戦姫絶唱シンフォギア 大地を照らす斉天の歌 (先導)
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無印編-ルナアタック事変-
惨劇から始まる物語


初めましての方は初めまして。そうでない方はこんにちは。

性懲りもなくまたも新作を書いちゃいました。他の作品もまだ完結してないのに・・・でも書きたかったんだもん。悔いはありません。

今回の作品はずーっとどうしようかと悩んでいたシンフォギアです。前々からシナリオを考えてはいたんですけど・・・今日思い切って投稿してみることにしてみました。残酷の描写ってありますが・・・正直、他の方の作品と比べると、全然負け劣ってしまうかもしれません。

とりあえず、何話かは溜め込んでいるので、最初の2話を投稿し、残りは翌日に1話ずつ投稿しようと思います。今作品はAパートBパート分に分かれているので、私の作品にしては文章は短いです。

後、私の作品を知っている方に1つ注意点。この作品・・・人が死にます。そして1話からいきなりオリキャラが死にます。ご了承ください。


八千八声

 

啼いて血を吐く

 

ホトトギス

 

その小さな鳥は血を吐きながら、歌を歌い続ける鳥。

 

少女たちもまた、歌を歌い続けた。血を流しながら、歌い続けた。少女たちは・・・戦場で血を吐きながら、歌い続けた・・・。

 

 

 

戦姫絶唱シンフォギア 大地を照らす斉天の歌

 

 

 

現実から1年前・・・歌声がよく響きそうな街の大広間。そこに3人の女子高生が集まっており、そのうちの1人の女子高生はスマホを操作して、動画撮影の準備をしている。

 

「ふぅ・・・ねぇ2人ともー、カメラの位置はこれでいいかなぁ?」

 

彼女の名は東雲日和。私立リディアン音楽院に通う高校1年生で、高校生バンド、アビスゲートのベース&ボーカルを担当でリーダーを務めている。黒髪のストレートロングで妙にぴょこぴょこさせたうさ耳のようなカチューシャが特徴的な天真爛漫で猪突猛進な女の子である。

 

「んー・・・まぁ、いいんじゃない?ここからの位置なら、バッチリ移りそう」

 

日和が設置したスマホ位置にOKを出したのは、リディアンの制服とは違う制服を着込んだ金髪のショートヘアの女子高生であった。彼女の名は北御門玲奈。普通科の進学校に通っている高校2年生でアビスゲートのギター&ボーカル担当。いい意味でも悪い意味でも思っていることははっきりと表に出すこと裏表がない性格をしている。

 

「しっかし、あなたが急に野外ライブをするって言い出すなんて思わなかったわ。それも唐突に。おかげで、今回のライブに相当準備がかかったわ」

 

「はは、やっぱりびっくりしたよね。突然ごめんね、急にこんなこと言いだしちゃって」

 

「別にいいわよ。あんたの猪突猛進っぷりは今に始まったことでもないし」

 

「もう、またそんなことを言う・・・」

 

どうやら今回のライブは日和が突然開催したいと言い出したことによって始まったことらしい。今回のことに玲奈はもう慣れたと言わんばかりに笑みを浮かべている。

 

「わかってるって。1年前のライブがきっかけでしょ?相変わらず、あんたはお人好しというかなんというか・・・」

 

「はは・・・悲しそうな顔をしてる人を見ると、なんだか放っておけなくて・・・」

 

もちろん日和が今回の野外ライブを開こうとしている理由はある。事の始まりは1年前のライブ会場で起こった惨劇から始まる。その日は日和はベース教室でベースを習っていたのでその日のライブに来れなかったが、一般人から見れば幸いともいえるかもしれない。だが問題はそこではなく、そのライブに参加していて、生き残った観客の方だ。

 

1年前のライブでの死者、行方不明者の総数は万は越えるほど。その中の半数、いやそれ以上の人間が人の手によって亡くなってしまったのだ。そして生き残った人間には国からの補償金をもらっている。それによって、惨劇を生き残った人間は『人殺し』など『税金泥棒』などと言われのないバッシングを受けることとなってしまったのだ。日和の中学校時代の友達もその中の1人である。久しぶりに会った際にその話を聞いて、いてもたってもいられなくなった日和はそのバッシングを何とかしようとした。だが、言ったところでバッシングはやめることはなかったどころか、自分さえもされかけたことがある。

 

だからこそ考えた。言葉でダメなら、歌で伝えようと。歌には、人の心を惹きつける力がある。思いを込めて歌えば、きっとわかってくれると。それが日和が今回ライブを開こうとした理由である。

 

「青臭いね。それでどうにかなるならとっくの昔にバッシングなんてなくなってるっての」

 

「やっぱりそう思う?でも・・・やらないよりはましかと思って・・・」

 

「はぁ・・・そんなあんただからこそ、私は救われたんだけどね」

 

「え?」

 

「何でもない。ライブ、成功させようって言っただけ」

 

「玲奈・・・」

 

玲奈の呟きは聞き取れなかったが、にっと笑ってくれる玲奈を見て、日和も笑顔になった。

 

「ちょっとお2人さん!!?話し込んでないでこっち手伝ってよー!」

 

2人で話していると、栗毛のサイドテールでリディアンの制服を着込んだ女子高生がドラムセットを持ちながら声をかけてきた。彼女の名は伊南小豆。リディアンに通う高校1年生で、アビスゲートのドラム担当。マイペースながらも自身のやるべきこと、成すべきことをきっちりとこなす意外にしっかり者の性格。

 

「わっ!ごめん!すぐ手伝うよ!」

 

「やれやれ・・・」

 

日和と玲奈は1人でドラムセットを設置する小豆を手伝いに向かっていくのだった。ただ玲奈はただ1人、今回何もなければいいなとも少し不安な心情を抱いてはいた。

 

~♪~

 

全ての準備を整え、いつでもライブできるような環境になった。今回は広告なしで動画配信ライブのため、広間にはまだ観客がいなかった。アビスゲートの3人は裏側でTシャツに着替えて準備を整えている。

 

「ん~~・・・緊張するねぇ~・・・。私たちの歌が、動画になるのか~。有名人になっちゃうね~」

 

「バカなこと言わないで。それより、準備はできたの?」

 

「もっちのろん!」

 

「ならいいけど。日和はどう?」

 

小豆はマイペースに手首を伸ばしてリラックスしている。玲奈は日和にも確認を取っているが、返事は帰ってこなかった。

 

「日和?」

 

「・・・・・・」

 

日和はこれからステージに出ることに少し緊張してしまっている。果たして、自分の歌はみんなに届くのか。思いは伝わるのか。明るい性格だが、臆病者でもある日和はそんなことばかり考えている。それを察した小豆は日和の頬をそっと触る。

 

「!小豆・・・」

 

「ネガティブに考えすぎ。いらないことは考えず、今はパーっと楽しもうよ。私たちが楽しまなかったら、観客だって楽しめないでしょ?」

 

「小豆・・・うん。そうだよね。私たちがライブを楽しまないとだよね」

 

「そう!ライブを楽しんでこそ私たち、アビスゲートでしょ?」

 

小豆なりの励ましに日和はライブにおいて1番大切なことを思い出し、笑顔になっていく。すっかり元気を取り戻した日和は深呼吸で息を整え、気合を入れるために頬を叩く。

 

「行こう!玲奈!小豆!」

 

「ええ!」

 

「うん!」

 

アビスゲートの3人は意気揚々と今回のライブステージへと入場していく。観客は未だにいないため拍手はない。それでもかまわず、3人はそれぞれのパートの楽器を持つ。

 

「すぅー・・・皆さん、こんにちは!私たち、アビスゲートです!」

 

日和はスマホのカメラに向かって、動画を見ている人たちに向かって挨拶をする。

 

「今日は突然のライブ配信でごめんなさい!しかし、どうしても私たちの思いを、皆さんに聞いてほしくて・・・今日というライブを私がご用意させていただきました!まずは1曲・・・どうか・・・聞いてください」

 

日和のマイクスピーチを区切り、小豆のドラムスティックの合図で演奏を始め、日和と玲奈は歌い始める。日和が最も憧れるアーティスト、ツヴァイウィングの曲、逆光のフリューゲルのカバーを日和と玲奈は演奏し、歌う。

 

「「~~♪~~~♪」」

 

「お、なんだなんだ?」

 

「ツヴァイウィングの・・・」

 

「わぁ・・・きれいな歌・・・」

 

「あの子たち・・・かわいい・・・」

 

楽しそうにライブをしているライブにたまたま広間を散歩をしていた人たちが聞き、その楽しそうに歌う姿勢に人々は惹かれていった。やがて会場は小規模ながらも、人が集まってきた。それを見た日和と玲奈は嬉しくなって張り切って演奏のキレを増していく。

 

(やっぱり・・・誰かに歌を聞いてもらえるのは・・・気持ちいい・・・これが・・・ライブなんだ・・・)

 

1曲目の演奏が終わり、集まった観客はアビスゲートに向かって、小規模ながらも、多大な拍手を送った。お互いに汗をかいたアビスゲートの3人は互いに顔を合わせ、共に笑いあった。日和は視線をスマホのカメラに向ける。

 

「ありがとうございました!今回のライブは・・・」

 

日和がマイクスピーチを行おうとした時だった・・・この会場の辺りに、黒い塵のようなものが舞っていた。この塵は炭の欠片である。この塵を見た途端、玲奈は顔を強張った。

 

「・・・ノイズ!!」

 

会場の遠くを見てみると、そこには、液晶ディスプレイのようなものが付いた多種多様な生命体がこちらに近づいてきているではないか。空にも似たような生物が飛び回っている。

 

「ノイズだああああああああ!!!」

 

ノイズと呼ばれる生命体を見た観客は顔色を恐怖に変えて、ノイズから逃げていった。ノイズは人間を見つけるや否や、観客を追いかけていった。観客の1人の中に1人、つまずいて転んでしまった。その転んだ人間にカエルのようなノイズがのしかかった。そして、その瞬間・・・

 

「た、助けてくれえええええぇぇ・・・」

 

なんとノイズは、のしかかった人間を黒い炭に変えて、自分事その人間を崩していった。それすなわち・・・人の死を意味する。しかもそのノイズは・・・カエル型だけではない。

 

「死にたくない!!死にたくない!!いやあああぁぁ・・・」

 

「うわああああぁぁ・・・」

 

人型のノイズも、空を飛んでいるノイズも、人と接した瞬間に、自分事人間を炭に変えていき、惨殺の限りを尽くしている。

 

ノイズ・・・それは国連総会にて認定された突如として現れた特異災害。このノイズの特性は、人間を見つけるや否や襲い掛かり、触れた人間を炭素転換して自分事その命を奪いとる。通常兵器ではノイズを倒すどころか傷も与えられない。ゆえにノイズと遭遇した場合、一般人はノイズが自壊するまで逃げなくてはならない。それ以外に、生き残る方法はない。1年前のライブの惨劇・・・その惨劇を作り上げた原因が、このノイズなのだ。

 

「あ・・・ああ・・・」

 

「な、なんで・・・なんでノイズが・・・」

 

ノイズを見て恐怖している小豆と日和は顔をひどく青ざめ、立ち尽くしている。

 

「小豆!日和!こっちに!」

 

そんな中でも1番冷静な玲奈は小豆と日和の手を持って、ノイズから逃げていく。それを見たノイズは3人を追いかけていく。玲奈は段差を利用しながら小豆と日和を連れてノイズから遠ざけていく。草むらまで逃げた玲奈はここで小豆と日和の手を放す。

 

「2人とも、いい?このままノイズから逃げるのよ!絶対に振り返っちゃダメ!」

 

「で、でも・・・玲奈は?」

 

「私が囮になる。あんたたちはその間に逃げて」

 

玲奈を置いて自分たちだけ逃げる行動に対し、日和は賛成しなかった。

 

「だ、ダメだよそんなの!玲奈も一緒に逃げよう!」

 

「心配しないで。私は逃げ足が速いから、絶対に逃げ切れるわ」

 

「で、でも・・・」

 

「小豆・・・」

 

玲奈は小豆に向かって笑みを浮かべる。

 

「日和を頼むわね」

 

「・・・信じてもいいのよね?玲奈の無事を」

 

「もちろんよ」

 

玲奈の顔には何とかなるという確信があった。その確信を信じることにした小豆は日和を連れてこの場から離れる。

 

「行こう、日和!」

 

「嫌だ!玲奈!玲奈あああああああ!!」

 

嫌がる日和を連れていく小豆を見送った後、玲奈はノイズから逃げることはせず・・・それどころか立ち向かおうとしている。

 

「・・・巻き込ませるわけにはいかない。あの2人だけは、何としてでも守る。私には、その力がある」

 

玲奈は首にかけてある赤い結晶のネックレスに手をかけて、口ずさむ。

 

violent nyoikinkobou Zizzl……

 

何かの詠唱を唱えた瞬間、玲奈のネックレスは光輝き、玲奈を包み込んだ。光は玲奈の着ていた服を分解し、白と黒、茶色が配色されたインナースーツの鎧へと変化していった。謎の鎧を身にまとった玲奈は右腕のユニットから小さな赤い棒を取り出した。そして、赤い棒は槍のように長い棍へと変化していく。棍を持った玲奈はその棍を回した後に構えて、戦闘態勢に入る。

 

「来い、ノイズ共。私が相手だ」

 

そう口にした瞬間、玲奈は急に歌を歌い始めた。ノイズは歌を歌う玲奈へと襲い掛かっていき、玲奈は迫るノイズを躱していく。そして、ノイズに近づき、玲奈は棍をノイズに振り下ろした。すると・・・

 

グシャッ!!

 

なんと、通常兵器では効かないはずのノイズが炭の塊となって崩れたではないか。玲奈自身は炭になった様子はない。それどころか玲奈は棍を振り回して、次々とノイズをなぎ倒していった。さらに玲奈は左腕のユニットを展開し、もう1本の赤い棒を取り出し、棍と連結させ、連結棍に変化させていく。そして玲奈は連節棍を振り回し、横一閃でノイズを薙ぎ払う。

 

【夜露死苦】

 

連節棍に直撃したノイズは次々と炭の塊となり、崩れていく。玲奈は連節棍の棍を2つ外し、二刀流になる。

 

(ここから本部まで距離がある・・・それでも・・・あの子が来るまでは・・・私1人で何とか持ちこたえてみせる!)

 

誰かを待っている様子の玲奈は2つの棍を器用に操り、歌いながらノイズと戦い続けるのだった。

 

~♪~

 

一方その頃、あの場を玲奈に任せて小豆は今も嫌がっている日和を連れてノイズから逃げていく。

 

「小豆!離して!このままじゃ玲奈が・・・玲奈が・・・!」

 

「ダメだよ日和!今戻ったらみんなノイズに殺されちゃう!」

 

今にも引き返そうとする日和を小豆は必死の思いでそれを止める。小豆だって本当は玲奈を置いていくのは納得していなかった。だが、玲奈には絶対に生き残れるという確信があった。それが何かはわからないが、小豆はその可能性を賭けてみることにしたのだ。玲奈を信じているから。だがそれでも納得していないのが日和なのだ。

 

「じゃあ小豆は玲奈がどうなってもいいっていうの!!?小豆はそんな薄情者だったの!!?」

 

「どうだっていいわけないでしょ!!私だって玲奈のことは・・・」

 

「だったら玲奈を助けようよ!!3人で一緒に逃げるの!!」

 

「だから今はダメなんだって!!」

 

お互いに意見のすれ違いによって、小豆と日和は言い争いになってしまう。こうしている間にも玲奈に危険が迫ってると考える日和は小豆の手を振り払う。

 

「もういい!!1人で逃げたいなら勝手に逃げて!!私は玲奈を助けるから!!」

 

「ちょ・・・待ってよ日和!日和!!」

 

日和は小豆の静止の声を振り切って、玲奈の元へと引き返していった。

 

「ああ、もう!!臆病なのに相変わらずこういう時に限って頑固なんだから!!待ってってば!!」

 

小豆は日和の暴走を止めようとして、彼女もまた玲奈の元へと引き返していくのだった。

 

~♪~

 

場所は戻って戦場、玲奈が次々とノイズを蹴散らしていくが、倒しても倒しても次々とノイズが沸き上がってきている。数多くのノイズをさばいてきたせいか、玲奈の顔色には疲れが見え始めている。

 

「はぁ・・・はぁ・・・さすがに・・・キッツ・・・時限式(・・・)も・・・これが限界か・・・」

 

そんな玲奈にノイズたちはお構いなしにどんどんと突進してきた。突っ込んできたノイズに玲奈は棍を素早く回してその突進を防いでいく。

 

(けど・・・もう少し・・・もう少し持ちこたえてみせる・・・!あの子が・・・駆けつけに来るまでは・・・!)

