洗脳探偵ヒスイ (マジカル赤褐色)
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プロローグ
探偵とは、一重に、常識から逸脱した方法で、手がかりを探しだし、犯人の姿を見出す、砂漠の砂の中からひとつだけのエメラルドを掘り出すかのような存在。警察とは、捜査の過程、やり方、特徴から全く異なる。だから、犯人確保、事件解決という利害は一致しても、決してこの両者は相容れない。
その探偵の中にも、例外はある。探偵の中にも例外がひとつだけある。探偵とは、高度な推測によって犯人を見つけ出す。だが、「あの探偵」は、違う。犯人から、直接白状させることで、犯人を確保する。相手の脳や意識を操作し、黙秘や嘘が不可能となる。
しかも、その探偵は、一般人であり、あまつさえ、本業はとある屋敷のメイドだ。
だが、彼女は、明らかに、偉大なる功績を次々と残した。どれほど凶暴な犯人も、彼女を前にすれば、それこそ豆腐のようにねじ伏せられ、どれほど深く、隠れた陰謀であれど、彼女のあらゆる嘘を見破る群青色の瞳の前から逃れることはできない。現に、数多くの犯人が、数多のペテン師が、無数の詐欺師が、彼女の瞳の前に無情にも破れ去った。
彼女は人智の域を超えた難事件共に、風のように顕るさすらいの名探偵であり、性格は無愛想、鉄仮面、無口。
事件解決率は、前代未聞の120%にもかかわらず、加害者、被害者両方を恐怖に陥れる、冷徹な法の管理者及び執行人。
またの名を、密室探偵。密室探偵とは、密室専門の探偵ということではなく、密室で事件を解決する探偵ということである。
精神改革、絶対洗脳、虚言訂正、自供強制、必中論破、不可避自白をメインスキルとする、今日もこの街の平和を守る、夜の街に巣喰う狂った正義を穿つ、もう一つの狂った正義のヒーロー、理の支配者、摂理の裁定者、真理の圧制者、根源の代行者。
その探偵の名は……………
《遠野邸朝》
???「おはよう、翡翠」
???「おはようございます、志貴さま」
そう言って、その女性は緩く微笑んだ。
彼女は翡翠。遠野家に仕える使用人であり、彼女の前にいる少年、遠野志貴の世話係。主の為なら全力を尽くす頑張り屋さん。掃除、選択、その他諸々、ありとあらゆる家事をこなす完璧な従順メイドである。無表情で寡黙な性格を持ち、唯一料理を苦手とする。
翡翠「秋葉さまがお待ちになられてます、お急ぎになられたほうがよろしいかと」
???「そうだね、今朝も寝過ごした。はぁ……俺っていっつもこうだよな、いい加減、俺もしっかりしないと、いつ秋葉に勘当されるかわからないからな。ごめんよ、翡翠、毎朝何度も起こさせて」
翡翠「いいえ、これも使用人としての務めです」
翡翠はそう言って、志貴の部屋を退室していった。
???「さて、俺もそろそろ行かないとね」
彼は遠野志貴。翡翠が仕える主であり、遠野家の長男。いつもぐうたらしている温厚なメガネナイフマンだ。一般人高校生で、密室探偵の存在を影から知る、数少ない人物だ。
◆ ◆ ◆
???「あら、おはようございます、兄さん、今朝はよくお眠りになられましたね。流石は兄さん、私の苦労も気にかけず、遠野の長男としての自覚も持たず、さぞ一般庶民学生にもよく似た夏休みを謳歌されてるご様子ですね」
居間に入った志貴に、それを予告していたかのように、鋭い滑らかな声の咎めが突き刺さる。
志貴「おはよう、それとごめん、秋葉。今朝も寝坊しちゃって。直さないとね、いい加減」
???「いいえ、私は鬼ではないですから、無理なさらずとも、私は無理な事をさせるつもりはありませんよ」
志貴「信用すらしてもらえてないのね俺」
志貴は分かりやすくヘコむ。
彼女は、この遠野邸を構える遠野の現当主、「遠野秋葉」。彼女は、この総耶を統轄する、遠野のお嬢さま。志貴の妹であり、冷静沈着、完璧主義の、完成、精錬、洗練されたお嬢さまである。
秋葉「ただでさえ、琥珀がどこかへ失踪して、人手が圧倒的に足りていないのに、長男である兄さんがぐうたらされていては、遠野家はいよいよ崩壊してしまいそうです」
この家には、翡翠の双子の姉に、琥珀という少女もいる。だが、彼女は、数ヵ月前、何の予告もなしに、どこかへと失踪してしまった。当然、遠野家一行は全力でこれを捜索してはいるが、これまでに、足跡も毛の1本も見つかっていない。
志貴は、琥珀の帰りをずっと待っている。だが、現実は甘くはない。いくら待っても、琥珀は帰ってこない。最初は、「八割減給します」と言っていた秋葉も、だんだん本気で心配してくるようになった。
