくてはならない頃合いなので解散する……大方の打ち合わせ?雑談?は終わったので集まった全員で体育館へ向かう

 

大輝の背丈はクラス三位以内なのでクラス最後尾で同じクラスの通称『筋肉トリオ』と校長の長話を聞き流しながら小声で駄弁る

 

学年でも有数のマッチョである大輝を含めた学年最大級の長身筋骨隆々トリオ……そのうち二人だが、一人は『永山重吾』という柔道部のエース兼一つ星の新人冒険者だ。もう一人は『本来の運命』と激しくかけ離れた状態に有る、その結果『南雲ハジメの幼馴染』となった『坂上龍太郎』というやはり拳法部のエース兼一つ星の新人冒険者である

 

二人とも見てくれだけなら『脳筋』に見えるが……未熟も未熟とはいえ彼らは『ガチ勢の卵』、特に龍太郎は(この世界では)ハジメの幼馴染だけあってそれなりに『頭を使う事』の大切さを学んでいる。そして今は武術経験を活かせるガントレット型のリビングウェポンと奨学カードを相棒にFランク迷宮攻略を頑張っているらしい……しかし良くそんな珍品リビングウェポンが都合良く見つかったものだ

 

『身体作り』で気が合った三人は新しいプロテインの味や最近の筋トレ状況などを話題に駄弁りながら二人とも今は新しいDランクカードを購入する為に貯蓄中だと聞いたので大輝は二人に沢山ダブったリビングアーマーを格安で譲渡するのを考慮しようかと考える……特に龍太郎は彼女が格上の二つ星なので成長の機会には貪欲になっている。大輝にもその気持ちや想いは痛いほど理解できる

 

大輝自身も……己の最愛の恋人(姫子)の為に修羅道を征く身故に

 

確か龍太郎はホブゴブリン、重吾はオークを選んでいた筈だ……後は彼らの貯めた魔石か運次第だろう。運が良ければ良い交換用魔道具だってあるかも知れない

 

……『貸し一つ』という後で高値く付くだろう取り引きだって良いかも知れない

 

後で二人に交渉してみるのも良いだろう

 

リビングアーマーは市価だいたい八百五十万円辺り。だいたい四百五十万円程度の物々交換で良いだろう……Dランクカードでは如何に人気カードでもギルド売りでもだいたい百万円程度にしかならない

 

これがシルキーやエンプーサみたいな超人気女の子カードや異空間カードみたいな需要が暴騰している超稀少カードなら殆どCランクカードと同じ扱いになる……市価のだいたい半額、になるのだが

 

ついでだからおまけとして『臆病持ちのジャック・オ・ランタン』……いや在庫のオークかホブゴブリン辺りを付けてやっても良いだろう。もし要るならもう使わないジャック・オ・ランタンは今あげても構わないぐらいではあるが『施し』になるからやめた方が良いだろう

 

あの二人のリビングウェポンをリビングアーマーにクラスチェンジさせたら……案外『聖衣(クロス)』みたいなデザインになりそうではある。リビングアーマーのデザインはだいたい似たり寄ったりの一般兵卒用量産型アーマーといった風情ばかりだが稀に凝った造型の珍品も有ったりする

 

大輝と相性の良かったリビングアーマーも『無銘魔戒騎士甲冑・ハガネ』みたいな黒曜石色の全身甲冑型になっている……稀にリビングアーマーには『何かの作品に似せた造り』のデザインが存在し、そのデザインのファンがそれを求めている、というマニアックな界隈も有るとか無いとか

 

大概はその作品の量産型装備をモチーフにしたデザインばかりだが、ごくごく稀に『主人公クラス用装備デザイン』も出てくるらしい。何らかのプロテクターや甲冑。例えるならば鋼鉄か暗黒聖衣、G 3パワードスーツみたいなものばかりであるがそれでも間違いなく人気は高い……全て単なるデザイン違いのほぼ同一性能でしか無いが

 

偶……の中では頻繁なうちにだが『ロン・ベル◯の鎧の魔◯:簡素量産型』みたいな造形のものも出るが大概は『さまようよろい』か何かではある……ちなみにリビングアーマーのだいたい95%は『さまようよろい』なのが普通で、先に挙げた様な版権的なデザインのリビングアーマーはリビングアーマー出現率の良くて0.01%かそこら辺だろう

 

大輝と相性の良いリビングアーマーも出す処に出さずにギルド売りでも軽く五百万円ぐらいの値段で即売出来るだろう、あれはまだ比較的出易いデザインだがデザインそのものが非常に良い事には代わりない代物故に……もしもこれが『牙狼』や『絶狼』、さもなくば『呀』ならばDランクカードにはあるまじき、いやそれなり以上に優秀なCランクカード並みの凄まじいオークションになるだろう。あの界隈のファンは非常に『濃い』し

 

実際に一度だけオークションに出た『絶狼』デザインのリビングアーマーが五千万円という冗談の様な金額で落札されたらしいし

 

大輝自身……『狼』とは非常に相性が良いのでこの『狼をモチーフにしたデザインのリビングアーマー』とは非常に相性が良いのも道理だろう

 

大輝は腰のカードホルダーに手を当てて網膜に自身の保有するカード一覧を見ながら在庫運用を考える……オークやホブゴブリン辺りは素人にも扱い易いが、グールだのアイアンゴーレムだのブロンズスタチューだのは取り扱いが少し難しいからクラスの新米に売るにはあまり向かない

 

ボアオークはこちらで使うカードだから論外、使えるカードはリビングアーマー五枚、オーク五枚にホブゴブリン二枚、後はレッサーデーモン一枚だろう。瘟鬼(馬)や黄泉醜女は癖が強すぎる、ある意味グールやゴーレムよりオススメ出来ない代物だ

 

さて……新規一つ星のクラスメイトらになら奨学カードでもそこそこ需要はあるだろう。リビングアーマーなら二つ星でも需要は激しいから飛ぶ様に売れるだろう。てか後に実際売ったらリビングアーマーは一枚五百万円(計カーバンクルガーネット四つとあと魔石)で三枚全て即完売した

 

残り二枚は今は筋トレ仲間の為に暫く残してやるつもりである……待ち期間中に他に嗅ぎつけられたらデコイ代わりに放出する事になるだろうがそれは諦めて貰う必要があるけど

 

辺りをさっと見渡してみると……多分、大輝と同じ様に校長の長無駄話を聴き流しながら自身のカードホルダーにアクセスして『今後のプラン』を考慮しているっぽい冒険者組が其処彼処に見える

 

一部の……それに気付いた熟練冒険者経験持ちの講師らは我関せず、彼らも似た様な事を学生時代にやったり今現在やっていたりというフリーダム具合である

 

そんな校長先生のありがたいお話(無駄な長話)が終わって教室に帰る間に二人にこの話を提案する。長くは待てないが居るか?と聞いた

 

二人の反応は勿論

 

 

「「是非に頼む!」」

 

 

周囲に聞かれない様に小声でだが力強く購買意欲を見せてくれた……魔石、カーバンクルガーネットで丁度どうにかなる範囲らしく今日この瞬間から取り引き可能らしい

 

ならば、と即座購買サービスで大輝も龍太郎にオークを、重吾にはホブゴブリンをおまけに付けてやった、これから先はなるべく『Dランクの頭数』が必要になる世界だ。新しい仲間の成長は大輝にとっても間違いなく重要な事故に

 

クラスに戻った時に二人とも何時も持って来ている魔石とカーバンクルガーネットをカード化した貴重品入れから出して大輝に引き渡す。大輝は『二人への信用』で最低限の確認だけでそれらを受け取る……世の中の魔石売買では偶に偽物である似た様な石ころを混ぜて、というやらかしをやる輩も居るが。、少なくともこの二人は目の前の些細な儲けの為に大きな信頼を切り売りする様な間抜けではない事ぐらい知っている

 

まぁ……二人とも『良く、こんなに大量のリビングアーマーをゲット出来たな?あれかなりレア枠だって聞いたぞ?』と驚いていた。彼らの相棒であるリビングウェポンもEランクにしては間違いなくレア枠なのでその疑問は当然だろう

 

……まぁ、二人とも大輝の豪運ぶりは良く知っているので『大輝のラッキーの御相伴』だと即座に納得してくれたが

 

この学園では、教室の隅っこ辺りで怪しげな取り引き……こういう小口のカードや魔道具などの魔石、物々交換なぞ何時もの事なので誰も気にしない。ごく稀に大手チームが億単位の取り引きをやる場合もあるが、大概は放課後の教室か部室での話だ

 

そして授業が始まり……それは平穏無事に終わり。そして昼休みに大輝を囲みながら勘太郎、ハジメ、浩介、幸利といったクラスで三つ星資格を得た上で何らかのプロ資格条件を達成した強者五人による会合が始まる

 

 

……迷宮内部は出入り口の安全地帯にて

 

 

勘太郎を除いた四人の権限でもちゃんと集めればCランク迷宮に合法的に入場出来る権利があるのは前に挙げた通り。その中で勘太郎が幸運にも入手した『シルキーからクラスチェンジした壺中之天』で密談となる

 

この中で一番強力な異空間カード内部で行えば盗聴などの心配は無い。大輝も自作の弁当は最初から姫子とお揃いの弁当袋カードにいれてあるから壺中之天の歓待を受けておく

 

