お姉ちゃんにまっかせなさい☆ (( ̄▽ ̄))
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1話

 

 

 

……………どうしてこんなことになっているのだろうか。

俺、私?はっきりと覚えているわけではないが自分は20○2年を平凡な日々を過ごす平凡な人生の現代人だったはずだ

今日も今日とて休日をベッドの上でゴロゴロと過ごしているはずなのに

 

「ここどこですかー!!」

 

見渡す限りの樹、木、樹!!

ああ、なんでこんなうっそうとおいしげる樹海にいるのでしょうか。

 

ため息をつきつつも立ち上がり改めて周りを見渡す

いつまでも混乱していてもラチがあきませんからね、ひとまず状況整理をしなくては話になりませんね

 

「……それにしても大きな木ですね。……!」

 

いや木が大きいのではない。

今木に触れている自分の手があまりにも小さすぎるのだ

ここで初めて自分の体を確かめると10代いっているかわからないくらいの小さな子供のような姿になっているではないか

 

「……マジですか。記憶はないですが少なくとも社会人にはなっていたと思うのですが……にしてもずいぶん華奢な見た目ですね。まるで女子の…………」

 

なんとなく、本当になんとなく性別が判別できるあそこをチラリの覗きそして、何も見なかったようにそっと元に戻しその場でしゃがみ込む

 

見間違いだろう。もう一度覗いてみるがそこにある事実は変わらなかった

 

「…………女の子なってる」

 

これが噂にきくTSというやつだろう。前世が男だったのか知らんけど

てか、女の子ひとりがなんでこんな樹海のど真ん中にいるのでしょうか?

 

おまけに身につけている装備はボロ布一枚、装備らしい装備は一切しておらず正直自殺しにきたような見た目である

 

うーん、うーん、……………

 

「…………よし!わからないので歩き回りましょう。多分どこかしらには出れるでしょう」

 

私はどうやらこの状況を楽観視するようなお気軽な性格らしい。考えていたら頭が痛くなってきそうです

 

数百メートル先も全く見えない樹海を意気揚々と進み始めるとぴちゃりぴちゃりと何か水滴が落ちるような音が聞こえはじめました

 

「……雨ではありませんし、もしかしたら水源かもしれませんね。これはラッキーです!」

 

早速の好展開に喜びながら音がする方に草木をかけ分けながらぐいぐいと進み勢いよく音の根源に飛び出す

 

「…………ッ!」

 

しかしそこには目を離したくなるような光景が広がっていた

そこには人だったであろう下半身のみが血溜まりの真ん中に佇んでいたのだ

あまりに突然の光景に吐き気を催し思わず口元を押さえる

するとその血溜まりに血がぴちゃりぴちゃりと落ちる音が鳴り響く。おそらく音の根源はこれだろう

おそるおそる落ちる血の元を辿り見上げるとそこにはこの人物の上半身であろう部位が大きな口の形をした食虫植物に食われていた

 

やばい

 

そう直感する前に体は来た道に身を翻し死に物狂いに逃げる

もう大丈夫だろう距離まで離れても逃げ続けた

走って走って体力の限界がきたところでようやく止まることができた

安堵からだろう先ほどの光景が蘇り思わずその場で吐いてしまった

口の中に吐瀉物が入り混じり気持ち悪いが少し落ち着けることができた

 

「………食虫植物のような見た目でしたね。確かああいうのはテリトリーに入った獲物に食らいつく植物だったはず」

 

どうやらこの森の植物は人すらも獲物として認識するらしい

危なかった、あのまま進み続けていれば自分が下半身とおさらばしていたでしょう

 

「こ、これは幸運と思っておきましょう。……だれか見知らぬお方、ありがとうございました

どうかご成仏してくださいな!」

 

ほっぺ叩き気持ちを切り替えいざ再出発しようと力強く一歩を踏み出すと地面とは思えないフワッとした何か生暖かいものを踏みつける感触が足から伝わってきました

 