ただ、一人だけ怖じけ付いて居ない者が一人いた。
◆ ◆ ◆
遠野邸一階、その隅には、一つ、不思議な扉がある。その存在を知る者は一人のみ。
彼女は扉を開き、中へと入っていく。その奥の部屋は、秋葉の事務室と同じぐらい整った、事務室らしき空間。だが、この部屋は秋葉のものでも、志貴のものでもない。また、翡翠のものでもない。
───ここは、「洗脳探偵ヒスイ」の事務室だ。
洗脳探偵ヒスイとは、遠野家使用人、翡翠の裏の顔。あらゆる怪事件を、探偵も刑事もしまい方法、洗脳で解決してしまう、そんなスーパー謎探偵、それがヒスイだ。
???「おや、相変わらず、今日の出勤も早いね、翡翠」
事務室には、ヒスイより先に、一人の少年がいた。学生服に身を纏った少年で、志貴によく似ているが、眼鏡を掛けておらず、纏う雰囲気も全く異なる。
翡翠「静かにしてください、七夜。貴方はただの用心棒ですから、助手でもないのですから、わたしがその気になれば即座に解雇いたします」
今、翡翠の前にいるこの男は七夜志貴。遠野志貴のそっくりさんで、街中を調査していた翡翠に偶然出くわして一目惚れ。助手になりたい(理由は翡翠と一緒にいたいからである)と何度も頼み込んだために、翡翠に呆れられ、最終的に、助手ではないが、用心棒(ボディーガード)として受け入れられ、今となっては翡翠と共に行動している、正真正銘、洗脳探偵唯一の相棒だ。人付き合いになると面倒な相手だが、用心棒としては非常に優秀で、危険な調査や捜査が多い翡翠にとっては、これ以上ないほど鬱陶しい男であり、これ以上ないほど頼もしい味方だ。
七夜「待て待て、そんなに早まるな。オレは剣でしかない代わりに、剣としては優秀なものだろう?それで?今回の事件はどうなんだ?」
七夜は呆れ果てる翡翠を抑える。
翡翠「今回の事件は、街で溢れかえっているコレです」
そう言うと、翡翠は部屋の隅に立て掛けてある鉄骨を指差した。勿論、この鉄骨は、何の変哲もないただの建材だ。
七夜「なんだ、重量鉄骨?ふん、こんなモノが独りでに動くわけないだろう。そんな怪事件、見たことも聞いたこともないぞ。なんだ、新手のジュブナイルに出てくる魔法のアイテムか?英国(イギリス)の小説じゃああるまいし、資材が動くなんてあり得ないさ」
翡翠「その動画がこちらにあるんです」
そう言って、翡翠は引き出しからパソコンを出すと電源を入れて、映像を映し出した。そこには、駅のホームと大勢の人々、それから電車が通る映像が映っている。
七夜「これは、駅のホームの映像か?こんなもの、何処で手に入れたんだ」
翡翠「これを見てください」
すると、駅のホームに、大量の空飛ぶ鉄骨が押し寄せてきた。鉄骨は電車を攻撃し、散り散りに逃げ回る人々を追い回している。
七夜「なんだこれ、偽りの報せじゃないのか?」
流石の七夜も、これはおかしいと思っている。翡翠もまた、そうですね、と頷く。
七夜「仮にこれが偽りじゃないとして、どうなったらこんな事になるんだ。まさか独りでに鉄骨が動いたとは言わせんぞ。何処かに犯人がいるって話だろう?」
翡翠「はい、わたし達の力でこの事件を解決しましょう、七夜」
翡翠は調査に出ようと、勢いよく席を立つと、部屋を出ていく。
七夜「気乗りはしないけど、まぁ、頑張屋のお嬢さんのお命が懸かっているんでね、オレも同行せざるを得ないか」
七夜もニヤリと微笑んで、翡翠の後についていく。
翡翠「志貴さまを呼んでください、三人で街の捜査をしましょう」
七夜「了解、先に行ってくれ、後から追う」
翡翠「────この事件が、チェックメイトです」
七夜「よっ!翡翠節!」
この幕を以てして、今回の事件は、「コンクリートジャングル殺人事件」と名付けられる。
この街に巣喰う悪は、翡翠が喰らう。人々の平和と安全を護るために、彼女は動き出す。今、真意の鼓動が、未知なる可能性が、街に轟く。朝から踊る町は高鳴る躍動に身を包み、今、正義の味方の来訪を心待ちにしている。
戦いは始まる。必ず、彼女は犯人を捕らえる。すべての正義、すべての命運は、彼女に託された、
頑張れ、洗脳探偵ヒスイ!!
【コンクリートジャングル殺人事件編に続く】
洗脳探偵ネタを文庫化することになるとはまさか思いませんでしたね笑笑(非公式だけど)カニファンやテイクムーンではお馴染みとなったこちらのネタ、原作にもあった事件を取り扱った、月姫愛に満ちたコメディとなっております、マジカル赤褐色の力を最大限発揮できるジャンルなので、ちょっと自身があるかもです。展開がハチャメチャ過ぎる、洗脳探偵ヒスイワールドをお楽しみください!
