華結を繋ぐは勇者である (バルクス)
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番外編
番外編:愛を込めて君に


どうもバルクスです。
今回は千景の誕生日会なので書きました。
短めですが結構自分では満足!
では、どうぞー


 

「何にしようかなぁ......」

 

海斗は高知の村から離にある街のショッピングモールに来ていた。

流石に小学生一人でそんな遠くまでは行けず、父から使用人を同行させるのを条件として許可もらい、車を出してもらった。

車を走らせて一時間ちょいで街に入り一目散にショッピングモールに向かった。

そこであるものを買うために。

考えても何を買えばいいのか分からない。

ゲームか、ぬいぐるみか、またはマフラーか。

さて、どうしたものか。

 

「千景様の誕生日プレゼントは決まりましたか?海斗様」

 

頭を悩ませながら考えていると蟻峯が後ろから声を掛けてきた。

 

「全然何も決まらないよ......」

 

「そうですねぇ......無難にゲームとか購入しては如何でしょうか?」

 

「ゲームか.......ありだな」

 

他に決まりそうなものも考えつかないので蟻峯の提案に海斗は乗る事にした。

 

「そういえば新作のゲームが欲しいって言ってたな」

 

以前千景とゲームをしてる時にその話をしていることを思い出す。

それを彼女が欲しいと言っていた。

ならばその作品を買おうと新作コーナーの方に向かう。

 

「たしかここに......お、あったあった!」

 

新作コーナーに着けばすぐさま彼女が求めているゲームを探す。

指で辿って見ればそれは近くにあり、それを手に取った。

そのゲームは二人の主人公が別視点で対立し合う物語のアクションゲーム。

王道的でこれには千景も喜んでプレイしてくれるかもしれない。

海斗はレジに行き、彼女に送るプレゼントを買った。

小学生が買うには少々値段が貼ってるが別に問題ない。

 

「買えて良かったですね、海斗様」

 

蟻峯が微笑んで言う。

 

「まぁ.....あってよかったよ」

 

海斗は内心では焦っていた。

巷ではあの新作ゲームは人気が高すぎて大体の店舗だと即売り切れるぐらいには良作品なのだ。

それを手に入れただけでも奇跡に等しい。

 

「これで目標は達成しましたし帰りましょうか」

 

蟻峯が口を開いて撤収の準備を海斗に促す。

だが海斗は首を横に振り、手を前に出した。

 

「ごめん、まだ少し寄りたいところがあるんだけど......いいか?」

 

「海斗様の御命令のままに」

 

蟻峯頷くとそのまま海斗に従う。それからゲーム屋から歩いて数分。

海斗はアクセサリーショップに来ていた。

なぜここに来たかというと流石にゲームだけでは何かと勿体ないと思い、何か女の子が気に入りそうなものを探す為に足を運んだ。

そして海斗はその辺を散策していると、ふとあるものが視線に入った。

 

「これにしよう。喜んでくれるといいな」

 

それを手に取り、購入するためにレジに向かった。

 

「すまないな蟻峯、付き合ってくれて」

 

「海斗様に付き添うのが私の役目であり、好きでやってますので」

 

「そうだな.......よし、買うものは買ったし帰ろうか」

 

「御意」

 

 

買い物をすました海斗は千景が待つ高知の村に帰還するのであった。

 

 

 

 

 

午後19時に回りそうな時、千景は海斗の家で一人ゲームをしていた。

本当は海斗とゲームをする予定だったのだが、彼が用事で家を空けると言われたので千景は海斗の許可を得て、彼の自室でゲームを楽しんでいた。

今やっているのはどれだけ相手にコンボを決めれる格ゲーだ。

それを今まで彼女は五時間ぶっ続けでやっていた。

だが、一人でいるのか何かと憂鬱でもの寂しく感じてしまう。

 

「........」

 

千景はゲームを一時停止してコントローラーをテーブルに置いてソファに横になった。

海斗と出会ってから既に一年が経過しようとしている。

千景は過去の事を思い出していた。

海斗に出会っていなかったら彼女はこのままここでゆっくりゲームが出来ずに自身の家でも学校でも虐められていただろう。

だが、彼に出会ったお陰で千景は幸せを感じ取れた。

けどその本人がいないと千景の心のどこかでは寂しいと思ってしまう。

彼女自身、随分と変わったものだと自負はしているが、些細な事だ。

すると扉からノックが聞こえるとそのまま開き、中から海斗が入ってきた。

 

「ただいま、ちーちゃん」

 

「あ.......お、おかえり.......」

 

何も連絡を寄越さずに突然現れたのに驚いてしまい、上手く返せなかった。

 

「,.......もう用事は、終わったの......?」

 

「ばっちり!」

 

千景は顔を伺うように言葉を発し、それを海斗は微笑みながら応える。

すると海斗は千景に紙袋を差し出す。

いきなり渡された千景は困惑してしまう。

 

「え、え?あ、あの.......海斗、これは......?」

 

「用事で外出てた理由がこれ。今日、ちーちゃんの誕生日でしょ?」

 

「........誕生日.......」

 

この中にあるものを確認しようと千景は海斗に問うと彼女の誕生日プレゼントだと説明した。

千景は海斗と紙袋を交互に見る。

 

「あー.......いらなかった?」

 

「――ううん。そんな事ないわ.......とても嬉しい」

 

海斗が冷や汗を掻きながら千景を見つめるが、彼の声に反応した千景は首を横に振った。

彼女の笑みが溢れた表情を見た海斗は嬉しくなり、安堵する。

 

「良かったぁ.......」

 

「海斗。これ......開けてもいい.......?」

 

「勿論」

 

千景は海斗に渡された紙袋の開けると中からは千景が欲しかったゲームと赤色彼岸花の形をしたブレスレットがあった。

 

「これ、私が欲しかったゲームと........ブレスレット?」

 

「前にちーちゃんが欲しかったのを聞いたのと、このブレスレットは俺が君に似合うかなって思って買った」

 

頬を掻きながら照れくさく言う海斗。

千景は言葉が出なかった。

あぁ......なんて彼はこうも私を喜ばしてくれるのだろうか。

千景は今まで一度も誕生日というのをやった事はなかった。

だが、これが誕生日の嬉しさは直ぐに感じ取れた。

 

「......海斗、ありがとう。これ......一生大事にする」

 

「気に入ってくれて何よりだよ」

 

海斗が千景のために選んでくれたアクセサリー、それだけで心が暖かくなる。

後日。千景はブレスレットを付けてみた。

それはとても綺麗で、日に当てれば夕焼けに彼岸花が咲いているように見える。

千景にとって、この思い出は一生忘れる事は無いだろう。

だって、想いは決して散らないのだから。

 

 




デアラぶりに番外編を書くので良いリハビリになりましたわァ......これからも頑張ります!
本当は節分にもしようと思いましたが、脳裏で千景の誕生日を知っている虐め野郎達が彼女に何かしらしてそうと思ったのでやめました。
だって.......千景に取ってそれはトラウマにもなりそうじゃん?

では番外編を読んでくれてありがとうございました〜


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番外編:花弁に命を復讐に救済を

どうもバルクスです!
今回はのわゆ原作前の話です!
ではどうぞー!


 

二○一六年、春。

海斗は丸亀城の近くにある桜の木を眺めていた。

満開になった桜は風に揺られ、花弁を周囲に舞い、その一つ一つが美しく綺麗で、時間さえ忘れさられる。

ふと、手の平を上に翳してみれば、桜の花弁が一枚その場に落ちてきた。

 

「.......」

 

何故だろうか、とても綺麗なはずなのにそれが散ってほしくないと願ってしまう。

植物とて人と同じで寿命がある。百年生きているものもあるし千年残り続けている木もある。

ただ、花の命は限りなく短い。

こうして考えている間にも命が削れていっているのだから。

ふと思ってしまう。

例えるならこれがもし、人間の命が花の命と同じで短命だったら?と。

何も後世に残せずに死ぬのだろうか?

それに似ているのが今から一年前の二〇一五年のバーテックス襲来時だ。

一年前、突如に奴らが空から落ちてきて多くの人があの化け物に命を奪われた。

一日も経った後は人の人口は飛躍的に減った。

奴らに対抗出来る武器を持たぬ人間は何も出来ずただ蹂躙されるだけ。

桜の木が地球と例えるなら、自分ら人間はその花弁だ。

命が尽きたら散り落ちる。

それに化け物に食われるか養分となるかの二択だけ。

それが自然の摂理と言う人もいるがはたしてそうなのだろうか?

だが神の力を受けた者達だけがそれを覆せた。

現代の兵器さえ傷を与えられなかった化け物に神聖の力を震えばそれは消滅する。

それは暗闇に一筋の光が宿るように人類に希望が見い出せるためには十分だった。

やがてバーテックス襲来時と同時に出現した神樹によって四国は壁に守られるようになり、世界は『大社』という組織が中心となり、管理するようになった。

そして、(世界)を維持しているのはあの組織と神樹という土地神の集合した樹のお陰だ。

 

「此処にいたんですか黒結さん」

 

すると後ろから海斗を呼ぶ声が聞こえ振り向くとそこには長い金色を靡かせた少女がいた。

海斗は少女の顔を見ると不機嫌そうな表情を浮かべ口を開く。

 

「........何の用だ乃木若葉」

 

「訓練や勉学をサボっているので迎えに来ました」

 

若葉は端的に表情を崩さずに海斗を真っ直ぐ見つめて言う。

彼女は海斗と同じ勇者であり、纏め役的な存在だった。

だがその固さゆえか勇者との間で言い争いが偶にある。

海斗にとってそれはどうでもいいことなのだが。海斗はため息を吐くと移動しようと歩みを始めた。

 

「何処へ行くんですか?」

 

「別に。お前には関係ないだろ」

 

そこで若葉に声を掛けられるのだが海斗は突き放すように言い。そのまま歩こうとした。だが海斗を行かせまいと若葉が反論した。

 

「黒結さん、貴方は勇者のはずだ。なのに、何故他の皆と一緒に訓練や座学をしないんですか!」

 

その言葉に海斗は歩みを止め若葉に向き直る。

彼女にちょっとした怒りを見せながら。

 

「.......なぁ乃木若葉。勇者って何なんだろうな?」

 

「決まっています。弱き者を助け、化け物と戦い、そして奪われた世界を取り戻す。それが勇者です」

 

若葉は淡々と海斗の質問に答える。

あぁ......どうして彼女はそんなに真っ直ぐと前を向いていけるのだろうか?

勇者と言っても唯神の力を一部だけ使えるほんの少しだけしか変わらない人間だ。

それを大社や住民は神のように崇め奉る。

海斗にとってそれが不愉快だった。

勇者だって一人の人間だ。特別な力もない同じ色の血が通った人間だ。

だが周囲は神聖視し、なにかに縋るようにする。

でもまだ海斗や勇者になった者は皆子供だ。

世界の命運を託すなんておこがましい。

だが常に世界というのは残酷なものだ。神の力を使えるのはそれに選ばれ穢れを知らない無垢な少年や少女だ。

何とも度し難い。

だからこそ海斗は当たり前な事を言う若葉に対して怒りを見せていた。

 

「そうか......それがお前の答えか――笑えるな」

 

「!?」

 

気付けば海斗は若葉に不敵な笑みを浮かべながら口を動かしていた。

 

「一ついい事教えといてやるよ。そんな甘っちょろい思想は何れ自分自身を殺すぞ」

 

「そんな事は......」

 

「言ってるのも今のうちだ。それに、お前はそれを口実にして本当はあの化け物に復讐をしたいだけじゃないのか?」

 

「.......っ」

 

何故かこんなにも気持ちを抑えきれずに淡々と若葉に言ってしまう。

彼女を見れば見る程自分自身の過去を見ているような気分でイライラする。

そのまま海斗は笑いながら言い続けた。

 

「図星か?滑稽だな!さっきまでの言葉が本当に嘘みたいだな?」

 

「嘘では無い!私だって本当は!」

 

「じゃあお前はあの化け物に復讐をするために仲間を駒のように使って戦うのか?」

 

「違う!私は死んでいった人達のために奴らを――」

 

「それが甘っちょろいんだよ!」

 

「っ!」

 

海斗は声を荒げさせ若葉に言う。

彼女が語る言葉を聞けば聞くほど心がざわつきイラつきが止まらない。

不愉快でもある。

だからこそ海斗は彼女を黙らせた。

 

「赤の他人の為に力を振るうとかそんな事を吐かすな!そんなの自分や身内か知人だけで十分なんだよ」

 

「.......私は」

 

まだ言いたい事があるのか口籠もる若葉に海斗はトドメを刺す。

 

「次俺の前で言ってみろ―――殺すぞ」

 

それを最後に海斗は若葉から離れて歩き出して行った。

自分でもこの感情は分からない。

唯彼女にはそうなって欲しくはなかったのかよく分からない。

同じものを海斗は以前に持っていた。

弱き者を助けて世界を救おうと一人で立ち向かう。

それが若葉と重なった。

まだ一年しか経っていないが、海斗にとってそれはトラウマだ。

だが今彼に残っているのはあの化け物に対する復讐心だけた。

人の事も言えないが、これを抱え込むのは自分だけで十分だ。

 

「......綾華、俺は今......幸せに生きているだろうか......?」

 

かつて海斗を支えてくれていた亡き彼女の名を天に届くように言う。

花の命は少ない。

だからこそ今をもっと大事にして欲しい。

いつか後悔がないように。

でもそこに自分(海斗)はいない。

 

「バーテックスを殺し尽くすまで......俺は戦い続けてやる。絶対に」

 

だって復讐者には花なんて必要ない。とっくのとうに散ってしまっているのだから。

海斗はそのまま無意識に不敵な笑みを浮かべながら歩いて行ったのだった。

 



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乃木若葉の章
プロローグ: 黒結 海斗は勇者である



どうもバルクスです。
遂に書いてしまいました\(^o^)/
書きたかったんです許してください。ゆゆゆにハマりすぎて自分でも何してるか分からなくなるんですよね〜まぁ、取り敢えず見切り発車なので許してください。

では本編どうぞ〜


 

西暦2015年7月30日........世界は終わりを告げた。その絶望は空から降り注ぎ、街やそこに住んでいる人々を食い荒らし破壊していく。

そして壊れゆく世界のその中に1人の少年が足掻き続けていた。

 

「はぁ......はぁ.....」

 

息を荒げながら少年は何か(・・)に警戒しながら暗い道を懐中電灯を持ちながら歩いていた。

 

「......」

 

懐中電灯を地面に当てながら道なりに進んでいくと暗い夜道の中、横から階段が現れる。たがその階段は古びていた。

よく見るとあちこちひび割れていて到底人が出入りしていない事が分かるぐらい状態が酷かった。

そして上を確認するべく懐中電灯を上げるとそこには先程の階段と同じぐらい状態が悪い古い鳥居があった。

それもよく見ると至る所が欠けていて鳥居の破片だろうか、その破片が階段の近くに落ちていた。

彼は確信した。暗くてもこの場所がどんな所か。

 

「......神社か」

 

大分人の手入れがされていないのが分かる。 一体なんの為にこの場所に建てたのかは定かではないが、別に今はどうでもいい事だ。

取り敢えず今は建物に入って休めればそれでいい。

 

「――行ってみよう」

 

そうして少年は神社の本殿があると思われる階段をゆっくり上がった。

やはり予想通りか本の数段だけしかない階段を上がりきり、欠けた鳥居を潜ると目の前には手入れはされてはいないものの非常に状態が良い本殿がポツンと建っていた。

神社当たりを見渡しながら本殿に歩いていく。

扉付近まで近づき、中を確認するため開けようと手を掛けるが、何故だろう......妙に息が詰まる。

そもそも神社自体、神を崇める場所であってこんな罰当たりな事をしたらそれは神様も怒るだろう。だが今は神も仏も関係ない。

少年は息を飲み再び扉に手を掛け開けた。

そこには壁の所に無数に貼られた札とその真ん中には神棚があった。

なんともまぁ気色悪いで片付けられる。

居心地さは全くないだろう。でも――

 

「何でだろう.......呼ばれている(・・・・・・)気がする」

 

そう思いながら神棚の方へ歩み寄ろうとすると突如天井から穴が空き何かが落ちてきた。

その衝撃で少年はバランスを崩し尻餅を付いてしまう。

 

「ま、まさか!?」

 

目の前で埃や木屑で出来た煙幕のせいで分からないが少年は驚愕する。それは彼にとっては一番来て欲しくない()だったのだ。

そして煙幕が薄くなるにつれてその影はこちらに振り向く。

丁度衝撃のせいで手元から落とした懐中電灯がその影に当たっていた。

それは不自然な程白く、人間よりも遥かに巨大で不気味な口を持ちまるで笑っているかのような生物だった。

これを一言で表すならこうだろう―――『化け物』と。

すると、白い化け物はこちらに気づき口を大きく広げて突進してきた。

 

「ッうわぁ!」

 

咄嗟に体が動き左へ回避した。それでも化け物はその図体とは思えないぐらい柔軟に方向転換をして再びこちらに向かってきた。

これも少年は間一髪に攻撃を避ける。次もこうやって回避すれば行けると少年はそう思い後ろに下がると、背中に何か硬いものが当たる。振り向いてみるとそこは行き止まりだった。

冷や汗が止まらない、足が小刻みに震える。

もう次はないと察してしまう。

 

逃げれない――

 

死ぬ――

 

死にたくない――

 

 

頭の中はそれしか浮かばない、 自身の生存本能が何かないかと思考を巡らせる。

 

「......るか」

 

彼は化け物に睨みながら言う。それでもその進行は段々と近づいていく。

 

「こんな、所で......」

 

化け物は口をカチカチと鳴らしながら迫ってくる。

それでも少年は諦めない。

ふと、頭の中がフラッシュバックする。

それは自分の親戚があの白い化け物に無惨に食い殺される姿が映り込む。その光景を間近で見た少年は叫んだ。

叫び、声が枯れるまで足が疲れるまで走り続けた。

その後に気付く、今自分の周りにいる人は死んだのだと。

すると次は黒髪の少女が少年とゲームをしながら笑っていた。それは少年にとってかけがえのない大切(・・)な幼馴染。

もし、彼女があの化け物に襲われたら?それだけはダメだ.....少年はそう思うと思考が現実に引き戻される。

化け物は今も変わらず口を大きく開けながら突っ込んでくる。

 

「こんな所で、死ねるかッ!」

 

少年は願う――力が欲しいと。

大切な人を守れるぐらいの力が。

もう嫌なんだ目の前で大切な人達が奪われるのが、理不尽に殺されていくのが。

少年は走る。勝てないのは分かっている、自殺行為だということも。

けど、だとしても―――

 

「殺される命なんか、持っちゃいないんだァァ!」

 

少年が叫んだ瞬間、右手から光が現れてその光が縦に伸びていく。

そして、少年は右手を化け物に向かって斬撃を放ち切り伏せた。

少年が放った斬撃に当たった化け物は風船が割れるかのように消滅した。

 

「これは.......」

 

少年の右手に握ってあったのは刀身の半分が折れている(・・・・・)刀だった。

しかしこの刀は折れていても腕から身体全体に力が湧いてくるのだ。

すると頭からこの刀についての情報が無理矢理流れ込んで来た。

少年は少し立ちくらむが直ぐに体勢を整えた。

 

 

その刀は世代を巡り巡って受け継がれてきた呪い(祝福)の刀。

その名も妖刀村正――しかし今少年が持っているその村正は失敗作(落第者)、常に自分自身に呪い()を与えてくる。

だが不快感は何故か無い、寧ろ気分がいいのだ。

すると村正が光り始めて点滅した。

 

「何だ?」

 

刀の方を見て周囲を見渡すと先程、あの白い化け物から落ちてきた所から微量ながら小さい何かが光っていた。

 

「アイツを呼んでいるのか?」

 

刀に意思があるのかは分からないがどうしてもその光の方へ行きたいらしい。

少年は点滅した方の所まで行く。

そこには刀を入れる鞘があった。

 

「お前はこれを求めていたのか?」

 

はっきり言って理解は出来なかったが、これについてはまた後日に確かめる事にしよう。

そして鞘を拾い村正の刀身を鞘に納めた。

 

「やっとアイツらと戦える.......守れるんだ」

 

少年は小さな炎を灯しながら神社本殿の天井に空いた穴から空を見ながら睨む。

 

「俺は絶対に負けない........奪わせない」

 

これは彼自身の誓いだ。 二度とやらせてなるものか。

再び少年は息を吸い口を動かす。

 

「お前たちが人を殺すというのなら、俺は――お前らを殺す化け物となる!」

 

 

 

 

 

西暦2018年7月30日。

 

「.......」

 

真夏の日差しが日陰のない所に光を作りそれを浴びながら目を開く。随分寝ていたらしい。

と、下が柔らかく感じた。それを確かめるために体を動かすと丁度声が聞こえた。

 

「おはよう.......」

 

それは自分でも分かる声だ。とても大切な友達で自分が守りたい存在なのだから。

長い黒髪を靡かせながら少女は少年に口を開く。

 

「よく眠っていたわね」

 

「.......まぁな」

 

少年は今されている状況に気付く。異様に頭の下が柔らかい事についてだ。

なら、答えはわかる。

少年は少女に膝枕をされていた。だが少年はなんの戸惑いもなく少女の膝から起き上がり離れた。

 

「.......もう少し寝ていてもいいのに」

 

少女は名残惜しいのか少し残念そうに言うが少年はそこまで気にしてはいなかった。

それは何時も(・・・)されているからだ。何回もされれば慣れていく。

少年は丸亀城本丸石垣にある柵に向かい空を見る。

 

「またあの夢でもみたの?」

 

「ああ......」

 

少女は悲しい表情をしながら少年の後ろ姿を見ながら言う。

少年は手を伸ばしそして空を掴むかのように握った。

 

「――ちーちゃん(・・・・・)俺は絶対君を守る」

 

「.......」

 

少年は空を見ながら少女――郡 千景(こおり ちかげ)に言う。千景はそれを黙って聞いた。

 

「あの日、大切なものを失ってから3年。俺は力をつけて来た。もう、二度と奪わせてなるものか」

 

 

 

今度こそあの化け物から大切な人を守るために少年―――黒結 海斗(くろすび かいと)は宣言した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

―――これは1人の少年が勇者になる物語だ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




はい。

最初はやっぱのわゆでしょ(偏見)
一応ゆゆゆから始めても良かったんですけどまだアニメ見終わってないので小説の方から手を出します(読みながらかけるからね)

さて、次回は彼女が出るかも?


次回、第1話:乃木若葉と黒結 海斗


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第1話:乃木若葉と黒結海斗


どうもバルクスです。 1話を投稿してから1週間経ちますが、お気に入り登録が8人ぐらいあってびっくりしました( °_° )

今回はタイトルの通りです。

では、どうぞ〜


 

「――ふっ、ハァ!」

 

丸亀城の中を改築した道場で海斗は木刀を持ちながら剣術を磨くために鍛錬をしていた。

縦、横、斜め右と三連撃を行い、一番効率が良い動きを探しながら空気を切り伏せる。

 

「ふぅ......」

 

一通り居合を終えて、息を吐くと木刀を構えるのを止め、地面に置いた。

付近に予め置いといたペットボトルの方へ向かいそれを手に取り、渇いた喉を潤すため、水分を豪快に口の中に入れる。

喉を鳴らし容器の中身が半分以上無くなると飲むのをやめて蓋を閉め、地面に置いた。

今度はペットボトルの隣に一緒に置いといたタオルを持って体の汗を拭き取った。

 

「随分と長い間1人で鍛錬をしているな」

 

ふと、道場の入口から声が聞こえた。振り向くとそこには勇者達が通う学校の制服を着ている少女がいた。

 

――乃木若葉。彼女は四国の勇者の1人でその勇者達を纏めるリーダーでもある。

使用する神器は生大刀。あまり歴史や神話には興味はない海斗だが――なにも、神が持っていたどんなものでも殺せる冥府の武器らしい。

そんな若葉は昔から居合の鍛錬をしていたので十分に生大刀の力を振れる。そして今でもその技術は衰えず磨きがかかっている。

海斗から見て若葉のイメージは頑固者として認知している。

すると若葉は口を開いた。

 

「早く教室に来い。後はお前だけだぞ」

 

少し苛立っているのか口調が強く感じた。それもそのはず、海斗は授業をサボって(・・・・)いるのだ。

それも1回ではない、週に2、3回ぐらいだ。

海斗は拭き終わったタオルを綺麗に畳みながら口を動かす。

 

「お前は本当に固いな乃木。少しは気分転換に剣とか振らせろよ」

 

軽い口調で海斗は声を発する。若葉はそんな海斗の態度に眉を顰める。

 

「全くお前という奴はいつもそんなこというな。気分転換、気分転換と言って私たちとの訓練や授業を受けない。ずっと1人で鍛錬だ」

 

「......」

 

若葉は今までの彼への不満を吐き出した。海斗は興味なさそうに木刀が置いてあった所に戻り再び握り、鍛錬を開始した。

それを見た若葉は肩を下げ、どっとため息を吐いた。

そして――

 

「......復讐だ

 

「え?」

 

先に口を開いたのは海斗の方だった。しかしその声は小さく若葉は聞き取れなかった。すると彼は木刀を一振りしたら息を整えて若葉に振り返る。

 

「俺は今、バーテックスを殺す事しか考えていない」

 

表情は無のままだが、目だけは憎悪の炎で燃えているようだった。

その感情は少しだけ若葉が奴ら(バーテックス)に向ける感情と同じだった。

ふと、海斗が自分の発言に気が付いたのか若葉に背中を向けた。

 

「――今のは忘れてくれ」

 

「......」

 

若葉は自然と海斗の逆鱗に触れたのだ。

申し訳ないと謝罪をしようとするが、海斗はそれを察してか手でそれを制した。

 

「別に謝ることじゃない。あれは勝手に口が滑った俺が悪いんだからな」

 

自分の事を自傷気味に言う海斗。そんな若葉は何も言えずにただ海斗の話を聞く。

 

「そろそろ俺は自分の部屋に戻る。その後は知らんが、食事の時だけは顔を出しといてやるよ」

 

「あ、ああ......って、その言葉は何回も聞いたぞ!」

 

するといつの間にか荷物を纏めた海斗が笑いながらすたすたと若葉に軽口を言って道場を出た。

その後ろ姿を若葉はただ見ていることしか出来なかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「......」

 

一人、乃木若葉は道場に立ち尽くしていた。

海斗が道場を出てから少し経って、若葉は考えていた。

黒結 海斗――若葉と同じ勇者で唯一男で勇者になった者。

あまり自分の事は話さない彼だが若葉には分かってしまった。

彼の瞳は消えない炎が灯っていた。

この世界がバーテックスに支配されてから3年――若葉達は勇者として訓練やバーテックス対策の戦術を磨いていた。

訓練は過酷なものばかりだった。だがそれは決して無駄では無い事だ。

いずれバーテックスがこの四国に攻めてきた時にこちらが優位に立てるのだ。

でも、海斗だけは1度も勇者達と訓練や授業に出ていないのだ。

さっきも海斗を探すのに苦労した。

海斗は自主練の為に1人で道場に入り浸っている。それも毎回だという。

それも何故一人でなのか理由を聞いてもはぐらかされるか強い口調で返されるだけ。

 

「これからどうしたものか........」

 

腕を組みながらうむむ、と思い悩むと道場入口から声がした。

 

「何を悩んでるんですか若葉ちゃん」

 

するとその声の発生源に顔を振り向くと同時にパシャリという音が道場に響く。

黒紫の髪をリボンで留めている少女、上里ひなたがスマホを構えて笑っていた。

 

「腕を組みながら悩んでいる若葉ちゃん......たまりません!これでまた若葉ちゃんの秘蔵画像コレクションが一つ充実しました」

 

「ひーなーたー.......!」

 

若葉はひなたが持っているスマホに手を伸ばそうとするがそれを素早くひなたはポケットの中に入れた。

 

「くっ......」

 

 

「ふふ、甘いですよ若葉ちゃん!私からスマホを取り上げるのは若葉ちゃんでも100年は早いです」

 

ひなたを睨んでいる若葉に対してひなたはふふんと胸を張った。

いつかその画像コレクションを消してやると若葉は心に決めた。

 

「それにしても、どうしたんですかこんな所で悩んでて」

 

「それは.....」

 

若葉はひなたに先程の事を話した。 海斗が何故自分達と交流を持たないのか、自分から避けるのかを。

するとひなたが口を開いた。

 

「多分ですけど海斗さんは過去に何かあったことは確かです」

 

それに、とそのまま言葉を続ける。

 

「彼は一人(・・)でこの故郷の四国に帰ってきたんですから」

 

「なっ.......」

 

若葉は驚愕した。あまり想像はしたくはないが、海斗は四国に来るまでずっと1人でバーテックスと戦っていたのだ。

今は大丈夫だろうが昔の若葉だったら心折れている。

 

「それで黒結は.....」

 

「......若葉ちゃん」

 

顔が下を向いた若葉にひなたが若葉の頬に両手で触れる。

 

「そんな顔しちゃだめですよ?思い詰めちゃ。ほら、笑顔ですよ笑顔」

 

「や、やめろぉ......」

 

若葉の頬をコネコネと弄り回して少ししたらひなたは離れる。

 

「大丈夫ですよ、海斗さんは決して若葉ちゃんや他の勇者の人達を嫌ってなんかいませんよ」

 

「そうなのか?いつも私があいつを呼びに行こうとして声を掛けると嫌そうな目でみてくるんだ」

 

「それは海斗さんの優しさだと思います」

 

「そうなのか?」

 

若葉は首を傾げるとひなたは笑みを浮かべながら口を動かす。

 

「先程の話に戻りますけど、海斗さんは3年前一人で四国に帰ってきました。その四国に帰ってくる前の道中、人の死を見てしまったかもしれません。それだと一番彼の心に傷を付けたのは身内の他にいません」

 

様々な予想をひなたは話す。すっと息を吸い若葉に向けて声を発する。

 

「少しずつ話していけば海斗さんは私達に心を開いてくれるかもしれません」

 

「少しずつ.......」

 

若葉は呟く。自分に言い聞かせるように、自分でも海斗に対しては言葉や口調が強かったのは自覚している。

それは普段の彼とのやり取りが原因で起こってしまうのだが、ひなたの言葉を聞きやっと決心がついた気がした。

 

「ありがとうひなた。いつもお前には助けられてばかりだ」

 

「いえいえ、これも若葉ちゃんのためだと思ってやっているだけですから。それに、私も海斗さんの事は心配でしたしね」

 

ひなた自身も海斗の事は心配していた。巫女になってから勇者についての事は大社からある程度聞いており、特に一番気になったのが海斗だった。

1人で故郷の四国に帰ってきた男の勇者。海斗が保護された時も彼は一言たりとも喋りはしなかったという。

そして改築された丸亀城の教室で初めてひなたは海斗と対面した。初コンタクトは酷いものだった。いざ声を掛けてみると警戒しているのか眉を顰めて強い口調で『俺に構う暇があるんだったらそこにいる勇者達にも挨拶してこいよ』と言われた。少し悲しかったが、授業や訓練が始まると何時も1人でどっか行ってサボるか先程の道場のように鍛錬をしていた。それをひなたは偶然目撃してしまう。

そこからひなたは海斗に興味を抱くようになる。

 

「さて、若葉ちゃん。そろそろ昼食の時間ですよ!早く食堂に行って皆さんを待ちましょう」

 

「お、おいひなた!?手を引っ張るな!」

 

悩んでいた二人は吹っ切れたのか先程より笑顔が綺麗になっていた。ひなたと若葉は昼食を摂るべくそのまま道場を後にした。

 

 

 

 

 

 

 

「何で、俺がお前らと一緒に食わないといけないんだ?」

 

あの後1人で鍛錬をした海斗は自室に戻り昼食の時間まで本を読んでいた。

そして昼食の時間になり食堂に向かうと、そこには勇者一同と先程会った若葉とその隣にはひなたが海斗に手を振っていた。

若葉からは強い眼光でこっちに何かを伝えようとしている。

どうやらそこに座れと目で言われているようだ。

今日は仕方なく従い丁度誕生席になる所に椅子がありそこに腰を掛けた。

そして今に至る。

 

「お前は言っていたな『食事の時は顔を出す』と、あれは嘘ではあるまい」

 

若葉は強気にふっと笑った。ちょっとした軽口で言ったのだが本気にさせてしまったらしい。

すると今度はひなたが口を開く。

 

「海斗さん。今回だけでいいので皆と一緒に食べてみませんか?」

 

「.......」

 

一通り視線を向けてみると、そこには小説を取り上げられて落ち込む少女とその小説を没収して注意をする小柄な少女。

その前には昼食を楽しみに待っていたのか目を輝かせながらうどんを啜る赤髪の少女と、隣には海斗にとって大切な幼馴染が、うどんを啜っている赤髪の少女の表情を見ながら微笑んでいた。

 

正直やめて欲しい。俺にはそんな資格はない。あの日何も守れずただ逃げて偶然にバーテックスを倒せる力を手に入れられただけ。

その日から人を助けることを勇んでやった。だが、結果は助けたはずの人は化け物に食われ時には人と人の醜い争いで自滅したりする。気付いた時には自分と偶然巡り会った巫女だけだった。

でもその巫女もバーテックスに襲われ死んだのだ。

俺を庇って。

最後にその言葉が忘れられない。

 

『い.......て....だ....あい......て.......す』

 

声では分からなかった。でも、口で何を言ってるかは分かってしまう――

 

生きてください、愛していますと。

 

それから自分がどうやって故郷の四国に帰還出来たかは分からない。

けど、今でもこの憎悪は消えない。

消したくない。あの化け物がいなくなるまでずっと――

 

「.......」

 

「おい、黒結!」

 

「......ん?」

 

どうやら自分の世界に入っていたようだ。さっきから若葉が青筋を浮かべてこっちに声を掛けてくる。

 

「何故だ、とろ玉うどんというのは分かる......だが、どうしてこんなにも揚げ玉を入れているんだ!」

 

「悪いか?」

 

「悪い!これでは汁のだしが分からなくなるではないか!それに揚げ玉は水分を吸うぞ!そんなことしたらどうなると思う?」

 

いきなりうどんについて文句が飛んできた。別に好きにトッピングさせろよどうせ無料なんだしと心の中で呟く。

 

「さぁな?」

 

興味もないので話を流そうとしたが、これに若葉は遂に海斗にキレた。

 

「ふ、ふふふ......そうか、お前はうどんを侮辱するというのだな」

 

「は?おま、何言って――」

 

ガタンと強い音がなり若葉はテーブルに強く手を打ち席を立った。

 

「少しその曲がった根性を私が鍛え直してやろう.......」

 

「え.......」

 

若葉の中から黒いオーラが漂っている。気のせいだろうか?

そんな逃避に近い事をしている海斗だが、このままでは自分がやられかねないと思いすぐさま席を立ち上がろうとしたが、いつの間にかひなたと幼馴染の郡千景に両方から腕を掴まれ固定された。

 

「ちょ、離せよ上里!ちーちゃん!」

 

海斗はひなたの方に顔を向けると少々申し訳なさそうな顔で口を開く。

 

「すみません海斗さん。こればかりは若葉ちゃんの機嫌が損ねると大変になるのでご容赦を」

 

 

それに続いて千景も申し訳なさそうというか、少しだけ楽しんでる表情をしながら口を開く。

 

「ごめんなさい海斗......貴方は必要な犠牲なの。乃木さんを止められるのは今は貴方だけよ――ふふ」

 

最後だけ笑いを堪えられなかったのか小さく肩が揺れていた。

その他の外野3人組は怯えたようにすたすたと距離を離れて行く。

 

「ふざけんな!俺を生贄にするなぁ!」

 

そんな淡い声は誰にも届かない。今この現状にあるのは死と仮死だけだ。

そんな絶望に近い中海斗は再び若葉の方に向くと赤い目を光らせながら歪んだ笑みで海斗を見つめていた。

 

これは流石に死ぬと――察してしまう。

 

「さぁ......黒結。私と一本やらないか?なに、今なら本気で殺りあえるんだ嬉しいだろう」

 

言葉が違う気がするのは果たして海斗がおかしいのか彼女自体がおかしいのか誰にも分からない。

ただ1つ分かることがある。

 

 

「(乃木の前で俺特製のトッピングをするのを控えよう.....)」

 

そう心に強く決めた海斗だった。

でも、無意識だが海斗自身はこの日常も悪くないと感じてしまう。

先程暗かった表情は自分が気付かぬ間に笑みに変わっていた。

これから先自分に何があるかは分からない。

ただ.....少し、コイツらを守るぐらいなら神様も許してくれるだろうなと。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 





え、オリ主君!?

とまぁ協調性が全然なくて押しが意外と弱いオリ主君でした。
まぁ、まだ1話なので分かりませんがオリ主が香川に来れた理由が断片的にも分かったと思います。
またそのうちに触れていきますので〜

さて、次回はヒロイン会だぞぉ!!

また更新出来たら即あげていきますのでよろしくっす!

次回。第2話:氷は溶け、彼岸花は咲き乱れる



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第2話:氷は溶け、彼岸花は咲き乱れる



はい、どうもバルクスです。
なんで自分はのわゆを完結させてないのにわすゆを書いたのか自分でも分かりません。
まぁ、観ちゃったから仕方ない(自業自得)
では、今回はヒロインが出るぞぉ!
(∩´。•ω•)⊃ドゾー



 

 

丸亀城の改築された勇者用の教室で1人少女は手にゲーム機を持ちながら窓から見える空を眺めていた。

 

「.......」

 

ただ今はゲームをせずに空を見てみたかった。

彼女――郡千景は高知県の村で生まれ、両親に祝福された。

最初は何も変哲もない幸せな一般家庭だったが、ある日それは千景の人生は少しづつ崩れ落ちていった。

それは父親が千景の誕生日を祝わず仕事の同僚との飲み会を優先したのだ。

それからして千景の母がそれに対して千景の父と口論となり、毎日毎日それが続いた。

千景の父親は子供をそのまま大人にしたような性格で何をやっても自分優先。

家事も何もしないただのロクでなし。

時が経つにつれ、千景の母が家を出て行ってしまった。

他の男と不倫が発覚したのだ。理由としては父に愛想を尽かしたのだろう。

まだ幼い千景は理解は出来なかったが母親がいなくなるのはとても悲しんだ。

それからして村全体に郡家の噂が広がりそれは千景が通っている小学校にも流れ着いていた。

その日から千景はクラスメイトや村の人々に虐げられ、蔑まれ、罵倒も浴びせられ挙句には自分の私物や服なんかを壊されたり燃やされたり、また自分の身体に消えない傷を残されたりもした。

これから毎日虐めが続く事が当たり前になっていた千景はもう全てがどうでもよくなっていた。

でも唯一千景は自分を外部から守ってくれるのがゲームだった。

自分の耳にイヤホンを挿して音量を上げる。

それだったら誰からの罵詈雑言も聞かなくてすむのだから。

それだけで千景は少し気が楽になった。でもその心は依然、冷えたままだ。辛い――と、心が何回も問いかけてくる。 それでも彼女は自分は辛くもない、何も感じない、何も痛くないと言い聞かせた。

だがそれは数年後に変わり始める。

千景が5年生に上がる頃、このクラスに転校生がやって来た。

でも、それすらどうでもよかった千景は窓から見える景色を眺めていた。

流石に学校ではゲームは出来ないのでそれしか周囲を遮断出来なかった。

しかし、ふと視界に映りこんだのは黒板に名前を書いていく男の子の姿があった。

黒髪で赤い眼を持つ少年。

そして男の子は自分の名前が書き終わると元気よく息を吸って口を開く。

 

黒結海斗(くろすびかいと)です!親の事情でここに引っ越して来ました。まだ右も左も分からないですが、自分と仲良くしてくれると嬉しいですよろしくお願いします」

 

そう少年――海斗は言う。

それでも千景自身はどうでも良かった。

千景は海斗を一瞥してまた窓から見える外の景色を見た。

それからして転校生が来たという理由で千景以外のクラスメイトは海斗に興味津々で『何処から来た』とか『黒結君ってあのブラック・コネクト社の人?』

と様々な質問をされた。

香川では黒結家の会社を知らない人は早々いないぐらい有名らしい。

『ブラック・コネクト』 黒結家が経営する運送とオフィス系を主にしている会社。

頼まれた荷物を早急に発送したり、香川の町おこしに色々貢献をしていたりして人気がある。

あまり自社の事は表に出さないのかホームページを見ても平凡。テレビでやっているCMも普通。

それでも人気が高いのは黒結家が一生懸命に世のため人のために働いている頑張りが評価されていたりするのだ。

その御令息である海斗は周りからは会社の息子として見られている。

でも、子供とは常に無知で突拍子な事を言ってくるものだ。

 

「あ.....その、俺会社の事知らないんだ.....」

 

海斗は1人のクラスメイトに質問されたことを返していた。

困ったような顔をしながら答えるがクラスメイトは顔を傾げた。

会社の息子だったら会社自体知ってるんじゃないのかと周りはそう思っているのだろう。

 

「父さんは1度も俺に会社の事を話さなかったんだよね.....だから知らないんだ」

 

さっきまでうるさかった声が今は聞こえない。何か申し訳なさそうに海斗を囲んでいたクラスメイト達はチャイムが鳴ると自分の机に戻って行った。

 

「.......」

 

またそれを千景は無言で海斗を見つめていた。

それに気付かない海斗だが、少し疲れたのか表情は暗くなっていた。

初めての自己紹介で会社の事が出たのは予想済みだが、詳細を知らない海斗はそれに答えることは出来ない。

失敗したのだろうと思っているのだろう。

すると教室から担任の先生が入ってきて授業が始まった。

 

 

 

 

「やっと、放課後か......」

 

海斗は夕焼けに照らされている教室を見ながらボソッと呟く。

今日初めてこの学校に転校してきて緊張はしたが、最も彼自身の父が経営する会社の事を聞いてくるのはどうも止めて欲しかった。

会社の息子だからって特別視されても心苦しい。

1人の人間として扱って欲しいのだ。

そして、生徒達が次々と自分の家に帰っていくのに連れて海斗も自身の家に帰宅しようと教室を出た。

長い廊下を歩き続け、階段を使い次の階に降りようとしたら視界に3人の少女達が1人の少女にハサミで髪を切り落としていた。

周りから見ても明らかに可笑しい。

でも、廊下に座っていた少女は微動だにせず、それを受け入れていた。いや、なにをしても意味がないように諦めがついていたような虚ろの表情で待っていた。

しかし、その切られていた髪から何故か赤い液体が付着していた。

そして、またそのハサミで少女の髪を切り落とそうと手が掛かりそうになる。

 

「――ッ!」

 

咄嗟に身体が動いた。階段を高く飛び越えて、ハサミを持っていた生徒の前に立ち、右手でハサミの先端を掴む。

 

「ッ.....」

 

痛みをグッと堪えてその生徒を睨み付ける。

 

「お前ら、何してんだよ.......」

 

それに怯えたのか何も言わずに3人の少女達は一目散に階段を降りて行った。

それを確認すると息を吐いて落ち着く。

海斗は座り込んでいる少女の方に振り向き膝を突いた。

 

「......大丈夫か?」

 

「.......」

 

声を掛けても自分と同じ黒髪を持つ少女は無言のまま下を向いていた。

すると海斗は少女が左耳を抑えていたことに気付いた。

 

「着いて来て」

 

海斗は少女の手を握って保健室を目指した。

保健室に着いて扉を開けると誰もいなかった。

どうやら今日は保険の先生はいないらしい。なら、自分が出来ることは目に見えている。

少女を近くにある椅子に座らせた。

少女を座らせた海斗は先に自分の右手を水道で洗い、自分のハンカチで軽い止血をする。

止血し終わると直ぐに医療器具がしまってある引き出しから手当り次第ガーゼや消毒を出して、少女の方に向かう。

 

「傷見せて」

 

「......」

 

少女は言葉を発さない。警戒されているのかはたまた海斗が彼女に対して先程の生徒達と一緒で傷付けてくると思われているのか、両方なのだろう。

 

「どうして......」

 

少女が震えながら言葉を発する。

 

「どうして私を......助けたの?」

 

「どうしてって言われてもな.......」

 

海斗は頭をポリポリと掻きながら考える。

 

「目の前で傷ついている人を見たらそりゃ助けるに決まってんだろ。俺はそんな薄情じゃない」

 

「......貴方は私の話知らないの?」

 

「――話?」

 

少女は自分の家庭について話し始めた。

自分の父が何もしないロクでなし。母はその父親に愛想を尽きて家を出て行ったことを、そしてそれからその話が村中に広まり家に出ても学校に行っても虐げられ、蔑まれた。

 

「この話を聞いても貴方は私を助けるの?」

 

少女の目は消えかけていた。光が灯っておらず、何も縋れず、誰も頼れず、ただ一人で乗り越えてきた。それももう限界なのだろう。

少女自身何故海斗に話したのか分からない。しかしそれは彼女自身はもうどうでも良かった。

虐げるなら、蔑むならさっさとやってくれと。

 

「さっきも言ったけど、傷見せてもらってもいい?」

 

「は?」

 

今彼はなんと言った? 罵倒ではなく、催促をした。

 

「え、ど、どうして?」

 

「髪と一緒に耳も切られたんだろ?そのままにすると膿ができちゃうぞ」

 

ほら、早くしろと海斗は少女に言った。少女は素直に従い左耳を海斗の方に見せる。

数分しか経っていないが大分血が固まってそこには膿もでき始めていた。

でも、まだ海斗でも軽い治療は出来る範囲だった。

 

「染みるかもしれないけど我慢しろよ?」

 

そう言う海斗はガーゼに消毒を染み込ませて耳の傷に触れる。

少女はビクッと肩を震わせたが、一瞬だけだったので直ぐに治療は終わった。

 

「これでよし、と」

 

治療に使った道具はゴミ箱へ捨てた。

少女は不思議そうにガーゼが貼ってある自分の耳に指で触れる。

 

「後は病院で診てもらうしかないよな.....」

 

「......」

 

先程の少女の話を聞いた海斗は彼女の親に頼んだとしても何もせずに放置するだろう。

そしたら自分が連れていくしかない。

 

「ねぇ......」

 

「ん?」

 

少女が口を開く。

 

「もうやめて......」

 

「何で?」

 

「私は無価値な存在よ周りから人として扱われてない。誰も私を見てくれない」

 

目に雫を溜めながら、弱りながら今にも何処か行きそうな動物のように少女は怯えながら海斗に強く言う。

 

「もう、私に関わらないで。あなたも関わったら私と同じ事をされる......」

 

希望を見せないで欲しい。見出して欲しくない。

そんな淡い光に縋って誰かを不幸にさせてなくない。

1人でいいのだ。

だって少女は無価値な人間なのだから――

 

「え.......?」

 

いきなり目の前にいた海斗が少女を抱きしめた。

逃がすことを拒むように。

 

「俺は君の事をよく分からない」

 

でも、と海斗は強く腕に力を込める。

 

「君は無価値なんかじゃない!一人の人間として生きてるじゃないか!」

 

「そんなの.....嘘じゃない」

 

少女は咄嗟に言葉が出る。

海斗も負けず劣らず口を開く。

 

「嘘じゃない!」

 

「嘘よ.....」

 

「嘘なわけあるか!」

 

2人しかいない保健室に海斗の声が響き渡る。

それに気圧された少女はビクッと震える。

 

「.......どうしてそう言えるの?」

 

恐々聞いて見ると海斗は抱きしめた腕を緩めて少女の肩を掴んで顔を見つめる。

 

「俺が君の価値を認めているから!この世界でちゃんと生きてるって忘れないからだ!」

 

そして、海斗は笑う。

 

「君は一人じゃない!俺が護るから!嫌な事が嫌って言って俺に言ってくれよ!また虐められたらソイツらを俺が何とかしてやる!」

 

「――!!」

 

少女は何かが崩れ落ちる音がした。突如に目の奥から熱いものが先程より流れ出ることを感じた。

止めたくても止められない。

自分の壁が壊れていくのが感覚で分かる。

悲しいという感情が喜びに変わっていく。

 

「うっ.......ひっぐ.......あああ......うわぁぁぁん!」

 

久しぶりに流した涙は何時だろう?

でもこの涙は悲しい訳では無い、嬉しいのだ。

こんなにも心と身体が暖かくなる。

海斗も少女が泣いた所で抱きしめて頭に手を置いて撫で始める。

優しく、子供をあやす様に。

泣き止んだ少女は先程の表情より瞳にも光が灯っていた。

恥ずかしいのだろうか、海斗から視線を外す。

 

「さ、さっきはありがとう.......」

 

頬を赤く染めながら彼女の精一杯のお礼を聞いた海斗は笑みを浮かべる。

 

「うん、やっぱり君は笑った方が似合ってるよ」

 

キザっぽい言葉が小学生には似合わないのかそれを聞いた少女はぷっと笑い始めた。

 

「ふふっ......ゲームでそんなキャラいたわね」

 

なぁ!?と海斗はガクッと肩を下げた。

 

「あ、そういや名前聞いてなかったよな」

 

海斗は少女の前にピシッと立ちながら口を動かす。

 

「改めて自己紹介だな。黒結海斗です!趣味は読書と料理特技は寝る事かな。宜しくな!」

 

笑いながら手を少女に差し出す。それに少女も応えた。

 

「......郡千景よ。趣味と特技はゲーム......宜しく」

 

その手を千景は手に取った。

その日から海斗と千景は一緒にいる事が多くなった。

海斗にも学校の虐めが出ることになったが、彼自身は自分でそれを消した。

虐めた者は証拠や弱みを見せて黙らせる。

後はこの事を父や母を話すと直ぐに対応してくれて、ある程度は虐めや陰口はなくなった。

それからして千景も少しは人目を気にせず外に出れるようになり、名前も苗字から下の名前呼びになるほど信頼を得ていた。海斗の方は千景の事を『ちーちゃん』と千景の方は下呼びだ。

海斗の家に遊びに行く事が多くなったが、お互いゲームの対戦で盛り上がったり、協力プレイで力を合わせたり、色々楽しんだ。

互いの誕生日も祝ったりとかして一生の思い出を作ったりもした。

そして1年後の7月30日にあの災害が起こる。

その時千景は親がいる家に戻りたくなくて家出をしていた。

この時は海斗が名古屋にいる親戚に会いに行くと言って留守にしていた。

少しだけ寂しかったが、家の事ならしょうがないと割り切っていた。

でも、心の何処かでは行かないで欲しいと願っていた。

なんて罪な女なのだろう。

自分でも苦笑いしてしまう。

そして、7月30日のバーテックス襲来から3年後、千景は勇者として力が目覚めてずっと訓練をしている。

初めはなんで私たちがそんな事をしないといけないのか分からなかった。今この世界の現状は神樹がバーテックスから結界で守っている。

そしてこの四国の恵でもあるのだ。

そのせいで神樹は戦う事が出来ないと神樹を信仰している大社という組織の神官がそう言っていた。

この世界が壊されれば千景達の日常、つまり海斗との幸せな生活が出来なくなること。

それを想像してしまった千景はそんなのはさせないと今まで以上に勇者として訓練や鍛錬に励んだ。

勇者になってから少し経ったある日、いつも通りに丸亀城内部を改築した訓練所で千景と同じく勇者となった少女達と訓練をしていた。

すると大社の方から新たな勇者が見つかったと言われて全員驚いた。

一体誰だろう? そう思いながら訓練所の扉が開く。

それを見た千景は瞳を大きく見開かせる。

そこにいたのは千景の大切な人であり、自分の幼馴染でもあった黒結 海斗がいたのだ。

あの日(7月30日)から彼を見ていなかった彼女は直ぐに海斗の様子に気づいた。

今の彼は昔の千景と同じだった。

感情が欠落しているのかあの日見せた笑顔はもうないと感じた。

軽く挨拶をした海斗はふと、千景に気付いたのかあの時と同じ笑顔で微笑んだ。そして元の表情に戻り千景達に礼をして後ろを振り向いて訓練所から出て何処かに消えていった。

 

 

 

 

「.......」

 

丸亀城の教室で千景は耳にイヤホンを付けながらゲームをしていた。

すると、突然肩を叩かれた。

千景はゲームを止めて振り向くとそこには赤髪をした少女がニコニコと微笑みながら千景に声を掛けてきた。

 

「ぐんちゃん!そろそろお昼の時間だよ!」

 

「えぇ.....そうね。ありがとう高嶋さん」

 

高嶋友奈。千景が海斗以外唯一心を開けた存在。明るくて周囲を励ましてくれる。

海斗も彼女自身に少し対応に困っているのか常に振り回せている気がする。

千景は一段落付いたのでゲーム機をしまい、席を立とうとすると、視界に海斗が映る。

 

「.......」

 

千景は声を掛けようか迷っていた。

今の彼は小学生の時みたいな明るい子ではない。

口数も減って今はもう彼自身から話しかけてこない。

また、あの日の笑顔がみたい。また自分と関わって欲しい。

そんな思いを抱きながら日々海斗を見つめる千景。

それを見ていた友奈は海斗の方に向かって声を掛けた。

 

うみ君(・・・)!私とぐんちゃんと一緒にお昼食べに行こう!」

 

それを聞いた海斗は心底嫌そうな顔で友奈に言う。

 

「なんで、お前らといかないといけないんだよ。俺は一人で食べた方が楽なんだよ」

 

「そう言わずに〜ほら、ぐんちゃんも一緒に食べたいって言ってるよ?」

 

「た、高嶋さん!?」

 

本当かというような感じで海斗は千景を見る。

オロオロとした千景はコホンと咳払いをして口を開いた。

 

「私も海斗と一緒に食べたいわ.....昔は良く食べてたじゃない?」

 

「昔は昔だろ?もうあの頃の俺じゃ――」

 

海斗が最後まで言おうとしたが、千景が泣きそうな目で海斗に上目遣いをする。

 

「ダメ.......かしら?」

 

「.......」

 

海斗は頭をポリポリ搔いてはぁとため息を吐いた。

 

「行けば......いいんだろ?」

 

ぷいっと顔を振って言う。 友奈と千景はパァと笑顔になり、2人は海斗の手を片方ずつ掴んで歩き始めた。

 

「じゃあ、行こうぐんちゃん!」

 

「ええ、高嶋さん」

 

「おい。ちょっと待て、はやすぎるだろ!」

 

2人に連れてかれ食堂に着いた海斗は結局3人で食べるのではなく、勇者達と巫女一人と食べる派目になった。

食事をしていると海斗の前にいる小柄な少女が彼の天ぷらを奪った。

それを海斗は叫ぶが直ぐに諦めてうどんを啜った。

自然と千景は笑みを浮かばせる。

この時間だけは彼が救われますようにと願うように。

 

「(海斗、私は貴方のお陰で救われたわ。だから、今度は私が貴方を助ける番よ)」

 

例え、自分が死んだとしても、彼の心に残り続けるかぎり、忘れないかぎり、自分の想いは不滅なのだから。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

彼岸花の花言葉を知っているだろうか?

花言葉は情熱、独立、再会、あきらめ、悲しい思い出、想うはあなた一人。その言葉があるだろう。

一人を想うのは一筋に近い。

それを郡千景は彼を想い続けるだろう。

そして、最後にもうひとつ花言葉がある。

想うはあなた一人という花言葉までが周囲が一番知ってるだろう。

でも、人というのは大切なものがあるとそれが戻ってこないとずっと祈りを繰り返し続ける。

愚かだとは思うだろう。

しかしそれが行動で示すのなら?何をやっても無駄なのか?

だが、それは無意味では無いのだ。

そして、その花の最後の花言葉は―――

 

 

 

 

 

 

 

 

また会う日を楽しみに(昔の貴方に戻って欲しい)

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 





千景ちゃんの環境をそこまで詳しく分かってないから独自解釈もいれてるかもしれないけど、虐めだったらこんな感じだろってのは分かってるので何とかそれっぽくしてます。
うん?千景の精神状態は大丈夫なのかって?
それはご想像にお任せします。

さて、次回はやっと本編に入りますかね。
先に言っときますとなんで若葉の方をやった方かと言うと若葉が入ればひなたもいる。
若葉=リーダーで海斗君を考えてくれるから、後はひなたも海斗の事情を大社から聞いてるのでリーダである若葉に少しは関わって欲しいと思ったからですね。

彼は何故千景ちゃんみたいに心を閉ざしているのかは不明です。
それでも何かといい人かもよ?

それでは次回またお会いしましょう。


次回、第3話: 海は結びを解いて武器を取る


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第3話:海は結びを解いて武器を取る


どうもバルクスです。
やっと本編を少し書けましたぁ!
そのせいで1万文字は軽く超えたんですけどねw
でもまぁ、ここから本番なので頑張ります!
後、友奈の海斗呼びが「うみ君」から『うみくん』に変更しました。
御理解お願いします。


では本編どうぞ〜(∩´。•ω•)⊃


 

 

「.......」

 

西暦2018年、八月末日。

まだ日差しが強い中、丸亀城内部の改装された放送室で海斗は太陽が当たらない位置で座っていた。

かれこれ10分前に着いて、放送室にいたが、ただやる事もないので、前に四国の勇者の一人に貸してもらった本を読んでいた。

前に『なにかおすすめな小説はないか』と気まぐれに聞いてみたら目を輝かせてこちらに迫ってきた時は驚いた。

海斗が小説を貸してもらった時。少々彼女の鼻息が荒かったが、恋愛小説やその他のジャンル系の小説に興味持つ仲間が増えたのだから興奮もするし仕方ないだろうと納得した。

なんでもその小説は偶然にも男が無数の羽を持つ天使と自身の寿命と引き換えに契約し大切な人を守り抜くというダークファンタジーのライトノベルだ。上下巻構成で今はその上巻を読んでいる。

率直で言わせてみれば分かりやすい。

主人公の使命や生い立ち、その他のヒロインとの関わり方。若干ハーレム寄りだが、結局はヒロイン一筋という王道系の流れは組んでいる。

 

「選択肢が残酷だよな.....」

 

海斗は読み終わったページをペラペラと次々捲り、ボソッと言葉をこぼす。

この小説は主人公の精神を片っ端から折っていくのだ。

例をあげるなら、ヒロインと幼馴染のどっちを助けるのかを迫られる。片方助けたらもう片方は死ぬし、両方助けられなかったら主人公の心も死ぬ。

結果、主人公はそのヒロインを救うため幼馴染を犠牲にした。

でも、それでもヒロインは泣きながら主人公を責めてしまった。

『何で私じゃなくてあの子を助けなかったの!!』

と主人公の胸を泣きながら何回も叩いた。

誰も悪くは無いこの状況なのだが主人公は結局自分と長く過ごした大切な人を見殺しにした。

それからして主人公は何も言わずにヒロインと距離を置いて陰ながら見守った。

主人公は精神的にはもう限界の筈なのにどんな行動力で立ち上がっているのか、どうして何もかも失ったというのに敵と戦うのか、どうして責められても好きな人に何も言わなかったのか。

 

それは――彼女を愛していたからだ。

どんな時でもどんな状況でも、天使(悪魔)と契約した男は諦めず、自身が死ぬまでヒロインと自分の大切な人達を守り続ける為に。

 

「.......」

 

パタンと音を鳴らし、上巻を読み終えた海斗は本を制服のブレザーの内ポケットに閉まった。

それと同時に放送室から廊下に続く階段から誰かが上がってくる音が聞こえ、そこから金色の髪を後ろで纏めて揺らしながら刀を片手に持った制服姿の乃木若葉が現れた。

若葉も海斗に気付いて口を動かす。

 

「――やはり先に来ていたか」

 

「お前が来る10分前から着いてたよ」

 

海斗は嫌味ぽく手をヒラヒラと若葉に振りながらそう言った。

若葉は海斗の軽口を逆にふっと笑って流し放送室にある通信機の元に向かい座った。

 

「諏訪との通信を始めるぞ」

 

「うぃー」

 

若葉は真剣な目に変わり、海斗は軽い返事をして通信機の方に向いた。

無線機のスイッチを入れて通信を繋ぐ。

しばらくの雑音後、落ち着いた少女の声がスピーカーから発せられる。

 

『......諏訪より、白鳥です。勇者通信を始めます』

 

「香川より、乃木だ。よろしくお願いする」

 

「同じく香川より、黒結だ」

 

通信機から発せられた声は長野県諏訪湖東南で勇者をやっている白鳥歌野。

彼女は一人で諏訪を守り続けている。

 

「白鳥さん、そちらの状況はどうだ?」

 

若葉は諏訪の状態を歌野に聞く。 白鳥は若葉の返事に落ち着いた様子で応えた。

 

『芳しくはありませんね。もっとも、そんなことをいえば三年前のあの日から状況が芳しかったことなど一度もありません』

 

「......違いない」

 

「......」

 

若葉は口調が暗くならないように努めた。

海斗は何も言わずにただ黙って話を聞いていた。

元々長野は、諏訪湖を中心にもっと広い地域があった。

しかしバーテックス出現から3年の間に、次第に地域は侵攻され、今保たれているのは諏訪湖南東の一部のみなのだ。

 

『今は現状維持ができるだけ........でしょう』

 

通信の途中でノイズが入り、白鳥の声が乱れた。

 

「すまない、通信にノイズが入ったようだ」

 

『ああ、現状維持ができるだけでも御の字だと言ったのです。通信ノイズ、最近多くなっていますね』

 

「そうだな......」

 

『この通信も何時まで続けられるか......』

 

「......」

 

考えると少しだけ気分が沈む。若葉自身も分かる。今彼女達は何も出来ないことに。

何とかしてあげたい、助けてあげたい。

それを考え続ければ続く程、さらに気分が沈んでいく。

すると、今まで黙っていた海斗が目を開け、勝手に若葉から無線機を取り上げ口を開いた。

 

「こちら、黒結です。なぁ白鳥、そろそろ乃木との決着をつけたらいいんじゃないか?」

 

海斗は冗談めいた口調で沈んだ空気を変えた。

若葉の方を見て無線機を投げ返す。

投げ返した時に若葉は驚いて両手でキャッチをした。

その時海斗を睨んできたので視線を外しておく。

 

『黒結さん?え、ええ......そうですね。私もそう思っていたところです。今日こそは雌雄を決しましょう........』

 

「......そうだな。私も同じだ」

突然の事で歌野の方も通信機のスピーカーから聞こえてくる若葉の声から海斗に変わったので驚いた。

そして歌野も若葉も不敵に答える―――

 

『「うどんと蕎麦、どちらが優れているか、を!」』

 

同時に若葉の声と歌野の声が重なった。

それからどちらの食が勝っているかを熱弁したり、うどんと蕎麦に含まれている栄養素も語っていく。

それをひっそりと若葉から距離を取り、遠くの柱から海斗はこれから起こる接戦に備えて、制服のポケットからスマホとイヤホンを出してイヤホンを両耳に付けてスマホに挿して曲を聴き始めた。

決して面倒事に巻き込まれるとか思っている訳では無い.....多分。

両耳から音楽が聞こえると目を閉じて意識を集中する。

優しい歌だが、歌詞は現実を突き付ける言葉ばかりだった。だが、海斗はこの曲が好きなのだ。

夢物語よりやはり自分の手で真実を掴みたい。

実体があれば自分が生きていると実感が湧いてくるのだ。

先程読んだ小説も現実的ではないが、心情を書けば人の心は揺れ動くというのを勝手に説明してくれる。

例えどんな状況だろうと、どんな事があろうとその先は誰にも分からない。

この3年間、鍛錬を絶え間なくやってきた。

辛い事は何回もあったし、逃げ出したい時もあった。

でも、三年前。海斗が初めてバーテックスと対峙した時の光景は忘れられない。

あの時、偶然でも勇者としての力に目覚め、その力を使いこなしていれば多くの人をこの手で救えた。

誰一人も殺されずにすんだ――

人と人の醜い争いを止めることが出来た――

バーテックスの攻撃から庇って、致命傷を負ったにもかかわらず、死ぬ最期までずっと海斗の心配をしてくれた巫女を殺されずにすんだ―――

経験も肉体も精神も出来上がってない子供が何を言っても周囲の人は誰も悪くないと言うだろう。

責めようとは思わないだろう。

虐げることはしないだろう。

でも――それは自分にとっては慰めにもならない。

否定しても背けても、現実(弱かった自分)は変わらない。起こった結果は二度と戻らないし戻せないことも知っている。

だから俺は(海斗は)今までの自分を殺すことにした。

弱いままじゃダメだと、今の自分じゃ誰も守れないと。

他人の繋がりも血の繋がりも自分から断ち切った。何もかもを――

例え――大切な人と過ごせなくても。

例え――自分が傷付いたとしても、倒れそうになっても――

今度こそは護り抜くと。

 

 

「......」

 

5曲目が終わったぐらいで目を開けるとやっと歌野と若葉の戦争(うどんと蕎麦の魅力)が一旦幕を下ろした。

若葉の方を見ると笑っていた。

どうやら引き分けになったらしい。

音楽であまり聞こえなかったが、丸亀城の校内からチャイムが鳴る音が小さく聞こえていたのでそれで分かった。

丁度イヤホンを耳から外すと若葉の声が聞こえてきた。

 

「時間切れか。蕎麦は命拾いしたようだな」

 

『それはこちらの台詞です。うどんこそ命拾いをしましたよ。明日からは新学期が始まりますから、通信は放課後の時間にした方がいいですね』

 

「うむ、そうしよう。では、また明日も。諏訪の無事と健闘を祈る」

 

『四国の無事と健闘を祈ります』

 

若葉と歌野はお互いの地域の無事を祈った。

すると、通信を切ろうと思った歌野だったが、唐突に声を発する。

 

『すいません、もう1つ言うのを忘れていました』

 

「む?どうしたんだ一体。もしや、うどんの魅力に気づき始めたのか?」

 

若葉はニヤリと冗談混じりに歌野に言うが歌野は違いますよとスピーカーで伝える。

 

『黒結さんに聞きたい事がありまして......』

 

「俺に?」

 

若葉から渡された無線機を取り、海斗は言う。歌野は少し間を開けると再び声を発した。

 

『黒結さんはうどんと蕎麦、どっちが好きなんですか?』

 

「――!?」

 

「は?」

 

突然なんだろうと身構えたが、まさかさっき話していたうどんと蕎麦の話に戻るとは......確かに両方栄養はあると海斗は思う。

でも、片方を選べと言われてもどっちも嫌いじゃないから選べない。寧ろ両方好きな食べ物に入るので発言しずらい。

 

「(.....というか、さっきから乃木からの強い視線があって、言い難いんだが......)」

 

意を決して言おうとするが、隣には強い目付きで睨んでくるうどんを愛す剣士兼勇者リーダーの乃木若葉さんがいるのだ。

その視線で人を殺せるんじゃないだろうか?

正直に言うとか死刑に当たるんじゃないだろうか?

そして、どうして歌野は自分にそれを振ったのだろうか?

ただの興味本位なのだろうか。だとしたらタイミングというものがあるだろう。

そう心の中でぼやくが、そろそろ言わないと若葉に殺されかねないので、海斗は腹を括って口を動かした。

「正直に言うが、どっちも好きだからあまり、考えた事がない」

 

「『........』」

 

平然を装ってこの場を切り抜ける事を目指した海斗だったが何故だろうか、若葉と通信機から聞こえてくる歌野の声が無言に変わる。

 

『.....やはり黒結さんはオールラウンダーなんですね』

 

 

「まぁ、黒結は私が食事中にうどんも食べろと言ってもその日の気分で色々料理を変えてくるからな」

 

「別にそんなの人の勝手なんだからいいだろ」

 

2人の言葉に突っ込みせざるをえない海斗だった。

はぁとため息をこぼすと無線機を持つと歌野と交信をする。

 

「他になにか聞きたいことはないか?」

 

『はい、もう大丈夫ですよ。質問に応えてくれてありがとうございます』

 

「別に。俺も蕎麦とうどんの魅力は知ってるからな」

 

そう言う海斗は無意識に微笑んでいた。

 

 

「と、いうことだ白鳥さん。決着はまた、放課後に」

 

今まで海斗を鬼の形相で睨んでいた若葉がいつの間にか笑みを浮かべ歌野に向かって口を動かす。

 

『はい、乃木さん。また放課後に』

 

そう言った歌野の言葉を最後に若葉は通信機のスイッチを切った。

 

「さて、この後はどうするんだ黒結?」

 

若葉は刀を取り立ち上がった。 海斗も後に続いて立ち上がり制服のスボンに付いていた埃を払った。

 

「あー俺は、いつも通り部屋で引きこもってるよ」

 

「......相変わらずだな」

 

「まぁ今日は鍛錬もないしな俺的にはこんな暑い中外に出るとか正気じゃねぇよ」

 

「そうか。相変わらずお前らしいな」

 

若葉が苦笑いを浮かべ言うと海斗は若葉の顔を見ずに後ろを向いて手を振りながら階段を降りていった。

それから廊下を歩いていた海斗は数歩で止まった。

丸亀城に付いている窓から見える四国の海を見つめた。

しかし、その目線は海ではなく、海の奥にある白い壁を強い眼差しで見つめていた。

 

 

「.......」

 

海斗は静かに海の奥にある壁を見ながら手を伸ばし思いっきり掴む。

 

「俺は......絶対にお前らを殺す」

 

その目は憎悪にも近い赤く燃え上がる瞳で壁のずっと奥を見通していた。

この復讐心は絶対に消えないだろう。だがそのお陰で今の海斗がいるのだ。

それがあるだけで海斗は前に進める。

その道が屍の道でも、茨でも、泥でも、どんな道だろうとも喜んで前に進もう。

 

「待ってろよ頂点(バーテックス)様。必ず人間がお前ら化け物を殺せる瞬間を見せてやる」

 

この場にいない化け物達に海斗は呪いを振り撒く。

 

「.......首洗って待ってろ」

 

海斗は伸ばしていた手を下げて廊下に身体を向けて歩みを始めた。

自分の人生は化け物に変わらされた。だから今度はこっちがあの化け物に対して報復させてやろう。

絶対に。

 

 

 

 

 

 

 

翌日。

九月になり、今日から勇者達は新学期になる。

もっとも、海斗とその勇者達は訓練の為に夏休み中でも毎日学校に通って休みを満喫というのが出来なかった。

勇者と巫女も入れて、人類をバーテックスから守る最後の矛であり、希望なのだ。

日々の訓練は欠かしたら駄目なのだ。

その新学期初日に海斗は呑気に歩いていた。

もう登校時間は過ぎているのに気にせずゆっくりと自分が住んでいる寄宿舎の部屋から出た。

しかもスマホから曲を流して聴きながら。

数分で教室に着いた。扉越しだからか少しだけ大きな声が聞こえるが海斗は気にせず、扉を開けた。

すると教室がいる勇者達と巫女1人が海斗の方に全員振り向いた。

 

『.......』

 

「.......」

 

ちらっと視線だけ勇者達と巫女を見た海斗は何も言わずに肩にかけていた鞄を机に置いて勉強道具を取り出した。

その後に教科書も出して机の中に入れた。

すると机に荷物を入れ終わったのと同時に明るい声が聞こえた。

 

「うみくん!おはよー!」

 

赤い髪に桜の髪飾りをしている少女、高嶋友奈が海斗に話しかけてきた。

その声を聞いた海斗は心底うざったそうに眉を顰めながら口を動かす。

 

「高嶋。何回も言うが、俺の方に来るな。目障りなんだよ」

 

「えぇ!そんな事いわないでよー!私、うみくんと仲良くなりたいだけなんだよ?」

 

強い口調で友奈に言う海斗だが、友奈は臆すること無く笑いながら口を開く。

 

「そもそも、俺はお前に興味が無い。仲良くなりたいとも思わないしな」

 

「そんなぁ......」

 

海斗は友奈に辛辣な事を言うが友奈はなんとも思ってないようだ。

それもそのはず、これが何回も続いているのだ。

友奈はこの中でムードメーカー的な存在で周りを大切に思っている。

その中、唯一海斗だけは周りと距離を置くのが気になる。

それも事情があるのは分かるが、勇者として友達として一人が輪に入ってないと悲しいし、そんな暗い空気が嫌な友奈は何としても皆と仲良くして欲しいが為にまず、自分から海斗に声を掛けている。

まぁ、何回もやってもこうやって強い口調で突き放されるのが多いのだが。

しかし、何回も同じ事をやってると変わるものもあるらしい。

 

「......ほらよ」

 

「え?」

 

海斗がいきなりポケットから一個の飴玉を友奈に投げつけてきた。

友奈はそれを両手でキャッチをするが、目を点になってこっちを見る。

 

「これって.....飴?」

 

「......勘違いすんな。丁度ポケットにあったから渡しただけだ」

 

海斗はそう言うと友奈から顔をプイと逸らした。

友奈は海斗の言葉に笑みを浮かべながら口を動かす。

 

「(前に聞いたぐんちゃんの話、根元にある優しさは消えたわけじゃないんだ....)」

 

ただ海斗はそれを隠しているだけで多分だが、彼も友奈と同じで誰かが悲しい顔をしてるのは見たくないのだろう。

言葉と行動が矛盾しているがそれが黒結 海斗の優しさなのだ。

千景が言った海斗の優しさ。

海斗自身も気付いてはいないが、本来は優しい人物なのだろう。

でもバーテックスが襲来してから彼の性格は変わった。

それは千景から見ても一発で分かるらしい。

海斗を見ている千景は何時も悲しい表情をしながら彼を見ていた。

それをどうにかしてあげたい友奈は学校や訓練がある時、放課後の時も千景と一緒に海斗に声をかけ続けていた。

それでも彼は変わらなかったが、何も無駄ではなかった。

友奈がわざと悲しい表情をしたら、ポケットから飴玉を渡してくれたのだ。しかも、桜味で嬉しかった。

少しずつだが、彼も友奈との関わり方を変えてくれるらしい。

まぁ、対応は変わらないが。

 

「ほら、それでも食ってあっちでもいってろ。そもそも邪魔」

 

海斗は強く言うが友奈は気にせず笑顔を見せる。

 

「ありがとう、うみくん!いただきます!」

 

瞬間に友奈は海斗に貰った飴を口に入れた。

ほんのり桜の味がして飽きない。

 

「うわぁ!これ、すごく美味しいよ!」

 

「.......そっか。用はすんだろはよ自分の席かちーちゃんの方に戻れよ」

 

「はーい!また後で来るね!」

 

手でシッシッと振る海斗。友奈は気にせず手を振って、千景がいる机の方に向かい、話し始めた。

 

「.......はぁ」

 

それをため息を吐いて遠くで友奈達を見る。

やっと離れてくれて助かったが、正直やめて欲しい。

なのに毎回教室とかに絡んでくるし、一体何が目的でこっちに来るのか分からない。

それで、口調が強くなり言葉を発して、友奈を傷付けてしまったと思った海斗は丁度手元に桜味の飴があった。

それを友奈に渡すと彼女は喜んでくれた。

自然と恥ずかしくなったのを自覚して反射でそっぽ向いてしまった。

でも、それでいいと思った。

今の表情を見られたら絶対弄られるのだ、それは何としても阻止しなければならない。

ある程度鞄に入っている荷物を机にしまい終わり椅子に座ろうと腰を掛けるが、視界に小柄の少女とその少女を追いかけてきた物静かな少女が目に映り海斗の方にやってきた。

 

「よ、カイト!また友奈を泣かしたのかぁ〜?」

 

「おはようございます、海斗さん」

 

「.......」

 

先に声を発したのは小柄の少女だった。

土居球子。勇者の1人で勇者武器は盾の旋刃盤。

盾にも出来て敵にも投げ付けられるという。

弱点としては盾を投げている時は球子自身が無防備になり、逃げ回るしかない。

勇者の中では友奈と同じく元気でお調子者。

明るいのだが、たまにうるさい。

後はアウトドア用品とかを買うのが趣味らしい。

そして球子の後に続いて来たのは物静かな少女。

伊予島杏。球子とは違って物静かな娘だと海斗は思う。

でも彼女は本がとても大好きで、一番好きなのは恋愛小説のジャンル。それ以外の小説は好きらしいが基本的によく見るのは恋愛ものばっかだ。

それぐらい彼女は愛が付くほど小説を愛している。

以前に海斗も彼女に本を貸してもらったのが本人であり、杏よりではないが海斗も本を読むことがあるので偶にだが話す事はある。

彼女が使う勇者武器はクロスボウの金弓箭。

普通のクロスボウは一発装填式だが、勇者の武器は神器で出来ているため連射も造作もない。

 

「全く。人の気遣いも無下に出来るのはお前だけだよもう少しタマ達と話す事はしないのか?」

 

「タマっち先輩、そんな事いわないの。海斗さんだってなにか事情があると思うし......」

 

「別にいいだろ、あんず!」

 

海斗に嫌味を言うかのように話す球子。

それを見て止める杏。

それに海斗は疑問的に声を発した。

 

「何でお前らと話さないといけないんだよ」

 

「何でって、それは......タマ達だって勇者だろ?連携とか相性とかで話し合うためとか、後は......タマはお前と話したいんだ」

 

「それになんの意味がある?俺と話し合ったとしても、連携とかつくものなのか?」

 

ため息を吐きながら海斗は話を続ける。

 

「確かに俺は勇者だ。だがな、俺は一度も仲間や戦友とは思ったことは一度もない」

 

海斗の言葉に球子と杏は肩を震わせ目を見開いた。

すると球子が口を動かす。

 

「どうしてそんな事いえるんだよ」

 

「俺には必要ないからな」

 

「お前はタマ達の事をなんだと思ってるんだよ!」

 

海斗は突き放すように球子に言うが、それに球子は声を高くして海斗に反論する。

 

「何故だろうな?お前が俺より弱いからなんじゃないか?」

 

「ッ!?」

 

「そもそもお前の武器は盾なんだろ?それをバーテックスに投げたらお前はしばらく無防備だ。それに対して一人を守るのに何故他の人材を回さないといけない?俺はそんな重荷背負いたくないね」

 

「......タマは......」

 

球子が何かを言おうとしたが海斗は続けて言い続けた。

 

「それをするんだったら俺や乃木達じゃなく、もっとマシな動きでやってみせ――」

 

「やめてください!」

 

突如杏が声を発した。それに気付いた海斗は黙る。

 

「海斗さん、もういいですよ。そんなキツイ言葉を使わなくてもタマっち先輩には聞こえてますから!」

 

「あんず......」

 

 

「ちっ......」

 

海斗は舌打ちした後にこれ以上は無駄と判断したのか自分の席に座りそれ以降口を開かなかった。

球子と杏は大人しく自分の席の方に戻り授業が始まるまで話し合った。

でも杏は海斗の本心には気づいていた。

あれは確かに嫌悪感を出していただろう。

だが、海斗は本来は優しい人なのだ。

あれも球子を自分から遠ざけるようにして、『周りに守ってもらって今度はそいつらを代わりにお前が守れ、俺の事は気にするな』と言ってるような気がした。

視線だけ海斗の方を見るといつの間にか机に突っ伏して寝ていた。

なんともまぁ、マイペースで不器用な男だ。

だが、そこのところが優しい一部なのだろう。

海斗の過去に何があったのかは杏は知らない。でも、バーテックスが襲来したあの日、相当辛い思いをしたのは分かる。

あの目だけは小説でも読んだ杏でも分かる。

あれは、復讐に燃える人の目だ。

とても危険なはずなのに何故か危険とは思わない。

これから先に何があるかは分からないが、少しだけ杏は海斗の様子を見ることにした。

それからして午前の授業が始まった。

 

 

 

 

 

午前の授業と勇者の訓練が終わり、昼休み。海斗は勇者達と巫女を入れて八人で食堂で昼食を食べていた。

最初海斗は一人で食べようとしていたが、教室から食堂に向かおうとした瞬間に若葉と球子に捕まって一緒に食べることになった。

海斗達は各自セルフサービス形式の食事をトレーに取っていく。勇者と巫女達の食事は全て無料で支給されるのでお金は払わなくてもいいという親切心がある。

海斗的にはありがたいが、どうも大社は表向きではサポートに徹するとは言っているが裏では勇者達を信仰の対象として見ている事が多々ある。

それも仕方ないのだろうか。バーテックスと戦えるのは現代の兵器ではなく、勇者達が持っている神器だけなのだから。

人類最後の希望なのだろう。

頼んだ食事をトレーに取った海斗はその後、勇者達と巫女がいる一つのテーブルの方に向かい空いている席に座った。

因みに皆うどんを頼んでいてそれぞれ違うトッピングをしていた。

流石四国民だ。うどん因子を植え付けられた者はうどんしか食べれない身体になっている。

ただ海斗だけは2つトレーに食事を置いていた。

 

「訓練の後のご飯は美味しい!」

 

すると友奈が屈託のない笑顔でそう言ってうどんをすすっていた。

周りはそれを微笑ましげに見ている。

 

「こら、あんずっ。行儀が悪いぞ」

 

「あぁ!今、いいところだったのにぃ......」

 

今度は読書をしながら食べている杏が球子から本を取り上げて注意をする。

杏は本が読めなくなった事によって悲しげな声をあげた。

彼女が読んでいたのは中高生向けの少女小説だった。

杏は本が好きで、いつも文庫本をポケットの中に忍ばせている。

 

「ダメだ、食べ終わってからな」

 

「はーい......」

 

杏は諦めてうどんを食べ始めた。

 

「......にしてもさー、毎日毎日訓練訓練って、なんでタマたちがこんなことしないといけないんだろーな」

 

ボヤくように球子がそう言った。

それに対してひなたが言葉を返す。

 

「バーテックスに対抗できるのは勇者だけですからね......」

 

「 そりゃ分かってるよ、ひなた。でもさ、普通の女子中学生や男子中学生って言ったら、友達と遊びに行ったり、それこそ恋......とかしちゃったりさ。そういう生活をしてるもんじゃん」

 

球子はため息をつく。

 

「今は有事だ、自由が制限されるのは仕方あるまい」

 

若葉の答えに、球子は納得していないように腕を組んだ。

 

「う〜ん......」

 

「我々が努力しなければ、人類はバーテックスに滅ぼされてしまうんだ。私たちが人類の矛とならなければ――」

 

「分かってるよっ!分かってるけどさぁっ!」

 

球子が声を荒げた。そしてすぐに顔を俯けてぽつりとつぶやく。

 

「あ......ごめん......」

 

「タマっち先輩......」

 

杏は球子の服の裾をそっと握り、彼女を見つめた。

その瞳は不安そうに揺れている。

場が一気に沈黙する。

若葉も球子の気持ちが理解できた。球子はわがままで不平を言っているのではなく、不安なのだ。

バーテックスとの戦いには危険が伴う。もし実際にバーテックスとの交戦になれば、生き抜けるかどうかは分からない。寧ろ、命を落とす確率の方が飛躍的に高い。

若葉は三年前の事を思い出す。

あの時バーテックスが襲来した日、勇者として力が目覚め戦った時もひなたがいなければ殺されていたかもしれない。

そして球子は自分以上に杏が傷つくのを恐れているのだろう。

俯いた球子を見ながら若葉はそう思った。

一方、杏の方を見ると、彼女も球子を見ていた。

杏は運動が得意ではなく、格闘技の訓練でも一番成績が悪い。

いざ、戦いとなった場合、命を落とす可能性が最も高いだろう。

そして、重い沈黙を破ったのは今まで黙っていた海斗と友奈だった。

 

「ごちそうさま!今日も美味しかった!」

 

「ごちそうさん」

 

汁まで飲み終わった丼をテーブルに置いて、友奈は満足そうに、海斗はトレーに2つあったうどん特盛と(トッピング付き)と笊蕎麦を平らげ2人は手を合わせる。

 

「うわぁ!うみくんめっちゃ食べるね!」

 

「るっせ、訓練後だとこんぐらい食べないと動けないんだよ」

 

「いいなぁ......私も男になりたかったぁ〜」

 

「お前が男になったとしても胃袋の大きさは変わらないだろ」

 

「あ!それもそっか」

 

えへへ、と笑いながら友奈は隣に座っていた海斗と話し合っていた。

海斗は友奈にいつもと同じく冷たい態度をとっていた。

そして友奈がキョトンとした顔で、周りを見回した。

 

「あれ、どうしたの、みんな?深刻な顔して」

 

「.......友奈......さっきまでの話、聞いていなかったのか?」

 

「え、えっと......ごめん、若葉ちゃん!うどんが美味しすぎて、周りのことが意識から飛んじゃって.....」

 

その場にいるみんなが、一斉にため息をついた。

 

「ええ!?なんでみんなため息つくの!?」

 

「お前がバカだからだろ」

 

「うみくん酷いよ〜!」

 

友奈は心外だと言うように周りを見回して――

 

「大丈夫だよ。私たちはみんな強いし、みんなで一生懸命頑張ればなんとかなるよ!」

 

笑顔で、そう言いきった。

 

 

 

 

 

 

昼食を終え、午後の授業も終えた海斗は廊下の窓から見える四国の景色を眺めていた。

 

「......海斗」

 

ふと、後ろから声が聞こえ振り向くとそこには制服に赤いセーターを着た千景がいた。

 

「ちーちゃん......」

 

海斗は少し驚いた。普段千景は友奈と一緒に行動してるからだ。内気な彼女はあまり自分の事を話さないし自ら他人に話し掛けようともしない。

だが、一度心を開いた相手には積極的に話すそうだ。

海斗もその一人に入ってるのだが、彼自身から千景と距離をおいている。

 

「......隣、いいかしら?」

 

「ん......」

 

千景の言葉に海斗は短く返事をして頷いた。

彼女が隣に来ると海斗は少し距離を離れてしまう。

不満そうだったが、それをみた千景は苦笑してしまった。

 

「何しにきたんだ」

 

「......ただ貴方と話したかった、と言えば納得する?」

 

「......」

 

純粋な言葉に海斗は警戒を解くしかなかった。

彼女も唯一の幼馴染でもあり、大切な人と会話が出来ないと悲しいのだろう。

 

「お昼の時、高嶋さんと周りを明るくしてくれたでしょ?」

 

「何の事だ?」

 

千景の発言に海斗は首を傾げた。

 

「誤魔化してもダメよ。私でもわかるわ」

 

千景は自信満々に笑みをみせた。どうやらバレていたらしい。

海斗はふっ、と鼻で笑い口元が緩めた。

 

「やっぱ......ちーちゃんには敵わないな」

 

「そうかしら?あまりそういうのは分からないわ」

 

千景は自信なさそうに言うが、彼女は人の感情に敏感だ。

そして、誰よりも優しい。

小学校5、6年までずっと一緒にいた海斗にとってはそれが分かる。

小学の頃。彼が転校してくる前からずっと千景は虐められていた。

その原因は千景の両親だというのに.......そのせいで千景は地域では疎まれ学校では虐げられ、身体には消えない傷が残ってしまった。

そして海斗が転校してきた初日。偶然千景が生徒から虐められている所を目撃してしまった。

ここから彼と彼女の出会った瞬間だ。

千景の虐めを止めた海斗はそれから色々あったが、彼女と一緒にいることが多くなった。

よく千景は海斗の家に来てたり泊まることも多かった。

大抵やるのはゲーム機で対戦か協力プレイ。

人生で初めて親友というものができた海斗と千景。

互いに信用も信頼をしていてこのまま大人になるまでずっと一緒にいたかった。

だが、あの日(7月30日)がなければ――

 

「.....海斗?」

 

「ん、どうした?」

 

「いえ、私を見て貴方がぼぅとしていたから」

 

どうやら昔の事を思い出していたらしい。

あの時は自分らしくいられた(・・・・・・・・・)日だった。でも今はもう戻れない、戻りたくない。

もし、戻れるとしたらバーテックスが全て根絶したらだろう。

再び千景の方を見てみると頬を赤くしていた。

 

「どうしたちーちゃん?顔が赤いが?」

 

「ふぇ?あ、あぁいえ、大丈夫、大丈夫よ!」

 

声が高くなっているが、何かあったのだろうか?

海斗は身体を千景の方に向き、千景の額に左手を添えた。

 

「か、海斗!?」

 

額に手が触れたその瞬間に肩をビクッと震わせた千景は頬と一緒に耳まで赤くなった。

 

「熱は......ないか」

 

「な、なにをしてるのかしら?」

 

「何って、顔が赤くなってるし、熱でもあるんじゃねぇかなと?」

 

千景が海斗の行動に対して問いたが彼は疑問形で返した。

熱がないと確認し終わった海斗は千景から離れた。

離れようとした瞬間に何故か千景が残念そうな表情をしたのは気のせいだろう。

 

「まぁ、熱がないならいい」

 

「え、えぇ......ありがとう......」

 

お互い沈黙が続く。

なんか気まずい雰囲気が流れているが、何かしたのだろうか?

どうにかしなくてはいけないと思った海斗はこの沈黙を打破する為甲高く声を発する。

 

「そ、そろそろ俺は放送室行ってくる」

 

「え?えぇ。分かった」

 

そう言うと海斗は放送室がある方に早歩きで向かった。

その後ろ姿を見ていた千景は自身の額を右手で触れた。

そこには自分の体温かまたは海斗の温もりか。だが後者の方が彼女は嬉しいと思った。

まだ彼の優しさは残っていた。

ただ密かに影を潜めていただけだったのだ。

今はそれだけ確認出来れば良い。

後は千景自身(・・・・)が彼の凍った(優しさ)を溶かせばいい。

これだけは譲れない。

 

 

「例え、高嶋さんでも彼を取るだけは許さない」

 

自分でも気付かぬ間に笑みが漏れていた。しかし、この笑みは喜びと言うのだろうか。

海斗以外に唯一心を許せる友奈でも渡したくなかった。

彼女は千景が海斗と話す為に積極的に話し掛けるのだ。

とてもありがたいのだが、それを見ていると海斗が友奈に千景とは違う優しさを向けているのが嫌だった、胸がキュッとして苦しかった。

自分でも分かる。

私は彼に救われた。彼が一番の居場所であり、拠り所なのだ。

既に何かが壊れていた気がする。

 

「(海斗、私が絶対に貴方を救ってみせる。守ってみせるわ絶対に!)」

 

歪んだ口元で微笑みながら千景は海斗が見えなくなるまでその後ろ姿を見ていた。

 

 

 

 

 

 

 

「さて、乃木と白鳥は今頃楽しく通信をやってるんだろうなぁ.......」

 

放送室に続く階段を見ながら海斗はそう呟く。

正直その間だけは入りたくないと思ってしまう。

そう思いながら海斗は恐る恐る階段をゆっくり上がった。

すると声が聞こえてきた。

一人は若葉だが、もう一人はひなたの声だった。

 

「長野地域は......終わってしまったんですね」

 

「.......は?」

 

今、なんと言った? 長野が終わった?バーテックスの被害にあって壊滅したのだろう。

その事実を海斗は冷静に受け止めた。

長野が終わったのならもう、白鳥との通信は出来ないということ。

まただ。また、見ているだけで何も出来なかった。

拳を強く握りながら奥歯をギリッと噛む。

もし、結界の外に出れて諏訪の方に行ければ白鳥や長野の住民達を救えたのだろうか?