 

自分1人では全滅させるのは難しいことは玲奈にはわかっている。だからこそ、この状況をどうにかできる専門家をずっと待っているのだ。

 

「玲奈ぁ!!」

 

「!!?」

 

この戦場で日和の声が聞こえてきて、玲奈は耳を疑った。ノイズとは反対方向を見てみると、そこには自分が逃がしたはずの日和が駆け寄ってきた。当然、玲奈の待ち人とは、日和ではない。この場に日和が戻ってきて驚いている玲奈だが、日和もまた、玲奈の着込んでいる鎧を見て、驚いた顔になっている。

 

「日和⁉なんで戻ってきたの!!?」

 

「玲奈・・・なんなの・・・その恰好・・・?」

 

「バカ!!早く逃げなさい!!」

 

玲奈が日和に早く逃げるように声を荒げるが、ノイズが日和の存在に気づいた。ノイズは標的を日和に変えて、こちらに迫ってきた。

 

「ひっ!!の、ノイズ!!」

 

「させるかぁ!!」

 

玲奈は日和を守るために迫ってきた棍で薙ぎ払った。玲奈の攻撃でノイズが炭になって崩れた姿を見て日和は自分の目を疑った。通常兵器では効かないはずのノイズが目の前で倒されたのだから無理もない。

 

「ノイズを・・・倒してる・・・?玲奈が・・・倒したの・・・?」

 

日和が驚いている間にも、ノイズは日和に向かって突進する。玲奈は日和を守るために棍を回して突撃したノイズをさばいていく。しかし、空を飛ぶノイズもまた日和に向かって突進してきた。それを見た玲奈はもう1つの棍を回してそれを凌ぐ。

 

「くっ・・・ぐうぅ・・・!」

 

「玲奈・・・」

 

日和を守りながらノイズを倒すのは玲奈の力量では持ちこたえるよりも難しい。その証拠に玲奈の顔は若干苦しげであり、鎧のユニットもノイズの攻撃によって崩れ始めている。玲奈の苦しそうにしている姿に日和は心配そうにする。

 

「日和!!玲奈!!」

 

するとそこに日和を連れ戻しに来た小豆がここに戻ってきた。小豆も玲奈の姿を見て、驚いた顔になる。

 

「れ、玲奈・・・何その姿・・・?コスプレ?」

 

「私のことはいいから早く日和を!!」

 

「う、うん、任せ・・・はっ!!」

 

気になるところはあれど、早く日和を連れ戻そうと動く小豆は気づいた。別方向から別のノイズの群れがこちらに迫ってきたのを。そして、そのノイズの1体が日和に向かって突進してきたことを。

 

「日和!!危ない!!!」

 

小豆はすぐに動いて日和をノイズのいない方へ突き飛ばした。突き飛ばされた日和は小豆に顔を向ける。

 

「日和・・・私の分まで・・・生きて・・・」

 

グサッ!!

 

日和を突き飛ばした小豆は日和に生きるように言い放った瞬間、ノイズは小豆の身体を貫いた。

 

「あ・・・ずき・・・?」

 

ノイズに貫かれた小豆は炭素転換して、体が黒くなっていき・・・そして・・・粉々になって砕け散った。最愛のバンドメンバーが炭へと変わり果て、日和と玲奈は目を見開いた。

 

小豆いいいいいいいいいいいい!!!!!!

 

大好きだったバンドメンバーであり、友達でもあった小豆の死に、日和は涙を流しながら悲痛な叫びをあげた。そして、玲奈はノイズに対し、激しい憎悪を向ける。

 

「よくも・・・よくも小豆を・・・

 

・・・ノイズぅ!!!!

 

玲奈は棍を力いっぱい握りしめ、それを地面に突き刺した。そして、数秒もたたないうちに地面から突き刺した棍が数えきれないほどに現れ、ノイズを殲滅させていく。

 

【仏恥義理】

 

これによって多くのノイズの数を減らすことはできたが、それでもノイズは多くいる。玲奈が戦っている後ろで日和は小豆であった炭を涙を流しながら見ている。

 

「ねぇ・・・嘘だよね・・・こんなの嘘だよ・・・小豆・・・小豆ぃ・・・」

 

「日和!!気をしっかり持ちなさい!!」

 

悲しみに暮れる日和に玲奈は叱咤する。その間にもノイズの大群は液体のようになり、他のノイズたちとくっつきあい、混じりあっていく。そして、その形は1つとなり、さっきまでとは異なる巨大な個体となった。

 

「ちっ・・・ここでデカブツ・・・」

 

巨大なノイズはその巨大な腕を玲奈に向けて振り下ろした。玲奈は日和を抱え、巨大ノイズの攻撃を躱す。

 

(デカブツだけじゃない・・・他のノイズもいる・・・。日和を守りながらじゃとても切り抜けない・・・ここまでなの・・・?)

 

日和を守った状態では本来の力を出し切れない玲奈は苦い表情をし、半分諦めかけた。

 

「・・・私のせいだ・・・」

 

「日和?」

 

「私がライブを開こうなんて言い出さなかったら・・・私が玲奈を連れ戻そうとしなければ・・・小豆は・・・小豆は・・・」

 

「日和・・・」

 

小豆の死を自分のせいだと思い込み、自責の念に囚われてる日和に玲奈は彼女の頭をポンと乗せ、頭をなでる。

 

「例えそうであったとしても・・・私たちは日和の提案を、断らなかったよ。それに・・・小豆は日和のことが大好きだったんだ。あの子のことだから・・・小豆は日和を守れて、誇らしく思ってるはずだよ。もちろん私も、日和のことが、大好きよ」

 

「でも・・・でもぉ・・・」

 

「大丈夫・・・すぐに終わらせるから」

 

玲奈は視線をノイズへと戻し、ノイズの元へと近づいていく。

 

(そうだ・・・この子は・・・この子だけは・・・絶対に守り通してみせる・・・。たとえ・・・この命に代えようとも!!)

 

玲奈はノイズと日和の中間に立ち、持っていた棍を地面に突き刺す。

 

(今日は特大な観客が来てるんだ・・・そんなに歌が聞きたいなら、聞かせてやるよ・・・とっておきの曲・・・絶唱を)

 

玲奈は息を吸って、自分の心を落ち着かせる。

 

(・・・さようなら・・・日和・・・)

 

玲奈は心の中で日和と別れを告げ、静かに涙を流す。

 

Gatrandis babel ziggurat edenal

 

Emustolronzen fine el baral zizzl……

 

(歌・・・?玲奈の・・・歌・・・なの・・・?)

 

(そうさ・・・これが・・・命を燃やす禁断の歌・・・絶唱)

 

Gatrandis babel ziggurat edenal

 

Emustolronzen fine el zizzl……

 

玲奈はにっと口元に笑みを浮かべる。・・・口から血を流しながら。そして、次の瞬間・・・玲奈の身体から凄まじい威力の衝撃波が放たれた。その衝撃波はノイズだけを消滅させた。衝撃波が晴れると、ノイズは全て全滅していた。

 

「の・・・ノイズが・・・消えた・・・」

 

何もかもが信じられない光景を目の当たりし、日和は呆然とする。すると・・・立ち尽くしていた玲奈はゆっくりと・・・静かに倒れていき、持っていた棍は粉々に砕け散った。

 

「!!玲奈ぁ!!」

 

倒れていく玲奈を見て日和は慌てて玲奈に駆け寄って、玲奈を支える。玲奈の口にはおびただしい血が溢れ、瞳は光を失い、虚ろっている。

 

「玲奈!しっかりして!玲奈ぁ!!」

 

「・・・・・・あぁ・・・日和ぃ・・・無事だった・・・よかった・・・。でも・・・もう・・・あなたの姿が・・・見えないよ・・・」

 

玲奈の声質は弱々しくなってきており、今にも消えそうになってしまっている。

 

「玲奈!!待ってて・・・今・・・今救急車を呼ぶから・・・」

 

「日和・・・私の・・・人生は・・・狂いっぱなしだった・・・。自分が・・・自分を・・・制御できないように・・・」

 

「もういい・・・もう喋らないで!!きっと・・・まだ間に合うから!!」

 

「でも・・・日和・・・あなたに出会って・・・私は・・・幸せだった・・・。たった1年の付き合いでしかないけれど・・・あなたのおかげで・・・復讐ばかりに・・・囚われていた・・・私の心を・・・溶かしてくれた・・・。私は・・・あなたが大好きよ・・・。あなたは・・・私にとって・・・太陽のような存在・・・」

 

命の灯が失おうとしている玲奈はそっと・・・今にも泣きそうな日和の頬を触れる・・・

 

「日和・・・この先・・・どんな辛いことがあっても・・・苦しい時があっても・・・怒りたい時があっても・・・決して・・・自分を見失っちゃダメ・・・憎しみに囚われてはダメ・・・前を向いて・・・生きなさい・・・私や、小豆の分まで・・・いい?」

 

「うん・・・うん・・・約束する・・・絶対に・・・自分を見失わないから・・・だから・・・」

 

日和の言葉を聞いた玲奈は安心した笑みを浮かべる。

 

「私の・・・短い人生は・・・幸せだった・・・」

 

玲奈が日和の頬から手を放した瞬間、玲奈の身体はだんだんと・・・塵と化していっている。

 

「!!!玲奈!!!ダメェ!!!」

 

日和は塵となっていく玲奈を止めようと思い切って抱きしめようとしたが、それで止まるはずもなく玲奈は塵となって消え、塵は風に乗って舞っていく。この場に残ったのは、玲奈がいつも肌身離さず着けていた赤い結晶のネックレスだけだった。

 

「玲奈・・・あ・・・ああ・・・あああああ・・・」

 

小豆の死だけでなく、玲奈の死まで目の当たりにした日和は悲しみに明け暮れ、涙を大量に流す。

 

うわあああああああああああああああああああああああああああああああ!!!!!!!

 

日和は泣いた。声を出して泣いた。最愛の友の死の悲しみによって、大声で泣いた。この日、日和が属する高校生バンド、アビスゲートは突然のノイズの襲撃によって、事実上の解散となってしまった。これが・・・日和が経験した、悲しい1年前の、出来事であった。




アビスゲート

東雲日和が作り上げたバンドグループ。歌のジャンルは問わず、日和が作り上げた歌詞を元にし、それに合わせた曲を演奏する。カバー曲も演奏するが、たいていがツヴァイウィングの歌である。

メンバーはリーダーの東雲日和、ベース&ボーカル担当。北御門玲奈、ギター&ボーカル担当。伊南小豆、ドラム担当。この3人である。

活動から1年経ったが、ノイズの襲撃によって事実上解散となってしまった。


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覚醒の鼓動

そして、時は戻って、舞台は再び現代へ・・・場所はリディアン音楽院に変わる。

 

リディアン音楽院・・・小中高一貫の私立学校でその名の通り、音楽教育を中心にしたカリキュラムを特徴としている文字通りの音楽学校である。東雲日和もこのリディアン音楽院の2年生の生徒でもある。そして、リディアン生であるその日和はというと・・・

 

「東雲さん!!!」

 

「へぅ・・・」

 

リディアンの教師に2年のクラスメイト全員の前で絶賛怒られている。その理由というのが・・・

 

「い、いやぁー・・・あのですね・・・作詞作曲が思いのほかノリに乗っちゃいまして・・・ついリズムを刻んだと言いますかなんといいますか・・・」

 

「東雲さん!!!!」

 

「あぅ・・・」

 

単純に寝坊して授業に大遅刻したのが原因である。しかも、この寝坊による大遅刻は1回や2回ではない。ほぼしょっちゅうである。

 

「クスクス・・・」

 

「本当、ひよりんは懲りないよねー」

 

「やっぱひよりんはこうでなくちゃ」

 

2年のクラスメイトたちにとってはこの光景は微笑ましい光景でくすくすと笑っている。

 

「・・・はぁ・・・」

 

そんな中で唯一日和をあきれた様子でため息をしているのが、日和と学生寮で一緒に住んでるルームメイトであった。

 

~♪~

 

リディアンの授業が終わった瞬間、日和はだらぁ~っと机の上に突っ伏した。

 

「あ~~・・・つっかれた~・・・」

 

「まったく・・・いつになったら日和はちゃんと毎日まともに起きられるようになるのかしら・・・」

 

日和の寝坊に頭を悩ませているのはやっぱり日和のルームメイト。水色の髪を三つ編みポニーテールに結んでおり、茶色の縁のメガネをかけた彼女の名は西園寺海恋。リディアン音楽院の2年生で風紀委員に属している女の子である。性格は風紀委員にふさわしく、絵にかいたような真面目で冗談が何1つ通用しない堅物である。

 

「もぉ~・・・朝起こしてって毎回言ってるのに~。風紀委員でしょ~?」

 

「私は毎回起こしてます。でも何をやっても起きないのはあなたの方でしょう?」

 

「そうだったっけ?」

 

「そうですよ。まったく・・・おかげで何度遅刻しそうになったか・・・」

 

日和の毎回の夜更かし、そして毎回繰り返される遅起きを何とか直そうと海恋なりに努力してきたが、どれもこれも空振りで終わってしまっている。もう放っておいた方がいいのではと普通では考えるのだが、風紀委員のプライドとして、海恋は断固としてそれを許容しない。だからこそ頭を悩ませるのだ。

 

「ライブの時は時間ぴったりなのに・・・はぁ、この先社会に出て早寝早起きできるのか心配になってくるわ・・・」

 

「私は海恋に毎回起こしてもらうからいいんだよ~♪」

 

「あなた・・・それでも医者の娘?」

 

「どうせ私は頭悪いですよ~だ」

 

他愛のない会話を繰り広げる日和の元にギターを持ったクラスメイトが声をかけてきた。

 

「ひよりん、この後私たちセッションをするんだけど、ちょっと付き合ってくれない?」

 

「おー!もちろんやるやる!」

 

クラスメイトの誘いにノリノリな日和は持ってきたベースを持ちあげる。

 

「あ、ちょっと日和!明日に出す課題は・・・」

 

「寮に帰ってからやるー!」

 

海恋は日和を呼び止めようとしたが、それで止まるはずもなく、日和はクラスメイトと一緒にセッションの会場である音楽教室へと向かっていく。

 

「はぁ・・・でもよかった。いつも通りの日和に戻って」

 

明るい日和の姿を見て、海恋は安心したような笑みを浮かべる。

 

1年前のアビスゲートのライブの日、あの後日和は大変な目に遭った。まず、小豆の家族に娘の死を報告した。それによって小豆の家族全員は日和を目の敵にし、『人殺し』などと罵声を飛ばしたり、ものを投げつけられて、嫌われ者になったりした。それだけじゃない。追い打ちをかけるように日和の母親は蒸発して家を出ていき、父親も心中自殺をし、亡くなってしまい、病院もうまく回らなくなり、数か月で廃業してしまったのだ。こうなってしまったのは1年前の事件だけでなく、2年前の事件にも大きく関係しているのである。

 

これらのことが積み重なって、日和は心を閉ざし、リディアンの学生寮に引きこもってしまったのだ。リディアンには日和を敵視する者は1人もいなかったのが不幸中の幸いである。それが功を制して、日和は悲しみを抱えつつも、髪を短く切って心機一転して学校に通うようになった。今の元気な日和がいるのは海恋とクラスメイト、先輩たちの根気強い慰めや説得・・・そして、自分のために働いてくれている姉の存在のおかげである。そうでなければ、半年といわず、1年、いやそれ以上に月日が流れ留年・・・下手をすれば退学もありえたのだ。

 

ちなみに日和には年が離れた姉が存在しており、東雲総合病院がなき今、現在は別の病院で医者をやっている。

 

「本当に・・・よかった・・・」

 

日和とは中学2年生からの付き合いなのだが、海恋にとって明るい日和の存在はなくてならないかけがえのない存在となったので、元の日和に戻って、心の奥底から安心している。

 

~♪~

 

セッションが終わって学生寮に戻った日和は海恋に言われて明日に出す課題の製作に追われていた。海恋に見張られながらのため、息つく余裕もなく、ようやく終わって肩の力を抜いた。

 

「はぁ~~・・・やっと終わった~・・・」

 

課題を終わらせた日和は腕を伸ばし、大の字になって床に倒れこんで床の冷たさを堪能していた。

 

「はい、お疲れ様。じゃあ、早く歯を磨いて今日は寝ちゃいなさい」

 

「ええ~~?」

 

せっかく課題を終わらせたのにもう寝なければいけないことに対し、日和は不満を抱いた。

 

「え~じゃないわよ。夜更かしするから大遅刻するのよ。また先生に怒られたいの?」

 

「それ毎回聞いたよ~・・・たまには違う言葉かけてよ~・・・」

 

「そうしたいなら、早く寝なさいよ」

 

「は~い・・・」

 

「本当に・・・あなたの姿を見たら小豆や玲奈さんは何と言うか・・・」

 

「小豆だって似たようなもんじゃん~・・・」

 

ぶつぶつ文句を垂れる日和は洗面所に向かってパジャマに着替え始める。その最中に玲奈が残した赤い結晶のネックレスをじっと見つめる。

 

(あの日、私は小豆と玲奈に助けられた。亡くなった2人のためにも、生きていかなくちゃいけない。そうだよね、小豆、玲奈・・・そう約束したもんね・・・)

 

小豆と玲奈に生きてほしいという約束・・・日和はその約束を守り続けるために決意表明のように玲奈の形見であるこのネックレスを肌身離さず身に着けるようになったのだ。このネックレスが、自分を守ってくれるお守りのように。そして・・・このネックレスがどういう代物なのかも知らずに。

 

(・・・あの時、玲奈はノイズと戦ってるように見えた・・・。でも、ノイズに武器は効かなくて・・・触れただけでも炭になっちゃう・・・。やっぱり、玲奈のあの姿は・・・私の幻・・・?)

