私の想いを歌にのせて平和を願う (猫神瀬笈)
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プロローグ 海上探索編
プロローグ 転生しました。


私は今、海の上に立っている。

 

比喩ではなく現実に。

 

体は白く服は黒い何か。

 

変な帽子をかぶり、

杖を持っている私が海面に映る。

 

近くに島はなく、水平線が続く。

 

私がこうなったのは

数時間前のことである。

 

 

 

 

 

私は普通の学生だった。

 

歌うことが好きなだけの普通の学生。

 

ただ、作詞・作曲ができる。

 

ただ父親の影響で体術を覚え、

兄の影響でアニメやゲームの

動きができるようになった。

 

ただそれだけの普通の学生だった。

 

母は私が生まれたときに

死んだらしい。

 

そんな私に起きた出来事。

 

私は学校のイベントで

歌うことになった。

 

教師総意での推薦だった。

 

私は断ることなく受け入れた。

 

そのイベントの当日、私は歌った。

 

平和を求めた歌を歌った。

 

私の心からの声を歌った。

 

観客から大いに歓声が沸いた。

 

私は満足した。

 

そう、満足していたのだ。

 

セットの不備による

事故がなければ……。

 

 

 

 

 

そう、私は歌っていたステージの

背景セットの下敷きになって死んだ。

 

ほんの一瞬の出来事だった。

 

私は満足していたことで

セットの異変に気付かなかった。

 

痛みを一瞬だけ感じて

目の前が真っ暗になった。

 

おそらく満足して死んだのだろう。

 

そして今に至る。

 

もう一度自分の姿を見る。

 

その姿を私はよく知っている。

 

兄のやっていたゲームのキャラだ。

 

確か「艦隊これくしょん」というゲーム。

 

戦船の力を持った少女たち「艦娘」が

突如現れた敵「深海棲艦」と戦う。

そんなゲームだった。

 

私はその内容を詳しく知らない

 

兄がやっているのを

見ているだけだったから。

 

でも、自分の姿は知っている。

 

初心者の1つ目の難関と兄は言っていた。

 

名前は空母「ヲ級」。

 

他のゲームで言う1面のボス。

 

私は今そのヲ級になっている。

 

「転生」と言うものだろうか。

 

私は少し困惑する。

 

だが、悩んでいても仕方がない。

 

考えるのをやめて

水面に映る自分の顔を見る。

 

じっくり見てみると可愛い顔をしている。

 

私はまんざらでもなかった。

 

 

 

 

 

とりあえず行動するのに太陽を見る。

 

太陽は私の後ろに傾いていた。

 

太陽は東から西に進む。

 

だから私は今の太陽が

右になる方向を向いて進む。

 

北の方なら陸があると思ったから。

 

ただひたすらにまっすぐ進む。

 

進むのは難しくはなかった。

 

スケートをしている感覚だった。

 

体術を学んでいるため、

体幹はしっかりしていた。

 

体は前の私より大きい。

 

目線も高く、出るところも出ていた。

 

それでも体幹は変わらなかった。

 

どうしてこんな姿になったのか。

 

そんなことを考えながら進む。

 

途中で変な魚を見た。

 

あれは確か「イ級」だ。

 

強さは某RPGのスライムだったはず。

 

イ級はこっちに近づいてきて

私を見つめる。

 

私もしゃがんでから見つめ返す。

 

するとイ級は私にすり寄ってきた。

 

どうやら懐かれたらしい。

 

私はイ級を触ってみる。

 

体は機械のように固く冷たかった。

 

手の甲で扉をノックするように叩く。

 

イ級の中で音が反響した。

 

イ級は不思議そうにこちらを見る。

 

私は叩いたところを撫でる。

 

イ級は気持ちよさそうに

「きゅー」と鳴いた。

 

せっかくだから

名前を付けることにした。

 

黒で「きゅー」と鳴く……。

 

私はそのイ級に

「キューちゃん」と名付けた。

 

私は立ち上がって、

目的の方向へ進んだ。

 

後ろにはキューちゃんがついてくる。

 

その姿はまるで犬のようだった。

 

 

 

 

 

しばらく進むと島を見つけた。

 

残念ながら

人がいるような場所ではなかった。

 

今の私の姿ではその方がいいだろうが。

 

私は陸の内側に行こうとしたが諦めた。

 

どうやらキューちゃんは

陸の方までこられないようだ。

 

仕方がないので近くの岩に腰を掛ける。

 

あまり疲れた感じはしなかった。

 

だが、心が疲れているようだった。

 

私はキューちゃんを膝にのせて撫でる。

 

キューちゃんは嬉しそうにしてくれた。

 

私はしばらく撫で続けた。

 

 

 

 

 

気が付くと周りは暗くなっていた。

 

今は月明りが照らしてくれている。

 

とても綺麗な月を見て歌詞が浮かぶ。

 

私は無性に歌いたくなった。

 

試しに声を出してみる。

 

「ヲ~~~」

 

どうやら声は出るようだ。

 

しかし、響くのは濁声だった。

 

嫌なので何度か発声練習をする。

 

「ヲ~~」

 

もう一回……。

 

「を~~」

 

あとちょっと……。

 

「お~~、お、おおー。」

 

ちゃんと声が出た。

 

どういう原理か分からないが

声はいつもの私だった。

 

ちゃんと声が出たため体勢を変える。

 

自分が歌いやすい体勢に変えていく。

 

私はキューちゃんを

撫でながら歌い始める。

 

体が大きいからか前より声量が大きい。

 

響く自分の歌を感じながら歌う。

 

私がここにきて感じたことを

歌詞にした歌。

 

困惑、疑問、恐怖、

悲しさ、嬉しさ……。

 

何故かスラスラと歌詞が思い浮かぶ。

 

次第に私の体が震える。

 

歌ったことで自分自身を感じたのだ。

 

ここにきて戸惑ったこと。

 

家族と会えない悲しさ。

 

自分が死んだという

現実に対する恐怖。

 

キューちゃんといられる嬉しさ。

 

気づけば私は泣いていた。

 

歌いながら涙を流していた。

 

涙はキューちゃんに落ちていく。

 

それに気づいたキューちゃんは

私を慰めてくれた。

 

鳴きながら体を擦りつけてくる。

 

歌い終わった私は

キューちゃんを抱きしめる。

 

体を震わせて声を出して泣いた。

 

寂しさを紛らわせるために。

 

ただひたすらに泣き続けた。

 

 

 

 

 

私は夢を見た。

 

家族といたときの私。

 

兄と楽しそうな私。

 

友達と楽しく遊ぶ私。

 

父に体術を教わる私

 

父と歌の事で喧嘩した私

 

それを認めてもらった私。

 

その時の父親の言葉。

 

「自分が伝えたい想いを歌え」

 

その言葉を最後に

父の背後が光り輝く。

 

その光はすべてを飲み込んだ。

 

私は光に包まれる前に

父に向かって叫んだ。

 

 

 

 

 

私は目を開ける。

 

既に月明りは太陽の光に変わっていた。

 

どうやら泣いた後に

眠ってしまったらしい。

 

座っていた岩の上で横になっていた。

 

キューちゃんも横で寝ていた。

 

私は体を起こし周りを見る。

 

昨日は暗くてよく見えなかったが、

周囲にいくつか島が見えた。

 

ここは孤島ではなかったようだ。

 

さらに周囲を見渡す。

 

するとキューちゃんと同じ姿が見えた。

 

それも複数体。

 

まあ、おかしくはないだろう。

 

そんなことを考えていると、

そのイ級達が近づいてくる。

 

どうしたのだろうと思って待ってみる。

 

するとキューちゃんと

同じように鳴き始める。

 

どういう意味か分からず、私は困惑する。

 

するとその声で起きた

キューちゃんが前に出て鳴く。

 

その声に反応したのか、また鳴いた。

 

何回か鳴き合った後、

キューちゃんがこちらを向く。

 

私は首をかしげる。

 

キューちゃんは体を使って

何かを必死に伝えてくる。

 

その行動を見ながら何となくで答えてみる。

 

「もしかして、ついてきたいの?」

 

その言葉に反応するようにイ級たちは頷く。

 

キューちゃんのジェスチャーを

何となくで感じ取り、

「歌が気に入ったからついてきたい」

と解釈した。

 

私は少し悩んだ。

 

一緒にいてくれるのは嬉しい。

 

だが、増えるということは艦娘に

狙われる可能性が上がるということだ。

 

兄に見せてもらった二次作品で

そんな描写を見たことがあった。

 

深海棲艦の増加は

向こうにとって緊急事態である。

 

そのことを考えると素直にYESと言えない。

 

だが、歌が心を動かせたとも考えられる。

 

そう考えると、艦娘との戦闘も

歌によって回避できる可能性もある。

 

そして私は決意した。

 

歌でこの世界を平和にすると。

 

艦娘も深海棲艦も人間も。

 

私はこの世界でのやることを決めた。

 

そして、イ級達の申し出を承諾した。

 

それには3つの条件を付けた。

 

艦娘に攻撃しないこと。

命を大事にすること。

歌は静かに聞くこと。

 

ちゃんと伝わるか分からないが、

そう約束させた。

 

イ級達はちゃんと反応してくれた。

 

ちゃんと守ってくれるだろう。

 

そう信じて私は海の上に立つ。

 

これから何が起きるか分からないが、

私は自分で決めたやるべきことをやる。

 

私はそう気持ちを引き締めて滑走を始めた。

 

それと同時に父に感謝の言葉を紡ぐ。

 

「ありがとう、お父さん。」

 




今書いてる方が進まなくなったので衝動で書いたこの作品。
不定期で更新します。
セリフは少なめです。

戦闘描写はがっつりは入れないです。
主人公は基本正当防衛なので……。

終わりを考えていないのでまあ、だらだら書きます。
読めないところ、誤字脱字報告、感想などあればください。

それでは次回までバイにゃら~


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プロローグ2 人の痕跡を探して…

 

私は海の上を進む。

 

昨日は大いに泣いた。

 

その分、今日はスッキリしている。

 

今日は島を巡る。

 

目的は食料と住処。

 

あわよくば人に会いたい。

 

会うとするなら深海棲艦。

 

会いたいのは小さい子

 

確か「ほっぽちゃん」

と呼ばれていたはず。

 

正式名は北方棲姫(ほくほうせいき)だっけ?

 

キューちゃんたちも小さいけど、

今は人型が恋しい。

 

母性と言うものなのだろうか?

 

キューちゃんたちを撫でていると、

愛おしくなる。

 

それに小さい子を抱きたいと

考えるようになった。

 

その気持ちをグッと抑えて、

私は進み続ける。

 

ひとまず、一番近い島へ。

 

少し大きな島だが、無人島だった。

 

ただ、食料はあった。

 

大きな実の付いた木が数本。

 

どれも背が高い木だった。

 

どうやって取ろうか考える。

 

すると帽子が震え始めた。

 

私は帽子を外してそれを見る。

 

改めて見ると少し気味が悪い。

 

そんなことを考えていると、

口のようなところが開く。

 

中から白い生き物が出てきた。

 

なにこれ?

 

ほっぽちゃんと、

一緒にいたのを見た気がする。

 

でも、思い出せない。

 

考えていると何個かが空を飛ぶ。

 

そして口から何か出した。

 

「ドンッ!」

 

……ゑ?

 

木の実が落ちてきた。

 

実がなっていたところは

煙を上げている。

 

唖然とする私の元に

戻ってくる。

 

口をカタカタして

嬉しそうにしている。

 

私は一番近い子の口を開く。

 

そこには黒い棒状の物、

砲身があった。

 

どうやらこれで撃ったようだ。

 

もしかしてと思いキューちゃんたちに

口を開けてもらい、中を見る。

 

全員が口の中に

砲身を備えていた。

 

私は改めて

深海棲艦のことを理解した。

 

 

 

 

 

理解した私は何も考えずに

木の実を食べる。

 

あ、意外とおいしい。

 

味は……みかんに近いかな?

 

お腹はすいてなくても

味覚はあるらしい。

 

試しにキューちゃんたちにも

あげてみることにした。

 

美味しそうに食べているため、

問題はないらしい。

 

白い子たちにもあげてみるが、

食べなかった。

 

するとキューちゃんが、

また何かのジェスチャーをする。

 

私も自分が理解できるように、

砂に絵やYES/NOを書いて反応を見る。

 

そしてキューちゃんの反応から、

この子たちは食べないことが分かった。

 

キューちゃんたちも

別に食べなくて大丈夫らしい。

 

つまり、自分の分があればよくて、

白い子たちが取ってくれる。

 

2つの意味で食糧問題は解決した。

 

というか文字分かるんだ……。

 

とにかく後は住処を探すだけになったが、

先に白い子の名前を付けることにした。

 

白い、真ん丸、少し赤い……。

 

私はこの子を「大福」と名付けた。

 

無性にイチゴ大福が

食べたくなってきた。

 

すると、その考えを感じ取ったのか、

大福たちは慌てて帽子に入る。

 

さすがに食べない。

 

それより帽子の中が気になった。

 

私は帽子の中に頭を入れる。

 

だが、キューちゃんに止められた。

 

頭を入れたらマントを引っ張られた。

 

たくさん鳴いてしまったので

もうしないことを誓った。

 

 

 

 

 

私は再び海の上を進む。

 

帽子については私が妥協した。

 

見た目より軽いことと

日除けになるからと

自分に納得させた。

 

収納能力もあることが

決め手になった。

 

そう納得して空を見る。

 

今は太陽が真上にある。

 

私は近くの島を観察する。

 

どの島も大きさはあるが、

人が住んでいた形跡はない。

 

深海棲艦の人型もまだ見ていない。

 

今のところ実のなる木と岩、

座礁している船しかない。

 

ん?座礁している船?

 

私は慌ててそっちを見る。

 

それは間違いなく船だ。

 

ようやく人工物を見つけた。

 

私は直ぐにそこへ行く。

 

近くまで行き、詳しく見る。

 

側面にある文字は薄れているが、

日本語で書かれていた。

 

私は目的に一歩、

近づいた気がした。

 

 

 

 

 

私は改めて船を見る。

 

見たところ漁船のようだ。

 

写真で見るやつぐらいの大きさ。

 

船に乗りこみ、

使えそうなものを探す。

 

中はもちろん無人……。

 

骸骨はいくつかあった。

 

子供の骨はさすがに無かった。

 

転がっている食材は

虫に食われている。

 

冷蔵庫らしきものもなかった。

 

食べられるものはなさそうだ。

 

運転するところに行く。

 

色々な機械が飛び出し、

乱雑に絡んでいる。

 

そこから使えそうなものを探す。

 

包丁、懐中電灯、ロープ……。

 

使えそうなものはいくつかあったが、

今はいらないものばかりだ。

 

 

 

 

 

拠点にできるか考え、

床に寝てみる。

 

流石にこの船では

眠れそうにない。

 

波の音もそうだが、

船の反響がうるさい。

 

あと、硬すぎる。

 

初日のように寝落ちしない限り、

眠れそうになかった。

 

無線も探して見る。

 

……どれだ?

 

トランシーバーのようなやつを探すが、

一向に見つからない。

 

探し続けると

板のような物が落ちていた。

 

「これは……スマホか。」

 

私はかなり落胆した。

 

私はスマホが使えない。

 

あんなに機能が多いものは、

使い勝手に困るのだ。

 

私はガラケーを使っていた。

 

だからスマホが使えない。

 

とりあえず「ないよりまし」

と思って帽子に入れた。

 

最悪、投擲に使えばいいし。

 

 

 

 

 

私は船を出て、空を見る。

 

いや、空を見ずとも見える。

 

思ったより

日が落ちるのが速い。

 

まっすぐ向いた時に

目線に入る位置まで

太陽が沈んでいる。

 

時期的には冬だろうか?

 

そう考えると時間がない。

 

仕方がないが船を1日だけ

拠点にすることにした。

 

拠点と言っても目印にするだけ。

 

近くの砂浜に燃えそうなものを集める。

 

漂流物は木が多かったため、

燃えるものは直ぐに集まった。

 

既に周りは真っ暗になっていた。

 

月灯りも今夜は雲に隠れている。

 

後は火をつけるだけだが

その道具がない。

 

船にはマッチもライターもなかった。

 

あったとしても水浸しだろうが…。

 

何となく知識を使って

火を起こしてみる。

 

木で擦る奴とか、

石で火をつける奴とか色々。

 

なかなかつかない。

 

私は火をつけることを

諦めて帽子を脱ぐ。

 

すると帽子から

大福たちが出てくる。

 

何をするのかと思ったら、

今日取った木の実を

火を起こそうとした所に置く。

 

自分が食べたのとは

違うやつだった。

 

大福はそれを撃った。

 

するとなぜかそれが燃えた。

 

私はそれに驚いたが、

火が付いた喜びの方が(まさ)った。

 

嬉しさのあまり

大福たちを捕まえて

頬でスリスリする。

 

硬く、ガタガタしているが、

気にせず続ける。

 

ひとしきりスリスリして、

大福たちを帽子に帰す。

 

すると、キューちゃんに

飛びつかれた。

 

鳴きながら何かを訴えてくる。

 

あ、これ嫉妬だ。

 

大福たちに

自分のポジションを取られて

鳴いているのだ。

 

勢いのせいで火も消された。

 

私は撫で続けるが、

中々鳴きやまない。

 

仕方がないので歌を歌った。

 

落ち着けるように、

子供をあやすように歌う。

 

歌は子守歌に近い。

 

実際にお仕事体験で

保育園に行ったときに

子守歌として歌ったやつだ。

 

他のイ級達も

心地よさそうに聞いている。

 

キューちゃんも

だいぶ落ち着いてきた。

 

私は歌いながら帽子をまさぐり、

紐を取り出す。

 

何の変哲もないただの紐。

 

それをキューちゃんの

尻尾に括りつける。

 

可愛らしく、分かりやすく

梅結びをした。

 

そう簡単にできないこの結び。

 

これでキューちゃんが

一目で分かる。

 

歌が終わると

キューちゃんが私を見る。

 

自分の尻尾を見て

もう一度私を見る。

 

そして、大きく鳴いて

また飛びついてきた。

 

まるでシベリアンハスキーに

抱き着かれている感じだ。

 

あんなにモフモフではなく、

カチカチであるが……。

 

 

 

 

 

……あれ?

なんでどいてくれないの?

 

時間が経っても

中々どいてくれないので

キューちゃんを見る。

 

キューちゃんは寝ていた。

 

心地よく寝息を立てて。

 

この子、私の上で寝ている。

 

これはどいてくれないだろう。

 

私はできる限り

海の方へ近づく。

 

するとイ級達も横に並ぶ。

 

何をするのかと思ったら、

寝息を立て始めた。

 

もうこの子たちは

魚じゃなくて犬だ。

 

そう思いながら私も目を瞑り、

寝息を立てて眠った。

 




文字数は少ないけど長く感じる。
これぐらいでいいのだろうか?

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プロローグ3 新たな出会い

私はお湯に浸かりながら歌っている。

 

暖かい、鮮やかな緑色のお湯

 

なぜか?

 

それは今日の朝まで遡る。

 

 

 

 

 

今日は昨日より早く目覚めた。

 

太陽も少ししか顔を出していない。

 

私は気分転換に島を散策することにした。

 

キューちゃんたちは寝ていたため

起こさないように。

 

何か使えそうなものがないか探す。

 

もしかしたら島で隠れて生活していた

可能性があると思ったからだ。

 

だが、痕跡は見つからない。

 

ここにたどり着いた時には全員

亡くなってしまったのだろうか?

 

木々や草が生い茂っているため

探しづらいのも原因だが……。

 

何かいい方法は無いのだろうか?

 

そう思っていると良いアイディアが浮かぶ。

 

私は帽子を数回叩く。

 

すると口のところが開き、

大福たちが出てくる。

 

私は大福たちに

この島を調べるように頼んだ。

 

小さく、空を飛べるこの子たちなら、

島の中を探すことが可能だ。

 

機動力の高い大福たちに

島の奥や反対側を任せて

私は近くを探策する。

 

虫は平気だから構わず進む。

 

たとえ毒虫がいてもこの体であれば

毒は効かないだろう。

 

試したことないから分からないけど。

 

それからしばらく探索を続けると、

何かを蹴った感覚がした。

 

黄色くて丸い……蜂の巣だ。

 

……蜂の巣⁈

 

なんで地面に、と思った。

 

それよりも蹴ったということは……。

 

まずいと思った時にはもう遅く、

周りを蜂に囲まれていた。

 

そして刺される。

 

この体でも痛みは感じるようだ。

 

刺されたところが痛い。

 

それに変な感じもする。

 

私の体を何かが巡っているようだ。

 

体が徐々に重くなっていく……。

 

考える暇も与えてくれない。

 

その隙にさらに刺される。

 

あれ、これは、死んじゃう奴かな?

 

体は地面に倒れる。

 

見事にフラグを回収してしまった……。

 

せっかく痕跡が見つかったのに……。

 

生まれ変わって3日目なのに……。

 

私はここで死んでしまうのだろうか?

 

海ではなくこんなところで……?

 

そんなこと思っていると、

遠くから大きな音と鳴き声が聞こえる。

 

キューちゃんが来てくれたのかな……?

 

でも……、さすが…に

……ヤ……バい…。

 

まぶ……た…が…、

と…じ………て………

 

 

 

 

 

気づくと私は謎の空間に浮かんでいる。

 

辺り一面が黒と白と赤に染まっていた。

 

私は死んだのだろうか?

 

意識はあるけど……。

 

ふと自分の体を見る。

 

見えるのは肌色の体と細い腕。

 

前世(まえ)の私だ。

 

服は死ぬ直前まで着ていたものだ

 

白い体でもなく黒い服も着ていない。

 

ここはどこなのだろうか?

 

そう思っていると何かが見えた。

 

それは青い袴を身に付けた女の人。

 

ボロボロの体で海に浮かんでいる。

 

体中から血を流し、

持っている弓も(つる)が切れていた。

 

だが、とても満足した顔をしていた。

 

私は歩いてその女性に近づく。

 

向こうもこちらに気づいたようだ。

 

笑顔でこちらを向き、口を開く。

 

「――ぎさーー、ち――ゅーー、

おーーい。あーーとーー、――なー、

―もっー……。」

 

彼女が言い終わると私の体が光った。

 

強制送還みたいだなと感じた。

 

少し驚いたが、私はすぐに彼女を見る。

 

彼女は手を振って私を見送った。

 

私も手を振り返す。

必ず彼女の願いを叶えると約束して。

 

彼女は涙を流して微笑んだ。

 

次第に空間が青と白に変わる。

 

そして、さらに光が強くなり、

世界を白く染めた。

 

 

 

 

 

そして、冒頭に戻ってくる。

 

正確には目が覚めてから

キューちゃん鳴き続けられたり、

大福たちに心配かけた罰と

言わんばかりに噛みつかれたりもした。

 

さらに怪我しそうなぐらい噛まれた。

 

でもその噛み後は直ぐに消えた。

 

その理由は私が入れられているこの液体。

 

おそらく高速修復材である。

 

おそらくこういうところから

バケツで汲んで

鎮守府に持ち帰るのだろう。

 

つまり、私は原液に入っていた?

 

と思ったがその心配もなかった。

 

なぜなら横に今自分が入っている

鮮やかな緑の液体ではなく、

濃い緑の液体が真横にあったからだ。

 

おそらくそっちが原液だろう。

 

確証はないがそうであってほしい。

 

 

 

太陽が真上にいるぐらいまで

時間がかかったが、

体の傷も毒も綺麗に抜けたようで

スッキリとした気持ちになったため、

皆が探してきたものを確認する。

 

島の中には人の生活跡は

なかったらしい。

 

その代わりに

高速修復材を入れるバケツが5つ。

 

いくつかの木の実。

 

小さな檻の中に入れられた妖精。

 

黒くて見せられないもの、等々。

 

色々と持ってきてくれた。

 

変わったものは特に無いようだ。

 

「オイ、コノヤロー!ハヤクダセヨ!」

 

そう、特に何も無かった。

 

私は何も見ていないし、聞いていない。

 

「ブルァァァァァ!」

 

可愛い顔なのに口が悪い

「アナゴさん」の声の妖精なんて。

 

「キコエテンダロ!ハヤクダセ!」

 

私はその檻を掴み、そっと帽子に入れる。

 

「オイ!ニジュウニスルナ!」

 

私はしばらくこのままにしたかった。

 

しかし帽子越しでもうるさ過ぎたので

仕方なく帽子から取り出して外に出す。

 

その妖精(命名:(わか))は

外に出ると、飛んで私の目線まで浮く。

 

「オメエ、カワッタヤツダナ。」

 

一言目からそんなことを言ってくる。

 

「シンカイセイカンハ、

カンムスダケデナク

オレタチ、ヨウセイモネラウ。

ダガ、オマエハナニモシナイ

ドコロカ、ニガソウトスル。

オマエハイッタイナニモノダ、

ナニガモクテキダ。」

 

私は1つずつ伝える。

 

私が転生者であること

 

歌で世界を平和にすること。

 

そのために色々していることを。

 

若は何かを考えるように腕を組み、

目を閉じて何かを考える。

 

しばらくして彼は

「ヨシ!」と言ってこちらを向く。

 

「オレモ、ツイテイク。ソノホウガ、

ミンナノトコロニモドレルカラナ。」

 

詳しく話を聞くと、

若は艦載機の操縦士として

ある鎮守府にいたが、

戦闘で艦載機が落とされて

帰れなくなったようだ。

 

「チンジュフノホウコウハワカルガ、

イクマエニヤラレチマウ。

ダカラタノム!

オレヲ、ツレテイッテクレ!」

 

若は空中で綺麗な土下座を披露した。

 

私は彼を掌に乗せて首元に運び、

首とマントの間に入れる。

 

マントで隠れやすくなっているため

そこに運んだ。

 

若はそこに入りひょっこり顔を出す。

 

「アリガトウ。

ソレジャア、アンナイスルゾ。

アッチダ。」

 

どうやら私のマントを

引っ張ったり動かしたりすることで

案内してくれるようだ。

 

出発前にキューちゃんたちに

若のことを伝える。

 

若は怯えているが、キューちゃんたちは

仲間ができたと喜んでいる。

 

その様子を見て和みながら

私は島を後にした。

 

 

 

 

 

次の目的は若のいた鎮守府に行くこと。

 

そして、私に伝えてきた彼女との約束を

守るためにその鎮守府も探す。

 




名前:若(わか)
名付け:ヲ級(主人公)
種族:妖精
性別:概念は無い
(艦娘が声で勝手に決める)
大きさ:一般に売られるサイズの卵
重さ:無いに等しい

見た目可愛いのに声がヤバい妖精。
こんなのでも艦娘からは愛されていた。

艦載機操縦の腕はピカイチ。
1人で100機以上
落としたこともあるらしい。

檻に入れられるまでは
頑張って島で生活していたらしい。


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プロローグ4 残っていた希望

 

大きな声が島に響く。

 

その島にある大きな建物。

 

私はその建物の前に来ている。

 

そう、若がいた鎮守府だ。

 

若の案内で私は

この鎮守府にたどり着いた。

 

その若は鎮守府の前で泣いている。

 

目の前の光景に

声を出して泣いているのだ。

 

錆びつき、自然に侵食された鎮守府。

 

クレーターができ、ボロボロの広場。

 

何かができていたと思われる枯れた畑。

 

完全に破壊された工廠と思われる場所。

 

もうすでに、

この鎮守府は機能していない。

 

何か大きな戦闘が起きて

ここが襲われたのだろう。

 

鎮守府は形が残るだけで、

廃墟同然となっていた。

 

若はここにきてから

ずっと泣き続けている。

 

沈んでいく夕日がそんな若の心を

表しているかのように思えた。

 

私は若が泣き止むまで傍で待った。

 

月が出始めた頃に

ようやく泣き止んだため、

私は若を手で包んで首元に運ぶ。

 

泣いている彼の顔を見ないように。

 

若は小さく「ありがとう」と言って

マントの中に入っていった。

 

 

 

 

 

私はキューちゃんたちに周囲の探索と

終わったら待機するように伝える。

 

キューちゃんたちは

元気に鳴いて散開した。

 

全員を見届けて

私は鎮守府を探索する。

 

この体はどうやら夜目がきくらしい。

 

最初は気づかなかったが、

意識すれば夜目になるようだ。

 

今は灯りがなくてもはっきりと見える。

 

そのため、私は1人で探索を始めた。

 

建物は丈夫だったのか、

あまり崩れてはいなかった。

 

自然の浸食も外壁ぐらいで

中は普通だった。

 

1階は主に会議室や個室があった。

 

しかし、何もなかった。

 

書類はもちろんだが、

机や椅子もなぜか無かった。

 

階段を上り2階へ行く。

 

いくつかの棚がある部屋と

教室らしきところがあった。

 

教室には木でできた机と椅子が

窓ガラスと共に散らかっていた。

 

 

棚のある部屋にはいくつかの紙が

残っていたため確認する。

 

紙には演習結果と書かれており、

その評価はS勝利と書かれていた。

 

ここの艦娘は

とても強いことが分かった。

 

だってみんな100を

越えてたもん。

 

その紙を見ていると

他にあることに気づく。

 

それはそこに書かれていた日付だ。

 

「2034/11/17」と

書かれていた。

 

私が死んだのは2020年の10月

 

転生だから年数は関係ないとして、

問題は自分の常識が

通じるか分からないことだ。

 

この世界の技術力が

どれほどのものなのか分からない。

 

今のところ船でスマホを

見つけたぐらいだ。

 

もしかすれば生活の基準は

全く違うものだろう。

 

だが、こればかりは

見てみないと分からない。

 

とりあえず、考えるのを後にして

3階へ向かい探索をする。

 

3階は2階とほとんど同じだった。

 

唯一違うのは1部屋だけ

大きく壊された部屋があることだ。

 

ここだけ空が見えるほど

めちゃくちゃにされている。

 

壁や床にうっすらとだが、

飛び散った血が見える。

 

おそらくだがここが提督室、

もしくは執務室だろう。

 

瓦礫をどけて、

何かないか探して見ると

小さな額縁に入った

2枚の写真が出てきた。

 

1枚はここで撮ったと思われる集合写真。

真ん中で小さい子たちに囲まれている

笑顔の男性がここの提督だったのだろう。

 

多くの艦娘に囲まれているところを見ると

かなり大規模な鎮守府だと分かる。

 

2枚目は見覚えのある人、

青い袴の女性と先ほどの男性の

ツーショット写真だった。

 

正確には赤い袴の人と

ピンク色のツインテールの子に

押されて真ん中に寄せられている

4人の写真だ。

 

私はその写真を

額縁に入れ直して帽子に入れる。

 

何かあったときに

必要だと思ったから。

 

 

 

 

 

私は鎮守府を出て海の方へ行く。

 

キューちゃんたちは

探索が終わっていたようで

大人しく待機していた。

 

何かあったか聞いてみたが、

体を横に振る。

 

特にはなかったようだ。

 

私はキューちゃんたちを先導して

工廠の方へ行く。

 

工廠は完全に崩壊し、

瓦礫の山と化していた。

 

海と繋がっているところも

崩壊のせいで塞がれていた。

 

私はこういうところを

あの子たちに任せることにした。

 

帽子を叩き、大福たちを呼んで、

工廠の中を探索させる。

 

崩壊した工廠は

自分が入ると危ない。

 

それに鎮守府を

探索していた時もそうだが

帽子が引っかかる。

 

とにかくこの帽子がデカいのだ。

 

一応瓦礫の上には乗れるが、

あまりやりたくない。

 

それならあの子たちに任せる方が安心だ。

 

しばらくすると一機だけ戻ってきた。

 

何かを伝えようと必死だが

よく分からない。

 

キューちゃんに確認を取ろうとするが

よく分からない。

 

すると若が出てくる。

 

「オレガイク……」

 

マントの中にいた若が

フラフラと飛び、

大福に乗って工廠の中へ行く。

 

しばらく待っていると

若が大声で私を叫んだ。

 

「オーイ!コッチニキテクレ!」

 

私は声の下に行く。

 

危ないが瓦礫の上を進んでいく。

 

瓦礫の上を歩き、

工廠の奥と思われる場所へ。

 

そこには奇跡的に崩れていない

小さい箱型のプレハブがあった。

 

他のところより頑丈だった。

 

中を調べようと思ったが、

扉も窓と思われるところも

全てが瓦礫で塞がれていた。

 

手でどけようとしたのだが、

この体をもってしても動かない。

 

どうしようか少し悩み、

大福たちに瓦礫を

壊してもらうように頼む。

 

私は少し離れてから

瓦礫の破壊をお願いする。

 

なるべく上の方から

邪魔になりそうなところを

壊してもらう。

 

大福たちは瓦礫を破壊し、

プレハブの周りだけ綺麗にした。

 

この子たちが人型だったら

型抜きのプロになれると思う

 

そんな評価はさておき、

私はプレハブに近づく。

 

改めてみるがどこも壊れていない。

 

瓦礫によって傷は入っているが、

それしかないのだ。

 

扉にも窓にも大きな破損はない。

 

私は扉に手をかける。

 

中にいるのが艦娘なら錯乱して

襲ってくる可能性がある。

 

そのため、私は扉を開けて、

中を覗き見る。

 

見える範囲には何もない。

 

私は警戒しながら

邪魔になる帽子を外して

電源があると思われる場所へ行く。

 

私は夜目がきくが、

意識しないといけないから

あまり使いたくない。

 

それに暗かったら

相手から自分が見えないから。

 

探すとちゃんと電源があったため、

私はスイッチをオンにする。

 

すると灯りがつき、

プレハブの中が明るくなる。

 

部屋の奥を見ると、そこには

ベッドに横たわる少女と

その横で眠っている緑髪の女性がいた。

 

少女は包帯でグルグル巻き。

 

女性は特に外傷はなかった。

 

2人ともお腹が上下に動いているため

死んではいないことが分かった。

 

その様子を見て

若の感情が溢れそうになったが、

何とか抑えてもらった。

 

ここで泣かれたら

色々と大変になると思ったから。

 

彼女たちがここの生き残りなら

いい関係を作っていく必要がある。

 

それにこの緑髪の子には

私が持っているもので

交渉できると思う。

 

私は彼女たちが目覚めるまで

小さい声で歌って待つことにした。

 




投稿ミスのご報告
ありがとうございます。

プロローグ3の
サブタイトルも
修正しました。


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プロローグ5 希望は小→大へ

 

私は小さな声で歌を歌っている。

 

少女たちが目覚めるまで歌うつもりだ。

 

今までは自分の気持ちを歌にしていたが、

今回は若の気持ちを歌にしてみた。

 

 

若の帰ることができる喜び。

 

現実と対面した絶望。

 

その中に見つけた希望。

 

 

そんな若の気落ちを歌にして紡いでいく。

 

若はその歌を聞いて

何回も涙を流し、相槌を打つ。

 

ちゃんと若の気持ちを歌えたようだ。

 

その後も私は若の気持ちを紡ぎ続けた。

 

 

 

 

 

しばらく歌い続けていると、

緑髪の女性が目を覚ます。

 

女性は「寝ちゃってた」と

独り言を言って欠伸をする。

 

その後、私の方を一度向いて

ベッドの方を向く。

 

そして私を二度見する。

 

女性は悲鳴を上げて

少女を守るように後ろに下がる。

 

まあ、そういう反応になるだろう。

 

そしてメスのようなものを持って

私の方に向ける。

 

その手は大きく震えていた。

 

だが、正直な事を言おう。

 

震えたいのは私の方だ。

 

今の私は何も持っていない。

 

正確には杖を持っているが、

小さなプレハブの中では

振り回すことはできない。

 

振り回す気もないのだが。

 

帽子は外に置いているし、

大福たちには周囲の警戒を頼んでいる。

 

キューちゃんたちにも

ここからでは呼ぶことができない。

 

それに蜂に刺されたトラウマがあるから

刃物を向けないで欲しい。

 

そんな私の声を聴いてくれる

頼める子が近くにいない。

 

いや、唯一頼める子が近くにいた。

 

「バリチャン、オチツケ。」

 

そう、先程まで歌を聞いていた若が

彼女を止めてくれた。

 

「その呼び方、もしかして若?」

 

「ソウダ、マズハオチツケ。

コイツハ、ミカタダ。」

 

先程まで泣いていたとは思えない。

 

そのぐらい若は

彼女の前でしっかりしていた。

 

情けないところを

見せたくないのだろう。

 

そんな若が私と女性のことを

お互いに紹介してくれた。

 

女性の名前は「夕張」。

 

ここの鎮守府に所属していた艦娘で

艦種は軽巡洋艦。

 

他の艦娘と共に海に出るだけでなく、

艤装の点検や開発をしているそうだ。

 

今はメガネをかけているが、

普段は掛けていないのだとか…。

 

私のことは

「歌で世界を平和にしようとするやつ」

ということを伝えてくれた。

 

「おかしな奴」と笑いながら言ったので

鳥の餌にでもしてやろうかと思った。

 

でも、そんな若のおかげで

夕張は私に対する警戒を解いてくれた。

 

お互いが警戒を解いたところで

若が夕張に何が起きたかを聞く。

 

「バリチャン、

オレガイナイアイダ二

イッタイ、ナニガアッタンダ?」

 

その言葉に夕張は顔を下に向けて

悲しげな声で語り始める。

 

「あれは、若が

行方不明になった日の事よ」

 

 

 

 

 

夕張の話を要約するとこうだ。

 

若が戦場で行方不明となった日、

ここが襲われた。

 

夕張を含め、この鎮守府総出で

深海棲艦を迎え撃った。

 

負けるような相手ではなかったが、

あまりの量に少しずつ押されていき

鎮守府近海まで最終防衛ラインを

下げざる負えなくなった。

 

しかし、敵の量が多く、押され続け、

ついに最終防衛ラインの内側までこられ

提督が指揮を執っている部屋に

砲撃が直撃してしまった。

 

提督と音信不通になり、

指揮系統が乱れてしまったが、

提督が砲撃を食らう直前に

この鎮守府を捨てる形で逃げるように

指示を出した。

 

そのおかげで艦娘だけで

指揮を執り、隙を作って撤退。

 

夕張も逃げようとしたが、

今ベッドに横たわっている子が

工廠内の入渠施設におり、

避難のために運んでいる

最中で工廠が崩壊。

 

工廠の出入口が封鎖されたため、

同じ鎮守府に所属している

「工作艦・明石」によって作られた

プレハブに避難した。

 

その後プレハブ内のもので

少女を看病しながら

今まで生活していた。

 

以上がここで起きたことだ。

 

私が見たあの崩壊していた部屋は

提督の部屋で間違いないだろう。

 

話を聞いた若はショックを受けていた。

 

「ソンナコトガ……」

 

あまりの出来事に

若は驚きを隠せない。

 

ショックを受けている若に代わり

私が夕張にこの後どうするのかを聞く。

 

今までのことが分かっても

これからどうするのかを決めなければ、

彼女たちも私も路頭に迷うことになる。

 

「提督たちが今どこにいるのかは

分からないの。通信機器は壊れているし

この子の手当てもどうにかしないと。」

 

そう言って夕張はベッドを見る。

 

ベッドで横たわる少女を見る。

 

今は包帯で巻かれた状態に

病院にあるような呼吸器と点滴を

つけられている少女。

 

私は夕張に少女の名前を聞く。

 

少女の名は「吹雪」

 

特型駆逐艦の1番艦だ。

 

確かお兄ちゃんが初期艦に

選んでいた子だ。

 

今は吹雪だと分からないぐらいに

包帯で巻かれている。

 

どうやらこのプレハブには

お風呂はあっても

入渠施設の効果はないらしい。

 

そのせいで吹雪を直せない状態が

続いているそうだ。

 

瓦礫のせいで外に出られなかったことも

原因の一つだそうだ。

 

夕張が言うには

必要なものがあるそうだが、

何となく察しがついた。

 

だから私は一度プレハブを出て

帽子をもって部屋に入る。

 

横では引っかかるため縦にして入る。

 

そして帽子を床に置き、

口を開いて中に手を入れる。

 

そしてその中から

緑の液体が入ったバケツを取り出す。

 

そう、高速修復材である。

 

私は直ぐにそれを夕張に渡した。

 

夕張は涙を流しながら

 

「ありがとう!」

 

と言ってお風呂場に持っていく。

 

私は夕張の支持を仰ぎ、

吹雪の入渠を手伝う。

 

包帯を取ったときに見えた

吹雪の体にある大きな傷。

 

仲間を庇って被弾したらしい。

 

その傷は高速修復材によって

みるみる消えていった。

 

しかし、ダメージが大きかったところは

跡が残ってしまっていた。

 

しばらくすると吹雪が目を開く。

 

「あれ…?私………。」

 

吹雪が目を覚ますと

夕張は勢いよく吹雪を抱きしめる。

 

「吹雪ちゃん!」

 

吹雪は痛がりながらも

夕張を抱きしめ返す。

 

そして私の方を見た。

 

「どうして空母ヲ級が?」

 

吹雪も同じようなリアクションをする。

 

夕張よりは落ち着いていたため、

若たちの説明ですぐに納得し、

吹雪は私に向かって一礼する。

 

私は気にするなと手を振り、

若をつまんでプレハブの外に出る。

 

気分転換と称して若を連れ出した。

 

本当はせっかくの目覚めなのだから、

2人きりの方がいいと思ったため、

私は席を外した。

 

若を連れてきたのは、

いつまでも裸の女の子を

見せるわけにはいかないから。

 

それに丁度大福たちも帰ってきた。

 

どうやら周囲に敵影はなく、

異常もないらしい。

 

その報告を受けて私は

大福たちを帽子に戻した後、

キューちゃんたちの元へと行った。

 

キューちゃんたちは指示した場所で

ちゃんと待機していた。

 

私が近づくとすぐに反応した。

 

私はしゃがむことで

できるだけ目線を合わせる。

 

そしてキューちゃんたちには

艦娘が二人いることと

攻撃してはいけないことを伝える。

 

その指示に全員が体を振って答えた。

 

全員そろって本当にいい子たちだ。

 

私はその姿に微笑んだ後、

キューちゃんたちに再び

待機することを伝えて

プレハブに戻った。

 

せっかくなので

キューちゃんたちに聞こえるように

歌いながらプレハブに戻る。

 

今回は彼女たち2人の歌を歌った。

 

 

しばらく続いた生活。

 

目覚めない少女。

 

疲れから眠った自分。

 

目を覚ましたら現れた脅威。

 

不安と恐怖、守ろうとする意志。

 

不思議な再会による安堵。

 

求めていた希望。

 

暗闇からの目覚め。

 

驚きと再会の安堵。

 

今の幸せの時間。

 

 

次々頭に浮かぶ歌詞を紡ぎながら、

私はプレハブへと戻った。

 

 

 

 

 

プレハブに戻ると吹雪は

見たことのある制服姿になっており、

夕張がいろいろ言いながら

機械を弄っているところを見ていた。

 

話を聞くと夕張が仲間への連絡を

行っているのだが、機械の故障だろうか、

一向に繋がる気配がしない。

 

今も弄っているのだが

必要な部品が足りないらしく、

どうしようもないようだ。

 

夕張は落ち込みながら

こちらを向いてつぶやく。

 

「必要な部品が無いので

直接本土に戻るしかなさそうですね。

探そうにも現状での入手方法が

限られていますから。」

 

夕張はこのプレハブの作成者である

明石との連絡がつかないため、

直接日本に戻るしかないと言う。

 

どうやら必要な部品は現状、

入手が難しいらしい。

 

しかし、直接戻れば

私は直ぐに狙われるだろう。

 

事前に連絡すれば

何とかなるとは思うが…。

 

私は夕張に

何が必要なのかを聞いてみた。

 

「必要な部品ですか?

前に提督が持っていた。

「スマホ」と呼ばれている

連絡機器があったら解決しますね。」

 

ん?スマホ…?

 

「私たちは持っていないので、

運よく司令官が使っていた物が

鎮守府に落ちていたらいいのですが。

あればいいんですけど、

さすがに持っていませんよね。」

 

ある。今持っているやつがある。

 

あの船から使えると思って

取っておいたスマホが。 

 

私は帽子に手を突っ込み、

スマホを取って夕張に渡す。

 

夕張は身を乗り出してスマホを見る。

 

「あ!それです!

いったいこれをどこで⁈」

 

私はここに来るまでの経緯、

若と会う前のことを話した。

 

立ち寄った島に日本の船が座礁しており、

その中の物を物色した際に出てきた、と。

 

夕張は少し悩んで決心する。

 

「人の物を使うのは気が引けますが、

生きるためです。このスマホの持ち主に

感謝して使わせてもらいましょう。」

 

夕張はそう言って

机に向かい作業を再開する。

 

私たちには「先に寝てていい」と言って

若と共に作業に集中し始めた。

 

私は外で寝ようとしたが、

吹雪に力強くマントを掴まれた。

 

捨て猫の様な目で私を見るので

何となく察する。

 

おそらくは「一緒に寝てほしい」

ということなのだろう。

 

私は仕方ないと思い、大福たちに

キューちゃんたちへ

このことを伝えるように頼む。

 

ついでに夜間の警戒も頼み、

帽子を脱いで吹雪と一緒に

ベッドの上で横になる。

 

そのまま吹雪の頭を撫でながら

吹雪に聞こえる声で子守歌を歌う。

 

この感覚は誰かの家に

泊まった時を思い出す。

 

昔もこんな感じで誰かと一緒に寝て、

子守歌を歌ったことがある。

 

その時は相手がすぐに寝てしまった。

 

吹雪もそんな子たちと同じだった。

 

強くマントを握っていた手は

すでに離れており、

心地よさそうに笑顔で寝ていた。

 

私はその寝顔を見て微笑んだ後、

ゆっくり目を閉じて眠りにつく。

 

 

 

 

 

私が今やるべきことはほとんどやった。

 

後は夕張の成果を聞いて人間と

接触できれば新たなステップへ進める。

 

そのような希望を持って、

私は夢の中に堕ちていく。

 




深海棲艦の体について

深海棲艦の体は
艦娘とほとんど同じ。

アニメで吹雪が
ボロボロになっていたから
怪我はするはず。
(回想シーンで
血を流していたし)

つまり、
毒を受け付けないという
可能性は無きにしも非ず。


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プロローグ6 信頼を得て

 

私は浮いていた。

 

海から少し浮いていた。

 

体はまた前世の私に戻っている。

 

景色はあの人と別れた後のままだ。

 

ここは少し不思議な暖かさを感じる。

 

私は夢かと思いながら呆けていると

後ろから声が掛けられる。

 

「また、会えたわね。」

 

私は振り返る。

 

前にここへ来たときと違い、

はっきりと聞こえたその声に反応する。

 

そこにはボロボロではないあの人、

青い袴の人が立っていた。

 

「あなたに

伝え忘れていたことがあります。」

 

女性が

「伝え忘れていた」と言ってくる。

 

何を伝え忘れたのか

聞いてみると2つあるという。

 

1つは名前。

 

確かにお互いに自己紹介していない。

 

それに、私…こっちに来てから

誰にも名前を言っていない。

 

そんなことを考えていると、

先に女性の方が自己紹介した。

 

この女性の名前は

「加賀」と言うらしい。

 

ああ、あの演歌の人か。

 

お兄ちゃんに聞かせてもらって

私が演歌を歌うきっかけになった人だ。

 

声だけ聴いていたから

どんな人か知らなかったんだよね。

 

パソコンなんて使えないから尚更。

 

まさかきっかけの人に

会えるとは思わなかった。

 

それじゃあ、今度は

こっちから自己紹介をしよう。

 

私の名前は 布仏 歌音(のほとけ うたね)

 

あの可愛い

「のほほんさん」とは関係ないよ。

 

たまたま苗字が一緒なだけ。

 

私、あそこまで のほほん とできない。

 

お互いの自己紹介を終えて

加賀さんが2つ目のことを伝えてきた。

 

それは鎮守府の事である。

 

正しくは鎮守府の場所。

 

確かに聞いていない。

 

どうやらここではないようだ。

 

詳しく聞くと「佐世保」

と言うところらしい。

 

ここの写真を見たとき

ここの加賀さんだと思っていたから

先に聞けてよかった。

 

そこからは前に約束したことと一緒だ。

 

今回はその詳細を聞いた。

 

しかし、

話が終わる少し前に体が光り始めた。

 

前と同じぐらいの時間。

 

おそらく目覚める前の数分だけ

話せるのだろうと思った。

 

後半は早口になったが、

加賀さんの想いはしっかり受け取れた。

 

この後のことも

ある程度決めることができた。

 

前と同じように私たちは手を振りあい、

白い光に包まれた。

 

 

 

 

 

私は目を覚ます。

 

さっきと違う暖かさだ。

 

私はその温もりの正体を見る。

 

私の腕の中で眠っている吹雪が、

満足な寝顔をしている。

 

警戒の「け」の字もない。

 

私は吹雪を起こさないように

毛布を身代わりにして起きる。

 

机の方では夕張が机に伏せて、

若が大の字で机の上で寝ていた。

 

見た感じだと

完成しているようだった。

 

私は夕張達も

起こさないように外に出る。

 

キューちゃんたちのところに行くと

大福たちとコミュニケーションを

取っていた。

 

私はその集まりに混ざりに行く。

 

この子たちは言葉が分かるから

自分から質問すれば意思疎通ができる。

 

何かあればこの子たちからの

ジェスチャーで何とかわかる。

 

そんな感じで私はこの子たちから

毎晩の報告を受けるようにした。

 

今日は特に何もなかったため、

キューちゃんたちにはしばらく待機。

 

大福たちは帽子に帰るために

プレハブへ一緒に行く。

 

戻ると夕張が起きていた。

 

私は大福たちを帽子に誘導し、

全員が入った後に話を聞く。

 

どうやら私たちが眠りについた後、

通信装置が完成したらしい。

 

既に完成時に連絡を取っており、

向こうの状況を聞いているそうだ。

 

ここの鎮守府の人たちは提督含め

1人の犠牲も出なかったそうだ。

 

提督は全治2か月ほどのケガだが、

今も無理して提督業をしているらしい。

 

今は本土前の島に新しく設立されている

簡易の基地で運用しているらしい。

 

向こうとこちらの状況が分かり、

最期の問題について話す。

 

もちろん、私のことだ。

 

特殊とは言え空母ヲ級。

 

人類と艦娘の敵である。

 

そのことに変わりはないのだ。

 

向こうからしたら夕張が無理に

連絡させられている、もしくは

洗脳されている思われているらしい。

 

そこで夕張からの案として、

私と会話をすることが決まった。

 

私は悩むことなく承諾した。

 

加賀さんとの約束もある。

 

疑われても、捕虜にされても

近づくことが大事だと考えたから。

 

私の意思を伝え、夕張は連絡をする。

 

早速連絡がつながった。

 

通信装置は従来の携帯と同じように

連絡ができるみたいだ。

 

改めてみると放送機器のようにでかい。

 

その装置で、まずは夕張が話す。

 

私と会話ができるように

話しを誘導してくれた。

 

そして夕張は席を立ち、私を座らせる。

 

夕張は横から色々教えてくれるそうだ。

 

「話してもいいだろうか?」

 

突然装置から男性の声が聞こえる。

 

夕張が言うには

この声が提督だそうだ。

 

その提督からの最初の言葉は

お礼だった。

 

吹雪のことと夕張のことだ。

 

ふたりとも大切な仲間だから

心配していたと言う。

 

私は「たまたま」と伝えた。

 

次に私について聞いてきた。

 

私の正体、

ただのヲ級と思えない私の事を。

 

私は少し悩んだ後に

私が転生者であることと

前世の名前を伝えた。

 

「のほほんさん、じゃないよ」と

言ったら提督に笑われた。

 

どうやらこちらにも

そういうものはあるらしい。

 

そこからはひたすら質問に答えた。

 

私の目的、考え方、感情、知識。

 

様々な質問をされた。

 

質問が一通り終わった後、

提督は「ん~」と唸っていた。

 

それもそのはずだ。

 

私のような存在を受け入れるには

まだ判断材料が足りない。

 

通信装置越しであるため

声しか届いてないのも原因だ。

 

彼が私を受け入れるには

私の考える一番理想的な展開に

持っていくことが必要だ。

 

私はそうなってくれと願う。

 

通信の向こうで誰かが提督を呼ぶと

提督は決心したように「よし」と言った。

 

そして私にある提案を持ちかける。

 

「彼女たちの護衛を頼めるだろうか。」

 

私はいい提案だと思った。

 

提案とは夕張達を

鎮守府まで護衛すること。

 

ヲ級である私に護衛を任せたのだ。

 

理想とは少し違ったが、

信頼を掴み取るチャンスだと思った。

 

しかし、私はこれでいいのかと聞いた。

 

この提案は私を信頼しての提案であり、

夕張達の安全は保障できない。

 

私が護衛と称して

襲う可能性だってあるのだ。

 

だが提督は、それはないと言い切った。

 

私の声色と夕張の楽しそうに話す声で

信頼を勝ち取れたようだ。

 

悩んでいたのは提督としての立場では

独断できないかららしい。

 

それなら仕方ないと思った。

 

とりあえず私が

護衛任務をすることが決まった。

 

イ級が数隻いることも伝えてある。

 

その辺においても許可してくれた。

 

後のことは夕張に任せることにした。

 

私が場所を聞いて誘導するより、

夕張の指示で動いた方がいい

と私から提案したからだ。

 

提督はこの提案を承諾した。

 

 

 

 

 

ようやく最初の目的を

達成できそうだ。

 

私はこの連絡が終わるまで

吹雪と一緒にキューちゃんたちと

歌いながら戯れることにした。

 




プロローグが終わるまでに
あと一人ぐらいは
仲間を増やしたい。


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ラストプロローグ 鎮守府を目指して

 

私は海を駆ける。

 

夕張・吹雪を中心とした

警戒陣と呼ばれる陣形。

 

先頭が私、その後ろと左右にイ級達、

その後ろに吹雪、夕張、一番後ろに

キューちゃんと言う陣形だ。

 

通信が終わった後、すぐに出発となった。

 

出発前に吹雪から

「夕張に合わせてくれ」と言われたが

「タービンを積んだから大丈夫」

だと言われた。

 

今は自分の速度を確かめながら、

時々後ろを見つつ海を進む。

 

既に近くに島がないところに来ていた。

 

私は暇になったので歌を歌う。

 

楽しくなる歌を選んだ。

 

体を動かしたくなる歌。

 

じっとしていられなくなる。

 

気づけば私は歌いながら体を動かす。

 

振り返るとみんなも楽しんでいた。

 

体を揺らすイ級達。

 

警戒しつつ楽しむ夕張。

 

警戒することを忘れて

完全に楽しむ吹雪。

 

誰よりも楽しむキューちゃん。

 

ランランと楽しそうに聞いている女性。

 

私たちは楽しく8()()で海を進む。

 

……私は急いで足と歌を止める。

 

すぐに後ろを振り返り、

いつの間にか増えている8人目を

目視する。

 

夕張達も急な制止に驚いた後、

私の見る方、後ろを向く。

 

そこにはノースリーブの女性。

 

黒い甲殻に身を包み、尻尾の様な艤装に

サイドテールの女性。

 

夕張はその女性のことを

「重巡ネ級」と呼んだ。

 

 

 

 

 

ようやく島が見えてきた。

 

まだ本土までは距離があるが、

小さな島が見える距離まで来た。

 

ここまで来られたのはいいのだが、

新たな問題が2つ増えた。

 

1つ目は先ほど会った重巡ネ級。

 

今のところ敵意はないようだが、

夕張曰くかなり強い存在らしい。

 

戦艦相手でも苦戦するほどだとか。

 

そんな存在が今、私の横にいる。

 

正確にはベッタリとくっついている。

 

進みずらい……。

 

キューちゃんと初めて会った時のように

ベッタリとくっついているのだ。

 

敵意がないことに安心はしているが、

提督にどう言おうか悩んでいる。

 

歌ったらネ級に懐かれたなんて

納得してくれるとは思えない。

 

ネ級が大人しくしてくれることを

祈るしかない。

 

そして、もう一つの問題が

私を挟んでネ級を威嚇している

キューちゃんだ。

 

ネ級が私にベッタリしていることで

居場所を取られたと勘違いしているのだ。

 

本当に犬だと勘違いしそうになる。

 

新しく来た犬に自分の居場所(主人)を

取られて威嚇している姿に酷似している。

 

ネ級はそんなこと気にしていないが、

キューちゃんは威嚇を続けている。

 

基地に着いてもこの状態だと

かなりの迷惑をかけてしまう。

 

だから私は一度止まって

キューちゃんとネ級を向き合わせる。

 

まずネ級に色々と聞いてみる。

 

一応片言で話せるようだ。

 

ついてくる理由は大体察していたが

キューちゃんたちと一緒だった。

 

私の歌が楽しくてついてきたそうだ。

 

戦うつもりなど全くないらしい。

 

私にベッタリなのは好意からだそうだ。

 

つまり好きなのだと。

 

とりあえずキューちゃんに

勘違いであることを伝える。

 

ネ級に居場所を

奪おうなんて気持ちはない。

 

私の色々なところを奪われかねないが、

その辺は注意することにしよう。

 

とにかく2人は私の説明で

納得してくれたようだ。

 

私たちは改めて基地を目指す。

 

 

 

 

 

再び警戒しながら海を進む。

 

周囲には小さい島が見えている。

 

さっきよりもはっきりと。

 

それもそのはずだ。

 

既に日本の本土と

思われるところが見えている。

 

明らかに人工物と思われる建物が

目線に入ったのだ。

 

つまり基地まであと少しなのだ。

 

問題なく基地に着ける。

 

私はそう思っていたが、

運命とは残酷だ。

 

いきなり私たちの周囲に

水しぶきが上がったのだ。

 

私は直ぐに周囲を確認する。

 

すると進行方向の左斜め前に

艦娘と思われる姿を確認した。

 

大きな艤装を付けていたため

おそらく戦艦級なのだろう。

 

私はひとまず全員を落ち着かせる。

 

イ級達にも慌てて撃たないように

出来る限り落ち着かせる。

 

そのまま艦娘が近づいてくる。

 

はっきりと艦娘だと分かり、

安心したのだが、また撃たれる。

 

私は直ぐにみんなを退かせる。

 

砲撃が当たらないように

なるべく距離を置く。

 

大きくカーブしながら

基地の方を目指す。

 

しかし、このままでは

夕張達もやられてしまう。

 

私は夕張と吹雪を先に基地に向かわせて

それを守るように斜め後ろに続く。

 

守ると言っても

砲撃に巻き込まれないように

なるべく後ろで構える。

 

だが、私は撃つつもりはない。

 

今ここで撃ってしまえば

私は敵対することになってしまう。

 

だから威嚇射撃も対抗もしない。

 

なるべく意識をこちらに移し、

彼女たちを基地に送る。

 

そう考えていた私の体は

夕張たちの下に向かっていた。

 

砲撃をしてくる艦娘の表情を見た瞬間、

私の体に悪寒が走った。

 

正確にはその中の1人。

 

不敵な笑みを浮かべて、

何かを投げた。

 

普通なら見えないが、

今の私にははっきり見えた。

 

白い棒なようなものを

夕張達に向かって投げたところを。

 

投げられたそれは海上に白い線を描き、

夕張達めがけて進む。

 

夕張達はそれに気づいていない。

 

私たちはいつの間にか

基地が見える範囲まで来ていたらしい。

 

そう、基地が見えたことで

2人とも警戒が緩んでいたのだ。

 

だからこそ私は駆ける。

 

2人を守るために、ただひたすら。

 

ネ級たちは砲撃のせいで動けない。

 

だから私は走る。

 

白い線が彼女たちに当たる前に。

 

私は必死に走り、叫び、2人を庇う。

 

私が彼女たちと白い線の間に入り、

白い線が私に当たった。

 

 

 

 

 

大きい水しぶきが上がる。

 

体が痛い…。

 

視界が赤くなる。

 

吹雪が恐怖に染まった顔をしている。

 

足ガ痛イ……。

 

吹雪が何か叫んでいるがよく聞こえない。

 

さっきまでの景色が赤黒く染まっている。

 

とにかく2人に怪我はなさそうだ。

 

キューちゃんたちが攻撃しないか心配だな。

 

そんなことを考える。

 

すベテがイたい…………。

 

私ハいタム体をうゴカシて、

フりカえる。

 

わたシヲみルそのかオハ、

いカりにそまっテイた。

 

オソらク、ヲきゅウになカマヲ、

シずメラれたのダロう。

 

だガ、そノカおもボやケハじめル。

 

コノマまダト、ナがクハもタナソウダ。

 

ソうオモッテいルト、

あルコエガひビく。

 

「Hey!そこの艦娘たち!stopデース!」

 

ワタシハ、ソのコエをキイたあとに、

意識を手放した。

 




これにてプロローグはおしまい。


次回からどうなるのかは
しばらくお待ちください。

感想・質問がありましたら、
どしどしと……。




現在のパーティー

深海棲艦
ヲ級(歌音)
キューちゃん含むイ級×4
ネ級

艦娘
夕張・吹雪

妖精


装備
ヲ級初期装備(杖)
→アニメでは砲撃もしていた

大福(艦載機)
→白いたこ焼き型

その他
歌音が使えると思って
収納したもの。
(木の実など)


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第一章 本土前線基地編
第1話 夢は心の現れ


新章スタートです。


私は海の上に浮いている。

 

比喩ではなく本当に浮いている。

 

え?前と入りが同じだって?

 

だって同じ場所にいるんだもん。

 

赤と黒に染まった世界に。

 

体も前世の体だ。

 

だが前と違うのは体が重い。

 

お腹の辺りと右腕全体、それと両足。

 

私は私に起こったことを思い出す。

 

夕張と吹雪の護衛。

 

ネ級の仲間入りと

キューちゃんの和解。

 

見えた目的地と艦娘。

 

襲い来る砲撃。

 

夕張達を狙う白い線。

 

最期に聞こえた声。

 

私は起きたことを思い出した。

 

「私、死んじゃった……?」

 

最後がどうなったかハッキリしないが、

死んでしまったのだと思った。

 

だが、そんな考えは

ある言葉に拒否される。

 

「あなたは死んではいないわ、

私がまだ生きているのだから。」

 

聞き覚えのある声に安堵して振り向く。

 

加賀さんの声が聞けたと。

 

そして驚愕した。

 

そこにいたのは加賀ではなく、

今世(いま)の私、ヲ級だったからだ。

 

私は後ろに下がって

距離を離そうとするが、

待てと言われる。

 

そしてヲ級はこう言った。

 

「私。加賀よ。」

 

自分が加賀であると……。

 

私は加賀さんに詳しく話を聞く。

 

加賀さんの姿の変化とこの景色に。

 

加賀さん曰く、

姿と景色は私によって変わるらしい。

 

私の体の状態と心を映しているのがここらしい。

 

つまり体の状態は加賀さんに、

心はここの景色に反映される。

 

加賀さんがヲ級になっているのは

私が沈む一歩手前まで来ていたから。

 

だから私はなるべく自分も守ると

ここで決心した。

 

 

 

私はいつものように戻されるまで

加賀さんと雑談していた。

 

私のことについては

記憶が共有されていたらしく、

大体わかるらしい。

 

私には共有されなかったのに。

 

私は加賀さんに

色々と知られているため、

隠したい黒歴史も

全て知られている。

 

小学生時代の恥ずかしい

思い出すら知られてしまった。

 

もう、死にたい……。

 

会話をしながら

そんなことを思っていると

私の体が光りだした。

 

どうやら時間が来たそうだ。

 

私は加賀さんに

「また会いましょう」

と言って別れる。

 

加賀さんも

「ええ、またいつか。」

と笑顔で見送ってくれた。

 

私の視界が白に染まる前、

加賀さんの姿が元に戻った気がした。

 

 

 

私は目を覚ます。

 

目に映るのは知らない天井だ。

 

おそらく基地に

着くことができたのだろう。

 

私はまだ痛む体を起こそうとするが

あまりの重さに動かなかった。

 

何故だ、と思って首を動かし、

目だけで周囲を確認する。

 

すると、その原因がはっきりとした。

 

私の右肩で若が、右腕を吹雪が掴み、

私のお腹にネ級が頭をのせて寝ていた。

 

揃いも揃って私の体を枕にしている。

 

私は何とか動く左手だけで

全員の頭を順番に撫でていく。

 

しばらくはそれを繰り返した。

 

しばらく撫で続けたが、

そろそろ疲れた。

 

右腕は痺れて痛い。

 

はやくどうにかしたい。

 

そんなことを思っていると

扉がノックされて誰かが入ってくる。

 

ハッキリとした声で入ってきたのは

黒髪ロングの少女。

 

第一印象は真面目な子。

 

どこかのお嬢様学校に通っていそうな

黒い制服を着た少女だ。

 

私は少女に左腕を振った。

 

少女は直ぐに気づいて

近くに来てくれた。

 

とりあえず若をどけて、

ネ級の頭を少しずつ

下の方へずらしながら

体を起こしてもらった。

 

右腕は吹雪がぎっちりと

掴んで離されない。

 

無理に引きはがすのも

かわいそうなのでやめた。

 

一先ず楽な体勢になれたので

お互いに自己紹介。

 

少女の名前は朝潮と言うらしい。

 

艦種は見た目通り駆逐だった。

 

ここには私の様子を見に来たそうだ。

 

なんと丸一日寝ていたらしい。

 

時計を見ると13時を過ぎていたため、

本当に丸一日寝ていたようだ。

 

なんで分かるかって?

 

昨日の島が見えた時点で

太陽がほとんど真上だったからだよ。

 

そんなことはさておき、

私は朝潮に目覚めたことを

提督に伝えるよう頼んだ。

 

朝潮は元気に返事をして

部屋を出て行った。

 

 

 

しばらくすると

部屋の外が騒がしくなった。

 

朝潮が提督を連れてきたのだろう。

 

しかし予想とは

違う人物が入ってきた。

 

「なんでヲ級とネ級が

ここにいるのよ!」

 

そこには少し緑がかった

黒髪のツインテールの女性が

弓矢を向けて立っていた。

 

だが、その矢が放たれる前に

その声で吹雪が起きる。

 

眠たそうに起きた吹雪が

その様子を見て、

慌てて止めに入る。

 

吹雪が説明をしてくれたおかげで

私は撃ちぬかれなくて済んだ。

 

女性の名前は瑞鶴。

 

艦種は弓矢を持っているので

空母だと分かる。

 

でもなぜだろう。

 

彼女を見ていると

無性にイラっとする。

 

体の内側から苛立ちが募る。

 

私はそんな苛立ちを抑えていると

朝潮と提督、その他数名が来た。

 

メガネをかけた女性と

私が見た少女とは違うピンク髪の女性。

 

他の人間も来ると思ったが、

人間は提督だけのようだ。

 

ネ級は寝たままだが話を聞く。

 

私の今後についてだが

ここで観察という形になった。

 

観察の結果次第では

動きの制限を解いてくれるらしい。

 

それまではこの島での

生活になるそうだ。

 

提督が上と話して決めたそうだ。

 

私はそのことを受け入れる。

 

一応殺される覚悟はしていたのだ。

 

観察と動きの制限だけで

済ませてくれたことに

私は感謝しないといけない。

 

ところで、

1つ気になったことがある。

 

私の帽子とキューちゃんたちだ。

 

帽子は邪魔だからよけたのだろうが、

この部屋には見当たらない。

 

キューちゃんたちも

どこで待っているか

見当がつかない。

 

そこで提督に聞くと、

何かまずいという顔をする。

 

その目線が隣のピンク髪の人に

向けられたので私はその女性を見る。

 

その女性は観念したように話し始める。

 

「えっと、驚かないでくださいね…。」

 

そう言って一度部屋を出て

すぐに戻ってくる。

 

後ろに小さくなったツヤツヤの

キューちゃんたちを連れて。

 

私は目を見開いた。

 

あんなにカチカチだった

体がツヤツヤになっている。

 

何があったのか聞くと

キューちゃんからの提案らしい。

 

私は「?」となった。

 

詳しく聞くと、キューちゃんが

自分たちの口の砲塔を

外してくれと訴えたらしい。

 

明石は最初、嫌で断ったのだが、

キューちゃんの必死のジェスチャーと

駄々こねに負けて外したらしい。

 

すると体が光って

この姿になったそうだ。

 

他の子も同様だとか。

 

また、私の帽子は工廠に置いたが

何もしなかったらしい。

 

とりあえず大福たちは

まだそのままなので安心した。

 

キューちゃんたちは

サイズはハスキーからポメに

なったような感じがするが

可愛さと艶が増したからよし。

 

今日は休むように言われたため、

私はキューちゃんたちと一緒に

ベッドで休むことにした。

 

明日からはいろいろあるだろうが、

信頼されるように頑張ろうと思う。

 

私は寝るまで長い間を

 

キューちゃんたちとの遊び、

 

今後の歌の歌詞、ネ級の名前、

 

歌のジャンルなどを

考えながら過ごした。

 




ネ級ちゃんは
どんな名前になるのやら。

流石にねーちゃんにはしない
……予定。


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第2話 ワタシの身体

一気にお気に入りが増えて驚いています。



 

今、私は工廠に来ている。

 

私の体を確かめるためだ。

 

この基地に来た時に攻撃されたため、

その確認のために来ている。

 

キューちゃんは若や妖精たちと

仲良くお話ししている。

 

自然に話していて気付かなかったが、

ここの子たちも若と呼んでいる。

 

その様子を見ている夕張も

初めて会った時に若と呼んでいた。

 

明石が私の検査の準備をしつつ、

その問いに答えてくれる。

 

ここでは「若大将*1

と言う意味で呼ばれていたそうだ。

 

え、若って新人の方なの?

 

驚いていると明石が

「5年ぐらい前ですけどね」

と付け加えた。

 

どうやら名前が定着して

ずっと「若」らしい。

 

まあ、ぴったりだからいいだろう。

 

そんなことを考えていると

検査の準備が終わっていた。

 

私は明石の指示に従って検査を受ける。

 

結果は足の異常が残っているだけで

それ以外は異常なしだという。

 

ひとまず安心したが、問題はこの後だ。

 

私の結果を書き終わった明石が

こちらを見てニヤッと笑う。

 

いやらしい手つきをしながら

私の方へ近づいてくる。

 

本当なら拒みたいのだが、

それもできない。

 

今から行うのは私の検査。

 

正確には「空母ヲ級」の検査だ。

 

深海棲艦の謎がある程度わかるだろう

というのが理由だ。

 

少し不安が残るが、

明石に任せるとしよう。

 

 

 

最初は持っていた杖の検査。

 

私自身、これのことをよく知らない。

 

詳しく聞くと

艦載機への指示を出すためのもの

であると同時に主砲でもあるという。

 

空母に主砲は積めないはずだが、

これは例外なのだとか。

 

とりあえずそれで納得し、

今度は帽子を見ていく。

 

一応口の中に頭を入れるなと

最初に行っておく。

 

私も止められたからだ。

 

それを聞いて明石は

残念そうに他のところを検査する。

 

この反応は明らかに

頭を入れるつもりだったのだろう。

 

私は明石が頭を入れないように

ずっとその様子を監視し続けた。

 

 

 

検査が終わり、お昼が過ぎた。

 

帽子にも特に異常はなかったらしい。

 

後で、中身も確認するそうだ。

 

私はお昼を食べたかったが、

検査の途中なのでお昼は抜きだ。

 

お腹がすいた~

 

仕方がないけど我慢するとしよう。

 

明石は次に

私の体を確かめると言った。

 

いやらしい手つきでこちらを見る。

 

そして私に近づき、

ズボンの紐みたいなやつを掴んで

一気に下に下げる。

 

………………っ!

 

次の瞬間、私の手は

満面の笑みの明石の頬を叩いていた。

 

平手打ちである。

 

明石は勢いよく

資材の山に突っ込んだ。

 

私はプルプルと震えながら

ぺたんと座って股を左手で隠した。

 

すると、騒ぎを聞いた夕張達が

私たちのいるところまで駆けつけた。

 

私は右手を震わせる。

 

だが、キューちゃんたちと若が私に

落ち着くようにとなだめてくれた。

 

私はゆっくりと拳を下ろす。

 

明石の方は夕張が起こす。

 

くるくると目を回しているが、

それ以外は大丈夫そうだ。

 

夕張は自業自得だと言ってくれた。

 

明石はそのままベッドに寝かされ、

私の検査を夕張がすることになった。

 

夕張は明石と違って

色々と気遣ってくれた。

 

キューちゃんたちに明石の監視を頼み、

私をカーテンのある部屋に。

 

股を隠せるように

大きめのタオルも用意してくれた。

 

とりあえずズボンの様なやつは

脱げることが分かった。

 

私はタオルで隠しながら

股を確認する。

 

どうやらこの体は

全身タイツの様な体らしい。

 

おしりの方にも「あれ」がなかった。

 

他にも確認しよう。

 

手袋はこの検査が

始まる前に外しているので、

今はつけていない。

 

後はマントだけである。

 

とりあえず外してみる。

 

……意外とあっさり脱げた。

 

首のやつはネックウォーマー

みたいになっていた。

 

マントは取り外し可能なようだ。

 

意外と便利な服だったが

普通の服が着たいと思った。

 

とりあえず

これですべてを脱ぎ終わった。

 

今の私はすっぽんぽんだ。

 

これからどうするのかと思ったら

液体漬けされる某回復装置の様なものが

あるところに案内されて入れられた。

 

入れられる前にちゃんと説明は受けた。

 

本来は改二改造用の装置らしいが、

明石が改造して

体の検査もできるようにしたらしい。

 

一体どうなるのか気になっていたが、

特に何もなさそうだ。

 

私は安心して眠った。

 

 

 

目を開けると見えたのは知らない天井、

ではなく最初にいた部屋の天井だ。

 

今回は加賀さんと会わなかった。

 

疑問に思いながら体を起こす。

 

何かしら条件があるのだろう。

 

私は考えるのをやめて、

自分の体を確認する。

 

服は患者が着る検査服だった。

 

ちゃんと服は着させてくれたらしい。

 

横には相変わらずネ級が寝ていた。

 

私は彼女の頭を撫でる。

 

気持ちよさそうな笑顔だ。

 

そういえばこの子の艤装もない。

 

明石が回収しているのだろうか?

 

そんなことを考えていると

部屋の扉が開いた。

 

私はその光景に驚いた。

 

何故ならキューちゃんたちが

タワーになっていたからである。

 

4匹?で順番に背中に乗って

高さを稼いで扉を開けたのだ。

 

いつの間にこんな芸当を

覚えたのだろうか。

 

一番上に乗っていたキューちゃんは

カットされたリンゴの乗っている皿を

頭に乗せて持ってきた。

 

大道芸でもやらそうと思った。

 

私は貰ったリンゴを頬張り始める。

 

少しすると提督と大淀と夕張、

頬に紅葉を付けた明石が入ってきた。

 

夕張は何かの紙を持っている。

 

おそらく私の検査結果だろう。

 

提督は近くの椅子に座り

私に結果を伝える。

 

最初に確認したように

足の損傷以外に問題はなし。

 

帽子の中の物も木の実や棒など、

言ってしまえばゴミしかなかった。

 

写真のことを聞くと

大切なものだったそうで

「ありがとう」と感謝された。

 

また、あの謎の物体は

砲撃で処分したらしい。

 

明石曰く、すぐに処分すべきもの

だったらしい。

 

帽子の中も異常なし。

 

とにかく、大きな問題はなかった。

 

最後の検査を除いてだが。

 

詳しく聞くと最後の検査で

とある異常が発見された。

 

それは私の体に

2つの魂が存在したことだ。

 

1つは私の、

もう1つは加賀さんだろう。

 

この検査で私は

二重人格だと思われている。

 

そのもう1つの魂が

深海棲艦だとも。

 

このままでは私は

一層警戒されるだろう。

 

私は動きの制限をされないように

加賀さんのことを隠して言う。

 

「そのもう1人と話したことがある」と

 

正体は知らないが話したことがあり、

信頼できるまで隠すと言われた。

 

と、そんな感じでごまかしたのだ。

 

提督が信じられるまで

話せないと言っておく。

 

こうすれば即決はされないだろう。

ここに来て言われたように

経過観察でどうにかなる。

 

提督はとりあえず納得したようで、

何か進展があったら伝えるようにと、

それだけ言って帰っていった。

 

続いて大淀たちも部屋を出ていく。

 

明石は夕張に謝罪させられて

部屋を出ていく。

 

何とか乗り切ることができた。

 

静かになった部屋にはネ級と

キューちゃんたちの寝息だけが響く。

 

私はその寝息をBGM代わりにして

先ほどのことを振り返る。

 

魂が2つあることで警戒はされたが、

最悪の事態は免れるだろう。

 

提督のことを知るまでは

進展もしないはずだ。

 

だが、それだけ私も

警戒しなければならない。

 

素直に話すという手もあるだろう。

 

だが、仮に提督が佐世保と

繋がっていたら危険だ。

 

私が佐世保で沈んだ加賀だと言って、

処分される可能性もあるからだ。

 

だからその時まで

私は隠すことにした。

 

この体は加賀さんの物で

異常なのは私だということも。

 

詳しいことはいずれ

ここを離れるときにでも

伝えようと思う。

 

そう思いながら私は、

まだ1文字も決めていない

ネ級の名前を考えながら、

カットされたリンゴを頬張った。

 

*1
年若い大将




歌音の身体は加賀さんの物。

詳しくはここで語ろうと
思っていたのですが、
後の話に入れることにしました。

今は
「加賀さんの身体借りてます」
ぐらいで思っててください。
詳しく話すとややこしいので。

一応この第一章で
お話しする予定です。


マント等については
ヴァイスシュヴァルツの
「いらっしゃいませ!空母ヲ級」
の画像を参考。

↓こちらのURLから見れます
 ヴァイスシュヴァルツさん
 公式のカードリスト
https://ws-tcg.com/cardlist/?cardno=KC/S25-P05



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第3話 基地施設と艦娘

私はベッドの上で目を覚ます。

 

横にはキューちゃんたちとネ級。

 

外はまだ少し暗かった。

 

私はみんなを起こさないように外へ出る。

 

少し肌寒い。

 

患者服だからだろうか。

 

私は海の方へ足を向け歩く。

 

ここは本土より南だから

暖かいはずなのだが……。

 

そういえば今日の日付を見た。

 

確か日付は「2035/06/05」だった。

 

私が確認したあの演習の日付から

約半年は経っていた。

 

既に春が過ぎようとしていた。

 

今は季節的には暖かいのだが、

朝だから寒いのだろうと思った。

 

そんなことを思っていると

既に海岸まで来ていた。

 

水平線の向こうでは

太陽が顔を出し始めている。

 

もう少しで総員起こしの

時間になるだろう。

 

それまでどうしようと考えた結果、

私はここで歌うことにした。

 

理由はここにきてから

一度も歌っていないから。

 

歌の内容は……この景色にしよう。

 

 

水平線から顔をのぞかせる太陽。

 

照らされる基地。

 

穏やかで静かな波。

 

朝を告げる海鳥。

 

さわやかな風。

 

それに反応する木々。

 

新しい今日と言う一日の始まり。

 

 

私はこれを歌にしていく。

 

なるべくこの景色に合うように。

 

静かに、穏やかに、心地よく。

 

私は歌い続ける。

 

そして歌い終わると同時に

総員起こしの放送が入る。

 

放送の声は大淀さんとは違う人。

 

少し大人で頼れるお姉さんのような声。

 

私はその声を聴きながら部屋に戻った。

 

 

 

部屋に戻ると既にキューちゃんたちは

起きていた。

 

ネ級も枕を抱いて

半分起きている状態だ。

 

ひとまず私はベッドに座る。

 

ネ級は直ぐに枕を離して

私の腕に抱き着く。

 

仕方がないので放置した。

 

この子はこうなのだから。

 

私は開いているもう片方の手で

キューちゃんたちを順に撫でる。

 

皆気持ちよさそうにしていた。

 

私は誰かが来るまでこれを続けた。

 

まあ、すぐに明石が迎えに来たけどね。

 

私は明石に案内される。

 

もちろんキューちゃんたちも。

 

たどり着いたのは大きな扉の部屋。

 

部屋の名前は学校の教室の様な

ドアの上のプレートに書いてある。

 

そこには「執務室」と書かれていた。

 

明石は丁寧にノックをして

返事をし、扉を開く。

 

部屋には提督と大淀、加賀さんがいた。

 

机の上には書類が山積みにされている。

 

しかし、提督たちは

コーヒーを飲んでいた。

 

休憩中なのだろう。

 

提督たちの目の下に隈がある。

 

ところで何故私たちを呼んだのか。

 

そう聞くと提督は

この後について話した。

 

その内容は私を艦娘たちに

紹介するというものだ。

 

私にとって願ってもないことだ。

 

本当に大丈夫なのかと

聞こうとしたがやめた。

 

大淀と加賀は何も言わず、

こちらを向いて頷くだけだった。

 

それだけ提督のことを

信頼しているのだろう。

 

それに提督は大丈夫だと言い張る。

 

私はそれを信じて、

提督の言う通りにすることとした。

 

 

 

場所は変わり、私は今食堂にいる。

 

服は明石の計らいでいつものズボンと

無地の白いTシャツを着ている。

 

帽子と手袋は外している。

 

人前に出るのに患者服のままだと

良くないだろうとのことだ。

 

まあ、そのおかげで私は今、

艦娘たちとテーブルを囲って

食事をすることができている。

 

私が食堂に入ったときは

警戒されると思っていたが

そんなことは無かった。

 

私のことを対等に見てくれた。

 

それに提督が大丈夫と

言った理由が分かった。

 

夕張達の事もあるのだが、

それ以上に皆が友好的なのだ。

 

特に駆逐艦の子たちが友好的だ。

 

好奇心からか自ら自己紹介してくれる。

 

それに姉妹も紹介してくれるから

すぐに仲良くなれた。

 

軽巡以上の人たちも仲良くしてくれた。

 

特に那珂ちゃんは仲良くしてくれた。

 

お友達になった。

 

歌の事とか色々聞かれたよ。

 

そのおかげでお姉さんたち、

神通さんや川内さんとも仲良くなれた。

 

だけど一人だけ仲良くなれなかった。

 

そう、あの人。

 

正規空母の瑞鶴さんだ。

 

挨拶しようとしたけど、

すぐに食堂から出て行ってしまった。

 

姉である翔鶴さんには謝罪された。

 

どうやら鎮守府襲撃の際に

色々あったらしい。

 

いつか詳しく聞いてみよう。

 

とりあえず、一通り挨拶が済んだので

食事を楽しみつつ、会話を続ける。

 

会話をしていて気づかなかったが、

食堂の人数が元の半分になっていた。

 

どうやら出撃や遠征、演習に

出かけて行ったようだ。

 

そういえば提督や大淀もいなかった。

 

……私は何をすればいいのだろう?

 

どうしようかと悩んでいると明石から

「基地を見て回りませんか?」

と言われた。

 

確かに私はこの基地について知らない。

 

私よりキューちゃんたちの方が

知っているだろう。

 

私は明石の案内で

この基地を回ってみることにした。

 

キューちゃんたちはお留守番。

 

ネ級は私についてきた。

 

 

 

まずは工廠。

 

ここには既に来ているが、

再確認のために来た。

 

中は明石の作業場や

多くの艤装が置かれていた。

 

色々見て回りそのついでに

妖精さんに挨拶をして次の場所へ。

 

着いたのはドック。

 

出撃する場所と入渠するところだ。

 

出撃ドックは6か所の待機所があり、

そこで準備、合図で出撃

と言う形になるそうだ。

 

入渠施設は簡単に言えばお風呂。

 

実際に見たが、ホテルの大浴場である。

 

それもかなり大きな風呂である。

 

今後ここを使っていいらしいので、

今日から使わせてもらおう。

 

次は畑。

 

基地では珍しいところだ。

 

私が見た前の鎮守府にも畑があった。

 

どうやら島にある鎮守府や基地には

畑が用意されているそうだ。

 

ここではレタスや玉ねぎ、

キュウリやナスといった

野菜が大きく実っていた。

 

ここで取れた野菜は食堂で使われる。

 

もう少ししたら食べ頃だということで

私も食べられると聞いて喜んだ。

 

他には演習場、図書室、教室、

甘味処など、この基地の重要なところを

いくつか見せてもらった。

 

そして私は再び執務室に戻ってきた。

 

朝と同じように入る。

 

入ると提督と大淀が、

山積みの書類と戦っていた。

 

それと巫女服のメガネをかけた

お姉さんも作業していた。

 

加賀さんはいなかった。

 

明石はやることがあると

言って出て行った。

 

私は特にできることもないので

ネ級と一緒にソファに座って待つ。

 

すると巫女服の女性が執務室の

横の部屋に入っていった。

 

しばらくすると5人分のカップを

お盆に乗せて持ってきた。

 

隣の部屋は給湯室なのだろう。

 

女性は提督と大淀のところに

カップを置いた後、

私たちの前にカップを置く。

 

中身は紅茶だった。

 

しかし、彼女は座ることなく

また、給湯室に入っていく。

 

今度はお茶請(ちゃう)けを持ってきて、

私たちの前に置く。

 

そして私たちの机を挟んだ

向かい側に座った。

 

そして紅茶を飲みながら

自己紹介してくれた。

 

女性の名前は「霧島」さん。

 

今朝の総員起こしの声の主だ。

 

執務室にいるのは作業の手伝い、

ではなくただの暇つぶしだそうだ。

 

霧島さんは金剛型4姉妹の末っ子。

 

今日はお姉さんたちが出撃しているため

執務室にいたようだ。

 

多分寂しかったのだと思う。

 

そんなことを考えていると

隣から「ひーひー」と聞こえた。

 

何かと思ってみるとネ級が

涙目で舌を出していた。

 

どうやら猫舌らしい。

 

私にはちょうど良いのだが、

ネ級には熱すぎたようだ。

 

私はとりあえず給湯室に行き

使われてないコップに水を入れて

ネ級に飲ませる。

 

ネ級は何とか落ち着いた。

 

これは今後気を付けるべきだろう。

 

私は霧島さんと話して

皆に注意することに決めた。

 

 

 

しばらくして夕食時、

私は執務室で話したことを

霧島さんと説明することにした。

 

もしかしたらキューちゃんたちも

猫舌かもしれない。

 

そのための注意喚起も含めている。

 

とりあえずちゃんとした理由が判明

するまでは気を付けることになった。

 

食事後、私たちは明石に

ある部屋へ案内された。

 

私はその部屋に入る。

 

その部屋は全面畳張りだった。

 

その畳の上には二人組の布団と

ペットサイズの寝床があった。

 

他には小型冷蔵庫、勉強机、卓袱台、

キッチン、テレビ、エアコンなど

必要なものはすべて整っていた。

 

どうやらここが

私たちの部屋になるらしい。

 

明石が昼に言っていた用事とはこれだ。

 

私たちは明石に感謝する。

 

これほどちゃんとした部屋を

用意してもらったのだから。

 

明石は「どういたしまして。」

と言って部屋を後にした。

 

私たちは部屋を一通り確認した後、

布団の上で横になる。

 

ネ級も同じように横になって

私に抱き着いてくる。

 

私は拒むことなく、ネ級を抱き寄せる。

 

とにかく疲れたのだ。

 

身体の疲れではなく気疲れだ。

 

今日は心配になることが

多かったから尚更疲れている。

 

今からでも眠れそうだ。

 

既に私の身体は寝る態勢に入っている。

 

そこにネ級の温かさが加わっている。

 

もう私の意識は遠のいている状態だ。

 

でもそれでいいか……。

 

そう考えた私はそのまま眠りにつく。

 

考えたネ級の名前を口にしながら…。

 




次回、ネ級の名前が出ます。
かなり安直な名前だけど。



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第4話 私の一日

今回はいつもより長いです。


 

あれから一か月が経った。

 

ここでの生活にかなり慣れてきた。

 

今は提督からここで生活していく上で

作業の手伝いを義務付けられている。

 

いわゆる私に課せられた任務だ。

 

と言っても内容は一般の主婦の仕事、

それに私の趣味が混ざったものである。

 

朝に歌って、お仕事の手伝いをして、

「ネ()」達の相手をして一日が終わる。

 

今はその生活が普通になっている。

 

ん?「ネ音」が誰かって?

 

もちろんあの子、ネ級の名前だ。

 

ネ級の「ネ」と私、歌音の「音」。

 

安直な名前だが、ネ音は喜んでくれた。

 

私も妹ができたみたいで嬉しかった。

 

そのネ音は食堂の手伝いをしている。

 

最初はネ音の猫舌でも食べられる

熱さを探すことが目的だった。

 

だが、初日にちょっとしたぬるま湯

ですら飲めないことが分かったのだ。

 

そのため目的は直ぐに達成した。

 

今は、純粋に手伝いたいという

思いで手伝いを続けている。

 

私の仕事も手伝ってくれるいい子だ。

 

キューちゃんたちは明石の手伝い。

 

色々な実験に付き合っているらしい。

 

イ級達が実験の被験者になって

キューちゃんがその感想を翻訳する。

 

これによって研究が進んでいるらしい。

 

明石曰く

「モル…さんぷ…協力者のおかげで

いつもの10倍進みが早いです。」

だそうだ。

 

……何も起きないことを願う。

 

そして私はと言うと、家事をしている。

 

洗濯に掃除、畑仕事に歌のレッスン、

食堂の手伝いに歌詞作り。

 

やることは沢山あるのだ。

 

……別におかしいところはない。

 

とにかく今は掃除をしている。

 

基地全体を数ブロックに分けて

少しずつ掃除をしているのだ。

 

今日は執務室周辺のエリア。

 

この基地の中で重要なところだ。

 

だからこそ念入りに掃除する。

 

服も掃除するならこれだと、

ある人に言われてちゃんとした

服を着ているので問題無し。

 

最初は窓から掃除する。

 

掃除は上から下にやるからだ。

 

窓の溝にある埃を取っていく。

 

背が高いためやりやすい。

 

前は脚立があってもギリギリだった。

 

次第に掃除をするのが

楽しくなってきた。

 

私は掃除をしながらハミングをする。

 

自分の頭の中に音楽が流れる。

 

私が考えていた音楽が、歌詞が

私の頭の中にどんどん流れてくる。

 

それに比例するように掃除も進む。

 

楽しくて作業が捗る。

 

床もその勢いでどんどん掃除する。

 

気づけば辺りはピッカピカ。

 

これで完璧である。

 

掃除が終わり時間はお昼前。

 

そろそろ食堂が開く時間だ。

 

私は手伝いをしに行くために

掃除道具を片付けに行く。

 

その途中で私は提督に会った。

 

私は提督に挨拶をする。

 

提督も私に挨拶をしてくれたが、

なぜか驚いている。

 

何故だろうと思っていると

提督から質問された。

 

「なんでメイド服なんだ?」

 

そんなに驚く事だろうか?

 

確かに、私はメイド服を着ている。

 

クラシカルメイド服。

 

これ、ロングスカートだけど

動きやすいんだよね。

 

とりあえず私は提督の質問に

おすすめされたから、と答える。

 

あの人が勧めてきたけど

別に嫌じゃないんだよね。

 

一度メイドさんになりたかったしね。

 

提督は「そうか…」

と言って執務室に入った。

 

私は提督の反応を不思議に思いつつ、

掃除道具を片付けに行った。

 

 

 

私は掃除道具を片付け、食堂を手伝う。

 

食堂は多くの艦娘で賑わっていた。

 

食堂は満席で外まで列ができている。

 

食堂は広いが全員は入れない。

 

提督曰く、元々この基地は

精鋭部隊の拠点として作られたらしい。

 

大人数は予定されていなかったのだ。

 

そのため外に列ができている。

 

ネ音と非番の子たちが

手伝っているが、 中々回らない。

 

だから私も食堂の手伝いをする。

 

清掃、誘導、配膳、水汲み等々。

 

数人がかりで何とか回す。

 

そして、手伝いから1時間ほどで

外の行列がなくなった。

 

注文も全てとり終えたため、

後は配膳だけで終了だ。

 

いつもならあの赤い人がいるのだが、

今日は夜まで帰ってこない予定だ。

 

あの人次第で食堂の忙しさが変わる。

 

最初の数日でそれがよく分かった。

 

今日はその時よりも早く、

最後の人への配膳も終えたからだ。

 

いつもより早く終わった私たちは

食事をすることにした。

 

私は日替わりの定食、ネ音はうどん。

 

うどんはもちろん冷たいやつだ。

 

私たちは一緒に手伝った子たちと

話をしながら食事をした。

 

 

 

食事を終えて私は畑に向かった。

 

収穫は少し前に終わったため、

今は新しい種を植えている。

 

私がやることは雑草抜きだ。

 

生えている雑草を抜き取っていく。

 

抜くのは畑の周りと作物の近くだ。

 

畑に生える雑草は

根に近いものをだけを取る。

 

こうすると作物の成長を邪魔されない。

 

それに周りの雑草があれば

畑が豊かになり、害虫からも守れる。

 

ということを吹雪に教わった。

 

最初に作業を共にしたのが吹雪だ。

 

親切に分かり易く教えてくれたのだ。

 

そのおかげで今は1人でも作業できる。

 

また、たまに他の子が暇つぶしで

やって来ることがある。

 

私の知らないことを沢山話してくれる。

 

彼女たちのあまり見られない

一面を見ることもある。

 

この作業の時間はそんな時間だ。

 

私の曲作りのアイデアにもなる。

 

今日は誰も来なかったけどね。

 

 

 

作業も終わり、私は夕食の準備をする。

 

服の土と汚れを落とし、

衛生管理をしっかりとして食堂に入る。

 

夕食は特に準備することが多い。

 

料理を作っているのは

鳳翔さんと間宮さんの二人だけだ。

 

昼は2人で回せるが、

夜だけはそうはいかない。

 

何故なら酒が絡むからだ。

 

鳳翔さんが酒飲みたちの相手をする。

 

そのため夕食は間宮さんと私で作る。

 

これでも料理を作っていたのだ。

 

出来ないことは無い。

 

まあ、鳳翔さんにはOKを貰っている。

 

皆からの評判も悪くないからね。

 

食堂のテーブルや配膳は

ネ音たちがしてくれる。

 

そのため心配する必要はない。

 

私は安心して夕食の準備をする。

 

次第に食堂は騒がしくなる。

 

夕食の時間になったのだ。

 

皆が我先にと食堂入ってくる。

 

特に出撃があった子たちは早い。

 

でも今日は直ぐに終わる。

 

理由は今日が金曜日だからだ。

 

金曜日と言えばカレーである。

 

そう、皆が大好きなカレーである。

 

しかも、夕食は基本的に

全員が同じメニューである。

 

つまり、注文される料理は

必ず同じ料理になる。

 

だから、同じ料理をたくさん

作るだけで終わるのだ。

 

これもかなり疲れることだけどね。

 

今いる人たちへの配膳が終わり、

しばらくはゆっくり休んでいた。

 

何百人といるのだから疲れる。

 

だが、その休憩は直ぐに無くなった。

 

あの赤い人が食堂にやってきた。

 

綺麗な長い髪、すらっとした身体、

あの人を印象付ける赤い袴の女性。

 

そう、加賀さんの相方「赤城」さんだ。

 

今日は出撃していたためかなり食べる。

 

あの人が来ると私は付きっきりになる。

 

普通より大きな皿にカレーを盛り、

赤城さんのテーブルに持っていく。

 

赤城さんは合掌をして食べ始める。

 

口をリスのように膨らませて食べる。

 

その間に台車に2つの容器を乗せて

赤城さんのもとに持っていく。

 

私が持って行ったのは

「赤城さん専用お代わり容器」だ。

 

赤城さんのお代わり回数はヤバい。

 

他の人の分まで食べかねないのだ。

 

そのため、制限を掛ける目的を兼ねて、

この容器が用意されているのだ。

 

ちなみにこれは前からあったらしい。

 

食費を抑えるのに提督が考えたそうだ。

 

これがあることで昼より楽に過ごせる。

 

それに終わるまでは交流ができる。

 

色々な会話が聞けるため、退屈しない。

 

赤城さんの歌でも作ろうかな?