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コンクリートジャングル殺人事件
暗示刑事
《総耶駅前広場中央》
志貴「うわぁ……これはまた……」
翡翠「現場の状況はかなり酷いですね………」
街に調査に出た志貴と翡翠、そして七夜の三人は、この通り、よりにもよって丁度現場に出くわしてしまった。見てみれば、駅前広場のそこらじゅうに鉄骨が刺さっていて、人々は逃げまどっている。
志貴「しかし、鉄骨が人を襲うといっても、これほどにまで直接的な状況だったなんて」
七夜「犯人の動機も思惑も犯行方法も、全てが意味不明……だな」
翡翠「いいえ、それでも私は必ず事件を解決してみせる」
志貴「根拠が無さすぎる………」
しかし、七夜の言ったことはもっともであり、このような状況があって、一体どのような動機があったのだろうか。明確な目的があったとして、それはそれでどうやってこんなことをしたのか、意味が解らないだろう。
翡翠「ひとまず、怪我人が発生していなくて助かりました」
志貴「そうだね」
七夜「だが、この様相から犯人像が推測できるのか、翡翠?」
翡翠「はい、それに相応しい手がかりがあれば……」
「そうか……」と二人は肩をすくめる。それもそうか。探偵である翡翠には手がかりがあって初めて犯人の姿をとらえることができる。確保するまでのことはできないし、そもそも手がかりが無いでは話にならない。
???「おや?誰かと思えば、洗脳探偵ヒスイさんじゃないですか~」
三人「───?」
突如、困り果てる三人の背中から滑らかな声がした。翡翠と志貴と七夜の三人が声のする方を向く。
翡翠「貴女は………!」
???「お久しぶりですね、翡翠さん」
その女性は、ある意味異質な空気をまとった女性だった。こちらには敵意は一切ないことから、犯人ではないと見える。その女性の髪色は、着物にでも使えそうな綺麗な藍色で、瞳もその色に果てしなく近い瑠璃色。角縁の志貴の眼鏡とは異なる、滑らかな曲縁の眼鏡を掛けている。
志貴「え、シエル先輩!?」
真っ先に志貴が声を上げる。それもそのはず、彼女はどっからどうみても、志貴の通う学校の先輩、シエルにそっくり……いや、本人だったからだ。
七夜「誰かと思えば、カレーショップメシアン常連の暗示刑事じゃないか、こんなところでうろうろしていると危ないぞ?」
志貴「暗示刑事……?」
翡翠「七夜の言った通りのことです、志貴さま。アレは、私、洗脳探偵と対に位置する暗示によって難事件を解決してきた一流刑事、シエルさまです」
女性は名をシエルという。その正体は暗示によって幾度の難事件を攻略してきた、洗脳探偵とは龍虎仁王の並びに立つ、刑事である。
性格は温厚でお人好し。軽い物腰で事に当たっては、善良な心で人々を救う、学校公認の「いい人」。その行動力、優秀さは折り紙付き。その影響力、人気度は後輩たちからの太鼓判付き。そしてその造形美は遠野志貴のお墨付き。
その名も、「暗示刑事シエル」。
洗脳探偵ヒスイ同様、数々の難事件を、流れる水のように掻い潜り、悪の野望をそれこそポテトチップスのように打ち砕いてきた、正真正銘の、総耶町のミステリーハンターである。
志貴「………えーっと、その、シエル先輩は、何をしているんですか」
シエル「何って、決まってるじゃないですか、このコンクリートジャングル事件の調査ですよ」
シエルは平然とした顔で志貴の質問に答える。すると、
???「ちょっとちょっとちょっと!!もーう!どこ行ってたのよ!」
シエルに遅れてまた別の人物がやってきた。シエルが淑やかな美女なら、こちらは露骨な色女といったところか。
色気を全面的に放出している。無論、これはグラマラスな気配を纏った女というより、自ら努力をしてなんとか色気を確保している感じである。
志貴「え!?ノエル先生まで!?」
翡翠「暗示刑事の護衛ですね」
七夜「あーあ、ザル警備のお出ましか」
その女は前後上下左右360度どの方向から見ても、志貴の通う学校の教師、ノエルだった。
ノエル「ちょっと!!なんなのよザル警備って!あんただってザル警備じゃない!」
翡翠「いいえ違います、ノエルさま。七夜は性格だけの貴女とは違って、性格は最悪ですが、わたしを護る意志だけはそれなりです」
七夜「遠回しにオレの愚痴を言っている風に聴こえるんだが違うか?」
ノエル「あぁー腹立つぅ~♪こいつ殺したーい」
ノエルは手に持ったハルバードを構えて今にも振り回すような勢いで静止している。
七夜「真に受けるな、オレよりマシな扱いされてるんだぞ」
志貴「だいたいそのハルバード、法律違反だと思います、ノエル先生」
ノエル「え?そうなの?銃刀法って刃渡り20cm以上じゃなかったっけ?」
ノエルはどうやらハルバード自体が刃渡りがどうあれ凶器であることを理解していないらしい。そりゃあ、どんなに小さくても銃火器持ち歩いたら法律違反になるだろう。街中でこんなものを持ち歩いて職務質問を掛けられたりシエルに逮捕されたりしなかったのが奇跡としか言いようがない。
???「おう、テメェら、張り切ってんじゃねぇか」
空からまた一人新しい者がやってきた。背丈の低い少年で、この中では一番年下に見える。手袋のような機械をはめており、そこから糸かワイヤーかでも出ているのか、空を滑空するように近くの駅ビルから降りてきた。