 

1年前に見た玲奈のインナースーツのような鎧・・・そして、通常兵器は効かないはずのノイズを倒せた理由・・・疑問に残ることが多すぎて、日和の頭ではそれら全てを解明することができない。結局何も解明できない日和は何とも言い表せないもやもやを抱えたまま、ベッドにもぐりこみ、眠りにつくのであった。

 

~♪~

 

翌日のリディアン音楽院の食堂。食堂には持参した弁当を食べる人や、用意された料理をバイキング形式で取って食べる人間がわかれている。ちなみに海恋は前者で、日和は後者に該当する。海恋は日和と一緒にご飯を食べながら、今朝のニュースをスマホで確認している。

 

「自衛隊、特異災害対策機動部による避難誘導は完了しており、被害は最小限に抑えられた・・・か・・・。場所は・・・」

 

どうやら海恋が見ているのはノイズ関連の記事のようだ。海恋はノイズ関連の記事は毎回の如く確認しているのだ。自分や日和の命を守るために、ノイズから遠ざけられるように最低限でも情報が欲しいのだ。もう二度と、小豆や玲奈のような犠牲者が出ないように。

 

「ここからそう離れてないみたいね。なんだかここ最近多くなってきてないかしら?」

 

ノイズの発生場所を見て、割と近い場所だったために気が遠くなる思いになる海恋。海恋はスマホを閉じ、食事を再開させようとすると、日和の行儀の悪さが目に映る。

 

「ちょっと・・・食事する時くらい作詞をやめなさいよ」

 

「ん~~~?なんて~?」

 

「またイヤホンを着けて・・・」

 

日和はオムライスを食べながら音楽を聴いて、作詞をしている。両耳にイヤホンまでつけているため海恋の注意は聞こえてこない日和。すると、食堂内が突然ざわつき始めた。

 

「ね、翼さんよ」

 

「本物の翼さんだ」

 

「えっ!!?翼さん!!?」

 

「わっ、びっくりした」

 

翼という名が出た途端に日和はイヤホンを外して辺りを見回してみる。すると1つのテーブルの近くに近寄りがたい雰囲気を出しているリディアンの生徒がいた。長い青髪にサイドテールをしているのが特徴的だ。

 

風鳴翼。それが彼女の名前である。翼は超人気のアーティストユニット、ツヴァイウィングの片割れで、今はソロのトップアーティストとして活躍している。翼の人気はツヴァイウィングを結成から非常に高く、日本中で知らない存在はほとんどいない。その人気っぷりは現にこのリディアンで影すら拝めないほどである。

 

そんな彼女は今、なぜか茶碗と箸を持って緊張しているリディアンの生徒の前に立っていた。翼は緊張している生徒にジェスチャーするように、自分の口元に指をさした。それは、緊張していた生徒の口元にご飯粒が付いているのを教えていたのだ。それを教えた翼は何事もなかったかのように、その席から離れていった。

 

「・・・あああぁぁ~・・・」

 

自分の恥に気が付いたリディアンの生徒は落ち込むがごとく机に突っ伏した。その様子は海恋はバッチリ見ていたのだ。

 

「・・・あれ、今年の新入生?変な子ね」

 

1年前までは見ない女子高生のため、海恋はその女の子が今年リディアンの高等部に入った1年生、つまり後輩であると理解した。これを見た海恋はその子をさっそく変な子として見ていた。

 

「はぁ~~・・・やっぱり翼さんはかっこいいなぁ・・・憧れちゃうなぁ~・・・」

 

「そうだ・・・ここにも変な子がいたんだった・・・」

 

翼を一目見て感動している日和はその感動の興奮からか自身を抱きかかえて悶えている。見てわかるように、日和も翼の大ファンである。それもツヴァイウィングの結成当時からである。新曲だけでなく、グッズも買いそろえるあたり、ファンの鑑ともいえる。ちなみに、日和がさっきまで聞いていた音楽は、ツヴァイウィングの曲である。

 

「はぁ・・・まさか翼さんに一目会えるなんて・・・今日はなんていい日なんだろう・・・」

 

「あなたがこのリディアンに進学した理由って、翼さんの追っかけのようなもんだしね。いつか翼さんと共演する~なんて言って、ベースを始めちゃう辺り、大したもんだよ」

 

「いやぁ~、それほどでも~・・・」

 

「褒めてないから」

 

実際に日和が音楽を始めたのも翼の影響が非常に大きく、夢に翼と一緒にライブがしたいと大きく出るほどである。まぁ、リディアンに入学したはいいが、翼には今日という日まで一目見ることも叶わなかったのだが。

 

「なんだか俄然やる気が出てきちゃった!よーし、さっそく詞を完成・・・」

 

「の、前に食事を終わらせてからにしなさい!行儀が悪いのよ!」

 

「えーーー!!せ、せめて音楽だけでも・・・」

 

「ダメ!!」

 

「わーー!!イヤホン返して~~!!」

 

日和がさっそく作詞をしようとしたが、食事中だったために海恋が止めた。往生際が悪い日和は音楽だけでもといったが、海恋にイヤホンを取ってまで止められたために仕方なく食事の方に集中するのであった。

 

~♪~

 

リディアンの授業が全て終わって放課後、海恋は風紀委員の書類に目を通して、提出するべき書類の作成に集中している。そんな海恋をなぜか焦らすような目で見つめている日和。

 

「ね~ぇ~・・・その書類、まだ終わらない?」

 

「そうね・・・まだまだかかりそうだわ」

 

「あ~~~早くしてよ~~~!」

 

「なんでそんなに焦らすのよ」

 

「だって今日なんだよ今日!!翼さんの新曲のCD!!早くしないと売り切れちゃうよ~~!!」

 

日和は興奮したように翼のチラシを海恋に見せる。日和が焦らしていた理由は翼の新曲が収録されたCDが今日発売されたからである。それには海恋は納得したような顔になる。

 

「あ~、そういえば今日だったね。翼さんのCD。けど、今時CD?スマホに曲入れた方がよくない?」

 

「ただのCDじゃないんだよぉ!!私が欲しいのは初回特典版!!普通のCDじゃ充実度が大きく違ってくるんだよ~」

 

日和が欲しがってるのは普通のCDではなく、初回特典版の方である。先も言ったように、何でも充実度が違うとかで日和は絶対に外せないのである。と、ここで、海恋が口を開く。

 

「・・・あんた確かそれもうすでに1つ予約してたんじゃなかったっけ?」

 

「えっと~、使用用と保存用、そして観賞用の3つが欲しいんだ~。だから1つじゃ足りなくて~」

 

「典型的なオタクじゃない」

 

オタクといっても過言じゃないほどに翼愛に海恋は若干ながらドン引きする。

 

「でもなおさら売れ切れてるんじゃない?」

 

「それは困る!!!」

 

「だったらCDショップに行ってきたら?私はどのみちこれ終わるの時間かかるし」

 

「わかった!!じゃあ海恋の分も合わせて4つ!!買ってくるよ!!」

 

「いや、私は別にCDは・・・」

 

「うおおおおおおおお!!翼さんの特典CDが私を呼んでるーーー!!!」

 

「・・・聞いてないし・・・」

 

CDショップに行ってきていいという許可をもらい、日和は鞄とベースを持って猛ダッシュで教室を出ていった。自分の分は買わなくてもいいと言う前に日和は出て行ってしまったために、海恋はまたも呆れる。だが、それも日和らしいと考え、海恋は微笑ましく笑みを浮かべる。

 

~♪~

 

「CD!!特典!!CD!!特典!!」

 

リディアンの外から出た日和はもう待ちきれないと言わんばかりにCDや特典を繰り返しに唱えながらうきうきした様子でCDショップへと足を運ぶ。

 

「はぁ・・・はぁ・・・ふぅ・・・もうすぐ・・・もうすぐCDが私の手に~♪」

 

走りすぎてさすがに疲れたのか息を整えてからゆっくりと歩いてCDショップに向かっていく。日和がコンビニの道の曲がり角を曲がると、辺りに黒い塵が舞っていた。

 

ドクンッ・・・

 

この黒い塵を見た瞬間、日和はトラウマを思い出し、顔を青ざめ、心臓の音が高くなる。日和が恐る恐るコンビニの中を見てみると、中には黒い炭素の塊があちこちに散乱していた。いや、コンビニだけではない。辺りを見てみると、道路にも、倒れた自転車にも、自動車にも、炭素の塊が大量にあった。これを指し示すことはただ1つ・・・

 

「・・・の・・・ノイズ・・・!!」

 

そう、この付近に日和のトラウマ、ノイズが現れたのだ。この近くにノイズが現れたと知り、日和は顔が真っ青になり、心臓の音がどんどんと高くなる。

 

「・・・・・・ひっ!!」

 

辺りをよく見まわしてみると、ノイズの大群が日和の前に現れた。日和に気づいたノイズは日和を炭素の塊に変えようと、じりじりと近づいてきた。

 

「や・・・やだ・・・やだああああああああああ!!!!」

 

ノイズの恐怖から日和は鞄とベースを放り投げて、死にたくない思いで必死にノイズから逃げ出す。当然、ノイズが逃がすはずもなく、ノイズは日和を追いかけ始めた。

 

(はぁ・・・はぁ・・・はぁ・・・!!ひ、避難シェルター!!避難シェルターまで行けば助かる!!急いで・・・急いで行かなくちゃ・・・!!)

 

日和は安全の場所である避難シェルターに行けば安心と考え、避難シェルターへ続く道のりを走っていく。だが避難シェルターの道の先に別のノイズまで現れた。

 

「ひっ!!ここにもノイズ!!」

 

日和は別のルートを通ったり、段差を利用したりしてノイズから撒こうと必死だった。だがそれでもノイズは追いかけてくる。

 

「いやああああ!!助けて・・・」

 

「嫌だ!!嫌だ!!いや・・・」

 

「ひぃ・・・死にたくない・・・死にたくない・・・!嫌・・・もう嫌あああああああああ!!!」

 

途中で逃げられず、ノイズによって炭に変えられていく人たちの最期の声も聞こえてきて、日和の恐怖心はさらに増していく。

 

(はぁ・・・はぁ・・・避難シェルターが・・・遠ざかっちゃった・・・!)

 

回り道を繰り返していくうちに、避難シェルターへの道は一気に遠のいた。今から行ってもノイズに出くわすであろう。それならばできることはただ1つ。ノイズが自壊するまで逃げ続けるほかない。

 

「はぁ・・・はぁ・・・あっ!!」

 

走り続けてもう限界が近いせいで日和は足をつまずいて転んでしまう。息を整えながら後ろを見てみると、ノイズはしつこく追いかけてきている。うまく撒いた様子は微塵もない。それどころか、他のノイズと合流したことで数が増えている。

 

(私・・・死んじゃうの・・・?こんなところで・・・)

 

迫りくるノイズに日和はにじり寄ってきた死の恐怖から涙を流し始める。

 

『日和・・・私の分まで・・・生きて・・・』

 

諦めかけた時、小豆の最期の言葉を思い出し、怖いながらも涙を堪え、限界であろう体を動かし、ノイズから逃げていく。

 

(そうだ・・・死ねない・・・絶対に死ねない・・・!2人に約束・・・したんだ・・・!必ず生き続けるって・・・!その約束を守るために・・・絶対に・・・絶対に・・・)

 

「死んでたまるかああああああああ!!」

 

日和はありったけの思いを打ち明けながらノイズから必死に逃げていく。日和は大きな建物についてある梯子を使って上へ、上へと逃げていく。頂上まで登り切ったところで日和は倒れる。

 

「はぁ・・・はぁ・・・ここまでくれば・・・もう・・・」

 

さすがに上にまでは登ってこないと考えた日和。だが・・・その考え方は完全なる甘えである。なぜなら・・・

 

「・・・ウソ・・・」

 

ノイズはすでに日和のいる建物の頂上まで来ているのだ。ここは頂上・・・戻ろうにも梯子の前にはノイズがいる。この建物の頂上は非常に高い。落ちれば地面に衝突し、即死は免れない。日和に残された選択肢は・・・ノイズによって殺されるか、ここから下まで飛び降りるかの二択しかない。

 

「あ・・・ああ・・・」

 

完全に恐怖で縮こまった日和は体を震わせ、頭を抱える。

 

(怖い・・・怖い・・・怖い・・・!!誰か・・・助けて・・・!!)

 

恐怖に支配された日和は助けを求めた。しかし、いくら助けが来たところで、この状況ではもう間に合わないだろう。

 

『日和・・・この先・・・どんな辛いことがあっても・・・苦しい時があっても・・・怒りたい時があっても・・・決して・・・自分を見失っちゃダメ・・・憎しみに囚われてはダメ・・・前を向いて・・・生きなさい・・・』

 

恐怖で震えていたところに、玲奈との約束を思い出し、なけなしの勇気を振り絞り、立ち上がる。

 

(・・・死ねない・・・!やっぱり死ねない!約束を守り続けたい!あの時・・・玲奈は間違いなく、ノイズと戦っていた。どうやったかは知らないけど・・・玲奈だって、覚悟を持っていたはずなんだ。だったら・・・私だって・・・最後の瞬間まで諦めない!生きるのを・・・諦めない!!)

 

日和ではノイズには勝てない。それを理解してか故なのか、日和は勇気を振り絞って走り出し、頂上から飛び降りる。飛び降りた日和は重力に従って、地面に向かって落下していく。このままでは、即死してしまうだろう。

 

(神様・・・どうか・・・どうか・・・奇跡をお与えください・・・!!)

 

日和は奇跡が起こることを信じて、神に向かって祈りを捧げた。そして・・・そんな日和の祈りに答えるがごとく、日和の胸の奥から、歌が流れ始める。日和は無意識に、歌を口ずさむ。

 

clear skies nyoikinkobou tron……

 

詠唱を唱えた瞬間、日和の首に着けていた玲奈の形見のネックレスが輝き始めた。

 

「!!?な・・・何・・・?」

 

突然輝いたネックレスに驚きながらも、日和はネックレスから放つ光に包み込まれ・・・そして・・・

 

ドオオオオオン!!!

 

地面に・・・激突した。

 

~♪~

 

一方、どこかの施設内・・・この施設の一室にて、何人かの人間が集まり、ノイズの出現場所を割り出そうとしている。そして、この場所にはなぜかトップアーティストである翼の姿もあった。

 

「反応絞り込めました!!位置特定!!」

 

「ノイズとは異なる、2つの高出量エネルギーを検知!!」

 

「波形を照合!急いで!」

 

ノイズの位置を特定できたが、それとは別の反応が2つ確認され、そちらの反応を照合させる。

 

「・・・これって・・・アウフヴァッヘン波形!!?」

 

反応の照合の結果がモニターに表示された。モニターにはこのような文字が刻まれた。

 

GUNGNIL

 

「ガングニールだとぉ!!?」

 

何かの名前を見た司令塔である大漢は驚愕の声を上げる。驚いている間にも、もう1つの反応の解析が完了し、それがモニターに現れた。刻まれた文字にはこう書かれている。これも、何かの名前である。

 

NYOIKINKOBOU

 

「なっ・・・如意金箍棒だと!!?」

 

これを見た大漢はさらに驚愕の声を上げた。そして・・・これを見た翼は衝撃を受け、驚愕に満ちた顔つきになる。

 

(そんな・・・!だってそれは・・・)

 

~♪~

 

場所は戻って、ノイズの発生現場・・・建物から落下して地面に激突した日和は・・・生きていた。まさに奇跡が起こった瞬間であった。ただ・・・いつもの日和と違うところといえば・・・その格好だ。

 

今の日和の服はリディアンの制服ではなく、猿の尻尾のような機械の白い装飾品、頭には日和のトレードマークであるウサギ耳のような機械の白い装飾品、そして体には白と黒、茶色が配色されたインナースーツの鎧を着込んでいた。

 

大きな違いはあれど・・・この姿は・・・1年前に亡くなった玲奈が着込んでいたものと酷似していた。




東雲日和

外見:黒髪のショートヘア、頭にウサギリボンのようなカチューシャをしている。
   瞳は青色

【挿絵表示】

↑Picrewより『妙子式おんなのこ』

年齢:15歳➡16歳

誕生日:10月27日

シンフォギア:妖棍・如意金箍棒

趣味:セッション

好きなもの:ベッキー(日和の白いベース)

スリーサイズ:B:86、W56、H85

イメージCV:輪廻のラグランジェ:京乃まどか
(その他の作品:マギ:アラジン
        変態王子と笑わない猫:小豆梓
        クロスアンジュ 天使と竜の輪舞:ロザリー
        その他多数)

本作品の主人公。リディアン音楽院の2年生
天真爛漫で猪突猛進、思い立ったら一直線に突き進む元気な女の子。その反面臆病者で怖いものやお化け、グロいものに怖がる一面がある。特にノイズはバンドメンバーが殺されたため、トラウマを抱えている。しかし誰かや友達に危険が迫った時は恐怖を振り絞ってでも立ち向かう勇気がある。
音楽好きになったのは翼の影響が強く、ツヴァイウィングや翼のソロ曲もベースで弾けるほどである。
苗字は東西南北の東、名前は晴天が由来している。

楽曲

『妖棍・如意金箍棒』

失ってしまった最愛の友の約束、その約束を守り続けるために少女の奮闘を体現させた歌。


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特異災害対策起動部二課

ノイズに追われ、高い建物から落下した日和はインナースーツのような鎧をまとって、ちゃんと生きていた。

 

「・・・あ・・・あれ・・・?私・・・生きてる・・・?」

 

あんな高いところから落ちたのに、生きていることに対し、自分で落ちておきながら驚いている。そして、今身にまとっている鎧にも気が付いた。

 

「え・・・ええええええ!!?なにこれ!!?私、どうなっちゃったの!!?」

 

当然ながら落ちながら着替えることもできないし、何より自分も気が付いていなかったのだから今の格好を見てさらに驚く日和。

 

「ど・・・どうなってるのこれ?幻?」

 

自分の姿をまじまじと見つめていると、この格好が1年前の玲奈が着ていたものと同じであるということに気が付いた日和。

 

(これ・・・玲奈が着てたものと同じだ・・・!でも・・・なんで!!?どうして!!?WHY!!?なんで私がこれ着てるの!!?)