時間の問題もあるので簡略的ではあるが『Cランクカード飯最高峰』だと言われている壺中之天の絶品中華料理に舌鼓を打ちながら短時間で出来る相談と打ち合わせに休み時間をフル活用して対応する

 

異空間としてはCランク最高峰の居住性と食事の品質を誇るが狭い……チセコロカムイよりは間違いなくマシだが、それでも二十人から三十人が生活可能な小さい屋敷として機能するプロ冒険者でも所有者は滅多に存在しない希少カードの一枚だ

 

しかも、本来ならば『核』は中国の仙人みたいな老人の姿であるのだが、この壺中之天はシルキーからクラスチェンジしたカードなのでその核も老人から妙齢のチャイナドレスとメイド服が融合したかの様な衣装の妖艶な美女になっている。その美女……元シルキー現壺中之天は相変わらず主である勘太郎に熱視線である

 

まぁ……よくあるカードハーレム状態らしいが、それでもちゃんと現実に彼女持ちなので大輝とも結構気が合う友人関係である

 

女の子カード属性に適応するタイプである上にそのカード関係を上手く調整できる強者である

 

男五人は連れ立って教室に戻る……やはりガチ勢の気配がする生徒らの視線が激しい。さて、今日の放課後は間違いなく地獄の様な沙汰になるだろう、今からでも覚悟を改めなくてはならない

 

さぁて、放課後の厄介事に備えて英気を養う(居眠り)気分だが授業は真面目に受けなくてはならない。一応は秩序的なつもりで生きているつもりだ……天使とかはとことん気性と言うか何と言うか兎に角存在そのものがとことん気に食わないから嫌いだけど

 

一応、奴等は無性なので『女性人格型』でさえなければ召喚は出来るが……リンクに強い忌避感を覚え、更には天使も不快感から表情が見える辺りで実験終了になったりもした。一応リンク能力の行使には『好き嫌い』とはかあまり関係ない筈だが?

 

まぁ、単に天使とは普通に相性が悪いだけだろう。天使の態度とかが鼻について嫌いだという知人知己は結構多いから大輝自身の天使嫌いも冒険者では割と普通の話である

 

ちなみに『世界最小の国』ではカードやモンスターの天使は天使だとは決して認めない方針らしく、むしろ積極的にモンスターの天使を狩る事を推奨しているぐらいらしい

 

噂では……現教皇が大輝&姫子と同じ体質、要は『天使に対する不適合体質』だという話らしい。そのせいで『カードの天使』を認めない主義になったとかならないとか?基本的に『召喚不適合体質者のデータ』はプライバシー保護の感念から全員秘匿扱いになってはいる

 

大輝&姫子みたいに研究者らの注目を集めてしまった件もあるがダンジョンマートやメアリー塾が丁重な保護を行なっているので今のところはそう目立ってはいない……少なくとも今のところは、だが

 

……いや、体質云々以前に『アンゴルモアという大災害』で暴れ回ったモンスターでしか無い天使らを認めれば一神教の権威は暴落確定だ。下手すればその被害者らから淫祠邪教扱いに落ちぶれたりする可能性だってある

 

……ぶっちゃけた話、初期のアンゴルモアでは天使に助けを求めて殺された民間人とか真面目に洒落にならない数出たらしい。特にヨーロッパ、北アメリカ等々の一神教圏内では洒落にならない数の犠牲者が出ている

 

そういう『政治的判断』もあるだろうし……何よりその被害者は全人類殆ど全て、であるからまず間違いなくその怨嗟だってあるだろう

 

……一部の狂信者が一神教系ダンジョンカルトを立ち上げたりはしたが、その辺りは既存宗教全てにおいて抱える悩み故に今では『多数派』である既存宗教全てが自分達の系列を名乗るダンジョンカルトは『異端』と公的に表明している程だ

 

一部の噂ではその『多数派』の過激派などがダンジョンアンチに陰から協力していたりする……という噂も有ったりはするが大概の『多数派』はこの迷宮社会に対処対応する為に活動していたりするスタンスを取っている。要は『最も適切なアンゴルモア対策』である冒険者化だ

 

既存宗教は全てアンゴルモアで多大な被害が出ている、それもそうだろう……何しろ『崇める対象』が人類の敵として現れたのだ。世界各国で宗教離れが著しくなり既存宗教は殆ど全てが青色吐息の有り様が現状である

 

アンゴルモア以降、既存宗教というものは斜陽の一途を辿っている。一言で言えばそれだけの話だ

 

だからこそ今では既存宗教が昔の確執を棚に上げ、呉越同舟だろうが何だろうが関係なく協力し合わなければどんどん先細りしてゆく状況にある。またそしてその斜陽に耐えかねてダンジョンカルトに堕ちゆく派閥もまた出始めるという負のスパイラルらしい

 

今のご時世、宗教やるならダンジョンカルト一択だ。駅前とかその勧誘だらけという有り様である

 

……多分、放課後の大輝もある意味それより遥かに熱烈な勧誘地獄が待っているだろう。ひたすらその辺りは憂鬱だが時は待たないものでふと気付けば放課後になっていた

 

 

ガタッ

ガタッ!

ガタッ!!

ガタッ!!!

 

 

お宝(大輝)を求める修羅どもが鎖から解き放たれる音が響く……さて、今からが修羅場である

 

 

佐藤大輝は……生き残れるか?次回を待て!!!

 

 

【Tips】リビングアーマーの造形

 

Dランクカードの中でも比較的レアな分類のリビングアーマーだが大概が所謂『さまようよろい』やその軽装版みたいな非常に簡素なデザインが基本だが、ごく稀に凝ったデザインの代物が出る場合がある

 

何らかのロボットや特撮スーツを甲冑状にリファインした造形やまた何らかのフィクションに出てくる甲冑のデザインに似せた造りみたいな姿で現れる事があるがほぼ間違いなくその作中でも『量産型』や比較的ありふれたデザインに分類される仕様が大概で作中の『一品もの』が出現する可能性はそれこそ『Bランクのカードのドロップ率以下』だとされている。勿論、そのドロップ率は通常のDランクカードと同じなので入手確率は真面目に天文学的な確率になる

 

そういった珍しいリビングアーマーは付加価値が高く、人気デザインならそれこそギルドに売っても五百万円は付く……通常のリビングアーマーなら大概百万円だが、一般冒険者ならば先ず間違いなく横の繋がりを利用したりして魔石交換なりトレードの弾丸にするなりしているだろう

 

偶にこのレアリビングアーマーハントを主な稼ぎにするセミプロ冒険者も居るらしい……比較的安全で当たればデカい利益があるからだろうか?

 

ちなみに……一度だけ出た『機動戦士ガンダ◯』の騎士◯ンダムそのままなデザインのリビングアーマーのカードが財団B(仮名)に五億で売買されて財団Bの宝として稀に大規模イベントなどで公開される事がある

 

ちなみに、デュラハンの場合は基本的に凝った装飾がされている。リビングアーマーの造形は『兵卒用簡略化甲冑』でデュラハンの場合は『騎士・貴族向け専用甲冑』みたいなものになる。着心地も結構変わるらしい

 

デュラハンのレアは基本的にリビングアーマーよりもレアなデザインの発生率が高く、『一品もの』の入手確率も『Bランクカードのドロップ率』並に向上している様だ

 

リビングアーマー、デュラハン問わず比較的オリジナルなデザインで稀に『ビキニアーマー型』が出る可能性もある。これを着用すると何故か服を着ていても素肌にビキニアーマー状態になる……老若男女美醜問わず

 

ビキニアーマー型の着用は基本的に女の子カードか容姿に自身のある女性冒険者に限られるが……稀にむさ苦しい男が無理矢理着用する悍ましい地獄絵図が展開される事がある為、ビキニアーマー型はギルドでも比較的高く買い取って貰えたり通常デザインと無償で交換して貰えたりするサービスが存在している

 

ちなみにビキニアーマー型は必ず女性人格になっている

 

 

【Tips】モブ高世界の宗教事情

 

※:これは完全に血涙鬼・彼岸のオリジナル設定です

 

凡そ二十年前から起こったアンゴルモア……社会は色々な変革を迎え、大半の状況はむしろ向上しているが、それでもアンゴルモアが激しく悪影響を与えた界隈というものはある

 

宗教界隈である

 

アンゴルモア発生で崇める存在が迷宮から出てきて特撮の怪人や怪獣の様に暴れ回る……宗教界隈の面子は丸潰れになり信仰心なぞ消し飛ぶ様な有り様になるだろう

 

『世界一小さな国』でも『カードやモンスターの天使や神の子は偽物』として扱われ、むしろ討伐を推奨されるぐらいの状況になっている

 

唯、様々な過去のやらかしや蟠りを越えて既存宗教が一致団結してこの難局に挑む状況になったのはまぁ不幸の中のささやかな幸いだろうか?