 

 

 

しばらくして赤城さんの食事が終了。

 

満足して食堂を後にしていった。

 

私は食堂の片づけをする。

 

山積みになった皿やまな板に包丁、

カレーの容器を丁寧に掃除していく。

 

数があるためかなり疲れる。

 

30分ほどでようやく終わった。

 

殆ど間宮さんが終わらせたけどね。

 

とにかく終わったので私は食事。

 

ここでカレーが残ることは無い。

 

必ずと言っていいほど消える。

 

そのため、最初に私たちの分を

避けておいてくれるのだ。

 

私はそのカレーを食べる。

 

程よい辛さでとてもおいしい。

 

私は綺麗に食べて皿を洗う。

 

やることが終わったため、後のことを

間宮さんたちに任せて部屋に戻る。

 

部屋に戻るとネ音が待っていた。

 

お風呂セットを持って。

 

私もお風呂セットを持っていく。

 

お風呂は時間的に貸し切り状態。

 

部屋以外で二人きりの時間である。

 

この状況ですることは一つだけ。

 

そう、背中を流しっこするのである。

 

始めはネ音からやり始めた。

 

最初は加減が分からず苦戦していたが、

一か月も経てば上手になっている。

 

私は前からやっているから慣れている。

 

ネ音が寝てしまうぐらいには

気持ち良くできているのだろう。

 

今日もネ音は寝てしまった。

 

私は溺れないようにお風呂に入れる。

 

この時間を存分に満喫した。

 

 

 

お風呂から上がり部屋に戻る。

 

ちなみに部屋着は浴衣だ。

 

部屋にはナイトキャップをかぶった

キューちゃんたちが集まって寝ていた。

 

なんだ、この可愛い生物は。

 

写真を撮りたいがカメラがない。

 

私は諦めてネ音と布団に入る。

 

布団はキューちゃんたちが

敷いてくれているのだ。

 

本当にいい子たちである。

 

だが、今日の布団は一つで良かった。

 

何故ならネ音に掴まれているから。

 

だから今日は同じ布団で寝る。

 

今日は歌を制作する時間はなさそうだ。

 

私はこの温もりを感じながら眠る。

 

今日も私の幸せな一日が幕を閉じた。

 




ネ級の名前はネ音ちゃんになりました。
ネーちゃんよりはましかな?

ここでも赤城さんは大食いキャラ。
ただし量は制限します。

次回はメイド服を勧めてきた「あの人」
とのお話になります。



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第5話 先生のお世話を開始します。

<注意>

この話にはエッチな声が
2文入っています。

皆さんのイメージ描写が
エッチな状況にもなります。

我慢して読んでください。
(妄想を膨らませましょう。)


 

今日はお昼過ぎにある部屋へ行く。

 

今日の仕事は休み。

 

ネ音とキューちゃんたちは仕事。

 

そのため行くのは私だけだ。

 

メイド服を持って部屋に行く。

 

部屋に着くと大声が聞こえる。

 

どうやら部屋の主が

可愛い声に説教されているようだ。

 

私はノックして部屋に入る。

 

部屋は私のいる和室ではなく洋室。

 

奥に二段ベッドがある。

 

部屋には多くの機材と

様々なものが散乱していた。

 

多くの配線、本、服、熱さまシート、

そして箱に入ったエナジードリンク。

 

それも5ダース分。机の上にも数本。

 

そんな環境で生活している部屋の主。

 

今は机の前で睡魔と戦っている。

 

その隣では甘えんぼ袖の眼鏡っ娘が

部屋の主を世話していた。

 

その子はこちらに気づいて挨拶をする。

 

「お疲れ様です、歌音さん。

秋雲のためにわざわざすみません。」

 

ご丁寧に謝罪をされる。

 

この子の名前は「巻雲」。

 

先ほど説教していた声の主だ。

 

巻雲は部屋主の「秋雲」と同室の艦娘。

 

そして身の回りのお世話係だ。

 

身の回りの世話と言っても

一定の期間だけである。

 

今がちょうどその期間だ。

 

私は秋雲に近づく

 

秋雲はこの部屋の主で

私にメイド服を渡した人だ。

 

私はその秋雲の肩をつかんで揉む。

 

秋雲は変な声を出しながら震える。

 

「アア…ソコ…ダメ!ンン!!…ハアン!」

 

……スゴクエッチダ。

 

とりあえず肩揉みを続ける。

 

なるべく眠気を取る。

 

……数分後。

 

秋雲の眠気が覚めた。

 

人が変わったように作業を続ける。

 

ちなみに彼女がしているのは

同人誌の作成だ。

 

モデルは……私だ。

 

メイド服を着ていたのもその一環。

 

メイド姿の私をモデルにした作品。

 

詳しい内容は知らない。

 

そんな感じで今までも同人誌を

描いていたらしい。

 

では、前はどうしていたのだろか?

 

聞いてみると驚いた。

 

なんと本土にいる他の「秋雲」に

頼んでいたそうだ。

 

元々秋雲は違う鎮守府の出身らしい。

 

そこで同人作家として活動。

 

「オータムクラウド」という名で

活動していたようだ。

 

その後に色々あって提督の元へ。

 

今は本土で連絡を取り合っている

他の秋雲に後を継いでもらい、

絵を描いて送っているらしい。

 

向こうの秋雲に描いてもらえばいい。

 

私はそう思った。

 

しかし、秋雲曰く

「同じ秋雲でも絵は同じにならない」

ということらしい。

 

だから目的の期限までに描き上げる。

 

その時の集中力は周りの声が

聞こえなくなるほどだ。

 

そのため秋雲は

作業中の生活が著しく悪化する。

 

食事、睡眠、入浴をしないこともある。

 

そのためその作業中に

私は巻雲と掃除をする。

 

机周辺は巻雲が、その他を私がする。

 

乱雑した服の整理とゴミ捨てだ。

 

服は洗濯籠に入れて洗濯機へ。

 

ちなみに秋雲の部屋には

専用の洗濯機が用意されている。

 

私は服をそこに持っていく。

 

スイッチを押して洗濯開始。

 

その間に部屋の掃除。

 

邪魔にならないように掃除していく。

 

ベッドのシーツも変えていく。

 

しばらく掃除していないことが分かる。

 

これは外に持って行って天日干し。

 

新しいものを提督に頼むべきか?

 

そんなことを考えながら部屋に戻る。

 

 

 

部屋に戻ると秋雲が燃え尽きていた。

 

どうやら完成したらしい。

 

巻雲が揺らしても反応しなかった。

 

顔をよく見ると大きな隈ができていた。

 

秋雲にはしっかりとした休養が必要だ。

 

私は一度部屋に戻る。

 

部屋から浴衣を持って

再び秋雲の部屋へ。

 

そして秋雲の浴衣を取り出す。

 

私は残りの片づけを巻雲に頼み、

秋雲を担いでお風呂場に行った。

 

 

 

完全に燃え尽きている秋雲。

 

疲れのせいで寝ている。

 

服を脱がすのも一苦労だ。

 

脱力状態だからなおさら重い。

 

何とか脱がして風呂に入る。

 

身体を洗うために椅子に座る。

 

秋雲を私の前に座らせ、

私によりかからせる。

 

倒れないようにしっかり密着する。

 

よく見ると肌がかなり荒れている。

 

髪も指が通らないぐらいギシギシだ。

 

傷まないように優しく洗っていく。

 

シャンプーが灰色に変わっていく。

 

かなり汚れていることが分かる。

 

何回も洗って流し手を繰り返す。

 

これを10回ほど繰り返した。

 

汚れは目立たなくなった。

 

まだギシギシなのでリンスを付ける。

 

使っているのは私のリンス。

 

前世で使っていた奴を提督に頼んだ。

 

月1.2回の大本営からの仕送り。

 

一定量の資材の他に

艦娘が欲しいものを送ってくれる。

 

その事を提督が私たちに教えてくれた。

 

その時に私はリンスを頼んだ。

 

ちなみにネ音は猫のぬいぐるみ。

 

キューちゃんたちは何も頼まなかった。

 

頼むものが無かったというのが正しい。

 

とにかくそのリンスで髪を洗う。

 

すると、すぐに効果が出る。

 

秋雲の髪がサラサラになっていく。

 

乾かした後が楽しみだ。

 

次は体の方を洗っていく。

 

腕は手のひらを揉みながら洗っていく。

 

マッサージをしながら洗っていく。

 

足、股、お尻、お腹周り、胸周り。

 

時々くすぐったいのだろうか。

 

秋雲から声が漏れ出る。

 

「……ン、……ンン…。」

 

なんだか気持ちよさそうだ。

 

顔もさっきより穏やかになっている。

 

私は髪と同様、優しく何回も洗う。

 

その度に秋雲は声を漏らした。

 

後は顔だけとなった。

 

洗う前にぬるめのお湯を桶に溜める。

 

その間に洗顔料で優しく顔を洗う。

 

擦らず転がすように洗っていく。

 

顔全体が洗えたら桶にいれた

ぬるま湯で流していく。

 

洗顔料のおかげか

肌がモチモチになっている。

 

お餅みたいで柔らかい。

 

これでとりあえず洗い終わった。

 

私は秋雲をお姫様抱っこで運び、

湯船に一緒に入る。

 

秋雲が溺れないように見守る。

 

しばらく経って昼の出撃を終えた

艦娘たちが戻ってきた。

 

丁度いいのでこのタイミングで

秋雲を抱いてお風呂を出る。

 

みんなとすれ違いざまに挨拶する。

 

出撃後なのにみんな元気だ。

 

その姿を見送り、脱衣所へ。

 

秋雲の身体を拭いて浴衣を着せる。

 

私も着替えて秋雲を抱いて部屋へ。

 

 

 

秋雲の部屋は綺麗になっていた。

 

整った机、綺麗な床、綺麗なシーツ。

 

シーツは新しいものだそうだ。

 

全て巻雲がやってくれたらしい。

 

後でお礼をしよう。

 

私は秋雲をベッドに寝かせる。

 

秋雲の頭を数回撫でて離れる。

 

とにかく巻雲に感謝する。

 

巻雲は「エッヘン」と胸を張る。

 

本当にいい子だ。

 

私は巻雲の頭を何回も撫でる。

 

すると巻雲が大きく欠伸をした。

 

眠たいのか目を擦っている。

 

まあ頑張ってくれたのだから当然だ。

 

私は巻雲を抱いて近くの椅子に座る。

 

そして巻雲を私の膝の上に乗せる。

 

そのまま頭を撫でながら歌う。

 

優しい声で、静かな声で。

 

ゆっくりと、ゆっくりと。

 

お疲れ様、眠っていいよ。

 

そんな想いを込めながら歌う。

 

歌詞にもその言葉を入れる。

 

次第に巻雲の身体が私によりかかる。

 

そして、そのままスヤスヤと

寝息を立てて眠った。

 

私は巻雲の眼鏡をはずして机に置く。

 

身体が巻雲の体温で暖かくなる。

 

まだ夜ではないがこのまま私も眠ろう。

 

良い空気が入り始めたこの部屋は

眠るにはちょうどいい。

 

心地よい風が入ってくる。

 

私は歌いながら

徐々に夢の中へと落ちていった……。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

カシャ!!

 

静かな部屋に小さく響く

シャッターを切る音。

 

ドアの隙間からある人物が

私達の姿を写真にとる。

 

私達がその事に気づくことはなかった。

 

「アオバ、ミチャイマシタ!」

 




オータムクラウド先生とのお話でした。

本当はこんなことになる
予定ではなかった秋雲さん。
鎮守府襲来のせいで予定がびっしり。
おかげで何日も徹夜です。

ちなみに本土の秋雲は代理として
コミケなどのイベントに出ています。
絵は描くがコミケに関してはド素人。

知り合いの作家には
・用事でしばらく作品を描けない。
・同人イベントにも出られない。
・描けるようになったら
 自分と瓜二つの姉妹が出てくれる。

と言っているので作家たちが
全力でフォローしてくれます。


ところで、作中で描かれた
歌音(ヲ級)がモデルの同人誌。

どの年齢が対象なんでしょうね?


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第6話 私でも怒るんだよ

・少し長め
・戦闘シーン有り




 

今日は基地内が少し騒がしい。

 

騒がしいのは食堂の辺りだ。

 

私は早足でそこに向かう。

 

そこには人だかりができていた。

 

そこは掲示板があるところだ。

 

お知らせや今日の予定が書かれている。

 

そこに近寄ると騒がれた。

 

「可愛い」とか「私にもして」とか。

 

一体何の事だろう?

 

その理由はすぐに分かった。

 

そこには新聞記事が張られていた。

 

内容は「貴重な癒しの寝顔」。

 

そこには一枚の写真が掲載されていた。

 

私が巻雲を抱いて寝ている写真。

 

私は寝ている間に撮られたらしい。

 

後で訴えようかしら?

 

まあ、そこまで気にしていない。

 

前世ではこんなことはよくあった。

 

だから私は気にしない。

 

そう、私はね……。

 

「ひ~、助けてください~!」

 

遠くから助けを求める声が響く。

 

聞き覚えのある可愛い声、巻雲だ。

 

泣きそうな顔で必死に走っている。

 

なぜ泣きそうなのか?

 

それは後ろの狂犬たちが理由である。

 

「グルルルル!」

 

「巻雲ちゃん!詳しく教えなさい!」

 

巻雲は今、2人に追われている。

 

誰かと言うのは想像できるだろう。

 

そう、ネ音と吹雪だ。

 

写真の事を聞き出そうとしている。

 

鬼の形相で。

 

恐怖のあまり巻雲は必死に逃げる。

 

巻雲はそのまま私の横を通り過ぎる。

 

追いかける2人も通り過ぎる。

 

どうやら私に気づいていないようだ。

 

だから私は2人の襟をつかむ。

 

この子たちは説教した方が良さそうだ。

 

だから少し怒ろう。

 

2人がこっちを振り向いた。

 

私は2人を睨む。

 

2人は一気に青ざめる。

 

周りからも小さな悲鳴が上がった。

 

私の怒るとはそういうものだ。

 

2人からすれば恐ろしいだろう。

 

好きな人に睨まれているのだから。

 

私は声のトーンを落とし、

濁声で2人の耳元でこう囁く。

 

シバラク、ハンセイシナサイ。」

 

2人は「ビクッ」と震えて固まる。

 

ペタン座りになって動かなくなった。

 

完全に放心状態になっている。

 

私は2人を放置して巻雲の元へ。

 

私は巻雲に近づき抱きしめる。

 

そしてこの場を鎮めるように歌う。

 

巻雲が落ち着くように優しく…。

 

次第に周りもだいぶ落ち着いた。

 

すると食堂から鳳翔さんが出てくる。

 

とりあえず朝食にしようと言った。

 

皆、食堂に入っていく。

 

私は巻雲を慰めながら

朝食の時間を過ごした。

 

 

 

朝食後、吹雪を叢雲に預け、

ネ音を部屋に運ぶ。

 

2人には後で話をすると言って、

私は工廠へ向かった。

 

今日は工廠で何かをするらしい。

 

私は詳しい内容を聞いていない。

 

何をするか気になりつつ、

私は工廠に入る。

 

工廠には明石と夕張が何かの準備。

 

その横で提督と大淀、

数人の艦娘が待機していた。

 

私は提督に用を聞く。

 

今日は私の戦闘能力を調べるらしい。

 

どうやら大本営の方での

私の評価は高いらしい。

 

たまに手伝っていた書類作業や

いつもしている掃除など、

様々な面で評価が上がったようだ。

 

ただ、私の戦闘データが一切無いため、

そのデータを取って欲しいという。

 

正直私自身、あまり戦いはしたくない。

 

深海棲艦と戦うなんて以ての外(もってのほか)だ。

 

しかし、情報も欲しい。

 

私がどれだけ戦えるのか。

 

それを知らないと

私の望みは敵わないだろう。

 

佐世保鎮守府に行ったら

戦わないといけない可能性もある。

 

私は悩んだ上でデータ収集に

協力することを決めた。

 

断って評価が下がるのも嫌だしね。

 

ただ、取るのはいいのだが、

どのようにして測るのだろう?

 

気になっていると声を掛けられる。

 

久々に聞いた渋い声。

 

声の方を向くと若がいた。

 

準備ができていると言って

若は自身の後ろを指さす。

 

その方向を見ると色々な武器があった。

 

槍に薙刀、刀にナイフ、トンファー等。

 

良く見る物から珍しい物まであった。

 

全て妖精さんと明石の作品だそうだ。

 

この中から私が選ぶらしい。

 

ここは狭いのでそれを全て外に運ぶ。

 

用意された的に対していろいろと試す。

 

どうやら一通り使えるようだ。

 

前世の感覚はまだ残っているらしい。

 

この体が大きいことで違和感があるが、

それも少しの調整で問題なくなった。

 

全ての武器を試し終わった。

 

ここから武器を厳選していく。

 

殺傷力があるものを除外していく。

 

あくまでも自衛をする道具だ。

 

海では使うかもしれないが、

陸で使うつもりはない。

 

結局、自衛で使うのは海だけにした。

 

私は6尺ほどの棒を手に取る。

 

海上ではこれを使うことにした。

 

では陸上ではどうするのか。

 

簡単だ、体を使う。

 

体術は仕込まれているからできる。

 

私はそれを提督に伝える。

 

提督は結果次第で了承すると言った。

 

今からするのは艦娘たちとの模擬戦闘。

 

艦娘が数人いたのはこれが理由だった。

 

その結果次第で認めてくれるそうだ。

 

ここにきている艦娘に

天龍に伊勢、長門、夕立がいる。

 

全員が戦果を挙げており、

近接戦闘に長けている。

 

よほどしっかりとした

データを取りたいようだ。

 

最初は天龍との模擬戦闘。

 

彼女は艤装で剣を持っている。

 

この戦闘ではさすがに木刀だが…。

 

まずはお互いに一定の距離を取る。

 

構えを取り、合図を待つ。

 

天龍は木刀を構え、私は…構えない。

 

力を抜き、ただ立っている。

 

天龍は少し苛立ちを見せた。

 

私に舐められていると思ったのだろう。

 

そのまま提督の合図で戦闘が始まった。

 

天龍は直ぐに私に突撃してくる。

 

持っている木刀を全力で私に振るう。

 

それは怒りに満ちていた。

 

私はその全力を、体をずらして躱す。

 

天龍はすかさず私を攻撃する。

 

私はそれを躱し続ける。

 

当たりそうなものは

木刀の(しのぎ)*1を押していなす。

 

天龍の連撃を全ていなしていく。

 

決して自分からは攻撃をしない。

 

私の戦闘はあくまで自衛だから。

 

 

 

しばらく同じ状態が続いた。

 

次第に天龍の疲れが見え始める。

 

ひたすら木刀を振っていたため

疲れてしまったのだろう。

 

そんなことを考えていると

天龍の後ろから別の木刀が振られる。

 

私はギリギリで体を逸らして躱す。

 

天龍から距離を取ってそれを確認する。

 

そこには伊勢が立っていた。

 

どうやら提督の指示があったようだ。

 

ここからは2対1で行うらしい。

 

流石に疲れるので戦い方を変える。

 

ただし、構えはそのままだ。

 

少しして待てなくなった天龍が

こちらに突撃してくる。

 

右下から斬り上げてきた。

 

私は体を後ろに逸らして躱す。

 

そして振り上げ終わって隙ができた

天龍の鳩尾(みぞおち)に膝蹴りをする。

 

膝蹴りは綺麗に入り、天龍は吐く。

 

その衝撃で木刀を落とした。

 

私はその状態の天龍を掴み、

突撃してくる伊勢に向かって投げる。

 

伊勢はこちらに来る勢いを抑えられずに

そのままぶつかって地面に倒れた。

 

その隙に天龍の木刀を取った私は

倒れた伊勢の首元に木刀を向ける。

 

これによって伊勢は両手を上げる。

 

降参してくれたようだ。

 

ようやく終わったと思い、

安堵していると夕立が飛びついてくる。

 

夕立は「お疲れ様」と言う意味を込めて

抱き着きに来たのだろう。

 

しかし、今の私は

それを攻撃だと誤認してしまう。

 

そのため、夕立の胸元を掴み、

そのまま地面に倒してしまった。

 

夕立は衝撃で目を回す。

 

やってしまった…。

 

私はどうしようと思っていると

提督が苦笑いをしながらやってきた。

 

夕立を投げ飛ばしたのは予想外だが、

伊勢と天龍を圧倒したことで

十分なデータが取れたという。

 

長門とは戦わなかった。

 

結果は見えていると言っていた。

 

とりあえず天龍と夕立を連れて

入渠ドックへ急ぐ。

 

長門と伊勢にも手伝ってもらい、

2人は無事に治った。

 

この後、天龍のことで龍田に

襲われかけたのは言うまでもない。

 

 

 

時は過ぎ、夕食後の自室。

 

私は仁王立ちをしている。

 

前にいるのは正座中の吹雪とネ音。

 

理由はもちろん朝のことだ。

 

しっかりと説教をする。

 

ネ音はキューちゃんからも

説教をされている。

 

お前も同じ立場だったじゃないかと。

 

ネ音はしっかり説教された。

 

説教が終わり、私は2人に課題を出す。

 

内容は3日間の抱き着き等の禁止だ。

 

ネ音には同部屋でも添い寝も禁止した。

 

もちろん2人はショックを受ける。

 

2人にとっては死活問題だろう。

 

だから私はこう言った。

 

「1週間…1カ月の方が良かった?」

 

多分過去一番の笑顔で。

 

2人は息を揃えて3日間で、と言った。

 

こうして2人と約束した後、

吹雪を叢雲のところへ送る。

 

破れば期限が伸びるということを

ちゃんと伝えて私は自室へ戻る。

 

叢雲が監視すると言っていたので

吹雪のことは任せようと思う。

 

部屋に戻り、ネ音にも同じことを言う。

 

ネ音は何回も縦に首を振る。

 

その後、ネ音は大人しく布団に入った。

 

私も布団に入って寝る準備をする。

 

一応キューちゃんたちに監視を頼む。

 

しっかりと目を光らせてくれるそうだ。

 

元から目は光っているけどね。

 

2人がちゃんと約束を守ることを

願ってから私はそっと目を閉じる。

 

ちょっとした寂しさを感じながら…。

 

*1
木刀の真ん中(峯:みね)より先端側




歌音は怒るときはちゃんと怒ります。
優しい人ほど怒ると怖いです。

戦闘は基本自衛
後は状況次第で変わります。

6尺の棒は今後使います。
艦載機の銃撃ぐらいは
弾き飛ばせる明石の作品。






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第7話 語られる真実

今回は久しぶりにあの場所へ。


目を開けると久々に見た景色があった。

 

身体も久々に前世の姿だ。

 

つまりここは私の心の中。

 

加賀さんと話せる場所だ。

 

「久しぶりね、歌音。」

 

私は声がした方を向く。

 

そこには加賀さんが立っていた。

 

ヲ級ではなく艦娘としての加賀さんが。

 

だが、1つだけ変わったところがあった。

 

それは肩に猫を持った妖精がいたことだ。

 

私はその妖精のことについて聞いた。

 

すると、加賀さんは少し深刻な顔をした。

 

そして、決意をしたように話してくれた。

 

この妖精の名は「エラー娘」。

 

妖精の中でも異質な存在。

 

本来なら会うことは無いらしい。

 

加賀さんは初めて会ったと言う。

 

私には見覚えがあった。

 

お兄ちゃんの艦これの画面。

 

そこにこの子は映っていた。

 

通信エラーの画面にいた妖精さんだ。

 

「ソウダヨ、イレギュラーサン。」

 

いきなりエラー娘が喋った。

 

私の心を読むように話してくる。

 

「ダッテ、ココハ、

キミノココロナカダカラネ。」

 

…そう言えばそうだった。

 

色々筒抜けらしい。

 

加賀さんが私のことを知っていたのも

これが理由だろう。

 

そんなことが分かった所で本題へ。

 

エラー娘がなぜここにいるのか。

 

何が目的なのかを聞く。

 

理由は私について話すためらしい。

 

私の状態、加賀さんとどうなっているかを。

 

私が知っているのは

この体は加賀さんなのだと言う事だけだ。

 

エラー娘は詳しく教えてくれた。

 

まず、体は加賀さんである事。

 

これは先ほど言った通りだ。

 

既に知っている。

 

私はここの人間ではないのだから。

 

次に加賀さんと私の状態。

 

これがややこしいのだ。

 

加賀さんは魂としては存在しているが、

本来とは別物になっている。

 

そこに私の魂が入り込んだことで

イレギュラーが発生した。

 

これにより2つの魂が入った

ヲ級が生まれたという。

 

そして、今後のことについて。

 

私の目的は歌で平和を。

 

その過程で加賀さんのいた

佐世保鎮守府に行く予定だ。

 

加賀さんの目的は鎮守府へ戻ること。

 

そして大切な人を救いに行くこと。

 

エラー娘はそのことについて

話すことが1番の目的らしい。

 

話すのは佐世保に行った後の事。

 

佐世保に行った後に加賀さんが

どうなってしまうのか。

 

その事について伝えに来たそうだ。

 

内容は辛いものだった。

 

加賀さんにとっても私にとっても。

 

加賀さんとした最初の約束*1

 

その約束が果たされると

加賀さんは消滅、成仏するらしい。

 

この体もどうなるか分からないという。

 

そのまま残る可能性もあれば

加賀さんの魂と共に消える可能性も。

 

私はそれを防ぐ方法はないのかと聞く。

 

エラー娘は防ぐ方法はないと言った。

 

確率次第だという。

 

一つだけ加賀さんが

生き残る方法があるといった。

 

ただし、命の補償ができないという。

 

その方法とはドロップによる転生。

 

つまり、一度轟沈するということだ。

 

過去に前例はあるらしい。

 

しかも、確率は低くない。

 

これなら加賀さんは復活できる。

 

ただし、その場合は私が死ぬことになる。

 

佐世保に行けば加賀さんは消え

私も死ぬ可能性がある。

 

沈むと加賀さんが高確率で復活する。

 

エラー娘曰く、

この二択しかないという。

 

その言葉に私はショックを受ける。

 

どちらかしか生き残れないのだから…。

 

しかも、考える暇もなかった。

 

いつものように体が光ったのだ。

 

最悪なタイミングでの目覚めだ。

 

周りの景色が白く染まっていく。

 

私は戻る前に加賀さんの方を見る。

 

その時、微かに見えた加賀さんの顔は

何故か優しい顔をしていた。

 

 

 

私は目を開ける。

 

体はいつも以上に重かった。

 

既に部屋には私以外いない。

 

それもそうだ、今は昼過ぎ。

 

時計の針は1時を過ぎている。

 

日の光もほとんど入っていない。

 

珍しくそんな時間に起きた。

 

とりあえず顔を洗いに行く。

 

鏡に映る私を見る。

 

その顔はひどく、涙を流していた。

 

私はそれを洗い流す。

 

隠すように何回も……。

 

洗い終わって着替えてから部屋を出る。

 

とりあえず執務室へ。

 

今日の仕事をしていないのだから

提督に謝罪しに行く。

 

部屋に入ると謝罪する前に心配された。

 

今日の秘書官の子には大泣きされた。

 

歌が聞こえず、姿も見えなかったことで

何かあったのだと思われたらしい。

 

私はただの寝坊だと言って謝罪する。

 

提督には気にするなと言われた。

 

疲れているだろうと言われ、

何かの券を渡される。

 

券には「間宮」と書かれていた。

 

食堂で使えば分かると言われた。

 

仕事については提督から

皆へ伝えてくれるそうだ。

 

私は提督に感謝して食堂へ向かった。

 

 

 

食堂に行くと鳳翔さんたちに

とても心配された。

 

食堂にいた子たちも集まってくる。

 

皆、私を心配していたようだ。

 

中には私のお世話をすると言う子も…。

 

というか、すでに櫛を手にしていた。

 

とりあえず、世話になる。

 

その間に私は券を間宮さんに渡す。

 

間宮さんはすぐにキッチンに向かった。

 

その間、櫛で髪を梳いてもらう。

 

私の長い髪を丁寧に梳いてくれる。

 

とても上手で落ち着く。

 

私はとてもリラックスできた。

 

タイミングよく間宮さんが

券の商品を持ってきてくれた。

 

置かれたのは…羊羹?

 

駆逐の子たちは羊羹を

羨ましそうに見ていた。

 

とりあえず食べてみる。

 

……おいしい。

 

程よい甘みと味の濃さ。

 

丁度良いとはこのことだろう。

 

羊羹を少し切り、髪を梳いてくれた子、

雷に「あーん」をする。

 

雷はそれを美味しそうに食べる。

 

皆、羨ましそうにしている。

 

しかし、これ以上はあげられない。

 

そんな顔を見ながら羊羹を食べた私は

皆の頭を撫でて食堂を後にした。

 

 

 

食堂から出た私は

基地をフラフラしていた。

 

休みをもらったが、やることがない。

 

目的もなく歩いていると

聞き覚えのある音が聞こえた。

 

ストン、という音が聞こえる。

 

音のする方に向かうと弓道場があった。

 

何故聞き覚えがあるのか?

 

自分の家にも弓道場があったからだ。

 

だからなのか、ここが懐かしく感じる。

 

懐かしんでいると声を掛けられる。

 

「どうかしましたか?」

 

私は声のする方を向く。

 

そこには綺麗な白い髪の女性。

 

翔鶴さんがいた。

 

私は翔鶴さんに連れられて

弓道場の中に入る。

 

中では他の空母の人たちが

練習をしていた。

 

私は後ろでその姿を見ていた。

 

次第に体がウズウズしてくる。

 

翔鶴さんにやってみるかと聞かれた。

 

私は直ぐに弓矢を借りる。

 

場所を開けてもらい定位置に立つ。

 

そして……集中する………。

 

弓を構え、少しずつ引いていく。

 

既に周りの声は聞こえない。

 

風の音も、鳥のさえずりさえも。

 

世界が静かになった。

 

私は一度目を瞑り、ゆっくりと開く。

 

そして、的に向かって矢を放つ。

 

矢は真っすぐ的の中心に突き刺さる。

 

私には聞こえない大きな音を鳴らす。

 

私は構えを解き、ゆっくり呼吸をする。

 

徐々に周りの音が聞こえてくる。

 

久しぶりの感覚に気分が高揚する。

 

その気持ちを抑えて振り向く。

 

すると思いっきり詰め寄られた。

 

コツとか色々聞かれた。

 

めんどくさくなった私は

「周りが聞こえなくなるまで

集中している。」

とだけ答えた。

 

それでもまだ詰められたが、

翔鶴がそれを止めてくれた。

 

話があるからと私の手を引いて

弓道場の控え室へと向かう。

 

部屋に入ると翔鶴は私に頭を下げる。

 

何故か頭を下げるのかと聞く。

 

理由は妹、瑞鶴の事だった。

 

あの人は基地内で仲良くなれない。

 

声をかけても話をしてくれないのだ。

 

いつも私に対して敵意丸出しである。

 

しかし、彼女の敵意は私だけではない。

 

どうやら他の子にも及んでいるらしい。

 

本当はいい子なのだと翔鶴は言う。

 

変わってしまったのだとも……。

 

その理由を翔鶴は知っている。

 

だからこそ翔鶴は私に語った。

 

これから翔鶴が語るのはあの日の事。

 

とてもつらいであろうあの事件。

 

鎮守府襲撃当日の事を語ってくれた。

 

*1
プロローグ3より最初のノイズのかかった会話




今回は体について語られました。
歌音たちはどうしていくのでしょうね?

今回の歌音の身体について
絵にしてみたのでご覧ください。
これでも分かりにくいかも。

【挿絵表示】


【挿絵表示】



次回は翔鶴による瑞鶴語り。
瑞鶴のことが色々分かります。


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第8話 時間は刻一刻と……

久々投稿
お待たせしました。


 

私は翔鶴から話を聞く。

 

翔鶴が語る瑞鶴の話。

 

それは変わってしまった鶴の話。

 

 

 

瑞鶴はこの艦隊初の正規空母だった。

 

幸運艦の名に恥じない戦果を挙げ、

多くの作戦を成功させてきた。

 

主力として仲間を支えてきた。

 

提督のケッコン鑑としても……。

 

そんな彼女が変わってしまった。

 

原因は鎮守府襲撃事件。

 

吹雪が大けがを負ったあの事件。

 

被害は鎮守府が壊滅。

 

艦娘は轟沈無し、大破多数。

 

提督が全治二か月。

 

これだけの被害が出た。

 

いや、これだけで収まった

というべきだろう。

 

だが、瑞鶴は深刻に考えたそうだ。

 

自分たちの家を守れず、

大切な人が傷ついてしまった。

 

それが瑞鶴を変えてしまったらしい。

 

事件当時の瑞鶴は主力艦隊にいた。

 

別の任務で鎮守府近辺にはいなかった。

 

襲撃の件を聞いたのは帰投時。

 

まだ作戦海域から帰る途中だった。

 

通信を受けた瑞鶴は全速力で戻った。

 

仲間の制止を振り切って……。

 

戻る途中で見つけた深海棲艦を

次々に沈めていった。

 

その気迫に逃げ出す者もいたとか。

 

ようやく鎮守府に着いた頃には

大きな煙が上がっていた。

 

ボロボロになった施設。

 

それを深海棲艦が攻撃していた。

 

瑞鶴はその艦隊を強襲した。

 

ありったけの艦載機を放った。

 

怒りの全機発艦。

 

しかし、多勢に無勢。

 

瑞鶴1人ではどうしようもなかった。

 

艦隊の3.4割しか削れなかった。

 

幸いにも鎮守府の艦娘たちは撤退済み。

 

一緒に出撃していた仲間に連れられて

鎮守府を離れた。

 

この後、瑞鶴はしばらく荒れた。

 

提督が無事な事には喜んだ。

 

しかし、家を捨てる判断をしたこと。

 

まだ、残っている仲間がいること。

 

すぐに鎮守府に戻ろうともした。

 

そして、自分の弱さを悔いた。

 

それから瑞鶴の笑顔が消えた。

 

仲間からの誘いを断って鍛錬。

 

食事をあまり摂らずに鍛錬。

 

演習が終わっても鍛錬。

 

夜になっても鍛錬。

 

ずっと鍛錬。

 

今も鍛錬。

 

鍛錬……。

 

ずっと鍛錬を繰り返す。

 

「無理し過ぎだ。」

 

提督の言う言葉に耳を貸さない。

 

「少し休んだら?」

 

翔鶴の言葉にも耳を貸さない。

 

ただただ鍛錬を繰り返す。

 

出撃すれば戦果を挙げる。

 

戦略なんてものはない。

 

ただ敵を殲滅するのみ。

 

仲間など気にしない。

 

無線を勝手に切ることもあった。

 

大破の仲間を気にせず進むことも。

 

瑞鶴は変わってしまった。

 

戦果を挙げるだけの瑞鶴(ふね)に……。

 

 

 

翔鶴から語られた瑞鶴の事。

 

自分が強くあればそれでいい。

 

そんな感じなのだろう。

 

守れなかった自分への怒りが

それを悪いほうへ持って行った。

 

彼女にとって大切な場所だから。

 

それ故に変わってしまったのだろう。

 

私はそんな彼女の気持ちが分かる。

 

何故分かるのか?

 

私も同じだったからだ。

 

瑞鶴とはまた違った理由だ。

 

私は弱い者の味方でありたかった。

 

だから私は体術を習った。

 

弱いものを標的にする奴を

力でねじ伏せる。

 

強さとは力、そう思っていた。

 

ただ自分が強ければと思っていた。

 

それで守れるならそれでいいのだと。

 

でも、それは違うと言われた。

 

本当の強さは違うものだと。

 

私はそれをお父さんに言われた。

 

だから私は歌で平和を望んだのだ。

 

力とは違う強さを教わったから。

 

だから瑞鶴のことが分かるのだ。

 

瑞鶴は私が強さを教わる前と同じだ。

 

本当の強さを知らない。

 

自分を全力で否定する人もいない。

 

この話を聞いて私は一つ決心をした。

 

いずれ横須賀に行くのだ。

 

それまでに瑞鶴の力を否定する。

 

私が教えてもらった本当の力を

瑞鶴の心に教え込む。

 

だが、今はまだ私の声は届かない。

 

時が来るまで準備することにした。

 

私は翔鶴に感謝し、工廠に向かう。

 

かなり話し込んでいたのだろう。

 

既に夕日が沈み始めていた。

 

私は急いで夕張達の元へ行く。

 

 

 

工廠に入ると、片付けが行われていた。

 

どうやら今日の出撃は

一通り終わったらしい。

 

私は夕張を探す。

 

夕張は部屋の奥にいた。

 

そこには明石と若もいた。

 

私は夕張に声をかける。

 

私は夕張達に瑞鶴のことを聞く。

 

彼女たちからの印象も聞きたい。

 

話を聞くと、夕張達は心配していた。

 

明石は心配していた。

 

夕張と若は変わりように驚いていた。

 

艤装を手入れするからこその印象だ。

 

特に明石はいつか沈んでしまうのでは

ないかと感じていた。

 

そこで私はある提案をした。

 

いつかここを出る前に瑞鶴と

一戦するつもりである事。

 

その時に使うものを作ってほしい事。

 

それまで私が実験の手伝いをすること。

 

この提案に明石は考える。

 

しばらく考えて口を開く。

 

「どんな物か聞いてもいいですか?

それ次第で考えます。」

 

私は作ってほしいものをいう。

 

調べたら出てくるとも。

 

明石はそれを調べて確認する。

 

確認した明石は驚いた。

 

それはこの世のものではないから。

 

しかし、それができればありがたい。

 

何故なら瑞鶴の心に響かせるためには

それが必要不可欠なのだ。

 

私は作れそうかと聞く。

 

明石は一応作れると言った。

 

そして、これなら作って大丈夫だと。

 

夕張と若も手伝うと言ってくれた。

 

私は頭を下げてお願いする。

 

これで下準備は完了した。

 

後は完成まで待つこととなった。

 

 

 

部屋に戻る前に私は明石と共に

提督の元へ向かった。

 

作成の許可をもらうためだ。

 

私は間宮のお礼も兼ねて向かう。

 

執務室では提督が昼と変わらず

執務作業をしていた。

 

隣には正座させられている秋雲がいた。

 

首にはプレートを掛けられていた。

 

「私は勝手に鎮守府の経費で

メイド服を買いました。」

 

……あのメイド服か。

 

あの時*1の提督の気になる反応は

これが原因だったのか。

 

まあ、そのことは置いておき本題へ。

 

提督は直ぐに了承した。

 

悩むことなく即決だった。

 

理由を聞くと瑞鶴のことを話した。

 

前の瑞鶴に戻ってほしい。

 

だが強くは言えないそうだ。

 

無理に止めたくはないが、

仲間を大切にしてほしい。

 

自分を含め守ってほしい。

 

それが提督の願いだった。

 

そして、今それを伝えられるのは

私だけだと思っているようだ。

 

だから提督は直ぐに了承した。

 

部屋を出る前にはこうも言われた。

 

「瑞鶴をよろしく頼む。」

 

まるで父親のように言った。

 

私はそれにサムズアップで答えた。

 

 

 

この後、色々考えながら

私は部屋に戻った。

 

加賀さんの事、瑞鶴の事。

 

今日だけで色々あった。

 

加賀さんは次に会う時までに

自分の中で決意を決める。

 

瑞鶴は私の思いを届ける。

 

私以外の思いも。

 

私は気持ちを整えて目を閉じる。

 

明日以降のために体を休める。

 

誰かに甘えようかと考えながら……。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

寝静まる夜に響く音。

 

ギリギリと何かが張る音。

 

ピュンという風を切る音。

 

ストンという何かに当たる音。

 

弓道場から何度もなる音だ。

 

的は10本以上の矢が刺さっている。

 

それを一本ずつ抜いて集める。

 

そして定位置に戻り、矢を放つ。

 

これを夜な夜な繰り返す。

 

その人物はある言葉を口にする。

 

「守らなきゃ……私が……

守らなきゃ……私が……」

 

ひたすらにこの言葉を繰り返す。

 

壊れた機械のようにただひたすらに。

 

壊れていくことを誰も知る由がない。

 

本人ですら気づかないのだから……。

 

*1
第4話




謝罪が多い一日が終わりました。

瑞鶴との一戦を目指し
歌音は何をするつもりなのか。



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第9話 こんな時間をいつまでも……

イベント前のいつも通りの日常は
波乱の幕開けの合図だと思う。

↓投稿が遅れた理由
(E3-2で荒れました。)


翔鶴から話を聞いた次の日。

 

私は瑞鶴のことをいろんな人に聞いた。

 

瑞鶴のことをどう思っているのか。

 

もちろん本人には内緒だ。

 

話を聞くと色々と違いがあった

 

軽巡以下の子達からは怒り。

 

瑞鶴の行動、大破した味方を無視。

 

納得いかないことが多かったそうだ。

 

それに対して空母や戦艦たち、

船だった時の仲間たちは悔恨。

 

自分たちへの怒りがあった。

 

鎮守府を守れなかったこと。

 

瑞鶴を支えることができなかったこと。

 

自分たちが力不足だったこと。

 

瑞鶴の思いを知っているからこそ、

彼女たちは自分たちを悔やんだ。

 

分かってはいるのだ。

 

瑞鶴が変わってしまった理由を。

 

でも、戻すことができない。

 

誰も瑞鶴に敵わないから。

 

誰よりも戦果を挙げていることが、

この現状を強固なものにしてしまった。

 

提督が強く言えない理由もこれだ。

 

提督に対しては他にもありそうだが。

 

その話を聞いた私は歌を考える。

 

今日は本来の休み。

 

提督からは昨日のこともあり、

休んでも大丈夫だと許可は得ている。

 

だから今日は歌を考える。

 

瑞鶴の心に響かせる曲。

 

仲間の大切さ、1人の限界。

 

本当の力、仲間の想い。

 

それを書き出していく。

 

心からの声を聴きだす歌を。

 

胸の内に潜んだ本当の声を。

 

ただひたすらに書きだしていく。

 

これは彼女を倒す歌ではない。

 

彼女を救うための歌だ。

 

私の目的の第一歩。

 

この基地の平和を願う。

 

そうでないと私は次に進めない。

 

私はひたすらに文字を書き出す。

 

時間など気にすることなくひたすらに。

 

 

 

ひたすらに書いてひと段落終えた。

 

気づけば夕暮れ。

 

もう少しで夕食の時間だ。

 

ここで休憩を入れる。

 

今夜はこれをまとめていく予定だ。

 

今は少しリラックスしたい。

 

とりあえず、お風呂に入りたい。

 

私は書いた紙を整理して席を立つ。

 

その時、何か違和感を覚えた。

 

いつもと部屋の雰囲気が違う。

 

私は部屋を見渡す。

 

その原因がすぐに分かった。

 

それは床に横たわる6つの影。

 

吹雪、キューちゃんたち、ネ音。

 

仲良く川の字で寝ていた。

 

お互いに向かい合って寝ていた。

 

キューちゃんたちは寄り添うように。

 

その横には湯呑と歪なクッキーの山。

 

所々焦げている歪なクッキー。

 

この子たちが作ってくれたのだろう。

 

お茶も暖かいのを淹れてくれたはずだ。

 

私は申し訳ないと思った。

 

それだけ集中していたのだろう。

 

彼女たちの気づかなかったのだから。

 

私はお茶を飲み干し、

クッキーにラップを掛ける。

 

浴衣を取り、入浴の準備をする。

 

その間も気持ちよく寝ていた。

 

流石に起こすのはかわいそうだ。

 

そう思った私は優しく頭を撫でる。

 

起こさないようにゆっくりと。

 

しばらく撫でた後、私はお風呂へ。

 

部屋には6つの寝息が残った。

 

 

 

お風呂でリラックスした後、

食堂でゆっくりしていた。

 

ネ音たちのことは鳳翔さん達に伝えた。

 

謝罪と感謝をしてゆっくりする。

 

次第に人が集まってくる。

 

駆逐達は一目散に私の元へ。

 

頭を撫でたり髪を梳いたりする。

 

ただゆっくりとこの時間を過ごす。

 

時には歌を歌う。

 

食堂の雰囲気に合った歌を口ずさむ。

 

でも今日は私の気分で歌う。

 

静かな落ち着いた歌を歌った。

 

悲しい曲ではなく優しい曲を

 

優しく落ち着いた歌を歌った。

 

小一時間ほど歌っていた。

 

食べることすらも忘れて……。

 

歌い終わると拍手が送られた。

 

皆の前で歌うのは初めてだ。

 

かなり絶賛された。

 

私は嬉しかった。

 

自分の歌で喜んでもらえたから。

 

今日はひたすらに歌を書こう。

 

私はその気持ちを抑えながら

食事の時間を楽しんだ。

 

 

 

かなりの時間が経った。

 

私は自室で歌を書き続ける。

 

ネ音たちはまだ寝ていた。

 

慣れないことをして疲れたのだろう。

 

ちなみに寝ているのは吹雪とネ音。

 

キューちゃんたちは起きている。

 

既にそれぞれの持ち場に戻った。

 

キューちゃんは2人の監視だ。

 

まだ、2日目だからね。

 

本当にいい子だよ、この子は。

 

だからこそ安心できる。

 

私は2人のことを任せて

ひたすら歌を書き続ける。

 

あの人に届くか分からない。

 

今書いているこの歌が

全て無駄になるかもしれない。

 

だとしても書き続ける。

 

それが私の目標だから。

 

 

 

キリがいいところまで書けた。

 

時間は9時を指している。

 

頭を使ったから甘いものが欲しい。

 

私はあることを思い出し冷蔵庫へ。

 

冷蔵庫を開けてクッキーを取りだす。

 

昼に2人が作ってくれた奴だ。

 

私はクッキーに合う紅茶を作る。

 

そして、4つのカップに淹れる。

 

2人が飲める熱さで淹れる。

 

もちろんネ音は別で淹れる。

 

それをさっきまで使っていた机とは違う

折り畳み式の机を出してそこに置く。

 

休憩の用意ができた。

 

私はクッキーを頬張る。

 

疲れた脳には丁度いい甘さだ。

 

所々にある焦げもあまり気にならない。

 

キューちゃんにもあげる。

 

美味しそうに食べる。

 

でも、焦げは気になったらしい。

 

そこは私と違うようだ。

 

キューちゃんは顔をしかめていた。

 

その顔に私は声を出して笑う。

 

すると寝ている2人が動いた。

 

起こしてしまったのだろう。

 

2人は目を擦りながら体を起こす。

 

2人とも寝ぼけたまま机の前に座る。

 

私は2人に紅茶を出す。

 

2人ともようやく目を覚ました。

 

「何してたっけ?」というので説明。

 

2人がクッキーを持ってきたけど

私が気付かずそのまま昼寝。

 

この時間までグッスリだった。

 

クッキーが美味しかったことも伝える。

 

吹雪は嬉しそうにネ音は照れていた。

 

この2人はいいコンビになりそう。

 

私はそんな気がした。

 

 

 

少し話をして、吹雪は部屋に戻った。

 

時間が時間だから。

 

遅ければ叢雲が回収しに来ただろう。

 

私は空になったカップを洗う。

 

その間にネ音とキューちゃんは

机を片づけて布団を敷く。

 

洗い終わって椅子に座る。

 

ネ音は風呂に入っていないので

部屋に付いているシャワーを浴びる。

 

その間に私は歌の続きを書く。

 

どんなリズムでどんな曲を歌うか。

 

何を伝えるかを考えて書きだす。

 

また集中する。

 

そして気づけば0時を過ぎていた。

 

振り向くとネ音は布団で寝ていた。

 

さっきまで寝ていたのに……。

 

とりあえず私も休むことにした。

 

食堂で明石に作業の進みを聞いた。

 

今のところ順調に進んでいるようだ。

 

速ければ1週間で完成するらしい。

 

遅くても2週間だそうだ。

 

でもそれはありがたい。

 

瑞鶴がこれ以上酷くなれば……。

 

……これ以上は考えるのをやめる。

 

嫌な考えしか浮かばなくなる。

 

私は部屋の電気を消して布団に入る。

 

今日はキューちゃんが一緒に眠る。

 

私が布団に入ると同時に体を擦る。

 

しばらく甘えてなかったからだろうか?

 

私はキューちゃんの身体を撫でながら

ゆっくりと目を閉じる。

 

いつまでもこんなゆったりとした

時間が続けばいいのに。

 

そんなことを考えながら眠る。

 

だがそんな願いは叶わない。

 

それを知るのは数日後。

 

あんなことが起こるなんて

今の私が気付くことは無かった。

 




瑞鶴に対する思いは様々、
立場が違えば思いも違う。

物事は多方面から確認すべし。


次回は今後の大事なお話しが……



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第10話 歌音の本音

UAが6500越え、
お気に入りは107となり
モチベが上がっております。




 

あれから数日経った。

 

私は今執務室に呼ばれている。

 

珍しく早朝から放送での招集。

 

私は急いで支度して執務室に向かった。

 

執務室には提督と大淀、秘書艦がいた。

 

提督はいつもとは違い真剣だった。

 

秘書艦や大淀も同じ顔だ。

 

何の用で呼ばれたのだろうか?

 

その疑問は提督が渡してきた

一枚の紙が全て消し去った。

 

紙には「大本営への異動」

と書かれている。

 

そこには細かい内容が書かれていた。

 

大まかに言うと以下のようになる。

 

・1か月後に大本営へ異動。

・私の安全性の最終確認。

・認められれば行動の自由がある。

・衣食住はしっかりと用意する。

・できる限り後ろ盾になる。

・その分大変なことを頼むことも。

・同伴あり(深海棲艦のみ・少数)

 

このような内容が書かれていた。

 

そして一番下には承諾のサイン欄

 

これを書けば承諾される。

 

遂にこの時が来たのだ。

 

当初から予定されていた大本営の移動。

 

私の目的のための最初の目標。

 

加賀さんの目的を果たすための目標。

 

その予定が決まった。

 

つまり、ここで成し遂げることは

残り1か月がリミットとなった。

 

残り一か月で瑞鶴のことを解決。

 

大本営への同伴を決めることになる。

 

だが、私の心は迷走している。

 

何故ならここを離れたくないからだ。

 

ここでの暖かい日常が好きなのだ。

 

ネ音がいて、キューちゃんたちがいて、

大福がいて、吹雪がいて、夕張がいて、

提督がいて、明石がいて、大淀がいて、

鳳翔さんや間宮さん、伊良湖ちゃん、

基地のみんながいる。

 

この生活がなくなることが嫌なのだ。

 

我が儘なのは分かっている。

 

目的のために離れないといけない。

 

それでも心の整理がつかない。

 

私は無理に笑顔を作り、サインする。

 

それを提督に渡す。

 

提督はそれを受け取る。

 

退出の許可を得て、私は退出した。

 

 

 

部屋に戻った私は部屋の鍵を掛ける。

 

そのまま机に向かい顔を伏せる。

 

体を小刻みに震わせる。

 

今、私の顔を他人に見せたくない。

 

ネ音にもキューちゃんにも。

 

心の整理ができない。

 

決心ならしたはずなのに。

 

どうしてもこの感情だけは

私の体の中で留まってくれない。

 

最初に望んだことなのに。

 

気づけばここでの生活も望んだ。

 

そっちの望みが大きくなっていた。

 

今まで感じたことのない強い感情。

 

それが私の決心を狂わせる。

 

私は漏れ出る声を抑え続けた。

 

部屋からこの声が漏れ出ないように…。

 

 

 

どれくらいの時間が経ったのだろう。

 

気づけば私は寝ていた。

 

椅子から落ちて床で寝ていたのだ。

 

私は体を起こして椅子に座る。

 

……何もやる気が起きない。

 

頭がボーっとしている。

 

しばらくボーっとする。

 

すると扉がノックされた。

 

私はフラフラと扉に近づく。

 

鍵を外して扉を開ける。

 

そこには鳳翔さんと提督がいた。

 

鳳翔さんが驚いた顔をしていた。

 

そのまま私の顔に手を伸ばす。

 

どうしたのだろうか?

 

私は鏡で自分の顔を見せてもらう。

 

そこに映っていたのは酷く崩れた顔。

 

瞼が真っ赤に腫れている。

 

この前の顔とほとんど同じだ。

 

良く考えればこの感情も同じだ。

 

加賀さんと話した後の私。

 

何か寂しく感じた。

 

そういえば2人はなぜ来たのだろう?

 

理由を聞くと鳳翔は提督を見る。

 

提督は申し訳なさそうに言う。

 

どうやら提督は私の作り笑顔に

気づいていたらしい。

 

でも私には言えなかったって。

 

それで鳳翔さんに相談。

 

一緒に様子を見に来てくれたらしい。

 

数時間前にも来てくれたそうだ。

 

瑞鶴とのこともあるから

負担をかけたのではと言っていた。

 

私は大丈夫だと言う。

 

すると鳳翔さんは私の顔を

自分の胸に押さえつける。

 

動かないように後頭部と

背中を抑えられる。

 

…………暖かい…。

 

さっきまで悩んでいたことを

忘れてしまうほどに。

 

とても暖かくて……涙が…………。

 

どうしてだろう、止まらない……。

 

涙が……止まらない…の……。

 

お兄ちゃんに抱きしめられた時と違う。

 

お父さんに抱きしめられた時とも違う。

 

今まで感じたことのない暖かさ。

 

安心できる、委ねられる、落ち着ける。

 

こんなの……私は知らない……。

 

暖かい……あだだがいの……。

 

気づけば私は泣きじゃくった。

 

鳳翔さんの服をギュッと握って。

 

子供のように泣き叫んだ。

 

この基地に響くほどに。

 

知っているけど、知らない温もり。

 

この温もりに体を委ねる。

 

泣きながら私は口を開く。

 

否、勝手に口が開くのだ。

 

本当はとても不安だったこと。

 

攻撃されて怖かったこと。

 

此処から離れたくないこと。

 

それでも約束は守りたいこと。

 

我が儘だと思って言えなかったこと。

 

私は全てをさらけ出した。

 

ずっと、ずっと泣き続けた。

 

それでも鳳翔さんは何も言わない。

 

ただただ、私の頭を撫で続ける。

 

しばらくして私は落ち着いた。

 

鳳翔さんから手を放し立ち上がる。

 

ずっと膝立ちだったから体が痛い。

 

私は鳳翔さんに感謝する。

 

だが、気にしないでいいと言われた。

 

何かあったら抱きしめると。

 

また、鳳翔さんから甘えるということを

覚えた方がいいとも言われた。

 

今まで甘えられる立場だったから、

溜め込んでしまったのではないかと。

 

誰でもいいから甘えなさいと言われた。

 

だからネ音や吹雪に甘えようと思う。

 

あと少しの時間だけどね。

 

それと永遠の別れではないのだから

いつでも戻ってきなさいと言われた。

 

ここは貴方の家なのだからと。

 

鳳翔さんはそう言うと戻っていった。

 

提督はその後を追う。

 

私は一度部屋に入り顔を洗う。

 

さっきまでの顔とは違う。

 

自信に満ちた顔が鏡に映る。

 

いつでも戻ってきていい。

 

この言葉が私の心を高揚させる。

 

おかげで私は決心することができた。

 

私はタオルで顔を拭く。

 

スッキリとした顔を再確認する。

 

良い笑顔になったな。

 

そう思いながら部屋を出る。

 

すると明石がこちらに走ってきた。

 

「歌音さん!例の物ができましたよ!」

 

どうやら頼んでいた物ができたらしい。

 

やはり色々と調整が必要らしい。

 

私は明石と共に工廠へ向かう。

 

瑞鶴とやり合う日も近いだろう。

 

だけど、私はやり遂げる。

 

もう覚悟は決めたのだから。

 




歌音ちゃんの本音でした。
まあ、彼女はまだ16ですから

歌音が16なのはみんな知らない。


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第11話 心に決めた覚悟

いつもより長くなった。


 

私は工廠に来ている。

 

明石があれを完成させたと

報告しに来たからだ、

 

だから工廠に来たのだが、

私は今拗ねている。

 

頬を膨らませて拗ねている。

 

理由はさっきまでのことだ。

 

大声で泣きじゃくっていたのが

工廠まで聞こえていたらしい。

 

それを夕張と若にいじられた。

 

だから私は拗ねている。

 

ふくれっ面で拗ねているのだ。

 

2人は笑いながら謝る。

 

私はプンプンと怒りながら

とりあえず明石の報告を聞く。

 

例の物は完成。

 

後は性能の確認が必要らしい。

 

性質上誰かに受けてもらうのだが、

誰かに頼むのは気が引け…………!

 

そう言えばいるではないか。

 

これを頼める存在が。

 

だから私は声を掛ける。

 

おい、逃げるなよ。

 

今ここから逃げようとする2人に。

 

そう、さっきまで笑っていた夕張と若。

 

この2人に頼んだ。

 

もちろん明石も協力してくれた。

 

すぐに2人を確保して地下の施設へ。

 

逃げられないように縄で縛る。

 

2人は命乞いをした、だが……。

 

ダ・メ♪

 

私は笑顔で断った。

 

そして……例の物を使った。

 

 

 

性能の確認が終わった。

 

特に大きな問題はなさそうだ。

 

使った感じ、特に違和感はない。

 

明石はもう少し調整するという。

 

明石は色々記録を取っていた。

 

まだ納得できていないところが

いくつかあるのだろう。

 

私は例の物を明石に渡す。

 

ギリギリまで調整をしてもらおう。

 

さて、まだ時間があるがどうしよう?

 

そう言えばまだ海に行っていない。

 

だから海に行くことにした。

 

私はボロボロの夕張と若を放置して、

工廠を後にして海へと向かった。

 

 

 

外に出るとだいぶ日が傾いていた。

 

夕日はまだ出ていない。

 

今日は演習もないため海が静かだ。

 

静かな波音と海鳥の鳴き声がする。

 

この景色もしばらく見られなくなる。

 

少し寂しくなる。

 

だが、もう覚悟を決めているのだ。

 

それに戻ってくることもできるだろう。

 

だから、私は寂しくないよ。

 

帰ってきたら、ただいまって言うから。

 

ここは私の帰る場所だから。

 

私はそう決心する。

 

そしてしばらくの間、海を見続けた。

 

 

 

だいぶ暗くなった。

 

空は紅から黒へ染まろうとしている。

 

そろそろ部屋に戻ろう。

 

そう思っていたが、私は足を止める。

 

何やら基地が騒がしい。

 

放送で何人かが工廠に呼ばれている。

 

緊急の出撃だろうか?

 

考えていると吹雪がやってきた。

 

その顔は真っ青だった。

 

今にでも泣きそうな顔。

 

走ってきて私に抱き着いてくる。

 

何があったのだろう。

 

私は吹雪を落ち着かせる。

 

ゆっくりと背中を撫でる。

 

息を整えさせて落ち着かせる。

 

次第に息が整い落ち着いた吹雪は

何が起きたのかを話してくれた。

 

その内容は吹雪にとって辛いものだ。

 

叢雲が大破炎上、意識不明だと言う。

 

理由は予定にない敵編成だった。

 

敵の中にそこでは確認されていない

戦艦レ級が混じっていたらしい。

 

叢雲たちは必死に応戦した。

 

しかし、レ級が強すぎた。

 

次々に中破・大破される。

 

そして大破した仲間が狙われた。

 

無傷の叢雲はその仲間を庇って大破。

 

現在撤退中だが、危ない状況らしい。

 

今先ほど援護部隊が出撃した。

 

そのため私達にできることは無い。

 

できることは無事を祈るしかない。

 

できるとしたら工廠の手伝いだろう。

 

私は吹雪を連れて工廠に向かった。

 

 

 

あの後、無事にみんな帰ってきた。

 

叢雲は直ぐに入渠ドックへ。

 

高速修復材を使って危機を脱した。

 

しかし、目を覚ましていない。

 

明石と妖精さん総出で原因究明。

 

私達は報告待ちとなった。

 

数人がその報告待ちで工廠に待機。

 

それ以外の全員が食堂で待機中。

 

提督や大淀も一緒だ。

 

完全にお通夜状態だ。

 

飲兵衛たちも場を弁えている。

 

理由が分からないネ音だけが

いつも通り仕事をしている。

 

私も食堂で待機。

 

しばらくすると食堂の扉が開く。

 

扉を開けたのは敷波。

 

食堂を見渡すや否や瑞鶴の元へ。

 

そして瑞鶴の胸倉を掴む。

 

声を荒げ、壁に押し付ける。

 

そのまま叢雲のことを言う。

 

明日には目を覚ますが、

しばらくは出撃出来ない。

 

もう少し遅いか当たりどころが悪ければ

艤装を装備することもできなかったと。

 

敷波は怒りに任せて手を瑞鶴の首に。

 

流石にそれはまずいため

周りが全力で敷波を止める。

 

羽交い絞めにして離す。

 

しかし、口は止まらない。

 

瑞鶴を非難する言葉が吐かれる。

 

私達はしばらくそれを聞く。

 

内容は瑞鶴の慢心だった。

 

艦隊を索敵することができた。

 

レ級がいることも分かった。

 

しかし、瑞鶴は勝てると慢心した。

 

味方は小破数人。

 

自分1人でもなんとかできる。

 

そう考えたのだろう。

 

仲間の制止も提督の制止も聞かない。

 

その結果航空戦はなんとか均衡。

 

瑞鶴と叢雲以外が中破・大破。

 

その後は先ほどのようになった。

 

敷波は大破した1人だ。

 

そして、叢雲に庇われた本人である。

 

自分の弱さ故に起きた。

 

しかし、元を正せば瑞鶴の慢心。

 

そして、命令無視の進軍だ。

 

これまでの行動もあり

皆、瑞鶴を睨んでいる。

 

その結果、瑞鶴も口で返す。

 

しかし、反省の言葉はない。

 

私は悪くない、の一点張り。

 

それに怒った人が1人いた。

 

瑞鶴の顔を全力で殴る。

 

「とても頭に来ました。」

 

加賀さんである。

 

もう強さなんか関係ないと。

 

解体されてもかまわないと。

 

そう言って瑞鶴にまた殴ろうとする。

 

私はその腕を掴んで止める。

 

加賀はなぜと言う顔をする。

 

私は「解決しないから」と言った。

 

そのまま加賀さんを瑞鶴から離す。

 

そして瑞鶴に向かって言う。

 

「私と決闘して」と。

 

周りはもちろんざわつく。

 

決闘して何の意味があるのかと。

 

それでは解決しないだろうと。

 

それはそうだ、これは私の我が儘。

 

最初に矢を向けられたし、

私を認めてくれないから。

 

それに加えて条件を付ける。

 

私の事と瑞鶴にもう何も言わないこと。

 

瑞鶴が勝てばもう何も言わない。

 

私を好きにしてもいい。

 

ただし、負ければみんなに謝って反省。

 

提督の言うことは聞くこと。

 

そのように条件を付けた。

 

しかし、提督は認めてくれないだろう。

 

案の定、承諾できないと言われる。

 

だから私からの条件を出した。

 

勝ち負けとは違う決闘の条件。

 

やらせてくれたら私のことを話すこと。

 

隠していることも何もかもを話す。

 

私の中にいるもう一人のことも。

 

そのため提督は承諾するしかない。

 

しなければ瑞鶴のことが解決しない。

 

解決が強引なものになる。

 

私のことも知ることができない。

 

一番知りたいことが知れない。

 

提督は悩む。

 

しかし、提督が判断する前に

鳳翔さんが承諾した。

 

提督だと決められないからと。

 

そして瑞鶴に対して

「あなたの強さを見せなさい」

と言った。

 

私には

「全力で挑みなさい」

と言った。

 

お互いに引けないのだからと。

 

私達を納得させろと言った。

 

こうして私と瑞鶴の決闘が決まった。

 

決闘は2日後。

 

お互いが全力でやるための配慮だろう。

 

だからそれまでに整える。

 

私の全力を瑞鶴にぶつけるために。

 

私の決意はもう揺るがない。

 




提督の次に決定権があるのは鳳翔さん。
瑞鶴もさすがに逆らえない。

でも鳳翔さんは直接言わない。
成長は気づくことが大事だから。

提督は瑞鶴も大事な仲間だから
あまり強く言えない。
優秀だけどこういうのに弱い。
仲間思い故の後ろ気味な立ち位置。



次回はついに瑞鶴と決闘。
作者は「とあること」に挑戦します。


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第12話 言葉は剣より強し

作者の初挑戦したものがあります
下手なのでそういうものだと
思ってくれると助かります……。


今日はついに決闘の日。

 

瑞鶴との対決の日だ。

 

私は朝から準備をする。

 

準備と言ってもいつもの日課だ。

 

発声練習にもなる。

 

いつもより緊張した声で歌う。

 

いつもより長めに歌った。

 

何とか緊張は解れた。

 

もう少し落ち着くために

部屋に戻ろうとする。

 

すると妖精さんがやってきた。

 

若ではない他の妖精さんだ。

 

珍しいから何用か聞くと

工廠へ行くように言われた。

 

最期のチェックでもあるのだろうか?

 

私はとりあえず工廠に向かった。

 

 

 

工廠に行くと久しぶりの再会をした。

 

宙に浮く白い真ん丸。

 

しばらく会ってなかった大福たちだ。

 

明石の改造で装備が変化していた。

 

機銃は抜かれ、装置を付けている。

 

その装置はバリア装置。

 

相手の攻撃を防ぐ盾。

 

大福はこの装置の性能を確認する

役目を任されていた。

 

いつも出撃の際に同行していた。

 

だから私と会うことが無かったのだ。

 

評判はとてもいいらしい。

 

そして私が呼ばれた理由もこの子だ。

 

今回の決闘で連れて行けと言われた。

 

最終確認も兼ねているらしい。

 

私に断る理由はない。

 

今回の戦いで活躍してもらう。

 

その返答に大福は大喜びだ。

 

私は大福を撫でながら例の物を聞く。

 

明石は「調整は完璧だ」と豪語した。

 

私は信用して自分の部屋に戻った。

 

 

 

部屋ではネ音が吹雪と一緒にいた。

 

叢雲のことで精神が不安定のため、

私の部屋で一晩過ごしたのだ。

 

今はネ音が吹雪をなだめている。

 

膝枕をして頭を撫でていた。

 

私は近くに座り、一緒になだめる。

 

左手で背中をさする。

 

吹雪の顔が少しずつ穏やかになる。

 

そして開いた手でネ音の頭を撫でる。

 

ネ音は震えながら私の服を掴む。

 

その顔は今にも泣きそうな顔だ。

 

ネ音は私のことを心配してくれている。

 

ここに来た時のようにならないで。

 

そんな思いが伝わってくる。

 

だから私はネ音の頭を胸に持ってくる。

 

私が鳳翔さんにされたように。

 

心臓の音が聞こえやすいように。

 

ゆっくりと頭を撫でる。

 

必ず戻るから安心してと。

 

しばらく二人を撫で続けた。

 

 

 

決戦の時間となった。

 

皆、戦いを見届けるために来ていた。

 

その中には車いすに乗った叢雲もいた。

 

1人では立てないようだ。

 

足を包帯でぐるぐる巻きにされていた。

 

今はみんながいるから大丈夫そうだ。

 

気持ちはかなり落ち込んではいたが。

 

私はしっかり気持ちを切り替えて

工廠に入った。

 

そして、しばらく準備をして海へ出る。

 

私と瑞鶴は抜錨した後、距離を開ける。

 

瑞鶴が空母のため距離は遠い。

 

提督の合図で決闘が始まる。

 

私の装備は前に選んだ長い棒。

 

大福×2と例の物だ。

 

瑞鶴の装備は分からない。

 

ただ、かなり優秀だろう。

 

姿は改二甲。

 

中破しても撃ってくる。

 

自分の中で注意点を再確認。

 

これで準備は整った。

 

そして提督の開始の合図が響いた。

 

瑞鶴は直ぐに放ってきた。

 

無数の艦載機がこちらにやってくる。

 

私は背中に刺した棒を取り出す。

 

上空から放たれる無数の弾丸。

 

私はそれを棒を回転させて弾く。

 

明石製の棒は強度も完璧。

 

欠けることも折れることもない。

 

私は弾丸を全て弾いた。

 

すると瑞鶴は艦爆と艦攻を放つ。

 

これはさすがに弾けない。

 

だから大福たちに守ってもらう。

 

バリアは完全に攻撃を防いだ。

 

向こうはかなり驚いているだろう。

 

私もかなり驚いている。

 

予想以上にバリアが強かった。

 

瑞鶴はすかさず次の矢を放った。

 

どうしようか悩んでいると

明石から連絡が来た。

 

大福たちのデータは十分だそうだ。

 

私は大福たちを帰させる。

 

そして棒を背中に戻し、例の物を出す。

 

私が使いたかったものだ。

 

那珂ちゃんは絶対欲しがるもの。

 

歌うには……必要なものでしょ?

 

と言うわけで反撃を開始する。

 

私は例の物、マイクをオンにする。

 

すると藍色の光と共にマイクが変形。

 

イ級の口からマイクが出ている形に。

 

そして私の後ろに現れる3枚の

寒色の目立つ鮮やかなステンドグラス。

 

それに亀裂が入り、割れる。

 

破片は私の周りで飛び回る。

 

まるで意思のあるように。

 

そして大福たちと同じ姿をした

二機のスピーカーが現れる。

 

そこから大音量の音が響く。

 

 

【挿絵表示】

 

 

さあ、かまそうか!

 

 

なんでも歌える我が名は歌音

この地で生まれた新の神風(かむかぜ)

見せてあげましょう、最高の歌で

この素敵な世界の幕開け

 

 

歌うのと同時に周囲の破片が飛ぶ。

 

とんだ破片は艦載機に向かい、

次々と撃ち落としていく。

 

とんだ破片は全ての艦載機を撃墜。

 

空は黒から綺麗な水色に変わった。

 

その空に破片が煌びやかに映える。

 

その光景に驚きの声が湧く。

 

瑞鶴は何が起こったか分からず

口を開けたまま突っ立っていた。

 

つまり隙ができた。

 

戦場において隙は命取り。

 

だから私はさらに歌う。

 

 

余所見は厳禁、温もったエンジン

これからお前に見せるは片鱗

全身全霊のこの言霊に

きちんと返信してみなさいな

歌プロが送るlyricを聴け。

叢雲に対する謝罪はなしの

胸糞悪いproud*1なお前に

一発かましてやる、このblast*2

 

 

全力の歌を放つ。

 

瑞鶴に破片が向かっていく。

 

瑞鶴は反応が遅れて矢を放てない。

 

回避も間に合わない。

 

破片は勢いよく瑞鶴に刺さる。

 

そして爆発を起こす。

 

その勢いで瑞鶴は後方に吹き飛ぶ。

 

服がボロボロになっていた。

 

飛行甲板が無事であるため、

おそらくまだ中破なのだろう。

 

つまり、後1、2回は歌うことになる。

 

瑞鶴は何とか立ち上がった。

 

そして声を荒げる。

 

自分は間違っていないと。

 

守るために力が必要だと。

 

自分が強くなって全て守ると。

 

どうやらこれではだめだったようだ。

 

色々納得いかなかったらしい。

 

瑞鶴は弓を構える。

 

私をヤル気にはなったようだ。

 

まあ、そうなるな……。

 

なら私も全力で歌おう。

 

次はどんな歌を歌おうか?

 

(けな)す?褒める?訴えかける?

 

どの歌であろうと全力で歌うよ。

 

さて、後半戦を始めようか!

 

 

*1
プラウド:高慢な,尊大な,得意になっている;プライドの高い,自尊心の強い

*2
ブラスト:爆発




作者の初挑戦とはラップの作詞でした。
1から韻を調べて書いた自作です。

作者はカラオケでは歌えるけど
リズム感がなく音痴です。
そんな奴が書いたラップなので、
「とりあえず書いてみたんだな」
ぐらいに思っててください。

影響されたのは「ヒプノシスマイク」。
例の物はそのマイクでした。
これを作る明石はヤバいやつです。

次回は後2,3個ほど作詞する予定。





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第13話 歌音の歌で想いを伝える

今回もラップ
書くの楽しい。


 

瑞鶴が矢を放つ。

 

それは艦載機へと姿を変える。

 

瞬く間に空を覆う。

 

だが、先ほどとは違う動きをした。

 

いくつかの部隊に分かれたのだ。

 

熱くなっているようで冷静なようだ。

 

この基地で一番強いのも頷ける。

 

でも、そう簡単には届かないよ。

 

私はマイクを構えて歌う。

 

 

想いを乗せた鋼鉄の羽根

それじゃあ私に届きませ

貴方は仲間の足となって

私の勝利のとなるから

 

私の歌と共に破片が飛ぶ。

 

破片は1つに集まり、鏡に変わった。

 

人が丸々入る大きな鏡。

 

映るのは灰色の世界。

 

そこに瑞鶴が映っている。

 

後ろには顔が見えない仲間たち。

 

次第に形が崩れて鏡の中の瑞鶴を襲う。

 

すると現実の方の瑞鶴が悲鳴を上げる。

 

その場から離れようとしても動かない。

 

悲鳴を上げ、足元に攻撃をする。

 

そこには何もないのに……。

 

瑞鶴はひたすら足掻き続ける。

 

そして、冷静になったのだろう。

 

艦載機で鏡を攻撃した。

 

鏡が割れ、瑞鶴の悲鳴もなくなる。

 

これは少し予想外だった。

 

なんだかんだ、見えているようだ。

 

艦載機の一部しか墜とせなかった。

 

そしてそのまま反撃してきた。

 

急に私への攻撃が激しくなる。

 

大福たちがいないため自力で避ける。

 

しかし、何発かは食らった。

 

流石に痛かった。

 

服もかなりボロボロになっていた。

 

艦娘の中破はこんな感じなのだろう。

 

瑞鶴は私を見て「どうよ!」と言う。

 

いや、どうとも思わないが。

 

あ~、でもちょっと心苦しいかな?

 

ネ音が小刻みに震えている。

 

吹雪が寄り添ってくれているから

抑えることができているのだろうけど。

 

何とか大丈夫だと言いたいが……。

 

とりあえずこの状況をどうにかしよう。

 

まだ艦載機がたくさん残っている。

 

このままでは負けてしまうからね。

 

だからまずは、あいつらを落とそうか!

 

 

勝ったつもりか、五航戦

貴様らもだぞ、飛行兵

過去に起きたあの慢心を

受け継いだのかよ、みっともねえ

乗り越えたんだろ?ミッドウェー海戦

それなら目指しな、もっと上へ

一騎当千一航戦

座を取られた元一等兵

 

 

この歌は良く響いたようだ。

 

指揮の乱れによる艦載機同士の接触。

 

これにより艦載機の半分以上が墜ちた。

 

今までの生活が役に立ったようだ。

 

書類の整理を手伝っていたから、

過去の戦績を知っていたんだよね。

 

だから私は知っているのだ。

 

ミッドウェーを越えたことも

一部で一航戦に劣っていることも。

 

それでも攻撃を続ける瑞鶴。

 

しかし、先ほどより攻撃が薄い。

 

減ったのもあるが瑞鶴の焦りもある。

 

だから今のうちにあの子に対して歌う。

 

 

体調は万全、だから大丈夫

貴方の愛情こそがmy hope

敗北はないこの戦いのTitle

貴方の最強相棒大勝

 

 

私はネ音に伝える。

 

大丈夫だと、敗北はないと。

 

だから安心してほしいと。

 

この想いは届いたようだ

 

ネ音は返答するように大きく頷く。

 

これでネ音が飛び出す事は無い。

 

安心して瑞鶴と戦える。

 

しかし、歌いながら躱すのは難しい。

 

さっきより楽なのに被弾しているのだ。

 

だが,今は現状維持が安定だろう。

 

集中を欠かすことはできない。

 

そのため次の攻撃に向けて隙を探す。

 

しかし、瑞鶴は最後の艦載機を放った。

 

ここで終わらせるつもりなのだろう。

 

沢山の艦載機が飛んでくる。

 

だが、このタイミングで隙ができた。

 

次の攻撃への準備でできた隙だ。

 

私は大きく後ろに下がり距離を開ける。

 

やってくる艦載機を全て墜とすために。

 

瑞鶴を大破までもっていくために。

 

私はマイクを構えて歌う。

 

 

艦隊のみんなは此方に注目

ついにバトルは最終章

有望16である私から

貴方へ向けた最後の忠告

一人よがりの艦隊運用

傷つく仲間が揃って重症

でも変わらないの、そのアティテュード*1

だから向けられるのよ、仲間からの銃口

 

 

再び私の周りの破片が一つに集まる。

 

それは先ほどと同じ大きな鏡となる。

 

しかし、さっきとは違う。

 

鏡から出てくるのは黒い艦娘。

 

全身真っ黒の艦娘の姿をした何か。

 

それが艦載機を狙う。

 

対空砲*2による弾幕の嵐。

 

それは瞬く間に艦載機を墜としていく。

 

本日三回目の光景だ。

 

真っ黒の空が澄んだ青空に変わる。

 

そして黒い艦娘たちは瑞鶴を攻撃する。

 

瑞鶴は逃げようとする。

 

しかし、中破していることで

速度が出ず、すぐに囲まれた。

 

そして容赦のない攻撃が襲う。

 

あるものは主砲で、あるものは錨で。

 

そしてあるものは艤装の槍で……。

 

容赦のない攻撃に瑞鶴は悲鳴を上げる。

 

一方的すぎる攻撃。

 

その衝撃で煙が上がる。

 

それでも黒い艦娘たちは攻撃を続ける。

 

長いようで短い攻撃が続いた。

 

攻撃がやむと黒い艦娘は消えていく。

 

それと同時に煙もはれていく。

 

そこにボロボロの瑞鶴が姿を見せる。

 

そこに近づくのはまだ消えていなかった

叢雲の姿をした黒い艦娘。

 

一度叢雲の姿を見た後、瑞鶴の方を向き

艤装の槍で瑞鶴を殴り飛ばす。

 

瑞鶴は海面を何度も跳ねて倒れる。

 

頑丈な飛行甲板は傷だらけとなり、

弓の弦は切れてしまっていた。

 

黒い叢雲はそれを最後に消える。

 

鏡も既に破片に戻っていた。

 

艦載機も飛んでいない。

 

それに対して私は立っている。

 

もう瑞鶴の負けは確実だ。

 

でも、まだ戦う意思はあるようだ。

 

ボロボロの身体で立ち上がった。

 

傷ついた体を引きずりながら

私の方へ少しずつ近づいてくる。

 

だから私はそれに応えよう。

 

これが最後の歌だ。

 

 

善行と共に積み上げてきた年功

でも酔いしれた、あなたは変貌

そんなあなたを支える仲間

あんなにたくさんいるのよ、だから

瘡蓋(かさぶた)だらけの体で応えろ

後は羽ばたくだけなんだ

大切な仲間と掴んだ栄光

思い出しなさい、七面鳥

 

全力で送る最後の歌。

 

瑞鶴はみんなの方を見る。

 

そして、両の目から涙を流す。

 

そのまま目を瞑り、膝から崩れる。

 

力尽きたのだろう。

 

私は泣いている間に近づいたため、

瑞鶴が倒れる前に抱き止める。

 

これで決闘が終わった。

 

私の言葉は瑞鶴に届いただろうか?

 

……きっと届いたのだろう。

 

私は瑞鶴を抱き止めたまま

皆のいるところに戻った。

 

その間に瑞鶴の寝言を聴きながら

満足して戻った。

 

 

 

「みんな…ごめんね……ありがとう。」

 

*1
フランス語で態度、様子、姿勢など 本文では態度

*2
と思われる




と言うわけで決闘が終わりました。

第一章はもう少し続きます。

次回をお楽しみに


追記
投稿後にアンケートを新調します。


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第14話 これからの事

 

瑞鶴との決闘が終わった。

 

今は皆で瑞鶴の目覚めを待っている。

 

その間、私は食堂で話をしていた。

 

内容は私のことについてだ。

 

元は16歳の少女であったこと。

 

この世界に転生した身であること。

 

その際にヲ級になったこと。

 

この体は加賀さんのものであること。

 

その加賀さんが私の中にいること。

 

加賀さんは佐世保の出身であること。

 

そして佐世保はブラックであること。

 

私の目的が佐世保を救うこと。

 

行くと死んでしまうかもしれないこと。

 

私が知っていることをすべて話した。

 

私の目的をすべて話した。

 

艦娘たちは様々な反応をした。

 

怒る者、悲しむ者、泣き出す者。

 

今すぐに行くべきだという者も。

 

しかし、それは無理だと提督は言う。

 

理由は証拠がないからだ。

 

今までも報告が上がっていた。

 

だが、どれも決定打に欠けていた。

 

大本営も乗り込めなかったらしい。

 

それに今のままでは証拠がない。

 

私は「歌音」であり「加賀」ではない。

 

加賀さんからの言葉でないと

本当の言葉にはならない。

 

私のでっち上げということで終わる。

 

故に私が行っても意味がないだろう。

 

そのため提督から大本営に報告して

それから考えようと言われた。

 

提督がどちら側なのか気になったが

話を行く限り大本営側のようだ。

 

提督は大本営への連絡のために

執務室に大淀と向かう。

 

私は食堂で艦娘たちと話を続けた。

 

しかし、かなり大変だった。

 

本当は明石たちと色々話そうとした。

 

でも駆逐達に泣かれたのだ。

 

吹雪とネ音にも泣かれたよ。

 

抱き着かれたうえに耳元で。

 

鼓膜が破けるかと思った。

 

そんな子たちを慰めながら

皆で色々と考えてみる。

 

中々いい案が浮かばないまま

提督が戻ってきた。

 

大本営への報告結果を伝えてくれた。

 

私は予定通り1か月後に大本営へ。

 

その際は深海棲艦の誰かと一緒。

 

全員ではなく一種。

 

イ級ならイ級全員だという。

 

佐世保に行く許可は出される。

 

ただし、憲兵と突入するときだけ。

 

それまでは大本営で生活。

 

大本営側でも色々するため

その際に協力すること等。

 

前に聞いた内容とほとんど同じだ。

 

いくつか変わっているが問題はない。

 

そう安心していると食堂の扉が開く。

 

すると翔鶴が入ってきた。

 

そして、彼女も入ってきた。

 

瑞鶴が……ショートヘアになって…。

 

私だけでなく全員が驚いた。

 

あの長いツインテールは見事に無くなり

一目見ただけでは誰か分からなかった。*1

 

髪留めは手首に巻かれていた。

 

これは彼女なりのけじめなのだろう。

 

瑞鶴は入ってすぐに頭を下げた。

 

言い訳も許してもらうこともしない。

 

どんな処罰でも受けると言う。

 

そう言う瑞鶴に近づく2人がいた。

 

加賀さんと叢雲だ。

 

叢雲は松葉杖で立っていた。

 

何とか立てるまで回復したらしい。

 

2人は揃って瑞鶴の肩に手を置く。

 

そして声を揃えて

「「期待しているわ。」」

と言った。

 

瑞鶴は驚いて顔を上げる。

 

周りのみんなも笑顔で見る。

 

あれだけひどいことをしたのに、

駆逐達も笑顔で瑞鶴を見ていた。

 

瑞鶴は涙を流して崩れ落ちる。

 

嬉しくて、申し訳なくて。

 

声を出して泣いた。

 

その瑞鶴を翔鶴が抱きしめる。

 

瑞鶴はしばらくの間泣き続けた。

 

私は本当にそっくりだと思った。

 

私と瑞鶴は似ているのだと。

 

私もこれからの瑞鶴の成長が楽しみだ。

 

その瑞鶴が泣き止むまで私たちは

食堂で時間を過ごした。

 

 

 

瑞鶴が泣き止んで少し遅めの昼食。

 

今日はうどん揃ってうどんだった。

 

麺の日が多いって?

 

……気のせいです。

 

皆、美味しそうに食べている。

 

隣では吹雪とネ音が大食い勝負。

 

今日の寝床争いである。

 

あの3日間以降こうやって勝負して

勝った方が隣で寝ている。

 

まだ始まってすぐだが、

最低でも後一か月は続く。

 

今日はどちらが勝つのだろうか。

 

そう思っていると決着がついたようだ。

 

まだまだ余裕そうなネ音と

お腹を膨らませ苦しんでいる吹雪。

 

約10杯でネ音が勝ったようだ。

 

ネ音は私に抱き着く。

 

私はそのままネ音を連れて外に行く。

 

向かったのはいつものところ。

 

日課で来る私のステージ。

 

ネ音に抱き着かれたまま歌う。

 

今日と言う勝利の歌を。

 

訪れた平和の時を。

 

此処に吹く新たな風を。

 

そして新たな旅立ちを。

 

私が歌い終わるとネ音は

強く私を抱きしめる。

 

離れたくないという思いが伝わる。

 

私も抱きしめ返す。

 

あの時の鳳翔さんと同じように。

 

ゆっくりと頭を撫でる。

 

ネ音が落ち着けるようにゆっくりと。

 

ネ音はそのまま寝息を立てて

涙を流しながら眠りについた。

 

 

 

その日の夜。

 

私は工廠に来ていた。

 

理由は艤装の整備と確認。

 

あの時はマイクと棒の2つを使った。

 

その時の棒の確認である。

 

前世でも道具の手入れはしていた。

 

自分が使うものなのだから、

自分が状態を知らなければならない。

 

お父さんに言われたことだ。

 

だから棒の状態を確認する。

 

少し凹みがあるが、目立ちはしない。

 

気にするなと言われるレベルの凹みだ。

 

それでも棒を細かく確認する。

 

傷、凹み、ひびなどの異常がないか。

 

一通り確認が終わった。

 

大きな異常はなかった。

 

後は手入れをするだけだ。

 

明石に教えられたやり方で手入れする。

 

特殊なクリームを使って塗っていく。

 

小一時間ほどそうやって手入れをした。

 

終わった後に明石と話をする。

 

今回使ったマイクの性能と

瑞鶴への影響のデータだ。

 

瑞鶴が寝ている間にバイタルチェックを

して体への影響を調べたらしい。

 

結果はクリア、影響なしだった。

 

脳へのダメージが心配されたが

些細な影響も出なかったそうだ。

 

このマイクは私が大本営に行くと同時に

大本営の明石の元へ送られるらしい。

 

大本営でも色々と実験するそうだ。

 

そのためマイクとはしばらくお別れ。

 

いつかまた使えることを願おう。

 

それだけ願い、私は工廠から出た。

 

部屋に戻る途中、ふと空を見る。

 

目を奪われる程の綺麗な満天の星空。

 

吸い込まれそうなほど綺麗だった。

 

その空に手が届きそうだと錯覚させる。

 

そんな不思議な星空だった。

 

この星たちは私に対して

何かを教えてくれているのだろうか?

 

いいことだと良いな。

 

そんなことを思いながら部屋に戻る。

 

今日はいつもと違う感覚のまま寝た。

 

謎の高揚感、ワクワクする気持ちで…。

 

*1
イメージは短髪ヴィクトリアス この鎮守府にはヴィクトリアスはいない




ショートヘア瑞鶴……いいよね。
確認したらTwitterにあったよ。
気になる人は調べてみてね。

次回はついに第一章が完結
次の舞台もお楽しみに。

アンケートはちゃんと
新しくしたので投票を願いします。
終了予定は今月いっぱいです。


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第15話 旅立ちの前に

第一章最終回
楽しんでください。


 

あれからいろいろな事があった。

 

ネ音と吹雪の料理で瑞鶴が倒れたり

 

秋雲が同人誌をばら撒いたり*1

 

赤城さんのお代わりが止まらずに

提督のお財布が寂しくなったし

 

提督が食費の書類で徹夜して倒れたり

 

とにかくたくさんのことがあった。

 

そしてそんな楽しい時間は

あっという間に経ってしまった。

 

明日には大本営に行くことになる。

 

今日は荷物の整理……

 

……の予定だったのだが変わった。

 

何故なら霧島さんに呼ばれたからだ。

 

私は言われた場所に向かう。

 

そこには霧島さんと同じ服の人が

3人紅茶を飲んでいた。

 

霧島さんは私に気づき、席に座らせる。

 

私は言われるがまま、席に座った。

 

テーブルにある紅茶とお茶菓子。

 

霧島さんに出されたものと同じだった。

 

でも、紅茶の味に少し違いがある。

 

紅茶自体は全く同じものだ。

 

聞いてみるとこれを入れたのは

一番上のお姉さんらしい。

 

そのお姉さんは私の対面に座っていた。

 

名前は「金剛」さん。

 

金剛型高速戦艦のネームシップだ。

 

英国で生まれたから(なま)りがあるらしくて

英語が抜けきってないのだとか。

 

そんなお姉さんだが、

私にとっては命の恩人だ。

 

ここに来た時に私を攻撃した艦娘たちを

制止してくれたひとだ。

 

その時の話で場が湧いた。

 

妹の「比叡」さんと「榛名」さんも

興味津々で話を聞いた。

 

当時は出撃していなかったため、

金剛さんの活躍を見れていないからだ。

 

私は基地に付く少し前のことを話す。

 

夕張と吹雪を護衛してきたこと。

 

付く前にここと違う艦娘に

攻撃を受けたこと。

 

その攻撃で瀕死になったこと。

 

金剛さんの制止で助かったこと。

 

それを話すと2人は

目をキラキラさせていた。

 

比叡さんに関しては

「さすが金剛お姉さまです!」

と言っていた。

 

霧島さんも頷いていた。

 

どうやらこの姉妹はお姉さんが

神格化しているようだ。

 

ネ音や吹雪が私に向けるものと

同じものを此処で感じた。

 

 

 

長いお話しがようやく終わった。

 

あれから昼過ぎまで金剛型の良さと

金剛さんの素晴らしさを聞かされた。

 

一歩間違えれば宗教だよ、あれは…。

 

とにかく部屋に戻って荷物の整理……

 

……をしようとすると呼ばれた。

 

今度は加賀さんに呼ばれた。

 

どこに行くのだろうと思ったら

弓道場に連れてこられた。

 

そこには空母が勢揃い。

 

海外鑑も数人いた。

 

何故呼ばれたのかと言うと

私の弓の腕を見たいのだとか。

 

理由はこの前の事だろうな……。

 

瑞鶴のことを聞く前のやつ。*2

 

それで私の名前が挙がったらしい。

 

私は強引にやらされた。

 

でもやるときは真剣にやる。

 

私は弓と矢を受け取り集中する。

 

構えを取り、撃つ準備する。

 

さらに深く集中する。

 

周りの音は一つも聞こえなくなる。

 

風の音も、みんなの声も、世界の音も。

 

自分の鼓動の音でさえ聞こえなくなる。

 

そのまま的を目掛け……射る。

 

矢は的の中央に突き刺さる。

 

私はゆっくり構えを解く。

 

一度目を瞑り、目を開く。

 

すると後ろから皆の声が聞こえる。

 

皆からは絶賛の声が上がる。

 

加賀さんも納得してくれたようだ。

 

これで私は部屋に戻れる……

 

……と思っていたかった。

 

この前と同じように

教えてほしいと言われた。

 

また私は教えることになった。

 

教えると言っても難しいことではない。

 

構えから撃つまでの集中力。

 

これを教えるだけだ。

 

……意外とできない人が多い。

 

私の家ではこれが普通だったのだが、

違うのだろうか?

 

この前教えたメンバーの構えが

良くなったのは分かる。

 

加賀さんや赤城さんは元がいいから

私が教えることの方が失礼だと思う。

 

海外鑑は撃ち方が違うため仕方ない。

 

瑞鶴は……癖があって一番ひどい。

 

私は殆ど瑞鶴に付きっきりになった。

 

だが、それによって瑞鶴の構えは

前より一段と良くなった。

 

センスがあるのだろう。

 

ようやく全員に教え終わり、

時間を見るともう夕方である。

 

今度こそ部屋に戻ろう……

 

……と思っていたのに…………。

 

そのまま空母の人たちに連行された。

 

連行されたのは私の部屋の

横にある大きな部屋。

 

普段は使われていないこの部屋。

 

ここの全員が入る大きさだが

一体何があるのだろうか?

 

私は不安になりながら扉を開ける。

 

すると部屋から「「パンッ」」

と言う音が響く。

 

そこには基地のみんながいた。

 

キューちゃんたちもネ音も大福たちも

 

皆、クラッカー持っていた。

 

後ろには沢山の食事が置かれていた。

 

どうやら私へのサプライズらしい。

 

後ろの幕に「お別れ会」と書いてある。

 

私を部屋に戻さなかったのは

これをバレないようにしていたから。

 

ここでようやく納得がいった。

 

無駄に長く拘束されたのは

これが理由だったのだ。

 

しかし、このサプライズは嬉しい。

 

今まであまりされたことがなかったから。

 

そう思っていると夕張がやってきて

私に何かを掛ける。

 

タスキのようなものに

「本日の主役」と書かれていた。

 

そのまま私はステージに連れていかれ、

乾杯の音頭を取らされた。

 

しばらく何を言うか悩む。

 

しばらく悩んだ結果、

私はここにきてからのことを語る。

 

楽しかったこと、辛かったこと。

 

大変だったこと、嬉しかったこと。

 

此処での生活の事などを語った。

 

そしてここでの生活が楽しくて

とても幸せだったこと。

 

だから必ず戻ってくることを誓って、

私は乾杯の音頭を取る。

 

「乾杯!」

「「「乾杯!!」」」

 

 

 

今日はここにきて

一番幸せな時間だと思う。

 

皆が笑って、楽しんで、喜ぶ。

 

私が望む平和な光景。

 

将来はここに他の子もいて

人が、深海棲艦が揃って楽しむ。

 

そんな光景を想像した。

 

その光景のために頑張ろうと思えた。

 

そのため私はお別れ会を楽しめた。

 

そして、最後に私は歌うことにした。

 

何を歌おうか?

 

……よし、決めた。

 

この世界に対しての歌を歌う。

 

あの曲やそれに関する曲は

調べても出てこなかった。

 

つまりこの曲は知らないのだろう。

 

だから私はこの歌を歌う。

 

 

 

前に進むための歌。

 

悲しみと海を越えるための歌。

 

忘れないための歌。

 

還るための歌。

 

今を乗り越え、未来へと抜錨する歌。

 

皆に伝える最高の歌を。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「それで……いいのかい?」

 

提督が私に聞く。

 

私は大丈夫だと言った。

 

昨日のお別れ会で

すでに決めていたから。

 

提督はそれを承諾した。

 

それじゃあ、向かおうか。

 

私たちは工廠で待っている

大本営の船に向かう。

 

……と一緒に…………。

 

 

 

*1
前に書いたものとは別の物。だが歌音がモデル

*2
第7話の会話




第一章、計15話
無事に完結いたしました。

最後はあの歌で締めたかったので
歌ってもらいました。

一応歌詞を使っているので
楽曲コードを入れてます。

次は第二章に移ります。
出すのは来月となります。
誰が同伴するかは皆さん次第です。


ちなみに今まで出してきた日付
なぜあの日付にしたのかは
ちゃんとした理由があります。
分かる人にはわかるあの日ですよ。

皆さんは分かったかな?