 

何が何だかわからず、混乱する日和。すると、高い建物の上にいたノイズが日和を追いかけて降ってきた。

 

「そ、そうだ・・・まだノイズがいたんだった・・・逃げないと・・・!」

 

降ってくるノイズから日和はまた逃げようと行動する。しかし、逃げながら日和はこんな状況ながらに歌っている。そして不思議なことに、さっきまであったノイズの恐怖が、和らいだような気がした。

 

(あれ?なんで私、歌を歌ってるんだろう?それに・・・さっきまでの恐怖が・・・和らいでるように感じる・・・)

 

ノイズは日和を炭に変えようとして、突進してきた。それを見た日和はそれを避けようとして、高く飛んだ。だが・・・その脚力は日和の想像をはるかに超えていて、建物を軽く飛び越えていた。

 

「え・・・ええええええええ!!?」

 

勢いよく飛んだ日和は当然ながら驚いた。そしてそんな日和の目の前には・・・タンクが。

 

「わあ!!ぶつかるううううう!!!」

 

このままいけば日和はタンクにぶつかる。しかし、勢いよく飛んだために当然止まるはずがない。そして・・・

 

バチーン!!

 

「へぶぅ!!?」

 

見事にタンクに激突する。タンクにぶつかった日和は目を回し、タンクからはがれ、地面に激突する。これも高いところから落ちたのだが、日和にはなぜか大したダメージが入ってなかった。

 

「い・・・たた・・・はっ!!」

 

痛みを感じながらも立ち上がった日和にノイズが迫ってきた。このままいけばノイズは日和に触れてしまう。

 

「ひっ・・・やだ・・・来ないでぇ!!」

 

日和は目を閉じてノイズを押し倒そうとした。これで人生終わった・・・と考えた日和。だが、ノイズは日和を炭素に変えることなく・・・自分だけが炭素となって崩れ去った。

 

「・・・え・・・?」

 

目の前で自分だけ崩れ去ったノイズに日和は目を疑った。そしてもっと目を疑ったのは、日和が持っていたものである。日和の両手には・・・槍のように長い赤い棍が握りしめられていた。

 

「なにこれ・・・棍・・・?これで・・・ノイズが・・・?私が・・・倒したの・・・?」

 

自分の格好だけでも混乱するのに、さらにノイズを倒せる武器を前にして、日和はさらに混乱する。そして・・・息つく間もなく、日和の前には巨大なノイズが現れる。

 

「お、大きい・・・」

 

巨大なノイズは腕を振り下ろして攻撃を始めた。だが・・・攻撃をしたのは日和ではなく、さっき日和がぶつかったタンクに向かってだ。すると、攻撃されたタンクから、女の子を抱きかかえいた少女が落ちてきた。

 

「女の子が・・・降ってきた!!?」

 

タンクから女の子が降りてきた日和は驚愕する。その女の子は・・・リディアンの食堂で翼に米粒がついていたことを教えられた女の子だった。その女の子の姿は・・・今日和が着ている鎧とほぼ同一のものであった。違いがあるのは装飾品とインナースーツの色が白と黒、橙色であった。ノイズはその少女に向かって突進してきた。少女は抱きかかえた女の子を守りながらノイズを躱していく。

 

「女の子が・・・ノイズに襲われてる!!」

 

自分がその少女に駆けつければ自分の命を背負うリスクが高くなる。2人の約束を果たすことも難しくなってくる。

 

「でも・・・だからといって、放っておけないよ!!」

 

元の性格が優しいために、見過ごせない日和はノイズを倒せる棍を握りしめ、少女の元に駆けつけた。

 

「や、やあああああああ!!」

 

日和は素人同然の動きで棍をノイズに向かって振り下ろした。ただ単に棒を振り下ろしただけの攻撃でも、ノイズは炭素となって砕け散った。

 

「え・・・?ノイズが・・・」

 

目の前でノイズだけが崩れた瞬間を見て、少女は驚きで目を見開く。

 

「は、早く逃げてぇ!!」

 

「え・・・あ、あの・・・」

 

「わああああ!!来るな来るなぁ!!」

 

日和は少女を守ろうと棍を素人の振り方をして、ノイズから遠ざけようとする。戸惑う少女の元に別のノイズが襲い掛かろうとしていた。それを見た少女は拳を握りしめて、それをノイズに振るった。少女の拳はノイズに直撃し・・・なんとノイズだけが炭素となって崩れ去った。

 

「え・・・この子も・・・ノイズを・・・」

 

(わ・・・私が・・・やっつけたの・・・?)

 

まさかこの少女もノイズを倒せることに日和は驚きを隠せないでいた。ただ・・・驚いているのは女の子を守っている少女もそうだった。まさか自分がノイズを倒せるなんて思ってもいなかったからだ。2人が呆然としている間に、何かがこっちに近づいてきた音がした。この音は・・・バイクの音だ。2人が呆然と立ち尽くす間にバイクは巨大なノイズに突っ込んで爆発した。バイクに乗っていた人物はノイズにぶつかる前にバイクから飛んだ。

 

Imyuteus amenohabakiri tron……

 

バイクに乗っていた人物は突然詠唱を唱え、2人の前に華麗に着地した。2人の前に現れた人物とは、なんと日和の憧れの存在であるトップアーティスト、風鳴翼であった。

 

「呆けない。死ぬわよ。あなたたちはその子を守ってなさい」

 

「「つ、翼さん・・・?」」

 

呆ける2人を余所に翼はノイズの群れへと向かい、光に包まれた。光が晴れると、その人物は日和と少女が着ているものと同等の姿となった。これにも違いがあり、カラーリングは白と黒と青色だった。翼は歌を歌いながら刀を手に持つ。刀は大剣へと変化させ、翼はそれを振り下ろし、青い斬撃を放った。

 

【蒼ノ一閃】

 

斬撃は大量のノイズに直撃し、炭素と化して崩れていく。翼は高くジャンプし、大量の刀を出現させ、それを残りのノイズに突き刺した。

 

【千ノ落涙】

 

さらに翼はノイズに隙を与えず、刀でノイズを次々と倒していく。

 

「すごい・・・これが・・・あの翼さん・・・?」

 

自分の知っている翼とは違う姿を見て驚愕している日和と少女。そんな彼女たちの前に、残った巨大ノイズが襲い掛かろうとしていた。少女は女の子をかばい、日和は何とかしようと棍を構える。

 

ズシャッ!!

 

だが巨大なノイズは翼が繰り出した巨大な剣によって貫かれ、炭素と化して消滅した。全てのノイズを片付けた翼は巨大な剣の上で日和と少女を見下ろしていた。

 

~♪~

 

全てが片付いた現場には多くの専門家たちがやってきて、炭素の塊を片付けていた。その様子をただ茫然と見つめる日和。

 

「あ・・・あのぅ・・・」

 

すると日和の前に自分と同じ格好をした少女が声をかけてきた。

 

「あ・・・どうも・・・初めまして。東雲日和です。リディアンの2年生で、好きなものは音楽とベース・・・です」

 

「あ、これはこれはご丁寧に、初めまして。立花響です。リディアンの1年生で好きなものはご飯&ご飯です。助けていただいて、ありがとうございました!」

 

「あ、これはこれはご丁寧にどうも」

 

お互いに初対面である日和と栗毛の短髪少女、立花響は自己紹介をしながら、丁寧にお辞儀をしあっている。そんな2人に温かい飲み物を持ってきた女性が近づいてきた。

 

「あの、温かいもの、どうぞ」

 

「「あ、温かいもの、どうも」」

 

女性から温かい飲み物を受け取った日和と響は息で飲み物を少し冷ましてから一口すすった。

 

「「・・・ぷはーっ・・・」」

 

日和と響は温かいものを飲んでリラックスできたのかほっこりしたような顔になった。まさに似た者同士である。すると、2人の鎧は輝きだし、日和の鎧は元のネックレスに戻り、響の鎧は粉々に砕け散った。服装もリディアンの制服に戻っている。

 

「わ・・・わわわわわ・・・」

 

元の姿に戻った響は鎧が粉々になった衝撃でバランスを崩し、温かい飲み物をこぼし、転びそうになる。そんな響きを支えたのは同じく、元の姿に戻った翼であった。

 

「つ・・・翼さん!!?」

 

憧れの人物に出会えた日和は信じられないと言わんばかりに頬を赤くし、興奮気味になっている。翼に支えてもらった響は頭を下げてお礼を言う。

 

「あ、ありがとうございます!!実は、翼さんに助けてもらったのは・・・これで2回目なんです!!」

 

「・・・2回目?」

 

どうも響は危機的状況から翼に助けてもらったのは2回目らしいが、翼は覚えがない様子である。

 

「えっ!!?立花さん、翼さんに1回助けてもらったことあるの!!?」

 

「はい!今も鮮明に覚えてます!!」

 

「うわ~~!羨ましい~~!!」

 

日和は響に事実確認をとると、非常に羨ましそうな顔になり、拳をぎゅーっと握りしめている。

 

「ママ!!」

 

「よかった・・・無事だったのね・・・」

 

遠くの方を見てみると、響が守っていた女の子の元に母親が迎えにやってきた。自分の娘が無事だったことに母親は安心した笑みを浮かべる。

 

「それでは、この同意書に目を通してもらった後、サインをしていただけますでしょうか。本件は国家機密事項に該当するため、情報漏洩の防止という観点から、あなたの言動、及び・・・」

 

何かの組織の制服を着た女性が何やら難しい話をして、女の子の母親に情報漏洩防止のサインを求めている。それを見た日和は1年前に自分もこんなこと書かされたなぁって苦い笑みを浮かべている。苦い顔をしているのは響も同様である。

 

「「・・・じゃあ、私たちもそろそろ・・・」」

 

日和と響は苦笑を浮かべながらこの現場から去ろうとするが、2人は翼と大勢の黒服を着た男たちに囲まれていたために、帰れない。

 

「・・・あなたたちをこのまま帰すわけにはいきません」

 

「「なんでですか!!?」」

 

この場から帰してもらえない日和と響は声をハモって当然の声を上げる。

 

「特異災害対策機動部二課まで、同行していただきます」

 

ガチャン!!ピーッ!!×2

 

日和と響は黒服の男に電子式の手錠をかけられた。

 

「うえええ!!?手錠!!?」

 

「すみませんね。あなたたちの身柄を拘束させてもらいます」

 

黒服の男の1人はにこやかな笑みを浮かべてそう言い放った。

 

「「ちょっとま・・・な、なぁんでええええええええええええええええ!!!??」」

 

日和と響はわけもわからず黒服の男たちに車の中に乗せられ、どこかへと連行されていった。

 

~♪~

 

行き先もわからず、どこに連行されるのか不安になってくる日和と響。時間が経って窓を見てみると、リディアン音楽院が見えてきた。どうやら連行先はリディアンのようである。

 

「ここって・・・リディアン・・・ですよね・・・?」

 

「なんで・・・学院に・・・?」

 

なぜリディアンに連行されたのかわからない日和と響は黒服に質問するが、答えは返ってこなかった。車から降りらされ、黒服の男と翼の先導の下、先へ進んでいく。進んでいく先は、リディアンの教師がいる中央棟であった。

 

「あの・・・ここ、先生たちがいる中央棟・・・ですよね・・・?」

 

「えっと・・・先生に用ですか・・・?それなら、この時間はいない・・・と、思いますけど・・・」

 

明らかに場違いなことを言う日和を無視してさらに先に進んでいき、エレベーターまでたどり着き、そこに連れ込まれる。黒服の男が何かの端末を機械にかざすと、エレベーターの扉は閉じ、手すりのようなものが現れる。

 

「「あ、あのぅ・・・これは・・・?」」

 

「さ、危ないから掴まっててください」

 

「え?危ないって・・・」

 

「あの・・・言っている意味が・・・」

 

黒服の男に促されるまま、日和と響は言うとおりに手すりを掴んだ。そして、その瞬間・・・

 

ギュイイイイイイイン!!!

 

「「ああああああああああああああああああ!!??」」

 

エレベーターがものすごい勢いで動き出し、地下へと降りていく。速いスピードで下へ降りていくのだ。確かに危険である。ものすごいスピードではあるが、手すりを持った日和と響は徐々にこの速さに慣れてきた。

 

「「ええっと・・・あの・・・あはは・・・」」

 

「愛想は無用よ」

 

「・・・しゅん・・・(´・ω・`)」

 

日和と響は愛想笑いを浮かべるが、翼にすっぱりと拒絶された。響と日和は少し落ち込む。日和に至ってはカチューシャのうさ耳ような装飾はしょぼんと項垂れる。奥深くまで降りていくと、壁に何かの模様がたくさん描かれたフロアに到着する。

 

「これから向かう場所に、微笑みなど必要ないから」

 

目的地である最下層まで下りてきたところで、エレベーターから降りる4人。微笑みはいらない・・・そんな怖そうな場所に行くのかと不安になってくる日和は少し身震いをする。目的の部屋までたどり着きその扉を開くと・・・

 

パァン!!パァン!!ピュー、パフパフパフ!!

 

「ようこそ!!人類守護の砦、特異災害対策機動部二課へ!!」

 

突然のクラッカー音と拍手の音が響いた。テーブルにはたくさんのおいしそうな料理があり、この部屋に飾ってある垂れ幕には・・・

 

『熱烈歓迎!!立花響さま☆東雲日和さま☆』

 

という歓迎の文字が書かれていた。出迎えてくれたのは赤いワイシャツを着込んで、黒いシルクハットをかぶった大漢であった。

 

「「・・・へ?」」

 

「・・・ふぅ・・・」

 

「あはは・・・」

 

微笑みしかないこの空間と歓迎ムードに日和と響は当然ながらポカンとしている。この光景を見た翼は頭を抱え、黒服の男は苦笑を浮かべる。何が何だかわからないこの状況に理解が追い付かない日和と響の前に白衣を着込んで、長い髪を大きく結んだメガネをかけた女性が現れた。

 

「さあさ、笑って笑って~!お近づきの印にスリーショット写真♪」

 

女性はスマホで日和と響と一緒にスリーショット写真を撮ろうとすると、当然ながら2人は拒む。

 

「い、嫌ですよぉ~・・・手錠を着けられたままのスリーショット写真だなんてきっと悲しい思い出として残っちゃいます~・・・」

 

「そ、そうですよぉ。それに、どうして初めて会う皆さんが私と日和さんの名前を知ってるんですかぁ?」

 

響の疑問は当然だと思う。なぜならこの2人とここの施設の人間たちは今日で初めて会うので、素性を知らないはずなのだ。そんな響きの疑問を大漢が答える。

 

「我々二課の前身は、大戦時に設立した特務機関なのでね。調査などお手の物なのさ」

 

大漢は杖を花に変えるという手品を2人に見せつけた。その横で白衣のメガネ女性は2つの鞄とベースを2人に見せつけた。ベースとその2つの鞄のうち1つは日和がノイズから逃げる際に放り投げたもので、もう1つは響の鞄である。

 

「ああああああ!!私の鞄とベッキー!!」

 

どうやら日和のベースにはベッキーという名前を付けているようだ。

 

「私の鞄までぇ!!なぁにが調査はお手ものですかぁ!!鞄の中身、勝手に調べたりなんかしてぇ!!」

 

「そうですよぉ!!プライバシーの侵害です!!」

 

「はっはっはっ!日和君、中々いいベースを使っているんだな!手入れも行き届いていて、愛が詰まっているのがよく伝わってくるぞ!」

 

「いや~、それほどでも~・・・って!!そんなことはどうでもいいですからベッキー返してください!!そしてこの手錠も外してください~~!!」

 

日和は涙をさめざめと流しながらベースの返却と手錠の解除を要求している。緊張感も何もないこの状況に翼はため息をこぼす。

 

「はぁ・・・緒川さん、お願いします」

 

「はい」

 

緒川と呼ばれた黒服の男は響と日和の手錠のロックを解除し、2人の手錠を外した。

 

「あ、ありがとうございます」

 

「いえ、こちらこそ、失礼しました」

 

「は~い、感動のご対面~♪」

 

「わあ!ベッキー!!」

 

日和は白衣のメガネ女性からベースを返してもらって、ベースを抱きかかえながら頬ずりする。

 

「ベッキー、おかえり~。置いて行ったりしてごめんね~」

 

大漢の言うとおり、日和はベースをとても大事にしており、愛情が非常に深かった。まぁ、ベースに名前を付けてる時点で当たり前だと思うが。

 

「では、改めて自己紹介だ。俺は風鳴弦十郎。ここの責任者をしている」

 

