冬の燕は何を想うのか (はるまげ丼)
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本誌:燕の子安貝③ if

クリスマスパーティ後、子安つばめにゲストハウスに誘われる石上。
ベッドの上で誘惑されついに石上は子安つばめを押し倒してしまう。




 

 

「好きになってくれてありがとう、の気持ち。」

 

「なんだよそれ…」

 

クリスマスの夜、大好きな先輩に招かれたパーティ。

ゲストハウスで二人きり、雰囲気もよかった。

これはもう僕も神ってしまうのでは、と興奮した。

 

僕は改めて自分の気持ちを彼女に伝えた。

しかし彼女、子安つばめ先輩からの返答は「付き合えない」、というものだった。

 

問題はその後、断るのならなぜ誘うような真似をしたのか。

僕にはそこが理解出来なかった。

 

「好きになってくれてありがとう。付き合えないけどせめて身体だけは好きにしてもいいよ。」

 

つまりはそういうことである。

 

同情で愛されてるフリなんてされたくない。

その言葉が喉まで出かかったが、なんとか飲み込む。

 

身体の関係を持つのは好き同士のすることだと思っていた。

だが、今彼女を目の前にして今まで積み重ねてきた僕の中の何かがガラガラと崩れ落ちて行く音がした。

 

 

 

┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈

 

 

石上優という男は、発言こそスレているが根は純情である。

中学のあの一件までは普通に女の子は好きだったし、恋愛に夢も見ていた。

キスやセックスは好きな人同士ですること。

いつか自分にも好きな人が出来て、愛し合う事があるんだろうと思っていた。

 

 

最初は大友京子。苦い思い出になってはしまったが、会長や四宮先輩、藤原先輩のおかげで立ち直り、過去に決別することが出来た。

僕のやった事はゴミ箱に捨て置いたとしても、結果としては大友は別の学校で笑顔で平穏に生活できている。

当初の彼女を守りたいという目的は果たされている。

 

 

 

そして傷を乗り越え、初めて心から好きになった、好きになれた人。子安つばめ。

 

彼女は体育祭の時から、僕に普通に接してきてくれた。

周りから僕の過去を色々聞いたりもしただろう。

中学の時、大友の一件であることない事色々言われた僕だ。

彼女も内心、僕に対する良い印象なんて持ってなかったかもしれない。

他に思いつくこととしたら、チームの雰囲気を壊さないために話しかけていた、というところだろうか。

当時の僕は彼女がまとめ役だから嫌々でも話しかけてくれていると思っていた。

 

でも、違った。

 

全部僕の思い込みだったんだ。

彼女はただ、純粋に僕と仲良くなろうとしてくれていただけだった。

 

僕はこの体育祭で、世界の見方が変わった。

こんな僕でもみんなと一緒に居ていいんだ。

そう思えた。

そう思わせてくれたのは他でもない、彼女だ。

もちろん他のメンバー、団長、大仏や小野寺も、今では少しは仲良くやれるようになった面々のおかげもあるが、僕の記憶に鮮烈に残ったのはやはり子安つばめだ。

 

そして時は過ぎ、文化祭。

憧れの彼女と一緒に文化祭を回ることが出来た。

本当に嬉しかった。

恋愛初心者の僕からしたら上出来だ。

当時『奉心伝説』のことを知らなかった僕は、公衆の面前で特大のハートのクッキーを送り、あまつさえ『これが僕の気持ちです』だなんて…。

 

あの公開告白を今思い出すだけでも顔から火が出そうだ。

それからしばらくはちょっと避けられてしまったけど、またこうやって前のように話せるようになってきている。

あの文化祭の時から夢のような時間を過ごせて、今もそれが続いていると思っていた。

 

だからこそ、

そう、だからこそ恋愛なんてまともにしたことがない僕にとって、彼女の発言はとてもでは無いが受け入れ難いことだった。

 

ゆるふわビッチ、誰とでも寝る股の緩い女、陽キャだからどうせ経験人数も多いんだろう、ルックスのいい女は相手なんて選り取りみどりだもんな、そりゃそうだ、現に彼女は学園の多くの男子から告白もされているし付き合った人数も経験人数もきっと多いんだろう、そんな状況で冴えない陰キャのストーカー野郎に告白されても相手にされないのは分かりきってたことで…

 

彼女の一言で、グルグルと負の感情が胸の中を渦巻いていく。

彼女はそんな人じゃない、分かってる、解ってる!

でも…どうしてもこのドロドロの闇は振り払うことが出来ない。

あんなに、あんなに四宮先輩に助けて貰って、ここまでお膳立てもしてもらって…。

 

(ごめんなさい…四宮先輩…僕は…。)

 

『いいこと、石上君。どんな手段を使っても構わないわ、子安つばめをモノにしなさい。』

 

生徒会室で先輩からかけられた言葉。

文化祭の出し物申請をしに来た子安先輩にドギマギしてしまって、好きだという気持ちがバレてしまった日のことだ。

 

僕の卑屈さ、自信のなさは成功体験の少なさに起因していると言われた。

そのくせ失敗続きの人生だ。

そりゃあ卑屈にもなる。

 

そんな僕を見放さず、試験勉強を始め、デートコースや、プレゼント選びまで手伝ってくれて、最後に勇気までこの小指に乗せてくれた。

 

なのに、また…僕は…。

 

「優…くん…?」

 

「…!」

 

寒い部屋の中、僕の頬に伸びた手の暖かさで意識を一気に引き戻された。

 

「つばめ…先輩……、僕は…。」

 

彼女に覆い被さる体勢で、僕の頬にはやわからな彼女の手。

そして僕を見上げる潤んだ瞳の彼女。

 

「僕は…。」

 

怖い、怖い、怖い、こんな状況どうしたらいい、僕は…、考えがまとまらない、呼吸が浅く、荒くなっていく。

 

『ねぇ石上君、あなたこのまま一生逃げ続ける人生でいいの?』

 

四宮先輩…でも、僕は…。

 

『言い訳なら何かやった後で言いなさい、まだ何もしていないうちからグダグダ言うのはダメよ。』

 

僕は…。怖いです。

嫌われるのが怖い、この状況も、この後のことも、彼女との関係も全部、全部!

 

 

「優くん…何か……、言ってよ…。」

 

今にも泣きそうな顔で、つばめ先輩が僕を見ていた。

 

 

あぁ、そうか…。なんだ。

そういうことだったのか…。

彼女も不安だったんだ。

 

『私、優くんとお話したいな。』

 

ゲストハウスに誘われた時彼女から言われた言葉。

 

僕達はまだお互いのことを何も知らない、

順番が何もかも逆だったんだ。

 

思い返せば、僕は彼女に一度も嫌いだとは言われていない。

行動を振り返っても、むしろ好意的な感情の方が強いじゃないか。

 

告白を断られた時も、『神奈川の大学に進学するから、現実的に付き合うのは無理だよ…。』と言われた。

 

なんだよ…、相変わらず、僕は馬鹿だ。

だけどもう迷わない。

やるべきことは決まった。

この恋は、学園生活のほろ苦い思い出で終わらせたりしない。

最後まで諦めない、子安つばめを絶対にモノにしてみせる!

 

「…ありがとうございます、四宮先輩。」

 

「えっ…?」

 

バシンっ!と両手で自分の頬を叩く。

覚悟は決まった。

結果はどうあれ、逃げずに最後まで足掻いてみよう。

 

┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈

 

「優くん…?」

 

「先輩。」

 

不安そうに、そして少し震えている彼女の顔にかかった髪を払い、頬に手を添えた。

 

「んっ…なあに?優くん?」

 

「先輩、話をしましょう。」

 

彼女を抱きしめ、身体を起こす。

僕の胡座の上で彼女を抱える体勢に変え、優しく背中を撫でる。

耳元で彼女の吐息とくぐもった声が聞こえる。

 

身体を起こしてそのまま抱き締めているが、彼女も手を解かない所を見るに嫌がられてはいないようだ。

 

「それで、何かな?話って。」

 

彼女がなるべく平静を取り繕う様な感じで話しかけてくる。

その間も首に回された腕や、肩に乗る顔が動くことは無い。

 

「先輩が言ったんですよ、僕とお話がしたいって。だから教えてください。先輩のこと。」

 

「え〜?どうしよっかなあ〜。優くんは私の何が知りたいのかな〜?」

 

耳元で、囁くように、笑い混じりに彼女が応える。

そんなところも愛おしくなり、空いた片手で彼女の頭を撫でる。

 

「そういう意地悪っぽいところも好きですよ、先輩。」

 

「ひぅっ…。」

 

彼女が僕の首元に顔を埋めて唸っている。

 

「順番、めちゃくちゃだったんです。何もかも。もちろん先輩の据え膳は後で頂きますけど、それ以前に僕達はまだお互いのことを何も知りません。先輩だって、僕のこと噂で色々聞いてると思いますが、本当のところは何も知らないままだと思います。僕も、体育祭の応援団の時からの先輩しか知りません。だから、教えてください。先輩のこと。全部知りたいんです。」

 

「…もぅ、意地悪はどっちだよぅ…。」

 

そう言いつつも、首に回す腕は締まっていき、身体の密着具合はどんどん上がっている。

僕も抱き締める腕と頭を撫でるのをやめていない。

 

「いーよ、私の負け。なんでも聞いて。ちゃんと、正直に答えるから。」

 

コツンと、彼女の額が僕の額にぶつかる。

鼻と鼻も当たり、今にもキスしそうな距離感だ。

正直今の時点でも余裕ぶる心の余裕なんてない。

心臓は大きく脈動していて、彼女にもこのドキドキはバレているだろう。

 

「でもその前に………」

 

触れた彼女の唇は柔らかく、今にも溶けそうなくらいの熱を帯びていた。

触れて、一度離れて見つめ合い、彼女からまた触れられる。

頭は真っ白で何も考えられない。

彼女にされるがまま、この甘く痺れるような感覚に身を委ねていた。

んっ、ん、と彼女の息遣いと唇の水音だけが部屋に響く。

唇を重ねて離す、これだけの動作なのにこれほどの刺激と多幸感をもたらすのだと僕はこの時初めて知った。

彼女と重なる場所が、触れる部分が少しずつ深くなっていく。

何度も繰り返すうち、僕は息をするのも忘れ行為に没頭していた。

 

 

どれほどの時間そうしていたのだろう。

2、3分のことだったのかそれとももっと長い時間そうしていたのか、もう僕に考える余裕は欠片も残っていなかった。

先程の僕の決心と、かさかさだった僕の唇は、彼女にトロトロに溶かされてしまっていた。

 

「あっ……」

 

唇が離れたことに少し名残惜しさを感じる。

彼女は唇を舐めながらふにゃっと笑い

 

「さっき優くんに意地悪されたから、仕返し。私、男の人をあんな感じで誘ったの初めてだったんだからね?それなのに優くんは…。ちょっとは私の気持ちを思い知ったかな?」

 

未だ鳴り止まない心臓をどうにか押さえつけながら声を絞り出す。

 

「…えぇ、存分に。」

 

今僕はどんな顔をしていただろうか。

嬉しさや恥ずかしさ、その他諸々の感情が混じりあって彼女の顔を直視できない。

 

「もしかして…い、嫌だった?」

 

不安そうに聞いてくる。

今は上手く言葉を紡げそうにないので、気持ちを込めて彼女に唇を重ねる。

 

「んんっ……、んっ…ゆぅふ…ん……」

 

僕からも仕返しとだ、という思いを乗せ

彼女の下唇を吸い少し歯を立てる。

僕と彼女の唾液で口の端に少し垂れたところを舐めとると、ビクッと彼女の肩が跳ねた。

舌を絡ませるキスをする気は無かったのだが、彼女の方からも恐る恐るといった感じで舌が伸びてくる。

初めて触れ合った舌の味は先程食べていたウィスキー入のチョコレート菓子の味だった。

甘く、ほろ苦い大人の味。

お互い動かし方もぎこちなく、探るように舌を動かす。

こちらが舌を差し出すと、ぎこちなく、それでも優しく彼女は舌を絡ませてくる。

それだけのことだが、とても嬉しく思えた。

初めて彼女から求められている。その事が嬉しかった。

 

自分で順番がめちゃくちゃと言っておきながら、恋愛のABCにおける、AとBをすっ飛ばしてCを先にしようとして未遂に終わり、今Aのキスに没頭している。

自分の意思の弱さにはほとほと呆れてしまう。

でも今は、この感触を、彼女の温もりを堪能したいという思いが勝っており、どうすることも出来なかった。

 

舌先を吸われ、少し甘噛みされ、口内の唾液は彼女に舐め取られる。

数分前のぎこちなさが嘘のように、彼女から求められる。

 

初めは軽く触れさせるだけのキスだったのに、今ではお互いが求め合い、貪るように唇を重ねていた。

 

 

┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈

 

 

 

「優くん、キスってこんなに気持ちいいんだね…私知らなかったよ…。優くんに求められて、凄い嬉しかったの。しかも初めてなのに私からこんなに求めちゃって…。いやらしい子だと思ってる?」

 

ひとしきりキスを堪能した後、2人で横になった。

僕の腕に彼女の頭の重みがしっかりと感じられ、腰に回された手はもう最初の様に震えてはいなかった。

 

「全然そんなこと思ってませんよ。僕も先輩に求められて嬉しかったです。」

 

「恥ずかしいよ」と、彼女は僕の胸に顔を埋め悶えている。

 

「私ね……、不安だったんだ。優くんのことはいい子だとは思ってたけど、好きかどうかは分からなかったの。優くんが告白してくれたのは、すごく嬉しかったんだよ?今まで告白してきた人はチャラチャラした人ばっかりで、でも優くんは直球ど真ん中で私も訳わかんなくなっちゃって、でも大学は県外に行っちゃうし、卒業したらなかなか会えなくなっちゃうし…。優くんと付き合うと絶対好きになっちゃう。私ね、付き合うとその人しか見えなくなるから…。だから、告白は断って、でも優くんに悪いからなにかしてあげたくて…。ごめんね?ごめんね?今思えば酷いよねこんなの。」

 

「いいんです。先輩。」

 

初めて、彼女からの気持ちを聞いた。

嬉しさと、溢れる愛おしさで心が埋まっていく。

大丈夫、という気持ちを乗せて彼女を強く抱き締める。

 

「あとね、私ね。前に付き合ってた男の子に二股されてたの…。二股かけてた相手は私の事をよく慕ってくれてた後輩の子でね。その子にある日突然言われたんだ、『私の先輩を取らないで』って。その時初めて二股されてるって知ってさ……、もう訳わかんないよね。」

 

僕としてはこれほどの美人に二股かけれるそいつの度胸が訳わかんないです。

マジで〇してやりたい。

 

「それから、男の子って皆そうなのかなって思うとなかなか恋愛なんて出来なくてね。あ!でも、でもね!?キスは、さっきのが!優くんが初めて、だか、ら…。」

 

そう言い、恥ずかしそうに顔を埋める彼女が可愛くて、彼女の初めての男になれたことが嬉しくて顔がにやけてしまう。

今のこんなだらしない顔、到底見せられるものでは無い。

 

「僕も、先輩が初めてですよ。初めてなのにあんなに激しくされたらもう忘れられそうにないですね。責任取って下さい。」

 

「付き合えないって言ってるのに…もぅ。やっぱり優くんっていじわるだよね。」

 

顔を見合わせお互いに吹き出してしまう。

 

「先輩、今度は僕の話聞いてください。」

 

「うん、優くんのこと、聞かせて?」

 

「先輩は、僕の噂でどんな話を聞きましたか?」

 

彼女は苦笑しつつ、嫌なこと言うけどごめんね、と話してくれた。

 

「多分皆が同じように知ってることだよ、根暗な陰キャとか、大友ちゃんのストーカーとか、暴力事件のこととか。」

 

「うっ…根暗な陰キャはその通りなのでいいのですが…ストーカーや暴力事件のことについての真相を聞いてください。これは僕を連れ出してくれた生徒会の先輩方しか知らないことです。先輩には、本当のことを知っていて欲しいです。誤解されたままはとてもつらいので。」

 

あの事件のことは、他人に初めて話す。

信じてもらえるだろうか、不安と期待が入り交じり、緊張で声も表情も固くなっていた。

 

「大丈夫だよ優くん。私、ちゃんと自分の目で見たものを信じるタイプだから。皆が言うような人だとは今も思ってないよ。大友ちゃんとは仲良かったから思うことはあったけど…。教えてくれるの?」

 

これだ。

僕はこの人のこういうところに救われてきた。

こういうところが大好きなんだ。

 

「はい。聞いてください。聞いてほしいんです。」

 

「うん。ちゃんと聞くよ。」

 

「僕、前は大友のこと好きだったんです。初めて女の子から優しくされたから、なんてその程度のことだったんですけどね。でも彼女は当時演劇部部長で周りからの人望も厚い荻野と付き合い始めた。僕は告白もしてませんし、彼女が幸せそうにしているのを見て嬉しかったんです。でもある時、僕は荻野が電話で過去に付き合ってた女の子をヤバい奴らに斡旋しているところに居合わせたんです。」

 

「えっ、それって。」

 

「そうです。所謂ウリってやつです。その対象に大友が入ってました。まだ手は出されてなかったみたいでしたけどね。しかも荻野は、この秘密を知ってしまった僕に取り引きを持ちかけてきました。」

 

「その取り引きって…?」

 

「『黙ってれば何回か貸してやる。』って言われましたよ。」

 

「そんな…。」

 

この学校でそんなことが行われていたと知った驚愕、それに自分を慕っていた後輩が巻き込まれていたという悲しみ。

先輩の表情からはいくつもの感情が見え隠れしていた。

さすがにこの事実は知らなかったようで、言葉も出ないようだ。

 

「いい人が酷い目に合うのが僕は許せません。僕は荻野に一つだけ質問しました。『お前は大友をなんだと思ってるんだ。』って。」

 

これは生徒会の皆にも話していないこと。

僕が暴力に身を任せた原因。

 

「荻野は笑いながら言いましたよ、『京子は大事な商品だよ』って。そこからはよく覚えていません。気づいた時には血だらけの荻野とクラスメイト達。そして大友。」

 

あの時のクラスメイト達からの視線、大友からの軽蔑。

思い出すだけで胃がキリキリと痛む。

 

「そのタイミングで荻野は僕に言いました『ここで僕はコケる訳には行かない、今引けば京子には手を出さないでやる。』と。そこから先は先輩もご存知の内容です。荻野お得意の演技で僕はストーカー野郎に仕立てられ、僕が荻野に大友を取られた逆恨みとして暴力を振るった、と演説をされてしまった訳です。そして僕は停学、正直あの時のクラスメイト達からの冤罪、侮辱、軽蔑、あれが今でも忘れられません。そして教師達からは怒られますが、僕は間違ったことはしていないと思っているので謝罪も反省文も書けませんでした。何度も暴露してやろうと思いましたよ。でも大友がどうなるか考えると行動には移せませんでした。停学のまま中学を終えたわけですが、僕は何故か高校進学が許されました。そしてある日突然、僕の部屋に会長がやって来ました。」

 

「白銀君が?」

 

「はい。何年も引きこもっていた僕の部屋に突然入ってきてなんて言ったと思います?『よく耐えたな。』って、言ってくれたんですよ。あの人たちは、僕の停学に疑問を持って状況証拠を抑え、僕が必死に隠してきた真実を暴いたんです。『正しい正しくないを論じるつもりは無い。頑張ったな石上。結果的にお前の目的は達成されている。お前はおかしくなんかない。』この言葉に、会長達にどれだけ僕が救われたか。本当に生徒会の先輩達には感謝してもしきれません。」

 

話を聞き終えた彼女は、何を言うわけでもなくただ背中に回す手に力を込め、ギュッと抱きしめてくれた。

広い部屋には、ただ彼女の嗚咽だけが響いていた。

 

 

┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈

 

 

「よく…耐えたね。一人で、頑張ったね優くん。大友ちゃんを、守ってくれてありがとう…。やっぱり噂なんか当てにならない。君はとっても優しい良い子だった。優くんは間違ってないよ。とっても勇敢で、立派だった。普通の人には到底できることじゃないよ。」

 

「ありがとうございます。これがあの話の真相です。誰にも話したことの無い、僕だけの秘密です。」

 

「話してくれてありがとね、優くん。かっこよすぎて好きになっちゃうじゃんか。」

 

涙混じりに笑う彼女。

あぁ、この人に話して良かったと、心からそう思えた。

 

「好きになってください。僕はもう大好きですよつばめ先輩。」

 

 

「もう…ばか。」

 

 

照れ隠しに唇を塞がれる。

今度は先程の激しいものではなく、触れるだけのやさしいキス。

 

「先輩が付き合えない、付き合いたくない理由として、遠距離になるから、男性にまだ不信がある、って言う2つがネックだったわけですよね?」

 

「あとは、優くん誰にでも優しいからさ?今日だってミコちゃんに構ってばっかりで。優くんの周りには可愛い女の子多いしね、不安になっちゃう。」

 

抗議を込めて脇腹をギュッと抓られる。

 

「いたいいたい…。その点に関しては大丈夫ですよ。僕、つばめ先輩しか見てませんから。他の女子にうつつを抜かすようなことしませんよ。」

 

「ほんとかなぁ〜?」

 

拗ねたような感じで唇をツンと尖らせる彼女。

 

「ほんとですよ。僕は他の誰でもない子安つばめが好きなんです。」

 

「ふーん...。」

 

素っ気ないような態度を取りながらも表情が隠せていない。

 

「それに、お忘れかと思いますが周知院に来る生徒は基本皆金持ちです。僕もその例に漏れていません。なので先輩が大学に行ったとしても、時間を作って毎週会いに行きます。神奈川と東京なんて大した距離じゃないですよ。」

 

「でもそれだと優くんにばっかり負担かけちゃうし...。」

 

「僕は先輩との愛情と時間を得るために努力は惜しまないつもりです。」

 

「...それを素で言えちゃうのってズルいよ。」

 

「最後に、先輩の男性不信についてですが。これは僕の一生を持って付き合って行けたらと思ってます。今の段階で僕がどの程度信じてもらえてるかなんて分かりませんが、僕も人間不信だったので、人を信じられない気持ちは痛いほど理解出来るつもりです。なので、すぐに信じて下さいとは言いません。これから時間をかけて、僕のこと信じてもらえるように頑張ります。」

 

「私、結構めんどくさいよ?すぐ会いたくなるし、嫉妬深いし、毎日連絡取ってビデオ通話しないと嫌な人だよ?」

 

「大丈夫です、会いたい時にはなるべく会いに行きますし、毎日連絡も取ります。寝るまでビデオ通話もしましょう。嫉妬なんかさせないくらい先輩のこと好きでいます。」

 

「あとあと!意外と沢山食べ物好き嫌いあるし、料理...は人並みだし、お片付けもあんまり得意じゃないし、えーっとえーっと...!!」

 

矢継ぎ早にあれこれと自分のダメなところを羅列する彼女を見ていると自然と笑顔になってくる。

 

「そういうところも許容できます。これから沢山、僕の知らない先輩を教えてください。そんなに急がなくても大丈夫ですよ。だから、先輩も僕のことこれから知っていって下さい。」

 

「でも!でも!」

 

「先輩。」

 

もうこれ以上は言わせまいと、唇を重ねる。

潤んだ瞳、上がった呼吸、こちらまで伝わる早い鼓動。

最後に強く抱き締め、彼女の顔を真っ直ぐ見る。

 

「僕は、子安つばめ先輩が大好きです。これから先何十年ずっと一緒に歩んでいきたいんです。だから、僕と...、僕と、結婚してください。」

 

「ーーッ!!!!!」

 

あっ...........................。

ヤバい最後の最後でやらかした...。

付き合って下さいだろおおおおお!!!!

なんだよ結婚してくださいって!ねぇ!

死ね死ねビーム死ね死ねビーム!!!

うおおおおおおお!!!

 

 

「...つばめ」

 

「えっ...?」

 

「つばめって、呼んで。私も優って呼び捨てにするから。あと敬語禁止。」

 

「は、はい。」

 

「それから明日から毎日私と登下校すること。」

 

「はい。」

 

え、なにこれ。

どうなってんのこれ。

 

「寝る前には毎日通話。」

 

「はい。」

 

「ミコちゃんにあんまり優しくしないで。」

 

「はい?」

 

「私が卒業したらパパとママに挨拶しに来て。」

 

「が、頑張ります。」

 

「敬語。」

 

「が、頑張るよ...。」

 

「私の事好き?」

 

「もちろん。」

 

「どのくらい?」

 

「僕の一生かけてもいいなと思えるくらい...です。」

 

「...ふふ。」

 

グリグリと胸に顔を押し付けてくる先輩。

 

「えっと、先輩?」

 

「名前。」

 

「つばめ...?」

 

「信じさせてくれるんでしょ?」

 

「僕の一生をかけて。」

 

「なら、これから死ぬまで。よろしくね、優。」

 

「えっ、えっ?」

 

訳が分からなすぎて挙動不審になってきている僕。

そんな僕を見て微笑む彼女。

 

「だから、結婚してあげるって。」

 

「誰が?」

 

「私が。」

 

「誰と?」

 

「優と。」

 

「ほんとに?」

 

「literally♪」

 

....................................!?

