【名探偵コナン】交通事故で死んだらあの世界に転生して立派な大学生!? (Mizuchn894)
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file1. 前世でぽっくりいっちゃった!?
しがない女性地方公務員。毎日残業で自分の時間が取れずにいた私は、どうやら転生したらしい。
宮橋
しがない女性地方公務員。毎日残業で自分の時間が取れずにいた私は、どうやら転生したらしい。
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「宮橋さん、そこの資料お願いします!」
はい!!!
「おい、宮橋!!この前作成しろって言ってた資料はまだか!!!」
はい、まだです!!!と、心のなかで謝る。
「宮橋、これ、印刷できる??」
はい!!可能でございます。
今日も私は大忙し。そこの資料お願いしますだの、なんとかはいいけど、それくらい自分でやれよ!!って思う。不機嫌そうな上司に、頼りない部下。もちろん頼りになる人は大勢いるけれど。これが失敗したら怒られるのは私なんだぞ!?と悪態をつきながら業務をひたすら進める。
本来、公務員は定時で帰る、自分の時間をたっぷりとれる……。そんなイメージが世間一般にはある。だが、それは夢のまた夢だ。
午後五時。ここから地獄の時間が始まる。残業だ。私たち公務員は残業という地獄と日々戦っているのだ。現在私は三徹目だ。
いつになったら終わるんだろうという絶望的状況に軽く笑ってしまう。ここにいるのは私一人。他の人はとっくに帰ってしまった。その事実に傷つくも、やらなければ意味がないと思い、頑張ろうと渇をいれ、仕事に取り組んだ。
公務員ってホワイト企業かな思ったら案外ブラックだったの!!
もーう!!信じられない!!!しかも残業よ、残業、残業代だせや!!!三徹目よ、三徹!!!
まあ、人を助ける仕事だから仕方ないけどさ……。
意地でも仕事を終わらせて帰ろうと残りの仕事をがんばる。
「あーーーーっ!やっと終わった!!」
午後10時を回っていた。辺りは真っ暗闇と化かしている。
ジャンパーを着て鞄を肩にかけて、車の鍵をとる。車まではそんなに遠くない。車の鍵で、ロックを解除し、車に乗り込む。遠くから車の音がしたような気がした。
扉を閉めようとしたとき、その音がこちらに近づいているような気がして、早くその場から立ち去ろうとしたとき、バスが勢いよく向かってきて、鈍い音を立てた。気づいたときにはもうバスが目の前にいて、私の視界は暗転した。
あ、死ぬんだ……。聞いたことのない音がなり、私の体は車ごと、押し潰された。
「お母さん、お父さん、ごめんね……。私は先にあちらに行きます……親不孝者でごめんね……。」
こうして私は転生したのだった。
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こんにちは。はじめまして。私こと宮橋
いや、それは前世での名前でしたね、今の私は(苗字)(名前)です。
いま、私は赤ちゃんになっています。えええ、なんで!?そこのあなたも思いますよね。ええ。
大丈夫です、私も驚いていますから。
どうやら私は、工藤家の親戚、ではなく養子になるみたいです。
今の時間は、原作の17年前。新一君と蘭ちゃんが生まれる前です。
とりあえず、私にはやることがたくさんあるのです。
今の私がやることは予定では主に1つ。
まず、原作の年齢まで育つこと。これは既に決定事項です。
え!?ひとつじゃないって?これはこれは……失礼いたしました。原作まで育つこの事はもはや当たり前の域なので。
さて、切り替えます。やることはやはり、ひとつ。
警察学校組の救済です。大丈夫。前世の記憶があれば楽勝です。こうみえて、私公務員で、なんか爆発処理にはまってた時があったんです。その知識があるので大丈夫です!!うん、なんかうまくいきそう!!!とりあえず、頑張って生きる!!!
この世界でも私は公務員という人を助ける仕事が好きみたい。
宮橋
警察学校組が好きで推しは降谷零。警察学校組のおかげで、爆弾処理に興味をもち、勉強していた。勝手に公安の極秘資料を盗み、数々の爆弾を処理していたという犯罪級の伝説があるらしい??と言われている。
そんな私は、(苗字)(名前)として、新一が生まれる17年前に転生したのだ。
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file2.数年がたち学生となった彼女の挑戦
そんな私は正式に工藤家の養子となり、苗字は変えずに、(苗字)として生活している。
転生してからあれやこれやと時間がすぎ、私は大学生となった。4月。3月よりは少し暖かみを感じる季節になった。
そんな私は正式に工藤家の養子となり、苗字は変えずに、(苗字)として生活している。転生後に生まれた新一は私のことを養子とか関係なく家族として接してくれている。「姉ちゃん。」と呼んでくれている。とても、嬉しい。心からの感情だった。蘭ちゃんとも親しくするようになってとても毎日が楽しい。
そして、大学生活が始まってから、楽しみにしていたことがある。
……。それは!!!ポアロのバイトである!!!
今日は面接の日なので気合いを入れてメイクを頑張るつもりだ。
そしてこの日は日曜日。休日。新一は、蘭ちゃんと一緒にトロピカルランド(?)という遊園地でデートに行くというのだ。もちろん、私はこのあと新一がどうなるかは知っているのだが。
朝食を食べていると、玄関から急かすような蘭ちゃんの声が聞こえる。
「新一!!早くして!!!あ、(名前)お姉さんおはよう!!」
きっと新一が起きるの遅いからなのだろう。蘭ちゃんにおはようと返す。蘭ちゃんは感極まった声で新一を急かした。
「行ってきます!姉ちゃん!」
私はその仲をそっと応援しながら、彼らに言ってらっしゃいと告げた。さて、次は私の番だ。
そう思いながら朝食を食べ終えた。
面接の時間は9時。そして今の時間は7時。
まだまだ2時間以上もある。今の服装は紺色の襟元V字ベスト、中は白いブラウス、下は普通のジーパン。着替えているからあとは、歯磨きとメイク、髪を整えるだけだと思い、洗面所に立った。
簡単に歯を磨き入念にメイクアップ。メイクは女の命だ。なぜならメイクだけでその人の印象がグッと変わるからだ。化粧水、乳液などを順番に塗っていき、当たり障りのない仕上がりにする。
うん、我ながら良い感じ。心のなかで太陽のような笑顔になる。ハーフアップで結び、少し整える。あとは、昨日買ってきた可愛い雪の結晶型イヤリングをするだけだ。
面接する職場がイヤリングなどのアクセサリー着用可能なのかを確認するため、家の中にある掲示板をみる。
この度は弊社ポアロでアルバイトをしてくださり、ありがとうございます。
弊社ことポアロは____。
うん、職場の説明前置き長い。そんなことに少しツッコミをいれながら面接時の注意事項の欄に目を向けた。
面接時の注意事項__。
・派手な服装は控えること。
これだけ??短か……。
圧倒的な文面の短さと、職場のラフさに若干引いてしまう。このデータから見ると圧倒的に良い職場かもしれないと期待を胸に弾ませた。
さあ、行くか。私は掲示板を背中に向け、写真縦の前に立った。
そこには、工藤家の人たち___。有希子さんと旦那さんの
行ってきます。 写真縦に告げて、私は家を後にした。
私は小さなころ
その家は工藤家からさほど離れてない質素な家だった。
日中なのにカーテンで覆われていて家の中が全く見えず。私たちは困惑しながら家の中に入ったのだ。
「
遠慮がちの声。有希子がそう言い終わる前に憎悪に包まれた声が全体を包み込んだ。
「おい!!!勝手に他人を連れてくるなと言ってるだろう!!(名前)はどこにいる!?(名前)を俺のもとによこせ!!」
(名前)の声を聴いたわけではないのに過剰にいら立ちを見せる男、いや父親。(名前)をよこせと言いながら床にはいつくばっている一人の女性をひたすらに殴っていた。
「いやあ、やめ……、いたっ、ああああああ!!!!」
その光景を見た私たちは帰ろうと踵を返す。有希子に手を握られながら。
私は一瞬女性のことを見た。女性も私が見たことに気づき視線を合わせる。
「おい、どこを見ている!!!」
「(名前)……。育ててあげられなくて、ごめんね……。愛してる……。」とか細い声でつぶやき、にこりと微笑を浮かべていた。痛い、と声を荒らげながら。痛みに耐えながら。
私は、その顔を見て、涙があふれて止まらなくなった。
そのときの私は母に会えず悲しかったのだと思う。そのおすそわけのお菓子は私と(ruby:優作:ゆうさく)さんと、有希子さんと三人で食べたことを思い出した。
今思えば、母は私を守るために、その決断をしたのだろうと思う。
父は今も母をぞんざいに扱っていて。母は警察にも知らせてないのだから、困ったものだ。
もしかしたら、警察に知らせることができない??その背景には何か事情があるのかもしれない。
いつか、母が助かることを願って。
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人生とは山あり谷ありである。何かしらアクシデントが起こることもある。大事なイベントがある際、私は家族との写真を見て、無事に物事が終わるように願う。
過去のことを思い出し、しんみりするが、面接の時間が近づいていることもあり、気分を切り替えるべく、足早に走りだし玄関を開け、外に駆け出した。
気が付けばポアロについていた。私は軽く深呼吸をする。
「ああ、緊張する……。」
みんな知ってる?人間緊張すると口が乾くんだよ。うん、そんなの知ってるわい!ってツッコミしてくれたあなた、才能あると思う!本当に、そう思うよ。
そういえば、みんな私軽くわかんなくなるんだけど、ポアロっていう名前、アポロっていう風に間違えちゃうよね??あれ?私だけかな??
そんなことは置いといて。まずは面接に集中しないと。茶番に浸りこんでいた頭を冷やし、目の前のことに集中する。また軽く深呼吸をした。
よし、入ろう。自分のタイミングで私はやっと店内に入った。
私を見た女性定員が笑顔で応対する。
「いらっしゃいませ。お一人様でしょうか??」
この言葉を聞いた瞬間不安になってしまう。事情を話そうとしてうまく話せたことが今までほとんどないからだ。話すときにパニックになってしまうことが多く、えっと、あのー、などのいらない言葉を最初に言ってしまうのだ。
定員さんはそんな一向に反応を示さない私をじっと待ってくれている。優しい……。この親切心が本当にうれしかった。
「あの、お客様??」ついにしびれを切らしたのだろう、定員さんは怪訝そうにそう聞いた。
「すみません、すこし緊張してしまって……。あの私面接に来た(苗字)というものなのですが、」
というと定員さんは、面接の方ですね?少々お待ちください。といってバックヤードへと消えた。
少し時間がたった。数分後。面接の担当者らしきひとが来た。
「君が、(苗字)(名前)さんかな?私は店長の……。」
自らの名前を告げて。私に確認をとった。
優しい感じの人、気さくな人だと感じた。私は名前があっていると了承し、緊張した面持ちでバックヤードへと入る。その様子を女性店員は(また新しい子が入るのね!!楽しみ)と思いながら、微笑ましげに見つめていた。
数分後、面接が終わり、私は即採用となった。
仕事のシフトにいつ入ることが可能か、今までアルバイトをしたことがあるかを聞かれた。
その結果、業務定員不足で、採用となったのだ。
判子をおし、書類を書き込み、店長に渡した。
「君は、うちの店の常連客だよね??」
どうしてこのことに気づいたのか。店長いわく、シフトの日に、ほとんどの確率で私が来店しているかららしい。確かに私はポアロの常連客で高校の頃から通っている。私の唯一無二の居場所なのだ。
店長に促され、私はバックヤードから出た。
面接が終わったという安心感。疲れを少々感じる。
私が帰ろうとすると、店長がシフトはこれから決めるけど今日お試しに業務体験してみてよ。と笑顔で言った。それも眩しいくらいの屈託の笑顔で。う、まぶしい。
「はいっ!喜んで体験させていただきます!!」
と言って、私も太陽のような笑顔を浮かべた。
店長はもう帰るから。と言ってバックヤードへと消え、店には私と女性店員だけとなった。
女性店員に仕事を教えてもらう。憧れていたカフェでアルバイトができているとやっと実感する。
私は覚えるのが遅い。用意しているメモ用紙を持ってひたすらに仕事内容、手順をメモした。
そうこうしているうちに私と女性店員さんは仲良くなった。女性店員は
「そういえば梓さん、私以外にここでアルバイトをしている人いるんですか??」
仕事が一段落して、暇になった私は彼女へと聞いた。
「いますよー。名前は安室さんと言うんです~。」
え、安室さん?その名前を聞いた私はわずかながら当てはまる人をおもいうかべる。もう皆さんお分かりであろう。ふふっ、原作を読みに読み込んでいたから、これくらい楽勝よ!!と思っていたら、よほど驚いた顔をしていたのだろう。梓さんに笑いながら心配された。
「す、すみません!!私は大丈夫です!」
「もう、ビックリしたよ、そんな顔をしちゃって。」
そういう彼女はとてもかわいらしい笑顔で。
ああ、この笑顔だと男性客が多そうだなと思った。安室さんについてわかっていることがある。私をなめるなよ。この私前世はコナンにはまってたんだからな!!推しのことくらいお見通しさ。ポアロの店員、安室さん……。いや、たぶん偽名だろう。本名は降谷零だ。そして、その予感は数分後に的中することになる。
[newpage]
数分後__。
「遅くなりました、安室です。」
バックヤードから店内へと入ってきた、【ポアロ】のエプロンをつけた、金髪で褐色色の肌の男性。
私はその人をじっと見つめた。すると彼のターコイズブルーの瞳と目が合わさる。合わさった瞬間、彼は私ににこりと笑みを向けた。爽やか営業スマイル……。イケメンかよお!!
その笑顔をみて私はまぶしいと感じ、目を細めた。と、同時に私の仮説は正しかったと心のなかでガッツポーズをした。
準備を終え、梓さんのいる場所に来た彼。私を軽く見ると、小声で梓さんに私について聞いた。
「安室さん、この人は今日から働く、(苗字)(名前)さん……。」
梓さんが言い終わる前遮るように私は言った。
「はじめまして。今日からこのポアロでお世話になる(苗字)(名前)です!!」
よろしくお願いします!と緊張しながらいう。
なぜ緊張しているのかって?もちろん、推しが目の前にいるからだよ!……っていうのもあるけど、一番は、私は彼のことを知っているからである。秘密を知っているのだから、ばらさないようにしないといけない。バレれば確実に怪しまれる。彼は公安警察。……そして、黒の組織に所属するスパイ。その名は、バーボン。気を付けなければ。
私は気を引き締めた。彼はやはりにこりと笑顔で、よろしくお願いしますと言ったのだ。推しを目の前でみれて、こんなに幸せなことはない。
安室さんを笑顔で見つめていた目を梓さんに移すと、不機嫌な顔で(名前)を見ていた。
「(名前)さんー……どうして遮ったんですかあ!!私がいいたかったのにー!!!」
「わあ!!ご、ごめんなさい!!」
「……もう。……くっ……ふふっ!!」
梓さんはなぜか笑い始めた。
目の前の光景を理解できず戸惑っていたら。
「……そんなに謝んなくてもいいのにー!!ちょっとからかいたくなっただけだよ~!!」
と、可愛らしい笑顔で(名前)をみて言った。
「!!そ、そんなにからかわないでくださいよ~!!……き、嫌われてなくて良かった……。」
最後の声は聞こえないように小声で言ったつもりだったが。
「当たり前だよ~!!」
「!?え、き、聞こえてたんですか!!」
「うん!!だって、小声じゃないんだもん!!」
小声ではなかった、ということに少し恥ずかしくなって俯く。
「梓さんと(名前)さん、すっかり仲良くなってますね!!」
「え!!そ、そうですか!!」
「ええ。」
ほかにも談笑して三人で笑った。
自己紹介を終え、業務も一段落した頃。夕方。
「そういえば、(名前)さんって大学生でしたよね??」梓さんが私に聞いてきた。
「はい。帝都大学法学部の2年です。」
「帝都大学、ですか。あそこ偏差値すごく高いですよね。」
「あ、はい。質の高い法学の授業が受けられるので勉強頑張りました……。」
私は安室さんの問いに照れながら答えた。
「え!?帝都大学って……。すごいじゃないですか!?(名前)ちゃん!!(名前)ちゃんは何の仕事に就くつもりなの??」
仕事中にそんなこと聞くか??と少し呆れたが、聞かれたため答える。
「えっと、国家公務員か、警察官を目指しています……。」控えめに答えた。
私は、梓さんと安室さんの感激する声を聞いて、また続ける。
「警察官にはいろいろ部署があって……。そのなかでも一番危険度が高いであろう公安警察になりたいと思っているんです。」
私は、それを言って、しまった!?と焦った。
なぜなら、公安警察は、他人に口外してはならない職務からだ。交番の警察官が、「表」なのなら、公安は「裏」だ。
公安の部署の正式名称は「警察庁警備局警備企画課」。警察庁の内部部局である警備局の中の1つの課である。
役割は、「作業」と呼ばれる情報収集を行う公安警察になる。警備局の役割は、テロや暴力革命による政府の転覆や、政府への影響力工作、産業スパイなどを未然に防ぐこと。公安警察の名称は、警察庁警備局を頂点として、警視庁公安部や各道府県の警察本部警備部や、所轄の警察署警備課で組織されていて。公安には2人の理事官がいて、理事官には、「オモテ」と「ウラ」がある。警察行政に関する業務を行うのが「オモテ」の理事官。「ウラ」の理事官が、全国の公安警察官と協力者を運用し、統括する「ゼロ」とされている。降谷さんの凄さを実感する。警察の勉強をしているからこれくらいの仕事内容は分からないといけないだろう。
私の頭のなかは焦りで埋め尽くされる。ヤバイヤバイヤバイヤバイ……!!バレたら殺される!!!いや、殺されはしないけど、いろいろヤバイ。
語彙力が不足しているからどうヤバイのかは皆無なのだが。
「よく勉強していますね、(名前)さんならなれると思いますよ?」
と返してくれた。良かった、怪しまれてない。心からホッとした。
「……にしても公安警察だなんて言葉生まれてはじめて聞きましたよ。」新鮮だな、と言う梓さん。
安室さん、なにか公安警察について知っていることありますか?と続けて聞いた。
彼は慎重にと思ったのかなんなのかわからないが、苦笑しながら、そうですね……。曖昧に答えた。
「実をいうと私も詳しいことは、あまりわからなくて。」と(名前)は言った。
自ら警察になりたいと言っているのにわからないとは聞いて呆れる。
いや、本当は分かるのだが、本人(降谷さん)がいるから、できればさけたいと思い、言わなかった。
この話は私のこの発言で終わりとなった。
そろそろ、6時。店を閉める時間になり、閉店の準備をする。梓さんは帰るといい、店内には私と安室さんだけとなった。会話がなく、ただただ時間だけが流れていく静かな店内。
準備が終わるとき、カランカランと入り口のドアがなった。
「いらっしゃいませ。すみません、本日はもう閉店しました……。また後日……。」
目の前の客は私をみて目を見開き、
「
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file3.邂逅とコナンくん。
いやほんとに誰!?なんで私の前世の名前である
確か、名前は……。
だれだれだれだれだれだれだれ!?
いやほんとに誰!?なんで私の前世の名前である
確か、名前は……。
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彼女。
好きな食べ物は白米、野菜とお肉のソテー。アップルパイ。嫌いな食べ物はアスパラガスや、さやえんどうなどの食感に特徴のある食べ物だそうだ。私自身もこれらの食べ物と、フルーツが苦手だ。
目の前の客。私のことを前世の名前で言った。目玉が飛び出しそうなほど驚きながら。
「
切なそうで。苦しそうに。私の名前を言う。
私はその声を聞いて、
「……お客様。もう閉店時間ですので、お引き取りください。」
今は業務中だ。仕事に支障が出ては本末転倒だ。そう言った私をみて彼女はひどく残念な顔をして帰ろうと踵を返した。
ドアに手を掛けた瞬間、
「待ってください。」という声が聞こえ、二人して同時に声の方に振り向いた。
その声は、安室透さんだった。
「……うわーん!!逢いたかったよ~!!」
そう言って私を抱き締めている少女。
ポアロのテーブル席に向かい合って座っている。
「ごめん……。まだ仕事中だったから……。」
私がしゅんとして謝る。
「ううん、仕方ないもんね。」
納得してくれた。
安室さんの計らいのおかげで、私たちは話ができている。
彼いわく、「お二人の再会を除け者にするわけにはいきませんからね。」と。
本当に安室さんは気遣いが上手い。
「今、何してるの??」
「私はねえ、帝都大学のデザイン部に所属してるんだ。」
あれ?みてない??と聞いてきたのでごめん、知らないと答える。学部が違うから私は今まで一度も彼女を見かけたことがなかったのだ。
「そっか。学部違うもんね。……ってあれ?さっきの店員ってあむぴ!?」
今気づいたのか。少し苦笑しながら気づかなかったの??と言った。
「うん。」
私はそうなんだと返す。するとそろそろ、閉めますね?と安室さんの声がバックヤードから聞こえた。急いで荷物をもち、
「手伝います。」彼のいる場所に向かってそう言った。特にやることはやったので帰っても大丈夫ですよ?と彼に言われ、私ははっとなって思わずこう言った。
「す、すみません、任せてしまって……。本来は私がやるはずなのに……。すみません!!」
その発言に驚いたのか彼はにこりと笑って問題ないということを言った。
彼が帰宅したのを見送ったあと、私たちは話ながら帰路に着く。
周りを見渡してだれもいないことを確認すると、慎重そうに彼女
「どうして私が
「……あんたの動き、言動すべてが
やっぱり、私のことをよく見てくれている人は違うなと感心して
「そっか。何もかも……見抜かれていたんだね……。」
そう言いながらエヘヘと、はにかむように笑った。そういえば、と続けていう。
「
そう聞いた。彼女は足を止め、ゆっくりとこちらに振り向いた。
「知りたい??」
その顔はあまりにも先程までの笑顔とは掛け離れていて。真剣だった。
その真剣な表情に、吸い込まれる。直感でそう思った。
彼女は無言でいる私をみて肯定的と受け取ったのかポツポツと話し始めた。
______________________
このことを知ったのはここ最近で。その日の次の日、私はあんたと映画館に行くつもりだった。
その日は、テレビを見ながら夕飯を食べていた。
『次のニュースです。神奈川県○○町××番地で車の衝突事故が発生しました。』
アナウンスが流れる。あ、衝突事故があったんだな、と。それくらいしか認識していなかった。あんたの名前をきくまでは。
『その事故で被害者とみられる女性、宮橋
は……!?あかりって言った!?思わず立ち上がり、テレビの画面を凝視した。
嘘だ。嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ!!!
思わず箸を落とし、テレビの画面を見た。そこには、笑顔で写っているあんたが。
『現在、加害者と思われる車の運転手は逃走中で警視庁が引き続き調査を進めています。』
そのアナウンスは私の嗚咽で聞こえなかった。
その夜。私は死亡したあかりを探しに外に出た。
探したって、無駄なのにね。ボーッとして生きている心地がしなかった。
私は道路に仁王立ちで立って。もう耐えられなかった。
早く、私を殺してくれ。お願いだから。と何回も叫んだ。
一通り叫んだあと私は家に戻ろうと足を進めた。
その直後、制御不能となったトラックが私の方向に向かってきて。私は避けられなかった。
結果的に私は死んでしまった。
「そして、気がついたらここにいたって訳。」
ビックリでしょ。自嘲気味に私に言った。
彼女は泣いて、私は実桜を抱き締めた。先程までの勇敢さは嘘のようで。彼女はボロボロだった。
「ごめんね……。み、お……ひとりに、させ、てっ、……ごめん、ね……。」
勝手に逝ってごめんね??泣きながら囁くように言った。
「もう、我慢しなくて、いいんっだよ……。そんな、悲しいかおしなくても、いいんだよ、!!」
泣き声。泣きながらいうから息がつまって途切れ途切れになる。彼女はずっと、我慢していた。気を張り積めるように。
実桜は重荷が外れた。顔がぐちゃぐちゃになるくらい泣いている。
「あか、りっ……。ひとり、淋しかった……。辛かった……。毎日が辛かった……。」
あかりがいないから、死のうと思った。
そう、泣きながら言って。
「大丈夫。これからは一緒よ。ひとりにさせない。私も寂しかったからおあいこ。ね?」
子どもを慰めるように優しく言った。
「うああああああああ!!うっ……うわーん!!」
二人はひたすらに抱き締めあって。彼女と私の嗚咽が夜の米花町に響き渡った。
暫くたち、だいぶ落ち着いた私たちは自宅に戻るべく走り出す。
別れ際。互いの家に繋がる十字路にて。
「……。今日はありがとう。また明日学校でね、朱莉!!」
「……。うん。」
もう、ひとりにさせない。わたしはそう決心した。
「あ、いい忘れてたけど、私の今世の名前は、
そこのところ、間違えないでね!!と彼女、
先程までのか弱さは微塵もなかった。
二人で抱き合いながら泣いた数分後。別れるまえにこんな会話もしていた。
「あのあと、気がついたらここにいたっていうけど……。」
「うん。私の場合はこのままで成人した状態のまま、転生したの。
朱莉の遺体はなぜか遺体安置所にもなかった。今思えばそのときにはもう朱莉は転生していたのかなって思って。しみじみと思い出すように語る
道路にもない、遺体安置所にもない。
「それがわかってからはさっきの通りだよ。」
彼女は俯いてつぶやく。彼女の瞳には影があった。いまだに犯人は捕まってないそうだよ??
仕事にも手がつかず。生きることに絶望を覚えた彼女。
「あたしが転生したのは多分今日。だと思う。」
驚愕した。確かに、私は転生してから一度も彼女の名前を聞いたことがない。
学校のバンクや戸籍もなかった。
今日。と聞いてつじつまがあう。
転生してから今まで。もし彼女が私と同時期にこの世界に来たのなら、とっくに安室透さんに
なぜ……。会っていないのだろうか……??
彼女と別れてから、私は自分の家である新一の家へと向かった。ポアロからは距離があるため一時間ほど時間がかかった。何事もなくて良かった。何せ米花町は、日本一犯罪が多発する町だからだ__。
新一の家の前に着くと、なぜか門は開いていて。中へはいると阿笠博士と、小さい子どもがいた。
阿笠博士と小さい子どもはなにかひそひそと話している。
__黒の組織に……。ばれ……かも……しれ……__
__そう……たら、ら……影……ない……__
こそこそとして所々しか聞こえない。その話しは一向に終わる気配が毛頭ない。大きな声をだし、強制的に会話を終わらせよう。
「ねえ、なんの話をしてるの??新一。」
なぜか、小さな子どもは肩を小さく揺らした。
そんな子どもを、一瞥して続ける。
「……。工藤新一。みればわかるわよ。動きがほとんど新一と一緒なんだもの。」
小さい子どもは観念したかのように項垂れて、
「……。姉ちゃんには、お見通しだな……。蘭には言うなよ。」
言動はまるで高校生で。
やっぱりと思い、心のなかでグッと親指を立て、ガッツポーズをした。
この後すぐ、蘭ちゃんが来て。新一は焦りながらも彼女に江戸川コナンと名乗るのであった。
そんなこんなで原作がはじまってしまったようだ。
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file4.前世ときっかけ。
彼女の名前は
彼女は変わり者だが、意外な一面があった。
「よーしっ!ゲットゲット!!名探偵コナンの第100巻!!」
るんるんといった弾む気持ちを全面に出している。楽しげな様子に見えた。
高校の帰り道。私たちは寄り道と表して本屋さんに来ていた。とびきり大きい店舗である。
「……そんなに、嬉しいんだ……。」
「うん!!漫画は一巻からずっーと!集めてるからね!!」
自信満々で言った。そんな彼女に若干引き気味で答える。
その頃の私は、テレビでみる程度であんまり関心があるわけではなかったのだ。
あんたもみてみて!!一巻貸すから!!
そう言われて断ることすらできず、勢いで漫画を借りてしまった。
彼女のおかげで私の名探偵コナンオタクへの
そう。彼女も名探偵コナンオタクだったのだ。
ある日の朝。登校してきた私に名探偵コナンがどういう作品なのかを力説してきた。
「ねえ、みた!?名探偵コナンの警察学校編!!」
ヤバイよね!!と興奮気味。
メインとなる5人のかっこいい点をあげていく。
私はどうでもいいと思いながら聞いていた。
「なんで、亡くなっちゃうかなあ、降谷零以外!!」
降谷、零……??聞き覚えがあった。漫画はみないが、アニメは見たことがあった。毎週みている。だから、名探偵コナンをアニメでしかみない私でも、その名前は耳にしたことがあった。
「もしかして、ポアロ……の、??」
「あれ!?知ってるの!?ポアロの店員さんだよ!!」
彼女が食いついてきた。
「降谷零はトリプルフェイスで、安室透、黒の組織のバーボン……。3つの顔を持つ完璧なイケメンなんだよ!!」
その言葉を聞いて、私はアニメでみた金髪で褐色の肌の男性を思い浮かべる。
『赤井……秀一!!貴様……!!』
!!!そう、彼は赤井秀一を目の敵としている。私はすごく驚いて叫んでしまったのだ。
あのあとすぐに担任の先生が来て、私はこっぴどく怒られた。
朝礼後の休み時間。なぜか友達に詰め寄られながら怒られている私。
「……。そんなに、叫ぶほど……??」
「ご、ごめん。テレビではみたことあったから余計にビックリしちゃって……。」
彼女はなにも言わず席へと戻った。私は許してくれているのかいないのかモヤモヤしていたことを覚えている。
はっきりと言ってもらいたいものだ。
家に帰り、漫画を借りたことを忘れていた私は名探偵コナンの漫画をひとまず読んでみることにした。
『そして、あの時間に誰にも怪しまれずに家中を一人で歩き回れた人物はただ一人……。』
『早く言いたまえ!!いったい誰だね、私の家内を殺した犯人は!!』
テレビでみていたアニメを、こうやって原作できちんと読むのは初めてで。感心となぜかドキドキしたのを覚えている。名探偵コナンを初めて読んだあの日。
答えろと言われた少年は鼻で笑って言った。
『それは、御主人、あなたです!!』
「え、事件……?しかも、高校生が、犯人を突き詰めてるう!?」
これはすごいと思った。彼の名前は工藤新一で、帝舟高校の二年生……。え!?私と同い年!?