ああ、私はなんと愚かなのでしょうか。たった今気をつけて進もうと決意した矢先に早速の墓穴を踏んでしまうとは

 

踏みつけたものの先を辿るとそこには黄色の毛に黒い斑ら模様がとても綺麗な毛並みをした背中が佇んでいました

どうやらこの踏んでいるのは尻尾のようです

 

綺麗な獣毛の持ち主はゆっくりと立ち上がりこちらを振り返り睨みつけてくる

口に収まりきらない鋭く大きな牙を持ちサーベルタイガーを思わせるような見た目をしているがさらに驚異的なのがその大きさであった

でかい、とてつもなくでかい

私のような子供など一口で飲み込んでしまうのではないだろうかと思わせるくらい巨大な姿をしていたのだ

 

「…………と、とらさん、わざとでないのですよ?

なのでどうかここは穏便に」

 

通じるかもわからない言葉を一応問いかけてみるが案の定こちらの言葉など一切聞く様子もなく牙を剥き出し威嚇しはじめた

 

「…………ごめんなさーい!」

 

「!!!!!!!」

 

謝罪と同時にまたもや身を翻し走り出す

足をがむしゃらに動かし先ほどより必死に襲われないように駆け出すが現実は非常かな

子供の脚力で獣から逃げ果せるはずもなくすぐに追いつかれ鋭く尖った爪を剥き出しにした前足が振り下ろされる

 

あ、死ぬ

 

避けられるはずもなく無情にも獣の爪は少女を捉え後方に突き飛ばされる

ピンポン玉のようにいくつかの木々に跳ね飛ばされ倒れ込む

 

目が覚めて数十分で死んでしまうとは。なんとも短い人生でした…………あれ?

 

「………!い、生きてる?」

 

少し背中が痛いですが全然動けるくらいの痛みだ

当たりどころが良かったのだろうか?

いやいや、あんなに跳ね飛ばされて?

 

そうこう考えていると獣の接近に気付かず横からの衝撃でまたもや吹き飛ばされてしまうが今度は倒れ込まず立っていることができた

 

なにやらよくわからないがどうやら私はあの獣の攻撃があまりダメージを受けていないらしい

 

「なんだかよくわからないけどチャンス!」

 

走り出し逃走を再開するがすぐさま追いつかれ叩き潰され、立ち上がり逃走、吹き飛ばされ、立ち上がり逃走、叩き潰され、立ち上がり逃走、吹き飛ばさ……………………………ブチっ

 

「だぁ!!鬱陶しい!!!」

 

何度も繰り返される攻撃に堪忍の尾がブチギレた少女は振り返りざまに獣に向けて拳を振り上げる

まさかの反撃に獣は回避ができず額に拳をモロに受けてしまう

 

「ガァアアァーーー!!!」

 

少女の拳を受けた獣は泡を吐きながら倒れ込みピクピクと痙攣し始めた

獣の額は大きく陥没していた

感情的になり自分で放った殴った攻撃ではあったのだがまさかこのようなことになるとは全く想像しておらず今の状況に混乱してしまった

 

「…………ええ…」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

どうやらこの少女の身体はかなり高スペックらしい。

ああ、神様の慈愛だろうか、ありがとうございます

 

……いや、慈愛があったらこんな樹海にいないだろ!今のなし!

 

あれからなんとか落ち着けた私はサバイバルでよく見る棒と板で頑張って火を起こし引きちぎった獣の肉を食べていた

最初は食えるのかと抵抗があったが空腹には勝てず焼いて食うことにした

 

「かった!くっさ!まっっっず!!」

 

焼いて食べてみたものの血抜きもされていない獣の肉は血生臭く食えたものではなかった

 

せめて塩がほしい!

