一夜限りのエンドロール (宇宮 祐樹)
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一夜限りのエンドロール

 

 今年の梅雨は、例年に比べると少しだけ長かった。

 薄く引き伸ばしたような雨だった。勢いはそこまで強いわけじゃないけど、朝から夜までずっと降り続いているような、鬱陶しさを強く感じさせるもの。洗濯物は乾かないし、気分は重たくなるし、何よりここ数日のトレーニングメニューにも影響が出てしまっている。

 春の天皇賞も制覇し、さて次は宝塚記念に向けての調整を――という大事な時期にこれだ。もちろん予備のプランもしっかり立ててあったので問題はないが、それでも、どうしたものかと俺は頭を抱えられずにはいられなかった。

 そんな雨が続いた、ある日のこと。

 

「映画でも観ませんこと?」

 

 俺は担当の生徒であるメジロマックイーンに、そんな誘いを持ち掛けられた。

 

「……映画?」

「ええ」

「急だね、どうしてまた」

「ここ最近、雨ばかりで退屈ですから。気分転換にでもと思いまして」

 

 鈍色に塗り潰された空を見上げながら、彼女が告げる。

 意外だった。

 いや、彼女が映画を観たいと口にしたことにでは、ない。彼女の趣味が映画鑑賞だということは前々から知っているし、映画の誘いを受けたことも何度かある。

 ただ、窓に反射して見えたその顔が、どうしてか憂鬱そうで。

 彼女がそんな表情を浮かべていることが、俺は気になって仕方がなかった。

 

「うん、いいと思う。観に行こうか、映画」

「……もしかして、付き合わせてしまいましたか?」

「そんなことないよ」

 

 確かにあんな顔をされては、という気持ちもある。ただ、かくいう俺も、ここ最近は遅くまで仕事をする日が続いたせいで、人のことを言えない顔つきをしていただろうから。そこでふと、むしろ俺が彼女を付き合わせてしまったのかも、と考えたけど、それを口にするのもなんだか野暮な気がするから、やめた。彼女は、そうした気遣いを口にされるのがあまり得意じゃなかった。それは、この四年間で何となく理解したことだった。

 

「予定はいつにしよう? この日がいい、みたいな希望はある?」

「……夜、に」

「え?」

「今日の夜にしましょう」

 

 聞き返すと、彼女ははっきりと俺の顔を見上げながら、またそう言ってきた。

 別に今日の仕事は終わってるし、夜に予定を入れてるわけでもないから、今日にしても構わない。むしろ今後の予定に影響が出ないぶん、今日にしてくれて助かるところも、少しある。

 それにしても、まあ。

 

「珍しいね」

「……私がこんな急に予定を決めることが、ですか?」

「うん。だって君は、きちんと事前に準備をしてから行動するっていうか……それこそ映画を見るにしても、ちゃんと予約とかする子だと思ってたから。俺を誘ってくれるにしても、数日前から話をしてくれるかと」

「まあ、確かにそうかもしれませんわね」

「だよね?」

「ですが私にも、急に何かをしたくなる時はありますもの。それに映画というものは、『観たい』と思ったときに観るべきものですから。それがたとえ気まぐれだとしても、私はそれを無視することなんて出来ませんわ」

 

 ……なんだか。

 

「今日のマックイーンは、ワガママだね?」

「いけませんか?」

「ううん。それくらい言ってくれた方が可愛げがあって、いいと思うな」

「褒め言葉なのか、分かりにくいところですわね」

「まあ、たまにはそんなマックイーンでもいいんじゃない?」

 

 何気ない会話だったと思う。

 口にした言葉は紛れもない本心だし、慌てて否定するような恥ずかしさもない。変な話だけど、俺は自信を持ってそんなメジロマックイーンでも担当になっていたと思うし、この四年間を一緒に過ごしていたと信じられる。

