秘伝書クン (jejjsuususuwu)
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改変

前作が全く進まないので息抜きです。


『イナズマイレブン』

 とあるゲーム会社から販売されたこの作品はゲームから始まり、漫画、アニメ、ドラマCD等まで作られた人気コンテンツで今でもなお根強い人気を誇る。

 この作品の最大の特徴は登場人物たちが放つド派手な必殺技だろう。『ゴットハンド』、『ファイアトルネード』といったシリーズ初期の必殺技はもはやイナズマイレブンの代名詞とも言える。そんな『イナズマイレブン』を代表する人物とは誰だろうか? 『炎のエースストライカー』豪炎寺修也? 『天才ゲームメーカー』鬼道有人? はたまた、人気投票一位の五条勝か? いや違う。

『イナズマイレブン』を代表する人物といえばこいつしかいない。作品内外問わず『宇宙一のサッカー馬鹿』と言われるこの男! そう、円堂守である。この物語は宇宙一のサッカー馬鹿とその仲間たちがサッカーを悪用する者たちと戦い、時に改心させ、サッカーで世界を繋げていくお話である。

 

 

 

 

 

 ………………

 ………………

 …………

 …………

 ……

 ……

 

 

 そこにちょっと不思議なキャラをぶち込んだのがこの作品です。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 転生した。その言葉が頭の中でよぎる。

 部屋で携帯をいじっていると突然胸が苦しくなり、死んだ。痛みとともに目の前が暗くなって気が付くとここに居た。自分の手を見ると小さな二本の手がある。部屋に置かれた鏡を見ると5歳ほどの少年が鏡に写る。顔立ちは悪くない。むしろ、良い。

 いくつかの疑問が生まれれた。この身体の持ち主は何処にいるのだろうか。俺は死んだ。死んでこの身体になった。先程、『転生』という言葉がよぎったがまさか本当に転生したのか? だとすればここはどんな世界だ? 

 まさか、危ない世界ではないだろうな。そんなのは願い下げた。

 窓から外を見る。2階建ての住宅が並んでいる。どうやら住宅街のようだ。道路はコンクリートで整備され、電柱がいくつも並んでいる。どうやらこの世界は今まで俺がいた世界と生活はあまり変わっていないようだ。そう確信した俺は思う。腹減ったなあ、と。

 

 

 

 

 

 

 

 

 転生してから一年過ぎた。その間にこの世界での俺について知れた。名前は『風村颯太(かぜむらそうた)

 親はいない。なんでも俺が産まれた際に交通事故で亡くなったようで家には二人の遺影がある。そんな俺を父親の弟、つまり、叔父さんが養子にしてくれた。

 叔父さんを一言で表せば『万能超人』だと思う。そんな叔父さんの仕事は(株)エルドラドの営業職で世界を飛び回っている。世界中の人々を貧困と飢餓から助ける(スタンフォード大学在籍中に紛争地域の現状を知り、自分がどうにかしなければ、と思ったらしい)為に奮闘しているそうで今はロシアのオリオン財団と協力し合っているようだ。そのため、あまり家に居ない。(前に叔父さんがオリオン財団に俺と歳が近いフロイ(なにがし)クンがいると言っていた気がする)

 流石に幼い子供を一人にはしておけないため、養子である俺の世話を焼いてくれているのはおじさんが雇った家政婦のミタさんだ。三田灯(みた あかり)

 俺は彼女を「ミタさん」と呼んでいる。

 叔父さんが家政婦の紹介所から派遣された女性で住み込みでこの家の家事全般を完璧にこなす美人だ。しかし、俺はミタさんに少しの違和感を抱いている。その理由は二つあって、一つは彼女は一切笑わない。俺はミタさんとひとつ屋根の下で約一年一緒に暮らしているが、ミタさんが笑ったところを一度も見ていない。

 二つ目は彼女は頼まれたことを"何でも"やってしまう。

 前に学校からの宿題が面倒になって冗談でミタさんに頼んだら「承知しました」と言って宿題をやり始めた。叱られると思っていた俺は想像と違いすぎる光景に驚いてしばらくフリーズしてしまっていた。その間にミタさんは宿題を終わらせてしまい、その後「終わりました」と言った。このことから俺はミタさんによっぽどのことがないと頼み事をしなくなった。

 少し異常だと思うが、ミタさんが頑張り屋さんなだけだと思って片付けた。ミタさんが用意した料理を食べ、ミタさんが用意した服を着て生活している大人になったとき、ミタさんから独り立ち出来るのか不安だが楽しく過ごせている。

 

 

 

 

 二人の友達ができた。

 頭にオレンジのバンダナを巻いた『円堂守』と『小野冬花』の二人だ。俺が教室でポツンとしていると「なあ、キミ俺たちとサッカーやろうぜ!」と声をかけてくれたことがきっかけだ。

 二人共すごくいい子なんだか、何故か二人を、特に円堂守を見ていると不思議な気持ちになる。

 最初は「俺、円堂守(ショタ)に恋してるのか」と思ったがそうでは無さそうだ。

 例えるなら給食にカレーが出てきた様な嬉しさと蜂に追いかけ回される様な危機感と恐怖。両方とも日にちに増すごとに強くなる。

 今日もいつも通り公園でサッカーボールを蹴っている。円堂から俺に、俺から小野に、小野から円堂にボールをパスしている。 最初は暇潰しになるかと思い参加したが、この二人とサッカーするのは楽しい。

 

「いくよまもるくん!」

 

「おう! ふゆっぺ、こい!」

 

 小野からパスされたボールを円堂は足で受け取り器用にリフティングする。その様子を見ながら俺は思う。やはりなにかある気がする。いや、ある。それを俺は忘れている。

 

『円堂守』『サッカー』『ふゆっぺ』『オリオン財団』『サッカーやろうぜ』

 

 この五つの単語、俺は何処かで見て聴いたことがある。今ではない。転生する前だ。『サッカーやろうぜ』は単語ではなく、悪魔の言葉と思うのは俺だけだろう。

 気になり続けている答えもあと少しで思い出せそうだ。しかし、キーワードが足りないのか、あと少しのところで答えが分からない。

 

「かぜむらいくぞ! 『必殺技』ゴッドキック!!」

 

『必殺技』だと? 

 円堂守が必殺技。円堂守がサッカーで必殺技。円堂守がサッカーで必殺技を繰り出す。

 思い出したぞ!!! そうだ、この世界はイナズマ─ぐふッ

 

「かぜむら!!」

 

「かぜむら君!」

 

 ボールが顔面に直撃し、後ろに倒れながら最後まで言えなかった言葉を叫ぶ。

 

「『イナズマイレブン』の世界だァァァ!!!」

 

「「かぜむら(君)が壊れた!」」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「気分はどうですか?」

 

「ンんここは……」

 

 俺は円堂と小野の三人でサッカーしてた筈、何故ミタさんがいるんだ? 

 

「さっき円堂さんと小野さんが家に来て大変だったんですよ? かぜむらが倒れて壊れた、て。公園に行けば鼻血を出して倒れていたので家に連れて帰って来たんです」

 

「……ありがとうございます」

 

「……その言葉はあの二人に。貴方のこと、とても心配していました。頭をぶつけているので、今日一日は安静にしていてください。 一時間ごとに来ますので御用が有ればその時に」

 

 ミタさんは失礼します、と言って部屋を出た。

 窓の外を見て思う。この世界が『イナズマイレブン』の世界で、円堂守が主人公なら正史ではFF編、エイリア学園編、FFI編と続いていく。一つステージが進む毎にサッカーの実力がハイパーインフレとなる。

 ラスボスも同じく行動原理がパワーアップしている。

 

 影山(サッカーへの復讐)

 ↓

 吉良(世界に復讐)

 ↓

 ガルシルド(世界征服)

 

 ガルシルドだけ如何にもな感じの悪役だな。

 

 確か円堂守の祖父、円堂大介をショタ影山を操って暗殺したり、ふゆっぺの両親を殺害したり、ブラジル代表【ザ・キングダム】を恐怖で支配したりと本当に悪役している。イナイレの敵キャラで改心していないのってコイツだけなんじゃないだろうか。

 円堂守とサッカーを続けていると俺も自動的に「円堂守と愉快な仲間」、とガルシルドに見られるんじゃないか。俺は円堂とサッカーしたいが、世界征服おじさんを筆頭とした悪役たちと戦いたくはない。

 

 サッカーをする、ラスボスと戦いたくはない。

 

 この2つを可能にする方法があるだろうか? これがただの転生者ならそんな方法ないだろうが俺にはある。

 世界を救うたった一つの冴えた考えが。

 そう、それは、

 

 

「ミタさん! 叔父さんに電話かけて!」

 

 

 万能超人(叔父さん)に助けを求めることである。

 

 

「静かにしてください。ご近所に迷惑です。あと、安静にするよう言いましたよね?」

 

「あっ、ごめんなさい」

 

 

 

 

 ☆☆☆☆☆

 

 

 

 

 桜がヒラヒラと舞う四月。イナズマイレブンの世界に転生してから七年たち、俺たちは雷門中に進学した。

 

「おーい風村、写真取ろうぜ!」

 

「わかってるから急かすなよ」

 

 あの後、叔父さんに色々と話した。俺には前世の記憶があること、この世界がゲームの世界であること、ガルシルドの悪事などを支離滅裂な言葉で伝えると

 

「そうか、わかった。伝えてくれてありがとうな、颯太」

 

 そう言って電話を切った。しばらくしてガルシルドがテレビ会見を開いて「貧困や経済格差をサッカーを通じて無くしていきたい」と澄んだ瞳をして宣言していた。

 叔父さんいったいガルシルドに何をしたんだろうか。少し前に興味本位で質問したら「そんなこと知りたいの?」と、凄い笑顔で言っていた。聞いたらダメなやつだと直感した。

 その影響(ガルシルドの光堕ち)か小野冬花の両親は生存している。(円堂大介はたぶんコトアールでロココたちを鍛えているんでしょ。知らんけど)

 両親の生存により心が壊れることもなく、久藤監督がロリコン監督と揶揄されることもなくなった。

 

 そんなわけでいろいろと変わってしまったが、世界が良くなったので俺としては万々歳。最大の憂いがなくなったことにより前々から考えていた目標に集中出来る。 イナズマイレブンが始まるまであと一年はある。それまでにやることは二つ。一つは原作のように廃部寸前のサッカー部ではなく、全国クラスのチームに仕上げるこ

 と。

 二つ目は入学式が終わったあとにやってくる未来人(アルファ)との試合で覚醒して俺と円堂が化身を習得すること。化身があれば試合の難易度が格段に下る。俺は緊迫した接戦は大好きだが、圧倒的に勝つのはもっと好きなのである。

 

「さあ、来いよアルファ。踏み台にしてやるぜ!」

 

「風村、お前も部室の掃除手伝えよ」

 

 ……掃除の後にな。

 

 

 

 

 

 ☆☆☆

 

 

 入学式から一年が経った。あの後アルファは来なかった。もしかすれば円堂カノンは近くに居るかもと思って探したが見つからなかった。はっ? フツーはくるだろ。大事なイベントじゃん。なんでこないの? やっぱりガルシルドの光墜ちはやりすぎだっのだろうか。でも、ガルシルド怖いし……。

 

「風村、フィールドで別のことを考えるな」

 

 俺に叱責するのはロリコン監督の異名を免れた久藤監督である。俺がスカウトした。この人が正式な監督に復帰出来るまであと3ヶ月ほどある。復帰するまでは俺たち雷門イレブンのコーチになってもらっている。ロリコン監督という教職からもっとも遠いところにある異名をなくしてやったんだからもう少し易しくしてくれてもバチは当たらないと思うのだが。

 

「風村もう一度だけ言う。 フィールドで別のことを考えるな。分からなければフィールドから出ろ」

 

「分かったのでフィールドに残ります」

 

「……分かったのなら練習に戻れ」

 

 久藤監督はため息をついて俺から離れる。ドリブルの練習をしている一年生たちにアドバイスと言う名の愛のムチを振るいに行ったのだろう。

 足元にボールが転がってきた。

 

「おーい、ボール蹴り返してくれ!」

 

 俺に手を振ってボールを催促するのは我がサッカー部のDFであり、正史なら今頃はまだ、陸上部のエースである風丸一郎太である。どうせサッカー部に入るのなら早いほうがいいと思って勧誘した。しかし、強制力なのか俺や円堂がいくら誘っても乗らない。勧誘は無駄だと思ったので陸上部への入部届けを改ざんして彼を無理矢理サッカー部に入部させた。最初は怒っていだか円堂が宥めたり、ボールを蹴らせたりしてサッカーにハマらせた。今では陸上よりもサッカーが大好きなサッカー馬鹿にクラスチェンジした。転がってきたボールを蹴り返すと彼は見事にトラップして「サンキュー」と言って俺たちのキャプテン円堂が守るゴールにドリブルで向かう。

 その背を見ていると後ろから声をかけられる。

 

「一緒に練習しないか風村」

 

 その声はとても自信に満ち溢れていた。振り返っるとすぐ後ろには薄紫の長髪の美男子がそこにはいた。彼の美貌は学校内外関係なくファンが居るそうで、俺は近々コイツのファンクラブ会員たちに富士山辺りに拉致されないか心配である。 

 

 

「どうした? 俺と練習は嫌か?」

 

「そんなことないって、影野。練習しようぜ」

 

 雷文イレブン今現在12人。最後の一人である豪炎寺修也が雷門中にやってくるまで、あと一週間である。

 

 

 

 

 ☆☆☆

 

 

 俺の名前は風村颯太。転生者だ。転生者なら勿論持っているチート。俺にもある。それは秘伝書だ。イナズマイレブンのゲームやアニメには必殺技の秘伝書がある。俺に与えられたチートは秘伝書を購入できるというものである。この能力を知ったのは入学式の日の夜である。

 当然頭の中でファンファーレが鳴り、頭痛がしたあとしばらくすると使えるようになった。秘伝書を買えるといったが、秘伝書以外にもウェアーやスパイク、飲食物やアクセサリーを買うこともできる。購入するためにはねっけつポイントが必要で練習すると貯まっていく。この能力がチートな所はポイントさえあればどんな必殺技でも使えるようになり、ポイントを少し多く払えば俺以外でも秘伝書を使って技を覚えられるところだろう。

 とんでもないチートだが、欠点が二つ存在する。一つは相性があるらしく適合しなければどんな優れた選手だろうと必殺技を習得できない。(逆を言えば相性さえ良ければどんな必殺技でも習得可能)

 

 二つ目は身体能力。だいぶ前に『ファイアトルネード』を俺が習得しようとしだができなかった。習得不可の場合「ERROR」の文字が表示される。俺の身体能力ではこの技を習得できないらしい。

 

 こういった欠点があるもののそれを補って余りある程この力は有用なので結構な頻度で使用している。

 例えばボールをドリブルで運んでいる風丸だがその目の前にマックスが立ちはだかる。風丸は脚を力強く踏み込み前に出る。その瞬間、風丸の姿をマックスは追うことができず抜かれてしまう。マックスの視点からは風丸が突然消えたように見えるがそうではない。実際は疾風の如き速さでマックスを抜いたのである。これが俺が風丸に授けた必殺技『疾風ダッシュ』である。風丸以外の選手たちにも風丸と同様に必殺技を習得させている。

 

さあ、来いよ帝国学園。俺が作り上げた雷門イレブンがお前たちの不敗神話を終わらせてやるぜ!!

 

「風村、今また別のことを考えていたな。フィールドから出ろ。」

 

……帝国学園倒す前に久藤監督に謝りに行こ。

 

 

 

 

 




風村をどう思う? その1

円堂→強引なところがあるけど頼もしいやつ。ゴールは   
任せろ!!

小野→大事な友達。人に迷惑を掛けまくるので尻拭いが
大変。

木野→円堂くんと仲が良すぎるので少し嫉妬。

影野→俺に居場所と光をくれた人。大事な仲間。

夏未お嬢様→雷門中一番の問題児。

久藤監督→面白い選手。態度が悪い。落ち着きを持て。

音無→取材させてください!

染岡→ふん。エースは俺だぜ。

半田→すげえやつ。もっと一緒にプレイしたい。

壁山→時たまこわい顔するっす。『ザ・ウォール』って  こんな感じすっか?

栗松→他の一年より明らかに多くドリブルやパス、ブロックを練習しているでヤンス。

宍戸→DFなのにシュート技を覚えさせるってマジですか

マックス→サッカーにおいてはボクより器用でしょ。

少林→ボクと一緒に漫遊寺にいきません?