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第二章 大本営編 
第1話 初めての大本営


第二章突入なのです。


 

今私は船の上にいる。

 

生活してきた基地を離れて、

本土にある大本営に向かっているのだ。

 

大本営とは軍をまとめているところ。

 

簡単に言えば一番上の人がいるところ。

 

日本にはいくつかの大本営がある。

 

今回はそのトップ、横須賀の大本営だ。

 

そんなところに私は向かっている。

 

服装は元の空母ヲ級。

 

あの帽子をかぶり、マントを付ける。

 

杖も一応持っていく。

 

この格好でないといつもの私服では

ヲ級だと思われないからだ。

 

本当はすぐにでも着替えたい……。

 

着いてからは着替えていいらしいので

それまで我慢することにした。

 

護衛として吹雪、夕張、金剛さん、

夕立、瑞鶴、翔鶴が同行している。

 

皆と話しながら大本営に向かう。

 

それと悩んでいた私と一緒に生活する

同行者はネ音にした。

 

残りのメンバーには申し訳ないが

基地のみんなと生活してもらう。

 

いずれ戻ると言っているので

分かってくれているだろう。

 

少し心配ではあるが、大丈夫だろう。

 

そんなことを考えながら

到着までの時間を潰していた。

 

 

 

遂に大本営に到着した

 

待っていたのは複数の憲兵と艦娘。

 

深海棲艦であるが故の警備だ。

 

まだ信用されていないから仕方がない。

 

一先ず彼女たちに従う。

 

でも、その前に皆との別れだ。

 

此処で補給したら基地に戻るらしい。

 

それまでは休憩だそうだ。

 

そのため吹雪が

真っ先に抱き着いてくる。

 

……ここ、皆の前なのだけれど……。

 

吹雪は関係ないと言わんばかりに

私を掴んで離さない。

 

だから私は頭を優しく撫でる。

 

しばらく撫でると、吹雪は手を放す。

 

私から離れて涙を流しながら

敬礼をした。

 

だから私も敬礼で返す。

 

もちろん笑顔で。

 

吹雪も笑顔になる。

 

夕張達も私に敬礼した。

 

私もみんなに敬礼した。

 

終わった後、私は憲兵に呼ばれたため、

皆に別れを告げる。

 

皆は私が建物に入るまで

ずっと敬礼を続けていた。

 

 

 

私は憲兵について行く。

 

ネ音は私の後ろにしっかりついてくる。

 

しばらく歩くと大きな扉の前に着いた。

 

憲兵がノックして入室の許可を取る。

 

それについて私たちも入る。

 

そこには大きな女性がいた。

 

白を基調とした赤白の服に

長門さんと同じ紋章があった。

 

十二単のように長い服。

 

長い髪と大きい…………。

 

とにかくすごい人がいた。

 

憲兵さんが退室してすぐ

ソファーに座らされる。

 

慣れた手つきで飲み物を淹れ

私たちの前に出した。

 

 

 

今日会う予定の人は席を外してそうだ。

 

それまでお互いに話すことになった。

 

彼女の名前は大和。

 

分からない人はいないだろう。

 

かの有名な戦艦、大和型の1番艦だ。

 

ここのトップ、つまり「元帥」の艦娘で

提督の補佐をしているらしい。

 

この大本営にいる艦娘のほとんどが

元帥の艦娘だそうだ。

 

そこからいくつか話をした。

 

今までの生活、出会いと別れ。

 

私たちの出会いや大和の出会い。

 

お互いのことを話し合った。

 

しばらく話をしていると扉が開く。

 

入ってきたのは勲章が沢山付いている

白い軍服に身を包んだ“女性”だった。

 

女性と言うには少し小さいが……。

 

大和はその女性に

「おかえりなさい、元帥。いや、提督」

と言った。

 

……イメージと違った。

 

軍のトップだからもっと怖い人か

おじいちゃんみたいな人だと……。

 

まさか女性だとは思わなかった。

 

驚いていると女性から書類を渡される。

 

内容はここでの規則と時間。

 

これからの予定が載っていた。

 

色々とやることは多そうだ。

 

それと此処の地図を受け取った。

 

私たちを受け入れる準備は

既にできていたようだ。

 

私の日課のことも把握しているようだ。

 

歌っていい場所に印がある。

 

5か所ぐらいあって驚いている。

 

1つは建物内にあった。

 

明日以降確認しよう。

 

この地図には他の印もあった。

 

私たちの部屋の位置も記されている。

 

今までと一緒で相部屋だ。

 

ネ音はとても喜んでいた。

 

その様子をみんな笑顔で見ていた。

 

嬉しそうな顔を見た後、

改めて今後の予定を確認する。

 

今日はもう何もなく空白になっていた。

 

まだ昼食にするにも早い時間である。

 

そのため元帥の提案で大和に

大本営を案内してもらうことになった。

 

私たちは大和について行く。

 

最初に向かったのは大本営の施設だ。

 

トレーニングルームや図書館、資料室。

 

艦娘たちの教室や入渠とは別の大浴場。

 

実験室や会議室、宿泊用の部屋など。

 

様々な施設を見て回った。

 

その際自分たちの部屋も見た。

 

部屋は基地と同じようにしてくれた。

 

畳張りの部屋で家具の配置も同じ。

 

完全に再現してくれていた。

 

見慣れた光景で私たちは喜んだ。

 

ついでに私服に着替えてきた。

 

そんな感じで施設を回り、

私たちは食堂に着いた。

 

基地とは比べ物にならない大きな食堂。

 

料理を作っているのは

鳳翔さんや間宮さんではなく人。

 

いろんな人料理を作っていた。

 

いい匂いが漂う食堂。

 

我慢できず、3人のお腹が鳴る。

 

お互いが笑い合って食事をした。

 

各々が満足するまで食べた後、

しばらく談話をして食堂を出た。

 

 

 

施設案内の続きで外に出た。

 

外に出てすぐに見えるのはグラウンド。

 

憲兵たちが訓練していた。

 

艦娘たちはその奥の海で演習。

 

基地ではあまり見られなかった

迫力のある演習を見ることができた。

 

他にもいくつにも分かれた工廠や

弓道場、射撃場、鍛錬場などを見た。

 

流石、この国の大本営のトップだ。

 

艦娘も人も動きが全然違う。

 

施設の規模も何もかもが別格だ。

 

そう思っていると違う光景が見えた。

 

艦娘たちが鍛錬をしていた。

 

しかし、キレもなく動きも鈍い。

 

ここの艦娘、基地のみんなよりも。

 

何故だろうと思っていたら

大和が彼女たちについて教えてくれた。

 

彼女たちは研修生。

 

他の鎮守府から決まった時期に

ここにきて学んでいるらしい。

 

教室にいた艦娘もその一部だそうだ。

 

まだ前線を経験していない

卵たちだと大和は言った。

 

いずれこの子たちと関わるだろう。

 

なぜか、そんな気がした。

 

 

 

一通りの施設を見て回った。

 

私たちは大和に別れて自室に戻る。

 

基地にある部屋を再現された自室。

 

場所は違っても同じ光景。

 

私もネ音もとても落ち着いた。

 

しばらくゆっくりして、荷解きをする。

 

そこまで大きな荷物はない。

 

そのため荷解きは直ぐに終わった。

 

その後、少しして大和が迎えに来た。

 

一緒に大浴場で汗を流す。

 

大和は髪が長くて洗うのが大変だった。

 

ネ音と2人で洗っていたけど、

他の子たちにも手伝ってもらった。

 

拭くのも乾かすのも一苦労だった。

 

私もあまり人のこと言えないけど……。

 

部屋着は自由だが、私は浴衣を着る。

 

私服が全然ないのだ。

 

ネ音に関しては私服が一着もない。

 

体の検査の時に頼んでおこう。

 

そう思いながら食堂に向かう。

 

食堂では色々もてなされた。

 

提督から説明もあり、受け入れられた。

 

いくつか視線も感じるが今はスルー。

 

2人でしっかりもてなされた。

 

 

 

長い時間食堂にいたため、

部屋に戻ったのは23:00頃。

 

私は布団を出して寝る準備をする。

 

ネ音も疲れているのか眠そうだ。

 

私は布団に入り、ネ音を呼ぶ。

 

ネ音はそのまま布団に入ってくる。

 

そしてすぐに寝息をたてた。

 

私もネ音の頭を撫でながら目を閉じる。

 

新しい場所での新しい生活。

 

基地に最初に着いた時と同じ気持ち。

 

その気持ちで私は最初の眠りについた。

 




元帥のとこの大和は改二or改二重
この世界最強クラスである。

元帥は身長のせいで若く見られる。
しかし、かなりの年の女性。


護衛として付き添った瑞鶴は
髪がミディアムぐらいまで伸びた。


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第2話 大本営会議

 

私はいつもの時間に目を覚ます。

 

総員起こしの約1時間前。

 

ネ音は私の腕の中で寝ていた。

 

私は起こさないように手を放す。

 

枕をネ音の横にして身代わりにする。

 

そっと布団から出て私服を着る。

 

いつもの私服を着て、私は外に出る。

 

行先は私の歌うところ。

 

地図に記された5か所の内の1つだ。

 

中央にある音楽室

 

下にある海辺

 

上にある屋上

 

右にある灯台

 

左にある石碑

 

この中から一つ選ぶ。

 

今日はいつものように海辺にした。

 

他のところに行くことも考えた。

 

見たことない景色を見る。

 

そうすれば違う言葉が浮かぶ。

 

しかし、今日は海辺にした。

 

基地とは違う空気、波、自然……。

 

それだけで全く違う歌ができる。

 

だから今日はここにしたのだ。

 

基地で見るときとは違った日の出。

 

少しうるさい波の音。

 

朝の鍛錬をしている艦娘。

 

基地とは違う景色を歌にする。

 

歌うときは優しく響かせる。

 

皆を起こさないように、優しく……。

 

浮かぶ言葉を整えて歌にしていった…。

 

 

 

気づけばかなり明るくなっていた。

 

相変わらず気づかなかった。

 

そろそろ戻ろう。

 

そう考えていると放送が鳴った。

 

放送から流れる声は聞き覚えがある。

 

やさしい静かな声。

 

那珂ちゃんのお姉さん、神通さんだ。

 

だが、基地の神通さんと少し違う。

 

言葉一つ一つに芯がある。

 

静かではっきりとした声だった。

 

大本営とだけあって、

どこかに違いがあるのだろう。

 

そう思いながら私は部屋に戻った。

 

部屋に戻るとネ音は起きていた。

 

だが、相変わらず眠たそうだ。

 

私が近づくと手を前に出す。

 

私を求めている、甘えたい合図だ。

 

私はそのまま抱きしめる。

 

ネ音は嬉しそうに顔で擦る。

 

右上の硬いのが当たらないように。

 

しばらくこの時間を過ごしたいが、

今日はそうもいかないのだ。

 

今日の予定は会議への出席。

 

今日行われる大本営の会議に

2人ともでなければならない。

 

私たちの認知と大本営の考えを

提督全員に伝えるためだ。

 

そのため、今日は正装。

 

艤装は工廠に預けるが、

姿はヲ級に戻さないといけない。

 

これからこういうのは多いだろう。

 

でも、我慢するしかないのだ。

 

制服だと思って我慢することにした。

 

それと、いくつかは誤魔化す予定だ。

 

佐世保の提督には詳しく

知られてはならないから。

 

何とか無事に終わること。

 

今の私にはそう願うしかなかった。

 

 

 

今、私はネ音と一緒に待機している。

 

場所は会議室のすぐ隣。

 

控室のようなところで座っている。

 

姿はちゃんとヲ級。

 

ここに来る時と同じ格好だ。

 

その状態で呼ばれるまで待つ。

 

聞こえてくる足音と椅子を引く音。

 

ネ音は不安なのか震えていた。

 

だから、優しく撫でる。

 

呼ばれるまでひたすら撫でた。

 

しばらくして、扉が開いた。

 

開けたのは大和。

 

真剣な顔だが優しい声で

「行きましょう」と言った。

 

私は覚悟を決めて立ち上がる。

 

ネ音も震えながらだが、

私のマントを掴んで立つ。

 

そして、大和の後について

会議室に入った。

 

会議室には多くの提督がいた。

 

机の並びは真ん中を囲うように

のような形になっている。

 

開いている方には元帥の机。

 

その後ろにはスクリーンがある。

 

そこに入ると驚愕の声が上がる。

 

当然の反応である。

 

しかし、すぐに元帥が黙らせた。

 

私が脅威でないこと。

 

方向性は違っても目標は同じだと。

 

そう提督たちに伝えた。

 

それでも納得できないのか

ざわざわとしてしまう。

 

すると元帥がある人に話を振る。

 

その人は立ち上がり前に出てくる。

 

基地の提督さんだ。

 

こっちに笑顔を見せた後、

同伴していた加賀と前に出る。

 

そして説明を始めた。

 

話は鎮守府襲撃からここに来るまで。

 

私のしたこと、艦娘、妖精の情報を

まとめた資料を配布した。

 

その資料は私の印象を良くした。

 

特に夕張と吹雪の証言が大きかった。

 

2人を助けたのは好印象だった。

 

基地に着く前の襲撃で反撃しなかった

ことも印象が良かったようだ。

 

それでもまだ納得しない人もいる。

 

「脅されている」、「命令だろ」など。

 

その内の一人は佐世保の提督だった。

 

元帥が静かにするように名前を呼び、

要注意人物であることが分かった。

 

ネ音は声に驚いてずっと震えている。

 

私は落ち着くように宥める。

 

そして、元帥は再び黙らせる。

 

威厳と言うものだろうか。

 

たった一言で黙らせた。

 

また場が静かになった。

 

すると基地提督はある動画を流した。

 

どんなのだ……ろ…………。

 

私は固まった…………。

 

映ったのは私の姿……。

 

それも泣いている時の奴……。

 

私は顔を真っ赤にする。

 

元帥は笑いをこらえ、

提督は申し訳なさそうにする。

 

こんな大人たちの前で見せないで!

 

私は心の底から叫んだ。

 

しかし私の思いは届かない。

 

動画が終わると映るのは私とネ音。

 

基地での生活の写真が映し出される。

 

どれもこれも恥ずかしいのだが……。

 

何とか信頼を得ることができたようだ。

 

ネ音も落ち着き、部屋から退出。

 

会議が終わるまで横の部屋で

待機することになった。

 

先ほどの部屋と違い、

部屋が繋がっていない。

 

その部屋で会議が終わるのを待つ。

 

この後、基地提督が顔を出すと

部屋を出る前に元帥から聞いた。

 

だから、言いたいことをまとめておく。

 

言いたいのはもちろん写真の事。

 

犯人は分かっているので

帰ったらお説教してもらう。

 

あの動画の後に移った写真。

 

その中に見覚えのある写真があった。

 

それは巻雲との写真。

 

2人で一緒に寝ている写真だ。

 

明らかにアングルが部屋の

隙間から撮られたものだった。

 

そして、その翌日に新聞に載った。

 

つまり、この写真の提供者は

青葉ということになる。

 

その他諸々の提供も青葉だろう。

 

提督の判断だろうが、提供する写真は

少し考えてほしかった。

 

だから、提督に頼むのだ。

 

いかに青葉を同じ目にあわそうかと。

 

そんなことを考えながら

会議が終わるまでゆっくりした。

 

 




写真は色々
ネ音と吹雪のエプロン姿や
歌音のメイド姿など





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第3話 本格的な検査

会議室退出後の話


 

会議室の横の部屋で待機中の私とネ音。

 

しばらくして部屋の外が騒がしくなる。

 

会議が終わったのだろう。

 

そう思っていると扉が開いた。

 

入ってきたのは元帥。

 

その後ろに基地提督と加賀さんがいた。

 

ちゃんと話すのは昨日ぶりだ。

 

この後の予定まで時間があるため、

提督が帰るまで話をした。

 

まず、今回のことで私は一部を除いて

提督と艦娘たちに認められたそうだ。

 

私とネ音の喜怒哀楽の写真。

 

深海棲艦とは違う人間らしい表情。

 

基地での楽しそうな写真。

 

これが決め手となったようだ。

 

今後の動きがしやすくなった。

 

次に写真の事。

 

提供はやはり青葉だった。

 

いくつかは隠し撮りらしい。

 

実はあの写真以外に沢山あったそうだ。

 

今回出したのは健全なもの。

 

アウトな写真が多く、消したらしい。

 

そのまま出せば危なかったようだ。

 

私のこれからに関わるレベルで

ヤバいものらしい。

 

そのため、帰ったら青葉に

制裁が下されるそうだ。

 

制裁するのは吹雪らしい。

 

…………青葉………ご愁傷様。

 

そう心で思った。

 

ガッツポーズも心の中でやった。

 

最後に佐世保について聞いた。

 

提督は提督で情報を集めていたようだ。

 

だが、有益な情報は得られなかった。

 

どれもうまくかわされたらしい。

 

憲兵が見に行っても問題無し。

 

とにかく情報が出てこなかった。

 

そのため、佐世保に乗り込むには

まだまだ時間がかかりそうだ。

 

話しは以上だった。

 

丁度基地へ戻る準備も終わったため、

提督は基地に戻っていった。

 

私は姿が見えなくなるまで見送った。

 

 

 

提督が戻り、私は工廠に来ていた。

 

目の前には白衣で白手袋を付けた明石。

 

これから行うのは身体検査。

 

そう…………私が嫌いな奴だ。

 

特に明石に対して警戒が高まる。

 

だが、その警戒は直ぐに杞憂となった。

 

この明石……とても親切なのだ。

 

一つ一つの行動で私に承諾を得る。

 

しかし、どの行動も丁寧で的確。

 

そのため、すぐに身体検査が終わった。

 

身長が180、視力は10以上。

 

骨も血管も人とほとんど同じ。

 

違うのは胃袋より下、腸から違う。

 

腸ではない何か。

 

明石曰、エネルギーに変換する何か。

 

ネ音の身体にも同じものがあった。

 

今は特に問題はないが、

後々詳しく調べる必要がありそうだ。

 

他もほとんど人と同じだった。

 

私に「あれ」がないのは前の検査で

発覚したが、今回で理由が分かった。

 

排泄するものがないのである。

 

全てがエネルギーになるから。

 

自分の身体をもっと知るべきだろう。

 

私はそう思った。

 

検査が終わり、暇になった。

 

予定よりとても早く終わったのだ。

 

昼食は明石に出された軽食で済ませた。

 

そのため、暇で仕方ないのだ。

 

時間も昼まで1時間ほどある。

 

これからどうしようか悩んだ結果、

地図に記された場所に行くことにした。

 

ヲ級としての服は工廠に置いて

私は私服に着替える。

 

その際、私とネ音の私服について

明石に相談した。

 

すると明石はどこかに電話をする。

 

微かに聞こえたのは元帥の声。

 

どうやら相談してくれたようだ。

 

明石は電話を終えてこちらを向く。

 

そして笑顔で親指を上に立てる。

 

すぐに手配してくれるようだ。

 

遅くても明日には届くらしい。

 

私は明石に感謝して

ネ音と一緒に工廠を後にした。

 

 

 

私は今、灯台に向かっている。

 

理由は工廠から近いからだ。

 

鎮守府を上、海を下にしたこの地図。

 

工廠はこの地図の右側にある。

 

灯台はさらに右、地図の端にある。

 

実際に歩いてみるとかなり距離がある。

 

歩くだけで息が上がる。

 

ここに来るだけで疲れてしまう。

 

しかし、ここでは心地の良い風が

私たちを迎えてくれた。

 

眺めもいい。

 

高い位置にあるため、鎮守府が見える。

 

反対側にある石碑も視認で来た。

 

だが、あまり長居はしたくない。

 

景色は綺麗だが、寒すぎる。

 

厚着を貰うまでは

ここに来るのはパスしよう。

 

ネ音は……平気みたいだ。

 

私がおかしいのだろうか?

 

そう思いながら、次の場所を目指す。

 

次に目指したのは石碑。

 

灯台から真反対の場所。

 

移動するのに車が欲しいぐらい遠い。

 

その距離を歩いて進む。

 

ついた頃には昼を過ぎていた。

 

太陽が少し傾いている。

 

移動だけで時間がかかった。

 

ゆっくり歩いて、鍛錬中の艦娘を

見ながら歩いていたから仕方ない。

 

とりあえず石碑には着いた。

 

私はその石碑を見渡す。

 

石碑は1つや2つではない。

 

沖縄にある石碑のように並んでいた。

 

私たちは近くの石碑から見ていく。

 

書かれているのは提督と艦娘の名前。

 

1人の提督と多くの艦娘。

 

それが1つの石碑に書かれている。

 

その石碑がここにはたくさん並ぶ。

 

どの作戦で命を落としたのか。

 

どれだけの戦果を挙げてきたのか。

 

事細かく記されていた。

 

そこから離れたところにあるのは

歴代元帥と秘書艦の名前がある石碑。

 

着任と退任、その理由が書いてある。

 

初代は2013年に着任。

 

今は2035年だから22年前だ。

 

2013年は確か艦これが始まった年……。

 

何か関係があるのだろうか?

 

全ての石碑を一通り見て回った。

 

特殊な名前の人はいない。

 

もしここが艦これの世界なら、

ゲームとの関わりがあるかもしれない。

 

そう考えて確認をした。

 

しかし、どの情報もごく普通だった。

 

私の知っている名前の人もいなかった。

 

特に収穫のないまま、石碑を後にする。

 

次に向かうのは音楽室だ。

 

 

 

綺麗な夕日が見える。

 

風が吹くが心地よい。

 

暁の水平線ではなく

黄昏の水平線とでも呼ぶのだろう。

 

あまり見ることのない景色だった。

 

屋上からの景色に

私もネ音も目を奪われていた。

 

音楽室に向かったのでは?

 

確かに私たちは音楽室に向かった。

 

しかし、先客がいたのだ。

 

音楽室は入退室自由の開放状態。

 

防音の壁でできているため、

夜に使っても迷惑にならない。

 

誰でも使えるのだが…………。

 

私は直ぐに部屋を後にした。

 

…………私の口からは言えない。

 

ただただあの光景を忘れるように

私はボーっとこの水平線を眺める。

 

この黄昏は私を指しているのだろう。

 

ネ音に体を揺らされている事にも

気づかないほど…………。

 

夕日が沈んでからも

ボーっと過ごしていた。

 

ただ、あの光景を忘れようと……。

 

気づけば着替えていたし、

布団の中に入っていた。

 

あのときから記憶がほとんどない。

 

私は中々寝付けないまま翌朝を迎えた。

 




歌音が何を見たのかは後々……。
早くて次回かな?



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第4話 揺らぐ心

今回は昨日見ていたものが分かります。


 

私は今横になっている。

 

今日は私の戦闘能力の確認…

をする予定だった。

 

しかし、明石に止められた。

 

理由は大きな隈と私の動きだ。

 

真っすぐ立てず、フラフラしている私。

 

工廠までネ音に支えてもらっていた。

 

そんな私を見た明石の行動は早かった。

 

明石は直ぐに私の体を縛りつけた。

 

私は抵抗する間もなく紐で縛られる。

 

そのまま工廠の奥の部屋へ。

 

そこのベッドに運ばれ、寝かされた。

 

ベッドにも固定され、体を動かせない。

 

その間、明石は一度部屋を出た。

 

しばらくして明石が戻ってきた。

 

その手には何かを持っていた。

 

瓶のようなものだ。

 

気になっているとそれを飲まされる。

 

いきなり口に入れられ、驚いた私は

瓶の中身を飲み込んだ。

 

…………にがい…………。

 

とても苦いし、マズすぎる。

 

次第に気分が悪くなる。

 

私は吐き気と倦怠感(けんたいかん)に襲われた。

 

段々と瞼も…重…なる。

 

いった…、…にを……。

 

いし…がうす……。

 

 

 

私は目を開ける。

 

そこには真っ白な世界が広がっていた。

 

周りに何もない真っ白な空間。

 

雪と灰のようなものが降る空間。

 

見たことのない空間に私は戸惑う。

 

何故こうなっているのか……。

 

私は不安に駆られる。

 

すると、この空間に声が響いた。

 

加賀さんではない声。

 

この空間にいられるもう一人の声。

 

そう、エラー娘の声だ。

 

エラー娘は現状を話してくれた。

 

ここがいつもの心の世界である事。

 

私の心が無に近い状態である事。

 

加賀さんは無事である事。

 

しばらくここから出られないこと。

 

とりあえず、今の情報を整理する。

 

まず、ここが心の世界である事。

 

確かにここはいつもの景色ではない。

 

あの綺麗な海も赤く染まった空も無い。

 

これは私の心が無に近い状態に

なっていることが原因らしい。

 

前に加賀さんの姿や

景色が違っていたのと同じ理由だ。

 

無であることは何も無い状態。

 

景色が無いのはこれが理由だ。

 

つまり加賀さんにも影響がでた。

 

加賀さんの存在も同じように

無になり、無くなるところだった。

 

今はエラー娘が保護しているため、

加賀さんは無事であるらしい。

 

このことは感謝したい。

 

この景色も次第に治るだろう。

 

雪や灰のようなものは

私の心が無ではない証拠なのだとか。

 

それでも危ないことには変わりない。

 

加賀さんと会うのは

しばらく後になりそうだ。

 

最後にしばらくここから出られない事。

 

これは明石が私に飲ませた薬。

 

あの瓶の中身が原因らしい。

 

あれは艦娘用の睡眠薬だと言う。

 

効果が強く、普通の人間であれば

しばらく目覚めないらしい。

 

その薬のせいで私は夕方まで

ずっとここにいるらしい。

 

ただ、この空間は現実と

時間の経ち方が違うらしい。

 

いつもここにいる時間より

少し長いぐらいだと言われた。

 

だから私はしばらく待つことにした。

 

 

 

時間が経ち、エラー娘の声が聞こえた。

 

そろそろ戻る時間だと言う。

 

すると、すぐに体が光りだした。

 

いつもと同じように戻るのだろう。

 

「ア、イイワスレテタ。」

 

突然、そんなことを言うエラー娘。

 

こんなギリギリで一体何を……。

 

「カガハ、モウ、カクゴシテルゾ。」

 

その言葉だけ聞こえた。

 

私はその言葉に困惑する。

 

加賀さんの覚悟……。

 

その詳細を知りたかった。

 

しかし、声を上げられなかった。

 

声を出す間がなかったのだ。

 

私は直ぐに光に包まれてしまったから。

 

 

 

私は目を開く。

 

工廠に入る光は紅く染まっていた。

 

本当に夕方になっていた。

 

倦怠感と吐き気はない。

 

体を縛っていた物はなく、

ただただベッドに寝ていた。

 

辺りを見渡すが何もない。

 

珍しくネ音もいなかった。

 

部屋に響く壁掛け時計の音。

 

「チクタク」と時を刻んでいた。

 

短針は5と6の間を指していた。

 

長針は4を指していた。

 

つまり、「17:20」

 

朝9時ぐらいから寝ているから

8時間ぐらいは寝ている。

 

静かな部屋に響く針の音。

 

その音を聞いていると急に扉が開いた。

 

入ってきたのは明石。

 

片手にはバインダーだろうか?

 

そこの紙に何かを書いていた。

 

そしてそのまま私のそばに来る。

 

そのままベッド近くの椅子に座る。

 

一言目は普通に「おはよう」だった。

 

私もおはようと返す。

 

普通の挨拶を交わした私達。

 

そこから私の身体について話をした。

 

完全な寝不足だと紙に書いてあった。

 

……うん、忘れたい。

 

明石はそのことについて聞いてくる。

 

何が原因で寝不足なのか。

 

現況がなんであるかを聞きたいそうだ。

 

私は思い出したくないことを思い出す。

 

そして、決意をして話した。

 

昨日、音楽室で見たあの景色。

 

那珂ちゃんが音楽室で歌っていた。

 

音楽室で手作りのステージの上で。

 

それはいい、それだけならよかった。

 

問題はそれを見ていた観客の方。

 

白い髪の駆逐艦ぐらいの女の子。

 

加賀さんより短いサイドテール。

 

ペンライトを持って振っていた。

 

それだけならよかった。

 

その周りにある数十体のカボチャ。

 

それ全てに「お冬さん」と言っていた。

 

ハイライトのない目でそれを見ていた。

 

その景色を思い出した。

 

それだけでもぞっとする。

 

一気に体が震える。

 

あの吸い込まれそうな目の奥底。

 

何もかも飲み込みそうな闇。

 

それが恐ろしくてたまらなかった。

 

気づけば私は明石の手を掴んでいた。

 

震えた手で明石の手を握っていた。

 

明石は開いている手で私の手を掴む。

 

やさしく、重ねるように。

 

しばらくこの状態が続いた。

 

そのおかげで私の震えは止まっていた。

 

私は明石の手を放してお礼を言う。

 

明石は「どういたしまして」と言う。

 

明石は書類を机に置くと部屋を後にした。

 

また戻ってくるのだろう。

 

そう思っているとすぐに扉が開いた。

 

入ってきたのはネ音だった。

 

ネ音は私を見ると飛びついてきた。

 

私はベッドで上半身だけ起こしている状態

であったため、そのまま受け止める。

 

ネ音は私の身体を抱きしめた。

 

我慢していた分を補うように。

 

oh……。

 

ネ音、角が左の横腹に当たっている。

 

痛い痛い!

 

でも、ネ音は私の身体を離さない。

 

何回も頭をグリグリしてくる。

 

また、意識が遠のきそうになった。

 

この後、明石が戻ってくるまで

私はグリグリされ続けた。

 

ネ音は戻ってきた明石の説教を食らい、

私は薬を処方された。

 

精神安定剤と睡眠薬を貰った。

 

本当は使わないことが理想だ。

 

しかし、これからのことも考えると

必要だろうと言う明石の判断だ。

 

今日する予定だった戦闘能力の検査は

明日の朝の状況次第にするそうだ。

 

ネ音は今日の内に終わらせたらしい。

 

私は一通り明石のチェックを受けた後、

ネ音と共に自室に戻った。

 

 

 

いつも通りお風呂に入り、食事をした。

 

しかし、今日は寝る前に外に来ていた。

 

羽織を着て海辺を歩く。

 

いつも見る景色と違う海があった。

 

夜の海をまじまじと見るのは

あの基地で生活する前だったはず。

 

今の生活に慣れたのだろう。

 

私はそう思った。

 

どこまでも続く海に映る月明り。

 

その綺麗な海に見惚れてしまう。

 

その景色を見ながらふと思い出す。

 

エラー娘が最後に言ったあの言葉。

 

加賀さんはもう覚悟している。

 

確かにそう言っていた。

 

覚悟と言うのは間違いなく佐世保の事。

 

加賀さんが成仏するか、

私が死んで加賀さんが蘇るか。

 

加賀さんの覚悟は成仏することだろう。

 

この場合、私がどうなるか分からない。

 

元々加賀さんの身体なのだから、

私の存在も危うくなるだろう。

 

だから私は覚悟ができないでいる。

 

どうしても私も死ぬのではないかと

つい考えてしまう。

 

なかなか決まらない思いのまま、

私は自室に戻ることにした。

 

佐世保に行く前に覚悟を決める。

 

長いようで短い時間だ。

 

私は加賀さんの覚悟を聞いても

心が揺らいでいる。

 

もう一度面と向かって話したい。

 

そんな事を夜空に願う。

 

ただただ夜空に願い、部屋に戻った。

 




一体何月さんなんですかね?


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第5話 海上演習

 

今日は普通に目が覚めた。

 

薬は飲んでない。

 

あの光景を思い出すこともなかった。

 

時間はいつもと同じ。

 

私は羽織を着て屋上に向かった。

 

屋上からの景色は綺麗だった。

 

ちゃんと見られなかった。

 

と言うより覚えていないこの景色。

 

いつもと違う高さからの景色。

 

いつもより早く見える光の水平線。

 

見たことがあるようで無い景色。

 

その光景を見て私は口を開く。

 

いつものように思い浮かぶ歌詞。

 

でも、いつもと違う言葉が浮かぶ。

 

いつも以上に清々しい。

 

そんな気持ちで私は歌を続けた。

 

 

 

部屋に戻った私はネ音を起こす。

 

食堂で食事を済ませ、工廠に向かった。

 

工廠では明石が待っていた。

 

今日は私の戦闘能力の確認。

 

結果が良ければ憲兵の訓練に参加。

 

佐世保突入までは訓練するそうだ。

 

ネ音は予定をずらして勉強。

 

一般知識の勉強と話せるようになる。

 

この2つが目的らしい。

 

確かに意思疎通ができるのは嬉しい。

 

今はキューちゃんたちのように

仕草や文字での会話だから。

 

文字での会話と言うのは

こっくりさんと同じようなやり方だ。

 

50音のシートの上で言葉にする。

 

今回はこれを話せるようにするそうだ。

 

そのため、今日はネ音と少しお別れ。

 

ネ音には夕張が付き、建物の方へ。

 

私には明石が付き、海へ向かった。

 

 

 

まず行ったのは海上演習。

 

海上での動きと自衛を見たいそうだ。

 

最初は防空、次に戦闘、最後に艦隊で。

 

艦隊で行うのは言うまでもなく連携。

 

仲間との連携は大事だからね。

 

ちゃんとできるか不安だけど。

 

私は棒を持って指定位置に移動する。

 

まずは防空演習。

 

空母数人からの攻撃から耐える。

 

これにはいくつかやり方がある。

 

自分を守る、仲間を守る。船を守る。

 

私は武器の都合上、船を守れない。

 

そのため自分と仲間の護衛をする。

 

まずは自分の防空を行う。

 

撃ってくれるのは一航戦、二航戦。

 

陸から四人が一斉に艦載機を放つ。

 

空を覆うようにやってくる艦載機。

 

瑞鶴と戦った時を思い出す。

 

当たり前だがあの時に比べ、数が多い。

 

艦載機からは魚雷、爆装、弾。

 

それが無数に落ちてくる。

 

とりあえず躱せるものは躱す。

 

魚雷は躱し、爆装は棒の先端に当てる。

 

弾は棒を自分の正面で回して弾く。

 

そんな感じで約20分の防空を終えた。

 

服は爆装の煤で汚れたが、怪我はない。

 

ダメージを受けることなく、

次のステップへと進んだ。

 

仲間の護衛も同じように行った。

 

仲間は3人。

 

装甲の状態は元帥のせいで全員中破。

 

その状態からの防空だった。

 

この演習は仲間が1~5人。

 

空襲、砲撃、潜水など様々な戦況、

味方の状態を自由に変更して行う。

 

味方には判定札があり、

それが轟沈になると失敗となる。

 

それなのに元帥が勝手に設定した。

 

仲間は駆逐艦3人。

 

装備はそれぞれに機銃が1機ずつ。

 

直撃すれば大破、轟沈となる状態。

 

そんな状態で先ほどと同じように

約20分の防空を行った。

 

結果から言えば何とかクリアした。

 

途中で1人大破してしまったが、

その子を片手で抱いて防空した。

 

私が小破判定、中破2、大破1。

 

ほぼ無傷、中破3から始まったのだから

上々だと言えるだろう。

 

私は大破の子を抱いたまま、陸に戻る。

 

次の演習まで休憩となったため休む。

 

一緒に演習してくれたこと会話をした。

 

お互いに感想と反省を言いあう。

 

いくつかアドバイスも貰った。

 

あまり経験のない私には嬉しいことだ。

 

赤城さんには「リベンジ」と言われた。

 

よほど悔しかったのだろう。

 

他の空母の人が引っ張っていくまで

ふくれっ面で駄々を捏ねていたから。

 

そんな赤城さんを見送った後、

艦娘が団体で来た。

 

合計で11人。

 

わたしを含めて丁度2艦隊になる。

 

しかも艦種が同じになるように

調整がしっかりとされていた。

 

戦艦1、空母2、駆逐2、特殊1。

 

空母は正規空母と軽空母が1ずつ。

 

私は特殊艦に入るそうだ。

 

戦艦は長門、武蔵。

 

空母は五航戦。

 

軽空母は千歳・千代田姉妹。

 

駆逐は秋月、初月、雷、電の4人

 

特殊艦は日進だ。

 

それぞれが分かれて並ぶ。

 

その結果姉チームと妹チームになった。

 

私は姉チームに入った。

 

開始前に5分間の作戦会議をする。

 

殆ど正面からのぶつかり合いになるが、

私の動きが大事になるだろう。

 

相手側の動きを予想して作戦を立てた。

 

 

 

海に出て一定の距離を開ける。

 

お互いが定位置に着く。

 

明石の合図で艦隊演習が始まった。

 

まずは航空戦。

 

翔鶴と千歳の艦載機が飛んでいく。

 

それと同時に向こうから艦載機が来る。

 

お互いが撃ち落とし、何機かが来る。

 

私は空母2人の前に立って構える。

 

しかし、艦載機は全て落ちていく。

 

隣にいた秋月が全て撃ち落とした。

 

そして、砲撃戦を開始した。

 

長門を先頭に砲撃組が向かっていく。

 

私は空母の護衛のために残った。

 

ここで役に立つのが私の視力。

 

遠くまでよく見えるから

戦況を空母に伝えることができる。

 

だから瑞鶴、千代田の動きが分かる。

 

撃つタイミングをずらしたり、

部隊を分けて攻撃したりしていた。

 

私は直ぐにそのことを報告。

 

2人は息を合わせて対応した。

 

その結果、制空権を取ることができた。

 

そこからは流れるように進んだ。

 

武蔵による反撃で秋月たちが被弾したが

長門の攻撃で大破させた。

 

空母の攻撃も私が弾き、逆に被弾させる。

 

途中から私も攻撃に加わった。

 

直接体には当てず、艤装を弾く。

 

相手を無効化させ、降参させた。

 

雷と電は相打ちに終わった。

 

でも納得は行かなかったらしい。

 

お互いに私が先に倒したと主張。

 

戻っても尚、ずっと言い合っていた。

 

陸に戻り、明石も含めて反省会。

 

今回の私の動きと、全体の話をする。

 

私の動きは立場上申し分なし。

 

役割をしっかりと果たしていた。

 

状況報告についてはもう少し

視野を広げるべきだと言われた。

 

どうやら日進がこっそり水上機を

私たちの後ろに放っていたらしい。

 

空母の2人は気づいていたらしい。

 

私はそれに一切気づかなかった。

 

これが偵察機でなかったらと思うと…。

 

考えただけでもゾッとする。

 

これはしっかり反省しないといけない。

 

そんな感じで反省会が続いた。

 

それぞれの目線からの話もした。

 

そんなこんなで海上演習が終わった。

 

艦隊のみんなは入渠ドックに行った。

 

私は明石と食堂に行く。

 

食事をしつつ、会話をする。

 

その際、なぜ午前中に

海上演習を行ったのかを聞いた。

 

理由は午後の予定が入っているから。

 

昼前から他鎮守府の演習があるらしい。

 

大本営は演習の場としても使われる。

 

遠い位置にある鎮守府同士での演習は

よくこの大本営で行われる。*1

 

そのため、海上演習を先にしたらしい。

 

私はそれに納得した。

 

その後は、さっきの演習の話をした。

 

明石が取ったデータを見ながら、

午後の演習が始まるまでの時間を潰す。

 

この時、私はまだ知らなかった。

 

まさかあの人に会うなんて…………。

 

*1
元帥の視察に行くのが面倒くさいという理由が主な理由である。




一体誰に会うのやら?

大本営の雷と電は負けず嫌い。
他の子と言い合うことが多いが
特に姉妹間では止まらないレベル。

ちなみに演習内容はたまに元帥の
悪戯と気分で変わります。
(バレたら大和から説教)


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第6話 憲兵隊諜報員総まとめ

いくつかセリフ入れてみました。

良さそうなら気分で入れていきます。



食事を終えた私は着替えに行く。

 

明石が用意してくれた服に着替える。

 

用意されていたのは憲兵の服

 

この後の演習のために着替えた。

 

着替え終わり、明石について行く。

 

向かったのは海から離れた

もう一つの広場。

 

そこでは屈強な男たちが

鍛錬をしていた。

 

そう、ここは憲兵隊の訓練場。

 

艦娘が海側、憲兵隊が陸側で

訓練を行っているのだ。

 

私は明石と共に近づく。

 

すると、1人の憲兵が近づいてくる。

 

私たちに敬礼し、挨拶をする。

 

この人はこの憲兵隊の隊長。

 

これから1番お世話になる人だ。

 

私も敬礼して挨拶を返す。

 

挨拶が終わると、集合がかかった。

 

すると、鍛錬中の憲兵たちが集合した。

 

流石、軍人である。

 

目の前に乱れのない列ができた。

 

そこから私の紹介が行われた。

 

客人であり、仲間である。

 

そう言う説明をされた。

 

私はその流れで自己紹介をする。

 

ややこしいところを省いて。

 

憲兵たちは受け入れてくれた。

 

全力で応援してくれるそうだ。

 

私はお礼を言う。

 

全員と熱い握手をして演習を始めた。

 

 

 

演習は憲兵たちと訓練。

 

憲兵たちがしている訓練を私もする。

 

走り込み、筋トレ、組手、etc…。

 

色々やることになった。

 

特に組手は長い時間やっていた。

 

憲兵全員と組手を行った。

 

私は基地でやったときと同じ。

 

手を脱力させて立ったまま。

 

構えはとらない。

 

憲兵は突っ込んでくる。

 

私はただ立ったまま。

 

憲兵が私を掴もうとする。

 

捕まれないように受け流す。

 

何回も何回も受け流していく。

 

次第に相手に疲れが見え始めた。

 

再び相手が掴もうとしてくる。

 

私は受け流し、足を引っかける。

 

憲兵はあっさりとこけた。

 

顔の前に拳を出して終了。

 

私の勝利となった。

 

それを全員分行った。

 

憲兵たちは様々な戦い方をする。

 

武器を使う者、からめ手を使う者、

体術を使う者、私と同じタイプの者。

 

そんな中でも特に隊長は強かった。

 

鍛え抜かれた体から放たれるパンチ。

 

私は受け流したはずだった。

 

しかし、流しきれなかった。

 

一撃が重く、ダメージが手に溜まる。

 

しかも、次の攻撃までが速い。

 

手を休ませる暇がないのだ。

 

だから私はいつもと違うことをした。

 

受け流すのではなく躱す。

 

そして、回し蹴りをした。

 

隊長は反応が遅れて少し飛んでいく。

 

何とか立ったが、すぐに片膝をついた。

 

私はその間に構えを取る。

 

右足を胸の前ぐらいまで上げる。

 

両手はボクシングのように構える。

 

隊長は警戒しているのか動かない。

 

そして、隊長は両手を挙げた。

 

降参の合図だ。

 

私は構えを解いて一息つく。

 

隊長は支えられながらこちらに来た。

 

そして、しっかりと握手をする。

 

お互いの健闘を称えた。

 

やり過ぎたと思ったが、隊長は

それぐらい全力でいいと言った。

 

人間なので流石に怪我をしたのだろう。

 

そのまま隊長は憲兵に連れられ

救護室に向かった。

 

明石もそれについて行く。

 

私はもうやることがない。

 

どうしようかと悩んでいると、

どこからか音がする。

 

拍手をしている音だ。

 

私はその音の方に目を向ける。

 

そこにはある人物がいた。

 

「いい動きだね~。

構えはあの()()だね。」

 

そう言っているのは見覚えのある顔。

 

クセっ毛のある茶色の長髪。

 

黒いリボンで束ねたポニーテール。

 

オリーブ色の瞳をした女性。

 

そう、秋雲だ。

 

周りにいる憲兵は一斉に敬礼した。

 

それだけ上の立場なのだろうか。

 

その疑問を秋雲は察したのだろう。

 

私に自己紹介をしてくれた。

 

「大本営憲兵隊、諜報員総まとめ役の

秋雲さんだよ~。」

 

やはり立場は上の人だった。

 

でも、軍人とは程遠い気の抜けた挨拶。

 

素は艦娘の秋雲と変わらないのだろう。

 

先ほどの構えを当ててきたのだから。

 

その秋雲は私のことをじろじろ見る。

 

何かついているのだろうか?

 

すると、秋雲はこんなことを言った。

 

「いや~、絵よりも美人だね~。

本当にモデルにしたのか怪しいな~。」

 

絵?モデル?どういうこと?

 

私がそれをしたのは基地の秋雲だし、

同人誌は本土の秋雲に販売は任せて…。

 

まさか…⁈

 

「そう、私がその秋雲さんさ~。」

 

………意外な人物にあってしまった。

 

基地の秋雲の代わりをしている人。

 

こんなところにいるとは思わなかった。

 

それからしばらく話を聞いた。

 

素は普通の秋雲と変わらない。

 

どちらかと言うとアウトドア派。

 

アニメやゲームはある程度知っている。

 

頼みなどは借りを返すためにしている。

 

妹扱いは納得いかない。

 

といった話を聞かされた。

 

仕事の話から愚痴に変わっていく。

 

立場的にストレスが溜まるのだろう。

 

彼女の口から愚痴が止まらなかった。

 

 

 

気づけば表の広場まで来ていた。

 

今は広場にいる艦娘は少ない。

 

演習が行われているからだ。

 

秋雲の愚痴を聞きながらそこへ向かう。

 

演習はもう終盤だった。

 

空母2隻、軽巡1隻、駆逐3隻の編成。

 

戦艦4駆逐2の編成が戦っていた。

 

とても異様な光景だった。

 

戦艦の方は無傷、でも駆逐は大破。

 

しかも、その場で力なく倒れていた。

 

戦艦たちは見向きもしない。

 

自分たちの前に倒れているのに。

 

空母の方は1人を除く全員が中破以上。

 

1人の空母が小破で耐えていた。

 

その光景に秋雲の愚痴も止まっていた。

 

だが、私はそのことに気づいていない。

 

見えている光景に違和感を覚えたから。

 

空母側の痛がり方、戦艦側の目。

 

駆逐のダメージがおかしい。

 

目を凝らしてよく見る。

 

戦艦側は気絶、空母側は航行不能。

 

状況から感じるこの違和感……。

 

私は戦艦側から放たれる弾を見る。

 

発射から着弾まで。

 

見た後に私は秋雲に聞く。

 

()()()()()()()()()()()を………。

 

秋雲は形や特徴を教えてくれた。

 

それを聞いて、私はすぐに工廠へ走る。

 

今まで以上の早さで走った。

 

速度を緩めることなく工廠に入る。

 

そして、自分の武器を取って飛び出る。

 

来た時よりも早く、秋雲の元に戻る。

 

全力で戻り、海の方を見る。

 

残っていた空母は炎上していた。

 

随伴艦は全員撤退済み。

 

後は彼女だけ。

 

動けないのかその場でへたり込む。

 

もう戦えない、動くことができない。

 

それなのに砲撃が繰り返される。

 

周りから悲鳴が聞こえる。

 

その彼女に逃げてと叫ぶ声が…。

 

近づきたくても戦艦が邪魔をする。

 

分断されるように砲が放たれる。

 

誰も助けることができない。

 

そして、彼女に砲が向けられる。

 

確実にとどめを刺すために。

 

彼女は絶望していた。

 

もう自分は助からないのだと。

 

涙を流しながら目を瞑った。

 

その瞬間、私は地面を蹴る。

 

空気抵抗を受けない姿勢で。

 

彼女の元へ急ぐ。

 

砲の音が鳴ったのは私が飛び出た後。

 

私は走りながら確信した。

 

放たれているのは実弾であると。

 

私は弾が来る前に彼女の前に出る。

 

そして、放たれた弾を上に弾いた。

 

実弾はそのまま空中で爆発する。

 

それによって生まれる爆風。

 

風にのって流れて消えていく。

 

同時にざわめく声が聞こえる。

 

突然現れた私に対する声だろう。

 

後ろからも疑問の声が聞こえる。

 

空母の子だ。小さいから多分軽空母。

 

「えっ…、誰……?」

 

私はその疑問に答えない。

 

目線を常に戦艦に向ける。

 

戦艦は動かない。

 

機械のように固まっていた。

 

そこに秋雲がやってきた。

 

「瑞鳳は回収しとくから

思いっきりやっちゃってよ。」

 

そう言って私にマイクを渡してきた。

 

そして、秋雲は空母の子を抱える。

 

そのまま彼女の艦隊の方に行った。

 

……あの子、瑞鳳って言うんだ。

 

基地にはいなかったから知らなかった。

 

後でお話ししよう。

 

その前に戦艦をどうにかしないとね。

 

私は久しぶりにマイクを握る。

 

戦いのためにマイクを構えた。

 




出会ったのは秋雲さんでした。

基地の秋雲と違ってあまり絵は描きません。
気が向いたら落書き程度で描くぐらい。

位は秋雲>>>隊長>諜報員=憲兵みたいな感じ

実弾の確信は次回話します。
次回はラップさせる予定。


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第7話 美味しい飴玉

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感謝感激なのです(⌒∇⌒)


 

マイクを構え、戦艦と対峙する。

 

戦艦たちは動きを見せない。

 

否、動けないと言った方がいいだろう。

 

彼女たちは正気ではない。

 

此方に向ける眼に光がない。

 

まるで操り人形のようだ。

 

本当なら力づくで止めたいが………。

 

私は目線だけを陸の方に向ける。

 

そこにいるのは元帥と明石。

 

このタイミングで渡されたマイク。

 

つまりそう言うことだろう。

 

彼女たちは救える。

 

従うだけの兵器となった身体から。

 

奥の方で叫んでいる男から。

 

でもその前に駆逐の子を助ける。

 

この戦いに巻き込まないために。

 

私はマイクを起動させる。

 

イ級の形をしたマイク。

 

出現して割れる3枚のステンドグラス。

 

私の周りに浮遊する破片。

 

そして、2機の艦載機型のスピーカー。

 

何も無いところから出現する、

 

そのため、知らない人は驚いている。

 

再び周りからざわめき声が聞こえた。

 

集中している私には聞こえていない。

 

聞こえるのはスピーカーからの音だけ。

 

その音に合わせて私はすぐに歌いだす。

 

 

それじゃあ私の本領発揮

助けてあげるわ、子供たち

本当の愛を教えてあげる

から走行妨害しちゃだめよ

 

 

周りのガラスの破片が集まる。

 

それは海の上で人型となる。

 

秋雲そっくりで、それが2人分。

 

その人型は素早く動く。

 

戦艦たちはそれを見ても動かない。

 

後ろの男が騒いでいても動かない。

 

人型はそのまま駆逐を掴んだ。

 

そして陸の方へ移動する。

 

戦艦は未だに動かない。

 

人型は駆逐2人を陸にあげる。

 

そして光を放ち、破片に戻った。

 

そのまま私の元に戻ってくる。

 

それでも戦艦は動かない。

 

いや、動いていた。

 

目は未だに光はない。

 

だが、体が小刻みに震えている。

 

何回も口が開きそうになる。

 

その姿を見て私は思ったことがある。

 

アニメで見た覚えがあると。

 

操られた人が抗っているさま。

 

それにすごく似ていた。

 

なら、私にできることは1つ。

 

歌で心に訴える。

 

奥底から引っ張り上げる。

 

そのために私は再び声を通す。

 

 

ねえねえ、聞こえる?おねえさんたち

ここからみんなの正念場だよ

いつまでもそこに囚われちゃダメダメ

早く逃げるよ、ランナウェイ

そしたら見えるね、君たちの光が

なら闇にしようよ、あっかんべーって。

何もかも全部後回しにしちゃって

灯しちゃおうよ、その大和魂

 

 

歌と共に破片が光る。

 

いつも以上の光を放って。

 

するといつもと違うことが起きた。

 

破片は寒色から暖色に変わった。

 

私の後ろのステンドグラスも同様だ。

 

暖かい色に変わっていた。

 

そのガラスの破片は再び集まる。

 

出来上がったのは色とりどりの飴。

 

 

飴玉にカラフルな包装紙。

 

キャンディーなどが浮いていた。

 

そこからいくつかの飴が大きくなる。

 

はち切れそうなまでに広がって弾けた。

 

すると小さな飴玉があふれ出てきた。

 

演習場周辺に飴玉が落ちてくる。

 

演習を見ていた子供たちはそれを掴む。

 

そしてそれを口に入れて叫んだ。

 

「「「美味しい‼」」」

 

実物ではない透き通った飴玉。

 

それなのに味があったらしい。

 

私も詳しくは知らない。

 

だからこのことを不思議に思った。

 

他にも不思議なことが起こった。

 

さっき運んだ駆逐達が目を覚ました。

 

体の傷が消えていた。

 

しかも体が光っている。

 

瑞鳳も同様だった。

 

痛みが消えていたのだ。

 

しかも、服が元通りになっていた。

 

体の痛みもなくなったと叫んでいる。

 

そして変化は戦艦にも起こった。

 

全員の身体が小刻みに震えていた。

 

次第にその震えが収まる。

 

眼には光が、そして涙が浮かぶ。

 

その場で崩れ落ち、抱き合った。

 

私たちはその光景を見守る。

 

喚きながら連れていかれた

男のことなど気にしない。

 

ただ、その光景を見続けていた。

 

 

 

 

 

戦艦たちは気を取り戻した。

 

私はそれを見て、マイクの電源を切る。

 

浮かんでいた物は消える。

 

体の光も消えていた。

 

子供たちの残念そうな声が聞こえた。

 

後でお菓子を作って渡そう。

 

そう思いながら陸に戻る。

 

陸では秋雲たちが待っていた。

 

ねぎらいの言葉を掛けられる。

 

私は感謝しながらマイクを明石に渡す。

 

ついでに棒も返しておく。

 

その事はしっかり怒られた。

 

無断使用したのだから仕方がない。

 

今回は事が事のためお咎め無し。

 

説教だけで済んだ。

 

その説教の後、

私のところに艦娘が集まった。

 

両方の艦隊全員だ。

 

戦艦側の駆逐の子は朝潮と霞。

 

戦艦は扶桑、山城、伊勢、日向。

 

空母側の駆逐は白露型の4人。

 

白露、村雨、海風、江風の4人。

 

空母は瑞鳳と飛龍だった。

 

まだ改になっていない子が多い。

 

瑞鳳と飛龍だけは改になっている。

 

瑞鳳側は駆逐達の経験を積むため。

 

空母2人は引率みたいなものらしい。

 

扶桑たちは提督を調べ上げれば

改造されていない理由が分かるだろう。

 

そんな感じで話していると

白服の女性がこちらにやって来た。

 

やってきたのは瑞鳳側の提督。

 

その後ろには見覚えのある艦娘たち。

 

私にとって少し嫌な思い出。

 

もう痛くないはずの足が痛くなる。

 

しかし、その痛みは直ぐに無くなった。

 

理由はいきなり頭を下げてきたから。

 

まず、瑞鳳のことで感謝された。

 

あと少しで沈むところだったから。

 

でも、これは本当にたまたまだった。

 

演習を見たときに目に映った弾。

 

それが尖っていたのだ。

 

演習用の弾は小さく、真ん丸とした形。

 

基地にいた頃にそれを教わった。

 

演習用徹甲弾と少し違うことも聞いた。

 

だからあの時、弾を上に弾いたのだ。

 

演習用は小さな爆発しか起こさない。

 

ちゃんと調整されているのだ。

 

大きな煙が出るものではない。

 

間違えていたら

私は乱入者になるところだった。

 

まあ、結果オーライだ。

 

次にあのことについて謝られた。

 

基地に行くときに襲われたことだ。

 

砲撃と雷撃を浴びたこと。

 

あの時のことを謝罪してきた。

 

一緒に謝る6人の艦娘。

 

一番前には魚雷を撃った子がいた。

 

その子の名前は北上。

 

大本営にも北上はいる。

 

子供のことをよく見ているいい人。

 

魚雷を扱うエキスパート。

 

でも、この子とは違う。

 

この子の服装は濃い緑。

 

目つきも態度も違っていた。

 

その北上が私を撃った理由を話す。

 

私を撃った理由は私怨だった。

 

あの事件の前に1人沈んだらしい。

 

北上は庇われたそうだ。

 

その時の深海棲艦がヲ級。

 

倒すことができず、

逃げられたらしい。

 

しばらくは荒れていたそうだ。

 

しばらくして前線に復帰。

 

その出撃中に私を見つけたようだ。

 

色々とタイミングが重なったのだ。

 

だから謝罪を受け取る。

 

私から言うことはない。

 

私は生きているのだから。

 

だから私は北上を抱きしめる。

 

優しく、暖かく……。

 

北上をただひたすら撫で続けた。

 

聞こえるすすり泣きを歌でかき消す。

 

私はしばらくの間、歌い続けた。

 

 




久しぶりに投稿しました
色々と忙しかったのです。

感想が急に増えたから
これからが頑張りどころかな?

次の投稿も時間かかるかも。


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第8話 コトバヲカワス

色々忙しくて久々の投稿
投稿ペースは遅いと思ってください。


 

私は今、灯台にいる。

 

歌うために来ている。

 

寒いからあまり来たくないこの場所。

 

普段は使わないはずの灯台。

 

何故、私はここにいるのか。

 

それは気分がいいからだ。

 

今の私の気分は最高潮!

 

今なら何でもできそうな気がする。

 

最高にハイってやつだ!

 

理由は前日の夜の出来事。

 

いつも通り入渠して食事をした後。

 

寝る直前になったときの事だ。

 

私はいつも通り布団に入る。

 

もちろん横にはネ音がいる。

 

そして私はお休みと言って眠る。

 

ここに来てからはそうしている。

 

いつもならネ音の寝息が聞こえる。

 

しかし、この時は違った。

 

ネ音はこう言ったのだ。

 

オヤスミ…オネエチャン…。」

 

……そう、しゃべったのだ!

 

聞き間違えではない!

 

私のことをお姉ちゃんと呼んだのだ!

 

私はとても驚いた!!

 

基地でも頑張って練習していた。

 

駆逐艦の子たちにも手伝って貰った。

 

しかし、基地にいる間は話せなかった。

 

それが遂に喋れるようになったのだ。

 

それに声がとても可愛い。*1

 

しかも、その声でお姉ちゃん呼び……。

 

……おかげで私はテンションが高い。

 

ああ、壊れそうだ。

 

とても気分が高揚している。

 

嬉しさのあまり勝手に口が開く。

 

 

水平線に輝く光。

 

波に反射している光が私を

映しているようにキラキラしている。

 

いつもより激しい波の音が聞こえる。

 

私の高揚する気持ちを表すように。

 

水鳥の声がいつも以上に騒がしい。

 

私を祝福しているようだ。

 

 

ああ、高揚が治まらない。

 

私は時間を忘れて歌い続けた。

 

体を眩しいほどにキラキラさせて。

 

 

 

 

 

いつもより遅く私は戻った。

 

遅めの朝食をネ音と食べる。

 

その時も私はキラキラしていた。

 

食事後、私達は元帥に呼ばれた。

 

呼ばれたのは関係者大会議室。

 

普段はあまり使われない大きな部屋。

 

大本営の人たちぐらいしか使わない。

 

そんなところに私とネ音は呼ばれた。

 

部屋に着いたのでノックして入る。

 

そこには艦娘が勢ぞろいしていた。

 

艦娘だけでなく職員も数名いた。

 

何の集まりなのだろうか。

 

気になっていると元帥が話してくれた。

 

今回はお互いの自己紹介の場らしい。

 

確かに全員としっかり話してない。

 

それに私自身自己紹介をしていない。

 

ただ一方的に見ていただけだった。

 

だからこその場なのだろう。

 

元帥が指示を出すとみんなが整列する。

 

それぞれ同型艦で固まっていた。

 

職員も一列に並ぶ。

 

そして1人ずつ自己紹介をしていく。

 

現在顕現している艦娘のほとんどが

この大本営に存在している。

 

そのためこの部屋に280人以上いる。

 

とんでもない数である。

 

そのため、仕事のある職員さんを優先。

 

数人の職員さんと挨拶を交わす。

 

職員は握手をした後、部屋を出た。

 

その後は艦娘との挨拶。

 

もちろん時間はかかった。

 

だって一人一人に挨拶したもん。

 

それに挨拶が長い。

 

特に白露、川内、那珂ちゃん、

そして金剛四姉妹。

 

本当に長すぎる。

 

海防艦と潜水艦、特殊艦の人は

直ぐに終わったのに。

 

まあ、長かった理由はもう1つある。

 

それは同じ艦娘がいることだ。

 

艦娘の中には改造することで

艦種や名前が変わる人がいる。

 

そういう人たちもここにいるのだ。

 

「響とヴェールヌイ」、

「水上機千歳と空母千歳」

と言った感じだ。

 

つまりこの部屋には300人以上

いることが確定した。

 

他にコンバートというものもあるが、

ここでは随時変えるそうだ。

 

つまり、コンバートできる艦娘の

同名艦がいないということだ。

 

一部特殊なのでいるところはいる。

 

そんな感じで全員と挨拶した。

 

挨拶が終わり、改めて自己紹介をした。

 

私の事、加賀さんの事、ネ音の事。

 

佐世保の事だけ隠して伝えた。

 

もちろんざわついた。

 

でも、これは仕方がない。

 

気を取り直してネ音に挨拶をさせる。

 

せっかく言葉を覚えたのだから、

こういう場で挨拶をさせるべきだろう。

 

決して私が聞きたいからではない。

 

ネ音はゆっくりとだが、声を発する。

 

……エット…

ネキュウデス………

 

恥ずかしいのか声がとても小さい。

 

…オネエチャント

…ガンバリ……マス…

 

そう言ってすぐに私の後ろに隠れる。

 

私の服を掴んでチラチラと艦娘を見る。

 

皆でその姿を見て和む。

 

何人かは鼻血を出した。

 

しばらくの間、この部屋が

慌ただしくなったのは言うまでもない。

 

その後、しばらく会議室にいた。

 

遠征や任務がある人は退出し、

それ以外の人と交流をした。

 

皆個性的な人たちだった。

 

同じ艦娘でも艦種が違えば性格も違う。

 

例えば鈴谷と熊野。

 

さっき言った一部の特殊な例だ。

 

軽空母と航巡に行き来できるが、

艦種が変わるため同名艦がいる。

 

その2人だが性格が違うのだ。

 

重巡・航巡の2人は子供らしさがある。

 

対して軽空母の2人は大人。

 

子供たちの世話や言葉遣い、態度。

 

全てが大人だ。素は変わらないけど…。

 

そんな感じの人ばかりだった。

 

でも退屈はしなかった。

 

 

 

 

 

 

気づけばもうお昼を過ぎていた。

 

流石に全員解散。

 

艦娘たちは各自室へ。

 

私とネ音は昼食後に工廠に向かった。

 

工廠に来た理由は明石に呼ばれたから。

 

工廠に行くと明石が私たちを呼ぶ、

 

明石のところに行くと

大きな段ボールが置かれていた。

 

「例の物が届きましたよ。」

 

そう、明石が例の物を用意していた。

 

あたしは段ボールを開ける。

 

中にあったのは多くの可愛い服だ。

 

ネ音と私のサイズに合う服が沢山ある。

 

私は明石に感謝して、

それを部屋に持ち帰る。

 

部屋でそれを開けて、中身を出す。

 

私の服は大人の女性の服が多い。

 

すらっとした長めのズボンや

ロングスカートが多かった。

 

ネ音の服は可愛い服が多い。

 

白のうさ耳・猫耳パーカー。

 

黒い短パン、黒のストッキング。

 

茶色のジャケットに格子縞のドレス。

 

茶色のスウェットとスカート等。

 

女の子らしい秋の服が多かった。

 

早速、着替えてみる。

 

部屋に鏡があるのでそこで確認。

 

予想通り、服のサイズぴったりだった。

 

見事なまでのフィット感。

 

それに動きやすい生地で出来ている。

 

戦闘にも支障が出ないだろう。

 

出かける許可が下りたら、

ネ音と出かけるのもいいだろう。

 

ネ音の方もサイズはぴったりだった。

 

しかし、恥ずかしかったのだろう。

 

スカートやドレスは着替えず、

鏡の前で合わせるだけで終わった。

 

いつもきわどい格好をしているのに

なぜ恥ずかしいのか分からなかった。

 

とにかく他の服も試す。

 

うさ耳白パーカーと黒短パン、

黒のストッキングに着替えた。

 

ネ音は何度も鏡を見て喜んでいた。

 

どうやら気に入ったらしい。

 

猫耳パーカーも気に入ったようだ。

 

せっかくだからこの格好で食堂に行く。

 

私は白Tシャツに青のロングスカート。

 

ネ音はさっきの恰好(うさ耳)で行った。

 

もちろん食堂はざわつく。

 

普段見慣れない姿だからそうなるだろう。

 

特に駆逐の子たちは群がった。

 

ネ音は喋れるようになったことで

皆とコミュニケーションが取れている。

 

話せることの大切さを改めて感じた。

 

それを感じながらこの時間を過ごした。

 

 

 

 

 

夜は寝られないのではないか

思うほど興奮していた。

 

ネ音もいつも以上にソワソワしている。

 

それだけ服が気に入ったのだろう。

 

さっきの服を着たまま

布団に入っているのだから。

 

もちろん、ちゃんとお風呂には入った。

 

寝間着も入っていたけど仕方がない。

 

今度は服についての勉強も頼もう。

 

そう思いながら私はネ音を抱き寄せる。

 

優しく背中を撫でる。

 

規則正しい寝息が聞こえるまで続け、

それを確認して私も目を閉じた。

 

今日はネ音の成長を見ることができた。

 

私とネ音にとって、いい日になった。

 

もちろん皆にもいい日になったと思う。

 

明日からどんな日になっていくのか…。

 

いい日になることを祈って私は眠った。

 

 

 

 

 

オネ…エチャン…ダイス…キ………

 

 

*1
イメージ:水瀬いのりロリボイス




大本営にいる艦娘はほぼ全員います。
イメージはアーケードや図鑑表記。
各艦娘の艦種、名前違いがいます。

ちゃんとわかるように移動時には
名前のプレートを付けています。

ネ音の私服は後々描く予定です。
着なかったスカート姿も……。

久々の投稿だから
ネタをどれだけ入れるか悩んだの。

次回は早いうちに出せると思う。
だから楽しみに待ってほしいのです。


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第9話 光の初芽

 

「どうして深海棲艦がいるのですか!」

 

朝から大本営に叫び声が響く。

 

周りの人は気になって目を向ける。

 

その目線の先にいるのは4人。

 

私とネ音、元帥の3人と1人の艦娘。

 

声を発したのはその艦娘だ。

 

艦娘の名前は矢矧。

 

研修生の1人である。

 

その矢矧から私たちは睨まれる。

 

その目には殺気が混じっていた。

 

私はこの目を知っている。

 

北上と一緒の目をしているから。

 

幸いなのはこの目が彼女だけである事。

 

後ろにいる他の研修生は違う。

 

怒りではなく、困惑の目をしていた。

 

疑問と言う方が正しいだろうか?

 

元帥と深海棲艦が一緒にいるのだから。*1

 

元帥はため息をつきながら伝える。

 

私とネ音が敵ではない事。

 

既に大本営会議で伝えられていること。

 

望みが平和であると……。

 

しかし、矢矧は納得しない。

 

頑なに認めない。

 

まるであの提督のように……。

 

しばらく元帥と言い合った矢矧。

 

だが、元帥には勝てなかった。

 

言葉に押され、その場から逃げ出す。

 

最後には「邪魔だけはしないで」

 

そう言い放ってどこかに行った。

 

そして場が静かになる。

 

研修生はどうしたらいいか分からない。

 

元帥はさっきからため息ばかりだ。

 

どうしようもないこの場の空気。

 

だから私は彼女たちの前で挨拶をする。

 

自己紹介と私のことを伝える。

 

私が元々人間であることを。

 

信じてもらえないだろうけど。

 

それでも知ってもらうためにする。

 

ネ音も私に続くように挨拶をした。

 

ただ、楽しく過ごしたいと言った。

 

研修生たちは困った顔をする。

 

そんな中、1人が挨拶をした。

 

「雪風です!よろしくお願いします!」

 

元気な声で挨拶をしてくれたのは雪風。

 

呉の雪風と(うた)われた奇跡の駆逐艦。

 

研修生の中では一番の新人らしい。

 

そんな純粋な彼女に救われた。

 

この純粋さにみんな笑顔になる。

 

他の研修生も次々に挨拶してくれた。

 

気づけば元帥の顔も笑顔になっている。

 

何とか研修生との関係は

最悪にならずに済んだ。

 

 

 

 

 

挨拶が終わり、研修生と別れた後、

午前中はそれぞれの予定を済ませた。

 

私は憲兵たちとの訓練。

 

ネ音は言葉と一般知識の勉強。

 

それを終わらせ、午後からは

研修生との訓練に参加した。

 

研修生は4グループに分かれていた。

 

下から順番に丁・丙・乙・甲である。

 

甲に近づくほど訓練が厳しくなる。

 

実践向きの訓練になるそうだ。

 

今日は丁で一番下のグループだ。

 

まずは、どれくらいできるかを

ここで確かめるらしい。

 

それぞれに教官が付くらしく、

ここの教官は……

 

「2人とも、今日はよろしくクマ。」

 

球磨だった。

 

最初はランニングからスタート。

 

1週が約400mのトラックを走る。

 

それを5キロ分*2走るのだが……。

 

「オラオラ!もっと早く走るクマ!!」

 

球磨が後ろからバットを持って走る。

 

3周を過ぎたあたりでやってきた。

 

団子状態の研修生は一斉に駆け出す。

 

みんなやられたくないのだろう。

 

私とネ音が最後尾になった。

 

どんどん近づいてくる球磨。

 

私とネ音は少しずつ速度を上げる。

 

そして4週目に入ると球磨は

走るのをやめてトラックの内側へ。

 

何となく意図が分かった。

 

私はネ音に耳打ちをする。

 

ネ音はすぐに理解したようだ。

 

私たちは少しずつ速度を上げていった。

 

 

 

 

 

「だらしないやつらが多すぎクマ。」

 

無事に5キロのランニングを終えた。

 

研修生たちは皆、荒い息を立てていた。

 

ネ音は少し呼吸が速い。

 

しかし、初めてにしてはいい方だろう。

 

私?私は余裕である。

 

この程度のことは苦にならない。

 

だって、お父さんの方が厳しいもん。

 

10キロが当たり前だったし……。

 

無事に完走したのは私とネ音だけだ。

 

研修生は全員が1回以上叩かれていた。

 

とても痛そうにしていた。

 

しかし、3分ぐらい経つと走り出した。

 

どうやらこの訓練の仕様らしい。*3

 

研修生にとっては地獄だろう。

 

私とネ音は終わるまで待機した。

 

 

 

 

 

全員がトラックを走り終わった。

 

そのため次の訓練に移る。

 

次の訓練は海上走行。

 

決められた場所からゴールまで向かう。

 

ただそれだけの訓練だ。

 

ゴールには球磨型の多摩と木曾が待機。

 

距離からして1キロくらいだろうか?

 

球磨も中間ぐらいで待機している。

 

私は鍛錬の始まりを待つ。

 

研修生の全員が準備できるのを待つ。

 

中には苦手な子もいた。

 

一番の新人、雪風である。

 

上手くバランスが取れないようだ。

 

しかし、周りの子は見向きもしない。

 

関わろうともしない。

 

最初とは印象が全く違う。

 

みんな自分のことで精いっぱいなのだ。

 

だから、余裕がある私が手を貸す。

 

心配なので手を取って支える。

 

とりあえずバランスの取り方を教えた。

 

イメージはサッカーのGK。

 

中腰の構えをさせる。

 

そのままスタートラインへ移動する。

 

その間に練習をして立てるように。

 

そこからは自分で行くようにさせた。

 

何とかスタートラインに立つ。

 

すると球磨から開始の合図が出る。

 

皆が一斉に飛び出す。

 

私は後方から邪魔にならないよう進む。

 

ネ音は中間あたりにいた。

 

雪風は皆から後れを取りつつも

何とか頑張って移動している。

 

順調に進む研修生と私達。

 

そろそろ中間に差し掛かる。

 

すると研修生たちは速度を落とした。

 

私とネ音はその間を抜けていく。

 

気づけば先頭まで来ていた。

 

下がった理由はすぐに分かった。

 

私の目に映る球磨の砲撃の構え。

 

だから私はネ音の手を引く。

 

抱き寄せるように引っ張る。

 

するとさっきまでいたところが爆ぜた。

 

大きな水しぶきを上げる。

 

私はすぐにネ音に耳打ちをする。

 

砲撃を()(くぐ)ってゴールまで行けと。

 

そう言ってネ音を離す。

 

ネ音はゴールに向かう。

 

私はそのまま逆走する。

 

それと同時に球磨に対して挑発する。

 

自分に注目を向けて、ネ音を逃がす。

 

球磨は目論見(もくろみ)通り私を狙う。

 

私はそのまま速度を上げる。

 

その先にいるのは研修生たち。

 

私はその間を抜けていく。

 

するとどうなるか……。

 

球磨の狙いは私から研修生へ。

 

研修生の先頭から

球磨の砲撃の餌食(えじき)になっていく。

 

これが球磨を挑発した理由。

 

楽しようとしたからだよ。

 

そのうちに私は雪風の元へ。

 

腰を引き過ぎて進むのが遅い。

 

だから雪風に自分の服を掴ませる。

 

離さないように両手でしっかりと。

 

そしてそのまま全速力で前に出る。

 

最高速で進み、研修生の間を抜ける。

 

球磨はそれにすぐに気づいて

此方に向かって砲撃する。

 

しかし、弾は雪風の後ろへ。

 

私は当たらないように動く。

 

速度を変え、蛇行運転で躱す。

 

雪風の様子を確認しながら進む。

 

少しずつ速度を上げてゴールへ。

 

それから何もないまま

私は雪風を連れてゴールした。

 

多摩と木曾はゴールにいるだけで

特に何もしてこなかった。

 

私の心配は杞憂(きゆう)だったようだ。

 

 

 

 

 

全員がゴールしたのは

私がゴールしてから10分後。

 

全員がかなりボロボロになっていた。

 

そして予想したことが起きた。

 

それは研修生の愚痴。

 

私がしたこと、雪風のこと。

 

その事に全員が不満を言う。

 

しかし、すぐ静かになる。

 

理由は球磨型3人の砲撃。

 

私たちの周囲で水しぶきが上がった。

 

水しぶきが無くなると

目に映る怖い笑顔の3人。

 

そして、球磨が口を開く。

 

「お前ら、まだ叫ぶ元気があるなら

直々に相手してやるクマ……。」

 

球磨の髪が浮いているように見える。

 

まるで空気が揺れているかのように。

 

「今から5秒だけやるから早く行け。

球磨型特別鍛錬をしてやるクマ!」

 

そう言うと研修生たちは逃げ出す。

 

その顔は蒼白。

 

5秒後には悲鳴が上がった。

 

 

 

 

 

私とネ音、雪風はゆっくり戻る。

 

始まってすぐに木曾から

あがって良いと許可を得たから。

 

そのためゆっくり戻る。

 

ネ音が雪風の手を引き、

航行練習をしながら帰投する。

 

その間にわかったこともある。

 

雪風は飲み込みがいいのだ。

 

すぐ踊るように滑れるようになった。

 

私もネ音も嬉しくて笑顔になる。

 

まるで天使のような子だ。

 

もう少し一緒にいたかったが、

もう大本営に戻ってきた。

 

私たちはまだやることがあるため

明日の鍛錬参加まで雪風とお別れ。

 

別れる前に雪風に聞かれた。

 

「雪風たちはお友達になれますか?」

 

その質問に私は「もちろん」と答える。

 

ネ音も同じだ。

 

それを聞いた雪風は笑顔に。

 

私たちはそのまま別れ、

各々の行くべきところに向かった。

 

*1
姿:艤装無しの深海棲艦の服=帽子無し

*2
12週と半周

*3
叩かれた者はその回数×一周走る




今回は研修生との絡みでした。
これからどんどん関わります。

ちなみに最後の方にあった
球磨型特別鍛錬と言う名の拷問。

これは球磨型から逃げる鬼ごっこ。
容赦なく砲撃と雷撃をされます。

研修生は間違いなく入渠コースです。


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第10話 忘れた時間

研修生と一緒に鍛錬




 

カチャパチンコトッ

 

そんな音が響くこの空間。

 

空気がとても重く、張りつめている。

 

研修生はみんな真剣な顔だ。

 

私もいつも以上に真剣になる。

 

誰一人として声を発しない。

 

否、発することができない。

 

それだけ異質なこの鍛錬。

 

上から2つ目である乙の鍛錬。

 

ここの教官は重巡、航巡の利根。

 

副官として同型艦の筑摩がいる。

 

4人も真剣な顔をしている。

 

そんな空間で声を発したのは

航巡の利根だった。

 

「きたぞ!リーチじゃ!!」

 

その言葉に私が挟む。

 

「それ、ロンで。」

 

利根は「へ?」と声を漏らす。

 

私は気にせず言葉を続ける。

 

「メンタンピンドラドラ、

親だから跳ねて12000……飛んだよ。」

 

「そんな……ば、馬鹿なー!

 

利根は膝から崩れ落ちた。

 

私たちがしていたのは麻雀。

 

なぜこんなことになったのか。

 

それは今日の始まりへと遡る。

 

 

 

 

 

雪風と友達になり、約一週間経った。

 

その間に私は乙、ネ音は丙に移った。*1

 

丙の時の教官は龍田。

 

たまに副官として天龍が来ていた。

 

龍田はただひたすらに戦闘をした。

 

天龍が来たときはゲーム方式でやった。

 

攻防戦、タイムアタック、生き残り。

 

かなり過酷な鍛錬だった。

 

私は何とかクリア。

 

ネ音はもう少し掛かりそうだ。

 

ネ音に頑張るように伝えた私は

次の難易度である乙に移った。

 

乙で行われていたのは

忍耐、駆け引き、運試しだった。

 

それ故にボードゲームやトランプ

ダーツなどが置かれていた。

 

どれか一つに必ず相手がいる。

 

持ち点0から勝ち+1、負け-1。

 

+5で甲へ-5で丙へ移る。

 

余程の実力と運が無いと

突破できないこの鍛錬。

 

さらに教官と戦うことが決まっている。

 

最低でも2回は教官と戦うことになる。

 

そんな鍛錬が始まると私は囲まれた。

 

私を囲んだのは4人の教官だった。

 

既に教官に目を付けられたのだろう。

 

そのため、教官と4連戦

することになったのだが……。

 

 

花札 VS利根(航巡)

 

「花見で一杯、月見で一杯。」

 

 

チェス VS筑摩(重巡)

 

「チェックメイト」

 

 

将棋 VS利根(重巡)

 

「王手……もう詰みだよ。」

 

 

オセロ VS筑摩(航巡)

 

「58-6……私の勝ち。」

 

 

と言った感じで4連勝した。

 

後、1回勝てば甲に行ける状態。

 

そこで航巡の利根がある案を出した。

 

「こうなったら麻雀で勝負じゃ!」

 

こうして麻雀が始まった。

 

私の対面に航巡利根、上家下家に筑摩。

 

この形で始まり、第三局となって、

冒頭の跳満12000点に戻る。

 

 

 

 

 

ショックで膝から崩れ落ちた利根。

 

その利根に私は近づく。

 

そして心に追い打ちをかける。

 

「握りこみとかコンビ打ちしたのに

負けて恥ずかしくないの?」

 

利根は図星と言わんばかりに

「うぐぅ」と反応する。

 

握りこみとコンビ打ち。

 

麻雀におけるイカサマである。

 

みんなはしちゃいけないよ。

 

そんなことをした人は……。

 

「失礼するのです。」

 

その声に利根の身体は硬直した。

 

利根だけではなく教官全員。

 

顔が青ざめ、大量の汗をかき始める。

 

研修生は何人か震えていた。

 

私はその声がした方を見る。

 

そこにいたのは見覚えのある艦娘。

 

電が入口とは別の扉の前に立っていた。

 

怖い満面の笑みでオーラを放つ(プラズマ)

 

電はこちらに来ると

利根の首根っこを掴んだ。

 

「さあ、大人しくするのです。」

 

そのまま引きずって行く。

 

「イカサマした挙句負けたのですから

今からお仕置きなのです。」

 

強引に連れていく電。

 

利根は全力で助けを求める。

 

「嫌じゃ!吾輩はまだ死たくない!」

 

しかし、誰も助けることができない。

 

妹に助けを求めても反応しない。

「筑摩!筑摩ぁ~~~…………

無慈悲にもその声は扉の奥に消えた。

 

しばらくして戻ってきた電に

教官たちは連行された。

 

代わりに教官をしたのは

重巡古鷹とその妹である加古。

 

最初にこの鍛錬の意味を

詳しく教えてくれた。

 

まず、得点は重要ではない。

 

-5になっても+5になっても

変わるわけではない。

 

次にこの鍛錬は集中力、忍耐力を

ただ鍛えるだけの鍛錬ではない。

 

自分は何が得意なのか。

 

何が苦手なのかをゲームをして

探し出すことが大事であると。

 

そして、その中に自分の役割を探す。

 

攻めか守りか、支援か妨害か。

 

どうすれば仲間のためになるのか。

 

それを探す事が本来の目的だと言った。

 

航巡の利根は勝負に熱くなるため、

今回のようになったらしい。

 

前にも電に〆られたらしい。

 

きっと忘れるタイプなのだろう。

 

私はそう思った。

 

そう思いながら鍛錬の続きをする。

 

私は他の研修生とゲームをしながら

それぞれの長所と短所を探した。

 

 

 

 

 

鍛錬が終わり、私は音楽室に向かう。

 

鍛錬の結果は例外だと言われたから。

 

なんでもできてしまうかららしい。

 

すぐに甲へ行くことになるだろう。

 

そう言われたため、今は自由時間。

 

そういう訳で音楽室に向かっている。

 

音楽室に行く理由はある。

 

私はまだ音楽室では歌っていない。

 

この前の件から避けているからだ。

 

だが今回は音楽室に行く。

 

少なくとも前のようなことは起きない。

 

この前の自己紹介の時に話したからだ。

 

あの時に秋月型の面々と話した。

 

その時に秋月と話をしたことで

避けなくてもいいことが分かった。

 

あの時音楽室にいたのは涼月。

 

冬月が長期遠征でいなかったことで

正気でいられなかったそうだ。

 

私はそんなタイミングの姿を

見てしまったようだ。

 

那珂ちゃんはそれを紛らわす

手伝いをしていたのだとか。

 

今は冬月が戻ってきているため、

普段通りになっている。

 

そのため、私は警戒せずに

音楽室に入ることができる。

 

少しの不安はまだあるけど……。

 

私はついに音楽室にたどり着いた。

 

不安を感じながらも扉を開ける。

 

扉は普通に開いた。

 

そのまま中に入る。

 

部屋の中にはピアノ、ステージ、

数多くの楽器があった。

 

楽器の近くにある戸棚には

それぞれの楽器の楽譜も置かれている。

 

歌の本も置かれていた。

 

真新しい本には私の知らない

曲が載っていた。

 

古い方には私の知っている

曲が沢山載っている、

 

まあ、そうなるだろう。

 

私の生きていた時代から

14年も経っているのだから。

 

他にも色々見てみよう。

 

部屋にあるものを色々見ていると、

あるものが私の目に留まった。

 

少し埃をかぶったギター。

 

何本か弦が切れていた。

 

よく見ると見覚えがある形だ。

 

これは前世で使っていた型と一緒だ。

 

……、これを使いたい。

 

そう思った私は部屋を探索する。

 

部屋の奥に扉があったため入ってみる。

 

そこには手入れをする道具が

綺麗に置かれていた。

 

誰かが綺麗にしているのだろう。

 

私はその中からギターに必要なものを

手に取って部屋を出る。

 

そしてすぐにギターを修理する。

 

先にクロスでしっかりと拭いてから。

 

ギターは約10分で修理し終えた。

 

私はギターを持ってステージに座る。

 

何度かチューニングをする。

 

自分の感覚を思い出しながら。

 

しばらく弾いてみて

昔の感覚を思い出した。

 

私はそのまま演奏する。

 

懐かしさを感じながら弾く。

 

そう、こうやって楽しんでいた。

 

私はあの頃を思い出す。

 

 

昼休憩、食事をした後に。

 

自分の机に座り、ギターを弾く。

 

歌を歌いながら弾く。

 

みんなは食事をしながら聞く。

 

その音は廊下にながれ、隣の教室へ。

 

またその音は窓を通って外に響く。

 

皆が心地良さそうに聞いてくれる。

 

次第に人が集まり、

教室は会場に変わる。

 

机はステージに、

蛍光灯はスポットライトに。

 

生徒も先生も関係なく

私の歌と曲を楽しんでくれる。

 

時間を忘れるほどに……。

 

 

そんな風景を思い出しながら弾く。

 

オリジナルの曲も、既存の曲も

色々と織り交ぜながら歌う。

 

楽しくて仕方がなかった。

 

だから私はそのまま歌った。

 

今も扉の向こうで私の歌を聴いている

誰かがいることに気づくことなく。

 

また、今の時間に気づくことなく……。

 

 

*1
雪風は丁で鍛錬中




利根姉さんはプラズマちゃんに
しっかり〆られました。
他の3人の前でしたので
しっかり反省している事でしょう。

歌音は昔のことを思い出しました。
彼女が前世で亡くなる少し前です。

ちなみにギターは彼女と共に
潰されてお亡くなりに……。


最後は誰が聞いていたのか……。
今の時間?もう夜だぜ。


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第11話 戦闘スタイル

久々に書いた戦闘シーンだから
気になる描写は質問してね


 

今日から甲での鍛錬。

 

この鍛錬の参加は朝からだ。

 

時間までは待機ということなので

今は歌を終えて自室にいる。

 

しかし、鍛錬に参加するには

1つだけ問題があった。

 

「ネ音、そろそろ……」

 

「ヤだ……」

 

ネ音が拗ねてしまったのだ。

 

私の膝から退いてくれない。

 

拗ねている理由は昨日のこと。

 

私が時間を忘れて歌っていたからだ。

 

呼ばれるまで気づかなかった。

 

あの時は那珂ちゃんが

呼びに来てくれた。

 

何とか夕食にはありつけたが、

ネ音の機嫌を損ねてしまったのだ。

 

ネ音に寂しい思いをさせてしまった。

 

そのため膝枕をしているのだが、

中々退いてくれない。

 

後30分もすれば鍛錬の時間だ。

 

そろそろ動かないと

鍛錬でしっかり動けなくなる。

 

しかし、退いてくれそうにない。

 

だから、私はある手段に出る。

 

ネ音にはまだ早いが仕方ない。

 

私はネ音の顔を上に向け、

顔を近づける。

 

「チュ……」

 

そのまま顔を上げると、

ネ音の顔は紅く染まっていた。

 

そのままカタカタと震えている。

 

な……なニヲ……///

 

「大人を困らせちゃダメよ♡」

 

私は再びネ音に顔を近づけた。

 

 

この後のことは見せられないため、

皆さんの想像にお任せしよう。

 

 

私はスッキリした顔で準備をする。

 

「遅れないように行くのよ。」

 

私はネ音にそう言って部屋を出た。

 

布団の上に顔を赤く染め、

惚けているネ音を残して……。

 

 

 

 

 

 

私は呼ばれている場所に向かう。

 

甲の教官はもう分かっている。

 

鬼教官、神通だ。

 

むしろあの人しかいないだろう。

 

戦艦や空母にも容赦ない人だから。

 

実は昨日、那珂ちゃんに紙を貰った。

 

その紙には一言だけ書いてあった。

 

「印の場所で待つ」

 

その一文だけ。

 

果たし状か何かかと思った。

 

印と言うのは那珂ちゃんが

別で持っていた紙にある地図の印。

 

場所的には広場の中央である。

 

だから私は広場へ向かう。

 

しかし、広場は閑散としていた。

 

鍛錬をしているようには思えない。

 

私は警戒をしながら中央へ向かう。

 

そこで視線を感じた。

 

感じるのは5つ……否、6つの視線。

 

2:2:1:1で別れていた。

 

そのうち一つはおそらく神通。

 

1人だけ視線を感じづらい。

 

正直相手したくはないが、

私は広場の中央に立つ。

 

すると、何かが飛んでくる。

 

私はそれを躱す。

 

そのまま地面に刺さったものを見る。

 

飛んできたのはナイフ。

 

すると4人飛び出してきた。

 

出てきたのは叢雲・川内、霞・扶桑。

 

槍、ナイフ、甲手(こうしゅ)、刀……。

 

近距離戦闘特化の艦娘だろう。

 

私はナイフを取る。

 

流石に4人同時はキツイ。

 

だから、先に5人目を倒す。

 

誰もいないところにナイフを投げる。

 

切っ先を持って持ち手を当てるように。

 

「ふぎゃ!」

 

当たった。

 

フラフラと出てきたのは飛龍。

 

頭への1発でダウンした。

 

最初に出てこなかったから

遠距離だと思っていた。

 

その予想は当たり。

 

彼女はボウガンを持っていた。

 

これで辺に警戒することは無い。

 

すぐに振り向いて突っ込んでくる

霞の拳を掴み後方へ投げる。

 

その後ろから扶桑が刀で突く。

 

それを背中越しに避け、背骨を軸に

二の腕とひじの部分でへし折る。*1

 

バキッ!

 

刀は粉々になった。

 

そのまま怯んだ扶桑の鳩尾に拳を打つ。

 

扶桑は泡を吹き、白目をむいて倒れた。

 

私はその扶桑を掴んで投げ飛ばす。

 

そして全力で何もないところに飛ぶ。

 

そのすぐ後、私が立っていた場所に、

叢雲が槍を地面に刺して立っていた。

 

自身の艤装であるのもそうだが、

この叢雲は戦い慣れている。

 

流石に武器がないとキツイ相手だ。

 

しかし、叢雲だけに集中できない。

 

霞と川内もいるのだ。

 

どうにかしないといけない。

 

だが、迷っている暇はない。

 

霞と川内は既に接近している。

 

迷っていればやられる。

 

私は先に川内を攻撃する。

 

理由は武器を持っている事。

 

ナイフは投擲(とうてき)もできる。

 

遠距離からの攻撃を考えて

先に潰す方がいい。

 

他にも理由はある。

 

槍と甲手では射程の差が生まれる。

 

つまり叢雲と霞の連携はないだろう。

 

それに、川内は叢雲と行動していた。

 

ペア行動は連携がとれる証拠。

 

だから、霞の前に川内を潰す。

 

もちろん予想が外れることも考える。

 

でも、一番に潰すなら川内。

 

私は一気に距離を詰める。

 

川内は下がりながらナイフを投げる。

 

それは私の顔の横を通る。

 

ナイフは私の頬に傷をつけて地面に。

 

私は気にせず接近した。

 

川内はもう一本のナイフを振り下ろす。

 

私は振り下ろされる前に腕を掴む。

 

強く握り、痛みでナイフを落とさせる。

 

ナイフが落ちたことを確認して

霞の方に川内を投げる。

 

霞はかろうじて躱す。

 

しかしバランスを崩す。

 

川内はそのまま体を強く打つ。

 

その隙にナイフを叢雲の方に投げ、

牽制してから霞に近づく。

 

霞は立て直して私に攻撃しに来る。

 

霞の攻撃は素手だけではなかった。

 

足技も上手く使っている。

 

小さい体から伝わる大きな力。

 

艦娘ならではの力だ。

 

隊長以上の力が伝わってくる。

 

それを何とか受け流す。

 

この間、叢雲に攻撃させないように

霞が邪魔になるように立ちまわる。

 

そして、ようやく誘い出せた。

 

「ッ!嘘!」

 

霞は地面に刺さったナイフに

足を引っかけた。

 

さっき川内が私に投げたナイフだ。

 

霞は私の誘導に引っかかった。

 

そのまま倒れるように私の方へ。

 

私は霞の両手を掴んで膝蹴りをする。

 

そして体が浮いた。

 

私は霞に拳を構えて言う。

 

「覚えておいて。ここが1番!

拳を叩きこみやすい角度よッ!」

 

私はそのまま拳を撃ち込んだ。

 

その衝撃で霞は大きく飛んだ。

 

しかし、安心している暇はない。

 

私はすぐにナイフを取って構える。

 

叢雲は吠えながら襲ってくる。

 

さっきより力が強くなっている。

 

しかし、心配する必要はなくなった。

 

何故なら攻撃が単調になったからだ。

 

ただただ力任せの攻撃。

 

だから私は構えを解く。

 

いつも通りに受け流し、躱す。

 

もう本気で戦う必要はない。

 

私は戦いを好まない。

 

戦わないで済むならそれでいい。

 

これは前から言っていることだ。

 

私が戦う時は基本受け。

 

やり返す時は相手が本気で戦う時。

 

相手に対して誠意を見せる時。

 

そして、本気でやれと言われた時。

 

そうでなければ私はやらない。

 

だから私は本気で戦った。

 

飛龍を早々に仕留め、扶桑をダウンさせ

川内と霞を倒した。

 

後は叢雲だけだったのだが、

叢雲は怒りを溢れさせた。

 

私が誠意を見せるのは扶桑を倒した後、

冷静に私を攻撃した時の叢雲である。

 

今の怒りにあふれた叢雲ではない。

 

だから私は構えを解いた。

 

いつも通りの受け身に変えた。

 

それでいいと判断した。

 

それと私情が少しある。

 

昔を思い出したのだ。

 

昨日思い出した楽しい記憶と一緒に

腹立たしい昔のことを。

 

私の戦闘スタイルの元凶を……。

 

 

『クソッ!卑怯だぞ!正々堂々戦え!』

 

『僕の方が強いんだ!……うわぁ!』

 

 

負けてばかりのやつが言ったセリフ。

 

実力はあるのに怒りで弱くなった男。

 

私が初めて()()()()()()()()()()()

 

それが今の戦闘スタイルに変わった。

 

そして今、男と叢雲が重なった。

 

その時を鮮明に思い出した。

 

ならば、本気を出す必要はない。

 

神通がどう思っているかは分からない。

 

でも、私の行動を理解するだろう。

 

多分、あの人は同じことをする。

 

正確にはすぐに終わらせる、だけど。

 

さて、そろそろ終わらせよう。

 

受け流すのはもう十分だ。

 

一発殴らないと気が済まない。

 

後でネ音に癒してもらおう。

 

攻撃を躱しながらそんなことを考える。

 

そして、時は来た。

 

私は片手で槍を掴む。

 

叢雲は無理やり動かそうとする。

 

しかし、槍はびくともしない。

 

何度も無理やり動かそうとする。

 

他の選択肢もあるというのに。

 

私はそのまま槍を引っ張る。

 

叢雲はその勢いで私の方へ。

 

両手で槍を持ったまま離さない。

 

それ故に無防備の叢雲。

 

私は全力で右の頬に

ストレートを叩きこんだ。

 

勢いよく砂埃を上げながら地面を滑る。

 

そして動かなくなった。

 

これで5人倒した。

 

後は神通だけだ

 

隠れていると思われる場所に向かって

神通の名前を呼ぶ。

 

「そろそろ出てきてくれますか?」

 

一応教官だから丁寧に言う。

 

すると私の()()()()()()()()()()()

 

私はすぐに振り向き、心臓に迫る

刀を白刃取りで止める。

 

その勢いで踏ん張る足が

地面に直線を描く。

 

およそ5メートルの直線を描き

その勢いは収まった。

 

目の前にいたのは神通。

 

私の予想していた通りの人で

予想外の場所から出てきた。

 

その目には()()()()()()

怒りの感情が溢れていた。

 

 

*1
てこの原理でへし折ります。




歌音の戦闘スタイルは子供の時から
平和を望んでから少ししてのこと。
色々とあったんです。

最期の神通教官のことについては
次回明らかになります。


ネ音は……ご想像にお任せします。


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第12話 前世の身体の記憶

今年度までに
第二章は終わらせたい。


 

瞳に怒りを灯した神通の攻撃。

 

その一撃は重たい。

 

今まで以上の緊張が私を襲う。

 

体全身が訴えているのだ。

 

手を抜いたら命がないと。

 

全身に嫌な汗をかく。

 

今は白刃取りの状態で止まっている。

 

だが、いつ状況が変わるか分からない。

 

この手をどけたら間違いなく私は死ぬ。

 

私の心臓まで数センチ。

 

そろそろ限界を迎えそうだ。

 

このままではまずい。

 

そんな状況で神通が言葉を発する。

 

「私がいない間に、好き勝手

やってくれましたね?」

 

……好き勝手とはどういうことだ?