志貴「誰だ!?」
翡翠「どちらさまですか」
七夜「何者だ」
シエル「誰ですか?」
ノエル「誰かしら!?」
五人全員が凍りつく。
???「メイド覗いたメスブタ共お前ら給料10割減らすぞバカヤロー!!」
よくわからないが、シエルのノエルだけは知っておかないといけないらしい。
志貴「誰だ……お前は?」
???「地獄からの使者、スパイダーマッ!じゃねーよ!」
志貴「ごめん、今だけはふざけないで欲しかった」
志貴が見事にいろいろと失望する。
確かに、動きはスパイダーマンさながらだけども。
???「オレだよオレ、マーリオゥ・ジャッロ・ベスティーノだ。そこのクソガキたちを統率してる、この刑事チームのリーダーだ」
少年、マーリオゥは一人前に決めポーズをして、見事に自分の名を名乗った。
五人『クソガキはハイパーブーメラン』
翡翠、志貴、七夜、シエル、ノエルが口を揃えて言い放つ。
マーリオゥ「あれ、オレ、ヘイト受けてる?」
志貴「うん」
マーリオゥ「テメェら絶対裏切りヌルヌル!!」
七夜「意外とノリが良い奴で助かった」
志貴「それより、あんたたちもこの事件を操作しているのか、謎餓鬼」
いい加減空気に耐えられなくなった志貴が口を挟む
マーリオゥ「おうよ、この街の話だからな、オレたちがさっさと片付けねぇと、また空飛ぶ鉄骨の犠牲者(エジキ)が出るんでな」
その声にいち早く翡翠が反応する。
翡翠「犠牲者が出ているんですか……?」
マーリオゥ「おう、もう既に三人が怪我をしている」
翡翠「怪我人が出ているとなると見逃せません」
マーリオゥ「だな。怪我人が出ているってことは、確信犯だ。危険性があるとわかって犯行に出てるな」
こーいうとき、クソガキは俄然頼りになるのだ。
翡翠「志貴さま。あれは……」
志貴「うん?」
向こうに、青色のタイツの男が歩いている。一見、こちらには関係ない様子に見えるが……
翡翠「あの人を、犯人です」
ビシッ、という効果音とともに翡翠が青タイツの男に指をさす。
志貴「いや、その」
翡翠「はい、どうかされましたか」
志貴「そんな都合良くないだろ!?」
続く
お待たせしました、相当遅れた投稿です。他の作品に力入れてまして……やっぱり作品の掛け持ちはするべきではない笑笑
お待たせして申し訳ございませんでした。かといって別に多くの人が見てくれているようには思えないんですけど。
これからこういうことが良く起こると思うので、今後ともご理解ご協力の程、よろしくお願いいたします。
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青タイツの秘密
???「あーあ、あの言峰の野郎、どこ行っちまったんだ……?ったく、あの野郎、迷惑掛けやがって……」
青タイツの男、ランサーは、一人町を歩いていた。脇に釣り道具を抱えて。
彼はマスターである言峰という男とこの辺りで待ち合わせをしていた。約束を破ることに厳しい性格のランサーだが、そこまで怒っていないということは、大したことはないだろう。あったとしてもご飯の約束辺りだ。
???「すみません」
一人の女が、彼の肩を叩く。
ランサー「なんだ?」
ランサーは後ろを振り向いた。その瞬間に、彼は地獄を見た。もとい、混沌を見た。
???「はい、貴方を犯人です、取り押さえなさい、七夜」
七夜「人使いが荒いね、全く。ほらよ!!」
ランサー「どはぁぁぁぁぁぁ!!!???」
ランサーは一瞬でアスファルトに顔面を叩きつけられた。これが転んだときの衝撃なら鼻が痛むだけで済んだが、瓦を一気に40枚割ってしまう七夜の腕で叩きつけられたら大怪我確定だ。一般人なら死亡不可避なのは道理。偶然、サーヴァントというタフな部類に属すランサーは鼻血大量出血で無事に生存成功。
ランサー「いってぇぇっ!!急になにしやがるんだテメェ!!」
七夜「当然だ、アンタが今回の事の犯人だって言うのなら、この程度の報いは受けて貰わないとな。借りは利子を付けて返すモノだろう?」
黒い学ランの男、七夜は人を殺しかけておいて、当然のように説法タイム。
ランサー「いや、犯人って、何のだよ、オレは何もしてねぇぞ!」
七夜「この期に及んで容疑否認……か。翡翠、白状させてやったらどうだ……いや、いいや、おーい婆さん、叩き潰してやってくれ」
???「誰が婆さんやねーーーん!!!」
七夜の呼び掛けに応答したノエル登場。長い脚で見事にランサーの顔面をダイレクトシュート。
七夜「これが決まったぁ、どぅーる!!」
ノエル「どっかのサッカーゲームの実況やめなさいよ!」
七夜「てか、アンタすごいな、よく婆さんって言葉に自分のことだと思って反応したな、オレ何も言ってないぞ?」
ノエル「呼んどいて何なのよ!!」
覚めた顔でこの掛け合いを見ていた翡翠と志貴とシエルとマーリオゥ唖然。そして口を揃えて言う。
四人『息ぴったりじゃーーん』
さて、ランサー見事にwasted。顔ボッコボコでどすえ。
────では、ささっとここまでのあらすじを確認しよう。
志貴「遅くないか!?(メタ発言)」
【これまでのあらすじ】
総耶町に突如、ひとりでに人々を襲う鉄骨が出現。すでに怪我人が発生したという。
この事件を嗅ぎ付けた洗脳探偵、翡翠は相棒(笑)の七夜志貴とご主人の遠野志貴を連れて街に調査に出る。