 

文句を言いながら我慢して食い進み満腹になると急激な睡魔が襲いかかり争うことができず寝てしまうことにした

 

「………明日は脱出できるといいなぁ」

 

叶うかもわからない願いを呟きながら

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 



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2話

 

 

 

夜が明け目覚めた私は重い身体を無理矢理持ち上げ出口がわからぬ樹海を歩くことにした

道中たまたま見つけた川を見つけた際は思わず涙してしまった

だって血じゃないもん!最ッ高!

 

水分補給をし仕留めた虎が腐らないように綺麗に血を洗い流す

え、捨てないのかって?貴重な食糧だよ?持ち歩かないと!

抱えられないので尻尾を持ちズルズルと引きずらしかないんだけどね!

 

食虫植物もどきの待ち伏せに気をつけて進み、途中虎を横取りしようとハイエナのような狼の襲撃を逃げボロボロになりながらなんとか駆け抜け続け、そして………

 

「あっ………」

 

森をぬけた!

今まで森で日光が遮られていたどんよりした雰囲気とは打って変わって清々しいほどの明るく風が気持ちいいです

あまりに嬉しくなり草原を走り回っていると少し離れたところにテントのような建設物と人影を見つけることができた

 

やった!人だ!初めての現地人だー!

駆け寄っていくとちょび髭の生えたおじさんとツルピカのハゲが待ち構えていた

 

「……へえ、一晩でこの森を抜け出したか」

 

「ふむ、お前の言う上位7人に入るのでないか?」

 

「そうですね、……ヒュージタイガーを仕留めてるあたり有望株には間違い無いでしょうね」

 

なんの会話をしているのか全く分からず首を傾げているとハゲが声をかけてきた

 

「おっと、すまない。よく辿り着いたな

ふむ……………」

 

激励の言葉をかけたハゲはリストのような紙を捲り上げ一つの名前を探し出す

 

「試験は合格だ。おめでとう…………

 

 

 

 

コルネリア」

 

 

 

目が覚めてから自分がわからず放浪しまわりようやく辿り着いた場所で初めて自分の名前が明らかになり、なんとも言えない気持ちになった

 

……そうか、私の名前はコルネリアというのか

 

「…………?どうした?向こうで手当を受けてくるがいい」

 

「え、あっ、は、はい!ありがとうございます」

 

上位?試験?合格?

なんのことを言っているのか全くわからなかったがひとまずハゲの言う通りにテントで治療を受けることにする

正直足もガタガタだし喉も乾いて仕方ないところだったのだ

あ、ご飯も貰えるのかな。血生臭くない美味しいやつ

 

一通りの治療を受け落ち着けたところで横になれるテントで休憩をしても良いとのことだったのでそちらに移動することにした

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

………しくしく。ご飯はもらえたもののパンひとつって

私、パンよりご飯派なんだけどなー

 

パンを咥えながらテントに入るとそこには私と同年代くらいの白髪の少年が既に座っていた

 

「ほう、俺と同じくらいに到着できた雑魚がいたとはな」

 

………え?私のこと?

会っていきなり雑魚呼ばわり?

………キレていいかな

 

「………ナハシュだ 

貴様もおそらく上位7人にはいるだろう」

 

「………え、あっと、…………コ、コルネリアよ

……よろしく

 

上位7人って?」

 

「俺も話を横聞きしていただけだから詳しくは知らんが俺らはランク付けされ上位7人とそれ以外に分けられるらしいぞ」

 

「………へえ、なるほど」

 

上位についてはわかった。でも、もっと肝心なことがわからない状態だ。

同年代っぽいしこの子に聞いてみようかな

 

「……ね、ねえ。

ひとつ、聞いてもいい?」

 

「………なんだ?」

 

「…………試験ってなんのこと?ていうか、今これって何してるの?」

 

「…………はあ?」

 

それはもう盛大に飽きられてしまった

頭でも打ったのか雑魚と正気を疑われるくらいに

 

どうやら自分達は帝都?という大きな国に身分を買収され帝都の精鋭部隊になるための試験としてあの樹海を突破する課題を受けていたらしい

 

………悪態をつきながらめっちゃ丁寧に教えてくれたわね。もしかしていい子なのだろうか?