だが、現実はそう甘くない。

何時だって残酷なのだ。

結果という名の終焉(バットエンド)を見せてくる。

 

「.......?」

 

意識を戻すと突如――海斗のスマホから耳障りな警報音が鳴り響いた。

それを取り出して見ると『樹海化警報』という文字が真ん中にでかく表示されていた。

樹海化――それは四国を囲む結界にバーテックスが侵入してきた際に起こる現象だ。

その現象を海斗は授業で聞かされていた。

四国の海に壁が発生して以来、神樹がバーテックスから人々を守るために起こすようになったと。

急いで階段を上って若葉の方に向かうと彼女のスマホも海斗と同じく警報音が鳴っていた。

そして、気付いた。

遠くから見える海の波、海上を行く船、蝉の鳴き声、宙を舞う木の葉が.......全て静止している。

若葉の隣を見ると既にひなたも動きを止めていた。

 

「乃木」

 

「あぁ......わかっている」

 

諏訪を潰し、次の標的は人類の砦である四国へも、遂に奴らは侵攻してきたのだ。

 

「来たか......バーテックス......!」

 

若葉が言うと周囲の光景が、急激に作り変えられていった。

大地、建物、車、人々が、海の向こうから伸びてくる巨大な植物の蔦や根に覆われていく。

 

「.......なぁ、乃木」

 

「なんだ?」

 

樹海化していく中、海斗は若葉に声を掛けた。

 

「白鳥は最後に何か言っていたか?」

 

「.......『後はよろしくお願いします』だそうだ」

 

若葉は海斗に歌野の言葉を伝えた。

それを聞いた海斗は口を三日月状に変えて、笑った。

 

「そっか........」

 

歌野は諏訪が壊滅する、最後の最後まで抗い続けたんだ。

そしたら次はこっちが抗う(受け継ぐ)番だろう。

その勇気のバトンはこちら(四国)に託された。

 

「行くぞ、黒結」

 

「......あぁ」

 

若葉は生大刀を持ち海斗は片手にスマホを構える。

 

「人類を守る御役目、諏訪より確かに受け継いだ。我ら四国勇者が、この丸亀城にて迎え撃つ!!」

 

若葉が言うと完全に景色は光に覆われ、その光景はあっという間に樹海に取り囲まれた。

即座に若葉と海斗はスマホに入っている勇者アプリを起動させた。

体が光に包まれ、纏う衣服が変化していくのを感じる――それは勇者の戦装束。

神樹の力を宿し、纏う者の身体能力を格段に上昇させる。さらに全身が神の力に包まれることで、専用武器以外でのバーテックスへの攻撃が可能だ。

要するに拳が鈍器と化すような感じだ。

これを作ったバーテックス対策組織『大社』は、神樹の力を研究し、それを科学的・呪術的に利用する方法を見出した。

その結果生み出されたのがこの装束である。

まさに神の恵みと人類叡智の結晶だ。

勇者装束は各人で異なるが、若葉は桔梗を思わせる清楚な青と白の混交が特徴的だった。

一方海斗の勇者装束はオダマキを思わせ、若葉と同じ色に似ているが、青と白に赤のラインが追加されている。

そして海斗は右手を上に高く上げて武器を召喚する。

その武器は若葉達勇者の神器とは違い、まるでSFのように化学で生み出された機械の武器。

しかしそれは刃がなく、鈍器といえるぐらいな武器だった。

しかし、海斗がそれを握ると大剣が淡い光を放ち、14個空いた穴から霊力が漏れだした。

それを豪快に片手や両手で振り回して精度を確認する。

 

「やっぱり、折れた(・・・)刀がこんな感じに進化するとは思わないな......」

 

大剣を見ながら海斗は呟いた。

 

三年前、海斗が勇者として目覚めた時に手に入れた折れた刀。

それは古来、呪いの武器として扱われていた妖刀村正。その失敗作を海斗は使っていた。

それを大社がなんとか村正の呪いだけでも武器にしようとした結果、刀とは呼べない物となった。

原因は突如神樹が村正を欲したらしく、それを取り込んで生まれたらしい。

この武器だけは他の神器よりイレギュラーなのだ。

だがその性能は理論上、星屑や進化体を容易く一刀両断もできる。

変身を終えた若葉と海斗は互いに刀と大剣を地に突き立て、瀬戸内海の向こうを睨む。

 

「さてと......」

 

海斗は息を整えながら声を発する。

既にバトンは受け取った。

後はそれを何処まで落とさないかだ。

もう答えは決まっている。やっと――やっとだ。

この3年間、必死に訓練をして基礎や力を付けてきた。

それがやっとバーテックスにぶつけられるのだ。

海斗の目が奥の壁を睨んだ。

もう、誰も奪わせない。

 

「俺は、この時を.......この瞬間(復讐)を待っていたんだ!」

 

そして勇者の抗う戦いが今、始まる。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 





うん?千景ちゃんのヤンデレ?良いに決まってるだろ!!
というかハーレムになりそうで怖いの俺だけ?
そんな事は置いといて、次回は初戦闘会です!

あまりその描写を書くのが苦手ですが、頑張ります!
(そしたら何でお前デアラとかの奴書いてんだよ)

果たして、海斗君は勇者達と連携出来るのでしょうか?
ではまた次回にお会いしましょう!

PS:1万文字超えたから誤字や脱字が沢山あると思うのであり次第即報告お願いします!


次回。第4話: 妖刀と彼の力


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第4話:妖刀と彼の力


はい、どうもバルクスです!
今回は戦闘初の戦闘会ですね!
では、本編どうぞー!


 

 

勇者装束に変身した海斗は村正の霊力を止めて大剣に戻し、地面に突き立てながら隣にいる若葉と神樹が作った壁の奥を見つめていた。

 

「.......」

 

今更だが、この戦闘が勇者としての初陣。

敵が依然こないがそれでも警戒は解かない。

若葉の方を見ていると彼女もまた瞳に情熱の炎を灯していた。

果たして、その瞳は復讐かまたは、人々を守ろうと尽力を尽くすものだろうか。

海斗には分からないが、後者で合っていてほしい。

あの化け物(バーテックス)に復讐をするのは自分だけで十分なのだ。

 

「若葉ちゃーん!うみくーん!」

 

すると後ろから声が聞こえ若葉と同時に振り返ると、友奈と千景が草木を払いながらこちらに掛けていた。

よく見ると友奈は手甲を、千景の方は死神を思わせる大鎌を持っている。

海斗の大剣と若葉の刀同様、神器のはずだが勇者達の武器は形と性質がそれぞれ違う。

 

「はぁ、はぁ......急に時間が停まっちゃって、周りはでかい蔦みたいなのが出てきてぐわーっとなるし、びっくりしちゃったよ!」

 

「よく、俺と乃木の場所がわかったな」

 

「スマホの地図のおかげで、みんなの居場所が表示されてたからね。見つかって良かった......!」

 

海斗は質問をするが友奈は息を切らせながら、スマホの画面に表示されたマップを海斗と若葉に見せた。

勇者達の位置とバーテックスの今いる位置が、それぞれ光点で示されている。

 

「というか若葉ちゃんとうみくん、もう変身してる!?」

 

二人の姿を見て驚いた。今気付いたらしい。

そりゃ息を切らせながらきたのだから、周りを見ることも難しいだろう。

 

「常在戦場。刀といつも持参しているのも、すぐ戦えるようにするためだからな」

 

「そういう真面目さと責任感の強さ、若葉ちゃんらしいね......私も見習わないと!」

 

友奈が拳を握りしめ、まっすぐに感心の視線を若葉に向ける。

 

「高嶋さんは......今のままでいいと思う.....」

 

「これ以上、堅物を増やされたらこっちも面倒臭いからやめろ」

 

千景は独り言のような声を小さく呟き、海斗は友奈に向けて警告をした。

それを聞いた友奈は非常に残念そうにしていたが、知らん。

 

「それにしても......これが樹海化ね......」

 

千景が眉をひそめ、周囲を見回しながら呟く。

よく見れば四国土地全体が、壁と同質の植物組織に覆われている。

樹海化が起こると、四国の内部は時が停止し、生物も植物に覆われ同化してしまう。

僅かに原形を残しているのは、丸亀城や瀬戸大橋、送電鉄塔や高層ビルなどの、大型建築物ばかりだ。

樹海に呑まれて同化した生物達は、バーテックスからの攻撃で被害を受けることがなくなる。そして勇者だけが樹海化の中で本来の形を保ち、動くことができる。

海斗も大社から訓練の一環としての授業を受けて知識を植え付けられたが、話で聞くのと実際に見るものとは迫力が違った。

その光景を見つめながら険しい表情を浮かべた。

現実味がないほどの変貌。

まるでSFだ。異界に入った漫画とアニメの主人公の気持ちがよく分かる。

実際に体感してみてあまり好むものでは無いことはよく理解した。

友奈達もこの樹海化を不思議そうに周囲を見回して巨大な蔦に触れていた。

因みに樹海化は神樹による人類守護の緊急手段だそうだ。

四国を守る壁と結界は、まだ未完成と言われている。

バーテックスが一群となって四国へ侵攻した際、神樹は敢えて結界の一部を弱め、奴らを内部に通す。

バーテックスの侵攻を防ぐために結界を強化し続ければ、神樹が霊力を浪費してしまうからだ。

もし枯渇すれば、四国の人々は生活が出来なくなる。

今も四国があるのは神樹が、エネルギーや物資などを自給自足できているのは、神樹の霊力による恵みなのだから。

そのため、四国内へ通されたバーテックスの撃退は、勇者の御役目となる。

そしてバーテックスが侵入している間、神樹は人々を守るため、樹海化を行う。

だが、樹海化の防御も絶対ではない。

いくら強固だとしても、樹海の一部がバーテックスの攻撃で損傷したりすると、その傷は現実世界に自然災害や原因不明の事故としてフィードバックされる仕組みなのだ。

くわえて、樹海化も長時間続けていれば、神樹の力も消費してしまう。

そして、樹海の中で動ける勇者達はできる限り迅速にバーテックスを殲滅、撃退しなければならない。

すると友奈と千景が来た所とは違う方から声が聞こえた。

 

「おぉ〜いっ!みんなー!」

 

振り返ってみると大きな声とともに球子が走ってくる。その後ろには、球子に手を引かれた杏もいた。

 

「悪い、遅くなったっ!」

 

球子は鋭い刃がついた円形の盤――旋刃盤を、杏は連射式クロスボウの金弓箭を持っていた。

 

「全員、揃ったな。......これが私たちの初陣だ。我々の手でバーテックスどもを打ち倒す」

 

「それはいいけど......乃木さん。当然、あなたが先頭で戦うのよね......?あのバケモノたちと。リーダーなのだから......」

 

仲間の勇者たち五人に若葉が告げると、同時に千景が若葉を試すような言葉と視線を向けて呟いた。

場の空気が濁っていくような険悪さを帯びる。

するとそれを呆れたような口調で球子は反論した。

 

「誰が先頭じゃなくて全員で戦えばいいでしょ。それがチームワークってもんですよ」

 

「チームワーク......ね」

 

千景は球子が言った言葉を呟き、その目線を杏に向けた。

杏の方を見てみると、彼女は体を小刻みに震わせてた。

どうも、顔色も悪い。

これはどうみても怯えている。

 

「伊予島さんは......戦えるのかしら?」

 

「......」

 

千景の言葉に杏はうつむき、何も答えなかった。答える事ができなかった。

 

「土居さんたちがここへ来るのが遅れたのも......伊予島さんが萎縮して動けなくなっていたからでは......?そんなあなた達がチームワークなんて.....口にするものじゃ――」

 

千景が次を言おうとした瞬間に若葉が止めようとするが、それを先に海斗が彼女の肩を掴み止めた。

何も言わない海斗だが、その目は千景には理解出来た。

それ以上言うな――と。

 

「.....ごめんなさい。失言だったわ」

 

「い、いえ。私が戦えないのが悪いんですし.....」

 

目を逸らしながら杏に謝った。杏は自分の非を認めながら俯いた。

でも、それを見ていた彼女自身は面白くなさそうな表情をしながら気晴らしに海斗の方に向き彼の制服の袖を弄り始めた。

 

「郡さん!もうあんずを貶すのはいいだろ」

 

球子が杏を守るように、千景の間に立つ。

そんな球子と杏を見ながら千景は皮肉げに若葉に言葉を放つ。

 

「.......チームで行動する筈なのに、これじゃあ.......この先バーテックスにも勝てるのかしら。あなたにリーダーの資質が足りてないかもしれないわね、乃木さん?」

 

「......!」

 

千景の皮肉に若葉は痛い部分を突かれた。

はたして自分はリーダーに向いているのだろうか?

今も千景が杏に対して言おうとしたのを止めようと声を掛ける前に海斗が千景を静止させた。

そのあとに場をどうにかしようと考えるが、若葉にはそのような周りを和ませることなど、難しい事なのだ。

やはりリーダーの役目にふさわしいのか――若葉自身は確信が持てていない。

勇者達が覆う空気は、ますます淀みを増す。

そしてその空気を吹き飛ばすように友奈が声をあげた。

 

「みんな、仲良しなのはいいけど、話し合いは後にしようよ!」

 

「「「「仲良し???」」」

 

若葉、球子、千景の声が重なり、友奈の方を見る。

 

「うん、ケンカするほど仲が良いって言うよね?」

 

「「「いや、それは違う(わ)」」」

 

三人が同時に友奈へツッコミを入れた。

 

「即答で返された!」

 

ショックを受ける友奈だが――

 

「えっと、あの、友奈さん......私も違うと思います」

 

「どこをどう見ればそう見えるんだよ......」

 

「アンちゃんとうみくんまで!?」

 

杏と海斗の追い討ちがさらに友奈を襲った。

 

「うぅ.....」

 

総ツッコミのダメージを友奈は受けつつ項垂れるが、気を取り直して力強く言う。

 

「――でも。みんながケンカする原因を作ったバーテックスが、すぐそこまで来てる。怒るにしてもケンカするにしても、相手はあいつらだよ」

 

友奈の言葉に海斗以外の勇者達はハッとする。

ここで、仲間を責めるのも、咎めるのも、お門違い。

それらは全て、この状況を作り出したのは奴らだ。

その苛立ちと怒りは奴らにぶつければいいのだ。

すると先程争った球子と千景も気まずそうに互いに顔を見合わせる。

 

「ま、確かにそうだな」

 

「.....えぇ。高嶋さんの言う通り......ね」

 

「そうだな。伊予島が戦えないなら、その分私が戦えばいい。そのためのリーダー役だ」

 

三人も決意が固まり、一気統合する。

 

「よし、じゃあタマたちもそろそろ気合い入れっか!」

 

若葉と海斗以外の四人は携帯を取り出し、アプリをタップする。

 

「みんなで仲良く勇者になーる!」

 

友奈の声を合図とするかのように、それぞれの纏う服装が変化していく。

 

友奈の戦装束は、山桜を思わせる桃色――

 

千景の戦装束は、彼岸花を思わせる紅――

 

球子の戦装束は、姫百合を思わせる橙――

 

しかし杏だけは変化が起きず、スマホを両手で握りしめながら五人を見ていた。

 

「......ご、ごめんなさい......私.....」

 

勇者の力は精神面に大きく左右される。戦う意志と覚悟を固めなければ、勇者装束を纏うことは出来ない。

涙を浮かべる杏の肩を、球子が元気つけるように叩く。

 

「気にすんなってのっ!タマたちだけで全部倒してくるから」

 

「......うん......」

 

杏は悲しげに頷く。

若葉はスマホのマップで、バーテックスの数と動きを確認していた。

結界内にしてきたのは50体前後といったところだろう。

すると海斗が地面に刺していた村正を肩に持ちながら若葉達の前を通り抜け、バーテックスがいる方向へ歩いていた。

それが気になり若葉は声を掛けた。

 

「黒結、何をしている?」

 

「俺は先に行ってるぞ」

 

海斗は若葉にそう告げて勇者の力を使って脚に力を入れて全力で跳んだ。

そのままバーテックスの大群がいる方に高速で向かって行った。

 

「待て、黒結!!」

 

「な、カイトのやつ!一人で行きやがった!」

 

「うみくん!!」

 

「海斗.......」

 

「海斗さん.....」

 

その後ろ姿を見た勇者五人は同時に声を発した。

海斗は何故先に一人で行ったのだろうか?

若葉はその行動が分からなかった。

先程の言い合いにより痺れを切らしたのか、または本当に一人で奴らと戦うつもりなのだろう。

だが、それは若葉は我慢ならなかった。

誰かが戦うのなら自分自身が戦って奴らに報いをうけさせる。

それは海斗がやるべきことでは無い。

ならば次は何をすればいいのかは決まっている。

 

「......仕方ない」

 

若葉は息を吸って口を開いた。

 

「みんな、聞いてくれ。私は勇者のリーダーだ」

 

しかしと言って続けた。

 

「私はリーダーの素質があるのか分からない。だが、それに見合うように行動で示したいと思う」

 

そう言うと若葉は刀を持って跳躍した。

海斗の後を追っていくように若葉も海斗に続いて行った。

 

 

 

 

先に若葉達から離れた海斗はバーテックスがいる方へ向かっていた。

自分でも一人で戦うのは無謀だと思う。

けど、それじゃあ自分の役目が果たせなくなる。

これはケジメなのだ。

誰も頼らない、誰も縋らない。

自分一人で背負えばいいんだ何もかもを。

それが黒結 海斗が許されたたった一つの答えなのだから。

 

「.......とっ」

 

近くまで来た海斗は跳躍をやめ、樹海で出来た樹木に足をついて着地をする。

視界で確認出来るバーテックスの数は大体50体程度。

これなら1人でも余裕にいける。

そう思い海斗は村正を軽く振ると左右から14個空いている穴からの霊力が溢れ出る。

 

「さぁ.....行こうかぁ!」

 

海斗は村正を構えて再び高く飛ぶ。その速度で近くにいたバーテックス――『星屑』を一振で数体両断した。

それを次々に移動しながら素早く片付ける。

死骸が消滅する前にそれを踏み台として使い飛距離を伸ばす。

休まずに縦、横、斜めと順に連続で振り続ける。

すると一体の星屑が猛スピードで海斗の方へ突撃してきた。

3年前の自分より今の自分の方が奴らと対等に戦える。

肉体的成長、神樹の力を使える勇者装束。

これさえ、あれば――

 

「これぐらいで俺がやれると思うのかぁ!」

 

絶対に倒れることは無い。

星屑の特攻を村正を横にして防いで受け流した。

その後ろを見逃さず村正を突き刺し、内部を14個の霊力で出来た刃で破壊する。

 

「爆ぜろ」

 

そう言うと星屑は風船のように消滅して行った。

樹木に着地した海斗は携帯を取り出す。

ここはある程度片付いた。後は、残りを片付ければ終わる。

海斗はスマホのマップを見ながら次のポイントに向かおうとする。

しかし、生き残っていた星屑が後ろから海斗に不意打ちを仕掛けてきて、それに海斗は早く反応できなかった。

 

「しまった――」

 

運悪かったらこのまま死ぬ。生き残ったとしても腕か足が負傷するだろう。

だが、そんなことを考えていると星屑の動きが止まり、その瞬間に破裂した。

何が起こったのか分からなかった海斗だが、その星屑が破裂した後ろから刀を抜刀していた若葉がいた。

 

「無事か、黒結」

 

「まぁな」

 

そっけない態度をとるが、感謝を伝えたいのに自分のプライドが邪魔してきた。

まぁ、別に直そうとは思わないが。

 

「全く、せっかく助けに来てやったのにその態度は感心しないな」

 

「しらねぇよ、お前が勝手に来ただけだろ」

 

いつまでも変わらない海斗の言葉に刀を納刀しながら若葉は苦笑した。

でも、たまには素直に言っても良いかもしれない。海斗は口を開いた。

 

「......さっきは助かったよ、サンキューな」

 

「あぁ」

 

二人は隣に並びながら互いに刀と大剣を構える。

 

「行くぞ黒結。遅れるな」

 

「お前が俺に遅れるんじゃねぇぞ」

 

二人は別々の所に駆け出し、数々のバーテックスを葬った。

その後周囲を見回した海斗は他の四人の勇者達を見つけた。

球子の方は旋刃盤で盾を形成しながら、隙をついて星屑に旋刃盤を投擲する。

それをフォローするのは先程勇者に変身出来なかった杏が勇者装束をその身に纏いバーテックスから球子に指一本触れさせなかった。

どうやら球子が危険と感じて起動したのだろう。

海斗から見て彼女は肉体的では誰よりも貧弱だろう。

だが、その頭の回転の速さは随一だ。

決して弱くない。

そして、それを支え合うのは球子だ。

杏が出来ないことは球子が、球子が出来ないことは杏がやる。

 

「良かったな、伊予島。頑張れよ」

 

海斗はふと自分の口から言葉を零す。

でも、悪い気は1ミリもしなかった。

そしてバーテックスを村正で切り伏せながら進んでいると、友奈と千景が一緒に戦っていた。

それぞれ拳と鎌で星屑を倒しながら次の標的に向かっていく。

その二人の連携は的確だった。

友奈は前衛で千景は友奈が取りこぼした星屑を処理するのだ。

本来は全部、自分一人でやりたかった。

大切な人が戦いに参加しているのだ。とても正気を保てそうにない。

だが、一人でバーテックスを相手にしたとしても果たして勝てるのか?1回勝ったとしても次は楽な勝利で終わるのか?

否――それは不可能だ。

1人に対して他の行動をしたとしても限界がある。

だからこそのチームワークなのだろう。

だけど海斗はそれをしようとはしなかった。

守れなかった自分が誰かの隣にいていいはずがない。

さっきの若葉との会話も本当はしたくはなかった。

でも、自分の心が拒絶すらもせず、受け入れてしまった。

一時の感情に流された自分が情けない。

 

「けど、一人は孤独だよな.....」

 

口が勝手に開き独り言が響く。

自分でも分かっている。けど、これはケジメなのだ。

自分が3年前のことを忘れずにする戒め。

なんのために力をつけたのか、なんのためにバーテックスを倒すのか。

そんなの分かりきってる。

そんなの――

 

復讐のため(守りたい人のため)だろ!」

 

目の前に向かってきた星屑を村正の先端を霊力の刃で纏わせて思いっきり振りかざす。真っ二つになった星屑は消滅した。

忘れない。お前ら(バーテックス)がしてきた罪は決して忘れてなるものか。

 

「――ふッ、はぁぁぁぁ!」

 

次々に増援として溢れるように出てくる星屑。

それでも海斗には関係ない。

標的自体がこちらに向かってくるのなら喜んで身体を切り刻んであげよう。

そして、10体の星屑をあらゆる方向から村正を使って斬る。

 

「ここも、終わりだな」

 

後は若葉達がいる方でバーテックスの処理は終わりそうだ。

急いでそこに向かった海斗は勇者装束で強化された視力を使いながら奥にいるバーテックス達を発見する。

しかし、その星屑は異様な動きをしていた。

それは何体かのバーテックスが1箇所に集まり『進化』を始めたのだ。

3年前のバーテックス襲撃の際も同じ個体が数々確認出来た。

このままじゃ勝てないと判断したバーテックスは複数の個体を融合させてより協力な個体を生み出す。

そうやって生まれるのが『進化体』なのだ。

今の進化体は巨大な棒状の一個体だ。

今まで以上に攻撃力が強化されて最悪の場合――死ぬ事も有り得る。

試しに杏が金弓箭で攻撃を入れる。しかし、棒状のバーテックスから赤く透明な板状の形をしたものが展開され、それが杏の放った矢にぶつかり、全て軌道を反転して返ってきた。

すぐさま球子が杏を守ったため、無事にすんだ。

どうやらあれは反射板らしい。

だったら――やる事は決まっている。

 

「妖刀の力......ここで見せてやるよ!」

 

海斗はそのまま地面に着いた瞬間にまた脚に力を入れて跳躍する。

そしてバーテックスの方に一目散に突撃した。

海斗の村正は他の(村正)より危険な代物だが、それを制御さえすればなにも障害にもならない。

だからこそ、その呪いをバーテックスに振りかざす。

それに続いて友奈が拳一つで突っ込んで行く。

バーテックスに拳をぶつけるが、それでも効果はない。

 

「一回で効かないなら......十回、百回、千回だって叩き続ければいい!」

 

そして友奈の姿が変わり始める。

勇者の存在は神樹に繋がっている。

神樹には地上のあらゆるものが概念的記録として蓄積されている。

その記録にアクセスし、抽出し、力を自らの体に具現させる――今、友奈が無数の記録の中から選び出すは『一目連』。

暴風を具像化した精霊だ。

一目連を身体に憑依しながら友奈の勇者装束にも変化が起こる。

 

「千回ぃぃ.....連続勇者パ―――――チィィ!」

 

友奈が叫ぶと拳を連続にバーテックスに放つ。

それは建造物さえ破壊するほどの猛風が十数分も吹き続ければその威力は核兵器に匹敵するという。

竜巻の勢いを得た友奈の拳が、絶え間なく板状組織に撃ち込まれる。

その数が八百発を超えたところで板状組織に亀裂が走り、九百発で全体に広がり、千発目を突破したが、まだ足りない。

友奈の体力が尽きそうになった時、上から村正を持った海斗が降ってきた。

 

「うみくん!?」

 

「待たせたな高嶋!後は、俺にやらせろぉぉぉ!」

 

その瞬間に友奈は若葉達の方に下がり海斗が後を継ぐ。

 

 

「村正、安全装置(セーフティーロック)解除!」

 

村正が淡い光を放ち、大剣についている全ての刃が大きくなる。

 

「――これで、ぶっ壊れろぉぉぉぉ!」

 

全体重を乗せた一撃は進化体の身体を両断した。

真っ二つになった進化体は消滅していった。

 

「(白鳥......諏訪の人達.....お前らの繋いだものはしっかりと糧にして勝ってみせるよ)」

 

進化体を倒し終わった海斗は樹海化が終わるまでずっと空を見続けていた。

これからもこの戦いが続く。

それが、どんな事でも、諦めなければ大抵何とかなるものだ。

 

 

 

「若葉ちゃん!変なものを食べちゃダメでしょう!」

 

バーテックスを掃討し、戦いが終わった後。

樹海化も解けてから大変だった。

なにも若葉が星屑を食べたらしく、それをひなたに言ったらひなたが怒り、若葉を正座させていた。

 

「だが.....ひなた....」

 

「だがじゃありません!」

 

「奴らは昔、私の友達を食らったんだ。だからその仕返しをだな......何事にも報いをというのが.......」

 

「お腹を壊したらどうするんですか!」

 

「う........むぅ......」

 

弁解をした若葉だが、言い返さなくなってしまう。

その様子を周りで見ている友奈、球子、杏、千景、海斗。

 

「鬼のように強かった若葉さんが......」

 

「一番怖いのは、ひなただったか......」

 

率直に言わせてもらおう。

 

「何コレ?」

 

それしか言えなかったのだった。

 

 

 

その夜はとても賑やかに過ごしていた。

食堂で皆で飯を食べながら初陣で生き残ったことを祝いながら騒いでいた。

その話の中に若葉のリーダーとしての話も入ってきたが、それは穏便に収まった。

というか、周りも話し合って「やっぱ若葉がリーダーやってるのが一番いい」と決まったらしい。

皆それには賛成して頷いた。

その後に球子から若葉にこれからは下の名前で呼べと強制されたが、若葉はそれを受け入れた。

そしてそれを祝してひなたが全員で集合写真を撮ろうとスマホを出した時は驚いたが、勇者達全員はそれを拒否することなく、仲良く写真に収まった。

よく見れば全員いい笑顔で笑っていた。

 

 

「........」

 

寄宿舎の自室で海斗は窓ガラス越しに空を見ていた。

その空には星が何万もある。

星座というのは時期によって形と場所も変わるとか何とか言っていたが、あまり詳しくない海斗は分からなかった。

でも、その一つ一つの星が綺麗だというのは変わらない。

それぞれの星には名前もありその由来もある。

 

「......寝るか」

 

空を見るのをやめ、カーテンを閉めた。

携帯を充電しながらスマホを見る。

そこには先程撮った写真が画面に写っていた。

良い笑顔ではしゃぎながら撮られている。

この日常が一秒でも続くように願う。

だが、それを守るのが勇者だ。

何にも負けてはいけない。

これは一瞬でも敗れてはいけないのだ。

 

「――守り通してみせるよ......」

 

独り言を呟きながらスマホの画面を落として枕の近くに置いた。

このまま寝れると思いながら瞼を閉じる。

これから人類の反撃が始まる。

何事にも屈しないように海斗達勇者は足掻き続けるだろう。

 

 

「........ん?」

 

何か下から違和感がある。まるで人が布団の中でもぞもぞと動いている。

ゆっくり布団を捲るとそこには黒髪の少女がいた。

 

「......あ、海斗......起こしてしまったかしら?」

 

お互いに目が合ってしまい先に声を発したのは千景の方だった。

 

「ちーちゃん何をしているんだ?」

 

「.......何って、海斗と一緒に寝ているだけよ?」

 

頭の中に?がついているのか千景は海斗の問いに首を傾げた。

 

「いや、答えを求めている訳では無いんだよ。ここは男子の部屋だぞ!!」

 

「.......別にいいじゃない。私達は昔一緒に寝てたんだし」

 

「それに関しては小学生の頃だろ。今は中学生だ、お互いの成長もあるだろ!」

 

海斗は千景にツッコミを入れるが千景は気にする必要がないように今度は海斗の身体を抱き締めてきた。

 

「――!?」

 

「......ふふ、これで逃げられないわ」

 

先読みされたのか千景は離れないようにぎゅっと強く抱き締めてくる。

そのせいで千景の......育ち盛りの胸が海斗の胴体に当たる。

何とも破壊力はある、と思う。

しかし海斗はそれについては疎いが実際されるといくら疎くても反応してしまう。

 

「......ねぇ、海斗。今夜だけ一緒に寝ましょ?」

 

「......」

 

上目遣いをしながら海斗に視線を当ててくる。

それをされると流石に断れるわけが無い。

 

「はぁ......今日だけな」

 

「......♪」

 

そう言うと千景は海斗の胸にグリグリと頭を擦り付け始めた。

猫かとツッコミたくなるが、これも昔からしてきたので慣れてしまった。

一体千景が何をしたいのか分からない。

でも、彼女が幸せそうならこれも受け入れるべきと自分に言いつけた。

 

「......おやすみ海斗」

 

「お休み.....ちーちゃん」

 

そして、互いに一個のベットで布団を掛け合って互いの温もりを感じながら眠りについたのだった―――

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

その翌日に若葉が突然部屋を訪れて盛大に怒られたのはまた、別の話。

というか、勝手に無言で入ってくんなよ.......

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 





うん。やっぱり、戦闘シーンを書くのは苦手ですわw
どうしても長くなっちゃうw
因みに身内にも『最近長く書きすぎてるから区切ったら』と言われましたねw
そこはマジで申し訳ないと思う。
これからは少し区切って投稿しようと考えます。

というか、海斗君ウブなのかな?

そしてオリ主のバーテックス無双。
星屑だったら一瞬で殺せそうだな!
進化体は一人で勝てるのかな?そこは頑張って欲しい所ではある!

とまぁ、次回は多分千景ちゃんの話になるかも?

次回。第5話: 自分の価値と存在


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第5話:自分の価値と存在

どうもバルクスです。
区切ったと言ったな、あれは嘘だ。

少しは少なくしたんですけど、深夜テンションでちゃっかりオリ展開入れてしまったw

てなわけで本編どうぞ。


 

快晴の朝。

季節は十月。

田園に囲まれた細い道を一台のバスが走りながら車内を車輪から伝わる振動で揺らす。

中にはあまり人はおらず、後方の席では二人の男女が両手にゲーム機を持ちながらやっていた。

襲い掛かってくるゾンビや怪物を倒していくFPSゲーム。

それを黒結海斗と郡千景は2人で協力プレイをしていた。

二人の連携はとても良く次々と敵を倒したり、時にはやり過ごしたりして息を合わせながら銃を構えて敵に撃ち込んでいた。

 

「......海斗、そこの敵を抑えられる?」

 

「任せろ。こいつを......これでよしっ......と」

 

互いに背中を任せて目の前にいる敵の体力を削っていく。

そして、千景が相手にしているボスに弾を当てて続けるとボスの体力バーを減らしてその場に倒れた。

 

「ナイスカバーよ、海斗」

 

「ちーちゃんもな」

 

ゲーム機器から視線を外し互いに片手を拳をぶつけた。

その後はボスを倒し終わり、ゲームを終了した。

海斗は借りていたゲーム機を千景に返した。

二人はバスから見える景色を眺める。

秋を感じ、山々も紅葉して色づき始めている。

 

「そういえば、久々に帰ってくるのか.....」

 

景色を見ていた海斗が口を開いた。

その言葉に千景は表情が曇る。

千景と海斗は特別休暇を利用して、地元の高知へ帰ってきていた。

海斗は千景が1人で帰省するのはいやと海斗に言い、その付き添いとして行った。彼もついでに自身の家族に会おうと思ったので都合が良かった。

 

「.....そうね」

 

「村のクソ野郎達もちーちゃんが勇者になった事も知ってるんだろ?」

 

その場にいない村人達に向けて海斗は罵倒を零す。

過去に千景はその村人達に疎まれ虐げられた。

原因は千景の両親だと言うのに村の人達はその娘である彼女もその標的にされた。

学校では虐めと同時に罵倒も浴びせられ、酷ければ身体に傷を残された事もあった。

街中を歩けば罵られ、人間として扱いもしなかった。

 

「.......」

 

自身の耳の傷跡を触れながら千景は下を俯く。

実家に帰省するのが不安なのだ。また、あの頃みたいに何かされるのではないかと。

千景はあまり恵まれない環境だった。無価値で何も出来ないと周りには言われ続け。ただ、唯一彼女が出来る事があったとしても何もせずにそれ(虐め)を受け入れていたこと。

だって彼女は無価値な存在なのだからと、周りにそう言われたのだから。

だが、海斗と出会ったおかげで千景は救われた。

彼が千景の虐めで怪我を負っても何も罵らず、笑って彼女を許してくれる。

何時も傍にいて寄り添ってくれた。

ご飯を食べる時も、誕生日やパーティーをする時も、寝る時も一緒にいた。

それだけで心が暖かくなった。

ふと、手に感触がある事に気付いた。

顔をあげると海斗が窓を見ながら片手だけ千景の手に触れていた。

 

 

「.....俺はちーちゃんを絶対に守るよ。あの村人(クソ野郎)達から絶対に」

 

千景を見ず頬を赤く染めながら海斗は言う。

それに千景はさっきまであった不安感が無くなった気がした。

これなのだ。

彼だけが千景を愛してくれている。幸福を与えてくれている。

でも、何も差し出せなかった千景は自分が嫌いだった。

彼は一方的に千景に対して何かを与えてくれる。

時にはゲーム。時には可愛いお洋服。

その他色々をくれた。

しかし、千景は何も出来なかった。

だが、千景が勇者としての力に目覚めた時彼女は嬉しかった。

これで彼に恩返しができると、役に立てると。

価値を認めてくれると。

そして、今はその海斗と勇者としてバーテックスと戦っている。

まだ海斗とは遠く及ばないが何れ、彼の隣に立てるようにする。

 

「.....ありがとう」

 

海斗の言葉に頬を緩ませながら言葉を発する。

そして、数分の後にバスが目的地に停着した。

 

「......降りるか」

 

「えぇ.....」

 

二人はバスに降りると地元の風が身体に感じる。

そのまま道なりに数分進んで行くと、一階建ての小さな借家に着く。

ここが千景の実家だ。

 

「んじゃ、俺はここで」

 

千景が実家の扉を開けようとした瞬間に海斗は郡家の前で歩みを止め声を発する。

千景が海斗の方に振り向くと不安そうな表情をしながらこちらを見つめてくる。

 

「......」

 

無言なまま茶色の瞳を揺らしこちらに視線を促してくる。

一人にしないで――と。

彼女の家庭環境は海斗も良く知っている。

暫く帰ってきてない千景が両親に何をされるかと思うとたまったもんじゃない。

だが――

 

「大丈夫だろ、今回は君の母親の病状(・・)が悪化しただけだ」

 

「......そうね」

 

海斗の言葉に千景は軽く頷いた。

そう、何故高知に帰ってきたのかは千景の母が天空恐怖症候群を患っていてその病状が悪化したのだ。

『天空恐怖症候群』

通称天恐は、今から三年前の7月30日に上空から襲来したバーテックスへの恐怖により起こった精神的な病だ。

天恐にはステージが四段階に分けられていて、最も軽いステージ1は空を見上げるのを恐れて外出を嫌う。

ステージ2はバーテックス襲来時のフラッシュバックなどが起こり精神不安定なり、日常生活に支障を来す。

ステージ3はフラッシュバックと幻覚が頻繁に起こって薬を手放せなくなる。

もちろん、働く事も外出する事も出来ない。

そして、最後のステージ4は自我の崩壊、記憶の混濁、発狂に至る。

千景の母は天恐のステージ2からステージ3にまで悪化した。

しかも、ステージ3になったら者はステージ4になるまでそう時間が掛からないという。

だが、天恐になったとしても千景の母は彼女の事を娘とは思わないし、それを看病しているロクでなしの父親も変わらない。

ただ、千景が勇者になってからも表面上だけで愛してくれもしないだろう。

顔を俯いている千景に海斗は彼女の方へ向かって両手で千景の手を包み込んだ。

それに反応した千景は俯いていた顔を海斗に目を向ける。

 

「......君が何をされそうになっても、俺は何処にだって駆け付ける」

 

「......」

 

「ちーちゃんが望む限り、手を差し伸べるよ絶対に」

 

紅い瞳に決意を表しながら海斗は千景を見る。

その眼には彼女に対しての優しさがあった。

何時もそうだ。

彼は彼女がして欲しいことを直ぐに察して実行してくれる。

その優しさのお陰で千景は救われた。

どんなことをされても耐える事が出来たしそれさえあれば千景は前に向けていけた。

 

「......ありがとう海斗。もう、大丈夫よ」

 

「あぁ」

 

海斗は握っていた手を離して千景と距離を取る。

さっきよりも表情が明るくなった千景は笑みを浮かべた。

再び郡家の扉前に立つ。

 

「......行ってくるわね」

 

後ろ振り向かずに言葉を発する。

 

「おう。またな」

 

海斗も千景に手を振った。

千景は扉を開けて郡家の中に入って行った。

 

「.......」

 

中は悪臭が鼻に刺さる。

廊下は端に埃が溜まり、空き缶や瓶が転がっている。

隅に置かれたゴミ袋は、何週間も放置されていた。

 

「.......ただいま」

 

返事は返って来ない。

仕方なくそのまま廊下に上がり、空き缶を避けながら歩く。

段々奥に進めば行くほど、胸が締め付けられる。

本能がここにいたくないと促している。

 

『......君が何をされそうになっても、俺は何処にだって駆け付ける』

 

海斗の言葉が千景の脳裏に響く。

彼から貰った励ましは彼女に力をくれる。

本当は行きたくない。でも向き合わなくちゃ前には進めない。

 

「(海斗がいなくても......私自身で進んでみせる!)」

 

千景は勇気を振り絞って居間がある所へゆっくり歩むのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

千景と別れて数分後。海斗はとある場所にやってきていた。

それはこの高知の村の家より人周りでかい家がポツンと建っており、端には噴水や庭が設置されていた。

この家の表札には『黒結』と書かれている。

海斗の実家だ。

 

「.....ここに帰ってくるのは三年ぶりに、なるのか」

 

3年前海斗は実家から名古屋にいる親戚に会いに行くため、実家を離れていた。

本当は早く帰ってきたかったのだが、大社が勇者として目覚めた海斗を保護していたため、帰省する事が叶わなかった。

それに訓練やその他色々があるのだが――

 

「.......?」

 

インターフォンを押してもいないのに勝手に扉が開いた。

そこから使用人が一人現れた。

 

「やはり海斗様でしたか!お久しぶりですね」

 

明るい声で海斗に言葉を発した。

 

「あ......久しぶりです、蟻峯さん」

 

海斗が言うと使用人――蟻峯が丁寧にお辞儀をした。

蟻峯大雅。

黒結家の使用人兼幼少期の海斗のお世話係をしていた人だ。

その他は海斗の父親と親友との事。

 

「そんなよそよそしく敬語なんてお使いにならないでいいですよ海斗様。私の事は昔と同じで蟻峯、または大雅とお呼びください」

 

「それじゃあ......蟻峯」

 

大雅はにこりと笑みを絶やさず海斗に話す。

それを海斗は使用人の名前を呼ぶ。

 

「はい!お帰りなさいませ、海斗様」

 

挨拶を済ませた海斗は玄関を上がり大雅の案内で父親がいる部屋まで着いて行った。

歩いて数分、目的地に到着した。

 

「ここに、黒結様がいらっしゃいます」

 

大雅がそう言うとドアを3回ノックすると奥から『どうぞ』と声が聞こえた。

中にいることを確認した大雅は海斗の方に向いて頷いた。

それに察した海斗はドアノブを回して開けた。

そこはとても高そうな置物や壁画が飾ってあり、隅には貴重な本が本棚に綺麗に入っていた。

そして、その真ん中にはデスクを使い、PCと資料を睨みながら作業している男がいた。

海斗が近づくと男は音がした方に顔を向かせた。

 

「おっ、海斗!帰ってきたのか、久しぶりだなぁ!」

 

海斗を見た瞬間に手に持っていた資料を放り投げて立ち上がりこちらの方に向かい肩を掴んできた。

 

「......ひ、久しぶり。父さん」

 

海斗は引きつった表情をしながら自身の父親に言葉を発した。

 

「全く、三年ぶりに会ったのになんだその言い方〜!」

 

「いや......普通なんだが.....」

 

「絶対にそうは思わん!」

 

海斗の父親は手を腰に回してふんすと息を吐きながら胸を突き上げた。

 

「それにしても、こうして息子を見れるのは本当にうれしいよ」

 

眉が垂れて喜びと悲しみが混ざった表情で微笑んでいた。

黒結柊。黒結家現当主。

海斗の父親であり、こう見えて黒結家が経営している『ブラック・コネクト』の社長。

使用人や家族の前では軽い口調で接してくる反面、仕事になると凛としてカリスマ性が現れる。

 

「そういや、母さんは?」

 

辺りを見回す海斗に自身の母の姿が見当たらなかった。

 

「暁はうちの会社の方へ出張中だ」

 

黒結暁。柊の秘書兼海斗の母親だ。

デスクにある写真を見ると28歳ぐらいに見えるが、実際は38歳。

そんな年齢詐欺みたいな彼女だが、黒結家の中で柊より厳しく中途半端な事はせず、徹底的に仕事をこなす。

だが、時にみせる優しさは周囲を魅了する。

因みにだが、柊と暁は幼馴染で互いに背中を支え合っていたらしい。

なんとも良い夫婦仲だ。

 

「すまないな、海斗。母さんに会わせてあげられなくて」

 

柊は申し訳ないと頭を搔いた。

海斗は首を振り、言葉を発する。

 

「大丈夫だよ、別に会えない訳じゃないしな」

 

「.......」

 

海斗は言葉では大丈夫そうに見えるが、どうも瞳だけは誤魔化せなかった。

柊はそれを見抜いていたが、何を言えばいいのか分からなかった。

 

「海斗.....お前、変わったな」

 

そんな事を言われた海斗は目を細めふっと鼻で笑った。

 

「親戚を目の前で奴ら(バーテックス)に殺されればそりゃ変わるもんだろ」

 

柊の表情は曇っていた。ある程度は察してくれたらしい。

自分の性格が変わったことは自分でも思う。

けど、それを家族の前でも変える気は毛頭ない。

自分の手の平を握り締めながら見つめていると、柊がパンと手を叩き暗い空気を和ませようとした。

 

「そうだ、今日は千景ちゃんと来てるんだって?」

 

「何故それを?」

 

「何故って......うちの会社は何処でも情報が回ってくるんだよ」

 

いきなり言われてびっくりしたが確かに黒結家は大社と繋がりがあって、半分の資源は大社に納めているため、その見返りに情報を貰っている。

それのお陰で海斗と千景が実家に帰省してくることなんて想定済みだった。

先程の海斗がこぼした言葉も大社からの情報で知り得て何も言わなかったのだ。

そう考えていると柊の携帯が鳴り出し、通話を開いた。

 

「もしもし?――あぁ分かった」

 

短い言葉で通話を切った柊は海斗に向けてと口を動かした。

 

「海斗、千景ちゃんの所へ行った方がいい」

 

「ちーちゃんに何かあったのか?」

 

「その何かがあったんだよ。今、村の人達が郡家に集まっているらしいぞ」

 

「!!」

 

やはり、時間の問題だったらしい。村の情報の伝達はパンデミックのように広がりやすい。

千景が帰ってきた話を聞いた村人達はすぐさま郡家に集まりつつある。

だが、これが質が悪い。

村人達は『郡千景』という一人の女の子として無く、『勇者の郡千景』として価値を見出したのだろう。

そうやって崇めるようにすればかつて彼らが千景に犯した罪を軽くすると思ったのだろう。

しかし、それは海斗の逆鱗に触れた。

 

「父さん。直ぐに行く、今日はありがとう」

 

「おうよ!また来いよ。今度は暁もいるからな!楽しみにしとけ!」

 

海斗はドアを開けながら玄関まで早歩きで向かった。

玄関から外に出ると前に黒い車が後部座席のドアを開けたまま停車していた。

 

「海斗様。こちらに!」

 

「助かる、蟻峯!」

 

急いで後部座席に乗り、扉を閉めると大雅は車を目的地まで発進させた。

発進してから数分経つと目の前に人盛りが見えた。

その奥には郡家があった。

人盛りの隙間から微かに千景がいるのが分かる。

彼女は顔を下に俯きながら震えていた。

それを見た海斗は自分でも何かがプツンと切れた感覚を自覚しながら強引に扉を開けて車から降りて息を強く吐いて声を発する。

 

「テメェら!邪魔なんだよ!」

 

大声で叫びながら言うと村人の人達がこちらに向いた。

そして、海斗の顔を見ると途端に震えだし声からも怯えるような言葉が聞こえる。

海斗が千景の方に向かうと村人達が道を開けた。

千景は海斗が来たことに気付き顔を上げ、彼の名前を呼ぼうとした瞬間に手を掴んで抱き寄せた。

 

「帰るぞ......ちーちゃん」

 

そう言うと海斗は千景を支えながら歩みを始めた。

 

 

 

 

海斗と別れ千景は家の中で天恐を患って寝込んだ母とそれを看病している父がいた。

父は帰ってきた千景に対してあたも自然に帰ってきたのを喜びながら言葉を返してきた。

今まで何もしてこなかったくせに勇者になった千景を知ってから父親面をするロクでなしは吐き気がした。

夫と同じならその妻も含まれる。

何時も千景の母は彼女の事を忌み嫌っていた。

あの父親と同じ血が入っているからと言って育児放棄にも近い事をした。

そして、今の勇者になった千景を母に問いたらこんな言葉が帰ってきた。

 

 

『あなたを産んでよかった........愛しているわ』――と

 

 

その後千景は郡家の玄関前にいた。

用はもう済んであとは海斗と丸亀城に帰るだけと思っていた。

靴を履いて扉を開けようとしたら黒い影が沢山あったことに気付いた。

扉を開けて周囲を見回せば玄関を囲んでずらっとあふれ込んでいる人混みが作られていた。

これら全てこの村の住人達だ。

かつて千景が蔑まれ虐げれる事をしてきた化物共だ。

それを何故かこの家に大勢で来ているのだ意味が分からない。

でも、一つ分かる。

その村人達が眼差すものは千景自身を見ているのではなく、勇者としての力を持った彼女しか映っていなかった。

だってあの時学校で千景を虐めていたクラスメイトや先生が大きく賞賛していたのだ。

それにこの村で経営している店の店長と思わしき人もスーパーの店員も疫病神から神聖視に変わったかのように彼女の対応が変わっていた。

『お前はこの村の誇りだ!』と全員同じ事を口で述べた。

しかし千景は聞きたかった。

どんな小さい希望で大きな絶望だとしても、聞かなくてはいけないと思った。

カンッ!と布袋に収めて肩にかけていた大葉刈の柄で、地面を叩いた。

乾いた音は辺りに響き、一瞬で彼女を大勢で取り囲んだ人々は静まり返る。

 

「.......皆さんに......訊きたい事があります」

 

その場にいる全員が彼女に注目する中、千景は小さな声で呟いた。

 

「私は......価値のある存在ですか.......?」

 

村人達は怪訝そうな顔をして、やがて誰かが嘘で作られた笑みで答えた。

 

「もちろんよ。だって貴方は『勇者(・・)』様だもの」

 

それに続いて同じような言葉が、すぐに他の人々からも投げらかけられた。

でも、彼女は顔を俯いてしまう。

気付いてしまったのだ。

やはりこの人達(化物)は一人としての(千景)ではなく、勇者(千景)としての彼女を見ていた。

もし勇者としての力が無くなればまた同じことが始まる。

 

「(.......やっぱり、私という人間には何も無いのかしらね)」

 

千景は絶望した。

予想はしていたがやはりどうにもならない事は変えられないのだ。

例え嫁に出たとして郡の苗字を消えてもその経歴は残り続けるということ。

まるで呪いだ。

自虐的に千景は心の中で呟く。

そして、大勢の住民に押し潰されそうになった瞬間、声が聞こえた。

 

「テメェら!邪魔なんだよ!」

 

奥から響く声は千景の耳にも届く。

この声を知っている。

いつも自分を救ってくれる彼。

その優しい声が今千景のために使ってくれている。

声が響いた途端に村人達は一斉に左右に道を開け始めた。

その道からやってきたのは黒結海斗だった。

海斗は千景の手を掴んで抱き寄せて支えながら彼女が背負っていた大葉刈を空いている肩に背負って歩き始めた。

ゆっくりと千景は彼の顔を見るとこちらに反応したのか海斗と目が合ってしまう。

その眼は紅く何もかもを染めてしまう程に綺麗な瞳。

この眼を見れば彼女の心は楽になる。

心臓がドクドクと煩く鳴っているのが伝わる。

そして海斗は優しく千景に言葉を掛けた。

 

「帰るぞ......ちーちゃん」

 

「.......うん」

 

頷いて返答した千景は海斗と一緒に丸亀城に戻るため黒い車に乗って発進した。

その道中で千景は海斗に問いかける。

 

「――ねぇ.....海斗」

 

「なに、ちーちゃん」

 

震えながらも千景は言葉を続ける。

 

「私は.....勇者としてしか存在を認められないのかしら.....」

 

ある意味これは縋るしかなかった。

過去の自分は両親のせいで周りに疎まれ、蔑まれ、虐げられた。

それを村人達は勇者になった千景には向けてこなかった。

何かになれないとまた捨てられる。

役に立てばもっと褒められる。

そんな子供じみたことでも彼女は嬉しかった。

認めて欲しいからこそ、何かに縋るしか自分を保てない。

だがそれは永遠に続くとは限らない。

怖いのだ。

また、あの時みたいに海斗と出会ってない頃の自分に戻るのが、また地獄を味わう。

そんなの嫌だ。

どうして何だろうか?

その思考が頭を苛まれる。

目元が熱くなるのを感じながら身体を震わせもう何をどうすればいいのか分からなくなってきた。

すると、横から頭に暖かい感触が伝わる。

それに気付いた時にはもう千景は海斗の胸の中だった。

 

「......海......斗......?」

 

震えた声で千景は海斗の名前を呼ぶ。

彼は何も言わずただ千景を優しく包み込んだ。

その中は温もりや彼女に向ける親愛が含まれていた。

 

「......言葉では言い表せないけど」

 

海斗が千景を抱きしめながら口を開いた。

 

「ちーちゃんはちーちゃんだよ。昔も今も君は俺の幼馴染でゲーム好きで、とても優しい女の子で――」

 

息を吸いながら再び口を動かす。

 

 

「一人しか存在しない人間。郡千景だ」

 

「――!」

 

「周りが何を言おうと、君が自身のことを嫌ったとしても」

 

海斗は抱きしめる力を強くする。

密着しているからか千景の温もりを感じる。

 

「俺は君がここにいるって、言い続ける!」

 

 

海斗はそう言うと千景は海斗の胸で身体を震わせ自身の手を彼の背中に回して顔を胸に押し当てた。

そして、彼女のたまりにたまった涙腺は崩壊する。

あの時を彼女は思い出していた。

小学生の時、海斗に言われた言葉を。

 

 

「......うぅ......海斗.......かい......とぉ.......」

 

強く抱きしめて彼女の頭を優しく撫でる。

暫くはこう続ければいいだろう。

 

「......ぐすっ.......うわぁぁぁぁぁん!」

 

車内の中でその涙は枯れることは知らなかった。

それでも、千景の心はまた救われた。

 

 

 

 

 

 

 

「ここまで送ってくれてありがとう。蟻峯」

 

「いえいえ、海斗様の為ならば何処にだって駆け付けてみせますよ」

 

 

あの後。丸亀城に帰ろうと思ったが、このまま丸亀城の寄宿舎に帰ってたとしても高嶋――友奈や若葉(初陣の時に海斗も下も呼ぶ事になった)達に何か言われそうと思い、1日だけ黒結家に泊まった。

流石に千景はゲームをすることはしなかったが、寝る時は海斗と一緒にして彼を抱き枕代わりにしてぎゅっと抱きしめながら寝ていた。

世の中にこんな甘々な幼馴染は見たことは無いが、何かと心配だしこれが将来好きな人が出来たとしても大丈夫なのだろうか?

そんなのはさておき。翌日に蟻峯が運転する車で香川に戻り、寄宿舎の方まで送ってもらった。

千景は今も尚海斗の片腕を抱きしめながら蟻峯を見ていた。

そんな仲むずましい二人を見た蟻峯は先程よりにこりと笑みを浮かべていた。

 

「では、私はこれにて失礼致します」

 

「あぁまたな」

 

そう言うと蟻峯は車を発進させ消えていった。

 

「さて、俺達も行こうかちーちゃん」

 

「......」

 

海斗は千景の方を見ながら言うと彼女は声も発せず海斗の腕を抱いたまま頷いた。

それを肯定した海斗は寄宿舎がある道へと歩き出した。

 

「――海斗」

 

「ん?」

 

歩きながら千景が海斗を呼んだ。

そのまま道なりに進んで行きながら千景は口を開く。

 

「私、決めたわ」

 

そう言うと千景は海斗の腕から離れて前に数歩進み、手を後ろに組んで口を動かす。

 

「私の命は.......貴方の為に使うわ」

 

言葉を区切って再び続ける。

 

「貴方が私を必要しない限り、守るし支えたいと思う。だって私は貴方に返せない程の恩を貰ったのだから」

 

「だって、それは――「でもね!」!!」

 

海斗の言葉と重ねて無理やり黙らせた。

 

「.....私一人では多くの事は出来ない。けど、貴方と入ればなんだって出来る気がするの.......」

 

段々頬が赤くなるのを感じながら千景は言葉を続けるのを止めない。

それを静かに海斗は聞く。

 

「だから、私とこれからも一緒にいてくれますか?」

その表情は縋って気持ちを吐露しているのか、または自分の気持ちを発しているのか、分からない。でも、その笑顔だけは偽りじゃないことは分かる。

なら、答えを出そう。

海斗は笑みを浮かべ千景に向かって言葉を伝える。

 

「そんなこと......言われたら断れきれねぇじゃねぇかよ」

 

「......狡いかしら?」

 

千景は首を傾げながら海斗に向かって言う。

ふっと鼻で笑い彼女の近くに行って耳元で呟く。

 

「――狡いよ。だって俺は何もかもを捨てたんだぞ」

 

「それは、貴方は悪くないはずよ.....」

 

「確かに、あの時の俺は幼かったさ。誰も悪くないと言われもした。だがな――」

 

千景の耳を優しく触るとピクっと軽く震え、それと同時に海斗は口を動かす。

 

「俺は.....あの時救えなかった人々の(想い)を背負ってる」

 

「.......」

 

「でもまぁ、俺はちーちゃんを支えるさ」

 

例え自分が傷付いて死んだとしても、これだけは後悔はしない。

誰かの想いを背負いながらあのバーテックスを殺す。

これでは若葉と同じだが、海斗は違う。

周りを見て、誰かを死なせないように立ち回る。

だからこそ、海斗は誰かと干渉するのを拒んだ。

それでも海斗は自分が出来ることは出し惜しみなく精一杯力を使用するつもりだ。

彼は優しい表情で微笑み、千景に伝えた。

 

「これからも俺の背中(戻るべき居場所)を護ってくれ」

 

これも千景は断る事はしなかった。

だってその場所を死守するのは彼女なのだから。

 

「えぇ.....任せて頂戴」

 

互いに手を取り合う。

その決意は果たして叶うのかは分からない。

物語には何れ終わりが来る。

それでも、彼は足掻き続けるだろう。

自分の価値は自身で決めるものだ。

この世に後悔があるように。それを忘れないように、自分が自分でいられるように、これからも進んで行こう。

独りになってもそれでも(ミーム)は後世に種を残すのだ。

なら、何時か枯れるまでのその日まで美しく咲き乱れよう。

夕日に包まれながら海斗はそう誓ったのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 





はい、今回はとある分岐点になります。
まぁお分かりですね?

自分では頑張って書いてみたんですけど、やっぱり言葉を文章で伝えるのはムズいですね......ま、頑張りますけどw
因みに補足。西暦の黒結家は大社の資材を提供するスポンサーの位置にあたる立ち位置なので実質、神世紀の上里家と乃木家ぐらいの発言力はあります。
まぁそしたらなんで、神世紀からはそこまで無いのかはこれから話が進めば分かっていきますので。

さて、次回は千景ちゃんが七人御先を使用するシーンまで書こうと思います。
お楽しみに!

次回。第6話: 冒涜者と再生者


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第6話:冒涜者と再生者


どうもバルクスです!
戦闘会やっぱ難しいですわ!
どうやって書けばいいか分からないので取り敢えず勘で頑張って書いてます....(誰か私に文才をくれ)
では、今回はタイトルの通りです。
どうぞ〜


 

樹海化した世界の中。海斗と千景は鎌と大剣を持ちながら眺めていた。

世界の時間が停止し、そこには大きな蔦が建物や人々を呑み込んでいく。

そんな海斗はスマホの中にあるマップを表示して樹海化した周囲を確認しながらバーテックスの位置を探していた。

四国の壁を越え、押し寄せてくる人類の天敵。

勇者達はそれぞれの武器を持ち、バーテックスの一群へ立ち向かう。

今回の侵攻は初陣の時よりも、入ってきたバーテックスの数がはるかに多い。

だが、今の海斗達は初陣とは違い、奴らに対しての恐怖はなかった。

そして、スマホから映るマップのレーダーにバーテックスを模した赤い点が無数に現れ、こちらに近づいてきた。

 

「海斗.....行ける?」

 

隣から鎌を持った千景が海斗に声を掛ける。

それに答えるように海斗は肩に背負っていた大剣――村正を構えて霊力を纏わせる。

 

「あぁ。何時でも万全さ」

 

余裕な笑みを千景に見せながら言う。

千景も大葉刈を両手で持ち構え始める。

今回のバーテックスの数は以前より多い。

一人で数百の星屑を相手することになるだろう。

そして、こちら側の戦力は一人補欠。

先の初陣で友奈が精霊。『一目連』を自身の身体に降ろした為、大社から病院での検査入院を余儀なくされた。

よって、今回は友奈はいない。

だがそれで屈する程勇者達の心は脆くはない。

一人いなくても我々の力は衰えてはいない。

 

「......行きましょう!」

 

「あぁ!」

 

二人は地面から強く脚に力を入れ跳躍する。

目の前に星屑が複数現れるが、それを苦にも思わず大剣と鎌で返り討ちにする。

消滅する前に斬り裂いた死骸を足場にしてこちらに向かってくる敵を次々と屠る。

 

「ちーちゃん!!」

 

「......えぇ!」

 

海斗が叫ぶと千景は自身の後ろにいた敵を海斗に任せ彼の後ろにいた星屑を斜めに切り伏せた。

地面に着地した時にはある程度片付けられただろう。

 

「ナイスよ、海斗」

 

「そっちもナイス鎌捌きだった」

 

賞賛してハイタッチをした二人。

二人の連携はゲームでも鍛えられてはいるが、それよりも互いの信頼が厚くてあのような芸当が出来る。

 

「さて、まだ敵が残ってるんだ。次、向かうぞ」

 

「了解よ.....」

 

海斗は再び跳躍して千景も続いて海斗の後を追う。

一休みもいく訳にはいかない。敵はまだ残っているのだ、一刻も早くバーテックスを倒さなければ他の勇者達にも負担が掛かる。

今ここにはいない友奈の分も埋め合わすためにも――

 

「え......高嶋さん?」

 

千景が何かに気付きそこに降下した。

海斗も後を追うがそこにいたのは

大社が運営する病院で検査入院しているはずの高嶋友奈が樹海の中で勇者装束を纏いながらバーテックスと戦っていた。

 

「高嶋さん.......病院にいたんじゃ......?」

 

辺りにいる星屑を一掃した友奈はこちらに合流した千景と海斗に気付いた。

千景の言葉に友奈は気まずそうな笑みを浮かべながら答える。

 

「あははは......ごめんね、ぐんちゃん。時間止まってるから、抜け出して来ちゃった。みんなが戦ってるのに、私だけお休みなんてできないよ!」

 

友奈らしい答えに、千景は思わず口元が緩むが、直後に海斗が友奈に向けて頭に手刀を入れる。

それをまじかに受けた友奈は頭を抑えるが、神樹の力を身体に宿しているのだから、バーテックスの攻撃を食らうよりは別に痛くもないだろう。

 

「いったぁい!うみくんなにするのー!」

 

「友奈さぁ.......お前、馬鹿なの?」

 

友奈は頭を両手で擦りながら海斗に言うが、彼は謝りもせずに罵倒を差し向けた。

 

「うぇぇ!いきなり叩いてきて罵倒!?」

 

「うるせぇよ......大体お前は本来、休みなんだろ?」

 

「うぅ......そうだけど、みんなが戦ってるのに私だけ見ているだけとか嫌なんだ!」

 

友奈の目には何かを守りたいという決意が秘めている。

でもそれは自身の体のことを考えてものを言っているのだろうか?

心底呆れる。

確かに、自分が友奈と同じ立場だったら同じことを言うだろう。

しかし―――

 

「もしお前が万全の状態じゃなくて戦いに出て死にそうになったら、周りはどう思うんだろうな?」

 

「うっ......」

 

友奈は痛い所を突かれたのか言い返しもしなくなる。

余計なお世話かもしれないが、ここで釘刺さなければまた友奈は病院を抜け出すだろう。

どんな傷を負ったとしても守るべきものの為に自身を犠牲にして戦おうとする自己犠牲の精神。

とても素晴らしい事だと褒め讃えたい。

けど少しは残される人の事を考えてほしいものだ。

少しキツく言いすぎたのか涙目になってるのかは分からないが、海斗は友奈の優しく頭を撫で始めた。

反応した彼女は目を細めるが、安心して受け入れていた。

 

「......ま、この話はまた後でにするとして」

 

区切りを付けて海斗は友奈の頭から手を離して村正に霊力を纏わせバーテックスがいる方に向く。

 

「まずは、彼奴らを掃討してからだな!」

 

「そうね.....」

 

「うん!よ〜し、それじゃバーテックスなんて全部倒して四国を守るよー!」

 

調子を戻した友奈は拳を構えてバーテックスのいる方へ駆けて行った。

海斗も続いて行こうとするが、ふと千景が海斗の袖を指で掴んできた。

 

「.....高嶋さんのことありがとう」

 

「なんだよ突然」

 

「さっきの言葉......心配だから言ってくれたのでしょう?」

 

今まで黙っていた千景が海斗に問い詰めてきた。

表情は笑っていて微笑んでいる。

 

「さぁな。気まぐれだよ」

 

「そう。.......今はそれで勘弁してあげる」

 

海斗は顔を逸らして千景から離れてると跳躍して友奈の後を追って行った。

その後ろ姿を見つつ千景は海斗の後ろに続いた。

千景は海斗の本心を理解している。

あれは、友奈の事が心配で言葉を投げかけたのだ。

過去に同じことをした自分が分かるのだ、少しは改心して欲しかったのだろう。

性格は変わっても根元は変わっていない。

その優しさは今も尚残り続けている。

彼もまた自己犠牲精神の異常者なのだから。

 

 

 

残りのバーテックスがいる方へ向かった海斗は異変が起こっていることを感じる。

目の前では今まさに星屑が数体融合を始めた。

進化体を生み出そうとしている。

早く止めなければ厄介な事になる。

 

「あいつは.......私が殺す.....!」

 

何としても止めようと思った矢先。海斗の後ろにいた千景が前に出て先行した。

 

「ちーちゃん!」

 

思わず彼女の名前を叫ぶのと同時に融合を果たして新たな形態となったバーテックスは、元の姿の口部分だけを残して巨大化した。

そして次の瞬間、進化体の巨大な口から、無数の矢が流星のように射出された。

矢が勇者達に降り注ぐ。

珠子は慌てて杏と自分を守るため旋刃盤を盾形状にして矢を防ぐ。

進化体は珠子達へ攻撃が通じないと分かると、次は海斗と友奈へ標的を変え狙いを定めた。

 

「わわわわわわ!」

 

「クソッ!」

 

二人は無数の矢から慌てて逃げ惑う。

 

「うみくん!これじゃ近づけないよー!」

 

「分かってる!.....どうすれば......」

 

矢の射出量は、杏のが持つクロスボウの比ではない。

無理に接近しようとすればあっという間に蜂の巣だ。

矢の嵐から逃げ惑いながらこの現状を打破しようと考えていた海斗は進化体の方を見ると、既に矢の追撃が無くなっていたことに気付いた。

だが、次に進化体は海斗達に向けた矢を今度は千景がいる方に標的を変更した。

咄嗟に身体を動かした海斗は千景の方に手を伸ばす。

 

「――ちーちゃん!!」

 

間に合え、間に合えと心の中でその言葉を連呼しだす。

だがその願いは一瞬にて砕け散る事になる。

発射された矢が千景を襲い――千景の体を無惨に射貫いた。

彼女は崩れ落ちるように倒れ、樹海の中に落ちていく。

 

「ぐんちゃあぁ―――ん!」

 

それを見ていた友奈は悲痛な叫びを響かせる。

海斗もそれを自身の目で確認したのか伸ばした手をだらんと下げて膝を突いてしまう。

 

「........」

 

現実が海斗に突き付けてくる。

また守ることが出来なかったと、救えなかったと。

それと同時に怒りが湧く。

彼女が死んだ事が一番胸に穴が空いた気がした。

でも、それよりも今はアイツ(彼女を殺した元凶)を殺すのが先だ。

ここで立ち止まるな。

 

「......立てよ――」

 

抗うんだ――

 

「手を伸ばせ――」

 

 

誓いを忘れるな――

 

 

「何の為に俺は勇者になったんだ......」

 

膝を突いた海斗は村正を強く握り立ち上がり自分の体の内側に意識を集中させた。

神樹の持つ概念的記録にアクセスする。

そこから力を抽出して、自らの体に宿す――

 

「うみくんッ!!」

 

友奈の声が聞こえた瞬間に身体に異物が複数刺さり吐血をする。

それは進化体が放ってきた矢だった。

戦意喪失した海斗を真っ先に倒そうとしたのだろう。

友奈の声がまた響く。

だが無数に矢を食らってもそれで海斗は倒れない。何故なら――

 

「護りたいものがあるんだよ!」

 

海斗が叫ぶと全身に紫の炎が覆い包み込む。

するといきなり炎が破裂したかのように飛び散り。その中から紫の炎を銀色の勇者装束に纏わせた海斗がそこに立っていた。

それに先程矢で受けた傷が塞がっていた。

進化体は再び矢を海斗に射出する。

海斗は真正面で顔を守りながら矢が体に刺さりながら突撃した。

 

「根性を......見せてやるよ!」

 

駆け出すことを止めずにそのまま走り続ける。すると矢を食らった全身に炎が舐めるように優しく包み込み数秒には何もなかったかのように傷が消えた。

刹那、海斗は右手に持っていた村正に霊力を纏わせて次に向かってくる矢を切り飛ばしながら接近して村正を横薙ぎにして進化体の一部に傷を入れた。

 

「あ、一つ忘れていたよ」

 

ポツンと海斗は進化体に告げる。

 

「お前の死神は俺じゃないんだよ」

 

笑いながら言うと瞬間に進化体バーテックスの頭部が傷付けられた。

それに続いて、左右や斜めからも斬撃が進化体に刻まれる。

樹海の蔦に着地した海斗はその後に同時期に着地した少女に声を掛ける。

 

「.......死んだかと思って戦意喪失しちまったよ」

 

「ごめんなさい......待たせたわ」

 

その声は進化体の矢に体を射貫かれたはずの郡千景だった。

 

「分身の術!?ぐんちゃんは忍者だった!?それに、うみ君は不老不死なの?」

 

遠くで友奈が言っているが、少し違う。

千景が自身に宿している精霊は『七人御先』。その力を纏った千景はそれを使い七人の分身を作り進化体を切り刻んだ。

それに『七人御先』は同時に自分が7人存在しておりそれを同時に殺されなければ死なない。

すなわち今の千景は不死身である。

そして海斗が宿した精霊はどんな傷も一瞬で直し、たとえ身体の一部が欠損しても致命傷を負っても死なない。

その精霊の名前は『鳳凰』不死鳥と呼ばれ再生を司るといわれる。

海斗はそれを自身に宿し、進化体の矢をゴリ押しで受けて懐に飛び込んで一閃を叩き込んだ。

二人は並び立ち、武器を進化体に向ける。

 

「それじゃあ。さっきの借りを返しとくか?」

 

「えぇ......海斗を悲しませたのだから.....

 

最後千景が何を言ったのか分からなかったが。

それは今気にすることじゃない。

海斗と千景は高く跳躍して無数の矢の大群を切り伏せる。

 

「俺の武器は呪いの武器妖刀<村正>.......」

 

「(私の武器に宿る霊力は.....<大葉刈>......)」

 

その武器は色んな時代を巡った呪われた名刀。

その失敗作だった。

だが落第者でもその呪いは受け継がれている。

この村正だけは本来と違う性質を持つが、他者の生命(再生力)を奪い、毒を与え刈り取るもの。

そして千景に宿る武器の霊力は<大葉刈>。

かつて農耕を司る地の神の一人が、死した友人の喪屋を怒りのままに切り捨てるという暴挙を行った。

その際に使われた武器が<大葉刈>。死者をも冒涜する呪われし刃。ならゆえに――

 

「お前ら化け物には楽に死ぬより苦しんで死んだ方が――」

 

「お前達が死ぬには......」

 

 

 

「「相応しい武器だろ?(でしょう?)」」

 

 

村正に霊力と『鳳凰』の炎を纏わせて一刀両断した。

そして最後に千景の『七人御先』が粉々に切り裂いた。

進化体は形を保てず砕け散って消滅をした。

そして――

総勢100体を超えるバーテックスは全て掃討され、勇者二度目の出陣となる戦いは終わった。

 

 

 

二度目のバーテックス侵攻から数日後――

海斗は丸亀城にある訓練場で木刀を振っていた。

あれから海斗は切り札を使用と進化体に身体を射貫かれもしたため大社の病院で検査をされた。

結果は異常無しと返されたが、分からなかった。

確かに精霊を身体に宿すのは負荷がでかいのは分かるが.....なにもそこまでしなくても軽い検査で良かったと心の中では愚痴った。

その後、数日の間は病院で体を休む形で入院させられた。

そしてやっと退院出来て海斗は鈍った体を鍛え直すため訓練場で村正を模した木刀を持ち汗をかきながら振り続ける。

すると訓練場の入口から二人の少女がこちらに掛けて来ていた。

 

 

「うみくーん!」

 

「......」

 

入口からやってきたのは友奈と千景だった。

病院を抜け出した友奈はあれからこっぴりと叱られたらしくて退院期間が伸びたらしい。

そしてやっと退院を終えて丸亀城に帰ってきた。

千景の方は海斗同じく精霊を宿したせいで彼女も精密検査を受けさせられた。

だが、海斗より目立った外傷もなかったらしく入院もせずに早く終わって、丸亀城で訓練をしていた。

 

「またうみくん自主訓練してるんだね」

 

友奈が海斗が持っている木刀を見ながら言う。

海斗はそのまま彼女達に木刀が当たらない距離を取りながら振る動作を止めずに言葉を返す。

 

「数日の間だけだが、鈍りが出たら元も子もないからな」

 

そのまま百回過ぎたぐらいで海斗は木刀を振るのを止め、近くに置いてあるタオルで汗を拭きながら横にあるペットボトルを取り出して口に水分を補給する。

 

「......やっぱり、海斗も強く.......なりたいの?」

 

今まで黙っていた千景が海斗に問いた。

それを聞いた海斗は水分を飲むのを止め地面に置いた。

少し考えた素振りをすると口が開く。

 

「ちーちゃんの言うとおり.....俺は強くなりたい」

 

「........それは、義務?それとも使命?」

 

「そうだな。それも入っているんだろう」

 

千景は胸を抑えながら海斗の答えに真剣と向き合う。

前に海斗は一部だけだが、昔千景に彼の復讐のことを聞かせられた。

それは親戚が目の前でバーテックスに食われた事。

その時は何の力がなかった海斗だが、丁度バーテックスから逃げていた時に見つけた古びた神社を見つけてそこで勇者の力が目覚めた。

その後は話してくれなかったが、どうにも他の理由もあって今の海斗が成り立っている。

 

「そういやうみくんはさ。何でバーテックスと戦うの?」

 

今度は友奈が海斗に質問を問いかける。

 

何で戦うのか、それは復讐の為に決まっている。

でも、それは果たしていつか叶うのだろうか?

四国に2回侵攻されたというのにそれでも全然バーテックスが減っていないと思ってしまう。

この戦いに終わりが来るのか?たとえ来たとしてもそれは世界の破滅かまたは人類の足掻いた跡が残るだけか。

それは分からない――でも、数日前。あの時千景に言われた言葉が今でも覚えている。

 

『私の命は.......貴方の為に使うわ。

貴方が私を必要しない限り、守るし支えたいと思う。だって私は貴方に返せない程の恩を貰ったのだから』

 

その言葉は忘れもしない。

 

『.....私一人では多くの事は出来ない。けど、貴方と入ればなんだって出来る気がするの.......』

 

こんな自分でも―――

 

『だから、私とこれからも一緒にいてくれますか?』

 

大切に思ってくれているのだから。

あの言葉で海斗は密かに変わり始めた。

いや、戻ってきた(・・・・・)のかもしれない。

昔の自分に。

今まで想い()を背負い戦い続けていた。だが、その果てに何があるのかは自身の破滅だけ。

だからこそ海斗は千景(戻るべき居場所)に必ず支えると言ったし、約束をしたんだ。

失くさないように.....奪われないようにと。

海斗は静かに口を開く。

 

「奴らに復讐すること.....そして――」

 

この想いは自身に課せられた制約。それが終わるまでこれは続いていくのだろうと思う。

だからこそ受け入れよう(再生を始めよう)

友奈と千景に真っ直ぐ向き合って口を開く。

 

「護りたい人の為に、俺は戦う。戦って勝つんだ」

 

これが黒結 海斗が見つけた自身の生き様。

それを聞いた友奈と千景は何故か大笑いをした。

 

「ぷっ.....ふふ、あははは!」

 

「......ふふ、ふふふ」

 

何でいきなり笑うのかは分からないが、少し傷付いたのは気のせいだろう。

すると二人は笑いが治まったのか友奈が先に口を開く。

 

「やっぱり.....うみくんらしいや!私、嬉しいな〜」

 

「.....は?何で嬉しがるんだよ」

 

「え、だってうみくんは本質は優しい人なんだなと感じたんだよ」

 

「.......」

 

なんか聞いたのが馬鹿らしく思ってくる。

そもそも自分が他人に優しく出来てるのか疑いたくなるのにそんな真正面から言われるのはどうも恥ずい。

 

「海斗は昔からなにも変わってなかった.....という事ね」

 

「何言ってるんだよ特に何がだよ!?」

 

千景が海斗に向けて意味深な事を言うものだから少し感情的になってしまう。しかしコホンと息を整えると冷静になった。

一体何がしたいんだコイツらは.....訓練の邪魔しかしてないと思うが.......?

もう面倒なので先に荷物を纏めておこうと思っていたが。

すると友奈がパンッ!と手を叩き口を開いた。

 

「それじゃあ〜!そろそろお昼の時間になると思うから食堂でうどんを食べよう!」

 

そう言うといきなり海斗の手を掴んで引いてきた。

 

「お、おい!?荷物を持ったからって手を引っ張るなぁ!」

 

予め持っておいて良かったが、強く引っ張られたので落ちそうだった。

そして、友奈は右側で海斗の手を掴み、左は何時の間にか千景が少し頬を染めながら海斗の左手を掴んでいた。

 

「.....行きましょう海斗。うどんが冷めてしまうわ」

 

「ちーちゃんまでもか......」

 

口数が少ない言葉でもその行動によって強さが変わるものと初めて学んだ気がした。

しかし本当にこの二人は物好きだろう。

復讐を望みながら戦っている男にこうも近づいてくるのだ。

何回も突き放してもまたすぐにやってくる。

でも、それが今なら心地よく感じる。

自分でも思う――

この幸せな日々が続きますようにと。

だからこそ黒結 海斗は戦い続ける。

護りたい者のために、絶対の勝利を掴むために。

これからも敵を殺し続ける。

たとえ自分が死んだとしても。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 





いつも思うけど海斗君面倒臭い性格してるなぁ.....大丈夫か?
まぁ、これから柔らかくなるだろうね〜

さて、次回は珠子がバーテックスにうどんで対話をする所まで書いていくつもりです!
(区切るかもしれないけど許して)

オリ精霊出しましたがモチーフ何か分かるかな?

では次回にまたお会いしましょう!

次回。第7話:絆の証明


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第7話:絆の証明


どうもバルクスです。家族がコロナに掛かって二次感染で自分も陽性反応が検出されました。
とても辛かったぜ.......
今は嗅覚が障害を起こしているだけなので直に治るかと〜
てなワケで更新遅くなった理由はそれでもあるので許してください。

んじま、本編どうぞー


 

 

暗い暗黒の中、海斗はそこに立っていた。

何処を見渡しても闇だらけ。

その空間には何も見えず、何も聞こえなかった。

徐々にこの空間内に不快感を覚えていく。

すると目の前に人の形をした影が現れた。

その影はただなにもせずに、海斗と一定の距離を取りながらこちらを見つめ続けていた。

よく見ればその影は何かを呟いていた。

 

『い――ふ――を――すの――か』

 

口で何を言っているのかは分からなかった。

すると瞬きをした次の瞬間に影は海斗の右隣まで接近していた。

そして影は海斗の耳元に向けて言葉を囁く。

 

「....何時、復讐を果たしてくれるのですか?」

 

その声と共にその影は消えてその中から女の子が現れた。

だが、その子を見た海斗は驚きを隠せず目を細めた。

だって、その姿は――

 

「......私達(怨念)はあなたの事をずっと足元から見てますよ。永遠に」

 

3年前に海斗が守れなかった少女が片腕の先がなく、血塗れの巫女服を着ながら不吉な笑みで言ってきた。

そしてその後ろにはまたしても今まで守れなかった人々達が黒い瞳から血涙を流して、海斗に迫ってきた。

やめてくれと声が出せずにそう心から願ってもそれを振りほどこうとしても、それは叶わずにされるがままにされ。彼が最後に見たのは――

 

「貴方ノ幸セを祈ってまス」

 

巫女の少女の瞳に眼球がなく、ただその中から血が流れ続けながら不敵な笑みをして言った。

すると何処からかこの空間には似つかわない音が響き渡る。

それが空間内に鳴り響いた瞬間、辺りが光に包まれていくのを感じながら海斗はゆっくりと瞳を閉じて行った。

 

「......ッ!?」

 

目を開けて飛び起きたらとそこは自身が生活している自室だった。

服に違和感を感じ触ってみると湿っていた。

どうやらさっきの夢で相当うなされていたらしい。

辺りを見回すとスマホの画面が開いていた。

確認するとアラームの設定がされており、それが丁度終わったと知らせを送ってくれる通知だった。

先程の夢の中で響いていたのはこれだった。

時刻は6時30分。

まだまだ訓練や鍛錬の時間ではないが海斗はベットから降りて眠気覚ましに冷蔵庫から飲み物を出して喉に水分を通した。

 

「......久しぶりに見たなあの夢」

 

あの夢を見たのは一度きりではない。

過去に数回同じ夢を繰り返し見ており、こうして朝早く起きてしまうことが多々あった。

だが、2、3年ぐらい経てばその夢を見る回数も減って安心して眠りに付けたのだが、まだ自分は縛られているということになる。

いや、忘れたくはないのだろう。

自分に課せられた使命、役割、責任。

それを果たすことでやっと海斗の人生は始まる。

だがそれが来るのに後何年掛かるのだろうか?

バーテックスを殺すのにはたして自分が生きているのか、おじいちゃんになって復讐を果たせなくなる身体になり始めるのか、結果は誰にも分からない。

こんなの無意味だと思う気持ちは少なからず心のどこかでは思っていただろう。

しかし、海斗は諦めなかった。

だってそれは(想い)を託されたんだ。

次々と死んでいく屍の丘の上に立っているおかげで海斗は今も生きている。

しかし何もせずにただのうのうと生きていられるわけが無い。

復讐は絶対に果たす。何があったとしても絶対に、と。

 

「......俺は託されたんだ.....それを抱いて歩き続ける。どんな苦しい事があったとしても!」

 

あの日から誓った願いという名の枷。

今の日常を謳歌したとしても忘れてはいけない目的であり、悲願だ。

この体が朽ち果てるまで海斗はバーテックス共に刃を向け続けるだろう。

拳を握って日々思い出す過去の事を思い出しながら海斗は決意を固くしながら呟くのだった。

 

 

 

 

「ちーちゃん.....手に持っているゲーム機はなんだ?」

 

昼休み。授業が終わり、食堂で昼食を食べ終わった海斗は隣席に座っていた千景に肩を叩かれ彼女が持っているゲーム機を自身に渡してきた。

 

「......ゲームの攻略手伝ってくれるかしら?」

 

上目遣いで千景が言うものだから断れきれなかったが、普通に考えて海斗より千景の方がゲームのPSも才能もある、なのに何故こんな時に誘ってくるのか分からない。

しかも以前に貸してもらったモニター型のゲーム機だった。

海斗はそれを貰い電源を入れ、千景がやっているゲームアプリを起動する。

そしていつも通り協力プレイを選択して、数秒後に『Cシャドウ』というプレイヤー名が画面に現れる。

これが千景のゲームで使っているキャラIDだ。

そして、海斗が使っているプレイヤー名は『Kディアン』

そこまでプレイヤー名にこだわっているわけではないので適当に名付けた。

準備が出来た二人はクエストをスタートした。

このゲームは以前やったゾンビのゲームではなく、モンスターをハンティングするゲームだ。

海斗は大剣を装備しながら前衛を張ってモンスターにヘイトを買うアタッカー。

千景はゲームでも鎌を持ち、トドメや海斗のサポートをする役割を持っている。

だが、彼女はどっちも出来るオールラウンダーなため、一人でもこのモンスターを狩れるはずなのに何故だろうか?

だが、それを考えても手が止まるだけでそれが隙になる。

 

「ちーちゃん、トドメ頼む」

 

「えぇ。任せて頂戴」

 

ある程度体力を削ったKディアンは後ろに下がり、最後に決めるのは鎌を持ち命を刈り取るCシャドウ。

モンスターは体力が無くなると地面に倒れその後にクエストクリアの表記が現れる。

 

「ナイス前衛よ、海斗」

 

「そっちも良いサポートだったよ。ちーちゃん」

 

二人は互いに拳をぶつけた。

 

「うみくんとぐんちゃんって本当に仲良しさんだね」

 

賞賛し終わった時に前に座っていた友奈がうどんを食べながら微笑みながら海斗と千景に言う。

それに気づいた千景は恥ずかしかったのか頬を染め俯いてしまった。

別に恥ずかしがるところは.....あったのか?

 

「仲良しとか言うんだったらそっちにいるアイツらも充分そうだろ?」

 

海斗は親指を示した方向に友奈に向けさせた。

そこには珠子と杏が仲むずましく話し合いをしていた。

 

「あー確かに。タマちゃんもアンちゃんも仲良しさんだよね」

 

友奈の声に反応して珠子がこちらに振り向き、口を開く。

 

「タマたち、ほとんど姉妹みたいなもんだしなっ!」

 

杏を抱きしめながら言う珠子。

とまぁ、珠子が小柄すぎて抱きしめているというより、抱きついているようにも見える。

杏も決して迷惑そうには思っておらずえへへと言いながら微笑んでいた。

二人は授業の休み時間の間でも二人で自身が好きな曲を聴かせ合いながら話していたぐらいだ。

 

「というかタマたち、もう一緒に暮らしてもいいくらいだ」

 

そう言う珠子に、杏はからかうように返す。

 

「うーん......でも、もしタマっち先輩と暮らすなら、いろいろ大変そう。部屋の中に自転車とかキャンプ道具とか、よく分からないものを置いてあるから、まずはそれを片付けてもらわないと」

 

「あ、あれはただの自転車じゃないぞ、ロードバイクだ。錆びたりしないよう、部屋の中に置いとくんだよ。

それにキャンプ道具だって、そのうち使うからっ!

......勇者になってから、なかなかできないけど」

 

珠子はアウトドア好きで、休みがある日は必ず自転車で遠出したり山登りしたりしている。

本当であれば山でキャンプをしたりしたいのだが、遠隔地で外泊となるとなかなか大社から許可が下りないらしい。

 

「だいたい、それを言うならあんずの部屋だって相当だぞ?本棚も机の上もベットの枕元にも、部屋中が本だらけじゃんかよー。しかも恋愛小説、恋愛小説、恋愛小説、恋愛小説......そればっかりだっ!部屋に行く度に増えてるし」

 

「それがいいんだよー。本に囲まれてると幸せな気分なの」

 

うっとりした顔で言う杏。

彼女は無類の読書好きで、恋愛小説やその他ジャンルの小説で埋め尽くされた大きな本棚が部屋の壁を占拠している。

しかも日に日に増加傾向にあるようだ。

 

「タマには理解できねぇ......」

 

呆れたように珠子は呟いた。

 

「二人とも.....お互いの部屋のこと、よく知ってるのね......」

 

先程海斗と携帯ゲーム機を使って協力プレイをしていた千景が画面から顔を上げて言う。

千景の言葉に珠子は「当然!」と頷いて、杏の方に向きながら言葉を発した。

 

「タマとあんずは部屋が隣同士だし、よく部屋に入り浸ってるからなっ!」

 

勇者達が通う学校は全寮制で、校舎である丸亀城の敷地内に寄宿舎があり、勇者6人と巫女1人で生活している。

 

「それなら若葉ちゃんも、しょっちゅう私の部屋に来ますよ」

 

どこか得意げに、胸を張って言うひなた。

 

「若葉ちゃんは私の部屋に来ると、困り顔で相談事を持ちかけてきたり、膝枕で耳掃除してほしいとねだってきたりしますね」

 

「ひ、ひなた!」

 

慌てて若葉がひなたの口を塞ごうとするが、もう遅かった。

 

「いつもの若葉さんとイメージが違いすぎます......」

 

杏は意外そうな視線を若葉に向けながら言う。

友奈の方はきょとんとして口を開いた。

 

「若葉ちゃんって、もしかして甘えん坊さん?」

 

「私の前限定で、です」

 

むふん、と鼻息を荒く胸を張って言うひなた。

 

「そういえば、若葉さんはいつも自然とひなたさんの隣に座りますよね。今もですし」

 

杏がそう言うと、さらに若葉の顔が赤くなった。

 

「だ、だが、ひなただって毎晩特に用事がなくても、私の部屋に来るじゃないか。きっと寂しいからだろう!?」

 

「いえ、私の場合は、若葉ちゃんが明日の準備ができているかなどを、確認に行ってるんです。若葉ちゃんは毎日、課題や予行復習など完璧にしているんですが、使った後に教科書を鞄に入れ忘れたり、時々うっかりしてますから。もちろん、そんな時はこっそり鞄の中に教科書、ノートなどを戻しておきます」

 

「え......そんなことをしていたのか!?」

 

若葉自身も気付いていなかったらしい。

普段一緒にいるからか、その行動さえも気にならなかったのだろう。

 

「なんだかひなちゃんって、若葉ちゃんのお母さんみたい」

 

「当然です、若葉ちゃんは私が育てましたから」

 

感心したように言う友奈に、ひなたはにっこりと笑って答える。

 

「も、もうこの話は終わりだ!終わり!」

 

若葉は顔を赤くしたまま、無理矢理に話を断ち切った。

だが、途中で耐えきれなかったのか海斗が肩を震わせながら笑っていた。

 

「な、何を笑っているんだ!海斗!」

 

それに気づいた若葉は海斗の方に向いて声を発する。

海斗は腹を抱えて笑いながら口を開いた。

 

「.....はは、いや......お前にも面白いところあるんだな.....ぷっ、ははは!」

 

「――ッ!?///////〜!」

 

吹き出しながら海斗は言った。

それに対して若葉はさらに顔を赤く染めあげた。

するとせめての抵抗か、彼女も口を開いた。

 

「......な、なら海斗はどうなんだ!最近、千景とよく一緒にいると聞くぞ!」

 

「は?」

 

若葉が言うとその視線が海斗と千景に集まった。

その目は二人の関係はなんなんだろうかと語っていた。

千景の方を見ても顔を赤くしているのため助け舟が無かった。

 

「大社から聞いているが、二人は幼馴染なのだろう?その関係を聞こうじゃないか。なぁ、海斗」

 

若葉の顔が悪そうな笑みになっているが、それは勇者として出していい表情なのか?

周囲を見てみるもやはり海斗達の話が気になるらしい。

海斗は勘弁したのか間を入れてため息を吐いた。

 

「.....はいはい、わかったよ話せばいいんだろ?」

 

そう海斗が言うと隣にいた千景はビクッと震わせこちらに向いてきた。

 

「か、海斗.....」

 

千景が恐る恐る目で促してくる。彼女が言いたいのは過去の事を言うなと言いたいのだろう。

それは流石に話さないので大丈夫だ。

海斗は笑みを見せながら千景の肩に手を置いて落ち着かせた。

想いが伝わったのか千景は納得したらしい。

そのまま海斗は若葉の方に向いて口を開いた。

 

「細かいことは話すつもりはないが――」

 

海斗は一区切り置いて再び声を口を動かす。

千景の方に向いてにっこりと密かに笑みを浮かべながら。

 

「俺が小学生5年の時に転校先の学校で偶然出会って日々一緒にいる事が多くなった」

 

昔を懐かしむように海斗は話始める。

あの時は確かに楽しかった。

初めての学校、初めての友達。

そして、初めて海斗を一人の人間として見てくれた彼女の笑顔。

だが、その幸せな時間も長くも続きもしなかった。

多くは語らないが、千景を虐めていた生徒達が海斗も標的にしてきたのだ。

でも不思議と辛くはなかった。

彼女と一緒に入ればどんなことも乗り越えられた気がしたのだ。

そして海斗は彼女を守るために海斗の両親に千景の事を話した。即時対応してくれた両親には感謝した。

学校の方では虐めていたやつを黙らせていた。

その翌日には虐めが無くなり千景は顔を俯かせずに歩くようになった。

その日から彼女との固い絆が出来はじめ、笑みが増えていった。

これで彼女と楽しい時間を渡り歩いていけると思った。

だが、そうはならなかった。

あの日(7月30日)さえなければ。

海斗はそれに大しては言わなかったが、過去に千景と一緒にやったことや、楽しい事をした時に彼女が可愛いかったエピソードをも少し語った。

そしてある程度語り終わると海斗は一息を吐いた。

 

 

「とまぁ、こんな感じだな」

 

一通り砕いて話したつもりだったが、少し楽しくて長引いてしまったと自負している。

と、辺りを見回すと若葉を含めて勇者と巫女達は頬を染めながら口をパクパクしたり、または口に手を置いている者もいた。

一方千景の方は頬も耳も赤く染まっており茹でたこ状態になっていた。

そんな恥ずかしい事は話してはいないと思うが何故だろうか。

そんなことを考えていると若葉が先に声を発して海斗に向けて口を動かした。

 

「か、海斗と千景は.....良い関係だったのだな」

 

腕を組んでうんうんと首を縦に揺らしながら言った。

なぜそんなに首を揺らす?