メガネ→彼も僕と同じ匂いがします。







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改変その②

来週、日ノ神がイナイレの最新情報を発表してくれると思うので投稿します。
イナイレ最新作の発売日を教えてくれ! 日ノ神! 


「木戸川清修から来ました。よろしく」

 

 無愛想に彼は言った。退屈そうな瞳をしたまま。

 

「ああ! お前は昨日!」

 

 頭にオレンジのバンダナを巻いた少年、円堂守が思わず声を出す。

 

「なんだ円堂知り合いか?」

 

「あっ、いや、知り合いってほどじゃないんですけど」

 

「まぁ座りなさい」

 

 担任の教師に言われて椅子に座る。

 ホームルームが終わると円堂は転校生、豪炎寺修也に話しかける。

 

「昨日はありがとう。すっげぇシュート打つよな! 木戸川清修って言えばサッカーの名門だろ? なんで雷門に来たんだ。 あっそうだ、部活何にするか決めた? あんなにすっげぇシュート打つんだからもちろんサッカー部だよな!」

 

 円堂からの質問攻めに豪炎寺修也はため息を吐く。

 

「俺はサッカーを辞めたんだ。サッカー部に入るつもりはない。俺に関わらないでくれ」

 

 吐き捨てるように豪炎寺は言って教室を出ようとする。

 円堂が豪炎寺を呼び止めようとしたとき、サッカー部の仲間である半田真一が円堂に声をかけた。彼の表情はどこかくらい。

 

「どうしたんだ半田」

 

「冬海先生が校長室まで来いってさ。お前と風村の二人で」

 

「校長室? 風村と二人で?」

 

「なぁ円堂、俺、嫌な感じがするんだ。最近サッカー部が廃部になるて噂もあるし」

 

「廃部だって!?」

 

「そ、そういう噂が流れているだ。なんでも理事長代理がサッカー部の()()を見過ごせないとかで」

 

「廃部になんてさせるもんか! よし、風村、校長室までいくぞ!」

 

 窓際の席の最も後ろで眠りこけているサッカー部の副キャプテン、風村颯太に円堂は言う。円堂の声が耳に入らないのかずっと眠っている。そんな様子に円堂も顔を真っ赤にして風村の側にやってくる。大きく息を吸い込み放つ。

 

「おきろ! 風村!」

 

 教室が震えた。

 

 

 

 ☆☆☆

 

「痛ってぇ、何も耳もとであんなデカい声出すなよ。耳がキンキンする」

 

「風村がずっと眠っているからだろ。廃部の危機だっていうのに」

 

 二人は校長室の扉の前で止まり、扉をノックする。

 中から入りなさい、と言われ中に入る。部屋の中には校長と顧問の冬海、そして理事長の娘雷門夏未の三人がいる。

 

「あ、あの話ってなんですか?」

 

 緊張とは無縁な性格をしている円堂だが、校長室で校長と話すのは緊張するらしい。

 

「ええ、突然ですが一週間後、久しぶりに練習試合をすることになりました」

 

 サッカー部顧問、冬海先生が言った。

 その言葉に円堂は面食らう。

 

「試合! やれるんですか!」

 

 喜色を浮かべて円堂が喜ぶのにはわけがある。サッカー部が四十年ぶりに復活して一年経つが他校と練習試合をしたことはなく、一年間ずっと基礎練習と簡単なミニゲームしかやれていない。他校と練習試合を行うのは初めてのことである。

 はしゃぐ円堂に冬海先生は練習校の名前を告げる。

 

「相手はあの帝国学園です。試合日は今日から一週間後」

 

「帝国!? あの四十年間無敗の!?」

 

 円堂が驚くのも無理はない。相手は四十年間無敗の王者帝国学園。かたや自分たちは11人揃っているものの公式試合に全く出場していない無名チームだ。何故帝国が雷門と練習試合をするのか理解できなかった。

 

「日本一のチームがなぜうちに? 最強のサッカーチームとの試合は嬉しいんですけど」

 

「帝国との練習試合は決定事項よ。円堂守くん」

 

 これまで沈黙していた雷門夏未が円堂に告げる。

 

「あと、帝国との試合で負ければサッカー部は廃部。そして廃部となれば今後一切サッカー部の創設を認めません。そしてサッカー部副キャプテン風村颯太を退学処分とします」

 

「何だよそれ、廃部はともかく、風村を退学させるなんて!」

 

「これは理事長と校長先生による決定でもあるの。あんな掘っ立て小屋の弱小クラブにまわす予算なんてないし、何より彼を雷門中でこれ以上飼うなんてことできないわ」

 

「なに!」

 

「そもそも貴方たちが、特に風村くんが私たちにどれだけの迷惑をかけているかご存知なくて」

 

「一体いつ迷惑かけたっていうんだよ!」

 

 雷門夏未はスカートのポケットから一冊のメモを取り出し、パラパラとページをめくる。軽く咳ばらいしてメモに記録されている事を読み上げる。

 

「昨年4月15日、サッカー部副キャプテン風村颯太は深夜職員室に忍び込み、ある生徒の入部届を改ざん。それを発見した用務員の古株さんから逃走し、西校舎の鍵を破壊し、侵入。一階理科室に潜伏するが古株さんに見つかり逃走する。その際、危険薬品が保管されていた棚を倒し、爆破。その影響で火災が発生し、西校舎の一階は半分ほど焼け落ちました」

 

「えっ」

 

「まだあります。昨年7月10日、サッカー部副キャプテン風村颯太は授業をサボり、プールに侵入。サッカーボールを合計百個ほど持ち込みプールに向けてボールを蹴る等の奇行に及ぶ。その結果プールの一部が破損し3ヶ月にわたって改修工事が必要となる」

 

「か、風村がそんなことするんだからなにか理由が」 

 

「当の本人は「サッカー部を強くするため」という意味不明な供述をしているわ」

 

「…………」

 

「まだお聞きになるかしら? 冬になるとボヤ騒ぎで消防と救急が駆けつけて来るなんてザラよ」

 

「いや、もういいです」

 

「あら、そう? ちなみにこのメモ帳は3冊目よ。

 わかったかしら、彼がどれだけ私達に迷惑をかけているか」

 

 雷門の言葉に顔を青くする円堂。そんな事件を起こしてたのか、と風村に視線を送る。当の本人は円堂の視線から逃げるように顔を背けている。

 

「色々ご迷惑かけてすいませんでした。風村もきっと反省してると思います」

 

「……その謝罪が口だけじゃないってことを証明してご覧なさい。そうすればサッカー部は廃部を免れ、風村くんの退学も無しよ。せいぜい頑張りなさい。あと退室して結構よ」

 

 円堂と風村が退室し、冬海も業務を理由に退室した。

 

「……あれで本当に良かったのですか。 本来なら風村くんはとっくの昔に退学を言い渡されているはずです。それを理事長が揉み消し、彼のことは不問にしてきました。なぜ今になって彼を退学にするのです?」

 

 その問いに雷門夏未は答える。

 

「『彼を試せ』理事長からのお言葉です」

 

 雷門夏未からの回答に校長は納得してはいなかった。だが、理事長からの言葉なら仕方がない、と割り切った。

 

 ☆☆☆

 

「というわけで一週間後、帝国学園と練習試合をすることになった」

 

 サッカー部の部室にて事の顛末を9人のチームメイトに伝える。

 それを聞いた反応は怯える者、ぶっ倒してやる、と意気込む者、戦略を考える者、様々である。

 

「にしても試合に負ければサッカー部は廃部、風村は退学かぁ。というかお前、よく今まで退学にならなかったな」

 

 雷門イレブン、MF半田真一が呟く。

 

「叔父さんのおかげ。あの人が居なきゃ入学二週間で退学&少年院送りだったろうな」

 

「ところで、豪炎寺くんはどうするのです?」

 

 雷門イレブンの戦術、戦略、情報戦を担当する目金欠流(めがねかける)がチームのキャプテンに質問する。

 

「目金知ってたのか、豪炎寺が雷門に転校してること」

 

「当たり前ですよ。ぼくはなんて言ったて雷門の頭脳! 

 チームを勝利に導くのがぼくの役割ですから」

 

「豪炎寺? 『炎のエースストライカー』豪炎寺修也のことか!?」

 

 目金と円堂の会話に雷門のエース、染岡竜吾が入る。彼の表情は驚いた、と云わんばかりである。

 

「ええ、そうです。彼は今、木戸川清修を離れ、この雷門中に転校しているのです。理由は不明ですが」

 

「すごいでヤンス! あの豪炎寺修也が雷門に居るなんて!」

 

「ああ! あの人がサッカー部に入れば絶対帝国に勝てるぞ!」

 

「帝国に勝てばサッカー部は廃部にならず、風村さんも退学にならずに済みますよ!」

 

 豪炎寺がサッカー部に入れば帝国に勝てる。嬉しがる一年生たち。彼らに染岡竜吾は怒鳴る。

 

「ふざけんじゃねえ! 豪炎寺がいれば勝てるだと? なんで他所もんの力なんて借りないといけないんだ。 点なら俺や風村がとる。シュートは円堂がとめる。お前たちだって嫌だろ! 他所もんの力借りて勝つなんて」

 

 部室に染岡の声が響く。不満に思ったのは染岡だけではないらしく、半田や影野といったニ年生たちの表情を見て一年生たちは短慮だったと恥じた。

 そこに二人の生徒が部室に入ってきた。サッカー部マネージャー、木野秋(きのあき)小野冬花(おのふゆか)である。

 

「外まで声ダダ漏れよ。静かにしてないと久藤監督にまた怒られるわよ」

 

「ちょっと熱くなっちまっただけだ。悪かった」

 

「それで、一体何があったの?」

 

 木野の問に円堂が答える。

 

「練習試合が決まったんだ! 驚くなよ、相手はあの帝国学園だ!」

 

「てっ、帝国!? あの四十年無敗の!?」

 

 驚く木野。もうひとりのマネージャー小野冬花も声は出してはいないが驚いているのがわかる。

 そこに松野空助が追い打ちをかける。

 

「ちなみに、負けたらサッカー部は廃部。 風村は退学だってさ」

 

「はっ、廃部!? 風村くんが、退学!? ちょっと円堂くん、どういうこと!」

 

「い、いやあ負ければ廃部と風村が退学するけど負けなきゃいい話だし」

 

「そういうことじゃありません!」

 

 木野の剣幕に円堂はタジタジになる。その間を通り、風村の前にでる者が一人。小野冬花である。

 

「風村くん、前からわたし言ってたよね? 無茶してるといつか大変な目に合うって」

 

 小野の顔は笑顔だが目が笑っていなかった。

 マジギレである。

 

「叔父さんがいるから何とかなるって思ってて」

 

「言い訳しない。風村くんは叔父さんがいればなにしてもいい、そう思うっているの? だとしたら間違いだよ。 風村くんはこれからの人生ずっと叔父さんに頼っていくの? 家政婦のミタさんにお世話してもらうの? だとしたら風村くんの存在はなんなの? 穀潰し? ヒキニート? それともー」

 

「それ以上正論言うな!」

 

「自分が不利になると逃げるの? 自分が正しいと思うなら言い返せばいいじゃない」

 

「うるせえ! 俺だって叔父さんやミタさんに依存してることぐらいしってんの! だからそれ以上言うな!」

 

「依存? 寄生じゃなくて?」

 

「うわあァァァ!?」

 

「叫んでも問題は解決しないよ?」

 

 木野からのお説教にタジタジになる円堂と風村を正論で発狂させる小野。混沌的な空間を前に雷門イレブン全員が思うことはただ一つ。

 

「なにこれ?」

 

 松野の一言は全員の思いを表していた。

 

 

 

 

 ☆☆☆

 

 しばらくして見てられなくなった染岡とスッキリ顔の風丸が協力して木野と小野を宥めた。風村は染岡にラーメンでも奢ろうと思った。

 

 

「試合まであと一週間! 帝国に勝つぞ!」

 

 

「「「「「「「「「応ッ!」」」」」」」」」

 

 帝国との試合に勝つぞと意気込み、部員たちがそれに応える。そこに久藤監督が部室に入ってくる。

 

「帝国との試合まであと一週間。 それまで各々自分を磨く練習を行う。まず円堂お前はー」

 

 久藤監督は部員一人一人に指示を出す。能力、プレイスタイル、センスに適した練習メニューである。背番号順に指示が出される。そして最後に風村(99番)である。

 

「風村お前がこの試合の鍵だ。 帝国のゴールをこじ開けられるようにシュート、必殺技共に威力を上げろ。 以上だ。 練習を開始しろ」

 

 久藤監督は部員たちに指示を出し終えると部室から出ていく。帝国選手の情報を集めて戦略をたてるのだろう。

 

 雷門イレブンは一人を除いて練習を開始する。無敗の王者・帝国学園に勝つために。

 

 

 ☆☆☆

 

 雷門イレブンが帝国との試合に向けてグランドで練習をしている。 サッカー部が復活してから凡そ2年で試合に出場可能な人数になった。 しかし、彼らは中学サッカーの大舞台、FF(フットボールフロンティア)への出場権を持ってはいない。 その原因は風村にある。 彼がなにか問題を起こすたびに対処に追われている教師や経営陣(雷門親子)たちは破壊神(風村)が所属するサッカー部が試合という名の鍵を手にし、雷門の看板を背負って外に出る事を恐れている。 たった一年で学校を物理的、経済的に破壊する風村が外に出ればどうなるのか火を見るより明らかだ。 そのことが毎年の役割決めにも影響している。例えば風村の担任を決める方法は公平にくじで決めることになっている。 そうなったのも風村が起こした事件(理科室焼失、プール半壊、家庭科室爆破etc)風村が一年生だった時の担任は後処理に追われ身体を壊してしまい、週一で通院する生活を余儀なくされた。 誰も望んて通院生活をおくりたくはない。 だが風村の担任は必ず誰かがやらなければならない。 他の教員が助かるために担任(生贄)が必要なのだ。

 

『破壊神』そう渾名されている彼、風村颯太はそんなことは露知らず、ある生徒に声をかけた。

 

「キミ、豪炎寺修也くんだよね?」

 

 後から声をかけられた生徒、豪炎寺修也は振り返る。

 

「なんのようだ」

 

 興味が無さそうに言った。

 

「突然なんだけどサッカー部入らない?」

 

「……円堂と同じサッカー部の部員か。 あいつにも言ったが俺はサッカーを辞めたんだ。 俺をサッカーに誘うのは辞めてくれ。 そうあいつにもお前から伝えておいくれ」

 

「妹への贖罪のつもりか」

 

「何だと?」

 

 立ち去ろうたする豪炎寺に風村が彼の琴線に触れる発言をする。 妹を大事にしている彼にとっては無視できない言葉だ。

 

「だ~か~ら、妹への贖罪かって聞いてるんだ」

 

「……他人のお前には関係ないことだ」

 

「ふーん。 事故にあった妹への贖罪がサッカーをやめることか? 目覚めた妹さん、がっかりするぜ? 大好きな兄貴が自分の事故が原因でサッカーをやめたなんて知ったらきっとー」

 

「やめろ!!」

 

 豪炎寺の声には怒気が込められていた。 それもそうだろう。彼にとってもっとも触れられたくはない事を名前も知らぬ他人に指摘されたのだ。誰だって頭にくるだろう。 そんなことは折り込み済みなのだろう、風村は話を続けた。

 

「一週間後、帝国と練習試合するんだ」

 

「!……帝国だと?」

 

「そう。 帝国と。 去年きみが決勝で戦うはずだった帝国学園とだ」

 

「……何が言いたい」

 

「さっきも言ったろ? サッカー部に入らないかって。それが俺の言いたいこと。 で、どうする? サッカー部入るの、入らないの?」

 

「……さっきも言ったろ、サッカーに誘うなって。それが答えだ」

 

 そう言って豪炎寺修也は立ち去った。

 

「あいつが悲しむことぐらい俺が一番知っている」

 

 そう呟いて。

 

 

 ☆☆☆

 

 豪炎寺修也が立ち去り、風村は思う。成功だ、と。

 強引だったが、これで豪炎寺修也はサッカーに対し向き合うことになった。(本人がすごく悩むことになるが)あとは彼がサッカーをやりたいと思わせる試合を帝国とすればいい。そうすれば豪炎寺修也の中にあるサッカーへの思いが彼を動かすはずだ。だが、もし豪炎寺修也が完全にサッカーを捨てる(試合に現れなければ)ということがあれば……

 

「豪炎寺は捨てるか」

 

たったそれだけだ。 未来は何も変わらない。

 