 

「コルネリア、お前のランクが決まったぞ」

 

説明を受けているとハゲの隣にいたちょび髭のおじさんが話しかけてきた

 

「コルネリア、お前のキルランクはNo.2だ

その年でヒュージタイガーを一撃で仕留めるとはなかなかもんだ

 

お前はこれから俺の教育を受けてもらう

ま、親みたいなもんだ。『お父さん』って呼んでもいいのだぞ?」

 

見てたんかい!助けろよ!

 

………じゃなくて、……ふむ、どうやらこの男がこの課題を持ちかけた張本人だろう

あんな死んでいたかも知れない試験を作りやがって!

 

「わかりましたわ!では、パピーと呼びますわ!

よろしくお願いしますパピー!」

 

「…………それは止めろ」

 

苦虫を潰したようなイイ顔が見れて満足ですわパピー

 

 

 

 

 



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2.5話

閑話休題です



 

 

 

合格者が全員揃うまで試験は続くらしく待機を命じられてしまった

この試験は4日を想定しており期日を過ぎても突破できなかった者は全員不合格になるらしい

なのでナハシュと私は一晩で突破できたので期日まであと2日あることになる

 

……簡潔に言おう、暇である

待機しているテントにはベッドしかなく変化があるとすれば食事が提出してもらえるくらいだろう

ああ、娯楽がほしい

 

 

 

 

 

 

 

 

「というわけで遊びに来たわよ!ナハシュ!」

 

「…………俺は忙しい、消えろ雑魚」

 

暇なのでナハシュと遊ぶことにしました!

殺伐とした答えが返ってきたけど聞かなかったことにしよう

 

「トランプ………なんてものはないし、なにして遊ぼうか?」

 

「………俺の話を聞いていなかったのか?

 

お前も本でも呼んだらどうだ?」

 

そう言ってナハシュが読んだであろう積み上がった本の中から一冊取り出して渡してきた

いやー、殺伐とした返答をしながらこちらの意図を汲み取ってくれる、やっぱりナハシュはツンデレ属性のようね!

 

「でも、無理!文字の羅列読んでたら頭痛くなっちゃう!」

 

「…………雑魚が……」

 

「そうねえ、…………腕相撲しよ!これならそんな時間もかからないし、一瞬よ」

 

「……………はあ、仕方ない」

 

優しい!さすがナハシュ!

 

そんなわけで腕相撲をすることになり適当な木箱を用意して両者手を組み始める

片方は意気揚々と、片方は呆れながら試合が開始された

 

よ〜い、スタート!!

 

ダンッッ!!

 

 

 

本当に勝負は一瞬であった。

適当に付き合えばいいだろうと思っていたナハシュは全力ではないにしろそれなりの力を込めてはいた

 

だというのに勝負はコルネリアの圧勝であった

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

いやー、やっぱりこの身体高スペックですわ

筋トレなんかしてみたけど逆立ち腕立て伏せなんて余裕でこなせちゃうくらいにはかなりの身体能力を誇っている

 

でも、やっぱり比べるものがないと味気ないのでナハシュに相手をしてもらいました

いやー、この結果だけで満足しちゃいました

 

「ありがとうーナハシュ。んじゃまた後でー」

 

「まて!!!」

 

突然大声で呼び止められ驚き足を止めるとナハシュが羽織っていた上着を脱ぎ捨て腕相撲をした木箱に肘を置く

 

「………もう一戦だ」

 

先ほどと違い今回は油断などなくそれどころか殺気すらも感じる空気を醸し出している

 

「………いいじゃない。

わかったわもう一戦しましょう」

 

そういってコルネリアは木箱に肘を置き再び手を組む

 

よ〜い、スタート!!

