南雲ハジメはバリアスーツと共に (ウエストモール)
しおりを挟む

設定
保有アビリティ+アクション


〈ビーム〉

・パワービーム

装着者の生体エネルギーを変換して放つ、アームキャノンに標準装備されたビーム。

 

+チャージビーム

アームキャノンの内部でエネルギーを増幅することで破壊力を高めたビーム。最大までチャージすると、ノーマルミサイルと同等の威力を持つ。

 

+ディフュージョンビーム

ディフュージョン(拡散)効果を付与する、ビームウェポンの拡張機能。最大チャージビームが着弾した際、その周囲にビームと衝撃波が拡散する。一対多の戦闘において有効。

 

+スペイザー

横に3列に並んだビームを同時に発射する。3発同時の発射によって攻撃範囲が広がるだけでなく、ビームの出力が強化されている。ディフュージョンビームとの併用は不可能。

 

・グラップリングビーム

ロープ状のビーム。ぶら下がったり、相手の動きを止めるなど、様々な使用方法がある。ハジメがトータスで最初に使ったアビリティ。

 

〈ミサイル〉

・ノーマルミサイル(保有数:30発)

通常のミサイル。対象をロックオンして発射する。生体エネルギーによって生成されており、補給の際にはコンセントレーションという行動で補給するが、その際は身動きが取れなくなってしまうため、撃ち過ぎとタイミングに注意する必要がある。

 

・スーパーミサイル

最大チャージビームとノーマルミサイル5発を組み合わせることで発射する、強化されたミサイル。威力は折り紙つきだが、弾速と誘導能力、速射性能はノーマルミサイルに劣る。

 

〈ボム〉

・モーフボール

自走が可能な球体に変形する能力。再現の難しい鳥人族の技術の1つであり、スペースパイレーツでは再現を試みた際に被験者が複雑骨折で死亡した。

 

・ノーマルボム

モーフボール形態で使用可能な爆弾。

 

〈スーツ〉

・バリア機能

敵からのダメージを半減する他、高温ダメージをほぼ完全にカットすることができる機能。溶解液には耐えられない。

 

〈バイザーシステム〉

・コンバットバイザー

・スキャンバイザー

・Xレイバイザー

・サーモバイザー

・エコーバイザー

・コマンドバイザー

・エーテルバイザー(オリジナル)

 

〈エーテルアビリティ〉

・フラッシュシフト

 

〈その他〉

・スペースジャンプ

空中連続回転ジャンプを行うことで、無限に上昇することができる能力。ハジメはこれを使い、奈落から復帰した。

 

・スピードブースター

走行中に背面ブースターを噴射して高速ダッシュを行うことが可能な能力。その際に発生したエネルギーを纏うことで、ダッシュ中に接触した敵や障害物を破壊する。

 

・エーテルタンク(オリジナル)

 

〈アクション〉

・メレーカウンター

アームキャノンを鈍器にすることで、向かってくる敵や攻撃を弾き返す技。原理は不明だが、メレーカウンター成功後には自動でチャージビームが最大チャージされる。

 

・センスムーブ

スーツ背面のブースターから緑色のジェットを噴射し、回転しながら敵の攻撃を回避することで反撃に繋げる技。メレーカウンター同様、成功時にはチャージビームが最大チャージされる。

 

・オーバーブラスト

敵に飛び乗り、至近距離から最大チャージビームを放つ。

 

・アームキャノンナックル

アームキャノンのある右腕を弓を引き絞るように後ろに引いてから放つ正拳突き。直撃の際に砲口から出る爆発により、敵に追加ダメージが入る。

 

 



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

プロローグ
1話 鳥人族に育てられた男



南雲ハジメにバリアスーツを装着させたいと思い、書き始めました。


 

 俺、南雲ハジメは6歳のとき、宇宙人の犯罪勢力であるスペースパイレーツによって地球から連れ去られた。突然、両親や幼馴染と引き離された俺は、ただ恐怖に怯えるだけだった。

 

 だが、そんな状態の俺に手を差しのべる者達がいた。彼らは鳥人族、またはチョウゾと呼ばれる鳥類によく似たヒューマノイド型の宇宙人だ。

 

 スペースパイレーツから俺を助けた鳥人族は、俺を養子として育てることにした。その際、彼らの居住惑星であるゼーベスに連れていかれ、ゼーベスの環境に適応するために鳥人族の遺伝子を移植された。

 

 12歳の頃、今まで様々な訓練を受けていた俺は鳥人族の技術が惜しみ無く投入された専用のパワードスーツを受領し、初めての実戦を経験した。なんと、スペースパイレーツがゼーベスに侵攻してきたのだ。

 

 初めて知的生命体を殺すことになりながらも、鳥人族の戦士達と協力してスペースパイレーツの撃退に成功し、さらに俺は戦士として認められた。

 

 今、俺は16歳なのだが、初の実戦から今に至るまでの間に、様々な惑星の調査部隊に加わり、危険な原生生物と戦う経験もした。また、銀河連邦からの依頼を受けてスペースパイレーツ等の犯罪組織と戦い、銀河の平和に貢献した。

 

 そして今、俺は故郷である地球へ里帰りすることになった。

 

1週間前

 

 とある惑星探査の任務を終えた俺は、一時的にゼーベスへ戻ってきており、自室で鼻歌交じりに武器を整備していた。

 

 その時、ドアがノックされる。

 

「ハジメ、入るぞ」

 

 聞こえてきたのは男性の低い声。鍵は掛けていないため、声の主はそのまま部屋の中に入ってきて、俺の目の前に姿を見せた。それは、カラスを思わせるような黒い鳥人族。

 

「レイヴンのおっさん、何の用事で?」

 

 彼の名はレイヴンクロー、俺を今まで育ててくれた恩人だ。彼は鳥人族の中でも武闘派のマオキン族と呼ばれる民族であり、戦闘訓練を施してくれたのは彼だ。

 

「ハジメ、聞きたいことがある。君は、地球のことをどう思っている?」

 

 地球、それは俺の故郷。

 

「そうだな、言うならば俺の第一の故郷であり、特別な場所だ。ところで、何故そんな話を?」

 

「ハジメ、君はもう16歳。地球ならば、元服をする頃だ」

 

 おっさん・・・元服は昔の話だ、という指摘が口から出そうになったが、何とか飲み込む。

 

「つまり、君はもう大人といっていいだろう。そこでだ、大人になった姿・・・そして元気な姿を君の両親に見せに行くのはどうだろうか?」

 

 もう、10年は会っていない地球の両親。すでに俺が死んだものだと考えているだろう。だが、俺は元気に生きている。両親が地面の下に行く前に、顔くらいは出しても良いかもしれない。それと、幼馴染のことも気になる。

 

「おっさん、いい考えだと思う」

 

「ハジメ、その気になってくれたか。私がいろいろと手配しておくから、安心して里帰りするといい」

 

 俺の幼馴染・・・白崎香織。俺の記憶の中では6歳の時で止まったままの彼女。6歳で止まっている彼女の時間を動かしたいという気持ちが、胸の内からふつふつと沸いてきていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 そして、地球に向かう日が来た。俺は専用の黄色のスターシップに乗り込み、コンソールを操作していたのだが、そこにレイヴンクローが入ってくる。

 

「ハジメ、マザーがこれを持って行けと」

 

 そう言ってレイヴンクローが渡してきたのは、腕時計に見えなくもない銀色の腕輪だった。

 

 ちなみに、マザーというのはマザーブレインのことであり、脳のような形をした鳥人族製の生体コンピュータだ。銀河の平和に貢献するために作られたらしいが、俺からすれば唯の話し相手に過ぎないのだが。

 

「これは?」

 

「最近、マザーが開発した量子化収納装置だ。スターシップも収納可能らしい」

 

「スターシップも?向こうで試してみるか。おっさん、俺はそろそろ出発する。しかし、ここまで見送りに来てくれるとはな」

 

 後ろを振り向けば、レイヴンクローは後ろの座席に座っていた。まるで、自分も一緒に行くと言っているかのように。

 

「ハジメ、俺も地球に行く」

 

「おっさん!?」

 

 まあ、そんなこんなでレイヴンクローも地球に行くことになった。どうやら、おっさんは俺の両親に挨拶したいらしい。もちろん、両親の状態にもよるが。

 

 宇宙に飛び立った後、コンソールを操作して地球の座標を入力し、スターシップは地球方面へとジャンプした。

 

 

 

 この時点で、ハジメもレイヴンクローも気づいていないことがあった。それは、船内に置いておいたリュックサックがカサカサと音を立てていたことだ。その中に潜む何かは、隙間から外の様子を窺っているように見えた。





スターシップの見た目は、スーパーメトロイドやOtherMに登場した機体を想像してください。


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

2話 両親との再会





 俺のスターシップは地球の近くまでたどり着いた。とはいっても、アメリカ辺りの大国に見つかると流石にヤバいので、衛星軌道上には入っていないが。

 

「地球は青かった」

 

 地球を見た俺はふと呟く。かつて、こんなことを言った偉人が地球に居たらしい。今の俺には、その人の気持ちがよく分かる。

 

「おっさん、大気圏に突入するぞ」

 

 先ほども言った通り、見つからないようにするため、ジャミングと光学迷彩を行う。そういえば、さっきからレイヴンクローの返事がない。

 

「おっさん?」

 

「ハジメ、これを見ろ」

 

 おっさんに言われて振り向いた先にあったのは、荷物を詰めた俺のリュックサック。その蓋が少し開いており、カサカサと音がしている。

 

「何かがいる?」

 

 俺は光線銃、おっさんは振動刃ナイフを構えて警戒する。すると、蓋が一気に開いて何かが飛び出してくる。それは、クラゲのような小さな生命体。

 

「おまえ、ベビーじゃないか!」

 

「キュイ…」

 

 俺は、可愛い声を出したそいつの正体を知っていた。彼?は鳥人族による実験で生まれたメトロイドという人工生命体の最後の生き残りで、ベビーと呼んでいる。一応、俺のペットということになっているのだが、どうやら隠れて付いてきてしまったらしい。

 

「どうする、おっさん?」

 

「そうだな。できればゼーベスに返すべきだが、もうここまで来てしまった。リュックの中にいてもらおう」

 

「まあ、そうだよな。ベビー、お前は鳥人族の技術の塊なんだ。捕まったりしたら困るから、この中にいてくれ」

 

 ベビーは俺の言葉を理解し、すぐにリュックサックの中に引っ込んだ。俺は操縦席に引っ込むと、ジャミングと光学迷彩を起動させ、大気圏に突入した。

 

 目標、日本・・・

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 数分後、ハジメは地表に到達したスターシップを日本の何処かにある森の中に隠す。そして、搭載してある鳥人族製の高性能なコンピュータを使い、ハッキングを行って情報収集を開始する。

 

「南雲菫、少女漫画家。南雲愁、ゲーム会社社長。どちらも生存確認。住所は・・・・変わらないな」

 

 コンソールの画面に俺の両親の名前、写真、プロフィール、住所などの詳細な情報が表示されていた。普通なら知り得ないような情報もあるが、それはハッキングによるもの。

 

 鳥人族の技術者に言わせてみれば、鳥人族のコンピュータで地球のコンピュータをハッキングする場合、容易く地球のセキュリティを突破できるらしい。

 

「父さん、母さん・・・元気そうでなによりだ」

 

 写真の中の両親は笑っていた。

 

「そういえば、俺の情報は?」

 

 コンソールのキーボードを叩く。すると、俺に関する情報も表示された。

 

「警察は捜査を打ち切り、南雲夫婦は仕事を続けながらも情報を収集中・・・・そうか、10年も捜し続けていてくれたのか」

 

 早急に会いに行く必要がある。スターシップを再び動かし、俺の故郷である町に向かった。

 

 

 

 

 

 ハジメの両親、南雲菫と南雲愁は失踪したハジメのことを10年も捜し続けていた。それも、各々の仕事もしっかりこなした上で。

 

 2人が仕事を疎かにしない理由は、どこかにいるであろうハジメに、作品を発表し続けることで自分達が元気に生きていることを知らせるため。そして、ハジメが帰ってきたときに無職でいないために。

 

 ある日の夜中、南雲家のインターホンが鳴らされた。夜中に人が訪ねてくるのだから、よほど重要な用事なのだろうと思い、2人は玄関に出る。そこには、1人の青年 が立っていた。

 

「こんな夜中にすいません。私は南雲ハジメと申します。信用していただけますか?」

 

 2人は、南雲ハジメと名乗る青年のことをじっくり見た後、目を見合わせる。

 

「菫、彼は・・・・」

 

「えぇ、彼にはハジメの面影があるわ」

 

「あぁ、俺達には分かる。彼は10年間もずっと捜してきた俺達の息子、ハジメだ!」

 

 南雲夫妻は、目の前にいる青年がハジメであることにすぐに気付いた。

 

「ただいま。父さん、母さん」

 

 これが、南雲夫妻と南雲ハジメの実に10年ぶりの再会であった。止まっていた時間は、動き出す・・・

 

 

 

「ハジメ、今まで何処で何をしていたんだ?」

 

 俺は懐かしい実家の居間に通された。夜中ということもあり、出されたのはコップ一杯の水だけだ。そして、最初に口を開いたのは父さんだった。

 

「それなんだが、話せば長くなる。それに、信じてもらえるか怪しい内容なんだ」

 

 俺は、今までのことを全て話した。スペースパイレーツの偵察隊に連れ去られたこと、鳥人族によって助け出され、養子として育てられたこと、パワードスーツを纏って敵と戦ったことを・・・

 

「ハジメ、宇宙人に拐われたことは信じられるが、宇宙人の円盤で人体実験を受けて偽の記憶を埋め込まれていたりしないか?」

 

「おい、宇宙人に連れ去られたことは信じるのかよ。どうなっていやがる、この親父・・・」

 

 さらに、母さんの方も口を開く。

 

「もしかしたら、今のハジメはハジメそっくりに作られた機械兵器かもしれないわ。どうしましょう、これじゃ世界征服できちゃうわ!」

 

「母さんもか!2人ともSFの見過ぎだ!まあ、この調子ならこいつを見せても大丈夫そうだな」

 

 交差させた両腕を広げると、白い光に包まれたハジメの体にバリアスーツが装着される。それは、赤とオレンジ、黄色を基調とするパワードスーツ。さらに、アームキャノンを展開した。

 

「「・・・・・・・」」

 

 2人は無言になった後、再び目を見合わせる。

 

 そして・・・

 

「「スゲェェェェェ!」」

 

 2人はバリアスーツを見て、興奮して叫ぶ。

 

「父さん決めたぞ!そのパワードスーツのデザインを開発中のゲームで参考にさせてもらう!」

 

「新作少女漫画のアイデアが浮かんだわ!新作の主人公はパワードスーツを着た美少女よ!」

 

「あぁ、それと会わせたい人がいる。その・・・今まで俺を育ててくれた宇宙人なんだ」

 

 それを聞いた2人ははしゃぐのを一旦ストップする。

 

「宇宙人?」

 

「本物に会えるのね?」

 

「レイヴンのおっさん、入ってきてくれ」

 

 レイヴンのおっさんは光学迷彩を起動した状態で玄関先に待機させてある。レイヴンクローは人間とは思えないような足音と何かがぶつかるような音を立てて、居間に入ってくる。そして、出入口で頭をぶつけてしまった。

 

「私はレイヴンクロー。鳥人族の戦士であり、このハジメを戦士として育てた者です」

 

 今日は、ハジメを除く地球人と鳥人族が初めて出会った記念すべき日である。




この作品のベビーメトロイドは手の平サイズです。


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

3話 異世界召喚

描写がムズイ

本作のハジメ君、黒髪や眼帯が無いことを除けば、容姿と身長は原作における変貌後のハジメ君と同じですが、性格や思考パターンは異なります。


 

翌朝

 

「いただきます」

 

 俺とレイヴンは両親と共に朝食を食べていた。朝食の中身は、ご飯に味噌汁、焼き魚、納豆、きゅうりの漬物といったスタンダードなもの。だが、10年ぶりの和食である。俺は懐かしい味を噛みしめた。

 

「ハジメ、このネバネバした豆はとても旨い」

 

 隣ではレイヴンクローが箸を使って納豆を食べている。鳥人族は人間よりも体が大きいため、ソファーを椅子の代わりにして食事をとっていた。

 

「おっさん、そいつは納豆だ」

 

 どうやら、レイヴンは納豆が好きになったらしい。外国人はあまり納豆を好まないと聞いたことがあるが、宇宙人だと色々と違うな。

 

「ナットウというのか。これは是非持ち帰りたい。愁殿、このナットウという食べ物を幾つか融通していただけないだろうか?」

 

「え?まあ、構いませんよ。今までハジメを育ててくれた恩もありますので」

 

 なお、レイヴンクローは後1週間程地球に滞在するが、その間に様々な地球の文化にハマり、持ち帰る土産が増えてしまう。だが、それはまた別の話だ。

 

 

 

 朝食後、レイヴンクローは俺の両親と話し合いをしていたのだが、行方不明だった俺が帰ってきたことは公表することになったらしい。

 

「で、俺は記憶が無いことにしておくと」

 

 10年も行方不明だった人が帰ってきた。そんなことを知ったマスコミや記者は間違いなく飛び付いてくるだろうし、俺の身に何が起こったのか知りたいはずだ。しつこい取材を避けるためには、そうすることが必要だろう。

 

 そして、数日後に公表された。有名な漫画家とゲーム会社社長の行方不明になった息子が10年経って帰ってきたというニュースは、各種マスコミやインターネット、SNSを通じて日本全国に伝達される。記憶喪失ということにしたお陰で、しつこい取材は無かった。

 

 情報が広がった後、南雲家のインターホンが鳴らされる。俺が受話器を取ってみると、「白崎」と名乗る少女の声が聞こえてくる。まさか、香織?

 

 俺は玄関に急ぐと、扉を開ける。そこには、艶やかな黒髪の美少女がいた。彼女は俺の目をじっと見つめる。

 

「ハジメ・・・君?」

 

 香織はすぐ俺のことに気付いてくれた。それにしても綺麗だ。将来、香織は間違いなく美少女になると、6歳の時に思ったことを思い出す。

 

「香織・・・綺麗になったな」

 

 俺は香織と抱き合う。

 

「ハジメ君、元気そうで良かった…」

 

 香織は涙をボロボロと流している。それでは、香織の綺麗な顔が台無しだ。俺は指で涙を拭ってやる。

 

「ありがとう、忘れないでいてくれて」

 

 幼馴染との10年ぶりの再会。6歳の時で止まってしまった時間は、ようやく動き出した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ここ1年、俺は高校に通っている。というのも、帰ってきたことが公表されてから様々な検査を受け、その内の1つが学力検査だったのだが、中学3年生レベルの問題を普通に解けたことで、高校に通っても問題ないことになった。ゼーベスで高度な教育を受けたお陰だ。

 

 俺は香織と同じ高校を受験し、普通に合格した。最初は香織と異なるクラスだったが、2年生になって同じクラスとなった。

 

 後に、とある事件によって今のクラスメイトと深く関わることになるのを、まだこの時のハジメは知らない。

 

 

 

 ハジメの朝は早い。早起きしてジョギングし、公園で筋トレやシャドーボクシング、時には棒術の訓練をする。これは、再びゼーベスに帰る時に体が鈍っていない状態にするためだ。家に帰ると母の作った栄養満点の朝食を食べる。そしてベビーメトロイドと戯れた後、荷物を持って学校に向かう。ベビーが荷物の中に隠れ、学校に付いてきてしまうのはいつものことだ。

 

「ハジメ君、おはよう!」

 

 教室に入ったハジメは、窓際の一番後ろにある自席に座って本を読んでいた。そこに、香織が歩み寄ってくる。

 

「おはよう、香織」

 

 香織に挨拶を返すのだが、クラスメイトの一部、それも男子からの敵愾心を乗せた視線が一斉に突き刺さる。だが、ハジメによれば「スペースパイレーツや原生生物が向けてきた殺気と比べたら、可愛いものだ」とのこと。

 

 ハジメの容姿はイケメンでも不細工でもなく、平凡そのものだ。一方、香織は学校で二大女神と言われ、絶大な人気を誇る美少女だ。敵愾心を向けてくる者達は、ハジメが幼馴染というだけで二大女神の1人である香織と親しく、互いに下の名前で呼びあっているのが気に入らないのだろう。

 

 ハジメの授業態度は良好で、朝は鍛練をしている関係上、早寝のため居眠りは決してしない。勉強について質問すれば、分かりやすい説明をしてくれる。そのため、大半の者はハジメに対して悪い印象は抱いていない。敵愾心を向けてくる者は少数に過ぎないので、ハジメは無視していた。

 

 ハジメは香織との会話を楽しむのだが、そこに乱入者が現れる。

 

「香織、記憶喪失で可哀想なのは分かるが、また南雲に構っているのか?」

 

 そんなことを抜かす彼は、天之河光輝。容姿端麗、成績優秀、スポーツ万能の完璧超人。それに加え、身長約180cm、引き締まった体、サラサラの茶髪に優しげな瞳、強い正義感を持つモテ男。

 

 その特徴を聞くなら、彼は最高の人間だろう。だが、彼は思い込みが激しい人間。先ほどの発言もそうだ。

 

 光輝は香織がハジメに話しかけた理由を、幼馴染であることに加え、ハジメが記憶喪失(嘘)で可哀想だから話しかけていると考えている。

 

 幼馴染だからというのは間違いではないが、実際のところ香織はハジメのことが好きであり、休日はハジメと一緒に出かけることもある間柄だ。

 

 また、光輝はハジメと香織が一緒に出掛けていることも知っているが、可哀想なハジメのため、香織が貴重な休日の時間を割いてあげていると思っている。

 

「光輝君、何言ってるの?私は楽しいからハジメ君と話しているだけだよ?」

 

「え?ああ、本当に香織は優しいよな」

 

 光輝は香織がハジメに気を遣ったと思い込んでいる。いつも通りの光輝であった。

 

「光輝、また南雲君に構って欲しいのかしら?」

 

 そんなことを言いながら、今度はとある女子生徒が現れる。彼女の名は八重樫雫。二大女神の片割れであり、香織の親友だ。身長172cm、長い黒髪のポニーテール、侍を彷彿とさせる凛とした雰囲気。

 

 その雰囲気の通り、雫は剣道の大会で何度も優勝している猛者であり、彼女の実家は剣道場を営んでいる。ちなみに、光輝もそこの門下生であり、彼女の幼馴染だ。そして、美少女剣士として取材をよく受ける彼女は、年下の女子から「お姉さま」と呼ばれて慕われている。

 

 ハジメが彼女の戦闘能力を鳥人族に紹介したところ、大半のマオキン族の戦士達が見惚れ、彼女のファンクラブができてしまったという。

 

「し、雫?!別に南雲に構って欲しいわけじゃ・・」

 

 雫の発言が余程効いたのか、天之河は逃げるように去っていった。

 

「南雲君、うちの光輝がごめんなさいね」

 

 光輝がハジメと香織にちょっかいを出し、まるで光輝の母親であるかのように雫がハジメに謝罪する。いつも通りの光景であった。

 

 だが、いつも通りの学校生活は突然終わる。

 

 

 

 

 

 それは、ちょうど昼食のときだった。教室にはクラスの全員と担任の畑山愛子先生がいたのだが、天之河の足元が突然光り始める。その光は、魔法陣に変化すると更に輝きを強めていく。

 

「皆!教室から出て!」

 

 危険を感じた先生がすぐに教室から出るように叫ぶが、時すでに遅し。

 

 その時、俺は教室から離脱できなかった。鳥人族の遺伝子による身体能力を使えば、窓を突き破って飛び降りることで脱出することだって可能だっただろう。だが、それでは香織を離脱させることができない。俺は、香織の傍に残った。

 

 その後、魔法陣から強烈な閃光が発され、光が消失した時には教室にいた者全てが何処かに消えていた。この事件は、白昼の教室で起きた集団神隠しとして世間を騒がせることとなる。

 

 

 

 

 

「菫殿、愁殿、話は聞いています」

 

 ハジメ行方不明の報を聞いたレイヴンクローは急いで地球に飛び、南雲家を訪れていた。

 

「ハジメの通っていた高校ですが、我々が極秘に調査したところ、例の教室に空間が歪んだ痕跡がありました。こちらの科学者によると、スターシップによるワープの際に発生する歪みに似ているそうです。つまり・・・」

 

「高度な技術を持った何者かが空間を歪ませて教室の人間を誘拐した?」

 

 愁はレイヴンの言葉に続けた。

 

「ということになります、愁殿」

 

「ハジメは、帰ってくるのでしょうか?」

 

 菫は心配そうな表情だ。

 

「お二方、ハジメは鳥人族の叡知と力を受け継ぐ、鳥人族の後継者であり、最強なる戦士(メトロイド)です。必ずハジメは帰還する方法を見つけて帰ってきます。彼を信じましょう」

 



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

第1章 First Mission
4話 トータス



しばらくはスーツの出番が無かったりする

※魔物が魔獣になってますが、本作では魔獣と呼ぶ設定にしています。


 クラスメイトの中で最初に目を覚ました俺は、見知らぬ場所にいた。戦士たるもの動揺などはせず、すぐさま周囲の状況を確認する。状況判断は大切なことだ。

 

 周りを見渡すと、自分達がいるのは大きな広間であり、ドーム状の天井を持つ白い石造りの建物であることが分かる。構造だけを見るならば、聖堂のような場所であると推測される。

 

 やがて、遅れて目を覚ましたクラスメイト達は、唐突の異常事態に呆然として周囲を見渡すだけだった。その中には香織もいる。大切な人が近くにいるというのは、少し安心感があると共に、何としても守らなければならないという使命感を感じる。

 

 ハジメ達が今いる場所は、周囲より一段高くなっている台座。そして、その台座の前には跪きながら祈りを捧げる人々が30人おり、白地に金の刺繍の入った法衣を着ていた。この不可解な状況を説明できるのは、彼らくらいだろう。

 

 その中でも特に衣装が煌びやかな老人が、手に持った錫杖をシャラシャラと鳴らし、ハジメ達の方へ歩みでてくる。

 

「ようこそ、トータスへ。勇者様、そしてご同胞の皆様。歓迎致しますぞ。私は、聖教教会にて教皇の地位に就いております、イシュタル・ランゴバルドと申す者。以後、宜しくお願い致しますぞ」

 

 イシュタルと名乗った老人は見たところ70代くらいに見えた。だが、纏っている覇気は老人のそれではない。銀河連邦によって指名手配されている武装カルト集団とドンパチやったことがあるが、その集団の教祖を名乗る老人の雰囲気もこんな感じだったな。

 

 イシュタル・・・こいつは警戒しておこう。

 

 

 

 

 

 イシュタルの案内で、ハジメ達は長いテーブルがいくつも並んだ大広間に通される。例えるならば、某イギリスの魔法学校の食堂だろう。

 

 最前列には天之河達と愛子先生が座り、後ろにはそれぞれの取り巻き達が座る。ハジメは、部屋の全体を警戒できるように一番後ろに座った。

 

 そのタイミングで、飲み物等を載せたカートを押しながらメイド達が大広間に入ってくる。彼女達の容姿は例外なく美女か美少女だ。クラスの男子達の殆どは彼女達を凝視し、それに対する女子達の視線はアイスビームのように冷たい。

 

 ハジメだって男だ。美女や美少女に興味ぐらいはある。じっくり見たいという思いも少しはあった。だが、彼には香織がいるし、ハニートラップを警戒して凝視するようなことは無かった。

 

 

 やがて、イシュタルの爺さんによる説明が始まる。あまりにも長い説明だったので、要約する。

 

 まず、この世界〈トータス〉には人間族、魔人族、亜人族の3種族がおり、そのうち人間族と魔人族は戦争している。

 

 人間族は、高い戦闘力を持つ魔人族に対して数で優位に立っていたが、どういう訳か魔人族が魔獣という異形を大量に使役できるようになったことで、数的有利が覆され、人間族は滅びの危機に陥った。

 

 そこで、人間族の信仰する聖教教会の唯一神であるエヒトは、人間族を救うために上位世界から勇者とその同胞を召喚するという神託をイシュタルに授けた。なお、上位世界の人間は例外なく強力な力を有しているらしい。

 

 最後に、イシュタルはこんなことを言った。

 

「エヒト様の御意志の下、魔人族を打ち倒し、我ら人間族を救って頂きたい」

 

 神の意思の元で下で戦え?ふざけるな!というのが最初に抱いた感想だった。召喚などという綺麗な言葉で彩られてはいるが、これは誘拐である。10年前、俺が両親と引き離される原因となった行為・・・

 

 そんな行為をする時点で、すでに教会を信用できない。そもそも、人の命を何だと思っているのか?教会は、異世界人を犠牲にして自分達だけ助かろうとしているとしか思えない。

 

 勿論、この事態に対して声を上げる者がいた。

 

「ふざけないで下さい!この子達に戦争させようなんて許しません!ええ、先生は絶対に許しませんよ!私達を早く帰して下さい!あなた達のしていることはただの誘拐ですよ!」

 

 それは、愛子先生だった。25歳の社会科教師である彼女は、身長150cmという低身長にボブカットと童顔が特徴的だ。その愛子先生がイシュタルに食ってかかるのだが、その容姿のため子供が駄々をこねているようにも見えなくない。

 

 本人は威厳ある教師を目指しているらしいのだが、その可愛らしい容姿と動きでは無理がある。

 

「お気持ちはお察しします。しかし・・・あなた方の帰還は現状では不可能です」

 

 その場が、宇宙空間のように静寂に包まれる。皆、イシュタルの言葉を聞いて呆然としていた。

 

 帰還が不可能な理由・・・・イシュタルによると、異世界に干渉できるのはエヒトのみであり、帰れるかどうかもエヒト次第とのことだ。

 

 仮に魔人族を倒したとしよう。普通なら、役目を終えたために帰してもらえると考えるはず。だが、エヒトの意思によって別の戦争に利用される可能性がある。本当に我々が強力な力を持っているのであれば、エヒトだって強力な戦力を手放したくはないだろう。今度は、エヒトの意思によって亜人族との戦争に投入されるかもしれない。

 

 地球に帰る方法を独自に探す必要があると考えたのは、この時だった。

 

 

 

 

 

 とにかく、帰れないと分かったクラスメイト達はパニック状態に陥っていたのだが、イシュタルを含めた異世界の人々は軽蔑するような目で我々を見ていた。この世界では、エヒトこそが正義らしい。

 

 このままパニックが続いた場合、我々を洗脳なり薬漬けにして操り人形にしようとするかもしれない。そうなった場合、バリアスーツを使わざるをえない。スーツのことは他言無用という規則なのだが、そうなったら仕方がない。

 

 だが、スーツを使う時は来なかった。

 

 

 突然、誰かが机をバンッと叩いて立ち上がる。全員の注意がそこに向いた。そこにいたのは天之河光輝であり、全員に対して話し始める。

 

「皆、ここで文句を言っても仕方がない。俺達が帰れないのは紛れもない事実なんだ。俺は、魔人族によって苦しんでいる人々の存在を知った以上、見捨てるなんてことは出来ない。それに、人々を救いさえすれば地球に帰してくれるかもしれない。イシュタルさん、どうですか?」

 

「そうですな。エヒト様も救世主の願いを無下にはしますまい」

 

「説明にあった通り、俺達には大きな力があるんですよね?」

 

「ええ、そうです。ざっと、この世界の者と比べると数倍から数十倍の力を持っていると考えていいでしょうな」

 

 それを聞いた天之河は、最後にこう言った。

 

「うん、なら大丈夫。俺は戦う。人々を救い、皆が家に帰れるように。俺が世界も皆も救ってみせる!」

 

 こいつは調子の良いことばかり言い過ぎだ。大体、力があるといっても、“普通”の高校生は命のやり取りを知らない。魔人というのだから、恐らく相手は人型の生命体。この男を含めたクラスメイト達に、人が殺せるだろうか?

 

 天之河の発言を聞いたクラスメイト達は、戦争への参加に賛同する。愛子先生がダメだと訴えるが、焼け石に水。まるで、カリスマによって操られている独裁国家のようだ。

 

 彼の発言によって、バリアスーツを使う事態にならなかったことについては、彼に感謝したい。だが、もしも何かあった場合、彼は責任を取れるのか?それについては、後に分かることとなるだろう。

 

 

 

 

 

 その日の夜、我々は1人1部屋を与えられ、そこで過ごすことになった。

 

「盗聴機の類いはないな・・・」

 

 科学の発達していない世界ではあるが、念のために部屋の中を調べていく。無論、盗聴機はない。魔法による盗聴があった場合は、流石にお手上げだ。その時は黙ってバリアスーツでも着よう。

 

「ベビー、出てきて大丈夫だ」

 

 リュックの中からベビーメトロイドが姿を現す。一緒にこの世界に来ていたリュックにはベビーが隠れていたのだ。

 

「ベビー、この世界でもお前は隠れた方がいい。魔獣という危険な原生生物がいるらしくてな、ベビーもそれと勘違いされる可能性があるんだ。変な問題は起こしたくない」

 

 ベビーは「キュッ!」という声と共にその場で独楽のように1回転すると、ベッドの隙間に隠れた。

 

 この世界について、分からないことの方が多い。しばらくは、情報収集に努めるべきだろう。いずれ行くであろう、帰還の方法を探す旅のために必要なことだ。



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

5話 ステータスプレート


ステータス関連の解説を大幅に端折りました。後、主人公のステータスが変更される可能性あり。

ちなみに、スーツの初期アビリティはこんな感じです
・チャージビーム
・ディフュージョンビーム
・グラップリングビーム
・ノーマルミサイル
・スペースジャンプ
・モーフボール
・ボム
・バリア機能



 2日目、我々は聖教教会本山がある【神山】の麓に存在する国家、ハイリヒ王国の国王一家に謁見した。その際、イシュタルに対する国王の態度から、国家権力よりも宗教の力が強い国だと理解する。

 

 ちなみに、国王の名はエリヒド、王妃はルルアリア、王女はリリアーナ、その弟である王子はランデルといった。

 

 さらに宰相などの権力者や騎士団長、宮廷魔法士が紹介される。なお、騎士団長や宮廷魔法士が我々の訓練を担当するとのこと。実戦を知る者は俺以外にはいないため、訓練を受けることは必要だろう。

 

 その後には午餐会が開かれたのだが、出されたのは地球の洋食と殆ど変わらなかった。その最中、10歳の金髪碧眼美少年であるランデル殿下が香織によく話しかけていたのを見かけ、少し嫉妬した。

 

 香織の美しさは異世界でも通用するらしい。そういえば、八重樫さんは貴族の若い女性からよく話しかけられていた。学校の二大女神は、異世界でも女神だった。

 

 

 

 

 

 翌日、訓練が始まった。

 

 最初に配られたのは、12cm×7cm の金属製の薄いプレートだった。このプレートは一体何なのだろうか?その疑問について、騎士団長のメルド・ロギンスがすぐに説明してくれた。

 

「このプレートはステータスプレートと呼ばれているアーティファクトで、自分の客観的なステータスを数値化して示してくれるものだ。最も信頼のある身分証明書でもある。くれぐれも無くすなよ?」

 

 後に知ったが、アーティファクトは今では再現できない強力な魔法道具のことであり、その1つであるステータスプレートは大量に複製されているらしい。

 

「使い方は簡単だ。プレートに刻まれている魔法陣に血を一滴垂らして登録、加えて“ステータスオープン”と呟くとステータスが表示される」

 

 俺は針で指を刺すことで血をプレートに垂らし、ステータスオープンと呟いた。すると・・・

 


南雲ハジメ 17歳 男 レベル:?

天職:戦士/錬金術師

筋力:900

体力:820

耐性:600

敏捷:1000

魔力:100

魔耐:50

技能:槍術・棒術・射撃・格闘術・回避性能[+見極][+瞬発]・飛躍[+宙躍]・錬金・錬成・言語理解


 

「ん?」

 

 俺のステータスは、魔力と魔耐という魔法に関するところを除き、高い数値を示していた。これは恐らく、鳥人族の遺伝子とこれまでの鍛錬や実戦によるものだろう。

 

 団長の説明では、レベル1におけるステータスの平均は10であり、我々の数値はその数倍から十倍になるとのことであったが、この数値は異常といってもいいだろう。

 

 だが、それ以外に気になることがあった。それは、レベルが?で表示されているということだ。一体どういうことだ?まさか、壊れているのだろうか。

 

 また、錬金術師という天職のことも気になった。錬金術は、卑金属を貴金属に変えようという試みのことだ。成功したことは無いと言われているが、地球の創作では主題としてたまに扱われ、錬金術という言葉の知名度は高い。

 

 そんな中、天之河がメルド団長にステータスプレートを見せに行く。その内容は・・・

 


天之河光輝 17歳 男 レベル:1

天職:勇者

筋力:100

体力:100

耐性:100

敏捷:100

魔力:100

魔耐:100

技能:全属性適性・全属性耐性・物理耐性・複合魔法・剣術・剛力・縮地・先読・高速魔力回復・気配感知・魔力感知・限界突破・言語理解


 

「おお!流石は勇者様だ!既に3桁じゃないか!それに、技能がこんなに沢山!これは頼もしいな」

 

 団長は天之河を称賛する。それを聞いた彼は、頭を掻きながら照れていた。

 

 団長は他のクラスメイト達のステータスプレートを見ていく。皆、例外なく強力なステータスであり、団長は笑みを浮かべていた。そして、俺の番が来た。

 

「これは凄い!勇者様より遥かに上じゃないか!これは期待できるな」

 

 勇者の数値が100であるところに、その5〜9倍の数値を持つ者が現れたのだ。俺のステータスを見た団長の驚きは、相当なものだろう。

 

「ですが、レベルが出ていないようでして」

 

「これは・・・」

 

 それを見て、壊れているのだと判断した団長は、予備のステータスプレートを持ってくる。何回か試したのだが、レベルが出ていないのは変わらなかった。

 

「おかしいな・・・・まぁ、技能の数は勇者様に近い程あるようだし、天職も珍しいことに戦闘系と非戦闘系の両方を持っている。原因が分かるまではそのままで頼む」

 

 結局、原因は不明なままだった。これは予想なのだが、俺の肉体が純粋な人間でないことが原因だと考えている。俺の肉体は鳥人族の遺伝子が移植されており、人間の範疇では表せなかったのだろう。

 

 

 

 

 

 この世界には、魔法という技術が存在する。その仕組みはこうだ。

 

 まず、体内の魔力(エーテル)*1を詠唱・・・俗に言う呪文を唱える行為をすることで魔法陣に注ぎ込み、魔法陣にプログラムされた魔法が発動するというものだ。まあ、生体エネルギーを使ってパワービーム*2を撃つようなものだろう。勿論、咄嗟に撃てるパワービームの方が効率がいいのだが。

 

 詠唱の長さや魔法陣の複雑さで魔法の威力も変わっていくのだが、適性を持つ者はこの式をある程度省略することが出来る。なお、俺にはその手の適性はないため、攻撃魔法はほぼ使えない。

 

 そして、魔力についてだが。体内の魔力の影響でスーツにとある変化が生じた。それは、バイザーシステム*3に新しいものが追加されたということだ。

 

 その名はエーテルバイザー。今のところ分かっている用途は、魔力の流れを見たり、魔法や魔獣を解析するなどといった所だ。どうやら、鳥人族製のスーツは魔力にも対応したらしい。

 

 また、エネルギータンクとは別にエーテルタンクというものも出現した。まあ、スーツに魔力を蓄えることが出来るようになったわけだ。しかも、消費した分は一定時間で自動回復するというおまけ付きである。なお、貯蔵量を増やす方法は分かっていない。

 

 魔法がメインとなっているこの世界で戦うには、このエーテルバイザーとエーテルタンクが重要になってくるかもしれない。

 

*1
本作品では魔力をエーテルと呼びます

*2
装着者の生体エネルギーを変換して放つ、アームキャノンに標準装備されたビーム。無限に撃てる。

*3
メトロイドプライムシリーズに登場する要素





エーテルタンクの初期容量は、エネルギータンクと同様に100という設定です。

次回、主人公の技能に関する説明を入れます


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

6話 オルクスへ

修正を入れさせてもらいました


 我々は、神エヒトに召喚されたことから“神の使徒”と呼ばれているらしい。そして、神の使徒に下手な装備を使わせるわけにはいかないため、王国は国の宝物庫を解放した。各々が宝物庫に入り、天職や技能に適合したアーティファクトの装備を手にしていく。

 

 剣士である八重樫さんは曲刀のような剣を、坂上という拳士である男子生徒は脛当と籠手を、治癒師である香織は魔法を使うための杖を手にする。

 

 勇者の天之河は聖剣と呼ばれる長剣を王国から渡された。この聖剣には、敵の弱体化と使用者の身体能力を強化する能力がある。

 

 俺が選んだのは、槍だった。槍は鳥人族がよく使う武器であり、ゼーベスにいた頃から慣れ親しんだ武器だ。

 

 この槍は、この世界特有の硬く黒い鉱石であるタウル鉱石で作られており、最高硬度の鉱石であるアザンチウム鉱石で全体がコーティングされている。その黒い見た目から、“レイヴン”と名付けた。

 

 レイヴンには2つの能力がある。1つ目は、魔力を流すことで長さを自由自在に変えられるという能力だ。これにより、短いときは短剣サイズに、長いときは最大で6mまで伸びる。2つ目は、先端に風の刃を纏うことで威力を向上させる能力だった。

 

 

 

 

 

 それから2週間が経過する。その間、俺は戦闘訓練と情報収集を行う一方で、錬金と錬成を自分のものとするための練習を行っていた。

 

 “錬金”は魔力を使って物質を任意の物質に変換する能力で、等価交換が基本となっている。なお、その使用には物質に対する知識が必要なのだが、その辺りの知識に関しては鳥人族による教育で叩き込まれているので問題ない。

 

 “錬成”は金属や土などの形状を変化させる能力で、この世界の多くの鍛冶職は錬成によって武器や防具、道具を製作している。そして、錬成の練習のために様々な刀剣類を製作した。

 

 ちなみに、今のステータスはこうだ。

 


南雲ハジメ 17歳 男 レベル:?