って、だめだ、これは漫画。二次元と現実を混ぜたらあかん。気分を落ち着かせた。
『でも、なんで探偵なのよ?そんなに推理小説が好きなら、小説家になればいいのに……。』
毛利蘭……。彼と同じ高校に通っている……。みた感じだと幼なじみ??
羨ましい。蘭ちゃん、可愛い……。蘭ちゃん、好き……。彼女にときめいた私がいる。
『オレは探偵を書きたいんじゃない。なりたいんだ!!平成のシャーロック・ホームズに!!』
私は思わず目をグッと見開いた。今まで読んだ漫画のなかで衝撃を感じた。
それから私はどんどんと良いペースで読み進めていく。
トロピカルランド……??ディ○ニーランドみたいな……??
……あの男の人たち誰!?みた感じ、悪い人……。
アニキ……??ともう一人、誰だ……。……。子ども……。
「ええええ!?うそ!!!縮んじゃったの!?」
そして数分後に読み終えたのだった。
「へえ、意外と面白い……。」
気になった私は調べてみることにした。
スマホをタップし、ロックを解除。サーチアプリを開く。
検索すると膨大な量の関連記事が表示された。
ネタバレ記事や、考察記事などその他諸々。そのなかで気になるのを見つけた。
アプリ……??『名探偵コナン公式アプリ』
ほー、こんなのがあるんだ。
『サンデーウェブり』
これでも読めるんだ……。
どの情報も、今まで全く手に着けてなかったもので。新鮮だという感じだ。
スマホの通知音がなった。
急いでlineを開いた。トーク画面を開いた。
朱莉漫画みた??
今日、ようやくみたんだよね……。と思いながら返信をする。
うん、みたよ。とっても面白かった。新一元に戻れるのかな??
それは疑問だ。あれはなんかの薬なのか。そして、あの黒の服装を来た人たちは誰なのか……。
どうだろう。最終的には戻れると思いたいけど。このまんが意外と伏線張られてること多いんだよね
伏線……??そうなんだ。
実桜
うん、あとで、あ、あれってこうだったの!?とか、あとから曖昧だった情報が結び付くんだよ。ほら、あったでしょ?コナンの何作目だっけ……。とにかく、沖矢昴が、赤井さんだったってこと!!あれがいい例よ!!
朱莉
沖矢昴……??その人なら知ってる気がする。アニメとかに出てたよね……。最新話で世良ちゃんのことを知ってるみたいだったし、正体が赤井さんである画像も出てたしね。
実桜
にしても、あんたも映画やアニメならみるのね。てっきりみてないのかと思ったわ。
「は……。なにそれ。私だって、みてるってば。」
気づいたら怒っているようなものすごく低い声が零れていた。
朱莉
失礼ね。私だって漫画はみなくても、アニメは見てるよ!!!余計なこと言いすぎだよ!!
実桜
ごめんってば~!!そんな、怒んないで!!
むー、実桜が悪いんだからね!!
そんなlineをして。それから私は一巻、二巻と、あっという間のペースで読み進めたっけ。
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file5.新たな再会
次の日。
……今日の講義は、これと、これと、これ……。
バックに必要なものを積めて、工藤邸を出発した。
『よって、法とは、社会規範であると同時に行為規則、えーと、すなわち国家と社会を規律するためのルールなのです。裁判規範として、裁判官が判決を下す基準として用いられるのです。』
レジュメに教授の書いたことをメモする。
『制定法とは、我が国の「法」の中心で、権限のある機関によって一定の形式を持って分けられた分布された法なのです。』
『以上。よく見直すように。出席カードを提出してから帰るように。』
最後の授業が終わり、
「……。授業どうだった??疲れたよ。」
「あたしはとても楽しかったよ!!デッサンの理論学んだんだけどさー……。」
そんな感じで話しながら私
実は法律関係の勉強をするのは二回目だ。今世でも法律に関する勉強をするのが規則みたいだ。まあ、復習になるからいいけど。
バイト先につき、美鈴は帰るのかと思ったが、ポアロでお茶していくらしい。なんでも……。
「がんばってるあんたの様子を見たいから……さ。」
語尾に星がつくような、僕お前のことお見通しなんだからなというイケメンなら定番のセリフを吐いた。正直チャラいわ。
「……。はあー。勝手にしろ。……遅くなりました、(苗字)です。」
急ぎ足でバックヤードに入り、制服……エプロンを付ける。
「……ん……あれ??縦結びになってる……。」
困った困った。急いで直すがなかなか縦結びが横結びにならない。
(あーーーー。どうしよどうしよ……。急がなきゃ……。)
私が焦っていると誰かの気配がした。思わず振り向く。
「あ、安室さん……。お、お疲れ様です……。」
表面上は平静を装っているが、心の中は爆発寸前だ。
安室さんはお疲れ様と言って(名前)を一瞥する。
「……少し失礼しますよ……。よし、できました。」
そう言ってエプロンのリボンを結びなおす。「……え、えっと、あ、ありがとっごございます……。」
お礼を言う私の声は裏返っている。推しが目の前にいる。そして、さりげなくリボンを結びなおす……。顔中に熱がこもるのを感じた。きっと今の私の顔は赤くリンゴ色になっているだろう。私男性経験不慣れなんですもの……。些細なことで緊張してしまって。
朱莉の時の年齢でも年上で。あんな風にさわやかスマイルで仕事(潜入捜査)している彼が。
「……ずるい……。」
そう言ってはっとした。バックヤードから急いで出る。顔はあいにくまだリンゴ色のままだった。
「私、なんで……。」
なんで、ずるいって、言ったの……??その表情はまだ変わらなくて。
そして、あっという間に夕方。私はさっきの安室さんの行動がちらついて、集中できなかった。
閉店時間も近くなってきたころ。
「いらっしゃいませ。……五名様です……か……!?」
「んだから、言ったんだよ、萩!!!」
「いいじゃん、陣平ちゃん!!安室の様子を見れるし……って君は……!!!」
なんだか、騒がしい四人組が入ってきた。あれ……。この人たちって……まさか・・・・・!!!
「あの時の!!!」同時にはもった。
安室さんは驚いて、カップを落とした。
______________________________________
「すいません、コーヒーひとつ。」
伊達という人がそういえば俺もコーヒー、俺もコーヒーにするわ、連鎖で全員コーヒーを注文した。
「か、かしこまりましたっ!!あ、安室さん、コーヒー四つ注文来ました……。」
彼にオーダーを報告する。だが。彼の反応はない。
「……安室さん?あの、……えっと、ちゅ、注文来てるんですが……。」
「安室さん!!!」私が強い口調で彼の名前を呼ぶ。彼は、はっとなって私に顔を向けた。
「コーヒー四つ注文来ました。」
「すみません、最近少し疲れてて……。四つコーヒーですね?」
彼は慌てながらコーヒーを淹れ始める。嘘だ。
__最近少し疲れてて……。
この発言は嘘だと思う。さっきから安室さん動揺しているから。
そのころ、客席では。退屈そうにしている天パの男性。松田
「……ミスしてんなあ、
「まあまあ、
萩と呼ばれる人が陣平という人をなだめるように言っていた。名を、
珈琲を人数分入れ終わり、私が四人の元に持っていく。
「お客様、お待たせいたしました、珈琲です。」
「ありがとうございます。」
伊達が(名前)に言う。律儀だと思った。
「今日の事件は大変だったなー。な、も……緑川。」
諸伏と呼ばれた男性。いや、今は緑川だろうか。
「みんなのおかげで解決したな。」
「にしても、君……。」
伊達が私に声をかけた。ちょうどよかった。もうやることがなく暇だったから。
「俺たちを助けたこと、礼をいう。」
私は、伊達さんにそう言われ、恐縮しながら、
「いえ、私が助けたかっただけですから。」
とにこりと笑って答えた。
しばらくして、そういえば、と四人のうちのひとりが口を開いた。
「君、名前は……?俺は萩原、萩原研二!よろしく!!」
次々と自己紹介していく彼ら。特徴的に見える天然パーマの男性は松田陣平。
体格の大きい男性が
まさか、私に話を振られるとは思っていなかったので驚くとともに、少々緊張してしまう。
「えっ。私の名前ですか!?えと、(苗字)(名前)といいます。……あの、どうして、私をみて、あの時助けた人だとわかったんですか……??」
偽名を使うか迷ったが、ポアロでもう実名をさらしているから関係ないと開き直り、実名を名乗った。
「(名前)ちゃんね、了解!!それはね……。」
語尾を伸ばしていう萩原さん。
「(名前)ちゃんが、かわいかったから……かな??」
え……は……??四人の視線が一気に(名前)と萩原さんを交互に見ながら集中する。
一瞬間が空いた。私は恥ずかしくなって俯く。
「おい、萩!!口説くんじゃねえ!!」
諸伏さん……いや緑川さんと、伊達さんは、苦笑していた。安室さんは微笑みを見せながら私たちの会話風景を眺めていた。
「っていうのは、まあ、その、うん。……冗談。」
「冗談だったら口説くなよ!!」
怒っている天パの人。いや、松田さんだったか。
「そんなに怒んないでよ、陣平ちゃんらしくないなあ……。」
松田さんは舌打ちをして携帯を見始めた。その様子を一目見てから彼、萩原さんは、気まずそうに言った。
「君の、勇姿に、助けられたんだ、俺たち。」
「え……。」
はにかみながら、でもどこか懐かしさ、を感じさせるには十分だった。
今から7年前__。
「母さん、ちょっといってくる!!」
速攻に玄関でそう言って、扉を開けた。窓の空気を吸いながら、私はある場所へと向かう。防護服を持ったリュックをもって。
「はあ、ちょっと、まちなさい!!(名前)ちゃん!!」
黄色と黒のグラデーションが入ったかっこいいデザインのヒップホップキャップをかぶり、上は黄色のTシャツ、下はショートパンツ。赤いスニーカー。はたから見れば男の子だと間違われそうだが。私は自分の目的を達成すべく、
警察があわただしくしながら住民を避難させている。ビルのそばには黄色いテープがかかっていた。
「爆弾が仕掛けられています!!まだ避難していない方は今すぐ避難してください!!」
風が私をあの場所へと
「……萩!!!お前、防護服は!?」
ある男性がトランシーバー基、無線機で話している。
「忘れた、着たくないんでね。」
構わないでくれ、とでもいうような態度の男性の声が流れる。
「はあ!?お前、死にたいのか!?」
「すみません、通してください!!!」
「君は誰だね、危ないから行かないほうがいい!!」
私は、相手の警察官の足をけった。
「っ……。あ、待て!!!」
「ごめんなさい!!!私にはどうしても!!!」そう言いながら、足早にあの人のいる場所へ向かった。
「……はあ、はあ、」
そして、彼と対峙した。
「誰だ!!!!「松田さんから防護服を預かりました。」!!!」
警察官が一斉に私のほうに視線を向けた。
「んー、何の騒ぎ……。「萩原さん、残りの爆弾はわたしがやります!!!とりあえず防護服着てください。」え、ちょっと、なんで、俺の名前知って……っていうか、君こそ大丈夫じゃないよね!?」
強引に彼に防護服を差し出す。
『おい!!萩!!どうした!?』
「いや、なんか、女の子が来て……。」
『はあ!?さっさと追い出せ!!』
「それが、なんか解体し始めたんだよね……。」
『は!?もしかしてさっきの女か!?』
「陣平ちゃん、知ってるの??」
彼が誰かと会話している。私のことについてだと思う。私は心の中で謝った。強引なやり方だけど、たぶん彼なら許してくれるだろう。
私は爆弾解体をする。私をなめるな、原作で死なれたからこうして今必死になってんだよ!!!鍛えた力を今、この場で使うんだよ!!!何のために、今まで公安の資料盗んで、爆弾処理してきたと思ってんだ!?
私は、降谷零の、悲しむ顔はもう、見たくないんだ!!!!!!
【焦りは、最大のトラップ。】これを思い出しながら。進めていく。
「……時間かかってるな……これをこうしてっと……。」
「……にしても、複雑だな……。」
焦らず、慎重に解体を進めていく。今までの中で一番手際が良く、調子が良い。
ピー。残り、三秒。時限爆弾装置が作動した。カウントダウンを始める。
3
残りはこの入りくった青いコードと赤いコード。
(いける!!!ここをきれば__!!)
2
チョキン。切った。ピー!!解体が終了したであろう音が鳴り響いた。
正直絶体絶命だったから助かった、としかいいようがなく。
……。助かった。
萩原さんと、その他警察官はぽかんとした表情で、私を見つめていた。
「あの、解除しました。」
「……あ、そう、ありがとう。……松田。解除した。」
『おう、解除できたか……っていちおう聞くがお前がやったんだよな??』
「いや、かわいい女の子がやってくれたよ。」
『っは?』
松田の絶叫が米花町の空に響いたという。
私??にげたよ??そして、見事に風邪をひき、有希子さんに怒られました!!
てへ!!
『爆弾め……次こそは俺が
萩の仇は俺がとる。
いや、俺生きてるよ……??
_________________________________________________
[newpage]
「ありがとう。本当にありがとう……。君が居なかったら、俺たちは本当に死んでいた……からな……。そしたら、
私はなぜか泣きたくなって顔を俯かせた。
「……なんで、(名前)ちゃんが泣いてんのさ……。」
「いえ、こうしてっ、みなさんと、お話しでき、てっ、今とっても、楽しいんです……。」
そう言って、私は顔を上げ四人と目を合わせる。照れている表情をしている四人。気づけば安室さんも萩原さんの隣に座っていて。そして、四人、いや、六人の笑い声が響いた。
「そういえば、(名前)ちゃんあのあと大丈夫だった??」
萩原さん……ではなく、緑川さんに聞かれた。
「?あのあと……ですか??」
「うん、あ、いや、(名前)ちゃんなんか寒そうな恰好してたって萩原から聞いたから……。君のことだったんだね……。萩原が言ってた女の子って。」
「あはは……。みごとに風邪をひきましたよ……。あの時の私は馬鹿なんでしょうね。半袖に、ショーパン……。もう少し季節感を考えればよかったかも……。」
そしたら三人に、いや四人に驚かれた。
「は、半袖!?」
「季節感バグりすぎだろ!?」三人の声が同時にはもった。
「あはは、どうせ肌寒い程度かなって思ったので……。」
苦笑交じりの表情をしていった。
「肌寒い、じゃないよ、(名前)ちゃん。女の子なんだからさ、そういうの、気を付けなよ?」
「そうですよ、女の子は体を冷やしてはいけないですからね。」
「そこんところは、安室の言う通りだな!」
「次からは、気をつけろよ?」
「今回は、こいつらの言うことに同意だな!!」
お、女の子……。萩原さんたち五人に女の子扱いされたことに照れながら、はーい、と語尾を伸ばして答えた。
カランカラン。と鈴の音とともにポアロのドアが開いた。
「……あれ?まだやってたんですね。お邪魔しまーす。あ、(名前)じゃん。ヤッホー。」
「美鈴。お疲れ。こんな時間にどうしたの??」
「んー。どうしたらあいつをコテンパンにできるか、作戦会議しようと思ってたんだけど、あんたと二人で。あれお客さん??……って、えええええええ!!!!」
そう言ってから、彼女は私の隣にいる男性四人組+安室さん(降谷さん)を見た。
急に叫びだしたんだけど。私は冷静にこの状況を実況する。アナウンサーになれるんじゃない??この人忙しいんだね。あいつって誰だろ??そう思いながら、席へと促す。
「な、なんで、あなた方がっここに、お、おられるのでっしょうか??」
「……緊張しすぎ。」
「(名前)ちゃん、辛辣……。」と萩原さん。
私がガチトーンで言ったら彼女はうるさいといって。その様子を見ている彼らは苦笑している。
「あ、握手させてください!!!」
はあ!?みたいな何言ってんのっていう顔を四人にされた。
「なんか、事情はしらねえが、ほらよ。」松田が美鈴に手を差し出した。
松田、萩原、安室(降谷)、伊達、諸伏の順に握手をさせていただいた。
うれしいですう、本当に……。と涙ながらに言う彼女は心からの笑顔を浮かべていた。
そして、
「尊い……。」思わず美鈴はそう言った。
「は……??」
訳が分からないという感じで彼女を見つめる私以外の男ども。
その場はしばらく沈黙に包まれた。
気まずい……。ここは私がどうにかしなければ……。
「あ、あのー。コーヒー足しますか……??」
一応定員として、その場を和ませるつもりが、またさらに悪化させてしまったかもしれない。私も彼女の気持ちは痛いほどわかる。だが、いま私たちがいる世界は実際に生きている世界であって、架空のものではない。虚像でしかないのだ。
その言葉を聞いて松田が私を無言で見つめてきた。なにか変なことでも言ったのか、考えの浮かばない頭で考えたが、それは考えすぎだったようだ。
彼は少々考えるそぶりを見せてから、
「……。あー、じゃあお願いするわ。」
「はい、では少々お待ちください。」
頬と口角が思わず上がった私はそう言ってバックヤードへと向かった。
「あの、い、今のは忘れてください!!!」
空気に耐えられなくなったのか、美鈴は叫んだ。頬が赤くなっている。
「俺ら特に気にしてないし。大丈夫だよ。」
緑川さんが気にかけるように優しく言った。
「自己紹介がまだだったね。俺は緑川光。」
「……俺は松田陣平だ。よろしく。」
「萩原研二だよ!!よろしくね!!」
「ポアロの定員してます。安室透です。」
「俺は伊達航だ、一言でいえば、こいつらのまとめ役だな。」
一人一人自己紹介を始めた。その様子をコーヒーを入れながら眺めた。
「私は
「美鈴ちゃんね、了解。」
皆の自己紹介が終わった直後、珈琲を入れ終わったのでもっていく。
「おまたせしました。」
「サンキューな。」
そのあと、談笑して五人と別れた。
まさか、あんなことになるだなんて。
数日後、頭から血を流している美鈴と、謎に包まれた
「お前の、爆弾処理は見事だな、幹部として招集したいくらいだ。」
「は??」
組織とかかわりを持つことは俄然避けたかったのに……。
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file6.分岐点。
私、(苗字)(名前)は基本的に、今世の実名で生活している。大学生だからだ。
ただ、例外がある。私は転生者なのだ。つまり、何を意味するのかというと、[前世の名前を偽名として使っている。]ということなのである。
主に、偽名を使うときの条件を自分に課している。
その一、前世の時の私をよく知っている人。
その二、実名を知られてはいけない状況にあったとき。
このふたつ。前世の時の私をよく知っている人は今のところ、ひとりだ。
対して、
私は、あることがきっかけで、前世からの繋がりのある友と、偽名の必要さをいたい程、痛感することになる。
________________________________________________
警察官四人(五人)+ポアロの店員さんに会った日から数日がたち、気がつけばだいぶ暖かくなっていた。五月。
講義が終わり、この日はバイトがないため、私は足早に家へと帰った。
「ただいまー。」
玄関を開け、家に入る。家に入ったあとはもちろん靴を脱ぐのだが、この日はいつもと違った。
「な、なんか……。男物の靴……だよね、これ。」
洒落ている男物の靴が置いてあったのだ。
泥棒……??朝、家を出たときにはこの靴は置いてなかったのに。おかしいな。と思いながらリビングに繋がる通路を通り、ドアを開ける。
「こんにちは。同居人がいるとの話でしたが、貴方だったんですね?」
ビックリして思わず反射的に肩を震わせた。
「すみません。驚かせてしまって……。」
茶髪で、眼鏡を掛けた長身の男性。もしかして、沖矢昴……!?だとしたら、ほぼ赤井さんじゃん!?
私は高ぶる気持ちを必死で押さえながら、首をかしげる。
「いえ、……え。あの、貴方……は?」
「申し遅れました。僕は沖矢昴といいます。よろしくお願いしますね?……宮橋
彼は一瞬間を空けてから、ゆっくりと私の
!!やっぱり!?私の読み通り。この人はFBIのあの赤井秀一さん!!
思わぬ形で、会ってしまったのだ。
「はい、よろしくお願いします……。あの、」
どうして、私の名前が
「昨日少し用がありまして、あの喫茶店の前を通ったんです。そのときにすこし聞こえまして……。」
!!もしかして、あのとき二人で外で泣いたことだろうか……。
「あの。その時って夜……でしたか??」
「?はい、夜でしたよ??二人で泣いてるところを。すこし。」
歯切れが悪そうに話す沖矢さん。
やっぱり。あのときか……。え!?恥ずかしい。
その事を自覚して顔を俯かせた。
「あ、の……。わたし、部屋に行きますので、しっ失礼します!!」
「え!?あの、待ってください!!」
そう言って、私は足早に二階に上がり、自分の部屋に入った。沖矢さんにそう言われて罪悪感に苛まれた。
「はあ……。恥ずかしい……。まさか、沖矢さんにみられていたとは……。ん??」
私は考える。あれ?沖矢さんは、赤井さん。むしろこれは、沖矢さん=赤井さんにみられたとも、決定付けることができる。
っていうことは、
「あああああ!?いやぁあああああああああ!?」
叫んだ。どたばたと動いた。そして、ものが色々落ちて物凄い音を立てた。
「え、あの、赤井さんに。みられた……。赤井さんって、FBI、だよね?」
FBI!!!!
「FBI!?」
私はまた叫んで。場所を行ったり来たり。物がたくさん落ちてきて。私の顔は恥ずかしさで赤く染まった。
「あのー、先程から騒がしいですが……大丈夫ですか??」
ようやく落ち着いてきて、一段落。かと思ったら心配そうに一階から声をかけてくる沖矢さん。
「へ!?い、いえ、な、なんでも……。アハハ……。」
あせる。FBIと言ってしまったこと。やはり、怪しまれているのでは……。と考えつつ、沖矢さんに返答した。
「(名前)さん、夕飯を作るので、降りてきてもらえますか??」
「ゆ、夕御飯ですか??た、ただいま降りますので!!、すこし待っていてください!!」
今会うのは不味い、と思ったが、仕方ない。人手を欲しているんだ。のうのうとなにもしないわけにはいかないだろう。
手伝いが終わり、といっても、私がやったのはレタスをちぎることだけだったが。
テーブルの上には豪華な料理が並べられ、部屋の空気もなんとなく高級感に溢れている。
「いただきます。」
ご飯、お味噌汁、鯖の煮付け、レタスとトマトのサラダ。
鯖をパクリと一口大に切って、ほうばる。
「!!お、美味しいです!!ホクホクで、身の中もしっかりしていて、すごく美味しいです!!」
「それはよかったです。最近、料理の本を買ったのですが、今回は和食にチャレンジしてみようかと思いまして。」
といって、私にその本を見せる。
「……。沖矢さんはすごいですね……。それに比べて、私は……料理とかもあんまりしないので、できないんですよね……。」
本当に、すごいです。尊敬の意味を込めて言ったら、彼が少し笑ったような気がした。
「……あの、沖矢さん。さっき、私がいた二階の部屋、うるさかったですよね……。そうだったら、すみません、うるさくしてしまって。」
食べ終わり、片付けを終えて、一段落したところで、私は遠慮がちに彼に言った。もちろん、怪しまれてないか探るためだ。
「いえ。大丈夫でしたよ。いろいろ慌てている声が聞こえてましたから、なにかあったのかと心配になりましたが。」
その返答で私の顔は青ざめた。
「あ、あの、ちなみに慌てているときの声って、き、聞こえてました……??」
「……。ええ、全部聞こえてましたよ。」
間があった。その事で確信する。……終わった。怪しまれている。多分私が寝たら盗聴機を忍ばせて私の部屋にいくだろう。そして、私に気づかれないように、盗聴機械を仕掛ける……。なんということだ。
「あ、はは。そ、そうですか……。で、では、私はお風呂に……。」
そう言って、私は部屋に着替えを取りに行く。私がいなくなってから彼は怪しげに呟く。
「(苗字)(名前)……。君は何者なんだ……。君は、敵なのか……味方なのか……。」
味方だったら、有り難いがな。彼は
その声は、空気に流され、余韻を残すことはない。
朝、起きるとキーンと耳鳴りのような音が耳に響いた。部屋には普通の物しかなく、ほかに勝ったものはない。むしろ、何か物があるほうが怪しいのだ。心当たりがない。少し考え込む。
「もしかして_。盗聴器……??」
ベットの横にあるコンセントが怪しい。コンセントのそばに寄り、超音波機械をかざす。
「__。」
ザザーという音とともに人の声が聞こえる。その声は紛れもなく私自身の声。
「……やられた……。まだほかにもあるかもだしな……。余裕はできない。」
コンセントから離れて、他にそれらしき物がないか探すが、一向に見つからなかった。
いつも通り大学に行き、講義を受ける。
今は四時限目。
「よって、当期純利益は、このようになります。」
簿記。教授の声と共に、電卓の叩く音と、シャープペンシルの走る音が響く。
『__。』
耳なりのようなおとがまた聞こえた。今度は近距離。
(どこだ……。音の出所は……!!)
ピー。どこから音がなったか勘づくが、確信はできない。
(まさか、シャープペンシルと、スマホ……??)恐る恐るシャープペンシルを耳に近づける。
チー。ジリジリ。電波の途切れる音。
周りをみて誰もみていないことを確認して、スマホを出す。すみません、今だけですから許して。
スマホのスピーカーに耳を近づけ、シャープペンシルから出た音と同じ音がした。
ビンゴだ。さあ、このあとどうするか。決めた。赤井さんに直談判しよう。と。
自分でもバカだと思う。わざわざ盗聴機を仕掛けた相手に、直談判するなど、自殺行為に等しい。
帰り。夜。バイト終わり。
「梓さん、安室さん、お疲れさまでした!あの、私はこれで失礼します!!」
お疲れさまでした、と返す二人の声を聞いて、私は裏口から歩いて工藤邸へと向かった。
「ただいま。」
そう言ってリビングに入る……が、沖矢昴はなぜかいなかった。かわりに入ってきたのは子供だった。
「こんにちはー。神子お姉さん、いる??ボク、コナン!!」
「……。今、沖矢さんはいないよ。」
コナンの姿を垣間見ながら、伝える。
「そっか。じゃあボク帰るね。」
「待って……新一。用件は?」
コナンくんは観念したかのように、いう。
「……。姉さん。姉さんは何者なんだ……??俺の正体を知っていたし、誰にも教えてないのに、おかしいと思わないか??」
私は鼻で笑って言った。
「……。そうだね……。私はふつうの大学生だよ。ってか、この会話も聞かれてるんでしょ??沖矢さんに。」
「ああ、俺は沖矢さんに用があって来たんだ。」
私は確実性を持って彼に問う。
「……。二人で、私の動向を探る気でしょ??私も、沖矢さんに直談判しようと思ってたから。」
すると、コナンくんは
「姉さん。馬鹿かよ。そもそも直談判自体が間違ってんだよ。」
「……。多分、沖矢さんも聞いてると断言していうけど、私、組織の動向を調べてるの。だから、君たちの情報は筒抜けだよ。」
コナンは黙り込む。そして、ゆっくりと言った。
「そうだって!!ねえ、いるんだよね?沖矢さん?いや、赤井さん。」
私は気づいた。まさか、この会話も直接……。
「まさか、この会話も……。」
「ああ、そのまさかだ。」
そう言って、沖矢さんではなく、赤井秀一の姿で私の前に現れた。
「単刀直入に言う。諸橋神子……。知っていることを全ていえ。すべていったら見逃してやる。」
私のからだ全体が鳥肌が電撃のごとく襲った。
「い、まは、今は……言えないです……。」
震える声で答える。
「……ほう。そうか。だが、俺はお前の情報を持っている。」
聞きたいか??そう言って、私の情報を言い始めた。
「(苗字)(名前)。お前は転生者で、前世の名前は宮橋
「な、なんで、ってまさか盗聴で……!?」
「うん。ボク今日学校終わりにここに来たんだ。それで(名前)お姉さんのこと、チェックしてたんだよ。……信用できるか、どうか……ね。」
私は何も言わなかった。
「私が、転生者であること、どこで知ったんですか。赤井さん……。」
「この会話だ。」
そう言って、盗聴機のデータを取り込んだパソコンである音声を再生する。
『……よし、他に怪しい人はいないね、朱莉。……調査はどう??』
『……まずまず。私の前世からの情報を駆使して、調べてるんだけど、あまり出てこなくて……。』
『そっか。なんとかして組織ぶっ潰したいもんね。』
『……はあ、せっかく転生者として来たのに、組織潰すのに時間かかるだなんて。ジン、しぶとっ。っていうか、あたし、どうにかして、公安か、FBIと協力関係結びたいんだけど……。』
『無理だな。』
『そうだよねえ。とならば、まず、仲良くなるとこから始まるよね……。っていうか、あんたも気を付けてよ?殺されないように、さ。』
音声は、ここで終わった。迂闊だった。盗聴されていることを忘れていた。
「これが証拠だよ、姉さん。」
「他に、知っていることはないか?あったら言うんだな。」
私の心臓は破裂寸前であります。
そのとき、玄関の扉が空いた。
そして、出てきた人は……。
「何の用だ。FBI。」
「来たか、安室くん。頼みがあってな。」
「赤井。断る。」
「頼みというのは俺じゃなく、こいつだ。」
降谷零。
彼にそう言って、私の肩を軽く叩き、例の音声データを流した。
「……(苗字)、さん……。が転生者……!?どういうことだ。赤井。」
私はますます青ざめた。
「あ、はは。あの、その、あのですね、安室さん、いえ、降谷さん……協力関係結びたいんですけど、いいですか??」
「……!!なぜ、僕のことを……。もともと怪しいと思っていたが、ここまでとはな。当然、信用できない人間に易々と協力することはできない。」
「俺もお前の頼みは却下だ。」
……。そりゃ、そうだよな。……にしても、口調が安室さんじゃなくて完全に素の降谷さんだわ。赤井さんの前になると隠しきれてないな。トリプルフェイスも大変なんだな~。こんな、状況でこんなことを考える私は馬鹿だ。
「だが、代わりに組織について知っている情報を聞かせてもらうぞ。」
え。まさか、安室さんも……。なんということだ。
「え、マジ……ですか。」
仕方がない。これも何かの縁。言おう。
「わかりました。言いますから。」
「ほう。俺には言わなかったのに、安室くんには言うとはな……。」
そう言って組織に関する知っている情報をはいた。
「……。案外、少ないな、もっとあると思ったんだが……。」
と、赤井さん。
「……。他に知っていることはないのか。」
と、安室さん。やっぱり私、降谷さんより、安室さんの方が好きだわ。こんな状況のなかでこんなことを思うだなんておこがましいけど。っていうか、展開早すぎなのでは??