 

あの紙の送り主は神通のはず。

 

研修生の独断か、それとも……。

 

考えている暇もないので返答する。

 

「ここに来るように言ったのは

教官ご自身では……?」

 

神通に灯った怒りは収まり始め、

刀にかかる力も弱まった。

 

私はそのまま刀を離す。

 

神通は刀を収め、話し出す。

 

「紙にはここに来るように

としか書いていませんが?」

 

「彼女たちにいきなり襲われたので。」

 

そう言って私はそこに倒れている

彼女たちの方を指さす。

 

印の場所に行った時に襲われた。

 

私としてはそうとしか言えない。

 

いきなりの投擲。

 

それから始まった戦闘。

 

いきなり襲われたと思うだろう。

 

私はこの鍛錬の挨拶だと思ったけど。

 

「嘘は言ってないようですね。」

 

後ろにいる5人の姿を見た後、

神通は少し考えて、そう判断した。

 

まだ始まっていないのに疲れた。

 

そう言えば6人目の視線が消えている。

 

バレないように撤退したのだろうか?

 

まあ、今考えても仕方がない。

 

面倒なことにならないと良いのだが…。

 

一先ず、神通の指示を仰いだ。

 

 

 

 

 

『……488…489…500。』

 

「3分後にランニングです。

遅れたら500回追加ですからね。」

 

神通はこの場から去っていく。

 

私は神通の指示で襲ってきた5人を

邪魔にならないところに運んだ。

 

その後研修生に混じって鍛錬に参加。

 

全員で素振りをしていた。

 

私は木刀を借りて素振りをした。

 

木刀はしばらく使っていなかったため、

だいぶ型が崩れていた。

 

神通に指導され、感覚も戻ってきた。

 

しかし、しっくりしない。

 

体の違いがしっくりこないのだろう。

 

早いうちに直したいが、鍛錬は続く。

 

我慢して次の鍛錬に移った。

 

次の鍛錬は外周。

 

丁でやったものとは全然違う。

 

鎮守府内のランニング。

 

4ヶ所のポイントを通って

最初の広場に戻る。

 

灯台、正門、石碑、桟橋の順に

決められたルートを通る。

 

これを2周して桟橋から

広場に戻れば終了。

 

これを決められた時間内に行う。

 

初回の私は神通と最後尾を走る。

 

ルートを覚えるためだ。

 

次からは研修生に混じる。

 

ルートは鎮守府の敷地ギリギリ。

 

鎮守府を淵取るように走る。

 

そのため一周の距離も長い。

 

特に石碑の距離が一番遠い。

 

中央にある大きな石碑を周り

外周に戻るからだ。

 

それを2周するのだから

脱落する者も少なくない。

 

遅れて脱落していく研修生たちは

神通にタッチされて言われるのだ。

 

「追加ですね。」

 

とても嫌な予感がしているのだ。

 

この鍛錬をしている彼女たちが

早々に脱落するはずがない。

 

すでに何回も走っているはずだ。

 

つまり彼女たちは2回目以降。

 

広場に誰もいなかったのは

これが理由なのではないかと。

 

だが、現実とは非常である。

 

私の嫌な予感は的中した……。

 

 

 

 

 

夕方になり、鍛錬が終わった。

 

あの後はひたすら素振りと

ランニングを繰り返した。

 

私は無事に鍛錬を完走。

 

久しぶりの過度な鍛錬で疲労を感じた。

 

無事完走した者は先にあがる。

 

タッチされた者は今から素振りだ。

 

私は一度部屋に戻る。

 

ネ音に自主練のことを告げるためだ。

 

不満な顔だが、許可は出してくれた。

 

「早く帰ってきて」と言われた。

 

そのため急いで自主練に向かった。

 

広場では何人かが素振りをしていた。

 

私は邪魔にならないように少し離れる。

 

そこで昔を思い出しながら鍛錬をする。

 

まずは瞑想。

 

その場で座禅を組む。

 

目を瞑り心の中で60秒数える。

 

60秒のカウントは周りの声が

聞こえなくなってから始める。

 

弓を撃つ時のように集中する。

 

次第に声が聞こえなくなる。

 

風の音も消えていく。

 

そして完全に聞こえなくなった。

 

私はそこからカウントを始める。

 

…5…10…15…20…25…

 

邪念が混じらないように

一定の間隔でカウントする。

 

…45…50…55…60……。

 

60秒経過した。

 

私はゆっくりと目を開ける。

 

集中したままゆっくり立ち上がる。

 

木刀を持ち、素振りをする。

 

1つ1つの動きを丁寧に行う。

 

過去と現在言われたことを思い出して。

 

少しずつ自分のしっくりとくる

振り方を探していく。

 

ただ集中して振り続ける。

 

100回を超えた時点で数えるのを止めた。

 

もう何回目かも覚えていない。

 

感覚はだいぶ戻ってきた。

 

そう思った時、気配を感じた。

 

後ろから私を左上から切ろうとする

誰かの気配を感じた。

 

私はすぐに右回りに振り向く。

 

木刀で払い飛ばすように。

 

木刀は「カ-ンッ」と言う音を鳴らす。

 

夜だからか高い音が鳴り響く。

 

そこには……誰もいなかった。

 

確かに気配を感じたのに。

 

後ろには人がいない。

 

気配も消えていた。

 

変わりにあったのは小さな丸太。

 

木刀が鳴らしたのは

その丸太と接触した音だった。

 

私はその丸太を手に取る。

 

サッカーボールぐらいの大きさ。

 

さっきの接触で表面が欠けていた。

 

丸太の形は見たことがある。

 

枝が一か所にだけある丸太。

 

丸太の断面は綺麗にされている。

 

アニメや漫画で良く描写されている

忍者が身代わりに使う丸太だった。

 

なぜこんなものがここにあるのか。

 

私には理解できなかった。

 

しかし、疲れている今の状態では

その結論を見つけることはできない。

 

集中が切れたためここで終わる。

 

あまり遅くなっても

ネ音を心配させるだけだから。

 

周りの研修生も少なくなっていた。

 

切り上げるならちょうどいいだろう。

 

それに明日から鍛錬に朝から参加だ。

 

早く寝ておかないと体がもたない。

 

急いで道具を片付けて自室に戻った。

 

 

 

 

 

「ガサガサ」

 

歌音が広場を後にした後

広場の草木が不自然に揺れ動いた。

 

そこから出てくる黒い影が1つ。

 

「私の気配に気づくなんてね…。」

 

落ち着いた様子のその人物。

 

しかし、内心は驚きを隠せない。

 

自分の切り札を使わなければ

確実にやられていたのだから。

 

それに、別のことでも驚いていた。

 

「朝のあれも、多分バレてたよね。」

 

そう、この人物こそ朝にいた6人目。

 

研修生に襲撃させた張本人である。

 

この人物はいったい誰なのか。

 

その答えは闇の中へと姿を消した。

 

 

 

 

 




神通教官による鍛錬が始まる。
歌音は生き残れるのか…。



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第13話 暗躍する影

鳳翔さん改二実装おめでとう。

うちの鳳翔さんはまだ84なので
頑張ってレベル上げます……。



 

甲の鍛錬を始めて1週間が経った。

 

だいぶこの鍛錬にも慣れてきた。

 

前よりも体力がついたし、

動きも様になっている。

 

この体だからと言う理由もあるが

前世の時よりも動けているのだ。

 

ネ音も数日前から参加している。

 

初日から神通に(しご)かれていた。

 

泣きそうになっていたネ音の顔を

今でもはっきり覚えている。

 

いつもと違う顔をしていたから。

 

何なら初日の夜は抱きつかれた。

 

その時も同じ顔をしていたのだ。

 

今は神通の指示で私が指導している。

 

それでも厳しさは変わらない。

 

それと雪風も甲に来ていた。

 

丙でしっかりと学んだあと、

乙を一日で突破した。

 

乙の突破理由は分かるだろう……。

 

あまりにも幸運過ぎたのだ。

 

しかし、ネ音同様に扱かれていた。

 

雪風は神通の下で鍛錬をしている。

 

そんな日々を送りつつ、

私の本題の情報も得ている。

 

しかし、大本営の動きは未だにない。

 

佐世保に乗り込むための証拠を

中々掴めないでいるようだ。

 

上手く情報を隠されているらしい。

 

私は逸る気持ちを抑える。

 

今は今日の鍛錬に集中する。

 

今回の鍛錬は室内。

 

事前に伝えられた場所に行く。

 

そこはトレーニング施設。

 

様々な器具が置かれていた。

 

そこにいたのは神通。

 

そして、那珂ちゃんだった。

 

「はーい、ちゅうもーく♡」

 

那珂ちゃんが皆の注目を集める。

 

そして鍛錬の説明を始めた。

 

今日やるのは回避の鍛錬。

 

四方の壁の穴から

大中小の玉が飛んでくる。

 

それを避けるのだ。

 

さらに上には機材、

下には穴が4つずつある。

 

空襲と潜水艦からの攻撃も

再現されるらしい。

 

この装置は3つあるため、

3グループに分かれる。

 

撃たれるのはペイント弾。

 

妖精さんの技術で当たらないと

インクが飛び散らない特殊弾。

 

だから怪我をすることは無い。

 

体中がベタベタになるぐらいだ。

 

これを教官の指示があるまで

回避し続けるのだ。

 

大体5分ぐらいだ。

 

目安としてBGMが流れている。

 

リズムは取りやすい。

 

失敗すれば列に戻りやり直し。

 

もちろん交代の時も

回避しなければならない。

 

それに2人目以降は入るときも

弾幕を回避しなければならない。

 

そのため1人目が有利だ。

 

しかし、研修生はそれができない。

 

何故なら最初は教官がするから。

 

まずは那珂ちゃんがお手本を見せる。

 

弾幕の中でリズムよく踊りだす。

 

歌いながら踊っている。

 

それでも一つも被弾しない。

 

一曲終えるとそこから出てくる。

 

もちろんその時も被弾しない。

 

「さあ、みんなもやってみよ~♡」

 

それを合図に鍛錬が始まった。

 

 

 

 

 

研修生を襲う容赦のない弾幕。

 

速度、身長関係なく同じだけの

弾幕が襲ってくる。

 

長くここにいる研修生たちでも

体中をインクで染めていた。

 

それはあの矢矧も例外ではない。

 

矢矧は研修生の中ではトップ。

 

甲以外の鍛錬で好成績を残している。

 

そんな矢矧でも被弾はする。

 

違う列ではあるが、

矢矧の動きを見ていた。

 

最初に慣れるまでと

後半でいくつか被弾していた。

 

だが、研修生としての目標は突破。

 

そのため、この鍛錬は終了となる。

 

研修生の目標は生き残ることと、

被弾を中破以内に抑えることだ。

 

ペイント弾は直5回で轟沈判定、

3回で中破、5回掠りで小破である。

 

矢矧は中破判定でのクリアだった。

 

その後すぐに私が呼ばれた。

 

私の担当教官は那珂ちゃん。

 

私は那珂ちゃんの合図で中に入る。

 

タイミングを見て

当たらないように入る。

 

ここから指示があるまで躱し続ける。

 

流れるBGMに合わせるように

フィンガースナップ*1をする。

 

リズムを取りながら

少しずつ慣らしていく。

 

最初は少し被弾したが、

感覚は掴んできた。

 

次第に最小限の動きで避けていく。

 

この部屋に安地はない。

 

あるのは次弾発射までの

タイムラグと弾道の隙間。

 

音を聞き、予測を立てて動く。

 

ステップ、ジャンプ、スライディング。

 

様々な動きで躱していく。

 

まるでダンスをするかのように。

 

ここまで出来ているのも鍛錬のおかげ。

 

走り込みで体力に余裕ができ、

素振りで体の軸が整っている。

 

それに加え、前世の感覚が戻った。

 

前以上に気配を感じられている。

 

迫ってくる弾の気配を感じる。

 

後半になるにつれて

その感覚が強くなる。

 

耳で感じ、体で感じ、気配で感じる。

 

もう被弾することはない。

 

()()()()()()()()()()()()()()()……。

 

 

 

 

 

しばらくすると気配が無くなった。

 

音もなくなっている。

 

私は不思議に思って動きを止める。

 

すると那珂ちゃんがこっちに来た。

 

私の顔の前で手を振る。

 

「大丈夫?全然反応しなかったけど。」

 

どうやら私は何度も呼ばれたらしい。

 

しかし、集中していて

聞こえなかったのだろう。

 

装置から出るとそこには明石と

神通、ネ音、雪風、川内が待っていた。

 

川内はなぜか正座だった。

 

神通に話を聞くとあれから

1時間も続けていたらしい。

 

那珂ちゃんは止めようとしたが、

川内が面白がっていじったらしい。

 

すると、装置が壊れたそうだ。

 

全然止まらなかったらしい。

 

インク切れまで待とうとしたが、

1日稼働し続けるため強制的に止めた。

 

止めるために壊したそうだ。

 

明石はその修理でここに来た。

 

川内は壊したことで怒られたらしい。

 

明石と神通の2人から。

 

そして2人は私に対して謝罪させた。

 

私は別に気にしてはいない。

 

謝罪は受け取った。

 

それと神通からも謝られた。

 

どうやら最初の強襲と丸太は

川内が原因なのだとか。

 

強襲については今さっき

口を滑らせたらしい。

 

それで私に攻撃したことを

謝罪したかったらしい。

 

これにおいては私も謝罪する。

 

あの研修生たちのことだ。

 

私を見るなり怯えてしまうのだ。

 

ちょっとやり過ぎた。

 

反省は……しなくていいだろう。

 

一応、戦いに出る身なのだから。

 

とりあえず今日の鍛錬は終了。

 

雪風は神通に鍛錬してもらうそうだ。

 

私はネ音と一緒に自室に戻った。

 

今日は音楽室で演奏するのだ。

 

ネ音に音楽を楽しんでもらうために。

 

 

 

 

 

『そうか……』

 

とある部屋の中。

 

現状を話す一つの影。

 

暗い部屋の中で低い声が響く。

 

『元帥が落ちるのも時間の問題だな……

首尾は上手くいっているな?』

 

何かを企んでいるような会話。

 

しかしそれを知る者はいない。

 

「あいつは無理ですが、

もう一人の方なら可能かと……」

 

『ほう、内容を聞こうか……』

 

知っているのは2人だけ。

 

歌音も元帥も、艦娘たちも知らない。

 

『それでいい、しくじるなよ「Y」。

失敗すれば……分かっているな?』

 

「もちろんです…必ず…深海棲艦を…」

 

そこで会話は終わる。

 

暗闇の中の会話。

 

その企みは誰にも気づかれない。

 

そうとは知らない歌音はふと空を見る。

 

綺麗な月は雲に覆われ始めた。

 

光を通さない厚い雲。

 

黒く厚い雲は次第に雨を降らせる。

 

雷を鳴らし、波を荒らす。

 

凄く嫌な予感がする。

 

まるで空が悲しむ(歓喜する)かのように。

 

私は窓を閉めてネ音と音楽室を出る。

 

どこかの部屋にいるそれは窓を見る。

 

雷が光ったとき、目の前の窓には、

ニヒルな顔がしっかりと映った。

 

 

*1
指パッチンのこと




リズムよく躱す歌音さん。
BGMですが、おすすめは
「リズム怪盗Rのテーマ」

リズム怪盗RはいいBGMが多いので
聞いてみてください。


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第14話 平和の崩壊

書けちゃったので
14話も投稿します。




 

嫌な予感とは的中するものだ。

 

私は今、戦っている。

 

相手は加賀さん。

 

この暗く赤い海で対峙する。

 

加賀さんは私を完全に殺す気だ。

 

私は弾幕の量と艦載機の数に

手も足も出ない。

 

一方的にボロボロにされる。

 

体が動けなくなるまで。

 

胸ぐらを掴まれたと思えば

そのまま腹を蹴られて飛ばされる。

 

その一撃で嗚咽(おえつ)し、(うずくま)る。

 

そんな私を見降ろす加賀さん。

 

「あなたは……その程度なの?」

 

見降ろしながら加賀さんは言う。

 

「その程度の覚悟なら死になさい。」

 

弓を構えて私に向ける。

 

「後であの子たちも送ってあげる。」

 

あの子たち…………?

 

…………っ!

 

私は吠えながら立ち上がる。

 

ボロボロの身体に鞭を打って。

 

いつの間にか手に収まっていた

戦闘用の棒で振り払う。

 

加賀さんは後ろに下がった。

 

「加賀さん、そこを退いて!」

 

私は思い出した。

 

なんでここにいるのか。

 

一体何があったのかを。

 

早く戻らないといけない。

 

「戻りたいのなら私を倒すことね。」

 

倒さないと出られないらしい。

 

私は加賀さん、いや加賀を倒す。

 

私は再び戦闘を始めた。

 

 

 

 

 

今日は普通の朝だった。

 

いつものように歌を歌い、

いつものように鍛錬をした。

 

違ったのは大本営側の動きだ。

 

どうやら深海棲艦側の

大規模な動きが観測されたそうだ。

 

そのため鍛錬は午前中に終了。

 

教官たちは待機することになった。

 

私は待機中に暇になった那珂ちゃんの

相手をさせられていた。

 

昨日の鍛錬の時の動きから

私が踊れることを知ったからだ。

 

一緒にライブに出ないかと聞かれたし、

今後のスケジュールの話をされた。

 

その後、待機中の神通と川内を交えて

話した結果、ライブ参加が決まった。

 

後々元帥に提案するそうだ。

 

勘弁してほしいものだ。

 

そんな話をしていたが、

ある人物の登場で空気は変わる。

 

扉が勢いよく開いたのだ。

 

そこにいた艦娘は急いでいたのか、

大きく肩で息をしていた。

 

正体は卯月。

 

研修で一緒になったこともある。

 

いたずらっ子だが、ネ音と友達に

なってくれたいい子だ。

 

その卯月が教官もいるこの部屋に

血相を抱えてやってきたのだ。

 

この部屋にいるのは大本営の艦娘たち。

 

もちろん目線はそちらに移る。

 

神通は険しい顔で近づく。

 

「いったい何事です!

せめてノックを……」

 

「お説教は後で受けます!

今はネ音ちゃんが大変ぴょん!」

 

ネ音の名前を聞いて

私は勢いよく席を立つ。

 

すぐに卯月に近づいて肩を掴む。

 

「ネ音に何があったの⁈」

 

「雪風が…他の研修生と喧嘩になって

それをネ音ちゃんが庇って…」

 

それを聞いた私は振り返って

窓を開けて飛び降りた。

 

ここは3()()だが気にしない。

 

地面にちょっとしたクレーターと

ひびを作って着地する。

 

そのまま地面を蹴り、広場の方へ。

 

微かに感じる嫌な感覚のする方に

走って向かう。

 

広場に着くと研修生が集まっていた。

 

私はそこに走っていく。

 

私に気づいた研修生たちは

怯えながら道を開ける。

 

そこにいたのはへたり込む雪風と

血の海に倒れているネ音。

 

傷だらけで顔の右側にある

飛び出ていたところは欠けていた。

 

顔にも切り傷があり、

背中から血を流している。

 

冷たい体がいつも以上に冷たい。

 

私はネ音の名を呼ぶ。

 

自分でも焦っているのが分かる。

 

心臓の動きが速い。

 

嫌な汗もかいている。

 

ネ音を抱きしめ、必死に名前を呼ぶ。

 

ネ音は少しだけ目を開けた。

 

私は何度も名前を呼ぶ。

 

ネ音は震える手を私の顔に当てる。

 

そして、掠れた声で私を呼んだ。

 

「う…たね、お姉……ちゃ…ん……」

 

掠れているのに濁声じゃない。

 

しっかりとした掠れた声で

私を呼んだ。

 

涙を流しながら。

 

『――――』

 

その言葉と同時に手は地面に落ちた。

 

眼も閉じられていた。

 

ネ音の体が重くなった感じがした。

 

スッキリした顔をしている。

 

私の目からは涙がこぼれ落ちる。

 

少しずつ弱くなっていく心音が

私の焦りを募らせる。

 

だが、その気持ちも消え失せる。

 

「これでこいつを倒せる…」

 

そんな声が聞こえた。

 

殺気も感じる。

 

数は5人…………。

 

そして聞き覚えのある声だ。

 

あの時の5人か……。

 

「邪魔な奴が消えたから

後はこいつを倒せば……。」

 

…………こいつらは今、何て言った?

 

募っていた焦りはなくなった。

 

それは次第に怒りへと変………パキッ

 

何かが壊れる音がした。

 

ひだりめガ、イタイ。

 

デも、そンなコト、ドウでモいイ。

 

タダ、ハカイシツクスダケダ!

 

ワタシノイシキハ、ソコデトダエタ。

 

 

 

 

 

そう、私は前のようになった。

 

精神がおかしくなっているはずだ。

 

しかし、加賀は目の前で対峙している。

 

エラー娘が何かしたのだろうか?

 

…………、今はそのことを忘れよう。

 

今は、加賀に勝つ!

 

私は全力で加賀の攻撃を防ぐ。

 

棒があるだけでさっきより戦える。

 

隙を探して加賀に近づく。

 

しかし、加賀も一歩も引かない。

 

無数に出てくる艦載機。

 

うまく使って私を近づけさせない。

 

突破できなくはない。

 

加賀も集中しているだけ

疲れているのだから。

 

それでも突破できないのは私の焦り。

 

急いで戻らないといけない。

 

だが、この焦りが邪魔するのだ。

 

いつもの私の動きを。

 

そのせいか被弾数も多い。

 

「…………っ!そこ!」

 

っ!

 

直撃した。

 

見えていなかった。

 

いつもならしないミスだ。

 

私はその衝撃で海面を

バウンドしながら転がっていく。

 

早く立たなければ。

 

しかし、体は言うことを聞かない。

 

さっき無理やり動かしたからか、

いくら踏ん張っても立てない。

 

その間にも艦載機が迫っている。

 

私は全力で吠える。

 

維持で、根性で。

 

生まれたての小鹿のような足で。

 

体から血があふれ出ていても。

 

無理を通して立ち上がる。

 

だが、目の前には無数の艦載機。

 

既に攻撃が行われている。

 

私は迎え撃つように構える。

 

ここで死ぬわけにはいかない。

 

しかし、その直後。

 

私の目の前が煙に覆われた。

 

私はとっさに腕を顔の前で交える。

 

大きな衝撃が伝わる。

 

その衝撃を維持で耐える。

 

加賀からの攻撃が来ている………。

 

…………、痛くない?

 

衝撃が爆風の後から伝わってこない。

 

一体どういうことだろう?

 

私は恐る恐る目を開ける。

 

そこには驚くべき光景があった。

 

此処にいないはずの大福たちが

()()()()()()私の前にいた。

 

しかも、私を包むような

大きなバリアを貼っている。

 

とても暖かい…………。

 

だが、大福たちだけではない。

 

目の前に()()()1()()()()()()()

 

オレンジ色のロングヘア―の少女。

 

頭にイ級の被り物をしていた。

 

その子はこちらを振り向いた。

 

そして満面の笑みでこう言った。

 

「お待たせしました、歌音お姉さま!」

 

 

 

 




平和は唐突な崩壊を起こす。
戦いと密接なところはそんなものだろう。

最後に出てきた少女
一体何ちゃんなんでしょうね?



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第15話 最高の相棒

現れた少女、その正体は……。

この空間の歌音はヲ級の姿です。
ただし帽子はありません。


 

「お待たせしました、歌音お姉さま!」

 

突如として目の前に現れた少女。

 

少女は私のことをお姉さまと呼んだ。

 

だが、そんな覚えはない。

 

私のことをお姉さまと

言う子はいないはずだ。

 

考えているとその子は私に抱き着く。

 

いきなりで驚き、傷が開く。

 

しかし、次第に体が良くなっていく。

 

開いた傷も治っていたのだ。

 

体の傷が一つもない。

 

不思議な力だ。

 

「あなたは一体?」

 

自然に出てくる私の疑問。

 

少女は悲しそうな声で返答する。

 

「私のことを忘れたのですか……?」

 

今にも泣きそうな顔でこちらを見る。

 

しかし、そんなことを言われても

私は貴方を見たことがない。

 

そう答えると少女はキョトンとした。

 

………………………………。

 

そして、少女はハッとした。

 

「体が違う事を忘れていました!」

 

少女は改めて自己紹介をする。

 

「お姉さまの相棒、キューです!」

 

少女は胸を張ってそう言った。

 

この子、キューちゃんだった。

 

こんなに変わっているとは

誰も予想できないだろう。

 

少なくとも明石は関わっている。

 

こんなことができるのは

彼女しかいないからだ。

 

しかし、予想以上の変化だ。

 

それにこんな性格だとは思わなかった。

 

もう少し真面目だと思っていたのだが、

ネ音以上に変わっている。

 

今はネ音が相棒のようなイメージだが、

最初の相棒はキューちゃんだ。

 

基地で生活してから傍にいたのが

ネ音だったから仕方がないが……。

 

そう思っているとキューちゃんに

首のやつを掴まれる。

 

そうですよ!なんで私じゃなくて

ネ音を選んだのですか!

 

キューちゃんはそう言って

私を前後に振る。

 

あまりの強さに酔いそうになった。

 

私の方があの子より先なのに―!

 

そう言って涙ぐみながら叫ぶ。

 

バリアの中でしばらく

このやり取りが続いた。

 

 

 

 

 

キューちゃんが落ち着いたため、

表の現状について聞く。

 

表では色々と起きていたようだ。

 

原因は主に私だが…………。

 

キューちゃんは提督と吹雪、夕張、

大福たちとこっちに来たそうだ。

 

その時も暴れていたため、

頑張って止めてくれたようだ。

 

その際、研修生数人が大けがで入渠中。

 

元帥を含め、私を止めに来た

大本営の艦娘が怪我をしたらしい。

 

幸い施設や一般人には

被害が出なかったそうだ。

 

場所が広場だったのが幸いした。

 

今の私の身体は自室で

固定されているらしい。

 

急に目覚めて暴れないように

対策しているそうだ。

 

ネ音は………まだ分からないらしい。

 

正確にはキューちゃんには分からない。

 

今は明石が頑張ってくれているそうだ。

 

それにキューちゃん言ってくれた。

 

「ネ音は必ず生きている」、と……。

 

しかし、その確証はない。

 

向こうの状況が分からない以上は。

 

でも、この言葉は確定である気がした。

 

理由はないけど確かなものだと。

 

この言葉に救われた。

 

私の進むべき道は決まった。

 

だから私はこっちに集中する。

 

明石を、明石とネ音を信じる。

 

私は大福にもう大丈夫と伝える。

 

すると大福たちはバリアを解除した。

 

心なしか疲れているように見える。

 

ずっと私を守ってくれていたのだ。

 

頑張ってくれてありがとう。

 

私は大福たちを撫でてから前に進む。

 

加賀は弓を構えて待っていた。

 

上空には沢山の艦載機。

 

すぐに私を仕留めるつもりだろう。

 

しかし、待ってくれている。

 

その事に感謝して

私は加賀と向かい合う。

 

ほんの数秒の沈黙。

 

先に口を開いたのは加賀だった。

 

「イレギュラーはありましたが、

私のやることに変わりはありません。」

 

そう言って眼を鋭くする。

 

だが、それは私も変わらない。

 

やることはたった1つだ。

 

私は再び構える。

 

いつものような片手ではなく、

両手でしっかりと持つ。

 

()()()()()()()()使()()()()()()

 

構えてから再び沈黙する。

 

お互いが警戒して動かない。

 

だがこの沈黙は破られた。

 

「ハ…フェ……フェクチュン!

 

キューちゃんのくしゃみである。

 

この沈黙を破った一撃。

 

その瞬間私は走った。

 

加賀もそれに合わせて矢を放つ。

 

上空にいる艦載機も降りてくる。

 

このままではさっきと同じように

ハチの巣にされて倒れるだろう。

 

しかし、私はさっきまでとは違う。

 

もう、焦りはない。

 

ネ音は生きているのだから。

 

それに、思い出しているのだ。

 

私の今までを……。

 

那珂ちゃんのあの鍛錬を……。

 

そしていつしかのエラー娘の言葉を。

 

加賀は覚悟ができていることを。

 

もう逃げるだけの私ではない。

 

キューちゃんのおかげで覚悟ができた。

 

私は覚悟を決めた。

 

今度こそ迷わない。

 

クヨクヨしていた私とはオサラバだ。

 

覚悟を決めていた

加賀に対して失礼だしね。

 

だから加賀のところまで行く。

 

私の覚悟を伝えるために。

 

まずは艦載機の攻撃を避ける。

 

躱す、弾く、避ける、集中する。

 

避け続ける、躱し続ける!

 

この鉄の雨が止むまで。

 

必ずできる隙を待って………っ!

 

ほんと、相棒と言うのは頼りになる。

 

私が欲しかった隙が、起死回生の一手が

最高のタイミングで来てくれた。

 

待機中の艦載機との入れ替わり、

そのほんの一瞬だけできる間。

 

そのタイミングで邪魔してくれた。

 

大福たちがバリアで艦載機に突撃し、

キューちゃんが残りを落としてくれた。

 

「明石さんと夕張さん直伝!

ぶっ壊すほど……シュートッ!」

 

………………2人は後で〆る。

 

だが、今だけは感謝しておく。

 

艦載機からの鉄の雨が減った。

 

その隙に加賀に近づく。

 

距離は遠いが、上からの攻撃が減った分

加賀の放つやつに集中できる。

 

だから、そのまま勢いで突撃する。

 

もちろん油断はしない。

 

矢を艦載機に変えずに

直接狙ってきたとしても。

 

棒で弾く、弾く!弾く!!!

 

加賀はすぐそこにいる。

 

届く、あと少しで。

 

今がチャンスなのだ。

 

キューちゃんが止めてくれている。

 

大福たちが守ってくれている。

 

加賀の矢の補給が間に合ってない。

 

矢を撃たれて不利になる前に。

 

そして、ようやく届いた。

 

振り上げた棒が加賀の手に当たった。

 

その衝撃で弓が弾き飛ぶ。

 

間髪入れずに次の攻撃へ。

 

棒を全力で振りかぶる。

 

加賀は飛行甲板で防いだ。

 

しかし、その衝撃で甲板は砕け散った。

 

加賀にはもう自分を守る武器がない。

 

最後の一撃を淹れるために踏み込む。

 

だが、加賀も簡単にやられなかった。

 

隠し持っていた刀を抜き、

私の攻撃に対応する。

 

そこからは完全な打ち合いになった。

 

神通とはまた違う太刀筋。

 

本当に空母なのかと疑いたくなる。

 

そんな太刀に私も負けじと対抗した。

 

 

 

 

 

打ち合いは数十回、何百回にも及んだ。

 

この空間にはぶつかり合う時の

金属の音だけが鳴り響いた。

 

お互いが死力を尽くす。

 

覚悟をぶつけ合うように。

 

2人は既に息があがっている。

 

肩で呼吸をするぐらいには疲れていた。

 

もう、後一振りが限界だろう。

 

だから、これが最後の打ち合いだ。

 

お互いが叫びながら突撃する。

 

残った気力を振り絞って。

 

だが、その一撃が

ぶつかり合うことは無かった。

 

 




少女の正体はキューちゃんでした。

姿はMMDのモデルが存在するので
「イ級ちゃん」で検索をどうぞ。





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第16話 目覚め

 

互いの一撃がぶつかることは無かった。

 

止めたのはエラー娘。

 

私達の間に突如として現れた。

 

そして猫を上に投げて、

私達の攻撃を手で受け止めた。

 

その力は凄まじく、武器を砕くほどだ。

 

私達は少し下がる。

 

そしてタイミングよく猫が落ちてきた。

 

エラー娘はしっかりとキャッチする。

 

そしてこちらを向いた。

 

「チャント、ミテタゼ。

カクゴヲ、キメタヨウダナ。」

 

私はその言葉に頷く。

 

エラー娘も「ソウカソウカ」と頷き、

()()()()()()()()()()()

 

海面にキスする勢いで殴られた。

 

そして、叱られた。

 

理由はもちろん今回の事。

 

赤黒いこの世界のことだ。

 

また私の感情が溢れたから。

 

しかし、今はだいぶ変化している。

 

打ち合いの時は気づかなかったのだ。

 

水平線の向こうから青色の世界が

此方に向かってやってきていることに。

 

エラー娘の説教も少しで済んだ。

 

加賀については色々と説明された。

 

今回はエラー娘の協力。

 

私の覚悟が決まらなかったから、

死ぬ覚悟で挑んでくれた。

 

まあ、エラー娘の支援があったため

馬鹿ほど艦載機が飛んできたのだが。

 

でも、そのおかげで

覚悟を決めることができた。

 

加賀と打ち合って気持ちが伝わった。

 

だから私は感謝する。

 

加賀…いや、加賀さん、ありがとう。

 

口には出さず、心の中で感謝した。

 

すると、途端に加賀が顔を赤らめた。

 

声を出してないはずなのだが……。

 

疑問に思っているとこう言われた。

 

「ここ、貴方の心の中なのだけれど…」

 

…………忘れていた。

 

恥ずかしい、とても恥ずかしい。

 

心の声が筒抜けであることを

完全に忘れていた。

 

私は顔を手で隠してしゃがみ込む。

 

しばらく間、この状況を理解していない

キューちゃんに頭を撫でられ続けた。

 

 

 

 

 

私は顔を片手で隠しながら立ち上がる。

 

そろそろ向こうに戻らなければ…。

 

エラー娘の方は準備ができている。

 

だが、戻る前にエラー娘が

キューちゃんに対して聞いた。

 

「オマエ、ドウヤッテ、

ココニハイッテキタ?」

 

その疑問にキューちゃんは

笑顔で答えた。

 

「夕張さんに何か付けられて、

その後に目を瞑ったら此処いたよ」

 

夕張はなんてものを付けたのだろう。

 

エラー娘も頭を抱えていた。

 

向こうに戻ったら「使わないでくれ。」

と伝えてほしいと言われた。

 

私は殴ってでも止めると約束した。

 

そうして私は向こうに戻る。

 

心の中で加賀さんに感謝して。

 

 

 

 

 

光に包まれた後、

目の前が真っ暗になった。

 

音の無い静かな空間。

 

しばらくすると音が鳴る。

 

一定のタイミングでなる機械音。

 

ピ、ピ、ピ…………

 

そんな音が聞こえた。

 

体の感覚も戻ってくる。

 

凄く体が重たい。

 

動かそうと思ったが、だるくて止めた。

 

とりあえず、瞼を開く。

 

そこは見覚えのある天井だった。

 

私とネ音の部屋だ。

 

頭を動かし、周囲を確認する。

 

体の方は聞いた通り、縛られていた。

 

いまのところ、使えるのは左腕だけ。

 

他に何かないか確認する。

 

人は…隣で寝ているキューちゃんだけ。

 

その横には大福たちもいた。

 

キューちゃん達には装置が付いていた。

 

言っていたのはこれの事だろう。

 

部屋は明るい。

 

おそらくさっきまで誰かいた。

 

何か合図が送れないか確認してみる。

 

左腕で探して見るが周囲に物はない。

 

暴れて武器にされたら困るからだろう。

 

キューちゃんはまだ目覚めそうにない。

 

どうやって伝えたらいいだろう。

 

そう思っていると外から音がした。

 

慌てている様なドタドタとした音。

 

その音はどんどん近づいてくる。

 

そして扉が勢いよく開いた。

 

扉を開けたのは夕張。

 

夕張は私を見ると勢いよく

部屋に入って飛びついた。

 

私は抵抗できないので

素直に抱きつかれる。

 

「歌音さん、良かった!」

 

泣きながら私に抱き着く夕張。

 

私は動かせる左手で頭を撫でる。

 

この夕張は基地の夕張だ。

 

私に対しての感情が違う。

 

私は撫でながら「ただいま」と言った。

 

 

 

 

 

しばらくして泣き止んだ夕張に

今の状況を聞いた。

 

今の私はこの部屋に監禁中。

 

私は外に出ることはできない。

 

部屋に入る人物も限られている。

 

それ以外のことはキューちゃんから

聞いている内容と同じだった。

 

違ったのはネ音の事。

 

ネ音は………無事に峠を越えた。

 

回復に向かっているそうだ。

 

もう少ししたら目を覚ますらしい。

 

私はそのことに安堵した。

 

一番の心配が無くなった。

 

この後のことも聞いた。

 

今から此処には元帥が来るらしい。

 

理由は私が目覚めたためだ。

 

私としても元帥と話しておきたい。

 

処遇について聞くべきから。

 

私は元帥が来るまで待機。

 

夕張は元帥が来るまでに

私の身の回りのことをしてくれた。

 

上半身の拘束だけ外してもらい、

体を拭いて着替える。

 

流石にこれだけはさせてもらった。

 

可能なら風呂に入りたいが

そこは我慢する。

 

着替えが終わると扉がノックされる。

 

夕張がどうぞと言い、入ってきたのは

左腕をギブスで固定した元帥だ。

 

一緒に大和と神通も入ってくる。

 

2人とも腕や足に包帯を巻いていた。

 

私がやってしまったのだろう。

 

「私のせいで、ごめんなさい。」

 

私はすぐに謝る。

 

しかし、3人は気にしていなかった。

 

口を揃えて「自分の力不足」と言う。

 

それもどうかと思うが、

この人たちだからと納得した。

 

そして今回の詳細を聞いた。

 

まず、衝撃的なことを聞かされた。

 

今日は今回の騒動から

既に5日も経っていた。

 

キューちゃんが入ってから

2日目になるらしい。

 

次に神通から。

 

神通が着いた時には研修生5人が

血まみれで倒れていたらしい。

 

倒れていたのはあの5人。

 

その中心には私。

 

その時に高い音で歌っていたらしい。

 

そんな私の近くにはネ音を抱えた雪風。

 

他の研修生は遠くに離れていた。

 

私は血まみれの研修生に

まだ攻撃しようとしたらしい。

 

流石にまずいと神通が止めに入った。

 

すると神通のほうに振り向いて突撃。

 

刀を砕き、神通を殴った。

 

神通は腕をクロスしてガードしたが、

飛ばされたらしい。

 

その際に腕を負傷したようだ。

 

その後は元帥と大和も到着。

 

元帥も神通と同じように

刀を砕かれて左腕を折られた。

 

大和も必死に対抗したが、

中々抑えられなかったそうだ。

 

そんな時に助太刀が来た。

 

キューちゃんたちだ。

 

来たのはキューちゃんと吹雪、夕張。

 

後で提督とキューちゃんズ、大福、

護衛で瑞鶴たちもやってきたそうだ。

 

一足先に着いたキューちゃんたちが

私に飛びかかった。

 

すると私は動きを止めたらしい。

 

同時に歌も止んだそうだ。

 

その隙に大和が私を拘束して、

今の状況になったのだという。

 

研修生は一命をとりとめたが、

今回の件で営倉に入っている。

 

今でも事情聴取されているらしい。

 

他の研修生も聴取中なのだとか。

 

キューちゃんズは今でもお手伝い中。

 

しばらくはこっちにいるらしい。

 

夕張と吹雪もしばらく残るそうだ。

 

夕張が私、吹雪がネ音についている。

 

瑞鶴達は提督と一緒に基地に戻った。

 

本当は残りたかったそうだが、

基地を開けるわけにもいかないから。

 

後は聞いたことと同じ。

 

装置については明石じゃないと

分からないためここでは割愛。

 

それで、私の処遇だが、

しばらくは監視付きで様子見。

 

行動も制限される。

 

一応音楽室と憲兵隊のところへは

行くことができるそうだ。

 

音楽室が使えるのは使う人が

ある程度決まっているから。

 

私から音楽を奪わないように

と言う理由もあるそうだ。

 

憲兵隊は向こう側からの要望。

 

満場一致で「来ても大丈夫」

ということだった。

 

あの人たちらしい。

 

とても嬉しかった。

 

後、もう一つ行ける場所がある。

 

それはネ音のところ。

 

入室可能な同行者がいれば

入れるように手配してくれた。

 

制限されている割には動ける。

 

思ったよりも緩い。

 

これも元帥のおかげなのだろう。

 

本当に感謝している。

 

今回の事についてはよく分かった。

 

元帥は今から

ネ音のところに行くらしい。

 

可能なら同行させてほしい。

 

私は元帥にそうお願いした。

 

元帥はすぐに了承してくれた。

 

待ってくれるそうなので

向かうために準備をする。

 

元帥達が部屋を出たあと

拘束を解いてもらう。

 

そしてキューちゃんと大福たちを

夕張に任せて私は着替えて部屋を出た。

 




歌音、復活






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第17話 懐かしい感覚

歌音復活
ネ音のところへ


 

私は部屋を出て元帥について行く。

 

3人で私を囲うように並んで進む。

 

途中で色々な人にすれ違う。

 

私はすれ違うたびに一礼をする。

 

迷惑をかけてしまったからこその謝罪。

 

3人はその度に待ってくれた。

 

部屋に着くまでそれを繰り返す。

 

10回以上は礼をした。

 

そしてようやく部屋に着いた。

 

元帥がノックをする。

 

中からはどうぞと言う声がした。

 

私は元帥に続くように入る。

 

部屋には多くのベッドが置かれていた。

 

ここはいわゆる医務室だ。

 

目の前には白衣を着た北上と大井。

 

軽巡の方の2人だ。

 

2人は北上の希望で

医務室の仕事をしている。

 

北上は親指で部屋の奥を指す。

 

「用事があるのはあの子でしょ?

1番奥にいるから行ってきな。」

 

そう言うと大井が手招きする。

 

私はそれについて行く。

 

部屋の奥にはカーテンのかかった

場所が1つだけあった。

 

そこにネ音がいるのだろう。

 

大井はその少し前で立ち止まる。

 

こちらを振り向いて小声で話す。

 

「私、貴方のことが嫌いでした。」

 

いきなりの告白。

 

なぜ今言われたのか分からなかった。

 

「貴方がここに来てからというもの、

私と北上さんの時間がつぶれたのよ」

 

何となく言いたいことは分かった。

 

恐らく鍛錬のことだ。

 

丁と丙の時に何度か研修生が挑んできて

返りうちにしたことがある。

 

その時の子たちは確か

医務室に運ばれていた。

 

なるほど、そういうことか。

 

「それにあなたが寝ている間は

忙しかったんですよ。」

 

ふくれっ面で怒る大井。

 

それは謝らなくてはならない。

 

私はすぐに謝罪した。

 

しかし、大井は「でも…」

と言って続ける。

 

「この前の事で印象が変わりました、

貴方は私と同じようですから。」

 

私と大井が同じ?

 

「私も北上さんが同じことになったら

貴方のようになっていると思います。」

 

確かにそうなっているだろう。

 

艦娘の中で特に北上と大井の

関係性は有名だ。

 

艦これを少ししか知らなかった

私もその事だけは知っている。

 

中には結婚しようとする

多いもいるのだとか……。

 

しかし、これは多分あれだ。

 

私、大井に同族扱いされている。

 

いや、否定はできない。

 

ネ音やキューちゃん、

吹雪たちに何かあったら…。

 

うん、今は考えるのをやめておこう。

 

また感情が溢れたら大変だ。

 

大井は「後はゆっくりしてきなさい。」

と言って戻っていった。

 

私は大井を見送り、

カーテンのかかった所へ。

 

カーテンを開けるとそこには

片眼鏡をかけた患者衣のネ音がいた。

 

上半身だけ起こして本を読んでいた。

 

その横では吹雪が寝ていた。

 

ネ音は右手で吹雪を撫でながら

左手で上手に本を読んでいた。

 

集中しているのからだろうか?

 

中々こちらに気づかない。

 

私はネ音の左隣まで行く。

 

ネ音はそれでも気づかない。

 

邪魔するのも悪いので一度部屋を出て

元帥たちのところに戻る。

 

戻る途中に大井が気づいたので

吹雪にかけてあげる毛布を頼む。

 

大井はすぐに毛布を持ってきてくれた。

 

私は部屋に戻り、吹雪の方へ。

 

吹雪に毛布を掛けてあげる。

 

ネ音はそれでようやく反応した。

 

「ありがとうございま…す……。」

 

ネ音はこちらを向いて固まった。

 

持っていた本を落とす。

 

眼を見開いたと思えば

プルプルと震えだした。

 

今にも泣きそうな顔をしている。

 

私はそんなネ音の頭を撫でて

「ただいま」と言う。

 

ネ音は耐えきれずに

泣きながら私に抱き着いた。

 

私が泣いた時のように大声で泣く。

 

その声で目が覚めたのだろう。

 

吹雪が目を擦りながら体を起こす。

 

そして吹雪も同じ反応を見せる。

 

私はそのまま抱きつかれる。

 

2人に泣きながら抱き着かれる。

 

私は2人の頭を撫でる。

 

本当なら色々と話をしたいが

今は2人が泣き止むまで待つ。

 

いや、泣き止まなくてもいい。

 

私も泣いていいだろうか?

 

だって、ネ音が無事だったのだから。

 

私は声を押し殺して泣く。

 

ネ音が無事で本当に良かった。

 

 

 

 

 

2人がだいぶ落ち着いた。

 

私は2人が落ち着く前に

涙を拭いておいた。

 

これで大丈夫だ。

 

2人にがっちり掴まれて痛いが。

 

元帥も静かになったのを

見計らってこちらに来てくれた。

 

少ししてネ音のことについて話した。

 

ネ音はここでしばらく療養。

 

もうほとんど治っているため

早いうちに部屋に戻れるそうだ。

 

ネ音は被害者でもあるため

聴取をされるらしい。

 

と言っても証言の食い違いの

確認をする程度だ。

 

ネ音はそれまで勉強するそうだ。

 

今もその勉強の本を読んでいた。

 

内容は医療についてだった。

 

医療のことが気になったらしい。

 

療養中は退屈しないだろう。

 

吹雪は夕張と一緒に空き部屋で

過ごしているそうだ。

 

ネ音が完治すれば基地に戻るらしい。

 

長くても一週間ぐらいだろう。

 

時間があれば此処の鍛錬に

挑戦してみるらしい。

 

無事に帰還できることを祈っておこう。

 

ひとまず話すことが一通り終わった。

 

元帥は次の仕事のためここで退出。

 

戻るときは吹雪が同伴することに。

 

その後はしばらく話した。

 

こっちであったこと。

 

基地の方であった出来事。

 

明石の実験や開発。

 

これからのことなど。

 

とても有意義な時間を過ごした。

 

あ、もちろん明石は吹雪に

〆てもらうことにした。

 

夕張はこっちにいるから

いつでも〆ることができるからね。

 

私達はネ音に別れを告げて部屋に戻る。

 

帰りの際もすれ違う人に一礼をする。

 

大半の人はしなくても大丈夫だと

言ってくれるが私は続ける。

 

そうしないと気が済まないから。

 

吹雪と共に部屋に戻る。

 

部屋に入るとキューちゃんと

大福が起きていた。

 

装置も部屋の隅に片付けられていた。

 

キューちゃん達が起きたのは数時間前。

 

起きてからずっと暇をしてたいらしい。

 

それまで夕張が相手をしていたのだとか。

 

なら今度は私の相手をしてもらおう。

 

私は手をワキワキしながら近づく。

 

夕張は少しずつ後ずさる。

 

私はじりじりと近寄る。

 

吹雪はその隙にキューちゃんを捕まえ、

手で両目を塞いでいた。

 

「歌音さん…?一体何を……。」

 

そう聞いてくるので理由を教える。

 

「キューちゃんに何を教えたの?」

 

もちろん笑顔で夕張に聞く。

 

夕張は冷や汗をかいて顔を青くする。

 

そのままそっぽを向いて

「な、何のことだか……」と言う。

 

だから言ってあげる。

 

「ぶっ壊すほど…シュートを

教えたのはどこの誰かしら?」

 

夕張はさらに冷や汗をかく。

 

次第に彼女の体が震え始める。

 

そこにとどめを刺すかのように

キューちゃんからの言葉が来る。

 

「教えてくれたのは

明石さんと夕張さんだよ。」

 

子供のような純粋な回答。

 

夕張は察した。

 

あ、終わった……と。

 

私はもちろん笑顔を絶やさない。

 

夕張はブリキのおもちゃのように

震えながら首をこちらに向ける。

 

「えと…ゆ、許してくれないかな~

な~んて……ははは……。」

 

「フフフ……。」

 

私は笑顔で近づいて

夕張の顔を掴んで言う。

 

有罪(ギルティ)

 

その後部屋から夕張の悲鳴が木霊した。

 

 

 

 

 

夕張の悲鳴を聞いた大本営の艦娘は

素早く部屋に駆けつけた。

 

そこには正座をして「有罪」という紙を

額につけた夕張がいたらしい。

 

その時、私は部屋にいなかった。

 

吹雪に付き添ってもらって

食堂に行っていたからだ。

 

食事について何も聞いていなかった。

 

途中で神通さんに会ったから

食堂に行く前に話して戻ってきた。

 

次からは届けてくれるそうだ。

 

いやー、私達がいない間に

部屋で色々起こったらしい。

 

夕張も災難だった。

 

しかし、そんなことがあったのか。

 

怖いから今日は早く寝よう。

 

私は怖いと言いながら

晴れた心でぐっすりと眠った。

 

この懐かしさを喜びながら。

 

 

 




北上さんは工作艦としての一面もあるので
このような形で出てもらったのです

ここの大井はLoveではなくLIKEです

夕張?
ああ、良い奴だったよ……


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第18話 決めた道

夕張はお仕置きされました。


 

私とネ音が目覚め、

夕張を〆てから数日が経った。

 

その間、私はやれることをした。

 

朝の歌の習慣。

 

憲兵との鍛錬。

 

神通との鍛錬。

 

音楽室で歌い、医務室で雑談する。

 

人とすれ違う時は必ず一礼。

 

いつもと同じことを行う。

 

あの日の事で呼ばれれば

すぐに向かう。

 

いつも以上でも以下でもない。

 

いつも通りのことをする。

 

だが、その中でも違うことは起きる。

 

鍛錬に武蔵が乱入することもあれば、

那珂ちゃんと一緒に歌うこともある。

 

自主トレ中の研修生と

一緒に鍛錬をすることもあった。

 

気づけば少しずつ行動できる範囲も

広くなっていった。

 

艦娘も職員も私に近づいてくる。

 

嫌な顔一つせず、

関わろうとしてくれる。

 

研修生の一部からは未だに嫌われたり

怖がられたりしているけど。

 

それでも大本営側は

私を受け入れてくれていた。

 

私の行動の制限はもう無いに等しい。

 

タイミングが合わなくて雪風や

友達に会えないのは少し残念だけど。

 

ネ音は雪風たちに会えているらしい。

 

よくお見舞いに来てくれているそうだ。

 

そんなネ音だが、

明日には退院できるそうだ。

 

北上の想定より早い回復を見せた。

 

顔の甲殻は欠けてしまっているが、

特に支障はないようだ。

 

ただ、前より視力が落ちたらしい。

 

艦娘でも同じような症状はあり、

修復材では治らないそうだ。

 

片眼鏡をかけているのはそれが理由だ。

 

戦闘の際も必要になりそうだ。

 

今は即席で作られたものだが、

後々壊れないものを作ってもらう。

 

作るのはここの明石なので

心配の必要はない。

 

それにネ音はあまり戦わないだろう。

 

元々戦うのは好きではない。

 

私の歌につられてやってきて

そこから皆と過ごしてきたのだから。

 

しかも聞く限りだと

ネ音は医療に携わりたいそうだ。

 

やられた際に体が動かなくなった

理由を探したくなって見ていたそうだ。

 

その際、医療に興味が沸いたそうだ。

 

あれだけボロボロだった自分が治った。

 

その事に驚きを隠せなかったようだ。

 

ネ音が知らない未知の世界。

 

戦うのではなく治す。

 

今まで考えてなかった道を歩むそうだ。

 

キューちゃんは工廠で明石のお手伝い。

 

キューちゃんズもお手伝いをしている。

 

明石曰く、「優秀なお手伝い」らしい。

 

明石は工廠に入り浸るため

他の艦娘のような生活ではない。

 

人数が多いと艤装の修理が間に合わない。

 

そのため工廠には生活ができる

専用の部屋が設けられている。

 

キューちゃんズはその点が優秀だった。

 

掃除、洗濯、料理など何でもできる。

 

休憩のタイミングも完璧で

明石が欲しい時に来るそうだ。

 

妖精との会話も多少できるらしい。

 

そのため、この数日間は

快適に過ごせているそうだ。

 

私はこの時思った。

 

元に戻ったときの反動がデカいなと。

 

今頃基地の明石は項垂れているだろう。

 

そしてキューちゃんたちが戻ったら

今度はこっちの明石が……。

 

楽し過ぎはあまり良くないね。

 

 

 

 

 

時間が経つのは早い。

 

歌を歌って、鍛錬をして

一緒にトレーニングをする。

 

そんな今日も、もうすぐ終わる。

 

今日までに今回の事件も

佐世保の件も進展はなかった。

 

あの5人の研修生も口を割らない。

 

最初に噛みついてきた矢矧は

敵対心はあるが関与していない。

 

そう証言していた。

 

正直何が正しいのか分からない。

 

他の研修生もアリバイがある。

 

一応の警戒を兼ねて、矢矧には

営倉に入ってもらっている。

 

またいつ起きるか分からない。

 

そんな不安を抱えて夜を過ごす。

 

今は食事の後の面会。

 

許された時間ぎりぎりまで

ネ音と一緒に過ごす。

 

隣ではスヤスヤと眠る吹雪。

 

ネ音が優しく頭を撫でる。

 

吹雪はネ音が完治したため、

明日には夕張達と基地に戻る。

 

さっきまで離れたくないと

ずっと泣いていた。

 

私達がいなくて寂しかったのだろう。

 

そんな吹雪にネ音はこう言ったのだ。

 

「永遠の別れじゃないよ。

それにたまにお家に帰る予定だから。」

 

「永遠の別れじゃない」「たまに帰る」

 

ネ音はそう言ったのだ。

 

基地に、家に帰ると。

 

吹雪はそれで落ち着いた。

 

ネ音に抱き着き、しばらくして眠った。

 

ネ音は吹雪が寝たのを確認してから

私に話していないことを話してくれた。

 

これからどうしたいのかを

ハッキリと話してくれた。

 

この数日で決めたこと。

 

医学の道に進むそうだ。

 

吹雪と会って改めて考えたらしい。

 

そして、皆を戦いではない方法で守り、

助けたいと思うようになったそうだ。

 

ここで北上の下で働くよう

元帥に具申するらしい。

 

私と離れることになるかもしれない。

 

それは大丈夫かと聞く。

 

ネ音は少し寂しい顔をした。

 

しかし、意志は強かった。

 

「お姉ちゃんを守れるなら」

 

そう言った、言ってくれた。

 

私はその思いを叶えるために

出来るだけ協力することにした。

 

ネ音の覚悟を聞くことができた。

 

すると、丁度北上がやってくる。

 

もう時間だから呼びに来た。

 

私は吹雪を抱っこして

「おやすみ」と言って出る。

 

ネ音からの返事を待って

北上はカーテンを閉めた。

 

私はそのカーテンを見つめる。

 

北上は私の肩に手を置いて、

「大丈夫だよ」と言ってくれた。

 

北上も察してくれていたのだ。

 

ネ音が泣きたいことを。

 

本当に別れを悲しんでいるのは

吹雪よりもネ音だということを。

 

前までは私の隣を取り合う

ライバルだったのに。

 

今はまるで姉妹のような2人。

 

そんな2人だからこそ、

こんなにも涙を流すのだろう。

 

そう思いながら静かに部屋を出る。

 

出る時に北上がさっきの話について

協力すると言ってくれた。

 

どうやら聞こえていたらしい。

 

元帥に伝えてくれるそうだ。

 

出来る限りのことをしてくれるらしい。

 

私は北上に感謝して

吹雪を連れて部屋に戻った。

 

部屋には声を押し殺し、

すすり泣く声が響く。

 

北上はそれを聞きながら仕事を続けた。

 

 

 

 

 

カツッ、カツッ、カツッ……

 

大本営の廊下に足音が小さく響く。

 

鳴らすのは黒いフードの人物。 

 

深くかぶっているため、顔は見えない。

 

その音は次第に医務室に向かっていく。

 

医務室に着き、扉をこっそりと開ける。

 

中には誰もいない。

 

こっそりと入って扉を閉める。

 

フードの人物は迷うことなく、

部屋の奥へと向かった。

 

物音を立てないようにこっそりと。

 

部屋の奥、カーテンのかかったところ。

 

そこから聞こえる寝息。

 

フードの人物のターゲットである。

 

こっそりとカーテンを開ける。

 

ベッドの上で毛布が上下に揺れる。

 

規則正しく、一定の寝息だ。

 

フードの人物は懐に隠したナイフを

両手で持って振り下ろす構えを取る。

 

この時フードの人物の心拍は

振れた炭酸のように暴れていた。

 

焦り、不安、怒り、喜び、etc.

 

自分の中の感情が混ざり合い、

かつてないほどに驚いているのだ。

 

ここまでうまくいくと

思っていなかった。

 

一度狂ってしまった

時間をかけた計画。

 

しかし、絶好のチャンスが訪れている。

 

その計画が成功しそうなのだ。

 

ターゲットは目の前。

 

フードの人物はナイフを振り下ろし、

ターゲットをグサッと刺した。

 

 




ネ音は医学に興味を持ちました。

今は歌音や艦娘のため、
医学を北上から学ぶ予定です。

最後に来たのは誰かしら?





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第19話 女神の愉悦

黒いフードの人物によって
ナイフが振り下ろされた。



 

ナイフは深く刺さった。

 

毛布に伝わるシミ。

 

動きも寝息も止まった。

 

やったのだ、ようやくやったのだ。

 

ターゲットの生命活動は止まり、

目標は達成したのだ。

 

後は誰にもバレずに部屋に戻るだけだ。

 

急いでこの場から離れる。

 

なるべく音を立てず、出口に向かった。

 

だが、部屋を出る前に

強い衝撃が左から襲う。

 

その衝撃に飛ばされ、

勢いよく窓にぶつかった。

 

その衝撃でガラスも割れる。

 

近くにあったものも散乱した。

 

痛みに耐えながら顔を上げる。

 

そこにはハンマーを持った大井がいた。

 

「北上さんの仕事場に入る不届き物が!

大人しくしてなさい!」

 

そう言って近づいてくる。

 

早く逃げないとマズイ。

 

そう思い、すぐに窓から外に逃げる。

 

窓ガラスが割れたことで簡単に

外へと逃げることができた。

 

ここで捕まるわけにはいかない。

 

急いで見つからないように

身を隠しながら走り出す。

 

だが、不運なことは続く。

 

逃げる方向には夕立がいた。

 

逃げるルートに被ってしまった。

 

一番会いたくないのに会ってしまった。

 

夕立は艦娘の中で特に鼻が利く。

 

今、この手には刺した後の血が

べっとりついている。

 

それにさっきの一撃で

左腕からも血がでている。

 

変な方向に曲がっている左腕から。

 

この匂いに気づかれたら確実に終わる。

 

幸い、後ろから大井が

迫ってくる気配はない。

 

今この時間を耐えなければ……。

 

「そこに誰かいるっぽい?」

 

っ!マズイ!気づかれた!

 

「ん~、変なにおいが混じって

誰なのかよく分からないっぽい。」

 

匂いではなく気配で気づかれた。

 

その足音は次第に近づいてきている。

 

心臓の鼓動は早くなる。

 

早くこの場から逃げたいが、少しでも

音を立てようものなら気づかれる。

 

心臓が痛い、汗が止まらない。

 

マズイ!マズイ!!マズイ!!!

 

すぐそこまで近づいてくる。

 

万事休すか!

 

そう思っていた。すると……

 

「夕立?やっと見つけた。」

 

新たに増えてしまった。

 

此方からは見られないが、白露型だ。

 

だが、ここで来るのはマズイ。

 

どうする!どうしたらいい!

 

悩んでいると足音が遠ざかる。

 

何故かと思って耳を澄ます。

 

「どうかしたのかい?」

 

「なんか変な匂いがするっぽい。」

 

「それ、比叡さんの料理じゃないかな?

僕たちの近くにいたから。」

 

「でも、少し血の混じった匂いが……」

 

「今日は足柄さんと対決して

殴り合ったでしょ?」

 

「ぽい?そうだっけ?」

 

「はあ、ところで夕立。

虫歯は抜いたかい?」

 

「え……えっと…、それは……

っ!逃げるっぽい!」

 

「あ、こら!待つんだ夕立!」

 

「歯医者は嫌っぽい~!」

 

声は次第に遠くなり、聞こえなくなった。

 

その安堵から腰を下ろす。

 

どうやら危機は去ったようだ。

 

此処は少し入り組んだ場所。

 

通る人は滅多にいない。

 

早く部屋に戻らないといけないが

今はこの安息を体感する。

 

 

 

 

 

マズイ、休み過ぎた。

 

大本営全体の警備が増えている。

 

このまま部屋に戻るのは難しい。

 

幸い、窓を開けて出てきたため、

最悪そこから入ることができる。

 

此処から部屋までは遠い。

 

どうしようか悩んでいると

あるものが目に入った。

 

それは空の段ボール。

 

いくつかが乱雑に置かれていた。

 

これを見て、あることを思い出す。

 

それは鍛錬中、卯月に

教えられたことだ。

 

「これを使えば、バレなくなるぴょん。

うーちゃんがお手本を見せるぴょん。」

 

鍛錬の鬼ごっこで隠れているときに

教わった隠れ方だ。

 

その時の卯月は捕まったが、

私は捕まらなかった。

 

意外と使える段ボール。

 

これを使わない手はない。

 

自分より大きい段ボールを探し、

それを被ってゆっくりと進む。

 

実際、その効力はすさまじかった。

 

少しずつだが部屋に近づけている。

 

たまに人が通るが、誰も怪しまない。

 

たまに教官たちの声が聞こえるが、

気にせずスルーされている。

 

気づいている者もいた。

 

しかし、「それどころじゃないだろう」

と、誰かに言われて離れていく。

 

どうやら運が傾いているようだ。

 

思えば、あのターゲットを刺した後から

私の運は上がっている。

 

殴られたが窓から逃げることができた。

 

気づかれたが、色々なことが重なった。

 

段ボールのおかげでバレずにいる。

 

ここまで良いことが続いている。

 

もう部屋はすぐそこにある。

 

部屋に戻れば完璧だ。

 

だが、窓からは入らない方がいい。

 

誰かにバレる可能性がある。

 

扉の方が危ないと思われるだろうが、

そっちの方に警備は来ない。

 

憲兵はこちらには入ってこられないし、

大本営の艦娘も警備で外へ。

 

警備ではない艦娘も

出てくるのに時間がかかる。

 

此方に確認が来るのは早くて5分。

 

教官たちが出て行った今が、

部屋に戻るチャンスなのだ。

 

だからここで段ボールを捨て、

部屋に走る。

 

なるべく音を立てないように

急いで自分の部屋に向かう。

 

警備はいたが他の部屋を確認している。

 

しかも扉の向きからこちらを

見ることはできない。

 

急いで部屋の前に行き、

音を立てないように扉を開ける。

 

入ってから息を整える。

 

とても心臓が痛い。

 

上手くいきすぎて心臓が痛い。

 

左手の痛みを忘れるほどに。

 

だが、無事に部屋へと

戻ってくることができた。

 

取り敢えず、左腕を治す。

 

部屋の引き出しを開けて注射器を取る。

 

注射器の中身は高速修復材。

 

事前に貰っていたものだ。

 

何かあればこれで体を治せる。

 

それを左腕に刺す。

 

左腕は次第に元の方向に曲がる。

 

痛みを伴うがそれをあまり感じない。

 

左腕の感覚が次第に戻ってくる。

 

手を開閉し、感覚を確かめる。

 

しっかりとくっ付いていることを

確認できた。

 

すぐにフードを脱ぎ、ごみ袋に入れる。

 

なるべく細かく千切って入れる。

 

そして服も着替える。

 

洗濯用のかごに入れておく。

 

何か言われても、

「怪我をした」で通せる。

 

落ち着いていると扉がノックされる。

 

すぐに返事をして移動する。

 

先にわざと布団を乱して

飛び起きたように見せる。

 

扉を開けるとそこにいたのは天龍教官。

 

さっきの警備をしていた人だ。

 

わざとらしく何があったのかを聞く。

 

「この前のことで少しな。

でも気にするな。」

 

そう言って天龍教官が頭を撫でる。

 

早く寝ろよと言って他の部屋に行く。

 

それを見届けて部屋に入った。

 

 

 

 

 

口角が上がる。

 

上手くいった!成功したんだ!

 

このことを早くあの人に伝えよう!

 

だが、まだ伝えない方がいいだろう。

 

この前の時もしぶとく

生きていたのだから。

 

だから確認してから行くとしよう。

 

そのためにここまで

仲良く見せていたのだから。

 

ああ、笑いそうになる。

 

口角が上がるのが抑えられない。

 

ふと鏡を見る。

 

そこに映るのは自分の笑顔。

 

あまりの嬉しさに上がっている口角。

 

「ヒヒッ!」

 

ああ、笑い声も出てくる。

 

防音性はそこまでないから

この声を抑えなければ。

 

でも、抑えられない。

 

少しぐらい喜んでもいいだろう。

 

心臓を突き刺し、無事に生還。

 

幾多もの幸運で今ここにいるのだから。

 

そう、私には幸運がある。

 

幸運の女神は私の下にやってくるのだ。

 

そして今日もだ!今日も!

 

「この私に、雪風に!

運は味方してくれている!」

 

大きすぎず、小さくない声で笑う。

 

嬉しい感情を漏らす雪風。

 

外はあの日のように雨が降っている。

 

雪風を祝福しているような雨だ。

 

時々落ちる雷の光が

雪風の顔を窓に写す。

 

幸運の女神とは程遠いゲスな笑み。

 

だが、雪風にとっては素敵なものだ。

 

遂に成功したことに愉悦を感じる。

 

その余韻に浸る。

 

そして高らかに言うのだ。

 

こうやって「次の貴方のセリフは

 

「「幸運の女神とは私のことだ!」よ」

 

雪風は驚いて扉の方を向く。

 

その瞬間に扉が壊れた。

 

そして廊下の光が雪風を照らす。

 

そこに立っていたのは背の高い人物。

 

雪風はもちろん知っている。

 

この作戦で一番の障害となる

当初の予定のターゲット。

 

布仏歌音がそこに立っていたのだ。

 

 




黒いフードは雪風でした。

望まない人も多かったが
現実とは非常なのだよ…。

最期に歌音がやってきました。
一体どうなることやら。

そして、ネ音は無事なのだろうか…。


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第20話 夢幻の種

今年中に終わる気がしない…
何とか頑張るのです(´;ω;`)


 

しばらくの間、沈黙が続いた。

 

「なん…で……。」

 

雪風は声を漏らす。

 

驚愕した顔で目を見開いている。

 

何故私がいるのか?

 

それには理由があるんだよ。

 

「今ここにいるのは

()()()()()()()()()()()()。」

 

雪風はさらに目を見開く。

 

それはそうだろう。

 

だってここには私たち2人しかいない。

 

廊下にも誰一人としていない。

 

それなのに私だけじゃないと言ったら

誰でも驚くだろう。

 

だから、まずは種明かしをしようか。

 

「幻の世界は楽しかった?」

 

そう言って私は指を鳴らす。

 

雪風は変わった世界に驚く。

 

先ほどまで自室にいた。

 

それなのに今いるのは大きな部屋。

 

長い机と多くの椅子。

 

いくつかの机が

見覚えのある形で置かれている。

 

その机の上にある丸い何かと

そこに刺さっているナイフ。

 

散らかったり壊れたりしている

いくつもの段ボール。

 

さっきまでドアだったものも

段ボールと板材に変わっている。

 

そして雪風を囲うように立つ

大本営艦娘と元帥。

 

そこには雪風が逃走中に

見てきた艦娘が全員いた。

 

そして、キューちゃんたちと…ネ音。

 

雪風は状況を整理できないようだ。

 

私達からすれば見ているのは

何一つ変わらない同じ光景。

 

雪風たち研修生は知らない。

 

ここは私が大本営艦娘と交流した部屋だ。

 

だとしても理解できないだろう。

 

ネ音を刺し、怪我を負いながら

部屋に逃げ帰ったのに。

 

自分の知らない部屋で大本営の面々に

囲まれているというこの状況に。

 

だからこそ逆上する。

 

自分が何をされたか

よく分からないから。

 

「私に、なにをした!

一体いつから……」

 

そして口はよく動くのだ。

 

「いつから…私の事に気づいた!」

 

しっかり白状してくれる。

 

私はまだ()()()()()()()

()()()()()()()()()()()()()()

 

まあ、誰だってそうなる。

 

私も、神通であっても

同じことになるだろう。

 

1つずつ話していこう。

 

まず、事の発端は私の部屋に

明石が来たところから始まる。

 

 

 

 

 

吹雪を部屋に送った後、

私は自室でゆっくりしていた

 

後は寝るだけだったのだが、明石が

ドタドタと部屋に入ってきたのだ。

 

「歌音さん!

新しいのができ…フガッ!」

 

一体何時だと思っているのだろうか。

 

とても嬉しそうに入ってきた明石。

 

流石に迷惑になるため口を押える。

 

後からキューちゃんたちが入ってきて

丁寧に扉を閉めて入ってくる。

 

なにしに来たのかと思ったが、

マイクの改良の件だった。

 

なんとこの人、原作と同じ

性能のものを作ってしまった。

 

しかも、かなり効果の強いやつ。

 

そしてこれが今回の現象のタネである。

 

なんとその効果で、

幻覚を見せることができるのだ。

 

しかも、実験もしていた。

 

キューちゃんたちが持っていた

書類を見せてもらう。

 

そこにはその実験結果が書かれていた。

 

被験者はキューちゃんズ。

 

内容は幻覚支配下における行動。

 

後はその記憶が残っているかどうか。

 

結果から言うと大成功。

 

キューちゃんズは

各々の幻覚を見ていた。

 

その内容から分かったことを

まとめると以下のようになる。

 


・地形と素材は依存する

(階段が坂に見えることは無い)

(現:砂→幻:コンクリ

ただし、砂のように崩れる)

 

・幻肢痛あり

 痛みは幻覚で見た物質に

(現:段ボール→幻:ハンマー)

 

・周りの人物は声が聞こえる

(そこにいると判断し、

幻覚にもその人物が現れる)

 

・幻覚はその人の心が大きく現れる

(その人にとって良い様に見える)

 

・幻覚は作成し、見せることができる。

(作り話でも実在の話も見せられる)


 

今回関係しそうなのはこんなところだ。

 

つまり、雪風はこの効果で

自分の見たい幻覚を見ていたのだ。

 

やられたのは幻肢痛として感じただけで

実際は一つのケガもしていない。

 

注射も幻覚の一つだったのだ。

 

次になぜ雪風の事に気づいたかだ。

 

さっきも言ったが、

私は認めたくなかった。

 

友達だからね。それに、

私は今日まで知らなかったのだ。

 

教えられたのは明石が来てから

少し後の事だった。

 

私の部屋に客が来た。

 

来たのは元帥と大和と神通。

 

いきなり来たから驚いた。

 

そのときは明石の頬を掴んで

引っ張っていたから。

 

そんな状況でも神通が

真剣な顔で話してくれた。

 

頑なに言うのを拒んでいた彼女たち

5人が口を割ったそうなのだ。

 

最初に口を割ったのは叢雲。

 

他の4人は私に対しての恨みを

口にしていたが叢雲は無言。

 

無理やり吐かせようとしても

プライドが強く、無言を突き通した。

 

そんな叢雲が、ついさっき口を割った。

 

今までのことを語ったのだ。

 

今回の事件の目的は

私と矢矧への逆恨みらしい。

 

この話は私の鍛錬レベル甲の

参加当日まで遡る。

 

 

 

 

 

犯行動機は私に負かされたこと。

 

あの時の襲撃は川内の指示で

5人と私の実力を測るためだった。

 

5人は研修生の中でも矢矧に次いで

上位の実力を持っていた。

 

しかし大本営の艦娘からすれば

まだまだヒヨッコ。

 

川内は現実を見せたかったようだ。

 

彼女たちはあの戦闘が終わった後で

「自惚れるな」と言われたそうだ。

 

でも彼女たちは納得しなかった。

 

それもそうだろう。

 

入ったばかりのやつに実力のある

自分たちが負けたのだから。

 

それ以降、他の研修生から

舐められていたようだ。

 

負けたことで対した強さではないと。

 

そして「矢矧には及ばない」と。

 

それ故に恨んだのだ。

 

私に対してはボロボロにされ、

プライドを傷つけられた恨み。

 

矢矧に対してはその強さへの嫉妬。

 

そんな感情を持ってから数日が経ち、

彼女たちの前に雪風が現れた。

 

雪風は彼女たちにこう提案した。

 

「あの女に復讐したい?」と。

 

その言葉に彼女たちはすぐ承諾した。

 

計画としてはネ音を痛めつけ、

私を誘い出す事。

 

怒れば対処しやすくなると

思っていたのだ。

 

叢雲がそうであったように。

 

あわよくばネ音も()れて万々歳。

 

雪風の計画も彼女たちの目的も

どちらも遂行される。

 

そして、最初に敵対した矢矧も

巻き込むことができる。

 

証拠が挙がれば直ぐにバレる

「雪風に有利」なこの計画。

 

だが、正常な判断のできない今の

彼女たちにとってはいい計画なのだ。

 

そして彼女たちは雪風の手のひらで

踊らされることとなった。

 

もちろん叢雲も同じだ。

 

でも、他の研修生とは少し違った。

 

彼女はずっと恨んでいたのだ。

 

私ではなく自分自身を。

 

戦闘の後に寝かされたベッドの上でも。

 

復帰して鍛錬を続けているときも。

 

ずっと自分自身を恨んでいた。

 

そうして叢雲は答えを出した。

 

再び私と戦うと言う答えを出した。

 

また戦えばいいのだと。

 

また戦って自分の強さを

見せつければいいのだと。

 

そんな答えを出した。

 

だが、この時の叢雲は

冷静ではなかった。

 

どんな手を使ってでも、

と思っていたからだ。

 

それ故に叢雲は雪風の提案に乗った。

 

他の計画は関係ない。

 

どんなことをしても

私と戦えればそれでいい。

 

他のメンバーも邪魔にならないなら

と叢雲の好きにさせた。

 

そして計画を実行。

 

雪風と口論をしてネ音に守らせ、

瀕死にすることで私を誘い出す。

 

そこまでは予定通り進んだ。

 

でも、それ以降は予定が狂った。

 

私の怒りが叢雲の比ではなかった。

 

一瞬にして無力化された。

 

彼女たちにとって最大の誤算だった。

 

 

 

 

 

後は知っての通りだ。

 

叢雲たちと矢矧は営倉、

私は部屋で隔離となった。

 

ネ音も生死を彷徨った。

 

これ以上の証拠もなく、大本営も

だれも真相を掴めない。

 

どうしようもなかった。

 

でも叢雲が語ったおかげで

雪風が犯人だと分かった。

 

なぜこんなにもタイミングがいいのか。

 

それはよく分からないが、

犯人に一歩近づいた。

 

しかし証拠がない。

 

雪風が犯人である証拠がないのだ。

 

それに私自身が認めたくなかった。

 

でも本当にそうなら危険だ。

 

だが調べる術がない。

 

そんな時、明石が口を開いた。

 

「歌音さん、これを使いましょう。」

 

そう言って明石はマイクを出した。

 

さっき見せに来た新しいマイク。

 

これなら何とかなるかもしれない。

 

私達は明石の説明を聞き、

作戦を練ることにした。

 




見ていたものは幻だった。

叢雲がこのタイミングで語った訳、
一体いつこうなったのか。

それを知るのは……


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第21話 計画×作戦

 

明石の説明を受けた私達は

会議室で作戦を立てた。

 

内容の立案は秋雲。

 

ここまでの状況を聞いて

それを全て()()として書いた。

 

雪風のこれからの行動を

想像したものを書き起こす。

 

明石はそれに合わせて

使うセットの作成。

 

この会議室で大本営艦娘と

キューちゃんたちが作業する。

 

その間に私はネ音のところへ。

 

秋雲の台本の中にネ音のことが

書かれてあったからだ。

 

()()()()()()()()()()()()()()()

 

この一文を見て、私は医務室へ走った。

 

このことを北上と大井に事情を話し、

ネ音を抱っこして会議室へ。

 

部屋の隅にネ音を寝かせ、

吹雪と夕張に見てもらう。

 

私は時間が来るまで待機した。

 

しばらくして青葉と川内から

雪風が動き出したと連絡が入る。

 

川内は雪風の動きの監視、

青葉は証拠のための撮影をする。

 

私は廊下の物陰に隠れて待機。

 

雪風がポイントを通るまで待つ。

 

明石曰く、作り話を幻覚として

見せることもできる、らしい。

 

実験の様子を見ていない以上、

どこまで信じていいか分からない。

 

少し不安だが、これが

証拠を得るために必要なのだ。

 

上手くいくことを祈って待機する。

 

待つことおよそ5分。

 

雪風がもう少しでポイントに

到達するという連絡が来た。

 

私はポイントを見ながら待つ。

 

少しして黒いフードの人物が来た。

 

「歌音さん、その人が雪風です。

すぐにマイクを起動してください」

 

青葉から言われてマイクを起動する。

 

雪風は少しふらつき、

その場で座り込んだ。

 

マイクの効果だろうか?

 

そう思っていると立ち上がる。

 

そして、医務室の方へ歩いていく。

 

効いていない⁉

 

これはマズイと思い、雪風を目視する。

 

このまま医務室に入ってしまう!

 

と思ったが、雪風は医務室を

通り過ぎそのまま進んでいく。

 

私達はその後を追う。

 

なるべく音を立てないように。

 

進んでいくと雪風は

ある部屋の前で辺りを見渡す。

 

そして静かに扉を開けて中に入った。

 

そこはあの会議室だった。

 

私達は雪風が入った扉から離れた

もう1つの扉から入る。

 

雪風を見るとナイフを持っていた。

 

そして何かの塊にナイフを振り下ろす。

 

そして雪風は急いで部屋を出ようとする。

 

すると大井が小道具で殴り飛ばす。

 

木と段ボールで出来たハンマー。

 

それで勢いよく飛ばす。

 

雪風はそのまま段ボールで

出来た壁に勢いよく当たる。

 

するとその段ボールが壊れて

人が通れるほどの穴が開いた。

 

雪風はそこから出ると

走って逃げる。

 

長方形の形をしたこの会議室の

左から右へ逃げていく。

 

しかし途中から進まなくなる。

 

雪風の足元にはコンベア。

 

明石が作ったランニングマシンで

走者の速さで速度が変わる。

 

速度の変化をする必要がない

ランニングマシンだ。

 

雪風はそれのコンベアの上にいる。

 

少しして雪風は進み、

段ボールの柱から夕立を見る。

 

夕立が怪しんでいると時雨が来る。

 

これも秋雲の台本通りなのだろう。

 

2人とも演技が上手い。

 

そのまま2人は部屋の端に移動。

 

あ、夕立が姉妹に囲まれている。

 

口を開かれて、元帥に……。

 

ああ、元帥が頭を抱えている。

 

これはマジなやつだ。

 

秋雲の方を向くと首を横に振る。

 

どうやらアドリブのようだ。

 

しばらくして神通達が動き出す。

 

憲兵たちの声の入った

CDを流しながら台本通りに。

 

その間に雪風は………

段ボールを被っていた。

 

大本営艦娘たちは

笑いをこらえるのに必死だった。

 

神通たち教官は呆れていたが。

 

私は一度見ているので笑わずに済んだ。

 

あれを教えたのは確か卯月だったはず。

 

いや、確かに優秀だけど……、

荒れはあくまでゲームの中だけだから。

 

雪風はそのまま移動。

 

再びコンベアの上で移動。

 

しばらくして段ボールを投げ捨てると

部屋がある場所へ移動する。

 

段ボールと板材で作られたハリボテ。

 

幻覚もいい感じに見せているのだろう。

 

雪風の部屋の作りも

しっかりとしていた。

 

雪風は部屋に入り、引き出しを開ける。

 

そして虚無を掴んで自分に刺す。

 

その後、手を確認してフードを千切る。

 

そして服も着替える。

 

……着替える?

 

あれ、着替えなんかある?

 

このままだと雪風が

見せられない格好になってしまう。

 

と思っていたが、

ちゃんと用意されていた。

 

明石、その辺はしっかりしていた。

 

一安心できた。

 

でもその後の笑いに驚いた。

 

あ~あ、高笑いしてるよ。

 

そのセリフもダメだよ……。

 

もうこれは雪風が犯人だと

認めざるを得ないようだ。

 

そして私は近づく。

 

作られた扉の前に立ち、

台本通りにセリフを言う。

 

「次の貴方のセリフは

「「幸運の女神とは私のことだ!」よ」

 

そう言って扉を蹴り破った。

 

 

 

 

 

これが今回の事の真相だ。

 

叢雲によって雪風のことを知り、

明石の発明によって証拠をつかんだ。

 

でも、まだやることが残っている。

 

だってまだ知らないのだ。

 

なんで、どうして……。

 

「何故、私達を殺そうとしたの?」

 

私達は雪風の動機を知らない。

 

叢雲たちの動機は理解できる。

 

でも、雪風の動機は理解できないのだ。

 

矢矧のように最初から突き放すとか、

あの北上のような動機がないと。

 

雪風は体を震わせながら、口を開く。

 

だって……、だって……!」

 

「だって貴方を殺さないと!

みんな死んじゃうんです!」

 

雪風は泣きながらそう言った。

 

私を殺さないとみんな死ぬと。

 

私を殺すことで救われる命がある。

 

一体この子に何があったのだろうか。

 

 

 




今回はちょっと少なめ。
次回も少なめだけど我慢してね。


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第22話 傀儡の女神

雪風が歌音を殺そうとする理由とは…


 

一体雪風に何があったのか。

 

私達はそれを聞こうとした。

 

でも、雪風は話そうとしてくれない。

 

もう駄目だと言って体を震わせる。

 

触れようとしても私たちを拒絶する。

 

みんな死んじゃうと弱弱しい声を発し、

顔を真っ青に染めていく。

 

どうしようかと悩んでいると

誰かが声を発した。

 

「なるほど……そういうことか………。」

 

そう言ったのは元帥だった。

 

いつの間にか手に持っていた

書類を見ながらそう呟いた元帥。

 

私はそれを見せてもらった。

 

書かれているのは雪風の情報だった。

 

よくある履歴書のようなものだ。

 

そこにはこう書かれていた。

 

「陽炎型駆逐艦8番艦 雪風

練度1 佐世保鎮守府 建造」

 

この情報に私は驚いた。

 

雪風は佐世保鎮守府の出身だったのだ。

 

さらに驚いたのはその後に書かれた

雪風が大本営に来た日にち。

 

雪風が来たのは()()()()()()()()

 

私があの涼月を見て、

寝不足になって倒れていた日だ。

 

航行が全然できなかったのは

それが理由だったのだろう。

 

ここにきて日が浅いのだ。

 

それに誕生からここに来るまで

3日も経っていない。

 

つまり雪風は本当にヒヨッコなのだ。

 

艦娘として、人として。

 

そして間違いなく裏にはあの男がいる。

 

雪風を利用して

私たちを消そうとしたあの男が。

 

でも、これはチャンスでもある。

 

雪風はここに来るまでに

必ず何かあったはずだ。

 

誰かが人質に取られるような

何かが起きていたはず。

 

そうでないと雪風を普通に

大本営に送るだけで十分だ。

 

そうすれば鎮守府の内情を

知られずに済むのだから。

 

こんなことをする必要はない。

 

憲兵が何回も来ているのに

危ない橋を渡る必要はない。

 

だから考えられるのは2つ。

 

1つは雪風が誰かに鎮守府の

現状を聞かされた可能性があること。

 

誰かが雪風に話したが、それをあの男が

聞いてその艦娘を人質にしていたら。

 

もう1つは鎮守府の中で

何かを見た可能性があること。

 

鎮守府を見に行った憲兵も知らない

どこかに何かがあるとしたら。

 

そして、たまたま雪風が

それを見たのだとしたら。

 

もしそうなら、雪風は

従わざるを得ないだろう。

 

そして得をするのはあの男。

 

内情を知った雪風を使って

私達をけしかける。

 

雪風が叢雲たちにしたように

雪風は利用されたのだろう。

 

あの男にとっての邪魔ものは

これでいなくなるのだから。

 

だからこそ私たちにできることをする。

 

雪風を保護し、嘘の報告をさせて

彼女と艦娘たちの安全を確保する。

 

そして雪風から情報を聞き出せば

それを証拠に佐世保へ行ける。

 

元帥も保護する予定ではあるそうだ。

 

ただ、何かが引っかかるらしい。

 

「なんで雪風が送られてきた?」

 

元帥はそう言う。

 

私が雪風の送られてきた理由を

話しても何か引っかかるようだ。

 

「ずっと鎮守府にいる子の方が

精神的支配も可能なのに……」

 

元帥は違う考えを持っていた。

 

長く鎮守府にいる艦娘の方が

今回の事件の適任ではないかと。

 

理由としては練度と支配力。

 

私を倒すための練度で且つ

言うことを聞く艦娘。

 

雪風より可能性があるのでは?

 

そう考えたらしい。

 

私の意見はあくまでも私の想像だ。

 

実際にそうなのか分からない。

 

そこで他の艦娘に話を聞くことにした。

 

今回の事で考えられることを。

 

何人かに聞いた後、

秋雲と明石にも聞いた。

 

自分ならどうやって雪風を送るかを。

 

「私なら漏洩防止のために

記憶を消去する装置を付けますね。」

 

と明石は言う。

 

「あ~、私なら…記憶どころか

体もボカンってするかな。」

 

周りを巻き込めたらラッキーだから

と続けて言う秋雲。

 

しかし、2人とも

とんでもないことを考え…て……。

 

あれ…記憶消去…爆発……排除……。

 

周りを巻き込む……まさか!

 

そう思い元帥の方を向く。

 

元帥も気づいたようだ。

 

明石と秋雲も自分たちで

発言して気づいた。

 

そこからの動きは迅速だった。

 

私と明石、秋雲で工廠へ走る。

 

私が強引に雪風を抱え、

残りを元帥に任せた。

 

元帥は大本営の艦娘に指示を出し、

片付けと警備に戻る。

 

吹雪と夕張はネ音を連れて部屋へ。

 

工廠に着いた私たちは

明石の指示である機械のところへ。

 

雪風はずっと固まって動かず

寝かせようにも拒絶する。

 

そのため私と秋雲で体を抑えて

明石が雪風の腕に注射を打つ。

 

中身は私が飲んだ薬と同じもの。*1

 

暴れてしまう雪風を何とか抑える。

 

次第に抵抗が弱くなり、

寝息が聞こえ始める。

 

どうやら眠ってくれたようだ。

 

眠った雪風を何とか

MRIのような装置に寝かせる。

 

雪風は装置の中へ。

 

少しして雪風が出てくる。

 

心地よさそうに眠っていた。

 

雪風をベッドに運び、布団を掛ける。

 

その後、明石・秋雲と共に

検査結果を見る。

 

結果は……()()()()()()

 

雪風には何もしかけられていなかった。

 

私達はこの結果に安堵した。

 

すぐに元帥に連絡。

 

今回の大本営での出来事は

無事に解決した。

 

後に雪風に色々と尋問する予定だ。

 

叢雲たちの処遇も言い渡されるだろう。

 

明日は忙しくなるだろう。

 

夕張達は基地に帰るから。

 

吹雪と此処の明石が

駄々をこねないといいけれど。

 

とりあえず私は部屋に戻る。

 

今はもう午前3時。

 

この騒動でかなり夜更かしした。

 

多分寝られなかった時以来だ。

 

早く帰って寝よう。

 

そう思っていると明石に止められる。

 

理由は雪風の事。

 

流石にここに放置はダメだろう

ということで部屋に運ぶ。

 

医務室も考えたが、恐らく

いろんなトラウマが蘇るだろう。

 

そんなわけで雪風を部屋に連れ帰った。

 

 

 

 

 

ガサゴソ

 

暖かい……。

 

此処はどこだろう……。

 

布団の中……?

 

確か、襲おうとして……。

 

刺したけど幻で……。

 

全部バレて……。

 

何か打たれて……。

 

よく思い出せない……。

 

でもなんだろう……。

 

とても暖かい……。

 

これは誰かの腕?

 

顔を右に向ける。

 

見えるのは欠けた角のようなもの。

 

私が殺そうとした最初の友達。

 

次に右を見る。

 

顔を隠すほど長い銀色の髪。

 

私の計画を止めた最初の標的。

 

なぜかその2人に抱かれていた。

 

あれだけのことをした私を

2人が抱きしめている。

 

なんでか分からない。

 

でも、なんか不思議…。

 

今まで感じたことがない暖かさ。

 

心地よくて涙が出る。

 

外はもう明るいけど

もう少しこのままがいいかな。

 

そう思って目を瞑る。

 

今度はいい夢をみたいな……。

 

 

 

*1
第二章 第4話参照




産まれたての女神の話。
大きな事件は幕を閉じた。

次回から第二章終盤へ
平和な日々をお楽しみください。


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第23話 何かは起こる平和

平和な時間が始まる…。


 

一連の事件が収束し、

大本営に平和な時間が流れる。

 

心地よい小鳥のさえずりで目を覚まし、

太陽の光で目覚める予定だった。

 

平和な朝を迎えるはずだった。

 

そう、迎えるはずだった……。

 

「いいですか!昨日色々ありましたが、

遅くまで寝ていい訳ではないですよ!」

 

布団の上で正座する私達。

 

心地よく寝ていたら

いきなり起こされたのだ。

 

目の前にいるのは神通教官。

 

正座しているのは私と雪風。

 

正座をさせられ、説教を受ける。

 

ネ音?

 

ネ音は昨日ぐっすり寝ていたから

朝から起きて鍛錬に行っている。

 

あの作戦の間は

しっかり寝ていたからね。

 

遅くまで起きていた私たちは

長いお説教をもらうのよ。

 

ただひたすらに放たれる言葉の弾丸。

 

よく言葉のマシンガンとは言うけど、

この人の説教はガトリング砲だよ。

 

勢いが止まらないし、

どんどん言葉が出てくる。

 

そんなわけで私と雪風は起きてから

一時間近く説教されているのだ。

 

ああ、平和な時間が……。

 

そう思っていると扉がノックされる。

 

入ってきたのは吹雪と夕張。

 

基地に戻るメンバーだ。

 

もう少ししたら迎えの船で帰るらしい。

 

キューちゃんたちはもう波止場で

荷物の準備を終えているそうだ。

 

神通はその2人の登場で説教を止める。

 

少し間を開けてため息をつき……

 

「時間ですから説教は終わりです。

次は無いですからね!

それと雪風はこの後尋問です。

色々聞きますので覚悟するように。」

 

そう言って部屋を出て行った。

 

部屋はとても静かになる。

 

小鳥のさえずりがよく響いて聞こえる。

 

とりあえずまた怒られるのは嫌なので、

急いで動くことにした。

 

痺れた足で立ち上がる。

 

寝起きだからなのか足のしびれが強い。

 

雪風は正座の状態から動けない程。

 

私も痺れているが、

何とか雪風を抱き上げて部屋を出る。

 

迎えに来た那珂ちゃんに雪風を預け、

吹雪たちと一緒に波止場へ向かった。

 

 

 

 

 

「嫌だ~!帰らないで~!

うちに永久就職してよ~!」

 

波止場にそんな声が響く。

 

もちろん人だかりができる。

 

キューちゃんに抱き着く明石。

 

それを引き剥がす非番の大本営艦娘。

 

まあ、予想はしていた、

と言うか前に言った。

 

キューちゃんズは明石にとって

いいじっkn…、お手伝いさんだ。

 

良い子たちだし何でもできるから

離れたくないのは分かる。

 

でも、今は基地の管轄下にある。

 

元帥の許可の下、

あの基地で過ごしているのだ。

 

元帥が許可を出せば

永久就職は可能だろう。

 

まあ、元帥なら断るかな。

 

キューちゃんズがいると

明石が甘えてしまう。

 

それに妖精さんの仕事が取られる。

 

下手すればストライキが

起きる可能性もあるだろう。

 

だから明石には諦めてもらうしかない。

 

それにもう少しで時間だ。

 

もう船は出るだけ。

 

吹雪と夕張の荷物も

キューちゃんたちが載せた。

 

明石を引き剥がして

船に乗れば、もう出るだけ。

 

非番の子たちに無理やり離して、

羽交い絞めにしてもらった。

 

そのまま交渉に連れて行ってもらった。

 

「嫌だ!私は個人研究を進めながら、

あの子たちに養ってもらうんだ~!」

 

そんな声が木霊した。

 

完全に私欲の為だった。

 

どこの明石も似たようなものだ。

 

そう思っていたら悲鳴も聞こえた。

 

「ちょ、m『なのです!』いやー!

