ツーサイなお兄様 (仮面ライダー四季鬼)
しおりを挟む

ツーサイなお兄様

旧pixivアカウント名シオンこと仮面ライダー四季鬼と申します。
pixivで投稿していた小説をこちらでも掲載させて頂きます。

設定崩壊などありましたら遠慮せず言及ください。
誹謗中傷は辞めてください、泣きます。
よろしくおねがいします。



ここは「しあわせ湯」

五十嵐家の大黒柱である五十嵐元太によって開業されて以来その名の通り色んな人を幸せな気持ちにするお風呂を提供し続けている、正にみんなに愛される銭湯だ。

今宵このしあわせ湯では一人の少女を盛大に祝うための祝宴が催されていた。

 

「ほらほら皆早く位置について!兄ちゃん!乾杯の音頭頼む!」

 

「え!?俺がやるのか?」

 

「当たり前でしょ!こういうの一輝兄が1番上手いんだから!パパとママも早く!」

 

「奥から一張羅を引っ張り出すのに苦労したよ!どう?ママさん!キマってる?」

 

「あら〜いつもカッコいいのに今日は一段とハンサムよっ!パパさん!」

 

「二人がキメてどうすんだよ!まったくもう…ごめんライス…騒がしくて…」

 

「ううん!賑やかでとっても楽しいよ!大二お兄様!」

 

心からそう思っているであろうことが伺える表情を浮かべる一人のウマ娘…

彼女の名はライスシャワー。今年からフェニックスの分隊長の業務の傍らに新人のトレーナーとして大成した五十嵐大二の担当ウマ娘である。

ここまででわかると思うがこのしあわせ湯で行われている祝宴は彼女の為に開かれている。彼女はつい最近に栄えあるデビュー戦を快勝し、そのお祝いをしあわせ湯で行なうことを長男である一輝を筆頭とした五十嵐家が提案したのだ。

 

「よ〜し!皆グラスは持ったか?それじゃ、ライスのデビュー戦勝利を祝って…かんぱ〜い!」

 

「「「「かんぱ〜い!!」」」」

 

「か…かんぱ〜い…」

 

少し遠慮がちに乾杯するライス、乾杯からそれほど間をもたずに話題はレースの激励になっていく。

 

「いや〜それにしてもすごかったなあのレース…ライスちゃんが先頭でゴールしたのを見たらもう感動して…」

 

「さくらなんて号泣してたからな!」

 

「ちょっと一輝兄!それ言わないでって言ったじゃん!」

 

「恥ずかしがるようなことでもないじゃない!…あっ!ライスちゃんは遠慮せずどんどん食べてね!」

 

「は…はぃ〜〜…」

 

「ははっ…母ちゃん…そんなに盛っても食べ切れないだろ?なぁ…大二!」

 

「…あぁ…いや…(兄ちゃんは知らないんだろうなぁ…)」

 

実際には余裕どころか腹ごなしにもなりはしないのだがとりあえずこの場では黙っておくことにしよう。

すると突然父、元太が思い出したかのような声を上げた。

 

「おっ!そういえば撮った写真の現像が終わったらしいから預かってたんだ!」

 

そして父は自分のテーブル周りを空かすと何枚かの写真を広げた。

 

そこには様々な瞬間が切り取られていた。

応援している五十嵐家やご近所の方々、ライスと大二のツーショットなどもあり、ライスを中心に皆で笑い合うさながら家族写真のようなものもあった。

その中でも特に目を引いたのは燦々と照る陽光に照らされながら笑顔でゴール版を駆け抜けるライスの写真だった。

 

「どうだ〜!とっておきの一枚なんだ!」

 

「すごい!ライスがライスじゃないみたい!」

 

「パパすっご!こんなのどうやって撮ったの!?」

 

「ここしかないってシャッターチャンスが訪れたんだよ!…ぶーさんに…」

 

「「「だと思った…」」」

 

「ガ〜ン…ショックダディ〜…」

 

自分の手柄にしようと思ったが直前に良心が勝ったらしい。ちょっとした意地汚さと人の良さを見せる自らの父に五十嵐三兄妹はほんの少し呆れた。そんな楽しい時間について過ごすうちにふと兄がこんな言葉を漏らした。

 

「でもさ、兄貴としてすごく誇らしいよ…これも大二とライスが手を取り合って努力した結果だな。」

 

「…いや、俺はなにもしてないよ。ライスが頑張ったんだ。」

 

激励してくれる兄に対して頭を落としそう零す。実際自分は何もしていない…ライスが勝つことができたのはそれこそライス自身の頑張り故のもので自分はほんの少し背を押したにすぎない。それなのに勝利の要因に自分がいると宣うなどおこがましいにもほどがある。そんなことを思っていると…

 

「そんなことないよ…大二お兄様…」

 

ライスがいつの間にか目の前にいて確かにそう告げた。

その眼にはいつもの自信なさげな気持ちが渦巻き揺れている色ではなく確かな気持ちを言葉に表そうとする決意の色を感じた。

 

「ライスね…今まで自分にできることなんてなにもないって…一人で真っ暗な世界に閉じこもってた…」

 

「でも…大二お兄様はそんなライスの手を取って…一輝お兄様やさくらお姉様…お母様、お父様…ぶーさんや太助おじさんたち…」

 

「色んな光をライスに繋いでくれた…だからライス…走り出すことができたの…」

 

「だからね…ライスにとって大二お兄様は…一番大切な光なんだよ…?」

 

ああ…駄目だ…目頭が熱くなり、視界が滲む。

 

「…ッ!…あぁ…っ…ありがとう、ライス。」

 

「えへへ…お礼を言いたいのはライスの方なのに…変なお兄様…」

 

ちゃんとトレーナーをやれてる自信なんてなかった。たしかに自分が選んだ道ではあったけど…フェニックスの業務が滞ってトレーニングをしっかり行えなかったこともあったし、約束も破ってしまったことも、寂しい思いをさせることも何度もあったはずだ。

こんな奴、嫌われてしまってもおかしくないというのにそんな自分を変わらず慕ってくれている目の前の存在がとても愛おしく感じた。

 

「ライス…俺達からもお礼を言わせてくれ…」

 

そして家族もその想いを聞き届け、自身たちの思いの丈をぶつけ始める。

 

「ありがとな…大二の担当になってくれて…」

 

「うん…ライスちゃんが大ちゃんの担当でほんっとによかった…!」

 

「ああ…俺たちも一輝たちと同じ気持ちだ…なぁママさん…」

 

「ええ…ライスちゃん…これからも大二のことを支えてあげてね…」

 

「うん…ライスもお兄様のこと…支えたい…お兄様が大好きだから…」

 

「…あら〜?」

 

その言葉を聴いた瞬間母、五十嵐幸実の目には慈愛から悪戯の色に変わった。

 

「ライスちゃん、今…大二のこと大好きって、言ったわよね…?」

 

「ふぇ…?う…うん…」

 

「もしかして…大二のお嫁さんは心配しなくてもいいってことかしら〜?」

 

「ふぇ…!?////」

 

は?????

何を言い出しているんだこの人は…?

 

「おお〜!ライスちゃんみたいな良い子がお嫁に来てくれるなら父ちゃんは大賛成だぞ!」

 

まずい…この流れは…早く止めなければ!

 

「父ちゃんも母ちゃんも何言ってんだよ!ライスが困ってるだろ!」

 

「大二…」肩ポン

 

「兄ちゃん…?」

 

「お前も意外と隅に置けないな♪」

「幸せにしてあげなよ大ちゃん♪」

 

「兄ちゃんたちまで…?!」

 

「…ライスが…お嫁さん…?…お兄様の…///」

 

「ライス!?」

 

その後、上の空のライスが戻ってきてからもその祝宴は続き、そして笑い声が絶えることはなかった。

こんな幸せがこれからもずっと続いていくだろう。自分の使命はこんな誰にでも与えられるべき幸せな日常をずっと守っていくことなのだと強く痛感する一日だった…

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

そう…思っていたのに…

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

⚠これから先は胸糞展開です。苦手な方はここで閲覧を中止することをおすすめします。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『ライスシャワー完全に先頭!2バ身から3バ身!ライスシャワーだ!昨年の菊花賞でも、昨年の菊花賞でもミホノブルボンの3冠を阻んだ ライスシャワー!

春の天皇賞ではメジロマックイーンの大記録を打ち砕きました!』

 

「おい!いい加減にしろよこのヒール!」

「お前が勝つことなんて誰も望んじゃいないんだよ!」

「そうよっ!私達の夢を返して!」

 

観客席にいる無数の存在から放たれるのは聞くに堪えない罵詈雑言…

そしてそれとともに投げつけられるゴミの礫をライスシャワーは甘んじて受け入れていた。腕で守ろうともせず、歯を食いしばり目をギュッと瞑って涙を堪えながら一人立ち尽くしていた。

 

「やめろ…やめてくれ!」

 

大二は急いで駆け寄り、その身を盾にすることでライスシャワーを守る。だが、それはある意味ではなんの役にも立っていないと言える…たとえ身体が傷つかずとも彼女の心は依然として傷つけられ続けているのだから。

 

「やめろ…やめろぉぉぉぉぉ!!」

 

大二の絶叫が轟く…その慟哭が響いたことでレース場は一瞬の静寂を迎える。

この隙に大二は観客たちへ説得を試みる…

 

「やめてください…!ライスは何も悪いことなんてしてないじゃないですか…!他のウマ娘と同じように努力して、今までのウマ娘と同じようにただレースで勝っただけだ!なのになんで…ライスばかり責められないといけないんですか!」

 

「………」

 

「…おねがいします…確かに偉業の達成を目の当たりにはできなかったかもしれないけど…!今はただ…ライスの健闘を称えてやって「うるせぇ!!」……えっ…?…」

 

 

「そいつが勝とうが負けようがどうだっていい!俺達はマックイーンの三連覇が見たかったんだよ!」

「ミホノブルボンの三冠もよ!」

「よりにもよってなレースでばかり勝ちやがって!身の程を知りやがれ!」

 

どこまでも自分たちのことしか考えていないその言動の数々に大二は激しい怒りを覚える。そしてその激しい怒りによって周って冷静になった大二の頭に浮かんだのは純粋な疑問だった。

 

「どうしてだよ…俺たちは…正しいことをしてるだけなのに…」

 

そうだ…自分たちは正しい。

それなのに何故こんなにも糾弾されなければならない…

一体何を間違えた…?いいや、なにも間違えてない…

なら、誰かが間違えた…? 

 

ああ…それなら明白だ…

 

間違えているのはこいつらだ…

罪を持っているのはこいつらだ…

罪人なのはこいつらの方だ…

 

なら"断罪"しなければならない。

なぜなら俺は誰かの幸せを守らなければならないから…

そのためにも罪人を野放しにするわけにはいかないから…

だから…誰よりも"正しい"俺がやらなくちゃいけないんだ…

 

『HOLY WING!』 『cofirmed!』

 

「お兄様…?」

今まで目を閉じていたライスがその目を開ける…

その目に不安を浮かべ、自分を見上げている…

 

「大丈夫だ、ライス…君を傷つける悪いやつは…皆俺がやっつけてやるから…」

 

『WING UP!』

 

「…変身…!」

 

『HOLY UP!』

 

『wind…!wing…!winning…!』

 

『ホーリー!ホーリー!ホーリー!ホーリー!』

 

『ホーリーライブ…!』

 

背から現れた翼が胸に顔を埋めるライスもろとも自分を包み込み、変身を完了させる。その様相はさながら雛を守る為に翼で覆う親鳥のようだった。

 

さぁ…準備は整った。

既に撃鉄は下ろした…なら後は引き金を引くだけだ。

断罪を下すため、ホーリーライブは咆哮を上げ駆け出す。

 

「もしかして…やめて!お兄様!」

 

ライスの制止が聞こえたような気がする…

でもきっと気の所為だ…こいつらを断罪するということに止める理由など存在しないのだから…

 

観客たちはどよめき、慌てて避難を始めるが仮面ライダーでもウマ娘でもない彼らの逃走能力などたかが知れている。

 

『仮面ライダー!リバイ!バイス!リバイス!』

『仮面ライダー!蛇!蛇!蛇!ジャーンヌ〜!』

 

「やめろ!大二!」「んなことしたらまじやべぇって…!」

「大ちゃん…落ち着いて!!」

 

しかしそんな自分の目の前に3つの影が割り込み、無理矢理抑えつけてきた。

その正体は兄、五十嵐一輝が変身する仮面ライダーリバイとその相棒である悪魔仮面ライダーバイス、そして妹である五十嵐さくらが変身する仮面ライダージャンヌだった。

 

「落ち着いてなんて居られるかっ…!そいつらはライスを傷つけた!兄ちゃんたちこそなにも思わないのか!」

 

大二は静観していた自分の兄妹に心底怒りながらそう問い詰める。その声には怒りの他にも少しの悲嘆が混じっていた。

 

「馬鹿野郎…!そんなわけないだろ!俺だって今までにないくらい怒ってる!バイスだって…さくらだって同じ気持ちだ!」

 

両側から大二を抑えるのに集中しているバイスとさくらは言葉を発さないがその相貌から溢れそうになるほどの怒りを必死に抑えつけていることがありありと分かる。

正面に立ち、ある程度抑えつけながら説得に回る一輝…

 

「でもお前が先に手を出したら、ライスは本当の意味でヒールになっちまうだろ!それでもいいのか!?」

 

「…ッ!…黙れ!」

 

知ったような口を利くな…

お前はあの子がどんな思いで走っていたのか知っているのか…

あの子が初めてヒール呼ばわりされた時、どれほど心を痛めたのか知っているのか…

あの子がもう一度走り出すことができるまでにどんな葛藤があったのか知っているのか…

俺は何もかも知っている!全て見届けてきた!

俺はあの子の想いを背負っているんだ!

 

「兄ちゃんとは…!背負ってるものが違うんだよっ!!」

 

「…ッ!…いい加減にしろ!大二!」

『ギファードレックス!』

「…バイス!本気でいくぞ…!」

 

「でも…くっ…わかったぜ一輝…!」

『ギファードレェックスっ!』

 

『『ULTIMATE UP!』』

 

『『ギファー…ギファー…ギファードレックス!!』』

 

一輝たちが本気を出したことでリバイ、バイス、ジャンヌの三人がかりで漸く保っていた均衡が崩れた。

こちらの攻撃がことごとくさばかれ、手痛いカウンターを何度も食らう…手も足も出ないとは正にこのことだった。

でも諦めるわけにはいかない…

必ず報いを受けさせる、その一心で反撃を続けるも状況は一切好転しない。

 

「…うぅ…!…くそがぁ……!」

『必殺承認!』

『ホーリージャスティスフィニッシュ!』

 

苦し紛れの一発さえも片手間に弾かれる…

力の差は歴然だった。

 

「目を覚ませ!大二!」

 

『リバイ/バイス ギファードフィニッシュ!』

 

「ぐっ…グワァァァああぁぁ……!」

 

強力な一撃を受けたことでこの身は強く投げ出され、変身を維持することもできずに解除されてしまった。

無様に転げ回る自分…悔しい…どうして正しいはずの自分が這いつくばっているのだろうか…?

憤りが収まることはなかったが今このときは体の痛みで呻くことしかできない。

 

「お兄様…!しっかりして!お兄様…!」

 

涙を浮かべ駆け寄ってくるライス…

きっとあいつらに報いを受けさせることができなかったことを嘆いているのだ…

 

ごめんよ…ライス…

今はできなかったけど…いつか…

必ずあいつらを裁いて見せるから…

また君が幸せそうに笑えるようにするから…

そのためなら俺の何もかもを投げ打ってみせるから…

だから…

 

まだ俺を君の大切な光でいさせてくれ…ライス…

 

 

END




大二寄りのの三人称視点だった都合上バイス含む悪魔たちとの絡みは描かれませんでしたが、普通に悪魔の面々も、ライスが大好きですしライスもバイスくん、カゲロウくん、ラブちゃんと呼んで仲良くしてます。
特にカゲロウは大二のクソデカ感情の影響を受けてるだけあってライスには強く出ることができなくなっていました。

「ヒャーハッハーっ!ぶっ潰してやるぜお兄様!」

「そんなことしたらめっ!だよ?…カゲロウくん…」


「…ウルセェヨ…」スンッ

って感じです。


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

蛇足について

皆さん、おはこんばんにちはございます…

仮面ライダー四季鬼でございます!

 

皆さんはもう僕のハーメルンでの処女作である

 

『ツーサイなお兄様』

 

読んで頂けたでしょうか?

 

あれに関しての相談なのですが、散々続きを作らないと公言しておきながら構想が頭の中にまた突如として降り注いで来ました…

 

皆さんにはツーサイなお兄様の続きとして蛇足を投稿すべきかをご相談したいなと思いました!

 

やりゃいいじゃんとかやめとけとかそういった意見がほしいです!

 

判断材料として内容の設定を一部紹介します!

 

 

ライスシャワーが仮面ライダーに変身します…

 

仮面ライダーローゼス

 

ライスシャワーが暴走した大二を止めるために変身する仮面ライダー

非常に高度なシステムが組み込まれているが、それは戦闘というよりも相手の効率的な鎮圧のために稼働されており、相手に合わせた調整を随時行なうことで過度な出力開放による被害の拡大を防止している。

相対する相手如何によっては変身者にある程度の負荷を与えるがライスシャワーのウマ娘としての強靭な肉体によってバックファイアの危険性はとても低いものとなっている。

出力の振り幅はそれこそ最弱のギフジュニアからホーリーライブまで

 

見た目はライスの勝負服を仮面ライダー風にしたものにアクセル・ワールドのブラックロータスの頭って感じ

 

アンビバレンスドライバー

仮面ライダーローゼスに変身するためのベルト

カゲロウが遺したツーサイドライバーをベースにライスシャワー用に狩崎が調整、再設計を行なった。

ブルーローズバイスタンプとの併用を前提とされているため、ツーサイドライバーの様なゲノムチェンジ機能はオミットされているがその代わりにリベラドライバーやウィークエンドライバーのようにスキャンしたバイスタンプに応じたゲノムウェポン生成機能を有する。

またベース元のツーサイドライバー同様ガンモードとブレードモードに変形可能

 

外見上の変化は

紫のゲノムトランシーバー(ベースベルト部分)

オーインジェクターのライダーズクレスト

黒に紫の挿し色の入ったガンブレード

 

 

それぞれのモード時の名称

ヒールブレード

ヒーローガン

 

ブルーローズバイスタンプ

 

青薔薇の遺伝子情報を内包するバイスタンプ。

 

ベースの形状はボルケーノバイスタンプだが、バリッドレックスバイスタンプとの連結パーツがなくなっていたり、つまみを回して動かす炎のパーツ部分は茨と青薔薇の意匠になっていたりと何気に新規造形が多い。

変身状態の際につまみを回して青薔薇のパーツを動かすことでスタンプリード待機状態に移行し、そこにバイスタンプを読み込むことでゲノムウェポンを生成する。

色味は艶のある黒をベースに茨は緑、薔薇は青

 

 

 

では皆さんご協力をおねがいします!



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

それぞれの苦悩







どうしてこんなことになっちゃったんだろう…

なんでみんなはお兄様のことを悪く言うんだろう…

 

だってお兄様は優しい人だよ…

こんなライスのことを救ってくれた…

走り出す勇気をくれた…

ずっと一緒にいるって約束してくれた…

 

"ライス"の一番大切な人…

 

…ッ!…あ、そっか…そうなんだ…

きっとそういうことなんだ…

 

ライスの…一番大切な人になっちゃったから…

だからきっとお兄様は…

みんなから嫌われちゃったんだ…

 

またライス…大切な人を不幸にしちゃった…

なんでライスはあんなに優しい人を不幸にしちゃうんだろう…

ライスのせいだ…ライスのせいだ…

 

だから…だから…

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ライスなんかいなくなっちゃえばいいんだ…

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

一輝side

 

時は夕刻…日が傾いて人々の暮らしに影を落としていた頃、俺こと五十嵐一輝は閑散とし始めた街の中を大声を上げて走り回っていた。

 

「どこだ!…ライスっ…!返事をしてくれ!」

 

突然のライスの失踪…

それが今俺が走り回っている理由だった。

時はほんの数十分ほど前に遡る…俺がいつものように母ちゃんと一緒にしあわせ湯に来ていたお客さんを見送り、閉店作業をしていたときのことだった。

 

数十分前…

 

ジリリリリリン…ジリリリリリン…

 

「ん…?…電話…?」

 

突然の電話に少し驚いてしまったがすぐに気を取り直して電話を取る。預かっていた忘れ物の連絡かもしれないし、そうじゃないにしても予約の電話の可能性もあったからだ。

それにもしかしたら…

大二が連絡する気になってくれたのかもしれない…

ほんの少しそれを期待していたのも事実だった。

 

「はい、しあわせ湯です。」

 

『すみません!五十嵐トレーナーのご自宅でしょうか!?』

 

しかしその期待に反して聴こえてきたのは何やら切迫した様子の女性の声だった。

しかもその声は聴いたことがある…というかまるっきり知り合いの声だ。

 

「たづなさん…?どうかしたんですか?」

 

そう…この声の主は駿川たづなさん、トレセン学園で理事長さんの秘書をやっている大二の上司の方だ。とても綺麗な女性だったので最初の頃は緊張して話していたのをよく覚えている。と言っても知り合ったきっかけは大二が間に入っていたわけではない。家族みんなでライスのレースの応援に行った時に観客席で偶然隣になったのだ。ちょっとした軽い雑談からお互いに接点が見つかったときは酷く驚いたものだ。

レースの応援に来ている観客の中でも一際に目を輝かせて応援しているその姿は目が離せなくなる程輝いて見えて…って話が逸れたな。

 

『一輝さん…!そこにライスシャワーさんがいらっしゃいませんか!?門限を過ぎても帰ってないみたいなんです!』

 

それを聞いてからの行動はあまりに無意識で動いていたから覚えてはいないが気付けば俺は道中でもライスを探しながらたづなさんと合流する為にトレセン学園に向かっていた。

 

「…ッ!…たづなさん!」

 

「一輝さん!…すいません、本来ならこちらで対処すべき事態なんですが…」

 

顔を合わせて挨拶をする間もなくたづなさんは自らの危惧を口にする。確かに俺たちの繋がりは大二が間にあるもので五十嵐家自体はトレセン学園と直接関係しているわけではない部外者だ。本来なら手伝う義務はないだろうからこそ手伝わせてしまっているこの現状を憂いているらしい。

目元に隈ができているのを見るに相当疲れているようだった。

 

「気にしなくても大丈夫です!ライスだって大切な家族だし…それに俺は日本一のお節介ですから…!」

 

「…ふふっ…ありがとうございます……」

 

たづなさんは笑顔を浮かべてお礼を言ってくれたが、未だその顔色には影が指していた。あまり俺の激励は意味を成していないようだった。

しかし今はとりあえずできることは全部やるのが先決だ!

 

「父ちゃんたちにも事情話して探してもらってます!そっちはやっぱり学園内には…?」

 

「はい、くまなく捜索しましたが見つかりませんでした…恐らく学外にいると思われます…」

 

そこまで調べがついているならまだまだやり様はあるだろう…日中にはちゃんと学園にいたことが分かっている。つまり居なくなったのは授業終わりの放課後で学園から駅までの距離や経過時間的に電車を使って遠出はしていないだろう。

ウマ娘の脚力なら全力を出せばすぐ駅につくのは造作もないことだ。

だが現役で活躍しているウマ娘が全力疾走すれば目立つし人目につく。そういった話が出ていないということはライスは駅には向かっていない、あるいはゆっくりと駅に向かってるという可能性が導き出せる。

予めブーさんにライスが駅に向かってる可能性を考慮して先回りして待機してもらっているが、街の中にまだいるのならもうすぐ父ちゃんたちによって見つかるだろう。

その旨をたづなさんに伝えると少しの間驚きの表情を浮かべた後にまた影のある笑顔を浮かべた。光明が見えたのに浮かないのであろうその様子がひどく気になった。

 

「どうしました…?」

 

「…一輝さんはすごいですね…こんな想定外の事態にも冷静に解決策を導くなんて…」

 

「私とは大違い…」

 

それは言葉だけ見れば賞賛のように聞こえるが、その後に続く言葉によって彼女の自責の言葉であることが伺えた。

 

「…いや、そんなことないです。たづなさんの方がいつだって落ち着いてて…」

 

「虚勢をはってるだけです…本当はいつだって不安なんです…私って本当に皆さんを支えることができてるのかなって…」

 

そこまで口にして、はっとして口元を抑える。

きっとこんなことを言うつもりはなかったんだろう。

つい溢してしまった拍子に流れ出てしまったのかもしれない。

それも仕方ない…ここ数日、色々なことが起きすぎた。学園に通うウマ娘が謂れのない誹謗中傷に合い、それによって交流を持っていたトレーナーが仮面ライダーになって人を襲い、今度はそのトレーナーに悪意が向けられた。彼女もその渦中にいて対応に追われていた者の内の一人…

ただでさえ疲弊しているところにこの騒動だ。心の蛇口が緩んでしまうのも無理はない。

そこまで口にしてしまったことで諦めたのか、口元を抑える手を下ろしそのまま言葉を紡ぎ出す。いつもきれいな姿勢で立っていた彼女が頭を抱え座り込んでしまった。

 

「今回のことだってそうです…対応に追われていたことを言い訳にして…ライスシャワーさんの精神的なケアを怠って…その結果がこれです…一輝さんが居なかったらと思うと…」

 

声は出さずに隣に腰掛けて話を聞く。

弱っている人を前に何を悠長にだとかライスが見つかったわけじゃないだろと思わないわけじゃなかったが、まずはしっかりと話を聞いてやらないといけない、そう感じたんだ。

 

「友人が大変な時に何もできずに…支えるべき学園の生徒さんも助けられない…こんなんじゃ…私がいる意味なんて…」

 

目に涙を浮かべて自らの力のなさを嘆くたづなさん。いつものようなできる大人の女性ではない、弱々しい少女のようなその姿を見て思わず俺は声を出していた。

 

「たづなさん…最近風呂って入りました…?」

 

「…………………………………………はい?」

 

一瞬呆けたような顔したのも束の間、思い当たる節があるのかサァーッと青褪めたと思うと一言。

 

「………臭いますか……?」

 

「…え?……あっ…!いやっ!そういうことじゃなくて!変な言い方してすみません!」

 

すぐに訂正する。

たづなさんはいつだっていい匂いですと付け加えようとも思ったがよく考えればキモいなと思ってやめた。

 

「俺が言いたいのはたづなさん、最近ちゃんと休めてないんじゃってことです。

たづなさんは強いからとことんまで弱ってないとそんなふうに弱音を吐くようなことしないでしょ…?」

 

「…そんなこと…」

 

あるわけがない。

滅多に弱音を吐かないなんてこともそうだが…

自分が強いなんてことはあるわけがない。

今だってこんなにも挫けそうになっているというのに…

そう言いたげな顔を浮かべていた彼女にそっと否定をする。

 

「ありますよ、だって…

たづなさんのその強さに助けられた人が大勢いることを俺は知ってるんですから。」

 

「え…?」

 

「俺ん家の銭湯って…ほんとに色んな人が来るんですけどその中にはトレセンの生徒たちもいるんです。」

 

家の銭湯はそれこそ湯治なんてだいそれた効能があるわけじゃないが、それでも他の銭湯に負けないくらいに気持ちいいお風呂を提供している自信がある。それが通じたのかトレーニング終わりのトレセン生徒には非常に好評なのだ。

 

「それで、そんな生徒たちがしてくれる話の中にはいつもたづなさんが出てくるんです。」

 

「…私が…?」

 

たづなさんが悩みを聞いてくれた…

たづなさんがトレーニングでアドバイスをくれた…

無理なトレーニングを強要するトレーナーから逃してくれた…

など、それぞれ形は違えどたづなさんがしてくれたこととそれに対する感謝を述べていたことはみんな共通していたのだ。

そして…

 

「みんな口を揃えて言うんです!今度は自分がたづなさんを助けられるようになりたいって…」

 

「…ッ!…」

 

「たづなさん、周りを見渡してみてください…

あなたが助けた人も…

あなたを助けてくれる人も…

こんなに溢れてるじゃないですか…

だからたづなさんがいる意味がないなんてこと…

あるはずない…俺はそう思います…!」

 

一息にすべてを詰め込んでしまったので言い切ってから少し息を切らす。ちゃんと伝えることができたか怪しいものだったがまだ言うべきことがある…

 

「…いつも頑張ってるんですから、たまには助けられてみるのも悪くないと思いますよ…」

 

それを聞いた彼女は一言を漏らす。

 

「…ですが…私は生徒の皆さんを支えなければいけない立場ですから…」

 

厚意に甘えるようなことをするわけには…そう続けようとする彼女。そう言うだろうことは察しがついていた…だから…

 

「だったら俺が助けます!」 「えっ…?」

 

「俺、たづなさんが支えなきゃ…守らなきゃいけない存在じゃないですよ?

…だから俺が助けになりたい人達の思いも一緒に背負ってたづなさんのことを助けます!」

 

困惑した様子のたづなさん…

さっきからずっと困惑させ続けてるのでほんの少しばかり申し訳なく思ってしまう。

そして…

 

「ふふっ…自称するだけあります…流石日本一のお節介…」

 

笑うたづなさん、その笑顔からは未だ力の無さは残しつつも先程まで彼女に巣食い続けた影は幾らか晴れているのを感じてなんだか嬉しかった。

 

「それじゃあ私…遠慮なんかしません…

精一杯その言葉に甘えさせて貰いますからね…?

後で後悔しても知りませんよ♪」

 

「任せてください!必ず役に立ってみせますから!」

 

座り込んだ状態から立ち上がってこちらへ振り返る彼女…

その言葉を紡ぎながら浮かべる彼女の笑顔に見惚れてしまい平静を装った返事を返すことができたのが不思議だった。

このままずっと見つめ合っているのも悪くないような気がしてしまっているがそういうわけにもいかない。ライスが失踪しているこの状況は何も変わっていないのだから。

立ち上がって捜索してくれてる父ちゃんたちに加わる旨を伝えようとしたその時…

 

〜♪ 〜♪

 

俺のガンデフォンに通話が掛かってきた…一瞬たづなさんに目配せして許可をもらってから電話を取る。

 

「はい、もしもし?」

 

「ハロー、一輝。調子はどうだい?」

 

この喋り方にちょっとばかしの胡散臭さを内包した声は…

 

「狩崎さん?どうしたんですかこんな時間に…」

 

そう、俺に電話を掛けてきたのは何時もお世話になっているジョージ・狩崎さんだった。ライダーシステムの開発者であり重度の仮面ライダーファンである彼とは幾度かの衝突は有りつつもいつも俺たちを支えてくれた。

そんな彼が俺に電話とは一体なんの用だろうか?

 

「君に朗報をね…ライス君が見つかったよ…」

 

「ホントですかっ…!ありがとうございます!」

 

それはこれ以上ない朗報だ…!

たづなさんも安心してくれるだろう。

 

「と言っても見つけられたのはたまたまだ…彼女は私が保護しておくから安心してくれ…元太さんたちにも伝えておいたよ。」

 

「はい…!また今度お礼させてください!」

 

「それじゃいつかまたそちらの銭湯にお邪魔するよ…風呂上がりに最高の一杯を期待させてもらおうかな?」

 

「はい!良いの入れときます!ありがとうございました!」

 

その言葉を聞いて満足したのか

「オーケー!それじゃ!」

と狩崎さんは足早に通話を切ってしまった。

後はあの人に任せておけば安心だろう…胡散臭さが半端じゃないので誤解されがちだが基本的には善良な人だ。

 

「たづなさん、安心してください。ライスが見つかったみたいです!」

 

「本当ですか…!?」

 

心からの安堵を浮かべるたづなさん。学園の生徒を心から想っている彼女だからこそその度合いの大きさは計り知れない。

 

「はい!信用できる人が保護してくれるそうなんで、明日には俺が学園まで送り届けますよ!」

 

「本当に良かった…その方には私からもお礼をさせてください!要望を可能な範囲で叶えさせて頂きます。」

 

「えっ!?…えぇ…っと……」

 

その発言はなんだか危ういのではと危惧する。

こんなことを言ってくれているが実際本人にこんなことを伝えればなにかとんでもないことを要求しかねないような気がする。

先程の信用とはまた別の意味で信用があるのが彼なのだ。可能な範囲でとは言っているがたづなさんの性格上また無理をしてでも要望を叶えようとするのが目に見えている。

何か俺がここで代案を…そうだ!

 

「あぁ〜…あの人!仮面ライダーが大好きなんです!だからそれのグッズとかならハズレはないと思います!」

 

「え…!?あ…は、はい…」

 

とりあえずこう言っとけばいいはずだ…どうせ狩崎さんのことだから喜んで受け取るだろう。

なにか言われる前にこの場を退散しよう!

 

「じゃあ俺はこれで!よかったらたづなさんも家の銭湯に入りにきてください!」

 

「は…はい!」

 

脇目も振らずに走り去る、そんな俺をたづなさんは見送ってくれた。

 

(なぁ…一輝ぃ…)

 

「ん…?どうしたんだよバイス?」

 

突然俺に宿る悪魔であり相棒のバイスが話し掛けてきた。そういえばたづなさんと話してる間は珍しく静かだったな…

 

(一輝って意外とさ…罪作りな男ってやつ…?)

 

「ん…?…どういう意味だ?」

 

(ああ〜…いいや!やっぱなんでもな〜い!)

 

「はぁ!?おいなんなんだよ!バイス!おいって!」

 

突然おかしなことを言い出すバイスに大きな声を上げながら俺は帰路につく。明日はライスを迎えに行かなければならないし、できる限り早く寝て備えておかなきゃな!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

たづなside

「…ありがとうございます、一輝さん…」

 

走り去ってもう点に見えてしまうほど遠くの彼に私はもう一度感謝を告げる。

ライスシャワーさんのこともそうだったが、何より落ち込んでいた私に対してとても親身になってくれたこともだ。

正直言えば今までも何度だって似たような言葉をかけられた筈だった。なんだったら上司の理事長にも同じことを言われたのだが、思えば何故か彼の言葉はストンと私の心に驚くほど滑らかに滑り落ちたのだ。

それは一体何故だったのだろうか。

彼と知り合った経緯はそれこそ偶然という言葉が一番当て嵌る。レースの応援の席でたまたま隣同士になった二人が五十嵐大二トレーナーの関係者であるという共通点があったことが交流のきっかけだった。

最初はほんとに知り合いのトレーナーのお兄さんというだけの印象だった。それから関わり続けるに連れて大切な友人となりやがて彼が世界を守る仮面ライダーになってからもそれは変わらなかった。

彼の言葉が心に溶け込むのは彼が大切な友人だからだろうか…

それとも…?

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

彼が五十嵐トレーナーに差し入れを持ってきた時…

弟にだけ見せるくだけた笑顔の彼…

 

仮面ライダーとして戦っているのをテレビで見かけた時…

誰よりも真剣に相手へと向き合う彼…

 

ウマ娘たちにサッカーをしていた時の話をする時…

無邪気な子供みたいな顔を浮かべる彼…

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「………〜〜〜〜〜〜〜ッ!………」

 

これ以上はいけない…!

顔から火が出そうになって心臓が警鐘を鳴らしている…

これはつまり…そういうことなのだろう…

自覚したのならばこの先は一層気を引き締めなければならないようだ…

なんせ…

 

「相手は世界を救う仮面ライダー…ライバルは多そうですね…」

 

だがそれはそれで構わない。

難しい勝負ほど勝利のしがいがあるというものだ。

並み居る強豪も全て撫で切って見せよう。

そして必ず…必ず…

 

「貴方の一着になりますよ…一輝さん…」

 

そうして私は舞台は違えど久しぶりの勝負の香りに身を震わせるのだった。

 

つづく…




あ…ありのまま今起こったことを話すぜ…!
ライスの苦悩と失踪を書こうと思ったら、一輝とたづなさんがなんかいい感じになっていた…
何を言ってんのか分からねえと思うが俺も何が起こったのか分からなかった…
頭がどうにかなりそうだった…
筆が乗ったとか…想像力だとか…そんなちゃちなもんじゃ…断じてねぇ…!
もっと恐ろしいものの片鱗を味わったぜ…

ちゃんとした恋愛描写なんて初めてだから勝手がわからん…!
けどお節介な三兄妹の長男とできる女秘書さんの組み合わせは萌えるものがあるはずなんや…

次回は狩崎さんがライスを見つけるところから始まります


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

アンビバレンスなライス



エビリティライブ…
あんなん惚れるに決まってるやろ…




狩崎side

 

あの春の天皇賞の日から様々な目まぐるしい変化が起こった…

怒りに任せて仮面ライダーになり観客を襲ってしまった五十嵐大二こと仮面ライダーライブは分隊長の地位と権限を剥奪され、トレーナー免許も停止…

捕縛が行なわれるも五十嵐大二はこれを拒み逃亡した。現在フェニックスが独自に調査を進めている最中だ。

 

「全く数奇なものだよ、以前カゲロウがやっていたことを今度は大二が、しかも自分の意志で行なっているなんてね…」

 

何となくひとりごちてしまったが、それも仕方ないだろう…何故なら今私は彼を仮面ライダーに選んだ責任を取らされて謹慎中の身だ。何でもいいから言葉を捻り出して気を紛らわすくらいしかやることがないのだ。

謹慎になる前に大体やることは終えてしまっていたからね…今は行きつけのジムに顔を出している。

あの後、ライスシャワー君に今まで向けられていた偉業を阻んだ刺客に対する敵意の目線は鳴りを潜め、代わりに同情する目が向けられるようになっていた。

曰く冷酷で残忍なトレーナーの指示に従わされ、レースの悪役に仕立て上げられた悲劇のヒロインだかなんとか…

全く馬鹿馬鹿しい話だ…彼女を悪役に仕立て上げたのは大二でもなく、ましてや彼女に負かされてしまったメジロマックイーンやミホノブルボンでもない…

他ならぬ自分達自身だと言うのに…

それを自覚しない目の前の面白そうなことに飛びつくだけの憐れな馬鹿共め…

そんなふうに柄にもない苛立ちを誤魔化すために来ていたトレーニングジムでもの思いに耽っていたことは今思えば幸運だったのかもしれない。

なぜならそこに居なければジムのガラスの向こうに写った眼に涙を浮かべ走り去るライス君を見かけることはなかっただろうから。

 

「あれは…ライスくん…?」

 

何やらただならぬ雰囲気を感じる。彼女が外で自主練をするのが珍しくないことは知っているが服装は制服だったし、この時間は既に一般的な学園でも門限外になるはず…

実際このジムも開いてこそいるものの私以外に利用者はいない。それほど遅い時間にも関わらず彼女は何をしているのだろうか?

 

〜♪ 〜♪

 

思考に耽っていると私のガンデフォンに連絡が入る。

 

『カリさん!今暇!?だったら手伝っ…』

『あァァァ…!ラ"イ"ス"ち"ゃ"ん"ど"こ"行"っ"ち"ゃ"っ"た"ん"だ"ぁ"〜…!』

『あ〜もう!パパうるっさい!しずかにしてて!』

 

……大体の事情は把握した。同時に何たる偶然とめぐり合わせだろうと思いつつ、こちらの状況を伝えた。

 

「…ライス君なら先程見つけたよカラテガール…こちらで保護しておこう…元太さんにもそう伝えてくれるかい…」

 

『マジ!?カリさんすごっ!ありがとね!ほらパパ見つかったんだから泣き止んで!』

『うぅ…狩崎さん…俺からもお礼を言わせてくれ…ありがとう…それから…』

 

「御安心を、元太さん…一輝くんにも伝えておきますよ。」

 

『すまないな、何から何まで…ライスちゃんに皆帰りを待ってると伝えてくれ…それじゃ…』

 

通話が切れたその手を返して一輝に連絡を取る。

 

……

 

さて…ライス君を見かけたのはほんの数分前だがおそらくもうそれ程近くにはいないだろう。ウマ娘の脚力はハンパじゃないからね…

 

「しょうがない…裏技を使わせてもらおうかな…」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ライスシャワーside

 

「ふぅ…ここまでくれば平気…かなぁ…」

 

ライスシャワーは今までずっと走り通しだった身体を休めるために座り込む。そしてふと周りを見渡すと…

 

「ここ…いつもお兄様と一緒に来てた公園…」

 

そう…ここはいつも自身のトレーナーである五十嵐大二とお出かけした際に必ず訪れる場所だった。

五十嵐家がいつもピクニックで訪れていた思い出の場所をライスにも知って欲しかったというのがここに来るようになった経緯だ。いつも二人で腰掛けていたベンチに座る。

右側が少し寂しい…

無意識に向かう場所がこことは、どれだけ自分は彼を好いているのだろうと少しばかり自嘲の笑みが溢れるがそれもすぐに消えてしまう。

 

「だからこそ…ライスはいなくならなくちゃ…これ以上…大好きな人を苦しめたくないもん…」

 

だからこそすべてを置いてきたんだ。

自身の夢を信じてくれたトレーナー…大切な友人たち…

その人達との思い出が詰まっている学園もなにもかも…

 

今頃みんなはどうしてるかな…?

もう寝ちゃったかな…?

それとも夜ふかししちゃってるのかな…?

 

ブルボンさんはきっと復帰を目指して今もリハビリを頑張ってる…

 

マックイーンさんはもしかしたら明日食べるスイーツのことを考えてるのかも…

 

ロブロイさんは寝る前のご本を読む時間かな…

 

ウララちゃんはきっとキングさんに寝かしつけてもらってるんだろうな…

 

ゴールドシップさんは…想像つかないや…

 

一輝お兄様はバイスくんが騒いで眠れてないかも…

さくら姉様お友達とお電話してたりして…

お父様やお母様は二人仲良く一緒に寝てて…

ぶーさんに太助おじさん達は世界のために今も努力してる…

 

 

 

 

 

お兄様は今頃どうしてるかな…

お兄様は今、どんな気持ちなのかな…

お兄様は…幸せだったのかな…

 

「…うぅっ……う…うぁ……ぁ……」

 

思い出を振り返るたびに幼き心が軋みを上げる。

あの人が与えてくれたものもあの人に失わせてしまったものもあまりにも大きくて…

それを自覚するたびに胸が締め付けられて、このままでは心の壁が破裂して隠すべき本音が漏れそうになってしまう。

 

自らの身体を抱いて溢れそうな本音を押し留めようとするも罅の入った心からどうしても流れ出てしまうのを感じた。

 

だめなのに…

こんなこと思っちゃいけない…

望んじゃいけないのに…

それなのに…

 

「……一緒に居たい…っ……」

 

一度溢れてしまえばもう止まらなかった…

離れてまだそれほど時間は経っていなくとも、これから顔を合わすことも話すこともできないんだと思うたびに寂しさは大きくなる。

だからこそその本音が出るのは必定だった。

 

「…っ…ずっと…!一緒に居たいよっ…!…」

 

「学園の皆と…!…しあわせ湯の皆と…っ…!」

 

「お兄様と…!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「だったら、そうすればいいんじゃない?」

 

そのとき突然声が掛けられた。

驚きでつい勢いよく頭を上げる。

そこにいたのはある意味予想外の人物だった。

 

「ジョージおじさん…?」

 

「やぁライス君!門限を破ってこんなところに居るなんて…とんだバッドガールだねぇ君も…」

 

「ど…どうして…?」

 

どうして自分がここにいることが分かったのだろう?

そもそもここに辿り着いたのは無意識の行動故だし、もう戻らないつもりだったから誰にも出ていくことを告げていないはずなのに…

 

「たまたま君が走り去っていくのを見かけてね…追いつくのにとても苦労したよ。」

 

「え…?どうやったの…?」

 

その疑問は至極当然だ。曲がりなりにも自分はウマ娘、こう言っては悪いが人間が車やバイクも使用せずに追いつくのは至難の技、ほぼ不可能のはず…

すると狩崎は懐から3つのアイテムを取り出しライスに見せた。

 

「ちょっとしたチート技…いや…"チーター"技といったところかな?」

 

狩崎が取り出したのは最近完成した量産型デモンズドライバー、そしてスパイダーバイスタンプとチーターバイスタンプだった。

これでもう分かるだろう…

狩崎はデモンズに変身、チーターゲノミクスによる超スピードによってライスに追い付いたのである。

 

「あはは…凄いね…ジョージおじさん…」

 

「もっと褒めてくれてもいいが、ひとまずそれは置いておこう…君はどうしてこんな時間にこんな場所にいるんだい?」

 

さっきまでの得意げな顔から一転。

真剣味を帯びた表情に変わってこちらに質問を投げ掛ける。その表情を浮かべる理由が渾身の洒落を流されたからではないことはありありと理解できた。

 

「お願い…ジョージおじさん…ライスのことは見なかったことにして…」

 

その問いを無視して自身の意志を伝える。

少し心が痛んだが自分は早くいなくならなければならない。悠長にしているには時間的にも精神的にもそういうわけにはいかなかった。

 

「それは無理だ。もう五十嵐家の面々にはきみを見つけたと報告して…「だったらせめて見逃して!!」……」

 

最後まで言い切る前に遮ってしまったが言わんとしていることは既に理解できた。だったらなおさら悠長にしていられないはずだ…

あの人たちは優しいから…

きっと自分のことを探してしまっているだろう…

そして見つかってしまえばきっと、自分は甘えてしまう…

でもそれでは駄目なのだ…

 

大好きだからこそ…自分は…

 

「ライスはいちゃ駄目なの!皆を不幸にしちゃうから!…あの日だまりに居ていい子じゃないんだよっ…!」

 

「…仮に君がいなくなったとしよう…だからといって彼等のもとに大二が戻ってくるわけじゃない、根本的な解決にはならないね。」

 

「…っ…!」

 

「あまり非科学的なことを言うのはナンセンスだが…君は彼等を不幸にするだけしておきながら自分だけ逃げ出すなんてそんなの無責任だと思わないのかい?」

 

「…そ…それ…は…」

 

「なるほど…これは傑作だ!