 

 

一週間が経過し、ついに帝国との試合が始まる。

 

帝国は知らない。

 

弱小だと思っていたチームが自分たちを脅かす牙を持っていることを。そしてそれを研いでいることを。

 

帝国は未だ敗北を知らない。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 



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試合開始

 

 帝国学園との練習試合当日、雷門イレブンはユニフォームに着替え帝国の到着を待っていた。

 

「き、緊張してきたっす」

 

「お、俺も緊張してきたぁ」

 

 初めての練習試合。一年生たちは緊張していた。緊張している一年生と対象的にニ年生たちは試合が楽しみだと言わんばかりの顔である。

 

「だらしねえ。 もっと堂々としてろ」

 

「で、でも相手はあの帝国だし……」

 

 緊張からか弱腰になっている宍戸に染岡は一喝する。

 そんな宍戸に円堂は元気づけるためにこれまでの練習を思い出すように伝える。

 

 重りをつけた状態で富士山をドリブルで登った。 

 タイヤでは生温いと鉄球にぶつかって吹き飛ばされた。 

 優れた選手を抜けるようにと必殺技を一万回繰り返し、技を進化させてきた。

 どれも厳しく辛いものばかりだった。 部活を辞めたくなったこともある。それでも辞めなかったのはサッカーが好きだから。 共に乗り越えて行きたいと思った仲間たちが居るからだ。

 

 宍戸はもう怯えない。

 何故なら仲間がいるから。 

 サッカーが好きだから。 

 

 顔を上げ円堂を見る。その表情に怯えはなくただ闘志だけが湧いていた。

 

 そんな宍戸の闘志を目の当たりにし他の一年生たちは自分も負けられないと気を引き締める。 一年たちに負けてられないと二年生たちもより闘志を燃やす。

 

 皆やる気十分。 俺たちは弱小イレブンなんかじゃない。こいつらと一緒にもっと()()行きたい。F F(フットボールフロンティア)の頂きにこいつらと立つ。 そしていつかは世界にだって……。

 

 いや、それはまだだ。 まずは帝国。 

 彼等を倒さなければ日本一はおろか世界の舞台に立つことはできない。 このメンバーと一緒にサッカーできる興奮ですこし想像が飛躍してしまった。 ふゆっぺとは違う、もうひとりの幼馴染の考えに毒されていたようだ。

 

 そう思い円堂は考えることをやめた。 キャプテンとしてやる気十分な仲間たちに号令をかける。

 

「みんな今日の試合相手は帝国学園だ。日本一だ。そんなすげえやつらとサッカーできるなんてすごく楽しみだよな! 俺たちのサッカーを帝国にみせてやろうぜ。そして勝とう。F F(フットボールフロンティア)に出場して優勝するぞ!!」

 

 

「「「「「「「「応っ!」」」」」」」

 

 円堂の号令が雷門イレブンの士気をあげる。

 士気、技、自信、根性。

 雷門イレブン全員が闘う覚悟はできている。

 

「ところで、風村のやつどこ行ったんだ?」

 

 

 

 

 ☆☆☆

 

 雷門中のグランドの近くに植えられている木の背にツンツンヘアーの少年、豪炎寺修也がたたずんでいる。 

 彼は事故で意識不明の妹への贖罪としてサッカーを辞めた。妹の由香が大変な目にあっているのに自分がノウノウとサッカーをすることは彼自身の性格が許さなかった。 

 だから今回の雷門中の練習試合を見に来ることははじめ彼の選択肢にはなかった。しかし、自分をしつこく勧誘してきた円堂と初対面の人の(何故か知っている)に塩を塗りだくってくる風村がどんなプレイをするのか気になったから試合を観に来たのだ。いや、この二人だけではない。 

 転校してきて何度か耳にした『サッカー部はヤバい』

 この言葉が彼の頭の中に残っていた。円堂(ねっけつバカ)風村(イカれやろう)以外にどんな生徒がサッカー部に居るのか。そんな好奇心も彼がここにいる理由の一つである。

 

「おーい豪炎寺、昨日の返事をしてくれ。 サッカー部に入るんだろ? 」

 

 そう声をかけてきたのはサッカー部副キャプテン、風村颯太である。

 

「昨日も断ったはずだ。 俺はサッカーを辞めたんだ。 由香が目覚めるまではな」

 

「ふーん。 で、妹さんが目覚めるのっていつ?」

 

「……わからない。 だが絶対に由香は目覚める。 俺はそう信じている」

 

「あんまり言いたくないけど、このままだとお前、実力的に置いていかれるぞ」

 

「………なに?」

 

 風村の言葉に豪炎寺は眉を(ひそ)める。

 豪炎寺修也は昨年一年生ながら名門木戸川清修のエースだった。今はサッカーから離れてはいるが、全国クラスの力はいまだ有している。 すくなくとも、全国どころか公式試合に一度も出場したことがない弱小イレブンでは歯が立たないほど実力差はあるだろう。こいつはそれがわからない莫迦なのだろうか。

 

「豪炎寺がいまどう思っていようがどうでもいけど、この雷門で、いや、日本でサッカーをするなら出来るだけ早く復帰したほうがいいぜ。 一年後には俺たち()()が世界トップクラスの選手になるからな」

 

 傲慢が過ぎる発言。 だが、当の本人は実現可能な未来だと本気で思っている。

 

「もう行くは。 一人行動しすぎてふゆっぺに怒られるのも嫌だし」

 

 そう言って雷門イレブンのもとに帰っていく風村。

 その背を見ながら豪炎寺修也は思う。

 弱小チームがたった一年で世界トップレベルになるだと? 面白い。ならまずは四十年玉座に座る帝国との試合を見せてもらおうじゃないか。サッカー後進国と言われる日本の頂点、帝国に勝てねば世界の舞台に立つことすら叶わない。

 大層な事を言ったのだ、お前たちの実力を俺に見せてみろ。

 

 

 ☆☆☆

 

「風村どこに行ってたんだ? サッカー部の進退とお前の退学がかかってんだぞ!」

 

 帰ってきた風村に染岡が詰め寄る。

 

「悪い、ちょっと()()()()があってな」

 

 悪いと言う割にはまったく反省した様子のない風村の様子に染岡は息を吐く。心の中で小野がキレるのもわかるな、と思った。 

 

「あれ、久藤監督は?」

 

 帰ってきたばかりの風村が言った。

 

「校長室に向かわれましたよ。 生徒会の人が校長からの伝言を久藤監督に伝えに来たんです」

 

 風村の疑問に少林が答える。

 自分で聞いておきながら興味なさげな顔をする風村。

 

「風村はやくユニフォーム着ろよ。もうすぐ帝国学園が来るんだから」

 

 半田が風村のユニフォームを手渡し、はやく着替えるように促す。

 

 その時、快晴だった空に厚い雲が覆い風が吹き、地面が揺れた。皆が何事かと思っていると校門の前には装甲列車をモチーフにしたような、車というには大きすぎる鉄の塊が停まっていた。

 

「……来たか」

 

 誰かが呟いた。

 扉が開き、レッドカーペットが扉からグラウンドまで敷かれる。中から軍服を着た十数人の者たちがカーペットの傍でサッカーボールを踏みつけ敬礼する。

 敷かれたレッドカーペットの上を帝国ウェアを着た11人が歩く。その様は異様な光景で彼らが放つ圧に誰も声を出すことはできなかった。

 

「あれが、帝国学園……」

 

 半田真一が呟いた。怯えはない。

 ただ、今まで感じたことのないプレッシャーに戸惑っているのだ。他のメンバーも同じく、帝国イレブンの放つプレッシャーに戸惑っていた。

 そこに丸い眼鏡をかけ、マイクを持った雷門の生徒が雷門イレブンの元に走ってきた。突然やってきた生徒に雷門イレブンは困惑する。 皆が困惑する中、風村がその生徒に声をかけた

 

「ナイスタイミングだ、角馬(かくま)

 

「知り合いか?」

 

 風丸が風村に聞いた。

 

「ああ。 去年知り合ったんだ。 紹介する、こいつの名前は角馬圭太(かくまけいた)。将棋部の部員で()()()()()雷門の試合を実況してくれる。以上、紹介終わり」

 

「はい! 小生、角馬圭太と申します。 風村から皆さま雷門イレブンの実況をしてほしいと頼まれ馳せ参じました! これからよろしくおねがいします!」

 

 テンションが高い角馬に「スゴイのがきた……」と皆一様に思った。 

 マックスが風村に質問する。

 

「これからのってどういう意味だ? そもそもソイツ実況なんてできるのか? 」

 

 マックスの疑問は当然だろう。

 サッカーの実況を将棋部員がするのだ。サッカーと将棋、共通点が見えない。

 

「ああ、角馬の父親ってあの角馬王将(かくまおうしょう)なんだ。 こいつ、父親に憧れているみたいで、実況の練習をしてたから大丈夫だ」

 

「実況の練習って何だよ。 父親が角馬王将ってのは驚いたけど」

 

「二つ目の質問の回答は以上。 順番が逆だけど、最初の質問に対する答えは……」

 

「答えは何だよ」

 

 言いよどむ風村。マックスからの質問に彼としても答えたいが、流石に今、「宇宙からの侵略者・エイリア学園がやってきて、その試合を実況してもらうから」と言えばマックスだけじゃなく、他の部員たちにも「ついに頭が壊れたか」と思われ、練習試合の前に、学校のすぐ近くにある病院に緊急搬送されるだろう。 

 四十年間無敗の帝国が、弱小チームと称されるチームと正々堂々戦い、敗北する。 

『チーム全員が世界トップ選手』そんな未来を見たくて今まで無茶な事をし続けたのだ。 帝国との試合はその第一歩。最初の一歩を踏みハズすのは御免被る。

 

 マックスからの問いにどう答えようか迷っているとサッカー部の顧問、冬海先生が額に汗を浮かべ、雷門イレブンのもとにやってきた。

 

「ハァ、ハァ、あ、あなた達、お客様を無視して一体いつまでボサッとしているのですか!? あちらは大変お待ちになっておられますよ!」

 

 冬海の言葉に雷門イレブンはグラウンドの中央で待ちぼうけている帝国イレブンを見る。 帝国イレブンを含む雷門イレブン以外の者は一体いつになれば試合が始まるのかと苛つきだしている。

 その雰囲気に気付いた円堂は帝国イレブンに近づいてキャプテンとして帝国イレブンに謝罪する。

 円堂の謝罪を帝国学園キャプテン、鬼道有人(きどうゆうと)は受け入れ、ウォーミングアップのためにグラウンドを使う許可を円堂に求める。

 それに対し円堂は勿論だと頷き、帝国学園のウォーミングが始まる。

 

 帝国のウォーミングアップが始まり、雷門のマネージャー、木野秋は同じくマネージャーの小野冬花と共に試合が始まるのをベンチで待っていた。そこにある人物が声をかける。

 誰なのだろうかと振り向くと、左手には手帳を、頭に眼鏡を、カメラを首に()げる女子生徒がいた。 

その生徒に木野は思いあたりがないので一年生だろうかと思った。 何の用だろうかと思っていると女子生徒が元気な声で自己紹介する。

 

「こんにちは! 私、新聞部の音無春奈(おとなしはるな)っていいます! サッカー部の皆さんを、特に風村先輩を取材させていただきたく来ました! あっ、隣いいですか?」

 

「隣に座ってもいいか」と聞いておきながら返事を待たず自分の隣に座る音無に苦笑いする木野。

 二人のやり取りを見ていた小野は「この子、風村くんと近い感じがする」と長年風村に振り回されてきたことで身に付いた直感が告げていた。

 

「取材? みんなのことだけじゃなく風村くんのことも?」

 

 サッカー部の取材だけなら別に構わないが、雷門中、いや、日本一の問題児である風村の取材も、となると些か(いささ)警戒してしまう。

 

「はい! 私、実は入学式の日に風村先輩にナンパされたんです!」

 

 コイツ、とんでもない爆弾を落としやがった。

 

 こんな汚い言葉遣いを本来の木野なら使わないが余りにもインパクトが強過ぎる話に脳が少しおかしくなってしまった。いや、これだけでは大した問題ではない。問題なのは風村の第三の保護者となっている小野冬花の前で暴露したことだ。

 小野に風村への恋慕があるか木野は知らない。前に一度その場の勢いで聞こうとしたが目が怖かったので聞くことをやめてしまった。例え小野にそういった想いが無くとも入学したての新入生をナンパしていたことを知れば間違いなく小野はプッツンする。流石にそれを諌めて小野と風村が双方納得出来るように調整するなんてことはできないし、やりたくない。プッツンした(小野)の怖さを知っているからだ。

 背に冷ややかな汗が流れた。小野の最初の言動を一挙一足、一言一句逃さないように木野は神経を(とが)らせた。

 

 小野が座っていたベンチから立ち上がり、木野と音無の間に無理矢理座る。

 音無の方に顔を向けて発する。

 

「その話、詳しく教えてくれるかな?」

 

 ああ、これはダメだ。

 自業自得(じごうじとく)だが、これから散りゆく風村に木野は心の中で冥福を(いの)った。

 

 

 

 ☆☆

 

 帝国のウォーミングアップ終了後、フィールドの中央に帝国、雷門のそれぞれ11人が揃う。

 一方は余裕の表情を、もう一方は緊張で表情がカタイ。

 帝国イレブンから放たれるプレッシャーに雷門イレブンが驚いているなか、風村は原作を振り返る。

 

 帝国学園との練習試合。原作なら帝国のウォーミングアップを見て圧倒される雷門イレブンと円堂に鬼道がシュートを放つ。それを円堂が正面から受け止める。あまりの威力にグローブが焦げ、円堂は鬼道の実力を知る。鬼道がコイントスを必要ないと審判に伝え試合が始まる。

 

 というのが大まかな原作の流れだが、今現在、鬼道は円堂にシュートを放っていないし、コイントスを拒否していない。

 ①風村颯太という異物が混じってしまった影響だろうか? 

 ②俺の存在が帝国に何かしらの影響を与えたのか? 

 ③帝国は俺たち雷門イレブンの実力に気が付いていて警戒しているのか? 