しかし、そこでも時既に遅し、早速調査先でも被害が起きていた。かつてない意味不明の事件に頭を悩ませる三人の前に、翡翠と同じようにこの事件の調査を行っている暗示刑事、シエルと、その相棒(笑)のノエルと、そのリーダー(自称)のクソガキ、マーリオゥが現れる。
その時、翡翠は道を歩いていた一人の青タイツの男を目にする。そして、翡翠はこういった。「あの人を、犯人です」と。
ランサー「いや、どう考えても冤罪じゃねぇかこれーーー!!!」
翡翠「いいえ、冤罪ではございません。アリバイが動機です」
ランサー「なんか意味わかんねぇことを変な文法で言うんじゃねぇ!!それで、オレが犯人だって証拠はどこなんだよ?」
翡翠「証拠ならここにございます」
ランサー「なんだって………!?」
ランサーが震え上がる、志貴曰く、誰かが言っていたらしい。人は未知のものを本能的に恐れる生き物だ、と。ちなみにこれはどこかの転生者のセリフだ。
翡翠「証拠はこれです!」
翡翠は指差す。その先には翡翠を除いた全員の仲間が。
志貴、七夜、シエル、ノエル、マーリオゥ『ヒスイガハンニンダッテイッタコトー』
ランサー「説得力皆無じゃねぇかこの野郎ーー!!」
翡翠「隠しても無駄です、ランサーさん。私たちは何があっても貴方を犯人に仕立て上げる」
ランサー「魂胆言っちまってんじゃねぇかよ、あとなんでオレの名前知ってるんだ」
翡翠「どこかでお会いしたような」
志貴「俺もなんかどこかで………」
シエル「見たような、見てないような………」
七夜「オレ知らんぞ」
ノエル「知らないわよ」
マーリオゥ「知るかんなもん」
ランサー「テメェら何のアニメの話してる……!?」
さて、カニファンの話はここまでとして。
志貴「カニファンがそんなに言いたいのね(メタ発言)」
志貴「それじゃあ、あんたは何をしているんだ」
ランサー「いや、一般人にそんな質問するかフツー?───待ち合わせだよ、マスターと飯食うことになってるんだ」
シエル「ご飯ですか!?それじゃあ、いっしょにいかがですか?実はですね、あそこにあるカレー屋が………」
シエルが志貴に蹴っ飛ばされる。バッティングセンターかと思うくらいの音と勢いで見えないところまで吹っ飛んでいった。
翡翠「それで、その待ち合わせの相手は誰ですか」
ランサー「言峰綺礼だ。オレのマスター。」
翡翠「わかりました、その人を犯人です」
ランサー「オマエこの世の人間全員犯人だと思ってんのか」
七夜「────!!危ない!!」
七夜が叫んだその時、空から鉄骨が降り注いできた。焔の雨ならぬ弾丸の雨、ならぬ鉄骨の雨。
七夜は翡翠を守ろうと、翡翠の前に立ち、自らを犠牲にして、翡翠を守った。
七夜「うぐわぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ」
翡翠「それで、その言峰という方は何をされている方なのでしょう」
ランサー「おう、向こうの教会で神父やってるんだ。あと代行者の仕事もな。寧ろ、代行者が仕事の中心なんだろうな、聖杯の観測もやってる」
志貴「なるほど、む、代行者……?」
ノエル「私たちの仕事ね」
マーリオゥ「へぇ、同僚ってヤツか。興味深いヤツだな」
翡翠「一度、本人に会って話がしたいですね」
志貴「そうだね、ランサー、あんた、言峰って人の居場所知ってるんだろ、俺たちも会わさせてくれ」
ランサー「…………はぁ、断っても、てめぇらは付いてくるんだろう?なら弾いてもしゃあねぇ。付いてこい」
翡翠「ご協力感謝します」
七夜「おぉぉぉぉぉぉぉい!!!誰かオレの心配してくれよ!?」
鉄骨の下からぺしゃんこになった七夜が這い出てきた。
翡翠「何か出てきました……」
七夜「何かって、自分の相棒じゃないか。まったく、噛ませ狗(いぬ)みたいな扱いをさせておいて誰も何も反応しないものだからてっきりオレが役者から追い出されたのかと思った」
志貴「おまえは既にあそこのスパイダーマンに次ぐ役者失格マンだ」
マーリオゥ「あぁぁん?誰がスパイダーマンだって?」
志貴「いや、始めたのおまえだろ………」
話が一向に進まない御一行。しかし、一つ、進展が起きていた。
七夜「まぁ、これで、一つ確信がついたな」
志貴「何がさ」
七夜「犯人の奴、完全に翡翠を狙ってたな。つまり、怪我人を発生させるつもりでやってる。どうやら、目的があるみたいだぞ、この事件には」
その瞬間、翡翠の顔が曇った。
翡翠「────鉄骨……怪我人が出る……ひとりでに動く鉄骨……無数の数……ランサーのサーヴァント……マスターの言峰さま……私を狙った攻撃……目的のある犯行……!!!」
志貴「翡翠!?」
ノエル「まさか、」
七夜「もう、」
マーリオゥ「犯人が、」
ランサー「わかったって………」
シエル(200メートル先)「いうんですかー(離れているためほぼ聞こえません)」
翡翠は顔を上げる。そして、全員の顔を一人ずつ見る。そして、再び、俯いて、唸りだす。
翡翠「この事件の犯人は…………分かりにくいです…………!!」
翡翠以外の全員『なんじゃそりゃぁぁぁぁあ!!!』
全員が揃って新喜劇みたいに昏倒した。
洗脳探偵を狙う謎の人物、翡翠への攻撃とその犯行との関連性、そして、その犯人の正体とは一体…………!?