 ただ。

 俺のそんな言葉を受け取ったマックイーンは、ほんの一瞬だけ、どこか驚いたような、それでいて安心したような、すごく曖昧で言ってしまえば()()表情を浮かべていて。

 きっとそれは、俺が目にしてはいけないもののような、そんな気がしたから。

 ともすれば俺は、彼女をそのままの表情にさせてしまうのが怖くて、急いで言葉を続けた。

 

「そうだ、チケットはどうしよっか」

「……チケット?」

「うん。何なら、今から映画館に行きながら決めてもいいよ? 電車の中とかで。それとも、いっそのことレイトショーで観る、でもいいかもね。さすがに寮長には連絡しなきゃいけないけど。でも、ご飯とか外で済ませてから観る、っていうのもアリ……」

「ああ、申し訳ありません。言葉足らずでしたわね。別に映画館に行きたい、というわけではありませんの」

 

 なんて困ったような笑みを浮かべながら、彼女は。

 

「だって今時、『ローマの休日』を上映している映画館なんて、ありませんもの」

 

 

 その日の夜、マックイーンに連れられたのはメジロ家の別荘だった。

 メジロ家の別荘はいくつかあるけど、そこは俺も何度か招待されたことのあるところだった。大体は連休が続いた時のトレーニング施設としてだけど、たまにマックイーンが開くお茶会の会場としての時もあって、とにかく俺にとってはある程度、見慣れた場所ではあった。

 ただ、こうして日が沈んだ時に訪れるのは、初めてのことで。

 そこに流れる静けさは、昼間の清廉な静謐さとはまた違う、どこか退廃した、ともすれば授業が終わったあとの、夕陽が差している誰もいない教室のような、そんな雰囲気があった。けれど、不思議と寂しさは感じられなかった。それは、隣に彼女がいてくれているからかもしれなかった。

 

「こちらへ」

 

 なんて呟いて歩き始めたマックイーンの背中を、少し離れて追っていく。

 俺と彼女の足音だけが、廊下のずっと遠くまで響いていた。

 

「他の人はいないの?」

「ええ。賑やかな方がよろしかったですか?」

「そういうわけじゃないよ。ただ、珍しいなって思って」

 

 少なくとも一人、それこそいつもの執事のお爺さんがいてもおかしくないと思ったけど。

 なんて考えていると、彼女は歩きながら少し考えるような素振りを見せて、

 

「映画を観るときは、できるだけ一人で過ごしたいので。従者の方々や爺やにも、席を外して頂くよう言ってますの。悪く聞こえてしまうかもしれませんが……彼らがいるとどうしても、映画に集中することができませんから。だから、まあ……言ってしまえば、私のただのワガママですわ」

「……俺は、いてもいいんだ?」

「ええ。構いませんわ」

 

 その理由を聞く前に、彼女は扉の前で足を止めて。

 

「どうぞ」

 

 通された扉の向こうにあったのは、本当にここがメジロ家の別荘かと疑問に思うほど、質素な部屋だった。

 あるのは二人がけの小さなソファーと少し背の低い木のテーブルで、その上には古ぼけたリモコンと最低限のティーセットが用意されている。そして奥には、ひっそりと佇む一台の小さなテレビ。まるでそれは、テーブルに並ぶそれらを羨ましそうに眺めているようにも見えた。

 

「ここは?」

「映画を観るための部屋です」

「……それだけ?」

「ええ、それだけですわ」

 

 短く答えると、マックイーンがソファーへと腰を下ろす。そうして彼女は言葉を発さないまま、自分の隣の席を軽く手で叩いて、俺に座るよう促した。

 それは膝と膝とが触れ合ってしまって、ふと揺れた髪から漂う甘い香りを感じてしまうような、そんな距離だった。けれど彼女は何も気にしていないようで、やはり口を噤んだまま卓上のティーポットへ手を伸ばす。液体の落ちる柔らかな音が、ふわりとした湯気と共に、紅茶の枯れたような香りを運んできた。

 ただ、その香りは俺の知らないもので。

 

「初めてかいだ香りだけど……それ、どんな銘柄なの?」

「さあ」

「……え?」

「スーパーで適当に買ってきたものですから」

 