誰より努力を怠らない敬虔なウマ娘の正体は不幸を振りまいてそれを見てみぬふりする悪女だったとはね!」

 

「うっ……うぅ……ぁぁ…」

 

「だったらいいさ!好きにすればいい!君みたいなのにいられるのは迷惑だ!開発中の事故死なんて間抜けな死に方はしたくないからね!」

 

彼の口から紡がれる言葉の数々が鋭さを持って自分に突き刺さっていく感覚がする。

痛い…痛すぎる…身体ではなく心が痛い…

涙を堪えることができない…とめどなく流れてしまう。

そしてついに…心の堤防は決壊した。

 

「…っう…うっ……うぅ……うわぁぁぁ…!」

 

感情の赴くままに慟哭する。

その姿はまるで赤ん坊のように見えるほど儚く、弱々しいものだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

狩崎side

 

言い過ぎてしまった自覚はある。

苛立ち紛れに感情をぶつけてしまったのも事実なので仕方がない。

だがそれでも言わずにいるわけにはいかなかった。

彼女を連れ戻すためにもその絶望を希望にしなければならない。でなければ本当の意味で彼女がこちらに戻ってくることはできないから…

 

「…落ち着いたかい?」

 

「…………」

 

無視された。

まぁそれも仕方ないか…嫌われるようなことをした自覚はあるからね。

 

「なんで…?どうしてあんな…」

 

「君と同じ事をしたまでだよ。」

 

無視したかと思えば今度はあちらから声を掛けてきた。何やら質問があるようだが予想がつかないわけじゃない。どうしてあんなひどいことを言うのかということだろう。先読みして私は答える。

 

「そんなはずないよ…!だって…だってライスは…!」

 

「皆のためにやった…とでも言うつもりかい?」

 

「…えと…それは…」

 

押し黙ってしまった反応を見るにおそらく図星だろう。

まったくこのウマ娘は…

そんな方法では誰も救えない。

傷つく人が増えるだけだとなぜ気付かないのだ。

 

「大切な人のために自分が消えようなんてのは、ただの独りよがりだよ…残された側は虚しいだけさ…」

 

その言葉を吐いたとき…ある一人の男が頭に浮かんでしまったが、これは秘密にしておこう…どうでもいいことだからね。

 

「それにさっきも言ったが、このまま君が逃げたところで何も変わりはしない。この状況も、君自身もね。」

 

「えっ…?」

 

「いつかのとき、私に語ってくれただろう?君が何故レースを走るのか…」

 

大二と隣り合いながら自身の夢を語る君の姿はよく覚えている。その時の眼の輝きようは自身の夢が叶うことを信じて疑っていないことが理解できてひどく眩しかったものだ。

 

「君は変わりたかったんだろ?誰かに幸せをあげられる…そんなウマ娘になりたかったんだろ?

なのにここで逃げ出せば君は何も変わらないし変えられない…私はそう思うけどね。」

 

自身がかつて抱いていた希望を改めて目の前にしたことで、またライス君に葛藤が生まれる。ここで思い直してくれれば楽なんだがきっとそうは問屋が卸さないだろうね…

 

「…でも…どうせライスは変われっこないよ…今だって…」

 

少しの思考の後に現状を見つめて言葉を発する彼女…その言葉は求めていた希望を諦めるという旨のものだった。

全く頑固だね彼女は…少し発破をかけてみようか。

 

「そうかい…君がまだそんなふうに思っているのなら大二はきっと君に何もしてやれなかったんだろうね。」

 

「… !?……どういう意味……」

 

彼女の表情がほんの少し変わる。

どうやら糸口はここにあるみたいだね。このまま刺激し続ければおそらくは…

 

「だって大二は君のトレーナーだろ?君がその夢に前向きになれるよう支援してやるのも彼の仕事のはずだ。それなのに君がそんなふうに考えているということは彼がしたことなんてなんの意味もなかったってことさ。」

 

「…………で……」

 

「思えば彼は実に面白みのない男だったからね、きっと君への指導も教科書通りのつまらないものだったんじゃないかい?」

 

「……ないで……」

 

「カゲロウに打ち勝ったのを見て見直したと思ったが…結局…彼はそこまでの男だ「お兄様を悪く言わないで!!」…ぐぅっ…」

 

「ライスのことはなんて言ったっていいけど!

お兄様を悪く言うのは許さないから!!」

 

ウップス…

まさか胸ぐらを掴んでくるほど怒るとは思わなかったな…

だがそれでいい…その激情を待っていたんだ。

何故なら…

 

「ほぉら…変われたじゃないか?」

 

「……うぇ…?」

 

私の意味がよく分からない発言に彼女は怒りをしばし忘れて呆けてしまう。さっきまで牙を剥きそうになっていたとは思えなくて少し可笑しく思ってしまったが、吹き出すのを堪えてしっかりと真意を伝える。

 

「少なくともさっきまでの君のような弱々しさは感じないよ…ゴホッ」

 

「ああぁ!?ごめんなさいぃ〜…!」

 

自分の行動を反芻してしまったことで元の調子を取り戻してしまった。すぐに手を離し頭を下げ謝ってくる。だがこれは確かな彼女の成果だ。そのことを暗に含めるように私は言葉を続ける。

 

「ん"ゔん、ふぅ…どうだい?変わるってのも案外そう難しいもんでもないだろ?」

 

「ど…どういうこと…?」

 

「難しく考えすぎなんだよ…だから変な結論に行き着くのさ…」

 

彼女はさぞ誰かを不幸にする自分を呪ったろう…

そんな自分を変えることができていない現状を憂いたろう…

だからこそ彼女は自分が姿を消すことでしか誰かを不幸から守る手段はないと考えてしまったのだ。

だがそんなのは間違っている…間違っているなら正してやるだけだ。

 

「君には変えたいものがいくつもあるはずだ。

自分のこともそうだが…今の頭にあるのは大二のことだ、今の彼の世間からの評価を君は憂いてる…そうだろ?」

 

「……っ…」

 

答えはない。

だが先程の反応からしてそれが間違いでないことは明白だ。

 

「君にはそれを変えられる…その力が君にはある。なのに今逃げ出せば君は一生後悔するよ。」

 

「…じゃあ………」

 

ライス君が声を発する。

その声色は迷いと憤りを同時に孕んでいることを感じさせるものだった。

 

「…じゃあ…どうすればいいの…?」

 

「ジョージおじさんは簡単だって…ライスにはできるんだって言うけど!」

 

「どうすればいいか分かんないと…意味ないよ…」

 

方法がわからない?

そんなことで躓いているのなら教えてあげよう…

その方法は…

 

「何かを変えるために必要なのは自分の信念を貫くことさ、口だけではなく行動でね…

そしてその信念を貫く行動っていうのは自分で考えなきゃいけない…君はもうどうすべきか、理解ってるんじゃないかい?」

 

「…ライスの…すべきこと…」

 

俯くライス君、今彼女の頭の中では様々な思考が交錯していることだろう。正直言ってもう引き出しはあまりない。思春期のJKのお悩み相談なんて経験はあまりないからね。ここまでして何も進展しませんでしたではお手上げだが…

 

「…………!」

 

どうやらその心配はしなくてもいいらしい。

思考から帰還し、再びその顔を上げたライス君の表情はもう迷い悩む少女の顔ではなくなっていた。

 

「ありがとう、ジョージおじさん…おかげで分かった気がする…ライスのすべきこと…したいこと…」

 

「礼には及ばない、やるべきことが分かったなら頑張りたまえ…多少の手伝いくらいならしてあげるよ。」

 

「えへへ…じゃあ早速一つお願いしてもいい?」

 

「……内容にもよるが…なんだい?」

 

「うん!それはね…………」

 

 

 

 

 

 

 

 

「…………Say what's!?」

 

思えばこのとき、随分と安請け合いをしてしまったものだと感じてしまうが彼女の真剣な表情と直前の自分の発言の手前、断れるような空気ではなかった為にこのあと私は非常に困った状況に身を置くことになってしまった…

彼女から要請された手伝いの内容とは何だったのかはこれから語ることにしよう。

 

 

あの後は夜も遅かったというのもあって彼女を急遽予約したホテルに送り届け、私は隣の一室で夜を明かした。

朝には迎えに来た一輝と共に学園へと向かったが個人的に大変だったのはその後だ。生徒を保護してくれたお礼にと学園側の職員が用意してくれた物品が実に曲者だったのだ。

あちら側は私が仮面ライダー好きであることしか把握していなかったのだろう…

用意してくれた物品の名前はDXリバイスドライバー…

私の開発したドライバーのレプリカだった。

そういえばそうだった…

フェニックスは玩具メーカーと提携してグッズ展開を行なっていてドライバーのレプリカも販売していたんだった…

 

自分たちが売り出してる…しかも自分が開発したドライバーのレプリカを渡されるとこんな気分になるんだね…

職員の口から、

 

「仮面ライダーがお好きと聴きましたので…」

 

と出てきたときは心が踊っただけになんだかなといった感じだ…

隣で気まずそうにしてた一輝の表情を見るに発端はおそらく彼なんだろうな…

彼は後でおしおきすることを心に決めた瞬間だった。

 

そうそう、ライス君から頼まれたことが何だったのかまだ話していなかったね。

結論から言わせてもらうと、私はトレーナーになった。

 

何故こうなったのかというとそれは実に単純な話で大二が戻ってくるまでの代理を努めてほしいというライス君からの要請だった。

曰くやるべきことの為にレースに出る必要があるが信頼できるトレーナーがいないのでそれなら信頼できる人間にトレーナーをやって貰えばいいという結論に至ったとのことだ。

 

やることがぶっ飛んでいると私も思う。吹っ切れた彼女の行動力には眼を見張るものがあるよ。

 

あ、因みにトレーナー試験のことは心配しなくていい。

多少専門知識をかじってしまえば私の頭脳は自ずと適解を導き出せるからね。

あまり天才科学者を舐めないでくれたまえ。

 

その後私はライス君と様々なレースを経験した。私自身は一切手を抜いたわけではなかったが、やはり免許を取ったばかりで経験不足の私の指導では多少無理があるらしく、ついぞ何度も行い続けたレースで白星を上げることは叶わなかった。

こればっかりは天才の頭脳でどうにかなるものではないからね。大二はしっかりと彼女を勝たせることができていたのだからその手腕を感じさせる。彼の指導を教科書通りなんて詰ったことをいつか本人に謝らないといけないね。

だが私は諦めるつもりなど毛頭ない。次こそは勝たせてみせるとトレーニングメニューを考案する。現在は春の天皇賞に向けて調整を行なっている最中だ。奇しくも彼女が最後に上げた白星にして運命が狂ったあのレースと同じ…気合をいれなければ…

そんなときに…

 

「ジョージおじさん、ちょっといいかな?」

 

「どうしたんだい?今はメニューの修正で忙しいんだが…」

 

ライス君が急に話しかけてくる。

一体どうしたというのだろう?

 

「実はね…お願いがあるの…」

 

おや…珍しい。彼女は私と組んでいる間に何かしらの我儘を言ったことなど一度もなかったので尚更そう思う。

まぁ勝ててこそいないが最近はとても頑張っているんだ、どこか遊びに行きたいといった位ならいいだろう。

そう思っていたが彼女が自身の懐から取り出したものを見せた瞬間息が詰まった。

 

「…それは…!…ツーサイドライバー…!?

どうして君がそれを…?」

 

「…カゲロウくんがいなくなったあの日に…ライスが拾って持ってたの…カゲロウくんが…遺したもの…」

 

彼女が見せたのはツーサイドライバーとバットバイスタンプ…

口ぶりから察するにカゲロウが使用していたものだろう。しかし不可解だ。彼女は私にお願いがあって声をかけたはず。そのタイミングでこのカミングアウトはどういうことだろうか?

その疑問は彼女がすぐに発した言葉によって霧散することになるがその内容は実に衝撃的なものだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「これを使って作って欲しいの…ライス専用のドライバーを………」

 

 

 

つづく…




皆さんは覚えていますか?
本編でフェーズ2に進化していながら対した苦戦もなく、エビルの賑やかしで終わってしまったチーター・デッドマンフェーズ2こと医者の前園孝治のことを…
一輝はきっと覚えてません。
契約の影響とかではなく素で。

笑えない冗談はさておき、皆さんはチーターバイスタンプのライダーレリーフって誰になると思います?予想とか聞いてみたいです!

迷うライスを救ったのは意外や意外…
狩崎さんでした。
途中でボロクソ言ってるシーンあるけど狩崎さんのことは嫌いにならないであげてください…
あれが狩崎さんなりの説得なんです…


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

番外編 託す想い












メジロマックイーンside

 

「納得がいきませんわ!」

 

とある日の昼休み、学園の生徒達が昼食を取っている食堂の中で大きな怒声がこだまする。その中心に居るものの名はメジロマックイーン…由緒正しきメジロ家のウマ娘である。食事中に席を立ち、あまつさえ大声をあげるなどメジロの名に恥じる行いだと分かっていたがそれでも彼女は友人から告げられた話に異を唱えずにはいられなかった。

 

「ぴえっ…!お、落ち着いてよマックイーン!そんなのボクに言われても困るよ〜!」

 

「…あ…ご、ごめんなさいテイオー…でも私…」

 

急に大声をあげたことで目の前の友人は驚きを顕わにする。友人の名はトウカイテイオー…旧家の令嬢にして才能溢れるウマ娘であり、多くの友人を持つムードメーカーだ。現在は怪我で療養中の彼女だがその実力を裏付けるように様々なG1を制覇してきた猛者中の猛者である。

 

「でも、ボクだって同じ気持ちだよ。自分の担当があんな目にあったんだもん…怒って当然のはずなのにさ…」

 

テイオーはそう愚痴をこぼす。元々マックイーンが怒声を上げた理由はテイオーがもちかけた話題が原因だった。

 

「…確かに観客の方々に直接手を下そうとしたのはやりすぎでした…でもだからといってトレーナー免許の停止だなんて…」

 

その話題とはそう、ライスシャワーさんのトレーナーである五十嵐大二のトレーナー免許停止処分に関してだった。マックイーンの三連覇がかかった春の天皇賞で勝利したライスシャワーに向けられたのは称賛ではなく偉業を阻んだ刺客に対する敵意だった。

投げつけられる罵詈雑言、対話も突っ撥ねられてしまう始末。

そんな観客に怒りを覚えた五十嵐トレーナーは自身に与えられた仮面ライダーの力を用いて直接的な糾弾を行おうとしたのだ。

それは結局同じく仮面ライダーの兄君によって阻止され未遂に終わるものの、その後彼は捕縛を拒み逃走…現在も行方不明である。

 

「ボク、ライスが心配だよ…

あんなこともあって…

その上トレーナーまでいなくなるなんて…」

 

目の前の非常に友達思いなウマ娘の友人がその心配をしてしまうのは当然と言えるだろう。

かく言う自分も例には漏れず…

 

「いえ、あの子はきっと大丈夫です…」

 

「…ぅえ!?な、なんで…!?」

 

ということはなかった。実際、正直言えばライスのことはそう心配していなかった。

そう思わせる理由が彼女にはあったのだ。

 

「テイオーはしあわせ湯の皆さんを知っているでしょう…?

彼等は謂わばライスさんのもう一つの家族…きっと支え、導いて下さる筈…」

 

「あっ…」

 

彼女を想う人間は他にも沢山いる。

その代表格と言えるのがしあわせ湯の五十嵐家である。多少のゴタゴタはあるかもしれないが彼等ならライスさんの心を救うことができるはずだ。

 

「私達が今やるべきことは、彼女の心の拠り所が帰ってこれる場所を守ること…ではありませんか?」

 

暗に自分が行おうとしていることを示しながら自身の友人に問う。これからやることは容易に実現できるものではない。むしろ良くない爪痕を残す可能性だってある…だがこの現状に納得がいかないのは同じはずだからだ。

 

「…そうだね、確かにそのとおりかも。ボクも色々やってみるよ、マックイーンも頑張って…!」

 

理解と協力を示し、激励を送ってくれる友人に対して自分はこの言葉を告げる。

 

「ふふっ…言われるまでもありません!」

 

さぁ、これから忙しくなる…

なかなかの無理を通そうというのだ。

はっきり言って成功確率は家の力を総動員して実現できるかどうかといったところだろう。

だが、ここで諦めるわけにはいかない。

どんな方法を使ってでも大切な友人を必ず助けるのだと誓ったのだから。

 

それからしばらくして…

 

嘗ての自分の言葉が間違っていなかったことを実感した。

彼女は本当に自分の足で立ち上がったのだ。

 

なんでもライスさんは失踪しようとしたらしい…自己否定を重ねてしまった故の行動だったようだ。

すぐ保護され、朝には学園に戻ってきたのだがその面影には以前のような弱々しさは感じられず、寧ろなんだか大きく強くなっているような気もする。

どうやら成長したようでなんだか嬉しいような寂しいようなそんな気持ちだ。

だがこれで安心して自分の役割をこなせるというものだと思っていると…

 

「ヘイ!ちょっといいかい!」

 

突然軽薄そうな声で話しかけられる。

声の方を向くとそこには如何にも胡散臭いといった印象を受ける風貌をした男が立っていた。

一瞬不審者が入り込んだのかと思ったが、よく記憶を掘り起こしてみると確か彼は失踪したライスさんを保護した人物であり現在のライスさんのトレーナー代理だったはずだ。そんな人物が一体何のようだろうか?

 

「いやぁ…まさかメジロのご令嬢とお話しできる時が来るとは思っていなかったよ…どうだい怪我の治療の方は、順調かい?」

 

「…ええ、メジロ家には優秀な名医がおりますから。ところで一体どういった御用でしょう?」

 

いきなり失礼な男だなと思ったがそんなことで一々目くじらを立てていたらメジロの名折れなのでさっさと要件を聞いて退散させてもらおう。

 

「もうすぐライス君が出走する春天があるだろ?実はライス君にはもう一つ大仕事があってね…早めに出ることになる。その時にこれを渡しておいてもらおうと思ってね…」

 

そう言って彼が取り出したのはとても派手な色をした物体だった。一体何なのだろうと思い、受け取って注視してみる。

 

「これは…スタンプ!?」

 

思わず取り落としそうになるが、それも仕方ないだろう…何故なら今自分の手の上にあるのは人間から怪物を解き放つことができる危険なアイテムなのだから。

 

「貴方、一体ライスさんに何をさせようと…!」

 

「おっと…勘違いしないでくれ。君が知る使用方法は間違った使い方さ…ちゃんと使えれば使用者やその周りに危険はないよ。」

 

そんなことが信じられるわけが…と思ったところで彼の発言に引っ掛かりを覚えた。

ちゃんと使えばとはどういう意味だろう。

いや、答えはすでに知っている。

怪物を呼び出すという使用方法以外には確か…

 

「何故…ライスさんが…」

 

「取り戻すためじゃない?自分の大切なものをさ。」

 

その口ぶりからして彼女は自分の手で大事な人を取り戻そうとしている。そのための力が今自分の手元にあるこのアイテムなのだろう。それを理解すると同時にそんなアイテムを所持していたこの男がどういう存在なのか何となく察しがついてしまう。

だがまたそれとは別に違う疑問が浮かんだ。

 

「ですが何故わざわざ私に…?

貴方が直接渡せば良いのでは…?」

 

そう、わざわざ自分を介して彼女に渡す意味が分からない。彼はライスさんのトレーナー代理なのだからもしかすれば自分よりも接する機会は多いはずなのだが…

 

「大仕事の前に彼女には君たちと話す機会を与えたいと思ってね…きっと積もる話があるだろう?それはそのための理由付け、謂わば建前ってやつさ。」

 

「……あぁ……ふふっ……」

 

その答えを聴いたとき、ほんの少し呆けると共に理解して思わず笑いがこみ上げる。

どうやら彼は彼なりにライスさんのことを慮っての行動だったようだ。第一印象から程遠いその行動にやはり人を知るのに見た目は関係ないのだろうなと呆れてしまう。

 

「ふふふ…貴方、よく勘違いされません?」

 

「…多少はね…」

 

自分の言葉からそんな心持ちを読み取られてしまったのかほんの少しテンションを落としながら答える彼はなんだか拗ねてる子供みたいだった。

 

「ふぅ…さて、承りました。

これは責任を持って届けさせていただきます。先程君たちと仰っておりましたが他にも…?」

 

「あぁ…他にもミホノブルボンくんやゼンノロブロイくんに頼んでいる…渡す際は彼女らと合流するといいだろう。」

 

「了解しましたわ、それでは…あっ…そうそう…」

 

話が終わったその後の去り際に彼に向かって振り返る。この時浮べていた微笑にはほんの少しからかいの色が混じっていた。

 

「できるならこれからも仲良くいたしましょう…?優しい科学者さん♪」

 

「…それは魅力的だが遠慮しようかな…」

 

そう答える彼の苦虫を噛み潰したような顔を見てからかいが成功したのを見届けたのに満足してそこから離れるマックイーンだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ミホノブルボンside

 

あの日、あのときの選択は正しかったのかと自分のメモリーの記録を振り返るたびに思ってしまう。

 

あの春の天皇賞のあの日、私は走り抜いたライスを迎えるために待機していた。

だが彼女がそこに訪れる前に聞こえたのは観客の悲鳴と大きな衝撃音だった。もしかしてレース場で何かあったのかと急いで駆付けてみるとそこにはボロボロのライスのトレーナーとそれに泣きつくライスの姿があった。

何が起こったのか全く分からなかった。

 

「五十嵐大二、先程の民間人への攻撃について詳しく話して貰う…大人しく投降しろ。」

 

彼の周りを同じような服装の…恐らくフェニックスの隊員達が囲む。

民間人への攻撃…?

一体どういうことだ?

ライスのトレーナーさんが仮面ライダーだというのは知っている、そんなことをするような人物ではないはずなのに目の前の現実はそれが本当だと雄弁に物語っていた。

 

それがもし本当なら…ライスは…

 

「だめ!お兄様を連れて行かないで!」

 

「そうだ!お願いします!俺の弟なんです!」

 

「ライスシャワーさん、一輝さん離れて…彼は危険人物です!」

 

「いやっ…!そんなはずない!お兄様は優しい人だもん!」

 

「ああっ!くそっ…!大二…!」

 

「くっ…やはりライスシャワーさんは我々の力では引き剥がせない!誰かウマ娘の方は彼女を押さえてもらえませんか!」

 

この時、私の脳内には2つの選択肢が浮かび上がった。

 

ライスを援護し、彼女のトレーナーを助けるか。

ライスを押さえ込み、彼女のトレーナーの捕縛に協力するか。

 

前者はライスの友として有り得る選択だ。だがライスのトレーナーが本当に危険人物だった場合、彼女は危険に晒されることになる。

 

後者はライスのことを裏切ることになる。

だが、ライスが危険に晒される可能性は著しく低くなる。

 

友の信頼と安全、どちらを優先すべきか。

究極の選択だった…その時動けるウマ娘は私しか居らず私が選択を迷えばもしかしたらライス諸共連行されてしまうかもしれない。

その焦りも相まって私は選択を急いでしまった。

私が選んだ選択は…

 

「ライス…離れてください!」

 

「ブ…ブルボンさん…!?」

 

後者だった。

私はライスが傷付いてしまうことだけは避けたかった。だからとっさに選んだのが後者の選択だったのは謂わば安全策のようなものだったのだと思う。ライスを危険から遠ざけられ、なおかつ彼女のトレーナーが誤解を受けているならばすぐに戻ってくることは可能だとも考えられるからだ。

 

だが私の行動は無駄に終わった…

捕縛を拒否した彼は咄嗟に仮面ライダーに変身。隊員達を蹴散らした後に翼で空へ逃走してしまったからだ。

 

結局その場に残ったのは蹴散らされ、気絶した隊員達と、涙を流し座り込むライス。

そしてその側でただ立ち尽くすだけの私だけだった。

 

 

「マスター、あのときの私の選択は正しかったのでしょうか…?」

 

「…さぁな…俺にも何が正解なのかは分からない…」

 

マスターでも分からないことがあるのかと驚愕する。彼に私は何度も助けられた経験があるだけにその驚きもひとしおだ。だがまだ言葉には続きがあったようで彼はそのまま続ける。

 

「ただなぁ、ブルボン…自分の行いの正否を考えるならまずは自分の行動の芯を見つめてみることだ。」

 

「行動の芯とは?」

 

「誰のため、なんのために行動したのかということだ。人は焦ったり躓いたりすると自分ではそれに準じているつもりでも自ずと何処かでズレが出てくるものなんだ…」

 

そう語るマスターの表情は何処か影を感じさせるものでなんだか不思議で…

まるで自分の過去を語っているかのようだったが深く聞くことはなんとなくしてはいけないような気がした。

 

「まぁ、何が言いたいのかというとだ…自分の行動の芯を思い出した上で振り返ってみれば何か見えてくるものがあるんじゃないか…?」

 

「…了解、貴重なご意見をありがとうございます。」

 

マスターの助言の通り、少しの間一人で思考するためトレーナー室を後にしようとしたその時、マスターは去る私の背に向かってまた声を上げる。

 

「ブルボン!もしその行動が間違っていたと感じても立ち止まるな!いくらでも失敗していい!大切なのはその後だ!」

 

何故かその言葉がとても強く私のメモリーに刻みつけられるのを感じた。

 

 

自分があの時に動いた理由…行動の芯とはなんなのか思考する。

まず私はライスのために行動した…

それは間違いないはずだ。

つまり私の行動の芯はライスのためだということ…

ではあの時の行動はそれに準じたものだっただろうか…

だが何度考えても自分の行動は正しかったと言える結論に行き着き、それに反して胸に渦巻く不安感は消えてくれなかった。

 

まるでなにか大事なことを見落としているかのような…

これは一体何なのだろうと思案していると…

 

「どうかしましたか、ブルボンさん…」

 

「貴女は…フラッシュさん…?」

 

突然一人のウマ娘が会話を持ち掛けてきた。

彼女の名はエイシンフラッシュ、ドイツの実家が洋菓子店を営むとてもストイックなウマ娘だ。夕春チョコレートコンテストに一緒にエントリーした縁で仲良くなった経緯を持つ。

 

「いつもより眉の角度が1.4度ほど落ちていましたから何かしら悩みがあるのかと思いまして。」

 

どうやら私の様子がいつもと違うことを見抜き、声をかけてくださったようだ。

私は人の変化に敏感な彼女ならもしかしたらという気持ちもあってフラッシュさんにすべてを打ち明けてみることにした。

 

それからしばらくして…

 

「なるほど…よく分かりました。本来ならすぐに人員を集め、その悩みの具体的解決案を模索する会議を催したいところですが…」

 

正直言ってそこまで大事にしたいわけではないので読み取れる言葉からそれが難しいだろうというのが理解できたのは良かった。

彼女は言葉を続ける。

 

「私も予定が押していますから、ちょっとした助言を一つだけ…」

 

「ブルボンさん、貴女は確かにライスさんを思って行動しました。ですが、その行動はライスさんの意思をちゃんと尊重していましたか…?」

 

ライスの…意思…

 

「人というのは不思議で、誰かを思うあまりにその誰かの意思を蔑ろにしてしまうことがあるものです…私の経験則ですが…」

 

「マスターさんの言うズレというのもおそらくそういうことなのでは…?」

 

そういえばしっかりと考えたことはなかった…私はライスの意思をちゃんと尊重できていただろうか…

 

あの時ライスは自身のトレーナーと離ればなれになることを恐れていた。

それは二人の間に強い信頼関係があったことが前提として考えられる。

であれば何故彼女のトレーナーは民間人への攻撃という暴挙に出てしまったのか…?

そんなことをすれば拘束され、お互い離れてしまうことは明らかだというのに…

 

いやまて…あの時の状況をよく思いだせ…

ライスが走ったのは春の天皇賞、そしてその舞台はメジロマックイーンさんの三連覇がかかっていたもののはず…

彼女はあのレースに勝ち、ヒールと揶揄され、蔑まれた…

そんな状況に彼女を心から信頼する存在が立たされればどうなるだろう…

きっと心からの怒りが湧き上がるはずだ。

怒りに我を忘れてしまってもしょうがないはずだ。

 

彼もまたライスを思って行動していた…?

だとするなら彼がライスを危険に晒すなど見当違いも甚だしい。

寧ろ彼はライスを悪意から守ろうとしていたんじゃないか…

 

ああ…そうだ…私は…

 

「眉の角度が修正されたのを見るに、どうやら答えを得たようですね。」

 

「ええ…私は…選択を間違っていたようです…」

 

「ふふっ…自分の間違いを自覚した割には晴やかな表情ですよ?」

 

それはそうだ。もし私がフラッシュさんと同じ状況にいるなら同じことを思うだろう。

だがしかし…それに対する解はもう得ている。

 

「ええ、失敗を自覚したのならそれを取り戻すように動くまでですから。」

 

「…もう大丈夫のようですね、なら私はここで失礼します。それと…あちらの彼が貴方に話があるようですよ?」

 

そう言われてフラッシュさんの指す方向を見るとなんだか如何にも「怪しい」に該当するような男がいた。

 

だがよく思い返せば彼は確か…?

 

「やぁ、ミホノブルボン…実は君に折り入って頼みが「お願いがあります。」…なんだい…?」

 

彼は確かライスのトレーナー代理だったはずだ。

彼女の失踪騒動のすぐ後に姿を表した謎の人物であり、平時であれば警戒レベルを引き上げるべきだと思われるが今は彼の立場が必要なのだ。なぜなら…

 

「あの子と…ライスと話す機会を与えていただきたいのです。」

 

「願ったり叶ったり…というやつさ…」

 

あの子に、しっかりと謝らなければいけないのだから。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ゼンノロブロイside

 

彼のことを知ったきっかけは、ライスシャワーさんが図書室に連れてきて紹介してくれたのが始まりだった。

 

「よろしく。君がライスと同室のゼンノロブロイさんだね、俺は五十嵐大二…ライスのトレーナーだ。」

 

第一印象はものすごく真面目そうな人だなと思ったけど、それは実際その通りで彼は何事にも実直に真面目に取り組むとても良い人のようだった。

同室の友人が素敵な人に巡り会えたのが嬉しかったし、何より二人が並んで笑い合う姿はとても輝いて見えて、私はそれを見守る日常がとても好きだった。

でも最近はそれを見る機会は日に日に少なくなり、やがてもう一切見ることはできなくなってしまっていた。

そしてそれに代わるように私が見ることが多くなったのは日に日に憔悴していくライスさんの姿だった。

弱っていく友人を前に私ができることを探したけどそんなものはなくて、自分の無力さを余計に自覚してしまった。

 

最近のライスさんはなんだか前とは違い、活力に満ちているように思えるがだからといって状況が好転しているわけじゃない。

 

このまま二人が元に戻らなかったらどうしようという不安で今まで息をするよりも簡単に行なっていた本の頁を捲るという行動が滞ってしまう。

 

だが弱気になってはいけない。自分なりに二人が元に戻るための方法を探すと決めたのだから。

そのための方法を記した本がないかとこうやってかき集めた本に向かい合っているのだ。

 

いま手元にある本を一旦閉じ、次の本を手に取り題名を見てみる。だがそこには自分が手に取った覚えのない名前があった。

 

「…ロストメモリー…?」

 

これは一度読んだことがある…確か記憶喪失の少年が自らの記憶の手掛かりを探す旅に出るという内容のファンタジー小説だ。

学園の誰かが適当に配架したものを間違えて持ってきてしまったのだろうか…?

とりあえずこれは元の配架場所にと思っていると…

 

「その本、いいよね。私も好きだよ…」

 

「きゃあ…!?」

 

突然意図せず話しかけられたことに驚いてしまった私は少しの恐怖を帯びたまま、声のした方向を顔を向けてみる。するとそこには白いコートとサングラスを身に着けヘアピンを使ったおしゃれな髪型の男の人が立っていた。

 

「まぁ…と言っても、私が好きなのは作者の方だけどね…」

 

「は、はぁ…えっと貴方は確かライスさんの…」

 

トレーナー代理の方ですねと続けようとすると彼が手を前に出してこう言った。

 

「狩崎と呼んでくれ、その肩書は長いし固いからね…」

 

「あ、はい…分かりました。え、えっともしかしてこの本の貸出希望でしょうか…?」

 

その可能性が一番高いと考えて問を投げる。図書室に足を運ぶ理由としてはそれが最有力だし、何よりこの本が好きだと自分で言っていたからだ。

だがその予想は外れていたようである。

 

「いや、わざわざ借りる必要はないよ。その本はもう作者のサイン入りを持ってるからね…私が用があるのは君さ、ゼンノロブロイ。」

 

どうやら狩崎さんは私に用があるらしい。こんな私に用があるとは一体何なのだろうと一瞬思ったが、そんなことより気になる言葉があったのでそちらに気を取られる。

彼は今なんと言った?確かこう言ったはずだ!

 

「作者さんのサイン入りとは本当ですか!?」

 

「Oh…!?」

 

「この本の作者さんは突然メディアに顔を出すことが少なくなったのでお話を伺う機会ってなかなか得られないんですよ!

あの!サインを頂く時になにかお話されましたか…!?」

 

「ソ、ソーリー…その期待には答えられそうにないが…流石はゼンノロブロイ、噂に違わぬ本の虫っぷりだね…」

 

「あっ…すっ、すみません!///」

 

がっついて人様に迷惑をかけてしまった。こういうところはいずれちゃんと治さなければと思案するも、そういえばあちらには私に用件があるということを思い出し、誤魔化す意味も含めつつそれについて聞いてみようと思う。

 

「あ、あの…それで私に用とは一体…?」

 

「おお、そうだった…サンキュー、忘れるところだったよ。」

 

そう言って彼が懐から取り出したのは狼の意匠が施されたスタンプのようなもの、というかそれは…

 

「それは、バイスタンプですね…意匠を見るにオオカミバイスタンプ…といったところでしょうか…?」

 

「おや、これについて知ってるようだね…?」

 

その問はただ単純にこのアイテムの名を知っているのかということだけを問うたものではない。テレビのようなメディアだけから得られる情報だけではこのスタンプのイメージは怪物を生み出す危険なモノでしかない。

これを見て取り乱さないということは正規の使用方法についての知識がある可能性がある。それについて問う意味もあるのだ。

 

「ええ…大二さんに教えてもらう機会があったんです。似たものを見たらすぐ教えるんだよって…」

 

「やれやれ…生真面目な彼にしては珍しいね…特に機密扱いにしてはいないとはいえこんな危険物を一般人にひけらかすとは…」

 

「…あ…あはは…」

 

それを手渡ししてる貴方はどうなんだという疑問が出てきたのは黙っておこう…こういうのは黙っていた方が話が進みやすいのだ。

 

「あの…それでそちらのバイスタンプを私はどうすれば…」

 

「話が早くて助かるよ…簡単なことさ、ライス君にそれを渡してもらえるかい?」

 

「は、はい…え?でもそれなら…」

 

貴方が渡せばいいのでは?そう続けようとしたのを、恐らく察したのであろう狩崎さんは私が言い切る前に口を開く。

 

「彼女には来たる天皇賞の日にレースとは違う別の大仕事がある…

その前に君には彼女に何か言葉をかけてあげてほしいのさ…恐らく君の激励は彼女の力になるだろうからね。」

 

それを聞いて少し納得する。ということは恐らくこのバイスタンプはその理由付けのためのものだろう。

そしてその大仕事とはなんなのか、このバイスタンプを何に使うのかということもなんとなくの察しがついてしまう。

 

「…でも…私などに務まるでしょうか?…私以上に適任な人が…「君以上の適任はいない。」…ッ!…」

 

「…と、私は思うけどね。」

 

少し強い言い方になってしまったのを自分で感じたのだろうかその後にちょっとおどけた風に言葉をつけ足す狩崎さん。

だけどそれに込められた真剣さそのものは全くと言っていいほど変化していなかった。なぜ私が適任だと考えているのだろう。

 

「君が一番、大二とライス君…あの二人のことを解ってるからさ。」

 

「え…?」

 

それはどういう意味だろうか。

確かに二人と一緒に居た時間は誰よりも長いつもりだがそれが一体どうしたというのだろう。

 

「君は謂わば二人の理解者、両者それぞれの目線に立って考えることができる。」

 

「二人のことが同じくらい大切だからどちらかに寄ってしまうこともない…そういう人材が今は必要なのさ。」

 

正直言って過大評価なような気もした。

自分はそんなに大層な存在ではない…

ただ二人のことが大好きで…

いつまでも二人に一緒に居てほしいと思っているだけのただの平凡なウマ娘、それが自分のはずなのだ。

だから、その大役が自分に務まるかは分からないし、未だにもっと適任がいるのではとも考えてしまう。

だが、今狩崎さんに頼ってもらえているのは私だ。

なら私は自分の出来得る限り全身全霊を持って応える、それが二人が元に戻るためというのならば尚更だ。

 

「私が適任だとお考えになった根拠は理解しました…私にどこまでできるかは分かりませんが全力を尽くさせていただきます!」

 

「オーケー、宜しく頼むよ。」

 

ライスさん、大二さんを取り戻すお手伝いをさせて頂きます。

大二さん、これからあなたの一番大切な人が迎えに行きますから…だから待っていてくださいね。




オリジナルバイスタンプ


オオカミバイスタンプ

『甘噛み!マジ噛み!マジで神!オオカミ!』 
『獲物の運命は俺が決めるっ!』

狼の遺伝子情報を内包したバイスタンプ
ゼンノロブロイに託された。
フリオこと玉置がギフテクスに変身する際使用していたウルフプロトバイスタンプを調整させたもの
フェーズ4に初めて移行したバイスタンプだったため、通常のバイスタンプよりもより高度な調整を行なう必要があり、その結果変容が起こったことで全く別のバイスタンプとなった。
ライダーレリーフはメテオ


キツネバイスタンプ

『ヤッバイ〜ネ!キッツイ〜ネ!キツネ!』
『私は…不屈だぁぁ!!』

狐の遺伝子情報を内包するバイスタンプ。
ミホノブルボンに託された。
ジャッカルバイスタンプの色違い。
ライダーレリーフはゲンム


エレファントバイスタンプ

『超エレガント!えーそれホント?エレファント!』
『デカさは…別格だ!』

象の遺伝子情報を内包するバイスタンプ。
メジロマックイーンに託された。
本編にチラッと登場したマンモスバイスタンプの色違い。
ライダーレリーフはネガ電王




今回は番外編。
ウマ娘側の心理描写が少ないという意見を頂いたため深く関わるであろうウマ娘たちの視点を描いてみました。

ライスを信用し、大二を心配するマックイーン
大二を信じれず、ライスを心配するブルボン
両者を愛し、両者を心配するロブロイ

といった感じで三者で対比できる構図を目指しました。
元々ボツ構成を練り直したものなのでちょっと変なのはご容赦を…


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

アンビバレンスな"私"



一度執筆中に削除してしまって萎えそうになるも頑張って修理しました。

狩ちゃん…?嘘だよな…?
アンタこの小説じゃどちゃくそ良い人で通ってんだぞ…!?


前回の感想でも言ったのですがライスに託される3つのバイスタンプにはちょっとした裏モチーフがあるのでこの話を読み終えるまでに予想してみてください!

答え合わせは後書きでするので合ってたよ〜!って方は感想で報告してくれると嬉しいです!




大二side

 

あいつは…泣き虫だからな…

誰かが…守ってやんなきゃな…

俺の分まで…あいつのこと守ってやれよ…

 

 

 

大二…あばよ…

 

 

「…ッ!…」

 

この白い翼のようなバイスタンプを注視するたびにアイツのことが頭に浮かぶ。

俺と戦い、敗北し…そしてその結果すべてを俺に託して消えていった…

もしかしたら相棒になれたかもしれない存在のことを。

 

思えばあいつは…カゲロウは最初からただ素直じゃなかっただけだった。

俺の身体を奪い、兄ちゃんを襲ったのも…元はと言えば俺の溜め込んだ気持ちを代弁するためだったし…デッドマンズのアジトの件も教えない、または嘘を付くことだってできたはずなのに交換条件とか言って正直に教えてくれた。まぁ…その条件が俺の苦手な辛口カレーだったのは誠に遺憾ではあったけど…

その後もそれを口実にさくらを助けてくれて…

 

そんな素直じゃなかったあいつが変に悪ぶって誤魔化しながらじゃなく…

自分の分まで守れと正直に口にしたのはそれがあいつの心の底からの気持ちだったからかもしれない。

それほどまでに…あいつだってライスのことを大切な存在だと思ってたんだろう。

 

俺は色んなものを背負っている。

ライスの夢やそれに対する想い…

カゲロウを消してしまった責任…

そしてカゲロウの分までライスを守る覚悟…

 

だから…だから…

 

ライスのことを傷つけたあいつらを絶対に許してはいけないんだ。

 

今までのような優しいだけの俺じゃ…

あいつのように…もっと非情にならないと…

きっとライスを守ることなんてできない…!

 

だから俺はあいつらに慈悲なんて与えない、それがあの子を守ることに繋がるはずなんだから…

 

そんなことを考えているうちに、どうやら目的地についたようだ。

俺はある人物に呼び出され、この場所…

春の天皇賞が行なわれる京都競バ場、正確には京都競バ場内に存在している大きな公園、緑の広場にやって来ていた。今日はレースが行なわれる日だというのにレースの開始時間を心待ちにしている筈の市民は見当たらず、がらんとしている。

どうやら閉鎖されているようだった。

だがそんな緑の広場の中でポツンと一人、遊具に腰掛けて絵本を読んでいる影があった。影は俺に気付くと読んでいた絵本を閉じ、改めて俺に向き合う。

その影の正体は…

 

「久しぶり…お兄様…」

 

ライスだった。

何を隠そう、俺をここに呼び出したのは他ならぬ俺の一番大切な存在であるライスシャワーなのだ。

連絡を貰った時はとても驚いたが、同時にその可能性が一番高いとも思っていた。

なんせ逃亡を始めたあの日からできる限りの連絡先を削除し、自分の周りの交友関係を断ち切っていた。

だがどうしても彼女の…ライスの連絡先だけは消すことができなかったのだから。

これを消してしまえば自分は大きな何かを失ってしまうような気がしたのだ。

あちら側もそれに気付いたのか、ライスを通してこちらにコンタクトを取ろうとしてきたが俺はそれを悉く無視してきた。おかげでライスとのトーク履歴はその痕跡でいっぱいになってしまっていた。

今回もその類かと思っていればそこに映っていたメッセージは…

 

『この時間にここにきて 待ってるから』

 

という短いもの…

そして日時と場所の情報が続けて掲載されているだけだったのだから。

今までと全く違ったアプローチに思わず面食らうもそんな思考は日時を確認した際に吹っ飛んでしまった…

そこに映されていたのは春の天皇賞の日…ライスがメディアに出走を表明したレースの一つであり、何もかもが変わってしまったあの日に行われたものと同じ名のレースだったのだから…

 

 

 

 

 

 

 

数日前…

 

 

 

狩崎side

 

「これを使って作って欲しいの…ライス専用のドライバーを………」

 

「一応、理由を聞いてもいいかい…?」

 

恐らく理由は分かっている。彼女は自ら大二とぶつかることでなにかを伝えようとしているのだろう。だがしかし、それには懸念がある。仮面ライダーの力を得るということはこれから激化するであろうギフとの戦いに身を投じる可能性があるということ、そしてぶつかりあったところで本当に彼が戻ってくるという保証が存在しているのか。

この問はそれを問う意味でも投げかけたものでもあった。

 

「ライスとお兄様はね、一度も喧嘩なんてしたことないんだ…」

 

しかし彼女の返答はなんだか要領を得ないようなものだった。

一体何を言っているのだろうと思っているとどうやら言葉にはまだ続きがあるらしい。

 

「今まではお互いがお互いのことを分かり合ってるからだと思ってた…」

 

「でも違ったの…優しいお兄様にずっと我慢させてただけだった…」

 

「もうそんな関係じゃ嫌だから…ちゃんとお兄様と分かり合いたいから…」

 

「だから…お願いジョージおじさん、ライスにもう一度力をください…!」

 

どうやら決意は固まっているらしい。目を見ればわかる。この目は彼女が諦めない時の目だ、幾度と彼女とレースを行なってきた経験から知ったのだから。こうなった彼女は絶対に引きはしないだろう。なら私がする返答は必然的に一つとなってしまう。

 

「しばらくは徹夜作業になる、トレーニングの調整と同時並行で進めなければならないからね…」

 

「…!…ありがとう…!ジョージおじさん…!」

 

こうして私はドライバーの再設計とトレーニングの調整、そして使用するバイスタンプの調整を含めた三つの作業を同時に行なっていくことになってしまった。

恐らくこのときが一番、栄養ドリンクの消費が激しかったかな…?