 

「......これは流石に私も予想外でしたね。しかも、千景さんがこんな状態になるなんて初めて見ますし」

 

「あまりタマは分からなかったが、要するにカイトと千景は恋――」

 

「タマっち先輩!その先は言っちゃダメ!お口閉じて!」

 

ひなたは声質は変わらないものの、どうやら海斗の話で何かを理解したらしい。まぁ、弱みの部分だろうが。

そして球子は海斗と千景の関係を一括まとめようとして『恋人』と片付けようとして杏に止められた。

その杏は頬を赤くしながら球子の口を抑えていた。

それを見た海斗は何をしているんだと心の中で呟く。

 

「うみくんとぐんちゃんが幼馴染てっのは知ってたけど、うみくんがぐんちゃんの事を話すなんてすごく珍しいなー」

 

友奈は海斗の話を聞いて彼から千景の話題が出るなんて初めての事だった。

確かに周りには彼女との関係を話すことはなかった。

海斗も普段は何も無い休日では寄宿舎の自室で寛いでいたり、または外で買い食いや自分の趣味(特技)である料理に使う食材や調理器具も買うこともある。

基本一人を好む海斗はそれで一日の休みを満喫していた。

そして授業や訓練がある時も常に一人でやっている。

だが今。

それは彼の話で破られた。

本来海斗は普通の少年なのだ。

バーテックス襲来時に人の死や何かに触れて人格が変わったのだろう。

でも、その優しさだけは無くならない。

だからこそ海斗は嫌そうにしながらも若葉に千景の事を少しだけでも話したのだろう。

 

「......別に、たまにはいいだろ」

 

友奈が言った言葉に海斗は羞恥心があったのか顔を逸らした。

だが、その方向を向いたのが大きな間違いだった。

その向いてしまった方向は隣の千景がいる方だったのだ。

さっきから彼女は顔を机に突っ伏していたが、海斗が振り向いた瞬間に千景も顔を上げ海斗の方にほぼ同時に向いたのだ。プルプルと体を震わせながら何か海斗にいいだけな千景。

それを海斗は知る由もない。

 

「.....ちーちゃん?」

 

「........」

 

何も言わない千景。

震えていた千景が心配だった海斗は彼女の方に手を伸ばした瞬間。

海斗の脇腹に衝撃が走った。

 

「――ごふっ!」

 

脇腹を抑えて蹲る海斗。

そして間髪も入れずに今度は彼女の足が海斗のつま先を強く踏みしめた。

 

「痛ってぇ!ちょ、まてって!」

 

海斗の声も聞かずに次は胸に抱きついてきた。

これにも若葉達は口を開けずにはいられなかった。

そして、空気を察したのか若葉達はすぐさま教室に移動し始めた。

助けはないらしい。なんとも薄情なやつらだ。

 

「ち、ちーちゃん?そろそろ離れてくれないか?皿を片付けたいんだが?」

 

「.....いやよ」

 

即答に拒否した千景。

どうやら先程の過去についてを暴露されて怒っているようだ。

正確には怒っているのか分からないが。

 

「さっきは悪かったって。俺に出来ることがあったらなんでもするから」

 

「......」

 

海斗の言葉に千景はピクっと肩を震わせた。

そして、彼の胸に擦り付けていた顔を上げる。

 

「......いま、なんでもするって......?」

 

「お、おう。俺が出来る範囲ならな」

 

その言葉を聞いた千景は目を輝かせた。そして、息が徐々に荒れていったのだ。

気のせいだと思いたい。

 

「じゃ、じゃあ......頭を撫でてほしいの」

 

「それでいいのか?」

 

「えぇ。お願い」

 

海斗は千景の命令を受け彼女の黒髪を優しく手で撫で始めた。

千景は目を細めてそれを受け入れながら再び顔を海斗の胸にうりうりと擦り付けながら幸せを満喫していた。

海斗から見ると猫を飼い慣らしているような感じだ。

実際千景に猫耳と尻尾があったら常に動かしているだろう。

気分屋とはよく言うが、これはベタ惚れの猫のようだ。

どうやら随分信頼を置いているとみえる。

だが、千景がこれで幸せならいいかと自分に納得させた。

数分後二人は一緒に若葉達がいる教室に戻った。

しかしこの後は知らなかった。

廊下を歩きながらいると突如音も窓の隙間からくる風も何も感じず全てが止まったのだ。

時間停止の現象、それはバーテックスの侵攻が午後から起きるということだった。

また世界が強い光に飲み込まれ光が鎮まった時には全てが蔦や葉に覆われた世界に変化していた。

また、戦いが始まる。

そう頭が理解していく。

敵を殺せと、完膚なきまでに殺せと。

脳裏にはあの時のことを忘れるなといわんばかりに伝えてくる。

だが、それでいい。それでいいのだ。

海斗からしてみれば自身に喝を入れてもらった気がしたのだ。そしたら後はすべき事はわかる。

そして海斗と千景はポケットからスマホを取り出して勇者アプリを起動したのだった。

一人の勇者は大切な人(受け継いだ想い)を護るために。

そしてバーテックスに復讐する為に。

もう一人の勇者は自分の存在を認めてくれた数少ない人を守るため。

そして、初めてで大切な友達(初恋)を死なせないために少女は戦う。

たとえどれほど理由が貧相で偽善だったとしてもそれは自分の心を奮い立たせるのにのは丁度いい魔剤だ。

だからこそ二人は歩み出す、御役目を果たす為に。





タイトルちゃんと回収してるかな?(まぁ、いいか)

そろそろ海斗君の過去回も出さないといけませんねぇー
一体何時になるのやら?
まぁ、だいぶ先になりそうですけど。
というか千景と海人君イチャイチャしスギィ!
(俺も仲間に入れてくれよ〜え?だめ?)

そして次回は三回目の戦闘会(球子と杏の連携プレイ)ですぜぇ!
海斗君の出番は.....あるのかな?いや、出させるけどね!

ではまた次回にお会いしましょう!


次回。第8話:自身の無力差


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第8話:自身の無力差


はいどうもーバルクスです!今回は戦闘シーンですね。さて、海斗くんは参加出来るのか?

ではどうぞー!


巨大な植物に覆われた丸亀城の城郭に、武器を装備した勇者達は立っていた。

壁のある方向からバーテックスの群れが近付いて来ているのが、小さいがよく見える。

海斗はスマホのマップを見て、侵入してきた敵の数を確認した。

 

「ざっと、100体強......辺りといったとこか......ん?」

 

海斗が口で言うと直ぐにマップが新たな敵を表示した。

だが、そのマークは他のバーテックスより明らかに動きが違っていた。

圧倒的にスピードが速い。

群れから突出して、勇者達の方に向かってきている。

若葉達もスマホのマップを見て気付いたらしい。

 

「なんだこいつは?」

 

若葉がバーテックスの群れの方へ目を向ける。

植物組織に覆われた四国の地を、凄まじい速さで駆けていく『何か』が見えた。

人間の胴から下だけを残したような姿。

細い足で二足歩行をして突進してきていた。

その速度は、他のバーテックスの比ではなかった。

地を這う巨大植物の根や、僅かに残っている建物なども駆使して身軽に飛び越え、突き進んでいく。

 

「へ......変態さん!?」

 

謎のバーテックスの不気味さな動きに、友奈は顔を引きつらせる。

 

「進化体か」

 

若葉は眉間にしわを寄せ、二足歩行を見据えた。

これまでと違い、バーテックスは進化体を初めから形成して侵入して来たのだろう。

 

「.....あれは食えんな」

 

「いや、食べれるかどうかとか考えないでください!」

 

ぼそりと呟いた若葉に、杏が速攻でツッコミを入れる。

そもそも何で食う前提で考えているんだこのリーダーは.....と心の中で呆れた海斗だった。

その時、球子が意味深な笑みを浮かべた。

 

「ふっふっふっ......」

 

「どうしたの、タマちゃん?」

 

怪訝そうな顔をする友奈に、球子は得意気に答える。

何か懐にあるのは分かるが何だろうか?

 

「今回は秘密兵器を持ってきたのだ。――タマだけに、うどんタマだぁぁぁっ!」

 

そう言って彼女が懐から掲げたものは、『最高級!打ちたて!』と書かれた袋に入ったうどん玉だった。

 

「それを......どうするつもり......?」

 

訝しむ千景に、球子は二足歩行バーテックスをビシっと指差して言う。

 

「大社の人が言うには、バーテックスには知性があるんだろ?そしてあの、人の下半身みたいな姿.....奴はもしかしたら人間に近いのかもしれないっ!」

 

「......くだらんな、所詮バーテックスは敵だ。そんなことやるんだったらさっさと片付けた方が早い」

 

「うみくんそこは試してみないと分からないと思うよ?タマちゃん、要するにそのうどんに反応して隙ができるってことだよね!」

 

「その通りだ、友奈!この最高級讃岐うどんを前にして、人なら冷静ではいられないっ!てやぁぁぁ、文字通り喰らえぇぇっ!」

 

球子は大きく腕を振りかぶり、突進していく進化体バーテックスへ向かって、袋入りのうどん玉を投げた。

うどん玉は狙い通り、進化体の進路方向上に落ちる。

しかし――

二足歩行バーテックスは、うどん玉に目もくれず、速度を落とさずそのままは通り過ぎていった。

 

「「「「「!!!!?」」」」」

 

「......まぁ、だろうな」

 

海斗以外の勇者達全員に戦慄が走った。

 

「うどんに......なんの反応も示さないだと......!?」

 

「釜揚げじゃなかったからかよっ!?」

 

「ううん、タマちゃん......釜揚げじゃなかったとしても......最高級うどんを無視するなんて......!!」

 

若葉が驚愕と怒りで手が震え、友奈は悲しみに顔を俯けながら、絞り出す声で叫ぶ。

球子も、杏も、千景も、同じ思いだった。

彼女たちは、その時はっきりと確信する。

バーテックスには人間性など欠けらも無い。奴らは人とあまりにもかけ離れた存在だ。

到底分かり合うことなど、絶対出来ないと。

すると海斗が口を開いた。

 

「.....球子、茶番は終わったか?」

 

「カイト......お前は香川のうどんに対して何も思わないのかっ!?」

 

冷たく言う海斗に球子は牙を剥くが、海斗はつまらなそうに鼻を鳴らして村正を手元に呼びながら言う。

 

「今お前に出来ることはなんだ?ただそこで俯くだけか?違うだろ。お前はあのバーテックスを倒すために勇者になったんじゃないのか?」

 

「......何が言いたいんだお前?」

 

海斗の言葉に球子は首を傾げた。その仕草に海斗はため息を吐いて、頭を搔いた。

 

「うどんの仇は待ってくれないぞ。さっさと片付けろよさもないと、うどんが腐るぞ」

 

そう言った海斗はその後は何も言わずに一人で進化体バーテックスの方に向かって行った。

周りからまた海斗を心配した声が聞こえた。

球子は先程自分で投げたうどん玉を見る。

どうやら袋に入れていたおかげでまだ中身は無事のようだった。

 

「......後で絶対回収してやるからな」

 

球子が言うと他の勇者達も皆、怒りと悲しみを抱えて、武器を構える。

 

「最高級うどんの仇!あいつはタマが倒す!」

 

球子は海斗の後を追いながらそう決心したのだった。

 

 

 

 

「......」

 

海斗は蔦を足場にしながら跳躍して進化体を追っていた。

先行したのは自分がバーテックスを早く片付けるためである。

そもそも海斗は勇者の中では一番協調性がない。

それは自分でも自覚はしている。

誰の手も借りたくない。それは、過去の経験からきているのだろう。

一度借りてしまったらまた(・・)周りを巻き込んでしまうから。

だからこそ海斗は一人で全てをこなすために、自分でもあの人型バーテックスを狩れるというのを実現したかった。

 

「.......見つけたっ!」

 

目標を目視で確認した海斗は村正を構え剣に霊力の刃を纏わせる。

 

「うぉりゃあああぁっ!」

 

そして空中からバーテックスを叩き切る勢いで振った。

だが、その手応えはなかった。

地面にぶつかった海斗は煙幕で見えないが煙を村正で払い除けてバーテックスを探す。

そして凡そ10メートル離れた距離にバーテックスが走っていた。

どうやら、さっきの攻撃を僅かに飛んで避けたのだ。

知性は人並みよりは無いようだが、避けることはできるらしい。

 

「俊敏性がある個体か.....厄介だな」

 

冷静に分析しながらバーテックスを追う海斗。

先程の攻撃をしたとしてもまた同じに回避されるだろう。

そして連続で攻撃をしても容易く避け切れられる。

果たして一人であの化物を倒せるのだろうか?

否、倒せないだろう。

自分の武器はたった一本の呪いを司る武器だけなのだ。

たとえ投擲をしたとしても当たるとは到底思わない。

どうすればいい、どうすれば一人であいつを倒せる?

思考を回転させ自ら勝ち筋を見つけ出していく。

だが、考えてもその答えは見つからなかった。

刹那――バーテックスはその隙を見逃さずこちらに強烈な蹴りをお見舞してきた。

 

「――ッ!?クソっ!」

 

村正で蹴りを防御するが、その衝撃は殺せず後方に思いっきり吹き飛んでしまう。

勢いよく背中から樹海で形成された蔦にぶつかり、空気が漏れ出す。

 

「ガハッ......」

 

視界が揺らぐ。身体がジンジンと痛みを全身に伝えてくる。

遠くに飛ばされた海斗はバーテックスの方を強い眼差しで見る。

このままではバーテックスが神樹の方に行って世界が崩壊してしまう。

そんな焦りを覚えながら無理矢理にでも埋まった身体を動かす。

痛むが、まだ戦える範囲内だ。

 

「一人でやれる.....絶対に!」

 

自身で決めた道なのだ。そう簡単には曲げる事はしない。

もう、誰も傷ついて欲しくない、誰も失わせたくない。

これが、黒結海斗のケジメなのだから。

喝を入れた海斗は再び人型の方へ脚を使い跳躍した。

そして数百メートル離れた位置に丁度そこに球子と杏がいた。

 

「あ、カイト!」

 

海斗が接近すると球子がこちらに振り返り手を振る。

杏もそれに気付き顔を向けた。

 

「球子、杏どうしてこんな所に?」

 

状況を聞くと海斗が吹き飛ばされてから同時に球子達もあの進化体と戦闘を開始したらしいが、その最中に杏が進化体に蹴りを入れられそうな所を球子がギリギリで旋刃盤を盾状に展開して守ったという。

だが、その衝撃は殺せず、二人はここまで吹き飛ばされたという。

そのせいで球子の左肩が使えなくなった。

 

「すまんカイト、あんずを頼めないか?」

 

「.....ダメだよタマっち先輩!」

 

球子は自身のことより杏を優先にした。

たとえ片方の肩が使えなくてもバーテックスと戦うらしい。

杏は球子を止めようとする。

 

「大丈夫だあんず!タマは守りたい人のために戦ってるんだ!こんなところで休んでちゃ情けないからなっ!」

 

「でも.....片手じゃ」

 

杏が言うと球子は片方の腕を杏の肩に置いて彼女は満面の笑みで笑った。

 

「片手がありゃ、まだあいつを倒せるんだ。それに今のタマよりカイトの方が強いだろ?」

 

「んじゃ、安心して待ってろよ」と言い残して球子は戦線に復帰した。

その後ろ姿を海斗と杏は見ていた。

 

「どうするんだ杏?」

 

「どうするって言われましても.......」

 

やはり先程の自責の念に駆られているようだ。

自分が受けたダメージを球子が代わりに受けていてくれた事に対してとても責任を感じている。

力が入っていないのがその証拠だ。

海斗は杏の前に立ち、俯いている彼女に膝をついた。

 

「.....?海斗さん?」

 

杏は分からなかったが、海斗はそんなことを気にせずに口を開いた。

 

「杏、今の球子を一人にしたらどうなると思う?お前の頭なら分かるだろ?」

 

海斗がそう言うと杏の顔が青ざめた。どうやら想像してしまったらしい。

なら話は早いだろう。

 

「お前は球子が一番と言っていいほど大事なんだろ?あいつはお前が傷ついて欲しくないから戦ってる」

 

旋刃盤という小さな武器で球子は一人でバーテックスを追っていった、片腕が使えなくてもだ。

仲間と杏を守るために彼女は立ち上がった。

今彼女が長時間そのままの状態で戦闘すれば、最悪死ぬだろう。

だからこそ護ってもらう者が必要なのだ。

杏と球子。海斗は知らないが、互いに大きな絆で結ばれている。

球子は女の子らしくない代わりに男気があり、どんな困難にも立ち向かう勇気がある。

そして杏は球子にはない女の子らしさがある。

かつてひ弱な杏は周りから浮かれていた。

だからこそ二人は片方にはないものを補っているのだ。

そのおかげで強い絆が生まれ昔も今もそれは強くなってきてる。

 

「お前はそこで黙って見ているつもりか?」

 

冷徹な言葉で杏を攻め立てる海斗。だがその言葉に杏は立ち上がる。

自分で何をすべきか分かったらしい。

 

「ありがとうございます海斗さん。もう私は足でまといにはなりません!ちゃんと勇者として、タマっち先輩や皆さんのことを守ってみせます!」

 

今の彼女の瞳は怯えた目ではなく、ちゃんと真っ直ぐ見すめている。

もう大丈夫だろう。

 

「.......なら行ってこい」

 

「はい!」

 

海斗が顔を逸らしながら言うと杏は球子の後を追っていった。

視線で後ろ姿を見る海斗。

どうして彼女らは強いのか......何時も思う。

誰かがいるから?大切な日常を守りたいから?

色々あるだろう。

やっぱり彼女達は純粋すぎる。

こんな復讐という名の泥に浸かった者とは違う。

彼女達には真っ直ぐな意思がある。

海斗にはないものが沢山ある。

それが羨ましいと思ってしまうのはおこがましいと自分に呆れてしまう。

でも、だからこそ――

 

「俺は......無力を感じるんだろうな」

 

何もかも断ち切った者は孤独や喪失感に蝕まれる。

助けてと言っても誰もこない、自分で生き抜くしか方法がないのだから。

一人で頑張って戦い抜いてその後の終末は一体どうなるんだろうか、自分でも分からない。

なら、もういいだろう。

気付いたのならそれを直せばいい。

頭の中には海斗を思ってくれる幼馴染、勇者の仲間達、自身の家族。

何時も気付かぬうちに助けられていた。

でも、今更逃げられる道はもうない。

ケジメはつけなければならないし、自分の気持ちには嘘をついてきた。

もう止まらない。

 

「.....つくづく面倒臭い性格になったもんだな、俺は」

 

思わず苦笑いしてしまう。

もう良いだろう、お前(海斗)はもう一人で戦わなくてもいいさと。

周りにはお前()を支えてくれる人がいるのだから。

ああ.....そうだとも。

ふと、昔の事を思い出す。かつて最初に海斗が誓った約束。それは、『護りたい人を守るために力を使う』と言ったものだ。

じゃあその原点に戻ればいい。

目を瞑り海斗は彼ら(怨念)と決着をつけよう。

だが再び目を開けると幻覚か、その怨念達は目に血の涙も流してもなければ衣服も血だらけにもなってはいなかった。

全員笑っていたのだ何も言わずに。

だが彼らが言いたい事は分かる。『もう自分を偽らず笑って前を向きなさい』と言っていた気がした。

そう言われたらもうそうするしかないだろう。

 

「分かった......俺は決めたよ」

 

今海斗は変わろうとしている。あの日の想いを受け継ぎながら戦い抜けてきた者がやっと、殻を少しづつ破ろうとしている。

だから今は―――

 

「一人で戦うのは止めないが、復讐者(無力な者)ではなく、大切な人を守る(前向きな者)勇者になる!」

 

これが海斗の最初で最後のケジメだ。

そして海斗は全速力で進化体の方に向かった。

そこには球子と杏が連携して進化体を足止めしていた。

旋刃盤が杏の矢に当たり軌道を変えてバーテックスがそれに当たり、動きを止めていた。

一方若葉達の方は他のバーテックスに手を焼かれている。

球子達の方は進化体にトドメを刺そうと近付いて攻撃しようとするが、その間の隙を進化体が杏と球子に向かって蹴りを入れてこようとしていた。

これには二人は反応が出来ず回避もままらない。

 

「ッ.......させるかぁ!」

 

だが、その二人の背後から海斗が横切って進化体の蹴りを村正で防いだ。

 

「今だ!球子!杏!」

 

海斗が叫ぶと二人は直ぐに旋刃盤と金弓箭を構えて進化体に一撃を入れた。

その攻撃で進化体は奇妙な悲鳴を上げながら消滅していった。

海斗達が進化体バーテックスを倒している間に、若葉と友奈と千景が他のバーテックスを全滅させ、戦いは勇者たちの勝利で終わった。

 

 

翌日、球子は左腕をアームホルダーで固定されていた。骨折ではなかったので、治療期間はそれほど長くは掛からないが、しばらくは左腕は使えない。

昼休みの食堂で、球子は動かしづらい左腕に不満の声を上げていた。

 

「窮屈すぎてタマらん......もうこれ、取っちまいたいっ!」

 

「ダメ!怪我が長引いちゃうよ!」

 

球子を叱りながら、杏は彼女にうどんを食べさせている。

今球子が食べているうどんは昨日の戦いの中で球子が回収した最高級うどんを釜揚げにして食べていた。

 

「こんな美味いうどんに興味を示さないなんて、バーテックスに知性があるって嘘なんじゃないかな......というか暗部ず、右腕は動くんだから、わざわざ食べさせてくれなくてもいいんだぞ?」

 

「片手だけじゃ食べにくいでしょ?」

 

「そうでもないけど......」

 

球子はため息をつきながらも、杏からうどんを食べさせてもらっている。

 

「それに.....私よりあの人が黙っちゃいないから、ね?」

 

杏は視線だけ海斗がいる方に向けた。球子も杏につれてそっちを見る。

するとこちらに気付いた海斗は球子の方を見ながら口を開いた。

 

「なんだ?球子、腕が痛むのか?痛むんだったら、痛み止めでも持ってこようか?」

 

一体何が起こったというのか、球子と杏。そして、他の勇者と巫女達は理解出来なかった。

翌日になるとあんな人に対して冷たかった海斗が声質は変わらないが、性格が変わっていたのだ。

これについて幼馴染の千景は驚いていたが、静かに微笑んでいた。

そして今の昼休みに至る訳だが――

 

「こんなの、カイトじゃなぁぁぁいっ!」

 

「......まぁまぁ、タマっち先輩落ち着いて。海斗さんの本来の優しさが出てるだけだから」

 

「こんなカイトは嫌なんだっ!あの時の方がタマはまだ良かったぞぉ......」

 

球子は叫びながら海斗の変わりように絶句していた。

杏は嬉しそうに微笑んでいたが、若干引いていた。

それもそのはず、一日でこんな性格が変わるものなのかと驚いてしまうのだから。

 

「ふむ.....海斗が一体全体何があったかは知らないが、その表情.....何か吹っ切れたか?」

 

「そうだな。流石だ若葉」

 

海斗は全員に説明をした。

なるべく自分一人で戦う事は控えて頼る時は必ず頼りにさせて貰うと若葉達に言った。

 

「......そうか。良かった、これで海斗もすっかりこちらに馴染んだと言えばいいのだろう」

 

「そうですね、あの時の海斗さんとは違って今の海斗さんの方が話しやすいですし」

 

「うんうん!私もうみくんとなんか、こう......仲良くなれた気がするよ!」

 

「......私も昔のあなたに戻った気がしてとても、嬉しいわ」

 

若葉、ひなた、友奈、千景の言葉には仲間としての想いやこれから先支え合うものとして嬉しさが込み上げていた。

 

「なぁカイト」

 

「なんだ、球子」

 

球子が海斗を呼んだ。その声に顔を向けた海斗は球子の話を聞いた。

 

「タマは、最初はカイトの事が苦手だった。でも今はこんなに優しいやつなんて思いもしなかったんだ」

 

球子は強い瞳で海斗を見つめながら続ける。

 

「だから、だからさ......今度はやっと勇者の仲間として肩を並べて戦うんだ。仲間になった以上カイトはタマが守ってやる」

 

目を大きく細めてしまう。海斗は驚いてしまう。

自分でもこの言葉の大切さが分かってしまう。

すると球子はその代わりに、と言葉を付け足した。

 

「あんずやタマも若葉達もちゃんと守りタマえよ?タマが言えるのはそれだけだ!」

 

「もう、タマっち先輩ったら.....海斗さん。私も同じ気持ちです」

 

球子が言い終わると次は杏が海斗に話掛ける。

 

「私は勇者の中で体力も力もないと自覚しています。でも、戦いの中では海斗さん達をできる限りサポートするように頑張るつもりです、だからこれからも宜しくお願いします」

 

杏が言い終わると球子が片腕で彼女を抱きしめた。

そうか.....これが本来自分が守りたかった光景なんだ。

今確信した。自分はこれが見たくて、この幸せが何時までも続けばいいと思う程にずっと願って一人で戦い続けていたんだ。

馬鹿みたいと笑ってしまう。

あの日からずっとぽっかり空いた穴をこの半月で少しづつ塞がりつつあるのだから。

ふと隣にいる千景を見ると、彼女もこちらに振り向き笑みを見せてきた。

そして、空いている手で海斗の手を握って互いの体温を確かめていた。

暖かい。彼女も今生きている人のために戦っている。

死者のために戦っていた自分とは大違いだ。

だが、もうこれで終わりだ。

今は死者想いを果たすためではなく、生きる人(千景や大切な人)を守るために勝つんだと心に決めた。

自身の鎖は自分で断ち切るもの。

 

「......これからも宜しく頼む」

 

ぎこちないが、今はこれでいい。

後は場が直ぐに馴染んで何とかなるものだ。

海斗は改めて誓おう。大切な人を守ると、無力な自分にならないことを。

自身が傷ついても守り続けるのだ。

たとえどんな運命があったとしてもだ。





海斗、葛藤しすぎね?(お前のせい)
でもまぁ、これぐらいしないと海斗くんは一生冷たい人になるからね仕方ないね(表面上)

さて、次回は何処まで書こうか迷ってますが、気分次第で結構進めるかも?

というか、ゆゆゆいサ終したの悲しいんですが.....どうしてだよぉぉぉぉぉ!。゚(゚´Д`゚)゚。

でも、メモリアルブックが出るって聞いたので発狂したのは内緒ね?
では、次回にまたお会いしましょう!


次回。第9話:一時の休み


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第9話:一時の休み


どうもーバルクスです。
今回は日常会ですぞー
あ、そうそう。のわゆを読んでてやっぱこっちも勇者御記少しは書いた方がいいと思ったのでたまにどっかで書きます。
あまり話す事がないので本編どうぞー




 

 

 

 

 

最初は仲間なんてどうでも良かった。けど、―――がいてくれたから俺はここまで成長してこれたんだと思う。

だが、―――を降ろす時の代償は一体何だろうか?

この時はまだ俺は知らなかった。

大切な人を守るため、――を降ろす時に自分の体が―――になっていることに........。

 

 

勇者御記

西暦二○十八年一月

 

黒――海――

 

大赦書史部・巫女様

検閲済

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「はぁ〜......気持ちがいい」

 

夜空の下、海斗は露天風呂の湯に浸かりながら、言葉をつぶやく。

湯の温度も身体の疲れを癒すぐらい丁度良かった。

年が明けて、今は一月初旬。

海斗は若葉達勇者全員と巫女のひなたと一緒に高松市の温泉に来ていた。

高松市は香川一の都会であると同時に、四国有数の温泉地でもある。

内陸部の山地には江戸時代から湯治場として利用されてきた塩江温泉郷があり、瀬戸内海沿岸や市街地にも天然温泉が湧く。

バーテックスとの戦いも幾度目かを終えた頃、巫女の神託により、奴らの襲撃がしばらくはない事が告げられた。

そのため海斗たち勇者は休養として、貸し切りの温泉旅館で過ごすことが許可されたのだ。

もちろん、勇者付き添いの巫女としてひなたが同行している。

バーテックスを倒しながら学校に通う。波乱万丈な生活だが、温泉旅館で泊まる――ちょっとした修学旅行気分だ。

まぁ、男子が海斗しかいないので少し気を使わないといけない時があるが、それは些細なことだろう。

そして海斗は今一人で露天風呂で寛いでいる。

貸し切りというのもあってか、やはり一人で使うのには些か広すぎて少し落ち着かない。でも、たまには広い空間で夜空を見ながら風に当たり気分を満喫していてもいいだろう。

体を伸ばしながら湯に浸かっていると奥にある仕切りが視界に入る。

するとその壁の先から甲高い声が聞こえたり、じゃれあったりしている声がこちらに響く。

向こうは女湯で若葉達がいる。が、どうも騒がしい。

一体何をしているのかは想像したくはないが......さすがに貸し切っているとはいえ、少しは静かに温泉に浸かるという常識は守った方が良いのでは?

そんなことを心の中で呟き再び夜空を見ながらため息を吐いた海斗だった。

 

 

 

 

 

 

「ぐっ!負けたァァ!」

 

温泉から出て部屋に戻り夕食を済ませた後、海斗は千景と一緒にテレビゲームで対戦をしていた。

主に協力プレイのゲームをしていたが、千景から「たまには対戦ゲームもやってみない?」と言われプレイしたが結果は惨敗。

どんなキャラを使っても千景には勝てなかった。

それもそのはず、千景は一番ゲームが上手くてどんなゲーム媒体に寄ってもそのスキルは落ちない。

そんな海斗は千景とゲームはするが、そんなやり込む事は基本はせず、気分転換をする時しか全くやらない。

海斗が叫びながら悔しそうにする表情に千景は微かに笑みを浮かべてしまう。

 

「流石ちーちゃんだわ......コンボ選択が上手すぎる」

 

「ありがとう。......そういう海斗は火力重視のコンボしか入れてないわね」

 

この対戦ゲームはどれだけコンボ繰り出して相手の体力を削るかという格闘ゲーだ。

海斗が使っていたのは機動力と火力が高いキャラを使って千景が操るキャラにダメージが高い攻撃をしていた。

あまりにも火力全振りしすぎて気づいた頃には海斗の体力バーはなくなっていった。

 

「仕方ないだろ、このゲームは少ししかやってないんだから」

 

千景に指摘され、不貞腐れながらコントローラーを握り、キャラクター選択をする海斗。

すると千景がテレビから視線を外して口を動かした。

 

「でも......これから練習していけば上手くなれるはずよ。私から見て海斗は才能はあると思うから」

 

そう言うと千景は再び画面に視線を向けてキャラを選択した。

二人ともキャラの選択が終わり対戦を開始をした。

 

「.....そういえば――」

 

千景がコントローラーを操作しながら海斗に話し掛けてきた。

 

「最近の海斗、良く笑うようになったわね」

 

「そうか?あまり自分では分からないんだが......?」

 

海斗は一瞬だけ視線を千景に移して、またテレビに目を向ける。

ここ最近は過去の事が少しだけ吹っ切れたというのがあるのだろう。

でも、3年の間に欠落したものがあまりにも多すぎる。

表情を出せといっても何をすればいいのか分からないのが関の山である。

そして対戦が一通り終わると二人はコントローラーを置いてゲームを終了した。

結果はまた惨敗だった。

 

「......私からでも、海斗の変化は気づきやすいわ。乃木さん達から見てもそれはお見通しなぐらいは」

 

千景が自信満々に言いながら海斗に言う。

彼女の言葉に海斗は頬を痒いた

やはり彼女は海斗の事をよく見ている。

嘘もつくことも出来もしない。

あの時、過去を割り切ったと言えばいいのか......乗り越えたと言えばいいのかは分からないが、海斗も自身が変わったことは少しだけ自覚はしていた。

正直、話すのは得意ではない。

けど、行動で示すのは得意というのは自負している。

海斗は千景の方に顔を向ける。

千景は海斗がこちらに向いてきたのに首を傾げ、そのまま見られていると恥ずかしかったのか頬を赤く染める。

何故だろうか、彼女を見たり一緒にいたりすると異様に心が落ち着くし暖かくなるのだ。

前に千景と地元に帰省した時千景が村人に囲まれ、心に思わない言葉を投げかけられたあの日海斗は心臓を何かに掴まれた感覚をした。

早く行かなきゃと彼女を抱き締めるように、導かれるかのように千景の方に吸い寄せられて彼女の手を掴み、抱きしめた。

友達が傷ついている時の怒る感情とは違うなにか、果してそれはなんなのか彼も分からない。

でも嫌なものでもないのは分かる。

これから何が起こるか分からないが、もし千景がバーテックスに殺されたり時。

それを頭の中で想像したら吐き気がした。

彼女がいなくなったら海斗は正気が保てなくなりそうだ。

決して彼女だけは守るとあの日誓った。

自分が自分でいられる居場所を化け物如きに奪わせてなるものか。

 

「.....海斗、大丈夫かしら?」

 

ふと、千景の声が聞こえた。どうやら考え耽ていたらしい。

海斗は手で千景に返事を送った。少し彼女も海斗が心配なのか彼の体をあちこち目で見ていた。

まぁ、少し気恥しいがなんとも思わないからいい。

 

「......ごめんちーちゃん、俺飲み物買ってくるわ」

 

「えぇ。行ってらっしゃい」

 

海斗は畳から立ち上がりスリッパを履きながら外に出た。

少しがてら散歩して気分を紛らそうと考えた。

その後飲み物を買って部屋に帰ってきたらテーブルが左右に壁となっていた。よく見ると枕が宙に浮いているのを見て察した。

枕投げ(勇者ゲーム)が始まっていたのだと。

だが、運が悪かったのかその枕が海斗の顔面に当たり、周囲は海斗の方に集められた。

枕で顔が埋もれた海斗は静かに枕を手に取り、最高の笑顔で笑った(キレた)

若葉達は顔を青ざめ、海斗の説教を受ける羽目になり枕投げは中止に終わった。

その後は皆遊び疲れて就寝してしまった。

そして――バーテックスの侵攻はその数日後に起きた。

だがその先海斗はまだ知る由もなかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 





はい、今回はここまでです!
勇者ゲーム.....やってみたかった人生だった。
次回は戦闘会ですぞぉ!頑張ろw
では次回またお会いしましょう、さらば!

次回。第10話:責任の灯火


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第10話:責任の灯火


どうもバルクスです。
ちっともモチベが上がらなくてずっとゲームやってました\(^o^)/
これからはモチベ上げるために頑張りますぜぇ!
今回は戦闘会です

ではどうぞー


 

「........数が多すぎる」

 

スマホに表示されたマップを見ながら、海斗は険しい表情を浮かべる。

若葉の方も見てみると彼女も海斗と同じ表情をしていた。

バーテックスの侵攻が起こったのは、勇者達が丸亀城に帰ってから半月ほどした頃だった。今回はマップに表示されるバーテックスの数が異常なほど多い。

 

「今までの十倍......?ううん、もっといるかも」

 

「......そうね。この数は苦戦が強いられると思う」

 

友奈も千景も敵を示すアイコンで埋め尽くされたマップを見ながら呟いた。

二人のその声には緊張が混じっているのがよく分かった。

過去のバーテックスの襲来はでは、四国へ侵入してきたのはせいぜい百体ほどだった。だが、今回は違う。

バーテックスはその倍を増やし、勇者たちにぶつけてきた。

数は千以上だ。戦闘に慣れてきた勇者達にとって、バーテックスの一体一体を倒すのは造作でもない。しかし、これ程の数になれば、状況が変わるのは目に見えている。

総力戦になればこちらが敗北する。

以前、学校の授業でバーテックスは知性を持っていると説明された事を思い出した。

やはり奴らは回数事に戦術を変えてきている。

このまま数で押し切られれば危うい。

 

「(......やっぱ俺が前出るしかないよな)」

 

瀬戸内海の向こう側から押し寄せてくる敵群を見据えながら海斗が心の中で呟く。すると同時に若葉が自身の持っている刀の柄を握りながら口を動かした。

 

「私が先頭に立つ」

 

その一言を残しながら若葉は地面を蹴り、敵群へ一人で向かって跳躍した。

 

「待ってください、若葉さ――」

 

背後で杏が制止の声をあげるが、既に若葉は一人で突っ込んでいる。

その声はもう届かなかった。

敵群へ向かう若葉は途中、すれ違いざまに刀を抜き放ち、数体を撃破していた。

するとバーテックスは丸亀城から一人だけ突出して来た若葉を取り囲んでいく。

そのバーテックスの動きの異常性に勇者たちは気づいた。

 

「どういうことだよっ!?あいつらタマたちの方へちっとも来ないぞ!」

 

球子の言葉通り、バーテックスは若葉を取り囲んだまま、他の勇者達の方へは全く近づいて来ない。

人を本能的に狙うバーテックスは、これまで勇者達に平等に『敵』と見なして、攻撃をしてきた。

しかし、先程言った通りバーテックスには知能がある。

負け戦が続き、奴らも戦術を使うようになったのだろう。

だが、この数は勇者一人潰すのには容易いぐらい配置している。

この考えが合っていればやはりバーテックスは――

 

「バーテックスは、まず若葉さんを潰す気です......!」

 

杏が若葉を取り囲んでいく無数の敵たちを見ながらそう叫んだ。

彼女も海斗と同じ考えだったらしい。

そして、ここからが辛い状況だ。

若葉を助けには行きたいが、その他のバーテックスを神樹に行かせないように防衛をしながら向かうのは難しい。

今まさに、若葉を助けに行こうと向こうとする勇者達。しかしそれより先に、バーテックスの動きが変わった。

若葉を取り囲んでいた一部が別行動を始め、神樹の方向へ向かい始めた。

 

「厄介ね.....」

 

千景は状況を睨みながら、苛立つようにつぶやいた。

『一部』と言っても、そもそも数が多すぎて、何が一部なのか麻痺してくる。

神樹の方へ向かったバーテックスの数は普段勇者達全員が立ち向かう数なのだ。そして、神樹がバーテックスによって倒されでもしたら四国は―――滅ぶ。

勇者として仲間を助けることよりも、神樹を守ることが優先せざる得ない。

そんな酷な選択が海斗達を悩まさせる。

友達として仲間として神樹を見捨てて助けに行くか、一人を見捨てて神樹を守るかをと。

 

「――ちーちゃん、ここを頼む」

 

千景の隣にいた海斗が突然彼女に告げる。咄嗟の事に千景も海斗の言っていることが分からなかった。

千景の有無も聞かずに彼はすぐさま若葉がいる方へ跳躍した。

 

「.....!?ダメ、海斗!」

 

千景が気づいた頃にはもう海斗の姿は段々と小さくなっていた。

その方向に手を伸ばすが掴むことは出来ない。残るのは不安と恐怖だけだった。

その彼女が発した声は彼には聞こえず、ただ純粋に聞こえるのはバーテックスが消滅する音だけだった。

千景が海斗の方へ見るのも束の間、彼女の前にバーテックスが接近してくる。

 

「――ッ!!......邪魔、なのよ!」

 

鎌の一振で数体のバーテックスを撃破する。

恨みを込めながら千景は一振、一振、また一振と。

まだ数が減っていない今だと海斗も若葉も助けに行くとさえままならない。

内心焦りを覚えつつ何としても早く神樹を守りつつバーテックスを倒して海斗の方へ向かう。

千景は今はそれしか考えられなかった。

ふと、状況を整理させる。どうしてこうなってしまったのか?

それは乃木若葉が一人で突出したことと周りが見えていないことなのだ。

柔軟に攻撃を回避しつつ鎌を振り続ける。

千景は今ここに若葉に怒りを覚えながらバーテックスを殲滅する。

 

「(.......乃木さん、私はあなたを許さないわ。もし、彼にあったらその時は――)」

 

十体のバーテックスが千景に向かってくるが千景はそれを軽々と刈り伏せる。

 

「......この鎌で貴方の命を刈り取ってあげる」

 

風船のように割れて消滅するのを見つめながら千景は呟くのだった。

 

 

 

千景達と別れた海斗は一人で若葉がいる方へ全速力で向かう。

実際彼も若葉と同じで無謀な事は少なからずやっている身だ。

一人で数体相手するのはいい。だが、数百体相手するのはわけが違う。

何に対して彼女はそこまでバーテックスを一人で一体でも多く倒そうとするのか海斗は分かっていた。

かつて若葉はバーテックス襲来時に友達を殺されたと聞く。

その死んだ人達に報いる為に彼女はバーテックスを倒して必死になっているのだ。報いを受けさせるために。

だが、その弊害は頭に血が上りすぎて周りが見えないことだ。

杏の制止を無視して一人で突っ込んでいく。

そのせいで今勇者達は若葉を助けに行こうとするが、バーテックスが百体程度を神樹の方へ向かわせ若葉の救助を邪魔してくる。

このままじゃジリ貧だと考えた海斗は千景達に神樹の防衛を任せて若葉の救援に向かった。

 

「さて......と」

 

樹海化した蔦に着地すると息を吸いながら村正を構えて力を込める。すると霊力が現れる。

海斗の所に数百体という尋常じゃない数の多さのバーテックスが迫ってくる。

だが、それは関係ない。

なんせ海斗はその状況には慣れていた(・・・・・)のだから。

 

「ここからは......どっちが先に倒れるか、勝負だ!」

 

村正をバーテックスに向けて走って脚に力を入れて跳躍する。

まずは横薙ぎに斬りつけて次の目標には縦に斬り伏せた。

剣が届かなかった時は村正の先端にある霊力の刃のリーチを伸ばして周りを一掃する。その一瞬で百体いたバーテックスは五十体になる。

残り半分を過ぎた頃には海斗は若葉がいる方に近づいていた。

流石にあと半分を今のままじゃ、若葉を助けることが出来ない。先に彼女が死んだら元も子もない。

なら、アレ(切り札)を使うしかないと海斗は判断した。

海斗は目を瞑り神樹が持つ概念的記録にアクセスする。

今回は『再生(鳳凰)』ではなく、一撃必殺の力を持つ精霊を体に降ろす。

沢山の敵を相手に出来るのならこの精霊なら行ける。

 

「.......来い――!!」

 

海斗は叫ぶ。仲間も助けるために、誰も犠牲を出さないために。

そして、昔の自分と同じに道に進んでほしくない為に。

勇者装束が青と赤から緑と白に変わり身体全体が濃い紫の炎を纏う。

その炎は今にも海斗のを身体を焼き焦がしそうな色合いをしている。

実際これを降ろした時は体に異常をきたす。

 

「......っ......」

 

全身あらゆる箇所が悲鳴を上げているかのように熱くて痛い。

でもこれで仲間を助けられるなら、これで誰も犠牲を出させないのならそれでいい。

精霊を降ろした力で思いっきり跳んでバーテックスに村正を使って斬る。

その数を二百......三百を超えたところでやっと若葉の所に辿り着いた。

 

「若葉........!」

 

海斗が叫ぶとこちらの声に反応して振り向く。

 

「海斗!?」

 

若葉は驚いた表情をしながら海斗に近づいた。お互い背を合わせて立ちながら刀と大剣を構えながら周りのバーテックスに目を向けていた。

 

「どうして......なぜここに来た!?それに.....」

 

その中、若葉が海斗に向かって叫ぶ。ここは自分に任せろと言うかのように。

しかし若葉は海斗の姿を人目見ると驚愕した。それもそうだろう。精霊を降ろしながらこちらに来たのだ。今一番肉体的疲労があるのは海斗だいつ倒れてもおかしくは無い。

だが海斗にとってそれは関係なかった自分より彼女の状態の方を見ればすぐにでも分かる。

右腕が酷い有様だ。先程バーテックスに噛まれて出血したのだろう。

今まで海斗が助けにくるまでずっと左腕で戦っていたという事になる。

今利き手が使えない状況はまずい。最初はいいが、一気に追い返されるのが目に見えてる。

ならここは自分が頑張りどころを見せるしかない。

 

「.......仲間を助けるのに理由がいるかよ?まぁ、そうだな――」

 

間を開けて海斗は言う。なんで彼女を助けたのかいまいち海斗も分からない。自分と過去が似すぎているからの同情心かそれか、単なる気まぐれかは分からないが、これだけは分かる。

 

「大切な仲間が一人戦う姿を黙って見るのは嫌だからな」

 

あとはお前まだ中学生の女の子だからなとバカにするかのように笑ってみせながら言う。

恥ずかしくなったのか若葉は一瞬頬を染める。

しかしそれはすぐに消え、臨戦体制になる。

 

「......海斗、必ず生き残れ」

 

「お前もな。先に死んだら許さねぇぞ猪リーダー」

 

疲労と苦痛を押し殺し、海斗は言葉を返す。

お互い、戦闘と精霊降ろしで満身創痍、それでも二人の勇者は周囲の無数のバーテックスへ武器を振るう――

かつてないほど大規模なバーテックスの攻勢だった。

その戦いは、止まった時間の中で行われるが、勇者達の体感時間にして六時間は軽く超える。

長い戦いの末、勇者たちはかろうじて、バーテックスの撃退に成功する。

しかし、勇者全員の負傷と疲弊はひどく、特に海斗が戦闘中に精霊を降ろし、そのまま戦闘を続行したことで彼の身体は大きな切り傷、打撲、内蔵の損傷、骨折、火傷その他色々みられた。

戦いが終わった後、彼は意識を失ってすぐに大社管理下の病院へ緊急搬送される事になった。

樹海化が解け、海斗が丸亀城から病院へ運ばれて行った後。

海斗の状況を目の当たりした千景はこの現状を作った張本人である若葉に平手打ちをし、胸を強く掴んだ。

 

「乃木さん......どうしてあなたは、勝手なこと、したの!?......あなたが一人だけで勝手に戦おうとするから.....海斗が.......海斗がッ!!」

 

千景の責めを止めるべきか迷う勇者たちだが、

いつも明るい友奈も今回だけは彼女が言っていることは間違っておらず、彼女たちも心のどこかでは共感しているからだ。

もし、ここで千景が怒鳴っていなかったら、珠子が代わりにやっていたかもしれない。

 

「自分勝手に特攻して......海斗を巻き込んで......!せめてあなたも神樹の精霊の力を使って戦えば、海斗の負担は減ったはずなのに.....あなたはそれもしなかった.......!」

 

彼女の言葉は事実で、若葉は何も言い返さない。

千景もこんなことは海斗も望んでいないというのは分かってる。

でも、大切な幼馴染で好きな人が危険に晒されれば怒るのも当然である。

唯一無二の存在で千景にとって生きる希望なのだから。

それを守れなかった彼女も自分に苛立っている。

もう嫌なのだ、何もない頃に自分に戻るのが、一人になりたくない。寂しいのは嫌だと。

だからこそ千景は彼女、乃木若葉を許さない。

だって彼女は自分で責任を負っていないのだから。

 

「あなたは.......これで満足なのでしょう?でも、私は許さない。一人で突撃するあなたも、周りが見えていないあなたも、結果的にだけど海斗に負担を押し付けたあなたも.....っ!絶対に許さない!」

 

千景は若葉を強く睨みながら言う。この世に憎悪をぶつけるかのように吐き捨てる。

そして、強く胸を掴んでいた腕が緩んだ。

 

「乃木さん.....あなたに忠告するわ。......自分が、勇者のリーダーだってことをもっと自覚しなさい!そうしなきゃ、私はもうあなたとは一緒に戦いたくないわ」

 

千景の言葉に若葉は身が凍りつく感覚を感じて脱力してしまった。

若葉は自分のしてきた行いに後悔する。

果たしてこれから自分が勇者として、リーダーとして相応しいか分からない。

大社が運営する病院の病室で若葉はベットに横になりながら考え続けていた。

責任をどうやって取ればいいか悩みながら海斗が目を覚ますまで、ずっと。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 





海斗何をしている!よせぇ!
というわけで若葉を助けに行くのは高奈ではなく、海斗君ですね。
こっちの方だと何かと活躍しさせやすいのと、千景ちゃんの悲しい顔が見たかった.....というのもあるんですねぇー
やっぱ大切な人が傷つけばそりゃ怒りますよ( ˙꒳˙ )
というか、海斗君精霊憑依してるけど大丈夫か?

さて、次回は日常会ですねー果たして海斗君は大丈夫なのかな?

次回。第11話:自分が出来ること


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第11話:自分が出来ること


どうもバルクスです。
投稿するのに一週間掛けちゃったぜ
まぁ、仕事が忙しすぎて全く手がつけれなかったてっのもあるし、やはりモチベが......でも、頑張ります!

今回は日常会(?)です。
ではどうぞ〜


 

暗い空間に海斗は気付いたらそこに立っていた。

自分は今何をしているのだろうか?

こんな暗い闇の中で、ただ何もせずこの空間を見つめながらに居座り続ける。

何もしたくない......何もやりたくない。

どうして自分はここにいるのだろうか?

ふと、視界が光に包まれた。光が止むとそこは海斗が知っている場所だった。

 

「これは......」

 

突如後ろから誰かの悲鳴が聞こえ後ろを振り向く。

だがその光景は悲惨なものだった。

それは過去に海斗が体験したものだった。まるで録画したものを流し続けて追体験させるかのように場面が切り替わっていく。

最初は唯誰かを救えると思っていた。

だが、現実は醜いものばかりを突きつけてくる。

白い化け物に襲われてから人類は変わってしまった。

片や食糧難で争い、または意見の対立で争う。

そしてそれに巻き込まれるのは力を持たぬ子供や老人、病人も含まれ、それら人に全て切り捨てられ殺される。

集団行動したとしても結局内部で暴走すれば破局するのは必然だ。

恐怖に支配され動けずそのまま死んでしまう人々。その知人や身内を亡くしたショックで自ら自害する人々にそれぞれ別れる。

それを見てきた海斗は自分が一体何の為に力を手に入れたか分からなくなった。

この時、人間があの白い化け物より一番なによりも怪物になれるんだと思った。

それから先は覚えていない。

残ったのは海斗を最後まで想ってくれていた巫女だけ。

だがその巫女も道中に襲われ、海斗を化物から庇い瀕死の重傷を負ってしまう。

だが彼女は自身の怪我ではなく、最後の最後まで海斗の身を案じながら想いを告げて息を引いた。

その頬を触れた時、巫女の体温は失われ冷たかった。あれまで暖かった人が今は冷えた物になった。

あんなにも元気で明るく、海斗の心を保たせてくれた彼女は呆気なく死んだ。

こうも人は簡単に死ぬんだと認識してしまう。

 

 

『......ふざけんなよ』

 

と、過去の自分(海斗)が巫女の死体を腕の中で抱きしめながら声を押し殺して言葉を呟く。

肩は震えながら人だったものを見る。

その顔は優しい笑みをしながら幸せそうに眠っていた。

 

『なにが、人を救うだ......』

 

その表情を見れば見る程、自分に苛立つ。

懺悔のように小さい声で言う過去の海斗。それは憎悪を身に纏っているかのような声で呪詛を撒き散らすように呟く。

 

『救われてたのは.....俺だけだったんじゃねぇかよ......』

 

自分の行いに意味がなかった。ただの茶番劇だった。

まるで道化師を演じていたのだろうか?

いや、実際そうなのだ。

 

『返せよ.......返してくれよ.......俺の大事な人を......うわぁぁぁぁぁぁぁッ!』

 

この言葉は今でも覚えている。自分が何も出来ずに誰かを救えなかった苦い記憶。

そして最後に何かに縋る様に感情をさらけ出した瞬間だった。

この時から海斗は一人になった。

バーテックスに復讐をするために。

だが、そんな復讐を誓った海斗は勇者達と出会ってその行いが間違いだと気付く。

本当にこれが正しいのか。はたして過去に散っていった人達に報いているのかどうか、そして海斗を想っていてくれた巫女からの最後の言葉を思い出す。

 

『生き.......てください.......愛しています.......』

 

今でも覚えている、忘れるわけが無い。

彼女の言葉で海斗は今もこうして生きている。大切な仲間と出会っている。

大切な幼馴染がいる、大切な家族がいる、大切な仲間がいる。

彼女は海斗に復讐を誓わせた訳ではなく、『生きて』とただ一言を贈った。

どれだけカッコ悪くても、何も成せなくても、生きて――生き続ければ彼女は幸せだったのだ。

やっと、わかった。

簡単だったものを難しく考え過ぎていた。考えすぎて大事なことを忘れていたのだ。

なら、そろそろ目覚めないといけない。

今自分が何をすればいいのか、今自分が出来ることはなんだろうか、それは――

 

「生きて、大切な人を守るために決まってるだろ!」

 

手を伸ばしながらそう言うと辺りが光だした。

光が止み終ると声が聞こえる。誰かが隣で泣いてる声で呼び掛け続けている。

それに海斗は声を発して応えた。

早く目を開けろと自分に言い聞かせながら海斗は瞼を開けてその存在を確認する。

それは彼が一番大切で大事な幼馴染だった。

しかしその目元は赤くなっていた。泣いていたのだろう。

彼女に合うのはこんな表情じゃない。

すると彼女が海斗を抱きしめた。海斗は彼女の髪に触れて優しく撫でた。

声がまだ出せないが、自分の言いたいことを少しでも伝えられるように弱くても口を動かした。

彼女が少しでも笑ってくれるように、少しでも――幸せにになってくれるように。

 

 

 

 

 

 

千景は大社が管理する病院に訪れていた。

あの日、過去最大規模のバーテックスの侵攻後、勇者達は治療と身体検査のために入院することになった。

千景含めて全員が戦いで傷を負い、勇者の力を長時間使っていた影響を調べる必要もあったからだ。

幸い勇者達は軽傷ですんで今は退院している。ただ一人を除いては。

 

「......」

 

千景はとある病室に入りそこに設置されてある丸椅子に座りながらゲーム機を出した。

ベットに寝ているのは海斗だった。

心電図がピッ、ピッ、とリズミカルに音を鳴らしている。

何もない空間だからか、不安感に駆られてしまう。

バーテックスの侵攻から海斗は若葉を助けるべく一人でバーテックスの大群を相手にした。そのせいで彼はやむを得ず自身に精霊を降ろしたのだ。

バーテックスを撃退した時には既に海斗は意識を失い、それを見た千景は血の気が引いてしまった。

千景は海斗が大社の病院に運ばれたのをずっと見続けていた。

それを思い出しながら千景は海斗が寝ている病室で今も尚眠り続けている彼の顔を見る。

運ばれてからは一刻も許さない感じだったが、今は呼吸も安定している。

それを見ながら自身の後悔を思い出す。何も出来なかった自分が憎い。千景が海斗の方に行けば少しは変わったのだろうか。

だが、二人で行けば今度は神樹の防衛が疎かになってしまう。

だから何も出来ず決断を鈍らせた千景はやり場の無い怒りを若葉にぶつけてしまう。

悪いと思っても大切な人が目の前で無惨な姿になって冷静などいられるはずがない。

千景が若葉に怒りをぶつけても周囲は誰も止めなかった。

海斗が病院に運ばれた翌日、千景は若葉に対して本心を述べた。

これで彼女が変わってくれたらどれ程いいかと思いながら千景はずっと海斗がいる特別治療室の窓ガラス越しに彼を見ていた。

そして海斗が目覚めぬまま八日が経った。

海斗が負った傷は塞がり、今は一般病棟に移され面会も出来るようになった。

 

「海斗......うるさいと思うけど、ゆるしてね」

 

申し訳なさそうに千景言いイヤホンはせずに周囲に聞こえるように音を流した。

少しでも彼が目覚めるようにと。

千景はゲームをやりつつ眠っている海斗に聞こえるように話し出した。

あれから色々あった。

一つは若葉が自身の行いに気付き前を向こうとしている。

以前千景の部屋に訪れてゲームで協力プレイをした。

彼女もやっと周りを見るようになって良かったと心の中で安堵した事、自分でも言いすぎたんじゃないかと心配した事。

そして、今の勇者達のことも。

だが彼が目覚めないかぎり、千景の心は冷えきったままだった。

話が終わってもゲームをしながら海斗の顔を見る。

まるで安らかに眠っているようでこのまま起きないんじゃないかと悪い方向に思考が傾く。

そして一瞥し終わると再び画面の方へ戻る。

ここまでゲームを楽しめないのは何時以来だろうか。

幾ら敵を倒そうが、幾らステータスを上げようが、何も満たされなかった。

 

「......」

 

これまで海斗がいたから彼女は今までやってこれた。彼がいたから自分が自分でいられた。

なのに......なのに。

ゲーム機の画面に小さな雫がポロリと落ちる。

 

 

「いや......いやよ.....」

 

千景は泣いていた。これまで抑えていた感情が、耐えきれなかった。

彼がこの先目覚めなかったら千景は耐えられない。

またあの頃の一人の時に戻ってしまう。

前に千景は海斗のことを守ると誓った。だが、その誓いは果たされず今の現状が成り立っている。

なんで、どうしてと心の中で呟く。

あの時彼を行かせなければこんな事にならなかったんじゃないのかと後悔が巡るばかり。だが、それは結果論だ。実際起きた事はどうしようもない。

千景は瞳を濡らしながら不安な表情で海斗を見る。

 

 

「私と何時も一緒にいるって言ったじゃない!支えてくれるって言ったじゃない!」

 

彼女が溜まりに溜まった本心や不安を今も眠り続けている海斗にぶつけた。

 

「私は......貴方がいない日常なんて耐えられないッ!だから、だから早く起きてよぉ.....海斗ぉ......!」

 

そして千景はゲーム機を地面に落ちるのもを気にもとめず、ベットで泣き崩れる。

こんなことしても彼は戻ってこないというのは千景も分かっている。

だが、そうするしか出来なかった。

何を話しても何をしても彼は微動だにせず、ただ体を上下に揺らすだけ。

世界は何時だって理不尽を押し付けてくる。

こんな理不尽に慣れるのは絶対に不可能だ。

そして千景が蹲りながら涙を流していると彼の声が聞こえた気がした。

 

「ち.....ぃーちゃ......ん」

 

か細い声で彼女の愛称を呼ぶ。

その声に気付いた千景は顔を即上げた。

早く彼の顔が見たくて早く抱きしめて仕方がなかった。

海斗の表情を見た千景は目元に溜まった涙でまた頬を濡らした。

そしてそのまま彼を抱きしめる。

 

「.....あぁ....海斗......かいとぉ!」

 

言葉にならないほど千景は泣いた。

海斗も彼女の行動に少しは驚いたが、右手で千景の髪を優しく撫でた。

 

「......声、聞こえたよ.......届いてた.....よ」

 

ぽつり、ぽつりと海斗は千景に言う。

その言葉に千景は抱きしめていた腕を痛くないように強くする。

もう離さない。離したくない。離れたくない。

これからもずっと、ずぅと一緒にいたい。

そんなことを心の中で呟く千景。

彼にはまだ言わなくていい。

何時かお役目が終わった時に彼女は告げるだろう。

今は自分が出来ることを最善にやることだけだ。

 

 

「(今度は絶対守る.....今度こそ、絶対にッ!)」

 

 

 

翌日。

検査を終えた海斗は病室で本を読んでいた。

体もある程度は回復してリハビリも必要せず今は退院する期間が来るまで待っていた。

時間は昼過ぎ。

因みに今日は誰一人も来ていない。

この時間帯はいつも千景が来る筈だが、今回だけは見舞いにも来なかった。

やはり昨日の事について恥ずかしくて海斗に顔を合わせずらいのだろう。

少し寂しいが仕方ないと心の中で納得させる。

すると50ページを読み終えた辺りから病院のドアからノック音が聞こえた。

 

「どうぞー」

 

海斗は小説を閉じながら短く返事をして入出許可を出すと扉の中から現れたのは若葉だった。

 

「おっ、若葉久しぶり。どうしたこんな昼過ぎに」

 

「目が覚めたと昨日、大社から聞いてな。身体の調子はどうだ、海斗」

 

若葉の言葉に海斗は腕を上げ軽く振り回す。

 

「見ての通りこんな感じだ。後は退院する期間を待ってるって状況」

 

「そ、そうか......あまり無理はするな。まだ体が本調子じゃないんだ」

 

腕を振り回しながら応える海斗に若葉は苦笑しながら心配そうに言う。

 

「んで、本当は単に見舞いだけじゃないんだろ?」

 

 

そう軽く話すと海斗は本題に入ろうとした。

何故若葉だけ病院に来たのかは分からない。普段だったら彼女の隣にひなたがいるはずなのに今日はいなかった。

その話をしたら若葉は肩を一瞬震わせ目を逸らす。

そして、覚悟が決まったのかいきなり若葉は腰を折って頭を下げた。

 

「.....海斗、あの時はすまなかった!私のせいでお前に怪我を負わせ。ましては......切り札(精霊)を使って......」

 

あの凛々しく根気強い若葉が弱々しくなっている。

バーテックスの大群を撃退してから今日で九日。昨日千景にある程度状況を聞いてはいたが、これはこれで何かむず痒い。

 

「......あれは気にすんな、とは言わねぇけど」

 

 

海斗は頭に手を置きながら海斗は口を動かす。

何かを言おうと考えながら振り絞る。

 

「確かにお前がやったことは褒められたことじゃない。けどな、それを反省しているんだったらそれでいいんだよ」

 

「だ、だが......それでは......」

 

 

海斗から見て乃木若葉は女子に言ってはいけないが、現代の武士だと思っている。義理堅く、頑固というのが海斗のイメージだ。

歯切りが悪かったのだろう、若葉は海斗の言葉に納得しなかった。

ため息を吐きながら海斗は口を開いた。

 

「なら、俺が寝ている間お前が何をしていたのかを教えてくれよ。それを聞いてから決めてやる」

 

 

海斗が言うと若葉は頷いた。そこから彼女は語り始めた。

自分が過去にバーテックスから友達を奪われ奴らに報いという名の復讐に取り憑かれていたと。

若葉の家訓は『何事にも報いを』をしていてそのせいで若葉はバーテックスに怒りで我を忘れて一人で突出する行為を行ったのだ。

海斗の目覚めていない期間にそれは勇者達との交流やこの四国に生きている人々との交流で周囲にも気を配り、過去(死者)を背負うのではなく、(生者)の人々の想いに応えて守り抜くと決意したらしい。

その話をしている若葉はもう吹っ切れたと思えるぐらい純粋な笑顔で満ち溢れていた。

 

「.....ということだ。どうだ?」

 

真剣に話しすぎた若葉は恥ずかしくなったのかモジモジしている。

この話を聞いたのならもう答えは出ている。

彼女も海斗と一緒で過去の人に縛り続けられていた。

その想いを背負って今までバーテックスを倒していた。

だが二人も仲間のおかげで変われた。

だったら海斗が言うことはこれしかない。

 

「......確か、『何事にも報いを』......だったか?」

 

「ああそうだ、それが乃木の生き様だ」

 

「それじゃあ、俺がお前に報いを受けさせてやる」

 

「.......頼む」

 

海斗が間を開けて息を吸った。そして、若葉に言い渡す。

 

「これから先お前は仲間を守るのとリーダーとしてちゃんと勇者達を纏めていくことだ」

 

「......え?」

 

海斗の言葉に若葉は素っ頓狂な声を発してしまった。

もっと厳しいことを言われるかと覚悟していたというのに、この男はどうしてそこまで罪を軽くするのだと、若葉は心の中で思ってしまう。

 

「.....何か文句あるか?」

 

「い、いや全くないが......そんなことでいいのか?」

 

「それでいいんだよ。反省してるやつにそんな酷なことなんてするかよ」

 

「そ、そうか......ありがとう」

 

手をヒラヒラと揺らして若葉に言い聞かせる。

緊張していたのか若葉は肩を脱力して姿勢を少し崩す。

お互い似ているもの同士か引かない時は引かない。

だからこそ海斗と若葉はここまで気軽に話せた。

そして若葉が最後に海斗に聞きたいことを話す。

 

「......なぁ海斗」

 

「うん?」

 

「私はリーダーとして向いているか?」

 

真剣な眼差しで海斗に向ける若葉。それを聞いた海斗は首を捻りながら手に持っていた小説を読み始めた。

 

「......しらね。そもそもそれを決めるのはお前だ何をしたいかは自分で見つけろ」

 

「ふっ、......それもそうだな」

 

素っ気なく返す海斗に若葉は何時もの海斗らしいと思い浮ながら笑った。

だが、その病室から続く廊下に丁度やってきた千景が海斗と若葉の話をこっそりと聞いていた。

 

 

「ふふっ.....良かった。あの時の海斗に戻ってきた」

 

 

 

笑みを浮かべながら小さく呟く。

勇者の仲間達との交流で海斗は段々と変わりつつある。

それを見るのが堪らなく嬉しかった。でも何故だろうか、海斗が若葉と楽しく話しているのを見たら胸がズキズキと痛くなるのを感じた。

仲間なのに何故か敵意を覚えてしまう。

奪わないで――盗らないで。

ふと、心の中で何かが呟いた気がした。

自身の胸に手を当てると暖かいが、冷たく感じる。

そして再び海斗と若葉を見るとまだ楽しく会話していた。それを微笑ましく思えば何故か羨ましく思うのだ。

 

「(......もしかして私......乃木さんに嫉妬してる......?)」

 

それを自覚した千景は若葉をみる。

何であんな楽しく私の大切な人と喋っているの?

どうして私じゃなくて貴方がそこにいるの?

赦さない。

 

「.......馬鹿みたい」

 

自身の本心を聞いた千景は呆れるようにため息を吐く。

これじゃあ、いつか海斗に愛想つかれてしまう。

それだけはダメだ。

 

「.......もっと、強くならなきゃ誰よりも........海斗を守るために!」

 

千景は拳を握りながら決意した。

海斗を守るために、何者にも負けない力を付けるために。

それが、今自分に出来ることだと思ったからなのだから。

 

 

 

 

 

 





ここからどんどんシリアスになっていくのかな?
やはり千景ちゃんは優しい子ですね、大切な人に涙を流せるのはいい事だ(´ー`*)ウンウン(何様だよ)

因みに千景が泣くシーンはゆゆゆ第12話をオマージュさせて頂きました。

実際千景の意思は東郷さんが引き継いでるだろ(生まれ変わりかもしれない)

まぁ、そんなことは置いといて、次回は丸亀城の戦いまで書こうかな考えております。

前編と後編分けようか迷うけどもし、前、後、出してたら察してくださいw

ではまた次回でお会いしましょう。さなら!

PS.何か指摘や言いたいことがあったらコメントしてもどうぞ〜(少し欲しい)


次回。第12話:勇者の連携



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第12話:勇者の連携 (前編)

はいどうもバルクスです。
今回は丸亀城の戦いですね〜。
因みにですが前編と後編を分けさせてもらいました。
では、どうぞー


 

 

空を埋め尽くすは無数の星々。

その数は今まで誰も見たことないほど多かった。

星々のいくつかは重なり合い大群を作っている。

それは彼ら勇者にとっての最大の敵であり人類の天敵、バーテックス。

海斗が病院を退院してからひなた直々に神託の内容を話してもらった。

そして予言された侵攻が起こったのは半月も経たない頃だった。

樹海化によって一変した風景を見下ろしながら、海斗達勇者は丸亀城の城郭に立っていた。

瀬戸内海の向こうから、バーテックスの群れがこちらに迫ってきているのが見える。

海斗始め各勇者たちもスマホのマップを使い、侵入してきた敵の数を確かめようとする。だが、もはやマップ全体が埋め尽くされるほどの量だっため不可能に近かった。

ちゃんと数えれば分かるだろうが、それを待ってくれるほどバーテックスという化物は猶予なぞ与えてはくれない。

 

 

「まるで、羽虫だな」

 

海斗は表情が険しくなりながら呟く。

今回は前回よりも厳しい戦いになると理解している。

この戦いで最悪――死ぬかもしれない。

分かっている事だが、いざその状況に晒されると、不安を感じてしまう。

これで誰かが死んでしまったら、その思考が頭を過ぎってしまう。

そんな海斗の隣にいた千景が彼の手を握った。

 

「ん......ちーちゃん?」

 

「......海斗、そんな顔しなくても大丈夫よ。私たちは絶対に勝てるわ」

 

「......ありがと、ちーちゃん」

 

千景のお陰で、海斗は肩の力を抜くことが出来た。

その優しさや励ましがとても心地好く感じ、勇気を与えてくれる。

彼女がいるだけで海斗はなんだってやれる気がした。

単純だが、大切な人を守れるのなら理由なぞいらないしなんだっていい。ただ相手を斬ればいいだけなのだから。

そして、友奈が勇者達に向けて円陣を組むことを促して皆輪になる。

若葉の掛け声も相まって士気はどんどん光明が上がっていきやる気も十分。

円陣が終わってから勇者達は杏が考えた陣形に付いた。

今回の総攻撃に当たり、持久戦が余儀なくされる。

それに基づいて杏が作戦を考えた。それが陣形(フォーメンション)を使う事だった。

勇者たち六人を決められた場所に配置し、役割を分担してバーテックスを迎撃する。

神樹を死守する防衛ラインは丸亀城。

丸亀城周辺は樹海化中でも、まだ完全には植物にはおおわれておらず、見通しも良いためだ。

丸亀城の正面、東、西にそれぞれ一人ずつ勇者が立ち、その後方に杏が待機、残った二人は休憩しておく。

前方の三人がバーテックスを倒していき、討ち漏らした敵は遠距離の杏が仕留める。

そして前方の三人の中で、疲労が見えた者は、休憩している一人と交代させる。

敵の多さから、今回は休憩を挟んだローテーションで戦えば、長期戦にも対応できる。

また、切り札は杏の指示の元疲労が激しいため、いざの時にしか使わないことにする。

そして正面で戦うのは若葉、東は友奈、西は海斗が務める。

珠子と千景は一時待機。

杏は遠距離援護と指揮官役であるため即座に作戦を伝え作戦を開始した。

西側に到着した海斗。

その正面にはバーテックスの大群が迫ってきている。

この数を今から一人で相手する――いや、皆でするんだ。

昔だったら周りを気にせず前に出ていた。だが、勇者達と時を過ごし、周りを見るようになった。

だからこそ海斗は今だったらなんだって出来る。そんな自信が湧いていた。

村正を握りしめ霊力の刃を出しながらバーテックスの方に向ける。

ここから人類を賭けた大侵攻が始まる。

誰も犠牲なんて出させないし、護ってみせる。仲間も世界も。

 

「さぁ....行こうかぁ!」

 

声を強く発した海斗は強く跳躍してバーテックスの大群に突っ込んで行ったのだった。

守る者のために、大切な人との思い出を無くさせないために。

 

 

 

丸亀城に近づいてくる無数の星々。

海斗はそれを迎撃する。

前から突進してくる星屑を海斗は村正を使って斜めから切り倒す。

それを一体ずつ切り続け、切った後の亡骸は段差として使い他のバーテックスを次々倒していく。

するとバーテックスは海斗の攻撃を理解したのか今度は左右から突進してくる。

これではどちらかを相手にしようとしても先にこちらが殺れてしまうだろう。

しかし、海斗は村正の先端にある霊力の刃のリーチを伸ばす。

それを左右から来たバーテックスに横から振り回して斬った。

 

「うぉぉぉらぁッ!」

 

声を上げながら両手で村正を持ち、力を加える。

星屑は真っ二つになり消滅する。

海斗は一旦地面に着地して息を整えた。

 

「ふぅ.....」

 

まだ疲れていないが、やはり何か身体に違和感(・・・)があった。

前より、敵の動きが遅く感じるのだ。

そのお陰があってかさっきの左右から分かれて攻撃してきたバーテックス達に対応出来た。

この前病院から目覚めた時にやった精密検査にも異常なしと言われたというのに何故かこの違和感だけは海斗しか知らなかった。

 

「手も足も何も痛くない......なんなんだこれ」

 

そして力が増した気がした。精霊を身に降ろした時に何かしらの付与がされたのだろうか.....?

だが現状系、これで敵を倒せるなら使えるに越したことはない。

だったら最後の最後まで使ってやる。

と、そんなこと考えていると背後から気配がしてすぐさま村正を逆手に構えて後ろに突き刺した。

その後ろを確認すると星屑が口を大きく開けながら海斗に襲いかかっていた。

だがそれは海斗の目の前で止まりその星屑は口を開けた状態で村正に突き刺さっている。

 

「俺に不意討ちをしようとして食おうとしたんだ......覚悟は出来てるんだろ?」

 

バーテックスに向かって口を三日月状に浮かべながら言う海斗。

すると今度はその後ろから新手のバーテックスがこちらに向かってきているのが確認できた。

海斗は村正を逆手から元の位置に戻して両手で握った。

 

「――村正......安全装置(セーフティー)解除!」

 

村正から出ている霊力の刃がでかくなり、星屑の体を内部から貫通する。

それを固定してこちらに向かっているバーテックスの方に村正を向ける。

 

「この距離だったら......!」

 

突き刺していたバーテックスが消滅すると同時に構える。

そして切り込み範囲に到達した瞬間。地面を強く蹴り跳躍した。

どんな相手でもゆっくりになって見える。

これがどんな副産物だとしても今は――

 

「外さないッ......!」

 

村正を大きく振り星屑を縦に真っ二つにした。

まだ戦いは始まったばかり、のんびりもしてられない。

敵もまだ本気は出していない、ここで体力を削られたら終わりだ。

なら迅速に星屑の量を減らして様子を見ることにした。

村正に霊力を纏わせて次々とまた現れるバーテックスを斬っていく。

 

「......どれだけ数が多かろうと」

 

斬り倒し、突き刺して敵に投げて同時に斬り倒す。

消滅寸前の星屑を段差にして次の敵に向かい斬るの繰り返し。

 

「俺たち勇者は.....」

 

飛び越えてまた、斬ってスピードを上げる。その速度に着いてこれるのは現状いないだろう。

村正を逆手に持ち替えてバーテックスに下から突き刺した。

風船のように破裂して消滅する。その真ん中には青と赤と白が混ざった勇者装束を着ている者が呟くように声を発する。

 

「不屈!」

 

そして自分にスイッチ(気合い)を入れる。この言葉は海斗の父、黒結柊が黒結家の家訓として使っていた言葉。

自身の力を全力で使いたい時に気を入れるために使う。

 

「根性を.......見せてやるよッ!」

 

その言葉に彼の神器である村正も淡く光り出すのであった。

村正に霊力を纏わせて海斗は目の前にいる数百のバーテックスに向かって駆け出して行ったのだった。

誰も死なせないために、今度こそ誰かを護れるために。

 

 

 

 

 

 

 





海斗君かっこよスギィ!流石主人公〜(棒)
とまぁ、やっぱ千景ちゃんがいないとケアは出来ないみたいですね。
次回は後編になります!
なのでサブタイはパス!
ではまたお会いしましょうさよならぁ!



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第12話:勇者の連携 (後編)



どうもバルクスです。
三週間も投稿をせずに出来なくてすいませんでした。
これからも更新頑張って行きますのでお許しを!
では後半どうぞー

ps.秋葉のホビー天国でわすゆグッズを買いました〜最高だぜ!


 

あれから何分経ったのだろうか。

徐々に周りにいるバーテックスの数を減らしつつ周りを見回した。

他の勇者達は表情に少しの疲労見せながら敵を倒していた。

 

「はぁ.....はぁ......」

 

息を整えながら村正を地面に刺しながらスマホを見る。

どうやら最初にいた大群は約半分まで減っていた。

このままいけばこちらに勝機がある。

後は海斗達勇者の体力があればの話だ。

たがこっちには二人の勇者が待機している。

焦る必要は無い。

そろそろ戦闘を開始してから半時間ぐらい過ぎた頃だろう。

前線を張っている若葉と友奈が待機している珠子と千景に交代する頃合だ。

しかし、最低二人は交代できるが残りの一人はそのまま戦闘を継続しないといけなくなる。

一番体力がある人じゃなければ務まらないだろう。

指揮を執っている杏が前線に出たとしてもきついだろう、そのまま後方で援護をした方がいい。

そして海斗はその役目を引き受けた。

指揮を執っている杏や他の仲間には何か言われるかもしれないが、命令違反はしているが今は目を瞑ってもらえたいところだ。

一通りスマホで敵の数を確認し終わると腰に着いているスマホ入れにしまう。

体力は存分にある。バーテックスが来ない間ある程度は休めた。

なら――

 

「......まだ、やれる」

 

村正を手に取って再びこちらにバーテックスが進行しているのが見えた。

霊力の刃を展開して間髪も入れずに跳躍して敵を斬る。

そして亡骸の一つを村正を突き刺して向かってくるバーテックスに投げつけてその隙を見逃さずに残りの亡骸を土台にして接近して斜めに薙ぎ払うように斬る。

そのまま地面に着地して、透かさずその場にいるバーテックスに向けて村正を振り続ける。

しかし、海斗の背後に回ってきたバーテックスは海斗の後ろを確実に捉え、口を開けながら接近してくる。

それに気付いた海斗は左足で回し蹴りを食らわした。

 

「はぁぁぁぁ!」

 

死角から来る敵は過去の経験から分かる。

四国に来るまではずっと奴らと戦ってきたのだ。この程度では負けることなんてない。

海斗はバーテックスを蹴り上げた後に村正で真っ二つに斬る。

バーテックスは塵のように消滅した。

 

「さぁ......全然こっちは元気だぞ!殺したいなら全力で殺してみやがれ!」

 

化け物に挑発は効くかどうかは分からないが、海斗は声を発した。

その効果が効いたのかバーテックスが勢いよくこちらに迫ってきたのを確認してから素早く空中に跳んで回避する。

お陰で攻撃が単調で避けることができて真上から下にいるバーテックスに村正を突き刺し消滅させる。

すると星屑は周囲に集まり始めて融合を始めた。

 

「ちっ、こんな時に進化体か......」

 

バーテックス側からすれば本格的に海斗を殺しに掛かりに来た様だ。それを判断した上で進化体になり始めようとした。

それを妨害されないように小規模ながら星屑が周りを囲んで防衛線を張っていた。

簡単には抜けられそうにはない。

 

「カイト無事か!?」

 

丸亀城付近から球子が飛躍してやってきた。

どうやら杏の指示で来たのだろう。

海斗が珠子の方に振り向きながら口を動かした。

 

「球子。来て早々悪いが、あいつをさっさと倒す。手を貸してくれ」

 

「おう!最初からその為に来たんだからな!」

 

隣同士に並び融合を始めているバーテックスを睨む。

流石に悠長に話している時間もない。

交代する番だが、今はそれをやっている暇もないことは理解している。

 

「俺があの進化体の懐に飛び込む。星屑の掃討は任せたぞ」

 

「あぁ。思う存分暴れて来い!後ろはタマに任せタマえ!」

 

そう言うと二人はお互い村正と旋刃盤を構えて駆け出す。

その同時に星屑の大群が海斗の方へ雪崩のように迫ってくる。

本来なら防御しながら進むが、自分が自衛しなくても後ろから盾が回転して目の前いた敵を薙ぎ払って道を作ってくれる。

これ程仲間がいれば心強いというものだ。

 

「ははっ!最高にいいタイミングだ、球子!」

 

援護してくれる珠子に感謝をしつつ、盾が戻ってくる頃には海斗は村正で旋刃盤で倒し損ねた星屑を斬り伏せる。

敵が消滅した瞬間に強く地面を跳躍した。

後ろにいる球子は、旋刃盤を回収した後にバーテックスから距離を取る。

そして海斗は跳躍した勢いで自身に向かってくる星屑を次々と斬り払った。

斬ったそれを踏み台として宙を翔る。

球子もそれに続いて地上から敵の攻撃を捌きながら適度に海斗の援護をする。

それのお陰でなんなりと敵の防衛戦を突破して懐に潜り込めた。

 

「喰らいやがれ!」

 

村正を振るう。だが、その攻撃は表面状だけしか傷を付けれなかった。

非常に表面が固く、村正の刃が通らなかった。

 

「クソっ!」

 

一旦距離を取り、体制を立て直す。

地面に着地して球子と合流する。

 

「どうするんだカイト、あんな硬いやつなんて並の武器じゃ通用しないぞ!」

 

球子も進化体の強靭な硬さを目の当たりにし、海斗に言う。

バーテックスは知性があると大社に言われており、奴らも幾度の侵攻で勇者達に対して学習していってる。

そして後々の事を考えてみる。撃退出来たとしても、奴らに経験値を与えているということ、そしたら自分たちが使っている神器も通用しなくなるのではないかと考えてしまう。

だがもし、これ以上やり続ければ果たして海斗達は勝てるのだろうか?

いや、そんな事は頭の片隅に置いといておこう。

今は目の前にいる進化体になりかけているバーテックスをなんとかして攻撃を与えることを考えるべきだ。

通常の攻撃が効かないとなると、やはり『切り札』を使うしかあるまい。

指揮を執っている杏からはあまり使うなと釘を刺されてはいるが、今はそんな事を言っているほど時間も余裕もない。

 

「......球子今から俺は『切り札』を使う」

 

海斗は球子に伝えた。それを球子は苦汁を飲まされるような表情して唇を震わせた。

 

「ダメだカイト.....それで倒れたりとかしたらタマは嫌だぞ!」

 

球子は以前の海斗が切り札を使った時彼は意識を失い怪我もした事を思い出す。

そして今度は二度と目覚めないのではないかと思ってしまったのだ。

すると海斗は笑みを浮かばせながら球子の方を見た。

 

「大丈夫だよ球子。俺は倒れないさ」

 

「だけど......」

 

球子は悲しい声をしながら口を動かす。その声を聞いた海斗は鼻で笑い珠子の頭を乱雑に撫で回した。

 

「そんな顔すんなって、あんなやつすぐ倒してやるよ。でも――」

 

海斗は彼女の頭を撫で終わると進化体になりつつあるバーテックスの方に振り向き村正を構えた。

そして海斗はふとある事を思い出した。

切り札を使わずとも勝てる方法が、あったことを。

 

「......そういや、切り札を使わずにこの状況を打破する方法が一つだけあったわ」

 

「何するつもりなんだ?さっきタマがお前にタマたちの攻撃は通じないっていったじゃないか!」

 

確かに球子の言う通り、通常の攻撃は通らないのは先程実証済みだ。

だが、村正だけは他の神器とは違うものがある。

 

「コイツにはまだ使ってない機能があるんだ。けど、それを一度使うと暫くは村正が機能不全に陥って鈍器にしかならなくなる」

 

「なら、タマが『切り札』を使えばいいだけの話じゃなのか?」

 

確かに球子が輪入道を使えばあの進化体を倒せるかもしれない。

しかし、球子にそれをさせれば一気にこちらの戦力が大幅に下がってしまう。

それだけは避けたい。

 

「俺がここでアイツを倒せばお前はまだ継続戦闘はできるんだ。それが終わりゃ俺はその休んでいる間で村正を使えるようにする」

 

そっちの方がいいだろ?と海斗は首だけ球子の方に向かせて言う。

球子もわかっているはずだ、ここで自分が『切り札』を使えば戦力は危うくなると。

それに本来海斗は休むはずだった時間はとっくに過ぎている。

でもまだ戦える。

 

「その間、援護頼めるか?」

 

「分かった......それで勝てるんだったらタマはカイトを信じるぞ」

 

球子も渋々了承してくれた。

なら、後は行動に移すだけだった。

ここから先は時間との勝負、一度きりの作戦。失敗は許されない。

 

「......じゃあ、行くぞ珠子!」

 

海斗は村正を肩に構えて霊力の刃を大剣に纏わせる。

意識を集中させ、(呪い)を溜める。

この間だけは海斗は無防備だ。それをカバーするのは盾を持っている球子である。

珠子は進化体から来る攻撃を旋刃盤を使って投擲で迎撃して、星屑の方はすぐさま、旋刃盤を回収して海斗を守る。

それから2分が経とうとしていた。

たった数分でもバーテックスの猛攻は続く。それを必死に球子は耐え続けた。

 

「ぐうっ!カイト!まだかっ!?タマもそろそろ限界だ!」

 

旋刃盤で盾を形成しながら星屑から海斗を守っている球子は叫ぶ。

たとえ神樹の力を持っている勇者でも体力には限界はある。

彼女はさっきから敵の攻撃を何回も受け止めたり流しているのだ。

次かその後に喰らえば終わりだ。

だが、もうそれはない。

海斗は笑みを浮かばせながら視線だけ球子の方に向かせて口を動かす。

 

「悪いな球子。もう大丈夫だ!」

 

そう言うと村正が強く光だし、霊力の刃が荒れるように煌めきだす。

その剣は周囲の空気を余波で揺らし照らす。

 

「待たせたな化け物(バーテックス)。今度はこっちの番だ!」

 

海斗はそう言うと大剣は構えながら全速力で駆け出し目の前にいた球子と入れ違うように進化体の方へ向かう。

道中、星屑の迎撃を受けるが、その攻撃を避け続けそれを踏み台にしながら進む。

そして、最後の攻撃を躱した。

後は、これ(村正)を奴にぶつければいいだけ。

進化体の間合いを詰めて肩に村正を両手で持ち、思いっきり上に掲げる。

 

「そぉぉらぁぁぁぁッッ!」

 

村正を進化体に振り下げ力を込めながら斬りつけた。

だがまだ足りなかった。

進化体は予想以上に固く、刃が寸前の所までで止まってしまう。

 

「――くっ!」

 

舌打ちをしながら次の事を頭の中で考える。しかし、もう最善の策はもう出尽くした。

万事休すとはこういうことを言うらしい。

けど、ここで諦めたら世界が終わる。ここで倒さなかったら次は若葉達の方へコイツが向かい、確実に殺しに行くだろう。

 

「結局ダメだったか.......」

 

気付かずに負の感情が溜まりつつある。もう諦めたらと何処からそう囁いてくる。そこに寄り添りたくなる。

ふと、千景のことが過ぎった気がした。

そしてまた何かが過ぎる。それは友奈だった。

次々と海斗がこれまで関わってきた人達が過ぎる。そして、意識を現実に戻す。

ここで海斗が諦めたら次は大切な人達がそれに巻き込まれてしまう。

それだけはダメだと心の中で叫ぶ。考えろ、考えるんだ。考えてこの瞬間で感じて掴み取れ必勝法を。

作戦が出尽くしたのなら今作ればいい。たとえ抜け穴だらけでも、少しの勝利があるならそれに賭ける。

だったらやるだけだ。

海斗は村正握りしめ力を込める。

 

「うぉぉぉぉぉァァァァ!」

 

言葉にならない程に叫ぶ。

すると止まっていた刃が奥へ、奥へとくい込んでいく。

 

「(行ける、これなら!)」

 

そう思っていると後ろから星屑が向かってくるが、その直後に球子が操る旋刃盤が迎撃してくれた。

 

「行けぇ!カイトォォッ!」

 

球子が叫びながら言う。

彼女のお陰でもう星屑はいない。ならこのチャンスは絶対に逃さない。

 

「なぁ、頂点様よ......お前達には分からないだろ」

 

今まで人間が幾度と過酷な状況下に置かれてもどうしてこの時代まで生き抜いてこれているか。それは諦めず、同じ人同士で乗り越えてきたからだ。

だったらこの状況もそれと同じこと。

海斗は村正を抜いて進化体の体を切り刻む。

そして今度は進化体の頭上へ跳躍して両手で構え掲げる。

 

「これこそが人間様の.......絆の力ってやつよぉぉぉぉぉッ!」」

 

そう言うと海斗は村正を振り下げ一太刀で進化体を両断した。

今の攻撃で完全の進化体になろうとしたバーテックスは消滅した。

 

「やったよ.......皆。後は頼む」

 

左手で空を掴みながら海斗はバーテックスが消滅するのを地面に落ちながらそれを見続けていたのだった。

その後に誰かの声が複数人聞こえたがそこで彼の意識は完全に途切れたのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

「.......知ってる天井だ」

 

 

目が覚めるとそこは病院だった。

まさか村正を使ってあそこまで体力も持っていかれるとは思わなかった。

結局球子の約束は守れなかったなとため息を吐く。

今度、何かいいアウトドアグッズでも買いに行こうと思った。

そしてあれから一体何があったのかは定かではないが、一先ず状況を理解するために周囲を見渡した。

するとそこには千景がゲームをしていた。

千景も海斗が目覚めたことに気が付きコマンドを打つ指を止めてこちらに顔を向いてきた。

 

「.......目が覚めて良かった」

 

千景が言うと何故か悪寒を感じるには入れなかった。

こんなにも優しい言葉のはずなのに恐怖を感じた。

この際なので震えながら聞いてみた。

 

「ちーちゃん、何か怒ってる?」

 

変哲そうな声で言ってしまうが、千景は何も言わずに海斗の右手を握った。

 

「海斗......どうしてか答えてみなさい?」

 

「え?」

 

「......私が、どうして貴方に対して怒ってるように見えるか」

 

遠回しだがやはり千景は怒っていた。

普段怒らない彼女がこれほど露わにするとは思わなかった。

 

「えっと......俺が村正を使って一人で進化体を倒したから?」

 

要領を得ない言葉に対して海斗はそう答えたが、千景はため息を吐いてしまう。

どうやら違かったらしい。

すると千景はその答えを正すかのように口を動かす。

 

「.......私が怒っているのは、貴方が......また無茶をしたことよ」

 

「.......」

 

「確かに......一人で戦うのはいいわ。でも、倒れるまで戦えとは言ってない.......」

 

悲しい表情をしながら千景は言う。

それから彼女から自分が気を失った後を聞いた。

海斗が進化体を倒した後、若葉達の方もバーテックス融合を始めて進化体になろうとしていたらしい。

それから球子が気絶した海斗を運びながら若葉達と合流して彼を安全な場所に置いて進化体を撃退したらしい。

結局、『切り札』は使用され結果は勇者達の勝利で終わった。

バーテックスの戦いが終わった後、海斗は病院に搬送。

そして海斗が目覚めたのはそれから三日経った後だった。

何も言えなかった。以前の侵攻の時に海斗は精霊を下ろして肉体に多大なダメージを受けていたばかりだった。

それから一ヶ月も経っていないのだ。

それで今度は球子の援護があったとしても結果的に一人で進化体を倒してしまったのだ。

もっと冷静に考えて安定した勝ち方を選んだ方が良かったのだろうか?だが、それは結果論に過ぎない。

その後は自分でも意識していなくて自身の体力も底を尽いてしまったことを忘れていたのだ。

これじゃあ本末転倒だ。

千景に不安を与えてしまっても仕方がない。

ただ、彼女に言えるのはこれしか思いつかなかった。

 

「ごめん.......」

 

「......それを言われても何も思わない」

 

即答で返されてしまう。やはり、相当御立腹のようだ。

どうすればいいか考えていると、千景は海斗の頬を触れてきた。

突然の事でびくっと震えてしまうが受け入れた。

 

「......前に乃木さんに同じ事で言葉ではなく、行動で示しなさいと言ったことはあるわ」

 

千景は真っ直ぐ海斗の目を見ながら言う。海斗はその茶色の瞳に目を奪われてしまう。

 

「海斗、貴方はどうして私たちを頼ってくれないの......?