 

しかし……既存宗教は『新たな敵』であるダンジョンカルトとの新しい戦いを余儀なくされているのであまり良い話は無いだろう

 

しかも一致団結した筈なのに一部はむしろダンジョンカルトに迎合したりダンジョンアンチな過激派志向に陥ったりと既存宗教は決して一つ岩とは行かない辺り既存宗教の先行きは暗い

 

現在では宗教家もイメージアップや資金調達、アンゴルモア対策などの見地から冒険者として迷宮探索をしながらアンゴルモア対策に勤しむ者も多くなっている。代表的な処で346プロダクションに所属するシスター、巫女、鹿児島系ユタなアイドル達の存在が挙げられる

 

ちなみに宗教系統の最大手はダンジョンカルトの代表的存在である『星母の会のダンジョンチューバー動画』となっている。ネタにしろ真面目な迷宮攻略関係にしろ間違いなく一番高い評価を得ている



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第四話 傭兵冒険者 (改)

 

さて、何話にも分けて散々煽ったりはした大輝の所属勧誘問題だが……大輝自身の意思が最優先されて『大輝は独立派閥』だと周知が済んだ

 

他の独立派や大輝に多少なりとも恩を売りたい者、最低限大輝の独占を阻止したい者達の様々な思惑はあれど大輝が独立派ならば彼らにとって一方的な損にはならない……そもそも無理矢理な勧誘で大輝を所属させてもそれは単なる『内に敵を造るだけ』である。しかもひたすら優秀かつ敵意に満ち満ちた奴を、だ

 

此処で少し冒険者というもの性質や成り立ちについて少し焦点を当ててみよう

 

この時代の冒険者というものは……有り体に言えば1920年代の世界大恐慌が始まる前の繁栄と狂奔の押し寄せる右肩上がりの好景気、所謂バブル期みたいなものであり、また人類にとって新しい未知のフロンティアとも言える迷宮が存在する

 

まるでその時代の様に冒険というものが多いに流行し、非常に大多数の『エンジョイ勢』とも呼ばれるにわか冒険家や『ガチ勢』と呼ばれる一握りの真の冒険家が誕生した正に大冒険者時代である

 

そんな訳で、学生冒険者……まぁほぼ全てがエンジョイ勢ばかりではあるが、それでも学生冒険者人口は増すばかりのご時世である

 

まぁ……中にはエンジョイ勢にさえなれずに最初の冒険で心折れる者や失敗して破産したり命を落とす者も居たりする。ごく偶にだが一度破産しても必死に再起して後に優れた冒険者に昇華したケースも有りはするが

 

そして……分母が拡大すれば分子に当たるガチ勢の数もまた増える。だいたいのガチ勢でも冒険者はソロは出来てもDランク迷宮迄であり、普通ならDランク迷宮に至る頃にはある程度チームを編成するか、最低でもその編成を考慮するのが普通である

 

さて……学生のガチ勢冒険者という存在は基本的にかなり希少な存在である事は今までで散々説明した筈だ。その中でも権利を持ち寄ってCランク迷宮に入場出来るレベルの学生冒険者という存在は正に上澄み中の上澄みである

 

しかし……忘れてはいけないのが、彼らは『学生冒険者である』という事である

 

学生冒険者という存在は基本的に冒険者稼業に精を出していれば良い……という訳にはいかない。学生としての制約である勉強や行事に保護者との折り合い、大人の冒険者でも抱える人間関係など様々な厄介事を抱えて活動している

 

その為、学生冒険者らはどんなに優れたチームを形成出来ていたとしても私用……家庭や学業に纏わる事情で迷宮攻略に足並みを揃える事に失敗しやすい

 

それでなくともCランク迷宮入場資格を揃えるのは学生……いや、社会人冒険者でも非常に難しい難事である。そもそも三つ星冒険者は冒険者としては間違いなく上澄みそのものであり、一応は『努力次第で誰にでもなれる階級』ではあるが間違いなく高い評価を得られる勲章とも言える資格だ

 

前にも言ったが、三つ星冒険者資格があれば大概の会社に高評価の鳴り物入りで入社出来るだろう……ダンジョンアンチ系統の会社でさえなければ、だが

 

そして……三つ星資格に加えて何か一つでもいいからプロ資格要項を埋められる『何か』があるなら更にその会社では重宝されるだろう。会社次第では準プロ冒険者として大きな権限を与えられたりプロ資格獲得の為の手厚い協力やバックアップを得られたりといった恩恵を得られたりもする

 

勿論、その対価としてその社に尽くし難しい依頼を遂行したりする必要があるしアンゴルモア時には所属する会社を生命を賭けて……時には捨てる覚悟で護る必要がある。流石にプロ冒険者ほどの責任はないがそれでも準プロ冒険者としての責任は付き纏うだろう

 

ある意味その権利と責任を背負う者の極みが自衛官だが、この世界の自衛官は間違いなく『聖職者』としか言いようが無いだろう

 

ガチ勢の冒険者にとっては目標ではなく中間指標ではあるが、最低限三つ星に至れば名乗れる俗称がある

 

 

傭兵

 

 

法に記載されている訳では無いガチ勢の伝統……いや不文理みたいなものではあるが、冒険者チームの面子が足りない、難易度の高い迷宮攻略の人手が足りない、◯◯の資格持ちが足りない、冒険者としての家庭教師として雇用したい等々の隙間需要を満たす企業や国家の紐付きにはなりたくないスタンスのソロ系冒険者がソロをなるべく維持する為にやる稼業である

 

迷宮攻略系依頼ならちゃんと報酬頭割り、家庭教師など……この辺りは要一定以上のリンク能力だが、月賦払い制など様々な条件で他者から雇われて活躍する事もあるタイプの冒険者だ

 

『ちゃんとした傭兵』と名乗りたいなら最低限三つ星資格の獲得と何らかのプロ資格要項獲得、最低限四枚はちゃんと戦力になるCランクカード持ちである事とある程度のリンク能力持ちである事が『ちゃんとした傭兵冒険者』としての最低限だろう

 

大輝の場合は……リンク能力が少々怪しい範囲だが、ちゃんとした傭兵冒険者を名乗る資格がある範囲だと言える。新人傭兵としてなら間違いなく鳴り物入りデビュー出来るだろう

 

そして美城学園における『学内傭兵』とは……一つ星の新人でも自称できるものではある。名乗るだけなら只であり、なんらかの一芸持ちやC、Bランクカードや異空間カードなどの優秀なカード持ちなどが一つ星でもそう名乗って各パーティーを渡り歩いているものだ

 

学内限定掲示板にアクセスしたり其処の常駐ならばまぁ『名無しの傭兵』だと名乗れるだろう……冒険者ライセンスが無くとも

 

そして学内傭兵の中にはエンプーサやそれを眷属召喚出来るモルモーなどを持って『そういうサービス』を提供する所謂『女衒傭兵』とかも居たりはするが、そういうのは学内の……女の子カードを買ったりなぞ出来ない低ランクエンジョイ勢かライセンスだけは持っている丘冒険者ぐらいしか相手にしないアングラ案件だからあまり話には登らないだろう。ある意味やる気に無い者達のガス抜きになってはいる為学園も彼らが何かやらかしたり阿漕をしなければ黙認の姿勢を崩さない筈だ

 

この日本一冒険者活動が活発な学園内で『ちゃんとした傭兵稼業』がしたいなら最低限二つ星、出来ればちゃんと戦力になるCランクカード一枚は欲しいだろう

 

三つ星資格持ちは美城学園でも間違いなく希少なので基本的に引く手数多であり、もしも一つでもプロ資格要項獲得が出来ているならそれこそ勧誘の雨あられ沙汰だろう

 

大輝達の年代は美城学園でも『過去最高峰の当たり年』であり、勘太郎を筆頭にこの年代ならもしかすれば……もしかすると『美城学園でも初の学生プロ冒険者の誕生』があるかもしれないだろう

 

しかし……その勘太郎でも迷宮士資格は非常に難しいだろう。あれはかなり長い時間非常に難しい勉強が必要かつ試験を受ける為に複雑かつ煩雑な書類申請が必要な超難関国家試験故に

 

それこそ学生冒険者では地頭が非常に良い者でも学校成績を犠牲にしたり冒険者活動をすっぱり絶って専念しなくてはまともに受験出来ない代物である

 

勘太郎達が高校卒業迄に迷宮士資格獲得が出来る可能性は割と低い……ハジメ辺りならば芽はあるかも知れないが彼は多忙過ぎてまず不可能だろう

 

あの資格持ちは中等部では間違いなく大輝一人だけ、高等部でも両手の指で数えられる程度にしか居ない。大学ならば薄い名簿が出来る範囲で……といった範囲ぐらいしか居ない

 

大輝がもし、仮にオーク一枚から始めた最初の状態でも学内傭兵デビューしていたら間違いなく超絶売れっ子だっただろう。外でもランクの低いプロチームから偶にオファーが来る事だってあり得る程だ……オーク一枚しか戦力の無い子供をCランク迷宮に引き込むのはプロ冒険者としては恥以外の何物でも無いだろう、やるならスカウト前提になるだろうが

 

そして……何が言いたいかと言うと、大輝が『傭兵』として雇用出来るならそれはそれで非常にありがたい話だという事だ

 

大輝は確かに専属契約出来れば自分達のチームに莫大な貢献をしてくれるだろう。現状での資格や実力、そして冒険者歴半年未満でこれだという伸び代を考えれば此処から何処まで伸びるかわからない程だ

 

しかし……『大輝の独占』は周囲から激しい嫉妬と下手すれば非難を呼ぶだろう。大輝が自ら所属してくれるならばまだしも勧誘で無理矢理加入は周囲が自重をかなぐり捨てて大乱闘スマッシュアドベンチャラーズ沙汰である