天職:戦士/錬金術師

筋力:1000

体力:920

耐性:700

敏捷:1100

魔力:200

魔耐:100

技能:槍術・棒術・射撃・格闘術・回避性能[+見極][+瞬発]・飛躍[+宙躍]・錬金・錬成[+鉱物系鑑定][+精密錬成]・言語理解


 

 各ステータスが上昇し、“錬成”からは派生技能が出現した。相変わらず、「?」の部分はそのままだったが。

 

 新たに出現した技能は2つ。錬成の派生である“鉱物系鑑定”は、触れた鉱物の名称と性質を知ることが可能な能力。一方、“精密錬成”は文字通り精密に錬成する能力。やり方次第なら、銃だって製作できるだろう。

 

 この世界には優秀な素材が存在する。それも、地球の金属よりも耐久性が高い物だ。そして、錬金を駆使すれば、それらに加えて火薬の材料だって無尽蔵に用意できる。銀河社会で使われているような素材も用意できるので、時間はかかるかもしれないが、いずれはパワードスーツ等も作成してみたい。

 

 戦闘に使用する技能に関しても、戦闘訓練に取り組むうちに詳細が分かってきた。

 

 “見極”は敵の攻撃を見極める技能。“瞬発”は瞬発力を発揮して攻撃を回避したり、敵との距離を詰める技能。“飛躍”は高く跳躍する技能であり、“宙躍”は1度だけ空間を蹴ることを可能にする技能だった。

 

 また、情報収集に際して七大迷宮という存在を知った。七大迷宮は七大と呼ばれてはいるが、場所が判明しているのは【オルクス大迷宮】と【グリューエン大火山】、【ハルツェナ樹海】の3つのみだ。残りの4つは古文書においてその存在が仄めかされているだけであり、詳しい場所は不明となっているらしい。

 

 予想されている場所としては、大陸を分断している【ライセン大峡谷】や南大陸の奥地にある【氷雪洞窟】という場所があるようだった。

 

 この七大迷宮に俺は目を付けた。七大迷宮は誰にも攻略されておらず、その奥底は前人未到となっている。そして、誰がこれらを築いたのかも明らかになっていない。

 

 七大迷宮の奥底には物凄い何かが眠っているのかもしれないと俺は考えた。もしかすると、世界を越えるための手段が存在する可能性もある。

 

 無茶苦茶な考えではあるが、俺が調べた範囲では世界を越える手段の存在は確認できておらず、未知の場所を探索するしかなかったのだ。俺は、最初にオルクスを探索することにした。

 

 とりあえず、ここを離脱することは決定事項となったが、香織がそれを知れば「ハジメ君に付いていく」なんて言いだすだろう。だが、非戦闘職の治癒師である彼女を守りながら迷宮に挑むのは難しい。何とかして、香織には神の使徒の一員として残ってもらわなければならない。さて、どうするべきか…

 

 

 

 そして、召喚されてから2週間が経過した今日、メルド団長からとある発表があった。それは、実戦訓練のために【オルクス大迷宮】へ向かうということであった。

 

 俺はオルクスに潜ることを決めていたので、これは渡りに船だ。この訓練が終わった後、ここを離脱するのが良いかもしれない。勿論、ベビーの回収も忘れてはいけない。

 

 翌日、王宮を出発した我々は宿場町ホルアドに到着。ホルアドには王国が運営する宿があり、そこで一泊。翌朝、オルクスに出発するそうなので、早く寝ようとしていたのだが、扉がノックされた。

 

「ハジメ君、まだ起きてる?」

 

 扉の向こう側から聞こえてきたのは、香織の声だった。扉を開けると、白いネグリジェに上着を羽織った香織が立っている。

 

「香織、どうかしたか?」

 

「その…少し話したいことがあって」

 

 出入口で話し続けていては誰かに見られそうなので、部屋の中に招き入れる。俺は、窓際のテーブルに着いた香織にお茶を出した。

 

「それで、話というのは?」

 

「そこまで大それた話じゃないんだけど、明日迷宮に行くのが怖くて…」

 

 恐怖……なる程な。訓練をしたとはいえ、精神は高校生のままだ。初めて命のやり取りをするのだから、怖いのは当たり前だろうな。

 

 俺も、初めてスペースパイレーツと戦った時は恐怖があった。だが、やらなければゼーベスが陥落し、家族同然の鳥人族達が死ぬことになるので、恐怖を押し殺して戦った。

 

「香織、あまり心配する必要はないと思う。それに、もしもの時は俺が守る」

 

「ハジメ君…」

 

 香織は顔を赤らめる。

 

「だったら、私はハジメ君が怪我をした時は癒してあげるね。ハジメ君が怪我してる姿は想像できないけど…」

 

 

 

 その後、しばらく雑談して2人は別れた。香織は自分の部屋に戻っていくのだが、その様子を酷く歪んだ表情で見つめていた者の存在に、香織もハジメも気付かなかった。



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

7話 事件


時系列が少しだけ戻ります


 

 数日前、とある事件が起きた。

 

 俺は朝食を取った後、訓練時間前から鍛錬をしていたのだが、あるものを目撃した。それは、クラスメイトの1人である清水幸利が3~4人の人影によって人気のないエリアに連れ込まれるところだった。

 

 闇術師の清水幸利は、地球においてオタクと分類される存在であった。性格は根暗に近く、夜中までゲームをしていたことによる授業中の居眠りや寝坊をよくしているため、授業態度はよろしいとは言えない。そして、彼は裏で虐められていた。

 

 俺がその後を追っていくと、清水は4人の男子生徒に囲まれ、ボコボコにされていた。

 

 その4人は、俺が今まで見てきたなかで上位に入る程のクズと言ってもいい存在であり、自分達よりも弱い者だけを狙う彼らのことを、俺は“小悪党組”と呼んでいる。

 

 小悪党組のメンバーは、リーダー格である軽戦士の檜山大介、炎術師の中野信治、風術師の斎藤良樹、槍術師の近藤礼一。

 

 この世界に来る前、弱そうな者を狙ってカツアゲをしていた4人を制圧したことがある。あれで彼らも懲りたと思っていたのだが、この世界に来て力を得てことで調子に乗っているらしい。

 

 地球には「大いなる力には、大いなる責任が伴う」という言葉がある。あの4人には、一般人と比べると確かに大きな力がある。だが、責任感というものがない。彼らには、お灸を据えてやる必要がある。

 

 

 

「なあ、清水。俺達と訓練しようぜ!お前サンドバッグな!」

 

 檜山がそんなことを言った直後、近藤が槍の石突側を使って清水の背中を殴打する。清水は「ぐぁ!?」という悲鳴を上げて前方に倒れた。

 

「訓練はまだ終わらないぞ?」

 

 今度は中野と斎藤の各々が、得意とする属性の下級魔法を倒れている清水に向けて撃つ。

 

「ここに燃撃を求む、“火球”」

 

「ここに風撃を求む、“風球”」

 

 清水はその場から何とか飛び退いて火球を回避するが、その直後に風球が腹部に突き刺さり、体をくの字に折って嘔吐した。

 

「おいおい、ここで倒れられても困るぜ。折角、訓練相手として選んでやったのによぉ」

 

 檜山は蹲る清水に接近すると、その腹部を何度も蹴りつける。他の3人も加勢したことで、その暴力はエスカレートしていった。だが、それはいつまでも続かない。

 

「だったら、俺を訓練相手にしてみないか?」

 

 いきなり乱入してきた声の方向に全員の視線が集中する。そこにいたのは、南雲ハジメだった。

 

「檜山、これは訓練に見えない。団長に報告させてもらうぞ?」

 

「まっ、待てよ南雲。こいつが弱すぎるから訓練に見えないだけで・・・」

 

 檜山は反論する。

 

「清水は闇術師だ。訓練するなら、同じく魔法に高い適正のある中野と斎藤だけで十分だろう?そもそも、闇術師は正面切って戦うタイプではない」

 

(今の俺達は強くなってる。前みたいに、南雲に負ける訳がない)

 

 この場を切り抜けるため、ハジメを倒そうと考えた檜山は他の3人に小声で言う。

 

「俺達は4人だ。今なら南雲を倒せる」

 

 この時点で、檜山には大きな誤算があった。確かに、彼らは強くなっている。だが、ハジメも同じように強くなっているということを考えもしなかったのだ。

 

「お前ら!やっちまえ!」

 

 檜山の号令で小悪党組はハジメに襲いかかった。

 

 

 

 

 

「くらいやがれ!」

 

 最初に突っ込んで来たのは、近藤だった。槍術師である彼は、並みの人間の目では捉えられない程の速さで槍を突き出す。その槍は鞘が外されて刃が剥き出しとなっているため、人を殺せる状態だった。なお、彼には自分が人殺しをしようとしている自覚はない。

 

 槍先の目標は、ハジメの喉元だ。だが、槍先は空を切る。

 

「ぶべらっ!?」

 

 それと同時に、ハジメの強烈な飛び膝蹴りが近藤の顔面に直撃する。近藤は鼻血を盛大に吹き出して地面にぶっ倒れた。その時、ハジメは近藤が槍を突き出し始めたのと同時に“瞬発”によって地面を蹴って距離を詰めており、槍が完全に突き出された無防備な瞬間に飛び膝蹴りが直撃したのだ。

 

「ふざけやがって!」

 

 今度は檜山が剣を振り下ろしてくる。ハジメはサイドステップで剣を回避し、首の後ろに手刀の一撃。檜山は一撃で意識を刈り取られ、気絶した。

 

「ここに焼撃を・・・」

 

「ここに風撃を・・・」

 

 少し離れた所にいた魔術師の2人は、接近戦担当が倒れた瞬間、魔法の詠唱を始める。だが、ハジメの初動の方が早かった。

 

「錬成」

 

 ハジメは地面に手を置き、“錬成”によって2人の足元を急激に隆起させる。2人は少しだけ宙に浮き、発動した魔法はあらぬ方法へ飛んでいく。

 

「おやすみ」

 

 そして、距離を詰めると2人の腹部に拳をめり込ませた。

 

 この場で立っているのは、ハジメ1人のみ。うめき声を上げる小悪党組の4人に対し、ハジメは一言呟く。

 

「今のことはメルド団長に報告させてもらう。そこで寝て反省していろ」

 

 別の場所で倒れている清水の所に駆け寄り、起き上がらせると肩を貸す。

 

「ありがとう、南雲」

 

「別に礼はいい。俺はあいつらの陰湿なやり方が気に入らないだけだ。とりあえず、君を香織のところに運ぶ」

 

 そのまま、応急処置のためにハジメは清水を香織の所 まで連れて行った。小悪党組に関しては、メルド団長に報告が行くまでその場で放置されることになった。

 

 

 

 ハジメが去った直後、気絶していた檜山の体が少しばかり動き、何かを呟いた。

 

「南雲、──す・・・お前を・・・殺す

 

 檜山はハジメに対して殺意を持っていた。その殺意の理由を知る者は、檜山本人のみだ。この殺意は、──の運命を最悪なものへと導く。

 

 

 

 

 

「これは酷いね」

 

 傷だらけの清水を見た香織がそう述べる。すぐさま、香織は治癒魔法で大半の傷を治した。幾つかの傷は治しきれていないが、それは時間と清水自身の治癒力が解決するだろう。

 

「ハジメ君の方は怪我してない?」

 

 香織はそう言いながら俺に密着し、体をペタペタと触ってくる。

 

「無傷だから安心して欲しい。というか、どうして俺に密着しているんだ?」

 

「えへへ、ハジメ君の体に異常が無いか調べているんだよ。名付けて、密着チェック!」

 

 あまりにも香織が可愛いので抱きしめたくなったが、清水の視線があったのでやめた。

 

 

 その後、清水と香織を伴ってメルド団長に経緯を説明する。メルド団長も彼らが何かをやらかすのではないかと予想していたらしく、内容を信じてもらえた。そして、小悪党組には数日間の謹慎が言い渡された。

 





バリアスーツの登場は後1~2話くらいお待ちください。


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

8話 トラップ


この辺はハジメ君が強いところ以外は原作とあまり変わらないかも。


 神の使徒一向は、【オルクス大迷宮】の第1階層を隊列を組んで進んでいた。オルクスの壁には緑光石という鉱物が埋め込まれており、そのぼんやりとした発光によってそれなりの明るさが確保されている。

 

 しばらく進んでたどり着いたのは、ドーム状となっている広間だ。一向が周囲を警戒していると、壁の隙間から複数の灰色の毛玉が湧いて出てきた。その魔獣はラットマンという名であり、名前の通りネズミを二足歩行にした魔獣だ。しかも、上半身がムキムキであり、その腹筋や大胸筋をボディビルダーのように見せつけてくる。

 

 団長の命令により、天之河と雫、坂上、ハジメの4人が前衛として出る。その後ろには、後衛として香織、降霊術師の中村恵里、結界師の谷口鈴が杖を構えて並んだ。

 

 天之河と雫はそれぞれの得物による斬撃によってラットマンを次々と倒し、坂上は見事な拳撃と脚撃で敵を後衛に向かわせない。

 

 ハジメはレイヴンを横薙ぎに振るうと、複数のラットマンを一撃で両断する。槍先には風の刃が纏われており、切れ味は抜群だ。

 

 その直後、詠唱が響き渡る。同時に、4人は魔法の射線上から退避した。

 

「「「暗き炎渦巻いて、敵の尽く焼き払わん、灰となりて大地へ帰れ──“螺炎”」」」

 

 3人の杖の先から放たれた螺旋状の炎がラットマンの群れを巻き込み、焼き尽くした。その場に残ったのは、灰のみ。完全なオーバーキルであり、本来なら回収すべき魔石が残らなかった。

 

 その後、グループごとに交代で魔獣と戦いながら、階層を下げていく。そして、第20階層に差し掛かった。この階層は、挑む者が一流の冒険者かどうかを分けるとされている。そして、今回の訓練の終着地点であった。

 

 鍾乳洞のような第20階層を、同行している騎士団員がトラップのチェックをしながら進んでいくのだが、突然ハジメ達とメルド団長が足を止めた。

 

「擬態しているぞ!周りをよく注意しておけ!」

 

 団長が忠告する。どうやら、壁に擬態している魔獣がいるようだ。

 

 やがて、壁の一部が変色したかと思うと、そこからゴリラのような魔獣が現れた。その名はロックマウント。豪腕とカメレオンのような擬態能力が特徴だ。ハジメは、まるでガルマン星人のようだと評した。

 

 スペースパイレーツを構成する種族の1つであるガルマン星人は、カメレオン型のエイリアンであり、体の色を変えることで透明化し、奇襲してくる。ハジメは何度かガルマン星人と対峙したことがあった。

 

 ハジメを除いた3人が前に出る。ハジメが前に出ないのは、鍾乳洞のような障害物のある狭い通路では槍は不向きであり、リーチの長さから味方を巻き込む可能性もあるからだ。

 

 坂上が豪腕を弾き返し、天之河と雫が取り囲んで倒そうとする。だが、その地形のせいで上手くいかない。その隙にロックマウントが大きくバックステップをとる。そして、大きく息を吸った直後、強烈な咆哮を発した。

 

「グゥガガガァァァァアアアア!!」

 

 その咆哮を浴びた3人は、体が麻痺してしまう。これは、ロックマウントの固有魔法である“威圧の咆哮”である。

 

 ロックマウントは、硬直した3人を無視して傍らにあった岩を投げつける。綺麗なカーブを描いて3人の上を飛んだ岩は、後衛へと降ってくる。

 

 香織達は迎撃しようとしたのだが、その岩がロックマウントに変わり、両手を広げて飛んできたことで、悲鳴を上げて硬直してしまった。

 

「残念だったな、俺もいるぞ?」

 

 前に出なかったことで咆哮の影響を受けなかったハジメは、香織達を守るためにレイヴンを空中のロックマウントに向けて突き出す。

 

 槍先が届かない高さにいたロックマウントだったが、突然槍の長さが6mに伸びたことによって、その身を貫かれてしまった。

 

「香織、大丈夫か?」

 

「う、うん・・・ありがとう、ハジメ君」

 

 ロックマウントは全て倒された。そのまま、20階層の奥にまでたどり着くのだが、壁に光る何かが埋まっているのを、香織が見つけた。

 

 それは、青白く光るクリスタルだった。その美しさから、クラスの女子達はうっとりとする。

 

「あれはグランツ鉱石だな。大きさも中々だ。珍しい」

 

 と、メルド団長が説明する。グランツ鉱石は、宝石の原石になる鉱石であり、貴族の女性に人気である。

 

「素敵・・・」

 

 香織は頬を赤く染めて呟く。ハジメは一瞬、グランツ鉱石を香織の為に取ってあげたいと考えたが、罠の可能性を考えてやめた。

 

 だが、動き出した者がいた。

 

「だったら俺らで回収しようぜ!」

 

 それは、檜山。彼は壁をよじ登り、グランツ鉱石に手を伸ばした。

 

「待て!それは罠だ!」

 

 フェアスコープで鉱石の周りを見た団長が叫ぶ。しかし、檜山は鉱石に触れてしまった。

 

 その瞬間、床に大きな魔方陣が出現し、光り輝く。まるで、召喚されたあの日のように。

 

「くっ、撤退だ!早くこの部屋から出ろ!」

 

 団長の警告は間に合わなかった。いた場所を光が埋め尽くし、一向は浮遊感を感じた。

 

 そして、次の瞬間に一向は地面に叩きつけられた。景色も先ほどと異なる。

 

 先ほどの魔方陣は、転移させるタイプのものであった。ハジメ達は周囲を警戒する。

 

 転移した先は、石造りの大きな橋の中間地点。100mはあるその橋には手すりや柵はなく、その下には闇で埋め尽くされた奈落がある。

 

「お前達、直ぐに立ち上がって、あの階段の場所まで行け。急げ!」

 

 団長は、後方にある階段に行くように叫ぶ。一向は動き出すのだが、魔法陣から出現した骸骨の魔獣、トラウムソルジャーの群れが立ちはだかった。

 

 そして、目の前の大きな魔法陣からは巨大な魔獣が出現した。それを見たメルド団長は呟く。

 

「まさか・・・ベヒモスなのか?」

 



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

9話 ベヒモス


難産だった・・・


 

「神意よ!全ての邪悪を滅ぼし光をもたらしたまえ!神の息吹よ!全ての暗雲を吹き払い、この世を聖浄で満たしたまえ!神の慈悲よ!この一撃を以て全ての罪科を許したまえ!――“神威”!」

 

 頭部の角から炎を吹き出すトリケラトプスのような魔獣、ベヒモスに対して光輝は最大の威力の技を放つ。その後方には、香織によって治療を受けているメルド団長達の姿がある。

 

 団長達は障壁を張ってベヒモスの突進を防ぎ続けていたのだが、先ほど破られた際に怪我を負ってしまっていた。なお、この怪我は光輝が「自分たちも戦う」と言って聞かなかったことで押し問答となり、撤退のタイミングを失ったことに起因している。

 

 詠唱の時間稼ぎのために前に出ていたハジメ、雫、坂上の3人は、“神威”が発動する直前に離脱する。ハジメ以外の2人は、ボロボロになっていた。

 

 ベヒモスに向けられた聖剣の切っ先から、極光が放たれる。宇宙戦艦の砲撃を彷彿とさせる強力な光の砲撃は、石畳を抉り飛ばしながらベヒモスへと向かい、真正面から直撃した。

 

 ホワイトアウトのように周囲が白い光に包まれ、橋には大きな亀裂が入った。光輝は思わず「やったか?!」と言うのだが、それはフラグである。

 

 やがて光が薄まり、ベヒモスがいた場所を覆っていた煙が吹き飛んでいく。そこには、無傷のベヒモスがいた。

 

「嘘・・・だろ?!」

 

 光輝は動揺する。それもそのはず、先ほどの攻撃は彼の魔力の大半を使用した最大威力の自慢の攻撃だったのだから。

 

「グルァァァァァアアアアア!!」

 

ベヒモスは咆哮を上げると、頭部を赤熱化させる。そのまま屈強な足で跳躍し、その頭を下に向けて急降下してきた。ハジメ達は咄嗟に飛び退いて回避するが、その衝撃波によって吹き飛ばされ、地面に激突する。

 

「お前ら、動けるか?!」

 

 治療が完了していた団長は、4人に声をかける。ハジメは立ち上がったが、他の3人は呻き声を上げるのみ。

 

「ハジメ!香織と光輝を連れて下がれ!」

 

メルド団長は、自らを犠牲にしてでも光輝達を逃がそうとしていた。だが、そこでハジメはとある提案をした。それは、ハジメが一番危険に晒される方法であった。

 

 

「いいのか?」

 

「はい。このままでは全員死んでしまいます」

 

 団長はハジメの真っすぐな眼差しに圧倒され、許可を出す。

 

「任せるぞ、ハジメ」

 

 次の瞬間、ハジメは”飛躍“によって高く跳躍し、ベヒモスの頭部に向けて降下すると、右脚を高く掲げる。そして、踵落としがベヒモスの頭部に直撃する。それによってベヒモスの片方の角は半ばからへし折られ、頭部は地面に強く叩き付けされた。

 

 本来ならば、身体能力がいくら高いといってもここまでの威力の攻撃はできない。だが、“神威”によって若干のダメージが入っていた上、踵落としが直撃する直前にバリアスーツの右脚を部分展開しており、威力が上がっていたのだ。勿論、ハジメ自身の体によって遮られていたため、その瞬間は見られていない。

 

 追い打ちをかけるように、今度は右腕を頭部に振り下ろす。今度は直前にアームキャノンのある右腕を部分展開しており、アームキャノン自体を鈍器としていた。それによってもう1本の角もへし折られ、ベヒモスの頭部は少し地面にめり込む。

 

「“錬成”!」

 

 熱い頭部に手を当て、錬成を行う。

 

 地面にめり込んだ頭部が隆起した地面によって拘束され、ベヒモスは頭部を引き抜こうと藻掻いた。だが、亀裂が入ったとしても錬成によって修復されてしまい、さらには脚部までもが拘束されてしまい、地面に沈み込む。

 

 ベヒモスの力は凄まじく、ハジメは何度も拘束を解かれかけたが、錬成の繰り返しで維持できており、ベヒモスは間抜けな格好となっていた。

 

 

 

「待ってください!まだハジメ君が!」

 

 他の騎士団員や香織と共に光輝を担いで離脱しようとしたメルド団長だったが、そこに香織が待ったをかけた。

 

「これはハジメの作戦だ!あいつがベヒモスを押さえている間に下がり、ソルジャーを突破。あいつが離脱すると同時に一斉に魔法で攻撃し、怯んだ隙に撤退する!」

 

「だったら私も!」

 

「ダメだ!香織は光輝を治療してくれ。光輝がいなければ、ソルジャーを突破できない!光輝を助けることは、ハジメを助けることに繋がるんだぞ!」

 

「ッ――」

 

 流石に香織も従うしかなかった。そして、治療によって動けるようになった光輝と共に撤退し、トラウムソルジャーと戦う味方の支援に向かった。

 

 

 

「万翔羽ばたき、天へと至れ――“天翔閃”!」

 

 回復した光輝の光の斬撃がトラウムソルジャー集団のど真ん中を吹き飛ばす。それを皮切りに反撃が始まり、階段への道は開けた。

 

「お前たち!後はハジメを助けるだけだ!」

 

 その言葉を聞いたクラスメイト達はベヒモスの方向を見る。そこには、たった1人でベヒモスを足止めしているハジメの姿が。

 

 メルド団長の指示により、遠距離の攻撃魔法が使える者が並んで一斉砲撃の準備をする。前衛の者は、いまだに残っているソルジャーの足止めを行う。

 

 

 

 砲撃準備を始めるクラスメイトの中に檜山大介もいた。檜山は自分のせいでこんな状況になったとはいえ、すぐにでも逃げたいという気持ちが心の5割を占めていた。

 

 残りの5割は、南雲ハジメと白崎香織に関することだった。

 

 檜山大介は、中学生の頃から白崎香織に好意を抱いており、香織と同じ高校を受験した上で告白しようとしていた。だが、そこに南雲ハジメが現れた。

 

 ハジメは香織の幼馴染であり、行方不明になっていたことは香織について調べたときに知っていたし、2人の様子を見れば両想いであることも理解できた。

 

 だが、いきなり帰ってきたハジメが香織と親しくし、香織に受け入れられているのを見て、香織を奪われたと考えてしまい、一方的に恨んだ。

 

 ハジメに対する恨みはそれだけではなかった。カツアゲをしていた時、清水に集団で暴力を振るった時。いずれも、ハジメの介入を受けた。その恨みも全て檜山自身に原因があるのだが、香織のこともあって自分に原因があるとは考えていない。

 

 異世界に来てから、檜山の考えに「どうにかして南雲を殺せないか?」というものが追加された。そして、清水の一件から明確にハジメに対する殺意を持った。

 

 そして今、バレずに殺せそうなタイミングが訪れた。

 

 

 

 

 

 俺は、あらゆる属性の攻撃魔法が頭上を飛んでいく中で走っていた。当たれば唯では済まない魔法が頭上を通るのは恐ろしいものであったが、クラスメイト達を信じて進む。

 

 攻撃魔法の雨による足止めにより、ベヒモスとの距離は開いていく。

 

「!?」

 

 突然、殺気のようなものを感じる。常人を越えている視力を駆使して感じた先を見れば、1人の男子生徒・・・檜山の姿がある。ハジメを見るその顔は、醜く歪んでいた。

 

 そして、檜山が火球を放つ。ベヒモスへと飛んで行ったように見えたその火球は、急に軌道を変えてハジメの方へと突っ込んできた。

 

 すかさずハジメは回避する。だが、進行方向に着弾した火球は範囲攻撃となる強烈な爆発を巻き起こし、ハジメは爆風を浴びて体勢を崩す。それだけではなく、ハジメに足を止めさせた。

 

その状況に、ベヒモスは黙っていなかった。足止めによって自身を間抜けな格好にさせたハジメを鋭い眼光が捉える。そして、ハジメを叩き潰すべく跳躍すると、赤熱化した頭部を下に向けて隕石のように突っ込んできた。

 

 爆風を浴びた影響からギリギリで回復したハジメは、すんでの所で回避する。しかし、今までの戦闘によって脆くなっていたこともあって、ベヒモスが突っ込んだ場所を中心に大きい亀裂が入る。

 

 亀裂は広がっていき、ついには橋が崩壊を始める。ベヒモスはすぐに暗黒の奈落へと落ちていく。そして、ハジメも崩壊に巻き込まれてしまう。何とか復帰しようとしていたものの、“宙躍”による空中ジャンプを使っても間に合わなかった。そのまま、ハジメは瓦礫と共に奈落に吸い込まれていく。

 

「離して!私にはハジメ君がいないとダメなの!私はハジメ君の後を追うから!だから離してぇ!」

 

 悲痛な叫びを響かせて飛び出していきそうな香織を、光輝と雫が羽交い絞めにして必死に引き留める。今の香織はその細い体が限界を迎えそうな程の力を出しており、このままでは体を壊してしまうだろう。

 

「香織っ、ダメよ!香織!」

 

 雫が必死に声をかける一方で、光輝は狂気に包まれた香織に何と言葉をかけていいか分からず、無言でいるしかなかった。その直後、メルド団長の手刀が首筋に打ち込まれたことによって香織は気絶した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ハジメは、頭を下にする形で奈落を自由落下していた。そして、その目は閉じられている。その姿は、まるで精神統一しているかのように見えた。

 

 突然、ハジメの両目が見開かれたかと思うと、ハジメの体が白い光に包まれ、瞬時にバリアスーツが装着される。そして、逆三角形のバイザーが黄緑色に発光した。

 

 次の瞬間、ハジメはロープ状の青白いビームであるグラップリングビームを壁に撃ち込むことで、壁にしがみつくことに成功した。

 




〇バリアスーツ
鳥人族の技術を惜しみ無く注ぎ込んだパワードスーツで、モジュール機能によって様々な機能を追加することが可能。右腕のアームキャノンは着脱式になっている他、各部位の部分展開も可能*1。見た目はOtherM版のノーマルスーツがバリア機能をアクティブにした状態。要するに、最新のスマブラに出てる見た目。

〇グラップリングビーム
青白いロープ状のビーム。ぶら下がったり、相手の動きを止めるなど、様々な使用方法がある。

*1
オリジナル設定



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

10話 偽装、陰謀、吉報


アビリティ紹介

〈スペースジャンプ〉
無限に空中回転ジャンプを行い、上昇する能力。どんなに高い場所でもたどり着ける。


 

 ハジメは、右腕のグラップリングビームと脚力で壁に貼り付いていた。

 

「まさか、俺を殺そうとするとはな」

 

 檜山が俺の命を狙ってくることは十分予想できたことだったが、そのような凶行に走る可能性は低いと考えていた。そのように考えたのは、浅はかだったな。

 

「さて、今すぐ脱出したいところだが・・・」

 

 スペースジャンプの能力を使えば、空中回転ジャンプの繰り返しで先ほどの階層に戻ることは可能だ。

 

 だが、檜山が俺の命を狙ったことが分かった以上、今すぐにクラスメイトの所に戻れば、口封じのために更なる凶行に走るだろう。香織に危害が加えられる可能性もある。

 

 ここは、俺が死んだことにしようと思う。それなら、この世界で自由に行動できる。勿論、このままでは香織が自殺しかねないため、香織には俺の生存を知らせたい。ベビーを回収する必要もあるため、香織に生存を伝えることも兼ねて、王宮に潜入することに決めた。

 

 

 

 数分後、ハジメは壁を蹴ることで空中に飛び出すとスペースジャンプのアビリティを使い、連続の回転ジャンプで空中を跳ねることで暗闇の中を上昇していく。

 

 そしてついに、ハジメはベヒモスとトラウムソルジャーのいた65階層に戻ってきた。65階層の崩落した橋はまだ直っておらず、魔獣もまだ復活していない。

 

 撤退中であろうクラスメイトとの遭遇を避けるため、ハジメは迷宮の中をじっくりと調査しながら上に向かうことにした。

 

「へぇ、あれで生きているなんて、イレギュラーは凄いなぁ。まあ、あのパワードスーツのおかげでもありそうだけど」

 

 ハジメを見張っている者がいた。その人型が羽織っている外套の隙間からは、黒色の有機的な装甲が見え隠れしている。

 

「イレギュラー。僕は君と戦う日を楽しみにしているよ」

 

 次の瞬間、その者は音もなく忽然と姿を消した。

 

 

 

 

 

 ホルアドの町外れの一角にある目立たない場所にて、檜山大介は体育座りで膝に顔を埋めていた。その様子を周囲が見れば、落ち込んでいるように見えるだろう。だが、実際は味方を撃った罪人である。

 

「ヒ、ヒヒヒ。あ、あいつが悪いんだ。調子に乗って俺の邪魔しやがって・・・それに・・・白崎を奪いやがった・・・て、天罰だ・・・あいつの邪魔は・・・これで入らない・・・俺は間違ってない・・・ヒ、ヒヒ」

 

 彼から漏れる言葉は、全て自己弁護の塊。自分が殺人(実は未遂)を犯したことを正当化していた。

 

 使用したのは火属性魔法の火球。自分の魔法の適正は風属性魔法であり、疑われることはまず無い。あの時、南雲と目があったため、南雲に気づかれたかもしれないが、殺したので問題ない。

 

 そんなことを自身に言い聞かせる檜山。そして、彼に背後から近付いて声をかけてくる者が1人。

 

「君は檜山君だったかな?殺人を自分の中でそこまで正当化できるなんて、君は大した人間だね。僕は君を気に入ったよ」

 

「ヒッ、誰だっ!?」

 

 檜山が振り向くと、そこには黒色の有機的な装甲を全身に纏った人型が立っていた。全身には水色の発光部位が存在し、右腕は砲のような形になっている。そして、フルフェイスヘルメットのような頭にはY字の水色のバイザーが目立つ。

 

 檜山は知らないが、その人型のおおまかな姿はハジメが装備するバリアスーツによく似ていた。

 

「ま、魔人族か?!」

 

 檜山は後退りして逃げようとするが、そいつはワープして檜山の目前に現れ、右腕のアームキャノンを檜山の頭部に突き付けた。

 

「まあ、落ち着きなよ。僕の名前はプライム、ある御方から魔人族側に付くように言われている者さ。そして、君に力を与えに来た」

 

 檜山にアームキャノンを突き付けているのは、魔人族側であると自称する存在。彼がその気になれば、檜山の頭に風穴が開くだろう。

 

 目の前の存在に生殺与奪の権を握られていることを理解した檜山の顔は青ざめ、冷や汗を流す。

 

「ちっ、力をくれるのか?でも、裏切り者になるわけには・・・」

 

 流石の檜山でも、魔人族側から力を受け取るというのはクラスメイト達を裏切ることだと判断していた。

 

「けど君、仲間を殺しているじゃないか。これって、すでに仲間を裏切っているようなものだよ?」

 

「あ、あぁ…」

 

 プライムの鋭い指摘を受け、檜山は狼狽える。

 

「すでに裏切っているのだから、受け取っても問題ないよね?それに、力があれば欲しいものが手に入るよ?」

 

「欲しいもの?」

 

「惚けないでよ。白崎香織、あの女が欲しいんでしょ?」

 

 それと同時にプライムの顔が至近距離に迫り、バイザーから青白い光が檜山の顔に照射されると、檜山の目が虚ろになった。プライムは、檜山に何かしたらしい。

 

「香織、欲しい・・・」

 

「恋敵を殺したくらいだし、手に入れる為なら何でもするよね?」

 

「何でもする」

 

 プライムが仕掛けた精神的な細工によって、檜山の心の中は香織を手に入れることだけで埋め尽くされていた。もはや、欲望の塊である。

 

「じゃあ、力を与える引き換えに僕の門弟になりなよ。僕に従っていれば、女どころか欲しいもの全てが手に入るよ」

 

 檜山は悪魔に魂を売り渡した。

 

「これが、君に力を与えるものだ」

 

 プライムの左の掌の上に青白い光球が浮遊している。その光球は、掌から離れると檜山の胸部に吸い込まれた。

 

「凄い、力が沸いてくる・・・!」

 

「時間が経てば経つ程、君の力は上昇していく。とりあえず、僕から命令があるまでは自由にしているといい。でも、勝手に白崎香織に手を出してはいけないよ?またね、門弟君」

 

 直後、プライムはワープして何処かに消えた。

 

「香織・・・絶対に手に入れてやる」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ワープしたプライムは森の中に出た。すると、その背後に何者かが降り立つ。

 

「プライム、何故あのような下らない男に力を貸したのですか?」

 

 それは、銀色に光る翼を背中から広げている銀髪碧眼の女であり、白をベースとしたドレスのような甲冑を纏っている。その姿は天使やワルキューレを思わせるのだが、その瞳は氷のように冷たく、まるで機械のようだった。

 

「おや、旧式・・・・じゃなくてノイント君じゃないか」

 

 その女の名はノイントといい、エヒトに仕えている存在である。プライムの言う“旧式”というのは、エヒトが最初に作り、今でも主力として多く残っている生体魔導兵器〈ノイントシリーズ〉の初期個体が彼女であることに由来する。

 

 そして、プライムは試験的に作られた最新型の個体であり、完全に異形の姿にすることで、戦闘に特化していた。もしも量産されれば、〈プライムシリーズ〉となるだろう。

 

「確かにあの男は下らない。でも、あれくらい欲望に忠実な方が色々とやりやすいんだ。欲望を増幅させてやれば、上手い具合に操れる」

 

 プライムが檜山にしたこと。それは、欲望を増幅させることだった。それにより、檜山は香織を手に入れるためなら何でもする男になった。

 

「なるほど。ですが、私を旧式と言うのは聞き捨てなりません。あなたより古いのは事実ですが」

 

「悪かったよ。君はノイントシリーズの初期個体だけど、アップデートを何回も受けたことでシリーズの中では最強の個体だったね。で、どうしてここに来たんだい?」

 

「我がマスターより、最新型のあなたを監視しておくように言われています」

 

「お目付け役ってわけね。まあ、安心してよ。僕はあの御方に逆らうようなことはしないから。ただ僕は、あの御方の盤上を面白くしたいだけさ」

 

 

 

 

 

翌日 夜

 

 王宮に潜入した俺は、クラスメイト達の自室がある棟にたどり着いた。王宮の敷地内は警備の騎士達が巡回していたが、突破は難しくなかった。

 

 そして、俺は香織の部屋のベランダに降り立った。室内を見ると、ベッドで眠っている香織の姿が。すかさず鍵をピッキングして解錠し、部屋に入った。やっていることは完全に犯罪であるが、バレなければ問題はない。

 

「香織・・・」

 

 机にあった書類によれば、香織は今日に至るまで眠り続けているらしい。

 

 俺は、眠り続けている香織の手を握る。その手は俺の手よりも少し小さく、繊細で、可愛らしい。

 

「ハジメ・・・君・・・」

 

「!?」

 

 突然、香織が小さな声で俺の名を呼ぶ。それと同時に、香織は俺の手を握り返す。

 

 そして、香織はゆっくりと目を覚ました。

 

「ハジメ・・・君?」

 

 しばらく周囲を見渡した後、香織の目は傍らにいる俺を見る。その目からは、涙が溢れていた。

 

「ハジメ君は・・・あの時落ちて・・・でも、目の前のは本物のハジメ君・・・!」

 

 香織の声が段々大きくなっていく。このままエスカレートされると俺の存在がバレるので、少々強引な方法で静かにしてもらう。

 

「え?」

 

 さらに発言しようとした香織の口を、ハジメの口が塞ぐ。ハジメに強引にキスをされた香織は、顔を真っ赤にしていた。これにより、香織の発言は止まる。

 

「すまない。ある事情で、俺がここにいることはバレてはいけないんだ。ところで、どうして俺が本物だと?」

 

「私はハジメ君の特徴を知り尽くしているんだよ?ハジメ君の匂いも、体の動かし方も、筋肉の付き方も・・・」

 

「おっ、おう…」

 

 流石にドン引きするハジメ。だが、気を取り直して話を続ける。

 

「それで、ある事情というのは・・・」

 

 ハジメはその時のこと香織に話し始めた。

 

 

 

「ハジメ君はクラスの誰かに命を狙われていたの?」

 

 香織は驚く。

 

「信じられないかもしれないけど、本当だ。犯人は、クラスの男子の誰かだ。もしも俺が生きていることが分かれば、そいつは更なる凶行に走るかもしれない。だから、俺はクラスに戻らないことにした」

 

「だったら、私も行くよ」

 

「もしも香織が居なくなれば、混乱が起きる。それに、生きていることがバレた場合に俺が誘拐犯扱いされる」

 

「そうだよね・・・」

 

 香織は少しガッカリした様子だ。だが、これが混乱を防ぐためであることは理解したようだった。

 

「香織、俺はそのうち君を迎えに戻ってくる。その時は、一緒に行こう」

 

「分かった。私はハジメ君のことを首を長くして待ってるね・・・・・・そうだ、ハジメ君にお願いがあるの」

 

「?」

 

「その・・・ハジメ君の持ち物を少し置いていって欲しいの。一緒に居られない間に、ハジメ君を感じていたいから・・・」

 

 そこで、ハジメはとある物を香織に渡した。

 

「これって、指輪?!ハジメ君・・・もう結婚しようだなんて早いね///」

 

 再び顔を真っ赤にした香織。彼女が渡されたのは、1つの指輪だった。

 

「錬成と錬金の練習のために作った指輪だ。作った時に俺の魔力を流しているから、持っていれば俺を感じられると思う」

 

「ありがとう、これで生きていけるよ」

 

(ハジメ君の魔力が流れた指輪!これで、ご飯何杯も食べられるよ。もしも戻ってきたら、ハジメ君のことも食べたい///)

 

 妄想に浸っている香織。彼女が妄想から現実の世界に戻ってきた時、すでにハジメの姿は無くなっていた。

 

「もう行っちゃった・・・ハジメ君、私は帰りを信じているよ。あの日みたいに・・・」

 

 その直後に雫がやって来る。香織と雫は抱き合うのだが、それを目撃した天之河と坂上は2人の邪魔をしないように立ち去った。

 





プライムの見た目は完全にダークサムスですが、ただのそっくりさんです。


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

11話 2度目のオルクス


アビリティ紹介

〈ノーマルミサイル〉
30発まで保有可能な通常のミサイル。対象をロックオンして発射する。生体エネルギーによって生成されており、補給の際にはコンセントレーションという行動で補給するが、その際は身動きが取れなくなってしまうため、撃ち過ぎとタイミングに注意する必要がある。


 

オルクス大迷宮 第20階層

 

「お前で最後だ」

 

 コンバットバイザーによってロックマウントの姿が捉えられ、「ピピッ!」という音と共にロックオンされる。選択している武装は、ノーマルミサイルだ。

 

 アームキャノンの先端が4つに割れ、ミサイルの赤い弾頭が露出する。そして、アームキャノンからミサイルが発射された。

 

 射出されたミサイルは彗星の如く光の尾を引きながらロックマウントに向けて突き進み、目標を粉砕した。

 

「弱すぎるな」

 

 ベビーと共にオルクスに入ったハジメは、ここに至るまで魔獣を相手に武装の確認を行っていた。分かったことはただ1つ。このスーツの武装では低い階層の魔獣に対してオーバーキルになるということだけだ。

 

「ベビー、先に進むぞ・・・・・っ!?」

 

 突然、バイザーの下に隠されているハジメの顔が驚きの表情に変わる。その視点の先には、ロックマウントの残骸に噛り付くベビーメトロイドの姿があった。ベビーは、残骸に残っていた魔力を吸っていた。

 

「待てベビー!そんなものを食べるんじゃない!」

 

 魔獣の肉には高い濃度の魔力が含まれており、猛毒である。それを人間が摂取すれば死に至るとされているのだが、メトロイドが吸った場合はどうなるか分からない。

 

 次の瞬間、ベビーメトロイドが光り輝く。そして、光が消えると・・・

 

 

 

 そこには、ゴリラのような形に変化したベビーの姿があった。大きさもアップしており、身長は2.5mを越えていた。

 

「まさか、ロックマウントの特徴を!?だが、これでは町の中に一緒に入れないな」

 

 しかし、その心配も杞憂に終わる。再びベビーが光ったかと思うと元の姿に戻り、その後に再びゴリラ形態に戻った。ベビーは、必要に応じて自らの大きさを元の手のひらサイズに戻すことが可能になっていたのだ。ハジメは、このゴリラのような姿のことを“剛力態”と呼ぶことにした。

 

「頼もしい姿になったな、ベビー」

 

「キュッ///!」

 

 ベビーは嬉しそうな様子だ。

 

 そして、1人と1匹は第20階層の奥にあるグランツ鉱石の所に辿り着いた。

 

「行こう、ベビー」

 

 ハジメはグランツ鉱石に触れた。

 

 

 

 

 

 浮遊感の後、ハジメ達は第65階層に転移していた。あの時崩壊した筈の石橋は修復されており、案の定、魔獣も復活していた。

 

「また会ったな。とはいっても、お前たちは覚えていなそうだが」

 

 前方にベヒモス、後方には多数のトラウムソルジャーが展開している。

 

「骸骨共は任せる。異論は無いな?ベビー」

 

 その瞬間、剛力態となったベビーはトラウムソルジャー軍団の中に飛び込んでいき、その豪腕でバッタバッタとなぎ倒していく。ソルジャーによる反撃があったものの、メトロイドの強固な外皮を破るまでには至らない。

 

 エネルギー武器や通常兵器を無効化する外皮を持つメトロイドを倒すには、凍結させた後にミサイルなどの爆風で粉砕する必要がある。

 

 一方、ハジメはベヒモスと対峙する。バイザーをエーテルバイザーに切り替え、ベヒモスをスキャンした。

 

「スキャニング完了」

 


魔獣:ベヒモス

4足歩行の爬虫類型魔獣です。頭部の2本角を介して炎を操ります。頭部を赤熱化させての攻撃に注意してください。


 

「グルァァァァァアアアアア!!」

 

 ベヒモスの凄まじい咆哮。だが、クレイドというゼーベスの巨大原生生物との戦闘経験があるハジメは一切動じない。

 

 そして、ベヒモスは角から大量の火球をハジメに向けて発射してきた。

 

「火球も撃てるのか。だが・・・」

 

 ハジメはチャージビームを最大チャージした状態で、火球の群れに向けて回転ジャンプを行う。スーツが光に包まれ、その状態の体当たりによって火球を破壊した。

 

 これはチャージアタック。チャージビームを溜めた状態で回転ジャンプすることで、エネルギーを纏った体当たりを繰り出す技である。スクリューアタックに似ているが、威力はそれに及ばない。

 

 ハジメはスペースジャンプを併用することで低空を飛び回り、全ての火球を破壊する。そのタイミングで、ベヒモスは頭部を赤熱化させると突進を敢行してきた。

 

 ロックオン、ミサイル発射。

 

 ノーマルミサイルはベヒモスの右の角に吸い込まれていき、それを破壊する。

 

 突進の勢いは弱まったが、突進自体は継続されていた。ハジメは後ずさりすることなく、どっしりと構えてベヒモスを待ち構える。

 

 ベヒモスの頭部が至近距離まで迫った時、ハジメはアームキャノンを残像が見える程の速度で振り上げ、ベヒモスに強烈なアッパーをお見舞いする。ベヒモスは突進を止め、後方に少し押し戻された。

 

 メレーカウンター。右腕のアームキャノンを鈍器とし、自身に向かってくる相手に近接攻撃を仕掛ける技だ。

 

 次の瞬間、ハジメは背部のブースターを吹かせて後退したベヒモスの頭部に飛び掛かる。そして、アームキャノンを振り下ろして左の角を粉砕した。その一撃によってベヒモスの頭部は地面に叩き付けられ、ダウンする。

 

 ハジメは見逃さなかった。ダウンしているベヒモスの口内にアームキャノンを突っ込むと、ノーマルミサイルを選択する。

 

「ミサイルの味はどうだ?」

 

 ノーマルミサイルを連射する。ゼロ距離射撃であるため、ロックオンの必要もない。ひたすらにミサイルを撃つだけだ。

 

 ミサイルを1発、2発、3発、4発、5発と撃ち込んでいき、10発目に突入した頃から、ベヒモスの体が膨張を始める。ミサイル保有数の3分の2にあたる20発目を発射した時、ついにベヒモスの体は爆散した。

 

 消費したミサイルをコンセントレーションで補給しながら、後ろを振り返るハジメ。そこには、太い両腕を同時に振り下ろしてトラウムソルジャーの魔法陣を破壊するベビーの姿があった。

 

「よくやったな、ベビー」

 

 この日、たった1人と1匹によって第65階層は突破された。

 





>「異論は無いな?ベビー」
元ネタはMETROID OtherMのアダム・マルコビッチのセリフ、「異論は無いな?レディ」です。


次回、鳥人族の要素が出てきます。


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

12話 鳥人族の足跡


アビリティ紹介

〈パワービーム〉
装着者の生体エネルギーを変換して放つ、アームキャノンに標準装備されたビーム。他のビームとの重ね掛けが可能。

初期アビリティについてですが、スペイザービームをディフュージョンビームに変更しました。それと、各種のバイザーシステムも最初から装備しています。



 

 ハジメは魔獣と戦いながらもバイザーシステムをフル活用して様々なタイプのトラップに対処しながら進み、同時にマッピングも行っていた。

 

 ちなみに、食糧に関しては腕輪に収納されているものに加え、同じように収納されているスターシップの中に非常食も積み込まれているので、尽きることは無かった。

 

 それを続けること1週間、ついにハジメ達は第100階層に到達した。

 

「おかしいな、何もない」

 

 第100階層の奥にあったのは、何の変哲もないただの岩肌。つまるところ、袋小路になっていた。だが、迷宮の奥に何もなかったと決めつけるのは早い。ハジメは、バイザーシステムの1つであるXレイバイザーを起動させた。

 

 Xレイバイザーの機能、それは透視だ。

 

 早速、奥の岩肌を見る。

 

「なるほど・・・」

 

 バイザーを通して見たものは、カモフラージュされているひび割れた壁(フェイクブロック)。これなら、ハジメが現在保有しているビームウェポンでも十分破壊が可能だ。

 

 ハジメはアームキャノンに標準装備されているパワービームを連射し、ひび割れた壁を完全に破壊した。それにより、道が開かれる。

 

 ハジメは開いた道を通り抜けた。

 

「これは!?」

 

 その先に広がっていたのは、薄暗い小部屋。その中央に、ハジメが知っているものがあった。

 

 それは、金属製の鳥人族のオブジェであり、その手にはアームキャノンを差し込める穴の開いた板が保持されていた。ハジメは、鳥人族が居住している幾つかの惑星で、これらのオブジェを見たことがある。

 

 ハジメはアームキャノンを穴に差し込む。すると、バイザーに表示が出た。

 

『不明なシステムをダウンロードしました』

 

 不明なシステムとは何だ?と思ったハジメは、スーツに搭載されたAIに解析を始めさせる。

 

 その一方、システムのダウンロードと同時にエネルギーがオブジェを通して供給されたのか、照明によって小部屋が明るくなる。そして、床がエレベーターのように下降を始めた。

 

『解析完了。このシステムは、●●魔法を鳥人族がデータ化したものです。何らかに対抗するためのシステムと思われます』

 

 結局、現時点において●●の部分については判明せず、不明なシステムの詳細は不明なままであった。

 

 やがて、床は100m程降下したところで停止する。ハジメ達の目の前には、機械的な六角形のドアが設けられていた。

 

「ブルーゲートか」

 

 銀河社会において標準規格のゲートであるブルーゲートには、誤作動防止用の弱いエネルギーシールドが張られており、通るためにはパワービームなどを当てて解除する必要がある。

 

 鳥人族のオブジェとブルーゲートの存在は、この迷宮に鳥人族が関連していることを明確に示していると言ってもいい。

 

 パワービームを撃ち込み、ブルーゲートを開ける。その先には、前人未到の迷宮が広がっていた。そして、ハジメはベビーと共に一歩を踏み出した。

 

 

 

 

 

 今居る場所を真迷宮と呼ぶことにした。俺とベビーは真迷宮の第1階層を進み、狼やウサギのような魔獣と戦っていたのだが、その過程でベビーが新しい姿になれるようになった。

 

 それには“俊敏態”と名付けた。見た目はまるで2本の尻尾がある狼のようであり、第1階層の魔獣である二尾狼の魔力を吸った結果、その姿になった。また、二尾狼の固有魔法である“纏雷”が使用可能になっていた。

 

 犬や狼のような形になったわけだが、古い時代から人間のパートナーとして犬が存在していたことを考えると、一緒に行動するのに一番しっくりくる形態だ。

 

「ベビー、この辺で休憩にしよう」

 

 俺は“錬成”を使い、一時的なシェルターを作るために壁に横穴を開けていく。20m程掘り進めると、ちょっとした小部屋を作り始める。やがて、壁の中から発掘された物体があった。

 

「綺麗な結晶だな」

 

 発掘されたのは、濃い青色の鉱石だった。青白く光っており、神秘的で綺麗な石である。“鉱物系鑑定”を使ってみたところ、“神結晶”という鉱石であることが判明した。また、これから溢れ出る液体は“神水”といい、飲んだ者の傷や病を治してくれるという。

 

 そこで、錬成で石を加工して試験管の形にしたものを幾つか用意し、神水をストックしておくことにした。いつか、これらが役に立つ日が来るかもしれない。

 

 数十分間の休憩の後、俺達は第1階層の終わりに差し掛かっていた。

 

「またウサギか!」

 

 こちらに強烈な蹴りを浴びせようと飛びかかってきた蹴りウサギ。だが、飛び込んでくるタイミングに合わせてアームキャノンを振り下ろすことで一撃で叩き潰した。

 

 そんな中、跳ぶことも忘れて必死そうに地面を走ってくるウサギがいた。まるで、何かから逃げているかのように。

 

「なっ!?」

 

 突然の風切り音。それと同時に、その蹴りウサギの体が斜めに切断されていた。そして、攻撃の主の姿が暗闇の中から現れた。

 

「グルルル…」

 

 低い唸り声を鳴らすそいつは、全長2.5〜3mはあるような熊型の魔獣だった。その太い腕には、刃渡り30cmほどの鋭いナイフのような爪が3本生えている。名付けるなら、爪熊だろうか?