「ないです。」そう、答えた。
もしかして、原作よりも早いペースで……。物語が……進んでいる??
今この時点で、互いが同じ目的で黒の組織の動向を探っていることは知らないはずだ。
赤井秀一がFBIであること、彼の死を偽装し沖矢昴として工藤邸へと潜入すること、降谷零が安室透として公安の潜入捜査で、バーボンとして黒の組織の動向を探っている件、互いの正体を把握していない。この四つについてまだ把握している段階でははずなのだ。コナンもコナンで、赤井秀一と協力関係になることはだいぶ先になるはず。
現在二人は互いの正体を把握済みで、以前のようにいがみ合うことが少ない。私は警察学校組を救済したが、宮野明美を救うことはできなかった。
まさか、これが関係しているのか……??
「そうか、知っていることが出てきたら教えてくれ。」
赤井が残念そうに言った。
__________________________________________
同時刻__。
美鈴は(名前)奇襲作戦を決行するため、工藤邸を目指し、足を進めていた。
「どんな顔するかなあ……??」
ウキウキしている彼女。(名前)がどんなリアクションをするか考えながらまた歩く。
突然、頭を殴られ衝撃が体中を走り、頭から血を流して倒れた。
「う……。」
もうろうとする意識でかろうじて聞こえたのは背後で話すジンとベルモットの声と、工藤邸の玄関で話す(名前)と沖矢昴の声だった。
「……この子、どうするつもり??ジン。」
「……あとで風穴もう一発開けてやるよ。処理はこの後考える。」
ジンと……ベルモット……。まずい、頭が警鐘を鳴らしている。この二人に近づいては、ダメ_。
「じゃあ、少し買い物に行ってきますね。」
「ああ、牛乳と、卵と野菜を頼む。」
沖矢さんの声と、(名前)の声が聞こえる。
(名前)は工藤家の門をでて、美鈴の方向へと曲がってくる。
「……人……。美鈴……??美鈴!!!!」
(名前)は彼女に駆け寄り、病院に電話を掛けようとしたとき、
「お前の、爆弾処理は見事だな、幹部として招集したいくらいだ。」
「は??」
ジンの声が聞こえてきたのだった。
「……。何しに来た……ベルモット、ジン。」
私が険しい顔つきで低い声で威圧するように、そう言うと、倒れている美鈴の背後から、二人の男女が出てくる。黒の服装と、この暗い闇と同化している。
うわあ、本物やあ。本物のジンと、ベルモット……。
やっぱりスタイルいいなあ二人とも。それが原作ファンとして、オタクとしての第一声で。輝いて見えるよ。うん。
だけど、私はキャラクターとしてジンは好きだけど、人格、というか性格が嫌いだ。
今こうやって対峙しているわけだけれど、やっぱりジンの旦那は自分勝手だと思う。
「大丈夫よ、そんなに警戒しないで。何もしないわよ。それに__組織じゃないのにどうして私たちのことを知っているの??ねえ、angel??」
そう言って懐から何かを取り出した。ベルモットは確実に私、そして彼女を、始末しようとしている……。明白だった。それは紛れもなく銃で。
「手を出さないって、言ってたのに。」静かに小さく呟く。
身体がこわばる。動こうと思っても動かない。
「おい、ベルモット、銃をしまえ。こいつは俺が始末するからな。」
「……私には、手を出してもいい。だが、
私は静かな怒りをあらわにした。
「威勢が良いなあ、お前。やっぱりお前は、幹部にふさわしいな。あいつらに、似ているな……。」
「さ、触るなっ!!」
(あいつら……??)
私のほうに伸ばしてきた掌を軽く弾き返す。彼は少しの間黙り、恐ろしいほど低い声色でこう言った。
「……気が変わった。」
そして、口を私の耳にちかづけ、口パクでなにかを言う。私はこの言葉を聞いて、身体を震わせる。
「……はっ!?」
冥土の土産にちょうどいい……。なにせ俺の手を拒んだんだからな……。
「死」を直感した。きっと殺される。気が付いたら目の前にあった銃をみてそう思った。だが、ジンは何もせずに、
「ベルモット。撤退だ。」
とそういったのだった。
二人は闇夜に消え、跡形もなくなった。
「は??」私は呆然とし、急いで病院に電話をかけるのだった。
ジンが言ってたあの一言に。疑問を抱きながら。
「……にしても、脳に損傷がなくて、よかった……。」
今、私は病室にいる。ベットには美鈴が点滴に繋がれて横たわっている。
数時間前。私が救急車を呼び、一緒に米花中央病院まで付き添ったのだ。
手術が終わり、出てきた医者に、何を言われるのかわからなくて不安だったが、
「手術は成功しました。脳に損傷は残らないように細心の注意を払いましたのでご安心を。……直に意識が戻る見込みです。」
心からほっとしたことを思いだしながら、目の前の彼女の手をそっと握った。
「あ、買い物行けなかった。沖矢さんに言わなきゃ。」と言って携帯を取り出したとき、がらがらと言う音ともに、人が入ってきた。
「……大丈夫でしたか?……見た限り、大丈夫そうですね、二人とも。なかなか帰ってこないと思い、窓の隙間から外の様子を見てたんですよ。」
沖矢昴さん。
「みてたんですか!?なら、……。あ、色々と危ないですもんね……。」
「みていることしかできず、すみません。」
沖矢さんが落ち込むような様子で謝ってきた。
私はあわてて「いえいえ!!沖矢さんが謝るようなことでは、ないです!!むしろ沖矢さんたちはリスクがあるんですから!!」
「……。それも、そうですね……。(名前)さん、とてもカッコ良かったですよ?」
「!!まだ、盗聴……!?効力あったんですか!?」
「……すっかり、切るのを忘れていてな。」
口調が赤井さんになってる……。沖矢さんの見た目で口調は赤井さんって……。私は少し笑いながら、「口調、戻ってますよ?」と言ったのだった。
________________________
「始末。しなくてよかったの??ジン。」
「ああ。あいつを意地でも組織に引きずり込むからなあ。」
「そうするために、なのね。」
「そう。」
「あの子、あいつらに似てたわね。」
「ああ、まさか俺らを裏切った奴らに娘がいたとはな。」
ブランデーと、フォアローゼス……。
それは、彼女の両親が組織に所属していて。コードネームだったのだ。
___________________
直に目覚める……。
そう言っていた医師と最後にあったのが一週間前。なのに。目が、覚めない……。私は四六時中、見舞いに来ている。
もう、一週間たつのに……。
医師からは「おかしいですね。」と一言。精密検査をしたがどこも異常はないようだ。
「……。
私は泣きながら、彼女の手を握った。
あのとき、こうなるだなんて思ってなかった。
もっと笑い会えると思ってた。
もっと一緒に過ごせると思ってた!!
ねえ、神様は味方してくれないのですか……。
ドアのロックする音が聞こえて、
「お邪魔するよ。お花持ってきたんだ。」と言いながら、降谷さん……安室さんが入ってきた。
「まだ、目覚めないのか……。お前の友達……。」
そう言ったのは伊達さんで。
気がつけば、降谷さんの同期が集結していた。
私が覇気のない声で呟く。
「あのとき、私がはやく家を出ていれば、よかった。そうすれば、「ばか野郎!!もう過去は戻せねえんだ!!くよくよすんな!!こいつは、必ず目を覚ますって信じろよ!!」ま、松田さん……。」
「……じんぺーちゃん、ここ、病室。」
沈んだ声で後悔を呟く私を叱ってくれた松田さん。
その松田さんを病室だから、と注意する萩原さん。
「悪い。言いすぎた。」
「いえ、少し目が覚めました。ありがとうございます。目が覚めるまで気長に待ちますね。」
そう言って、にこりと控えめな笑顔を彼に見せる。
決めた。私、組織に入る。もともと組織を壊滅させたいって思ってたし、原作ファンの私だからこそ、やれることがあると思うから。この事は降谷さんたちには言わない。勿論、沖矢さんにも。
となると、まずは銃を買わないといけなくなるな。
至急拳銃を扱っている店に向かった。
これこそが、彼女の『分岐点』だ。
なんとか銃を購入し、家へと帰った。
洗濯をする暇がなく、一週間前の服が大量に溜まっていた。
服のポケットを確認し、なにも入っていないか確認すること数分。
ある服の胸ポケットになにか紙が入っている。
「写真……??……これって!!」
そこには赤ん坊の私と、両親が笑顔で写っていた。
そのうらには、片仮名でなにかかかれていた。
ブランデーと、フォアローゼス……。と。
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file7.関係性と秘密。
「ブランデー……??フォアローゼス……??」
聞いたことのない片仮名に首をかしげる。
赤井さんに聞いてみようかなと思い、一階の書斎に向かった。
「赤井さん、あの聞きたいことあるんだけど……。」
場に沿ったような豪華な椅子。その椅子に座って本を呼んでいる人影がひとつ。赤井秀一である。
赤井さんが、(名前)に気がついて、「ああ、大丈夫だ」といって、どうした?と続けようとしたとき。
ドカン!!
なにか大きな音が聞こえた。
「外!?取りあえず行きましょう!!赤井さん!!」
「君は、先に行っててくれ。すぐに向かう。」
はい。と返事を赤井さんに返し、玄関を開け、その音の出所へと向かおうとしたが__。
「えっ。な、なんで、……燃えてるの……。」
見た先には、かつての両親の家が跡形もなく炎に包まれている光景が広がっていた。
とぼとぼと歩きながら、110番に電話をかける。
『火事ですか。救急ですか。』
「火事です。家が燃えています。」
驚くほど冷静だった。
『わかりました。では、住所を……。』
住所を言い、わかりました。という音声で電話が切れる。
紅蓮に包まれる物体には彼女の両親がいるのだ。だが、もう既に事切れているだろう。
警察が来て、調査が始まった。
「第一発見者は貴方ですね?」
近くにいた女刑事が朱莉に言った。
「はい。燃える直前ものすごく大きな音が聞こえました。」
「音。音ですか。」
「佐藤さん。火事のあとから二人の遺体が発見されました。」
いずれも、性別不詳です。と男刑事が続ける。
「ありがとう、高木刑事。」
私たちは調査するから貴方たちは他のところで待ってて。と続けて言われ、家に戻った。沖矢さんは調査に協力すると言い、その場に残った。
家の玄関の前につき、溜め息をはいた。
「ねえねえ、(名前)お姉さん。どうしたの??こんなところで。」
「さっきの火事で調査してもらってるのよ。あんたこそ、どうしてここに??」
「ん?シャーロック・ホームズの本が読みたくて、来たんだ。」
私は興味がなさそうなトーンでふーんと乗り気のない顔で言う。
私はコナンとともに自らの家に入ったのだった。
__________________________________________________________________________________________
何日か前。
倉庫。薄暗く視界が悪い。黒い服装と銀色の髪の男はある男女を待っていた。
「来たか、ブランデー、と、フォアローゼス。」
男が言うと男女は眉間に皺を寄せた複雑な表情をする。
「準備は出来てるんだろうな??」
「……殺す気か。」
「そうはさせない。私たちは逃げ切るんだから。」
ブランデーと呼ばれる男の声をさえ切り、被せるように言う女性……フォアローゼス。
「逃げ切れるか……。裏切り者の制裁の時間だなあ……。」
そう言って不適なほど恐ろしい笑みを浮かべる。
男は銃を左手で取り出し、乱射し始めた。
「逃げ切るんだろ……!?逃げ切って見せろよ!!」
「くっ……。フォア……ロー、ゼス、あとは、頼ん、だ……。」
左肩を打たれる。
「ダメよ!!まだ諦めきゃダメ……!!」
フォアローゼスと呼ばれる彼女はブランデーを抱えて走りだし、夜道に紛れた。
「うあ……!!」右足にとたん身を裂くような痛みを感じる。
捻挫したときのような歩き方になりながら、私たちは逃げ、自らの家にたどり着いた。
「ここまでくれば……。」
「ああ、大丈夫だな。」
といって、玄関で靴を脱いだとき、
『残念だ。まだ終わっちゃいねーよ。裏切り者の制裁はこれからだぜ……!!』
ジンの声が流れるとともに、爆弾の電子音が、終わりを告げるかのように聞こえた。
「ジン……。ウォッカ……。ベルモット……。バー、ボン……。」
『さあ、死ね。ブランデー(苗字)
そして、爆発した。
私たちは、死んだ。
「(名前)……。最期に、会いたかった……。」
「……となるとキュラソーも、救済しないと、いけなくなる……。かもなあ。」
アルバイト終わり。誰もいないバックヤードで(名前)がこう呟いた。
安室さんはちょうど買い出しから帰ってきたところ、いともせず耳に入ってきたのだった。
安室透が工藤邸で赤井秀一と再会する数日前。
(キュラソー……。まさか、(名前)は、組織の関係者なのか……。)
「なんの話をしているんですか??(名前)さん。」
「あ、安室さん。えーとですね、キュラソーっていう人について考えていたんです……あ。」
顔が青ざめている。ヤバイ、やってしまった。
「あ、えーと、キュラソーって言う名前の、知り合いがいて……。ど、どうしました?降谷さん……あ。ありゃ、やってしまった……あはは……。」
わー、やばいね。うっかり本当の名前で呼んじゃったよ。安室さんが怖く感じるよ……。
安室さんはにこりと控えめに笑っている。冷徹な表情に見える。私に詰め寄り笑顔を消してこう言った。
「……。どういうことだ。」
安室透ではなく、降谷零の口調はこんなにも印象が違うのかと。恐ろしく思えてくる。
「あ、えっと。その……。」
「……君は、バイトでここに入ってからちらちらと僕のことを見ていた。そのときはなにかあるのかと少し気にしていたが……。今、それが確信に変わった。……お前は、何を知っている??」
今は、私たち以外客がいない。
「え、な、なにも知りませんよ、本当です……。」
彼はなにも言わずに、ただ静かに私を見つめている。
わー、やばい。絶体絶命だあ。
ポアロの呼び鈴が鳴り、子供が入ってくる。
「あれ?まだ空いてたんだ!あ、(名前)お姉さん、こんばんはー、あ、安室さんもいる!!何してるの??」
まさに、救世主。疾風のごとく現れた。彼は命の恩人だ!!
安室さんは一瞬動揺を見せたが、すぐにあの営業スマイルを見せる。
「いえ、なんでもありませんよ?(名前)さんとは談笑していたんですよ?」
ねえ、(名前)さん?と続けて聞かれたが、先ほどのことを話すわけにもいかないのでとりあえず当たり障りのない言葉を紡ぐ。
私は心のなかで溜め息をつき、この出来事以降、赤井秀一と再会を果たすまで私は彼に疑われることとなる。____________________
その日の夜。
「いるか、バーボン。……。こないだ俺が殺したブランデーと、フォアローゼスのことだが、あいつらたくさん秘密抱えていたようでな、
死んだ人間のことを調べるだなんて、ジンらしくないと思ったが、わかりましたと了承の意を伝え、彼の元から去ったのだった。
これは長期戦になるぞ。彼は気を引き締めたのだった。
ジンと別れたあと風見に電話をかけた。
「風見……。(苗字)(名前)についてなにか進展はあったか??」
『降谷さん、(名前)について、工藤家の養子であることは記載されていたのですが……。』
少し考える素振りを見せた。
「どうした?」
『(名前)が工藤家の養子になる前の情報が、記載されていないんです。』
「……偽名。偽名を使っていたんだろう。他には?」
『他の情報は把握完了済みです。』
「そうか。わかった。他になにかわかり次第連絡してくれ。期待しているぞ。風見。」
『了解しました!!』
通話終了音が流れ、スマホをポケットにしまい、彼は車に乗り込んだ。すると、助手席が開いた。
「……。失礼するわ。バーボン。」
白色の美しい髪の女性。ベルモットだった。
車を走らせる。
「……どうしたんです?こんな時間に?」
「たまたま本来の仕事がついさっき終わったのよ。」
「そうですか。」
「あんたこそ、ジンに呼ばれたんでしょ??」
「そうですよ、まあ、問題はありませんがね。どんなことでもやり遂げる、自信はありますから。」
彼は前を見据え、凛とした表情をしていた。
「ところで、なんの話をしていたのかしら。」
「少し、知人の話を。」
彼女は心底つまらないような表情で彼と目を合わせながら言う。
「ふーん、そう。怪しまれないようにね。まあ、あんたなら大丈夫でしょ。じゃあ、ここで下ろして。」
彼女をおろし、安室透名義の家へと向かう。
そして、そのつぎの日、赤井秀一から召集がかかるのだった。
_____________________________________________________
「……。そんなにシャーロック・ホームズ好きなのね……。コナンくん。」
(やっぱり新一ね。)
「うん!!僕ホームズ好きなんだ!!(名前)お姉さんは読むの??シャーロック・ホームズ??」
「まあ、新一が読んでいたからね。最近は読んでないかな。」
「そっか!!新一お兄ちゃんがね、こう言ってたんだ!!えーと、『(名前)姉さん、ホームズ読まないなんて損だぜ??』って!!」
「……新一はマニアだからね。ホームズの。」
そういう会話をした数分後、
「調査が終了したからもう一度、来てもらうわ。」
佐藤刑事のこの一言によって私たちは現場へと戻された。
「ビデオテープ??」
「はい。焼けた家のなかから、これが出てきたんです。」
ビデオテープをみて会話する佐藤刑事と高木刑事。
「爆発もあったから至急爆発処理班の松田くんと萩原くんも呼んだわ、今向かっているそうよ。爆弾は既に起動、破壊されているようだけど……。」
ビデオテープを、専用の機械にいれ、再生する。
そこには私のよく知っている人影と音があった。
『ここまでくれば……。』
『ああ、大丈夫だな。』
『残念だ。まだ終わっちゃいねーよ。裏切り者の制裁はこれからだぜ……!!』
『ジン……。ウォッカ……。ベルモット……。バー、ボン……。』
「ジン。まさか、そ……っ!?」
組織と言おうとした私の口を誰かがふさいだ。
手をみてから顔に目を写す。
「……おそらく、その様子だと知らないからな。下手に言って警戒される方が面倒だ。」
と小声でいった沖矢昴だった。
「……お酒の名前ね……。これが、何を意味するのかしら……。」佐藤刑事が意味深長に呟いた。
『さあ、死ね。ブランデー(苗字)
『(名前)……。最期に、会いたかった……。』
(……。やはり、あの二人は組織にはいっていたのか……。)なるほど。顎に人差し指を当て少し考える赤井さん。
「……あ、あっ……。お、母さん、お父さん……。し、死んじゃっ、た……。」
その音声のすぐ横で、しゃくりあげる(名前)がいた。しばらくして、松田と、萩原がやってきた。同時にもう一人の人影も確認できる。
「遅くなっちゃったよ~、全くじんぺーちゃんのせいだぞ☆」
「はあ!?何言ってんだよ、萩原!!」
その様子に佐藤刑事は長くため息を吐いてから
「とりあえず、松田君と萩原君、来てくれたみたいね。早速だけど、この爆弾を見てもらえないかしら?」
「……もう大破してんじゃねえか!!」
調べようがないと佐藤刑事に言う松田さん。
その松田を萩原がなだめていると、
「……この事件は我々公安が受け持ちますので。これは、警視庁のトップからの命令です。従わなければ、どうなるかはお分かりでしょう。」風見さんが割って入ってきたのだった。
「……。どういうこと。まさか、また!?」
佐藤刑事がまたといったのは、似たようなことがあったからだ。
「これは、命令です。従わなければどうなるかはお分かりですね?」
僅かながら言い方に圧を感じ、仕方ないと首を振った。
「……。わかったわ。行きましょう、高木刑事。松田君と萩原くんも。こればっかりは従わないと。」
松田さんは舌打ちをして、佐藤刑事たちに着いていった。
「それでは、私は失礼します。」
といって、謎のメガネの人はあのビデオテープを持って帰っていった。
複数の人を見送り、私と沖矢さん、コナンくんだけとなった場所は沈黙に包まれている。
「沖矢さん、帰りましょうか。コナンくんも。」
「うん!!(名前)お姉さん。」
私の一声とともに帰路に着いた。
数日後。五月も中頃となり、緑の葉っぱが木々に生い茂っている。
火災事件は、公安の人たちが調査を進めることとなったが、進展はなく。
「……そろそろ、面会の時間だから行かないと……。」
私は病院へと向かった。
「……入るよ。」
病室で寝ている彼女。今日も目を覚ますことはない。
私は彼女の手を握り、言葉を紡ぐ。
「……少し前にね、私の家が火災とともに爆発する事故があってさ、両親ともに失くなっちゃったの……。」
どうすればいいかな、前の人生だったらこんなに苦しくなかった。想像と違ったの。普通にこの世界でも生きて、安全に死ぬと思ってて……。普通にキャラクターを助けて、みんなで仲良く暮らす、そして組織を壊滅させるために頑張ろうって決めてたの。
そう、言って。
「でも、あの時あんたが撃たれてから、この世界は私が生きていた世界と全く違うんだっていうことを、思い知ったの。私が、生きてたっ、せ、かいと、違うって思ったら、急に怖くっ、なっちゃって……。普通にオタクとしての知識で、簡単にこの世界でも順応っ、できる、って……思ってた!!苦しいよ!!どうすればいいのか、わかんないよ!!助けて!!これは、キャラクターたちには、言えないから……助けてよ、はやく、目を、覚まして……っ!!」
懇願した。しゃくりあげながら必死に。もう、苦しかった。
『大丈夫だよ、
「え……。」
「……気のせいか。」
私はじゃあね。と言って、再度手を握った。
「え……??」
握った手。ダランとしている力がこもっていない手を握った。僅かながら力が加わったのを感じ、反射的に彼女をみて声を溢した。
「みれ……
「(名前)……。」
小さな声が長く聞こえ、彼女は、目を開けた。
「あ、れ……。あか、り。な……にしてるの??」
その声は長い間目を覚ますことのなかった彼女のものだった。私はナースコールを呼んだ。
私は、信じられないと、目の前の出来事に呆然とする。
「え、み、美桜……。目が覚めたの……??」
本当に??と、聞く。
「うん。目が覚めたよ。ありがとう。お見舞い。ところで、今日何日??」
今日の日付を答える。
「わあ、ずいぶん長く寝ちゃったんだね。」
といって、彼女は世話しなく笑った。
「目が覚めたんですね、精密検査をしましょう。付き添いのかたは退出を願います。そこで待っていてください。」
「わかりました。では、こちらへ。」
案内されたところに行く。
今日はとてもよい日だ。
「脳に損傷はみられませんが、しばらくリハビリしましょう。」
とのことで。
「ああー!終わった……。」
現在、私はリハビリの付き添いをしている。
なぜそんなことができるのかは私にはわからないのだが。リハビリを見学したいと言ったら簡単に許可が下りたのだ。
「お疲れさま。また頑張ろうね。」
「一ヶ月か……。長いな。」
実桜がそう言ったとき、通りかかった看護婦さんが言った。
「あら??中村さん……とお友達かしら、中村さんは確か、一日、二日で退院できるはずよ??」
私たちは驚愕して、なにも言えずにいた。
「嘘……つかれた??」唖然とした顔で呟く実桜。
「嘘でしょう。そこんところ医者なんだからしっかりしてもらわないと。」とあり得ないと呆れて言う私こと
「どうしたの??」
「実は、一ヶ月の療養が必要だと言われたんです。」
実桜が深刻そうに言った。
「そうなのね、ちょっと待って。確認してみるわ。」
そう言って、ここから出ていった。
「……ここ最近、心配してさ、夜も眠れなくてさ。本当に安心した。」
「ごめん。」
つらそうに顔を歪めて謝る実桜。
その顔をみて心の底から怒りが湧いてくるのを覚えて、なんで。と小声で呟く。
実桜はなにかあったのかと私に顔を向ける。その顔を見てあふれ出る思いを抑えきれなくなり、声を荒らげた。
「なんでっ!なんで謝るの!!」
「……え??だって、あたしが……倒れちゃったせいで、朱莉が、辛い思いしたから。」
うつむきながら呟く実桜。
「あんたは悪くないから。悪いのはジンだから。……ねえ、あんたもそう思ってるでしょ??」冷静になって諭す朱莉。
「ねえ、あんたも協力してくれない??あたしと一緒にそ……。」
「組織をつぶそう。」と言いかけたときに実桜に声をかけた看護婦さんが戻ってくるところが見え、会話を中断した。
「ねえ、どうしたの?」神妙な顔で聞く実桜。
「中村さん。確認したけど、やっぱり一日二日で退院できるそうよ。だから、明後日にはできそうね。」
「……そうですか。わかりました、教えてくださり、ありがとうございます。」
にこりと笑って返す実桜。だが、その顔は笑っていない。圧が見え隠れしているのを朱莉は感じ畏怖した。
「あんの、医者!!どうしてやろうか!!!」と朱莉たちは心の中でつぶやいた。
___________________________________________________________________________________
数日後。
テーブルの上には手作りの料理。そして、ビール。私たちは二十歳。大人の仲間入りを果たしそれを片手に、料理をたしなむ。
まだ酔いが回ってないころ、実桜が私に聞いた。
「ねえ、この前なにか言ってたけど、何だった?」
「……組織についてよ。」
そう言った瞬間実桜の表情が歪んだ。
「私たちがいる今の『名探偵コナン』の世界は、原作に比べてペースがはやく進んでるの。」
料理を皿にとりながら話す。
「ペースが、早い……??」
「うん。原作の100巻分のペースは約半年しか経っていない。つまり。」
確信をもって実桜に伝える。
「今の私たちのいる世界は今までの数ヵ月で半年分の物語が進んでいる、っていうことになるの。」
「えっと、よくわからない。」
だろうね、と朱莉は言う。
「例えばっていう仮定で言うけど……赤井さんの死の偽装工作は、原作では56巻file7から59巻file1。それがだいぶ早まった……って言えば、理解できる??」
実桜が何かに勘づき、ハッとして朱莉の顔をみる。
「え。嘘でしょ!?じゃあ、まさか。」
「うん。組織が原作よりも数倍危険視されるっていうことになる。」
「え。それだと……。」
「物語の展開が早まる分、何を仕出かしてくるのか未知数。だけど、上手く立ち回れば、組織を原作よりもはやく抹消できる有意義なチャンスなのよ。」
「そ、そうなんだ。でも、確かにそうだね。キャラクターに協力してもらうように言えば、何かしら変化はあるよね。あ、でもさ、」
変なところで区切った実桜を不審げにみる私。
「私たちが転生者だってばれれば不味いんじゃない??」
と実桜は確信を持って言った。
「あー、それはね、大丈夫よ。」
「大丈夫。」という言葉に怪しげな反応を見せる
「大丈夫って何が??リスクがあるよ。そのこと考えなきゃ。」
その言葉に朱莉はふざけたような笑みを浮かべてこう言った。
「ばれたから。赤井秀一と、安室透に。」
その言葉に、実桜は素頓狂な声を上げて盛大に叫んだのである。
「えっ。バレたって嘘!?ほんま!?」
ほんまって……なんで関西弁なのだろうか。疑問が残るが気にしない。気にすれば終わりなのだから。
「うん。ほんまほんま。」
えー。と信じられないという声色の実桜。
「あはは。私、やらかしたからね。二度も。」彼女は賑やかにあはは。と、笑った。
「そうなんだ、まあ、大体は想像つくけど。」
「え゛。」
ギクリと、音を立てるような如く、恐る恐る実桜の顔をみる私。
「どうせ、あんたのことだから、赤井さんがFBIであることと、安室透の正体、本人の前で言ったんでしょ。」
「え!?なんで、わかるの!?」
エスバー!?エスパーでしょ!
