害悪貴族(モブ)に転生した俺はインチキ宗教で成り上がる ~ウロボロス教団へようこそ! 今ならあなたも平民から貴族に!~ (鴉目かおる)
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第1話 害悪キャラに転生した俺

 俺はこの日、不思議な夢を見た。

 

「ねえ、この害悪キャラなんとかならない?」

 

「とは言ってもだな。俺はそのゲーム、〝君に春よ恋~夕暮れの開戦~〟だっけか? それを作ったプログラマーでもないし、どうすることもできないだろ」

 

「はぁ、せっかくお小遣いを溜めて買ったのに。この害悪キャラのせいで王太子たちとの恋愛イベントも回収できないし、おまけに恋愛アクションゲームならではのハラハラ感もドキドキ感も薄れてるじゃない。駄作、ホント駄作だわ~」

 

「でもお前がこんなに愚痴るのは珍しいな。そんなにヤバいキャラなのか? そいつ」

 

「そりゃそうじゃない! 民衆を煽って恋愛イベントの邪魔ばかりしてくるキャラなんて今まで聞いたことないし。そもそも金髪で愛らしい主人公リゼットちゃんの邪魔をするのは悪役令嬢エリゼの役目じゃない。それなのになんでキャラクター紹介もされてないモブ男がなんで邪魔してくるのよ!」

 

「ふーん、そんなものなのか。お前隠しイベントでも解放したんじゃないか?」

 

「私もそれは考えたけど、こいつのせいで一つもイベント解放できてないしそれはないかな」

 

「そうか……ならネットで調べて見たらどうだ?」

 

「絶対にいや。自力でやらないと達成感ないじゃない」

 

「はいはい、わかりましたよ」

 

 その不思議な夢はなぜか温かくもあり、懐かしくもあり、そして悲しい。どうしてこんな気持ちになるのかは自分でもわからない。それに俺と話している少女の正体も……。

 

 この夢は転生前の出来事だろうか? それとも夢に出てきたということ自体に何か意味でもあるのだろうか? たとえそうだとしても今の俺には関係ない。

 

 モブはモブらしく、害悪キャラなら害悪キャラらしくこの世界で自分の役目をなんとかまっとうしなければ。それがこの俺、クズト・レオドールに与えられた役目なのだからな。

 

 はぁ、俺にその役目が務まるといいのだが……。

 

 

 俺の名前はクズト・レオドール。転生前は成川亮輔という名前だった。

 

 こっちの世界にきてから俺の朝はとても早い。日の出の時間になると小鳥たちが音色を奏でるように鳴き始め、それに釣られるかのように目を覚ます。先に言って置くが、俺は朝型ではない、夜型だ。だけど無理矢理起こされる。小鳥たちの鳴き声という自然豊かな土地ならではの目覚まし時計に。

 

 そんな俺だが毎晩遅くまでこの世界のことを知ろうと書物をかき集めては少しずつ頭に入れてはいるが、クソゲーと言われる世界だけあってややこしいことありゃしない。貴族の階級だの、礼儀作法だの面倒にもほどがある。ホント面倒だ。

 

 先に説明すると俺は夢に出てきた少女がやっていた〝君に春よ恋~夕暮れの開戦~〟というゲームの世界に転生していたわけだ。不慮の事故に遭ったとか誰かに刺されて死亡したとか、死んだ要因になるような出来事は不思議なことに一切覚えていない。まあ、そんなことはどうだっていい。

 

 さっきの話に戻るがこのゲーム自体乙女ゲーと呼ぶのに相応しいゲームなのかは正直言って俺自身判断はできない。それはなぜか? 恋愛要素よりアクション要素のほうが強いからだ。誰かと戦闘した分だけ王太子やその取り巻きのイケメン連中の好感度が上がる仕組み。さらには恋愛イベントを邪魔してくるキャラまでいる始末。こういうゲームは恋愛イベントを早く見たい人にとっては苦痛でイライラするだろうし、駄作だのクソゲーだの呼ばれて当然だろう。

 

 このゲームは主にローズウェル王国という最も文明が発展した国が舞台として描かれている。その王国の首都サンギスにあるローズウェル魔法学園から物語が始まるのだ。リゼット(主人公)と王太子含むイケメンたちとの出会い。幾度も剣を交え共に成長し、それはやがて恋心へと変わる。そして夕暮れのなか続く隣国との激しい争い。リゼット(主人公)に王太子含むイケメンたちはその戦場で誓う。「君を最後まで守り抜く」と……。

 

 っていうのが、このゲームのざっくりとしたストーリーだ。一見ロマンチックにも見えるがクソゲーと言われるほどだ。よっぽど難易度が高いゲームなのだろう。

 

 おまけに俺が転生したキャラ自体かなり特殊で魔法が使えるわけでもなく、剣術に優れているわけでもない。だったら容姿はイケメンかって言われると平凡としか言いようがない。

 