 

「...っしゃあああああああああぁぁぁ!!!」

 

「ふふ、もー今何時だと思ってるのー?」

 

「あ、ご、ごめんなさい。」

 

「け・い・ご」

 

「ごめん。」

 

「よろしい。」

 

夢みたいだ。あのつばめ先輩と、結婚。

確認の為に自分の頬を抓るが、きちんと痛む。

 

「ねぇ、優。」

 

「?」

 

「私のこと、好きになってくれてありがとう。諦めないでいてくれて、ありがとう。信じさせてくれてありがとう。私も優のことが、好き。今はちゃんと分かる。この気持ちは、好き。後輩としてじゃなくて、一人の男の子として好き。喧嘩する時もあると思う。一生にいるのが辛くなる時も、それでもきっと優は私の事諦めないでいてくれるって、信じてるから。」

 

「ちゃんと大事にする。ずっと一緒に居る。ずっとつばめのこと守るから。」

 

「頼りにしてる。」

 

色々あったが、お互いの気持ちが通じ合い、晴れて彼氏彼女...ではなく一気に子安つばめの婚約者にまで駆け上がることが出来た。

形は違えど、四宮かぐやとの約束を果たすことが出来た。

しばらく余韻に浸り、時計を確認すると時計は午前3時前を示していた。

 

「そろそろ寝ようかつばめ、明日も学校あるし。」

 

僕がそう言うと、彼女は僕を抱きしめ、耳元に顔を寄せこう囁いた。

 

「私の据え膳がまだ残ってるよ?」

 

┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈

 

 

 

ここから先は多くは語らない。

次の日が学校だと言うのに、時間も忘れてお互いを激しく求め合い、気づいたら時計は8時前。

急いで一緒にシャワーを浴び、睡眠不足で働かない頭と疲れで重い体に鞭を打ち学校へ向かった。

 

「優!」

 

「何?」

 

「私すっごい重い女だから。私の初めてあげたんだから、余所見したら〇すよ?」

 

「は、はぃい!!!」

 

「ふふっ、絶対逃がさないからね!優!」

 

冬の燕は何を想うのか。

end

 

 




お読み頂きありがとうございました。


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冬の燕は何を想うのかAfterlife:恋で地に落つ月の姫

ついに結ばれた、石上優と子安つばめ。
2人連れ添い、幸せを噛み締め、学校へ向かう。
そして一年の教室で待って居たのは…


今年の冬は思ったより厳しく、肌には刺すような冷たさが残る。

12月25日。雪の舞うクリスマスイブから一夜明けた今日はより一層その寒さを感じることができた。

 

寒さに耐えながら登校するいつも通りの朝。

だが今日はただ寒いだけじゃない。右手には温もりがあり、僕の心も春のように暖かだった。

 

「優、はやくっ!ホームルーム始まっちゃう!」

 

僕の手を引き先を走るのは、この心に春の訪れをもたらしてくれた冬の燕。

春を感じさせる桜色の髪、スレンダーなシルエットであるのに、出るとこはきちんと...どころかしっかりと主張している体つき、太陽のように暖かな笑顔、僕の卑屈で他人への恐怖で凍りついた凍土の心を溶かす程の熱い愛。

燕という鳥は春の象徴なんだと、僕の記憶に強く刻みつけたこの女性。

 

子安つばめ。

 

秀知院学園「難題女子」に数えられる彼女は、今まで数多のイケメン・秀才を袖にしてきた、自他ともに認める美女である。

 

そんな彼女が今、僕の手を引き、僕の名前を呼び、僕だけを見ている。

体育祭から見続けている夢の果てが、今この瞬間なのだと強く実感させられる。

 

朝までお互いを激しく求め合っていた疲労を微塵も感じさせないのは、彼女の底なしの体力のなせることなのだろう。

さすが新体操部エース。オタゲーマーの僕とはえらい違いだ。

 

ここだけの話ではあるが、底なしなのは体力だけではなかった。彼女の普段の姿からは想像もつかないような一面を身をもって体験することとなった。

サキュバスという言葉は、きっと彼女の為にあるのだ...と割と本気で思った。

 

2次元でよく使われる表現のひとつに、搾り取られるという言葉がある。

人間が搾られるという感覚は他でもない、ああいうものを言うのだろう。

あまり生きた心地がしなかった。夢心地ではあったが...。

 

『優、夢みたい。私、これから先、一生まともに恋愛なんてできるとは思ってなかった。こんなに人のことを好きになるなんて思ってなかった。今もこうして優と繋がれて、私の中で優を感じれて、胸の奥から幸せが溢れてくる。身体も心も幸せすぎて怖いよ。ほんとにいいのかな、こんなに幸せで.....。ね、優。もっと激しくして、たくさん私の事求めて、優の事感じさせてっ!』

 

雰囲気に呑まれて、それっぽい台詞のオンパレードだった彼女。

僕も思春期男の子の端くれ。そんなこと言われたら乗ってしまうのは仕方がないことで、今の今までハッスルしてしまったという訳だ。

 

陽キャでウェイ系の普段の彼女からは考えられない程、乙女で甘々な台詞の数々。

本当の愛を知った物語のお姫様も、きっとこんな感じなんだろうと思った。

 

 

ただ、本当のお姫様は『私の初めてがラテックスとか嫌。』などといいゴミ箱へ箱ごと幽閉したりはしないと思う。

 

 

 

┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈

 

 

学校に着き、急いで教室に入ると幸いまだホームルームは始まっていなかった。

教室の中では、仲のいいグループで固まり雑談に興じている者が多数であった。

そんな中、一年生きってのクソ真面目な思春期風紀委員が不機嫌そうな顔で僕に話しかけてきた。

 

伊井野ミコ。

秀知院学園一年生でテストはいつも学年一位を誇る才女。真面目を絵に描いたような性格であり、風紀委員を務めていて生徒会にも所属している。清廉恪勤、品行方正を地でいく優等生である。

中学の頃から面識があり、僕のことを毛嫌いしている割に何かと突っかかってくる変なやつだ。

余談だがこの女、男に対する耐性はあまりなく、意外とちょろい女だということが藤原先輩筆頭に周囲にバレつつある。

 

「石上…重役出勤とはいいご身分ね。」

 

相変わらず口を開けば嫌味しか言えないのかこの女は。

 

「昨日、あの後つばめ先輩と何してたの…。」

 

イライラとした口調のまま、伊井野は問い詰めてくる。

なぜお前がそんなことを気にするんだ。

 

「何してたのって聞いてるの!!!」

 

突然の大声。

今までクラス内で聞こえていた生徒の声は静まり返り、伊井野の声が響く。

 

「ちょっ…ミコちゃん落ち着いて…。」

 

一緒にいた大仏が慌てて止めに入る。

しかし伊井野は止まらずどんどんヒートアップしていく。

 

「コバちゃんは黙ってて!だいたい何!?昨日私が起きた時にはアンタは居ないし、今日来てみれば石上からはつばめ先輩の匂いがぷんぷんする!」

 

だからなんだよ。そんな思いが湧いたが、口にする前に伊井野が畳み掛けてくる。

 

「起きてからつばめ先輩の家にいた人に別の場所で休んでると思うって聞いたから、私一緒に帰ろうと思ってずっと待ってたのに!!石上はあのまま泊まったわけ?!その後そんなにつばめ先輩の匂いが移るようなことしてたの?!」

 

「別に何してたっていいだろ、だいたいお前になんの関係が…。」

 

「…っ」

 

伊井野の頬に一筋の雫が伝う。

こちらを見上げたままの睨むような目からはポロポロと涙が零れ落ちていた。

 

「あーぁ…、今のはあんたが悪いよ石上。とりあえず落ち着け伊井野。あっち行くよ。」

 

「小野寺…。」

 

割と強引に伊井野を引き剥がし、小野寺が付き添う形で教室から出ていく。

 

「ごめんね石上。ミコちゃん、朝からずっとああなの。大丈夫、石上は悪くないよ。悪いのは拗らせてるミコちゃんだから。」

 

大仏から謎のフォローが入ったが、なぜ伊井野があそこまでキレていたのか僕には皆目検討もつかなかった。

 

それからというもの、一日中伊井野の機嫌が戻ることはなく、鉢合えば憎まれ口、話しかけると無視されることが続いた。

 

┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈

 

 

一日の授業も終わり、僕は足早に生徒会室に向かっていた。

扉を開け、中に入ると僕の今一番会いたかった人がそこにいた。

 

「四宮先輩。」

 

「あら、石上君こんにちは。」

 

黒髪をリボンで綺麗に結び、柔らかな赤い瞳、そして凛とした佇まい。

四宮家のご令嬢で、この学園では誰もがその名を知る生徒会副会長。四宮かぐや。

初めは冷たく怖い人だと思っており、ずっと苦手にしていたが、ここ半年で意外と面倒見がよく、後輩思いのいい先輩だと言うことが分かった。

 

いつも勉強の面倒を見てくれて、昨日は僕に勇気をくれ背中を押してくれた大切な先輩。

 

「四宮先輩。今日は先輩にご報告したいことがあります。」

 

「報告、と言うと昨日のことでしょうか?」

 

「はい。四宮先輩は言いましたよね、『どんな手段を使っても子安つばめを手に入れなさい。』って。」

 

「えぇ、確かに言いました。」

 

「僕は…、僕は、やっと四宮先輩の期待に応えることが出来ました。」

 

「あなたの口からそういった言葉が出るということはつまり…。」

 

「はい、子安つばめ先輩と婚約することになりました。」

 

「そうですか、それは良かっ……………………………………………婚約!?!?!」

 

笑顔だった四宮先輩はフリーズし、一転素っ頓狂な声を上げた。

 

「いいいい石上君、確かに私はどんな手段を使っても子安つばめを手に入れなさいとは言いましたが、何がどうしてそうなったんですか!??訳が分からないわ!?」

 

「落ち着いてください四宮先輩。一からちゃんと説明しますから。」

 

四宮先輩はコホン、と咳払いをすると平静を取り戻し僕をソファへ掛けるよう促す。

僕もそれに従い四宮先輩に向き合う形で座る。

 

「それで、あのプレゼント選びの後何があったのかしら?」

 

「はい、あの後品川であったつばめ先輩主催のクリスマスパーティにお呼ばれしました。ほんとに飲んで食べての、お疲れ様会だったと思います。その時出されたウィスキー入のチョコレート菓子を伊井野が食べて酔っ払った上に寝てしまいまして…。他のみんなは終電があるから、と先に帰ったのですが、伊井野を放って置く訳にもいかず、終電に間に合うよう起きるまでの見守りついでに先輩の片付けを手伝っていたんです。その最中、先輩から伊井野も寝てるし僕と話したいから、とゲストハウスに誘われたんです。」

 

「あら、あらあら!それで?それで?」

 

四宮先輩は興味津々と言うように身を乗り出しながら話を聞いてくれた。

 

「そこで、なんか凄いいい雰囲気になって…、先輩の方から…、その、誘われて…。」

 

「誘っ!?それってセッく…によね…?」

 

「そうですね、そのセック…、にです。」

 

四宮先輩は真似された恥ずかしさもありつつ、真似しないでよこの不調法者!と、どこかのツンデレ先輩のような事を言い始めた。

 

「そこまでは良かったんですが、僕は改めてつばめ先輩に想いを伝えました。付き合って欲しい、と。ですが先輩からの返事はNOでした。」

 

「えっ…、ではどうやって婚約に…。」

 

「それをこれからお話しますよ。確かに付き合えないとは言われたんですけど、その後こう言う感じの体勢で…抱き合った状態で少し話をしようって提案したんです。」

 

今思うと告白を断られた相手となんで対面座位なんてしているのだろうという疑問は湧いてくるが、あの時の僕はその場の雰囲気に流れに流されまくっていたので、その辺の感覚が完全に麻痺していたと思う。

四宮先輩も『そ、そんなに密着して…!』と顔を赤らめていた。

 

「そこで話をしましょうって言ってたのに、つばめ先輩からキスされまして。」

 

「き、キッスですか…。」

 

「そこからしばらくずっとキスしてたんですけど、その後はもう、この雰囲気と勢いに任せてなし崩してしまおうと思いまして。」

 

「…何をしたの?」

 

「好きです、大好きですってことを相手が頷くまで続けました。その過程で僕の過去のことや、つばめ先輩が恋愛に二の足を踏んでいる理由なんかを聞きましてですね。」

 

「こういう場面では意外と男らしいのね…石上君…。でもそれでなんで婚約ということになるんですか。その流れだと普通に付き合うという感じではないんですか?」

 

「最後のひと押しの時、僕、結婚してくださいって台詞を間違えてしまって…。」

 

「石上君…。いつかやらかすと思っていましたけど、そんな大事なところで…。」

 

貴方って人は…、と四宮先輩は呆れ顔になる。

 

「でも、つばめ先輩は僕と結婚してあげるって言ってくれました。結果的には微妙に異なりますが、四宮先輩との約束は果たせました。」

 

「そう……。でも石上君、良くやったわ。これがあなたの自信となり、これから起こるであろう困難にも卑屈にならず対処出来ますね。私、安心しました。」

 

四宮先輩は、自分のことのように喜んでくれた。

本当にこの人は、不器用だけど、凄く優しい。

その優しさにどれだけ助けられたことか。

 

「はい。婚約なんて、スタートラインです。つばめ先輩の隣に立つに相応しい男になるために、これからも努力を続けるつもりです。」

 

「女ができると男は変わる、と言いますけど、あなたは本当にいい方に変わりましたよ。私もできることがあれば協力するから頑張りなさい。」

 

「ありがとうございます。ところで四宮先輩の方はどうなんですか?会長と付き合ってるんですよね?」

 

「な、何言って…。」

 

アタフタする四宮先輩。なんでこの人はこれで隠せていると思っているのだろうか。

 

「具体的には、文化祭辺りからですか?プレゼント選びも手伝ったのになんでこれで分からないと思ったんですか。でも相手が会長なら僕も安心ですよ。」

 

「ありがとう…石上君。私、会長と御付き合いをしています。でもそんなに分かりやすかったですか…?」

 

「藤原先輩以外は気づいてますよ。」

 

「藤原さん…。」

 

正直あの珍獣にバレると引っ掻き回されるのは目に見えているので、隠しているのは正解と言えるだろう。

かく言う僕もつばめ先輩の件は彼女に話すつもりは無い。

絶対にからかわれて邪魔されるのがオチだ。

 

藤原先輩なぁ…友達思いのいい人ではあると思うんだけど、どうにもあの空気の読めなさは頂けない。

 

「会長が四宮先輩のこと好きなのは傍目から見ても明らかでしたからね。会長と四宮先輩、僕を救ってくれた大好きなお二人には幸せになって欲しいです。僕もできることがあればなんでもしますので、いつでも頼ってくださいね。本当におめでとうございます、四宮先輩。」

 

僕をあの部屋から連れ出してくれた会長、やることはハードモード以外のなにものでもないが、僕のために手を尽くしてくれる四宮先輩。

この二人には返しきれない恩がある。

だから是非とも幸せになってもらいたいものだ。

 

「で、会長とはどこまで行ったんですか?」

 

「…!??ええええっと…そうですね。キッスくらいはしましたよ!?」

 

「そうですか、会長奥手っぽいのでちゃんとやることやってて安心しました。」

 

「そうなのよ!そーなのよ!!!会長ったら奥手で、私を大事に思ってくれているのは分かるのだけど、もうちょっと手を出してくれてもいいと思わない?私はいつそういうことになってもいいように準備は欠かせないし、会長とならそうなることも吝かでは、いえ、そうなりたいと思っています!女の子にだって性欲はあります!別にロマンティックなことは求めていませんが、キスやスキンシップだけではお預けされてるみたいで私だって溜まるのよ!男の人だってそうでしょう!?好きな人と一緒に居れば、そういう気持ちになるのは道理、私は我慢させてる訳では無いの!会長から誘って欲しいのよ、女の子だったらそういうのがみんな好きなの!雰囲気を作っても二の足踏んで、でも大切にされてるのは嬉しいしこれ以上どうすればいいのよもおおおおおおお!!!!!」

 

(うわ、すっげ、一発でエンジンかかった。めっちゃ早口で喋るじゃん。)

 

既視感。

 

以前白銀とのボーイズトークの時同じ状況だったのだが、石上優は過去の我が身を振り返らない男であった。

 

「二人きりになれる機会はいくらでもありました!その時それとなく私からセックスアピールしても会長は照れてまだ早いとか、大事にしたいんだとか、嬉しいですよ?!嬉しいですけど!!私は会長とセックスしたいんです!来年海外に行っちゃう会長ともっと深い繋がりが欲しいの!寂しいの!マキさんは頼りにならないし、藤原さんに話すなんてもっての外!あと柏木さんの惚気を聞かされ続けるのは精神的にも性欲的にもそろそろ限界なの!!!」

 

(最後のが切実な本音っぽいな。)

 

なんの罪もないツンデレ先輩に被弾し、藤原先輩は論外。普段聞けない女性の本音をマシンガンの様に聞かされ、驚きと同時につばめ先輩も同じようなことは考えているのか、と思った。

ネットで女性の本音、というものはここ最近よく見るようになったのだが、大事なのはつばめ先輩自身の想い。

これは追々話し合って行けばいいだろう、自分の中でと結論づけた。

 

「石上君はどう思いますか!?というか子安先輩とはどこまでしたの!?」

 

四宮かぐやからしたら自分と同じ時期に付き合い始めた、気軽に話せる後輩。しかも貴重な男性の意見を聞ける絶好のチャンス。これは逃す訳にはいかなかった。

 

「まぁ、気になりますよね。僕はもう最後までしましたよ。」

 

「い、石上君って結構手が早いのね…。意外と肉食系なの…?」

 

「いや、そういうわけでもないんですけど、もうなんというかその場の流れで。」

 

「そ、そうなのね。……ちなみにその時の雰囲気とか、聞いてもいいのかしら?」

 

僕は少し話すのは躊躇ったが、四宮先輩の事だ。言いふらすようなことはしないだろう。

先輩もいずれそういうことをしたいと思っいるのだから、アドバイスになればと考えた。

 

「そうですね…、致したのは婚約宣言の後になります。昨日は深夜2時を回っていましたし、つばめ先輩にもう寝ましょうって言ったんですけど。その…、『私の据え膳がまだ残ってるよ。』ってこう、ぎゅっとされてる時に耳元でボソッと。」

 

「そんな誘い方があるのね…。」

 

四宮先輩は顔を真っ赤にして恥ずかしそうに聞いている。

それもそのはず、仲のいい後輩から性事情を赤裸々に話されているのだ。

しかも致していたのは日付的には今日の話。

生々しいなんてものじゃない。

 

「僕だって男の子ですから、そんなこと言われたら我慢も出来なくなります。婚約までしてしまっまたので合法的につばめ先輩の据え膳がいただける訳ですし。」

 

「そ、それから?」

 

「それからはもう今日の遅刻ギリギリまで獣の様に盛り合ってましたよ。」

 

「獣!??」

 

表現的にはなにも間違ってはいない。

スキンもせず、ただお互いの性欲と体力に任せて求め合った昨夜。

今でもお互いの首から下には愛された痕が、痛々しい痣の様に無数に付いている。

 

『もっと痕付けて!痛いくらい吸って!優のものだって分からせて!』

 

『外はダメっ!腟内(なか)でいっ…い…、からっ!優の出して!ちゃんとアフターピルっ、飲むから!』

 

つばめ先輩は思ったよりアグレッシブで、独占欲の強いタイプなんだということを昨日初めて理解した。

 

せっかくなのでどういう情事を行ったかもきちんと説明してあげたのだが、四宮先輩はと言うと「獣…獣…。」と目を回していた。

いくら先輩が最近性知識を少し身につけたからとはいえ、刺激が強かっただろうか。

 

 

┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈

 

 

「コホンっ…石上君のことは分かりました。ありがとうございます。」

 

と言いつつ目線は相変わらず合わせて貰えない。

なんとも言えない気まずさが漂うなか、生徒会室の扉が開いた。

 

「なんだ、石上と四宮だけか。」

 

「会長っ。」

 

目と目が合う瞬間…というやつだ。

四宮先輩のテンションがあからさまに上がる。

 

白銀御行。秀知院学園高等部生徒会会長。

学年テストでは常に1位、全国模試でも毎回一桁の順位をキープしている、文武両道、なんでもできる凄い人だ。

そして僕をまた学校へ連れ出してくれた、恩人。

※石上優は白銀のポンコツ具合を知らない。

 

「会長、おめでとうございます。」

 

「なに、なんだよ。」

 

「四宮先輩と付き合う事になったんですよね。」

 

「えっ、四宮…!」

 

顔を赤らめ、コクンと頷く四宮先輩。

 

「あー…そうか、言ったのか…。そうだよ、四宮と付き合うことになった。」

 

会長も恥ずかしそうに頭を掻きながら答えてくれた。

 

「それで、どっちから告ったんですか?」

 

「そのニヤニヤやめろよ恥ずかしい。」

 

「告ったのは私からですよ。」

 

柔らかな笑顔を浮かべ、会長の腕に抱きつく四宮先輩。

 

「…四宮。」

 

あぁ…、幸せそうだ。良かった、本当に。

この二人にはずっと幸せでいて欲しいと思う。

ここまでそれなりに長かった。

引っ付かない二人を見てどれだけやきもきしたものか。

 

「四宮先輩。改めておめでとうございます。」

 

 

「ありがとう、石上君。」

 

 

「今、幸せですか?」

 

 

「えぇ、もちろん。ね、会長。」

 

 

 

「あぁ、そうだな。」

 

 

 

願わくばこの物語が、幸せなまま終わりますように…。

 

 

冬の燕は何を想うのかAfterlife:恋で地に落つ月の姫

end




お読み頂きありがとうございます。

ミコちゃん好きです。好きなんですけど、過去の体験からメンヘラの記憶がそういう感じの物しかなくて…。
先に謝りますが、ミコちゃんラブ勢には申し訳なく思います。
今後ミコちゃんはだいぶ荒れます。


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【閲覧注意】愛に乱れし皇の御心

目を覚ますと、深夜。
パーティ会場でひとり石上優を待つ伊井野ミコ。
待てども来ない彼を、伊井野は…。


※注意※
本章は伊井野ミコ視点でお話が展開されます。
私の過去の実体験から少し改変して文章として書き起こしています。
ミコちゃんが好きな方は、ここでブラウザバック推奨です。
何があっても彼女は幸せになれません。
それでも良ければご講読下さい。
ここから先は自己責任でお願いします。

※鬱展開のため、アンチヘイトタグを付けさせて頂きました。
※石上が石川になっていたのを修正しました。申し訳ありません。


 

 

凍てついた部屋の寒さで私は目を覚ました。

今何時かと思いスマホを確認すると、12時20分。

 

どうやら子安先輩にお呼ばれしたパーティ中に寝てしまったようだ。

部屋には誰も残っておらず、私には柔らかなブランケットが掛かっていた。

これから帰るにしても、どの道終電は逃してしまっているためタクシーになる。

黙って出ていく訳にもいかないと思った私は、部屋にあった内線を手に取りフロントにかける。

 

数コールのうち電話は繋がった。

誰か残っていないかの確認を一応取ると、石上がまだ残っているようだ。

子安先輩とゲストハウスに居るらしい。

一緒に帰ろうと思い、ゲストハウスへ連絡を入れてもらう。

 

しかし、自分がこんなにお酒に弱いとは思わなかった。

介抱してくれたであろう麗ちゃんと、不本意であるが石上には感謝しなければと思った。

 

フロントへ連絡を入れ10分、20分と待てど連絡はない。

先程から石上へLINEで連絡を試みているが、既読が着く様子もない。

まったく、こんな夜中まで女性と二人で何をしているんだ、と形容しがたいイライラに苛まれていた。

 

石上優。

秀知院学園一年生、生徒会会計。

昔から決して真面目とは言い難い性格、私に対して適当かつ若干失礼な態度。

私は今まで、あまりコイツのことが好きではなかった。

 

中学の頃にある事件を起こし停学。

石上はストーカー行為の上、大友京子の恋人である萩野へ暴行を加えた"と言うことになっている"。

 

生徒会室のファイル棚にある生徒会マル秘ファイル。

それはまるで見て下さいと言わんばかりに置いてある。

最初はマル秘と書いてあることもあり、私も触れずに来たのだが、ある時つい魔が差して中を開いてしまった。

 