 

……聞かなかったことにしよう。

 

これで吹雪と夕張、

キューちゃんズとお別れだ。

 

キューちゃんと吹雪は

私に抱き着いてくる。

 

たった数週間の再会だけれど

とても濃い日々だった。

 

この子たちのおかげで

今の私はここにいられる。

 

可能なら私も一緒にいたい。

 

でも、甘えすぎるのも良くない。

 

此処で私が我が儘を言えば

さっきの明石と同じになる。

 

それはちょっと嫌だ。

 

だからこの子たちに言う。

 

「また会える」と。

 

ネ音が言っていたように

私達はいつか戻るだろう。

 

それまでお別れになる。

 

しかし、永遠の別れではない。

 

この子たちは会おうと思えば

大本営にすぐ来られるのだから。

 

しばらく頭を撫でていると

船長から出発するように言われる。

 

私は2人を離し、船に乗るように促す。

 

この時間を惜しみながら

2人は船に乗った。

 

夕張とキューちゃんズも船に乗る。

 

少しして船は進み始めた。

 

少しずつ波止場から離れていく。

 

私は手を振って見送る。

 

吹雪たちも大きく両手を振って、

船に揺られながら基地へ帰っていった。

 

私はその船が

見えなくなるまで見送った。

 

 

 

 

 

その日の夜。

 

私とネ音は部屋でゆっくりしていた。

 

ネ音は体力が落ちていたようで

布団の上でウトウトしている。

 

あと少しすれば眠るだろう。

 

私はネ音を抱き寄せる。

 

私の膝の上に頭をのせて

優しく頭を撫でる。

 

いつもならしばらく猫のような反応を

見せるのだが、今日は違った。

 

疲れていたのかすぐに寝息を立てた。

 

でも顔は緩んだまま。

 

解れた笑顔のまま眠っている。

 

この笑顔を見ながらぐっすり眠ろう。

 

そう思った時、扉がノックされた。

 

かなり遅い時間の来客。

 

私はどうぞ、という。

 

入ってきたのは那珂ちゃんだった。

 

やってきた理由は2つ。

 

1つは雪風たちの処遇。

 

雪風は大本営が保護する形になった。

 

特に大きな罰はない。

 

ネ音を刺そうとしたときの高笑いは

精神的なものだと判断された。

 

追い詰められていたから

あのような反応をしたのだろう。

 

そう判断された。

 

雪風は自分に課せられた罰に

納得していないそうだ。

 

そこで雪風に新しい任務を与えた。

 

それは佐世保鎮守府への偽報告と

大本営特殊部隊への配属だ。

 

あの男に偽の報告をする。

 

その際、あの時の笑い声で

しっかりと報告させるのだ。

 

そして大本営の特殊部隊入りについても

同じタイミングで報告させる。

 

大本営の特殊部隊は機密が多い。

 

大本営の艦娘の一部しか知らない。

 

流石に私が知るわけにはいかないため、

此処の情報については分からない。

 

だがかなり大きい情報だ。

 

その情報も入り次第伝えると

報告させる予定だそうだ。

 

そうすることで雪風が

自分に従う駒だと思わせる。

 

大本営の情報が自分に入ると

思わせる形にした。

 

雪風にとって罰が無いように思えるが、

この舞台の鍛錬が罰のようなもの。

 

あの神通教官の鍛錬を倍以上。

 

そんな鍛錬に参加させるのだ。

 

十分な罰になるだろう。

 

叢雲たち五人は鍛錬を

丁からすることになった。

 

1から基礎を叩きこむらしい。

 

その担当は川内。

 

理由は私を襲わせた元凶だから。

 

元々の原因は明らかに川内のため、

連帯責任として神通に指名された。

 

研修生はいつも以上に厳しく指導され、

川内は彼女たちの卒業まで夜戦禁止。

 

良い感じの罰を与えられていた。

 

これが1つ目の理由。

 

もう1つはあるイベントの事。

 

皆は覚えているだろうか?

 

私が暴走する前に話していたこと。

 

川内型の三人と話し合って

強制的に決まったライブ参加の件だ。

 

どうやら元帥に話を通したらしい。

 

その結果あっさりと承諾。

 

大本営主催のライブが

行われることとなった。

 

今回の件があるため

一般人の参加はできない。

 

その代わりに、基地のメンバーが

こちらに来られるようにするそうだ。

 

大本営の艦娘が警備につくらしい。

 

そのため基地の艦娘のほとんどが

大本営に来る予定になった。

 

私の知らないうちに

いつの間にか話が進んでいた。

 

ライブ予定は2週間後らしい。

 

そのためこれからは

何回か打ち合わせをするらしい。

 

早速明日から打ち合わせをすると

那珂ちゃんはそう言って去っていった。

 

私はこの事件で忘れていたのだが、

よく覚えていたものだ。

 

とにかく私はイベントで

できる限りの事をするつもりだ。

 

楽しいことは別に嫌いじゃあない。

 

これを機に関係が良くなればと

そんな淡い願いもある。

 

明日からまた忙しくなる。

 

おそらく今日以上に忙しいだろう。

 

だから私はもう眠りにつく。

 

いつもより少し早いが、

早起きするには必要だろう。

 

久しぶりの早朝練習もしたい。

 

もちろん鍛錬も忘れない。

 

やることを考えつつ、

私は布団に入り目を瞑る。

 

暖かいネ音の体温を感じながら。

 




明石…ドンマイ。


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第24話 相容れない理想

私から皆さんへ
小説と言う名の
クリスマスプレゼント。

と言う名の続き。


 

ライブ予定が決まり数日が経った。

 

久しぶりに朝から波止場へ出る。

 

いい空だ。

 

雲がほとんどない。

 

快晴になりそうな空を見る。

 

太陽が昇り始める。

 

久しぶりの綺麗な景色を見る。

 

今日はいい日になりそうだ。

 

これで静かなら良かったのだが

今はとても騒がしい。

 

重機の音、資材の置かれる重い音。

 

鉄を叩くような甲高い音。

 

そんな音が朝から大本営に響き渡る。

 

理由は例のライブの件だ。

 

那珂ちゃんの原案をほとんど作り替え、

妥協したステージの設計図。

 

それを基に大本営の空きスペースに

ステージを作っているのだ。

 

広さはコンサートホールの

ステージの半分ぐらい。

 

高さは皆が見えるように

低めに作るように頼んである。

 

観客席も同時に作っている。

 

早朝から作っている理由は

単純に間に合わないから。

 

明石の今のモチベもあるが、

元々明石自身にやることが多い。

 

艤装の整備に酒保の管理、

自分の研究など色々。

 

そのため、手の開いている

朝の時間に行っているのだ。

 

もちろん他の艦娘も手伝っている。

 

憲兵たちも暇があれば手伝っている。

 

だが、明石主体のため

時間がかかっている。

 

妖精さん?

 

ああ、それも理由なんだよね。

 

キューちゃんたちの事で

拗ねてしまっているのだ。

 

明石に自分たちの存在が

いかに大切かを教えているのだ。

 

そのため妖精さんを頼れないので、

ステージをみんなで作っているのだ。

 

こればっかりは明石のせいなので

仕方がないのだ。

 

しかし、それで間に合わないと困る。

 

そのため私も手伝おうとしたのだが、

皆から断られた。

 

理由は歌に専念してと言われたから。

 

人出は足りているから大丈夫だと。

 

そう言われてしまったのだ。

 

まあ、それにはもう一つの理由がある。

 

その理由とはこのイベントの

主催である那珂ちゃん。

 

実は那珂ちゃん、あまり歌えないのだ。

 

別に音痴ということではない。

 

ただ、歌える曲が少ないのだ。

 

戦闘に音楽を取り入れているせいか、

既存の曲はあまり好みではないそうだ。

 

よって、歌える曲は自作した数曲のみ。

 

今までのイベントでも自作した曲を

何回も繰り返し歌ってきたらしい。

 

代わり映えの無いライブになる。

 

今回のライブでも同じことになりそう

だと懸念されているらしい。

 

そう言うわけで私はお手伝いではなく

別の仕事をすることになった。

 

那珂ちゃんに新しい曲を

提供するという仕事を。

 

今日の予定もほぼ丸一日を費やして

那珂ちゃんの新曲作りになるだろう。

 

明石より先に過労死するかもしれない。

 

そんなことを考えながら、

久しぶりの早朝の歌を始めた。

 

 

 

 

 

「ここはさ、もっとキラーン!てして

こっちではキャハ!てしたいの。」

 

「那珂ちゃん、

それでは何も伝わりませんよ」

 

那珂ちゃんの新曲作りは

ご覧の通り、かなり難航している。

 

那珂ちゃんの要望が多いのと

言っている言葉が意味不明過ぎるから。

 

キラーン!とかキャハ!とかで

何を理解しろと言うのか…。

 

これがたまにならいいのだが、

作曲を始めてからずっとこんなだ。

 

あまりにも理解できないため、

大本営の艦娘に通訳を頼んでいる。

 

今日は神通の予定が開いていたため、

那珂ちゃんの通訳を頼んだのだ。

 

おかげでいつもより進む。

 

でも難航していることに変わりはない。

 

曲の1番を作るのに数日も

かかっているのだから。

 

まだ2番の最初の方。

 

いつも以上に時間とストレスがかかる。

 

今まで多くの曲を作ってきたが、

ここまでかかったことは無い。

 

一番考えがまとまらなかった時でも

2日目の朝には完成していた。

 

友達に曲を作ってと言われたときは

1日で5曲ほどの案を出した。

 

次の日にはすべて曲にして

気に入ったやつを選んでもらっていた。

 

ちゃんと典型的な1番、2番、3番と

Aメロ、Bメロ、Cメロとサビで。

 

イントロも全部作った。

 

それをするのが普通だった。

 

今まではそれができていたのに

今は2番の初めで止まっている。

 

しかも、今何時だと思う?

 

もう17:00過ぎてるんだよ。

 

今日の進歩、2番のサビに入ってない。

 

このままじゃ間違いなく間に合わない。

 

何回紙に書いてまとめても

那珂ちゃんの要望に振り回される。

 

音楽と歌詞と那珂ちゃんの要望。

 

そのどれかが噛み合わない。

 

音楽と歌詞が合っても

那珂ちゃんの要望にそぐわない。

 

音楽に那珂ちゃんの要望が合っても

要望通りの歌詞に合わない。

 

歌詞に那珂ちゃんの要望が合っても

要望通りの音楽が作れない。

 

3つのうち1つがなぜか合わない。

 

次第にお互いの意見を通すのに

話し合いがヒートアップしてしまう。

 

「だから、那珂ちゃんはこうしたいの!

もっとキラーン!とした曲を作って!」

 

「だからそうすると合わなくなるの!

無茶を言わないでよ、この我が儘娘!」

 

ストレスが溜まっているからか、

私の口調はいつも以上にひどくなる。

 

そこから口論が始まる。

 

その声は次第にどんどん大きくなる。

 

それ故に部屋の外に人だかりができる。

 

私と那珂はそれに気づくことは無い。

 

お互いの主張をぶつけ合うことに

ただただ必死になっている。

 

完全にそりが合わない状況。

 

遂に口論は揉め合いに変わっていく。

 

お互いが服を掴みあう。

 

服が引き千切れそうな力で。

 

しかし、その揉め合いは

すぐに終わることになる。

 

私達は忘れていたのだ。

 

この部屋にいるもう一人の存在を。

 

「…いい加減に、しなさい!」

 

私達はその声の方を向く。

 

すると首をすごい力で掴まれた。

 

一瞬で息ができなくなる。

 

咄嗟の事で体が動かない。

 

口から泡が出始める。

 

霞んでいく目で那珂を見る。

 

那珂は首を掴んでいる何かを

必死につかんで抵抗していた。

 

私は抵抗すらできない。

 

喉が潰れる…意識も次第に…。

 

もう意識が飛びそうだ。

 

そう思った時、体が重力に従った。

 

そのまま体は地べたに倒れる。

 

喉は解放され、酸素が体に入り込む。

 

私は喉を抑えながら(うずくま)り、

必死に酸素を体に送り込む。

 

隣からは那珂の

必死な呼吸音が聞こえる。

 

心臓が激しく動く。

 

何度も咳き込みながら

何とか顔を上げる。

 

そこには鬼の形相の神通。

 

しゃがんで私たちに手を近づける。

 

その手は私たちの胸倉を掴む。

 

そして神通は顔を近づける。

 

「私の前で揉め合うとは

いい度胸をしていますね、2人とも。」

 

そう言って言葉を続ける。

 

「ただでさえ時間がないのですから、

今は頭を冷やしなさい。」

 

そう言って私の服を離す神通。

 

そのまま那珂の胸倉を

掴んで引きずっていく。

 

その際、近くにいる艦娘に

私を入渠施設に運ぶように伝える。

 

何人か来たので、

肩を借りて何とか立つ。

 

神通は部屋を出る前に

こちらを振り向いて言葉を残す。

 

「どちらの主張もよく分かりますので

これで終わりますが、次は落します。」

 

そう言って部屋を出て行った。

 

あまりの形相に此処にいた全員、

しばらくの間動けなかった。

 

蛇に睨まれたカエルになった気分だ。

 

しばらくして何も知らない別の艦娘が

やってきたおかげで全員が動き始める。

 

私は歩こうと思ったが、

一歩も踏み出せなかった。

 

さっきのショックがデカいのか

指先1つ動かせない。

 

そのため担架で運ばれることになった。

 

 

 

 

 

入渠施設ではネ音が待機していた。

 

私の着替えを用意してくれていた。

 

誰かが伝えてくれたのだろう。

 

私はそのままネ音に預けられる。

 

ネ音は何も言わなかった。

 

でも私の世話をしてくれた。

 

入渠から寝る時までずっと。

 

少し悲しい顔で。

 

寝る時は私がいつもしていることを

ネ音がやってくれた。

 

鳳翔さんに撫でられて以来だろうか。

 

この感覚は未だに慣れないが暖かい。

 

ネ音はずっと私の頭を撫でてくれた。

 

時折首元を撫でてくれる。

 

私はその手を掴む。

 

何故か分からないけど安心する。

 

私はその心地よい温もりに負けて

ゆっくりと目を瞑った。

 

 

 




神通さんの首絞めのシーン

本当は頭を掴んで地面に
叩きつける予定だったんだ。

こんな感じで↓
「この……
クサレ脳ミソがぁー!!」



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第25話 あなたの想い

今年も残り5日
果たして終わるのだろうか…。



 

神通に締め落されかけた日の翌日。

 

私は明石のところに行っていた。

 

神通のあの首絞めの感覚が

未だに残っているからだ。

 

入渠したため大丈夫だと思うが、

少し心配なため一応検査をする。

 

一通りの検査を終えて、

明石から検査結果を聞く。

 

検査結果は正常。

 

特に異常はないようだ。

 

「よくありますよ、治った後に

感覚だけ残る子がいるんですよね。」

 

明石はそう言った。

 

曰く、治る過程が凝縮されるから。

 

時間が止まっている間に何かされると

それが一斉に来るのと同じ、らしい。

 

数日は幻肢痛のようになるそうだ。

 

ライブまでには治るとは言っている。

 

私はこの違和感を持ったまま

音楽室に向かった。

 

音楽室は静寂に包まれていた。

 

今日はこの部屋に那珂は来ない。

 

教官として研修生の相手をする日だ。

 

だから今日は私の時間になる。

 

あいつのことは何も考えなくていい。

 

自分がしたいようにする。

 

今日はライブで歌うための曲を作る。

 

昨日のままの机を綺麗にして、

新しい曲を考える。

 

ひたすら手を動かし、紙に書いていく。

 

…………あれ?

 

おかしい、全然書けない。

 

筆が進まない。

 

いつものような歌のイメージが

何一つ浮かんでこない。

 

筆が進まないまま

時間だけが過ぎていく。

 

このままでは埒が明かない。

 

少し作曲から離れよう。

 

昨日の事が

邪魔しているのだろうか?

 

ああっ、昨日のことを考えると

あいつの顔が浮かんでくる。

 

気分が悪くなる一方だ。

 

少し気分転換に歌おう。

 

この前、棚の中に色々な楽譜を

見つけたからそれを使おう。

 

確か…、あ、あった。

 

私が好きな曲がたくさんある。

 

いろんなジャンルの曲があるし、

知らない曲も多い。

 

せっかくだから

新しめの曲を聞いてみよう。

 

番号を押せば曲が聞ける機器がある。

 

私でも使えるぐらい簡単だ。

 

番号と確定ボタンを押すだけ。

 

私はそれを使って早速曲を聞いた。

 

流れるのは今まで聞いたことのない曲。

 

面白い言葉の表現やリズムがある。

 

複数のジャンルが混ざっている

変わった曲もあった。

 

それに知らないアーティストの名前や

知っている曲のカバーもある。

 

かなり古い曲や海外の曲を

オマージュした作品も多い。

 

自分の中に色々な

曲のイメージが沸き始めた。

 

でも、まだ足りない。

 

聞くだけでは全然足りない。

 

次は歌おう。

 

今日という時間はまだ沢山あるのだ。

 

満足するまで歌うことにしよう。

 

自分の好きな曲を

ギターやピアノで演奏しながら歌う。

 

時間も忘れて私は歌い続けた。

 

 

 

 

 

私は休むことなく、

昼も食べないで歌い続けた。

 

もう空が暗くなり始めていた。

 

たまに休んで曲を書き出し、

また歌うことを続けた。

 

喉の違和感は完全に忘れていた。

 

楽しくて仕方がなかった。

 

楽しさのあまり

色々な事を忘れていた。

 

体全身が火照り、それに比例するように

私の感情が高ぶる。

 

暑さのせいで大粒の汗をかいた。

 

髪は蒸しているため、

ポニーテールにしている。

 

服も長袖をまくって半袖にした。

 

これで少しは涼しくなる。

 

疲れているからか肩で息をしている。

 

しかし、凄くスッキリしている。

 

何もかも忘れて

自分の世界に入っていたから。

 

嫌なことなんて忘れて

この時間を楽しんだ。

 

もっと歌いたい、次の曲を歌おう。

 

そう思った時、

私の身体がストップをかけた。

 

「ぐ~~~」

 

……お腹がすいた。

 

流石にお昼を抜いたのは

良くなかったようだ。

 

一気に空腹に襲われた。

 

これはまたネ音に怒られるだろう。

 

少し早いが食堂に行こう。

 

その前に散らかした楽譜を片付ける。

 

棚の中に元の順番で戻す。

 

多く出し過ぎたため、

片付けるのに少し時間がかかった。

 

最後の楽譜も棚に収める。

 

すると別の何かが落ちてきた。

 

楽譜とは違う、

何かのノートのようだ。

 

私はそのノートを

手に取って表紙を見る。

 

そこには「㊙那珂ちゃんノート♡」

と汚い字で書かれていた。

 

この瞬間、最高な私の気分は

一気に落ちていった。

 

見たくない名前を見てしまった。

 

今日は関わらないと思っていたのに。

 

だが、これは丁度いいのかもしれない。

 

この㊙ノートにあいつの秘密が

書かれているのなら……。

 

私はそんな(よこしま)な感情でノートを開く。

 

ノートの中身は楽譜と歌詞だった。

 

所々汚れて見えない。

 

何回も試しては消して、

を繰り返した後が残っている。

 

どのタイミングでポーズを決めるか、

どこにポイントを置くか。

 

事細かに書かれている。

 

そんな㊙ノートだが、

私はあることに気づいた。

 

私はこれに見覚えがある。

 

ノートを、ではなく

書かれている歌を。

 

ここにきてから見たものではない。

 

基地でもその前も違う。

 

私が前世で見たもの。

 

この世界にはないと思っていたもの。

 

間違いない、これは…

那珂のキャラソンだ。

 

「恋の2-4-11」、「初恋!水雷戦隊」、

「艦隊アイドル改二宣言」。

 

それの生楽譜である。

 

ちゃんと完成したものを

綺麗に残している。

 

ラミネートをして汚れないように

しっかり管理されていた。

 

そんな完成品の書かれているノートに

一つだけ、未完成の曲を見つけた。

 

曲名は

「あなたに、みんなに、ありがとう。」

 

曲名だけは見たことがある。

 

確か、カラオケのキーワード検索で

「艦これ」に載っていたはずだ。

 

だけど、歌詞までは知らない。

 

調べても出てこなかったし、

艦これには関係ないと思っていたから。

 

そんな曲に私は興味をそそられる。

 

お腹の減りの事をまた忘れ、

気になったノートの内容を見る。

 

歌詞は(仮)として書かれていた。

 

入れたい単語を書き出して

決まったものに〇をつけている。

 

さらに自分の中での好き嫌いが

事細かに書かれている。

 

作った歌詞の満足度も、

もっとこうしたいという願望も。

 

そんな那珂のコメントを見るうちに

ある違和感を覚えた。

 

その違和感を探すために

何度も書かれている言葉に目を通す。

 

そしてようやく違和感に気づいた。

 

この曲は他とは違うのだ。

 

アイドルとしての那珂の曲じゃない。

 

那珂という一つの存在の歌。

 

船としての生を終え、

艦娘としての生が始まる。

 

その全てと自分を見てくれる

全ての人に対する感謝。

 

これはそんな曲なのだ。

 

何故だろう。

 

この曲を見ていると

なぜかイメージが沸く。

 

那珂の…那珂ちゃんのイメージが。

 

私はそのノートを見ながら

別の紙に浮かんだものを書いていく。

 

那珂ちゃんの気持ちが

分かるような気がする。

 

筆が動く。

 

今日の午前中のことが嘘のように。

 

楽譜も出来上がっていく。

 

この曲に合う音とリズムが

私の頭の中で浮かび構成されていく。

 

那珂ちゃんならこうするのでは

と考えながら書いていく。

 

その作業時間は2時間に及んだ。

 

 

 

 

 

ようやく書き終わった。

 

時間は既に19:00を超えている。

 

今日はネ音から叱られるだろう。

 

しかし、今日はいい収穫もあった。

 

昨日の事についての反省ができた。

 

私は那珂ちゃんの我が儘だと

きつく言ってしまったがそれは違った。

 

そもそも書いている曲は

那珂ちゃんのための新曲だ。

 

歌うのは私ではなく那珂ちゃん。

 

那珂ちゃんの要望に応えることが

作曲する私の役目だったのだ。

 

それが作曲している内に

自分のための作曲になっていた。

 

私は私の要望を通そうとしたのだ。

 

それ故に那珂ちゃんの要望と

私の要望がぶつかり合う。

 

どうやっても完成しないわけだ。

 

この曲を書いてみてよく分かった。

 

那珂ちゃんのために書いていると

私の要望などこの曲に入れられない。

 

できるのは那珂ちゃんの要望に

出来る限り近づけること。

 

後は、これを見た那珂ちゃんが

どう思うか…だ。

 

さあ、そろそろ食堂へ向かおう。

 

私は楽譜を整理して立ち上がる。

 

フラフラと部屋から出ようとして

引き戸のレールに(つまづ)いた。

 

私はそのまま勢いよく倒れる。

 

勢いが強すぎて

少し擦りむいただろうか?

 

腕から血が流れていた。

 

そこまで大きくはないが

このまま食堂に行くべきではない。

 

先に医務室に行こう。

 

そう思って立とうとすると、

眩暈に襲われる。

 

さらに頭が痛くなる。

 

上手く立つことができない。

 

再び体が前のめりに倒れる。

 

視界も段々と霞んでくる。

 

食事を抜いた影響だろうか。

 

あまりの頭痛に意識が飛びそうになる。

 

怪我をした腕がじわじわと痛くなる。

 

次第に体が冷たく感じる。

 

これは…まずい……。

早く助けを…呼ばなくては…。

 

でも、ここは滅多に人が来ない。

 

ましてやこの時間には……。

 

意識がもう飛…ぶ…。

あそこに…誰…か………。

 

薄れていく意識の中、

遠くに誰かいるように見えた。

 

私はその人に向かって手を伸ばす。

 

私はこちらに来るその姿に安心し、

そのまま意識を手放した。

 

 




歌音さんは無理をし過ぎます。
必ずネ音ちゃんかお艦に頼んで
傍にいてもらいましょう。



下は書いた作品名で楽曲コードがない曲
「曲名」
(作詞作曲・歌)

「恋の2-4-11」
(Gun-SEKI/おいわ提督様・那珂ちゃん)

「艦隊アイドル改二宣言」
(Gun-SEKI/おいわ提督様・那珂ちゃん)

「あなたに、みんなに、ありがとう。」
(Gun-SEKI/おいわ提督様・℃iel様)
※この曲はYouTubeにないためニコ動で。


「初恋!水雷戦隊」は楽曲コードあり。


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第26話 逆の立場

 

~ 

 

歌が聞こえる。

 

とても明るい歌だ。

 

でも、どうしてだろう。

 

どこか寂しく聞こえる。

 

何か……もの足りない?

 

何かが足りないと感じる。

 

……………ん…

 

歌詞は明るいから、音楽?

 

………ねさ……

 

音楽じゃない?

 

……たね…ん……

 

それじゃあ、何が…

 

「歌音さん!」

 

私を呼ぶその声を聴いて

ハッと目を覚ます。

 

眼を開けると見知らぬ天井、

ではなく医務室の天井。

 

視界の左に移るネ音と明石。

 

それと私の腕についている管。

 

その先には何かの袋がある。

 

点滴だろうか。

 

私は重たい体を何とか動かして

ネ音の頬に手を添える。

 

するとネ音は涙目で頬を膨らませた。

 

そのまま体をポカポカと叩かれる。

 

やっぱり怒られた。

 

いや、私が悪いのは当たり前だ。

 

明石からもしっかり怒られた。

 

どうやら誰かが

ここに運んでくれたらしい。

 

その後、北上の連絡を受けて

工廠から急いできたそうだ。

 

寝不足なのか、大きな隈を作っていた。

 

欠伸をして、目を細める。

 

そしてポケットから

何かの箱を取り出して中身を(くわ)える。

 

銜えたのはたばこ……

ではなくココアシガレット。

 

流石に医務室では吸えないし、

吸う時間もなくて代用しているそうだ。

 

眠気覚まし兼、ストレス軽減らしい。

 

妖精さんのボイコットで仕事が増え、

睡眠時間が削られているからだとか。

 

だから仕事を増やすなと

そう言わんばかりの顔で見られた。

 

そして、簡潔に説明された。

 

「軽い栄養失調…とりあえずその子と、

鳳翔さん間宮さんに怒られなさい。」

 

そう言って部屋から出て行った。

 

私よりも明石の方が

栄養失調な気がする。

 

そんなことを考えながら時計を見る。

 

時間は22:00を越えていた。

 

約3時間寝ていたのか。

 

怪我は…テーピングされている。

 

お腹はすいてn…「ぐううう~」

…すいていた。

 

流石に何か食べたい。

 

するとネ音が何かを準備していた。

 

笑顔でこちらを向く。

 

差し出されたのはリンゴ。

 

いくつかは可愛いうさ耳だ。

 

それをフォークで刺して私に向ける。

 

「お姉ちゃん口開けて。はい、あ~ん」

 

そう言って差し出してくる。

 

私は素直に口を開けてリンゴを食べる。

 

そのリンゴはとても甘く感じた。

 

ネ音は先ほどのふくれっ面とは真逆、

とてもいい笑顔をしていた。

 

誰かにこんなことされるのは

久しぶりだな。

 

私が熱を出したときに

お兄ちゃんが看病してくれたっけ。

 

その時と同じように

ネ音に食べさせてもらう。

 

気づけば皿に乗った

リンゴを食べ尽くしていた。

 

リンゴ3個分は乗っていたらしい。

 

昼夜食べていない分

お腹が減っていたのだろう。

 

今は満腹ですごく満足している。

 

そして少しずつ眠くなり始めた。

 

頭が重くなったからすぐに横になる。

 

このままだとすぐに夢の中だろう。

 

もう少し起きていようと思ったが、

ネ音が私の頭を撫で始めた。

 

私の頭をゆっくり、優しく撫でる。

 

とても暖かくて心地いい。

 

これはいいな…。

 

最近、私とネ音の立場が

逆になっている気がする。

 

だが、この立場は嫌いじゃない。

 

とても気分が高揚する…。

 

体も丁度良く火照って

眠く…な…る……。

 

「おやすみ、お姉ちゃん。」チュ

 

 

 

 

 

チュンチュン

 

鳥のさえずりが聞こえる。

 

登ってくる太陽の光が私の顔を照らす。

 

いつもより遅い起床。

 

隣にはネ音が私の手を取って

抱きついて寝ていた。

 

抱き枕状態だ。

 

緩んだ可愛い寝顔を見せている。

 

こういうところは妹のように思える。

 

私は体を起こして

その状態のネ音の頭を撫でる。

 

可愛い顔を堪能しながら

頭を撫でているとあることに気づいた。

 

昨日食べたリンゴの空き皿。

 

その上に紙が2枚置かれていた。

 

1枚は間宮さんから。

 

朝食は医務室に持っていくから

昼と夜は必ず来なさいとのこと。

 

可愛い顔文字も書かれている。

 

怒っているけど。

 

2枚目は名無し。

 

中身を見ると、大きな字で

「音楽室で待つ」と書かれていた。

 

……なんかデジャブ…。

 

手紙の主は十中八九あの子だろうけど

どうして書き方は姉妹に似るのだろう?

 

これじゃあアイドルらしさが

どこにもないじゃないか。

 

もはや果たし状だよ。

 

いつ行ってもいいのだろうが、

流石に遅いのもあれだ。

 

とりあえず昼過ぎに行くとしよう。

 

その方が良いだろう。

 

こうして私は今日の午前中は

ゆったりとした時間を過ごした。

 

間宮さんが来たときはヤバかった。

 

鳳翔さんと一緒に来て

みっちり食の大切さを語られた。

 

ネ音はその語りをずっと

目をキラキラさせながら聞いていたよ。

 

理由はためになるから。

 

医学の内容に結びつけて聞いていたよ。

 

私が朝食を食べ終わった後、

鳳翔さんに料理を教わると言っていた。

 

間宮さんからも色々教わるらしい。

 

そして、今日の昼は

ネ音の手作りなのだとか。

 

そのためちゃんと食堂に行く。

 

食堂には列ができていた。

 

気になって見に行くと

ネ音が頑張って料理を作っていた。

 

まだ手慣れていないからか、

もたつきながら準備していた。

 

数量限定のオムライス。

 

まだ最初だから10皿だけだった。

 

この列はその10皿を争う抽選券の列。

 

気になる艦娘たちや従業員も並ぶ。

 

私?私は列に並ぶ必要はない。

 

なぜならネ音が最初に

私に食べさせてくれたからだ。

 

鳳翔さんと間宮さんが

付きっきりで教えたらしい。

 

ふわふわとろとろの卵に

しっかり絡んだケチャップライス。

 

ライスに混ざった具材が

程よく存在を主張する。

 

今まで食べたオムライスの中で

一番おいしく感じた。

 

確かにこれは並んで食べたい。

 

しかも、鳳翔さんと間宮さんは

ほとんど手を出していない。

 

具材のカットや時間のチェックなど

それしか手伝っていないそうだ。

 

メインの工程は

ネ音がほとんどやったらしい。

 

この子はいいお嫁さんになれる。

 

そう思った。

 

それに色々な料理を味わいたいものだ。

 

ネ音の料理に満足した私は、

少し休んでから音楽室に向かった。

 

食堂には那珂ちゃんの姿はなかった。

 

恐らく、もう音楽室で

待っているのだろう。

 

私は少し急ぎ足で音楽室に向かった。

 

場所が少し遠いため、駆け足で行く。

 

音楽室に近づいていくと何か聞こえた。

 

これは……声、歌だ。

 

歌詞はあの㊙ノートの歌詞。

 

しかも、私が書いたところ。

 

私はさらに足を速める。

 

次第に大きくなる歌。

 

ほぼ完成に近い曲。

 

どこか物足りなさを感じる。

 

そんな曲を聴きながら

私は勢いよく部屋に入った。

 

目に映るのは

ステージに立つ那珂ちゃん。

 

楽しそうに体を動かして歌っている。

 

顔は満足しているが、

何か違うと言った顔をしている。

 

やはり完璧に作ることは

できなかったようだ。

 

そして曲のキリのいいところで

那珂ちゃんはこっちに気づいた。

 

歌うのをやめてこっちを見る。

 

昨日、この部屋で大喧嘩をした2人。

 

その2人がお互いに目を合わせる。

 

その間、この部屋は沈黙に包まれた。

 

 




何とか今年中に書き終えそうだ。
無理せずに頑張るのです!

オラオラオラオラオラ!


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第27話 似た者同士

書けたから出すのです(⌒∇⌒)


 

私と那珂ちゃんは互いに見つめ合う。

 

音楽室の中は静寂。

 

風を切る音が響いている。

 

しばらく続くどうしようもない沈黙。

 

この沈黙を破ったのは那珂ちゃんだった。

 

「昨日は……ごめんなさい!」

 

那珂ちゃんは私に対して頭を下げた。

 

腰から見事な90°のお辞儀。

 

全力で謝罪してきた。

 

我が儘を言い過ぎたこと、

自分の事しか考えていなかったこと。

 

ステージ案の事で代替された分

こっちで言いたいことを言ったらしい。

 

それは仕方のないことだ。

 

だから、こっちも

謝らなければならない。

 

那珂ちゃんの曲なのに

自分の意見が入り過ぎたこと。

 

那珂ちゃんに対して悪口を言ったこと。

 

ステージ案について

ちゃんと話し合わなかったこと。

 

お互いに謝った。

 

その際、那珂ちゃんがノートを出す。

 

「これ……那珂ちゃんのノート…

続きを書いてくれたんだよね?」

 

そう言って、

私が書いたところを見せてくる。

 

「これを見て思い出したんだ。

作曲がどれだけ大変だったのか。」

 

那珂ちゃんはノートを書いていた

当時のことを話してくれた。

 

何回も歌いたい内容を書き出して

それを歌詞にする。

 

それを何回も繰り返して

完成させた曲を歌う。

 

それをみんなの前でやったけど、

聞いてくれるのは一部の人だけ。

 

それでも繰り返した。

 

次第に聞いてくれる人は増えていった。

 

それに伴って歌う曲も増やしていった。

 

しかし、艦娘である以上は

作曲の時間も練習の時間も限られる。

 

だから数曲だけにしていた。

 

そうすれば時間はあるから。

 

でも、同じ曲を歌い続ければ

聞いている側に飽きられる。

 

色々試した結果、作曲することにしたが

回数を重ねる度に書けなくなった。

 

そして、ついには音楽が嫌いになった。

 

楽譜も音も聞きたくない。

 

楽器も触れないし、

音楽室にも入れなくなった。

 

ついには放送器具すらも

触れなくなったそうだ。

 

この影響は出撃の際も影響した。

 

無線そのものを拒絶し始めたのだ。

 

脳が無線をマイクだと判断し、

拒絶反応を見せたのだ。

 

その影響はさらにひどくなり、

部屋から出ることも困難になった。

 

生活音全てが拒絶する

対象になってしまったのだ。

 

そんな那珂を見た元帥が

メンタルケアを開始。

 

出来る限りのことを行い、

数年かけて那珂は元通りにした。

 

その際に、このノートの存在を

トラウマと一緒に忘れていたそうだ。

 

そのノートが今、ここにある。

 

それは那珂ちゃんの過去。

 

そして、作曲の大変さを思い出させた。

 

大変だった日々を思い出させた。

 

だからこそ、今回の事を振り返り、

謝ることができたのだ。

 

このノートがなかったら

未だに雰囲気は悪かっただろう。

 

でも、今はお互いに謝ることができた。

 

そしてこんなお願いもできる。

 

「この曲を完成させたいの

出来ればあなたと一緒に。」

 

那珂ちゃんは私にそう言った。

 

だから私はその言葉に応える。

 

「もちろん、必ず完成させよう。」

 

こうして曲を完成させるために

2人の共同作業が始まった。

 

前は上手くいかなかった作曲だが、

今回はいい感じで書けている。

 

お互いに意見を出し合って

時には歌って確かめる。

 

那珂ちゃんが歌いたいように歌って

私がこういうのはどうかと提案する。

 

そんな感じで曲が完成していく。

 

歌詞に合わせて音楽も作る。

 

曲は次第に形になっていく。

 

バラバラだったピースが

綺麗にハマっていくように。

 

今まで以上にいい曲になっている。

 

次第に楽しくなっていく。

 

体が火照ってくる。

 

お互いに白熱していく。

 

あまりの楽しさに笑いが絶えない。

 

私達は終始笑顔でこの時間を楽しむ。

 

完全に自分たちの世界に入って。

 

誰かがこの部屋を覗いたところで

私達が気付くことはない。

 

歌も作曲もそれほどまでに楽しんだ。

 

そして時間は経った。

 

ついに曲が完成した。

 

お互いの要望を合わせ、

丁度良いバランスにした。

 

後は本番でちゃんと歌うだけだ。

 

私達は曲の完成を喜んで、

仲良く食堂へ向かった。

 

 

 

 

 

夜の食堂はざわついていた。

 

ざわついているのは

普通だと思うだろう。

 

残念ながらこのざわつきは

普通ではないのだ。

 

多くの人がある空間に対して

ざわついているのだ。

 

理由は簡単。

 

私と那珂ちゃん、そしてその間にいる

那珂ちゃんを睨むネ音。

 

その対面にいる神通と川内。

 

このカオスな空間に

周りは動揺しているのだ。

 

美味しそうに食事する那珂ちゃん。

 

それを睨みながら私にくっつくネ音。

 

それに苦笑いする私。

 

こんな光景を傍から見たら

いくら何でもざわつくだろう。

 

誰もこの机には近寄らない。

 

特に一昨日の那珂ちゃんとの

喧嘩を見た艦娘はなおさらだ。

 

私はネ音の頭を撫でて甘えさせながら

神通達と話をしていた。

 

神通のおかげで頭を冷やせて

那珂ちゃんとも仲直りができた。

 

おかげで本番に向けて頑張れそう。

 

神通にはそう感謝した。

 

神通は笑顔で答える。

 

「怒っただけで何もしていませんよ。

あなたたちが解決したのですから。」

 

これが大人の対応なのだろう。

 

とてもカッコよく見えた。

 

その横にいる人は

とても死にかけだけど。

 

「ああ…夜戦……やせ…ん……。」

 

この人は自業自得だが、

こう見ると可愛そうに思えてきた。

 

だってこの状況は赤城から

食事を取り上げるに等しいから。

 

「心配しなくていいのですよ。

姉さんの自業自得、罰ですから。」

 

私の心を読むかのように

口を開く神通。

 

本当にこの人は恐ろしい。

 

まあ、だからこそ信用できる。

 

そんな人と変わったメンツで

食事を続けた。

 

終始ネ音が那珂ちゃんを睨んでいたが、

那珂ちゃんは全然気にしていなかった。

 

いつまで続くかと思っていたが、

早い段階でネ音が寝た。

 

そのおかげで食事後に

ゆっくりと会話ができた。

 

神通達には那珂ちゃんのことを

色々と聞かせてもらった。

 

今までの那珂ちゃんの活動や

那珂ちゃんの性格など。

 

沢山話してもらった。

 

その際、昨日の事も

聞かせてもらった。

 

昨日私を運んだのが

那珂ちゃんだということを。

 

私は「ありがとう」と

那珂ちゃんにお礼を言う。

 

那珂ちゃんは照れくさそうに

顔を背けた。

 

那珂ちゃんはそう言うところは

私と似た者同士なのかな?

 

そんなこと思いながら

那珂ちゃんの照れ顔を見ていた。

 

その後は皆で一緒にお風呂へ。

 

何かが起きることもなく、

ゆっくりと湯船につかる。

 

今日の疲れを癒しながら。

 




後1、2話で第二章を書き終える。
と思うのです。

なので頑張ります(^▽^)/


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第28話 女神に癒しを

 

「準備はいい?」

 

皆が寝静まっている夜の時間。

 

ある部屋で誰かがそう言う。

 

「はい、大丈夫です!」

 

それに返答する誰か。

 

光のあまり入らない暗い部屋。

 

返答した誰かが目の前の通信機で

どこかに連絡を取る。

 

部屋に響かない程の小さな音。

 

しばらく鳴り続けて、

ようやく反応があった。

 

「……もしもし、司令。Yです。

報告が遅れて、申し訳ありません。」

 

声のトーンを下げ、静かに連絡する。

 

「何があった…?

バレていないだろうな?」

 

「はい、計画は成功。

今は大本営の特殊部隊です。」

 

電話を掛けたY、雪風はそう言う。

 

「特殊部隊?……なんだそれは?」

 

疑問に思っている相手に詳細を伝える。

 

大本営の特殊部隊への入隊。

 

元帥直属の部隊で秘密が色々あること、

もう少しここにいることを伝えた。

 

「まだ下っ端ですが、上に入れば

あなたに良い情報が渡せるので。」

 

「お前…変わったな……。」

 

「ええ、研修生の中に司令と同じ考えを

持った方が何人かいらっしゃるので。」

 

「あいつらの事はいいのか?」

 

「私は、彼女たちとそこまで一緒じゃ

なかったので、情はないのです。」

 

「そうか、なるべく早く上に行け。

いずれ大本営は俺の物になるからな。

お前の頑張り次第だからな、

期待しているぞ、雪風。」

 

そう言って通信が切れる。

 

雪風はゆっくりと近くの椅子に

腰を下ろして深呼吸をする。

 

しかし、緊張が切れたからか

呼吸が荒くなる。

 

胸が苦しくなり、涙が出てくる。

 

「ごめんなさい……。」

 

泣きながら謝る雪風。

 

この話を聞いていた神通は

雪風を優しく抱きしめる。

 

「よく、頑張りましたね。」

 

優しく頭と背中を撫でる。

 

暖かくてどこか安心できる。

 

雪風はその安心によって

涙を流し、声を出して泣く。

 

神通は報告を他の艦娘に任せ、雪風が

泣き止むまで傍にいることにした。

 

 

 

 

 

那珂ちゃんと仲直りして数日が経ち、

本番まであと少しとなった。

 

そんな日の朝、

私達の部屋に客人が訪れた。

 

訪れたのは神通と雪風。

 

雪風は目を真っ赤にしていた。

 

何かあったのだろうか?

 

そう思っていると雪風が

涙を流して抱き着いてきた。

 

私はそのまま受け止め、頭を撫でる。

 

雪風は声を出して泣いた。

 

雪風をあやすように抱っこしながら

神通に詳しい理由を聞いた。

 

昨日の夜、雪風は佐世保に連絡。

 

提督に本当の情報と一緒に

嘘の情報を伝えた。

 

言いたくない嘘の情報を伝え、

何とか騙すことに成功した。

 

しかし、その時の精神的ダメージは

予想より大きかったそうだ。

 

今日はそれによる休養。

 

落ち着いてもらうために、

落ち着ける場所を探していたらしい。

 

そこで雪風本人からの要望があり、

私達のところに来たそうだ。

 

前以上に甘えん坊になった雪風。

 

とりあえず今日一日は

雪風の子守になりそうだ。

 

雪風を落ち着かせるために私たちは

一緒に行動することになった。

 

まずは音楽室へ。

 

音楽には心を落ち着かせる力がある。

 

個人差はあるが、

大きな効果が期待できる。

 

那珂ちゃんは別件でいないので

音楽室は私たち以外いない。

 

だから3人で音楽を楽しむ。

 

ピアノを弾いたり、歌を歌ったり、

音楽を聞いたりする。

 

雪風に少し笑顔が戻った。

 

途中から雪風も歌ってくれたので

みんなで一緒に楽しんだ。

 

ネ音が思ったより

音痴だったことには驚かされた。

 

頬を膨らませて顔を赤くしたネ音を

からかいながら次の場所へ行く。

 

次に向かったのは食堂。

 

これはネ音からの提案だ。

 

この前料理を作ったことで

料理に自信を持ったらしい。

 

今は鳳翔さんと間宮さんだけでなく

他の艦娘や職員にも教わっている。

 

数日しか経っていないが、簡単な料理の

レパートリーは増えているそうだ。

 

そしてそれを最初に食べるのは私。

 

よく周りの子には羨ましがられる。

 

ネ音の料理はおいしいけど

いつも数量限定で抽選式。

 

食べたくても抽選で落ちる子はいるし

また食べたいという子も少なくない。

 

今回はそんな料理を私と雪風が食べる。

 

雪風は少しソワソワしていた。

 

雪風は特殊部隊に配属だが、

扱いは未だに研修生と変わらない。

 

まだ研修生として卒業していないから

こればっかりは仕方がないのだ。

 

しかし、研修生にとってネ音の料理は

手の出せない代物と同じなのだ。

 

鍛錬をいくら早く終えようと

食堂に行くのに時間がかかる。

 

さらに、食事の時間が決められている。

 

研修生の時間が用意されているのだ。

 

矢矧や叢雲たちのような実力者は

例外で早めに上がることがある。

 

それでも抽選で当たらないため

食べることができていないけど。

 

雪風はというと

卒業前に向けての鍛錬をしている。

 

夜遅くまで神通と鍛錬をしている。

 

そのため、食事の時間が遅くなるのだ。

 

ネ音の料理も食べたことがない。

 

だがうわさだけは聞いている。

 

とてもおいしいと噂のネ音の料理。

 

雪風はそれが食べられると言うだけで

体を揺らして待っている。

 

次第にいい匂いが漂ってきた。

 

そのいい匂いが鼻をくすぐり、

雪風の口からは涎が出始める。

 

どんな料理なのか予想しながら

涎を垂らす雪風。

 

顔はもうゆるゆるしていた。

 

そして目の前に料理が出される。

 

出されたのはカツカレーだ。

 

「足柄お姉さんのおススメ

雪風の応援も込めて作ったんだ。」

 

笑顔で言うネ音。

 

雪風は頬を紅く染め、

涙を流しながらカレーを口に運ぶ。

 

丁度いい辛さで作られたカレーと

歯ごたえのあるカツが絡む。

 

スプーンを動かす手が止まらない。

 

かなりの量だったが

気づけば完食していた。

 

雪風も私より少ないとはいえ、

既に完食して牛乳を飲んでいた。

 

とても満足しているが

カレーの匂いは私たちを刺激する。

 

お腹が膨れたのに涎がまだ出てくる。

 

このままだと涎が止まらなくなるので

雪風を連れて食堂を出る。

 

ネ音はもう少し料理を作るそうだ。

 

まあ、抽選の列ができているから

仕方がないのだろう。

 

いつもより多い列を横目に

私達は建物の外に向かった。

 

 

 

 

 

心地の良い風を浴びながら外を歩く。

 

さっきの食事で火照った体が

風でいい感じに冷やされる。

 

冷えすぎないように雪風を抱きながら

ゆっくりと海沿いを歩く。

 

向かったのはステージ。

 

あと数日に迫ったライブのステージ。

 

大本営の邪魔にならないところに

客席と一緒に作られた。

 

明石が限界を迎えていたが、

丁度良く妖精さんが現場復帰。

 

速攻でステージを完成させてくれた。

 

そのステージを見て回る。

 

設計通りのステージが出来上がっている。

 

細かい仕掛けも出来ているようだ。

 

そんな感じで見ていると

妖精さんがこっちにやってきた。

 

ステージの最終確認をしているらしい。

 

そこでこんなことも言っていた。

 

「例のやつ、入れておきました。」

 

私はその言葉を聞いて

サムズアップする。

 

どうやら私の提案を

入れてくれたらしい。

 

雪風は疑問に思っているが、

これは本番まで内緒だ。

 

お願いされても教えられない。

 

雪風は「む~」と頬を膨らませる。

 

怒り方はネ音と同じだ。

 

ネ音の影響でも受けたのだろうか?

 

でも、こういう雪風が

見られて良かった。

 

朝よりもいい顔をしている。

 

かなり吹っ切れたようだ。

 

この後も散歩したり、夕食を食べたり、

一緒にお風呂に入ったりした。

 

他の研修生(特に卯月)には

羨ましがられて色々大変だった。

 

夜は一緒の布団で眠る。

 

私とネ音が雪風を挟む形で。

 

あの時と同じ形で眠る。

 

雪風は今日一番の笑顔で

気持ちよさそうに眠った。

 




頑張って残り2話(予定)を
書くのです。


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第29話 ライブ当日

さあ、ライブの始まりだ。


 

「それ、こっちにお願い!」

 

「お~い、こっちも手伝ってくれ~!」

 

今日は朝から忙しい。

 

あちらこちらで準備が行われている。

 

那珂ちゃんも妖精さんたちも

皆が準備を急いでいる。

 

今日はライブ当日。

 

開始はお昼からなので

それまでに準備をしているのだ。

 

ライブをするにあたって

食堂は昼から閉鎖。

 

ステージ近くに屋台を用意し、

食事を提供してもらう。

 

艦娘は研修生含め全員自主練。

 

ただし、海上演習はダメ。

 

そのため神通達教官も

早いうちに鍛錬を切り上げる。

 

さらに一部メンバーが警戒のために

昼と夜で分かれて近海を警備する。

 

基地の方にも

警備を回してくれている。

 

基地のメンバーは一部を除いて

此方にやってくる。

 

キューちゃん達や吹雪、

瑞鶴や叢雲もやってくるそうだ。

 

残るメンバーは食堂のテレビで

此方を見られるようにしている。

 

その基地のメンバーが来るのが

今日の昼前。

 

後数時間でこちらにやってくる。

 

その内にマイク、スピーカー、

ステージのチェックをする。

 

本番前に何か起きる可能性もあるため、

出来る限りのチェックは必要だ。

 

今のところ、問題はない。

 

今のところは、だ。

 

何が起こるか分からないため、

入念にチェックする。

 

妖精さんたちも明石と一緒に

時間ギリギリまで準備をする。

 

私もみんなとプログラムの確認や

準備物の確認などやるべきことをした。

 

 

 

 

 

そろそろ本番の時間になる。

 

今は那珂ちゃんと一緒に

裏方で待機している。

 

改めてこういう場にいると

緊張してくる。

 

外の声が良く聞こえるのだ。

 

ガヤガヤと外の声が大きくなる。

 

ついさっき船の音も聞こえたため

基地のメンバーもやってきているはず。

 

考えれば考えるほど緊張してしまう。

 

今までこんなことなかったのに。

 

体が小刻みに震えていた。

 

そんな時、那珂ちゃんが

私の手を両手で包んでくれた。

 

「大丈夫!私達ならできるよ!」

 

こういうところは那珂ちゃんの方が

しっかりしている。

 

流石、アイドルだよ。

 

おかげで緊張がほぐれた。

 

『それでは、今日の主役のお二方に

出てきてもらいましょう!』

 

どうやら呼ばれたようだ。

 

私は那珂ちゃんと笑顔で頷く。

 

「さあ、行こう!」

 

那珂ちゃんに手を引かれて

ステージへと向かう。

 

みんなに楽しんでもらえるようにと

私達はステージに上がった。

 

ステージに立つと多くの観客が

私たちを歓迎してくれた。

 

「みんな~!こんにちは~!」

 

那珂ちゃんが元気に挨拶をする。

 

私はその横でみんなに手を振る。

 

観客席は私達にもしっかりと見える。

 

基地のみんなが

どこにいるかよく分かった。

 

……瑞鶴の髪が元に戻っている。

 

早くない?

 

まあ、艦娘だからと思うしかないか。

 

ネ音もそこに混ざっていた。

 

他には……雪風に卯月もいる。

 

あの5人も矢矧も見ていた。

 

元帥も見ている。

 

これは楽しくしていかないt

「歌音ちゃん!」……?

 

「ほらほら、みんないるんだから。

アイドルは笑顔だよ(^▽^)」

 

みんなもこっちを見ていた。

 

そうだよね、ここでは

吹っ切れてもいいんだもんね。

 

「みんな~!歌音だよ~!

今日は来てくれてありがとう~!」

 

その瞬間、みんなは驚いていた。

 

那珂ちゃんも同様に驚いていた。

 

それもそうだろう。

 

私のこんな姿を

見たことがないのだから。

 

ネ音ですら見たことは無い。

 

「私は16歳の女の子なんだからね!

見た目で判断しないでよね!」

 

「それじゃあ、

ミュージックスタート!」

 

そう宣言してライブが始まった。

 

トップバッターは私。

 

まずは私のオリジナル曲メドレー。

 

曲の歌詞は最初にみんなに渡している。

 

今まで作ってきた私の歌を

メドレーにして歌う。

 

主に平和を願った歌。

 

戦争とかけ離れた生活。

 

その中で戦争を知ったときに作った曲。

 

その戦争に対する悲しみ。

 

戦争を望む人と望まない人、

それぞれが持っている正義。

 

だからこそ戦争はなくならない。

 

それでも止めたいと言う私の願い。

 

それを届けたい。

 

でも届かなかった。

 

それを貰った新たな生で届けたい。

 

今こうして大切な仲間が増えたように

平和を願うことはできるのだから。

 

そんな思いを込めた歌。

 

歌いながらみんなの反応を見た。

 

そこには色々な感情が見えた。

 

そんな30分以上のメドレーが終わった。

 

次は那珂ちゃんのメドレー。

 

那珂ちゃんの持ち歌のメドレーだ。

 

あの曲はプログラム後半なので

それ以外の3曲を歌う。

 

聞いたことない子たちは那珂ちゃんの

アイドルらしさを見ることができた。

 

特に基地の那珂ちゃんは興奮していた。

 

そのため、暴走しないように

みんなで体を抑えていた。

 

聞きなれているメンバーは

またこの曲かと思いながら聞いていた。

 

そんな感じで那珂ちゃんパートも終了。

 

次は既存曲のメドレー。

 

みんなが知っているだろう曲、

特に有名になった曲を歌っていく。

 

昔の曲ももちろん歌う。

 

「赤いスイートピー」とか、

「川の流れのように」とか。

 

有名曲以外も歌った。

 

この年代の曲、

ここの人たちは知っているのかな?

 

あ、丁度年代だと思う人が泣いている。

 

流石、有名歌手の歌った曲。

 

従業員の反応が特にすごい。

 

艦娘は…一部だけしか反応がなかった。

 

まあ、仕方ないことだ。

 

みんなの興味が無くなる前に

次のプログラムへ。

 

次の内容は「ゲストと歌う」だ。

 

これはほとんどの人が知らない。

 

一部艦娘に協力してもらって

歌うことになっているからだ。

 

歌ってくれるのは川内型、長門

大和、一航戦、五航戦の面々。

 

開いている時間に頼んでおいたのだ。

 

私は後ろでピアノ、ギターで伴奏。

 

ちなみにこれは元帥も知らない。

 

那珂ちゃんが最初にいれていた

私達だけが知っているサプライズ。

 

曲名はもちろんあの曲。

 

「大和桜」「羅針盤の彼方」「二羽鶴」

などの彼女たちの曲。

 

私の前世で作られた曲であることは

ちゃんと伝えている。

 

それを聞いて協力してくれたのだ。

 

私としては生声を聴けるため、

この時間はかなりいい時間になる。

 

みんなは艦娘が歌うというところと、

それぞれの曲の相性に驚いていた。

 

歌詞の内容が彼女たちに合っているから

生涯を聞いているような感じになる。

 

それに歌ってくれたのは

皆にとっての憧れの人が多い。

 

それも影響して良い感じになっていた。

 

おかげでみんなが白熱していたよ。

 

このプログラムはかなり盛り上がった。

 

かなり盛り上がったところで

周りはだいぶ暗くなっていた。

 

そこで私たちの休憩を兼ねて

夕食タイムにすることに。

 

約一時間後に再開することにして、

みんなに休憩するように言う。

 

移動するみんなを見送りながら

私達もステージを降りる。

 

私はネ音たちのところへ、

那珂ちゃんは神通達のところへ行く。

 

久しぶりに基地のメンバーに

会うことができた。

 

叢雲は立てるようになっていたし、

金剛さん達も楽しそうにしていた。

 

瑞鶴も元気そうでよかった。

 

「お姉さま~!」

 

誰よりも元気なのが一匹いた。

 

キューちゃんは勢いよく私に抱き着く。

 

ネ音はそれを無理やり

引き剥がそうとする。

 

キューちゃんズは……

ネ音の味方をした。

 

「なんでなんですか!

もっとお姉さまを堪能させて~!」

 

…みんな元気そうでよかった。

 

これで基地の事は心配しなくて

よさそ「歌音ちゃん」…う……。

 

私は固まった。

 

私を呼ぶ声に反応し、そっちを向くと

笑顔でこちらを見る鳳翔さん。

 

基地の方の鳳翔さんだ。

 

その笑顔はとても暗く怖い。

 

「こちらの私に聞きましたよ。

倒れたんですって?」

 

……マズイ、これはマズイ。

 

間違いなく長時間説教。

 

私の精神が持たなくなる。

 

とりあえずどうにか逃げなければ。

 

そう思っていると

後ろから肩を掴まれる。

 

振り向くとそこには間宮さんと

大本営の鳳翔さん。

 

私は…詰んだようだ。

 

「「「さあ、食事をしましょうね。

じっくりと話しながら。」」」

 

…私の1時間の休憩はこの時間以内に

凝縮された3人の説教に変わった。

 

 




ライブは順調。
そして次回第二章最終話


※歌詞は使用してないけど
楽曲名は出しているので
一応コードを出しています。


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第30話 闇夜を照らす光

長かった第二章
ようやく最終話です。


 

鳳翔さん達の説教を受けて

ゲッソリとしてステージの裏に戻る。

 

那珂ちゃんにはとても心配された。

 

これに関しては自分が悪いため、

受け入れるしかない。

 

だから頑張ってこのライブを成功させる。

 

ちゃんと水を飲んで落ち着いて、

私達はステージに向かった。

 

かなりの人数が戻ってきたため、

ライブを再開することにした。

 

だが、戻ってこられていない子が

可愛そうなのでアドリブを入れる。

 

今からするのは

那珂ちゃんとの即興(そっきょう)バトル。

 

誰かにお題を出してもらい、

私と那珂ちゃんが即興で交互に歌う。

 

良かったと思う方に手を挙げてもらって

その数が多い方が勝ちと言う遊び。

 

それを5回続ける。

 

これが意外と白熱した。

 

那珂ちゃんの即興が上手かったため、

2対2までいって盛り上がった。

 

次で勝者が決まる。

 

そしてお題は…「家族」。

 

お題を聞いた瞬間、

お互いが目の色を変えた。

 

大切な家族についての歌。

 

お互いが家族を大事にしているからこそ

このお題の勝ちは譲れなかった。

 

お互いが家族の大切さを語り、

今までの生を語る。

 

互いに譲れないその歌に

会場全体のボルテージが上がった。

 

全力で歌った私達。

 

後は会場の判断だけなのだが、

全員、甲乙つけがたく悩んでいた。

 

そこで元帥が声を上げた。

 

「いい曲じゃないか!

これは両者勝利よ!」

 

その声に会場が歓喜する。

 

私と那珂ちゃんの譲れない戦いは

両者勝利、引き分けに終わった。

 

私達はお互いに握手して称える。

 

会場がさらに盛り上がったところで

プログラムは次に進む。

 

次は那珂ちゃんの歌。

 

ここで歌うのは完成させたあの歌。

 

那珂ちゃんの思いがこもった歌。

 

今までとは違う那珂ちゃんの歌。

 

那珂ちゃんという存在を

映し出すそんな歌。

 

そんな歌を歌う那珂ちゃんに、

私からのサプライズを送る。

 

指を鳴らし、合図する。

 

すると那珂ちゃんの服が

可愛いアイドルの服になる。

 

さらに曲に合わせてライトアップされ、

後ろには那珂ちゃんの思い出が映る。

 

那珂ちゃんがこの世に生まれて

今まで頑張ってきたことの記録。

 

元帥と神通達が残していた

那珂ちゃんの成長記録。

 

それが記録された沢山の写真が

後ろに移される。

 

間奏になって

那珂ちゃんはこれに気づいた。

 

そして驚いていた。

 

何故ならこれは元々

那珂ちゃんの案だったからだ、

 

那珂ちゃんのステージ案にあった

衣装チェンジとライトアップ。

 

私が無理を言って

妖精さんたちに作ってもらった。

 

私から那珂ちゃんへの贈り物。

 

那珂ちゃんはあまりの嬉しさに

涙を流した。

 

でも、すぐに涙を拭いて笑顔になる。

 

アイドルとして泣くのではなく

歌いきることを選んだ。

 

そして那珂ちゃんは

最後まで歌い切った。

 

「みんな~!ありがとう~!」

 

その声に応えるように観客席から

大きな歓喜の声が上がった。

 

那珂ちゃんは皆に手を振りながら

ステージ袖に帰ってくる。

 

そのまま那珂ちゃんは

元の服装で私に抱き着いた。

 

大粒の涙を流しながら。

 

私は那珂ちゃんの頭を撫でながら

しっかり抱きしめる。

 

ほんのちょっとの時間で

那珂ちゃんを撫でて落ち着かせる。

 

那珂ちゃんは我慢して涙を拭き、

「頑張ってね」と私を応援してくれた。

 

泣くのを我慢しながらのその言葉に

私は笑顔で応える。

 

「うん、頑張ってくるね!」

 

私は那珂ちゃんと変わって

ステージに上がった。

 

プログラムは再び私の歌へ。

 

オリジナルと既存曲を

ミックスしたメドレー。

 

私のお気に入りの既存曲と

誰かに伝えるために作った曲。

 

それを混ぜて歌う。

 

特に私の気に入っている曲は2つ。

 

必ず私が歌う曲だ。

 

1つは思いを貫く歌。

 

たった一つの想いを貫く。

 

難しいけど約束を守るために。

 

夢のような現実をこの手で変えられる、

それなら今と言う奇跡を信じる。

 

そんな歌。

 

もう一つは味方が欲しかったという歌。

 

他の人と私は違う。

 

誰にも分らず、迷いも消えない。

 

だから、たった一人でいいから、

私の味方が欲しかった。

 

そんな歌。

 

私が好きなそんな歌。

 

みんなに伝えたい歌を歌う。

 

私の服装と背景は

歌詞に合わせて変化していく。

 

色とりどりの姿にみんな驚く。

 

小さい子たちは特に目を輝かせていた。

 

そこで私は指を鳴らす。

 

実はもう一つ、

とある仕掛けを頼んでいたのだ。

 

指パッチンに合わせて観客席が光る。

 

すると、みんなの服が変化した。

 

艦娘たち、女性は可愛いドレスに

男性はカッコいいタキシードに。

 

これがもう一つの仕掛け。

 

あのマイクの効果の応用。

 

一定の空間にいるみんなの視覚を

誤魔化すだけの仕掛け。

 

大きな幻覚作用はないように

明石が何回も実験した代物。

 

その結果、一部例外はいるが、

みんなの服が変化した。

 

同じ艦娘でもかなり違ったりする。

 

そんな雰囲気を作って歌い続けた。

 

 

 

 

 

歌い切った。

 

メドレーを何とか歌い切った。

 

さあ、後は締めの曲を歌うだけだ。

 

その前に那珂ちゃんを呼ぶ。

 

那珂ちゃんは笑顔でやってきて

ステージに上がった。

 

ステージに上がると衣装が

さっきのアイドルの服に変わる。

 

役者は揃った。

 

順調に進んだライブは

ようやく終わりを迎える。

 

最後は私と那珂ちゃんのデュエット。

 

歌う曲はみんなが知らない

みんなの知っている曲。

 

これはいつかの記憶。

 

初めの海、朝焼け空。

 

ここに居たことを覚えていてほしい。

 

必ず還るから。

 

いつの日か共に歩む。

 

君こそ、希望なのだと。

 

彼女たちに対する歌だ。

 

ここまで彼女たちに合う

歌はないだろう。

 

この歌を歌い終わると、

会場は大きな拍手に包まれた。

 

私と那珂ちゃんは笑顔で

みんなに感謝する。

 

こうしてライブは無事に

成功させることができた。

 

会場のボルテージは

ライブが終わっても上がったままだ。

 

みんな、このライブで興奮したようだ。

 

私と那珂ちゃんはステージを降りる。

 

終了後の見送りを近くで行った。

 

那珂ちゃんのところには

大本営の艦娘が集まった。

 

那珂ちゃんの新曲に心打たれたようだ。

 

那珂ちゃんはみんなに囲まれて

勢いよく胴上げされていた。

 

私のところには研修生の子たちと

基地のメンバーが集まった。

 

卯月と雪風が飛び込んで来て、

キューちゃんやネ音、吹雪も来る。

 

みんなして私の取り合いが始まる。

 

そんなみんなの姿もドレス姿。

 

瑞鶴は何故かタキシードだったけど。

 

みんな沢山の感想を言ってくれた。

 

そして那珂ちゃんと同じように

みんなに胴上げをされた。

 

私と那珂ちゃんは笑顔で見合う。

 

歌い切った自分たちに送る

最高の笑顔で。

 

 

 

 

 

「はぁ、はぁ……」

 

盛り上がった大本営から

かなり離れた海の上。

 

一人の少女がフラフラと航行する。

 

気を抜くと今にでも倒れそうな少女。

 

しかし、役目を果たすために

ボロボロの身体で頑張って進む。

 

仲間が作ってくれた希望。

 

覚悟を決めて作戦を実行してくれた。

 

その覚悟がこの暗闇の海に

進むべき道を切り開いてくれた。

 

目指すは一番大きな鎮守府。

 

どの鎮守府も口を揃えて

いいところだと言うあの大本営へ。

 

その進むべき道を教えてくれた

ピクリとも動かない妖精さんを抱えて。

 

少女は静かな海の上を突き進む。

 

「待っていて…ください……。

朝雲さん……山雲さん……。」

 

 

 




これにて第二章は幕を閉じます。
第一章の倍を書くとは思わなかった。

次回、第三章第1話は年明けから
来年は就職等で忙しくなりますが、
第三章は終わらせるつもりです。

文として、物語として大したことない
作品を見続けてくださり、
ありがとうございました。
168件のお気に入り登録
16,000以上のUAに感激しています。

それでは皆様、良いお年を。
(・ω・)/


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第三章 佐世保鎮守府編
第1話 救いの手を


第三章に突入するのです。

やること多くて後半は
投稿が送れる見込みです。

ご了承ください。


 

鳥のさえずりが聞こえる朝。

 

いつもより少し冷える海岸に私はいる。

 

昨日の那珂ちゃんとのライブは

無事に成功させることができた。

 

基地のみんなを楽しませることも。

 

研修生たちも楽しめたそうだ。

 

そんなライブが終わった次の朝、

いつも通りに私は海岸に来た。

 

今日から通常の勤務になるからだ。

 

いつも通り、朝に歌って鍛錬。

 

そのため遅くならないうちに歌う。

 

昨日の楽しさから

一転変わった今日の静けさ。

 

また何か起こるのではないか。

 

そんな不安に駆られる。

 

そんな時に見える日の出。

 

それは全ての闇を

晴らしてくれるように思えた。

 

これから進む道を照らす。

 

そんな光のように思えた。

 

この光は未来の光であると。

 

そんな歌を歌う。

 

いつもよりスッキリした、

そんな気がした。

 

「お~い、歌音~。」

 

私を呼ぶ誰かの声。

 

声の方を向くと秋雲がやってきた。

 

頼みがあると言って。

 

内容は憲兵たちの鍛錬。

 

今日はその相手をしてほしいそうだ。

 

特に用事があるわけではないし、

鍛錬もしたかったため私は了承した。

 

話を終えたところで放送。

 

どうやら全体の起床時間のようだ。

 

そろそろ戻ろう。

 

秋雲は食堂に行くそうなので

一緒に行くことにした。

 

その前に一度部屋に戻ろうとする。

 

すると何かを感じた。

 

何がとははっきりとは分からない。

 

ただ気になって海の方へ振り返った。

 

映るのは海と大本営を照らす太陽。

 

その下に移る黒い何か。

 

私は目を細めてその姿を見る。

 

太陽に照らされる何かを。

 

次第にその姿が見えてくる。

 

服装は朝潮たちと似ている。

 

サスペンダー付きのスカート。

 

白い髪のボブカット。

 

オレンジのスカーフを付けていて、

後ろから黒い煙を…出して……!

 

次の瞬間、私は海に飛び込んだ。

 

海上に立ち、大声で秋雲に言う。

 

「秋雲!明石に連絡、早く!」

 

「わ、分かった!」

 

私はすぐに最大船速で

目に映った何かへ向かった。

 

近づくほど容姿がはっきり見える。

 

体中傷だらけの艦娘だ。

 

だが、私は彼女の事を知らない。

 

少なくとも大本営にはいない。

 

どこの子か分からないが、

保護はするべきだろう。

 

彼女も私の事に気づいたようだ。

 

必死にこっちに向かってくる。

 

私は少し手前で

 

速度を落とし、受け止める用意をする。

 

少女は私に抱き着くように倒れた。

 

「…おねが…いで…す……、

朝…雲さ…んたち…を……助け………」

 

少女はそのまま意識を失った。

 

体重が一気にかかった。

 

急いで入渠させた方が良いだろう。

 

すぐに抱っこして海岸へ戻る。

 

戻ると秋雲と明石、

元帥と朝潮が立っていた。

 

朝潮は運動着であるため

さっきまで鍛錬をしていたのだろう。

 

たまたま同行したのだろう。

 

それよりも早く

この少女を入渠させなければ。

 

担架を用意してくれていたので

少女をそこに乗せる。

 

秋雲と明石がすぐに担架を運んでいく。

 

私達はその様子を見送る。

 

朝潮はとても心配そうに見ていた。

 

見送った後、私は元帥に事情を説明。

 

詳しい事は朝食後に話すことになった。

 

 

 

 

 

朝食後、私は提督室にやってきた。

 

ここに来て最初に入った部屋だ。

 

部屋に入ると提督と朝潮が

ソファーに座っていた。

 

私はその向かい側に座る。

 

大和がお茶を出してくれたので

一口飲んで落ち着く。

 

湯呑を置いたところで

元帥から話をされる。

 

さっきの少女は入渠が済んで

医務室で点滴をしながら熟睡中。

 

多くの傷に栄養失調、

疲労が見られたそうだ。

 

明日には目覚めるため、

その時は色々聞くそうだ。

 

とりあえず一安心というところだろう。

 

だが、そうじゃないのが一人。

 

朝潮の様子がさっきからおかしい。

 

やはり、あの少女と

何かしらの関係があるのだろう。

 

「気になる?あの子が誰なのか。」

 

そう言って元帥は一枚の紙を出す。

 

書かれているのは少女の情報だった。

 

名前は……

「朝潮型7番艦 夏雲」

 

やはり朝潮の妹だった。

 

彼女は最近になって現れ始めたらしい。

 

大本営にいない理由は

単に邂逅できなかったから。

 

他の鎮守府では邂逅報告があったらしい。

 

朝潮の様子がおかしかったのは

そんな妹が心配だったからだろう。

 

それにかなり劣悪な環境にいたようだ。

 

朝潮の目は怒りに満ちており、

涙が滲んでいた。

 

手を強く握り、震えている。

 

元帥はそんな朝潮の頭を撫でる。

 

朝潮を落ち着かせるために。

 

「どうして…あんなひどいことを…」

 

体を震わせる朝潮。

 

元帥はただ頭を撫でる。

 

「言ったでしょう、それが人間なのだと。」

 

少し目線を落して言う元帥。

 

彼女にも何かあったのだろう。

 

だが、私が深く聞くわけにはいかない。

 

しばらくの間この部屋は静かになった。

 

お互いが沈黙したこの空間。

 

ただお茶を啜る音だけが響いた。

 

そんな沈黙が破られたのは約5分後。

 

扉がノックされた。

 

入ってきたのは明石。

 

手には複数の資料とパソコン。

 

それを元帥の前に置く。

 

私も手招きされたので

パソコンの見えるところへ。

 

そこに移っているのは男の人。

 

隣には電と男性に甘える夕立、

黒いフードの少女が映っていた。

 

服装的に相手は提督なのだろう。

 

「やあ、久しぶり。

元気にしてたか、ガキンチョ。」

 

「一言余計よ、この猫野郎。

後、ちゃんと元帥って呼びなさい!」

 

いきなり始まる口喧嘩。

 

仲が悪いのだろうか?

 

すごい勢いで悪口が飛び合う。

 

しかし、どうやら口だと

元帥には分が悪いらしい。

 

次第に勢いがなくなっていった。

 

画面の向こうで男性がクスクスと笑う。

 

元帥は顔を真っ赤にしていた。

 

「~っで!用事は⁈」

 

苦し紛れに話題を変えた。

 

男性は苦笑いしながら答える。

 

「ああ、顔出しと明石の依頼の報告だ。

そこの資料通りだが、どうする?」

 

元帥が資料を見る。

 

内容は夏雲の情報だった。

 

書かれていたのは夏雲の邂逅情報。

 

各鎮守府の情報が書かれていた。

 

いくつかは黒塗りされていて

見ることはできなかった。

 

「そうね…明日次第になるかしら。

早くて明後日には出る予定よ。」

 

元帥はそう言う。

 

これからの何かしらの話をしている。

 

でも、私にはよく分からなかった。

 

もうついていけてないのだが。

 

明石の方を向いても

苦笑いをするだけだった。

 

「了解。あ、うちに来るなら

そこのお嬢さんも連れてきなよ。」

 

そう言って指をさす。

 

その方向は明らかに私の方。

 

「君とは話してみたいし、

この子と仲良くなれそうだしね。」

 

そう言ってフードの少女を撫でる。

 

とても嬉しそうな少女。

 

見ているとこっちが笑顔になる。

 

何度も撫でていると夕立が怒る。

 

それを抑えながら男性は言う。

 

「また時が来たら連絡してくれ。

うちはいつでもウェルカムだからさ。」

 

そう笑顔で言う男性。

 

夕立は電に画面外へ連れていかれる。

 

私達はその様子を見て笑っていた。

 

「それじゃあ、またな。

大和~、子守はしっかりな。」

 

「また私を子ども扱いしたな!

減給してやろうか!」

 

「怖い、怖い。ちゃんと牛乳飲めよ。

それじゃあ、またね~。」

 

そう言うと画面が黒くなった。

 

どうやら通信が終わったらしい。

 

元帥は顔を真っ赤にして怒り始める。

 

悪口が一向に止まらない。

 

既に大和に向かって

愚痴を吐き始めていた。

 

まあ、あそこまで煽られたら

いくら元帥でも怒るだろう。

 

しかし、この状況はマズイ。

 

このままでは巻き込まれるだろう。

 

明石が仲介に入ったが

そのまま巻き込まれた。

 

巻き込まれるのは嫌なので

急いで朝潮の手を掴む。

 

そして発狂している元帥を横目に、

朝潮を連れて部屋を後にした。

 

あの男の人の事。

 

あのフードの少女。

 

そして話の内容。

 

聞くべきことは山ほどある。

 

本当は色々聞きたかったが、

明日にでも聞くとしよう。

 

夏雲が助けを求めた理由が

分かるのだから…。

 

 

 

 




第二章最後に出てきたのは
最近登場した夏雲ちゃんでした。
このお話のキーマンになるでしょう。

男性はどこかの提督さんです。
古参の人からすれば見覚えがあるでしょうね。

まあ、他人の空似ですが…。



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第2話 引き金の言葉

ジョジョにハマり過ぎて
艦これ×ジョジョの
新しい小説の設定を書いてる馬鹿です。

オリジナルスタンドの設定ばっかり書いてる。



 

元帥がどこかの提督と

話し(喧嘩し)た次の日。

 

夏雲が目を覚ました。

 

その知らせを受けた私と元帥は

秋雲と医務室へ向かった。

 

医務室に入り、

前にネ音が寝ていたところへ向かう。

 

そこでは北上の服を掴んで離れない

夏雲と体操座りで縮こまる朝潮がいた。

 

朝潮は目の光を無くし、涙を浮かべて

機械のように同じ言葉を繰り返す。

 

「キラワレタ、イモウトニキラワレ…」

 

今にでも闇落ちしそうなので

頭を撫でて落ち着かせる。

 

どうやら夏雲に嫌われたようだ。

 

朝潮としても複雑な気持ちだろう。

 

心配していた妹に嫌われたのだから。

 

なぜこうなったのか理由を聞く。

 

理由は夏雲に「来るな!」

と言われたかららしい。

 

それからずっと北上から

一ミリも離れないのだとか。

 

北上から離れないのは

鎮守府で助けてもらったかららしい。

 

自分の代わりにひどい目に合って

それでも笑って助けてくれたらしい。

 

だから大丈夫だと判断したそうだ。

 

なにが起きたかは確認できたが、

怖がって北上の後ろに隠れてしまう。

 

話を聞こうにも北上の後ろ、

私達の見えないところに顔を隠す。

 

ここまで怯えてしまっていては

聞こうとしたことは聞けないだろう。

 

北上が言うには鎮守府での

仕打ちを思い出してしまうらしい。

 

服装や顔を見ると思い出して

体の震えが止まらなくなるそうだ。

 

しかし、元帥も嫌われるとなると

どうやって彼女に聞けばいいのか。

 

そう思っていると北上が

元帥に紙を渡した。

 

私にも内容を見せてくれた。

 

どうやら北上が

色々聞いてくれたらしい。

 

そこには夏雲のいた場所の現状が…

 

…ウッ!

 

私はその紙を長く

見ることができなかった。

 

すぐに口を押えて洗面台へ走る。

 

上がってくる吐き気に耐えられず、

口から物が出る。

 

嗚咽が止まらず、しばらく秋雲に

支えられ、さすられていた。

 

あまりにもひどい内容だった。

 

大破状態で放置される傷だらけの戦艦。

 

暴行を受けて痣だらけの空母

 

性欲の捌け口にされ、

恐怖におびえる巡洋艦。

 

部位欠損している多くの駆逐艦。

 

一部の艦娘が提督と一緒に

艦娘を痛ぶっている等。

 

思い出すと再び吐き気に襲われる。

 

加賀さんには聞いていない細かな内容を

聞いた私の胸は痛くなる。

 

この前もネ音がボロボロにされたが、

その状態に近いものだった。

 

一刻も早く助けに行くべきだろう。

 

これだけの証拠があるなら

佐世保の提督を拘束できるだろう。

 

この様子だと赤城さんも…。

 

…っ!

 

この時、私は雪風の事を思い出した。

 

雪風が私たちを殺害する理由。

 

雪風はとある理由から

提督に従うことになったから。

 

その理由はなにかを知ったから。

 

そしてそれを教えてくれた人がいる。

 

もしも赤城さんが関わっていたら。

 

そう思って私は

赤城さんのことを聞いた。

 

「ねえ…、赤城さんは

どうなっているの…?」

 

私は夏雲にそう聞く。

 

疑問に思ったからこその質問。

 

とても単純な質問だった。

 

聞きたいから聞いたこと。

 

一番に助ける目的だったから

赤城さんの安否を聞いた。

 

そんな単純な質問は、

ある引き金を引いた。

 

「あ…かぎ……さ…っ!あ、ああ!」

 

この言葉が夏雲の抱える心の爆弾を

起動させる引き金だと知らずに。

 

「イ…イ、イヤアアアアアア!!!!」

眼の光を無くして頭を抱え、

突然発狂する夏雲。

 

心拍数を測る機械のモニターの数値は

異様な速さで増えていく。

 

あまり良くない状況だが、

今の私にはどうしようもできない

 

さっきの事で体に力が入らず、

思うように動けないからだ。

 

だから一番近くにいる北上が

すぐに抑えようとする。

 

しかし、駆逐艦とは思えない力で

暴れてしまい、手が付けられない。

 

そこで秋雲の変わりに朝潮が私を支え、

元帥は発狂しないように軍服を脱ぐ。

 

そして元帥と秋雲が抑えに加わる。

 

しかし、夏雲は叫び続ける。

 

腕を振り払い、爪を立てて引っかく。

 

さっきまで安心していた北上にまで

傷を負わせてしまうほど暴れていた。

 

そして、この3人であっても

夏雲を抑えることができないでいる。

 

やむを得ず、北上は

艦娘用の鎮静剤を使った。

 

使って10秒ほどで夏雲は静かになる。

 

力は次第に緩んでいき

体がベッドに落ちる。

 

そのまま寝息を立てたため、

みんな一息ついた。

 

 

 

 

 

夏雲が眠りについて

しばらく経ってから私も落ち着いた。

 

今は医務室のベッドで

横にならせてもらっている。

 

何故か朝潮に膝枕をされているが

気にしないようにしている。

 

しかし、どうしたら良いだろう。

 

夏雲が直接証言しない限り、

佐世保の提督を捕まえられない。

 

私達が悩んでいると

外が騒がしくなった。

 

「待ってください!ちゃんと許可を!」

 

神通の声だ。珍しく焦っている。

 

何があったのだろうか?

 

「いいの、いいの。

用事が済んだらすぐに帰るから。」

 

聞き覚えのある男の人の声。

 

それもつい最近聞いた声だ。

 

そう思っていると医務室の扉が開く。

 

入ってきたのは

この前話した男性と電。

 

男性の手には書類、

電の手には何かの機械があった。

 

「ちょっと、何しに来たの?

こっちから連絡するって…」

 

「困ってるんじゃないかと思ってな。

自己紹介のついでに来たんだよ。」

 

そう言って男性が私の方に近づく。

 

体を起こそうとしたが止められた。

 

そのためそのままの状態で

自己紹介された。

 

「呉の提督だ、愛称は猫。

まあ、よろしくな。美しいお嬢さん。」

 

猫さんは私の手を取ってそう言った。

 

すると猫さんは頭を殴られた。

 

後ろには元帥と電。

 

早く本題に入れと言わんばかりに

怖い顔をしていた。

 

猫さんはそんな2人の頭をポンポンと

撫でて夏雲のところへ行く。

 

皆行くので私も無理やり

体を起こして様子を見に行く。

 

夏雲に機械を取り付けて

機械のスイッチを押す。

 

そこに映るのは暗い部屋。

 

微かに何かが見える。

 

しかし、すぐに

目の前が真っ暗になった。

 

「残念だけど、ここから先は

子供には見せられない。」

 

そう言って私の目を隠した猫さん。

 

隠した理由も教えてくれた。

 

「これは夏雲の記憶、その全てだ。

彼女が見た全てを写す。」

 

夏雲が見たもの全て。

 

つまり北上が夏雲の証言から書いた

内容が全て映像として流れる。

 

そんなものを見れば

私はまた吐き出すだろう。

 

「文字で吐いたのなら見るべきではない。

その事実があることだけ理解してくれ。」

 

そう言って体を反対に向けられた。

 

そのまま運ばれてベッドに寝かされる。

 

朝潮にはさっきの様に

付き添ってもらった。

 

幸い音は聞こえないため、

ベッドの上で落ち着くことができた。

 

さっきと同じように横になって

元帥たちの判断を待つ。

 

「これだけ映れば、証拠になるわね。

明日にでも突入かしら?」

 

「明日は呉に来てくれるか。

こっちで色々と準備をする。」

 

「了解、後の事は任せていいかしら。

こればかりはどうしようもないから。」

 

「分かった。夏雲の事も考えておこう。

こっちならいつでも受け入れられる。」

 

そう言うと猫さんは機械を外して

私のところにやってきた。

 

「今は体を落ち着かせておいてくれ。

明日は君たちのことを待っているよ。」

 

猫さんはそう言って部屋を出て行った。

 

神通はその後を追っていった。

 

さっきの話は元帥に詳しく聞かされた。

 

明日、呉鎮守府に行って

佐世保突入の準備をするそうだ。

 

昨日までは夏雲が証言者になることで

その場で拘束する予定だったらしい。

 

でも、今回の事で映像が残ったため、

それを証拠に拘束するそうだ。

 

明日準備、明後日突撃という形で

今は進んでいるそうだ。

 

明日の朝には呉に出発するそうなので、

私は早いうちに休むことにした。

 

 




赤城さんの事はタブーのようだ。
一体佐世保はどうなっているのだろうか…

なんだかんだでやってきた呉提督。
名前の由来は気まぐれな性格だから


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第3話 呉鎮守府

色々あって投稿が遅れたのです。


 

あの最悪な現状を知った次の日の朝、

私は呼ばれて憲兵隊のところへ行った。

 

まだ放送が聞こえる前の早い時間。

 

そんな時間に憲兵たちが整列しており、

元帥と秋雲が待っていた。

 

「これで揃ったかな。それでは

これからの行動について説明する。」

 

そう言って元帥からの説明が始まった。

 

これから私たちは呉鎮守府に向かう。

 

向こうに着いて佐世保への突入の準備、

明日には突撃を開始する。

 

今から30分後には出発するため、

私は急いで準備をする。

 

秋雲が一緒に来てくれたので

部屋に戻って必要なものを用意する。

 

とりあえず数日分の着替えを

カバンに入れて急いで工廠に向かう。

 

工廠では明石が

キャリーケースを持っていた。

 

すでに準備してくれていたようだ。

 

中身はマイクが2つ。

 

それといつもの棒を用意してくれた。

 

マイクが2つあるのは

呉鎮守府にも提供するから。

 

ちなみにこの前の幻覚効果は

危険性が高いためすぐに廃棄された。

 

ここにあるのはいつものマイク。

 

何かあったら使うようにと言われた。

 

私は明石に感謝して

集合地点に向かった。

 

集合地点には自衛隊などでよく見る

大型のトラックがあった。

 

憲兵たちは既に乗っていた。

 

私も早く乗ろうとしたが、

秋雲に止められた。

 

「ちょい待ち!歌音は助手席。

男だらけの後ろには乗せないよ。」

 

そう言って助手席に放り込まれた。

 

秋雲はそのまま運転席に乗り込む。

 

どうやら運転は秋雲がするらしい。

 

意外だ。

 

私はシートベルトを締めて準備する。

 

すると後ろにある窓が開いた。

 

「秋雲さん、いつでもいけますが、

安全運転でお願いしますよ。」

 

「大丈夫、大丈夫!」

 

そう言ってハンドルを握る秋雲。

 

するとさっきの憲兵が叫んだ。

 

「全員、衝撃に備えろ!」

 

急に叫んだためとりあえず身構える。

 

敵襲でもあったのだろうか。

 

そう思っていると体重が

一気に後ろにかかった。

 

大型トラックはすごい音を鳴らして

大本営を出発する。

 

「ヒャッハー!飛ばすぜー!」

 

秋雲はハンドルを持つと

性格が変わるタイプだった。

 

数分後には食事中の人たちには

見せられない光景が後ろに広がった。

 

だが、何とかする術もない。

 

私は呉まで頑張って耐えることにした。

 

 

 

 

 

何とか無事に呉に着いた。

 

普通は9時間かかるところを

6時間で着きやがった。

 

もちろん道中は猛スピード。

 

トラックの出していい

スピードではない。

 

二度と秋雲の運転する車には乗らない。

 

私はそう誓った。

 

じゃないと体がもたない。

 

秋雲以外の全員がクタクタなところに

猫さんと足柄がやって来た。

 

「秋雲~、またやったのね。

ほら、こっちにいらっしゃい!」

 

「勘弁してよ!お説教は嫌だー!」

 

秋雲は俵のように運ばれていった。

 

私達はその光景を見送る。

 

「それじゃあ、みんないつもの場所で

休んでくれ、お嬢さんはこっちね。」

 

私は猫さんに、憲兵たちは

どこか決まった場所に向かった。

 

私がやってきたのは食堂。

 

食堂にはカレーの

良い匂いが広がっていた。

 

食堂にいるのは睦月型、川内型、長門型

天龍型、木曾と夕立、涼風に電。

 

奥の方には黒いフードの少女がいた。

 

少女はこちらに来ると

すぐに猫さんに抱き着いた。

 

子供らしい満面の笑み。

 

その笑顔に癒されながら

ここの艦娘たちと交流する。

 

ここの艦娘たちは少数精鋭らしく、

1人1人が強いそうだ。

 

あの大本営の艦娘とやり合えるとか。

 

それぞれ他の艦娘のように個性が強い。

 

そんな子たちと話した後、

少女について聞いてみた。

 

「その子も艦娘なんですか?」

 

「この子は深海棲艦だよ。

戦艦レ級、名前はユリだ。」

 

驚かされた。

 

目の前にいる子が戦艦で、しかも

名前しか知らないあのレ級だとは…。

 

それに私以外にもこちら側に

深海棲艦がいることを初めて知った。

 

どうやって大本営に

許可を得たのだろうか。

 

するとこう言った。

 

「大本営会議には行ってないぞ。

うるさいやつが多いから非公開さ。」

 

許可なんてなかった。

 

本当に不思議な人だ。

 

この人がいると

何でもできるように思える。

 

そんな人と食事後に執務室で話をした。

 

佐世保突入に関する話しだ。

 

実行は明日だが、

向こうの内情が分からない。

 

そのため、呉鎮守府の方で今も

情報を集めているそうだ。

 

明日は近くまで行き、情報を獲得次第

突撃することになっている。

 

艦娘が提督の味方をしている以上、

憲兵の命に関わるかららしい。

 

提督を抑えるには艦娘を

無力化する必要がある。

 

そのため、私の役目は

敵の誘導となった。

 

マイクを使って誘導してほしい

ということらしい。

 

調査結果次第では変わるらしいが、

今はそうするのだと覚えておく。

 

猫さんは秋雲と共に指示を飛ばし、

状況次第では突撃するらしい。

 

大まかな流れはそうなっている。

 

私はなるべく海の方に行くそうだ。

 

そのため、ある機械を渡された。

 

それはバッチのような何か。

 

詳しい用途についても教えてくれた。

 

本来鎮守府には深海棲艦の侵入に

対して反応するセンサーがある。

 

そのセンサー内に入ると

警報機が作動してしまうそうだ。

 

妖精さん仕様のため深海棲艦であれば

どんな変装でも見抜けるらしい。

 

つまり、私が近づけば間違いなく

反応するということだ。

 

そこで役に立つのがこの機械。

 

これを付けることで反応を消すらしい。

 

既に実験もしているようで

ユリちゃんの反応を消せたそうだ。

 

これで佐世保に突入しやすくなった。

 

そんな感じで話はどんどん進んだ。

 

後は猫さんに任せることになるので、

私は呉鎮守府を散策することにした。

 

非番だったらしい睦月型の子たちに

色々な施設を案内してもらった。

 

大本営と同じような設備が置かれており、

娯楽施設なども充実していた。

 

艦娘たちの部屋や客室、

男女で分けられた大きなお風呂。

 

同じ装備が多く置かれている工廠など。

 

大本営、基地とも違う

鎮守府の設備に驚かされた。

 

もっと驚かされたのはその戦い方。

 

全員が体術や剣術で戦っていた。

 

特にヤバいのは睦月型を相手する赤城と

大型艦を相手にする電。

 

しかも、2人は目を瞑っている。

 

私では手も足も出ない。

 

そう断言できる。

 

この人たちだけで佐世保に突入すれば

解決するのではないかと思えるほどに。

 

そんな人たちの戦闘を見て、

今日の一日は終わった。

 

夜は皆で足柄のカツカレーを食べて

お風呂でゆっくりとする。

 

駆逐達は子供の様に

私の近くに集まってきた。

 

こういう時は甘えたいのだろう。

 

私は子供たちが知っている曲を

一緒に歌って時間を過ごした。

 

 

 

 

 

夜、みんなが寝静まる時間。

 

執務室には2人の艦娘が揃っていた。

 

「それじゃあ、頼むぞ2人とも。」

 

猫の言葉に2人が返答する。

 

「お任せ下さい。」

 

「了解、隅々まで探ってくるから。」

 

そう言って2人は部屋を出て行った。

 

足音が遠くなり、しばらくして

猫は窓を開き、月を見上げる。

 

「新月か…、暗闇の先は

希望と絶望、どっちだろうな。」

 

少し嫌な予感を感じながら

何も無い暗闇に独り言を言う。

 

寝ている私には分からない。

 

そんな夜のひと時のこと。

 

 

 




ついに佐世保突入…
の前に呉鎮守府に寄り道。

準備は大事なのです。


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第4話 突入、佐世保鎮守府

お気に入りが減るごとに
私の精神が削られます(´-ω-`)


 

 

翌朝、私達は憲兵の待機所に

集まっていた。

 

昨日の夜、呉鎮守府から2人、

佐世保へ偵察に行ったそうだ。

 

そのため、その情報が届くまで

待機することになった。

 

後で提督とくるそうなので、

何もすることなく待機する。

 

少しずつ経っていく時間。

 

カチ…カチ…カチ…。

 

壁にかかった時計の音が

私の不安を募らせる。

 

偵察に行った人たちは

無事なのだろうか。

 

捕まってひどい目に

会っていないだろうか。

 

そんな事を想像してしまう。

 

落ち着くために

用意されていたお茶を飲む。

 

そのお茶は生ぬるかった。

 

少し冷たいせいかコップを持った手が

小刻みに震えていた。

 

緊張もあるのだろうが、

嫌なことを考えてしまう。

 

夏雲のあの姿を見ているから尚更だ。

 

次第に体も震えてくる。

 

しかし、近くにいた秋雲が優しく

背中を撫でてくれている。

 

震えは治まらないが、少し落ち着いた。

 

少しずつ落ち着いていると、

部屋の扉が開いた。

 

入ってきたのは猫さんと2人の艦娘。

 

艦娘は赤城と川内。

 

2人は破れた黒いコートを着ていた。

 

恐らくこの2人が潜入したのだろう。

 

猫さんはいつもの服ではなく、

黒シャツに黒い上着を着ていた。

 

腰には短刀を付けている。

 

そしていくつかの書類を持ってきた。

 

「待たせたね、証拠は揃ったよ。」

 

そう言って紙を机に置いた。

 

書かれているのは佐世保の細かい内容。

 

最初に猫さんが持ってきた情報と

地下施設の情報。

 

何人かの艦娘が地下に

囚われているらしい、

 

赤城がそこにいることも分かった。

 

写真は見ることは無かったが、

撮っているそうだ。

 

証拠が揃い、準備もできた。

 

私達は今から佐世保に突撃する。

 

「赤城達は鎮守府を頼む。

それじゃあ、出発だ!行くぞ!」

 

猫さんの声と共に私たちは行動する。

 

全員で大型トラックに乗り、

佐世保に向かった。

 

 

 

 

 

運転する人は誰でも一緒なのだろうか。

 

猫さんも秋雲と同類だった。

 

まだマシだと言えるぐらいだ。

 

片道5時間を3時間ちょっとで行く

変人が軍には多いのだろうか。

 

本当に気分が悪くなる。

 

しかし、もう佐世保に着いた。

 

これからの戦いのために

体を落ち着かせる。

 

鎮守府の近くで

ゆっくりと車を進ませる。

 

しかし、少し離れたところで

車が止まった。

 

猫さんは後ろの窓を開けて話し出す。

 

「今から佐世保に突入する。

全員気を引き締めろ!

作戦の確認も忘れるな!」

 

その言葉に全員の顔色が変わる。

 

さっきまでゾンビのような顔が

やる気に満ちた顔に変わった。

 

その様子を見た猫さんは

車を発進させて佐世保に向かった。

 

佐世保に着くまでに作戦を再確認。

 

今回の状況を考えて猫さんが同行。

 

私のマイクでの誘い出しも

別の形で誘い出すことになった。

 

作戦の再確認が終える頃に

建物が見えてきた。

 

佐世保鎮守府だ。

 

鎮守府の門前には

憲兵が2人立っていた。

 

その憲兵の前に車を止める。

 

「何者だ、今日は

面会の予定はないはずだが。」

 

そう言って銃を向ける憲兵たち。

 

猫さんは車を降りて憲兵に近づく。

 

「いや、用事があってきたんですよ。

…お前たちを捕まえるためにな!」

 

そう言って猫さんは

憲兵の横腹を短刀で切りつけた。

 

神通よりも早い攻撃と移動。

 

気づいた時には憲兵たちの後ろにいた。

 

猫さんとすれ違った憲兵たちは

何もできずに膝から倒れる。

 

しかし、血は流れていない。

 

服に傷が入っただけのようだ。

 

一体何故?