 

「グゥルアアア!!」

 

 その魔獣は、俺とベビーに対して咆哮を上げると、真っ直ぐにこちらへ向かって来た。恐らく、こいつがこの階層の頂点に位置する魔獣なのだろう。

 

「ベビー、ここは俺に任せろ」

 

 早速、目の前の魔獣のスキャンを開始した。

 


魔獣:爪熊

熊型の魔獣です。固有魔法〈風爪〉によって鋭い爪に風の刃を纏い、殺傷能力と攻撃範囲を向上させています。また、その巨体に見合わない高い運動能力を有しています。


 

 生身で相手するには危険すぎる。だが、俺には鳥人族から受け継いだパワードスーツがある。

 

 

 

「グゥルアアア!」

 

 再び咆哮した爪熊は、ハジメに突進すると風刃を纏った右腕の爪を、殺意を込めて振り下ろす。だが、それは空振りに終わる。すでにハジメはジェット噴射しながらの側宙で、爪熊の側面に回り込んでいたのだ。

 

 センスムーブ。背部からのジェット噴射で敵の攻撃を回避し、反撃に繋げる技である。

 

 そのまま、アームキャノンのある右腕を弓を引き絞るように後ろへ引き、爪熊の左側頭部に向けて突き出す。

 

 直撃した瞬間、爪熊の頭部に2つの衝撃が襲いかかった。1つは、鈍器としても使用可能なアームキャノンによる正拳突き、アームキャノンナックルによる強烈な打撃。もう1つは、直撃とほぼ同時にアームキャノンの先端から発生した爆発だった。

 

「グォッ!?」

 

 その頭の形が歪むほどの衝撃を受けた爪熊は脳震盪を起こし、体勢が少し崩れる。そこに、ハジメは畳みかけるように近接攻撃を繰り出した。

 

 アームキャノンを振り上げてアッパーをお見舞いし、がら空きになった胴に鋭い回し蹴りが直撃。爪熊は体をくの字に折って大きく後ずさる。

 

 距離が開いた爪熊に対し、最大チャージビームを放つ。

 

「グゥウ!?」

 

 直撃するかと思われた瞬間、爪熊はその巨体を投げ出すようにして左側に飛び、ビームを回避してしまった。

 

 チャージビームを回避されることは、スキャンの結果からハジメも予想していた。今度は、回避したばかりの爪熊に向けてノーマルミサイルを放つ。もちろん、爪熊は回避しようとするが、ノーマルミサイルには誘導機能が付いている。

 

 チャージビームの経験から回避できると判断した爪熊であったが、その予想は裏切られる。ミサイルは回避した方向へと進路を変え、左腕に直撃する。

 

「グルゥアアアアア!!!」

 

 響き渡る爪熊の悲鳴。その左腕は左肩の根本から吹き飛ばされており、肩からは噴水のように大量の血が吹き出していた。

 

 ミサイルをもう一発発射。今度は右腕を吹き飛ばし、血の噴水が2つに。周辺は血の海となり、その巨体は地面に倒れた。だが、まだ爪熊は生きており、その目はハジメを睨みつけている。

 

「終わりだ」

 

 アームキャノンの内部で最大までエネルギーが圧縮され、ミサイルと同等の威力を持つに至る。そして、砲口から発射された最大チャージビームは爪熊の頭部を完全に破壊した。

 

 

 

 

 

 爪熊の死体を乗り越え、先へと歩みを進める。すると、迷宮が突然揺れ始めた。

 

「!?」

 

 アームキャノンを構え、周囲を警戒していると、目の前の床に四角い穴が開き、そこから床が上昇してきた。

 

 その床の上には、透明なカプセルに包まれた緑色の弾頭を持つ太いミサイルが設置されていた。

 

「これはスーパーミサイルじゃないか!」

 

 ハジメは、スーパーミサイルタンクに触れる。すると、タンクが光り輝いてアームキャノンの中に入っていった。

 

『スーパーミサイルを入手しました』

 

 バイザーに表示が出る。

 

『ノーマルミサイル5発と最大チャージビームを組み合わせることで、強化されたミサイルを発射可能です』

 

「この迷宮にはアビリティが置いてあるのか。これはありがたいな」

 

 アビリティを設置してくれた誰かに感謝しつつ、ハジメとベビーは下の階層に向かった。

 





やっと、新しいアビリティを入手しました。脳内に流れるアイテム取得時のファンファーレ・・・


>アームキャノンナックル
スマブラにおけるサムスの横スマッシュ攻撃


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

クラスメイトside1

今年初投稿です!

今回はクラスメイトsideの話になります。

※光輝について軽めなアンチ要素あり


 ベヒモスとの死闘から生還したクラスメイト達は主に3つの道に別れた。

 

 1つ、ハジメの死がトラウマとなり戦いを拒否する者達。2つ、愛ちゃん護衛隊として愛子と共に各地を巡る者達、3つ、光輝を始めとする打倒ベヒモスを目指す者達。

 

 なお、あの時のこと・・・ハジメが消える原因となった魔法の“誤爆”についての話をする者は1人もいない。何故なら、あの時は大量の魔法が一斉に放たれており、もしも自分の魔法が誤爆していたかと思うと、犯人捜しなどできないからだ。

 

 メルド団長が調査を行おうとするも、教会から生徒達への詮索を禁止されたため、全ては有耶無耶に終わってしまった。

 

 また、あの事態を招いた元凶である檜山には批判が殺到した。対する檜山の行動は土下座の一択。ちょうど光輝の目の前で土下座したこともあり、光輝がクラスメイト達を宥めたため、罪を問われることは無かった。無論、彼に対する信用は下がったが。

 

 それはさておき、ベヒモス打倒を目指す者達は、これまで以上に訓練に励んでいた。光輝達勇者パーティーと小悪党組、永山という大柄な柔道部の男子が率いる男女5人で構成されるパーティーがそれに該当する。

 

 打倒ベヒモスを最も強く掲げていたのは、リーダーであり勇者である天之河光輝だ。彼は、自分達有志がベヒモスを撃破することで、戦意を消失したクラスメイト達が再び立ち上がることを期待していた。

 

 ハジメの消失は、クラスメイト達に大きな影響を与えたといってもいいだろう。無論、ハジメのことを想っている白崎香織にも…

 

 

 

 

 

「ハジメ君は、確かにここに来てた…」

 

 目を覚ました翌日、香織はハジメが現れたことは夢ではなかったと再確認していた。左手の薬指には彼から贈られた指輪が着いており、彼女にはそれに触れている。

 

「あれは、夢じゃない…」

 

 指輪の存在こそ、夢ではなかったことの証である。そして、彼女はあの時のことを思い起こす。

 

ハジメの手を握った感触

 

強引な口付けの味

 

ハジメの匂い

 

 その全てを覚えている香織の体。ハジメに直接触れた彼女は、あの出来事は夢ではなかったのだと、尚更確信した。

 

「あれ?」

 

 気付けば、香織はハジメの使っていた部屋に来ていた。どうやら、意識せずにハジメの部屋に来てしまったらしい。それだけ香織はハジメのことを想っているのだ。

 

 香織は部屋のベッドに近付くと、その上にあったものを手に取る。それは、ハジメの制服だった。これは、ハジメの忘れ物である。

 

「これってハジメ君の…」

 

 そして、制服に顔を埋めた香織はクンカクンカと匂いを嗅ぎ、隅々まで吸い尽くす。それは、1分程続いた。

 

(ハジメニウム摂取完了!これで生きていける!!)

 

 ハジメニウムなどという物質はこの世に存在しないし、香織が考えた概念に過ぎない。だが、香織は確かにそれを摂取して精神的に回復したのだ。

 

「ハジメ君…私、これまで以上に訓練に励むよ…ハジメ君と再会したとき、あなたの隣にいても見劣りしないために…」

 

 香織は決意を固め、ハジメへの思いを胸に再び立ち上がった。

 

 その日以降、王宮専属の医師から安静にしているように言われながらも訓練に参加し、誰よりも訓練に励む香織の姿が目撃されたという。

 

 

 

 

 

 ハジメへの想いを胸に訓練に励む香織を見て、激情に駆られる者がいた。

 

(何故だぁ!!どうして香織は俺のことを見てくれない!?)

 

 それは、勇者の天之河光輝であった。

 

(南雲はもういない!だから、香織は南雲に囚われる必要は無いんだ!)

 

 ハジメが消えていた10年間、香織の近くにいたのは光輝だった。しかし、ハジメが帰って来てから香織は完全にハジメのことしか見なくなった。それを、光輝は香織をハジメに奪われたのだと認識していた。

 

 光輝は再びハジメが消えたことで香織が再び自分のことを見てくれるのではないかと期待していた。だが、見ての通り香織はハジメのことしか考えていない。

 

 光輝は大きな勘違いをしていた。あの10年間、香織は光輝のことを一切見ておらず、ハジメのことしか想っていなかった。香織はハジメによって奪われたのではなく、最初からハジメのものだったのだ。

 

(香織は南雲の呪縛に囚われている!香織、絶対に君を解放する!そして、必ず俺のものにしてみせる!)

 

 相手の事情を一切考慮しない、光輝の自分勝手な正義感。香織が絡んでいることもあって冷静な判断を欠いた彼は暴走特急の如く突き進み、とある騒動を起こす。

 

 それが起こったのは、訓練を始めてから数日後のことだ。

 

 ある日、訓練場の1つに後衛を担当する生徒達が集まって訓練していた。皆、魔法に高い適性がある者であり、配置されている的に向けて火炎弾や風刃といった魔法を放っている。その中には、もちろん香織の姿もあった。

 

「聖なる弓よ、邪悪なる者を撃ち抜き、光と帰せ──“聖弓”」

 

 杖を弓に見立てて左手で構え、詠唱しながら右手を後ろに引いていく。それに伴って杖の中程に光が集束し、極太の矢の形を成す。そして、放たれた光の矢は射線上にあった複数枚の的を射貫いた。

 

 これは、香織が訓練に励む中で作ったオリジナル光属性魔法、“聖弓”である。貫通力に優れた攻撃魔法であり、彼女が“治癒師”の天職の都合で主に回復・支援魔法を使用していることを考えると、彼女の戦う覚悟を垣間見ることができるだろう。

 

「カオリン、凄く頑張ってるよね!オリジナルの魔法を作るなんて、鈴もびっくりだよ!」

 

 光の矢を放つのを見守っていたクラスメイトの1人が、香織に話しかけてきた。谷口鈴、それが彼女の名だ。身長142㎝というクラスの中で最も低身長な彼女であるが、その小さな体躯には無尽蔵の元気が詰め込まれており、短いツインテールが特徴的だ。ピョンピョンと跳ねる姿はウサギのように愛らしく、マスコット的な存在である。

 

「でもね、まだまだ努力不足だと思ってるの。この魔法も安定して撃てるわけじゃないし、ハジメ君に見せられるレベルに達してないから…」

 

「そんなことないよ!それに、光の矢を放つなんて素敵な魔法だと思う!ねえ、エリリンもそう思うでしょ?」

 

 鈴は急に話を隣にいた眼鏡の女子生徒に振った。

 

「うん、私も素敵だと思うよ」

 

 眼鏡を掛けている彼女の名は中村恵理。黒髪をナチュラルボブにした美人だ。大人しく温和な性格であり、基本的に一歩引いて全体を俯瞰している人間だ。また、本が好きな彼女は図書委員をしていた。

 

 谷口鈴と中村恵理は、香織も所属する勇者パーティの一員であると同時に、香織が高校生になってから最初に親しくなった友人である。

 

「そういえば最近、香織ちゃんが武器の扱いを学んでるって耳にしたけど、それって本当なの?」

 

 恵理が香織に聞く。

 

「本当だよ。自分自身も強くなってハジメ君に頼り過ぎないようにしたいからね。直接的な戦いは苦手だけど、ハジメ君のことを想うと勇気が出るんだ」

 

 香織はメルド団長に頼み込み、武器の扱いを学ばせてもらっていた。彼女が特に学んでいるのは、長物の扱いだ。香織は常に魔法の行使を補助する長い杖を所持しており、長い武器の方が馴染むだろうという団長の判断である。

 

「愛の力ってやつだね!私の場合は、カオリンとエリリンのことを想うと勇気が出るよ!」

 

「鈴ちゃん…」

 

「て、照れるなあ…」

 

 香織と恵理は口々にそう言いながら鈴の頭を撫でる。

 

「香織ちゃん、あの夢が正夢になるといいね」

 

 鈴の頭を撫でている状態のまま、恵理が言う。

 

「うん。私は信じてるよ、ハジメ君にまた会えるって」

 

 香織は、ハジメが現れた出来事を“夢”としてクラスメイトに話していた。恵理と鈴、そして雫といった香織の友人達はそれを一笑に付すようなことはせず、ハジメとの再会を願う香織を応援する立場にあった。

 

 後衛の女子3人がイチャイチャする中、訓練場に乱入者が現れた。

 

「香織!香織はいるか?!」

 

 それは、勇者の天之河光輝だった。

 

「光輝君、どうしたの?」

 

 香織が問いかけると、光輝は彼女に近付いて開口一番こう言った。

 

「香織、君の優しいところは好きだ」

 

「「「え?」」」

 

 突拍子の無い発言に、香織達は思わず声が出てしまう。

 

「でも、南雲の死に、いつまでも囚われてちゃいけない!南雲のことは忘れるんだ!」

 

「は?」

 

 香織は困惑する。

 

「香織は南雲の呪縛に囚われている!南雲に関するものは全て捨てるんだ!そうすれば、君は苦しみから解放される!特に、その指輪は捨てるべきだ!」

 

 そこに、クラスを纏め上げるカリスマのある光輝はいない。いたのは、1人の女に執着する小物と化した光輝のみだ。そんな光輝に対し、周囲のクラスメイト達から冷たい視線が突き刺さる。

 

「光輝君、どうしてそんなことを言うの?」

 

 ハジメに関する物など、ハジメを想っている香織に捨てられるはずがない。

 

「酷いかもしれないが、これは君を救うためなんだ。大丈夫、俺が傍にいる。俺は死んだりしないし、もう二度と誰も死なせはしない」

 

 そのイケメンフェイスで口説くようなセリフを言い連ねる光輝。しかし、光輝を男として見ていない香織には響かない。

 

「私は、光輝君のことが信用できない」

 

「俺を信じて欲しい。俺は南雲のようなヘマはしないし、ベヒモスだってきっと倒してみせる!」

 

 その時、香織の中で何かが切れた。

 

「ハジメ君はヘマなんてしてないよ!そもそも、あの時に光輝君が意地を張ってベヒモスに挑まなければ、こんなことにはならなかったのに!」

 

 クラスの女神と呼ばれる香織は、滅多に怒らない。また、今言ったような光輝の失態について批判もしていなかった。しかし、彼の失言が怒りの導火線に火を付けた。

 

 杖を握る手をワナワナと震わせながら、香織は光輝に近付いていく。そして、空いている片手を彼の頬に向けて振り抜いた。

 

 パンッ!という乾いた音が訓練場に響く。それは、怒りのあまり香織が光輝をビンタした音。

 

「香織…!?」

 

 光輝はヒリヒリする頬を手で押さえ、目を見開いて香織を見る。

 

「ごめん、光輝君。どうしても我慢できなくて……光輝君が私のことを心配して言ってくれたのは分かったけど、私にも譲れないものがあるの……大丈夫、私は勇者パーティーを抜けるようなことはしないから、安心シテ…」

 

 やり過ぎたと思ったのか、謝罪する香織。そんな香織は女神の如き微笑を浮かべているが、その目はハイライトが消えており、目だけ笑っていない。それどころか、その背後に般若の幻影が浮かんでいた。

 

「あ…あぁ…その、すまなかった…!」

 

 光輝は初めて香織に恐怖を覚え、思わず少し後ずさりする。何とか謝罪の言葉を捻りだした後、逃げるようにして訓練場から去った。

 

「ねえ、エリリン。い、今の見た?」

 

「うん、見た…まるで、般若みたいなス〇ンドが浮かんでた…」

 

 ス〇ンド擬き…もとい般若の姿はこの場の全員が見ていた。そして、香織を怒らせたらヤバいという認識が共有された。

 





八重樫さんが空気になってるというか、そもそも出てない。次のクラスメイトsideで出すしかないな。坂上?知らない子ですね

その…勇者のアンチを書くのが一番大変です…


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

クラスメイトside2

時々、「あのシーンや描写を入れておけばよかった」と思うことがある。

それはさておき、今回は原作の死亡キャラがメインです


 小学3年生の時、中村恵理は飛び降り自殺しようとしたところを天之河光輝によって助けられた。何故、彼女が飛び降り自殺を図るに至ったのか?それは、彼女が5歳の時にまで遡る。

 

 当時、5歳の恵理は父親を目の前で亡くした。それも、彼女を原因として。彼女は父親と2人で公園に遊びに来たのだが、大好きな父親とのお出かけに浮かれていた彼女が不注意にも車道に飛び出し、そのタイミングで運悪く突っ込んできた自動車があった。そして、彼女を庇った父親が亡くなってしまったのだ。

 

 これだけなら、ありふれた交通事故に過ぎないだろう。裁判によって賠償金が支払われるだろうし、自らの行為で父親が死んだ事実に傷ついた恵理を、母親が1人の大人として涙を呑みながら支える。普通はそうなるだろう。しかし、母親の態度は全く異なるものであった。

 

 恵理の母親は良家のお嬢様であったのだが、家の反対に逆らって父親と結婚しており、依存といってもいいレベルで父親とべったりしていた。

 

 精神的に弱かった母親は、精神的支柱たる夫を亡くしたことに耐えられず、その原因となった恵理に対して憎悪を向けた。元々、母親が恵理を愛していたのは「夫の娘」であるからであり、心から愛していた訳では無かったことも一因である。

 

 恵理は、毎日の暴力と罵詈雑言に耐え続けた。自分が罰を受けるのは当然であり、この罰が終われば元の穏やかな母に戻ってくれると信じて。そのため、恵理は虐待を受けていることを口外しなかった。

 

 よく考えて見れば、どんな理由があろうと子供に暴力を振るい暴言を吐くというのは思慮分別に欠けた行為であり、大人げないものだろう。そもそも、虐待自体ご法度な行為である。

 

 ある時、母を信じていた…というか現実から目を逸らしていた恵理は、母の本質を直視することになる。

 

 小学3年生の時、恵理の母親は再婚した。その相手は典型的なクズ男であり、あろうことか性的欲求を幼い恵理に向けた男は、母親が居ない隙に彼女を襲った。

 

 恵理がその事態を予測して窓を開けており、悲鳴を聞いた近隣住民が通報したことで男は逮捕され、恵理も無事だった。だったのだが…

 

 母親は恵理を心配するどころか、更なる憎悪を向けてきた。この事件に対する母親の認識は、恵理がまた男を奪ったということであり、男がクズであったと理解する切っ掛けにもならなかったのだ。

 

 関係の改善を期待していた恵理は、打ちひしがれた。母親は決して昔の穏やかな姿に戻ることはなく、男に執着する醜い姿こそが母の本質であるということを理解させられた。

 

 今までの我慢が意味の無いものだったことを知った恵理は、ついに壊れた。早朝、家から抜け出した彼女は、大きな川に架かる鉄橋から飛び降り自殺を図った。

 

 そこに通りかかったのが、ジャージ姿でランニング中の天之河光輝だった。学校で人気を集める光輝に助けられた恵理は、彼の“特別”になりたいと願った。

 

 だが、光輝の周囲には白崎香織や八重樫雫といった少女が既におり、どんな手を使ってでも排除したいと考えていた。

 

 そして、今に至る。

 

「くっ、ふふふっ…まさか、光輝君が拒絶されるとは…これは、光輝君を手に入れるチャンス…」

 

 恵理は、光輝が香織に拒絶されたところを目撃し、それをチャンスと捉えた。

 

「雫にも拒絶されれば、光輝君は精神的に不安定になる。そこを僕が支えれば…光輝君は僕の物に…」

 

 香織に拒絶された以上、その親友である雫に拒絶されるのも時間の問題であると分析した恵理は、光輝が精神的に不安定になった所に攻勢をかけようとしていた。

 

「でも、僕に依存する切っ掛けを作った方が良さそうだ…まずは、僕に目を向けさせる…」

 

 光輝を手に入れる計画の第1歩を踏み出すべく、恵理は動き出した。自分が、母と同じように男に執着していることに気が付かずに…

 

 

 

 

 

「雫も龍太郎も、どうして俺の味方をしてくれない?いつも、俺の味方だったのに…」

 

 あの日の夜、光輝は薄暗い自室のベッドの上で蹲り、香織にビンタされた後のことを思い出していた。

 

「光輝、どうして香織にあんなことを言ったの?私の親友を傷付けるなんて、流石の私でも擁護できないわ」

 

「そうだぜ光輝。流石にあんなのはないぜ…」

 

 光輝は幼馴染の2人にあの時のことを話したのだが、その反応は光輝が求めるようなものではなかった。

 

 光輝が覚えている限り、今まで2人や香織が彼の行動を制止したり、否定したようなことは無く、3人共自分の味方であり、全て肯定してくれるイエスマンであると認識していた。

 

 しかし、それは光輝の思い違いである。実際のところ、正義感が強く自分こそが正しいと思っている光輝が傷付かないよう、2人と香織が配慮していただけである。そのようなこともあり、光輝は自分勝手な正義感で暴走するような男になってしまったのだ。

 

「でも、ベヒモスさえ倒せば…みんな元に戻ってくれるはず…」

 

 それに根拠などない。だが、そう考えなければ光輝は新たな暴挙に出てしまうだろうし、何をしでかすか分からない。

 

 そんな中、扉がノックされた。そして、扉の向こうからは聞き覚えのある女子生徒の声が聞こえてくる。

 

「光輝君、起きてる?あの…中村です」

 

 扉の向こうにいるのは、あの場にいた中村恵理であった。過去に彼女と関わりがあった光輝は、思わず扉を開けた。

 

「恵里、どうかしたのか?」

 

 恵理はベッドの上に座っており、その隣に光輝が座る形となっている。光輝は、彼女に自室に来た理由を尋ねた。

 

「その…光輝君のことが心配で…」

 

「俺のことを心配してくれるのか?ありがとう、恵理。君は優しいな…」

 

 自らを心配してくれる者の出現に、光輝は驚きつつも感謝の意を表す。

 

「もし良かったら、光輝君の話…聞かせてもらえないかな?」

 

 恵理の申し出に対し、味方を求めていた光輝は喜んで事情を話す。 その内容を聞く限り、明らかに光輝が悪いのだが、恵理には関係ない。光輝は彼女にとっての王子様であり、可哀想な存在なのだから。

 

「俺は、南雲のせいで変わってしまった香織を救いたい。でも、雫と龍太郎が理解してくれないんだ…このままじゃ、みんな俺から離れてしまう…」

 

 光輝は、香織に拒絶されてもなお、香織を南雲の被害者として救おうとしていた。そんなことは余計なお世話である。だが、光輝の病的な正義感は見捨てることを許さなかった。結局、香織からしたら非常に迷惑なのだが…

 

 そう語る光輝に対して、恵理は本格的な工作を仕掛けにいく。

 

「みんなが光輝君を拒絶しても、僕だけは光輝君の味方をするよ。だから、光輝君は安心して香織ちゃんを助けに行くといいよ」

 

(どうせ、香織が光輝君に振り向くことはない。光輝君には何度も玉砕してもらうよ。いずれは雫にも拒絶されるだろうし、光輝君は僕に依存する)

 

「ありがとう、恵理のお陰で勇気が出たよ。けど、本当にいいのか?」

 

「大丈夫だよ。でも、約束してほしいことがあるんだけど、いいかな?」

 

「あぁ、それで味方してくれるのなら」

 

 光輝は、恵理に味方でいてもらうために何でも言うこと聞くつもりになっていた。

 

「今、ここで密会したこと…それに話した内容について口外しないでほしいんだ。流石に、表だって光輝君の味方はできないから…」

 

「分かった。このことは2人だけの秘密にしよう。俺だって、恵理とみんなの関係を悪化させたくはない」

 

(光輝君と僕だけの秘密・・・!うんうん、実に最高な気分だよ)

 

 その後、恵理は光輝を慰めるために彼と同じベッドの中に入り、そのまま夜を越えた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 清水幸利は決意した。神の使徒から離脱して冒険者となることを。

 

 その一番の理由は、ハジメが消えたことにあるだろう。あの時助けてくれたハジメがいなければ、清水は小悪党組の4人によって訓練と称した暴行を再び受けてしまう可能性がある。そのため、王宮に残る理由は無いし、トラウムソルジャーに殺されかけた経験から大迷宮の攻略に赴く気も更々無かった。

 

 近々、志願した生徒達が護衛隊として各地を巡る愛子先生に同行するらしいが、誰も自分のことを知らない世界に行きたいと考えていたため、清水は冒険者の道を選んだというわけだ。

 

 清水の天職は闇術師であり、闇属性魔法を一番得意としている。闇属性魔法には相手の精神や意識に作用したり、相手の体を拘束するような魔法が多く、基本的には敵にデバフを与える魔法とされている。攻撃魔法も存在するが、その方面の研究をする者がほぼいないらしく、数は少ない。ただし、清水には闇属性以外にも風属性と雷属性への高い適性があるため、攻撃手段に乏しい訳ではない。

 

 彼はオタクだ。様々な漫画やアニメに出てくる魔法や技の知識が豊富であり、特に闇属性とドラゴンを愛していた。清水はこの世界の闇属性魔法に失望していることもあり、冒険者として活動しながらも攻撃魔法の開発に力を入れるつもりだった。

 

 そして、清水はクラスメイトの大半が起きていないであろう早朝に王宮から抜け出そうとしていたのだが、ここでとあるクラスメイトと遭遇してしまう。それは…

 

「ええっと、清水君よね?こんな時間にどうしたのかしら?」

 

「八重樫さん…」

 

 清水が遭遇したのは、早起きして鍛錬している八重樫雫だった。彼は完全に失念していた。彼女が早朝に鍛錬しているということを。

 

(まさか、八重樫さんに遭遇するとは…それにしても、八重樫さんは綺麗だな。黒髪ポニーテールの美少女…最高だ)

 

 実を言うと、清水にとって八重樫雫はドストライクな女性だった。美人なのは勿論のことだが、彼の好みは黒髪ロングであり、その長い髪を縛ってポニーテールにしていると更に好みになるという。

 

 清水はそんな彼女に対して、自分が王宮から抜け出して冒険者になろうとしていることを包み隠さず話した。

 

 遭遇したのが別の人だったのなら、ここまで話すことは無かっただろう。しかし、雫は意中の人である。清水は、少しでも彼女の記憶の片隅に残りたいと考えていた。もしかすると、二度と彼女と遭遇できない可能性だってあるのだから。

 

「なるほどね。別に、清水君を引き留める気はないわ。せっかく異世界に来たんだもの、冒険者になるのもいいと思うわ」

 

 雫は清水がしようと思っていることを否定しなかった。その事実に、清水は内心驚いていた。そして、もう少し彼女と話をしてみたいと考えた。

 

「八重樫さんは、こんなところを抜け出したいと思ったことは無いのか?」

 

「私だって、逃げられるなら逃げたいと思うわよ。でも、光輝が何をしでかすか分からないし、幼馴染として傍にいてあげないとダメな気がするから…」

 

 雫には光輝を見捨てる選択肢など存在しなかった。たとえ、かつて光輝のせいでイジメに遭い、己の親友である香織に対して彼が酷いことを言ったとしても。

 

「よく見捨てないな…」

 

「光輝のせいで酷い目に遭ったこともあるわ。空気は読めないし、他人の事情は考慮しないし、思い込みで突っ走るし、挙げたらキリがないけど、光輝は悪人というわけじゃないの」

 

「悪いことの方が多くないか?」

 

 清水はツッコミを入れる。

 

「実際そうだもの。けど、光輝は正義感で動く存在だし、決して嘘をつくような真似はしないわ。でも、このままだと光輝はいつか現実を見て狼狽えることになる。その時、誰かが傍にいてあげないと…」

 

「そうか…八重樫さんは苦労人だな」

 

 清水は雫に同情する。天之河が彼女の幼馴染でなかったら、雫はここまで光輝のことを考えていないだろう。光輝の幼馴染…その肩書きが雫を拘束していると言っていいだろう。

 

「清水君は人と話さないイメージがあったけれど、意外と話せるのね。光輝よりも話しやすい気がするわ」

 

「軽くディスられてる気がするけど、ここを出ていく前に話したのが八重樫さんで良かった。それじゃあ…」

 

 清水は王宮の外を目指して歩き始める。そこに、背後から雫が声を掛ける。

 

「清水君、また何処かで会えるといいわね。その時はまた、お話ししましょうね」

 

「あぁ。八重樫さん、お元気で…」

 

 その日、清水は王宮から去った。2人目の生徒が消えたことで愛子先生の精神に負担がかかったが、清水からしたら知ったことではない。

 




原作では関わりのない2人を絡ませました。さて、2人の関係はどうなることやら…

原作であまりセリフを言っていないせいで清水の口調が分かりづらい件


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

13話 封印部屋

 

真迷宮 第50階層

 

 爪熊を倒し、スーパーミサイルを入手したハジメ達は、その階層から50階層は進んだ。だが、その道中には危険も多かった。

 

 例えば、毒霧に覆われた階層では、麻痺効果を持つ鱗粉をばらまく蛾のような魔獣に出くわした。スーツが無ければ、毒と麻痺のダブルパンチでやられていただろう。

 

 また別の階層では、足を踏み外せば溶解液の中に真っ逆さまになる狭い足場を渡らなければならなかった。“宙躍”やスペースジャンプのお陰で簡単に落ちることはなかったが、渡っている最中に溶解液に耐性のある魔獣が襲ってくるので堪ったものではない。

 

 そういえば途中で鳥人像を発見したのだが、何故か手に収まっているはずのアビリティスフィアが無かった。何者かによって持ち去られたのだろうか?

 

 鳥人像というのは、鳥人像が自らを模して造り出した彫像のことである。その中にはバイオテクノロジーで造り出された鳥人像も存在し、侵入者を迎撃するようになっている。

 

 そして、気付いた時には第50階層に到達していた。50階層を探索していると、明らかに後付けされている異質な場所を発見する。

 

 そこには高さ3mの両開きの扉があり、その付近の壁には、地球の神話に登場する単眼の巨人であるサイクロプスのような彫刻が2体埋め込まれていた。

 

「ベビー、周辺を警戒」

 

 俊敏態のベビーに周辺を警戒させ、ハジメ自身もアームキャノンに左手を添えて、油断せずに扉に近付く。

 

 よく見ると扉には装飾が施されており、中央には2つの窪みのある魔法陣があった。

 

「見たことのない魔法陣だ」

 

 おもむろに魔法陣に手を伸ばすハジメ。

 

「っ!?」

 

 だが、扉から放たれた赤い放電によって弾き飛ばされてしまった。スーツのエネルギーシールドが若干削られたようだ。

 

 その直後、異変が起こった。

 

「オォォオオオオオオ!!」

 

 突然、雄叫びが響き渡る。ハジメは咄嗟にアームキャノンを声の方向に照準し、構えた。ベビーも同じ方を向き、2本の尾の先からバチバチと電撃を発する。

 

「なるほど、門番か」

 

 ハジメとベビーの目の前にいたのは、先ほど壁に埋め込まれていた2体のサイクロプス。その手には、全長4mの大剣を持っている。

 

 侵入者であるハジメとベビーを睨むサイクロプス達。侵入者を排除すべく体を動かそうとするのだが、先に動き出したのはハジメ達だった。

 

「弱点はそこか?」

 

 アームキャノンを眼球に向け、チャージビームを放つ。チャージビームは眼球を貫通し、右のサイクロプスの脳を焼く。

 

 体の司令塔を失ったサイクロプスは、そのまま前のめりに倒れ、動かなくなった。

 

 

「キュィィィ!!」

 

 一方、左のサイクロプスへと駆け出す俊敏体のベビーは、振り下ろされた大剣を四足歩行による高い機動力で躱す。

 

 そして、その巨体を駆け上がって踏み台にすると、その頭上で剛力態に変化。その豪腕を顔面にねじ込ませ、サイクロプスの眼球を引き抜いた。

 

「グオォォォォォォォォ!?」

 

 顔面を血の噴水に変え、悲鳴を上げるサイクロプス。その足元には、引き抜かれた眼球が転がっていた。

 

 ベビーは間髪入れずに俊敏態に戻って顔面に着地すると、その顔面に噛みついてエネルギーを吸収し始めた。

 

 エネルギーを吸われているサイクロプスの体色は薄くなっていき、緑色から灰色に変わって石のようになる。

 

 全てを吸われた時、サイクロプスの体は砂のように崩れ落ち、その場には1つの魔石が残された。

 

「さて・・・」

 

 ハジメは扉の前に戻り、中央の窪んだ魔法陣を吟味する。すると、その2つの窪みの形に見覚えがあった。

 

「この魔石が鍵か」

 

 それは、先ほど倒したサイクロプスの魔石だった。ハジメはレイヴンを呼び出して短剣の長さにすると、自分が倒した方を切り裂いて魔石を摘出する。

 

 そして、拾い上げたもう1つの魔石と共に窪みにはめ込む。すると、赤黒い光が魔法陣に走り、魔力が供給される。何かが割れるような音の後、少し扉が開いた。

 

 隙間から中を覗き込むと、そこは光源の無い暗黒の世界だった。そこで、ハジメはサーモバイザーを起動させた。

 

 サーモバイザーは赤外線を感知して分析し、サーモグラフィとして表示するバイザーであり、暗闇に潜む敵の存在を暴くことができる。

 

 そして、暗闇の中に一か所だけ熱を放っている場所を発見する。だが、その熱源は人間の上半身の形をしていた。

 

 まさか人間が?と思ったハジメはその正体を確かめるため、扉を完全に開く。扉から差し込んだ光は、熱源のあった場所を照らした。そこにあったのは、光沢のある巨大な立方体の石。ズームして石をよく見ると、ハジメはその石の中央から人間の上半身が生えていることに気が付いた。

 

「・・・・・誰?」

 

 弱々しい女の子の声が聞こえる。

 

 声の主は下半身と両手が立方体の中に埋められており、長い金髪が垂れ下がっている。その髪の隙間から覗いているのは、紅の瞳。年齢は恐らく、12か13といったところだろうか?そして、美しい容姿をしていた。

 

「君は・・・何者だ?」

 

 迷宮の奥に封印されているのだから、危険な存在である可能性がある。そのため、ハジメはアームキャノンを向けて警戒しながら問いかけた。

 

「何故、こんなところに封印されているんだ?」

 

 封印されている理由によっては、ハジメの対応は180度変わるだろう。

 

 金髪の女の子は、枯れた喉に鞭打って自らの境遇を話し始めた。

 

「私、先祖返りの吸血鬼・・・すごい力持ってる・・・だから国の皆のために頑張った。でも・・・ある日・・・家臣の皆・・・お前はもう必要ないって・・・おじ様・・・これからは自分が王だって・・・私・・・それでもよかった・・・でも、私、すごい力あるから危険だって・・・殺せないから・・・封印するって・・・それで、ここに・・・」

 

 何とも酷い話である。

 

「王族か。それで、凄い力というのは?」

 

「自動再生・・・それと魔力の直接操作」

 

 つまるところ、怪我が自動で治る上に、魔法陣や詠唱無しで魔法が使えるのだ。

 

「たすけて・・・」

 

 女の子は、ハジメに懇願した。

 

 

 

 

 

 俺の知識の中で、吸血鬼族は数百年前に滅んでいるはずだった。ということは、彼女は何百年もの長い間、先も見えぬ暗闇の中に幽閉されていたのだろう。普通の人間であれば、間違いなく発狂する。彼女が発狂しなかったのは、尊敬に値する。

 

 彼女の比ではないが、俺も閉じ込められていた経験がある。スペースパイレーツに誘拐されたとき、俺は檻に閉じ込められ、暗闇の船倉に放置された。一寸先は闇。幼い俺は、闇に怯えるだけだった。

 

 だが、そこに一筋の光が差し込んだ。それは、鳥人族の戦士だった。助けてくれた戦士の名は、レイヴンクロー。後に俺をここまで育て上げてくれた、もう1人の父といってもいい存在である。

 

 俺は、彼によって暗闇から救われた。ならば、今度は俺が一筋の光になってみせよう。そして、彼がそうしたように彼女を暗闇から救ってみせよう。

 

 ハジメの意思は、固まった。

 

「任せろ」

 

 アームキャノンを下ろしたハジメはヘルメットのみを解除し、女の子と目を合わせる。女の子は驚いていたが、バリアスーツを着たハジメを人間だと思っていなかったらしい。

 

 ハジメは立方体に左手を当てると、“錬成”によって形を変えようと試みる。だが、立方体の抵抗が強いのか、錬成の効果は少しずつしか現れない。

 

「生半可ではダメか・・・ならば、全力で!」

 

 ハジメは更に錬成を続け、魔力をつぎ込んでいく。その詠唱は、すでに6節分である。

 

 詠唱は終わらない。詠唱が8節分に到達したところで、立方体は震えだした。だが、完全に変形させるには魔力が足りないのは明白。ハジメは、エーテルタンク内の魔力もつぎ込み始めた。

 

 その時、スーツが青白く発光し始める。錬成を続けるにつれて発光は激しくなり、部屋全体を白昼のように照らす。

 

 直後、立方体は融解して流れ落ちる。そして、彼女の裸体が露わになった。

 

 解放された彼女は、ペタリと地面に座り込む。立つ力は今のところ無いようだ。ハジメは、そんな彼女に左手を差し出した。

 

 ハジメの手に反応し、彼女も手を伸ばす。その手は、生まれたての小鹿のように弱々しく、震えている。やがて、彼女の手はハジメの手を握った。ハジメの手には、スーツ越しに熱が伝わってきた。

 

 彼女の目は、ハジメの目を真っすぐに見つめている。覚悟の決まった目だ。

 

「ありがとう・・・」

 

 彼女は、手と同じように震える声でハジメにお礼を言った。

 

「名前・・・何?」

 

「俺はハジメだ。君は?」

 

 名前を聞かれたので、ハジメは答える。そして、聞き返した。

 

「名前、覚えていない・・・」

 

 彼女は、自分の名前を覚えていなかった。

 

「名前、付けて欲しい・・・」

 

「分かった。君に名前をあげよう」

 

 それが、彼女のアイデンティティーとなるのなら。ハジメは、彼女の名前を考え始めた。

 

 光に照らされた彼女の金髪は、まるで夜空に光り輝く月のようだった。“月”を意味する多くの単語が、ハジメの脳内に溢れ出てくる。ハジメはその中から1つを掴み取った。

 

「君の名は、ユエだ」

 

「ユ、ユエ?」

 

 ユエ・・・中国語で月を表す言葉である。

 

「ん・・・今日から私はユエ。ありがとう、ハジメお父様」

 

 ユエは、ハジメのことをお父様と呼んだ。

 

「お父様?」

 

「ハジメは名付けの親。だから、お父様と呼んだ」

 

 ユエにお父様と呼ばれたその時、ハジメは庇護欲を掻き立てられた。

 

「俺が、父親か・・・しょうがないな、父親をやらせてもらおう」

 

 ハジメは、腕輪から外套を取り出すと、ユエに渡した。

 

「父親として娘に裸を晒して欲しくはない。これを着ておけ」

 

 自分が全裸であることに気付いたユエは、真っ赤になると外套を自らの小さな胸に押しつけ、上目遣いで呟いた。

 

「お父様のエッチ」

 

「何とでも言え」

 

 ハジメは、それ以上何も言わなかった。そして、ユエは外套を着るのだが、外套はハジメの私物だったため、身長約140cmの彼女ではぶかぶかだった。

 

 そのまま、ユエはハジメの方へ一歩を踏み出したのだが、ここで異変が起こる。突然、部屋がぼんやりと明るくなったのだ。

 

 ぼんやりと明るくなった封印部屋。気配を感じてハジメが天井を見上げると、そこには大きな目玉があった。

 

「目玉?いや、違う!!」

 

 それは、目玉の模様のある巨大な白い甲虫だった。そして、その周辺には何処からか這い出てきた紫色の小さな甲虫の軍団が蠢いていた。

 

「!?」

 

 目玉模様の甲虫を中心に紫色の小さな甲虫達が集まっていき、紫色の塊を形成する。その数は100匹や200匹では収まらず、1000匹以上いるのは確定だ。大きな塊に成長したそいつは、地面に落ちてきた。

 

 地面に落ちた紫の塊は急激にその質量を膨らませ、ギチギチと音を立てて巨大化する。まるで、一本の苗が大木に成長していく様を早送りで見ているかのようだ。

 

 その巨大化した姿を例えるなら、三角のワイングラスだろう。それも、高さ12mというおまけ付きではあるが。

 

 目玉の甲虫が埋め込まれている逆三角形の部分から生えているのは、鞭状の腕。腕を含めた体全体が、小さな甲虫の集まりによって構成されていた。

 