 そう考え一時思考を中断し、考えを精査する。

 

 まず①だが、これは可能性大だろう。帝国の総帥影山の背後にはガルシルドがいる。だが、当のガルシルドは風村颯太の叔父(完璧超人)にナニカされて光堕ちしている。

 ガルシルドの力を利用していた影山にとってガルシルドの消失は大きなダメージだろう。

 

 次に②。これも可能性大だ。帝国の総帥、影山がガルシルド消失の影響を受けているのだろうから影山の最高傑作である鬼道有人(きどうゆうと)にも何かしら影響があるはずである。ならば、彼が指揮するチームも原作との相違点があるはずである。だが、それは実力が飛躍的に上昇しているということではない。去年のF F(フットボールフロンティア)決勝とつい先程のウォーミングアップを観た限りでは帝国の実力は原作の第一話から大きくは離れていない。誤差の範囲内だ。

 

 そして③これはない。もし、帝国が今の雷門の実力を知っていれば余裕の表情を見せたりはしないはず。

 

 しかし、余裕の表情をみせる帝国イレブンの中に一人だけ風村を睨み付ける者が一人いた。鬼道有人だ。

 何故鬼道が風村を睨み付けるのか、風村にはわからなかった。風村自身、鬼道に接触したこともなければ彼の()()()()()に近づいたことさえない。

 自分でも気づかぬうちに鬼道の恨みを買うことをしたのだろうか。心当たりが多すぎてどれが原因か全く分からないでいる。

 

 

「ん? 風村試合が始まるぞ。はやく配置につけよ」

 

 円堂が考え込む風村に声をかける。

 コイントスが終わり、雷門も帝国の選手も各々の配置に付き始めている。風村が一言「ごめん」というと風村は自分の配置につく。円堂も自分の配置につく。

 風村は染岡の隣、つまりFWの位置にいる。雷門には染岡、風村、目金の三人がFWである。しかし、目金は情報戦の担当でもあり、チームを勝利に導くための戦術家なので前半は参加せず、情報が集まりきった後半から入るのだ。(後半から入るのは目金の体力も関係している)

 なので雷門のフォーメーションはこうなる。

 

 FW       染岡   風村

 MF  宍戸  少林(目金) 半田  松野

 DF 影野    栗松    壁山    風丸

 GK           円堂

 

 試合が後半になれば相手を解析した目金が少林と交代し、試合に入る。

 

 試合開始を告げるホイッスルの音が鳴る。

 雷門対帝国。無名対無敵。劣等生(落ちこぼれ)優等生(エリート)

 雷門監督久藤道也が不在の中、試合が始まる。

 

 

 




『サッカー部はヤバい』噂話
曰く、ラーメン屋の店主を拉致ろうとして店をキャンプファイヤーにしかけたらしい。

曰く、プールや学校の建物が壊れるのはサッカー部が建設会社と裏で手を組んでいて金儲けしているらしい。

曰く、サッカー部員の親はサラリーマンを装った化け物らしい。

曰く、立入禁止区域である富士山に合宿と称して山頂まで登ろうとしたらしい。

曰く、雷門中に救急車や消防車がよく来るのは雷門親子を過労と評判で押しつぶし、雷門中を支配するためらしい。

他にも嘘か真か分からない噂話が横行している。
因みに、新聞部がサッカー部その全容を暴く事を正式に発表しており、生徒、教師、用務員、経営陣が密かに楽しみにしているらしい。


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試合開始②

 

 雷門中本校舎の雷門夏未に与えられた個室にて、雷門夏未と雷門中サッカー部()()監督の久藤道也(くどうみちや)の二人がいる。

 グラウンドでは雷門イレブンと帝国イレブンの試合が始まっている。にも関わらず、雷門の監督である久藤道也がコートを離れ、女子生徒と二人っきりになっているのは、久藤道也の眼の前にいる雷門夏未に呼び出された事と、雷門夏未に確かめねばならないことがあったからだ。けっしてロリコンだとか、雷門夏未に催眠術をかけて自分のことを父親と認識させるためではない。

 

「本日はどういったご要件(ようけん)でしょうか。

 私は監督としてチームを導かなくてはならない。聡明(そうめい)貴女(あなた)なら、それが分かるはずです」

 

 苛立(いらだ)ちからか語気を(つよ)めた久藤道也の(とい)に、雷門夏未は沈黙で答える。そのまま数十秒時が流れた。外から歓声が聞こえた。

 久藤道也は雷門夏未の態度を見て、要件はない、と解釈し、退室しようとする。

 

「お待ちになって」

 

 沈黙していた雷門夏未が口を開く。

 

「貴方のことは雷門サッカー部の臨時監督になられる前に、()()()()()調査させていただきました。人柄やその経歴も」

 

 雷門夏未が語りだしたが、それは久藤道也が本当に聞きたかったことではなく、また、試合直前の監督を呼びつけて話すことでもなかった。

 

「それは試合の直前に言わなければならないことですか? それだけなら失礼します」

 

 止めていた足を再び動かし始めようとした時、もう一度雷門夏未が口を開く。

 

「『風村颯太(かぜむらそうた)の退学』これについて知りたいのではなくて?」

 

「……もったいつけずに教えて頂きたい。何故今なのですか? 本人が問題を起こして退学処分は分かります。ですが、お咎めなし、となった(のち)に『試合に負ければ退学処分』これは横暴が()ぎる。

 一体誰の指示なのですか? 貴女個人で決定したとは思えない」

 

「貴方に其れを話す筋合いはないわ。 でも、これだけは言えます」

 

 真剣な面持(おもも)ちになって、雷門夏未は話す。

 

(風村颯太)の背後にいる存在に、上は目を光らせている。 今、私が言えるのはそれぐらいです」

 

 ☆☆☆

 

 雷門夏未との会合を終え、久藤道也は監督としてチームの元に向かう。

 彼女の言葉に出てきた『上』という存在はおそらく雷門中の理事長ではない。

 もし仮に理事長が、風村の背後にいる存在を警戒しているのなら、娘の安全を確保するために娘にはそんなことは伝えないはず。だが、彼女はそのことを知っている。これは理事長本人が雷門夏未に情報を流したからだろう。それならば、彼女は『上』と呼ばずに『理事長』と言えばいい。久藤道也に話しても危険はないと確信しているのだから。だが実際に彼女は『上』と発言した。彼女が『上』というからには理事長代理(雷門夏未)よりも強い権力を持っているはず。理事長代理より上と言えば理事長しかいないだろう。しかし、その『上』というのは理事長ではない。では一体誰なのか。その正体は全く不明だ。だが、久藤道也にまったく違う憶測が生まれた。

 

 風村の両親はすでに他界。保護者も仕事ばかりで世話をしているのは家政婦のみ。あいつの礼儀作法や常識の欠如は家庭環境と両親の他界が原因なのではないだろうか。『幼い時期に親から愛情を受けていない子供はそうでない子供と比べて精神的に未熟』ということを聞いたことがある。もしかすれば風村もそうなのかもしれない。いや、間違いない。普通の子供は授業中窓から飛び降りてサッカーしないし、プールを毎年破壊しない。夜中に学校に忍び込んでボヤ騒ぎを起こしたりしないし、立入禁止区域に侵入しない。もしや風村の背後にいる人物は世話をしている家政婦か? それとも保護者である叔父か。情報が少なすぎて判断ができない。

 だが、しかし、教師として、サッカー部の監督として、大人として子供を守り、育てねばならない。何が悪かったのか、何が良いことなのか、自分で気付き、反省し、改善していくことが子ども自身の成長につながるはずだ。だが、もし、間違った道を歩むのなら責任を持って止めねばならない。もし、風村が誰かに操られていたり、虐待されているのなら助けなければならない。それが教師として、大人としての責務だろう。

 

 久藤道也はそう決意し、廊下を走らないギリギリのスピードで歩く。子供を導き育てる教師(大人)生徒(子供)の手本にならなければならない。

 外からまた歓声が聞こえた。試合は前半をあと半分残している。久藤道也がチームに合流する頃には前半終了間近だろう。後半が始まる前にチームと合流し、作戦を伝える。

 

 この日より、サッカー部の部員、特に風村は久藤道也にサッカーだけでなく、道徳や勉学を叩き込まれることになる。

 

 ☆☆

 

 コイントスの結果、雷門ボールからのスタートになった。 試合開始を告げるホイッスルがなった。

 

『さあ、始まりました! 帝国対雷門! ボールは雷門イレブンからです!』

 

 染岡はボールを後ろにいる半田真一にパスして相手陣地をあがっていく。

 風村や他のメンバーも戦線を押し上げる。

 

()がれ、上がれ!」

 

 後方からゴールキーパー、円堂守がチームに檄を飛ばす。

 FWだけでなく、MFやDFも前に進む。ボールを持った半田真一は染岡にボールをパスする。半田からのパスを受け取った染岡に佐久間(さくま)寺門(じもん)がスライディングでボールを奪おうとする。染岡はジャンプして(かわ)し、ゴールに向かう。

 

「染岡先輩、パスください!」

 

 宍戸が染岡にパスを要求する。

 

「ああ! いくぞ宍戸!」

 

「はい!」

 

 染岡から宍戸にポールが渡り、更にそこから少林、半田、松野にポールが流れる。

 

「風村!」

 

 松野が風村にボールをパスする。

 松野からボールを受けた風村の前に、帝国DF五条勝(ごしょうまさる)が立ちふさがる。

 

「通らせてもらうぜ、人気投票一位!」

 

「!?」

 

 突然意味のわからない言葉を投げられて、五条はフリーズする。そのスキに風村は五条を抜き去り、帝国キーパー、源田幸次郎(げんだこうじろう)と向かいあう。

 風村がシュートを打ってきても対応できるように腰を落としてゴールを護る。

 

「オラァ!」

 

 風村のシュート。無名の選手にしてはスピードのあるシュート。しかし、KOG(キング・オブ・ゴールキーパー)源田幸次郎には例え1億回打ってもそんなシュート通用しない。

 真正面から受け止めて終わりだ。源田は迫ってくるボールをキャッチしようとするが、ボールは源田のすぐ目の前で()()()曲がった。

 

「なに!?」

 

 あり得ない軌道を通るボールに源田が硬直していると、一人の選手がゴールに向かってくる。

 丸刈りにしたピンク色の髪を持ち、強面な漢、染岡がニヒルに笑い、ボールを()()()()

 

「ドンピシャだぜ!」

 

「いけ! 染岡!」

 

「ああ! 喰らえ、俺の必殺技を!」

 

 ボールに青いエネルギーが集まり、染岡が右足でゴール目掛(めが)けて必殺技を放つ。

 

()ドラコンクラッシュ!!」

 

 (あお)い手足のないドラゴンが、エネルギーとボール共に、獲物(えもの)に飛びかかるようにゴールを襲う。

 あまりの威力と威圧感に源田は必殺技どころかボールに触れることさえできず、ボールがゴールに突き刺さる。

 

 雷門中の生徒も、実力を(はか)ろうと試合を観戦していた豪炎寺も、そして、今、ゴールを決められた帝国イレブンも、雷門イレブンとマネージャーたち以外は今起こった出来事に反応することが出来なかった。故に、静寂。

 実況の角間でさえ、それを頭で処理するのに数秒かかった。 処理が終わり、現実を認識した角間は、実況を再開する。

 

『ゴ、ゴール!! 染岡が決めたぁ! 雷門の先制点です! 繰り返します、雷門が先制点を決めました!!』

 

 

 実況の声でもっとも早く、かつ、同時に我に返ったのは、帝国キャプテン・鬼道有人と豪炎寺修也の二人である。

 昨年、()()()事故が無ければ決勝を(たたか)うはずだった二人を共通の恐怖と緊張が襲った。

 

 

「なんだ、いまのシュートは?」

 

 

 今まで見たことのない威力のシュート。

 

 デスゾーン(帝国最高火力)では敵わない。

 

 ファイアトルネード(己の代名詞)では()えられない。

 

 鬼道、豪炎寺、両者ともにサッカーで名を挙げた、謂わばエリートだ。才能だけではない。才能を開花させるために努力した。 誰よりサッカに己の(すべ)てを捧げた。そのはずなのに、なんだあのシュートは。

 無名の、それもたった二年前に再建されたサッカー部に何故こんな化け物がいる? 

 

 理解できない。

 起こってはならないことだ。

 

 豪炎寺の脳裏に風村の言葉が(よぎ)る。

 

『来年には俺たち全員が世界トップレベル』

 

 嘘ではなかった。莫迦ではなかった。傲慢ではなかった。

 

 本当に実現できることをアイツ(風村)は言ったのだ。

 

 

 試合開始からまだ、一分も経ってはいない。

 

 帝国ボールから試合再開だ。

 

 

 

 ☆☆

 

 

 

「どうだ決めたぞ! 初ゴール!」

 

 染岡が歓喜の声を上げる。

 ゴールを決めた染岡のもとにチーム全員が集まって染岡を賞賛する。

 

「ナイスシュート!」

 

「かっこよかったでヤンス!」

 

「すっごくシビレましたよ、いまのシュート!」

 

 チームメイトからの賞賛を染岡は恥ずかしそうに受け取る。そして、最高の()()をくれた風村に礼を言う。

 

「風村、いいパスだったぜ!」

 

「帝国のゴールキーパー、シュートだと勘違いしてたし、やっぱ風村の器用さってホントとんでもないよ」

 

 そうなのだこの選手(風村颯太)。サッカーにおいては誰にも負けない技術を持っており、それが必殺技と言って差し支えない。

 ボールの進行方向を自由自在に操作する。こんなことが出来るのはコイツだけだろう。

 ボールの進行方向が突然逆になるなんて誰にも予想が出来ない。源田が弱かったのではない。コイツの技術が化け物すぎるのだ。

 

 

「よーし! もう1点! ガンガン攻めてくぞ!」

 

 

「「「「「「おう!」」」」」」

 

 

 雷門イレブンが先制点を取り、士気が爆発する。

 先制点を奪われた帝国イレブンは困惑していた。

 

「なんなんだ今のシュートは」

 

「明らかにデスゾーンを上回る威力だぞ」

 

「いや、11番(染岡)のシュートもそうだか、99番(風村)のあれば何だ? パスの必殺技なのか?」

 

 染岡のシュートは帝国イレブンたちに衝撃を与えた。

 しかし、それをアシストしたのは風村からの変幻自在のパスだった。ボールがキーパーの直前で軌道を変える。その技術を必殺技だと誤認してしまっても可笑しくはないだろう。

 巣を突かれた蜂のように慌てる帝国イレブンに帝国キャプテンテン鬼道は一喝する。

 

「確かに11番と99番の組み合わせは脅威だ。それならこの二人を近づけさせねばいいだけのこと。あの一点は俺たちの油断から産まれたようなものだ」

 

「どんなシュートを持っていようと、撃たせなければ意味がない。 洞面(どうめん)咲山(さきやま)。11番と99番をマークしろ。 この二人を近づけるな。

 寺門(じもん)佐久間(さくま)、デスゾーンを開始する。 洞面の位置に寺門が入れ。 俺が始動を行う。 ディフェンスはー」

 

 冷静に指示を出す鬼道であったが、実は彼がもっともショックを受けていた。

 帝国の狙いは転校してきた豪炎寺修也の力量の把握。

 雷門イレブンのことなど気にしていなかった。

 だが、練習試合とはいえ、相手の情報を知らないということは司令塔としての鬼道有人が許さなかった。

 調べによると、雷門はその昔は強豪だったようだが、それ以降は()ちぶれたようで、今のチームは二年前に再建された弱小チーム。 公式試合にも参加記録がなく、どんな選手が居るのか全くわからなかったが、所詮は弱小。帝国が遅れを取ることなど無いと判断し、雷門のリサーチは終了した。

(調べる過程で雷門中の様々な噂を知ったが、こんなことが毎年起こるなんてあり得ない。と思ったが、もし噂が本当なら、妹である音無春奈が影響されたり、巻き込まれていなければいいが、と心配して前日は眠れなかった)

 

 

 だが、蓋を開けてみれば厄災が出できた。

 帝国エースストライカー、寺門を遥かに上回る必殺シュート。 己を上回る超技術の持ち主。それを見て一切慌てるどころが、次は自分が決めると云わんばかりの表情の雷門イレブンたち。

 再建されてニ年なら奴等は二年で帝国(頂点)を超えたことになる。そんなことがあり得るか? 厳しい練習を、日本各地からやってきた天才、秀才たちとの過酷なスタメン争いを制した自分たちが弱小チームに劣る。

 その事実が鬼道を苦しめる。それに加え、実の妹、音無春奈がウォーミングアップ中に発言した言葉がより心抉(こころえぐ)られる。

 幼い頃はずっと一緒にいた。春奈がいじめられたら真っ先に駆けつけて守った。

 その後自分は鬼道家に引き取られ、春奈は別の家に引き取られた。帝国に入ってFF(フットボールフロンティア)三連覇すればまた、春奈と暮らせる。幼い頃のように兄妹一緒にいられる。そのためにサッカーに総てを捧げた。

 

 その裏では、風村とかいう鬼道以上の技術の持ち主が春奈に近付き、春奈を手に入れようとしていた。

 最悪(恋人関係)の状況になってはいないが、雷門のマネージャーと話をしていた表情は風村を意識していることが感じ取れた。

 

絶対に赦さない

 

 

貴様(風村)に春奈が護れるか? 

 

 

春奈を幸せにできるか? 