そこに記されていたのは、石上が中学に起こした事件の真相。

萩野の悍ましい本性や、石上の暴行の動機。

なぜ1ヶ月の停学で復学出来なかったのかの推察まで事細かに調べ挙げられていた。

この情報の集め方の癖からして、メインデータは藤原先輩だったのだろう。

 

これを見て、私の中で今まで点と点だったものが一本の線に繋がった。

性格にやや難があるが、正義感の強いあの男がこれほどの事をしでかしたことの全てに合点がいった。

 

どうして、問題のある生徒が生徒会に直接勧誘されているのか。

会長や四宮先輩達は何故ああも石上に対して信頼を寄せているのか。

そして中学の時、萩野コウの不可解な転校。

 

今までどこか気持ちの悪さのあった疑問はこの時全て解消された。

 

そこからだ、私の石上の見方が一層変わったのは。

最初はいつも規則を守らないし、ムカつくから何となく目で追っていた。

 

しかし、生徒会選挙、体育祭を経て生徒会マル秘ファイルを手に取った私は、石上を見る目に少し熱を持っていたように思う。

生徒会選挙の時も、私に後悔させないよう会長に働きかけてくれたと聞いている。

それがたまらなく嬉しかった。

 

ムカつく相手から、少し気になる相手に。

そこから好きだと自覚するまで時間はかからなかった。

 

文化祭の時も外部の男の人から声をかけられる私を守ってくれていたんだと今は分かる。

パーティの時だって、さりげなく気にしてくれていたし、最後まで残って介抱もしてくれた。

 

最近私は意図して石上にダメな私を晒している。

何故かは言わなくても分かるだろう。

石上が私に優しくしてくれるし、たくさん構ってくれるからだ。

 

私は石上優が好きだ。

普段不真面目なくせに、やる時はやるし、いつも私の知らないところで助けてくれる。

私と方向性は違うが正義感だって持ち合わせている。

何より、なんだかんだ言いながらこんな私に普通に接してくれる。

こんなの、理想の王子様じゃなくても好きになってしまう。なってしまった。

いつもは憎まれ口ばかり口にしてしまっているが、本当はすぐにでも好きだと言いたい。

 

 

石上は今子安先輩にお熱だ。

もし子安先輩と、という一抹の不安はあるが

子安先輩には石上は釣り合わない、どうせ振られるのがオチだ。

振られて落ち込んでいたら、そこにつけ込んであわよくば自分のものにしてしまおうと考えている。

 

 

そんな相手に思いを馳せど、時間は過ぎるばかり。

ゲストハウスからの連絡はないみたいだし、きっともう寝てるのだろう。

仕方ないから今日のところは一人で帰ることにする。

しかし、子安先輩と2人きり、男女がクリスマスに2人きりで何も無いわけが無い。

 

底知れぬ不安が胸の中で渦巻いていた。

 

┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈

 

いつものように、登校して教室へ向かう。

私はいつも早めに学校へ来るようにしている。一人で静かに勉強ができるからだ。他の生徒がぽつぽつと顔を見せるようになったぐらいからは、麗ちゃんやコバちゃん達とホームルームまで時間を潰していた。

 

石上に昨日のことを聞きたい、子安先輩と何をしてたのか。

 

「ミコちゃん、ちょっとイライラしすぎじゃない?生理?」

 

「別に?イライラしてないし?石上のこと待ってたのに結局お泊まりしてたこととか全然気にしてないし?」

 

「めっちゃイライラしてんじゃん、ウケる。伊井野さ〜、そんな石上のこと好きだったっけ?前もっと険悪じゃなかった?」

 

「はぁ!?別に好きじゃない!大好きなだけ!」

 

「ミコちゃんミコちゃん、漏れてる、漏れてるよ。気づいて。」

 

「だいたい、校則は守らないし、いつもゲーム持ってくるし、私に対して雑な扱いしてくるし!でも、たまに優しくて、頼りになって、私の事も助けてくれて、文化祭の時は一緒に仕事も出来て嬉しくて…だから別に全然好きじゃない!」

 

「超好きじゃん…。」

 

麗ちゃんは額に手を当て、唸っている。

一方コバちゃんは何故か「stay…stay…」と繰り返している。

 

ホームルームが始まるまであと10分程となっているのに、石上のやつはまだ来ない。

そう思っていたら、教室の後ろのドアが開いた。

 

「…おはよう伊井野、なんだよ睨むなって、まだギリ遅刻じゃないだろ。」

 

「…石上。重役出勤とはいいご身分ね。」

 

「いいだろ別に。予鈴まだ鳴ってないし。」

 

確かに遅刻はしてないが、私の虫の居所はそこでは無い。

 

「…昨日、あの後つばめ先輩と何してたの。」

 

「別にお前には関係ないだろ…。」

 

「何してたのって聞いてるの!!!」

 

自分でも驚く程の大声が出た。

今まで聞こえていた雑多なざわめきもしんと静まる。

周りが注目しているのは分かっていたが、感情がとめどなく溢れてきて言葉が止まらない。

 

「ちょっ…ミコちゃん落ち着いて…。」

 

慌ててコバちゃんが止めに入ってくるが、その時の私は聞く耳を持っていなかった。

 

「コバちゃんは黙ってて!だいたい何!?昨日私が起きた時にはアンタは居ないし、今日来てみれば石上からはつばめ先輩の匂いがぷんぷんする!」

 

この匂いはつばめ先輩がいつもつけている香水の匂い。

文化祭委員で一緒になることが多く、何となく覚えてしまった匂い。

 

「起きてからつばめ先輩の家にいた人に別の場所で休んでると思うって聞いたから、私一緒に帰ろうと思ってずっと待ってたのに!!石上はあのまま泊まったわけ?!その後そんなにつばめ先輩の匂いが移るようなことしてたの?!」

 

ありえない、ありえない、ありえない。

考えたくない。聞きたくない。

石上がつばめ先輩と何してたかなんて知りたくない。

 

「別に何してたっていいだろ、だいたいお前になんの関係が…。」

 

なに…それ…。

それって、つまり…。

 

「…っ。」

 

私の目から熱い雫がこぼれ落ちる。

ダムが決壊したようにボロボロととめどなく溢れてくる。

 

「あーぁ…、今のはあんたが悪いよ石上。とりあえず落ち着け伊井野。あっち行くよ。」

 

何も考えれないまま、麗ちゃんに連れられて教室の外に連れていかれる。

 

「伊井野、大丈夫?」

 

「別に、あんなやつ…、あんな……やつ…。」

 

中学の頃から浮いていた私を、人知れず気にかけ助けてくれていた石上。

私が気づいてないと思ってたの?

全部知ってたよ。

背中に貼られてた紙の事も、私の悪口を言ってた奴らに怒ってたのも。

頑張ってるやつが笑われるのは許せないって、言ってくれてたんだよね。

生徒会選挙の時だってそう。

そうやって会長に言ってくれたんだよね、藤原先輩が教えてくれたんだよ。

 

石上が悪いやつじゃないって、私信じてた。

生徒会のファイルを見て、やっぱり石川は悪くないって分かって、私嬉しかった。

 

最近一緒に居れる時間が増えて嬉しかった。

 

文化祭実行委員で、一緒に仕事ができるようになって。

後夜祭で私のこと追いかけてきてくれて、キャンプファイヤーの動画一緒に見れて嬉しかった。

 

現実に王子様が居ないってことは分かってた。

でも、好きになればその人が王子様なんだって分かった。

石上は、いつの間にか私の王子様だったんだよ?

 

「それ…なのに…。」

 

「伊井野…。」

 

私は麗ちゃんにしがみついて泣いた。

高校一年生にもなって、みっともなく声を出して泣いた。

麗ちゃんはただ私のことを抱きしめて背中を撫でてくれた。

 

┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈

 

 

麗ちゃんは教室に戻ったが、私は一時間目はそのまま授業をサボった。

風紀委員で生徒会役員がサボりとは、と思ったが授業にでる気力もなかった。

 

その後、石上は何度か私見つける度声をかけてきたが、声が出なくて無視し続けた。

悪いことをしたという気持ちもあったが、話すと酷いことを言ってしまいそうで私から避けていた。

 

一日避けた後ろめたさと、どうしようもない気持ち悪さで生徒会室にも今日は顔を出せなかった。

 

コバちゃん達と教室で駄弁り、久しぶりに麗ちゃんと3人で帰る。

その頃には、心のモヤモヤも少し晴れていた。

 

「優ー!生徒会終わった?帰ろ帰ろ!」

 

校門に差し掛かった所で、今一番会いたくない人の声が聞こえてきた。

 

子安先輩。

石上と彼女の関係をはっきりさせたくない私は、石上も子安先輩にも会わないよう今日一日過ごしてきた。

 

でも、今…彼女はなんて言った………………?

 

「つばめ、そんな引っ張ったら転ぶから…。」

 

先輩の隣に居るのは石上…?

その石上も、今……名前…。

 

周りの音が聞こえなくなる。

全ての動きがスローモーションに見える。

頭も目の前も、真っ白で何も考えられない。

目の前で起きていることの処理ができない。

 

なんで先輩とそんなに仲良さそうに腕組んでるの?

なんで石上タメ口で名前も呼び捨てなの?

 

なんで……………

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

二人はキスをしているの?

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ミコちゃん、ダメっ!」

 

「コバちゃん……何するの。」

 

「逆に聞くけど、ミコちゃんそのシャーペンで何するつもりだったの?!」

 

「別に。」

 

「ミコちゃん!!」

 

「伊井野!!お前っ!」

 

先の尖ったシャーペンが太ももの肉を抉る。

真冬の寒さの中、右足は焼かれるように熱い。

痛みはない、ただジンジンとした鈍い感覚がシャーペンを握る手にも伝わっていた。

コバちゃん達が何やら騒いでいるが私には何も聞こえない。

聞こえない。聞こえない。聞こえない。

 

衝動的に刺してしまったが、特にどうということは無い。

痛みもない。拍子抜けだった。

せめて痛くなるまでやろう。

目の前の現実を見なくていいように。

 

「ミコちゃん!!もうやめて!」

 

コバちゃんが振り上げた私の腕を掴んでいる。

 

「…何するの。」

 

邪魔しないでよ、今いい所なのに。

あぁ、ほら。そんなことするから。

 

嫌でも意識が現実に引き戻される。

遠くに映る二人を見てしまう。

足は痛くない、だが私の心臓はズキズキとした痛みに悲鳴をあげていた。

 

 

 

苦しい、苦しいよ石上。

 

 

┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈

 

 

今私は真っ暗な自室で一人寝床のクマのぬいぐるみに抱きついてる。

あれからどうやって帰ったのか記憶が無い。

コバちゃんや麗ちゃんになにか言われたが、それも思い出せない。

 

「何やってんだろ、私。」

 

子安先輩と石上のあの光景が瞼に焼き付いて離れない。

目を閉じると何度でもあの光景がループする。

名前を呼び合う二人、腕を組む二人、そして……石上の頬にキスをする子安先輩。

 

「う………オ゛エェ……。」

 

帰ってから何度目か分からない嘔吐。

ここ数回はもう胃液しか出てこなくなった。

先程から吐き出しているゴミ箱からは、異臭が漂っているが今はそれどころではなかった。

 

「石上……石上……。」

 

込み上げて来るのは胃液だけではなく、目の奥からとめどなく涙が溢れてくる。

 

 

「苦しいよ石上ぃ……。いつもみたいに助けてよぉ………。全部……全部、夢だよね…。起きたらまた私の事バカにするいつもの石上に戻るでしょ…。また私に優しくしてくれる石上に戻ってるよね…。ねぇ……石上…石上………石上…。」

 

暗い部屋に声は響くも、返事が帰ってくるはずもなくただ闇に溶けていく。

つらい、苦しい、もう死んでしまいたい。

死にたい、死にたい、死にたい、死にたい…。

胸の苦しさと気持ち悪さ、頭の中でグルグルと回り続ける考えと、校門でのあのシーン。

 

そういえば、学校で太ももを刺した時は頭がふわふわして、何も考えれなくなったっけ…。

 

フラフラと立ち上がり、勉強机に向かう。

私は机の引き出しからカッターナイフを取り出し、カチカチと刃を伸ばしていく。

 

無心で伸びた刃先を太ももに押し当てる。

思ったより切れない。意外と皮膚は頑丈なんだな、と思いつつ押し当てる力を強める。

それなりの皮膚の抵抗を越えると、刃は思ったよりすんなりと中の肉に触れた。

 

熱い、熱い、熱い、熱い。

そう………この熱だ。

頭がふわふわして、体が熱くて、ジンジンして、何も考えられなくなる。

この熱をもっと味わっていたい。

そう思いさらに刃を横に進める。

相変わらず痛みはない。

刃が通った痕からは深紅の液体が滴り、脚を伝っている。

 

しばらくすると、ジンジンとした熱が冷めてくる。

 

「もう一回、切らなきゃ…。」

 

今度はもっと深く…強く。

太ももに刃を入れると、またあの熱が私の体を支配する。

しかし、脚だけでは上半身は寒いままだ。

頭のふわふわも、足りない。

 

そう思った私は脚に刺さった刃を抜き、左手首に向けた。

脚ほど力を入れずとも、手首の皮膚はすぐに切れた。

切った場所から垂れた液は、フローリングの床に赤い水たまりを作っている。

 

手首では脚ほどの熱を得ることは出来なかった。

だから私は、一心不乱に何度も何度も手首を傷つけた。

 

 

 

┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈

 

 

 

熱に浮かされ回らない頭、止まらない血、切ってしばらくしてから襲ってくる痛み。

 

「何……やってんだろ私……。」

 

カラン、と音をたてて手からカッターナイフが滑り落ちる。

そしてようやく現実に意識が戻ってきた私は、力なく床に出来た血溜まりに腰を落とした。

 

「痛いよぉ……石上っ……。」

 

すると、傍に置いてあったスマホから着信音が鳴る。

ディスプレイをチラりと確認すると、そこには石上の表示。

私の思いが通じたのだろうか、そんなことを思いながら通話ボタンをタップする。

 

『もしもし、伊井野か?』

 

「そうだよ。どうしたの。」

 

電話先では、申し訳なさそうな石上の声が聞こえる。

 

『いや、今日のこと…謝ろうと思って。』

 

「何を。」

 

『だから、その……パーティの後、伊井野を一人にしたこととか、今日の朝の…。』

 

あいつの声を聞くと、自然と心が軽くなった。

あのグルグルとした考えや、気持ち悪さは少し無くなった。

無くなったが、それと同時に安心感からか涙と気持ちが止まらなくなった。

 

「石上……グスッ…ねぇ…石上。」

 

『な、なんだよ。どうした。』

 

「……つらいの!苦しいの!痛いの!!ねぇ……助けて、助けてよ石上ぃ…!!!………もう死にたい。」

 

『…………すぐ行くから待ってろ。』

 

それだけ言って電話は切れた。

あはは、馬鹿だなあ私。

何期待しちゃってるんだろ。

 

石上はもう私の王子様じゃないのに。

子安先輩のものなのに。

 

┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈

 

 

30分程して、玄関のチャイムがなる。

『開いてるから入って。』

と一言LINEを送ると、玄関のドアが開き

私の部屋まで来る足音が聞こえる。

 

「伊井野!」

 

自室のドアが強く開かれる。

相当急いで来たのだろう、石上の息は上がっていた。

 

「…いらっしゃい。ほんとにきてくれたんだ。」

 

「だって、お前…死にたいって……、っ!?」

 

石上はやっと私の部屋の現状に気づいた。

充満する鉄の匂い。

私の座る場所にできた血溜まり。

無造作に捨てられたカッターナイフ。

そしてそこまで見て、やっと彼は私を見た。

私の身体に幾つもついた切り傷。

そこから滴る真っ赤な血液。

 

「やっと、こっち見てくれたね。石上。」

 

石上が来てくれた、ほんとに来てくれた。

その事が嬉しくてつい笑みが溢れる。

 

「おまっ、何笑って…!それに、それ…なんだよ!そんなに血が!!」

 

石上は机の上から箱ごとティッシュを持ってくると、何枚も出して私の傷口に強く押し当てる。

 

「なんで!何やってんだよ!こんなことするやつじゃなかっただろお前!クソっ、止まれよ!どんだけ切ったんだよお前!!」

 

なに泣いてんのよ、ばかね。全部あんたのせいよ。

血に濡れた手で石上の頬を撫でる。

抱きしめたくて膝を立てるが、力が入らず顔から倒れてしまう。

 

「あれ…、おかしいな。ちからはいんない。」

 

「アホか!動くな!いいからじっとしてろ!!」

 

それでも、愛しい彼に触れたくて力を入れる。

腕からも、脚からもドクドクと血が流れ出る。

 

「救急車呼ぶから、そのまま横にっ…」

 

「ねぇ。」

 

石上が何を言おうとしたのかは聞こえなかった。

 

 

「いしがみ、だいすきだよ。えへへ…いっちゃった。」

 

「こんな時に何言って…!」

 

「すき、すき、すき、いしがみ、だーぁいすき。わたしのおうじさま…。もうどこにもいったらいやだよ?そばにいてね、おねがい。」

 

「もしもし!?救急です!かなり血を流してて、早く来て下さい!!場所は…。」

 

もう石上が何を言ってるのか全然聞こえない。

私を無視して電話に夢中だなんて。

私の事見てよ。

 

彼の顔に両手を伸ばし、力が入らない手で彼の顔に触れる。

 

「もう、むししちゃいや。こっちみていしがみ。」

 

「…です!早くお願いします!おい、伊井野もうすぐ救急車く…んんっ!?」

 

「...んちゅ……ん、ん……んはぁ…。えへへ。ちゅーしちゃった。」

 

「お前、なにっ……!?伊井野?伊井野!!おい!返事しろ!伊井野!!」

 

遠のく意識の中、慌てふためく石上の顔が見えた。

 

 

 

 

 

 

今日は私の勝ちだね。

いつも私がしてもらってばっかりだから。

今日は特別。

 

初めてなんだから、有難く思ってよね。

これから大事にしてくれなきゃ嫌だよ。

 

すき。

石上がすき。

石上、大好きだよ。

 

これが私の初恋。

コバちゃんは王子さまなんて居ないって言ってたけど、嘘だったよ。

ちゃんとここにいる。

石上が、いてくれる。

 

嗚呼…、今日はとっても寒い。

でも、石上はあったかいね。

もっと早く甘えてればよかったなあ。

こんなに優しくぎゅってしてくれるんだもん。

 

これからは私の事ひとりにしたらいやだからね?

もうどこにも行かないでね。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「石上。」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

石上の腕に抱かれ、冷たい身体に彼の温もりを感じながら私は意識を手放した。

 

 

 

 

 

 

愛に乱れし皇の御心

end




ご講読ありがとうございました。


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愛に乱れし皇の御心 if

本編155話。『四宮かぐやの無理難題「燕の子安貝編③」』の時点で振られた石上君が逃げ、みこちゃんが雑魚ちゃんじゃなかったifストーリー。
短いですがよろしくお願いします。


 

ゲストハウスから出てきた石上からは、子安燕の匂いがした。

 

「なによ、クリスマスイブに深夜。女の部屋から出てきてそんな匂いさせて。Hでもしたの?」

 

「…てねぇよ。」

 

「えっ…?」

 

石上は声を荒げ答えた。

 

「してねぇって言ってんだろ!!!」

 

それから石上はぽつぽつとゲストハウスでの顛末を語り始めた。

子安燕から誘われて嬉しかったこと。

ベッドで身を寄せ合ったこと。

そして彼女の気持ちを聞いたこと。

耐えれず逃げ出してしまったこと。

 

「はぁー…、ばっかじゃないの?それで燕先輩ほったらかして出てきたんだ。変なプライド大事にして。」

 

石上はうつむいたまま、答えない。

 

「きっと先輩傷ついたよ。男のくせに二の足踏んで、拒否られた女の気持ちは考えなかったの?」

 

「じゃあ…どうしたらよかったんだよ。」

 

震えた声で石上は答える。

 

「こういうのは、好き同士がするもんだろ!?俺だってできることならあのまましたかった!!でも…。」

 

今度は力なく、かすれた声が聞こえた。

 

「でも…これはあんまりだろ…。同情で…、愛してるふりなんてされたくなかった…。」

 

慟哭。石上の本音。涙ながらに吐き出す彼を、私は放っておけなかった。

 

 

 

 

 

♦♢♦♢♦♢♦♢

 

 

 

 

 

石上優。

ひねくれものだが、芯は優しく、熱いものを持っている。

大友京子の件では不登校を余儀無くされてしまったわけだが、私はあの件は石上が悪いとは思っていない。

何か別の真実があるに決まっている。

そう思っていた矢先、生徒会室の戸棚で、マル秘ファイルなるものを見つけた。

そこには大友事件の顛末と、石上の勇気ある行動が記されていた。

 

ほら、やっぱり。石上は悪くなかった。

こんなの王子様じゃなきゃできない。

 

石上は大友京子がよっぽど好きだったんだんね。

でもあの女はもういない。敵になるような人はもういない。

 

気づけば中学のころからの付き合いで、最近では生徒会でもよく顔を合わせる。

いつもなんだかんだ言いながら助けてくれる、そんな彼を私は気づけば目で追うようになっていた。

 

しかし、体育祭が始まり、石上にも生徒会以外の居場所ができた。

そして石上は、体育祭準備委員の関係を経て、子安燕に恋をした。

私だけの石上ではなくなってしまったのだ。

 

 

面白くない。ポッと出の女に自分の男をとられた気分に陥った。

 

 

まだ付き合ってもいないのに、私の彼に対する執着はどんどん大きくなっていっていた。

子安燕と一緒にいるところに自分も行ってみたり、話に割り込んでみたり、私なりに妨害もしていたが、石上は一向に私を見ようとしなかった。

 

 

だが、今日のクリスマスイブ。

石上は傷心であの女から逃げてきた。

 

 

 

 

 

 

 

ーーこれはチャンスではないだろうか。

 

 

 

 

 

そう、思ってしまった。

だから言った。わかってて言った。

 

 

 

 

「石上、私としよ。」

 

「は?やだよ。一人にしてくれよ。鬱陶しい。」

 

「私のこと抱いていいよ。私は子安先輩と違って石上のこと好きだし。」

 

「は……、でも、だからってこれは違うだろ!!」

 

石上はいらつきを隠せず私に向かって怒鳴る。

もう二の句を告げさせないよう私は石上を抱きしめる。

 

「私があの女より、石上のこと好きってことわからせてあげる。それともこんな夜中に女の子一人で帰すつもり?」

 

「っ…。」 

 

抱きしめたまま、顔を上に向ける。

正義感の強い石上なら断れない。そんな確信があった。

酷い女だ、自分でもそう思うがもう止められない。

止まってはいけない。

 

「いいよ、しても。」

 

 

 

目を閉じ、石上の反応を待つ。

数瞬の間、躊躇った石上は私に唇を合わせた。

 

「ん…。石上、もういいんだよ。あの女のことは忘れて、私と一緒にいよ。私、石上のためなら何でもしてあげる。したいこと何でもしていいよ。ひどいことされても受け入れてあげる。石上には私だけいればいいの。」

 

「僕は…。」

 

 

石上が鼻をすする音が聞こえた。

頬にキスをして、もう一度唇を合わせる。

今度は抵抗なく、すんなり受け入れてもらえた。

 

ね、ほら。石上は断れない。

私の気持ちを無碍にできない。

弱っていて、子安燕に振られて、石上をものにするには今しかない。

それなら、いくらでも悪い子になろう。

みんなが求めるいい子の伊井野は今だけ脱ぎ捨てよう。

全ては、石上を救う(手に入れる)ため。

 

 

「…いい子じゃない私は、嫌い?」

 

「それは…。」

 

「ふふ、意地悪してごめんね。すきだよ石上。」

 

 

 

もう一度唇を合わせる。

ふと、人気がして視線をそらすとそこには

 

 

 

 

 

子安燕がいた。

当てつけのように、私は石上に舌を絡ませる。

 

 

「優君…うそ。」

 

それだけ言って、子安燕は走り去ってしまう。

 

「燕先輩!?…まっ…。」

 

さすがに石上も彼女の存在に気付いたようだった。

追いかけようとする石上を引き留め、抱きしめる。

 

 

 

「だめ、私だけ見てて。何も考えなくていいの。さっき振られた女と、石上を愛してる私。どっちが大事?」

 

「でも…。」

 

「ここにいると邪魔が入っちゃうね。そろそろいこっか。」

 

 

それだけ言って、エレベーターに乗り込んだ。

 

 

 

♦♢♦♢♦♢♦♢

 

 

 

エレベーター内ではお互いに無言だった。

しかし、私が求めれば石上はキスをしてくれた。

 

ビルを出てからは、私が先導して歩いた。

石上はただうつむいて、私に手を引かれるだけだった。

 

ネオン街にたどりつき、宿泊で一部屋とってチェックインする。

私たちが入る部屋までにいくつか部屋があった。

中からは女性の嬌声が聞こえる。

 