 この時点でかなり詰んだようにも見えるが、これはあくまで序章に過ぎない。クズトというキャラは夢のなかの少女も言っていた害悪なモブキャラである。

 

 リゼット(主人公)みたいに周りから注目を浴びることもなく、道端に落ちている葉のように目にも触れない存在。

 

 そんなモブに転生した俺がこのクソゲーの舞台となるローズウェル王国からはなぜか要注意人物として警戒されている。害悪キャラだからということでそういう設定にされているのか? それとも俺がこのキャラに転生したことで状況が変わったのか? そこら辺の詳しい事情は一切わからずのままだ。

 

 まあ、そういうキャラ設定だと説明すればそれまでなのかも知れないが、そこらも詳しく調べる必要がありそうだ。この世界でこれからやっていくからには。




初めてこのハーメルンで投稿させていただきました。

面白いと思ってくださったら評価のほうよろしくお願いします。


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第2話 元暗殺者メイド

 さらに明日からはアニメやゲームなどであるあるな学園生活が始まる。

 

 今日はその学園に必要な教材、制服などを買いに行かなくてはならない。まあ、一応貴族なのでメイドもいることだし、買い物を任せようかとも思ったが、メイドの一人が口うるさくて仕方がないからな。「あなたに必要な物なのですからくるのは当然です」とか「一緒に出掛けなければ、クズト様をこれからお守り致しませんよ」とか言ってるし、なんで俺はよりにもよってこんなややこしいメイドを雇ってしまったんだよ、と嘆きたくもなってくる。おまけに元暗殺者だぞ。

 

 出会った時は任務で失敗したのか、衣服はボロボロで身体は傷だらけで本気で俺を殺しにきてたしな。はぁ、あの時は怖かったな。背筋がヒヤヒヤしたし、身体中から冷や汗も止まらなかったし。

 

 だが暗殺者っていうのはあいつを見てれば納得ができる節もある。しかしだ、あいつは実年齢と比べて精神年齢が低く感じるのは俺だけなのか? 俺の年齢が十六だから、あいつは俺より五つほど年上らしいから二十は超えてるのか。でも本人がそう言ってるだけで、実際はどうなのかはわからずじまいか。

 

 言ってることがホントガキだもんな。普段、人前であまり喋らないくせに俺と二人きりになった途端、口うるさいメイドに変わるからな。もしかして俺は主人として見られていない可能性も最近は感じる。主従関係というよりなんでも言い合える親友のような関係のほうが近いような気が……。

 

 なんてことを考えていた俺だが内に秘めていた理想が思わず口から漏れ出てしまう。 

 

「もっと優しくて、可愛らしくて、いざとなったら頼りになるメイドを雇いたかったな」

 

 そう言いながら書物だらけのベッドから立ち上がると、

 

「今、なんとおっしゃいました?」

 

「うわっ‼ いきなり目の前に出てくるのはやめろって何回も言ってるだろ。ビックリするからさ。ああ、心臓が痛い」

 

 いきなり目の前に現れたこいつが元暗殺者で俺の専属メイド、アスカ・リーズベルトだ。この世界では特徴的な白銀の髪に燃えるような深紅の瞳、常にメイド服の下には暗器を持ち歩いている。「物騒だから持ち歩くな」と俺が言っても「クズト様を守るためです」と言っていつも話を流される。

 

 本当に俺を守るために持ち歩いているのかは定かではない。正直言ってアスカの過去は謎に包まれている。

 

 このレオドール家で雇う前に情報屋から情報を仕入れはしたが、たいした情報は得られなかった。得られた情報といえば《死線《しせん》》という異名を持つこと、そしてアスカだけは敵に回してはいけないという暗殺を生業している同業者からの情報だけだった。しかし同業者が口を揃えて敵に回してはいけないというほどなので相当恐れられている人物なのは確かだ。

 

 でもいざ話してみれば、話がわかる奴だし、人間性に関しては一切問題がないことは理解できた。ということは、暗殺業のほうで恐れられているということになる。相当な実力者なのだろう。

 

 前職が暗殺者だけあって何事も完璧にこなし、今は俺の専属メイド兼屋敷のメイド長も務めてくれている。

 

 なぜ、そんな恐ろしい奴を雇ったのか? そして俺の専属メイドにしたのか? 色々と疑問点が出てくるだろう。

 

 まあ、そこについては俺の単なる自己満足だ。

 

 一つ目は困っている女性は誰であろうと助ける。これは男なら誰しもが理解できることだろう。

 

 二つ目は今の俺の立場なら側に戦闘経験が豊富で実力もあるアスカが味方でここまで心強いことはないと思ったからだ。要注意人物には危険が付き物だ。盗賊や野盗から命を狙われたり、道ですれ違った何者かに鋭利な刃物で刺される可能性もある。いわゆる通り魔だ。

 