 

そして運命の日、ぎりぎりでドライバーが完成した。

 

ライスシャワーside

 

「さぁ…これが君専用に再設計した、ツーサイドライバー改めアンビバレンスドライバーだ…確認してくれ…」

 

「うん…ありがとうジョージおじさん…」

 

そう言って彼はアタッシュケースに収納されたドライバーを開いて見せる。その出来栄えからは余りに多くの時間がこのベルトに注げられたことを容易に想像させる。

複数の作業を同時に行なっていたせいなのか彼はいつものような陽気さがなく、とても疲弊している様子だった。こんな姿を見せつけられては無理を言った身としては大きな罪悪感を感じざるを得ない。せめてものお礼として全てが終わったら全力で労わせていただくことにしよう。

 

「あぁ…そうだ、これも持っていってくれ。彼を待つ間に読むといい…」

 

そう言って彼が差し出したのはどうやら本のようだった。それを受け取り、よくよく注視してみると…

 

『青薔薇の宝石箱』

さく・え ジョージ・狩崎

 

「…え!?こ、これおじさんが描いたの!?」

 

「アンビバレンスドライバーの使用説明書を絵本風にしてまとめてみた…このほうが君は読みやすいと思ってね…」

 

どうやらそんな気遣いもしてくれていたらしい。最大限感謝しながら少し開いて内容を確認してみると、次の瞬間には笑いが込み上げてしまっていた。何故なら…

 

「ふふっ…難しい言葉や字ばっかり…これじゃちっちゃい子には分からないよ…?」

 

「慣れないことはするものじゃないね…」

 

そう、渡されたそれはとても絵本の体裁を保っているとは思えない仕上がりだった。作中に出てくるのは専門用語ばかりで、漢字にもルビが振られていないのでライスの言った通り、子供が読むことはできないだろう。しかもそれをチープな絵で描かれたキャラクターが説明しているものだから余計に可笑しく感じてしまう。ライスしか読むことを想定していないのでいいがこれではとても絵本とはいえない。

 

「いや、やっぱりちゃんとした説明書を渡しておこう…それは処分させてもらうよ。」

 

「あ、ううん…ライス、これがいい…だっておじさんがライスのために描いてくれた世界にたった一つの絵本だもん、大切にしたいな…」

 

「…………そうかい…」

 

返事するまでに少々時間がかかったのは疲れからくる眠気のせいだということにしておこう。

 

「それから…」

 

まだなにかあるのだろうか…?

 

「向かう途中にサプライズを用意しておいたから楽しみにしてくれたまえ…Zzz」

 

さっきのでも充分サプライズではあったのだが…

それだけ言い残すと彼はすぐ近くの壁にもたれかかってあっと言う間に眠ってしまった。

すぐさまベンチに運んで彼のコートを毛布代わりに掛けてやる。ここまで頑張ってくれたのだ、必ずいい報告ができるよう全力を尽くそう。

 

「おやすみ、ジョージおじさん…」

 

さて、準備は整った。

あとは彼の言うサプライズを楽しみにしながら目的地に向かおうと思ったがその瞬間は意外と早く訪れた。

学園の校門近くまで行くとそこには2つの人影があった。トレセン学園の制服を着ているのを見るに生徒のようだが…

よく注視してみると、そこにいたのは…

 

「待っていましたよ、ライスさん。」

 

「想定より早かったですね…ライス。」

 

「マックイーンさん…それにブルボンさんも…!?」

 

「私たちだけではありませんわ…ほら。」

 

「ご、ごめんなさ〜い!遅れてしまいました…!」

 

「ロブロイさんまで…!?」

 

そこにいたのはメジロマックイーンとミホノブルボン、そしていま駆けつけたのはゼンノロブロイというライスと特に関わりが深いウマ娘たちだった。

なぜ3人がライスがこの時間に出るということを知っているのだろう?

 

「もしかして…ライスを止めに来たの…?」

 

3人が何故出立時間を知っていたのかは定かではないが、その情報を掴んでいるのなら恐らくはこれからやろうとしていることも知っている可能性が高い。それならこれから起こる危険を予見し止めに来たと考えればある程度説明はつく。

 

「貴女がここに来るまでにまた迷いを抱えているようなら…そうしようと思っていました。ですがその心配は杞憂だったようです…」

 

三人を代表してマックイーンさんがそう告げる。

 

「私たちは貴女を止めに来たのではありません…貴女に託しに来たのです。」

 

そう言って3人はおもむろに自らの懐を探り始める。

そしてほぼ同時に取り出して見せたのは意外なアイテムだった。

 

「バイスタンプ…?」

 

「貴女のトレーナー代理さんからのお届け物…というのは建前で、本当は決戦を前にしたライスさんと少し話す時間をくださったのです…」

 

なるほど、合点がいった。

狩崎の言っていたサプライズとは当にこのことだろう。

自分が使用するバイスタンプを3人に届けさせることで話す機会を作ったのだから、3人としっかり話せということなのだろう。

それほどまでになにか伝えなければならないことがあるのであろうことを感じ取り、気を引き締める。

 

「まず私から…ライス、私は貴女に謝罪しなければいけません…」

 

そう言ってまずブルボンが前に出る。

謝りたいこととは一体なんだろうか…何か悪いことをされた覚えはない。どちらかといえば恨み節を言われそうなのは自分の方ではないかとも思ったがブルボンはもう割り切ることができているからその線も薄いだろう。

 

「ライスは天皇賞の日の私が何をしたか、覚えていますか…?」

 

「うん…ライスを止めてくれたよね?」

 

よく覚えている。

あの時の自分は突然のことで気が動転し、我儘を言って周りの人間に迷惑をかけてしまっていた。その時、仲裁に入ってくれたのが待機していたミホノブルボンなのである。あのままであればもしかしたら自分が誰かを傷つけていたかもしれない状況を未然に回避してくれたのをとても感謝している。

 

「あの行動は今思えば、間違いだったのかもしれません。私が貴女を引き止めたせいで…五十嵐トレーナーと離ればなれになってしまったようなものなのですから…」

 

そう、あのときの行動をブルボンはずっと後悔していたのだ。ライス達がとても強い信頼関係で結ばれていることを知っているからこそ、自分の行動によってその二人が引き裂かれてしまったのではないかという不安を彼女はずっと抱えていた。 

 

「貴女や五十嵐トレーナーのことをちゃんと信じることができなかった…だから、ごめんなさい…」

 

「ブルボンさん…ううん、ブルボンさんは何も悪くないよ…?」

 

実際そのとおりだ。

先に言った通り、今はあの行動にどんな意味があったかなどとうに理解している。彼女はあの場で精一杯、ライスのために自分にできることをやってくれていたのだから…それを責める謂れはないだろう。

 

「そう言ってくれるだけで救われる思いです、やっぱり貴女は私のヒーローですね…」

 

「えへへ…ありがとう…!」

 

改めてそう言われるとやはり照れてしまう。

その言葉が自分が今まで欲しがっていたものであるから余計にだ。

 

「五十嵐トレーナーにも直接謝罪したいので…必ず彼を連れ戻してください…応援していますよ、ライス。」

 

「うん…!」

 

その言葉と同時にキツネバイスタンプを渡されたのを最後にブルボンは元の位置に下がる。

そして新たに前に出たのは、ライスと同室であり親友のゼンノロブロイだった。

しかし一向に言葉を発さないのでどうしたのかと思っていると…

 

「…………」ギュッ

 

「…ふぇ…?…ロブロイさん…?」

 

急に彼女はライスの身体を包むように抱きしめる…彼女はこのようなボディランゲージは恥ずかしがるタイプだと分かっていたのでその珍しさに少々驚きだった。

ロブロイはその体勢のまま、ポツリと言葉を紡ぎ始める。

 

「私、ライスさんのことが大好きです…」

 

「う、うん…///」

 

「それと同じくらい、大二さんのことも大好きで…っ…」

 

「…!…うん…」

 

「そんな大好きな二人が並んで幸せそうにしてるのを見ると…私も幸せな気持ちになるんです…!」

 

「二人が笑っててくれなきゃ…私は心の底から笑えないんです…!」

 

「ロブロイさん…」

 

抱き締めていた身体を少し離し、改めて正面に向き直るゼンノロブロイ。

涙を浮かべながらもその表情は慈愛に満ちた優しげな笑顔を浮かべており、その姿はまるで一枚の絵画のように儚げで美しいものだった。

 

「だから…!必ず二人で戻ってきてください…!ただ戻ってくるだけじゃなくて笑顔で…約束ですよ…?」

 

「うん、約束!絶対守るからね、ロブロイさん…!」

 

そう言って左手の小指を差し出す彼女にライスはなんの迷いもなくその小指に自身の小指を絡ませ、いわゆる指切りの状態となる。誰もが知っている誓いの証、それは見方によれば一種の契約ともとれる。それほどまでに大事な約束であると解釈すればするほどに…その繋がりは強固なものへと変わる。

今ここで交わされた誓いがどれほどのものかなど明白だった。

やがて指切りを外してそのままオオカミバイスタンプを渡し、彼女は最初の位置へと下がっていった。

 

「最後に私ですが、今更多くを語るつもりはありません…私から伝えるべきは一つだけですわ。」

 

そして最後、今まで傍観を貫いていたメジロマックイーンがその声を響かせる。彼女は前に出るとそのままエレファントバイスタンプをライスの手に握らせ、そのままの要領で両手を包み込む。

 

「私は信じています、貴女は必ず彼を連れ戻すことができると…だからライスさんも信じなさい、自分自身や貴女を信頼する者のことを…」

 

「えへへ…ライスにできるかな…?」

 

以前から姉のように慕い、頼ってきたウマ娘からの激励を嬉しく思い、思わず甘えたくなってそんな心にもない不安を口にする。自分を信じろと言われたそばからそんなことを言うのはどうかと思ったが、それを聞いてもなおマックイーンは笑顔を絶やさず言葉を続ける。

 

「…もしそれを成すということが奇跡と呼べるものだったとしても、不安に思う必要はありませんわ。だって私たちはもう、強く信じることで成された奇跡を知っているでしょう?」

 

「…!」

 

その言葉で思い出されるのは、彼女の親友であり…ライバルでもあるあのウマ娘。幾度の怪我と挫折にも諦めずに乗り越え、有馬記念にて奇跡の復活を見せてくれたあの存在を思い起こす。彼女が何を思い、その身体に鞭を打って走ったのかは想像に難くない。何より当事者として一緒に走っていたからこそ分かるものもあった。

 

「…うん、ありがとうマックイーンさん…」

 

あまりに多くの思いを背負っていることに気付かされた。しかしそれは重い足枷としてではなく、この志を護る鎧としてそこにある。

今この場での経験がなかったとすればもしかしたらこれからの結果は逆転していたのかもしれない。皆の期待を背負っているのならこれはもう自分だけの問題じゃない。

半ばで諦めることなど絶対にしないのだと誓いを立てる。

 

「時間を取らせすぎてしまいましたわね…さぁライスさん、お行きなさい。貴方が帰る場所はしっかりと守っておきますから…」

 

「うん…!みんなの思い、持っていくね!じゃあライス…いってきます!」

 

手を振り、その場を後にするライスシャワー。それに手を振り返し、送り出す三人。

その心中にはもう一抹の不安も一切残っていなかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

数分後…

 

三人に見送られ、やがてライスは約束の場所である京都競バ場付近の緑の広場に到着した。

比較的ゆっくりとこの場所に向かっていたがそれでも約束の時間が来るまではまだもう少しかかる。その間、狩崎から貰った絵本を読んでしっかりとドライバーの使い方を予習しておかなければ…

 

「ふふっ…あはは…」

 

だがやっぱりその内容は意図せずとも笑いを誘ってしまうもので、慣れて笑わずに拝読が出来るようになるまで暫く時間が必要だった。

そして内容をようやく理解し始め、読み進めながら使用するイメージを掴んでいる最中、ふと足音が聞こえた気がした。

持ってきていたスマホの画面を見るとどうやら約束の時間が訪れたらしい。

正直に言えばこのまま走り出し、やってきた彼の者を思いっきり抱き締めたい衝動に駆られている。

このまま今までのように普通に語りかけるにはあまりに会えない時間が多すぎたのだから当然と言えば当然だろう。

だが、それをするにはまだ早い…それはすべてが終わった後だ。

今はやるべきことに集中する。そして努めて冷静さを保ちながら目の前に現れた存在に語りかける。

 

「久しぶり…お兄様…」

 

「…久しぶり、ライス…」

 

五十嵐大二、久しぶりに顔を合わした自分のトレーナー。最後に見たフェニックス隊員の白い制装から黒いコートが特徴的な私服然とした服装に変わっていること以外は何も変わりのない姿がそこにはあった。

早速本題に入ろうとした瞬間彼から疑問の声が上がる。

 

「なんで…よりによってこの日だったんだ…?」

 

どうやら何故春の天皇賞の日に会おうと持ち掛けたのかという疑問だった。

春の天皇賞…それすなわち二人の運命が狂ってしまった呪われた日であり、二人にとって忌避してもおかしくない日だ。そうでなくとも現在ライスは今日行なわれるそれに出走を表明している。

その疑問を抱くのは至極当然と言えるだろう。

 

「お兄様にどうしても見せたいものがあったの…それに…」

 

「………」

 

彼は先を急かすでもなく黙って話を聞く。

いつもそうだった…気弱なライスは自分の意見を話すときにやがて声が尻すぼみになったり、自信がなくなり言葉に詰まったりすることが多かった。そのたびに彼はなにか声をかける訳ではなくライスが話せるようになるまでじっと待ち続けてくれるのだ。

 

「この日がライスの運命の日になるって…なぜかそう感じたの…不思議だね?」

 

「…運命…運命か…は、ははは…確かにそうかもしれない…」

 

その答えを聞くと彼は先程までの困惑した表情から一転、まるで全てに合点がいったかのように笑い始める。だがそこに明るいものは感じられずむしろどこかしら狂気のようなものを纏っている気さえした。あまり答えになっていないような自覚があったのでなおさら不思議だった。

 

「ライス、去年の日経賞は惜しかったな…それに有馬記念も…君が勝つ可能性は充分あったよ…」

 

「見ててくれたの?嬉しいな…」

 

やがてその口から出たのはかつてライスが走ったレースの感想だった。口振りからして何らかの方法でライスのレース自体はずっと確認していたらしい。離れてしまっても自分の担当に対して気にかけるその姿勢は果たして彼の生真面目さ故なのだろうか。

 

「…でも君のレースを直接見てて、改めて思い知ったよ…やっぱりあいつらは君の勝利を祝福する気なんてないってことを…」

 

「…………」

 

…彼はライスのレースを競バ場にきて直接観察していた、そしてその理由は時間をかけて自身の大切な存在を傷付けた者たちを改めて裁定するためだった。その言動を見るにどうやら彼はもう諦めてしまったのを感じ、ライスの心は悲嘆に暮れる。

 

「いくら待ったってあいつらは何も変わらない…罪深い罪人のままなんだよ、そんな奴らを野放しにしたら優しい君はもっと傷ついてしまう…そんなの…俺は許せない…だから…!」

 

『ホーリーウイング!!』『Confirmed!』

 

「変身…!」

 

『ホーリーアップ!』

『ホーリーライブ!!』

 

彼の背から純白の翼が広がり、そのまま包み込むことで彼を聖なる戦士に変化させる。それは見方によればその様相はまるで天使のようであったが、実際はそんなに生易しいものではなく、真なるその本質はどこまでも高潔で無慈悲な断罪者である。

 

「今ならあそこに集まる罪人共を一網打尽にできる…きっと君はそれを感じて俺をここに呼んでくれたんだろう…?やっぱり…君と俺の望みは「お兄様…!」……?」

 

「……一度、思いっきり喧嘩してみよっか…」

 

「…!?」

 

「今まで、ちゃんとしたことなんてなかったよね…」

 

「な、なんで…どうしてそんなこと…」

 

ライスの言葉を聞き、大二は再びその声色を疑問に染める。変身していることでその表情を窺い知ることはできないが、恐らくは驚愕の表情を浮かべているであろうことがありありと分かる。

 

「お兄様、さっき言ったよね…人は変われないって…でもライスはそうは思わないよ。」

 

「え…?」

 

近くにあったアタッシュケースを探りながら言葉を投げ掛けるライスシャワー。そして改めて正面に向き直り、まっすぐと大二を見据える。その双眸の力強さはまるで、デビュー戦勝利の祝勝会の折に自らを一番大切な光だと称してくれた時のような…いやそれ以上であると大二は感じていた。

 

「人は変われるし、変えられる…それを望んで行動する人が居る限り…絶対に…!」

 

「…な、なにを…」

 

「でも、今のお兄様には口で言っても分かってもらえないと思う。だから…」

 

『アンビバレンスドライバー!』

 

「ライスが今から、それを証明してみせるから…!」

 

「ドライバー…!?」

 

この小さなやり取りの間に幾度と驚愕を見せてきた中でも一際大きな驚きを露わにする。彼女の腰に装着された自分のドライバーと似たそれを凝視し、それが見せかけではないことを理解する。

何故誰よりも優しい彼女が戦うための力を手にしているのか?

それを考えると同時に彼女に其の力を渡したのが誰なのか容易に想像がついた。

 

「狩崎さん…あんたはどこまで…!」

 

大二がこの場にいない一人の男に怒りを向けているのをよそにライスはその身を戦士に変える覚悟を決める。

 

「ライスだって…ううん…

 

"私"だって…咲いてみせる!」

 

 

『ブルーローズ!』

 

ライスは左手に持ったブルーローズバイスタンプを起動しアンビバレンスドライバーのオーインジェクターに押印、するとライスを中心に足元から青薔薇の花畑が形成される…

そしてライスはそのままバイスタンプを持った左手を右肩辺り、そして右手を腰の左側辺りに沿わせることで腕が斜め平行になるようなポーズをとる。

 

『Connection!』

 

そして大きく腕を回し、先程までのポーズと鏡合わせになるようなポーズをとる、そして自らを戦士に変える呪文を叫ぶ。

 

「変身…!」

 

アンビバレンスドライバーにブルーローズバイスタンプをセット!

 

『regain hope…! regain hope…!』

 

瞬間、どこか儚げでしかしそれでいて悲壮感を感じさせないメロディが流れ始める。

そしてそのままゲノムトランシーバーからアンビバレンスウェポンを引き抜き、ヒールブレードを展開!

 

『レイスアップ!!』

 

トリガーを引けば足元の青薔薇の花弁が散り始め、やがてライスを包み込む大型のスタンプを形成しそれを内側から破壊することでその身を青薔薇の追跡者へと化す!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『bering… blessing… blooming…!』

 

『仮面ライダーローゼス!』

 

 

今ここに新たな戦士が誕生した。

その名も仮面ライダーローゼス、大切なものを取り戻すために誰よりも優しい少女が新たに手にした究極の抑止力と成り得る姿だ。その様相はどこかライスの勝負服を思わせるとても雅なものであり、見る人が見ればそれは戦装束というよりもむしろ舞踏会のドレスのような印象を受けるだろう。だが、これから起こるのは踊りではない…称するのならばそう、これから始まるのは地上最大の…痴話喧嘩なのだから。

 

 

 

『この力で…必ずお兄様を取り戻す!』

 

 

 

 

 

 

つづく…。




ライスの変身ポーズはアギレラと同時変身した光くんオーバーデモンズの変身ポーズをイメージしてくれると分かりやすいと思います!

なんとか描写したくて頑張りましたが解りにくかったらすみません…(汗)





因みに裏モチーフの正解は…
童話の中で登場した動物をモチーフにしています!

例えば、

オオカミバイスタンプ→赤ずきんのオオカミ

キツネバイスタンプ→ごんぎつねのごん

エレファントバイスタンプ→かわいそうなぞうの象


分かった方はどれくらいいるのでしょうか…!
私、気になります!(分かりにくいネタ)

では次回もお楽しみに!


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

ささやかな祈り





最終回、放送されましたね。
ですが僕は大学の講義の一環で遺跡調査に出てるのでまだ見れてません(泣)






五十嵐家side

 

4月23日…来たる春の天皇賞の日、京都レース場の観客席は多くの人々で賑わっていた。レース開始時刻までまだもう暫くの余裕があるはずなのにこの熱狂ぶりは実に圧巻であったが、今ここにはそんなことを気にする余裕など存在しない一団が焦る心をひた隠しにして鎮座していた…言わずもがな、五十嵐家の面々である。

彼らは何も知らずにこの場に居るというわけではない。

こうしている間にもライスと大二の二人がぶつかり合おうとしていることは事前に本人から報告を受けていたので既に周知の事実であった。勿論彼らは同行を願い出たが、ライスからの自分を信じてレース場で待っていてほしいと言う旨の願いを無碍にすることはできず、結果今ここでレースの開始時刻を待つことになったのだった。

 

「ねぇ…私達ほんとにここで何もしなくていいの?」

 

五十嵐家の長女であり、末っ子のさくらはそんな不安な心境を溢す。彼女は昔から面倒見の良いいわゆる姉御気質なものだから一見大切なものを自分が支えられていないと思えるこの現状に焦燥を感じるのも無理はないだろう。言葉には出さないが一輝とて同じ気持ちである。

だがそんな兄妹二人の不安を前に父、元太はこう告げる。

 

「さくら、なにもかも助けてやるばかりが誰かを思うってことじゃない…時には信じて待ってやることも必要なんだ。」

 

「…分かってるけど…でも…」

 

そう言われても心配なものは心配なのだ。

ましてや今戦っているのは手荒なこととは無縁と言っていい程気弱なライス…正直言えばたとえライダーの力を手に入れたとしてもフェニックスの分隊長として戦闘訓練を積んできた大二を相手に勝算は五分でもあればいい方なのではないかとも思ってしまう。

 

「な〜に心配ないさ、あの子は俺たちが思ってるよりも…」

 

「「ずっと強い…」」

 

「!?」

 

諭す元太の言葉に声を被せてくる者がいた。一体誰なのだろうと声のした方向を見てみるとそこにいたのはお得意様の一人であり、ライスの良き友人である一人のウマ娘…

 

「…ですわよね、おじさま?」

 

「マックイーン…!?」「マクちゃん…!?」

 

「お久しぶりですわね…しあわせ湯の皆さん。」

 

メジロの至宝、メジロマックイーンだった。

マックイーンと五十嵐家が関わりを持ったのは彼女の友人から、しあわせ湯を紹介されたのが始まりだ。庶民派の銭湯というものが不慣れだったのか通いたての頃は少し緊張気味だったのをよく覚えている。だが慣れた頃には風呂上りのフルーツ牛乳に舌鼓を打つ姿が特に印象的だったが、しかしここ最近はめっきりと姿を見せなくなり先程彼女が自分で言ったように会うのは非常に久しぶりのことだった。

 

「久しぶりぃ〜!最近来ないから心配してたんだけど!」

 

「ふふっ…ごめんなさい。どうしてもやらなければならないことがありましたの…ようやく一段落ついたところですわ。」

 

お互いの両手を合わせて再会を喜び合う二人。かたやアイドル顔負けの武闘派ガール、かたや文武両道の令嬢ウマ娘…その二人が並び立つ姿は非常に絵になり、見るものは感嘆の息を漏らすだろう。

 

「ウォッホン!一応ボクもいるんだけどなぁ〜!」

 

「テイちゃんは暇さえあれば来てるんだから別にいいでしょ!」

 

「ああ〜!ひっどぉ〜い!」

 

そしてもうひとり…同じく文武両道にして令嬢ウマ娘にあたるがマックイーンとはまたタイプが違ったウマ娘、トウカイテイオーもまたその場に居合わせていた。

どうやら最初からマックイーンと一緒に同行していたようだった。

 

「ねぇ、一輝ぃ〜…ほらぁ、か弱いレディが傷付いてるんだからさ…慰めてよ〜!」

 

「な〜に言ってんだよ、お前はか弱い…とかレディ…なんてガラじゃないだろ?」

 

気心知れた仲の一団は他愛のないやり取りを交わす。ただそれだけでも今まで感じていた焦燥を一時でも紛らわすことができた。

 

「なんだよそれ〜!?ふ〜んだ!デリカシーのない男はモテないんだからね!」

 

(いや…一輝なら大丈夫じゃね…?)

 

そう思ってしまったバイスを誰も責めることはできないだろう。なんせバイスは一輝の中でかの場面をその場でじっくりと見せ付けられたのだから。そんなことに思いを馳せるバイスをよそに話はやがて周って戻ってくることになる。

 

「それにしても…マックイーンも信じてくれてるんだな、ライスのこと…」

 

「当然です、あの子は私の…大切な友ですから。」

 

そう言葉にするマックイーンの表情は先程のような淑やかな微笑のままであり、まるで決意表明のようなものとは違う当たり前のことを言っただけであるかのようにあっけらかんとしていた。

 

「うん、ボクもおんなじ気持ち!だってライスが強いってこと、ボク達はちゃんと知ってるもんね!」

 

「テイちゃん…」

 

「さくら、二人の言う通りだ。ライスは俺たちの家族なんだからちゃんと信じてやらなきゃ…だろ?」

 

「…そうだね、一輝兄。私、ライスちゃんのことしっかり見えてなかったのかも。あの子が強いってこと、とっくの昔に知ってたはずなのにね…」

 

二人の真っ直ぐな気持ちを受け止めたことで今まで暗雲の立ち込めていた心は少しずつ晴れていく…

ライスの、そして自分たちの大切な友人がここまで信頼してくれているというのに、家族であるはずの自分たちが信じないわけにはいかないとそう感じた。

 

「あぁ…にしても…

テイオーってそんな立派なことも言えるんだな!

ずっとはちみーのことしか考えてないと思ってたぞ!」

 

「…ハァ!?」

 

一輝達は自分の焦りに整理をつけた途端、ほんの少しばかり余裕が出てきたようで…

ちょっとした悪戯心が芽生えてきたのは両者とも示し合わせたかのように同タイミングだった。

 

「あ、それ私も思った。」

 

「え〜!もうなんだよ二人して!ふんだっ!もう知らないっ!」

 

…とはいえ少しからかいすぎたようだ。このままでは恩を仇で返しかねないのでしっかりとフォローを入れることにする。こういうときは相手の好きなものを与えれば大体は丸く収まるだろう。大人の場合はその限りでもないが、テイオーはまだ子供だしそれで大丈夫のはず…

 

「悪い悪い!今度はちみー牛乳奢ってやるからそれで勘弁してくれよ、な?」ナデナデ

 

「あ、えへへ…///

もう〜しょうがないなぁ、許してあげる!」

 

(テイオー…貴女、もしかして…)

 

マックイーンはそのやり取りを見て何かを察する。恐らく自分の親友がその煌めくような笑顔を浮かべている理由はきっとはちみー牛乳とやらに惹かれたからというだけではないだろう。親友が向き合うことになるであろう前途多難な道のりへの憂いを余所に、今戦っているであろうライスに思いを馳せる。

 

(ライスさん、頑張りなさい…

貴女の大切なものを取り戻す為に…

最高の手土産を持って待っていますわよ…!)

 

 

ライスシャワーside

 

「ハァァァァっ!」

 

「ぐっ…!」

 

白き裁定者の銃剣と黒き追跡者の短剣が鍔迫り合う。

その力の拮抗は黒き追跡者…もとい仮面ライダーローゼスことライスシャワーの方に若干の軍配が上がる。

というのもその理由は白き裁定者…もとい仮面ライダーホーリーライブこと五十嵐大二がこの状況に理解が、そして納得がいっていないことによる戦闘のモチベーションが低下しているが故である側面もあった。

 

「うぅ…なんで君が仮面ライダーに…

こんなことをしてなんになるんだ!?」

 

「言ったはずだよ、お兄様…これは喧嘩だって!ライス達が…ずっと一緒に居るための!」

 

『ガン!』ドン!ドン!ドン!

 

吠えるや否やすぐさま鍔迫り合いの状態から距離を取りその要領でブレードからガンに変形、射撃による牽制を行う。

射撃訓練など一度も受けたことのないはずのライスの射撃によって放たれた弾丸は正確に目標に向かって進んでいくも、

 

「はぁっ!」ドン!ドン!ドン!

 

寸分の狂いもなく弾丸をぶつけることで相殺されてしまう。流石は特務機関フェニックスの分隊長を務める男、その戦闘技術は極限まで磨き上げられている。

今のところ二人の力関係はライダーとしての出力はほぼ同格、そして大二側の戦闘技術とライス側のウマ娘としての身体能力で均衡は保たれている。

このままではお互いにジリ貧になってしまう、なにか起死回生の一手が必要だと今の攻防だけでも理解できてしまった。

 

「くっ、こうなったら…

マックイーンさん、力を貸して!」

 

ガチャン!『リード!』

 

今まで右手に持っていたアンビバレンスウェポンを左手に持ち替えるとブルーローズバイスタンプのつまみを回すことでバイスタンプリード待機状態に移行する。

 

『エレファント!』 『ドレイン!』

 

そしてバイスタンプを起動して読み込ませトリガーを引くことで…

 

『アームズアップ!エレファント!』

 

これこそアンビバレンスドライバーの真骨頂…

それぞれのバイスタンプに応じたゲノムウェポンが形成することができるのだ。

エレファントバイスタンプによって形成される象の意匠が施された柄までもが太ましい巨大な斧、『ゾウノマサカリ』は常人なら抱えるようにしなければ持つことができないが、ライスはウマ娘としての身体能力によって片手で扱うことができる。

その重量級の一撃は…

 

「ハァァァっ!」

 

「はっ…!?(あれは喰らったらまずい!)」

 

ドッゴォォン!

 

たった一振りで必殺級の一撃となる。

それを瞬時に察知した大二はいち早く回避をしたが、彼の代わりにその一撃を受けた地面は大きく抉れておりその破壊力を物語っている。失礼ながら大二はそれを目の当たりにしたことで若干引いてしまった。

ライスは再度ゾウノマサカリを振るい始める。

あの威力からして完全に受け止めきることは不可能だろう、なるべく回避を優先しつつどうしても避けられない場合は受け流すようにして最小限のダメージになるよう注意…それを繰り返していくことで既にゾウノマサカリへの対応策は構築され、その脅威を失い始めた。

そして遂に…

 

「やぁぁぁっ!」ブォン! ドゴッ!

 

「今だ…!ハァっ!」

 

『ウインドチャージ!』

『ウイニングジャスティスフィナーレ!』

バキャーン!

 

「きゃっ…!」

 

ゾウノマサカリを振り下ろし、地面に食い込んだことで生まれた一瞬の隙を突かれて必殺技を叩き込まれ直撃を受けたゾウノマサカリは見るも無惨に破壊されてしまった。

これではもう一度ゾウノマサカリを形成したところで無意味だろう。

 

「だったらこれで…!」

『オオカミ!』

『アームズアップ!オオカミ!』

 

今度はオオカミバイスタンプを起動し、リード。狼の意匠が施された刀剣、『クレッセントヴォルフ』を形成し、振るい始める。

クレッセントヴォルフを振るうことで放たれる三日月状の斬撃は類稀な破壊力を誇り、並の相手ならばそれだけで脅威足り得ただろう。

しかし…

 

「無駄だ…!ハッ!」

 

ホーリーライブは翼を展開し、飛翔する。剣の間合いからは完全に離れてしまった大二に対してライスは斬撃を放ち牽制を行うも尽く回避されてしまう。

 

「当たって…!お願い…!きゃっ…!」

 

パキィン! カランカラン…

 

最終的には空からの銃撃を避けきれずにクレッセントヴォルフを正確に狙い撃たれ、取り落としてしまう。武器のみを落とすために行なわれたことが容易に分かる攻撃だったためにライスには一切のダメージはないが、実力差は歴然…それが痛いほど分かってしまった。

 

「もうやめよう、ライス…俺は君を傷つけたいわけじゃない。」

 

この戦いに意味を見出だせていない大二は問答を投げ掛ける。その言葉に込められた意味は即時の戦闘行為の中止を促すものであった。

彼の説得はまだまだ続く…

 

「君はきっと騙されてるんだ…どうせ狩崎さんの差し金だろ?

君相手なら俺が手を出せずに一方的にやられるだろうと踏んだ…あの最低野郎が考えそうなことだ…!」

 

彼は自分を拘束するための手段として、狩崎がライスのことを騙してライダーに変身させることで無抵抗になった自分を捕獲する計画を立てたと考えたようだが、それは的外れな推理としか言いようがない。

そもそも彼女の依頼で狩崎はドライバーを製作したのだから。ライスにとって言えばむしろ我儘を聞いてもらったも同然なのだが、彼がそれを知る由もなかった。

 

「違うよ…ジョージおじさんはそんな悪い人じゃないよ…!」

 

「だからそう思うように騙されてるんだよ!

あの人はそういう人だ…そうやってヒロミさんのことも騙して利用し続けた!」

 

言葉を返しても大二は頑として自分の主張を曲げない。いつまでもライスの言葉に優しく耳を傾けていた筈の彼だが、今やその面影は綺麗サッパリ消えていた。

何よりもライスが騙されているという主張はまるでライスのことを信じていないように聞こえて酷く心が痛んだ…だがその心はすぐに奮い立つことになる。

 

「それにこんなくだらないこと…やってる場合じゃないだろ?」

 

「…っ!…」

 

…いよいよ堪忍袋の緒が切れてきた。

この戦いはライスだけのものではなく…今まで支え続けてくれた人達の思いも背負っている戦いなのだ。

それを言うに事欠いてくだらないと吐き捨てるのは納得いかない。

でもある意味丁度良かったのかもしれない。

さっき自分も言った通り、これは喧嘩だ。これからは本当の本当に全身全霊でいけるというものだ。

 

「くだらない…?

これからお兄様がやろうとしていることの方がよっぽどくだらないよ…!」

 

『リード!』『キツネ!』

『ドレイン!アームズアップ!キツネ!』

 

ライスは吠えるや否やブルボンから託されたキツネバイスタンプを起動し、リード。

キツネのゲノムウェポンである籠手、その名も『フォックスハウンド』を装着、陰陽玉型のエネルギー弾を周囲に配置し、一斉掃射を行なう。

 

「ぐっ…くっ!うぁぁぁぁあっ!」

 

隙のない弾幕の嵐をかいくぐるのは容易ではなくその証拠に撃ち漏らしたエネルギー弾を連続でまともに受けたことで大二は少なくないダメージを与えられてしまう。

 

「うぅ…どうしてそんなことを言うんだ、ライス…俺は、ただ君のことを思って…」

 

「そんなのお兄様の独りよがりだよ…ライスはそんなことしてほしいなんて思ってない!」

 

「…!?」

 

そうだ、そもそもこの戦いを始めたのは何故だったか…

それはぶつからなければ伝えられない思いを、しっかりと伝えるためだったのではないか。このまま手をこまねいて出し惜しみをしているようではなにも伝えることなどできない。

本音を…紛れもなく嘘偽りのない思いをぶつけなければ…!

 

『ブレード!』

 

「そもそもお兄様は思い込みが激しすぎるよ!なんでそんな風に悪い方にばっかり考えられるの…!?」

 

ガキィィンッ!

 

「なっ…!?そんなのライスが言えたことじゃないだろ!

何かあるたびに君が自分のせいだって言い始めた時はあぁまたかって思うんだからな!」

 

ドンドン!

 

「あ〜ひどい!そんなふうに思ってたんだ!

どうしてもそう考えちゃうんだから仕方ないもん!」

 

「なら俺だってそうだろ!」

 

「違うもん!」「何が違うんだよ!」

 

普通の兄妹のような口喧嘩の応酬を続けながらも、その攻防はまさに一進一退…どちらも引かずに攻め続け守り続ける。

そのちぐはぐさは他人から見れば滑稽に映るかもしれない…だがしかしそれは今まで互いを思うあまりに自分を抑え続けてきた者たちがようやく本音で語り合う、そんな輝かしい時間だった。

 

「俺はカゲロウから託されたんだ…

君のことをあいつの分まで守るんだって!

そのためならなんだってする覚悟がある!

それなのになんで分かってくれないんだ…!?」

 

「ライスを守るってなに…!

意にそぐわない誰かを傷付けるってこと…!?

そんなの守るって言わないよ!

カゲロウくんだって…そんなの望んでない!」

 

「それは…!くっ…!」

 

一瞬口をつぐんだ大二。

その一瞬はこの戦いにおいて大きく致命的なものとなった。

均衡を破り徐々に押し始めるライスシャワー…

そしてその最中においてもライスは攻撃と口撃を緩めることはしなかった。

 

「周りを見ようとしないで…自分が正しいって盲目的に信じ込んで…!」バキッ…!バキッ…!

 

ライスはフォックスハウンドを武装した右手を中心に拳を叩き込み続ける。ヒールブレードは既に折り畳まれ、腰のゲノムトランシーバーに装着されていた。もはやこの戦いに剣は必要がなくなったということなのだろうか…

 

「そんなの独りよがり以外のなんだっていうの…!」バキィッ!

 

「ぐあぁ…!くっ…!」

 

最後に大振りの一撃をモロに喰らい、大きく後退る大二。

必然的にライスと大二の両名はある程度距離が離れ、睨み合いのような形になる。

 

「もっと周りを見て…!

ライスのこと…"私"のことも見てよっ…!」

 

『リード!』『必殺認証!』

 

「…!?」

 

『必殺承認!』

 

一番の本音をライスが吐露すると同時にブルーローズバイスタンプのつまみを回し、そして同時にボタンを操作する。そうすることで通常の必殺技を超える超必殺技を発動することができるのだ。

大二は負けじと自身も必殺技を発動する。

 

『ブルーローズ!チェイサーフィニッシュ!』

『ホーリージャスティスフィニッシュ!』

 

「タァァァァァァッ!」

「ハァァァァァァッ!」

 

走り出した二人はほぼ同時に跳び上がり、ライダーキックの姿勢へ…

二人のライダーキックはそのままぶつかり合う。

 

決着がつくのかと思えるほどの長い拮抗が続いた後に、ついにその時が訪れる。

この戦いを制したのは…

 

「ハァァ…!タァァァァァ!」

 

「ぐっ…グァァァァァッ…!」

 

この戦い、軍配が上がったのはライスシャワーこと仮面ライダーローゼスだった。

破れた大二こと仮面ライダーホーリーライブはその衝撃によって変身が解除されると同時にその身を投げ出される。

 

「くぅ…!ふぅ…!ふぅ…!」

 

しかし大二は諦めが悪く、再度変身を試みようとツーサイウェポンをゲノムトランシーバーに戻そうとする。だがしかし…

 

「お兄様…!もういいんだよ?

…もう、皆の所へ帰ろう?」

 

変身を自ら解除し、駆け寄ってきたライスによって抑えられることで阻まれてしまう。

この時、大二の頭の中には様々な思考が倒錯していた。

自分を信じて任せてくれたカゲロウに申し訳ないとか、ライスは何故自分の邪魔をしているのだろうとか色々ではあったが、その中でも一際大きかったのは…

 

「…帰れないよ…俺はもう…戻れない…!」

 

結局のところ彼も自分で薄々気付いていたのだろう、自分の行いが間違いだらけの独りよがりであったことを…

それでも止まることができなかった。たとえ間違いだったとしても彼の感じた怒りは紛れもない本心だったから…

 

「もし戻ったら…俺は今度こそあの人達や…家族を傷付けるかもしれない…そんなのはもう嫌なんだよ…」

 

ライスを守る…そうするために必要だと思ってしまったが故に彼は心を殺し、非情に徹しようとした。だが結局挫けてしまう自分を自覚し彼は遂に本音を吐露する。

 

「よかった…」

 

「…え…?」

 

そしてその本音を聞いたライスシャワーの心に生まれたのは安堵感だった。

何故なら…

 

「お兄様はなにも変わってなかった…ライスが戻す必要なんてない…

ずっとずっと…優しいお兄様のままだったんだね…!」

 

「…!?…う、うあぁぁぁ…あぁ…」

 

「ありがとう…!ありがとう…お兄様…!」

 

ライスは泣き崩れる大二の身体を包み抱きしめる。れっきとした大の大人で今まで頼りになる大切な人としてあったその人がまるで子供のように泣きじゃくる姿をライスは母性を秘める瞳で見つめ続けた。

 

「でもね…お兄様が傷付いてまで傷付けなきゃいけない人はもういないんだよ…?」

 

「?…それは、どういう…」

 

「最初に言ったでしょ?

人は変われるってことを証明するって…これから始まるレースを見てほしいの!

さぁ、行こう!」

 

「あ、あぁ…」

 

ライスは大二の手を取り、京都レース場へと向かう。

もうレースの開始時刻まであと少しの猶予しかないのである程度急がなければならないだろう。

しかしその足跡は数歩を刻んで一度停止することになる。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「実に感動的だったよ、大二君…まさに観感興起というものだ…」

 

「…!? 

あんたは…!」

 

 

 

つづく…







最後の人物…一何石長官なんだ…!?


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

真実と心配と信頼と



ギーツ第2話…面白かったですね!
まさかのマグナムレイズバックルをダパーンが獲得してしまうとは…これからどのように入手するんでしょうか?

ギンペン…
いつだって子供の為なら命を賭けれるものなんですよね、父親って…

英寿くん、ブーストレイズバックルを使用する為の言葉ではあったけどそれは厳密にはウソではなくてそういうウソを付いたっていうウソだったと…
とことんまでキツネらしく、化かす人ですよね…




 

大二side

 

「あんたは…赤石長官…!何でこんなところに…」

 

「長官…その呼ばれ方も懐かしい、今や私はフェニックスを追われた身だからね…」

 

突然この場に現れたのは赤石英雄、かつて政府特務機関フェニックスの最高責任者を務めていた者だ。しかしそれはあくまで仮の姿であり、彼の本当の正体は数千年前からギフと契約を結び人類の裁定を行なってきた、デットマンズの発足にも一枚噛んでおり、言うなれば全ての元凶の一人であると言ってもいいだろう。

そんな存在が自分達の組織のトップであったという状況は非常に厄介なものであったが、先程彼が自分でも述べた通り今や彼は逃亡者であった。

それは何故かというと…

 

「実に驚きだった…

隙は見せていないつもりだったが、まさかフェニックス内部に外部組織…メジロ家の保有する諜報部を紛れ込ませるとは…」

 

そう、彼が追われる身となった理由はそれである。フェニックスには裏があるという情報を手に入れた五十嵐兄妹の話を聞いていたライスシャワーが力を借りるため自発的にマックイーンと接触…

フェニックス内部にメジロ家お抱えの特殊部隊をフェニックスに潜入させることで赤石の秘密が早期の段階で露呈、公表され最高責任者から一転し逃亡中の指名手配犯となったのだ。

 

「君達の動向に目を光らせてはいたが、それ故に他への警戒が疎かになった…反省せねばならんようだね…」

 

「御託はいい、俺の前に現れるってことはそれ相応の覚悟ができていると判断するぞ…」

 

「何ができると言うんだ君に…?

今や君は私と同じ逃亡者だというのに…」

 

「!?…くっ…」

 

痛いところを突かれ口をつぐむ大二。

今や五十嵐大二は特務機関フェニックスの分隊長ではなく、罪を犯し逃亡する指名手配犯。赤石を捕縛する権利も義務ももう存在しないのだ…

 

「しかしまぁ、それはそれで丁度いい…

ここ最近で君はよ〜く理解したんじゃないかと私は思うんだ、大二君…今の人類がどれほど愚かで度し難い存在なのかを!」

 

「…?」

 

ギフに心酔するが故にそれと敵対する人類を卑下する赤石。だが、その言葉にはそれ以上の意味が込められているようにも感じた。

言葉の意味を測りかね、頭に疑問符を浮かべる大二だったがそれをよそに赤石の弁論はまだ続く。

 

「人類は度重なる進化によってこの地球上で特筆すべき力を持つ生物となった…だが、そのせいで人類は調子に乗りすぎた!