私は......あなたが一人で無茶して戦って死ぬのは嫌よ......!」

 

千景の顔を見れば涙を貯めながら言う。

心というのはどんな心境でも動かされてしまう。

やっと確信した。

自分も若葉の事を言えないと苦笑してしまう。

本質は違くても根元は同じだった。

海斗は自身で全てを背負い込もうとした。

無意識にそれをやるのは質が悪い。

千景はそれを指摘したのだろう。

 

「ちーちゃん......俺はもう一人で解決することは止めるよ」

 

「......信じていいのね?」

 

震える瞳で海斗を見る。

怖いのだろう、また彼が無茶をするのが。

 

「大丈夫だよ」

 

少し身体は痛むが海斗は起き上がって彼女の手から自身の手を離して背中に手を回して千景を抱きしめた。

彼女は頬を赤く染めて、びくっと肩を震わせた。だが、直ぐに受け入れた。

その温もりは暖かった。

こうしたら何故だか安心できる。

 

「.......確証はあるの?」

 

ふと、千景は呟く。それに対して海斗はキッパリと応える。

 

「ない」

 

「――じゃあ何でそう言えるのかしら.......?」

 

そんなの決まってる。自分はもう復讐者じゃない。

今は大切な人を守るための存在なのだから。

海斗はゆっくり息を吐きながら口を動かす。

 

「......俺が君を頼るから」

 

この言葉には海斗自身のけじめでもある。

もう一人で抱え込まず、誰かと協力するということ。

 

「.......じゃあ今から証明して」

 

安心したのか千景は先程の悲しそうな表情から嬉しい笑みを浮かべていた。

だが、その裏には何故だろうか、悪戯心がある気がした。

若干笑っているようにも見える。

何ともまぁ、鬼畜な事をするものだなと自身の幼馴染を心の中で苦笑いをした。

そして丁度小腹が空いていたので近くのテーブルに果物入れがあり、その中から林檎が微かに見えた。

 

「そうだなぁ......あ、じゃあリンゴ食べたいかな」

 

「えぇ。分かったわ」

 

千景を抱きしめていた海斗は彼女から離れ、ベットに背中を付けた。

あまり動かない体にどうも力は入らない。これじゃあ林檎の皮も剥けない。

それに対して千景に林檎の皮剥きを頼んだ。

これが勇者になって初めての頼み事だ。

前は海斗が熱を出した時にこうして彼女が看病をしてくれていたことを思い出した。

彼女に皮剥きを教えて良かったと思う。

千景はスラスラと皮を剥き、林檎を半分にカットして皿に乗せ、爪楊枝で林檎刺した。

ここまではいい、ここまでは――

 

「.......はい、海斗。あーん」

 

「え.....?」

 

カットした林檎を皿に乗せた千景は皿を持って海斗の方に持っていきそれを爪楊枝で刺して彼の口の方へ持っていった。

 

「ちちち、ちーちゃん!?別にそんな事しなくてもいいだろ!?」

 

「あら......誰かさんが頼ってくれるって言ってくれたからやっているのだけれど......?」

 

どうにもこれは遊ばれているようだ。千景の顔を見れば即分かってしまう。

自分の言葉に二言はないが、これは流石に恥ずかしかった。

 

「さぁ海斗。食べてくれるわよね......?」

 

「うっ.......」

 

千景の催促が来てしまう。どうやら覚悟を決めないといけない。

意を決して海斗は口を開けた。

 

「あー......あむ.......美味しい」

 

「そう、......良かった」

 

出来れば穴があったら入りたいが、千景の表情を見れば彼女は嬉しそうだった。

海斗自身もこの笑顔を見ればさっきの事を許せてしまう気がした。現金なやつだと心底心の中で笑ってしまう。

 

「まだあるけど......食べる?」

 

「......ん、頼むわ」

 

海斗は身を任せた。このまま羞恥心で殺されるより、何も考えずにこの場をやり過ごすことに全力を尽くしたのだった。

これから先何が起こるかは分からない。でも海斗は仲間を頼ってそれを乗り越える。

それが、海斗の新たな目標になった。

だが、その後に待ち受けるのは果たして幸か不幸か誰も知らない。

 

 

 

 

 

 

 




戦闘描写キツいっすw
でも頑張ります!
やはり千景ちゃんは可愛いですねぇ〜
次回は遠征編まで書きます。

ではまた次回にお会いしましょう!さよなら〜

次回。第13話:遠征


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第13話:遠征

どうもバルクスです。
ゆゆゆいのメモリアルブックとクロボン原作が届いてめっちゃテンション上がりました。
今回はタイトル通りです。
では本編どうぞ〜(∩´。•ω•)⊃


 

「......壁の外の調査?」

 

「あぁ。大社からひなた経由で連絡があってな」

 

勇者が住んでいる寄宿舎の一室にある海斗の部屋で若葉がベットに寝っ転がりながら携帯ゲームをしている海斗に伝える。

少しつまらなそうな表情をしながら視線を一瞬だけ若葉の方に向かせ。

画面に集中しながらコマンドを打ち込んでいた。

 

「はぁ......海斗。少しは人の話を聞け」

 

「あ!今ボス戦なんだよ取り上げんな!」

 

海斗の行動にため息をつきながら若葉は彼のゲーム機を取り上げテーブルに置いた。

勿論、画面は一時停止にしている。

そしてやっと観念した海斗はベットから起き上がり面を向かって座る体勢をとった。

若葉は海斗に先程について話を始めた。

いわく、四国以外にも人が生きていると大社が判断したらしいこと。

それで大社は壁の外でまだ人類が生存しているのを確認するために調査するという形で表向きではそう人々に公表しているが、海斗的にはやはり壁の外がどうなっているか大社は研究したいのだろう。

つまりは遠征だ。

諏訪が墜ちてからもう一年は経った。

バーテックスが侵攻してくるにつれてあちらも戦力を使いすぎたのか暫くは侵攻してこないと神託で伝えられた。

今のうちに勇者達を壁の外に行かせようとしたのだろう。

勇者達に課せられた任務は四国外の環境状態の調査、及び生存者が生き残っている地域はないかを調べること。

探す地域は、諏訪、北方の大地、そして各地都市の捜索。また、各地で水質や地質調査のためのサンプルも採取もせねばならず、やることは山々だ。

どうも大社は勇者を使いやすい駒と勘違いしているのか便利な道具としか見ていないんじゃないかと思ってしまう。

 

「全く.....人任せな連中だな」

 

「気持ちは分かるが、今壁の外に出れてバーテックスに対抗できるのは私達勇者だけなんだ。仕方あるまい」

 

若葉も海斗の気持ちを理解している。

彼が言っていることは間違ってはいないし、最もまだ成人もしていない子供が人類の命運を賭けて化け物と戦うのだ。

それを常人の人が聞けば正気の沙汰じゃないと思うだろう。しかしバーテックスに対抗出来るのは無垢で穢れを知らぬ少年少女だけ。

本当に世界は不条理で非条理で理不尽で残酷だ。

若葉はそれを心の中で理解しておきながら割り切るしかなかった。

 

「ま、若葉の言う通りだな。今動けるのは俺ら勇者で、バーテックスを倒せるのも勇者の御役目......だからな」

 

そんな、若葉の表情が強ばった瞬間。海斗がため息を吐くように鼻で笑い、呟いた。

若葉は先程の強ばった表情から困惑した顔になった。

だが、すぐに頬を緩み笑みを浮かばせた。

どうやら無意識に表情が変化していたらしい。

海斗はそれを見て空気を和ませようとしたのだろう。

感謝を言うべきだろうが必ず彼はとぼけるだろう。

すると海斗はスマホを起動しながらゲームをやり始めながら若葉に聞いてきた。

 

「そういや、遠征はいつ行くんだ?」

 

「一週間後だ。荷物の方は球子に準備を頼んでいる」

 

若葉は悠長に応えた。

今回の遠征に球子の協力は必要不可欠だった。なにせ、勇者達の中で彼女がアウトドアに一番詳しかったからだ。

球子も二つ返事で了承してくれて今はその準備を待っている状態だ。

 

「OK。なら後は一週間後まで英気を養っとくか」

 

「相変わらず、随分と呑気だなお前は」

 

「......」

 

若葉の言葉にゲームをしていた海斗は指を止めた。

冗談混じり表情も先程とはうって変わって、眉をひそめるとこちらに向き直り口を動かした。

 

「一つだけ.......お前と勇者達に忠告しといてやる」

 

「......なんだ?」

 

海斗の表情ががわりと変わると空気そのものも支配されたかのように重かった。

若葉を息を飲むと海斗はゆっくりと唇を動かした。

 

「お前達が思っているほど外の現状は甘くないぞ?」

 

その言葉は彼が実際に体験したから言える言葉だった。

若葉も十分それは承知しているが、バーテックスが襲来してからこの四年間は壁の外は見ていないのだ。

しかし海斗は世界が崩壊した所も目の当たりにしている。

だからこそ、彼は希望を見いだせないのだろう。

たとえ、小さなものでも。

そんな淡いものは心を蝕むだけだと彼は知っているから。

若葉は何も言えなかった。

こういう時はリーダーとして何か言えばいいと思うが、海斗の前だけではどうも語りかける言葉が見つからなかった。

少々こちらは夢見すぎていると自覚はしている。それでも、もしまだ人が四国の外に生きているという淡い希望が僅かにあるのなら若葉はそれに賭けたいと思った。

でも、何も言えなかった。

その重みの言葉はとても現実味を帯びていたのだから。

 

 

 

 

 

一週間後。若葉達勇者六人と、巫女のひなたは、瀬戸大橋記念公園に立っていた。

勇者たちの格好はバーテックスと戦う際の勇者装束の姿でひなたの方は巫女服になっている。

勇者たちが背負っている荷物の中には、食料、キャンプ用具、着替えの服、医薬品、水質地質調査のサンプル採取用具などが入っていた。

 

 

「にしてもさ、四国の外に出るのって何年ぶりだろ」

 

球子の口調と表情からは、遠足に出掛ける子供のように、楽しげな雰囲気を醸し出していた。

 

「私、バーテックスが出てきた時に本州から移って来たから、三年半ぶりくらいだよ!」

 

「あんまり遠出とかしなかったので、私は四国を出るの初めてです」

 

「私も......そうね......」

 

「タマは四年ぶりくらいだな〜。家族で広島に行った時以来だ」

 

「......」

 

みんなでワイワイと話す。しかし海斗だけは無言で球子達の方を見つめていた。

これから若葉たちは、結界の外へ出る。

四国から出発し、歌野が守っていた諏訪や、人類生存の可能性が見出された北方を目指す。

因みにヘリや船を使った移送は、バーテックスを引き寄せるかもしれないので、移動は基本徒歩だけだ。

しかし勇者達は勇者システムのお陰で身体が強化されて問題はないが、ひなたの方は勇者ではなく普通の人間と変わらない。そのため他の勇者たちが彼女を背負って移動することになっていた。

 

「すみません、皆さん」

 

申し訳なさそうに言うひなたに、友奈は明るく答える。

 

「気にすることないよ、いつもヒナちゃんには、私たちが出来ない巫女のお仕事をやってもらって頑張ってるんだから!」

 

「ありがとうございます、友奈さん」

 

友奈の言葉に、ひなたは微笑む。

 

「それじゃ、最初は誰がひなたを背負っていくか、ジャンケンで決め――」

 

「球子、それは必要なさそうだぞ」

 

「は?何言ってんだよカイト。タマ達がジャンケンしなきゃ一体誰がやるんだよ?」

 

海斗が球子に指摘している間にその横で、若葉がスッとひなたを抱き抱えた。

俗に言う姫様抱っこで。

 

「では、行くか」

 

 

「「「「.......」」」」

 

「な、言っただろ?」

 

ごく自然とひなたを抱えた若葉に、他の勇者達は呆気を取られてしまう。

海斗はある程度予想がついていたため呆気を取ることはなかった。

 

「しかも背負うっていうか、お姫様抱っこですし......」

 

「なんか、見てるこっちが照れるっ!」

 

杏と球子は頬を赤くする。

 

「......?何かおかしいか?」

 

周りの反応に対して意味がわからず、若葉は怪訝そうな顔を浮かべた。

 

「まぁ......あなたがおかしいと思わないなら、いいんじゃないかしら......」

 

「お姫様と王子様みたいだね!」

 

「いや、なんでお前はそんな目を輝かせ.......もう、いいか......」

 

やや呆れた表情の千景と感心したように目を輝かせる友奈、そしてそれをツッコもうとしたが、これ以上何を言っても無駄と判断して諦めを感じた海斗。

ひなたは照れたように笑みを浮かべ、それを見ても若葉はやはりきょとんとしていた。

 

「......」

 

「ん?どうしたちーちゃん?」

 

ふと、千景が海斗の方を見つめているのに気付き海斗が顔を向けると千景は即座に逸らしてしまった。

 

「――!?な、なんでもないわ......!」

 

「お、おう......そっか」

 

いきなり声を大きくして海斗に言う千景。

海斗は彼女の声に圧倒され困惑してしまい何も言うことはしなかった。

だが何故だろうか、彼女の方をよく見ると若干耳が赤くなっていた。

一方千景の方は自身の髪をくるくると回していた。

 

「(い、言えない.......乃木さんが上里さんを姫様抱っこしててるのを見て羨ましいと思って、それを海斗にしてもらいたいとか言えるわけがないじゃない........!)」

 

あれを見て千景はもし、自分がひなたのポジションで若葉の方は海斗でそれをお姫様抱っこで抱き抱えてもらえたらいいなと考えてしまった。

誰でも一度は好きな人にされたいとかは思うだろう。実に乙女的ではあるが、しかしそれを本人(海斗)の前で言えば失望されるに違いない。

それだけは絶対口が裂けても言えなかった。

 

「(.....うーん、最近の女子には色々あるもんなのか?それだったら仕方ないか)」

 

千景が何かに思い悩んでいるのを後ろ姿でみながら海斗は呑気に思うのだった。

 

「じゃあ、若葉ちゃんの荷物は私たちで持つね」

 

「そうだなっ!」

 

すると友奈と球子が言うと若葉用の荷物を他のみんなに渡してそれぞれ分担した。

しかし、何故か海斗だけやけに荷物が重く感じた。

若葉の荷物を渡してきたのは球子だった。彼女の方を見るとこちらを見てニヤニヤと笑っていた。

どうやら他のみんなより重くされたらしい。

あの野郎......と海斗は眉間に皺を寄せてしまうが別にこんな荷物なぞ気にする事ではないと思い、一息ついた瞬間に軽々と肩に持ち運ぶ。

少々球子は驚いていたが予想外だったのだろう。

ざまぁみやがれと心の中で笑った。

 

「よーし!それじゃあ勇者、しゅっぱ〜つ!」

 

友奈の掛け声を合図に、彼女たちは記念公園から跳躍した。

瀬戸大橋を通って本州へと向かう。

そして大橋を渡り、瀬戸内海を超えていく。

その先に神樹が作った壁が幾多の樹が絡み付くように覆われている。

西暦2015年から2019年の今に掛けて人類を守っている。

だがこの壁もまだ未完成だ。

この防護壁が完成するまで勇者がバーテックスの相手をする。

それが完成すればもうバーテックスとは戦わなくてすむ。

でも、果たしてそれは何年保たれるのだろうか?

五十年?百年?決して何れかはまた戦う事になるだろう。

出来れば海斗達の代で終わらせたいとは思う。

その為にはもっと力を付けなければならない。

だが今は壁の外の調査が先だ。

バーテックスが出現してから大気の状態は寧ろ良くなっていた。

自然の力は凄いと思わず驚愕してしまう。

そして瀬戸大橋も終端に来て、岡山が見えると、勇者達全員の表情が曇った。

もはや原型が留めていない工場跡だった建物、高層ビルやかつて人が住んでいた一軒家も破壊されていた。

まるで、何かに食われたかのように。

そして他の建物も見てみると化学物質による大規模な爆発が起こったのか内側から吹き飛ばされておりその周辺辺りもその余波の熱によって形が変形しているものもあった。

勇者たちは、そんな無惨な姿を残す工場群の中に降り立った。

 

「ひどいな、これ......」

 

球子が周囲を見回しながら、険しい表情を浮かべる。

 

「人間が築き上げてきたものなぞ、奴ら(バーテックス)にとっては全て蹂躙の対象でしかないんだ」

 

球子の後ろに立っていた海斗が工場跡の壁を触りながら呟く。

外の光景を知っていた海斗は彼女たちより表情は険しくはならず真顔で言った。

だがその目だけは僅かに怒りを露わにしていた。

バーテックスの考えは分からないが、ここまで建物ごとやられているということは文明すらも破壊尽くすという事なのだろう。

すると若葉の腕に乗っていたひなたが彼女の腕から降り、大社への報告用として、デジカメで工業地帯の様子を撮影した。

 

「念のために......生き残りがいないか周辺を探そう」

 

重い口調で若葉が言う。

勇者達は、工業地帯である臨海部から、倉敷市内で最も人口が多かった平野部までを捜索した。

跳躍して上空から様子を見たり、地上を歩き回ってみたりしつつ、生存者を探す。

たが、幾ら探しても、結局人の気配すらなく見つけることさえも出来なかった。

かつて美しかった街並みも、今は変わり果てている。

その次に向かう場所もきっと同じなのだろう。

だが、落ち込んで足を止める時間は勇者達にはないのだ。

 

「行こう。先はまだ長い」

 

若葉は再びひなたを抱き上げる。

その後若葉達は予定のルート通り、東方へ移動を始めた。

 

 

 

 

 

「ここも全滅か......」

 

岡山県を通り過ぎて兵庫県に入った海斗達はそこにかろうじて形を残しているビルの屋上に降り立って、そこから神戸の全景を一望する。

大都市である神戸も、今はもうその名残さえ見えない。

ビル、民家、道路の至る所はほとんど破壊され、淡路島と神戸を繋ぐ明石海峡大橋も崩れ落ちていた。

そこで若葉の提案で効率を考え二手に分かれて調査する事になった。

危険性は増えるかもしれないが、調査遠征の期間も無限では無いし時間短縮するならやった方がいいだろう。

若葉、ひなた、千景と、友奈、球子、杏というグループ分けで決まった。

三時間後に神戸港のフェリー乗り場近くに集合する事に決めた。

一方海斗はというと一人で別行動すると若葉に言ったが、勿論勇者の皆には心配な目で見られた。

だが、海斗は外の出来事を体験している身であり、一人で行動するのは慣れていた。

それを説明すると渋々だが了承してくれた。

特に千景の心配そうな表情はだいぶ海斗の心に来たのは別の話。

 

「四年も経てばこんなになるもんなんだな......」

 

ボロボロになったビルの屋上で海斗は村正を地面に置きながら辺りを見渡す。

そこも岡山と同じでとても人が生きているかと思えない程周りが破壊されていた。

そして付近を歩いていた時に建物の壁や道路に乾いた血が壁に付着していた。

ここも襲われたのは明白だ。

もう四国以外生存者はいないと海斗は諦めている。

例えバーテックスから逃げられたとしても果たして人間同士で協力し合ってこんな残酷な世界を生き残れるかどうかと言うとNOと応えるだろう。

 

「.......ん、もう時間か」

 

スマホを見ると気付けばもう三時間が経とうとしていた。

そろそろフェリー乗り場に行かなければ若葉達に怒られるだろう。

最後に壊れた道路とビルを一瞥すると海斗は村正を持ちフェリー乗り場がある所に跳躍した。

 

「なんでだろうか、全然悲しく(・・・)ない」

 

悲惨な光景を見たはずなのに何も思えなかった、何も感じなかった。

ただ怒りだけはある。

寧ろ人が死んだ想い()が入って来なかった。

だが、それを考えるのは今は後回しだ。

まだ遠征は始まったばかり、油断はしない。

ここで亡くなった人達の為にも生きていかなければいけない。

だからこそ前に進まなくてはならない。

海斗はフェリー乗り場に着くまで崩れた街並みを跳躍しながら睨み続けるのだった。

 

 

 

 





海斗君大丈夫かな?段々雲行きが怪しくなるんですけど......まぁ、大丈夫でしょう!(迫真)

次回も遠征編まで書くつもりです。
ではまた次回にお会いしましょう、さらば!

次回。第14話:その瞳で見たものは


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第14話:その瞳で見たものは

どうもバルクスです。今回はマジで長いです。
誤字と脱字が多いかもしれませんがお許しください。(一応確認したけど不安)
では本編どうぞ〜


海斗は先にフェリー乗り場に着いていた若葉達と合流した。

若葉達の方で何があったか聞くがやはり生存者はいなかったという。

皆表情が澱んで破壊された街並みを見ながら黙っていた。

しかし、暗い雰囲気の中球子が野営の場所を探すと明るい口調で言ってきた。

気付けば日が暮れ始めていてこれ以上の探索は危険と判断して勇者達はキャンプ場を目指した。

その後は何もなくキャンプ場に到着し付近に生存者やバーテックスがいないかを確認して安全が確保出来たら荷物を置き、焚き火に必要な木枝や飲食に使う水をキャンプ場から持ってくる。

水の方は施設自体の水道が止まっており付近に流れている川から水源を使っている。

もちろん、人が飲める綺麗な天然水だ。

たが――

 

「どうしてこんなことに.......」

 

夕飯を食べ終わったのはいい。でも、なんで俺が見張り役なんだ.....と海斗は愚痴る。

遠征の中で汗をかいた勇者達はキャンプ場付近の川で汗を流すべく水浴びをしようとする。

しかしそれは裸で水に浸かるということなのでその中男は海斗一人しかいなく、それ以外全員はまだ成長途中の少女達だ。

流石に一緒に水浴びすることはないので安心はしたが、代わりにバーテックスが襲ってこないか周囲の見張りを任された。

一応球子に「お前覗いたら承知しないからなっ!」と言われたが、そんな自分が死にに行くような事はしたくない。取り敢えず見張りを引き受けた海斗は少女達の裸体を見ないように、丁度そこにあった岩の陰に背中を付けて警戒体制に入った。

後ろではピチャピチャと水が掛かる音や女子にしか出せない甲高い声が後ろから聞こえてくる。

頭が痛くなる。考えてはいけないと自分に言い聞かせこの場を耐えるしかなかった。

まるで地獄に行って無罪のやつが閻魔に処罰を無理やり受けさせられている気分。しかし、もし敵が来た時には海斗が戦わないといけない。

それを思いながらよく分からない罪悪感に苛まれながら割り切って、意識しないように暗闇に目を向けるのであった。

 

「はぁ.......」

 

見張りをしてから暫くして若葉達が水浴びから戻ってきたので見張りを交代して海斗も川で汗を流すべく向かった。

手で水温を調べるととてもじゃないが長く浸かる温度では無い。

季節はもう三月に入ったばかりでまだ水や風はまだ冬の寒さと変わらない。

長居をすれば風邪を引くだろう。

 

「......ささっと流すか」

 

手に付いた水を軽く払い服の上を脱ぎ始めた。

体を拭くタオルを水につけて余分な水分を落とす。

落としたら腕、肩、胸、首、背中、顔の順に拭く。

汗を流しながら今日見た事が頭の中にチラついてくる。

一日目としては大分勇者達にもきたのだろう。

荒れた道、崩れた建物、人が無き街。そして生存者は影や気配すらも感じることが出来なかった。

海斗は三年前の事を思い出す。

まだ人間が壁の外で必死に抗って生きていた時。バーテックスが現れそのせいで他者と他者の醜い争いや奪い合いの殺伐とした事になっていた。

だが三年たらずでこんな有様なのだ、もう人はいないと言っても納得してまう。

 

「やめよう......考えるだけ疲れるだけだ」

 

今考えても何も変わらない。今は調査を優先すべきだと自分に納得させる。

 

「よし、これで上は終わりだな。後は下だけ」

 

そう海斗が呟くと、石が何かに当たった音が聞こえた。

 

「――ッ!誰だ!」

 

音が鳴った場所を確認するために移動したがそれが間違えだった。

それは先程海斗が岩陰で見張りをしていた場所で

先程音が鳴った正体はカエルが跳ぶ瞬間に石を蹴った音だった。

だが、それが海斗にとって大きなミスだった。カエルの後ろには長い黒髪を靡かせた少女がいた。

少女も音に気付き海斗の方に振り向いた。

海斗を見ると少女は目を見開いて声を発した。

 

「.......え、か、海斗.......?」

 

「.......その声」

 

海斗が声の方へ顔を向けるとそのタイミングで月明かりがその少女の方に照らされる。

その光で正体が分かってしまった。そこにいたのは千景だった。

しかも一糸纏わず姿で。

身体に付いた水が月の明かりで反射して彼女の華奢な体を綺麗に映す。

 

「ちーちゃん.......」

 

そういや若葉達が水浴びから帰ってきた時に何故か千景だけはいなかった。

まさかこんなところで一人で水浴びをしているとは思わないだろう。

だが――彼女の胸に傷跡があった。

すると途端に冷静になった海斗は顔を赤くして彼女から目を逸らした。

 

「すすす、すまん!別に覗くつもりはなかったんだ!」

 

「い、いえ......大丈夫よ........」

 

千景も自身の体を手で隠して見えないようにする。

彼女も顔から耳まで赤くなっている。

異性の前、しかも好きな人の前で自身の身体を見られてしまったのだ。

でも千景は海斗に怒りもしなかった。寧ろ優しい声で許してくれた。

普通なら怒るのに何でなんだろうか?

まぁ、そんなことはさておき、まずは。

 

「取り敢えず.....このタオルを巻いといてくれ」

 

「うん......」

 

海斗は極力見ないように手探りでタオルを探し千景に渡す。

それを受け取ると千景は体にタオルを巻き付けた。

 

「もう.....いいわよ」

 

千景の声で彼女の方に振り向いた。

それでも彼女はタオルを巻いていても海斗にとっては刺激すぎた。

水分を吸ったタオルが彼女の体に纏わりついていて逆に目を合わせられなかった。

 

「やっぱそれ(胸の傷)が原因か」

 

「......えぇ。高嶋さんに、皆に傷を見られたくなかったの」

 

千景の顔は下を俯きながら自分の傷を撫でるように触りながら話す。

あの胸の傷は海斗が唯一忘れることは無い記憶だ。

小学生の頃海斗は何時ものように千景と遊ぼうとしたが、放課後になるといつの間にか彼女がいなかった。

辺りを探しても見つからず結局下駄箱の方に行こうとるが、そこで千景を虐める生徒が彼女の服を切っている所を見てしまった。

そして、よく見れば胸に血が付いていた。

その時海斗は我を忘れてその生徒達に全治一ヶ月の怪我を負わせてしまった。

その後に先生にこっぴどく怒られたが、そもそも千景のいじめ事態を放置している大人にはどんな事を言われても何も思わない寧ろ本当に同じ血が通った人間かと疑うほど酷いと思った。だから後悔はしていない。

なんなら両親には許可は貰っている。

まぁ、『穏便に済ませろ』と言われたが状況が状況だったので仕方ない。

千景の方は胸に一生消えない傷が付いてしまい、海やプールにも抵抗感を覚える事になってしまった。

思えば、自分がもっと彼女といればこんな傷なんて負わせなかったんだろうなと何回も悔やんでしまう。

そんな千景は「海斗は悪くない。寧ろ、助けてくれてありがとう」と優しく言われ、感謝された。

どうしてこんなにも彼女は優しいんだ。そして何で周りの連中はこんな優しい子を傷つけるのだろうかと海斗は憎悪を膨らませる。

そして現在も海斗は彼女の傷を見ると目を背けたくなる。

 

 

「......海斗、私の今の姿どう?」

 

すると千景が海斗に声を掛けて自身の身体を見せびらかしてきた。

いくら場を和ませると思ってもそれは大胆すぎると思う。

 

「......どうって、言われても......」

 

海斗は今の彼女を見ることなんて無理だった。今も自分の理性がやばいと言うのに見れるわけが無い。

 

「そう......やっぱり身体に傷がある私は醜いのね.....」

 

そんな素っ気ない言い方をしてしまった海斗に千景はしゅん、と顔を下に向けて俯いてしまった。

 

「ッ!!そんなことは無い!」

 

彼女の言葉で思わず叫んでしまう、でも言わずにはいられなかった。

だってそれは彼女は悪くはない。悪いのは環境とあの両親のせいだ。

両親のせいで学校では淫乱女や阿婆擦れと言われているが、決してそれは彼女が望んだことでは無い。

そんな千景が住む村やその人間は彼女さえも対象として見て蔑む。

こんなに優しく、誰かを想い合える。なのに――

どうしてあんなクソ共(中身を見ない奴ら)は外面にしか見ないのだろうか?

思い出しただけでもあの村人達に殺意が湧いてくる。

だがそんな事は千景が許さないだろう。

だからこそ海斗は今まで以上に守れる力と強さを磨くようになった。

海斗の両親に教わった護身術と対人戦での効率化などを学んだ。

これは千景には言っていない。

だって彼女が平穏に幸せに笑顔で笑っていればそれだけでいいのだ教える必要などない。

しかし海斗は彼女の事を分かっていただけでしかなかった。

 

「俺は、ちーちゃんを一度も醜いとか思ったことが無い!」

 

千景が体にタオルを巻いていても一切気にせず海斗は彼女の方に顔を向ける。

今自分が思っている事を全部吐き出すために。

 

「君と初めて出会って、友達になって今までが楽しかった!でもそんな無力な自分が嫌だった......」

 

千景の事を守るために鍛え鍛え鍛え、続けて少しでも彼女に笑顔が溢れるように努力した。

でもそんな彼女の本当の思いに気が付けなかった。

 

「俺は君の気持ちを分かっていたつもりでいただけだった......なんて言ったらいいか分からないけど、でもこれだけは言える。君は綺麗だ。初めて会った時も今も綺麗だ!」

 

「.......」

 

今言える事を千景に伝える。

それは海斗が唯一言える本当の気持ちだった。

 

「だから......自分の事を醜いとか言わないでくれ!」

 

「.......じゃあ私をもっと見て?」

 

そういうと千景がタオルをはだけさせて自分の体を見せてきた。

即座に顔を明後日の方に向いて手で目元を隠した。

 

「ば、バカ!隠せ!」

 

「何で?海斗が私の事、綺麗って言ってくれたからでしょ?」

 

「うぐっ.......」

 

さっきまで悲しそうな表情していたのに今は悪戯心をもった表情になっている。

 

「か、からかわないでくれ!」

 

「ふふっ。ごめんなさい.......少し試してみたかったの」

 

「心臓に悪すぎるだろ......全く」

 

「私も......貴方のそういう反応をするの、好きよ」

 

「はいはい......ささっと着替えてきなよ」

 

海斗がそう言うと千景は再びタオルを巻いて近くに置いてあった着替えの服を取り海斗から見えない所で着替え始めた。

その間に海斗は自身の服を取りに行きその場で着た。

千景の着替えが終わるのと同時に戻ってきた。

タイミングが良かったようだ。

 

「待たせたわね......行きましょうか」

 

「あぁ」

 

するといきなり千景が海斗の腕に抱きついた。

あまりの事で状況が呑み込めてない海斗は驚いてしまう。

 

「ち、千景さん!?」

 

「何.......?」

 

「いやいや、『何?』じゃなくて!何で俺の腕に絡みついているんですかねぇ!?」

 

「偶には私も人の温もりが欲しいわ......だって、まだ三月としても寒いじゃない......?」

 

「だからって――」

 

「ダメ......?」

 

「うっ.......」

 

彼女が涙目になりながら上目遣いで迫ってくるのは流石に心にきてしまう。

これは果たして断れるのだろうか?否、断れるわけが無い。

海斗はため息を吐くと苦笑しながら笑った。

 

「わかったよ......ただし、皆がいるテントの途中までな?」

 

「うん。ありがとう」

 

「全く......他の人とかにするなよ?」

 

「そんなことしないわ........海斗以外の人には、絶対に」

 

最後は小さくて聞こえなかったが多分大丈夫だろう。

彼女の目を見れば分かる。

それは海斗に対して絶対的な信用から来ている。

 

「んじゃ、行くか」

 

「えぇ」

 

海斗の合図と共に千景も応える。

二人は若葉達がいるキャンプ場に着くまで腕を離さなかった。

千景は少し恥ずかしいのか顔を赤くしており時折だが海斗の腕を触ったり指で小突いたりしている。

こそばゆいが、それが可愛く見えてなんとも癒されると思ってしまう。

それが戻るまで続いて結局は若葉達に怒られてしまった。

でも、杏とひなただけは見守るような感じで微笑んでいた気がしたが、気のせいだろう。

 

 

 

数分後。炎が空に漂っていく中海斗はキャンプ用の椅子に座りながら小枝を焚き火の方に入れて、周囲の温度を上げていた。

暫くしてからは勇者達が交互にテントの中で数時間睡眠をしてその間に外にいる見張り三人がバーテックスが来ないかを交代制で周囲を見ていた。

最初は若葉と友奈と海斗が見張り役をしていた。

彼女達も海斗同様、椅子に座りながら焚き火を見ている。

 

 

「若葉、友奈。後は俺が此処は見張っとくから、もう寝てな」

 

「むっ。それはダメだ。例えお前の体力があったとしても二日目の調査に支障が出るぞ?」

 

「別に、このぐらいで俺は倒れはしないさ」

 

海斗の言葉に若葉は目を細めながら話す。

ため息を吐くと今度は友奈が海斗に声を掛けてきた。

 

「でも、うみくんは前科があるけど大丈夫?」

 

「.......」

 

友奈に痛いところを突かれたが気にしない。

別に好きに倒れた訳じゃないと言い返したいが、言ってもキリが無いし、本当の事だから反論すら出来ない。

 

「まぁ、今回は近くにお前らがいるし。その時はその時に頼むよ」

 

話を変えるためにポケットからブロック状のした携帯食料を口に含んだ。

味としては簡素なものだが、この一本で栄養が取れると思うと時代の進歩には些か驚く。

まぁまだ、15年しか生きていないのだが。

でも四国に来るまではこれを食うのが毎日だった。

慣れてるとこんなのは美味しいと入るのだろうか?

すると、若葉がため息を吐くとこちらに向き口を動かした。

 

「仕方ない。これ以上言っても退いてはくれないそうだろうしここは従うことにしよう」

 

ただし。と言葉を区切って若葉は席を立った。

 

「本当に倒れたらリーダとして、暫く海斗を監視させてもらうぞ」

 

一見冗談かと思ったが彼女の目を見れば本気だと理解した。

若葉は決めたことは即行動で示すのだ。

監視とは言うが、逆に何をしてくるか分からない。

 

「ではな。お休み」

 

「おやすみー!」

 

「おう」

 

そう言うと若葉は勇者達が寝ているテントの方に向かい、中に入った。

しかしまだ忘れてはいけないやつがもう一人いた。

 

「お前も早く寝ろ。友奈」

 

「うーん.....何か全然眠くないんだ、もう少し居てもいいかな?」

 

 

「勝手にしろ」

 

「やった!」

 

海斗から許可を貰った友奈は嬉しそうに微笑んだ。

これ以上何を言っても聞かないだろう。なら好きにさせてあとは離れて来るのを待てばいい。

 

「ふぁぁ.....今日は神戸で、明日は大阪かぁ。まだまだ先は遠いね」

 

あくびをしながらまったり話す友奈。

その仕草を見た海斗はため息を吐く。

 

「その後に東京、諏訪、そして北国の方まで行くんだからな」

 

諏訪から連絡は去年から途絶えているが、人が生きていると可能性が高いが、海斗自体このバーテックスが蔓延る中で生きていたら奇跡に近いだろう。もし生きていたら儲けもんだ。

先が長いと思いながらもやるしかない。

本当に大社やそこで働いている大人や世間は人任せが良すぎる。

例え無垢な少年少女じゃなくても少しは自分たちで調査とかすればいいのに。

まだ中学生の子供が世界の命運を賭けるとか割にあってない。

焚き火から漂う炎を見つめながら考える海斗。でもそれから見つかる言葉は大社とその周辺にいる何もしない大人達への罵倒。

言っても、言っても、治まらなかった。

すると友奈が海斗の肩をつんつんと小突いてきた。

 

「なんだ?」

 

「ねぇ、そういえば最近ぐんちゃんと距離近くなってる感じがあるけど何かあったの?」

 

「は?何もないぞ」

 

「本当ー?私とか若葉ちゃん達から見ると結構大胆すぎるとかって言われてるぐらいだよ?」

 

小突いて来たかと思ったが、千景との関係について聞いてきた。

最近は昔より近くなったとは自覚はしてるが、そこまで彼女を異性としては見ているが、それは大切な親友としてしか見ていない。

でも、海斗から見て彼女は特別な存在として変わりは無い。

しかしそこまで近いとは思わなかった。

まぁ、問題は千景が寄ってきているだけだと思うが......気のせいだと信じたい。

そう思えば先程千景との際の出来事を思い出してしまう。

でもあれは事故だからとしか言えないし誰も悪くはないのだから。

このままではいけない。何か話を変えなくては。

 

「.......そういや、友奈は何でそこまでバーテックスに対して戦えるんだ?」

 

「え?それは勇者だからだよ?」

 

「いや、違ったな......なんのために戦ってるんだ?」

 

「.......」

 

どうやら軽いと思ってた話が実は禁句だったらしい。

でも海斗自身友奈のことが気になっていた。

それに、確認したかった。高嶋友奈はどんな人間で、どうして自分の事を表に出さないのかを。

彼女は明るく、元気で、ムードメーカー的な存在で場を明るくする。そして偶に天然なところがある。

だが空気が重くなった時は話題を変えたり、周りに気を使って和ませる。

とても聞き上手で、でもそれがあまりにも不自然だった。

まるで自分が蚊帳の外になっていると思ったのだ。

だから最初海斗は友奈のことが好きにはなれなかった。

自分の事を蔑ろにして、他の人を気に掛けていて優先しているところが気に食わなかった。

海斗と同じ人種かそれ以上だと思った。

だからこそなんだろう。海斗が友奈のその異常性のことが気になり、今ここで彼女の真意を聞きたかったのは。

 

「最近、お前のそのよく分からない気持ち悪い笑顔に不快感を覚えた。だが、それはお前が周りに迷惑を掛けたくないからこそしているんだろ?」

 

「ち、違うよ!私はそんなつもりじゃ......!」

 

「じゃあもう一度聞かせて貰おうか。お前はなんのために戦ってるんだ?人を守るためか?名声が欲しいためか?地位が欲しいのか?それとも自己満足なのか?因みにその笑顔もほぼ作り笑顔でお前の聞き上手もそれで身に付けたもんなんだろ?」

 

「.......」

 

「応えろよ、高嶋友奈ッ!」

 

自分でも何言ってるんだろうかと自覚しつつも彼女の本心が聞きたかった。本当の気持ちを。

なぜだかこれだけは聞かなければいけない気がした。

自分から頼ることはせず、逆に自分が頼られた時は率先してやるという損をして得をされるという割りに合わないことをしている彼女に。

友奈は海斗の言動に理解出来なかった。

いきなり『何のために戦っているのか?』と強い口調で問われ体を震わせた。

こんな海斗の声なんて初めて聞いたし驚いた。

一体彼は何をしたいのだろうか?

友奈は彼の意図が読み取れなかった。

でも、言われっぱなしでも友奈は良かった。

それで海斗の気が済むならそれでと思った。

けど、こんなに言われて流石の友奈も言い返したくなった。

何も知らない癖に.......好きに言って.....と、心の内側から何かが流れてくるのを感じながら彼女は遂に口を開いた。

 

「――私は.......嫌なんだ、気まずくなったり、誰かと言い争ったりするのが.......つらいから。だから、相手の話を聞くばっかりで自分を出せなくて......」

 

懺悔をするかのように友奈は話し出す。

海斗はそれを黙って聞いていた。

彼女の本当の姿を。

 

「それが、お前の聞き上手で自分を出せない理由か」

 

海斗の言葉に友奈はコクと頷いた。

これが高嶋友奈の真実。

誰かと争うのも傷付けるのも拒んでいる。

それが起きれば二度と戻らないと思ってしまう程に。

だからこそ彼女は暗い雰囲気やその空間を嫌い、自分でそれを作らせないようにしていたのだ。

以前、丸亀城の食堂で勇者達が顔を下に向いていた時に友奈が大きい声で言って、自分に注目させていた。

その後に彼女が惚けるような感じを出して、周囲を困惑させツッコミを受ける。

その前提があった。

 

「(あれも意図してやったというのなら.......本当は彼女は―――)」

 

海斗がそう考え深けていると友奈が口を動かした。

 

「私、本当はね、怖いから戦ってるんだ.......臆病者なんだ」

 

その答えは友奈自身が応えてくれたようだ。

私が勇者になった時、どうして私がバーテックスと戦わないといけないんだろう?どうしてと思った。とても怖かった。

でも、家族と友達が失うのがもっと怖かった。と述べる友奈。

 

「だから私は『勇者』って言葉に憧れているのかも」

 

苦笑しながら言葉を零す友奈。

それを見て海斗ははっきりして理解した。

臆病者と言えば確かにそれは合っている。

しかし、それは決して間違っていなく、誰だって陥る思考だ。

誰かが戦うより自分が戦って助けたい。

そんな自己犠牲。

何時だって何度だってそれは譲れない。

異状すぎると言われてもそれを裏返せば、彼女の優しさだ。

彼女は優しく、そして......純粋すぎる。

だからこそ友奈は『勇者』という言葉に憧れていた。

世界には象徴が必要だ。

ただし、それは倒れず、挫けず、前をへと進む事。

心をすり減らし、身体すらも傷付ける。

そんなことを彼女は率先してやっていたのだ。

誰も失わないようにと。

 

「お前の事は分かったよ。友奈」

 

「失望した......よね」

 

「はぁ......アホか」

 

海斗に自分の事を話し、これから何を言われても仕方ないと思うほど友奈は顔を俯いている。

すると海斗は友奈に近づくと頭を軽く撫でた。

頭に感触を感じた友奈は顔を上げて海斗と目が合う。

 

「え?うみ.......くん?」

 

理解が出来なかった。

本当の事を言ったはずなのに、海斗は何もしなかった。

逆に友奈の頭を優しく、子供をあやすかのように撫でている。

ふと、海斗が口を動かした。

 

「お前は本当に優しいんだな。俺とは違くて、それを妥協せずに真っ直ぐ貫いている」

 

「でも、それは私が――」

 

「それ以上言ったら手刀するぞ」

 

「何でぇ!?」

 

明らか的にも理不尽だと抗議する友奈。でも、それさえも嬉しかった。

何故か海斗だけには本当の自分を素直に話せる気がした。

答えは簡単だ。

同じだったんだ。行動と言葉が違くても、本質は同じだった事を。

だからこんなにも友奈は海斗に親近感が湧いたのだろう。

 

「ねぇ、うみくん」

 

「私の話、聞いてくれるかな.....?」

 

「勿論。聞かせてくれお前の話を」

 

それから友奈はポツポツと自分の事を話し出した。

自分が生まれた日、血液型、趣味、好きなもの、家族、友達、そして勇者になる前の自分の事。

よく神社で隠れんぼしてやんちゃしてたこと。

その後に神主に怒られたこと。

その他色々を楽しく話した。

時には彼女の話で笑ったりもした。

でも、その仕草が場を和ませた。

語り終えた後、友奈はほぅ、と一息をついた。

 

「こんなにたくさん話したの、生まれて初めてかも」

 

一通りの話を聞いて海斗は微笑む。

 

「そうだな。でも、俺は友奈のことが知れて良かったぞ」

 

「何でうみくんはそんなドキドキさせるような事言えるのかな......」

 

感想を述べたはずなのに何故か友奈にはジト目で見られた。そして聞き取れなかったが、何かを言っていたのは気のせいか?

けど、暫くすれば二人はお互いに可笑しく笑った。

 

「なぁ、友奈」

 

「なにかな?」

 

「これからはちゃんとお前の意見も言えよ?時にはぶつかるかもしれないが、俺やちーちゃん、若葉、ひなた、球子、杏もお前の事を仲間で友達として見てるんだ。だから躊躇なく言え」

 

「.......うん!」

 

友奈に正直な言葉を送った海斗は彼女の満面の笑顔を見て思わず微笑んだ。

やはり、これがいい。

偽りでも本物の笑顔ではなく。純粋なもの笑顔。

それがいい。

これからは彼女も若葉達に自分の事を素直に話せるだろう。

それからより一層仲良くなれるだろう。

そうあって欲しい。

 

「じゃあそろそろお前は寝ろよ友奈。明日も早いぞ」

 

「うみくんは.......言っても聞いてくれないよね」

 

「ははっ。分かってんじゃん」

 

海斗はまだ見張り役を続ける。流石にこの時間はいくら勇者としても女性にとっては敵だ。

なのに夜更かしなんてしたら友奈の綺麗な肌や体がなくなってしまうだろう。

それだけは避けなくては......というか、ちーちゃんに絶対言われる。

そんな思いを考えながら海斗は表情を崩さず友奈に気付かれないように話した。

 

「じゃあお休み。うみくん」

 

「お休み」

 

そう言うと友奈はテントに向かい中に入った。

外は海斗一人。外は涼しい風と葉が揺れる音だけが残る。

明日は大阪に行って調査と生存者を捜索をしなくてはならない。

けどもう。

 

「人なんて......残っちゃいないんだろうな」

 

あんなビルや道路、店すらも原型が留めていないのにもし人が生きていたら奇跡に近い。

全く世界というのは何でいつもこんな残酷な事を突きつけるんだろうなと思う。

神すらも人間の敵で滅ぼしてくる始末。

絶望しか出てこない。世紀末どころじゃない。

そしたら自分達人間の生存は一体何時に滅ぶ?

十年?百年?はたまた千年すらも有り得る。

 

「まぁ......最後まで足掻こう。それが、俺の今出来ることだから」

 

空から星が流れているのを海斗は見つめ続けていた。

 

 

 

 

 

翌日の早朝。

海斗達は大阪に来ていた。

やはり周囲は兵庫の神戸と同じ有様だった。

何も言えない勇者巫女一同。

しかし歩みは止めず、地下鉄の梅田駅に辿り着く。

大阪の地下鉄は地下シェルターみたいに広く、人が住んでいるのではないかと杏が提案したのだ。

確かにそれだったらシャッターで出入り口を防げばバーテックスは入ってこないはずだ。

そしていざ着いてみればシャッターは原型を留めず外から食われたかのように破壊されていた。

臆せず中に入れば人の痕跡がある。

そこからは暗闇で見えないのでリュックから懐中電灯を出して光を辿って前へと進む。

だが、幾ら進んでも生存者の気配すらもしなかった。

そして、半時間地下街の奥へ奥へと歩いているとそこには円形の広場があった。

中央には噴水のような設備があるが、当然ながら水道元からは水は出ていない。

そしてその周辺に勇者達全員は驚愕してしまう。

球子は驚いた声を上げる。杏は悲鳴を上げる。

ひなたは驚いて力が抜けその場に座り込む。

友奈は口元を抑えて現場を見つめる。

千景は現状を目の当たりにして海斗胸に顔を埋めてしまう。

流石に動けないので千景の事は友奈に預けた。

そして皆見た景色のその周辺には大量の白骨が大量に積み上げられていた。

そんな若葉と海斗は堪えて、噴水へと近づく。

放置された大量の白骨は雪が積もったかのように思えた。

一体何人分の死体になるのだろう。

数十?いや、百以上なんだろうか?

海斗は広場の壁に近付くとそこには今まで刻んでいた日が書かれていた。

その数は十三日ぐらいだろう。

こんなに短いと思えばやはり、中で何かがあったのだろう。

そして若葉が床に落ちている一冊のノートを見つけたようだ。

その中身を見るとこの地下街に避難していた者の日記だった。

 

「......くっ.....!」

 

流石の若葉も拒絶反応が出たのだろう。

若干眉が上がっている。

怒りを顕にしているのか震えていた。

 

「若葉。貸せ」

 

それを見兼ねて海斗は若葉からノートを奪って、読み始めた。

日記を読み進めながらページをめくるが、どれも酷かった。

 

「なるほどな.......」

 

分かってしまった。

これはあの時(・・・)と同じだ。海斗は一度、周囲を見回しながら再度日記を若葉に渡す。

 

「それを読むのは勇気がいる。読みたくない奴はみるな」

 

忠告はしたが、結局は全員見ることになった。

一体何があったのかはこのノートで全部記されていた。

忌々しい人間との醜く、残酷な話が。

 

 

 

 

 

 

 

 




うん。
今回はそう言う事です(*^^*)
やりやがったなと思いますが、僕は無言を貫きます。
次回は日記についてと次のバーテックス進行前まで書こうと思います。
では次回にお会いしましょう!
さよなら!

次回。第15話:醜いものと樹の声


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第15話:醜いものと樹の声

どうもバルクスです。
あけましておめでとうございます。
今年も『華結を繋ぐは勇者である』をよろしくお願いします。m(_ _)m

では本編どうぞ〜


 

 

地下鉄で拾った日記の内容は酷いものだった。

二○一五年にバーテックスが襲来して妹と地下鉄に逃げてきた事。

そこで何日も隠れ潜むようになる事とそこで一緒に避難してきた人達とこれからどうすればいいとかの話し合い。

だが、食料の問題や意見の対立、人種差別。

それでもまだ一部の正義感が強い人達がルールを作って公平に分けるようにしてくれていた。

だが、それも長くは続かなかった。

日にちが進めば進むほど死人が出た。

その後にも死人は増え続けて人間同士との争い合いは止まらなかった。

そして、妹も殺された。

何日か過ぎると人が減った時にバーテックスが攻めてきた。

奴らは最初からこれを狙っていたのだろう。

だからわざと放置させたのだ。

そして日記を書き記した少女は妹の亡骸と一緒に最後を迎えた。

 

「酷いもんだな........」

 

「これが.......その結末か.......」

 

死体の山を前に、海斗と若葉は呟いた。

バーテックスに追い込められ、絶望的な状況下でも必死に生きようとした。

だが結果は残酷なものであり、人間同士の対立によって次々と弱いものは死に、最後は化け物によって駆逐される。

もし、可能性として勇者が一人だけいれば状況は違っていたかもしれない。

しかし、後から考えても現実は変わらない。

ただ時間が過ぎてゆくだけ。

次の瞬間、来た通路とは反対側の通路の向こうの暗闇から、重いものがぶつかり合う音と何かが擦れ合うような音が聞こえ始めた。

 

「バリケードが破壊されてるから、いるとは予想はしていたが.......よりにもよってここで仕掛けてくるか」

 

地下に入る時にある程度は予測していた。

こんな所に現れるものといえば、奴らしかいない。

勇者達もそれに気づき、自身の武器を強く握り締めた。

先程読んだ日記の内容を思い出せば、あの化け物どもに怒りが湧き上がる。

しかし勇者達は冷静さを失わなかった。

 

「.....この地下街に、もう生き残りはいない。早々に脱出するぞ!ひなたは私たちのそばを離れるな!」

 

「オーケー......じゃ、やるか」

 

若葉が周りの仲間たちに指示を告げて、刀を抜いた。

他の勇者達も、次々に武器を構える。

同時に、地下通路の奥から、巨体の白い化け物共が姿を現した。

若葉と海斗が先頭に立ってバーテックスを向かい打ちながら地上を目指す。

既に地下の構造自体は把握している。

勇者達は迷うことなく進んで行く。

そして、地上に着きそうなところで前に三体のバーテックスが道を塞ぐ。

 

「海斗!手前の一体の方を頼む。奥の二体は私がやる!」

 

「断る!お前が手前側をやれ!」

 

「なっ........!」

 

若葉が海斗に指示を出すが、彼はそれを断り数が多い方へ向かっていき、村正で薙ぎ払った。

それを見た若葉は何故だか海斗の行動が危ういと思ってしまった。

以前の戦いとは違って、何か焦っているのか余裕がないと思ってしまった。

だが、それは一瞬のことだったため、気の所為だと思考を断ち切り目の前にいる敵を倒す事に集中した。

襲ってくるバーテックスを次々と倒していき、地下街から外に続く出口に辿り着いた勇者達は休む暇もなく一通り大阪の街を見て回った。

しかし、やはり生存者はいるはずもなく、次の目的地である名古屋に向かった。

跳躍して移動していく勇者達は、気付けば口数が減っていた。

口を開いたとしても、暗い言葉しか出てこない気がしたのだろう。

そして、『次こそは』とは、もう誰も言えなかった。

その後海斗達は大阪から名古屋に到着して、名古屋駅の前に立つ大型ビルの屋上に着地してそこから周辺を一望しようとした。

だが、それが間違いだった。

一目見れば、そこは地獄絵図と言っていいほど良い。

だって。そこは大阪と同じで、ビルも道路も放置された車も何もかも大差がなかった。

ただ一つ、違うとすれば名古屋地域全体がバーテックスの卵で埋め尽くされていた。

それはグロテスクという言葉が似合うぐらいに最早街全体としては原型すら留まっておらず、化け物の巣として作り変えられていた。

卵の中にはバーテックスがうごめていて今にも孵化しそうなぐらいに動いている。

これには勇者達も口元を抑えて見ないように目を背けてしまう。

これでわかってしまった。

街が侵攻され落とされた末路がこれだと。

人の作り出したものは一掃され、化け物共の占領地となる。

ここはもう、人間の土地では無いとバーテックスに言われているようだった。

何れ四国もこのような状況になるのだろうかと想像もしたくもないのに頭にチラついてしまう。

しかし、皆が絶望し掛けていた時に球子が声を荒げて心を奮い立たせた。

この状態にさせない為に勇者がいるんだと、人間がバーテックスに負けてたまるかと。

周囲に言い聞かす。

その瞬間にバーテックスが勇者達の周辺を囲んでいた。

すると腹を立てている球子が輪入道の力を宿して巨大化させた旋刃盤でバーテックスを焼き尽くした。

精霊の力を使うのは、勇者の体に大きな負担がかかる。

人を超えた精霊の力が、人体にどのような影響を及ぼすのか、正確には分からない。

だから遠征出発前の前日に余程の事がない限り、精霊の力は使うなと決めた。

だが結局は使用してしまい、球子は力を使いすぎて体をよろめいた。

後悔はしていないと言うが仕方ないだろう。

あの光景を見せられては使わずを得なかった。

目の前にある化け物を完膚無きまで打ち壊さなければ、心が折れてしまうと思ったからだと。

彼女の心も――何より、大事な存在の杏の心もだ。

 

「どうせだから、これに乗って名古屋を見て回らないか。空から探した方が、手っ取り早いだろ」

 

球子の提案で巨大化した旋刃盤に乗って名古屋を回った。

そして名古屋でも生存者は見つからず、

卵状のもので覆われた地域には生存者がいるとは到底思えなかったため、短時間で終わった。

本当に名古屋はバーテックスの巣と化したと再認識してしまった。

次の行先は諏訪地方だ。

 

 

 

長い道のりを跳躍して海斗達は長野県に到着した。

そして、諏訪地方の方に入り、周囲を見渡す。

 

「ここが諏訪地方か.....」

 

かつて、ここも四国と同じで結界を張りバーテックスから人々を守り、一人の勇者が戦っていた場所。

だが、三年という期間で殆どがバーテックスの侵攻を受けて結界は徐々に縮小。

そして去年に諏訪と長野県はバーテックスに侵略された。

海斗も何回も通信でその状況は聞いてきたが、実際は想像より遥かに酷かった。

周辺は徹底的に破壊されており、人が生きているかも分からない。

そして海斗達は諏訪湖に辿り着き、そこから南下して諏訪大社の上社本宮を目指した。

 

「ここも同じね......」

 

「うん。でも、目を背けちゃだめ......だよね!」

 

千景と友奈はその残酷な光景を見つつ自身が暗くなりつつも目を背けず見続けた。

そしてようやくは結界が張られていると思われる上社本宮にへと到着した。

しかし――そこに『社』と呼べるものはなかった。

鳥居、神楽殿、社務所、参集殿と全てや木材も石の残骸に変わっていた。

あらゆる天災を受けたかの如く......これまで見てきた地域よりも細かく、何もかも破壊されている。

原形を留めている人工物を探しても何一つない。

もちろんの事、人の姿もない。

バーテックスが人間を食糧として見ているのなら何故ここまで破壊尽くす必要があるのか分からない。

これではまるで、人間のが作った痕跡そのものを忌み嫌わうかのように、否定しているかのように、全てをなかったようにしようとするかのような勢いでありとあらゆる物を壊していた。

勇者達もこの光景を見て何も言えず、ただ立ち尽くしているだけ。

 

「どうする、若葉」

 

このままじゃ埒が明かないと思った海斗はリーダである若葉に指示を求めた。

若葉もこの惨状を見るのはだいぶ堪えたようで、行動すらもしてなかった。

だが、海斗はそれでも若葉には動いてもらわなければ何も出来ない。

肩を叩くとピクリと動いて口を動かした。

 

「探そう......生き残りがいないかを」

 

「わかった。じゃあ若葉達は近くにあるところを頼むわ」

 

「ああ。海斗はどうするんだ」

 

「俺は、もう一回調べてくる。それに、周囲にバーテックスがいるかもしれないし、ついでに片付けてくる」

 

「.......なるべく無理はするな、何かあったら直ぐにこちらに帰ってこい」

 

「了解」

 

彼女が指示を出すと海斗は自身の目的を若葉に言うと渋々たが了承はしてくれた。

許可が取れたことで海斗は村正を肩に背負って跳躍した。

微かに原型がある建物に着地してからまた跳躍する。

一回、二回と飛んで着地すると、やはり近くにはバーテックスがいた。

少数ではあるが油断は出来ない。

海斗の存在に気付いたバーテックスは直ぐさまこちらに向かってきて口を大きく開かせる。

 

「今俺は機嫌が悪いんだ――」

 

海斗はそれをすれ違い様に村正で切る。

 

「そこをどけ........加減なんか効かねぇぞッ!」

 

 

一体目が消滅したら次は二体目、三体目へと目標を変えて切り刻んでいく。

 

「お前らは何のために人を殺し、街を破壊しているんだ!」

 

海斗は話すらも通じない出来ない化け物対して言葉をなげ掛ける。

バーテックスはその言葉を理解しているはずもなく、ただひたすら捕食するために口を大きく開けながら歯をカリカリと音を鳴らし続ける。

まるで人間を小馬鹿にするかのように。

笑っているかと思えるその行動は海斗の逆鱗に触れるのは造作もなかった。

 

「どんな感じで楽しんでるんだ。えぇ?」

 

人殺しを、人との争いをも。奴らはただ見続けていた。

醜いと嘲笑い最後は滅ぼす。

許せない。

 

「いつもそうだ......お前らはあの時(・・・)もそうやって笑っていた」

 

村正を構え、海斗の方に向かっているバーテックスに突き刺す。

プルプルと震えながらいると中から十四機の霊力が貫通して消滅させる。

 

「答えろよ......なぁ――」

 

幾ら化け物に言っても帰ってくるのは一方的な殺意だけ。

会話というのは無いに近い。

もう分かった。

奴らは人類を滅ぼすまで止めない。

この地球全体を殺し尽くすまで。

なら、こちらは向かい打つだけだ。

完膚無きまで叩き潰して恐怖を与えてやると、なるべく苦しめるように努力を惜しまずにやると。

 

「答えろ、化け物共(バーテックス)がァァァァッ!」

 

最後の一体を消滅させると周囲には敵の気配は無くなった。

もう一度周辺を見渡す。

何処を見てもそこは壊れたものばかり。

気が付けば日が暮れてきていた。

空を見れば赤くなってきていた。

 

「.......戻ろう」

 

ここには人の気配がないと察して海斗は若葉達の方へ足を向け跳躍した。

数分で若葉がいる方へ戻ると誰もいなかった。

どうやら、別の方へ移動したのだろう。

海斗は隈なく探しているともう日が落ちて月明かりが見えるようになる。すると上社本宮から近い守屋山のふもとの辺りの方に歩いているととそこには若葉達勇者全員がいた。

そこの近くには畑があった。

あらゆるものが破壊された中で、微かに残っていた人の痕跡。

雑草に覆われていると思っていたが、どうやら若葉達が耕していたらしい。

すると若葉が海斗の存在に気付くとこちらに手を振ってきた。

ふと、若葉の手元に鍬があった。それもだいぶ年月が経っていて土が付いている。

 

「若葉、それは?」

 

「これは.....白鳥さんに託されたバトンだ」

 

「白鳥の?」

 

「ああ。これで畑を耕して、蕎麦と大根を植えていたんだ」

 

若葉が持っていたのはかつてこの諏訪地域を一人で守っていた勇者。白鳥歌野が使っていた鍬だった。

その後に若葉から歌野が四国の勇者達に書いたとされている手紙を渡されて読んだ。

その内容は諏訪の状況や四国の勇者達の心配、通信だが若葉と海斗に出会えた事。

その他はこれから先の人類の無事とこの鍬と種を託されたこと。

最後まで歌野は自分ではなく、顔を見たこともない相手すら心配していた。

諏訪が滅ぶまでずっと戦い続けながらも。

正しく彼女は勇者だった。

だからこそ――

 

「.......託された」

 

「ああ。次のバトンはこちらに渡された」

 

海斗は若葉が持つ歌野の鍬を優しく撫でるように触る。

 

「やっと......会えたな、白鳥。お前の遺志、確かに......引き継いたぞ。だから見ててくれ」

 

たとえ小さな力でも束になればどんなものにでも負けない。

人間とはそういう生き物だ。

弱くても、醜くても、足掻いて足掻いて、足掻き続ければ神だろうが見返せる。

そのバトンは勇気のバトンというのか。

はたまた希望とも言うのだろう。

託されたのなら次は離さないようにする。

あの時、諏訪が落ちた日に誓ったように。

さて、今自分が出来ることは――

 

「若葉、俺も畑を耕すのをやっていいか?」

 

「元からそうするつもりだったんだ。全然問題ない」

 

「サンキュ」

 

そうして海斗は若葉から鍬と種を受け取りまだ耕していない場所を優しく、全力に鍬を振り落とした。

過去に少しだけ畑作業はやったことはあるが、これを毎日歌野はやっていたのだ。

その苦労は想像が出来ない。

でも、耕せば耕す事にやりがいを感じで楽しくなってくる。

数分で耕し終わると次は種が入っている袋を開けて中身を指で摘み、土の中に埋める。

その後は上手く馴染ませるようにして完成だ。

 

「ふぅ.....こんなとこか」

 

「おぉ.....だいぶいい感じじゃないか?私達より上手いな」

 

「そうか?そう言われると耕す甲斐があったな」

 

そう言うと海斗は暗くなった空を見ながら口を開いた。

 

「......なぁ、若葉」

 

「何だ?」

 

「これで、白鳥も喜んでくれるのだろうか?」

 

「あぁ。喜んでくれるだろうと私は思っている」

 

「.......そっ.....か。そうだな」

 

海斗の言葉に若葉は微笑み、思ったことを伝えた。

歌野もあの世で喜んでくれるだろうと。

だからこそ人類はバーテックスに負けてはならない。

誰かが残した遺志を継いで前をへと進み続けなければならない。

若葉は気づかなかったが海斗は密かに口を緩め笑った。

 

「さて、一先ずこの鍬と残った種はどうする?持って帰るのか?」

 

「勿論だ。後世にも語り継ぐためにこれは必要不可欠だ」

 

「だな。よし......少し休憩したら次の場所に移動し――」

 

海斗が若葉と次の目的地について話していると近くで休んでいたひなたが慌てた様子でこちらに向かってきていた。

 

「若葉ちゃん!海斗さん!」

 

「落ち着けひなた。どうしたんだ?そんなに慌てて」

 

「.......先程神託が降りました」

 

「聞かせろ。一体、何を見た?」

 

慌てたひなたを宥めるように言う若葉は彼女にゆっくり息を整えるように伝えるとひなたは真面目な表情で語り始めた。

海斗はじっとひなたを見ながら彼女を見続ける。

だがその内容はその場の空気を凍らせるには十分だった。

なんせ――

 

 

『四国が再び危機に晒されている』、とひなたの口からそう伝えられたのだから。

勇者達一行は直ぐさま四国に帰還した。

まだ、戦いは続いていく。

この先に何が待ち伏せているか分からない。

ただ、海斗はこれだけはっきり分かっていた。

何か嫌な予感がする(・・・・・・・)と。




この小説を読んでくれている読者様のお陰で『華結を繋ぐは勇者である』もUAやお気に入りが増えてきました。
ありがとうございます!
これからも更新頑張ります!

さて、今回で遠征編は終わりです。

次回はバトロアまで書くつもりです!頑張るぞぉ!

では次回またお会いしましょう、さよなら!


次回。第16話: 求める為の戦い


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第16話:求める為の戦い

どうもバルクスです。
PS4のコントローラーのXボタンが埋まってゲームがあまり出来ない事態になって凹んでおります。
皆さんも対戦ゲームをやる時は強くボタンを押すのは気をつけてくださいね。

今回からバトロア編です。
では本編どうぞ〜




 

『勇者様と巫女様による調査の結果、諏訪地域の無事が確認されました。現在大社は、諏訪の避難民へ物資を輸送する方法などを検討しています。また、諏訪以外の地域でも人類が生存している可能性が高いと見られ――』

 

海斗達は食堂で、そこに設置してあるテレビから流れるニュースを聞いていた。

調査遠征から四国に帰還して、今日で三日目。

今は昼食時間で、皆でうどんを食べているところだ。

だがこの三日間、テレビや新聞などの報道は勇者たちにとっては嘘でしかなかった。

しかし、本当の事を知らない四国に住む人々には例え嘘でも遠征によってもたらされた『偽り(良い報告)』を流し続けなければならなかった。

 

「相変わらず嘘ばっかりだ。せっかくのうどんが不味くなってタマらん」

 

それに球子が不機嫌そうに言いながら、テーブルに箸を置いた。

球子の言う通り、四国に流れているニュースは全て大社によって歪曲されているもの。

諏訪が無事で、四国の外以外にも人類は生存している、バーテックスは過去より減少している、人類は国土を取り戻す事が出来るなど。

これら全ての情報が人々にとって喜びそうなものばかり。

海斗達が四国の外へ出て目にした事実とは、全くもって異なっている。

こんなの、ただの隠蔽工作と一緒だ。

 

「人々の士気を下げないために、情報を操作する......戦争なんかでよくあることですけど.......」

 

杏は暗い口調で呟く。

確かに大社のやり方は間違いといえば間違っているとは言えない。

真実を話してしまえば住民は希望を失い、自殺や犯罪が起きかねない。

それを阻止するためと、小さなことでも心を繋ぎ止めなければ人は簡単に死ぬ。

でも、海斗にとってそれは大社自体に怒りを覚えるのは十分だった。

 

「......反吐が出る。こんなくだらない茶番を聞くためだけに俺達は外に出たはずじゃないのにな」

 

箸を持っている右手を強く握り締めながら海斗は吐き捨てるように言葉をこぼす。

何も出来ない悔しさが湧き出る。

これも人々のためだと割り切れたとしても結局は根本的な解決にはならない。

今この場には暗い空気が漂っていた。

誰も何も言わずに静かにうどんを啜る。

 

「もー、たまちゃんとうみくん、そんな怖い顔しないの!よ〜し、そんな顔をするんだったら私が二人のお肉と蓮根を食べちゃうよ!」

 

するとすかさず友奈が球子と海斗のどんぶりに入っているおかずに箸を伸ばし、素早く一口食べてしまった。

 

「あっ!友奈っ、お前〜!タマの大事な肉食べやがったなっ!」

 

「見えなかった。俺の.....蓮根を取るだと.......?」

 

「残したり食べなかったら、私が食べた方がいいかなって」

 

「ちゃんと食べるつもりだったんだっ!こうなったら、友奈のうどんのキツネをいただくっ!」

 

「ああー!一枚しか入っていないのにー!」

 

「まぁ、たまには友奈にあげてもいいか」

 

「......海斗私のキツネ、半分いる?」

 

「ん、あぁ。ありがとちーちゃん」

 

うどんを巡って争いを繰り広げる友奈と球子にキツネの半分を千景にもらい感謝をする海斗。

流石友奈だ。その俊敏性は恐ろしく思う。

少しだけ友奈に甘いが別にこのぐらいはいいだろう。

 

「もう、タマっち先輩、子供みたいなケンカしないでください」

 

「むぅ......」

 

杏に叱られ、球子はおとなしくなる。

 

「友奈さんもお行儀悪いですよ」

 

「はぁい」

 

友奈の方もひなたに注意され、恥ずかしそうに返事をした。

球子たちの様子を見て皆思わず苦笑するが、さっきまでの暗い空気がいつの間にか消えていた。

と、友奈がみんなを見回し、明るい口調で言う。

 

「あのさ!大社の人たちが流しているニュースは、今は嘘だけど、私たちが本当にすればいいんだよ。バーテックスを全部やっつけて、世界を取り戻して!」

 

友奈の言う通りそれを実現させればいい。それが勇者の勤めなのだから。

 

 

 

 

放課後――海斗は訓練場で一人、村正に模した木刀を振っていた。

部屋でやる事がない時にはいつもここで訓練をしている。

村正の現物と同じ重さになるように刃の中に重りがあって

硬さも耐久性も同じにしている。

振るえば振るうほどその重さが体に馴染む。

化け物を切る感触、化け物を叩き切る感触、化け物を貫く感触が全身へと流れていく。

 

「ふっ!はっ!はぁ!」

 

思う存分に振るい続ける。

そういや、最近身体に違和感を覚える事があった。

誰かを信じて良いのか疑問的になってしまうこと。

仲間と良好な関係を築いているというのに矛盾してしまっているが、どうにも前より人との顔を合わせられなくなったと思う。

振るうの止めて、木刀を見る。

バーテックス襲来時に海斗が勇者の力に目覚め、その日に手に入れた村正()

これがあればバーテックスさえも倒せると思い、弱き者の為に力を振るい続けた。

呪いがある曰く付きだとしてもそれは化け物を倒せない理由にはならない。

だが、それだからこそ人は強き者に縋り付いて頭を垂れる。

 

――どうしてだと思う?

 

密かに誰かの声が頭の中で響き、日が差していない所には黒い影が笑を浮かべながらこちらを見ている。

あれが一体何なのかは海斗は気付かなかった。

海斗は遠征で訪れた梅田駅の日記を思い出す。

人と人との争い。これが一番人間がどんな化け物にもなれる瞬間だ。

所詮この世は弱肉強食で強い者は生き、弱い者は死ぬ。

そんな当たり前な世界。

 

――醜くて、残酷で殺し合いそれを快楽に変え、用が済んだら捨てる......正にそれが本来人間の姿だ。

 

そしてそれがあの白骨死体が転がっていた現場だ。

衰弱した人や使い物にならない奴は切り捨て、殺す。

それが日記に書かれていた事。

あの時、僅かに怒りで我を忘れてバーテックスに突撃して倒していた。

 

――お前はバーテックスを倒したいんじゃない。

 

 

本来はチームで行動しなくてはならないのに集団から外れて一人で探索しようとしたりと異常な行動が多い。

でも後悔はしていなかった。

そして分かってしまった。

どうして梅田駅で怒りを露わにしていたのかを。

黒い何かが耳元で言ってくる。

認めたくない、何も言うなと心の中で呟くが、それは無に帰った。

 

――自分の存在を認めて欲しかったんだ。

 

「――ッ!うるさいっ!!」

 

海斗は声を荒らげて、木刀を声が聞こえる方に振った。ふと冷や汗を垂らしていた事に気付く。

周囲を見渡してもさっきいたはずの影はいなかった。

 

「さっきのは、一体........」

 

まるでもう一人の自分が自問自答しているような気分だった。

でもその後にはさっきの声は聞こえなかった。

原因は不明だが、不吉なものとは分かる。

そういえば昼の時に球子の様子が変だった。

午後の授業を欠席して何処かに行ってしまったが、杏に伝えている時に彼女の表情を見たが珍しく明るくはなかった。

遠征から帰還してからどうもおかしい。

確かに壁外の光景を見たからって彼女があんな暗い顔になるのだろうか?

まだ、中学生だから暗くなるに決まっているのは分かっている。

だとしても時間が過ぎれば元の明るい性格に戻るはずだ。

だが時々ぼーっとしている時があるし――まるで何かを考えているような、複雑な気持ちを持っていたと思った。

しかしそれは球子にしか分からない。

これ以上の憶測は止めよう。

 

「......部屋に戻っか」

 

思考を止めて木刀を専用の布状の袋に入れて訓練場を出ようとすると丁度千景がいた。

彼女の手には大葉刈が入っている布を持っていた。

どうやら訓練をしに来たらしい。

 

「あ......」

 

千景もこちらに気付いたようで目が合う。

 

「ちーちゃん、これから訓練か?」

 

「えぇ。私も、もっと強くなって........高嶋さんや海斗の背中を守りたいの」

 

彼女の瞳は赤く燃えているように見えた。

本気でそう思っている。

なんなら、大葉刈を持っている手が強く握られている。

なら、これ以上は邪魔しないように直ぐさま退散した方がいいだろう。

何故だか今は誰かと話すのが嫌だった。

 

「そうか.......んじゃ、俺は部屋に戻るから。訓練頑張れよ」

 

「――あ......う、うん......分かったわ」

 

 

海斗はそう言うと千景に手を振り、訓練場を後にしようとすると千景が声を掛けてきた。

 

「......海斗!」

 

「......どした?」

 

「訓練が終わったら、一緒に夕飯どうかしら?」

 

「悪ぃ......今回はパスにするわ」

 

「そ、そう.......」

 

「――んだよ.......その目」

 

「え......?」

 

食事に誘ったが、海斗は断ってしまう。それが少し悲しかったが彼を見ると気分が悪そうに見えた。なら仕方ないと千景は誘った事を謝ろうする。

しかし、海斗がいきなり千景に向かって冷たい言葉を掛けてきた。

 

「何で.....そんな、俺を憐れむように見るんだよ......」

 

「わ、私は......別に、そんな事......!」

 

「してるだろ.....お前は俺にそんな顔をするようになったんだな」

 

「何を言っているの?海斗......!」

 

「気持ち悪いんだよ!お前の表情が!そんな顔するぐらいなら俺はお前を――」

 

すると海斗はハッと自分の言った言葉を思い出し、顔を青くした。

恐る恐る千景は海斗の顔を覗くように伺った。

 

「海斗.....大丈夫?」

 

「......ごめん、ちーちゃん。俺、どうかしてた......君になんて事を........ッ」

 

「大丈夫よ。気にしていないわ.......だって貴方を信じているのですもの」

 

これぐらいで落ち込まないわと千景は励ましてくれた。

何故彼女にあんな攻撃的になったのだろうか?

どうして思っても無いことを.....分からない。

 

「(俺の体に何が起こってるんだ、一体.....)」

 

「海斗もう、大丈夫......?」

 

「あ、ああ。もう大丈夫だ、ありがとう」

 

「......ならいいわ」

 

「じゃあ俺は一先ず部屋に戻ってる」

 

「えぇ」

 

 

「(.......俺、最低だ.....ちーちゃんに思ってない事を言ってしまったッ!)」

 

海斗は手を振って部屋に戻って行った。

心の中では千景に言ってしまった事を深く後悔した。

彼女は許してくれたが自分は大切な人を傷付けた事が許せなかった。

そして、海斗の後ろ姿を千景は何故か寂しく見えてしまった。

一体どうしたのだろうか?

彼女の不安が止まらない。

だけど彼には一つ心当たりがある。

 

「海斗......お願い、これ以上――」

 

最初は海斗は千景に攻撃的な事はしてこなかった。

最近は焦っているような、何かに怖がっているようにも見えてしまった。

彼は無意識に誰かの遺志を背負いすぎている。

自身が救えなかった者に対して後悔していた。

千景は空いている手を自身の胸に触れて彼には聞こえないように告げる。

やめさせようとすれば出来る。けど、出来なかった。

今海斗に言っても止まらない。

もし、自分が死んだとしてもそれが彼にとって正しいことだって知っているから。

しかし千景にはそれが辛くて、耐えれなかった。

 

「一人で、背負わないでッ.......!あなたの心が壊れちゃう!」

 

彼の背中を見続けながら千景は一人でに届かない言葉を海斗に嘆いた。

止めさせたいのに止められないもどかしさ。

海斗は知らない。

自分が自己犠牲の道に進んでいる事に。

それが破滅の道だとしても。

 

 

 

翌日。海斗は若葉に呼び出された。

内容は勇者達で丸亀城の敷地全体を使ってバトルロワイヤル形式の模擬戦をやる事を提案された。

何故そんな事をやると若葉に聞いたがここ最近、悪い空気が続いているということでどうにか皆を明るく出来ないかとレクリエーションという名目で試行錯誤した結果、これになったという。

勿論教師には訓練になると説明して許可は貰ったらしい。

まぁ若葉らしいと言えば若葉らしいが、確かにそれは良いと案だと思った。

何せ、体を動かして戦術を練れるし、視野も広くなる。

流石に本物では危険すぎるので勇者たちが使っている物に模したものが支給される。

そして、最後に優勝した者には特典として他のメンバーへ自由に命令を下せるという一種の王様ゲームが出来る。

敗北者にはその命令に必ず従わなければならない。

出来れば過激なものや恥ずかしいものはやめてほしいところではある。

そして午後。海斗は丸亀城の門入口で待機していた。

 

「あまり対人戦は得意じゃないんだけどなぁ......」

 

いつも訓練に使っている重りが付いた木刀を肩に乗せて海斗は頭を搔く。

バーテックスは問答無用で倒せるが、相手は人間で躊躇してしまう。

 

「ま、あまり傷付けないように、気絶程度で済ませれば大丈夫か」

 

覚悟は決まった。ならもう躊躇いはない。

後は目の前にいる(仲間)を倒せばいい。

すると始まりの合図である鐘が鳴った。

 

「――じゃあ.......行くかぁ......ッ!」

 

海斗は笑みを浮かばせ、駆け出した。

このゲームの特典(命令)を獲得するために今、ここに戦いが始まった。

 

 

 

 

 

 

 





段々と心が荒んでいってる気がするのは僕だけでしょうか?
まぁ精霊システムだからね仕方ないね(真顔)

では次回にまたお会いしましょう!


次回。第17話 : 戦場の命令権



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第17話 : 戦場の命令権

どうもバルクスです。
今回は二連続更新です。特に話す内容はないです。
では、本編をどうぞ〜



ゲームが開始した今海斗は草木が覆われている方の茂みの中に隠れていた。

門からスタートしてから数分。丸亀城二の丸に着いていたのだが、流石にここで相手を待って、見つけた瞬間に突撃したとしても格好の的なので時間を見て行動する事にした。

先に勇者達はまず、男である海斗を潰してくるだろう。

全員ではないが、球子や杏、若葉とかは警戒して先にやってくるに違いない。

だが杏だけは注意しなければならない。

彼女は他の誰よりもこの戦場ではその頭脳を活かして攻撃してくる。

ならば、ルールに決められていないものはどんな事でも利用してくるだろう。

先に潰した方がいいかもしれない。

 

「となると、ちーちゃんと友奈はどうしたものか......」

 

一方千景はというと、数が減るまで出てこないと思う。

友奈は意外と脳筋的な所があるので、出会った人を片っ端から挑みに行くだろう。

あの二人は一先ず放置でいいと判断した。

だが、警戒は怠らない。

 

「まずは、様子を見てから決めるとするか」

 

移動もしてはいいが、下手に動けばこっちがやられかねない。

ならここは慎重に行くのが筋だ。

海斗は動かずここで様子を見ることにした。

すると数分もしないうちに前から武器がぶつかって生じる音が鳴り響いた。

 

「.....ん、誰かが戦ってる?」

 

ゆっくりと茂みの隙間から覗くとそこには友奈と若葉がいた。

どうやら先に出会って戦っていたらしい。

このまま戦況を見つつ、いつでも逃げれるようにはしとく。

流石にあの二人は気配と勘で探知出来そうなのでバカには出来ない。

迂闊に出て見つかったりもしたら袋小路にされるだろう。

まだリタイアしている人は出ていないし、事を運ぶことさえ難しい。

もっと時間を掛けてから、攻め時だ。

茂みから二人の対決を見ていると友奈が先に仕掛けた。

放たれる拳を若葉は木刀で受け流す。

それは徐々にぶつかり合い激しく交差する。

お互い実力は互角だ。

友奈は一撃は軽いが、手数で押して連続で攻めれば勝機はある。

そして若葉の方は一撃一撃が重いのでこちらも一発さえ友奈に与えれば勝ちだ。

両者どちらも隙すらも譲らない。

しかし、友奈の拳が若葉の木刀を弾き飛ばした。

友奈も確信して拳を入れるがそれよりも先に若葉の腰に付けている鞘を武器にして銅へそれを振るう。

だが、友奈が咄嗟に左腕でガードをして、鞘の一撃を防いだ。

しかし重い一撃だったため、友奈は吹っ飛ばされた。

そして若葉はさらに友奈に追撃をしようとするが、そこに千景が割って入ったのだ。

彼女も草木に隠れていて二人の様子を見ていたのだろう。

だが、どうやら友奈の危機に思わず体が動いてしまいやむを得ず出てきてしまったのだ。

 

「(.......やっぱり近くにいたか、ちーちゃん)」

 

彼女の性格上仕方なかった。大切な友人を傷付けられさえもすれば誰だって守りはするだろう。

状況は二体一で若葉が若干不利だ。

しかし、今度は球子が戦いの音に聞きつけて参戦してきた。

あっという間に三体一になる。

四人がこうして集まっているということはこれなら他の場所に移動出来そうだ。

 

「(......よし、今のうちだ)」

 

海斗はバレないように密かに慎重にこの場を後にした。

後ろでは既に戦っている音が鳴っているため、決着はすぐにつくだろう。

その前に早く距離を取らなければならない。

 

「ここまで来れば大丈夫そうだな――」

 

茂みから出て一息を吐こうとした海斗だったが、何かが視界を掠った。

 

「――ッ!?あっぶねっ!」

 

辛うじて当たりはしなかったが、見てみればゴム製の矢が土に刺さっていた。

そしてその方向を見れば杏がクロスボウを構えていた。

既に次弾は装填済みのようだった。

 

「そこにいたか、杏!」

 

「すみませんが海斗さん、ここで倒れて下さい!」

 

杏が大きく言う。

彼女を倒すにはここから若干距離があるため、近付くには障害物が一切無いため分が悪い。

矢を回避したとしても杏はその先を読んで矢を射ってくるつもりだ。

誘われては相手の思うつぼで終わりだ。

どうしたものかと考えるが、やはり思いつくのはあれしかない。

 

「やるしか.....ないか」

 

海斗は木刀を構えて、杏が矢を放った瞬間に全速力で走った。

 

「――はぁッ!!」

 

矢が迫ってくる中、海斗は避けずに木刀で矢を弾いた。

何度も高速で矢が放たれる中、的確に矢を回避したり時には弾き飛ばした。

そして遂に杏の元に辿りついた。

 

「よぉ......さっきは矢をご馳走してくれてありがとよ」

 

「やっぱり海斗さんは規格外すぎますよ.......でも、負けません!」

 

「良い覚悟だ!来いよ、杏ゥ!」

 

折角突破したのに逆に杏に引かれてしまったが気にしないようにしよう。

瞬間、杏がその隙を狙ってクロスボウを構えて矢を放った。

海斗はそれを避け、木刀を彼女の頭に振りかざそうとした。

杏は目を瞑るが、海斗はそんな彼女の額に人差し指でツンっと小突いた。

 

「あぅ......」

 

「これで俺の勝ちな?」

 

「へ?」

 

まるで意味が分からなかった。

まだ何も攻撃を受けていないというのに彼は何を言っているんだと杏は目を丸くしてしまう。

 

「あー......その、仲間とか女の子を傷付ける趣味はないんでな」

 

「......海斗さんそのセリフは!」

 

「流石に気付いちまうか。この前読ませて貰った主人公のセリフだよ」

 

「あ、そっちの方でしたか.......本当に間際らしいですね」

 

「?何言ってるか分からないが......まぁ、お前の射撃と頭脳戦は流石に肝を焼いたよ」

 

「そう言われて私も嬉しいです!でも、やっぱり海斗さんには敵わないと実感しました」

 

「......ま、慣れれば勝てるさ」

 

以前杏に借りた小説に出てきた主人公のセリフを言ってみて驚かせたかったが、何でか怒ってるように思えた。

それでも、話を変えればなんともないように反応してくれた。

全く女とは分からないものだと再認識される。

 

「後は、あの四人か.....苦労しそうだな」

 

「そこは大丈夫だと思いますよ。海斗さんが来る前に千景さんと友奈さんは若葉さんによってリタイアになってますから」

 

どうやら海斗が距離を取っている間に友奈と千景は若葉にやられたらしい。

それを遠くで見ていた杏は海斗に教えた。

今若葉は球子を追っているらしい。

本当は海斗を倒してさえすれば後は球子と若葉を騙し討ちで倒せてたと杏の鬼戦術プレイで幕を閉じたという。

そうなるとゲームを見ているひなたは開始前に杏に買収されているという事だ。

まぁ、そこは大丈夫だろう。

杏は倒したし後はあの二人だけだ。

 

「あ、そうだ杏」

 

「はい、なんですか?」

 

「俺が勝ったらお前に命令権譲ってやるよ」

 

「えぇ!?」

 

ついでかのように海斗はさりげなく杏に自身の命令権を譲ろうと宣言したのだ。

杏さえ驚いてしまう。

 

「ど、どうしてそんな貴重なものを負けた私に?」

 

「んー.......下すものが浮かばないのと、お前の命令権の方が何かと面白そうだからかな」

 

「本当に......いいんですね?」

 

「男に二言はないとだけ言っとくよ」

 

 

海斗は真面目にそう言うと杏は分かりましたと了承をした。しかし嬉しさと悔しさのもどかしさでどう反応すれば良いのか分からなかった。

でも、海斗さえ勝ってくれれば彼女のしたい事が出来るのだ。

是非とも勝って欲しいところである。

 

「んじゃ、宣言しちゃったし......いっちょ、勝ってきますか」

 

「......頑張ってくださいね海斗さん」

 

「おう」

 

海斗は杏と別れ若葉と球子がいると思われる方に駆け出した。

数秒もすれば丁度若葉と球子が戦っているところに出くわした。

どうやらこちらには気付いていないので慎重に近付いた。

しかしここで勢いよくやれば泥沼化するのは確定だ。

そして木の上に登り、二人が近付いた瞬間に上から木刀を軽く振って終わらせた――と思っていた。

球子には当たって気絶させてはいるが、運悪く若葉が回避してしまい一体一になってしまった。

 

「ほう?海斗、奇襲とは卑怯な手を使うとはな」

 

「俺はお前みたいに武士でもなければ侍でもないし誉も一切無い」

 

「そうだな。これはバトルロワイヤル、どんな手を使ってもいいものだ」

 

「主催者が文句とか言わないよな?」

 

「言うわけがないだろ、私とて勇者のリーダーだ。ルールや掟は絶対に破らない主義なんでな」

 

若葉は勇者の中では一番の堅物だ。決めた事はぶれないし、何を言っても聞かない。

でもそこが丁度いいところでもある。

こうしてバトルロワイヤルに『なんでもあり』だなんて出すんだから、試合さえ始まればルール変更なんて彼女にとって無理だろう。

 

「そっか......じゃあ、これで思う存分殺り合えるな」

 

「あぁ。私もお前と戦うのは楽しみにしていたぞ」

 

二人の言葉で一瞬で空気が冷たくなる。

その静かな音で一枚の葉が漂って地面に落ちた瞬間に海斗と若葉は木刀をぶつけ合った。

お互い攻防を許さず打ち込んではまた重い一撃を入れる。

 

「うおぉぉぉぉ!」

 

「だぁぁぁ!」

 

斬撃が舞い周囲の草木が揺れる。

それはもう残像と言っていいほど空間を歪ませた。

若葉は居合が得意で海斗は我流で剣撃を行っている。

一撃の重さは同等で、小さな隙でもどちらがやられてもおかしくはない。

 

「はぁっ!」

 

「ぐっ.....」

 

しかしその交戦を破ったのは海斗だった。

若葉の木刀に集中にしていたため鞘を使うのを忘れていたのだ。

突然の不意打ちに対応は出来た海斗だが受ける場所が悪く、その衝撃をもらってしまい膝を着いてしまう。

 

「よく防げる.......やるな」

 

「そりゃ、どうも」

 

一瞬で形勢が若葉の方に傾いた。

これを切り抜けるのは難しいだろう。彼女だってそんな隙をさえも与えてはくれないだろう。

 

「ほら、さっさとやれよ」

 

「そうだな。もう少しお前と戦いたかったが、これで終わりだ」

 

海斗が顔を下に俯くと若葉の攻撃を受け入れるように力を抜いた。

降伏にも見えるその姿はまるで処刑だ。

刑の執行を待つ受刑者だと感じてしまう。

若葉は木刀を上に向けて海斗に振りかざした。

刹那――海斗は見えない速さで攻撃を避け、彼が持っていた木刀で若葉の背中を軽く突いた。

 

「なっ......!」

 

「なんてな?俺がそんな簡単に負けるかっての」

 

「最初からこれを狙っていたのか?」

 

「あぁでもしないとお前には勝てないからな」

 

海斗は最初から真剣勝負なんてものはしなかった。

どうにか彼女から隙を作ってそれを決めるしかないと思い騙し討ちをした。

結果は成功で若葉はそれに掛かった。

 

「完敗だ.......強いな海斗は」

 

若葉の賞賛を受け取るが、少しもどかしかった。

別にこれはいわばズルだ。汚い戦い方だ。

勝利にどん底に食らいついて、勝てればそれでいい事。

だが、後悔はしていない。

これまでだってそうしてきたのだから。

 

「お前よりじゃないさ」

 

こうして、第一回バトルロイヤル模擬戦は、黒結海斗の勝利に終わった。

勝者の権利として、海斗は命令を下せるのだが彼はそれを杏に譲った。

そして杏は海斗の命令権をもらい他の勇者たちに命令を下せることになったのだが――

 

 

「私のものになれよ、球子......」

 

「わ、若葉君......そんなこと言われても、タマには他に好きな人が......」

 

「待ちなよ、若葉君!球子さんが嫌がっている!」

 

「あ、高嶋君.......って、なんじゃこりゃあぁぁぁぁっ!」

 

「カット、カットぉっ!ダメだよー、タマっち先輩!ちゃんとセリフ通りに言ってくれないと!」

 

丸亀城に出来た教室の中で、若葉が球子を壁際に追い詰め、腕を壁について逃げ場を塞いで甘い言葉を囁く――いわゆる『壁ドン』をしていた。

そこにやってきた友奈が、若葉と球子の間に割って入るという三角関係ができるわけだ。

これは杏のお気に入りの恋愛小説の一節を、彼女たちを使って再現しているのだ。

 

「こんな恥ずかしいセリフ言えるかっ!というか、なんでタマが『内気で大人しい少女』の役なんだよっ!」

 

「このヒロイン、背が低いって設定だから。タマっち先輩に合うかなって」

 

「タマがチビだって言いたいのかぁっ!」

 

「というか、私は男装までさせられているんだが......」

 

「私も......なんだか男子の制服って、変な感じ」

 

若葉と友奈は男子用制服を着せられている。

因みにこれは海斗が着ている制服の予備だ。

 

「再現度を高めるために当然です!」

 

杏監督の厳しいこだわりであった。

なんならこれを作った原因は椅子に座ってこの現状を楽しんでいた。

 

「ぶふぅ!あはははっ!もうダメだ.....ははっ!腹、痛ぇ.....!」

 

「なぁに笑ってんだお前はぁっ!元はと言えばお前があんずに命令権を渡したせいで、タマたちがこんなことやらされないといけなくなったんだぞ!」

 

模擬戦では海斗が勝ったが、如何せん命令権を手にしても特に下すものがないので杏に渡したのだ。

その前に彼女には約束もしていたし別に後悔は微塵もなかった。

 

「まぁまぁ、タマっち先輩落ち着いて」

 

「そうだぞーお前、元から

可愛いんだから似合ってるぞ、もっと自信持て」

 

「カイトは黙っていタマえ!」

 

褒めて、宥めたはずなのに悲しい。

なんなら再現を始める前に球子が髪を下ろして一瞬誰だったか忘れたぐらいだ。

流石にどちら様ですかと言えるはずもないので心の中にしまったが。

とにかくこれ以上球子を怒らせたらやばいので大人しく引き下がることにした。

顔が何でか赤くなってるし、本当にやばい。

 

「とっ、とにかくっ!あんずの言う通りにしたぞっ!もうこれで命令は終わりなっ!」

 

「私もこれで終わり......でいいか?」

 

「面白かったけど、やっぱりちょっと恥ずかしいよね」

 

「若葉さんと友奈さんはいいですが、タマっち先輩はダメですよ?まだやって貰いたい人がいるので」

 

「なっ!もう終わりでいいだろ!それにもうやるやつ何て誰も.....」

 

ふと、球子がこちらに視線を向ける。どうやら何かを察したらしい。

杏もこちらを見ており、目で語っていた。

 

「はぁ.....身から出た錆てっこんな事を言うのかな」

 

「か、カイトっ!お前本当にやるつもりなのか!?」

 

「球子、覚悟決めろ」

 

嫌だけど、杏に命令権譲ったの自業自得だから何も言えなかった。

そして再び恋愛小説の再現は始まった。

海斗は記憶してある台詞を思い出す。

 

「よう、球子。悪かったな急に呼び出しちまって」

 

「ううん、大丈夫だよ海斗君。それで私に何か話したいことがあるって、何かな?」

 

「あー......なんつーか、お前に......言いたい事があるんだ」

 

「何かな.......?」

 

役に演じているとはいえ、普段あんな好奇心豊富な球子がこんなに大人しい少女になれるとは思わなかった。

ギャップが違いすぎて最早誰だか分からなくなる。

でもこれは演技で球子だって嫌々やっているのださっさと終わらせた方がいいだろう。

 

「......もういいや。球子!」

 

「きゃっ!」

 

球子を壁際の方に行かせ、海斗は自身の右手を壁について逃げ場を奪った。

「俺のものになれよ、球子......俺は、お前を愛しているんだ」

 

「......ッ!?」

 

そして彼女の耳元で甘い言葉を囁いた。

少しアドリブを入れたがまぁいいだろう。少しは弄っても罰は当たるまい。

しかし球子は何も言わなかった。

本来ならば弱々しく台詞を言うはずなのだが、言ってこなかった。

 

「おい、球子?」

 

「にゃっ!?だだだだだ大丈夫だぞ!ぜんっぜん!」

 

「お、おう?」

 

様子を見れば顔を赤く染まりながら言うが、なんならしおらしくなっている。

球子はすぐさま海斗から距離を取って、杏の後ろに隠れるた。

よく見れば皆目を丸くして顔を赤くしていた。

何故?そんなに酷かったのかと思ってしまう。

 

「......あー、もうこれでいいか?杏」

 

「ぜ、全員OKです!寧ろタマっち先輩にしてくれてありがとうございました!」

 

場を変えようとして杏に声を掛けた海斗だが何故だか感謝をされてしまう。

何かやったと思うが別に何もしてないと思うのは自分だけなのだろうか。

 

「さて、次は千景さんの番ですよ」

 

杏の目が、千景に向く。

ビクッと体を震わせる千景。

 

「私も、あんな恥ずかしいことを......?.......ぜ、絶対に......お断りよ......!」

 

「ふふふふふ。千景さんに合った役柄は何がいいでしょうか?」

 

杏の口元は悪どい笑みを浮かばせている。

一方千景の方は体を強張らせる。

だが千景はあの光景を見て少し羨ましいと思ってしまったが、もし逆にやられる側になれば果たして自分は意識を保つことが出来るのか。

それが想い人に甘い言葉を囁かれたとしても。

 

「うぅ.....」

 

それを想像すればするほど顔が熱くなっていった。

すると杏は悪どい笑みをやめ首を横に振った。

 

「千景さんには、別の命令にします。それと海斗さんにも」

 

「え......?」

 

「は?命令はもう終わりじゃないのか?」

 

もう済んだと思って油断をしていた海斗と怪訝そうな顔をしている千景。その二人に杏は教卓の中から白い用紙を二つ取り出して、それを千景と海斗に差し出した。

用紙には『卒業証書 三年 郡千景』と『卒業証書 三年 黒結海斗』と書かれている。

 

「命令は、これを受け取ってください」

 

「これって......」

 

「卒業証書......?」

 

千景と海斗は呆然としながらも、その卒業証書を見つめる。

すると友奈微笑んで口を開いた。

 

「よく考えたら、ぐんちゃんとうみくんって三年生だから、本当はもう卒業だしね。卒業証書、私たちで作ったの」

 

同じ教室で授業を受けているため、お互いにほとんど意識せず忘れてしまいがちだが、千景と海斗は中学三年生。普通の学校であれば、卒業式を迎えている時期だ。

 

「といっても、学年が高一になるってだけで、学校もここから変わらないけどな」

 

そう球子は苦笑気味に言う。この学校が勇者を一箇所に集めて管理することを目的とした施設である以上、高校生になっても学校が変わることは無い。

 

「だが、形だけでも、こういう行事は行った方がいい」

 

「えぇ、私もそう思います」

 

若葉とひなたも頷いて言う。

学校も変わらない、意味を感じず、千景自身は『卒業』という行事を忘れていた。

でもそれは昔の事。

海斗や友奈、皆に出会って大切な人に出会った。

皆千景を見てくれる。心配も声も掛けてくれる。

嫌な言葉ではなく優しく暖かい言葉。

 

「海斗......」

 

不安そうにちらりと彼を見る。するとこちらに気付いた海斗は千景の方に向いて笑みを浮かばせた。

 

「もらっちゃえよ。俺だってこれは嬉しいし......それに、拒否権なんてないんだろ?」

 

海斗は杏達の方へ言うと全員頷いた。

 

「.....命令なら、仕方ないわね......」

 

そう言って、千景は卒業証書を受け取った。

その心はとても暖かった。

夕日の中、海斗たちは寄宿舎へ帰っていく。

 

「くっそー、バトルロイヤル模擬戦、カイトの不意打ちにやられなければ生き残ってたのにっ!」

 

「でもタマっち先輩生き残ったとしても一人だけじゃ、海斗さんと若葉さんのどちらかに負けてたと思うよ」

 

「そうだな、盾を投げても、その間にはやられてそうだからな」

 

「何をーっ!」

 

「友奈、次は全力で来い」

 

「え、全力だったよ!」

 

「いいや、バーテックスと戦っている時よりも、明らかに動きが鈍かったぞ」

 

「今度同じ戦いをやったら......負けないわ.......」

 

「千景さんは友奈さんの戦いの時に飛び出していなかったら、優勝していたかもしれませんね.....海斗さんに対抗できる戦術でしたから」

 

「ちーちゃんと戦うのは少し勘弁かな、ゲームでボコられそうだ......」

 

「海斗......あとで部屋にきて.....対戦しましょう......?」

 

「あ、あのぉ......千景さん?なんか怒ってません?」

 

「.......さぁ?........どうかしらね」

 

「拒否権は?」

 

「ないわ」

 

「........精一杯相手になる所存です」

 

そんな感じでみんなわいわいと話していた。

海斗の方は恨みがやばそうだが。

 

「また、近いうちにこうして、みんなと遊べる機会を持とう」

 

若葉の言葉にみんな頷いた。

丸亀城から見える瀬戸内海は、いつもと変わらぬ穏やかな景色を広がり、その姿を見せている。

バーテックスの襲撃は、まだ起こらない。

だが、この先何が待ち構えているかは誰にも分からない。

たとえ誰かが死ぬとしても。

 

 

 

 





新年を越してから何故か執筆のモチベが上がったので沢山書けましたw
人間って凄いね!
さて次回はあのシーンになります。(分かるよね?)