「伊井野…やっぱり…。」

 

 

 

石上は戸惑いを隠せない。

それがわかっていて、ずんずんと部屋に進んでいく。

扉を開け、カギを閉め、私は石上に抱き着いて、舌を絡ませた。

数分かもっと長かったのか、気持ちがドロドロに溶けた時間が続いた。 

 

「ベッド、いこ。」

 

石上の心を溶かす。蝕む。ここまで来たら後戻りはできない。私に応じるしかない。 

 

「…先にシャワーだろ。」

 

そうだよね、石上はやさしいね。そういうところも大好き。 

 

「ふふ、そうだね。一緒にはいろっか。」

 

「……。」

 

「洗ってあげる。」

 

 

荷物を置き石上の服を脱がせ、私も一糸まとわぬ姿になる。

二人して、シャワー室へ入る。

石上もこの状況を受け入れつつあった。

 

「ほら、燕先輩の匂いと一緒にそのワックスも落としちゃって。」

 

「何言って…。わかったよ。」

 

私の石上からあの女の匂いがいつまでもするのは許せなかった。 

 

「体は私が洗ってあげる。」 

 

そう言って、手と体を使い石上を泡だらけにしていく。

念入りに、私のものだとわからせるために尽くす。

 

「きもちいい?おっきくなってるってことはそうなんだよね、うれしい。」

 

「っ…。」

 

石上はこっちを向こうとしないが体は正直で、シャワーの熱さだけでない温かみを感じた。

 

「舐めてあげよっか。男の子ってこういうの嬉しいんでしょ?」

 

「おい、汚いからやめ…。」

 

言い終わる前に石上のを口に含む。

 

「んふ、おっきいね。顎はずれちゃいそ。」

 

「いいってもう。」

 

「好きでやってるの。もうちょっとさせて?」

 

 

 

丁寧に下からなめとっていく。

石上には否定の言葉を吐かせないよう、たくさん、たくさん尽くしていく。

口には全部入りそうにないが、喉の奥で彼のものを受け入れる。

愛に飢えているのは私も石上も同じ。

ならその愛は私が与えよう。

 

そしていつか、石上からも。愛してもらえるとうれしいな…。

 

 

「伊井野、それ…。」

 

「ひもひいいの?いいお、らひて。」

 

喉の深く奥で彼のを受け止める。

むせそうになるが、我慢してすべて飲み込む。

 

 

 

「飯野…。」

 

「ごちそうさま。いっぱい…でたね。」

 

「う、うるさい。」

 

二人して、体をふき、ドライヤーをあて、それからベッド向かった。

言葉は出てこなかったが、今度は石上から抱きしめてくれた。

 

対面する形で石上に座り、私も抱きしめ返す。

 

「つらかったね。石上。」

 

「あぁ…。」

 

「まだつらい?」

 

「つらい、な。つらいよそりゃ。」

 

一時に比べ、だいぶ落ち着いたようだった。

私の首元に顔をうずめ、擦りつく石上は捨てられた子犬のようでかわいかった。

 

私は悪い女だ。

好きな人の傷心に漬け込み、自分のものにしようとしている。

世間一般でいう寝取りや悪女というやつだ。

 

あの時追いかけてきた子安つばめをみるに、もっと話し合えば脈があったはずなのだ。

それをわかっていてわざと見せつけるようにキスをした。

ありていに言うと当てつけだ。

私のものに手を出すなという、牽制も含んだ。

 

 

結果、子安つばめは涙をためながらその場を去った。

本当はあの女も石上が好きだったのだろう。

でも私にはもうどうでもいい。

 

 

私だけの王子様を手に入れたのだから。

どんな関係でも、彼はもう私のもの。

たとえ付き合えないとしても、関係は持ったままゆっくりなし崩していくつもりだ。

 

「伊井野…。お前、それ…。」

 

石上は私の太ももを見て、驚いた声を出した。

 

「石上がなかなか私のこと見てくれないのが悪いんだよ?待ってる時間が長くてたくさん傷できちゃった。」

 

レッグカット。

私の両腿には無数の蚯蚓腫れのような切り傷痕がある。

 

「石上がわるいんだよ。こんなにアピールしてたのに、気づいてくれないから。でももう許してあげる。これからはずっと一緒にいてくれるもんね、石上。」

 

「…。」

 

私は抱きしめた腕を緩め、ベッドへと横になる。

 

「きて、石上。」

 

これで石上は私のもの、ざまぁみろ。子安つばめ。

 

 




お久しぶりです。
またちょこちょここちらの投稿進めていこうかと思いますので宜しくお願い致します。

感想で最後まで書いてほしいとのご意見いただけて本当にうれしいです。
本編もそろそろ再開していきたいと思いますので、これからもよろしくお願いします。


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愛に乱れし皇の御心Ⅱ 仏の御石の鉢

自室で自傷行為を繰り返す飯野ミコ。
駆け付けた石上に助けられ、病院へと運ばれる。


 

深夜の病院、冬の厳しい寒さからかどんどん体温が奪われていく。

身を刺す寒さに、手を合わせ、はぁっと息を吐く。

 

手術室前の廊下には誰もおらず、ただ時計の秒針の音だけがこだましていた。

 

伊井野は、自室で自傷行為を繰り返していた。

それは元を辿れば僕のせいということになる。

僕がつばめを選んだから。

罪悪感はあれど、悪いことをしたという気持ちはない。

 

結局、僕は伊井野じゃなくつばめを選んだ。

大好きだから、その気持ちに嘘はない。

伊井野には申し訳ないけど、僕はつばめのことを愛している。

 

「石上、ミコちゃんは…。」

 

小野寺と大仏がようやく到着した。

僕は病院に到着するなり、夜更けに悪いとは思ったが大仏に連絡を取り病院へと呼び出していた。

まさか小野寺まで来るとは思っていなかったが、ちょうどよかった。

 

「なんで伊井野が手術なんて…。石上、なんでこんなことになったかあんた知ってんの?」

 

あくまで冷静に、でも怒りや困惑の気持ちを隠しきれてない小野寺が僕に問いかける。

大仏はなんとなく察してそうだがあえて答える。

 

「悪い…。僕のせいだ。」

 

「僕のせい…?あんたが何かしたっての!?」

 

「ちょ、落ち着いて!」

 

掴みかかってくる小野寺を大仏が抑える。

 

「石上、何があったか詳しく教えて。」

 

こんな中でも、大仏は冷静だった。

 

「伊井野から助けて、って電話が来たんだ。部屋に入った時にはもう、部屋中血だらけで…。」

 

「…自傷してたんだよね。」

 

「そうだな…。深く切っていて、血が止まらなかった。だからすぐ救急車を呼んだ。」

 

大仏は伊井野が自傷行為を繰り返していたことを知っていたようだ。

どうも、大仏と一緒にいたとき、僕とつばめの様子を見ていた伊井野はシャーペンで自分を傷つけたようだ。

 

「そんな、なんで…。」

 

小野寺も戸惑いを隠せない。

そりゃそうだ、今まで普通だった奴がいきなり凶行に走ったんだ。

そりゃあ驚きもする。

 

「伊井野はあんたのこと好きだったんだろ。知ってたんだろ…なんで。」

 

「すまん、僕もそれはさっき知ったんだ。どうしようもなかった。」

 

「それでも…!!!」

 

「小野寺、ストップ。これは全部ミコちゃんが悪いよ。石上は悪くない。気づくのが遅かった…ミコちゃんが悪いの。」

 

三人の間に沈黙が流れた。

そうして、誰も一言も発さないまま、時間だけがただ過ぎていった。

 

 

……………

 

手術中のランプが消え、手術室から先生が出てきた。

 

「おや、君たちは。」

 

「先生、伊井野は…どうなりましたか。」

 

田沼先生は一息つき、話始めた。

 

「あと一歩遅ければ、失血死していただろうね。よく、救急車を呼んでくれた。」

 

「そう…ですか。」

 

「思春期の子はよく見てきたけど、彼女ほど思い詰めていた子は久しぶりに見たよ。足の筋にまで刃が達していてね、歩けるようになるまでしばらくかかるかもしれない。」

 

「…。」

 

僕は何も言えなかった。僕のせいでこうなったのだ、どうしたらいいのかもわからなかった。

 

「君と彼女がどういった関係かはこの際聞かないで置くけど、しばらく彼女はだれにも会わないほうがいいかもしれない。監視付きで隔離病棟に入院になるだろうね。」

 

大仏も小野寺も息をのむ。まさか、こんなことになるとは思っていなかった。もちろん僕もそうだ。

 

「親御さんは来られていないかな?」

 

「いえ…。」

 

「そうか…、まぁ今日はもう遅い。君たちももう帰りなさい。親御さんには私のほうからまた連絡しておくから。」

 

この時間まで伊井野の両親は姿を見せなかった。

そして僕たちは促されるまま、自宅への道へ着いた。

 

「…石上。私はあんたを許さない。」

 

岐路にて、小野寺が唐突にそういいだした。

 

「あぁ…。そうだな。」

 

「…。」

 

大仏は黙ったまま、去っていく小野寺を僕とみているだけだった。

 

「石上、大丈夫。何度も言うけど石上は悪くないよ。あの子が恋を自覚するのが遅かっただけ。行き場のない気持ちを吐き出す場所が痛みだっただけ。だから石上は悪くない。」

 

「ありがとな、大仏。」

 

大仏は深くため息をつき近くの公園へと僕を誘った。

自販機でなにがいい?と聞かれとりあえずココアを頼んでおいた。

 

二人分のココアを買った大仏とベンチに座り買ったものを飲む。

 

「あっつ…。」

 

ココアに口を付けたら舌をやけどしそうになった。

まぁホットだからしょうがない、猫舌の僕が悪い。

 

 

大仏こばち、改めて彼女について触れようと思う。

普段は丸眼鏡に長い髪をまとめた、地味を絵にかいたような風貌の彼女。

伊井野とも幼馴染の関係で、親友と呼び合う仲だ。

いつも伊井野と一緒におり、冷静沈着な突っ込み役、というのが彼女を表すのにふさわしい言葉になるだろう。

 

そんな大仏は缶を開けもせず、しばらく虚空を見つめていた。

そして、しばらくしてからぽつぽつと言葉を吐き出していった。

 

「私ね、ミコちゃんが石上のこと好きなの気づいてたんだ。ずっと前から。」

 

「そう、なのか。」

 

「うん。だって、ミコちゃん石上のそばだと明らかに元気になるんだもん。本人は無自覚に絡みに行ってただけかもだけど。」

 

確かに、伊井野は僕にだけはよく絡んできた。

ただ、注意が多く気に入らないから目の敵にされているだけかと思っていた。

 

「嫌よいやよもって言うじゃない。そういうやつ。ミコちゃんって夢女子だからよくポエムとか書いてるの。その中にも何度も石上らしき男が出てきてたから多分そうかなって。最初はそれだけだったけど、ミコちゃんが気づかず私も放置したらこんなことになっちゃった。」

 

まさか、と思ったが、大仏は伊井野と唯一友達と呼べる関係を前から築いていた。

だからこれも間違いはないだろう。

 

「いい機会だから言っとくけど、私も石上のこと好きだったんだ。」

 

「は…?」

 

「といっても最初は人間的に、だったけどね。中学のころからミコちゃんのこと、人知れず助けてたでしょ。周りにかみついて敵しか作らないあの子を、見えないところで助けてた。今回のこともそう。自分を顧みず、人を助けられる、石上が好き。今では本当に、大好き。」

 

「でも、僕は。」

 

「知ってる、つばめ先輩とうまくいったんでしょ。私石×つば派だからさ。私もこれでよかったんだと思ってる。憧れの人は見てるだけで満足できちゃうから。」

 

つばめ以外からのしっかりとした好意を向けられたことがない僕はどう返したらいいかわからなくて黙ってしまった。

 

「それにしても、ミコちゃん。ほんとに馬鹿なことしたね…。ほんと馬鹿。」

 

大仏…と声をかけようと彼女の方を向くと、見上げた顔の眼鏡の下から一筋の雫が落ちていた。

 

「そんなこと。そんなことしても、何にもならないのに…。」

 

 

ひとしきり泣いた後、大仏はココアを飲み干し僕の方に向いた。

 

「石上、しばらくミコちゃんのことは私に任せて。必ず目を覚ませて見せるから。それが、友達だから。」

 

「悪い…。」

 

「大丈夫、石上はつばめ先輩を幸せにすることだけ考えてればいいよ。あとは親友の私の仕事。」

 

大仏は立ち上がると、こちらを向きニッと笑う。

本当に大仏が伊井野の友達でよかったと思う。

 

 

……………

 

 

次の日から、伊井野は隔離病棟に移り面会謝絶となった。

伊井野の両親は手続きだけして、仕事に戻ったようだ。

何とも薄情な親だと思った。

 

秀智院学院も本格的に冬休みに入り、推薦で大学が決まっているつばめとの時間が必然的に増えた。

 

今日も部屋にお呼ばれしており、僕は眠い目をこすりながら、彼女の部屋へと向かった。

 

「いらっしゃーい。わ、優すごいクマ。寝てないの?」

 

いつも通り、部屋着にお団子ヘアの彼女が出迎えてくれた。

 

「ごめん、昨日いろいろあってあんまり寝れてないんだ。」

 

「そっかそっか。頑張ったんだね。じゃあお部屋で聞こうかな、そのいろいろ。」

 

そして、彼女の部屋にあげてもらう。

つばめの部屋は、the女子といった感じの白とピンクで統一された部屋だった。

ごてごてしているかと言われればそうではなく、基本的に白い部屋に家具、ものはあまりなく小物はピンク色というかなりシンプルな装いだった。

 

「優はここすわってて、お茶入れてくるね。」

 

そう言ってボクをソファへと促し、彼女はお茶を入れに行った。

部屋の中は香水などが好きなつばめらしく、いい香りがする。

 

「お待たせ、あったかいので良かったよね?」

 

「うん、大丈夫。」

 

「はぁ…うん、あったまるね。それで?昨日何かあったんでしょ?お姉さんに話してみなさい。」

 

「昨日、夜。伊井野から電話があったんだ。」

 

「へぇ、優は彼女の部屋で別の女の話するんだ。」

 

あからさまにムスッとするつばめ、僕に絡みつく腕が少し強くなる。

 

「いや、そういうつもりじゃ…。助けてって電話が来て、部屋に行ったら血だらけの伊井野がいて…。」

 

「血だらけ…?」

 

そこでつばめの表情も厳しいものとなった。

 

「リスカにレグカ、たくさん切ってた。あともう少し救急車呼ぶのが遅かったら失血死してたって。」

 

「ふーん…。」

 

「それで、夜中過ぎまで病院にいたんだ。」

 

「そっかそっか。お疲れ様だったね。でもそれだけ切っちゃった理由、私なんとなくわかる気がする。」

 

「えっ…なんで?」

 

「だってミコちゃん、優のこと好きじゃん。私との関係見せつけられたら病むに決まってるもん。私が逆の立場でもそうするかもね。よかったね、あんなメンヘラと付き合わなくて。」

 

逆の立場でもそうするってことはつばめも相当なのでは?という言葉は胸の奥に厳重にしまっておく。

 

「事実だとしても言い方ってもんがあるでしょう…。」

 

「ふん、優は私よりミコちゃんの方がよかったの?」

 

「そんなわけない!僕はつばめが好きなんだ。」

 

「ふふ、知ってる。他の女の話されてやきもち焼いただけ。でもミコちゃんがねぇ…。優も私が同じ事したら助けてくれる?」

 

「絶対そんなことさせないし、自傷するような状況にしない。」

 

「んんー、優は優しいねぇ。」

 

そう言いながら絡みついてくるつばめ。

 

「あとは大仏がどうにかするって言ってた。だから任せて帰ってきたんだ。」

 

「私の方が大事だから?」

 

「大事だから。」

 

「んへ。うれし。」

 

顔をふにゃっとさせ抱きしめ、小刻みにキスをしてくる。

 

「それにしても優は罪な男だねぇ、私のほかにもう一人病ませるくらい良い男なんだから。」

 

「そんなこと…。」

 

病んでるんですか?いい男って言われたこと自体はうれしいけど…。

 

「あーるーのー。いったでしょ。私も結構重いし、よく病むし。冬休み中は、ずっとゲストハウスで過ごしてもらうからね?正直どこにも出すつもりはないし、帰すつもりもないから。」

 

「えっ…何それきいてない、僕着替えとか持ってきてない…。」

 

「大丈夫、昨日買ってきたから。それ使って。」

 

真顔でそんなことを言うつばめは少し怖かった。

まさか冬休み中にプチ監禁されるとは思ってもみなかった。

 

……………

 

昨日の今日で眠気に耐えれなくなり、僕はつばめの部屋で寝てしまっていたようだ。

目を覚ますと、隣には小さく寝息を立てるつばめ。

 

その寝顔がいとおしくて額に軽くキスをすると、つばめは体をさらに寄せ、抱き着く腕を締めるのだった。

 

「そろそろ起きなきゃな…、今何時だろ…。」

 

そう思い、携帯を探す。

画面をつけるとそこには22時の表示。

だいぶ寝てしまっていたようだ。

 

「つばめ、つばめ、起きて。もう10時だ。」

 

「んえ…おはよぉ。よく寝れた?つい私も一緒になって寝ちゃった。パパもママも今日はいないからゆっくりできるよ。晩御飯どうする?食べに行く?」

 

「いや、僕が作るよ。」

 

「ほんと?じゃぁお言葉にあまえちゃおっかなぁ。」

 

そう言って擦りついてくるつばめ。

 

「食材買いに行きたいけど、この辺24時間のスーパーとかある?」

 

「あ、うん。10分くらい歩いたとこに〇ックス〇リューある。」

 

散歩がてら歩こうか、と手早く着替え外に出る。

雪は降っていないが、夜中はやっぱりよく冷えていて寒い。

 

「うー、寒いねぇ」と言いながら、左腕に抱き着いてくるつばめ、正直陰キャの僕からしたら夢のような光景だった。

 

スーパーはさすがにガラガラで仕事帰りのサラリーマンたちがちらほらいたくらいだった。

 

「何作ってくれるの?」

 

「簡単にオムライスかなと。」

 

「んーじゃぁ卵とケチャップかな、あとは鶏もも。」

 

「つばめも料理するの?」

 

「この前のゲストハウスで出した料理、私の手作りだよ?」

 

「うへ、マジすか。こりゃ幻滅されないように頑張らないと。」

 

「いいっていいって。大事なのは気持ちだよ。」

 

会計をさっと済ませ帰路へと着く。

 

「去年の今頃だと考えられないなぁ。」

 

ふとつばめがつぶやいた。

 

「なにが??」

 

「んー?こうやって年下の男の子捕まえて一緒にデートしてることが。」

 

「つばめならモテるから全然そんなことないでしょ。」

 

「だから言ったじゃん、私恋愛に臆病になっててそれどころじゃなかったって。誰とも付き合うつもりもなかったし。」

 

「猶更僕でよかったの?」

 

「怒るよ、優。」

 

むにっと頬を引っ張られる。

 

「いはいいはい。」

 

「あんなに情熱的に告白してくれたのはうそだったの?初めてもあげたんだから、もう逃がさないよ。」

 

怖いっすつばめさん…。

 

「逃げませんて、ずっと好きでいますよ。僕もずっと一緒にいたいし。」

 

「うん、よろしい。でも帰ったらお仕置きかな。」

 

「えぇ!?なんで!?」

 

「私言ったよね、ミコちゃんに優しくしないでって。」

 

「あー…はい。すみません。」

 

「今回は命にかかわることだから許してあげるけど、帰ったらたくさん抱いてくれないといや。」

 

そう言って、時たま見せる強い独占欲。

伊井野も伊井野だけど、つばめも大概だよなぁ…。

 

 

……………

 

ゲストハウスに帰ってきた僕たちは、早速遅い夕食づくりに入った。

鶏肉を細かく、玉ねぎとピーマンもみじん切りに。

チキンライスを手早く作り、卵は半熟のタンポポオムライスだ。

 

「おいしいね、料理意外とできるじゃん。料理男子はもてるぞー?」

 

「はは、喜んでもらえてよかった。」

 

「そこ、喜ばない。私以外にもてたいの?料理、私以外に作っちゃだめだよ?」

 

「うぃっす…。」

 

別にそこで喜んではいないのだが、かわいい独占欲が見れて僕は少し満足だった。

 

オムライスを食べ終わり、片づけをしながらお風呂の準備を進める。

先ほどから「一緒に入るでしょ?」とつばめの圧がすごい。

 

そりゃもう…、ハイ。一緒に入らせていただきますとも。

 

 

……………

 

 

 

 

 



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冬の燕は何を想うのかAfterlife:命短し恋せよ乙女

伊井野ミコの一件がひとまず落ち着き、冬休みをつばめ宅で過ごす石上。

遠慮のなくなったつばめに石上はたじたじなのであった。


 

「優、お湯加減どう?」

 

僕は現在、冬休みにつばめの家のゲストハウスでプチ監禁ライフ中だ。

夜中に目が覚め、ちょうど晩御飯を食べ終わり入浴となったのだが…

 

「一緒に入るのはこの間以来だね。」

 

つばめと一緒にシャワーを浴びているのだった。

彼女の一緒に入るよね?という圧に勝てなかった…。

 

だって、もう目が獲物を狙う猛禽のそれなんだもの、男の子的にはもうこれは負けてしまってもしょうがないと思うんだよね。

 

会長や四宮先輩もこういう年末を過ごしているのだろうか。

そんな現実逃避もむなしく、一糸纏わぬつばめに体を洗われていく。

 

「優もちゃんと男の子だよね。元気でよろしい。」

 

「ちょっと、どこ触ってんですか。」

 

「優の優?」

 

「その言い方、おやじ臭いですよ…。」

 

「敬語。」

 

「ご、ごめん。」

 

「ふふ、これが私をいいようにしたのかぁ。」

 

「言い方…。」

 

ちょいちょいこの人表現がおやじくさいんだよなぁ…。

 

ちょっと反撃のつもりでつばめの秘部をなでる。

か細い嬌声とともに崩れるつばめ。

 

「ちょっと…、急に触るの…禁止。」

 

「お返し。」

 

触るまでもなく、奥から分泌された愛液で濡れていた。

 

「つばめって、感じやすいよね。ほんと。」

 

「そんなこと……ある、かも。」

 

「そんなになるまで一人でしてるんですか?」

 

外では普通にセクハラととられる言葉だが、ここは個室。

さらには同意のうえで一緒にお風呂。

セクハラもくそもない。もうすでにそういうことなのだ。

 

「今まではそんなに…。最近は夜はずっと寝るまで…してるかな?」

 

そんなにかよ!?