 

 

貴様(部外者)に勝利も春奈も渡さない

 

 

 

 一切の油断なく、全力をもって叩き潰す。王者として、兄として負けるわけにはいかない

 

 

 

俺たちの実力を雷門に教え込んでやる

 

 

さあ、サッカー(蹂躙)を始めよう

 

 

 

 



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風村颯太郎/影山零治

時間かけすぎました。



「豪炎寺修也君だよね?」

 

 雷門が先制し、帝国ボールから試合が再開される直前、豪炎寺にスーツを着た男が声を掛けた。

 

「……確かに俺が豪炎寺修也です。 一体何のご要件でしょうか? 部外者は学校の敷地内に入ることは禁止されていますが」

 

「ん? あーッ、私はこういう者です」

 

 スーツの上着に手を入れ、名刺入れを取り出し、そこから一枚の名刺を豪炎寺に差し出した。

 豪炎寺は差し出された名刺を受け取り、そこに書かれた名前を見て驚愕する。

 

株式会社エルドラド代表取締役
   

風村颯太郎

 

『風村』この苗字(みょうじ)は珍しくはないが、豪炎寺にはある人物の姿が思い浮かぶ。

 

「颯太、あっ、私の甥っ子でね? 数年前から一緒に住んでいるだよ。 ほら、試合に出ている背番号99番の」

 

 コートにいる風村颯太を指でさす。その表情は純粋な笑顔である。

 笑顔のまま風村颯太を指しながら、風村颯太郎は話す。

 

「実は颯太に頼まれごとをしてね、『君をサッカー部に入れて』って頼まれちゃたの」

 

 俺をサッカー部に? 何を今さら。 俺はサッカーをするつもりはない。夕香が目覚めるまで俺はサッカーを―

 

「『妹が目覚めるまでサッカーしない』って聞いたからさ、君の妹さん、豪炎寺夕香ちゃん? を目覚めさせたんだよ。 ついさっき」

 

「!?」

 

 衝撃を受ける豪炎寺を尻目(しりめ)に颯太郎は上着のポケットから携帯電話を取って電話をかける。

 呼出音(よびだしおん)が鳴る携帯を豪炎寺に渡す。

 受け取った携帯を耳元に持っていき、繋がるのを待つ。

 呼出音が切れ、通話ができるようになる。

 

「もしもし?」

 

『……もしかして、お兄ちゃん?』

 

「夕香!?」

 

 電話からの声は豪炎寺の妹である豪炎寺夕香のものであった。しかし、彼の妹は一年前の交通事故で意識不明でいつ目覚めるかわからない状態なのだ。

 

「夕香、何もされてないか! 無事なのか!」

 

 電話から聴こえる声は間違いなく妹の夕香のものであった。

 

『……? 大丈夫だよ? それより聴いたよ! お兄ちゃん、私のせいでサッカーを辞めたって』

 

「ち、違う! お前のせいじゃない! サッカーを辞めたのは俺の意思で……」

 

 久し振りの妹との会話。こんな気持ちで話したくはなかった。

 

『お兄ちゃん、お願いがあるの』

 

「な、何だ?」

 

『あのね、サッカーやって』

 

「!!」

 

『そこにいる、風村さん? が言ってたんだけどお兄ちゃん、私が眠っている間大好きなサッカーできなかったって』

 

『だがらね、夕香のこと気にせずサッカーやって。

 お兄ちゃんが好きだったサッカーを……』

 

 大好きなサッカーをする、そう考えただけで胸が熱くなる。その情熱はやがて火となり、爆炎となる。

 

「夕香、お兄ちゃんちょっとサッカーしてくるよ。それまでそこで待っていてくれないか?」

 

『うん! 待ってるね、お兄ちゃん!』

 

 豪炎寺修也は電話を切り、颯太郎に返す。

 

「これでサッカー部に入ってくれるよね? 豪炎寺修也君」

 

「……俺は、俺のサッカーをする。それだけです」

 

 彼の瞳に再び火が宿った。

 

 

 ☆☆☆☆

 

 

1ー0

 

 四十年間無敗の帝国が無名のチームから先制点を奪われるという異常事態に驚愕していた観客や帝国選手たちもクールダウンし、帝国ボールで試合が再開する。

 

 

『雷門が先制点を決め、ボールは帝国学園からです!』

 

 帝国FW寺門は再開のホイッスルと同時にMF咲山(さきやま)にボールを渡し同じくFWの佐久間と共に雷門陣地に入っていく。

 雷門のFW染岡と風村は攻め入ってくる帝国イレブンに目もくれず帝国陣地を進む。

 その様子に驚きと侮辱を感じる寺門。

 

 帝国のエースストライカーに目もくれずにゴールに走るだと? 

 

 FW(染岡と風村)が守備に入らずゴールに向かうってことはコイツラ(仲間)が俺からボールを奪うことを確信しているからだ。

 

 俺たちは帝国学園。まぐれで取った一点で調子に乗りやがって。テメェらに見せてやる。

 帝国のエースの実力を。

 

 ボールを一旦佐久間にパスし、ゴールに近付こうとしたとき、雷門の背番号3番壁山塀吾郎(かべやまへいごろう)が寺門の前に出る。

 

 お前一人にトメられてたまるか! 

 

 強引に壁山を抜こうとしたとき、壁山は己の必殺技をくり出す。

 

「真ザ・ウォール!」

 

 要塞のように堅固な壁が立ち塞がる。

 壁山のブロック技だ。寺門からボールを奪った壁山は栗松にパスを出す。

 パスを受け取った栗松に佐久間がボールを奪おうと迫る。

 

「真まぼろしドリブル!」

 

「何!?」

 

 ドリブル技で佐久間を抜く栗松。己が抜かれるなど思ってもいなかった佐久間はフリーズする。

 そのスキをついてボールを少林に繋ぐ。

 ボールを受け取った少林は誰も想像していなかった行動に出る。

 

 

「真クンフーヘッド!」

 

 センターラインを越えた場所からの必殺シュート。

 予想外の行動に雷門の選手以外が驚いている中、染岡は少林の必殺技に更に必殺技をかけようとする。

 俗に言うシュートチェインだ。

 それを知るものはシュートチェインだと思った。

 しかし、それはシュートチェインなどではない。

 

「ドラゴンー」

 

 先程見せた青色のドラゴンが放たれる。それはゴールにではなく、()()()である。

 

「……まさか!」

 

「トルネード!!」

 

()()と共に回転しながらジャンプする風村。

 青いドラゴンに黒炎が加わり、ドラゴンの色は黒色に変わり黒炎を纏いながらゴールに向かう。

 

 青いドラゴンを上回る黒いドラゴン。

 先程のシュートとは違い距離があり、奇襲ではないため、帝国ゴールキーパー源田は己の必殺技を発動する。

 

「パワーシールド!」

 

 必殺技の発動と共にオレンジ色の衝撃波がゴールを全方位から護る。どんな方向からでも対処可能な万能の必殺技であるパワーシールド。至近距離からのシュートのみが弱点である。

 

 黒いドラゴンと衝突する。その瞬間、パワーシールドの衝撃波にヒビが入り、砕け散る。

 パワーシールドでは抑えられないパワーに、ボールと共にゴールに押し込まれる源田。

 雷門の追加点である。

 

2ー0

 

 無名校の雷門中が帝国学園から先制点を奪っただけでなく、追加点を決めた。それも圧倒的な実力差で。

 

 

 追加点を入れたドラゴンの必殺技とファイアトルネードと酷似した必殺技のオーバライド。

 どちらか一つでも帝国のゴールをこじ開けることが出来た。

 にも関わらず、なぜ風村はオーバライドを? 

 それもファイアトルネードと酷似した必殺技で? 

 

 地面に降り立った風村颯太は豪炎寺に向かって口角をあげて笑った。

 テストで100点を取ってクラスメイトに自慢するかのように。

 

 

 

 ☆☆☆

 

 

「おお! 去年よりパワーアップしてる。 確か、『ダークトルネード』といったかな? あの技。 豪炎寺くんも颯太と似たような必殺技持ってたよね? 名前何だっけ?」

 

 となりからの言葉が耳に入らぬほど、豪炎寺修也は驚愕する。 まさか、『ファイアトルネード』と似たような必殺技が存在していたとは。

 名前やモーションは似ていても、その威力までは全く似ていない。

 

 回転、炎の勢い、豪炎寺のファイアトルネードを上回る黒い炎。

 

 だが、それを見て劣等感は感じなかった。

 強面の11番が青い巨大なドラゴンを放った彼とツートップを張る風村が弱いとは思っていない。

 練習を続ければいつか自分もあのレベルに達する日が来るだろう。

 しかし、今あのレベルと対等以上に戦うことは出来ない。

 例え雷門サッカー部に入部したとしても()ぐには強くはならない。次のF F(フットボールフロンティア)まで時間はない。一体どうすれば……。

 

 颯太郎は手に持っていた(かばん)を豪炎寺の目の前に出す。

 

「この中に入っているモノを使えば君は強なれる。 彼等よりもね」

 

「!! ドーピングなんて俺は―」

 

「ドーピングじゃない。スパイクとミサンガさ。使う、使わないは君の自由だけど、強なりたいなら使ったほうがいいけど、どうする?」

 

 颯太郎の提案に怪しいと思いながら鞄を受け取り、中身を確認する。中にあるのは颯太郎の言うとおり、スパイクとミサンガだった。

 しかし、店で売られているような既製品ではない。

 スパイクには炎を彷彿させるような模様が入っており、ミサンガは獰猛な火炎の様に真っ赤である。

 

「これは一体?」

 

 豪炎寺の呟きに颯太郎は答える。

 

「それは君専用のアイテム。 名前を付けるなら『爆炎のスパイク』と『炎のミサンガ』かな」

 

 鞄からミサンガを取り出し、右手に着けてみる。 すると、身体の奥から力が湧き上がってくる、としか言いようが無いほどの力が豪炎寺に(みなぎ)る。

 突然の出来事に驚き、ミサンガを右手からはずす。

 

「どうだい? 使う気になったかな」

 

「……いや、やっぱりいい。 俺は道具の力になんて頼る事はしない。 自分の努力で実力を付ける。 雷門サッカー部だって、そうやって強くなったはずだ」

 

「でもそれは時間をかけ過ぎする。これを使えば君は強くなる。 ドーピングだとか、不正を疑われるものじゃない。 言ったろ? 君専用だって。 それらは君の潜在能力をある程度引き出してくれる。 遅かれ早かれ開花するなら、早いほうがいい」

 

「道具に頼って力を手にするのは悪いことじゃない。 君が別人のように強くなっても誰も君を非難しない。

 あいつは才能がある、だとか、特別だからといった言葉で凡人たちは君を決め付ける。

『炎のエースストライカー』と呼ばれる君を羨むことがあっても、非難するものは誰もいないさ」

 

 デメリットなく力が手に入る。それはまさしく悪魔の誘惑。それに豪炎寺は抗う。自分のサッカーをすると妹に約束した。サッカーを楽しむのだと。サッカーに掛ける思いが誘惑に勝利した。

 

「道具に頼った力なんて俺は欲しくはー」

 

「君の意思はわかった。 でも結論を出すのはまだ早い。

 この試合の終わりにまた聴かせてよ。 その頃にはたぶん、君の意志は変わってると思うけど」

 

 風村颯太郎を(いぶか)しむ豪炎寺。

 それを全く気にせずに試合を観戦する颯太郎。

 

 豪炎寺はこのとき、「コイツラ(風村ファミリー)を夕香に近付けない」と誓った。

 視線を颯太郎から離し、帝国キャプテン・鬼道を観る。

 圧倒的な攻撃力を持つ雷門に対し、帝国がどう対応するのか、はたまた、雷門がねじ伏せるのか、この試合の行く末を颯太郎と共に見ることにした。

 

 

 ☆☆

 

 

2ー0

 

 スコアボードに映る雷門と帝国のスコア。

 帝国イレブン含めた観客たちも帝国が圧勝して終わりだろうと思っていた。しかし、試合開始から10分と経ってはいない中、雷門が帝国から2点を奪い取ることを彼らは予想もしていなかった。

 その結果、帝国イレブンたちは先制点を奪われたとき以上にチームの雰囲気が重くなる。

 

「クッソ、あいつらふざけやがって!!」

 

 そう(こぼ)すのは寺門だ。

 彼にあった『帝国のエース』という自信には亀裂が走る。

 

「落ち着け、寺門。 焦ったままじゃ、奴らの思い通りだ」

 

 荒れる寺門に対し、同じくFWの佐久間が(なだ)める。

 しかし、それでも収まらないのか寺門は鬼道に詰め寄る。

 

「総帥の目的の人物は単独なんでしょ! 鬼道さん、アイツラ一体何なんです! 俺たちを越える身体能力に必殺技、技術、アイツラが総帥の仰る人物なんですか! 答えてください!」

 

「おい、寺門やめろ」

 

「うるせェ! お前も、いや、他の奴らも気になっているだろ! アイツラの、雷門の正体を!」

 

「そ、それは……」

 

 口躊躇(くちためら)う佐久間。他の帝国選手たちも心当たりがあるようで鬼道がどう答えるか、視線を集中させていた。

 視線を向けられた鬼道は総帥である影山からの指示の内容をチームに話す。

 

「……総帥の指示では雷門に転校してきた豪炎寺修也の実力を判断するために弱小のはずの雷門イレブンを徹底的に痛めつけ、豪炎寺をひきづりだすこと。 これが総帥からの指示だ」

 

「ちょっとまってください! それじゃ答えになっていないでしょ! 俺たちは雷門の正体が知りたいんだ! アイツラの強さの秘密を!」

 

 叫ぶような声色(こわいろ)に鬼道は眉を(ひそ)める。

 

「お前たちポジションにつけ。 試合が始まるぞ」

 

「まだ答えを聞いていないですよ鬼道さん!」

 

「二度も言わせるな、早くポジションにつけ」

 

 それだけ言って鬼道は自分の位置につく。

 その背を見ながら寺門を始めとする数人は鬼道の対応に不満を漏らす。

 このままではチームの連携が崩れ、得点を許してしまうだろう。

 

 鬼道はチームの危機を理解し、されど何も指示を出さない帝国学園総帥・影山の考えを理解できずにいた。

 

 

 ☆

 

 

 帝国学園総帥・影山零治(かげやまれいじ)

 彼は雷門と帝国の試合を総帥室から画面を通して観ていた。

 そばにはガルシルドに仕えていた『ヘンクタッカー』がいる。

 もともとヘンクタッカーはガルシルドの秘書であり、ガルシルドの裏側の一切を取り仕切っていた。

 しかし、仕えていたガルシルドが何者かに襲撃され、『吐き気を催す邪悪』から『黄金の精神の持ち主』となってしまい、ヘンクタッカーとその一味は、反転前のガルシルドほどではないが、邪悪な精神を持つ影山に仕えているのだ。

 

「総帥、雷門の実力は帝国のメンバーを(はる)かに上回(うわま)っておりますが、いかが致しましょうか」

 

 己が手塩(てしお)にかけて育てた鬼道が率いる無敗のチームが弱小といわれる雷門に圧倒されていることに影山は眉一つ動かさずにいた。そんな気はしていたのだ。

 

「……ヘンクタッカーよ、もし、次、帝国が得点されれば、あの必殺T T(タクティクス)を使わせろ」

 

「はっ、承知いたしました」

 

 そう言って、ヘンクタッカーは総帥室から退出する。

 

 一人総帥室にいる影山は画面に映る風村颯太を観て、今から7年前のことを思い出す。

 

 世界征服を企むガルシルドが襲撃され、人格が反転してしまった。

 

 何を言っているかわからないが簡潔(かんけつ)にまとめるならこうとしか言いようがない。

 

 ガルシルドの突然の変貌(へんぼう)コチラがわ(闇の世界)の世界は混乱に陥り、大恐慌となった。

 その結果、多くの組織、人物が警察や、敵対組織に壊滅(かいめつ)に追いやられる中、影山はその(すぐ)れた頭脳(ずのう)と卓越した戦術眼(せんじゅつがん)によって損害を軽微(けいび)に抑え、国内外問わず、多くの組織から資金や、技術、土地等の資産を手に入れ、己の地盤をより強固なものとした。

 ガルシルドの一件から2年が過ぎ、情勢(じょうせい)が安定してきた頃、ガルシルドの変貌に関して、様々な噂が飛び交った。

『国際警察に洗脳された』『多国籍企業の連合に潰された』

といったものから、『神が罰を与えたのだ』という神罰論(しんばつろん)まで出てきた。

 

 どれも胡散臭(うさんくさ)い噂だと思ってた。

 その中でも『多国籍企業の連合に潰された』というのがまだ現実的に起こりそうな事だと考え、調査した。

 初めは対した手がかりを見つけることはできなかったが、数ヶ月経つと、情報が手に入るようになった。

 しかし、それらの情報はどれもおかしなものだったが、

 情報を一つにまとめて推理するととある人物が調査線上に浮かび上がった。

 

 

《center》株式会社エルドラド 代表取締役(/center)

《center》風村颯太郎(/center)

 

 突如あらわれたこの人物を新たな調査対象として、一年に及ぶ調査の結果、対象のあらゆる情報を調べることに成功する。

 

 性別は男で、年齢は33才、両親はすでに死去。

 唯一の兄弟も義理の姉と共に交通事故で死去。実の兄の子供を引き取り、住み込みで働く家政婦が面倒を見ている。

 最終学歴はアメリカハーバード大学を首席で卒業。

 その後、エルドラドという会社を起業。

 11人の従業員が働いており、業務内容は最先端技術を用いた医療器具、半導体の生産と販売を行っている。トップである風村颯太郎自身が営業をしており、国内だけにとどまらず、国外にも展開している。

 風村颯太郎の代わりに専務の藤堂(とうどう)という男が会社運営を行っている。

 身長は178センチ。体重62キロ。

 趣味は無し。 しかし、義理の兄の息子を溺愛している。

 