「そういう反応するんじゃ当たり前よ。あんた安室さんを見習ったら??」
実桜は冷静に言い放った。
「あれは、安室さんがすごすぎるだけだよ……。」
「まあ、それは、わかるわ。朱莉、彼の同期を助けたんでしょ??原作だと降谷零以外死んじゃったからね……。」
私はいとも当然のように言った。
「うん。もちろん助けた。あとで、その時の話を聞かせてあげる。」
それより、と続けて言って。
「さっきの話しに戻るけど、転生者だと盗聴されてバレたけども、経緯は言ってない。」
「そりゃそうでしょ。あの時盗聴されてたことはビックリだけど。経緯は意味ないと思うな。」
はあ。ため息をはいて、呆れを滲ませながら言う実桜。
「ごめん……。」
「謝らなくていい。」
「ありがとう。実桜がいないときに、赤井さんと降谷さんが工藤邸に来たから、その時に組織のことを話したけど……。」
中途半端に途切れる。
「……
「当然ね。結局あんたの言いたいことが見えないんだけど。」
歯切れが悪くなりながら言い放った。
「単刀直入にいうと、私と一緒に組織潰すの協力してもらえないかなって思って。」
「もちろん。当然よ。私は何をすればいいの??」
と、にこりと笑いながらそう、語った。
「
「うん。それすればいいのね。ハッキングは出来るからこれから教えてくね。」
わかった。と返す私。
「組織に入るにはある程度、護身術と銃とかの戦闘能力を身に付けないといけないから……。赤井さんと、降谷さんにそれぞれ教えてもらおうかなって思ってるんだよね。」
考え込むようにいう
「赤井さんはジークンドー、降谷さんはボクシングでしょ??あ、そういえば同期居るんだから教えてもらえばいいじゃない!!」
私名案ね、というように自信満々に勇みよく言う実桜。
「……でも、降谷さんの同期の皆さんには迷惑かけたくないなって思って。」
護身術を習うにあたっての、口実とかどうしようかなって思ってるんだよね。と付け加えるように言う。うんうん、というように関心を持って聞いてくれている実桜。正直ありがたいと思った。なぜなら、冷めた感じで話を聞いていたら朱莉の心が抉られていたかもしれないから。
それに、と続けて言う。
「組織に入ることを知られたくないっていうのもあるからさ。そのせいで、私たちがお世話になっている身近な人に危害が出たら本末転倒だし。」
「それもそうね。あ、ところでさ、あんた、組織に入るにあたってどんなキャラで入るか決めてんの??」
「今までと変わらずに今の私、で入るつもり。キャラとか作ることは考えてない。それに、偽名はもうあるし。」
宮橋朱莉。と、偽名である自身の前世の名前を言った。
「なるほどね……。あんたが入るんなら私も入ろうかな。」
その返答に思わず転びそうになって、は!?といった。
「なに考えてんのう~~!!ありえないんだけど、え、なに、あんた、馬鹿なの!?」
ふてくされるように機嫌が悪い実桜。
「何よ。いけないわけ??キャラと話せるからいいじゃない。警察学校組が推しだけど、でも、ベルモットとか、キャンティとか、コルンとか!!……バーボンとかとも話してみたいもん。」最後の語尾がなぜか小さかった。照れているのかとても恥ずかしそうに見えた。
「もう、ツンデレだなあ!!」
「うるさい!!」
こうして、二人の夜は更けていった。
次の日、私は赤井さんに面と向かっていた。
「赤井さん、私にジークンドーを教えてください。」
「ほう?どうしてそんなことを言うんだ??」
「理由は二つあります。まず一つ目ですが、ここ米花町は日本一犯罪が多発している町ということはご存じですよね?」
赤井さんは、いとも当然だというようにああ。と答える。
「この町で、普通の女の子……というか一般市民が警戒心もなく歩いていたら、不審者に確実に誘拐され、助けを乞うこともできず、死んでしまうことは明白ですよね。それを事前に防ぐために習いたいというのが一つ目。まあ、当たり前ですけれどね。」
「……二つ目は??」
「……ここでひとつ取引をしましょう。」
「……取引か……。なぜだ。」
「赤井さんたちにメリットがあるから……。といえばいいでしょうか。私が知っている情報を全部あなたとFBIと、公安に提供したい、その代わり、あなたは私について知っている情報と私が伝えた情報を無闇やたらに口外しないこと。これが取引の条件です。」
「ほう。そんな条件でいいのか??」
「まあ、お前のことだから、組織に潜入する気なんだろうが。」と赤井さんは思った。
「それは口に出さないで黙っておこう、これからどうなるのか、見ものだな。」と小さく語ったのである。
「?赤井さん、何か言いましたか??」
「いいや、なんでもない。」
「そうですか。わかりました。では行ってきます。」
そう言って工藤邸を出ていった。
時間はあっという間に過ぎて。気が付けばバイト終わりの時刻に近づいている。
店内には安室さんと私のみ。看板をcloseに。静寂とともに店内のおしゃれなBGMが流れる。
「安室さん。お疲れ様です。」
「(名前)さん、お疲れ様です。」
にこりと笑って言う彼に私は少しだけうれしくなった。だって、か、かっこいいんだもん。
(ああ、ちがうちがう。)乙女な気分になりつつある心をどうにかして鎮める。
私は真剣なまなざしで彼のサファイアの瞳をみつめ、こういった。
「安室さん。……いえ、公安警察降谷零さん。折り入ってお願いがあります。」
少し溜めて、彼の本職とともに言った。それを聞いた彼の表情が少し険しさを見せた気がした。
「……どうしたんですか。」冷めた口調を見せる彼。
「……私に、ボクシングを教えてください。」
「……ボクシングなら、ジムに行けばいいでしょう。」これ以上言うな。という圧が見え隠れしている気がして、(名前)は思わず畏怖してしまうが、屈しない。
「……取引、しましょう。」
そういった。
最終手段だ。この話し合いで私は絶対に彼に勝てる気がしないからだ。
何故ならば、彼は公安のエリートだ。だから語彙力が乏しい私が話し合いをしても、彼に言いくるめられる確率が殆ど。
だから取引として、彼にボクシングを教えてもらう対価と称し、自己の情報と組織の情報を、彼らに提供しよう、と考えたのだ。それが事実、彼のメリットになり得るわけで。
「取引……??なぜだ。」
そう言う私を訝しげに見る安室さん、否、降谷さん。
「はい。えっと、取引の前に一つ……約束を。これから言うことは絶対に口外しないと約束してください。」
「それは勿論。」
では、と、私は言い、話を進める。赤井さんに言ったときと同じように。
「理由ですが、降谷さんたちにメリットがあるからです。」
「具体的には??」
その瞳は冷酷さを写している。はやく言えと急かされているように思う。アニメでも漫画でもあったその瞳が今、私を見ている。その射抜くような瞳が少し苦手だ。
少々考える素振りを見せてから彼に呼び掛けるように淡々と述べる。
「……この前、私の家に来たことがあったでしょう。あの情報は、確実に私が知っているものです。貴方に……。安室さんに、了承して頂ければ私はその情報を随時、貴方がた警視庁の方々に提供することも可能なのだ、という点です。何か、ご質問は。」
なんか、取引現場みたいで。空気が僅かながら張り積めているのをひしひしと感じる。
「本当に、お前は知っているのか。組織の情報を。僕は君を信用できない。生憎仕事柄疑う性分でな。あの時僕と、赤井に言った情報は役に立った。役に立った、が。」
まだ疑いが晴れない、というような納得の要っていない表情を私に向けた。
「私は、」と言いかけて、その声に被せるように、低い落ち着いた声が言った。
「お前は、(名前)は転生者だから、とでもいうんだろう。それ自体が非化学的なことだが。僕は君のことをあまり知らない。いや、知る必要はない。……とりあえず分かった。今夜、僕の家に来てくれ。」
「は?」
なんか、取引は成功したらしいが。家に来てくれ。と。私は、心のなかで発狂した。
「……どうした?ボクシングを教えてもらいたいんだろう??」
彼はクスリと笑っていった。思わず固まりながら了承するしかないのだった。
「とりあえず、赤井さんに連絡して……。」
「あいつは必要ないだろう。」
赤井、という名前だけで不機嫌になった彼。
「え。」
言われるがまま、車に運ばれ、気がつけば降谷名義の家に到着してしまった。
「着いたぞ。」
下りろと催促をされ、渋々車から下りる。そこからしばらく歩き、マンションの廊下を経て部屋のドアの前へ。
「……敷居が、高い。まるでホテルみたい。」
思わずそう、呟かずにはいられず。だって、高級感が駄々もれなのだ。目をキラキラに輝かせて、辺りを見回したのだった。
ドアの前に二人は立つ。慣れた手付きで、セキュリティロックを解除しガチャと音を立てながらあける。なぜか、私が先に部屋へと入ることとなり。頭に豆鉄砲を食らったような顔をしていると。
「レディーファースト、だろう??」
そう言って、紳士的な笑みを見せる。
その笑みをみた瞬間、(名前)の頬は赤色を帯び、直視しないように目を背ける。
すると彼は不満そうになぜ目をそらす??と。(名前)の瞳を逃がさないというように、直視し、聞こえるように呟いた。
「んなっ!!」思わず女子らしからぬ下品な声と同時に、声にならない声を発してしまい、恥ずかしさを覚え俯いた。
その直後、「安室さん。」と言おうと顔を上げたらとっくに靴を脱いでいたらしく、彼はいなくなっていて。(名前)も急ぎ足で靴を脱ぎ、部屋へと移動し始めた。
美味しそうな食欲をそそる匂いが部屋中に漂う。
「あ、あのっ!これ、食べてもいいんですか!!」
テーブルの上には和食のフルコースが並んでいて。
こんな豪華な料理を庶民である自分が食べてもいいのだろうか、と思ってしまう。
彼は安室透の口調で、満足気に言う。
「ええ。今回は腕によりをかけて作りましたから。(名前)さん、どうぞ食べてください。」
「やったー!!」私は思わず歓喜の声を上げた。
ことは少し前。
部屋へと上がらせていただき、私は、どこかへ消えた降谷さんを探すため部屋をうろうろと歩いていた。
といっても、狭いのだが。ハロちゃんは寝ているらしく、起こさないように慎重になりながら彼を探す。
キッチンから物音が聞こえることに気づいた。急いで朱莉はその音の方向へと歩みを進め、ようやく彼を見つけた。
「安室さん!!」と声を発そうとしたが、彼は集中しているらしく、私の声に気づかない。
声をかけるの、失礼かな。と躊躇を見せたが、たかをくくって、彼の名前を呼び、手伝います!!と言った。
「ああ、すまない。そこの野菜を切ってもらえるか??」
当然、料理の手伝いの担当が割り振られるわけで。
「えっと、自信ないですが、がんばります。」
と言って野菜を切る。
私が手伝ったのはこれだけだった。なんか、赤井さんのときと同じみたい。
その時のことを思いだし、フフッと柔らかく笑った。
___________________________________________________________________________________________
ハンドバックを脚で蹴る音。少女の否、息切れが静かに響く。
「はあ!!1……と、2と……3!!」
ボクシングのグローブで思いっきりハンドバックを叩く。脚で蹴る。
「あと、すこっし、!!」
ダン!!と言う音を立てて、ハンドバックが縦に揺れる。それを最後に
「はあー、疲れたあ。もう、立てない……。」
覇気の篭ってない声を横目に安室さんが、近づいてくるのがかろうじてわかった。
「……腕はいいな。よく2時間ぶっとおしでやった。これからこんな感じでやるからな。」
ふ、降谷さんが、ほ、褒めた……!?
降谷さんが人を褒めることなんて、殆どレアケースに等しい。アニメや映画とかでは部下に厳しい面が目立っているから意外性を感じ、感慨してしまう。
思わず目の前に立っている彼を疲れながらもぼーっと見てしまう。
「どうした??」
「!?いえ、な、なんでもありません。」
あわてて繕う。彼はそんな朱莉の様子を疑問気になり、質問する。
「なんでそんな口調になってるんだ??仕事じゃあないんだから、もっと気楽にすればいいじゃないか。」
「い、いえ。そ、そんな、滅相もない。」
ただでさえ、歳の差は9歳さ。私にとっては先輩に当たる人、否、キャラクターで。降谷さんの性格は分かっているんですよ、もう熟知しているんです。公安様の、しかもエリート様の前で気楽にしろと。まるで切腹をしろと命令を承諾しているくらい。とてつもなく緊張してしまっているのですが。
彼は目の前にいる彼女の様子を一瞥し、今日はもう遅いから送っていく。と言い、メアドを交換するように勧めてくる。
「え。なぜ、メアド……を??」
「……そう言う約束だったろう??」
確かに、そういう約束だったが、大丈夫なのだろうかと、少なからず公安の彼が一般人と連絡を取ってもよいのだろうか、と不安になる。
そんな朱莉の考えを読んでいるように降谷さんが、さりげなく言った。
「問題ない。君は、僕の事情を知っているし、君が公安にとってとても重要な人物になり得るからな。」
「え。って、ちょっ、ちょっと待ってくださいよ、公安にとっての重要人物って、ど、どういうことですか!?」
彼は少し間をおいて、自らの口に人差し指を立て、にこりと笑った。
……それ以上は、聞くなということだろうか。
「わかり、ました。」
「僕とアドレスを交換したことは、誰にも口外しないでくださいね??……車の、用意をしてくる。少し待ってろ。」
安室の口調で柔らかく言ったあと、すぐに公安モードに切り替えた彼をみて感嘆の息を吐いた。
彼曰く、メールアドレスを交換した方が、組織の情報を円滑に伝えることが出来るかららしい。
車を出し終えた降谷さんが、戻ってきた。
降谷さんが戻ってきたことに気づき、玄関に行き、靴を履く。そして、ドアを開けた。なぜか、彼は一言も話さず。きっとこれまで多忙だったろうから、疲れているのかもしれない。
「今日は、ありがとうございました。私、運動あんまりできなくて、自信なかったんですけど、案外できるっていうことに驚いてます。」
彼の方向を見ずに、言った。
「わざわざお疲れなのにすみません。あ、あとでメアドのほうに情報、送りますね。」
「ああ。頼む。僕は君を送ったら仕事に向かう。君も、気を付けるように。」
お母さんみたいだなあ。と思いながらはーい、と笑顔で言った。マンションの入り口を通過して、エントランスを出た。車に乗り込む。相変わらずのRX-7。あの有名なスポーツカーに乗れるなんてと、ワクワクして、気分が僅かながら高揚する。
シートベルトをした直後、発進した。
「安室さんこそ、お気をつけて。」
そういった(名前)を横目で垣間見ながら彼はフッと鼻で笑ったのだった。
拝啓 降谷零様。今日は本当にありがとうございました。おかげで改善点が浮き彫りとなり、もっと練習に熱を入れようかなと思っています。
本題へと、移行しますが、現時点での組織のメンバーは以下の通りです。あなた様は除かせていただきます。ジン 本名職業不明。
ウォッカ 本名職業不明。
キール本名:本堂瑛海 偽名水無怜奈
ベルモット クリスウィンヤード女優業
RAM。本名不明。強いて言えば、時は金なり。ですかね。
あと、ブランデーと、フォアローゼス知ってますか??
数時間後、彼にこのようなメールを送ったのだった。
「ふう。こんな感じかなあ。RAMは当たり障りなくフラットにかいたけど……。かえってジンにバーボンが警戒されるかも……。」
冷静に誰もいない空間で静かに呟く。
「知ってるといいな。両親のこと。」
怪しげに呟いた。
これはもう一種の賭けだ。両親のところに戻りたいと今まで思ったことは一度もなかった。
そこの家に行くときに限って何かしら隠密に事が執行されている……。幼少の頃の両親との記憶は殆ど良いものではなかった。
大抵、父は怒鳴り声を荒らげ、対象に牙を向く。母は抵抗せずに受け入れている。その頃は自分の両親は普通だと、思った。この暮らしが普通だと。有希子さんがいないとき、そこの家に預けられることが殆どだった。
ギャップに苦しんだ。(名前)の両親と、彼の両親の在り方に。
「(名前)ちゃんのお母さんとお父さん来るの??」
「うん。」
正しくは有希子さんと、優作さんなのだが。
小学生になって参観日ごとに毎回。
小さな頃はそれが家族で幸せだと嬉しかった。
「家族だっていうのに、似てないね。」
「ようし、なんでしょ??ほんとの家族じゃないなんて、可哀想。」
「家で頻繁に叩いたり、殴ったりしてるんだって。」
「……あの子、大丈夫??」
「親が心配だわ。」
親にも怪訝そうに避けられる。
有希子さん達は悪くないのに、どうして悪く言われるのだろう。この事実が自らを縄で縛り付けるよう。
一度だけ有希子さんたちが参観日に来ることが出来ない、とのことで本当の両親が来ることがあった。四年生のときだった。
教室に二人が入ると、沈黙した。
見ていられないほどの、風貌で。痛々しい傷と、打撲がそこにあった。それは紛れもなく母だ。
「お父さんはどんな神経してるのかしら。」
「母親がこうなら子供も。」
そういう声が聞こえ、視線に耐えながら終えたことを、覚えている。
苦痛以上の何者でもなかった。(名前)とっての両親は。
両親の暴力を身近でみた彼女は、有希子さん夫妻の優しさに戸惑った。
無理をしなくてもいい、といわれどうすればよいのか分からなくて、ただ座っていたのを昨日のように思い出す。
やがて慣れて、滅多に外に出ることのない(名前)は、有希子さんの制止をも聞かない振りをして、警察学校組の救済に、取りかかるのである。
______________________。
警視庁。ピピっというおとがなり、彼こと、降谷零は作業を中断しスマホの画面を開いた。
そこにはさきほどの少女、否、女性が送りつけて来たメールがあった。
「!?ら、
「はい。降谷さん。」
「至急、黒田
「了解しました。」
風見さんは黒田さんに伝言を伝えるため、席を外した。
「……。ブランデーとフォアローゼス……。少し前まで、潜入していた捜査官……。調べる必要が出てくる……となると。さて。忙しくなるぞ。」
彼は、気を引き締めるのであった。
____________。
同時刻。工藤邸で沖矢昴こと、赤井秀一は、あるメールをみていた。FBIのメンバーに電話を掛ける。
「ほう。これが、あいつらの__か。」
『ちょっと、シュウ!?どうしたのよ??』
「ジョディ。これを送るからみてくれ。」
拝啓 赤井秀一様。
本題へと、移行しますが、現時点での組織のメンバーは以下の通りです。あなた様は除かせていただきます。ジン 本名職業不明。
ウォッカ 本名職業不明。
キール本名:本堂瑛海 偽名水無怜奈
ベルモット クリスウィンヤード女優業
RAM。本名不明。強いて言えば、時は金なり。ですかね。
以上。敬具。
『ちょ!?なによこのメール。誰が送ったのよ。』
驚愕して、赤井さんに確認するジョディさん。
『シュウと知り合いの人なのか??』
「ああ、キャメル、ジョディ。気になるところがあってな、」
この、ブランデーとフォアローゼスという人なんだが。
『……知りませんね。そんな人組織に、いました??見たことも聞いたこともないですけど。』
『私も初めて聞いたわ。
と疑問そうに尋ねたキャメル捜査官。
「……ああ、潜入していた時に耳にしたことがあってな。どうやら、調べる必要があるようだな。急遽、日本に来てくれ。紹介したい人がいる。」
『ええ!?そんないきなり言わないでくれる!?日本行きのビザ、最近期限切れたばかりなのよ!!』
「いつなら行ける??」
『せめて、一ヶ月後よ。』
そう言われ、カレンダーをみる。今は、5月……。
「6月……か。ああ、分かった。個別に調べられる分、調べておいてくれ。じゃあ。」
『え!?ちょっと、
通話の切れる音を聞いてから、スマホの電源をスリープ状態にした。
「事情を、聞かないとな。あの少女に。」
_____________________
「協力者は、そろった。あとは。実行のみ。」
少女は怪しげにつぶやき、妖美な笑みを見せた。
「……例の少女についてですが、殆ど進展はありませんでした。まあ、こんなことは茶飯事ですし。特に気にしてはいませんが……、次第点ですからね。」
夜。駐車場。マツダRX-7のフロントバンパーに寄りかかりながら、降谷はある人物に電話をかけていた。
『あえて言うが、例の少女があの機関の関係者だった場合、気を許すな。……ぬかるなよ、安室。』
「ええ、わかっていますよ。」
『では、健闘を祈る。』
ブツ。というオノマトペを聞いてから、スマホを持っている手をだらんと振り下げる。
「……ブランデー、フォアローゼス……。(名前)……いや、宮橋
一度振り下げたその手でスマホを部下に電話をかける。
「風見。……例の少女についてだが……。」
『例の少女の両親はかつて警察学校に所属していた模様です。男のほうは、(苗字)
「そうか。やはりそうなら二人は、僕と同じ……。」僕と同じ部署なのだろう。と予想することが可能になる。風見さんは続けて言う。
『そうですね。二人は警察学校で知り合い、交際を経て、二年で結婚。卒業後に警察庁警備局警備企画課……ゼロに所属し、例の少女が生まれる前に、組織に潜入しはじめた模様です。ですが、夫婦円満だった仲は崩壊し、のちにDVとされることをしていたとみられます……表向きは。』
「どういうことだ。……表向き……。」神妙な面持ちでそう、つぶやいた。
『ええ、表向きは家庭内暴力を頻繁に行っているところを子供に見せることで、トラウマを植え付け、自分たちから離れさせることで例の少女を組織から遠ざけるようにしたとみられます。』
「ほかに情報はないのか。」
『……とくには。』
「ああ、わかった。風見。無理をしすぎるなよ。」
そう言って通話を終えたのだった。
「……自分の子供を、守るため……か。」
切なげにつぶやいたのだった。
これが、(名前)の両親との関係と、秘密。
果たして、彼女がこの真相を知ったとき、どんな行動をとるのか__。
それは、少女にしか、わからないのである。
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file8.組織に入るということ。
黒ずくめの組織____。世界中に拠点を置く極めた大規模な犯罪組織。重要人物の殺害や、不正プログラムの取引、謎の薬を開発することで莫大な金銭を稼いでいる。大幹部が幾人もおりそれぞれが得意分野を持ち、ボスの命令を受けながら任務を遂行している。
「……。任務を、無事遂行しました。帰還します。以上(コードネーム)です。」
夜。ビルの屋上。下で世話しなく動く人の群れを傍観しながら、呟く人影がひとつ。
真っ黒色に身を包む一人の女がいた。
そう無線機に告げ、帰路へと返す。
ふと、立ち止まり、空を見上げて小さな声を発した。
「……。ジン、
「そのためには、なんだってやるんだから。」
直後、柔らかな冷たい風が彼女の頬を揺らした。
無線機からの応答はなかった。
その日の任務は、調査のみ。殺戮の役目は命じられることはなかった。
__________________
『……。ジン、
一人の女がイヤホン越しに盗聴している。
その無機質な声を聞きながら、一人、たんたんと口を動かした。
「あんた、入ったのね、組織に。ふーんやるじゃん!!」
そう語るのは、
「あたしのハッキング術が役に立ったようで、何よりだよ。」
そう言い、立ち上がり、奥の部屋へと向かった。
「……明美さんー。大丈夫??体調は??」
「あっ、美鈴ちゃん。私は大丈夫だよ。……それより、志保は、大は……!?」
応答した彼女は宮野明美。ジンに殺され、命をおとすはずだった人。
「大丈夫。諸星大も、宮野志保も無事だよ。……だけど。」
だけど??という言葉に明美さんは、不安そうな表情で、美鈴の目をみた。
「志保に、何かあったの……??」
「……。大丈夫よ。」
苦虫を噛み潰したような表情で美鈴は彼女を安心させるためにこう言った。
「嘘、嘘ね。本当に大丈夫だったら、そんな思い詰めたかお、しないでしょう??」
やはり、ばれたみたいだ。美鈴も、朱莉も。嘘をつくことだけは大の苦手で。
「やっぱり、ダメかあ。私にポーカーフェイスは無理みたいだなあ。」
表情を切り替え、明るく言った。
「……。真実は話せない……いや、やっぱり言うよ。」
私からは話せないから、自分でみてみろ。と言おうとしたが、彼女は必死で美鈴を見つめていた。だから、突き放すにも突き放せなかったのだ。
「宮野志保は、居なくなったよ。」
「え!?居なくなったって……。どういうこ「聞いて。志保は居なくなった、けど、灰原哀として、生きている。」え……は、い、ばら、あ……い??」
明美の問いに被せるように言った。唖然とした表情で美鈴の目を見つめている。
「私が、血だらけの貴方を保護した日、貴方は周りの人から、死んだと見なされたの。そのあとすぐに__。」
たんたんと、明美に話し始めた。あの日のことを。
________________
実桜は、医者を目指していた。高校を卒業する一年前に、目標としている医者の勉強を、本格的に密かに始めた。
医者の道に憧れたのは小学生のとき。その日はインフルエンザで入院していた。
「体いたいし、朱莉ちゃんいなくて、寂しいし。お母さんに会いたいよ。」
そう言って泣いていたとき、病室の引きドアが開いた。
「実桜ちゃん。体調はどう??」
「……体いたくて、寂しいよ。お母さんに会いたい。お母さんに来てって言って??お願い!!」
看護婦さんはその質問に苦笑いをして、宥めるように言った。
「……。お母さんはね、元気な実桜ちゃんがみたいと思うんだ。だから、元気になってお母さんに会おう??」
納得していない様子でじっと、看護婦さんの、目をみた。
「大丈夫だよ。治るからねー。看護婦さんも全力で頑張るからね!!」
お母さんに、折り紙、作ろっか??
「うん!!」
そう言って、にこりと笑ってくれたあの看護婦さん。
私も、そういう看護婦さんになりたいって思って。
それから、二年程留年して医大に、行く切符を手に入れた。前世は医大生として日々を全うしていた。今世も医大をめざしていだけど、他にやることができた。勉強の息抜きで、デザインの動画学習にはまりこんだ。だから、医大は今の大学を卒業してから通うことにする、と辞退したのだった。
一応、医学の知識はある。その知識は無駄ではないと思えた。心のそこから。
___________________________________________
あの日。気がついたらこの世界の知らない家にいて。
「ここ、どこ??」
そう言いながら部屋を見渡したら、「米花町。」聞き覚えのある町の名前が聞こえてきて。その時に前世の記憶が走馬灯のように流れてきた。
「……ここは、コナンの世界??」と言った。
「美鈴??ご飯できたわよ??」
知らない母親らしき人。
「い、いらないです……。ちょっと出かけてきます。あ、病院なんですよね??ここ。」
コナンの世界だ。キャラを助けなきゃ。
「ええ。なにかあれば使ってもいいから。今日は定休日よ。ちょっとどうしたの??おかしいわよ。なんで、敬語なの……??」
その質問には答えなかった。
どうすればよいのかわからなくてとりあえず気まぐれでポアロに行き、
そのときの実桜は傷つき、思い詰めた表情をしていたなか、朱莉に自己の思いを、話したのだ。
そして、朱莉と別れたあと、例のコンテナへと向かった。
コンテナの場所に到着し、身を潜める。
「ジン、とウォッカ……。……と明美さん……。」
目の前で三人が話しているのが見てとれる。内容は聞き取ることはできないが。
「その前に、妹を連れてきなさい。」
明美さんのその一言に、ジンは激昂し、明美さんを撃ち殺した。
「明美さん!?……ジンは非道ね……。」
なにか辺りが騒がしくなってきたのを感じ、警戒しながら傍聴する。
どうやら人がやって来たようだった。
「江戸川コナン……、いや、工藤新一。探偵さ。」
「頼んだわよ……。小さな探偵さ……ん。」
そう言いながら地面へと倒れ伏す明美さん。急いで立ち上がり明美さんの元へいき、彼女を抱き抱え、自らの家に向かった。
「!?誰だ!!!」 と威嚇する声が辺りから聞こえるが、気にする余裕なんて殆どなかった。 その時、微かに聞こえた。
「……あの女の人は誰だ……!?」という、子供の声が。
早くっ、早くしないと……。命の灯火が……!!消えてしまう!!!