 

大輝の存在はある意味強烈な劇薬だとも言える……下手をすれば沢山の敵を作ってしまうと言う点に於いては、である

 

さて……その莫大な旨みとその旨みから来る危険性は天秤に掛けても誰もが大輝の存在を求めるだろう。特に『迷宮士資格持ち』に伝手の無い準プロ級チームならば

 

そして其処でその準プロ級チームでも僅かながらCランク迷宮に入れるチャンスが増える『独立傭兵:佐藤大輝』の存在だ

 

社会人のガチ勢や傭兵ならば割と『迷宮士資格持ち』は多い。年齢的にリンク能力の伸び代が無かったり才能に恵まれ無かったりした三つ星達が諦められずに努力して習得した結果として……少なくとも迷宮士資格は理論上ならば努力すれば誰にでも出来るプロ資格要項の一つだから所持しているセミプロは割と居る

 

逆に学生冒険者の場合は……普通の少年少女が大人でも過酷な座学を最低限でも五百時間、自習だと倍以上に耐えられるだろうか?そんな事をするぐらいならバイトをするなり親にねだるなりして最低限必須の準備を整えてから冒険者デビューする方が早いし楽しいと感じるだろう

 

未成年ならば、才能さえ有ればリンク能力は高い伸び代があるだろう。その才能さえ活かし切れればカード入手や昇格試験なら割と容易くいけるだろう……大輝のクラスメイトの四人や他クラスの腕利き達みたいに

 

しかし、学生冒険者として優秀な者達はあまり座学……迷宮士資格試験で一度はコケる、非常に複雑かつ面倒なこの試験の厭らしさに学生プロ冒険者という存在は滅多に現れない仕様になっている

 

むしろそういう才能ある者達は……迷宮士資格以前に確定申告でコケて地獄を見るものだ、そしてその勉強でヒィヒィ言ったり税理士を雇用したりと学習してゆく

 

この確定申告の勉強までが普通の学生冒険者がやる勉強……絶対必要なものであり、それ以上に複雑怪奇で底意地の悪い迷宮士資格試験なぞ聞いただけで震えが走ると忌避する学生冒険者は数多い

 

美城学園には冒険者用の確定申告対策講座というものもほぼ無償であるし、勿論街には迷宮士資格講座だって存在する……ちゃんとした迷宮士資格持ちにしか出来ない講座なので少々割高ではあるが

 

そんなこんなで大輝の存在は兎に角貴重という訳である

 

次の連休では勘太郎やハジメ達とCランク迷宮行きが決まっているのを説明し、中等部高等部の他の『迷宮士資格持ち待ち』達が大輝の次の予約の為に抽選会を始めたりしている光景が見える

 

十数組の学生冒険者チームが神妙な表情で阿弥陀籤に棒を数本ずつ継ぎ足してゆく……最後に大輝が『当たり』と追加の棒を書いて棒の先だけを見せて残りを隠す

 

悲喜こもごも祈る様に願う様に彼らは自身の名前を棒の先に記載する……その結末は勿論、崩れ落ちる大多数と一組のはしゃぐ勝者という構図である

 

彼らの詳細はさておき……ひとまず大輝が抱えていた問題に決着は付いた。後は大輝自身の武者修行を考えるだけだ。大輝自身も今のままで決して満足なぞする気はないしあわよくばプロ資格だって獲得したいという野心だってある

 

そもそもそういう向上心が無ければ『中学生迷宮士』になぞ先ず成れるものではない。あれの難易度は何度も繰り返し言った筈だ

 

大輝のこの『日本史上最年少の迷宮士資格獲得者』という実績はギルド発行月刊誌である『冒険月報』の特集に載る事が確定している……既に周囲にばれているから記載許可が降りたのだ

 

前に大輝が発見した『足洗屋敷の有効活用方法』と一緒に特集が組まれ記載される十月号の表紙は大輝になる事が確定している

 

『冒険月報』とは……ギルドが発行する月間雑誌であり、冒険者に必要な最新情報やコラム、イベント告知や懸賞制度など様々な企画を広報する雑誌である

 

ちなみに、嘗て大輝が得た『高額Dランクカード半額券』や間話の『奨学懸賞キャンペーン』みたいな懸賞は此処から来ている

 

大輝もこれから数日以内にその表紙の為の撮影依頼が有ったりする……一応『こういう仕事』にも慣れた姫子が同伴してくれるからあまり不安は無いが、まぁ畑違いの慣れない仕事故に気分はノらない

 

しかし、それでも大輝はちゃんとこの仕事に挑む気概はある。大輝の師匠であるメアリーさんや高弟である高和、金長さんに『首刈り兎』だってこの仕事を達成しているのだから

 

それに……大輝の目標を考えるならこの仕事は大いにプラスに働きもする。この功績は大輝が作るチームの勧誘の一助にもなるだろうし

 

そして今、もう夜の八時頃……大輝は家路ではなくそろそろ習い事の終わる頃合いの姫子の元へ急ぐ。普段なら昼食を一緒に食べたり放課後は一緒に帰ったり習い事に送り出したりしていたが今日はご覧の有り様だ

 

そろそろ姫子成分が枯渇してくる……真剣な願いを以て大輝を求める彼らには悪いがそれを内心邪魔だとか鬱陶しいと思うのは大輝自身の切なる願いに触れてしまっている事から我慢して頂きたい。勿論、その内心は一切おくびにも出さないが

 

送り迎えの帰路……という名の短いデートはこの厄介事をひとまず完結させる事に成功した大輝へのささやかな報酬だろう。姫子の唇の感触と身体の温かさと柔らかさも含めて

 

 

さて……様々な紆余曲折を以て大輝の表紙撮影、結果姫子付きは終わり次は大輝と四人の仲間達による男五人の連休Cランク迷宮攻略戦が始まる

 

はてさて、大輝達はこの冒険で一体何を掴むか?それは未だわからないがまぁ悪い様にはならないだろう

 

 

 

【Tips】傭兵

 

冒険者は基本的に上に行けば行くほどチームを組んで迷宮攻略に挑む様になる。特にCランク迷宮からは今までとは全く別の難易度に変化すると覚悟が必要になる

 

その為、Cランク迷宮に挑む為の最低限の資格として『プロ資格』が存在する。大概のプロ冒険者チームはチーム全員でその資格を継ぎ接ぎして一人分のプロ資格を造り出しての攻略が一般的である

 

そして……『プロ資格を継ぎ接ぎで捻出する』という事は、それぞれのうち誰かが抜けたりすればプロ活動は出来なくなるという事は分かるだろう。もしも資格条件を全て埋められなければ……何れ必ずプロチームとしての資格は剥奪されてしまう

 

それにプロチームとしての義務で国から指定された高難易度Cランク迷宮を攻略しなくてはならないのにその迷宮との相性が悪い場合など……様々なトラブルがプロ級からは発生する

 

そんな時に役立つのが『傭兵冒険者』である。緊急時の戦力増強やリンク能力講習など様々な目的で彼らは雇用されるし中にはプロ資格持ちも存在する。要は隙間産業ではあるが制度上決してなくならず需要のある冒険者稼業の一形態が傭兵である

 

ちなみに学生冒険者のメッカである美城学園にもこの傭兵システムに似て非なる傭兵システムが発生している

 

日本……いや世界的に見ても一番学生冒険者の活動が盛んな場所故に起きた風習や不文律の一種だと言われているようだ

 

傭兵として活動するなら最低限冒険者ライセンスと一枚のDランクカードが必須だが、まぁこのライン迄は普通の野良パーティー集めの延長みたいなものだ

 

少なくとも『ちゃんとした学生傭兵』を名乗るなら何らかの特技を持ったカードを持っている事が本当の必要条件になるだろう。鑑定や収納スキル、極地戦特化カード、実戦的な回復役持ち、何らかのCランクカード持ち……中には夢魔系統や娼婦スキル持ちを扱う『学生女衒』などの存在もある。しかし女衒はかなりアングラな不良生徒用コンテンツと言うか実質犯罪行為なので表向きには『存在しない』ものとして扱われている

 

勿論、学園側ではその『学生女衒』や『顧客』の存在はマークされているのでもしも彼らが何か問題を起こせば必ず厳しい制裁を女衒行為分を含めて執行するだろう。この女衒行為は彼らのガス抜きとして一応は黙認……いや目こぼししているだけの話である

 

そして学生傭兵の上澄みは必ず三つ星資格を持ち何らかのプロ資格条件を満たしたCランクカード複数持ちかつリンク能力者という条件を満たした者ばかりとなっている

 

 

【Tips】冒険月報

 

ギルドが発行する月間広報雑誌。冒険者にとって有益な最新情報やイベント、コラムなどを掲載している

 

新人冒険者の為に様々な懸賞を用意しているのが最大の特徴であり、その懸賞のおかげで貧しくとも冒険者デビュー出来た学生は結構な数存在している

 

この雑誌の表紙は新しいプロ冒険者や何らかの大きな功績を立てて特集コラムに出るアマチュア冒険者、親冒険者業界のイメージガールなどが行っている

 