「グォォォォォォォォン!!!」

 

 3階建てのビルと同等の高さの巨大集合体は、前のめりになってハジメ達を威嚇した。



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

14話 ヒュージ・バグ


原作にいない敵を出すのは緊張しますね


 

「ベビー、来い」

 

 後ろからハジメに付いてきていたベビーが、ハジメの傍に駆け寄ってくる。

 

「お父様、この子は?」

 

「こいつはベビー。俺の仲間だ」

 

 ハジメはベビーを紹介すると、容器に入った神水をユエに飲ませる。神水は、長年の幽閉で衰えた彼女の体に活力を与えた。

 

「ベビー、ユエを背に乗せて回避に専念しろ」

 

 ユエは俊敏態のベビーの背に乗る。

 

「私はユエ。よろしく」

 

 ユエのような小柄の人を乗せるのであれば、俊敏態であっても騎獣としての役目を果たすことができていた。

 

 ユエ達を危険に晒さないために背後へ配置したハジメは、巨大集合体と真正面から対峙する。目の前の集合体への最初の対応は、スーパーミサイルを発射することだった。

 

 ビームを最大チャージした後、目玉のようになっている親虫をロックオン。アームキャノンの内部にてチャージビームを核としてミサイル5発を合成することで、スーパーミサイルが形成される。

 

 緑色の弾頭をキャノンの先端から覗かせた後、スーパーミサイルは射出され、光の尾を引いて親虫に命中する・・・・・はずだった。

 

 スーパーミサイルが直撃する前、その軌道に触手状の腕が割り込んだのだ。ミサイルは腕に直撃したが、数匹の小虫がパラパラと剥がれ落ちるだけで無傷に近い状態だった。

 

「スーパーミサイルで無傷だと!?」

 

 小さな虫型魔獣が集合しただけの存在が、スーパーミサイルを受けても無傷だった結果は、ハジメにとって予想外であった。

 

 そして、集合体からの反撃が来る。

 

 襲いかかるのは、鞭状の両腕を交互に叩き付ける攻撃。ハジメはセンスムーブの連続で次々と回避していく。前宙、側宙を連続で行うその姿は、まるで体操選手のようだ。そして、攻撃を躱しながらも、エーテルバイザーで敵のスキャンを行う。

 


魔獣集合体:ヒュージ・バグ

指揮官であるキングバグを中心に、兵隊虫であるバグが集まることで形成される、虫型魔獣の集合体です。固有魔法である〈結合硬化〉により、同種同士で結合することで防御力が著しく上昇する。冷気が弱点であり、温度が下がると結合が弱まります。


 

 魔獣集合体ヒュージ・バグの弱点は、冷気であった。だが、今のスーツにはアイスビームなど無く、フリーズガンという圧縮した冷却ガスを発射する武器も保有していなかった。

 

 敵の一部分だけでも凍らせることが出来れば、敵の巨体を解体していくことは可能だ。しかし、凍らせる手段が無いのだ。

 

 そんな中、ハジメの脳内に1つの手段が浮かんできた。

 

 それは、魔法である。ハジメ自身には魔法の適性があまり無いものの、情報収集を進めていた。魔法には、氷属性も存在する。

 

 ユエが氷属性魔法を使えるのであれば、アイスビームの代わりになってくれるはずだとハジメは考えた。

 

「ユエ!氷属性魔法は使えるか?!」

 

 攻撃が一瞬止み、ヒュージ・バグが威嚇してきたタイミングで、ハジメはユエに尋ねた。

 

「大丈夫。全属性が使える」

 

「そうか、それなら・・・・くっ!」

 

 直後、ヒュージ・バグは両腕を同時に叩き付けてくる。ハジメは、後方宙返りで回避してユエ達の傍に着地した。

 

「お父様、私は魔力が枯渇してる。血を飲めば魔力を回復できるけど・・その・・お父様の血が欲しい」

 

 ユエは吸血鬼族であることから、ハジメは彼女が血を求めてくることを予想していた。

 

 ハジメは、娘のお願いを断るつもりはない。だが、血を飲ませている間に攻撃されたらお仕舞いである。そこで、ベビーに敵の注意を引いてもらうことにした。

 

「ベビー、時間稼ぎを頼む。すまない・・・」

 

「キュイィッ!」

 

 ベビーは、「任せろ!」と言わんばかりに声を上げる。

 

 ハジメがユエのお願いを断らないように、ベビーもハジメのお願いを断ることはしない。ベビーはユエを降ろすと、進んで危険な任務に飛び込んでいった。

 

 そして、ハジメはユエに向き直った。

 

「どこから飲みたい?」

 

「首筋・・・お父様・・いいの?」

 

「父親として、娘を信じない訳にはいかないからな。まあ、死なない程度に頼む」

 

 ハジメはヘルメットを外し、首筋を晒すと姿勢を低くする。そこに、ユエが噛み付いた。

 

 視線の先には、ヒュージ・バグの攻撃を躱し続けるベビーの姿が。同時に、首筋から力が抜けていく感覚を感じる。

 

 そして、ユエが首筋から口を離す。ペロリと唇を舐めて血を余すこと無く摂取した後、彼女の身体から黄金の魔力光が発生した。

 

「ユエ、作戦はこうだ・・・」

 

 ハジメは、ユエに作戦の概要を話し始めた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「作戦開始!」

 

 ハジメは、ヒュージ・バグへと真っすぐ向かっていく。腕を使った薙ぎ払い攻撃がくるものの、“飛躍”で高く跳躍して回避することで飛び乗り攻撃(オーバーブラスト)を仕掛け、親虫に至近距離から最大チャージビームを浴びせる。

 

 結合しているために倒すことは出来ないが、ヒュージ・バグはビクンッ!となって怯み、その右腕が地面に突き刺さって動きが制限される。

 

「今だ!」

 

 ハジメの合図に合わせ、ユエが動きだす。

 

「ん・・・“凍雨”」

 

 鋭い氷の針が雨のように降り注ぎ、ヒュージ・バグの右腕に次々と突き刺さっていく。すると、右腕全体が凍結した。

 

「そこだ!」

 

 ロックオン・・・ノーマルミサイル発射。

 

 ノーマルミサイルは凍結した右腕に直撃し、それを粉砕する。周囲には氷の破片とバグの死骸が撒き散らされ、ヒュージ・バグは右腕を喪失した。

 

 ハジメがヒュージ・バグを怯ませ、その隙にユエが氷属性魔法で一部を凍結させた所に、攻撃を叩き込んで破壊する。これが、ハジメの立てた作戦であった。これを繰り返し、敵の巨体を解体していくのだ。

 

「次!」

 

 ヒュージ・バグの片腕がベビーの相手をしている隙に、ノーマルミサイルを親虫に叩き込む。再び怯んだ後、片腕が地面に突き刺さる。

 

 ユエの“凍雨”により、その片腕も凍結する。急接近したハジメはアームキャノンを振り下ろし、それを粉砕した。

 

「これでラストだ!」

 

 攻撃手段が体当たりのみとなったヒュージ・バグを怯ませる必要はない。

 

「“凍柩”」

 

 ヒュージ・バグの足元から氷が広がっていき、そのまま逆三角形の胴体以下が凍結してしまう。

 

「スーパーミサイルのおかわりはいかがかな?」

 

 再び、スーパーミサイルが飛翔する。強化されたミサイルはその効果を発揮し、敵の下半身をまるごと破壊した。

 

 残された部分から飛び出し、ゴキブリのようにカサカサと逃走しようとするキングバグ。その瞬間を、見逃すようなことはしない。

 

「逃がさない。“緋槍”」

 

 ユエは炎の槍を放つ。炎の槍はキングバグの胴体に突き刺さり、その身を焼き尽くす。指揮官であるキングバグの死亡により、残ったバグ達は戦意を喪失してどこかに消えた。

 

 

 

「お父様、あそこに何かある」

 

 ユエが指を指したのは、先ほどまでヒュージバグがいた場所。そこには、球状の岩のような物体が落ちていた。

 

「アビリティスフィア・・・」

 

 恐らく、道中にあった鳥人像が持っていたものなのだろう。ハジメはパワービームを撃ち込んで開封し、中に入っているアイテムをアームキャノンに吸収した。

 

『スピードブースターを入手しました』

 

『走行中に背面ブースターを噴射して高速ダッシュを行うことが出来ます。その際に発生したエネルギーを纏うことで、ダッシュ中に接触した敵や障害物を破壊します』

 

 入手した2つ目のアビリティは、スピードブースター。今すぐに出番は無いものの、後にあるところで役に立つこととなる。

 

「行こうか、ユエ」

 

「はい、お父様」

 

 ハジメとユエ、そしてベビーの2人と1匹は、封印部屋を後にした。

 





今回のアビリティはスピードブースターでした。歴代の2Dシリーズと同様、ダッシュ中に光り輝く仕様です。

〈ビーム〉
・パワービーム
 +チャージビーム
 +ディフュージョンビーム
・グラップリングビーム
〈ミサイル〉
・ノーマルミサイル
・スーパーミサイル
〈ボム〉
・モーフボール
・ノーマルボム
〈スーツ〉
・バリア機能
〈その他〉
・スペースジャンプ
・スピードブースター
 +シャインスパーク
・エーテルタンク
〈システム〉
・???


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

15話 小休止


王国側にオリキャラを出すことにしました。


 

 ユエからの情報収集も兼ねて、ここで小休止を挟むことにした。壁に穴を開けて小部屋を作り、数日ぶりにバリアスーツを脱いだ。

 

 バリアスーツの下に着ていたのは、ゼーベスで着ていた私服だ。宇宙戦闘機のパイロットが着ている緑色のパイロットスーツ、その上に羽織っている銀色のジャケット、ジェットブーツで構成される。

 

 そして、生身用の武装である光線銃を腰のホルスターに収めている。この銃にはスタンモードが存在し、非殺傷で敵を制圧することが可能だ。

 

「ふぅ…」

 

 壁に背中を預けて座り、足を投げ出す。ベビーは犬のように体を丸めて横たわり、ユエは俺の側に寄ってきた。

 

 それにしても“お父様”・・・か。ユエは実の娘でもない上に歳上、俺自身は父親になるような年齢でもない。だが、ユエにお父様と呼ばれた時、何故か激しく庇護欲を掻き立てられた。父親を名乗ってしまった以上、責任を取って父親を続行するつもりだ。

 

「お父様、ちょっと眠い・・・」

 

 ユエは隣に座り込むと、俺の体にもたれかかって眠ってしまった。色々とユエから情報を得たいと考えていたが、これでは無理そうだ。

 

 ユエが眠くなるのも分かる。何百年も身動きが取れないまま幽閉されていたところで、いきなり解放されて戦いに参加したのだから。

 

 長らく運動をしていなかった者が、いきなり運動を始めたようなものだ。疲れるに決まっている。とりあえず、話を聞くのは起きてからにする。それまでは、今までのことを整理しておこう。

 

 

 

 気になることと言えば、ユエを解放したときにスーツが青白く発光したことだろう。あの時ダウンロードしたシステムが関係しているのかと考えたが、AIによる分析によれば発光とは一切関係が無いことが判明した。

 

 エーテルタンク内の魔力を使用した際の現象であるため、エーテルタンクに関連したものなのだろう。

 

 あの発光現象の際、今まで以上に力が湧いてくる感覚を覚えた。あの瞬間、ステータスが大幅に上昇したのだろう。また、スーツ側の性能が大幅に上昇した記録も残っている。

 

 間違いなく言えるのは、タンク内の魔力を使用した際にスーツが光り輝くことで、ステータスとスーツの性能を大幅に上昇させるということだ。

 

 錬成で小部屋を作る際、一時的にタンク内の魔力を使用してみたが、発光現象が起きることはなく、力も湧いてこなかった。その発動には、何かしらの条件があるのかもしれない。

 

 もう1つ気になることがある。それは、ユエの封印に関してだ。

 

 ユエが封印されていたのは、真迷宮の第50階層である。ここまで来るためには、表向きの全100階層を突破した上、これまで以上に強力な魔獣が蠢いている50階層を突破しなければならない。

 

 ユエのおじ様とやらが強いのであれば、100階層は余裕で突破できるだろう。もちろん、ヒュージ・バグを使った可能性もあるが。

 

 だが、真迷宮に入るためにはエレベーターを起動させなければならず、アームキャノンを通してエネルギーを供給する必要がある。どうやって、彼は真迷宮に入ったのだろうか?

 

 考えられる可能性は2つ。

 

 1つは、別ルートを使って入った可能性。もう1つは、何かしらの手段でエネルギーを供給した可能性だ。

 

 真迷宮に入った後は、ヒュージ・バグを活用して魔獣を蹴散らしながら第50階層まで降り、その際に奪ったアビリティスフィアを部屋に置いたのだろう。

 

 それにしても、俺も眠くなってきたな。ユエもまだ寝ていることだ、俺も眠らせてもらおう。俺にくっついているユエの体温を感じつつ、俺は眠った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「この迷宮は反逆者の1人が造ったと言われてる」

 

 数十分後、目を覚ました俺とユエは情報交換を始めた。ユエが最初に話したのは、この迷宮に関することだった。

 

「反逆者?」

 

 王国で目を通した資料の中に、迷宮を製作した者についての情報は無かった。それにしても、“反逆者”とは不穏な響きだ。

 

「神に挑んだ神の眷属のこと。世界を滅ぼそうとしたと伝わってる」

 

 どうやら、過去に神に反逆して世界を滅ぼそうとした7人の眷属がおり、その目論見を破られた彼らは、世界の果てに逃走したらしい。

 

 その果てこそ、現代の七大迷宮である。その1つがオルクス大迷宮であり、最深部には反逆者の拠点があると言われている。

 

 神に反逆する程の者達なのだから、迷宮の最深部には世界を越えるための何かがあってもおかしくはないだろう。オルクスを攻略するという目的は変わらない。

 

 この迷宮に鳥人族が関わっているのは明らかだ。問題は、反逆者の正体が鳥人族なのか?それとも鳥人族が協力していたのか?ということだ。

 

 ユエに聞いてみたが、彼女にも反逆者がどのような者達だったのか分からず、鳥人族のことも知らなかった。その答えは、迷宮の最深部にあるのだろう。

 

 今度は俺が話す番だ。俺がユエに聞きたい話があるように、ユエにも俺に聞きたい話が多くあった。

 

 何故ここにいるのか?俺は何者か?その鎧は・・・その武器は何なのか?色々と聞かれたので、一つ一つ丁寧に説明した。

 

 鳥人族に育てられたこと、鳥人族にパワードスーツを授けられたこと、故郷に帰還したときのこと、香織のこと、異世界に召喚されたこと、鳥人族の声に導かれたこと等を話した。

 

「お父様、その香織って人がお父様の恋人ということは、その人は私のお母様になるの?」

 

「そういうことになるな。彼女はまるで女神のような人だ。きっと、ユエのことを優しく迎え入れてくれるはずだ」

 

「お母様・・・早く会いたい」

 

 自分の知らない所で娘が出来てしまった香織。彼女がユエと会った時、どのような反応を見せるのだろうか?

 

「そういえば、お父様。お父様達は元の世界に帰っちゃうの?」

 

 ユエに色々と説明していた時、俺は元の世界に帰る手段を探しに来たことも話していた。

 

「そうだな・・・俺は故郷に帰りたい。地球にも、ゼーベスにも・・・」

 

 それを聞いた瞬間、ユエは俯いてしまった。ユエは、再び自分が孤独になることを不安に思っているのだろう。

 

「私のことは、置いて行っちゃうの?」

 

「安心しろ。ユエを置いて行ったりはしない。地球じゃ戸籍の問題もあるが、宇宙は広い。住める場所は沢山あるからな。鳥人族だって受け入れてくれるはずだ」

 

 ユエの表情は、パッと明るくなった。

 

 

 

 

 


 

 

 

 

 

 畑山愛子25歳は社会科教師である。生徒の味方になることを信条としていた彼女は、生徒達と共に異世界トータスに召喚されてしまう。

 

 彼女が突然の非常識な出来事に混乱している間、カリスマのある男子生徒・・・天之河光輝によって物事が勝手に進んでしまい、彼女が落ち着いたときには大切な生徒達が戦争の準備を始めてしまっていた。

 

 出来る限り生徒の近くに居ようと決心したものの、作農師という貴重な天職を持っていることに加え、生徒達からの説得を受けたことから、戦闘とは無縁な農地開発に行くことになってしまった。

 

 生徒達を心配しながら、各地を護衛の騎士達と共に巡っていく彼女だったが、そんな彼女に気さくに話しかけてくれる1人の騎士がいた。

 

 

 

 

 

「はぁ…」

 

 王宮内にて、椅子に座っていた愛子は、ため息をついていた。

 

 王宮に戻ってきた後、彼女は生徒の1人がオルクスで亡くなったという報せを受けた。さらに、その数日後にはまた別の生徒が失踪するという事件が起こっており、彼女のメンタルはボロボロだった。

 

 そこに、話しかけてくる騎士が1人。

 

「何だか浮かない顔だな、プリンセス」

 

 愛子の目の前に立っていたのは、1人の神殿騎士。笑顔と白い歯が素敵な褐色肌のマッチョマンであり、スキンヘッドだ。纏っている雰囲気は、まさに陽気。

 

「アンソニーさん・・・」

 

 彼の名はアンソニー。愛子が各地を巡る際、最初の頃から護衛してくれていた。そして、愛子のことを唯一プリンセスと呼んでいる男だ。彼の得物は両手で扱うような大剣なのだが、彼はそれを片手で軽々と扱っていた。

 

 教会に所属する騎士にしては陽気でフレンドリーな彼は、生徒達から人気があり、アンソニーの兄貴と呼ばれている。

 

「事情は聞いてるぜ、プリンセス」

 

 クラスメイトの死により、生徒達の中には戦いを拒絶する者が現れるのだが、王国と教会はそんな彼らに戦うように催促してくる。

 

 愛子は、そんな王国と教会に激しく抗議し、自分の能力や立場を盾にすることで、生徒達が無理矢理に戦わせられることを防ぐことに成功する。

 

 それによって愛子の人気は更に高まり、戦争はできないものの彼女の護衛をしたいという生徒達の一団が現れた。その名も、愛ちゃん護衛隊。

 

 愛子という精神的な支えによって生徒達は元気になっていくが、2人の生徒が消えたという事実は、愛子の心に傷を残した。

 

「私はこれ以上生徒達を失いたくないんです。アンソニーさん、いざというときは生徒達を守ってください」

 

「まあ、プリンセスの頼みなら・・・もちろん、プリンセスを守ることも忘れないぜ?」

 

 アンソニーはニカッと笑うと、その素敵な真っ白い歯を見せた。彼の笑顔は、愛子にとっての精神的な支えになっていた。

 

 数日後、愛ちゃん護衛隊や騎士達と共に、愛子は再び農地開発へ向かうことになった。

 

 その際、アンソニー以外に新しく加わった4人のイケメン騎士と生徒達の間に愛子を巡っていざこざがあったり、それをアンソニーが仲介するなど、色々な出来事が起こるのだが、それはまた別の話である。

 





ハジメの服装は、フォックスを参考にしています。アンソニーは、METROID OtherMに出てくるアンソニー・ヒッグスのそっくりさんです。


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

16話 オルクス最深部へ

第60階層

 

「お父様・・・ごめんなさい・・・」

 

 悔しそうな表情のユエは、ハジメに謝罪する。

 

 ユエは、とある魔獣によって人質に取られていた。それも、単なる人質ではない。ユエは頭に生やされた赤い花を通して、体のコントロールを奪われているのだ。

 

 それにより、自らの意思とは関係なくユエはハジメに攻撃することになってしまう。先ほど、ハジメはユエの放った風の刃をアームキャノンで横から殴りつけて破壊したところだった。

 

 ユエの背後に、彼女の体をコントロールしている魔獣が現れる。それは、人間の女と植物が融合したような魔獣だった。近い存在を挙げるなら、RPGに登場するようなアルラウネだろう。

 

 ハジメがアームキャノンをアルラウネ擬きに向けるのだが、すぐにユエの体が射線に入って来てしまう。逆に、ユエの放った風の刃をハジメが避けたり迎撃しようとすれば、ユエの手が彼女自身の頭に向けられるため、ハジメはスーツとエネルギーシールドを信じて体で受け止めた。

 

 何故、ユエは人質に取られてしまったのか?それは数十分前に遡る。

 

 

 

 ハジメ一向は、ラプトルのような魔獣の群れによる襲撃を何度も受けていた。

 

 襲撃を何度も退けるうちに、ラプトル達の頭にはいずれも花が生えていることに気付き、最終的にはその花を通してラプトル達はコントロールされていたことが判明する。

 

 エーテルバイザーで魔力の流れを見たことで、ラプトル達をコントロールしている本体の位置を特定。そいつが潜んでいると思われる洞窟に殴り込んだ。

 

 洞窟内では、全周から飛んでくる緑色のピンポン球のような球体による攻撃を受け、ハジメ達は背中合わせになって迎撃した。

 

 ここで、問題が起きる。飛んできた球体には、例の花を生やさせるための胞子が内包されていたのだ。

 

 迎撃によって球体が破壊された結果、狭い空間の中に胞子が充満してしまい、バリアスーツを着ていたハジメと何故か胞子が効かなかったベビーを除いたユエのみが、胞子の影響を受けてしまった。

 

 そして、今に至る。

 

 迎撃したりすれば、不死身とはいえユエを傷つける結果となってしまうため、アームキャノンは下ろされた状態だ。

 

 口だけはコントロールを奪われていなかったユエが、ハジメに向かって叫ぶ。

 

「お父様!私はいいから・・・撃って!」

 

 覚悟を決めたような様子だった。だが、ユエを傷つけるなど、責任を取ってユエの父親を遂行すると決めたハジメにとって、許せない行為だ。そもそも、こんな事態になったのは自身の迂闊さのせいであると考えていた。

 

 傷付けずにユエを助ける。それが、今のハジメに課せられたミッションであった。

 

 傷付けずに助けるために要求されるのは、目にも止まらない速さの照準合わせと、精密な射撃。それにより、ユエを盾にされる前に敵を撃ち抜くのだ。

 

(大丈夫だ・・・俺ならできる)

 

「俺を信じろ、ユエ!必ず助ける・・・」

 

 ハジメは目を閉じ、深呼吸しながら精神統一を行う。その間に風の刃が次々と直撃するも、彼の精神が乱れることはない。操られている状態では威力の高い魔法を使えないことが幸いした。

 

 そして、バイザーの下でハジメの目は見開かれた。見つめる先はただ1つ、アルラウネ擬きの頭・・・

 

 下げられていたアームキャノンが敵の頭部に指向される。この間、わずか0.05秒。目にも止まらぬ速さだ。それと同時に、パワービームを撃った。

 

ピュン!

 

 洞窟に響く発砲音。直後、ドサッと何かが崩れ落ちる音が・・・

 

「え?!」

 

 その音が聞こえたのは、ユエの背後。崩れ落ちたのは、頭に風穴を開けたアルラウネ擬きだった。自分が無傷であるという事実に、ユエは驚いていた。

 

 わずか0.05秒の間に行われた早撃ちにアルラウネ擬きは反応することが出来ず、ユエを盾にする前に頭を撃ち抜かれたのだ。

 

 本体が死んだため、ユエは解放される。

 

「お父様!」

 

「ユエ!」

 

 ユエは、ハジメに一直線に飛び付く。ハジメはそんなユエを抱きしめた。

 

「私・・・お父様を傷付けた・・・」

 

「大丈夫。スーツのお陰でダメージにはなっていない。気に病むことはないさ」

 

「でも・・・お父様を攻撃した・・・」

 

 操られていたとはいえ、ユエからすれば自分がハジメに攻撃したという事実は、彼女の心に後ろめたさを残していた。

 

「結果的にユエは無傷だったのだから、何ら問題ない。本当に、ユエが傷付かなくて良かった・・・」

 

 ユエが傷付かないこと。それがハジメにとって一番重要だった。

 

「うぅ・・・お父様・・・ありがとう・・」

 

 ユエは泣き始める。ハジメはユエが泣き止むまでの間、彼女の頭を撫でながら抱きしめ続けていた。

 

 

 

 

 

 それから数日、ハジメ達はついに真迷宮の第100階層に到達した。ここが、オルクス大迷宮の最深部である。

 

 ハジメが先頭、その次はユエ、最後尾をベビーメトロイドが進む。やがて、多くの太い石材の柱が立ち並んでいる広大な空間が奥に見えてくる。その突き当たりには全長10mはある巨大な両開きの扉が存在し、美しい彫刻が彫られている。特に、七角形の頂点に描かれた何らかの文様が印象的だ。

 

 そこへ向かおうとする一向。だが、突然彼らの頭上から謎のエネルギーが降り注いでくる。それが向かう先は、ベビーだった。直後、退避が間に合わなかったベビーはバリアのようなものに囚われてしまった。

 

「シールドか」

 

 スキャンバイザーによると、今のハジメの武装では破ることは出来ないらしい。どこかに制御装置があると推測されるが、どこにも見当たらない。

 

「何故ベビーだけが?」

 

「お父様、ベビーは締め出されたのかも。お父様の言う鳥人族が迷宮に関わっているなら、メトロイドのことを知っていてもおかしくない」

 

 メトロイドのエネルギー吸収能力は驚異的なものだ。仮にどんなに強力な魔獣を出したとしても、エネルギーを吸われれば一巻の終わり。メトロイドを締め出したくなる気持ちも分かる。

 

「この後、重要な戦いがありそうだ」

 

 2人は扉に更に近づくのだが、そこで異変が起こった。なんと、ハジメ達と扉の間の30m程の空間に、赤黒い光を放つ直径30mの巨大な魔法陣が出現したのだ。

 

「ベヒモスを思い出すな。まぁ、サイズは大きいが」

 

「多分、これで最後の戦い・・・お父様も一緒なら怖くない・・・」

 

 これから始まるのは、オルクス大迷宮の攻略者となるための試験。当然、現れる魔獣は今までとは桁違いの強さを誇るもの。

 

 やがて、そいつは魔法陣から現れた。

 

 体長30m、6つの頭と長い首、鋭い牙と赤黒い眼の魔獣であり、その名は“ヒュドラ”といった。そして、六対の眼光がハジメ達を睨み付けた。

 

「「「「「「クルゥァァアアン!!」」」」」」

 

 その咆哮を常人が聞けば、蛇に睨まれた蛙のようになってしまうだろう。だが、2人は強力な魔獣が闊歩する大迷宮を突破してきたのだ、恐れる理由など存在しない。

 

 直後、スキャンする隙を与えずに赤頭が口を大きく開いて火炎放射してくる。迫りくる炎の壁をハジメとユエは左右に散開して回避すると、反撃を開始した。

 




メトロイドは過剰戦力なので締め出しました。


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

17話 最後の試練


お待たせしました!ヒュドラ戦です!


 

 突然、ヒュドラの赤い頭が口を開き、まるで壁のような火炎を放ってくる。ハジメとユエは左右に散開して回避し、ハジメのアームキャノンから飛んだ反撃のチャージビームが赤頭に直撃する。

 

 チャージビームは赤頭を吹き飛ばすに至る。だが、白い頭が現れて咆哮したかと思えば、白い光に包まれた赤頭が、何事もなかったかのように元の姿へ戻る。白頭は回復役であったのだ。更に、ユエの放った氷の槍が緑の頭を吹き飛ばすも、同様に回復されてしまった。

 

「ユエ、白頭を!」

 

「んっ!」

 

 ハジメが指示した直後、青い頭が現れて氷の礫を大量に吐き出してくる。回避した2人は、白頭を狙って同時攻撃を行う。

 

「“緋槍”!」

 

 チャージビームと炎の槍が白頭に向けて飛んでいく。だが、直撃する前に黄色の頭が割り込んでくる。その黄頭はコブラのように頸部を広げると輝き、攻撃を全て受け止めてしまった。

 

「なるほど、盾役か。ならば・・・!」

 

 ハジメは黄頭をロックオンし、数発のノーマルミサイルを放つ。先ほどと同じく黄頭が防いでしまうが、黄頭の視界は爆煙で覆われる。

 

 その瞬間、ハジメはスピードブースターを起動させ、高速ダッシュでヒュドラの方へと走り出す。他の頭が攻撃を仕掛けてくるが、高速ダッシュで発生したエネルギーを纏っているため、ハジメには全く効かない。

 

 そして、加速を利用して回転ジャンプを行い、視界を煙で覆われた黄頭に向かって一直線に飛ぶ。

 

「クルゥアン?!」

 

 ハジメは煙を引き裂いて黄頭の目前に現れる。突っ込んできたことに驚く黄頭だったが、直後に踏み台として利用される。

 

 黄頭を蹴って飛んだハジメは、白頭の上に着地した。流石に大切な回復役を撃てないのか、攻撃は飛んでこない。

 

「この手に限る」

 

 ハジメはアームキャノンの砲口を白頭に押し付けると、至近距離から最大チャージビームを撃ち込んで離脱する。白頭は、何が起こったのか理解する前に撃破されてしまった。

 

 普通に撃ったところで黄頭によって防がれてしまうのだから、割り込まれない程の至近距離で撃てばいい。それこそが、ハジメの考えた白頭の攻略方法だった。

 

「ユエ、一気に畳み掛けるぞ!」

 

 ハジメは、ユエと共に残った首を掃討しようとする。だが、いきなりユエの悲鳴が響き渡った。

 

「いやぁあああああ!!!」

 

「ユエ?!」

 

 何事か?と思い、急いで駆け寄ろうとするハジメ。赤頭と緑頭が火炎弾と風の刃を無数に放って妨害してくるが、センスムーブで何とか回避していく。その間も、ユエは悲鳴を上げ続けていた。

 

「そういえば・・・」

 

 ヒュドラの頭の中で、未だに動いていない頭があった。それは、黒い頭。

 

「まさか?!」

 

 黒頭がユエに何かしたのではないかと予想したハジメは、センスムーブの効果によって瞬時に最大チャージされたビームを黒頭に撃ち込む。黒頭は一撃で吹き飛び、ユエは悲鳴を止めて倒れた。

 

 だが、今度は青頭が口を大きく広げてユエを飲み込もうと迫る。

 

「まずい!」

 

 ハジメは青頭とユエの間に割って入ると、青頭の下顎を踏みつけ、左腕で上顎を持ち上げることで押さえ、口内にノーマルミサイルを叩き込む。口内で爆発したミサイルにより、青頭の肉片が飛び散った。

 

「しっかりしろ!ユエ!」

 

 ユエを抱えたハジメは柱の陰に退避すると、青ざめた表情で震えているユエを目覚めさせるために呼びかける。ユエの目は、虚ろになっていた。呼びかけ続けながら神水を飲ませていると、ようやくユエの目に光が戻る。

 

「大丈夫か?」

 

 目覚めたユエは、涙を流しながらその小さな手でハジメの手を握った。

 

「よかった・・・また見捨てられたかと・・・」

 

 ユエによると、再び見捨てられてあの部屋に封印される幻覚を見させられたらしい。

 

「ユエ、大丈夫だ。俺は決して娘を見捨てたりはしない」

 

 ハジメはユエの目を真っすぐに見つめ、ユエの両肩に手を置いて言う。

 

「お父様・・・」

 

 ユエにとって、ハジメは心の支えであった。自分に名前を付けてくれたハジメは父親のような存在であり、彼女が吸血鬼族であっても恐れることがなく、おまけに血を吸わせてくれるのだから。

 

「ユエ、必ず一緒に帰るぞ」

 

「はい、お父様」

 

 覚悟を決めた目になるユエ。ヒュドラから白頭と黒頭が消えた今、戦いにおける心配事は無いに等しい。

 

「ユエ、俺が援護するから最後は君に任せる。異論は無いな?」

 

「んっ!」

 

 そして、2人は柱の陰から飛び出すと、行動を開始する。残っている攻撃用の頭である赤頭と緑頭が再び火炎弾と風の刃を無数に飛ばしてくるが、ハジメはディフュージョン効果を付与した最大チャージビームを放つことで、拡散した衝撃波と爆発で纏めて迎撃する。

 

 その隙に、ユエは魔法を放った。

 

「“天灼”」

 

 3つの頭を囲むように現れる、6つの放電する雷球。球体同士の放電が繋がることにより、雷で構成される檻となる。そして、檻の中を電撃が埋め尽くした。

 

 雷属性の最上級魔法はその威力を発揮し、防御力の高い黄頭も含めた3つの頭を完全に消し炭としてしまった。

 

 魔力の大半を使い果たしたのか、座り込むユエ。完全にヒュドラを倒したと思ったハジメは、ヒュドラに背を向けて彼女の元へ向かおうと歩き出す。その刹那、ユエの切羽詰まった声が・・・

 

「お父様!」

 

 ハジメがユエの視線を辿ると、そこには今までいなかった7つ目の頭があり、銀色の頭だった。その口内には光がチャージされており、次の瞬間には極光が放たれた。その向かう先は、ユエだ。

 

「ユエ!危ない!」

 

 ハジメはセンスムーブの要領でジェット噴射して飛び込むと、極光の射線に割り込む。極光はその身を盾としたハジメに直撃し、ハジメは爆炎に飲み込まれてしまった。

 

「お、お父様?」

 

「・・・」

 

 煙が晴れた後、現れたのはその場に仁王立ちするハジメ。スーツの各所からはスパークと煙が出ており、ユエの呼びかけに反応しない。そして、ハジメは膝を折って前のめりに倒れてしまった。

 

「お父様!しっかりして!お父様!」

 

 魔力が枯渇してまともに動けないユエは、無理やり体に力を入れてハジメに駆け寄る。スーツの重量によって重いハジメを必死に揺するが、起きる気配はない。更にヘルメットを外そうと試みるが、全く外れない。実は、スーツの着脱は装着者の意思が無ければ不可能なのである。

 

「こうなったら・・・今度は私がお父様を守る!」

 

 ユエは、懐から光線銃を取り出す。これはハジメの所有物なのだが、ハジメは魔力切れの際の護身用としてユエに渡しており、使い方も教えていた。

 

 ユエに残されているものは、光線銃と身体強化された吸血鬼の肉体、そして固有魔法の自動再生のみである。

 

 ユエは光線銃を銀頭に発射する。放ったのは、チャージビームと同じように最大チャージされた光線だ。それは銀頭に直撃するものの、スーツの武装よりも威力が低いために傷1つ付けることは叶わなかった。

 

「効かない・・・」

 

 ヒュドラは、そんなユエに対して光弾を連射してくる。数発は光線銃で迎撃し、身体強化によって回避していくが、ついにユエは被弾する。当たったのは、肩だった。

 

「あぐっ!?」

 

 さらに、ユエが姿勢を崩したところに銀頭が極光を放つ。ユエはその場を何とか飛びのくことで躱すが、その代わりに光弾が腹部に直撃。吹き飛ばされたユエは、倒れているハジメの目前の地面に叩き付けられた。

 

「うぅ・・・うぅ・・・」

 

 呻き声を上げるユエ。銀頭はユエを見下ろすと、咆哮する。そして、極光のチャージを始めた。

 

(ごめんなさい、お父様。私、ここで死ぬみたい。でも、一緒なら死ぬのも怖くない)

 

 ユエは完全に諦め、銀頭の口内から溢れている光を見上げる。このまま発射されれば、射線上にいるユエとハジメを完全に消し飛ばすだろう。

 

 だが、次の瞬間に、青白く光り輝く人型が銀頭の前に立ち塞がっていた。その光は、ユエを解放したときのバリアスーツの輝きと同じだ。

 

「お父様!」

 

 その人型は、バリアスーツを纏ったハジメだった。

 

「すまない、遅くなった」

 

 

 

 

 

 ハジメが意識を取り戻した時、スーツのエネルギー残量が大幅に低下したことを知らせる警報が鳴り響いていた。あの一撃で相当持っていかれたようだ。

 

 痛む体に鞭打って首を動かし、前を見る。そこには、たった1人で銀頭に立ち向かうユエの姿が。その手には、ハジメの光線銃を持っていた。

 

(ユエ・・・逃げろ・・・このままでは死んでしまう・・・!)

 

 ハジメは声が出なかった。その直後、銀頭が光弾をばらまきながら極光をユエに向かって放つ。ユエは極光を回避したが、その代わりに光弾を腹部に受けて吹き飛ばされ、地面に叩き付けられた。

 

「うぅ・・・うぅ・・・」

 

 多くのダメージを受けたユエは動くことが出来ず、呻き声を上げるのみだった。

 

(娘1人守れないで、何が父親だ!俺は約束した、必ず元の世界に連れて帰ると!ユエだけでなく、香織も一緒に!)

 

 やがて、銀頭は「クルゥアアン!」と勝ち誇ったように咆哮すると、極光をチャージし始める。

 

(俺は父親だ!ユエのことを絶対に守る!動いてくれ、俺の体!)

 

 その時だった。

 

 バリアスーツが青白く発光し始めると同時に、ユエを解放した時とは桁違いな力がハジメの体に湧いてきた。どうやら、タンク内の魔力が使用されたらしい。

 

(凄い力だ・・・これなら、ユエを守れる!)

 

 再び立ち上がったハジメは、極光をチャージする銀頭の前に、ユエを守るように立ち塞がる。

 

「お父様!」

 

「すまない、遅くなった」

 

 直後、銀頭から放たれた極光が直撃し、ハジメは爆煙に包まれてしまう。だが、閃光が煙を吹き飛ばし、青白く光るスーツを纏ったハジメが無傷の状態で現れた。

 

 この発光状態ではスーツのスペックが向上するのだが、それでもヒュドラの極光を受けて無傷ではいられない。何故、今は無傷で防げているのだろうか?

 

 それには、ハジメのスーツの特性が大きく関わっている。

 

 装着を維持するために装着者の強い精神力が必要になるこのスーツには、装着者の精神によってスペックが無限に上昇するという特性がある。

 

 ハジメの「ユエを守りたい」という意思がスーツに影響を与え、極光を受けても無傷でいられる程にスーツの防御力を底上げしたのだろう。

 

 そして、向上したのは防御力だけではない。攻撃力も上昇しており、多くのエネルギーが集中しているのかアームキャノンが一際輝いている。

 

 そのエネルギー量は、もはや計測不能。解放されれば、多大な破壊が撒き散らされるのだろう。

 

 ハジメは一際輝くアームキャノンを銀頭に向けると、エネルギーを圧縮すべくチャージを開始する。

 

「クルゥアアン!」

 

 銀頭はそのエネルギーが解放されるのを恐れたのか、発射を阻止するために極光を何発も撃ってくるが、ハジメは全てを無傷で耐えていた。

 

 やがて、計測不能な程のエネルギーがアームキャノンの内部で最大まで圧縮される。どこかにエネルギーを逃がさなければ、アームキャノンは吹き飛んでしまうだろう。

 

「消え失せろ!」

 

 ハジメの叫びと共に、解放されたエネルギー。それは、極太の青白い光芒となってヒュドラを飲み込んだ。

 

「俺達の勝利だ・・・」

 

 ヒュドラは塵も残さず完全に消し飛ばされた。それを確認したハジメは、突然スーツが解除されると後ろにぶっ倒れた。

 




ようやく、オルクス大迷宮の最後の戦いが終わりました。長かった・・・


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

18話 鳥人族の後継者


感想とお気に入り登録ありがとうございます。

今回は鳥人族のオリキャラが出ます。


「ここは・・・ベッドか」

 

 ハジメは目を覚ますと、自分がベッドの上にいることに気付く。どこかの建物に運び込まれたようだ。

 

「ハジメお父様、起きた」

 

 ハジメが声が聞こえてきた方を見ると、ユエと元の姿のベビーがいた。どうやら、ベビーは解放されたらしい。

 

「おはよう、ユエ。ここはどこだ?」

 

「反逆者の住処」

 

「なるほど、ここはあの扉の奥か。だが、どうやって俺をここまで?」

 

「ベビーに運んでもらった。そういえば、途中から案内してくれた鳥みたいな人がいた」

 

「鳥みたいな人?」

 

 鳥みたいな人・・・まさか、鳥人族か?