 驚いたままの俺をよそに、マックイーンが続ける。

 

「本当は、紙パックの紅茶でも良かったのですが……できれば温かいものを飲みたかったので。ほら、最近は雨も続いていましたし、体も冷えてしまっていますもの。健康には気をつけませんと」

「いや、そうじゃなくて……その、スーパーで用意したの? 君が?」

「意外ですの?」

「……うん。意外だよ。まさか君みたいな子が、そんなことするなんて」

 

 何度もお茶会に誘われた挙句、自分のトレーナーだからと銘柄だの産地だの色々な知識を叩き込まれたことを思い出すと、彼女がスーパーで買った紅茶を淹れることは、どうしても想像しづらいことだった。

 

「もしかして、いつものような紅茶の方がよろしかったですか? 私が何度もお茶会に付き合わせているせいで、あなたの舌は肥えてしまっているかもしれませんから」

「それは……否定できないけど。でも、君がわざわざこの紅茶を選んだのには、きっと何か理由があるんでしょ? だったら俺は、それでいいと思うな。……ううん、むしろその方がいい、って思えるよ」

「……あなたのような気遣いのできるトレーナーを持つことが出来て、私は恵まれていますわね」

 

 優しく微笑んで、マックイーンが紅茶を口に含む。それを見て俺も、いつものようにカップへと口をつけた。喉の奥から抜けてくる香りは、やっぱりいつものお茶会で出されるものよりもどこか控えめで、言葉を選ばなければ安物の風味ではあったけど、でも不思議とこれを悪いものだとは思えなかった。

 

「お味はどうでしょう」

「……美味しいよ」

「それなら、よかったですわ」

 

 答えた彼女の表情には、少しだけ安堵の色が混じっているような気がした。

 それからしばらくは、お互いに言葉を発さないまま、時間が静かに流れていった。けれどそれは息が詰まるような、緊張したものではなく、どちらかといえば心地の良い、ゆったりとしたものだった。こんなことを望むのもおかしな話だが、できることなら彼女とこの時間をいつまでも過ごしていたいと、そう思えるほどに安らかな時間だった。

 やがて紅茶を飲み終えたマックイーンが、リモコンへと手を伸ばす。

 

「字幕と吹き替え、どちらがよろしいですか?」

「君の好きな方でいいよ」

「では、字幕にいたしましょう」

 

 真っ暗だった画面が切り替わり、古ぼけたモノクロの映像と、くぐもったオーケストラの伴奏が流れ始めた。そうして、ローマの名所の一つであるオベリスクを背景に、ゆっくりと浮かび上がった題名は"ROMAN Holiday(ローマの休日)"。映画史に疎い俺でも知っている、有名な作品だった。

 

「観たことあるの?」

「ええ。確か、これで七回目ですわ」

「七回って……どうして、そんなに何度も?」

「分かりませんわ」

 

 返ってくる言葉には、少しの鬱陶しさが感じられた。それが気になって隣へ目を向けると、そこには既にテレビへとじっと視線を送るメジロマックイーンの姿があった。そこで、気づいた。ああ、そうか。もう、彼女は向こう側に吞み込まれているのだと。彼女の心は既に、あの白と黒だけの世界にあるのだと。そう、思った。

 

「………………」

 

 だから、俺もそこからは何も言わないことにした。それは映画を鑑賞するから、というのもそうだし、何より彼女の邪魔をしたくなかった。きっと俺が言葉を発してしまうと、彼女はこちら側に戻ってきてしまうから。

 視線をテレビに戻し、俺も向こう側の世界へと足を踏み入れる。

 アン王女は、退屈そうにヒールを履き直していた。

 

 

「私、やっぱりこの映画は嫌いなのかもしれませんわ」

 

 エンドロールが流れ終わった後で、ふとマックイーンがそんな言葉を漏らす。

 

「……え?」

「あなたから聞かれたことを、ずっと考えていましたの。どうして私がこの映画を、七回も観ているのか。おそらくそれは、私がこの映画をひどく嫌って、憎んで……羨ましく思ってしまうからなのでしょうね」