 

「これは神経毒のナイフでね。

大丈夫、命は奪わないさ。」

 

そう言って短刀を収めて先を行く。

 

憲兵たちはそのまま放置された。

 

何人かが門に残り、

私達はそのまま建物の前に行く。

 

建物入口には人も艦娘もいない。

 

声すらしなかった。

 

猫さんは私たちに待機させ、

少し離れた建物を窓から覗く。

 

しばらくして戻ってくると

憲兵隊を2班に分けた。

 

「こっちの班はあの建物に行ってくれ。

中には憲兵と放置された艦娘がいる。」

 

艦娘を保護するように指示を出すが、

合図が出るまで待つように言う。

 

先に突撃して、提督やそっちの艦娘に

なにか知らされたら厄介だからだ。

 

その憲兵たちを建物付近で待機させる

 

残った秋雲たちにも指示を出す。

 

「秋雲、君たちも合図があるまで待機、

歌音ちゃんは俺についてきてくれ。」

 

私は指示に従って猫さんについて行く。

 

たどり着いたのは海岸沿い、

作戦予定地だ。

 

ここで猫さんが止まって振り返る。

 

私も止まって後ろの方を見た。

 

そして私はあることに気づいた。

 

この鎮守府に見覚えがあったからだ。

 

そのまま左の方を見る。

 

遠くに見えるのは見覚えのある石碑。

 

微かに見える花々。

 

視線を戻すと見覚えのある建物。

 

ここはアニメの鎮守府と

同じ建造物がある。

 

私が覚えている限り、

配置が全く同じだ。

 

もしかしたら

何か関係があるのかもしれない。

 

そう思いながら猫さんの方に向く。

 

猫さんは私を見るとこう言った。

 

「今から君のバッジを外す。

忙しくなるから覚悟しておいて。」

 

私は棒を手に持って覚悟を決める。

 

そして猫さんは私のバッジを外した。

 

ウーーーーーーーッ!!!

 

いきなり鳴り響くサイレン。

 

鎮守府は一気に慌ただしくなった。

 

私は棒を構えたまま待機する。

 

隣では猫さんが猫のお面を被り、

仁王立ちで待機していた。

 

しばらくすると

艦娘が集団でやってきた。

 

全員が艤装を持っている。

 

その先頭には書類に書かれていた

提督側の艦娘が揃っていた。

 

「侵入者2名、提督の命により

ここで拘束、いえ、始末します。」

 

そう言って全員が砲を構えた。

 

私達も迎え撃つように構える。

 

しかし、相手は艤装。

 

それに対して私たちは

近接武器しかない。

 

明らかに不利だ。

 

すると猫さんが提案してきた。

 

「俺が彼女たちを分散させよう。

半分ほど相手してくれるかい?」

 

私はその提案に乗る。

 

乗るしかないが正しいが…。

 

しかし、どのように分散するのだろう。

 

そう思っていると何か取り出した。

 

それはどこかで見覚えのある物。

 

先端に2つの玉をつけた40㎝ほどの紐。

 

それを2セット取り出し、両手に持って

カチカチと鳴らし始めた。

 

それは次第に輪を作っていく。

 

間違いなく私はそれの事を知っている。

 

名前は「アメリカンクラッカー」

 

玉のぶつかる甲高い音が周囲に響く。

 

しかもその速さはどんどん増していく。

 

艦娘たちは何かを察して砲撃を始めた。

 

私達を襲ってくる無数の砲弾。

 

だが、その砲撃は全て猫さんが防いだ。

 

全てが空中でクラッカーに当たった

その衝撃で爆散する。

 

黒煙を上げるがクラッカーの動きで

煙が徐々に晴れていく。

 

クラッカーはバランスを崩すことなく

ずっと鳴り続けている。

 

「玉にエネルギーを貯めて強化した

特製のアメリカンクラッカー、

名付けて『エネルギークラッカー』

その程度の砲撃じゃ届かないぜ!」

 

そう言ってクラッカーを鳴らし続け、

艦娘たちに突撃していく。

 

「ケガしたくないなら全力で躱しな!

行くぞ、『クラッカーヴォレイ!』

 

掛け声とともに艦娘たちに向かう玉。

 

艦娘たちはそれを全力で回避する。

 

その一撃は()()()()()()()()()()()

 

あまりの威力に驚いたが、

おかげで艦娘が分散した。

 

私もそこに突撃する。

 

分散した片側に突撃し、棒を振り回す。

 

なるべく体に当てないようにする。

 

艤装を攻撃して、戦えなくするように。

 

砲撃を弾き、体を傷つけないように。

 

こうして佐世保での最初の戦い、

2人VS大勢の戦闘が始まった。

 

 

 




アイテム紹介

<エネルギークラッカー>
呉鎮守府の明石が提督用に改造した
アメリカンクラッカー。

玉にはエネルギー保存装置があり、
それに貯めると凄まじい威力を出す。
砲弾を弾くその威力は人間に当てれば
間違いなく木っ端みじんになる。

注意点は溜めれるのが1時間分なのと、
扱いがとても難しい。
猫提督だからこそ扱える。


リアルでも扱いが難しいらしい。
皆さんはアメリカンクラッカーを
手に入れても改造したり
ぶつけたりしないようにしましょう。

…私は一度やってみたい。


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第5話 言霊

最近実習とか課題が迫ってたから
遅くなったのです。

お待たせしました。


 

佐世保に突入し、艦娘たちとの戦闘。

 

私達はかなりの苦戦を強いられていた。

 

艦娘たちを傷つけないように

戦闘をしているからだ。

 

私達を攻撃してくるとは言え

彼女たちは被害者なのだ。

 

傷つけたくはない。

 

猫さんも当たらないように

地面を攻撃していた。

 

しかし、この戦い方はだいぶ辛い。

 

彼女たちとの相性が悪すぎる。

 

普段なら容赦なくするのだが、

この子たちにはあまりしたくない。

 

大人しくしてくれるとありがたいが、

艤装を壊しても生身で向かってくる。

 

何かに怯えるように向かってくる。

 

だからこそ攻撃を躊躇してしまう。

 

猫さんの方も辛そうだ。

 

「やべぇ!エネルギーが切れた!」

 

…辛そうどころかヤバかった。

 

「歌音ちゃん!一回下がれ!」

 

猫さんの指示で私は

一度最初にいた位置に戻る。

 

猫さんもすぐに合流した。

 

しかし、艦娘たちは向かってくる。

 

誰一人倒れていない。

 

意地でも私たちを始末する気だ。

 

もうこうなったらあれを使うしかない。

 

私はマイクを出して起動させる。

 

いつもの3面鏡と艦載機型スピーカー。

 

鏡が割れるとともに歌を始める。

 

 

侵入者じゃない、私ら救世主

君らのdevilを打ち消すsheriff

まとわりついたfakeを払って

届けるわ、素敵なnew days

 

 

飛び散った破片は艦娘たちの方へ。

 

破片はその姿を動物に変える。

 

猫、犬、ウサギ、鳥、蝶々、etc.

 

それが艦娘たちの周りに集まる。

 

寄り添うように。

 

不安を拭い去るように。

 

全てを忘れさせるように。

 

その効果は絶大だった。

 

一部を除いては…

 

「信じない…信じるものか!

命令は絶対だ!」

 

そう言って砲を向ける艦娘。

 

艦娘の中で1番従順な子。

 

そして、夏雲を傷つけた存在。

 

そう、朝潮だ。

 

彼女は私に砲を向けていた。

 

だが、その砲は

あらぬ方向に向いている。

 

そんなものでは私には届かない。

 

そう思っていた。

 

朝潮が背中から

()()()()()()()()…。

 

朝潮が隠し持っていた拳銃。

 

それを見て私は硬直した。

 

隠し持っているとは

思わなかったからだ。

 

その結果、反応が遅れた。

 

直ぐに放たれる弾丸。

 

無理やり体を傾けたが、

右肩に弾を受ける。

 

弾は()()()()()

 

この体ではありえない事だった。

 

その衝撃でマイクが手から離れた。

 

それによりスピーカーも三面鏡も

動物に変わった破片も消える。

 

私は肩を抑えながら倒れる。

 

弾を直に受けたのはこれが初めてだ。

 

あまりの痛さに私は悶絶する。

 

その痛みに我慢できなかった。

 

焼けるような痛みに涙を流す。

 

痛すぎて叫んでしまう。

 

朝潮はその状態の私を狙う。

 

私は痛みに気を取られ、

狙ってくる朝潮に気づかない。

 

そんな私の前に猫さんが寄ってきた。

 

朝潮から守るように。

 

「ちょっとおいたが過ぎるね、朝潮。」

 

そしてマイクを取り出して起動させた。

 

地面から出てくる木がスタンドになる。

 

私の後ろには大きな木がそびえたつ。

 

その木で太陽が隠れ、周辺が暗くなる。

 

その木からいくつもの実が熟し、

スピーカーへと変わる。

 

それを見て朝潮は叫ぶ。

 

「そんなもの私には効かない!」

 

そう言って拳銃を向ける朝潮。

 

だが、猫さんは落ち着いて返答した。

 

「歌じゃダメだろうね。

そもそも俺は歌が下手だ。」

 

そう言いながらマイクに声を通す。

 

「だからこうするんだよ。

『その弾は誰にも当たらない。』」

 

その言葉に対して朝潮は撃つ。

 

しかし、その弾丸は

どこかへ飛んでいった。

 

「っ!どうして!」

 

朝潮は当たらなかったことに驚いた。

 

ちゃんと狙ったのに

当たらなかったからだ。

 

もう一度構えて狙う。

 

「『その弾は詰まったようだ。』」

 

拳銃はカチッと音を立てた。

 

言葉の通り、弾詰まりを起こした。

 

何度も撃とうとする朝潮。

 

だが、その弾が放たれることは無い。

 

猫さんはその内に私の方を向く。

 

「『その痛みは和らぐ。』」

 

その言葉を聞いた私は

不思議な感覚に包まれた。

 

肩の痛みが退いて行ったのだ。

 

何も無かったかのように消えていった。

 

「歌はじゃなくても『言霊』は働く。

明石の説明通りだったよ。」

 

そう言う猫さん。

 

どうやらこのマイクは

言葉を通すだけで効果があるらしい。

 

詳しくは聞かされなかったが、

言葉通りの事が起きるらしい。

 

あまり大きな事は言えないようだが。

 

そう話を聞いていると、

朝潮がこっちに向かってきた。

 

艤装を捨て、拳銃を捨てて

此方に走ってくる。

 

それに気づいた猫さんは

すぐに言葉を紡いだ。

 

「『地面の凹みでこける。』」

 

朝潮はそれを聞いた瞬間に

ジャンプした。

 

どうやら判断力はあるらしい。

 

言葉通りにならないように

回避したようだ。

 

朝潮はこけることなく向かってくる。

 

その朝潮を見ながら猫さんは言った。

 

「『1人の少女の勇気が

この戦いの幕を閉じる。』」

 

私を含めてここにいる人には

分からなかった言葉。

 

その言葉の意味は

朝潮にも理解できていない。

 

そんな朝潮に横から向かってくる

人影が1つ。

 

その人影は勢いをつけて

朝潮の顔を殴り飛ばした。

 

朝潮はそのまま倒れて動かなくなった。

 

殴り飛ばしたのは…夏雲だった。

 

大本営にいるはずの夏雲が

佐世保に戻ってきていた。

 

夏雲は周囲を確認すると

何かを見つけたように走り出す。

 

そこにいるのは朝雲と山雲。

 

夏雲の姉妹たちだ。

 

3人は涙を流しながら抱き合った。

 

周りの艦娘たちは

その光景を見て涙を流す。

 

死んだと思っていた夏雲が

戻ってきたからだ。

 

彼女の帰還に喜んだ。

 

すると突然、放送が流れた。

 

『こちら秋雲、

提督及び憲兵は全員確保した。』

 

秋雲の声が放送で流れた。

 

提督、憲兵の確保。

 

その知らせに艦娘は座り込んだ。

 

みんなが近くにいる者と抱き合い、

涙を流しながら喜んだ。

 

この地獄から解放されたのだと。

 

猫さんはその光景を見て微笑みながら

マイクのスイッチを切った。

 

 

 

 

 

ようやく彼女たちは解放された。

 

しかし、まだやることが残っていた。

 

私は言霊が無くなったことで痛みだした

肩を抑えながら猫さんに尋ねる。

 

「赤城さんは、赤城さんのいる

地下室はどこ?」

 

その言葉に周りの艦娘たちも反応する。

 

彼女たちも場所は知らない。

 

ここに地下室があることすら

知られていない。

 

だからこそ気になるのだろう。

 

「入口は憲兵寮の奥の部屋だ。

赤城だけじゃなく、()()()()、な。」

 

艦娘たちはその声にざわついた。

 

赤城以外の艦娘も

囚われているとは思わなかったからだ。

 

赤城以外がいると聞かされ、

1人の艦娘が近づいてくる。

 

剣の様な艤装を持つ艦娘、

天龍が聞いてくる。

 

「なあ、そこに、龍田はいるのか…

川内達も長門さんも第六駆逐達も…。」

 

震えた声で聞いてくる天龍に

猫さんはハッキリと言った。

 

「川内型と長門は意識があるが、

第六駆逐隊は暁以外ダメだろうな。」

 

猫さんは淡々と語る。

 

地下の地獄のような惨状を。

 

さらに龍田の事も言う。

 

「龍田においてはひどい有様だ。

()()()()()()()()()()()()()()。」

 

その言葉に天龍は膝から崩れ落ちる。

 

ハッキリと言われた妹の惨状。

 

それを聞いた天龍は叫びながら

何回も地面をたたいた。

 

何回も、何回も…。

 

手の皮がめくれるほど繰り返す…。

 

その光景に艦娘たちの顔は暗くなる。

 

提督から解放された佐世保鎮守府。

 

そんな鎮守府の空は

厚い雲に覆われていた。

 

 




久々の投稿+歌でした。

この世界の全員が歌えるとは限らないので
「言霊」として出せるようにしました。
まあ、今後はあまり使わないだろうけど。

これから就職活動やらなんやらで
投稿頻度が落ちるので
その辺はご了承ください。

それでは次回をお楽しみに。


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第6話 絶望の淵

今回は一部描写に
グロイものがありますので
ご理解の上、ご覧ください。


 

佐世保鎮守府に響く悲しみの声。

 

何度も地面をたたく天龍。

 

私はそれを見ていられなくなった。

 

今まで感じた物とは違う悲しみ。

 

その空気に耐えられなかった。

 

だから私は赤城さんがいる

憲兵寮に逃げるように向かう。

 

なるべく早く、遠ざけるように。

 

肩の痛みに耐えながら…。

 

そうしてやってきた憲兵寮の前には

憲兵たちと()()姿()()()()がいた。

 

この北上は間違いなく大本営の北上だ。

 

北上は私に近づくと

肩にテーピングを巻く。

 

すると、痛みが徐々に治まっていった。

 

「艦娘用のやつでも治るんだね~。

これは新たな発見だよ。」

 

ありがとう、と言ってくる北上。

 

どうやら私に巻いたテーピングは

艦娘の応急処置用らしい。

 

応急修理要員のようなものだとか。

 

効果があって喜んでいる北上に

なぜここにいるのか尋ねた。

 

「私は夏雲の付き添いだよ。

ここに来るって自分で言ったからね。」

 

何と夏雲は自らの意志で

ここに来る決意をしたそうだ。

 

苦しく、辛いはずなのに。

 

私達が呉にいる間に色々あったらしい。

 

だからこそ此処に居るのだ。

 

私はそんな彼女を見習うべきだろう。

 

そう思いながら私は

北上と共に憲兵寮に入る。

 

 

寮は完全に制圧されていた。

 

いるのは突入した憲兵たちだけ。

 

その憲兵たちに地下への道を

教えてもらった。

 

地下へと続く長い階段。

 

憲兵に貰った懐中電灯で

先を照らしながら降りていく。

 

降りていくと次第に異臭がしてきた。

 

とても臭い、血生臭さが漂ってきた。

 

あまりの匂いに気分が悪くなる。

 

そんな私に北上はマスクをくれた。

 

北上は既につけていた。

 

私もすぐにつける。

 

さっきより幾分かマシになったため、

さらに下へと歩を進める。

 

マスク越しでも感じる異臭が

どんどん強くなる。

 

それと同時に階段を降り終わった。

 

目の前にあるのは鉄の扉。

 

扉の向こうがどうなっているのか

ここからでは全く分からない。

 

北上が私の方を向くので頷く。

 

恐らく覚悟の確認。

 

さっきの猫さんの話から向こうは

モザイクがかかるような景色だろう。

 

それを見る覚悟があるか。

 

大本営では吐いてしまったから、

北上が確認するのはなおさらだ。

 

でも、私は中に行かないといけない。

 

それが私の目的でもあるから。

 

北上は扉の方を向くと

少し間をおいて鉄の扉を開ける。

 

すると匂いがさらに濃くなった。

 

もう目の前なのだろうと思った。

 

しかし、中は薄暗い廊下が

奥まで続いている。

 

照らしてみると、奥に鉄の扉が見える。

 

二重扉にしているのだろう。

 

しかし、その扉の意味がないほど

匂いが来ている。

 

これはかなりヤバい。

 

そう思っていると後ろから足音が聞こえた。

 

来たのは猫さんと天龍、加古、()()

 

天龍と加古はあの中にいたけど

霧島はいったいどこに?

 

それを聞くと霧島から語られた。

 

「私は書類担当でした、

あの男の監視も兼ねて。」

 

霧島は執務室で

書類作業をしていたそうだ。

 

彼女自身も被害者。

 

姉である榛名が無理な進軍で轟沈。

 

それ以降、提督の下でみんなを

生かすように色々してきたらしい。

 

だが、朝潮や仕方なく提督の味方をする

艦娘たちのせいで動けなかったそうだ。

 

被害はだいぶ収まったものの

轟沈する者は何人もいたのだとか。

 

隙がなかなか見えないまま今日を迎え、

ようやく解放されたということらしい。

 

その後、秋雲に地下室の話を聞いて

こっちに来たそうだ。

 

猫さんの話からして、

人が多いほうがいいだろう。

 

しかし、ここまで匂いがひどいと

長居はできそうにない。

 

すると猫さんがガスマスクを出した。

 

一体どこから出したかは後にして、

とりあえず貰ってすぐにつける。

 

さっきまでの匂いが嘘のように消えた。

 

ガスマスクの凄さを初めて体感し、

6人で奥の扉へ向かう。

 

扉を開けるとまた廊下が続く。

 

しかしさっきと違うのが

右には鉄格子があること。

 

その向こうには鎖でつながれた艦娘が

いくつもの部屋に分けられていた。

 

一番手前にいるのは小さい艦娘。

 

足に重りを付けられていた。

 

「ひぃ!来ないで!来るな!」

 

少女は私たちを威嚇する。

 

涙を流しながら

何かを守るように此方を威嚇する。

 

その少女に天龍は声を掛ける。

 

「暁!俺だ、天龍だ!

大丈夫だから落ち着け!」

 

「ふぇ、てんりゅう…さん……!」

 

すると少女、暁は泣きだした。

 

天龍は何とか落ち着かせる。

 

すぐに泣き止んだ暁は、はっ!と

鉄格子に近づいて叫ぶ。

 

「一番奥に長門さん達が!

龍田さんもそこに!」

 

「奥にいるのか!分かった!」

 

天龍は走って奥に向かう。

 

加古と霧島は天龍の後を追う。

 

私と猫さん、北上はその場に残った。

 

赤城さんを探すのに奥に行くべきだが、

目の前の光景を放っておけなかった。

 

暁の後ろで寄り添っている少女たち。

 

服はボロボロで目に輝きが無い。

 

まるで壊れて動かなくなった

ロボットの様に。

 

「猫さん…あの子たちは…。」

 

「暁を絶望させるためだろうな。

艦娘として戦うことは無理だろう。」

 

「ひどいね、これは」

 

暁の後ろにいるのは暁の妹たち。

 

暁が無事な理由でもある。

 

暁はお姉ちゃんとして守ろうとした。

 

お姉ちゃんだから、レディだから。

 

そんな暁を絶望させるために

妹たちに手を掛けた。

 

暁では妹たちは守れない。

 

何もできない、無力であると…。

 

そうやって心を壊すために。

 

猫さん曰く

「守ると決めたものを目の前で

めちゃくちゃにされることほど

 残酷で絶望的なことはない。」

そうだ。

 

まるで『絶望的な光景を見せられながら

生かされたゲームの主人公』のようだ。

 

猫さんはそう言いながら

鉄格子を壊し始めた。

 

強引に壊して中に入り、

暁の足につけられた重りを外す。

 

後ろにいる暁型の鎖も外そうとしたが、

暁が彼女たちの前に立つ。

 

「妹たちに手を出さないで!」

 

泣きながらこちらを睨む暁。

 

猫さんはそんな暁を見ながら近づく。

 

近づいてくる猫さんに恐怖しながら

暁は襲いかかった。

 

思いっきり振りかぶって殴りに来る。

 

猫さんはそれを何もせずに受けた。

 

止めることもできたのにしなかった。

 

猫さんを見て固まる暁。

 

そんな暁を猫さんは優しく抱きしめる。

 

「お前は、いいお姉ちゃんだ。

その行動に敬意を表する。」

 

優しく頭を撫でながら抱きしめる。

 

それは私がするのと同じように、

ユリちゃんにいつもしているように。

 

なんども声をかけながら。

 

 

 

 

 

暁を落ち着かせて北上にまかせた後、

私達は奥に向かう。

 

奥では天龍が泣いていた。

 

大切な人を抱えて。

 

片腕がなく、皮膚が所々壊死している。

 

火傷と傷だらけの体。

 

その体を抱きしめていた。

 

その横では自力で立っている

川内型と長門。

 

他の艦娘よりは動けるようだ。

 

その奥では霧島と加古が

鉄格子を壊していた。

 

そこにいたのは目的の人。

 

()()()()()()()()()

 

私はそれを見たとき、

眼を見開いて鉄格子を掴む。

 

鼓動が速くなる。

 

 

顔 らは血  が引 、

立っ  られ い

 

 吸が荒 なり、へた  む。

 

嫌だ、  くな !

 

そ な姿 直   のは!

 

ど  て、 んで…。

 

ああ  ああ あ ああ!

 

 

…プツン

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

私の意識はそこで途切れた。

 

最後に見た光景は嫌でも残るだろう。

 

服がなく、手足を鎖に繋がれた裸体。

 

あざだらけ、傷だらけ、火傷だらけ…。

 

青黒いお腹に、無数の切り傷。

 

下の地面には大量の血痕と黒い何か。

 

左足は膝から先がなく、骨がむき出し。

 

長いはずの髪は短く、顔は半分が火傷。

 

爪は全て剥がされ、右手は小指が無い

 

右目は潰れ、腕は関節が変な方向へ。

 

まるで放置された操り人形のように。

 

 




佐世保提督が暁にしたのは
RPGでよくあるやつです。
自分の無力さが分かるやつ。

特に暁は大人のレディを目指しているので
他の艦娘より効果はあるでしょう。
(清霜とかは同じぐらい効果がありそう)

赤城さんと龍田は…。
まあ、これは次回にでも…。



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第7話 こびりつくトラウマ

 

ここはどこだろうか。

 

私は暗闇の中にいた。

 

何もかもが真っ暗で何も見えない。

 

あるのは体の感覚だけ。

 

何か聞こえるわけでも、

感じるわけでもない。

 

そんな空間に私はいた。

 

動くことはできるが、

何もすることがない。

 

そう思っていると

薄っすらと光が見えた。

 

何だろうと思い、近づいていく。

 

それは何かの形をしていた。

 

よく見るために近づいていく。

 

ゆっくりと動いている。

 

気になってさらに近づく。

 

そして、その何かがこちらを向いた。

 

その時、私は足を止めた。

 

それは目に焼き付いたもの。

 

残酷なほど変貌(へんぼう)していたもの。

 

それがゆっくりと近づいてくる。

 

私は体中から冷や汗をかいた。

 

脳が体全体に危険な信号を送っている。

 

だからこそ逃げようとした。

 

しかし、思い通りに体は動かなかった。

 

さっきまで動いていた体は、

石のように固まって動かない。

 

それが近づいてきているのに

体が言うことを聞いてくれない。

 

少しずつ、少しずつ…。

 

それが私に近づいてくる。

 

逃げたい、怖い、嫌だ。

 

そんな思いが頭を巡る。

 

しかし、どうしても体は動かない。

 

そして、それが私の顔に

腕と思われるものを伸ばす。

 

そのまま顔に近づいて…。

 

「縲後♀鬘倥>縲∫ァ√r縲∝勧縺

代※窶ヲ縲ゅ◎縺励※窶ヲ縺ゅ?」

 

 

 

 

 

「いやああああああああ!」

あまりの怖さに絶叫した。

 

呼吸が荒くなり、心臓が激しく動く。

 

あまりの速さに胸が痛くなる。

 

荒れる呼吸を何とか落ち着かせる。

 

少しずつ息を整え、

今の状況を確認する。

 

見知らぬ部屋、掛けられている布団。

 

今は夜で、どこかの部屋にいる。

 

部屋は少しの和室と机。

 

やはり見覚えのある部屋。

 

()()()()()()()()()()()()()

 

それが分かったところで、扉が開く。

 

部屋に入ってきたのは北上。

 

その後ろには夏雲がいた。

 

「すごい声だったけど、どうしたの?」

 

そう言われ、さっきのことを話す。

 

さっき目に焼き付いた姿で

近づいてから何かを言われたことを。

 

北上は「あ~」と言う。

 

「怖いのが夢に出てくるとかいうけど

本当にあるんだね~。」

 

どうやらあの光景が

トラウマになっているらしい。

 

今後も出る可能性があるそうだ。

 

今はいったん様子見となった。

 

この話はいったん置いておいて

あの後どうなったかを聞く。

 

今は突撃した日の夜。

 

私が倒れたあと、全員が救助された。

 

長門と川内型、暁は現在待機中。

 

大きな負傷が無かったため

応急処置でどうにかしたらしい。

 

匂いはどうにもできないため

空き部屋に待機してもらっている。

 

赤城、龍田、暁を除く第六駆逐は

地上に出た後、すぐに入渠施設へ。

 

幸い施設は霧島のおかげで

正常に動いているそうだ。

 

そのためすぐに入渠。

 

入渠時間が表示されたことで、

()()()()()()()()

 

全員が1日以上の入渠となるが、

何とか治るらしい。

 

壊死は何とかなるそうだが、

部位の欠損と傷跡は無理らしい。

 

でも、全員の命があることを

今は喜ぶべきだろう。

 

今後の予定だが、憲兵隊は帰還した。

 

艦娘たちの精神面を考えての事らしい。

 

北上、秋雲の2人はここに残るそうだ。

 

秋雲は憲兵の代わりとして、

北上はカウンセリング、医師として。

 

人間よりはいいだろうとのことらしい。

 

猫さんも、もう少しここに残るそうだ。

 

執務室で色々確認するらしい。

 

それに、どの鎮守府でも提督は必要だ。

 

そのため変な提督が着任しないように

しばらく代理という形でいるらしい。

 

もちろん、私もここに残る。

 

あの姿の赤城さんを見たくはない。

 

でも、向き合わなければならない。

 

そのためにここに来たのだから。

 

赤城さんの入渠時間は約一か月

 

高速修復材を使って一週間ほど。

 

赤城さんの入渠が終わるまで

私はお手伝いをすることになる。

 

主に警備と施設整備だ。

 

艤装の整備や生活環境の改善も

明日からやっていくそうだ。

 

大本営と呉鎮守府からも

支援が来るらしい。

 

そのため早めに休むようにする。

 

さっきのあれを見る可能性はあるが、

耐えるしかないだろう。

 

大本営の涼月の件と同じようなものだ。

 

何かあったら北上に

連絡することにして横になる。

 

そして、北上たちが退室した後、

私は再び目を閉じた。

 

 

 

 

 

……私はゆっくり体を起こす。

 

時計の針は6時を過ぎていた。

 

いつもは歌いに行くのだが、

今はそんな気分になれない。

 

だが、目を瞑りたくもない。

 

あの後、また同じ夢を見た。

 

その度に私は目を覚まし、

眠りを妨げられる。

 

5回以上はそれで起きている。

 

目を瞑ればまた

あの光景を見ることになる。

 

余計に嫌な気分になるだろう。

 

だが、このままいるわけにもいかない。

 

彼女たちの方が

もっと苦しんでいるのだから。

 

私は強引に体を動かして布団から出る。

 

顔を洗い、少しスッキリする。

 

さっきより幾分かマシになった。

 

でも気分はまだよくない。

 

少し散歩をしよう。

 

そう思って外に出た。

 

ギシギシとなる床を通り、

建物から出て、海岸沿いへ。

 

たどり着いた私は大きく息を吸う。

 

さっきよりさらに気分がマシになった。

 

だが、まだスッキリはしなかった。

 

夢の事もあるがこの空気も理由だ。

 

とても息苦しい空気。

 

大本営や基地とは全く違う重たい空気。

 

海は穏やかだが、静かすぎた。

 

嵐の前の静けさ。

 

その言葉がふさわしいと思えるほど、

不気味なほどに静かだった。

 

それが嫌だった私はこの場から

逃げるように執務室に向かった。

 

執務室に向かう理由は

猫さんと霧島がいるからだ。

 

現状、あの2人が

ここの状況をよく知っている。

 

何かするにしても

2人から話を聞いた方が早いだろう。

 

そう思って執務室に向かった。

 

執務室ではソファーで眠る霧島と

書類を捌いている猫さん。

 

すごいスピードで書類を捌いていた。

 

「ん?やあ、おはよう。

もうこんな時間か。」

 

そう言って手を止める。

 

ぐ~っと背伸びをして

席を立つと隣にある部屋へ。

 

少しして3つ分のカップを持って

戻ってきて机に置く。

 

良い匂いがする。紅茶だろうか?

 

その匂いにつられたように

霧島が起きた。

 

私も誘われたため、一緒に飲む。

 

落ち着く匂い。

 

昔に嗅いだことのある懐かしい匂い。

 

ゆっくりと口に含む。

 

その温もりはすぐに体の奥底に届いた。

 

体の心から温まる優しい味。

 

とてもおちつ…

 

「マイクチェックー!!」

 

…1名だけハイテンションになった。

 

すごい勢いで書類をまとめている。

 

さっきまでの重い空気が

一気に吹っ飛んだ。

 

この人のテンションのおかげか、

猫さんの紅茶のおかげか。

 

とりあえず、今日1日は

元気に過ごせそうだ。

 




全・員・生・存!


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第8話 立て直し

 

執務室でゆっくりした後、

3人で食堂へ向かった。*1

 

食堂にはこの鎮守府のほぼ全員がいた。

 

総勢で50人ほどだろうか?

 

その中に天龍と加古と朝潮がいない。

 

長門たちもいないがそれは仕方ない。

 

天龍と加古は入渠施設にいるだろうが、

朝潮はどこにいるのだろう?

 

気になったが、猫さんの話があるので

考えるのを止めた。

 

これからのことが話された。

 

昨日の夜に北上から聞いた話と同じだ。

 

今から行うのはこの鎮守府の立て直し。

 

生活環境から色々直す予定である。

 

とりあえず今日は

鎮守府の掃除と修理をするそうだ。

 

まずはそこから始めるらしい。

 

幸い、反対する艦娘はいなかった。

 

提督に仲間を人質に取られた艦娘が

多かったからだ。

 

理由は3つ。

 

1つは赤城さん達を

助けに来たことが分かったから。

 

2つ目は人間に対する憎悪よりも

解放された安心感が強かったこと。

 

この鎮守府の支えになっていた

赤城さんの救出と鎮守府の開放。

 

それが彼女たちにとって

信頼できる理由になるのだ。

 

そしてもう1つは私達の戦い方。

 

当てないようにして無力化するやり方。

 

なるべく傷つけないやり方をみて

敵対する相手ではないと思ったそうだ。

 

敵意が無いことが分かり、

いい人判定されたということらしい。

 

そのため、すぐに

行動することになった。

 

最初に私達は海岸沿いに来ていた。

 

猫さんに言われるがままついてきたが

ここには何もない。

 

なぜこんなところに来たのか。

 

それは水平線の向こうに答えが見えた。

 

いくつかの影が見えた。

 

それは次第に大きくなっていく。

 

私は目が良いため、

みんなより早く視認できた。

 

やってきたのは睦月型。

 

睦月、如月、皐月、文月、長月、三日月

の6人と仁王立ちしている明石。

 

大きな船のようなものを

曳いてやってきた。

 

「皆さん、お待たせしました!

呉鎮守府支援部隊、到着しました!」

 

大きな声で宣言する明石。

 

こうして鎮守府の立て直しが始まった。

 

 

 

 

 

明石たちが持ってきた大きな船。

 

大発と呼ばれるその船に

多くの資材が載せられていた。

 

中には食材や木材、

色々な小道具があった。

 

それを陸にあげていき、

順々に運んでいく。

 

いくつかのグループに分けて

各役割のところに。

 

私は鎮守府の修理へ向かった。

 

明石の指揮の下、鎮守府を直していく。

 

(きし)む床、崩れかけた壁、

ボロボロの施設など。

 

人数を分けて修理していく。

 

私は駆逐の子たちと一緒に床の修理だ。

 

明石が用意してくれたメモのおかげで

迷うことなく作業を行う。

 

駆逐達と協力して作業をするのだが、

みんなテキパキ動いてくれる。

 

次第に楽しくなったのだろう。

 

みんなが次は何をしたらいいのかと

目を輝かせながら聞いてくるのだ。

 

そのため私がメモを見ながら指示を出し

資材を渡すという形になっていた。

 

みんなが楽しんでやってくれるため、

早く作業が進んでいく。

 

休憩を挟みながら

作業を続けること3時間。

 

私達は床の修理を終えた。

 

みんなが達成感に満足していた。

 

私はその子たちを見て

昔を思い出していた。

 

近所の子たちとの思い出。

 

大きな作業をした達成感。

 

頑張ってくれた良い子たち。

 

それを思い出した。

 

だからだろうか。

 

一番近くにいた駆逐艦の子の頭を

無意識のうちに撫でていた。

 

気づいてすぐに手を離したが、

その子が私の手を取って頭に置く。

 

どうやら嫌ではなかったようだ。

 

「ずるい!私にも!」

 

そう言って他の子が近づいてきて

私のもう片方の手を頭に乗せる。

 

私はそのまま優しく頭を撫でる。

 

2人はとても嬉しそうに顔を綻ばせる。

 

私はその顔につられて笑顔になった。

 

すると、駆逐達が集まってきた。

 

私を囲うようにやってきて、

何人かは抱き着いてくる。

 

その子たちの頭も撫でていく。

 

みんなの満足する顔に

私の歌いたい欲が戻ってきたようだ。

 

私は次第に鼻歌を歌う。

 

私も満足しているんだと。

 

次第に鼻歌から歌に変わる。

 

 

 

恐怖からの解放と変わりゆく環境。

 

どこからか吹く気持ちの良い風。

 

子供たちの喜び。

 

戻ってきた仲間たちと一緒に

いつかここで盛大に歌いたい。

 

 

 

そんな思いの歌を私は紡ぐ。

 

その歌に駆逐達も反応する。

 

みんなで盛大にやりたい。

 

そう思っている子は多いようだ。

 

いつかやろう。

 

そうみんなと約束して、

私達は広場の方へ戻った。

 

 

 

 

 

広場に戻るとみんな集まっていた。

 

どうやら私たちが最後のようだ。

 

集まっている理由は

終わったからだけではなさそうだ。

 

とてもいい匂いが漂っている。

 

駆逐達は匂いにつられたのか

お腹のむしが鳴き始めた。

 

みんな走って匂いの元へ向かう。

 

そこにあるのは大きな鍋。

 

匂いの正体はその鍋から漂う

カレーの匂いだった。

 

鍋の傍にいる間宮が

みんなに配膳していた。

 

よく考えたらもう12時を過ぎていた。

 

みんなのお腹がす「キュ∼」……。

 

…私も例外ではなかった。

 

駆逐達と一緒に並んで

私もカレーを貰った。

 

そのカレーは甘すぎず、辛すぎず。

 

食べやすい辛さで美味しい。

 

何回でもお代わりしたくなる味だった。

 

流石にそんな量は無かったが…。

 

食べ終わった私たちは作業を再開した。

 

とは言ってもやることは終わったため、

部屋割などを決めることになった。

 

その場には朝にいなかった天龍たちと

長門たちの姿があった。

 

後で聞いた話だが。

明石が消臭スプレーをかけたらしい。

 

凄い効果で匂いがすぐに消えたそうだ。

 

そのため、ほぼ全員で

部屋割や配置を決めることになった。

 

基本は姉妹、仲が良い者同士の部屋割。

 

心細い子たちには軽巡以上の艦娘が

一緒の部屋になった。

 

後は長門や霧島を中心とした大人たちが

必要な施設の配置を話し合う。

 

私はその話が終わるまで

駆逐達とのコミュニケーションを行う。

 

これは北上の手伝いでもある。

 

北上がここに残った理由は

カウンセリングをすること。

 

これから先、嫌でも人との関わりはある。

 

解放されても憎悪が全員から

なくなったわけではない。

 

それに新しく来る提督やお偉いさんの

来訪はどうしようもない。

 

人間不信は少しでも減らしておきたい。

 

そのためにコミュニケーションをとる。

 

私は駆逐達、北上は軽巡以上の艦娘と。

 

駆逐の子たちは素直に答えてくれる。

 

でも、全員が素直なわけではない。

 

思ったことをそのまま口にする子。

 

不安そうに誤魔化しながら言う子。

 

そんな話をしたがらない子。

 

などの子がいるからだ。

 

それでも聞けることは聞いていく。

 

話して、歌って、遊んで、

聞いて、メモして、北上に伝える。

 

北上はそれをさらにまとめる。

 

北上が言うにはそこまで面倒くさい事は

起きないだろうとのことだ。

 

これにて1日目の作業は終わった。

 

部屋割の話も終わったようだ。

 

すると加古がやってきた。

 

加古は暁を見つけると近寄って伝える。

 

「響たちが目を覚ましたよ。」

 

その言葉を聞いた暁は

急いで入渠施設に向かう。

 

他の駆逐艦たちも向かおうとするが、

そこは軽巡以上の艦娘たちが止める。

 

あそこには赤城さんと龍田がいる。

 

あの姿はさすがに見せられない。

 

猫さんは向かわなかった。

 

行っても逆効果だろうと。

 

だが、女性ならまだ大丈夫だろう

と言われた。

 

そのため北上と入渠施設へ。

 

中に入ると脱衣所で天龍と暁が

響、雷、電を抱きしめていた。

 

3人は怯えていた。

 

 

 

ここから出るのが怖い。

 

またひどいことをされる。

 

もう、痛いのは嫌だ。

 

戦いたくない。

 

楽にさせて。

 

 

 

3人は涙を流しながらそう言葉を零す。

 

私はこの様子を

ただ見ることしかできなかった。

 

いや、見るだけが正解だろう。

 

何もしないことが最善だと。

 

そう思った私はただただ見守った。

 

その間、北上は一言も発しなかった。

 

歯を食いしばり、

拳を強く握るだけだった。

 

 

*1
(アニメ第2話でカレーを食べているところ、恐らく『間宮』ではない)




呉からの支援メンバーは
近海警備に出ているため
最初意外登場していません。

明石は工廠に籠りなので同じく。

朝潮は…いずれ分かります。


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第9話 これからのこと

佐世保の立て直しは
まだまだ続きます。


 

暁の妹たちはあの後、

泣き疲れて眠った。

 

私は天龍たちと一緒に

3人を部屋に連れて行った。

 

3人を同じ布団に入れた後、

暁に任せて入渠施設に戻る。

 

入渠施設に入り、

残る2人の様子を見る。

 

私は入ろうとしたときに

あの姿を思い出した。

 

そのため入ることを躊躇った。

 

でも、天龍に「だいぶ治っている」と

伝えられたため覚悟を決めて入る。

 

そして赤城さんを見た。

 

赤城さんは確かに治っている。

 

髪は肩のあたりまで伸び、腕も普通だ。

 

爪も生え、左膝の骨は隠れている。

 

だが、痣や傷、火傷後、

欠損部位は治っていなかった。

 

こればかりは入渠でも治らないそうだ。

 

幸いなのはやけどをしたのが

顔の右半分であるということ。

 

これが左であればどちらの目も

見えなくなっていただろう。

 

そんな赤城さんの姿を見た私の鼓動は

やはり早くなっていた。

 

だが、初日ほどではない。

 

治っている、生きているということが

私を落ち着かせている。

 

入渠時間は約144時間。

 

大体6日である。

 

とりあえず今日はここまで。

 

ちゃんと向き合えた。

 

それだけでも大きいから。

 

私は北上と天龍に先に出ることを伝え、

自分の部屋へと戻った…。

 

…………。

 

どこまでも広がる暗闇の中。

 

私の前にはまた「()()」がいた。

 

私の心臓はまた痛いほど強く動く。

 

それは再び私に近づいた。

 

大丈夫、大丈夫。

 

そう思っているとそれは

あり得ないほど大きな口を開ける。

 

そして私をたべ「グチャ」…

 

「っ!はぁ、はぁ…。」

 

私は目を覚ます。

 

時間は2時。

 

また途中で目が覚めてしまった。

 

前よりマシになったのは確かだ。

 

それでもひどいことに変わりはないが。

 

後で北上に相談するとしよう。

 

今は横になっていたいから…。

 

 

 

 

 

結局あの後、3回起きた。

 

とてもしんどいが耐えるしかない。

 

こうして2日目に突入した。

 

今日は大本営からの支援が来る。

 

一体何が来るのかと思っていると

トラックが2、3台入ってきた。

 

広場に到着すると、艦娘が下りてくる。

 

人は1人もいなかった。

 

代表として1人出てくる。

 

出てきたのは神通教官だった。

 

「大本営特殊部隊、支援に参りました。

それと、1()()()()です。」

 

教官はそう言う。

 

すると一つの影が走ってくる。

 

向かう先にいるのは陽炎。

 

お姉ちゃん!」「ぐほぁ!

 

そのまま勢いよく突撃した。

 

そこにいたのは小さな幸運の女神。

 

顔を上げて陽炎の顔を見ると

泣きながら敬礼する。

 

「遅くなりました…陽炎型8番艦雪風。

佐世保鎮守府に、帰投しました!」

 

雪風が佐世保鎮守府に帰投した。

 

陽炎は嬉しそうに雪風を抱きしめる。

 

そこに他の艦娘たちも近づく。

 

何人かは困惑しているようだった。

 

そのような反応になるだろう。

 

雪風はここで誕生して

すぐに大本営に送られたのだから。

 

多くの交流は無かっただろう。

 

でも雪風の帰投にみんな喜んでいた。

 

 

 

 

 

 

微笑ましい光景を見て、和んだところで

今日も私はお手伝いをする。

 

今日は提督の手伝い。

 

と言うよりは今後の話し合いの同席。

 

この鎮守府の方向性についてだ。

 

話し合いの場には霧島、天龍、秋雲、

神通教官に第六駆逐隊が集まっていた。

 

何故このメンバーが集まっているのか。

 

それは響たちも含め

この鎮守府に関係しているからだ。

 

少し前に猫さんが言っていた

「艦娘としては生きられない」。

 

これの真相を話してくれた。

 

これは生きていられない

と言う意味ではなかった。

 

普通の人として生きることができる

という意味らしい。

 

つまり人間と同じ生活を

送ることができるということだ。

 

過去にもそう言う艦娘はいたらしく、

今この場にいる秋雲がその例だそうだ。

 

詳しくは後で秋雲が話すだろうが、

まあ、そう言う艦娘がいる。

 

中には旅をしたり、警備会社に入ったり

鎮守府の裏方をしているのだとか。

 

そこで猫さんはある提案を出した。

 

それは響たちや龍田をこの鎮守府の

職員にしたらどうかという案だ。

 

鎮守府の清掃、食事、点検、事務などの

裏方の仕事ならできるだろうと。

 

この案の利点は2つある。

 

1つ目は人との関わりが少ないことだ。

 

人が来ない限り

基本的には艦娘としか関わらない。

 

関わっても提督や裏方作業で関わる

少数の人しかいない。

 

それに少数の人との関わりであれば

人にも慣れていくだろうと言う理由だ。

 

2つ目は居場所の確保。

 

戦えなくなった艦娘は基本解体される。

 

戦えない艦娘をいつまでも置いておく

理由はないからだ。

 

だが、役割があるのであれば

解体されることは無い。

 

ここで職員としていられれば

解体されることもない。

 

理由はこんな感じらしい。

 

さらに神通教官からも案がある。

 

それは元艦娘の憲兵隊の配置だ。

 

先ほど話した、戦えなくなった艦娘で

構成されている憲兵隊。

 

その憲兵隊であれば配置されても艦娘と

いい関係になれるだろうとのこと。

 

ほぼ全員がブラ鎮出身のため、

響たちのことを理解するだろうと。

 

その案に霧島と天龍はいい反応を見せた。

 

だが、それと同時に疑問も浮かぶ。

 

本当にそんなことが可能なのか、だ。

 

もちろん反対の意見は出てくるだろう。

 

特にあの会議で反発した提督たちは。

 

だが、そこは大丈夫らしい。

 

なんでも拘束されていった佐世保提督が

色々と情報を吐いたらしい。

 

初日は頑なに黙秘をしていたらしいが、

次の日には人が変わったように。

 

体全身がボロボロの状態になって。

 

そのため、反発をするだろう提督たちは

この件を話しても強く言えないそうだ。

 

それに、今回の案はテストも兼ねている。

 

ちゃんと鎮守府として機能するのなら、

他の鎮守府でも採用したいとのことだ。

 

これは元帥からのお願いらしい。

 

提督の手配や支援を可能な限り行うと。

 

かなりの職権乱用をしているが、

まだマシな方らしい。

 

そんな提案を霧島達は受け入れた。

 

断れないからと言う理由もあるが、

主な理由は第六駆逐隊のことだ。

 

ここまで色々してもらえているし、

この子たちも賛成したのだ。

 

天龍と暁の涙ながらの説得もあって

この案で行くことになった。

 

この後、大本営から送られた資材で

鎮守府の修理が終わった。

 

途中で妖精さんが出たり、

神通教官が猫さんに戦いを挑んだりと。

 

色々あって騒がしい一日になった。

 

神通教官たちは数人残り、

鎮守府の警備に回るそうだ。

 

雪風も残るらしい。

 

でも、役目を終えたら

また出ていくそうだ。

 

理由は自分と同じ立場の

艦娘を救いたいから。

 

雪風はしっかりとした意思を持って

この答えを出した。

 

みんなはその意思を尊重。

 

残りの時間を

大切に過ごすことに決めた。

 

徐々に修理が進む佐世保鎮守府。

 

だが、この佐世保の一番の障害が

まだ残っている。

 

まだ、向き合わないといけない者が

いることを忘れてはならない。

 

この鎮守府の営倉に入れられている

糸の切れない傀儡(マリオネット)がいることを…。

 

 

 

 

 

佐世保の修理が進んでいる頃、

大本営では、とある騒ぎがあった。

 

営倉に入れられている1人の男。

 

黒い独特の柄のパーカーを着た

白髪の赤い目をした男。

 

右目はゴーグルのような機械で

手は触手のような手をしている。

 

見た目は20くらいの青年だ。

 

この青年はある男を何度も殴ったため、

大本営で騒がれている。

 

今は人が変わったように大人しく

鉄格子の窓から空を眺めている。

 

その青年の前にある人物が現れる。

 

「…やあ、顔色が悪いですよ明石殿。

私に何か御用でしょうか?」

 

彼の前に現れたのは明石。

 

隈を付けた眠そうな顔で青年を見る。

 

「貴方のせいでさっきまで

書類を作成していたんだけどね。」

 

ため息をつきながらそう言う明石。

 

青年を睨みながら用事を言う。

 

「今後のことが決まったから伝えるわ。

明日、佐世保に行くわよ。」

 

そう言う明石に青年はにやける。

 

そして空を見上げながら呟いた。

 

「ああ、ようやく会えるのですね。

待っていてください、()()()。」

 

笑いながら喜ぶ

歌音の事を「様付」で呼ぶ青年。

 

その青年を見た明石は頭を押さえながら

自分の仕事に戻っていった。

 




雪風が佐世保に帰投しました。
この場合は帰還が正しいのかな?

そして大本営営倉にいる謎の青年。
はたして彼の正体は一体…。


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第10話 置き土産と私の守護者

 

…何度目だろうか。

 

私の目の前に「あれ」が出てくるのは。

 

未だに姿が変わらない「あれ」。

 

私の睡眠時間を

あの手この手で削ってくる。

 

噛みつき、腹を穿ち、

口に何かを入れ…

 

そんなこんなで

今日は既に3回起きている。

 

実は北上に薬を貰っているのだが、

()()()()()()()()()()()()

 

また相談するとしよう。

 

そう考えていると「あれ」が

近づいてきた。

 

今度は一体何を…

 

そう思った時、

私の視線は()()()()()()()()()()

 

 

 

 

 

「………」

 

もう、朝になっていた。

 

頭がぼーっとする。

 

怠さも前以上にひどいものだ。

 

とりあえず体を起こす。

 

寝不足と疲労でフラフラする。

 

顔を洗うために洗面台に立つが

支えがないと倒れてしまいそうだ。

 

なんとか顔を洗って部屋を出た私は

食堂の方へと向かった。

 

途中で駆逐の子が支えてくれなかったら

食堂にすらたどり着けなかっただろう。

 

そうして支えられた私は

北上に検査される。

 

今日はとりあえず安静にしろと言われ

私はゆっくりとすることになった。

 

今日は戦える艦娘たちのリハビリと

響たちの仕事の実践だ。

 

響たちは猫さん、暁と一緒に

これから行うことの確認。

 

基本的に家事全般と書類作業になる。

 

今日は家事の方を色々とやる予定だ。

 

そしてその姿を見学するのは

天龍と天龍に支えられている女性。

 

片腕の無い包帯を所々に巻いた女性。

 

天龍の姉妹艦の龍田だ。

 

彼女は昨日の夜に入渠が終了。

 

今日の朝に目を覚まして今ここにいる。

 

最初は私たちに敵意を向けていた。

 

しかし、天龍の説明と暁たちの説得で

とりあえず様子見となった。

 

今はまだ満足に動けないため

響たちの様子を見学しているのだ。

 

後々自分がやるかもしれないことを

猫さんの監視を兼ねて。

 

一方でリハビリ組は神通教官と

呉鎮守府の面々が支援している。

 

海上走行をして感覚を戻しているのだ。

 

不安がある艦娘も何人かいたが、

支援のおかげで落ち着いていた。

 

私はその様子を眺めている。

 

海から来る風が気持ちいいのだ。

 

さっきまでの怠さを和らげてくれる。

 

本当ならネ音を抱きしめて

落ち着きたいところなのだが。

 

それはできないので我慢する。

 

そうやって時間を潰していると

天龍たちがやってきた。

 

どうやら見学は終わったようだ。

 

猫さんは執務室に戻り、

第六駆逐隊は仕事を続けているらしい。

 

今は食堂でお手伝いだとか。

 

それからしばらく雑談をする。

 

龍田も天龍の様子から

信頼してもいいだろうと判断した。

 

そのため、3人で雑談をした。

 

今までの事、私の話せることを話した。

 

天龍も今までの事を話してくれた。

 

辛いこと、悲しいこと、嬉しいこと。

 

お互いに話し合った。

 

気づけば3人で笑っていた。

 

とても楽しいこの時間。

 

でも、すぐに終わってしまった。

 

「「「「きゃあああああ!」」」」

 

突然、鎮守府に悲鳴が響いた。

 

気づけば私は走っていた。

 

天龍が何か言っていたが

気にせずに走った。

 

悲鳴が聞こえた場所は食堂の近く。

 

そこに走っていくと食堂から

砂埃と何かが壊れる音がする。

 

何事かと思っていると

第六駆逐隊が走って食堂から出てきた。

 

4人は私に気づくとこちらに走ってくる。

 

そして私の後ろに隠れた。

 

響たちだけでなく暁も震えていた。

 

これはただ事ではない。

 

私は食堂の入り口に目を凝らす。

 

するとそこから出てきたのは朝潮。

 

しかも、私の武器を持っている。

 

あれは工廠に置いていたはずなのだが…。

 

だが、考えていても仕方がない。

 

とりあえず朝潮を止めることが大事だ。

 

「一体何をしているの?」

 

私はそう質問する。

 

朝潮はすぐに返答した。

 

「戦わないと言うから

始末しようとしているだけですが?」

 

「誰の命令なの?」

 

「司令官の、この鎮守府の規則です。

規則を破るのですから当然ですよ。

だから、早くそこを退いてください。

そうでなければ貴方から始末します。」

 

当たり前のように言いながら

朝潮は武器を構える。

 

どうやら前提督は最悪な

置き土産をしていったようだ。

 

始末される気はないが、

この子たちをやらせるつもりもない。

 

「…何も言わないのですね。それなら…

今すぐ始末します!」

 

そう言ってこちらに突っ込んでくる。

 

私には武器はない。

 

体術でどうにかするしかない。

 

「暁、すぐに妹たちとここを離れて!」

 

そう言って暁たちを避難させる。

 

暁はすぐに妹たちと避難した。

 

私はその様子を確認した後、

朝潮の攻撃を何とか受け流す。

 

しかし、いつもより体が重いせいで

上手く受け流せず肩に受ける。

 

あまりの痛みに顔を歪める。

 

後ろに飛んで逃げるが

上手く着地出来ずに尻餅をつく。

 

ここに来て寝不足の弊害がきた。

 

腕に力が入らず立つことができない。

 

眼も霞んで朝潮の姿が

はっきりと見ることができない。

 

どうにかしなければ…。

 

しかしどうすることもできない。

 

既に朝潮は目の前にいる。

 

そして棒を私に振り下ろす。

 

私は目を瞑り、下を向く。

 

………何も起きない?

 

棒は振り下ろされたはずなのに。

 

ゆっくりと目を開けて顔を上げる。

 

目の前には棒がある。

 

朝潮も必死にふり下ろそうとしている。

 

棒が小刻みに震えているため

それはよく分かる。

 

だが、それを何かが止めていた。

 

それは白い触手のようなもの。

 

朝潮の身体を縛るように動いている。

 

そしてその後ろには

白い髪の青年が立っていた。

 

「ダメじゃないか、お嬢ちゃん。

こんなところで棒を振り回したら。」

 

そう言いながら朝潮の身体を縛る。

 

彼は右の触手で朝潮を拘束し、

左の触手で私を抱き上げる。

 

見たことのない青年。

 

その青年は私から触手を外し、

左手を胸の前にして頭を下げる。

 

「貴方様にお会いできることを

待ち望んでおりました。

まずは、許可もなく貴方様に

触れたことをお許しください。」

 

いきなりそんなことを言われる。

 

名前も分からぬ青年が

なぜか私に頭を下げて。

 

私は気にしてないからと言う。

 

すると、彼は嬉しそうにする。

 

「ああ、寛大なお言葉感謝いたします。

流石は歌音様。」

 

…私は混乱した。

 

え、様?…どういうこと?

 

寝不足もあり思考がまとまらない私。

 

そこに暁たちが戻ってきた。

 

「歌音さん!みんなを呼んできたわよ!

…そこの人は誰?」

 

暁たちも疑問に思っている。

 

猫さんも誰か分かっていないようだ。

 

「これは、これは。

歌音様のために来て頂き、

誠に感謝いたします。」

 

そういって再び頭を下げる。

 

そして頭を上げて笑顔で言う。

 

(わたくし)は歌音様の(しもべ)

それ以上もそれ以下もありません。」

 

すると、みんなの目線が私に移る。

 

いや、知らない。

 

私、この人とは初対面だし

様付や僕の理由も知らないんだけど。

 

訳が分からないので

詳しいことを聞こうとすると。

 

「もう!1人で行くなって

あれほど言ったでしょ!」

 

そんな声が聞こえた。

 

振り返ると私服姿の明石がいた。

 

持っているカバンには

大本営所属と書かれていた

 

「明石殿、良いではないですか。

たかがあの距離…」

 

「300キロをたかがとは言わないのよ!

それと大事なことを言っておくけど、

彼女は貴方の事知らないわよ。」

 

その言葉に青年は目を見開く。

 

「え、嘘ですよね。歌音様が

私の事を知らないなんて…。」

 

今にも泣きそうな青年。

 

しかし、本当に知らないのだ。

 

だからこう答えるしかない。

 

「ごめんなさい。」

 

青年はすごくショックを受けた。

 

凄くいじけている。

 

その様子を見て、

ため息をつきながら明石が話す。

 

「この子は姿、形が変わっているけど

あなたの知っている子だよ。」

 

私が知っている子…。

 

姿、形は違う……。

 

…ダメだ、頭に浮かんでこない。

 

「じゃあヒント、

貴方は最初に誰と過ごしてきた?」

 

最初に誰と過ごしてきたか?

 

最初ってことはこの世界に来てから。

 

え~っと、キューちゃんたちでしょ、

それから大福、後は……あ。

 

いた、最初からいた。

というか最初の方だけいた。

 

私といつも一緒にいた。

 

え、あれって生き物の扱いなの?

 

でもそれしかないのだ。

 

そう…彼の正体は………

 

 




龍田さん、復活!

そして青年の正体は何と!
次回に続きます。



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第11話 裏事情

少しややこしい話があります


 

私達の前に現れた白髪の青年。

 

私を助けてくれた彼の正体が

明石のヒント分かった。

 

「貴方…もしかして、帽子?」

 

「その通りでございます!」

 

青年は目を輝かせて喜んだ。

 

そう彼はあの帽子の艤装。

 

この体に最初からついていた帽子。

 

それが目の前に青年に変わっている。

 

彼がこの姿なのは何となく分かる。

 

恐らく原因は明石だろう。

 

前にキューちゃんズが人型に

なっていたからおそらくそれだ。

 

しかし、なぜここに来たのだろうか?

 

その理由は明石が説明してくれた。

 

それは私たちがここを開放し、

佐世保提督が連行された日に遡る。

 

 

 

 

 

佐世保提督が大本営に送られてきた日、

私、明石は工廠で検査を行っていた。

 

その検査と言うのが帽子の検査。

 

工廠に置きっぱなしにされた帽子を

検査しようと、ふと思ったのだ。

 

人型にすることで

色々な話を聞けると思ったからだ。

 

まあ、キューちゃんたちのようになって

手伝ってくれればという下心もあって。

 

幸い前線基地の私から情報を貰っていて

装置自体は完成している。

 

だから、帽子を装置に置いて起動する。

 

強い光が辺りを照らし、

大きな音が鳴り響く。

 

そしてそれが止んだ。

 

「…ン、ココハ…。」

 

声が聞こえた。

 

声の主を私は視認する。

 

そこにいたのは白髪の青年。

 

特殊な柄の黒フードのパーカー。

 

赤目、片側ゴーグル、

触手という謎の存在。

 

その青年は私に気づく。

 

「アナタ…、ンンッ、貴方は

明石さん、ですね。」

 

私はとても驚いた。

 

言葉を話すだけでなく、

私の事を名前で呼んだからだ。

 

「大丈夫ですよ、貴方の事は

歌音様を通して見ていたので。」

 

それについて詳しく聞いた。

 

どうやら彼は歌音さんと

視点を共有できるらしいのだ。

 

今までも工廠に居ながら

見てきたそうだ。

 

辛いことも楽しいことも全部。

 

そんな彼だからだろう。

 

深海棲艦について知っていることを

私に教えてくれた。

 

まず深海棲艦はイロハ級、姫級、深海化

の3つに分類されること。

 

イロハ級は成長する分類で

駆逐イ級から様々な形に成長する。

 

人の言葉は話せず、イ級以外は

自然に発生しないそうだ。

 

姫級はイロハと違い

「姫」として生まれる。

 

変化することは無い代わりに

生まれたてでも強い。

 

そして人の言葉を話せる

1番人に近い存在。

 

そして深海化。

 

艦娘が轟沈し、沈んだ際に

深海棲艦に形を変える。

 

練度の高さ、憎悪の強さ

によってその姿を変える。

 

強さによっては姫級になるらしい。

 

今回の加賀さんの場合はヲ級。

 

原因は練度の低さと憎悪の弱さ。

 

憎悪よりも仲間たちへの心配が

大きかったからだろうとのことだ。

 

このように分類される深海棲艦だが。

共通していることがある。

 

それは、艦娘は敵であるという認識

障害の排除、人間の抹殺という目的。

 

それを基に行動しているそうだ。

 

彼の場合は生まれが特殊なため、

そういうものはないらしい。

 

次に勢力。

 

勢力については

よく分かってはいないそうだ。

 

最初に得られる情報の中には

用意されていないらしい。

 

だが、無限に近いのではとのことだ。

 

イ級から成長するということは

どこかにそれが生まれる理由がある。

 

だが、それがどこにあるかは

分からないためどうしようもない。

 

最後に、彼の存在について聞いた。

 

彼自身がどういう立場、存在なのか

純粋に気になったからだ。

 

「まず、空母ヲ級と言う

存在から話しましょう。」

 

そう言って説明してくれた。

 

ヲ級はイ級から軽空母ヌ級へ成長して

そこからさらに成長した姿である。

 

視野が広く、人の形になったことで

今までにできない動きができる。

 

イロハ級の最終形態、らしい。

 

そんなヲ級だが、他の深海棲艦と

違う特徴を持っているそうだ。

 

それは艤装がヲ級の艤装ではなく、

()()()()()()()()()()()()()()

 

空母ヲ級とはヲ級と軽空母ヌ級、

2隻で1つの存在だという。

 

しかも分離が可能というおまけ付き。

 

その説明に私は驚いた。

 

これは私以外にも驚くだろう。

 

ヲ級の艤装はヌ級そのものだと言われて

驚かない方がおかしい。

 

しかし、彼の存在が

これではっきりとした。

 

彼は軽空母ヌ級である。

 

まさかそんな存在だったとは

思いもしなかった。

 

しかし、これは大きな発見だ。

 

早く元帥に伝えるべきだろう。

 

そう思ったが、彼に止められた。

 

実は少し違うと。

 

どういうことかと言うと、

これは彼の生まれに関係している。

 

空母ヲ級の艤装が軽空母ヌ級と言うのは

あくまでもイロハ級の話なのだ。

 

だが、彼は深海化加賀(ヲ級)の

艤装として生まれてきた存在だ。

 

つまり2隻で1つであるヲ級になるには

加賀+何かでないと成立しないのだ。

 

この何かが彼になるのだが。

 

では彼は一体何者なのだろうか。

 

「そうですね、私は艦娘とは

深い縁の有る存在ですよ。」

 

彼はそう言った。

 

私たち艦娘と深い縁がある。

 

そんな存在は1つしかない。

 

艦娘の傍にいつも一緒にいる存在。

 

私が良く世話になっている存在。

 

そう、「妖精さん」だ。

 

「正解です、さすが明石さん。

正確には深海化した、ですけどね。」

 

そういって彼は説明の続きをする。

 

どうやら深海化は艦娘が轟沈した時、

艤装に宿る妖精も取り込まれるそうだ。

 

そして、その妖精がヌ級の代わりとなる

「何か」として存在しているらしい。

 

本来なら深海化した影響で

私達と敵対関係になる。

 

しかし、歌音さんが混じって生まれ、

イレギュラーが生じた。

 

その結果、彼は私たちに敵対しない

ヌ級のような何かとなった。

 

まとめると

・深海棲艦は3つに分類

・深海化した場合練度と憎悪に依存

・人間の抹殺が目的であり

 その邪魔をする艦娘は敵

・勢力はよく分からない

 (生まれる理由がある?)

・空母ヲ級の艤装は軽空母ヌ級

・彼はヌ級(深海妖精)

 

以上の情報をまとめた私は、

彼をつれて元帥へ報告。

 

この情報に元帥は驚きつつも

すぐに大和に回した。

 

いち早く動けるようにしたのだろう。

 

一通り話して今日は解散。

 

明日は彼に鎮守府を案内しよう。

 

そう思っていたが、その日に事件が起こった。

 

それは予定通りに彼に大本営の中を

案内していた時のことだ。

 

遠くから怒鳴り声が聞こえ、

声のする方を向く。

 

するとこちらに走って

向かってくる男がいた。

 

その男は連行されて

尋問されていた佐世保提督。

 

職員を振り払い、走ってくる。

 

すると彼が走り出し、

全力で顔を殴った。

 

綺麗な放物線を描くように

飛んでいく佐世保提督。

 

そのまま地面に倒れると、

彼は馬乗りになって再び殴る。

 

「オマエハ…」

 

顔はよく見えなかったが、

力を緩めずに全力で殴っていた。

 

その後は何とか周りの艦娘が拘束し、

彼は営倉に送られた。

 

佐世保提督は今までの事を自白し、

佐世保に実態と裏のつながりが表出た。

 

この知らせを受けた元帥は明石に彼を

佐世保に連れていくように命令。

 

そして今日、海路を通り

今に至るということだ。

 

 

 

 

 

この話を聞いた一同は

よく分からなくなっていた。

 

歌音が本来なら敵である

深海棲艦だということ。

 

その深海棲艦が自分たちのために

身を削ってくれていること。

 

本当に信用していいのかということ。

 

様々な思いが巡り、葛藤している。

 

その話を聞いて

最初に声を上げたのは天龍だった。

 

「俺はあんたたちを信じるぜ。

あんたたちが何者だろうと、な。」

 

そう言ってこちらに近づき、

私に向かって手を出した。

 

私もそれに応えるように

手を出して握手する。

 

みんなも自分の答えを見つけたようで、

笑顔になっていた…のだろう。

 

私はその顔を見ることができなかった。

 

何故なら視界がぼやけたからだ。

 

天龍の顔がぼやけはじめ、

疲労感が一気に襲ってきた。

 

あたまがふらふらしt、

あし、ちからはいらない

 

「歌音様!」

 

 




青年の正体は帽子であり、
深海化した妖精さん(ヌ級)でした。

ヲ級は(本体+ヌ級)なので
二つの魂があるとでも思ってください。



歌音が生まれた時は以下のように

青年→ヌ級(帽子)
加賀→本体
  ↑歌音の魂の割り込み



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第12話 悪を裁く騎士の名

 

この暗い世界では

私の意識ははっきりするのだろう。

 

さっき疲労で疲れたはずなのに、

それが嘘のようにここでは体が動く。

 

そして、いつも以上に感じてしまう。

 

疲れを、痛みを、恐怖を…。

 

だから体が震えあがるのだ。

 

目の前の「あれ」を見ると。

 

いつもと変わらない姿。

 

それなのに恐怖は(ぬぐ)えない。

 

和らいだはずの恐怖は

未だに私にこびりつく。

 

今日はどんなことをされるのだろう。

 

(えぐ)られ、貫かれ、食べられた。

 

これ以上どうなるのか。

 

そう思ってみていると、

 

私の身体は右膝をつく。

 

いや、正しくは右膝で立つ、だ。

 

膝より先が消えた。

 

そのままドバドバと大量の血を流す。

 

次に左腕に衝撃が走る。

 

見ると左腕が消えていた。

 

次に左目、右腕の関節、抉られる横腹。

 

その痛みは一瞬で体を襲う。

 

「あれ」に対する恐怖と共に

身体全身が悲鳴を上げる。

 

だが、いつもとは違った。

 

いつもなら、このあたりで目を覚ます。

 

だが、いつになっても目が覚めない。

 

いつも以上に「あれ」に

痛めつけられているはずなのに。

 

ふと「あれ」の顔を見ると

笑みを浮かべていた。

 

飲み込まれそうなほど狂った笑顔。

 

ハッキリと見えないはずの顔なのに

私は笑っていると分かった。

 

そんな「あれ」は私に近づくと

私の身体をだるまに変えた。

 

そして私を踏みつけて笑う。

 

抵抗できないようにして

私をさらに痛めつけるのだろう。

 

そう思っていると「あれ」は

指を揃えて私に向ける。

 

恐らく、手刀をするのだろう。

 

私はそう思いながら目を閉じる。

 

最後の痛みと共に

またいつも通り目覚めると思って。

 

しかし、いつまで待っても

痛みは来なかった。

 

恐る恐る目を開けると、

そこには見覚えのあるものがあった。

 

白いうねうねしたもの、そして…

 

「こんなところだからと言って

好き勝手するのは感心しませんね。」

 

つい最近聞いたばかりの声だった。

 

「歌音様、お待たせしました。

()()()についてはお任せください。」

 

この空間に彼が来てくれた。

 

彼は触手で「あれ」を縛ると

そのまま締め上げていく。

 

「あれ」は悲鳴を上げながら、

黒い(もや)を体から放つ。

 

しかし、彼は締め付けるのを止めない。

 

そのまま数十秒ほど経つと

「あれ」は動きを止めた。

 

そして黒い靄と共に

塵のように分散した。

 

私はその様子をただ見ていた。

 

すると彼は「失礼します」と言って、

私を触手で掴み、抱き上げる。

 

今日と同じように優しく、

お姫様抱っこのように。

 

「ありがとう…助けてくれて…。

でも、どうやって…ここに?」

 

そう、ここはよく分かっていない場所。

 

加賀と話す場所とはどこか違う場所。

 

その場所に彼はどうやって入ったのか。

 

彼はその事について話してくれた。

 

ここは私の精神世界と

夢の中が混ざったところ。

 

加賀たちが干渉できないようにされた

いつもと違ういつもの場所だという。

 

次にそんな空間に

彼が干渉できた理由を聞いた。

 

彼が明石に話していたヲ級とヌ級の話。

 

その時は話していなかったが、

ヌ級はヲ級に干渉できるらしい。

 

ヲ級が艦娘から逃げたり寝返ったり

しないようにされているそうだ。

 

彼はその力の応用で此処に居るらしい。

 

そして「あれ」について聞いた。

 

「あれ」は赤城さんの怨念らしい。

 

赤城さんはあの時すでに

轟沈一歩手前の状態だったそうだ。

 

もう少し遅ければ

深海化していたという。

 

「あれ」はその時に生まれたそうだ。

 

つまり、深海化した赤城さんの

身体を操る存在だったのだ。

 

しかし、そうなる前に入渠したため

「あれ」の存在は消滅する。

 

そのため、深海棲艦の私に憑りつき

この体を乗っ取ろうとしたらしい。

 

だが、彼が来てくれたことで

そうなることは無くなった。

 

もう心配する必要は無いだろう。

 

そう思っていると周りに

光が差し込みだした。

 

真っ黒な世界が晴れていき、

辺り一面が綺麗な空色になる。

 

「ブジ、ミタイダナ。」

 

そして、しばらく聞いていなかった

懐かしい声が聞こえた。

 

彼がその声の方に向き、

私は声の主を見る。

 

そこにはエラー娘と猫、加賀がいた。

 

どうやら「あれ」が消えて

元の精神世界になったようだ。

 

久しぶりに見た2人の顔。

 

とても落ち着くが、2人の顔を

じっくり見ることは敵わないようだ。

 

「歌音様!体が…!」

 

どうやら、もう戻る時間のようだ。

 

体が光り始めたのだ。

 

せっかく2人に会えたのに。

 

そんな私に加賀が近づいてきた。

 

「赤城さんの事、頼むわよ。」

 

加賀に笑顔でお願いされた。

 

私はそれに対して頷いた。

 

そうすると目の前が

全部真っ白になった。

 

 

 

 

 

カチ、カチ、カチ………。

 

そんな音で目が覚める。

 

ゆっくりと目を開けると

目の前には彼の顔があった。

 

「おはようございます、歌音様。」

 

優しい笑顔でそう言うと

身体を起こしてくれた。

 

時計を見ると短針は11を指していた。

 

「………、今何時?」

 

「朝の11時です。

ほぼ丸一日のおやすみでしたよ。」

 

………つまり?

 

「赤城様のお目覚めまで

3日半と言ったところですね」

 

………とりあえず執務室に行こう。

 

しっかりと寝たおかげで

昨日より身体が軽い。

 

彼の支えが無くてもしっかりと

立って歩いて執務室に向かう。

 

執務室に向かうと

扉の前に人影があった。

 

「あ!歌音さん!

おはようございます!」

 

そこにいたのは雪風。

 

元気いっぱいな笑顔で

私に抱き着いてきた。

 

とても元気な雪風の声。

 

その声に気づいたのか

執務室から猫さんが出てきた。

 

猫さんにこれまでのことを話して、

猫さんから寝ている間のことを聞く。

 

私が寝ている間、朝潮は再び営倉に。

 

昨日、彼女が脱走したのは

営倉の造りの悪さと老朽化(ろうきゅうか)

 

頑張れば脱走できるようになっており、

鉄格子自体もかなり脆かったそうだ。

 

そのため明石が

すぐに頑丈な鉄格子を作成。

 

今は秋雲と神通の2人が

しっかり監視しているそうだ。

 

第六駆逐隊は周りの艦娘が

支えてくれているらしい。

 

今はみんなのおかげで

何とか仕事をしているそうだ。

 

みんなは少しずつ

感覚を取り戻しているらしい。

 

今は呉鎮守府の睦月たちが

しっかり指導しているそうだ。

 

一通り話を聞くと彼が口を開く。

 

「失念しておりました。

私からの報告がまだでしたね。」

 

そう言って彼からの話も聞いた。

 

今回の事で私と彼を信じると言うのが

朝潮を除く此処の艦娘の総意となった。

 

私達が此処に居ることを

認めてくれたらしい。

 

しかし、1つ条件があるそうで…。

 

「私に名前をいただきたいのです。」

 

その条件とは彼の名前。

 

妖精さんやヌ級ではなく

名前で呼びたいという艦娘の要望。

 

また、彼自身も私から名前が欲しい

という願いがあった。

 

確かにキューちゃんやネ音、大福に

名前を付けている。

 

それなら彼にもいるだろう。

 

その方が呼びやすいし、

覚えてもらえるだろう。

 

そう思い、彼の名前を考える。

 

元は妖精だが、姿はヌ級。

 

付けるとしたら「ぬ」から

始まる名前を付けたい。

 

何かいい名前はあるだろうか?

 

ぬめぬめ、ヌメラ、ヌメロン…

 

流石にダメな気がするから却下。

 

ヌードル、ヌードリア、ヌシ…

 

なんか違う、というか

これじゃ犬になるから却下。

 

中々思いつかない。

 

「ぬ」から始まる言葉自体

中々身近に無いから尚更…

 

しかし、どうしよう。

 

特徴から何かいいのないかな…。

 

触手、片ゴーグル、白髪、赤目、

干渉、精神世界…ん?精神?

 

あれ、なにか思い出せそう。

 

何だっけ?何か本を見てたときに

ぬから始まる言葉があったはず。

 

思い出せ私、思い出すんだ。

 

精神とか心とかの意の事を確か…

 

「ヌー…ス。そう、『ヌ―ス』だ。」

 

思い出した。

 

確かギリシャの哲学にあった言葉。

 

精神に干渉できる彼には

合っているだろう。

 

「今日からあなたは『ヌ―ス』よ。

よろしくね、ヌ―ス。」

 

「…!素晴らしい名前をくださり、

誠にありがとうございます!」

 

そう言って彼は膝をつき、

左手を胸に置いて頭を下げる。

 

まるで騎士が忠誠を誓うように。

 

それを称えるかのように

窓から光が差し込んだ。

 

今「ヌ―ス」という私の騎士が

ここに誕生したのだった。

 




「あれ」の正体が判明。そして、
彼の名前は「ヌ―ス」になりました。

作中に歌音が言っていますが
ヌ―スと言う言葉について。

知性、理性、精神、魂などを
意味するギリシャ語。

詳しくは↓の引用元のwikiを
https://ja.wikipedia.org/wiki/%E3%83%8C%E3%83%BC%E3%82%B9


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第13話 時は流れ、目を覚ます

お久しぶりです。
就活とやる気の問題で
手が動かなかったです(´;ω;`)

文がいつもより少ない…


 

彼の名前を「ヌ―ス」に決めた後、

私達は食堂へと向かう。

 

ヌ―スと言う名前を

みんなに伝えるためだ。

 

昼食の時間になるし、

食堂で全員に伝える方が早い。

 

私のお腹がすいているのも

理由の1つなのは黙っておく。

 

食堂に着くと良い匂いがしてきた。

 

私にとっては朝食になるが、

重たいものでも食べれそうだ。

 

だがその前に、全員にヌ―スを紹介。

 

紹介と言うより名前の報告かな。

 

みんなに理由とか聞かれたけど、

決めた時と同じ説明をした。

 

駆逐達は分かってなさそうだったが、

他の艦娘たちが理解したので良し。

 

報告の後は食事。

 

今日はお試しで用意されていた

魚の定食だった。

 

これなら食べられそうだと思ったが、

私に出されたのはお粥だった。

 

何故だろうと思っていたが、

間宮さんにしっかり説明された。

 

倒れた理由が疲労や寝不足のため、

そのための食事にしたようだ。

 

あれだ、親に「病人はお粥を食え」

と言われている感じだ。

 

私は大人しくお粥を食べる。

 

ヌ―スはただ横に座っていた。

 

本当に僕のような子だ。

 

このままだと食べないだろうから、

間宮さんに頼んでヌ―スの分をもらう。

 

それをヌ―スの前に置く。

 

ヌ―スは驚いていた。

 

何度も「いや…」とか「しかし…」とか

言っていたけど食べさせた。

 

「主より良い物は」とか、

思っているだろうから。

 

ネ音くらいの関係がいいのだが、

生まれが生まれだから仕方ない。

 

とりあえず一緒に食べるように

命令して食べた。

 

食べながら彼のことを見る。

 

ネ音が猫舌だったから

ヌ―スも同じかもしれない。

 

確認はしておかなければならない。

 

だが、それは杞憂(きゆう)だった。

 

普通に熱いみそ汁を飲んでいるから。

 

箸もちゃんと持っている。

 

触手の先が「パカッ」と開き、

手のようにしていた。

 

明石ほどではないが、

ヌ―スの生態が凄く気になった。

 

気になったが、

今は我慢して食事を続けた。

 

 

 

 

 

それからいろいろな事があった。

 

神通教官に特訓させられたり、

駆逐艦と一緒に歌ったり、

踊ったりもした。

 

工廠では面白いことが起きた。

 

検査のために工廠に行くと

2人の明石と妖精が仕事をしていた。

 

私は明石たちと話をしていたのだが、

ヌ―スはなぜか少し離れていた。

 

よく見ると妖精と話していた。

 

机の上で仁王立ちする妖精と

膝をついて下から目線のヌ―ス。

 

見ているだけだと不思議な状態。

 

その妖精の声は聞こえなかったので

髪が崩れているヌ―スに詳しく聞いた。

 

どうやらあの妖精はヌ―スの上司?

のような人らしい。

 

加賀の艤装にいた頃に

お世話になったそうだ。

 

また姿は違っても何かを感じたらしく、

すぐにその存在に気づいたらしい。

 

その後は、同期、他の空母の妖精たちに

泣きながらもみくちゃにされたとか。

 

服や髪の毛が乱れ、

私に失礼だと嘆いているヌ―ス。

 

しかし、そんな彼の顔を見る限り、

まんざらでもなかったようだ。

 

彼がいつも見せてくれる笑顔とは

ちょっと違う嬉しそうな顔。

 

その笑顔を写真に撮りたいと思った。

 

また、その後の検査では

ヌ―スの生態について知れた。

 

体の構造は私達と同じだけど

少し丈夫なのだとか。

 

男性の体だからなのだろう。

 

触手は特殊過ぎて

分からなかったらしい。

 

一番知りたかったが、

諦めることにした。

 

ちなみにだが、「あれ」は付いてない。

 

 

 

交流の時は不思議なことがあった。

 

この鎮守府の空母のほとんどが

私達を受け入れてくれた。

 

二航戦の2人や瑞鳳、祥鳳、龍驤

といった軽空母もいた。

 

しかし、飛龍は一航戦2人の事があり、

みんなのようには受け入れなかった。

 

私達(特に加賀の体である私)に対して

飛龍は冷たい態度を取るのだ。

 

でも、そんな飛龍を見たヌ―スが

顎に触手を当てながら、こう呟いた。

 

「青葉さん。飛龍さんの部屋、机の棚、

上から3段目、ノート②と③。」

 

そう言うと遠くで足音が聞こえ、

飛龍は顔を真っ赤にした。

 

そして、足音がした方に

全力で走っていった。

 

私にとっては謎の単語だが、

空母たちは理解したらしい。

 

本当はヌ―スに詳しく聞きたかったが

これだけは話してくれなかった。

 

この日の夕食の時間では

飛龍に締められる青葉が見られた。

 

 

 

 

 

そんなこんなで数日が経ち、

ついに、この日が来た。

 

今私がいるのは入渠施設。

 

ここの艦娘は勢揃いしている。

 

治っていると言っても怪我はひどい。

 

そのため、駆逐達は他の艦娘たちより

後ろにいて貰っている。

 

ヌ―スと猫さんには

外で待機してもらっている。

 

男子禁制なのだから当たり前である。

 

それが例えヌ―スでもだ。

 

少しずつ減っていく残り時間。

 

たった数分が何時間にも感じる。

 

そんな時間がようやく「0」になる。

 

「……ン…ンン…」

 

呻き声が聞こえるのと同時に瞼が開く。

 

焦点の合っていない目で辺りを見渡す。

 

「…ここは……、私は……確か…。」

 

赤城さんはそう呟いた。

 

その様子を見て我慢できなかったのは

この鎮守府にいる空母たち。

 

続くように泣きながら、喜びながら

みんなが赤城さんのところに集まる。

 

近くにいた駆逐達も

みんな赤城さんの元に向かった。

 

みんなに囲まれて困惑する赤城。

 

私はそれを少し離れた場所で見る。

 

本当なら誰よりも早く

あの場所に行きたかった。

 

私の体がそうしたいと疼いていた。

 

しかし、そうはしなかった。

 

前に出るのは私ではない、

彼女たちだ。

 

加賀さんの体とはいえ、

前に出るべきではない。

 

今の赤城さんに真実を伝えても

納得はしてくれないだろう。

 

それに混乱させてしまう。

 

そう考えたし、猫さんも言ったから

私は前に出ず、後ろで見守る。

 

もちろん皆にも言わないように

お願いをしている。

 

私が赤城さんに関わるのは明日からだ。

 

艦娘たちが人間慣れするために

大本営から来ているという設定で。

 

ヌ―スは私の傍付きとしている。

 

いつかは言わなければいけない。

 

真実を伝えるその時まで。

 

 




赤城さんが目覚めました。
次回から、赤城さんのお世話です。

遅くても4月中には出す予定…


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第14話 目覚めの赤

お久しぶりです。

就活とかモチベの低下などで
筆がのらなかったので
遅くなりました。




 

赤城さんが目覚めた翌日の朝。

 

私は海岸沿いに来ていた。

 

しばらく目にしていなかった

早朝の海の姿。

 

歌うわけではなく、

ただ海を、水平線を眺める。

 

そして聞くのだ。

 

鳥の声を、波の音を、

木々が揺れる音を。

 

天気が良いためか、波は穏やかで、

心地の良い音を鳴らしている。

 

こうやってたまに自然の音を聞く。

 

理由は気持ちを落ち着かせるため。

 

赤城さんが目を覚ましたから、

嬉しくて気分が高揚しているのだ。

 

私だけの気分ではない。

 

心の奥底から気分が高揚している。

 

彼女も気分が高揚している。

 

だからこそ、落ち着かせる。

 

そうやって時間を過ごしていると、

いつの間にかヌ―スが傍にいた。

 

「歌音様、そろそろお時間です。」

 

その彼の言葉に私は頷き、

建物の方へ足を向けた。

 

 

 

 

 

全員が起き始める時間、

私は彼女の部屋の前にいる。

 

ノックをして中に入ると、

体を起こしている彼女と目が合った。

 

彼女は私の突然の訪問に目を丸くした。

 

そんな彼女の傍に行き、

事情を説明する。

 

私が大本営の職員(嘘)で

人に慣れてもらうために来たこと。

 

今日から赤城さんの世話をすること。

 

これからのこの鎮守府の動きの事を。

 

そう言うと彼女はさらに目を丸くした。

 

まあ、これが普通の反応だろう。

 

しばらく眠っていて、

起きたら色々と変わっているのだから。

 

もっと詳しい話は猫さんから聞くか

実際に見た方が早い。

 

だから彼女を執務室に

連れていくことにした。

 

そのためにヌ―スを呼ぶ。

 

すると車椅子を持った

スーツ姿のヌ―スが現れた。

 

ドアは開いていないのに、

突然私の横に出てきた。

 

突然現れたため、

赤城さんは声を出して驚いていた。

 

私は慣れた。

 

私は説明し忘れていた

ヌ―スのことを伝える。

 

明石の実験で人の姿をしたヌ級

(ヲ級帽子)ということ。

 

今は私の傍付きではあるが、

赤城さんの世話もすること。

 

何かあればすぐに来てくれること。

 

ここの艦娘たちが認識している事も。

 

彼女は何となく理解したようだ。

 

詳しい説明は、また後でするため、

赤城さんを車椅子に乗せる。

 

抵抗されることは無かったので

スムーズに乗せることができた。

 

こうして私達は執務室に向かった。

 

生々しい体の傷を

ブランケットで隠してから。

 

 

 

 

 

執務室に到着した私たちは、

部屋の中に入る。

 

部屋では、書類作業をしている

猫さんと霧島、メイド服の響。

 

響は、2人に飲み物を出していた。

 

響は此方に気づくと、

此方に近づいてきた。

 

「いらっしゃい。

今、2人とも取り込み中だから、

そこの椅子でゆっくりしていてほしい。

飲み物、淹れてくるね。」

 

そういい、執務室の

隣の部屋に入っていった。

 

私達は響に言われたように、

椅子に座って待つ。

 

まあ、座ったのは私だけだ。

 

赤城さんは車椅子だし、

ヌ―スは赤城さんの

斜め後ろで待機している。

 

いつでも守れるようにしているのだ。

 

しばらくして、響が戻ってきた。

 

コップは4つ。

 

緑茶が3つ、

オレンジジュースが1つ、

 

このオレンジジュースは響のだろう。

 

そう思っていると、

響はそのコップを取り、

椅子に腰かけてから飲む。

 

とてもおいしそうに飲むその姿は、

普通の子供と変わらない。

 

私はその姿を見ながら、お茶を啜り、

猫さん達の用事が終わるのを待った。

 

数十分ほどして、

猫さん達が席を立った。

 

ようやく作業が終わったのだろう。

 

霧島からは疲れが見える。

 

そのまま霧島は部屋を出ていき、

猫さんは私たちのところに来た。

 

「すまない、前任の残し物が多くてね。

今ので7割といったところだ。」

 

そう言いながら、椅子に座る猫さん。

 

響の出した、冷めている飲み物を、

一気に飲み干し、赤城を見る。

 

「さて、赤城には今の鎮守府の状況を

ちゃんと話しておこうか。

分からないことが多いだろうから。」

 

それから、赤城さんに対して、

今の鎮守府の状況が説明された。

 

今のところ順調に鎮守府は

いい方向に変わっている事。

 

赤城が雪風に話してくれたおかげで、

ここを救うことができたこと。

 

艦娘たちは自分たちの意志で

特訓や立て直しをしている事。

 

響、雷、電、龍田の4人は

艤装は使えなくなってしまったが、

ここの一員として生活していること。

 

後に、この鎮守府に艦娘の職員や

憲兵を配置する予定だということ。

 

など、私も知らないことを

赤城さんに伝えていく。

 

「——と、いったところかな。

後は、自分の目で見てほしい。」

 

猫さんの話が終わると、タイミングよく

ドアを誰かがノックする。

 

猫さんがどうぞと言うと

扉が開いた。

 

すると、雷と電、龍田の3人が

書類を持って入ってきた。

 

「司令官、霧島さんの代わりに

私達が書類を持ってきたわ。」

 

雷は顔が隠れる量の書類を

持ってきて机に置く。

 

「私達もお手伝いなn、はにゃー!」

 

電は何もないところで躓く。

 

体はヌ―スが支えたことで、

怪我をすることは無かったが、

手に持っていた書類は床に散らかった。

 

電は謝りながら書類を拾う。

 

龍田はその様子を見て、

「あらあら」とほほ笑み、書類を拾う。

 

私達も一緒に書類を拾った。

 

ふと、赤城さんの様子を見る。

 

私達の様子を見ていた赤城さんは、

微笑んでいた。

 

彼女の笑顔を見たのは初めてだ。

 

「あ、赤城さんが笑ってる。」

 

雷がそう言うと赤城さんは困惑した。

 

「え?私、笑っていたの?」

 

どうやら無意識に笑っていたようだ。

 

「うう~、赤城さんに

笑われてしまったのです~。」

 

「えっと、そんなつもりじゃ。」

 

恥ずかしくて顔を隠す電。

 

それを見て慌てる赤城さん。

 

それを分かっていながら

からかう雷。

 

それを見て微笑む私達。

 

いつの間にか執務室には

笑顔が広がっていた。

 

 

 

 

 

「うう~、恥ずかしい。」

 

そう言い顔を隠す赤城さんを

食堂に連れていく私達。

 

あの後、慌てふためいた赤城さん。

 

その姿に私たちは笑ってしまった。

 

そのため、真っ赤にした顔を

手で隠してしまった。

 

いつまでも執務室にいると

迷惑をかけてしまうため、

私達は食堂へ向かう。

 

昼になるにはまだ時間がある。

 

食堂では間宮が食事を作っていた。

 

とてもいい匂いにお腹がすいてくる。

 

朝食は赤城さんに会う前に食べたが、

それでもお腹がすく、良い匂いだ。

 

そう思っていると——

 

ぐうぅぅぅぅぅぅううう

 

——私はすぐに下に目線を向けた。

 

今のは、明らかに…

 

「あ、あの…あかぎs『言わないで!』

いや、今のh『忘れて!』」

 

赤城さんは、再び顔を隠した。

 

その様子を見ていた間宮は、

ニコニコしながらやってきた。

 

「可愛らしい音でしたよ。

余り物ですけど、どうぞ。」

 

そう言って、差し出したのは

3つのおにぎり。

 

綺麗な形をしているおにぎりで

内2つには海苔が巻かれていた。

 

赤城さんはそれに目を光らせる。

 

そして再び——

 

「ぐうぅぅぅぅぅぅううう」

 

——大きなおなかの音を鳴らした。

 

余りのいい匂いに

耐えられなかった赤城さん。

 

すぐにおにぎりを掴むと

勢いよく食べ始めた。

 

とても美味しかったのだろう。

 

さっきまでの顔が嘘のように、

執務室で見せた笑顔以上の

笑みを見せていた。

 

その笑顔を見て、

私も間宮も笑顔になる。

 

間宮は涙を流していた。

 

それぐらい赤城さんの笑顔を

見られたことが嬉しいのだろう。

 

私はこの光景を見て、安心している。

 

この光景を見ているから。

 

赤城さんの笑顔を見ているから。

 

そう言う理由もあるが、

もう1つ理由がある。

 

それはここに来た時のみんなと

同じ反応を見せなかったことだ。

 

敵対、疑い、憎悪など、

様々な感情を向けられる。

 

私はそう思っていたのだが、

赤城さんからはそれが無かった。

 

だから、とても安心しているのだ。

 

そんな赤城さんを見ながら、

私は次に何をするかを考える。

 

そして、赤城さんに声をかけ、

次の目的地へと向かった。

 

 

 




改めまして
投稿が遅れて申し訳ありません。

現在、艦これを開くことが億劫な状態で
小説を書くモチベも下がっております。

今後の小説執筆も
時間がかかると思いますが
気長にお待ちいただけると幸いです。

私の作品を楽しみにされている皆さん
今後とも、よろしくお願いいたします。


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第15話 幸せのひと時

学校で書くと集中できるから
早く続きが書ける


 

赤城さんを連れて、

私たちは外に出た。

 

外では艦娘たちが演習をしていた。

 

艦種別で、艦隊で。

 

様々な形で演習をしていた。

 

指導をしているのは、

呉鎮守府から来た睦月型の6人と、

大本営の特殊部隊の面々。

 

彼女たちの指導による演習は、

普通の鎮守府であれば地獄だ。

 

呉鎮守府の面々の指導については

どれぐらい厳しいか分からない。

 

しかし、大本営の指導は

身に染みて理解している。

 

だから地獄だと分かっている。

 

それをこの鎮守府、

復帰して1週間ほどであれば尚の事。

 

そしてそれは、目の前に見えている。

 

神通教官による指導。

 

内容は他の特殊部隊の艦娘が

引いてしまうほど。

 

私は「変わらないな~」と

その光景を見ていた。

 

ヌ―スは教官の動きを見て

何度も相槌を打っていた。

 

何回か「なるほど」や「そう動くのか」

などの言葉が聞こえてきた。

 

赤城さんは顔を引きつっていた。

 

多分、私も同じ反応をするだろう。

 

そんな地獄から目を逸らすと、

平和な空間があった。

 

それは駆逐達による航行演習。

 

呉鎮守府の睦月、如月を中心に

陣形や航行時の注意点などを

実戦形式で教えていた。

 

残りの睦月型は深海棲艦の

絵が描かれたパネルを持っていた。

 

イ級からヲ級までの深海棲艦の姿が

描かれている等身大のパネル。

 

その数や艦種の違いで陣形を変えていた。

 

通常は単縦陣や複縦陣、

ヌ級、ヲ級がいれば輪形陣と変わる。

 

たまに陣形が崩れて話し合い、

確認し合ってもう一度挑戦。

 

そうやって演習を繰り返していた。

 

教官の地獄とは対極な演習。

 

そんな演習をしている姿を、

時間を忘れて見続けていた。

 

 

 

 

 

時は過ぎ、お昼時。

 

鍛錬は一時的に終了し、

みんなが食堂に集まる。

 

駆逐達は元気いっぱいに、

教官の指導を受けた艦娘は

ボロボロの姿で食堂に入る。

 

多くの艦娘がお通夜状態で

机に突っ伏していた。

 

そんな食堂に

赤城さんを連れて入った私達。

 

開いている席を探し、

そこに赤城さんを運ぶ。

 

席まで運んで、私は間宮に

今日のメニューを聞く。

 

今日はみんなでうどんにするそうだ。

 

私は赤城さんのところに戻り、

間宮が作り終えるのを待つことに。

 

待っていると、駆逐達が集まってきた。

 

昨日は目覚めてすぐだったから、

そこまで話せていない。

 

空母たちがメインで話していたから、

赤城さんと話したかったのだろう。

 

何人かは我慢できずに、

泣いたり抱きついたりしていた。

 

食堂全体に響く声で泣く姿を

戦艦や巡洋艦たちは見守っていた。

 

空母たちは、もらい泣きをしており、

色々と我慢していた。

 

駆逐達の中には雪風の姿もあった。

 

雪風も泣く、と思っていたのだが、

赤城さんの方が泣いていた。

 

赤城さんには説明の時に、

雪風の話をしているため、

何があったのかを知っている。

 

だから赤城さんは、

雪風に感謝と謝罪をした。

 

鎮守府を救ってくれたこと、

辛いことをさせてしまったこと。

 

そして、無事でいてくれたこと。

 

赤城さんは、雪風を抱きしめながら

ひたすら謝罪と感謝をした。

 

雪風も腕を背中に回し、

赤城さんを抱きしめた。

 

お互いに涙を流しながら

抱き合う姿を私達は見守る。

 

赤城さんの託した希望が

光を持って戻ってきた。

 

それ故に見ることができた、

この光景を私たちは見続ける。

 

そしてまた、時間を忘れるのだ。

 

いつまでもこの光景を

見ていたいから。

 

そう思ってみていると——

 

「——皆さん、

そろそろ料理を取りに来てください。

早くしないと、お預けにしますよ。」

 

間宮がそう言うと、教官も——

 

「——13:30までに来なければ

罰としてメニューが増えますので、

遅れないように。」

 

そう言って教官は、空になった食器を

間宮に渡して食堂を後にした。

 

その姿を見送った後、

みんな我に戻った。

 

赤城と雪風も、抱き合うのを止めた。

 

今の時間は13:18

残り12分しかない。

 

そのため、みんな急いで

料理を取りに向かう。

 

素早く、綺麗に列を作り、

料理を受け取り、席に着く。

 

その行動力に驚くしかない。

 

私も列に並び、赤城さんの分を貰い、

席に着いて3人で食べる。

 

彼女たちは味わう暇はないが、

私達はゆっくりと味わって食べる。

 

赤城さんは一口目をゆっくり味わうと、

顔を緩めながら満足していた。

 

一口、また一口と口に運んでいく。

 

その手が止まることは無く、

私が半分食べるぐらいの時には

既に器の中は空になっていた。

 

そして、私と空の器を交互に見る。

 

赤城さんが言いたいことを

私はすぐに理解した。

 

それはヌ―スも同じだった。

 

 

ヌ―スは一度、箸を置き、

間宮のところに向かう。

 

お盆を持って戻ってくると、

赤城さんの前にそれを出す。

 

お盆の上には新たなうどん。

 

「間宮様からの伝言です。

食べられるだけお代わりしてください。

とのことです。」

 

ヌ―スは伝言すると、

席に着いて食事を続ける。

 

赤城さんは伝言を聞くと

うどんを口に運ぶ。

 

私とヌ―スが食べ終えるまで

赤城さんはお代わりを続けた。

 

時間にして30分、回数は12回。

 

お腹をさすりながら満足していた。

 

もし、これでまだ入ると言われたら、

私はどんな顔をしていたのだろう。

 

そんな事を考えながら、

少しゆっくりして、食堂を後にした。

 

 

 

 

 

ゆっくりと散歩をしながら

私達は工廠に向かった。

 

工廠では呉鎮守府の明石による

勉強会が開かれていた。

 

ここの明石だけでなく

妖精たちも勉強していた。

 

疑問に思ったこと、考案、

お互いの目線での考えなど。

 

今は使えなくなってしまった

響たちの艤装で勉強している。

 

私達はこの話に

ついていくことはできない。

 

訳の分からない単語が

沢山飛び交うからだ。

 

だから大人しくしている。

 

何人かは整備をしており、

ヌ―スは会話していた。

 

前みたいに色々と話しているようだ。

 

その光景を赤城さんは

不思議そうに見ていた。

 

ヌ―スの事は伝えているが、

話すところを初めて見るから

そんな反応をしたのだろう。

 

赤城さんはずっと、

その様子を見ていた。

 

それは妖精さんたちや私が

赤城さんの名前を呼んでも、

体を揺らしても気づかないほど

集中してその様子を見ていた。

 

その後も工廠から出るまで

明石の勉強会や妖精さんを

見ることはなかった。

 

ずっと上の空、

もしくはヌ―スの方を見ている。

 

夕食の時間も、お風呂の時間も。

 

呼ばれても気づかない。

 

明日になれば戻るだろう。

 

私はそう考えた。

 

もう寝る時間のため、赤城さんが

寝れるように準備をする。

 

部屋にあるタンスから赤城さんの

着替えを準備して用意する。

 

赤城さんを布団に寝かせ、

寝顔を見届け、私も眠りについた。

 

 

 

 

 

そして、数日の時が経った。

 

 




第16話も早いうちに
(早ければ今日中に)
出る予定です。




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第16話 別れと真実、そして…

久々の連続投稿
やる気のある時にするべきだね。


 

赤城さんが目覚めてから数日が経った。

 

大本営・呉の支援により、佐世保は

通常運営できるまで回復した。

 

今は霧島が提督代理、

長門と飛龍が艦隊をまとめている。

 

大本営の特殊部隊は

別任務があるため既にお別れ。

 

呉鎮守府の面々も提督が着いたら、

猫さんと呉に戻ることになっている。

 

あれから変わったことと言えば

新たな職員が増えたこと。

 

大本営から数十人、

伊勢、木曾を中心とした憲兵と

鳥海、白雪を中心とした職員だ。

 

彼女たちは

艤装を使うことはできない。

 

装備しようとすると

体が拒絶してしまう。

 

響たちと同じ状況だ。

 

そんな彼女たちだが、

自分にできることを探していた。

 

艤装が使えない自分たちにできること。

 

そんな彼女たちに訪れた

今回の佐世保の一件。

 

彼女たちは喜んで承諾した。

 

今は職員として響たちと

事務作業、間宮の手伝い、家事などを。

 

憲兵として鎮守府の警備、

鎮守府周辺の捜査などを。

 

各々の役割を(まっと)うしている。

 

新しい提督もあと数日すれば

着任する予定になっている。

 

それまでもうしばらく、

ここで過ごすことになる。

 

話しは変わるが、赤城さんは

あれから変わらなかった。

 

上の空になることや

ヌ―スを見ることが多い。

 

何かを感じ取ったのだろうか。

 

薄々、ヌ―スの正体に

気づいたのだろう。

 

私はそう考えている。

 

そう思いながら私は赤城さんを

食堂まで連れて行った。

 

 

 

 

 

食堂に行くと久しい顔を見た。

 

それは目に大きな隈を作った秋雲。

 

怠そうに机に伏していた。

 

こうなるのも仕方がないだろう。

 

彼女はずっと

朝潮の監視をしていたのだから。

 

私はそんな秋雲の頭を撫でる。

 

前線基地の秋雲を思い出す。

 

お世話をしていた時を。

 

少し懐かしく思っていると——

 

「すぅー、すぅー」

 

秋雲が寝息を立て始めた。

 

余程疲れがたまっていたのだろう。

 

だが、もう少しすれば

食堂に人が集まってしまう。

 

秋雲をこのままにすべきではないと

そう思った私は、秋雲を抱きあげる。

 

赤城さんの事をヌ―スに任せ、

私は秋雲を部屋に連れて行った。

 

部屋は私達と同じなので

布団を引いてそこで寝かせる。

 

食堂に戻る前に雷たちを見つけたため、

秋雲の事を伝えておいた。

 

偶に顔を出して、

様子を見てもらうように。

 

そうして食堂に戻った。

 

かなり人が増えた食堂。

 

そこでは…。

 

「どうしても、

教えてはくれないのですか?」

 

「どうしてもですよ、赤城様。

私があなたにお話しできるのは、

歌音様に許されたことのみ。

それに、あなたが知りたいことは

私が簡単に話していい事ではない。

それほどの事ですので。」

 

ヌ―スと赤城さんが話していた。

 

周りの事は気にしていないようだ。

 

それほど聞き出したいのだろうか。

 

内容を聞いた感じだと、

恐らくヌ―スの事だ。

 

やはり、正体がバレているのだろう。

 

私は聞かなかったことにして戻る。

 

すると、赤城さんは私に聞いてきた。

 

「歌音さん、教えてください!