「母さん、ちょっと手術室借りるよ。緊急の患者さんがいるんだ!!」
「え。ちょっと美鈴!?」母さんらしき人の忠告も聞かずに、心肺停止状態にある彼女を連れていき静かにそっと手術台にのせる。
「今から傷口を塞ぐ手術を開始する。必ず助けるから。」そう、心の中で呟く。美鈴の家は両親が病院を営んでいて、手術などは可能だったから、一生懸命彼女のために命を尽くした。
数時間後に渡る手術が無事終わりを告げた。彼女は無事に一命を取り戻し、静かな寝息を立てて眠っている。
その姿に安堵してため息を深くはいた。
彼女の体調は良好で、退院したあとは二階の美鈴の家に居候している。
______________________
「たぶん、会ってみれば分かるから。」
ね?と。小さな子供をあやすように優しく言った。
「……私が、居なくなったことで、志保と、大に辛い思いをさせた……。だからっ!!今すぐ、会いに行かなくちゃ……。」
自分を鼓舞し立ち上がり、玄関へと駆けていく明美さん。その影を追いかけて、玄関のドアを開けたとき、
「……ごめん、私のスマホない??」
朱莉と、眼鏡をかけた茶髪の男性が立っていた。
「!?なんで、ここにいるの??」
「いや、スマホないかなって。家に帰ってからないってことに気づいたの。」
絶句する美鈴に(名前)は尋ねた。
「そちらの女性は??」
「あ、私は宮野明美です。志保のこと、知ってる??」
「宮野……明美……!?」
そう言って、朱莉は信じられないものをみるように目を見開いた。
朱莉に向けていた目を、背後にいる茶髪の男性にも向ける。
彼も、(名前)と同じ反応をしていた。
だったらこの人は、赤井秀一だと。
「……。どういう、こと……??なん、でっ、明美さんがここに………。」
(名前)は涙を目に浮かべてながらいった。
「中で説明するから。スマホの件も詳しく聞かせて。できる限り協力する。えっと、そこのあなたも……。」
「すみません……。」
そう言った彼は、宮野明美との邂逅に驚愕していた。その表情は切な気で。
「宮野明美……。お前は、死んだはずではなかったのか……!?」と、沖矢さん否、赤井さんは思った。その思いは彼女には聞こえない。
美鈴の案内でふたりは一室に入る。
入った直後は落ち着かない空気だったが、暫くして沈着した。
「それで??最後に使ったのはいつなの??」
呆れながら(名前)に聞く美鈴。答えようとする(名前)の口を沖矢さんは片手で塞ぎ、あの、と紡いだ。口元を急に押さえつけられた(名前)は、苦しそうに声を出している。
「少し待ってくれませんか??僕の連れが来るので。」言ってから彼の手は解放された。
「ちょっと!!やめてよ!!」と小声で言った。
「ははっ。すまんすまん、反応が面白くてな。」
彼はニヤリと不適な笑みをして小声で言った。沖矢さんが赤井さんの口調なのは違和感があるが。
「ムカつく!!」
と、小声で言い、肘で彼のみぞおちを叩いた。
「他にも来る人がいたんですね……。すみません。最初に聞いておけば良かったですね。」
「いえいえ。」
ガチャというドアが開く音がして、彼は微かに「来たな。」と呟いた。
「沖矢さん、場所は合ってますよね??」
低い声がして、一斉にその声の人物に視線が向かった。
「はい、合ってますよ。安室さん。」
そう、来たのは安室透だった。
安室さんと名乗る男性をみて、「『れーくん』……??」と明美さんは小さく呟く。
その声に、安室さんは僅かながらビクッという音をたてているような反応を見せる。
「ねえ、『れーくん』、だよね??答えて。」
その呟きが微かに聞こえた美鈴は、ある可能性を考えていた。
「原作では降谷零は、幼少期宮野夫妻が経営する宮野医院の女医さんに、恋をしてたよね……。彼の片想いだけど。じゃあ、ふたりは一度会ってるんだ。」と心の中で反芻する。
だとなると……。明美さんが覚えているんだったら、彼……安室さん基降谷さんも覚えている可能性が高い。でも万一、覚えてないとしたら……どうなるのだろう。根も葉もないことを考えてしまう。
朱莉も同じことを考えているかもしれないと思い、彼女を反射的にみる。彼女の目と美鈴の目が交差し、同時に口を開いた。
「まさか、彼が、覚えてないってことは……。ないよね??」
同時だった。驚いて互いの目をみるふたり。そのふたりをみる視線が複数。
「どうしたの??なんか可笑しいよ、さっきから。美鈴ちゃん。そこのあなたも。」
ふたりが転生者であることを知らない彼女が不思議そうに尋ねる。
「あっ、いえ。なんでもないんですよ。ねえ、(名前)?」
「うん。あ、申し遅れました、私の名前は(苗字)(名前)です。」
「本当に??よろしくね。ねえ、(名前)ちゃん。『れーくん』のこと、知ってるの??」
(名前)が口を開こうとしたとき、彼が被せるように言った。
「すみません。僕はあなたのいう『れーくん』ではありません……。」
「安室さん!?」
そう言った彼はなぜか悲しそうだった。
たぶん、宮野明美と会っていることを思いだしたが、自らの身分いや、立場のため、覚えていないと言ったのだろう。彼女を守るために。
実桜たちの読みは正しかった。
「そう、ですか。ごめんなさい、変なこと聞いちゃいました……。はじめまして、宮野明美です。」
「いえ。大丈夫ですよ。僕は安室透です。」
悲しげな空気に包まれる中、我慢できずにいる実桜がこういった。
「はいはい、しんみりタイム終わり終わり!!」
しんみりしてたら今日の目的、果たせないじゃない??といって、無邪気に笑った。
そして、「スマホなくした誰かさんのために、こうやって集まってもらったんだよう~~。ねえ、(名前)??」ふざけた様子で美鈴は言った。
「えあ!?」思わず変な声を発する(名前)に、ほかの人たちは唖然失笑した。
それにむかむかとイラついた朱莉は美鈴に向かって怒りながらこう言った。
「なーんで、みんな笑ってるの!?」
「だって、誰かさん、スマホないって……!!あはは!!」
「もう、馬鹿あ!!美鈴なんてしらんに!!」
その言葉にまた美鈴が耐えられないと爆笑しながら、「知らんに!!にってなにい~~!!いっひっひっひ!!」といった。
「美鈴!!そんなにわらんなくったっていいでしょ!!だ、だれでもあるでしょ!?スマホなくしたって!!」焦って怒る朱莉。
先の空気から一変、穏やかな空気が流れていた。
「美鈴ちゃんが言ってたのはこういうことだったのね……。」
明美さんは美鈴が(名前)のことを一緒にいると楽になれる人だ、といっていたことを思い出した。これはさすがにダメだと思うが。ふたり以外の人たちも同じらしかった。
「面白いですね。」
沖矢さんがこういったとたん、はじけるような(名前)の声が彼の声にかぶせるように飛んできた。
「沖矢昴!!!面白くないから!!断じて!!!こらっ美鈴!!わーらーうーなあ!!」
その声と同時に美鈴の笑い声が高らかに聞こえる。
その声が安室さんが赤井さんに向ける声色と引けを取らないくらいで。
「さすが、(名前)さん。」
「沖矢さんが知ってる人に絶対ぜーったい言いつけてやるんだからあ!!例えば、世良ちゃんとか、世良ちゃんとかあ!!!」
「あはは!!にぎやかですね……。」
苦笑しながら呟く安室さんにもわああという効果音が付くくらいに言ってやった。
「にぎやかですね……。じゃあないです!!安室さんも、笑わないでくださいー!!!炎上案件です!!!」
梓さんの真似をしてみる。すると彼はまた笑ったのだった。
「みんなして、なんで笑うのう!!!私のスマホ~~!!!」
(名前)の声が空間に亀裂のように響いた。
「あ、そうだったねー!!」高らかに楽しげに言った彼女。スマホがないことを馬鹿にされ、さもあれば協力しようともしてくれない。どれだけふざければ気が済むのか。声色に憤りを感じる。
「あー!そうだったねえ~、じゃないっつーの!!」
と言って、美鈴のおふざけにムカついて、美鈴の肩を精一杯強く叩いた。
「痛った!!!ちょっと~、私の愛しの(名前)ちゃあん!!痛いじゃないのお!!」
彼女は、ふざけるときにはとことんふざける。そんな人間で。腹が立ったから思いっきり言ってやった。
「は??知らないし。どっか行けば??」
「沖矢さんー、助けてえ!!」そう言いながら沖矢さんの懐に駆け込み、彼の手を握ろうとした美鈴。
「これは、無理ですね。」と言ってから沖矢さんは美鈴の手を振りほどいた。
「沖矢さんまで、このかわいいかわいい美鈴ちゃんを見捨てるんですか!!この、薄情ものお!!」
薄情者はどっちだよ。と思い、深くため息を吐いた。
「……美鈴なんて嫌い。もういい。一人で探す。」
「えっ。一人で探すって……大丈夫なの??」
「はい。」といってからボソボソと。「組織の任務開始前かな、可笑しいな、バックにきちんといれておいたんだけどなあ。」
こう呟きながら玄関へと歩を進める。
「組織の任務開始前かな、可笑しいな、バックにきちんといれておいたんだけどなあ。」
そう言った瞬間、沖矢さんと、安室さんがこちらの方向にずんずんと近づいてきて。その勢いで玄関へと引きずられた。
地を這うような低い声色で同時に威圧するように言う。
「……どういうことだ。あいつらのところに入っただなんて聞いてないぞ。答えてもらおうか??」
心のなかは警笛を鳴らしていた。
「あ、そういえば私、ふたりに言ってなかったんだったわ。」とか細く独り言を愚痴った。
「あはは。えっとですね。入りましたよ、あ、でも今のところは殺戮の命は出されてませんので、ご安心を。」
「そこじゃない。」
え??と安室さんの目をみて、首をかしげた。
「なぜ、言わなかった??言ったらフォローしてやるつもりだったんだがな。」
追加でいう沖矢さん達に私の心はズタボロに傷つきました。勿論、言わなかった自分が悪いことは自覚しているし、ずんずんと物理的に追い詰められるのは、誰だって怖いだろう。ホラー映画の演出でもあるまいし。だって、威圧感ハンパなかったんだもの。
「どおりで、ここ最近の行動がおかしいと思ったんだ。普段やらないスポーツをやりたいというし、確か、『教えてもらう代わりに、自らが調べた組織のデータをあなた方にお教えします。提供します。』だっけか。」
安室さん。流石私立探偵なだけある。洞察力と頭の回転の速さが凄い。いや、今は公安警察様と言った方がよいだろうか。その的中率にギョッと目を丸くしてだらしない声を出した(名前)。
「はじめから言えば良かったんだ。(名前)。どうしてこんなことをしたんだ。」
海のようなターコイズブルーの射ぬくような視線を直視したくなくて、目を反らし「だって、」と小さく言った。
「だって、し、心配するじゃん。」
「心配するじゃん。」なんて、まるで恋人みたい。って違うから!!
「そりゃあ、そうだろう。警察官でもFBIでもなく、一般人だしな。それに……。」
「それに。」と中途半端に区切る彼の瞳を首をかしげながらみたら、左右にスッと反らされた。
「反らされた。」
「お前が熱心に見つめてくるからだろう。」
「見つめてないし。」
自分の思いを知られたくなくて、素っ気ない返事をする。
反らされたことに対し、異論を言う彼女に安室じゃなかった……降谷は面倒そうにため息を吐いた。
「はあ……。」
「それに。の続き、気になるんだけど??」
「お前は、未来ある大学生だろう。普通の大学生が率先して、悪事に手を染める組織にはいる、だなんて……。」
「普通ならあり得ないし、断固拒否。」
降谷の声と(名前)の声が合わさった。
その瞬間、ふたりは真ん中に穴を空けるようにで一人分くらい勢いよく距離をとった。彼のターコイズブルーの瞳と、朱莉の瞳が合わさる。それはまるでスローモーションの様な。
ふたりの間に気まずい空気が流れる。
なにも出来ないでいると、隣から手の叩く音が聞こえた。なにかと思って見ると、その音は彼の手から出されていた。そのことに気づいた。
「先程からずっとお二人は気まずそうですので切り替える機会を与えるべく、叩きました……。先の話に戻しましょう。」
「(名前)さん。」と続けて沖矢さんによばれる。慌てながらはい、と返事をした。
「玄関から出ましょう。ここでするのもなんですし。工藤邸に、戻ってからにしましょう。ですよね、安室さん??」
そう安室さんに沖矢さんは催促した。その後、さりげなくチョーカーの電源をオフにする。
「ええ。そうですね。……では僕の車に……。」と言って三人は外に出た。
「僕の車に乗ってください。」と、言おうとした瞬間、離れた場所からある人影がこちらに走ってくるのが見えた。不審に思い、小声で話し始める沖矢さん、いや赤井さん。
「あの人影、こちらに向かってくるぞ。」
「もしかして、明美さんかな??」
「なにか持っているぞ??」
「あ!!もしかして、あたしのバック!?」
カラフルな色合いのショルダーバック。
柄の部分にフリルが装飾されている可愛らしい鞄。
「やはり忘れていたんだな……。物の管理はきちんとしなくてはダメだ。」
「はーい。」
それも当然ですね、の風に返事をした。
その人影は(名前)達に気づくと、小走りに近づいてきながらこう言った。
「(名前)ちゃん!!忘れ物……って……え!?その声……だ、大??」
思わぬ形で巡りあってしまった。
「な、なんで、ここに??って、え??あなた、見た目は
混乱。まさに矛盾撞着。見た目と声が違うことは論理的に食い違っている。辻褄が合わない、といえばいいだろうか。
彼が何かを言おうとして口を動かすが、制止するように(名前)が焦りながら口を開く。
「積もる話もなんですし、まずは車に乗りません??詳しくは工藤邸で……。」
「え?私は、荷物届けにきただけなんだけど……。」
その言葉に反論するかのように、
「いえいえ、ちょうど、僕も貴方に話さなければならないことがあるので。実質ちょうどいい、といえばいいですかね。取りあえず乗ってください。帰りは僕が送ります。」と安室さんが言ったのだった。
「え、いや、でも……。ほ、本当に荷物を届けにきただけ……。」
(名前)が小走りでその人影に近づき、耳元でその声を遮り、被せるように小声で言った。
「諸星、大さんのこと。知りたくないですか??」
「(名前)ちゃん。だ、大のこと……。でもそれがなんでその事に直結するの??」
「妹さんに、関わる……と言えば、ことの重大さは解りますか??」
「
確信を持ちながら耳元で呟く。なぜなら赤井さんと明美さんは義兄妹に当たるからで。そしたら当然、組織と関わりがある『シェリー』こと宮野志保と、同団体と関わりがあった赤井秀一のどちらのことも、確実に追ってくるだろうと、結論付けた。
「ええ。とにかくこの話は工藤邸に行ってからにしましょう。今からする話は人様には聞かせられませんし。では、車に乗りましょうか。」
と言い終えて、安室さんの車が止めてある場所に歩いて向かった。
「安室さん!!よろしくお願いします!!」
「駄目です。沖矢さんは後方の席に座って下さい。」
最初、(名前)は後方の席に乗り込み、沖矢さんに扮している赤井さんは助手席に座るつもりだった。だが、それを安室さんに扮した降谷さんが拒否したのだ。
やはり、彼にとっては赤井さんは、いるだけでとてつもなくストレスが溜まる存在なのか??と(名前)は自分の中で解釈した。
「皆さん、シートベルトは、しめましたね??では。」と言って車を走らせる。
原作で嫌っていたしな。まあ、今は原作程ではないけれども、彼が赤井秀一を嫌っているのは変わらないのだが。
あれこれ思案させている助手席にいる(名前)を見ていた明美さんが声をかけた。
「(名前)ちゃん、はい。忘れてたバックだよ??」
「あ。すみません、ありがとうございます。忘れてたのに言われる直前まで全く気づかなくて……。」
「(名前)ちゃんがバックを忘れていったのに気づいたのは私なんだけど、取りに行こうとしたら美鈴ちゃんが、行かなくてもいいって言ったの。「あいつ忘れ物していっつもあたしを困らせる天才だから。」って嫌みそうに言っててさ。美鈴ちゃんはあんなこと言ってたけど、私、放っておけなくて。だから無視して渡しにいったのよ。誰だって忘れ物すること、あるよね。だから大丈夫よ。」
と笑っていた。
____________________
数刻前__。明美は(名前)に先のことを言いながら、数分前のことを回想していた。
『ほんっと、あいつ嫌い!!ちょっとからかっただけなのにさ!!』
『……。あれは流石に、からかったの範疇じゃあないよね??』
と明美さんは心の中で感じた。
『そういえば、荷物忘れてるけど……。』
明美さんはソファの端にちょこんと置いてある可愛らしい鞄を見ながら言う。
『届けに行かなくていい。』
鞄を見ながら言う明美さんを横目で見ながら淡々と言い放った。
『ええ!?なんで!!』
『あいつ忘れ物していっつもあたしを困らせる天才だから。それに、わざわざあいつのところに行く労力も無駄だし。』
「それに、行かなくたって……。自分で取りに行くでしょ……って、明美さん!?どこ行くの!!」と、付け加えて言う
その言い分を聞きたくなくて、ただひたすらに走った。
そして話は、明美の「(名前)ちゃん!!忘れ物……って……え!?その声……だ、大??」の発言に戻る。
「本当に、すみません……。あいつ、あんなこと言ってたんですね。」
「最低です。」と付け加えるように言えば、明美さんは苦笑いをした。
「いいのよ、気にしないで??」
「本当に、すみません……。」
その気遣いに申し訳ないと感じた(名前)。
「ねえ……。」と続けて言う明美さん。
頭にクエスチョンマークを浮かべながら明美さんに向き合い、目を見た。
「いい加減、仲良くしなよ??」
「嫌です!!」
「えー、なんでよ。まあ、何となく分かるけど。『あいつと一緒にいたくないー。』とか言うんでしょ??」
明美さんが言ったことはほとんど当たっていて。思わず顔をひきつらせた。
「げ!?」
「あれ??もしかして図星??」
にやついた表情で(名前)を見つめる明美さん。そんなふざけた表情にムッと機嫌が悪くなった(名前)はその問いは答えず、そっぽを向いた。
「……なんですか。あいつのことでイライラするのは、悪いですか??」
すこぶる機嫌が悪いことを、示すかのようで。その声はものすごく低い。
走行中の車窓に写る景色を見ながら言う。
「え。いや、悪くないけど……。言いすぎちゃったかな??」
「言いすぎたもなにもないんですよ。もうあたし、あいつに会うのが嫌なんです。前からずっとこの性格は変わってなくて、嫌だって言っても止めてくれないんですよ!?もう、一生会いたくないんです。」
「死んでほしいくらいですよ……。」と付け加えた。
「そんなに……。嫌いなの……??」
彼女のあのおふざけだけは、とてつもなく嫌だった。しつこいのだ。最近は笑ってあしらっているが。言われる方の気持ちも考えてもらいたい。
前世。中学のとき、(名前)……否、朱莉はその親友の過度なおふざけのおかげで、学校中から過酷ないじめを受けたことがあったのだ。
「あのおふざけだけは。嫌です。なので、彼女には死んでも会いたくありません。」
なので、仲良くしない。と、朱莉はそういった。
転生してからもなお、親友として苦楽を共にしてきたふたり。だが、この日を境に絆が決裂した。車窓に反射される(名前)の表情はひどく歪み、瞳には暗がりを帯びているのだった。
「……(名前)ちゃん。いくらなんでも死んでほしいだなんて言ってはダメだよ。」
「なにが……、貴方になにが分かるんですかっ!!」
突然声を荒げた。車内はしーんと静まり返り、ハードランプの音だけが一定のリズムで、響き渡るのだった。
「私は(名前)ちゃんが過去になにがあったかなんて、分かんないよ。でも、いくら苦手な人でも、嫌いな人でも。死んでほしい。だなんて言っちゃいけないんだよ。」
「ぅう、るさい……。うるさいうるさいうるさいうるさい!!!」
小学生みたく駄々をこねた。いい歳をした大人がみっともない。と思うが、彼女はもう限界だった。
「うるさい!!!正論をぶつけるな!!!誰がなにを言おうと、私の自由なんだよ!!!あたしが、苦手な人がいようがいまいが死んでほしいと願うことだって!!自由なんだよ!!!」
支離滅裂だ。彼女の豹変ぶりに明美さんたち三人は唖然としていた。
「あいつと友達にならなければよかっ……!?痛っ!?叩かないでよって……明美さん!?」
「あいつと友達にならなければよかった。」といい終わる直前、頬に鈍い痛みが襲った。誰が叩いたのかと思い見ると、眉をひそめて厳しい表情をしている明美さんがいた。
「……これ以上は止めなさい。頭を冷やしなさい。(名前)。」
「……な、なんですか!!た、叩く必要ありました!?」
「ええ、おおありよ。今の貴方は間違ってる。友達にそんなこと言えるほど、貴方は偉くない。貴方の友達が多少やりすぎたことは私でもよく分かったわ。だけど。」
明美さんがこの一言を発したとき、車は目的の場所に着いた。
「貴方の今の言葉は、後々必ず後悔することになる。今回、友達にも非はあったけど、それを大袈裟に解釈して事を揉み広て。それは人としてどうかしら??事が過ぎるわ。貴方が友達に言おうとしたことは、人として間違ってる。……私の言ってることは間違ってる??(名前)ちゃん。」
少し間を空けて、
「い、いや。ま、間違って……ません。ですが、今回、私はなにも悪いことはしてないはずです。」
「……。君は冷静になってよく考えた方がいい。」鋭い赤井さんの声が耳にはいった。
「さあ、ドアから降りて。入るぞ。」と沖矢さん扮し、赤井さんの小声が耳元で凛と据わって聞こえた。
「鍵は、持っていますよね??」
工藤邸の門を空け、玄関の前に立つ四人。安室さんがそう(名前)に聞いた。
「あ、はい、たしか……。」そう言いながらバックのファスナー式の蓋を開ける。中を物色しながら鍵を探す。
見覚えのある長方形のものを見た気がし、よく見てみると__。
「!!私のスマホ。あった!!」
それは失くしたと思っていたスマホだった。
「どうしたんですか??(名前)さん。」
不思議そうに安室さんは聞いてきた。
「あ、安室さん!!あったんです!!私のスマホが......って。あ……。な、なんでもありません。」
意気揚々と語る(名前)だが、我に返り、そっぼを向いた。
「わ、忘れてた。さっきまであたし、怒ってたんだった。」と思いながら小さく呟いた。安室さんは「まだか。」というような感じで、少し機嫌が悪い声色で朱莉に言った。
「鍵は??ありますか??」
「あっ!!鍵、鍵……っと。あ、あります!!遅くなってすみません!!」
その声色に怖さを感じ、ビクッと肩を震わせてから急いで鞄を漁る。
ふと彼の方にみやると。彼は険しい形相で朱莉を見ていた。目線がカチリと合わさり、(名前)は慌ててそらした。
「いや、気にしていない。開けてもらえるか??」
「はっ、はい、只今。」
ガチャン、と扉が開く。その音を合図に一斉に玄関に入る四人。
靴を脱ぎ、工藤邸の書斎へと移動する。
皆が入り終わることを確認してから、朱莉は実桜に電話をかけた。
pull…….pull…….『はい。』と実桜基、美鈴の低い声が聞こえた。
「あの、美鈴……。さっきは……ご『ごめん。さっき馬鹿にして。(名前)がこういうこと嫌だって言うのは知ってたの。どんな反応するかなって思って、楽しんでたの。……最低だよね。』ぇ??」
「ごめんなさい。」と言おうとしたら被せるように美鈴が謝罪してきた。理解できずに、思わず呆けた声を出してしまった。
「いや、最低じゃあ……。うん。最低だよ、美鈴。美鈴のそういうところが嫌い。」
少し間を挟んで、最初は「最低じゃない。」と言おうとしたが、この際もう本音を言ってしまおうと思った。
その言葉を聞いた美鈴の声はひどく震えている。
「そっか。この性格、自分ではどうしようもできないんだ。辞めようって思っても、辞めれない。何回も悩んでる……。」
美鈴はこういう時……自分が悪かったと謝ることができる人間だ。対して、朱莉は見栄を張って自らの非を認めることができない。
赤井さんには冷静になって考えろと、言われた。
考えてるよ、考えたうえで私は悪くない。と思う。相手の非を怒っただけで。だって心当たりがないからだ。一方的に実桜が笑ってきて、イライラしただけ。それのどこが悪いというのだろう。実桜のそういう部分が癪に障って今までずっと我慢してきたのに……。なんでこんなに惨めな気持ちにならなければならない??不思議だった。
「そう。」
この言葉にただ素っ気ない返事を返すことしかできない。
でも、実桜が誠心誠意謝っているのだから、それに応えなければならない、と思った。少し考え込んででたは、『それに、やはり死んでしまえばいいだなんていうのは間違っている』こと。そのことに今やっと気がついたのだ。
「……あの、私も言いたいことがあって。その、怒りすぎてごめんなさい。ずっと我慢してたのが、今こんな感じで爆発しちゃったのかもね……。それに……わた、っ、し、ね……。みっ、実桜が、実桜が居ないっ、ところで『お前なんか、いらない、死んでしまえば……。いいっ!!』って……っ、うっ、あ゛ぁ……。ご、ごめんねえ……。ご、ごめんなさい……。」
だんだんとその時の情景を思いだして、苦しくなって涙が止まらなくなった。気がつけばしゃくりあげていた。実桜はずっと話さずに聞いてくれた。そしてこう口を開いた__。
『死ねって思った。勿論あんたにも少し。あんたの事をいじめてた学校中の奴らに。』
真剣な声に思わず面食らう。
「がっ、学校??あの時??」
『うん。あの時あたし凄く苦しくて。辛かったんだ、あんたが諫められてるのに、なにもできなかったから。』
『さあ、この話はここまで、ほら重要なことはこれじゃないでしょ??今から、そっちに行くから。話し進めてて??』
驚きとともに心配になる。
あの時、背後から殴られたから。
黒ずくめの組織。まさかその幹部が地元を彷徨いているなんて思ってなかったから。
「気を付けて。何かあったら電話して。」
忠告するように、切れた電話にむけて呟いた。私たちが話し終わるのを分かっていたかのように、沖矢さんの仮面を被った赤井さんが(名前)にいう。
「終わったか??」
その言葉になにも返さなかった。
「無言ということは肯定と受けとるぞ。……明美。」
彼は明美さんの名前を呼び、
え……。大、大だよね……!!あ、会いたかった……。
明美さんは目を見開いてそう言った。
「俺は沖矢昴でも諸星大でも、ない。」
「え??」
「俺の本名は赤井秀一だ。諸星大は偽名だ。事情があって名乗っていた。」
明美さんの目をはっきりと見ながら赤井さんは言い聞かせるように語った。
「ぎ、偽名……。」
「ああ、そうだ。お前も使っていただろう??」
かつての宮野明美の偽名を付け加えるように言った。
「で、でもなんで……。事情??」
「さっきも言っただろう。事情があったんだ。外では沖矢昴として通している。なぜだか、分かるか??」
明美さんはじっくりと考えてから、ゆっくりと紡いだ。
「そ、組織……??もしかして、
赤井さんは正解だ。というように明美さんの目を見つめた。
「ああ。」
「!?でも、そしたらとっくに殺されているはずじゃあ!?」
驚く明美さんをよそに淡々と冷静に言う赤井さん。
「……。秘策があったんだよ。あのボウヤのおかげだ。」
「秘策……??ボ、ボウヤ……??」
「……死亡偽装。」
その言葉に言葉を失くす明美さん。
「大が……いや、赤井さんが言ったことはよく分かったわ。それで、質問があるんだけど……。」
赤井さんは待ってました、いうように口角をあげて一言。
「あのボウヤについて、だろう??」
なぜ、それを!?というように明美さんは彼の青柳色の瞳を見つめた。場所を行き来しながら、語りかけるように話始める。
「大丈夫だ、安心しろ。あのボウヤは俺たちの味方だ。」
「え、み、味方??」
「第一、さっきも言ったが、死亡偽装。あれは俺の案ではない。」
誰だと思う??