「そして私は~、できる女と評判の櫻井了子。よろしくね♪」

 

「「あ、こちらこそ、よろしくお願いします」」

 

この施設の責任者である大漢、風鳴弦十郎と白衣のメガネ女性、櫻井了子の自己紹介を聞いて、日和と響は丁寧にお辞儀をする。

 

「・・・て、あれ?風鳴・・・ってことは・・・翼さんは・・・」

 

「ああ!翼は俺の姪っ子だ!」

 

「「えええええええええ!!??」」

 

弦十郎のような厳つい大漢が翼の叔父だと知った日和と響は驚きの声を上げる。

 

「さて、今日ここに君たちを呼んだのは他でもない。協力を要請したいことがあるのだ」

 

「「協力って・・・」」

 

協力といわれて思い当たることといえば、日和と響が身にまとっていたあの鎧姿・・・そして、自分たちの手でノイズを倒してみせたことだ。

 

「教えてください!あれは、なんなんですか?」

 

「わ、私もお願いします!突然コスプレみたいな格好になったり、ノイズを倒せたり・・・もうわけがわかりません・・・」

 

当然ながら、あれらの出来事が気になる日和と響は今回の件について知ろうとする。日和と響の問いかけに弦十郎と了子は軽く顔を合わせ、了子が笑顔で頷く。そして了子は笑顔のまま日和と響に近づく。

 

「あなたたちの質問に答えるためにも、二つばかりお願いがあるの。1つは、・・・日和ちゃんはもう知ってるでしょうけど、今回のことは誰にも内緒」

 

「やっぱり・・・ですか・・・?」

 

「やっぱり?」

 

「うん♪そして、もう1つは・・・」

 

了子は両手を日和と響の腰に回して抱きしめ、耳元で・・・

 

「とりあえず・・・脱いでもらいましょうか♪」

 

服を脱げととんでもないことを言い放った。

 

「え・・・もしかして・・・すっぽんぽんですか・・・?」

 

「うん♪すっぽんぽん♪」

 

すっぽんぽんということは、衣服を全部脱げと言っているものだ。それを聞いて、当然ながら顔を赤くする日和と響は・・・

 

「「・・・だからぁ・・・なあぁぁんでええええええええええええええええええええええええ!!!???」」

 

日和と響の羞恥の悲痛の叫びは地下中に響き渡った。ちなみに服を脱げと言っているのはメディカルチェックのためであって、ちゃんとそれ用の服はあり、すっぽんぽんというのは嘘である。




伊南小豆

外見:栗毛のサイドテール
   瞳は黄色

享年:15歳

好きなもの:ドラム

スリーサイズ:B:83、W58、H87

イメージCV:IS 〈インフィニット・ストラトス〉:凰鈴音
(その他の作品:アイドルマスターシリーズ:双海亜美、双海真美
        Caligula -カリギュラ-:アリア
        プリンセスコネクト!Re:Dive:マツリ
        その他多数)

日和の幼馴染。生前まではリディアン音楽院の1年生。
マイペースでお調子者の性格の女の子。自分のペースでのんびりとしているが、やるべきことをきちんと丁寧にこなす器用さを持っている。
結構な噂好きでミーハーでもある。日和がツヴァイウィングの存在を知ったのは噂好きの彼女のおかげである。ちなみに彼女は奏に大きな憧れを抱いていた。
ライブ配信時に襲撃してきたノイズから日和を庇い、身体を貫かれたために炭素転換され、粉々に砕け散って亡くなった。
苗字は東西南北の南、名前は小豆が由来している。


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雑音と不協和音と

リディアンの学生寮の日和と海恋の部屋、海恋は次の課題を取り組んでいる。だが、その様子はとても集中できておらず、先ほどから時計と寮の外を交互に見てばかりである。というのもテレビでやっていたニュースでこの街にまたノイズが現れたと聞いて、日和がノイズに襲われてないかと心配しているのだ。

 

「はひぃ~・・・ただいまぁ~・・・」

 

海恋が日和の心配を募らせていくと、二課の方でメディカルチェックを済ませ、心身ともに疲れ切ってる日和が帰ってきた。

 

「!!日和・・・!もう・・・こんな時間までどこ行ってたのよ!!?携帯にも繋がらないし・・・」

 

「うぅ・・・ごめん・・・」

 

帰ってきた日和は自分の机にベースを置いて、床に倒れて床の冷たさを堪能する。

 

「まったく・・・近くでまたノイズが現れたって聞いて、心配したのよ?」

 

「そだね・・・でもこうして生きてるから、大丈夫・・・」

 

『・・・風鳴翼、移籍の可能性も・・・』

 

「!!」

 

テレビで翼に関するニュースが流れてきて、日和は体を起こし、そのテレビに集中する。ニュースで翼の姿を見ている日和は頬をほんのりと赤らめている。日和を心配する海恋は、日和のことを思ってか、顔色が優れなかった。

 

~♪~

 

就寝時間となり、日和と海恋はそれぞれのベッドにもぐりこみ、寝返りを打つ。ちなみに、日和と海恋が同じ時間帯に寝るのは、今日が初めてだったりする。

 

「・・・あ、あのね、海恋・・・」

 

日和は今日起こったことを海恋に話そうとした時、了子との約束が頭をよぎった。

 

『今回のことは誰にも内緒』

 

「・・・ううん、何でもない・・・」

 

了子との約束もあるが、何より、友達である海恋に心配をかけさせまいと、今回のことは胸の内にしまった。

 

「・・・何でもよくないわよ・・・」

 

「海恋・・・?」

 

「帰りも遅いし、ノイズが現れたって聞いて・・・本当に・・・本当に心配したのよ・・・。小豆や玲奈さんがいなくなって・・・あなたまでいなくなったら・・・私・・・私・・・」

 

どうやら日和が思っていた以上に心配をかけてしまっていたようで、日和は申し訳ない気持ちになる。日和は海恋を元気づけようと声をかける。

 

「・・・海恋・・・ごめんね・・・。でも本当に大丈夫だよ。私は生きてるし・・・。それに・・・小豆や玲奈にも約束したからね・・・私は死なない・・・絶対に死なないって・・・。だから・・・苦しくても、悲しくても、必死に生きてかなきゃね・・・」

 

「日和・・・」

 

日和は海恋のベッドにもぐりこみ、海恋を抱きしめる。

 

「日和・・・何してんの・・・」

 

「海恋は抱き心地いいなぁ・・・あったかあったか・・・」

 

「ちょっと・・・本当にどうしたのよ」

 

「今の私がいるのは海恋のおかげだよ。海恋がいなかったら、きっと今も小豆と玲奈を引きずって・・・私じゃなくなってたかも。海恋は私にとっての太陽・・・私を照らす光。私は・・・その光を・・・」

 

「・・・ねぇ、日和・・・」

 

「・・・スゥー・・・スゥー・・・」

 

日和は疲れが相当たまっていたのか、海恋を抱いたまま眠ってしまった。海恋は日和の手をどけて起き上がり、優しい微笑みを浮かべ、日和の頭を優しくなでる。

 

「・・・おやすみ、日和」

 

海恋は日和を優しく抱きしめ、自分も眠りについたのだった。

 

~♪~

 

翌日、リディアンの授業を全て終え、日和が鞄に教科書やノートを入れているところにクラスメイトたちが声をかけてきた。

 

「ねぇひよりん、今日もセッションするでしょ?一緒に行こうよ」

 

「海恋ちゃんもどう?」

 

「セッションが終わったら、晩御飯にふらわーのお好み焼きを食べようよ」

 

「ふらわー?」

 

聞き覚えのないお店の名前に日和は首を傾げ、海恋が説明する。

 

「ほら、駅前にあるお好み焼き屋よ。前に話した時に、行きたいって言ってたじゃない」

 

「あー、そうだったそうだった・・・」

 

「おいしいって評判だから晩御飯にどうかなって思うんだけど・・・どう?」

 

クラスメイトたちの誘いに日和は申し訳なさそうに手を合わせ断る。

 

「えーっと・・・ごめん!!今日は大事な用事があるから無理!!」

 

「大事な用事って・・・もしかして、咲さんに呼ばれた?」

 

「違うけど・・・とにかく外せない用事なの!!」

 

東雲咲。それが日和の姉の名前である。年は日和より10歳も離れており、以前は実家の東雲総合病院で医者見習いとして働いていたが、東雲総合病院が廃れた今、別の病院で医者をしている。日和が怪我をしたり、具合が悪くなった時、たいてい咲が面倒を見てもらったりした。ちなみに咲はマンションで1人暮らしをしており、たまに日和がそこに遊びに来たりしている。

 

「う~ん、そういうことなら仕方ない。じゃあ、ふらわーにはまた今度誘ってあげるね」

 

「日和、あんまり遅くならないでよ?」

 

クラスメイトたちは残念そうにしながら教室を出て音楽教室へ向かっていく。海恋は日和に注意をしてからクラスメイトたちについていった。この教室に残ったのは、日和だけとなった。

 

「・・・あああぁぁ~・・・私もふらわーのお好み焼き食べたかったよぉ~・・・」

 

日和はフラワーのお好み焼きを食べれなくて落ち込む。カチューシャのうさ耳もなぜか項垂れてしまう。ちょこっとした悲しみに暮れてると、教室の入り口に誰かが来た音が聞こえ、日和はそこに視線を向ける。教室に入ってきたのは、翼だった。

 

「・・・重要参考人として、再度本部まで同行してもらいます」

 

ガチャン!!ピーッ!!

 

「な・・・なんでええええええええええ!!??」

 

日和は翼に再び電子式手錠をかけられて、昨日と同じ要領で二課の本部まで連行されていった。また手錠をかけられるという理不尽に、日和はエレベーターで悲痛な叫びをあげた。

 

~♪~

 

二課の本部の一室にはすでに弦十郎と了子が集まっていた。そして、響もまた日和と同じ感じでここに連行されてきた。この部屋で日和と響の手錠は外される。

 

「それでは、先日のメディカルチェックの結果発表~♪」

 

映し出されたモニターには日和と響の顔写真とバイタルが表示される。これにメディカルチェックの結果が載っているようだ。

 

「2人とも初体験の負荷は若干残ってるものの、体に異常はほぼ見られませんでしたぁ~♪」

 

「「はぁ・・・ほぼ・・・ですか・・・」」

 

「うん、そうね。あなたたちが聞きたいのは、こんなことじゃないわよねん」

 

「教えてください。あの力のこと・・・」

 

「私も、お願いします」

 

響の問いかけに弦十郎は翼に目で指示を出す。それに従って翼はリディアンの制服に隠してあった赤い結晶のネックレスを取り出す。そのネックレスは現在、日和が身に着けているものと同じであった。

 

「あ!!それ・・・玲奈が身に着けてたものと同じだ!!・・・え?流行ってるんですか?そのネックレス?」

 

「・・・・・・」

 

「・・・玲奈ちゃんを知ってるってことは・・・」

 

「やはりそうか・・・」

 

日和が玲奈の名を口にした瞬間、翼は若干ながら顔を強張らせ、了子と弦十郎は納得がいったような顔つきになる。この様子からして、二課の人間は玲奈のことを知っていることを示している。

 

「あ、あのぅ・・・」

 

「こほん・・・改めて・・・天羽々斬。翼が持つ、第1号聖遺物だ」

 

「「聖遺物?」」

 

当然ながら聞き覚えのない単語に日和と響は首をかしげる。聖遺物について、了子が今から説明する。

 

「聖遺物とは、世界各地の伝承に登場する、現代では製造不可能な異端技術の結晶の事。多くは遺跡から発見されるんだけど、経年による破損が著しくて、かつての力をそのまま秘めたものは本当に希少なの」

 

「この天羽々斬も刃の欠片、ごく一部にすぎない」

 

「欠片にほんの少し残った力を増幅して、解き放つ唯一の鍵が、特定振幅の波動なの」

 

「「特定振幅の波動?」」

 

「つまりは歌。歌の力によって、聖遺物は起動するのだ」

 

「「歌・・・?」」

 

聖遺物を起動するのが歌だと聞いた日和と響は昨日のインナースーツの鎧を着ていた時のことを思い出す。あの鎧を着ていた日和は、確かに歌を歌っていた。

 

「そうだ・・・あの時も、胸の奥から歌が沸き上がって来たんです」

 

「あ・・・私も同じです。ノイズから逃げてた時・・・胸の奥から歌が沸き上がって・・・」

 

「うむ」

 

「歌の力で起動した聖遺物を一度エネルギーに還元し、鎧の形に再構成したものが、翼ちゃんや響ちゃん、日和ちゃんが身にまとうアンチノイズプロテクター・・・シンフォギアなの」

 

「だからとて!誰の歌、どんな歌にも、聖遺物を起動させる力が宿っているわけではない!」

 

聖遺物の説明に、翼が突然声を大きく上げた。これによって場の空気が沈黙する。束の間の沈黙を破ったのは、弦十郎である。

 

「聖遺物を起動させ、シンフォギアを纏え歌を歌える僅かな人間を我々は、適合者と呼んでいる。それが、翼であり、君たちであるのだ」

 

「どう?あなたたちに目覚めた力について、少しは理解してもらえたかしら?質問はどしどし受け付けるわよ♪」

 

聖遺物、シンフォギアのついての説明が終わり、質問タイムに入った。

 

「「・・・あの・・・」」

 

「どうぞ~、響ちゃん、日和ちゃん」

 

「「・・・じぇんじぇんわかりましぇん・・・」」

 

まぁ、当然ながら難しい話であるために、日和と響は全然理解が追い付いていない様子である。

 

「だろうね・・・」

 

「だろうとも・・・」

 

2人の反応は当然であろうと、二課の女性オペレーター、友里あおいと二課の男性オペレーター、藤尭朔也は呆れた表情をしている。

 

「いきなりはむずかしすぎちゃいましたねぇ。だとしたら、聖遺物からシンフォギアを創り出す唯一の技術、『櫻井理論』の提唱者が、この私であるということだけは、覚えてくださいね♪」

 

「「・・・はぁ・・・」」

 

櫻井理論の技術を元にシンフォギアシステムを作り上げた技術者が了子だと知っても、日和と響は生半可な返事しか返ってこない。

 

「あ・・・じゃあ・・・私の持っているこれは・・・」

 

ある程度だがちょっとだけ理解した日和は自分の持っている赤い結晶のネックレスを弦十郎たちに見せる。

 

「それは、第6号聖遺物・・・如意金箍棒・・・元は、北御門玲奈君が使っていた聖遺物だ」

 

「玲奈を知ってるんですか!!?」

 

弦十郎たちが玲奈を知っていたことに日和を声を上げて質問した。日和の質問に了子が答える。

 

「玲奈ちゃんは・・・元々はここ、特異災害対策起動部二課の人間であり、如意金箍棒の適合者だったの」

 

「玲奈が・・・」

 

今は亡き最愛のバンドメンバーが、元々は二課の人間であり、日和が持っている聖遺物、如意金箍棒の最初の適合者だったと知り、驚愕する。思い出すのは忌まわしき1年前・・・ノイズ襲撃の際に玲奈がノイズと戦っていた姿だ。玲奈が亡くなった出来事を思い出し、日和は顔を俯かせる。

 

「日和さん・・・?」

 

「1年前、君が開いたライブ配信は我々も見ていた。玲奈君は・・・あの日現れたノイズから、君を守り、戦った・・・そうだね?」

 

「・・・はい・・・私のせいなのに・・・玲奈は、嫌な顔1つせず、私をノイズから守り・・・亡くなりました・・・これは・・・その時に玲奈が・・・残したものです・・・」

 

「・・・・・・」

 

玲奈が日和を守り、そして命を落とした・・・その事実を知っている翼は何とも言えないような複雑な表情をした。

 

「・・・そう・・・文字通り、玲奈ちゃんの形見・・・というわけね・・・」

 

「あの日、如意金箍棒は消えたものだと思われていたが・・・どうりで見つからなかったわけだ・・・」

 

1年前、二課はノイズの発生場所を特定し、同時に玲奈が先に戦っていたことを知り、その戦場に駆けつけた。だが、自分たちが来た頃には戦いは終わっており、その場に残っていたのは意気消沈した日和だけだった。日和から話を聞いた後、二課は玲奈が持っていた如意金箍棒の捜索にあたったが、その聖遺物が日和が持っていたため、見つけることができなかった。日和の話を聞いて、弦十郎はいろいろと合点がいったような表情をすると、日和は弦十郎に向かって頭を下げて謝罪する。

 

「あの・・・これがそんな大事なものだったなんて知らずに持って行って・・・すみませんでした!」

 

「いや・・・あの時、我々がもっと早くに駆けつけていれば、玲奈君は・・・。我々こそ、君の大切な友を守ることができず・・・すまなかった」

 

「え・・・えっと・・・あの・・・」

 

「日和さん・・・」

 

弦十郎は聖遺物を取ったことに対して怒らず、むしろ日和に向けて、玲奈を守れなかったことに対し謝罪する。予想外な反応をされた日和はどう返答したらいいか困った顔になっている。日和の悲しい過去の一部を聞いた響は悲しそうな顔になっている。暗くなっていく空気の中、口を開いたのは了子だった。

 

「んもう、今ここで暗くなっても仕方ないでしょ?玲奈ちゃんのことは残念だけど、気持ちを切り替えていきましょう。次は響ちゃんの番」

 