彼の正体を!」

 

机をバンッ!と叩き、

真剣で鋭い目をする赤城さん。

 

周りが驚いていることにも、

自分の体の痛みにも気づいていない。

 

私はなるべく冷静に返答する。

 

「教えたはずですよ、実験で生まれた

元はヲ級の艤装でありヌ級であると。」

 

「嘘を…言わないで…。」

 

「嘘では…。」

 

「ならどうして!

私の艤装妖精との会話の中に昔の、

加賀さんと私が競い合った時の

撃墜数の話が出てくるんですか!」

 

その言葉に私は驚いた。

 

ヌ―スと妖精の会話を聞いた中に

そんな言葉が出ていたとは。

 

恐らく、加賀の装備にいた時の話を

赤城さんが聞いてしまったのだろう。

 

だが、私はこれ以上に

さらに驚かされることになる。

 

それは続けていった赤城さんの言葉。

 

「それに、何故あなたが、あの部屋の、

タンスの中の配置を知っているの!

あのタンスの中の配置を知っているのは

私と加賀さんだけしかいないのに!

どうして服の場所が分かったの!」

 

私はハッとして思い出す。

 

無意識だった。

 

私はこの数日、あの部屋のタンスから

迷うことなく赤城さんの服を出した。

 

まるでそこにあるのが

当然だと言うように。

 

服は全てバラバラな配置で初見では

どこにあるか分からないはずなのに。

 

加賀の体であるが故に

動きが身に染みていたのだ。

 

自分の中で

当たり前のようになっていたのだ。

 

この発言によって

私の体から冷や汗が出てくる。

 

言い逃れができない失態を

私がしてしまった。

 

「ずっと気になっていたの。

彼の話の内容と貴方の行動。

見えているのに見えない事、

まるで加賀さんがそこにいる、

そう思えてしまうことに。」

 

赤城さんの言いたいことは分かる。

私の行動が加賀のようなのは、

私の体が加賀のものだから。

 

そこから沈黙が続いた。

 

短いようで長い沈黙。

 

その間に私は考えた。

 

最近の赤城さんの様子が変なのは

ヌ―スの事だけでなく、

私も含まれていた。

 

無意識とはいえ、

想定より早く気づかれた。

 

だから悩んだ。

 

このまま真実を伝えるかどうか。

 

これは残酷な真実だ。

 

加賀とエラー娘の言っていた

加賀さんの消失トリガーが、

真実を告げることなら。

 

すぐにお別れになるだろう。

 

だから私は、赤城さんに問う。

 

「赤城さん、このことを伝えるには

貴方の覚悟も必要です。

真実を知る覚悟がありますか。」

 

私の問いに赤城さんは答えた。

 

「…教えてください。

覚悟は、出来ています。」

 

その言葉を聞いて、私は

大きく深呼吸をした。

 

そして、真実を語る。

 

それは、私がここに生まれてからの事。

 

私の死

 

転生

 

加賀の言葉

 

目的

 

これまでの事

 

ヌ―スの事

 

そして、私のこれからの事…。

 

全ての真実を赤城さんに、

ここに居る者に告げた。

 

「これが、真実です。

本来深海棲艦として蘇るはずの

加賀の体に入ったイレギュラーが私。

そして、私は赤城さんに真実を伝えた。

恐らくこれがトリガーになる。」

 

そう言うと私の体は光始めた。

 

予想通り、真実の公開が発動条件。

 

加賀の成仏が始まった。

 

体は次第に半透明になっていく。

 

「歌音様!」

 

「この体の、加賀の依頼は…

ここへの帰還と、ここを救う事。

すでに達成されていたのよ。」

 

体に力が入らなくなり、

眼も次第に見えなくなる。

 

まるで役目を終えたかのように。

 

倒れる体はヌ―スが支えた。

 

「私は…どうなるか、分からない。

この方法なら、私の魂は助かるかも、と

一度、私は拒否したけど、あの人は…

加賀は、覚悟して…この選択をしたの。

私を、攻撃して、敵になってまで…。」

 

私はあの戦いの事を話す。

 

お互いが覚悟を決めた、

あの時のことを。

 

「私も、覚悟はできているの…

仮に、ここで消えてしまっても…

目的は…達成したのだから…。」

 

さらに光は濃くなっていく。

 

反対に私の体は薄くなっていく。

 

でも、不思議と恐怖はない。

 

加賀と別れると決めた時、

あれほど嫌がっていたのに。

 

「ヌ―ス…私が消えたら…

赤城さんを…ネ音を…

キューちゃんたちを

よろしく…ね……。」

 

次第に意識が薄れていく。

 

目の前の景色も白く染まり、

何も、聞こえない…。

 

 

 

 

 

真っ白な空間

 

何も無い

 

静寂だk「何を言っているの?」

 

声が聞こえた

 

私の知っているあの声。

 

「生きているのだから、当たり前よ。」

 

私は…生きている?

 

「貴方はまだ、消えていないわ。」

 

光が集まっていた。

 

そこから形が出来上がる。

 

見たことのあるサイドテールに

青色の袴を履いた女性。

 

いつもの加賀の姿がそこにあった。

 

何故かいつもより

私の視線が上に向くが。

 

「ここは、まだ貴方の体の中。

いつもあなたと会っていた場所。

その体のあなたは初めてだけど。」

 

そう言われたため、

私は自分の体を見る。

 

私は何故か制服を着ていた。

 

肩まで伸びた黒髪、ローファー、

白のワイシャツに黒のスカート。

 

間違いなく前世の姿だ。

 

今まではヲ級の姿だったのに。

 

「それは貴方の魂が

混じり気のない、純粋な

貴方だけの魂になったから。」

 

「そして、これから元に戻る。」

 

声がした。

 

そこにいたのはエラー娘。

 

「加賀、もう時間になる。

そろそろ準備をしてくれ。」

 

エラー娘はそれだけ言って消えた。

 

そして、加賀の体は光だした。

 

私は無意識に走って、

加賀に飛び込んだ。

 

別れを意識すると、悲しくなる。

 

辛い、嫌だ、そんな思いで飛び込んだ。

 

だが、その思いと行動は無駄に終わる。

 

私の体は加賀の体をすり抜けたのだ。

 

私はそのまま倒れる。

 

「もうお別れなのよ。

貴方が私に触れることはできないの。

でも、その逆はできる。」

 

加賀は私を抱きあげ、抱きしめた。

 

触れなかったのに、触れている。

 

暖かい、温もりを感じる。

 

涙が、止まらない…。

 

そんな私の頭を撫でながら、

加賀は話し出した。

 

「これで貴方とはお別れ。

だから、貴方に感謝したいの。

歌音、赤城さんと鎮守府を

救ってくれてありがとう。」

 

加賀は腕を離すと、

自分の髪留めを外す。

 

そしてそれで、私の髪を結んだ。

 

加賀と同じ、サイドテールに。

 

そして、加賀の光が濃くなる。

 

さっきの私のように。

 

少しずつ上に浮いていく。

 

そんな状態の加賀から

あることを伝えられる。

 

「そうそう、私は貴方に

一つだけ嘘をついていたの。

貴方の魂が残るのは確定よ。

あの妖精と話して真実を隠したの。

そうしないと、貴方は私と

消える道を選ぶはずだから。

だから、赤城さんと鎮守府を

よろしく頼むわよ、歌音。

鎧袖一触よ、心配いらないわ。」

 

その言葉と同時に、この空間を

真っ白い光が埋め尽くした。

 

体の感覚は無い。

 

さっきまでの体も見えない

 

何も無い空間

 

真っ白い世界

 

そこに声が聞こえた

 

『歌音、ありがとう。さようなら。』

 

その言葉を最後に、全てが…。

 

 

 

 

 

 




急展開にしたのは
私の発想がこれ以上でないから。

でも、これでいいと思う。
やりたいことはできているから。


みんなは、どんな別れの言葉を残したい?
私は

『笑え。その笑顔が、
俺の天国への切符だ。』

俺が死ぬときはそう言おう。


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第17話 『おかえり』と『ただいま』を

 

 

『さすがですね、赤城さん。

私も、研鑽を積まなければ…。』

 

『私は沈みませんよ…。

鎧袖一触です、心配いらないわ。』

 

『ごめんなさい…、

私は…先に……。』

 

——聞こえてくる誰かの声

 

誰かの記憶だろうか?

 

顔は分からない

 

でも、聞き覚えがある

 

姿にも、見覚えがある

 

どうしてだろう、

悲しくなる…。

 

この感情は、一体…?

 

分からない…真っ白…

思い…出せない…。

 

『よお。』

 

声がした…。

 

小さい…子供?猫?

 

『ああ、気にするな。

私がお前を知っているだけだ。』

 

何で知っているの…?

 

『それを知る必要はない。

ここで話したことは忘れるからな。』

 

…………

 

『ここでの記憶は朧げになる。

微かに残っているくらいだ。』

 

……私は…

 

『それも気にするな。

この会話が終われば、目が覚める。

私と会うことはもうないだろう。』

 

その発言の後、周りが輝きだした。

 

『目覚めの時間だ、イレギュラー。

GOOD LUCK。』

 

世界が白く染まる。

 

私はどうなるのだろうか……。

 

分からない……

 

でも、さっきの言葉は、

何故か、暖かく感じた。

 

 

 

 

 

——暗い、苦しい…

 

息が、できない……

 

どうして……?

 

私は、目を開ける。

 

映るのは、差し込む光と泡…。

 

……泡?泡⁈

 

私は驚いて、口から泡を出した。

 

苦しくて、もがきながら

光に向かって一気に体を運ぶ。

 

「プハッ!はぁっ…!はぁっ…。」

 

大きな音を立てて、這い出る。

 

水、暖かいからお湯だろうか?

 

薬のような変な味のするお湯を

飲み込んだため、何度も咳き込んだ。

 

呼吸を整えながら、周りを見て、

ここがどこなのかを確認する。

 

見覚えのある壁、設備、

そして緑の液体。

 

「ここは……浴、場?」

 

間違いない、

佐世保鎮守府の浴場だ。

 

しかも、壁が後ろにあり、

風呂の淵には黒い汚れがついている。

 

これは何度掃除しても落ちなかった

赤城さんを治したところだ。

 

なんでこんなところにいるのだろうか。

 

そう思っていると、声が聞こえてきた。

 

『——なのです!本当なのです!

お風呂に誰かいるのです!!』

 

分かり易い語尾、電の声だ。

 

『こんな時間にいないと思うけど…

まあ、仕事だから確認はするわよ。』

 

この声は…確か、伊勢?

 

鎮守府の警備をしていたのだろう。

 

扉が開き、まぶしい光が私を照らす。

 

「誰!こんな暗いところにいるのは!」

 

伊勢がそう叫び、私を照らす。

 

普通に明るいと思うのだが…。

 

あ、私が夜目なのを忘れていた。

 

最近使ってなかったから忘れていた。

 

「誰かいるのです、誰なのです⁈」

 

怯えた声でそう言う電。

 

だが、私からはその姿が見えない。

 

とりあえず、明かりを消してほしい。

 

そう思っていると、

しばらくして浴室の電気がついた。

 

そして再び、目が痛くなった。

 

私は何度も目を擦り、

視界が元に戻るのを待つ。

 

数十秒ほどで視力が回復したため、

改めて電たちの方を見る。

 

「あなた、一体どうやって入ったの?

ここは関係者以外立ち入り禁止よ。」

 

伊勢にそう言われる私。

 

少なくとも、

伊勢たちは私の姿を知っている。

 

ここに来たら、

最初に説明しているからだ。

 

「初めて見る方なのです。

でも、髪型は加賀さんとなのです。」

 

そう言われた私は、

すぐに近くの鏡を見た。

 

そこに映っていたのは

黒髪のサイドテールの少女。

 

間違いない。

 

これは前世の、

加賀と話したときの姿だ。

 

肌の色は少し白っぽいが、

それ以外は完全に私の姿。

 

あの時にしてもらった

加賀の髪型でリボンも加賀の物。

 

それに、加賀の言葉を思い出した。

 

私が生き残ることは決定事項。

 

消えるのは加賀だけ。

 

加賀が私についた嘘。

 

とても悲しく、辛いけど、

私のためについた嘘。

 

だから泣くのは我慢する。

 

加賀は私の中にいるから。

 

あの時の事を思い出していると、

肩を掴まれた。

 

隣には伊勢が立っていた。

 

身長も元に戻ったせいで

伊勢がとても大きく感じた。

 

少し体が後ろに引いた。

 

「貴方が何者かは知らないけど、

着いてきてもらうわよ。」

 

そういい、私をタオルで包むと

俵のように担がれ、連行された。

 

 

 

 

 

連行されて、しばらく経つと

伊勢の動きが止まった。

 

どうやら目的地に着いたようだ。

 

「ん?伊勢さん、それなんですか?」

 

この声は、木曾?だろうか。

 

ということは、私は憲兵のところに

連れていかれたようだ。

 

「不法侵入者よ。今日は遅いから、

営倉にでも入れておくわ。」

 

私は、建物の中に連れていかれた。

 

後ろが見えるように運ばれているので

木曾と何人かに見られながら運ばれる。

 

どこかの階段を下りていき、

地下と思われる場所へ。

 

そこは鉄格子がいくつもあり、」

 

私はその一番手前に入れられた。

 

手は拘束されて、何もできない。

 

体はタオル一枚だったが、

流石に布団を貰えた。

 

朝には服を貰えるらしい。

 

「明日、じっくりお話しするから、

それまで覚悟をしておきなさい。」

 

伊勢は去っていった。

 

私はそれを見送った後、

できることをした。

 

だが、体は思うように動かず、

声は喉に何かが引っかかって出ない。

 

何度も何度も繰り返したが、

結局、上手くは行かなかった。

 

しばらくして眠気が増し、

私は目を閉じた。

 

そして、気が付くと

目の前に伊勢がいた。

 

拘束を解かれ、服を着せられた私は

再び俵のように運ばれた。

 

向かう先は食堂。

 

料理にでも使われるのだろうか。

 

そんなバカなことを考えていると、

食堂の端っこに連れていかれた。

 

艦娘たちは気になって

こっちを見ている。

 

しばらく待っていると、

霧島がやってきた。

 

「さあ、お話をしましょうか?

可愛い侵入者さん。」

 

その後ろには、

猫さんと長門、飛龍がいる。

 

完全な警戒態勢。

 

とりあえず、自分の事を話そうと

思ったのだが、

 

「……ぅぅ、ぅぁぅ…ぅぅ。」

 

やはり声が出なかった。

 

どう頑張っても、声が出ない。

 

発声練習の時のように

声を出そうとしても出なかった。

 

筆談も試みたのだが、昨日のように

指先に力が入らなかった。

 

今までできていたことができず、

途方に暮れる私。

 

周りもどうしようかと悩んでいる。

 

何かいい方法はないのか。

 

そう悩んでいるとき、

誰かが食堂に入ってきた。

 

「どうしました、皆様?

お集まりになって何を……。」

 

やってきたのは、ヌ―ス。

 

赤城さんを連れて

食堂にやってきたのだ。

 

ヌ―スは私を見ると目を見開いた。

 

すると、赤城さんに何か言って、

私の前にやってくる。

 

一言、「失礼します。」と言って

私の体に触手を伸ばす。

 

そして、私の口に…

触手を突っ込んだ。

 

ヌメヌメしたものが

私の口を通り、喉をかき回す。

 

周りからは「うわぁ」と言う声。

 

何度も嗚咽しそうになる。

 

食事の場ですることじゃない。

 

でも、力が入らないため、

抵抗することもできない。

 

しばらくの間、触手は私の喉を

かき回し、ようやく口から抜けた。

 

数十秒ほどだったが、

何十分にも感じた。

 

とても苦しかったのと

不快感から、私は怒った。

 

「ゴホッ、いきなり何するの!

……って声が出せる!」

 

私は、声が出せることに驚いた。

 

さっきまでの突っかかりが

嘘のように無くなり、清々しく感じる。

 

「喉の奥が少し変わった形でして

私の触手で直しておきました。」

 

そう言い、手の触手を私の髪、

正確には髪飾りに伸ばした。

 

「貴方に触れて気づきました。

まさかとは思いましたが、

髪留めに微かに残った感覚、

これは加賀様の物ですね。」

 

髪留めに触れてそう言うと、

触手を私の手、顔に伸ばしてくる。

 

「そして、貴方から感じるこの感覚。

たった1日の間でしたが、

とても懐かしく感じます。」

 

ヌ―スは片膝をつき、

私の手を取った。

 

お姫様の手を取る王子のように。

 

「お待ちしておりました。

おかえりなさいませ、歌音様。」

 

その言葉に、周りがざわついた。

 

「歌音さん?」「歌音なの、本当に?」

 

中には私の名前を呼ぶ声が聞こえる。

 

猫さんからは

「おかえり」と言われた。

 

猫さんはヌ―スの言葉を

信じたのだろう。

 

それにつられてか、みんなも

私に「おかえり」と言ってくれた。

 

何人かは泣きながら私に抱き着いた。

 

この前の赤城さんと同じ状況だ。

 

特に秋雲は大泣きして抱きついてきた。

 

寝ている間の事だったから、

感情が整理できなかったんだろう。

 

何度も、何度も、

私に「おかえり」と言ってくれた。

 

おかえり、おかえりなさい。

 

この言葉の温かさを

私はよく知っている。

 

私は言う側だったため、

久しぶりに、この言葉を受け取った。

 

私を受け入れてくれる場所で

送られる温かい言葉。

 

だから、この言葉を返す。

 

「ただいま。ヌ―ス、みんな…!」

 

私もつられて、涙を流す。

 

そして、秋雲の頭を撫でながら、

泣きながら歌った。

 




歌音の体は元(前世)の体に戻りました。
詳しくはまた次回に。



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第18話 襲来の朝

第三章
残り何話で
終わるだろう


 

真実を伝え、消えるのか残るのか

分からなかった私。

 

それは加賀がついた嘘で、

私が残るのは確定だった。

 

浴場で復活し、前世の姿で

色白の肌になった私は、

呉の明石にすぐに検査された。

 

体は空母ヲ級から艦娘へと変化し、

人より頑丈な体になった。

 

体に力が入らなかったのは

この体に馴染(なじ)んでいないから。

 

早ければ数日で

元通りの動きができるらしい。

 

しばらくは、お世話されるらしい。

 

その言葉に喜んだのは秋雲とヌ―ス。

 

とても嫌な予感がしたが、

その予想は正しかった。

 

ヌ―スは完ぺきに世話をした。

 

どこで身に付けたのかは知らないが、

お姫様のようにお世話された。

 

髪を()かし、服を着替えさせ、

食事を用意し、食べさせてくる。

 

抵抗できない私は

されるがまま、世話をされた。

 

秋雲はその様子を見て、

何やらメモを取っていた。

 

そのメモ帳の表紙には、

こう書かれていた。

 

『ネタ帳 報告用』と。

 

恐らく、というより間違いなく、

基地の秋雲に送られるネタだろう。

 

だが、私になす術はない。

 

特に大変だったのは

駆逐の子たちだ。

 

姿の変わった私に興味を持ったのか、

周りに集まるようになった。

 

集まるだけならいいのだが、

みんなでお世話をするために、

立場を取り合うのだ。

 

お互いに譲らない駆逐達。

 

それを見た軽巡以上の艦娘たちが

上手いことまとめてくれる。

 

私と赤城さんの2人に担当を分け、

日付ごとに変わるようにしてくれた。

 

お陰で駆逐達は満足し、

負担は少なく済んでいる。

 

リハビリの時は明石たちが

無理のないようにしてくれた。

 

私に合わせたリハビリ用の設備、

移動用の車椅子。

 

簡易的なバリアフリーの設備も

私の行動する範囲に用意してくれた。

 

食事の面ではもちろん

間宮が担当してくれた。

 

明石や猫さんと話し合い、

食事のメニューを考えてくれた。

 

味は申し分なし。

 

文句なんてあるわけがなかった。

 

たまに駆逐達が作ってくれた。

 

間宮が忙しい時に

代わりに作ってくれたのだ。

 

間宮の料理に慣れてしまうと

感想が言いづらいが、

美味しいことに変わりはない。

 

丹精込めて作ってくれたのだ。

 

赤城さんも一緒に食べ、

いつも通りにお代わりをする。

 

赤城さんは私と食べた時以上に

お代わりをしていた。

 

目覚めてから数日間。

 

いろんな楽しい時間を過ごしてきた。

 

一緒に歌を歌ったり、食事をしたり、

リハビリの応援をしてもらったり。

 

動けるようになってからは

無理のない範囲で遊んだ。

 

赤城さんとは、よく散歩をしたり、

空母たちと一緒に会話をしたりした。

 

体を動かすために弓道場で

矢を打つこともあった。

 

赤城さんは車椅子に乗ったまま、

綺麗な形で打っていた。

 

みんなで競い合うこともあったし、

飛龍に挑まれたこともあった。

 

何度も挑戦してきたため、

飛龍の隠し事を話すことを

条件にしてみた。

 

そうしたら、すぐに引き下がった。

 

あわよくば聞き出そうと思っていたが、

残念ながら知ることはできなかった。

 

楽しかった。

 

気を緩ませて、ゆっくりできる時間が。

 

懐かしく感じるこの時間が、

私を楽しませてくれた。

 

だが、そんな時間は

早く経ってしまうものだ。

 

私が目覚めて一週間もなかったが、

この鎮守府に新たな提督が着任する。

 

数日前に聞いていたことだ。

 

その日がもう来たのだ。

 

私達はその提督の到着を

待つことになった。

 

 

 

 

 

私達は食堂でゆったりとしている。

 

新たな提督が来るまで

時間に余裕があるからだ。

 

リハビリのお陰である程度動ける私は、

自分で食事を運ぶ。

 

赤城さんの分も運び、

駆逐達と一緒にゆっくりと食べる。

 

すると、大きな音が鳴った。

 

爆発したような、壊れるような。

 

何かデジャブを感じた私は、

急いで食堂を出る。

 

目線の先には走ってくる白雪と

艤装を持った朝潮。

 

どうやって出てきたのか、

どこから艤装を持ち出したのか。

 

詳しいことは分からないが、

白雪を逃がさなければいけない。

 

それは私の後ろにいる

ヌ―スも分かっていた。

 

だからヌ―スは

白雪と朝潮の間に入った。

 

私は白雪を誘導し、食堂に避難させる。

 

私も避難しようとすると、

 

「歌音様!危ない!」

 

ヌ―スがそう叫んだ。

 

私が振り向くと、

そこには黒い煙と黒く汚れたヌ―ス、

こちらに向かってくる朝潮。

 

距離にして約20m、それよりも少ない。

 

朝潮は跳躍しながら、

こちらに砲を向けていた。

 

私は自分の死を悟った。

 

黒煙とヌ―スの様子から

撃たれたことが分かる。

 

そして、私に向ける鋭い目と

こちらを向く煙を出したままの砲。

 

私に対する敵意と殺気。

 

とてつもなく強く、恐ろしいものだ。

 

そのため私は怯んでしまった。

 

そのため、反撃はできない。

 

自分の身を守ることだけしか

この時の私には浮かばなかった。

 

「死」と言うものが

私の頭にちらつく。

 

周りがゆっくりに見えた。

 

本当に死ぬのだろうか。

 

そう思い腕で顔を守り、目を閉じた。

 

怖かった、死ぬのではないかと

恐怖したことで体が震えた。

 

しかし、痛みは

いつになってもやってこない。

 

私は震えながら目をゆっくりと開ける。

 

するとそこには、ヌ―スではない、

黒髪のロングヘアで白い軍服を着た

人物が立っていた。

 

「まったく、着任早々に仕事なんて、

先が思いやられますね。」

 

そう言う人物。

声からして女性だろう。

 

女性の見る方向を見ると、

倒れている朝潮が。

 

その手には艤装が無く、

女性の手に握られていた。

 

目を瞑っていたため、

何が起こったのか分からない。

 

この女性が守ってくれたことと、

朝潮の艤装を奪ったこと。

 

私に理解できたのはそれだけだった。

 

女性はそのまま朝潮に近づく。

 

朝潮は倒れた状態で、

後ずさりをしながら砂や石を投げる。

 

それが当たっても女性は。

気にせずに朝潮に近づいていく。

 

そして、朝潮の目の前まで行くと

そのまま艤装、砲を向けた。

 

だが、艤装を扱えるのは艦娘だけ。

 

人間が艤装を扱うことはできない。

 

それを知っている朝潮は

女性に向かって余裕の表情を見せる。

 

「それで私を殺るつもりですか?」

 

撃たれることは無い。

 

私も、朝潮も、ヌ―スも、

そう思っていた。

 

だが、その考えは

『ドンッ』という音でかき消された。

 

朝潮の顔の横、その後ろの地面に

穴が開き、黒い煙が上がっている。

 

それは間違いなく、女性が撃ったもの。

 

「その必要は無いわ。」

 

女性は砲を下ろし、こちらを向くと、

私に向かって敬礼した。

 

「自己紹介がまだでしたね。

本日より佐世保鎮守府に着任します、

朝一 潮奈(あさかず しおな)』少佐です。

以後、お見知りおきを。」

 

あいさつをしてくれた女性、潮奈は、

新しく配属される提督だった。

 

紹介が終わると、

後ろから足音が聞こえた。

 

足音の方に振り向くと、

みんながやってきた。

 

砲撃音を聞いてきたのだろう。

 

何人かは艤装を付けている。

 

朝潮のいる方からも

足音が聞こえ、大きくなった。

 

やってきたのは憲兵たち。

 

そのうち一人は

肩を借りて歩いている。

 

服がボロボロになっていて、

黒く汚れ、血も流している。

 

恐らく朝潮に襲われたのだろう。

 

その朝潮はヌ―スがしっかりと

拘束してくれている。

 

ボロボロの憲兵を見て、

潮奈は憲兵たちに話を聞いた。

 

今の朝潮は憲兵たちが

交代で監視している。

 

無理のないように、

秋雲と話し合って決めたらしい。

 

今回は昼食を出したところ、

檻を破ってきたらしい。

 

どこからか艤装を取り出し、

憲兵を砲撃したそうだ。

 

白雪は昼食を届けに来ていて、

その時に襲われたそうだ。

 

後で営倉を確かめる必要がありそうだ。

 

憲兵は元が艦娘であることが

幸いしたのだろう。

 

大事には至らず、入渠で治るそうだ。

 

潮奈は話を聞いた後、朝潮に近づく。

 

朝潮はヌ―スに捕まっている。

 

無理やりにでも解こうとするが、

その拘束は解かれることは無い。

 

そんな朝潮に対して潮奈は——

 

「駆逐艦朝潮は、所詮その程度なのね。

流石、何も守れなかったお人形さん。」

 

——と、発言した。

 




新キャラ潮奈の登場です。
詳細は次回に


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第19話 問題児

 

「なんですって!」

 

潮奈の発言に怒りを表す朝潮。

 

「だってそうでしょう?

貴方は提督の指示を、

疑いもせずに従ってきた。

提督の命令のためなら

どんな命令であろうと。」

 

潮奈は淡々と語っていく。

 

それは朝潮の今までの行為。

 

私の知っていることもあれば、

全く聞いたことのない話まで。

 

「でも、なにも守れていない。

仲間も、居場所も、命令も、

従っていた提督も捕まって、

何一つ守れずに営倉送り。」

 

「黙れ!」

 

「まあ、怒るのも無理ないわよね。

貴方は、全てから目を背けて、

責任から逃げだしたのだから。」

 

逃げ出した。

 

その言葉を聞いた朝潮は、

さらに暴れる。

 

今すぐに殺してやる。

そう感じる殺気を。

 

何度も唸りながら、

ヌ―スの拘束を解こうとする。

 

だが、潮奈は口を閉じない。

 

ずっと朝潮を侮辱する。

 

「吠えたところで何ができるの?

自分だけ生き残って、恥ずかしいわね。

朝潮型の恥さらし、役立たず。

便所のネズミの方が、まだマシね。」

 

「っ!うるさい!黙れぇぇぇぇ!」

 

朝潮は吠えた。

 

顔を真っ赤にして、体を震わせる。

 

そして、強引にヌ―スの拘束を解いた。

 

いや、ヌ―スが拘束を解いた。

 

意図は分からないが、

何かしらの理由はあるのだろう。

 

朝潮は、潮奈に向かって走る。

 

潮奈は動かない。

 

憲兵たちは急いで

取り押さえるために走る。

 

だが、どの憲兵も遠い位置にいる。

 

私も今の位置からでは割り込めない。

 

恐怖のせいで体が動かないのもある。

 

その間にも朝潮は距離を詰める。

 

既に殴り掛かるモーションに入った。

 

右手に力を込めて殴り掛かる。

 

その時、潮奈が動いた。

 

持っていた艤装を上に投げ、

殴りかかってくる朝潮の右手を掴み、

胸元を右手で掴んで、足を払う。

 

そのまま、朝潮を地面に叩きつけた。

 

「がはっ!」

 

「結局、何もできない。

それが今のあなた。」

 

朝潮を見ながら潮奈はそう言い、

投げた艤装を左手で掴む。

 

それを朝潮に向けた。

 

「そして、これでさようなら。」

 

潮奈は、朝潮に向けて砲撃をした。

 

カチッ!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

………沈黙が続いた。

 

この場には風の音と、

全員の呼吸音だけが聞こえる。

 

砲は朝潮の顔を向いたまま沈黙し、

潮奈もそのまま止まった。

 

朝潮は体を震わせながら、

荒い息をしている。

 

全員が息を呑んでいる状態。

 

その沈黙を破ったのは潮奈だった。

 

「あ~あ、弾切れか。」

 

そう言って、朝潮を離すと、

立ち上がって砲を捨てた。

 

「まあ、貴方を殺したところで

私に得なんてないから、

やる意味なかったけどね。」

 

潮奈は、笑いながら言った。

 

その笑いに、

全員が口を開けて固まった。

 

それは朝潮も例外ではない。

 

一体何のために

こんなことをしたのだろう。

 

朝潮を挑発し、拘束し、

砲撃までしようとした。

 

この一連の行動に、

私は疑問しか浮かばなかった。

 

「まったく。お前にはやり過ぎるなと

散々忠告しただろ、潮奈。」

 

唖然としていたところに

猫さんが出てきた。

 

どうやら2人は面識があるそうだ。

 

「あ、お久しぶりです師匠!」

 

『師匠⁈』

 

「こいつが勝手に呼んでいるだけだ。

弟子にした覚えはないぞ、問題児。」

 

どうやら2人は

師弟関係だったようだ。

 

潮奈からの一方的なものだが。

 

話を聞く感じ、

長い付き合いなのだろうか。

 

気になって聞いてみた。

 

「俺が大本営に行ってた時に

ちょっと世話した奴だよ。

こいつのせいで何人も鬱になって

俺が駆り出されたんだからな。」

 

どうやら色々とあったようだ。

 

鬱になると言うのは

何となく分かったような気がする。

 

鬱というか、トラウマになる。

 

相手に対して容赦のない発言と

組み伏せるだけの実力。

 

そんな潮奈に対して駆逐達が

疑問に思ったことを聞く。

 

「ねえ、潮奈さん。

なんで艤装を使えるの?」

 

「ん?私が艤装を使える理由?」

 

「うん、だって艤装は

艦娘にしか使えないんでしょ?

なんで潮奈さんは使えるの?」

 

この言葉でみんなの注目が

潮奈に集まった。

 

此処に居る大半が気になっていたこと。

 

潮奈は、『ん~』と悩みながら

猫さんの方を向いた。

 

自分のことを話していいか、

許可を求めているのだろう。

 

猫さんも悩んだがすぐに答えを出した。

 

「別にいいんじゃないかな。

ここのみんなには教えても。」

 

「…そうですね。この事実は

ここの人たちには良いでしょうから。」

 

そう言うと、一呼吸おいて

自分の正体を明かした。

 

「私は大本営から『朝一潮奈』

と言う名を貰った元艦娘。

本当の名前は朝潮型1番艦、朝潮です。

艤装が使えるのはそう言うことですよ。」

 

潮奈は朝潮型のネームシップ、朝潮。

 

『朝』一『潮』奈。

 

最初から分かることだった。

 

名前に朝潮が使われているのだから。

 

自分の名前を明かし、朝潮に近づく。

 

「艦娘として戦えない相手に

戦いで負けた気分はどうかしら?」

 

「…………」

 

「私は大規模作戦中に妹を庇って、

轟沈寸前の重傷を負った。

その結果、私は浮上用の艤装を

使うことができなくなったわ。

艦娘として戦えないから

本当なら海に出て戦いたいけど、

それができないから別の形で

戦場に出る方法を探した。

そして此処に来た。

守るべきものを守るためにね。

此処に居る人たちも同じよ。

自分で戦う道を探して、ここに来た。

どのような形であれ、

戦っているというのは同じなの。

だから考え方を変えてみなさい。

貴方を縛っているその命令に

従う必要は、もうないのだから。」

 

朝潮はそれをただ聞くだけだった。

 

艦娘として戦えなくなった

彼女たちの別の形での戦い方。

 

戦わない者の始末。

 

それがこの鎮守府の呪い、

前提督が残したとんでもない置き土産。

 

その命令に忠実に従っていた朝潮。

 

しかし、その命令もこの発言により

適用されることがなくなった。

 

もう朝潮は、

みんなを襲うことは無いだろう。

 

…そう思っていたのだが、

事はそう簡単には終わらなかった。

 

「……ない」

 

「ん?」

 

「認めない!そんなもので

戦っているなんて!認めるものか!」

 

これだけ言われても、

朝潮は認めようとはしなかった。

 

「艦娘は船であり、兵器!

海に出られないやつは、認めない!」

 

再び殴りにかかる朝潮。

 

次の瞬間、朝潮の体が宙に浮いた。

 

攻撃を仕掛けたはずの朝潮が。

 

その顔には殴られた跡が付いていた。

 

「…久しぶりにキレちまったよ。

我が儘の多いクソガキが。」

 

殴ったのは、秋雲だった。

 

だが、いつもの秋雲ではなかった。

 

口調も態度も、朝潮を見ている眼も。

 

性格が別人のようになった。

 

秋雲はポケットから煙草と

ライターを出して火をつけて吸った。

 

「フーッ。たく、認めないだぁ?

指示に従うだけの木偶人形が、

グダグダ言ってんじゃねぇよ。」

 

タバコを吸いながら朝潮に近づいた秋雲は、

馬乗りになり、左腕を掴んで関節を外した。

 

「ああああああああ!」

 

「この程度で叫ぶんじゃあない。

ほら、次は右だ。」

 

そう言って右腕の関節も外そうとする。

 

見ていられなくなった私は、

秋雲の右腕を掴み、体に腕を回し、

抱きしめるようにして止めた。

 

「離せよ、歌音。」

 

「嫌だ!もういいよ!

それ以上する必要ないでしょ!

お願いだから、もう止めて!」

 

「これは必要なことだ。

こいつをずっと監視していたが

一切反省の色を見せていない。

ここで許せば必ず繰り返す。

だから体で教えなきゃいけない。

何よりも、此処に居る奴らを、

戦っている艦娘たちを、

私とあいつの想いを貶す、

こいつの発言は許せねぇ!」

 

秋雲の力が次第に強くなる。

 

それに対し、私も力強く抱きしめて

腕を掴むが、意味をなさない。

 

次第に拘束が解けていく。

 

秋雲を止めることはできない。

 

そう思っていると、私の拘束する腕に

何かが重なる感覚があった。

 

それは秋雲を私ごと抱き、腕を掴んだ。

 

前からはヌ―スが、後ろからは潮奈が

秋雲を拘束していた。

 

 

 

 



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第20話 同じ立場だから

投稿が遅れました。
2作品同時進行はさすがに難しいですね。
それでも頑張って書いていきます。


 

秋雲を止める潮奈とヌ―ス。

 

二人掛でも止めるのがやっとの状態だ。

 

今までにない秋雲の怒りに、

私は戸惑いが隠せない。

 

彼女をここまでさせるのは何なのか。

 

私がそう思っている間、

2人が止まるように声を掛ける

 

「秋雲さん、それ以上はダメですよ。

貴方の行動は域を越えています。」

 

「離せ」

 

「離しません。私は貴方の過去の事を

何も知りませんが、これだけは分かります。

貴方を止めないといけないという事は。」

 

「……ヌ―ス、あんたもか。」

 

「秋雲様、お許しを。

歌音様を悲しませてしまう以上は

今のあなたは止めなければいけません。

 

「…どうしてもか。」

 

「どうしてもです。それに、

私の記憶にある限り、駆逐艦朝潮は

真面目だという印象があります。

それ故に命令の絶対遵守をしている。」

 

「…それがどうした。

それでこいつの行動が許されるのか?」

 

「許されないでしょう。」

 

「なら…!」

 

「しかし、彼女は私と似たような立場です。

仮に私に対して歌音様が彼女と同じ命令を

下されるのなら、その命令に従います。」

 

「……」

 

ヌ―スは朝潮の行動に自分を重ねていた。

 

確かに、私が命令すれば彼は行動する。

 

善悪に関わらず、必ず実行する。

 

そう断言できる。

 

だからこそ、彼はあの時、

朝潮を離したのだろう。

 

自分でも、同じことをするからと。

 

似た立場にあるからこそ、

彼の言葉には説得力があった。

 

秋雲に入った力も、

少しずつだが弱くなっていく。

 

「私の意思が歌音様の意思であるように、

彼女の意思は前任の意思なのでしょう。

彼女は利用されただけに過ぎない。」

 

「……」

 

秋雲の腕がゆっくりと降りる。

 

考え直してくれたのか、

入った力も緩くなっていく。

 

「……こいつの意思は前任の意思…」

 

「秋雲…?」

 

「それならさ……、

こいつの意思でもあるよなっ!」

 

秋雲は急に力を入れて、私達を振り払った。

 

私は何とか掴んだままでいられたが、

2人の腕が離れてしまった。

 

私の力では秋雲を抑えることはできない。

 

高く上がった拳が振り下ろされそうになる。

 

「秋雲、ダメッ!」

 

「一回、しッ…ぅ……」

 

秋雲は急に脱力した。

 

まるで人形のように止まった。

 

秋雲の体を自分の方に傾けて顔を覗く。

 

秋雲は白目をむいていた。

 

何が起きたのか分からず、顔を上げると、

そこには猫さんがいた。

 

手をピンと真っすぐにしていた。

 

もしかしてこれって…

 

「初めて見ました。

これが、首トンというやつですね。」

 

潮奈がそう言ったことで理解した。

 

猫さんが秋雲を気絶させたのだ。

 

でも何故だろう。

 

猫さんの顔はどこか悲しそうで、

怒っているようだった。

 

「潮奈」

 

「は、はい!」

 

「お前は朝潮を営倉に連れて行け。

明石と憲兵たちを連れてどこかに

抜け穴が無いか確認し、塞いでおけ。」

 

「はっ!」

 

「歌音は秋雲を部屋に連れていけ。

目が覚めるまで、ヌ―スと傍に付け。

他の者はいつも通りに行動しろ。

白雪のフォローもしてやれ。」

 

いつもと違う口調で私たちに指示を出す。

 

感じ取れる怒りの感情。

 

私は、その静かな怒りに

少しだけ恐怖を覚えた。

 

 

 

 

 

皆の行動は早かった。

 

猫さんのとこの睦月型の子たちが

すぐに指示を出したからだ。

 

訓練に行く者、警備に行く者、

事務作業をする者。

 

それぞれが自分のやるべきことを

するために向かう。

 

私もヌ―スと一緒に秋雲を抱え、

部屋に連れて行った。

 

布団を敷き、そこに寝かせる。

 

いつ起きてもいいように、傍に居る。

 

秋雲が目覚めるまで、

私はさっきの事を考える。

 

秋雲の表情、怒り、過去。

 

色々とあったのだろう。

 

加賀にも、赤城さんにも、

雪風にもいろいろあったように。

 

憲兵隊の隊長をしているのも

何かしらの理由があるのだろう。

 

『あいつ』が誰なのかも気になる。

 

でも、それを聞くのは、

起きてからでいいだろう。

 

今はそれまでゆっくりすることにした。

 

これからの事、歌の事を考えながら、

秋雲が起きるまでの時間を潰す。

 

考え始めて1時間経ったぐらいで

私はさっきの事をヌ―スに聞いた。

 

「ねえ、気になったことを聞いてもいい?」

 

「何なりと。」

 

「貴方の意思は私の意思であるって

さっき言っていたでしょ?」

 

「はい、歌音様が望むのでしたら。」

 

「もし、私があの朝潮のように、

前任のように命令したら……。

貴方は、世界すら敵に回すのかしら?」

 

これは気になった事だ。

 

彼はどこまで本気なのか、

どのような返答をするのか、気になった。

 

ヌ―スは触手を顎に当てて、少し悩んだ後、

触手を私の方に伸ばし……。

 

「え?ちょっ!まっ!」

 

……押し倒された。

 

ヌ―スは悪い笑顔で私を見ていた。

 

「歌音様の命令であれば、

どんなことでも致しますよ。

歌音様が望むのであれば。」

 

とても悪い笑いをする。

 

いつもと何か違った。

 

「このように誰かを襲うことも

こうやって秋雲殿を殺すことも…。」

 

そう言って触手を秋雲に伸ばしていた。

 

それを見た時、何か怖かった。

 

何かを失ってしまいそうで

私はすぐに触手を掴んだ。

 

「ダメッ!そんなこと……。

お願い…やめてぇ……。」

 

よく分からなくて怖かった。

 

あまりにも不安になって、

涙が流れた。

 

この姿に戻ってから

何故か涙脆くなっている。

 

ここに来た時より

泣くことが我慢できないでいる。

 

ヌ―スは触手を秋雲から私の方に向け、

涙を優しく拭った。

 

「申し訳ございません。

少しからかいたくなったもので。」

 

さっきの笑顔と違い、

いつもの笑顔のヌ―ス。

 

「ですが、歌音様の命令1つで

こうすることをご理解ください。

私は、こういう者なので。」

 

これは警告だ。

 

私が道を外れるような命令を下せば

こうすることもするのだという。

 

私は肝に免じることにした。

 

それと同時に安心した。

 

そのせいで、また涙が出た。

 

その度に何度も

ヌ―スが涙を拭ってくれる。

 

私に対して優しいのだ。

 

慕ってくれているからこそ。

 

私に警告もしてくれた。

 

頼りになるし安心できる。

 

「……」

 

「どうかしましたか?」

 

何故だろう…いたずらな

彼の笑いを見て、イラっとした。

 

そう言えばさっき、

からかったと口にした。

 

私を馬鹿にする気

満々だったのだろうか。

 

無性に腹が立ったので、

私は触手を掴み、噛みついた。

 

「痛っ!歌音様⁈」

 

「ガルルルルル!」

 

「お許しを!私が悪かったですから!

ああああああああああ!」

 

いじわるされたから返そうと思った。

 

私はこの行動に後悔はない。

 

そう言う意思を持って噛み続けた。

 

 

 

 

 

「あの~、歌音様?」

 

「……プイ」

 

「お許しください、反応が面白…ンンッ!

素敵出したのでつい。」

 

「今面白いって言った!言ったよね!」

 

「気のせいで「気のせいじゃない!」」

 

私はヌ―スに飛びかかった。

 

覚えているすべての知識を使い、

ヌ―スを組み伏せにかかる。

 

ヌ―スも触手で私に抵抗する。

 

お互いに衣服が乱れ、

もみくちゃになりながらやり合う。

 

何とか上を取った私は、

ヌ―スの腕を掴んで……

 

「寝ている奴が隣にいるのに、

なにやってんだ、お前ら。

後、騒がしい。外まで響く。」

 

声がした方を向くと、

仁王立ちの猫さんと龍田が扉の前にいた。

 

私はヌ―スと見合うと、

すぐに土下座をした。

 

「いや、怒ってないから。

様子見と注意しに来ただけだから。」

 

そう言われて頭を上げる。

 

確かに昼の時とは違った。

 

いつもの猫さんだった。

 

「秋雲の事はすまなかったな。

あいつ、怒ると周りが見えなくなるから。」

 

「猫さんは秋雲の過去を知っているの。」

 

「……知っているけど、

俺の口からは言わないよ。」

 

「どうして?」

 

「これは秋雲の問題だからな。

彼女から話してもらうといい

俺が勝手に言うのは違うからな。」

 

「分かった、猫さんはどうするの?」

 

「俺はまだやることがあるから、

また時間が空いたら様子を見に来る。

それまで秋雲の事を頼んだ。」

 

そう言って龍田と部屋を出て行った。

 

まだ夕方にはなっていない。

 

秋雲はいつ目覚めるのだろうか。

 

私達はまた静かに待つことにした。

 

 

 

 

 

「いいの~?これから仕事じゃなくて、

私用で大本営に行くことを言わないで。」

 

「言う必要は無いさ。これは彼女たちの

綺麗な物語の裏話に過ぎないからな。」

 

訳の分からないことを言いながら、

猫は龍田を連れて歩いていく。

 

そこは暗く、寂しい場所。

 

頼れるのは手元のライトただ一つ。

 

ただ歩いていき、ある場所で止まる。

 

「さて、君とは色々話したいが、

これから私達と同行してもらうぞ。」

 

「拒否権はないわよ~。

貴方はあれだけの事をしたのだから。」

 

「……」

 

ある人物と対面する。

 

相手は黙秘を続ける。

 

「君に会ってほしい奴がいるんだ。

これからの事を考える上で、

そいつとの会話は君のためになる。」

 

「……私に会う者はいませんよ。」

 

「1人だけ、君が会うべき者がいる。

さっきも言ったが拒否権はない。」

 

猫が手に持ったライトの光は、

その人物を照らした。

 

「朝潮、君を大本営に連行する。」

 

 




次回、秋雲過去話。


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第21話 秋雲の過去① 出会い

秋雲さんの過去話
数話続きます


 

 

あれから時間は過ぎ、夕暮れ。

 

橙色の光が窓から部屋を照らす。

 

静かな時間は過ぎ、

駆逐達の声が聞こえてくる。

 

訓練が終わったのだろう。

 

「……ン…ぁれ、…ここは……。」

 

どうやら秋雲が目覚めたようだ。

 

頭を押さえながら上半身を上げている。

 

何があったか思い出しているようだった。

 

「秋雲……おはよう。」

 

私は口からそんな言葉をこぼした。

 

秋雲も少しして

「おはよう」と返してくれた。

 

「そうか……また、やっちゃったか。

2人とも、ごめんね…。」

 

「気になさらず。秋雲殿は

過去に何かあったのでしょう。」

 

「……私が、まだ艦娘だった時、

もう何年も前の話だよ。」

 

そう言って秋雲は語ってくれた。

 

彼女の艦娘時代の話を。

 

 

 

 

 

秋雲は大本営から少し離れた位置にある

普通の鎮守府に所属していた。

 

成績は良く、鎮守府での実力は

上から数えた方が早いほど。

 

そして、絵の才能もあった。

 

それは他の秋雲と違う点でもある。

 

彼女は深海棲艦を描くのが上手かった。

 

他の秋雲より的確に、繊細に描き、

気になった点も全て描き出す。

 

大本営からは感謝されていた。

 

しかし、彼女はそれが嫌だった。

 

彼女にとっての生き甲斐は

絵を描く事よりも戦う事。

 

描くのは頭の中と

大本営に頼まれた時だけ。

 

それが彼女の理想だった。

 

それ故に、戦闘においては厳しく、

他の艦娘に好かれなかった。

 

孤独という言葉が

彼女にふさわしかった。

 

そんな生活を続けていた彼女に

ある転機が訪れた。

 

それは鎮守府同士の演習。

 

お互いの実力を知るために

彼女の提督が提案したのだ。

 

戦うことを望んでいた秋雲は

進んで参加した。

 

その演習で彼女は敗北した。

 

実力のある彼女が手も足も出なかった。

 

屈辱的な圧倒的敗北だった。

 

その相手は秋雲。

 

鎮守府の中ではそこまで強くない。

 

戦いよりも絵を描きたいという

彼女と正反対の秋雲だった。

 

だからこそ、彼女は屈辱を味わった。

 

戦いに身を投じてきた自分が

手も足も出なかったのだから。

 

演習が終わった後、

彼女は上の空だった。

 

誰かに連れられないと歩く事もできない。

 

それほどのショックを受けてしまった。

 

そんな彼女に秋雲が近づいてきた。

 

秋雲は純粋な感想を述べてきた。

 

良かったところ、疑問に思ったところ、

各艦娘の癖も含めて的確に。

 

そんな中、気になることも言っていた。

 

「そっちの秋雲は他の子と違ったね。

まさに、対深海棲艦って感じだったよ。

流石、深海棲艦図鑑の秋雲先生。」

 

そんな事を言っていた。

 

しかし、上の空の彼女には

何も耳には入らなかった。

 

その日、演習後から鎮守府に帰るまで

彼女は何も考えられなかった。

 

まるで魂が抜けたような彼女は、

戦いが生き甲斐だったはずの彼女が、

1週間、部屋から出なかった。

 

艦娘たちが心配して顔を出す。

 

だが、何を言っても廃人のように動かない。

 

流石にまずいと思った提督が

彼女にある物を渡した。

 

それは1つのUSBメモリー。

 

ただ中身を見るように言われた彼女は

それをパソコンに繋げ、ファイルを開いた。

 

そこにあったのはメッセージと

人と艦娘の図鑑のような写真集。

 

写真には人間と艦娘の体の動き、

深海棲艦との違いなどがメモされている。

 

彼女の知らないことが多く書かれており、

その中には自分が書いた深海棲艦に関する

メモと同じところもあった。

 

よく見ると引用元と書かれた場所に

彼女の鎮守府と名前になっていた。

 

メッセージの方は言葉が綴られていた。

 

差出人は、演習で彼女を負かした秋雲。

 

この前の演習の事が書かれていた。

 

彼女の癖、行動、彼女と秋雲の違い。

 

それが絵と一緒に書かれていた。

 

分かり易く、自分に足りないところが

何もかも書かれていた。

 

彼女はここまで差があるのだと、

自分の弱さを実感した。

 

だが、最後の一文には励まされた。

 

それは彼女の長所と成長の兆し。

 

「深海棲艦の知識は、今までの糧で、

人体と艦娘の知識が、これからの糧。」

 

自分はもっと強くなれる。

 

そう感じることができた。

 

だからこそ、

彼女はすぐに行動を起こした。

 

写真を見ながら人体と艦娘の知識を得る。

 

その写真の事以外にも情報を得るために、

提督に頼んで本を買って貰ったり、

ネットで調べたりもした。

 

それから、彼女は別人のように変わった。

 

戦いが生き甲斐であることは変わらないが、

艦娘たちを観察し、描きだすことを始めた。

 

細かい癖を見抜き、提案をする。

 

また、各艤装についても知識を求め、

明石や各艦種の話を聞いたりもした。

 

その変化は鎮守府全体の雰囲気を改善させた。

 

以前よりも戦果が上がり、

鎮守府の中でも規模が大きくなった。

 

また、彼女のデータは、

大本営に大きな影響を与え、

海軍全体に衝撃を与えた。

 

多くの艦娘と提督が、

そのデータに助けられることになった。

 

大きな作戦や、

特殊な任務を任さられるようになり、

彼女自身、最高の生活を送っていた。

 

最悪から最高へ。

 

自分が望んでいたものとは少し違うが、

限りなく近い理想だった。

 

だがそんな理想も、長くは続かなかった。

 

 

 

 

 

ある年、大規模作戦が始まった。

 

今までに例のない深海棲艦が出てきたことで

秋雲は特殊な任務を任された。

 

それは偵察任務だった。

 

敵を知り、情報を得るために、

彼女を含んだ連合艦隊が駆り出された。

 

その艦隊には秋雲もいた。

 

今では仲が良く、お互いが尊敬する存在。

 

2人でいることが多くあり、周りから

『百合雲』というあだ名がつくほど

一緒にいるところが見られている。

 

双子のように仲が良い2人。

 

この2人が艦隊にいるというだけで

艦娘たちの士気が上がる。

 

そのおかげで、彼女たちはすんなりと

作戦海域の奥まで進むことができた。

 

赤く染まった海の上。

 

そこには大きな深海棲艦が

此方を見て佇んでいた。

 

怒った顔をして、こちらを睨む。

 

そして大きな声で吠えた。

 

それを合図に戦闘が始まった。

 

連合艦隊が応戦している間に、

2人はその姿を描く。

 

的確に、細部を見逃さないように。

 

敵の砲撃を躱しながら、

ひたすらにペンを動かした。

 

数分後、全体の絵を描き出すことができた。

 

後は無事に撤退するのみ。

 

艦隊は深海棲艦に夾叉(きょうさ)弾を撃つ。

 

その隙に撤退を開始した。

 

だが、相手も逃がさないように砲撃してくる。

 

その砲撃の一つが秋雲を襲った。

 

「秋雲、避けろーっ!」

 

そう言われて後ろを振り向くと

目の前まで砲弾が来ていた。

 

気づいた時には遅かったのだ。

 

爆炎と爆音が襲う。

 

だが、秋雲に痛みは来なかった。

 

何かが上に乗る感覚だけがあった。

 

恐る恐る目を開けると、

そこには彼女が覆いかぶさっていた。

 

艤装は激しく損傷し、炎を上げている。

 

艤装の中では妖精たちが

急いで消火活動を行っていた。

 

秋雲は急いで彼女を抱えて逃げる。

 

深海棲艦はそう簡単に逃がしてはくれない。

 

すぐに次の砲撃を開始する。

 

だが、それが秋雲たちに

当たることは無かった。

 

連合艦隊による砲撃の支援があり、

秋雲たちは艦隊に合流。

 

急いでその海域を撤退することに成功した。

 

帰還した秋雲たちはすぐに入渠した。

 

特に彼女の損害がひどく、

生きているだけで幸運と言われた。

 

絶対安静で数日は目覚めないと言われた。

 

秋雲たちは目覚めるまでの間、

持ち帰った情報をまとめることにした。

 

 

 

 

 

数か月後、作戦は成功した。

 

彼女たちが持ち帰った情報は

海軍全体に大きく貢献した。

 

今までで1番少ない被害で

轟沈した者も少なかった。

 

過去に見ない快挙。

 

これには一般人も歓声を上げた。

 

まるでお祭り騒ぎのような日々が続いた。

 

一方で、とある海軍の病棟。

 

閑散とした静かな場所。

 

その一室で彼女が寝ている。

 

作戦が成功してからも

彼女は目覚めなかった。

 

その傍には秋雲が寄り添っていた。

 

彼女が目覚めるまで秋雲は

いつまでも傍に居る。

 

早く目覚めることを祈って。

 

そんな彼女の下に、とある知らせが届いた。

 

それは半年後の異動。

 

最前線にある基地への異動の知らせだった。

 

艦娘たちにとっては偉大な場所。

 

だが、秋雲には行きたくない場所だ。

 

戦わないといけない、

自由なんてほとんどない。

 

そんな場所に行きたくない。

 

それに、今は彼女から離れたくなかった。

 

だから、秋雲は願った。

 

彼女が早く目覚めることを。

 

また一緒に居られることを。

 

ひたすら願った。

 

だが、そんな願いとは裏腹に

彼女は眠り続けた。

 

 

~異動まで残り1ヶ月~

 

 




百合雲
誰か描かないかな…


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第22話 秋雲の過去② Autumn Clouds Oath

最近、電ちゃんの他に何人か、
艦娘を好きになっていく。
今は秋雲先生と白露。

あ、電ちゃんを
嫌いになることは(ない)です。


 

眩しい光が、病室を照らす。

 

眼が痛くなるほど眩しい太陽だ。

 

その光に当てられて、一人の少女が眼を覚ます。

 

「……私、生きてる…?」

 

体を起こし、周りを見る。

 

綺麗な白い部屋だった。

 

横には机があり、花瓶に入った花と

果物の盛り合わせが置かれていた。

 

どれだけ眠っていたのだろうか。

 

彼女は分からなかったが、

体は次にすることを分かっていた。

 

ぐうぅぅぅぅ~

 

彼女は何か口に入れたくなった。

 

何でもいいから口に入れたい。

 

だから目の前に果物に手を伸ばす。

 

動かしづらい、重たい体を動かし、

一番近くにあったリンゴを手に取った。

 

そして、口を大きく開けて噛り付く。

 

「……うまい。」

 

また、一口頬張る。

 

一口、また一口と含んでいく。

 

気づけばリンゴを食べきっていた。

 

だが、まだ足りない。

 

手を伸ばして次の果物に手を伸ばす。

 

バナナ、みかん、ぶどう、もも。

 

次々に手を伸ばす。

 

まるでリスのように頬張っていた。

 

流石に詰め過ぎたと後悔する。

 

少しずつ咀嚼しながら減らしていくと

足音が聞こえてきた。

 

その音は次第に大きくなっていき、

部屋の扉が壊れる勢いで開かれた。

 

「秋雲!」

 

「フグッ、…ングッ!」

 

彼女は驚いた拍子に喉を詰まらせた。

 

だが、秋雲はそれに気づいていない。

 

泣きながら彼女に抱き着いた。

 

「秋雲!良かった、目を開けてくれた!」

 

「ン!ンン―!」

 

思いっきり抱きしめられる。

 

どうにかしたいけど

腕ごと締められて何もできない。

 

あ、やばい。苦しい……………。

 

彼女の目の前は、再び真っ黒になった。

 

 

 

 

 

目を覚ますと部屋の奥から

小さい声で怒鳴っているのが聞こえる。

 

聞き覚えのある声が聞こえてきた。

 

「いいですか、次は出禁にしますからね。」

 

「ぅぅ、ごめんなさい……。」

 

丁度説教が終わったようだ。

 

声の主、明石がやってくると

彼女が起きていることに気づく。

 

「あ、起きてる。長かったですね。

約半年と数時間の睡眠です。」

 

そう明石に言われ

彼女の頭は真っ白になった。

 

数時間は分かる。

 

さっきの事だから尚の事。

 

しかし、半年も眠っていたというのは

理解が追い付かなくなるのも仕方がない。

 

詳しいことは明石と秋雲が説明した。

 

作戦の成功、大本営への貢献、秋雲の異動。

 

彼女が眠っていた間の全てを聞かされた。

 

そしてもう一つ、

明石からあることが告げられる。

 

それは彼女にとって最悪な知らせであった。

 

「貴方は艤装を装備できなくなりました。」

 

「…………は?」

 

艤装が装備できなくなった。

 

その言葉に彼女は納得できなかった。

 

そうなった前例があることは知っている。

 

艦娘について調べた時に目にしたからだ。

 

だが、自分がそうなると思っていなかった。

 

いや、認めたくなかった。

 

自分が戦えなくなると。

 

彼女はすぐに起き上がると、

部屋を飛びだしていった。

 

明石の制止を聞かずにすぐに病棟を出る。

 

近くに工廠が見えたため、走って向かい

艤装を手に取ろうとする。

 

だが、手に取ることはできなかった。

 

妖精たちが必死に止めていたのだ。

 

泣きそうな顔をしながら、

中には泣いている者もいる。

 

彼女はその姿を見て

この現実を認めた。

 

もう海に出ることはできないのだと。

 

その場で座り込んだ。

 

明石と秋雲が追い付いた時には

大きな声で泣き叫んでいた。

 

 

 

 

 

秋雲に連れられて病棟に戻った彼女は

前のように廃人となりかけていた。

 

戦いができないなら

生きている必要が無い。

 

そう思ってしまうほど

彼女は衰退していた。

 

秋雲が毎日傍に寄り添い、

明石が様子を見に来る。

 

何とか返事はできるが、

ベッドの上からほとんど動かなくなった。

 

戦えないなら知識もいらない。

 

そう考えてしまうようになり、

本を持ってきても読むことは無かった。

 

そんな生活が数日続いた。

 

秋雲の異動も刻一刻と近づいてくる。

 

いつものように過ごしているある日。

 

秋雲はいつものように

何度も彼女に話しかける。

 

言葉が返ってこなくても

何度も話しかけていた。

 

だが、その声もどんどん小さくなっていく。

 

彼女が反応してくれない。

 

秋雲は悲しくなって涙を流す。

 

「被弾したのが、私だったら……

私が被弾すればよかった………。」

 

そう、言葉を零した。

 

それは本心ではない。

 

だが、そうであってほしかった。

 

お互いに臨む理想なら、

その方が良かったから。

 

「…………」

 

「私が教えなければ、あの時負けていれば

私が会わなければ良かったッ!」

 

バシィッ!

 

言い終わると同時に強烈な痛みが頬を襲う。

 

秋雲が目を開くと目の前には

怒った彼女の顔があった。

 

先ほどまでの廃人のような姿ではなく、

眼を見開き、荒れた息で肩を震わせていた。

 

「てめぇ、ふざけんじゃねぇ!」

 

彼女は秋雲を掴み、押し倒す。

 

「被弾すればよかった?教えなければ?

負けていれば?会わなければ?

ふざけたことぬかしてんじゃねぇぞ!」

 

「……だって私のせいで…。」

 

「お前のせいじゃねぇ!

あれは私が勝手にやったことだ!」

 

「でも…」

 

「お前じゃなかったら、

こんなことはしねぇんだよ!」

 

声を荒げて彼女はそう言った。

 

秋雲でなかったら

庇うことはしなかったと。

 

「お前と会ったから、あの時負けたから、

戦い方を教えてもらったから…

守れたから今の私が此処に居るんだよ!」

 

「守れたから……?」

 

「そうだ!お前がいなかったら私はいない!

お前がいるから私が私でいられるんだ!」

 

彼女がそう言葉にすると秋雲は涙を流す。

 

彼女の心は完全に死んではいなかった。

 

彼女はゆっくりと呼吸しながら、

秋雲の体を抱き寄せる。

 

そのままギュッと抱きしめた。

 

「ごめんな、私のせいで思い詰めさせた。」

 

彼女は秋雲に謝罪した。

 

優しく抱きしめながら、謝った。

 

それに対して秋雲も謝罪する。

 

「こっちこそ、ごめん。

あんなこと言って。」

 

お互いに涙を流しながら、

抱きしめながら謝罪する。

 

「なあ、約束しないか?」

 

「約束?」

 

彼女は自分と秋雲の小指を絡める。

 

指切りだ。

 

「私は自分の生き方を探す。

お前のために、私のためにできることを。

別の形で戦うことを誓う!」

 

「なら!私は貴方の想いを引き継ぐ。

貴方の想いと共に戦って、

私の見た世界を描き続けると誓う!」

 

お互いがそのように誓い、指を離す。

 

2人はさっきまでの事がおかしくなり、

次第に耐えられなくなり、笑い出した。

 

此処がどういう施設なのかも忘れて……

 

「2人とも、少しよろしいでしょうか?」

 

声を聴いて2人は体を震わせる。

 

振り向くとそこには仁王立ちで

怖い顔をしている明石がいた。

 

「「あ……」」

 

「出禁にするって言ったよな?」

 

「あの、その」

 

「言ったよな?」

 

「はい……」

 

これだけ騒いでしまったのだから、

仕方がないだろう。

 

2人はすぐに横に並び、土下座をした。

 

「「すみませんでした」」

 

息の合った謝罪をする2人。

 

すると誰かがこの部屋に入ってきた、

 

「この部屋か……。なんだこの状況。

明石、お前にそんな趣味が。」

 

「違います!騒いだから注意したんです!

前にも忠告したんですからね!」

 

明石は愚痴をこぼす。

 

「許してやれよ、色々あったんだろ?

お前だって荒れてたんだから、同じ同じ。」

 

2人が顔を上げると

そこには1人の若い男性がいた

 

見た目は青年、声は大人だった。

 

「猫さん……どうしてここに。」

 

「いつも元気なお前が静かだったからな。

何かあると思ってお前の提督に聞いたら

もう一人の秋雲の事を聞いたんだよ。」

 

やってきたのは猫さんだった。

 

秋雲は顔見知りだったが、

彼女はこれが初対面だった。

 

「君が例の秋雲か。」

 

「えっと、多分そう、です。」

 

「あ、敬語はいらないよ、

いつも通りの話し方で大丈夫さ。

今日は、君に提案があって来たんだ。」

 

そう言って1つの紙を目の前に出す。

 

「明石から艤装が装備できない事と、

戦うのが生き甲斐だと聞いてね。

それを解決する案を見つけたんだ。」

 

そこに書かれていたのは

艦娘としては前例の無い内容だった。

 

「……憲兵隊」

 

大本営に所属する警備隊。

 

人でありながら艦娘とも渡り合える

実力のある者たちが集まる集団。

 

通称“化け物の巣窟”

 

一部の艦娘からは恐れられている。

 

そこへの、勧誘と言う名の招待状だった。

 

「ここなら君の力を十分に

活かすことができると思っている。

提案に乗るかは君次第だ。」

 

これは彼女にとってまたと無い機会だ。

 

恐れられている場所ではあるが、

彼女自身の理想の場所でもある。

 

それにさっき誓ったこともある。

 

この提案に乗らない手は無かった。

 

彼女はすぐにこの提案に乗った。

 

「やる、やらせてください!

どんな形でも戦うって誓ったから!」

 

「…分かった、いい目をしているな。

君のことは憲兵隊に話しておこう。

これから君の創る物語が楽しみだ。」

 

猫さんはそう言うと、

明石を連れて部屋を出て行った。

 

部屋は静寂に包まれた。

 

その後、部屋には同じ声の

2人分の笑い声が小さく響いた。

 

 




「Oath」は『誓い』
という意味があります。

最近、艦これアーケードに似たアプリが
今年8月末にサ終すると告知しましたね。

Oathはそこから取りました。


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第23話 短かった秋雲の話、完ッ!

しばらく気力が無くて
あげなかった愚か者を
どうかお許しください。

許してヒヤシンス(ペロ


 

 

「数週間後に、お互いの道に進んだ。

お互い不自由なく生活してきたし、

コミケを頼まれたのも、その頃からかな。

これが、秋雲さんの過去だよ。」

 

秋雲が艦娘ではなくなってから、

憲兵隊に入るまでの話。

 

「あいつってやっぱり

前線基地の秋雲の事だったんだ。」

 

「そうだよ。流石に分かるか。」

 

前線基地の秋雲と憲兵の秋雲。

 

2人のつながりはよく知っている。

 

最初に会った時も

あの本のモデルって言われたし。

 

「朝潮の言葉は昔の私のようだった。

だから私は自分を抑えられなかった。

まるで、古い鏡を見せられた感じだよ。」

 

「それじゃあ、怒ったのって…。」

 

「ああ、あれは私たちの誓いが

貶されたって感じたから、つい…。

まあ、八つ当たりも少しはあるけど。」

 

「やっぱ八つ当たりしてるじゃん。」

 

「だって、あいつのせいで私の仕事が

馬鹿みたいに増えただから少しは…。」

 

「それで正当化されるなら、貴方に

私が着せられたメイド服を着せるけど。」

 

「それだけはかんべんしてください。

あいつのネタにされてしまいます。」

 

私の言葉に対して秋雲は速攻で土下座した。

 

確かに、あの秋雲なら

間違いなくネタにするだろう。

 

大笑いしながら絵を描く、悪い顔が浮かぶ。

 

だが、それぐらいするのが妥当だろう。

 

秋雲がしたことは許されることではない。

 

ましてや八つ当たり。

 

立場上、許されない行為だ。

 

だが、朝潮を抑えるきっかけになったし、

秋雲の事を知るきっかけにもなった。

 

判断は猫さんと、みんながするだろう。

 

グゥゥゥゥゥゥ~

 

私とヌ―スは秋雲に目線を向ける。

 

秋雲はお腹を押さえて顔を赤らめた。

 

「…………見ないで。」

 

 

「離していて気付きませんでしたが、

夕食の時間ですね。向かいましょうか。」

 

「そうだね。

それじゃあ行こうか『腹ペコ先生』。」

 

「変なあだ名付けるな!」

 

「だって、さっきの話の中でも

果物に噛り付いてたじゃん。」

 

「それは…半年も眠ってたから…。」

 

「歌音様、それは仕方ないですよ。

寝ている間も体力を使うと言いますから。」

 

「そうだ、そうだ~!」

 

何故かヌ―スが秋雲に助け舟を出した。

 

秋雲はそれに乗った。

 

某ガキ大将の取り巻きお坊ちゃまのようで

秋雲に対してとてもイラっとした。

 

しかし、ヌ―スの顔を見て少し落ち着いた。

 

何故なら、ヌ―スの顔は私に向けた

悪い顔になっているからだ。

 

何か企んでいる悪い顔。

 

その理由は次の発言ですぐに分かった。

 

「それじゃあ、食堂へ急ぎましょう。

『百合雲』様。」

 

「その名前で呼ぶなーッ!」

 

やっぱり悪いことを考えていた。

 

話の中に出てきた『百合雲』というあだ名。

 

その名を呼ぶことで、秋雲の顔は真っ赤に。

 

ヌ―スは私をお姫様抱っこで担ぐと

まるで子供の様に笑い、部屋を飛び出る。

 

「待てや、オラァ―!」

 

「逃げますよ、歌音様!」

 

…なんで私まで?

 

「許さんぞ、歌音!」

 

ああ、どうやら私が標的らしい。

 

ヌ―スに抱えられながら、

何故だろう、と考えてたら思い出した。

 

さっき、朝潮を説得する時に

ヌ―スが言ってたもんな。

 

朝潮の意思は前提督の意思であり、

ヌ―スと同じだと。

 

ヌ―スの意思は私の意思だと…。

 

あれ、これ巻き添えじゃね?

 

そう言おうとしたが諦めた。

 

今の秋雲には声が届かないだろうから。

 

私はヌ―スに言って

鎮守府内を逃げてもらう。

 

途中から駆逐達に追われたり、

一緒に逃げたりした。

 

大きくなっていくこの騒動は、

間宮に飯抜き宣言されるまで続いた。

 

 

 

 

 

時が経ち、食堂の中では

間宮を前に数人で正座していた。

 

私とヌ―ス、秋雲の3人で。

 

間宮は手にお玉を持って、

笑顔で私たちを見ている。

 

笑顔なのに、怖い。

 

私の体全身が震えていた。

 

「どうしてこうなったのか、

きちんと説明してくれるかしら?」

 

私達はこの一連の騒動の説明をした。

 

口が勝手に動いているように

錯覚するほど素直に話した。

 

話を聞いた間宮はため息をつく。

 

「子供たちと遊ぶのはいいですが、

次やったら食事を出しませんので。

肝に免じてくださいね!」

 

「「「イエス、マム!」」」

 

息ぴったりに言葉が出た私たちは、

ゆっくりと食事をする。

 

過去の話と同じように食事をする

秋雲を眺めた後、入浴して部屋に戻った。

 

特にやることもないため、

のんびり歌っていると、潮奈が来た。

 

今後の事について話したいらしい。

 

主に私達の滞在期間についてだ。

 

訓練の結果、運営可能にまで回復したため、

私達が此処に居る必要はなくなった。

 

私の目的は既に済み、

体もほとんど治っている。

 

問題点は朝潮だけになった。

 

今は猫さんが

色々と動いてくれているらしい。

 

今も用事でどこかに行っており、

明日には帰ってくるそうだ。

 

朝潮の問題も数日もすれば解決するだろう。

 

そのため此処に滞在するのは

長くても4日らしい。

 

そこで潮奈から提案が出た。

 

大本営へと戻る前日の夜に

パーティーをしようというのだ。

 

駆逐達が泣いてしまうだろうが、

一つの区切りとして行いたいそうだ。

 

ズルズルと引きずるよりも

しっかりとした別れがいるだろう。

 

そう思っての提案らしい。

 

私はその提案を承諾した。

 

潮奈の言いたいことは分かるし、

これは自分の為でもある。

 

赤城さんやみんなと過ごした

短いようで長かった数十日の時。

 

色々あったここでの生活は

私を此処に縛り付けてしまう。

 

いつまでも此処に居たいけど、

私の帰りを待っている子たちがいる。

 

それに、私にはまだ目的がある。

 

そのために、ここを離れるために、

私はその提案を承諾した。

 

ヌ―スは当然のように承諾し、

秋雲も少し悩んで承諾した。

 

秋雲は立場上、すぐに戻るべきだが、

朝潮の事もあるので

解決するまでは残るらしい。

 

その後も色々と話し合い、

後は猫さんの判断待ちになった。

 

時間的にもう寝る時間になったため、

私達は解散し、眠りにつく。

 

私は何を歌うか考えながら

静かに眠りについた。

 

 

 

 

 

車がぽつぽつといるぐらいで

渋滞と縁のない道。

 

ゆったりと走る車が多く、

左側にしかいない。

 

そんな道路の追い越し車線を

時速120で走る一台の護送車。

 

完全なスピード違反だが、

この車だからこそ許されている。

 

「もう少しゆっくり走れないのかしら。

さっきからお尻が痛いのだけれど。」

 

「まだマシな方だ、我慢してくれ。

明日の早朝には着きたいからな。」

 

車を運転する猫と助手席に乗る龍田。

 

だが、夕方から出てこの速さなら

早朝どころか深夜に着きそうだ。

 

「こんなに早く行く理由は

本当にそれだけかしら?」

 

「……早朝までにこの車返さないと、

ただでさえ少ない俺の小遣いが

嫁たちに減らされる。」

 

「ええ…………。」

 

何とも意外な理由だった。

 

元帥すら翻弄する自由な人が、

こんなにも怯えるほどのお嫁さん。

 

どんな人なのか気になったが、

後で聞けばいいと思い、別のことを聞いた。

 

「気になったのだけれど、

1つ聞いてもいいかしら?」

 

「何か気になったのか?」

 

「どうして鎮守府の子たちや憲兵でなく

もう戦えない私を連れてきたのか。」

 

龍田としては不思議だった。

 

連れていくなら朝潮をどうにかできる

憲兵隊の誰かを連れていくべきだ。

 

「証言をしてほしいから連れてきたんだ。

ちゃんと現地の艦娘の声が聞きたいと

元帥からの申し出だ。」

 

「元帥がね~。本当にそれだけかしら?

それに私より赤城さんの方が良いのでは?」

 

連れていくなら龍田よりも

症状がはっきりとわかる赤城だろう。

 

龍田は別の理由があると思った。

 

「確かにそうだが、今の赤城を連れていくと

朝潮が暴れた時に守るのが難しいからな。」

 

「自衛できるからって理由?」

 

「それもあるが、お前なら前任に対して

容赦のない毒舌を自然に吐いてくれるだろ?

言いたい放題できるのはお前ぐらいさ」

 

龍田は納得した。

 

営倉に入れられた時もそれよりも前の時も、

ずっと毒舌を吐いたのを覚えている。

 

他の龍田もそう言う子が多いから

そう言う理由で選ばれたのが分かった。

 

「まあ、毒舌を吐いていいと、

元帥が許可を出したのは驚いたがな。

余程溜まっているのだろう。」

 

元帥、大変そうだな。

 

そう思いながら龍田は車に揺られる。

 

面倒くさいなと思いつつ、

楽しみだな~、と。

 

 




ストックが切れた…。

思いつくまで
しばらくお待ちください。


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第24話 星降る夜の眠り歌

最近投稿ペースが遅いのは
もう1つの小説と卒論で
時間がかかっているから。

決してDMやMK8DXで
遊んでるから(では)ないです。

東方シンセカイを
買おうとも(思って)ないです。


 

 

「~~♪」

 

「スゥー」

 

「…zzz」

 

「~♪…眠ったかな?」

 

「その様ですね。

お疲れ様です、歌音様。」

 

「ヌ―スもありがとう。

今日は、ここで寝ようか。」

 

「はい。では、布団を持って参ります。」

 

「それなら文月も連れてきてあげて。」

 

「承知しました。」

 

部屋を出ていくヌ―ス。

 

涙を流しながら抱き合い、

布団に包まれて寝息を立てる駆逐達。

 

壁を背にし、肩を寄せ合って寝る

長門と天龍と加古。

 

駆逐を抱きしめて眠る神通と那珂。

 

アニメのようなタンコブができた

床に倒れた夜戦バカ(川内)

 

なぜこんなことになっているのか。

 

それは平和で終わるはずだった

今日の数時間前の事…。

 

 

 

 

 

今日は珍しく何もない日だった。

 

仕事や訓練が無いのではなく、

平和な一日ということだ。

 

何のトラブルもなく一日を過ごした。

 

朝歌って、のんびりするだけの。

 

もう寝るだけだった。

 

爆睡している秋雲の隣に布団を敷き、

グッスリと寝るだけだった。

 

しかし、そんな私の平和は、

近づいてくる泣き声によって消えた。

 

扉をノックされたから応答する。

 

すると駆逐艦、泣いている文月を抱いた

疲れた顔をした長門がいた。

 

かなりフラフラしており、

ヌ―スが体を支える。

 

「すまない。こんな時間だが、

助けてもらえないだろうか?」

 

私の平和、終了のお知らせだった。

 

詳しく事情を聴くと、

駆逐達が一斉に泣き始めたらしい。

 

原因はトラウマのフラッシュバック。

 

文月が泣き始め、連鎖するように

その部屋の子たちが泣きだしたらしい。

 

そこから隣の部屋に聞こえたことで、

駆逐達が全員泣いたのだとか。

 

今は一つの部屋に集め、

長門と天龍が癒しているのだが。

 

「どうしても泣き止んでくれないんだ。

このままだと皆に迷惑をかけてしまう。」

 

…既に迷惑をかけてるんだけどね⁈

 

まあ、仕方がないか。

 

とりあえず、

文月を泣き止ませることにした。

 

近づいて、文月の頭を撫でながら、

子守歌を歌う。

 

前にも歌ったことのある歌だ。

 

ゆっくりと、優しく、包むように。

 

泣き声は小さくなっていく。

 

それは、次第に寝息へと変わっていく。

 

文月は完全に眠った。

 

長門を掴んでいた手が緩んだのか、

落ちそうになったので抱っこする。

 

敷いていた布団で寝かせ、

布団をかけて寝かせた。

 

皆のいる部屋に連れて行って、

起こしてしまっては大変だからだ。

 

とりあえず長門に部屋を…

 

「…

 

…こいつ、寝てやがる。

 

私はとてもイラついた。

 

なので、あるものを取り出した。

 

それは有線のイヤホン。

 

猫さんに貰ったものだ。

 

音楽を聞く時に使っている。

 

機械?

 

それはヌ―スが使えるからヨシ!

 

とにかくそれを長門の耳に付けて

 

ある動画を流す。

 

「…ぬぁッ!み、耳がー!」

 

ぐっすり寝てたからお仕置き。

 

ちなみに流したのは

ワイヤレスイヤホン?用の大きな音。

 

無くした時に流すことで

発見するらしい。

 

それを音量Maxでかけたから

効果は絶大だった。

 

叩き起こすことには成功したから、

私達は部屋に向かった。

 

 

 

 

 

『うあーーん!』

 

ああ、これはヤバい…。

 

何で離れたところまで聞こえるのか。

 

部屋は端にあるのに、

反対の端まで聞こえてくる。

 

近づいていくが、

耳を塞いでいないと鼓膜が破けそう。

 

それぐらい大きな声だ。

 

我慢して、部屋に近づいて扉を開ける。

 

「ええーん!」「うあーん!」「うぅ…」

「びえええ!」「しくしく」

 

いろんな泣き声が一斉に襲ってくる。

 

周りに広がらないように、

急いで中に入って扉を閉める。

 

部屋は他の部屋と違う

少し大きな和室。

 

大きな旅館にあるような部屋だ。

 

そこに敷かれている横一列の布団。

 

神通と那珂と加古と天龍が、

駆逐達をなだめる。

 

皆、辛そうにしていた。

 

駆逐は睦月型と白露型。

 

第六駆逐隊は、此処にはいなかった。

 

あの4人も心配だが、

今はこの子たちをどうにかしよう。

 

そう思って、私はマイクを起動する。

 

次第に部屋が暗くなる。

 

そして、星が降り注ぐ。

 

黄色と水色の星が無数に飛び交う。

 

星座、流れ星、流星群…

 

様々な輝きを見せる星空は、

まるでプラネタリウムのよう。

 

その輝きと光景は、

歌と曲を後押しする。

 

闇夜に輝く星の明るさは

駆逐達を照らし出す。

 

優しく、キラキラと光り、

ゆっくりと振り落ちる。

 

生きているかのように、

駆逐達の周りを回り出す。

 

駆逐達の泣く声は、

次第に子供らしい声に変わる。

 

欲しいおもちゃを前にして

目をキラキラさせる子供の様に。

 

「わぁ~!」と声を上げる。

 

手に取ろうとすると、

星が集まり大きくなった。

 

素敵な御髭がトレンドマークの

赤い人が使う星のようなものに変わる。

 

その星は、駆逐達全員の体の中に

1つずつ、溶け込むように入っていく。

 

星の輝きは消えることなく、

駆逐達を輝かせる。

 

また、それには温もりがあるのだろう。

 

顔を赤らめ、心地良さそうな顔をする。

 

さっきまでと違い、

幸せそうな顔をしている。

 

次第に満足な顔をして、

ウトウトし始めた。

 

輝いた眼は、

少しずつ瞼の内に隠れる。

 

そして完全に姿を消した。

 

それと同時に寝息を立て始める。

 

長門たちは駆逐達を

そっと布団に寝かせる。

 

全員を寝かせたことで

緊張が緩んだのだろう。

 

私とヌ―ス以外、

その場に座り込んだ。

 

加古においては既に寝ていた。

 

「すまねえ、おかげで

ガキどもが寝てくれたよ。」

 

凄く眠たそうにしている

天龍から感謝された。

 

出来れば今すぐにでも寝たいのだろう。

 

だから、天龍を抱き寄せる。

 

「ちょッ!何を…。」

 

「~♪」

 

「あぁ…これは…

いい、な…zzz」

 

天龍はすぐに寝た。

 

皆も疲れているだろうから、

歌って眠らせる。

 

リラックスできるように

刺激の少ないゆっくりなテンポの曲で。

 

「~♪」

 

「あの光とは違う…

綺麗で、暖かいな…。」

 

「すぅーすぅー」

 

「ふにゃ~…」

 

「~♫~ ♪」

 

………全員、寝たようだ。

 

これでようやく寝れ………

 

バタンッ

「みんな起きてる⁈夜戦し…ぶへッ!

 

私の行動は早かった。

 

今までにない速さで拳を叩きこみ、

この馬鹿を黙らせることに成功した。

 

たんこぶくらい安いものだろう。

 

これで障害は無くなった。

 

安心して眠れるだろう。

 

しかし、さっきの音で

駆逐達の目が覚めかけていた。

 

気持ちよく、ぐっすり寝てもらいから

近くに行って歌う。

 

うるさくならないように、

起こさないように気を付けて。

 

 

 

 

 

…こうして冒頭へと戻る。

 

しばらくすると、ヌ―スが

文月と布団を抱いて戻ってきた。

 

ヌ―スは扉の近くで壁に体を預け、

私は布団と文月を抱いて横になる。

 

優しく、ゆっくり、トロトロと…。

 

 

 

 

 

「何度も言いましたけど、

帰る手段ぐらい考えておくのですッ!」

 

「本当にすまない。

頼むからこれ以上の減額は…。」

 

「いつも以上に赤城の食費に

回しておくのです。」

 

「うあああああ!」

 

頭を抱えながら絶望する猫提督。

 

その車を運転しているのは電。

 

白セーターとピンクのスカートを着て、

髪を下ろしてロングにしている。

 

後部座席には龍田と朝潮。

 

朝潮は行く時よりも落ち着いていた。

 

落ち着いたというよりは

スッキリしていた。

 

大本営で前提督と対面した。

 

そこで言われたのは

八つ当たりのような罵詈雑言。

 

『お前のせいで捕まった』

『役立たず』『欠陥兵器』

 

等など、そんな言葉で捲し立てた。

 

しかしそれは、提督の言葉を信じて

生きてきた朝潮には悪手だった。

 

刑務所にありそうな囚人と話す時の

ガラス越しの対面。

 

お互いの間には

1枚のガラスが(へだ)たっていた。

 

朝潮はそのガラスをぶち破り、

顔に1発、2発と拳を叩きこむ。

 

勿論なす術もなく、

提督は数日ぶりにボコボコにされた。

 

これによって目が覚めたのか、

朝潮は人が変わった。

 

戻ったらみんなに謝りたいらしい。

 

それなら急いで帰ろうと、

全速力で帰っているのだが。

 

車の中では説教が行われていた。

 

「俺の…なけなしの小遣いが…」

 

「ユリの為にも使うのです。

それぐらいで文句言わない。」

 

「赤城の食費の方が洒落にならんて…。」

 

この光景を見ている龍田は驚いていた。

 

さっきまで大本営で元帥を弄っていた人が、

見事なまでに尻に敷かれているからだ。

 

そして、イメージも違う。

 

鎮守府にいる電は大人しいが、

こっちの電はしっかりしている。

 

それもそうだろう。

 

龍田は、彼女の話を聞いて

この電が誰なのか分かっている。

 

聞いていなくても関係性は分かり易い。

 

それは言わなくても見れば分かる。

 

左手の薬指に光る銀のリングが

それを証明しているのだから。

 

 




心配していた第六駆逐隊は
一緒にいた職員の皆さんが
傍に居てくれました。

最後に出てきたのは
何ヅマさんでしょうかね?

次回も不定期ですが、
思いついたら書きます。

早ければ明日
それでは次回もお楽しみに。


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第25話 呉の鬼嫁

 

昨夜の騒動が収まり、

いつも通りに生活する。

 

駆逐達は何事もなかったかのように

いつも通り鍛錬を行っていた。

 

ただ、その顔は憑き物が取れたように

いつもよりスッキリしていた。

 

長門たちの調子も良さそうだった。

 

タンコブができたままの川内は

ちょっと辛そうだった。

 

川内を除き、調子が良かった艦娘たちは、

午後の鍛錬に向けて食事。

 

間宮も腕によりをかけて作ったため、

いつもよりキラキラしていた。

 

私達も食事を楽しんでいると、

誰かが走ってきた。

 

全員の視線が入口の方に集中する。

 

そこには息を切らし、

肩で息をする朝潮が立っていた。

 

私達は全員警戒する。

 

今までの事もあり、全員が身構える。

 

何人かは怯えて震えていた。

 

何をしに来たのか、

猫さん達はどうしたのか。

 

色々と気になったが、

それを聞く前に朝潮が行動した。

 

「大変申し訳ございませんでした!」

 

…へ?

 

いきなりの土下座。

 

その行為に食堂がざわついた。

 

今までの朝潮では考えられない

この行為に全員が戸惑った。

 

「あれほど説明を先にしろ言ったのに」

 

「行動が先に出るのは朝潮らしいだろ?」

 

「教えた意味が無いのです。」

 

何があったか聞こうとしたら、

朝潮の後ろに猫さんと誰かが立っていた。

 

いつの間にか、気づいたらそこにいた。

 

「ほら、ちゃんと説明しないと、

誰も理解できないのです。」

 

「分かりました!それでは説明します!」

 

そう言って朝潮は話し出す。

 

私達が朝潮を見ていないここ数日の事。

 

大本営に行き、前提督と話し、

目が覚めたからボコボコしてきた。

 

とにかく皆に謝りたい。

 

まあ、訳したらこういうことらしい。

 

猫さんからの補足も入り、

全員がある程度納得した。

 

しかし、不安は残る。

 

特に第六駆逐達にとっては

また襲われるかも知らないからだ。

 

そこは今後の行動で

判断してもらうことになった。

 

ところで…この人はどちら様?

 

猫さんの関係者だろうけど…。

 

「ああ、この子は…」

『こら皐月!サボるんじゃない!』

 

「へへーん!捕まらない…よ……。」

 

「ようやく追いついた!