「ま、まさかっ!?その、赤井さんが言っている『ボウヤ』のことっ!?」
彼はニヤリと含んだ笑みを浮かべた。
「ああ。そのまさかだ。」
「でも。ボウヤって誰??なんで……!?」
「お前も、会ったことがある奴だ。」
「会ったことがある……??まさか!」
こう言ったとたん、明美さんの脳裏にある声が浮かばれた。
『江戸川コナン……いや、工藤新一。探偵さ。』
「工藤……新一……!?」
死に際の宮野明美に彼そう言ったのである。正確にいえば、宮野明美は実桜の献身的な治療のおかげで、事なきを得たのだが。
明美さんが言ったことに微かに驚いた様子をみせる赤井さん。
「知ってるのか??」
「ええ。知ってるわよ。死に際の時の私に話してくれたから。」
「死に際......だと??」
あり得ない、というような表情の赤井さん。
「ええ。そうだよね、コナンくん??」
どっから現れたのかわからないコナンくん。
あんた、どっから現れたんやあ。と突っ込みたくなった朱莉。だが、我慢して二人の話を聞く。
ほんと、神出鬼没だな。
原作では二人が直接的に話すシーンは殆どないはずだ。だが、ここでは二人は存在していて、直接的に話している。
「うん!!(名前)お姉さん!!」
「奇遇だな。ボウヤ。今まで何をしていたんだ??まさか、こっそりと聞いているんじゃあ……。」
「そのまさかだよ。赤井さん。ほら、みて??」と言って眼鏡型発信器に記録された音声を流した。
『ぎ、偽名……。』
『ああ、そうだ。お前も使っていただろう??』
先の会話が沈黙する空間に流れ始めた。
そして、
「ね??言ったでしょ??」
『ね??言ったでしょ??』
コナンの今発した声が同時に盗聴機械でも流れる。
「流石に盗聴はダメだよ……。コナン君?」
今までの会話を声を発さず、ただ傍聴しているだけだった安室さんがようやく出番だというように注意した。
「えへへ、安室さんごめんなさい……。」
「ところで、コナンくん。君はさっきまでここにいなかったよね??今までどこにいたのか、教えてくれるかい??」
そう言われたコナンは、なぜかひきつった表情になった。
あれ??なんか、不味いことでもあるのかな??
「えっ、えーと!!し、新一兄ちゃんと一緒に居たんだ!!そこの二階の部屋で!!」
え!?そこの2階。ってあたしの部屋じゃん!?「コナンくん、君、なにを言ってるんだい??」って思った(名前)は思いっきり言った。
「おい。コナン!!」
少年探偵団の元太くんみたいに呼んだ。自分でも面白くて笑えてくる。
可笑しくて仕方ないんだもん。
おかしい。可笑しいよ~……。イントネーションが上がって下がってになってる気がする。
「どっ、どうしたの??(名前)お姉さん!?」
これが、元太くんだったら、絶対、「どうしたんだよ、元太??」
って、言ってるかもでしょ??
突然の私の大声に、周りの三人はビックリして(名前)を見ている。
「あんたがさっき言った部屋は、私の部屋だ!!……ってか、かっ、勝手に入んないでくれる!?」
いろいろ物が溢れてるからあ!!!って怒った。
「ごめんなさい。(名前)お姉さん。」といいながら、近づいてきたので、後ずさる。
「あれ?なんで、離れるの??なにかやましいことでもあるの??」
「な、なにもないよ。……あはっ。」
実はやましいことはある。ひとつだけ。
実は、警視庁のサーバーをハッキングして、組織の情報と、その他関係者資料を勝手に無断でダウンロードし、勝手に削除したこと。しかも昨日!!
これがばれれば、さきの協力要請は却下されるだろう。明日、
風見さんに犯人捜しさせるのかなあ。ああ、どうしよう。明日になってほしくない。
「もしかして、これの事??」
と言ってみせてきたのは__。
「このデータ、何??(名前)お姉さん。」
警察庁の秘匿情報が羅列された文章データ。組織の幹部と、社員の個人情報とその他もろもろ。
思わず、顔をひきつらせ、ゆっくりと目の前にいる
ああ、ヤバイ。脳が、警笛と警鐘を鳴らしているような幻覚を覚える。
「ドンマイだな。(名前)。これは俺にはどうもできない。」
「……た、大変だね……。」
「すみません。少し席をはずします。」
安室さんはそう言って外へと出ていく。風見さんに電話するんだろうと思いながら、玄関に行く彼の後ろ姿を見つめた。たぶん、風見さんに電話するんだろうな。
「
『ちょ、ちょうどよかったですっ……。ふ、降谷さん……。今、緊急事態で……。あのデータが削除させていて、普及の止めが指しません!!』
書類の整理を行う慌ただしさが伝わってくる。
こちらの資料はここです!!
どこだ!!あのデータは消されてはならんものだぞ!!犯人を特定しろ!!
やってます!!!
他の職員の慌ただしい声。
「警視庁のデータベースに侵入者が入っただろう??昨日。」
『な、なぜそれを!?』
「……僕が把握していないと思うか??安心しろ。犯人は特定してあるんだ。」
少し、溜めてからそう言った。
『!!さ、流石です……降谷さん。それで、は、犯人はっ??』
「風見も知っている、例の少女だ。いや、少女じゃないな、女性だ。」
『あの例の……。』
「今週中に事情聴取を受けさせるつもりだ。彼女には協力者がいるみたいだからな。……すまない、きらせてもらう。詳しいことは明日言うから。お前たちを手伝いたいのは山々なんだが……忙しくてな。本当にすまない。」
と言って電話を切る。彼女には協力者がいると伝えた直後、工藤邸の門に入っていく女性をみたため、早急に電話を切り、合流した方が良いと考えたのだろう。
数日前__。(名前)は仕事の一貫で、組織の情報を把握すべく、ハッキングに乗り出した。仕事の一貫といっても個人単位だが。
「実桜。聞こえる??今から、ハッキングを開始する。」スマホの画面を通話画面にし、スピーカー機能をonにする。
『了解。』
「データは警視庁警備企画課の部署のデータを抜き取り、ハッキングする。そのデータを削除する。それでいいよね??」
『うん。盗ったデータはなくさないように、あたしの専用ファイルにいれておくね。』
そんな会話をしながら作業をひたすら進め、証拠も隠密したのだ。
____________________________________
なのに……。そのときは沖矢昴も居なかったからやりやすかったはずだ……。
「ただいま戻りました。」
と、いう声とともに彼が戻ってきた。
先まで居なかった女性の姿。
「本当にごめんね、(名前)。」
「いいよ、今は気にしてないし。」
「仲直りは早い方が良いし……ね??」
戻ってきたから目にしたのは(名前)と抱擁している姿だった。
このあとすぐ、「警視庁データ削除の件で後日話があるから、情報を教えろ。」と降谷さんに言われ、最初はその作業があったことを否定した。ところが、警視庁のデータは美鈴のハッキングファイルに保存されていることが発覚した。
すぐにファイルを解凍し、降谷さんから「風見に渡しておく。」と言われた。
そして、本題に入る。
「宮野明美が生きている。この事について教えてくれるか。美鈴。」
仮面を脱いだ赤井さんが真剣な目で実桜を見つめた。
「さあ、どうでしょうって、言ったらどうします??」
「当事者のお前が知らないのなら、仕方がないな。FBIでお前の事を徹底的に調べるつもりだ。」
「なっ!!そ、それは困りますよ……。っていうのは冗談でむしろ調べてもらった方が、間接的……という点で動きやすくなりますから。安心してください。ちゃんと、話しますから。ね??」
そう言って彼をなだめてから、あのときの事を話した。
「___で、宮野明美さんは今、ここに存在しているわけです。もちろん術後時から数日にかけては、プライベートの話題に関しては避けたつもりです。そうでなくては、きっと、彼女は混乱してしまいますから。」
話し始めた直後、
「すみません、僕は、これで。おいとまさせていただきますね。宮野明美さん、送っていきますよ。僕も、ここにくる時も言いましたが、明美さんに話しておきたいことがありますし。」
「え!!い、良いんですか??では、お願いします。」
「話したいことって……??」疑問を感じながら明美さんは安室さんに連れられて外に出たのだった。
こうして、宮野明美さんは安室さんとともに帰宅することとなった。
「お前の言っていることはわかった。にしても驚いたよ、まさか君が医療に関して詳しいとはな。」
「これでも、実家が病院を営んでいるので。それに、私個人も医者の。特に
「ほう。君の勇姿には驚かされるな……。」
赤井さんが感心して、呟いた。
「い、言いたいことたくさんありすぎる……。私、てっきり宮野明美さんを救えなかったって思ってたから、ビックリしてるよお。まさか生存していただなんて。」
美鈴って凄いね。
そう言えば、彼女ははにかんで笑った。
ピロピロピロー。(名前)のスマホが鳴った。宛先は【ジン】。その名前をみる。組織関連だから、気を引き締める。
深呼吸をし、ジンと相対する準備を整えた。そして、通話ボタンを押し、冷徹な声で言った。
「どうしたんです??ジン。」
なぜか、返事は来ず。少し間をおいてから代わりに来たのは。
《疑わしきは罰するのが、俺の流儀だからなあ……。》
「まさかっ!?ばれた!?」そう思い、焦りのなかひたすら思案に更ける。
いやいや、そんなことはないはず。いつだって、私の計画は完璧に……。
《おい(コードネーム)、貴様。》
「なんでしょうか。ボス。」
《隠蔽していたのか!!》
感嘆符が付いているのにそれを感じさせない冷徹な声のボス。
たぶん、スコッチのことだろう。こうなることはわかっていた。準備はできたが、まだ温存するとき。本領を発揮することはし難い。
「なんの事でしょう。」
そう言いながら、目線を細ませ、鋭く部屋のシャンデリアをみる。
《惚けるな。みつけしだい、処理しろ。
やはり。予感は的中。少し間をおいてから自分自身を落ち着かせてこう言った。
「ボス。あなた様の仰せのままに。責務を全うさせて頂きます。」
大変なことになった。まずはスコッチ(緑川光)を呼び出さなければ。
私はある四人に片っ端から電話をかけた。
そして、これから私は、アポトキシン4869投与実験に被験者となり、前世の自分がみていた某アニメ。『と○る科学の~シリーズ』のヒロインが体験したような似た出来事に翻弄されていくことになる、某実験。
まさに地獄のような日々を過ごすことになるとはこのときの私は予想していなかった。
「……残るは、実験体を見つけないとなあ。」
「浅田研究員。ちょうどいい実験体を見つけました。」
そこに写されているのは(名前)。
「よし。例の組織の幹部のジンに接触しろ。DNAを採るんだ。」
これが第二の悲劇の始まりであるとは知らずに。
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file9.救済と地獄。
数日前__。
「新しいメンバーが入った。来い。」
薄暗い倉庫。黒づくめの服を着た何人かのひとが集結していた。
「……。はじめまして、よろしくお願いします。銃撃戦はお任せください。……ちなみに、あなた方に馴れ合うつもりはありませんので。あくまで、利害の一致です。では。」
「チッ。相変わらずツれねーな。コイツが(コードネーム)だ。」
当初は、性格を変えるつもりはなかった。寧ろ変装するつもりだったのだ。だが、確実に後々になってからボロが出ると予想し、急遽変えることに。冷酷なキャラクターにしよう。前世にみていたアニメ『と○るシリーズ』のミサカクローンを参考に。彼女たちはその故に冷静さを持ち合わせているから。そんな、性格。
「ジン……。いえ、ジン様。仕事は??」
ジン様。という言葉に周りの人たちの息を飲む音が聞こえた。そして、こうすることでジンと、ラムを崇拝するという人物像を作り上げる。
「今日は、ねえ。これからお前はベルモットと、バーボンと組むんだな。」
「了解しました。」
「じゃあ解散。」
ジンとウォッカは去っていった。
そう言われてから瞬時にその場にいる人を確認するように見上げる。
ベルモット、バーボン、キャンティと、コルン。四人か。
私、(コードネーム)も帰ろうと踵を返そうとしたが、後ろから肩を捕まれる。誰かと思ってみると、既に去ったと思われたジンだった。
「ジ、ジン様。ど、どうなされましたか??」
「これ、ハンカチ。お前のだろう。にしても、来たんだな。あのときの言葉を信じてよかったぜ。期待しているぞ。」
「!?あ、ありがとうございます。」
いつの間にか落としていたハンカチを彼は拾ってくれた。原作では冷徹なシーンが目立ったのに。案外優しいところもあるんだな。と見直した。
「じゃあな。」
そう言い、ジンは去ろうとした時、ジンの後ろから声をかけてきた人物がいた。
「あの。あなたが黒の組織のリーダー様でしょうか??」
「ジンだ、覚えろ。そうだがなんだ。無駄ごとには付き合わない。用件だけ言え。」
「そちらの、少女は……??」
ジンは冷徹な目でその人物を睨んだ。
「なんだ。邪魔者は要らん。帰れ。」
白衣を着たその人は萎縮しながらこう言った。
「も、申し訳ありません。きょ、協力してもらいたいことがありまして……。耳を拝借。」
そう言い、ジンの耳元でなにかを話し始めるのを傍観する。話し終えたのか、耳元から口元を放し、もとの場所に戻るその人物。少し間を空けてからジンはこう言った。
「ああ、その件はわかっている。来週からだな。」
「ええ。期待していますよ。組織の皆様。」
では。といい、その人は帰っていった。
その数日後、(名前)はかの任務のあとのこの台詞。
『……。ジン、
に繋がっていくのだ。
彼らが去っていったのを、見送ったあと、バーボンとベルモットに声をかけられた。
「Hey! Hello Angel!あのとき以来ね。(コードネーム)!!」
やっぱり本物は綺麗だな……。思わず見とれてしまう。
「こんばんは、(コードネーム)。はじめまして。僕はバーボンです。」
うん、凄い。なにが凄いかは省くが。トリプルフェイスは凄いね。
「よろしく。特になれ合う気はありませんので。そこを勘違いしないでくださいね??バーボンさん??」
勘違いするなと言いながら気味の悪い笑顔で彼を見た。彼は動じずスルーをし、ベルモットを見る。
「ベルモットさん。……あの時……とは??」
「あら??覚えてないの??前回、あなたのお友達……といえばわかるかしら??」
勿論覚えているがシラを切る。変に詮索されたくないから。
「なんのことだか。」
「はあ。バーボンと同じで、秘密主義なのね……。まあ、嫌いじゃないわ。そういうの。ねえ、頼みがあるんだけど。」
「なんでしょうか??」
前世の私、朱莉は「ヤバイ!!絶対ベル姉さん!!って呼んで!!っていうでしょ!!ってかこの流れ確定じゃん!?」って言って感極まるだろう。
が、今の私はこの世界に来て20年。色々と経験しているからそんな簡単に動じることは殆どあり得ない。
「ベル姉さんって呼んでほしいの……。」
彼女は恥ずかしそうに言った。
「わかりました。よろしくお願いしますね。ベル姉。」
一瞬、断ろうかと考えたが、そんなことしたらどうなるか怖いので、承諾した。
「Thanks.(コードネーム)。嬉しいわ。」
ベルモット基ベル姉は、心から嬉しそうに感極まって言った。
「いえ。馴れ合うつもりはありませんが、これから共に仕事をする仲ですので。これくらいはしておかないと。」
「これから、セーフハウスに案内しますね。」
というバーボンの声と共に、私は移動することになった。
「では、一緒に行きましょう??(コードネーム)??」
バーボンが朱莉に『お手を拝借』という感じに優しげに言った。
それを無視する。車に乗り込むため、足早に道を歩く。三人の足音が空間に響く。
ふと後ろにいるベルモットが気になり、名前を呼んだ。
「ベル姉。」
「なにかしら??(コードネーム)??」
「ううん。呼んでみただけだよ。」
何故かベルモットには冷徹な(コードネーム)ではなく、素であり偽名である表の人格の
ベルモットは(コードネーム)のその言葉にフフッと愉快に笑った。
バーボン……彼の車がある駐車場に着く。彼は(コードネーム)をエスコートすべく手を差し出し、『お手を拝借』と言った。
「どうも。」と言い、彼の手を軽く握り、助手席……ではなく後部座席へと座った。
ベルモットにも同じことをした彼は、直後、彼女に「貴方でもそういうことするのね。」少し嫌みたらしく言われる。
「レディーファーストなのでね。」
とベルモットに彼は返した。彼女は興味なさげに窓をみて、バーボンの問いに答えなかった。そうしているうちに車は走り始める。
この二人は仲が良いんだか、悪いんだか。わかんない。原作ではこれ以上に仲の良さは曖昧なのだ。
暫く会話という会話が殆ど無いままセーフハウスに到着してしまった。
「さあ、着きましたよ。降りてください??」
その一声で車内から足を出した。直後、案内され、自らの部屋へと入っていった。
「広い??狭い??ちょっとよくわからないけど……。部屋があるだけラッキーだな。」
みた感じ、一般的な独り暮らし用の賃貸と同じくらい??と心のなかで思い、独り言を言ったが、口に出してしまったことには気づかなかった。
セーフハウスはとてもとても大きかった。
お城みたいだと思った。だが、それはあり得ないと考える。お城みたいだが、それはお城ではない。だから「豪邸」、といえばいいだろうか。いや、「豪邸」もお城みたいなものなのか……??
セーフハウスの部屋は驚くほど荷物がなかった。あるものといえばベットと、小さな書斎のみ。代わりに他のところでは滅多にお目にかかることのできない代物があった。
「やっぱり、盗聴器……、ねえ。」
仕方がないという風に小さく声を発した。
「ほんと、物騒よね……。ジンのやつ」
とりあえずやることがないので仮眠しようとベットに向かった。すると、部屋の扉が開く音が聞こえ、立ち止まり反射的にそのドアを見る。
「よお、(コードネーム)。」
「な、なんで、ジン様がっ……。」
「あのとき会ってからずっとこうしたかったんだよ、(コードネーム)。」
何を言っているのかわからず首をかしげる。
「は……??」
「ベットに行け。」
「べ、ベット……??」
「いかないとどうなるか、分かるよな……??」
「わかりました、分かりましたから!!」
脅しとも言えるその言葉に応えなければ「殺される」と直感で思い、仕方なくベットに向かい、座る。
「その表情、誘ってんのか……??」
「は??何を、いって……やめっ!!いや!!」
何を、言っている?と聞こうとしたら強引に押し倒される。なにをしようとしたのかは、察してくれ。一言で言えば、キモいこと、だといえばいいだろう。
「そう叫ぶな。絞めるぞ。」
「ヒッ……。」
それに怖くなって抵抗するだけで「絞めるぞ。」と言われる始末。
これから何をされるのか想像するだけで恐怖を感じ、意識もせずに自分の意思に反して涙が流れた。馬のられて、動けない(コードネーム)。多分だけど
「た、たすっ、けて……。」
「泣いても無駄だ。お前はこれから鳴いて貰うんだからなあ。」
絶望。恐怖。助けて。ベルモット……。バーボン……。心の内。組織の人に助けを乞うなんて馬鹿馬鹿しい。だが、呼ばずにはいられなかった。
「ちょっと(コードネーム)??どこにいるの??これから買い物に行くんだけど。」
ドアの向こうからベルモットが私を呼ぶ。
「ベ、ル姉……!!た、助け!?」
「他の者に助けを乞うな。」
強引に肩を捕まれる。顔を、押さえつけられ、許可をとってないのに触られる。それはとてつもなく気持ち悪いという、嫌悪感と怖さを嫌という程感じてしまう。
お前は黙って言うことを聞け。という風に聞こえ、全く取り合ってくれなかった。
「!?そ、そんな……。や、やっだ、よ……。こっ、怖い……。いや、や。」
「五月蝿いな。」腹が立ったのか彼は強引にこれ以上のことをしようとしてくる。
これ以上は駄目だと体が、本能が警笛と警鐘を同時にならした。
「これ、以上っはっ、やめ、やめてくだっさい……。」
「やめる??そんなわけないだろう。」
そう言った。それからというもの、彼女、(コードネーム)の同意がないまま、ことが進んでしまったのだ。
「やめる??そんなわけないだろう。」
そう言われた私はフリーズし、そう言われたあと終わりまでは覚えていない。
全く反応を示さない(コードネーム)に少し怒ったような態度でドアの向こうからこう言った。
「いないなら帰るわよ??それともそこで何をしてるのかしら!?」
バタン!!とドアが空いた。
「え……。ジン??と、a,angelじゃない……。な、何してるの!?」
ベルモットの目の前にベットの上で今にも襲いかかろうとするジンと、必死で助けを求めようとしている(コードネーム)がいた。
「チッ。」
それを見られたジンは舌打ちをして、無言で去っていった。ジンが去ったのを見届けると、たがが外れたようにポツポツと呟く。
「ベ、ル姉さん……。やだよ、やだ。あいつ、嫌い。」
「(コードネーム)……。話はあとで聞くわ。とりあえず立てる??」
その光景を、思い出したくなくて、口をつぐんだが恐怖心は拭えず。気づけば彼女の名前を呟いていた。まるで、苦痛に絶望している表情で。
「あ……。ベル姉……。」
「はあ……。ジンったら、手を出しちゃって……。ほんと駄目なんだから。あとで呼び出す必要が出てくるわね。……薬、買いましょ。」
「……うん。」
(コードネーム)は軽く頷き、ベルモットと共に部屋をあとにする。
……あのとき。
「これ、以上っはっ、やめ、やめてくだっさい……。」息を切らしながら言った私に平然と拒否をしたこの男。
「やめる??そんなわけないだろう。」
これ以上は駄目だと体が、本能が警笛と警鐘を同時にならしたが彼女、(コードネーム)の同意がないまま、ことが進んでしまったのだ。
そう言われた私はフリーズし、そう言われたあとの終わりまでは覚えていない。
あの男はこんなことをする人ではなかったはず。傷心した心を無理やり切り替えて考える。ほんとは泣き出したい。でも今ここで泣けば、ベル姉さんや、バーボンに迷惑をかける。だったら我慢したほうが身のためであるのだから。
「(コードネーム)……。貴方、迷惑かかるから我慢したほうがいい、だなんて、考えてないでしょうね??」
それにドキッとして、緊張した表情でベルモットを見上げた。
「……。図星ね。」
「うっ……。だ、だって、その方が他人に負担をかけなくても済むし、なんなら、私が、私だけが抱え込めばいいから。」暗そうに呟いた。
「Angel…….駄目よ、その言葉だけは言ってはダメ。」
忠告するかのように告げるベル姉。不意うちされたようにえ。と零れた。
「「私だけが」抱え込めばいいなんて。ひとりで闘っているようなものだわ。いい、ANGEL??」
「う、うん……。」
もうこれじゃあ、冷徹な人格じゃあないじゃん。っていう気がするが仕方がない。
自分では冷徹なキャラを演じているつもりだが、もう冷徹じゃなくて涙もろくてなんでもひとりで抱え込む人じゃない。
そんなんじゃ組織ではやっていけないし、門前払いだ。そもそも、任務の失敗は死して償う。これが基本。死にたくないから、失敗したくないから、そんな理由で任務を執行しなければ死んだも同然。死して償う。それは武士の精神に似たようなもので。
「なにかあったら頼るの。」
「え。」
「(コードネーム)としての貴方を見たのは初めてだけど、個人としてのAngelを見るのは二回目。はじめてみた時のあの気迫。とても、驚いたわ。自分より、他人を優先するその覚悟。私には魅力的にみえたの。」
『……私には、手を出してもいい。だが、
「は、はあ……。」呆けてしまう。
その表情は、彼女が唯一慕っている蘭と、新一の事を思い浮かべているように優しげにみえた。
「その顔。まるで自分の事じゃない。って思っているんじゃないかしら??」
(コードネーム)が思っていることをそのまま返しやがったベルモット。原作さながらのその洞察力は変わらないようだ。
確信を得ているそれに胸がざわつくのを感じる。
「そ、その通りよ……。ベルモット。」
「やだわあ、ベルモットじゃなくて、ベル姉でしょう??」
彼女は美しく、気品に溢れている。そんな彼女はフフッと笑ってそういったのだ。
「随分と遅かったですね。何をしていたんです??」
ベルモットと(コードネーム)が戻ってくるやいなやバーボンは彼女らにこう言ってきた。
「少しトラブルがあったのよ。もう解決したから気にしなくてもいいわよバーボン。貴方が気にしててもきりがないし。」
それとも、と続ける。
「何か気にならなければならない理由があるのかしら??」
「いえ、そのようなことは全く。強いていえば……。「これ以上言うと貴方の脳ミソぶちまけるわよ。」ははっ。それは困りますね。」
彼の言葉を遮り、拳銃の銃口を彼のこめかみに当てながら、威嚇するようにベルモットが言った。彼は乾いた笑いを漏らすのみ。それ以上もそれ以下もなく。(コードネーム)は展開されている会話を聞きながら二人を眺めていた。ただ、バーボンの方は見ずに。先程の恐怖が競り上がってこないよう、ひたすらベルモットだけに視線を集中させた。
ふと、彼は私に視線を向けた。まるで、その行動の意図を把握しているみたいに。
目線があわさるが一瞬で私は目をそらした。
「何故、そらすんです??(コードネーム)。」
別に目をみようが見まいが、どうでもいい。だから、彼の問いには答えなかった。
「ベル姉。買い物、どこ行く。」
「そこら辺のショッピングモール……そうね、杯戸ショッピングモールにしましょ。バーボン、私たち買い物するから待ってて頂戴。」
「わかりましたよ。」
少々退屈気に彼は言った。
それから、特に事件も任務も何もなく。
杯戸ショッピングモールに着き、(コードネーム)とベルモットは気分転換も兼ねた束の間の時間を楽しんだ。
服とか、アクセサリーとかみてまわった。
私は(コードネーム)であることを忘れて、はしゃいだりしちゃった。だから、ベルモットには“Oh”,と驚かれたっけ。その時は焦ったが、ベルモットはそんなこと気にしないでくれた。その事が嬉しかった。
帰り道。荷物が多いので二人で分担する。駐車場に向けて歩いている道中。
「どう、気分は??」
「気分上々……。とても、楽しかったありがと、ベル姉。」
「どうやら、リフレッシュできたみたいね。さ、早くバーボンの元へ向かいましょ。」
「了解。」
車に乗り込むと同時にベルモットはバーボンを急かすように言う。
「今帰ったわ。さあ、セーフハウスに送ってちょうだい??」
「お礼無いんですか……。」困った様子でバーボンは言う。
「バーボン、」(コードネーム)はお礼を言わないのは不味いかなと思い、車を発進させようとしている彼を呼び止めた。
「なんです??」
「ありがとう。」
彼はその一言でなにか気がついたことでもあるのか、はっとした顔をして、前を向き、ハンドルを掴んだ。
そして__。
「こちらこそ、ありがとうございます。楽しんでいる貴方たちをみて、僕も少し気が楽になりましたし。」
そう澄んだ表情で語ったのだった。そのあとは何もなく。そのまま普通にセーフハウスに向かい、部屋の場所と置かれている物を軽く確認したあと、そこを去った。
そして時は進み、現在__。
『スコッチを始末しろ。』
その命を達成させる前に、彼を安全なところへと避難させなければ、と思い、あの
《よお……って、お前か、(名前)。どうした??何かあったのか??》
「もしもし、ま、松田さん!!あの、遅くにすみません、き、緊急事態なんです!!」
《はあ!?……何があった??》
松田さんは驚きつつも、冷静に(名前)の話を聞いてくれる。
できれば、組織のことは避けたい。巻き込みたくないのだ。
心を落ち着かせ、深呼吸をする。その音に受話器の向こうで息を飲む音が聞こえる。
「……。緑川さん、は、今何処にいるのかわかりますか??松田さん。」
少したち、歯切れが悪い松田さんの声が耳を伝った。
《緑川、か。……悪りいな、俺は知らない、萩原に聞けばなにかわかるかもしれないな……。本当に力になれなくて悪い。》
松田さんは緑川さんの名前を言ったあと、無言になった。たぶん、諸伏さんのことだと、会話でわかったのだろう。
「いえ。情報提供ありがとうございました。萩原さんに、電話、してみますね??」
《いや。俺は萩原が
「勿論です。では、こんな遅くにありがとうございました。失礼します。」
《……無理すんなよ、(名前)。》
「勿論です。」
そう言ってブツリと切れば、心配そうに(名前)をみているコナンくんと赤井さん。
「何かあったんだよね??姉さん。」