 

ググっ

 

 

先ほどと違い今回は均衡した事実に少なからずコルネリアは驚愕してしまう

自分の圧勝が嘘かのように全く動かすことができない

 

「どうした雑魚、これが限界か?」

 

「あら言ってくれるじゃない」

 

両者腕相撲だというのに頭から汗を垂れ流し呼吸も荒くなってきた

いつまでも均衡が続くかのようにも思えたがその勝負に結末を迎えようとしていた

 

僅かにだがナハシュが腕の限界を迎え少しだけ腕の力が緩んだところをコルネリアは見逃さずその一瞬に力を入れてナハシュの手を木箱に押しつけた

 

「っ!はあはあ、そんな細腕でよくそんな力が出たわね」

 

「ちっ!それはこちらのセリフだ。

………次は負けん」

 

「ふふん、いつでもかかってらっしゃい」

 

なんとか勝てることができたものの、あんなにも均衡するとは

………もしかしてこの世界ではこれくらいが常識なのだろうか?

 

「おもしれぇことやってるじゃねえか」

 

「あっパパ」

 

声がした方を振り返るとそこにはいつのまにかパパが佇んでいた

 

余談ではあるが、パピー呼びはあまりにも却下されたため仕方なくパパ呼びにすることにした

 

「どれコルネリア、俺ともするか?」

 

これは思ってもみない提案だ

パパは見るからに強者のオーラを醸し出しており多分この世界でも上位に君臨する強さを持っていると予想できるのでこれは楽しみだ

 

「負けて親の尊敬を格下げしても知らないわよー」

 

「はは、これは手厳しいねぇ」

 

両者木箱に肘を置き

 

よ〜い、スタート!!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

その瞬間コルネリアの視界は上下反対となった

何が起きたのか全く理解できずそのままコルネリアは背中から思いっきり地面に叩きつけられた

 

そこでようやく理解することができた

自分は抵抗するまもなくパパに腕を叩きつけられあまりの勢いに自分の身体も一緒に持っていかれたことに

 

「くく、ガキにしてはなかなかだと思うぜ。

ガキにしてはだがな」

 

そう一言言い残すとパパはテントを出て行ったしまった

後に残されたテント内には呆然とした空気だけが残っていた

 

 

ああ、私は何を勘違いしていたのだろうか。少しでもチート能力があるのではないかと思っていた過去の自分を今すぐにでも殴り飛ばしたい恥ずかしい気持ちでいっぱいになってしまった

 

あまりの赤面に顔を覆っているとナハシュが脱いだ上着を拾い上げ

 

「……まだまだ修行不足だな」

 

それは私に言ったのだろうか。それとも自分に言ったのだろうか。

それだけ言い残すとナハシュもテントを出て行ってしまった

多分いまから修行でもするのだろう………………

 

 

「ちょっと待ってよー、私も行くーー!」

 

さっきまでの自意識過剰な自分を戒めるべく私も修行することにしよう

 

 

 



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3話

 

 

 

さてさて、この長かった試験もとうとう最終日を迎えました

上位7人以外の合格者は帝国で訓練をするそうで帝国行きの馬車に乗りもう出発してしまいました

 

上位7人はまた明日出発するらしいのでこの一日は最後の休暇の一日ということなりそうである

そう思うと、この場所も愛おしく……………ならないな。ベッドは硬いし、暇だし、ナハシュは全然相手してくれないし

 

……………、ん?そういえば他の合格者とまったく会話、もとい、顔合わせすらしていなかったな

いや、みんなすぐ治療とか言って各自のテントに行っちゃうから話しかけるタイミングがなかったのですよね

 

これから一緒に暮らすというのにあいさつしていなかったことに失念しつつ今から挨拶回りに行こうかなと考えたコルネリアは近場にあったテントを覗き込む

 