圧倒的な力を持つギフ様と対話ではなく対立を選択してしまうほどに!」

 

赤石が言うには今人類と敵対するギフはその姿を表した数千年前には人類との対話を望んでいたらしい。

しかし人類はその要求を突っぱねて異形であるギフを敵対視し、対立を行なったのだという。

対話を求める異形を一方的に敵視して対立する、アニメや映画なんかでよくある話だろう…赤石はその原因こそ人類の進化そのものにあると考えたようだった。

 

「愚かな人類がその選択を恥じ、ギフ様と対話を行なうためには、人類そのものの戦略的退化が必要だ…

同時に、退化した人類には導き手が必要となるだろう…

そうなれる人材は一握り…」

 

「…何が言いたい…?」

 

ここまで演説を聞かされ続けた訳だがあまり赤石の意図が読み取れる言葉があったようには思えず大二は問を投げる。

しかし、赤石のその問への答えはとても衝撃的なものだった。

 

「大二君、私と来るといい…

今の人類に絶望し、ギフ様の遺伝子を継いでいる君こそ退化した人類を導き救う存在に相応しい…」

 

「…っ!」

 

彼の目的は大二をあちら側に引き込むこと…そのためにこのタイミングに姿を表した。

今までの大二ならば考えることすらしないだろう、間違いなくこの提案を蹴っていたはずだ。

 

(ギフへの服従…そうすれば人類を、ライスを守ることができる…?)

 

しかし、彼は相対する存在の強大さがどれほどのものか既に理解している。それ故にこのまま対立し続けることは人類にとって正しい選択なのか分かりかねていた。

そして何より彼には自分の命に代えても守りたい存在がいる。そのためなら意味のある選択なのではないかという囁きが頭の中に響いていた。

 

「ふざけないで…!」

 

しかしその囁きは一つの声によって遮られる。その声の持ち主は今までのやり取りを沈黙して聴き続けていたライスシャワーだった。

その表情は憤怒に塗れており、心の内の炎が激しく燃え上がっているのを感じる。

 

「人類は愚かなんかじゃないし、お兄様も連れて行かせない!

ライス達は一緒に皆の所へ帰るんだから…!」

 

そう毅然と言い放つライスの姿を見て思い直す大二。

そうだ、今まで自分達は何のために戦って来たのか…

人類を脅かすギフという存在から大切なものを守るためだ。それにギフに服従したところで人類を本当に手を出さないでくれる確実な保証はない。そんな信頼に足らない存在に身を任せる訳にはいかない!

 

「あぁ、ウマ娘ェ…実に忌々しい!

貴様らこそギフ様と人類、その和平の最大の障害であるということになぜ気付かないっ…!」

 

「!…どういうこと…?」

 

聞き捨てならない言葉だった。

先程赤石は進化した人類がギフとの対話を拒んだことが対立の原因だと自分でそう言った筈だ。それなのにウマ娘がギフと人類の講和を乱す最大の要因というのはどういうことだろうか。

 

「ウマ娘は古来より人類と交流を図り、その道を同じくしてきてた同志達…ギフ様はウマ娘達から人類との対話のための学びを得んとし、コンタクトを図った…」

 

「もしかして…」

 

「ウマ娘も…ギフとの対話を拒んだ…?」

 

それなら赤石がウマ娘を嫌う理由にも説明が付く。だがしかしそれでは人類とやったことは大差ない、それだけでウマ娘が人類とギフの和平の障害であると断定するには合点がいかないと思えるが…

 

「いや、その逆だよ…ウマ娘は人類とは違い、ギフ様との対話に肯定的な姿勢を取った…

元々ウマ娘は力があるにも関わらず人類を下に見ず対等に接する思慮深き一族…

ギフ様が異形であることなど彼女等からすれば些細なことだったのだろう…」

 

赤石の語る話は非常に信じがたいものだった。ウマ娘の祖先達がギフを受け入れようとしていたことにも驚きだが今の話を聴いた限りではウマ娘はギフ達にとってもとても好意的に映るであろうことが伺えるために赤石がウマ娘を嫌う理由に説明がつかなくなる。

 

「私が仲介役を担い、ウマ娘とギフ様の話し合いは極めて円滑に進んでいった…

彼女等との交流をきっかけに、人類との対話もじきになされるだろうとそう考えていた…

 

しかしっ…!」

 

「全ての交渉、話し合いを終え…

講和が結ばれた証として手を取り合った瞬間、何が起こったと思う…!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「触れた先が焼け爛れ、崩れ落ちたのだよ…!

ギフ様の恩恵を預かり、不死となっていた筈のこの身体がね…!」

 

そう言いながら赤石は左手の黒い手袋をとり、こちらへ見せるとそこには皮膚は裂け、骨がところどころ見え隠れするという手の形をかろうじてとどめているように思えるほど焼け爛れた酷い状態の掌があった…

 

「…ヒィッ…!」

 

「…!ライス!見ちゃ駄目だ!」

 

両の掌を口元に沿わせ、息を呑むライス。

彼女にはあまりに惨いこの光景は目に毒過ぎる。すぐさまライスを抱き寄せ目を塞ぐ大二だったが時既に遅し、ライスの頭にはしっかりと赤石の無惨な掌が焼き付いてしまった。

 

「おやおや、どうやら年頃の女の子には刺激が強かったようだね…フフフ…」

 

「赤石…!貴様ァ…!」

 

赤石の様子を見るにどうやらこちらがどんな反応をするか分かっていたらしい。そしてそれを踏まえた上でわざとそれを誇示し、こちらに揺さぶりをかけてきたようだ。

やることがいちいち姑息で非常に腹立たしい…

 

「まぁ落ち着きたまえ…

こうなった原因はウマ娘に宿る悪魔とはまた別の存在が原因だった…君達ならそれが何か分かるだろう…?」

 

「もしかして…うぅ…ウマソウルのこと?」

 

抱き締められていたライスは気を持ち直し、自身の予想を答える。

しかし未だに口元を片手で押さええづきそうになっていることから完璧に復帰できたわけではないようだ。

ウマソウル…それは未だ全容が判っていないがウマ娘に宿るウマ娘本人とはまた違う別の魂であり、一説によればそれは別世界の何かの魂であり、それがこちらで受け継がれることによってウマ娘が生まれるとされている。

 

「その通り…

人間に宿る悪魔とウマ娘に宿るウマソウルは似通っていながらもそれでいて相反する性質を持っている…

判るかね、悪魔と深い縁を持つギフ様にとってウマ娘は謂わばその身を蝕む害毒そのものだ…!

そんな者共が蔓延っていてはたとえ戦略的退化が成されたところで人類との対話を果たすことなどできない…!

ならば私がやるべきことはもう一つある…」

 

その先の言葉は言わずして理解ができた。

彼にとって最も敬愛する存在であるギフを根底から脅かす存在、そして人類存続のための計画の一番の障害…そんな存在があればどうするべきなのかは明白だろう。

思わず腕の中のライスを守るように強く抱き締める…

そして赤石が続けた言葉はやはり予想通りのものだった。

 

「人類の戦略的退化、そしてこの世の全ウマ娘を駆逐すること…それが人類を救うための私とギフ様、そして君の目標だよ大二君…」

 

その言葉を耳にしたことではっきりと回答は固まった。全ウマ娘の駆逐…それはつまりライスやその友人達、学園の皆のことも含まれるのだろう。大二にとって欠かすことのできない大切な存在たち、彼女達を傷付けることは絶対にしない。

ならば返すべき答えはこうだろう。

 

「寝言は寝てから言え…

そんなことは俺達が絶対にさせない…!」

 

「うん、行こうお兄様…

ライス達が皆を守る…!」

 

『ホーリーウイング!』『Confirmed!』

『ブルーローズ!』『connection!』

 

「「変身!」」

 

『ホーリーアップ!』『ホーリーライブ!』

『レイスアップ!』 『仮面ライダーローゼス!』

 

答えは否である。

それを突きつけるように二人は同時に変身を行ない、臨戦態勢をとる。

今ここで赤石を倒さなければ今現在平穏にいきている全てのウマ娘が危険に晒されることとなるだろう、そうさせないためにも二人の守護者が名乗りを上げる。

今ここに聖戦の狼煙を上げよう…

 

「やれやれ、縁なき衆生は度し難し…!」

 

『ジュニア!』

 

 

 

 

五十嵐家side

 

「大二達、遅いな…

もしかしたらなんかあったんじゃ…」

 

(心配しすぎだぜ、一輝〜!

きっとどっかで迷子になってるだけだって!)

 

「そうだったらいいんだけど…なんか嫌な予感がする…」

 

先程まで続いていた大きな音、おそらくは戦闘音だろう。それが止んでからしばらく経つ。

ライスのことを信じてここで待つということはさっきまでの皆との話し合いで決めたことだったが、少し時間が経ったところでまた一輝の心配は再燃し始めていた。

何故か酷く覚える胸騒ぎも相まってなんだかとてもソワソワしてしまう。

その頃さくら達はというと…

 

「それ!UMA!」

 

「テイちゃんまたリーチ!?」

 

「へっへへ〜!これはまたボクの勝ちかな〜♪」

 

「いやいや!まだ分かんないぞ〜!なんてたって父ちゃんもリーチだからな〜!次の手番には…」

 

「はい、ドロー4の黄色。」

「同じくドロー4、緑ですわ。」

「じゃあ、ママさんもドロー4の青♪」

 

「ええ…ちょ、ちょ!そんな殺生な〜!」

 

カードゲームをしていた。

確かにライスを信じて待つと決めたとはいえいくらなんでも自由すぎるのではないだろうか…しかしそれが正しいのかもしれない。自分は本当に心配性過ぎるのだろうと一輝は思案する。一旦息を抜いて落ち着いたほうがいいだろうと考え、少々脱力していると…

 

「お飲み物、いかがですか…ってあれ?」

 

「あぁ…じゃあ一杯ください…って、あ…!?」

 

飲み物を売り子さんが持ってきてくれたようでお言葉に甘えて飲み物を貰おうと相手の方へと向き直るとそこには意外な…いやまぁそこまで意外でもないが驚きの人物がそこに居た。

 

「一輝さん!?…わぁ!久しぶりなのー!」

 

「フウ!?めっちゃ久しぶり!元気してたか?」

 

そこに居たのはアイネスフウジン。言わずと知れたお姉ちゃんウマ娘であり、数々のバイトをこなすバイト戦士でもある。全力を振り絞りまくる逃げを持って猛威を振るったが、ダービーを制した後に屈腱炎を患い現在は療養に努める傍らにバイトに専念しているようである。

 

「あれ!?フウ姉じゃん!」

 

「あぁ!さくらちゃんにおじさんおばさんも!はろはろー☆」

 

このやり取りからして気心知れた仲であるということは既に理解できるだろうがでは一体どういった関係なのか。そう疑問を感じた一人の乙女が極めて冷静に問を投げる。

 

「ああああの、アイネスさんと一輝ってしししりし、りしり…知り合い…?」

 

「落ち着きなさい、テイオー…

でも不思議な組み合わせですわね…もしかして以前から交流が…?」

 

訂正、全く冷静ではなかった。

焦りに焦ってしまいどもりまくっていたテイオーに代わり、マックイーンが質問をする。

特に秘密にするようなことでもない為、一輝は正直に返答する。

 

「あぁ、俺の中学の時の後輩だよ。俺が3年の時に1年生だったんだ。」

 

「色んな相談に乗ってもらったり、しあわせ湯のお手伝いとかもしてたの!

えっへへ〜、久しぶりに先輩って呼んであげよっか?」

 

「ハハッ!やめろよ恥ずかしいだろ〜!」

 

「え〜もう〜♪恥ずかしがっちゃって〜♪」

 

和気あいあいとする一輝とアイネスフウジン。そんなやり取りはただの同学の先輩後輩関係というには余りに色濃くきらびやかに見える。見る人が見ればほっこりとする光景だがそれを見ていたテイオーの心に浮かんでいるのははっきりとした焦燥だった。

 

(ど、どうしよう〜…!

たづなさんだけでも強敵なのにアイネスさんまで…このままじゃ………)

 

「…ねぇ、一輝さん!折角なんだしちょっとの間二人っきりで話さない?」

 

「ウェ!?」

 

「ああ、いいぞ!でも売り子の方はいいのか?」

 

「それなら大丈夫!バイトリーダーからは今の時間帯の休憩は自己判断で摂っていいって言われてるから!じゃ、行こっか!」

 

「ピエ…」

 

まずい、このまま二人を行かせた日にはどうなるか分からない。

もしかしたら、帰ってきた時に…

 

『俺たち…』『私たち…』

 

『『付き合うことになりました〜♡』』

 

なんてことになるのでは…!?

そんな結果になるのだけは絶対に阻止しなければならない。そのためにはまず、二人を行かせないことが最優先…

こうなったら離れようとしている二人についていってせめて恋バナにならないように誘導しなければならない。

そうと決まったら早速行動開始だ!

 

「ちょ、ちょっとまってよ!だったらボクも…フガッ…!」

 

「あ〜ら、勝ち逃げは許しませんわよテイオー…!」

 

だが、計画を実行に移そうとしたその瞬間にマックイーンに取り抑えられたことによって大きく出鼻を挫かれる結果となった。

何故こんな時にただのカードゲームに躍起になっているのか分からなかったが、マックイーンが耳元に直接届けた囁きが答えだった。

 

「焦る気持ちは察しますが、状況を考えなさい…

あの二人は久しぶりに再会した同学の士ですのよ、その二人の会話に貴女が混ざるのは余りに不自然でしょう…?」

 

「で、でも…でもさぁ〜…」

 

「どうせ幾つか順序をふっ飛ばしたような心配事をしてるのでしょう?

現実的に考えて急にそういったことになったりはしませんわ…ここは譲りましょう?」

 

「うぅ…」

 

マックイーンから説得され、一旦は納得しようと思ったがどれだけ理解しようとしても先程まで浮かび上がっていた悪い考えは簡単に取り払うことはできない。次第に納得しようとする心は小さくなっていき、やがてさっぱりと消えてしまう。

 

「やっぱりムリ!一輝!ボクも一緒に…!ってあれ?」

 

やっぱり多少不自然でも二人についていこうと先程まで二人が立っていた場所に目を送るとそこには既に二人は居らず、どうやらもうこの場を離れてしまっていたようだった。

 

「…………」

 

「あ〜…テイオー…?」

 

おそるおそるテイオーに声を掛けるマックイーン…

だが彼女は俯いたまま声を堕さないのでなんだか圧迫感のような恐怖を感じざるを得ない。

どうしたものだろうかと思案するマックイーンだったが…

 

「い……の………か……」

 

「え?」

 

どうやら小さな声で何かを呟いているようだ。その内容を聴き取るために耳を澄ませるがこの時やめておけばよかったとマックイーンは後に語ることになるだろう。何故なら…

 

「一輝の……!バカァァァーーー!!」

 

この場が京都レース場のど真ん中であることを忘れた大絶叫が自身のウマ耳の中を迸ったのだから…

この時、大きな音を流し込まれたことで意識が薄れそうになっているマックイーンの朦朧とした頭の中で浮かんでいたのは…

 

(恨みますわよ…たらし一輝さん…)

 

親友の想い人への恨み言だったという。

 

 

一輝side

 

バカーーー…

 

「テイオー…?何騒いでんだアイツ?」

 

「さぁ?なんでだろうね〜♪」

(あちゃ〜…なんだか勘違いさせちゃったみたい…あとで謝らないと…)

 

それにしても、急に二人で話そうなんて一体どういう風の吹き回しなんだろうか。

もしかして昔みたいになにか悩んでて皆に知られたくないから二人っきりになったのだろうか?

それなら早くその悩みを聞いてやらなくては…

 

「急に二人で話そうってのは、もしかして悩み相談か?それならそうと言ってくれれば…」

 

「う〜ん、あまり間違ってないかも!

でも相談に乗られるのはあたしじゃなくてぇ…」

 

そこで一旦言葉を区切ったアイネスは近くの自販機に近寄り、缶コーヒーを2缶買うとこちらに戻ってきて1つを一輝に渡しながらこう告げる。

 

「一輝さんの方なの!はいこれ!」

 

「え…?」

 

「で〜?何を迷ってるの?ライスちゃんがレースに遅れそうになってるのと関係あるのかな?」

 

どうやらアイネスは一輝の様子がおかしいように感じたことからなにか悩みを抱えているのではと思い至り、相談に乗るためにわざわざ二人になるように仕向けたようだ。

 

「え、は?…いやいや、俺は別になにも悩んでなんかないぞ?」

 

「ふ〜ん…でもムダだよ?

昔から嘘つくとお鼻がピクピクする癖、まだ治ってないんだね?」

 

「え!マジか!?もしかして大二達から分かりやすいって言われるのって…!」サッ

 

「ウ・ソ♪

一輝さんが分かりやすいのはただ単に顔に出過ぎなだけなの!」

 

「な!?おい、フウ〜!」

 

しかし、一輝は頼られるのに慣れすぎて頼るということをするのに抵抗が少しあるタイプなのでこういう風に一旦は虚勢を張ってしまう。だがそうすることも織り込み済みだったのかアイネスは一輝が素直になれるように機転を利かせる。

 

「ごめんごめん!でも隠すってことは思い当たる節があるってことだよね?」

 

「それは…」

 

「…あたしは今まで、何度も一輝さんに助けてもらった。だからほんの少しでもお返しがしたいの…駄目、かな?」

 

問を投げるかのような言葉ではあったがその実、断ることは許さないような凄みを感じさせる瞳をしていた。

人が頼りたくなるような朗らかな優しさとほんの少しの厳しさ、こんなところが彼女が皆のお姉ちゃんと称される由縁なのだろう。

その在り方を見ているとなんだかこっちが歳上の筈なのに姉がもしいればこんな感じなのかなと思えてしまう。

 

「そうだな。悪いけど聞いてくれるか?」

 

「…!えへへ~、ど〜んと任せてほしいの!」

 

 

 

 

数分後…

 

 

 

 

 

「なるほどね~、そんなことになってたんだ…」

 

「言い訳みたく聞こえるかもだけどさ、俺も信じてない訳じゃないんだ…

ライスなら大二を連れ戻してくれるって思ってる…」

 

すべての事情を話すのにはそこまでの時間を要せずほんの数分で語り終えた…

アイネスは全てを聴き終えるまで一言も発さずしかし表情は優しい笑みを崩さずにいた。おかげで少し話しやすかったように思える。

 

「でもさ、こんなにも心配な気持ちが溢れてくるのはさ…

心のどっかでライスに出来るわけないって…思っちゃってるのかなって…」

 

「……」

 

思えばあの時、さくらに言った言葉は半ば自分に言い聞かせていた側面もあったのかもしれない…家族のことを信じてやれない自分は家族の資格なんてないのではないか。

そんな考えから目を背けたくて出した虚勢の言葉にいつの間にか一輝は縋っていた。

 

「家族が大事だとか信じようとか言ってた俺が、実は一番家族を信じてないかもしれない…憐れだろ…?」

 

(一輝…)

 

一輝の中に宿る悪魔であり、相棒のバイスが心配の声を小さく上げる。

たとえ存在が繋がっていたとしても全てを把握しきれるわけではないということだろう。

いつも近くに居たからこそ一輝のことはなんでも知っているつもりだったが、いつの間にそんなに思い悩んでいたのか…

 

「な〜んだ、そんなことだったの?」

 

「…ん?どういうことだ?」

 

しかし話を聞き終えたアイネスがした反応はあまり気にも留めていないようなものだった。なんだか悩みを軽んじられているような気がして少しムッとしてしまうが、それを感じさせないように言葉を返す。

 

「大丈夫だよ、一輝さん!一輝さんはちゃんとライスちゃん達のこと信頼してるから!」

 

「どうしてそう言えるんだよ?」

 

「だってあたしも同じだもん!」

 

「はぁ?」

 

言っている意味がよく分からなかった。一体何が同じなのか、そして同じだからといって何故それがライスを信頼していることに繋がるのだろうか…

 

「最近ね、レースをお休みするようになってからはスーちゃん、ルーちゃんに走りを教えられる機会が増えたの…

友達とのかけっこもいつも一番なんだって!」

 

「へぇ、凄いな!そっか…

スーもルーもどんどん成長してるんだな…」

 

「でしょでしょ!

それにね、いつかお姉ちゃんと一緒にレースを走るんだって言ってくれてるの!

もう全力で相手しちゃうんだから!」

 

いつの間にか悩み相談から妹自慢に話が切り替わってしまった。自身の自慢の妹たちの話をするアイネスは先程の優しげな笑みとはまた違う得意気なやんちゃな笑顔を浮かべていたが、ふとするとその表情は真剣さを帯びたものになる。

 

「……でもね、たまに思うの。凄く厳しいレースの世界で、これからもあの子達は走ることを好きでいてくれるのかな…

どこかで大きな壁にぶつかって走るのが嫌いになっちゃわないかなって…」

 

「それは…そうだな…」

 

レースに限らず、スポーツの世界というのは酷く残酷なものだ。幼い頃から努力していたとしても上手く芽が出ずに消えていったり、寄せられる期待からくるプレッシャーに耐えられずに諦めてしまった競技者達の存在を一輝は知っている。

何を隠そう一輝だってその一人なのだから尚更だ。

 

「こんなふうに思うあたしは二人のことを信じきれてないんだって…今の一輝さんみたいに少し悩んだけど、そんな時にお母さんはあたしにこう言ってくれたの!」

 

 

 

 

 

 

「ただ信じてないだけなら、心配なんかしないはずよ…って!」

 

「!」

 

「一輝さんがライスちゃん達の心配をするのは、信じてないからなんかじゃないよ!

ライスちゃん達が大好きだから、大切に思ってるからなんだよ!」

 

信じてないだけなら心配なんかしない…確かにその通りだ。信用のない者のことなんて心配しない…ただ諦めてしまうだけだ。

アイネスの言葉は今まで疑っていた自分の家族への想いが確かなものであると考えさせてくれた。

 

「そっか…俺、ちゃんと信じてやれてたんだな…」

 

「えへへ…そうそう!

じゃあ次は、一輝さんが自分を信じる番!」

 

「うぇ…?」

 

「行きたいんでしょ?ライスちゃん達を助けに!さくらちゃん達には上手く説明しといてあげるから!」

 

そこまで見透かされていたとは思わなかった…というわけでもない。今までの一輝の口ぶりからしてそうしたいであろうことが読み取れるだろうし、何より一輝のことを知る者なら彼がとりたがる行動など簡単に予想がついてしまう。

近づき、ドンと一輝の胸を叩くアイネス…

 

「自分の助けたいって気持ち、疑っちゃ駄目だよ!」

 

「…ありがとうな、フウ。おかげで吹っ切れた…俺、行ってくる!」

 

言うや否や走り出す一輝。元プロサッカー選手志望の脚力はウマ娘に及ばないまでも凄まじく、あっという間に点に見えるほどに遠くへ行ってしまった。

結局のところ、彼がやりたいことは昔から一切変わっていない。誰かが困っているのなら自分のことを犠牲にしてでも助けずにはいられない、それが五十嵐一輝という男なのだから…

 

「いってらっしゃい…頑張ってね、一輝先輩…」

 

アイネスは激励をこぼすも、それはもう走り去って姿も見えなくなっていた一輝には届きはしなかったがもともと伝えようと思って出した言葉ではない。口に出していればある程度心持ちが軽くなるような気がしたのだ。

先程述べたように五十嵐一輝は、誰かのために自分を傷付けられる人間だから…

きっとこれからの戦いでも何か自分の大切なものを犠牲にしてでも人々の平和を守るだろう。正直に言えば、そんな戦いに身を投げ出して欲しくはない。でもそれが彼の本当にやりたいことならば、こちらが止める権利などありはしない。ならばせめてちゃんと送り出してやらなければ…この激励は謂わばそういう意味を込めたものでもあった。

彼の信念は聞き届けた、後やるべきことといえば…

 

「ああは言ったものの…なんて説明しよう…?さくらちゃんきっとカンカンになるの…」

 

それにテイオーの誤解も解いておかなければならない。

これから起こるであろう波乱を前にほんの少しだが気が重たくなるアイネスフウジンであった。

 

つづく…




赤石の話を分かりやすくいうとギフ様は人間に宿る悪魔こと悪性エネルギーが食糧ですが、ウマ娘のウマソウルは言ってしまえば善性エネルギーであり、ギフ様にとっては毒だということです。

さらに現代はウマソウルをより色濃く受け継いだウマ娘(史実馬と同じ名前のウマ娘)が多く存在するようになっていたのでギフ様も赤石も本編ほど大きく動けず、不意を突かれたり、フェニックスも存続しているなどといったある程度平和な膠着状態が続いたというわけなのです。
時系列がおかしく見えた原因のこじつけはこんな感じですが、納得していただけるかは少し不安ですね…


そういえばこれは裏話なんですけど、大二君が新たに設立したのがフェニックス改めブルーバードですよね?

実は最終話を迎える前からライスこと仮面ライダーローゼスの強化アイテムの一案として
『ブルーバードバイスタンプ』
なるものを構想していたんですよ!

幸せの青いバラの元ネタであり、ツーサイの強化アイテムであるウイングバイスタンプ系と同系統ですからピッタリだと思って!

だから本編でそのワードが出たときは絡めやすくなる!
と興奮したものでした!


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

番外編 もし、バンマニにアンビバレンスドライバーが紹介されたら…












『バンダイマニア!』

 

「がちょんがちょん!どーも、が○ょすです!」

 

 

「元気もにもに、も○ちゃんです!」

 

 

 

「今日紹介するのは…こちら!」

 

 

「プレミアムバンダイ限定…

『DXアンビバレンスドライバー』です!」

 

 

「この度!ライスシャワーちゃんが仮面ライダーローゼスに変身する為のアンビバレンスドライバーがプレミアムバンダイ限定で登場しました!」

 

「作中3人目の女性ライダーにして、初の!

ウマ娘が変身する仮面ライダーなんだよね!」

 

「そうなんです!変身者のライスちゃんがホントに可愛くて、大好きなんですよね〜!

なにより、本編での大二との関係性とかね!

尊いとしか言いようがないですよ!」

 

 

「確かに!私も本編見ててキュンキュンしちゃったもん!」

 

 

「ほんとにね〜…

こちらのアンビバレンスドライバーですね、なんと!

変身や必殺技の音声はもちろん、ライスちゃんのボイスもなんと収録されております!」

 

「わぁ!楽しみ〜!」

 

「それではこれをね、も○ちゃんに変身してもらいながら紹介していきます!」

 

「それでは早速…」

 

「「やっていこう!!」」

 

 

『バンマニ!』

 

 

「えー、セット内容の方なんですが今回ね、アンビバレンスドライバー本体とブルーローズバイスタンプ、そしてエレファントバイスタンプが入ってます!

それではまず、アンビバレンスドライバー本体から見ていきましょう!」

 

 

「ツーサイドライバーと形は凄くそっくりなんですが、見てください!

ガンモードとブレードモードのモールドが全然違ってて、まるで茨のような意匠になっています!」

 

 

「色味もツーサイドライバーから変化していて、ライスちゃんの勝負服をイメージした黒と紫に藍色といったカラーリングになってるし、それにほら!オーインジェクターに描かれてるライダーズクレストも全然違う、ローゼスの正面と薔薇を組み合わせた感じになっております!」

 

 

「ここでツーサイドライバーを横に並べて見てみるとその違いがよ〜く分かりますね!」

 

 

『バンマニ!』

 

 

「続いてはブルーローズバイスタンプを見ていきましょう!」

 

「こちらをよく見てみるとボルケーノバイスタンプと非常に似た形状をしてるんですが、連結部分がなくなってたり、正面の炎のクリアパーツが青い薔薇のような形状になってたりと、以外と新規造形が多いです!」

 

「押印面はこのようになってて、綺麗に咲いた薔薇が大きくデザインされています!」

 

「こちらも今までのバイスタンプと同じく天面のボタンを押すことで起動音が鳴ります!

鳴らしてみましょう…」

 

ポチッ

『ブルーローズ!』

 

「このような起動音が鳴ります!更に天面のボタンを長押しすることで仮面ライダーローゼス、ライスシャワーちゃんの劇中台詞も楽しめちゃいます!いくつか聞いていきます!」

 

 

ポチ−

『お兄様!……一度、思いっきり喧嘩してみよっか…』

 

ポチ−

『人は変われるし、変えられる…それを望んで行動する人が居る限り…絶対に…!』

 

ポチ−

『ライスだって…ううん…

"私"だって…咲いてみせる!』

 

ポチ−

『変身!』

 

 

 

「ぐぅあっ…めちゃくちゃいい〜!

初変身シーンを思い出して凄く感動してます!」

 

「あのシーンは作中でも屈指の名シーンですからね!

孤立してしまった大切なお兄様である大二を取り戻す為の覚悟の変身、それを感じられる素晴らしい仕様になっています!」

 

「では!ここからが本番!

仮面ライダーローゼスに変身していきたいと思います!」

 

ポチッ

『ブルーローズ!』

 

ガチャッ

『regain hope…! regain hope…!』

 

カチッ

『レイスアップ!!』

 

『bering… blessing… blooming…!』

 

『仮面ライダーローゼス!』

 

 

「仮面ライダーローゼスに変身できましたー!」

 

「イイですね~相変わらずも○ちゃん、しっかり変身ポーズを練習してきたみたいでね!めちゃくちゃキマってました!」

 

「そりゃもちろん!変身音もね、ツーサイドライバーと対比になってて、それでいてライスちゃんらしさが現れた完璧なサウンドでした!

 

それでは続いて、必殺技をやっていきたいと思います!

アンビバレンスドライバーにはツーサイドライバーと同じくそれぞれのモード別に必殺技があるので、まずそちらを見ていきます!」

 

ポチッ

『必殺認証!』 〜♪ 〜♪

 

カチッ

『ブルーローズ!チェイサーファング!』

(爆発音)

 

クルッ…ガチャッ

『ガン!』

 

ポチッ

『必殺認証!』 〜♪ 〜♪

 

カチッ

『ブルーローズ!チェイサーレイン!』

(爆発音)

 

 

「ということで2種類の必殺技をやってみました!

ブレードモードの状態でバイスタンプのボタンを押して発動するブルーローズチェイサーファング…

そしてガンモードの状態でボタンを押して発動するブルーローズチェイサーレイン…

どっちも物凄くカッコいいです!

 

そしてさらに、アンビバレンスドライバーにはツーサイドライバーにはないゲノムウェポン生成機能という特殊なギミックが存在しているんです!

実際に付属しているエレファントバイスタンプで試してみましょう!」

 

クルッ…ガチャッ

『リード!』〜♪ 〜♪

 

ポチッ

『エレファント!』

 

スッ…

『ドレイン!』〜♪ 〜♪

 

カチッ

『アームズアップ!エレファント!』

 

 

 

「はい!ゲノムウェポンの生成が完了しました!これで作中にも出てたあの大きなオノが出現します!」

 

「おお〜!ライスちゃんのウマ娘パワーで振り回される大迫力のシーンが印象的です!」

 

「ね〜!

でもね、ギミックはまだまだあるので余す所なく見せていこうと思います!

必殺技の操作とゲノムウェポン生成の操作を組み合わせることで必殺技を超えた超必殺技を繰り出すことができるのでやってみましょう!」

 

 

クルッ…ガチャッ

『リード!』〜♪ 〜♪

 

ポチッ

『必殺認証!』 〜♪ 〜♪

 

カチッ

『ブルーローズ!チェイサーフィニッシュ!』

(爆発音)

 

 

 

「はい、というわけで超必殺技をやってみた訳なんですけど!

いやー、あのライダーキックが頭に浮かんだね!」

 

「うん、もうね…

造形や意匠が似通っている所があったり、組み合わせるギミックがあったりとホントにこのベルトとスタンプはセットで使うものだってことが強調されてる様な気がします!」

 

 

 

 

『バンダイマニア!』

 

「今回はDXアンビバレンスドライバーを紹介していきました!」

 

「というわけで、も○ちゃん感想お願いします!」

 

「いや〜めちゃくちゃよかった!最高だった!変身音も必殺技もカッコ良かったし、何よりライスちゃんボイスの可愛さよ!」

 

「ね〜、大二と喧嘩してるボイスもあってね!

是非、この商品手に入れて遊んでみてください!

それではまた次回の動画でお会いしましょう!せーの…」

 

 

「「バイバ~イ!」」

 




絶対プレバン行き(断言)

皆さんお久しぶりです
まだ本編が時間かかりそうなので番外編を投稿しておこうと思います!

こんなかんじになるんじゃないかな〜と思って作ってみました。


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

未来への両翼 前編




皆さんお久しぶりです、お待たせしました。
お待たせしすぎたのかも知れません。

前後編仕様で仕上がっておりますが、このタイトルでもう何が起こるのかわかる人もいるでしょう!ご期待ください!

最初の人物…一体何ロウなんだ…!?

ギーツも早いことでもう6話ですが、次はまさかのラストゲーム!?
一回のデザグラでこのスパンなら一体何回やるのでしょう?





????side

 

暗い

 

暗い…

 

どこまでも漆黒の闇が広がるこの寂しげな空間の中で俺は何をするでもなくただ彷徨い続けていた。

なんの面白味もない場所だが、

あのアホがさっさと素直になって泣きを見せるか…

もしくは俺が認める程の覚悟を決めるかするまではここにずっと居続けなきゃならねぇ。

まったく…自分で決めたこととはいえ嫌になるぜ。

 

ん?俺が誰かって…?

ハハハ…そんなもんお前らなら大体予想付いてんじゃねぇのかァ?

ほら、お前らがずっと会いたがってたやつだよ!

俺がそう簡単に消えるわけねえだろ?

まぁもう少し待ってろ…

今、『外』の気色が変わってきてる。

もしかすればもっとすげぇものが見れるかもしれないぜ?

 

大二、ここが根性の見せ所だ…

あんまり期待しないでおくからよ…

 

大二・ライスside

 

『ウイニングジャスティスフィナーレ!』

 

『ブルーローズ!チェイサーレイン!』

 

大二とライス、二人の必殺の銃撃が赤石によって召喚された大量のギフジュニアを纏めて一掃する。いくらかの時間が経って少なくない数のギフジュニアを倒した。

今の必殺技を行なった時点でようやく殲滅完了したのであった。しかしこのままギフジュニアを召喚され続ければジリ貧、やがてこちらが先に限界を迎えてしまうだろうということが容易に理解できてしまうために徐々に焦りが募り始める。

 

「ハァ…ハァ…ライス、大丈夫か…?」

 

「う、うん…ライスは平気…でも…」

 

「素晴らしい、やはりあれほどの雑兵など君には取るに足らないようだ…」

 

未だ諸悪の根源を断つことはできておらず、赤石は未だ健在。赤石自身の戦闘能力を鑑みても超長期戦を回避することはできない、それどころか生きて帰れる保証すらない。

 

「…ライス、君は行ってくれ!もうレースまで時間がない…」

 

「ダメ…!お兄様を置いて行けないよ!」

 

こうなったらレースの時間が迫っていることを口実にライスだけでも離脱させようと思ったが、それをライスシャワーが了承する筈もなく

その提案は否決されてしまった。

 

「この状況でレースの心配とは随分と余裕のようだ…ならこういった趣向はどうかな?」

 

そう言うと赤石は右手の手袋を外して天へと掲げる、するとその腕の先の空に突如として大きな穴が開けられた。

その穴の先にはなんだか禍々しい赤黒い空間が広がっているのが分かるがそんなことは重要ではない。何故ならその穴の中には色違いのギフテリアンが群れを成していたのだから。

あれが全て解き放たれればこちらのさらなる消耗は必至、もしかすれば近くの京都レース場にも被害が出る可能性が出てくる。

なんとしてもそれだけは回避せねばならないと身構えているとその悪魔の群れは予想外の行動を取った。

 

「…え?……あれ…なに?」

 

「なにが…起こってるんだ…?」

 

なんとギフテリアン達は外界に飛び出すことはせず、やがて一匹残らずその身体を泥のように崩してしまったのだ。一体何がしたいのか分からず困惑していると、やがてその泥は収束していき一つの球状の物体へと変化した。

大二はその光景から何が起こっているのかを察知し、それだけはさせまいと穴の中の球体に向かって銃撃を放つ。

 

「もしかして…!させるか!」ドンドン!

 

「お兄様…!?」

 

その銃撃は確かに球体に直撃するも、傷ひとつ付いておらず対した効果は得られていないことは明白だった。

呆然としている間に球体は更に変化を続け、やがて人型の形状になる。

どうやら恐れていたことが現実になるようだ。ギフが自らの力で直接生み出した色違いのギフテリアンはギフスタンプを人間に押印して生まれるギフテリアンとはその戦闘力は大きく異なる。勿論ギフから直接生まれた存在が弱い筈はない、その唯でさえ強力な色違いのギフテリアンが集約し、形状を変化させ、人型になったとなれば考えられる可能性は一つ…

より強力なギフテリアンの上位個体の誕生だろう。

 

「おはよう、ヘルギフテリアン…」

 

はっきりと形を成した、まるで悪鬼のような形相を浮かべた異形の降り立つ姿は今までのギフテリアンのような目の前の御馳走にむしゃぶりつくために勢いよく飛び出す様な真似はしなかった。

ただ冷静的に、まるでフライトからゆっくりと降りてくる役人のようなどこか厳かな印象を与えるものだっただけにそれが今まで敵のそれとは格が違うことを思わせ、心に恐怖をちらつかせる。

 

「愚かな人類、愚かなウマ娘…その意味無き生に終焉を…」

 

この瞬間産まれいでた異形、ヘルギフテリアンなる存在はそう言葉にするや否やその場からライスの目の前に一瞬で移動し、腕を振り上げる。

まずい…!

 

「逃げろ…ライスっ!!」

 

『アームズアップ!エレファント!』

 

「大丈夫…これくらいなら!」

 

ライスは突然目の前に現れたヘルギフテリアンにもウマ娘の優れた五感による脅威的な反応速度で対応。

エレファントバイスタンプをすかさずスキャンし、形成したゾウノマサカリを盾にするように構える。

 

ガァァァァン…!

 

「ぐぅぅ……!」

 

ヘルギフテリアンの攻撃の威力は凄まじく、ライスは体勢をそのままに数十メートルは吹き飛ばされたがゾウノマサカリを盾にしていたことと、ローゼスはその華奢な風貌とは裏腹に高い防御力を誇るという特徴を持っていたおかげであろうか、ライスが深刻なレベルのダメージを負ってしまった様子は見られなかった。

その事実に思わず安堵の感情が込み上げそうになる大二だったが、相手を倒せたわけではないとすぐに思い直す。

案の定ヘルギフテリアンは次は大二に狙いを定め、先程と同じようにまさに瞬間移動と見紛うスピードで迫ってくる。大二は警戒を怠らず、常に相手の動きを注視し迫りくる凶刃を回避し続ける。

さっきのライスへの攻撃の威力から考えてホーリーライブがあの攻撃を喰らうのは非常にまずい。下手をすれば一発で変身を解除させられる可能性もあったかもしれない。

 

「……」ブンッ…! ブンッ…!

 

(こいつ、スピードは速いけど攻撃自体は大振りで単調だ…これなら!)

 

やはり多少知性はあれど、目の前の敵は今産まれたばかりの謂わば赤ん坊だ。

回避はそう難しいことではない。だが先程も言った通り、如何せんスピードが速いのでこちらが反撃できる時間がなかなか訪れない。しかし大二は焦らない、何故なら態勢を立て直して此方へ向かってくる頼もしい味方の存在を察知しているからだ。

 

『アームズアップ!キツネ!』

 

「えい…!」

シュボボボ…ヒューン…ヒューン…!

 

「ぬぅ…!」

 

「(今だ…!)ハァァァァっ…!」

ドンドン! ジャキンジャキン!

 

背後からのライスの攻撃を察知し、大二への攻撃を中止して回避に徹し始めるヘルギフテリアン。しかしそれは大きな隙となり、それを見逃す大二ではない。

すかさずライブガンの銃撃とフェザングラウムの斬撃を連続で叩き込む。

途中に苦し紛れの反撃が来るが怯みながらの攻撃に自慢のスピードと威力が乗るはずもなく、苦もなく攻撃を繰り出した腕を掴み、投げ技をかけその要領で脚で踏みつけ拘束することに成功。

 

「(このまま…!)これで終わりだっ…!」

 

『必殺承認!』

『ホーリージャスティスフィニッシュ!』

 

脚元で藻掻いているヘルギフテリアンに対して必殺の高出力チャージショットを至近距離でぶち込む。

これではどんなに堅牢な装甲を持っていようが意味はない。

上半身が跡形もなく蒸発し、完全に生命活動を停止したのを見届けた。

 

「やったね…お兄様!」

 

「あぁ、でもまだ油断はしちゃ駄目だ。」

 

それにしてもあんなに勿体ぶって登場しておきながら随分と呆気なかったように感じる、だがなんてことはない。自分とライスの二人を相手にするにはあいつら自慢のヘルギフテリアンでは役不足であっただけの話だろうと大二はそう当たりを付けた。

 

「後はお前だけだぞ赤石、大人しく投降しろ…」

 

ライブガンを向けて威嚇しながら、赤石へと近づき警告を投げる大二。

しかし、銃を向けられている当の本人は相変わらず不敵な笑みを浮かべ続けているだけだ。

もしかしてまだなにか隠し玉を用意しているのだろうか。その可能性を考えて最大限の警戒をしながら赤石を常に見据える。

 

「駄目だよ、大二君…

油断はしてはいけない、先程自分で言ったことじゃないかぁ…」

 

「どういう意味だ…!」

 

「ふふふ…後ろを見てみるといい…」

 

「?………な!?」

 

目線を外すことは躊躇われたが、赤石の声色はこちらを小馬鹿にしているものではあるが不気味にも嘘をついているようにも思えなかった。細心の注意を払って振り返ってみるとそこには…

 

「…?」

 

不思議そうにこちらを見つめて首を傾げるライスと…

 

グォォォ…

 

その背後で半身を完全に消し飛ばした筈のヘルギフテリアンが五体満足の姿で立ち上がり、そのままライスに攻撃しようとしている姿があった。

 

「ライスっ…!!!」

 

大二は吠え、駆け出し、やがてイノセンスウイング…翼を広げて飛翔する。ホーリーライブが出せる限界まで速度を上げ、全霊をかけてライスの救出に動く。

だが相手は既に腕を振り上げており態勢は万全、間に合うかどうか…いや、間に合わせる!

 

「どうしたの…キャッ…!?」

 

ガァァァァン…!

 

「ぐぁぁあぁぁ…!」

 

間に合ったには間に合った。だがなんの代償もなかった訳ではない。ライスの所に辿り着いたのは良かったが、離脱する暇は当然なくその身を守るべく抱き締めて庇うことで大二はその攻撃を背中にもろに喰らってしまった。数十メートル吹き飛ばされたところで動きが止まる。

 

「ぐっ…ガハッ……あ…ああ……」

 

「お兄様…!大丈夫!?お兄様!」

 

翼を含めた背中の装甲はひしゃげ、内部が露出してしまっている、そんな状態で変身が維持できる訳もなく大二は変身を解除させられてしまった。だが、たとえ満身創痍でも大二は思考を止めることはしなかった。

何故ヘルギフテリアンはその生命活動を再開し、攻撃を仕掛けたのか。

いや、そもそも吹き飛ばしたはずの上半身が何故再生されているのか…

何もかも分からないことだらけだ、だがその疑問に当人のヘルギフテリアンが間接的に答える言葉を吐いた。

 

「私はギフ様の化身、この肉体は無限なり…」

 

その言葉を聞いて合点がいくと同時に自分の馬鹿さ加減にむかっ腹が立つ。

赤石が言っていたではないか、自分はギフの恩恵によって不死となり長年人類の歴史を観測してきた存在なのだと。吹き飛ばした上半身をも復活させる脅威の再生能力、それはもはや実質的な不死だ。

誕生の経緯からしてギフの因子を色濃く有しているであろうヘルギフテリアンにもそれに類する能力があったとしても不思議では無い筈…

あらゆる可能性を考えて行動すべきだったと心の中で猛省する。

しかしどうすればいい、いくらダメージを与えたところでそれを再生されてしまえば意味はない。何かあの再生能力を無力化する方法さえあれば…

 

「………お兄様はしばらく休んでてね…」

 

そう思案していると腕の中に居たはずのライスはいつの間にか抜け出して、戦闘準備を整えていた。まさか一人で戦うつもりなのだろうか。

 

「ライス、駄目だ…君だけじゃ…!」

 

「ううん、大丈夫…だからそこで見てて。

予想が当たってればライスは、あの人にちゃんと勝てるから…ハッ!」

 

『アームズアップ!オオカミ!』

 

ライスはそう言いながらオオカミバイスタンプをリードし、クレッセントヴォルフを左手に顕現させ二刀流の状態で相手へと突撃していく。ヘルギフテリアンはそれを黙って見ている訳はなく、真正面から向かってくるライスを構えながら迎え撃つ。

近づいていく両者、それが重なり合う瞬間にヘルギフテリアンの方がいち早く攻撃を仕掛ける。しかしライスはその小さな体躯を活かしてヘルギフテリアンの股下をスライディングで通り抜け、瞬間二刀で脚を斬りつける。

思わず怯むヘルギフテリアンをすぐさま体勢を整えたライスが畳み込むように連撃を刻む。ヘルギフテリアンも負けじと反撃するもライスはクレッセントヴォルフの刀身の腹を使って軌道を逸らし、がら空きの胴にカウンターを打ち込む。

鬼神の如き苛烈な追い上げ、動きに一切の迷いも隙も無駄もない…

自分との戦いでは手加減でもしていたのではないかと錯覚してしまうほど猛々しく、それでいて美しい戦い方だった。

 

「まるでレースを走っている時みたいだ…」

 

ウマ娘の本能が一番活性化するレースの間、ライスはいつもの可憐な少女から他者を畏怖させる程の気迫を持った刺客へと変貌する。

きっと今彼女は一番強いと思う自分を引き出しながら戦っているんだろう。

しかし相手は無限の再生能力を持つヘルギフテリアン、いくら追い詰めたとしても再生されてしまっては意味がない。先程与えたばかりの傷ももうすぐ回復されてしまうだろうと思っていると眼の前に広がる光景は予想外のものだった。

 

「グッ…グァ……ア………」

 

「傷が、再生しない…?」

 

「やっぱり…!」

 

努めて冷静に振る舞っていたライスはその事実を目の当たりにして喜色を孕んだ声を上げる。一体何故ライスが与えたダメージは回復されることがないのだろうか。まさかライスの変身するローゼスシステムにはなにかそういった機能が搭載されているのか?