「……。スコッチ、か。そうだろう??(名前)。」
「そうですよ、でもお二人に手伝わせるわけにはいきません。これは、私がやらなくてはならないんです。」
覚悟を決めて、言ったその言葉は、死神……失礼。江戸川コナンによって打ち砕かれた。
「姉さん。姉さんがそんなこと言うっていうことは「手伝ってほしくない」ことへの裏返しだ。ほんとは、手伝って欲しいんだろ??(名前)姉さん。」
「っ!!駄目!!死ぬかもしれないのよ!!今回の件で私に関わったことで!!一度救った相手を、地獄に落とそうとする奴と関わってもなんのいいことなんてないんだから!!利益は、得するのは、ジンとRAMだけよ。だからっ……。!?」
こちら側に入れないように。精一杯叫んだ。
「……。俺を、誰だと思っている??」
赤井さんのこの一言ではっとなって。
「えっ……。」呆けた声を出した。
「大丈夫だよ、姉さん。ここにはFBIの赤井さんもいるんだから。絶対うまくいくよ。さあ、次の人……、えっと、萩原さんに電話、するんでしょ??」
「協力させてくれ。(名前)。」
「そんなに、思い詰めないで??私も協力するよ、(名前)。」
「……。あ、ありがとうございます……お三方の助言を私にください……。」
「ああ、勿論だ。とりあえず、まずはスコッチを見つけるのが先だな。さあ、電話してくれ。」
「はい。」
そう言ってスマホを操作し、『萩原 研二さん』の名前をタップする。
《んー、あれ、(名前)ちゃん??どうしたの、電話掛けてくるなんて珍しいね。何かあった??》
「あのっ、萩原さん、緑川さん居ますか??」
《緑川……諸伏のこと??諸伏はねえ、今俺の家にいる。けど今話せる状況じゃあ……。「そちらにいるんですか!?でしたら今すぐ諸伏さんを、こちらに連れてきていただけませんか!?緊急事態なんです!!」へ。》
《え、(名前)ちゃん、俺と話したいから電話してきたんじゃあないの!?》
「今は緊急事態なんです!!申し訳ありませんが、萩原さんと今話す余裕はありません。ですので、早く車に乗ってください。道を教えますので。早く!!」
《わかったよ……。来たらどうなってるのか説明してよね、(名前)ちゃん。緊急事態な状況っていうのが少し気になるし。》
「そのまま、切らないで。切らないでください。準備ができたら言って。口頭で道案内するから。」
《……なんか(名前)ちゃん、途中から敬語抜けてるよね!?……うん、わかった。よーし、じゃあ、諸伏を担ぐとしますかあ。》
受話器の向こうで、ウンウン唸っている緑川さん、いや諸伏さんの声と、この人をなだめている萩原さんの声がする。『よいしょっ……。』担いだ声が聞こえた。
ここから車に乗るのだろう。様子を聞いている限り、諸伏さんはお酒を飲んでいたのだろう。萩原さんはなにかあったときのため、とお酒を飲んでいる気配はないと読み取る。
《よーし、乗ったよ。諸伏も後ろにね。じゃあ、案内お願い。》
「わかりました。では、最初の信号を、右に……。それから道なりに……。」
《わかった!!よし、緊急事態だからね、アクセル全開で行きますか!!》
「え゛。」
ま、まさか、原作で降谷さんが運転しているマツダRX-7みたいに、カーチェイスするんじゃあ!?タイヤの音が変わった。なんか受話器の向こうよ辺りが騒がしい。車のブレーキの音が、四方八方から鳴り響く。
《速度、180。アクセル全開で突っ走るぜ!!そのまま、案内頼むよ。》
あ、あだだだだ!?や、ヤバイ、え、えええええええええ!?スマホを床に落としてしまった。
「おい。大丈夫か!?」
「(名前)お姉さん、大丈夫??」
「まさか、萩原さんもカーチェイスで……!?」
「はあ!?」
美鈴の一言に驚いた声を出したコナンくんと赤井さん。
「……。はぎわらあ!!あんた、正気!?そのまんま、案内しろってふざけてるの!?」
「ちょっと、(名前)敬語抜けてる、仮にも年上なんだから。」
「年上でもっ!!一般道で爆走してたら、駄目だろ!?」
「そうだけど……でも、萩原さんだし、大丈夫じゃない??」
「全っ然大丈夫じゃあないからあ!!なんでそんな呑気なの!?ねえ、コナンくん、赤井さんもなんか言ってくださいよっ!?」
「まあ、萩原さんだし、聞いてた限り大丈夫だと思うよ??」
「会ったことはないが……。このボウヤと同意見だな。」
「はあああああああ……。私と同じ意見のものは現れないのか……。アーメン……。」
そういえば、赤井さんって「はあ!?」とか言わない人だよな……。まあ、いっか♪
いや、駄目だろ。問い詰めれば絶対あれはコナンくんに合わせた、とか言いそうだな、沖矢昴、いや赤井秀一。
《次の道は!?(名前)ちゃん!!》
「あんた今どこ走っとんじゃあ!!諸伏さんが、可哀相だろうがあーー!!」
《(名前)ちゃんって、そんなキャラだっけ!?え、諸伏??諸伏は大丈夫だと《萩原、気持ち悪い、吐きそう……。》あ。すまん、諸伏。》
「ほらあ!!だから言ったじゃないですか!!降谷さんに怒られればいいんだあ!!」
《今そこで
萩原が(名前)に怒られてる頃__。
ポアロ。女子高生たちが多く賑わいを見せている。
「あむぴー、ハムサンドくーださいっ!!」
「あ、あたしも!!は、ハムサンドひとつ……。」
「わかりました。ハムサンド二つですね??梓さん、そちらは大丈夫ですか??」
「あ、安室さん~、こっちはなんとか。安室さんこそ、無理してないですよね??」
「僕は大丈夫です__!?」
《ブオオオオ~~》とものすごい音を立てて勢いよく走っていった車。
「な、なんの音……。」
安室たちの目の前には驚きもののスピードで一般道を駆けていく車が。安室は、いや降谷はその車に見覚えがあった。
あの車はまさか__。
「萩原__??」
ボソリとそう呟いた。
「安室さん……??どうかしました??」
「あ、大丈夫ですよ、梓さん。」
「本当に??」
「ええ。本当です。」
「そうですか、でも、無理は禁物ですよ??」
そう言えば、女子高生たちが食いつき気味に梓さんと安室に言った。
「ほんとお??あむぴ、なんかポカンとした顔だったよー。あむぴもそんな顔するんだね!!珍しい!!」
「あむぴ、大丈夫??無理、してないよね……??」
「ええ、僕は無理はしてませんしだいじょうぶですよ??さあ、アイスが溶ける前に、早く席へと戻りましょうか??」
「はっ!!アイス!!あむぴ、Nice!!」
「溶けちゃうねえ、アイス。早く食べよっ??」
そう言いながら安室の催促により、女子高生たちは自らの席へと戻っていく。
「では、僕は戻りますね??」
「ありがと!!あむぴ!!」
「ありがとう~!!」
その声を背中で聞きながらカウンターの中へと入る。その時横目で外の景色が見える窓を見て、
「萩原がカーチェイス……??いや、あいつはいつもしないよな……。じゃあ、何故……。!?まさか、」
と小声で思案にふける。結論に結びつき、組織と関係している、と踏んだその時。
「安室さん、顔が表情が険しくなってますよ……。何かありました??」
「!!それは、すみません、怖い思いをさせて……。特に何もないので仕事、続けましょ??梓さん??」
「そうなんですか……。本当にそうならいいのですが……。ううん、悩んでても仕方ないですね!!さあ、仕事仕事ー!!」
「悩んでいても仕方ないですもんね!!」
と言って繁盛している店にふたりの笑い声が響いた。
でも、確かにあの車は萩原研二のものと明らかに酷似していた。あの赤い車。日本の国旗の赤色のみが好みである降谷にとって、見ることは苦であったが、その男はカーチェイスをいつもはしない男だ。
寧ろ緊急性のある出来事でカーチェイスをすることはよくあるみたいだが。こんなにも荒れた運転をすることはカーチェイスしている萩原でもあまりというか、ほとんど見たことはなかった。じゃあ、やはり、組織なのか……??と踏むしかあり得ないのである。だって、あの後ろの席に、諸伏に似た男が乗っていたから。
《(名前)ちゃん、あと少しで着きそう。》
「……。早くして。諸伏さんは大丈夫だったんですか??」
《諸伏ちゃんは大丈夫。あの電話したあと急停止させてトイレに連れてったからね。》
「よくありましたね、お手洗いが。」
《ああ、なかったら今頃どうなっていたことか……。えっと、ここかな??》
窓がある部屋に行きながら萩原さんの車があるかを確認する。眼下には赤い車が停まっていた。
「はい、ここですここ。」
萩原さんは運転席から降り、寝そべる緑川さんを抱えて、
諸伏をソファーで寝かせた萩原さんは私たちに体を向けた。
「さて、説明してもらいますよ。何故、カーチェイスをしたのかについて。」
「何これ、尋問??」萩原はこの尋問なのかわからない不特定なものに首をかしげた。
「尋問ではありませんが……、いくつかこちら側の質問に答えてもらいます。」
「いや、だからこれ確実に尋問じゃあ……。」
その萩原の受け答えに苛ついた(名前)は、萩原の方に距離を詰めて威圧的にこう言った。
「尋問ではありませんので。事情聴取です。答えてくださいよ、萩原さん??」
どうして、カーチェイスなんかしたんですか??まるで脅しみたいだ、と(名前)は思ったが、気にしない。その問いに萩原は言葉が詰まった。
「っ。本当に君は、脅し上手だよね。いいよ、答える。君が、そう言ってたから、だろ??」
「そう言ってたからだろ、とは??」
「言ってた本人が忘れるんかい。君の頭はトリ、かな??」
「は??……あ。もしかして。」
萩原はフッと、鼻で笑って、
「思い出した??そう、君が『緊急事態なんです!!』って言ってたからだよ??」
私の声真似をしながら言った。うっざ。
「萩原さん、私の声真似やめてください。鬱陶しいです。」
「そう??わりとイケてたと思うんだけどなあー。」
「イケてないです。マジで。」
本当にイケてない。マジで。
「まあいいや。理由はそれだけ、だね。」
「いいんですかそれで……。はあ、わかりました。」
「ありがと!!(名前)ちゃん!!あとひとつ、質問なんだけど……。」
「どういたしまして。質問??なんですか??」
「緊急事態って、なにかあったの??」
核心を着かれた。迂闊だった。隠し通さないと。シドロモドロになり、萩原さんに心配される。そんな私を救ったのは__。沖矢さん、だった。
「ええ、少しトラブルがありまして。」
沖矢さん!?え、それ、言っていいの??
沖矢さんの目をみれば軽くウインクされた。絶対なにか策があるんだ。私は沖矢さんを信じることにした。
「トラブル……ですか??」
「はい。わかりやすく言えば、命を狙われている人がいる……。みたいなものでしょう。」
はあ。いや沖矢さん、あんた隠す気ゼロでは!?
「い、命を狙われているんですか??誰、が。」
「そこにいますでしょう??ソファーに。」
「まさか、諸伏ちゃん……!?ど、どうして……。」
組織にはできる限り関わらせたくないのに……。沖矢さんのそれにはどういう意図があるのか……。
「理由はわかりませんが、引き続き、貴方には諸伏さん……緑川さんの護衛をしてもらったほうが安全ですしね。」
え??てっきり諸伏さんはFBIに保護してもらってると思ってたんだけど……。
引き続き、護衛してもらうってこと??
え、でも、それだったら他の人でも可能じゃあ??
「お、俺が!?」
「貴方だけでも構いませんが、まあ、複数人で護衛すればもっと安全になりますし、ね……。」
「は??え、でもなんで諸伏ちゃんが狙われていて、その理由が不明なんですか!?」
「need not to know.と言えば、わかりますね??貴方にはそれを知る必要性が無いんですよ、萩原研二さん。貴方のような有能な警察官でしたらご存じですよね??この言葉の意味を。」
沈黙を美鈴がすくいとった。
「は、……そ、の言葉っ。な、んで美鈴ちゃんが……!!それに、必要性がないって……。」
「何故、ですか。残念ながら、貴方のその問いこそ答えられません。それこそ本当のneed not to know.なのですから。」
「納得できない!!なんで、諸伏が狙われるんだ、意味がわからない!!本人は何もしてないんだ何故っ。だったら俺も狙われるべきだろう!!」
「その「狙われると言う意味」を履き違えないでください萩原さん。」と美鈴が淡々と続ける。
「もういい、だったら俺がその犯人を調べてっ!?」
「馬鹿か!?萩原!!犯人を調べる=命がなくなるって言う意味なんだぞ!?」
「は……!?な、何を言ってるの(名前)ちゃん……。警察が犯人を特定するのは、あ、当たり前だろう??」
「……貴方のその行為で、とんでもない犠牲がでます。そのならず者たちが、犠牲が世に溢れてもいいのですか??萩原さん。」
「犠牲って……諸伏を助けるだけだろう!?何故それが犠牲に繋がる!?」
「貴方には、ううん、貴方たちは何もできやしないんです。助けようと思っても行動しようと思ってもできないんですよ。いえ、やらせてもらえないんです!!」
「ふざけるなっ!!」そう言って(名前)の腕を強引にはたく。
「いっ。」
「!!ご、ごめん、(名前)ちゃん。」
沈黙を沖矢が埋める。
「できるとしたら護衛くらい……ですかね??」
「どうして、何もできないってわかるんだ。やってみなければわからないだろう!?」
「萩原。もうこれ以上はやめろ。
起きた諸伏が淡々と言い放った。
「なんで、そこに
「萩原。それ以上は深追いするな。戻ってこれなくなる、勿論これも……。」
need not to know.(知る必要のないこと、)だからな。二人の声で、英語が合わさった。
「だから、気にするな、俺は必ず戻ってくる。」
「お前、話し、聞いてたのか……!?」
「ああ。」
「……わかった。沖矢さん、(名前)ちゃん。諸伏のためだ、護衛の件、皆にも話してみるよ。(名前)ちゃん、案内ありがとう……ごめん。」
「ええ。こちらこそ。」
「どういたしまして、次から安全運転ですよ!!はたかれたところは少しヒリヒリしますが動けないという訳ではないので!!大丈夫です!!」
「……本当にごめん。帰ります。諸伏、行くぞ。」
「萩原。俺は少し残る。コイツらと話したいことがあるし……な。」沖矢さんとコナンくんを目配せしながら言った。
「あ、あの。諸伏さんはそのままでお願いできますか??ほんの少しだけですから。」
「え??あー、わかった。」
そう言って帰っていった。
「お前らの話は聞こえてたよ。……ライ。」
「……俺は組織から脱退したから、ライではないんだがな。スコッチ。」
「俺も、お前と同じでもうスコッチじゃないから。改めて、あの時はありがとな、……えーと、赤井、であってる??」
「ああ。俺は礼を言われるようなことはしていない。寧ろこの少女に言ったほうがいいだろう。」
「え、私?」
「(名前)ちゃん、ありがとう。」
「いえ、あの……、私萩原さんに酷いこと言ってしまいましたから、全然お礼とか感謝される筋合いは無いんですよ……。緑川さん。」
「いや、萩原はお前が言わなかったら問答無用で『触れてはいけない』ことに自ら突っ込んでいってたと思うぞ。」
「だから、私が言ったことで、実質萩原さんは助かったということ……でいいんですよね??緑川さん。」
「ああ。俺は萩原達を巻き込みたくはないからな。」
「私だってそうですよ。あの三人を巻き込みたくないのは私だって同じなんですから。」
「それで、どうするつもりだ。」
と沖矢さん。
「工作員の前で偽装工作を。と考えています。」
その発言になぜか諸伏さんは呆れ口調になって言う。
「はあ……。今は沖矢昴……だっけか。……変声機もう外してもいいと思うぞ??俺たちはお前の事情を知ってるし、大丈夫だからな。」
「なら。外させてもらうとしよう。」
安心したのか、チョーカーの電源を言いながら切り赤井秀一として声を出した。
「……偽装工作の件ですが……。できれば、二度と貴方を、いえ、人自体を殺したくは有りませんからね、ですが、そうしないと私が殺されてしまいますし。仕方ないんですよね……。」
この組織に在籍する以上__。そう言った犯罪を犯さなければならない。仕方ないことはわかっている。やらなければ自らを死に追いやる。彼らは国家組織、警察官。国のためと自らを鼓舞し、組織で犯罪を犯している。そうしないと国を、国民を、守ることができないから。これは、正義なのだ。
彼らだって、人間だ。警察官、国家組織であるが同時に人間なのだ。彼らがやっていることは犯罪、だが組織が滅亡すれば、命の危険から脱却できる。そのために、頑張らなくては。(名前)は己を鼓舞するのだった。
その日の話し合いで決まったのは、諸伏さん、緑川さんは引き続き、『萩原さんの自宅で身を潜めること。』だったが沖矢さんの案で工藤邸に潜むことにした。そのため、萩原さん他二人に護衛をお願いすることを断ることに。
断りはなんとか成功した。萩原さんは仕方なさそうにわかりました、では、必ず諸伏を助けてくださいね。と念を押してきた。
「あとは、ジンを上手く撒いて代わりに工作員をあの場所に向かわせる、そしてその前で偽装工作を__。」
赤井さんと諸伏さんは、詳しい話をするから二人きりになりたいという理由で二階の誰も使っていない部屋にいる。
「でも、それ結局ジンにバレちゃうんじゃない??朱莉。」
「まあ、そうかも。あ、でもジンの前でやるのもあり!?かな??どう思う??」
「バレたあとのリスクは??」
「それは……。最悪あたしも諸伏さんも死んじゃう。だからね……そうならないために、案があるんだ。それはね。あの子にも協力してもらうこと。」
「あの子って……コナンくん??あ、じゃなくて、死神か……。」
「……死神って言わんで。コナンくんはコナンくんだし、新一だもん。私の大事な弟。」
まあ、ほとんどこの子供が来れば事件は起こるし人はバンバン殺されちゃうから、死神って言ってもしっくりくるんだよね。
「そか。あんたあの工藤有希子の養子だもんね。似てないけど。」
「いらんこと言うな。」
「で、どうコンタクト取るつもりなの??」
少し考え、まだ考え中だといったそぶりを見せる。
「明日阿笠博士のところに行く。」
「明日!?明日……は、帝丹小学校の運動会だよ……まさか行く気?」
抗議してくる美鈴。コナンと会える。このチャンスはモノにしたい。
「今何月だと思ってんの??六月過ぎて七月よ七月!!」
あれ、もう??と言いながらカレンダーをみた今の名を
「……もう、七月か……。早いね。」
「……もう、七月か……。早いね。」と言った実桜に向き合い、鋭く言った。
「これはチャンス。やるしかないでしょ?」
「あんた、なんでもチャンスチャンスって言うけど、モノにできた試しがないんじゃあ??」
馬鹿にされていることに気づいたのか怒る(名前)を苦笑いする美鈴。
「あ゛。あんにきまってんでしょ。決めつけないで。」
「そ、そんな怒んなくても……。」
「はあ……。」
短気な人も大変なんだなあと思う美鈴なのであった。
次の日__。
「コナンくん次ですよ、次!!頑張ってくださいー!!」
「コナンくん、頑張れー!!」
「江戸川くん、ベストを尽くしてきて。貴方なら出来るでしょ??」
「コナン!!オレが勝ったらうな重な!!」
「へいへい、わーってるよ。」
運動会が開かれる帝丹小学校の校庭は人と盛大な声援で溢れかえっていた。次の競技は徒競走。あらま、死神君、じゃなかった、江戸川コナンくんがでるみたいだ。そんな中(名前)はというと……。
「コナン!!ファイトー!!L・O・V・Eコ・ナ・ン!!」
額にピンク色のLOVEとかかれたハチマキ。をしている。
「浮くよ……あんた確実に。こっちがはずいからやめて。」
この叫びが聞こえたのかコナン君は恥ずかしそうに私を見ながらみんなに答えている。
「なあ、コナン。あの姉ちゃん誰だ??」
「んあ??って」姉ちゃんじゃん……。めっちゃ引いた顔をして言う。
きっとこの人だあれ??とか聞かれたんだろう。
「え!!コナンくんお姉ちゃんいたの!?」
「お姉さんいたんですね!!会いたいです!!」
「江戸川くん、災難ね。お疲れさま。」
「は、灰原……。」
「ほらコナン困ってんじゃん……朱莉。」
「うちのせいなん!?」
「そうに決まってんじゃん、あたしだったら絶対来んなーだよ。だって、目立つし。親がそんな格好来てたら変に注目の的じゃん??」
一度は納得はするのだが。ううん、やっぱり納得できない。
「そうだけど、でもコナンに頑張ってほしくて。」
「それだったら普通の応援でいいの。」
「でも普通すぎたらつまんなくない??」
「あんたの嗜好は変ね。あ、そろそろ始まるみたいだよ。」
校庭にはコナンくんの姿が。歩見ちゃんたちはテントで応援しているみたい。
この徒競走は代表の子供たちで争うのかな??
「コナン、ガンバー!!」
『さあ始まりました、一年生による徒競走です。』
放送部の人たちが愉快に司会進行しはじめた。よーい、ドン!!ピストルのおとが軽快になり、走り出す最初の子供たち。
『いやー、始まりましたね。遠藤さん。』
司会の話し声を聴きながらコナンがいつ走るのかを観察する。
『はい、もう一年生頑張って!!みたいな感じです。』笑みをこぼしながら言う遠藤さん。
『ははっ、そうですね。……おっと、赤組が、白組を越したー!!Marvelous!!』
『流石ですね、赤組。』
ヨーイドン!!
次のピストルがなった。その後もとくに変わらず。気づけば、最後のアンカーだけとなった。
「コ、コナン!!ちょっ、実桜コナンいる、コナン!!」
「はあ、なに??そんなに言わなくても聞こえるから。」
そう言いながらコナンのほうをみると念入りにストレッチをしていた。
『さあ最後はアンカーです。さて、遠藤さん気になる選手はいますか??』
『あー、いますね、白組の……確か江戸川コナンくん、ですかね??』
『江戸川……コナンくん、ですか??』
「コナン、頑張れー!!」元太の声と。
「コナンくんファイト~!」歩美の声と。
「赤組を追い越してください!!」光彦の声。
司会進行の声が響くなか、三人が応援する。そして、運命の音が鳴り響いたと共にコナンたち四人が校庭を駆け出した。
『走り出しました、さあどうなるのでしょう??おっと、江戸川くんが、ぬ、抜いたあーー!!三人抜き、三人抜きです!!』
感激しながら実況を進める司会の人。その声がした瞬間会場内でどよめきが上がった。
『いやあ、凄いですね、三人抜きだなんて。白組の江戸川コナンくんは、相当足が速いのでしょうね。』
『そうですねえ。』
実況の声と共に隣にいる美鈴に勢いよく話す。
「み、実桜実桜!!追い越したっ、追い越したよっ、それも同時に三人!!すごくない!?」
「うんうん、知ってるから、追い越したんでしょう。それは普通に凄いわ。」
「でしょ!?」
アンカーの結果は江戸川くんが堂々一位。
学年のテントに戻った彼は少年探偵団の皆に祝福されたそうだ。
それから午後まで運動会が続き、結果は赤組が勝った。私は帰るといい、工藤邸に行った。
「ただいまー……。」工藤邸に入るや否や聞こえてきたのは。
「
女の人の怒号だった。
「え。なに、これ??なんなの、この状況。」
「はあ。だからさっきも言っただろう。例の組織から(コードネーム)に指令があったんだよ。そいつは組織に潜入しはじめたのが先々月。つまり、わかるな??ジョディ・スターリング。」
「前に来た
「ジョディさん。ただ、その者は本当に私たちの味方……、なのでしょうか??」
「キャメル。安心しろ。そいつは完璧に俺たちFBIの味方だからな。……おかえり、帰ってきてたんだな、(名前)。いや、宮橋朱莉。それとも、こういった方がいいかな??(コードネーム)。」
(コードネーム)の名前を出すな否や、目を見開く眼鏡の女性とその女性より体格が横ばいになっている男性。
「え、あの。赤井さん。その者たちは??誰……でしょうか??」
くどっ!!名前一気に三つも言う必要ある!?くどいんだけどって思ったが、顔には出さず、そう問うた。
「何を言っているんだ、お前の方がわかっているだろう??なぜなら、転生者なのだからな。」
「て、転生者!?」ジョディと呼ばれる女性とキャメルと呼ばれている男性の声が合わさった。
お前の方がわかっているだろう??と、当然のように言われた。チッ、赤井さんなら快くこの人たちが誰で、どんな仕事をしているのか教えてくれると思ったのに。ってか、いいのか赤井秀一。(名前)が転生者であると言うことを教えて、いいのか!?
「ど、どういうことですか!!赤井捜査官!!」
「転生者って、そんな非科学的なこと受け止められるわけ無いわよ!?」
「俺に言われても困る。本人に聞けばいいだろう。そこにいるんだから。」
「(名前)だったわね、少し説明してもらえるかしら??」
いや、駄目だろう、タイムリーだ。あれ??タイムリーってなんだっけ。と思ったが、気にしないでおこう。
あ、そうだ、タイムリーっていうのは。
「タイムリー(timely)」
「タイミングの良いさま」や「好都合なさま」という意味の言葉。
そうだった、それだったわ。ちょうどよく駄目だ、やはりそうだ。イレギュラーだもんな。原作にこれまで以上に介入している私だもんな。あれ、ここで腑に落ちないことがある。
どうして、赤井秀一が殺されるのを阻止できたんだ??まさか、私たち以外に、転生者が……??だって、あり得ないだろう。今頃本来の原作ではコナンと赤井さんはまだ面識がないんだから。その頃の二人が協力関係を結ぶわけがない。それに冬とか秋だ。今の季節は夏だ。一月早い。
じゃあ、誰かが、赤井さんの暗殺を阻止したっていうことになる……。もうそれしか考えられない。
「聞いてるのか、(名前)。」
「へっ、あ、えっと、あ、すみません。な、なんの話でしたか??」
考えに夢中になって気づかなかった。
「はあ、もう少ししっかりしてくれればいいんだがな。ジョディがお前に聞いてるんだ、答えてやれ。」
「す、すみません。ジョディさん。」
「ジョディでいいわ。貴方、転生してるの??」
正直答えたくないが。仕方ない。
「勿論。」
「じゃあ、貴方、どこから来たの??」
どこから、どこから???
「に、日本です。」
「日本……。貴方がいた世界でも日本があったのね。貴方なんの仕事してたの??」
こ、こんなにヅケヅケと聞いてくるのか、普通??なんかかえって気が引けるのだが。
「公務員、と言えばわかります??」
「FBIみたいなものかしら??」
「ええ。」
沈黙。会話が続かない。面接じゃん。これ。暫く気まずい空気が続いた。それをなかったことにする勢いでジョディさん、ジョディ捜査官は赤井さんに話を振った。
「
「ああ、そうだ。紹介しよう、(名前)。」
そう言って、二人に目配せをする。
「俺たちはFBI、連邦捜査局だ。英語だとFederal Bureau of Investigation.だな。」
「正式名称については知ってるから、早くして。」
「……ほう、よくそんな怠けた口を利くようになったな、まあ、いい。この場にいる二人は俺も含めFBI捜査官だ、俺の左となりにいる女性はジョディ。ジョディ・スターリング。右にいる人はキャメル。アンドレ・キャメルだ。」
二人は私にたいしてお辞儀をした。
いや、全部知ってる。知ってる上で聞いた。ジョディさんのことも、キャメルさんのことも。そして、ジョディさんとベルモットには何かしらの関係があることも……。
「よろしくお願いします。」
「……ええ、よろしく。」
「こちらこそです。」
「で。赤井さん、何をみていたんです??」
「ああ。君の会話全て聞いていたよ。勿論、捜査のためだ。同意もなく勝手にやってしまい、すまない。」
謝った彼を見て呆れながら言った。
「はあ。またですか。たぶん、また盗聴するでしょうから。捜査のためでしたら、盗聴は許可します。そのときは連絡してください。」
そう言って、自分のスマホを操作して、赤井さんのアドレスを表示し、本人たちの前で堂々と見せた。あのとき、
『筋はいいな。俺の動きをよくみているだけある。』
『そんなに褒めてもなにもでませんよ。』
『その調子だったら真澄を越えるかもな。』
『何か言いました?』
『いや。俺に勝つにはまだまだだな。と思ってな。』
『む!!そりゃあそうですよ!!まだまだですー。』
「ああ、わかった。」
彼はメアドの事を思い起こしながらそう言った。
「よろしくです。それで__。」
(名前)を遮り、ジョディ捜査官が聞いた。
「それで
「安心しろ。適任がいる。」
適任。その言葉に(名前)は眉尻を曲げた。
「沖矢さん、用って何??あれっ?(名前)お姉さん。」
その人物に驚かざるを得なかった。その人物は__。
「来てくれたか、ボウヤ。」
江戸川コナンだった。新一でもある彼を何故FBIが頼るのか??