既に出発した帝国組のテントだったのか人の気配はなくガラリとした雰囲気のテントに踏み入りあたりを見渡す

 

「……ふーむ、空きテントのようね。次にいきま…………!!!!」

 

誰もおらず次のテントに移動しようと引き返そうとしたところで突然人影が視界の端を横切り思わずのけぞってしまった

いや、はじめからそこにいたがあまりの気配の薄さにまったく気づかなかったのだ。

 

目を凝らし見てみるとそこにはベットの上で小さくうずくまった黒髪の少女がそこに存在していた

 

「……………え、えーと、こんにちは?大丈夫?」

 

コルネリアが呼びかけると少女は俯いていた顔をあげコルネリアの方を見つめる

その顔にコルネリアはさらに驚いてしまった

目のまわりに薄黒い暈かさのできたその顔は鈍い鉛色をして、瞳孔は光に対して調節の力を失い真っ黒な深淵を思わせるような瞳をしていた

これほど絶望を思わせる顔をコルネリアは見たことがなかった

 

「…………ぐすっ。………クロメ…………、ううっ………」

 

驚いていると少女は何かをつぶやき静かに泣き出してしまった

 

 

 

 

 

 

…………ええ。………どうしたらいいんでしょう

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ぽつりぽつりではあったが少女からどうにや理由を聞くことができた。

なにやら一緒に試験を受けた最愛の妹と離れ離れになってしまったそうだ。

妹さんはキルランクが一つたりなかったらしく、少女は自分が守らねばならないのに、クロメがいない世界など…………、自分が弱いせいでなどと嘆き続けていた

 

 

 

………うん、これはあれですね。………かなり重度のシスターコンプレックス、略してシスコンですね

 

「………妹さん、死んだわけじゃないんでしょう?同じ帝国に所属しているわけだし、また会えるわよ」

 

「……………………」

 

なんとか考え出した励ましの言葉はまったく届かず………というより、どの言葉も耳に入らない感じだ

というか、随分とやつれているな。食事していないのだろうか

 

 

コルネリアは一息ため息をつくと立ち上がり俯く少女を置いてテントをあとにした

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「…………で、何で俺はこんな手伝いしてんだ」

 

たまたまそこにいたのをとっ捕まえ手伝わせているガイ君は沸騰する鍋を見ながらそうぼやきはじめた

ガイ君というのは私の次に合格した上位7人の1人である

 

ガイ君ったら私を見た瞬間一目惚れですとか言ってプロポーズしてきたんだよね

丁重にお断りさせていただきました

 

「コルネリアが付き合って欲しいって言うもんだから俺期待したんだぜ?

………なのにそれが料理の手伝いって

 

 

これ誰に作ってるんだ?」

 

「んー、ちょっと食べさせたい子がいてね」

 

そう言いながらコルネリアはハンバーグの挽肉を作るために肉を包丁で叩いていく

 

「肉を焼いたものだけじゃ物足りないし、スープとハンバーグと……あと何ができるかしら?」

 

「………けちくさい大人からよくこんなに肉がもらえたな。

これだったら俺の食事も、もうちっと豪華して欲しいもんだぜ」

 

「ん?……ああ、違うわよ。これ私が仕留めた………ええとヒュージタイガーって名前だったかしら

捨てるの勿体無かったから冷蔵庫で保管してもらっていたのよ」

 

「………え?」

 

鍋をかき回していたガイの手が止まる

 

「………ヒュージタイガーってあのでっかいやつ?」

 

「そうねえ、かなり大きかったわ」

 

「………ナイフで?」

 

「?いいえ、素手で。

 

ふふん、一発K.Oよ」

 

「…………ゴリラじゃん」

 

 

 

ダンッッッッ!!!