 

「お兄様、赤石さんの話を思い出して…

 

あの人の…傷付いた左手の話を…」

 

「はっ!そうか…!

奴の不死とヘルギフテリアンの再生能力は元々はギフから与えられたもの…

そしてそれを阻害し無力化できるのは…」

 

「そう、ウマ娘に宿る…ウマソウルの力!」

 

赤石の話をよく思い返す。赤石はギフの恩恵によって不死となっていたにも関わらず、ウマ娘と接触を持っただけでその身に残る程のダメージを受けていた。それはギフと相容れない、ウマ娘に宿る魂、ウマソウルの影響によるもの。だからライスの攻撃はヘルギフテリアンにダメージを残すことに成功していたのだ。これならもしかすれば…いや、きっと確実に…!

 

「ライス、君なら…勝てる…!」

 

「!…うん!」

 

ライスは一際に喜びの籠もった声を上げると同時にヘルギフテリアンに追撃を仕掛ける。傷を回復することもできずにいるヘルギフテリアンは既に先程の猛攻で満身創痍、ライスの二刀を用いた華麗なる剣舞の前には手も足も出ない。ヘルギフテリアンはやがて力尽き膝を付く、もはや虫の息のそれにライスはとどめを刺すべく必殺の一撃をおみまいする。

 

『必殺認証!』

 

「ごめんね、貴方にもし来世があるのなら…

きっと、素晴らしい人でありますように…」

 

『ブルーローズ!チェイサーファング!』

 

「グ……グアアァァァァッ……!!!」

 

その言葉とともにヘルギフテリアンに手向けられたのは誰よりも優しく、それでいて鋭い必殺の牙…

彼女にその道行きを偲ばれたあの怪物はそれに幸せを感じていただろうか。きっとそんなこと考えてなどいないだろう。あいつらの頭の中にあるのはどこまでいっても自らの敬愛するギフへの忠誠だけだろうから。

ヘルギフテリアンは爆散し、そして二度と蘇ることはなかった。兎にも角にもこれで正真正銘あとは赤石だけだ、だがライスならばきっと勝てる筈だ。なら自分は少しでも多くライスの攻撃が赤石に届くように最大限にサポートをしなければ…

 

「ライス、あともうひと踏ん張りだ…!

俺ももう一度加勢する…!」

 

『ホーリーウイング!』

 

「!…駄目だよ!お兄様はまだやす───」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

声が

 

途切れた…

 

一輝・バイスside

 

強く地面を踏みしめるたびにおおきく足音が響いていく。そのリズムの狂いの無さからはその者の身体能力の高さを如実に表していると言えるだろう。その芸術ともとれるような走りをしながら一輝はその歩を進めていた。

今、一輝は京都レース場の緑の広場に急いで向かっている。

ライスからどこで戦うのかは事前に聞かされていたから間違いないだろう。一度戦闘の音が途切れたにも関わらず、今はまた大きな戦闘音が響き続けている。なにかあってまた戦い始めたのだろう。二人が改めて衝突したのかあるいは…

 

「誰かに襲われてるかもしれない!バイス!急ぐぞ!」

 

(応よ!オレっち達がカッコよく助けてやんねぇとなぁ!)

 

そう気合を入れ、より迅速に向かうために脚の力を強めようとした時、ふと声が聞こえた。

それは十数年前に一度五十嵐家を襲い…いや、もっとそれ以前に自身の父と母を苦しめた厄災と同じものだった。

 

「随分と急いでいるようだな、坊主…」

 

建物の柱に寄りかかる様に立つ厄災の名はベイル。

バイスとよく似た姿をした悪魔だがその精神性はとてもではないが似ても似つかない。黒い体に真っ赤なラインの入ったその身体はまるで返り血に染まった怪物だ。

元々は父、五十嵐元太の悪魔にしてかつての相棒であったが今は袂を分かち赤石やギフの尖兵へと成り下がっている。本当ならば即座に倒してしまいたい存在ではあるのだが、それはできない。

詳細は省くが、簡単に言えばベイルの存在が元太の命を支えていると言える状態にあることがその原因だ。

宿主の死=悪魔の死であることは大前提だが、ベイルと元太の場合に限りその逆が当て嵌まってしまう。

戦闘においてどうしても二の足を踏まされるため、こいつとの戦闘は苦手分野だった。

 

「ベイル…!なんでこんなところに…!」

 

「聞かなくとも分かるだろ…?俺の目的はあの頃から何一つ変わっちゃいない…」

 

「…まだ父ちゃんに固執してるのか…!」

 

25年前…

五十嵐元太こと白波純平は母の五十嵐幸実と一緒になるために、そして自分から生まれた悪を断つためにノアやベイルと決別した…

そしてベイルはそれを許さず、自分を捨てた嘗ての相棒に復讐しようとしているのだ。

 

「大人しくお前の父親を差し出せ…今度こそ俺を裏切った報いを受けさせてやる…!」

 

「…違うな、父ちゃんがお前を裏切ったんじゃない…お前が先に父ちゃんを裏切ったんだ!」

 

『レックス!』

 

一輝は吠え、そして相棒を呼び出す為にバイスタンプを自分に押印する。すると一輝の体から彼の相棒のバイスが出現し、そして共に変身を開始する。

 

「行くぞ、バイス!」

 

「ああ!今度こそケリを着けてやるぜぇ!」

 

『ギファードレックス!』

『ギファードレェックス!』

 

それぞれサイドSとサイドNに分離させたギファードレックスバイスタンプを二人は自分用のリバイスドライバーに押印し、

 

『ビックバン!Come on!ギファードレックス!』

『ビックバン!Come on!ギファードレックス!』

 

「「変身!」」

 

『アルティメットアップ!』

 

『溢れ出す熱き情熱!』〜♪

『Overflowing!』『 Hot passion!』

『一体全体!表裏一体!宇宙の力は無限大!』

 

『仮面ライダー…リバイ!バイス!』〜♪

 

『Let's go!Come on!』

 

『ギファー…ギファー…!ギファードレックス!』

 

そしてバイスタンプをセットと同時に傾けると、二人の背後に巨大なティラノサウルスのエネルギー体が実体化、一旦レックスゲノムに変化した二人を飲み込むように噛み付くことで、上から特殊なスーツが装着され変身が完了する。

これこそ一輝とバイスが変身するものの中でも最強の姿、アルティメットリバイスである。

その力は諸悪の根源たるギフと完全に同質のもの…まさに禁断の力をその身に宿した究極の形態と言えるだろう。

戦闘準備を整えた一輝とバイスのコンビは目の前の障害を倒すべく特攻する。まずはバイスが猪突猛進、開幕の先制攻撃を仕掛けるもベイルは焦った様子を見せず片手でいなして回避する。そこへすかさず一輝が叩き込まんと振るった拳を既のところで防御する。一輝とバイスのコンビネーションは攻撃の波を途切れさせることなく続いていく。それだけでも彼等の連携力の高さを思わせるがその猛攻を受けてもされるがままにならず、対抗し続けることができているベイルもまたいかに洗練された戦闘技術であるかを伺うことができるだろう。

 

「今はお前に構ってる暇はないんだ!」

 

「そうつれないことを言うな、仲良く遊ぼうじゃないか…家族みたいに!」

 

「ふーんだ!!

お前なんか家族でもなんでもないっつーの!」

 

攻防と問答を繰り返す中で、ベイルはふと思いに耽る、赤石から言い渡されたおかしな依頼についてだ。

 

『もし、他のライダーが出しゃばるようなら足止めをしておくこと』

 

この要求には一体どのような意味があるのか、直接聞いてみたが要領のある解答を得られたとはとても言えず、ただ面白いものが見れるだろうということしか話さなかった。ちょっとした暇潰しのつもりで請け負ってみたがこれでしょうもないものを見せられた日には溜まったものではない。

ベイルはこの場には居ない協力者に対して、届かない警告をするのだった。

 

(俺を満足させなければタダでは置かんぞ、赤石…!)

 

 

 

つづく…



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

未来への両翼 中編



大変長らくお待たせしました…取り敢えず生きております!

ちょっとモチベが低下してしまったので少しの間執筆から離れておりましたが、現在放送中のギーツや映画やウマ娘の新情報のおかげである程度モチベが戻ってきたので続きを投稿します!

アイネスフウジンの声優さん、変わってしまうみたいですね…
でも、これから新しいアイネスフウジンを演じて下さる方には頑張って頂きたいですね!




五十嵐家side

 

数多くの人々でごった返す京都レース場…

その中には食事を摂っている者、予想を話し合い盛り上がっている者、ゲームをして暇を潰している者など様々な様相を見せているが、それと反してその心中にある事柄は一致している。彼等は今日ここで行なわれる筈のレースの開始を今か今かと待ち侘びているのだ。

しかし何故かいつまで経ってもレースが開始されずそのせいでレース場の空気がピリつき始めてきているのだがそれとは別の件でまた心穏やかではない者がそこにひとり…

 

「………………………………」ジ~

 

「…あ、アハハ………えっと……うぅ…」

 

威圧感を御気に入りのはちみーのように固め濃いめ多めダブルマシマシで隣で座っているアイネスフウジンに対してたっぷり御馳走しているのは名ウマ娘の一人、トウカイテイオー…

一応アイネスフウジンは年上であり、敬って然るべき先輩なのだがそんなことは恋する乙女にはお構いなし。

人の恋路を邪魔する者あれば蹴っ飛ばしてでも排除するのがウマ娘という生き物の性だ。天真爛漫を絵に描いたようなテイオーであったとしてもそれは変わらない様である。

 

「…ねぇ、アイネスさんは一輝とどういう関係なの…?」

 

「え?…いやだから、さっきも言った通り同じ中学の先輩後輩で…」

 

「それにしてはすっごく仲良さげだよね…二人っきりでどっか行って秘密のお話したりしてさ…」

 

「え、えぇと…えっとね…?」

 

変わらず威圧感を放ちながらも、鋭い目つきで質問を繰り返すテイオー。その威風に完全に気圧され、アイネスの冷や汗は止まらなくなってしまう。

もし下手な回答をしようものなら市中引き回しも辞さないからな、帝王を無礼るなよというメッセージが無言の圧の中に内包されているのが容易に想像できる。

もしあの質問が飛び出してしまったらと思うとアイネスは気が気ではなかった。

 

「…もしかしてアイネスさんってさ…」

 

「な…なに…?…(まさか!?)」

 

「一輝のこと、好きなん…(ガンッ!)…いっだ!?」

 

「いい加減になさい、このおバカ…

今の貴女は余りに不躾がすぎますわよ?」

 

「イッタァイ…」

 

しかしそのテイオーに拳骨をお見舞いし、見事完璧に収めてみせたのは彼女の親友にして先程まで何故か気絶していたメジロマックイーン。おかげでテイオーが纏っていた威圧感は霧散され、元のトウカイテイオーに戻ってくれたようだ。

最大限の感謝の意を込めた目線を送るとマックイーンは困ったような苦笑いを浮かべる。少なくともこれで怯えながら話をする必要はなくなったと見てアイネスは言葉を紡ぎ出す。

 

「あのねテイオーちゃん…心配しなくても一輝さんとあたしはそういう関係じゃないし、そうなる予定もないから安心してほしいな!」

 

「うぅ、それほんと…?」

 

「うん!一輝さんは大事な人だけど、それはあくまで友達として!

むしろテイオーちゃんのこと応援するし、できる限り協力もするの!」

 

その言葉を聴いたテイオーの心に一筋の光が指す。アイネスフウジンが協力してくれるというのなら、それは今まで彼女に抱いていた危惧がそのまま自分のアドバンテージに変化するということと同義だ。

これなら現在の劣勢気味の恋のダービー、逆転で差すことも夢ではないかもしれない。

 

「そ、そっかそっか…えへ、えへへへ…////」

 

「(よかった、喜んでくれてるみたい…)」

 

正直に言えばアイネスは自身が一輝に対して抱いている感情がどういうものなのか図りかねていた。一輝のことを説明しようとするとただの先輩というのはなんだか引っかかりを覚えるし、親友というのも近いようでなんだか違うなとも思ってしまう。

先程投げかけられそうになっていた質問に対して危機感を感じていたのはそれが理由だ。自分でも把握しきれていない感情であるが故にしっかりと納得してもらえる芯を持った解答をすることができるとは到底思えなかった、だからその質問が来ることを恐れていたのである。

しかし、そんな疑問もどうやら瑣末事だったのだろうと今更ながらにアイネスは結論づける。

 

「(だって…一輝さんのことを好きだったら、こんなテイオーちゃんを見て焦らない訳ないもんね…)」

 

愛する人との明るい未来を思い浮かべ、悦に浸っているテイオー…その姿はまさしく可憐。

こんな女の子に想われているであろう人がもし自分の想い人であったなら、多少なりとも焦燥を感じるのが乙女として自然というものなのだ。

だが、それを目の当たりにしてアイネスが感じているのはこんな娘に想われている一輝が羨ましいという気持ちと二人が結ばれ、幸せに笑い合う未来を夢想した際の多幸感のみであった。

これすなわち、自分は一輝に恋い焦がれているという訳ではないということの証左だ。

さて、協力すると決めたのならテイオーには自分が出来得る限りのアドバイスをしてあげるべきだろう。

さしあたっては彼の好きな食べ物の話でもしようかと思っていると…

 

ピンポンパンポーン……

 

『現在、出走予定のライスシャワー様の御到着が大幅に遅れているため、レースの開始時刻を延期させて頂きます…繰り返します。現在、出走予定のライスシャワー様の御到着が………』

 

「お、おい…どうしたんだろうライスシャワー…何かのトラブルか?」

 

「何度かでかい音が聞こえたけどなんか関係あんのかな…」

 

「というかなんで延期?失格にしてさっさと始めればいいじゃん?」

 

「まぁ流石に一回も延期なしに失格はあんまりってなったんだろ多分…」

 

その突然のアナウンスに騒然とする観客たちはそれぞれ思い思いの言葉を口にする。それらは心配だったり疑惑だったり予想だったりとまちまちだったが、中にはレースが早く見たい一心で心ないことを言う者もいた。

 

「……なによ、皆好き勝手言っちゃって…」 

 

「好きに言わせとけばいいさ!

俺達のライスちゃんは約束を破るような娘じゃないからな!」

 

それに静かに憤るさくらだったが、父元太はそんなさくらを宥めて落ち着かせる。その声は陽気さを感じさせる一方で先程までカードゲームに興じていたとは思えない程に真剣味を帯びた声音だった。

いつもは頼りないくせにこんなときは格好良いことを言うのだからと思っているとさくらはふとあることに気付く。

先程、二人で話があると言ってこの場を後にしたっきり片方は既に戻って来ているというのに肝心のもう片方は一体どうしたのだろうか?

 

「…ってかさ、いつの間にかフウ姉戻って来てるけど…一輝兄は?」

 

「……………………と、トイレ?」

 

余りに誤魔化しが下手すぎる。

いくら方便とはいえ嘘をバレないようにつくにはアイネスフウジンはあまりにも良い子すぎた。

自分の発したその発言にどれだけの信憑性を込められたかも分からないのでついつい聞き返すような形になってしまい、結果として不自然さが付き纏う。

そしてそれを見逃すほどさくらも鈍感ではなかった。

 

「なんで疑問系?

それにだとしても遅すぎるし…なんか隠してる?」

 

「う…ううん…?」

 

「…………………………」ジ~

 

「…………………………」(汗)

 

「…………………………」ギラッ

 

「…………………………………………ハイ、実は…」

 

結局アイネスフウジンは嘘を突き通すことができず、ボロポロと一輝がどこに何をしに行ったのかを包み隠さず話してしまった。

話していくうちにどんどんと鬼のような形相に変化していくさくらを見てアイネスは恐怖で縮み上がって俯き気味になってしまう。

正直、いつ拳が飛んでくるかと思うと気が気ではなかったが駆け出すような音と共に目の前の威圧感が消えたのを感じて顔を上げるとやはりそこにさくらは居らず、苦笑いをする元太と幸実の姿しかそこにはなかった。

 

(ごめん一輝さん、全然誤魔化せなかったの…

多分、超特急でさくらちゃんがそっちに行くから気を付けてね…)

 

結果的に約束を違えてしまったことを心中で謝罪しつつ、きっと全てが終わった頃には自分と一輝は揃ってお説教を食らうのだろうなと思うと憂鬱な気分になるアイネスフウジンであった。

 

 

一輝side

 

「たぁぁぁっ!!」

 

『オーイングスラッシュ!』ジャキーン!

 

「ぐっ……!」

 

アックスモードのオーインバスターを使った攻撃はアルティメットリバイが振るったということもあり、ベイルに少なくないダメージを与える。

突如として始まったベイルとの戦闘はやはりと言えばそうなのだが、こちら側の優勢で進み続けていた。

当然だ、今一輝達が使っているその力は敵の総大将と言えるギフの力と同質であるのは勿論、彼等の家族がその命を懸けて創り出したまさに奇跡の産物でもあるのだから、それが妄執に取り憑かれた哀れな悪魔の力になど屈するはずもなかった。

 

しかし、その力の差が直接この場の勝利に繋がっているわけではないというのは非常に歯がゆい思いを感じざるを得ないだろう。

ベイルを完全に倒し切ってしまえば、その命と繋がっている父元太の命も道連れになってしまう。

故にこちらの決定打が完全に失われているのだから、これ以上足止めという目的において秀でている存在も中々居ないだろう。

 

「ぐぅ…ふ…ふふ…ふはははははっ…!

どうした…もっと手品を見せてくれてもいいんだぞ…」

 

「どうしよう、一輝!このままじゃ…」

 

「あぁ…このままじゃ大二達の所に行けない、折角送り出して貰ったって言うのに…!」

 

力の差は歴然、なのに倒すことが出来ず完全に足踏みを強いられているこの状況をどう打破したものかと頭を悩ませる一輝とバイス。

大切な家族が窮地に立たされているかもしれない状況も手伝って焦る心はますます募るばかりだったがそこへ…

 

 

 

『イィヨォオーーーっ!』

 

 

 

 

突如としてその場には似つかわしくない声、歌舞伎の掛け声のような声が大きく鳴り響いた。

 

「な、何だこの声…!?」

 

「えぇ、ナニナニ!?

もしかしてこれが噂のGEISHAってやつ!?

ブハハハハハッ!おもしれえ!!

それでは読者の皆さん、ここで例のbgm…スタート!!」

 

 

 

 

 

 

 

「ハァァーーハッハッハッハッハァァッ!」

 

耳をつんざいてしまうのではないかと大きく、剛毅で抑えきれない度量と派手さを全面に押し出したかのような高らかな笑い声。

その声がした方へ目を向けてみるとそこには驚きの光景が広がっていた。

 

神輿…そう神輿だ。

最高潮に盛り上がったお祭りでよく見かけるであろう神輿とそれを担ぎ上げる屈強な半裸の男達、その周りを紙吹雪を散らす女人と美しい天女が舞うように漂っている。

これだけでも目を剥く異様な光景だがその中でも一際異質だったのは、その担がれた神輿の上に存在する特殊な形をしたバイクとそれに跨り自らを扇子で扇ぎながら声を張り上げる真っ赤な姿をした男であろう。

 

「やあやあやあ、祭りだ祭りだ~!

袖振り合うも他生の縁、躓く石も縁の端くれ!

共に踊れば繋がる縁!この世は楽園!!

悩みなんざ吹っ飛ばせ!! 笑え笑え!

ハーハッハッハッハ!!」

 

「な、何なのだあれは…?」

 

「いや〜オレっちたちも知らね。」

 

この異様すぎる光景に流石のベイルも困惑と疑問の声を上げるも、バイスに一蹴されてしまう。

なんというかもう、先程までのシリアスな雰囲気が一気に台無しになってしまった。

 

バッ…パンッ…

「ふっ…!」ブゥオンブオオォン!

 

真っ赤な男は張り上げていた声を納めると持っていた扇子を頭上に放り、自身の頬を一度叩いてから静かに息を吐きながらグリップを捻る。発進した勢いでジャンプするように神輿から地面に着地した後、ベイルの周囲を爆走しやがてはバイクと一緒に回転しながら乗り捨て、そのままベイルに斬りかかる。

 

「さぁ、楽しもうぜ!勝負勝負!」

 

「ぐっ…本当に訳のわからんやつめっ…!」

 

ベイルはメガロドンバイスタンプの力を具現化させた刃で真っ赤な男と鍔迫り合う。しかしそれも一瞬、男は自身の剣が止められたことなど一切意に介さず、すかさず次の攻撃を叩き込む。そのまさに猪突猛進を体現した攻めにベイルはたじろぐ。しかも男はただ剣を振るうだけではなく、身体の可動範囲を最大限活かした変態軌道でベイルの攻撃を回避する。

そしてそのまま蹴りを入れて一旦距離を取った隙に一輝は男に問を投げた。

 

「あ、あの!貴方は一体…?」

 

「ん?」スタスタ…

 

すると男はあれほど苛烈であった攻撃の手を納め、ゆっくりと一輝の方に歩み寄っていく。

 

「貴様、どこを見ている…!」

 

「うわぁ!急に落ち着くなっての!」

 

それを隙と見るやいなやベイルは男に攻撃を仕掛けようとするもバイスがそれを未然に防いでみせた。

男はそんなことには意に介さず、変わらず一輝に近づいていく。

もしかして次の標的は自分かと思い、思わず身構える一輝だったが…

 

「今、俺に名を尋ねたな?これでお前とも縁ができた!」

 

「…はい?」

 

「だが礼儀がなっていない!人に名を尋ねるのならまずは自分が名乗れ!それが人としての常識だ!」

 

急に神輿に乗って現れた訳の分からない事を言う真っ赤な変人にまさか常識を説かれるとは思っていなかったので、一瞬固まる。

そもそも名を尋ねた訳ではなく一体何者なのか聞きたかっただけだが、まぁほぼ同じ意味だろうと思い直し、取り敢えず言われた通りに名を名乗ることにする。

 

「あ、えっと…俺は五十嵐一輝!

家族で銭湯やってて、今は仮面ライダー頑張ってます!よろしくお願いします!」

 

「ほぉう…良い名だ!名付けた者の真心を感じる!」

 

「ありがとうございます!」

 

「さて、名乗られたなら名乗り返すのが礼儀!行くぞお供たち!

 

 

………オォイ何をモタモタしている!さっさと集合だ!」

 

キュイーン…シュボン!

 

「…え!?なになに!?

も〜、ベルちゃんの原稿手伝ってたのに…!」

 

「…だからラーメンでバンジージャンプはできないと何度言えb……おや?」

 

「…みほちゃんのお弁当どこに落と…えぇ!今ですか〜!?」

 

「…だから、お前は逃げてもい……っておい!話の途中に呼ぶな!」

 

その男の大きな一声によって突如として、厳密には色や装飾が異なっているがおおよそ男と似た装いをした4人組が現れる。

 

黄色い姿の女性は比較的普通の体型だったのだが他3人が明らかに異常だった。

 

腕が異様に発達した、まるでゴリラのような青い男と…

 

翼の装飾とスラッと長い脚が特徴的なピンク色の男と…

 

小さな身体に大きい手足と頭といったまるでSDみたいな体躯をした黒い男(の子?)…

 

もう何が何やら分からない、まさに…

訳の分からない集団が訳のわかっていない様子でそこにいたのだった。

 

「名乗りを上げるぞ!お供たち!」

 

「え〜…ちょっとめんどくさい…」

 

「まぁそう言うな、きっとあのときの名乗りに味を占めたんだろうさ…」

 

「僕はイヌさんに邪魔されてろくに名乗れませんでしたけどね…」

 

「ん?名乗り?邪魔?何の話だ?」

 

「ごちゃごちゃうるさい!さっさとやるぞ!」

 

「「「「はぁ〜い…」」」」

 

前置きが少々長かったが、ようやく名乗りを上げてくれるようだ。

5人並んで、まず赤い男から名乗り始める。

 

「桃から生まれた!ドンモモタロ〜ウ!」

 

「ウキ世におさらば!サルブラザー!」

 

「マンガのマスター!オニシスター!」

 

「逃げ足No.1!イヌブラザー!」

 

「トリは堅実!キジブラザー!」

 

     「暴太郎戦隊!」

 

「「「「「ドンブラザーズ!」」」」」

 

 

暴太郎戦隊ドンブラザーズ…

これがこの変人集団の名前なのか…

 

「すっげぇ〜!!なぁなぁ一輝!俺達もこういうの考えようぜ〜!」

 

「いや…俺達は…どうかな〜…」

 

こういったお祭りごとに目がないバイスの琴線に触れたらしく、ベイルを抑えながらも自分達も格好いい名乗りを考えようと思ったようだ、だが流石にこれをやるのは恥ずかしいので一輝は遠慮した。

しかし未だ困惑が抜けきっていない一輝達をよそにドンモモタロウは再び仲間達と共に臨戦態勢をとった。

 

「鬼退治…いや、悪魔退治だ!」

 

先陣を切るのはドンモモタロウ、先程と同じように卓越した剣技を用いてベイルを翻弄する。そしてベイルが怯むほどの一撃を放った後に、即座にスイッチし別の戦士が切り込む。隙が一瞬でも見えた瞬間にも、それぞれの戦士たちは思い思いに攻撃を行う。

 

「今回は出血大サービス!

お供たち!アバターチェンジだ!」

 

「はいは〜い!」「よしきた!」

「任せてください!」「さっさと片付けるぞ!」

 

そう言うと彼等は懐から赤と黄というこれまた派手な配色の銃を取り出すと赤い特殊な形をしたメダルかギアのようなものを銃の窪みに嵌めて…

 

『アバターチェンジ!』

 

『イィヨォオーーーっ!』

 

『ドン!』『ドン!』『ドン!』

『ドンブラコー!』『ゴセイジャー!』

 

ドン! キュイーン シュピーン

 

『よっ!天装戦隊!』

 

一瞬光に包まれたかと思うと、そこには先程までの戦士達とはまた違う戦士が立っていた。しかもそれだけではなく、それぞれ異様に発達していた部分が変化して普通の体型になっている。

まぁ、約一名何故だか女装になっているのは気になるが…彼の趣味だろうか?

 

「いくぞ!合わせろ!

ツイストルネードカード!」

 

「任された!プレッシャワーカード!」

 

「オッケー!スパークエイクカード!」

 

『天装!』

 

『エクスプロージョン!スカイック!パワー!』

 

『スプラッシュ!シーイック!パワー!』

 

『スパーク!ランディック!パワー!』

 

別の姿となったモモサルオニの3人組がゴセイカードを使って天装術を発動!

組み合わせによって発動する特殊な天奏術、トライアングローバルの威力は絶大でベイルは大きなダメージを受けるが、そこへすかさずトリイヌコンビが追撃を行う。

 

「スカイックショット!」ドンドン!

 

「ランディックアックス!」ジャキン、ジャキーン!

 

「ぐぁぁあ…!」

 

「ハーハッハッハッ!まだまだ祭りは終わらんぞ!!アバターチェンジ!」

 

『よっ!特命戦隊!』

 

そしてまた先程の操作をして、また別の戦士へと変身した。

しかし、変身したのはモモサルオニの3人組のみでトリイヌコンビは先程までの姿のままだった。

 

「うさちゃん?なんかかわいい…」

 

「なかなかどうして、親近感の湧く姿じゃないか…」

 

「無駄口を叩くな!

バスターズ、レディ…ゴー!」

 

そう言うとドンモモタロウは一瞬身体がブレたように見えた瞬間、とんでもなく高速な動きでベイルを翻弄する。

あそこまでのスピード…スピード特化のジャッカルやプテラにゲノムチェンジしたとしても追い付くことはできないだろう。

それ程までに次元の違うスピードだ…

そうしている間にサルブラザーは近くの太い柱をボッキリと引き抜き思い切り振り回してベイルに回避不可の大打撃、吹っ飛んだベイルに驚異的な跳躍力で追い付いたオニシスターが空中で短剣のような武器を用いた連続攻撃を行なう。

ここまでされてはもう既にベイルは満身創痍だがまだドンブラザーズの猛攻は続く。

 

「最後に大アバレだ!アバターチェンジ!」

 

『よっ!爆竜戦隊!』

 

「ウオオオオォ!元気莫大だぁぁぁ!」

 

「君はこれ以上元気にならないでくれ…」

 

「うるささ割増なんだけど〜!」

 

「この黒い戦士、なんだか親しみを覚えるな…

主に恋人で悩んでいそうな感じが…」

 

「え…あの…これ、女の子のやつ以前に…

コスプレ…なんですけど…」

 

また先程の操作をして姿を変化させるドンブラザーズだったが、キジブラザーは他の戦士然とした姿のメンバーと異なり、まるで女の子が刺繍で作ったようなコスプレ衣装になっていた。

あとあの言動から察するに女装は彼の趣味ではなく変身の仕様上の問題だったようなのでそこは一安心である。

そのままでは足手まといなので、キジブラザーは変身を解いて元の戦士の姿で応戦する。

 

「ティラノロッド!」「ダイノスラスター!」

 

    『ダブルサークルムーン!』

 

ロッドと剣で円を描くことで球状のエネルギー体を形成、同時にぶつけることで二重の月がベイルを包み込み衝撃を与える。

そしてモモサルオニイヌの4人はそれぞれの武器を合体させた巨大なランチャーを構える。

 

「必殺!」「スーパーダイノダイナマイト!」

 

そのランチャーから放たれる巨大な閃光は直撃したベイルの身体を焼き尽くす。

様々な攻撃を受けたベイルはそのダメージから呻き、藻掻いている。

ドンブラザーズは変身を解いて元の戦士の姿へと戻り、ドンモモタロウはどこから取り出したのか扇子で自らを扇ぎながら高らかに声を上げた。

 

「ハーハッハッハッ!どうだ俺達の祭りは!」

 

「凄い、色んな戦士の力を使えるのか…」

 

これは戦闘においてとても大きなアドバンテージとなるだろう、使える手札が変身できる戦士の数だけ存在するのだから。

彼等はきっとこんなふうに様々な戦士に変身して戦う戦隊なのだと一輝は思った。

 

「これやったのすっごい久しぶりじゃない?」

 

「最近、こういったことはタロウに任せきりだったからな〜。」

 

そういうわけでもなかったらしい。

的外れなことを言ってちょっと恥ずかしい…

 

「どれ…ではとどめを刺すとするか!」

 

「え…あっ!ちょっと待ってください!」

 

「なんだ?邪魔をするな!」

 

今まで呆気に取られて気付かなかったが、ベイルを完全に倒されてしまっては困る。

何故ならベイルの命は元太の命と繋がっており、どちらかの命が失われればもう片方の命も失われてしまうのだ。

 

「うええ!?それヤバいじゃん!」

 

「我々、かなりの全力でぶちのめしてしまったが…!?」

 

「まずいじゃないですか!

もしそれを知らずに倒しちゃってたら…」

 

「お前!そういう大事なことはいち早く共有しろ!手遅れになってからじゃ遅いんだぞ!」

 

そのことをドンブラザーズに伝えるとお供と呼ばれていた4人組は危機感を現し始める。

イヌさんからお説教を受け、一輝は反省するがドンモモタロウの声がその雰囲気を霧散させた。

 

「狼狽えるな!一輝!お供たち!」

 

「ドンモモタロウさん…?」

 

「案ずることはない、俺達の攻撃がアイツの命を奪うことなど万に一つもあり得ん!」

 

「モモちゃんすっげぇ言い切るじゃん?なんか秘密があるって感じぃ?」

 

「こら、バイス…失礼だろ?」

 

しかしそうは言ったものの一輝もそんな秘密があるのなら聞いてみたいところだった。

ここまで自信満々に言い切るところを見るにきっとあの変身システムにはそういった機能が搭載されているに違いない。そのシステムを応用させてもらえれば、これから先の戦いも余計な犠牲を払わずに済むようになるかもしれない。

 

「ふむ、特別に教えてやろう…」

 

「本当ですか!?」「マジ!?ヤッタァ〜!」

 

「簡単なことだ…」

 

ドンモモタロウはそこで一度言葉を区切り、回答を貯めに貯めていく。

あまりに貯めるので思わず、ドンモモタロウへと近付いて耳を傾けてしまう。気付くとバイスは勿論お供の4人も同じように近付いて耳を傾ける。

そしてようやくドンモモタロウが顔を上げ、声を発しようとする雰囲気を感じ取ったので身構えながらその時を待っていると…

 

 

 

 

 

 

 

 

「そういうものだからだぁ〜!ハーハッハッハッ!」

 

「「……は?」」

 

一瞬の硬直、そして…

 

「……ハアァァ!?なにそれ意味わかんない!

なにテキトーこいてんだよコラァ!!」

 

「バイス!落ち着けって!でも…それじゃ流石に…」

 

「も〜…

まためちゃくちゃ言い出すじゃん…!」

 

「全くだ…それで彼が納得できる訳がないだろう…」

 

流石に冗談ではないと言わざるを得ない。

こちらは父親の命が掛かっているのだから、それをそういうものだから大丈夫だと言われても納得できるわけがない。

同意を求める意味を込めてお供たちに視線を向けると…

 

「でも、多分…タロウがそう言うなら、信じていいと思う。だってタロウは…」

 

「ああ、彼は文字通り…嘘が死ぬ程苦手なんだ。認めたくはないが、そんな奴が問題ないと言うなら恐らく間違いはない……はずだ!」

 

「えぇ…?」

 

先程までその言動に辟易している様子を見せていたというのにオニサルの二人はドンモモタロウの言葉に同意の意を示す。

それ程までに信じるに足るなにかを、もしかすればこの二人はタロウに感じているのかも知れない。

 

「ぐっ…でも…」

 

しかしだからといって一輝はハイそうですかとはならない。なんせ大切な家族の命、それが掛かっているのだから少しでも慎重に物事を考えていきたいのだから。

だがそうして一輝が逡巡を続けていると…

 

『ドラゴン奥義!』

 

「うぇ…?」

 

「ライトニングドラゴンフラッシュ!」

 

『激龍の舞!アータタタタタタ!!』

 

「ぐっ…ぐあああぁあああ……!!」

 

ドガーン!

 

「……あ…あぁ…そんな…」

 

一輝が逡巡している間に、突然現れた金色の戦士がベイルにトドメの一撃を与えてしまっていた。

あれ程の一撃を受けてしまえばどんな生物であろうとタダでは済まない、それはつまり今頃レース場の観客席にいるであろう父の命はもう…

 

「やりましたよタロウさん!

も〜う皆さん、追い詰めたとはいえ敵の目の前でおしゃべりなんて不用心ですよ!

後始末は僕がちゃ〜んとしておきましたからね!」

 

「…あぁ、もう…」 「またかジロウ…」

 

「…よ…」

 

「ん?そちらの方々は…もしかして、僕のファン!?

いや〜照れちゃうなぁ〜…でもダメですよ!

ヒーローというのは一朝一夕で務まるものではありませんからね!

分かったらコスプレはやめて…」

 

「よくもやったなこの野郎…っ!」バキッ!

 

「ぐえっ…!!」ドサー…

 

ふざけたことを宣う金色の戦士に対して、父の死という現実を目の当たりにし、呆然とする相棒の気持ちを誰よりも察していたバイスはその怒りの拳を振るった。

その拳は真っ直ぐ金色の戦士の頬にクリーンヒットして数メートルほどふっ飛ばしたが、それでも怒りが収まらないバイスは追撃を行おうとするも、キジとオニの二人に引き止められてしまった。

 

「お、おお、お、落ち着いてください…!」

 

「そうだよ!一旦待って!」

 

「離せよ!そいつが余計なことしたせいで…一輝のパパさんが…!」

 

「え…どういうことですか…?」

 

未だ状況があまり呑み込めていない様子の金色の戦士にサルブラザーがなるべく詳しく手短に説明をすると、戦士はマスクで見えないはずの顔を段々と青くさせ、全ての事情を飲み込んだ時には即座に土下座の体勢に入っていた。

 

「ぼ、僕はなんてことを…す、すみません!

謝って済む問題じゃないけど、せめて謝らせてください!

本当にごめんなさい!」

 

金色の戦士が必死に頭を下げているが、一輝はそんなことを気にする余裕もなかった。

だってそうだろう、今更謝られたところで父の命が戻ってくるわけではない。人懐っこい笑みを浮かべながらバイチューブに上げる動画を作っている父の姿を見ることはもう二度とないのだから。

顔を俯かせ、涙を流す一輝に対して今まで嫌に沈黙を保っていたドンモモタロウがようやく声を上げた。

 

「おい、顔を上げてみろ…」

 

「…………」

 

「お前の父親の命は断たれてはいない!」

 

「…え、それってどういう…」

 

「えぇい、いいから前を向いてみろ!」ガシッ!

 

ドンモモタロウに無理やり頭を掴まれて、前を向かせられるとそこに広がっていたのは跡形もなく消滅したベイルの亡骸の跡…

 

「ぐっ…くぅ……」

 

ではなく、今度こそ立ち上がれないほどのダメージを受けて蹲ってはいるものの未だその生命が続いているベイルの姿であった。

これは一体どういうことだろうか…?

あれほど強大な一撃、しかも金色の戦士の様子から察するに手応えもしっかりあっただろうに…

 

「言っただろう…万に一つもあり得んと…」

 

「でも…なんでなんですか?」

 

「俺達の力は命を奪うためではなく、命を救うための力…一部例外を除くが、それが命を奪うことなどできなくて当然だ!」

 

「えぇ…」

 

「最初からあのように言えばある程度早く納得してくれただろうに…」

 

「あれ、あたし達の時よりしっかり説明してくれてるじゃん…いや、それでも説明不足だけどさ…」

 

「な に か 言 っ た か ?」

 

「「イエ…ナニモ…」」

 

あまり説明にはなっていないのは変わっていなかったが、まぁ目の前でこの状況を見せ付けられては納得せざるを得ないだろう。

彼等ならベイルの命を奪わずに抑えておくことが出来るということだ。

 

「すみません!ドンブラザーズの皆さん!

アイツのこと任せてもいいですか!?弟を助けに行きたいんです!お願いします!」

 

「…友人の頼みだ、無碍にはしない!俺達に任せておけ!」

 

「ありがとうございます!このお礼は必ず!

行くぞ、バイス!」

 

「おうよ!金色ちゃん!さっきは殴ってゴメンな〜!」

 

「僕が悪いので気にしないで下さ〜い!

あ、それと、僕はドンドラゴクウっていいま〜す!」

 

快く引き受けてくれたドンブラザーズ達を後にして一輝とバイスは走り出す。余程急いで走ったからだろうか、もう既に二人の姿は先を行ってとても小さくなっていった。あれなら少なくとも助けなければならないという弟のもとに間に合わなかったということもないだろうと思い、ドンブラザーズは目の前の存在に意識を向ける。

 

「貴様等…一体何者だ…」

 

「…二度は名乗らん、だがその問いに敢えて答えてやるならば…

 

 

 

 

 

俺達は暴太郎…

全てのヒーローの頂点に立つ者だ…」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「…この状況…なに?」

 

 

追いついたさくらはカラフルな6人組と自身の父の悪魔ベイルが睨み合っている現場に居合わせるとと同時にそんな感想を抱いたのだった。

 

つづく…






再開するにあたってまず、モチベが続くようなぶっとんだ話を書こうと思ったのですが、どうしようかと考え倦ねていた矢先に

「あるじゃない、今演ってるぶっとび番組が…」

という天啓を得て執筆したのが今回の回になります。
やべぇと思った方、それが正常です。
むしろ私の文才では表現しきれていません。

そして次回!
引っ張りに引っ張ってようやくあの悪魔が帰ってきます!

お楽しみに!



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

未来への両翼 後編





また…めちゃくちゃお待たせさせてしまいましたね…

もうなんだろう…
これはもう2ヶ月更新がデフォみたいなものなのでは…?
こんな僕のことを皆さん見捨てないでくだせぇ〜…

さて、今回はやっと彼が復活&強化フォーム登場です!
ご期待ください!







[過去]

 

 

 

「え…?俺がウマ娘のトレーナーを…?」

 

 

 

それは俺がまだ、フェニックスの分隊長になる前のこと…

まだ俺が訓練生上がりの下っ端隊員だった頃に若林総司令にその辞令を持ちかけられたことから、俺の人生は色づきを見せた。

 

「ああ、聞けば五十嵐…お前はフェニックスの訓練校に入る前はトレーナーを目指して勉学に励んでいたそうだな…?」

 

一体何処から聞きつけてきたのかは分からないが、確かに俺はフェニックスに入隊を志す前はウマ娘のトレーナーを目指して独学で勉強をしていた。

幼い頃に父と一緒に観たレースが強く心に残ったのがそもそもの発端だった。

 

「デッドマンズを鎮圧し、平和になった世界で我々フェニックスができることとして、今や世界中が注目するレース事業に着手するというのが企画案として上がった。全く上層部も気が早いことだ…」

 

「そこで、ある程度知識のある俺を先駆けにしたい…ってことですか?」

 

「そういうことだ、既にURAにも話は通している、あとはお前の決断次第だ。」

 

正直に言えば、俺はその時点でそれがどんなに奇特な提案なのかを理解していた。だってそうだろう、どう考えても治安維持部隊の職務の傍らでトレーナーとしてウマ娘の育成を両立させるなんてことは現実的ではない。

頓挫する可能性が見えている、いや…どちらかといえば頓挫する確率の方が高いこんな事業に取り組むのは明らかなリスクだった。若林総司令もそれを重々承知しているのか、その相変わらずの鉄面皮な表情の裏には断るならさっさとしろという心中が垣間見えた。

少し前の俺なら考える余地などなく断っていたかもしれない。

しかし…

 

「…了解です。俺に…やらせてください!」

 

「!…そうか、ならどちらも疎かにすることのないよう努めるといい。」

 

俺はどうしても目の前の夢へのチャンスに飛び付きたい気持ちを抑えることができなかった。一度はフェニックスへの入隊のために諦めた夢だったが、それが他ならぬフェニックスの仕事として任せられたなら、その大義名分に縋らない手はない。

若林総司令は一瞬驚いたような表情を見せたがすぐにそれは鳴りを潜め、職務において厳格な彼らしい忠告をしてくれた。

 

そこから先は若林総司令が事前に話をある程度進めていてくれたおかげで、とんとん拍子でことは運んでいった。

協会への手続きと協力の申請…

トレーナー免許の特殊認可…

可能な限りの仕事の引き継ぎを終えた後に、トレセン学園の理事長への挨拶にも伺った。

 

「歓迎っ…!

君がフェニックスから派遣されたというトレーナーだな!

これからの活躍を期待させてもらうとしよう!