ではまた次回にお会いしましょう。さらば!

次回。第18話:散るものは瞬間に


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第18話:散るものは瞬間に

どもバルクスです。
10年ぐらいお世話になったテレビがぶっ壊れて萎えました。
これから三連休でゆゆゆのBluRay全鑑賞するはずだったのに何故だァァァ!
この話は置いといて、今回はゆゆゆ民皆さんが嫌うサソリ型の会です。

では、本編どうぞー


教室で小説を読み耳にイヤホンをしながら曲も一緒に聴いていると球子から話があると言って中断してみるといきなりお花見をしないかと誘われた。

 

「花見.....?」

 

「どうだカイトお前もしないか?いや、したいだろっ!」

 

「いや、そもそも興味ないし.....」

 

「そこをなんとか!この通り!」

 

「.......」

 

先日にひなたから新たな神託が下った。

それによれば、まもなくバーテックスの襲撃があるということ。

敵の数は前回の『丸亀城の戦い』ほど多くはないらしい。

ただし――今までにない事態が起こるだろう、と。

それを聞いた勇者たち皆はここ数日、バーテックスが何時侵攻してくるか分からない状況で不穏な空気と緊張感が流れていた。

正直、この先何が起こるかは全く検討がつかない。

悪ければその戦場で誰かが死んでしまうのではないかと思ってしまう。

だからこそそれをなんとかするべく球子が杏と協力して花見を開催しようと誘ってきたのだ。

確かに最近は気を張りすぎてはいると思っていたので少しは息抜きが必要だと思った。

海斗は息を吐くと口を動かした。

 

「分かったよ......参加するよ」

 

「本当か!?」

 

「本当に決まってるだろ」

 

「ありがとうなカイト!」

 

海斗の了承を得ると球子は手を取りブンブンと振った。

そんなに嬉しかったのだろうか。

因みに花見をする話は海斗で最後だったらしい。

とっくに皆は参加する気満々だった。

 

「次の襲来を切り抜けてから花見をすんの?」

 

「そうだぞー戦いが終わった後の祝勝会も兼ねたお花見だからなっ!」

 

それはいいと思った。

戦闘に勝利が出来れば皆気分も晴れるだろう。

だからこそ勝たなければならない。

いや、そもそも勇者には負けは許されないのだから。

ふと海斗は視界に桜の花びらが通り過ぎたのを見た。

その方に顔を向けるとそこには立派な桜の木が花を満開に咲かせていた。

こんなに綺麗ものはあまりない。

 

「花見、出来ればいいが......」

 

バーテックスの襲撃さえなんとかすれば皆楽しく宴が出来る。

花の命は短い。

散ってしまう前に見れればそれでいい。

それさえ見えさえすれば後悔はなどしないのだから。

 

 

 

その日の夕方。

勇者たちのスマホから樹海化の警報音が鳴り響いた。

勇者の戦装束になった若葉たちは、植物組織に覆われた四国の地に立っていた。

瀬戸内海の向こう――壁の外から押し寄せるバーテックスたちの姿が見えた。

遠くで見ても数は少ない。

だが油断は禁物だ。

 

「なんだよ、今までにない事態とか言ってた割には、大したことなさそうだな」

 

「油断はするなよ、球子。何事も大丈夫だと確信した時の方が、失敗は起こりやすい」

 

「はいはい、若葉は真面目だな」

 

肩をすくめ拍子抜けした球子に若葉は厳しく注意をした。

だが球子は余裕を見せながら旋刃盤を持ちながら彼女の話を流した。

友奈は手甲を握り、千景は鎌を構え、海斗は村正を呼び出し肩にかけた。

それぞれが臨戦態勢に入る中、杏が声をあげた。

 

「あの!皆さん、聞いてください!」

 

勇者達全員の注目が杏に集まる。

 

「どうしたの......?」

 

千景が訝しげな視線を向ける。

すると杏は真剣な表情で答えた。

 

「今回は切り札を使うことは無しにしましょう」

 

「それは......なぜ.....?」

 

千景は納得いかないように杏を見る。

 

「元々大社からも、精霊の力を使うのはできるだけ控えるように言われましたし......もしかしたら、本当に危険かもしれませんから」

 

「......状況次第では、使わざるを得ない場合も......あるわ.....」

 

千景の言葉に杏は反論が出来なかった。

確かに、今までの戦いでは、進化体バーテックスを倒す場合には、精霊の力に頼る場合が多かったのがある。

そして今回、敵が進化体を形成しないという保証はどこにもない以上、果たして本当に『切り札を使わずに戦う』事ができるのだろうか。

すると友奈が割って入って声を発した。

 

「でもアンちゃんの言う通りだと思う。使わないに越したことはないよ。キミコさんは危うきに近寄らずだね!」

 

友奈はうんうんと頷くと何故か皆苦笑してしまう。

 

「それを言うなら、君子危うきに近寄らず、だな」

 

「あれ、そうだっけ?」

 

若葉が訂正すると友奈は首を傾げる。

 

「ともかく、杏の言うことは一理ある。今回はできる限り、切り札の使用は控えよう」

 

「.......」

 

若葉と友奈が賛同すると、千景もそれ以上、何も言ってはこなかった。

 

「杏、お前は皆のために動いていることは知ってる。だから、今回お前は悪いとは思わない」

 

「海斗さん......」

 

「そんな顔すんなよ、まだ未知で分からない精霊の力だ。皆が傷ついている所を見たくないから極力控えろてっ事で言ったんだろ?それがお前の優しいところだ。誇っとけ」

 

「――はい!」

 

せめてもの杏にフォローをする海斗。

今回、精霊が使えない分苦戦するところはあるだろう。

だが仲間がいる限り何とかなると思った。

守って守られての戦法なら進化体が来ても勝てると。

 

「カイト!なにやってんだっ!もう敵が来るぞっ!」

 

球子の言葉に海斗はバーテックスがいる方に向き合った。

若葉達も武器を構え始める。

これから戦いが始まる。

 

 

 

樹海の中、海斗は前線でバーテックスを村正で切ってゆく。

だが切っても、切っても敵は湧いてくる。

 

「はぁぁぁっ!」

 

霊力を纏わせ次々と切断していく。

左右から来たとしても村正の力で薙ぎ払い、一体を刺して、こちらに来るバーテックスに投げてお互いに真っ二つにした。

すかさず、またこちらにバーテックスが迫ってくる。

 

「少しは、休憩とかさせろってのぉ!」

 

海斗はバーテックスの攻撃を避けてすれ違いざまに切り裂いた。

ある程度ここのエリアは片付けたのでマップで状況を見る。

若葉は相変わらず容赦ない強さでバーテックスたちを駆逐していく。

友奈の方は危うげなく拳で倒している。

千景は今まで以上に敵を殲滅していた。

杏と球子は一緒に行動していて援護をしている。

これならバーテックスは倒して何とか終わるだろう。

これまで何度もバーテックスの大群と戦い、四国を守り通してきたのだ。

たとえ敵が千体いようと、問題ない。

すると遠くから白い光が見えた。

 

「!寒っ。雪か?」

 

光が止めば次は周囲が吹雪に変わり始めた。

よく目をこらして見ればその中心に杏がいた。

どうやら切り札を使ったらしい。

 

「あのバカ.......何使ってんだよ」

 

自分で切り札を使うなと言っていたくせに使うとはこれ如何にと突っ込むが、そうえば杏は一度も精霊を使ったことは無いことを思い出した。

だからセーフなんだろう。

そしてその猛吹雪はバーテックスを容赦なく凍らせた。

杏が宿したのは氷に纏わる精霊の類いだろう。

これならバーテックスはある程度倒せるはずだ。

だが敵はそう易々と休ませてはくれないらしい。

吹雪が止めば瀬戸内海の方からバーテックスの大群が迫ってきた。

しかし、大群ならもっと良かっただろう。

通常個体から一体だけ異質な巨大な化け物が大群を率いていた。

 

「なんだ....あれ、サソリか?」

 

形は先端が尖った大きな尻尾に、不気味な液体を貯蔵していると思われる腹部。

あそこが器官なのならそこには毒がだろう。

そして、まず精霊を宿している杏が攻撃を仕掛けた。

通常個体は凍って砕け散る。

だが、そのサソリ型のバーテックスには何一つ効いていなかった。

攻撃されたバーテックスは尾を展開して杏の方に刺してきた。

杏はどうにか避け、体勢を立て直した。

だが、数分もすれば杏は輪入道と一緒に乗っていた球子と共にサソリ型のバーテックスの攻撃に吹き飛ばされた。

それを見た海斗は杏と球子の方に向かい跳躍して駆け出した。

このままでは全員がやられる。そう脳裏がチラついてしまった。

あのバーテックスは他の奴よりやばいと本能が知らせている。

 

 

「ッ!邪魔、何だよっ!」

 

道を塞いでくる通常個体を倒していく。

しかし数が多すぎて中々合流出来そうになかった。

早く行かなければ危ういというのに。

 

「そこを.....どけぇぇぇぇ!」

 

村正の力を最大限引き出して何とかバーテックスを次々蹴散らしていく。

切っていけば切っていくほど、体中は血まみれだった。

すれ違いざまにバーテックスの攻撃で腕と足や腹辺りがかすり傷になる。

それでも海斗は前に進むのを止めなかった。

どうにか抜け出せた海斗は走り続けながら杏と球子を探す。

するとサソリ型バーテックスが尾を使って何かを突いていた。

そこを見ると球子が動けない杏を守ってお互い応戦していた。

だがよく見れば球子の旋刃盤にヒビが入っていることに気付く。

 

「――ッ!間に合え!」

 

無我夢中に走った。間に合え、間に合えと心の中で叫びながら走る。

ふと、あの時の事を思い出す。

海斗が救えなかった人達の光景を。

それが重ねってしまったこと。

手を伸ばせ、助けるんだ!

もうあの時の光景は見たくないんだ!

そして、サソリ型の攻撃で球子の旋刃盤が砕けそうになろうとした瞬間。

海斗は球子と杏を押して針の軌道から逸らすように突き飛ばした。

だがその軸に入るのは一体誰か――それは決まっていた。

瞬間、海斗の腹部に激痛が走った。

 

「――ゴフッ」

 

口から血を吐き出す。

下を見れば腹部にサソリ型の針が刺さっていた。

両手で引き抜こうとしたが、流石に化け物の力にたとえ神樹の力を持った人間でも引き抜くことさえ出来なかった。

ふと球子と杏の方を見た。

 

「(――どうにか間に合った......な)」

 

彼女達の表情は困惑と絶望に満ちた顔になっていた。

 

 

「(そんな顔すんなよ.......)」

 

それはそうだ。

いきなり死角から誰かに押された衝撃を受けてさっきまで自分がいた方向を見れば仲間が刺されているのだ。

状況が理解出来なくてもおかしくはない。

 

「(声.....でねぇや)」

 

自分が今何を発しているのか分からない。

でも伝えなきゃいけない。

最後の力を振り絞って口を動かした。

たとえそれが酷になろうとしても。

 

「――ご.....め......さ.....く.....ぁ」

 

桜、見れなくてごめんと謝罪をしたが上手く言えたのだろうか?

次の瞬間。サソリ型に針を強く引き抜かれ腹部から血が吹き出し、吐血した。

直立も維持出来ずに海斗は前に倒れた。

誰かの声が聞こえた気がした。

そして他の人の叫び声も聞こえた。

だが何を言っているのか分からない。耳も聞こえなくなってきた。

手足の感覚が無い、視界も霞んできた。

ふと、過去の事が頭の中でフラッシュバックする。

千景と一緒に遊んだこと。

海斗が勇者になって仲間と一緒に戦ったこと、遠征で体験したこと。前にレクリエーションで模擬戦をしたことの色々な思い出が駆け巡る。

これが走馬灯かと理解した。

死にたくはないと思ってしまう。

だが、最後に誰かを助けれて良かったと心の底から思った。

そして瞳を閉じ、海斗の意識は闇に落ちた。

 

 

 

 





海斗が......死んだ?なぜだァ!(発狂)
まぁ、彼も杏と球子を守れて良かったと思いますよ(真顔)
腹刺されても生き返ると思うから大丈夫っしょ!
約束は必ず守る主義ですしね(震)
では次回またお会いしましょう!

次回。第19話:怒る炎は羽に舞う


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第19話:怒る炎は羽に舞う


どうもバルクスです。つい最近、身内が勇者シリーズの二次創作執筆したらしくて読んだのですが、いやぁ.......エグいねw
鬱の展開が好きな子でしてねそれに描写も良く書けてて想像出来ちゃうんですよ〜
自分はこう思いましたよ「コイツ、やりやがった」と。

さて、話はこの辺にしといて今回はタイトル通りです。
どうぞー!


 

意識を失っていた杏は目が覚めると頭を抑えて状況を確認した。

 

「あれ.....?私、確かタマっち先輩と一緒にサソリの進化体と戦って......」

 

精霊の力を使ったはずなのに、攻撃が一切効かなった。

あれは敵が勇者達の戦闘を通じて強化されていっている証拠だ。

だが今はそんな事を考えているほど杏には余裕がなかった。

そして杏は隣にいる球子の存在に気付き彼女の名前を呼んだ。

 

「タマっち先輩!良かった無事だったんだね!良かっ――」

 

杏は声を掛けるが、球子は反応しなかった。

それに微動にもしなかった。

様子が変だと思い球子の方を見てみるとそこには進化体に腹部を針に刺されていた海斗がそこにいた。

球子は反応しなかったんじゃない、出来なかったんだ。

だってそこには本来球子と杏がいたはずだったのに。

 

「え.....海斗さん、何で.......?」

 

杏は分かってしまった。

海斗が二人を庇った事を。

後悔が巡る。もっと上手く立ち回れたのではないかと、精霊の力を使うなと言わなければ良かったと。その後悔の念が積もり積もっていく。

すると海斗が顔をこちらに向いて、何かを呟いていた。

よく聞けばそれは謝罪の言葉だった。

 

「――ご.....め......さ.....く.....ぁ」

 

桜と彼は言ったのだろうか?.....それは花見の事だと思った。

桜を一緒に見れなくてごめんと残りの力を振り絞って海斗は言ったのだ。

 

「......ッ何言ってんだよ、カイトっ!お前、タマ達が許すと思ってんのか!何で.....何でなんだよ!何でお前がっ!」

 

今まで何も言わなかった球子が感情を爆発させ声を発した。

それは彼に届いているのか分からないが、もう意識がないと察してしまう。

すると次の瞬間、進化体が針を思いっきり抜くと海斗の腹部から夥しい血が吹き出した。

海斗は口からも血を吐きそのまま倒れた。

 

 

「い、いやぁぁぁぁ!海斗さんッ!」

 

「カイトッ!」

 

球子と杏の二人は海斗の名前を呼ぶが、今度こそ彼は返事すらも動作もしなくなった。

二人は顔を俯かせてしまった。

結局守られたのは自分たちの方だった。

精霊の使用を控えるように指示をして、球子に負担を掛けさせて挙句の果てには海斗を殺してしまった。

 

「あぁ......あぁ.....!」

 

すると背後から声が聞こえ振り向くと友奈が倒れている海斗を見て震えていた。

 

「うみ......くん......?だめ.......だめだよ、そんな......」

 

友奈がこんなにもなるとは思わなかった。

でも最近、友奈は海斗と少し距離が縮まっている時が多々あった。

大切な人を化け物に殺されればこうもなるだろう。

後悔と無力差でぐちゃぐちゃになりそうだった。

そして唇を噛みながら拳を強く握りしめ――

 

「くっ.......う.......うぅ.......ッ!うわぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!!」

 

友奈は怒りを爆発させ、バーテックスの方に飛び出した。

 

「バーテックスゥゥゥゥッ!!」

 

サソリ型に拳を叩き込むが、幾ら攻撃しても効いてはいなかった。

 

「よくも......!よくもぉぉぉぉ!」

 

だがそれは友奈には関係なかった。

ただ今はそのバーテックス自体が憎くて仕方がなかった。

初めて自分の本当の気持ちを理解してくれた人をあんな風にして、許せなかった。

サソリ型を殴り続けるとその中から通常個体が数体出てきて友奈を押し返す。

しかし友奈は意図も容易くそれを殴り倒す。

すると進化体にその隙をつかれて逆に友奈は攻撃を食らってしまい樹海の木に吹き飛ばされた。

だがそれでも高嶋友奈は止まらなかった。

 

「........っ!だぁぁぁぁぁ!ッ!!」

 

拳を木に何回も叩きつける。

憎い、殺したい、許さない、絶対に!

と内側から黒い何かが溢れ出るような感じがした。

でもそれは関係ない。

一目連の攻撃が効かないならそれに効くものを用意すればいい。

一目連の力を解除した友奈は意識を集中させ、神樹の概念的記録にアクセスしてそこから人に宿すには危険すぎる精霊を呼び出した。

 

「ッ!もう......命の、出し惜しみなんかァッ!来い――酒酒呑童子ぃぃぃぃ!!」

 

人の身に余る強力さ故に、使用を禁じられていた鬼の王の力を。

友奈の勇者装束が変化し、武器である手甲が強化されていく。

その形は少女の体に不釣り合いなほど過剰に巨大化した手甲。

それは歪であった。

 

「うぉぉぉぉぉ!!」

 

友奈は地面を蹴り、サソリ型の方へと跳躍した。

酒呑童子の力は、その巨大化した手甲が示す通り、破壊への打撃力に特化している。

友奈は恨みを込めるかのように進化体に、拳を叩きつけた。

 

「おぉぉぉぉぉっ!!」

 

拳を振った箇所は跡形もなく一撃で粉砕される。

先程までに精霊の力ですら通らなかった攻撃が友奈の宿した精霊によってついにその巨体の一部が破壊されたのだ。

だが、その強大故の力は肉体への負担を度外視にしていた。

以前大社は友奈に『酒呑童子』だけは絶対に宿すなと言われていた。

本来なら絶対使うまいと思っていた切り札中の切り札。

だが、彼女はそれを破り使用した。

果たしてその後、彼女の体はどうなるのだろうか。

友奈はバーテックスを殴れば殴るほど腕から血が滲み出て、出血していた。

しかし友奈は止まらない。

ひたすら目の前にいる敵を殴り続ける。

 

「ううぁぁぁぁぁっ!!」

 

友奈はサソリ型を破壊しながら、叫び続けていた。

喉が枯れるまで叫び、泣いていた。

だが、その背後には数百体にも及ぶ通常個体が友奈に接近していて、彼女がそれに気が付いたのがもう数メートルぐらいのことだった。

 

「ッ!!」

 

間に合わない。

間に合ったとしてもサソリ型が回復してしまう。

攻撃を止める?それだけはダメだ。あいつは海斗を殺した。

だから消えるまで殴り続けなきゃ、だって存在しちゃいけないやつなのだから。

友奈の中はサソリ型を倒すのにいっぱいで周りが見えていなかった。

本来なら通常個体でもなんらくに倒せるが、今回は出来なかった。

すると次の瞬間。

数百体いた通常個体が一瞬にして消えた。

そしてそこから影が通り過ぎると友奈の方に向かってきてその瞬間に抱き寄せれるような感覚に襲われた。

でもそれは暖かった。

 

「え......?」

 

わけが分からなかった。

いきなり何があったのか状況が理解出来ずにただぼーっと見ていた。

そして自分が誰かに背負われているのに気付きゆっくりとその人の顔を見るとそこには、サソリ型に腹部を刺され死んだと思っていた海斗がいた。

 

「うみ......くん?」

 

「よっ、友奈」

 

その青と白と赤の装束を着飾るその姿はまさしく空から姫を助ける勇者のようだった。

 

 

 

暗い、ここはどこなのだろうか?

ただひたすら闇の中に沈んでいく。深く底は無い。

サソリ型のバーテックスに腹を刺され、意識を失ってからあまり覚えていない。

多分だが、自分は死んだのだろう。

でも最後に仲間を守れて良かったと思う。

ならもうあの世でゆっくりと休むとしよう。

 

「もういいや。あとはあいつらに任せよう」

 

海斗はそう言い、目を閉じようとすると誰かの声が聞こえてきた。

 

――諦めるのですか?

 

「......何がだよ、俺はもう使命は果たしたよ」

 

――いえ。貴方はまだ、終わってはいませんよ。

 

「......何が言いたいんだよ」

 

――逃げ出すのですか?また貴方は。

 

誰だか分からない声に海斗は少々イラつきを覚えるが、淡々と応えていく。

 

「違う。ただ現実を認識しただけだ」

 

――誰かを救えたのなら貴方はこれを聞いても言えますか?

 

「何を......」

 

すると脳裏から誰かの叫び声と泣き崩れる人の声が聞こえた。

どれも知っている声だ。

 

「これは......」

 

――今現実で起きている事の結末です。

 

「なんで.......」

 

――確かに貴方は仲間を守ったかもしれない。でも、それが良い方に運ぶと思ったのですか?

 

謎の声は冷たく言葉を掛ける。

まさに正論だ。

海斗は後先考えず、ただ身代わりになっただけだ。

根本的な問題は何一つ解決すらとしていなかった。

ただ状況を悪化させていっただけだった。

 

――これを聞いても貴方は楽になりたいのですか?

 

誰かを守り、そして死んだ。楽になりたい.......そう思っていた。

誰かに認めて欲しかった。

自分がこの世界に生きて誰かの記憶に残っていることを願った。

そんな子供じみた事かもしれないが、海斗にとってそれが良かった。

小さい頃から周囲には『会社の息子』とでしか見て貰えず、特別扱いされてばっかだった。

だからこそ海斗は一人の人間として周りに覚えていて欲しかった。

そして脳裏にあの日が思い浮かぶ。

海斗と千景が初めて出会った頃の記憶。

この時はお互いに立場が違えど、人として見られていなかった。

そしてこの時、この瞬間に黒結海斗という人間は生まれたのだ。

初めて海斗の存在を認めてくれた少女――郡千景。

今までない接し方が毎日楽しかった事を覚えている。

そして今海斗は彼女を置いていってしまった。

それを思うと悔いが残ってしまう。

 

――もう一度問います。貴方は諦めるのですか?

 

謎の声が再び言ってくる。

心の中で諦めてたまるか、こんな所で死んでたまるかと本心が聞こえる気がした。

千景が悲しんでいる、友奈が悲しんでいる、大切な仲間が悲しんでいる。

なら生きろ。

どんな状況でも生きてみせろよ。

勝手な理屈や綺麗事で終わらせるな、死から足掻け。

そうだ、世界は残酷なんだ。

だからこそ人は足掻き続けるんだ。

海斗の目には闘志が宿った。

 

――もう大丈夫そうですね。

 

「ああ。俺は逃げない、今度こそ守りきってやる」

 

――死んでもですか?

 

「死んでも、また生きて、生き抜いて守り続ける」

 

――なら、ただ進みなさい。鋼の心で、風のように。

 

謎の声がそう言うとその空間から巫女服を着た少女が現れた。

海斗は目を大きく見開かせた。

それはかつて海斗を導き、救ってくれた彼女だったのだ。

また助けられてしまった。

これじゃあ頭も上がらない。

けど、これだけは言える。

 

「――ありがとうな、綾華(・・)

 

 

そして海斗の意識は白い空間に飲み込まれた。

 

「――うっ......」

 

意識を覚醒させると体には激痛が走って上手く声が出せない。

すると隣には球子、杏、千景、若葉がいた。

彼女らがこちらに気が付くと皆驚いた表情をして動かなかった。

それはそうだろう、本来死んでいるような傷なのに意識があって目を開けているのだから。

すると先に球子が声を発してきた。

 

「.......あ、あぁ.......!カイトっ!良かった、良かったぁぁぁ!」

 

球子が海斗の体に抱きつくが流石に痛すぎて何も言えずに腕で彼女を剥がして、杏に任せた。

杏の方も涙を流しながら何か言おうとしたが、状況を察して何も言わないでくれた。

ついでに球子を抑えてくれもした。

千景は杏より重症で涙を流しながら、今すぐにでも海斗を殴りそうな勢いで迫ってきそうだった。

若葉が止めていなければ多分またあの世の狭間に行きそうだった。

少し自分の状態を見た。

体はまだ動く、それならいいと海斗腕を動かして起き上がる。

まだ出血が酷く足がまだおぼつかないが、海斗は意識を集中させた。

 

「.......宿れ、鳳凰」

 

海斗は体に鳳凰を宿し腹部に空いた傷を瞬時に再生させていく。

傷が塞がると鳳凰を解除して球子達の方に向き直った。

 

「迷惑かけてすまん......ちょっと状況を確認してもいいか?」

 

球子から海斗が意識を失ってからのことを軽く説明してれた。

海斗がサソリ型に刺されて友奈がそれを見て酒呑童子を宿した。

何か言おうと思っても、掛ける良い言葉が見つからなかった。

 

一度生きることを諦めた身でありながら海斗は頭を下げた。

謝る資格はないと思いつつもせめてのけじめとしてやった。

そして球子は拳を震わせて口を開いた。

 

「.......タマは許さない」

 

「.......」

 

「勝手に庇って、勝手に死んで......タマは気が気じゃなかったぞっ!」

 

不満をぶつけるかのように球子は言い続ける。

海斗は何も答えなかった。

反論も弁明すらもしなかった。

ただ球子の言葉を受け入れるだけだった。

 

「......私もタマっち先輩と同じです」

 

球子の後ろで杏も話を始めた。

 

「私たちが食らうはずだった攻撃を海斗さんが代わりにもらって私は胸が痛かったです」

 

「......すまん」

 

「それは何回も聞きました。海斗さん、約束しましたよね?バーテックスを倒した後に絶対お花見をするって......あれは嘘だったんですか!」

 

杏の瞳には涙がこぼれ落ち、地面に染みを作る。

彼女の言い分は最もだ。約束をしたはずなのにそれを破り勝手に死のうとした。

たとえ海斗以外全員生きて帰って来れて花見をしたら果たして皆は笑えて楽しめているのだろうか?

だが、それは絶対にない。

一人欠けたらそれは花見とは言えなかった。

球子と杏を交互に見る。

二人とも涙を流してこちらを見つめていた。

あぁ.....結局悲しませてしまった。

どうしたら罪を償えばいいのかどうしたら彼女達は笑ってくれるのだろうか。

なら、今出来ることをやればいい。

 

「......許せとは言わない。けど、今は......行かせてくれないか?」

 

「また、あんなことになるかもしれないのに行くんですか!」

 

「あんずの言う通りだっ!カイト、お前はもう休んでろ!」

 

「それでも、行かなくちゃいけない」

 

「それはバーテックスを倒したいからですか?それとも自分のために行くんですか?」

 

海斗を行かせることを拒んだ杏と球子。説得をしようとしても彼は止まらなかった。

杏に問われた。何故そこまで行きたがるのか、死んだ思いをしたのにどうして立ち上がれるのかと。

だって――

 

「約束したから」

 

海斗は微笑んだ。こんな状況でもバーテックスはまだ残っている。

なら行くべきだ。

今度こそ守るために。

 

「......分かりました。貴方を信じてみます」

 

「あんず!?」

 

「ありがとうな......」

 

「必ず帰ってきますよね?」

 

「勿論だ」

 

「なら、行ってらっしゃい......気を付けて」

 

「カイトっ!」

 

「ん......」

 

「絶対帰ってこいよ!絶対だからなっ!!」

 

杏と球子に言葉を貰いやる気に満ち溢れる。

誰かが信じてくれるならきっとなんだって出来る。

今の状況を見てみれば相当時間が経っているはずで時間が過ぎれば過ぎるほど手がつけられなくなる。

まだサソリ型も存在している。

なら早く行かなければ。

そして海斗はバーテックスのいる方に体を向かせ村正を呼び出す。

霊力を纏わせ準備を済ませる。

 

「........待って.......海斗........!」

 

今まで何も言わなかった千景が海斗を止めた。

その赤い瞳は揺れていた。

行ってほしくないと止めた。だけど千景が何を言っても彼は止まることはないだろう。

だからこそ彼にはここで止めなくちゃいけない。

次は絶対に無いのだから。

そして海斗は行く前に千景に伝えないといけないことがあった。

 

「ちーちゃん.....俺はもう、自分のせいで誰かが傷つくのはいやなんだ」

 

「......いや、いやよ!私達の精霊の力でも敵わなかった相手に海斗が生きれる根拠が......ないじゃない!」

 

「それでも、俺は行かなくちゃならないんだ」

 

あのバーテックスには精霊の力が通用しなかった。

でも行かなくちゃならない。攻撃が効かなくても諦めたりしたら今まで戦った人達の魂すらも報われない。

例え自分が耐えれてもそれが大切な人達に被害が合えば耐えられない。

だからこそ守らないといけない、今度こそ。

そんな泣きそうな千景を海斗は抱きしめた。

子供をあやかすように優しくゆっくりと。

 

「......いか.......ないで......私を一人に.....しないで」

 

「......ちーちゃん、俺は君を一人にしないよ。絶対に」

 

「本当.......?」

 

「うん。約束だ」

 

「.......死んだら私も後を........追うわ」

 

瞼を腫らしながら千景は海斗を見つめる。

重い言葉を言うが目を見れば本気でそう思っている。

 

「それは、嫌だなぁ」

 

「なら.......生きて帰ってきて」

 

「約束する。必ず君の元に帰るって」

 

そして海斗は千景から離れて駆け出した。

また彼女を悲しませてしまった。

罪悪感はある。 けど、信じて待つと言ってくれたのだ。

必ず帰ると彼女に約束したのだから。

ある程度進むと通常個体のバーテックスが口を開けながら迫ってきた。

それを村正で切り伏せる。

その次の個体も同じように切る。

 

「はぁぁぁぁぁ!」

 

バーテックスの攻撃を掻い潜ってやっとサソリ型の近くまで来た。

そしてそこには酒呑童子を宿した友奈がサソリ型バーテックスと戦っていた。

よく見ればサソリ型は友奈が放った拳であらゆる各所が破壊されていた。

 

「すごい力だな......」

 

友奈が宿した酒呑童子の力に驚愕する海斗だが、このままいけばあのバーテックスは倒せるだろう。

しかしその背後で数百体の通常個体が友奈に接近していた。

 

「――!?ッやらせるかぁ!」

 

この光景にデジャブが起こる。だけど今度こそは自分も守り通してみせる。

だって、帰りを待ってくれている仲間がいるから。

そして海斗は村正の力を最大にして数百体の通常個体を纏めて切り裂いた。

その隙に友奈を背負って一旦サソリ型から距離をとった。

 

「うみ......くん?」

 

「よっ、友奈」

 

すると友奈がこちらに気付くと信じられないような顔でこちらを見つめていた。

海斗はそんな事お構い無しに笑顔で言葉を返した。

心の中では何とか間に合ったと安堵した。

 

 

 

友奈は困惑していたが、海斗は彼女に微笑みながら声を発した。

 

「な、なんで......だって、さっき......」

 

友奈は海斗の腹部を見るとそこには貫通されたであろう痕跡が残っていた。

しかし、海斗の腹部にはその跡すらもなかった。

 

「正直俺でも奇跡だと思ったけどな、だけど俺はこうして生きている。本当に迷惑かけたな」

 

友奈に謝罪をする海斗は空いている手で彼女を撫でた。

その手の温もりが今の友奈にとっては嬉しかった。

すると目元が熱くなるのを感じて咄嗟に海斗に抱きついた。

 

「......うっ......ひっぐ......ばかぁ!うみくんのばかぁ!」

 

「うぉ!?いきなり泣くなよ!」

 

「うみくんのせいだもん!」

 

「あー......ごめん」

 

友奈がこんなにも海斗は思っても見なかった。

けど、仲間や友達を大事にする彼女は誰かが死ぬのは耐えれなかったのだろう。

 

「うみくん.......」

 

「ん?」

 

「もう.......離れないで」

 

「.......分かったよ」

 

友奈からそんな言葉が出るとは思ってもいなかった。

すると友奈は安心したのか海斗に体を預けるように眠るように気を失った。

どうやら相当メンタルにきたのだろう。自分が満身創痍になりながらも体を張って戦い続けた。

海斗はそんな友奈の勇気を賞賛した。

そしてあのバーテックスだけは絶対に許さないと心に決めた。

サソリ型と距離を取ってから友奈を安全な場所に移動させるとそこには若葉と千景、そして球子と杏がいた。

 

「ちーちゃん、友奈を頼む」

 

「......分かったわ」

 

後の事は千景に任せて海斗はすぐさまサソリ型の方へと跳躍した。

サソリ型の方へと着けば完全では無いが再生が完了しそうな所まで回復しきっていた。

 

「よぉ.....さっきは随分世話になったなぁ......」

 

海斗はその巨大な化け物に恨みをこぼすように口を開く。

 

「お前のせいで球子も杏も友奈もちーちゃんも若葉にも迷惑掛けさせたんだ」

 

村正をサソリ型に向けて海斗は言い続ける。

 

「お前に『死』という、概念があるかは知らねぇけどよ......」

 

そして海斗を中心として周囲の空間が揺れた。

 

「.....そう簡単に――消える(ぶっ壊れる)んじゃねぇぞ?」

 

海斗は意識を集中させ神樹の概念的記録にアクセスをした。

そこから酒呑童子と同等の精霊を自身に宿す。

かつてその生き物は空を飛ぶことを夢見て綺麗な翼を羽ばたかせ、夢叶わずに散った負の象徴。

死んだ後も後世に語り告げられなくその怒りで自身を焼き、人の世を恨んだ。

その名を――

 

「来い――孔雀!!」

 

呼応するかのように周囲に紫の炎が現れ、海斗を包む。

そして海斗の勇者装束が緑と赤の色になり、背中からは尖った形をした翼と炎の羽が付いている。

頭からも二本の炎のように揺らめく角が現れその姿は鬼と化した異形の姿だった。

そして村正の形も少し変わっている。

 

「根性を.....みせてやるよ」

 

サソリ型に海斗は全ての怒りをぶつけるかのように駆け出した。

人間が小さな力でも根性で化け物に敵う、この瞬間を魅せるように。

 

 

 

 

 





海斗君覚醒会でした。
本当に何で体貫かれて空洞出来てるのになに平然として生きてんだこいつ.......生命力どうなってんだ........


因みにここで海斗が使っている精霊の『孔雀』ですが全くもってオリジナルです。
モチーフには機動戦士クロスボーン・ガンダムゴーストに出てくる『ファントム』を意識して書きました。
それに『鳳凰』も元はゴーストガンダムですしねw
詳しくはwikiかpixivでお探し下さい。


さて、次回はサソリがボコられ会です。
戦闘描写頑張ります!
それではまた次回にお会いしましょう!さよなら!

次回。第20話:炎を揺らめきて幸となる
 


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第20話:炎を揺らめきて幸となる


どうも最近また新たな身内がゆゆゆの小説を書き始めたとの事なので楽しみで朝しか寝れないバルクスです。
色々増えて僕はうれしいぞぉ!!
さて、今回は海斗君の戦闘会です。
本編どうぞ〜



 

「どうした?その程度かぁッ!!」

 

サソリ型に煽りながら村正を振り続ける。

四方八方に斬撃が飛び交う中で徐々にサソリ型の外皮を削っていく。

これが精霊の中で禁止とされていた力。

普段勇者たちが使っている精霊とは破格が違う。

その力は先程まで勇者たちの攻撃をものともしなかったサソリ型に確かに攻撃が効いていた。

ただし――その大いなる力には常に代償が付き物だ。

村正を振れば振り続けるほど、海斗の腕に血が滲んでゆく。

『孔雀』は強すぎる力ゆえに肉体への負担が考慮されていない危険な精霊なのだ。

それを海斗は自らの意思で使った。

もうこれ以上誰も失わせないようにと。

するとサソリ型の針がこちらの方に刺そうとばかりに向かってきたいた。

それを海斗は咄嗟に回避し、その尾に着地して距離を詰めた。

 

「あっぶねぇ.......なぁぁ!」

 

体中あらゆる箇所が悲鳴をあげている。

出血も酷い。

だが――

 

「それがどうしたぁぁぁぁ!!」

 

そんなの海斗には関係なかった。

ここで逃せば確実に負けて皆死ぬ。

そんなのはごめんだ。

 

「根性を........見せてやるよぉぉぉぉ!」

 

サソリ型に接近し、その象徴たる針の尾を村正の力を振るって切断した。

尾が切られた事で暴れ出すサソリ型だが、咄嗟に海斗が上に飛び村正の力を使ってこれを沈黙させた。

 

「いい加減、さっさと死にやがれぇー!!」

 

孔雀の力と村正を使って本体を真っ二つ切り裂いた。

そしてサソリ型は形を保てず粒子になって消え去った。

 

「........」

 

海斗は辺りを見回すと周囲にはもうバーテックスはいなかった。

宿した精霊を解除して海斗の勇者装束は元に戻る。

しかしその至る所には穴が空いていたり、切り裂かれた跡もあった。

 

「守れたんだな.......」

 

海斗は顔を上に向きながら呟く。

精霊を解除した瞬間に海斗の体は鉛のように動かなく、両手すら血まみれになっていて感覚すらなかった。

意識もぼーっとしてきた。

また自分は死ぬのだろうかとそんな思いが心を揺らす。

 

「海斗っ......!」

 

ふと、背後から誰かの声が聞こえてきた。

振り向くが視界が霞んで上手く見えない。

けど、誰だかわかった。

 

「........ちーちゃん」

 

千景が海斗の方に向かってくるのが見えた。

海斗は鉛のように動かない体に鞭を打ち、動かす。

上手く動けているか認識すらも分からない。

 

「かえ.....ら......な......い......と」

 

戻らなければ.......彼女の元に、もう一度。とそんな思いを抱きながら海斗は歩き出す。

どんなに遅かろうが、どんなに足を引きずろうとも。

絶対に。

 

「――あ......」

 

足を上手く動かせないせいで躓きそうになる。

だが、直後に千景が海斗を抱き抱えるように支えて転びずにすんだ。

けど、今はその温もりがとても愛おしかった。

 

「(そっか.......今、抱きしめられてるんだ......)」

 

「海斗!しっかりしなさい........!」

 

千景の顔を見れば不安と絶望が混ざった表情で強く呼び掛けている。

また悲しませてしまった。

それだけが悔やまれる。

目を開くのも限界になってきて海斗はゆっくりと瞳を瞑ってしまう。

 

「いや.......いや.......いやっ!海斗.......!」

 

「.......ごめ.....ん」

 

「だめ......だめよ........っ!お願い、死なないで.......!海斗!!」

 

千景の叫び声を聞いたのを最後に海斗の意識は闇に沈んだ。

 

 

 

 

 

次に目を開ければ知っている天井が広がっていた。

微量な消毒液の匂いで一定の音を鳴らし続ける心電図。

そうか、ここは――

 

「病院......か」

 

それを認識すればまだ痛む体を起こして辺りを見渡す。

中は殺風景でここは本当に病院なんだなと理解してしまう。

 

「痛っ......」

 

腕は動く、指も痛むが普通に動いた。

包帯はがっちりと巻かれており、痛々しさが目でわかる。

足の方も同じなのだが、あの時の鉛のような重さは感じられなかった。

近くにある時計で時間を見れば午後一時を過ぎていた。

すると扉の方からノックが聞こえその瞬間に扉が開かれるとそこから友奈と千景が中に入ってきた。

 

「うみくーん!入るよー!」

 

「......高嶋さん、静かにね?」

 

「あ、えへへ......」

 

友奈に静かに入れと注意する千景。それを友奈は申し訳なさそうに笑う。

そんなことを言いながら二人は海斗の方に視線を向けると目を細めてしまう。

そして目が合ってしまい、このままではいけないと思い海斗は手を上げて口を開いた。

 

「よ......よう?.......元気.......か?」

 

だがそれをしても一向に空気は変わらず、寧ろ澱んでいった。

すると突如、友奈と千景は互いに瞳から涙を流し始めた。

 

「ちょ、ちょっと待て!いきなり泣くな!あーもう、どうすればいいんだ......」

 

その姿を見た海斗は肩を震わせてどうすればいいかと考えるが、何も案が浮かばなかった。

そんなことを考えていれば間髪入れずに友奈と千景が海斗の方に向かって抱きついてきた。

 

「うみくんっ!良かった、良かったよぉ!」

 

「ばか......アホ!嘘つき.......!」

 

「.......」

 

正直何も言えなかった。

何回彼女達を悲しませれば気が済むのだろうか。

これで病院に入院するのは三回目だと思う。

友奈は強く離さないように背中に手を回して、千景の方は罵倒を言いながら海斗の胸に顔を埋めている。

結果的に二人は海斗に抱きついていた。

まだ病人だがこのぐらいは何ともない。

 

「本当に......ごめん」

 

二人に謝り、その後に状況を聞けば海斗は二週間眠っていたらしい。

どうやら孔雀を長時間宿しすぎてその影響で体力を持っていかれたとのこと。

それなら何故友奈は酒呑童子を宿したはずなのにそんなに元気なのかと聞いてみれば、そこまで使っていたわけではなく、一時的だったため、腕の軽傷で済んだと言う。

海斗は謝罪した。

他に掛ける言葉も見つからず、ただ謝ることしか出来なかった。

それを二人首を横に振った。

許すつもりはないという証。

 

「俺はどうすればいい?何か俺に出来る事があれば何でもする」

 

海斗のその言葉に友奈と千景は反応を示した。

やがて顔を上げると何故か頬は少し赤くなっていた。

 

「じゃ、じゃあ.......今度私とぐんちゃんと一緒に、お出かけしよ?」

 

「そんなんで良いのか?」

 

「いいんだよ。だって......そのぉ........で、デートなんだし.......」

 

最後の方はブツブツと言って聞こえなかったが、別にいいだろう。

なら、彼女が楽しくなれるようにプランを考えることにしよう。

そして千景の方を向いて海斗は声を発する。

 

「ちーちゃんは何かある?」

 

「そ、そうね.......じゃあ――」

 

千景は悩みに悩んであることを思いついた。

 

「今度.......私に何でもいいからプレゼントして」

 

千景からその言葉が出るとは思わなかった。

昔から千景は欲しいものは自分で揃える人なので基本的には言わなかった。

最後に聞いたのは彼女の誕生日とクリスマスの時だけだろう。

 

「プレゼント.......なんでそんな極端な?」

 

「.......海斗が悩むところを見たいから.......かしらね?」

 

「悪女すぎるだろ!?」

 

突っ込みを入れるが千景は「冗談よ」と笑いながら言った。

 

「じゃあ.......お願いね。......楽しみに待ってるから」

 

「.......誠心誠意でお選び致します」

 

勿論、断ることはしなかった。

自分があらゆることをもってして千景のプレゼントを決めようと心に決めた海斗であった。

それから三十分ぐらい話をして友奈と千景は病室を後にした。

二人が退席した後にナースコールを押して医師を呼び、検査に入った。

大体、体感四十分ぐらいで終わり海斗は自身の病室でのんびりと過ごす。

換気のため窓は少し空いておりそこからはもうじき散りそうな桜の木が植えてあった。

 

「結局......花見、出来なかったな」

 

約束をしたのに今は出来ないというのがとても残念だ。

出来れば来年にもやりたいが、果たしてこの先まだ世界があるかどうかも分からない。

このまま戦い続けていけば必ず誰かは死ぬ。

それだけは嫌だった。

誰かが欠けてする花見は絶対に楽しい気分にもならないはずだ。

だからこそもっと力をつけて有事に備えなければならない。

 

「でも、この腕の包帯が取れないとそれすらも出来ないしなぁ.......」

 

見れば見るほど痛々しく思うこの手。

仲間を守るために精霊の力を使い、代償として体にダメージを負った。

だがその前に本来ならサソリ型に刺されて死ぬはずだった海斗は何故か生きている。

これが運だとしたら奇跡に近い。

それか、神樹が勇者システムを通じて少しでも回復させようと恵を与えてくれたのだろうか。

それは分からない。

でも生きているのならそれは嬉しかった。

すると扉からノックする音が掛かってきた。

 

「どうぞー」

 

海斗が入室許可して扉が開かれた。

 

「よ、よう......カイト」

 

「.......お、お邪魔します」

 

扉から出てきたのは球子と杏だった。

どうやら先程来た友奈たちから海斗が目覚め事は聞かされているのだろう。

そしたらこんなに落ち着いてはいないのだから。

まぁ、まだ面会が出来る時間帯なので、他に誰かが来るのは当たり前なのだが。

 

「よう、二人とも。怪我の方は大丈夫なのか?」

 

「タマは骨にちょっとヒビが入ったぐらいだけど、勇者の姿をした時にその治癒力でほぼ治ったぞっ!」

 

「私の方は左腕に毒を貰ってしまって......まだその痺れが残ってますが、あと一週間には回復すると病院の先生にいわれました」

 

球子は杏を守るためにサソリ型の針を何回も旋刃盤で受け止めており、両足、両腕の骨にヒビが入ったのこと。

だが、勇者装束着ていたお陰でその治癒力である程度は治ったという。

杏の方は球子に守れて外傷はそこまでないが、左腕にサソリ型の針を受けて毒を貰ってしまい、少し痺れがあるとの事。

しかし、球子と杏は病室に入った後に何故かそわそわしている。

少し気になって海斗は声を掛けた。

 

「.......どうした?二人でそんなにそわそわして」

 

「あ、いや.......そのぉ......」

 

「え、えーと.......」

 

「.......?」

 

二人の少女に聞いてみても言葉が詰まるばかりで発することさえしなかった。

 

「......もしかしてだけどさ。俺が刺された事で負い目を感じてる?」

 

海斗がそう言うと球子と杏は肩をビクッと震わせた。

どうやら図星らしい。それを確信した海斗はため息を吐いて、言葉を続けた。

 

「あれは、お前らが気にすることじゃないぞ?」

 

「でも、タマが早く杏を助けに行ってればお前が刺されるずに!」

 

「それは違うよタマっち先輩!私が精霊の力を使わないでって言ったのが悪いんだよ.......私のせいで、海斗さんが.......」

 

気にするなと球子と杏は言っても自分が自分が、と言い続ける。

仲間が死にそうになって、挙句の果てにはその仲間に助けられてあのバーテックスを撃退出来たのだから。

全く、皮肉な話だ。

それを彼女たちは負い目に感じている。

怖いのだろう。また誰かが殺されそうになるんじゃないかと。

二人をよく見れば手が微かに震えているのが分かる。

あれで隠しきれているのかは怪しいが、別に気にする事はないだろう。

 

「.......分かった。お前らは要するに、俺に罰を受けたい訳だな?」

 

海斗が言うと首を縦に揺らして頷く。

全く。つくづく思うが、どうして球子や杏に若葉、その他勇者たちはここだけ不器用なのだろうか?

気にするなと言っても何かされないと気が済まないというのが、なんとも体に身震いを起こさせる。

だが、その意思を汲み取るように海斗は再び口を開いた。

 

「なら、罰をこれからお前らに言い渡す――」

 

「何でも、言ってくれ。タマたちが出来る事は何でもするっ!」

 

「わ、私もです!それが私にとって戒めになるのならどんな事でも......」

 

二人はとっくに覚悟はしていたらしい。

よく見れば目がそうと語りかけている。

あまりこうゆうのは苦手だが、やるしかない。

そう心に決めて深呼吸をした海斗は口を開く。

 

「――俺や勇者たちがこれ以上無茶しないように守ってくれないか?」

 

「「――え.......?」」

 

海斗の予想外の言葉に杏と球子の二人は困惑してしまう。

それもそのはず、とても重いものを課せられると思ったが、それが仲間の守護をしろと言われたのだ。

目が点になってもおかしくは無い。

 

「ちょっ、ちょっと待ってくれ!タマたちは――」

 

「......んだよ?これぐらいなら罰にも入るだろ」

 

「いやいや!もっと重いものかと思ったぞ!というか、それでいいのかお前はっ!」

 

「タマっち先輩、落ち着いて!」

 

「これが落ち着いてられるかぁっ!」

 

球子が海斗の言葉に突っ込むが、それを海斗は話を流すぐらいに切り上げようとする。

それに対して杏は球子をなだめようとしている。

 

「さっきも言ったけど、俺は別に気にしてない」

 

罰と言ってもそんな酷な事をしたくない。

甘いとは思うが、責めるところなんて何一つないのだから。

だって、まだ子供なんだ。

やりたくない事をさせられて化け物と戦わされる。

そして最後は自身の夢を叶わずまま朽ち果てて死ぬ。

理不尽で不条理。そんな対比など比べることさえないのだ。

だからこそそんなんで責める道理などない。

 

「だからさ.......そんな顔すんなよ。お前らは二人で笑ってた方が良いんだから」

 

正直、暗い雰囲気より明るい方がいいのは誰しもそうだ。

二人の表情は申し訳なさと後悔でむず痒かった。

海斗は明るく笑ってみせる。

せめてでも優しく振る舞えるように。

すると球子と杏は互いに涙を流した。

それは悲しみではなく、歓喜に満ち溢れているような涙だった。

 

「お、おい?そんな何で泣くんだよ!?」

 

「うぅ......ぐずっ.......ほんっと、お前は優し過ぎるんだよぉ......!」

 

「........ぐすっ.......嘘でも、いいのに......どうしてあなたは......うぅ......」

 

泣いているせいで纏められないのか球子と杏は海斗の言ったことに文句を垂れるかのように言う。

そして落ち着いてから二人は声を発した。

 

「でも......ありがとうなっ.......!タマとあんずのことを守ってくれて」

 

「あの時はどうしても感謝しきれないですけど......本当にありがとうございました!」

 

改めて海斗に感謝を言う球子と杏。

それはとても嬉しかった。恥ずかしいがそれは海斗が誰かを守れた事の証拠で命を懸けるには割に合うぐらいには良かった。

けして褒められることではないが。

結果的には誰かを悲しませたのは事実だし、一回死んだと断言出来るぐらいの感覚が海斗に襲ったのだ。

あれは二度と味わいたくは無い。

球子と杏の言葉に頬から脂汗を浮かばせた海斗は苦笑する。

 

「どういたしまして」

 

その後は面会時間が過ぎるまで話し合って、出来なかった花見を来年にしようと再び約束を交わしたりもした。

そんな一日が今日も明日も続けばいいなと思った。

だが、奴ら(バーテックス)は待ってくれない。

この時も何か新しい進化体を作って攻めてくる準備を進めているだろう。

ならその時までには回復させなければと海斗は思った。

絶対に奴らから何もかも奪わせないように。

 

 

 

 

海斗の見舞いを終えた千景は寄宿舎にある自室に戻り、パソコンを起動していた。

いつも暇な時にネットサーフィンや動画を見るが、今日はニュースや今起こっている事を情報確認するためだ。

そこには勇者を賞賛する記事やニュースの記事も書かれていた。

ネットでも勇者を賞賛をしてくれて応援してくれる人も数々いる。

と、千景はトレンドにあるものを見つけてしまった。

『勇者炎上』という不吉なものが載っていたのだ。

それをマウスでクリックすれば千景は驚愕した。

 

「.......え......?」

 

見なければ良かったと後悔するが、千景は目をモニターから目を離せなかった。

勇者を賞賛する声もあるが、まったく異なる声もあることに。

大社は情報をいつ流したのか分からないが、一部の者が噂話のようにその事を話しているのだ。

 

『聞いてくれよ。新しいタイプの化け物が出てきて、まったく歯が立たずに勇者の一人が入院してるんだってさ』

 

『入院したのは黒結 海斗。』

 

『黒結 海斗?あー!あの一人だけ男で勇者になってるやつか』

 

『そそ。そいつがやられたんだと』

 

『そういや、アイツ、ブラック・コネクト社の息子らしいぜ』

 

『うわぁ.....好待遇の御曹司かよ』

 

『はーつっかえねぇ〜勇者でハーレム作って偉いやつの息子なんだったら化け物にでも勝てっての』

 

『ソイツ本当に役に立たねぇな』

 

『そういや、この前凄い竜巻あったじゃん?あれってその新しいタイプの化け物のせいらしいよ』

 

それは勇者達が戦ったサソリ型のことを言っているのだろう。

それをネットの民は好き放題言っている。

特に千景が許せなかったのは海斗の口こみが酷いものだったからだ。

彼は死にそうになっても立ち上がってバーテックスを撃退させたのだ。

それなのにどうしてこんなことを言われないといけないのか。

 

「何も.......知らないくせに.......!」

 

コメントを見れば見るほど過激になっているものもあった。

 

『俺たち守れてねぇーじゃん勇者』

 

『所詮この程度』

 

『特に海斗てっやつ』

 

『ソイツ絶対ヤリチンだわ』

 

『それな』

 

『俺は前から言ったんだがな。勇者なんて役に立てねぇってな』

 

『使えねぇ』

 

ネット上に溢れるそれらの言葉を見ながら、千景の手が震えていた。

 

「なん......で、なのよ.......」

 

四国の人々を守るために、命を懸けて戦っているというのに、それなのに――

どうしてお前らはそんな事が言えるのだと、千景は画面越しに睨みつける。

何も知らないくせに、何も出来ないくせに、何もしないくせに。

 

「........寄生虫のくせに......!」

 

まだ千景が言われるのはいい。

だが、命を懸けて戦った海斗は報われないことが許せなかった。

今までずっと勇者の中で海斗が頑張ってきたのだ。

四国に来るのもそうだが、彼は勇者達の精神的な柱にはなっていた。

見えないところで支えているというのに。

何で海斗に賞賛ではなく、罵倒と迫害なのか。

 

「どうして.......どうして!」

 

千景は歯が折れるぐらいに口を噛み締める。

 

「......どうして海斗を.......認めてくれないの!」

 

そいつの住所や所在が分かってたら直ぐにでも殺してやりたいぐらいには千景の腹は煮えきっていた。

いつまでこんなことを言われないといけないのか。

今の彼女には分からなかった。

 

 





おめぇ海斗何回入院して千景ちゃんを悲しませてんだゴラァ!
自己犠牲神がやばすぎてこの先怖いよぉ!(書いてる主がそれを言うか?)
まぁ、あんたまを救えたからヨシ!
後悔はない!

さて、次回はあの会ですかねぇ〜

ではまたお会いしましょう!さよなら!


次回。第21話:伸ばすものは落ちてゆく



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第21話:伸ばすものは落ちてゆく

どうもバルクスです。
最近身内と創作雑談してるんですが、話が重すぎてやばいです。
なんで君達そんな事書くの?(建前)
もっと流行れ(本音)

では本編どうぞ〜


 

季節はもう五月中旬。海斗が入院してから既に一ヶ月近くが経とうとしていた。

両手に巻かれていた包帯は外れて、足の方は歩けるようにはなって今はリハビリに専念している。

 

「よっ、ほっ、と........」

 

病院にいたためか筋力と体力が著しく衰えており、これではバーテックスとの戦闘で支障を来すと思い、毎日病院の施設の中にある機能訓練室で感覚を取り戻そうとしている。

手すりに掴まりながらゆっくり、またゆっくりと足を前に出して歩く。

 

「ふぅ......これで目標クリアっと」

 

それを三周に懸けて動き続ける。

そして目標が終わった海斗は付近に置いてあるスポーツドリンクを手に取りそれを開けて口の中に流す。

額から頬に懸けて汗を垂らし床の一部に染みを作る。

 

「んくっ......ごくっ......ぷはぁっ......生き返るぅ〜」

 

運動をすればさらに美味くなる。

それに酸味と甘さが均等になって飲みやすいし気付けば全部飲み干していたぐらいだ。

海斗は飲み干したスポーツドリンクを近場のゴミ箱に入れ、汗をかいた体を病室から一緒に持ってきたタオルで拭き取る。

 

「そろそろ......退院、出来っかな」

 

前に球子と杏はサソリ型の攻撃で怪我を負ったのだが、軽度で済んで今は普段通りに授業と勇者の訓練をしている。

海斗が入院してから体力を元に戻すために毎日通っているが、今日まで一度も医師からも退院通知が来ていない。

ただやけに多いのは検査の方だ。

その姿を見た海斗は肩を震わせてどうすればいいかと考えるが、何も案が浮かばなかった。

すると、機能訓練室の入口から誰かが来る気配がしたのでその方向を見ると案の定、誰かが扉を開けて入ってきた。

 

「邪魔するぞ海斗」

 

「失礼しますね」

 

扉から出てきたのは制服を着た若葉とひなただった。

 

「ん、よう若葉、ひなた」

 

海斗はタオルを首に掛けると二人の声に返事をした。

 

「どうした?この時間帯に来るなんて。まだお前ら授業中だろ?」

 

「そこは問題ない。今日は早めに切り上げて貰ったからな」

 

「ふーん......」

 

時計を見ると午後の十二時半を回ったぐらいだった。

丸亀城からこの病院までの距離はそんなない。

海斗は若葉の言葉を興味なさげに聞いているとひなたが口を開いた。

 

「今日ここに訪れたのは海斗さんの退院が決まった事を伝えに来たんです」

 

「本当か!」

 

それを聞けば海斗はひなたの方に向き驚いた顔をして声を発した。

 

「退院日はいつなんだ?」

 

「今日だ」

 

「は?今日なのか?」

 

「ああ。本来は一週間後だったんだが、状況が変わってな......」

 

自身の退院出来る日にちを聞いたが若葉は苦い表情した。

ひなたの方も見ると彼女も暗くなっていた。

何かあったのは明白だ。

そしたらいきなり間を開けずに退院する許可なんて普通はないのだから。

 

「――何があったか聞かせてくれ」

 

海斗は若葉に事情を聞いた。

 

 

 

海斗が退院して、学校に登校出来るようになってから三日経った頃。

大社から一つの任務が勇者たちに言い渡される。

瀬戸内海上で形成されつつある進化体バーテックスを討て、というものだった。

これが、海斗が退院前に若葉に聞いた話の内容だった。

今、若葉、友奈、千景、海斗が勇者装束の姿に変身して、瀬戸大橋の上に立っている。

 

「こういう任務って珍しいね。今までは四国に入ってきた敵を倒せってだけだったのに」

 

「そうだなー。タマもいきなり外にいるやつを倒すってのはぶっタマげたぞ」

 

「確かにそうですね......でもバーテックスがいる以上、やるしかないですよね」

 

「そうね......敵は早く倒した方が早いわ。あの時の二の舞には.......なって欲しくないもの」

 

「ちーちゃん、その目で見ないでくれ。俺も好きにやられたいと思った訳じゃないから......」

 

友奈が怪訝そうに言ってそれに球子が同調し、杏は下を向きながら言い、千景は海斗を見て表情が暗くなりながら言う。

それを海斗は宥めつつ突っ込みを入れる。

 

「はぁ......病み上がりの奴をこき使う大社様は一体何なのやら」

 

海斗はため息を吐きながら愚痴を零す。

 

「本当にすまない.......本当ならお前はまだ療養するはずだったのに.......」

 

「気にすんなよ。悪いのはお前じゃないし悪いのは大社の方なんだから」

 

苦い顔をする若葉に海斗は首を振り、微笑みながら言う。

本来なら海斗は万全では無い状態はずなのに大社からの指示で無理矢理退院させたのだ。

今回の御役目でも人手には今いる人数でも事足りるはずなのに。

余っ程海斗の事を高く評価してるのか、はたまた何かあるのかはその真意が分からない。

けど、良くないと感じるのは若葉にも分かった。

 

「んじゃ、行くか若葉。さっさと終わらせてうどんでも食いに行くぞ」

 

「あぁ。無事に帰るぞ」

 

進化体バーテックスが形成されてる場所は、瀬戸大橋付近の壁の外にいると大社は言っていた。

しかし今、橋の上から壁の方を見る限り、敵の姿は見えなかった。

前回現れたサソリ型バーテックスほどの大きさがあれば、既に壁の向こう側にその姿が見えているはずなのに、何故か見えない。

だが、何故大社は急に方針を変えて、結界に入って来てもいないバーテックスを討てと命じたのか意味が分からなかった。

それを不思議に思いながらも、勇者たちは瀬戸大橋を渡って進んで行き、壁の外へ出た。

 

「――!?」

 

「な、なに......これ?」

 

「嘘......だろ......?」

 

「これは一体.......」

 

「.......」

 

「......そういうことか」

 

その瞬間、勇者達の視界に異様なものが映る。

壁の外――そのすぐ間際に確かに大橋付近の海上に、バーテックスがいた。

ダがそれは以前のサソリ型バーテックス以上の大きさを誇るものだった。

まだ完成していないのか、通常個体のバーテックスが次々に集まって融合を続けている。

だが勇者達は二つの事に驚愕していた。

一つは今までのバーテックスよりそれより大型のバーテックスが形成されようとしていること。

そしてもう一つは、壁の外を超えるまでそのバーテックスの姿が見えなかったことだ。

これ程の巨体であれば、壁の内側からでも見えるはず。

ふと若葉が何かを思いつき、瀬戸大橋を戻って、壁の内側へ入った。

それに続いて残りの勇者達もついていく。

そこから壁の外へ目を向けるがやはり見えているはずのバーテックスが見えなかった。

それを壁の内と外を行き来して、その異常に気付いた。

 

「......海斗」

 

「あぁ......これは確実に隠されてる(・・・・・)な」

 

若葉の言葉に返答した海斗は眉をひそめる。

これも神樹が作る結界の効力の一部だろうか。

結界の内側からは外の異常は見えず、あくまで結界内と変わらない平和な光景しか人の目にしか映らない。

でも、中にはバーテックスを見ただけで発狂する者がいる。

『天空恐怖症候群』を患ってる人達だ。

結界外の大型の姿を見えれば四国の人々は平常ではいられないだろう。

ただでさえ天恐で苦しんでる人がいるというのだから。

だからこそ、こうやって隠されていることは、神樹が人類を守ろうとしているのを表している。

しかし、隠蔽されている事実に不安が過ぎってしまう。

だが、今は目標のバーテックスを倒すことが先だ。

結界に関して海斗達に出来ることはない。

思考を切り替えて海斗は村正を構え始める。

とにかく早急にあの巨大バーテックスを処理する事が最優先だ。

 

「まずはあのバーテックスを片付けてからだ。行くぞ!」

 

若葉が指示を出すと勇者達は再び壁の外に出て、形成途中のバーテックスの姿を見る。

未完成の今の段階でも、勇者達を苦しめたサソリ型バーテックス以上の大きさ。

これが完成し、四国へ攻め込んできた際には――勇者の力で止めることができるのか。

否、今の状態でも奴を倒すことができるのか。

 

「(さて......どうするか)」

 

あの時、サソリ型バーテックスには、勇者の通常攻撃はほとんど効かなかった。

禁忌指定された精霊の力じゃなければろくにダメージを与えられなかった。

海斗は迷っていた。

今は体が全快になっていない状態。自身が使う精霊の『孔雀』を使えばその宿したデメリットとして身体負担でまた意識を失ってしまう。

病院に再入院されるのは免れない。

 

「迷うな.......誰も死なせないように戦うのが先決だろ!」

 

「待て、海斗!」

 

海斗は迷いを振り切り、切り札を使おうとした。

だが、使用とした瞬間に若葉の声が聞こえ止められた。

 

「何で止めるんだ若葉!」

 

「お前の精霊は友奈が使う切り札と同じなんだ!次使ったらはお前は死ぬかもしれないんだぞ!」

 

「なら、このまま黙って見てろって言うのかよ!」

 

「それでもだ!」

 

ここまで若葉が叫ぶのは珍しかった。

その瞳は揺れていて失うのを恐れているものだった。

若葉以外の勇者達を見れば皆海斗を見て首を振った。

絶対使うなと言われてる感じだった。

 

「海斗........頼む」

 

「俺は.......」

 

若葉は真っ直ぐ見て海斗に言う。

その瞳は依然揺れているが、そこには強い意志があった。

海斗はそれを――拒否した。

 

「........断る」

 

「海斗!!」

 

「ごめん......」

 

「待て!海斗行くな!!」

 

そう言うと海斗は謝罪をして若葉の制止を無視して一人でバーテックスの方に駆け出した。

 

 

「はぁぁぁぁッ!」

 

未完成のバーテックスに接近して村正で斬る。

だがその断片には傷跡すらもなかった。

 

「ちっ、やっぱりか.......」

 

海斗は距離を取ってバーテックスを睨み付ける。

やはり通常の攻撃ではダメージは与えられないようだ。

たとえ村正の力を解放した力でも無理だろう。

 

「使うしかないよな........」

 

覚悟を決めた海斗は目を閉じて意識を集中させる。

そして孔雀を体に宿した。

 

「ぐっ、あぁぁぁぁぁ!」

 

孔雀を宿した瞬間に海斗の顔が苦痛に歪む。

精霊を宿したが、今まで体験した事なのない激痛が全身を襲った。

 

「こん......な、痛.......み.......なん......てッ!」

 

頭が壊れそうに痛い。体の内側が熱くなる。

まるで炎に焼かれている気分だった。

しかし海斗は痛みに堪え、まだ不完全だが変身している途中の間でも脚に力を入れ飛躍した。

村正を両手で持ち精霊の力と一緒に振りかざす。

 

「うぉぉぉぉぉっ!」

 

その一撃はバーテックスに当たり、そこに跡を残す。

 

「もう......一撃ッ!」

 

もう一振を振ろうとしたが突如、海斗口から血を吐き出しその瞬間に視界も揺れ始める。

 

「かはッ........く.......そ、これで......終り......か......よ」

 

まだ終わってないというのに体がいうことを聞いてくれない。

こいつをここで倒さなければ何れ完全体として現れ手がつけられなくなる。

それは駄目だ。

そんなことは絶対させないと心を奮い立たせるが、やはり体だけは動作さえ受け付けなかった。

 

「(やべ.......意識が―――)」

 

何も出来なかった無力差に恨みながらもバーテックスを睨みつけるが、やがて海斗の意識は闇に落ちた。

 

 

 

 





ごめんなさい本当にごめんなさい.......海斗君を虐めたいんです。
ごめんなさい。

オリ主がボロボロになる姿をみるのが好きなので(執筆者権限)

さて次回はオリ会です。
これだけは言っとく、死にほど痛いぞ。

では次回またお会いしましょう!


次回。第22話:抗う者は止まらない


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第22話:抗う者は止まらない


どうも最近ちょっとだけモチベが上がっているバルクスです。
今回はオリ会です。
多分自分は何回海斗君を入院させれば気が済むのでしょうか?
では本編どうぞー


Twitterもやってるので良かったら仲良くしてください。

@Taru124


これをコピペしたくださいな。



 

「.......」

 

目覚めると海斗はベットで寝ていた。

それによく見ればここは病院だった。

 

「はぁ......またか――ん?」

 

だが、確かにそこは病院なのだが、海斗は一つ違和感を覚えた。

体が動かないのだ。下をよく見れば胴体から脚に懸けてゴム製のバンドが海斗を厳重に縛っていた。

まるで猛獣を捕縛しているような状態だった。

 

「これじゃ、動けねぇな」

 

幾ら揺すってもビクともしなかった。

でも自力で抜け出す事も出来なくは無いが、今抜け出したとしても面倒臭いことが起きそうなのでじっとした。

すると、病室にある扉が開かれるとそこからひなたが現れた。

後ろに大社の神官を一緒に連れてだが。

 

「目が覚めたんですね海斗さん」

 

「ついさっきだけどな」

 

ひなたは目が覚めた海斗を見ると途端に「彼と二人で話をしたい」と後ろに引き連れていた神官たちを言い、外に出させた。

 

「ふぅー.......これで気軽なくお話できますね」

 

ため息を吐くとさっきの凛々しいものとは裏腹にいつもの言葉でひなたは海斗に言葉を発した。

どうやら神官がいたから気を張っていたのだろうか。

 

「取り敢えずこれ外してくんね?キツくて話出来そうにないんだが」

 

「ごめんなさい......それは無理です」

 

「ですよねー」

 

海斗はこの繋がれているバンドを解くようにひなたに言うが即答で答える。

分かっていたことだが、そう簡単に解放はしてくれないようだ。

 

「聞いていいか?」

 

「はい、どうぞ」

 

「何で俺はこんな厳重に縛られてるんだ?」

 

本題を聞こうと海斗はひなたに今の状況の説明を求めた。

ひなたは近くに置いてあった丸椅子に座ってから口を動かした。

 

「.......大社の方から、海斗さんの行動を暫く阻害し、監視をせよ。と、伝えられました」

 

「......俺が独断専行をしたからか?」

 

「........」

 

ひなたは何も言わずに首を縦に振った。

それをひなたは答えた。

海斗が孔雀を宿し未完成のバーテックスに攻撃を入れた時に意識を失った時に若葉達が駆けつけて海斗を回収したとの事。

だが、その途中で友奈が囮になってバーテックスと相手をするが、相手との強さに止むを得ず『酒呑童子』を発動。

何とか撃退には成功するが、その時に精霊の負荷で友奈も倒れてしまい入院を余儀なくされた。

それから今の状態では未完成のバーテックスに攻撃を与えられないため、機会を待つ事になった。

そして今現在。海斗は病院で再入院させられることになった。

だが、身体機能的には問題ないが念の為の事。

その時の状況をひなたは淡々と苦虫を噛み潰したような顔で話し続ける。

 

「.....その時は今でも本当に覚えています。若葉ちゃんが海斗さんを背負って医療班を呼ぶあの顔を」

 

「そうだったのか........」

 

「あなたが万全の状態にも拘わらず精霊を使って倒れたと聞いた時に私も若葉ちゃん達も血の気が引きましたよ......」

 

「.......ごめん」

 

「........あなたは頑張りすぎです。ましてや自分の命を顧みない戦い方をする.......」

 

「俺は――」

 

「大事な人を守りたいからって言ったら幾ら私でも今回は許しませんよ。ましては今回、貴方は結果的に友奈さんを巻き込んだのですから」

 

「っ......すまん」

 

海斗が口を挟もうとするように声を発しようとするが、ひなたがそこで割って入って相殺される。

その声音でも彼女は怒っているのは明白だ。

大切な人を巻き込んで、大事な友達すらも仲間も危険に晒したのだ。

怒りを表さないのは可笑しい。

 

「もう......やめてください」

 

するとひなたの瞳が揺れている事に気付く。

体が震えながらも海斗に言った。

その静止はまさに彼女の善意から出た言葉だった。

だが海斗はそれを拒否する。

 

「ひなた......すまない。俺はここで止まりたくないんだ」

 

「どうして.......ですか?」

 

「こうしている間にも壁の外にいるバーテックスがいつ攻めてくるとも分からない。

今でも対策や打開策を練って奴を倒さなくちゃならない」

 

「あなたはその状態でも行くんですか!!少しは他の人達より自分の事を考えてください!」

 

「バーテックスを滅ぼさない限り、その度に大切な人が傷付いて死んでいくのを見るのは嫌なんだ。それだけは絶対に」

 

海斗は真っ直ぐひなたを見て自身の意志を示す。

説得力も信用もないが、近くや遠くで大切な人達が死にそうな状況で何もせずにしないのはそんなの耐えられない。

するとひなたは息を吐くと口を開いた。

 

「そうですか........分かりました。あなたがそこまで曲げないのならば私にも考えがあります」

 

ひなたは胸ポケットから紙を取り出し、海斗に見せる。

 

「これは.......」

 

「まだ、これは伝えるつもりはありませんでしたが......」

 

「.......本当なのか?」

 

ひなたが海斗に見せた紙は海斗の身体についてのカルテだった。

その情報を見るとその内容に海斗は目を開かせた。

ひなたは海斗の言葉を肯定するように首を縦に振る。

 

「......これを見てもあなたはまだ、若葉ちゃん達と一緒にバーテックスと戦うのですか?」

 

自分の今の状態を知って驚愕する。本来ならここで怖気ついて止めるはずだと誰しも思うだろう。

けど、ここで止まってとしてもやがてそれは彼にとって幸福だというのだろうか。

笑って明日を生きれるのだろうか。

否、それはただの現実逃避だ。

そんなのに任せたらそんなの勇者でも、人間でもない。

(幸せ)明日(未来)も何もいらない。

これを天国で見守っている彼女(綾華)に言えばひなたと同じで止めるかもしれない。

けど、許してくれはするだろう。

彼女の約束を蔑ろにするつもりは毛頭ない。だがここで止まってしまえば海斗は自分自身を許せない。

だからこそ生きて、生き抜いて、最後まで抗いたい。

だってここで諦めたりしたらその先に自分が目指した未来はないのだから。

 

「俺は......行くよ。どんな事になっても、どんな絶望に打ちのめされようとも――」

 

海斗は息を整えるとその瞳に覚悟と決意の眼差しを日向に向けた。

 

「『それでも』と言い(抗い)続けるよ」

 

深紅に近いその瞳はひなたの瞳に深く写った。

その者の目は強固だと。彼女は知っていた。

だってそれは一番大切な幼馴染の若葉がしているものだったのだから。

そして観念したのかひなたはため息吐いて、にこやかに笑みを浮かべた。

 

「全く.....若葉ちゃんと同じであなたも頑固な人ですね」

 

「あいつよりは固くないだろ」

 

「いいえ。一緒ですよ!」

 

「えぇ.......」

 

海斗の頑固さを指摘するひなた。

何処に若葉のような堅物さがあるかは分からなかったが、別にそこまでだと自負はしているつもりだ。

そしてひなたの顔を見ればいつの間にか先程のような悲しい表情はなかった。

 

「そういや、肝心な事を聞いてなかったわ。俺はまた再入院か?」

 

海斗が言うとひなたはコホンと咳払いをして口を開いた。

 

「そうですね。今のところは大社側としてはこのまま大人しく入院していただくとの事なので、このままでお願いします」

 

ひなた経由の大社からの返答を聞く。彼女の言葉には嘘はないが、どうにも大社は海斗を隔離しようとしている節がある。確証はないが、念の為こちらも探った方がいいのかもしれない。

 

「あぁ。わかった」

 

流石にここで考えてもひなたに心配を掛けてしまうので海斗は考えるのをやめて頷いた。

 

「それと、辛いと思いますが海斗さんは体が回復するまでの間は暫く戦闘には参加出来ないと思ってください」

 

「.....非常事態でもか?」

 

「はい」

 

ひなたから御役目について参加出来ないと聞かされた。

否定しようと思ったが、既に体は悲鳴を上げていて今も全身が痺れて痛い。

ひなたの目には慈悲と同情が混ざったものになっている。

彼女だって辛いはずだ。他の皆は樹海の中で戦ってその帰りを一人だけで取り残された場所で待つのだ。

不安も心配も入り混じるのも無理もない。

するとひなたはポケットからスマホを出し、近くに置いてある棚に置いた。

 

「これは......俺のスマホか?」

 

「はい。私の独断で勝手に持ち出しただけですけどね」

 

「どうしてだ?お前の巫女の立場的には大社にバレたら終わりだろ!」

 

「念の為です。それに、ここは誰も入ってきませんし、入ってきたとしても病院の人にはバレないようにこの棚の中に閉まっときますので」

 

勇者アプリが入ったスマホを海斗に見せるとひなたはこれを秘密裏に持ってきたのだ。

念の為と言うがこれがバレればひなたは大社に何されるか分からない。

用意周到でこちらとしては助かるが、出来れば極力やめて欲しいものである。

理由を話したひなたは海斗のスマホを棚の見つかりにくい場所の中に入れて閉まった。

 

「これで、何かあった時は貴方の判断に任せます。使ってもよし、使わなくてもよしですからね」

 

ひなたは笑みを浮かべながら言うが海斗はこれ程心が強い女性はそうそういないと思ってしまう。

 

「ありがとな、ひなた」

 

「いえ、私にはこれしか出来ることはありませんから」

 

「それでもだよ。本当に助かる」

 

「.......そう言って貰えるだけでなによりです」

 

その後は少し雑談をして時間を潰した。

ついでに拘束具も特別に解かせてもらい身体の自由を取り戻した。

いつの間にか日が暮れそうになるところでひなたは病室から若葉達がいる丸亀城に戻った。

 

「.......」

 

ふと、病室の窓から見える夕焼けを眺めていた。

考えてみれば勇者がバーテックスに敗北したらこの世界も壁の外のようになるのだろうか。

そんなことを頭の中で想像してしまう。

日々日々強くなってきているバーテックスにこれ以上勇者達は耐えれるのだろうか?

あの完成前のバーテックスの時だって、サソリ型の時もだ。

何れ滅びは避けられない。

それを考えれば考えるほど思考が暗くなっていく。

海斗は首を振ってそれを掻き消した。

今は勇者がバーテックスに勝てることを考えろと自分に言い聞かせる。

それに人類はまだ負けていない。

だがその世界の理を担っている大社はまだ信用できない。

ニュースの隠蔽、遠征での改変する。

そして、今の海斗が隔離されてのもそうだ。

疑問点を上げればキリがない。

これではたとえ勇者達が病院に来ても面会謝絶がオチだろう。

なら何故こんなに厳重にさせるのか分からなかった。

海斗の予測では二つある。

一つは男の勇者のデータがなく、貴重性に溢れているから。

もう一つは勇者達の戦力と精神柱を担っているからなのか。

これがもしそうなら両方とも取れなくはない。

 

「.......ちょっと頼んでみるか」

 

そして海斗はひなたに渡された勇者アプリが入ったスマホとは違う別のスマホをポケットから取り出してある家に電話を掛けた。

何故海斗がこれを持っているかというと、ひなたが帰る前についでにと渡されたのだ。

ダミー的な役割だと思うが、本物を持ってくるとは誰も思わないだろう。

けど、これで棚の中にしまってあるスマホを使わずにすんだ。

すると二回コール音が鳴るとその通話先から声が聞こえた。

 

「こんな時間に掛けてすまない、少し力を......貸してくれ。少し、調べたいことがある」

 

そう言うと海斗は通話先の人に話を始めるのだった。

少しでもこの世界が嘘で塗れないようにするために。

そして、海斗が再入院してから一ヶ月後。

ある程度リハビリもしつつ前線で戦っている若葉達と電話でやり取りして情報を共有してもらってるが、どうやらバーテックスの侵攻が止まないとの事。

未だに完成体は目撃していないが、それでも通常個体の数が尋常ではなく多いとのこと。

そのせいで切り札も使わずを得ない羽目になってしまう。

それに病院での検査が多くなったとも聞かされた。

どうやら大社から精神的に不安定になっている兆しがありと言われて戦闘が終わった際には直ぐに受けているそうだ。

そして海斗の面会謝絶が解除され勇者達が面会しに来るようになった。ただその中に千景の姿はなかった。

その数日後に医師に退院のことを伝えられて一週間後に迫った頃。

知り合いから海斗のスマホに一通のメールと電話が届いた。

それは海斗にとって衝撃的なことだった。

 

『勇者、郡千景が精神的に不安定でケアのため、高知の村に帰省させた』

 

との通知だった。

何やら胸騒ぎがして海斗は棚にしまってある勇者アプリのスマホを取り出して窓から飛び降りて変身した。

そのまま高知の村に全力で駆け出した。

せめて何も起こらないことを祈りながら。

 

 

 

 

 

 





いやぁ......今回は珍しく海斗君とひなたの会話ですねぇ〜
ちょっと書くの楽しかったので文句はなし!

では次回は千景の暴走シーンですねぇ.....ぐへへ

では次回にまたお会いしましょう!