 

「たぶん、お父様の言っていた鳥人族」

 

 その時、ガチャッと扉が開いた。そこから姿勢を屈めて出てきたのは、1人の鳥人族・・・それもソウハ族の老人だった。

 

「ユエ殿、あなたのお父上・・・後継者殿はお目覚めになられたようですな。身体に多大な負担がかかっていたようですが、無事に回復なされて何よりです」

 

「ありがとう。あなたのお陰でハジメお父様は回復した」

 

「いえいえ、礼には及びません。後継者殿をお支えすることが私の役目ですから」

 

 (後継者?鳥人族の遺伝子と技術を受け継いでいるという意味では、間違いではないが・・・)

 

「あなたは?」

 

 ハジメは目の前の鳥人族に問いかける。

 

「申し遅れました、後継者殿。私はエルダーバード、あなたをお支えする役目を拝命しております。そして、あなたとは別の世界を起源とする鳥人族の端くれです」

 

 エルダーバードと名乗った彼はそう言うと、深々とお辞儀をした。

 

「別の世界・・・」

 

 別の世界にも鳥人族がいる。その事実をハジメは初めて知った。

 

「はい。我々はかつて、解放者と名乗る者達・・・今では反逆者の濡れ衣を着させられていますが、そんな彼らと鳥人族は交流がありました」

 

 エルダーバードの言葉からは、さらっと重要な情報が出てくる。とりあえず、反逆者=鳥人族という図式は消えた。それ以上に重要なのは、反逆者が濡れ衣だったということだろう。

 

「しかし・・・別世界の鳥人族は異世界への進出を始めていたのか」

 

 ハジメの知る鳥人族といえば、惑星を開拓することで領域を拡大していた。

 

「ええ。文明が行き詰まっていた鳥人族は当時、新たな入植地を求めて異世界への進出を推進しておりました」

 

「ところで、後継者というのは何なんだ?」

 

 何度か出てきた“後継者”という言葉・・・ハジメはその意味が気になっていた。

 

「そのことですか。今すぐ説明したいのですが、少し場所を変えましょう。その説明にはとある立体映像が必要なのですが、それを見ればあなたの全ての疑問は殆ど解決するはずです」

 

 ハジメの知りたいことは多くあった。世界の真実・・・反逆者・・・そして、鳥人族がどのように関わっていたのか?その映像を見れば、全て分かるらしい。

 

 エルダーバードに案内され、建物の外に出たハジメ達。そこで見た光景は、ここが地下の迷宮であると信じられないようなものであった。

 

 最初に目撃したものは、まるで太陽のように輝く球体だった。エルダーバードによると、夜になると月に変わるとのことだ。

 

 視線を下に降ろしていくと、そこには草原が広がっており、滝からの水が流れる小川があった。よく見ると、小魚も泳いでいる。そして、奥の方には大きな畑もある。

 

 エルダーバードに付いていくのだが、そこに同行してくる者が数体あった。それは、鳥人像であった。

 

「お父様、この鳥人族みたいなのは?」

 

「鳥人像。鳥人族が自身を模して作り出した生物兵器だ。ここの警備用に置いてあるみたいだな」

 

 やがて、石造りの住居の3階に通される。3階には1部屋しか存在せず、階層をまるごと使った広い部屋になっていた。そして、その床には直径8mの魔法陣が刻まれ、部屋の端の方には鳥人族の技術が使われたコンソールが設置してあった。

 

「では、これを見ていただきます」

 

 エルダーバードがコンソールを操作すると、魔法陣の中央に立体映像が映し出される。そこに映ったのは、黒衣の青年であった。

 

『この映像が流れたということは、我が友エルダーに出会ったということだろう。試練を乗り越えよくたどり着いた。私はオスカー・オルクス、鳥人族と共にこの迷宮を創った者だ。反逆者と言えばわかるかな?』

 

 その青年は、オスカー・オルクスと名乗った。どうやらオスカーはエルダーバードと友人だったらしい。

 

『最深部に辿り着いた者・・・予言にあった鳥人族の後継者に、世界の真実を知る者としてメッセージを残させてもらうことにした。どうか聞いて欲しい。我々は反逆者であって反逆者ではないということを・・・我々と鳥人族がどのように関わっていたのかを・・・』

 

 こうして始まったオスカーの話。それは、ハジメが王国で収集した情報やユエの言っていた反逆者の話とは大きく異なっていた。

 

 神代の少し後の時代、多くの種族が自らの信じる神の神託を受け、神敵を滅ぼすという大義名分の元に戦争を続けていた。だが、何百年と続いた争いに終止符を打とうとする“解放者”と呼ばれる集団が現れた。

 

 そんな中、解放者達は異世界からの来訪者である鳥人族と接触する。解放者達は鳥人族と協力し、長い戦争で停滞していたトータスの技術レベルの向上を目指した。また、鳥人族と共同で魔法と科学を融合させる研究も行っていた。

 

 順調に争いが終わりつつあったある日、解放者達は神の真意を知ってしまった。それは神が世界の全てを操って遊戯のつもりで人々に戦争を行わせていたということだ。

 

 鳥人族の協力で神がいる空間である“神域”を突き止めた解放者達は、メンバーの中でも強い力を持つ七人を中心に戦いを挑んだ。

 

 だが、その目論みはその前に破綻してしまう。何と、神は人々を操って解放者達を世界に破滅をもたらす神敵・・・“反逆者”に仕立てあげてしまったのだ。守るべき人々に力を振るえなかった彼らは次々と討たれ、最後に残ったのは七人の解放者と裏方に徹していた鳥人族達のみだった。

 

 敗北を喫した七人の解放者は、バラバラに大陸の果てに迷宮を作り、神の遊戯を終わらせる者が現れることを願って、迷宮を攻略した者に自らの持つ力・・・“神代魔法”を授けることにした。だがその時、予言能力を持つ1人の鳥人族がある予言をする。

 

 それは、別の世界を起源とする鳥人族の遺伝子と叡智、力を受け継ぐ後継者がオスカーの作った迷宮を攻略し、神を討つという意志を継ぐというものだった。

 

 そこで、鳥人族は後継者を支援するためにパワーアップアイテムを迷宮等に設置することにした。そのアイテム群には解放者と鳥人族が共同で開発したエーテルアビリティと呼ばれるものも含まれていた。

 

 さらに、真のオルクス大迷宮の入口には鳥人族の像が設置され、神に対抗できるシステムをダウンロードできるようにしたのだが、ダウンロードしたそのシステムを完全に起動するには全ての神代魔法を集める必要があるとのことだった。

 

 長い話が終わり、オスカーは微笑む。

 

『長い話をしてしまってすまない。だが、我々の真実を君に知っておいて欲しかった。私は、鳥人族の後継者である君に力を授ける。それと同時に、我々と鳥人族の絆の結晶たるエーテルアビリティを授けさせてもらう。予言では我々の意志を継ぐことになっているようだが、別に神殺しを強要する気はない。できれば、その力を悪しき心を満たすために振るわないで欲しい。話は以上だ。聞いてくれてありがとう。あぁ、そうだ・・・我が友エルダーのことをよろしく頼む。君のこれからが、自由の光で満たされんことを願っているよ』

 

 話が終わると、オスカーの立体映像は消えた。

 

「では、後継者殿とユエ殿。魔法陣の中央に立っていただきたい。そうすれば、神代魔法の1つが手に入るでしょう」

 

 エルダーバードに言われ、2人は魔法陣の中央に立つ。すると、魔法陣が輝くと同時に2人の脳裏に情報が刻まれ始め、頭がズキズキと痛んだ。

 

 やがて、光が収まると頭痛も止まり、脳裏に浮かんでくるものがあった。

 

「生成魔法・・・なるほど、鉱石に魔法を付与して特殊な鉱石を・・」

 

「お父様。私も習得したけど相性が悪いみたい」

 

 どうやら、相性の問題もあるようだ。

 

「それと、後継者殿にはエーテルアビリティの方も授けましょう」

 

 エルダーバードがコンソールを操作すると、天井が2つに割れた。そこから出てきたのは、大きなレンズのようなものがついたエネルギーを照射する機械。機械からは、光のシャワーが降り注いできた。

 

 光を受けたハジメの体は宙に浮かび始め、天井の機械に近い高さで静止する。そして、無数の光の粒子がスーツ全体に殺到していった。やがて、粒子の殺到が止まると、ハジメは床に着地した。

 

『フラッシュシフトを入手しました。エーテルアビリティに対応するため、スーツとエーテルタンクをアップデート中…』

 

 エーテルアビリティの1つは、フラッシュシフトというらしい。

 

『アップデート完了。エーテルタンクの容量が100増加しました(100→200)。エーテルアビリティの1回の使用につき、タンク内の魔力を100消費します』

 

『フラッシュシフトは、前方もしくは後方の一定距離を瞬時に高速移動する能力であり、1回の使用につき3回まで連続で高速移動が可能です。その際、スーツは青く発光します』

 

 ハジメは、神代魔法とエーテルアビリティという新たな力を得た。これから先、ハジメは後継者として数多くの戦いに関わることになるのだろう。

 




お分かりかもしれませんが、エーテルアビリティの元ネタはエイオンアビリティです。


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

19話 地上への帰還


説明書くのが苦手だな・・・


 

 その日の夜、ハジメとユエは風呂に入っていた。風呂があるのは、エルダーバードに案内された建物の1階である。

 

 ハジメは、風呂に1人で入る予定だった。しかし、ユエはハジメから離れたくないらしく、風呂場に突入してきた。

 

 体を洗った後、2人は横に並んで湯船に浸かる。そのまま、2人の雑談が始まった。

 

「ねえ、お父様。お父様は解放者の意思を継ぐつもり?」

 

「鳥人族が絡んでいる以上、彼らの意思を継いで神と戦うつもりだ。だが、最優先ではない。俺が最優先とするのは、帰還する手段だ」

 

 ハジメが最も優先しようとしたのは、帰る手段を探すことであった。

 

 帰還する手段として最初に考えたのは、鳥人族の技術を使って世界を越えること。エルダーバード達が世界を超えてトータスにやって来たのだから、エルダーバード達は世界を越える手段を持っていたと考えるのが妥当である。

 

 しかし、エルダーバードによると鳥人族がトータスから撤退した際、漏洩を防ぐために技術を破棄してしまったという。

 

 だが、エルダーバードがハジメ達に耳寄りな情報を持ってきてくれた。それは、全ての神代魔法を手に入れることで神のような力の魔法を行使できるようになり、それによって世界を越えられるのではないかという情報だった。

 

「とりあえず、俺達は七大迷宮を攻略して全ての神代魔法を手に入れる。そして、帰還する手段が見つかり次第、ユエ達を地球に逃がす」

 

「待って、お父様。私も神と戦う」

 

「いいのか?ユエ。これは俺の戦いだ」

 

 ハジメとしては、神との戦いにユエ達を巻き込みたくなかった。最低でも、香織とユエだけは地球に逃がすつもりだった。

 

「私はお父様に助けられたから、借りを返す。それに、私はお父様と一緒に帰りたい」

 

「そうか・・・」

 

 ハジメは、ユエの願いを否定できなかった。

 

「まあ、全ての神代魔法が集まらなければ、先に進むこともままならない。どうするのかは、全て集まった時に決めよう」

 

「ん・・・」

 

 現時点でやるべきことは、オルクス以外の6つの大迷宮を攻略すること。ハジメ達はその準備をするため、しばらくオルクスの隠れ家に留まることにした。

 

 

 

 


 

 

 

 

 それから1ヶ月が経過した。その間、ハジメ達はエルダーバードの協力を受けながら、鳥人族が残した設備と魔法を活用して装備の開発を行っており、それと同時にバリアスーツの発光状態についての研究も進んでいた。

 

 ちなみに、発光状態について当初から判明していたことは、エーテルタンク内の魔力を使うことで、スーツの防御力と武装の攻撃力、装着者自身のステータスが強化されるということだけだ。

 

 まず、ハジメはスーツの発光状態のことを“ハイパーモード”と呼び、ヒュドラ戦で撃った強力なビームのことを“ハイパービーム”と呼んだ。

 

 このハイパーモードなのだが、発動条件としてタンク内の魔力を99使うことが条件となっており、さらに感情が高ぶっていることが必要だと判明した。

 

 実際、ユエを解放した時とヒュドラ戦の時、ハジメの感情は高ぶっていた。

 

 さらに調査を重ねていくと、確率は極めて低いが、感情が高ぶっていなくともハイパーモードを発動できることもあり、その際はハイパーモードが25秒しか持続しなかった。

 

 なお、感情が高ぶっている場合の発動であれば最低でも1分持続し、精神状態によっては無限に持続時間が伸びるようだった。

 

 ハイパービームに関してだが、感情が高ぶっている際の武装がハイパービームに一本化されてしまい、発射した際には装着者とスーツに多大な負担がかかってしまう。

 

 体とスーツに多大な負担がかかれば、戦闘を継続できなくなってしまう。敵が1人とは限らないため、それでは問題がありすぎる。加えて、発動が感情に左右されてしまうのは、武器として問題がある。

 

 そのため、発動中に湧き出る膨大なエネルギーを制御し、体に多大な負担をかけない攻撃手段に転用した上、感情に関係なく発動できるようにする必要があった。

 

 現時点では、ハイパービームのエネルギーをミサイルに変換したハイパーミサイルと、通常のビームウェポンに転用して放つ各種の強化ビームが構想されており、ハイパービーム程の負担は体にかからないものとしている。

 

 ハジメは、そのための制御装置の開発を始めた。長い時間がかかりそうだが、完成すれば感情に左右されずに発動できるようになり、ハイパービーム以外の武装も柔軟に使用できるようになるだろう。

 

 

 

 次に、ハジメの製作した装備を見ていくのだが、特にハジメが力を入れていた装備を紹介しよう。

 

 それは、主砲を備えた4輪の装甲戦闘車両だった。デザインはハジメのスターシップを踏襲し、黄色の車体と緑色のフロントバイザーが特徴となっている。

 

 メインの武装である360度旋回が可能な主砲はプラズマ砲になっており、現時点のハジメの武装の中では最大級の火力を誇る。また、ノーマルミサイルを撃つことも可能だ。

 

 悪路を踏破するために4輪のタイヤは大型になっており、生成魔法によって錬成を付与しているため、悪路を整地しながら走行可能だ。また、車体下部のブースターによるホバリング能力を有している。

 

 曲線的な車体には錬金によって用意されたアザンチウム鉱石を採用し、装甲化された車体の各所には古代鳥人族のマークや文字が刻まれている。車体表面にはエネルギーシールドが装備され、内部には自己修復装置も装備されている。

 

 また、車体自体には“金剛”という一時的に防御力を上昇させる魔法が付与されている。金剛はサイクロプスの固有魔法なのだが、サイクロプスがハジメ達と対峙した際には金剛を使う前に瞬殺されていた。

 

 ハジメはサイクロプスの死体を解析したことでその存在を知り、死体から複製して車体に付与することにした。使用する際には、車体に搭載したエーテルタンク内の魔力を装甲の表面に流すことによって効果を発揮する。アザンチウム鉱石の耐久性とエネルギーシールド、金剛の組み合わせは、過剰な程の防御力を生み出すだろう。

 

 積載能力としては、操縦者1名以外に乗客8名を乗せることができるスペースが存在する。現時点では乗客がユエしかいないので、空いているスペースは荷物置場と化すだろう。

 

 ハジメは、この装甲車をジャガーノートと名付けた。これ以外にも開発された装備は存在するが、ここでは割愛させてもらう。

 

 

 

 そして、ハジメが製作したわけではないが、隠れ家で入手したアーティファクトが2つあった。その1つは、攻略者の証となるオルクスの指輪だ。その指輪には、扉にあったものと同じ十字に円が重った文様が刻まれている。

 

 それを渡してくれたエルダーバードによると、その指輪に魔力を流すことで、オルクスの隠れ家に繋がる空間の穴を開くことができるらしい。隠れ家の設備が使いたい場合には、これを使うことで瞬時に戻れるはずだ。なお、隠れ家から外に戻る場合には、元居た地点に戻される仕掛けになっている。

 

 もう1つは、“宝物庫”と呼ばれる指輪型アーティファクトだ。オスカーの遺品であるこれは、装飾である赤い宝石の部分に作られた空間に物を収納できる。

 

 ハジメ自身はマザーから贈られた量子収納腕輪という似たようなものを持っているのだが、容量の制限がある。実際、スターシップという大きな物体をしまっているせいで、容量の大半が埋まっている。

 

 一方、宝物庫の容量は無限である。スターシップと同じく大型の物体であるジャガーノートを収納するため、ハジメは宝物庫を使うことにした。そして、腕輪はユエに譲渡することになった。

 

 

 

 

 

 そして、ハジメ達が地上に戻る日がやって来た。2人と1匹は、世界の真実を知ったあの部屋に来ており、地上へ転移するための魔法陣の前に立っていた。その近くには、見送りに来たエルダーバードの姿もある。

 

「俺の武装とユエの魔法は地上で異端となるだろう。特に、俺のバリアスーツは目立つ。そこで、本当に必要な場合を除いて人前でスーツを着ないことにした」

 

「ん・・・」

 

「ユエも、無詠唱で魔法を使ってしまえば、直接魔力操作が可能なことがバレて問題になるし、教会と全面戦争になりかねない。人前では適当でもいいから詠唱してほしい」

 

「ん・・・」

 

「ベビーは魔獣と同じ扱いを受けるだろうから、ユエのリュックの中に隠れてもらう」

 

 皆、各国や教会に目を付けられる要素を持っていた。

 

「世界を敵に回すかもしれない危険な旅だ。命が1つで足りるとは思えない」

 

「今更・・・」

 

「キュッ!」

 

 ハジメは深呼吸する。そして、バリアスーツを纏った。

 

「可愛い(ユエ)のことは俺が守る。そして、俺の大切な(香織)も迎えに行く。絶対に、世界を越える方法を見つけてみせよう」

 

「んっ!」

 

 2人の覚悟は決まった。

 

「後継者殿。地上に出たら、ハルツィナ樹海にある亜人族の国フェアベルゲンに向かってくだされ。そこに、鳥人族の残したアイテムがあるはずです」

 

 エルダーバードは、地上に出た後に向かう場所をハジメに示した

 

「亜人族・・・たしか、人間を嫌っているはずだ」

 

「ご安心ください。彼らの国には、解放者の1人リューティリス・ハルツィナが鳥人族と共に伝えた、“鳥人族の後継者”の予言があります。そのパワードスーツを着ていれば、あなたに敵対する可能性は低いはずです」

 

「分かった」

 

 地上に出た後の行先は、フェアベルゲンに決まった。

 

「エルダーバード、しばらく世話になった」

 

「エルダーおじい様、お話楽しかった。また今度お話したい」

 

 ハジメとユエはエルダーバードに礼を言う。

 

「こちらこそです、ユエ殿。あなたとのお話は楽しいものでした。そして、後継者殿。我が友オスカー達の意志を継いでくださり、感謝します」

 

 そして、ハジメとユエ、ベビーが魔法陣の中央に入る。

 

「エルダーバード、必要なものがあったら再びここに戻ってくるかもしれない。その時は、また世話になる」

 

「ええ、私はいつでもお待ちしております」

 

 エルダーバードは、胸に左手を当ててお辞儀をする。そして、魔法陣が起動してハジメ達は光と共に転移した。

 





これで1章は完結です。これ以降は投稿の速度が遅くなるかも。


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

第2章 Second Mission
20話 急襲



第2章の始まりです!


 

 〈シラクス〉はスペースパイレーツ所属の研究フリゲート艦であった。この艦の内部には実験を行うための設備が整っており、各種研究用資材が満載されていた。そして、この艦で主に行われていた研究は生物のサイボーグ化であった。

 

 だがある日、この艦は消息を絶ってしまう。スペースパイレーツ司令部が捜索隊を出したが、痕跡は1つも発見できない。それどころか、たまたま近くを通りかかった銀河連邦軍の戦艦から攻撃を受ける始末。以前に研究フリゲート艦〈ボルパラゴム〉が行方不明になったこともあり、生物兵器の研究を進めていたスペースパイレーツとしては大きな損害だ。

 

 研究フリゲート艦は何処に消えたのだろうか?

 

 

 

「本部との通信、繋がりません!」

 

「現在の座標不明!」

 

 シラクスの艦橋は正に混乱の極みであった。シラクスは連邦の勢力圏から遠く離れた辺境を航行していたのだが、突然目の前から発生した閃光に飲み込まれてしまう。乗組員達が目を覚ますと、そこは未知の宇宙であった。

 

「艦長、あれを!」

 

 シラクスの艦長である爬虫類のようなパイレーツは、副官が指さす方を見る。

 

「あれは・・・前に行方不明になったフリゲートじゃないか?」

 

 近くの宇宙空間に浮かんでいたのは、パイレーツ所属のフリゲート艦であった。シラクスは通信を試みたが、返事が返ってくることはない。

 

「部隊を派遣しよう。もしかすると、生き残りの同志がいるかもしれない」

 

 艦長が1つの決断をした時であった。

 

ズドォオオン!!

 

 突然の爆発音と共に、艦が大きく揺れた。そして、警報のサイレンが艦内に響き渡る。

 

「こちら第1小隊、連絡通路Aにて侵入者と交戦ty…」

 

 艦橋に量子アサルトキャノンの銃声の混じった通信が入るが、そのパイレーツは全てを言い切る前に絶命する。

 

「隊長がやられた!至急、救援を乞う!」

 

 爆発音は侵入者によるものであった。パイレーツ達は、目の前の侵入者に対してアサルトキャノンの引き金を引き、エネルギーシザースで斬りかかる。

 

 だが、それは無意味だった。

 

 侵入者が黒色の体に青いバリアを張り、銃撃を完全に防ぐ。シザースも同様に防ぎ、右腕のアームキャノンから放たれるショットガンのようなビームを至近距離から浴びせて蜂の巣にした。

 

 そして、銃撃してきたパイレーツに対してはミサイルを放ち、着弾した際の爆風で纏めて吹き飛ばす。

 

「艦長、連絡通路Aの映像です!」

 

 艦橋のコンソールに映像が映し出される。そこには、パイレーツの戦闘員達を虐殺する黒色の死神の姿があった。

 

「こいつは!?」

 

「右腕のアームキャノン・・・まさか、あのナグモか?」

 

 パイレーツの言うナグモとは、南雲ハジメのことである。ハジメは、スペースパイレーツから危険人物として扱われているのだ。侵入者の姿は、ハジメのバリアスーツによく似ていた。

 

「いや、違うな。俺はナグモに遭遇したことがあるが、雰囲気が全然違う。侵入者の雰囲気は、まるで冷たい機械のようだ」

 

 と、1人のパイレーツが言う。そもそも、侵入者の体は有機的な黒色の装甲に包まれているため、ハジメと異なるのは明白であるのだが。

 

「では、別物か・・・とはいえ、敵であることに変わりはない・・・んっ?!」

 

 次の瞬間、侵入者が艦橋に繋がるブルーゲートを青いオーラを纏った体当たりで破壊し、艦橋に侵入してきた。

 

「もうここまで来たのか!?速すぎる!」

 

 この時点で、乗組員の30%は殺害されていた。

 

「撃て!撃て!」

 

 艦長を含めた全員が武器を構え、一斉に射撃する。だが、侵入者は弾が当たるのを無視して青いエネルギーを溜め始める。そして、そのエネルギーは一気に解放され、パイレーツ達を一気に吹き飛ばしてしまう。

 

 強力なエネルギー波を喰らった上、壁や床に勢いよく叩き付けられたパイレーツ達は、気絶した。

 

「君達にも、僕の忠実な兵隊になってもらうよ」

 

 黒色の死神・・・プライムは倒れているパイレーツ達を眺めながら、そう言った。

 

「さて、洗脳の時間だ」

 

 スペースパイレーツ達が迷い込んだ・・・否、召喚されたのはトータスの軌道上。彼らはプライムによって襲撃され、洗脳によって完全に支配下に置かれることとなった。

 

 

 

 


 

 

 

 

 【ライセン大峡谷】

 

 それは、西の【グリューエン大砂漠】から東の【ハルツィナ大樹海】までを繋ぎ、大陸を南北に二分する巨大な大地の割れ目だ。深さの平均は1.2㎞、幅は900m〜8㎞まである大峡谷には、とある特徴があった。

 

 それは、魔力が分解されてしまうということだ。それにより、魔法を発動するために込めた魔力が分解されてしまい、魔法を使うために必要な魔力の量が上がってしまうのだ。その上、魔法の減衰が速くなるため、射程も短くなってしまう。また、エーテルアビリティに関しても必要な魔力量が増えてしまっている。

 

 その特徴に加え、大峡谷には凶悪な魔獣が生息しているため、罪人が追放される場所になっているのだという。ハジメ達が地上に出てきた場所は、そのライセン大峡谷であった。

 

「囲まれているな・・・」

 

「ん・・・」

 

 ハジメ達は、現在進行形で大峡谷の魔獣に包囲されていた。

 

「ユエ、ここでは魔力が分解される。こいつらの相手は任せてくれ」

 

 すでに、地上に出た先がライセン大峡谷であることをエルダーバードから伝えられている。そのため、魔力が分解されることを知っていた。

 

「お父様、1発だけこれを撃たせて」

 

 ユエはホルスターから黄色に塗装された光線銃を抜く。〈イエローバード〉と名付けられたこれはユエ専用に作られたものであり、軽量化が施されている。そして、ダイヤルの操作で撃つビームの特性を変えられる機能がある。

 

 ユエはイエローバードのダイヤルを操作してチャージショットに切り替えると、引き金を引き続けてエネルギーをチャージする。そのまま銃口を魔獣の1体に向けると、引き金から指を外してビームを撃つ。

 

 それを武器だと認識していなかったのか、その魔獣はチャージショットを頭に受けて崩れ落ちた。

 

「前より上手くなったな」

 

 褒められたユエは、満面の笑みを浮かべながらサムズアップした。

 

 直後、拡散効果付きのチャージビームが魔獣達の中に着弾し、魔獣達の死体が宙を舞う。これが、開戦の合図だった。

 

 先ほど吹き飛ばした正面を除いた方向から、一斉に魔獣が襲いかかる。

 

「新兵器を試す良い機会だ」

 

 ハジメは宝物庫からガトリングガンのような武器を取り出す。宝物庫はスーツの下に隠れているものの、その役割を果たしていた。

 

 そのガトリングガンのような武器を右腕のアームキャノンに接続する。手数を補うために製作されたガトリングガン・ユニット〈プレデター〉である。

 

 ハジメはアームキャノンを腰だめに構えると、プレデターの横から突き出ているグリップを握り、回転する銃身から甲高い音と共に光弾の嵐をまき散らした。

 

 光弾の嵐は魔獣を薙ぎ払い、射線に入った全てを蜂の巣にしていく。ハジメの背後に回り込もうとした魔獣もいたが、ユエのイエローバードによる射撃と、ベビー剛力体の腕力によって排除されていた。

 

 5分後、全ての魔獣が捕食者(プレデター)によって狩り尽くされた。

 

「お父様、凄い」

 

「別に凄くはないぞ?これは武器に頼った結果だ」

 

 ハジメは、自分が武器に頼っている事実を強く肝に銘じていた。

 

「でも、私だと使いこなせない。お父様は謙遜しすぎ」

 

 ハジメはプレデターを取り外して宝物庫に収納し、移動用にジャガーノートを取り出そうとした。その時だった・・・

 

チュドォォォォン!!

 

 ハジメ達の近くに青い光球が着弾して爆発し、 爆音が周囲に響き渡る。

 

「お父様!上!」

 

 ハジメ達は上空を見た。そこには、バリアスーツに似ている人型が浮いており、ハジメは咄嗟にアームキャノンを向けた。

 

 

 

 

 

 奴を最初に見た時に最初に思ったのは「バリアスーツにそっくりだ」ということだ。バイザーにアームキャノン、肩の丸い防盾・・・主な特徴が一致していた。

 

 奴は無言で青いビームを放ってきた。

 

「くっ!」

 

 咄嗟にセンスムーブで回避し、反撃のノーマルミサイルを空中の奴に放つ。

 

 誘導されたミサイルは、奴に向けて一直線に飛んでいく。しかし、命中直前で奴は空気のようにパッと消えた。目標を見失ったミサイルは、フラフラと明後日の方向へ飛んでいき、爆発した。

 

 そして、奴が現れたのは俺達の目の前。互いのアームキャノンの砲口が挨拶する形になった。斜め後ろにいたユエが、魔法を放つために掌を奴に向けようとするが、俺は空いている左手で制する。

 

「手を出すな、ユエ」

 

 相手は未知の存在である。どのような能力を持っているか分からない相手と愛娘を戦わせるなど、もっての外だ。

 

「お前は、何者だ?」

 

「はじめまして、イレギュラー君。僕の名はプライム、いずれは君を倒す者さ」

 

 黒色の有機的な装甲に包まれた奴は、プライムと名乗った。

 

「何故、お前は俺に似ている?」

 

「さあね?他人の空似って奴じゃない?」

 

 プライムは適当に答える。

 

「ふざけているのか?」

 

「まあまあ、落ち着いて。正直に言うと、僕は対鳥人族を考慮して生み出された存在なのさ。さっきも言ったけど、鳥人族の遺伝子を継ぐ君を倒す者でもあるんだ」

 

「なら、今すぐ消えろ」

 

 プライムに向けてパワービームを撃つ。だが、奴は先ほどと同じようにワープし、空中に退避してしまう。

 

「逃がすか!」

 

 空中のプライムを撃とうとするが、奴の方が速かった。奴は握り締めた左手に青白いエネルギーを収束させ、そのエネルギーを解放した。

 

 解放された瞬間、体にかかる重力が急に強くなり、立っていられない状態になってしまう。奴は、この周辺を超重力空間に変えたのだ。

 

 グラビティ機能さえあれば、これを無効化できるのだが・・・

 

「今日は君と戦うつもりは無いよ?ただ、君に挨拶しに来ただけさ。そうだ、君にお土産を置いていくよ。またね、イレギュラー君」

 

 プライムが消えると同時に超重力空間は解除される。そして、5体の人影が目の前に現れた。そいつらは、俺にとって因縁の深い連中だった。

 

「スペースパイレーツ!?何故、お前たちが・・・」

 

 その正体は、スペースパイレーツの戦闘員であった。

 

 多種多様な種族で構成されるスペースパイレーツは、銀河連邦と敵対する巨大な犯罪組織であり、高い技術力と軍事力を保有している。そして、銀河の各地で略奪と殺戮を行っている。倫理観など無いようなものだ。

 

 そして、幼い俺を拐った連中でもある。

 

「スペースパイレーツ・・・この世界にも手を出すというのなら・・・容赦はしない!」

 

 戦闘員の1体を照準の中央に捉えると、俺はいきなりチャージビームを放つ。大峡谷における戦いのラウンド2が始まった。

 




スペースパイレーツ参戦!!(スマブラ風)

さて、いつになったら残念ウサギは出てこられるのだろうか・・・


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

21話 大峡谷とウサギ


 プライムの体色ですが、ダークサムスをよく見たら黒色だったので、紺色から黒色に修正しました。
 また、主人公のステータスに関しては、レベルを除いて明確な数値を定めました。それにより、5話と6話の内容を変更しました。急な変更すいません。


 

 チャージビームがパイレーツ戦闘員の1体に直撃し、その上半身を吹き飛ばす。

 

 直後、残りの4体が量子アサルトキャノンによる一斉射撃を行ってきたため、ハジメは跳躍して回避し、ベビー剛力体がユエを庇う。メトロイドはエネルギー武器に対する高い耐性を持つので、問題はない。

 

 ハジメはパイレーツの1体の上に着地すると、至近距離からチャージビームを放ち、一撃で爆散させた。残りは3体。

 

 残りのパイレーツ達は、光子エネルギーシザースを使って近接戦闘を仕掛けてくる。彼らはすでにハジメを包囲しており、ハジメの正面に2体、背後に1体が配置されている。

 

 正面の2体がハジメに近接攻撃を仕掛けるタイミングに合わせ、1体が背後から襲いかかる。

 

 だが、パイレーツ達は忘れていた。正確には、「それが脅威であると思っていなかった」というのが正解なのだが。

 

「“緋槍”!」

 

 ハジメに背後から襲い掛かったパイレーツに、ユエの放った炎の槍が突き刺さり、内側から焼かれて死ぬ。パイレーツ達は、ユエのことを脅威だと思っていなかったのだ。

 

 この大峡谷の特性によって、魔法を使うためには通常の10倍の魔力が必要になる。だが、ユエ自身の魔力が膨大である上、ハジメがエーテルタンクを参考に製作した、装飾品となる魔力タンクを装備しているため、魔法を使うためのハードルが低い。

 

ピュン!ピュン!

 

 そして、素早い2発の発砲音が連発する。少し遅れて、2体のパイレーツが同時に崩れ落ちた。どちらも、頭に風穴が空いている。

 

 アルラウネ擬きの時にも見せた、正確なハジメの早撃ちだ。ハジメはこの一瞬で2つの頭を正確に撃ち抜いたのだ。それも、1発も外すことなく。

 

「ユエ、助かった」

 

「お父様の背後を取るなんて、100年早い。背後を取っていいのは、私とベビー・・・それと将来のお母様だけ」

 

 ユエはドヤ顔でそう言った。

 

「まずは、こいつらを片付けないとな」

 

 ハジメは周囲を見る。そこには、大量の魔獣の死骸とパイレーツ戦闘員の死体が転がっていた。

 

 魔獣の死骸に関しては、換金したり素材にすることを考え、宝物庫に収納した。戦闘員の死体からは、技術漏洩を防ぐために破損したものも含めて装甲服と武装を回収し、死体は火葬した上で深い所に埋めた。回収した装備も、どこかで活用されるだろう。

 

 

 

 

 

 プライム・・・奴は何者なのだろうか?黒色の有機的な装甲で覆われていることを除けば、バリアスーツと特徴が一致していた。

 

 現時点で分かっていることは、対鳥人族も考慮して作られた存在であり、俺を倒すことが目的だということ。

 

 先ほど奴が見せた能力に関しては、右腕のアームキャノンからのビーム、浮遊能力、短距離ワープ能力、超重力空間展開があった。

 

 そして、スーツに残された記録によると、奴が各種能力を使用した際、強力な魔力が検出されていたことが分かった。ユエも魔力を感じていたようなので、間違いない。

 

 この大峡谷で魔力を使えるくらいなのだから、奴はユエと同じように膨大な魔力を持っていると推測される。

 

 能力に関しては未知数だ。仮にバリアスーツと同等の機能があるのなら、魔力ミサイル(仮)や各種の魔力ビーム(仮)を備えているだろう。

 

 さしずめ、奴は魔力で動くバリアスーツといったところだろうか。戦闘能力に関しても、俺と同等かそれ以上だと思われる。

 

 問題は、奴に従っていると思われるスペースパイレーツだ。地球に帰る少し前に受けた依頼で、俺はスペースパイレーツの勢力を大幅に弱体化させることに成功していた。恐らく、奴らはその残党であり、こちらに迷い込んだ際にプライムによって掌握されたと思われる。

 

 奴は勿論だが、スペースパイレーツも再び現れるだろう。奴らを放っておけば、多くの悲劇が起こる。俺は今まで、パイレーツによって殲滅されたコロニーを何度も見てきた。その悲劇を、この世界で起こさせるわけにはいかない。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「とりあえず、樹海側を目指そう。フェアベルゲンに向かわないといけないからな」

 

「ん・・・もしかしたら、迷宮の1つも見つけられるかも」

 

 ライセン大峡谷は、迷宮の1つがあると言われている場所なのだ。移動中に見つけられれば、一石二鳥である。

 

 そして、ハジメはジャガーノートを取り出す。ジャガーノートは全長10m、全幅5m、上部にはプラズマ砲を搭載し、人間の背丈より大きい直径のタイヤを4つ備えている大型装甲戦闘車両だ。

 

 それが、ズシンという音と共にライセン大峡谷の地を踏みしめた。

 

 ハジメがアームキャノンを操作すると、車体左側のハッチが開き、そこからタラップが降りてくる。この車両はスターシップと同様にスーツと連動しており、スーツを通して命令を出すことが可能なのだ。

 

 なお、スーツを着ていない時にビークルを操作するためのスマホ型デバイスも製作されている。そのデバイスには各種バイザーシステムの機能も移植されているため、スーツを着られない時でも分析能力を発揮できる。

 

 ハジメとユエはタラップを登り、車内に入る。ハジメはスーツを解除して先頭の操縦席に座り、ユエは後部座席に座る。ベビーは元の姿に戻り、車内を浮遊していた。

 

 ここで、2人の服装を見ていこう。ハジメはオルクスにいた時と変わらずに緑のパイロットスーツの上に銀のジャケットを羽織っており、銀のジェットブーツを履いていた。

 

 ユエは前面にフリルの付いた白のドレスシャツに、同じくフリルの付いた黒のミニスカートを穿いており、上から白いロングコートを羽織っていた。そして、ニーソックスとショートブーツを履いていた。

 

「では、出発するぞ」

 

 ハジメが球体型の操作デバイスを操作すると、動力源であるプラズマエンジンに火が入り、エンジンの回転数が上がっていく。そして、特徴的な大型のタイヤが回り始め、ジャガーノートは発進した。

 

 ライセン大峡谷の一本道を進んでいくジャガーノート。道とはいっても整備されていないため、中々の悪路である。だが、この車両なら心配ご無用だ。多少のデコボコであれば大型のタイヤで簡単に乗り越え、大きな段差もタイヤに付与された錬成による整地で緩やかな道に変えられる。大岩等の障害物はプラズマ砲で破壊するか、ホバリング機能で飛び越えて進んでいく。

 

 しばらくの間、魔獣を轢き殺しながら大峡谷を進んでいたジャガーノート。しかし、ジャガーノートは急にその足を止めた。

 

「お父様?どうかしたの?」

 

 何があったのかと思ったユエは、後部座席からハジメに尋ねる。

 

「前方に気になるものがあってな。ユエ、ちょっと前方を見てくれ」

 

 ユエはハジメの膝の上に座り、フロントバイザー越しに前方を見る。

 

「あれは・・・魔獣。何かを追いかけてる」

 

 そこにいたのは、オオトカゲをそのまま大きくしたような魔獣だった。そして、巨大トカゲの大顎から必死に逃げ惑う半泣きのウサミミ少女が・・・

 

 このままでは、ウサミミ少女は巨大トカゲの胃袋に収められることになるだろう。

 

「お父様、どうする?」

 

「助ける理由はない。だが、こちらの手が届く範囲にいるというのに、見殺しにするのは心が痛む」

 

「もしも悪い奴だったら?」

 

 ライセン大峡谷は罪人が追放されるような場所である。ユエは、目の前のウサミミが罪人なのではないかと考えていた。

 

「その時はその時だ。適当な所で放してやればいい」

 

 大峡谷は魔獣の巣窟だ。すぐに別の魔獣に見つかって食われるだろう。

 

「ユエ、ベビーは隠しておけ。俺はあのウサミミを助けてくる」

 

 操縦席の上にあるハッチを開け、ハジメは車体の上に出る。

 

「スーツは着ないの?」

 

「あぁ、ここの魔獣はベヒモスより弱いからな。生身でも大丈夫だろう」

 

 そもそも、人前では可能な限りバリアスーツを装着しない方針であった。

 

「行ってくる」

 

 宝物庫からレイヴンを取り出したハジメは、ジャガーノートの上から飛び降りると、巨大トカゲとウサミミの方へと駆けて行った。

 

「だずげでぐだざ~い!」

 

 そのウサミミは近づいて来るハジメに気付き、助けを求めながら必死に駆けてくる。涙と鼻水で汚れているその顔は、ぐしゃぐしゃになっていた。ハジメもウサミミの方へ走っているため、両者の距離は急速に縮まっていく。

 

 そして、ウサミミは地面を蹴って、向こうから駆けてくるハジメに飛び付こうとする。しかし、ハジメがサイドステップで躱したことにより、地面に飛び付くことになった。

 

「ええっ!?」

 

 直後、ウサミミはグシャ!という音と共に顔から地面にダイブした。

 

「あべし!!」

 

 漫画のような悲鳴が聞こえるが、ハジメは気にしない。

 

 ハジメは巨大トカゲの姿を認めると、“瞬発”によって素早く地面を蹴り、それと同時にブーツからのジェット噴射を行うことで、瞬時に巨大トカゲとの距離を詰める。

 

「たあっ!」

 

 その勢いのまま、空中回し蹴りを巨大トカゲの横っ面に叩き込む。遠心力も乗せた強烈な蹴りを受けた巨大トカゲは横方向に吹き飛ばされ、地面に転がる。そして、藻掻くだけでその場を動けないままでいた。

 

 ハジメは、そんな巨大トカゲにスタスタと近づいて行くと、その頭に無慈悲にレイヴンの穂先を突き立て、息の根を止めた。

 

「助けて頂きありがとうございました!私は兎人族ハウリアの1人、シアと言いますです!」

 

 巨大トカゲの死亡を確認したハジメの背後から先ほどのウサミミが近付き、お礼を言ってくる。だが、ハジメはそれを無視してポケットから取り出したスマホ型デバイスを操作する。

 

 直後、ジャガーノートが轟音を立てながらハジメの所にやって来る。それを見たウサミミ改めシアは、新手の魔獣だと勘違いしてハジメにしがみついた。

 

「ひいっ?!お助けぇ~!」

 

「安心しろ、あれは俺の乗り物だ」

 

 そして、ジャガーノートからユエが降りて来る。ユエが降りてきたことによって魔獣でないことを理解したシアは、しがみつくのを辞めた。

 

「さて、君が何者で何故こんな所にいるのか教えてもらおうか?」

 

 シアに対する事情聴取が始まろうとしていた。

 





シアとの出会いは、原作と違ってこちらから助けに行く展開になりました。まぁ、扱いは若干酷いですが・・・


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

22話 兎人族シア・ハウリア


原作よりも残念ウサギの要素が減ってる気がする


 外では魔獣に襲われる危険性がある為、ハジメはシアをジャガーノートの車内に収容して話を聞くことにした。右側にあるユエの席の向かい側に席が増設され、そこにシアは座る。

 

 シアはウサミミと少し青みがかったロングの白髪が特徴的な少女なのだが、それ以上に存在感があるものを持っていた。それは、彼女が動く度に揺れる2つの双丘。そう、シアは巨乳の持ち主だったのだ。

 

 ユエはシアの巨乳をガン見しており、その視線には嫉妬が込められていた。自分の小さな胸と見比べているユエは、余程シアの巨乳が羨ましいのだろう。

 

「じゃあ、今までの経緯を聞かせてもらおうか」

 

 そして、シアに対する事情聴取が始まる。

 

「改めまして、私は兎人族ハウリアの長の娘シア・ハウリアと言います。実は・・・」

 

 シアは改めて名乗ると、今までの経緯を語り始めた。それを要約するとこうだ。

 

 【ハルツィナ樹海】に住んでいる兎人族の一派、シア達ハウリア族は数百人規模の集落を作って暮らしていた。兎人族は聴覚と隠密行動に長けた種族なのだが、その他の能力に関しては他の亜人族よりも劣っていたために見下されており、フェアベルゲンの長老会議に代表を派遣することが許されていなかった。

 

 争いを嫌う温厚な彼らは1つの集落全体を家族として扱っており、仲間同士の絆が特に強い種族であった。また、特に女性や少年は可愛らしい容姿をしており、人間の国では愛玩奴隷として高い値が付けられる。

 

 ある日、そんなハウリア族に異常な女の子が生まれた。本来ならば、彼らは濃紺の髪をしているのだが、その子は青みがかった白髪であった。何よりも問題だったのは、その子が亜人族にないはずの魔力を持っており、直接魔力を操る能力と、とある固有魔法を使うことができたということだ。

 

 その女の子こそがシア・ハウリアである。つまり、シアはユエと同類であったのだ。それを聞いた瞬間、ユエはハッとした表情になった。

 

 魔獣と同じ力を持つ子が生まれたことに、ハウリア族は困惑した。普通であれば迫害されることは間違いないのだが、彼らは仲間や家族の絆が深い種族であったためにシアを見捨てるようなことはせず、隠して育てることにした。

 

 樹海深部のフェアベルゲンでは、発見した魔獣は速やかに殲滅しなければならないという規則があり、魔獣がどれだけ忌み嫌われているか分かるだろう。そんなフェアベルゲンにシアの存在が露見すれば、間違いなく処刑されてしまう。また、魔力を持つ他種族が樹海に侵入した際には、すぐに抹殺することが暗黙の了解となっている。

 

 ハウリア族は16年もの間彼女を隠して育てていたのだが、つい最近になってシアの存在がフェアベルゲンに露見してしまった。そして、ハウリア族は全員で樹海から脱出した。

 

 行く先の無い彼らが目指したのは、北の山脈地帯。未開地なのだが、山の幸があれば生きていけると彼らは考えた。人間に捕まって奴隷になるよりはマシだと思ったのだろう。しかし、運悪く彼らは人間族の国家の1つである帝国の部隊に見つかってしまった。

 

 一個中隊と出くわしたことで、やむを得ず南に逃走するハウリア族。女子供を逃がすため、男達が勇敢にも立ち向かっていくのだが、訓練された兵士との戦力差は歴然であり、半数程が捕らわれることになった。

 

 最終的に、魔法の使えないライセン大峡谷に逃げ込むことで帝国から逃れることができた。しかし、帝国軍は大峡谷の入口に陣を敷いてしまった。ハウリア族が大峡谷の魔獣に襲われて出てくるのを待っているのだろう。

 

 やがて、ハウリア族は魔獣に襲われる。食われる前に帝国に投降しようとしても、魔獣に回り込まれてしまい、大峡谷の奥に逃げるしかなかった。そして、今に至るという。

 

「気がつけば、60人いた家族も、今は40人程しかいません。このままでは全滅です、どうか助けて下さい!」

 

 シアは悲痛な表情で懇願した。

 

「状況は分かった。君の家族を助けてもいいと思っているが、条件を付けさせて欲しい」

 

「条件?」

 

「あぁ。君達を助ける代わりに、樹海の案内人として雇ってもいいだろうか?」

 

 亜人族以外の種族は、樹海において必ず迷うと言われている。そのため、樹海を移動する際は亜人族の協力が不可欠であった。

 

 だが、普通に考えて人間族に協力してくれる亜人族など居るはずがない。奴隷を使う手もあるだろうが、それではフェアベルゲンからの印象が悪くなるだろう。

 

 そこで、ハジメはシアを利用することにした。彼女の家族を助ける代わりに、彼女達に樹海を案内してもらおうというのである。

 

 あの勇者なら偽善だと批判するかもしれないが、シアとハジメ達は初対面である。無償で助ければ、後で何を要求されるのだろうか?と彼女はビクビクしながらハジメ達に同行することになってしまう。だったら、最初から対価を要求した方が彼女も安心できる。

 

 無論、亜人族や帝国と事を構えることになる可能性もある。だが、ハジメはそれでもハウリア族を助けるつもりだった。それは何故か?