詳しい詳細はたづなに聞いてほしい!」

 

「これからよろしくお願いしますね、五十嵐トレーナー。」

 

「はい、よろしくお願いします!」

 

それから理事長秘書の駿川たづなさんに、学園をある程度案内してもらった後、赴任してきたばかりのトレーナーがまず最初にやるべきことのレクチャーを受けて、ようやく俺のトレーナーとしての生活が始まった。

 

「さて、まず最初に何をするか…」

 

たづなさんの話では赴任したてのトレーナーがとることができる選択肢は主に三つ、その一つにベテランのトレーナーに師事して、サブトレーナーとして実績の下積みを行なうというものがあるが、俺の場合に限りそれはあまり期待できないらしい。

俺は普通の新人とは違い、フェニックスから派遣された所謂イレギュラーだ。

時にはトレーナー業務より優先すべき任務に駆り出されることもある、そんな不確定要素だらけの人材を抱えるのは自身の実績に傷を付ける原因になりかねない。

大多数のトレーナーがそう考えているらしく、実際ダメ元で何人かの先輩に声を掛けてみたがどれも空振りだった。

教官として新入生に基本的な指導を行なう手もあるが、これは主に担当を受け持つ気のないトレーナーが取る行動だ。

俺はゆくゆくは自分の担当を持つつもりなので、これも除外する。

ならば必然、とれる選択肢は一つ…

 

「選抜レースを見に行ってみるか…」

 

残された唯一の選択肢、それは自ら選抜レースなどに足を運び琴線に触れるウマ娘をスカウトするという最も古典的な手法だ。

うまくすれば自分と相性のいいウマ娘と出会うことができるかもしれない。

運良く今日は選抜レースが行なわれる日だ、俺は勇んで学園のレースコースへと足を運んだが…

 

「………高望み…しすぎなのか…?」

 

結論から言おう、その日の選抜レースにおいて担当をしたくなるほど惹かれるウマ娘は存在しなかった。

勿論出走ウマ娘が凡走をしていたわけではない、むしろ中には目を瞠るような才覚を示す者が何人もいたし、共に歩むことができるトレーナーは幸せ者だろうとも思った。

 

しかし、ただ"それだけ"だ…

そこに居るのは自分じゃなくてもいい、そんなふうにしか思えなかった。

これは持論だが隣に立つのは自分しかいない、自分でなければならないと感じる程、魂から惹かれ合う関係でなければトレーナーとウマ娘は大成しない、取り敢えずの契約はとても危険なものなのだ。

しかし正直に言えば、選り好みをしていて良い時間は俺にはあまりない。

フェニックスの派遣トレーナーである俺はいち早く実績を見せなければ上層部にこの事業に発展性なしと判断されてトレーナーを降ろされる可能性が高い。

それを回避するためにもまずはいち早い担当契約が急務なのである。

 

「うぅ〜ん…今日はたまたま波長の合う娘が見つからなかっただけかもしれません。

あまり焦り過ぎないよう、明日からも頑張って探してみましょう!

私も出来る限り協力致しますので!」

 

たづなさんはそう言ってくれたが、だからといって悠長にするわけにもいかない。

結局、その一日は何もできることはなくいつの間にか俺は自宅への帰路を歩いていた。

 

歩きながら考える…

一体どうすれば、担当したいと感じるそんなウマ娘に出会うことができるのだろうか…

最悪の場合、先程まで言っていた言葉を自分で違えることになるが、手当たり次第にスカウトをすることになるかもしれない。

しかしそうなった場合、万が一何かあった時に俺は胸を張って、担当に向き合うことができるのだろうか…

 

様々な思いが頭の中で行ったり来たりしてこんがらがっていると…

 

~♪ ~♪

 

懐から振動と音楽が鳴り響く。俺の携帯に着信が入っているようだ、取り出して画面を見てみると…

 

「兄ちゃん?…もしもし?」

 

どうやら電話を掛けているのは俺の兄、五十嵐一輝のようだ。

一体なんの用なのか分からなかったが、取り敢えず電話に出る。

 

『あ、もしもし大二…今帰りか?』

 

「え?…そうだけど…」

 

『そうか!丁度良かった!

今さくらが晩飯でカレー作ってるんだけどさ、なんか必要な…がらむまさら?ってやつが切れてたみたいなんだ。悪いけど買ってきて貰えるか…?』

 

どうやらおつかいの打診だったようだ。なかなか家のキッチンに立ち入る機会のない俺だがガラムマサラなんてものをいつの間にか切らしてしまうような食事をしていた様には思えないのだが…

断る理由もないし、頭の中を整理するのにも良いかもしれないと思ったのもあったので了承する。

 

「分かったよ、ところでどこの銘柄が良いとか言ってた?」

 

『いや、そういうのは…

まぁ適当に目についたので良いんじゃないか…っておい、さくら!?』

 

『適当で良い訳ないでしょ!

大ちゃん!後で買ってきて欲しいやつの画像送るからそれ、お願いね!』

 

一瞬兄の声が大きく響いたと思うと、声が少し遠くなり代わりに妹の五十嵐さくらの声が聴こえ始める。

どうやら会話を聞いていて、途中に兄から携帯を奪い取ったようだった。

 

『でも、どうせなに使っても同じだろ?』

 

『アタシのカレーはこだわってんの!

それに、一口にガラムマサラって言っても香りとか味とか色々違うから!

いい?大ちゃん…もし違うの買ってきたら、大ちゃんの分の甘口は用意しないからね!それじゃ!』

 

ガチャ…ツーツー…

 

「え、ちょ…切れた…」

 

相変わらずデリカシーのないことを言って妹の逆鱗に触れていたようである意味安心したが、今はそんなことよりも重要視しなければならないことがある。

今の通話の中にあった妹の聞き捨てならないあの言葉…

 

甘口は用意しない…

甘口は用意しない…だと!?

 

それは緊急事態だ、そんなことをすれば俺は晩飯に辛口のカレーを食べることになる。

認めたくはないが、俺は辛いものや苦いものが大の苦手な所謂子供舌というやつなのだから。

すぐに妹からLANEで送られてきた画像を確認する。

そこに写っていたのは確かにガラムマサラだったが確か店主の意向で一般に出ね回らず、主に専門店でしか扱われないとされている品だった。

これまた面倒なものを…とつい毒づきたくなるがそれをグッと我慢する。

ここで面倒くさがって辛口のカレーを食べるのと、多少手間はかかっても美味しく甘口のカレーを食べるのとでは後者の方が遥かに望ましいのだから。

 

「ここから一番近い専門店は…駅前か!」

 

急いで俺は少し離れた駅前の専門店に向かう。ここから駅まではそこまで遠い距離ではないのだが、それでも専門店では間違えないようによ~く送られてきた画像を吟味しながら選んだので少し時間がかかり、店を出る頃には夕方になっていた。

こりゃ家に着く頃にはすっかり暗くなっているだろうと思い、急ごうと家に帰ろうとしたその時…

 

 

一人のウマ娘を見掛けた。

 

「ふぅ…うん、休憩おしまい!」

 

片眼を覆ってしまうほど長く美しい、まるで夜空をそのまま写し取ったかのような黒鹿毛…

 

ずっと見つめていると吸い込まれてしまうのではないかと思えてしまうほど綺麗なアメジストの瞳…

 

聞く人全てに安らぎを与えてくれるのではと思うほど可愛らしい、まるで鈴のようなその声…

 

大きなウマミミとそれに反比例したとても小さな体をトレセン学園の運動ジャージで包んでいることを見るに、恐らく野外トレーニングを行なっていた生徒なのであろうその少女から、俺は目を離せなくなってしまった。

 

俺は丁度赤信号に捕まって立ち止まっている彼女に声をかけるために歩を進める。

買い物の帰りであること、そもそも声をかけたところでなにを話すことがあるのかなんてことも頭から完全に抜け落ちていた。

しかしそれを遮るように目の前をひとつの影が横切った。

いや、正確には足下を…だが。

 

ニャ~…

 

「…黒猫?」

 

目の前を横切った黒猫に小さく驚いて、俺は思わず足を止める。

黒猫は一瞬、俺を一瞥するとすぐに興味が失せたのかそのまま去っていってしまった。

黒猫が目の前を横切るのは不吉、よく囁かれるそんな迷信を信じているわけではないが、なんだか嫌な予感を感じてならない。

そうこうしている内に、信号は青に変わってしまったようで彼女はもう先に進んでいた。

完全に話しかけるタイミングを逃してしまったがしかし、それで良かったのかもしれない。

急に知らない男に話しかけられるのは怖いだろうし、そもそも声をかけてもなにを話すのかも頭になかったのだから余計に困らせてしまうだろう。

 

「…帰るか、兄ちゃん達が待ってる…」

 

自分が買い物帰りであったことをそこでようやく思い出し、俺は帰路につく。

彼女はトレセンの生徒だったようだし、もしかすればこれから先話す機会も訪れるかもしれない。今はそう思うことにしよう。

 

ん…?まてよ。

青になった信号に真っ直ぐ向き合っていた俺を横切ったなら、あの黒猫が向かった方向は…まさか!?

 

「危ない!」

 

俺の嫌な予感はまさにこの時のことを指し示していたのかもしれない。

誰かの大きな声が響いた先に急いで眼を向けてみればやはりと言うべきか先程の黒猫が赤信号の道路の渦中に居座っており、猛スピードで車が近づいているのにも関わらず呑気に毛繕いをしている。

 

「まずいっ…!」

 

俺は猫を救出するために駆け出す。だが如何せんそれなりに遠くの道路なので猫が轢かれる前に助け出すことができるかは五分五分と言ったところ…

なんとか猫を押し退けて、その後は自分で何とかするしかない。

そう思っていると、とんでもないスピードで俺のすぐ横を駆け抜けていく影が一つ…

 

 

 

先程のウマ娘の少女であった。

 

その表情には鬼気迫るものを感じ、ただ目の前の小さな命を助けることのみを考えて行動していると容易に判るものだった。

人間では急いでも五分五分というところだろう場面でも、ウマ娘ならば急げば多少の余裕をもって到着できる。

少女は猫のもとに辿り着くと、すぐに胸に抱き抱えてそのままスピードを落とさずに向かいの歩道に避難することで事なきを得る。

こちらに向かっていた車は、止まってなにを言うでもなくそのまま走り去っていった。

大方、脇見運転でもしていたのだろう。あの様子では目の前の人騒ぎにも気付いていないだろうがそんなことはもうどうでも良い。

 

「ハァッ…ハァッ…ハァッ…」ドサッ…

 

ニャ~…

 

猫を救出して緊張の糸が切れたのか、その場にペタンと座り込んでしまうウマ娘の少女。

未だその胸の中で抱かれている黒猫はまるでどうしたのかと言っているかのように鳴き声を上げる。

その声ではっと我に返った少女は、猫が無事であることを確認し、笑顔を浮かべるもすぐにその表情を曇らせた。

 

「ごめんね、ライスが近くにいたせいで…

猫さんを危ない目に合わせちゃった…

ごめんね、ごめんね…」

 

まるで自分のせいで猫が轢かれそうになったとでも言わんばかりのその言動が少し気になったが、そのときの俺はそんなこともすぐに忘れてしまう程に彼女の走りに魅入られていた。

猫を助けるため、必死になったことで彼女の持つ可能性の一端をはからずも垣間見ることができたのだろう。

 

「そこの君…」

 

「?…お兄さん、誰?」

 

「俺は五十嵐大二…今日トレセンに赴任したばかりの新米トレーナーだよ。」

 

彼女の至極当然な疑問を投げ掛けられるが、俺は必要最低限の答えを返すだけで

言葉を切る。

そして、座り込む彼女の目線に少しでも近付けるために膝をつくが、それでも目線は少し見下げる位置になる。

俺は呆然とする彼女の手を取る、いきなりのことで少し驚いた様子の少女だったが何故か振り払うようなことはしなかった。会ったばかりの俺を信頼してくれているのか、はたまた無警戒すぎるのか…

 

俺は先程の走りを思い返す。

その走りはまるで夜の闇の中を駆ける一筋の光、その輝きは誰もが手にしたいと願いながら、それでもついぞ手に入れることのできなかった至宝にも等しいと言えるだろう。

そして俺はその輝きを絶対に自分の物にしたい、誰にも渡すことなど看過できないと心の底から感じた…

 

そうだ、運命というものがあるのなら…

きっと彼女こそが…

 

「君に運命を感じた…

是非俺と契約してくれないか…?」

 

「ふえ?………えええぇぇぇええ!?///」

 

これが俺と少女の、未来の担当ウマ娘であるライスシャワーとのファーストコンタクト…

 

思い返せば、なかなかに奇天烈な出会いではあったがそれでも俺にとって世界で最も大切な宝物に出会ったその日を、俺は生涯忘れることはない…

それだけは、確信をもって言えるのだ…

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

[現在]

 

大二side

 

人の心が最も揺れ動き、崩れやすくなる瞬間とは一体どんな時なのか…

曰くそれは眼の前に絶望が広がることではなく、何より大切な希望が眼の前で砕かれてしまうことだという。

 

大二にとっては今この瞬間が、それに該当するのだろう。

そう、"怪物のような姿"に変貌した赤石によって自分の命よりも大切な担当ウマ娘を蹂躙されているこの瞬間のことを…

 

「疾きこと風の如く…」

 

「うっ…!ぐっ!…うぅ…」

 

ヘルギフテリアン以上の、ライスですら反応できないほどのスピードで一方的に攻撃し続け…

 

「うぅ…そこっ!…な、なんで…」

 

「侵略すること火の如く…」

 

「あ、熱い…!アア…アァァァ…!」

 

苦し紛れの反撃にも苦もない様子で刃を掴み、防御。そのまま紫炎を引火させクレッセントヴォルフを破壊し、ライスにも延焼させ…

 

「知り難きこと影の如く…」

 

「ど…どこ…に…ガハッ…!」

 

その場から一瞬にして消失し、相手を見失って戸惑うライスの背後に現れて不意打ちの攻撃を加え…

 

「動くこと雷霆の如し…!」

 

「あ、ああ……キャァァァァァ…!」

 

最後には既に這いつくばり、満身創痍のライスにとどめの豪雷を浴びせる。装甲が崩れるようにしてライスの変身が解除される、大二はそれを呆然と見つめることしかできなかったが、ふと我に返りすぐにライスのもとへと駆け寄る。途中でバイスタンプとツーサイウェポンを取り落としてしまったがそんなことを気にする余裕もなかった。

 

「そんな…ライス…ライス…!」

 

「おに…い…さま………」

 

倒れるライスを抱き起こし頼む、生きていてくれと思いながら声を掛ける。あんな攻撃をモロに受けていたにも関わらず、ライスは薄っすらとではあるが意識を保っていた。それどころかその手には未だにアンビバレンスウェポンを握り締めたままであり、戦闘の意志が消えていないことが分かってしまう。

 

「もういい…もういいんだ、ライス!

これ以上戦ったら君は…!」

 

「でも…ここで…ライスが頑張ら…ないと…くぅっ…!」

 

しかしそのダメージではこれ以上の戦闘は命取りだ。絶対にもうあの怪物と相対させる訳にはいかない。

 

「どうだい、大二君…素晴らしい力だろう…

これこそがギフデモス…ギフ様に真の忠誠を誓った者のみが至ることのできる境地だよ…」

 

「人であることも捨てたのか…!」

 

「ふははっ…何を今更!

人類の愚かしさはそれ程までに根深い、人の身であることに拘っていては何もできんところまで来ているんだよ…!」

 

ライスを抱き抱えながら、大二は吠える。それにはどこまでもギフという人類の敵に敬服し、やがて最低限の人としての尊厳すらも売り渡してしまった男に対する侮蔑が込められていた。しかしそれを受けても赤石は一切悪びれることなくこれも大儀であると言うように吐き捨てる。

 

「さぁ、大二君。君はもう力の差…いや、ギフ様が与えてくれる恩恵を重々理解したはずだ。その上でもう一度聞かせてくれ…私とともにくるか、それとも…」

 

「…分かった。あんたと一緒に行く…

だから…ライスのことは見逃してくれ…!」

 

赤石が大二に対して問を投げる。このタイミングでそれを聞くということはそういうことなのだろう。ヘルギフテリアンにすら押し負けたホーリーライブではもう太刀打ちは無意味だ。大二はもう既に万策尽きたこの状況を少しでも好転させるために自分の身を捧げることに躊躇などなかった。

 

「素晴らしい、まさに英断だよ…大二君…」

 

「そんな…!ダメ!ダメだよ…!

やっと…取り戻せたと思ったのに…!」

 

「ごめん…

でももうこうするしかないんだ…!」

 

「いや…いや!行かないで…行かないでよ…!

お兄様…!お兄様ぁぁぁぁ!」

 

悲痛の声を上げて、こちらに手を伸ばすライスシャワー。その声を無視して大二は赤石のもとへと歩を進める。

ごめん、ライス。でも大丈夫…

兄ちゃんやさくら、フェニックスやウィークエンドの皆が君の味方だ。きっといつかは赤石もギフも…そして、怪物になってしまった自分のことも倒して平和な世界を作ることができるだろう。だから、何も気に病む必要なんかないんだ。

その心を胸に秘め、大二は外道に向けて足を動かした。

 

「さぁ、さっさと連れていけ…」

 

「………大二君、私はこれまで数多の試練を君に与えてきた…全ては君がギフ様の契約者として相応しい存在になることを願ってのことだ…」

 

「…いきなり何の話だ…?」

 

「それを踏まえて言わせてもらおう…今の君ではまだ!

ギフ様の契約者としては些か画竜点睛を欠く…!」

 

「何故だ、君を未だ踏みとどまらせるものは一体なんなのか…!

それの正体が今分かったよ…!」

 

そこまで言うと赤石は突如目の前から姿を消した。どこに行ったのかと思っているとすぐ後からの声が聞こえる、すぐに振り返ってみるとそこには驚きの光景が広がっていたのだった。

 

「ぐぅっ…うぅ…はっ……」

 

「このウマ娘の存在が、君の支えのようだ…!」

 

人間に戻った赤石がライスの首を絞めながら持ち上げている光景がそこには広がっていたのだった。

ライスを守るために自分はその身を捧げることを決めたのにこれでは話が違う、大二はライスを取り戻すため…そして約束を違えた赤石を問い詰めるために近づき掴みかかるが、簡単に払い除けられる。

 

「やめろ…!赤石…ぐはっ…!」

 

「君は一度絶望の意味を知る必要がある…喜びたまえ、ライスシャワー君!

君の尊い犠牲によって…君の想い人は人類の先導者として漸く完成する!

フハハハハハ…!」

 

「あっ…カハッ…あ……あ………」

 

「やめろ…やめてくれぇぇぇえぇっ!」

 

 

 

 

 

 

あぁ、いつもこうだ…

 

いつも俺はこうやって無様に這いつくばって泣くだけで…

 

兄ちゃんの背中に隠れていた子供の頃から何も変わっちゃいない…

 

また俺はライスを守れない…

 

カゲロウから託された筈なのに…

 

あいつから認めてもらえた筈なのに…

 

やっぱり俺一人じゃ、何もできやしないよ…

 

やっぱりお前が居なきゃ俺は…

 

お前が居ない俺に、価値なんかない。

 

価値がない俺なんかにはきっと…

ライスを助けることなんて、できやしないんだ…

 

もう…何も考えたくない…

 

もう…何もしたくない…

 

もう…

 

 

もう、生きていたくなんかない………

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

     前を見ろよ  大二…

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

   

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「!……誰だ?」

 

絶望の渦の中に迷い込みそうになったとき、ふと誰かの声が頭の中に響く。その声の正体が一体何なのかは分からないがなんだか安心できる声だった。

まるで、生まれたときからずっと一緒にいる存在に語り掛けられたかのような…

 

その謎の声に従い、顔を上げて前を見つめてみる。

だがそこには何も変わらない、ただライスが苦しめられているだけの惨状が広がっているだけだ。

こんなものをもう一度見せ付けるなんて、あの声の持ち主はきっととてつもなく捻くれた精神構造をしているだろうと考えてしまう。

だがそんな絶望の暗闇の中に大二は一筋の光を見つける。

 

瞳だ。

未だ光を失わず、諦めず、輝き続けているその瞳を大二は見つけた。

それの持ち主は誰であろう…

こんな絶望の暗闇の中で藻掻き続け、希望を見出し続けているのは誰であろう…

 

自分はその瞳の持ち主を知っている…

どんな苦境に立たされようと立ち上がり、走り続けることをやめなかった小さな一人の戦士のことを自分は誰よりも知っている。

 

その戦士の名こそ、ライスシャワー…

自分の担当ウマ娘であり、この世界で最も大事な人の名だ。

彼女は未だその手に剣を握り、目の前の悪鬼に立ち向かわんと闘志を燃やしている。

絶体絶命の窮地に立たされているそんな状況の中でだ。

 

「あ……きら…め……ない……皆、待ってるから…っ…!」

 

そうだ、思い出せ!

彼女とともに駆け抜けたあの日々を!

 

いつもそうだった…

いつも誰かの不幸を自分のせいだと責めて…

何度も何度も敗北を重ねて…

ブルボンの三冠を阻んだことによってバッシングを受けて…

 

嘆きにも、怒りにも…

何度震えたのかもわからない!

だがそれでも彼女は…!

最後には自分から立ち上がってきた!

 

 

それなのに自分はどうだ…

いつも誰かを羨んでばかりで…

少し躓いたからって諦めて…

 

そんな体たらくで彼女のパートナーを名乗れる筈がないじゃないか!

 

「う…っ…ぉお…おおぉおお…!」

 

立て…! 立て…! 立て…!

 

早く立ち上がって戦え…!

 

自分が弱いからなんだ!

自分が至らないからなんだ!

 

そんなの、ここで戦わない理由になんかならないだろ…!

 

自分の限界を、今ここで…越えるんだ!

 

その瞬間俺の身体から仄かな、だが確かに眩い光が溢れ出す。そして同時に身体の中から漲る力の奔流…

 

なにが起こったのだろう、俺の心に呼応することでこの身に宿るギフの遺伝子が活性化したのだろうか…

気にはなるが、それは後回しだ。

今ここで重要なのはただ一つ、あの悪鬼に一矢報いることができるということだ!

 

「赤石ィイィィイ!」

 

「な、なに…!?その力は…ぐぅ!」

 

立ち上がり、駆け出し、拳を突き出す。本来なら変身もしていない俺の拳など、赤石にとって取るに足らないものでしかないだろう。

しかし、謎の力に包まれた俺の拳が胴に直撃すると完全に意表を突かれたのもあるだろうが、予想外の威力によって赤石は吹っ飛ばされ、ライスを掴んでいた手を思わず離してしまう。

 

「待たせてごめん、ライス。大丈夫か?」

 

「ぉ…にぃ…さま…ううん、来てくれるって…信じてた…から…」

 

ライスを助け出すことができ、安堵する。先程までの戦闘のダメージに加え、今まで拘束され続けたことで大きく疲弊を見せてはいるが、命に別状はないだろう。

しかし、安心するのも束の間…赤石は大したダメージもなかったのかすぐ立ち上がり激昂を顕にする。

 

「何故…!何故また立ち上がる…!?

私は完璧に君の心を折った筈だ…!

立ち上がれる筈がない!

 

それなのに何故…!!

矮小な人の身に拘っていながら!」

 

何故だと?

それならもう判りきっている…もう既に答えは得た。

 

「お前の言う通り、人類は…

愚かで弱い生き物なのかもしれない…

カゲロウを失った今の俺なんかは尤もだろう…」

 

「………お兄様……」

 

「…ならば何故抗う!判っているだろう!そんなことをしても無駄だと!」

 

「………守りたい、大切なものがあるからだ!」

 

「なにぃ…?」

 

「人はどんなに弱くて、どんなに愚かでも…自分の大切なものを守るためなら幾らだって強くなれる!

 

俺に、そう教えてくれた人がいる…」

 

振り返り、俺はその人を見つめる。

真っ暗な闇の中で迷い続けていた俺を最後まで見捨てず、遂には光の中に連れ戻してくれた世界で最も大切な宝物のことを…

 

「だから俺はもう逃げない…!

自分がどんなに弱くて、不完全でも…!

何度だって立ち上がって見せる…!

 

それが俺の、覚悟だ!」

 

これは謂わば宣誓…自らの弱さを受け止め、それでもなお諦めずに立ち向かい続けるという誓いの証明だった。

 

「……ゥゥゥゥゥァ"ア"ア"ッ…!

ざぁんねんだよ大二君っ…!

君がこれほどまでに無知で蒙昧だったとはね…!

 

君にはもう、ギフ様の寵愛を受ける権利はない…

せめて私が…引導を渡してあげよう…!」

 

赤石は苛立ちを隠すこともせず露わにし、頭を掻き乱す。そして大きな失望を孕んだ言葉を吐きながら右手を上げて火球を発生させる。

大きさはそれほど大きくない、バレーボール位のサイズだがギフデモスの力は先程の攻防でよく理解している。ただの人間とウマ娘の二人組など、簡単に消し飛ばすことが可能だろう。

 

「さよならだ…大二君ッ…!」

 

赤石が手を振り、生みだされていた火球を投擲する。火球は真っ直ぐこちらに向かって来ており、逸れる気配もない。

このままでは直撃は免れないだろう。

回避する余裕もない、先程のような力の奔流も感じられない。

ならばせめてライスの安全は確保しなければと俺はライスの前に盾になるように立つ。

 

「ウオオォォオオーーッ…!」

 

「お兄様…!」

 

心配しないでくれ、ライス…死ぬつもりなど毛頭ない。

この一撃がどれほど強大なものであろうと、どんなにこの身体が焼け爛れようと必ず生き延びてみせる。

そして必ずあの男を、赤石を打倒するのだから…!

 

 

 

 

ドガーン!!

 

 

 

 

 

 

火球が着弾し、爆ぜる音が広がる。

爆発の規模からして辺り一帯は焦土と化している。

これでは生存など望むべくもない筈だった…

 

しかし…

 

「ば……馬鹿な…!」

 

「…なにが、起こったんだ…?」

 

そこに広がっていたのは驚きの光景だった。

其処には無惨に焼け爛れ、命の灯火が消えた姿ではなく、謎の光にその身を護られ五体満足でその場に立ち尽くす大二の姿だった。

大二はその特殊な状況に面食らうも、自分を守ってくれた謎の光に目を向ける…

 

「……ウイング…バイスタンプ?」

 

大二を救った光の中心には先程取り落としてしまった筈のホーリーウイングバイスタンプが同じく取り落としてしまったライブガンを伴って存在していた。

ホーリーウイングバイスタンプはゆっくりと大二に近付いていき、その手元に納まる。

大二の手が触れた瞬間、バイスタンプのその淡いターコイズブルーの配色と純白の翼の色が変化する。

その様相は、変化する前のクロウバイスタンプとよく似ていた。

 

謎のバイスタンプから光の波紋が広がり続け、"漆黒"の羽根が舞い始める。羽根は少しの間、宙を舞い続けていたがやがて一塊に集まり始め、人型を形成する。

羽根でできた人型は血の通った肉体へと変わり、そして黒衣の青年に姿を変える。

 

そこに立っていたのは、見間違える筈もない。共に生まれ育ち、そして最後に想いを託して消えていった為に二度と会えないと思っていた筈の存在、もう一人の自分。

 

 

 

 

「「…カゲロウ(くん)…!?」」

 

 

 

 

「よぉ、お前らァ…久し振りだなぁ…

クックックッ、相変わらずの間抜け面だなァ…

思わず笑えてきちまうぜぇ…」

 

五十嵐大二の悪魔、"カゲロウ"の姿だった。

カゲロウは独特の指を弾く癖をしながらこちらへ振り向くと、ニヤッと笑いながら嫌味を言う。

 

「本当に…お前なのか?…カゲロウ…」

 

眼の前の光景が信じられず、思わず聞いてしまった大二。カゲロウは変化したバイスタンプを奪い取りながら、そんな大二の言葉を聞いてまるで悪戯が成功した悪童のように、得意気に喋り始める。

 

「ハッ…お前が漸く俺のありがたみってやつを自覚したみてぇだからな…地獄から舞い戻ってきてやったんだ、精々感謝し…ぅおっと…」

 

「うん…っ…うん…!

いっぱい…いっぱい感謝するよ…っ…

おかえり…カゲロウくん…!」

 

しかしそんなカゲロウのおしゃべりも突然訪れた小さな衝撃によって中断させられる。ふと視線を下げればライスがカゲロウの胸で啜り泣いていた。

どうやらライスが胸に飛び込んできたときの衝撃だったらしい。

二度と会えないと思っていた友達との再会を喜び、抱擁を交わすライス。

 

「…その調子じゃライダーになっても泣き虫は変わらねぇみてぇだな、ライス…

 

それにしても…

甘ちゃんのお前があそこまでの根性を見せるとは思わなかったぜ、大二…?」

 

胸にライスを抱きながら此方へと向き直って声を掛けてくるカゲロウに対し、大二は答える。涙を堪えながら、どこまでも毅然に。

 

「当たり前だろ…っ…お前にもライスにも、噓をつくような真似はしたくなかったからな…」

 

「…お前のことだ…

気付けば上出来位に思っていたが、期待以上だった…

 

癪だが、認めてやるよ…お前の覚悟って奴をな…」

 

そんなことを言い放つカゲロウの表情は言葉とは裏腹に、とても晴れやかなものでありまるで今まで面倒を見ていた雛が長い時を経て、巣立ちを迎えたところを見届けたかのような面持ちだった。

 

「カゲロウ…これからは、一緒に戦ってくれるか…?」

 

大二はカゲロウに対して問を投げる。態々そんなことを聞かずとも先程までの言動と赤石の攻撃から守ってくれた行動からカゲロウもそのつもりなのは薄々分かっているのだ。

これは一種の確認だ、言葉にしてもらうことで改めて心を交わしてこれから共に戦うために。

 

「ふっ…お前がまた腑抜ける様なことがあったら、いつでも乗っ取るからな…?」

 

帰ってきた返答はどこまでも彼らしい皮肉の様なものではあったが、それは翻訳すれば彼なりに了承の意を示すものであり、その証拠にもう片方の手に持っていたライブガンを大二に手渡す。

大二はそれを受け取り、手首をスナップしてモードを切り替えてドライバーにマウントする。

 

さあ、撃鉄を起こす準備は整った…

此処から先は祝福を得て、彼らがかの名を取り戻す時…!

 

「………」カチャッ

 

『パーフェクトウイング!』

 

『Confirmed!』

 

カゲロウがバイスタンプを操作して起動し、大二の腰に装着されたツーサイドライバーのオーインジェクターに押印。

そのまま返す手でバイスタンプスロットに装填…!

 

『Wings for the Future…! Wings for the Future…!』

 

どこか静謐でありながら、しかし希望を感じさせる待機音を背後に二人は自分の変身ポーズをとる。

途中までは同じポーズ、手を横から顔の前までクロスさせるように持っていく。

そして大二はクロスした手を左側に回すようにして、十字を描く。

 

そして二人で一緒に自らを戦士に変える呪文を唱える…

 

 

 

『変身…!』

 

 

 

ツーサイドライバーのツーサイウェポンをライブガン状態にして引き抜き、親指で撃鉄を押して翼を展開。

そして最後にトリガーを引き、すべての行程を修了させる…!

 

『Fly High…!』

 

  『パーフェクトアップ!』

 

大二の背からは白い片翼が拡げられ、カゲロウは仮面ライダーエビルに変身後その身を黒い片翼に変化させ大二の背に移動する。

これで大二の背には白と黒…一対の翼が揃い、未来ヘと羽撃くための両翼が完成する。

白と黒の翼が大二を覆い、スーツとアーマーを形成することで完全に変身が完了する…!

 

『HAHAHAHAHA…!』

 

  『仮面ライダー…エビリティ…ライブ!』

 

『アイムパーフェクト…!』

 

その出で立ちは通常のライブのアンダースーツに黒いラインが施されたホーリーライブのアーマーといった様相だが、特に眼を引くのはその背にはためく純白のマント。

その場に立っていたのは、人を甘言で騙し弄ぶ悪魔でも、自分の正義に酔い痴れて身勝手な断罪を繰り返す裁定者でもない。

人々の未来と大切なものを守るために翼を拡げる戦士…「仮面ライダー」だった…!

仮面ライダーは赤石へと向き直り、対峙する。

その眼差しにはもう、一切の迷いもなかった。

 

 

「ギフの傀儡、赤石英雄…

 

お前に慈悲は…いや、未来(あした)は与えない…!」

 

 

続く…








ギーツもここまで勢いを落とすことなく、面白い展開が続いておりますし、景和は相変わらず主人公ですね!
ジーンが持っていた銃型のアイテムは一体何なのでしょう…?
ギーツたちプレイヤーの新アイテム…?
それとも仮面ライダージーンの変身アイテムだったりして…考察がはかどります!
教えて〜エロい人〜!

皆さん…
ウマ娘の福袋ガチャはどの娘が当たりましたか?

僕はドーベルと応援ヘイローでした!
二人共持っていないウマ娘&別衣装だったので大収穫といったところですね!

まぁダイタクヘリオス欲しさに113連して、懐は空っぽなんですが…(白目)






目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

ホワイトデー特別番外編 悩める男たち












3月14日、それはただの日付ではない。受け渡された淑女の愛に応え、紳士達がお返しの贈り物を渡す日、所謂ホワイトデーというものだ。

 

つい一月前には、今年はどれだけ沢山のチョコを貰えるだろうかとそわそわしていたうら若き男子達が、今度は一転して愛に報いるに値する品々を吟味し、自らの愛の大きさを証明しようと躍起になるのである。

その日はあるものにとってはただの日付になってしまうという清濁入り雑じった様相ではあるが、そんな悲劇とこそ無縁な男達がこのしあわせ湯には集っていた。

 

「ヒロミさん、ホワイトデーのお返しとかってどうしてましたか?」

 

一人はこのしあわせ湯を経営する五十嵐家の次男坊であり、今やブルーバードという新たな治安維持組織を背負って立つ男、五十嵐大二。

 

「…恥ずかしながら俺は今までがg…母からしか貰った経験がない。俺の意見はあまり参考にならないと思うぞ…

お前達こそ、誰かから貰ったりお返ししたりしなかったのか?」

 

一人はかつて命を削るドライバーを用いて迫り来る脅威と戦い続けた結果、その体に決して小さくない傷を負うも幾度として大二達を支え続けた大先輩、門田ヒロミ。

 

「いやぁ、昔はサッカー一辺倒だったからそういうのに縁がなくて…

フウには貰ってたけど姉妹の皆で食べられるようにお菓子の詰め合わせとかでした…」

 

一人は大二の兄であり、かつて仮面ライダーリバイとして家族との思い出が消えていく恐怖を抱えながら戦い続け、今はプロのサッカー選手を目指して努力している男、五十嵐一輝。

 

「じゃあ此処に集まってんのは、折角のホワイトデーだってのに気の利いたお返しの一つも思い浮かばねぇ甲斐性なしってことか?

そりゃ冗談キツいぜ…」

 

一人はスペシャルウィーク、サイレンススズカ、トウカイテイオー、メジロマックイーン、ダイワスカーレット、ウオッカ、ゴールドシップという錚々たるメンバーで構成されるチームスピカを纏めあげる万年金欠敏腕トレーナー、沖野。

 

「Mr.沖野…それ、自分で言ってて悲しくならない?

ま、そのとおりだがね。本来なら世の中のレディがこんなナイスガイを放っておくわけないが…

生憎そういうのは切り離してきたものでね…」

 

一人は現代に生きる天才科学者、一輝達の用いるライダーシステムの開発を一手に担いそして自らも悪魔に頼らない自慢のライダーシステムの完成形であるドライバーを使ってライダーに変身して戦う男、ジョージ·狩崎。

 

そう、この場に集まったメンバーの共通する悩み事とは一つ。

自分にチョコを渡してくれた大切な人にどんなものを贈れば良いのか分からないのである。

その状況をなんとか覆さんと同じ悩みを持つもの同士で集まり、知恵を絞っているが状況はあまり芳しくなかった。

 

「…なぁ、いっそのこと全員どんなチョコを誰に貰ったのか発表してみるのはどうだ?

そこが分かれば、どんな贈り物が合っているのか全員で意見が出せるかもしれない…」

 

「なら、言い出しっぺのヒロミから発表といこうじゃないか!

君は今年は誰に貰ったんだい?」

 

ヒロミから早速一つ提案がされ、そこから話題を大きく展開するために狩崎がバトンを渡す。

 

「今まで通り母からのおはぎだけ…いやそういえば、もう一つ貰っていたな?」

 

「Say,what's!?」

 

「お、てことはなにか?

門田さんは今年でやっと家族チョコオンリーから脱却したってことかい?」

 

これは予想外…一度戦線を離脱してから鳴りを潜めているとは言え、ヒロミはその頑固で不器用な性格故に女っ気が微塵も感じられない。

そのせいでチョコもどうせ他人からは貰っていないだろうという狩崎の予想が裏切られることとなった。

 

「あ、あぁ…制服からしてトレセン学園の生徒のようだった。

なんでも友達が迷惑をかけてしまったからそのお詫びも兼ねてとのことだったが、生憎覚えがなくてな…」

 

「……もしかしてその生徒、大きなリボンと穴を空けたヒトミミ用の帽子を被っている子じゃなかったかい?」

 

「確かそんな格好だった気がするが…なんだ狩崎、知り合いだったのか?」

 

ヒロミは自分にチョコを渡してくれたウマ娘の正体を狩崎が知っていたことに驚いたが、それについて聞いてきた狩崎の表情はなんだか苦虫を噛み潰したようななんとも言えないものだった。

 

「厳密に言えば知り合いの知り合いかな…

君に迷惑を掛けたご友人というのも想像はついているが、私から話すべきことではないからね…

まぁ、贈る相手は君で間違いないことは断言しておくよ。

ありがたく貰ってやってくれるかい?」

 

「そうか、そういうことなら…

と言うことで俺はその子からのチョコクッキーと母からのおはぎが全部だな。

沖野さんは、やはりチームの皆からですか?」

 

これ以上の追及は遠慮してほしいというような狩崎の無言の訴えに応えて、ヒロミはそれ以上はなにも言わず、そのまま沖野へと問いを投げた。

しかし、沖野は懐から数個のチロルチョコと一つだけ趣の異なる包装がされた箱を取り出しながら毒づいた。

 

「あいつらが俺にそんな可愛らしいこと、するわけないだろ?

まともにくれたのはスズカだけだよ…」

 

『!?』

 

その時、ヒロミ/狩崎/大二/一輝に電流走る。

沖野トレーナーのあまりの雑な扱われ方に戦慄を覚えたわけではない。

正直扱いに関しては彼はウマ娘にセクハラ紛いの行動を無意識に取ることが多いのでさほど不思議には思わない。

 

問題はあの"サイレンススズカ"がバレンタインにチョコを、しかも手作りを用意し手渡しているという事実だ。

彼女はその雰囲気から勘違いされがちだが、その本質は走るということに全力で傾倒している。

つまりは究極の世間知らずなのである。

 

噂によればサイレンススズカは、いつかのクリスマスに行なわれたプレゼント交換会にそこら辺のコンビニで買ってきたガムと充電器と塩コショウをプレゼントに出品したのだそうだ。

しかも、らしい包装をなにも行なわずコンビニ袋に入れたままでである。

どういうチョイスだよ…ガムと充電器はまぁ学生ならとなるが、塩コショウはマジでなんなんだ?ガチで謎である。

そんな彼女がちゃんとバレンタインというイベントを理解し、手作りの、包装がされたチョコを渡す。

それがどんな意味を持つか、想像に難くない。

要するに彼女は、ガチで獲りにきているということなのだ。

そのことに全く気づいている様子のないこの男に、正直に話すべきだろうか?

皆が取った選択肢は…

 

「それは災難でしたね、沖野さん…」

 

「そういうこともありますよ。なぁ、大二?」

 

「え、あ、あぁうん…」

 

「ま、日頃の行いというやつさ。これを機にセクハラ癖を治したまえよ?」

 

「おいおい、人聞きが悪いぜ…」

 

スルーすることだった。

今まで考えていたことは断言できる推測でしかない。もし伝えてそれが間違っていた場合の責任を取れるものは此処にはいないし、何より触らぬ神に祟りなしというやつだ。

 

「というより、むしろテイオーから貰ったのは君じゃないのか、一輝くん?」

 

「?…確かに貰いましたけど。」

 

沖野へと集められていた注目は、その発言によって一輝に集まり、急に話を振られた一輝は困惑気味に返答する。

 

「沢山作って余ったとかで…それもカウントするんですか?」

 

『…はぁ…』

 

朴念仁此処に極まれりとは正にこの男のことを指すのではないかとさえ感じてしまう。

沖野へと与えられたチョコがあれで、自分に贈られたチョコがそれであるという時点でそれがただの在庫処理で渡されたものではないことが容易に想像がつくと思うのだが…

もし彼の相棒がこの場にいたなら、盛大に突っ込みをいれているところだろう。

 

「フウにはバイトしてたカフェのイベントに誘ってもらって…

 

あと、たづなさんにも…」

 

「あぁ、トレセン所属のトレーナー皆に配ってたやつ、一輝くんも貰ってたのか?

ありゃなかなか良いとこのチョコらしくてな、勿体無くて少しずつ…」

 

「え…?貰ったのは手作りでしたけど?」

 

沖野に電流(ry以下略

まずい、これは非常にまずい。このままではもしかすれば一輝のような唐変木でも、たづなさんの気持ちを勘づかれることになるかもしれない。

そうなれば…

 

『フフフ…なに余計なことをしてくれてるんですか~?

お給料カットしますよ~?』

 

脳裏に浮かんでくるのはあの優しい理事長秘書ではなく、世にも恐ろしい緑の悪魔の姿だった。

別にアピールしてんだから良いじゃんとはならない、乙女の心は複雑怪奇なのだ。

 

「あ、あっと…えぇと、だな…その…」チラッ

 

(助けてくれ!五十嵐!狩崎さん!門田さん!)

 

「ち、ちょっと俺はトイレに…すぐに戻るので!」

 

(五十嵐!?)

 

「おっと、すまない…電話がかかってきたみたいだ。すぐ戻るよ。」

 

(狩崎さん!?着信音もバイブレーションもしてねぇじゃねぇか!)

 

「…………………すぐ戻る。」

 

(ぅおい!?せめてなんか理由作れよ!)

 

頼りない男どもである。それでも世界の命運をかけた戦いに身を投じて来た者達なのだろうか?

しかしそれも致し方ない。いかに仮面ライダーと言えど恋する乙女には手も足もでないものなのだから。

沖野は仕方ないので、取り敢えず後々に響かない程度に適当を言ってその場を切り抜ける決心をした。

 

「えぇと、あれじゃないか?

仕事仲間には市販品で、仲の良い友人には手作りを渡してるとか…」

 

「そんなもの、ですかね…?」

 

咄嗟に言った適当ではあったが、それは別にあり得ない話しでもない。バレンタインにおいて仕事関係の知り合いには箔のつくようなブランドの市販品、友人同士では手作りを渡し合うなんてことは良くある話しなのだから。

それを聞いた一輝は特に気にする風でもなく、話を蒸し返す様子もないようなので一先ず安心した。

 

「………」

 

「………」

 

「………」

 

(ん?あっ!なにしれっと戻ってきてんだあんたら!!)

 

「それで、狩崎さんは誰から貰ったんです?」

 

(話しを続けんな!)

 

なんとか場を切り抜けたことが判るや否や逃亡者達が雁首揃えて一斉に戻ってきた。まるで示し合わせていたかのように同時に席に着いたのでなんだかシュールな光景だった。

 

「私はロブロイくんとメジロのご令嬢に貰ったよ。

ロブロイくんとは話をするようになった友人だから判るが、マックイーンくんに至っては一体どういう風の吹き回しか…

なんだか気味が悪いねぇ…?」

 

「おい、どんな意図があるにせよ折角渡してくれたんだ。

そんな言い方するものじゃないぞ。」

 

「はいはい、分かったよヒロミマミー。」

 

「誰がマミーだ、誰が!」

 

まるでおかんのようなことを言うので、狩崎はおどけて見せた。

 

「でも、確かに不思議ですよね…狩崎さんとマックイーンってなんか接点ありましたっけ?」

 

「あれ、言ってなかったっけ。それはねぇ…」

 

狩崎はいかにして自分とマックイーンが関わるようになったか、その事情を事細かに説明した。

先の大二暴走事件の際に、ライスへの贈り物を届けて貰う依頼をしたこと。

それ以来なにかと話す機会が増えたこと。

 

「度々変なお願い事をしてくるものだから参ったよ。曰くスイーツを食べた腹持ちになれる薬とか、過剰に摂取したカロリーを分離する装置だとか…

そういったものは私の専門外だからね。」

 

「ハハッ、マックイーンらしいな!」

 

「ブクブク太んのがいやなら好きな食いもん位節制しろって話だよなぁ…?」

 

「おいおい…ん?カゲロウ?大二はどうした?」

 

「こいつがカゲロウか?