ん?どうした急に立ち止まって…。」

 

猫さんが話そうとすると

呉鎮守府の面々がやってきた。

 

どうやら午後の鍛錬の

準備ができたようだ。

 

皐月はサボったそうだが…。

 

しかし、様子がおかしい。

 

急に固まった。

 

眼を見開き、顔を青くしていた。

 

後ろから残りの面々も来たが、

全員が同じように固まった。

 

心なしか、空気が重く感じた。

 

体も重たく感じる。

 

「元気いっぱいですね、皐月。

また仕事をサボったのですか?」

 

「あ、ああ…あああ!」

 

「指導が足りてないようなので、

今からしっかり指導してあげるのです。」

 

「い、嫌だー!うあああああッ!」

 

「ふふふ、少し遊んでくるのです。

その間に説明を任せるのです。」

 

「……ほどほどにな。」

 

「なのです!」

 

逃げ出した皐月を追い、

満面の笑みをして消えていった。

 

何故か分からないが、

体が軽くなった感じがした。

 

長月は力が抜けたように座り込み、

残りの面々は猫さんに抱き着いた。

 

「なんであの人がいるんですか!」

 

「前より恐ろしくなってるよぉ。」

 

「皐月ちゃん……健闘を祈るにゃし~」

 

「あら。長月ちゃん、気絶しちゃってる。」

 

「……」

 

……場の雰囲気がカオスになった。

 

猫さんも苦笑いである。

 

さらにこの場に龍田さんも来た。

 

「私がいない間に、

面白いことになったのね~」

 

「龍田、どこに行ってたんだ?」

 

「この人の付き添いで大本営よ。

元帥と意気投合して、楽しかったわ♪」

 

天龍の問いかけに対して

笑顔を見せる龍田。

 

悪い笑顔だった。

 

「それにしても大丈夫なの?」

 

『ごめんなさーい!』パチィーン!

 

「止めた方が良いんじゃない?」

 

皐月の悲鳴だろう。

 

聞いたことが無いぐらい

デカい声で謝っていた。

 

呉鎮守府の面々ですら、

恐怖している感じだった。

 

あの人は一体?

 

「司令官、あの子って電よね?

どこか『()()()()』が違うけど。」

 

その言葉を発したのは暁だった。

 

私達は面影があるなと思ったぐらいで、

あれが電だとはすぐに分からなかった。

 

口調で電かなと思ったぐらいだ。

 

暁は姉妹だから分かったのだろう。

 

「ああ、間違いなく電だよ。

今は現役を引退しているけどね。」

 

猫さんがそう説明する。

 

……ん?現役引退は、おかしい。

 

此処に突入前に大本営に来ていたし、

呉鎮守府では鍛錬をしていたはず。

 

「引退しても呼ばれたりするんだよ。

鎮守府にいたのは様子見みたいなものさ。」

 

…何となく理解した。

 

あれだ、

卒業したOBOGが部活に顔を出す感じだ。

 

睦月たちは、凄く嫌そうにしているけど。

 

「あの子、一体何者なの?

深海棲艦よりも威圧感が…。」

 

「あんなの威嚇にもなってないよぉ。

本気なら全員倒れちゃうぅ。」

 

「電ちゃんが5割も出したら

睦月たちは手も足も出ないのね。」

 

そんな話をしていると、

秋雲が食堂にやって来た。

 

恐らく、寝起きだろう。

 

髪の毛が乱れ、跳ねていた。

 

「ん~騒がしいけど何があったの?

誰かお客さんでも来たの…?」

 

「電ちゃんがやってきたにゃ。

今、皐月ちゃんのお仕置き中にゃし。」

 

「げっ、嫁さんが来てるの⁈

会いたくねえ、説教されそうだな~。」

 

…へ?嫁さん?誰が?誰の?

 

「うん?ああ、電は猫さんの嫁さんだよ。

ほら、猫さんの左手見てみ?」

 

そう言われて手を見ると、

綺麗な指輪が着いていた。

 

「この人が前線に出るタイプだからね。

壊れないようにいつもは外してるんだよ。」

 

ああ、だから見たことないし、

挨拶の時に殴られてたのか。

 

「オフだとデレッデレなんだけどね。

厳しすぎるから鬼嫁なんて言われ…」

 

「ふ~ん、そう言われていたのですね。

一体誰が言っていたのです?」

 

あ、秋雲が固まった。

 

ムンクの『叫び』のような顔をして。

 

秋雲が振り向くとそこには、

電が仁王立ちしていた。

 

皐月は頭にタンコブを生産され、

睦月たちに慰められている。

 

泣きながらお尻を抑えていることから、

さっき聞こえたのはお尻を…。

 

考えただけで身の毛がよだった。

 

そして、次の目標は秋雲になった。

 

「あ~き~ぐ~も~。その髪は何です?

今何時だと思っているのです~?」

 

「ひゃああああ!

くぁwせdrftgyふじこlp!」

 

秋雲は逃げようとしたが、時すでに遅し。

 

一瞬でコブラツイストを掛けられた。

 

「徹底的に指導してやるのです。

さっきの事も洗いざらい吐くまで!」

 

「ジョーク、ジョークですって!

骨が折r、(ボキッ)ぎゃあああ!」

 

鬼嫁どころか悪魔だった…。

 

秋雲が凄い顔で地面に倒れた。

 

え、これヤバくない?

 

下手したら次は私達じゃ…。

 

あ、こっち見た。

 

「さあ、つぎはお前たちを

……はにゃぁ~ん♡」

 

…は?

 

え、何?なんか大人しくなった⁈

すごい緩んだ顔してる⁈

 

猫さんが電の頭を撫でて、

何処からか出てきた櫛で梳かして…。

 

もしかして、これがオフ?

 

「ほら。リラックス、リラックス。

とりあえず、執務室に行くぞ。」

 

「えへへ、はぁ~い♡

仕方ないから貴方たちは許すのです♡」

 

大人しくなったから猫さんが電を抱いて

食堂から出て行ったけど…。

 

…………なぁにこれ?

 

皆、戸惑って固まっちゃったよ。

 

余りの事にヌ―スも動かないんだけど。

 

何だろう、こう…くどい?というか…

何とも言えない変な甘さを感じた。

 

全身が砂糖になりそうな感じ。

 

後で秋雲に聞いてみると、

あれが電の『素』の姿らしい。

 

厳しいのは艦娘が現れた頃から

長生きしているから。

 

己の力で生き抜かないといけない。

 

そんな生活をしていたそうだ。

 

だから、あの姿が見られるのは

平和である証拠でもあるらしい。

 

そんな姿を見送り、食事をし、

いつも通りの時間を過ごす。

 

鍛錬が終わった後の食堂には

素の状態の電がいた。

 

すごく優しく、間宮に料理を教えていた。

 

電はアドバイスをするだけだったが、

間宮は頷きながら学んでいた。

 

その料理はいつもより美味しく感じた。

 

若干の甘さも…。

 

 

 

 

 

「―という感じですが

よろしいでしょうか?」

 

「ああ、いいと思うよ。

皆も楽しんでくれるだろう。」

 

「こういう時は泣き出す子が多いのです。

その辺のケアも考えておくのです。」

 

夜遅くに執務室で話をする、

潮奈と猫と電。

 

それはここから離れる話。

 

役目が終わり、滞在するのも後2日。

 

長くても明後日の昼には

ここを離れることになる。

 

それは歌音も同じこと。

 

長く色々あった佐世保での生活が、

終わりを告げようとしていた。

 

 

 

 




猫さんのお嫁さんの電
実はとんでもない立場の人で…

何より恐ろしいのは
皐月の声より大きい叩く音。

でも、オフになると
目がハートになります。


次回は佐世保編、最終話

既に話は完成しているけど
少し間を開けて投稿します。

最終話の題名を見たら
一部の人は私のしたいことを察せます。


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第26話 再現⁈『深淵の物語』の終幕

佐世保編、最終回!


 

甘濃い一日を過ごした次の日。

 

私とヌ―ス、秋雲は執務室に呼ばれた。

 

何となく予想はしている。

 

猫さんが荷物をまとめているから、

そう言うことだろう。

 

「早いな~。夏雲が来てから

もうそんなに経ったんだね。」

 

「皆さんのおかげで、ここは変わりました。

感謝してもしきれないですね。」

 

「私達の命も救われたからな。

あの子たちも笑顔になった。礼を言う。」

 

霧島と長門に礼を言われながら、

皆で思い出す、ここでの生活。

 

夏雲が来て、突入して、

赤城さんたちに会って。

 

ヌ―スが来て、加賀さんと別れて……。

 

辛いことも楽しいことも、

本当に多くの事があった。

 

他にも何かあったと思うが忘れた。

 

そんな生活も、明日には終わってしまう。

 

今日は皆も色々準備するそうなので、

しっかりと楽しもうと考えた。

 

「そう言えば、

みんなからのリクエストなんだが…。」

 

ん?

 

「歌音に歌ってほしいって。」

 

…やっぱり?

 

まあ、絶対そうなると思ったから

歌う準備はしてある。

 

どこかに行くときには歌を歌う。

 

それがいつもやっていたことだから。

 

 

 

 

 

時は経ち、夜になった。

 

グラウンドにステージが設置され、

周りには屋台がたくさんできていた。

 

どうやらいくつかの

グループに分かれて用意したようだ。

 

ちょっとした祭りのようで、

楽しい時間を過ごしていた。

 

しばらく楽しんでいると、

時間が来たのでステージへ。

 

那珂ちゃんが盛り上げてくれたので、

私もテンションを上げてステージに上がる。

 

言葉を借りるなら

「気分が高揚します」だ。

 

今回は楽器がないため歌で、

BGMはマイクの力で何とかした。

 

いつも以上にテンションが

上がっていたからだろう。

 

休むことを忘れて歌っていた。

 

大汗を掻きながら、全力で

歌い、踊り、楽しんだ。

 

 

 

 

 

皆との楽しい時間は

あっという間に過ぎていく。

 

気づけばいつもの寝る時間。

 

でも、誰も終わろうとはしなかった。

 

駆逐達も眠たいのを我慢して、

必死に目を覚ましていた。

 

この時間を

誰も終わらせたくないのだろう。

 

中には泣きそうな子もいた。

 

どうしようかと考えていると、

潮奈が皆に声を掛ける。

 

「皆さん、そろそろ

あの場所に行きましょう。」

 

あの場所?

 

私はどこの事か見当もつかなかった。

 

でも、皆はどこか分かっているらしく、

私は手を引かれ、連れていかれた。

 

着いたのは(いかり)慰霊碑(いれいひ)のある岬。

 

辺り一面は

花が咲いていて綺麗なところだった。

 

その先は月が海面を照らし、

花を輝かせていた。

 

「駆逐艦たちのお気に入りの場所です。

ここを歌音さんに見せたかったそうで。」

 

とても綺麗な場所だ。

 

かなり前からお気に入りだったらしく、

解放されてから、手入れしたらしい。

 

ここも、アニメに出た場所だ。

 

慰霊碑ということで分かるだろうが、

あの…悲しい……。

 

でも、私にはそれと同時に

違うものが見えていた。

 

それは、とある物語の終幕。

 

それは『生まれた意味を知る』物語。

 

その物語の終幕に

このような場所で歌うシーンがある。

 

私はそれを知っている。

 

そして、それを知っているであろう

後ろの2人も気づいている。

 

「秋雲、気づいたか?この場所…。」

 

「すごく分かるよ。つい最近やったし、

歌音も気づいてる、というか知ってる?」

 

私はその問いに頷く。

 

秋雲は「マジか…。」と言いながら、

猫さんとニヤニヤしていた。

 

考えていることは何となく分かる。

 

恐らく再現したいのだろう。

 

「どうする?どっちが言う?」

 

「そりゃ、再現するなら秋雲だろう?

あれは王女様のセリフだからな。」

 

「秋雲さんには似合わないけど、

とりあえずやるか~。」

 

この2人だけは、

この状況を楽しんでいる。

 

他のみんなは分からなくて

キョトンとしているのに。

 

そんな事を気にすることなく、

秋雲は私に近づいてこう言った。

 

「歌音、『譜歌』を歌ってくださる?」

 

予想通りのセリフだった。

 

お嬢様口調のせいで、少し吹いたし。

 

しかも、用意周到なようで、

何故かヌ―スがマイクを渡してきた。

 

「私もどのような曲か気になりますので。」

 

そう言って、少し後ろに下がった。

 

私は観念してマイクを受け取ると、

少しだけ前に歩く。

 

そして、マイクを起動させて歌う。

 

 

 

 

 

トゥエ レィ ズェ クロア リュォ トゥエ ズェ

 

クロア リュォ ズェ トゥエ リュォ レィ 

ネゥ リュォ ズェ

 

ヴァ レィ ズェ トゥエ 

ネゥ トゥエ リュォ トゥエ クロア

 

リュォ レィ クロア リュォ ズェ

レィ ヴァ ズェ レイ

 

ヴァ ネゥ ヴァ レィ 

ヴァ ネゥ ヴァ ズェ レィ

 

クロア リュォ クロア ネゥ トゥエ レィ 

クロア リュォ ズェ レィ ヴァ

 

レィ ヴァ ネゥ クロア トゥエ レィ レィ

 

 

 

 

 

いつも通りに現れる三面鏡。

 

でも、今日はいつもと違った。

 

いくつかの破片は浮かび上がり、

2つの丸い鏡を見せる。

 

片方の鏡には、私のヲ級の時の姿が、

もう一方には、赤毛の青年が映る。

 

残った破片は私の隣に集まり、

人の形を形成していく。

 

ロングヘアの女性が私の横に。

 

笑みを浮かべながら

私と一緒に歌い始める。

 

この歌は2週するため、

その2週目を一緒に歌う。

 

歌い始めると2つの鏡も変化を見せる。

 

鏡の中の私と青年が動き出す。

 

私は何が映っているのか、

すぐに理解することができた。

 

それは私という人間の物語。

 

私の生きてきた証だ。

 

人間の歌音として、ヲ級の歌音としての。

 

今までの事が第三者視点で映る。

 

青年の方も同じだ。

 

青年が歩んできた物語。

 

青年の人生、戦い、覚悟、誓い。

 

青年が青年であるための。

 

そして、2つの鏡は暗闇に包まれる。

 

青年が映った鏡には月夜の白い花畑。

 

私が映った鏡には、この岬の景色。

 

違うようで…、似ているようで…。

 

そんな景色を映し出す。

 

歌い終わると、唐突に強い風が吹く。

 

私は目を瞑り、腕で顔を覆った。

 

 

 

『―――――』

 

 

 

ッ!

 

風が止んで目を開けると、

女性と鏡は消えていた。

 

残っていたのは、花弁(はなびら)と共に舞う破片と

私の姿が映る丸い鏡。

 

しかし、それもすぐにひびが入り、

割れると風に乗って消えていった。

 

振り返ると、皆がすすり泣きをしていた。

 

猫さんと秋雲は分かっていても

あのシーンで泣いてしまうタイプだろう。

 

他の子たちは、泣きながら私を見ていた。

 

そして、一斉に抱きついてきた。

 

何故かは分からない。

 

ただ、私も何か感じたのだろう。

 

自然と涙がこぼれてきた。

 

今までの悲しみのような感情でも、

歓喜のような感情でもない。

 

よく分からない不思議な感情が、

私に涙を流させる。

 

しばらくの間、皆と抱き合い、

私は鎮守府へと戻った。

 

その私を見ている影に

気づくことなく…。

 

「もう関わらないつもりだったが、

いい肴になりそうだからな。

少しだけ特権を使ってやる。」

 

それは正真正銘、

最後のイレギュラー(特権行使)だった。

 

 

 

 

 

「今までありがとうございました!敬礼!」

 

潮奈の号令で、佐世保鎮守府総員による

敬礼に見送られ、私達はこの地を去る。

 

長かった佐世保での生活とともに、

私の目的も一区切りついた。

 

次の目的は歌で平和を。

 

終わりが見えない途方もない目的だ。

 

だが、少しずつでいい。

 

キューちゃんたちやネ音たちのように

平和を願うことはできるのだから…。

 

さあ、久々の大本営だ。

 

今度はどんなことを

することになるのだろうか。

 

そう思っていると猫さんから

あることを告げられる。

 

「あ、言い忘れてた。

歌音、これから()()()()()()。」

 

……え?

 

「チビ助には言っておいたから、

しばらくは呉で生活な。」

 

……本当にこの人は

何を言っているのだろう。

 

どうやら、また一波乱ありそうな

そんな感じがしてならない。

 

そう思いながら、

私は車に揺られていくのだった……。

 

 

 

「あ、じゃあ秋雲さんは…。」

 

「お前は呉に着いたら足柄考案の

お仕置きメニュー確定なのです!」

 

「そんなあああああ!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「それじゃあ建造を始めましょうか。」

 

「はい!この朝潮、

全力でやらせていただきます!」

 

歌音たちが佐世保を去った後、

朝潮の最初の仕事が始まった。

 

今は少なくなってしまった戦力を

取り戻すための建造を行っている。

 

潮奈と共に工廠に向かい、

名誉を挽回するための初仕事。

 

呉や大本営からの支援のお陰で、

資材には十分余裕がある。

 

そのため、最初は思い切って

資材を多めに入れた。

 

「最初は誰が来て下さるのでしょうか?」

 

「戦艦や空母が出るように入れたから

必ずではないけど出てくれるわよ。」

 

そんな会話をしていると

妖精さんに声を掛けられる。

 

「高速建造材ですか?そうですね。

まだ余裕もありますから、使いましょう!」

 

妖精さんは、すぐに高速建造材を使用し、

建造が終了したことを伝える。

 

そして、建造ドッグの扉が開いた。

 

「さてと、一体だれが……。」

 

「貴方は…まさか……。」

 

その建造ドッグから現れたのは……。

 

「航空母艦、加賀です。…何故かしら?

此処を知っている気がするのだけれど、

気のせいね。よろしくお願いするわ。」

 

 

 

 




これにて佐世保編は終了になります。

1つの山場がようやく終わりました。


歌は、テイルズシリーズ8作品目
10周年記念作品
『テイルズオブジアビス』
で歌われている『譜歌』

この作品のラストシーンの再現を
したいと思って組み込みました。

このEDは、第二章作成中、
第三章の大まかな設定と共に
こうすることを決めていました。

最後は、こうしたかったんや…





さて、続く第4章
呉編は、ゆったり日常話

かなり疲れているはずの歌音には
ここでゆっくりと休んでほしいですね。

え、波乱が起きるんじゃないかって?
チョットナニイッテルノカワカラナイ


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第四章 呉鎮守府休暇編
第1話 いつかの温もり


お久しぶりです。

色々な事情+やる気の問題で
ようやく完成しました。

此処から呉編スタートです。



 

 

……此処はどこ?

 

目の前には1本の大きな桜の木、

辺り一面の花畑、白い背景。

 

私を呼ぶ誰かの声。

 

「お姉さまー!」

 

キューちゃんの声…。

 

「歌音様―!」

 

ヌ―スの声…。

 

「歌音お姉ちゃーん!」

 

ネ音の声……。

 

「「「「「キューーーー!」」」」」

 

キューちゃんズの声…。

 

前より増えている。

 

「「「「豁碁浹縺輔?繧難シ」」」」

 

……達の声…。

 

あれ……今のは、誰?

 

なんで、皆は遠くにいるの?

 

「…………ま!」

 

何か、おかしい?

 

私が……おかしい?

 

「………音様!」

 

私は………腕が白い?

 

『うたね……。』

 

白、白。白?白!白⁈

 

「起きてください、歌音様!」

 

 

 

……ッ!今のは、夢?

 

(うな)されていましたよ。

何か悪い夢でも?」

 

…大丈夫、みんながいたから大丈夫。

 

それより、此処はどこ?

 

「ここは車の中でございます。

先ほど、呉に入りましたよ。」

 

そうだった。

 

確か急に呉鎮に行くって言われて、

しばらく生活するって言っていたっけ?

 

それにしても呉か。

 

前世では一度も来たことが無かったな。

 

夏に行事として平和記念資料館に行くって

先生と色々と話したんだけど…。

 

すぐにあれがあったから…。

 

これを機に、頼んでみようかな。

 

何か、頭が痛い。

 

多分寝すぎたからだろう。

 

痛い体を何とか起こす。

 

外は街と車の光で輝いていた。

 

懐かしく感じるこの光景。

 

その光景は次第に少なくなっていき、

ちょっと暗くなって、また明るくなる。

 

そして、車が止まった。

 

「さて、鎮守府に到着したぞ。」

 

「…あいつら、どこに行ったのです?」

 

「この時間なら…ああ、暇すぎて

チャンバラしてるんじゃあないか。」

 

「どこで?」

 

「広場。」

 

「行ってくるのです。」

 

電が何かを持って、

車を飛び出て行った。

 

数十秒後に、

2人ぐらいの悲鳴が上がった。

 

私は車の外に出る。

 

いつもより寒く感じた。

 

猫さんは車を動かすため、

私達は先に目の前の建物に向かう。

 

だが、体がぐらついた。

 

すぐにヌ―スが抱えてくれたため、

地面との衝突は避けられた。

 

だが、体が思ったように動かない。

 

いつもより重たく、熱っぽい。

 

「歌音様ッ!大丈夫ですか⁈」

 

ヌ―スが呼びかけてくれるが、

私は返事ができない。

 

それぐらい、頭が痛い。

 

ズキズキするし、ヌ―スの声が響く。

 

お願いだから、声量を下げて…。

 

「どうしたの⁈

大変!顔が真っ赤じゃない!」

 

誰かがやってきて、

私のおでこに手を当てる。

 

「ひどい熱。急いでついてきて!」

 

聞き覚えがある女性の声。

 

でも、何も考えられない。

 

だんだん、気持ち悪くもなってきた。

 

からだもふわふわすr…

 

「ッ!う……、…ぐ……れて………。」

 

ごめんね、ぬーす…。

 

こえも、よく、きこえない…。

 

 

 

 

 

身体がまだふわふわする。

 

そんな私の頭を誰かが撫でる。

 

その手は温かくて、不器用で…。

 

懐かしさを感じる。

 

お兄ちゃんみたい…。

 

そういえば、私が小さい頃は、

お兄ちゃんが看病してくれたっけ?

 

料理なんてできないのに、

無理して作ってくれたね。

 

友達を作るのが苦手だったから

誰にも聞かずに料理本片手に。

 

お粥じゃなくて、

お粥みたいなカレーを。

 

カレーは飲み物って言葉が

現実になるとは思わなかったけど。

 

しかも、病気に勝てるようにって、

お総菜屋さんで買ったカツを入れてさ。

 

懐かしいな……。

 

また、食べたいな……。

 

お兄ちゃんのカレーを…。

 

 

 

 

 

チュンチュン

 

雀が鳴いている。

 

もう朝なのだろう。

 

体の熱と気怠さは、

かなり抜けていた。

 

右手を見ると点滴が付いていた。

 

気分が良いのはこれのお陰だろう。

 

左を見ると、

ヌ―スが椅子に座っていた。

 

何故か、執事服で。

 

左手で本を読み、右手は…私の頭。

 

無意識にずっと撫でていた。

 

温かく感じたのは、この手なのだろう。

 

私は右手をその手の上に重ねた。

 

「ん、お目覚めですか、歌音様。

御機嫌は如何でしょうか?」

 

本を閉じて、私の方を向くヌ―ス。

 

その顔は穏やかで、

安心している様な顔だった。

 

とりあえず、気分はいい。

 

流石に寝すぎて身体が重たい。

 

後、「ぐぅう~」…お腹すいた。

 

「11:10ですからね。

昨日の夜から食事されていませんので。」

 

ああ、それならお腹が空くはずだよね。

 

いい匂いも漂ってきたから。

とりあえず食堂に…。

 

え?呼び出しボタンがある?

それじゃあ、押すか。

 

ポチっとな……スパン!

 

「ようやく目覚めましたね!

さあ、早速検査おッフ!」

 

「起きていきなり迷惑かけるな、馬鹿。

体調は、昨日よりは良さそうですね。」

 

いきなり現れた明石と

拳骨を食らわせた電が来た。

 

可愛らしい白のワンピースを着ている。

 

「さあ、食堂に来るのです。

食事の用意はできているのです。」

 

電は明石を引きずって行った。

 

私はその後に続こうとしたが、

足に力が入らなくて倒れかけた。

 

ヌ―スが支えてくれたおかげで、

地面とのキスは免れた。

 

ヌ―スは少しだけ考えると、

私を抱きかかえた。

 

また、お姫様抱っこされた。

今度は点滴と一緒に。

 

 

 

食堂に付くといい匂いに包まれた。

 

香ばしく、食欲をそそるカレーの匂い。

 

私のお腹は、匂いにすぐ反応した。

 

しかも、ヌ―スがキッチンに

一番近いところに連れてきた。

 

お陰で私のお腹は限界だ。

 

「おはよう、元気になったようね。」

 

そう言うのは足柄。

 

この鎮守府に初めて来た時に見た、

唯一の妙高型で重巡だ。

 

その手には

美味しそうなものが乗っていた。

 

「お腹が空いているでしょ?

足柄特製のカツカレーを召し上がれ!」

 

出てきたのはカツカレー。

 

勝ちに拘る足柄ならではの料理だ。

 

私はスプーンを貰い、すぐに口に運んだ。

 

少し辛いが、食欲が湧いてくる。

 

昨日の夜から何も食べていない分、

私の胃が欲していた。

 

まるで赤城さんになったかのよう。

 

美味しくて手が止まらない。

 

お代わりも何回したか分からない。

 

多分まだ食べられる。

 

しかし、皆に止められた。

 

それだけ食べていたようだ。

 

でも、満足できたから良しとしよう。

 

食後に出されたお茶を飲みながら、

落ち着いた時間を過ごした。

 

食堂に合いそうな曲を考えて

ハミングをしながらゆったりと。

 

 

 

小一時間ほどゆったりした後、

私は執務室に来た。

 

ヌ―スは明石に呼ばれたから

私一人で。

 

食事をしたからか、

1人で歩けるし、点滴もいらなくなった。

 

執務室に来たのは、

猫さんから話があると言われたからだ。

 

執務室に入ると、

猫さんに「しー」と言われた。

 

静かに入ると、その理由が分かった。

 

ソファで夕立とユリちゃんが

抱き合って寝ていたからだ。

 

夕立は涎を垂らしながら、

ユリちゃんは嬉しそうにしながら。

 

起こさないように、静かに移動して、

提督の椅子に座っている猫さんと話す。

 

話しというのは、これからの事。

 

休暇命令とはいえ、

何をするかを決めていない。

 

そこで、猫さんと電が

色々な場所に連れて行ってくれるそうだ。

 

艦娘たちも一緒に行くらしい。

 

護衛の意味もあるが、

彼女たちのガス抜きも兼ねているそうだ。

 

私は、その前に検査があるそうで

明日の朝から検査する予定だ。

 

結果次第では、

明後日からは自由に行動できるらしい。

 

明日には元気になっているだろう。

 

せっかくの休暇を楽しませてもらう。

 

そう思いながら、私は部屋を後にした。

 

この後、お腹を下したことで

しっかり怒られたのは言うまでもない…。

 

 

 

 

 

さびしい、くらい、こわい

 

あっち、あかるい?

 

うた?きこえる?たのしい?

 

うたって、わたしに、うたって

 

たのしい、うれしい、うた

 

うたね、うたって

 




これから忙しくなるので
更新は遅れ…るはず?

時間があれば書いていく予定です。



一応、話の中の補足

ユリちゃんはレ級です。
呉に来た時に一度会ってます。


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第2話 歌に憑いたモノ

酒の勢いで書いた
後悔はしていない(^u^)


 

 

へくちっ!

もう少し厚着すればよかった。

 

そう思いながら、私は海を見る。

 

大きなタンカーやフェリーが

まだ眠っている暗い朝の海。

 

その海に通る12の船後波、

それが半分ずつ、左右に分かれている。

 

その姿を見送りながら、

私は歌を口ずさむ。

 

航海の無事を願い、帰還を願い、

今日の平和を願った。

 

それに反応したのだろうか。

 

水平線の向こうから、

陽の光が射し込んだ。

 

温かい光に、心地よさを感じた私は、

満足して部屋へと戻った。

 

 

 

部屋に戻…ろうとした私だったが、

明石に捕まって工廠に連れていかれた。

 

佐世保で検査されたはずなのだが、

怖い顔をされるので何も言えない。

 

大人しく色々な検査を受けた。

 

私に拒否権は無いらしい。

 

最初はカプセルのような装置に

無理やり入れられた。

 

次に実験机に縛られ、

MRIのような装置に。

 

その後は血を抜かれ、

体液を取られた。

 

勢いで様々な検査をされた私は、

ベッドで横になっていた。

 

体には何もつけていない。

 

布団1枚を被せられ、

右手は点滴をつけられて。

 

しばらくすると、明石が戻ってきた。

 

傍にある椅子に座って、

その結果を告げてくる。

 

「少し興味のある結果が出ました。

後で、外に出て確認しますよ。」

 

詳しく聞くと、

基本的な数値は正常らしい。

 

普通の人間と変わりない、

体のつくりになっているようだ。

 

骨、血管、筋肉、生殖器、etc.

 

人間の標本のように、

人間そのものと言っていいと。

 

ただ、少しおかしなところがあった。

 

それは、前線基地で調べた時と

同じ反応を示したこと。

 

あの時の検査では、私の中に

加賀の魂があることを知られた。

 

今回は、最初のカプセル装置で、

私の中の別の物を見つけたようだ。

 

その別の物が何であるかは不明。

 

明石は準備があると言い、

部屋を後にした。

 

ちょっとした不安を残しつつ、

私はゆっくりすることにした。

 

 

 

 

 

『うたが、ききたい…。』

 

誰かの囁く声がする。

 

ここはどこだろうか?

 

身体がふわふわする。

 

でも、ゾワッっとする。

 

温かい白い光が全身を照らすのに、

微かに吹く風が温もりを消し去る。

 

『きになる、それを、おしえて……。』

 

聞いたことのない声。

 

人の声のはずなのに、

冷たさと寂しさを感じる。

 

でも、何故かその声に

懐かしさと親しさを感じる。

 

貴方は、誰なの?

 

『わたしは――』

 

その声は聞こえることは無く、

急に光に包まれた。

 

 

 

 

 

「ほら、起きなさい。もう時間よ。」

 

明石の声が聞こえる。

 

私は眠っていたのだろう。

 

なんだか体が重たい。

 

そんな体を無理やり起こして、

明石について行く。

 

ついて行くと、

そこは大きなプールだった。

 

学校のプールよりは大きい。

 

明石からそのプールのサイドに

立ってほしいと言われて立つ。

 

なぜか数人の艦娘に見られている。

 

何故かと思っていると、

ドンッ!っと押された。

 

私の体がその勢いに抗えるはずがなく、

綺麗に顔からプールに落ちる。

 

明石という存在はそう言うやつなのだ。

 

後で一発殴ろうと決意した。

 

だが、不思議なことも起きた。

 

何故か、体は沈まなかった。

 

陸でこけたような感じで、

水の上で起き上がることができた。

 

確認すると、私の肌が白くなっていた。

 

身長も元に、ヲ級に戻っている。

 

水面にもヲ級の姿が映る。

 

私の体は、完全にヲ級に戻っていた。

 

「ありえないですね、こんなこと。

不思議なものです。」

 

「何か分かったのです?」

 

「ヲ級の魂が残っていました。

薄っすらではなく、丸ごと。」

 

「はい?」

 

素で声が出た。

 

あ、声もこっちに戻ってる。

 

ってそうじゃなくって、

え、私の体にヲ級がいる?なんで?

 

「…私では解読できそうにないですね。

理由はどうあれ、ヲ級の魂がいます。」

 

え、なんか一人で納得された。

 

私、何一つとして理解してない。

 

「後でまとめるので、

とりあえず出てきてください。」

 

…人を押しておいて

よくその言葉が言えるものだ。

 

とりあえず、プールから出る。

 

すると、体が歌音の姿に戻った。

 

「やはり研究する必要がありそうですね。

警備を強めるのも視野に入れましょうか。」

 

そう言って歩いてどこかに行った。

 

私はただ茫然とするしかなかった。

 

猫さん達も置いてけぼりにされた。

 

明石には一体、

何が見えているのだろうか。

 

 

 

執務室で待機していると、

明石がやってきた。

 

結果をまとめ終わったらしい。

 

「間違いなくヲ級の魂が宿っています。

佐世保の加賀と同じ状態です。」

 

「それはありえることなのか?」

 

「はっきり言って分かりません。

これはそんな次元の話ではないので。」

 

「…どんな次元だ?」

 

「神の次元、が適切かと。」

 

いつから此処は

ファンタジーな世界に…。

 

ああ。そう言えば、艦これも

私からすればファンタジーか。

 

今更な事だった。

 

加賀さんに会ったし、

エラー娘にも会ったから尚更。

 

…あれ?

加賀さん以外に誰かと会ったっけ?

 

思い出せないや。

 

まあ、いっか。

 

明石の報告を聞いて、

明日も検査する予定になった。

 

休暇までもう少しかかりそう。

 

とりあえず我慢することにした。

 

ヌ―ス?

 

ヌ―スなら食堂。

 

私もなんでいないのか気になったけど。

 

猫さんに聞いたら、

足柄から料理を学んでいるらしい。

 

人らしいことを

してみたいとかなんとか。

 

珍しいこともあるんだね。

 

この後、食堂に行ったら、

ヌ―スが料理を出してくれた。

 

普通に美味しかった。

 

今日は、満足して眠れそうな気がした。

 

 

 

 

 

「訳が分からない。

これだと説明がつかない。うー。」

 

夜遅く、月明かりが照らす工廠の中。

 

明石は唸りながら、

書類とにらめっこをする。

 

歌音の中にあるヲ級の魂。

 

それがどうやっても証明できない。

 

本来なら加賀の体を使って

この世に生まれるはずだった。

 

しかし、そこに歌音が入り、

本来の魂は行き場を失った。

 

魂の行方、あり方、

艦娘の深海棲艦化するプロセス。

 

分からないことが多すぎる。

 

ヌ―スに聞いても、

聞きたい情報までは知らない。

 

これ以上は悩んでも仕方ないと考え、

一度睡眠を取ることにした。

 

頭を休めるのが、最適だと。

 

 

 

この日、明石は夢を見た。

 

何でも解決する、

理想的な自分の将来像。

 

分からないことは無いだろうと言う

完全なる理想像。

 

それならこの問題も解けるだろう。

 

そう考えている明石の夢は止まる。

 

まるで時間が止まったかのように

全てが動かなくなる。

 

すると、目の前の空間に亀裂が走り、

そこから、二頭身の何かが出てきた。

 

「心地いい夢の途中で済まないが、

ちょっと入らせてもらうぜ。」

 

『あなたは、何者?』

 

「名乗る必要は無い、どうせ

名前と姿は忘れるからな。」

 

『それってどういう…』

 

「用件だけ言う。あの魂は私がいれた。

悪いことは起きないと保証しよう。」

 

『貴方がいれた?

そんなことできるわけ…。』

 

「お前の夢に割り込んでいる時点で、

出来ないことをしているんだがな。」

 

『はッ!そう言われれば確かに。』

 

「とにかくだ、あの嬢ちゃんに伝えとけ。

その魂と向き合ってやれって。」

 

『嬢ちゃん?』

 

「歌音の嬢ちゃんだ。

それじゃあ、伝えとけよ明石。」

 

『ああ!ちょっと待ってッ!』

 

 

 

「待ってッ!……あれは、夢?」

 

明石が目を覚ますと、歌声が聞こえた。

 

時間を確認すると、06:10

 

いつもより遅く目を覚ました。

 

伝えないといけないことは覚えている。

 

誰からなのかは忘れたけど、

歌音に伝えることは覚えている。

 

忘れないように急いで伝えるため、

明石は工廠を後にした。

 




段々と寒くなってきましたね。

私はやることが増えたので、
投稿頻度も下がると思います。

思いついたら書くので、
ハッキリとは言えないけど。

皆さん、体に気を付けて。
しっかり風邪予防するのです。


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第3話 王様式会話法

 

検査の翌朝。

 

私は外に出ていた。

 

歌うために出てきたけど、

今日は別の理由もある。

 

なにかに呼ばれたような気がした。

 

何に呼ばれたのかは分からないけど、

来なければいけないと思った。

 

いつもと違う今日の朝に

戸惑いながらも出てきた。

 

そう、いつもと違う。

 

最近見る夢も無かった。

 

何かに呼ばれた感じも無かった。

 

でも、今日だけは違った。

 

よく分からない不思議な感じ。

 

それを拭うため、

いつものように歌った。

 

空を覆う厚い雲が

日の出の微かな光を遮る。

 

波は怖いほど静かで、

何かの予兆を運んで来そうだ。

 

不安ばかりが、私の心を締めつける。

 

今は歌い、祈ることしか出来ない。

 

あの子たちの笑顔を見れば、

こんな不安も打ち消すだろうか。

 

…久しぶりに

あの子たちに会いたくなった。

 

ネ音、キューちゃん、

鳳翔さんにも会いたい。

 

でも、今は叶いそうにない。

 

私を襲う冷たい風が

全てを飛ばしてしまいそうだから。

 

この拭えない不安をどうするべきか。

 

悩んでいると、足音が聞こえた。

 

振り向くと、そこには明石がいた。

 

いつもの明石とは、少し様子が違う。

 

何かに悩んでいる様な感じがする。

 

少しだけ唸って考えた明石は、

覚悟を決めたように私に話しかける。

 

「今から突拍子もない事を言うけど、

聞くだけ聞いてほしいの。」

 

いきなりの事だった。

 

突拍子もない事を言うと。

 

昨日行った、私の体の実験。

 

その時の彼女からは

考えられない言葉。

 

私の体にいるヲ級についても、

ありえないと言ったぐらいだ。

 

そんな明石が言うということは、

何か分かったのだろうか?

 

「ついさっき、私は夢を見ていた。」

 

…何でいきなり夢の話を?

 

「そこで誰からか忘れたけど、

貴方に伝言を頼まれたの。」

 

夢の中、誰かに…。

 

何故だろう、

私にもそんなことがあった気がする。

 

思い出せないけど、

明石も似たようなことが起きたみたい。

 

そこで伝えられた、私への伝言は…。

 

「貴方の中にいる『魂と向き合え』。

そう言っていたわ。」

 

私の中の魂…。

 

間違いなくヲ級の事だろうが、

どうやって向き合えばいいのか。

 

「このことは提督にも伝えるから、

朝食の後に、執務室に来てくださいね。」

 

そう言って、明石は戻っていった。

 

本当に突拍子もない事だ。

 

魂と向き合うなんて…。

 

…いや、別にそうでもないのか。

 

心の中で

加賀さんと話したことがある。

 

でも、あれは加賀さんから

じゃないとできなかったし…。

 

いい案は浮かびそうにない。

 

今は部屋に戻ろう。

 

流石に、体を冷やし過ぎたから。

 

 

 

朝食の後、

私は執務室に来ていた。

 

ソファーに座り、

猫さんと明石と対面になる。

 

今日はヌ―スが傍に居て、

膝の上にはユリちゃんがいる。

 

電は提督の椅子で

猫のように丸くなって寝ていた。

 

そのため、

静かに話し合いが始まった。

 

「魂と向き合え、ですか。

私ではお役に立てそうにありませんね。」

 

「ヌ―スでも無理なのか?」

 

「私のは夢の中、脳の制御ですので

魂には干渉できないのです。」

 

ヌ―スでも魂には干渉できなかった。

 

彼が言うように、

出来るのは脳の干渉まで。

 

魂までは不可能なのだ。

 

「困りましたね、

何かいい方法があればいいのですが。」

 

魂への干渉というオカルトな話。

 

今の技術では不可能だろう。

 

可能性として、深海棲艦同士の

通信みたいなことができればいいが。

 

ネ音やキューちゃんたちに

その様な能力があれば…。

 

…はぁ、あの子たちの事を考えると、

会いたいという気持ちが膨れてしまう。

 

大本営で過ごしたネ音との時間。

 

駆けつけてくれたキューちゃんたち。

 

思い出すだけで会いたく…なる……。

 

あっ…。

 

「ん?どうかしたのか?」

 

思い出した。

 

キューちゃんが私の中に入ってきた。

 

その時に使っていた機材なら、

魂との会話ができるはずだ。

 

「あれは他人が入り込むものなので

本人だと使えません。」

 

どうやら自分では使えないらしい。

 

なら、ヌ―スに頼むしかないだろう。

 

他の案も、思いつかないのだから。

 

そう思っていると、猫さんが呟いた。

 

「ヲ級の魂…。

もう一人の歌音みたいなものか。」

 

確かに、そう言えるのだろう。

 

ヲ級の体に私の魂が入って、

今は私の体にヲ級の魂がいるから。

 

「あっ!その手があっ、ングッ!」

 

いきなり明石が叫んだ。

と同時に猫さんが口を押えた。

 

理由はすぐに分かった。

 

何かが明石の

顔の横に飛んできたからだ。

 

明石の後ろの壁に刺さっている。

 

それは万年筆だった。

 

そして、飛んできた方向からは、

不機嫌そうな顔の電。

 

「…あれほど静かにしろと、

注意したのですよ…ッ!」

 

私はユリちゃんを守るように抱き、

ヌ―スは私の体を自分に寄せた。

 

「私の眠りを邪魔するとは

いい度胸なのです。」

 

目つき悪いし、変なオーラが見える。

 

だが、大丈夫なはずだ。

 

だって猫さんが何とかしてくれるはず。

 

「すまん。寝起きの電は、

この前のナデナデじゃ効果が無い。」

 

…え?詰んだ?終わった?

 

そう思っているとユリちゃんが

電の方に歩いて行って抱き着いた。

 

「まま~、だっこ~。」

 

「…はいはい、いい子いい子。」

 

電はユリちゃんを抱いて、

頭を撫でながら退出した。

 

数秒の沈黙の後、私達は席に着いた。

 

「すまない。立場上の連絡もあってな。

ストレスと寝不足であんな感じなんだ。」

 

電は苦労してるんだな。

 

猫さんが休まないのが原因だろうけど。

 

ところで、

明石が言いかけたことが気になる。

 

何かいい案が浮かんだのだろうか。

 

「はい、良い方法を思いつきました。

とりあえず、工廠に籠ってきます!」

 

明石の行動は早かった。

 

すぐに部屋を出て、

工廠へと向かったのだから。

 

置いて行かれた私たちは、

明石の作業が終わるまで待った。

 

待つと言っても、

いつも通りの事をする。

 

猫さんは執務作業、

私は適当に、ヌ―スは料理。

 

各々が自分の時間を過ごし、

その夜、食堂に集まった。

 

 

 

「お待たせしました。

こちらをどうぞ!」

 

明石から渡されたのは

青色の宝石が光るペンダントだ。

 

何の変哲もないが、見ているだけで

吸い込まれそうな綺麗な青色。

 

付けてみて欲しいと言われたため、

髪に引っ掛からないように付ける。

 

邪魔だと感じない重さで、

おしゃれには良いのかもしれない。

 

少し体が軽くなった気もした。

 

『あれ?なんで外が見えるの?

これは一体どうなっているの?』

 

同時に、何かの声がした。

 

辺りを見るが、

居るのは艦娘たちだけだ。

 

聞いたことのある女性の声は

一体どこから聞こえているのか?

 

『もしかして、貴方が歌音?

あの人の言っていた人なの?』

 

「歌音様、どうされました?」

 

声だけが聞こえる。

 

ヌ―スには聞こえていないようだ。

 

いや、これは聞こえると言うより、

響くと言った方が正しい。

 

こう、頭の中だけに響く感じで。

 

『ねえ、貴方の歌を聞かせて。』

 

だから、どこから話しかけているの!

 

さっきから一方的なのよ!

せめて場所を言いなさい、場所を!

 

『ヒャッ!ごめんなさい。』

 

「落ち着いてください、歌音様!

突然大声を出されては困ります!」

 

「その様子だと、

上手くいったみたいだな。」

 

私を宥めるヌ―スと、

食堂に入りながら笑う猫さん。

 

せめて説明をしてほしい。

 

「そうだな。

『王様式会話法』とでも言おうか。」

 

猫さんがそう言うが訳が分からない。

 

「簡単に言うと、ヲ級の魂を

そのペンダントに移しました。」

 

明石、それは簡単と言わない。

 

話しについて行けないから。

 

「妖精さん技術で、着けている間は

ヲ級と会話できるはずですよ。」

 

話は聞いてほしいが、

そんなバカな話があるはずがない。

 

そう思ってペンダントを外すと、

声が全く聞こえなくなった。

 

付け直すと…

 

『うわあああん!

1人にしないでよーッ!』

 

本当に聞こえた、

しかも、泣かれた…。

 

仮にも大人の見た目をしているのに。

 

中身は子供のようなヲ級のようだ。

 

何だろう。

 

キューちゃんやネ音のような、

子供っぽい子が多いのだろうか。

 

手のかかる子供が増えたような。

 

そんな気がしたのは、

間違いではなかった。

 

しばらく泣き止まなかったので、

子守唄を歌って、ようやく泣き止んだ。

 

グッスリと眠ってくれたのは良い。

 

だが、これから毎日、

子守唄を歌うのが日課になりそうだ。

 

 




話せる理由は題名で察してください

私の中で候補が2つあったので
この題名にしています。

ちなみに、この題名は2つ目です
原案は「ファラオ式会話法」


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第4話 終わりは新たな始まり

あらすじ
ヲ級の魂と会話できた。


 

『~♪』

 

ヲ級の魂と話せるようになった次の日、

私はいつものように外で歌っていた。

 

ヲ級は楽しそうに私の歌を聞いていた。

 

子供の様に『えへへ』と笑いながら。

 

さっきまで、歌が聞きたいと

駄々を捏ねていたとは思えない。

 

歌が終わると同時に

日差しが昇り始めた。

 

昨日と違い心地の良い風と

暖かい日が照らしていく。

 

今日はいい日になるだろう、

そう思いながら私は部屋へと戻った。

 

 

 

あれから色々と試してみたところ、

おかしなことになった。

 

「わ~い!たのし~!」

 

「あまり無理をなさらないでください!

歌音様の体なのですから!」

 

「今は私の体だも~ん。あははッ!」

 

 

……どうしてこうなった?

 

理由は分からないけど、

ヲ級と魂が入れ替わった。

 

この前使った大きいプールで

ヲ級の姿になったら変わった。

 

今は楽しそうに水上を滑っている。

 

泣かれるよりはいいけど、

怪我だけはやめてほしい。

 

しばらく滑って満足したヲ級は、

私と入れ替わり中に入った。

 

姿はヲ級のままだ。

 

プールから上がってもヲ級の姿だが、

ペンダントに触れると私の姿に戻る。

 

猫さんには「もう1人の私」とか

「AIBO」とか言われた。

 

まるで意味が分からなかった。

 

明石に聞いたらネタだから

無視して良いと言われた。

 

その代わりに、

今の状況を話してくれた。

 

私とヲ級の魂は、

ペンダントを通して入れ替われる。

 

ただし、ヲ級はヲ級の姿の時だけで

私はどちらの時でも入れ替われる。

 

ヲ級の姿になれるのは

今のところ水面の近くだけ。

 

私の体や心への害は無いそうだ。

 

ただ、魂の入れ替わりについては、

未知の世界のため注意された。

 

どんな影響が出るか分からないため、

1日に2回ほどにしてほしいと。

 

変わる時間も30分~1時間ぐらい

で様子を見て伸ばすように。

 

ヲ級はそれを軽く承諾した。

 

『私はそれでいいよ。

歌を聞くのが楽しいから。』

 

そう言ったのだ。

 

心の底からの答えのように

満足そうな笑みで答えた。

 

精神は子供だとよく分かる。

 

穢れのない純粋な心で

楽しんでいることが。

 

そんな彼女とは仲良くできそうだと、

そう考えながら、時間を過ごした。

 

 

 

そして早くも数日が経った。

 

本来なら色々な場所を

早く巡りたかった。

 

でも、ヲ級と生活していくと

そんな事も忘れていた。

 

明石の方は大本営と前線基地の

明石と話し合い、研究が進んだ。

 

その結果、この数日で

私の体への影響も分かってきた。

 

どうやら何回入れ替わっても

体への影響は出てこないらしい。

 

理由を聞くとアニメを2つ見せられた。

 

1つは3千年の時を超えて出会った

1人の少年と王の話。

 

そこで出てくる

主人公と名もなき王の魂。

 

1つは黄金の精神を持つ男が

ギャングスタ―を目指す話。

 

その話に出てくる、主人公と対峙する

二重人格のギャングボス。

 

自分とヲ級のような存在を知り、

ネタとペンダントの意味を知った。

 

 

 

私の体の検査は時間経過だけになり、

ある程度は自由の身になった。

 

そこで私たちは猫さんに連れられて

呉の街を歩いていた。

 

小学生に見える私服のユリちゃんと

電と猫さんと私達で歩いている。

 

ちなみにヌースも私服。

 

ファッション誌に載っている様な

大人な服を着せている。

 

猫さんは動きやすそうな服装。

 

その辺に居そうな一般人

と思える服装だった。

 

ファッションには

あまり興味が無いと言う。

 

私は白い肩出しのトップスに

ジーンズと茶色のブーツ。

 

その上から温かな

モコモコジャンパーを羽織る。

 

寒くなってくるこの季節には

丁度いい温さだ。

 

猫さん達は3人で手を繋ぎ、

私達はその後ろを歩く。

 

楽しそうなユリちゃんを見ながら、

5人と1魂で街をブラブラする。

 

商店街、川沿い、波止場、etc。

 

目的もなく、ただ歩く。

 

初めて歩く呉の街並みに

目を惹かれながら。

 

歩いていると視線が気になりだした。

 

街の人の目線と通行人の目。

 

物珍しい物を見ている様な目線だ。

 

猫さん達といるからだろう。

 

そう思うようにしていると、

ヲ級から話しかけられる。

 

『周りの人たちは板のような何かを

私達の方を向けているの?』

 

ヲ級が指を差す方を見ると、

スマホを向ける若者の姿があった。

 

猫さんじゃなくて

明らかに私の方に向けていた。

 

一人二人じゃない。

 

なめまわされるような視線を感じた。

 

大本営の時とは違う、

気持ちが悪いと感じる目線。

 

珍しいからではなく、

とても言葉にできない嫌な理由。

 

体全身から鳥肌が立ち、

寒気を感じて体が震える。

 

そんな私の事に気づいたヌースは、

視線を感じる方に移動してくれた。

 

壁のように立ってくれて、

私の体を寄せてくれた。

 

「大丈夫ですよ、歌音様。

我々がついていますから。」

 

その手と言葉はとても暖かい。

 

体の震えは残ってはいるが、

次第に弱くなっていった。

 

しかし、人だかりは私たちの動きに

合わせるようについてくる。

 

どうにかできないのかな。

 

「2人とも、ここで少し休もうか。」

 

猫さんがこちらに声をかけてくれた。

 

指を差す方には喫茶店がある。

 

私達はすぐに了承し、お店へと入った。

 

 

 

お店に入ったおかげで、

人だかりが無くなった。

 

猫さん達も目線に気づいたらしく、

電が提案してくれたそうだ。

 

お陰で今はリラックスできている。

 

喫茶店であることが尚更良かった。

 

落ち着いた静かな雰囲気が

私の心を落ち着かせてくれる。

 

それに、目の前で

微笑ましい光景が見られた。

 

ユリちゃんが美味しそうに

パンケーキを頬張っている。

 

目を輝かせて口を汚しながら、

リスのように頬張る女の子。

 

その光景には

店員も笑顔になっていた。

 

私達も笑顔になりながら、

飲み物を飲む。

 

私とユリちゃんがオレンジジュース、

3人がコーヒーを飲んでいた。

 

ヌースは足柄の勧めで

コーヒーにハマったらしい。

 

ブラックに砂糖を一杯入れて飲むのが

今のお気に入りの飲み方らしい。

 

猫さんはカフェオレ、電はブラック。

 

カフェオレなのは意外だった。

 

電と逆じゃないのかと

心の中だけで思った。

 

口に出したらいけないと

何かを察したから。

 

ヲ級は皆の飲み物が気になっていた。

 

私がコーヒーを飲まないから

初めて見て興味を持ったからだろう。

 

鎮守府に戻ったら、入れ替わって

試し飲みするのもいいかもしれない。

 

そう言えば、味覚は共有されるのかな?

 

気になったけど、

考えるのは帰ってからにした。

 

今はこの時間を堪能することにした。

 

 

 

 

 

その日の夜、SNSに

少女と男の写真が流れた。

 

カメラに背を向け、震える少女を

心配する細身の男性の写真。

 

他の写真も瞬く間にネットへ拡散され、

多くの人の目に留まった。

 

多くの憶測、情報が拡散され、

大本営にも写真が拡がった。

 

しかし、機械に疎い歌音は、

この事を知る由もなかった。

 

そして、笑顔の写真を見ながら

微笑む誰かがいることも。

 

 

「この姿も可愛いな~。

早く会いたいな、お姉ちゃん♡」

 

 




次回から本格的な休暇

まずは呉の周辺から


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第5話 神聖な島

こちらの作品では
あけましておめでとうございます。

自分のやる気のなさ、
モチベ低下、
卒論、就職先の課題etc.

色々あって
遅くなりました。
それではどうぞ。

*ヌースの立ち絵を本文頭に
 挿絵として置いておきました。


 

 

【挿絵表示】

 

 

朝から執務室に呼ばれた私は、

少し機嫌が悪い。

 

何故かと言うと、昨日のSNS?

に流れていたという私の写真。

 

写ること自体は別に気にしていない。

 

お父さんの付き添いで

撮られたことは何度かあるから。

 

イラついたのは

写真を見た人の反応。

 

可愛いとか綺麗とかの反応は

素直に嬉しい。

 

しかし、場所を特定している人や

個人を調べようとする人は嫌いだ。

 

冗談でも変な事を言う人は特に…。

 

「歌音様、提督殿。

失礼いたします。」

 

確認していたらヌースがやってきた。

 

片手には

高そうなカメラを持っていた。

 

「どうだった、予想通りか?」

 

「ええ、門前に人影あり。

建物の屋上にも確認しました。」

 

どうやら猫さんが先に

確認してくれていたようだ。

 

ヌースが見てくれていたようで

覗いている奴らはすぐに捕まるだろう。

 

しかし、街をぶらついていれば、

これからもっと増えることだろう。

 

今日の観光はお預けになりそうだ。

 

せっかく楽しみにしていたのだが、

呉市内の観光は…。

 

バキッ!

 

「歌音様!怒りをお収めください。」

 

…自分でも理解できていなかった。

 

気づけば机の端を

握力だけで壊していたようだ。

 

いくら人の体とはいえ、

普通の人とは違うところがある。

 

我を忘れれば、

ヲ級が出てくるのだろう。

 

彼女の魂ではなく、体として。

 

私もまだまだ子供だと、

そう言われている気がする。

 

自分には分からないほど、

内心はワクワクしていたのだ。

 

子供と言われても反論できない。

 

しかし、問題は

今日をどのようにして過ごすかだ。

 

間違いなく、

ヲ級も楽しみにしているだろう。

 

予定が変更されて

鎮守府で一日過ごすとなると…。

 

大泣きされる未来が見える。

 

どうにかならないかと思っていると、

猫さんが悪い顔をし始めた。

 

禄でもないのだろうと思っていたら、

ドラム缶の中に放り込まれた。

 

…本当にろくでもない考えだった。

 

 

 

 

今だけはあの人の顔を殴っても

罰は当たらないだろう。

 

見つからないように

船の積み荷として送るなどと。

 

しかも、

行先は何も伝えられていない。

 

幸いにもヌースがドラム缶を

抑えてくれたため、船酔いは無い。

 

長い間、ドラム缶という狭い空間で、

パニック中のヲ級の泣き声を聞く。

 

起きてすぐにドラム缶の中なら、

暗くて怖くて大泣きするだろう。

 

その声が頭の中で響くのだ。

 

頭に拡声器向けられて、

子供の泣き声を聞くようなものだ。

 

ハッキリ言うと死ぬかと思った。

 

出されたときの私の顔は、

ヌースが驚くほどだったらしい。

 

しばらく鏡は見たくない。

 

それで、どこに着いたかというと、

目の前にいる鹿ですぐに分かった。

 

ここは宮島だ。

 

寒い時期ではあるが、人が多い。

 

深海棲艦からの被害があるはずだが、

外国人観光客の数も少なくない。

 

「それでは行きましょうか。」

 

ぶん殴りたい人は鎮守府でお留守番。

 

そのため、今日は呉の赤城さんに

案内してもらうことになった。

 

お堅いイメージだったが、

以外とオシャレさんだった。

 

私は昨日みたいにならないため、

子供の冬服みたいにされている。

 

白パーカーの上にモコモコジャンパー、

下はジーンズのハーフに黒タイツ。

 

正直に言おう、足が寒い。

 

ヲ級の体なら寒くないが、

人前でその姿になるわけにはいかない。

 

ヌースには黒髪のウィッグと

黒のモコモコジャンパーで変装。

 

傍から見れば夫婦と子供に見える。

 

これで大丈夫と

私達は観光を続けた。

 

まず向かったのは海沿いではなく、

店の並ぶ通り。

 

何となく察してはいた。

 

店員さんも赤城さんを見た瞬間、

血相を抱えて騒いでいた。

 

此処の通りの店は

作る場所が見えるため分かりやすい。

 

大急ぎで専用の箱や

袋が用意されている姿も見える。

 

赤城さんは、やってきた店員さんに

一言伝えて次の店へ向かう。

 

「いつものお願いしますね。

お釣りはいらないので。」

 

店員さんは

万札の束を渡されて戸惑っていた。

 

そりゃ驚くだろう。

そんなお客さん、普通は来ないから。

 

さらに驚くのは、

ここの通りには同じ店があるのだ。

 

今、私達は揚げもみじというものを

片手に食べ歩いている。

 

これを売っている店がまだあった。

 

しかも、そこでも大金を渡し、

自分用にいくつも買う。

 

いろんな味があるのだが、

この人、全て網羅するつもりだ。

 

食べ歩きで一日が終わりそう。

 

お土産は中で大慌てしている中

用意されていた箱や袋らしい。

 

帰りにまとめて回収するそうなので、

私達は、幾らかお金をもらい観光する。

 

まあ、行くとすれば神社だろう。

 

という事で厳島神社へ。

 

今は丁度、潮が引いている最中で、

もう少しで鳥居まで行けるそうだ。

 

そのため、中を見ながら

時間を潰すことにした。

 

中にある説明を見ながら、

どこで何をしていたのかを知る。

 

海の上にあることにも

それ故の特殊な形状にも驚いた。

 

そして何よりも、

不思議な光景を目にした。

 

それは立ち入り禁止区域で

飛び回る妖精さんたち。

 

艦娘を付喪神と考えるなら、

神に近いものがあるのだろうか。

 

しかし、

ここにいる理由がよく分からない。

 

悩んでいると、

視界に妖精さんたちが写った。

 

人が寄らず、

妖精さんたちが集まる不思議な空間。

 

そこに足を運ぶと、

妖精さんたちと目が合った。

 

嬉しそうにわちゃわちゃしていて、

何かを伝えたいようだった。

 

だが、何を言いたいのか分からない。

 

ヌースも首を横に振る。

 

若や呉の妖精さんと話はしているため、

妖精さんと話せないわけではない。

 

この子たちが特別なのだろうか?

 

「お嬢さん、お兄さん。

少し、よろしいでしょうか?」

 

後ろから声を掛けられた。

 

そこにいるのは白髪の老婆で

杖を突き、体は少し震えている。

 

そんな老婆の周りに、

妖精さんたちが集まりだした。

 

体の震えは止まり、姿勢もよくなる。

 

「ふふっ、ありがとうお前たち。」

 

この人、妖精さんたちが見えている。

 

霊感が強い?

 

「海軍の方。いや、少し違いますね。

お嬢さんの方は、特に歪で…。」

 

この子の魂も分かるの?

 

「この子たちが教えてくれるんですよ。

あなた方に悪意が無いことも…。」

 

「元関係者、

というわけでもないのですか?」

 

「ええ、見え始めは数年ほど前から。

此処に足を運び始めてからです。」

 

老婆によると、

軍港では見ることは無かったらしい。

 

此処に居る妖精たちは

最初から見えているのだとか。

 

「これは、あくまでも私の考えですが、

平穏を求めているのではないかと。」

 

平穏?

 

「昔からこの島は

神として信仰されてきました。」

 

島が、神…。

 

「この地を傷つけてはならない。

それほど神聖な場所なのです。

突如現れた深海棲艦も、

此処だけは狙いませんでした」

 

「なるほど。狙われないなら、

此処に居れば戦う必要がないと。」

 

「はい。この子たちは退役兵。

彼女たちと共に戦うことは…。」

 

何となくだが、理解できた。

 

彼らとは、生きる世界が違うのだ。

 

艦娘と共に戦う妖精さんと

此処で平穏な暮らしをする妖精さん。

 

この違いが見えるか見えないかの

違いとなるのだろう。

 

私の場合は、戦いたくない私と、

深海棲艦のヲ級がいる。

 

歪で、どちらでもない

中途半端な状態が会話を成立させる。

 

これが、答えだろう。

 

「なるほど。

貴方の事が分かった気がします。」

 

老婆も納得した答えを

得られた、のだろうか。

 

そこはよく分からなかった。

 

まあ、いい顔をしているから

大丈夫だと思う。

 

ところで、今何時?

 

「ああ、今は」

 

「今は丁度、鳥居まで行けますよ。」

 

あ、大食いさんが帰ってきた。

 

大量のもみじ饅頭と飲み物を抱えて。

 

ここって飲食禁止じゃなかったっけ?

 

そんな事を言ったら、

手に持ったものが一瞬で消えた。

 

…『手品かよ!』と突っ込むべきか?

 

私は憐れむ顔で見たよ。

 

食い終わった赤城さんから話を聞くと

どうやら鹿と戦っていたのだとか。

 

鹿より食い意地の張る人って。

 

ごめん赤城、貴方とは違うのに

印象がひどくなっちゃう。

 

心の中でそう思いながら、

観光を楽しんだ。

 

邪な目を気にすることなく、

楽しい一日を過ごせた。

 

 

 

 

 

「それで、この写真か。」

 

「はい、楽しかったですよ。」

 

「あいつは元気だったか?」

 

「ええ、とっても。」

 

現像した写真には、老婆とともに

皆で撮った記念が重なっていた。

 

鳥居、水族館、ロープウェイ、冬景色。

 

家族写真のような楽しそうな写真。

 

その内の一枚を手に取って、

猫提督と赤城はにっこりと笑う。

 

歌音と老婆が

鹿と映る謎の2ショット。

 

その老婆に重なるように

薄っすらと、別の人影が写る。

 

その人物は恥ずかしそうな笑顔で、

扇子で顔を隠していた。

 

 

 

 

 




最後はとある方が出ましたね。
まあ、出番はもうないだろうけど。


というわけで、
今回は厳島神社。

年末に向かいましたが、
楽しく過ごせました。

ドクターフィッシュに
群がられたのは良い思い出。

揚げもみじも美味しかったので
おススメです。


次回はあの子が出るかも?
気長にお待ちください。


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第6話 再会と名付け

X(旧Twitter)の方で
報告をしたのですが、
UA数が28000を越えました。
読者の皆様、
本当にありがとうございます。

当初はここまで伸びるとは
思ってもいませんでした。
(自作ラップがちょっと…。)

これから社会人になるので
投稿ペースは落ちると思いますが、
読んでいただけたら幸いです。


今は、卒論が終わったので
投稿を再開します。

Luna nights買ったので
遅くなると思いますが…。

なるべく2月、3月で
投稿を増やすつもりです。

これからもこんな私を
よろしくお願いします。



 

 

………。

 

『歌音~?何をしてるの~?』

 

………………。

 

『ねぇ~。歌音ってば~。』

 

………………………。

 

『無視しないでよ~。

私の事、嫌いになったの?』

 

……ふーッ。

久しぶりの座禅もいいものだ。

 

精神統一のt『歌音―!』

 

……聞こえてるから、

耳元で叫ぶのは止めて。

 

『どうして返事してくれなかったの⁉』

 

座禅中は事情が無ければ何があっても

反応しないようにしてたから。

 

と言っても納得してくれないだろう。

 

ふくれっ面で怒る姿が目に浮かぶ。

 

しかし、今日はご機嫌を取らないと

面倒くさくなる。

 

何故なら、今日は一日中

鎮守府で過ごすからだ。

 

昨日いた不審者は、

全員無事に捕まった。

 

しかし、数人なはずがない。

 

今日も、いっぱい

門前にいるのである。

 

つまり、外を落ち着いて歩けない。

 

厳島神社にいったことで、

私はまだ我慢できる。

 

しかし、我慢できないのは

ヲ級の方だ。

 

向こうにいる間、ヲ級は一度も

表に出てこなかった。

 

その理由は、あの島が

神聖な場所だからである。

 

深海棲艦であるヲ級は

入ることを拒まれた。

 

私と会話することすら

難しい状態だったそうだ。

 

『退屈だよー!

昨日は何もできなかったんだからー!』

 

おかげで、今日は耳鳴りが酷い。

 

暇だと言われても、やることは無い。

 

私が座禅をしているのも

暇だからという理由なのだから。

 

歌を書くのもいいのだが、

今はその気分ではない。

 

今書いても投げだしてしまう。

 

そんな気がしてならない。

 

子供の様に遊ぼうにも、

1つの体で遊ぶことになる。

 

ヌースがいるとは言え、

私と遊びたいと言うはずだ。

 

どうすればいいのか。

 

「歌音、今いいかい?」

 

あ、ドラム缶野郎。

 

「まだ根に持ってるのか…。

殴ったんだからいいだろう。」

 

殴ったからと言って、

許すとは言って無い。

 

「まったく。」

 

殴ったよ、戻ってきてすぐに。

 

電から許可をもらったから。

 

全力だったのに入院すらしない

この人があまりにもおかしいけど。

 

「そんなことより、君に客だ。」

 

ん?私に客n「お姉ちゃーん!」

 

ん゛ッ!

 

「ああ、会いたかった。

お姉ちゃん、こんなに可愛くなって。」

 

お腹への…衝撃が…。

 

「可愛い~」

 

ああ~、ほっぺスリスリされる~

ちゃんと左の頬でしてくれてる~

 

「ネ音!ずるいですよ!

私もしたことないのに!」

 

「「「わたしたちも~!」」」

 

ああ、キューちゃんズも来ちゃった。

しかもクラシカルメイド服。

 

もみくちゃにされちゃ~う。

 

「皆様!私より先に

抜け駆けしないでください!」

 

あ、ヌース。貴方は止めなさい。

絵面的に色々とマズイ。

 

「ゔっ…、分かりました。」

 

ごめんね。

 

流石に女の子に混じって

男性が飛び込むのは…ね。

 

でも、全員やってくるとは

思わなかった。

 

ヲ級、今日は

退屈しないで済みそうだよ。

 

 

 

 

 

「ほらほら、

簡単には捕まらないよー。」

 

「「「わぁー、まてー。」」」

 

私達は今、プールにいる。

 

ヲ級について確かめるために

使用したプールだ。

 

明石の監視(観察)のもと、

プールで楽しんでいる。

 

今はキューちゃんズと

ヲ級が追いかけっこをしている。

 

ネ音たちが来た理由は

しばらく会ってなかったから。

 

寂しくなったから

自分から会いに来たらしい。

 

きっかけはネ音が前線基地に

戻って皆と再会したこと。

 

キューちゃんたちも会いたいから

許可を得てやってきたらしい。

 

お陰でヲ級も退屈せずに済んでいる。

 

私も暇だったから

この状況を楽しんでいる。

 

ネ音とキューちゃんは、ヌースと

プールサイドで話し合っていた。

 

3人とも楽しそうに話していて、

恐らく、私の話で盛り上がってる。

 

さっきから「分かるッ!」とか

「そうなのッ!」とか聞こえてくる。

 

あの子達らしいな。

 

ん?体が傾いて…って、重ッ!

 

「つかまえたー」

 

「わたしたちのかち―」

 

「皆強いな~。

次は私の番だよ。」

 

「やったー。キューちゃんなら

おおなきしてた。」

 

「ちょっとッ!何言ってるのーッ!」

 

「わー、キューちゃんがおこったー。

「「にげろー。」」」

 

「待てコラー!」

 

「はははっ、逃げろ~」

 

………すごく楽しそう。

 

私も一緒に遊びたくなってきた。

 

『歌音も遊ぶ?』

 

…遊ぶッ!

 

『じゃあ、交代~。えいっ!』

 

よし、それじゃあ逃げ…

あれ、キューちゃんがこっち向いた?

 

「ッ!お姉さまですね!

覚悟してください!」

 

ああ、分かっちゃうのね。

 

でも、簡単に捕まるつもりはないよ。

 

「待てーッ!」

 

ヲ級と交代しつつ

何度も追いかけっこを繰り返す。

 

しばらくするとネ音も参加し、

忙しくなった。

 

 

 

大人の様に見えるが、私も含めて

皆の心は、まだ子供だ。

 

エネルギーを使い果たせば、

疲れが押し寄せるのも当然。

 

今は私の部屋で

皆で横になっている。

 

皆で寄って気持ちよさそうに

スヤスヤと眠っている。

 

私の横は、私から左にネ音

右はキューちゃんズ。

 

真横はキューちゃんの

定位置になっている。

 

キューちゃんズは、私へのこだわりが

そこまで大きくは無い。

 

どちらかと言うと、

キューちゃんについて行く感じだ。

 

お姉ちゃんに優しくする

お姉さんのような存在なのだろう。

 

「尊敬>愛」が彼女たち。

 

私はそう考えている。

 

でも、その理由は何となくわかる。

 

私は彼女たちに名前を付けていない。

 

キューちゃんが連れてきたから、

総じて「キューちゃんズ」。

 

そう命名したのは私だ。

 

彼女たちにも名前が必要だろう。

 

ヲ級にも名前を付けてあげないと。

 

色々と考えていると

私も眠たくなった。

 

2人で1つの体、疲れも2人分だ。

 

眠たくなっても

おかしくは…ない………。

 

 

 

………体が重い、腕が痛い。

 

原因はすぐに分かった。

 

キューちゃんズが乗っていた。

 

そりゃ重たい訳だ。

 

最初のキューちゃんが

こんな感じだった気がする。

 

『あ、歌音。おはよう。』

 

おはよう、いつから起きてたの?

 

『3人が乗った時ぐらい?

寝ぼけてた感じだったよ。』

 

子供の寝返りみたいな感じか?

 

ん?1人起きた。

 

「……ママ?」

 

………へ?

 

「ママー。」

 

待て待て待て。この子、

今、私の事を「ママ」って言った?

 

あ、他の子も起きた。

 

「「…ママ~」」

 

…とりあえず、明石と夕張は殴ろう。

絶対あの2人だ。前例あるもん。*1

 

「なまえを、つけるひとは『ママ』。

アカシとユウバリが、いってた。」

 

予想通りだった。

 

とりあえずぶっ飛ばすとして、

…名前が欲しい?

 

「なまえがないと、ふべん。

でも、もらうなら、ママからほしい。」

 

名前か………。

 

ネ音はネ級の『ネ』私の『音』

キューちゃんは泣き声の『キュー』

 

この子たちも『キュー』と鳴くから

まとめてキューちゃんズにした。

 

だけど、普通の名前を付けると

キューちゃんが嫌がると思う。

 

そう考えると…あ。

3人は上下関係とかある?

 

「とくにない。ちがいもない。

アカシが、リボンをくれた。」

 

リボン?

あ、胸のリボンの色が違う。

 

赤色と緑色と黒色で

分かるようにしてたんだ。

 

そうなると…うん、決めた。

 

アーちゃん、ミーちゃん、クーちゃん

で、どうかな?

 

「アーちゃん…。」

 

「ミーちゃん…。」

 

「クーちゃん…。」

 

3人がお互いに見つめあって

私の方を見る。

 

「「「…ありがとう、ママ。」」」

 

いつもなら見せない

にっこりとした笑顔。

 

お母さんは私を生んだ時、

こんな気持ちだったのかな?

 

これが幸せなのかな?

 

『歌音、歌音。』

 

どうしたの?

 

『私も名前が欲しい。

ヲ級じゃなくて名前で呼ばれたいの。』

 

この子たちに付けたのだから、

ヲ級にも付けるのは当然だよね。

 

これからずっと

一緒にいるわけだから。

 

そうなると、

どんな名前が良いのかな?

 

付けるなら『ヲ』は入れたいよね。

 

ヌースの時みたいに

何かの言葉から持ってくる?

 

この子の場合は、

本来の体の持ち主だからな~。

 

でもこの状態って

あの王様と同じ…何だよね?

 

でも私と同じだと混乱しやすくなる。

 

深海棲艦の在り方を考えると

艦娘の鏡写しみたいな感じかな?

 

表の艦娘、裏の深海棲艦

みたいな感じ?

 

だから私の名前を反対にすれば…。

 

「歌音」→「音歌」

 

音歌(ヲトカ)』とかはどうかな?

 

「音歌…。音歌ッ!うんッ!

ありがとう、歌音!」

 

どうやら気に入ってくれたらしい。

 

アーちゃん、ミーちゃん、

クーちゃん、音歌。

 

彼女たちと一緒の時間を

過ごせるのが楽しみだ。

 

 

 

 

 

まあ、この後、

私の取り合いになったのは

言うまでもない。

 

キューちゃんとネ音と共に

囲われるようになった。

 

それと、アーちゃん達が

私を「ママ」と呼ぶようになった。

 

そのため、皆にもヌースにも

あらぬ誤解も生んだ。

 

嬉しいことも増えたけど、

疲れることも増えてしまった。

 

「「私もママって呼ぶッ!」」

 

……ネ音とキューちゃんには

添い寝禁止令でも出そうかな?

 

*1
第二章 第15話参照




久しぶりのネ音とキューちゃんズ
ヌースとは意気投合しました。

キューちゃんズは
前線基地で団体行動をしていたため
名前を必要としてませんでした。
しかし、個人で呼ばれることも
少なくは無かったため
名前を貰うため、歌音の元へ

勿論元凶はあの2人です。
いつか再会させたいですね。

次回は未定です。
思いついたら書こうと思います。
それでは次回をお楽しみに

↓ネ音のイメージです。

【挿絵表示】


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第7話 映る過去と影法師

引っ越す前に何とか完成した
遅くなって申し訳ない


 

春が近づいていることを感じさせる

温もりと心地の良い風。

 

快晴の呉の町中を私は歩いていた。

 

いや、私ではなく彼女たちが。

 

「はやく、いこう」

 

「いろいろ、きになる」

 

「分かったから、

あまり引っ張らないで!」

 

「おーい、(つまづ)いてコケるなよ~」

 

オーバーオールとボーダー服を着た

ミーちゃんとクーちゃん。

 

引っ張られるのは

赤城さんの私服*1を借りた音歌。

 

ライダージャケットを着た天龍が

3人の後ろを見守りながら歩く。

 

そう、今歩いているのは

私ではなく音歌の方だ。

 

海の傍ではないのに

なぜ歩くことができるのか。

 

それは、今日の朝まで遡る。

 

 

 

 

 

いつも通りの朝を迎え、

食事をしていた私達。

 

いつもより賑やかだった。

 

そこにやってきた明石と

朝からいなかったヌースの2人。

 

明石の手には

布のような物があった。

 

「歌音さん、少しいいですか?

これを着けていただきたくて」

 

何これ?布と言うより

テーピング…いや、コルセットか。

 

ひんやりしているから

やっぱりテーピングの方?

 

そんなにキツくないし、

ぶかぶかすぎるし…

 

 

「それでよいのです、歌音様。

本題はここからですので」

 

本題?

 

「今ここで音歌さんと

変わってもらえませんか?」

 

音歌と変わる?

海から離れた此処で?

 

「はい、お願いできますか?」

 

まあ、何か考えがあるのだろう。

 

私は音歌に変わるように頼む。

 

『変われるかな?

試してみるね』

 

あ、ペンダントが光った…

 

「ん?何、この感触。

私の新しい服?」

 

「どうやら実験成功のようですね」

 

「はい。

貴方には感謝しますよ、ヌース」

 

どうやら上手く変われたようだ。

 

海の上にいる時のように

身体がヲ級になり、音歌と変われた。

 

「海の上じゃないのに変われた?

なんでこうなったの?」

 

確かに気になる。

恐らくは今着たやつだろうけど。

 

「実はですね…」

 

そこから明石の説明が始まった。

 

この腰に巻いているものは

海水コルセット』と言うようだ。

 

名前の通り、ひんやりと感じたのは

コルセットに含まれる海水。

 

これが海上での入れ替わり条件と同じ

接触した判定になって変われるらしい。

 

考案者はヌースのようだが、

どこでこんなものを思いついたのか。

 

どうやらここの艦娘たちが使っていた

テーピングの存在。

 

執事について調べていた時に

見つけたというコルセットの存在。

 

本来なら女性が着るドレスの

腰を絞って細くするやつ。

 

説明が合ってるか分からないけど、

介護用にも使われてる腰のやつ。

 

この2つを合わせたらという考えを

明石に伝えて作成したらしい。

 

その結果がこの

『海水コルセット』なのだとか。

 

この発明に感謝したのは

もちろん音歌。

 

自分の足で観光できるのだから

喜びは誰よりも大きいだろう。

 

その恩恵は私にもある。

 

今現在、私の顔は

敷地外に出れば撮影の対象だ。

 

ゆっくりと落ち着いて

呉の町を観光する事ができない。

 

しかし、音歌の顔は

私とも普通のヲ級とも違う。

 

高身長・白髪のお姉さんだ。

 

目線は気になるだろうが、

前よりもましだろう。

 

そう言うわけで

観光することになったのだが、

 

「わたしも、いきたい」

 

「おねえちゃんたちと、

いっしょに、いく」

 

ミーちゃんとクーちゃんが

そうお願いしてきたのだ。

 

昨日名付けしたことで

甘えたくなったのだろうか?

 

家族の様に一緒に居たいと

思ったからだろうか?

 

いつもの私に戻った身体に

2人がベッタリと抱き着く。

 

そんな行動を起こせば

向かい側の2人も反応する。

 

「私も行きたい!」

 

「私モゴッ!」

 

キューちゃんが言おうとすると

後ろから口を塞がれる。

 

あーちゃんが後ろから

羽交い絞め+口を塞ぐ。

 

「3にんで、いってきて。

わたしは、おしごと、するから」

 

アーちゃんがそう言ってくれる。

でも、本当にいいの?

 

「うん、きもちは、わかるから。

だから、たのしんで、きて」

 

「歌音様、こちらは抑えておくので

気にせず、お楽しみください」

 

…既にネ音が拘束されてた。

ヌースの判断が速すぎる。

 

「お2人の気持ちも分かります。

ですので、ここは我々が」

 

「キューちゃんは、おしごと。

いままでのぶん、はたらかせる」

 

「ネ音には明石の手伝いを、

北上殿からの課題がありますので」

 

キューちゃんとネ音は抵抗したけど、

2人に強制連行された。

 

明石も行ったし、

私達も準備を始めようか。

 

「ちょっといいか?」

 

あ、天龍が来た。頭にタンコブが…

 

「気にすんな、秘書艦様の制裁だ。

それより、今から出るんだろ?」

 

そのつもりだけど、天龍も?

 

「俺は休暇ついでにお前たちの護衛だ。

必要ないと思うが、一応な」

 

まあ、備えあれば患いなし。

居てくれた方が安全ではある。

 

「決まりだな。それじゃあ、

工廠の近くに集合しな」

 

こっそり出るのは分かるが

何故、工廠の近く?

 

 

 

で、言われたとおりに

工廠の近くに行くと道があった。

 

トンネルのように長い道を

動く歩道」に乗って進む。

 

およそ5分進むと

普通の扉があった。

 

開けると、どこかの路地裏に。

 

近くには電車が通っていて

高架下の近くだった。

 

 

「本来なら緊急避難用だが、

こういうときも使用許可がでる」

 

「ひみつの、つうろ」

 

「わくわく、する」

 

「場所次第では使うだろうな。

さあ、早く行こうぜ」

 

 

 

 

 

こうして冒頭に戻る。

 

ミーちゃんとクーちゃんに引かれ

やってきたのは入船山の記念館

 

案内表示に従って奥へと進む。

 

見えてきたのは「旧司令長官官舎

 

当時はあまり見られなかった

洋風の建物らしい。

 

「かべ、きれい」

 

「こんなおうち、すてき」

 

「今の鎮守府に

こんな建物は無いからな~」

 

「作れないの?」

 

音歌…本気?

そう簡単に建物を…。

 

「え?だめなの?」

 

「提督に頼んでみれば

いいんじゃねぇか?」

 

そんなことでき…、

あの人ならやりかねないなぁ。

 

「提督さんならやりそうだね」

 

「かえったら、おねがい、する」

 

「わたしたちの、おうち」

 

…家、か。

考えても、いいかもね。

 

観光をしながら考えておこう。

 

「歌音、何か言った?」

 

何でもないよ。

さあ、進もうか。

 

「うん。2人とも行くよ」

 

「「は~い」」

 

音歌が2人の手を引いて

建物の中へと入っていく。

 

表からは入れないため

裏にある和館から。

 

看板に沿って順路を進む。

 

赤いカーペットが案内してくれる

次から次へと目移りする建物の中。

 

目に移る茶間や広い和室

畳廊下を進んでいく。

 

この姿でも魂だけは入れ替われるため

時々変わってもらう。

 

足裏の感覚と匂いなどは

実際に経験しないとね。

 

そうやって洋館側へと進んだ。

 

赤い絨毯で埋まった床と

大和の模型が迎えてくれた。

 

食堂の豪華な食事、綺麗な応接室、

金唐紙(きんからかみ)の天井や壁。

 

入り口にはステンドグラスが使われ、

革張りの椅子なども見た。

 

3人も興味を持って見ていた。

 

「ふかふか、すわりたい」

 

「縄から向こうに行くなよ?」

 

「あれ、すわれないの?」

 

「鎮守府の椅子もあれだからな。

それで我慢してくれ。」

 

「ざんねん、しょぼん」

 

「てんりゅう、けち」

 

天龍、泣かせた、鬼

 

「おい、今の歌音だろ。

こういうのはちゃんと教えろよ」

 

怒られた~。

流石にワザと過ぎたか。

 

そんなおふざけをしながら

再び和室のある方へ。

 

普段見慣れない(私には見慣れた)和室だらけの空間。

 

私の中で感じるものがある。

 

思い出の光景が写る。

 

子供の時の私が

まだ、別の道を進んでいた光景。

 

廊下を挟んで反対にある庭を見ても

同じ様に昔の私を思い出す。

 

忘れたわけじゃない。

でも、忘れたかった記憶も蘇る。

 

私がこの世界を進んだ理由。

 

原点であって汚点である

あの日の事を…。

 

『歌音?大丈夫?』

 

ん?何が?

 

「ママ、ないてる」

 

「どこか、いたいの?」

 

目元を擦ると濡れていた。

 

嬉しさか悲しさか、

それとも辛さか。

 

なぜか涙を流していた。

一時的なものだろう。

 

大丈夫だから

2人の頭を撫でて進む。

 

と言っても、もう終わりだ。

 

出口についた。

 

ミーちゃんとクーちゃんは

早く次へ進みたいようだ。

 

反対に音歌は歩き疲れた感じだ。

 

私と何回も変わったけど、

陸を歩くのは疲れるらしい。

 

いつもふわふわ浮いているから

そこは仕方ないのだろう。

 

私と魂だけ変わり、

次の場所へと向かう。

 

向かおうと思って1歩踏み出したら

何かが走ってきた。

 

必死に逃げているように見える

サイドテールをした制服の女の子。

 

服装は鈴谷や熊野みたいだけど

身長は中学校1年生ぐらい。

 

私達とすれ違…え?

 

 

 

「どうした歌音、

豆鉄砲でも食らったのか?」

 

「ママ、おどろいてる?」

 

「どうしたの、ママ」

 

 

 

 

 

私は幻覚でも見たのだろうか?

 

 

 

 

 

 

さっき、すれ違った時に

少女がこっちを向いて目が合った。

 

 

 

 

 

 

 

少女の、少女の顔は…

 

 

 

 

 

 

 

私だった…。

 

*1
呉の私服




あまりに遅くなりすぎて申し訳ない。

書く内容自体は呉イベの年に
現地に行ってメモしてました。

でも、恩師に「メソポタミア文字」
と呼ばれる私の字は…

自分でも解読が困難なので
これを書くのに時間が掛かりました。

次回は気が乗ったら早く、
乗らなければ時間が空くか
別作品の投稿をすると思います。

それまでは気長にお待ちください。


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第8話 夢物語の被害者

社会人になったけど、
研修だから開いてる時間に執筆

今回のE4ボスBGMのお陰で
キーボードを打つ手が速い。


 

 

決して見間違いではない。

 

すれ違った子は間違いなく、

私と同じ顔をしていた。

 

でも、ありえない話じゃない。

 

艦これの世界にいるのだから、

同じ顔の人がいても不思議じゃない。

 

佐世保鎮守府の構造が

アニメと同じ構造なのと一緒。

 

ありえないがあり得るから、

それはもう気にしない。

 

今はあの子の後を追いたいけど、

その前に何が来るのかは知りたい。

 

あの子が逃げている理由に

私が関わっているとしたら……

 

「足が速いな、どこに行ったんだ?」

 

「この奥に来たのは間違いない

必ず此処に居るはずだ」

 

「ん?あいつらは…」

 

カメラを持った男が2人…

天龍、あの2人に見覚えある?

 

「あいつら、鎮守府前に来た奴らだ。

なんでこんなところに?」

 

やっぱり、さっきの子は

私と間違われて追われてる。

 

天龍、少し時間を稼いで。

 

「は?それってどういう…」

 

「ママ?」

 

「どうしたの?」

 

ミーちゃんとクーちゃんの手を引いて

和館の後ろへと走る。

 

庭に出れる道だけど、

その前に茂みに隠れる道がある。

 

隠れるとしたら…うん、見つけた。

 

やっぱり私と同じ顔をしている。

 

「誰⁈……女の子?」

 

「ママに、そっくり」

 

「え?」

 

「ママと、おなじかお。

ママ、どうして?」

 

2人は気になるだろうけど、

細かい話は後。

 

周囲には誰もいないから

体を元の私に戻す。

 

「嘘…、私⁈」

 

驚くのは分かるけど

今はそんな時間はない。

 

少しダボダボだけど、

これしか方法が無いから。

 

 

 

 

 

「おい、あの子だ!早く追うぞ!」

 

「おい待てよ!

さっきよりも早くないか?」

 

どうやら予想通りだったらしい。

 

さっきの男2人は

私と同じ顔のこの子を追ってた。

 

だから私は、

あの子の囮になることを決めた。

 

天龍に保護されながら

鎮守府に戻る方法もあった。

 

でも、5人で移動するには

あまりにもリスクが高い。

 

バレないように鎮守府に戻るのは

ほぼ不可能に近い。

 

ミーちゃんとクーちゃんに

無理をさせたくないという理由もある。

 

だから私は囮になった。

 

最近は嫌な眼差しに

不快感を覚えてたのに。

 

でも、この子を守れるなら…

 

そう考えると不快感もなくなって、

こうやって行動に移せた。

 

ミーちゃんとクーちゃんに

あの子の事は任せている。

 

だから、あの子のことを

今は心配しなくていい。

 

問題は私の方。

 

囮になったのはいいけど、

呉の町は知らない道が多い。

 

どこが繋がっているのか、

どこまで道があるのか分からない。

 

本当なら目印を決めたいけど、

そんな余裕もなさそう。

 

「いたぞ、あそこだ!」

 

「シャッターチャンス、

逃すなよ!」

 

後ろからバイクの音、

意地でも顔を撮りたいみたい。

 

なら、もっと逃げる。

 

「おい、なんで追いつけない!

こっちはバイクだぞ!」

 

今の足だと世界記録は狙える。

 

元々私は体を鍛えていたし、

ヲ級になって身体能力も向上した。

 

元の体でも出力はあるから、

バイクよりも早く走れる。

 

ただ、これをやると

あの子に影響するんだよね。

 

変な噂が立っちゃうから。

 

でも、逃げる以外に方法はない。

 

細い路地裏、階段、段差

壁や崖を利用して逃げる。

 

でも、男たちはついてくる。

 

バイクで無理やり追ってきた。

 

これ以上は疲れるだけ。

 

だから私は

近くの公園内の草木を目指した。

 

何度か通っていると

森のような場所を見つけたから。

 

身を隠すのにうってつけだった。

 

一度、建物の陰で視界を切って

森の中へと飛び込んだ。

 

「おい、あの子はどこに行った?!」

 

「分からない、とにかく探すぞ!」

予定通り、男たちを乗せたバイクは

そのままどこかへを進んでいった。

 

遠くなっていくのを確認し、

木陰に腰を下ろした。

 

とりあえず、一安心…。

 

少ししたら森を……

誰かが近づいてくる。

 

流石にこんなところから出る姿を

誰かに見られるわけにはいかない。

 

こっそりとここを……

 

「あいつまだ捕まって無いの?

せっかく情報あげたのにさ」

 

奏歌(そうか)のやつ、

そんなに足早かったっけ?」

 

「学年一の運動音痴が?

それはないでしょう」

 

3人の女性の声。

 

木陰からこっそり除くと、

制服を着た女子が3人。

 

体の成長具合と話し方、

何よりあの子と同じ制服。

 

間違いなく高校生。

 

笑いながら話しているが、

嫌な感じがする。

 

奏歌って子に対する悪口…

お兄ちゃんを虐めてたやつみたいに。

 

「ほら、これ。

艦娘にびびって逃げてるやつら」

 

「うわ、ださ!」

 

「こいつらに情報出したんだけど、

未だに連絡ないんだよね」

 

艦娘にびびって…

もしかして…っ!

 

「せっかくヤラしてあげるって

報酬を出したのにさ」

 

「体売ったの?」

 

「奏歌の体に決まってんじゃん。

捕まえたら好きにしてって言っといた」

 

「ああ、じゃあ今頃犯されてるね。

それより、この男の人どう見つける?」

 

「奏歌に聞いても知らないって

何度も否定するからね。」

 

「じゃあ、脅すか。

言わないとSNSで住所を流すって」

 

「うわっ、やばっ!

でも、いい子ちゃんのあいつなら…」

 

「直ぐに答えてくれる…っ!」

 

「そして、私達が男を頂いて…」

 

「ついでに一緒に居る

海軍のお偉いさんと仲良くなれば…」

 

「将来、玉の輿(こし)間違いなし!」

 

……久しぶりにキレそうだけど、

迷惑になるから我慢しないと。

 

「はははっ、それいいじゃん!

じゃあ、明日学校で脅そうよ」

 

「了解、手紙でも入れとく?

告白したいから体育館裏って」

 

「それでいこう。

今日は祝杯でも挙げちゃう?」

 

「いいね、パーッとやろう!」

 

離れて行ったか……。

 

何とか平常心を保てて良かった。

 

あと少しで木を壊して

投げつけるところだった。

 

とにかく、今はあの子に会って

色々と話さないと。

 

でも、今出ると気づかれる。

 

あの2人も、

まだその辺にいるはずだ。

 

どうすれば…ん?

あれは…艦載機?

 

1機だけ…しかも、かなりの高度。

 

この目じゃなかったら見えてない。

 

明らかに私の上空にいる。

 

確か空母は赤城さんだけ…

 

「発見したのです」

 

…ッ!

危ない、声を上げるところだったッ!

 

いつの間に!こんなところへ?!

 

「赤城に探させたのです。

詳しい事情は鎮守府で聞くのです」

 

やっぱり赤城さんが…

 

迎えが来たってことは

天龍達が戻れたのかな?

 

…あの、その、

お姫様抱っこは、ちょっと…

 

「大人しくするのです。

じゃないと舌を噛むのです」

 

え、それはどう、ゅ!

 

 

 

「到着したのです。

自分の足で歩くのです」

 

ひはい、ひははんは… *1

 

「だから大人しくしろと…

ほら、こっちに来るのです」

 

引っ張る力が強い、

いつ見ても駆逐とは思えない。

 

いつの間にか鎮守府の裏に来てるし、

艦娘じゃない何かだと思う。

 

そのまま引っ張られて執務室の中へ。

 

部屋の中には

天龍達とさっきの子がいた。

 

「ママ!おかえり!」

「ママ!ぶじ!」

 

勢いよく抱きついてきた。

 

寂しかったみたい、

2人とも掴む力が強いから。

 

2人を撫でながら

私は女の子に名前を聞いた。

 

琴井(ことい) 奏歌と言います。

助けてくれてありがとうございます」

 

やっぱりこの子が奏歌…。

 

……その感謝は受け取れない。

 

私のせいで巻き込む形になったから、

むしろ私が謝罪をするべきだ。

 

それに、

もっと最悪なことが起きている。

 

3人の女子高生、2人の男、報酬、

脅し、練られる計画。

 

その全てを話す。

 

こんな話をすれば、

奏歌の顔から血の気が抜ける。

 

「そんな…私っ!

どうしよう、お母さんが…」

 

体の震えを抑えるように

自分の体を抱く。

 

体を恐怖に支配されている。

 

呼吸が荒くなり、

喉奥が詰まるような音がする。

 

苦しそうに膝から崩れ落ちる奏歌。

 

正面から受け止めて背中を叩く。

 

赤子に曖気(あいき)*2をさせるように、

優しくゆっくり、トントンと…

 

何度か咳き込みながら

少しずつ呼吸が整っていく。

 

ミーちゃんとクーちゃんも

一緒になって頭を撫でる。

 

「だいじょうぶ、こわくないよ」

 

「ここは、あんぜん。

みんなが、まもる」

 

…子供の存在というのは

こういう時に必要だと常々思う。

 

どこか力強く感じる、

この子たちの言葉。

 

謎の安心感があるから、

奏歌も落ち着いてきた。

 

それと同じぐらいに扉が開いた。

 

「すまない、時間が掛かった」

 

「掛け過ぎなのです」

 

「探すのに手間取ったんだ。

でも、なんとか連れて来られた」

 

そこに居るのは猫さんと

30代ぐらいの女性。

 

女性は私と奏歌を見て、

口を押えて驚いていた。

 

「どういう事?

奏歌が、2人…⁈」

 

「え…っ!お母さん…、

お母さんっ!」

 

奏歌が立ち上がって女性に抱き着く。

 

お母さんという事は母親だろう。

 

さっきまで落ち着いていたが、

大声で泣き始めた。

 

母親がいる事で安心して

一気にあふれ出た感じだ。

 

やっぱり、

こういう光景は羨ましいな。

 

また鳳翔さんにしてもらおう。

 

今は彼女が泣き止むまで、

その光景を見守っておく。

 

*1
痛い、舌噛んだ

*2
ゲップのこと。




勢いで次の頭までは書けた。
でも、すぐには投稿しない予定。
後半をどういう展開にするか
まだ未定状態だから

さて、
歌音と瓜二つの高校生『奏歌』
彼女はどうなるのか…。
歌音はいつになったら
のんびり観光ができるのか…

次回をお楽しみに
(そろそろ感想が欲しいな…)



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