 

 

それまで小刻みにリズム良く肉を叩いていたコルネリアの方から一際大きな音が鳴り響き思わずガイが振り返るとそれまで肉を置いていたまな板が綺麗に真っ二つに切り裂かれていた

 

「……………ガイ君、何かあったかしらー?」

 

「イエナンデモゴザイマセン」

 

うむ、レディにそんなこと言ってはダメだぞ☆

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「さ、食べな 」

 

調理を終えたコルネリアは大皿に盛った料理を運び入れ少女の前に差し出し食べるように促す

かなりの量があり地面に覆い隠すほどの量が並べられた

 

「…………いらない」

 

…………ふぃー、落ち着こう私。

私も精神年齢は大人だからね。そう、冷静に話し合おう

 

「歯食いしばれや!!!!!!!!!!」

 

「!!!」

 

コルネリアが突き出した拳は少女の顔を見事に捉えテントのベッド、後方に備えてあった机を吹き飛ばしながら地面に叩きつけられてしまう

 

「……うっ」

 

突然の痛みに悶絶にうなだれているとコルネリアが少女の胸ぐらを掴み上げる

 

「うじうじするのは構わないわ。弱音もいい、好きなだけ吐けばいいわ!

だけどねぇ!生きるのすら諦めてんじゃないわよ!!!!!!!!!!」

 

「……………」

 

「あんたはまだ何も失っていない。妹さんはまだ生きてるでしょ!

今必死に生き残って強くなってまた会えるように生きていきなさいよ!

それもとなに?妹さんはあんたが見ていないとすぐ死んじゃうようなか弱い存在なの!?」

 

「!!!ち……ちがう!クロメは強い!

何度も私を助けてもらった!」

 

「だったらあんたの今することは決まってるでしょ!」

 

すると少女はまたぼろぼろと涙をこぼし始める。しかし、先ほどとは違い少女の瞳には決意に満ちあふれていた

涙を流しながら少女は並べられた料理の数々を胃に流し込み平らげていく

 

 

 

全く世話の焼ける子だわ。………ふふ、いい食べっぷりね。どんどん料理がなくって………え、うそ、私作りすぎて20人前くらいは作ったはずなんだけど………ええ………

 

カランッ…そんな音を立てて皿に並べられた料理の数々をものの数分で完食してしまった

幻覚でも見ているのかと呆気に取られるコルネリアの元に少女が駆け寄ってくる

 

「すみません、ありがとうございました………えっと、」

 

「あ、ああ。いいのよぜんぜん。

そういえば名前言ってなかったわね。私はコルネリアよ」

 

「ありがとうございましたコルネリアさん

私はアカメの言います」

 

「ふふ、固いわよー。

私たち、これから一緒の屋根の下で過ごしていくのよ

もっとくだけてもいいわよ」

 

「……………ありがとう………

 

 

コル姉」

 

その瞬間コルネリアは電撃がほとばしる

 

な、何この感覚。や、やばい、なんか興奮して心臓がバクバクしてきた

ふーふー

 

……コル姉……姉

 

平常を取り戻そうと必死になるコルネリアであったがアカメからの言葉脳内で幾度となく再生され余計に昂り顔を赤らめてしまう

 

「だ、大丈夫?コル姉」

 

クグギュアッ!!!

 

「ふーふー、も、問題無いわ。……ばっちこいよ」

 

悶々とうなだれるコルネリアに追い討ちをかけるアカメの攻撃を耐え忍び気持ちを必死に落ち着かせようとしていると少し暗い顔をしたアカメが訪ねてきた

 

「コル姉、………私強くなれるだろうか」

 

………………まったくこの子は

 

「………強くなれるかなんてわかんないわよ。でもね、不安かもしれないけど生きて歩き続けなさい。立ち止まっちゃ強くなれるかなれないかなんてわかんないもの

 

でももし、またどうしても不安で立ち止まっちゃう時がきたら………」

 

「………きたら?」

 

「お姉ちゃんにまっかせなさい☆」

 

 

 

 

 

 

 

 



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