へぇ、ホントに五十嵐そっくりなんだな…」

 

「大二の野郎ぉ…黒歴史を思い出したせいか、急に俺に任せて引っ込みやがった。こういう時だけ駆り出しやがる…」

 

「こりゃ、帰ってくるまで大二の話しは聴けないなぁ…」

 

狩崎の話が終わった後、大二が先程まで座っていた場所には彼に宿る瓜二つの悪魔、カゲロウが座っておりいつの間にか会話に加わっていた。

どうやら自分の過去の失態を刺激されて落ち込んでしまったみたいだ。可哀相だがこちらとしても大変な出来事だっただけに肯定も否定も出来ず、苦笑いするしかない。

 

「というかよぉ、そろそろこんな話しは止めにしねぇかぁ?」

 

「?…どういうことだ?」

 

「お前らが集まった理由はなんだぁ?

貰った戦利品を自慢し合う為…ってわけじゃねぇだろ?

忘れてんじゃねぇよ。

ホワイトデーに凝った代物返して、箔着けてぇって話だろぉ?」

 

「箔がどうのはともかく…」

 

「なるべく良いものを渡して…」

 

「喜んで貰いたいってのは…」

 

「その通り、だね…」

 

「根本からズレてんだよ…

誰だぁ、貰ったもん発表し合おうなんて提案した頭でっかちはよぉ…」

 

「ぐっ…!」

 

精神的ダメージを受けているヒロミを余所に、カゲロウは立ち上がり大二の部屋へと入っていった。

と思ったらそんなに時間も経たない内に戻ってきた、その手にはなにやら冊子のようなものが握られており再び席に着くと、それを卓上に叩き付けるように置くと話し始める。

 

「こいつが何か分かるか、アホ共?」

 

「これは雑誌…だよな。これがなんなんだよ?」

 

「というか、カゲロウ…大二がこんなもの持ってるなんて知らなかったぞ。」

 

「………問題はそこじゃねぇ、中身を見てみろ。」

 

カゲロウの持ってきた雑誌、促されるままにそれを代表者の一輝が手に取り、ページを開く。

全員が寄り集まって開かれたページを覗いてみるとそこには正にお誂え向きな内容が記されていた。

 

「『気になる彼に貰ったら大チャンス!ホワイトデーの贈り物特集!』…?」

 

「決まってチョコ菓子を贈るバレンタインと違って、ホワイトデーは菓子の他にもアクセサリーや衣類なんかも候補に上がる…

そしてそれら一つ一つには、ちゃんとした意味があるんだよ。

そいつにはそれが詳しく載ってる…

まぁ要するに、自分の伝えたいことに似通った意味の贈り物を渡せば良いってこった…」

 

「詳しいな、カゲロウ…お蔭で助かった、礼を言わせてくれ。」

 

「悪魔って言うからどんなもんかと身構えちまったが、案外親切じゃねぇか!」

 

「…丸くなったもんだね、君も。」

 

男達はカゲロウの助言に感謝しつつ、ホワイトデーの贈り物を本格的に考える為に雑誌の内容に夢中になる。

カゲロウはその様子を何を思うでもなく、見つめていた。

一輝は他のメンバーが雑誌に夢中になっていることを確認するとそんなカゲロウに気になったことをそっと聞く。

 

「あの雑誌、大二のお金でお前が買ったんだろ?」

 

「…どうしてそう思う?」

 

「この集まりは元々、ホワイトデーに悩んでた大二が同じ悩みを持つ人を集めて開かれたからな…

あの雑誌があれば悩まなくて良いんだから、それは不自然だろ?」

 

「ハッ、だとしてもなんで態々俺がそんなもん…」

 

「ライスが大二に渡してるのに、お前に渡さない筈ないだろ?

お前もライスに贈るお返しを考えていたからあの雑誌を持ってた…違うか?」

 

「………………………チッ!」

 

図星を突かれたカゲロウは大きく舌打ちをしたのを最後に、一瞬の瞬きの後にそこに立っていたのは大二の方であった。

大二も今までの会話を全て聴いていたのかその表情には呆れのようなものを浮かべていた。

 

「カゲロウ、相変わらず素直じゃないな…」

 

「それでもお返しはちゃんとしようとしてたんだから、やっぱりお前の悪魔だよな…大二。」

 

「全く…困った相棒だよ、ホントに…

さぁ兄ちゃん、俺達も早く贈り物を選ばないと!」

 

「あぁ!湧いてきたぜ!」

 

これにて迷える男達はカゲロウという悪魔の助言によって、自らの気持ちを最大限表現する贈り物を選び出すことができたのだった。

これで後は当日、それぞれの御相手に無事に渡せる事を祈るばかりである。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

沖野トレーナーの場合

 

「それじゃトレーナーさん、走り込みに行ってきますね?」

 

「お、スズカ…ちょっと待ってくれ。お前に渡しておくものがある。」

 

「?…私に、ですか?」

 

沖野はそう言うと、懐から掌ほどの小さな小箱を取り出し、そのままスズカへと差し出す。

スズカを困惑しながらそれを受け取り、注視するとそれはなんの変哲もない綺麗なラッピングがされたものだった。

 

「今日はホワイトデーだろ?先月のお返しってやつさ。食いもんだから悪くなる前に食ってくれよ?」

 

「…ありがとうございます。開けても、良いですか?」

 

「え?あ、あぁ!」

 

許可を取り、ラッピングを丁寧に剥がして、小箱の蓋を外してみると…

 

「これは、キャラメル…ですね。甘い良い香りがします。」

 

「だろ?外を適当にぶらついてる時に美味そうなのを見つけたんだ…

お返しに丁度良いと思ってな!」

 

「ふふっ…ありがとうございます。大事に食べますね?」

 

(この様子じゃキャラメルの意味には気づいてないな?

これなら凝った贈り物なんてせずに、無難にチョコとかでも良かったかもな。)

 

ガチャッ

 

「オッス~…ってああ!?

スズカがなんか貰ってんぞぉ!!」

 

「なになに…?もしかしてホワイトデーのお返し!?」

 

「うぇぇ!?俺達の分もあるよな!?」

 

「食べ物ですか!?美味しいものなら大歓迎です!」

 

次の瞬間、次々とスピカのメンバーであるゴルシ、スカーレット、ウオッカ、スペの4人が転がり込んできた。

テイオーとマックイーンがその場には居なかったが、その理由を問うのは野暮というものだろう。

 

「あぁ~!うるせぇお前ら!ちゃんと用意してるよほら!」

 

「おっサンキュー!…っておい!

なんでスズカのは御高そうなキャラメルで、あたしらは5円チョコなんだよ!

 

格差社会か!?人種差別か!?

ウィンストン・チャーチルの再来かオメェは!」

 

「当たり前だろ!あんなちゃっちいバレンタインチョコで貰えるだけ有り難く思え!」

 

「「「え~~~!?」」」

 

「フフフッ…」

 

スズカはそんなチームの掛け合いを微笑ましそうに見ていたが、ふと自分に贈られたキャラメルを見ながら想いを馳せる。

その心の祈りがいつかは誰かさんに通じるのを願いながら…

 

(一緒にいると安心できる…今はそれで良い。でも、いつかはもっと先へ…)

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

門田ヒロミの場合

 

「…そうか、喜んで貰えて良かった。

あぁ、一緒に入れたチョコも是非食べてみてくれ。きっと気に入るよ、ありがとう…

それじゃ、がが…お元気で。」

 

ヒロミはそう言って、通話を切る。電話の相手はがが、つまりはヒロミのお母様であった。

ヒロミは結局、あの雑誌に掲載された贈り物の中から選ぶことはなかった。

込めたい想いに似通った意味の贈り物を見つけることができなかったからだ。

なので彼は花を贈ることにした、贈った花はマーガレット。その花言葉は信頼。咲き始めの時期でそこまで数がなかったので花束ではなく一輪になってしまったが、沢山の花を世話するのは逆に負担になってしまうだろうからそれで良かったと思うことにする。

流石にそれだけでは味気ないのでチョコレートを入れさせてもらったが。

 

これで一つ、やるべき事は片付いた。後はもう一人にお返しを渡すだけだ。

そう考えを巡らせていると、タッタッタッ…っとこちらに向かって走ってくる音が響く。

その音の方に目を向けると一人の少女が此処に近付いているのが見えた。

 

「ひ、ひえぇえぇ~~!?待たせちゃってごめんなさい~!

途中で道に迷っちゃって~!」

 

「いや、そんなに待ってないから、大丈夫だ。

此方こそ急に呼び出してしまってすまないな…」

 

「いえいえ!どんな時でもお電話一本で即参上!仕事屋マチちゃんとは私のことですとも!むふ~!」

 

「そ、そうか…」

 

正確には狩崎経由で連絡を取って約束を取り付けたので電話一本どころではないし、遅れてきた時点で即参上でもないのだが細かい事を言うのは辞めておこう。

 

「今回、君を呼び出したのは他でもない。この前のお返しをさせて貰いたいと思ってな…マチカネタンホイザ。」

 

「え?……うぇぇ!?」

 

「これを受け取って貰えるか?」

 

そう、バレンタインの日にヒロミにチョコを渡したもう一人の人物、謎のウマ娘の正体は自称普通のウマ娘、マチカネタンホイザだったのだ。

ヒロミはそう言って懐から、母に贈った物と同じブランドのチョコレートを渡す。

 

「そそそ、そんな!?

気にしなくても良いですよ~!元々お詫びのつもりで渡したんですから~!」

 

「そう、その事についても是非詳しい話を伺いたいと思ってな…

失礼だが、俺には君に詫びられる覚えがない。一体どういうことなんだ?」

 

今回直接会う事にした理由はその辺りを詳しく聞いておきたいというのが大部分だった。自分はそれなりに苦労してきた覚えはあるが、その大半は自分の至らなさが原因であると感じているヒロミは誰かに詫びられる程迷惑を被られた覚えなど全くといって良い程ないのだ。

それを聞いたマチカネタンホイザは、今までの朗らかな表情を潜めて少し憂いを帯びたものになる。

 

「………………狩崎さんから、何か聞いたりとかはしました…?」

 

「いや、何も聞いていない。

狩崎は直接本人から聞く方が良いと…

すまない、自分から聞いておいて何だが言いたくないのなら…」

 

「…ごめんなさい…

ちゃんとお話ししないとって分かってるんですけど…

どうしても勇気が出なくて…

いつか絶対全部話します。だから…」

 

「分かった、無理を言ってすまなかったな…」

 

「いえいえ…!こちらこそごめんなさ…

 

ぷっ…アハハハハハッ!

なんだか私たち、お互いに謝ってばっかりですね!」

 

確かに言われてみればそうだったと思い至る。これまでヒロミとマチカネタンホイザは会話を重ねるなかで二人とも話の流れで何度も謝罪を繰り返していた。

それほど特筆するようなことでもないのだが、気付いてしまうとなんだか可笑しく感じてしまう。

 

「フッ…ハハッ…確かにな。

俺達は案外、似た者同士なのかもしれないな。」

 

「はい!

えへへ…私達、ごめんなさい友達ですね!」

 

「それはよく分からないが…」

 

「ガーン!」( ̄□ ̄;)!!

 

些細な気付きから、マチカネタンホイザのその表情にまた笑顔が戻ってきた。

ヒロミは楽しそうに笑う彼女の笑顔を見ていると、柄にもなく彼女に一番似合う表情こそがそれなのだろうなと思ったのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

五十嵐一輝の場合

 

トウカイテイオーは無敵のウマ娘、それは彼女を知る者にとっての共通項であろう。

戦績や名声の事を言うのではない。

彼女の走りはこの世界のあらゆる人々に夢を、希望を、そして奇跡を見せる…

 

故に無敵、ウマ娘として考え得る高見の最高峰に座する者であると言える。

だが、そんな無敵のウマ娘にも弱点がある。

 

(一輝に…呼び出された。

これってもしかしなくても"そういうこと"なのかな…!?)

 

如何に無敵のウマ娘と言えど病には勝てない…そう、恋の病には。

その病はとても厄介で罹患した者には様々な症状が見られるようになる、例えば盲目とかであろうか。

普段の"あの男"がどんな性格なのかも、頭から綺麗さっぱりすっぽ抜けてそんな考えが巡ってしまうのも盲目故であろう。

 

だから普段はしないような気合いの入ったお洒落やメイクをして、待ち合わせ場所に来てしまっているのも、ある意味自明の理だ。

 

「………へ、変な跳ね方してないよね?」

 

持ってきたバッグから、手鏡を取り出し出掛ける前に洗面台の鏡で何度も行なった確認を再度繰り返す。

手鏡に映るのはいつもの元気な天真爛漫な彼女ではなく、100人見れば全員が振り返ってしまうだろうと言える程の美少女だ。不安に思う必要など本来ならばない筈だが彼女を呼び出した男はそういう奴なのだから用心するに越したことはないのだろう。

 

「お~い、テイオー!」

 

(き、来た~~~~!)

 

「悪い悪い、待たせちゃったか?」

 

「え、えと…

も、も~う!ホントだよ!

ボクはものすっごく忙しいんだから!

そこら辺気を付けてよね!」

 

「ホントごめんな!このと~り!」

 

手を合わせながら頭を下げる様にして謝る一輝だったが、その体勢を直し改めて向き直してようやくテイオーの姿を直視した際に少しの間呆然とする。

 

「?…どうしたの一輝?」

 

「…ん?あぁ、いや…テイオー、今日はなんかいつもと違うんだな。

 

何て言うか、うん…綺麗だな!」

 

「…………ふえ……?///」

 

いつもの調子で突然褒められたことでテイオーは顔から火が出そうになる。正直に言えば一輝なら此方がどんなにお洒落していても気付かないと思っていたのだ、いつもそうだった。

若しくは茶化されて終わる位は覚悟していたので面食らう。

 

テイオーはこの一時の出来事で確信した。一輝は確実に"そういう"気で自分を呼び出したのだと。

今までぬか喜びさせられることなんて何度もあった、その度に期待を裏切られて挫けそうになってきたが、遂に今日この日に報われる時が来たのだ。

 

「う、うん…///

今日は凄く気合いを入れて来たんだ…

えっと…君にもっと好きになっ…」

 

「そんなお洒落して、どっか遊びに行くのか?」

 

「…………………………………………は?」

 

空気が凍る。

氷の力を扱うバリッドレックスの氷結能力でもこれ程までに冷たい空間を作る事は至難の技であろう。

テイオーが何故そんな空間を生み出したのか、それは一輝の言動に違和感を感じたから。

そう、まるで…お洒落をしている理由に見当がついていないみたいな。

 

もしかしたらこれは…

そんな悪い予感を信じたくなくて、テイオーは問いを投げる。

 

「な、何言ってんのさ、一輝…

ボクと君はこれからデート…………」

 

「おっ、来た来た!お~い、こっちで~す!」

 

そのか細い声で紡がれたその問いは一輝の耳には届かず、一輝は遠くの方に大きく声をあげながら手を振っている。

テイオーは先程から感じる悪い予感が更に大きくなってくるのを感じながら一輝が声をかけている方向に目を向けてみる。

そこから人が一人。

その人影は一輝を見つけると同時に嬉しそうな笑顔を浮かべながら近付いてくるが傍らのテイオーを見つけた瞬間に怪訝な表情に変わり、こちらがいるところに辿り着く頃には現在のテイオーと同じ表情、完全な"無"となっていた。

 

「………」

 

「………」

 

そこに立っていたのはテイオーと同じく、気合いの入ったお洒落やメイクをしたトレセン学園理事長秘書、駿川たづなその人であった。

そう難しい話ではない、テイオーもたづなも同じ穴の狢だったと言うだけの話である。

因みにさっきの一輝の思わせ振りな言動の種明かしも実に単純。

女の子の変わったところに気付くことが出来たら取り敢えず褒めておけばなんとかなるというさくらのアドバイスを鵜呑みにした結果である。

つまりそこには"気付いたから褒めた"程度の意識しか存在していなかったのだ。

 

「先月はバレンタインチョコありがとう!

これはホワイトデーのお返しだ!

帰ってからゆっくり食べてくれ!

二人とも、予定あるのに付き合って貰って悪いな!

俺もう行くから楽しんできてくれよ!

 

じゃあな~!」

 

一輝はそう言って懐から取り出した二つの箱をそれぞれに渡した後、近くに停めてあった自転車に乗り込み颯爽と去っていった。

彼の自慢の脚力で漕がれた自転車のスピードは果てしなく、あっという間に見えなくなってしまった。

その場に残された可憐な乙女二人はただただ呆然とするしかなかった。

 

「………そんなことだろうとは…」

 

「………思っていましたけれど…」

 

あんなことになって浮かれてしまう寸前までは頭の中にあった構想ではあったがいざ的中してしまうとなかなか心に来るものがある。

その傷心を癒すべく、テイオーはたづなに対してある一つの提案をするに至った。

 

「…たづなさん、これからカラオケ行かない?

この鬱憤は歌って発散するのが一番だよ!」

 

「ふふっ…そうですね。誰かさんのおかげで今日一日暇ですから。

なんでもお付き合いしますよ、テイオーさん。」

 

こうして二人は一輝からのお返しのことなどすっかり忘れて、カラオケやショッピングなど想定外のお出かけを最大限楽しむこととなった。

 

しかし、帰宅後にふとお返しのことを思い出した二人が箱を開けて中身のマカロンを見た瞬間、今日得た教訓のことを忘れて狂喜乱舞したことを此処に記しておこうと思う。

 

 

 

「一輝兄、因みになんでマカロンあげたの?」

 

「マカロンあげるのは『特別な人』って意味なんだろ?

二人とも俺の特別な友達だからな!」

 

「………そう来たか……」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

五十嵐大二の場合

 

五十嵐大二は疲れていた。

ブルーバードの活動が大きく軌道に乗り始めたことで業務が非常に多忙になったこともそうだが、何よりその多忙な業務の合間を縫って自分の納得がいく贈り物を方々で探し回っていたので心身共に休まる暇が一切なかったのだ。

しかしその努力も相まって、とても素敵な贈り物を見つけることができたのでそれは僥倖だった。

 

ガチャッ

 

「ライス、ただいま。」

 

「あっ、お帰りなさいお兄様!」

 

部屋の奥の方からライスが現れ、エプロンで手を拭きながらトコトコと近付いてくる。その様子を見るに、もう既に殆どの家事を終わらせて夕食も用意してくれているようだ。

ここまで尽くしてくれる彼女には日頃から感謝の念が絶えない。

 

「今日は何か変わったことあった?」

 

「今日はね、ブルボンさんが様子を見に来てくれたよ!

元気そうで安心したって!」

 

「そうか、じゃ今度一緒にお礼しに行こうな?」

 

「うん!」

 

ライスは今、学園を無期限で休学している。その理由は宝塚記念中に起こった事故で負った怪我によるものだ。

全力疾走中の足の骨折、それは字面にすればそこまで恐ろしいようには見えないかもしれないが、実際はその限りではなく、その証拠にライスは生死の境を彷徨い、奇跡的に一命を取り留めたものの再びレースの世界に返れる確率は非常に低いものとなってしまった。

そして現在は、ブルーバードの寮の一室で療養しながら大二と二人暮らしをしているのである。

 

「お兄様、今日は少しだけ遅かったけどもしかして何かあった?」

 

「あっ、そうだった。少し待っててくれるか?」

 

ライスが用意してくれた美味しい食事に舌鼓を打った後に少し身体を休めていると、今日は帰りが少しだけ遅かったことを思い出したライスが疑問を投げ掛ける。

ライスは療養中である為に、ドライバーを一時的に預かっているのでライダーとして戦うこともできない。

誰かが危険に晒されていても、なにもすることができない現状を歯痒く思うが故の疑問であることは理解しているが、今回はそう言った理由で遅れた訳ではないので安心して貰いたい。

 

「これを探してたら、少し時間をかけすぎちゃってな…」

 

「これ、バームクーヘン…?」

 

「あぁ、今日はホワイトデーだろ?

先月のバレンタインはとても素敵なチョコを貰ったからお返し。」

 

「わぁ…すっごく嬉しいな!

今切り分けるから、お兄様も一緒に食べよう!」

 

ライスはそう言うとバームクーヘンを持って台所の方へと駆けていく。その様子からはとても怪我をしているようには思えない。

彼女が順調に快復に向かっていることを改めて認識し、大二に心には安心感が募っていった。

ライスはバームクーヘンを丁寧に切り分けながらその贈り物に込められた意味を感じて胸の中にほんわかと熱を感じる。

 

(『永遠の幸せをあなたに…』かぁ…

えへへ、お兄様と一緒にいれるだけでライスはすごく幸せだよ…)

 

 

 

「あ~むっ…うぅ~ん!

甘くて、ほっぺが落ちちゃいそう~…」

 

「ハハッ、ホントに落ちちゃったら大変だな…」

 

丁寧に切り分けられたバームクーヘンを小皿に移して、フォークで上品に食べるライスとそれを見守る大二。

とても絵になる素敵な光景だった。

 

「さて、……ん?あれ?」

 

「?…どうしたのお兄様?」

 

「どうせ渡すものがあるだろうからカゲロウに替わろうと思ったんだけど…

出てこないみたいだ…」

 

「カゲロウくん?…あぁそれなら、もう貰ったよ?

朝に枕元に置いてあったから。ほらこれ!」

 

そう言ってテーブルの上に置いてあった袋を手元に引き寄せながら、大二に見せるように持つ。

その手の中のあったのは、駄菓子屋などで探せば簡単に見つかるような菓子の類いだった。

 

「チョコマシュマロって…カゲロウ、お前って奴は…」

 

「あはは…」

 

ホワイトデーにマシュマロを贈るといいうのにはどういう意味があるかというと、『あなたのことが嫌い』という意味があるのである。

なんでも、口に含んだ際にスッと溶けてなくなってしまうことから貴方との関係を消し去ってしまいたいというような解釈がされていることかららしい。

 

「カゲロウくんのことだから本気じゃないよ、だから気にしないであげて?

 

それにね、ホワイトデーのマシュマロにそんな意味ができたのはすごく最近の話で、本当はもっと嬉しい意味なんだよ?」

 

「え、そうなのか?」

 

博学なライスはホワイトデーのマシュマロの本来の意味について、詳しく教えてくれた。

そもそも、ホワイトデーの起源はバレンタインのお返しにマシュマロを贈っていたことが由来とされており、

 

『貴方からの愛に感謝し、私からの愛を優しさで包んで返します。』

 

という意味が本来は込められていたのだと言う。

それが時を経るにつれて現在のような由来、意味となっていったのだ。

 

「へぇ、そうだったのか。全然知らなかったよ、ライスは物知りだな。」

 

「うん!…だからね、カゲロウくんはきっとそういう意味で贈ってくれたのかもしれないから…あんまり怒らないであげてほしいな…?」

 

「…そうだな。カゲロウのことだから、素直になれなかっただけかもしれないけど。」

 

「それでも、ライスはそう思うことにします!

その方が嬉しいもん!」

 

「おっ、我が儘言うようになったなぁ…」

 

「ふふふっ…

もっと我が儘になって良いんでしょ?

お兄様が言ったんだよ?」

 

「確かに…ハハハハッ!」

 

これは一本とられたなと思い、大二が笑うとそれに釣られるようにライスも口許を抑えるようにして微笑を浮かべる。

こんなやり取りができるようになったのもライスが自分のことを好きになることができたからだと思うと大二の胸には込み上げるものがあった。

打ち明けるなら、きっと今だろう…その心のままに大二は改めてライスの目の前に移動し、片膝をつく。

 

「お兄様?」

 

「ライス、あんな知識があるなら…バームクーヘンにはどんな意味があるかも知ってるよな?」

 

「うん、『永遠の幸せをあなたに』だよね?」

 

「あぁ…それってきっと、贈った相手の幸せな運命を願うって意味だと思うんだけど、俺の場合は少し違うんだ…」

 

「え…?」

 

「俺にとってこのバームクーヘンは君を幸せにする、君の幸せを永遠に守り続ける男になるっていう意思表明なんだよ。」

 

「……!」

 

「君から走る幸せを奪っておいて、説得力ないかもしれないけど…

それでも、君の隣に立って歩く権利は誰にも渡したくないから…」

 

大二は懐から何かを取り出す。

それは小箱、何かをいれるにしてはとても小さすぎる程のサイズしかなく、必然的にその用途は限られる。

ホワイトデーのもう一つの贈り物であり、そして彼の確固たる覚悟を表す代物であった。

大二は中身が見えやすいように開き口の方をライスの方に向けながらその箱を開く。

その中に納められていたのは、控えめな装飾が施されたシルバーリング。

これが意味するところは明白だといって良いだろう。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ライス、俺の家族になってほしい。」

 

「…っ…はい…!

ライスを、貴方のお嫁さんにしてくださいっ…!」

 

涙をポロポロと溢しながら、差し出された小箱に手を添えるライス。

しかし、その顔に浮かべられた表情は悲しみではなく煌めくような笑顔であり、そこには確かに幸せがあったのだ。

これからの彼らの道行きには、それこそ多くの困難と衝突があるだろう。しかしそれでも、この二人なら必ず乗り越えられることだろう。

そう、信じられるのだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ジョージ・狩崎の場合

 

ここは、ブルーバード本拠地に存在する開発ラボ兼ジョージ・狩崎の私室である。

何に使うか分からない部品が転がった、いかにも怪しげな部屋にメジロマックイーンは訪れていた。

というのもここの家主であるジョージ・狩崎に直接呼び出されたからである。

 

「ヘ~イ!マックイーンくん!

わざわざご足労掛けてソーリー!

先月のバレンタインのお返しを持って来たよ!

ロブロイくんも遅れてくる筈だから二人で分けてくれたまえ!」

 

「…驚きましたわ、貴方にはそんな律儀なことできないと思っていましたから…」

 

結構失礼なことを言うメジロマックイーン。

だが、そんな態度も狩崎にある程度気を許しているからこそだ。

普段であれば目上の大人に対してそのような礼を欠いた行いは絶対にしないが、狩崎は知らない仲ではなく尚且つ多少雑に扱ってもさほど問題ないのでそのような態度になるのである。

 

「きっと気に入ると思うよ…

甘くて、美味しくて、おまけに洒落が利いているからね…!」

 

「甘くて、美味しい…?

もしかしてスイーツですの…!?」

 

「あぁ、篤とご賞味あれ。

これが私からのホワイトデーのお返しさ!」

 

そう言って彼がラボに設置されている冷蔵庫から取り出したのは、大きめの白い箱。

その蓋をとって現れたのは…

 

 

 

 

 

 

ホールサイズの"アップルパイ"だった。

 

「今日は3月14日、つまり3.14…πの日!

そんな日にはパイを食べようじゃないか!

どうだい、なかなか面白い洒落だろ?」

 

「……………」

 

「?…マックイーンくん?もしかしてスベったかい?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ムッキィィィィィィイ~~~~!!!!!!!!」

 

「!?」

 

「なんなんですの!?なんなんですの!?

パイ、言うに事欠いてパイですって!?

 

それはペチャパイである私に対する当て付けですの!?

当て付けですのね!!!

その喧嘩は買いましてよ!!!!」

 

「いや、そんなつもりは…お、落ち着きたまえよ、マックイーンくん…」

 

「特別に教えて差し上げますわ…

 

アップルパイにはアップルが入っているからアップルパイ…

 

 

 

 

 

ペチャパイには何も入ってないから!

ペチャパイなんですのよ~!!!

 

 

キエエエエエエエエエエエ!!!!」

 

 

 

「ひっ…!だ、誰か助け…

 

オ、

 

オ、

 

オーマイゴォォォォッド!!!!」

 

 

 

 

 

「…なんですか、このオチ……?」←遅れてきたロブロイ

 

 

続く…?

















目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

決着




やっと…やっと書き上げることができました(泣)
今まで更新を待ってくれていた読者のみなさん、お待たせして本当に申し訳ございません、そしてありがとうございます!





大二side

 

仮面ライダーエビリティライブ…

 

帰ってきたカゲロウと大二の心が共鳴し、同調することで生まれた奇跡の存在…

その佇まいは流麗にして可憐、まるで天の遣いである熾天使のような印象を与えるものだが、その身に悪魔を宿し、共に戦うことを考えればその表現も似つかわしいとは言えないだろう…

大二は改めて、生まれ変わった自分自身に目を向けて、自身の変化を静かに体感していた。

敵を迎え討つ前に、言い忘れていたことをあったのを思い出し、側にいるライスに声を掛ける。

 

「ライス、今までごめん…それと、こんな俺を見捨てないでくれて…ありがとう。」

 

「お兄様…」

 

「掛けた迷惑は戦いで…いや、これから先の人生全部掛けて償うよ。

 

その為にもまずはアイツを倒す…

だから、行ってくる…」

 

「えへへ…うん!ライス待ってる…!」

 

「あり得ない…人間と悪魔が手を取り合うなど、出来る訳がない…そんなはずはないのだ!!」

 

赤石は眼の前の状況を呑み込むことができずに激昂し、右手を高く掲げてゲートを作り出しそこから尖兵を送り出す。

無数のギフジュニアはもちろんギフテリアン、遂にはヘルギフテリアンまでもが多くその場に現れる。

先程までの大二であれば、この状況に危機感を覚えていたのだろう。

しかし、取り戻した相棒と融合し新たな力に目覚めた今、大二の心にあるのは身を焦がす焦燥ではなく溢れんばかりの闘志であった。

大二は緩慢な足取りでこちらに向かってくる雑兵達のもとへ駆け出していく。

 

「ハァアアアッ!」

 

大二は跳び上がり、手に持ったツーサイウェポンに搭載されているフェザングラウムを切り下ろすように振るい、数体のギフジュニアを一気に吹き飛ばす。

その荒々しさはこれまでの清廉さを感じさせる戦い方とは別物で、形容するなら彼の相棒であるカゲロウを思わせるものであり、現に戦っている大二に重なるように剣を振るうカゲロウの姿が幻視できる程だった。

 

ガチャンッ!『ブレード!』

 

『エビル/ライブチャージ!』

 

敵を吹き飛ばした瞬間に、大二はツーサイウェポンをガンモードからブレードモードに変形させ、そのまま流れるようにアクティベートノックを押して必殺技の待機状態に移行する。

今までのライブ、そしてエビルではその性質上プラスエネルギーとマイナスエネルギー…

そのどちらかしかフルに活用することができなかったが、大二とカゲロウが完全に手を取り合うことで生まれたこのエビリティライブはそのどちらのエネルギーも完璧に制御して扱うことができるのだ。

 

『エビリティパーフェクトフィニッシュ!』

 

「フッ…!ハッ…!タァァッ…!」

 

エビリティライブがブレードモードで振るうのはエビルの必殺技、ダークネスフィニッシュ。

しかし、その威力はパーフェクトウイングバイスタンプで極大化されたマイナスエネルギーによって大きく強化されており、攻撃範囲も広く流れるように敵を切りつけた後には、ギフジュニアやギフテリアンといった雑兵は一人残らず消え去っていた。

 

「ガァァァッ…!!!」

 

「!…フッ!」

 

『ガン!』ドンドン!!

 

2体のヘルギフテリアンは、先程のダークネスフィニッシュの攻撃範囲外に咄嗟に退避していたようで、そのまま2体同時に攻撃を仕掛けてくるも大二は冷静にツーサイウェポンをガンモードに変形して、冷静に対処する。

牽制されたヘルギフテリアンはその銃撃によって大きく怯み、その一瞬の隙をついて懐に一気に近付いた大二はそれぞれに鋭い拳撃を放ち、終いにアッパーを当ててヘルギフテリアン達を上空に吹っ飛ばす。

 

『エビル/ライブチャージ!』

 

アクティベートノックを押して必殺技の待機状態に移行する。

大二は上空にいるまだ体勢が整えられていないヘルギフテリアン達にライブガンを向け、その引鉄を一切の躊躇なく引いた。

 

『エビリティパーフェクトフィニッシュ!』

 

エビリティライブがガンモードで放つのはライブの必殺技、ジャスティスフィニッシュ。

その威力も先程と同様に極大化されたプラスエネルギーによって大きく強化されており、弱点を正確に狙い撃つビーム射撃から攻撃対象を一片の欠片もなく消滅させうる程の極太のビーム砲へと変化する。

ろくに防御もできないヘルギフテリアン達はその砲撃が直撃したことによって、跡形もなく消滅してしまった。

これでは再生云々の話ではないだろう、自己修復は修復する身体がなければできないのだから。

これで赤石が作り出した尖兵達は全滅、エビリティライブの実力をただ示すだけの結果となった。

 

「…す、すごい…すごいよお兄様!」

 

「バカな…どこにそんな力があったというのだ!

ギフ様の御心を理解できない人間の分際で…っ!」

 

「赤石…」

 

酷く狼狽して先程の冷静さとは打って変わって無様に喚き散らすだけになってしまった赤石を一瞥した大二は今までと同じ侮蔑と同時に一種の哀れみを覚えてしまう。

しかし目の前にいるのは只の癇癪持ちの中年などではなく、ギフという人類の敵の寵愛を受け人であることを捨てた怪物であることには変わりない。

その事を重々理解している大二は、ライブガンを赤石に向けて威嚇しながら警告をする。

 

「後はお前だけだ、赤石…」

 

「ぐぅっ…その力を振るえるのは誰のお陰だと思っているのだ…!

貴様がその身に宿すギフ様の遺伝子!

その恩恵に預かっていながら…

 

何故ギフ様に抗おうと思え…『ドン!』

 

グハァ…!」

 

喚き続け、果てにはふざけたことを抜かそうとした赤石の口を大二は銃撃を不意にぶちこむことで黙らせる。

到底看過できる筈もない、今あの男はこの世界を守るために立ち上がってきた全ての戦士に対して礼を失する言葉を吐こうとしたのだ。

 

「俺達がギフのお陰で戦えてるだと…?

 

思い上がるな!!

俺達がこの力を振るえるのは、そこに誰かを守り助けたいと思う意志が在るからだ…!

奪うことしか知らないお前達とは違う!」

 

大二は今まで幾人もの戦士達の勇姿を目の当たりにしてきた。

 

困っている人がいたら放っとくことができなくて、必ず誰しもが納得して幸せでいられる世界を目指す日本一のお節介とその相棒…

 

誰かを助けられる真のヒーローになる為に命を賭けたちょっと不器用な戦士…

 

自分の力を直視して向き合い、弱さをも受け入れて立ち上がった無敵の闘士…

 

いつぞやの未来騒動の際に、共に戦った剣士達…

 

そして、

 

普段は弱気で守ってあげたくなるけど、いざって時は誰よりも強くて、どこまでも愚かだった自分の目を覚ましてくれた大切な人…

 

彼等が立ち上がってこれた理由がそんな陳腐なものであると断じる権利など存在する筈もない!

 

「その腐った性根に刻み付けてやる…覚悟しろ、赤石ィッ!」

 

「…ぅぅうヴぁぁぁあッ!」

 

示し合わせたかのように同時に駆け出す両者。

そのスピードはまるで高速移動が如く凄まじいものであり、互いの閃きがぶつかり合う攻防が行われる。

一進一退、二人は数旬の内それを繰り返すが次第に大二のスピードに赤石が追い付けなくなり、一瞬反応が遅れた赤石にフェザングラウムの一閃が直撃する。

 

「ぐぅっ…!ハァっ!」

 

大きく仰け反り体勢を崩した赤石は苦し紛れに光弾を連続で発射するも、大二は冷静に背にはためくマントを翻させる。

光弾は真っ直ぐ進み、そのまま大二を正確に狙い撃つかと思われた。

 

「!…お兄様!」

 

「大丈夫…俺には届かない!」バサッ

 

バシュゥゥウーーン……

 

だがその光弾は着弾する前に弾けるようにして霧散し、大二にダメージを与えることができずに終わった。

排熱機構を有するエビリティライブのセレニティーマントを利用し、熱風の結界を作ることで赤石の放った光弾を防いで見せたのだ。

大二はそのままフェザングラウムを畳み必殺技待機状態に移行する。

 

『エビル/ライブチャージ!』

 

『Fly High!』

 

『エビリティパーフェクトフィナーレ!』

 

大二は赤石に狙いを定め、銃撃を放つ。その銃撃は赤石に着弾するもダメージを与えることはなく、代わりに球体状のエネルギーフィールドを形成することで赤石を拘束する。

 

「くっ…ここから出せぇっ!」

 

「あぁ、出してやるよ…」

 

『エビル/ライブチャージ!』

 

大二はツーサイウェポンをベルトに戻しながらフェザングラウムを畳み必殺技待機状態に移行する。

 

『Wings for the Future…! Wings for the Future…!』

 

『Fly High!』

 

絶対的に揺るがない自信から来る余裕さを感じさせる佇まいで、ゆっくりと歩を進めながら操作を完了させる大二。

拘束から未だに抜け出すことができない赤石の元にたどり着くと、その拳を強く握り締めてエネルギーを集中させる。

 

『エビリティパーフェクトフィナーレ!』

 

「ハァァァァアッ!」

 

「グァア…アアァアッ…!」

 

極限まで高められたエネルギーが蓄積された拳で繰り出されるパンチは想像だにしない威力を発揮させることだろう。

拘束によって無防備になっていた赤石にはその威力がダイレクトに身体に伝わり大ダメージとなった。

赤石を吹き飛ばされ、転がり落ちる。

 

「ァ…あぁ、ァ……ァ…、だ…だぃ…じ……く……」

 

「…あんたは人類の可能性を信じることを諦めた…

だから戦略的退化なんて方法を選んでしまった…」

 

「…ァ、あぁ……あ…」

 

「そんなあんたに…人類は救えない!」

 

『エビル/ライブチャージ!』

 

大二はその背に翼を生やして飛び上がる。ホーリーライブの翼であるイノセンスウイングが進化した、エビリティライブのパーフェクトウイングで行われる飛翔は凄まじい速度を誇る。

 

その速さ、実にマッハ4.2…

音速の4倍以上のスピードで舞い上がったエビリティライブは一瞬で超上空へと辿り着く。

そして今度は右足にエネルギーを集中させ、ライダーキックの体勢に移る。

 

「終わりだ…赤石ィ!!」

 

『エビリティパーフェクトフィニッシュ!』

 

「ガッ…ガア"ア"ア"ァ"ア"ア"ア"ァ…!」

 

ドォーン!!

 

上昇するのに使用したマッハ4.2のスピードを今度は急降下するのに使用する、そのスピードで繰り出される蹴撃は食らえばひとたまりもない必殺の一撃となる…

 

それを満身創痍で食らう者がいるとするなら、その命は終焉を迎えることになるだろう。

事実、それをまともに受けた赤石はその人生に"一度"ピリオドを打たれる結果となった。

勝利を確信したライスは降り立った大二のもとに駆け寄り言葉を掛ける。

 

「や、やったね…お兄様!」

 

「………」

 

「…お兄様?…ぅん…」

 

しかし大二はその言葉に答えようとはせず、ライスの頭に手を置いて一撫でしながら赤石が爆散した方を見つめるだけだった。

 

「往生際の悪い奴だ…」

 

「え?」

 

「………ククク…ハハハハハハ…」

 

大二のその不穏な発言に不安に駆られたライスは大二が見つめる方向に目を向けてみる。するとそこには燃え上がる焼け野原と、そこから這い出ながら笑い声をあげる異形の姿があった。

 

「!?…そ、そんな…」

 

「君の言っていた通りだよ、大二君…

確かに今の君の力は強大だが、ギフ様の恩恵に預かっている訳ではないらしい…」

 

赤石はそう言いながら、立ち上がる。

そこには無傷とは言わずとも、先程までの死に体など微塵も思わせない状態で立つ姿があった。

徐々に傷が回復していっているのを見るに、どうやらエビリティライブでは赤石の不死性を貫くことはできないようだ。

 

赤石の不死性とヘルギフテリアンの超再生は似ているようでその実、本質が大きく異なっている。

ヘルギフテリアンの超再生はその名の通り、どんな傷を受けたとしても再生して復活できる。

しかし、再生する身体を跡形もなく消滅させてしまえば倒すことも可能だ。

一方で赤石にはそもそもとして死という概念そのものが存在しない、たとえ必殺技を命中させて消滅させたとしても瞬く間に復活してしまうだろう。

 

このままではジリ貧になってしまう…

対処としては何度も叩き潰して、心身の疲弊を促す方法があげられるが、太古の時代からギフを狂信し続けてきた赤石の精神性の堅牢さは強固なものだ。

 

とてもではないが現実的ではない…

他に方法があるとすれば…

 

『アンビバレンスドライバー!』

 

「…ライス、君は無理しなくていい…

休んでてくれ。」

 

「ううん、もう十分お休みしたから…

それに、ここでライスが頑張らなきゃ…!」

 

赤石の不死性を剥奪する方法の一つ、それは悪魔と相反するウマソウルの力を持った仮面ライダーローゼス、ライスシャワーの力を借りることである。

彼女の力の有用性は、遥か太古の昔からウマ娘の祖先達によって証明されている。

赤石にその力を届かすことができれば、かの異形を打ち倒すことも可能だろう、だが…

 

「君にはこの後やるべきことがあるんだろ?

ただでさえさっきの攻撃でボロボロなんだ、これ以上負担は掛けられない…」

 

「…お兄様…でも!」

 

ライスシャワーには先程のダメージがまだ残っている…その状態で変身して戦えばどうなるか分からない。

彼女は本来、こんな戦いとは無縁のアスリートでありその身体には幾人もの人間の努力が詰まっている。

こんなところで壊してしまっていい訳がない。

大二は膝をついて、ライスの目線に合わせながら説得の言葉を紡ぐ。

 

「ライス、大丈夫だ…言ったろ?

君や皆を傷付ける悪い奴は、俺が何度だってやっつけてやるって…」

 

「お兄様…」

 

「強がるのは辞めたまえ、大二君…

君一人でどうやって私を倒すというのかな?」

 

どうやら回復が完全に完了したらしい。改めて赤石の方に向き直ると、そこにはまるで無傷の状態で立っていた。

ギフデモスの姿なので、その表情は表立って変わっているようには見えないがなんだかしたり顔をしているように思える雰囲気だった。

それはそうだろう、自身の身体で体験した強大な力が自分を倒し切ることのできないものだったのだから。

 

【急に得意気になりやがったなぁ?

さっきまで手も足も出せなかった癖してよぉ…】

 

「なんだと…?」

 

【お?なんだ怒ったか?

やれやれ、更年期ってのは怖ぇなぁ?

何せこの世界で一番の年寄りだもんなぁ?】

 

すると、突然その場にいる全員の頭の中に響くような声が聴こえ始める。

その声の主、カゲロウは憎たらしく赤石を煽るような言葉を発しており、先程まで喜色を孕んでいた筈の赤石の様子は静かな怒りを堪えているようだった。

 

「カゲロウ、集中しろ。」

 

【はっ…別に構いやしねぇだろ大二?

今やあいつは頑丈さだけが取り柄の雑魚だ…

所詮は俺達の敵じゃねぇなぁ…】

 

「………石に漱ぎ流れに枕す…

 

好きなだけ減らず口を叩くといい。

そのウマ娘が戦えない以上、運命は今や私の手の上…

君達に勝機などありはしないのだァァ!」

 

カゲロウの煽りに激昂した赤石は隠れた双眸を一瞬赤く煌めくとその両手を掲げて、巨大な光弾を生成する。

その大きさから絶大な破壊力を想起させることだろう…あんなものを食らえば周辺一帯もろとも塵と化すだろう。

そんな光弾を赤石はなんの躊躇もなく、此方に放つ。

しかし、大二はそんな状況の中でも焦る様子もなく赤石をその眼の中心に見据えていた。

 

巨大な光弾が迫ってくる…

草木を焼き尽くし、大地を削り、命を簡単に吹き飛ばす災禍の象徴…

大二達はなす術もなく、その胸の中に後悔しか残さないまま、憐れに災禍に飲み込まれ、吹き飛ばされる

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ことはなかった。

 

『リバイ…』

 

「もうそろそろか…」

 

『バイス…』

 

【あぁ、ムカつく助っ人様の御登場だぜぇ…】

 

『ギファードフィニッシュ!』

 

大二達に迫っていた巨大な光弾は、その役目を全うすることなく消えていった。何故ならそこに内包されたエネルギーを遥かに越えた力をぶつけられたことで、相殺されてしまったからだ。

しかし、それを行なったのは大二ではない。

それを行なったのは他でもない…

現状のライダーの最高戦力にして日本一のお節介…

 

「大二、待たせたな!」

 

「どうよ~!

なかなかイかす登場だったんじゃないの!?」

 

仮面ライダーリバイこと五十嵐一輝とその相棒の悪魔、バイスの最強コンビだった。

その姿は既に最強の姿であるアルティメットリバイスへと成っており、臨戦態勢は万端である。

 

「一輝お兄様にバイスくん!?」

 

「おう、ライス!…って怪我しちゃってんじゃないかよダイジョブか~!?

ほら俺ちゃんが持ってきた絆創膏!」

 

「あ、ありがとう…」

 

「遅いよ…兄ちゃん。」

 

「悪い悪い!

でも、ちゃんと間に合ったろ?」

 

「なっ…なぜだぁァ!?