創刊号であるメアリーさん表紙はある意味カルト的な人気があり、非常に著名なREIKAと高垣楓の表紙回は非常に激しいプレミアが付いている。ちなみに大輝(&姫子)の回は姫子の容姿だけが激しく取り沙汰されていたが……ある意味血は争えないもので『兄貴』な人々やボディビルダーからは何気に高い評価を得てはいた

 

内容的には……足洗屋敷のコラムはまぁ面白い内容ではあったが再現は難しい上に手間が面倒過ぎる為再現者は殆ど現れなかった。むしろ大輝の『最年少迷宮士資格獲得』がプロ冒険者チームの間で語り草になった事の方が取り沙汰されていた



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第五話 ブリーフィングタイム (改)

 

 

後の美城学園に於いて俗に『中学生迷宮士勧誘騒動』と呼ばれる学園全体を巻き込む騒動はひとまず平和裡に勝てる片付いた……大輝の傭兵冒険者としての旗揚げは『迷宮士資格持ち』の一時的加入を待ち侘びる生徒達にとっての福音となった

 

大輝にも生活があるので余り沢山Cランク迷宮攻略なぞ出来ないが、それでも間違いなく学内のCランク迷宮攻略チャンス……に至れる可能性が増えたのだ。一日千秋の想いで希少な迷宮士資格持ちの空きを待ち続けてきたが、大輝が現れたおかげで僅かなりとも可能性が増えてくれた

 

確かにどんな手段を使ってでも『大輝の独占』が出来れば一番素晴らしいだろうが……それをやれば他の迷宮士待ち達を完全に敵に回す悪手中の悪手である。それで『他の横の繋がり』を喪えば色々不味い事になるし悪評がガンガン立ってその後が地獄だ

 

しかし……一人だけ、たった一人だけ『佐藤大輝絶対独占権』を持った者が初等部に居るがそれを口に出すのは野暮の極みだし何よりそれは大輝そのものを敵に回しかねない最低最悪の悪手だ

 

もしもその特権所有者である薬丸姫子にちょっかいをかけようものなら……迷宮士待ち達一同から袋叩きにされて村八分処分待った無しである

 

少なくとも大輝は彼女が冒険者ライセンスを得るまでは傭兵稼業をなるべく優先してくれるとは言っている……期間限定ではあるが非常にありがたい話である

 

一応、その期間中に大輝も『自分のチーム結成』の為の準備期間として活動するつもりなので大輝自身が他のチームや目を付けたソロ傭兵をスカウトする予定だと明言している

 

そんなガチ勢……いや『修羅の雛』である佐藤大輝は、来たる九月十四日は金曜日の放課後から明日の土曜日に三つ星特権である『迷宮課外学習権』を行使して公休日である月曜日を跨ぎ火曜日を予備日に於いて権利を行使して水曜日の朝近くまで学園内のCランク迷宮攻略に挑む

 

『迷宮課外学習権』とは……美城学園でも一定以上の成績を維持出来ている学生冒険者達に与えられる権利の一つだ

 

一つ星程度なら年に二回程度、二つ星ならば四回、三つ星ならば八回の『迷宮攻略の為の休暇』が公休認定で許されている。ちなみに少なくとも平均点の維持は必須であり、それに何らかの実績が有れば回数が幾らか追加されたりもする

 

大輝の場合は通常の三つ星資格持ちの八回分に迷宮士資格獲得、足洗屋敷に纏わる新発見で計六回分の権利が追加需要されている……要は今年は計十四回の迷宮攻略公休が許されているという訳だ

 

今回の仲間であるハジメチームや勘太郎も二日分の公休権ぐらいはあるのでそれを行使してなるべく本格的な攻略に挑む

 

そして時はその前日にあたる九月十三日の木曜日の放課後。大輝とその仲間達は佐藤家のリビングルーム備え付けの大型移動用ホワイトボードに色々な記載をしながら資料である沢山の紙束を机に広げながら最後の打ち合わせを行なっていた

 

 

「それで大輝、そっちの準備はどうだ?」

「おいおい勘太郎、既に完了してうちの足洗屋敷に収納済みだよ」

「皆戦力は大丈夫か?」

「Cなら一枚追加で買って補強したよ。良い出物があってな」

「俺は八枚あるからBランク貯金だよ」

「僕もだよ」

「そりゃ凄いな浩介、ハジメ……いや俺もだけどな」

「俺は現金ほぼ全てと余りのカードホルダーを放出したよ。あとちょっとした売買用魔道具とかな」

「いやいや……あれはそんなに出るもんじゃないだろマジで」

「大輝の豪運を忘れたかトシ?」

「……そういやそうだったわ」

「大輝が居ればもしかしたらって思わないか?」

「いやいや、こないだ女の子エルフ引いたから流石に暫くは無いだろ多分。だからモノ次第で俺の『贈り物』使って良い?必要ならヴァンパイア切るからさ」

「魔石分……いや、ドロップの可能性高いから悩むなこれ」

「Bランクは魔道具ドロップだけでもデカいんだよね……」

「てか女の子エルフってオイ」

「確か、お前の体質だと使えないだろ?やはり売ったのか?」

「いや、うちの剣に姫子の菫娶らす事になったからその結納品にな」

「「「「……やっぱすげーなお前」」」」

 

 

男五人が取り止めの無い会話……むしろ駄弁り?という光景に見えなくもないが真剣ではあるだろう。何せ間違いなく『死地』だと言えるCランク迷宮の攻略ブリーフィングであるからして

 

筋肉モリモリマッチョマンな変態こと佐藤大輝

学年一の美男子だが彼女持ち折笠勘太郎

実は何気にハーレム野朗な南雲ハジメ

自動ドアにすら検知されない遠藤浩介

見てくれ不健康そうな痩せっぽち清水幸利

 

この色々な意味でバラバラな五人こそが今回美城学園内Cランク迷宮攻略に挑むイカれたメンバーである

 

その見てくれに反して日本最年少の迷宮士資格持ちのインテリである佐藤大輝はCランクカード計八枚……一枚は数合わせ程度だが

学園最高峰の『戦士』の一角であり、優秀なリーダーでもある折笠勘太郎、実技試験全攻略済みの彼はCランクカード八枚以上と切り札のBランクカード一枚

オタク業界最高峰のサラブレッドにしてエリート、そのハーレムメンバーや友人知己を率いる身内系大規模チームリーダーである南雲ハジメ、特殊迷宮攻略試験達成者な彼はCランク八枚以上が戦力となる

透明人間扱いされるが実はハジメに準ずるハーレム野朗二号かつハジメグループのサブリーダーこと遠藤浩介、Cランク迷宮単騎攻略達成者な彼もCランク八枚以上でハジメと同程度の戦力持ち

中等部内ならリンク能力最高峰の技量持ち清水幸利、対プロ試験攻略済みな彼の戦力はCランク六枚

 

以上、この面子でCランク迷宮という新しい戦場に挑む事になる

 

此処でCランク迷宮というものに付いて語らせて頂こう

 

 

Cランク迷宮とは……三十一層以上五十層以内のかなり深い迷宮を示す。召喚制限も()()()()()八枚まで召喚可能ではあるから一見楽そうに見えるが、実際にはモンスターの思考能力が今までの迷宮よりも飛躍的に向上している上に罠の危険性も激しく向上しているので非常に危険である

 

嘗て……海外の話だがDランクカード数枚しか持っていない冒険者がCランク迷宮に潜り込んで死亡したという話がある。しかも彼は非常に浅い階層でゴブリンの群れの罠にハマって、という話だった

 

他にも迷宮の距離が爆増する『複数廻廊』や地図を一からつくらなくてはならない日替わり地形変化『ローグライク』などの厄介な追加要素がCランク迷宮からは爆増してくる……が、その二つは無い美城学園内のCランク迷宮はCランク迷宮としては珍しいぐらいシンプルかつ浅い分類である三十三階層である上に廃坑型である、勿論ちゃんと地図は販売されている

 

唯一、厄介な点を挙げるならば……Cランクから発生する『フィールド効果』だろう。この迷宮唯一の糞要素である『メイン効果:全階層機械破壊』というかなり嫌な効果にランダムなサブ効果が階層ごとに来る

 

電子機器や大概の人工魔道具は使用不可能という事になり、手書きの地図頼りに迷宮攻略を果たさねばならないという事だ。一応ちゃんとマッピングや地図把握が出来ないと途端に迷子になるぐらいにはCランク迷宮は深いものである……この迷宮はCランクにしては非常に浅く易しい超初心者向けクラスではあるが、だ

 

まぁ……最低最悪の効果と悪名高い『能力封じ』や『召喚制限』よりはまだマシではあるが

 

さて、この『フィールド効果』という物こそがCランク迷宮以降がプロ資格必須となる最大の理由である。必ず防衛側である迷宮のモンスターに有利で攻略者である冒険者側に不利になる何らかの固定特殊効果が迷宮全域に発生し、ランダムのサブ効果がそれぞれの階層毎に発生もする

 

例えばモンスターバフや何らかのデバフ、先に挙げた能力や召喚数や特定属性召喚封じ、モンスター全てが幽霊系統みたいに不死になったりと様々かつ嫌な効果が各階層ランダムで来る

 

美城学園内迷宮だと特に嫌なサブフィールド効果はカード二枚制限階層が二つだけで、それは低階層にあるからまだ楽な範囲だろう。一番厄介なのは三十一階層の不死化になる筈だ

 

しかし……何故こんな嫌な効果ばかりで危険なCランク迷宮を目指すか?普通ならDランク迷宮か何かで稼いだ方が安全性は高いだろう?そう思わなくはないだろうか?