 

 その理由は、シアが数少ないユエと同類の存在であることにある。ハジメは、ユエに自分以外の人とも人間関係を築いてほしいと考えていた。

 

 そこに現れたのがシアであり、同じ体質を持つ彼女ならユエの友人になってくれる可能性を感じていた。ハウリア族に対する同情という面もあったが、最大の理由はユエのためであった。

 

「もちろん!家族を助けてもらえるなら、樹海の案内だって何でもします!」

 

「なら、交渉成立だな」

 

「あ、ありがとうございます!これで、家族を助けられますよぉ・・・」

 

 ハジメが右手を差し出すと、シアはその手を取って感謝しながら大粒の涙をポロポロと流す。

 

「ちゃんと、見えた通りで良かったぁ・・・」

 

「〈見えた〉というのは、どういう意味だ?まさか、未来予知の類いか?」

 

 ハジメはシアの「見えた通り」という言葉に反応し、それについてシアに聞く。鳥人族には未来予知ができる者もおり、ハジメはその類いだと予想していた。

 

「あ、はい。これは“未来視”という固有魔法でして、仮定した未来が見えるんです。それと・・・危険が迫っている時は勝手に発動します。危険を察知できるので、いざというときにお役に立てます!」

 

「やはり、その類いだったか。危険を事前に察知できるとは便利だな。奇襲対策にもなる」

 

 シアの説明する“未来視”は、使用者の任意で発動する場合、「〇〇したらどうなるか?」という風に仮定した選択の結果としての未来を見ることができる固有魔法であり、1回の使用で魔力が枯渇してしまうらしい。また、危険が迫っている際に発動する場合は、任意の場合の1/3の魔力しか使わないらしい。

 

 シアはこれを使った際に、ハウリア族を救うハジメの姿を見たらしい。

 

「待てよ・・・?危険を察知できるのなら、フェアベルゲンに露見しなかったのでは?」

 

 ハジメの指摘がシアに突き刺さり、シアは「うっ!」と唸った。

 

「じ、自分で使った場合はしばらく使えなくて・・・」

 

「何に使った?」

 

「その・・友人の恋路が気になったもので・・・」

 

「何やってるんだ・・・もう少し頭を使え・・・」

 

 ハジメはそう言うと、深いため息をつく。

 

「猛省しておりますぅ・・・」

 

「今日から君の名は残念ウサギだ。分かったか?」

 

「はい・・・」

 

 意気消沈してしまうシア。しかし、そこにユエが声をかけた。

 

「でも、あなたは家族思い。残念なのは変わらないけど、良いウサギだと思う」

 

「ありがとうございます!ええと・・・」

 

 まだハジメ達が名乗っていなかったため、シアは言葉に詰まってしまう。

 

「私はユエ。そして、こっちは私の義父のハジメ」

 

「お二人は親子なんですね。ユエさん、ハジメさん、よろしくお願いしますぅ!」

 

 こうして、ハジメ達はハウリア族を助けに行くことになった。

 



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

23話 ハウリア族を救え


スーツの装着描写ですが、光に包まれて装着する感じに変えました。


 

「え?ユエさんも、私と同じように直接魔力を操れたり、固有魔法が使えるんですか?」

 

「ん・・・」

 

 シアの家族を助けに行くためにジャガーノートで移動中、シアはユエと後部座席で会話していたのだが、そこでユエが自身と同類の存在である事実を知った。

 

 シアは突然、目を輝かせてユエの小さな手を両手で握りしめる。

 

「ユエさん!私とお友達になってくれませんか?」

 

「友・・達・・?私、友達というものがよく分からない・・・」

 

 今まで、ユエには友達という存在がいなかった。一応、王族だったユエには遊び相手のような存在はいたらしいが、遊び相手として与えられた存在であったために友情が育まれることはなく、先祖返りで力に目覚めてからは疎遠になり、王位に就いてからは完全に関係が断たれた。そして、裏切った叔父によって大迷宮へ封印されてから数百年間、身動きも取れないまま孤独だった。

 

 現在、ユエはハジメとエルダーバードの2人と人間関係を構築しているが、ハジメを父親として、エルダーを祖父的な存在として扱っており、友人と呼べる存在はいなかった。そこに現れたのが、シアである。

 

「友達との関わり方は、今から学べばいいんじゃないか?」

 

「お父様・・・」

 

 操縦席のハジメがユエにアドバイスする。

 

「でしたら、私がユエさんの最初のお友達になります!」

 

「最初の友達・・・ん、よろしくシア」

 

「はい!よろしくです!」

 

 2人は握手する。その時のユエはいつもの無表情ではなく、微笑んでいた。

 

「これでよし・・・」

 

 一方、後部座席確認用のミラーを通して様子を見ていたハジメは、穏やかな表情で呟いた。

 

 

 

 

 

 やがて、ジャガーノートはシアの家族がいる地点の付近に到達する。

 

「ハジメさん!あそこです!」

 

 いつの間にか操縦席のすぐ後ろに来ていたシアは、座っているハジメの上に身を乗り出して前方を指差す。なお、ハジメの頭の上にシアの巨乳が乗っていたが、ハジメは強い精神力で興奮を抑え込んでいた。

 

 フロントバイザー越しに見えたのは、岩場に身を潜めるハウリア族達のウサミミだった。その数から推測するに間違いなく20人はいる。40人いるとシアは言っていたため、見えない部分に残りの20人がいるのだろう。

 

 そんなハウリア族を上空から狙っているのは、ワイバーンのように前脚と翼が一体化している飛行型の魔獣であり、体長は3~5m程であり、長い尾の先にはモーニングスターのような棘のついた膨らみが存在していた。

 

「ハ、ハイベリア・・・」

 

 それを見たシアの声は震えており、怯えていることが分かる。どうやら、あの魔獣はハイベリアというらしい。そのハイベリアが6頭、ハウリア族の頭上を旋回していた。

 

「ハジメさん、私の家族をお願いします」

 

「任せろ。それと、今から見るものに驚かないでくれ」

 

 すると、操縦席に座っているハジメの体が白い光に包まれ、肩の丸い防楯が特徴的なバリアスーツの姿に変わる。

 

「その鎧、まるで・・・」

 

 シアはバリアスーツの姿に何かしらの見覚えがあるらしい。

 

 シアの発言を聞いていたかどうかは定かではないが、ハジメはアームキャノンを操作して上部ハッチを解放し、操縦席をエレベーターのように上昇させることで車体の上に出る。そのまま立ち上がると、ハイベリアの群れの方へとアームキャノンを向けた。

 

 

 

 ハイベリアの1頭が動いた。ハウリア族が隠れている大岩に急降下すると、縦に1回転して勢いを付け、その勢いのまま遠心力を乗せて尻尾の先端を大岩に叩き付けることで、その大岩を粉砕する。隠れていたハウリア族は悲鳴を上げて飛び出した。

 

 ハイベリアは地面に這いつくばる獲物に対し、その大顎を開いて襲いかかる。奥の方でも同じ事態が起こっており、それも合わせて合計2体のハイベリアが地上の獲物をロックオンしていた。

 

 ハウリア族は狙われている仲間が無残に喰われる光景を幻視した。だが、その光景が来ることはなかった。何故なら、彼らに力を貸すと約束した銀河最強クラスの戦士がここにいるのだから。

 

ズドン!! ズドン!!

 

 突如として飛来した光の尾を引く2発の飛翔体(ミサイル)。1発は手前のハイベリアに突入し、少し遅れてもう1発が奥のハイベリアに突入する。爆音が2連続で峡谷に響き渡り、2体のハイベリアは肉片と化した。

 

「な、何が・・・」

 

 ハウリア族の1人が呆然としながら、自分達に襲いかかろうとしていたハイベリアが一瞬で肉片となり、その肉片の雨が周囲に降り注ぐ光景を見て呟いた。

 

 飛翔体は更に飛来する。仲間がやられたことで警戒していたハイベリアであったが、音速で突っ込んでくる飛翔体に反応できず、2体分の肉片が増えた。

 

 そして、ハウリア族の方へと橙色の人影が走って来る。よく見ると、それは鎧のようなもの(バリアスーツ)を纏った人型の存在であった。

 

 それが仲間の命を奪った存在であると判断したのか、残り2体のハイベリアはロックオンする対象をハウリア族から鎧の人型に変え、咆哮を上げて攻撃を仕掛けようとする。

 

 

 ハジメは、先に向かってきたハイベリアにグラップリングビームを打ち込んで地面に叩き付けると、その頭をチャージビームで吹き飛ばす。

 

 もう1体の方は大岩を割る威力を誇る尻尾叩き付けを繰り出してくるが、ハジメは冷静にメレーカウンターで尻尾を上方向に弾き返した。

 

 尻尾を弾き返された勢いで、逆方向に1回転するハイベリア。元の体勢に戻った時、その視界に映るものがあった。それは、砲口を輝かせるアームキャノン。直後、仲間と同じ末路を辿った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「無事だったのか!シア!」

 

「父様!」

 

 ハウリア族の中から歩み出てきたのは、濃紺の髪をした初老の兎人族の男性。ウサミミを生やしたおっさんという微妙な組み合わせである。シアは父親と抱きしめ合い、涙を流しながら互いの無事を喜ぶ。そして、シアは今までの出来事を父親に説明した。

 

 ハジメはその光景を温かい目で見守っていたのだが、そこにユエがやって来る。

 

「お父様、私も抱き締めてもらいたい」

 

 どうやら、シアと父親のやり取りを見て、自分も同じようにしたくなったらしい。

 

「しょうがないな。だが、今はスーツは脱げないぞ?それでもいいなら・・・」

 

 いつ新手のハイベリアが来るか分からない状況で、バリアスーツを脱ぐわけにはいかなかった。

 

「お願い」

 

 ハジメは姿勢を低くすると、飛び込んで来たユエを抱き締める。なお、バリアスーツを着ているので・・・

 

「ん・・・固い」

 

「まあ、そうだろうな」

 

 2人がそんなことをしている間に、互いの話が終わったのかシアと父親がハジメの所に近付いて来た。

 

「ハジメ殿でよろしいか?私はカム・ハウリア、シアの父でハウリア族の族長をしております。この度は我々を救ってくださり、ありがとうございます。この恩、一族総出で返させて頂きます」

 

 カムと名乗ったハウリア族の族長は、ハウリア族一同と共に深々と頭を下げた。

 

「それには及ばない。こちらとしては、樹海の案内さえしてもらえれば十分だ。しかし、亜人族は人間族に対していい感情を持っていないと聞いていたが・・・」

 

 彼らは人間族によって仲間を失っており、更には峡谷に追い詰められている。それにも関わらず、彼らは人間族のハジメに対して一族総出で恩を返す意志を示した。生き残るにはそれしかないと割り切っている可能性もあったが、彼らからは嫌悪感のようなものが一切見えなかった。

 

 ハジメの疑問に対して、カムは苦笑いで返した。

 

「シアが信頼する相手です。ならば我らも信頼しなくてどうします。我らは家族なのですから」

 

 それに対するハジメの感想は「警戒心が薄すぎないか?」の一点に尽きる。ハジメは彼らが一族全体を家族として扱うほど絆の深い種族であることは知っていたが、仲間が信頼しているからといって初対面の人間族を信用するとは、人がいいにも程がある。だが、簡単に信用してもらえるに越したことはない。

 

「聞きたいことがあるのだが、構わないか?」

 

「えぇ、答えられる範囲でしたら」

 

「〈鳥人族〉という言葉に聞き覚えはあるか?」

 

 ハジメがそのようなことを聞いた理由、それは鳥人族という存在を亜人族がどれ程認識しているか調べるためである。エルダーが言っていた予言が失伝している可能性もあるため、フェアベルゲンとの無意味な争いを避けるためにも必要なことだ。

 

「鳥人族ですか。勿論、知っております。昔、フェアベルゲンの前身だった亜人族の国が魔人族に襲われた際、異世界から現れた鳥人族の戦士達の助力によって撃退に成功したという話が残っておりますので。その鳥人族も、何処かへと消えてしまったようですが」

 

 少なくとも、鳥人族という存在は認識されているらしい。そして、鳥人族の戦士の存在から、ソウハ族以外にマオキン族もこの世界に来ていたと思われる。また、カムによるとハジメのバリアスーツと戦士の鎧は酷似しているらしい。

 

「そういえば、小耳に挟んだ程度の話なのですが、各種族の長老には鳥人族に関するとある予言が伝わっているそうです。内容までは分かりませんが」

 

「なるほど、それを聞いて安心した」

 

 鳥人族の予言は忘れられていない。そのことに安堵するハジメであった。

 

「もしかして、ハジメ殿は鳥人族と関係があるのですか?鎧もよく似ていますし・・・」

 

「関係もなにも、俺のスーツは鳥人族が作った代物だ。それに・・・俺自身、鳥人族の遺伝子を継いでいる」

 

 鳥人族の後継者、南雲ハジメによって救われたハウリア族。後に、彼らはハジメに忠誠を誓い、亜人族の守護者として名を馳せることとなる。

 




次回はVS帝国兵です。帝国兵の運命やいかに!?


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

24話 脱出


「メトロイド サムス&ジョイ」を読み始めました。サムスとジョイの掛け合いが最高ですね!


 

 ハジメ達はハウリア族を引き連れて峡谷を進んでいた。

 

 すぐ後ろを子供を乗せたジャガーノートが速度を落とした状態で付いてきており、多くの魔獣は装甲車を恐れて接近してくることはない。散発的に接近してくる大型の魔獣がいたが、基本的に頭部へのチャージビーム1発で沈められていた。

 

 大型の魔獣を一撃で屠るその光景を見たハウリア族達が畏敬の念をハジメに向ける一方で、車内から見ていた子供達はハジメの姿をまるでヒーローのように認識している。

 

 ハジメは、そのような子供達に対する対応を心得ていた。以前、パイレーツから解放した惑星の多くで現地の子供達から手を振られたり、キラキラとした眼で見つめられることがよくあった。そして、ハジメの基本的な子供達への対応はサムズアップすることだった。

 

 魔獣を屠りながらしばらく進んでいたところ、一向は遂にライセン大峡谷から出られる場所の付近に到達した。ハジメはジャガーノートを停止させると、出口の方をズームして見る。

 

 そこには岸壁に沿う形で壁を削って作ったと思われる立派な石の階段が存在していた。その階段は、約50mで反対側に折り返す構造になっていた。そして、岸壁の向こう側には樹海が薄っすらと見えている。その樹海は、この出口から徒歩で半日の所にあるらしい。

 

「帝国兵はまだいるでしょうか?」

 

 シアは、ハジメに不安そうな声で話しかける。

 

「どうだろうな?仮にいた時は、俺が何とかする」

 

「何とかするって、ハジメさんは同族と戦うつもりですか?」

 

「そういうことになる。そもそも、ハウリア族を守るという契約だ。それを妨害する者は、たとえ人間であろうと排除させてもらう」

 

 ハジメ自身、ヒューマノイド系の種族と交戦したことが何回もあった。その大半は銀河を荒らすならず者であり、捕縛よりも殺傷することが多かった。

 

「はっはっは、ハジメ殿は契約に忠実ですな。ならば、我々も全力で樹海を案内させていただきます」

 

 カムは朗らかに笑う。ギブ&テイクの関係に基づき、互いの義務を果たすために動く。そこに、善意も悪意もない。カムは、その関係の方が信頼できると判断していた。

 

「ユエ、俺は帝国の連中と交渉(ドンパチ)してくる。ハウリア族のことを頼む」

 

「ん・・・分かった」

 

 すると、ハジメは高く跳躍して岸壁の向こう側に姿を消す。その数十秒後、何発かの爆発音と帝国兵の悲鳴が響き渡った。

 

 

 

 

 

 体に風穴を開けたり、手足があらぬ方向へ曲がった帝国兵の遺体が折り重なるようにして倒れている中に、ハジメは立っていた。この惨状を作り出したのは、勿論ハジメである。

 

 接敵した直後、いきなりミサイルを放って帝国兵の足元に着弾させ、その爆風によって前衛の多くを吹き飛ばした。そして、後衛が撃ってきた魔法を最小限の動きで回避しながら、パワービームの速射で1発につき1人に風穴を開けて全滅させたのだ。

 

 ハジメはちょうど、帝国兵の隊長格と思われる生き残りにアームキャノンを突き付け、尋問しているところだった。

 

「吐け。お前達が捕えた兎人族はどうした?それなりにいたはずだが、帝国に送ったのか?」

 

「た、多分…て、帝国に…移送済みだ…人数は絞った…ガ…ガハッ…」

 

 情報を吐いた直後、その帝国兵は血を吐いて息絶えた。死因は、爆風を受けたことによる内蔵の損傷であった。

 

「ユエ、来ていいぞ」

 

 ハジメはユエに通信を送る。数分後、ハウリア族を引き連れたユエがやって来た。一帯の惨状を見たハウリア族は、口を押さえて「ウッ…」と気持ち悪そうにしていた。

 

「ハジメさん、本当にやっちゃったんですね…」

 

「あぁ、そうだ。俺は帝国兵を皆殺しにした。彼らに罪はない」

 

 帝国兵達はあくまでも任務の1つとして亜人狩りを行っており、彼らは任務を遂行していただけだった。だが、運の悪いことにハウリア族の護衛をしていたハジメと出会ってしまった。彼らには守るべき家族がいるだろう。しかし、ハジメにも守るべきものがいた。これは、生存競争である。弱き者が喰われ、強い者だけが生き残る。今の場合は、帝国兵が弱き者になっていたに過ぎない。

 

「何人かくらいは逃がしてあげてもよかったのでは・・・」

 

 シアの発言から、ハウリア族がかなりの平和主義であることが分かる。ハジメは帝国兵を逃がさなかった理由を語ろうとしたのだが、ユエがハジメの代わりに答えを言ってくれた。

 

「1人でも逃がしたら、間違いなく増援を連れて戻ってくる。お父様は、無駄な争いを避けるために全員殺したのだと思う」

 

「ユエ、その通りだ。1人でも生かしていれば、終わらない戦いが始まってしまう。帝国が捜索に乗り出すかもしれないが、報復のつもりで来られるよりはマシだ」

 

「そう…ですよね…」

 

 シアはそう言って暗い表情で俯いてしまう。

 

「シア…悲しいかもしれないが、この世界は残酷だ。優しさのみでは生きてはいけない」

 

 そして、ハジメはハウリア族達を帝国兵が残していった馬車と馬の所に案内し、分乗してもらうことにした。

 

「そういえばハジメ殿、あの乗り物は置いて行ってしまうのですか?」

 

 カムは、階段の前に停めてあるジャガーノートのことが気になっていた。

 

「心配は無用だ。すぐに呼ぶ」

 

 アームキャノンを操作すると、ホバリング機能で空を飛んできたジャガーノートがハウリア族の近くに着陸する。それを見たハウリア族は、一斉に口をポカンと開けて唖然としていた。

 

 子供達を乗せたジャガーノートに馬車を連結させ、馬に乗る者と分けて一向は樹海へと出発した。なお、帝国兵の遺体に関してはハウリア族に手伝ってもらい、全てを丁重に埋葬した。

 

 

 

 

 

 私、シア・ハウリアは気付かされました・・・逃げているだけでは、何も変わらないということを。戦わなければ、生き残れないということを。

 

 今はハジメさんによって守られていますが、樹海の案内が終わったら私達は敵から逃げる生活に逆戻りです。フェアベルゲンだって、助けてはくれません。

 

 だから、私は決めました。私だけでも戦えるようにするため、ハジメさんとユエさんに頼んで鍛えてもらうことを。

 

 私は、今まで家族に守られて生きてきました。だから、今度からは私が父様達を守ろうと思います。

 

 私には魔力があります。鍛えればきっと、私の武器になってくれるはずですし、魔法だって使えるかもしれません。

 

 樹海に着いたら、鍛えてくれるようハジメさんに頼み込もうと思います。

 

 争いに関わるのは、私1人だけで十分なんです。もう、私は逃げません!

 

 

 一匹のウサギが、覚悟を決めた瞬間であった。

 



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

25話 新たな戦士達

フェアベルゲンに行く前にハウリアの強化が入ります。


「ハジメさん、私を鍛えてください!お願いします!」

 

 帝国兵を突破したハジメ達。彼らはハルツェナ樹海の入り口付近で休憩していたのだが、シアは深く頭を下げると、ハジメにとある頼みごとをしてきた。

 

 それは、自分自身が戦えるように鍛えて欲しいという頼みだった。

 

「別に構わないが・・・何故だ?」

 

 ハジメは元より、ハウリア族による樹海の案内が完了した後にシアを戦士として鍛えるつもりだった。

 

 樹海の案内が終われば、ハジメという盾を失ったハウリア族は再び窮地に陥ることは確実である。そのため、ハウリア族には戦える存在が必要なのだ。

 

 魔力を持っているシアのポテンシャルは、ハウリア族の中で最も高いと言える。彼女を戦士として鍛えれば、魔力による身体強化も相まって間違いなく化けるだろう。

 

 ハジメは、シアが自ら頼み込んで来るとは予想していなかった。そこで、シアにその理由を聞いた。

 

「私は今まで、家族みんなに守られて成長してきました。魔力を持った私の存在がバレた時だって、みんなが一緒に樹海を出てくれました。だから、今度は私が家族を守りたいんです!」

 

 シアは、覚悟を宿した表情でハジメに言う。その一言一言には、明らかに強い意識が宿っていた。

 

「君の覚悟は分かった。君を戦士として鍛えよう」

 

「あ、ありがとうございます!今度から、師匠って呼ばせてもらいます!」

 

 シアの表情がパッと明るくなる。

 

「ただし、ハウリア族全員にも戦士としての教育を施させてもらう」

 

 それに対し、ハウリア族がどよめく。

 

「ハジメ殿、私達もですか?」

 

 耳を疑った族長のカムがハジメに聞く。

 

「そうだ。たとえシアが戦えるようになったとしても、それではシア1人に過度に負担が集中する。それを避けるためにも、ハウリア族全体の戦力を底上げする必要がある」

 

「それもそうですな。娘に守られてばかりの父親になりたくはありませんから。ハジメ殿、宜しく頼みます」

 

 こうして、シアを含めたハウリア族はハジメによる戦士としての教育を受けることになった。

 

 鳥人族の戦士に鍛えられた男が、今度はハウリア族を戦士として鍛える。戦士の魂が、再び受け継がれる時が来たのだ。

 

 

 

 

 

 ハウリア族を鍛えるに当たり、ハジメはいくつかの準備を行っていた。1つは、ハウリア族が寝泊まりするための拠点だ。

 

 拠点は強固な防壁に守られており、アザンチウム鉱石でコーティングすることで最高クラスの防御性能を誇る。

 

 更に、クローキング装置による光学迷彩で完全にカモフラージュされ、周りから拠点が見えることはない。そして、防衛兵器としてビームタレットを複数設置している。

 

 もう1つは、ハウリア族が使用する武器の用意だ。オルクスに行く前に錬成の練習で製作した武器の数々に加え、追加で刃渡り30cm程のコンバットナイフを製作している。その黒い刃は精密錬成の技能によって極薄に整形されており、切れ味は抜群。タウル鉱石製なので、高い強度を誇っている。

 

 なお、コンバットナイフを大量に生産している内に、“複製錬成”という技能が出現した。文字通り、ある物の構造を記憶して、3Dプリンターのように全く同じ構造の物を錬成することができる技能である。

 

 準備に関しては、これで完了だ。今度は、実際に彼らを鍛えることになる。

 

 いきなり魔獣や人間と戦わせるのは流石に無茶なので、最初は武器の扱いを叩き込む。教科書など存在しないため、ハジメの体に染み付いている合理的な実戦の動きを教えていくだけだ。ハウリア族は索敵能力と隠密能力に長けているため、いずれは奇襲と連携に特化した特殊部隊になっていくだろう。

 

 ここまではハウリア族全員に共通するカリキュラムなのだが、これ以降はシアだけハジメを相手に訓練することになる。

 

 動きに慣れてきた所で、シア以外のハウリア族には訓練用ホログラムを相手に戦闘訓練を行ってもらう。この訓練用ホログラムの投影装置はオルクスの隠れ家にあったものであるが、一時的にオルクスに戻ったハジメがエルダーから借りていた。

 

 映し出されるホログラムは、スーツの戦闘記録から構築したものであり、帝国兵とスペースパイレーツ戦闘員、魔獣の3種類が存在する。ホログラムにパイレーツ戦闘員がいるのは、ハウリア族を対パイレーツ用の戦力にするというハジメの思惑があるからだ。

 

 ハウリア族がホログラム相手に訓練している一方、シアは魔力の操作をユエに教えてもらい、戦闘に関してはハジメの指導を受けていた。

 

 そして、一週間が経過する。ハウリア族はついに小型魔獣を相手に実戦訓練に入った。ハジメは当初、温厚な彼らが実際に敵を殺すことを拒否するのではないかと考えていたが、それは杞憂に終わる。温厚な彼らも生きるためには狩猟が必要であり、生物を殺めた経験があったからだ。

 

グサッ!

 

 ネズミのような魔獣の頭部にコンバットナイフが突き刺さり、その魔獣は絶命する。そのナイフを突き出したのは、族長のカムだった。

 

「お嬢、今日の目標は達成しましたよ」

 

 カムはノルマの達成をユエに報告する。そのユエの近くには、ベビーメトロイドが浮遊していた。

 

「ん・・・お疲れ。とりあえず、シアとお父様が戻ってくるまで待機」

 

 ハジメがシアに付きっきりで指導しているため、ユエはベビーと共にその他のハウリア族を監督していた。

 

 毎日、定めた数だけ魔獣を狩るということを繰り返しており、必ず最初に目標を達成して帰ってくるのがカムだった。

 

 続々とハウリア族が目標を達成して戻ってくる。ボウガンを肩に担ぐ者、小太刀を逆手持ちする者、両手にジャマダハルを装備する者など、個性に溢れているのだが、例外なく全員が返り血を浴びていた。

 

「「「「総員41名、ただいま戻りました!」」」

 

 返り血ウサギと化したハウリア族がユエの前に整列し、大声で帰還を報告する。

 

「ん・・・血生臭い。全員、交代で水浴びしてから再集合」

 

 あまりの臭いに思わず鼻をつまんだユエは、ハウリア族に水浴びを命じた。

 

「「「了解!」」」

 

 

 

 

 

「前よりも動きが良くなっているな」

 

「ユエさんが魔力操作を教えてくれたお陰です。もちろん、師匠が動きを叩き込んでくれたお陰でもありますよ」

 

 ハウリア族が水浴びに行った数分後、ハジメとシアが会話しながら戻ってくる。

 

 シアは、この数週間の修行で大きく変わった。ユエの指導によって魔力による身体強化を学び、それを駆使したパワフルな戦闘が可能になったのだ。

 

 そんなシアの使う武器は、彼女のパワーを最大限活かすことのできる大槌であった。その扱いに関しては、ハジメの教えた棒術がベースとなっている。

 

「お父様、シア、帰ってきた」

 

 帰ってきたことに気付いたユエは2人の元に駆け寄ると、いきなりシアの巨乳に顔を埋める。

 

「ユ、ユエさん?!何やってるんですか?私、汗臭いですよ!?」

 

「大丈夫。私、シアの臭い大好き」

 

 ユエはクンクンと犬のようにシアの臭いを嗅ぐ。さらに、その胸を揉み始めた。

 

「ユエさん・・・そんなに揉まれると、変な声でちゃいますよぉ///」

 

 シアの顔は真っ赤に染まっていた。一方のユエは恍惚の表情を浮かべている。なお、ハジメはその光景から目を反らしていた。

 

 ユエとシアの関係は修行が始まった当初よりも確実に深まっており、修行の終了後にスキンシップをするのが恒例になっていた。2人のスキンシップは、回を重ねる毎に激しさを増している。

 

「ユエ、そのくらいにしておけ。ハウリア族が戻ってきたぞ」

 

 スキンシップを中断したユエが周囲を見ると、整列したハウリア族が顔を赤くしながら全力で目を反らしている光景が映った。

 

 

 

「カム、全員揃っているか?」

 

「はっ、大将。総員41名、全員集合済みであります」

 

 ハジメは、ハウリア族から敬意を表して大将と呼ばれており、娘のユエはお嬢と呼ばれていた。

 

「本日の訓練、ご苦労だった。お前達も、シアと同様に見違えたな。あのハウリアが嘘のようだ」

 

 ハウリア族は大きく変化した。悪意から逃げるだけだった者達が、自らの力で悪意に抗えるようになったのだ。なお、それと同時にハウリア族の口調が堅苦しい軍人のようになってしまった。

 

「我々を拾ってくださった大将のお陰であります。大将がいなければ、今頃どうなっていたことか・・・」

 

 その間、整列しているハウリア族達は直立不動であり、左右に体が揺れることもなかった。

 

「お前達に、とある贈り物を用意している。俺に付いてきてくれ」

 

 ハジメはオルクスの指輪を指に嵌めると、オルクスの隠れ家に続くゲートを開く。そのままハジメはゲートに入っていき、その後にハウリア族とシア、ユエ、ベビーが続いた。

 





シアとユエのイチャイチャ?を少し入れてみました


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

26話 鎧の軍団


ハウリア族の強化その2です


 

 ハジメ達はオルクスの隠れ家を訪れていた。

 

 すぐさま周囲を警戒するハウリア族。彼らは未知の場所に連れてこられた訳であるが、訓練された彼らは今までのように怯えることはなく、何処から敵が来ても反撃できるように備えていた。

 

「師匠、ここはどこなんですか?」

 

 ハジメが彼らの速やかな動きに感心していると、シアが自分達の連れてこられた場所について聞いてきた。

 

「ここはオルクス大迷宮の最深部だ。ここには鳥人族の設備が数多く残されている。それと・・・総員、警戒を解いていいぞ」

 

 ハウリア族は警戒を解き、殺伐とした雰囲気が消散した。

 

「オルクス大迷宮・・・ということは、ここは地下の深い場所ということですな。この光景からは想像もつきませんが・・・」

 

 カムは言う。オルクスの隠れ家の内部には自然環境が再現されているのだが、地下深くに地上と同様な自然が広がっていることなど、誰に想像できるだろうか。

 

「師匠、向こうから誰か来ましたよ」

 

 シアが指差したのは、建物群の方向。そこから向かってきたのは、エルダーバードという名の鳥人族。彼は一同に対してお辞儀すると、ハジメの方を向いた。

 

「後継者殿、1週間ぶりですな」

 

「エルダー、大量の装備を作らせてしまってすまない。あなたには感謝している」

 

「礼には及びません。あなたをお支えすることが私の使命ですから」

 

 そして、エルダーバードはハウリア族の方を向いて挨拶する。

 

「はじめまして、ハウリア族の方々。私はエルダーバード、鳥人族の技術者です」

 

「私はカム・ハウリアと申します。ハウリア族の族長を務めさせて頂いております」

 

「カム殿、話は既に伺いました。あなた方の受けた仕打ちに、胸を痛めております」

 

 エルダーバードはそう言いながら、胸に手を当てながら頭を下げる。

 

「まさか、亜人の国が魔力を持つ同族に対して、あそこまで迫害するようになってしまったとは・・・」

 

 エルダーバードの知識にある亜人族の国は、魔力を持って産まれた同族を差別するようなことはなく、魔力を持った亜人による部隊も存在していた。

 

 エルダーバードはハジメを通して現在の亜人族の国・・・フェアベルゲンの状態を知ることになり、嘆いていたのだ。

 

「あなた方を支援するため、全員分の装備を製作させていただきました。必ず、役に立つはずです」

 

 すると、エルダーバードは黒い腕輪のような物を取り出し、カムに手渡す。

 

「これは?」

 

「これはパワードスーツの待機形態です。腕に付けた後、鎧を纏うイメージを頭に浮かべてください」

 

 カムは言われた通りに腕輪をはめ、鎧を纏うイメージを頭に浮かべる。すると、腕輪を起点として装甲が広がっていき、最終的にオリーブグリーンとダークグリーンのパーツで構成されたパワードスーツがカムの全身を覆った。

 

「おぉ・・・」

 

 カムは手を開いたり閉じたりして、パワードスーツの感覚を確かめる。これは、ハジメとエルダーが開発した量産型パワードスーツであった。

 

 最低限のパワーアシストとエネルギーシールド、自己修復機能が付いているこのスーツは、このトータスどころか地球上においてもオーバーテクノロジーと呼べるだろう。

 

「カム殿、ヘルメットの左側に触れるとヘルメットの前面を開閉することができますよ」

 

 このスーツのヘルメットには黄緑色に発光する半透明なバイザーが装備されており、前面の大半がそれに覆われている。カムが頭の左側に手を添えるとバイザーが上方向に開き、顔が露になった。

 

 ちなみに、ヘルメットに入りきらないウサミミに関しては上部にある2つの穴から出す方式にしており、ヘルメットの展開と同時に丈夫なバイオ素材でウサミミが覆われる。

 

「スーツを解除する時は、鎧を脱ぐイメージを浮かべてください」

 

 カムは鎧を脱ぐイメージを頭に浮かべ、パワードスーツを解除した。

 

「カム殿、1度それをお返し頂きたいのですが」

 

 カムは腕輪を外すと、エルダーに手渡す。そして、エルダーと入れ替わるようにしてハジメが話し始めた。

 

「皆、これから先ほどのパワードスーツを配布するのだが、これから名を呼ばれる者は前に出てきてくれ。まずは、カム」

 

「はっ!」

 

 呼び出され、前に出るカム。さらに、6人のハウリア族が呼び出されていく。

 

 パル、ラナ、ミナ、ヤオ、ヨル、リキ。彼らとカムは、ハウリア族の中でも上位ランクに位置する戦闘能力の持ち主である。そんな彼らが、ハジメの前に横1列で並んだ。

 

「お前達はハウリア族の中でも特に優秀な戦士だ。そこで、7人には先程のスーツよりも少々性能の良いものを与えることにした」

 

 カム達に渡されたのは、赤いラインの入った黒い腕輪。早速、彼らはスーツを展開する。

 

 展開されたスーツの大まかな見た目は先程のものと変わらない。だが、各種機能も向上している他、背部にはスラスターが追加されている。そして、分かりやすいように右肩が赤く塗装されていた。

 

「では、残りを配布する」

 

 ハウリア族はハジメの前に列を作ると、1人1個の腕輪を受け取っていき、カムに渡したものも合わせて41人にパワードスーツが行き渡った。だが、ハウリア族は42人であり、シアだけスーツを受け取れていなかった。

 

「あの、師匠・・・私だけ受け取れてないんですけど・・・もしかして、忘れられてますぅ?」

 

 ハジメが横を見ると、シアが涙目でこちらを見ていた。

 

「安心しろ、忘れてなんかいない。シアにはまた別のスーツを用意している。付いてきてくれ」

 

 シアが案内されたのは、ある建物の一室。様々な機械がひしめく薄暗い部屋だったが、明るい場所が1つあった。それは、透明な素材に覆われたカプセル状のデバイスであり、人が一人入れる程の大きさであった。

 

 そのデバイスの中に入っていた物は、バリアスーツによく似たパワードスーツであり、カラーリングは白と水色の二色だった。装甲が薄くなったり削減された部位の存在が認められ、所々で線維状の軟質素材が露出している。そして、アームキャノンが装備されていなかった。

 

「バリアスーツを量産化したスーツだ。俺の物より性能は下がるが、カム達に渡したものよりは高性能だ。これを、君に授ける」

 

「これを私に?こんなに凄い物、私なんかが貰っていいんですか?」

 

 シアは謙遜してハジメに聞く。

 

「シア、君は俺の立派な弟子であり、ユエの友達であり、大事な仲間だ。このスーツは、君への信頼の証だ」

 

「うぅ、師匠・・・ありがとうございますぅ」

 

 ハジメに認められた嬉しさで、涙目になるシア。そのまま、彼女はハジメに抱きついた。

 

 普段なら、ハジメは抱きついてきたシアを訓練の一環で制圧しているだろう。だが、今だけは黙ってシアを受け入れていた。この光景は、数分間続いた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「では、スーツに触れてみてくれ。そうすれば、一瞬で装着できるはずだ」

 

「はい、師匠」

 

 カプセル状のデバイスが開き、内部に保管されていた量産型バリアスーツが外気に晒される。シアは、ハジメに言われた通りにスーツへ触れる。

 

 量産型バリアスーツが発光すると、次の瞬間にはシアの体がバイオ素材で構成された装甲に覆われていた。

 

「師匠、まるで私の体の一部のような感覚がします」

 

「あぁ、バリアスーツはバイオ素材で構成されているからな。シアの感じた通り、バリアスーツは装着している間に体と一体化している」

 

 当然ではあるが、シア用のバリアスーツの頭にもウサミミを通すための穴が空いており、カム達と同様にウサミミはバイオ素材で保護されている。

 

 そして、2人はハウリア族やエルダーバード、ユエ達が待つ場所に戻った。

 

「父様!見てください!師匠がくれました!」

 

 シアはカム達の前でクルクルと回ったり、跳び跳ねたりしながら、量産型バリアスーツを着た姿を見せつけており、喜びを体全体で表現していた。

 

「我が娘がこんなにも立派になろうとは・・・私は今、とても感激している!」

 

「ん・・・シア、かっこいい」

 

 シアの姿を見て、カムとユエが感想を言う。特に、カムは感激して号泣しており、それに釣られてハウリア族全員が号泣していた。

 

「大将、お嬢、エルダー殿・・・我々のために訓練を施してくださるどころか、このような装備を作ってくださり、感謝しております。我々はこの命の続く限り、あなた方に忠誠を誓う所存であります」

 

 総員41名のパワードスーツ軍団が、ハジメ達を前にして跪いた。

 

「この先、大きな戦いが待っている。お前達はその際に中心となって戦うことになるが、俺はお前達の実力を信じている。必ず、お前達は勝利をもたらす鍵となるだろう」

 

「「「了解!」」」

 

 この日、人知れず最強のパワードスーツ軍団が完成した・・・・いや、完成してしまったのである。





パワードスーツのイメージは銀河連邦軍(OtherM)のパワードスーツです。


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

27話 振るわれる力

毎回、誰かしらが空気になってる気がする


 パワードスーツの配布が終わった翌日、ハジメはハウリア族にスーツの慣熟訓練を命じ、シアに対しては今まで通りにマンツーマンで対応していた。

 

「よろしくお願いします!師匠!」

 

 シアはいつものように元気のいい様子でハジメに挨拶し、一礼する。

 

「あぁ。では、スーツを装着してくれ」

 

「はい!」

 

 ハジメとシアが同時に白い光に包まれ、バリアスーツの姿に変わる。ちなみに、シアの方の装着はハジメが完了した1秒後に完了していた。展開速度の差は、経験と精神力の差である。

 

「少し展開速度が遅いな。場合によっては、即座に展開しなければならないこともあるだろう」

 

「はい・・・善処しますぅ」

 

 この瞬間、シアの気分はゼーベスの地表(クレテリア)から最深部(ツーリアン)まで叩き落とされた。

 

 量産型バリアスーツは、オリジナルのスーツよりも展開する際の精神力を要しない代物であったが、あくまで「比較的」という程度である。カム達のパワードスーツより展開の難易度はずっと高い。数秒で展開できただけ、十分に称賛すべきものだろう。

 

「だが、2回目の装着にしては上出来だった。いいセンスだ」

 

 ハジメはシアのことを思って厳しくするが、褒めることも忘れない。かつてハジメを戦士として鍛えたレイヴンも、同じようにしていたからだ。

 

「いいセンス・・・ですか。えへへ、師匠に褒められちゃいました」

 

 シアはそう言いながら体をクネクネさせて喜びを表現する。SF風なパワードスーツがそんな動きをしていることを考えると、中々に滑稽な光景である。

 

 だが、そんなシアの側頭部を1発の光弾が掠った。装甲に掠ったというより、エネルギーシールドに掠ったというのが正解なのだろうが。

 

「し、師匠!?」

 

 無論、撃ったのは敵ではなくハジメである。

 

「すでに戦闘訓練は始まっている。実戦では、一瞬の油断も命取りになるぞ」

 

 スーツを纏った時点で、訓練は始まっていた。

 

「俺は飛び道具を一切使わない。何処からでもかかってくるといい」

 

「今日こそ、師匠をぶちのめします!」

 

 シアは戦鎚を構えると、背部のスラスターを吹かして突進する。そのまま、ハジメに向けて戦鎚を振り下ろした。

 

 だが、青くスーツを発光させたハジメがバックする形で後方へ数メートル高速移動したことで、空振りに終わり、地面が激しくひび割れる。

 

 これは、オルクス大迷宮を攻略したことで入手したエーテルアビリティ、フラッシュシフト。前後方向への短距離高速移動を3回まで連続で行えるアビリティであり、その際にはスーツが青く発光する。

 

「まだですぅ!」

 

 戦鎚の一撃が空振りに終わったシアだったが、まだ諦めていない。地面に食い込んだ戦鎚を手前に力強く引くことでハジメの方へと飛んでいき、構えなおした戦鎚を横薙ぎに振るった。

 

「やるな。だが・・・」

 

 ハジメはその場で屈んで戦鎚を回避し、振り上げたアームキャノンで戦鎚を弾き飛ばす。シアの注意が上空の戦鎚に一瞬向いた瞬間、ショルダータックルを食らわせて吹き飛ばした。

 

「うわっ!?」

 

「気を取られるな」

 

 スラスターの噴射を併用し、シアへ向けて一気に踏み込むハジメ。その右腕は弓を引き絞るように後ろに下げられており、放たれる瞬間を待っている。

 

 遅れて反応したシアは左腕を振りかぶっており、クロスカウンターを狙っているのだろう。直後、両者の拳が放たれた。

 

「あっ、参りましたぁ・・・」

 

 結果はハジメの勝利だった。シアの横っ面にアームキャノンの先端が当たっており、シアの拳は体を傾けたハジメに躱されていた。

 

「武器を失った時は、格闘戦への移行をスムーズに行え。自分の体こそが最大の武器だからな」

 

「はい、師匠!」

 

 そして、当たり前かのように2人はもう一戦しようとして向かい合うのだが、それは1本の通信で中断される。

 

「お父様、シア、緊急事態。ハウリア族が・・・」

 

 それは、ユエからの連絡。ユエにはスマホ型の通信機を持たせており、スーツとの間で通信できるようになっていた。そして、ユエはハウリア族の監督をしていたのだが・・・

 

「父様達に何かあったんですか?!」

 

 真っ先に反応したのは、当然ながらシアだ。

 

「ハウリア族が帝国軍を襲撃しに行った」

 

「帝国軍を襲撃・・・目的はもちろん復讐のためだろうな。ハウリア族が負けるとは思えないが、様子を見に行くぞ。ユエ、すぐにそちらへ向かう」

 

「ん・・・待ってる」

 

 ハジメとシアは、取り敢えずユエとの合流を目指して移動を開始した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「貴様ら、一体何なんだ?!」

 

 帝国軍の部隊長である男は異形の鎧を装着した集団に包囲されていた。黒い刃の刀剣類で武装し、緑の装甲に身を包んだその集団は、少しずつ包囲の輪を狭めていく。

 

 彼の配下は既に全員が死体と化しており、どの死体もバラバラ殺人事件の様相を呈していた。そして、流れた彼らの血によって地面は赤黒く染め上げられた。

 

「我々は、貴様ら帝国軍のクズ共によって同胞を奪われた者」

 

 そう言いながら出てきた1人が、尻餅を付いている部隊長の前に立ち、前面が半透明な素材で覆われた面妖な兜を外す。

 

 兜の下から現れたのは、濃紺の髪とウサミミが特徴的な初老の兎人族。ハウリア族族長兼司令官のカムである。

 

「兎人族だと?!くっ、貴様らのような獣風情が帝国に楯突くなど、到底許されることではない!いつか貴様らは裁きを受けることになるぞ!」

 

 相手が亜人であると気付いた帝国軍の部隊長は喚き散らす。自分が追い詰められているにも関わらず、出てくるのは亜人に対する蔑みの言動である。

 

「そうだ、今から私を解放してくれるのであれば、寛大な処置を約束してやる!認めたくはないが、貴様らは強い。雇ってやってもいいぞ!」

 

 そんな様子の部隊長に呆れたらしいカムは、ため息を吐くと同時にコンバットナイフを引き抜き、部隊長の首に突き立てた。

 

「仇は取ったぞ・・・」

 

 今殺された男は、直接的な仇というわけではない。しかし、帝国軍であることには変わらないため、カム達からすれば仇を取ったことに等しかった。

 

 カム達は喜びの声を上げるようなことはせず、全員が俯いている。ヘルメットを被っているため、その表情は見えない。唯一分かるのは、帝国によって奪われた仲間のことを想起しているということだろう。

 

 急に、ザーッと雨が降り始める。降り注ぐ天然のシャワーは、装甲に付着した返り血と地面に染み込んだ血を洗い流す。そして、雨に打たれながら接近してくる3体の人影と1体の浮遊する影があった。

 

「カム、全て説明してもらおうか?」

 

 影の正体はハジメ達だった。ハジメとシアはバリアスーツを装着し、ユエは予備のパワードスーツを着用することで雨を防いでいる。なお、ベビーは雨ざらしの状態である。

 

「はっ、大将・・・」

 

 カム達が帝国軍を襲撃した理由は、やはり仲間の仇討ちであった。あの時、帝国軍に捕まったハウリア族は商品価値の有無で振り分けられ、価値無しとされた者はその命を奪われているのだから。そして、残りは帝国に連行されていった。

 

 今までのハウリアなら、敵から逃げるだけで復讐を考えることは無かっただろう。だが、ハジメによって鍛えられ、装備を与えられた彼らは、敵を返り討ちにできるだけの力を手に入れた。

 

 誰しも、力を手に入れたら振るいたくなるもの。帝国軍に対する復讐が主目的である彼らだったが、純粋に力を振るいたいという意思もあったのだとカムは正直に語った。

 

「いかなる処罰も受けるつもりです」

 

「いや、今回は不問とする。いずれは、帝国軍を相手に対人戦をやらせるつもりだったからな。そのタイミングが早まっただけだ」

 

 ハジメは、カムに罰を与えなかった。

 

「これ以降は不用意に力を振るうことを禁じる。その力は、自らを守る力。それを振るっていいのは、自分や家族に危機が迫った時のみだ」

 

「了解しました、大将。寛大な処置に感謝いたします」

 

 この日、ハウリア族は初めての対人戦を経験し、力を振るう目的を改めて認識した。

 




次回、ようやくフェアベルゲンに行きます


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

28話 霧の中で

樹海突入です!
原作と異なり、戦闘はハウリアが担当します!


