ウマ娘 Legendary Generation (るっこら星人)
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慟哭、レース場にて

無敗の三冠ウマ娘、ディープインパクト。史上初の無敗の四冠を達成するべく、彼女は有馬記念へと出走した。もちろん圧倒的1番人気で、誰もがその娘の勝利を確信していた。

レースに絶対はない。その言葉を忘れたかのように。

 

 

12月25日、中山レース場。

ファンファーレが響くターフで、胸の鼓動を抑え、深呼吸を繰り返す。

今日までアタシは、二着ばかりの善戦ウマ娘に過ぎなかった。でも、今日は違う。身体中から目に見えないエネルギーが溢れていくのを感じる。この感覚……間違いない!

「……しっ!」

気合いを入れ直し、ゲートに入る。そして、運命のレースが始まった。

 

 

 

ゲートが開くと同時に飛び出し、先頭集団の一角につける。いつものアタシなら、行き足がつかず最後方からのレース運びをしていたが、今日はそんなヘマをしている暇なんてなかった。実況が驚く様にアタシの名を読み上げ、会場がざわつく。周りのウマ娘達も動揺しているようで、何名か掛かりそうになっている。

 

あの“ディープインパクト”に少しでも勝つ策があるとするなら、それは先攻策しかない。トレーナーと二人であの娘のレースを何度も見て研究した。彼女は最終直線で他のウマ娘を一気に抜き去る戦法、いわば直線一気を得意としている。ならば抜かされる前に先頭に立ってそのまま押し切ってしまう。それがアタシとトレーナーで編み出した作戦だった。

 

最終直線に差し掛かり、ペースを作っていたウマ娘が徐々に失速していく。それを尻目に、アタシはペースを上げる。残り200mを切り、後続がどんどん差を詰めてくる。実況も観衆も彼女がアタシ達をとらえるのを今か今かと待ちわびていた。

 

 

 

その時、黒くて小さい影がが視界に入った。全身が総毛立つような感覚に襲われる。

しかし、アタシにも意地がある。ここで負ければ、今までの二着続きと同じだ。そう自分に言い聞かせ、あの娘を少しでも離そうと懸命に脚で地面を殴るように走る。

残り100m。どれだけ脚に力を入れようが黒い影は迫ってくる。

ここでアタシは負けるのか? あの娘1人に対してこんなに策を考えたのに? 今までの走りを捨ててまで奇襲をかけたのに? いやだ、いやだ、絶対負けてたまるか!!!

「っあ゙あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙ッ゙ッ゙ッ゙!!!!!」

肺の中の空気を全て吐き出すように、魂を削るように叫ぶ。身体中から汗が噴き出し、心臓が爆発しそうになる。最後の力を振り絞り、ゴール板を駆け抜けた。アタシは、黒い影から先頭を守り切ったのだ。

 

 

『ハーツクライ、ディープインパクト! なんと、ハーツクライだーっ!!!』

いつもは歓声で溢れるはずのレース場が、今日は悲鳴と怒号で溢れかえっていた。

 

 

スタンド前に立つと、ありとあらゆる罵詈雑言の嵐を浴びせられた。

「なんでディープが負けるんだよ!」

「俺達はディープが勝つところを見に来たんだぞ!」

あの娘に勝ったらこうなることなんて予想はついていた。しかし、ここまでとは思わなかった。

 

「ディープが負けるはずない!こんなの何かの間違いだ!!」

「そうだそうだ!レースをやり直せ!!」

鋭く尖った言葉を投げつけられる度、心が痛む。でも、これはアタシ自身が招いた結果なんだ。

だから受け止めるしかない。仕方ないんだ……。

 

「つーか誰だよ、ハーツクライって。どうせまたこの有馬だけの一発屋なんだろ?ダイユウサクみたいなさ。」

冷静になろうと思っていた矢先、この失礼極まりない言葉には、流石に怒りを覚えた。反論しようとしたその時、

「いい加減にしてください!!」

と、幼い声がレース場に響いた。

 

「ハーツクライさんは、今日までずっとG1で勝てなかったけど、頑張ってきたんです!!

それにディープさんだって完璧なウマ娘じゃないんです!!だから……、だから……。」

その少女の声はだんだんと震えていき、最後は涙声で何を言っているのか聞き取れなくなった。それでも彼女の気持ちだけは伝わってくる。

少女に助けられている自分が情けなくなったが、それ以上に嬉しかった。アタシのために泣いてくれる人がいるという事実が。

 

「ありがとうね、お嬢ちゃん。……名前、なんて言うの?」

そう言って頭を撫でると、少女は答えた。

 

「ジャスタウェイっていいます!」

と。



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