「は、はい。私は日和さんと違って、その聖遺物を持っていません。なのになぜ・・・」

 

響の場合だと、少し複雑な状況になっている。響は聖遺物を持っていない。ならばなぜシンフォギアを纏えたのか。その疑問に答えるように、モニターにはレントゲンで撮った響の身体の写真が映し出された。映し出された肉体構造の中に、何かの破片が映し出されている。

 

「これが何なのか、君にはわかるはずだ」

 

「はい。2年前の怪我です。あの時、私もあそこにいたんです」

 

「2年前って・・・あのツヴァイウィングのライブの?」

 

「はい」

 

2年前といえば・・・惨劇が起こったツヴァイウィングのライブの日であり、間接的に日和が配信ライブをやろうとしたきっかけを作った事件ともいえる。

 

「心臓付近に複雑に食い込んでいるため、手術でも摘出不可能な無数の破片・・・調査の結果、この影はかつて奏ちゃんが身にまとっていた第3号聖遺物、ガングニールが砕けた破片だと、判明しました。奏ちゃんの置き土産ね」

 

「!!!!!」

 

響の内臓に食い込んでいる破片が第3号聖遺物、ガングニールであったと知った翼は驚愕し、ふらつき、倒れそうになるが何とか持ち直した。衝撃の事実を突きつけられた翼は部屋から退室する。

 

「あのぅ・・・」

 

「どうした?」

 

「この力のこと、誰かに話しちゃいけないのでしょうか・・・?」

 

「私も・・・以前、国家機密がどうとかということを聞きましたけど・・・私が見たもの、やっぱり話しちゃダメなんですか・・・?」

 

響と日和は自分の友達に隠し事をしたくない思いから、そんな質問をぶつけた。なぜ話したらダメなのかというのを、弦十郎が答える。

 

「君たちがシンフォギアの力を持っていることを何者かに知られた場合、君の家族や友人、周りの人間に、危害が及びかねない。命に係わる危険すらある。玲奈君も、それをわかっているからこそ、日和君たちに事実を隠していたんだ」

 

「「命に・・・係わる・・・」」

 

そこまで大きな問題だったとは思わず、隠し事をしたくない心と、危険な目に遭ってほしくないという心に、2人は板挟みになってしまう。

 

「俺たちが守りたいのは、機密などではない。人の命だ。そのためにも・・・この力のことは、隠し通してもらえないだろうか?」

 

「あなたたちに秘められた力は、それだけ大きなものだということを、わかってほしいの」

 

「人類ではノイズに打ち勝てない。人の身でノイズに触れることは即ち、炭となって崩れることを意味する。そしてまた、ダメージを与えることも不可能だ。たった1つの例外があるとすれば・・・それは、シンフォギアを身にまとった戦姫だけ。日本政府、特異災害対策起動部二課として、改めて、協力を要請したい。立花響君、東雲日和君・・・君たちが宿したシンフォギアの力を、対ノイズ戦のために、役立ててはくれないだろうか?」

 

弦十郎の改めての協力要請に響は弦十郎に顔を合わせる。

 

「・・・私の力で、誰かを助けられるんですよね?」

 

響の問いかけに弦十郎と了子は首を縦に頷く。

 

「わかりました!協力します!!」

 

誰かを助けられるという点で響は特異災害対策起動部二課の協力に快く了承した。

 

「私、翼さんに報告してきます!」

 

そう言って響は部屋から出ていった翼を追いかけに、部屋から出ていった。

 

「・・・日和君、君はどうする?」

 

「どうするって言ったって・・・私・・・ついこの間まで普通の女の子として生きてきたんですよ?それが、ノイズを倒せるからといって・・・人のためといっても、戦ってくれなんて・・・虫が良すぎると思います。玲奈はどうだったか知りませんけど・・・私は玲奈じゃないんですよ?私は東雲日和、普通の女の子なんですよ?ノイズと戦えなんて・・・そんなの無理ですよ!!怖いですよ!!」

 

元々ノイズは恐怖の象徴そのものであるのだが、日和にはさらにノイズに対するトラウマがある。さらに小豆と玲奈からの生きるという約束もある。それらの約束、恐怖、トラウマの観点から、弦十郎の協力要請に、簡単に応じることができない。

 

「・・・だよなぁ。それが普通の反応だ」

 

「え?」

 

弦十郎の予想外の反応に日和は目を見開く。

 

「うん・・・そうよねぇ。いくらシンフォギアを身にまとえるからって、いきなりノイズと戦うのは怖いわよねぇ。玲奈ちゃんの件があるならなおさら」

 

「戦場に身を置くということは、君自身の身にも危険が及ぶ。これは君自身の人生だけではない、君の命にも関わる問題だ。玲奈君の件もある。君には、ゆっくりと時間をかけて、自分にとって、最善の選択をしてもらいたい。玲奈君も、そのために君に如意金箍棒を託したはずだ」

 

「私の・・・選択・・・」

 

「・・・まぁ、もっとも、これは響君にも言えることだったんだがなぁ・・・」

 

弦十郎の話を聞いて、日和は自分にとって最善の選択について考える。すると・・・

 

ヴゥーー!!ヴゥーー!!

 

基地内部にノイズの出現を表すアラームが鳴り響く。それを聞いた弦十郎たちは指令室まで向かっていく。日和はそれについていく形で部屋に向かった。後に翼と響も合流する。

 

「ノイズの出現を確認!!」

 

「本件を我々二課で預かることを一課に通達!」

 

「出現位置特定!座標出ます!・・・リディアンより距離200!!」

 

「近いな・・・」

 

「迎え撃ちます!!」

 

ノイズの出現場所がわかり、翼はノイズを倒すために現地へと向かった。それを見た響は翼の役に立とうとし、自分も戦線に出ようとする。

 

「待つんだ響君!君はまだ・・・」

 

「私の力が、誰かの助けになるんですよね⁉シンフォギアの力でないと、ノイズと戦うことはできないんですよね⁉だったら行きます!!」

 

弦十郎の静止の声を振り切り、響は戦場へと向かっていく。

 

「すごいなぁ・・・立花さんは・・・。危険を承知で誰かのために戦うなんて・・・。いい子ですよ、あの子・・・。私には・・・とても無理ですよ・・・」

 

「・・・果たしてそうだろうか?」

 

「え?」

 

日和の言葉に弦十郎は疑問符を浮かべる。

 

「幼い頃から、翼のように戦士としての鍛錬を積んできたわけでもない。君と同じ、ついこの間まで日常の中に身を置いていた少女が、誰かの助けになるというだけで、命を懸けた戦いに赴けるというのは、それは・・・歪なことではないだろうか・・・」

 

「つまり、あの子もまた私たちと同じ、こっち側ということね」

 

「だからこそ日和君には・・・最善の選択をしてほしいのだ」

 

「・・・・・・」

 

弦十郎の言葉を聞いて日和は、様々な思考が入り混じりながら、目の前に映っているノイズの戦場に目を向けるのだった。

 

~♪~

 

街中にノイズ出現による避難警報が発令された。街の一部には、間に合わず、炭素と化した人間のなれの果てが辺りを舞っている。ノイズの出現場である車線道路で翼はノイズの群れと対峙していた。ノイズは溶けて混じりあい、1体の巨大ノイズへと変化していく。巨大ノイズは大きな咆哮をあげる。

 

Imyuteus amenohabakiri tron……

 

翼は聖遺物を起動させ、制服からシンフォギア、天羽々斬を身にまとう。大型ノイズは自身の羽の刃を翼めがけて放つ。翼はそれを避け、両足についていた刃を展開し、羽を撃墜させる。地に着地し、刀を大剣へと変化させた時・・・

 

「とおおおおおおおお!!!」

 

シンフォギア、ガングニールを纏った響が大型ノイズに向かって飛び蹴りを放った。それによって大型ノイズは消滅とまではいかなかったが、態勢を崩した。

 

「翼さん!!」

 

翼は高く飛び、大剣を振り下ろして青い斬撃を放った。

 

【蒼ノ一閃】

 

この強力な斬撃で大型ノイズは真っ二つに両断し、爆発を引き起こした。

 

「翼さーん!私、今は足手まといかもしれないけれど、一生懸命頑張ります!だから・・・私と一緒に戦ってください!」

 

「・・・・・・そうね・・・」

 

戦いが終わった戦場で、響は翼に駆け寄り、翼は響に顔を向ける。そして・・・

 

「あなたと私・・・戦いましょうか」

 

「え?」

 

響に向けて刃を突きつけた。突然刃を突きつけられ、響は戸惑いでいっぱいになった。




西園寺海恋

外見:水色髪の三つ編みポニーテール
   茶色の縁のメガネをかけ、瞳は緑色

【挿絵表示】

↑Picrewより『テイク式女キャラメーカー』

年齢:16歳

誕生日:9月30日

趣味:勉強、読書

好きなもの:クラシック音楽

スリーサイズ:B:84、W56、H86

イメージCV:ウマ娘プリティーダービー:マンハッタンカフェ
(その他の作品:プリンセスコネクト!Re:Dive:キョウカ
        変態王子と笑わない猫:筒隠月子
        クロスアンジュ 天使と竜の輪舞:クリス
        その他多数)

リディアン音楽院の2年生。日和のルームメイトであり親友。風紀委員に属している。
生真面目な性格で嘘や冗談が通用しない。しかしながら世話好きで面倒見がとてもよく、風紀委員という嫌われ役ながらも大多数に厚い信頼を得ている。
クラシック音楽家になりたい夢があるが、両親に反対されたことがある。進路を病院の先生にと指名され、中学二年生で東雲総合病院の見学に行った。日和とはそこで知り合い、彼女のおかげで夢を追いかける道を選び、両親を見返すためにクラシック音楽家になるまでは実家に帰らないつもりでいる。
苗字は東西南北の西が由来し、名前は海の爽やかさ、恋のような愛情をイメージしている。


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夜にすれ違う

現れたノイズを倒し終えたところに、響が放った一緒に戦ってくださいという言葉・・・それを聞いた翼は響に刀を突きつけている。その姿は二課の指令室で映し出されている。

 

「え・・・なんで・・・?なんで翼さんが・・・立花さんに・・・?」

 

「な!!?何をやってるんだあいつらは!!?」

 

「青春真っ盛りって感じねぇ~♪」

 

この光景を見ていた日和と弦十郎は驚愕の顔つきになっている。了子は笑みを浮かべ、軽口を放つ。これを見た日和は事態を止めようと指令室から出ようとする。

 

「待て!どこへ行くんだ日和君!!」

 

「こんな私でも、この状況を見過ごすほど、落ちぶれていません!!」

 

弦十郎は止めようとするが、それでも日和は止まらず、エレベーターに乗って指令室から出て現場へと移動する。

 

「・・・ええい、くそ!」

 

「指令、どちらへ?」

 

「誰かがあのバカ者共を止めなきゃいかんだろうがよ!」

 

弦十郎も2人のもめ事を止めようとエレベーターに乗り、指令室から退室していった。

 

「こっちも青春してるなぁ。・・・でも、確かに気になる子たちよねぇ。・・・放っておけないタイプかも?」

 

了子はモニターを見てそう呟いた。了子の言うたち、というのは日和も含まれている。

 

~♪~

 

場所はノイズが発生した場所であった車線道路・・・翼に刀を突きつけられて当然戸惑いを隠せていない響。

 

「そ、そういう意味ではありません!私は、翼さんと力を合わせて・・・」

 

「わかっているわ、そんなこと!」

 

翼は響の言った言葉の意味を理解している。だからこそ響は理解できなかった。なぜ翼に刀を突きつけられるのかを。

 

「だったら、どうしてぇ・・・」

 

「私があなたと戦いたいからよ」

 

「え・・・?」

 

翼の答えに響はさらに困惑させた。それにかまわず翼は口を開く。

 

「私はあなたを受け入れられない。力を合わせ、あなたと共に戦うことなど、風鳴翼が許せるはずなどない。あなたもアームドギアを構えなさい。それは、常在戦場の意思の体現。あなたが、何物をも貫き通す無双の一振り、ガングニールのシンフォギアを纏うのであれば、胸の覚悟を構えてごらんさなさい!」

 

アームドギアとは、シンフォギアに搭載されている武器のことで、翼の天羽々斬は刀、日和の如意金箍棒は棍と、シンフォギアによって種類が違ってくる。そして、ガングニールには槍が備わっているが、当然ながら響はそれを知らない。

 

「か・・・覚悟とか・・・そんな・・・私・・・アームドギアなんてわかりません・・・。わかってないのに構えろだなんて・・・それこそ、全然意味がわかりません!!」

 

何も理解してない響に翼は刀を下ろし、彼女から背を向けて歩き出す。

 

「・・・覚悟を持たずに、のこのこと遊び半分で戦場に立つあなたが・・・奏の・・・奏の何を受け継いでいるというの!!」

 

翼は空を高く飛び、刀を響に向けて投擲する。投擲した刀は巨大な剣へと変化させる。翼は足のスラスターで下降を加速させ、巨大な剣に蹴りこみを入れる。

 

【天ノ逆鱗】

 

この蹴りこみによって巨大な剣の下降は呆然と立っている響へと加速していく。そこへ・・・

 

「立花さん!!!」

 

「!ひ、日和さん!!」

 

響の前に日和がシンフォギア、如意金箍棒を纏って前に立ち、彼女を庇う。これから来る痛みに日和は目を閉じ、何とか耐えようと試みる。すると・・・

 

ドォンッ!!

 

「おうらあ!!!」

 

「!!?叔父様!!?」

 

「はああああ・・・たあ!!!」

 

ドシャアアアアアアン!!!

 

弦十郎が3人の間に入り、翼の大剣を拳で受け止め、衝撃波で翼の技を相殺させた。その反動で地面はえぐれ吹っ飛ぶ。技が解除され、バランスを崩した翼は背中から落下した。

 

「・・・ん?・・・あれ?・・・え?・・・え?何が起きたの・・・?」

 

いつまでたっても来ない痛みに日和は目を開け、今の現状を見て、戸惑いを隠せなかった。先ほどの衝撃で地下にあった水道管が割れ、水が噴射して雨のように降り注ぐ。その間にも3人のギアが解除され、元の制服に戻った。

 

「あ~あ・・・こんなふうにしちまって・・・何やってるんだお前たちは。・・・この靴、高かったんだぞぉ」

 

「ご、ごめんなさい・・・」

 

「えっと・・・立花さん、大丈夫・・・?」

 

「あ・・・はい・・・ありがとうございます」

 

何が何だかわからないが、日和はひとまずへたり込んでいる響に手を差し伸べ、彼女を立たせる。

 

「一体何本の映画を借りられると思ってるんだぁ・・・?」

 

弦十郎は翼に視線を向け、彼女に近づく。

 

「らしくないな、翼。ロクに狙いもつけずにぶっ放したのか・・・それとも・・・」

 

弦十郎は翼が涙を流しているのに気が付いた。

 

「おぉ?お前、泣いている・・・」

 

「泣いてなんかいません!!涙なんか・・・流していません・・・。風鳴翼は・・・その身を剣と鍛えた戦士です・・・だから・・・」

 

「「翼さん・・・」」

 

翼は強がって泣いていないと気丈に振る舞う。弦十郎は翼を支えて、起き上がらせる。顔を俯かせる翼に響は声を震わせながら口を開く。

 

「私・・・自分が全然ダメダメなのはわかってます。これから一生懸命頑張って、奏さんの代わりになってみせます!!」

 

パァンッ!!