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飛び込み調査
《麻婆豆腐店ESESHIMPU》
翡翠「ここです」
志貴「ここが…………」
シエル「例の店ですか」
ランサー「あぁ。言峰の野郎は、今はこの店にいるはずだ」
翡翠と志貴とシエル、そして、ランサーの四人は、激辛麻婆豆腐で有名な名店、ESESHIMPUを訪ねていた。
志貴「ESESHIMPU…………エセ神父………酷い名前だ、まるで、どこかのシスターみたいだ………」
シエル「わたし本職なんですけど」
翡翠「年齢詐称は犯罪ですよ、シエルさま」
シエル「年齢詐称じゃないんですけど!?」
ランサー「それで、どうすんだ、入るのか?」
翡翠「もちろんです。このお店に入って、言峰さまからお話を伺います」
翡翠はそう言うと、店の入り口の扉のドアノブらしきものに手を掛けて、勢い良く扉を引っ張り、開いた。ガツン、と鈍い音がした。
翡翠「痛い………痛いです、志貴さま………」
翡翠が手を押さえながら半泣きで志貴に抱きつく。
志貴「これ、引き戸だね………」
志貴が扉を横に引っ張るとすんなりと扉が開いた。
シエル「あちゃぁ………」
ランサー「なにやってんだか…………」
青いのはその様子を見て呆れていた。
シエル&ランサー「青いのって言うな!!」
◆ ◆ ◆
《総耶街中》
翡翠たちが言峰綺礼という男を探している一方で、七夜とノエルとクソガキは街中で未だ降り注ぐ鉄骨の調査を続けていた。
七夜「あーあ、あそこの電気屋の駐車場にも降ってきたよ、ノエル先生、これで何件目だ?」
ノエル「今ので48件目。凄い数ね。早くなんとかしないと、住民たちが危険な目に遭うわ」
マーリオゥ「おかしいな、狙っているはずなのに、めちゃくちゃなところにばっかり落としやがる。さっきはあのメイドを狙ったのに、なんで今は疎(まば)らに降ってきやがる?」
七夜「そりゃあ、愉悦犯だからな。狙いとか具体的な動機とかどうでもいいんだろうな。だが、それと翡翠は別口……と。翡翠が狙われていることはなにか重要な意味があるようだ」
ノエル「ひょっとして、洗脳探偵に野望を打ち砕かれた奴が復讐をしようと?」
七夜「バカ言え。だとしたら街を襲う理由がない。それなら初めから翡翠を襲えばよかったんだ。こんな派手なことをしておいて、目的が翡翠だけだなんて言わせるものか」
調査はかなり難航しているようだ。
先ほど翡翠たちと手分けして捜査をはじめてからも、大量の鉄骨が降り注いでいる。しかし、何も起きていない。怪我人は多発しているが、死亡者は一人も出ていない。
マーリオゥ「ここまできて犠牲が出ねぇのは奇跡だな」
七夜「それも、狙い通りなんだろうな、死傷者が出ないようにわざわざ微調整している。何がしたいんだか、犯人は別段ユーモラスな殺人鬼というワケではないみたいだ」
ノエル「ねぇ、二人とも、コレ、見て」
七夜「────?」
マーリオゥ「これは……………!?」
◆ ◆ ◆
麻婆豆腐店ESESHIMPUの中には、誰もいなかった。狙いの言峰綺礼はおろか、店員すら居ないばかりか、営業時間外といってもいいぐらい、店は静まっていた。というか、営業していなかった。
翡翠「ランサーさま、貴方を嘘つきです」
シエル「貴方ぶち殺されたいんですか?」
志貴「まんまとやられた………」
ランサー「待て待て、んなことありえねぇだろ!!」
志貴「もういいよ、おまえ殺す」
志貴は鋭い目付きでランサーを睨みながら眼鏡を外してナイフを構える。
ランサー「おい待てお前!眼鏡外すな!」
翡翠「嘘つきは大罪です。法律で罰せられることはありませんが、人として終わりです。死刑です」
シエル「いち聖職者として、人を騙す行動は許されません。一度遠野くんに斬られて死んだほうがいいと思います」
ランサー「だから待てって!!おかしいだろ!?扉が開いているんだぞ?誰も居ないはずなのに!!」
志貴「じゃあなんだ、隠し扉的なやつがあるんだろうな、教えろ」
ランサー「これ、拷問だよな!?」
ランサーは店の奥に向かって、キッチンの中に入ると、隅に置いてあった冷蔵庫を動かす。
ランサー「あったぞ」
志貴「おまえメチャ怪しいな!?」
ランサー「待て、これはあとで説明する」
すると、冷蔵庫の下の床に、扉らしきものが現れた。マンホールのように、下に続いていく脱出扉のようなもの。
ランサー「これはな、ここの店員と言峰と俺だけが知っている秘密の隠し扉だ。誰にも言うんじゃねぇぞ」
志貴「おまえが言うな。そんな簡単に教えられるんなら、言峰って人もバンバン晒しているんじゃないのか」
ランサー「たぶん」
翡翠「はい貴方を逮捕です」
ランサー「俺そんなに怪しまれているのか?」
ランサーは言いながら、扉に手を掛けるが、扉はびくともしない。
ランサー「あれ?鍵が閉まってやがる。鍵なんてなかったはずなのに」
翡翠「そういうのいいですから」