 ハジメ達はハルツェナ樹海の入り口に集結していた。外側から見る限りでは草木が鬱蒼と生い茂る森にしか見えないのだが、中に入ると一瞬で霧に覆われてしまうのだという。

 

「カム、後は任せる。俺とユエでは迷うのが確実だからな」

 

「お任せください」

 

 濃い霧に覆われた樹海の中では視界が塞がれ、自分が何処にいるのか分からなくなってしまう。だが、感覚の鋭い亜人族は迷うことなく樹海を通り抜けることができるのだ。

 

 この霧はXレイバイザーを妨害することが確認されており、どう足掻いても霧を透視することは不可能である。

 

「これより、各行動隊は樹海内に散開し、本隊周辺の脅威の排除と並行してフェアベルゲンの警備隊の位置を捕捉、報告せよ」

 

 カムの指令を受け、パワードスーツを装備した4〜5人で構成される7つのチームが樹海に散開していく。その場に残ったのは、スーツの右肩を赤く塗ったカム達7人の精鋭。そして、バリアスーツを纏ったハジメとシアの2人とユエも残っている。

 

 ハジメは、カム達精鋭の7人のことを〈レッドショルダー〉と呼称している。彼らのスーツの肩が赤く塗られているのが、名前の由来である。

 

「大将、お嬢、それでは行きましょう」

 

 散開した7つの行動隊に続き、本隊も樹海に足を踏み入れた。ハジメ達の周りをレッドショルダーが囲む形で、霧に包まれた道無き道を進んでいくのだが、カムの足取りに迷いはない。

 

 時折、散開した行動隊が撃ち漏らした魔獣が接近してくるが、最高戦力であるハジメが動くまでもない。

 

 ある時、襲いかかってきたのは腕が4本ある体長60cm程の猿。そんな彼らが3体、霧を掻き分けるようにして飛びかかってきた。

 

 そのうちの1体が、先頭のカムに迫る。

 

「分かりやすい動きだ」

 

 カムはバックステップで飛びかかりを回避すると、コンバットナイフを構えて踏み込み、その黒刃を連続で振るう。すると、次の瞬間には猿の4本腕が宙を舞う。

 

「はっ!」

 

 黒刃を一閃。その首を飛ばされた猿は、その断面から血を吹き出した。

 

 2体目の猿が、頭に矢を受けて絶命する。矢が飛んで来た方向には、ボウガンに次弾を装填する小柄な戦士がいた。ハウリア族最強の狙撃手、パル君(11歳)である。

 

 未成年の兵士という存在は地球では問題になりそうだが、この世界では異世界から連れてきた未成年を戦わせたりするので、大丈夫だと思いたい。

 

「ふっ、止まって見えるぜ」

 

 信じられないかも知れないが、彼は11歳の少年である。

 

 2体の魔獣がカムとパルによって狩られたが、その隙に最後の1体がレッドショルダーの囲いをすり抜けてハジメ達に迫る。だが、ここでシアが動いた。

 

「どりゃぁぁぁ!!」

 

 上段に構えた戦鎚が振り下ろされる。身体強化とスーツのパワーアシスト、戦鎚に蓄えられた位置エネルギーが合わさり、その一撃をもって猿を叩き潰した。

 

「スーツの使い心地はどうだ?」

 

「前よりも体に馴染んできた気がします!」

 

 シアはそう言いながらピースサインを作る。

 

「それなら良かった。だが、戦いの際に必ず装着できるとは限らない。いざという時は生身で戦う心構えを持っておけ」

 

「はい、師匠!」

 

 そして、彼らが樹海に入ってから数時間が経過する。その間、魔獣の襲撃が何度かあったものの、レッドショルダー達とシアの敵では無かった。

 

〈こちら、行動隊01。フェアベルゲンの警備隊を捕捉しました。マーカーを打って位置を共有します〉

 

 すると、全員のバイザーにマーカーが表示され、警備隊の居る場所が共有される。

 

〈よくやった。各隊は打ち合わせの通りに行動せよ〉

 

「カム、ここからが重要になるぞ」

 

「はい、大将。我々ハウリアが成り上がる為の、重要な局面です。そして、大将が目的を完遂するためにも・・・」

 

 本隊は、警備隊の居る地点に向けて一直線に移動を開始する。案の定、数分で警備隊と真正面から接触した。

 

「貴様ら!何者だ!?」

 

 目の前に現れたのは、筋骨隆々の虎の亜人で構成された部隊だった。その全員が両刃の剣で武装しており、パワードスーツに身を包んだハジメ達を、殺気を放ちながら警戒していた。

 

 そして、隊長と思われる亜人の視線がユエに向けられる。

 

「人間族!?そうか、貴様らは奴隷狩りか!フェアベルゲンに手を出させはしないぞ!」

 

 ユエは吸血鬼族であるが、見た目は人間族そのものである。彼が勘違いするのも無理はない。一方のハジメはスーツを装着しているため、人間族だと認識されていない。

 

 そんな中、前に1歩踏み出したカムとシアがヘルメットを外し、素顔を亜人達に見せた。すると、隊長の視線がシアを捉え、その眼が大きく見開かれた。

 

「白い髪の兎人族…だと?なるほど、貴様らは報告にあったハウリア族だな!?亜人族の面汚し共め!同胞を騙し続け、忌み子を匿うだけでなく、今度は人間族を招き入れるとは!反逆罪だ!総員、かッ!?」

 

バスンッ!

 

 攻撃命令を出そうとした瞬間、1発の矢が彼の頬を掠り、背後の木に深々と突き刺さる。そして、それを皮切りに周囲から姿を現したハウリアの戦士達が警備隊を包囲した。

 

 急に起こった事態に、虎の亜人達は状況を飲み込むことができない。それどころか、四方八方からカミソリのような殺気を浴びせられ、心なしか浮き足立っているように見える。

 

(こいつら、本当にあの軟弱な兎共なのか!?まるで、命を確実に刈り取る処刑人じゃないか!)

 

 第二警備隊の隊長である虎の亜人は、冷や汗を流しながら内心で喚く。矮小な存在だったはずのハウリアの姿が、今では命を刈り取る凶刃を首元に振り下ろさんとする処刑人に見えていた。

 

 彼は確信した。攻撃命令を出した瞬間、先程の矢とハウリアが持つ黒刃が自分達に襲いかかり、生き残れる可能性が低いことを。

 

「大将、奴らを黙らせました」

 

「あぁ、後は俺が話をつける」

 

 ハジメはヘルメットのみを部分解除して前に出ると、警備隊の隊長のことを見る。

 

「人間族・・・何が目的だ・・・?」

 

 隊長はハジメを睨み付けて端的な質問をする。その目には、ハジメの返答によっては最後の一兵となるまで立ち向かうという覚悟が籠っていた。

 

「長老衆と話がしたい」

 

「長老衆と話をしたい…だと?何のために?」

 

 隊長は少し困惑する。樹海の亜人族を奴隷にするために来たのかと思えば、単純に長老衆と話がしたいという予想外の目的だったのだから。無論、それは嘘である可能性も彼の頭には浮かんでいたが。

 

「私は鳥人族の後継者だ。亜人族であれば、鳥人族の名ぐらいは知っているはずだが…」

 

「勿論だ。亜人の国を鳥人族が救ったという伝説なら知っている。しかし、人間族が鳥人族の後継者というのは…」

 

「私は鳥人族によって育てられ、その遺伝子を受け継いでいる。そして、七大迷宮の1つであるオルクス大迷宮を攻略したことで、鳥人族最後の生き残りから鳥人族の後継者として認められ、フェアベルゲンに向かうように指示された」

 

 隊長は、ハジメの言っていることが信じられなかった。人間族であるハジメが鳥人族に育てられたこと、遺伝子を受け継いでいること、鳥人族の生き残りから後継者として認められたということ等・・・普通なら戯言として切り捨てているだろう。

 

 しかし、ハジメはハウリアという戦力のお陰で圧倒的に優位な立場にある。そんな彼が適当なことを言う必要はなく、一言一言が確信に満ちているように感じられる。そこで、隊長はハジメに提案した。

 

「本当に長老衆と話がしたいのなら、少人数であればフェアベルゲンに案内してもよいと、俺は判断する。部下の命を無駄に散らしたくはないからな」

 

 隊長の言葉に、周囲の亜人達からは動揺する気配が広がる。何故なら、樹海に侵入した他種族を抹殺するのが通例だった彼らにとって異例の判断だったからだ。

 

「だが、1人の警備隊長に過ぎない私ごときが独断で下していい判断ではない。本国に指示を仰ぐ。長老衆ならば、何か知っておられるかもしれない。本当に含むところがないというのなら、伝令を見逃し、私達とこの場で待機しろ」

 

「その提案、承知した。私が鳥人族の後継者であることを伝えて頂きたい。あなた方の譲歩に感謝する」

 

 ハジメは彼の提案を受け入れ、感謝の言葉と共に頭を下げる。人間族が亜人族に頭を下げるという衝撃の光景に、亜人達は驚愕した。

 

「ざ、ザム!聞こえていたな!長老衆の方々に嘘偽りなく伝えろ!」

 

「了解!」

 

 ザムと呼ばれた虎の亜人は、包囲するハウリアの1人が退いた所を通してもらい、霧の中に消えていった。

 

 両者とも警戒を解くことはない。そして、樹海の一角を重苦しい雰囲気が支配する状態のまま約1時間経過した頃、霧の奥から数人の亜人が現れた。

 

 彼らの中央にいる初老の男が特に目立つ。美しい金髪、深い知性を感じられる碧眼、吹けば飛んでいきそうな細い体、先が尖った耳が特徴的であり、森人族であることが分かる。その威厳に満ちた顔にはシワが刻まれており、彫刻のような美しさを放っていた。

 

 ハジメは、彼が長老の1人であると推測する。

 

 ハジメの姿を見た長老(仮)は目を見開くと、威厳に満ちた姿を何処に捨ててしまったのか、腕をブンブンと振り回しながら、興奮したような様子で駆け寄ってくる。

 

 周囲のハウリア達は彼の正体を知っているのか、彼を止めることをしない。そんな彼はハジメに近づくと、バリアスーツの表面をペタペタと触り始めた。

 

「おおっ!この鎧は鳥人族が作ったものに違いない!丸い肩、腕の火を吹く筒、橙色の装甲!まさしく、“鳥人族の後継者”の予言にある装備だ!」

 

「・・・」

 

 彼の挙動を見て、この場にいるハジメを含めた全ての者がドン引きする。皆、口をポカンと開けており、微妙な空気が流れた。

 

「おぉ、すまんな…少し興奮してしまった」

 

 流石に周りの微妙な空気に気付き、バリアスーツに触るのを止めてハジメから少し離れると、気を取り直して名乗った。

 

「私はアルフレリック・ハイピスト、フェアベルゲンの長老の座を一つ預からせてもらっている。お前さんの名は何という?」

 

「私は南雲ハジメと申します、長老殿」

 

 ハジメは、誰の血も流すことなく亜人族の長老の1人と接触することに成功した。

 





○行動隊
→アークナイツの影響
○レッドショルダー
→元ネタは某最低野郎

この作品のハジメは、話す相手によって一人称が変わります。


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

29話 偽りの調和


意見がぶつかり合うシーンは難産すぎる…

今回の話、今までで最大の字数だったりする


 

「話は聞いている。お前さんは、鳥人族の後継者を名乗ったそうだが」

 

「はい、その通りです」

 

「その後継者だが、鳥人族の後継者として認めるための条件が2つある。1つは、鳥人族の装備を身に付けていること。一応、その点に関しては合格しているようだが」

 

 先程、アルフレリックがハジメのバリアスーツを見て口走った内容こそ、鳥人族の装備の条件。肩の球状の防楯、右腕のアームキャノン、橙色の装甲の3点である。

 

「もう1つは、解放者の作った大迷宮のいずれかを攻略しているということ。何かしら、攻略した証拠を見せてもらえないだろうか?」

 

「証拠か…」

 

 証拠を求められ、首を捻るハジメ。だが、そこでユエが提案する。

 

「お父様、オルクスの指輪は?」

 

「あぁ、そうだな」

 

 ハジメは“宝物庫”から指輪を取り出してアルフレリックに見せる。彼は指輪に刻まれた紋章を見ると、目を見開いた。

 

「なるほど、お前さんは大迷宮の1つを攻略したようだ。お前さんを鳥人族の後継者と認め、フェアベルゲンに招待しよう。もちろん、ハウリアも一緒にな」

 

 アルフレリックの発言に周囲の亜人達が驚愕の表情を浮かべ、激しい抗議の声も上がる。それもそのはずだ。今まで、フェアベルゲンに人間族が招待されたことなど無いのだから。それに、あの鳥人族の後継者が憎き人間族であったということも、抗議の一因だろう。

 

「彼は鳥人族の後継者として、客人として扱わねばならん。その資格を持っているのでな。それが、長老の座に就いた者にのみ伝えられる掟の1つなのだ」

 

 アルフレリックは長老衆の1人らしく威厳を発揮し、厳しい表情で亜人達を宥める。

 

「感謝します、長老殿」

 

 そして、ハジメ達はフェアベルゲンに案内されることになった。先程まで睨み合っていたハウリアと虎人族の戦士達が共同で周囲を固め、ギルの先導で霧の中を進む。

 

 移動している間、アルフレリックは長老衆に伝えられる掟の内容について語った。

 

「かつて、【ハルツェナ樹海】の大迷宮を創始したリューティリス・ハルツィナが複数の鳥人族を伴い、自らが“解放者”なる存在であることと、鳥人族による予言を伝えました」

 

 エルダーの言っていた通り、鳥人族は解放者の1人と共に予言を伝えていた。なお、亜人族は解放者がどのような存在であるか知らない。

 

 その予言では、はるか未来の樹海に“鳥人族の後継者”が現れるとされており、どのような者であっても敵対してはならず、保管されている鳥人族のアイテムを譲渡した上、“大樹ウーア・アルト”へと案内することになっていた。

 

 そして、“鳥人族の後継者”の条件として鳥人族の装備の有無と大迷宮攻略の有無があった訳だが、後継者と敵対してはならない理由として十分と言える。何故なら、大迷宮を攻略した者の実力は途轍もないものであり、そこに鳥人族の強力な装備が加わるからだ。

 

「大樹?」

 

「樹海の最深部にある巨大な樹木のことだ。我々はその周囲を聖地としているのだが、本当の大迷宮の入り口がそこに隠されていると伝わっている」

 

「やはり、樹海自体は大迷宮ではなかったということか。道理で樹海の魔獣が弱かった訳だ…」

 

 大迷宮の魔獣は通常の魔獣と比べて強力であり、一筋縄で倒せない相手も多い。バリアスーツだって無敵ではない。爪熊やヒュージ・バグ、ヒュドラといった連中であれば、スーツを纏ったハジメを倒すことは不可能ではない。

 

 こうして暫く歩いていると、まるで一本の道を形成するかのように霧が晴れている場所に出た。霧との境目には青く光る拳大の結晶がいくつも埋め込まれており、それが霧を防いでいるようだ。ハジメはその結晶に関心を持ち、アルフレリックに尋ねた。

 

「あの結晶は?」

 

「あれはフェアドレン水晶というものだ。あれの周囲には、何故か霧や魔獣が寄り付かない。フェアベルゲンも近辺の集落も、この水晶で囲まれている。ただし、魔獣に関しては“比較的”という程度だが」

 

「なるほど、それは便利だ」

 

 集落に霧が存在しない事実は、ハジメ達にとって朗報だった。霧が余程鬱陶しかったのか、それを聞いたユエはどことなく嬉しそうに見えた。

 

 霧のトンネルを通り抜けると、目前に巨大な門が現れた。太い木同士が絡み合ってアーチを形成し、10mはある木製の両開きの門がどっしりと構えていた。防壁もまた木で作られており、高さは30m程であった。

 

 この門こそが、亜人の国“フェアベルゲン”への入り口である。ギルが門番に合図すると、重そうな音と共に扉が少しずつ開いていく。

 

 門番達は、怪しい集団が来たことに動揺しているようだった。長老であるアルフレリックがいなければ、いきなり戦闘となってもおかしくなかっただろう。

 

 ハジメ達は、シアと精鋭の7人以外のハウリアの戦士をその場に残し、計10人のメンバーで門をくぐる。そこには、別世界が広がっていた。

 

 直径が10mもある大木が乱立し、その太い幹の内部には居住スペースが作られている。大木同士は吊り橋や渡り廊下で接続されており、その間を人々が盛んに行き来する。また、滑車を利用したエレベーターのような機構や空中水路等も整備されていた。

 

 その光景に、ハジメは感嘆した。

 

「素晴らしい……まるで、鳥人族の調和の思想が形になったようだ…」

 

 鳥人族は高度な機械文明を有しているが、自然環境との調和・共存を重視している種族であり、惑星ゼーベスでは自然環境をそのまま残したエリアが多く存在する。

 

 また、モジュール機能が搭載されているハジメのパワードスーツは様々な技術を装備として取り込むことができ、彼らの調和の思想を体現していると言ってもいいだろう。

 

「ふふ、どうやら我らの故郷を気に入ってくれたようだ。このフェアベルゲンの街は、鳥人族に倣って自然と調和するように作られている」

 

 美しい街並みにハジメが感嘆する一方、隣のユエは口をポカンと開けて見惚れている。そんな2人の様子にアルフレリックは微笑み、亜人達もどこか誇らしげだった。

 

 そのようなこともあり、亜人族がハジメとユエに対して抱く印象は少なくとも良好であった。そして、2人はハウリア族を連れて彼の用意した場所に向かった。

 

 

 

 

 

「なるほど……試練に神代魔法、それに神の盤上か…」

 

 ハジメとユエは、オルクスの隠れ家で知った世界の真実や王国の状況をアルフレリックに話した。解放者のことや神代魔法のこと、ハジメが神の使徒の一員として異世界から召喚されたこと、神代魔法を全て集めると元の世界に帰るための手段を入手できる可能性があること等が主な内容だ。

 

「解放者がそのような存在だったとは……まあ、真実を知ったところで世界が我々に厳しい事実に変わりは無いが…」

 

 神が狂っているかどうかに関係無く、魔人族と人間族の双方に奴隷として狙われている現状は変わらない。この場所には教会の権威など無く、信仰心もない。一応、亜人族には自然崇拝の文化があると同時に、鳥人族に対する崇拝があるようだ。

 

「とにかく、今後の話だが…」

 

 ハジメは長老衆に伝わる掟によってフェアベルゲンに招き入れられたが、ハジメは人間族である。本来ならば許されることではない。そして、全ての亜人族が事情を知っているわけではないため、事情を周知していくためにも今後の話をする必要があった。

 

 その時、階下から怒号が聞こえてきた。階下にはシア達が待機している。階下で何か良からぬことが起こっていることは確実であり、ハジメとアルフレリックは顔を見合わせて同時に立ち上がると、状況を確認するために降りていった。

 

 階下では、ハウリア族が数人の亜人族と睨み会っていた。大柄な熊人族、虎人族、狐人族、背中に翼を有した翼人族、ドワーフのような土人族がそれぞれ1人づついる。

 

「忌み子は抹殺してやる!」

 

 突然、身長2m半はある大柄な熊人族の男がシアに殴りかかる。熊人族は腕力と耐久力に優れた種族であり、一撃で野太い木の幹をへし折るだけのパワーを持つ。そんな存在に殴られれば、ただでは済まないだろう。

 

 階下に降りてきたハジメとアルフレリックが最初に見たのは、そのような瞬間であった。

 

 周囲の亜人達はシアが一撃で叩き潰される光景を幻視しただろうが、シアは普通の兎人族ではない。魔力による身体強化を発動すれば、彼女は熊人族に匹敵する力など簡単に出せる。それに、彼女はハジメから直々に訓練を施されているため、力だけでなく技の面でも強い。

 

 次の瞬間、亜人族達は衝撃の光景を見た。

 

「なにぃ!?」

 

 それは、可愛らしい兎人族の少女が熊人族の拳を片手で受け止めている光景。叩き潰すつもりで自慢の豪腕を振るった張本人は、驚きの声を上げていた。

 

「意外と軽いですね」

 

 シアは熊人族を背負い投げして床に叩きつけると、そのまま取り押さえて動きを封じる。熊人族は逃れようと暴れるが、シアから逃れる術はない。兎人族に制圧されるなど、彼にとっては屈辱的だろう。

 

「アルフレリック!貴様、なぜ人間族を招き入れた!?この忌み子とその一族もだ!場合によっては、長老会議で貴様に処分が下ることになるぞ!」

 

 取り押さえられ、生殺与奪の権を握られた状況の熊人族の男。彼は階下に降りてきた2人に気付くと、鋭い視線でアルフレリックを睨み付け、剣呑さを声に乗せて発言する。その他の亜人達も同様に睨み付けていた。

 

 だが、アルフレリックは平然としている。

 

「長老衆に伝わる掟に従ったまでだ。お前達も長老ならば、事情は理解できるはずだ」

 

「何が口伝だ! そんなもの眉唾物ではないか!フェアベルゲン建国以来一度も実行されたことなどないぞ!」

 

「だから、今回が最初になるのだろう。それだけのことだ。お前達も長老なら口伝には従え。それが掟だ。我ら長老の座にあるものが掟を軽視してどうする」

 

「“鳥人族の後継者”が人間族であるなど、俺は認めないぞ!我々にとって人間族は不倶戴天の敵だ!」

 

「だが、彼は条件を全て兼ね備えている。人間族を憎む気持ちは分かるが、彼こそが“鳥人族の後継者”なのだ」

 

 フェアベルゲンでは、能力の高い幾つかの各種族の代表が長老となって長老会議に参加し、国の方針を決める仕組みをとっている。ここに集まっている亜人達こそ、当代の長老達だ。

 

 ちなみに、現在進行形で取り押さえられている熊人族の長老はジンという名であった。ジンは少し考え込むと、1つの結論を出した。

 

「一歩譲って、“鳥人族の後継者”が人間族であることに俺は目をつぶろう。だが、忌み子とその一族に関してはそうはいかない」

 

 次に、ジンはカム達を睨み付ける。なお、シアによって取り押さえられている状況は変わっていない。

 

「魔力を持った忌み子は危険分子だ!それを匿ったハウリア族は罪人の一族!忌み子も含め、すぐに処刑しなければならない!」

 

 熊人族の族長ジン・バントンは、忌み子に対する迫害の急先鋒と言える存在だった。熊人族の中で最強の戦士であるジンに逆らえる者は同族の中にもおらず、長老会議でも幅を利かせていた。

 

「聞きたいことがある」

 

 ジンの発言に思うところのあったハジメは、彼にあることを聞く。

 

「忌み子というのは本当に危険な存在なのか?シアを見ている限り、そうとは思えない」

 

 忌み子を危険分子とする彼の思想に、ハジメは異を唱える。忌み子に分類されるシアは可憐な16歳の少女であり、家族を守るために戦う優しい存在だ。

 

 シアを直々に訓練したハジメには、シアが彼の言うような危険分子であるようには見えなかった。

 

「その忌み子があなた方に危害を加えたことがあったか?」

 

「そんなこと知るか!忌み子は魔獣に等しい存在!同胞に危害を加える前に排除するのは当然のこと!」

 

 どうやら、忌み子が危険な存在であると勝手に決めつけて排除しているらしい。ハジメは、そんなフェアベルゲンの姿勢は間違っていると判断する。

 

「なら、言わせてもらおう。この街は鳥人族の調和の思想を元に作られたと聞いたが、それは見かけ倒しだったらしい」

 

「貴様、フェアベルゲンを愚弄するか?!」

 

「決めつけだけで魔力持ちの亜人を排除する行為は、調和の思想からかけ離れている。鳥人族は個体によって様々な能力を持ち、その能力を研究・活用することで文明を発達させてきた。魔力持ちを保護することは、フェアベルゲンに更なる繁栄をもたらすだろう」

 

 その発言に思うところがあったのか、長老達は一斉に視線を下げる。

 

「この化け物と共存しろとでも言うのか?たった今、俺に危害を加えているではないか!」

 

 そこで、ユエが初めて発言する。

 

「それは、あなたが先に殴りかかったから。攻撃されたら反撃する。それは当たり前のこと」

 

 ユエはシアの友人であり、同類だ。化け物と呼ばれてもおかしくない能力を持っている。ジンがシアを“化け物”と呼んだことを、彼女は許せなかった。

 

「くっ……だが、俺はこのような化け物が同胞から生まれることが気に入らない!」

 

 もはや、彼の忌み子嫌いは筋金入りといっても過言ではない。

 

「シア、流石に我慢の限界だろう。もっと反撃したらどうだ?」

 

 忌み子、危険分子と連呼され、ついには化け物などと罵倒されれば、誰だって相手を殴りたくなるだろう。それをしばらく我慢してきたのだから、その精神力は称賛すべきものだろう。

 

「はい…師匠…」

 

 直後、ジンの首元にシアの手刀が振り下ろされ、彼は意識を刈り取られた。

 

「ゴホン。現時点において、熊人族の長老ジン・バートンは長老としても執務を遂行する能力を一時的に喪失した。よって、熊人族は不参加として今回の長老会議を執り行う」

 

 ジンが気絶した直後、会議の議長であるアルフレリックは咳払いすると、熊人族の長老が不在のまま長老会議の開始を一方的に宣言した。

 





書き終わって思った。ジンさん、ずっと取り押さえられたままハジメ達と会話してる…

会議のシーンはダイジェストになるかも


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

30話 フェアベルゲンは燃えているか

今回、初の6000字越えです!


「南雲ハジメ。我らフェアベルゲンの長老衆は、お前さんを“鳥人族の後継者”として認める。また、本日をもって魔力を持って生まれた同胞に対する差別的な扱いを廃止し、保護するものとする」

 

 熊人族不在で始まった長老会議は、最終的に2つの結論を出した。1つは、ハジメを“鳥人族の後継者”として認定すること。もう1つは、魔力持ちの亜人に対する迫害をやめて保護するということだ。それに伴い、シアとハウリア族は無罪となる。

 

 長老会議での決め事は全会一致が原則であるのだが、ハジメを“鳥人族の後継者”として認めることについては、すんなりと全会一致で可決した。条件と完全に一致していたし、亜人達に対して差別的なこともしなかったため、印象が良かったのだろう。

 

 ただ、忌み子に対する差別撤廃に関しては一悶着あった。森人族のアルフレリックは勿論のこと、元より差別意識がそこまで強い訳ではなかった狐人族のルアや翼人族のマオはすぐに賛成したが、比較的過激派の部類に入る虎人族のゼルと土人族のグゼは難色を示した。

 

 ゼルは同族がハウリア族によって包囲されたことを、グゼは仲の良かったジンがシアによって制圧されたことをそれぞれ根に持っており、反対派へ回るに至った。

 

 一応、ゼルはグゼと比べてそこまで頭に血が上っていなかったため、説得に応じて最終的に賛成派へ回っている。熊人族が不慮の事故で不参加だったことが、過激派の劣勢に拍車をかけているといっていい。

 

 最後までしぶとく抵抗していたのがグゼであった。アルフレリックら穏健派の説得では殆ど効果がなく、穏健派と何らかの裏取引をしたゼルが説得したことで、ようやく全会一致となった。

 

「このように我々は決定したわけだが、基本的に亜人族は魔力を持った他種族を嫌う。我々の通達を無視してお前さんやハウリア族を襲おうとする、血気盛んな者がいる可能性も否定できない。もしもその時は、襲った者達を殺さないで欲しい」

 

「可能な限り努力はしましょう」

 

 殺意を持って向かってくる相手を不殺で制圧するのは難しい。やり過ぎれば相手を殺してしまうし、中途半端にやれば自分の命が危うくなるからだ。

 

「すまんな…」

 

 “鳥人族の後継者”として認められたハジメは、大樹への案内とアイテムの譲渡を受けることになったのだが、大樹の周囲は亜人族が迷う程に霧が濃く、その霧が薄くなる周期が10日後に来るらしく、大樹への案内はお預けとなった。そして、その日の内にアイテムが譲渡されることになった。

 

「ここには鳥人族の遺産が残されている」

 

 ハジメ達はフェアベルゲンの地下に案内された。この場所は、長老衆やその他認められた者しか入ることのできない区画となっている。アルフレリックの先導で通路を進んでいくのだが、その壁には古代鳥人族の戦士の壁画や刻印された鳥人族の文字が多く見受けられた。

 

「フェアベルゲンの地下にこんな所があったんですね!何だかワクワクします!」

 

 まるで、遊びに来たかのようにシアが騒ぐ。

 

(おいおい、ここはテーマパークじゃないぞ…)

 

 ハジメはそんなシアに、内心ツッコミを入れた。

 

 そうこうしている内に、彼らは通路の終点に辿り着く。そこは少し広い空間となっていて、通路と同様に壁画が見受けられた。そして、奥には鳥人像が座っており、その手にはアビリティスフィアが握られている。

 

 アルフレリックはハジメ達の前に出ると、鳥人像を背にして宣言する。

 

「本日をもって、当該遺産を“鳥人族の後継者”南雲ハジメに引き渡すものとする」

 

 アルフレリックが鳥人像の前から退いた後、ハジメはアビリティスフィアをパワービームで撃ち抜き、中のアイテムはスーツに吸収された。

 

『スペイザーを入手しました』

 

『出力が高められた3本のビームが同時に発射され、攻撃範囲が広がります。なお、ディフュージョンビームとの併用は不可能です』

 

 ハジメはスペイザーを入手した。主に一対多の戦闘で使用され、ディフュージョンビームと役割が重なってしまうが、最大チャージが必要なそれとは異なり、このビームは手数の面で優れている。

 

 することを終えたハジメ達は地上に戻るのだが、そこでは大きな異変が起きていた。

 

 地上に出てすぐに飛び込んできたのは、人々が同じ方向に逃げている光景だった。人々が来た方向では、フェアベルゲンの街を構成している大木の数々が炎に包まれ、焼け落ちていく。

 

 激しく炎上し、黒煙が立ち上るその区画を闊歩する者達がいた。それも、ただ歩き回っているわけではない。兵士や逃げ遅れた人々を虐殺して回っており、女子供に対しても慈悲はない。すぐさま、死体の山に放り込まれる。

 

 甲殻類や昆虫を人型にしたような彼らは装甲を身に纏っており、個体によって差異はあるものの、右腕に射撃武装、左腕に近接武装を装備するスタイルで統一されている。彼らはスペースパイレーツ。ハジメの宿敵である。

 

 そのスペースパイレーツが、フェアベルゲンに襲来したのだ。ハジメが確認しただけで、その数はおよそ100体。彼らは技術レベルでトータスの先を行っており、強力な武装によってフェアベルゲンの兵士達を蹴散らしていた。

 

「スペースパイレーツ…何故、ここに?」

 

 ハジメとしては、パイレーツがフェアベルゲンに攻めてくることなど想定外であった。霧に包まれている樹海は、亜人族でなければ迷ってしまうのだから。

 

 だが、驚いている暇など無い。宿敵であるスペースパイレーツが現在進行形で破壊活動に勤しんでおり、それを止める以外の選択肢は存在しないのだ。

 

「長老殿、連中は私の宿敵…スペースパイレーツです。あなた方の装備では連中に勝てません。そこで、撃退を我々に任せてくれないだろうか?」

 

 ハジメは、襲撃を受けたことに動揺していたアルフレリックに提案する、

 

「ありがたいが、この国にはお前さんのことをよく思わない者もいるだろう。それでも、お前さんはこの国を守るのか?」

 

「私は、罪無き人々が連中によって傷つけられるのを黙って見ていられません。私のことをよく思わない人々であっても然りです。私は、戦って信頼を勝ち取ります」

 

 ハジメは、自身を良く思わない者も救うつもりだった。そして、彼らを救うことで信頼を勝ち取ろうとしていた。

 

「お前さん……いや、南雲殿…」

 

 そんなハジメに圧倒されたアルフレリックは、思わず彼に対する呼び方を変える。

 

「フェアベルゲンを…亜人族を頼む…」

 

 アルフレリックはハジメに頭を下げた。

 

 

 

「師匠…フェアベルゲンが…燃えてます…」

 

「ん……酷い…」

 

「なんて鬼畜な連中だ…こいつらが、大将の言っていたスペースパイレーツ…」

 

 シアが、ユエが、カムが口々に言う。皆、言いたいことは同じだ。他のハウリア達も無残な光景に嘆いたり、スペースパイレーツへの怒りを露わにしている。が、ハジメは沈黙していた。

 

 内心、ハジメは怒りに震えていた。だが、今のハジメはハウリア達の指導者的存在でもある。指導者たるもの、冷静さを欠いてはいけないのだ。

 

「これから我々はスペースパイレーツと交戦する。その為、近接武装の振動刃機能の使用を許可する。そして、パルはビームボウガンの使用を許可する」

 

 すると、カム達は各自の得物を取り出し、スイッチを入れて振動刃機能を点検していく。

 

「この時を待ってたぜ」

 

 一方、狙撃兵のパルは、弓の部分を垂直に配したボウガンのような武器を手にする。これはビームボウガンという武器であり、これもまたハジメが製作したものだ。後部のハンドルを引くことでエネルギーをチャージし、放すことで長射程・高威力の一撃を発射できる。なお、連射できないことが弱点である。

 

「ユエ…シア……これから厳しい戦いになるかもしれない。力を貸してくれ…」

 

「お父様、覚悟はできてる」

 

「師匠のためなら頑張れますよ!」

 

 2人ともやる気は満々である。更には、ユエのリュックの中からベビーメトロイドも飛び出してきて、自分もやる気があると言わんばかりに一回転し、俊敏態に姿を変えるとユエを騎乗させた。

 

「ありがとう。ユエ、シア、ベビー」

 

 戦う者達が出揃った。ユエとベビーを除いた全員がパワードスーツを装着している。

 

 ユエがパワードスーツを装着しない理由は、パワードスーツを装着している際の感覚があまり得意でないからだ。というのも、スーツが体に密着している感覚から、奈落に封印されていた時のことを思い出してしまうらしい。

 

 防御面で心配があるが、ユエには“自動再生”があるし、飛び道具を自動的に弾くリフレクター*1をハジメが持たせている。一応、雨が降っていたり周囲が過酷な環境でスーツを装着しなければならない状況であれば、その辺の事情も割り切ることができるようだが。

 

「フェアベルゲンは一部が連中によって占領され、そこにいた人々は多くが虐殺されている。我々の後ろには、まだ多くのフェアベルゲンの人々がいることを忘れるな」

 

 ハジメ達がいる場所はフェアベルゲンの中心部であり、背後には入ってきた門が見える。そして、パイレーツの攻撃を受けた地域から避難してきた人々で溢れている。

 

「各自、散開して敵に対処しろ。戦闘開始!」

 

 ハジメの合図で戦士達は散開し、逃げる人々の流れに逆らって戦場に向かった。

 

 

 

 

 

「パイレーツ共!この俺が相手になるぞ!」

 

 パイレーツ達はそれを見た。幾度と無くパイレーツの前に立ち塞がり、多くの同胞を殺してきたパワードスーツの戦士の姿を。そして、彼らが仰ぐ新たな指導者と瓜二つなその姿を。彼らは、その姿に動揺した。

 

 ハジメはアームキャノン内でエネルギーを増幅し、浮き足立つパイレーツの集団に向けて放つ。最大威力のビームが3発同時に放たれ、横並びになっていた3体のパイレーツを同時に撃破した。

 

 隊長と思われる少し練度が高いパイレーツが反応して発砲するが、手遅れだ。ハジメは既に“瞬発”によって地面を蹴っており、放たれた光弾の下を低い姿勢で通過して至近距離に迫る。

 

「グギャァ!?」

 

 そして、アームキャノンによる正拳突きが頭に叩き込まれる。その一撃で頭の外骨格が歪み、続けて砲口から発生した爆発で完全に粉砕された。

 

「さて、次は誰から殺られたい?リクエストには答えてやる」

 

 その瞬間、パイレーツ達が次々と襲いかかってきた。

 

 左側から斬りかかってくる敵の頭を裏拳で砕き、同時に右側の敵を最大チャージのスペイザービームで掃討する。前方の集団に対してはスーパーミサイルを発射し、その強力な爆風で纏めて始末した。

 

 その隙を狙って背後のパイレーツが発砲するが、瞬時にモーフボールに変形して回避し、そのまま転がることでパイレーツの後ろに回り込むと、人型に戻る。

 

「残念だったな」

 

 背後からパイレーツの首を絞めながら、その首にアームキャノンを突き付け、ビームを最大チャージして放つ。至近距離から放たれたそれは、パイレーツにとって致命的な攻撃であった。

 

 同じ頃、別の場所でシアが戦っていた。

 

 瓦礫の物陰から量産型バリアスーツを纏ったシアが空に飛び出し、パイレーツの集団の頭上で戦鎚を上段に振りかぶる。

 

「うりゃぁぁぁぁ!!」

 

 落下しながら戦鎚を振り下ろし、シアは真下にいた運の悪いパイレーツを叩き潰す。その際の衝撃波は凄まじく、周囲にいたパイレーツを吹き飛ばしている。

 

「はっ!?」

 

 “未来視”が勝手に発動し、シアは自らに迫る危険を察知する。シアがその場を飛び退いた直後、飛来してきた球体が爆発した。

 

 その正体はグレネード。スーツを装着しているとはいえ、その直撃を受ければただでは済まないだろう。

 

「あなたの仕業ですか?」

 

 シアの目線の先、彼女から少し離れた場所にグレネードランチャーを装備したパイレーツ戦闘員、グレネードパイレーツが立っており、その周囲を10体程のパイレーツが固めている。

 

 パイレーツは宿敵(ハジメ)によく似た敵に対し、再びグレネードを放つ。発射されたグレネードは山なりの軌道を描いてシアに迫った。だが、シアは回避する以外の道を選ぶ。

 

「お返しです!」

 

 シアは飛来したグレネードを戦鎚で打ち返す。そのグレネードは発射した張本人の足元に落下し、爆発。周囲のパイレーツ達も巻き込まれ、仲間の武器で散る結果となった。

 

 直後、シアは四方八方から殺意に晒される。それは、最初の衝撃波で吹き飛ばされ、再び起き上がったパイレーツ達のもの。全員がボロボロになっているが、殺意だけは衰えないらしい。

 

「ここを、あなた達の死に場所にしてあげます!」

 

 シアは最も近くにいたパイレーツに狙いを定めると、一気に距離を詰めて横薙ぎに戦鎚を振るう。直撃を受けたパイレーツは内臓を損傷し、血と装甲の破片を撒き散らして吹き飛んだ。

 

 

 

「“風刃”」

 

 風の刃が飛び、パイレーツの首を切断する。ベビーに騎乗しているユエは、戦場を駆け回りながら弓騎兵の如く魔法を放っていた。

 

「行くよ、ベビー」

 

 パイレーツ達は素早く動き回るユエに翻弄されており、効果的な対応が全くできていない。射撃も尽く躱され、接近戦をしようにも近付くことすら許されない。

 

「“破断”」

 

 細いレーザーのような水流が飛び、パイレーツの1体を貫通する。移動しながら放ったために水のレーザーが水平移動し、進路上にいたパイレーツを次々と両断した。

 

「“緋槍”」

 

 射出された炎の槍がパイレーツの頭に深々と突き刺さり、パイレーツは脳の組織を焼き焦がされて死に至る。

 

 カム達も奮戦していた。

 

 カム達精鋭の7人は得意とする隠密行動と連携を駆使し、数で勝るパイレーツと対等に渡り合っている。

 

「タイミングを合わせろ……3……2……1……今!」

 

 陽動作戦でパイレーツを指定したポイントに誘い込んだ彼らは、物陰に隠れながらそれぞれの獲物の背後に接近し、カムのカウントで同時に襲いかかる。パイレーツ達は物陰に引きずり込まれ、その首を刎ねられた。

 

 同時に行われた襲撃にパイレーツは対応できず、隊長クラスのパイレーツが気付いた時には、配下の大半が消えている有り様だ。

 

 時折、戦場を一筋の光芒が走り、パイレーツの頭を一撃で撃ち抜いていく。これは、ビームボウガンを使用したパルによる狙撃である。

 

「狙い撃つぜ…」

 

 パルは木の上に陣取って狙撃している。敵に狙いを定め、後部のハンドルを引いてエネルギーをチャージ。ハンドルを離すと高威力で長射程のビームが吸い込まれるようにして敵の頭に直撃する。

 

 部隊が壊滅して散り散りとなったパイレーツなど、ただのカカシだ。残された選択肢は、首を刎ねられるか狙撃されるかのどちらかであるが、死という運命は変わらない。

 

 その後も、パイレーツ地上部隊はハジメ達によって蹂躙され続けた。ビームや魔法を撃ち込まれ、鈍器で叩き潰され、背後から首を刈り取られる。ハジメ達の攻撃に対し、パイレーツ達に為す術は無い。1人、また1人と同胞が倒れていき、数の上では有利だったはずのパイレーツの勢力が急速に衰退する。逃げ出す者も現れ、フェアベルゲンを襲ったパイレーツ地上部隊は壊滅した。

 

 この戦いは、ハジメ達の勝利に終わった。だが、忘れてはならない。スペースパイレーツの手によって多くの罪無き人々の命が奪われたということを。

 

 

*1
スマブラでスターフォックス勢が使う例のあれのイメージ




やっとモーフボールを出せた。


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

31話 大樹

先日、お気に入り登録していただいた方が200人を突破しました。評価とお気に入り登録ありがとうございます。

今回は久しぶりにプライムが出ます


「あらら、送り込んだパイレーツ達は壊滅しちゃったか。まあ、見ていて楽しかったから別にいいかな?」

 

 真の神の使徒プライムは、戦場となったフェアベルゲンを高空から眺めながら呟く。パイレーツ地上部隊をフェアベルゲンに送り込み、虐殺を行わせた犯人は彼であった。

 

「最高だったよ。僕は、弱者が一方的に殺される様を見ることが大好きなんだ。しかも、それを2連続で見れた。イレギュラー、君には感謝してるよ」

 

 1度目はパイレーツによる亜人族の虐殺。そして、2度目はハジメ達によるパイレーツの掃討作戦である。

 

 プライムが好むのは、弱者が強者によってその命を踏みにじられる光景。彼に倫理観などない。そして、洗脳して支配下に置いたパイレーツのことを自身と主を楽しませるための道具としか思っていない。

 

 彼は最初に、強者であるパイレーツが弱者である亜人族を虐殺する光景を楽しみ、次にそのパイレーツが更なる強者であるハジメ達によって蹴散らされる光景を楽しむなど、彼は残虐な存在である。

 

 一通り眺めた後、プライムはワープする。彼が次に出現したのは、樹海の中だ。周囲にはパイレーツの戦闘員が何体か立っており、その足元には亜人族の死体が転がっている。

 

「我らの光にして偉大なる指導者よ、この死体はいかがいたしましょうか?」

 

 プライムは捕らえた亜人族を利用してフェアベルゲンの位置を把握し、パイレーツ地上部隊をワープで送り込んでいた。

 

「見つかったら面倒だし、その辺に埋めておいて。そろそろ残党狩りが来るかもしれないし、速やかに離脱しよう」

 

 死体を適当に掘った穴に放り込んだ後、プライム達はワープで撤退した。プライムの暗躍は、まだ終わらない。

 

 

 

 

 

 あの惨劇から10日が経過した。

 

 その間、ハジメ達とハウリア族による残党狩りや被害地域の復興支援が行われており、パイレーツを撃退したこともあって、住民は彼らに対して総じて良い印象を持っていたし、フェアベルゲンを救った英雄として扱う動きがあった。

 

 特にシアは、扱いが魔力持ちの忌み子から救国の英雄に変わっており、その変化は手のひら返しといってもいいだろう。そして、ハウリア族は英雄の一族として扱われている。

 

 無論、当初は同胞ではないハジメやユエに対して、熊人族を中心に懐疑心を抱く者が少なくなかった。

 

 長老会議によって掟の内容が公表され、ハジメが“鳥人族の後継者”として、ユエがその娘として紹介されたとはいえ、他種族に対して排他的な彼らが2人を簡単に信用できるはずがない。

 

 だが、そんな2人の行動が彼らの態度を変える。それは、犠牲者の葬儀が行われた時のことだ。2人も参列していたのだが、他の参列者からは他種族ということで良く見られていなかった。

 

「すまない、君達を救うことができなかった…」

 

 だが、2人が犠牲者の墓標の前で膝をつき、目を瞑って冥福を祈ったことで、亜人族の態度が変わる。

 

 亜人族にとって、人間族は自分達のことを全く人として見ていないという認識が当たり前であり、一部の亜人族はハジメ達もそうであると考えていた。

 

 彼らはハジメとユエの行動を見て、2人が亜人族の死を悲しみ、冥福を祈ることができる者であることを知った。まだ、2人は全ての亜人族から支持されている訳ではないが、当初よりは関係が改善したといえる。

 

 そして10日目の今日、ハジメ達がフェアベルゲンを出発する時が来た。その見送りには英雄達を一目見ようと大勢の亜人族が詰めかけている。

 

「カム、本当に後は任せていいのか?」

 

「はい、大将。これ以降の復興作業及び樹海の防衛は我々ハウリア族が引き受けます」

 

 フェアベルゲンの軍隊に大きな被害が出たことで、臆病者から立派な戦士となったハウリア族は戦力として重宝され、巷では“亜人族の守護者”と呼ばれている。

 

 また、ハジメ経由で戦闘用鳥人像がフェアベルゲンに提供されており、ハウリアと共に防衛の任に就いている。

 

「そうか、後は任せる。それと、ベビーのことは頼んだ」

 

「お任せを。こちらこそ、我が娘のことをよろしくお願いいたします」

 

 旅立つに当たり、ハジメは弟子のシアを旅の仲間に加えることにした。そして、対パイレーツ用の貴重な戦力としてベビーメトロイドをハウリアの元に預けている。

 

「そういえば、新武装の使い心地はどうだ?」

 

 ハジメは、対パイレーツ用に新たな武装を製作してハウリアに配布していた。その武器の名は、ビームマシンガン。

 

 サブマシンガンのような見た目のそれは、横にレバーがついており、それを動かすことでビームを単射・連射・チャージショットの3種類に切り替えることができる。

 

「取り回しが良く、皆からは好評です。そして、射撃武器に適正のある者に全て配備済みです」

 

 ハウリア達は一応、射撃の訓練も受けている。その時点で適正が把握されており、その人数に合わせて製作していた。

 

 ハジメとカムが話し合う中、詰めかけていた人々の集団が2つに割れ、その間を通って2人の森人族が現れる。片方は長老のアルフレリックであり、もう片方は彼の面影がある金髪碧眼の美少女だった。

 

「南雲殿。大樹への案内には私と孫娘も同行させていただきます」

 