次回。第23話:心が叫ぶ


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第23話:心が叫ぶ


どうもバルクスです。
そろそろ自分も働いてから一年が経過しそうなんですけど、やっぱり何か実感が湧かないんすよねぇ.....まだまだ慣れないことはあるのでこれからも油断せずに頑張りますけど......さて、今回はあの回です!
因みに何ですが、結構長いです申し訳ない。
では、どうぞー



 

千景は寮の自室でベットの上で携帯ゲームをしていた。

だがそれは長くも続くはずもなく、いつの間にか手から離していた。

五月上旬に壁の外にバーテックスの討伐に失敗してからその中旬から下旬に掛けて突如にバーテックスの侵攻が増えるようになった。

その猛攻の中で若葉、千景、球子、杏の四人で迎撃をする。

だが、何度も戦っても幾ら作戦を変えても市民への被害は免れなかった。

そして勇者達も切り札である精霊を宿し続けて肉体的疲労と精神疲労で大社管理の病院で傷の手当てと検査、そして精神的ケアを受ける事を催促される事になる。

すると医師から「切り札の使いすぎだからこれからはあまり控えろ」と釘を刺されてしまう。

だが、それはあまりにも酷だった。

ただでさえバーテックスの侵攻が活発化してあるのに制限をされては必ず被害が増大してまう。

それを聞いた彼女達は少々苛立ちを覚えるが、それは心の隅にしまった。

数分で手当てと検査が終われば皆は俯きながらこれからのバーテックスの侵攻についてや市民の被害のことについてを考える。

しかし、千景にとってはそんな事はどうでも良かった。

彼女の中ではあのSNSについての誹謗中傷が脳裏に過ぎる。

何時如何なる時もそれは変わらず、勇者達の不満や不評。そして――男性勇者の罵詈雑言の嵐を。

 

『また勇者達が失敗したそうだぞ』

 

『また事故や災害が起こってるしな』

 

『あいつら何やってんだよちゃんと守ってるのか?』

 

『守れてないだろ。実際に火災や山火事とか起きてんだから』

 

『いつになったら結果出してくれんのかね?』

 

『もう不要だろ』

 

『役立たず。』

 

『無価値』

 

『いなくていいから消えろ』

 

『弱すぎ』

 

『戦えよこの、無能』

 

その言葉が毎回増え続けている。まだ千景自身は耐えられるだろう。

けど、仲間や大切な人が好きがって言われるのは我慢ならなかった。

何故こいつらはそんな事を言えるのか、何で認めてくれないのか、どうして体験した事ないのに上っ面な事が言えるのか。

それを見るだけで腸が煮えくり返りそうだ。

その後千景は病院から寄宿舎の自室に戻り一人で一日を消費していた。

 

「........」

 

近くに置いていたスマホを手に取ってSNSをアプリを起動した。

そのSNSの名前には『黒結 海斗』と『高嶋友奈』と書かれていた。

その名前をタップしてメッセージトークを開く。

 

『海斗、大丈夫?』

 

『ん、大丈夫だぞー』

 

『高嶋さんは?』

 

『私も大丈夫だよー!この通りばっちし動けます!』

 

『いや、分からないから(汗)』

 

『あ、そうだった......えへへ』

 

メッセージを打って送信すると数秒後に既読が付いて返信が帰ってきた。

そのやり取りを見て千景は笑みを浮かべ安堵する。

 

「.......良かった」

 

こちらも返信を返した。

 

『なら、いいわ』

 

『いいのか!?......そっちこそ、大丈夫か?何かあったら言ってくれ』

 

『ありがとう。その時はお願いね』

 

『ぐんちゃん、私にもいつでも言ってね〜!』

 

『うん。何時間でもいいからな』

 

海斗と友奈のメッセージを見て千景は心が暖かくなった。

彼が目で見てなくても千景を心配してくれている。

彼女の言葉を見るだけで元気が湧いてくる。

それだけで嬉しかった。

本来なら病院に行って二人に会いに行くのだが生憎、まだ面会は許可されていない。

だからこそ、このデータ上のやり取りでも千景は穏やかになれた。

 

「早く.....海斗と高嶋さんに――会いたいな」

 

スマホの画面を顔に付けるながら千景は二人に会えることを祈った。

すると千景のスマホから一通のメールが届いた。

 

「.......?大社から.......」

 

何事かと思いメールの内容を確認すると千景は眉を顰める。

 

『郡千景様。勇者の御役目の影響で現在、貴方様は精神的に不安定と判断したため、安定のため、貴方様のご両親を丸亀市に移住させ、貴方様と一緒に暮らせるようお願い申し上げます。』

 

「どうしてこんな時に......」

 

幸せだった心が途端に冷えた気がした。

何が精神を安定をしろだ。大社はわざとやっているのかと思う。

いや、あの大人たちは何も分かっていない。

千景が過去に事も何もかも。

無意識に傷がある耳を触る。

そこには決して消えない禍々しいものがある。

けど、それは不幸でもあるが幸福でもあった。

だからこそなんとも複雑な気持ちだった。

でも、あそこに戻るのは抵抗感がある。

その不安で胃の中にある物を吐きそうになるのを抑えながら耐える。

 

「海斗.......海斗、海斗、海斗........会いたい.......会いたいよぉ......」

 

今この場にいない彼の名前を呼ぶ。

あの時は海斗がいたから何とか保てたが、今度は一人に行くことになる。

何が起こることは予想出来ない。

また罵られ、疎まれ、蔑まされるのだろうか。

それだけは嫌だ。

けど、行かなくてはならない。

 

「助けて......海斗」

 

『本当に彼が助けてくれるのかしら?』

 

突如、耳元で声が聞こえ、千景は驚いて顔を上げた。

いつの間にか、ベットの横に千景と同じ顔をした人がいた。

 

「(......これは夢.....かしら?いいえ、夢よ、悪い夢.......)」

 

千景の姿をした者は、口を不吉な笑みを吊り上げながら浮かべせる。

 

『最近の彼は貴方に当たっているし見てもくれないわよ?それにさっきのメッセージのあれ、彼がいきなりあんなこと言うのって、不自然ではなかったかしら?』

 

「何が......言いたいの.......?」

 

悪い夢だと思いつつ、目の前にいる彼女に問いかけていた。

 

『彼は都合のいい女だと思ってるんじゃないかしら?』

 

「.......」

 

『海斗はあなたただの使い勝手のいい道具だとしか見ていないのよ』

 

「なんの......根拠があるの.......!」

 

『決まっているわ、勇者として縛り付けて永久に駒として使い、その功績を根こそぎ奪ってあたかも自分の結果として振る舞う。正に――悪の所業ね本当にあなたを傷付けた連中と同じ』

 

昔、虐められていた時の記憶が蘇る。

うるさい、黙れ、お前に何が分かるんだ、彼はそんな事はしないと心の中で否定する。

そして千景と同じ顔をした少女は、耳元で囁いた。

 

『海斗は貴方を愛していない』

 

「ッ!.......うるさい!」

 

そう千景が言い、目の前にいる千景を手で振り払うとそこには誰もいなかった。

 

「.......もう、寝よう」

 

千景は布団を被って目を閉じた。

今日の事を忘れるために。

 

 

 

 

千景が実家に帰省したのと同時刻。

入院している海斗は病室でノートパソコンを開いて情報を纏めていた。

それは若葉達が樹海でバーテックスと交戦した情報だった。

それを杏や若葉に聞いて纏めている。

最近、バーテックスの侵攻が活発化しすぎている事や精霊を宿した時の体調も調べている。

 

「(.......やっぱり、切り札は肉体的に過度な負担を掛けるだけなのか?)」

 

少し疑問が残っていた。

以前若葉と連絡を取り合った時に、少しだが彼女の様子がおかしかった事に気付いた。

苛立ちを覚えているのか口調が強かったり思った事を言ったはずもないのに勝手に口に出ていたりとか。

何かと弊害が出ているのは確実だ。

そして海斗はスマホを取り出して杏にも電話で聞いてみることにした。

 

『はい。もしもし?』

 

「すまない杏。ちょっと聞きたいことがあるんだ」

 

事情を話すと彼女なりでも調べていたらしい。

それを情報共有することにして照らし合わせた。

そして照らし合わせた結果、杏の考察と海斗が考えていた考察は合っていた。

それは精神汚染。所謂、『穢れ』だ。

精霊は人ならざるもの。

その強大な力を人間が使えば何かしらデメリットは存在する。

攻撃性の増加、不安感、不信感、自制心の低下。

マイナスな思考や破滅的な思考への傾倒。

噛み砕くなら、危険な事を取りやすくなるということ。

 

『私もタマっち先輩が遠征の時に宿した日から調べるようになったんですが、その時はまだ確信には至れなくて......でも、海斗さんのお陰で確証が得ました!』

 

「こっちも助かるよ。やっぱり杏の観察眼は頼りになる」

 

『あ、ありがとうございます......あっ!すいません、タマっち先輩が入ってきたので先に失礼しますね!』

 

杏が慌てながらそう言うとそれを最後に通話は終了した。

やはり体には何かしら影響があったのは間違っていなかった。

これを大社は知り得ないとするなら何故今まで気付いていなかったのか不思議でしょうがなかった。

明日大社に問い詰めるのもいいが、今の海斗の状態は隔離に近いので手を取り合ってはくれないだろう。

完全に八方塞がりである。

だがまだ情報が足りなすぎる。

 

「クソっ......まだ分からない所が沢山ある」

 

明日に片っ端から直接大社の神官達に聞くしかないと思った。

そして、入念に調べて貰うつもりだ。

これ以上切り札を使えば勇者達がどうなるか分からない。

最悪の場合四国の住民に手を出しかねない。

それだけは避けなければいけないと思った。

すると、スマホにひなたから一通のメールと若葉からの電話が掛かってきていた。

 

「......先にメールを開くか」

 

メールを確認すると海斗は驚愕した。

 

『勇者、郡千景が精神的に不安定でケアのため、高知の村に帰省させたとのことです。』

 

あまりにもそれは身勝手すぎていた。

大社も千景の家庭環境のことを分かっている筈なのにどうして行かせたのか分からなかった。

ダが今はそんな事を考えている暇もなかった。

海斗は棚の中に隠されている勇者アプリが入ったスマホを取り出して勇者装束に変身して病室の窓から飛び降りた。

その間に電話を開いた。

 

『海斗か!すまない、今千景についてお前に伝えたい事があってだな――』

 

「そこは大丈夫だ若葉。俺も今高知に向かってる」

 

『なっ!?お前その体で行くのか!馬鹿な事はやめろ!この件は私に任せてくれ!』

 

若葉は随分と慌てた様子で海斗に電話を掛けているのか口調が荒くなっている。

だが、それは海斗には分かっていた。

 

「それは出来ない相談だな。これは、俺のけじめなんだ」

 

『そんなのはいい!お前は病院で大人しくしていてくれ!』

 

「精霊の負担については知ってる。だから頼む......行かせてくれ」

 

海斗がそれを伝えると若葉は何も言わなくなった。

今の若葉を行かせれば確実に千景は彼女に攻撃を仕掛けるだろう。

それだけはダメだ。

仲間打ちなんてそんな胸糞が悪いことをさせたら彼女の心は荒んで挙句には壊れてしまう。

 

『.......どうしても行くんだな?』

 

「......あぁ。俺はあいつの親友なんだからな」

 

海斗は根気強く言うと若葉は溜息を吐いて言葉を発する。

 

『わかった。ただし、私達もすぐに合流するつもりだ。それまで頼むぞ』

 

「あぁ。任しとけ」

 

そして海斗は電話を切って千景の実家がある高知に全速力で向かった。

 

 

 

 

 

千景は自身の故郷である高知の村に帰省していた。

ここに来るのは随分と久しぶりで最後に来たのは二回目のバーテックスの侵攻ぶりになので一年は経っていた。

 

「.......戻りたくなかったのに」

 

千景が小さく呟く。

本当ならこんな場所さっさと出ていって丸亀城に帰りたいぐらいにこの場所は嫌いだった。

だが、彼女にはやるべきことがあってここに来た。

それを終わらせなければ帰れない。

千景は自身の実家に向かって布に包ませた大葉刈を持ちながら歩き出す。

その途中で村人に出会うが、千景を見るや否や目を逸らして農作業を続ける。

そしてその先には三十代後半の女性二人が歩いてきて千景の存在に気付くと、ハッとした表情を浮かべる。

 

「あ、郡......様。帰っていらっしゃたんですか?」

 

「えぇ.......少し用事があって.......」

 

「そうですかそうですか」

 

それだけ言えば、彼女達は早々と千景の横を通り過ぎて去っていった。

するとある程度千景と距離を取った女性二人はひそひそと語り始めた。

それを千景は耳を凝らして聞いてみる。

 

「あの子、戻ってきたのね」

 

「よくあんな平然としてられるものね......あの子たちのせいで人が死んでいるのに」

 

千景が聞いてるに気付いていない二人は心底ウザそうに話し出す。

 

「......っ」

 

千景は布の中に包まれてる大葉刈を強く握りしめ、立ち尽くす。

あれ程称えていた人がこうも豹変できるのか不思議でたまらなかった。

必死に戦っているのにどうしてこんな仕打ちを受けなければならないのだろうか。

 

『あぁ、ひどい。なんてひどい。あんなに勇者様、勇者様と言っていたのに、すぐ手のひらを返す』

 

またあの声が耳元で聞こえる。

 

「(うるさい......うるさい.......」

 

『味方なんていない。幼い頃を思い出しなさい。皆、あなたを傷つける敵よ』

 

「(うるさい.......!)」

 

千景は一通りの少ない道を通って早足で家へ向かった。

そして一回建ての古ぼけた実家に帰り着く。

居間に入ると、布団に伏している母と、その傍に父の姿があった。

母は天恐で病院に入院していたが、移住が決まったため、今は家に戻って父と一緒にいる。

 

「帰ってきたのか、千景」

 

父の表情には、娘の帰郷を喜ぶ感情など微塵もなく、ただ疲れたような無表情さで、千景を見つめる。

 

「母さんは今、薬で寝ているよ......最近は一日の半分は寝てる。起きて暴れたら困るから、寝ていて貰った方がいいけどな」

 

淡々と語る父の言葉を千景は何も言わずに聞き続ける。

母は天空恐怖症候群進行していて、薬無しでは日常生活が出来ないほど難しくなっていた。

すると唐突に、千景の父は呟いた。

 

「なぁ、千景......冗談だろう?」

 

「.......何が?」

 

「家族三人で暮らす?そんなこと出来るわけないだろう?母さんはこんな状態なんだぞ。一緒に生活なんてできるわけがない!病院に入れているのが一番安心なのに......なんで今更三人で暮らせなんて......」

 

「それは......大社の決めたことよ」

 

「馬鹿げてる!だが、香川へ引っ越すのはいい案だよ。直ぐにでもこんな村、離れたいんだ。こんな村!今すぐにでも出て行ってやる!!」

 

あんな無表情に語った父が今度は苛立たしげに叫ぶ。

 

「一体、どうしたのよ.....」

 

「これを見ろ!!」

 

父はテーブルに置いてあった紙の束を千景に投げつけた。

材質も大きさも不揃いな数十枚の紙が、床に散らばる。

それらの紙にはノートの切れ端や使い終わったカレンダーの裏、コピー用紙――無数の罵詈雑言が書かれていた。

その内容はとても酷かった。

 

『勇者は役たたず』

 

『クズの娘はクズ』

 

『村の恥さらし』

 

『死ね』

 

『人を守れない勇者に価値無し』

 

『ゴミ一家消えろ』

 

「何......これ......?」

 

いつの間にか千景声は震え、目の前が暗くなるのを感じ、足元がふらつく。

 

「毎日毎日、うちの家に投げ込まれてくるんだ!紙だけじゃない、そこに書いてあることはな、陰口でみんなが言っていることだ!

村を歩いているだけで蔑まれ、中傷され......あぁ、クソクソ、クソッ!もうこんな村住んでいられるかぁ!千景、お前のせいだぞ!勇者のくせに負けるから!人を守れないから!クズが!」

 

「.......」

 

元から郡家は、村の中でも嫌われものだった。

だが千景が勇者になればそれが一転して村民か敬われる立場になった。

だがそれは千景にとってどうでも良かった。

村人に何を言われようと家族に何を言われまいと海斗が――彼さえいればいいのだ。

彼がいれば千景の存在を肯定してくれれば、認めてくれるならそれでいい。

そして、罵詈雑言が書かれた紙の中を見ればこの場にあってはならない言葉を見つけてしまった。

 

『黒結海斗は無能。高待遇だからって自分がやった感とか出すな!税金返せ!お前だけは無価値なんだ!』

 

「.......何、それ」

 

勇者はこんなことを言われるために戦っていたのか。

心身を削り取るようにして戦って、失敗したらこの結末。

 

『あーあー可哀想に。貴方の想い人はこんな仕打ちを受けている。なんて様かしらね』

 

また、頭の中で声が響き渡る。

 

「その報いが.......これなの......?」

 

海斗は千景や勇者達のためにその身を犠牲にしてバーテックスを倒してくれた。

そして、その結果が罵詈雑言の嵐。

幾ら地位が高い人の出身だからってこんなのはあんまりすぎる。

何故認めてくれない?

どうして彼に賞賛を与えてくれない?

あんなに戦ってくれてるのに、私達を支えてくれているのに。

それを知らないお前らが彼の事を語るな。

 

『ふざけてる』

 

「無価値なのは――」

 

「『お前達だ』」

 

千景は大葉刈を握りしめ、家を飛び出した。

家を出た千景は布袋から出しつつ、道を歩いていく。

数分歩いていると道の向こうから四人の少女達が楽しく雑談をしながら歩いていた。

それは千景にとって見覚えのある顔だ。

小学生時代、千景をいじめていた少女たちだった。

そして彼女達は千景の姿に気づき、目を見開いて立ち止まった。

人の背丈ほどもある大鎌、そしてその人を害虫のように見るような冷たい千景の目は、目の前にいる少女達に恐怖を与えるのには充分だった。

 

「え、千景?」

 

「何で帰って来てんの?」

 

「あぁ.....あの男のせいで負けたからでしょ」

 

千景をゴミのようにみるそう呟く少女達。

すると千景の右手に持っていた鎌に気付く。

それは本来閉まっていなければいけない物のはず。

だがそれは彼女達に刃を向いていた。

 

「え、な、郡さん......?」

 

「鎌......?何、それ......?」

 

混乱して立ち尽くす少女たち。

しかし少女たちの一人が、自分の怯えを誤魔化すように声を荒らげた。

 

「な、何、考えてんのよ......!こんなところで、そんな刃物持ち歩いて!勇者だから、何でも許されると思ってんの!?バカじゃないの!?」

 

その罵声を千景は無言で聞き続ける。

別にどうも思わない。

ただ弱い奴らがきゃんきゃんと吠えているだけに過ぎないのだから。

けど、流石にうるさいと思い千景は一切の表情を動かさずゆっくりと大葉刈を振り上げ虫を払うかのように振り下ろした。

その刃は目の前にいた少女の頬に小さな切り傷を付け、皮膚に薄っすらと血の線が浮かび始める。

 

「......ひっ、いやぁぁぁぁぁぁぁっ!」

 

大した傷では無い。けど、彼女は血に怯え逃げようと踵を返そうとしたが、直後に千景の鎌で足首を切られた。

少し切り裂かれたが少女が倒れ込むには充分だった。

先に逃げようとした獲物は真っ先に狙われる。

 

「.......痛みを、知れ」

 

千景は無表情に倒れている少女に言う。

まるで哀れだ。

散々千景を虐めてきた彼女達が恐れ戦き弱々しくなる。

何でコイツらに今までやられてきたんのだろうか?

本当に可哀想だ。

 

「たっ、助け、お、お願っ、お願い、助けて......!」

 

「一体、私達が何をしたってんのよ!!」

 

「何やってんのよ、このクズっ!」

 

何かしら言っているが、コイツらには罪悪感なぞ全然ない。

海斗の事を好き放題言った奴らに慈悲なんて与えるなんておこがましい。

だが、この国に住んでいる寄生虫共にそれを与えるほど千景は優しくは無い。

早く害虫は駆除しなければならない。

そうしなければ海斗が笑ってくれないのだから。

千景は冷たく少女を一瞥した後、スマホを取り出して勇者アプリを起動させた。

彼女の服装が、戦闘用の装束に変わる。

そして再び、千景は少女へ目を向けた。

 

「......面白い?.......ねぇ、面白い?」

 

千景は少女の目の前で言う。それは怒りと憎悪で満ち溢れていて今にも少女を狩りたいと思ってしまう程にその瞳は見開いていた。

 

「何故海斗を認めてくれないの........?海斗は私達を守りながら命懸けで化け物と戦っているの。.......ねぇ、何故?」

 

戦う勇気もないくせに、ただ罵倒して罵って、虐げさせてそんな日常を謳歌しているクズ共はこの世にいなければいい。

そうすれば彼も幸せになってくれるだろう。

そして、千景は大葉刈を上に上げ少女に致命的な一撃を与えようとした。

しかし、それは地面に倒れた少女の肉を切り裂いた音ではなく――金属同士がぶつかった音だった。

 

「――え.......?」

 

千景は目を見開かせた。

少女を切り裂いたのではなく、今ここにいるはずがない勇者装束を着て大葉刈を村正で受け止めている黒結海斗がそこにいた。

 

「ッ......もうやめよう、ちーちゃん」

 

「海.......斗.......?」

 

どうしてここにいるの?

何故止めるの?

千景の中でいくつかの疑問は湧いたが、今は冷静に物事を考える程の気にはなれなかった。

だって彼女は想い人に刃を向けたから。

千景はこの時、取り返しのつかないことをしてしまった。

 

 

 

 

 

 

「あぁ......私、わた.....し、なんて事を.......」

 

千景は戦意喪失して大葉刈を地面に下ろして顔を俯き座り込んでしまう。

いつの間にか勇者装束も解除される。

 

「ちーちゃん......気にしないで。これは俺の罪なんだ」

 

海斗は首を振り、千景に言う。

もう少し早く来ればこんな事にならなかったのだろうかと。

辺りを見れば学生服を着た四人の少女達が服に血を滲ませながら涙を流してこちらを見つめていた。

まるでその顔は化け物を見て恐怖している目だ。

そして騒ぎを聞き付けたのか、いつの間にか周囲に村人たちが何十人も、千景と海斗のいる場所に集まっていた。

その住民の人々の目は千景に恐怖と嫌悪と怒りの視線を向けている。

無数の瞳が千景を苛む。

それは視線の檻。

 

「やめて.......やめて......やめてください......!」

 

「ちーちゃん?」

 

ふと、千景が頭を抱えて震え始める。そして後ろに少しずつだが後ずさる。

 

「.......いや、いや.......虐めないで......お願いです........!」

 

「ちーちゃん!しっかりしろ!」

 

この尋常じゃない怯え方はどうも不自然だ。

やはり精霊の精神汚染は体を蝕むものだとはっきり理解してまう。

海斗は必死に千景に声を掛けるが彼女の耳には聞こえてなかった。

 

「.......いじめないで......!いじめないで........いじめないで、いじめないで、いじめないで.......!」

 

「気を強く持つんだ!ちーちゃん!」

 

千景は人形のように同じ事を繰り返す。彼女には一体何が見えているのかは分からない。けど、過去に辛いことがあるのは海斗だって分かっている。

 

 

「嫌わないで........お願い.......お願いします......私を......好きでいてください.......!」

 

千景の言葉に海斗は咄嗟に彼女を胸元に引き寄せて強く抱き締めた。

もう彼女がこんな姿になるのを見たくない。

最悪、彼女に嫌われてもいい。

けど幸せにはなって欲しい。

だって一人じゃないのだから。

 

「すぅ.......千景!!」

 

「......ッ!?かい......と.....?」

 

「大丈夫。大丈夫だから」

 

普段のあだ名で呼ばずに下の名前で海斗は千景を呼ぶ。

子供をあやす様に背中に手を回して摩る。

せめて安心出来るように。

そう、願いながら。

 

「俺は、君を決して嫌いにはならないよ」

 

「本当......?」

 

「本当さ」

 

「.......あんなことしたのに?」

 

千景は虚ろな目で海斗に問いかける。

海斗はそれを笑みで返して言う。

 

「ちーちゃんは悪くない。だから今は誰かの声を聞かないように耳は塞いじゃおうか.......ね?」

 

「一人は嫌だ.......嫌だよぉ......私を一人にしないでぇ......」

 

千景は涙を流しながら海斗の胸に顔を埋める。

ずっと一人で、孤独で、味方も誰もいなかった。

だからこそ繋がりが消えるのを恐れている。

千景は海斗に刃を向けてしまった。彼女の中では大切な存在の筈なのに自ら繋がりを断ち切ってしまったと思った。

けどそれは大きな間違いで、海斗は千景を優しく抱きしめてくれた。

その温もりが暖かい。

そして彼の心臓の鼓動を聞けば今までの憎悪と怒りがいつの間にか消えていた。

千景はその温もりに身を任せ目を閉じ、気を失った。

 

「あぁ......。君を一人には絶対させない、俺が絶対に守るから」

 

海斗は眠るように意識を失った千景を抱き寄せ立ち上がる。

そして丁度若葉達やってきて合流を果たした。

球子と杏は周囲を見て驚くが、そのまま警戒を怠らなかった。

 

「すまない海斗。遅れてしまった」

 

「いや、大丈夫だ。丁度こっちも何とかなったからな」

 

千景を回収して後はここを去ろうとした時に、千景に向かって何かが飛んできた。

それを海斗は掴んで見てみるとそれは石だった。

 

「........おい、なんの真似だ?」

 

海斗は村人達の方に視線を向けて問いただす。

するとその一人が声を荒らげた。

 

「ソイツのせいで俺らの税金が上がったんだ!そもそも、何であのクソ両親のために俺らが金払わないといけねぇんだよ!」

 

「そうよ!あんな家にロクなことがないじゃない!」

 

「あんな奴が勇者じゃなきゃ良かったんだ!」

 

その後も次々と千景と勇者達の不満や不評を垂れ流す。

そして海斗の何かがブチっとちぎれた音がした。

 

「.......若葉。ちーちゃんを、頼む」

 

「.......どうする気だ?」

 

若葉も海斗の異変に気付いて、彼がやることを聞く。

 

「穏便にはすませるつもりだから。けど、まぁ、少し荒くなるけどな」

 

「わかった。その時は私が止める、それまで好きに言ってくれ」

 

若葉は今回の海斗に目を瞑り、住民さえ怪我を負わせなければ良いと思い好きにさせた。

彼女も少しはこの村人達に怒りを覚えていたのも事実だが。

 

「か、カイト......大丈夫だよな?」

 

「タマっち先輩、ここは海斗さんに任せて私達は千景さんの方に優先しよ?」

 

「お、おう。そうだな.......」

 

球子が海斗に心配そうな声を掛けると杏がそれを静止して二人は千景の方に向かった。

どうやら杏は気を遣わせてくれたらしい。

それに感謝して海斗は住民がいる所まで歩き出す。

 

「一つ.....お前らに聞きたい事がある」

 

海斗は村人の全員が見える位置に立ち止まって問いた。

 

「両親がロクでなしで、その勇者になった娘さえも忌み者扱いってか?」

 

「そんな事当たり前だろ!あんなやつに生まれた時点でクソに決まってるだろ!」

 

一人の村人が大きな声で答える。

やはり、聞いても返ってくるのは同じ回答だけだった。

少しでもマシになってくれれば良かったのにと淡い希望を望んだが、それは儚く散る。

そして村正を呼び出して地面に突き刺した海斗は大きく息を吸って、口を開いた。

 

「――巫山戯るんじゃねぇぞぉっ!!」

 

海斗がそう言うと村人は怯えさっきのような声は出さなくなった。

 

「自分だけのうのうと生きていて、都合が悪くなったらすぐ勇者のせいにする......ふざけんなよ!勇者だって痛いんだ、苦しいんだ、辛いんだ!........だけど、それを必死に堪えて命を懸けて戦ってるんだよ!それをお前らが否定する権利がどこにある!!」

 

自身の胸に手を当てながら海斗は言う。

本当は勇者になった彼女達も戦いたくないはず。

けど、守りたいものがあるからこそ戦っている。

それを何も知らない人達にとやかく言われる理由は無い。

海斗の怒声で周囲は静まり返るが彼は止めない。

 

「ちーちゃん――千景はこんなしょうもないお前らの為に命を張ってあの化け物と戦ってるんだ!それなのにお前らは........あの両親の娘だからって忌み嫌い罵倒し続けた。お前らは本当の千景を見た事はあるのかよ!彼女だって人間だ!血が通った一人の人間なんだ!!」

 

海斗は叫ぶ。自分の思いを吐露するように。

 

「あんなに優しい子が........お前らのために頑張ってるんだぞ......?それを否定するのだけは.......俺が絶対に許さない!」

 

海斗は地面に突き刺した村正を取って村人達に向ける。

それを向けられた村人は体を震わせる。

だが海斗はその村正で自身の左腕の皮膚を切った。

それを見た村人達は驚愕してしまう。

若葉達も目を見開かせこちらを見る。

彼の手には血の線が流れ続ける。

 

「――ッ.......俺も彼女も同じ人間だ!人間で沢山だっ!!」

 

拳を握りながらその左腕から出ている血を村人に見せる。

認めてもらわなくてもいい。ただ、知ってて欲しい。

外見からではなく、内面で判断すること。

そして、同じ人間であることを。

 

「.....次、千景に同じようなこと言ってみろよ。それを破ったら、俺はお前ら全員を皆殺しにしてやる!分かったら......とっとと失せろぉ!」

 

海斗がそう言うと村人達は一気に解散して一目散に逃げていった。

流石に怪我を負った学生達逃げれないので救急車で運ばれるまでその場で震えながら待つことになるのだが。

 

「.......ふぅ」

 

自分の気持ちをさらけ出したからか随分とスッキリした。

これで暫くは勇者達には罵詈雑言を送ることは無いだろう。

 

「褒められたことではないが........すまない海斗」

 

背後から溜息を吐いた若葉が声を発すれば海斗は振り向いて首を振った。

 

「気にすんなよ。俺も流石に馬鹿だとは思ったけどあんな奴らよりは遥かにマシだと思ってる。まぁ、あれは確かに勇者っぽくないが別に俺はそんな肩書きなんてどうでもいい」

 

「ふっ.....相変わらずだな」

 

「じゃ、そろそろ俺達もちーちゃん連れて丸亀城に帰るぞ」

 

「海斗、丸亀城に帰ったら説教だ」

 

「.......見逃すのは――」

 

「あると思っているのか?自分の腕を切って、見せつける事はないだろ。この馬鹿者」

 

海斗はそう言うと後から来た大社に任せて勇者達は丸亀城に帰還した。

だが、先程の左腕の件を若葉に指摘され海斗は病院で手当を受けてその後に若葉とついでにひなたから説教をもらった。

もうあの二人に説教を食らうのは勘弁と海斗は心の中で思った。

そして翌日――千景は住民を襲って怪我を負わせたため、大社は一時的に彼女の勇者システムを剥奪し彼女は丸亀市に移住した両親と住む家での謹慎が決まった。

 

 





ちょっと強引過ぎたかな。
でも、楽しく書けたからヨシ!千景、救われるといいね。

次回は千景が誰かを襲う!?を書こうかなと思います。
ではまたお会いしましょう!

次回。第24話:私だけの想い


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第24話:私だけの想い


どうもバルクスです。
今回は千景が暴走シーンです。
誰か助けて上げて......
では、本編どうぞ〜


 

六月某日、午後六時丸亀城にて。

海斗は若葉の演説を勇者達と一緒にテレビ越しに観ていた。

彼女の演説は四国に住んでいる人々に希望を見出すために口を開いた。

その内容は7・30天災の悲劇から四年が経過しようとしていたこと、バーテックスの対策が練り上げられてきて国土を取り戻せそうなことを様々喋っていた。

それは全体に中継されており彼女の出で立ちはそれに相応しいぐらいに合っていた。

夕焼けも神が気を遣わせたのか、透き通る程の光加減で若葉の体を光らせている。

 

「.......良い士気向上だこと」

 

「うみくんそこは仕方ないと思うよ。私だってちょっと複雑な気分だし......」

 

「タマもだ。これを聞いてて、タマの力の無さを感じるぞ」

 

「タマっち先輩......」

 

若葉の演説に心底呆れてそうな口調で言う海斗。

それを友奈は割り切ろうとするが、彼女も眉を垂らして心のどこかでは不満があるように拳を握りしめる。

球子は自身の無力差を痛感して俯く。

杏は球子を宥めるように肩に手を置いた。

若葉が語った事は全て大社が入念に考えた演出だ。

住民にはその言葉が効果的だが、勇者達にはそれが全て嘘に塗れている為、観るのが辛く感じた。

以前友奈が嘘を本当の事にしようと言っていた。

だが、日々バーテックスが勇者達との戦いで強化されていく中でそれが難しくなってきているのは事実。

けど、それでも諦めはしない。

それが勇者なのだから。

 

 

 

 

 

 

 

 

海斗は大社が経営する病院に来ていた。

以前千景が住む高知の村で自身の左手を村正で切ってしまい数日間は包帯で巻かれていた事と入院しているのにも拘わらず、飛び出してしまってそれに異常がないかその傾向を確認するためだ。

医者からによれば幸い、日常生活に支障はないとの事。

後は自力で筋力と感覚を戻せば問題ないと言われた。

退院の許可も下りたため、後は定期的に来るようにと命じられた。

そして診断を終えた海斗は病院の中にある機能訓練室へと足を運んでいた。

 

「ふっ!はっ!ハァッ!」

 

左だけの拳を使ってちゃんと機能するかを確認する。

本当は木刀とかがあれば良かったのだが、ここは病院で過激な動作は出来ない。

あくまで、機能を回復させる場所なのだ。

ある程度振るって海斗は息を整えた。

 

「ふぅ......」

 

「お疲れ様、うみくん!」

 

「おう。ありがと」

 

息を吐けば後ろから友奈と若葉がこちらに向かってきていた。

海斗の方に寄ると若葉が海斗の左手を見て口を開いた。

 

「左手の怪我も随分良くなってきたな」

 

「あぁ。後は訓練とかで慣らしていけば問題は無いな」

 

「良かったねうみくん!」

 

バーテックスの戦闘から少しの間だけ離れていたせいか鈍っているのは分かる。

最近は皆に入院し過ぎて心配されるが........

だが後は短時間で体力を戻せるかに掛かる。

そこは自身の気力次第だ。

 

「そういや、友奈はもう大丈夫なのか?」

 

「ご覧の通りに大丈夫でございます!!入院してたけど、うみくんよりは軽度だったしね?」

 

友奈は何ともないように腕を軽く振る。

実を言えば友奈も海斗と同じで定期的に病院に通っていた。

ただでさえ友奈は『酒呑童子』を宿したのだ、どこかに異常が無いわけでもあるまい。

精神汚染もある。

しかし、友奈は本当に軽度で済んでおり、精神にも異状はないと判断され早期に退院出来た。

でも、検査するために定期的に通院する事を言われるが別にそれは些細な事だ。

そして若葉だが、その海斗と友奈の二人の傍付きとして同行させていた。

 

「.......そういや、若葉。まだちーちゃんの謹慎は解けないのか?」

 

海斗が千景の事を聞くと若葉は難しい表情をして口を開いた。

 

「大社に処罰を軽くしてくれとは言ったが、まだ分からない」

 

「そうか.......」

 

やはり大社側としても千景が起こしたことはそう簡単には許容出来ないのだろう。

そもそもバーテックスと戦うための勇者の力が民間人に被害を与えてしまったのだ。

刑を軽くするのも勇者として見るのも難しいところなのだろう。

 

「(あれは、ちーちゃんは悪くないだろ......クソッ)」

 

その原因を知る海斗は千景の謹慎について納得していなかった。

彼女が暴走した原因は精霊の酷似による精神汚染に引き起こされた事が判明された。

それを以前から調べノートに纏めていた杏が大社に提出すると大社は本格的に精霊のことを調査し始めた。

なんとも無能な組織だと海斗は思った。

そしてその大社は千景の勇者システムを剥奪して謹慎を彼女に命じた。

それをただ見ているだけの海斗は自身を悔やんだ。

ふと、いつの間にか拳を強く握ってしまって跡が付いていた。

それと同時に若葉が海斗と友奈に向けて口を動かした。

 

「海斗、友奈。提案なんだが、今度もう一度、大社に行って千景の処罰を軽くするようにお願いしに行かないか?」

 

「賛成だ。まぁ、あんな組織に何を言っても通用はするかは知らないがな......だがその場合は、あの組織を潰す」

 

「もう、うみくんは.....うん、私も言いたい......皆で、ぐんちゃんは悪くないって!」

 

「決まりだな。.......よし、そうと決まれば即座に行くぞ」

 

若葉の提案に乗った海斗と友奈は頷いた。

すると若葉が何かの気配を感じ取ったのか出入口に振り向いた。

海斗と友奈も気になりその方向を見るとそこには千景がいた。

まだ謹慎中の彼女が何故ここにいるのは気になったが、こっそり抜け出して来たのだろう。

そもそも彼女が謹慎されてもSNSで連絡を取り合えるのが災いして検査をしてくると彼女に伝えたから来てしまったのだ。

 

「あ......千景!」

 

「ぐんちゃん!?」

 

「――ッ!!」

 

「ちーちゃん待っ――」

 

若葉が声を掛けると千景はその場から走り去ってしまう。

それを追いかけようとする。

だが、海斗の身体が一瞬だけ立ちくらみがして倒れそうになる。

それを友奈が支える。

 

「うみくん!大丈夫!?」

 

「あぁ。それよりもちーちゃんだ........俺が追いかけるから二人はここで待機していてくれ」

 

「いや、ここは私と友奈が――」

 

「お前が行っても逆効果だ。頼む、若葉」

 

「......」

 

 

海斗が一人で千景を追いかけようとすると若葉は止めようと言う。

しかし彼の目は本気だった。

すると友奈が若葉の肩に手において口を動かした。

 

「若葉ちゃんここは、うみくんに任せてみよう?私が行ってもダメだと思うから」

 

「友奈お前.......」

 

「でも、無茶はしちゃダメだからね?」

 

「勿論だ」

 

海斗の方に向いて友奈は言い、それを海斗は強く頷いた。

そして若葉も諦めてため息を吐いた。

 

「......分かった。千景を頼むぞ、海斗」

 

「任された!」

 

海斗は勢い良く機能訓練室から出た。

まだそこまで遠くは行ってないと予想する。

なら、病院の出入口付近にいるはずだ。

そこに向向かえば想通り千景がいたが――その状態は警備員に強く拘束されてる姿だった。

海斗は千景を拘束している警備員の襟を掴んで退かす。

 

「......離せよ」

 

普段から出ない声音で話せば周囲は肩を震わせ従った。

そして千景を手を握り引き寄せ、警備員から距離を取った。

 

「かいと......?」

 

千景が体を震わせながらこちらを見つめていた。

けど、その瞳は何もかも失った者がするものになっていた。

胸が苦しくなった。彼女がこんな事になっていることを知っていて何も出来なかった自分自身が憎かった。

せめても彼女が安心出来るように海斗は千景を胸元に抱きしめた。

 

「大丈夫......もう君を傷付ける人はいないよ」

 

千景に言い聞かせるように海斗は言う。

すると千景は震えながら口を開いた。

 

「......全部......なくした.......全部、奪われた......怖い......海斗、いかないで........!私と一緒にいてよ........」

 

千景の言葉に海斗は静かに聞いた。

それは藁にも縋る思いで彼女は言う。

 

「一緒にいるよ。ずっと一緒に」

 

「本当......?」

 

「本当さ。だから家に帰ろう?俺も一緒について行くから」

 

「分かった......」

 

本当はあの両親の家には帰したくはない、だが大社はそれを許せないだろう。

千景は落ち着いたのか素直に従った。

 

「彼女は俺が直々に送り届ける。大社にも連絡をするなよ?した場合は――分かってるよな?」

 

念の為病院の警備員や付近にいた医師達にも釘を刺しておく。

というか最早脅しに近いのだが。

事が済んで若葉と友奈を呼んで事情を説明をして後を任せた。

けど、何故か千景は若葉を強く睨んでいた。

一瞬の事だったため、それを海斗は気にせずに千景を家に返した。

 

 

 

 

 

 

翌日。丸亀城の学校には、若葉、ひなた、球子、杏、友奈、海斗がいた。

だが、千景だけはこの場にいなかった。

それを思えば皆素直に日常を楽しめずにいた。

全員が揃わなくても授業はいつもと変わらず進んでいく。

そして昼休みに入る。

六人は食堂でうどんを食べながら話していた。

 

「千景さん......まだ謹慎が解けないんですね」

 

「せめて学校に来るだけでも、家にずっと篭っているより気が晴れるのにな......」

 

「だね......ぐんちゃんがいないと寂しいし、うどんの美味しさが八割減だよぉ.....」

 

「だなー、もし千景が戻ってきたら山登りに同行させやるんだ!そしたら気分も良くにはなるだろ!」

 

「それってタマっち先輩がただ行きたいだけだよね?」

 

「なっ!なにをー!」

 

「.......」

 

皆千景の事を心配して何かないかと試行錯誤していた。

昨日千景を家に送りに行った海斗はそのまま大社の方に行って千景の謹慎を軽くしろと申し出たが、結果は保留になった。

明らか的にも彼女を警戒しているのがわかる。

確かにまた、しでかしたら勇者としての尊厳が失われるというのもあるが、せめて学校には行かせて友奈や若葉達と交流させて欲しいと思った。

するとひなたが口を開いた。

 

「皆さんの言う通りです。もしこんな時に――」

 

ひなたの言葉を遮るように時間が止まった。

樹海化の合図だった。

そして周囲は植物に覆われた四国の光景に変わり始める。

すると遠くから迫ってくるバーテックスの白い大群が見えた。

戦力的には申し分ないが、皆千景の事で精神的に不安定な状態だ。

これではあの化け物どもに果たして勝てるのか。

海斗は若葉達の顔を伺えば皆俯いていた。

 

「(俺が前衛を張って.......やるしかない)」

 

勇者に負けは許されない。

どんな状況でも諦めてはならない。

海斗は前に踏み出そうと歩き出す。

その時、一人の少女が海斗のすぐ傍に着地した。

 

「私も行くわ、海斗......」

 

「――!?」

 

振り向くとそこには赤を基調とした勇者服、死神と思わせる大鎌を持った、黒髪の少女――郡千景だった。

どうやら大社は千景の謹慎を密かに解いて合流させる形で送ったのだ。

全員が驚く中、海斗は千景に声を掛けた。

 

「ちーちゃん!?もう、謹慎は解けたのか?」

 

「えぇ。今まで迷惑をかけたわね.......もう、大丈夫よ.......」

 

「それは良かったよ」

 

海斗は安堵する。そして村正を呼び出して構える。

 

「海斗。この戦い、あなたに前衛をお願いしたいのだけれど......いいかしら?」

 

「それは良いけど、ちーちゃんはどうするんだ?」

 

「私は........乃木さんに着いて行って援護するわ。それに――私がいなくても高嶋さんを付ければ大丈夫でしょ?」

 

「そうだな.......分かった。んじゃ、後ろは頼むぞちーちゃん!」

 

海斗は素直に従い、バーテックスが一番多い箇所に攻め込んだ。

海斗が接近すればバーテックスが突進して来るのが見える。

それを回避して村正で斬り伏せる。

適度に球子と杏が援護してくれるので助かるがそろそろ良いだろう。

 

「杏、球子!こっちは良いから、友奈の方を頼む!」

 

「分かりました!」

 

「了解だっ!」

 

海斗が指示を出せば二人は友奈がいる方に向かった。

二人を追うようにバーテックスがカイトを無視するがそれを片っ端から斬る。

 

「おっと、ここから先は行かせないぞ。バーテックス!」

 

そしてある程度片付けた海斗は千景と若葉いる方に合流を果たそうとしたが、海斗はあるものを目撃してしまう。

それは千景が背後からバーテックスにとどめを刺そうとする若葉に攻撃をしようとしていたからだ。

即座に駆け出して海斗は若葉を庇うように千景の大葉刈の一撃を防ぐ。

 

「グッ.......!!何やってんだよちーちゃん!」

 

「千景......!?」

 

「あら、海斗........早く帰ってくるとは予想外だわ.......でも流石ね。完全に取ったと思ったのだけれど......」

 

「何を言って........」

 

そう言うと千景は海斗と若葉から距離を取って大葉刈を構える。

 

「千景、どういうつもりだ!?」

 

「ねぇ、乃木さん......理不尽、不合理、不条理だと思わない........?あなたはずっと皆から愛され、慕われ.......私は疎まれ、嫌われ.......」

 

「千景.......?どうしたんだ、しっかりしろ!」

 

「どうしてこんな事になるのかしら.......ねぇ」

 

「千景!!」

 

「やめろ若葉、今の彼女には届かない!」

 

「だが.......!」

 

若葉は千景に声を掛けるが、幾ら言っても千景は返してくれなかった。

まるでうわ言のように言ってるような殺意を向けて話しているようにも見えた。

そして千景は口を開いた。

 

「でもね.......私.......何でこうなったか.......分かったの」

 

「は......?」

 

「それは、貴方がいるからよ」

 

俯いたまま、彼女は話続ける。

 

「貴方が私の大事なものを奪ってあたかも自分のもののように振る舞う........だから、貴方がいなくなれば......海斗が私の所に戻ってきてくれる。.......彼がまた、私を愛してくれる......私だけを見ててくれる。.......ねぇ?」

 

千景の勇者装束が変化していく。

そして次の瞬間、七人の千景が出現し、若葉と海斗を取り囲んでいた。

 

「.......だから彼を奪わないで.......」

 

「千景......」

 

「........貴方が........貴方さえいなくなれば......私が海斗の傍にいられる......!」

 

彼女の瞳は憎悪と殺意で満ちていた。

これでは幾ら言っても彼女は聞いてくれないだろう。

 

「......若葉、構えろ」

 

「しかし、海斗......」

 

「今のちーちゃんは.......普通じゃない。迷ってたら――死ぬぞ......!」

 

「.......ふふっ、待っててね海斗。早くその女を殺して私が貴方を必ず幸せにして.......あげる」

 

海斗は村正を千景に構える。

そして若葉も覚悟を決めて生太刀を構えた。

これから始まるのはどちらかが生きるか死ぬかの戦いだ。

加減は出来ない。

だからこそ――

 

「殺す気で行くぞ........ちーちゃん!!」

 

海斗は初めて大切な人に向けたくない(殺意)を向けた。

 

 

 





完全に依存して不安定になってヤンデレになってる千景ちゃんが好きで笑みが止まりませんわw

さて次回は戦闘会と......なんでしょうね?(意味深)

ではまた次回にお会いしましょう!

次回。第25話:背負う花は寄り添い想い合う


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第25話:背負う花は寄り添い想い合う


どうもバルクスです。いつも『華結を繋ぐは勇者である』を読んで頂きありがとうございます!
お陰でお気に入り数やアクセス数が増えてきて涙が止まりませぬ(泣)
これからもこの小説を宜しくお願いしますm(*_ _)m
では、本編どうぞー


 

武器と武器がぶつかる中、海斗は村正で千景から放たれる鎌の攻撃を防ぐ。

 

「ちーちゃん!やめてくれ!若葉と戦う理由は無いはずだ!」

 

「どうして邪魔をするの.......?海斗。あなたは乃木さんに都合のいい駒として使われているだけよ、何でそれが分からないの.......!」

 

「駒.....?そんなことはない!俺達は一人の勇者としてやってきた仲間だ!」

 

海斗が千景の攻撃を受け止めながら言うと彼女も海斗に言い返した。

それは自身の行動が正しいと言ってるかのように強く言葉を発す。

今目の前にいる彼女は海斗が知っている千景ではないと思えるほど別人だった。

 

「じゃあ貴方はどうして勇者なのに人々に賞賛されてないのかしら......?」

 

「それは.......」

 

千景の言葉に口を噤んでしまう。

海斗は勇者の中でも異例な存在であり、大社側からしてもその異質差が四国の人々に対して疑問を持たれるのを避けるため極力ニュースや新聞ではその功績を若葉達が上げたと偽りを記して海斗の事は載せなかった。

そして、高知の村で起きた出来事を切っ掛けに海斗は報道も新聞に載る事も出来なくなった。

だが、後悔はしていない。

それで千景を救えたのなら些細な事なのだから。

 

「.......ほら、何も言えない。どうせあなたはそんな事どうでも良いと思ってるのでしょうけど――それは私が許さない.......!」

 

そう言うと千景は大葉刈を使って海斗を押し、距離を取った。

 

「乃木さんが慕われ、敬われ......海斗は疎まれ、蔑まれ.......そんなの........不条理じゃないッ!!」

 

「くっ.......!まてちーちゃん!」

 

勇者の力で千景は近くにいる若葉の方に駆け出して鎌を振るう。

しかし、若葉はその場から高く飛び回避した。

 

「千景!あれは精霊システムの副作用だ!今だって――」

 

「違うッ!!」

 

若葉は今千景に起こっている事を説明しようとしたが、彼女は俯きながら強く言葉を発し、止めさせる。

 

 

「.......やっぱりあなたは何も分かってない.......」

 

「――ッ.......」

 

「私の気持ちや海斗の事なんて......分かりもしないわよね」

 

すると六人の千景が一斉に若葉に襲い掛かってきた。

それを受け流す。

鎌が一撃、また一撃と連携をとって若葉に振るわれ続ける。

だがその連携は徐々に若葉を追い詰めていく。

体力はあっても今彼女は精霊の精神汚染により、心身に支障を来たしている。

今も尚こうして平静に保って六人の千景を相手取っているが、心の中では怒りが満ち溢れている。

彼女は人類の敵だ――殺せ――報いを受けさせろ――と。

しかし若葉はそれに屈しなかった。

だって彼女はリーダーであり、仲間は絶対に傷付けさせないと決めているのだから。

そして背後から千景が鎌を持って若葉を狩切ろうと振るわれるが、その攻撃は直後に海斗が入ったことで防がれる。

 

「はぁぁぁっ!」

 

『七人御先』が作りだした千景でも全員実体がある本人なので出来る限りは傷付けないように海斗は村正に霊力を纏わさず鈍器として使い千景達に振るう。

 

「若葉大丈夫か!?」

 

「心配するな。それよりもあの進化体にとどめを刺さなければ!」

 

「ちーちゃん達を捌きつつ行くぞ、それしか辿り着く方法はない!」

 

「分かった!」

 

海斗と若葉の二人は樹海の中を七人の千景の猛攻を受けつつ駆け巡った。

早くしなければあのバーテックスはまた次のバーテックスとして進化を始める。

それを防がなければまた住民へに被害が及んでしまう。

それだけは何とかしなくてはならなかった。

だが、目の前にいるのは精霊の力を身に宿せた千景が立ち塞がっている。

そう易々と通してはくれないだろう。

そして次々と千景の攻撃を防ぎながら進んでいく。

しかし千景の激しい猛攻のせいで上手く近づけなかった。

先程途中で若葉とは離れてしまい今は一人で向かっている。

だがそれは簡単なものではない。

 

「クソッ!ちーちゃんそこを退いてくれ!」

 

海斗の前から二人の千景が鎌を構えて向かってきた。

それを村正で一撃を防いで二撃目を避けてカウンター気味に回し蹴りをもう一人の千景にお見舞いした。

それによって二人の千景は重なって体制が崩れて樹海の下に落ちていった。

若葉の方も樹海化した木を伝って降り、その空中の中で千景が振るう鎌の攻撃を流す。

そして二人は合流して進化体の方に行こうとすれば前と後ろに二人の千景が道を塞いだ。

海斗が前にいる千景達に村正を構えて駆け出すと次の瞬間、後ろにいた千景が海斗を取り囲んだ。

 

「海斗!!」

 

「俺の事はいい!今はアイツを何とかしろ!」

 

「――させないっ!!」

 

若葉が海斗に駆け寄るがそれを海斗は静止させ、目標物に視点を向けさせた。

そして若葉が進化体の方に向かおうとした時にふと、上からもう一人の千景が自重で若葉に向かって大葉刈を振り下ろした。

それを若葉は生太刀で防ぎ、何とか受け止めている。

金属がぶつかり合う中千景は若葉に向かって口を動かした。

 

「.......樹海が解ける前にあなたを倒す.......ッ!」

 

「なっ!最初からそれを!?」

 

「そうよ......!時間が止まった世界の中で、この場にいるのは遠くで通常個体を相手している高嶋さん達と貴方と私と海斗だけ!そして今ここにいるのは三人だけ.......分かる?貴方を倒して海斗の記憶さえ忘れさせさえすれば、ここで何があったか......誰も知りえないのよ!!」

 

そう言うと千景は大きく鎌を振り上げて若葉に連続で攻撃を振り続ける。

 

「やめろ!お前は選ばれた勇者なはずだ!」

 

「勇者っ勇者っ勇者って!どんなに怖くても辛くても国民の為に命懸けで戦う御神輿!盛大に祀り上げられて......?あなたはさぞや気分が良かったでしょうねぇ!!」

 

「神輿だと.......!」

 

千景の一撃をタイミング良く上に避けた若葉は生太刀を地面に刺し、大葉刈の刃に足をつけて振るえないように固定した。

 

「誰がそんなつもりで戦っているものか!.......沢山の者が死んだ。何億の人が化け物に殺されたんだ!私達だけが切り札だと言うのなら、その使命に命を賭けるのは当然のはずだ!だから私とお前がここで争うのは無意味だ!」

 

「結局あなたはそういうところよッ!!」

 

「――!?」

 

千景は空中へとジャンプをし、若葉の背後に回り込んだ。

それで大葉刈の上に乗っていた若葉は体制を整える為にその場から退いた。

 

「そうやって美辞麗句で人を利用している.......そもそもそんな自覚もないかもね!あなたは復讐が出来ればそれでいいのよね!」

 

「そんな事は......!」

 

「あるわよ!仲間や使命だなんて耳障りのいい言葉を並べて、私や海斗を利用しているだけなのよね!!」

 

「千景!!」

 

そこからまた千景の攻撃が開始させる。

その激しい言葉や振る舞うものは千景がこれまで話せなかったものを暴露しているような感じだった。

それは怒りや嫉妬、妬みその他を混ぜ合わさったものが流れている気がした。

そして千景の攻撃がまた止んだ。

息を吐く若葉だが、一瞬も気を引いては格好の餌食になる事は分かっている。

そして次々に千景の分身体が上から降りてきて千景の後ろに待機した。

すると千景が口を開いた。

 

「......だったらそれでいい。だったらせめて――」

 

千景の声はあまりにも震えていた。

まるで何かを失うのが怖がっているかのように。

そして彼女は唇を震わせながら言葉を零した。

 

「――っ!せめて海斗だけは盗らないでよッ!!」

 

「!?」

 

彼女の言葉は海斗に対する事だった。

海斗と千景は言わば幼馴染の関係でずっと一緒にいた存在。

そして千景は彼に救われた。

無価値だった自分を価値のある一人しかいない存在だと証明してくれたのだ。

それなのに彼は勇者になってから変わってしまった。

無意識に不器用ながらも周りに気を使って明るく振舞ったり、誰かが落ち込んでいる時は支えたり、それ以外でも色んな事をしてくれた。

だが、千景はそれを見てどんどんと海斗が彼女から離れていくのではないかと恐れてしまったのだ。

その理由があの病院での出来事だ。

千景は謹慎中でも拘らず海斗が心配で病院に行ったのだ。

だが案の定そこには友奈と若葉が海斗に付き合って話していた。

その光景を見て千景の心の中は闇に支配された。

憎悪、悪意、嫌悪、嫉妬、妬み。

ふと思ってしまった。

何でそんなところにお前らがいるんだ―――と。

それを受けるのはお前らじゃない(千景)のはずなのに。

 

「......っ!海斗は泣きたい時、辛い時、悲しい時、いつも私の傍にいて寄り添ってくれた......私から海斗まで奪わないでぇっ!!」

 

千景は自身の思いを口に叫び若葉に襲い掛かる。

 

「あなたがいなくなれば、私が海斗の傍にずっといられるの!」

 

千景は怒りを顕にしながら若葉を殺そうと必死に追い詰める。

彼女が死ねばもう誰も海斗を気に掛けるのはいなくなる。

想い人を独占できる。

もう切ない思いをしなくて済む。

だからこそここで殺さなくてはならない。

言葉だけで利用としている彼女を絶対に。

 

「乃木若葉ぁぁぁぁぁ!!」

 

「千景もう止めろ!それ以外精霊の力を使うな!死んでしまうぞ!」

 

「うぁぁぁぁぁア゙ア゙ア゙ア゙ア゙!」

 

若葉の忠告にも耳を傾けずに千景は大葉刈を力いっぱい若葉に投げた。

そしてその分身体も若葉目掛けて投擲する。

若葉はそれを落とそうと弾こうとするが、次々と来る鎌に対応しきれず投げられた三本の大葉刈が若葉の後ろにあった木に刺さって磔の状態で拘束されてしまう。

身動き出来ない若葉は何も出来ずに千景の攻撃を食らうのを待つだけになった。

 

「......取った!!」

 

「くっ.......!」

 

「うわぁぁぁぁぁぁぁぁッ!!」

 

盛大に鎌を若葉に振ろうとした次の瞬間、突如千景の勇者装束が解除された。

今まで豪快に振れていた鎌が重く感じるようになる。

そして千景は吐血し地面に激突しようとする。

 

「がはっ.......」

 

「ちーちゃん!!」

 

直ぐさま海斗が千景を抱き抱えて地面に着地した。

それに続いて若葉も拘束が解かれて降りてきていた。

 

「ちーちゃん!大丈夫か!!」

 

「うっ......な、何........?っ!?ま、まさか.......」

 

千景の傍において海斗は様子を見てみるといきなり千景はスマホを取り出すとそれを触って勇者システムを起動させようとする。だが、いくら画面をタップしても真っ暗なままだった。

そして千景は何回もタップして自分が今起こっている状態に気付いてしまった。

 

「あ......ははっ、ははは........」

 

「ちーちゃん......?」

 

「海斗......どうやら私は神樹様に見捨てられたらしいわ」

 

「なんだと.......!?」

 

彼女の口から有り得ない事が出た。

神樹が千景を見放した?

それは勇者システムを本格に剥奪されたということ。

神はこの状態でも勇者を見ているということ。

何を起こそうが何を成そうが干渉してくるとは思わなかった。

だが、神の力の一部を分け与えられている勇者システムは神樹が管轄しているものだ。

何処で何があったかも知れるということ。

それで千景の勇者システムが起動しなくなったという事だろう。

 

「.......私はもう、力がないわ。はっきりわかるの、もう二度と勇者にはなれない.......これは罰なのかしらね」

 

例え神でも勇者の仲間打ちはさせないようには出来るらしい。

だが、それは良いやり方でもある。

けど状況が悪すぎた。

自虐的になっている千景だがそれと同時に進化体の中から通常個体が溢れ出てきた。

 

「若葉、ちーちゃんを安全な所まで頼む」

 

「任せろ、必ず守ってみせる」

 

「え.......?」

 

海斗は勇者の力を持たない千景を若葉に任せ、村正を構える。

 

「ちーちゃん、若葉の傍を離れるなよ」

 

「ど......どうして......?どうして、私を守ろうとするの.......?」

 

困惑している千景は言う。それに海斗は振り向いて笑ってみせた。

 

「俺にとってちーちゃんは親友で、仲間で、かけがえのない存在だ。だから何を言おうが何をしようが絶対に君を守る」

 

海斗はそう言うと駆け出して向かってくるバーテックスを村正で倒していく。

一匹ずつ近くにいるものを丁寧に殲滅していく。

 

「千景、お前は私達の仲間だからだ。勇者の郡千景ではなく、一人の人間として私はお前を見ているつもりだった。

だがその状況を作った私にも落ち度はある。

お前の言う通り私は綺麗事を並べているのかもしれない」

 

「.......」

 

海斗がバーテックスを倒している中、若葉は千景に話し掛ける。

自分の過ちや千景に対しての後悔、その事をうち明かす。

 

「お前を追い詰めたと言うのなら罰を受けよう。だがそれはバーテックスとの戦いが終わった時だ。それまで私はまだ倒れる訳にはいかない、分かってくれ千景」

 

「.......私」

 

「大丈夫だ、今は海斗がバーテックスを片付けている。今はお前を安全なところに連れていく」

 

若葉は千景の手を取って立ち上がらせ千景を近くにあった木の影に移動させた。

 

「ここならバーテックスは来ないだろう。千景、私も海斗の方に向かうからそれまでここにいてくれ」

 

千景を安全なところに移動させた後、若葉は駆け出して海斗の救援に向かった。

その光景を千景は何も出来ないままただ見つめていた。

 

「(......どうしてあんな風に出来なかったんだろう.......)」

 

自身が犯してしまった過ち、変えられようのない真実。

彼女が起こしてしまったものは消えない。

今思えば千景は若葉に嫉妬していた。

どうしてあんなに強いのか、どうして平然といられるのか、どうしてそんなに人に敬われるのか。

そんな小さな淡い執着。

弱い者にはそれが眩しく見える。

若葉はその強さで人を魅了させる、それは海斗にも例外ではない。

だが気付いてしまった。

 

「(.......私は乃木さんに憧れてたんだ.......)」

 

彼女の強さが羨ましい。その力があれば想い人の隣を歩いていける気がしたのだ。

だからこそそれが目標になった。

しかし、それは儚く散ってしまった。

今はもう千景は勇者では無い。普通の何も力がない人間に戻った。

今あるのは扱えなくなった大葉刈だけ。

持ち上げようとするが、人並みの力では存分に振るう事すらままならない。

だが――もし、もしも何も出来ない今の彼女でも何か出来る事があるはずだ。

事を大きくした自分がこんなところで隠れていては罪を償えない。なら、せめて何か役には立ちたい。

 

「(......私も海斗や乃木さんのように......!)」

 

そして千景は立ち上がった。すると若葉がバーテックスを攻撃している最中に背後からもう一体が若葉目掛けて向かって来ていた。

 

「!乃木さんっ!!」

 

千景は咄嗟に体が動いて若葉を強く突き飛ばした。

そしてその目の前にいるのは大きく口を開けた白い化け物。

視界がスローのように遅く感じた。

今から避けようとしても間に合わない。

でも千景は後悔はしていなかった。

これが自身に下された罰なのだと。

 

「(海斗.......わがままな私をごめんなさい.......)」

 

今この場にいない想い人に謝罪をし、千景は瞳を閉じた。

しかし――そろそろ食らってもいい頃合だと言うのに痛みすら感じなかった。

そして誰かに抱き締めれている事に千景は気付いた。

この温もりは知っている。いつも自身に寄り添ってくれていた暖かい感触。

千景はゆっくりと目を開けるとそこにはバーテックスに村正を突き刺して動きを止めている海斗が千景を抱き締めていた。

その表情は密かな怒りに満ち溢れていた。

 

「.......おい、俺の大事な存在をまた奪うのか――お前らは」

 

その声音は普段彼から出されるものでは無いのが分かる。

ここまで海斗が怒りを顕にしているのは初めて見た。

けど千景は嬉しかった。

自分が海斗に取って大事な存在だと言われたからだ。

単純かもしれないが、それだけでも心が満たされた。

そして海斗は村正に力を入れて霊力でバーテックスが破裂して消えた。

 

「もう、何も奪わせない.......今度こそ守りきるって誓ったんだ!」

 

海斗は千景を抱きしめている腕を強くした。

もう離したくない、彼女だけは絶対に守ると。

あの時彼女に約束したのだ、傍にいると。

その後バーテックスは殲滅された。

千景は病院で検査するため入院する事になった。

 

 

 

千景が入院してから一日が経ち、海斗は彼女がいる病室に足を運んでいた。

 

「.......ちーちゃん」

 

病室前に辿り着くとその扉に手を掛ける。

扉を開ければ優しい風が吹いてくる。

そしてそこにはベットに横たわりながら黒い髪を靡かせて千景が窓から見える外を見ていた。

すると海斗の気配に気付いたのかこちらに振り向いた。

 

「あ......海.....斗.......み、見舞いに来たのね........」

 

口を震わせながら海斗に対して怯えた様子で千景は話し掛けた。

 

「嫌だったか?」

 

「そ、そんな事は.......ないわ」

 

「んじゃ好きにそこに座るから。失礼ー」

 

「.....え、あっ、ちょっ........」

 

千景の有無を聞かずに海斗は近くにあった丸椅子に座った。

二人はそのまま沈黙が続いた。

するとその沈黙を破った千景だった。

 

「.......海斗、聞いてもいい......?」

 

「うん?何を?」

 

首を傾げる海斗だが、間を置いて千景は口を動かした。

 

「あなたは.......どうして私を守ったの.......?」

 

「それは大切なひ――」

 

「乃木さんを殺そうとした私が、そんなに大切な人になれると思うの.......?」

 

「.......」

 

千景は理由が欲しかった。

彼は自身の事をどうしてそこまで気に掛けているのか。

若葉を殺そうとしたはずなのに何故責めずにそんな優しく振る舞うのか、暖かい言葉を語り掛けて来るのか謎だった。

 

「......私にはもう何もない。貴方を守るって言ったはずなのに......挙句の果てにはその真逆の事をしてしまった......隣で歩いていく権利や傍にいる資格もない......ねぇ、どうしてよ!!」

 

例え幼馴染だとしても、親友だったとしても罪を犯したのを許容するなんて出来る筈がないのだから。

だからこそ知りたかった。

彼の本心を。

そして海斗は暫く悩んだ素振りを見せると間を置いて話しだした。

 

「......何で、俺がちーちゃんをそんなに気に掛けているか......だったよな」

 

「――そうよ......何かあるんでしょ?どうして今も尚、私に構っているのか分からない.......!」

 

「........一回しか言わないからちゃんと聞けよ?」

 

「えぇ。分かったわ」

 

海斗は頭を搔くと頬を染めて言った。

 

「君が――好きだから」

 

「........え........?」

 

千景の頭は真っ白になった。

海斗は今何て言ったのだろうか?

好きと言ったのか?誰が誰を?決まっている、この場には千景しかいない。

突如に千景の頬が茹でたこの様に赤くなった。

 

「ちょっ、ちょっと待って!!私の事が........好き......?一体何を言ってるのよ!い、意味が分からないわ........!」

 

「仕方ないだろ.......これに気づいたのが昨日なんだから」

 

昨日海斗は千景の事について考えていた。

どうして自分がそこまで彼女に固執するのか、親友だからか?大切な存在だからなのか?いや、それは違う気がした。

そして海斗はあることに気が付いた。

自分は千景が好きだったのだ。

彼女と初めて出会った日から一目惚れで好きになったのだ。

それは幼い頃でそれを恋だと気付けなくてそのまま放置していた。いや、見向きもしなかった。

千景は自分よりもっと相応しい人と幸せになるべきだと心からそう願った。

だが今やっと自分の本当の気持ちに正直になった。

だから海斗は命を懸けて彼女の為に戦っていた。

 

「だから、ここで俺の気持ちを洗いざらい言う。郡千景さん.......俺と、結婚前提で付き合って下さい!」

 

海斗は千景に向けて壮大な告白をし、頭を下げて彼女の返事を待った。

すると千景が海斗の顔に触れて無理矢理上げさせた。

いきなりだったので少し驚いてしまう。

その後に千景は唇を震わせ、頬や耳を赤く染めながら口を開いた。

 

「ち、ちーちゃん?」

 

「......わ、私で本当にいいの......?」

 

「ちーちゃんが良いんだ」

 

「......高嶋さんや土井さんみたいに明るくないし、伊予島さんや上里さんみたいに綺麗ではないし.......乃木さんみたいな人を勇気付ける事も出来ない.......」

 

「ちーちゃんにはちーちゃんにしかない魅力がある」

 

「ファッションや流行りものに疎いし......」

 

「そんなのは些細なことだよ。俺だって疎いからな」

 

「ゲームしか取り柄の無い、内気な女よ........」

 

「奇遇だな。俺もゲームしか得意じゃないしな」

 

「.......私は取り返しのないことをしてしまったわ。それに一時の感情に任せて乃木さんを......貴方を危険に巻き込んでしまった......そんな私を許せるはずがない」

 

「じゃあさ.......その罪を俺に半分、背負わせてくれないか?」

 

「――ッ!?」

 

千景は大きく目を見開いた。

自身の過ちを彼は背負うと言ったのだ。

どうしてそこまでやるんだと不思議で仕方がなかった。

 

「貴方が背負う得がないじゃない!これは.......私の罰よ!それを貴方に背負わせるなんて私自身が許せなくなる.......!」

 

「ちーちゃんは自分が嫌いか?」

 

「.......えぇ。この世界で一番私が嫌いよ.......」

 

千景は拒んだ。海斗を頼るなんて今の彼女には出来なかった。

自分のせいで彼が苦しんで欲しくない。なら全て塞ぎ込んでしまえばいい。

そうすれば誰も傷つかずに済むのだから。

すると海斗は口を開いた。

 

「ちーちゃん、君がやった事は俺が全部許すよ。だけど君が起こした過ちは償ってもらう。幾ら時間が掛かろうが、何時か君が自分自身を許して好きになれるように俺も協力する。今のちーちゃんを近くで見ているなんて俺は耐えられない。

だからちーちゃんの重荷を二人で減らして行こう?」

 

「狡い.......ずるいわよ......」

 

「狡くていい。君を救う為なら俺は何度でもやってやる」

 

「私が一人で背負うって言ったのに......」

 

「そんな事は俺が絶対にさせない。背負うなら半分こだ」

 

千景は幾つも反論をするが、それら全て海斗に肯定され撃ち落とされてしまう。

遂に逃げ場という言葉を失った千景は観念して上目遣いで海斗を見た。

 

「.......わ、私も.......あなたが好き.......私を絶望から助けてくれたあなたが.......大好き.......今も愛してる!」

 

「俺もだよ.......君を愛している」

 

「海斗......私を貴方の傍に居ても.......いいですか......?」

 

「こちらからお願いするよ。俺の傍にずっといてくれ」

 

その瞳は涙を流して揺れていた。

千景は海斗に向かって強く抱きついた。もう、離れないように離れたくないように。

そして海斗も千景を優しく包み込む。

互いの想いをぶつけて二人で分かち合う。

それが一番の繋がりなのだから。

 

「海斗........」

 

「ちーちゃん」

 

二人は顔を向き合わせる。そして徐々にその距離は接近し、やがて互いの唇が重なり合った。

 

「ん......ちゅっ......」

 

「ん.......」

 

存在と温もりを確かめ合うかのように。

ゆっくりと濃密に。

その数秒が長く感じた。

二人は唇を離すとその間から銀色の糸が形成されていた。

初めて海斗と千景は互いに繋がった気がした。

 

「もう、君を離さない」

 

「もう、貴方から.......離れない」

 

嬉しさで笑みが漏れてしまう。

だが、この甘い感覚は人をさらに幸福へと誘う。

そう言うと二人の影がまた重なった。

海斗は誓う――千景だけは死んでも守り抜くと。

千景は誓う――海斗だけは死んでも傍にいると。

二人が死を分かつその時まで永遠に.......ずっと。

 

その花は愚かにも貪欲に勝利に食らいつき、自身の欲しいものは必ず手に入れる。

そしてその傍にいるのは昔から一人に対して想いを募らせた淡く綺麗な花。

その二輪の花は寄り添い合い何処までもその空を見続ける。

例え時代を超えようともその決意が一筋の想いになるのだから。

 

 

 

 





砂糖吐きそう......満足感はあるけど、彼女いない歴=年齢の私には恋愛描写は難しいんじゃあ!
次回は海斗君の出番ありありでっせ?

ではまた次回にお会いしましょう!さらば!

次回。第26話:決意


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第26話:決意


どうもバルクスです。
今回は短いですが許して下さい。
では本編どうぞ〜!


 

海斗は千景が入院している病室にいた。

ここ毎日見舞いに来ているため指で数えるのを止めた。

通いすぎてナースにも顔を覚えられたぐらいだ。

だが最近海斗と千景の関係は変わった。

友達から恋人になったのだ。

海斗が千景に告白してから彼女はよりスキンシップが多くなったのは言われるまでもない。

ハグやキスも当たり前......でも何れ成長したらそれ以上な事もするのだろう。

海斗は千景の姿を見つつ話しをする。

ゲームの話、最近の流行、世間に対しての事。

それ等色々を時間があるだけ話し尽くす。

 

「ちーちゃん体の方はどう?」

 

「......大丈夫よ。海斗がいるだけで頗る調子がいいもの」

 

「それは大袈裟すぎだろ」

 

千景の容態を聞きながら海斗は苦笑しながらじゃれつく。

これも慣れたものだ。

毎日同じ事を聞くが、これがとてもなんとも楽しいと思ってしまう。

今まで出来なかった事が一歩進んだだけでこんなにも変わるものなのか不思議である。

するとノック音が聞こえ病室の扉が開かれると若葉が現れた。

 

「やはりここにいたか」

 

「お、若葉か。ちーちゃんに何か用か?」

 

「いや、少しお前に話があってな」

 

「話.......?」

 

若葉の表情である程度何かあると察した。

何やらの事情があるようだ。

 

「千景すまないが、海斗を借りても大丈夫か?」

 

「えぇ。丁度、面会時間も近い頃だし構わないわ」

 

若葉は海斗を借りようと許可を貰うが、千景は潔く頷いて許可してくれた。

反対するかと思ったが、千景はそんなことはしなかった。

そろそろ面会出来る時間が近づいてきているので丁度良かった。

 

「ありがとう。じゃあ早速悪いが、海斗こっちに来てくれ」

 

「うぃー。んじゃちーちゃん、また来るから」

 

「うん........また。明日も楽しみにしてるわ」

 

千景に手を振って海斗は若葉に着いて行って病室を後にした。

 

 

 

 

 

 

「ここなら、大丈夫だろう」

 

病室からある程度歩くと、若葉は人寄りが少ない場所で立ち止まった。

 

「それで、俺に話ってなに?」

 

「それは私がお話します」

 

すると若葉の後ろから黒髪にリボンを結んだ少女。上里ひなたが現れた。

何故態々こんな所まで連れて来たのか益々疑問を抱いた。

 

「ひなた?何でこんな所に?」

 

「海斗さんに大事な話があって来ました」

 

「それは......大社からの口か?」

 

「いえ、私の意志で来ました」

 

彼女は大社に行っていたのは知っていたが、ここで遭遇するとは思わなかった。

余程大社では何かが起こっているのが分かってしまう。

ひなたは息を吐くと真剣な表情になって海斗に向ける。

 

「......海斗さん、落ち着いて聞いてください」

 

「話してくれ」

 

「千景さんについてです。大社は彼女の勇者としての記録を全て抹消するつもりです」

 

「は.......?」

 

ひなたの言葉に頭が真っ白になった。

大社が千景の全記録を抹消?冗談かと思った。

たが、ひなたのは真実を言っている。

 

「ちーちゃんが勇者だった記録を消すだって........?なんでだよ!!」

 

「千景さんは地元で起こした事件。そして、樹海化の中での若葉ちゃんへの凶行。この二つが大社として彼女を勇者として称えることも出来ない状態なんです」

 

「じゃあ、ちーちゃんは.......」

 

「勇者として復帰は出来るように神樹様にお願いしたのでそこは大丈夫ですが........これからは彼女の功績を公に明かす事はまずないと言っていいでしょう」

 

千景が起こした行為はSNS経由で四国全体に流れてしまっている。

勇者に復帰出来たとしても誰も認知されず、誰にも顔を向けられない。

そして、死んだとしてもその名前や存在が無かったことにされる。

あまりにも理不尽だ。大社側からしては穏便に済ませたいと思ってやっているのだろうがこれは度が過ぎている。

 

「.......ッ」

 

巫山戯るな.......そんな事を心の中で言う。

都合が悪くなったら切り捨てる。

そんな思考を持つ奴らを海斗は嫌悪した。

大社は四国の人々の為に動いている。だが、まだ成人もしていない子供に対する仕打ちではない。

これが人間のやる事かと怒りが溢れてくる。

そして海斗は一つだけ強硬な手段を思いついた。

 

「ひなた......一つ提案があるんだが、いいか」

 

「何でしょうか.......?」

 

「ちーちゃんの変わりに.......俺の勇者の記録を全部抹消しろと大社に言え。従わない場合――『神樹と四国に住む人々を殺す』と」

 

「なっ......!?」

 

「........」

 

海斗の言葉に今まで黙っていた若葉も声が漏れひなたはそれを静かに見つめる。

彼の言葉は脅しだ。たった一人の少女の為に世界を敵に回しても守ろうとする。

 

「それと、ちーちゃんの親権は現時点を持って黒結家が貰う。有無は言わせない、それも大社に伝えておけ」

 

あまりにも無謀だというのに海斗は揺らがなかった。

今の時代、神を崇めている組織に敵対するという事は異端

者になる。

決して存在もそこにあったことも無になるだろう。

それでも海斗は良いと思った。

あんなに優しく化け物にも臆せず立ち向かったのだ。

その事実をなかったことはしたくない。

その為だったらこの世界の敵にでもなってやる。

すると海斗の要求を聞いたひなたは溜息を吐いて口を開く。

 

「.......分かりました。大社からはこちらで伝えときます。ですが、本当に宜しいんですか?それをすれば貴方は.......」

 

ひなたの言うことは分かる。

今までいた知人が世界から消えるのだ。

そんなの許容なんて出来るはずがない。

しかし海斗は首を振った。もう決めているかのように。

 

「もう、嫌なんだ......手が届きそうなのに何も出来ずにその場で居座る自分自身が.......」

 

自身の右手を見つめて言う。

あの日に救えなかった後悔や無念。

そしてふと思い出す。かつて救えなかった多くの人の屍がこちらを見つめながら問いかけるのだ。今度は誰を犠牲にして生き延びるんだ、と。

 

「.......だけど、今は違う。今伸ばせば手が届く。それだけは離したくないんだ。それに、約束したんだ。ちーちゃんだけは絶対に......守るって。だから――」

 

拳を強く握って自分の思いを吐露する。

例えなんとも言われても何をされようとも彼女だけは絶対に傷付けさせない......必ず守るんだと。

そして決意する。

 

「これは......俺の戦いだっ!」

 

どんな事を使っても千景の記録抹消は阻止する。

その人柱として海斗が入ればいいだけなのだ。

 

「貴方の決意に評して私も出来る限り協力します。私も千景さんの処遇に納得いってないんですから」

 

「正直、海斗がこんなにも過激な事をするとは思わなかった。だが......仲間の為なら私も全力で協力する」

 

「ありがとうな.......二人とも」

 

ひなたと若葉も協力する事になり翌日に大社に乗り込んだ。

結果は海斗が優勢になり、反発した者は海斗が潰した。

そして千景の記録抹消は阻止され。海斗がその役割を担う事になった。

この事を千景に言ったが彼女は泣いて海斗に抱き着いてきた。自分の事や海斗の事で複雑な感情になった。だが後悔はしていない。

これで彼女が後世に語り継げられるのだから。

後は時間が掛かるが、それは些細な事だ。猶予は沢山ある。

その中で潰せばいいだけなのだから。

 

 

 





大社に乗り込む海斗君怖すぎるやろ.......愛する人のためならどんな事でもする男.......最高だな。
さて、これで海斗君は確実に記録から消されることが確定しましたね。
どうか少しは残ってて欲しいものですが(フラグ)

次回は日常会です!
ではまたお会いしましょう!さらば!


次回。第27話:夢語り



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第27話:夢語り

どうも最近わすゆの劇場BluRayを秋葉で(安くて)買ったバルクスです。
いやぁつい見つけてしまったので買わずにはいられなかった(後悔はしていない)

今回は最終決戦の前日会です。
では本編どうぞー!


 

「はぁ、はぁ.......!」

 

海斗は丸亀城の敷地内で体力を付けるためにランニングを行っていた。

実際に走ってから三十分は経過している。

丸亀城は敷地が広いので走るのには持ってこいだ。

体幹二十周を走り終え、海斗は本丸城郭で一息ついた。

その近くに置いておいた自家製のスポーツドリンクを手に取り飲む。

 

「んくっ、んく........ぷはぁ!」

 

走った後に汗だくの状態で水分を取るのは中々に美味しく感じる。

体が水分を求めておりその適度に配分された甘みと酸味は癖がなく丁度いい飲み心地だ。

 

「........」

 

城郭から見える周囲の景色を一瞥した。

千景の事件から既に一ヶ月が経った。

大社に強行手段で乗り込んで彼女の記録抹消は無くなり、変わりに海斗の記録抹消で決まり、千景の身柄や親権は黒結家が取得して事を収めた。

大社からしても腑に落ちない所があるのか神官達の表情を見ればよくわかった。

これから海斗と大社の関係は険悪になるだろう。

だが後悔はしていなかった。

それから海斗はその事を海斗の父、柊に伝えるが彼は何も言わなかった。

逆に笑って賞賛してくれたのだ。

「さすが俺の息子だ」と言って頭を撫でられたのは気恥ずかしかった。

しかし会社的にも『ブラック・コネクト』は大社と良好か関係維持しているはずなのにその息子である海斗が大社と敵対したというのにどうしてそんな平然としていられるのかと聞いた。

柊は鼻で笑って「俺の息子が大事な人を守るために己を賭ける選択をしたんだ、超カッコイイじゃん。それに自分の選んだ道だろ?それに、息子を信じない親は親とは呼べないからな」と言った。

その後に後処理は柊が全部やってくれて海斗は思ってしまう。

あぁ。本当にこの人には敵わないなと思った。

だって茨の道を踏んだ息子を最後まで信じ切ると言ったのだ。

それだけで海斗は嬉しかった。

いつか父がしてくれた事に報えるように海斗は心に誓った。

すると背後から少女の声が聞こえた。

 

「はぁ、はぁ、はぁ......あ!うみくんここにいた!」

 

振り向けば友奈が手を振りながら歩いてきておりそして友奈に続いて視界から四人の少女達がこちらにやってきていた。

だが海斗は目を背けた。何故なら全員体操着を着ていて汗だくなのでその透けた服から見える育ち盛りのものが見えてしまったので少々目に毒だった。

 

「はぁ、ふぅ......うみくん、速すぎるよ!私達着いて来れなかったよ!」

 

「いや、勝手に着いて来てるのはお前らだろ?」

 

「そこは、皆に合わせるのがチームワークってやつだよ!」

 

「えぇ......」

 

友奈は息を整えて再び言うと海斗について文句を述べた。

これに関しては困惑してしまう。別に悪いとは思っていない。ただ普通に走っているだけだし、それに着いて行こうとしている奴が悪いと思っている。

取り敢えず、皆の分のスポーツドリンクを渡して飲ませた。

 

「友奈。こういう時の海斗は好きにさせた方がいいぞ」

 

「若葉の言う通りだなぁ......タマも走るのは得意だったんが、これは流石のタマでもきついゾー.....」

 

「わ......わた......ぜぇ、ぜぇ、私もそう......思います」

 

「.......体力を付けたいのは分かるけど、そんなに突出すると体が持たないわよ?」

 

友奈に便乗して若葉、球子、杏、千景が言う。

 

「いやいや、俺は――はぁ.......悪かったよ、次は気を付ける」

 

後々面倒になることは目に見えていたので、ここは素直に謝ることにした。

海斗が謝れば全員笑った。それすら可笑しく見えてしまう。

ちょっと腑に落ちないところはあるが、これはこれで良いと納得した。

すると友奈がスポーツドリンクを飲み終えると口を開いた。

 

「そういえば皆、結界の強化の話って聞いた?」

 

「今、大社が進めている計画だな。勿論聞いたさ」

 

友奈の話に若葉は頷く。

七月下旬、間もなくバーテックスの襲来が起こるという神託が下った。

だが、未だに壁の外で融合を続けている超巨大バーテックスへの対処法は見つかっていない。

今も尚壁の外でゆっくりと機会を待つかのように成長を続けている。

それに壁の外には、その超巨大バーテックスの他にも、大型のバーテックスの存在が確認されていた。

以前のサソリ型と同系サイズの者が数体、出現している。

あれから一ヶ月以上間、バーテックスは四国内へ侵攻していない。

それは壁の外で大型のバーテックスたちの成長を待っているためなのだろう。

神樹の神託によれば、敵は間もなく完全に戦闘準備を終えて、四国へ一斉に侵攻を仕掛けてくるという。

だが、次の総攻撃さえ乗り切れば敵の侵攻を食い止める対策を二つ用意出来ると大社は言っていた。

その一つが以前から計画されていた結界の強化である。

そしてもう一つは頑なに大社は勇者達に説明はしてくれなかった。

少し不安感があるが今は信じるしかないだろう。

勇者達全員は城郭の石垣から海の方を見つめた。

遠くに海と空と神樹が作った壁が広がっている。

神樹の力で内側から見えないが、実際その向こう側に超巨大バーテックスが今も存在している。

今は神樹の結界に施された遮断の力で見えないようなっている。

 

「あと数ヶ月で完了するそうだが......結界の強化が終わればら今までのようにバーテックスの侵入を許すことはなくなる」

 

「うん。でも......『もう一つの対策』ってなんだろ?」

 

「俺らが考えても仕方ないだろ。今は俺たちが出来ることをやるのが得策だ」

 

「そうだね........次の戦いに勝てば、対策は全部整うんだよね!そしたら、バーテックスはもう来なくなる。平和になる!よしっ!」

 

不安そうに言う友奈に海斗は自身の手を彼女の頭に乗せて撫でる。

友奈は元気が出たのか明るさを取り戻し、前向きに言葉を発す。

それに応じて球子が口を開いた。

 

「なー若葉、そろそろ昼になるから食堂行かないか?もうタマは腹がペコペコで倒れそうだ.......」

 

「もう、タマっち先輩は大袈裟すぎだよ?」

 

「腹が減っては訓練は出来ぬ!ってどっかのエライ奴は言ってたんだからいいんだよっ!」

 

杏のツッコミを受けて球子は声を荒げて場を和ませる。

先程あった悪い空気はいつの間にか消えていた。

 

「あぁ。もうじき昼時だしな、行くとしよう」

 

「よっしゃあっ!じゃ、行くぞあんず!」

 

「待ってよタマっち先輩!」

 

「ぐんちゃん!うみくん!私達も行こう!」

 

「.......えぇ。分かったわ」

 

「ん........」

 

若葉も球子に首を縦に振って従った。

その後は全員で食堂で楽しくうどんを食べたのは言うまでもない。

海斗はうどんを食べながら窓から遠くの空を見る。

今日の天気は少しドンヨリとしたものになっていた。

昼が食べ終わり今日は授業が何も無かったので寄宿舎にある自室にもどった。

するとスマホの方から一通のメールが届いた。

差出人を確認すると友奈だった。

内容を読むとこう書かれていた。

 

『明日皆でお出かけしよ?』

 

そんな文章が書かれていた。

 

 

翌日、海斗は待ち合わせ場所である丸亀城の大手一の門前で友奈達を待っていた。

だが、数分待っても一向に現れず持ち合わせの時間も過ぎていた。

 

「全く......一体何してんだか」

 

時間厳守は大切だと身に刻んだ早くは来たのだが、これでは無駄な時間を浪費してしまう。

そんな事を思っていると、友奈達が姿を現した。

 

「ごめん!おまたせ〜!」

 

「遅い、何やってたんだ?」

 

「実は......」

 

「正直に言え」

 

「は、はいぃっ!」

 

友奈が口ごもって話さないでいると海斗は圧を掛けて友奈に攻め寄った。

友奈は素直に遅れた理由を説明した。

実は勇者として民衆の前で姿を晒すことは目立ってしまうため、全員(千景を除く)は変装をする事になったのだがここに来る前、ひなたに見つかり彼女の堪忍袋の緒に触れてしまい私服に着替えさせられて遅れたと言う。

これにはもうため息しか出ない。

 

「.......本当にそこだけアホだよなお前」

 

「よく言われるから否定しようがない.......本当にごめんなさい」

 

友奈は謝罪をしつつこちらの顔を伺っている。全く彼女はこの時のやつは敏感だなと呆れてしまう。

 

「取り敢えず、時間が無くなるから行こうか」

 

海斗が言うと全員頷いて丸亀城の敷地内から出て、一通りがある場所を歩いた。

暫く歩いても通行人は勇者たちを見ても気には留めるものの、気にせず通り過ぎていく。

それを見て自分たちが気にし過ぎた事が可笑しくなって笑ってしまう。

少々敏感になり過ぎていただけなのだ。

その後は商店街、観光スポット、デートスポットを色々巡った。

それからは昼を食べ、珍しいものに触れて時間を過ごす。

そんな中で海斗は皆が楽しく話している時にふと思ってしまう。

勇者ではなかったらこんな日常を気楽に過ごして、青春もして、色んなことをしたのだろうかと。

けど、勇者にならなかったら彼女らに出会わなかったのもある。

運命とは常に分からないものだ。

だからこそ恐ろしい。

海斗は思ってしまう。次の侵攻で誰かが死ぬのではないだろうかと。敵も更に強化されて攻めてくるのだ、これで誰かの死人が出ないと言われても不思議とは思わない。

 

「.......」

 

「海斗......?」

 

「うぉ!?」

 

そのまま友奈に着いていけばいつの間にか海の所に来ていた事に気付く。

どうやら考え耽っていたようで認識していなかった。

海斗は慌てて千景の方に振り向いた。

 

「ど、どしたんだちーちゃん?」

 

「......どうしたじゃないわ。上の空になってたから声を掛けただけ」

 

「あ、あぁ。ありがと」

 

「.......何か考え事?」

 

「まぁ、そんなとこ」

 

「......話して」

 

海斗の異変に気付いた千景は彼の顔を見つめながら言う。

全く、彼女には敵わないなと思ってしまう。

海斗は素直に話した。

これから起こることがどうなるか分からない事が堪らなく恐いことを。

それを聞いた千景は海斗の手を握って口を開いた。

 

「......大丈夫よ、私たちは死なないわ。だって.......海斗や皆と一緒なら、バーテックスに負けないわ.......絶対」

 

千景は優しく微笑んだ。

彼女の瞳には決意が宿っていた。

大切なものを守るために皆で絶対に勝てると信じているのだ。

海斗はまた自分で背負おうとしていた。

こんなにも信頼出来る仲間がいるのに心の底では守るべき対象としか見ていなかった。

だが、今はもう違う。

今なら一緒に戦うと言える。

 

「そうだな.......ありがと。ちーちゃん」

 

「......彼氏を支えるのは彼女の役目よ」

 

「ははっ、なんだそれ」

 

千景が普段しない発言に吹いてしまった。

だが、それだけで気が楽になった。

隣で支えてくれる人がいるのはどれだけ心強いのか良く分かる。

すると歩きながら千景は海斗に聞いた。

 

「.......海斗はもし、バーテックスとの戦闘が終わったらどうするの?」

 

「その後か......うーん」

 

正直考えてはいなかった。

前はバーテックスさえ滅ぼさえすればそれ以外はどうでも良かった。

それ以外は決めていなかった。

だがもし、もしもバーテックスを倒したとして海斗はその後にどうしているのか考える。

そしてある事を思い浮かべた。

 

「将来はあの会社を継ごうかな」

 

「.......以外ね、あなたがお義父さんの仕事を継ごうと言い出すなんて」

 

「出来るだけ退屈はしたくはないからな」

 

本当は継ぐつもりはなかった。だが、千景の事や自身の事を考えればそれが安牌なのだ。

『ブラック・コネクト』社を継げば大社側としてはコネが手に入るし、何かとやりやすいのもあった。

 

「じゃあ、私も......貴方に着いて行くわ」

 

「大変だけどいいの?」

 

「.......勿論。承知の上で申し出てるんだけど?.......貴方の傍にいられるのならどんな事でもするわ」

 

「頼もしいな、それは」

 

千景の言葉に苦笑してしまう。

愛というものはここまで豹変させてしまうのかと恐ろしく思ってしまう。

でも悪い気はしないし、寧ろ心強かった。

千景が傍で支えてそのまたもしかりだ。

互いに支え合ってどんな壁も超えれば何も問題ないのだから。

その後は全員が夢や自分の話をした。

それは充実していてこれからの事を思ってかのように楽しく感じた。

そんな話をすればやる気なんてどこかしら溢れてくるとそう錯覚してしまう。

夕暮れの中、太陽が海の中に沈んでいく。

海斗はその奥にある壁の外を見つめつつ願った。

バーテックスに勝ち、誰一人欠けずに絶対に生きて帰れますようにと。

そして間もなく――バーテックスが四国へ侵攻を開始した。

 

 

 

 

 

 





夢は夢だから儚いから良いですよね。
因みに自分の夢は平和に人生を謳歌出来ればそれでいいんですよね〜まぁ、その他は自分の好きな作品に転生したい.......まぁ、無理なんですがw

次回は最終決戦です。

前編、後編で、分けます。タイトルは違いますが。
ではまた次回にお会いしましょう!さらば!

次回。第28話:絶対的勝利は運命に抗う


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第28話:絶対的勝利は運命に抗う

どうも、リア友にゆゆゆをオススメしたバルクスです。
今の所、推し候補が樹ちゃんと東郷さんぽいんですよね〜。
いやぁ、これから曇る顔を想像するとニコニコが止まりませんねぇ.......グヘヘヘ

今回は遂に最終決戦です。

では、本編どうぞ〜!