 上記の情報をもとに、風村颯太郎がガルシルドの件の犯人なのか確かめるため、自分と全く関わりのない組織に風村颯太郎を襲撃するように(そそのか)した。

 その結果、その組織は文字通り壊滅。在席していた人間は勿論、その家族や金融資産がまるごと消失していた。

 この報告を受けて影山は風村颯太郎がガルシルドの一件の黒幕だと確信した。

 

 君子危うきに近寄らず。

 

 影山は自分が行った悪事の一切を(ほうむ)り、帝国の総帥として君臨し続けている。

 

 それから7年たち、最高傑作(鬼道有人)が誕生するも

 脅威となる選手(豪炎寺修也)が現れた。その時は彼の家族に起きた不幸な事故のおかげでなんとか事無きを得た。

 だが、その脅威となる選手は、影山に因縁(いんねん)のある雷門中転校していた。

 炎のエースストライカーが全国レベルのチームに入れば帝国の脅威となる。

 雷門は脅威足り得るのか、ヘンクタッカーに調査させた。

 

 その結果は影山に危機感を抱かせた。

 復活した雷門は公式試合に出場したことがないが、選手にあの円堂大介の孫が、そして超危険人物の血縁者がいた。選手のみが厄介なのではなく、監督も一筋縄では行かない人物だ。雷門の監督を務めのは久藤道也(くどうみちや)

 彼が前に監督として率いたチームは『平凡』と自分なら評価するチーム。

 そのチームを一年でF F(フットボールフロンティア)全国大会レベルにまで仕上げ、出場させた。

 その時は運良く相手側が不祥事を起こしてくれたので帝国は苦戦することなく優勝した。

 

 わかるだろうか。

 キャプテンに円堂大介の孫。

 エースに豪炎寺修也と風村颯太郎の甥。

 監督として久藤道也。

 更にここに響までもが合流する可能性がある。

 

 運命とかいうクソったれが、この影山零治をゆっくりと、だが確実に、引きずり落とそうとしているとしか思えない。

 ならばこちらから先に仕掛けてやろう。

 先手必勝。

 未だ実力の程が知れない雷門だが、帝国の敵ではないだろう。そう思い、鬼道たちを雷門に送り込むことにしたのだが、不思議と嫌な予感がした。何か見落としているかのようなそんな気持ちの悪い予感が。

 その時は気のせいだろうと割り切り、実行に移したのだ。

 

「だが、これほどの見落とし、いや、誤算というべきか」

 

 息を軽く吐き、背を椅子に預ける。

 甘く見積もっても帝国の六割強位だと思っていた雷門の実力は完全に影山の予想を超えていた。

 実際は帝国メンバーを圧倒するほどに強い。

 子供と大人、ともいえる。

 雷門がここまで強くなったのは、監督である久藤道也の指導力と円堂大介の孫を中心とした選手たちの努力の賜物(たまもの)だろう。

 このままでは帝国は雷門に一点もとれないまま敗北を(きっ)することになる。それは帝国の無敗神話の終了と同時に影山零治のサッカーの敗北である。

そんなことは決して認めることは出来ない。

 

「試合に勝つのは何も得点だけではない。例えば、選手全員が試合続行不可の怪我をする、とかな」

 

 誰もいない部屋でそう呟いた。

 

 

 

 




9年前

5歳児 風村颯太
「おじさんあのね、ガルシルドってやつがね、ものすっごく悪いの。退治して(懇願)」

風村颯太郎
「ガルシルドって裏側で色々やってるヤバイやつのこと?」

5歳児 風村颯太
「そうだよ」

風村颯太郎
「あっ、いっすよ。 前から嫌いだったし」

7年前

風村颯太郎
「ん?どっかの組織が俺のことを狙ってる?潰さなきゃ(使命感)」
            ⬇
「コイツラけしかけたやつ、影山零治って名前なのね。
どうしよっかなー。悪そうだし、消しておこうかな」

7歳 風村颯太
「おじさーん! 円堂大介の秘伝書とエイリア石っての探してきてよ。俺、誕生日プレゼントでほしいんだよね」

風村颯太郎
「おじさん、今忙しいんだよね。 ミタさんに頼んでよ」

7歳児 風村颯太
「やだ。どっちか一つでもいいから」

風村颯太郎
「…わかった。でも、どれか一つだけね。本当に忙しいんだよ? 藤堂のおじさんが事務仕事もしろってうるさいから」

7歳児 風村颯太
「じゃあ、エイリア石で。 場所はたぶん富士山の頂上にあるはずだから」

風村颯太郎
「任せとけって」

六年と5ヶ月後

風村颯太郎
「結構前に俺を襲った奴の名前って何だっけ。たしか、影なんたら」

14歳の風村颯太
「おじさーん! 部活の皆をサプライズで富士山合宿に連れていきたいからヘリ貸して。 あと建築用の鉄球も」

風村颯太郎
「…ヘリってそこそこするんだよ? 鉄球は知らんけど。 まあ、いいよ。 いつ必要?」

14歳の風村颯太
「うんとね。 サプライズしたいから、明日の深夜なんてどうかな」

風村颯太郎
「明日の深夜ね。 了解」

「あれ? 名前何だっけ? ………考えても出てこないし、まっいっか」

ガルシルドのみを狙い撃ちしたから影山が運気も含めて強化されちゃったんだよね。
まっいっか。で颯太郎が影山を済ますから甥の颯太がいつか苦労するんだよね。


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全員攻撃/全員守備

遅くなりました。


 雷門対帝国の一戦。

 雷門が前半に2点を先取し、前半12分。

 再び帝国のボールから試合が再開される。

 しかし、帝国側の士気は低い。

 彼らの中にあった王者としてのプライドを弱小と侮っていた雷門に砕かれたのだから。

 その現状にチームを指揮する司令塔である鬼道有人は歯噛みする。

 

 司令塔として、選手としてわかる。

 今の帝国では雷門には勝てない。

 

 この事実を鬼道は帝国の誰よりも理解していた。

 現状を打破(だは)することは難しい。

 だが、それは正攻法での話である。秘策を用いれば勝てないことはない。

 しかしそれは、帝国が雷門に実力的に完全に劣っていることを証明することであると同時に、サッカー選手としての矜持(きょうじ)()てることである。

 その選択を鬼道が選ぶことはないし、帝国の他のメンバーたちも望まない。

 正攻法で攻めるのなら、実力で劣る帝国は雷門の隙を見付けてそこを突くしかない。

 しかし、これほどの力を持つ雷門が隙となる弱点をそのままにしておくことは考えられない。

 やはり、秘策を用いるべきか、いやしかし…………。

 

 敗北(プライド)勝利(体裁)か。

 

 伝統ある帝国のキャプテンとして、司令塔として、鬼道は揺れ動いていた。

 そんな鬼道に総帥(影山)から指令が(くだ)される。

 

 次、点を取られたら必殺T T(タクティクス)を使え

 

 それは鬼道がブライド故に使わなかった秘策を使えと総帥である影山が態々(わざわざ)指令を下したのだ。

 鬼道に緊張の汗が(ほお)を流れる。

 秘策であるT T(タクティクス)は雷門の選手たちをひどく傷めつけるだろう。もしかすればもう一生サッカーをプレイすることは出来ない。

 

 そんなことは絶対に起こさない。

 もう二度と雷門に追加点は取らせない。(帝国に必殺タクティクスを使わせないでくれ)

 

 そう決意し、フィールド全体を観る。

 ここからが司令塔としての鬼道有人の底力を見せるときだ。

 

 

 ☆☆☆

 side風村颯太

 

 帝国学園って予想通りだけど、やっぱ弱いな。

 そら、他の学校と比較(ひかく)すれば帝国は最強かも知れないけど、超強化雷門に勝てるとは思えない。

 原作では帝国は大量得点してたけど、この世界線では雷門が優勢。ここから負ける展開なんてありえないだろう。

 

 現在、雷門のレベル

 精神はそこそこ。

 技術は世界レベルと比べても遜色(そんしょく)無し。

 身体能力はジェミニストームと同等。

 必殺技は多くがカンスト(最終進化)一歩手前。

 

 心技体(しんぎたい)+必殺技のバランスが悪いが、これに帝国が勝てる道理は無いだろう。

 もし、ゴール手前まで来ても、円堂守(守護神)が絶対に止める。

 あとは俺や染岡が点をガンガン取れば試合終了。

 最終スコアは0対30はいけるだろ。勿論、雷門が30だが。

 たが、相手を()めてはいけない。

 司令塔に鬼道、監督に影山がいるのだ。

 とんでもない盤外戦術(鉄骨落とし)を仕掛けてくるかもしれない。

 いや、間違いなく仕掛けてくるだろう。

 

 だって影山、原作ならデッカイ戦車みたいな乗り物に乗っているはずなのに居ないし。

 これ絶対ヤバい何か仕掛けてくるだろう。 

 というか、叔父さんがガルシルドを潰したって聴いたときは影山も連座(れんざ)していると思っていたけど、普通に帝国の総帥やってんのね。

 名前に『鬼』と『瓦』が付いている刑事さんは仕事してるんですかね。

 あっ、でも鬼瓦刑事って最初はガルシルドのことを調べていて、そこから影山にたどり着いた? 

 これって俺の預かり知らない所で鬼瓦刑事の活躍奪ってた? 

 イナイレの細かいトコは忘れてるし、よく分からん。

 

 ……け、警察が暇な方が平和だから(震え声)。

 しょうがないよね。うん。忘れよ。

 

 

 帝国から2点を取ったが、豪炎寺は理解してくれただろうか。

 俺の『ダークトルネード』は豪炎寺の『ファイアトルネード』よりも威力も回転も勝っている。

 俺のことをライバルだと思って、このあとサッカー部に入部して来てくれないだろうか。(染岡でも可)

 夕香ちゃんが目覚めないとやっぱダメ? 

 叔父さんに頼んだから目覚めるとは思うけど、手段については何も言ってないから強引(ごういん)なやり方してないといいけど。

 

 マックスこと、松野空介が俺に話し掛けてくる。

 

「風村どうする? メガネの分析や久藤監督の作戦がなくとも、帝国と俺たちの実力差は歴然。 あと、ボールをこっちに寄越せ」

 

「どうもしない。 ボールはやだ」

 

 そこに風丸と染岡が入ってくる。

 風丸がマックスの意見に同意する。

 

「マックスの言う通りだ。 俺たちのレベルと帝国のレベルはまったく違う。初めての試合だから気合を入れていたが、ここまで実力に差があるとちょっと不憫でな。

このままじゃ、帝国の面目(めんもく)が丸潰れだ。

手を抜けとは言わないが、染岡と風村は実力を抑えてほしい」

 

 まあ、落胆ってのは分かる。

 想定したより、帝国弱いもん。

 ……風丸の言動に違和感を覚えるな。なんだ? この違和感は。

 

「気持ちは分かる。 けど以外だな。 風丸が実力抑えろなんて。 普段のお前ならそんなこと言わないだろ」

 

 そうだよ! 普段はマジメな風丸が実力を落とせなんて言わない。染岡が俺の違和感を言葉にしてくれた。

 

「フッ、簡単なことだ。お前や染岡ばかりがシュートを決めていたんじゃ他の奴らが楽しめないだろう。

 次、ボールを持ったら俺たちにも回してくれ」

 

 ……風丸って闇落ち(エイリア石)挫折(ジェネシス)を経験せず強くなると性格悪くなるのな。

 

「朱に交われば赤くなる。 そういうことだよ。風村」

 

「!? 俺の思考読み取った?」

 

「ああ。 小野がサッカー部全員に教えてくれたぞ? 風村の思考の読み取り方」

 

 風丸もそうだけど雷門サッカー部性格変わりすぎじゃないか? 

 ふゆっぺは王道ヒロインから鬼怖マネージャーに。

 影野は注目されたい少年からファンクラブができるイケメンに。

 守備の穴でイナイレファンから嫌われ、『帰国の準備をしろからのブゥゥゥゥン』等の扱いをされる栗松はこの世界では守備の要。

 栗松、意外なことに久藤監督からの評価は高い。円堂の後のキャプテンは栗松、というのはサッカー部共通の認識だ。原作の面影はない。

 染岡やマックスたちを差し置いて代表入りしただけのことはある。

 栗松が帰国したのはやはり怪我が原因だったな。

 

 変わっていないのは、宇宙一のサッカー馬鹿、円堂守ぐらいか。

 にしても、ここまで変わってしまったのはやっぱり俺の影響か? こんなにも原作と違いすぎるとこれからの展開がまったく読めない。 豪炎寺がサッカー部に入部かつ原作通りエイリア学園が攻めてきて沖縄に行かないと松風天馬くん死んじゃうし。 天馬死んだら誰が神童や剣京介たちを率いてフィフスセクターを倒すんだよ。

 フィフスセクター倒してもクロノ・ストーン編は? 

 天馬が幼児期に死んだのなら天馬の子孫であろうSARUも居ないし、セカンドチルドレンたちはバラバラ。各々が勝手に力を使って最期は力に耐え切れずに死亡。

 

 ……正直言ってまだ、ホーリーロード編、クロノ・ストーン編はまあいい。

 フィフスセクターは叔父さんに潰してもらえばいい。

 クロノ・ストーン編は俺や円堂が二百年後の世界に殴り込めばいい。けど、ザ・ギャラクシー編はマジキツイ。

 ソウルが無ければ勝てなさそうだし、特にイケボ宇宙人(オズロック)。例え優勝できたとしてもファラム・オービアスの女王を良い方向に成長させるなんて無理だし、カトラが夢の中にやって来て、星の欠片について話すのは天馬じゃないと無理っぽい。

 …………いや、待てよ。俺達だけじゃ無理でも、セカンド・チルドレンも含めればいけるじゃね? あとちょっと特訓すればソウルも出せそうだし、何なら瞬木隼人(またたぎはやと)たちも入れて戦えば勝てるだろ。

 カトラは円堂なら星の欠片について話してくれると思う。天馬と同じかそれ以上のサッカー馬鹿だし。

 ファラム・オービアスの女王は……叔父さんに任せるか。

 以外にも天馬居なくてもなんとかなる気がしてきたな。

 居たほうがきっといいだろうけど。

 

 豪炎寺が雷門に加入しないだけで最終的に銀河の命運まで変えてしまうなんて、サッカーって何なんだろな。

 

 

 ☆☆

 

 

 大きく息を吸い、全身に酸素を行き渡らせ、血が身体を巡る。

 恩師から貰ったゴーグルは他人が想像するよりフィールド全体がよく見える。

 試合開始を告げる本日三度目の笛の音は鬼道にとって、ゲームメイクを一切間違えられない戦場の開戦を告げる物でもあった。

 寺門からボールをパスされ、ボールを受け取った鬼道。

 鬼道は帝国の選手たちに驚きの指示を出す。

 

 鬼道の指示に一瞬戸惑う帝国イレブン。しかし流石は日本一の選手たち。直ぐに我に返り、鬼道の指示通り動く。

 

『ん? な、なんと帝国イレブン! 全員が自陣深く下がって、ゴール前での全員守備だ!?』

 

 帝国イレブンが自陣のゴール前に集まり、ボールを持った鬼道を中心に強固な防御陣を敷く。

 帝国学園がゴール前での全員守備を行うことに観客たちは驚きの色に染まる。「こうなっては雷門は点を取れない」

 と観客たちは思う中、雷門イレブン達は帝国の意図を察し笑った。

 

「おもしれェ、そっちがそれなら(全員守備)こっちは、これで(全員攻撃)行くぜ?」

 

 ゴールキーパーである円堂も含めた雷門の全員攻撃。

 向かってくる雷門を迎え撃つために鬼道は守備に特化した布陣を築くため、帝国イレブン全員に指示を出す。

 

「寺門、佐久間、咲山、洞面、11番(染岡)99番(風村)をマーク! 鳴神、辺見、五条は雷門のパスコースを塞げ! 大野、万丈、源田はゴールを守れ!」

 

 その指示は到底、40年間無敗のチームとは思えない内容。しかし、高い攻撃力を持つ雷門による全員攻撃(フルアタック)。これを凌ぎ、得点に繋げるにはこうするしか無いのだ。攻撃を棄て、防御にのみ力を尽くすこの指示に帝国イレブン達は不満気な表情を見せずに鬼道の指示通り動く。それが帝国のサッカーであり、勝利への道だからだ。

 

「「「おおっ!」」」

 

「「「任せろ!」」」

 

 活き良く応える帝国イレブン。

 

「突っ込め!!」

 