軽くびっくりした。意外とこの人性欲強いんだよなぁ…。

 

「幻滅した?初めての夜が忘れられなくて…。ゆうくんが悪いんだからね?」

 

そういい、唇を合わせてくる。

前のように優君呼びはずるいっすよ…つばめ先輩。

 

抱き着かれてわかる彼女の鼓動の速さ、そして胸部の一部の硬さ。

言われなくても興奮しているのがわかる。

 

「もう、ね?わかるでしょ?ちょうだい?」

 

「こんなとこでしたら風邪ひきますよ。出てから。それまで待てる?」

 

「お預けなんていや…!ね、お願い。優君。」

 

そう言われれば僕だって興奮してしまう。

その滾りを押さえつけるように、唇を塞ぎ、口内を舌で蹂躙していく。

 

「も…、無理。早く…。」

 

「出てから。…僕もいろいろ限界なんですよ。」

 

「~~~!!!」

 

浴槽に浸かってからも、つばめからのキスの嵐はやまない。

お互いを愛撫しあうが、限界が来ないよう、お互いの秘部には触れない。

 

そうして10分、20分と時間が過ぎていき、のぼせそうになりながらいそいそと浴槽から上がる僕たちなのであった。

 

……………

 

それからベッドの上に場面は移る。

 

僕たちは浴槽での愛撫をひたすら続けていた。

 

「優…、無理。もうむりぃ、壊れちゃう。」

 

「たくさんやきもち焼かせたから、お返し。」

 

「あそこ触ってよぉ。せつないの…。」

 

そう言われ秘部の核をつかないように周りからゆっくりと攻める。

かれこれもう二時間近く同じことを繰り返している。

 

「またそれっ…逝かせて…。」

 

「だめ、今日はゆっくりするって決めてるから。」

 

「何それぇ…、イっ…。」

 

その声が聞こえた時にはもう僕は手を止める。

 

「なんで、なんでなんで。もうゆるしてぇ…。」

 

「まだ、だめ。」

 

「もう限界なんだってばぁ、いれてよぉ。」

 

つばめの体のありとあらゆる個所を触った。

どこが好きで、どこがより感じるのか。それすらもう手に取るようにわかる。

 

つばめは数時間に及ぶ攻め手に頭も心もぐちゃぐちゃに溶けている。

 

「なら、お言葉に甘えて。」

 

ベッド横に置いてあるコンドームに手を伸ばす。

 

「つけちゃ…いや。もうあの日からピル飲んでるからそのまま、ね?」

 

その言葉を聞き僕ももう限界だった。

 

「あ”っ…」

 

入れた瞬間、嬌声とは違う獣のような声がつばめからきこえ、気を失ってしまった。

それからはお構いなしにつばめの体を余すことなく味わった。

 

その間ただ入れているだけなのに気絶しては喘ぎ、気絶しては喘ぎを繰り返し、一時間と立たず反応がなくなったのだった。

 

……………

 

「昨日はなんだかすごくいいようにされた気がする。」

 

「気のせいだって。」

 

だって半分くらい気絶してたんだもの。

僕は悪くない。”たまたま”見たスローセックスを実践しただけだもの。

 

「ちぇーくやしいなぁ、年下の男の子に手玉に取られてさぁ~。」

 

私だってうまくできるのに。とつばめは朝からそっぽ向いてしまった。

それが可愛くて、振り向きざまに口づけをする。

 

「ずるい…。ずるいずるい!!ゆうくんばっかり!私だってリードしてあげたいのに!」

 

「主導権はまだまだ渡しませんよ。」

 

そう言ってお互い笑いあう。

こんなのが普通の幸せって言うんだろう。きっと。

 

テレビを見ていると、年末特番でバラエティがずっと流れている。

 

CMで年末売り尽くしセールが流れた時つばめが立ち上がった。

 

「優、年末セール行こう!デートしよデート!なんだかんだちゃんとデートしたことなかったもんね!」

 

そう言われればそうである。

つばめと会うときはデートもせずに延々盛りあっていただけだ。

 

「いいね、どこいこうか。」

 

「せっかくだし、ショッピングモールいってそのあとイルミ見ようよ!」

 

そんなこんなで、僕とつばめの初デートが始まった。

 

……………

 

「今日はリボンつけてないんだね。」

 

家を出る前、ふといつもと髪型が違うことに気づく。

 

「あの日と同じだよ。私が初めて、優君を傷つけた日。」

 

つばめとの初夜。便宜上僕が振られた日だ。

 

「もう大丈夫だよ。傷ついたなんて思ってない。」

 

「もう怖くない?」

 

「怖くない。そんな気持ちより、愛情が勝ってるから。」

 

「…ぽよみがえぐい。」

 

「つばめってなんかたまによくわからん事言うよね。」

 

「えっそうかな?」

 

「テンション上がると解読不能だから…。」

 

「ご、ごめん。友達からもよく概念で会話するって言われるんだよね…。なんでだろ。」

 

そういうとこだと思いますよ、つばめ先輩。

 

……………

 

「あーきはーばらー!!!」

 

「ここ浅草ですよ。」

 

「え、でも都会でデートの時にはこう言うんでしょ?」

 

「それは千葉の兄妹だけです。」

 

初手からわけわからんことを言われ、やってきましたショッピングモール。

 

「あれ、会長じゃないですか?」

 

「あ、ほんとだね。四宮さんも一緒だ。でもなんで制服?」

 

「四宮先輩、ああ見えて結構恋愛弱者ですからね。デートと言えば制服、っておもってんじゃないですかね?」

 

事実である。

四宮かぐやは幼少よりそういった知識を入れてこなかったため、恋愛像が幼稚園レベルで止まっているのだ。

 

「まぁ楽しそうにしてるし、見なかったことにしよっか。」

 

「そうですね。」

 

「けーいーごー。」

 

「ごめん、なかなか抜けなくて。」

 

「さては私の大人の色気でそうなってるな?」

 

「ふふ、そうかもしれませんね。」

 

「あーいま絶対違う意味で笑ったでしょ!」

 

「違うって。いこう、つばめ。」

 

「はーい。」

 

……………

 

「ねぇ優、どっちが似合うと思う?」

 

「個人的に好きなのはこっち、似合うと思うのはこっち。」

 

「…優ってなんかエッチな服装好きだよね。そんなに肩だしすき?」

 

「すきです!」

 

「そ、そっか。そんなに力強く言われるとは…。また来年の秋くらいになったら着てあげるね?」

 

「あざーっす!!!!!!」

 

男の子とは欲望に正直な生き物なのである。

個人的に、肩だしでタイトスカートとかかなり好みだ。

 

「ぎゃるっぽいのが好きなんだ?」

 

「オタクに優しいギャルがここにいますからね。」

 

「む、私ギャルじゃないもん!」

 

「えっ」

 

「えっ?」

 

「まぁそれはそれとして、こっちも良くないですか?」

 

「またまたもう…。体のライン出る服ばっかり…。」

 

「似合うと思うけど。」

 

「また今度着てあげる!この服脱ぎやすくてよさそうだし」

 

「…?」

 

何故この人は脱ぎやすさ重視で服を見ているのだろう。

 

「…////」

 

あぁ、そういう。

 

「帰ったらまたしましょうね。」

 

「…はい。」

 

ほんと性欲魔人だなこの人。

 

……………

 

「優、喉乾かない?タピらない?」

 

「いいね、ちょうどあそこにあるから並ぼうか。」

 

そして、タピオカの列に並んでいた時だった。

 

「石上?」

 

「あ、会長。」

 

「あー!四宮さんだ!」

 

「こんにちは、子安先輩と石上君。」

 

「そっちはデートか?」

 

「そうですよ、会長もデートですか?」

 

「あぁ、初デートってやつだ。」

 

隣で四宮先輩が赤くなっていた。

 

「奇遇ですね。僕たちも初デートなんですよ。」

 

「は?」

 

「えっ?」

 

「お前、結構な頻度で子安先輩と会ってないか?」

 

「そりゃあ…ねぇ。」

 

「わかった言わんでいい。なんとなく察した。」

 

会長は眉間のしわをもみ、何かを察したようだった。

 

「会長の方はどうなんですか?」

 

「まだまだ、何にもだよ。これからだ。だから言ったろ初デートだって。」

 

「やることは?」

 

「…まだしてない。」

 

「なるほど。」

 

何がなるほどなのかはさておき。

一方そのころ。

 

「四宮さんもこういうところでデートするんだね。」

 

「えぇ、私は普通でいいんです。会長と一緒にいれたらそれで。」

 

「なんだか付き物が落ちたみたいだね。すっきりしてる感じがする。心境の変化かな?」

 

「そうですね。会長と付き合えていろいろ吹っ切れました。四宮の娘でも普通を求めていいんだって、実感させてもらいました。」

 

「ふふ、良かったね。お似合いだよ。」

 

「ありがとうございます、子安先輩。と、ところで石上君とはどこまで?」

 

「あ、順番来たから続きは座ってはなそっか。」

 

……………

 

飲み物を受け取り、女同士で話があると言って四宮さんと同じベンチに座る。

 

「それで…石上君とは…。」

 

「あーうん。優とはね、もう最後までしちゃったし。いまうちで軟禁してるんだー。」

 

「軟禁!???」

 

「だってほら、今冬休みだし。」

 

「何がだってほらなのかはわかりませんが、わかりました…。」

 

かぐやの脳は処理できずに理解を拒んだ。

 

「それで、その…、誘うときはどちらから?」

 

「大体私かなぁ?四宮さんは?」

 

「…まだです。お恥ずかしながらどうやって誘うかわからず…。」

 

「そんなのちゅーして脱げば一発だよ!」

 

謎のサムズアップ、謎の自信。またしてもかぐやの脳はフリーズしてしまう。

 

「そんな破廉恥な!!!私はですね、もっとムードとかそういったものをですね…。」

 

「そんなこと言ってると、いつまでもずるずる行くよ?こういうことって、雰囲気と勢いが大事だと思うし。」

 

「それはそうなんですが…。」

 

こうしてかぐやの苦難は続く。

 

……………

 

そして場面は男性陣へと移る。

初夜を迎えれていないかぐやの相談同様、白銀もまた石上に相談を持ち掛けるのだった。

 

「行っちゃいましたね、二人。」

 

「そうだなあ。まぁ女子にはいろいろあるんだろ、女子なりの話すことってのが。」

 

「まぁそうですね。」

 

「で、だな。石上。」

 

「なんですか会長。」

 

「子安先輩とはどうなんだ。」

 

「直球っすね、どうしたんですか。」

 

「まぁいいだろ、彼女持ちが二人いるんだ。ボーイズトークってやつだよ。」

 

「藤原先輩が今ここにいないことをこれほどありがたいと思ったことはありませんよ。」

 

……………

 

「対象F発見。かぐや様に近づけないよう誘導して。」

 

藤原もまた今日この時このショッピングモールに来ていた。

藤原萌葉と白銀佳も一緒である。

 

四宮の家のヴァレットである早坂はこんな時でも気が抜けない。

主人の時間を護るべく、裏で暗躍していたのであった。

 

「もう…なんでこんな時に機を狙ったかの如く湧くんですかねこの人は…。」

 

対人F装備。

 

「あれー、もしかして書記ちゃんだしー?」

 

こうして早坂の戦いは始まった。

 

……………

 

「まぁそう言ってやるな、あんなのでも生徒会には必要なメンバーなんだ。」

 

「あんなのって、会長も結構言いますね。」

 

「そりゃ俺と四宮の時間が何度邪魔されたことかわからんからな。」

 

「狙ったように出てきますよね。今日もここにきてたりして。」

 

「やめろ、ほんとに出てきそうじゃないか。」

 

「冗談ですって。」

 

生徒会メンバーからの藤原の評価はみな似たようなものだった。

 

「で、どうなんだよ。実際のところ。」

 

「つばめとは仲良くさせてもらってますよ。」

 

「そうか、まぁもうやることやってんだろうなとは思ったが、結構進展早いのな。なんか安心したというか石上がなぁっていう感慨深さもあるよ。」

 

「これも会長たちのおかげですよ。」

 

「よせよ、お前の努力だ。生徒会以外にも居場所を作れたのはお前自身の力だよ。」

 

「会長…。」

 

「まぁ…、そんなお前にちょっと相談があってだな…。」

 

「なんですか、なんでも言ってくださいよ。」

 

どもる会長。なかなか話が出てこない。

言いづらい話なんだろうか、もしかして何か重大な悩み事が…。

 

「…お前ら、セックスするときいつもどうしてる?」

 

「は…?どういうことっすか。」

 

セックス?なんでそんなこと…。

 

「だから、誘うときとかだな…、どうしてるんだってことだよ。」

 

白銀御行、これまで勉強がお友達の彼には性知識というものがあまり備わっていない。

石上とみる漫画か、エロ本程度なのだ。

 

「ほら、相手が四宮だからどうしたらいいかと思ってずっと悩んでるんだ。きっとロマンティックなものを望んでる気がするんだよな。俺もエロ本程度の知識しかないし、傷つけたくないからどうしたもんかと。」

 

「会長…。まだ四宮先輩のこと名前で呼んでないんですか?」

 

「た、タイミングがなくてだな…。」

 

「それ、それですよ。タイミング。パーソナルスペースを詰めるにもまずは名前呼びからじゃないですか?いい機会だから名前で呼んであげればいいじゃないですか。あとはタイミングが来たらなるようになりますよ。」

 

「そんなもんなのか…。だがタイミングってもな…。」

 

「うちのつばめさんは性欲魔人なので、そういった誘い文句とかタイミングとかぶっちゃけあんまり困ったことないんですよ。」

 

「そ、そうなのか、聞きたくなかった情報だな…。」

 

「まぁそんなことはどうでもいいんですよ。要はなるようにしかならんってことです。キスして好きとか愛してるって言いながら抱きしめたり触ったりしてればいいんですよ。」

 

「でもなぁ、拒否られたら嫌じゃん?」

 

「だからタイミングなんですよ、まぁでもそのタイミングもきちんと作らないと訪れませんよほんと。」

 

「タイミングなぁ…。」

 

「会長の場合はまず名前呼びからしてあげることですね。あともう少しスキンシップ多めにとってあげるとか。」

 

「そうか…なんとなく分かった。」

 

「結局そういうことするのも勢いが必要なんですよ。タイミング見失うとしないままずるずる行きますよ。」

 

石上もしっかりやることやってんだなぁと、どこか置いてけぼりにされた気分になった白銀であった。

 

……………

 

「あ、優!そっちは話終わったの?」

 

「終わった、そろそろ行こうかつばめ。」

 

「四宮さんたち、うまくいくといいね。」

 

「そうね、まぁ会長のことだからやると決めたらやると思うから、大丈夫だと思うよ。」

 

「そっか、うん。そうだね!」

 

会長たちがうまくいくことを願って、僕たちはショッピングを再開した。

 

「あれー石上君じゃないですかー!」

 

対象F、バッティング

 

 

……………

 

白銀とかぐやもデートを再開していた。

 

「随分と話し込んでいましたね。会長。」

 

「まぁ男の子にもいろいろあるんだよ。」

 

「そうですか。」

 

むむむ、気になる。会長が何を話してたのか。

もしかして私への不満かしら…、もしそうだったら…。

 

「四宮。」

 

「なんでしょう…?」

 

「付き合いもそれなりだし、もうさ…お互い名前で呼ばないか?」

 

「えっ…。」

 

不意打ち、自分の不満を口にされていたとばかり思っていたかぐやには寝耳に水だった。

 

「いや!嫌ならいいんだ、このままで。」

 

「そんなこと言ってないじゃないですか…御行…くん。」

 

「かぐや…。」

 

ときめきが止まらないかぐや。

胸を締め付ける感覚がこれ以上ないほど襲ってくる。

 

これって、もしかしてそういうタイミングじゃないかしら。

 

「御行くん…、買い物デートはもういいから。御行くんの家に行きたい…。」

 

「え、それって…。」

 

上目遣いで白銀を見るかぐや、その頬は赤らみ、少し目もうるんでいるようだった。

 

「わかった…。」

 

そういうと白銀はおもむろにスマホを取り出し、手早くLINEを送る。

 

「今日は家、だれもいないから。」

 

妹の佳は藤原家にここ数日泊まっており、先ほど父親には『帰ってくるな』とメッセージを送った。

父親からは『避妊はしろよ』と一言だけ返ってきた。

もう盤石であった。

 

……………

 

デートを中断し、自宅へと戻ってきた白銀達。

 

「ここが、御行くんの新居なんですね。」

 

なんだかんだ家に呼ぶのは初めての白銀。

帰りがけに挙動不審になりながらもコンドームはきちんと買ってきていた。

 

「俺の部屋こっちだから、座って待っててくれ。飲み物持ってくる。」

 

部屋にかぐやを通し、とりあえず落ち着くため飲み物を入れに行こうとしたところ、背中に衝撃があった。

 

「……。」

 

かぐやが白銀の背中に身をよせていた。

 

「かぐや…?」

 

「行かないで。一人にしないで。」

 

なるほど、これがタイミングか。と先ほどの石上の言葉を反芻する。

かぐやを抱きしめ、頭をなでる。

 

彼女も心地よさそうに受け入れてくれる。

そしてかぐやからのキス。

 

あの文化祭の日から幾度となく繰り返してきたキス。

お互い何度やっても恥ずかしさからなれず、いつもぎこちなくなってしまう。

 

「かぐや…。」

 

一言つぶやき彼女をベッドへと優しく押し倒す。

恥ずかしがってはいたが、すんなり受け入れてくれた。

 

制服の上から彼女の慎ましい胸を触る。

なるべく、怖がらせないように。

 

優しく。頭をなでること、キスも忘れない。

何度も、何度もキスを繰り返し、少しずつかぐやの服を脱がしていく。

制服を取り払ったそこには、白いレースの下着をつけたかぐやだけが残った。

 

背中から、腰。腰から臀部へと触る手を下げていく。

しかし、かぐやは震えながら、息遣いを荒くするだけだった。

 

「あっ…。ごめ……。」

 

「いえ、違うんです。続けて…、ください。」

 

申し訳なさそうな顔で、かぐやは顔を傾ける。

やはり、そう急すぎた。そう思って出た言葉は

 

「やっぱ、やめとくか?」

 

「でも、御行くんはしたいんですよね…?」

 

震えた声で、かぐやは問う。

 

「……、いや。したくない…わけではないんだけど、かぐやが…、嫌なら。」

 

沈黙。かぐやは何も答えなかった。顔を伏せ、ただただ何もない時間が過ぎてゆく。

 

「あはは…、別に焦ることでもないしな。次の機会に…「次っていつですか?」

 

かぐやから出た言葉は意外なものだった。

 

「焦らなくて、いいんですか?御行くんはアメリカへ行ってしまうのに…。私たちにはそれほど多くの時間が残っていないのに…!」

 

涙ぐみ、声を荒げかぐやは問う。

 

「焦るのはおかしいですか!?」

 

「かぐや、そこに座れ。」

 

顔を紅潮させ、息遣いの荒いかぐやをベッドの淵へ座らせる。

 

「あのな、かぐや。別に時間がないわけじゃない。俺がアメリカへ行っても俺たちは恋人だし、ちょくちょく帰ってくるつもりだ。毎日LINEなりディスコードなりで話そう。国際電話が何万もかかる時代じゃないんだ。帰ってきたらそれこそ、時間はいくらでもある。違うか?」

 

かぐやはうつむき、答える。

 

「でも…でも、それでも四年です。私は耐えられません。四年間の間に、向こうで好きな人ができるかもしれない。遠距離恋愛はうまくいかないって…、みんな言います。高校の時の恋愛は長く続かないってみんな言います。焦るに決まってるじゃないですか!!ならせめて体だけでもつながってないと!」

 

慟哭、まぎれもないかぐやの本心。すきだから、好きでい続けられるためならば、とそう考えるかぐや。

 

「かぐや、これは俺が不利になるからあんまり言いたくないんだけどな。男に女を覚えさせないほうが、浮気しないものだぞ。一度も酒を飲んだことがなければアルコール中毒にはならないというのは石上の言だったか、してもしてなくてもどっちもどっち。振り回されても仕方ないさ。こういうのはかぐやがしたいと思ったときにしていいんだ。焦らなくても、いいんだよ。」

 

「御行くん…。」

 

少し、顔が緩んだがぐやだったが、膝立ちになり、自分の秘部へ白銀の手を持っていく。

 

「したいときは…、今なんですよ?」

 

そういうかぐやは先ほどとは違い、期待で瞳を潤ませ、興奮で紅潮しているようだった。

そして、白銀が触った秘部はとんでもない熱と愛液が入り混じっていた。

 

「きて、御行くん…。」

 

 

……………

 

 

「ただいまー。」

 

白銀佳、帰宅。

 

「あれ、ピザだ。珍しい。おにい、昨日誰か来てたの?」

 

「…いや?」

 

数時間前までかぐやと、あそこで。

あたりまえだけど、かぐやの裸体って実在したんだな。

人の肌の感触ってヤバイ…!

 

俺たち…ほんとに…。

 

『こういうのはかぐやがしたいと思ったときにしていいんだ。焦らなくても、いいんだよ。』

 

………あーーーーーーーー!!!!!!!!

俺、意思よっえええええええええええええええええええ!!!!!

あんな上目遣いで、あそこ触らされて好き好き言われたらブレーキ壊れるわ!!!!!!

これはしょうがなくない?

こちとら手をつないで歩くだけで下半身に来る年頃男子だぞ!

 

はぁ…焦らず行こうって言った口で…

 

「あぁ…俺って最低じゃん。」

 

そう言ってベッドへとうずくまる白銀。

 

あっ、…かぐやの香りがする。

 

……………

 

かぐや自室にて

 

「えっ、ほんとに?昨日?最後まで?」

 

俯くかぐやに、顔を赤くする早坂。

 

「ちょっと枕借りていいですか?」とベッドに備え付けてある枕に顔をうずめじたじたとする早坂。

 

「でも、あれですよね。焦らずって話したばっかりじゃなかったんですか?」

 

「そうなんですけど…、私のこと考えてくれてる会長が素敵で、好きが100になっちゃって…性欲に勝てなったの!!!!!!

 

「性欲…。」

 

そこで性欲が勝つんだ…、と若干引き気味の早坂。

 

「もうそうなったら止められないのよ、やっぱりキッスの魔力はすごいわ。変なスイッチが入るの。最初から最後までこっちが誘惑してるみたいになっちゃって。」

 

「…一応感想聞いていいですか?どうでした?」

 

ジト目の早坂が感想を問うてくる。

 

「なんか、さいごイきっぱなしだったけど…すごかった。」

 

(白銀会長ってそんなすごいんだ…)

 

「行為そのものはとてもよかったわ、御行くんはずっと優しくしてくれるし、ずっと愛を囁いてくれる。とにかく人肌の安心感がすごくて、あれは柏木さんが夢中になるのもわかるわ。やみつきになりそう。」

 

先ほどから顔の表情が行ったり来たりしながら早坂は話を聞いていた。

 

「……でも、世界中の人が、ああいうことをしてて、そうやって命はつながってきたと考えると、変な感じ。世界の見え方が少し変わったわ。みんな結局人とのつながりやぬくもりを求めてるものなのかしらね。繋がりをわかりやすく実感したい。それがセックスなんでしょう。さみしがり屋たちが人類の歴史を紡いできたのよ。」

 

「それが賢者もーどってやつですか。でもこんなにあっさり済ませるなんて。ちょっとびっくり。」

 

「そんなものでしょう。特別な日の特別な夜になんて、別に求めてない。もっとありふれたものでいいの。なんとなく、雰囲気に流されて、後々考えれば少し愚かだったかもくらいが、普通って感じがするの。」

 

恋をしてからというもの、四宮かぐやはどんどん普通になっていく。

普通の少女になっていく。

高貴でも潔癖でもなく、目の前のことを全力で楽しめる、そんな普通の…

 

「なによ、笑って。」

 

「んーん、個人的にツボなだけ。」

 

「まぁでも、これで文字通り御行くんにはすべてを晒したわ。もう怖いものなしよ。御行くんがアメリカに行くまで堂々と目いっぱい甘えて見せるわ。家のことなんてもうどうでもいい、吹っ切れたわ。」

 

「いいんじゃない?今までこそこそしてきた分だいぶ我慢してたでしょうに…」

 

「そーなのよ!!!!ほんとは毎日一緒に学校に行きたいし、もっと二人で遊びたいの!!何が恋愛頭脳戦よ!馬鹿らしい!もっと早くこうなっとけばよかったわ!!!」

 

(それを言い出したのはあなたなんですけどね…)

 

「秀智院では噂になるでしょうね。」

 

 

「知ったことではないわ、でも…噂になる前に一人、自分の口から伝えたい人がいるわ。」

 

 

……………

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




本日も読んでいただいてありがとうございました。

今回はかぐや様回、ということでなるべく本編を踏襲しつつそれなりに書けたかなと思います。
楽しんでいただけたなら幸いです。


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冬の燕は何を想うのかAfterlife:謹賀新年

子安つばめ宅でのプチ軟禁生活を送る石上。
時は年末、新しい年が彼らを迎えようとしているのであった。



感動するBGMなどを流しながら読んでみてください。
プラシーボ効果です。


子安家ゲストハウスにて、二人はこたつを囲み、だらだたとただ流れる年末特番を見ていた。

 

「こういうの見てると、一年終わりだな~って気がするよね。」

 

「そうですね、この一年いろいろありましたね。」

 

「優と知り合えたのも今年なんだよね。まさかこんな関係になってるなんて、当時の私からはとても考えられないなぁ…。」

 

子安つばめは、過去の恋愛遍歴から恋に臆病になっていた。

誰とも付き合うつもりはないと公言しており、男性を見る目はかなりシビア。

その美貌やスタイルも相まって秀智院難題女子に数えられるほどだった。

 

そんなつばめと石上の出会いは夏の体育祭。

 

石上は生徒会で、四宮かぐやや、白銀御行らと接していく中で少しずつ自己肯定感が育てられていった。

そして、石上自身『こんな自分を変えたい』と思えるほどとなっており、一念発起して体育祭実行委員に参加したのであった。

 

最初は子安率いる応援団のウェイ系のノリに無理やりついていくしかなく、今までの不登校生活が祟り、かなり彼にとってしんどい状況が訪れていた。

 

しかし、石上は信念を貫き、体育祭を完走。

最大のトラウマである、大友京子との決別を果たし、

石上の色のない世界は幕を閉じたのだった。

 

本人の自覚はないだろうが、それに一番貢献したのは子安である。

当初の彼女の思惑はどうであれ、屈託のない笑顔、差別せず石上に接する姿勢。

何をとっても彼は彼女に救われ、結果団として本当の仲間となれた。

 

これで、恋心を抱くなという方が難しいものである。

 

一方で、この段階では子安つばめは石上優をかわいい後輩としか思っていなかった。

それが変わる転機となったのが『奉心祭』である。

 

子安のそばに近づきたい石上は再度実行委員へ。

準備も進め、滞りなく本番を迎えることができた。

 