 

しかしCランク迷宮以降からははっきり言って『身入り』がDランク以前とは別次元レベルで違う

 

Dランクカードは1%の確率でドロップするが、Cランクカードは0.1%の確率しか無い。故にCランクカードは高値で売れるが非常に非効率的だろう

 

しかし……Cランク迷宮からは『アイテムドロップ』という概念が追加される。今までのモンスターは魔石かカードしかドロップしなかったが、だいたい10%の割合でモンスターが何らかのアイテムを落とす様になる

 

これはガッカリ箱みたいに激しいアタリハズレは無いが、一定の価値ある魔道具を落としてはくれるのでこれがプロ級冒険者の主な財源になる。Fランクの低階層でも低等級のポーションや初等までのマジックカードを落としたりはするので実入りは間違いなく良いだろう……ごく稀に迷宮金貨を落とす事だってあるし

 

それに運が良ければCランクカードが手に入る可能性だってある。自身に適合するカードなら万々歳で、売値の高いカードなら売るなり自身に適合するカードのトレード用弾薬にするなり様々な恩恵がある。安く相性の悪いカードでも配下を作った時に貸与するなりやはり売るなりすれば無駄は無い、最悪プロ資格認定用の見せ札にすれば良い

 

万が一にBランクカードがボスからドロップしたなら一大事である……美城学園でも数回は事例があるが、どれもこれも大輝の引き起こした『中学生迷宮士勧誘騒動』ばりに大騒ぎになったものだ

 

現状、中等部でBランクカード持ちは勘太郎を筆頭に()()()()()()()()()両手の指で辛うじて数えられる範囲の数しか居ない。勘太郎の様に資金を貯めて買った奴、宝籤に当たった幸運な奴、親が買ってくれた奴の三種類が存在し、あの迷宮からドロップ獲得したBランクカードは先ず売却して利益は山分けか、永続的にチームを結成してチームの共有財産にしているのかが普通である

 

Cランクカード持ちはガチ勢を自認する者ならば安い一枚ぐらいは半々の確率で持っているだろう。三つ星資格持ちなら最低限一枚、大概二枚は持っているのが普通。清水利幸みたいに五枚六枚持っている奴は間違いなく上澄みも上澄みの分類に該当する

 

ある意味美城学園のガチ勢冒険者達の間では『努力を重ねてCランクカードを最低一枚は得る事』が創立以来の伝統……いやブームだと言える

 

今の大輝達は下手なプロチームより余程充実したカード編成と実力を有している。故にこの美城学園内迷宮ならばこの期日まで有れば攻略の芽は充分にあるだろう

 

冒険者歴辛うじて半年の大輝以外全員が少なくとも数回はこの迷宮を攻略した経験がある。普通のCランク迷宮は攻略に一週間以上はかかるが……この迷宮はその難易度の低さと浅さからちゃんとした準備と充分な人員さえ居れば数日もあれば攻略可能な迷宮だ

 

出没するモンスターはオーガを筆頭に色々なモンスターが出て来る割とオーソドックスなラインナップ。ボスはランダム式なのでどんなモンスターが出るかはわからないのが難点だろうか?

 

この迷宮は……学生冒険者が僅かな時間で攻略するには適した迷宮ではあるが、真なるプロを目指ならばこの迷宮に入り浸るのは止めた方が良いだろう

 

既に勘太郎は機会と時間が有れば他所の高難易度Cランク迷宮に挑む為の準備に勤しんでいるぐらいだ。今年の夏休みも姉やその知己等々色々な自身の縁を頼ってCランク迷宮攻略に明け暮れていたらしい。メアリー塾に纏わる伝手すら普通にあるらしい

 

ハジメチームも今はこの迷宮で資金資材稼ぎをしながらDランク迷宮攻略スコア稼ぎに精を出しているが、メンバーの準備が出来次第難易度の高いCランク迷宮に挑む公算を立てている

 

時に……迷宮は攻略すると暫くの時間はボスが存在しない状態になるのは皆もご存知だろう。その為こういう難易度の低い迷宮では『攻略レース』状態になる事がままある

 

Fランクの低難易度かつ美味しい迷宮でも近隣のエンジョイ勢らは持ち回りの取り決めで攻略者を決めたりする事がある。偶に余所者が入り込んで攻略を掻っ攫う事も偶にあるがそうなったら『犬に噛まれたもの』と諦めるものらしい……法的な根拠なぞ一切無い近隣エンジョイ勢らの不文律故に

 

美城学園内迷宮の場合は……入場資格持ち達が登録してその連休中の定められた放課後に早いもの勝ちで入場、そして攻略もまた早いもの勝ちという取り決めになっている

 

他の冒険者に遭遇しても決して喧嘩せずに、もしも相手に何らかの不具合が有らば即座に攻略を中断して人命救助を最優先するルールが存在する

 

このトライアル競走めいた迷宮攻略は攻略参加者以外からちょくちょくトトカルチョの対象になったりするもので、大して儲かりはしないが大損した奴もまた聞かない。それはそうだ、多少は胴元が得……いや、手間暇が面倒だからあまり得でも無いか?する仕様ではあるがまぁせいぜい一口百円最大五口のささやかなギャンブルである

 

ちなみに……今回は大輝達以外には高等部のチームがニ十数人の大規模チームで挑むらしい。平均的に二つ星か稀に三つ星の二枚から三枚のCランクカード持ちばかりで人海戦術を以て迷宮攻略に挑むチームだ

 

少なくともこの迷宮に挑む為の最善手に特化したチームではあるが、他の難易度が高まったCランク迷宮に挑むのは厳しいタイプのチームだと言える。それでもこのチームのエースコンビは大輝達に近いレベルの力量はあるだろう……そしてこのチーム最大の特徴は、やはり二つ星でCランク三枚持ちの『迷宮士資格持ち』が専属で所属している処だろう。ちなみにBランクカードは勘太郎と同じカードをリーダーが一枚だけ所有している様だ

 

今回は『少数精鋭対人海戦術』という一対一のやや変則的な勝負になるだろう……もしも先を越されたらCランク階層でモンスター狩りでもしながらカードなり魔道具なりを集めでもすれば採算は取れる。少なくとも大輝以外全員が何度かこの迷宮攻略経験持ちだし、それで相手に先を越された経験だって無い訳ではない

 

今回はなるべく早くボスの元に到達&討伐してから半日はCランク階層で狩りに明け暮れる予定である

 

……皆、これからの為の戦力資材運用資金は幾ら有っても足りないのは確かだし

 

他にも話すべき内容は沢山ある。それぞれの切れる切り札や分け前の想定とイレギュラー事態への対処対策……それにカードや魔道具をロストした際の補償など様々なものがある

 

大輝以外ならそれなり以上にお互いのスタイルを知っているだろう。大輝のスタイルは……彼らにとってもかなり異端、いや珍しいものらしい

 

そもそも大輝は盲目前提のEランク装備カードでイレギュラー相手だろうが切ったはったする様な奴である。普通に冗談みたいなスタイルだろう。最近ではそのEランク装備カードをDランク装備カードである贋作妖刀にクラスチェンジした上でリビングアーマー、付喪神を追加で装備して暴れ回るのがデフォという有り様だ……勿論盲目状態で

 

勘太郎やハジメ達も、これから暫く先に大輝の筆頭カードであるエルフの剣からその辺りの凄まじさを聞く事になる

 

勘太郎の場合は……憑依装着型かつBランク装備カードであるデュナミス、剣型のリビングウェポンから初まった贋作妖刀を鍛えに鍛えた結果物品憑依型に変異した妖刀村雨、呪い型であるベンニーアを以て戦うスタイルなのである意味大輝と似た様なものだろう。勘太郎も勘太郎で単騎イレギュラー殺しは経験済みだからある意味『同類』を見つけられてにっこりだ

 

ちなみに、勘太郎は今、相性の良い祝福型装備化カードを求めているらしい……キマリスとかネヴァンみたいなBランクでも非常にお高いものでなくとも良いらしいが、それは大輝だって同じである

 

勘太郎も一枚五億が平均価格のデュナミスを得る為に色々な冒険をしたりして頑張ったらしい。それこそデュナミスが下手すれば十枚は買えそうなキマリスやネヴァンを今すぐ求める気にはならない……それこそどれだけ時間が掛かるかわからないし

 

同じ『戦士』だと言える大輝も今日の話で盛り上がり今度勘太郎と剣の鍛錬をやってみる事になった。ちなみにハジメチームや浩介チーム、そして幸利とその長年連れ添った彼女である中村恵里の傭兵コンビも一度は合同演習に参加する事となった。多分、早くて十月辺りに実行する事になるだろう

 

彼らは全員少なくとも何らかの装備化カードの一枚ぐらいは持っているし専業の『戦士』だって結構な数が居るし前に挙げた龍太郎や重吾もハジメチームの新人である

 

こういう合同演習の際には公営の『グラウンド型特殊迷宮』とかを借りたり何なり色々やり方はあるが、場所に都合が付かなければ八重樫道場……ハジメチームの重鎮である八重樫雫の縁故による協力か大輝自身の縁故であるメアリー塾、若しくは親のコネでダンジョンマートの訓練施設を借りるなり様々な手段がある