「え、こ、コナンくん……。」
驚きのあまりこう言うことしかできない。
「い、いつの間に……。どうして。」
「俺が呼んだ。今回の作戦の要になる、と確信してな。」
「ボクは詳しい話は聞いてないんだ。(名前)お姉さん、赤井さん説明して貰えるかな??」
やっぱりその口調だもんな。いくらコナンくんでも新一だと思うと、少し気分が悪くなる。
「ああ、じゃあ、君はスコッチを知っているかな??」
「え?うん、知ってるよ。お酒でしょ?おじさんがたまに頼んでくるんだ。……まさか、それが組織に関係あるっていう訳じゃあないよね??」
「お見事だ、ボウヤ。その通りだ。」
コナンくんは間を開けてから
「そこでボクに協力してほしいんだね??赤井さん。それでそのスコッチっていう人はどこにいるの??」と言って。まるで赤井さんが言おうとしたことを理解しているように。
「ああ。今スコッチは二階にいる__。」
そう言いかけたとき。
「やあ、君が
「……貴方が、コードネームスコッチなんだよね?緑川光さん、いや。諸伏景光さん。」
彼の本名を的確性をもって小学生らしからぬ声で告げた。
スコッチ。いや、諸伏は自分の名前を言われたことに驚きつつ、冷静を装い間をおいてから、放つ。
「流石だね。
「
コナンの発言を遮った。
「おっと、それ以上は言わないでくれ。言いたくないんだ。なぜなら、零に怒られるからね。」
「もしかして、その人も今回の件に関係あるんじゃあ。」
「いいえ、無いわコナンくん。」
彼、江戸川コナンは予想外だというように言った。
「ジョディさん、ど、どういうことですか!?」
「今回の件はあの人は関与させないつもりだから。」
「ああ、心配をかけさせたくはないからね。それに、君は一度俺を助けてくれた。それはまた別の形で変えさせてくれ。それに、君は守ってくれるんだろう??俺を。」
「え、それどういうこと、(名前)お姉さん、諸伏さん。」
その答えを無視して、(名前)は諸伏と会話を続ける。
「そ、それは勿論、命に代えてでも守り抜きますから。……いえ、いいんですよ返さなくても。それにあの時も言ったでしょう??私が助けたいからやったんですから。」
「無視かよ……姉さん。」ぼそりとコナンがつぶやいた。
「俺たちを助けたこと、礼をいう。」
「いえ、私が助けたかっただけですから。」
「……いや、俺が返したいんだ。代えさせてくれ。」諸伏はそんなコナンを垣間見たが、(名前)がコナンに声をかけるそぶりがないため、仕方なく、(名前)に合わせた。
「いえいえ、本当に返さなくても結構ですから。」
「返したいんだ、君に。だめか??」
「本当にいいんですよ。返さなくても。私はそれ相応のことをしたわけではありませんし、それに恩を返してもらうほどの人間ではないんですから。本当にいいんです。」
その答えを聞いて、諸伏は困り果てた表情をした。
「まいったな。ガードが堅い……。」
「ん??何か言いました?」
「いや、何でもない。兎に角何か代えさせてくれ。」
「……。だからいらないって言っているでしょう。私の意見を無視するおつもりですか??」
その答えに諸伏は口をつぐみ、うつむいて。そして意を決してこういった。
「俺が、後悔するんだ!!君に!!これ以上何もしないわけにはいかないし、あのままだったら俺、自殺していたから。本当に君には感謝しているんだ、感謝してもし足りないくらい……。」
その言葉に(名前)は吐息を吐いた。
「……そうですか。わかりました。じゃあ、この作戦が終わったら何か奢ってください。」
彼は目を見開きながら、
「……そ、そんなのでいいのか!?ほかにもっとあるだろう!?」
「いいんです。いいんですよ。諸伏さん。と、いうわけで奢ってくださいな。」
「ああ。勿論だよ、(名前)ちゃん。」
その会話を終わらせたあとちょうどよくコナンがねえ、と言ってきた。
「どういうこと??諸伏さんのことを助けたって言ってたけど何かしたの??」
「うん、状況は今と似ていたから。数年前、私は諸伏さんを助けたんだ__。」
といってあの時のことを話し始めた。
数年前__。
「たぶん、今頃……かもな。だけど、諸伏さんが現れる兆候が無さすぎる……。何故だ!!何故なんだ!!教えてくれ、アーメン!!」
原作では諸伏さんが自害してしまう時期はちょうど今頃__。だから数日前からあの倉庫に出入りしているのだが。
一日前も。
「居ないし、変わらない!!」
二日前も。
「居ない!!」
三日前も!!
「来てないし……。まあ、そりゃあそうだよな。」
そして、現在。
「全く兆候が無さすぎる!!」倉庫の真ん前で大声で叫ぶ。
しかも、よく組織の連中にバレないな。自分でも感心してしまう。
「はあ……。とりあえず、帰ろうかな。……でもこの台詞だけは言っておきたいかも。確か最初の台詞は……。」
その途端、ドサッ!!という物音がして。
「『俺に投げ飛ばされるふりをして俺の拳銃を抜き取るとは……命乞いをするわけではないが。まずは、俺を撃つ前に話を聞いてみる気はないか??』」
「は??な、ん……で。」
その声と朱莉の声は同時だった。
目の前にいて声がする。なんで赤井さんがいる??
「け、拳銃はお前を撃つために抜いたんじゃない……。」
諸伏さんの覚悟の声が木霊して。
「こうする……ためだ!!」
そういいながらその拳銃を自分の左胸に当てる。赤井さんが言った。
「無理だ……、リボルダーのシリンダーを捕まれたら人間の手で引き抜くことは不可能だよ……。」
そして、_____この台詞。
「自殺は諦めろスコッチ……。お前はここで死ぬべき男ではない……。」
「何!?」
諸伏さんの驚愕の声。
「俺はFBIから潜入している赤井秀一……。お前と同じ彼らに噛みつこうとしている犬だ。」
原作通りになったらまずい。亡くなるのは避けなきゃ。こう考えている間にも彼らの会話は途切れない。
「__お前一人逃がすぐらい造作もないのだから。」
「あ、ああ。」
確かそう言われたあと、階段から足音がするんだっけ。そこで、自害__、もう、その時じゃないか!?よく耳を澄ませたらもう、足音が微かにしてるし!
もうやるしかない。そう思ったとたん。
「誰だっ!!」
赤井さんが(名前)に向かって叫ぶ。肩がビクリと勢いよく跳ねる。(名前)に気を取られている間に足音は徐々にこっちに向かってくる____!!
「誰だと聞いている。答えろ……っ!!まさか、ジン……か??」
目の前の少女はこう言って。
「答えない、答える義理は、__無い!!」
明らかにボスではないことを判断した赤井さんは再び(名前)に向かって声を荒らげる。
「答えろ!!」
不味い足音が徐々に近づいてくる。これを逃せば、彼は______!!小さく彼の名前を呟き、
「死ーぬーなアァァァァ___!!」怒涛の如く叫んで。勢いをつけて走り出した。彼を死なせないために____。そして、左胸を撃つ直前、一瞬。そして赤井さんの注意がそれたその時____。
(名前)は彼の懐に近づき、彼の銃を持っている左手を急いで掴んで勢いよく上にあげた。
その瞬間バン!!!引き金が引かれた。
「っ……。___死ぬな。死ぬな諸伏!!お前は、死ぬに値しない人間だっ!!」
「……っ。君は誰だ!?追手が来るんだ邪魔しないでくれないか。」
そして、その階段の音がこちらに現れた。
その人は、金髪の彼。降谷さんだった。降谷さんは唖然とその光景を眺めている。
原作だったら降谷さんが来る直前に諸伏さんは自害し、その降谷さんに赤井さんは「裏切りには、制裁をもって答える……。だったよな??」と言い、諸伏さんのことを詳細に彼に伝え、「おかげでソイツの身元はわからずじまい……幽霊を殺したようで気味が悪いぜ……。」と残し、去っていったはず。
「何が……何が、邪魔しないでくれですか!?貴方が、死なれたら悲しむ人たちが沢山いるんです!!」
「悲しむって……。それは君にしかわからないだろう、それに君は、誰だ!?」
「分かります!!分かるんです!!私はっ、正真正銘の普通の一般人なんです。なぜここにいるのか、答えるのは省きますが!!」
「じゃあ、なぜ一般人がここにいる??まさか、組織の一員じゃないだろうな。」
だって原作を見ているから。あの足音はジンじゃなくて、零だったんだから。
「俺はやってはならないことをしたんだ!!殺されるのは当たり前だろう、俺は死ぬことでそれを果たそうとした。なのに!いきなり君が現れて自害を阻止されたんだっ。こっちの気持ちも分かってくれよ!?」
いかにもそれが正論だと言うように捲し立てた。確かにそれも正論だ。だけど、こっちの気持ちも考えてほしい。こっちは亡くなったあとの降谷さんを何回もみてきたから。嫌なことをそう言いたくなった。だけど、それだと私のことがばれてしまうから喉から手が出るのを必死に我慢した。それに、だって言えるわけ無いじゃん。
『どうして……降谷さんを。降谷さんをっ!!置いていったんですか……。』
『なんで、置いていったの。
『なんで、降谷を置いていったんですか!?』って。
諸伏さんを含め、あの四人に!!
ここには貴方が、存在しているのに。いない風に言われたら貴方は悲しいかお、するでしょ??
『まるで、死んだ風に扱うんだな……君は。』って言われるかも知れなくて。それが、怖い、恐いんだよ。
「スコッチ。」
「!?バーボン……。」
降谷さんが諸伏さんに呼び掛けるが無視して、続けた。
「……それは、申し訳ありません。ですが、誰かの変装ではありませんし、正真正銘の一般人なのですから。それに、変装の達人はベルモットでしょう?」
「な、なんで、ベルモットを部外者が知ってるんだ。不自然すぎるよ。」
「だとすると、組織の関係者だとしか考えられないが。そうでなければスコッチの本名を答えられるはずはないだろう。」
不審者を見るような目で(名前)をみてそう告げる。
「私は、一般人だ。それ以上も以下もない。……諸伏さん。」
屈しなかった。屈する暇もなかった。ただ、この四人のために、日々を生きてきた。その(名前)の努力を、朱莉の努力を水の泡にするようなことにはしてほしくなかった。だから、
「自害しようと、しないでください。」
彼の目をはっきりとみてそう言った。
「っ……、は??公安だとばれたんだ。だから、死して、償おうとした。それのどこがいけないんだ。教えてくれ。」
「教えなくてもわかるでしょう?貴方が、死ねば、悲しむ人たちが沢山、沢山いるんです。」
息をはく。泣きそうになった。原作を見てきているから尚更その思いに心を馳せた。
脳裏に原作軸の降谷さんが浮かんできて。彼の喜怒哀楽を、みたけど、彼らが亡くなってから彼は作り笑いをするようになって。ああ、私、宮橋朱莉が見たかったのはこの光景なんだなって。気づくことができた。
「だからっ……。じ、ぶんの、命を粗末にしない、でっ、くださいよっ……諸伏さん……っ!!」
「そうだぞスコッチ。命を粗末にするな。……お前が、無事で、本当に、よかった……。」
「ごめん。……バーボン。」
「もう二度と。命を粗末にする行動は控えて貰いますよ。スコッチ。……ライ。」
すがるように言う降谷さん……バーボンに、諸伏さんは阿吽の呼吸で理解して
「ああ、わかった。」
と言った。バーボンの口調が抜けていることにハラハラしたが、円滑に終わってよかった。
「なんだ。」
不満げな対応の赤井さんに、降谷さんは一夜報いるつもりだったが、赤井さん……ライのその態度に嫌気が差したらしく、言うのをやめたらしい。
「……いや、何でもない。」
「はあ。俺はもう帰る。じゃあな。」
だが、今は「裏切りには、制裁をもって答える……。だったよな??」という会話はなく。彼女、(名前)の嗚咽と二人で楽しげに笑うバーボンとスコッチのこえが響いていた。
「……そういう、経緯があったんだね。(名前)お姉さん。」
「うん。」
「それで、この事とどう繋がるの??」
「……殆ど、同じ作戦で行こうと思う。」
「え、どういうこと??」
「あれ、わかんないかな。江戸川くんなら、分かるでしょ。」
(名前)は、普段江戸川くんとは言わないが、彼なら分かるものが分からないというのは、彼をすみからすみまで網羅している人からすると困惑する、の一言のみで。その混乱さを現すために、敢えて。彼を名字でそう呼んだ。彼は少し考える素振りを見せ、解ったと言うように私の瞳をみて。
「その数年前と似たような状況にするってこと、でしょ。」
「うん。流石だね、コナンくん。」
「赤井さん。ジョディ。キャメル。」
「詳しいことは赤井さんから聞いて貰ったほうがいいけど、今のところ、私が数年前に緑川さんを助けたときとと似たような状況にして、彼を救出する作戦を考えているんです。それに関して、適切ですか??」
「ほう……。」
「あのときと同じことを言って、行動してください。つまり、あのときの状況の通り、演技をお願いします。」
「演技……か。わかった。」
「演技……ね、頑張るよ零程ではないけどね。」
「キャメル、ジョディは、彼らのサポートをお願いできますか??なんか、私がリーダーみたいになってしまって凄く申し訳無いんですけど……了承、していただけますか??」
「わかった。」
「わかったわ。」
彼らは二つ返事で同時に応答した。
「間違いなく、彼を関与はさせません。これ以上は負担をかけさせたくはないので。」
「彼って……安室さん??」
「うん。そうだよ。……緑川さん。聞いてほしいことが、あります。…あなたの親友様を決して傷ひとつつけさせません。私自身、彼を関与させたくはありませんので、彼にはその作戦を、隠蔽します。そこのところはよろしくお願いします。」
彼は驚いたのか目を見開き、一言置いて。「隠蔽っ。」そう言った。
つまり、彼には言わないでくれ。ということ。その準備着々と進みはじめていた__。
その頃。黒の組織セーフハウス地下室。
二人の女子研究員が、ある人間の入った機械を見つめていた。
「これが、クローン??ホントなんですかね??まるで、ただの人間じゃあないですか。」
「私たちはこれを製作しろとしか言われてないから、上が何をしようとしているのか知ったこっちゃないわ。」
ピー。と言うおとがして、その中の人間がでてきた。
「ヒッ!だ、だあれ??(名前)、知らない!!こ、こわい!!」
「大丈夫よ。安心して。ね??」
「うっ、うえええええん!!」
「はーい、じゃあ、服に着替えて、ごはん食べましょ??」
「ご、ごはん??」
その人間は女の子で。話したかと思えば泣き出した。
「ソックリね。オリジナル……だっけ。たしか、」そう言いながら、テーブルに向かう。少女の機密情報、ううん、オリジナルの情報がすみからすみまでかかれている資料に手を伸ばした。
「(苗字)(名前)です。先輩。」
「あ、そう、そうだったわね。上層部は何を考えているのやら。厄介なことに使われないといいけど。」
「そうですね。たしか、えーと、転生者らしいですよ。」
「へえ、そういう人がいるのね。え!?て、転生者??」
「じゃあ、だとしたら、あの教授の目的は__!?」
そう言いながら、二人は顔を合わせた。
まさかこの少女が、あの残酷なアポトキシン4869の実験に使用され、廃棄されるなど、誰も思わないだろう。地獄は着々と進みはじめている。
黒の組織__アジト。
「木原教授。あの実験は。」
「おお。あの実験か。あのときと、同じことはもう繰り返さないように緻密に練ってあるぞ。なにせ、組織は死者を蘇らせる薬を開発しているのだからな。そして、その実験のデータは、脳のシナプスを通して、演算装置に繋いである。だから、それを活用すれば、永遠に実験を続けることが可能となる。あのときの、報いを、御坂美琴への執念をいま、果たすのだからな!!」
「ええ。そうですね、絶対に、成功させましょう!!」
まさか、この助手は思ってもみないだろう。それが、残酷な実験なのだと。どうやら教授には薬を作る。という目的のもとクローンを開発しているとしか言われていないのだから。その本当の目的を知れば、恐怖で身がすくんでしまうだろうから。
ある装置で、彼女たちの年齢を一気に引き上げる。20歳に。いや、だめだ。14にしよう。そうすれば、抵抗はしないはずだ。
教授の不気味な笑い声だけが響くのであった。
二日後__。
「安室さん、梓さん、お疲れさまでした!!失礼します。」
「お疲れさまでした。」
二人の声が(名前)の耳に木霊した。ポアロを出てすぐ裏路地に移動をする。
さて。実行開始だ。事前にハッキングしておいたジンのメアド。を使って緑川さんに偽のメールを送る。
『スコッチ。今すぐ、あの場所へ来い。』
送信後。『送信完了しました。』の文字がスマホに表示された。
うん、数分で来るはずだ。
「赤井さん、緑川さんに送信しました。」
『ああ、俺はあの倉庫にいる。スコッチが来たら、連絡する。』
「了解しました。」
そこで電話が切れ、それを合図にあの倉庫へ移動し始めた。もちろん徒歩だが。
「車あればよかったかなあ……。」
そういったその時、肩をツンツンとたたかれ、後ろを振り向いた。
「あの、どうかしましたか……??て安室さん!?」
「君は今どこに向かおうとしている。」
「時間がないんです、放してください。」
真剣な表情の彼を突き放すように言うが彼は全く動じる気配がない。
「答えてくれ。」
「いえ、ほんと時間がないんで。……赤井さんから、電話……。電話に出るので、手、離してくださいませんか??」
ほんとに時間がないと言ったとき着信音が響き、赤井さんの文字が表示されたのを確認する。いつのまにか掴まれた左手を離して貰い、電話に出た。安室さん、彼はぶつぶつと文句を言っていたが。
「どうしましたか??」
『彼が、来ないみたいだ。様子を見て貰えないか?いま、俺はここを離れられないんだ。どうやら、時間のようだ。失礼する。』
「はっ!?ちょ、ちょっと、赤井さん!?」
もしかして、狙われた??
「どうしたんだ。何かあったのか??」
「諸伏さんが、危ないんです。」
「はっ…、景が!?何かあったのか??」
その問いに、答えたくないと言う思いがよぎったが、仕方ないと開き直り、彼にことの経緯を説明する。
「こうしている暇はない!!早く車に乗れ!!」
「えっ。」
「狙われているんだろう組織に!!いま、僕は安室透としてしか動くことはできない。だから手助けをすることくらいしかできないが!!……必ず、助けろよ。僕の親友を。」
「勿論です。絶対に死なせませんから。」
諸伏さんとの約束破っちゃったなあ。
駐車場に行き、あの倉庫に送って貰うため。彼は車を走らせ、(名前)は彼、諸伏さんに電話をかけた。
「諸伏さん!!どこにいるんですか!?」
『……(名前)ちゃん。』
私の名前を途切れながら呼ぶ。
『左肩を撃たれちゃって。』
「な、なにやってるんですかあ!?」
肩を撃たれただけだったら抑えながらでも歩けるだろう??
『多分、奴らに俺の居場所が……知られた……かも。』
「は!?」
すると、ヨロヨロ歩く諸伏さんに似た人を見た気がして、彼に近くの歩道に車を止めるようお願いする。諸伏さんの近くに行き、急かした。
「諸伏さん!!はやく、乗って!!」
「……あ、ああ。そういえば、ジンからメールが届いたんだ……。って、降谷……。」
急いで諸伏さんの手を引き、車に押し込んだ。零さんに気づいた諸伏さんは(名前)の耳元で「なあ。」と小声を出した。そして、スマホの通話を切った。
「どうして、
「簡単に言えば彼に迫られました。圧迫面接……みたいな感じですかね。」
「おい。誰が圧迫面接だって??」
物凄い低い声で言われた。どうやら聞こえていたようだ。
「圧迫面接なんてそんな物騒な言葉、言ってないですよ。降谷さん。ね、そうですよね、諸伏さん。」
彼は、ワンテンポずれたようにああ。という。パッとしない感じだ。
「降谷じゃない。安室だ。」
「ああ、そうでした。すみません安室さん。」
「もう降ろすぞ。いいな。」
「え、うそ。もう着いたんですか??」
降谷さんは深いため息をつき、あきれたようにそう言った。
「僕が居れば支障が出るんだろう??」
その言葉にドキリとして喉が渇くのを覚えた。
「お前がこういうことをするっていうことは何かあるんだろう。だから、理由は聞かないが、」
そう言って、後ろの席の(名前)の目をハッキリとみながら、
「必ず、説明して貰うからな。(名前)。諸伏を、頼んだ。」
「は、はい!!」
この頃__。
「第十回アポトキシン4869投与実験を開始する。被験者は、(苗字)00010号。」
「はい。」
木原教授が少女……(苗字)00010号に言い、手首と足を壁に取り付けた輪っかに入れて固定していく。
「この実験は十回目だ、覚えたかな??」
「はい。覚えています。」
彼はにこりと笑ってそうかそうか。と言う。
「協力者がいないのは辛いなあ。」
そして、
「さあ、飲ませるぞ。」
目の前にいる
「ぐっ……。うっ。」
「苦しいか、苦しいかあ??」
「がっ、っ、あ゛あああ゛ああ゛……!!」
呻き声をあげ、体から煙が出始めた。
「効果が、出始めたな。よし、おい、一気に薬をいれる。持ってこれる分持ってこい!!って、俺しかいないんだもんな。」
教授は薬をとりに実験室から出ていった。
少女の悶える声が部屋中に盛大に響いていた。しばらくして
「よし、持てる分全て持ってきたっと……、絶えたか。……ちっ。用済みだ。廃棄室に移動しろ。」
少女が、倒れ、息絶えていた。その姿を忌々しげに見つめ、木原教授は側にいた部下に言う。
「!!は、はいただいまわかりました。木原教授。」
「実験終了だ。ちっ。進展がみられない。もっと効果をあげないとな。」
「おい。終わったか。どうだ、木原。」
「おやおや、ジンさん。ええ、終わりましたが、今のところ、薬投与後数分で死んでしまうんだ。だから使えないんだよ。」
「そうか。死者を蘇らせる薬とも平行して使っていかないとな。おい、被験体はどこだ。」
「近くのボイラーに移動してありますが。」
「……細胞を取り出す。利用するもんは利用する。早く取り出せ。木原。」
「ああ。わかったよ。」
木原はボイラーがある部屋に向かった。それを見計らったようにウォッカが声をかけた。
「アニキ……。あの薬を大量に使えばコストが大幅に増えて、作れなくなってしまうぜ。」
「薬が足りなくなってきたらやめさせるつもりだ。ただあいつが言うことを聞くか、どうか、だな。」
「そうですぜい、アニキ。さあ、任務に戻りやしょうかい。」
そう言いながら、教授がいるボイラー室に歩を進めた。
「な、なによ、あれ。あんなことしてたの??木原ってやつ。」
「そうみたいですね、先輩。クローンだって、生きているのに。自らの私欲だけでこんな、こんな、残酷なことをするだなんて。私だったら耐えられませんよ。」
ボソリと言う教授を異様な目で見つめる二人の影。小声で話している。
「それは、誰だって、耐えられるはずないんじゃない??あんただけじゃないわよ。たしか、あの木原ってやつも転生者なのよね。危機感持たないとヤバイわ。」
「何がヤバイんです??」
「科学者が組織と関係を持ったことで、あの薬が出回る危険性があるから、よ。」
「そんな出回るんですかね、あの薬。」
「ええ。裏で、ね。あの薬が出回る=実験が成功する、ということになるわよ。しかも阻止しないと、あいつがなにをしでかしてくるか分からないし、オリジナルに危害が及ぶもの。米花町、いや日本全体に影響がでるわ。はやくもとの世界に戻さないと。しかもクローンをあんな風に使って……。ひどいわ。」
「先輩。どうやって、もとの世界に戻すおつもりですか??そして、それはオリジナルは知ってるんですか??」
「それなのよ、非現実的だし。手段が確立されてないから困ったものだわ。オリジナル??知ってるかどうかは分からないけど、でもいずれ知ることになるわよ。」
「絶望、しないといいですけど。」
モルモット。彼女たちは自らを実験動物とよび、余計な私欲を持たないように訓練されている。これが吉か、それとも凶か。
研究員の彼女たちは、毛利探偵事務所に向かうべく足を動かした。
赤井さんが待っているあの倉庫への階段を上っていく。ひたすら。
「すみません、遅くなりました、赤井さんっ!?」
焦って謝りながら、赤井さんの側へと動く。ところが赤井さんがいる場所まであと1mになったそのとき、赤井さんに手で遮られた。
「待て。ジンがいるぞ。静かにしろ。」
なにかブツブツ言っているが、回りを見回しなにもないことがわかり、踵を返した。
「ふう。やっと去りましたね……「俺に投げ飛ばされるふりをして俺の拳銃を抜き取るとは……命乞いをするわけではないが。まずは、俺を撃つ前に話を聞いてみる気はないか??」……そうだった、私が来たときこれが合図になるって話したんだっけ。」
いつのまにか諸伏さんもあのときの体制で。赤井さんとともにその場所にいた。
『それで、演技をはじめるタイミングは、どうするんだ??』
『ああ。それなら私が来たときで。』
『了解。零よりはできないけど精一杯頑張るよ。』
『ありがとうございます。じゃあそれで、お願いしますね。』
脳裏にその会話が浮かばれた。
「け、拳銃はお前を撃つために抜いたんじゃない……。こうする……ためだ!!」
「無理だ……、リボルダーのシリンダーを捕まれたら人間の手で引き抜くことは不可能だよ……。」
演技は着々と進む。私が撃つのは、赤井さんが気をそらしたとき。撃ったら赤井さんが工作員を数人呼ぶ。そんな計画だ。ほんとは撃つそのときだったが工作員を呼ぶのに、時間がかかるため、諸伏さんには数秒息を止めて貰うようお願いしてある。
「自殺は諦めろスコッチ……。お前はここで死ぬべき男ではない……。」
「何!?」
彼らの演技をみながら、計画の変更を諸伏さんたちにのべたときのことを思い返す。
『すみません、ほんとは撃つそのときに、工作員に証拠として見せる予定だったんですけど、時間的に間に合わないので……。』
『いや、大丈夫だよ。バテないように、頑張ろうかな。息を数時間止めるのは……流石に、自信ないけど……。』
『ああ、大丈夫だ、問題ない。』
『すみません、急に。』
『それくらいよくあることだ、気にはしていない。気を病まないでくれ。』
『あ、ちなみに、防弾チョッキと、
『うん、わかった。ありがと。(名前)ちゃん。』
「俺はFBIから潜入している赤井秀一……。お前と同じ彼らに噛みつこうとしている犬だ。」
この声で現実に戻される。
「さあ、わかったら拳銃を離して俺の話を聞け…お前一人逃がすぐらい造作もないのだから…」
「あ、ああ。」
さて、このあとはコツコツと足音が聞こえるはずなんだが……、私が階段を上ればよかったか??考え込んでいると、階段のほうから足音がした。その瞬間、私は銃を構え、防弾チョッキが仕組まれている諸伏さんの胸もとに銃弾を飛ばした。
「誰だ??あの作戦を知っている人はここにいる三人とあの二人以外いないはず。じゃあ誰が??」と思い、赤井さんに「工作員、数人お願いします。」と言おうとしたその時。
「お姉さま。何をしておられるのですか??」
私と同じ声が空間に響いた。
「は??だ、誰よ!!ってか、その見た目で話さないでよ、気持ち悪い!! 」
「お姉さま。実験は通常通り進んでおります。」
「え、なに、実験って聞いてない。てか、私あんたのお姉さまじゃないんだけど、」
「……ご苦労。(苗字)11154号。」
「はっ??き、木原……な、なんであんたが、ここに……。」
「その反応じゃあ、お前が転生者だというのは本当のようだなア。だとしたら、知っているだろう、御坂美琴を……。」
のどがひゅっとなった。
「い、いますることじゃないでしょ。その話。ここではあの町のことを知らない人がほとんどなんだから。」
「戻る方法を探していてなあ。」
「なあ、話中、失礼する。あの町というのは、そもそも君たちが話しているのはどういうことなんだ??」
「……赤井さん、今のあなたには関係のない話ですので、気にしないでください。」
「そうか、わかった。とりあえず工作員を呼んだ。すぐに来る……、ジョディ。」
赤井さんにわかりましたといってすぐ、あいつに視線を向ける。
「まさか、あの実験を、行おうとしているの!?正気じゃない!!今すぐやめろ。」
「ちょうどアポトキシン4869が大量に余っていて__。」
「ふざけんな。やめろ。クローンを殺すなんてまたみっともないことやってるんだろ??やめろ。今すぐ学園都市に帰れ。ここはお前がいる世界とは違う。」
「フハハハハハ!!残念だなあ、実験は実行中だよ。」
急に彼は笑い始めた。
「は??」
「これを見てくれ。」
彼の携帯にあったのは実験の一部始終が録音された動画だった。
『さあ、飲ませるぞ。』
『がっ、っ、あ゛あああ゛ああ゛……!!(苗字)は、(苗字)は……、ぐ……屈しません!がああ……はあ、はあ。』
「や、やめて……。」彼女の苦しそうな表情をみて、悲痛な声を漏らす。
『効果が、出始めたな。よし、おい、一気に薬をいれる。持ってこれる分持ってこい!!って、俺しかいないんだもんな。』
『よし、持てる分全て持ってきたっと……、絶えたか。……ちっ。用済みだ。廃棄室に移動しろ。』
「は、廃棄……!?や、やめ……。そ、そんな。」
このほかにも数十個にも及ぶ実験関連の動画を見せられた(名前)は打ちひしがれた。
その姿を見た木原は満足そうに去っていった。
御坂美琴の気持ちが想像以上だっただなんて、彼女は強かったんだよね。うらやましいな、たいして私は強くないもの。だったら彼女の気持ちもわかるな。
「私は犯罪者。死んだほうがみんなのため。私のこの考えは正しいでしょ??」そう小さく独り言ちた。
「おい。スコッチはどこだ。」
「ああ、ここだが。」
「……血、と銃弾……。よし確認した。俺たちは証拠をジンに報告する。お前らも写真撮って送るんだな。確か、指令を受けたのは、(コードネーム)だったよな。」
「ああ。そうだな__。「了解。無駄な話は避けて、すぐに帰れ。」」
赤井さんの言葉をさえぎり工作員をにらんで高圧的に淡々と言った。工作員はただちに帰っていった。
「っは、(名前)ちゃん、息止めるの疲れたよ。よし、帰ろうか。(名前)ちゃん??」
「……了解。」
はたして、実験を止めることはできるのか__。そして彼女を救うことはできるのか__。
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