捧心祭の最中、ついに石上は憧れの子安つばめとの学祭デートを勝ち取ることに成功した。

今まで、恋愛経験ゼロの石上は奉心祭での伝説である『ハートの形をしたものを相手に送ると恋が成就する』というものを、大きなハート形クッキーを渡す形で意図せず行ってしまう。

 

奉心祭打ち上げでは一度告白を最悪の形で断られるも、石上自身の人を思いやる気持ちと、自分自身も変わりたいという願いで告白に応じてもらうことができた。

 

その後伊井野ミコとひと悶着あったりしたのだが、それはまた別のお話。

 

「確かに、僕にとってもとても濃密な一年でした。会長たちと出会えたのが、本当に僕の救いになってます。」

 

「…私は?」

 

「もちろん、つばめとの出会いが僕を大きく変えたよ。」

 

「ふーん…。優君はどんなふうに変わったのかな?」

 

「人を愛することの尊さを学びましたよ。人から愛される嬉しさも。」

 

「えへ、そっかそっか。ならよかった。」

 

「つばめ先輩はなにか変わりましたか?」

 

「うん…変わった。変わったね…。今までじゃ考えられないくらいパートナーに執着してるし、嫉妬深くて重くてめんどくさい一面が私にもあるんだなーって改めて思った。それも優君と出会ってから。最初はただのいい後輩だったのに、いつの間にか絡むようになって、告白されて、それでもやっぱり男の子は信じられなくて。」

 

つばめ自身、二股事件からというもの男性に対する警戒心はかなりのものになっていた。

つばめは石上の胸に顔をうずめながら続ける。

 

「でもね、そんな怖さも優が溶かしてくれた。あの時の熱量が、私が求めてたものだった。この子なら信じられる。そう思った。そう思ってから、今までのことが全部好きに変わって、優のことちゃんと正面から愛せるようになった。…なんか恥ずかしいね。」

 

「僕もそうだよ、つばめの愛情に心を溶かされた。人の愛し方を教えてもらった、つばめなしではいられなくなってしまった。……だからさ、つばめ。」

 

正面から見つめ、はっきりと口にする。誤解が生まれないよう、ゆっくり、はっきりと。

 

 

 

 

 

 

「僕と、家族になってほしい。」

 

 

 

 

 

「…っ。」

 

大きく目を見開いたつばめの目じりから大粒の雫がこぼれていく。

静かな部屋にはつばめの嗚咽だけが響き渡る。

僕はそんなつばめが愛おしくて、優しく抱きしめる。

 

「…ほんとに…私でいいの?」

 

「”つばめで”じゃなくて、つばめがいいんだ。」

 

「ほんとに?」

 

「ほんとに。愛してる。」

 

口と口を合わせるだけの軽いキス。

それだけで、気持ちを伝えるには十分だった。

 

「うれしい…、私も…愛してる。優のこと。愛してるよ…。」

 

プロポーズのキスは、少ししょっぱい、切ない味がした。

 

 

……………

 

ひとしきり二人で泣いたあと。

テレビからは、年越しのカウントダウンが流れていた。

 

「もう、年が変わるんだね。」

 

「そうだね。つばめ、ありがとう。」

 

「もう、何急に。どうしたの?」

 

「僕のことを……好きになってくれて、愛してくれて、ありがとう。」

 

「私も、ありがとう。私のことを見つけてくれて一緒にいてくれて。」

 

二人で肩を寄せ合い、想いを口にする。

 

「明日…、もう今日だね。指輪、買いにいこっか。」

 

「そうだね…。今は高いのは贈れないけど、いつかちゃんとしたの渡すから。待っててほしい。」

 

「うん…、待ってる。」

 

「今年も、これからも。よろしくお願いします。」

 

「こちらこそ、よろしくお願いします。明けましておめでとう、優。」

 

……………

 

朝になり、初詣に行こうという話になった。

つばめは、「着付けしてから行くから13時に待ち合わせね。」と先に家を出てしまった。

僕も軽く髪をワックスで整え、外行きの服装に着替える。

 

待ち合わせの神社には、10分ほど早く着いた。

スマホを触りながらつばめを待っていると、ある一角に人だかりができていることに気づいた。

 

「誰だろう」「モデルさんかな?」「有名人の人かも。」

 

そんな言葉が飛び交う人だかりの中心にいたのは振袖を身にまとったつばめだった。

彼女はこちらを見るなり、小走りで駆け寄ってくる。

 

「お待たせ。待った?」

 

「全然、ていうか髪…どうしたの。」

 

彼女の髪は長いロングから、ショートボブへと変わっていた。

 

「えへ、びっくりした?着付け前に切ってきたの。」

 

「なんでまた。」

 

「んー、なんというか。決意表明…的な?」

 

「そっか。似合ってる、奇麗だよ。大人っぽくなった。」

 

「…ありがと。」

 

照れながら答えるつばめはとてもかわいらしい。

 

「あいつ誰?」「彼氏じゃない?」「あんなのが彼氏かよ…。」

 

人だかりからそんな声も聞こえ始め

 

「ここじゃ、注目されるから行こう。」

 

と、つばめの手を取って、境内へと歩き出した。

 

神社内の手水舎で手を清め、賽銭の列へと並ぶ。

 

「優は何をお願いするの?」

 

「こんな時間が、ずっと続きますようにって。」

 

「そっか。続くから安心していいよ、手放すつもりなんて微塵もないから。」

 

何とも想いもヘヴィ級だった。

 

僕たちの番になり、賽銭を二礼二拍手をする。

 

「優。」

 

「ん?」

 

「病める時も、健やかなるときも、私のこと…愛してくれると誓いますか?」

 

「…もちろん。誓います。つばめは?」

 

「誓います。」

 

小さく言葉を交わし、一礼して礼拝を後にする。

 

「ずっと、ずっと愛してね。優。」

 

「あぁ…。必ず。」

 

……………

 

振袖も返し、その足で大型の百貨店に来ていた。

僕たちは目的の場所まで足早に向かった。

 

「いらっしゃいませ。本日はどのようなものをお探しでしょうか。」

 

ジュエリーショップの店員が話しかけてくる。

 

「ペアリングを、色はピンクゴールドで。」

 

「かしこまりました、少々お待ちください。」

 

そういうと、店員は下がっていった。

 

「なんでピンクゴールド?」

 

「つばめの髪の色だから。」

 

「…ばか。」

 

指の号数を図り、試着していく。

 

「このデザイン、かわいい。」

 

何点か試着したが、つばめはV字リングが気に入ったらしい。

 

「これにします。」

 

「良いの?」

 

「うん、僕もこれがいい。」

 

包装をしてもらい、会計を済ませる。

百貨店の屋上に行き、飲み物を買ってベンチに座る。

 

「ね。開けていい?」

 

そう言って、つばめは先ほど買った指輪を開ける。

 

「神前式っぽいことはさっきしちゃったし、次は…。」

 

「指輪交換だね。」

 

つばめはうつむきながら左手を差し出してくる。

 

「…指輪、はめて?」

 

僕は迷わず差し出された左手の薬指に指輪をはめる。

そして、僕の両手でつばめの手を包み込むように握り、地面に片膝をつくようにしてしゃがむ。

 

「大事にする。」

 

「…うん。」

 

俯いていて表情は見えないが、照れているのはわかる。

 

「絶対後悔させない。」

 

「うん。」

 

つばめの声が震えてくる。

 

「愛してる。ずっと一緒にいよう。」

 

「…はい。」

 

つばめは泣きながら、とびきりの笑顔を僕に見せてくれた。

 

……………

 

「されちゃった、プロポーズ。もう後に引けないね優。」

 

「引くつもりないですよ。」

 

「このまま、パパとママのところいく?」

 

「それはちょっと…もう少し心の準備がしたい、です。」

 

「冗談だよ。」

 

そう言ってつばめは笑う。

 

「大事にするね。」

 

「僕も大事にします。」

 

「ずっとつけてると男避けになるしね。」

 

「それは安心。」

 

「優に悪い虫がついても嫌だし、優もずっとつけててね。」

 

「もちろん。」

 

「うちの学校、アクセサリー類ゆるくてよかったなって初めて思ったよ。」

 

「確かに。つばめいっつもピアスつけてるしね。」

 

「かわいいでしょ?」

 

「もちろん。」

 

屋上からは夕日が見える時間になってきた。

あれだけ多かった人も今ではまばらになってきている。

夕日を見つめながら、つばめは遠い目をしていた。

 

「もう…卒業かぁ…。」

 

「そうだね…。」

 

「もっと優と学生生活おくりたかったなぁ。」

 

もう彼女の卒業まで二か月しかない。

卒業すれば彼女は神奈川に引っ越してしまう。

 

「いきたくないなぁ、大学。」

 

「何言ってんですか、離れてても会いに行きますよ。」

 

「うん、それでもね。この時間があったかくて、大切で、大好きなの。だからすこし寂しくて。」

 

それは僕だってそうだ。

だからこそ、今この瞬間を全力で過ごしたい。

 

「なんかしんみりしちゃったね、そろそろ帰ろっか。」

 

何とも言えない笑みを浮かべた彼女の手を取り、僕たちは帰路についた。

 

「優、元旦にすることって何かしってる?」

 

「餅つきとか鏡開きとかそんなのですかね?」

 

つばめは僕の耳に顔をよせ小さな声で囁いた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

姫始め、だよ。

 

 

 

 

……………

 

 




今日は短いですがここまでです。
本日も閲覧ありがとうございました。

たくさんの方に読んでいただけて本当にうれしいです。
中には好評価つけてくださる方もおられて、本当に励みになります。

良かったら皆さんも面白い、続きが見たい、と思ったら高評価や感想頂けると嬉しいです。


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冬の燕は何を想うのかAfterlife:学年末と卒業式Ⅰ

プチ監禁生活も大詰め、そろそろ自宅に戻ることになる石上。
卒業式も控えているが、その前に学年末試験が待っていた。



 

「え、今なんて言ったの…?」

 

「しばらく、禁欲生活をしようと思って。」

 

その一言で、つばめはわかりやすく絶望感ひしめく表情となる。

 

「うぇいうぇい、ストップ。なんでそんなことになったのかもう一回説明してもらえるかな優君。」

 

「いや、だから学年末なので一か月程度禁欲をと思って…。セックスばかりで成績落とすとつばめにも顔向けできないし。」

 

「あぁ、聞き間違えじゃなかった…だめだ、死んじゃう…。」

 

「何言ってんですか、まったく。別にしなくても死にゃしませんて。」

 

「私のこの行き場のない性欲はどうしたらいいの!!!!」

 

「そりゃぁ一人で致してもろて…。」

 

つばめは大きく目を見開きフリーズしてしまった。

そしてこたつにふにゃっと、体を伏せ体をだけこちらに向ける。

 

「なんか盛りのついた雌猫みたいじゃん…私。」

 

「鳥類の発情期は短いし、確かに雌猫…。」

 

「言わないでよもう…。それとも猫コスしてほしい?」

 

「ぜひお願いします。」

 

願ってもないお誘いについ即答してしまった。

 

「じゃぁ、またそれっぽいの買っておくね?」

 

「ありがとうございます。」

 

「はぁ…優がここにいてくれるのもあと二日かぁ。さみしいなぁ。」

 

「三年生ってもう自由登校ですもんね。確かに学校で会える時間は減りますね。」

 

「そーなの。優君勉強見てあげるから、放課後またここにきてよ。」

 

「僕が誘われたら我慢できそうにないので、自分で頑張りますよ。」

 

「しない!しないから!ね?勉強だけ!お願い!!!」

 

「ほんとですか?泊まりませんし夜には帰りますよ?」

 

「それでもいいから、決まりでいい?」

 

「はぁ…わかりました。あんまり誘惑しないでよ?」

 

「が、頑張る。」

 

こうして、試験までの間も子安家でお世話になることになったのであった。

 

……………

 

冬休みが明け、三年生以外は全員登校している今日は始業式。

だが学校に伊井野の姿はなかった。

 

「大仏、ちょっといいか。」

 

「…階段、いこっか。」

 

教室で大仏を一番に見つけ、外に連れ出す。

誰も来ない校舎端の階段の踊り場で口火を切った。

 

「あれから、どうなった…その。」

 

「ミコちゃんね、もうしばらくは入院が続くと思う。まだ精神的に安定もしてないし、リハビリは進んでるみたいなんだけど…。」

 

「そうか、相変わらず面会謝絶なのか?」

 

「ううん、面会はもうできるの。でも石上は行かないほうがいいかもね。」

 

「…わかってるよ。」

 

わかりきっていたことだった。

それでもやるせない気持ちが心のどこかに根付いて離れない。

 

もし、どこかで、ボタンの掛け違いがあれば僕が伊井野と一緒になる未来もあったんだ。

そうすれば伊井野は…。とどうしても考えられずにはいられない。

 

責任を取るにしても現状どうしたらいいかわからない。

 

「…何考えてるの。」

 

「僕は…、伊井野を助けたい。」

 

「…自分で何言ってるのかわかってるの?」

 

「あぁ、わかってる。でもなんかもやもやするんだ。あいつがいないと。一人だけみんなと同じ時間を過ごせないのが。あいつは僕が不登校してる時も必死に先生に掛け合ってくれた。だから今度は僕が助けてやりたい。」

 

残酷なことをしている自覚はある。それでもあいつは、伊井野は、こんなところでつぶしていいやつじゃない。

 

「僕はこれから、ずっとテストで学年一位を取り続ける、それで生徒会長になる。もう一度、生徒会に必ず伊井野を連れ戻す。」

 

「…ひどいね、石上。それがエゴだってわかってるの?」

 

そう言って苦笑する大仏。

 

「わかってる、全部僕のエゴだ。それでも、伊井野を助けたい。」

 

「そう、なら私はもう何も言わない。」

 

そう言って大仏は教室に戻っていった。

 

「がんばれ…。石上。」

 

その人知れずつぶやいた大仏の言葉は石上に届くことはなかった。

 

……………

 

「お邪魔します。」

 

放課後になり、つばめの家に来ていた。

教科書参考書をばっちり用意して学年末試験に臨んでいた。

 

「いらっしゃい、優。」

 

出迎えてくれたつばめは頬が紅潮し、なんだか息遣いも荒く、甘い匂いがした。

 

「…。雌猫。」

 

「ひぅ…!」

 

ぼそっとつぶやいたのがつばめにも聞こえたようで、図星をついてしまったようだ。

 

「だってだってしょうがないじゃん!」

 

「僕は今日からがっつり勉強だけするからね?」

 

「…は、はい。」

 

そうして始まった勉強期間。

毎日毎日子安家に通い、先輩の過去問などを見せてもらいながら勉強に励んでいる。

今までろくに勉強してこなかったつけがここに回ってきてると思ったが、そんなのは関係ない。

伊井野のためとは言え、学年一位を取ることの重圧や大変さを身をもって体験していた。

 

「優、ちょっと根詰めすぎじゃない?」

 

つばめも心配してくれている。

 

「つばめ…僕さ生徒会長になりたいんだ。」

 

「へぇ、そうなんだ。でもなんで急に?」

 

「つばめに見合う男になるため。生徒会長くらいやっとかないと箔が着かないしね。」

 

本当のことは言えない。つばめに嫉妬に狂ってほしくないし、何よりこんなことで喧嘩もしたくない。

 

「ふふ、頑張ってね。応援する。」

 

ごめん、つばめ。本当のことを言えなくて。

全部…全部終わったら、必ず話すから。

 

……………

 

「四宮先輩。会長、ちょっといいですか?」

 

生徒会室、いつも通り集まっていた二人に声をかける。

 

「あら、何かしら石上君。もしかして伊井野さんのこと?」

 

「さすが四宮先輩は何でも知ってますね。」

 

もてる男はつらいわね、とクスクス笑う四宮先輩。

 

「で、どうしたんだ石上。そんなに改まって。」

 

「会長の後の生徒会、僕が引き継ごうと思っています。」

 

「ほう。」

 

「会長もご存知かとは思いますが、伊井野は僕のせいで今入院しています。最悪戻ってこれないかもしれない。でもそんなのは間違ってると思います。だから僕が学年一位を取り続け、生徒会長になれる器になって、彼女を学校に引き戻したいと考えています。」

 

「石上、それはとてつもないエゴだ。伊井野が望んでるとも限らないぞ。」

 

「わかってます、それでも。彼女には助けられた、だから今度は僕が助けたいんです。」

 

「石上君、誰に何を言われようと、その茨の道を進む覚悟はあるの?」

 

「あります。あいつは…頭いいくせに馬鹿でメンヘラで。それでもこんなところで潰れていい人間じゃない。会長たちが僕を救ってくれたように、僕もあいつを…伊井野を救いたいんです!」

 

「…前々からですけど、あなたのそのまっすぐな所結構好きですよ。」

 

そう言って四宮先輩は笑ってくれた。

 

「俺も、アメリカに行くまでできることは精一杯手伝おう。」

 

「四宮先輩には、僕の応援演説を今から頼みたいです。お願い、できますか?」

 

「あなたがこの学年末一位を取れたら、その時は必ず。」

 

「ありがとうございます。」

 

……………

 

 

それから、学校にいる間は四宮先輩と会長の指導の下生徒会室で勉強。

帰ってからは子安家で勉強。

息抜きも大事だよ、と言って誘われて心苦しいが、誘いを断って勉強。

自宅に戻ってからも深夜すぎまで勉強、という今までの僕からは考えられない生活を続けていた。

 

そして迎えた二月の学年末試験。

勉強のかいもあり、すべての問題を解くことができ、余った時間はたっぷり見直しに使うことができた。

 

「やることはやった。あとは結果を待つのみだ…。」

 

今回、慢心はしなかった。

つばめに認められたくて、頑張った試験の下積みもあり、全力でテストに臨むことができた。

 

最終日、『がんばったね、優。結果発表は私も一緒に見るからね』とつばめからLINEが来ていた。

 

 

……………

 

ついに訪れた結果発表の当日。

伊井野は入院中のため、伊井野抜きでの試験結果になる。

 

100位から順に結果を見ていく。

ない…ない。まさか100位にも入れてないことなんてあるか…?

 

「あ、優!あったよ!!1位!!!」

 

そうつばめから言われ結果を見る。

 

 

『1位 石上優  498点』

 

 

「よくやったな、石上。」

 

「ええ、ほんとに。私も必ず約束を果たしましょう。」

 

会長も四宮先輩も心配で見に来てくれたようだ。

 

「これで俺も心置きなく、アメリカにいけるよ。」

 

「はい、会長…ありがとうございました!!!!!」

 

不思議と涙があふれてきた。

もう、会長とは会えないのか…。そう思うと涙が止まらなかった。

 

「かぐやさんも、優の勉強見てくれたんだよね。ありがとう。」

 

「いえ、彼の熱意に負けただけですよ。つばめ先輩。」

 

買い物デートの後からつばめと四宮先輩は連絡先を交換しており、大分仲も深まったようだった。

 

「彼になら、私たちの生徒会を任せてもいいと思いました。だから私も全力で彼をサポート下までですよ。」

 

ありがたい、こんなに人に支えられて僕はいまここに立てるようになった。

最初から最後まで、恩返しができないほどのたくさんのものを僕はもらっている。

返したくてもいつになったら返せるかもわからない。

 

「石上、あとは任せた。」

 

「はい、会長。」

 

……………

 

 

 

久しぶりに、勉強とは関係なく子安家にいくことになった。

 

『優君、いらっしゃい。開けたから入ってきていいよ』

 

インターホンからそのように声がして、いつも通り、中に入っていく。

 

「つばめ、おじゃましま…」

 

そこには黒くてフワフワのブラに秘部が見えているショーツ、猫耳と尻尾をつけたつばめがいた。

 

「…。」

 

「な、なんか言ってよ。」

 

「か、かわいいですよ。」

 

「えへ。よかった。気に入った?」

 

「もちろん。これ尻尾はどうなって…。」

 

「んん…///」

 

「えっ?」

 

尻尾はどうやら外づけではなく中付けだったようだ。

 

「奥まで、入ってるから…。あんまり引っ張らないで。」

 

「でもどうやって…。」

 

入れるにしても、この手の道具は拡張が必要なはずだ。

 

「優が試験勉強してる間ずっとこれつけてたの。」

 

そうして取り出された黒いプラグ。

 

「今日から後ろも使っていいからね。」

 

耳元でささやかれた言葉は妙に艶っぽく、熱をはらんでいた。

 

彼女を抱きしめるため、前に出ると、靴下に何かがしみ込んだ感触がした。

床にはポタポタと何かが滴った跡が見えた。

 

「ね、優。私我慢したよ。一人でたくさん、たくさん狂ったようにしてたくらい。もういいよね?我慢しなくてもいいよね?」

 

擦りついてくるつばめ、足を絡めているおかげで、太ももあたりにも水分がにじんでいる。

 

「前戯とか、いいから。滅茶苦茶にして?」

 

その言葉を皮切りに、僕はつばめを寝室まで連れていき、その日の夜は頭がおかしくなるほど彼女と交わった。

 

……………

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 



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冬の燕は何を想うのかAfterlife:学年末と卒業式Ⅱ

勉強の結果、無事学年一位を取ることができた石上。
かぐやから生徒会選挙の際の応援演説を獲得することに成功した。
白銀のアメリカ行きも送り出す準備もおわり、
そして、子安つばめの卒業式も間近にせまっているのであった。


 

 

僕はこの日空港に来ていたのであった。

何を隠そう、この日は白銀会長のアメリカに渡る日であるからだ。

皆が集まりつつある中、四宮先輩は来なかった。

 

「早坂ぁ今何…時…!?」

 

かぐや、寝坊確定

 

「あの阿呆、なんでこんな大事な日に大寝坊噛ますのよ!!!ちょっと私迎えに行ってくるわ」

 

「姉さん、さすがに間に合わないよ。」

 

「搭乗まであと30分しかないし、確実に入れ違いだな。」

 

「ほんと、会長という恋人が海外に行くのに寝坊とか、やることがど定番すぎる。」

 

一方そのころかぐやといえば。

 

「急いで飛ばして!」

 

会長からのプロポーズとか考えていたら夜も眠れず、結局朝まで寝れないのが痛かったわ…とにかく一度皆に連絡を…って充電切れ!?

 

 

あるあるである。

 

 

眠れなさ過ぎて動画とか見たのがよくなかったわ!

 

 

あるあるである。

 

 

でも大丈夫、最近のタクシーには充電器が…ない!!!

 

「あの、すみません充電器って…。」

 

「うちはね、そういうのないんだ…」

 

二度と個タクなんて使わない!!!

どうしてこうも不運ばかり重なるの!おとなしく家の運転手待てばよかった!!!

 

「私のモバイルバッテリーならあるんですが、使います?」

 

個タク君最高!!!一生使うわ!