樹海に覆われた四国の中で勇者達は丸亀城本丸城郭に立ち、遠く壁の方から迫ってくる複数の進化体バーテックスを見据える。

数は六体。一人で一体を倒せばいいのだろうが、それでは神樹を守る者がいなくなる。

そこで杏と球子が神樹を守りつつ援護する形なり、進化体を相手にするのは若葉、友奈、千景、海斗の四人で二人がかりですることになる。

それとよく見れば異様にバーテックスの進行速度が速く感じる。

それを若葉が代弁するように口を開く。

 

「壁が強固になると分かっていて、焦っているようだ」

 

「六体だから......二人で三体相手すれば言い訳だな」

 

「よしっ!私とうみくんが硬そうなやつを相手にすればオッケーだね!」

 

「.......そうなると私と乃木さんが残りの三体を片付ければいいのね」

 

「タマとあんずは、神樹様を守りつつ何かあった時は守るから安心しろよ!」

 

「後ろからの援護は任せて下さい!」

 

全員の士気は万全だ。

これが最後の戦い。酷く苦しい戦いにはなるだろう。

早速樹海に腐食が現れ始めている。

だが、これさえ乗り切ればバーテックスは四国に手出し出来なくなる。

一切の出し惜しみはしないしする余裕もない。

 

「これが最後の戦いになるが、油断はするな。――行くぞっ!」

 

「うん!」

 

「あぁ!」

 

「......えぇ!」

 

「おうっ!」

 

「はい!」

 

若葉の言葉に全員は声を発して頷いた。

そして若葉、友奈、千景、海斗の四人は意識を集中させた。

自分の内に宿る勇者の力を遡り、神樹の持つ概念的記録にアクセス。

そこから精霊の力を引き出し、自らの身に宿す。

 

「出し惜しみはなしだ。降りよ――大天狗!!」

 

「全力全開!来い――酒呑童子!!」

 

「力を貸して――玉藻前!!」

 

「行くぞ――孔雀!!」

 

若葉が身に宿すは、神にも比肩する大妖、魔縁の王、とある伝承に寄れば天上世界を一夜にして灰燼と帰したという『大天狗』。

若葉の勇者装束が変化し、背中から漆黒の巨大な翼が生える。

刀も形が変わり、少し大きくなる。

友奈が見に宿すは、比類なき力の権化、鬼の王、『酒呑童子』。

これまでの戦いで大型のバーテックスに実績を残した妖怪。

友奈の勇者装束が変化し、彼女の持つ手甲が巨大化していく。

千景が見に宿すは、自身の美貌や妖術活かして地位のある人を魅了したという『玉藻前』。千景の勇者装束が変化して頭には狐の耳と臀部には九本の狐の尻尾が生えた。

鎌も変化して刃が二つに増える。

海斗が身に宿したのは自身の憎悪で身を焦がし自分と世界すらも憎んだという異類な鳥『孔雀』。

海斗の勇者装束が変化し、全身に紫の炎が生え揺らぐ。

大剣が変化して大型になる。

大天狗、酒呑童子、玉藻前、孔雀――四つの人の身に余る力を宿した男女達は、人の世界を滅ぼさんとする天敵たちを見据えた。

一方球子と杏は輪入道と雪女郎を身に宿す。

 

「じゃあ、俺と友奈は面倒臭いやつを倒しに行ってくる。若葉とちーちゃんは残りのバーテックスを頼んだ!」

 

「あぁ、任せろ!」

 

「えぇ。鏖殺してあげるわ!」

 

「行くぞ、友奈!」

 

「うん!」

 

友奈と海斗はバーテックスの方に向かって跳躍した。

あちらも丁度三体ずつ別れて行動しているので好都合だった。

ここからは二手に別れてバーテックスを向かい打った。

何としても生きて守り抜く。

そんな気持ちが勇者全員にあった。

 

 

 

 

 

海斗と友奈は三体に別れたバーテックス待ち伏せる。

するとその数秒後に三体が神樹に向かって移動していた。

そしてその一体は地中を潜りながら移動している。

まるで魚のような形をしたバーテックスだ。

あまり地中に潜られたら対処するのが面倒だ。

先にそいつを片付けた方が良いだろう。

すかさず友奈が魚型が進行するところの前に着地して構えた。

 

「ここから先は行かせない!」

 

人より巨大な化け物を精霊の力で受け止める。

 

「うぉぉぉぉぉぉぉぉ!ッはぁっ!」

 

その力で地中に潜って移動する魚型は動きが止まった。

そして友奈は魚型を地中に潜らせないように上に持ち上げて足で空中に蹴り上げた。

瞬間にそのまま高く跳躍して魚型に一撃を入れる。

 

「勇者ぁ......パァァァァァ――っ!?」

 

だがそれは蟹型をしたバーテックスが反射板が目の前に現れたことで防がれた。

そしてそのハサミで友奈を挟もうとしたが、今の彼女の前ではそれは効かない。

 

「ぐっうぅぅぅ!ッ!!」

 

ハサミの形をしたものを巨大化した手甲で砕き、攻勢に徹する。

ハサミの攻撃を避けながら友奈は蟹型を吹き飛ばし、その後を追う。

そしてまたもや盾の役割をするかのように反射板が層ごとに形成されていく。

だがそのまま気にせず友奈は前へと進んだ。

すると友奈の前に一人の影が現れた。

それは大剣を持ちながら力一杯、反射板に振るう。

 

「うおぉぉぉぉぉぉっ!!」

 

そして反射板のそれらは全て海斗が真っ二つに切り伏せて道を作る。

 

「行けっ!友奈!」

 

「ありがとう、うみくん!このぉぉぉ!!」

 

仲間の援護のお陰で道が出来た友奈はそのまま突っ切り蟹型のバーテックスに拳を振るう。

そして蟹型はその一撃で塵と化した。

 

「かはっ......!」

 

「友奈!大丈夫か!」

 

たった一撃を入れただけなのに吐血をした友奈。

海斗は近くに寄って声を掛ける。

 

「大丈夫だよ.......全然.......いけるから!」

 

「だが.......」

 

「うみくん、今は.......バーテックスが優先だよ」

 

友奈は首を振って言う。

自身の事は二の次にして今はバーテックスの事を優先したのだ。

今も倒れそうなのに。

 

「次は俺が倒すからお前は俺のカバーをするか休んでろ。いいな?」

 

「うん......ありがとう」

 

海斗の言葉に友奈は了承した。

せめて彼女が負荷を最小限で抑えられるように次は上手く立ち回ろうと決めた。

そして次の目標へと二人は移動した。

先程蟹型のバーテックスに邪魔をされたが、今はもういない。

 

「友奈、あれは俺が行く。少し休んでろ!」

 

「私も行くよ!」

 

「さっき言ったろ!少しは体力を温存させろこの馬鹿!」

 

「っ.......分かった。........気を付けてね!」

 

「はなからこっちは臨戦態勢だよっ!」

 

海斗は魚型に向かい、村正を振ろうと構える。

 

「化け物如きが、上から見下ろしてんじゃねぇぇぇぇぇ!!」

 

叫びながら村正を振ろうとした瞬間に、魚型から黒色のガスが放出された。

そのガスのせいで視界は真っ暗になり何も見えない。

しかし海斗は気にも留めなかった。

 

「そんなの.......気配と殺気で――分かるんだよ!」

 

そのまま真っ直ぐガスの中を通り過ぎ、視界に魚型を捉える。

 

「はぁぁぁぁぁっ!!」

 

海斗は勢いよく村正を振り下ろし、魚型を切り倒した。

その横を通り過ぎて敵から距離を取ると海斗は口元を抑えた。

 

「がふっ......!」

 

肉体が精霊の力についていかず吐血する。

精霊のデメリットとして肉体への過度な負担がある事。

それに海斗が身に宿した孔雀は常に身体中が燃えるような痛みと破壊衝動と殺戮衝動が襲ってくる。

それに理性で耐えており、今も精神が削れていく。

立ち止まっている時間は無い。

一刻にバーテックスを殲滅して世界に被害がないようにしたいのだ。

すると友奈がこちらに向かって来たことに気付く。

 

「うみくん!」

 

「友奈!よそ見をするな!やつはまだ――」

 

海斗が友奈に言おうと声を発しようとする瞬間、先程倒した魚型から通常個体のバーテックスが溢れ返ってきた。

それは百体は軽く超えている。

海斗と友奈は互いに頷き通常個体の殲滅に対応する。

 

「ふっ!はっ!はぁ!」

 

霊力を解放して刃を延長する。

それを横凪にして振るった。

それに当たった通常個体は一瞬にして塵と化して消えた。

だがそれだけでは終わらない。何回も同じことを繰り返して迎撃するが、その数はとめどなかった。

 

「数が多い!」

 

「クソっ!これじゃあ神樹が破壊される!」

 

通常個体を倒していく中、突如海斗の目の前に雷が降り注いだ。

 

「ぐうっ!雷......!?」

 

咄嗟に村正で防御をして雷が向かってきた方向へと視線を向ける。

そこには蛇みたいな形をしたバーテックスがこちらに接近していた。

最後の一体だ。

どうやら通常個体を援護する形で立ち向かってきた。

そして次の瞬間、先程とは比較にならない程の威力の雷が海斗を襲った。

 

「ぐっ、あぁぁぁぁ!」

 

村正で必死に攻撃を防ぐが防戦一方だ。

友奈は通常個体を少しずつだが倒してくれている。だが数が多く一人では手に負えない。

このままでは通常個体が神樹に到達してしまう。

そんな少しな焦りが不安を掻き立てる。

早くコイツを殺さなきゃ――殺せ、殺せ、殺せ!!

と、そんな心の内が叫ぶ。

すると通常個体を倒していた友奈が電撃を出すバーテックスに直進していた。

それに気付いたバーテックスは友奈にも電撃を食らわす。

友奈はそれを巨大化した手甲で防御する。

 

「負けるかぁぁぁぁぁぁ!うわぁぁぁぁぁぁぁぁ!!」

 

叫びながら声を大きく発し、高く飛び上がる。

そしてバーテックスに向かって友奈は右足を斜めにして重心を偏らせる。

 

「思い知れっ!勇者ぁ、キーーーーーーックっ!!」

 

友奈の重い一撃の余波が通常個体すらも巻き込み、大型バーテックスが電撃を放ったとしても止まることはない。

そして雷すら貫くその攻撃が大型バーテックスに当たる。

その衝撃で大型の外皮がひび割れて、そのまま貫通してバーテックスは塵と化した。

溢れた通常個体も全部一掃が完了する。

 

「うっ......はぁ、はぁ......がはっ.....!」

 

「友奈っ!!」

 

地面に両膝と両腕を付けた友奈は息を荒くする。

すると突如吐血した友奈は勇者システムの変身が解けて地面に仰向けの状態で倒れてしまう。

その様子を見た海斗は叫んでしまう。

直ぐさま合流して友奈に声を掛ける。

 

「友奈!友奈!おい、しっかりしろ!」

 

「うみ......くん.......?」

 

微かに友奈は海斗の声に友奈は反応した。

だが彼女の状態を良く見れば酷かった。

酒呑童子の反動で両腕、両足、そして頭部や腹部の至る所が出血しており、そこから夥しい血が彼女から流れて地面に血溜まりを作る。

 

「え、へへ.......ごめん.......無茶、しちゃったかも.....」

 

「待ってろ、今止血するから!」

 

友奈がか細い声で喋る。

海斗は自身の勇者装束の一部を切り取って友奈を救おうと重要な箇所だけを止血する。

だがそれでも血は止まらなかった。

 

「クソ......クソっクソっクソっクソっ!!止まれ、止まれよッ!」

 

手で出血してる箇所を抑えても止まらなかった。

自身の手が赤く鉄臭くなっていくのを感じながら海斗は抑える手を止めなかった。

彼もわかっているのだ、彼女はもう助からないと。

初めからわかっているはずなのにこうも必死に否定して諦めずに無駄な事をしている。

 

「――もう......いいよ。うみくん」

 

友奈がぽつりと海斗に語り掛ける。

彼女の目を見れば自身の死を受け入れているかのように優しい微笑みを浮かべている。

海斗は唇を震わせながらも何も言わない。

 

「.......今は、私の事なんか......構わずに......バーテックスを......倒して」

 

こうしている間にも残った通常個体が融合を始めている。

そしてその中心には壁の外にいた大型バーテックスもいた。

まだ完成していないのか神樹の方へと移動しながら構築をしている。

友奈は自身の今の状態になっても後回しにして目的を優先させようと海斗に言う。

 

「どうして......お前は、そんな事になってるのに.....自分の事を、後回しに......するんだよ!」

 

友奈の言葉に海斗は声を荒らげた。

すると友奈は弱々しく右手を上げ、海斗の頬に触れた。

その手は暖かいはずなのに徐々に冷たくなっていると感じてしまう。

 

「......そんな顔しないで。最善策を.......取った、だけだよ」

 

友奈は微笑みながら言う。

 

「だから......お願い......」

 

「.......」

 

海斗は迷っていた。

今ここで仲間の命を賭けるか世界の命運を賭けるかをの選択を強いられる。

出来れば両方をしたいと偽善的な事を思い浮かべるが、現実は常に残酷なものだ。

こうして友奈は瀕死で生きているさえやっとの状態。

今更助けた所で意味はあるのだろうか。

そしたら世界の滅びを避ける方を選んだ方が合理的に良い。

でも友奈がこのまま何も言わずにいたのなら彼女を見捨てずにこのまま止血に専念していただろう。

だが海斗は彼女の願いを聞き入れた。

せめてへの手向けとして。

止血をしている手を離してそのまま海斗は立ち上がって口を動かす。

 

「.......見ていてくれ友奈。俺が全て終わらせてくる瞬間を」

 

「.......うん........ちゃんとみてる。.......頑張ってね」

 

微笑みながら友奈は言う。

そして最後に友奈を一瞥しながら海斗はそのまま大型バーテックスの方へと跳躍して向かった。

海斗の後ろ姿を見ながら友奈は心の中で呟く。

 

「(......神樹様、お願いします。どうか、うみくんを助けてください)」

 

せめて彼の無事が神に届くと願った次の瞬間、友奈の体に異変が起こる。

まるで何かと溶け合っていくような感覚に襲われた。

でも何故か不快感は一切感じなかった。

そして友奈は気付いた。

 

「(神樹......様......?私.......神樹様の中に.......入っていってる.......?)」

 

恐怖もなく優しい温もりが友奈を包む。

 

「(うみくん、皆......一人でも欠けることがないようにって約束したのに......ごめんね、できそうにないや.......)」

 

後悔はある。皆ともう少しいたかったと、もう少し海斗と話したかったと。

幾らかとその思考が湧いてくる。

だけどせめて彼とまだ隣で一緒に笑って歩いて行きたかった。

すると友奈はこの気持ちに気付いた。

 

「(.......そっか、私.....うみくんに恋を.......してたんだ)」

 

今更気付いたところでもう遅いと言うのになんともタイミングが悪い。

早く気付いていて千景よりも先に告白していれば付き合えたのだろうかとそんな妄想が思い浮かぶ。

だけど彼がここにいなくて良かったと思った。

もしここにいたら友奈は気持ちを言ってしまうだろう。

だから良いのだ。

でも少し切なかった。

 

「(うみくん.......いつか生まれ変わったら......その時は、私と――)」

 

それを最後に友奈の意識は光に飲み込まれた。

 

 

 

 

 

海斗は神樹に向かうバーテックスを追う。樹海化した建物を足場にし、跳躍する。

そしてバーテックスの近くに接近するが距離が近付いたとしても大型バーテックスは海斗を無視した。

とっくに人が感知できるぐらいにはいるというのに。

 

「やはり狙いは神樹か!」

 

大型は海斗に目もくれずにそのまま直進していく。その目の前には人類の源として世界の現存を維持してくれている樹。

 

「させるかぁ!!」

 

神樹が殺されれば人類は確実に明日を生きれずに絶滅し、滅ぶだろう。

 

「こっち見ろっ!この、化け物がぁ!」

 

海斗は村正を持ち、大型バーテックスに振り上げる。

跳躍した加速力と精霊の力も相まってその威力は大型バーテックスの外皮に傷を付けるのには充分だった。

そしてその攻撃で大型バーテックスは動きを止め海斗の方に振り向く。

それはまるで太陽みたいだった。

何もかも飲み込みそうな異様のした化け物。

今までのバーテックスより大きい先程こいつが他の進化体を使って勇者達を来させないように指示をしたのだろう。

それでなければ何故今まで現れなかったのか分からない。

だが今は考えるのは後だ。

海斗が思考をやめようとすると大型バーテックスが臨戦態勢に入り、炎の球体の形を形成していた。

それは大きくでかくなっていき、やがてその球体は海斗の方へ放たれた。

 

「ぐっ、ぁぁぁぁぁぁ!!」

 

咄嗟に村正で防御をするが、あまりにも巨大差故に受け止めることが出来ずに海斗は後ろに大きく吹き飛ばされた。

その攻撃をモロに受けてしまい皮膚は焼け爛れ、全身は出血しているため血が溢れ出す。

そして勇者システムも解除され海斗は体を地面に強く打ち、勢いよく転がり回る。 

仰向けになって立ち上がろうとしても孔雀の負荷をも受けている状態で激痛が走り、思うように動かない。

 

「(クソッ......体が、動か.......ない......ッ!)」

 

動かしたいと思っても手足が思うようにいうことを効いてはくれない。

 

「(......動け.....動け.....動けよ.......!)」

 

今もこうしている間にも海斗に興味を無くした大型バーテックスは再び神樹がいる方に方向を変えて移動を開始した。

それでも体は何をしてもぴくりとも動かなかった。

 

「(.......何で俺はこんなこと......してるんだろ)」

 

ふと思ってしまう。

どうして自分はこんな事をしているのだろうかと。

勝てるはずもない敵に挑んで無駄に犠牲者を増やしているだけなはずなのにどうして戦っているのだろうか。

そもそも勇者なんてただ痛いだけで、苦しいだけで、辛いだけで、なんの意味があるのだろうか。

世界の命運を子供に背負わせておいて大人達は何もせずに、ただの罵詈雑言ばかり言ってくる。

 

「(もう.......どうでも.......いいや......)」

 

それだったらもう世界とか勇者なんて消えてしまえばいいと思ってしまう。

滅びを受け入れてしまえば辛くならなくなるのだから。

だが、どうしてそんな事を思えるのに海斗はここまで戦い続けたのだろうか?

敵わないと知っていても何故足掻き続けているのか。

 

「(......なんの......ために......)」

 

思い出す。

それは大切だった人と交わした約束。

そして、思い出せ――(黒結海斗)原点(始まり)を。

 

「(.......誰も失わないように.......今度こそ......守れるように――」

 

ここで諦めたら今までの何もかもが全て無駄になる。

挫折や後悔も、絶望も何回も味わった。

死にたい時もやり直したい時も何千何万回思った。

けど結果は常にお釣りのように残る。

だがその残った釣りで積み重ねたものが力になる。

 

「(動け.......動け........)」

 

だからこそ進まなければいけない。

想いを背負え。誰かを救え。そして武器を持て。

理不尽に打ちのめされようとも己の不甲斐なさに失望しようともそれを全部糧にして持ち歩け。

 

 

「(動けぇぇぇぇッ!!)」

 

引きずってても、這ってでも、前へと。

悪魔でも怨霊でも妖魔でもましてや神様でも何でもいい。

たとえ大きな代償があったとしても、今手が届くなら伸ばせ。

大事な人達と大切な日常という名の世界を守り通す為に。

そのためなら自分の命だって賭けれるのだから。

 

「(孔雀......俺がどうなってもいい。アイツを倒すためならちーちゃんや皆を守れるならそれ以外、何もいらない.......だから......もう一度.......俺に力を.......貸してくれっ!!)」

 

瞬間に体がぴくりと動く感覚がした。

そして仰向けになった体を起こすために海斗は腕力を使い立ち上がる。

 

「ぐっ......うっ.......はぁ......はぁ.......うわぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁッ!!」

 

全ての感情をぶつけるかのように海斗は叫び、体の内から精霊孔雀を宿す。

その一部を使って片足で強く蹴り、跳躍する。

今度こそ。大切なものを守れる勇ましい者――勇者になるために。

 

「うぉぉぉぉぉぉぉぉぉっ!!」

 

その加速力で海斗は大型バーテックスに一直線で向かう。

すると先程生身の状態だった海斗は一瞬で勇者装束に変わる。

すると海斗の接近に気付いた大型バーテックスが迎撃態勢に入り、太陽の火の球を作り始める。

それを守るかのように通常個体が立ちはだかる。

 

「そんなので俺を止められると.......思うなぁぁぁぁぁぁぁ!!」

 

海斗は村正を呼び出して安全装置を解除し、そのまま直進し切り伏せる。

 

「なぁバーテックス!!知ってるか!!」

 

海斗は大きな声で聞こえるはずも無いことを化け物に問う。

 

「何でお前達と戦ってるんだと思う!!」

 

人は弱く、脆く、そして悪意に堕ちやすい。

だが、どんな絶望でもどんな災厄だろうとも諦めず立ち上がり続け歴史を繋いで来た。

だがそれが―――

 

「これこそが人間.......だからだよっ!!」

 

海斗が叫んだ瞬間に大型バーテックスが攻撃を火の球を放つ。

 

「俺は......勇者!黒結 海斗ッ!皆を.......大事な人を.......大切な世界を――守りたいんだぁぁぁぁぁ!」

 

海斗は叫びながら村正を前に出してその中を通り過ぎる。

 

「根性を.......魅せてやるよッ!!」

 

過ぎた後に近くまで接近ができ、大型バーテックスに一撃を入れる。

そのまま続けて海斗は左手に孔雀の力で炎の剣を生成させる。

それを使い村正と併用しバーテックスにダメージを与える。

 

「ウォォォォォァァァァァァ!!」

 

連続で外皮も形すらも削っていく。

そして大型バーテックスに亀裂が入ると海斗は高く跳躍する。

その時に足がひしゃげた音がするが、そんなの海斗には関係なかった。

そのまま重心で村正と炎の剣を大型バーテックスに振り下げた。

 

「これで........終わりだぁぁぁぁぁぁぁぁ!!」

 

その一撃を入れると鈍い音が響き渡ると大型が塵と化して消えた。

 

「.......守れた.....のか......?」

 

海斗は意識が朦朧としていく中、バーテックスが消えるの見つつ言う。

そして僅かに動く右手で塵と化している大型バーテックスに向けて拳を向けた。

 

「......ちーちゃん、友奈、皆.......守れたよ.......」

 

絶対を掴んだ勝利、泥臭く、貪欲に食らいつき、

本来は敗北を決したと運命に抗った奇跡の産物。

それでも的は獲た。

これが人間がだけが()を持つ可能性の力なのだから。

そして海斗は微笑みながらそのまま瞳を閉じ、意識を闇に落とした。





海斗くん、お前はよく頑張ったよ.......もう眠れ(フラグ)
後二話でくかゆも完結かぁ......短かったなぁ。
でも、これでええんや......後悔はしない!

次回で戦闘会は終わりです!
ではまたお会いしましょう!さらば!


次回。第29話:諦めない心の強さに絶望を


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第29話:諦めない心の強さに絶望を

どうもバルクスです。今回は後編になります(千景と若葉視点)。
もう小説を投稿してから半年になるんだなと考えると早いものですねぇ......
では本編どうぞ!



 

海斗と友奈の二人と分かれた若葉と千景は目の前にいる大型バーテックスの相手をする。

左右に水で出来ていそうな丸い球を持つバーテックスと長い体と重りでまるで天秤に似たような形を持つバーテックス。そして凶悪な四つの角を持っているバーテックス三体が勇者二人に立ち塞がる。

すると水球を持つバーテックスが水の針で先に攻撃を仕掛けてきた。

 

「千景!」

 

「分かっているわ......!」

 

その水針を若葉と千景は難なくと回避する。

そして追撃が無くなったタイミングで二人は反撃する態勢に入る。

 

「化け物、ここが貴様らの終端と知れ!」

 

若葉が刀を構えて大天狗の力を使い加速し、まず動きが遅い天秤のバーテックスに勢いよく突いた。

一撃を入れた若葉は直ぐさま距離を取りバーテックスを見据える。

すると天秤のバーテックスが自身事回転させ突風を発生させる。

 

「くっ!」

 

その風のせいで大きく距離を離されるが、次の瞬間にその突風の中からもう一体のバーテックスが自身の角をドリル状にして若葉の方へ高速で接近していた。

若葉はそれを生太刀で防ぐ。

 

「この程度の事で.......四国勇者はぁぁぁぁぁ!!」

 

怒声を上げ攻撃を振り払った。

だがその衝撃で若葉は吐血をしてしまう。

 

「がはっ......ちっ......!」

 

幾ら精霊の力があったとしても人間の体ではその負荷には耐えられない。

今の若葉は生身で戦闘機に乗っているような状態だ。

その加速が肉体を押し潰し多大な負荷を掛けている。

すると振り払ったバーテックスの攻撃が再度若葉に向かって来ていた。

若葉は大天狗の力で素早く頭上に飛び上がりそのまま向かってくる角のバーテックスの攻撃を待つ。

そして生太刀を上に掲げて刀身を巨大化させてそれを振り下ろした。

 

「でやぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!」

 

振り下ろした生太刀を角のバーテックス事切り裂いていく。

その一撃で角のバーテックスは塵と化して消滅した。

 

「がはっ......!」

 

肉体にも相当な負荷が掛かりすぎているために若葉は吐血をしてしまう。

 

「さぁ、鏖殺してあげるわ........!」

 

一方千景は水球のバーテックスと交戦しており水針を回避しながら鎌で撃ち落としつつ接近する。

ある程度近づけたら精霊と勇者の力で素早く接近して精霊の力で強化した大葉刈で水球の一部を破壊する。

 

「......やぁぁぁぁ!!」

 

そしてそのまま九本の尾で精製した妖術で本体ごと焼き尽くす。

 

「がふっ.......」

 

千景も精霊の力の負荷で吐血をしてしまう。

やはり人外を人の中で宿すのはどれだけ危険なのかが分かる。

けどこれで敵を倒せるのなら有無もなく使うしかない。

そして妖術で拘束されているバーテックスを一瞥する。

これで暫くは動けないはずだ。

そう思い千景は残りのバーテックスを若葉と倒すべく彼女の方へ合流を果たした。

 

「乃木さん、一体の方は私の妖術で動きを止めてるから残りの一体を早く殲滅するわよ!」

 

「分かった!」

 

二人は残っている天秤型の方へ向かう。

今も尚そのバーテックスは突風を起こしており接近するのが困難だ。

 

「くそっ......風が強すぎて近づけない!」

 

これでは攻撃が入らない。

若葉が悩ませていると千景が彼女の肩に手を置いて口を開く。

 

「.......乃木さん、ここは私に任せて。この玉藻前の妖術なら動きを封じれるかもしれないわ.......!」

 

そう言うと千景は尾で作り出した炎で揺らめくピンクの塊をバーテックスの方へ投げた。

そしてそれが破裂してその煙幕がバーテックスの方に吸い寄せられる。

すると天秤型がいきなり回転するのを止めて突風が止まった。

まるで何かの縛りか洗脳に近い何かで封じている気がした。

 

「.......今よ、乃木さん!」

 

「すまない千景!助かる!」

 

ふらつきながら千景は若葉に言う。

彼女が動きを封じてくれたお陰で若葉は天秤型に接近出来るようになった。

若葉はそのまま加速してすれ違いざまに生太刀で切り刻む。

 

「うぉぉぉぉあぁぁぁぁぁぁ!!」

 

数回に渡り切り刻めば天秤のバーテックスは塵と化した。

 

「ごふっ......」

 

肉体的負担でまたもや吐血をしてしまう。

もう慣れたが体のあちこちが悲鳴を上げているような感じがした。

すると休んでいる暇もなく先程消滅したと思っていた天秤型の位置から通常個体が数百体以上出てきた。

 

「溢れた!!」

 

「早く倒すわよ......!」

 

溢れた通常個体を千景と若葉は一体も逃さず徹底的に潰していく。

 

「やぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!」

 

「はぁぁぁぁぁぁぁぁ!!」

 

倒しても倒してもキリがない。

だがこのまま放置していてはまた新たなバーテックスを生み出してしまうかもしれない。

それにあの一体でも神樹を破壊することは出来るのだ。

それだけは絶対に死守しなくてはならない。

二人が通常個体を倒しているとふと視界から巨大なものが遠くから見えた。

それをよく見ればかつて壁の外にいた大型バーテックスが姿を現していたのだ。

これではっきりした。

最初からこの六体のバーテックスは囮兼時間稼ぎだったのだ。

それを悟らせないようにあえてあのバーテックスは勇者達の体力が消耗仕切っているところで姿を現したのだ。

 

「(早くやつを倒さなくては.......神樹様が!)」

 

「乃木さん!」

 

「ッ!?しまっ――」

 

「乃木さん!はっ!しまっ――」

 

一瞬の考えで、隙を晒してしまい若葉は背後からくる水泡に反応出来ずにその中に捕らえられてしまう。

千景も若葉に気を取られ同様に水泡の中に囚われてしまう。

 

「ぶはっ.......(い、息が.......出来ない!)」

 

「かはっ.......(迂闊だった......あのバーテックス、攻撃ではなく捕縛も出来るのは予想外だった......先に早く仕留めればこんな事にならなかった.......!)」

 

千景は自身の選択に後悔する。

あのバーテックスは動きが遅いと思って放置していたのが仇となった。

それで若葉すら巻き込んでしまい、まずい状態に陥っている。

たとえ精霊の力があったとしても水の中では呼吸すらも脱出することも出来ない。

考えろ、何かこの状況を打破する方法を。

しかし今は呼吸が出来ない中で冷静に考えることも難しかった。

徐々に意識が朦朧としてくる。

――殺したい。心の中でそう呟く。

お前らを絶対に細かく切り刻んでやる。

どんな手を使ってでも、必ず殺す。

 

「っ......(........絶対に殺す........!お前らだけは.......絶対に.....!)」

 

大事な人達の為にこいつらを殲滅しようと千景はバーテックスを睨みつける。

それが無意味な事だとしても。

――ふと、先程千景は何と言った?

彼女の脳裏に疑問が残る。

殺すためなら他の人は関係ないはず、これは私自身の私情だ。

ならどうして千景は『大事な人達』と付け足したのか。

思い出す――大切な日常を。

思い出す――大事な人達を。

思い出す――彼の背中を。

 

「(.......私.....は.......」

 

そして思い出す――彼女が戦う理由を。

 

「っ.......!(ダメよ.......切り札の影響に呑み込まれては.......!私はもう.......間違えは犯したく.......ないもの.......!)」

 

怒りでも憎しみでもなく、大切な人を想う気持ちを思い出して千景は冷静さを取り戻す。

この戦いが終わったら千景は何をしたいかを考えた。

まず、流行りのものの服をひなたと杏に教えてもらい、球子にはサイクリングや山登りのことを教えてもらい、友奈にはコミュニケーションの練習に付き合ってもらい、若葉には、精神の鍛えに付き合ってもらいたい。

他にも色々あるが、今はバーテックスを倒す。

まずはここから出るために千景は意識を集中させる。

先程精霊の力ではどうすることも出来ないと言っていた。

しかし、彼女の玉藻前の妖術なら可能ではないのかと。

呪いというのは時には次元に干渉して現実に理を歪ませる。

ならその応用でこの水泡という空間を妖術で覆い脆い部分を探る。

するとそれは糸も簡単に見つかった。

即座に千景は大葉刈をその脆い部分に突き刺し水泡に穴が空き千景はその中から抜け出せた。

その瞬間に若葉の方も精霊の力と彼女自身の力で脱出に成功する。

二人は直ぐに合流して揃う。

 

「無事か!千景!」

 

「えぇ......そっちも無事で良かったわ」

 

若葉と千景は水球のバーテックスを見据える。

今でも攻撃をしそうだが、バーテックスは何かを溜めているように見えた。

どうやら一瞬で終わらせるつもりらしい。

 

「千景、まだ行けるか?」

 

「.......ふっ、全然余裕よ.......!」

 

千景の方に視線を向けながら言う若葉。

それに千景は鼻で笑い問い返す。

正直体力はそんなには無い。

若葉の方は先程水泡を脱出する際に大天狗の力を使って自身に火傷を負っている。

それに大天狗の力を使えば使うほどその熱で体は焼け爛れていく。

千景の方はまだ精霊の代償がないのか分からないが、確実に何かは受けている。

そしてここで勇者二人が倒れてしまえば四国は確実に滅亡する。

そんなことは絶対にあってはならない。

大切な人がいる日常をあの化け物に壊されてなるものか。

と、若葉が千景に問いかける。

 

「なぁ、千景」

 

「何.......?」

 

「私たち人間は.......弱い。臆病で、脆く、そして悪意に落ちやすい.......だが、なぜそれで戦えると思う?」

 

「........愚問ね。大切な人を守れるためなら、無限に強くなれるのよ。私だって.......海斗や皆のお陰で.......救われたのだから」

 

若葉の言葉に千景は自信ありげに言う。

二人は信じている。人の強さを。

何故なら人は、守るべきもののためなら、どんな絶望にも立ち上がって強くなれるから。

諦めない心があるからこそ、守りたい人のためなら戦う事が出来る。

戦意を失わずに立ち向かえる事ができる。

それが、この化け物どもとの唯一の違い。

そして水球のバーテックスは若葉と千景の方に向かって水で作った光線を放った。

それが徐々に近づく中、二人は武器を構える。

 

「私たちはどうして戦うと思う?」

 

「それはね........」

 

 

そしてどんなものにも勝てる(理由)

 

「「人間........だからだよ!!」」

 

生太刀と大葉刈が同時に振られるとその斬撃がバーテックスに当たり真っ二つに切れた。

その影響で水球のバーテックスは塵と化し消失した。

これで終わった。

後は海斗達の方へと合流しようと思った瞬間。

神樹の先から爆発音が聞こえた。

その方向を見るとバーテックスが消える光が見えた。

 

「千景!急ぐぞ!」

 

「えぇ......!」

 

若葉と千景はその方向へ向かった。

あそこにはさっき見た大型バーテックスがいたはずだ。

だが何となく二人は嫌な予感がした。

その発生源の場所に到着すると一足先に球子と杏が駆け付けていた。

二人は神樹の辺りの星屑を相手にしておりその発生源から近かったために早く来れたのだ。

 

「おーい!若葉!こっちだっ!」

 

球子が千景と若葉の気配に気付きこちらに大きく手を振る。

 

「球子、杏!無事で良かった。すまないが、状況を聞きたい」

 

地面に着地した若葉と千景は杏と球子の二人に状況を聞いた。

 

「私も先程来たばかりですので分かりませんが、どうやらここで海斗さんが大型のバーテックスを倒してくれたみたいなんです......」

 

「タマも正直びっくりだ。ただでさえ精霊の力が効かないバーテックスだったはずなのに、カイトが全て片付けたんだからな」

 

二人と丁度着いた時間はそんなに経っていない事を述べ現状の説明で留まった。

 

「状況は理解した。皆、これから海斗と友奈を捜索する。そろそろ樹海化が解ける。その前に必ず見つけるぞ!」

 

若葉の指示で姿がない海斗と友奈の捜索が始まった。

そして数分後に球子と杏から連絡が入りそのポイントに伺ら何故か杏と球子は浮かない顔をし、泣きそうになりながら誰かに応急処置を施していた。

そして若葉は気づいてしまうそれが一体誰なのかを。

その若葉の背後にいた千景は力が抜けて膝を着いてしまう。

だってそこには――全身血だらけの海斗が横たわっていたのだから。

この戦いで四国は守られ、バーテックスは全滅。

勇者四名が負傷。

乃木若葉、大天狗の影響で全身火傷、複数の箇所の骨折、内蔵の損傷。

郡千景、玉藻前の影響で複数の箇所の骨折、視力の低下。

そして――理性と自制心の低下があるとの事。

詳細は回覧拒否とする。

土居球子、輪入道を使い杏と通常個体と相手をした影響で腕の脱臼、複数の箇所の骨折、切傷、打撲。

伊予島杏、雪女郎を使い球子と通常個体と相手をした影響でこちらも複数の箇所の骨折、切傷、打撲。

黒結海斗、バーテックスとの戦闘で精霊の連続使用により内蔵の損傷、複数の箇所の複雑骨折、左足の損傷により一部身体機能が低下。

瀕死の重傷のため今も尚病院で昏睡状態。

そして高嶋友奈――樹海の戦闘中に行方不明。

 

 

 





玉藻の前書きにくかったです。
まぁ、自分の認識力が乏しかったのもあるんですけどね( ̄▽ ̄;)

さて、次回はくかゆの最終回です。
海斗くんがどうなったかその後にどうなるのか書けるなりに書いてみます!頑張るぞぉ!

ではまた次回にお会いしましょう!さらば!

次回。第30話:忘れない想いを胸にバトンを託す


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第30話:忘れない想いを胸にバトンを託す


どうもバルクスです。
今回でくかゆは最終回となります......では、本編どうぞ!


 

「ここは.......」

 

白い光の空間の中に海斗はただ一人ぽつんと立っていた。

ここがどこで得体の知れない場所だというのに不思議と不快感はなかった。

その空間は無であり認知するものさえありはしなかった。

そうか、自分は死んだんだと海斗は納得してしまう。

そしたらここはあの世の入口なのだと思った。

だが初めてだからか現世で想像したあの世とは随分と殺風景で中心にでかい樹(・・・)があるはずもなく......

 

「――は?」

 

違和感が頭を過ぎった。

状況を整理しよう。

今海斗は白い空間にいる。視界に広がるは無ばかりだったはずだ。

それなのに目を逸らした瞬間、目の前に樹があった。

その樹はまるで生きているかのように光輝いており、存在感を醸し出していた。

その樹がある方へ歩いていくと段々とその大きさが顕になる。

密かに優しくその樹木に触れてみると暖かい。

間違いない、これは神樹だ。

あの世でも神樹を触りながら体温を感じるとは思わなかったが、よく分からないものだ。

すると急に海斗の視界が真っ暗になる。

その後に後ろから誰かの声が聞こえた気がした。

 

「だーれだっ!」

 

明るく、優しく、暖かい声。

悪戯っぽく海斗に問いかけるその声は海斗の身を震わせるのには充分すぎた。

 

「.......ゆう.....な......?」

 

まだ思考が追いついていないのか、か細い声で海斗は答えた。

そう言うと視界が暗闇から光が指すかのように広がり眩しく感じた。

段々と慣れていって後ろをゆっくりと振り向けば高嶋友奈がそこにはいた。

 

「当ったり!いやぁー流石うみくん!やっぱ分かっちゃうか〜」

 

友奈は面白そうに言うとあははっと笑う。

そして海斗は友奈の存在を認識して口を動かした。

 

「やっぱり俺は死んだのか......?それにお前もここにいるってことは.......」

 

状況はまだ理解していないが、友奈が何故ここにいるのかを問いた。

本当は分かっているが、彼女の言葉ではっきりさせたかった。

海斗の言葉に対して友奈は首を傾げながら口を開いた。

 

「うーん.......どう説明すればいいのかなぁ......うむむ.....」

 

唸って必死に考えている素振りを見せると友奈はよしっ!といい口を動かした。

 

「先に言うね。うみくんは死んではないよ」

 

「......どういう事だ?」

 

「簡単に言うと、ここは神樹様が作ってくれた精神世界.....って言う場所なのかな?」

 

友奈の言葉に困惑する海斗だが、嘘ではないと思った。

目の前にある樹は知っているものなのだ。

非現実的だとしても実際起きている事は目を背けることなど出来ないのだから。

それに一つ疑問が残った。あれが神樹なのは明白だ。

だが、なぜ海斗と友奈がこの空間にいるのかは分からないのだ。

 

「なるほどな......大体理解はしたんだが、一つ聞きたい事があるんだがいいか?」

 

「なにかな?」

 

海斗は友奈の言葉に違和感を覚えた。それは友奈自身が入っていないと思ってしまったのだ。

思わず海斗聞いてみることにした。

 

「今お前は......俺と同じで生きてるのか......?」

 

「.......」

 

その瞬間に友奈の表情は曇りに変わってしまう。

無神経だが、出来れば否定してほしかった。

そんな間があってから友奈から話を持ちかけてきた。

作り笑いをしながらだが。

 

「あ......あはは。私、神樹様の『一部』になっちゃったからさ......もう皆の所には帰れないんだ」

 

乾いた笑いを出しながら友奈は謝罪する。

それがむしろ腹ただしかった。

 

「なんで、そんな平然として受け入れられるんだよっ!」

 

思わず海斗は友奈の肩を掴みながら言う。

違う。彼女が浮かべるのはこんな強ばったものでもましてや、乾いたものでも無い。

純粋で自然に出せる笑みのはずなのにそれさえも出来ない程に友奈の心は絶望に染まってしまっているのが許せなかった。

 

「俺に出来る事はないのか!?今すぐにお前がここを出たいって言うなら力尽でも神樹から引き出してでも――」

 

今の自分が出来る事なんてたかが知れてる。

だけど、諦めたくはなかった。

ひょっとしたら何か方法があると思ったのだから。

すると友奈が海斗の手を優しく触れながら首を振る。

それで海斗は察してまう。

もう遅いのだと、自身は何も出来ないのだと。

無意識に表情を強ばってしまう。

それに気付いた友奈は微笑みながら口を開く。

 

「......そんな顔しないで?もういいんだ。私はうみくんや皆に充分救われたよ」

 

「けど、俺はお前に何も......」

 

「じゃあうみくん、約束してくれるかな?」

 

「約束......?」

 

自身の無力差を痛感する海斗に友奈はある提案を申し出た。

 

(高嶋友奈)という人間がこの時代にいたことを、忘れないで欲しいんだ」

 

「.......」

 

せめてへの願いとして彼女がいたことを後世までに語り継ぐ事を託した。

そしたらいなくても人の魂は死なないのだから。

海斗は強く頷き友奈を真っ直ぐと見つめながら言う。

 

「分かった......絶対に忘れない。約束する」

 

「ありがとう。あと、もう一つ聞いてくれないかな?」

 

「いいぞ――ッ!?」

 

すると途端に意識が朦朧としてきて体が重くなってきた。

一体何が起こっているのか海斗は理解出来なかった。

 

「体が.......一体何、が......?」

 

「そろそろかな.......ごめんね、もう時間が無いみたい。だから正直に言うね」

 

倒れそうになる海斗を友奈が支えながら言う。

意識が落ちそうになりながらも海斗はなんとか聞き続ける。

 

「私の()まで ........生きて(・・・)。それが、私の最後の願いだから」

 

それを最後に海斗の瞳は閉じ、意識を失った。

 

 

 

 

「――ここは......?」

 

ゆっくりと目を開けるとそこはさっきいた白い空間ではなく、建物の天井だった。

ふと、機械音が聞こえその音がなった方に顔を向ければそれは心電図だった。

それで自分が何処にいるのか分かった。

ここは病院だと。

まだ病院や施設があるという事は世界は守れたということ。

ならそれから何時まで寝ていたか分からない。

少しでも情報を確保しておきたいので周囲を見渡してみればそこには船を漕いでいる千景がいた。

よく見れば眠れなかったのか隈があるのが分かった。

すると千景は自身が寝ていた事に気付き目を軽く擦ると今度は海斗の方へ顔を向けると目が合った。

気まずくなるが勇気を出して海斗はぎこちない笑みをしながら千景に言う。

 

「.......お、おはよう、ちーちゃん......い、良い天気だな!」

 

言葉を詰らせて言う海斗だが、その後に千景が涙を流しながら海斗を抱きしめてきた。

 

「ちーちゃん?あの、離してくれ――」

 

「......少し黙ってて」

 

「あ、はいすいません.......(だいぶ怒ってる.......どうすれば......)」

 

何も言わずに抱きついてきた千景に海斗は声を掛けるが彼女の声からでる厚で潰されなすがまま受け入れた。

少しだが背中を震わせすすり泣いているのが分かる。

果たしてどれだけ寝ていたのか考えてみると怖いものだ。

しばらくして落ち着いた千景はこほんと咳払いをして口を開いた。

 

「海斗.......本当に良かった.......生きていてくれて......本当に」

 

「俺ってそんなにやばかったのか?」

 

「油断を許さない程だったわ.......」

 

真剣に言う千景に海斗は冷や汗をかいた。

それは彼が想像するよりも千景の表情見ればその時の出来事を察してしまう。

それぐらい海斗の状態は非常に良くなかったということだ。

 

「その時の状況を聞いてもいいか?」

 

バーテックスの戦闘が終わってから海斗は瀕死の重傷を負い病院で治療を受け一ヶ月間昏睡状態に陥っていた。

奇跡的に命は取り留めたが身体機能の一部に障害が残ってしまい、自力で歩くことすらままならなくなってしまう。

そして臓器の方は元から(・・・)損傷はしたが、勇者の力のお陰か機能自体は正常までに回復していたという。

なら体の一部で済んで良かったと心底思った。

 

「一ヶ月......か.......」

 

随分と長く眠っていたと呆れてしまう。

それに話的に聞くと本来は死にそうな状態になっていたのに何故海斗はまだ生きているのか分からなかった。

医療技術が進歩しているのかそれとも自身の生命力が強いのか、ましてや両方なのかは不明だ。

ふと海斗は友奈の言葉を思い出した。

 

『私の分まで生きて』

 

と、その言葉を残しながら。

 

「あ.........」

 

そして理解してしまう。

海斗は実際には一回死んだのだ。

それによって(精神)だけが神樹の元へに行き、そこで友奈に出会った。

そこで友奈は海斗に神樹の一部と彼女の魂の一部を海斗に分け与えたのだ。

そして海斗は目が覚めた。

これが奇跡的に命を取りとめたという真実なのだろう。

すると頬から一滴の雫が零れるのに気付く。

拭うとそれは涙だった。

それを自覚してしまうともう止められなかった。

 

「うぅ......っ、うあぁぁぁぁぁ.......っ!!」

 

やっと友奈の言葉に気付いた。

どうして彼女は肉体を失っても尚、他人のことを思い合えるのだろうか、どうしてそこまで命を......自身の生命(寿命)すらも分け与える事が出来たのかと。

すると千景が何も言わずに優しい笑みを浮かばせながら自身のハンカチを差し出してきた。

それを素直に受け取り涙を拭き取る。

拭き終えた海斗は俯きながら千景に言う。

 

「夢の中でさ.......友奈に会ったんだ。あいつに言われたんだ.......『生きろ』って」

 

懺悔をするように海斗は話続ける。

 

「俺が、生きててもいいのかな.......?人に与えられた命で何をすればいいのかな.......」

 

今の命はかつて高嶋友奈のものだった。

それを海斗は受け入れていいだろうか?

どうやって生きればいい、どうすれば報いれるのだろうか、頭の中で考えても答えは見つからなかった。

すると千景が海斗の手を優しく包みながらぽつりと話始めた。

 

「――ちーちゃん.......?」

 

「......私はこう思うわ。高嶋さんは貴方に幸せになって欲しいからこそ.......助けたんだと思う」

 

「――!」

 

千景の言葉に目を開かせる。

大切な誰かの幸せを願うのは人の性なのだろうか。

友奈は大勢を助けるぐらいには自己犠牲的だ。

だが彼女は一人の人間を救うことを決めた。

それが例え状態になろうとも躊躇わずに。

だからこそ『生きろ』と言ったのだ。

幸せを掴んで、生きて、生きて、生きた意味を見出すために。

彼女はそれを海斗に託したんだ。

想いも夢も。

それに気付いた海斗は千景の方に顔を向けて言う。

 

「.......ありがとうちーちゃん。もう、大丈夫」

 

「そう......良かった、もういつもの顔になったわね」

 

「いつもってどんな顔だよ......」

 

「ふふっ、秘密よ」

 

それが可笑しくて二人はいつの間にか笑っていた。

少し気が楽になった気がした。

 

「海斗、貴方に......伝えなければいけない事があるわ」

 

千景の言葉に空気はまた締まる。

海斗はそれを聞くために頷く。

 

「私達人類は.......バーテックスに敗北したわ」

 

「.......そっか.......」

 

大体の予想はついていた。

人間が神に挑むことはそう簡単にはいかない。

幾ら力が強くても幾ら知識や技術を上げても結局はその神は人間より遥かに強いのだから。

その後に千景から一ヶ月間の事を話してもらった。

神樹の結界以外は全て天の神に世界を変えられたこと、神に赦しを乞うために六人の巫女を生贄に捧げた『奉火際』を実行したこと。

その後の神託で勇者の力の放棄をする事を条件に天の神は攻めることをしなくなった。

その事で大社は大赦として名前を変え、年号も西暦から神世紀に変わった。

それを聞いた海斗は不敵にも笑ってしまう。

全く愚かなものだと呆れてしまう。

神に赦しを乞えたとしてもその何百年後にはまた攻めて来るというのに、それを先延ばしたに過ぎない。

何も解決などしていない。

だが、猶予は充分に出来た。

海斗はある事を決意した。

 

「ちーちゃん......俺は決めたよ。どんな事をしてもこの世界を守るよ。大赦だけには任せて置くわけにはいかない」

 

どうせ都合が悪くなったら直ぐに情報など隠蔽か改変なぞする神樹様を信教するインテリ集団だ。

なら戦いが終わり、勇者の経歴を抹消された海斗にとってそれは都合が良かった。

ならばその世界の統制さえ握れば大赦すらも下手に口を出して来ないだろと考えた。

千景によると既に若葉とひなたは大赦の改革を開始しており、杏と球子はその情報収集に回っている。

なら、こちらもやるしかあるまい。

最強の武器には最凶の武器で立ち向かえばいい。

 

「分かったわ......私も、貴方に着いていく」

 

「茨の道だぞ?」

 

「それでいいわ.......寧ろ、貴方を決して一人にはさせないわ。......ずっと傍にいて支える――それが私に出来る事だから」

 

幾ら引き離しても着いてくる。危険に晒したくないのに関わってくる。

こんな事を彼女に言わせるなんてどれだけ自分は屑なのだろうか。

だが、それがなんとも頼もしくて自然にやる気が湧いてくる。

千景が隣にいるならどんな事でも出来る気がした。

二人なら不可能なんてない、重荷を二手に分けて補う。

それが理想ならもうとっくに用意は出来ている。

海斗は息を吐くと笑みを浮かばせて千景の手を握った。

 

「なら、俺の背中を護って(支えて)くれ。俺も君を守るから」

 

「えぇ。私も貴方のためなら........妥協なんてしないから」

 

千景の目に決意が灯る。これで互いに目的は一致した。

ならあとはその下準備だ。

先ずは若葉達と協力して大赦のトップに立つことだ。

しかし、トップに立てたとしても海斗のした罪は消えないので三位ぐらいで丁度いいだろう。

そうすれば陰なりに探れる事もあるし、事を公にすることもない。

その後海斗は病院で三週間リハビリをしてある程度体力が付いた事で退院した。

そしてすぐさまこれからの事をノートに纏めて実家に帰省し黒結家当主の柊に見せた。

最初は断れるかと思ったが、素直に協力してくれる事になった。

何が何でも甘すぎるのではないかと指摘するが、「息子を信じなくて何が父親だ。好きにやればいいだろ?これはお前が始めたんだからな」と息子の海斗を信じたのだ。

母の暁も柊と同じで好きにやりなさいと優しく微笑んでくれた。

これでパイプも繋がったわけだ。

後は行動を起こすのみ。

海斗は丸亀城にある自室で手記(・・)を書いていた。

何時かこれが時代を超えて何かの役に立つと思い、海斗の時代の事や自身が勇者になった事、その後の事も全部記した。

その原文を二冊作りそれを若葉の方へ預け、もう一つは黒結家が貴重に管理する形になった。

これでいい。

後はバトンを誰かが繋いでくれるかを信じるだけだ。

その世界で何が起ころうが、決して人間は神すら負けないと信じているから。

だから自分がその道を作る糧になればいい。

それが託す者の務めなのだから。

手記を書き終え自室から丸亀城の城郭に向かう。

そこに辿り着けば綺麗な景色と四国全体を覆っている結界が見える。

 

「.......友奈、皆見ててくれよ。生まれ変わっても俺は勇者になって世界を取り戻すまで諦めないから」

 

すると近くにある桜の木が葉を揺らしてその葉が海斗が乗る車椅子(・・・)の膝元に降ってきた。

それを手で拾うと何故か新鮮味を感じた。

まるで誰かの存在があるかのように、幻覚かもしれないが確かな温もりがそこにあった。

散った花と葉は新たな生命の養分となる。

使い捨てにはならず、決して後世に新たな意味を託すのだ。

その託すものの名前は『勇気』である。

別名――『希望』と言うし『願い』とも言う。

例え今は小さな一歩でも前へと進めば――その歩みこそが未来へのバトンとなる。

これは――大切なものを失っても守り、抗い続けた一人の勇者の物語。

その名も―――

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

黒結海斗は勇者である

 

 

 

 

 

 





これで乃木若葉の章(くかゆ)は完結になります!
自分が勇者シリーズを書いてから約半年.......本当に読んで下さりありがとうございました!

次回はようやくわすゆ編を本格的に書きます。
楽しみにお待ちくださいな!
これからも『華結を繋ぐは勇者である』を宜しくお願いします!

ではわすゆでまたお会いしましょう!
さらば!


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鷲尾須美の章
第1話: 黒結の時代は巡る



はい、バルクスです。
とうとう自分はやらかしました。
のわゆの方が全然終わってないのにわすゆの方を書いてしまいました。
でも、決して矛盾点がないように同時並行して書こうと思います。
ですが、基本のわゆを優先にしてのわゆを書くのに疲れたらわすゆを書いたりその先のゆゆゆを書いたりとかします。
何やってんだろ俺w
とりあえず、わすゆ編どうぞ〜


 

 

 

神樹に選ばれた、と聞いた時は驚いてしまった。

とても凄いことなんだろうけど、具体的には何が凄いのか、あまり実感が湧かなかったのだ。

ただ、この四国にやってくる敵が、世界を壊す存在なのだと聞いた以上、戦わないといけないと思った。

最初は、右も左も分からず、無我夢中に自分を入れて4人の勇者と共に戦った。

でも、一つ疑問が残る。

何故()の自分が神に選ばれたのか、いつだって神に見初められるのは無垢なる少女なのだ。

けど、そんな少女達が戦っている中、自分だけその裏側を知らずにのうのうと平和を満喫する事なんて虫唾が走る。

だから、例えイレギュラーな事だとしても、直ぐに受け入れた。

でも、この時は 、―――を――して戦っていくとは思いもしなかった。

 

 

勇者御記二九八年 四月二十五日

 

大赦書史部・巫女様

検閲済

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「.......」

 

神樹館にある6年2組の教室の窓から見える景色をぼぅと眺めていた。

別にロマンチックに浸っているわけではなく、ただする事がないのと、まだ朝礼が始まっていないのでその暇潰しに見ていた。

そろそろ外の景色を見るのが飽きてしまったので周囲を見てみるとまだ生徒が席についておらず、友達と仲良く喋っていたり、本を読んでいたり、机に置いた教科書を整理していたり、色々な事をしている。

すると教室から一人少女がやってきた。

黒髪を纏めて肩に背負っているランドセルの持ち手を両手で握りながら、次々とクラスメイトに丁寧な挨拶をしている。

ふと、こちらを見るとクラスメイトと同じ挨拶をしてきた。

 

「おはようございます。黒結君」

 

「ん、おはよ、鷲尾」

 

鷲尾須美。 彼女は鷲尾家の少女で大赦の中で地位が強い家柄だ。

そこまで愛翔は知らないが、なんでもこの少女は養女として鷲尾家に来たそうな。

詳しくは分からないが彼女らが持つ御役目が関係しているらしい。

先に挨拶をしてきた須美に対して素っ気ない言い方をしたが、これが黒結 愛翔の返し方なのだ。

そして須美は自分の席がある所に向かい、ランドセルを机に置いて教科書を出そうとしようとするが、その少女から見て左側の席から可愛い寝息が聞こえた。

須美はそれに反応して振り向いてみると、そこには机に突っ伏して鼻ちょうちんを作りながら眠っている金髪の少女がいた。

そしてすぴー、すぴー、とリズム良く寝息を立てていると彼女が作った鼻ちょうちんが割れて勢いよく目が覚めた。

 

「あわわっ、お母さんごめんなさい!」

 

そんなことを叫びながら言い、突っ伏した上半身を起こして手を合わせて謝った。

夢の中から現実に戻された少女は当たりを一通り教室を見渡した。

 

「......はれぇ?家じゃない〜......?」

 

寝ぼけながらの独り言を呟く。

 

「乃木さんここは教室で、朝の学活前よ」

 

須美は乃木と言われた少女に冷静な突っ込みをいれた。

するとクラスメイト皆が笑いに満ちて爆笑を貰った少女は照れながらにっこりと笑い須美に挨拶をした。

 

「てへへ〜鷲尾さんおはよう〜」

 

「おはようございます」

 

彼女は乃木園子。普段はおっとりとした感じだが、これでもこの国のトップである乃木家の御令嬢。この四国の中に存在する組織、大赦で大きな発言力があると聞いている。

そして園子は自分の席から後ろを向くとそこには愛翔がいた。

 

「愛っちもおはよ〜」

 

「おう、おはよ」

 

少し戸惑ったが、こんな純粋な笑顔を向けられると流石の愛翔も返せざるおえない。

 

「ねぇー愛っち〜」

 

「うん?どした園子(・・)

 

園子が愛翔を呼んだ。だが、これは何時ものことなので愛翔は口を緩ませる。

 

「今日は用事とかあるの〜?」

 

「いや、別にないけど」

「じゃあ、今日私の家に来てよ〜」

 

「いいけど、なにするんだよ」

 

「な、なななな!」

 

愛翔と園子の会話は誰から見ても普通の話し合いにしか見えない。しかし、何も知らない須美からして見れば海斗と園子の関係が不潔にしか見えなかった。

 

「の、乃木さん!ダメよそんな!女の子が男子を家に誘うだなんて、不潔すぎるわ!」

 

顔を赤めながら須美は言う。 海斗はため息をつきながら園子の方を見てから須美に振り向く。

 

「あー勘違いしてると思うけど、俺と園子は家柄状、交流があるからな」

 

「そ、そうなの?」

 

「そうなんよ〜」

 

「(やっぱりか......)」

 

須美は目を点にしながら言う。

海斗は苦笑いを浮かべながら話を続ける。

 

「お前も俺の家は知ってるんだろ?」

 

「えぇ、一通りだけど.....」

 

黒結家。 黒い結びと書いて黒結と読む。

この家は西暦から神世紀まで続いていて、大赦のトップである上里家、乃木家と同じぐらいの発言力はある。

だが、事実上2つの家柄の方が特権が強いため黒結家は影に隠れやすい。

それでも、この家は西暦の頃から上里家と乃木家がトップになる前から存在しているのは確かだ。

昔の原文はあまりないが、初代当主 黒結 海斗。

経歴、人物像、その他不明だが、とても偉い人だと、愛翔は思う。

そして、何故黒結家があの2つの家の影に隠れているのか、それは黒結 海斗が大きな大罪を犯したのだ。

詳しくは大赦で働いている父に話をしても聞けなかったが、とてもやばい事は両親の表情からでも感じとれた。

 

「まぁ、俺と園子はその関係上。偶に交流をさせられるからその時にな」

 

「それで、仲良くなったんよ〜」

 

愛翔はそう言うと園子が愛翔に向けて頭を差し出した。それを察した愛翔は自身の左手を園子の頭に乗せ、撫で始めた。

それを気持ち良さそうにしている園子は犬みたいだった。

 

「なるほど......ごめんなさい。私が、変な事を考え過ぎたばかりに......」

 

「いや、仕方ないさ。誰だってそんな反応はする」

 

「大丈夫なんよ〜」

 

そして丁度良く教室の扉が開くとそこから担任の先生が現れる。

担任の名前は安芸先生。通称ピーマンアンチマン(愛翔命名)

すぐさま生徒は席に着いて姿勢を整える。

 

「皆さん、おはようございます」

 

にこやかに微笑む安芸先生は出席簿を持って教室の真ん中にある教卓に向かい朝の学活を始めようとするが、廊下から少女が教室に駆け込んできた。

 

「はざーっす!ま、間に合った!」

 

「間に合ってませんよ三ノ輪さん」

 

安芸先生が後からやってきた少女、三ノ輪銀に出席簿で軽く頭を叩いた。

 

「痛ったぁ!先生痛ったぁ!」

 

「本当に気をつけて下さいね」

 

「あはは......すんません」

 

銀が安芸先生に注意されとクラスメイト全員は笑った。

当然愛翔は笑ったが、またかと少し苦笑いしていた。

 

「よっ、銀」

 

「うっす、愛翔!」

 

愛翔は軽く銀に軽い挨拶をした。それに銀も反応して返してきた。

 

「また、アレか?本当に6年生になっても災難だな」

 

「まぁ、仕方ないよトラブル体質てっのもあるけど私も好きでやってるわけだしね」

 

「まぁ銀らしくていいんじゃね?俺はそこの所は好きだぞ」

 

「うぇ!?ちょ、おま、それを言うか!」

 

銀の体質について労ったつもりだったが、少し変だっただろうか?

銀の方を見ると頬を赤くしているので何かしたのは明白だ。

すると今度は愛翔が安芸の鉄拳を食らってしまう。

 

「ごふっ」

 

「黒結君、もう朝の学活ですよ?私語は控えるように」

 

「はい、すいませんでした」

 

担任に謝罪をしつつ銀の方へ向くとまだ顔は赤いが、いつの間にか席に付いており、ランドセルから教科書を取り出そうとしていた。

 

「あ.....教科書.....忘れた......」

 

後ろから見ても分かるが、ガクリと頭を下に俯いた。どうやら教科書を入れるのを忘れてしまったらしい。無念である。

愛翔はやれやれと肩を上に動かした。

次の授業で銀に教科書を貸そうと思った愛翔だが、ふと園子の方を見るとこちらに顔を膨らませて何か言おうとしている。

 

「愛っちって、たらしさんだよね〜」

 

「は?いきなりなんだよ」

 

「それは私も時々思うわ乃木さん」

 

「鷲尾まで!?」

 

園子の次に須美まで参戦してきた。もう何が何やら分からない。

すると担任が教卓に出席簿を開けて口を開く。

 

「それじゃあ、今日日直の人」

 

「はい!」

 

担任が言うと須美が席から立ち上がり号令を掛けた。

 

「起立」

 

生徒達が立つ。

 

「礼」

 

生徒達が礼をする。

そして教室にある神棚の所の方に向いた。

 

「拝」

 

生徒達が、礼をしたまま手を合わせた。

 

『神樹様のおかげで今日の私達が在ります』

 

感謝の言葉を神樹様に捧げる。

 

「神棚に礼」

 

手を合わせ終わると最後に神棚に礼をする。

 

「着席」

 

生徒が朝礼を終えようと席に座ろうとした瞬間、須美、園子、銀以外の人達が止まった。

 

「っ!」

 

「これって......」

 

「――?」

 

 

動ける少女3人はこの現象を知っている。

そう、これは――

 

チリンチリン――

 

どこからか鈴のような音が聞こえてきた。

そして、音が鳴り止まずその後に外から何かの亀裂が現れる。

 

「来たんだ.......私達が御役目をする時が!」

 

「は?御役目?何を言って......」

 

「「「え?」」」

 

そう須美が園子と銀に言うと後ろから声が聞こえて全員振り向く。 そこには時間が止まっているのにも関わらず動いている愛翔がいた。

 

「何で黒結君が.......」

 

「愛っちが動いてる〜?」

 

「え、何で!?」

 

突如窓から来た強い光が彼女達を呑み込んだ。

 

 

 

 

 

初めは分からなかった。朝礼が終わり席に座ろうとした瞬間、須美、園子、銀、愛翔以外止まったのだ。

この現象を知らない愛翔は困惑してしまう。しかし、愛翔以外にもこの時が止まった時間中を動ける少女達がいた。

それだけでも愛翔は安心出来た。

声を掛けようとするが、須美からある言葉が飛んでくる。

御役目(・・・)をする時が来たと。

正直何が何だか、さっぱり分からない。

それを聞こうと愛翔は口を開いた。

 

「は?御役目?何を言って......」

 

そう愛翔は言うと須美、園子、銀の3人はビクッと方を揺らしてこちらに振り向いた。

だが、その表情は本来そこにはいてはいけないような顔をしていた。

 

「何で黒結君が.......」

 

「愛っちが動いてる〜?」

 

「え、何で!?」

 

彼女達も予想外らしい。でも、時間は止まってもそれを待ってくれないものはあるらしい。

突如鈴のような音が聞こえ、その後に窓から光が教室を呑み込んだ。

 

「うわっ.....!」

 

愛翔は反射で光から目を瞑った。

そして再び目を開ける。その眼前に広がった景色は、ただ一言に尽きる。

それはおとぎの国とも呼べるような異質の空間だった。

 

「なんだよ......これ」

 

愛翔が見たのは人も、建物もほとんどのものが樹木に変わっていた。

自分が住んでいる地域はここまで樹に覆われているわけではない。

そもそも限度がある。

そして、決めつけるは、この異様な景色。

先程いた学校とは全然違う場所。

まるでテレポートしたような感じだ。

 

「一体、どうなって.....」

 

咄嗟にポケットからスマホを取り出して電波が繋がってるか確認をする。

 

「.......繋がってない!」

 

そして辺りを見渡し気付いた。

 

「そういや、鷲尾達は?」

 

教室で一緒に光に呑まれた3人は何処に行ったのだろうか?

そう思ってくまなく周辺を見ると奥に何かいた。

 

「あれは......」

 

目を凝らして見ると奥には巨大物体が浮いていた。

それは生物なのか機械なのか判別出来ないほど異形なシルエットをしていた。

左右には水球のようなものが付いていてそれを何かに発射していた。

それを目で追ってみるとそこには――

 

「――!?うそだろ」

 

先程教室にいた須美達の姿がいた。

服装は変わってはいるが、武器を持ちあの巨大生物と戦っていた。

それを遠くから見て分かるようにどうも苦戦を強いられている。

 

「なんとかしないと.......」

 

咄嗟に言葉が出た。

 

なんとかする?一体何を? 分かりきっている。自分には助ける力が無いことを。今の状態で行ったとしても死ぬだけだ。

 

「どうすれば......」

 

思い悩んでいると突如愛翔が持つスマホの画面が光り出す。

 

「な、なんだ?」

 

画面を見るとそこには花の形をしたアイコンが真ん中にあった。

 

「花の......アイコン?」

 

理解が出来なかった。まるで愛翔の気持ちに応えてくれたかのようにスマホが光りだしたのだ。

戦う意志を見せたように淡い光を点滅しながら押されるのを待っている。

 

「.......」

 

正直この現象を愛翔は何も知らない。でも、あの化け物と戦っている少女達を黙って見てる程そんな冷酷ではない。

だからこそ愛翔は覚悟を決める。

 

「じっとしてても、どうにもならねぇだろ!」

 

その言葉を自分に言い聞かせる。

ふと、愛翔はある言葉を思い出した。

これは黒結家が西暦から神世紀の時代からも引き継いでいる言葉がある。それは初代当主黒結 海斗がよく、自分のやる気を出す時や誰かを守る為に自分を奮い立たせて使っていた言葉だ。

それは――『根性を見せる』と言う言葉。

もはや家訓に近いその言葉は代々受け継いできた。だが愛翔は初代とは違う言い方で言い直した。

自分でも誰かを守るために――

 

「根性を見せろよぉぉ!」

 

そう愛翔が言うと指でスマホをタップした。

すると愛翔の周りから花びらが舞い、包み込んだ。

一瞬だったが自分の服装を見てみた。

 

「これは.......」

 

服装が神樹館の制服から絵本に出てきそうな服装だった。

腕にはガントレットの形をした折りたたみ式のメリケンサック、両足にはナイフがしまってあり、腰には古来の海賊が使っていた斬馬刀の形をした物と古風の小型マスケット銃があった。

そして肩には黒いマントを羽織っていた。

衣装の色は白を基調としたものらしい。

 

「これでやっとあの化け物と戦えるてっわけか」

 

何故だろうか、初めて見たはずなのにこんなにもすぐに受け入れてしまう。

 

「まぁ、考えても仕方ないよな.....だから今は!」

 

腰から右手で剣を抜く。

 

「アイツらを助けないとなぁ!」

 

愛翔は全速力で化け物がいる方に駆け出した。

 

 

 

 

 

「くっ.......」

 

須美は顔を歪ませていた。

勇者になっての初めての御役目、それがこのバーテックスを撃退すること。

自身の訓練はしていたが、他の2人、銀と園子との合同訓練はまだだったのだ。

正直どうすれば良いのか分からない。

このバーテックスは水を使って攻撃してくるのだ。

そして須美が使っている武器の弓も矢を放ったとしても水球に閉じ込められて威力を無効化される。

そして銀が使っている斧は接近型、到底今のバーテックスに近付けない。

園子の槍は盾には出来るが、数分しか持たない。

 

「どうすれば......」

 

「鷲尾さん!危ない!」

 

「......え?」

 

考え老けていてバーテックスが放った水球がこちらに来たのを気づいていなかった。

園子が言うがもう遅いと思った。

 

「危ない!」

 

すると銀が須美を押し倒して水球を回避した。

 

「鷲尾さん、動かなきゃ危な――」

 

銀が須美に注意喚起を促そうと言葉を発しようするが刹那、水球が銀の頭に直撃して頭だけは閉じ込めた。

 

「三ノ輪さん!」

 

「ミノさん!」

 

悶える銀を何とかして水球から剥がそうとするが、弾力ありすぎて取れない。

 

「これ、弾力が!」

 

しかし、いきなり銀が目を開け口を大きく開くとその瞬間に水球を飲み干した。

それを見た須美は若干引いたような感じでそれを見ていた。

 

「ぷはぁ!はぁ.....はぁ.....」

 

「全部、飲んだ......」

 

「ミノさん大丈夫〜?」

 

2人は心配そうに銀を見つめていると息を整え終えた銀は口を開いた。

 

「神の力を得た勇者にとって、水を飲み干すなど造作もないのだ!」

 

そう強く言った銀だが、その後に口を抑えた。

 

「うぷ、気持ち悪い.......」

 

味を聞いてみたが最初はサイダーの味で途中から烏龍茶に変化したとの事。

そんなことしていたらバーテックスが大橋を渡りきりそうだった。

だが、本来真っ先に神樹の方に向かうはずのバーテックスが神樹の方に向かいながらこちらに水圧で固めた水を放ってきた。

 

「しまっ!――」

 

「やべッ!」

 

「きゃあ!」

 

もう防御も回避も出来ない。食らうのを覚悟した3人は目を瞑った。

しかし、食らったのにも関わらず、痛みがなかったのだ。

恐々目をゆっくり開けるとそこには色は違うが須美達と同じ勇者の装束を纏っていた。

左手に装備していた四角い盾を斜めに展開して水を跳ね返していた。

照射が終わり盾を小さくして左手に折りたたまれた。

白い勇者がこちらに向く。

すると3人は目を大きく開いた。

 

「無事か?3人とも」

 

それは勇者装束を纏った黒結 愛翔だった。

 

 

 

 

 

 

 

「無事か?3人とも」

 

合流できそうな時に丁度バーテックスが3人に向かって水圧カッター並の照射を始めたので愛翔は全力で3人の元に向かい、咄嗟に左のメリケンサックを大きくして四角状の盾を作り前に出た。

どうにか間に合った。

照射が終わったのを確認してから盾を元の大きさに戻して自動で折りたたまれた。

自然に3人の状態を見た。結構打撲や擦り傷が多い。

 

「黒結君、どうしてここにいるの?」

 

「愛っち何で?」

 

「愛翔、お前.....」

 

須美達は困惑した。本来神に見初められるのはいつだって無垢なる少女なのだ。

そして勇者になるのもそれが条件である。

それを考えていた3人は愛翔の表情に気付いた。

悲しそうな目で彼女達を見つめている。

そして今彼女達が負った怪我をみて口を開く。

 

「ごめん、もっと早く来たら怪我しなかったのに.....」

 

愛翔は自分の無力差を悔いて3人に謝った。

それをみた3人の少女達はお互い笑みを浮かべ首を振る。

 

「黒結君。貴方が気にしなくてもいいわ」

 

「そうだよ愛っち〜」

 

「おう、お陰であの攻撃を食らってたらこれよりも酷い事になってたからな!」

 

なんと優しんだろうか、愛翔は笑った。そして、決意する。

何としても彼女達を守ろうと。

 

「それより話は後よ今はバーテックスを何とかしないと」

 

感傷に浸っている訳にもいかない、敵は待ってくれないのだ。

 

「そうだね、まずはなんとかしないとだね!」

 

「だな、アイツはやばい!でも、水球あるのにどうするんだ?」

 

園子は頷くが銀はどうやって近づくのか考えた。

 

「まずい、もう橋からの出口が近いわ!」

 

須美は大橋の位置を確認すると大分進行している事が分かった。

あの後須美達を倒したと思って神樹の方に向かったのだろう。

このままでは世界が終わってしまう。

それは何とかして阻止しなくてはならない。

だが、現状それを打破する案が浮かばない――そう、思った時園子がピカーンと頭に電球が付いたように閃いた。

 

「3人共、ピッカーンと閃いたよ!」

 

園子は3人に自分の案を聞かせた。

 

「なるほど......それならいけるわね」

 

「だな、流石だ乃木さん!」

 

「成功させてやるよ絶対にな」

 

4人は頷いた。 そして即時作戦に移る。

まず須美が弓でバーテックスに矢を当て気付かせる。

矢が当たったバーテックスはこちらの存在に気付き大橋から勇者の方に敵意を向ける。

 

「気が付いた!」

 

「こっち向いたよ〜」

 

樹海になってから結構時間は経ってはいる。

これ以上戦闘が続いたらバーテックスが樹海を侵食して現実にも悪影響を及ぼす。

何とかして撃退しなければいけない。

 

「ッ!来るぞ!」

 

銀が言うとバーテックスは水球を飛ばし始めた。

 

「行くぞ園子!」

 

「うん!愛っち!」

 

愛翔と園子は同時に叫ぶ。

 

「「展開!」」

 

愛翔のメリケンサックが四角い盾を形成。園子の方は槍が傘状になって形成を始めた。

そしてそれも束の間、水球がこちらにやってきた。

それを愛翔と園子は展開した盾で水球を防ぐ。

 

「よし、このまま前進するぞ!」

 

「「「了解!」」」

 

愛翔が盾を構えながら3人に指示を出し、それを聞いた3人は頷いた。

そして、バーテックスとの距離が半分位になると相手も学習したのか今度は水球ではなく、先程食らった水

の照射を盾に集中攻撃してきた。

その威力は今までより桁にならない。

でも、諦めない。ここで諦めたら世界が終わる。

それは絶対にさせない。

 

「乃木さん、黒結君大丈夫!?」

 

「なんとかな!」

 

「大丈夫だよぉ〜!」

 

「よっしゃその意気だ!勇者は根性!押し返せぇ!」

 

そのままOS、OS、OS、と掛け声を上げ前に進む。

そして遂にバーテックスの元にたどり着いた。

そのタイミングで照射も終わりバーテックスの攻撃に隙が出来た。

 

「今!」

 

「行くぞ!」

 

「「突撃ィィ!」」

 

勇者の力で地面を蹴り、空を跳ぶ。

そしてバーテックスも水球の弾幕を張り巡らせ4人の進行を防ごうと迎撃する。

そして園子が須美に向かって声を掛けた。

 

「鷲尾さん!」

 

「狙いずらい!」

 

須美は弓で水球を射抜いて進行にあるものを無くす。

そして最後は、園子の槍を掴んだ銀と愛翔が盾を戻し剣を構えていた。

 

「ミノさん、振り回すよ!」

 

「やっちゃえぇぇ!」

 

「分かった! うんとこしょぉぉぉぉ!」

 

園子は銀を槍で投げ飛ばし、バーテックスの方に向かわせる。

 

「愛っちも〜!」

 

「任された!」

 

再び槍を前に向きわせでそこに愛翔を乗せた。

 

「行ってらしゃいぃぃー!」

 

「あいよぉぉぉぉ!」

 

自身の足の脚力を使って園子の盾を蹴った。そして銀と続いて剣を大きく構えた。

 

「三ノ輪さん!」

 

水球を全て撃ち抜いた須美は叫ぶ。

 

「愛っちー!」

 

園子も愛翔に叫ぶ。

 

それを応えるように2人の武器は光り始める。

銀の斧は炎を纏わせ、愛翔の斬馬刀はピンクの斬撃を纏わせた。

 

「「うぉぉぉぉぉぉぉぉ!」」

 

2人はバーテックスに武器を振りかざしまずは左右に付いている水を生成している器官を互いに分けて破壊する。

そして、地面に付いた2人は再び飛び上がり、バーテックス本体を切り刻んだ。

先に銀が地面に落ちてしまい後は愛翔だけだが、最後は粘った。

腰から1本だけあるチェーンを出してそれを剣に巻き付かせそれを遠心力で豪快に振り回す。

 

「これで、終わりだァァァァ!」

 

最後の器官を破壊し、地面に落ちた。

それでもバーテックスに目を離さなかった。

すると、樹海全体が白く輝き始めた。

 

「これって.....」

 

「鎮華の義?」

 

「始まったんだ!」

 

少女3人は白くなった樹海の空を見上げながら見ると、大量の花びらが空から降り注いできた。

するとそこにいたバーテックスはいつの間にか消えた。

 

「静まった.......」

 

「撃退出来たんだよな?」

 

「それって......」

 

少女3人は同時に互いを見て、笑顔になった。

 

「「「やった―――!!!」」」

 

嬉しさのあまり抱き合う3人。

バーテックスの撃退に成功した。

勝ったのだ。

初めての実戦で初撃退。

こんなに嬉しいことは無いだろう。

 

「痛ぁ.....地面に落ちるだけでこんなにも身体が悲鳴をあげるのか」

 

3人の前から腕を縦に回しながら愛翔が帰ってきた。

 

「愛っち、大丈夫〜?」

 

「ん?ああ、全然大丈夫だぞー」

 

園子が2人から離れて愛翔の方に駆け寄る。

愛翔はその意志返しに園子の頭を撫でた。

 

「――♪」

 

園子は気持ちよさそうに愛翔の手を受け入れていた。

それを見ていた銀が園子に牙を向いた。

 

「あー!乃木さんずるいって!愛翔!私も私も!」

 

「え、まぁ......いいけど」

 

別に拒否する理由もないし撫でることなら別に大丈夫だろう。

そう言うと愛翔は片方が空いてる手で銀の頭を撫でた。

 

「あ......ふふ」

 

ピクっとした銀だがすぐに受け入れてニコニコと笑みを浮かばせた。

 

「随分モテるわね黒結君」

 

須美が嫌味っぽく愛翔に言うが気にしてないのか苦笑いを浮かべながら口を動かす。

 

「これでモテるとか感性を疑うね」

 

「ふっ、そうね」

 

お互い笑いながら済ませると、今度は樹海が光包まれた。

光が収まるといつの間にか現実に戻っていた。

いつの間にか愛翔が纏っていた装束と須美達もその装束姿から神樹館の制服に戻っていた。

 

「戻ってこれた.....」

 

「そっかー学校に戻ったわけじゃないんだ〜」

 

「あ、そうだ樹海を撮ったんだった!」

 

2人を撫でるのを終えた愛翔は現実にある大橋とその近くにある公園に4人はいた。

 

「あれ?樹海じゃなくなってる.......!」

 

「写らないんだねぇ〜」

 

「そんなの撮ってたのかよ......」

 

銀は戦いが始まる前にスマホに樹海の写真を撮ったのだが、流石に神の力が宿るスマホでも樹海の写真だけは撮れなかったらしい。

それが撮れなかった銀はうむむ......と唸りながら次々撮った写真の中から樹海化した写真を探し始めていた。

これにも愛翔はまたもや苦笑いをしてしまう。

 

「あ、そうだ」

 

愛翔はある事を思い出した。3人の少女達に聞かなければならない。

 

「なぁ、鷲尾達って何であんな所にいたんだ?」

 

「それは......」

 

須美はそれを応えようと渋るがその直後に白い格好をした人が2人は現れる。

 

「.......大赦」

 

それは仮面にこの国の組織のマークが記されていた。

大赦の神官達だった。

 

「黒結 愛翔様ですね?」

 

「はい、そうですけど?」

 

1人の神官が愛翔の手を強引に掴む。

 

「え、何するんですか!?」

 

「我々と直ちに大赦本部に来て頂きたい」

 

「はぁ!?」

 

神官はそれっきり何も言わずに愛翔を見つめる。

 

「おい!愛翔が嫌がってるだろ、放してやれよ!」

 

「愛っちに何するの!」

 

銀と園子が愛翔に駆け寄り神官を睨み付ける。

 

「乃木園子様、三ノ輪銀様、我々大赦は黒結愛翔様を決して乱暴にするつもりはございません。ただ、彼に用がございまして.....」

 

「そしたらなんで腕を強く握ってるんだよ!」

 

「そうだよ!愛っちに酷いことしないで!」

 

大赦は何も言わず、再び愛翔を引っ張る。

 

「うわっちょ、ちょい!」

 

「愛翔!」

 

「愛っちー!」

 

そして、大赦が使う車に押し込まれそうになった瞬間、今まで黙っていた須美が叫ぶ。

 

「待ってください!」

 

つかつかと足を鳴らして大赦の神官を見つめながら口を動かす。

 

「それは私達がいても大丈夫な事ですよね?」

 

「そうですが――」

 

「なら私達3人も連れて行って下さい!」

 

神官は表情は見えないが少し驚いた顔をしたような気がした。少し考える素振りを見せるとこちらに目線を合わせた。

 

「分かりました。神樹館にいる安芸に伝えときます」

 

神官は愛翔の腕を離して車に戻って行った。

 

「鷲尾......」

 

「ごめんなさい黒結君」

 

「いや、俺はいいんだけど.....」

 

愛翔は申し訳なさそうに銀と園子を見ながら言う。

 

「私は鷲尾さんに感謝してるんだぞ?」

 

「私もなんよ〜」

 

「一応、私からも2人を巻き込んでごめんなさい」

 

2人は須美に気にしないでと首を横に振った。

 

「それに、私達も愛翔に世話になってるからな」

 

「私もいつも家にきて遊んでくれるからね〜」

 

「私もよ.....まぁ、貴方は覚えていないけれど」

 

「三人とも......」

 

愛翔は3人に感謝した。こんな良い娘達があの化け物と戦うのだ。

護りたい。この3人を絶対に。例え、自分がどうなろうと。

 

 

「んじゃ、俺が言うのもなんだけど行こうか」

 

「「「えぇ(うん)(おう!)」」」

 

愛翔が言うと3人は笑顔で頷き、大赦の車まで向かった。

この先愛翔はどうなるか分からない。でも――決して危険な事じゃないだろう。

 

 

 

これは、四人の勇者の物語。

神に選ばれた少女達と偶然神に選ばれた少年のおとぎ話。

いつだって、神に見初められるのは無垢なる少女である。

だが、偶然神に見初めされたイレギュラーな少年も無垢である事は変わらない。

そして、多くの場合、その結末は―――。

 

 

 

 





小説とアニメ版が重視で書いてます。
というかわすゆが何かと登場人物少ないから書きやすてのもあるかもしれないw
でも、その代わりにあのシーンをどうするかですが、僕はもう決まってますのでw
正規エンドの方は申し訳ない。
俺は銀ちゃんを死なせたくないんだ!
ま、そしたらタグ(入れきれなかったけど)に1部原作キャラ生存はいれてないですからね!(汗)

それでは次回も更新出来るように頑張ります!


次回。 第2話:イレギュラーの御役目


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第2話: イレギュラーの御役目


どうもバルクスです。銀ちゃんの誕生日に間に合わせようとしましたが、ダメでした\(^o^)/

今回はオリ展開です!
ある程度黒結家について分かるかも?

ではどうぞ〜


 

愛翔達が大赦本部に着くと神官から個室に連れていかれた。

神樹様を管理するからだろうか、大赦本部の建物の中はとても神聖実がある形をしていた。

まるでその中全体が神様の供え物みたいだ。

そして、その一室で愛翔、須美、園子、銀の四人は御役目についてを神官から説明を受けていた。

とはいえ、愛翔以外の三人は元から御役目の話は勇者になる時に聞いていた。

だが、愛翔は勇者やバーテックスについては知らない。

そしてある程度神官から勇者の成り立ちやバーテックス等の説明を聞いた愛翔は手を顎に乗せて考えていた。

 

「それが貴方達ら大赦が語る、お役目の真実か......?」

 

訝しげに愛翔は神官に対して口を動かす。

確かに彼から見れば突然世界が全て樹に変わり、クラスメイトが化け物と戦っているのだ。

その異常性を見れば誰しも疑うのは必然だ。

 

「はい。愛翔様のお言葉通りでございます」

 

仮面で見えないが、そんな愛翔の言葉を想定済みかのように神官は無機質な声で肯定した。

勇者にとっての御役目はこの四国をバーテックスから守るために戦うということ。

だが、勇者になるためには適正値というものが必要となり神樹が神託で決めるらしい。だが疑問が残る。本来勇者になるのは穢れを知らぬ無垢な少女達であり、何故勇者では無い自分――いや、少女では無い(愛翔)が勇者としての力を使えるのか全く分からなかった。

 

「.....あの質問なんですが、何故黒結君は勇者としての力を使えたのでしょうか?」

 

すると今まで何も言わなかった須美が神官に向けて話を掛けてきた。

神官の方も須美の方に顔を向けて語り出す。

 

「それは、私達にも存じ兼ねますが......一つだけ心当たりはあります」

 

神官がそう言うと須美は真剣な眼差しで神官に催促をするように頷いた。

愛翔や園子や銀もその理由が知りたかった。

 

「これは、愛翔様の御先祖が関係していると推測しています」

 

「俺の御先祖が.....ですか?」

 

愛翔は首を傾げる。

御先祖、つまり黒結 海斗が何らかの影響を与えていると神官は言う。

話によると何で勇者になったかは不明だが、愛翔の御先祖は初代勇者との交流がありそれで黒結家が独自で勇者システムを作ったのだとか。

だがそれは憶測の話であって実際は分からない。

 

「そしたら、何で俺の家はその勇者システムを何も言わずに俺のスマホに入れたんですか?」

 

「それは分かりません。ただ、一つ言えることは護身用、または御守り程度として忍ばせていたのかもしれません」

 

自身の両親に疑問を抱く愛翔は神官に聞いてみるもやはり大赦としても流石に黒結家の事は分からない。

どれだけ調べても、どれだけ聞いてもその黒結家は口を割ろうとはしなかった。

また、以前愛翔は父に黒結家と大赦との関係を聞いた事を思い出す。

それは三百年前、大赦が御先祖黒結 海斗にとある事で反感を買い、それから御先祖は大赦に対して協力すらも何もしなかったという。

一体大赦が何をして御先祖を怒らせたのかは不明だがこうして三百年経った今も大赦が管理する勇者システムの技術が黒結家にあるという事は大赦の中に黒結家の分家の者がおり密かに開発したのだろう。

でもそれのお陰で愛翔は勇者になり須美達をバーテックスから助けることが出来たと思えばこれまでの黒結家の歴史なぞ気にならない。

 

「そういえば自分はこれからどうすればいいんです?彼女達と一緒にバーテックスを倒せばいいんですか?」

 

「概ねそうなります。出来ることならこの世界を守って頂きたいと我々はそう願います。たとえイレギュラーな事だとしても、どうか我々に愛翔様の御力添えを」

 

説明を受け愛翔の処遇について聞くと神官は椅子から立ち、愛翔の方に向かって床に頭を下げた。

正直、今もこの話を聞いても理解が出来なかった。

突然樹海化に巻き込まれてこの世界を滅ぼそうとする化け物と戦わされ、挙句の果てにはまだ成人すらもしていない幼い少女達が戦っている。

そして、愛翔も戦わされそうになっている。

断る事なんて簡単だ。今口に出せば神官は素直に下がるだろうと。

ふと、須美達の方をみると彼女達も海斗に気付きこちらに首を横に振ってきた。

『断れ』と言っているのだろう。

だが、それを断ることなんて出来るはずがなかった。

自身の拳を握り愛翔は口を動かす。

 

「......分かりました。俺もその御役目をさせてください」

 

「!?な、何言っているのよ黒結君!」

 

そう言うと今度は須美が目を大きく開かせ愛翔に向かって言葉を掛けてきた。

 

「あなたは自分が言っていることが分かっているの!?これは遊びではないのよ!」

 

「お前がやる必要はないんだぞ!」

 

「そうだよあいっち!」

 

須美に続いて銀と園子も慌てた様子で声を発する。

確かに、彼女達の言う通りかもしれない。

これは本来彼女達がやる御役目だ。

遊びでもまたは冗談でも嘘でもないことも。

真実を聞いていなければ参加もしなかったかもれしれない。

夢だったと自分に言い聞かせてたかもしれない。

だが、あのバーテックスという化け物と戦ってしまっては愛翔は引けなかった。

あんなものに何回も少女達が戦うと考えてしまうと震えが止まらない。

何も知らない所で何も覚えられずただそんな毎日を過ごすなんて嫌だった。

非常で異状で卑劣で不条理で非条理で、そんな世界でしか生きるなんて絶対嫌だ。

こんな儚い少女達が命すら落とす戦いに身を投じてるというのに何もせずにいられる自体が愛翔は容認出来るはずがない。

そんな須美達に顔を向かせて笑みを見せた。

出来る限り心配にならせないようにするために。

 

「これは自分で選んだことなんだ。俺はそれに後悔もしてない.......寧ろ、守りたいんだお前らを」

 

こんなこと、今までなかったはずなのに何故か気持ちが溢れ出てしまう。

誰かを守ることは果たして出来るかと言えば難しいだろう。

まだ、愛翔はほんの少しか持っていない経験と知識を得ただけ。

そんなものでは須美達に到底追いつけないだろう。

でも、それでもと言わなければいけない気がした。決めたんだ、自分の意思でこれだけは曲げられない。

 

「経験も知識もお前らには及ばないが、それでも!俺はお前らが過酷で死ぬかもしれない御役目に黙って明日を生きれるか!」

 

愛翔は自分の気持ちを吐露して叫ぶ。

その気持ちが伝わったのか須美達は目を細めると今度は何故か頬を染めながらため息を吐いてしまう。

 

「......全く、黒結君は頑固ね」

 

「アタシ達を守りたいとか......恥ずかしい言葉なんて言うし」

 

「本当にびっくりしちゃったんよ〜」

 

須美、銀、園子の三人は笑みを浮かべながら愛翔に対して呟く。

こんな真っ直ぐで言われたら恥ずかしいとは思わないのかと考える三人だが、愛翔はそんなことを考えている訳では無く素直に言っているだけなのだ。

それに対して過剰に反応している須美達は逆にもっと恥ずかしくなってくる。

 

「なんとでも言えよ.......俺の気持ちは変わらないぞ」

 

海斗は真っ直ぐ言う。すると地面に頭を下げていた神官はまた深く頭を下げ始めた。

 

「愛翔様の御決断に感謝を」

 

それから愛翔は正式に勇者として認められることになった。

ただの特殊な事もせず先程乗った大赦の車で自分の家に帰ることになった。

 

 

 

 

 

「あの、黒結君」

 

「ん?」

 

自宅の近くで降ろしてもらい、そのまま歩いて行こうとすると須美が愛翔を呼び止めた。

 

「どうした、鷲尾?」

 

「なんで、黒結君はそんなに強くあんな事言えたのかしら?ただあなたは巻き込まれただけなのに」

 

「そうだなぁ......」

 

須美がそう言うと愛翔は頭を搔きながら考える。

それを見ていた銀と園子は何も言わずにただ愛翔を見つめ続ける。

須美は愛翔の真意を知りたかった。

別に疑っているわけではないが、相手は黒結家、大赦の中で三番目の地位のある家柄。

須美が養子に出されている鷲尾家より発言力は高いはず。

だからこそ愛翔が果たして本当にお役目を知らなかったのか分からなかったのだ。

疑いすぎもあるかもしれないが、どうしても聞きたかった。

すると愛翔は須美の方を見ず目を逸らしながら口を動かした。

 

「さっき言った通りなんだが、俺は自分がその真実を知ってお前らが裏でバーテックスと戦っているのにのうのうと一日を過ごしていられるほど非道な人間じゃない」

 

「じゃあどうして、私たちを守りたいとそう言ったの?」

 

「それは、だって――」

 

 

『大切な友達がいるからだ』と愛翔は言葉を発した。

すると須美は固まってしまう。今、黒結君はなんと言った?

大切な友達がいると言ったのか?いや、それはないと須美は心の中で首を横に揺らす。

まだ須美と愛翔は互いの事を少ししか知らないはずのに。

それを彼は彼女の事や銀と園子に言ったのだ。

どうしてあっさりとそんな言葉がすらすら出るのか分からない。

さっきからこっちの気持ちがゆらゆらと乱されていく。

でも、不快感は全くない。

むしろ、喜ばしく思うし、二人(銀と園子)もそうなのだろう。

 

「お、おーい鷲尾?大丈夫か?」

 

「.....はッ!?」

 

愛翔の声が聞こえた。どうやら考えに耽っていたようだ。

 

「あの、正直に言ったつもりなんだが......これでいいのか?」

 

「え?え、えぇ......ありがとう黒結君」

 

まただ。また頬が熱くなっている気づいた時には暑くなるのはなんなのだろうか?

彼といると何故か周囲が乱れる気がする。

銀も園子も愛翔の言葉で須美と同じで顔を真っ赤に染めている。

まぁ、園子の方は笑みを浮かべながらだが。

 

「愛っち〜!」

 

「うおっ!?どうしたんだ園子」

 

「えへへーギュッてしたかっただけ〜」

 

「お、おう?」

 

「すんすん、ふへへ〜愛っちの匂いだー」

 

「俺って臭いのか!?」

 

すると園子は突然愛翔の左腕に抱きついてきて匂いを嗅ぎながら顔を彼の腕に擦り付けた。

「全然いい匂いだよ〜」と園子は言うが、もし臭いとか言われたら心に傷を負ったと思う。

 

「いやぁ随分モテますね〜愛翔さんや」

 

「何言ってんだ銀。早くこいつを引き剥がしてくれ」

 

「ふっ。それは出来ない相談だなマイフレンド」

 

「ふざけんな!とっとと協力しろ!」

 

銀の方は愛翔を揶揄うようににやにやと言葉を発した。

鬱陶しそうに愛翔は言うが、表情は嫌そうにはしていなかった。

 

「――黒結君」

 

「何だ、鷲尾」

 

「これから勇者として私達と一緒に御役目を果たしましょう」

 

「硬すぎだな」

 

「え?そ、そうかしら?」

 

「そうだぞ鷲尾さん!もっと柔らかくいいなって!」

 

「イッツスマイル!須美助〜」

 

確かにこれから三人ではなく、四人で御役目を果たして行くのだ。

もっと柔らかく人に接していけるようにしなくてはならない。

それがこれからの課題だ。

だからこそ、今からやるんだ。

 

「鷲尾」

 

すると愛翔が須美の方に手を差し出した。

 

「え、えぇと......殿方に触れるのは破廉恥――」

 

「じゃねぇからな?そこはセクハラにもならんわアホ」

 

愛翔にツッコまれる須美だが、気持ちを切り替えて、微笑みながら愛翔の腕を握った。

そして握った瞬間に銀も園子も須美と愛翔の腕の上から自身の手を添えた。

暑苦しいが、嫌では無い。寧ろその温もりこそが繋がりを得たという証明になったと感じた。

 

「これから宜しくな三人とも」

 

「「「えぇ!(おう!) (うん!)」」」

 

これから先、何があるかは分からない。

でも、この先何があろうと守ると約束しよう。

世界も大切な友達も。

たとえ自分が死ぬ事になろうとも。

 

 

 





ありゃりゃ?愛翔君もしかしてたらしくんですかね?
誰だァ!こんな事書いたやつ!(作者)

まぁ、後悔はしてない。( •̀ω•́ )✧

次回は二回目の戦闘シーンを書こうかなと思います。
では次回でまたお会いしましょう。さらば!