 

響の放った言葉に・・・翼が振り向くよりも前に、日和が響の頬を叩いた。その目は涙で溢れていた。

 

「・・・へ?」

 

「何が・・・奏さんの代わりになるだよ・・・!」

 

日和は涙を溢れさせ、響に対して怒りを向けた。響の言葉が、聞き捨てならなかったからだ。

 

「私は!!小豆も玲奈も失った!!2人の代わりなんて、どこにもいない!!それと同じように・・・奏さんの代わりなんていないんだよ!!!」

 

日和は言いたいことを言ったら涙をぬぐいながら走ってこの場を去った。響は、理解が追い付かず、ただただ茫然と立ち尽くすしか、なかった。

 

~♪~

 

あれから1か月の時が経った。あれから日和は二課に立ち寄るようなことはなく、二課もまた、彼女を無理に連れていくようなことはなかった。あれから何の変わりもなく、普通の日常を送ることになった日和だが、彼女の心は上の空だ。ノイズと戦える力・・・自分にとって最善の選択・・・響を叩いたことに対する罪悪感・・・日和の頭は様々な感情でごちゃごちゃになり、ぼーっとする日が多くなったのだ。

 

「・・・り・・・日和!!」

 

「・・・へっ?」

 

ピアノを弾いていた海恋はぼーっとする日和に声をかけた。何回かの呼びかけでようやく海恋に気づいた日和。

 

「あんた、また音外してるわよ」

 

「あ・・・あー・・・ごめんごめん・・・」

 

今日は海恋と2人でセッションをしていたようなのだが、日和がぼーっとしていたためにベースの音が外れたことを指摘されたようだ。

 

「・・・あんたなんかあった?ここ1か月、ぼーっとしちゃって・・・音を外すのもしょっちゅうだし・・・」

 

「えっ⁉あ、いや・・・えっと・・・何でもないよ・・・」

 

海恋に何かあったのかと尋ねられて日和はたじたじながらも誤魔化そうとする。そんな様子の日和に海恋はムッとなる。

 

「なんでもなくないでしょ?1日や2日ならともかく、1週間や2週間・・・1か月ともなればさすがにおかしいでしょ?」

 

「心配かけて本当にごめん!でも本当に何でもないんだ・・・あはは・・・」

 

本当は本当のことを話してすっきりしたい日和だが、弦十郎から言われた言葉を思い返す。

 

『君たちがシンフォギアの力を持っていることを何者かに知られた場合、君の家族や友人、周りの人間に、危害が及びかねない。命に係わる危険すらある』

 

友達や家族に危険が及ぶ・・・それは日和にとって何よりもとても耐えがたいものだ。海恋や家族を守るためにも、今抱えている問題は、絶対に言うつもりはない日和。頑なに頑固な姿を見た海恋はため息をこぼし、スマホを取り出し、誰かに電話しようとする。

 

「・・・海恋?何やってるの?」

 

「病院に電話。今から予約取るから、咲さんに診てもらいなよ」

 

さすがに日和の様子がおかしいと考える海恋は病院で咲に診てもらおうと診察の予約を入れるようだ。それは非常に困る日和はそれを拒もうとする。

 

「えーー⁉いいよそんなの!お姉ちゃんにも迷惑かけちゃう!」

 

「迷惑って自覚してるのならなおさら受けときなさいよ。あんたがそんなだと、周りが気にしちゃうでしょ。私も付き添ってあげるから」

 

「うー・・・わかったよぉ・・・診察受ければいいんでしょ、受ければ・・・」

 

「そうそう、あんたはいい子ね。・・・あ、もしもし咲さん?・・・いえいえそんな・・・こっちも好きで世話してるんだし・・・」

 

「・・・はあ~~~・・・」

 

観念して診察を受けると聞いた海恋は笑みを浮かべ、電話で日和の診察の予約手続きを進める。診察を受けることになった憂鬱な気分になり、深くため息をこぼしたのであった。

 

~♪~

 

日和が病院に行くことになった日の夜の風鳴の屋敷の一室、翼は火が灯ったろうそくに囲まれて、瞑想している。翼の頭に思い浮かぶのは、2年前の惨劇のライブ・・・あの日に失ったかけがえのないパートナーの姿であった。

 

天羽奏・・・彼女こそがツヴァイウィングの片割れで、翼のパートナーであり、かけがえのない存在でもあった。そして・・・まだ二課に所属していた玲奈にとって、互いに本音を話し合えるかけがえない友でもあった。そんな彼女は、2年前のライブでノイズと戦い、そして・・・命を落とした。奏が命を落とすことになったのは、全て自分の弱さが引き起こしたものであると翼は考えている。

 

奏が亡くなったことで、玲奈は心を閉ざし(・・・・・)、翼の手を借りず、たった1人でノイズと戦う道を選んだ。その当時のことを翼は今もなお覚えている。だが、そんな彼女は、日和の存在によって、以前の彼女に戻った。

 

(・・・東雲日和・・・玲奈が命を賭して守ろうとした少女・・・そして・・・玲奈が自分で生きる意味を見出した存在・・・)

 

翼は1年前のライブを見るようにと言われた日のことを思い返す。

 

『ライブ配信?』

 

『明日私たちのバンドのライブ配信やるの。本当なら来てもらいたいところなんだけど、あんた仕事とか忙しいでしょ。ならせめて、明日の配信、少しでもいいからどうか見てほしい』

 

『私には、そんなものを見る余裕は・・・』

 

『だろうね。あんたならそういうと思った。でもね、今のままじゃあんたはあんたじゃなくなる。それは、奏は望まないでしょ』

 

『玲奈だって見たでしょ⁉奏の最期を・・・』

 

『だからこそ明日の配信を見てほしいんだよ。今ならわかるかもしれない・・・どうして奏が、あの選択をしたのか。明日のライブは、それを知ることができるかもしれない。日和と一緒なら、きっと』

 

『・・・・・・』

 

『・・・明日のライブ、伝えておいたから』

 

そして時が経ち、1年前のあのライブ配信。翼が少し気になってあのライブ配信を見ようとした時、映っていたのは玲奈が日和と小豆を連れてノイズから逃げようとしてる姿だった。それを確認した翼は二課からノイズ発生場所を聞き、急いでその現場へと向かった。2年前の惨劇を繰り返さぬように。だが・・・時はもうすでに遅し・・・翼が駆け付けた頃にはもう戦いは終わっており、その場には悲しみに暮れる日和だけで玲奈の姿はなかった。これを見て翼は全てを悟った。自分は間に合わなかった・・・共に戦った友を、守ることができなかったと。

 

『くっ・・・私は・・・間に合わなかったのか・・・!繰り返さぬと誓ったのに・・・!友を守ることができずして・・・何が剣か・・・!!』

 

かけがえのないパートナーを失い、守ろうとした友まで失った・・・これらのことを相まみあって、翼は全ての感情を切り捨て、この身を剣として鍛えようと、そう誓ったのだ。

 

(・・・全ては・・・私の弱さが引き起こしたことだ・・・)

 

翼はそばに置いていた刀を手に取り、鞘から引き抜き、迷いを振り切るようにろうそくの灯を消そうとする。だが、剣先はぶれ、火を切る直前で手が止まる。迷いを認識した翼は刀を鞘に納め、部屋から静かに去っていく。残ったろうそくの火は、まるで、翼の迷いを体現しているかのような・・・そのように揺らめいていた。

 

~♪~

 

一方、日和の姉、東雲咲が勤務している病院。診察を受けることになった日和は海恋の付き添いでこの病院に訪れ、診察を受け、身体検査を受けた。検査を受けた後は結果が出るまで受付で待機する。海恋は礼儀正しく、静かに待機し、日和は落ち着かない様子で足をぶらぶらさせる。

 

「東雲日和さーん、中へどうぞー」

 

「ほら、行くわよ」

 

「うぅ・・・」

 

看護師に呼ばれ、海恋と日和は診察室へと入っていく。診察室で待っていたのは白衣を着用し、長い黒髪を後ろに束ねた日和と顔がよく似た大人っぽい女性だった。了子と負け劣らない大きな胸を持ったこの女性こそが東雲咲。日和の10も年が離れた実の姉であり、この病院の診察を担当する医者である。

 

「お姉ちゃん・・・」

 

「さ、2人とも、席に座って」

 

咲に促され、日和と咲は用意してもらった椅子に座り込む。2人が座ったのを確認した咲は検査の結果の資料を確認し、2人に検査結果を伝える。

 

「検査の結果、日和の身体には特に異常は見られない、健康体そのものだわ」

 

「ほら、何でもないって言ったでしょ?海恋は大げさなんだから・・・」

 

「それでも心配するじゃない。一か月もぼーっとしていれば」

 

「心配かけたのは謝るよぉ~・・・」

 

身体に異常はないことがわかっても、それでも心配する海恋に日和は手を合わせて謝罪する。

 

「でも確かに一か月ともなると、心配ね・・・。この一か月、何か変わったことはなかった?何でもいいわ。思い当たるなら話してみて」

 

「いえ、特には・・・。強いてあげるなら、帰りが遅くなったことが二回くらいしか・・・」

 

「もう、2人とも心配しすぎだってば~、私は何とも・・・」

 

「ふむ・・・」

 

海恋の証言、さらに日和の何か隠すようなしぐさに咲はペンを口元に当てる。

 

「・・・それじゃあ、ストレスチェックがてら、カウンセリングも受けておきましょうか。海恋ちゃん、ひとまず受付で待っててもらえるかしら」

 

「・・・はい。咲さん、日和のこと、よろしくお願いします」

 

ストレスチェックのためにカウンセリングを実施することになり、海恋は咲に後を任せ、頭を下げたのちに診察室から退室した。

 

「・・・さ、日和、カウンセリングルームへ行きましょうか」

 

「う、うん・・・」

 

日和は咲に促され、カウンセリングルームまで移動する。カウンセリングルームにたどり着き、日和は椅子に座り込み、咲と再び対面する。

 

「さて・・・と、日和、学校で何か嫌なことでもあった?お姉ちゃんに話してみて」

 

「い、嫌なことはないよ。ただ普通に生活してるってだけだから・・・」

 

「本当に?」

 

「ほ、本当だよ・・・」

 

嘘は言っていない。日和はこの1か月本当に何の嫌なことを経験せず、普通の女の子として生活してきた。二課からの協力を要請されている、響を打ったという点だけを覗けば、本当に何もない。ただそれだけはいうことができない・・・誰にも相談できないからストレスを抱え込んでいるのだ。

 

「お姉ちゃんにも話せないことなの?」

 

「ごめん・・・でも本当に大したことでもないから・・・」

 

日和が何かを隠していることは咲には気づいている。ただそれは誰にも言うことができない・・・それほど大きなものであるということを直感的に感づいている。

 

「そう・・・何もないならそれでいいの。わざわざごめんなさいね」

 

「ううん、こっちこそごめんね、急に診察受けるなんて・・・」

 

「・・・とりあえず、世間話でもしましょうか。ちょっとだけ、話に付き合いなさいな」

 

「あ、うん」

 

自分のカウンセリングのはずなのに、咲は自分の世間話について話そうと言い出し、日和は一応は付き合うことにした。

 

「話題は・・・そうね。私の同僚の失敗話でもしましょうか」

 

「失敗話・・・」

 

「私の同僚には妹ちゃんがいるらしくてね。ちょっと前の休みの日に同僚の家に遊びに行ったら妹ちゃんが遊びに来たのよ。その場の流れでカレーを作ろうって話になってさ・・・」

 

「はぁ・・・カレー・・・あれ?この話、どこかで・・・」

 

姉の同僚の失敗話を聞いていると、どこかで聞き覚えがあるのか日和は首をかしげる。

 

「カレーのルーを入れる際に、間違ってビーフシチューのルーを入れちゃったのよ。ほら、カレーとビーフシチューって色が似てるでしょ?それで・・・ね?後はわかるでしょ?」

 

「・・・カレーと間違えてビーフシチューって・・・それって・・・」

 

その話に日和は思い当たる節があるのか口を開こうとした時、咲が日和の唇に指を着け、静かにさせる。咲の表情は日和とよく似た茶目っ気たっぷりの笑みであった。それを見て日和は気が付いた。

 

(あ・・・そっか・・・これって・・・)

 

咲は別に同僚の失敗話などしていない。ただ、自分の失敗話を同僚に置き換えていただけなのだ。日和はこれを聞いて閃いた。シンフォギアの1件はさすがに話すことはできない。だがそれ以外のことに関してならば、何かに置き換えて相談できるのかもしれない。咲はそのことを話していたのかもしれない。なんにしても、日和にとって有益な話になったのは間違いない。

 

「・・・ぷっ、ははは・・・お姉ちゃんの同僚さんって、結構ドジなんだね」

 

「ふふ、そうでしょ?あの時は私も笑っちゃったわ」

 

同僚、というか姉の失敗話を聞かされた日和はおかしくなってつい笑った。そんな日和につられて咲もクスリと笑う。微笑ましく、仲のいい姉妹だというのがよく伝わってくる。

 

「それじゃあ、カウンセリングはここまで。もう帰っていいわよ。日和、何か困ったことがあったらいつでも言いなさいね。怪我した時や診察する際は、いつでも歓迎するわよ」

 

「それは遠慮したいかなぁ・・・」

 

「ははは、そうね」

 

「お姉ちゃんも、体には気を付けてね」

 

「そっちこそ、お大事に」

 

咲は持ってきていた資料を片付け、自身の仕事に戻っていった。日和も自分の鞄を持って海恋と合流し、リディアンの学生寮へと戻っていくのだった。




北御門玲奈

外見:跳ね返った金髪のショートヘア
  :瞳は赤色
  :学校の制服は黒いセーラー服

享年:17歳

シンフォギア:妖棍・如意金箍棒

好きなもの:ゲーム、硬貨(古銭の方)

スリーサイズ:B:80、W:59、H83

イメージCV:NARUTO -ナルト-:うずまきナルト
(その他の作品:イナズマイレブン:円堂守
       :遊☆戯☆王デュエルモンスターズ:海馬モクバ
       :Yes!プリキュア5:夏木りん / キュアルージュ
        その他多数)

日和の友達にして、翼と奏の戦友。生前までは一般の普通科の高校に通っている2年生。
楽しいこと、嬉しいことには正直に笑い、怒り、憎しみは隠さずに表に出てしまうというような、いい意味でも悪い意味でも裏表のない性格をしている。
日和と出会う前から特異災害対策起動部二課の一員で、如意金箍棒の適合者。適合者と言っても日和と違い、適合率上昇薬、LiNKERを使ってシンフォギアを纏っていた。
両親がノイズによって殺されたため、ノイズに復讐するためにシンフォギア装者になっていたが、奏や日和に出会ったことで自身の考え方が変化する。
ライブ配信時に襲撃してきたノイズから日和と小豆を守るために戦い、最後に絶唱を解き放ち、適合率が落ちた状態でのバックファイアによって命を落としてしまう。如意金箍棒はその際に日和の手に渡った。
苗字は東西南北の北が由来し、名前は玲が清く透き通って澄んだ意味を表し、奈はカリンの別名で紅りんごという意味がある。


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流れ星の夜

日和が病院で診察に行っている間の時間、特異災害対策起動部二課では定例ミーティングが開こうとしている。この場には二課の人間が集まっているが、響がまだ来ていない。

 

「遅くなりました!すみません・・・」

 

ほんの少し待っていると、ようやく響が到着した。到着した響は了子に頭を下げる。ちなみにこのミーティングの件は日和はまだ二課の人間ではないので知れ渡っていない。

 

「では、全員揃ったところで、仲良しミーティングを始めましょ♪」

 

響は翼に視線を向けるが、翼は目をつむってドリンクを飲んで、見向きもしない。モニターにはこの1か月で発生したノイズの発生場所をマーキングしたマップが映し出される。弦十郎は響にこれについて質問する。

 

「どう思う?」

 

「・・・いっぱいですね!」

 

「はっはっは!まったくその通りだ。これは、ここ1か月にわたるノイズの発生地点だ。ノイズについて、響君が知っていることは?」

 

弦十郎に質問されて、響は自分の知っている範囲でノイズについて答える。

 

「テレビのニュースや学校で教えてもらった程度ですが・・・まず無感情で、機械的に人間だけを襲うこと、そして襲われた人間が炭化してしまうこと、時と場所を選ばずに突然現れて周囲に被害を及ぼす特異災害として認定されていること・・・」

 

「意外に詳しいなぁ」

 

「今まとめてるレポートの題材なんです」

 

弦十郎に褒められて響は照れくさそうに笑みを浮かべている。

 

「そうねぇ。ノイズの発生が国連での議題に上がったのは13年前だけど、観測そのものはもーっと前からあったわ。それこそ、世界中の太古の昔から」

 

「世界各地に残る神話の伝説に登場する数々の偉業はノイズ由来のものが多いだろうなぁ」

 

「ノイズの発生率は決して高くないの。この発生件数は誰の目から見ても明らかに異常事態・・・だとすると、そこに何らかの作為が働いていると考えるべきでしょうねぇ」

 

「作為・・・?てことは、誰かの手によるものだというのですか・・・?」

 

発生率が低いはずのノイズが最近多くなってきている件・・・それが人間の手によるものではないかと尋ねる響。

 

「中心点はここ、私立リディアン音楽院高等科・・・我々の真上です。サクリスト・D・デュランダルを狙って何らかの意思がこの地に向けられている証左となります」

 

「あの・・・デュランダルっていったい・・・」

 

初めて聞く名前を聞いて、響が尋ねる。

 

「ここよりもさらに下層、アビスと呼ばれる最深部に保管され、日本政府の管理下にて我々が研究しているほぼ完全状態の聖遺物、それがデュランダルよ」

 

「翼さんの天羽々斬、日和ちゃんの如意金箍棒、響ちゃんの胸のガングニールのような欠片は奏者が歌って、シンフォギアとして再構築させないとその力を発揮できないけれど、完全状態の聖遺物は一度起動した後は100%の力を常時発揮し、さらには、奏者以外の人間も使用できるであろうと、研究の結果が出ているんだ」

 

「それがぁ、私が提唱した櫻井理論!だけど完全聖遺物の起動には、それ相応のフォニックゲイン値が必要なのよねぇん」

 

「?????」

 

完全聖遺物についての説明を聞かされたが、響には理解が全然追いついていない。

 

「あれから2年・・・翼の歌であれば、あるいは・・・」

 

弦十郎が完全聖遺物についての可能性を口にした時、翼の表情が曇った。

 

「そもそも、起動実験に必要な日本政府からの許可って下りるんですか?」

 

「いや、それ以前の話だよ。安保を盾に、アメリカが再三のデュランダル引き渡しを要求してきているらしいじゃないか。起動実験どころか、扱いに関しては慎重にならざるをえまい。下手撃てば国際問題だ」

 

「まさかこの件、米国政府が糸を引いてるなんてことは・・・」

 

「調査部からの報告によると、ここ数か月の間に数万回に及ぶ本部コンピューターへのハッキングを試みた痕跡が認められているそうだ。さすがにアクセスの出所は不明・・・それを短絡的に米国政府の仕業とは断定できないが・・・もちろん痕跡は辿らせている。本来こういう時こそ、俺たちの本領だからなぁ」