 

……………

 

「そろそろ時間か。」

 

「みんな、見送りありがとうな。早坂。かぐやのことは頼んだ。」

 

「わかった、あとでLINEするから。」

 

「お前がいない間は俺たちに任せとけ」と四条帝

田沼は「さみしくなっちゃうなぁ」と各々が会長と言葉を交わす。

 

「ねえ、真紀ちゃんも会長とは仲良かったみたいだし…。」

 

「別に寂しくないわよ、人はいつしか離れ離れになるんだから、いちいちこんなことで寂しがってたらきりがないでしょ。」

 

と何か上からものを言ってはいるが

 

「で、本音は?」

 

「めっちゃ寂しいよぉばかー。」

 

「素直だなぁ。」

 

相変わらず情緒がぶっ壊れている真紀先輩なのであった。

 

「ありがとうな、また連絡するから、みんな元気で過ごせよ。」

 

「…会長はどうしてそんなに冷静なんですか?もう、かぐやさんとはしばらくお別れなのに、最後に一目会いたくないんですか?」

 

「藤原もまだまだ、かぐやのことがわかってないな。あいつなら大丈夫、俺が保証する。」

 

「そうですか、会長が言うならそうかもですね。」

 

しんみりした空気が一瞬流れるが、藤原からまた言葉が出た。

 

「会長!会長と過ごしたこの二年間、すっごく楽しかったですよ!ダメな息子を持った気分で意外と悪くなかったです!」

 

「会長、なんかあったら遠慮なく頼ってくださいよ。海外だろうと、飛んでいきますんで。じゃあ、また(・・)

 

「あぁ、またな。」

 

そうして会長は搭乗口へ向かい、飛行機は飛び立っていった。

 

「はぁ、はぁ、会長は!?」

 

「…もう行っちゃいましたよ。」

 

「わぁあああああああん」

 

泣きじゃくるかぐや、そのままどこかへ電話をかけ、飛行機の券をとり、自分も搭乗口に向かっていった。

 

「あぁこれは四宮(先輩)だわ」

 

と誰もが思ったのだった。

 

 

……………

 

「いや、ほんとに会長はかぐやさんのことよくわかってますね。若干気持ち悪いです。あれだけ感動的なお別れしたのに全然会長が遠くに行った気がしない。」

 

生徒会室に鎮座する巨大ディスプレイ。

かぐやが、白銀と話すためだけに設置したものであった。

 

そこには白銀御行本人が映し出されていた。

 

「お前らさ、今こっち何時だと思ってんの!?時差結構あるからこっち深夜2時なんだぞ!?お構いなしに毎日電話かけてきやがって!!!」

 

「御行君は私と顔御合わせるの…いやでしたか?」

 

「そ、そんなわけないだろ…///」

 

とまぁ、会長がアメリカに行っても結局四宮先輩はお金の力で週末通い妻してるし、巨大ディスプレイは設置するわで、なかなか会長との距離が離れてしまったとは感じづらい状況が出来上がってしまったのだった。

 

 

……………

 

そして、今日は卒業式当日。

 

「卒業生、答辞。子安つばめ。」

 

卒業生代表スピーチはつばめがやることになったみたいだった。

 

「肌寒い風が吹きつつも、暖かい日差しが私たちを照らす、今日この日、私たち卒業生のためにこのように厳かで、晴れやかな卒業式を挙行していただき、心より感謝いたします。これからの未来に対して、期待や不安が入り混じる中、こうして無事旅立ちの日を迎えることができました。本当にありがとうございます。

 

この、秀智院学園でのことを振り返るとたくさんの日々が思い出されます。

皆で笑い、泣き、切磋琢磨したこの3年間。私にとってはとても大事な日々でした。

 

特に、去年の体育祭、奉心祭が胸に一番残っています。」

 

 

この辺りから、つばめはカンペをしまい、自分の思うように話し出した。

周囲からもざわつきが聞こえてきて、これが完全にアドリブだということがわかる。

 

 

「あの日、頼りなかった彼が、応援団や実行委員を通して成長し、今では生徒会として、一人の男の子として頼れるようになりました。

冤罪を受けているにも関わらず、周りの悪評やその逆境も乗り越え、ここまで成長してきました。

そんな彼を、心から愛しています。

私、子安つばめは、この学校を卒業と同時に結婚します!私に告白してきた男の子みんなのものにはなれなかったけど、私はいま幸せです!」

 

ざわつく会場。

驚きを隠せない、生徒。そして本人。

 

え、待って何それ僕聞いてない。

ちょっとぉぉぉおおお、何いてくれちゃってるんですか!

ここは結婚会見場所じゃないんですよ!

 

みんなの視線が痛い、どうしてこうなった。

 

「最後に、ここで学んだことを胸に刻み、私たちは胸を張ってこの秀智院学園を巣立っていきます!先生方のご健勝とさらなる学園の発展を祈念し、答辞とさせていただきます。三年A組、子安つばめ。ご清聴ありがとうございました。」

 

そして僕の方に小さくウィンクをしてきた。

あぁ…終わった。いろいろと。

 

こうして、ひと悶着あった式も終わり、卒業生は退場となった。

そして、僕も準備していたものを手に、つばめのもとに向かった。

 

 

……………

 

「つばめ。」

 

「あ、優。どうだった?私の答辞。」

 

「心臓に悪いからやめてほしかったです…。」

 

「あはは、ごめんごめん。」

 

「それで、つばめ。これ。」

 

後ろに隠した花束を渡す。

 

「わぁ、奇麗。これ全部薔薇だ…。」

 

今回用意したのは真っ赤なバラその数108本。

 

「先輩薔薇の花ことば、知ってますか?」

 

「うん、なんとなくだけど。」

 

「今日は108本用意してます。この数はもうわかりますよね?」

 

「うん…うん。わかるよ。」

 

そう言って抱き着いてくるつばめ。

 

「これからも、末永くよろしくお願いします。」

 

よかった、ちゃんと気持ちは伝わったみたいだ。

 

ふと、視線を前に向けると苦笑いをした人と鬼の形相の二人組がこちらを見ていた。

 

「君がぁ…石上君かぁ…。ちょっと面貸してもらおうか…。」

 

「パパ!?」

 

「娘がお世話になっております。」

 

「ママも!」

 

どうやらつばめの両親だったらしい。

あぁ、どうしよう。これ…。

 

 

 

……………

 

子安家のご両親に連行され、通いなれたつばめの自宅へと向かう。

その間の車内といえば、冷え切ったものだった。

 

あまり入ることがなかった本宅のリビングで、つばめを横に、両親と向かい合って座る。

 

「娘がこそこそ誰かと付き合っていたのは知っていたが、君だったのか。」

 

「はい…、つばめさんとお付き合いさせていただいております…。」

 

うわぁ、どうしよめっちゃ怒ってるよ…。

 

「あなた、そんなんじゃ優君も話しづらいでしょ。もう少し和やかに…。」

 

お義母さんの方はのんびりとした方で、割と話しやすいということが車の中で分かった。

 

「で?君はうちの娘と結婚するそうじゃないか。」

 

「はい、いずれはそうなれたらと思っています。」

 

「私たちが許すとでも?君に娘はやらん!!!!」

 

終始鬼の形相でこちらをにらんでくるお義父さん。

 

「私はいいと思いますけどねぇ、つばめが見つけてきた子ですし。真面目そうでいい子じゃないですか、ねぇ優君。」

 

「ぐぬぬ、では私が許すとでも思ったのかね。」

 

「今はまだ、学生の身ですが。必ずご納得いただけるよう精進していくつもりです。」

 

そうだ、僕はつばめのためなら何でもできる。

今までの僕とは違うんだ。

必ずつばめを幸せにする、その覚悟でここにきている!

 

「つばめは…、どうなんだ。」

 

「パパ、優君はね。すごいまっすぐで頑張り屋さんで。私のこともちゃんと受け止めてくれる。そんな素敵な男の子なの。こんなダメな私に尽くしてくれて…。だから私も彼と一緒になりたいと思ってる。」

 

そんなつばめの本心を改めて聞いて、少し涙腺が緩みそうになった。

 

「うぐっ…。」

 

「あらあら、まぁまぁ、つばめはよっぽど優君が好きなのね。それなら私から言うことは特にないわ。幸せになりなさい。」

 

「母さん!?」

 

「これで認めないとか言い始めたら、私パパのこと嫌いになっちゃうかも。」

 

「ぐぬぅ……!」

 

「お義父さん!お願いします!必ずつばめさんを幸せにしてみます!!」

 

「だぁれがお義父さんかぁ!!!まぁ…いいだろう。しかし条件がある。」

 

そう言ってお義父さんは結婚のための条件を話し始めた。

 

「君が高校生のうちは結婚は許さん、婚約にとどめておいてくれ。次は、きちんと避妊することだ、そういうことをするなとは言わん。稼げるようになってから子供は作りなさい。君たちが其れを守って、再び私のものに来た時には結婚を…許そう。」

 

「あ、ありがとうございます!」

 

「ていうかさ、パパキャラ作りすぎじゃない?昨日はあんなに喜んでくれたのに。」

 

「あ、ちょ、つばめちゃん!?」

 

「昨日結婚したい人ができたって言ったらすごい喜んでくれたじゃんか。」

 

「そうよねぇ、いきなりこんな感じになるからどうしたのかちょっと心配だったわ。」

 

え、キャラ?喜んでた?それって…

 

「…そうだな…悪かった石上君。一度言ってみたかっただけなんだ、娘はやらんってやつ。」

 

なんじゃそりゃ…

ここにきて精神的疲労がどっと来た。

 

「つばめちゃんから常日頃君のことは聞いていたんだ。前のように糞野郎だと殺してやるつもりだったが、君は大丈夫そうでよかったと本当にそう思っている。薔薇の花束も今日用意してくれていたのをみて、少し安心できた。娘がこれだけ信頼して身を委ねているんだ。僕たちが反対するのは違うだろ?」

 

すると、お義父さんは少し涙を浮かべ

 

「ああああ、ママぁつばめちゃん結婚だってええええ。初孫だよ初孫、たっまんないよ!!僕がじいじって呼ばれる日も近いかな!?」

 

あまりのキャラの違いに絶句してしまった。

 

「もう、そうやって最初から素直に許してあげてればよかったのに…。」

 

「だって、大事な一人娘が結婚するんだよ!?これは一発言うこと言わなきゃでしょうよ!!というわけで石上君、早く孫の顔を見せてくれ。頼んだよ。」

 

「は、はい。」

 

「君のご両親には後日挨拶させてもらうからそのつもりで。日程調整は任せるよ。なるべく早くお願いしたい。僕これでも結構忙しくてね。」

 

「わかりました。では、なるべく早くセッティングします。」

 

こうして、子安家ご両親との顔合わせはつつがなく?終わったのであった。

 

……………

 

歓談は終わり、夕食もごちそうしてもらえることになった。

しかし、ファーストインプレッションがあれなだけに、子安父のギャップがすごい。

 

つばめのウェイ系はきっとこの人の影響だろうと、今日確信できた。

 

「いやぁよかった。僕も優君って呼んでいいかい?」

 

だんだんとお義父さんとも打ち解けることができ、一家団欒を楽しんでいた。

 

「優君、話したいこともまだまだあるし今日は泊まっていきなさい。」

 

「わかりました、一応親にも連絡入れておきます。」

 

こうして親公認で、つばめと一緒にいることができるようになった。

その幸せをかみしめつつ、今日は泊まってくると親に連絡を入れたのだった。

 

 

 

……………

 

「はぁ…疲れた。」

 

つばめの自室。今日はゲストハウスでなく、自室にお呼ばれしていた。

 

「お疲れ、優。パパ絡み酒するからめんどくさかったでしょ。」

 

「いえ、そんなことは。」

 

「いいよ、ほんとのことだし。でもよかった。ちゃんと優のこと認めてもらえて。」

 

「ダメだったらどうするつもりだったの?」

 

「パパなんか嫌いって言って押し通すつもりだった。」

 

な、なんて浅はかなんだ…。と思ったのは内緒だ。

 

「パパも孫ほしいみたいだし、これからは心置きなく子作りできるね!」

 

「言い方よ。」

 

「私ピル今飲んでないから、もしかしたらデキてるかもね。」

 

そう言いながら小悪魔的な笑みを浮かべるつばめ。

体を寄せ、するりと僕の胸にすり寄ってくる。

 

「え、マジですか。」

 

「えへ、内緒。」

 

そういう冗談は心臓に悪いからやめてほしい。

さすがに田沼先輩のようにはなりたくないから、心の準備期間が欲しい。

 

「優は私の子供ほしい?」

 

「そりゃあいずれは。ほしいに決まってるよ。」

 

「えへぇ、そっかぁ。じゃぁもっと頑張って小作りしなきゃね。」

 

首に腕を舞わされ、優しく首筋にキスをされる。

 

「お義父さんたちまだ起きてるから…。」

 

「がんばって口塞いで?」

 

そう言われ、つばめに深く口付けながら体を愛撫していく。

 

「どうなっても知らないから。」

 

「ん、いいよ。来て。」

 

背徳感と緊張で、普段より盛り上がった夜になった。

 

 

 

……………

 

 



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冬の燕は何を想うのかAfterlife:新生活と生徒会選挙

無事学年一位も取ることができ、子安つばめの卒業とともに石上にも新生活が訪れていた。


「つばめ、これこっちでいい?」

 

新生活。

卒業式の次の日は振替休日だったため、僕はつばめの引っ越しを手伝っていた。

駅からほど近いところにある、オートロック付きの高級マンション。

こういうところはさすがお嬢様だと思った。

 

つばめは自由登校になってから、知らぬうちに自動車学校に通い免許を取得していた。

せっかくだからと、東京から神奈川の横浜までドライブしてきたわけだ。

 

車で大体30分強、都心からでも気軽に通える距離だ。

僕も会長の勧めで二輪免許を取るつもりだから、これまで以上に活動範囲が広がる。

 

荷物は運びこんであり、あとは荷ほどきをするというタイミングで僕は手伝いに来ている。

相変わらずつばめの部屋は白で統一されており、ところどころで薄ピンク色の小物類がある程度だった。

ストレス発散は買い物と散財のつばめからは考えられないほどものは少なく、限られたものしか持ってきていないようだった。

本人曰く、「どうせ増えるから、最初はあんまりないほうがいいかなと思って。」とのことだ。

金銭感覚はしっかりしといたほうがいいと伝えると、「優が抱いてくれたらその分散財も減るよ。」と何ともつばめの性欲魔人然とした意見が返ってきた。

 

これは部屋に通う頻度も増えることになりそうだ。

 

「ふぃ~ちょっと休憩~。」

 

「お疲れ様。飲み物買ってあるよ、あまいのと水どっちがいい?」

 

「じゃぁ、優が飲まないほうちょうだい。」

 

「それなら、はい。ミルクティー。」

 

「あーこれ、好きなんだよね。昼下がりの紅茶。」

 

「よく飲んでたの知ってたから。」

 

「んふ、そっかそっか。優はよく私のこと見てるね。」

 

「もちろん。」

 

ここ一年の出来事とはいえ、彼女のことはしっかりとみてきた。

いいところ、悪いところ、ちょっとよくわからない概念的な所。

新しい発見をするたび、彼女のことが好きになる。

今、僕は最高に幸せだ。

 

「これから、ここで新生活が始まるのか~。なんだか寂しいけど、楽しみの方が強いかな。」

 

「僕も寂しいよ。これまで会おうと思ったらすぐ会えてたから。」

 

「でもこっちまで通ってこれない距離じゃないでしょ?」

 

「そうだね、バイクの免許早くとるよ。そしたらいつでも来れるから。」

 

「うん、頑張ってね。ちょっと周り散歩しよっか。中華街とか行ってみる?」

 

「そうだね、せっかくだし。」

 

「引っ越してきてから初デートだね。んへへ。」

 

こうして、僕たちは中華街や、山下公園など練り歩き、時間は夜になり僕の帰る時間となっていた。

つばめの部屋に戻り、帰り支度を進める。

 

「それじゃあ、また来るから。今日はありがとう、楽しかった。」

 

「あ、優。はいこれ。」

 

小さな小包を渡される。

 

「え、なにこれ。」

 

「今日、誕生日でしょ?」

 

「そうだけど、なんで?」

 

つばめに僕の誕生日は教えてなかったはずだ。

 

「開けてみて。」

 

小さな包みを開けると、そこには赤い雫の飾りがついたピアスが入っていた。

 

「これ…。」

 

「誕生日おめでとう、優。今日が楽しくて渡すの遅くなっちゃった。」

 

「ありがとう…。嬉しいよ。誰かにプレゼントもらったのなんて初めてだ。」

 

「これね、雫に液体が入ってるでしょ?これ血液ピアスって言ってね。私の血が入ってるの。」

 

「でもこれ、どうやって。」

 

「日本では違法っぽいから海外に発注して作ってもらったの。ガラスだから錆びないし、ちゃんとバーベルはサージカルステンレスだから、ずっとつけてられるよ。」

 

「ありがとう。大切にする。」

 

「優には私の一部をずっと身に着けててほしいなって思って。嫌じゃない?引いてない?」

 

「嫌じゃないよ。こんなに想ってくれててうれしい。」

 

「なら、良かった。」

 

つばめは顔を赤くしながら安堵の表情を浮かべていた。

 

「もう遅いし、今日は送っていくよ。まだ一緒にいたいし…。」

 

「じゃあお言葉に甘えようかな。」

 

つばめと話しながらのドライブはたった30分という時間も、とても早く感じさせるものだった。

 

……………

 

春休みはつばめの家で過ごし、僕は新学期を迎えることとなった。

つばめも大学が始まり、毎日忙しそうにしている。

やはり、つばめほどにもなると新歓も引っ張りだこだそうで、数合わせとして出てはいるが、すべて袖にしているとのことだった。

薬指に指輪している女性を狙うのはどうかと思うのだが、大学生とはそういうものらしい。

すでに10人近くが撃沈しているときき、僕は内心ざまぁみろと思っているのであった。

 

そうして、せわしなく時間が過ぎ、中間試験。

四宮先輩のスパルタ授業と自学のかいあって、僕はまた学年一位を取ることができた。

 

「先生、少しいいですか?」

 

「おぉ石上じゃないか。どうした。」

 

「今度の生徒会選挙。立候補したいと思います。」

 

「今のお前の実力なら、問題はないと思うが…。中学の頃の話は聞いている。何か心境の変化でもあったのか?」

 

「えぇ、まぁ。やりたいことがあって。」

 

「そうか、詳しくは聞かんが頑張れよ。」

 

こうして、僕の選挙対策が始まった。

 

「石上君はやはり、中学の頃のイメージが払拭できていないのがネックですね。」

 

生徒会室で四宮先輩と藤原先輩の両名を前に、生徒会長選挙の対策が行われていた。

 

「やはり、例の件は暴露してしまいますか?それがイメージ改善には一番近道な気がしますが…。」

 

「それは悪手でしょうね、応援演説に私が出ることを考えれば、ただの圧力でしかないもの。」

 

「なら一芸でもやりますか?石上君w」

 

「藤原先輩、まじめに考えてくださいよ。」

 

「まぁ、最近の石上君は髪も切ってピアスもつけて、前みたいなド陰キャではなくなったのでそれもあんまりですね。」

 

ちょいちょいディスってくるこの人は何なのだろうか。

僕は新学期に合わせて髪を短く切り、つばめにピアスホールをを開けてもらった。

そしてもらった血液ピアスをずっと身に着けている。

少しでもイメージ改善にと、つばめに提案されたことだった。

 

「まぁどうとでもしてみますよ。石上君。ここまで来たのだから男を見せなさい。」

 

「はい、四宮先輩。」

 

 

……………

 

生徒会選挙、演説日当日。

 

ここまでやれることはやった、あとはベストを尽くすのみ。

立候補者は僕を入れて三人。

何が何でもここで勝って、伊井野を…。

 

そして始まる候補者の応援演説。

四宮先輩が壇上に登る。

 

「皆さん、生徒会長立候補者、石上優の応援演説をさせていただきます四宮です。

まず初めに、彼に対する皆さんの、特に二年生のイメージはよくないことは私も知っています。

ですが、昨年一年を通して彼を見てきて、見方が変わった人も多いのではないでしょうか。

石上君は正義感が強く、人を貶めることを嫌います。

自分が嫌われているとわかっていても、積極的に行事ごとや、生徒会活動に関わり、テストでも学年一位を維持しており、自分を磨き成長をし続けてきました。

 

それは間近で見てきた皆さんの方がよく知っていると思います。

噂ではなく、彼自身を見てあげてください。

 

彼は、石上君は。白銀御行の後を継ぐにふさわしい人物に成長しました。

 

彼に、どうか…どうか清き一票をお願いします。」

 

四宮先輩は深くお辞儀をして、壇上を後にした。

 

演説内容は聞かされておらず、不覚にも涙をこらえきれず泣いてしまった。

 

「次はあなたの番よ、石上君。シャキッとしていってきなさい。今のあなたなら大丈夫。胸を張りなさい。」

 

「はい!」

 

 

……………

 

石上優 349票

大山紗理奈 201票

中川陸 50票

 

 

 

「おい、やったな石上!」

 

「最近のお前みてると、俺も頑張らなきゃなって思うよ。」

 

「やっぱつばめ先輩の愛の力ってやつか?くぅー憎いねぇw」

 

クラスメイトの男連中が話しかけてくる。

 

「あ、あぁ。ありがとう。みんな。」

 

僕が、生徒会長。

やった。成し遂げた。

 

「石上君。」

 

「四宮先輩…。」

 

「よく、頑張りましたね。これが今のあなたに対する評価です。悪評をねじ伏せ、自分の力で勝ち取った結果です。誇りなさい。」

 

「…はい。」

 

「御行君の後継はあなたがいいと私も思っていましたもの。」

 

「はい…ありがとうございます!!」

 

涙は出なかった。それは昔の僕が流しきったものだ。

 

「伊井野さんのこと、頼みましたよ。」

 

「はい。まかせてください。」

 

 

……………

 

僕は授業がすべて終わり、学校を早々に抜け出し病院へと来ていた。

病室へと足早に向かい、ノックをすると「どうぞ」と小さく返ってきた。

 

「伊井野。」

 

「いし…がみ。」

 

「久しぶりだな、体調はどうだ。」

 

伊井野はここ数か月、病院内で課題などをすることでどうにか進級することができていた。

 

「まぁまぁ、かな。さいきんはちゃんと歩けるようになったし。」

 

「そうか、良かった。」

 

「…何しに来たの。」

 

ごめんは言わない。それは伊井野に対して古傷をほじくり返すことに他ならない。

 

「今期の生徒会長には僕がなった。」

 

「は?…え、うそでしょ。あんたが…。」

 

「嘘でも何でもない。お前がいないから張り合いのある立候補者もいなかったしな。」

 

「そう…。」

 

言葉が出てこない。そのもどかしさから頭をかきむしる。

 

「あぁ…なんだ。全然出てこねぇ…。」

 

「……。」

 

伊井野はただ、僕の言葉を待った。

 

「あのさ、お前。早く学校戻って来い。生徒会にはお前が必要だ。」

 

そう言って一枚のプリントを彼女に渡す。

 

『生徒会会計に伊井野ミコを推薦する。』

 

「お前がいないと、困るんだ。だから…。」

 

「…ぷふっ。ひどいね石上。振って狂った女にまだそんなこと言うんだ。」

 

伊井野はいつも通りの笑顔で笑った。

 

「わ、悪いかよ。」

 

「あんたのことは、もう実はもう吹っ切れてるの。毎日こばちゃんのカウンセリングがあったおかげでね。ただ戻るタイミングを見失ってただけ。怖かったの、石上に顔を合わせるのが。どうなるか自分でもわかんなくて。」

 

伊井野はただ言葉をつづけた。

 

「でも、今日石上が来てくれてよかった。これからも今まで通り接することができるってわかったから。これからはちゃんと現実見ていこうと思うの。自分の都合のいい妄想ばかりで、自分から逃げてた。いつか誰かが迎えに来てくれるって、本気で思ってた。でもこれもおしまい。これからはちゃんと前見て生きていくから。石上は今まで通りに私と接してくれる?」

 

「…当たり前だろ。」

 

「よかった。それじゃあ。近々退院してまた学校行くから。来期は生徒会長の座は私がもらうわ。」

 

「期待してる。お前みたいな馬鹿がいないと学校もあんまり楽しくないからな。」

 

「ちょ、馬鹿って何よ!」

 

こうして、伊井野ミコの一件は幕を閉じたのであった。

それから生徒会にはまた伊井野の笑顔が戻ってきた。

 

これでよかった。本当に。

間違い続けながら、前を見て頑張ってよかったと。心からそう思った。

 

……………

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 



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冬の燕は何を想うのかAfterlife:すれ違い

伊井野ミコとの一件も一応の方が着き、普段通りの生活に戻ることができた石上。
しかし生徒会に免許取得、アルバイトまで始めた石上は思ったより大変で、つばめとのすれ違いが生じていくのであった。


地の分多めです。





 

伊井野が生徒会に戻ってきてはや5か月、季節は夏へと移り変わっていた。

生徒会の仕事、新しい後輩の生徒会メンバー。

新しい変化に僕もなかなかについていくのが大変だった。

 

そして、並行して自動車学校へと通うことになり、二輪の運転免許取得の費用は何とか成績を出すことで親から出してもらえたが、バイク自体は自分で買えとのお達しが出ており、現在僕はバイトに明け暮れていた。

 

成績の維持、生徒会の仕事、そしてアルバイト。

この三つをこなすだけでもかなりのハードワークであり、改めて白銀会長のすごさを身をもって体験することとなっていた。

 

新しくバイトを始めたことにより、つばめとの時間も当然のごとく減っていき、次第に会えない日が増えていった。

毎日のつばめとのビデオ通話だけが僕の心のよりどころとなっていた。

 

そんなつばめだが、バイトのことも、生徒会のこともわかってくれていて、いつも疲弊している僕のことを心配してくれていた。

 

『優、最近ほんとにしんどそうだけど大丈夫?無理してない?』

 

「うん…大丈夫。でもちょっと疲れてるから、今日はもう寝ようかな…。」

 

『週末は会えるの…?』

 

少し不安そうにつばめは聞いてきた。

 

「ごめん…その日バイトが入ってて。」

 

『そっかそっか!ごめんね、わがままばっかり言って!』

 

「いや、僕の方こそごめん。会いに行くって言ってたのに…。」

 

『ううん、大丈夫だよ。明日も学校とバイト頑張ってね!おやすみ!』

 

「おやすみ。また明日連絡するよ。」

 

『うん、待ってるね。』

 

短い時間だがそれだけ言葉を告げ、通話を切った。

 

……………

 

最近優があまり構ってくれない。

勉強にバイトに生徒会。大変なのはわかっているが、それでも寂しいものは寂しい。

もう2か月も会えていない。

私の大学生活は特に問題もなく順風満帆に進んでいた。

 