ランサー「いや、マジで閉まってる」
シエル「遠野くん」
志貴「よし…………」
志貴が再び眼鏡を外してナイフを構える。
ランサー「ちょ、待て!!俺はマジで知らない!!」
志貴「おまえじゃない、この扉を殺すんだ」
ランサー「は?」
志貴は裸眼で扉をじっくり見つめると、ナイフで勢い良く扉を斬りつけた。
志貴が扉を引っ張ると、楽々と開いた。
ランサー「え?」
志貴「よし、先を急ごう」
志貴は言うが早いか、扉の奥へと進んでいく。
翡翠「お見事です、志貴さま」
シエル「さっすが遠野く~ん、直死の魔眼便利ですね~」
翡翠とシエルも志貴に続いて梯子を降りて、奥に進んでいく。
ランサー「いや、バケモンばかりじゃねぇか」
ランサーも三人に続いて、奥へと降りていった。
志貴「ついた!!」
翡翠「これは………!!」
シエル「こ、ここは一体…………」
ランサー「なんだこりゃ!?」
志貴&翡翠&シエル「あんたは知ってないとだめでしょ!?」
隠し扉の梯子を降りていった先にあったのは、なんと、
志貴「なんだ、この黄金…………眩しい………」
シエル「地下文明………?」
翡翠「何ですか、この巨大なお城は……!!」
黄金に輝く、巨大な城だった。
ランサー「なーんか、この趣味どこかで………」
翡翠「心当たりがおありですか」
ランサー「いや、忘れてくれ、気のせいだ、この金ピカに若干見覚えがあっただけだ」
ランサーは見たくないと言わんばかりに目を反らす。
突如店の地下に現れた巨大な黄金地下文明とは一体………?
翡翠たちの飛び込み調査が、今始まる!!
志貴「いやいや、ずっと飛び込みだって」
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お前誰やねん
七夜「これは…………」
ノエル「金色の短剣………?いや、でもちょっと短いわね」
マーリオゥ「鍵………か?」
七夜たちは街中を調査していたところ、突如、地面に落ちていた黄金の鍵を見つけてしまった。鍵にしては巨大であり、短剣にしては小さすぎる。こんなにも豪華な鍵、何に使うものかと。
七夜「まったく、可笑しい趣味の輩もいたもんだ。こんなもの、何に使うんだ。扉に使うようなものじゃないだろう?これ、適当な物語の失われた王国の金庫とかに差し込むアレじゃないのか」
ノエル「こんな豪華な金庫鍵なんか、持っている人いるの?」
マーリオゥ「どういうことだ………?その鍵と、鉄骨事件がどう関係しているんだ?」
三名が首を傾げる。と、そこへ…………
???「調査は難航しているようだな、用心棒たちよ」
七夜「誰だ、アンタ」
◆ ◆ ◆
《地下王国・城》
一方で翡翠一行。突如麻婆豆腐店の地下に見つけた黄金の城に侵入した。
志貴「いや、普通入っちゃだめじゃん」
翡翠「この奥に今回の事件の犯人がいると見ました」
志貴「そんなことはもう誰でもわかってるよ……」
ランサー「もう誰も信じられねぇ」
シエル「しかし、なんという豪華なお城なんでしょう。こんな巨大なもの、作るのに一体どれだけの年月をかけたんでしょうか………」
辺りにはずっと黄金が続いている。日干しレンガで作られた、広い床。
志貴「なに、このメソポタミア感………」
ランサー「だよな、お前もそう思うよな」
シエル「なんの話ですか?」
志貴「大丈夫、先輩、知らないほうがいい」
翡翠たちは廊下をてくてくと歩いていく。今のところ、侵入を迎え撃つ罠や仕掛けなどはなく、誰も何も仕掛けてこない。それが余計に不気味だ。
???「ほう、我(オレ)の庭に迷い込んだ蟲どもがいたと思えば。貴様らだったか、洗脳探偵よ」
翡翠たちの向かう先から、金髪の若者がやってきた。その男は両手を広げて、侵入者である翡翠たちを歓迎する。
???「よくぞ参った!!真実を教えてやろう、洗脳探偵!!雑種どもの蔓延るこの小さな街の平和を脅かすコンクリートジャングル事件、その犯人は、この我。英雄王ギルガメッシュだ!!」
翡翠「志貴さま、ここの部屋は………」
志貴「キッチンまでしっかりと完備されているね」
シエル「冷蔵庫の中は………見てください遠野くん!!カレーが入っていました!!」
志貴「先輩黙ってください」
ランサー「この城では、住民が普通に暮らしているだけなのか?」
翡翠「住所どうなっているんでしょうか…………」
ギルガメッシュ「おのれ貴様ら!!!!我を無視するとは何事だ!!!!」
志貴「わー、だれだあのきんぱつのおとこはー」
ギルガメッシュ「見て見ぬふりとは随分と思い上がっているようだな………下郎!!折角貴様らが追う犯人の正体を明かしてやったというのに………!!!」
翡翠「犯人を知っているのですか!?」
翡翠が驚愕する。(もう遅い)
ギルガメッシュはふふんと一笑した後、再び語り出す。
ギルガメッシュ「当然だ。我は完全にして万能。この世の全てを知り得る者だ。貴様らに教えてやろう、この事件の真犯人を!!(二回目)」
翡翠「──────(ごくり)」