 後は些細なことだが、俺が何か頼みごとをしたくても他のメイドだと気を使ってしまい言えないことも多々ある。しかしこいつアスカが相手だとなぜか遠慮せず言えることがわかり専属のメイドになってもらったというわけだ。まあ、メイドらしくないからっていうのもあるからだけど。例えば言葉使いとか堅苦しくないし、本人は努力しているみたいだがたまにボロが出ることもあるしな。



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第3話 貴族は醜い

 俺はニヤニヤしながらアスカの顔をじっと見つめる。

 

「なんですかその顔は? 本当に失礼なご主人様ですね。ふふふっ」

 

「なんだよ、その笑い」

 

「いえ別に……あ、そうでした。明日からはとうとう待ちに待った学園生活ですね。今日の予定ですが朝はメイドたちにお給金の手渡しを行ってもらいます。日頃からの感謝の言葉を考えて置いてください。次にお昼以降は私とお出掛けです。明日からの学園で使用する教材、制服など諸々購入しに行きますので、外出しても恥ずかしくない格好に着替えてください」

 

「はいはい、わかったよ。それとメイドに感謝の言葉って言われてもな。そんなの思いつかないし……そうだ! ならアスカが考えてくれよ。お前そういうの得意だろ?」

 

「な、なんで私が考えないといけないのよ。いや、考えないといけないのですか?」

 

「だから前にも言ったけどそう畏まらなくていいぞ」

 

「そうね。確かにこっちの喋り方のほうが楽だしそうさせてもらうわ。さっきの話に戻るけど感謝の言葉くらい簡単な一言でいいじゃない? 本来ならメイドって仕えた主人の言うことには忠実。おまけに逆らえないし、貴族の間ではメイドを性奴隷のように扱う人も少なくないしね。だけどここレオドール家はどう?」

 

 そう、こいつアスカの口調は主人に仕えるメイドとしては本来なら失格。もしアスカが他の貴族に雇われ同じような口調で主人に話すことがあれば間違いなく罵倒され、しつけと言う名の性的奉仕をさせられるだろう。現実なんてそんなもんだ。

 

 貴族のイメージは金持ちで高価の衣服を着用し、高級な食事を毎日堪能する。庶民が一度は夢見る華やかなイメージだが、さっきも言ったが実際はそれよりも残酷で酒を片手に女を玩具のように扱いはべらす貴族と言う名を借りた薄汚い化物。大金を手にするだけでこうも人間は醜くなるのか、と俺が疑問を抱いたほどだった。

 

 確かにこの世界に転生する前の世界でも格差社会だったことには間違いない。だがしかし格差社会とは言ってもその国に住む人たちは法というものに守られ、最低限の生活ができるようにはなっていた。

 

 それと間違いなく犯罪の件数もこの世界に比べて少なかっただろう。これはあくまで庶民的な目線で見た感覚だ。その類の専門家なら詳しく説明できるだろうが、残念ながら俺は専門家ではない。所詮、大卒程度の知識しかない一般庶民だからな。

 

 まあ、でもこのゲームの世界の裏設定? と言っていいのかはわからないが、まさかこのゲームがこんな醜い世界だったとは誰も思いはしないだろう。恋愛のいざこざはあったとしても、こんな人間臭さがあったとは……。

 

「ねえ、クズト様聞いてる?」

 

「ああ、すまん。まあ、確かに俺の代になってから今までの貴族としての在り方とか全部捨て去ったからな。現に今この屋敷にいるメイドの大半は娼婦として売られてた人だ」

 

「そうでしょ。だから皆あなたには感謝してるのよ。行き場を失い、男どもに玩具のように扱われ奉仕させられる。女は好きでもない男に奉仕したいとは思わないものよ。私も含めてね」

 

「じゃあ、俺には奉仕してくれるのか? ぐへへへ!」

 

 俺は両手をアスカの豊満な胸に目掛けて巧みな指使いをしながらゆっくりと近づけていく。しかしアスカはその手を払うばかりで何もしてこない。

 

 そうか、彼女も俺に触られることを望んでいるのか! 早く気付けばよかった。これに関しては俺が悪い。女性に恥をかかせるとはなんたる失敗。今からでもその罪を償おうではないか!

 

「アスカ準備はいいか⁉ お、俺の理性はも、もう噴火の如くたぎってしまいそうだ!」

 

「バカなこと言わないでよ。誰があなたみたいな害悪貧乏貴族に胸を触らせるのよ。そういうことはもっと立派になってから言いなさい」

 

「へ? いや、てっきり反発してこなかったから求めているのかと……」

 

「だ、誰が求めてるって⁉ そんなわけないじゃない! 私は要求不満でもないし、それに――」

 

「それに?」

 

「私と婚約したいって人はいくらでもいるんだからね! もちろんその人たちのなかに私の想い人も……ふふん」

 

 ア、アア、アスカに想い人だと……⁉ もしやその想い人といつか結婚してこの屋敷から去っていくのか……い、いやぁまさかな。アスカが見知らぬ男性と……。



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