「アルテナです。ハジメ様、この前は危ない所を助けていただき、ありがとうございました」

 

 美少女の正体はアルフレリックの孫娘、アルテナ・ハイピストであった。森人族のお姫様的な存在であるアルテナは、ハジメに頭を下げる。10日前の襲撃の際、逃げ遅れたアルテナはパイレーツに殺されそうになっていた所をハジメに救われていた。

 

「いえ、当然のことをしたまでです」

 

(ハジメ様は素敵な殿方ですわ……強く、優しく、礼節をわきまえ、熊人族と違って驕り高ぶるようなことをしない…それに、あの時のハジメ様は…)

 

 アルテナはハジメに助けられた時のことを思い浮かべる。当時、彼女はパイレーツによって追い詰められ、ブレードが振り下ろされる1歩手前であった。だが、そこにハジメが現れたことで彼女は死の運命を回避した。

 

「怪我はないか?」

 

「ええ、大丈夫ですわ」

 

「なら、ここから移動するぞ。ここに留まるのは危険だ、君を安全地帯まで連れていく」

 

 その時、ハジメとアルテナはパイレーツによって包囲されてしまう。ハジメは彼女を背後に庇い、こんなことを言った。

 

「俺から離れるな。必ず君を助ける」

 

 この発言に他意はない。単純に、ハジメから離れなければ生きて帰れるという事実を伝えたに過ぎない。アルテナも一応それは理解していたが、吊り橋効果でもあったのか、彼女がハジメに好意を抱く一因となった。

 

(後でお祖父様から彼が人間族であることを聞いて驚きましたわ。でも、私達の知る人間族とは違い、ハジメ様は亜人を差別しないお方でしたわ)

 

「アルテナさん?」

 

「はっ!シアさん?少しボーッとしてましたわ」

 

 ハジメのことを考えて別の世界に旅立っていたアルテナは、シアの声で元の世界に引き戻された。ちなみに、アルテナとシアは友人の関係にある。

 

「お父様、揃ったみたいだから行こう?」

 

「あぁ、そうだなユエ」

 

 すでに大樹に向かうメンバーは集結済みだ。ハジメとユエ、シア、アルフレリック、アルテナ、そして何名かのハウリアの戦士である。

 

「シア、大樹に行くまでの先導は頼む」

 

「了解です、師匠!」

 

 出発の時が迫る。ユエとシアは、それぞれが大切に思っている存在に対して別れの挨拶をする。

 

「父様、行ってきます!」

 

「またね、ベビー…」

 

 いつも通り元気の良いシアとは対照的に、ユエは何処か寂しそうにベビーに手を振っていた。そんなユエを見たハジメは、ユエの頭を優しく撫でる。

 

「ユエ、ベビーとはまた会える…だから、それまで迷宮の攻略を頑張ろう」

 

「ん……もっと強くなった姿をベビーに見せてあげるためにも頑張る…」

 

 一方、カムは号泣していた。

 

「う、うっ…シア、必ず生きて帰ってこい…その時は、みんなで魔獣狩りにいこう…」

 

「大丈夫、私は絶対に帰ってきます!」

 

 シアは父親に対してサムズアップした。

 

「では、行こう」

 

 巨大な木造の門が開き、一行はそこを通り抜けるべく歩みを進める。詰めかけていた人々の歓声を背に受け、フェアベルゲンを後にした。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 シアに先導された一行は、15分程で大樹ウーア・アルトの下へ辿り着いた。

 

「……枯れている」

 

 ハジメの第一声。その通り、大樹は見事に枯れていた。想像と違ったのか、ユエの方は微妙な表情をしている。

 

 大樹と呼ばれるくらいなのでその大きさは途轍もなく、その幹の直径はおよそ50mはあると思われる。周囲の木々とは桁違いの大きさであるのだが、その大樹だけ葉が無かった。

 

「南雲殿、大樹は建国前から枯れていると伝わっています」

 

 アルフレリックが解説する。彼によると、今に至るまで朽ちることなく枯れたままの状態で残っており、神聖視される所以となっているらしい。なお、多くの亜人族は観光名所扱いしているとのことだ。

 

「ハジメ様、こちらへ」

 

 アルテナに案内されてハジメ達が大樹の根元に近づくと、そこに石板が建てられていた。

 

「指輪と同じだ…」

 

「ん…同じ文様」

 

 その石板には七角形とその頂点の位置に七つの文様が刻まれており、その文様の1つがオルクスの指輪の十字に円が重なった文様と同じだった。

 

「ここに大迷宮の入口があるようだな」

 

 ハジメは石板の回りをスキャンバイザーを駆使して調査していく。石板の裏側に回り込んだ時、あるものをハジメは発見した。それは、表側の7つの文様に対応する様に開けられている小さな窪み。早速、スキャンバイザーでスキャンする。

 


これらの窪みは、表の7つの文様に対応していると思われます。アーティファクト:オルクスの指輪をはめ込むことで、何らかの変化が生じる可能性あり。


 

 スキャンバイザーの解析結果に従い、ハジメはオルクスの指輪をはめ込む。すると、石版が淡く輝きだした。しばらく輝く石板を見ていると、次第に光が収まる代わりに文字が浮かび上がる。そこにはこう書かれていた。

 

“四つの証”

 

“再生の力”

 

“紡がれた絆の道標”

 

“全てを有する者に新たな試練の道は開かれるだろう”

 

「どうやら、迷宮への入口を開くには条件があるらしい。“四つの証”というのは、間違いなく迷宮を攻略した証のことだろうな」

 

「ん……“再生の力”と“紡がれた絆の道標”は?」

 

「ユエさん、紡がれた絆の道標はあれじゃないですか?亜人の案内人を得られるかどうか。それに、師匠は多くの亜人族から信頼されてますし」

 

「ん…なるほど。“再生の力”は、もしかして神代魔法?多分、私の“自動再生”とは関係無いと思う」

 

 ユエが試しに薄く指を切って〝自動再生〟を発動しながら石板や大樹に触れるが、変化はない。再生の力というのは、間違いなく神代魔法なのだろう。

 

「まとめると、七大迷宮の過半数を攻略した上で再生に関する神代魔法を入手し、亜人族の案内で大樹まで来いということだろうな」

 

 ハジメは再生に関する神代魔法……言うならば再生魔法で目の前の枯れている大樹を再生させる必要があると推測していた。

 

「ん……ということは今すぐの攻略は不可能ということ?」

 

「そうらしいな」

 

 ハジメはアルフレリックとアルテナの方を見る。

 

「長老殿、アルテナさん、私はここ以外の迷宮から先に攻略することにします。お世話になりました」

 

「いえ、フェアベルゲンと孫娘を救っていただいたのですから、お互い様です」

 

「ハジメ様、あなたが再びフェアベルゲンに来るときまで、首を長くしてお待ちしておりますわ」

 

 そして、ハジメは同行していたハウリアの戦士を集めて言う。

 

「俺が帰るまで、大樹とフェアベルゲンを死守するようにカムに伝えてくれ。それと、2人を無事にフェアベルゲンまで送り届けてくれ」

 

「「「了解しました!」」」

 

 

 

 

 

 その後、ハジメ達の姿はハウリアの拠点付近にあった。

 

「師匠、一体ここに何があるんです?」

 

「ん…ただの地面に見える」

 

 シアとユエが見る先にあるのは、何の変哲もない地面であり、樹海であるというのにそこだけ木々が生えていない。

 

「まあ、見れば分かるさ」

 

 ハジメはコマンドバイザーを起動し、アームキャノンを操作する。すると、何の変哲もない地面に変化が起きた。

 

「ええっ!?」

 

「ん…!?」

 

 ゴゴゴ…という重い音と共に10×10m程の地面が2つに割れ、四角い穴が現れる。そして、その中から穴と同じ面積の金属製の床が上昇してきた。

 

「師匠、これは?」

 

「俺のスターシップを入れておくための格納庫だ」

 

 ここは、ハジメがスターシップを格納するためにシアの訓練の合間に作ったスペースであり、小型の宇宙船をまるまる収容可能な広さがある。

 

「スターシップ…話には聞いてましたけど、空よりも更に高い領域…宇宙に飛べる乗り物でしたよね?」

 

「そこまで理解していれば大丈夫だ」

 

 ハジメは宝物庫からスターシップを床の上に出現させる。そこに現れたのは、黄色の外装に緑色のフロントバイザーが特徴的なガンシップ。その下部には半球状の3つのドライブユニットが3つ填めこまれ、搭乗口も存在する。

 

 武装として、機首下の二連ビーム砲と両翼のミサイル発射管がある。いずれも強力な武装であり、ハジメの命令で敵対者や敵拠点に容赦なく破壊がもたらされるだろう。

 

「必要とあらばこの船を呼び出し、敵を上空から一方的に叩けるし、爆発する敵拠点からの離脱にも使える優秀な相棒だ」

 

「爆発する敵拠点…って、一体何があったんですか!?」

 

 ハジメが今までしてきた任務において、敵拠点や敵の艦船、時には敵の母星が爆発で吹き飛び、ギリギリで脱出するのはよくあることだった。

 

「まあ、その……敵の親玉を倒したら敵拠点の自爆装置が作動したというか…」

 

「つまり、やらかしたんですね?」

 

「そうとも言う…」

 

(惑星が吹き飛んだとか口が裂けても言えない…)

 

 話のペースを完全に乱されたハジメだったが、シアの発言に適当に返答すると、再びアームキャノンを操作してスターシップを地下に格納する。スライドドアが閉まり、元の何の変哲もない地面に戻った。

 

「とにかく……ユエ、シア、行くぞ」

 

 ハジメ達はハウリアの拠点に顔を出した後、ジャガーノートに乗ってハルツェナ樹海から出発した。

 




 プライムは救いようのないクズにしたいですね。元ネタのダークサムスもヤバい奴だったから多少はね?

 敵拠点や惑星が吹き飛ぶのはメトロイドあるある


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

32話 ブルックの町 前編


本作のハジメ君が色々と完璧なせいで、ストーリーがつまらなくなっている気がする…のが今の悩み。メトロイド要素をもっと入れて面白くしたかったけど、Xやフェイゾンは厄ネタ過ぎてトータスが破滅するのでNG。特に、Xはエヒトでも手に負えなそう。一応、リドリー擬きとかファントゥーンを出すつもりではある。


 

 樹海を後にしたハジメ達は、ジャガーノートに乗り込んで平原を進んでいた。

 

「師匠、次の目的地はライセン大峡谷でしたよね?」

 

 ハジメの左斜め後ろに座っていたシアが目的地を再確認する。ちなみに、車内にあるユエとシアの席は人が1人通れる程のスペースを隔てて設置されている。

 

「そうだ。ライセン大峡谷には七大迷宮の1つがあると言われているからな。判明している迷宮の1つ、大火山が存在するグリューエン大砂漠への通り道でもあるから、途中で迷宮を発見できたら本望だ」

 

 現在のところ判明している大迷宮は【ハルツィナ樹海】と【グリューエン大砂漠の大火山】と【シュネー雪原の氷雪洞窟】の3つである。ハルツィナ樹海は条件が揃っておらず、シュネー雪原は魔人族の領土であるため問題となる。そのため、消去法で最終的な目的地は大火山となっていた。

 

「ライセン大峡谷…師匠とユエさんに出会った懐かしい場所ですね」

 

「魔法が主な私からしたら最悪の場所…」

 

 ライセン大峡谷はシアの一族が全滅しそうになった場所だが、今のシアは精神的に成長しているのかその地名を聞いても動揺することはなかった。一方、ユエの方は魔力が分解されるライセン大峡谷の性質から、あまり気乗りしないようだったが。

 

「それで、今日はこの乗り物の中で一泊ですか?それとも近場の町に?」

 

「町で一泊しよう。素材の換金や物資の調達もしておきたいからな」

 

「そうですね。フェアベルゲンで何も受け取ってませんでしたから」

 

 実を言うと、フェアベルゲンから報酬や物資補給の打診があった。だが、復興の方を優先してほしいということで全て断っていた。

 

「向こうは復興中だ。こちらに物資を寄越すくらいなら、復興に使ってもらった方がいい」

 

 数時間後、夕日が沈みそうな頃になって前方に町が見えてきた。周囲を堀と柵で囲まれた小規模な町であり、その入り口には門がある。門の上の櫓には弓を持った兵士が配置され、門の脇には門番の詰所があった。

 

 そろそろで町の方からハジメ達を視認できる距離であるため、目立つジャガーノートを収納して徒歩に切り替えて進む。もしもこのまま行けば、魔獣の襲来として町から攻撃を受ける可能性があるからだ。勿論、バリアスーツも着ていない。

 

「ユエ、シア、門番との問答は俺に任せてくれ。ユエはステータスプレートを持っていないし、シアは……言わなくても分かるな?」

 

「私は師匠の奴隷の振りをすればいいんですよね?私みたいな超絶☆美少女☆兎人族☆だと拐われる可能性がありますから」

 

 シアの首には奴隷用の首輪に似せた黒い首輪が付けられている。白髪の兎人族で珍しく、容姿もスタイルも抜群なシアは、誰かの奴隷であることを示さなければ、人攫いに狙われるからだ。

 

 この首輪は普通の首輪ではない。その内部に通信機と発信器が仕込まれた高性能な首輪である。

 

 尤も、シアならば人攫いなど簡単に返り討ちにできるだろうが、念には念を入れておくに越したことはない。

 

「よく分かってるな。だが、超絶☆は余計だ。まあ、美少女という点は否定はしないが…」

 

「師匠って、意外と私のことを美少女だと認識してたんですね…良かったです、師匠が同性愛者じゃな……ぐぇ!?」

 

 ハジメの肘鉄がシアの頬に直撃し、シアは美少女とは思えない叫び声を上げて吹き飛ぶ。綺麗に空中で3回転半した後、地面に落下して全身を強打した。

 

「誰が同性愛者だ。これで吹き飛ぶとは、身体強化の発動が間に合わなかったようだな。もっと早く発動できるようにしろ」

 

「忘れてました…師匠には愛する女性がいるんでした…」

 

 ハジメは、すでに香織のことをシアに話している。それを忘れていたシアは、少しばかりハジメの逆鱗に触れてしまったようだ。

 

「ん…お父様もシアも早く行こう?このままだと日が暮れる…」

 

「あぁ、こんなことをしている場合では無かったな。シア、早く起きろ。置いていくぞ」

 

 ユエに促され、一行は門まで急いだ。

 

 

 

 

 

「止まってくれ。ステータスプレートを。あと、町に来た目的は?」

 

 町の門に到着すると、脇にある詰所から門番の男が出てきた。皮鎧と長剣を装備した冒険者風の門番は、ハジメ達にマニュアル通りの質問をした。

 

「食料の補給だ。旅の途中だからな」

 

 ハジメは、どこか気怠げな門番の質問に答えながら、隠蔽機能で隠蔽したステータスプレートを提示した。何故なら、そのステータスの高さや“言語理解”の存在によって神の使徒であることが露見してしまうからだ。

 


南雲ハジメ 17歳 男 レベル:10

天職:戦士/錬金術師

筋力:110

体力:102

耐性:80

敏捷:120

魔力:110

魔耐:60

技能:槍術・棒術・射撃・格闘術・回避性能[+見極][+瞬発]・飛躍[+宙躍]・錬金・錬成[+鉱物系鑑定][+精密錬成][+鉱物系探査][+鉱物分離][+鉱物融合][+複製錬成]


 

 ちなみに、本来のステータスは次のようになっている。

 


南雲ハジメ 17歳 男 レベル:?

天職:戦士/錬金術師

筋力:1100

体力:1020

耐性:800

敏捷:1200

魔力:1100

魔耐:600

技能:槍術・棒術・射撃・格闘術・回避性能[+見極][+瞬発]・飛躍[+宙躍]・錬金・錬成[+鉱物系鑑定][+精密錬成][+鉱物系探査][+鉱物分離][+鉱物融合][+複製錬成]・生成魔法・言語理解


 

「意外と強いんだな。それに、天職が2つもあるなんて珍しいな」

 

 隠蔽されたステータスを見た門番が言う。隠蔽されているとはいえ、この世界ではそれなりに強いステータスであるようだ。また、天職が2つあることにも注目された。

 

「それで、こちらの2人のステータスプレートは?あっ…」

 

 ユエとシアにもステータスプレートの提出を求めようと2人を見た瞬間、門番は顔を赤くして硬直した。そして、焦点の合わない目で2人を交互に見ている。どうやら、2人の美少女に見惚れているらしい。

 

 ハジメはわざとらしく咳払いして門番をこちらの世界に引き戻すと、2人のステータスプレートについて説明する。

 

「実を言うと、魔獣の襲撃の際に娘がステータスプレートを紛失してしまってな。こちらの兎人族は…分かるだろ?」

 

 それだけで門番は納得し、ステータスプレートをハジメに返却する。

 

「それにしても、随分な綺麗どころを手に入れたな。白髪の兎人族なんて相当なレア物では?あんたって意外と金持ち?」

 

 門番は、羨望と嫉妬の混じった表情でハジメに尋ねる。

 

「想像にお任せする」

 

 その返答の後、これ以上の質問が来るようなことは無く、ハジメ達は町に入ることを許可された。

 

「冒険者ギルドはこの先か…」

 

 町に入った一行は、冒険者ギルドを目指してメインストリートを真っ直ぐ進んでいた。ギルドは、入る際に門番に聞いた素材の換金場所である。

 

 ちなみに、この町はブルックの町という。ブルックのメインストリートは露店が多く出ており、呼び込みや値切り交渉の声で賑やかだ。しばらく進むと、冒険者ギルドの看板が見えてきた。

 

 

 

 

 

 “ギルド”という言葉を聞いた時、ハジメが真っ先に思い浮かべるのは賞金稼ぎギルドだった。ハジメが依頼を受けるようなことは無かったが、情報収集のために出入りするようなことはあった。

 

 賞金稼ぎギルドは荒くれ者が多く、冒険者のことを賞金稼ぎのような存在として認識していたハジメは、冒険者ギルドもそのようなものだとイメージしていた。

 

 だが、実際の冒険者ギルドはそのようなことは無く、清潔さが保たれていた。入り口の正面にカウンターがあり、左手には飲食店、右手の壁には依頼の契約書が貼られた長大な木製のボードが設置されていた。

 

 ハジメ達がギルドに入った直後、中の冒険者の視線が一斉に突き刺さる。最初は見慣れない者達が入ってきた程度の注目であったが、美少女であるユエとシアに気付いた瞬間、冒険者…特に男性が強い好奇心を抱いた。

 

 見惚れる者、感心する者、2人を凝視し過ぎて恋人の女冒険者に殴られる者など多種多様であるが、意外と理性があるのか目で見るだけで接触してくる者はいなかった。

 

 予想されたトラブルが無かったことに安心しながらも、ハジメは正面のカウンターに向かった。

 

「冒険者ギルド、ブルック支部にようこそ。ご用件は何かしら?」

 

 カウンターにいたのは、ベテランと思われる受付のオバチャンだった。笑顔で応対してくれたオバチャンは恰幅が良く、ユエ2人分の横幅であった。

 

「素材の買取りをお願いしたい」

 

「素材の買取だね。じゃあ、まずステータスプレートを出してくれるかい?」

 

「買取りにステータスプレートが必要なのか?」

 

 ハジメの疑問に、オバチャンは「おや?」という表情を浮かべる。

 

「あんた、冒険者じゃなかったのかい?買取にステータスプレートは不要だけどね、冒険者と確認できれば1割増で売れるんだよ」

 

「そうなのか。なら、冒険者としての登録をさせてもらえないだろうか?」

 

「構わないけど、登録には千ルタ必要だよ」

 

 オバチャンによると、登録していればギルドと提携している店や宿で割引が使えるし、高ランクなら移動馬車を無料で使えるらしい。

 

 ルタというのは、北大陸共通の通貨のことである。通貨の色には青、赤、黄、紫、緑、白、黒、銀、金の種類があり、左から一、五、十、五十、百、五百、千、五千、一万ルタとなっている。日本円と通貨の価値が同じため、日本人にはありがたいだろう。

 

「実は、持ち合わせが無いんだ。買取金額から差し引く形にしてくれないだろうか?」

 

「そういうことなら、買取金額に上乗せしてあげるよ。可愛い子を2人も連れているんだから、不自由させちゃだめよ。特に、あんたの娘さんにはね」

 

「何故、俺の娘だと?」

 

 ハジメには、ユエが自分の娘であると紹介した覚えが無かった。

 

「オバチャンの勘よ。その反応だと、本当に娘さんのようだね」

 

 ハジメはオバチャンの厚意を受け取り、ステータスプレートを差し出した。なお、ハジメはユエとシアに関しては登録を断っている。

 

 ステータスプレートを持っていない2人はプレートの発行からしなければならず、技能欄に載っているであろう魔力操作の存在が知られてしまうからだ。

 

 戻ってきたステータスプレートは、載っている情報が増えていた。天職欄の隣に現れた職業欄に“冒険者”の表記があり、その隣に青色の点が付いている。

 

 この点の色が冒険者のランクを示しており、上昇するにつれて赤、黄、紫、緑、白、黒、銀、金と変化する仕組みだ。この色は通貨の価値を示す色と一致しているのだが、青は最低ランクの色であり「お前は一ルタ程度の価値しかない」と言われているようなものだ。

 

「男なら最低でも黒を目指しなよ?娘さん達にカッコ悪いところ見せないようにね?」

 

「努力する。それで、これが買取を希望する素材なのだが…」

 

 ハジメは予め宝物庫から袋に入れ換えておいた素材を取り出し、カウンター上の籠に入れていく。樹海の魔獣の素材と奈落の魔獣の素材が半々の割合で出されている。

 

「これは……樹海産だね?樹海産の素材は良質ものが多いし、売ってもらえるのは助かるよ」

 

 ハジメは内心、奈落産の素材という未知の素材を出したことで騒ぎが起きないか危惧していた。だが、オバチャンが樹海産の素材だと勘違いしてくれたお陰で特に騒ぎになることはなかった。

 

「樹海に入って素材を取りに行けたのは、連れの兎人族のお嬢さんが協力してくれたからかい?」

 

「まあ、そんなところだ」

 

 そして、オバチャンは買取金額を提示した。四十八万七千ルタ。中々の金額である。換金を終えたハジメ達はギルドを立ち去ろうとするのだが…

 

「あんた達、この町の地図を持っていきなさい。おすすめの宿や店も書いてあるから参考にしなさいな」

 

 渡された地図はとても精巧なものだった。店や宿についての有用な情報が簡潔に記されており、十分に金を取れるレベルだった。

 

「こんな凄い地図を無料で貰っていいのか?」

 

「別に大丈夫よ。あたしが趣味で書いているものだし、“書士”の天職を持ってるから落書きみたいなもんだよ」

 

 何と、この地図は手書きだったのだ。こんなに優秀であるなら、辺境のギルドの受付ではなく設計の仕事に携わった方がいいのではないか?というのがハジメの感想だった。

 

「いろいろとすまないな」

 

 親切なオバチャンに感謝した後、ハジメ達は今度こそ冒険者ギルドを立ち去った。

 

「ふふ、色々と面白そうな連中だね…」

 

 オバチャンはそんなことを呟きながら、立ち去るハジメ達を見送った。

 





本作の南雲ハジメの設定を文章にしてみた
○南雲ハジメ〈最強なる戦士(メトロイド)〉〈鳥人族の後継者〉
主人公。天職は戦士と錬金術師。6歳の頃にスペースパイレーツによって宇宙へ攫われたが、鳥人族によって保護され、惑星ゼーベスで10年間育てられた。惑星ゼーベスの環境に適応するために鳥人族の遺伝子が移植されており、身体能力は常人を超える。鳥人族の技術が惜しみなく投入されたパワードスーツを身に纏い、幾度となくスペースパイレーツと対決した。地球に帰還した後に高校生として生活していたが、突然クラスごと異世界に召喚される。体格や容姿は原作における変貌後のハジメだが、髪は黒い。

原作のハジメと異なり1人の戦士としてすでに成熟しており、召喚された当初から高い戦闘力と精神力を有している。戦闘力が高いとはいえ決して脳筋ではなく、頭脳の方も優れている。話し合いの余地がない敵やスペースパイレーツに対しては容赦しないが、優しさや慈愛の心も持ち合わせており、封印されていたユエを救出して父親代わりになったり、自分の無事を恋人の香織に伝えるために王宮に忍び込み、2章ではフェアベルゲンを無償で救っている。


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

33話 ブルックの町 後編

クリスタベル店長とかいうヤベェ奴…プレデターすら返り討ちにしそう…


 ハジメ達がオバチャン特製の地図の中から選んだ宿は、“マサカの宿”という宿屋だった。もはやガイドブックと呼んでも差し支えないその地図によると、料理が美味く防犯がしっかりしている上にお風呂に入れるらしい。その分少し割高となっているが、金はあるので問題ない。

 

 宿屋の1階は食堂になっており、食事を取っている男の冒険者達がいた。ハジメ達が足を踏み入れると、ギルドの時と同様にユエとシアに視線が集まる。

 

 そのような視線にはギルドで慣れていたため、無視して宿のカウンターに向かう。すると、15歳くらいの女の子が元気な挨拶と共に現れた。

 

「いらっしゃいませー、ようこそ“マサカの宿”へ!本日は宿泊ですか?それとも、お食事だけですか?」

 

「宿泊だ。この地図を見て来たのだが、記載されている通りでいいか?」

 

 ハジメはオバチャンに貰った地図を見せる。女の子はそれを見て理解したのか、大きく頷いた。

 

「ああ、キャサリンさんの紹介ですね。はい、書いてある通りですよ。何泊のご予定ですか?」

 

 女の子は仕事に慣れているらしく、すぐさまテキパキと宿泊の手続きを始める。なお、ハジメはオバチャンがキャサリンという名前だったことに内心驚いていた。

 

「1泊で頼む。食事とお風呂付きで」

 

「はい。お風呂は15分100ルタです。今のところ、この時間帯が空いていますよ」

 

 女の子が時間帯表を見せる。日本人といえばお風呂の文化であるが、ハジメは長いこと鳥人文明に身を置いており、そこまでお風呂に思い入れがあるわけではない。そのため、ハジメはお風呂の時間を長く確保しなかった。

 

 確保した時間は30分。ハジメで15分、ユエとシアが一緒に入って15分という内訳である。

 

「お部屋はどうされますか?2人部屋と3人部屋が空いてますが…」

 

「2人部屋を2つで頼む」

 

 ハジメの考えとしては、ユエとシアで1部屋、自分は別室にするつもりであり、男女で分けることは当然だと思っていた。

 

 だが、ここでユエとシアが意見した。

 

「ん…3人部屋がいい。お父様とシアと私で同じ部屋で寝たい」

 

「わ、私もユエさんと同意見です!」

 

 2人の発言に、男の冒険者達はザワッとなった。そして、嫉妬の表情を浮かべてハジメを見る。美少女2人と同室なんて妬ましいと思ったのだろう。

 

 ハジメは、3人部屋を希望する娘と弟子の説得を試みようとした。

 

「ユエ、シア、巷の女子達は仲の良い女子同士で同じ部屋に泊まり、同じベッドの中で雑談しながら夜を過ごすらしいぞ」

 

「そうなの(ですか)!?」

 

 この情報の出所は、ハジメの母であり人気少女漫画家である南雲菫だ。情報の真偽の程は定かではないが、ハジメは2人の説得の為にこの情報を投入した。

 

「これを機に2人でじっくりと話すといい。俺が一緒にいると話せないようなことだってあるだろ?」

 

 ハウリア族を訓練してから大樹に行くまで、忙しさと疲れから2人がじっくりと話す機会はあまり無く、ベッドに入ってすぐに寝てしまっていた。

 

「ん…分かった。シアとあんなことやそんなことをしてイチャイチャと…」

 

「ユエさん?いったいナニをする気ですか?」

 

「ふふっ…今夜は寝かさない…」

 

 2人の様子に周囲がニヤニヤする。特にニヤニヤしていたのは受付の女の子であり、色々と妄想しているのか天を見上げながらブツブツと何やら呟いている。

 

 なお、その女の子は母親らしき人の手で宿の奥に連れていかれ、代わりに父親らしき人が対応してくれた。

 

 その後、宿の美味しい食事に舌鼓を打ち、お風呂に入り、それぞれの部屋に別れた。ハジメが頼んだ通りに2人部屋が2つであり、ハジメだけ別室になっている。

 

 ハジメはすぐベッドに入ろうとしなかった。何故なら、夜の間に新兵器を製作するつもりだからだ。

 

「さて、やりますか…」

 

 ハジメは宝物庫から取り出した物を床に並べていく。それぞれ、杭打ち機のような装備、ブーツのような装備、頭が角張った戦鎚のような装備、機械的な首輪だ。

 

 これらは現時点で製作途中の装備であり、武装と首輪に関しては全てシアに使わせる予定になっている。そして、ブーツのような装備はユエとシアの両方が使用する。早速、ハジメは作業に取り掛かった。

 

 ハジメが作業を進めている一方で、ユエとシアは同じベッドに入り、身を寄せ合いながら会話していた。

 

「ハジメお父様のこと、シアはどう思う?」

 

「そうですね。師匠…ハジメさんは尊敬する人です。戦い方や戦士としての心構えを教えてくれましたから」

 

 シアは、師匠としてのハジメについて語る。だが、それはユエの聞きたいことではなかった。

 

「ん…私が聞きたいのは、師匠としてではなく男としてのハジメお父様についてどう思うか」

 

「男として…ですか」

 

 シアは言葉に詰まる。彼女は弟子になってからハジメのことを師匠としか呼んでおらず、気付けば異性として見ることが無くなっていた。改めて、彼女はハジメのことを異性の視点から見つめ直す。

 

「ハジメさんは理想的な男の人だと思います。生身でも強いのは勿論ですけど、優しさも兼ね備えてます。それに…」

 

「それに?」

 

「……引き締まった身体と筋肉が素敵です///」

 

 シアによると、以前ハジメが水浴びしているところを目撃した際、ハジメの肉体に関心を持ったとのことだ。

 

「確かに、お父様の身体は素敵…この前一緒に風呂に入った時、隅々まで観察した」

 

「私も師匠と風呂に入りたいですね。でも、師匠には大切な恋人がいますし、その人に許可を取ってからにします。駄目なら諦めますけどね」

 

 その後、ハジメの前ではできないような会話が数時間繰り広げられ、話すのに疲れた2人は同じベッドの中でぐっすりと眠った。なお、話すことがメインだったため、イチャイチャはあまり無かった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 翌日、朝食を取ったハジメ達は町に買い出しに出かけることにした。必要としている物資は、食料と調味料、薬、シアの衣服であり、道具や武器はハジメが作るので問題ない。

 

 ハジメが食料関係と薬、シアとユエが衣服を買う担当となっている。負担の殆どがハジメに集中している訳だが、これは2人にゆっくり町を楽しんでほしいというハジメの配慮である。

 

 町の中は賑やかだった。レンガ造りの店舗だけではなく露店も多く出ており、露店の店主が盛んに呼び込みをし、冒険者や主婦といった人々との値段交渉に精を出している。食べ物や装飾品、玩具、美術品など、露店によって扱っている商品は様々であった。

 

 ユエとシアが目指しているのは、衣類を扱っている店だ。オバチャン…ではなくキャサリンさんの地図にはオススメの店が記載されていて、きちんと普段着用の店、高級な礼服等の専門店、冒険者や旅人用の店と分けられているため、店選びはスムーズに進んだ。

 

 選ばれたのは、冒険者向けの衣服を扱っている店だった。ある程度の普段着も買えるという点が決め手である。2人は露店の方から漂ってくる肉の焼けた香ばしい匂いやタレの焦げる濃厚な香りの誘惑に何度も負けそうになりながらも、その店に足を運んだ。

 

 しかし、その店にはとんでもない奴がいた。ハジメですら裸足で逃げ出しそうな、化け物クラスの変態が…

 

「あら〜ん、いらっしゃい♥️可愛い子達ねぇん。来てくれて、おねぇさん嬉しいぃわぁ~、た~ぷりサービスしちゃうわよぉ~ん♥️」

 

 それは、筋肉モリモリマッチョマンの変態だった。肉密度1000%のそいつは、はち切れそうなメイド服を着ており、多くのリボンやフリルで武装している。

 

 そんな化け物を目の前にして、ユエとシアは硬直する。シアに関しては意識が飛びかけている。そして、思わずユエは言ってしまった。「……人間?」と。

 

 化け物はクレイドの如く咆哮し、激昂した。

 

 取り敢えず、咄嗟にユエが謝ったために事なきを得たが、もしもそれで止まらなければブルックの町は吹き飛んでいたかもしれないし、ハジメが何十発ものスーパーミサイルを叩き込む事案になっていたかもしれない。

 

 そして、超きめぇ!な化け物…ではなくクリスタベル店長はシアの服を見立ててくれた。彼のセンスは見事であり、シアの魅力が更に引き出された。

 

 

 

 

 

 一方その頃、ハジメの姿はとある露店の前にあった。すでに買い物は済ませてあり、買った物は全て宝物庫に放り込まれているため、荷物は無い。

 

「ユエに何か買っていくか」

 

 その露店は、小さな装飾品を取り扱っていた。ハジメは、ユエに何かしらプレゼントを買うつもりである。

 

 陳列されている装飾品の数々を見ていく中、とあるペンダントがハジメの目に留まった。

 

「ベビーみたいだ…」

 

 そのペンダントの装飾は、メトロイドの体内にあるコアを彷彿とさせるものであり、球状で赤い3つの水晶が埋め込まれていた。ハジメはベビーと別れて悲しんでいるであろうユエのため、このメトロイドのような装飾のペンダントを購入した。

 

 そして、ハジメは集合場所として決めておいた町の広場に向かったのだが、ここでユエ達に問題が起こっていたのを目撃してしまった。

 

「「「「「「ユエちゃん、俺と付き合ってください!!」」」」」」

 

「「「「「「シアちゃん! 俺の奴隷になれ!!」」」」」」

 

 ユエとシアは数十人の男連中に囲まれ、求愛されていた。冒険者が大半だが、中にはどこかの店の店員らしき者もいる。

 

 2人は美少女だ。男連中がその見た目に一目惚れしないはずがない。ハジメは取り敢えず様子を見ることにし、男連中が直接手を出すならば、間に割って入ることにした。

 

 そんな男連中への2人の返事は当然…

 

「「断る(ります)」」

 

 眼中にないと言わんばかりの返事に、男連中は崩れ落ちる。だが、それでも諦められない者達が暴走を始めた。

 

「なら、力づくでも俺のものにしてやるぅ!」

 

 暴走男の1人が野獣のような雄叫びを上げ、諦めていた者達もそれに釣られて2人を取り囲む。そして、雄叫びを上げた奴がユエの小さな体に掴みかかろうとした。

 

 それを見たハジメの動きは速かった。その脚力をもって一瞬で男連中の囲いを突破し、暴走男の肩を掴むことで目論見を阻止する。

 

 肩を掴まれた男が殺気を感じて振り返ると、そこには笑顔だが目が笑っていないハジメの顔があった。男はハジメの殺気に身震いしながらも、何とか声を発する。

 

「ユ、ユエちゃんのお…お父さん、この俺にユエちゃんをください…!」

 

 だが、それは彼の寿命を縮める結果となる。

 

「俺の可愛い娘に手を出すとは、度胸があるな。面白い奴だ、気に入った。お前を殺すのは最後にしてやる」

 

 そして、ハジメは男連中に対して言い放った。「2人に手を出すのなら、俺を倒してからにしろ」と。完全な宣戦布告である。

 

「相手は1人だ!やっちまえ!」

 

 男連中は一斉にハジメに襲い掛かった。ハジメは瞬時に“錬金”と“錬成”で鉄の棒を作ると、それを即席の得物としてリアルアクション映画を繰り広げる。

 

 広場に重い打撃音と男連中の悲鳴が響き始めてから数分後、広場は男連中の屍(死んでない)が転がる場所となった。

 

「お前は最後に殺すと約束したな?」

 

 その中で、先程の暴走男はハジメに首を掴まれた状態で持ち上げられていた。

 

「お義父さん…た、助けて…」

 

「誰がお義父さんだ!」

 

 暴走男の命乞いも虚しく、彼はハジメによってどこかへと放り投げられた。そして、ハジメはユエ達の方へ向く。

 

「ユエ、シア、帰るぞ」

 

「ん…」

 

「はい、師匠!」

 

 ハジメ達3人は宿への進路を取る。その途中、ハジメはユエにプレゼントを渡した。

 

「ん…ベビーに似てる。ありがとう、お父様。これをベビーだと思って頑張る…」

 

「あの…私にはプレゼント無いんですか?」

 

 自分も何か貰えるのではないかと期待していたシアが聞く。

 

「シアにもあるぞ。昨日の夜に完成させた、シア専用の新装備だ。宿に戻ったら渡す」

 

 今日の出来事により、ハジメは様々な異名で呼ばれて恐れられることになった。“最強親父”、“地獄の番犬”、“抹消者(ターミネーター)”など、挙げたらキリがない。

 

 ユエとシアに手を出せばハジメによる制裁を受けるということがブルックの男連中の共通認識であり、後に冒険者ギルドを通して王都にまでその異名が轟いたというが、それはまた別の話だ。




隙あらばコマンドーネタを突っ込むスタイル

次回はシアに新装備を渡すところからスタートです。


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

34話 ライセン大迷宮

久しぶりの投稿です。話が短めなのは申し訳ない。上手く書けなかったので、装備を渡すシーンは没です

最近、メトロイドプライム リマスタードを始めました。


 この世の地獄として、処刑場として人々から恐れられる地、ライセン大峡谷。普通なら簡単に人間が死体に変わるこの場所で、魔獣が一方的に蹴散らされる事態が起こっていた。

 

 その事態を引き起こしたのは、紛うことなきハジメ達であった。ハジメの槍が魔獣を切り裂き、シアの新しい戦鎚が魔獣を一撃で叩き潰す。そして、ユエが膨大な魔力にものを言わせて強引に発動した魔法が魔獣を焼き払う。

 

「師匠!これは使いやすいです!」

 

 新しい戦鎚を振り回し、製作者であるハジメに対して実際に使った感想を述べるシア。彼女はこの戦鎚を気に入っていた。

 

 この武器の名はデストロイヤー。破壊者の名を冠するこの武器は、シアの身体強化と組み合わせることで、あらゆる障害を破壊することができるだろう。

 

 シアの専用武器であるデストロイヤーには、ブースト機構が組み込まれている。攻撃する際に打撃面の反対側からジェット噴射することで、破壊力を上げる仕組みとなっている。また、戦鎚の先端からはチャージビームを放つことが可能である。

 

 ハジメはこれ以外にも装備を作っているが、それらの説明は実際に使用する際に行わせてもらおうと思う。

 

「ライセン大迷宮… やはり、簡単に見つかるものではないか…」

 

 ブルックの町を出発してから、すでに二日が経過している。彼らはライセン大迷宮の入り口を発見するべく、ジャガーノートを走らせていた。

 

 それらしき場所を見つける度に足を止めて周囲を探索し、必ずと言って良いほどに魔獣に襲われる。その繰り返しだった。

 

 地上の魔獣は迷宮のものよりも弱く、パワードスーツなど使わなくとも生身で十分に対処できる存在である。そのため、パイレーツや迷宮の魔獣以外と戦う時は生身で戦うということが暗黙の了解となっている。

 

 更に走り続けること三日。特に収穫もなく、日暮れの時間となった。夜の探索は危険なため、ここで一泊する。ジャガーノートの後部にはキャンピングカーのようなトレーラーが連結されており、ここで一夜を明かす予定だ。

 

 宿泊用トレーラーの内部にはベッドやキッチン、シャワー、冷暖房が完備されており、水は大気中から水分を抽出する水分凝結機によって確保している。また、トレーラーは強固な装甲とビームタレット、シールド発生装置で守られているため、安心して眠ることができる。

 

「ご飯ですよ!」

 

 夕食が完成したため、シアが二人を呼ぶ。料理が得意なシアはご飯を作る担当となっており、料理の腕が微妙であるハジメからすれば救世主だった。ちなみに、王族だったユエも料理が作れなかったが、最近はシアの指導で上達してきている。

 

 夕食を食べ、食後の雑談をし、交代でシャワーを浴びた後、就寝時間が来る。全自動のビームタレットとシールドがあるとはいえ、念には念を入れて三人で見張りを交代しながら朝を迎えた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

翌朝、状況が変わった。

 

「師匠!ユエさ~ん!こっちに来てください!」

 

 起床して朝食を取った後、シアが用を足すために拠点から離れていたのだが、しばらくしてシアが二人を大声で呼んだ。

 

 何事か?と思ったハジメとユエはその声がした方へと向かう。そこには、巨大な一枚岩が谷の壁面にもたれ掛かるように倒れており、壁面と一枚岩との間に隙間が空いている場所があった。シアがいるのは、その隙間の前である。

 

「見つけましたよ!ここの中です!」

 

 シアの誘導に従って隙間に入ると、その中はそれなりに広い空間になっており、中には鳥人族のオブジェが置いてあった。その側には壁を直接削って作ったと思われる長方形型の見事な装飾の看板があり、文字が彫られていたのだが…

 

「何だこれは…?」

 

「ん、ん…?」

 

 ハジメとユエはそれを見ると、思わず困惑してしまった。何故なら、次のように文字が彫られていたからだ。

 

“おいでませ! ミレディ・ライセンのドキワク大迷宮へ♪”

 

 地獄の谷底には似つかわしくない、女の子らしい丸っこい字で彫られた、まるで遊園地の入り口かのような文章。それが鳥人族のオブジェの側にあったのだから、なおさら困惑していた。

 

「大迷宮の入り口なのか?」

 

「ん…それにしてはふざけすぎ。でも、ミレディの名前があったということは…」

 

「ミレディの名は知られていないはず… それに、鳥人族関係の遺物も置いてある。本物の可能性が高いな…」

 

 ミレディ・ライセン。その名はオスカーが残した手記に記されており、エルダーもその名を語っていた。世間で知られているのは姓の方であり、名の方は知られていない。そのため、その名があるここはライセン大迷宮である可能性が高かった。

 

 それはそうなのだが、ハジメは鳥人族の遺物の側にこんなふざけた書き込みをするミレディの神経を疑った。とはいっても、これはようやく掴んだ大迷宮の手がかりである。とりあえず、ハジメ達は迷宮の入り口を探すことにした。

 

「ジャミングされているようだ…」

 

 ハジメはパワードスーツを装着すると、手始めにスキャンバイザーを使用して壁を調べていくのだが、人為的にジャミングされているらしく、視界にノイズが入ってしまっていた。そのため、実際に壁に触って調べ始めたのだが…

 

ガコンッ!

 

「なっ!?」

 

 ハジメが壁に触れた途端、その壁が突然勢い良く回転した。それに巻き込まれてしまったハジメは、壁の向こう側へ姿を消してしまう結果となった。そして、ハジメの視界の先に現れたのは、薄暗い部屋の天井から生えている砲塔のような機械であり、見覚えがあった。

 

「ビームタレットだと!?」

 

 叫んだ直後、強力なビームがハジメに向けて発射される。ハジメは咄嗟にサイドステップで回避すると、反撃のミサイルを数発放ってビームタレットを完全に破壊した。

 

「危ない…俺以外だったら死人が出ていた…」

 

 そうハジメが呟くと、再び壁が回転してユエとシアが現れる。

 

「お父様!? 大丈夫?」

 

「師匠、無事ですか!?」

 

「あぁ、大丈夫だ…」

 

 心配している二人に返事を返すハジメ。そうしていると、周囲の壁がぼんやりと光りだし辺りを照らし出す。ハジメ達のいる場所は10m四方の部屋であり、部屋の中央にある石板には看板と同じ文字でとある言葉が彫られていた。

 

〝ビビった? ねぇ、ビビっちゃった? チビってたりして、ニヤニヤ〟

 

〝それとも怪我した? もしかして誰か死んじゃった? ……ぶふっ〟

 

 「「「…………」」」

 

 皆、無言となる。考えていることは一緒だ。「ウザイ」の一言に尽きる。もしも本当に誰か死んでいれば、生き残りは確実に憤慨するだろう。そんな中、ハジメは無言でアームキャノンにビームをチャージし始めている。

 

「お父様?」

 

「二人とも、下がっていろ」

 

 そして、石板に向けられたアームキャノンの先端からスーパーミサイルが発射され、石板を周囲の床ごと粉砕してしまった。完全にオーバーキルである。

 

「ユエ、シア… 行くぞ」

 

 ハジメは迷宮の奥に歩みを進めていく。その後ろ姿を追いながら、ユエとシアは思った。「ハジメを決して怒らせてはならない」と。こうして、ちょっとしたハプニングがありながらも、大迷宮の攻略が始まった。

 



目次 感想へのリンク しおりを挟む




評価する
一言
0文字 ~500文字
※目安 0:10の真逆 5:普通 10:(このサイトで)これ以上素晴らしい作品とは出会えない。
※評価値0,10は一言の入力が必須です。また、それぞれ11個以上は投票できません。
評価する前に
評価する際のガイドライン
に違反していないか確認して下さい。