志貴「─────(嫌な予感しかしないんですけど)」
シエル「──────(カレー美味しそう………)」
ランサー「─────(帰っていい?)」
ギルガメッシュ「貴様らが追う、この事件の犯人、それは────」
シエル「なんですってぇぇ!!」
志貴「早いです」
シエルは志貴の背負い投げを食らった。
ギルガメッシュ「やり直す。教えてやろう、貴様らが追う、この事件の犯人、それは────」
シエル「えぇぇぇぇぇぇぇ!?」
志貴「帰れ暇人」
シエルは志貴のタックルを食らって廊下のもっと奥に吹き飛ばされた。
ギルガメッシュ「貴様らが追う、この事件の犯人、それは、この我、英雄王ギルガメッシュだ!!!!」
ギルガメッシュはドヤ顔で決めポーズなんか決めた。
翡翠「志貴さま、この事件の犯人像を特定するには、この辺りがこうで、ここらへんがああで」
志貴「なるほど、つまりそういう共通点から犯人がわかるんだ」
ランサー「流石は洗脳探偵だな」
ギルガメッシュ「聞け貴様ら!!!!」
志貴&翡翠&ランサー「ダレダオマエハー」
ギルガメッシュ「貴様ら本気で我に捻り潰されたいのか」
翡翠たちはギルガメッシュに何の関心も示さない。
翡翠「さぁ、お遊びはここまでです。英雄王ギルガメッシュさま」
ギルガメッシュ「ほう、遂に来たか、洗脳探偵」
場の空気が揺れ出した。翡翠からはかつてないほどに冷たく鋭い眼差しが放たれている。ギルガメッシュですらも、その瞳からは目を反らしそうだ。
翡翠「言い逃れはできません、貴方を犯人です、英雄王ギルガメッシュさま」
ギルガメッシュ「我、言ったぞ」
翡翠「どうして、罪のない人々に、鉄骨をけしかけたのですか」
ギルガメッシュ「は、探偵のくせにそれすらも推測できないとは。弛んでいるな、洗脳探偵。市民のことなどどうでもよい。我が求めているのは貴様だ、洗脳探偵。町中を巻き込むほどの怪事件を引き起こせば、貴様が反応するというものだ、貴様が事件解決に動き出した時点で、貴様は我の罠に掛かっていたということだ。我の目的はな、貴様を捕らえて、【あの女】の元へと連れゆくことだ。あの女は貴様の来訪を心待ちにしているようでな。わざわざ一般庶民がこの我に依頼をしてきた程だ。あの道化の、我を選ぶ人材選択の適性、そして言峰との共闘等の条件を踏んで、我は特別にあの女を我の駒とすることにした」
翡翠「そんな………!!なぜ、貴方は………私達を………!!」
志貴「翡翠、絶対その反応は違うでしょ」
ランサー「なにがなんだか知んねぇが、テメェを捕まえれば、それで解決なんだな!シンプルじゃねぇか。いいぜ、テメェの相手は俺だ!!」
ランサーはギルガメッシュを取り押さえるために、赤い槍を持ってギルガメッシュに向かって走り出す。
ギルガメッシュ「ふん、学習能力の無い猿め。身の程を弁えよ、貴様の存在も、我にとっては計算通りだ」
ランサー「何………!?」
ギルガメッシュ「よいか、貴様が洗脳探偵に接触した時点で、我の思う壺だ。貴様は洗脳探偵たちを此処へ連れ込むだけでよかった。貴様はもう用済みだ、とく失せよ、ランサー」
ランサー「テメ─────」
ランサーが言い終わる前に、ガタン、と音がした。それと同時に、ギルガメッシュの背後に、無数の、黄金の円盤が出現する。
シエル「アレは────!!」
シエルがいち早く危険を察知して、志貴と翡翠を連れて場を離れる。
円盤の中から、螺旋状の剣が出現する。
ギルガメッシュ「───王の財宝(ゲート・オブ・バビロン)」
螺旋状の剣は、折り重なる刃の嵐となって、矢のように一斉掃射された。機関銃のようにランサーを襲う剣の雨。
ランサー「ぐぁぁぁぁぁぁ!!!」
ランサーの身体を剣が貫いていく。
翡翠「ランサーさん!!剣が飛んできていますよ!!」
ランサー「遅ぇよ言うの!!」
シエル「ダニィ!?グレッグ、生きてるかァ!?」
ランサー「あぁ……ナントカ………」
ランサーは苦しげに身体を抱えながら言う。もちろん、大丈夫ではない。重傷を通り越して致命傷だ。しかし、ランサーは苦悶は上げない。ここまでふざけながらも、共に歩んできた仲間たち。翡翠たちに、心配はかけられない。
ギルガメッシュ「ほう、鳴き声を上げぬとは、まさに英雄の鑑だな。最後まで忍耐を貫き通すか。良いだろう、その最期まで戦う姿勢に免じて、素晴らしき最期を見せてやろう、最後まで英雄クー・フーリンが英雄であったことを称賛し、引導をくれてやる」
ギルガメッシュが手を挙げる。
シエル「上から来るぞ、気をつけろォ!」
シエルの忠告ももう遅い。ランサーは真上から落下してきた鉄骨に圧し潰されてしまった。
ランサー「ぶわぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!」
シエル「ランサーが死んだ!!」
志貴「この人でなし!!」
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