 雷門の先頭が帝国のFW陣と接触する。

 ここからはボールを奪い合う戦場である。

 現在ボールを持っている鬼道を目掛けて雷門は突き進む。

 しかし、帝国の選手たちがそれを許さない。

 攻撃の要のFW、風村と染岡の二人に対して帝国は四人でマークし、人数差を活かして風村と染岡を分断する。

 

 一対ニ。一人のプレイヤーに全国最高峰の選手が二人も付く。二人とも対象のプレイヤーをフリーにしないため、全力を以って抑える。いくら全国最高峰の選手と云えど、全力を出し続けるのは不可能だ。

 風村と染岡を抑える四人の帝国選手たちの想いは一つ。

 

「鬼道の指示通り動く。この二人を自由にはさせねェ」

 

 そのためなら前半で自分たちが潰れる事も許容の範囲内だ。それ故に身体能力と技術で遥かに勝る風村と染岡は自分たちをマークする彼等を振り切れなかった。

 無論、風村と染岡が全力を出せば容易に振り抜ける。

 しかしそうしないのは雷門と帝国の選手層にある。

 

 雷門の選手人数は12人。 帝国はベンチも含めれば雷門の倍以上の人数。

 未だ帝国の総てを把握していない段階で全力を出せば後半に必ずバテる。

 帝国は選手を幾らでも変えられるが、雷門は試合人数ギリギリだ。そうそう全力は出せない。

 

 だが、身体能力、技術が共に帝国より上の雷門はそのぐらいのハンデを物ともしない。

 

「FWが居なくても、自分が決める」

 

 エゴイストな自意識が雷門の選手たちにはある。ゴールキーパーの円堂も含めてだ。

 身体能力、技術で帝国より上であり、そういった自意識を持つ雷門からすればこの状況は決して不利なものではない。 (むしろ)、好都合。

 FW二人に四人が付くなら、それ以外のところでは雷門10人に対し、帝国7人。雷門が人数で勝る。

 心技体+人数。帝国の雷門FW二人をを無効化する策は結果的に雷門に追い風となった。

 

 ☆

 

「退屈ですね、これは」

 

 そう呟いたのは雷門ベンチにて試合を観察している目金欠流(めがねかける)だ。彼の役割は情報の収集と分析等。試合開始から雷門が苛烈に帝国を攻め立てる今現在迄の両チームの戦力、選手の身体能力と技術を独自に分析し、ここから先の展開を予測する。

 

 乱戦となり、雷門の猛攻で手一杯の帝国。

 ここから帝国が正攻法で得点を決めるのは極めて難しい。

 雷門と帝国では自力が恐ろしいほど離れている。

 雷門が十なら帝国は三。

 帝国が一点を取るには雷門の裏を掻いた一手を打たなければならない。

 しかし、そんな一手は簡単には出てこないし、思いついたとしても雷門の選手が許さないだろう。

 よっぽどの秘策が帝国に無ければ、雷門は帝国に30点以上の点差をつけて圧勝する。

 雷門を自陣のゴール付近に集めるという戦術は体力で劣る帝国が先にバテる。FW二人に帝国は四人をマークに付けていることを考えれば帝国選手一人辺りの負荷は尋常ではない。あと、十分かそこらで帝国の体力は底をつく。交代で優秀な選手たちを出してきても所詮はスタメン入りできない選手だ、脅威ではない。

 

 そう結論付けた。目金の分析は概ね正しい。

 もし、鬼道以上の選手がいて試合に出場するのなら自分(目金欠流)が指揮を取る。

 帝国は司令塔を置いているが、雷門にはそんな存在はいない。マックスと風村が似たような事をしているが、あんなものは戦術とは言えない。

 帝国の戦力を分析するという役割がなく、スタメン入りしていれば今より雷門は優勢に試合を進められていた。

 歯痒い思いが目金にはあった。しかし、それは前半までの話。後半からは自分も試合に入る。そうなれば雷門はもっと強くなる。

 

「まあ、待つとしましょう。 『ヒーローは遅れてやってくる』といいますし」

 

 かけていた眼鏡を取り、ハンカチでレンズを拭く。

 雷門中学校サッカー部に所属している選手の中で、目金欠流は単体の必殺技を持っていない。にも関わらず、彼が風村、染岡と共にFWをやっているのは訳がある。

 

 本人曰く、『FWなんてカッコいいでしょう?』

 

 久藤監督曰く、『やる気があるのなら良い』

 

 染岡曰く、『心意気が気に入った』

 

 そして風村曰く、『面白そうだから』

 

 FW陣と監督が認め、本人がやりたいならという事で彼はFWとして雷門に所属している。

 

 目金欠流(めがねかける)。雷門中学校サッカー部所属。

 FW、情報収集分析係、戦術アドバイザー、マネージャー予備軍。彼のサッカー部における役割である。

 しかしそれはだけが彼の役割ではない。

 

 彼の本当の役割それは、FW兼情報収集分析兼戦術アドバイザー兼マネージャー予備軍兼

 

 ー司令塔(しれいとう)

 

 

 

 




作者は栗松が嫌いではありません。
まあ、初代では栗松が世宇子戦でミスを連発して円堂のTPが枯れて、3−2で負けたけど嫌いではありません。







「あとちょっと特訓すればソウルも出せそうだし」

これ、クロノ・ストーン編のセカンドチルドレンが特訓すれば、とは言ってないんだよね。


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ハンターの再開と、四年ぶりの単行本発売なので。


「颯太にとっては良くない展開だな」

 

 豪炎寺修也はその呟きを聞き逃さなかった。

 

「? 雷門は2点のビハインドがあって、今も攻め続けている。 これの何処が良くないんだ?」

 

 豪炎寺の指摘は万人がそう理解する正論だが、颯太郎は違うらしい。

 

「んんー、雷門にとっては良い流れだ。でもそれはチームの話だろ? 風村颯太というプレイヤーにとって自分がボールを持っていられないなんてのは退屈以外の何物でもない。あの子我慢強くないんだ。もうすぐ爆発する」

 

 その言葉通り、風村颯太は我慢強くない。あと欲深い。

 前世でも欲深い男であったが生まれ変わり、(転生特典)を得てモテる(つら)になると更に欲深くなった。

 ゴールを決めたい。力が欲しい。異性にモテまくりたい。美味いものを死ぬほど食いたい。年単位で眠り続けたい。

 人間の持つ欲求とは恐ろしいもので一度成功(快感)を味わうとより強力な刺激を求める。

 ゴールを決めた。(転生特典)を手に入れた。異性にモテた。

 美味いものを食った。思う存分眠った。

 そして必殺技を使った。

 これにより風村颯太は他の人間と比べて倫理観や理性の許容できる幅が拡がり、グレーなことも躊躇(ためら)わない人格の持ち主となった。

 

 そんな人物が我慢や自身の身を粉にしてチームに貢献する等という高尚(こうしょう)なことが出来はずがない。

 ボールに触れず、ゴールも決められない現状を耐えられるはずもなく、暴走してしまうのは当然の道理だろう。

 

「ほら、僕の行ったとおり、暴走し始めたよ」

 

 幻獣が一匹、ピッチに出現した。

 

 

 ☆☆☆

 

 side:鬼道有人(司令塔シスコン鬼ちゃん)

 

『順調』

 それがこの作戦の中間評価。

 傍から見れば帝国は雷門に攻め続けられている様にしか見えていないだろう。しかし試合開始時点と比べると状況は少しずつ帝国よりに傾いてきている。その証拠に雷門はあれからゴールを決められていない。

 雷門のゴールキーパーも含めた全員攻撃は得点のチャンスが増え、帝国の選手により負荷をかけているが、それは裏を返せば雷門のゴールがガラ空きになり得点されやすく、雷門側にも疲労が溜まっていく。

 雷門のFW二人は佐久間たちが潰れる覚悟で抑えてくれている。人数差は帝国が不利だが、あの二人のFWレベルと同程度のストライカーが居ないため、司令塔(自分自身)がいる帝国はなんとかボールを保持し、繋げることが出来ている。

 このまま雷門を自陣に釘付け、意識を完全に俺達に向けた段階でカウンターを仕掛ける。雷門のゴールキーパーも攻撃に参加しているので、得点できる確率は極めて高い。

 俺から五条、辺見、鳴神、万丈、源田、大野、そして俺へとボールを回していく。個人がボールを保持し続ければ囲まれてボールを奪われる。そうなれば奪い返すのは至難の業だ。

 パスのみを徹底させ、雷門の選手をバラけるように仕向け、現状を打破するチャンスを待つ。

 

 ボールが辺見から鳴神に渡った瞬間、佐久間たちが抑えていたはずの99番(風村颯太)が奇声を上げながら鳴神に近付く。

 

「限界だァァ!! ボール寄越せ!!」

 

「ッッ!?」

 

 タックルを鳴神に仕掛ける99番。

 99番の奇襲に硬直し、タックルを(かわ)す事ができず、鳴神はふっ飛ばされた。

 

「アアアアアアアアッッ!!!」

 

 ボールを奪った99番は(さけ)びを上げる。

 叫びと共に99番の身体から蒼白(あおしろ)いオーラが溢れ、幻獣が一体出現した。

 

「何だ、アレは?」

 

 その言葉を発したのは俺だったのか、帝国の誰かなのか、はたまた敵である雷門の選手なのか分からない。

 しかし99番から現れたソレは、誰もが知る生物だ。 

 

 獰猛な蒼い瞳。鎧のような(あか)(うろこ)を全身に(まとい)、全長五メートルはある剛翼。

 ()には(かえ)しの付いた(とげ)が無数にある。

 口から(ほのお)を吹き、猛毒(もうどく)を使い、空を飛び、財宝を守護するその最強生物を人間たちはこう名付けた。

 

 

Gyaaaaaaaaaaaa!!!!!! 

 

 

 ───(ドラゴン)、と。

 

 大気を震わす龍の咆哮に、本能的な恐怖がこみ上げてくる。

 強い、強くないの物差しでは測れない。

 (じゅう)(いち)じゃない。(じゅう)(ゼロ)なのだ。

 古今東西(ここんとうざい)姿形(すがたかたち)は違えど力の象徴として畏怖(いふ)されてきた存在。

 

 帝国、雷門共に龍の存在感に威圧され、試合中であることを忘れ(ほう)ける。俺もその一人だ。

 

「に、逃げろ!」

 

 この言葉を皮切(かわき)りに試合を観ていた雷門の生徒は四方八方に逃げ出し、あっという間に観客たちは誰も居なくなった。

 フィールドの外側に居るのは雷門のマネージャー達(一人は何処かに走っていた)と、生き別れの最愛の妹春奈、雷門のユニフォームを着た眼鏡の生徒と雷門の監督。そして審判と名解説角間王将似の雷門生徒。

 

 フィールドには帝国11人と雷門10人と龍が一体。

 龍が更に雄叫びをあげようとした瞬間、

 

 

「風村────!!!」

 

 

 雷門のゴールキーパーの叫びがフィールド全体に届いた。

 

 

 

 ☆☆

 

 

 円堂守がいち早く我に返ったのは、このこと()(わず)かにだが知っていたからだ。

 一年前、入学式が終わりサッカー部の部室を掃除していた最中(さいちゅう)

「化身、松風天馬、フェイ・ルーン、アームド、未来、プロトコル・オメガ、タイムマシーン、セカンドステージチルドレン、ミキシマックス、黄名子(きなこ)カワイイ」と呟くと風村を見て、三者の反応はこうだ。

 

 木野は「またか」、と呆れた。

 

 小野は45度の角度で手刀をいれる準備をした。

 

 そして円堂は、『化身』、『アームド』、『ミキシマックス』

 この三つの単語に不思議と心惹(こころひ)かれた。

 

 手に持っていた(ほうき)を壁にかけるように置き、風村に()うた。

 

「化身? アームド? ミキシマックス? ってなんだ?」

 

 円堂は純粋な興味からの質問であったが、風村はバツが悪そうな表情で「これって教えてもいいのか?」とブツブツ呟き、悩んだ。

 悩んだ末に風村は、「ちょっと早いけど、どうせもう少しで知るからいいか」と結論付け、円堂の疑問に答えた。

 

 化身の概要、化身アームドの効果、ミキシマックスの原理等を丁寧に教えた。

 これだけなら良かった。化身やミキシマックスはその存在を知ったところでどうしようもないのだから。

(名も無き小市民という例外あり)

 しかしそれを聴いた円堂のテンションは高まり、風村を褒めまくった。

「スゴイ」、「カッコいい」、「もっと教えてほしい」等の言葉に風村は超絶調子に乗った。

 化身やミキシマックスのついでに、ということで頼まれてない『ソウル』についても教え、『ソウル』について、自身の考察も円堂に披露した。

 

 その結果、円堂の中では「化身とソウルは努力でどうにかなる技術であり、ミキシマックスは二人必要」という結論に至った。

 

 それからというもの、円堂は必殺技だけでなく、化身やソウルを習得する事も目標にした。

 

 そして現在、ソウル又は化身を出し、意識を失っている風村に円堂の魂の叫びが呼応し、風村は意識を取り戻した。

 風村颯太の背から現れた龍は、本体である風村颯太が意識を取り戻すと突如(とつじょ)として消えた。

 意識を取り戻した風村颯太の身体には尋常(じんじょう)

 ではない汗が流れ、顔色が悪い。

 龍を出現させた風村颯太に帝国、雷門問わず様々な色が混じった視線が集中する。

 

 恐れ、好奇心、興奮、驚愕、失望。

 

 誰も言葉を発さない中、円堂守だけが風村颯太に近付いた。

 

「大丈夫か?」

 

 颯太は円堂の言葉に頷いた。

 

「そっか」

 

 そう言って、円堂は風村からボールを取り、フィールドの外に蹴り出した。

 

「さっきの化身か、ソウルか知らないけど、かっこよかったぜ? ドラゴン」

 

 嘘偽りない真っ直ぐな心を風村に伝え、円堂は走りながら相手のスローインに備えるようにチームに指示を出した。

 我に返った雷門の選手達は急いでスローインに備え、その動きを見ていた帝国の選手達も改めて動き出した。

 

 去って行く円堂の背を見ながら、風村は頬を手で叩き、笑った。

 

「よし、試合再開と行くか」

 

 2ー0 前半39分。

 帝国のスローインから試合が再開される。

 

 

 ☆

 

 龍の出現に観客たちは驚き、恐怖し、逃げ出した。

 観客として残ったのは豪炎寺と風村颯太郎の二人だけである。

 

 豪炎寺は龍の出現に驚いていたが、隣で観戦していた風村颯太郎はアレを知っていたようだ。

 興味本位で問うた。

 

「あのミサンガやスパイクがあれば、あの龍を超えられるのか」と。

 

 しかし颯太郎は首を横に振り、無理だと告げた。

 そして豪炎寺は隣の颯太朗の顔を見て一瞬、豪炎寺の時が止まった。止まったように感じた。

 

 颯太朗の眼には光が無かった。真っ黒で無機質な瞳。

 何者も映さない闇がそこにあった。

 唾を呑み込み、一歩後ろに引く豪炎寺。

 そんな豪炎寺に颯太朗は嗤った。

 

「大丈夫さ。 ゴメンね、怖がらせて」

 

TIME MODE

 

 機械音声が聴こえた途端(とたん)、時が止まった。

 気付くと隣に居たはずの颯太朗は豪炎寺の眼の前から消えていた。

 周りを見ても人っ子一人いない。

 

「風村颯太、風村颯太郎……一体何者なんだ?」

 

 彼の言葉に答える者は居なかった。

 

 

 

 

 

 

 

 




両方の作品(私の)完結させる気はあるんですけどね。


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キャプテン①

遅くなってすいません。


 

 

 龍の出現以降、試合は硬直状態に陥った。

 円堂を除く他の選手達が、龍の存在感と咆哮に恐怖し、力を発揮できなかったからだ。

 特に雷門の選手たちはその影響が顕著であった。

 長い者で二年、風村颯太と一緒にいた。

 一人の人間を知るには短い時間だが、共に苦楽をともにしてきた雷門イレブンは、風村という人間について知っていた。 いや、知っているつもりであった。

 

「風村のことならば、他人よりも知っているし、風村も自分のことを知ってくれている」

 

 必殺技という超次元な技を持つ彼等でも許容することのできない『龍』という恐怖に彼等の『信頼』は崩れかけているのだ。

 

 

 一方、帝国側は雷門の弱体化を早々に察知し、一気に攻めて逆転しようと、意見が出たか、キャプテンである鬼道が不確定な情報だけで動くのは危険と判断した。

 それに対して、寺門、鳴神、辺見、源田の四名は不服の申立をするが、鬼道はそれを却下した。

 帝国の他の選手たちは、チームの雰囲気が悪くなっていくのを肌で感じていた。

 