「羨ましい?」

「ええ」

 

 白いカップに紅茶を注ぎながら、彼女が続ける。

 

「今日の朝、登校していた時の話になるのですが」

「うん」

「横断歩道で信号を待っているとき、向かい側に一人の女の子を見つけましたの。背格好は私と同じくらいで……おそらく、隣町にある高校の生徒なのでしょう。見慣れない制服でしたわ。髪は短くて、眼鏡をかけていて……それと、楽器のケースを背負っていましたわ。きっとあれはトロンボーン……」

 

 うつらうつらと、言葉が並べられていく。その様子はそれこそ、映画の序盤に出てくる眠たげなアン王女みたいだった。そうして彼女は、注ぎ終えた紅茶へと口をつけようとしたところで、ふとその手を止めて。

 

「ああ、そうですわ。その子、私と同じウマ娘だったんですの」

 

 水面に映る自分を見つめながら、そんな言葉を漏らした。

 

「何の変哲もない、ありふれた光景であることは理解していますわ。むしろ、私にはそちらの方が普通だとさえ思えますの。こんなことを言ってしまうと、他の方々への冒涜になるかもしれませんが……ただ走ることだけに使命を感じている私たちの方が、どこか()()()()のでしょうね」

「そんな、ことは……」

「あくまで私がそう思っているだけですわ。ですから……いえ、だからこそ否定はしないでくださいまし。これは……この小さな綻びのような気づきだけは、誰にも奪われたくありませんもの」

 

 語る彼女の瞳は、ここではないどこか遠くをぼんやりと見つめていた。俺はそんな彼女の瞳に見覚えがあった。映画だ。それは、先程まで映画を観ていた彼女の瞳と、全く同じものだった。

 真っ暗なテレビの画面には、色を失った俺とマックイーンの姿だけが反射して映っている。その光景はそれこそ、古ぼけたモノクロの映画みたいに見えて……ただ、きっと彼女はこの映画を嫌いそうな、そんな気がした。

 

「ねえ、トレーナーさん」

 

 画面の中のマックイーンが、こちらに語り掛けてくる。

 

「……もしも、の話ですわよ?」

「いいよ。誰にも言わない」

「私がメジロ家の元に産まれず、普通のウマ娘……いいえ、普通の女の子として産まれたとしたら。いったい私は、どのような人生を歩んでいたのか……そんなことを、考えてしまいましたの」

 

 その声色はどこか怯えているようにも見えた。けれど、それは考えれば当然のことだった。

 ただでさえ彼女は、メジロ家という使命と誇りに塗れた銘を、その背に刻んでいるのだ。もし、メジロ家に産まれなかったら――などという心情など、抱えているだけでも魂が摩耗していくはず。それなのに彼女は、抱えていたその心情を、包み隠さず俺に吐き出してくれた。その行動に、どれだけの勇気と覚悟が必要なのか。それこそ、彼女はまだ一八にも満たない子供なんだ。だから、続く言葉が言い訳じみたものになってしまうのも、仕方のないことだと納得できた。

 

「現状に不満があるわけではありませんわ。むしろ、私は恵まれています。メジロ家という名家の元に産まれ、あなたのような優秀なトレーナーと出会い、重賞レースで何度も勝利を納め……ウマ娘として、これほどに幸せなことはありません。それは誰よりも私が一番、理解していますわ」

「そうだね。君がそう口にしてくれるなら、俺も嬉しいよ」

「ですが……時々ふと、考えてしまうのです。もし、私が普通の学校に行って、普通の生活を過ごして、メジロ家と何の関係もない人生を送っていたら。それこそ、今日の朝に出会ったあの女の子と、すれ違いざまに中身が入れ替わってしまえばいいと……そんな妄想を、何度も何度も繰り返して、しまいますの」

 