 

最悪、学園の体育館なりグラウンドなりを借りて『戦士系に役立つトレーニング方法伝授』という手段もあるが、その場合は模擬戦は無しになる

 

まぁ……そんな風に様々な取り決めが決まって今日の佐藤家にはこの男五人だけしか居ない。家主の大輝があらかじめ注文しておいたピザを振る舞い明日に備えてさっさと寝る。普段ならゲームなり何なりやって馬鹿騒ぎしているだろうが明日の放課後から冒険だから間違いなく大忙しになる

 

全員ちゃんと制服鞄冒険セットの準備は完成してそれぞれのカードホルダーに収納済みだ。今日はリビングの机をどかして五人で雑魚寝……全員ちゃんと異空間系カードぐらい持っているのでこういう眠り方は迷宮でもあまりやらないから何気に新鮮な気分ではあるが、プロ志願者としてさっさと眠る

 

さて……明日は先輩らとの正々堂々バトルである、まぁ勝てば少し得かも知れないだけで負けても特に酷い損は無いが。それでも勝負は勝負である、気合いを入れて掛かるに越した事はないだろう

 

 

 

【Tips】迷宮課外学習権

 

美城学園独自のシステムの一つ、冒険者登録をしている生徒が昇格試験や格上迷宮に挑む機会を得られた際に行使出来る権利

 

平均点を維持する事を条件にその階級に拠って決められた日数だけ授業を公休扱いする事が出来る。初等部と一つ星なら年二回、二つ星なら年四回、三つ星なら年八回の権利が与えられる。もしもプロ資格を獲得出来れば最低限必要な出席日数さえあればどれだけ休んでも構わない特権が与えられる

 

他にも……何らかの功績を立てたりすればその分日数が付与される。この付与は一度しか使えず、他者に譲渡などは出来ないが、卒業までその権利を保持出来る

 

美城学園は芸能学校が本業であり、アイドルや芸能人として活躍している生徒達の中には国民的な売れっ子も多々存在する為生まれたシステムを冒険者に適合させたのがこのシステムである

 

 

 

【Tips】美城学園生徒らの基本的なデッキ編成とスクールカースト事情

 

美城学園の冒険者生徒達は……他所の学園の生徒達と違い『冒険者である事』だけでスクールカースト上位に入れたりは決してしない。この学園で胸を張って『冒険者です』と名乗りたければ最低限二つ星資格を獲得するか努力してCランクカードを得るか……一念発起して迷宮士資格を得るかでもしなければこの学園で『冒険者としてのスクールカースト上位』にはなれないだろう

 

この学園における『ちゃんとした冒険者』とは、最低限二つ星資格を獲得してCランクカードを一枚二枚は自力で入手し、脇をしっかり鍛えたDランクカードで固めるぐらいはやらないと認められないだろう

 

ちなみに普通の……この学園以外の学生冒険者は大概エンジョイ勢ばかりであり、大半が奨学カード一枚か良くて二枚、後は運良くゲットしたEランクカード数枚と数合わせのFランクカードといったデッキ編成がせいぜいと言った処でしか無い。美城学園のエンジョイ勢枠の生徒でも流石にCランクカードの一枚は入手する為に努力するのが一般的な感覚になる

 

美城学園における『冒険者』は外よりも非常に厳しく過酷な条件で認められるものであり、『冒険者ライセンスはあるけど脱落した者』もまた非常に多い。今期の中等部三年生達は近年稀に見る……いいや美城学園でも初の大当たり年だと分類されている

 

美城学園内の『上澄みクラス』らは基本的に三つ星資格持ちでCランクカードを三、四枚は保有する上にリンク能力持ちかその知識有りばかりである。このレベルになれば美城学園でも人気アイドルに並ぶスクールカースト上位陣に認定される。ちなみに一つ星で奨学カード一枚しか持たない冒険者でも『迷宮士資格』を獲得出来ればスクールカースト最上位クラスに祭り上げられるので、この資格は学園でも真面目に重視されているのが良く分かる

 

もしもBランクカードを一枚でも保有している生徒が居るなら間違いなく迷宮士資格持ちに準ずるレベルでスクールカースト最上位扱い待った無しになり、更にもしも美城学園高等部卒業迄にプロ資格を獲得出来た者が居たら……間違いなく大騒動になるだろう。今までは『折笠勘太郎』がもしかすれば高等部卒業までにという期待も有ったが、今は迷宮士資格を最初から獲得した『佐藤大輝』に強い期待が寄せられている

 

迷宮士資格持ち達はその余りにも過酷な試験からか、美城学園の生徒達はこの試験に『自分で挑む』という発想を持つ生徒があまり存在しない。その為この長く辛い試験を超えた者達を心から尊敬している、という背景が存在している



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【マッスル?】今月の冒険月報 Part290【ロリ巨乳?】

何か見たら日間ランキング二十位?

……まぢですか?


 

ここは月刊冒険月報を語るためのスレです。

次スレは950を取った人が立てて下さい。

980を過ぎても立ってない場合「980以上で書き込んだ人全員」に立てる義務があります。

宣言してから立ててください。次スレが立つまで埋めるのを控えてください。

 

※個人攻撃・誹謗中傷、ダメ! 絶対!

 

 

※前スレ 【REIKA】今月の冒険月報【第三回特集】 part 289

 

 

※関連スレ

新米冒険者の欲しいカードランキングスレ part75

Eランク以下で役だつカードを語るスレ part29

冒険月報で懸賞当たった奴、何が当たったよ? Part55

 

 

30:名無しの冒険者

いや、今回の表紙マジ良いじゃん

 

31:名無しの冒険者

あの金髪の娘マジ最高だね

 

32:名無しの冒険者

しかもおπデカくね?

 

33:名無しの冒険者

うひひ……いかん、俺の中の棟方師匠が暴走しそう

 

34:名無しの冒険者

てか顔も女の子カード……エルフやサキュバス顔負けじゃね?初めて見たけど何者だこの娘?教えてエロい人

 

35:名無しの冒険者

あの娘マジ可愛い……あのマッチョのカードなのか?……あんな容姿レベルで人間とは思えない、マジ好みだから売って欲しいぜマジで

 

36:名無しの冒険者

でもあの容姿だと売っていても冗談みたいな高値で高嶺の花過ぎて笑うしかないだろマジで

 

37:名無しの冒険者

一応あの娘、普通の人間であのダンジョンマートのキャンペーンガールだぞマジで……

 

38:名無しの冒険者

え〝、まぢで?あの容姿はマジでカードレベル……しかもBの領域だろオイ!!?

 

39:名無しの冒険者

マジで重役の娘さんだそうな、あのプロポーションでたったの十二歳。しかも今もランドセル背負っている筈だ

 

40:名無しの冒険者

あのたわわで……ランドセル……ごくり

 

41 :名無しの冒険者

通報した

 

42 :名無しの冒険者

通報しました

 

43 :名無しの冒険者

おまわりさんこいつです

 

44:名無しの冒険者

おまわりさんこいつです

 

45:名無しの冒険者

おまわりさんこいつです

 

46:名無しの冒険者

おさわりまんこいつです

 

47:名無しの冒険者

ちくわ大明神

 

48:名無しの冒険者

おい今の誰だ

 

 

(暫し40フルボッコが続く)

 

 

178::名無しの冒険者

でもさ、表紙のあのマッチョは一体全体何なんだ?あの美少女と一体何の関係があるんだ?少なくともあれの表紙になるぐらいなら間違いなく三つ星ぐらいはあるだろうけど?

 

179 :名無しの冒険者

確かあいつ……あれでも未だ十五の子供らしいぞ?表紙にあるだろ『日本最年少の中学生迷宮士資格獲得者』って

 

180 :名無しの冒険者

あのマッチョマジモンのインテリだな……あの資格大人でも難しい上に必要勉強時間最低五百時間の筈なのに良くあんな鬼畜難易度合格出来たな

 

自習でやったら千時間でも未だ足りないぐらい難解だし……勉強する前提満たすだけでも大人だって匙投げたくなる難しさなのに

 

181 :名無しの冒険者

迷宮士資格ってそんなに難しくの?教えてエロい人

 

182 :名無しの冒険者

そりゃお前……世界中のプロ冒険者って基本的に軍除けば全員合わせて五千人にも満たない精鋭冒険者の中の精鋭冒険者だぞ?