 前半は終わり、試合はハーフタイムに突入していた。

 

「鬼道さん! やっぱり俺たちは納得行きません!! 前半40分からは奴等、意気消沈していて好機だったじゃないですか。 わざわざ試合を膠着させる意味がわかりません!」

 

 寺門が鬼道に不満の声を上げる。

 鳴神、辺見、源田は寺門に賛成のようで、鬼道に厳しい目を向ける。

 他の選手たちも、どちらかといえば寺門寄りの意見を持っていた。

 

「お前たちに話すことはない。 後半も、俺の指示どおり動いていればいい」

 

「…………確かに、鬼道さんはチームのキャプテンで、司令塔です。 ですが今回ばかりは関係ありません! 俺たちは帝国学園なんですよ! 帝国の無敗伝説を終わらせるつもですか!!」

 

「寺門の言うとおりだ。 俺たちは帝国学園。 敗北など許されない。 今こそ、チー厶一丸となって闘わねばならないはずだ。違うか、鬼道?」

 

 寺門と源田の言葉を受け、元凶である雷門の選手たちに視線を移す。

 向こう(雷門)は何やら盛り上がっており、鬼道の視線に気づかない。

 視線を雷門から帝国の仲間たちを向ける。誰も彼も日本中から集まった秀才、天才達だ。 纏まりが無くとも、下手なチームに負けることはない。しかし今、雷門という無名のチームに先取点を許し、二点差をつけられ、前半を終えた。 源田の言うとおり、チームが一丸とならなければ敗北する。そのために、先ずやるべきなのは……

 

 

 Side:秘伝書クン

 

 ヤッベー。 久しぶりに出したわ、ソウル()

 アイツ、まったく制御できないから嫌いなんだ。

 5歳くらいの誕生日プレゼントに、エイリア石を叔父さんに強請(ねだ)ったけど、失敗だったなコレは。

 

 5歳の頃、風村颯太は手に入れたエイリア石を使い、自分の遺伝子を組み換え『化身』と『ソウル』を出せる強い身体を手に入れようとした。元々の遺伝子が人類史上最高峰とも言えるものだったので、エイリア石による肉体の強化はもはや、()()と言っても過言ではなかった。

 どれほど身体が変わったのか実験を行うと、通常ではあり得ない数値が叩き出された。

 身体能力は勿論のこと、記憶力、味覚、嗅覚等も人間のレベルを遙かに上回っていた。それだけでなく、念力や念話、発火現象(パイロキネシス)、所謂『超能力』が発現した。

 風村颯太は、この進化を二百十年後の()()に匹敵すると確信し、その進化を傍らで見ていた叔父の風村颯太郎は、歓喜の悲鳴をあげた。

 エイリア石によって進化した風村颯太を、叔父の風村颯太郎は『セカンドステージ・チルドレン・ザ・ファースト』と名付け、()()()()()()取り入れようと研究を開始した。

 

 しかし、研究は風村颯太が7歳の頃に終わりを告げる。

 風村颯太は6歳の頃、『ソウル』を出現させた。

 ライオンか、はたまた、松風天馬のような幻獣が出現することを風村颯太は望んでいたが、実際に現れたのは蜥蜴(とかげ)。真っ黒な蜥蜴が風村颯太のソウルだったのだ。

 このことに、颯太は酷く落ち込んだが、研究者たちは人類の到達点だと騒ぎ、有頂天となった。

 それから半年後、身体の成長に伴い超能力も成長し一人で()()()()()()()()()()を身に着けた。

 しかし、成長を続ける超能力に風村颯太の身体が追い付かなくなり、()()を数十回繰り返し、その度に身体と精神に尋常ではない負荷がかかり、生死の境を彷徨った。

 エルドラドの技術者達は、被検体(風村颯太)が死んでは研究どころではないので、被検体が成熟するまで一旦研究を凍結しようとした。

 研究が完全に凍結したのは、その翌日である。 

 被検体(風村颯太)が突如暴走し、これまで観測した以上の力を放出し続けた。 技術者達が死を悟ったその時、風村颯太から『ソウル』が出現し、放出されていた力を呑み込んだ。

 

 この現象を解明しようと技術者達は、被検体(風村颯太)の身体を二ヶ月かけて隅々まで調査し、その結果、落胆した。

 エイリア石によって進化したはずの身体能力が、元に戻っており、超能力も発動する事が出来ない状態になってしまっていた。

 被験体が力を喪失してしまい、研究は完全に凍結され、封印された。しかし、風村颯太の暴走した力を呑み込んだ『ソウル』は黒い蜥蜴から、『龍』へと進化しており、研究を再開しようとする動くもあったが、組織のトップであり、保護者でもある風村颯太郎が「アレはこの世のものじゃないし、チョー危険だから、無しで」と宣言したため、誰も逆らうことができず、研究は完全に終結した。

 

 まぁ、上記では淡々と書いてあるけど、血反吐いたり、精神崩壊してそれから統合を五回は繰り返しているが、俺は無事に生きてるし問題は無しかな? 

 それより、蜥蜴の『ソウル』って何? 転生特典持ち&原作知識持ちの転生者よ、俺。 

 百歩譲って『ソウル』は理解できる。 でも蜥蜴ってありえなくない? 『化身』寄越せよ『化身』。俺ならソッコーでアームドまで行けるね。

 

 …………いや、それよりもチームの雰囲気がヤバい。

 前半の終わりぐらいから感じてたけど、チームの雰囲気暗すぎだろ。 大事な人が死去したときのお通夜かな? 

 

 まあ、とりあえずは染岡辺りに話しかけるか。 俺、結構染岡と友情を育んだと思うし、原作でも仲間思いな染岡さんなら受け入れてくれるっしょ。

 

「染岡! 前半の終わりからどうした! FWの俺等が点取らないと勝てねぇ。目金にスタメン奪われちまうぞ!」

 

「あ、ああ。 そうだな。 ……悪い」

 

 染岡の表情は暗く、話す風村に目も合わせなかった。

 

「? おいおい、どうした。 まさかビビってんのか?」

 

「いや……そんなことはねェ。 ただ、初めての試合だから飛ばしちまっただけだ」

 

「……そ。 気を付けてくれよ? ウチのFWは俺と染岡と目金だけなんだから」

 

「……分かってる、そんなこと」

 

「良し! なら後半からはガンガン攻めて、得点しまくってやろうぜ!」

 

 風村がそう言って染岡の肩に手をポン、と置く。

 すると染岡は目を見開き、驚愕した表情で急いで風村の手を叩く。

 

「触んじゃねェ!!」

 

「!?!?!?」

 

「あっ……いや、すまねぇ」

 

 染岡は、風村から逃げるように離れる。

 遠ざかる染岡の背中を見ながら風村は…………

 

「マジでミスったかも」

 

 そう呟いた。

 

 

 

 side:雷門イレブン

 

 前半を終え、ベンチへと戻っていく雷門イレブン。

 マネージャーからタオルとドリンクの入った容器を貰い、水分を補給する。その際、皆が風村をチラチラと見る。

 何人かは声をかけようと様子を窺っているが、尻込みしてしまって行動に移せないでいる。

 見られている事に風村本人も気付いており、仕方ないことだと自分に言い聞かせる。

 チームの雰囲気が暗くなっていることを、誰しも感じ取っていた。

 そんな中、円堂守が声をあげた。

 

「みんな、なにヘコんでんだよ。 宍戸、不安そうな顔してどおした? 染岡、何時もより顔が怖いぞ。 風村、テンション低いな。 腹でもいたいのか?」

 

「あのな、円堂。 俺たちは─」

 

「俺も知らなかった。 風村がドラゴン出せるなんて」

 

「えっ?」

 

 風丸が素っ頓狂な声を出す。

 

「俺も知らなかったんだよ。 風村がドラゴン出せるなんて」

 

「じゃあなんであの時、お前だけが動けた!」

 

 染岡が声を荒げた。 風村と同じFWで、練習でも他の部員たちよりも一緒に過ごしていただけに、人一倍ショックを受けていた。

 言葉では表していなかったが、心では常に仲間を大事に思っていた。

 龍が怖かった。そしてそれを出した仲間(風村)が怖くなった。 知っているつもりでいたのに、知らないモノを見て戸惑い、 そして恥じた。

 

「俺は、仲間を信じていなかったのか」と。

 

 それは染岡だけでなく、雷門イレブン全員が共通して実感していた。

 

「『行かなきゃ』って思ったんだ。 あのとき、風村のところに行かなきゃって、それだけだ」

 

「それだけって…………」

 

「…………怖くないのかよ」

 

 染岡が聞いた。

 

「いや、怖かった」

 

 円堂の言葉に皆、衝撃を受ける。

 

「じゃあ、なんでお前は動いたんだ! 俺達と同じ様に怖かったんだろ!」

 

「それ以上に仲間を見捨てるのことが怖かった」

 

 染岡だけでなく、皆がはっとする。

 円堂は、風丸たちの前を横切り、風村の前まで進む。

 真っ直ぐ風村を見る円堂から視線をそらすようにそっぽを向く風村。

 風村の真正面に来た円堂は、真っ直ぐ風村を見る。

 しかし、風村は依然そっぽを向いたままである。

 それを見ていた小野冬花は、風村のところに行き、そっぽを向く風村の顔を両手で掴み、円堂の方に向ける。

 

「痛ッ! 何しやがるこの──」

 

「守君を見て」

 

 そう言われ、風村はしぶしぶ円堂を見る。

 円堂の真っ直ぐな視線にやはり気不味いのか視線を反らそうとするが、小野が抑える。

 観念して、円堂の方に顔を向ける。

 円堂は先程と同じで、真っ直ぐな視線で風村を見ている。

 

「…………なんだよ」

 

 ぶっきらぼうに風村は言った。

 顔を強制的に円堂の方に向けられると、円堂は頭を下げて地面を見ていて、右手をグッと握りしめ、身体を震わす。

 息を整え、握りしめていた右手を開き、膝を叩き、「良し!」と言うと、顔を上げて風村を見て、口を開く。

 

「俺も、あの龍が怖い。逃げ出したくて仕方なかった」

 

 風村は「突然なんだ?」と疑問符を浮かべる。

 

「だけど、逃げたら風村との間に埋まらない溝ができちゃう気がして、気が付いたら走ってた」

 

「? 円堂さっきから一体何の話?」

 

 疑問から困惑に変わり、風村は状況をうまく飲み込めずに居た。

 一方、染岡や風丸たちは円堂の話を真剣な面持ちで聞いている。

 自分と、他の選手たちとの違いに風村はますます困惑する。

 

「本当に何の話? 意味わかんないですけど……」

 

「怖くてたまらなかったけど、気付いたんだ」

 

「何を?」

 

()()()()()()()()()()、龍を出した風村本人じゃないのかって」

 

「はっ?」

 

 龍の怖さに、誰しもが忘れていた。

 そして結論づけた。最も龍を恐れているのは、ソレを出現させた風村颯太本人であると。

 しかし、そんなものはただの勘違いで、等の本人は、

 

 

 えぇっ! 俺が龍を怖がってるって!? ふざけんな! 元々は蜥蜴だぞ、怖がる必要性皆無!! 襲ったりしないデカいだけの蜥蜴!! ハズレ『ソウル』!! 

 

 と、考えていた。

 だが、少しだけ考えてほしい。 イナイレ世界の『ソウル』とは『化身』と似た人間(高度な知性を持った生物たちも含む)の不思議エネルギー。 自己防衛本能が生み出す存在。

 個人によって姿形、向き不向きが違うように、本人の性格や性質によって自分以外を傷付ける、そんな力が発現してもおかしくは無いのではないだろうか。

 

 風村颯太は、『ソウル』を出現させる前から『セカンド・ステージ・チルドレン』に進化していた。 際限なく成長する

S.C.C(セカンド・ステージ・チルドレン)』の力と、エルドラドの研究者たちの狂気的な実験から来る強力なストレス、繰り返す精神の統廃合。

 

『ソウル』が出現してもおかしくは無いはずだ。自己防衛本能が生み出した存在ならば、本体を護ろうとするのではないだろうか。

 元凶である『S.C.C(セカンド・ステージ・チルドレン)』の力を呑み込み、研究者たちに殺気を浴びせたのは『ソウル(蜥蜴)』が本体である風村颯太を護ろうとしていたからだ。

 本体(風村颯太)を護る為に、本体以外を威嚇し、畏怖させる存在。 それが風村颯太が言う、ハズレ『ソウル』の正体。

 

「違う違う違う違う!! 龍じゃない! 蜥蜴ッ! 

 デカいだけの蜥蜴。 あと、別に俺は怖くもなんともないって! お前たちの勘違い!」

 

 雷門の選手たちの誤解を説こうと、必死の弁明をする風村だが、

 

「気を遣うなよ、風村」

 

「えっ?」

 

 染岡が言った。

 先程まで、円堂と風村のやり取りを一歩下がっていたはずの染岡が一歩前に出て、風村の肩に手を、ぽんっ、と置く。そして未だ一歩下がったままの仲間たちを見回す。

 

「俺達は今でも怖い。 だがな、円堂の言うとおりだ。 

 ビビったまんまじゃ、大事な仲間を失っちまう。 そんなこと、俺は絶対に認めねェ! そうだろ! お前ら!」

 

 染岡の熱い言葉に、一歩下がっていた仲間たちが一歩を踏み出す。

 

「そうだ!」

 

「俺達は仲間を見捨てない!」

 

「雷門の仲間を失うなんて、嫌っす!」

 

「仲間を見捨てない! それが雷門イレブンだ!」

 

「お前たち!」

 

 円堂はその光景に、ニッと笑う。

 やっぱりみんな、仲間が大事なんだと知り、嬉しくなる。

 

 呆けた顔をしている風村に身体を向けて、

 

「仲間の悩みは、みんなの悩みだ! 一人でくよくよしても始まらない! そうだろ風村!!」

 

 と、特大の笑みと、サムズアップする円堂。

 それに対し、風村は、

 

「えっ、あっ、うん。 みんなで頑張って行こう?」

 

 と頼りない返事をするのであった。

 

「よーし! 後半はガンガン攻め上がって行こうぜ!」

 

「「「「「おおっ!」」」」」

 

 

 Side:鬼道

 

「お前たち。すまなかった」

 

 突然鬼道が頭を下げた。

 鬼道が頭を下げて謝るとは欠片も思っていなかった帝国のメンバーは、困惑した表情で鬼道の次の行動を待った。

 

「寺門、帝国が雷門に来たのは、弱小サッカー部を蹂躙し、見かねた豪炎寺修也をあぶり出す為だ。だが、蓋を開けてみれば、弱小の、…………弱小だと思っていた雷門は俺たちよりも何倍も強い。 技術、スタミナ、身体能力。そして必殺技。 どれも雷門に()()()()()

 

『劣っている』。

 この言葉を、帝国の誰もが否定したかった。

 地元じゃ無敵の選手でも、帝国サッカー部に入れば、道端の小石。 三年間続けても一度もベンチ入り出来ない選手も当然いる。 

 限界ギリギリのトレーニングを積み、天才、秀才と呼ばれていた選手たちとの熾烈なレギュラー争い。

 それを勝ち抜き、ようやくユニホームと背番号が与えられる。

 帝国選手にとって、努力と才能と勝利の証。

 それを手に入れた。

 

 なのに、公式戦に一度も記録がない、去年出来たばかりのサッカー部に圧倒されているのだ、誰もがこの状況を打破し、逆転する術を求めている。

 

「劣っているからこそ、俺たちは攻め続けるしかないはずです! それを、なぜ……」

 

「あの99番。龍を出すタイミングは、いつだ?」

 

「えっ?」

 

「どれくらい出し続けられる? 威圧するだけか? 必殺技は? 身体能力に影響はあるのか? その他にも―」

 

「ちょっと待ってくださいよ! いきなりどうしてそんなコトを……」

 

「俺たちは、雷門の事を知らなければならない。 そのためには、前半あんなプレイをしなくてはならなかった」

 

「ならば鬼道。 見つけたんだな? 雷門の弱点、俺たちの勝利を」

 

「ああ」

 

 鬼道の短いが力強い言葉に、帝国メンバーたちの心が熱くなる。

 

「お前たち。 俺たちは、帝国だ。 無敗の王者、帝国学園だ! 勝ちに行くぞ! 」

 

 

「「「「「おおっ!」」」」」

 

 

 

 

 

 

 

 




頭が完治したので、次も頑張ります。


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