それでも、大学生というのはサークル活動もバイトもしていないと暇な時間が多いのである。

暇な時間が増えると、良くないことばかり考える。

最近は部屋に籠って、悶々とする時間が増えていた。

飲み会などに誘われるもすべて『婚約者がいるから。』と言って断っている。

 

生徒会にはミコちゃんが復帰したみたいだし、新しい書記ちゃんも女の子というではないか。

かぐやちゃんやこばちちゃんからたまに連絡が来ることがある。

それとなく優君の最近のことなどを聞いていたりするのだが、生徒会長になってからというもの、彼はそれなりにモテるようになったらしい。

 

もともと顔もそんなに悪くないし、ちょっとひねくれている部分はあるが、根はまじめで正義感の強い子だ。

それならモテても仕方ない。今は問題ないと聞くが、ミコちゃんも優のことが好きだったみたいだし、自分の目が届かないところで何があるかわからないというのは、私に相当のストレスを与えていた。

 

遠距離恋愛はうまくいかないというし、このまますれ違ったまま自然消滅してしまうのだろうか。

私の気持ちだけが一方通行になって、優に負担をかけているのではないか。

もしかしたら、会えない私より、近場ですぐ会えるこの方がいいのではないか。

そんな考えが、ずっと頭の中でループするようになった。

 

そうして、最近では睡眠時間がだんだん短くなってきており。

不安で仕方ない日々が続いている。

 

大学に行っても気分は晴れないし、友達と遊んでいても心から笑えることが減っていった。

結果、私は部屋に引きこもる時間が増えていった。

 

見た目には気を使っているつもりだが、友達からも血色の悪さや寝不足を心配されており、あまり寝れないなら精神科に、と勧められたこともあった。

 

でも、優は毎日通話はきちんと同じ時間にかけてきてくれる。

それだけが私の心の支えになりつつあった。

 

それも最近は二日に一回、三日に一回とだんだん頻度も少なくなってきており、電話がない日は人知れず泣くこともある。

 

嗚呼、私こんなに弱かったんだ。

 

そう自覚するまで、そんなに時間はかからなかった。

明日、優に会いに行こう。そうしたらまた元気に頑張れるはず。

 

その日は早めに寝て、夕方実家へと帰ることにした。

 

次の日、大学で講義を受け、その足で東京まで帰ってきた。

秀智院に行けば、優に会える。そう思い車を走らせていたその時、私は見てしまった。

 

女の子と一緒に歩く優を。

 

声をかけようか迷ったが、私は結局彼に声をかけることができなかった。

浮気しているとは到底思えなかったが、『何してるの』と、その一言でめんどくさい重たい女だと思われることが嫌だった。

 

私は、そのまま実家へと帰りパパとママへ挨拶をすることもなく自室にこもって泣いた。

 

ママはもちろんパパも心配してくれたが、なんでもないの一言で会話を切った。

 

優。声が聞きたい。今日見たことは何でもないって、ただの友達だって、ただそれだけ聞きたかった。

会いたい。会いたいよ優。

つらいよ。こんなにも恋愛はつらく苦しいものだなんて思わなかった。

 

スマホを開き、一言LINEを送る。

 

『優、つらいよ。』

 

すると、すぐ連絡が返ってきた。

 

『今どこ。すぐ行く。』

 

こんな時でも優しい優。その優しさが今の私にはつらく感じてしまった。

 

『実家のゲストハウス。待ってる。』

 

そうして、優が来るまで自室でひとしきり涙を流した。

 

……………

 

優は連絡から30分とかからず、ゲストハウスまで来てくれた。

 

「…久しぶり。」

 

「つばめがつらいっていうから、飛んできた。」

 

「…えへ、ありがと。」

 

「最近会えなくてごめん。」

 

「ううん…いいの。優最近忙しそうにしてたから。私こそごめん。急に呼び出して。」

 

「これからは、ちゃんと会いに行けるから。」

 

そう言って、優は一本の鍵を見せてくれた。

 

「それは?」

 

「バイク、買ったんだ。バイトでお金貯めて。電車とかだと時間かかるし。バイクならすぐにつばめに会いに行けると思って。」

 

「そう…なんだ。」

 

そんな話も、うわの空で聞いていた。

私の聞きたいことはそんなことじゃなかった。

 

「つばめ…目、腫れてる。もしかして泣いてた?」

 

そういうところは目ざとい。さすがに私のことをよく見てるなと思った。

 

「ちょっとだけね。不安になっちゃって。」

 

「ごめん、不安にさせて。」

 

優は優しく抱きしめてくれた。

久しく感じていなかった彼のぬくもり、じかに聞く声、そのすべてが懐かしく感じてしまい、自然と涙が出てくる。

 

「つばめ…?」

 

「今日…一緒にいた子、誰?」

 

「いつの話?」

 

そうやってはぐらかすの…?

優を突き放し、私の語気は強くなる。

 

「今日一緒に買い物してた子だよ…。もしかして浮気?」

 

違う、そんなこと言いたいんじゃない。

 

「浮気なんてするか、ばか。生徒会の新しい書記の子で、備品の買い出しにいってただけだよ。」

 

「随分楽しそうだったね。」

 

「一応、初めてできた後輩だし愛想はよくするよ。」

 

「そうなんだ。わたしには全然かまってすらくれないのにね。」

 

優は何も言い返さなかった。

言いたいことと、自分の口から出る言葉が真逆になってしまう。

どうしても、心の奥底にしまい続けていた不安が口からあふれ出してしまう。

 

「どうせ私のことなんて、どうでもいいんでしょ!ミコちゃんもまた学校に連れ戻したみたいだし、よろしくやってるんじゃないの!?私より、ずっと近くにいてくれるこの方がいいんじゃないの?」

 

柄にもなく、泣きわめいてしまう。

でも引き返せないところまで喋ってしまった。

 

優を突き放す。

 

「もうさ、無理だよ。私、寂しいの我慢できない。別れよ、優。今日はもう帰って。」

 

ごめん、ごめんなさい。こんなはずじゃなかった。こんなこと言いたいんじゃなかった。

 

優は何も言わずに私の話をただ聞いていた。

ただ、寂しさでヒスってる私を咎めようとせず。

 

「僕が、つばめのことを不安にさせたのは…、ほんとに悪いと思ってる。」

 

そう言って、一歩私に近づいてくる優。

 

「来ないで!!」

 

ちがう、そうじゃないの。ほんとはまた抱きしめてほしい。私もごめんねって謝ってキスしてほしい。

 

「つばめ。」

 

優はさらに一歩私に歩み寄ってくる。

そして、今度は力強く私を抱きしめた。

 

「不安にさせて、ごめん。寂しくさせて、ごめん。僕も最近自分のことばっかりで、つばめのことないがしろにしてた。」

 

「うぅ…ぐずっ、うん…うん。」

 

「お詫びと言っては何だけど、これもらってくれないかな。」

 

そう言って、私の首に手をまわし優はネックレスをつけてくれた。

 

「これ…。」

 

「僕も、自分で作ってみたんだ。血液入りのネックレス。」

 

2㎝ほどの円柱状のカプセルに入った優の血液。それを見ているとなんだか温かい気持ちになってくる。

私は涙腺は決壊し、とめどなく涙があふれてくる。

 

「ごめん、ごめんね優。別れるなんてうそ。ほんとは別れたくない、大好き。愛してる。ずっと…ぐすっ、ずっといっじょにいたいよ…。」

 

「僕もずっと一緒にいたい。もう、バイトも一区切りついたし、これからはもっと時間作るから。」

 

「私も、私も来てもらうだけじゃなくて、優に会いに行くから。こんなに近いのに離れてる時間がとってもつらかった。こんなに恋愛が苦しいものだなんて思わなかった。」

 

好きだから、愛しているからつらい。

私はなんて自分勝手だったんだろう。優の気持ちも確かめずに一人で早合点して。

勝手に被害妄想して、最低だ。私。

 

優は私の頬に手を添え、優しくキスをしてくれた。

私も彼の首に腕を回し、貪るようにキスをした。

 

今まで会えなくて寂しかった時間を埋めるように、何度も、何度も。

 

私は、キスをしながら優の制服を脱がしていく。

優もまた、何も言わずとも、私の服に手をかけていく。

 

「今日はこのまま、一緒にいて…。」

 

「もちろん…。一緒にいる。」

 

ベッドに押し倒され、優は私の首筋に強く吸い付いた。

首筋から鎖骨、胸、二の腕、何度も何度も強く吸い、痕をつけてくれる。

 

「もっとつけて、痛いくらい。たくさん愛して、優。」

 

内出血の跡が痛々しく見えるほどたくさんの痕をつけてくれる優。

私も彼の首筋にかみつき、犬歯を突き立てる。

力強く噛み、出血してしまったが、今の私たちにとっては興奮を煽るカンフル剤でしかない。

 

前戯もほどほどに優のものが私の中に入ってくる。

久しぶりなこと、あまり濡れていないこともあり、少し痛かったがそれでも嬉しかった。

 

優を近くに感じる、彼の体温を肌で感じる。

それだけで幸せだった。

 

泣きながら「好き、好き。大好き、優。愛してるよ。と叫ぶ私はさぞ滑稽だっただろう。

それでも言わずにはいられなかった。

 

今までの時間を埋めるかのように、激しく、時間も忘れて交わった。

何度目かわからないが、彼が中に精を吐き出す。

 

「もう、無理…。出ない。」

 

「今度は…こっち。」

 

間髪入れずに自分のもう一つの入り口に彼の手を持っていく。

それだけの、ただそれだけのことだが彼のものもまた生気を取り戻していった。

 

……………

 

朝、目が覚めると、彼の規則だ正しい寝息が聞こえてきた。

 

「あ、ヤバ。学校。」

 

そう思ったが今日は日曜日。

私も彼も学校はなかった。

 

私一人だけ起きているのもなんだか寂しく思ってしまったが、愛しい彼の寝顔を見つめているだけで、幸せな気分になれた。

こんなにぐっすり眠れたのはいつ以来だろう。

彼の体温を肌で感じながら、胸元に潜り込む。

 

「優、好き。すき。大好き。えへへ。愛してるよ。」

 

そう言いながら彼の胸元に顔を擦りつける。

なんだかんだ、三日坊主にならず筋トレも続けているらしい彼の体は少し引き締まっているようで、少し胸板は硬かった。

そんなこんなで、久しぶりの彼を堪能していると、

 

「お、おはようつばめ。」

 

「……君は今なにもみなかった、いいね?」

 

「うす。」

 

どうやら起こしてしまったらしい。

恥ずかしさも相まって、変な口調になってしまった。

 

「うわ、なんかつばめすごいことになってるね、ごめん。痛かった?」

 

暗闇では見えなかった私の体が朝日に照らされよく見えるようになっていた。

 

首から下は痛々しく内出血痕、元いキスマークが多々つけられておりはたから見たらそれはもうDV後にしか見えなかった。

 

「でも優も、ほら。」

 

そう言って首筋に手を当てる。

 

「いたっ。」

 

彼の首筋もまた、出血で血の跡が乾いて痛々しいものとなっていた。

優も私も、昨夜はアドレナリンの分泌量がすごかったのだろう。そう思うことにした。

 

「朝ごはん、食べる?」

 

「んー、そんな気分じゃないかな。もうすこし、こうしていたい。」

 

「ふふ、奇遇だね。私も。」

 

そう言って彼の首に手を回す。

 

「…朝から元気だね、優。」

 

「…ごめん。」

 

「いいよ、私も、ほら。」

 

彼の手を私の秘部に持っていく。

 

「熱いね。」

 

「でしょ。」

 

こうして、また一日が始まる。

もう疑わない。彼の愛は私にあるのだから。

 

 

……………

 

 

 

 




1万UA、お気に入り100件突破ありがとうございます。
正直感無量です、小躍りできるくらい喜んでます。


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冬の燕は何を想うのかAfterlife:次代の生徒会

 

「石上は来期も会長するの?」

 

二人きりで生徒会での仕事中、急に伊井野から問われた。

 

「いや、僕はいいよ。お前も帰って来たことだしな。伊井野がやればいい。」

 

「ふーん、そうなんだ。」

 

そっけなく返事をされる。

 

「あの…ね。」

 

数分の沈黙のあと、伊井野が口を開いた。

 

「私が、もし生徒会長になれたら…さ。そのときは石上は私のこと助けてくれる?」

 

「当たり前だろ。なにを当たり前なことを。」

 

さすがに極度のめんどくさがりの僕でも、このまま生徒会をほっぽり出して伊井野に丸投げをすることはしない。

 

「そっか。…ありがと。」

 

返事は小さく返ってきた。

 

「これからも一緒にいられるね、嬉しいね石上。」

 

「おい、やめろ。僕はお前に気はない。」

 

「言ってみただけ。でも、誰も今見てないから…なにしたってバレないよ。」

 

「伊井野、やめろマジで。」

 

そう言いながら、伊井野は僕に詰め寄ってくる。

 

「これね、思い出なんだ。みて、この傷。石上への好きがたくさん詰まってるんだよ。」

 

スカートをたくし上げ、太ももに刻まれた痛々しい傷あとを見せられる。

かなり上まで上げるものだからショーツまで丸見えの状態だ。

 

「これで最後にするからさ、思い出もう一個ちょうだい。」

 

伊井野の手が僕の頬へ伸びた。

 

「伊井野…。」

 

僕はその手を払う。

 

「それじゃダメだ、僕はお前の思い出にはなれない。それじゃお前は幸せになれない。」

 

「そう…だよね。ごめんね石上。」

 

寂しそうに笑う伊井野。

 

「僕はお前の気持ちには応えてやれない。あの日からずっと僕の気持ちはつばめにある。」

 

「うん…知ってる。でも…少しくらい揺れて欲しかったな。」

 

……………

 

伊井野は退院してからというもの、ボディタッチが多くなってきていた。

僕は困惑しつつも、本人の笑顔が増えたことに対していい傾向だと思って放置していた。

伊井野が自分を傷つける原因となった僕も、さすがに少し引け目があったからだ。

 

それにヘラってないからいいか、そんな軽い気持ちだった。

しかし、事件は起きた。

 

ある日の生徒会室。

 

僕は生徒会に勉強にバイト、つばめのマンションへ通い妻。かなりの疲労がたまり、生徒会室のソファで寝てしまっていた。

 

寝ている間に口元に違和感があった。

唇に当たる肌感覚。

 

「つばめ…?」

 

寝ぼけ眼をこすり起きると、そこには伊井野がいた。

 

「おま、何して!?」

 

ここはつばめの家でなく、学校だということが瞬時によぎった。

 

「えへ、あの日の続き。」

 

そう言って伊井野は妖艶に笑った。

僕に馬乗りになった伊井野は、一つ一つ制服のシャツのボタンをはずしていく。

シャツを肩から外し、控えめな胸があらわになった。

 

僕は瞬時に起き上がり、伊井野の制服を直した。

 

「なんで…なんだ。吹っ切れたって、言ってたじゃないか。」

 

「彼女になれないなら、セフレでもいいかなって。大丈夫、おもちゃで破っちゃったけど、ちゃんと処女だよ私。」

 

「そんなこと聞いてんじゃないんだよ!」

 

「怒鳴らないでよ、石上は横になってるだけでいいの。私の、きついからきっと気持ちいいよ。」

 

「とにかくやめろ、お前とそんなことするつもりはない。」

 

「…そっか。でもその気になったらいつでも言って?石上にならどこでもさせてあげるから。」

 

「一生ねぇよ…そんなこと。」

 

そんな会話のあと、すぐ後輩たちが入ってきて僕たちは何事もなかったかのように振舞った。

 

……………

 

前科はあった、それでも伊井野のことを考えると、無理にきつく当たることはできなかった。

 

「大仏、それに小野寺…、少しいいか。」

 

「私はあんたと話すことはないけど?」

 

「…頼む、お前らじゃなきゃダメなんだ。」

 

どうしようもなくなった僕は、不本意だが大仏と小野寺を頼ることにした。

 

「それで、何。私はまだあんたのこと許したわけじゃない。」

 

「わかってる、それでもお前らにしか頼めないんだ。」

 

正直話すか迷ったが、先日から続いている伊井野の奇行を包み隠さず話した。

 

「…噓でしょ?」

 

「ミコちゃん…さすがにそれは擁護できない…。」

 

二人して困った顔をさせてしまった。

 

「今期はさすがに僕も生徒会は続ける、だけど伊井野のことを考えたら僕はもう生徒会にいないほうがいい。だから、お前たちに任せたい。こんなこと頼めるの、お前らしか思いつかなかった。すまん…。」

 

伊井野を…守ってやってくれ。

あいつに必要なのは僕じゃない。

支えてやれる僕以外の誰かだ。

 

 

……………

 

石上が去ったあと、私たちは二人で屋上まで来ていた。

 

「小野寺さん。もうわかったでしょ。いつまで石上のこと怒ってるの?」

 

「わかってる。あいつが悪くないってこと。伊井野がただあほだったってことも。」

 

「じゃぁ…。」

 

「それでも、頭で理解するのと感情は別問題でしょ。むしろ私には、大仏さんがなんでそこまで割り切れてるのかわからない。」

 

そんなの、決まってるじゃん。

 

「親友、だからだよ。」

 

小野寺さんは何も答えない。

 

「友達が困ってたら助ける、間違った道に進んでたら助ける。普通でしょ。それにミコちゃんはもともと善性の人間。今のこの状況が異常なの。石上に強く執着して依存してるこの状況はよろしくない。そう思わない?」

 

「…私はあんたたちみたいに長い付き合いでもないし、そこまで伊井野のこと知ってるわけでもない…。でもさ、なんか違うじゃん。こう、はっきり何がって言えないけど、私は伊井野に幸せになってほしい。その相手がたとえ石上でも。」

 

「アレみても、まだそんなこと言えるんだね。」

 

「じゃあどうしろってんのよ!」

 

小野寺さんの口調が荒くなる。振り向いた彼女の目からは一筋の涙がこぼれていた。

 

「私だって、伊井野のことは友達だって思ってる!それならあの子の幸せを考えてあげるのはおかしいこと!?」

 

「それが、ゆがんだ形だとしても?」

 

小野寺さんは言葉に詰まった。彼女も頭では理解しているんだ。ミコちゃんの異常性に。

 

「石上はさ、きっと私たちに託したんだよ。ミコちゃんを支えるのは自分じゃないって。今のミコちゃんに必要なのは依存相手じゃない…。支えてくれる他者(ともだち)だよ。」

 

「それは…。」

 

「このままいくと、必ずミコちゃんは破滅する。学校を卒業する前か、それともあとか。私たちや、石上の望む結果にはならない。」

 

依存心の強い人間は他にもたくさんいる。そういった人間は依存相手を失えば、だれかれ構わず自分の自己肯定感や承認欲求を満たしに行く。

 

体を売る子、薬に手を出す子、数えだしたらきりがない。

それではダメだ、だめなんだ。

 

自分が死んでしまう。心が壊れて、価値観もぐちゃぐちゃになってしまう。

ミコちゃんは今、手に入らない石上の心の代わりに、体を手に入れようとしている。

石上にはつばめ先輩がいるから、ミコちゃんはボディタッチ程度で済んでいる。

 

これが、ほかの男に漬け込まれたとき、石上以外でもいいと思い始めた時にはどうだろう。

簡単にミコちゃんはそいつらに支配されてしまう。

 

もともとメンヘラ気質のミコちゃんだ、根本的にちょろいあの子が抵抗なんてできるわけない。

寂しさを埋めるために体を求める、その甘美な誘惑にあの子は勝てない。

 

自分のことを大切にできないから、周りに大切にしてほしい。

その根本が覆らない限り、そうなる未来は確実にどこかに存在する。

 

この学校でもそうして壊れていった子は何人も見てきた。

学校という閉鎖的な社会で、かつこの学校独自の圧力(プレッシャー)に耐え兼ね、財力やコネを使って飲酒に喫煙、薬、売春。裏でやってる子はいくらでもいる。

そのせいで物理的に、社会的に売られた子も。

妊娠や性病で学校での立場がなくなった子も。

 

ミコちゃんをその何人かのうちの一人にはしたくない。

 

親友として、それは許せない。

 

「小野寺さん。」

 

「…なに?」

 

「私たちは、友達としてミコちゃんを助けてあげたい。それは変わらない?」

 

「当たり前じゃん。」

 

「今ここで、最悪を想定してもしょうがない。私たちがあの子を支えてあげなきゃいけない。自分で自分を大切にできるように、あの子の助けになってあげなきゃいけない。そうしなきゃ、ミコちゃんは一人では救われない。」

 

「大仏さんの言ってることはわかるよ。それで退学していった奴や社会的に消されたやつも何人もいるからね。」

 

「この際石上のことは置いといて、協力…してくれる?」

 

「友達だもん、当たり前じゃん。」

 

そう言って小野寺さんは拳をこちらに向けてくる。

 

「…ありがと、小野寺さん。」

 

私も拳を作り、彼女に合わせる。

 

「それと、麗でいい。」

 

「じゃあ、私もこばちでいい。」

 

そう言って、小野寺さん…麗は笑った。

 

「…改めてよろしく。こばち。」

 

「よろしくね、麗。」

 

私たちも親友(ともだち)として、ミコちゃんを守ろう。

そう誓った一日だった。

 

 

 

……………

 

季節は秋、生徒会選挙の時期となった。

 

あれから石上は極力ミコちゃんと二人きりにならないよう、私と麗を生徒会室に呼ぶようになった。

それを私たちは了承し、仕事が終わるまで生徒会の手伝いをした。

 

初めて見た石上の生徒会での働きぶりは目を見張るものがあった。

できる限りすべての書類や案件をデータ化、フォームズ回答式にしたりと仕事をICT化していた。

いままでなんちゃってパソコンできます系だと思っていたのに、かなりガチだったことに驚いた。

 

麗も、生徒会に通うようになって以前の石上との距離感を取り戻しつつあった。

仲違いしたままでは私としても不本意だったので、いい機会だった。

 

「石上、これどこにデータ移すんよ。」

 

「これはこっち、マクロ回すからこのフォルダに突っ込んでくれ。」

 

今ではなんでも雑務をこなせるOLのような立ち位置を獲得していた。

麗の事務処理能力の高さを垣間見た瞬間だった。

私はその横で、ミコちゃんをあやしている。

 

私たちが生徒会に入り浸るようになって、自分の存在価値を見失ったミコちゃんは一時期荒れに荒れた。

その度、私と麗で相手をしているとたまに幼児退行するようになってしまったのだ。

 

…どうしてこうなった。

嘆いても仕方ない。

 

それもまぁ、ある意味私たちのせいだ。

石上と二人きりになれないことと、自分の存在意義を脅かされるストレスに頭が追い付かなかった結果だろう。

 

私たちや石上に依存しないよう立ち回りつつ、生徒会の仕事をし、ミコちゃんの心を守る。

なかなか大変だった。

 

そのかいもあって最近では幼児退行の頻度も減り、前のようなただのキモい夢女子に戻りつつあった。

 

 

……………

 

後期の生徒会選挙、石上は宣言通り出馬しなかっ(降り)た。

 

石上の仕事ぶりを知っている生徒たちからはそのことをかなり詰められたようだが、頑として石上は生徒会には参加しない意思を貫いた。

 

ただ、システム系の仕事は外注という形で手伝ってくれるようだ。

それは素直に感謝すべきなのか、複雑な気持ちだった。

 

「ミコちゃん、生徒会長当選おめでとう。」

 

選挙結果は順当に、ミコちゃんが当選した。

学院側には、入院の経緯は伏せられており、一部の人間しか知らない状況だ。

 

以前白銀会長と弁論を繰り広げたのを目の当たりにした生徒はミコちゃんに票を入れる。

石上がいないこともあって、順当な結果だった。

 

「ミコ、大丈夫。私たちもいるから。雑務は私も覚えたし、何とかするよ。」

 

そう言えば、あの日から麗はミコちゃんを呼び捨てにするようになった。

本人曰く、親友が苗字呼びはなんか気持ち悪い。とのことだ。

 

「うん…。ありがとね、麗ちゃん、こばちゃん。」

 

そういうミコちゃんの表情は暗い。

石上がいないことが起因しているのは明白だ。

 

「そんな、暗い顔すんなってミコ。石上以上にいい男なんて星の数ほどいるんだ。あいつよりいい男見つけて、逆に自慢してやんな。」

 

「そう、だね。うん、そうする!絶対見返してやるんだから!私の方があんな淫乱ピンクより100倍いい女だってこと!」

 

 

 

…ミコちゃん、それはさすがにつばめ先輩に失礼。

 

 

 

秀智院学院 第70期生徒会

 

生徒会長  伊井野ミコ

副会長   大仏こばち

副会長補佐 小野寺麗

 

 

後輩たちも生徒会役員として続投し、こうして新しい生徒会が立ち上がった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 



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