 

その資格はそれこそそれに専念しても数年は覚悟しておくべき勉強期間と滅茶苦茶厳しい試験必須……実力だけなら下手なプロ以上の冒険者でもこいつのせいでプロ昇格に歯止めかかっている奴は世界中に沢山居るしなマジで

 

183 :名無しの冒険者

冒険者の質や量が豊富な分類の日本ですらプロ資格持ちは三百人弱……近年は弁護士とかにも迷宮関係に関わるなら絶対必須資格だしなアレ

 

184 :名無しの冒険者

あの資格持ってると就職アピールとしてなら三つ星資格より上だぞ?三つ星資格と併せれば倍率ドンだぞマジで

 

182 :名無しの冒険者

少なくとも実務能力と忍耐力は保証付きって意味だしな……この資格だけでも迷宮関係企業なら一発合格ものだし

 

183 :名無しの冒険者

三つ星資格はある程度以上の冒険者としての力量は保証するけど実務能力や人間性を保証するものではない、しかし迷宮士資格は非常に地道な努力が必須だしな。それにあれは努力次第で誰でも出来る……少なくとも理論上ならば、な

 

184 :名無しの冒険者

だからその『厳しくても努力出来る』という点と実績を評価されて迷宮関係に明るい企業からは高評価って訳か?なるほど

 

185 :名無しの冒険者

まぁそんな訳であのマッチョは高い評価をされた訳だ……八歳から中学三年生になるまであの身体にまで鍛えながらあの厄介な試験超えたガチのアメリカンエリート系だぞ?面構えからして違う

 

186 :名無しの冒険者

それに……イイ身体しているね、俺マジで好みだぜ

 

187 :名無しの冒険者

え?

 

188 :名無しの冒険者

オイオイオイオイオイオイ待てよ!

 

189 :名無しの冒険者

……未成年者だからな?未成年だからな彼!!

 

 

(今度は186への総ツッコミでスレが流れてゆく)

 

 

222 :名無しの冒険者

よし、とりあえず皆落ち着け……あの筋肉坊やはあの超絶美少女と幼馴染らしい。多分デキている筈だ、あの186みたいな趣味はない筈だ

 

223 :名無しの冒険者

よしあの娘についてもう一度語ろう(現実逃避)

 

224 :名無しの冒険者

でも……今のご時世あんな美少女ばかりのハーレムだって何気に作ろうと思えば作れはするんだよな

 

225 :名無しの冒険者

カードならな

 

226 :名無しの冒険者

最近、そのカード関係のせいで『一夫多妻制度』が出来そうって話もあるんだよな?男が近年は女の子カードに流れ流れまくって出生率が右肩下がりだし

 

227:名無しの冒険者

まぁ…てあれはむしろ『やれるもんならやって見せろ下さいお願いしまむら』ってだけだろうよ、やって普通は女の子カードハーレムだからな

 

……アンゴルモアとかイレギュラー関係のトラウマとかの果てにって例は間違いなくあるしその辺りは口出し出来ないけどな。あの辺りはそっとしておいてやらないとな

 

228 :名無しの冒険者

流石にそれはデマだろうけど……このままだと確かにな。政府も人間アイドル事業に肩入れしている状況だしな。でも婦人団体や人権団体が大騒ぎするだろンな話が出たら?

 

229 :名無しの冒険者

デマでも冗談でもこんな話が世に出るぐらいには政府も昨今の少子化を危惧しているって事なんだろうか?いや更に酷いデマや妄想の類いだろうけど……アンゴルモアによる文明崩壊への備え説ってのもあるな

 

230:名無しの冒険者

オイオイ、それはスレチだろ。ハーレム冒険者晒しスレか陰謀論スレに行けよ

 

231:名無しの冒険者

すまんすまん

 

232:名無しの冒険者

でも……今回の彼みたいに現実の女の子一途ってのはプロチーム的にも高評価なんだよな、マジで

 

233:名無しの冒険者

どうして?普通にプロやガチ勢だって女の子カードとにゃんにゃんするぐらい普通だろ?

 

234:名無しの冒険者

連中は性欲処理に割り切っているだけだ、プロ界隈の多数派では女の子カードに入れ込む奴は忌避される傾向にあるんだよ。女の子カードに入れ込み過ぎて社会性を喪失している奴が多いとか何とかな?

 

235:名無しの冒険者

あー、確かに冒険者界隈では偶に良く聞く話だよな?むしろそれはエンジョイ勢とかに多い気がするけど

 

236:名無しの冒険者

それを『カードに魅入られた』とか呼んでいるらしい、連中がカードの名付けを忌避する理由もそうだな……俺はこの風潮嫌いだけど

 

237 :名無しの冒険者

だからあの筋肉はプロチーム的に美味しい訳だ……相棒が男エルフだの主力が不知火だの贋作妖刀だのって何て言うか女っ気の無いデッキらしいんだよな?そもそもCでもかなり強いカードだろアレら中学生のデッキじゃねーよ!!?

 

238 :名無しの冒険者

中学生かつ冒険者歴半年そこら……んで三つ星、迷宮士、イレギュラー殺しに、Cランク複数所持とか凄すぎてヒくわな

 

239 :名無しの冒険者

しかも最初はオークとブラウニー、ピクシー二枚から始めたらしいんだよな?一体何をどうすれば半年でこうなる?

 

240 :名無しの冒険者

彼はあの冒険者学園こと美城学園の生徒でメアリー塾の塾生だぞ?あの塾の若手エース枠らしい……迷宮士資格の為に長期間でも雌伏出来る根気と忍耐力でそう評価されていると、彼を勧誘する為にメアリー塾に行ったうちのスカウトマンが言ってたわ

 

241 :240

ちなみにスカウトは全てお断り、自分のチームを結成するつもりらしいぞ彼

 

242 :名無しの冒険者

なるほど……うちに来てくれるならプールしてある猪笹王とかデュミナス辺りなら出してもって思ってたけど、まぁ独立独歩派にはそういう勧誘は迷惑なだけなんだよな

 

243:240

うちはその辺りと一緒にかなり良い条件出したけど駄目だった……一度会談の為に会ってみたけどやっぱり欲しかったなあの子

 

244 :名無しの冒険者

240サンキュー、しかし美城の生徒は化け物揃いかよ……石を投げれば大概冒険者に当たるとは言うが、当たった冒険者は大概二つ星なんだよなあそこ

 

245 :名無しの冒険者

何気に三つ星持ちの人口数も世界有数なんだよなあそこ……知ってるか?あの学園で『一人前の冒険者』を名乗りたければ最低限『二つ星資格と一枚はCランクカード必須』なんだってさ

 

……迷宮士資格持ちならそれだけで一人前超えて王侯貴族扱いだけどな。あの学園外の普通の学校における三つ星資格持ち扱いらしいぞ?

 

あの学園でも彼含めて五十人未満しかいないらしいけどな、迷宮士

 

246 :名無しの冒険者

いやいや、それは言い換えれば『五十人弱もあの資格持ちが存在する』って意味だろう?やはり美城学園は魔窟か何かだなマジで

 

247 :名無しの冒険者

そろそろスレチ化してきたな……今月の冒険月報のコラムは皆読んだか?

 

248 :名無しの冒険者

あぁ、あの足洗屋敷の活用法だろ?あの産廃異空間の?

 

249 :名無しの冒険者

そう……あの産廃異空間のな、あの唯一にして最悪の欠陥のせいで産廃仕様のおかげでかなり安くなりそうなアレだ

 

250 :名無しの冒険者

一応は戦闘用拠点としてなら多少は使えるけどメンテが面倒過ぎて嫌なんだよなアレ、住居には使いたくないわな個人的に

 

251 :名無しの冒険者

てか、燈無蕎麦とか何処から調達しろと?しかもレアスキル必須だよなその条件?

 

252 :名無しの冒険者

一応は送り提灯でも出来るけどアレは燈無蕎麦より更に貴重だろ?先ず東京一円でしか出ない上にモンスターとしてもレア過ぎる……プロでも懸賞金出しているぐらいレアなんだぞ?

 

足洗屋敷なんかに使うぐらいならウィンチェスターハウス買って使うわな

 

253 :名無しの冒険者

送り拍子木と何でも良いからCランクカードさえあればDランク階層までなら容易く行けるって訳か?そりゃプロからしたら垂涎モノだわ

 

254:名無しの冒険者

送り拍子木なら比較的見つかり易いけど元が単なる木だから耐久性はお察しなんだよな……送り提灯も所詮はEランクだから罠とかで容易くタヒぬから取り扱い要注意だけどな

 

255 :名無しの冒険者

エンジョイ勢とかが送り拍子木手に入れたら非常に喜ぶ訳だ……楽に迷宮攻略出来るしな

 

んで調子に乗って二つ星試験でアボンしたりイレギュラーにエンカウントしてアボンするまであるけどな!

 

256 :名無しの冒険者

お前ら……このテクニック使いたい?俺はどっちも無いから無理だわ

 

257 :名無しの冒険者

俺は提灯なら持っているけどこんな使い方はしたくないわな

 

258 :名無しの冒険者

燈無蕎麦ならあるけどあのスキル何ざねーよ

 

259 :名無しの冒険者

うちの可愛い仔狐が割烹着姿になりました

 

(写真略)

 

260 :名無しの冒険者

うぉマジか……かわえぇ……

 

261 :名無しの冒険者

勇気あるな259

 

262 :名無しの冒険者

うちにもどっちもあるから……そのまんま普通の足洗屋敷になった

 

263 :名無しの冒険者

262はちゃんとコラム読んだか?その燈無蕎麦を大切にしていたか?

 

264 :名無しの冒険者

大切にしていてもクラスチェンジは運だからな?ちゃんと成功例も失敗例もあるから気を落とすなよ262

 

 

この後は262を慰めるレスが続く

 

比較的過疎スレである冒険月報スレだが、細く長くレスは続いてゆく

 





感想のコキユキ氏のコメントから少しインスパイアを頂きました

……何時かハーレムについてもちゃんと記載しないとな?主人公達には全く関係ない話だけど


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