次回。第3話:指名の先に


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第3話:指名の先に

どうもバルクスです。
二週間更新出来なくて申し訳ないです......
諸事情により執筆ができない状態になっていました。
これからはなるべく早く更新出来るように頑張ります!
今回はタイトル通りです!
では、本編どうぞー!


 

俺が勇者に選ばれてびっくりしたけど、これであいつらを守れると思えば何も不安感はなかった。

敵を四人で倒せば怖いものは無いと思った。

でも、バーテックスは――があり――を練っていたとも知らずに俺たちは戦っていたんだ。

だからあの時俺は――バーテックスを――で―――って―――を失い、―――の――では――のせいで――と――を――。

 

 

勇者御記二九八年 五月二十五日

 

大赦書史部・巫女様

 

検閲済

 

――――

 

 

愛翔がバーテックスと戦ってから翌日。

神樹館の六年二組の学活が行われていた。

敵と戦い正式に勇者となったのが昨日でそのせいでクラスメイトから質問されることになった。そのためある程度の説明を安芸先生から四人は神樹様から大切なお役目があると生徒にしてくれたので納得はしてくれた。

だが流石小学生。好奇心豊富で気になったことは知りたいのが常だ。

学活が終わった後の休み時間を見計らってクラスメイトは人気者である銀や愛翔に話し掛けて質問攻めをした。

 

「ねぇねぇお役目って大変なの?痛いの?」

 

「いやぁ......話しちゃダメなんだよねー」

 

銀の方は三人の生徒に質問されるが、にひひっと笑みを振舞ってはぐらしている。

「えぇー」や「けちー」や「教えてよー」と言われるが銀は頑なに教えることはしなかった。

 

「なぁ愛翔ーお役目ってさ、どんな事するんだ?」

 

「私たちに教えてよー」

 

「ん?あー.......すまん。これだけはどうしても教えられないんだよ」

 

「まじかー.......少しぐらい教えてくれたっていいじゃん!」

 

「それがだめなんだよ。すまんな」

 

愛翔がいる席に男女が寄って愛翔に質問をしてくる。

謝罪しながら愛翔は上手く躱した。

それを聞いた一人のクラスメイトは「んじゃ、話せる時になったら教えてくれよな!」と素直に諦めて自分の席に戻った。

それに続いて他の生徒も連れて戻っていく。

なんとも引き合いがしっかりしている子だと愛翔は感心した。

すると須美が席から立ち咳払いをすると口を開いた。

 

「ねぇ乃木さん、三ノ輪さん、黒結君。よ、良ければその......放課後の帰りに、しゅ、祝勝会でもどうかしら.......?」

 

勇気を出して須美は三人を祝勝会へと誘った。

それを聞いた園子、銀、愛翔の三人は微笑んで頷いた。

 

「おぉっ!いいねぇ!」

 

「うん!いこういこう〜!」

 

「そうだな。俺も賛成だ」

 

須美はもしこれで断られたらと思ったがそんな事はなく、心の底から安堵して笑みを浮かべた。

そして放課後になり四人はこの地域にある巨大ショッピングモール・イネスに向かい、そこにある一階のフードコートでジェラートを食べていた。

因みに銀のおすすめだ。

 

「どう、どう?ここのジェラート、めっちゃ美味しいでしょ!」

 

「うん!最高だよミノさん〜」

 

「そりゃイネスマニアのアタシ、イチオシだからな!」

 

ジェラートを食べながら銀がキラキラと瞳を輝かせながら熱く語る。

 

「美味しすぎて、何だか涙が出てくるんよ〜」

 

「いや、出てるぞ乃木さん?てか、ダチとかと来た時に、食べたりしなかったのか?」

 

「私、あいっち以外友達いなかったからね、あまりこういうのには行かなかったんだ〜」

 

「しれっと、重いこと言ってるんですけどこの人......」

 

ジェラートの美味しさに感涙した園子に銀は大袈裟だとツッコミを入れるが、その後の園子の発言に苦笑してしまう。

園子は大赦でのツートップの一つである乃木家のその御令嬢であり、彼女の他の人とは違う性格故のせいで孤立していた。

だが、愛翔のお陰でクラスに溶け込む事が出来るようになってそれは解消された。

それに勇者になってから銀や須美に出会って仲良くなれたのがとても嬉しかった。

そしてふと、須美の方を見てみるとジェラートを持ちながら固まっていたことに園子は気付く。

 

「.......」

 

「どうしたのすみすけー?」

 

「もしかして鷲尾さんにはジェラートは合わなかったか?」

 

難しい顔をしながら手で持っているジェラートを見ている須美に園子は声を掛け、銀は顔を伺うように言う。

声を掛けられてはっ!と須美は気付いてすぐさま二人に首を横に振り口を開いた。

 

「い、いえ、違うの!ただ、合わないどころか.......宇治金時味のジェラートが......とても美味しくて......」

 

今須美が食べているのは宇治金時味のジェラート。

和と洋が揃った奇跡のコラボレーションといったところだがそれを須美は美味しく食べていた。

だが何故か彼女は何かと戦っているのかまた難しい顔になりジェラートと睨めっこをする。

すると淡々とジェラートを頬張っていた愛翔が口を開いた。

 

「じゃあ鷲尾、何でそんな難しい顔してるんだ?」

 

「私、おやつは和菓子か、せいぜい、ところてん派だったから。それがこの味......僅かに揺らいだ私の信念が、情けなくて......」

 

須美は超が付くほど和に対して拘りが強い。

なんなら彼女はカタカナや英文すらも苦手な部類に入る。

それなのにジェラートを食べその気持ちが変わりそうな自分と葛藤していたのだ。

 

 

「何だかすみすけが難しい事を言ってる」

 

「ウマかったんなら、それでいーじゃんね?」

 

「拘るのはいいが、そこまで自分を追い詰めたら美味しいもんも美味しく思えないぞ」

 

「そうだよ〜。はふぅ、しあわせ......メロン味大正解〜」

 

「そ、そうね。確かに考え方の固さは実戦において、命取りになるかもしれないわね。素直に美味しく食べるわ」

 

三人に言われた須美はジェラートを大人しく一緒に付いてきたスプーンを使って頬張りはじめた。

 

「この、ほろ苦抹茶とあんこの甘さが織り成す、調和が絶妙だわ......うん」

 

普段は大人な面を見せる彼女だがこの時だけは年相応な笑顔を浮かべ、口を動かし続ける。

 

「ふふ、何だか鷲尾さんって面白っ!」

 

「ね〜。もうちょっと怖い人かと思ってた〜」

 

「こ、怖い人とは、失礼ね.......」

 

「まぁ、そう思われても仕方ないんじゃね?」

 

「うぅ.......」

 

愛翔に言われ思い当たる節があるので反論出来ない。

でも真面目でも悪いとは思ってはいない。

だが、それは時と場合に寄るんだなと須美は思った。

取り敢えず落ち着けるために須美はジェラートを食べ続けた。

 

「じぃー.......」

 

「な、なにかしら、乃木さん......?」

 

物欲しそうに須美のジェラートを見ている園子に声を掛ける。

 

「なんだか、スミすけの食べっぷりを見たら美味しそうに思えたから.......一口欲しいなーって思ったんよ〜」

 

「え?あ、あの、そのぉ.......」

 

「一口めぐんであげなよ、鷲尾さん♪」

 

園子の行動にどうすればいいのか分からず困惑する須美に銀は促した。

 

「え、ええと〜、こういうの、初めてで.......えと、どうぞ.......」

 

「あーん......はむっ......ん〜!美味しい〜。初めての共同作業だね〜」

 

「はぅ///!!」

 

「言葉の意味がおかしいゾー」

 

「まぁ......園子だからな......」

 

須美は自身のジェラートをスプーンですくい上げ、園子の口に入れ込んだ。

そのあとに園子が新婚に使う言葉を言うと須美は顔を赤く染めて俯いてしまう。

それを見ていた銀と愛翔は和みながら見ていた。

すると今度は愛翔の方に園子は顔を向ける。

口を開けながら。

 

「あいっち、あーん!」

 

「は?」

 

「あーん」

 

「......ほらよ」

 

「わーい!あいっちありがと〜」

 

口を開けながら待つ園子に愛翔は諦めて自身のジェラートをスプーンで掬い上げて彼女の口に入れた。

 

「はむ.....ん〜!おいしい!ありがとうあいっち〜」

 

「喜んでくれてなりよりだ」

 

園子に食べさせたら目を輝きさせ笑みを浮かべた。

全く、ねだってくるのはいいが、女の子が気軽に男子の口をつけたものを平気で食べるのは些か大丈夫なのだろうか?

でもそれで愛翔も平気で園子に差し出しているので何も言えないが。

 

「あ、愛翔......」

 

「ん?」

 

と、銀に呼ばれ愛翔は顔を向ける。

その方向へ見ると銀の顔は何故か赤くなっているし、目もあちこち逸らしている。

 

「どうした?」

 

「えと、あの、そのぉ......」

 

「......」

 

言葉を渋っているのかそれとも言えない何かなのかは分からないが、何故か銀も愛翔のジェラートをチラチラと見ている事に気付く。

どうやら彼女も味が気になるのだろうか。

でも、エネスマニアの銀がそんなに気になるのだろうか?

 

「食べたいんだろ?」

 

「え!?い、いいのか?」

 

「そんなにチラチラと視線をこっちに寄せて来るのが気になるんだよ。欲しいなら欲しいってちゃんと言えよ」

 

「お、おう.....あ、ありがとうございます.......」

 

そのやり取りをしながら愛翔はスプーンでジェラートを掬い上げて銀の方へ向けた。

 

「はい、あーんしろ」

 

「あ、あー........」

 

銀に口を開かせ食べさせた。

 

「うまいか?」

 

「お、おう。お、美味しい,.....でふ.......」

 

すると愛翔のジェラートを食べた銀は頬を染めながら顔を俯いた。

感情の起伏が激しくて一々意味が分からない。

愛翔に食べさせてくれた事をお礼した銀だが最後に呂律が回らなかったのか、篭ってしまった。

 

「........」

 

「何だよ鷲尾」

 

視線を感じると須美がこっちをジト目にしながら見つめていた。

 

「黒結君.......少しは気にした方がいいわよ」

 

「いや何がだよ」

 

いきなり何を言い出すかと思えば何を気にすればいいんだ。

別に園子や銀にジェラートを一口あげただけなのに。

その後は何も言わなかったが、問い詰めたかった。

だが何も聞いたとしても別に気にすることではないと思い気持ちを切り替え、愛翔はため息を吐いた。

そしてその後に須美がこれから自身と仲良くしてくれますかと言うが園子も銀も愛翔も微笑んで受け入れた。

というか既に仲良しだろというツッコミは無しだ。

そもそも仲良しじゃなかったら祝勝会や話し合いなんてしないだろう。

すると須美が園子に自身の名前をすみすけと呼ぶのはやめてほしいと言うが、園子が悲しい表情を向けてくるので結局は折れて『わっしー』と言うあだ名で完結した。

そして愛翔達が勇者になって初めてのお役目を果たしてから半月後、二体目の敵がやってきた。

だがそのバーテックスは一体目の敵より苦戦を強いられた。

 

「クソっ!これじゃ近づけねぇ!」

 

敵の形は細長く、左右に非対称な重りを付けておりそれを豪快に振り回して突風を作り出していた。

その風は強風とも言っていいほど荒く、神の力を宿した愛翔たちでも身動きが取れなくなっていた。

今は園子が展開してくれた盾に入って、園子、銀、愛翔、須美の順で互いに掴みあって耐え忍ぶ。

 

「これじゃ身動き出来ねーよ!」

 

「あの、ぐるぐる!上から攻撃すると、弱そうだけど......!」

 

「どうしようもない!ハメはずるいよな!」

 

銀が不満を言う。

園子が天秤の弱点ぽい所を見て指摘する。

今すぐにでも攻撃をして即座にカタをつけたいと思うが強風のせいで動けない。

このままだと樹海が侵食されて現実世界の影響も大橋すらも崩れかねない。

すると須美が掴んでいた愛翔の肩から手を離して空中に漂う形で上がって行った。

 

「おい須美何を!?」

 

須美は直ぐさま弓を呼び出し形を変えて大きくする。

 

「南無八幡.......大菩薩っ!」

 

そして巨大化した弓で矢を持ちながら弦を引いてバーテックスに放った。

だがその矢はバーテックスまで届かず強風で速度を殺され地面に落下した。

 

「そんなっ!きゃあ!」

 

当たらない事を確認した須美は驚愕するが、次の瞬間に須美は強風に煽られ飛ばされた。

 

「鷲尾!」

 

だがそれを愛翔は見逃さず、咄嗟に片手に腰からチェーン型の鞭を出して須美の方に投げて巻き付かせる。

そして巻き付いたのを確認したら愛翔は力一杯引っ張り、須美を引き寄せた。

衝撃は愛翔の胸で押し殺して軽減する。

 

「大丈夫か、鷲尾?」

 

「え、えぇ.....ありがとう。助かったわ」

 

抱き寄せる感じになっているからか少々顔が赤くなっているが、それは今考えることでは無い。

気持ちを切り替えて天秤の方を見つめる。

するとバーテックスが回りながら左右に付いている非対称の重りを園子が盾を展開している方に攻撃をしてきた。

 

「ぐぅぅぅ!」

 

「園子!」

 

その一撃は遠心力が乗っているからか衝撃が重く、これが連続で続けば園子は耐えれないだろう。

銀が園子の心配をするが事態は一刻を争う。

何か......何かこの状況を打破するものはないのかと考える。

と、愛翔の中で一つの策が生まれた。

だがこれは賭けに近い。けど、やるしかないのだ。

 

「鷲尾、銀に掴め、早く!」

 

「え、黒結君はどうするの!」

 

「俺は、アイツを叩くっ!」

 

突然須美は愛翔に声を掛けられ困惑するが、素直に従い愛翔の手を辿りながら銀の腹を両手で掴んだ。

すると愛翔はそのまま須美から手を離して空中へと向かう。

途中で三人の声が聞こえたがこの突風の中だ、強すぎて何を言っているのか分からない。

でも今は気にしてる余裕はない。

直ぐさま斬馬刀を呼び出してそのままバーテックスの上まで飛翔する。

 

「風に特化してるんなら――」

 

遠距離も中距離も無理なら後は中に入ればいいのだ。

 

「刃も弾いてみせろよぉぉぉっ!!」

 

斬馬刀を構えて風が弱まった所まで来てそのまま落下しながら振り下ろした。

それを何回も―――

 

 

「ゴリ押しにも程があるでしょう!」

 

『はい.......』

 

バーテックスを撃退した翌日に愛翔達は神樹館の教室で安芸から説教を食らっていた。

怪我は軽度なもので済んだが四人共絆創膏や包帯やガーゼなども貼っていた。

安芸はスマホの画面越しから映る愛翔を見る。

それは彼が天秤に斬馬刀を振るってその反動で残りも切り刻んでいた。

それを見ている安芸は溜息を吐いて口を開く。

 

「これじゃあ、貴方たちの命が幾つあっても足りないわ。お役目は成功して、現実への被害も軽微なもので済んだのは良くやってくれたけども」

 

「それは三ノ輪さんと乃木さんと黒結くんのお陰です」

 

須美が三人の方に向きながら言うと銀と園子は照れて愛翔は目を逸らした。

すると安芸はまたもや溜息を吐くと口を動かした。

 

「貴方たちの弱点は連携の演習不足ね」

 

お役目をするためには必ずチームでバランス良く戦うことが重要だ。

だが須美達は訓練は受けていてもまだ連携の訓練は受けていなかった。

それに愛翔も勇者になってからまだ日が浅い。

そして安芸はとあることを呟いた。

 

「まず、四人の中で指揮を執る隊長を決めます」

 

その言葉に四人は肩を震わせた。

指揮を執るというのは命を預けるということ。

だがそれは柔軟かつ、咄嗟に判断出来る者に限られる。

そして安芸は園子に向いて口を開いた。

 

「乃木さん、隊長を頼めるかしら?」

 

「え、私ですか?」

 

園子は自分が選ばれた事に不思議だと思い須美たちを交互に見る。

すると銀が首を振って口を開く。

 

「アタシはそういうのはガラじゃないから、アタシじゃなければどっちでも」

 

「私も乃木さんが隊長で賛成よ」

 

「あいっちー......」

 

確かに銀は猪突猛進な所があって肌で感じ取るような人だ。

とても隊長には向かないと自分でも自覚はしている。

そして須美の方は何かを考えていたのか分からないが気持ちを切り替えて、受け入れた。

そして園子が心配そうに愛翔の方に向く。

確かに園子は咄嗟な判断力や柔軟な思考を持っているため作戦や戦略を思い付くのは早い。

だがそれを自分が果たせるかどうか不安なのだ。

すると愛翔は園子の頭に手を置いて優しく撫でると園子の表情が柔らかくなりいつも通りのにへらーとした顔になった。

 

「そんな顔すんなって、お前はやれば出来るんだ。自信を持て」

 

「.......うん、うん!私やってみる〜!」

 

「決定ね」

 

園子を勇気づけた愛翔はそのまま微笑んだ。

自信が出てきたのか変なテンションになってそうだが、そこは園子なので仕方ない。

そして間を開けずに安芸が地面に置いたレポートを手に取って口を動かした。

 

「さて、神託によると次の襲来まではわりと時間があるみたいだから。四人の連携を深めるために、合宿を行おうと思います」

 

「「「「合宿?」」」」

 

四人は揃って驚いた表情を見せた。

 




原作、アニメ版、漫画版の三つを混ざいるからちょっと楽しいw
でも自分でもちゃんと書けてるか分からないんですけどねw

さて、次回は合宿会です!
ではまた次回にお会いしましょう、さらば!

次回。第4話:纏める個性


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第4話:纏める個性


どうもバルクスです!
いよいよ合宿編ですよー!

ではどうぞ〜



 

土曜日になり愛翔は神樹館貸し切りのバスの座席で座っていた。

今日は前に安芸先生が言っていた合宿の日であり愛翔、須美、園子、銀の四人は大赦が経営する旅館へと行こうとしていた。

だが、一人だけまだ時間内に来ていないのだ。

それに愛翔の肩には園子が寄っかかっており、鼻ちょうちんを作り、嬉しそうな表情をしながら寝ている。起こそうとは思うが些か気持ち良く寝ている子を無理やり起こすのは気が引ける。

だからそのまま放置にした。重いけど。

それに今は園子の方より愛翔の隣にいる須美がうむむ......と唸りながら眉をピクピクと歪ませていた。

どうやら相当御立腹のようだ。

 

「遅い!三ノ輪さん遅い!」

 

「あはは......」

 

須美がこの場にいない彼女に対して不満を漏らす。

朝早く来た彼女からしてみれば遅れることがそもそも良くない。

時間内に来るのも勇者の務めとか思っているのだろう。

だが須美は銀が遅れている理由を知らない。愛翔はそれを説明しようか迷ってしまう。

でも果たして納得してくれるのだろうか?

愛翔は苦笑しながら須美の話を聞きそのままバスの中で銀の到着を待つ。

すると噂をすればバスの自動ドアが開きそこから銀が急いで入ってきた。

 

「悪い悪い!遅くなっちゃって.......」

 

「遅い!あれだけ張り切っていたのに十分遅刻よ。どういうことかしら!」

 

「......色々あって.......あ、いや悪いのは自分だけど、とにかくごめんよ須美」

 

「この際だから注意させてもらうけど.......三ノ輪さんは普段の生活が少しだらしないと思うわ!勇者として選ばれた自覚を.......」

 

須美が銀に注意を促していると鼻ちょうちんが割れて園子が眠りから目覚めた。

 

「あれぇ〜?お父さん、ここ何処ー?」

 

「お、園子おはよう。ここはバスの中だぞ」

 

「そうなんだ〜。じゃあ、まだねれ.......」

 

「あ、おい園子!?あーもう!」

 

まだ眠そうに目を擦りながら言う園子に愛翔は慣れた感じで挨拶をした。

すると頭を愛翔の肩に寄りかっていた園子だが、今度は彼の膝の方に寝転がる感じでまた睡眠を始めた。

また気持ち良さそうに寝てるので、起こす気にはなれなかった。

園子、恐ろしい子。と愛翔は心の中で呟いた。

そのまま愛翔の膝で寝ている園子の頭を優しく撫でた。

流石名家の家系、髪のツヤも肌の色も相まってまるで人形みたいだ。

擽ったいのか今度は園子が体勢を変えて愛翔の腹に顔をグリグリと押し付けるようにした。

それを見ていた須美と銀は困惑してしまう。

本当は起きてるんじゃないかと思うがこれでも園子は寝ているのだ。

やはり、恐ろしい。

何ともマイペースだが、彼女のお陰でギクシャクにならずにすんで良かった。

銀は着替えが入っている荷物を空いている席に置いて須美の隣に座った。

そしてバスは大赦が経営する旅館へと向かった。

 

 

 

「お役目が本格的に始まったことにより、大赦は全面的に貴方たち勇者をバックアップします」

 

旅館に着き荷物を部屋に置いて、合宿先である訓練場(最早ビーチ場なのだが)に向かい愛翔達は勇者装束に変身し、安芸の話を聞いていた。

だがバックアップとは言っているが、大人や普通の人では樹海化の中を動けない。

ので、今から行う連携の基礎を学ばせるのだ。

少なくとも勇者が生き残れるように。

 

「家族の事や学校の事は心配せず、頑張って」

 

『はい!!』

 

四人の首を縦に振ると安芸は頷くと口を開く。

 

「準備はいい?この訓練のルールは至ってシンプル。あそこに止まっているバスに三ノ輪さんを無事に到着させること。お互いの役割を忘れないで!」

 

この連携のルールはビーチの端にある所からスタートして道路の麓に止まっているバスに銀を届ける簡単な事だ。

だが、その行先には敵の攻撃に模したボールを飛ばす投射機が幾つもあった。

それを三人で役割を分担して銀を守る。

これには互いの息を合わせてやらなけれは絶対に成功しない。

まず海岸沿いに須美が弓矢を持って遠くからボールを射抜いて援護射撃をする。

そして園子が射出されてくるボールから銀を盾で守りつつ近付いて愛翔がボールを銀に当たらないように切って活路を開く。

その連携で行う。

 

「じゃあ、行くよー!」

 

「上手く守ってくれよ〜」

 

「任せろ。必ず守ってやる」

 

「私はここから動いちゃダメなんですかー!」

 

「ダメよー!」

 

安芸はそう言うと手を叩いて合図を促した。

 

「はいスタート!」

 

そして連携のゴングは鳴り響いた。

スタートの合図と同時に園子と愛翔は盾を展開し銀と一緒に走り出した。

目的地に走っていく中、投射機が銀の方に目掛けてボールを飛ばしてくる。

それを盾を展開している二人は防御してその後ろで須美は飛ばしてくるボールを的確に射抜いて落としていく。

 

 

「なぁ愛翔、ここからジャンプしちゃダメなのかー?」

 

「馬鹿言え。例えボールでも、もしこれがバーテックスの攻撃だったらお前は怪我をするか、もしくはそれに当たって死ぬかもしれないんだぞ?」

 

「そうだよミノさん。ずるはだめだよー」

 

「うぅ.....それもそっか」

 

防御して走りながら銀がそう言うと愛翔は真剣に捉えてもしもの話を彼女に聞かせる。

愛翔に続いて園子も銀に言う。

銀は唸るが、納得はしてくれた。

そして次々とボールが飛んできておりガードや相殺をしてやっとゴールが見えてきた。

このまま行けると確信した銀は二対の斧を構える。

 

「よし!楽しょ......うがっ!」

 

「銀!大丈夫か!?」

 

だがその瞬間に突如銀の頭上からボールが降ってきてそれに当たってしまった。

安芸が「アウトー!」と言うと投射機が止まり再装填が行われた。

愛翔は直ぐに銀に駆け寄り状態を見るが、銀はふらふらとしているが意識はあった。

それを遠くから見ていた須美は声を大きくして銀に謝罪をする。

 

「あ......ごめんなさい三ノ輪さん!」

 

「どんまいだよわっしー!」

 

「呼び方も硬いんだよ、銀でいいぞ銀で」

 

「私の事はそのっちでー。はい、呼んでみてー!」

 

「まぁ、焦るなよ鷲尾!」

 

「うっ......」

 

頭を抑えながら須美の方へ見て言う三人。

愛翔は落ち着けさせるように言う。

銀と園子は須美に下で呼んで欲しいと言うが、須美は笑みを引きつって目を逸らす。

それから数時間連携の訓練は続いた。

だがこの日は成功する事はなく、愛翔達は大赦が経営する旅館に戻った。

 

 

「はぁ〜.......」

 

愛翔は大赦が経営する旅館の温泉の湯船に浸かっていた。

今日の疲れが洗い流されるかのように癒され自然に息が漏れていく。

まぁ、先に頭と体を洗うのが先だったのだが。

やはり温泉というのはいいなと思う。

愛翔の家にある風呂も温泉で露天風呂付きだが、旅館のと比べれば広さや景色が違う。

それも楽しむのもまた良いものだ。

 

「流石に今日で連携は確立しないよな.......」

 

あれから夕方になるまで訓練はしたが結果は惨敗。

それもそのはず、一日で出来たら訓練なぞ必要ない。

まだ始まったばかりだ。

合宿の期間は今日入れて四日。

残り三日で完璧にしなければならない。

今日の動きで愛翔は須美、銀、園子の三人の動きは分かった。

須美は射撃性は優れてはいるが、取り残しには弱いと見える。

後は物事を深く捉え過ぎる場面があるが、それは自分でも分かっているようで銀や園子達が場を和ませてくれればあとは時間が解決してくれるだろう。

銀は気が早すぎて直ぐに出たがる性格をしているが、ちゃんと指示を仰げば従ってくれる。

それ以外は彼女の適応力で何とかなるだろう。

園子はやはり柔軟かつ目の前の現状に即座に対応出来る能力を持っている。

防御係として体力は付けねばならないが、そこは訓練か自主練で鍛えてくしかないだろう。

そして自分(愛翔)は園子と同じで防御係として銀を守っているが、前線も行けるオールラウンダーな立ち位置だ。

基本的にはガントレットに付いている盾を展開しながら攻撃を受け流し、その隙を斬馬刀で切り伏せるという戦法だ。

だが愛翔は他の勇者の三人より訓練や基礎は全く素人に近い。

知識も経験も浅すぎる。だからこの合宿で色んなことを覚え切るのだ。

背中を石に寄りかかせる。

 

「四ではなく、十にする......か」

 

今日の朝に安芸が言っていた。

この訓練は基本的には四人で行動すること勿論風呂は除くが。

その時に彼女は言っていた1+1+1+1を4ではなく、10にするのだと。

正にその通りだ。

四の力ではなく、十――つまり、レベルMAXの状態で連携して敵に挑めばリスクを犯せず必ず勝利は掴めるということ。

だから明日か明後日には絶対に成功させる。

皆で生きてまた帰るために笑って日常を過ごせるようにと頭の中で想像する。

愛翔は天井に手を伸ばした。湯気を掴むようにぎゅっと。

 

「守ってみせる........絶対に」

 

自身に誓いを立て、愛翔は立ち上がり湯船から出て脱衣所に向かった。

出来ればこの合宿で何かが変われば良いと彼は願ったのだった。

そして寝室に戻った愛翔だが、脂汗をかいてしまう。

それは愛翔以外の勇者三人には女の子だ。

流石に小学高学年になって一緒の部屋で寝るのは教育上ダメだ。

安芸先生は考えなかったのかそれともこれも連携のために用意した苦肉の策なのか。

果たしてその真相は分からない。

それで愛翔は自分がここで寝ても大丈夫なのかと聞いてみる。

 

「あいっちと一緒に寝れるの久しぶりだから嬉しんよ〜寧ろウェルカムなんだぜぇー!」

 

「あ、アタシは.......あ、愛翔だったら、い、い、いいゾ......?」

 

「別に黒結君は他のクラスメイトとは違くて私の体の事を変な目で見てこないから全然いいわよ......でも、男性と一緒の部屋で寝るのは初めてだから、恥ずかしいわ......」

 

だが須美達は心置き無く受け入れてくれた。

寧ろ園子は訳分からんこと言っているが笑顔で歓迎してくれて、銀は何故か顔を真っ赤にしてこちらをきょろきょろと視線を行き来させ、須美に至っては信用と信頼を混ぜた表情をしている。でも少しだが彼女も頬だけ赤くなっている。それに最後に何を言ったか分からなかったが、まぁ良いだろう。

これには愛翔も引いてしまう。

信頼と信用をしてくれるのは嬉しいが、流石に愛翔でも刺激が強すぎる。

ただでさえ三人は愛翔から見ても美人で可愛いに入るのだから。

果たして寝れるのだろうか。愛翔は頭を悩ました。

だが、そのまま普通に寝たら何も無かったので良かったと心の中でほっとしたのは別の話。

 





本来異性同士で寝る事はないと思うけど、法は変わるように時代も変わるもんなのですよ!(震)


さて次回は次のバーテックスの戦闘シーンまで書こうと思います!
では次回にまたお会いしましょう!さらば!

次回。第5話:変わるもの


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第5話:変わるもの


どうもバルクスです。
一ヶ月間投稿しなくて本当に申し訳ない。
それと今回はバーテックスの戦闘会はなしです。
理由としては区切りが良かったので次回から戦闘会書きます。
では本編どうぞ〜!


 

合宿開始から二日目、勇者四人は勉強に励んでいた。

連携もするとは言っていたが、勉強をしないとは誰も言っていない。

それを予測するのは簡単だが、隣にいる銀だけは頭を抱えていた。

 

「こうして神樹様はウィルスから人類を守るために壁を作ってくれました」

 

「.......」

 

「すぴーすぴー......」

 

「.......」

 

「くうっ、うぅ......(合宿なら勉強しないで済むと思ったのに.....!)」

 

大方勉強なんてないと思っていたのだろう。

彼女は勉強が大の苦手だ。

普段は外で活気に遊んでいる事や静かな時間も苦手と見える。

でも彼女は努力さえすれば平均値ぐらいは出せるので頑張っては欲しいところだ。

ただでさえ神樹館の生徒、いわゆるお偉いの学校だ。

少しはマシになってもらわないと将来が心配になる。

すると安芸が間を開けて口を動かした。

 

「ところが、何が起こったのか。乃木さんは答えられる?」

 

安芸が寝ている園子の方に向き呼び掛けると園子は目を覚まして寝ぼけながら口を開いた。

 

「はい〜......バーテックスが生まれて私達の住む四国に攻めて来たんです〜」

 

「正解ね」

 

「「「(あれで聞いてたんだ.......)」」」

 

今まで眠っていた園子が難なく答えられているところを見た須美、銀、愛翔は脂汗が出る。

困惑や感心が混ざるがこれが乃木園子の個性というものなのだろうと再認識した。

そして勉学が終わり次の時間は精神統一の時間だ。

強大な敵と戦うためには精神も鍛えなければならない。

そして冷静かつ、判断も必要不可欠なのだ。

四人は座禅を組んで数時間行った。

自然に溶け込み、空気、風、波、水、その音すらも感じ取れるようにゆっくりと時間を掛けて意識を無にする。

だが銀だけは数十分で耐えきれなかったが。

彼女はやはり向いていないのかもしれない。

でも努力で何とかしていた。とても凄い。

昼からは昨日やった連携の訓練の続きを開始。

四人は一人一人それぞれの役割を果たす。

そして投射機でボールが射出されて行く中、須美が射抜いて撃ち落とし園子と愛翔が正面を盾で防ぐ。

ゴールがまじかに迫り、銀が園子の盾から姿を現し突撃する。

 

「おっしゃ!これで、どうだぁ――あうっ!」

 

「アウトー!」

 

今回も良い成績は残せず終わった。

だが、最初の頃よりも段々とでき始めている。

これなら明日には行けるはずだと愛翔は思った。

合宿三日目。

愛翔達は気を引き締め、冷静に投射機から容赦なく来るボールを避けつつ防御して、当たりそうなところは須美が的確な援護で撃ち落とす。

そしてゴールが近づいてきたところで愛翔が動き、銀に迫り来るボールを斬馬刀で斬り伏せ、遠くにあるものは腰にあるチェーンを使って斬馬刀に巻き付けてリーチを伸ばしボールを切っていく。

その瞬間、ボールの勢いが弱まったところを見逃さず銀が跳躍した。

 

「サンキュー!」

 

銀が三人に感謝をするとそのまま勢いよく飛び射出されてくるボールを斧で華麗に裁きバスの方まで接近する。

 

「行けっ!銀!!」

 

その銀の後ろ姿を愛翔は見て叫ぶ。

 

「おりゃァァァァァァ!!」

 

銀の渾身の一撃と共にバスは真っ二つに分かれ、粉々になった。

そして銀は叫ぶ。

 

「ゴォォォォォォォルッ!!」

 

彼女の声を聞いた勇者三人は笑顔に満ち、喝采を上げた。

 

「「「やったぁぁぁぁぁ!」」」

 

これでもう二度とリスクはないだろう。

連携は成功した。

 

 

 

 

 

連携が成功し旅館に戻り夕飯を食べ終えて愛翔は温泉に入る。

 

「あぁぁ........」

 

体を伸ばしながら湯船に浸かる。

三日で何とか仕上げたがあとは実戦で通用するかだ。

一人が乱せばチームの全滅は避けられない。

もっと経験を積んで安心して任せられるように強くならなければ。

 

「いっつつ......」

 

痛みに表情を歪みつつも自身の体や手の平を見れば痣と豆が出来ている。

この三日間で負った結果だ。

銀を守っている時に偶にボールが飛んできて受けてしまう事があった。

豆の方は武器を力みすぎてそうなった。

温泉に入ればそれが染みて眉を上げてしまう。

愛翔はため息を吐きながら何となく天井をみる。

 

「全く......まだ成人もしていない、ましてや小学生が世界の命運を左右するって、大赦と神樹はとんだ馬鹿かよ」

 

誰もいない空間で組織の愚痴を零す。

子供に世界を託して大人はただ傍観する。

神官もその上の奴らも随分イカれているとも言える。

何とも滑稽だろうか。

だがここで言ったとしても何も変わらない。

 

『まるで果物屋だ!親父!その桃をくれー!』

 

『ちょっ、ちょっと!だめぇ!』

 

『事実を言ったまでだね!寧ろ大きいクセして照れてるとか贅沢言うな!』

 

すると隣にある女湯から須美と銀の声が聞こえた。

一体何をしているのだろうか?

まぁ、女の子同士で楽しくやっているのは結構だが――

 

「こっちまで聞こえて来るのはやめてくれ.......」

 

愛翔は肩を落としながら言う。あっちで何が起こってるのかはなるべく考えないようにした。

それに今頃二人は安芸先生に注意されているだろう。

さっき大赦について思っていた事がさっぱりと抜けて考えるのが馬鹿らしく思ってきたと思ってしまう。

今は自分が出来ることをやる。後で考えようと愛翔は納得させ、湯船から出て寝室に戻った。

そして就寝時間になった頃に銀が笑みを浮かべながら口を開く。

 

「ふふん!お前ら合宿の最終日にそう簡単に寝れると思っているのか?」

 

「自分の枕があるから寝られるよ〜」

 

「それ、名前タコスだっけ?」

 

「サンチョだよー。よしよし〜」

 

足をリズミカルにバタバタと揺らす園子は枕――サンチョを撫でながら言う。

 

「んで、園子さん。その服は?」

 

「鳥さーんー!私焼き鳥が好きなんよ〜!」

 

「う、うん。美味いよねぇ.......」

 

園子が銀に自身のパジャマを指摘されると思わず起き上がり手を上下にパタパタと動かしながら言う。

でも何故だろうか、非常にツッコミたい。

それを自制しようとしていると須美が起き上がり口を開いた。

 

「とにかく駄目よ!夜更かしなんて」

 

「マイペースだな須美......」

 

「言うことを聞かない子は、夜中向かいに来るよー........」

 

「む、向かいに来る〜.......!!」

 

「うおっ!いきなりこっちに来るなよ園子!」

 

須美は注意を促すが手段として彼女の得意な階段話を聞かせようとした。

それに園子が過剰に反応して愛翔に抱きついてきた。

よく見れば怖がって体が震えている。

多分だが違うものを想像したのだろう。

すると銀が須美に向かって口を開く。

 

「そんなホラーはやめて好きな人の言い合いっ子しようよー!」

 

今彼女は何と言った?

間違いではなければ好きな人の言い合いと言ったのだろうか?

つまり恋バナだ。

だが何故男性の愛翔がいるというのにそんなことを良く言えるものだと内心でため息を零してしまう。

すると須美が頬を染めて銀に言う。

 

「好きな人って.......三ノ輪さんはどうなの?」

 

「敢えて言うなら......弟とか!」

 

「家族はずるいよ〜」

 

「私もいないからおあいこね」

 

「......」

 

流石にこの場に男一人でいるのは中々居心地が悪い。

逆になんで男がいるところで急に始まるのか全く分からない。

そういうのは自分がいない時に言ってもらいたいところだ。

 

「そういや乃木さんは?好きな人とかいるのかしら?」

 

「それ、アタシも気になるー!」

 

「ふっふっふっー!私はいるよ〜」

 

銀の話が終わり、須美の話も終わると次は園子だ。

須美は園子に聞くと彼女は不吉な笑いをしながら応える。

 

「おぉ!?恋バナ来たんじゃない!」

 

「あ、相手は誰?もしかしてクラスの人?」

 

「うん!あいっちとわっしーとミノさん!」

 

「だと思ったよ.......」

 

園子は羞恥を見せず素直に答えた。

だがそれは銀や須美が求めていた恋というものではなく友愛の部類だった。

銀と須美は園子の思考をある程度理解していたからそうまで残念そうには思わなかった。

でも少し呆れもあったのかもしれない。

 

「これでいいのかね.......」

 

「まぁ、園子だしな......」

 

「いいのよ! 私達には神聖なお役目があるのだから!明日も励もう!家に帰るまでが合宿よ!」

 

「へーい」

 

「はいよー」

 

「消灯!」

 

須美が照明を消し布団に入って眠ろうとした瞬間。

部屋が綺麗な音色と星の景色に包まれた。

 

「え!?」

 

「なんだこれ!?」

 

「プラネタリウムか.......?」

 

「何故ここに.......?」

 

「綺麗だから持ってきたの〜」

 

「消しなさい!今すぐ!」

 

「しょぼーん......」

 

須美と銀が困惑し愛翔は園子に指摘をすると園子は楽しそうに説明をするが、それを須美に今すぐ消せと注意され園子は悲しそうな表情をしてプラネタリウムをそっと消した。

消した後は何もなく今度こそ四人は就寝した。

 

 

 

 

 

 

翌朝の合宿最終日。須美達はバスの座席に座っていた。

そこには何気のない静かな音だけが聞こえる。

園子は案の定愛翔の肩を借りて鼻ちょうちんを作りながらマイペースに寝ており、それに愛翔は何も言わずただ須美の表情を見ていた。

一方その須美だがまたもや初日と同じく清楚な姿勢を維持したまま眉をピクピクと揺らし唸りを上げている。

彼女の表情を見た愛翔は苦笑してしまう。

 

「うむむむぅ........」

 

「すぴー、すぴー」

 

「遅い!」

 

「あはは......」

 

最終日になってもまたして銀は時間内にやって来ない。

今ここにいない彼女に須美は不満を垂れる。

すると直ぐさまバスの入口から銀が入ってきた。

 

「ごめんごめん!野暮用で.......」

 

「野暮.......?(何か、怪しい)」

 

銀の事情を知らない須美は気になってしまう。

彼女はその事情を頑なに話さず自分が悪いと一点張りで話を終わらせようとする。

それに疑問を抱いた須美は三ノ輪銀の『野暮』が何なのか興味が湧いた。

そして須美は数日間に渡って銀の事を自分なりに調べ始めた。

先ず最初は学校での銀は遅刻が頻繁にある。多すぎるぐらいだ。

遅刻した理由も安芸にも話そうとはしない。

また、遅刻した時に何故かランドセルから子猫が出てきた時もあったりもした。

これで怪しくないと思うのは無理な話だ。

そして須美はその原因を探るべく、翌日の休日を使って銀の生活を張り込み(監視)する事にした。

 

「という訳で行くわよ、乃木さん」

 

「何か知らない間に一緒に行くことになってたけど、分かった〜」

 

須美に同行する事になった園子。偶に彼女は道端で蟻の行列を見ながら手を振ったりとする事があったが、須美が園子を引きずりことがあったが一緒に歩道を道なりに進んで行くと三ノ輪家が見えて来た。

その外見は普通の一軒家。

銀は分家にあたる血筋なのか普通の一般家庭によくある日本家屋だ。

 

「ここが三ノ輪さんの家ね。早速様子を――」

 

「ピンポンダッシュ〜?」

 

「そんな恐ろしいことは駄目よ!」

 

「じゃあどうやって見るのー?」

 

「そこは任せて。こういう時があると思って持ってきた物があるの」

 

三ノ輪家の入口付近に到着し須美は肩に掛けてあるバックから双眼鏡と思わしき物を取り出した。

それはもはや軍隊が使うもので本格的だった。

 

「本格的だねーわっしー」

 

「これだったら怪しまれずに三ノ輪さんが何やってるか分かるわ」

 

そうして須美は草が覆われている壁から双眼鏡の棒を伸ばすと周囲に銀がいるか探し始めた。

すると三ノ輪家にある廊下の方にレンズを移すとそこには銀が赤ん坊を抱っこしながら何かを呟きながらあやしていた。

 

「おい泣くな、お前はこの銀様の弟だろ?」

 

「あぅ......ウゥ.......う.......」

 

「泣くなって。泣いていいのは、母ちゃんに預けたお年玉が、帰ってこないと悟った時だけだゾー?」

 

そんな彼女は楽しそうに赤ん坊に言い続ける。

だが効果がなかったのか赤ん坊は目元に涙を溜め、声も震え始めていた。

 

「うぇぇ.......ぐすっ」

 

「あぁ、ぐずり泣きが始まってしまった.......ミルクやオシメじゃないだろうし.......」

 

「銀。金太郎を膝に乗せろ」

 

銀がそんな風に悩んでいると彼女の後ろから声が聞こえその後に明るい綺麗な音が響き始めた。

銀もそれに気が付いて後ろを振り向くとそこにいたのは愛翔だった。

その音を聞いた赤ん坊は突如泣き止んで満面の笑みを見せた。

 

「うぇぇ.......う?あ、あー.......あう、あー」

 

「よしよし、良い子だぞー金太郎」

 

赤ん坊――もとい金太郎は直ぐさま泣き止み愛翔が持っている幼児用玩具に夢中になった。

 

「よく持ってきてくれた愛翔!サンキューな!」

 

「気にすんな」

 

「あー........あう.......あう、あう。あー!」

 

「ん?どしたマイブラザー?」

 

金太郎が愛翔に手を振って何かを伝えたがっている。

銀はそれに気付き金太郎を愛翔の方に近寄らせると金太郎は愛翔の服を掴んで抱っこを所望していた。

 

「おーおー?どうしたー?今日は姉貴じゃなくて俺に甘えたいのか?可愛いやつだなぁー?よし、来い!」

 

銀の隣に座った愛翔は銀から金太郎を自身の胸に抱き抱え頭をよしよしと優しく撫でる。

それが嬉しいのか金太郎は嬉しそうな声を出して愛翔の顔をぺたぺたと叩いた。

すると銀が金太郎を抱き抱えた愛翔を見ながらむすーと金太郎を見つめ口を開く。

 

「たくっ、甘えん坊で現金な弟だな。大きくなったら舎弟にして、こき使ってやる!」

 

「おいおい。赤ん坊は甘えるぐらいが丁度いいんだぞ?」

 

「姉としてのアタシがいながらこんなデレデレな顔するとちょっと悔しんだよ」

 

今度はぷぅ......と頬を大きくして悔しそうに銀は言う。

どうやら弟を盗られ姉の威厳が無いのを気にしているのだろう。

別にそんな事はないと愛翔は否定し。

「銀は一番弟の面倒を色々見ているから姉の威厳は全然あるぞ」と愛翔は言った。

それに対して照れるかのように顔をそっぽ向いて銀は頬を痒いた。

すると三ノ輪家の庭から子猫が現れ銀達に向かって「にゃー」と鳴く。

何とも可愛らしい。

 

「おっ?お前もうちに慣れたか?」

 

銀が猫の方に向けて声を掛けると子猫の方も返事を返すようににゃーと鳴いた。

すると家の部屋の奥から声が聞こえた。

 

「ねーちゃん!買い物はー?」

 

「はーい!ちょっと待ってね!」

 

銀はその声の主に応える。

そして家の奥から声が聞こえた次の瞬間。廊下から銀達より幼い男の子が姿を見せる。

 

「かぁちゃんからもお使い頼まれてるんだろ?」

 

「わーってるって。ちょっちマイブラザーの機嫌を直してただけだゾ」

 

「ごめんな鉄男。今から銀と買い物行くついでに何かお前の好きなお菓子買ってきってやるからそれで許してくれるか?」

 

銀と同じ髪の色をした男の子。鉄男は銀と愛翔に催促をする。

その待たせたお詫びとして愛翔は鉄男にもので釣ることにして事を収めた。

鉄男もそれを聞いた瞬間に目を輝かせ首を縦に高速に振った。

 

「愛翔兄ちゃん!約束だからな!絶対忘れんなよ!」

 

「はははっ、はいはい。忘れないよ」

 

「相変わらずちょろいなうちの弟たちは.....」

 

その二人を後ろで見ていた銀は自身の弟の警戒の無さに呆れと心配が混ざって苦笑せざるを得なかった。

そして金太郎を鉄男に任せて愛翔と銀は互いに肩掛けのバックを持って家を出た。

 

「わー!ミノさんワンダフルー。あいっちも子守りも家事もしてて凄いなー」

 

「あんな小さな弟達がいたのね、知らなかったわ」

 

茂みの隙間からひっそりと園子と須美は銀と愛翔の二人を見ていたのだが、新しい事があって驚いた。

まず、銀には弟がいた事。

これにより彼女が遅刻する理由を知れたこと。

だがそれでも家事が忙しくてもそれは遅刻に入るのだろうか?

親の手伝いや弟の達の面倒を見るのも先生に事情を伝えれば遅刻扱いされないはずだ。

でも銀は言わなかった。

そしたら他に何かあるのでは無いかと須美は考えた。

そして次に須美が驚いたのは愛翔だ。

彼は普段何をしているのか須美は少し気になっていた。

乃木家では無いにしろ、愛翔の家柄も大赦の組織には属しているので何かと行動の制限や規制も厳しいと思っていたからだ。

だがそれは間違いで愛翔はのんびりと三ノ輪家で家事や銀の弟達の世話もしている。

とてもフリーなのだろうと思ってしまう。

でも、そんな愛翔の顔を見れば楽しそうにも思えた。

もしそこに黒結家の監視役がいれば愛翔の表情は少し曇っているだろう。

しかし、彼はそんな表情を一ミリたりとも見せなかった。

つまり黒結家はただ地位が大きいだけの普通家庭という事だ。

それを見ている須美は自身の心に何か変化を感じ始めた。

だがこの変化は不快なものではなく、とても歓喜に満ちていた。

こういうのも悪くないと自分でも思ってしまう。

彼女自身も変わらないといけないのだろう。

人の見方や価値観それさえも。

 

「あ、わっしー二人が行っちゃうよ〜?」

 

「え?あ、そ、そうね!ごめんなさい。追いましょう!」

 

園子の呼び掛けに須美は慌てて園子の方を見る。

どうやらいつの間に考えふけっていたようだ。

須美は園子と共に銀達の行方を追った。

 

 





やっぱ銀ちゃんが嫉妬して拗ねるのって可愛いんと思うんよ!
というか愛翔って凄いね。色々出来るってのはモテるぞ?(白目)

次回はバーテックスの戦闘会を書きます(ガチ)

ではまた次回に会いましょう。さらば!

次回。第6話:気付きの応え


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第6話:気付きの応え


どうもお久しぶりです、バルクスです。
三ヶ月の間投稿出来ずに申し訳ありませんでした。
モチベが上がらなかったのと、仕事が忙しかった事も重なりここまで長引かせてしまいました。
この作品を読んでくださる方に謝罪を。m(*_ _)m

こんな作品ですがどうぞこれからもよろしくお願いします。
では本編どうぞ!


 

銀と愛翔を追った須美と園子の二人。

途中で銀と愛翔は道端で老人に道を聞かれたり、犬のリードを離した飼い主に犬を届けたり、倒れている自転車を起こして元の位置に戻したりと色々な巻き込まれたりしているのを遠くで見ていた須美達は何故こんなにもトラブルが多いのか疑問が多かった。

そしてそのまま銀達を追ってイネスにやってきていた。

ここではよく二人が買い物や中にあるゲームセンターで遊んでいることは知っている。

だが建物に入ったとしてもトラブルはまだ継続していた。

 

「ママぁ.....どこぉ......!」

 

まだ十歳もいっていない少女がショッピングモールのホールの中で泣いていた。

すると愛翔と銀が近付いて愛翔が声を掛けた。

 

「どうした?お母さんとはぐれちまったのか?」

 

愛翔に話しかけられた少女は一瞬だけだが肩を震わせて恐る恐るゆっくりと向いた。

そして少女は泣きながら話し出した。

 

「ママがいなくて........わたし、どうしたらいいのかわからなくて.......」

 

「そっか、そりゃ一人で泣いちゃうもんな」

 

銀が少女の頭を優しく撫でながら話を聞く。

まだ語彙というものが発達していないのもあって言葉足らずな所はあるが、愛翔はその言葉だけで状況を理解した。

そして愛翔はゆっくりと口を開いた。

 

「銀、早くこの子の母親を探すぞ」

 

「分かってるって!早く見つけてこの子を安心させなくちゃな!」

 

「ママをさがしてくれるの?」

 

愛翔が銀の方を見て銀は強気に溢れた瞳で言う。

その二人を見た少女は瞳を震わせながら言った。

それを愛翔は少女の頭をポンポンと優しく叩き笑う。

 

「当たり前だろ?目の前で泣いて困っている子を無視するのは勇者じゃないからな」

 

そして愛翔と銀はイネスのホールで少女の母親を探索していると、早くも少女の母親を発見して母の元へ届けた。

母親の方も相当焦っていたらしく目元に涙を貯めていた。

そして娘を探してくれてありがとうと少女の母親が感謝述べ、少女を送り届けたのを確認して銀と愛翔は後を去ろうとする。

すると後ろから声が聞こえた。

振り返って見ると少女が手を大きく振りながら叫んでいた。

 

「お兄ちゃん、お姉ちゃん。ありがとー!!」

 

感謝をの言葉を口にしながら少女は母親と手を繋ぎながらその場を後にした。

その後ろ姿を見て愛翔と銀は互いに微笑んだ。

 

「あの子の母親、すぐ見つかって良かったな」

 

「そうだな。これで本来の目的に戻れる」

 

「だな。でも解決した途端にそんな冷たい事言うなよー?」

 

「.......善処はする」

 

少女を親元に届けて一息をついた後に銀が言うと愛翔は素直に返答する。

だがその言葉はあまりにも冷めてるとしか思えなかった。

それを銀は愛翔に注意を促す。

頭を掻きながら愛翔は言った。

 

「(全く......銀といるとトラブルは絶えないな)」

 

一息吐きながらそう心の中で呟く。

銀とはもう三年以上の付き合いになる。

彼女との出会いは愛翔の父が三ノ輪家――銀の父親と友人であり、まだ愛翔と銀が小さい頃に顔合わした事があるが等の本人達はまだ物心付く前なので知る由もないのだが。

その理由で直々、父親同士で交流はしているが、黒結家関係の事情や家柄等であまり子供達とは顔を合わせられなかったのだ。

そして愛翔が小学生三年の時に銀のトラブル体質に巻き込まれる事になった。

そこから度々彼女のトラブルを解決するようになってからいつの間にか仲良くなっていた。

たまにだが銀の方も最初は遠慮がちだったが、愛翔と一緒に過ごしていくにつれて遠慮なく厚意に甘えるようになった。

ふと、銀を横顔を見つめた。

家族想いで、情に厚くて、頼り甲斐がある。

 

「ん、どうした愛翔?こっちなんて見つめて」

 

銀が愛翔の視線に気付きこちらに顔を向ける。

咄嗟に愛翔は首を横に振り口を開いた。

 

「いや、別になんでもないよ」

 

「なんだ〜?この銀様に話せない事かぁ?今更私の前で話せない内容じゃないだろー?」

 

にやにやと笑いながら銀が詰めてくる。

流石に止めて欲しい。

仮にも女の子なんだからと心の中で呟くが、ここは一つ悪戯も入れてからかってみることにした。

息を吐いて間を開けながら呟いた。

 

「......いつ見ても銀は可愛いなと思っただけだ」

 

「ふぇ!?」

 

唐突言われた銀は顔を赤く染めるが、愛翔の方をジト目で睨みつつ言葉を発す。

 

「愛翔さぁ.......まだアタシだからいいけど、勘違いされるからな?」

 

「本心で言ったのにだめなのか?」

 

「それを素直に口で言うのがダメなの!」

 

「.......?わかった」

 

銀の言葉に大して意図が掴めてない愛翔は首をきょとんと曲げる。それを見た銀はため息を吐いてしまう。

 

「やっぱお前には分からないよな......女心が分からない奴......」

 

最後に銀がぶつぶつと呟いて何を言ったのか分からなかったが、別に気にすることではないだろう。

 

「ほら、もうそろそろこんな所で油売ってないでさっさと買い出し終わらせんぞ」

 

愛翔はそう言うと、本来の目的である買い出しに戻ろうとしたその瞬間、再びトラブルが起きてしまう。

近くにいた婦人が持っていたビニール袋が破けてその中からリンゴやみかんなどの果物が地面に転がり落ちた。

それを見た愛翔は再び頭を悩ませた。

 

「マジかよ.......」

 

声が出てしまうぐらい彼女のトラブル体質は休みという概念がない。

そもそもどんな場所に移動したとしても次々やってくるというのだ。

正直最初は苦労したが、今になってはそれが楽しみでもあった。

「拾いに行くぞ愛翔!」

 

「りょーかい」

 

銀が一速く動いて果物を拾いに行く。

愛翔も後ろから続いて拾い始める。

そして果物を拾っていると背後から銀の名前を呼ぶ声が聞こえた。

 

「三ノ輪さん!」

 

「ん?.......え、須美!?」

 

「園子もいるんだぜ〜!」

 

その正体は須美と園子だった。二人はこちらに向かってくると床に散らばっている果物を拾い始めた。

正直二人では時間が掛かると思ったから逆助かったと愛翔は心の中で思う。

 

「手伝うわ」

 

「え、え!?何だよお前ら!」

 

状況を理解出来ていない銀は驚きを見せながらも拾うのを止めずに拾うのを続けた。

果物を集め終え、新しい袋に入れ直し婦人に渡すと婦人はは感謝の礼を言って去っていった。

そして問題が解決してから本来の目的の買い出しを終えて、そこから途中から来た須美と園子と一緒にフードコートで昼食を摂ることにした。

因みに須美と園子が何故あそこにいたのかと聞いたら銀がよく学校を遅刻するのが気になり一日銀の家の前から観察(尾行)をしていたのだが、銀のトラブルを見てきて耐え兼ねて助けに来てくれたのだ。

 

「んじゃあ二人とも家の前から見てたっての?うぇー.....なんか恥ずかしいなそれ.......」

 

「恥ずかしくなんかないよ?偉いよ〜?」

 

「いつも遅れる理由はこれだったのね」

 

「まぁ、お前らには言ってなかったからな.......お、美味いなこのステーキ」

 

銀のトラブルを知った二人は彼女の事を責めずに寧ろその人助けを称えてくれた。

 

「言ってくれればいいのに〜」

 

「いや、それは何か他の人のせいにしてるみたいで、何があろうと遅れたのは自分の責任だしさ......」

 

銀は自嘲気味に言う。

彼女はいつも損をする事しかない。それなのに人助けや困っている人を見捨てることなんてしない。

ここまで得もしない事を率先してやっているのにそこまでするのか分からなかった。

 

「昔からそういう体質なのー?」

 

「ついてないことが多いんだ。ビンゴとか当たったことすらないもん.......」

 

「でも最近は緩和されているから大丈夫だと思ったが、久々のトラブル続きだったな――」

 

そう愛翔が言った瞬間。

周囲の音が消えた。辺りを見回せば人も物も湯気さえも止まっていた。

そして遠くから風鈴の音が鳴り響いて来るのが聞こえる。

敵が来る合図だ。

 

「はぁ......ほらな?日曜台無し」

 

「まだ飯もロクに食えてないのに来るとか敵さんは空気が読めないな。ま、取り敢えず戦闘準備に入るか」

 

「そうだねー早く終わらせてまた食べよう〜!」

 

「今度こそは私が.......」

 

「ん?何か言ったか鷲尾?」

 

「何でもないわ。それよりも黒結君、早く変身しましょう」

 

「?わかった」

 

自分の体質がついてない事にため息を漏らす銀。それをバーテックスに対して文句を言う愛翔。そして明るく言う園子に何かの思いを抱えている須美は直ぐさま樹海化するタイミングで変身をする。

変身が終わり、視界が普段の街から植物的な場所に変わるのを確認すると大橋の中央へ向かいバーテックスを待つ。

すると数秒後に大橋の奥からバーテックスが現れた。

形は四本の角の足というものを持ち、こちらにゆっくり近付いて来ている。

 

「来たわ!」

 

「うわ、ビジュアル系なルックスしてるな」

 

「前来たバーテックスも同じだと思うな〜」

 

「油断は禁物だぞ。鷲尾!先制攻撃出来るか?」

 

「えぇ、任せて!まずこの一撃で様子を見る!」

 

須美が弓矢を構え、矢を放とうとした瞬間、角型のバーテックスが大橋がある地面に四本の角を刺して同時に大橋や地面がぎぃんと激しい音を鳴らしながら強く揺れ始めた。

 

「きゃあ!」

 

「くっ!」

 

「うぉお!な、なんだなんだ!?」

 

「あの敵のせい!?」

 

地震のせいで身動きが取れない中、須美は堪えて矢を放つ姿勢になる。

 

「今度こそ......」

 

しっかりを狙いを定めつつゆっくりとバーテックスに向ける。

だが、それを向けた途端に前のバーテックス戦で矢を外した事がフラッシュバックしてしまう。

それが一々チラつくが須美は冷静さを装いつつ、頬に汗をかきながら敵に矢を向ける。

 

「(今度こそ.......今度こそ......)」

 

だがこれでまた外してしまったらどうする?

また自分が何も出来ないまま終わるのか?また足でまといになるのだろうか、そんなことを心の中で考え、焦りが出てしまう。

そして矢を放とうとした瞬間、後ろから誰かの手が自身の肩に置かれた。

 

「少しは落ち着け、鷲尾」

 

「はっ!あ、く、黒結君......」

 

「私達と一緒に、倒そ?」

 

「合宿の成果を出す。そうだろ?」

 

「乃木さん、三ノ輪さん......うん!」

 

愛翔が須美の肩に手を置いてそれに続いて園子と銀が須美を落ち着かせるために言う。

それを聞いた須美は先程の焦りはなく、普段の表情に戻った。

一人ではなく、四人で敵と戦う。これなら絶対に失敗しない。

そして話が終わった瞬間、揺れが収まり始め、全員バーテックスの方を見た。

その方を見るとバーテックスが一本の角をこちらに向けて勢いよく飛ばして来た。

それに気付いた園子が前に出て槍を盾状に変形させそれを防いだ。

 

「っ!うんとこ、しょっ!」

 

声を上げて一撃を防ぎ、槍を自身の力を使ってバーテックスの角を弾いた。

 

「よーし!皆、敵に近付くよ〜!!」

 

「了解っ!!」

 

「了解!」

 

「分かった!」

 

隊長である園子の声に合わせて全員はバーテックスの懐へ入るため駆け出した。

だが、ある程度近付くとバーテックスが上空へと飛びそこから角の一本を銀と園子がいる場所に飛ばしてきた。

直ぐさまそこから二人は回避して蔦の方へと移動する。

すかさず須美が上空にいるバーテックスに矢を放つ。

しかし、放った矢はバーテックスに届かず放物線を描いて下へ落ちていった。

 

「制空権を取られた!」

 

「降りてこい!ゴラァァァ!」

 

「.......何かおかしい」

 

「あいっちもそう思う?」

 

どうもあのバーテックスはわざと空に飛んだとは思えない。

愛翔は空にいるバーテックスをよく観察しながら考える。

隣にいた園子も同じだったのか愛翔の言葉に耳を傾けつつバーテックスを見ながら言う。

 

「何か......仕掛けてくる」

 

園子が呟いた瞬間に、四本あるバーテックスの角が合体してドリル状になり高速回転し始めたのだ。

そして、それが銀に落ちてきた。

咄嗟に落ちてくるのに反応出来た銀は両方の斧を上に上げて高速回転している角を防ぐ。

 

「うがぁぁぁぁぁ!!根性ぉぉぉぉぉぉ!!」

 

「ミノさんっ!!」

 

「銀!」

 

「っ!......い、一分は持つ!その間に、上の敵をやれぇぇぇ!」

 

高速で回転している角を防いでいる銀は長くは持たない。

だが、一分と言ってもそれは短い時間の中であの上にいるバーテックスをどうにかして地上に落とさないといけない。

でもその間にも銀がすり潰されていく。

それに長く待っていたとしても現実にも被害が及ぶ。

それを判断するにはまだ経験すらも足りないのだ。

須美すらもどちらかを選択せざるを得ない状態に陥っている。

仲間を選ぶべきか、敵を倒すべきか。もう自分ですら何かを判断するに時間を要してしまう。

 

「(どうすればいいの.......?どうしよう........)」

 

「分かった!やるぞ園子っ!!」

 

「うんっ!私達で、敵を叩くよ〜!!」

 

愛翔言うと園子が自身が持つ槍の形を変えて階段状の足場に変質させた。

それをバーテックスの方へ向ける。

 

「鷲尾!お前が上に行って矢でアイツを落とせ!」

 

「!?りょ、了解!」

 

「園子、俺も行ってくる!」

 

「うん!気を付けてね!」

 

愛翔指示に従って須美は園子が作った足場を上ってその間に須美も弓を大きくさせ、矢を構える。

そして最後の足場を飛び踏んで限界までに高度を上げ、バーテックスの方へ矢を放った。

 

「届けぇぇーー!!」

 

弓の弦を最大にして放った一撃は須美の言葉に応えるかのようにバーテックスに着弾してその外皮を砕いた。

その勢いでバーテックスも体勢を崩し下へと落下を始めた。

 

「ここから、出ていけ!」

 

それを確認した園子は足場を元の槍に戻してまた形状を変化させた。

複数ある刃を一点に集中させ紫色の光を輝かせ、先端をこれでもかというぐらいにでかく、尖らせる。

 

「突撃ぃ〜!!」

 

力を入れ園子は落ちて行くバーテックスに駆け出し、槍を思いっきり刺す。

その刺した槍はバーテックスの体を貫通しそのまま園子は落下していった。

その勢いの衝撃で地面に強くぶつかりバウンドして蔦の方で止まった。

痛みが酷いがそれでも園子は体を起こして声を発した。

 

「あいっち!!」

 

空中にいる彼に園子は呼ぶ。

その声が聞こえたのか分からないが、愛翔は笑みを浮かべバーテックスに斬馬刀を構えた。

 

「よくもやってくれたな、化け物が!この代償は高くつくぞ!」

 

手に力みを入れ意識を集中させる。

すると斬馬刀の刃が光を放つ。

 

「うぉぉぉぉぉりゃぁぁぁぁ!!」

 

 

それを愛翔はバーテックスに空中から一太刀を入れ外皮が真っ二つ切れる。

地表落下する愛翔は地面に強く打たれるが次の者にチェンジするため声を発した。

 

「今だ、銀っ!!」

 

愛翔が彼女の名前を叫ぶと銀は両手斧を構えて落ちてくるバーテックスを睨みつける。

 

「三倍して返してやるっ!釣りは取っとけぇぇぇ!!」

 

銀が叫ぶと両手斧が炎を纏い、銀は飛んだ。

力いっぱいに連続に乱雑に高速に振るって、バーテックスの体は粉々に切り刻まれた。

そして最後の一撃で銀は地上に落ちる。

バーテックスが落ちて行く中、大橋の全体に光が広がりはじめた。

鎮花の儀が始まったのだ。

それが行われた途端にバーテックスはあと型もなく消え去った。

それと同時に樹海も解けていき全員は現実世界に戻った。

 

 

 

 

 

樹海から現実世界に戻った四人は祠の近くにある公園で寝転がっていた。

あまりにも痛みや疲れで体が動けない。

 

「あー.......いてて......」

 

「ミノさん大丈夫〜?」

 

「疲れたよー......腰にくる戦いだったぁ......」

 

「あーして攻撃を受け止めてくれたから私たちが攻め込めたんだよ〜。ありがとうねミノさん〜」

 

「そっちこそ凄かったじゃん三人が何とかしてくれなかったら私潰れてたかもしれない」

 

「だって、ミノさんが一分持つって言ったんだから一分は持つじゃない?それくらいやればなんとかなると思って〜。長引かせると危険だもんね〜」

 

「でもあんな状況判断できるお前は凄いよ園子」

 

「えへへ〜それはあいっちもだからねー?」

 

「俺はただ自分に出来る事をしたまでだよ」

 

「またまた〜。照れ隠し〜?」

 

「違ぇよ」

 

銀達が話している中、須美は己の自惚れに対して後悔していた。

安芸先生は園子の閃を見抜いていた。

その才能が幸をそうし、何とかバーテックスを撃退出来た。

だが須美はただ迷っていただけだった。

何も出来ず、行動すらも遅れ、ただ深く考える事しか出来なかった。

それなのに家柄という名の決まりで園子がリーダーに選ばれたと思い込んでしまった。

実に自分を滑稽に思う。

しっかりしなきゃと思っていたのに、結局は周りの仲間を巻き込んで足を引っ張っていただけだった。

徐々に目元が熱くなるのを感じながら須美は目を瞑った。

 

「あーあーよいしょっと......お腹すいたぁ!」

 

「ご飯食べてる途中だったもんね〜」

 

「流石にイネス着いた頃にはもう冷めてるだろうな」

 

時間が止まっていても大橋の方からイネスまで少し距離がある。

到着したとしてももう食べ物自体は暖かくないだろう。

少ししか食べれなかったとはいえ、これではあんまりすぎる。

今この場にいないバーテックスにやり場のない怒りを抱えながらイネスに戻ろうと立ち上がろうとした瞬間。

須美が泣き始めたのだ。

 

「っ.......ひっく.......ぐすっ......う、うぅ........」

 

「えぇ〜!?」

 

「うぉぉ!ど、どした須美!?どこか痛いのか!」

 

「ち、違うの.....私.......ぐすっ......」

 

いきなり泣き崩れる須美に銀と園子が声を掛ける。

だが須美自体に何か異常がある訳でもなく須美は首を振って口を動かした。

 

「ごめんなさい......次からは......ぐすっ......始めから息を合わせる.......頑張る.......うぅ......」

 

泣きながらも須美は自分の思いを口に出して三人に言う。

それは彼女が胸の中で抱えていた一つのもので今ここで解消された。

それを聞いた三人は笑みを浮かばせる。

 

「あぁ!頑張ろうな!」

 

「はい、これを使って。わっしー」

 

銀は笑いながら言い、園子は自身のポケットからハンカチを手渡す。

ハンカチを受けとった須美は涙を優しく拭いて言葉を発した。

 

「あ........ありがとう......そのっち」

 

「!!もう一回言ってわっしー!」

 

「.......そのっち」

 

「おぉぉーー!」

 

「なぁ、須美!アタシは?アタシは!」

 

「銀.......」

 

「え?」

 

「銀......!」

 

「あはぁ......何か嬉しいな!ようやく須美とダチになれた気がする」

 

「........」

 

愛翔はその光景を静かに見ていた。

何故か須美とは何か波長が合う気がしていたが、この子も自分と同じだったんだなと思った。

かつて愛翔も家のしがらみという形で周りから期待されて、自分一人で追い込まれていた事があった。

小学校に入学してから色々と生徒や先生に対して友好的に接してきてきたため頼まれる事が多くなり。

そのため、周りから期待の目を向けられるようになった。

境遇は違うが須美はしっかり者だし、その考えに至るのは不思議じゃない。

寧ろそれを味わった愛翔自身が知っているのだから。

でも、須美はそんな事はもうないだろう。

だって大切な友を得たのだから。

 

「愛翔!」

 

「――!?」

 

どうやら考えふけっていたらしい銀に声を掛けられているのに気が付かなかった。

 

「何だよそんな一人で考えてそうな仕草しやがって」

 

「すまん、普通に今日の戦闘に対して整理していたんだよ」

 

そんな嘘みたいな事を言うが銀はそこまで追求はしなかった。

 

「ふーん、そっか。それじゃあ後は愛翔だけ須美に下で呼ばれてないだけだな!」

 

「は?いや、待て待て俺は別に呼ばれなくてもいいんだが」

 

「と、言っていますがどうですか須美さん?」

 

「わ、私は.......その.......黒結君が良いなら......」

 

「うっ......」

 

銀が悪戯心を抱いてこちらに妖そうな笑みを向けている。

須美はというと、照れながらこちらに上目遣いで言っているので何とも破壊力があると言える。

まるで捨てられそうな子犬のような感じだ。

 

「......はぁ、別に好きに呼んでいいぞ」

 

「――!あ、ありがとう.......愛翔.....くん」

 

「......」

 

これは本当に良かったのだろうか、何故か自分自身でもこの行動に意味を見いだせない。

そもそもこのよく分からない感情がなんなのか分からない。

ただ、分かるのは彼女に対して名前を呼ばれても不快感はなかった。

 

「ビュォォォォォォ!これは私の頭の中で何かが閃いた気がする!早速メモメモ〜」

 

「おい、園子!お前何する気だ!」

 

「え〜何もしないよーただ、ネタを貰っただけですよ〜」

 

園子がいきなり叫んだと思ったらポケットからペンとメモ帳を出して何かをメモした。

それがとてつもなく愛翔にとって気がかりで何故か許してはいけないと思ったのだ。

 

「ふざけるな!おい銀!お前も園子を取り抑えろ!」

 

「えぇ......ボロボロなのにまた腰にくることしないといけないのか......トホホ」

 

「ふっ.....ふふ、あはは!」

 

 

 

――これは、四人の勇者の物語。

神に選ばれた少女達と少年のおとぎ話。

いつだって、神に見初められるのは無垢な者である。

そして、多くの場合、その結末は――

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 





泣きながら喋る須美可愛すぎか?(性癖悪化)

冗談は置いといて、この度『華結びを繋ぐは勇者である』を投稿してから既に一年が経過しました。
これも全てこの作品を読んでくれている読者の方達のお陰です。
本当にありがとうございます!

投稿頻度は激遅ですが、必ず物語を完結させるまで書き続けますのでどうぞ応援よろしくお願い致します!

では、また次回ににてお会いしましょうさらば!

次回。第7話:労う心


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第7話:労う心


どうもバルクスです!
今回は日常会です!では本編どぞ((꜆˙꒳˙)꜆


 

あれから(バーテックスとの戦闘)一ヶ月半が経ってからバーテックスの侵攻がなくただ勇者の基礎体力向上と連携の訓練が続いていた。

銀は両刃斧を豪快に振り回し、どの攻撃がバーテックスに届くのか、体力を消耗せずに出来るかの訓練。

園子は槍での中距離やいざという時の臨機応変の対応力の訓練。

須美は弓を使い長距離で狙いを定める正確差と移動しながらも的を射抜ける訓練だ。

愛翔は全領域に対応出来るように須美達とは違い訓練の量が多めで、休みというものがない。

だが、これは彼自身が望んだことであり過酷というのも理解している。

 

「――次......!」

 

斬馬刀で(仮想敵)を次々と斬り伏せて行き息を吐く暇もなく次の目標に向かう。

体も一緒に横に回転しつつ剣を振るい体制を整え、左腰にあるマスケット銃を手に取って構えて仮想敵に数発放った。

着弾したのを確認をしたらすぐさま次、また次へと撃ち放つ。

そして、水辺の方に向かい、先程よりでかい的を目視で認識し愛翔は斬馬刀とマスケット銃を合体させて一つの銃に形を変えた。

目を瞑り頭の中でイメージする。

 

「(......考えろ.....それに適し、自分でも使える最善のものを.......!)」

 

――大きく、威力があり――飛ばせるもの――それを頭で思い浮かべる。

すると空いた左手からそれに適した弾頭らしきものが精製され、それを銃の先端に取り付けて目標に向けて撃った。

放った弾頭は標的に接触した瞬間。大きな爆発を発生させ水面を高く上げた。

全ての仮想敵を倒し終わり愛翔は頬に浸る汗を拭りながら一息を吐いた。

暫くしてから安芸から声を掛けられ訓練を中断した。

安芸の方へ集まり次の言葉を待つ。

 

「勇者の力は神樹様選ばれた無垢な子達にしか使えない貴方達に頑張って貰うしかないわ」

 

安芸は大赦側の人間でありこの神樹館の現場監督でもある。

訓練やスケジュールは基本安芸が考えて行っている。

そして少し間を空けて口を開いた。

 

「そこで、次の任務は――」

 

勇者達四人は真面目な表情で安芸に向ける。

 

「暫くの間、しっかりと休むこと」

 

『え?』

 

何かと思い気を張っていた四人は困惑してしまう。

その理由を安芸は一から説明をしてくれた。

 

「安定した精神状態でなければ変身は出来ない。張り詰めっぱなしでは最後まで持たないからね」

 

「やったぁ!休むのだったら任せてください!」

 

「私も私も〜」

 

「「イェーイ!」」

 

「休みね......何しようかしら」

 

「.......」

 

安芸から下されたのは次の襲来までの休暇だった。

 

 

 

翌日。

休暇を貰った愛翔は自宅の自室で黒結家についての資料を読んでいた。

休みと言っても何をすればいいか分からず、普段は銀の手伝いや園子の家に連れて行かれる事があった。

そのせいで如何せん、する事もないので気になっていた自家の歴史や経歴について調べてみる事にした。

使用人に頼んで持ってきてもらい後は独自で読み始めた。

読み漁ってから数十分ぐらい経過した頃、黒結家の事が分かって来た。

読めば読むほど気になる所ばかり出てきて止まらない。

三百年前の黒結家はかつて平民の家系だったらしい。

そこから紆余曲折あってここまで大出世したということだろう。

だが、気になることがある。

なぜ平民の家系がここまで出世するのだろうか?

それは何かを成したということに他ないと愛翔は思った。

だが、幾ら資料を読み漁ってもそれらしき答えが見つからなかった。

あるのは『検閲済』と書かれている印と文字を黒く塗りつぶされてる資料だけ――

 

「......あっ、やべ」

 

次の資料を取ろうとした瞬間、その近くにあった本が床に落ちてしまった。

やってしまったと言葉を零し落ちた本を拾い上げる。

だが愛翔はその本を見ると目を細めてしまった。

 

「なんだ......これ」

 

 

『勇者御記』

その本は――いや、その手記にはそう書かれてた。

御記の状態は相当時間が流れており黄ばんで汚れている。

誰が書いたのかは分からない。その手記を愛翔は中身の内容を確認した。

その内容は読んで字の如く。案の定、勇者の記録が記されていた。

御記に記されている文字自体は読めるので何遍なくすらすらと読めた。

書いた年は西暦二千〇十五年から神世紀元年まで。

しかし、これも幾つかの箇所に黒の塗りつぶしで消されている形跡があることと、もう一つは無理矢理破かれた痕跡があったのだ。

どれも興味深い内容なのは確かなのは間違いないが、今愛翔が気になったのはこれ(勇者御記)を書いた人が意外な人物だったのだ。

 

「郡......千景」

 

郡千景――三百年前の初代勇者であり、この御記を書いた人物。

書かれている人物像としては心優しく、時には厳しく勇者の仲間を諭させる事があったとされている。

しかし、なぜ彼女の勇者御記が黒結家にあるのかは分からない。

だがやはり気になるのは所々に塗りつぶしている文字の場所。

見た感じ誰かの名前が書かれていたのは分かる。

愛翔の中で一つの憶測が生まれるが、確信に近いだろう。

 

「この塗りつぶした場所に入ってた文字は、俺の御先祖様の名前だったわけか」

 

それ以外有り得ない。

そう考えると黒結家は――いや、御先祖様(黒結海斗)は初代勇者だったと頷けてしまう。

そして、郡千景は黒結海斗の幼馴染で、愛翔の御先祖に当る。

そうじゃなければ、愛翔や歴代の先祖が生まれるはずはないのだから。

だが、あくまで憶測で合っているかは分からないし、それでも的は得ていると思う。

愛翔は勇者御記を閉じて自身の机の棚に入れた。

 

「もっと調べなきゃな。この家の歴史を」

 

ある程度は分かってきたが、如何せん黒結海斗だけは入念に記されていなかった。

大赦がわざと消したのだろう。

千景の御記を読めばどれだけ海斗が彼女の中で大事だったか分かる。

それを無下にすることは愛翔にはできるはずも無い。

たとえ探求心の私欲を満たすことだとしても。

それに黒結海斗がどんな人間だったのか知れるし、黒結家の事も勇者システムが何故か作れるかをも知れるという一石二鳥。

調べる他ない。

 

「取り敢えず、これは明日にもやる事にしよう」

 

使用人を呼び事情を説明し作業に取り掛かってもらった。

そして愛翔は残りの勇者御記があると思い、まずは思い当たる大赦の家系から調べることに専念した。

ゆっくりと情報を探りつつ組み立てていくとしよう。

隠蔽をする大赦にバレてしまっては元も子もない。

暫くはこの休暇を使って休みを堪能しよう。

そう思って再び資料を読み漁ろうと思った瞬間、スマホから一件の通知が発信されのに気付くと愛翔は内容を確認した。

 

 

「Hey!あいっちー!レッツエンジョイ!offデェーイ!」

 

「ヤッタカターヤッタカタッタッヤッタカター!ヤッタカタッタッター!」

 

「よっ、愛翔!」

 

「.......」

 

家の門を出てみれば白く長いリムジンが止まっており、その窓から変なテンションで愛翔の名前を呼ぶ園子と音楽を聴き歌いながら腕を振っている須美と二人の姿を見ながら苦笑して挨拶する銀がいた。

それをみた愛翔は苦笑してまうが、これはこれで良いと思い思った。

これから何があるのかはまだ分からないが、楽しくなると心の中で愛翔は胸を高鳴らせた。

今はこの日常を楽しもうと。

愛翔はそのまま乃木家のリムジンに乗りそのままある目的地まで向かったのであった。

 

 




意外と歪な黒結家。
一体三百年前に何があったんだ!

須美のヤッタカターまじですこです!

さて次回も日常会ですよ!
最近はちょっとだけモチベがあるのでこのペース行けば遠足の所まで行けるかもしれない!(フラグ)

ではまた次回お会いしましょう!

次回。第8話:健やかなる穏やか


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第8話:健やかなる穏やか

どうもバルクスです。
また一ヶ月経ってしまいました.......本当に申し訳ない。
でも、この作品を好きで読んでくださってる読者様がいるからこそ作品を投稿出来ているんです!
投稿頻度が落ちていきますが、完結は絶対にさせます!
これからもこの作品を宜しくお願いします!

では本編どうぞ!


 

園子の家に遊びに来た愛翔達。彼女の部屋に入って遊ぶかと思いきや、何故か。

 

「うぅ......この服は.......やっぱりアタシには......似合わないんじゃないか?」

 

「そんな事ないよー。ねぇ、わっしー?」

 

「ブハァー!」

 

「わーそんな出し方する人初めて見た〜」

 

鏡に立って銀の格好を見ていた。

銀の服装は普段の動きやすい服だが、今は女の子らしいワンピースの格好をしていた。

デザイン的にはフリルやリボン、花の髪飾りが付いており、とてもお嬢様と言っていいほど様になっている。

元々銀自体は容姿がいいのでこういう服装を着るのは問題では無い。

だが彼女自身動きやすい服装や女の子っぽいものを着ないので中々のギャップだ。

それに、今はとても弱々しくなっているため普段元気に見せる彼女とは打って変わってとても庇護欲が唆られる。

困惑している銀に園子は綺麗と言い須美は血を勢い良く噴射していた。

 

「おふっ.......はぁはぁ.......と、とても似合っているわ.....銀!で、でもこの胸の中から込み上げてくる気持ちは何かしら!」

 

須美はそう言うと何処から取り出したのかとても性能がいい一眼レフカメラを銀に向けて写真を撮り始めた。

その凄まじいスピードは残像が見えるぐらいに繊細な動きをしながらブレもなしに銀を捉えていた。

だが鼻息や息を乱しながら撮るのも些か恐怖を感じるのはどうかと愛翔は思ってしまう。

その様子を園子は見ながら口を開いた。

 

「なんだか今のわっしーって、プロみたいで素敵ー!」

 

「はぁ......写真は愛よ!あぁ......銀!今日はとことん美三雄衣服に挑戦よ!」

 

「いや、別に今のままでもいいだろ!アタシはもうじゅーぶん!」

 

「いえ銀、これは銀の為でもあるのよ!」

 

「そうだよーミノさん、もっと可愛くなろうよ〜」

 

「だぁー!わかった、わかったから!もう好きにしろぉ!」

 

須美の以外な所が発揮されそれに便乗して園子の後押しがあり銀はやけくそ気味に言い放った。

その後も銀は着せ替え人形のごとく服を着せられた。

 

「凄いわ銀!これもう、金よ!」

 

「訳わかんないぞぉ!」

 

「打点高いよ〜?」

 

須美はもう何を言っているのか分からず園子も変なスイッチが入りもうやりたい放題だ。

因みに愛翔は銀が着替えている時は外に出ている。

でも、男子一人女子三人は中々落ち着けない。

 

「愛翔ぉ.......助けてくれぇ......」

 

「俺に言われてもな........」

 

「愛翔もアタシにはこの服なんて似合わないと思うだろ!」

 

「いや、そんな事ないと思うぞ?今のお前めっちゃ可愛いし綺麗だから」

 

「うぇっ!?」

 

素直に返した愛翔の言葉に銀は頬を赤らめて硬直してしまう。

 

「?銀大丈夫か?」

 

「な、なんでもないゾ!だ、大丈夫だから!」

 

銀の様子がおかしかったため愛翔は声を掛けるが、銀はビクリと驚き心配を掛けないために手と首を振った。

その行動に愛翔は首を傾げてしまう。

 

「(......そ、そっか.......アタシ可愛いんだ......えへへ.......)」

 

銀は頬を染めながら愉悦感に浸ってしまう。

普段は動きやすいものにしているし、自分はフリフリなものは性格上似合わないと思っているから着なかったが、愛翔が可愛いと言ってくれたのだ嬉しくないはずがない。

そう思うとこれはこれで良いと納得した。

それを見た須美と園子が暴走度をヒートアップしてしまい

銀は次々と色んなバリエーションを追加されてしまう事になった。

 

「むぅ.......」

 

「よしよし」

 

「はぁ.......良かったわ」

 

「何がだよ!」

 

それからまた暫くして銀の着せ替えが終わり銀は最初来ていたフリルが付いたワンピースを着替え直し、座っていた愛翔の後ろで頬を膨らませて怒りを露わにした。

須美が満足して倒れながら感謝を述べると銀はふしゃーと猫みたいに威嚇しながら言った。

というかなんで俺の後ろにいるのだろうかと愛翔は愛翔で不思議に思いながら彼女の頭を優しく宥めるように撫でた。

その後、銀の次に須美がドレスを着せられ、銀と同じく愛翔に褒められ照れてしまい、大和撫子を志す彼女がぶれたのはまた別の話。

 

 

 

 

 

「てっいう夢を見たんよ〜」

 

「お客さん入ってた?」

 

「そこ気にするとかロックだな」

 

「すげぇなその夢」

 

日曜、イネスのフードコートでジェラートを食べながら話していると園子が寝ている時に須美達がドームに似たような場所でアイドルをやっていたという夢を見たと語り始めた。

銀は和太鼓披露し園子は動物の格好した服で須美はアイドル衣装、愛翔はダンスを披露していたとの事。

とても種類が別れており、アイドルをやっているのが須美と愛翔しかいないという時点でツッコミしたい。

だが、それは園子が見る夢なので言うのは御法度だ。

相変わらず園子の夢はワンダフルだと思った。

次の日。神樹館の六年二組の教室で勇者達は休み時間に黒板に絵を書いていた。

 

「ん?須美が書いてるそれ何だ?」

 

「翔鶴型航空母艦の二番艦。瑞鶴よ」

 

「すげぇリアルー!」

 

「でしょ?旧世紀。昭和の時代に数々の戦いで主戦力として活躍した 我が国の空母よ!囮になって最後の最後まで頑張ったのよ.......!」

 

「須美ってそういうのやたら詳しいよな」

 

「夢は歴史学者さんだから!」

 

「やっぱり真面目さんだ」

 

「わっしーぽいよねだよねー」

 

須美は他の人以上に日本の歴史に対して詳しい。

まだ小学生なのに情報量が豊富なのだ。

そこは見習うべきと素直に感心する。

すると須美が口を開いた。

 

「そのっちは何か夢はあるの?」

 

「私は小説家とかいいなと思って時々サイトに投稿したりしてるんだよ」

 

「あぁーなんか納得」

 

「独特な感性だものね.......」

 

「まぁ、園子だしな」

 

確かに園子は他の事達は少し違うものを持っている。

それはいい意味では柔軟で柔らかい。

悪く言えばマイペース。

これは捉え方によるものだと思う。

 

「二人も小説の中に登場人物として実演して欲しいなー。優しく頼れるミノさんに、真面目で時々面白いわっしー!」

 

「と、時々面白い......」

 

「ん?つまらないよりはいいじゃん」

 

「そうなのだけど、私も頼ってほしいわ」

 

「アタシ、そうやって軽くいじける須美の顔好きだなー」

 

「え!?そんな風に褒められても.......」

 

最初の頃より須美はだいぶ変わった。

これが素なのが良く分かる。

とても可愛らしい。

 

「おぉ!なんかいいよ!今の二人の空気!とってもいいよ〜!いいですよぉー?」

 

「また目覚めたよこの人......」

 

全く園子の感性は所々で掴みにくい。

でもそれが乃木園子の魅力の一つだ。

 

「そういう銀の夢は!?」

 

そういや、銀の夢は一度も聞いたことがなかった。

そもそも彼女自身からあまり話そうとはしないし聞くタイミングすらなかったのだ。

須美に言われた銀はにこりと笑みをして話を始めた。

 

「幼稚園の頃は家族を守る美少女戦士になりたいって思ってたな!」

 

「分かる!御国を守る正義の味方!それは、少女の憧れよ!」

 

また須美が暴走寸前になり掛けているが気にしないでおくことにした。

 

「そしたらミノさん今はどんな夢なの〜?」

 

「えへへ.......」

 

園子が聞くと銀は途端にモジモジとし照れ始めた。

 

「なんで照れたんだ?」

 

「いやー家族っていいもんだから......普通に家庭を持つのもありかなって......でもそうなると将来の夢が.......お、お嫁.......さん、だからさ」

 

銀から放たれた言葉は少女が夢見るもので憧れるもの。

とても尊く、乙女らしい。

それを聞いた須美と園子は銀に抱きついた。

 

「ミノさんなら絶対なれるよ〜」

 

「えぇ。白無垢が楽しみだわ」

 

「そうかな.......なれるのかな?」

 

何故か銀は愛翔の方に視線を向ける。

それに気付いた愛翔は笑みを浮かべながら口を開いた。

 

「お前ならなれるよ。家事もよし、面倒見もいいし、将来結婚する男はさぞ幸せものだろうな」

 

「なっ!?......くぅ......またお前はそんな事を......」

 

正直に嘘偽りなく言ったがまるで道化だ。

でも、愛翔にとって三ノ輪銀はそれ以上に眩しくて輝いて見えるのだ。

 

「?何か良くないこと言ったか?」

 

「.......知らない」

 

愛翔がそういうと銀は頬を赤らめてそっぽ向いてしまった。

良く分からん。

須美と園子はそんな現状を密かに微笑ましく思っていた。

するとそっぽ向いてた銀が愛翔に顔を向けて口を動かした。

 

「そ、そういや愛翔は何か将来の夢とかあるのか?」

 

「夢?」

 

「あ、それ私も気になるー」

 

「そうね。私も気になるわ」

 

夢......考えてはいなかった。

昔から何もかも手に入って不自由もなく育ってきた愛翔。

愛情も名誉もそれ以外も揃っており特に何もなかった。

でも、今は少しだけならその将来の欲が出来たかもしれない。

友達が自身の夢を叶う所をその眼で見るという。

 

「将来の夢なのかは分からないけど、俺はお前らの夢が叶う姿を見てみたい。そしてそれが果たされるまでずっと守りたい.......とかかな」

 

その言葉に三人は固まってしまった。

普段言わない言葉を放ってしまったと思い恥ずかしいがそれぐらいしか愛翔は思い当たらなかった。

でもよくよく考えればこれって――

 

「あいっちーそれってプロボーズ〜?」

 

「は!?そ、そんなわけないだろ!」

 

その沈黙を破ったのは園子だった。

途端に復帰した須美が慌てて言葉を発する。

 

「そ、そうよそのっち!愛翔君は道化を演じていただけよ!」

 

「俺は道化じゃねぇよ須美さん!?」

 

「あ、愛翔が.......アタシの将来の......旦那......さん......えへへ......」

 

「小さくて何言ってるか分からないけど戻ってこい銀!銀さんー!?」

 

「あいっちも罪な男だぜぇい〜あ!メモしとこー」

 

「お前この期に及んで今やるかそれ!やめろォ!」

 

フォローになっていない須美に自分の世界に入ってしまっている銀。

それをネタとして使おうとしている園子。

 

「(もう......何がどうしてこうなったんだぁ!)」

 

結局誤解を解くのに相当時間を費やした。

素直な気持ちで話しただけなのに誤解が生まれるのはあまりいい気分ではない。

だがそんなハチャメチャな日のそれが楽しく感じた。

その次の日はどんな事が起きるのか楽しみだ。

しかし、一年のレクリエーションで国防に沈ませようとするのは些かどうかと思った。

 

 





銀ちゃん可愛いよね?
普段着ない服を着ながら恥ずかしがって照れてるのってめっちゃ萌えるよね!
だがこれでいい!!

さて次回は遠足の前日まで書くつもりです!

先程も言いましたが、投稿頻度は落ちると思いますが、必ず投稿はしますのでお許し下さい......。
では、また次回にお会いしましょう!さらばっ!


次回。第9話:伸ばし掴む


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