なぜ五十嵐一輝がここにィ!?」

 

その疑問は尤もであろう、五十嵐大二はつい最近まで自身の周囲の人間と離縁状態にあり連絡を取り合う手段も暇も存在していなかった。

それなのに先程のやり取りからしてこのタイミングに駆け付けるように、示し合わせていたように思える。

 

「簡単な話だ、俺がやったことはただ一つだけ…

兄ちゃんのことを信じただけだ。」

 

そう言うと大二は五十嵐一輝を呼び寄せることに成功したからくりを説明する。

 

「兄ちゃんは自他共に認める日本一のお節介…

そんな奴が家族の喧嘩に首を突っ込まない筈がない、きっと俺とライスのことを心配して動き出す筈だ。

そして、実際その予想は的中した…」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

一輝side

 

数分前…

 

「大二…ライス…一体どこにいるんだ?」

 

一輝は京都レース場から離れ、外に出る。

ドンブラザーズの面々がベイルを引き受けてくれたとはいえ、相当に時間を喰ってしまった。

もしそのせいでもしものことがあったらと思うと気が気ではないが、ここで変に焦って行動すれば元の木阿弥…一輝は努めて冷静に頭を働かせる。

音の響き方からして、そこまで遠くではない筈なのだ。

詳しい場所さえ掴めれば、そこまで行くのに対した時間は掛からないような…

 

「…え?」

 

思考の波の中で漂っていると、ふと目の前を白い羽根と黒い羽根がよぎったような気がした。

不思議に思って周りを見渡してみるが、近くに羽根のようなものはどこにも落ちていない。

気のせいかと思ったその時、自分にしか見えない相棒が声を張り上げる。

 

(お、おい!一輝!あれあれ!!あれぇ~~~!)

 

「ッ、なんだよバイス!急にでっかい声出すな!」

 

(いいから早くあっち見てみろって!)

 

訳の分からないことを言い出す相棒を尻目にバイスが指差していた方向に目をやる。

そこで見えたのは上空に飛び上がっていく人影だった。

一輝は少し驚くが、すぐに人影の正体を掴む為に注視する。

この短い間に二度驚くことになる一輝だった。

 

「………大二?」

 

一輝が見た人影の正体、それは赤石にライダーキックを放つべく超上空へと舞い上がった時の仮面ライダーライブだった。

しかし、今まで見たことのない形態になっている…

ホーリーライブに似通ってはいるが、背中のマントや黒いラインなど様々な様相が異なっている。

あれは本当に大二なのだろうかと危惧するも、件のライブらしき仮面ライダーは少し見渡して一輝を見つけると…

 

「………」スッ

 

「!!」

 

ほんの一瞬、一秒にも満たないような注意しなければ見逃すほんの少しの時間だけだけ、その仮面ライダーはあのポーズをとった。

手を開いた左腕を縦にして手前に、握った手の右腕を横にして胸の前に置くようにして作る十字のポーズ…

 

忘れもしない…

あれは五十嵐家の思い出のポーズであり一輝が世界、そして家族を守る決意を固めるため変身の度に行なっていた所謂『五十嵐ポーズ』と呼んでいるものだった。

ポーズを解くとライブはキックの体勢をとり、急降下して視界の外に消えていった。

 

一輝はそれだけで確信することができた。

ライスは自分の意地を貫き通すことができたのだと…

そして、弟が遂に家族のもとに戻ってきてくれたことを…

そして自分が今からどこに向かえばいいのかを。

 

『レックス!』ポーン

 

「バイス、やること分かってるな?」

 

スタッ

「おっとと!…当ったり前よ!レコード更新する勢いで行くぜ!」

 

『『リバイスドライバー!』』

 

一輝とバイスは同時にドライバーを装着する。

そして一つの巨大なバイスタンプを二つに分裂して分け合うとベルトのオーインジェクターに押印し、装着。

 

『『ギファードレックス!』』

 

『『ビッグバンCome on!ギファードレックス!』』

 

「「変身!」」

 

『アルティメットアップ!』

 

『仮面ライダー!リバイ!バイス!』

 

『Let's Go! Come on!』

 

『ギファー!ギファー!ギファードレックス!』

 

アルティメットリバイスに変身を完了させた二人はそれぞれ地面に磁力エネルギーを流してそれに反発するように同じ磁力のエネルギーを身体に纏う。

これで反発を利用した人間ロケットの完成だ。

二人はクラウチングスタートの体勢をとって作用する反発を強めていく。少しでも力を緩めれば一輝達の身体は発射されるだろう。

 

「大二、直ぐに行くからな!待ってろよ!」

 

そう決意を言葉にしながら一輝達は少し足を緩め、とんでもないスピードでスタートダッシュを切った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

大二side

 

現在…

 

「ば、バカな…ではあの時の攻撃は…」

 

「遠くにいる兄ちゃんに合図を送るため、そしてお前にダメージを与えて兄ちゃんが到着するまでの時間稼ぎをするため…

お前の不死の事なんてとっくに織り込み済みだったんだよ。」

 

「あ…ああ…あ…」

 

自分が踊らされていたことを完全に理解した赤石は怒りも驚きも通り越して呆然としてしまう。

これでは大二達にとってはいい的だろう。

しかし、全てに決着を着ける前に大二は一輝に言うべき事があった。

 

「よし、それじゃさっさとケリを…「兄ちゃん!」…ん?」

 

「ごめん…それと、ただいま。」

 

「…ああ、おかえり…」

 

目を覚まさせる為に奮闘してくれたのは、ライスだけではない。

いつまでも大二の事を信じて帰りを待ってくれていた家族や友人達がいたからこそ、大二は帰ってくることができたのだ。

それを重々承知している大二はまずは目の前の肉親に謝罪する。

そして兄はそれを受け入れ、温かく迎えてくれた。

 

「大二、アイツに普通の攻撃は意味がない。ならどう戦う?」

 

一輝は既にこの場に来ている時点で自分のすべき役割に関しては理解しているだろう。しかし、改めてそれを問うことで大二に対する信頼を示す。

 

「俺が引き付ける。兄ちゃん達はギフの力を使えるんだろ?ならその力で奴の不死を無効化できる筈だ。

そこに強力な一撃を叩き込んで、完全に消滅させよう!」

 

「お~!うはははは!なんか大二って感じだな!」

 

「ああ、頼もしい弟が帰ってきた!カゲロウもよろしくな!」

 

【はっ、相変わらず悪魔使いの荒いお兄様だぜ…ハハッ!】

 

「ふっ、よ~し!行くぜ大二!」

 

「うん!」バッ!バッ!パンッ!

 

そう言うと二人は腕タッチをした後にハイタッチ、そして拳をぶつけ合わせるという独特の仕草をする。

いつもは一輝がバイスと息を合わせるために行なっているルーティンだが、今回は特別だ。

 

「あ!ちょっと!?なにやってんだよ、ねぇ!それ俺っちと一輝のやつ!」

 

「「はぁぁあ!」」

 

それが面白くなかったバイスは二人に食って掛かるが、一輝と大二は気にせずに赤石に突貫。

同時に拳を繰り出して赤石を盛大にぶっ飛ばし、赤石は悲鳴をあげることもなく転がっていく。

 

「イヤッフゥー!中々やるじゃねぇかよ!」

 

「バイス!一緒にやるぞ!」

 

「あいー!」

 

ド派手な攻撃を見て直ぐに気分を良くしたバイスは大二に向かって激励の言葉を贈る。そして一輝は赤石から不死性を剥奪すべくバイスと共にドライバーを操作して必殺技を発動する。

 

『リバ/イスギファードフィニッシュ!』

 

「「フッ!ハッ!」」

 

一輝とバイスの二人は腕を合わせて互いを同調させ、その身に宿るギフの力を最大限に高めて目の前の赤石に波動を放つ。

 

「ぐっ…こ、これは…まさかっ…!?」

 

その波動を受けた赤石の身体に変化が生じる。自分の身体の中身が根っこから組み替えられているような気持ちの悪い感覚を感じたかと思うと直後には虚しい喪失感を覚える。

赤石は自分の身体に起こった変化を感じ取り、焦燥が頭の中を埋め尽くす。

 

「今だ!大二!」

 

「しっかり決めてけよ!」

 

「頑張って!お兄様!」

 

「兄ちゃん、バイス、ライス…ありがとう!」

 

『エビル/ライブチャージ!』

 

『Fly High!』

 

波動を放ち続ける必要があるために動けないアルティメットリバイスの二人とライスシャワーからの激励を受けて、大二は駆け出してドライバーを操作する。

 

『Wings for the Future…! Wings for the Future…!』

 

「これでさよならだ…赤石!」

 

【地獄で後悔しやがれっ!】

 

「ヒッ…ヒィイイッ!だ、誰か…!

誰か助けてくれぇぇえ!ギフ様ァァ!」

 

アルティメットリバイスの波動によって不死性を剥奪され、同時に拘束もされている赤石はもはやその場でもがくしかなく、無様に命乞いを始める。

そんなものに耳を傾ける大二ではない、悠久の時の中で幾度となく人々の命を奪ってきた外道に掛ける情けなど存在するわけがないのだ。

大二は飛び上がり、ライダーキックを放つ。

そしてライダーキックを放つ大二、エビリティライブの隣にはカゲロウ、仮面ライダーエビルの幻影が同じようにライダーキックを放っていた!

 

「【ハァァァァアッ!!!】」

 

『エビリティパーフェクトフィナーレ!』

 

「ガッ…ガア"ア"ア"ァ"ア"ア"ア"ァ…!」

 

ライブとエビルのダブルライダーキックを食らった赤石はその大きすぎるダメージを受け止めることができずに爆散…

これが意味することは一つ、仮面ライダー達の勝利だ。

仮初のものではない、正真正銘一輝達は悠久の時を生きた怪物を倒すことができたのだ。

 

「どんなもんじゃ~い!…へぇ…へぇ…」

 

「はぁ…はぁ…」

 

ギフの力を高め続けて波動を放っていた一輝とバイスは流石に疲労困憊のようで息も絶え絶えという様子で変身を解いた。

しかし、全て終わった筈なのにこの戦いの最大の功労者である大二は戻ってくる気配はない。二人が彼のいる方へ目を向けてみるとそこには…

 

「……」

 

爆心地である焼け野原の真ん中に、変身を解いて生身になって立つ大二と死に体となって倒れている赤石の姿という衝撃の光景があった。

 

「あ~!アイツ…まだ!」

 

「いいんだ、バイス…!

多分だけど、アイツはもう何もできない…」

 

一輝に言われてバイスは注視してみると、赤石の身体は足から赤い灰のようなものになって朽ちていっており、もう既にその命は風前の灯火なのだと理解できた。

 

「ライス、俺達は先にレース場に戻ろう…

皆を安心させてやって欲しいからな…」

 

「ああ、そうだな…大二なら直ぐに追い付くと思うからさ!

ほぉら、俺っちの背中に乗れよ!

意外と快適だぜ!」

 

一輝とバイスはこの場は大二に任せるべきと感じ、自分達はいち早くライスをレース場に連れていって皆を安心させてやる事にした。

怪我をしているライスになるべく無理をさせないように配慮したバイスは自分の背にライスを誘導する。

 

「…うん、それじゃバイスくんのお背中借りるね?よいしょ…」

 

「おうよ!それじゃバイスタクシー、発進しま~す!ポッポー!

ってそれじゃ電車…いや機関車じゃん!ブハハハハハッ!」

 

その背にライスを背負ったバイスはいつものような軽口を叩きつつ、あまり揺らさないようにしながらレース場に向かっていった。

一輝はその後を追おうとするがその前に大二に声を掛けておく。

 

「大二!

レースが始まる前には戻って来いよ!」

 

大二はその声を聞いて、振り向くことはせず片手を上げて答える。

それを見届けた一輝は今度こそ、バイスの後を追うようにして駆けていった。

 

大二はライス達がその場を去ったことを悟り、目の前で倒れ伏している赤石に意識を向ける。

 

「最後の最後で中途半端に急所を外すとはね…

滅びゆく私を眺める為だとしたら、中々良い性格をしてるじゃないか…」

 

「………」

 

さっきは命乞いをするという無様な姿を見せていた筈の赤石は打って変わって、落ち着き払っている。

いざ死を目の前にして既に諦めが着いてしまったのだろうか、此方に対して皮肉を飛ばす余裕さえあった。

 

「ふっ、まさか人類が私に終焉を与えることになるとは思っていなかったよ…

これも人の意志が成せる技というわけかな…?」

 

「あぁそうだ…

人々を助け、守りたいと願う人間の意志がそれを可能にした…そして…」

 

大二はそこで一度言葉を区切る。

中途半端に急所を外したのは意図的なものだ。それは大二が赤石に言っておきたかったことがあるために最後に話す時間を作るためだった。

 

「その意志は、あんたの中にもある…」

 

「………なんだと…?」

 

「あんたは長い時の中で、俺なんかよりも多くその目で見てきた筈だ。

人類が行なってきた愚かな行動の歴史を…

 

早々に見限って人類を滅ぼそうとしても可笑しくなかった…

でも、あんたが今まで人類を救うことを辞めなかったからこそ、今の俺達がある。

 

やり方も考え方も理解できないし、しようとも思わない…納得なんて以ての外だ。

それでも…あんたのその意志だけは、これからの未来に繋いでいくべきものだと思った。

 

だから…」

 

「今までありがとう。

これからは、あんたの意志は俺が持っていくよ。」

 

「…!」

 

その瞬間、自分が掲げていた目的は何一つ成せていない筈の赤石の心には、解放感にも達成感にも似た不思議な感情が浮かび上がってきていた。

それは赤石がギフの契約者となり、不死となってから久しく感じることのできなかった感情でもあった。

次世代に何かを託すことができたことを喜ぶこの感情は…

あぁそうだ、きっとこれこそが…

 

「…君のその底抜けのない優しさ、きっと誰しもが持てるわけではない。誇っても良いだろう、だが…」

 

崩壊が腰辺りにまで広がっている。

もう話せる時間は幾ばくもない。

赤石は言葉を紡ぐ。

 

「情けも過ぐれば仇となるという…

用心すると良い…」

 

腕が崩れ始める。

もう四肢の感覚はなく宙を舞っているような気分を覚える。

 

「………私のやってきたことは、どうやら無駄ではなかったようだ…

それを知ることができただけでも、良しとしよう…」

 

全身の感覚が先んじて失くなり、自分の身体がどれ程崩れているのかも判別できなくなっていく。

もう自分がしっかりと言葉を紡げているのかも分からなかった。

 

「先に行って待っているぞ。

また会おう、聖なる男よ…

そしてわた…し…の……」

 

そこまで言うと赤石はその目を閉じ、そしてその身体は完全に崩壊していった。

そこにはもう、一人の男がいた痕跡は全くない。

今ここに、気が遠くなる程に長い時間を生きた人類の導き手はその生涯を終えた。

 

彼の最期を見届けた大二は、ほんの少し黙祷を捧げ、そして約束を果たすべくレース場に向かって走り出す。

彼等の運命を変えたレース、『天皇賞(春)』は今まさに始まろうとしていた…

 

 

 

 

 

 

 

つづく…

 

 

次回 ツーサイなお兄様 最終回








いよいよ次回で最終回。
ここまでくるのにまぁまぁの時間が掛かりました。
なんだか感慨深いですね…

タイクーン強化…しかし、なんだか不穏?
いずれにしろ次回が楽しみです!

バックルはプレバン行きでしょうか?

今回の展開はもしかしたら賛否両論あるかもしれませんが、私としてはこういうifがあっても良いんじゃないかなと思っておりましたのでそれを全面に出した形です。





目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

約束 前編











大変長らくお待たせ致しました。
やっとこさ更新です。
次回が最終回と言ったな?あれは嘘だ。

いや、前後編構成なら実質一話の内だからOKというか嘘じゃないというか…汗











狩崎side

 

「うっ…ぐ…あぁ~…どうやら随分と長く居眠りをしてしまったみたいだね…」

 

大二と赤石が決着を着ける数刻前、ライスにドライバーを届けた後に憔悴しきって糸が切れた人形のように眠ってしまっていたジョージ・狩崎は、この時間になって漸く目を覚ました。

意識が覚醒したばかりの狩崎はベンチで眠っていたせいで凝り固まってしまった身体を伸びをしてほぐす。

バキバキと骨がなる感触と音を感じると、少しの痛みと共に眼がばっちりと冴えていく。

 

「ふぅ、さて…結末くらいは見届けさせて貰うよ…」

 

身体を起こしてベンチに腰掛け、腕時計を確認すればドライバーを渡した時から相当時間が経っている。

これは恐らく大体のゴタゴタは方が着いている頃だろう…

続いてガンデフォンでネットニュースを調べれてみれば天皇賞(春)の開始が大きく遅延しているとのことらしい。

何があったのかは知らないが今から向かえばギリギリ間に合うかもしれない。

 

「相変わらず頼りにされてるみたいだな、狩崎?」

 

「ン?…おや、君は…」

 

早速、京都レース場に向かおうと思い立ち上がろうとしたその時、一人の男が狩崎に声をかける。

其処にいたのは狩崎のよく知る者であり、そしてある理由によって一時的に戦線を離脱していた人物だった。

 

「意外と早いお帰りだったね、実家のお母様のことはもういいのかい?」

 

男は一度生死も分からぬ状況に陥って狩崎達とも離ればなれになってしまったその際、自身の故郷の田舎に里帰りをしていたらしい。

故郷に一人残していた母親のもとに戻り、心身の療養に努めていると様子を見に行った五十嵐兄弟に聞いた。

そして男の母親は病気を患っている様子だったとの情報も耳に入っている。

 

「ああ、腕の良い医者が見つかってな…

今頃は少しずつ快方に向かっているところだ。

それよりどうなんだ、今の状況は?」

 

「良いとも悪いとも言えない、なんせ私は今まで此処で眠りこけていたんだ…

把握はこれからってところだね。」

 

「そうか…

とにかく今は情報を集めたい。皆の所に案内を頼めるか?」

 

「OK、お安い御用さ…あぁそれと…」

 

狩崎はそこで一旦言葉を区切ると、男の方へと真っ直ぐ向き直ってから声を出す。

 

「許して貰う気は更々ないが、すまなかった…」

 

狩崎の放った言葉は謝罪だった。

狩崎は目の前の男に大きな負い目がある。

彼が戦線を離脱をせざるを得なかった理由の一端を彼は担っている、最早大元の原因といっても差し支えないだろう。

彼は狩崎の行動によって大きなハンディキャップを背負って生きていかなければならないのだ。

 

「………」

 

男は無言で狩崎へと近付いていくと、握り締めていた拳を振り上げ狩崎の顔面を殴り付ける…

 

一歩手前のギリギリでその拳を止めた。

狩崎はそのような状況になっても眉一つ動かさず目と鼻の先にまで迫った男の眼を見据える。

男はそのまま腕を下ろして、狩崎の胸元に拳を軽くぶつける仕草をすると男の表情は怒りを秘めたような仏頂面から穏やかな表情に変わっていく。

 

「…車を近くに停めてある、案内しっかり頼んだぞ?」

 

そう言うと男は出口の方へと歩いていった。その背には先程まであったようなわだかまりのようなものが消え去っているように思えた。

狩崎は先に行った男に向かって感謝を込めてお辞儀をした後その背を追うようにして駆けていった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

大二side

 

大二は息を切らしながら、京都レース場の観客席に繋がる階段を駆け登る。

現在指名手配となっている大二はどこかに移動するにも人目を気にしなくてはならなかったが、その道中に人の気配はなくこれで心置きなく歩を進められた。

所々に戦闘の痕跡が見受けられたのは気になったが、今はそれより重要なことがあるので意識的に頭から離す。

 

最後の一段を登り終えて、目の前の大きな光が広がると其処には見慣れたレース場の姿が目に入り、隙間なく詰め込まれた観客達の歓声が響き渡った。

 

脇目も振らずに手摺から身を乗り出してターフの方に目をやると、其処には十数名のウマ娘達と共にゲートインの準備をするライスシャワーの姿があった。

所々に怪我の治療をした形跡があるので少し痛々しく見えるが、レースに向けての心意気は劣っておらずむしろ突出しているように見える。

どうやら兄達が間に合わせてくれたようだと安堵して息を吐く。

 

「間に合ったか…」

 

「大、ちゃん…?」

 

その慣れ親しんだ、しかしここ最近聴くことのなかった声を聴いて大二は振り返る。

そこにはいきなり現れた大二に驚いて呆然としている様子の妹、五十嵐さくらと両親。

そしてマックイーンとテイオーの姿があった。

兄の一輝とその友人であるアイネスがさくらの前で正座をしているのは先程までさくらから説教を受けていたからだろうか?

 

「皆…その、俺は…(パァン!)…ウグッ…」

 

大二は様々な思いが頭を駆け巡り、掛ける言葉が見つからずに俯きながら口ごもっていると頬に大きな衝撃を感じると同時に少しよろけてしまう。

改めて前を向いて見ればいつの間にか近付いていたマックイーンが手を振り抜いた体勢で立っていた。

どうやらマックイーンに平手打ちを食らったのだと理解する、当然だろう。

自分はその程度では足りない程の罪を犯したのだから、これでもきっと温情をかけてくれているのだ。

 

「御家族を含めた多くの方々に多大な心配をかけた件は、これで手打ちとします…しっかりと向き合いなさい。」

 

「…ああ、すまないマックイーン…」

 

マックイーンに喝を入れて貰ったことで少し頭が冷え、まず自分が言うべきことが分かってきた。

此処に集まっているのはライスが自分を連れ戻してくれること、自分が迷いを振り払って戻ってくることを信じてくれた、そんな人達に言うべき言葉は一つだろう。

 

「皆…ありがとう。俺…」

 

「良いんだよ、一人にしてごめんな…」

 

「おかえり、大ちゃん…」

 

感謝と謝罪をしようとした時、一輝はその言葉を遮り大二に近付き抱き寄せる。そして大二の頭を包むように撫でると後ろのさくらも続くようにして兄二人をまとめて抱擁する。

そんな仲睦まじい様子の兄妹三人を見て五十嵐夫婦は漸く日常が帰ってきたことを実感した。

 

「大二、帰ってくるって信じてたわ!」

 

「ああ、家に帰ったらまずは家族皆でご飯を食べよう!

ライスちゃんも一緒に!」

 

「父ちゃん…母ちゃん…」

 

【なら献立は激辛カレーなんてどうだぁ…景気付けにはちょうど良いぜ?】

 

「え、今の声って…もしかして!」

 

その場にいる関係者全員の頭の中に響く声。その声は大二の声色と全く同一のものだったが、込められた感情からは大二とはとても似着かない様子を感じた。

そこから数秒も経たない内に大二の服装や髪型といった様相が一瞬にして変化する。

全身黒づくめ、いつものピッチリとは駆け離れた跳ねた髪型。

忘れるはずもない、一度は家族をドン底まで突き落としたかと思えばその果てに全てを託して消えていった筈の大二の悪魔…カゲロウは以前と変わらぬ様子で其処に立っていた。

 

「よぉお前ら、俺様が地獄から舞い戻ってきてやったぜぇ…」

 

「は、え!?意味分かんない!なんでカゲロウが戻ってんの!?」

 

当然カゲロウ復活の経緯を知らないさくらは混乱し、声をあげて捲し立てる。

カゲロウを初めて眼にしたテイオーとマックイーン、アイネスは物珍しそうにカゲロウを見物する。

 

「この方が大二さんの悪魔…実物を見るのは初めてですわ…」

 

「でもバイスとかデッドマンみたいなのと比べるとあんまり代わり映えしないね?

ただの中二病の大二って感じ!」

 

「大二さんのグレてる姿って想像つかないから、なんだか新鮮なの!」

 

「好き放題言いやがる……っ!……カゲロウ、勝手に出てくるな!」

 

カゲロウの姿がまた変わり、もとの大二の姿に戻る。それは大二とカゲロウの以前までの関係性を知る者達から見れば異様な光景に移るだろう。

何故なら以前の二人なら身体の主導権を奪い合う関係上、手に取った主導権を譲るようなことはしないので入れ換わらせる為にはライダーキックを直撃させて無理やり表と裏を引っくり返さなければならなかった。

だが、今の二人はまるで主導権を共有しているように見える。それは大二とカゲロウの関係が以前とは様変わりしていることの証左でもあった。

 

「少し見ない間に何があったわけ?

ちゃんと説明してくれなきゃ分かんないんだけど!」

 

「…ああ、実は……」

 

大二はカゲロウの件も含めて、さっきまで起こっていた出来事について説明していった。

それを聞いていた一同はおしなべて驚いた表情を見せていた。

 

「つまり、カゲロウのお陰で此処に帰ってこれたってこと?」

 

「ああ、そう言うことになるのかな。」

 

「凄かったんだぞ、流石は俺の自慢の弟だな!」

 

「あっ、一輝兄は後でお説教の続きだから。」

 

「ええ!?……アッハイ…ワカリマシタ……」

 

その一幕を見た他の一同からは笑いの声が上がる。それを見た大二はつい昨日まで自分が手放してしまっていたものの大切さを改めて認識し、もう一度心の中で帰りを信じてくれていた仲間達に感謝を送った。

すると…

 

『大変長らくお待たせ致しました!全ウマ娘ゲートイン完了、出走の準備が整いました!

天皇賞(春)、まもなくスタート致します!』

 

遂にレース開始の実況が鳴り響く。それと同時に観客の歓声はそのボルテージを増してレース場全体を大きく揺らす程の大歓声に変わる。

そして大二達はその眼をターフに向けて応援の態勢に入った。

ライスが見せたいものがあると言っていたこのレース、一瞬たりとも見逃さずにライスの真意を探らなければ…しかしそれ以上にライスがこの天皇賞(春)でもう一度勝者に輝くことを大二は祈るのだった。

 

(ライス、君ならきっと勝てる…頑張れ!)

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ライスシャワーside

 

「すぅ…はぁ~…よし!」

 

スタートが切られる数分前、いよいよこの時が来たと逸る心をライスは抑える為に深呼吸をする。

この天皇賞(春)にライスは何か運命的ななにかを感じていた。それは大二と離ればなれになってしまった原因であるレースと同じ名前を持っていたから感じていたものなのかと思いもしたが恐らくそうではない。

もっと奥底の、魂のようなものが訴えかけてくるのだ。

このレースは良くか悪くかは分からずともライスというウマ娘の人生に大きく関わってくるものだと。

 

「ねぇ、ライスちゃん。」

 

「あっ、どうしたの?ウィナーさん。」

 

そうして精神を研ぎ澄ましている最中にライスは別の出走ウマ娘に声を掛けられる。

声を掛けた彼女の名前はウィナーステージ。通称ウィナーさん。

低迷期のライスに黒星をつけたウマ娘の内の一人であり、これから始まるレースでもしのぎを削り合うことになる相手でもあるウマ娘だ。

先の日経賞やステイヤーズステークスを制したのは勿論、その他の長距離レースでも掲示板に名を連ねる程の生粋のステイヤーである彼女は、この天皇賞(春)に出走するにあたって非常に警戒すべき相手である。

 

「どうしたのじゃないよ!ホントに怪我は大丈夫?

あんな状態で運ばれてきた時は驚いて頭真っ白になっちゃったよ…」

 

「あ、あはは…お騒がせしちゃってごめんね?

でも、ライスは大丈夫!今なら誰にも負けないよ!」

 

「………はぇ~……」

 

「?…ウィナーさん?」

 

ウィナーステージはライスのことを見つめて固まる。その顔は唖然としているというと少しオーバーだが少し面食らった様子でなんだか不思議だった。

 

「ライスちゃん、なんかまた変わったね?」

 

「え…そ、そうかな?」

 

「うん、なんだか今のライスちゃんはそうだな…心に空いてた穴をやっと埋めることができたみたいな雰囲気を感じる!」

 

「!…うん、そうだね。そんな感じかも…」

 

「こりゃ心配している場合じゃないね…手加減無しで行くから覚悟しといてね!」

 

そう言い残すとウィナーステージは自身の番号のゲートに一足先に向かっていった。

そのやり取りを見ていた他の出走ウマ娘達も、どうやら気兼ねする必要がないことを悟り精神を集中させながら徐々にゲートインしていく。

此処に集まったのは全員がこの春の盾を受け取る素質を持った世代の精鋭達だ。その全てを抜き去り、一着をもぎ取ることは決して容易なことではない。

しかし、それでも必ずや勝利を掴んで見せる…そしてあの人に約束の景色を見せてあげるのだ。

その想いを胸にライスもゲートに入って体勢を整える。

 

『さぁ、いよいよ天皇賞(春)…スタートです!』

 

ガッコン!

 

『さぁ、今年も始まりました天皇賞(春)!

御覧のように3200mから18人が一斉に飛び出しました!

内のウマは外へ、そして外のウマはずぅっと内の方へ入って参ります!

京都レース場、芝コースは重。

 

ミソジボールド、ダイナイレーネ、そしてクリスタルレイ。10番のトウホクベルマン!

これは意外なウマ娘が先行争いを繰り広げています!』

 

ようやく開始された天皇賞(春)、その滑り出しは11番のミソジボールド、13番のダイナイレーネ、16番のクリスタルレイ、トウホクベルマンの四人が前に出る。

その後ろから12番のタマモシャーベットと2番のアトラスシャレードが続く形だ。

しかし、その状況はほんの少しの間にちょっとずつ変わっていく。

 

『ずっと外を通りましてようやくクリスタルレイ、大方の予想通りゆっくりと飛び出しました!

二馬身から三馬身!

ミソジボールド、ダイナイレーネが三番手!

トウホクベルマン四番手!

外からオレンジのスカーフ、サロンタンゴ!

12番がタマモシャーベット!

それから落ち着いている2番のアトラスシャレード!』

 

少しの合間を終えて、クリスタルレイがゆっくりと先行集団から離れていき先頭に立つ。

クリスタルレイが逃げを打っている間に14番のサロンタンゴが徐々に上がってきていた。

追い抜かれたタマモシャーベットとアトラスシャレードはそれを落ち着いて静観すると判断したか、表情に動きはない。そしてその後ろでは大本命ライスシャワーの姿があった。

 

『ライスシャワーがいた!

その外へ3番のライスシャワー、不気味な黒い帽子です!

エアレンスターがいた!1番エアレンスター!

そしてダイナジョイフル!

どんどん差を詰めていきます!

 

1周目の第四コーナー!

モンテソブリンの青いリボンが踊っている!

 

クリスタルレイ!

クリスタルレイを除いて後の17人は固まっています!

クリスタルレイが先頭!』

 

一週目のホームストレッチ、観客達は目の前でウマ娘達が駆け抜けていく姿に興奮して大きく歓声を上げる。

すると徐々に差を詰めていた1番のエアレンスターが苦しげな表情を浮かべると同時にその速度を急激に上げて追い上げていく。

 

「あの子、どうしたの?」

 

「あれは恐らく『掛かった』んだ、簡単に言えば焦って何時ものコンディションが出せなくなるってこと…」

 

良く分かっていない様子のさくらに大二が説明する。

恐らくは歓声によって観客を意識しすぎて掛かってしまったのではないか。

今回の天皇賞では彼女は一番人気、期待されていることが分かっているからこそ其処に一瞬焦りが出たのだ。

しかし、それも束の間のことでエアレンスターはすぐに落ち着きを取り戻した様子だった。

しかし、極小規模といっても掛かりは掛かり。その影響は無視できない、レースの結果を大きく左右するだろう。

 

「でも、それならチャンスなんじゃない?

取り敢えず一人は気にしなくて良くなったんでしょ?」

 

「そう簡単にはいきませんわ…

たとえ掛かったとしても其処から挽回して、一着をもぎ取るウマ娘もいます。

それに…」

 

「ああ、ライスだって絶好調と言えないのは同じだ。

度重なる敗戦は本人も気付かぬ内にメンタルの溝を生むし、戦闘のダメージだってある。

何時も通りのやり方は通じないと思った方がいい。」

(そしてそれはライスも分かっている筈…)

 

現在の状況を冷静に分析している二人が出した総評は、現在のライスが勝つには従来のやり方には当てはまらない奇策が必要であるということだった。

大二はライスがそれを理解してなにか策を講じているであろうと信じており、その目に不安の色を見せることなくレースを見守る。

 

『18人がほぼ一団でこれから第一コーナー右にカーブをとります!

クリスタルレイは以前先頭!

おっとエアレンスター、二番手に上がる勢い!

ダイナイレーネが外を通って上がっていきます!

まもなく半分!半分の1600m!

1分41秒から42秒台!まずまずのペースでレースは進んでいきます!』

 

そして『その時』は訪れた。

ライスシャワーのアメジストの瞳に蒼い焔の光が揺れる…

 

『おおー!いったいったいったぁ!

ライスシャワーがいく!

内から1番のエアレンスター!ダイナイレーネ!

人気の三人が先行集団を形成しました!

 

ライスシャワー!ライスシャワーがいく!

マックイーンもミホノブルボンもきっと応援している!

ライスシャワーが京都の坂の登りで先頭に立つ勢い!』

 

その時起こったことにレースを、そして天皇賞(春)を知る者は皆総じて驚愕を顕にしていた。

起こったということ事態は至極単純、ライスシャワーが仕掛け始めたのだ。

しかし、驚愕の原因は仕掛けたタイミングにある。

 

「第三コーナー手前から…ライスさん…」

 

「京都レース場における最大の難所、通称『淀の坂』…

レースにおいて坂の上り下りというのはやり方を間違えば大きくスタミナを奪われる結果になる。

天皇賞(春)ではそんな難所をスタート直後とゴール直前の二回も越えなければならない。その重要性も増しているこの状況で坂の前に仕掛け始めるのは、リードを大きく広げられる代わりに持久力を犠牲にする一種の賭け…

ライス、これが君の策か…!」

 

無謀の挑戦のようにも見えるライスシャワーの策、しかしそれを伺う大二の表情からは焦りや不安といったマイナスな感情は読み取れない。

寧ろ、なんだかその手を使うことがまるで最初から分かっていたかのように大二は確信めいた表情だった。

 

『エアレンスターが内で四番手!

13番ダイナイレーネ!ダイナジョイフル!タマモシャーベット!

ハギノマコトノオーがいきました!

 

有力所が先行集団に上がってまいります!

サロンタンゴ!それからアトラスシャレードがいきましてモンテソブリンもいたぁ!

 

さぁ、ウィナーステージもいる!

 

第三コーナー!

ライスシャワー先頭!ライスシャワー先頭!

サロンタンゴ、ダイナイレーネが二番手に上がった!

ライスシャワー、そしてダイナイレーネ、タマモシャーベット、サロンタンゴ!

ハギノマコトノオー、メリーエスパーであります!

そしてその後ろからゴーツーズィー、エアレンスター、モンテソブリンが差を詰めてくる!

 

さぁ間もなく第四コーナー!

ウィナーステージ!アメイジングタイム!ダイナジョイフル!

この辺りで差を詰める!』

 

ライスシャワーが大きく動いたことでレースのペースが一気に加速していく。数人の有力なウマ娘達が置いていかれまいとライスシャワーに続いていこうとする。

しかし、並外れたスタミナによって淀の坂の中で大きなリードを造り上げていたライスシャワーに、他のウマ娘達は付け入る隙はない。

ライスシャワーは完全にこのレースを支配していた。

 

『さぁ、ライスシャワー先頭だ!いやぁーやっぱりこのウマは強いのか!

ライスシャワー先頭だ!ライスシャワー先頭!ライスシャワー先頭!

 

そしてダイナイレーネが来る!内から内からエアレンスターが差を詰めてきた!内からエアレンスターが差を詰める!

 

ライスシャワー完全に先頭だ!ライスシャワー先頭!』

 

誰もがライスシャワーの勝利を予期して疑わなかったことだろう。

しかし、勝利の女神はそう簡単に勝利の口付けをすることはなく、未だ彼女がヒーローになることを拒むかのようにもう一度試練を与えてきた。

 

「!…もう体力が底を尽きかけてる、早仕掛けの反動だ…!」

 

リードを保っていたライスシャワーが緩やかに失速していく。

その眼は虚ろで蒼い焔の光は失われており、口は半開きになって息も絶え絶えの様子。

博打を打った反動が現れたのだ。そしてその隙を見逃さずに乗じて追い上げてくるウマ娘がいた…

 

『外からウィナーステージ!外からウィナーステージ、ハギノマコトノオーが来た!ハギノマコトノオーが来る!』

 

ウィナーステージとハギノマコトノオー、二人のウマ娘が疲労によって走りが拙くなってきているライスシャワーに凄まじい勢いで近付いていく。両者引けを取らないスピードだが特にウィナーステージの差し脚は尋常ではない。

共に追い上げていたハギノマコトノオーをも置き去っていき、先頭のライスシャワーにどんどんと迫っていく。

ライスシャワーは朦朧とする意識の中で自身が追い詰められていることを、ウマ娘の鋭敏な感覚で感じ取っていた。

 

(どう…しよう…ここで…頑張らなきゃいけないのに……もう脚が鉛みたいに重たい………)

 

一歩踏み出していく毎に重くなって動かすのも億劫になっていく両脚、張り裂けてしまうのではないかと錯覚する程痛みを訴えてくる肺、酸欠によってゆらゆらと揺れて不安定な白黒の視界、自分の息遣いの声しか聞こえない耳。

ライスシャワーの身体はもう限界に達していた。

五感の殆どを感じ取れなくなったライスの頭の中にすぐ近くの観客席にいる筈の大切な人達の言葉が響く。

 

「ライスちゃん頑張ってぇ!」

 

「ライスさん…貴女を信じてますわよ!」

 

(さくらお姉様…マックイーンさん…)

 

「ライス!お前なら勝てる!」

 

「いっけぇぇ!ライスぅ!」

 

(一輝お兄様…テイオーさん…)

 

「ここが踏ん張り所よ!ライスちゃん!」

 

「頑張れぇぇ!頑張れええぇえ!」

 

(幸実お母様に、元太お父様…)

 

そして…

 

「ライスゥゥゥゥッッッ!!!!」

 

(お兄様…!)

 

いつも隣にいて支えてくれた、きっとこれからの長い人生でこれ以上ないと思えるくらいに大好きで永久に共にいたいとさえ感じる大切な人…

 

今、自分がなぜ走っているのかを克明に思い出していく。

あの人と交わした約束、それはただの約束ではなく一種の誓いなのだ。

約束の勝利を果たす為に…

 

(ライスは……『私』は!!

こんなところで終われない!!)

 

「ハァァァァァァァッッッ!!!!!」

 

瞬間、消えていた筈の焔が甦った…

満身創痍のライスシャワーの両脚に一瞬力が戻り、そのままゴール板を駆け抜ける。

並んでその瞬間に立ち合ったウィナーステージはそれに気付かなかったのか、ゴールした瞬間に喜色を孕んだ表情を浮かべていた。

 

『さぁ、完全にライスシャワー先頭だ!ウィナーステージ!ウィナーステージが二番手に上がったぁぁぁライスシャワー!

 

ライスシャワーとウィナーステージ!

ゴール板を並んで駆け抜けたのはライスシャワーとウィナーステージ!

全くの同タイミング!

もはや肉眼では判断ができません!

写真判定!写真判定です!

果たして結果は!?』

 

ライスシャワーとその他のウマ娘達はゴールした後に、ゆっくりと速度を落としてやがて立ち止まっていく。

ライスシャワーは息を整えようとすると極限状態から抜けたことで遮断されていた感覚が蘇り、燃え上がるかのような肺の痛みとパチパチとして考えが纏まらない頭のせいでその場に倒れそうになる。しかしその崩れ行く身体を受け止めてくれる存在がいた。

 

「ライスちゃん、大丈夫?」

 

「……うぃ…な……さ……」

 

「無理しちゃダメ。

取り敢えずゆっくり呼吸して、意識を保つことだけ考えて…

気をやるのは早いよ?

まだ私達には見届けなきゃいけないことがあるんだから…」

 

ウィナーステージはそう言うと周りのことを見渡し、ライスシャワーも眼だけを動かしてそれに倣う。

 

レースを踏破した後の出走者達の反応は十人十色で、掲示板に載ることもできず肩を落とす者も居れば、予想よりも好走することができたので喜びを現す者、疲れはてて激しく呼吸しながら立ち尽くす者も敗北の悔しさを余所に他のウマ娘の観察に徹していた者もいた。

 

今このレースの場で勝利した可能性があるのはライスとウィナーの二人のみ、それ以外はすべからく夢破れた敗者達だ。勝者には敗者の悔しさや悲しみを全て背負っていく義務がある。

ウィナーステージはそのことを重々承知しているのだろう、今この場でそれを背負うに能う勝者がどちらか見届けなければならない。

観客席の五十嵐家の面々共々、未だ一着と二着の数字が浮かばない掲示板に眼を向け、固唾を飲んで見守る。やがて審議の文字が消えて代わりに審議の結果が映し出された。

掲示板の一番上に灯った数字は…

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

  

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

3番…

ライスシャワーに割り振られた番号だった。

 

『出ました!

ライスシャワー!ライスシャワーです!

ハナ差もハナ差!

ほぼ同タイムでのゴールインを経て、今年の春天を見事に制したのはライスシャワー!

 

やったやったライスシャワーです!

恐らくメジロマックイーンもミホノブルボンも喜んでいることでしょう!

 

ライスシャワー!再び春の『天皇賞』を制しました!』

 

「や…やった…やったぁぁッッ!」

 

ワァァァァァァァァァァァァァッッッ!!!

 

五十嵐家の面々含む観客達は結果が出た後もしばらく呆然としていたが、一足先に我に返った五十嵐元太が喜びの声をあげると同時にそれに促されるようにして大きく歓声が上がる。

 

「おめでとう…っ…おめでとう…

ライスちゃん…!」

 

「信じてたぞ、ライス!」

 

「よく頑張ったわね、それでこそうちのもう一人の看板娘だわ…!」

 

さくらはその結果に嬉し涙を流し、一輝は自分の信頼に答えてくれたことを尊び、幸実は家族のために戦い続けてくれたことに感謝し激励した。

さらには他の観客達も同じようにライスのことを祝福する。

 

「おめでとう!ライスシャワー!!」

 

「よく頑張った!すごいぞーっ!」

 

「ラ・イ・ス!ラ・イ・ス!ラ・イ・ス!」

 

『ものすごい歓声ですっ!

スタンドを埋め尽くす観客が、ライスシャワーを称えています!』

 

そこにはもうライスのことを偉業を阻んだヒールとして見る者達はいなかった。

彼らの眼に写っているのは幾度として辛酸を舐めさせられ心を砕かれてもその度に立ち上がりあらゆる困難に挑み続けた真のヒーローの姿だった。

 

「皆が…皆が喜んでくれてる……。

笑ってくれてる…!

 

……皆、ありがとう!」

 

(ああ、そうか…

ライスが見せたかったものはきっと…

この景色のことだったんだ……)

 

大二は今までの自分の世界を見る眼が真実の色を写さない灰色の視界であったことに気付く。

ただ自分の考えが正しいと盲目的に信じ込んで、よく見れば気付ける筈の変化を見落としながら今まで世界を呪い続けていたのだ。

大二はそんな自分の愚かさに心底呆れ果ててしまう…余りに自分は人として脆すぎると。

 

【ハッ、今更なに言ってやがる…

お前が脆いことなんて俺が生まれた時点でとっくに分かりきってたことだろうがぁ…】

 

「カゲロウ…」

 

【それでもお前はしぶとく前に進み続ける、今のあいつみてぇにな…

だったらそれで良いだろ、大二?】

 

「…お前もしかして、励まそうとしてるのか?」

 

【おいおい、寝言は寝てから言えよなぁ…】

 

どこまでも素直じゃない皮肉屋の相棒に苦笑しつつもカゲロウの言う通りだと思い至る。

これから先何度間違えたってその度に自分は諦めずに立ち向かうだろう。

そうさせてくれる大切な家族が側にいる限り。

そのためにもまずは…

 

「逃亡犯の五十嵐大二だな?

お前を拘束させてもらう、大人しく投降しろ。」

 

自分の罪に真っ直ぐ向き合わなければならない。

 

 

後編に続く…

 











思えばこのツーサイなお兄様は大二の闇堕ち期中盤から書き始めて今やギーツも終わりがけになってきて、結構長い間やってきた感じがしますね。
なんだか感慨深いです…

今回のレース描写はYouTubeの公式が出しているレース映像を基に書いてみましたが、なにぶん不慣れですので変に思うところだらけかもしれません。
そこら辺はうまく脳内で変換して下さい(^人^)







目次 感想へのリンク しおりを挟む




評価する
※目安 0:10の真逆 5:普通 10:(このサイトで)これ以上素晴らしい作品とは出会えない。
※評価値0,10についてはそれぞれ11個以上は投票できません。
評価する前に
評価する際のガイドライン
に違反していないか確認して下さい。