 そこで俺は、ようやく全てを理解することができた。

 映画を観る前、彼女はどうしてあんな憂鬱な表情を浮かべていたのか。

 いつもとは違う、スーパーで用意した紅茶を淹れていること。

 こんなにも小さな部屋の、普通のテレビで映画を観ていること。

 そして彼女が、『ローマの休日』を七度も繰り返して観ていること。

 その理由の、全てを。

 

「誰の言葉なのかは、忘れてしまったのですが」

「……うん」

「映画とは誰かの人生を覗き見る小窓である、と」

 

 なんて残酷な言葉だろう、と思った。

 どれだけその情景に焦がれようと、映画というものは結局、造られたもの(フィクション)でしかなくて……俺たちはスクリーンという小さな窓から、誰かの人生を覗き見ることしかできない。その誰かに成り代わることなど、できない。ただ俺たちは、ほんのひと時の夢を見ることしか、許されないんだ。

 美しい言葉だとは思う。巧みな名言だとも、思う。けれど今の俺には、それが彼女をこの現実に引き留める、歪な楔に思えてならなかった。そうして彼女は、楔から伸びる鎖を首に繋げられたまま……小窓から誰かの人生を覗き見ることしか、できないんだ。

 

「……くだらない話を、してしまいましたわね」

「そんなこと、ないよ」

 

 上手く答えられただろうか。今の俺には、その判別すらつかなかった。

 ただ、マックイーンは俺の方に振り向くと、少しだけおかしそうに笑って。

 

「やっぱり、あなたを誘って正解でしたわ」

「……それは、どうして?」

「だってあなたがいれば、私はどんな人生(映画)でも素晴らしいものだと思えますもの」

 

 そうして彼女が、再びテレビの方へと視線を送る。真っ暗な画面には、相変わらずモノクロになった俺とマックイーンだけが反射して映っていた。ただ、彼女の浮かべる表情はどうしてか満たされているようなもので……俺は、さっきまでの考えを訂正することにした。少なくとも、彼女はこの映画を嫌いだとは言わないような、そんな気がしたから。

 それから、しばらくの沈黙が続いたあと。

 

「……幼馴染が、いいですわ」

 

 ぽつぽつと続く彼女の言葉を、俺は黙って聞いていた。

 

「家が隣同士、とまではいきませんが……小学校と中学校も一緒で、クラスも何度か同じになって、たまに帰る方向が一緒になって……何とは言いませんが、それくらいがいいんですの。都合が良すぎると、逆に現実味がありませんから。これくらいが、いちばん丁度いいんですわ」

「…………」

「高校に上がると、電車を使うようになって……一緒にいる時間が、毎日少しずつ増えていきますの。そうして、今まで家族のような距離感だったものが、また別の何かに変わっていくのをお互いに感じて……もどかしく思えてしまうような、そんな時をずっと過ごしていく……」

 

 そこまで口にしたところで、ふと、マックイーンが俺の方へと体を傾けて。

 

「……それで、続きは?」

「これから、あなたが決めてくださいまし」

 

 指と指が絡み合って、伝わってくる感触に彼女が微笑みを零す。

 

「俺だと、幼馴染にしては年が離れすぎじゃない?」

「あら、今更そんな野暮なことを仰いますの?」

「野暮っていうか……まあ、いいんだけど」

 

 言い返すことならいくらでもできたけど、やめた。

 だって今日のマックイーンは、ワガママだから。

 

「……本当は、どんな役でもいいのです。幼馴染でも、先輩や後輩、先生でも。だってこれは、この夜だけの映画(人生)ですもの。私もあなたも、好きなように演じて……そうして、最後にエンドロールが流れ始める」

「二人だけしかいないよ? だから、すぐに終わっちゃう」

「ええ。それでも、構いませんわ」

 

 そして彼女は、映画を観るときのあの、夢を見るような瞳に俺を映しながら。

 

「だってそうすれば、私の名前の隣に必ず、あなたの名前が並びますもの」

 

 





 ……反動ですわ。
 小さい頃から華道や茶道、メジロらしい趣味に打ち込んだ結果……。
 気持ちをパっと発散できる娯楽も嗜みたくなってしまいましたの。
 これは……秘密ですわよ?




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