2人語り (キューちゃん)
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2人語り

笑える話でもない
泣ける話でもない
これはただ二人の男に起きたある日の出来事


どうしてこうなってしまったか。

今となってはもう分からない。

はずれの田舎、とある山の中にポツリと佇む小屋。

その中央に立つ。

隣に立っているのはかつての親友。

互いに逆の方を向き手には拳銃。

 

 

 

「…最後にもう一度確認だ。良いか?」

「何度確認するんだよ。まぁ良いけどさ。」

 

よくあるウエスタンの早撃ち決闘のやり方だ。

お互い逆の方へ向かって歩き、3歩歩いた所で振り返り相手を撃つ。

至ってシンプルな決闘方法だ。

 

「…っふぅ~。じゃあ、始めるか。」

「あぁ。」

 

1歩。

その刹那───

 

「…っ」

「…なんだ。お互い考えてる事は同じだったか。」

「まぁ…そんな気もしたが。」

「だな。」

 

拳銃の銃口は互いの額へ向けられていた。

決闘の最後まで付き合うつもりはなかった。一瞬でケリを付ける。

だがそれは親友も同じ考えだった。

ただそれだけだった。

 

「…」

「…」

 

引き金を引くに引けず沈黙の時だけが流れる。

 

 

 

どれほど時が流れただろうか。

お互い動くこともせず銃口を相手に向け続けた。

1時間か?2時間か?それとも体感的にそう感じるだけで本当は15分やそこらかもしれない。

親友が口を開ける。

 

「あ~、椅子にでも座っといて良いか?この体勢のままじゃ辛いしせめて座りたいわ。」

「…勝手にしろ。」

 

ようやく動きが出る。親友はこちらに銃口を向けたまま近くにあった椅子を引き寄せそこへ座る。

 

「…」

「…」

 

状況は何も変わっていない。また沈黙の時が流れる。

 

「…なぁ。」

「なんだ?」

 

ただ思いつくまま口を開け言葉を続ける。

 

「お前、嫁さんいるよな。」

「…あぁ、いたぞ。」

「…()()、ってのは?」

「死んだよ。前にな。子が流れちまってよ。それで病んでな。」

「そうか。」

「お前は?恋人はいるっつぅ話は聞いたが。」

「いねぇよ。別の男作ってどっか行っちまった。」

「…そっか。まぁ、俺らの生きる世界じゃよくある事と思うしかないな。」

「今半分死への道に片足突っ込んでる奴のセリフじゃないな。」

「違ぇねぇ。」

 

と言いつつもどっちも空へダイブせず地に足つけたままだ。

 

「あ~、タバコ吸っていいか?」

「俺の発砲で火でも付けてやろうか?」

「タバコに火がついても命の灯火が消えそうだな。ま、勝手に吸わせてもらうわ。」

 

親友はタバコを取り出し口にくわえ火をつける。

 

「お前も少し楽にしたらどうだ?ずっとその体勢は疲れるだろ。」

()()()()ってのはどういう意味なんだか。…とは言えこの体勢がキツイのも確かだな。少し座るか。」

 

小屋の壁にもたれかかりそのまま座り込む。拳銃を握った右腕は銃口を親友に向けたまま肘を曲げ楽な体勢に切り替える。

 

「…あん時は、楽しかったな。」

「あん時って?」

 

徐ろに親友が話し始めた。

 

「ほら、あん時。大学の…2か3年の時さ。お前が急に『旅行きたい』つって俺を誘ってくれたじゃん?あの時のことさ。」

 

よく覚えている。俺自身は幾度か話していた気がするがその度に毎度忘れられ、先に計画も立て後は誘うだけにして誘った時だ。

元々俺自身旅が好きで、よく1人で旅をしていた。だが時には誰かとも遊びに行きたくなるものだ。故に親友を誘ったんだが、いかんせん親友は1本…いや数本程度は頭のネジが抜けてるような奴なのだ。

誘って日程も伝えていざ当日、って時にちっとばっかしか遅れおってからに予定の列車に乗り遅れ、あれやこれやでなんとか目的地に辿り着いたものの着いた時には日も暮れ。その日予定していた事はパーになった。

だがまぁ、それでもそのあれやこれやで辿り着くまでの道のりもなんだかんだで楽しかったものだ。予定じゃ寄らなかったところにもフラッと立ち寄るもんだから止めようとしたがこれがまぁ俺の興味を誘うような店だったりで。

 

「…んでさ、あん時のお前が…、おい、聞いてるか?」

「っと、あぁ。悪いな。少し思い出に浸ってた。」

「なんだ寝ぼけてたのか?そのまま永眠してもらやァ良かったか。」

「悪い冗談はよしてくれ。」

「現状をよく見ろ。冗談とも言えねぇぜ?」

「だったな。」

 

お互いに人差し指をちょいと曲げたらおしゃかになる命。

そんな状況でもあの頃と変わらずこうしてくだらん雑談が出来る。

 

「いっそ…」

「…あ?」

 

思ったままが口から出かける。

 

「…いや、なんでもない。」

「おいおい気になるところで止めてくれるじゃねぇか。」

「なんでもねぇ。忘れろ。」

「せめて死ぬ前には聞きたいもんだね。」

「思い出せたらな。」

「忘れてんのかい。ボケ老人にはご退場してもらおうかね?」

「なら引き金を引けよ。」

「…けっ。つれねぇな。」

 

 

 

撃つに撃てずただ流れていく時間。

どちらかが、もしくはお互いがその引き金を引けば恐らくは事が終わる。

だのに引けないのは何故なのか。

実は拳銃に弾が入っていないのではないか。

だから撃てないし撃たれないのではないか。

ならこの時間に意味はあるのか。

なんならこれは夢だったとかそういう事ではないのだろうか。

 

「あぁクソッ…腕が攣りそうだ…俺も肘を曲げるか…」

「腕伸ばしっぱなしだったもんなお前。肘折り曲げると同時にこの勝負にも折れてくれると嬉しいんだが?」

「在り来りな言葉だが男には退けない時、ってもんがあってね。」

「どの口が言うんだか。そんなキャラだったか?」

「と言ってもお互い様なんだろ?」

「…まぁな。」

 

そうは言っても何が為に退けないのか。今はそれすら分からない。

守るべき人がいる訳でもない。

多分この勝負が影響するものなど大して存在しないだろう。

それは親友も同じはず。

願わくば拳銃の代わりにコーヒーでも持っていつもと変わらぬ会話でもして夜を明かし、バカ笑いして家に帰って、ぶっ倒れて寝たいものだ。

 

そんなことを考えていた時、親友がふと窓の外を見た。

思わず身体が反応し拳銃を構え直す。

 

「…いつまでも、引き伸ばしはさせてくれんか。」

「どうした?熊でも出たか?」

「熊の方がありがたかったかな。先延ばしにする言い訳になる。」

「ほぅ。どれどれ。」

 

壁にもたれ掛かりながら座っていた体勢から立ち直す。

親友の方向を警戒しつつ窓の外を覗く。

 

「…あぁ。確かにこれは、終わりを告げなければならないな。」

 

互いの意思はいずれにせよ、肚は決まったと言ったところか。

2人して同じタイミングで立ち上がり構え直し、最初に振り向いた時の状況が出来上がった。

後戻りは出来ない、ここで終わりだ。

と相手の雰囲気やこの場の空気が脳ではなく身体に直接染み付けるように感じ取る。

 

「…なぁ。」

「…あ?」

 

最期の会話を始める。

 

「…こっそりこっから抜け出してさ、2人して誰も知らねぇ街にでも逃げねぇか?」

「は?何を今更…」

「さっき言おうとしたこと思い出したから言うだけさ。」

「…あぁ。」

 

親友も何となく察したのだろう。話を聞く雰囲気に切り替わる。

 

「俺らさ、結局振り回されたってだけの感じだろ?そんな理不尽ばかり味わってその最期がこれは、まぁ納得いかねぇよな。」

「それはそうだが逃げるつったってどこにさ。」

「まぁおいおい俺たちのことを知らねぇ街を探して、流れ着いた先で…そうだな。2人でテキトーな店でも開いて、昔みたいにバカ話ばっかして過ごさねぇか?尻拭いばかりさせられたのは多分お前もだろ?今回くらい俺らがさせる側にまわってよ、熟睡できる場所でも作らねぇか?」

「…最高の提案だな。」

「…だろ?」

 

2人して口角を上げる。きっと考えてる事は同じ。

ならもう何もいうまい。

 

 

 

俺たちはその拳銃を──────────




ということで思うがままに書いた短編小説です。
実を言うとこれはとある漫画を読んで
「こういうの書きたかったァ!!!」
と思い立ってリスペクトしたものです。

…もし、仮にその方よりご連絡あった際は即時対応します(--;)


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