 

オペレーターたちが起動実験について話していると、翼が目を閉じて紙コップを握りつぶしている。それを横目で見た響は顔を俯かせる。

 

「風鳴指令」

 

すると、二課に所属する黒服の男が弦十郎に声をかけた。

 

「そうか、そろそろか」

 

「今晩は、これからアルバムの打ち合わせが入っています」

 

「へっ?」

 

二課にはあまり似つかわしくない単語に響はきょとんとした顔になる。

 

「表の顔では、アーティスト風鳴翼のマネージャーをやっています」

 

茶髪の黒服の男、緒川慎次は黒縁メガネをかけ、響に名刺を渡す。

 

「ふおぉぉぉ!名刺をもらうのは初めてです!これはまた結構なものをどうも!」

 

名刺を初めてもらう響は目を輝かせ、若干興奮する。この場に日和がいれば、もっと興奮していたであろう。いや、後で羨ましいと騒ぐであろう。翼と緒川は指令室から退室していった。

 

「私たちを取り囲む脅威はノイズばかりではないんですね。どこかの誰かがここを狙っているだなんて、あんまり考えたくありません」

 

「大丈夫よ。なんてったってここは、テレビや雑誌で有名な天才考古学者、櫻井了子が設計した人類守護の砦よ?先端にして異端のテクノロジーが悪い奴らなんか寄せ付けないんだから♪」

 

「よろしくお願いします」

 

本日のミーティングは翼がアーティストの仕事へ向かったためにここまで。現段階でわかっているのは、ノイズの発生率は異常事態、それを引き起こしたのは人の意思によるものであるというだけであった。

 

~♪~

 

翌日のリディアン音楽院・・・午前の授業を終わらせ、昼食も済ませて日和は今日もクラスメイトたちと一緒にセッション・・・

 

「できるわけないでしょ?そのレポート、提出は放課後までなんだから」

 

「うぅ・・・人類は呪われてるぅ~!!」

 

「ほらほら、バカなこと言ってないでさっさと書いちゃって」

 

・・・しているわけでなく、日和だけがレポートを書き忘れているため、こうしてレポートを書いているのだ。ちなみにレポートの題材はノイズに関してである。

 

「ま、日頃から勉強も両立できてないツケが回って来たね」

 

「え?手伝ってくれないのぉ?」

 

「あたしらも部活の練習があるから・・・悪いけどさ。海恋ちゃんはどうする?」

 

「私は残るわ。1人残してちゃ、絶対にレポート完成できないでしょうし」

 

「海恋~!海恋だけだよ~、私のことを思ってくれるのは~!」

 

クラスメイトたちに手伝ってもらえず、ショックを受けたが海恋が手伝ってくれると聞いて、日和は感動している。

 

「いやぁ~、相変わらずお熱いことで♪じゃあ、私たちはこれで。ひよりん、明日はちゃんとセッションしようね~」

 

「うん、もちろんだよ。また明日~」

 

クラスメイトたちは日和の邪魔にならないように、この教室から退室した。

 

「海恋、いつもありがとう。昨日迷惑かけたばっかりなのに」

 

「何よ・・・今更でしょ?」

 

「あぁ・・・それから・・・放課後、ちょっとだけ相談に乗ってもらえるかな?」

 

「相談?」

 

「うん。ダメ・・・かな?」

 

申し訳なさそうな表情をしている日和を見て、海恋はほんの少しため息をこぼす。

 

「はぁ・・・いいわよ。あんたがしおらしいと、こっちも調子でないし」

 

「ありがとう海恋~」

 

「ほら、口より手を動かして。間に合わなかったら先生の大目玉よ」

 

「は、はいぃ~!」

 

日和は海恋に小言を言われながらも手伝ってもらい、脳みそをフル回転させながら課題に取り組むのであった。

 

~♪~

 

海恋の手伝いが功を制して、何とか放課後までにレポートを完成させ、期限に間に合った日和。レポートの制作の疲れをリディアンの学生寮で癒す日和。

 

「はぁ~・・・つっかれたぁ~・・・」

 

「お疲れ様。はい、今日のご褒美」

 

「わぁ、ジュースだぁ。ありがとう~」

 

地面の床の冷たさを堪能している日和に海恋はジュースを手渡す。

 

「・・・それで?相談って何?1か月の事と関係してる?」

 

「あ・・・うん。まぁ、ね。実は・・・私の知り合いの話なんだけどね・・・」

 

相談事の話になり、日和は自分のことを知り合いのことだと差し替えて、ジュースを飲みながら1か月前のことを話す。もちろん、シンフォギア、二課の単語は出さずにだ。

 

「あの子、大手企業にちょっとしたスカウトが来たんだ」

 

「へぇ、すごいじゃない」

 

「でも・・・その企業の仕事内容が、ちょっとハードすぎてね・・・。それで、その子が企業に入るべきかどうかって悩んじゃって・・・。しかも、一緒に働く子も、ちょっと問題が起こっちゃって・・・それで・・・その子を叩いちゃったんだって・・・。なんか、友達をバカにされたような気がしてってさ・・・」

 

「なるほどねぇ・・・それでその子にどう声を掛けたらいいかわからないってわけね」

 

日和が抱え込んでいる悩みを理解した海恋は少し頭を抱えた。どうしてもっと早く相談してくれなかったんだと言わんばかりに。

 

「その子・・・ちゃんと謝りたいって・・・思ってるんだけど・・・なかなか踏ん切りがつかなくって・・・気が付いたら、1か月も立っちゃって・・・。・・・ねぇ、海恋・・・その子はどうしたらいいと思う?」

 

「・・・逆に、あんたはその子にどう声をかけたいわけ?」

 

「え?」

 

日和の悩みを理解した海恋の問いかけに、日和はきょとんとなる。

 

「話を聞くにその子は謝りたいって気持ちはあるんでしょ?だったら、あんたが背中を押してやればいい。その子にあんたの思うことをきちんと話して、少しでも勇気づければいい。もちろん理解してもらえないかもしれないけど、それでも、話し合うことに関しては、無駄にはならないと思うわよ。だって・・・私たちは人同士よ?ノイズとは違う。話し合えば・・・きっと解決の糸口が、見つけられると思うから」

 

「あ・・・」

 

海恋の言葉を聞いて、日和は、今自分が成すべきこと、やらなければならないことを、見つけた。今日和がやりたいことは・・・響に直接謝らなければいけない。そして・・・二課の人間と、もう1度話をしなければいけないことだ。

 

「・・・ありがとう、海恋。私・・・やるべきことが見えたかもしれない!」

 

「お役に立てたなら、何よりだわ」

 

久しぶりに見た日和の心からの満面の笑みを見て、海恋は嬉しそうに笑みを浮かべる。

 

「私・・・立花さんを探してくる!!」

 

「えっ!!?今から!!?ていうか立花さんって!!?」

 

日和は響に謝ろうとすぐに行動をとろうと部屋から出ようとする。だが、その途中で止まった。

 

「・・・どうしたの?」

 

「・・・立花さんって、どこに住んでるんだろう?」

 

響の住所も知らないという響を探す以前の問題であった。それを聞いた海恋はずっこける。

 

「はぁ・・・立花さんって、立花響さんであってる?風紀委員の仕事で生徒の資料は一通り確認したけど・・・」

 

「そうそうその子その子!いやぁ、よかった~、立花さんがリディアンの生徒で」

 

「ていうか、あんたいつ立花さんと知り合ったのよ?」

 

「えっ!!?あー・・・うん、たまたまだよ!たまたま会ってさ!」

 

「ふ~ん、あっそ」

 

いつ響と知り合っていたのかと尋ねられ、日和は妙にはぐらかす。海恋はそれを日和の気まぐれだと考えることにする。

 

「立花さんもこの学生寮に住んでるわよ。ルームメイトは確か・・・小日向未来さんだったかしら?」

 

「わかった!行ってくる!!」

 

「あ、ちょっと!!」

 

響が住んでいる場所が判明し、日和はさっそく響の部屋へと向かうために自分の部屋を出ていった。

 

「・・・まったくもう・・・しょうがないわね」

 

日和には呆れつつも、元の日和に戻ったと思い、海恋は今回の日和の行動を大目に見ることにした。

 

~♪~

 

部屋から出たはいいものの、当然ながら日和は響の部屋がどこにあるのかは知らないため、この寮に住んでいる1年生から部屋の場所を聞いて、その場所へと向かった。教えてもらったことを頼りにして、十数分で立花響と小日向未来のネームプレートを見つけた。

 

「ここが立花さんの部屋・・・」

 

日和は響の部屋を前にして、緊張している。日和は少しでも緊張をほぐすために深呼吸をする。

 

「すぅー・・・はぁー・・・よし!」

 

日和は響にきちんと謝ろうという覚悟を決め、部屋のドアを3回ノックする。しばらく待っていると、ドアの扉が開いた。扉から出てきたのは黒い短髪で白いリボンを結んだ少女だった。彼女を見た日和はまずは自己紹介をする。

 

「あ、どうもこんばんは!私、東雲日和っていいます!立花さんとは最近知り合った2年生です!」

 

「は、はぁ・・・」

 

扉を開けてみれば突然自己紹介をしてきた日和を見て、少女は変わった人だなぁと心の中で思った。

 

「あの・・・響に何かご用ですか?」

 

「うん。ちょっと話したいことがあるんだけど・・・お時間いいかな?あ、違うよ?そっち系とかの話とかじゃないよ?」

 

「そ、そっち系?よ、よくわかりませんけど・・・今響はいませんよ。何か外せない用事があるって言って・・・多分外にいるんじゃないでしょうか?」

 

「そ、そっかぁ・・・」

 

響が今この部屋にいないとわかった日和は少し残念そうな顔になる。

 

「・・・流れ星、一緒に見ようって言ったのに・・・」

 

「え?なんて?」

 

「い、いえ!何でもないです!」

 

少女が悲しそうな顔で呟いたのを聞いた日和は首をかしげる。少女は慌てていつも通りに振る舞おうとする。

 

「じゃあ、立花さんがどこに行ったかはわかる?」

 

「すみません・・・それもわからなくて・・・」

 

「そっかぁ・・・」

 

居場所を尋ねるも、それさえもわからないと聞き、日和は響も二課として徹底してるなぁと考える。

 

「うん、いないなら仕方ない!じゃあ・・・えっと・・・」

 

「・・・あ、私、小日向未来といいます。1年生です」

 

「じゃあ、小日向さん、立花さんが帰ってきたら、東雲日和さんが謝ってたって伝えておいてくれるかな?」

 

「あ、わかりました。響が戻ってきたら伝えておきます」

 

「うん。じゃあ、またね、小日向さん」

 

日和は伝えることを伝えて響たちの部屋を後にした。少女、小日向未来はそんな日和の背中を見送った。

 

「・・・東雲日和さんかぁ・・・。・・・東雲?もしかして・・・」

 

未来は日和の苗字が気になったのか急にスマホを取り出して、何かを調べ始めた。

 

「・・・やっぱり・・・東雲総合病院・・・響を助けてくれた・・・」

 

未来が調べたスマホ画面には、今は廃れてしまった日和の実家、東雲総合病院の記事があった。

 

~♪~

 

響が外に出ているであろうとわかった日和は寮から自転車を取り出し、どこかへ飛び出した。響が用事で外に出る、未来もどこに行ったか知らない。となると考えられるのはただ1つ・・・ノイズの討伐へ向かったのだろうと判断したのだ。

 

(正直、ノイズが現れるのは本当に怖い・・・。怖いけど・・・立花さんに会える機会はここしかない!!)

 

すぐにでも直接謝りたい気持ちが抑えられない日和は我慢できず、こうして響を探しに向かっていく。先へ進んでいくと、日和は突然急ブレーキをした。その顔色は青ざめていた。なぜなら・・・日和の進んだ先に、ノイズがいたからだ。

 

「の・・・ノイズ・・・」

 

日和の存在に気が付いたノイズはすぐにでも日和に襲い掛かろうとする。

 

(・・・いや!怖くない・・・怖くないぞ・・・!だって私には・・・シンフォギアがあるんだから!!)

 

日和は無理に怖くないと暗示をかけて、気を引き締め、ギアを握りしめる。

 

clear skies nyoikinkobou tron……

 

日和は詠唱を唱え、シンフォギア、如意金箍棒を身に纏う。ギアを身に纏ったことによって自身の恐怖を緩和させ、乗ってきた自転車を置いて、ノイズを振り払いながら先へと進んでいく日和。

 

~♪~

 

一方二課の指令室で、日和がギアを身に纏った際のエネルギーがこちらで観測された。

 

「ノイズの発生地点に高エネルギー反応を検出!!」

 

モニターの画面には解析結果としてNYOIKINKOBOUと、ギアの名前が記されている。

 

「なっ!!?まさか日和君か!!?」

 

「あらぁ~、あの子も青春してるわねぇ」

 

日和が戦闘区域に進入してきたことに軽口を放ち、弦十郎は驚愕する。弦十郎はすぐに戦闘区域にいる翼と響に指示を出す。

 

「翼、響君!聞こえるか!たった今戦闘区域に日和君が進入してきた!」

 

『日和さんが!!?』

 

「ギアを纏えるとはいえ、彼女は戦う術を持たない一般人だ!すぐにそちらへ向かい、フォローしてくれ!」

 

『了解』

 

『わ、わかりました!!』

 

指示を受けて翼と響はすぐに日和の元へと駆けつけていく。二課の人間たちはここで日和の無事を祈る他なかった。

 

~♪~

 

日和は襲い掛かってくるノイズを振り払いながら響を探す。辺りを見回す日和に休み暇もなくノイズは襲い掛かる。

 

「邪魔しないで!!」

 

日和に振り払われるノイズは結果的には自身のみが炭となって崩れていく。

 

「立花さん!!どこにいるの!!?立花さん!!」

 

ドカアアアアアン!!

 

「きゃあああっ!!」

 

辺りを見渡す日和の足元に突然爆発が起きた。そこを見てみると、地下鉄道路が見えてきて、そこから葡萄型のノイズが現れた。

 

「・・・邪魔ぁ!!」

 

邪魔されないように日和は現れた葡萄型のノイズを倒そうと試みる。すると葡萄型のノイズは自身の果実のようなものを日和に放った。すると・・・

 

ドカンッ!!ドカンッ!!

 

「あああああああ!!」

 

果実のようなものが爆発し、日和にダメージを与える。どうやら地下の爆発はこれが原因だったようだ。さらに葡萄型のノイズは放った果実のようなものを再生させ、辺りにばら撒いた。すると、今度は果実のようなものが別のノイズが生まれた。

 

「う・・・うぅ・・・」

 

爆発をくらって倒れた日和は痛みを堪えて、何とか立ち上がろうとする。その際に日和は夜空に輝く流れ星のようなものが見えた。

 

「・・・流れ星・・・?」

 

流れ星のようなものはこちらへと降りていき、現れたノイズと葡萄型のノイズを纏めて一刀両断した。これは、翼が放った技、蒼ノ一閃である。ノイズを殲滅した翼はゆっくりと着地する。

 

「日和さーーん!!大丈夫ですかーー!!?」

 

そこへさらに響も到着する。日和は起き上がって、翼に声をかけようとする。

 

「つ・・・翼さ・・・」

 

「何しに来たの?」

 

翼は戦う覚悟もなく戦場に突然現れた日和に対して怒った表情をしている。翼から見てみれば今の日和は、ただ戦場をかき乱す異端分子にしか見えていない。

 

「あ・・・あの・・・」

 

翼になんと言ったらいいかわからない日和はただ顔を俯かせるしかなかった。そんな時、響が口を開く。

 

「き、きっと日和さんには、何か理由があって来たんです!私だって、守りたいものがあるように!だから・・・」

 

「・・・守り・・・たいもの・・・」

 

響が放った守りたいものという言葉に反応し、日和は響に顔を向けた。響は続けて口を開こうとした時・・・

 

「だからぁ?んでどうすんだよぉ?」

 

「「「!」」」

 

突如として第三者の声が3人に割り込んできた。雲で覆われていた月が姿を現し、月の光が第三者を照らす。バイザーのようなレンズで顔は隠れているが、第三者の姿は白銀の鎧を身に纏った少女であった。翼は襲撃者の身に纏う鎧を見て目を見開いた。

 

「ネフシュタンの・・・鎧・・・!!?」

 

なぜならその鎧は、元は二課が所有していた完全聖遺物の1つである・・・2年前のライブ会場の惨劇を引き起こした根本である、ネフシュタンの鎧であったからだ。




東雲総合病院

日和と咲の実家である総合病院。咲はここで医者見習いとして働いていたことがある。患者受け入れ数が多く、多くの患者から信頼があった。
以前はとても評判のいい病院だったが、2年前のツヴァイウィングのライブ事件で何人かの負傷者(響もこの中に含まれる)を治療してきたことから悪評が強まり、多くの人々が入院拒否したり、医者が自らの意思で大多数辞職したりと散々だが、何とか踏みとどまっていた。
しかし、廃業の決定打になったのは、アビスゲートのライブ配信後、日和が生きていたことによって、これ以上の悪評を恐れた日和と咲の母親が蒸発してしまい、家を出て行ってしまった。妻という心の支えを失った父親もショックを受け、悪評に耐え切れず何人かの医者を巻き込んで自殺を図った。これによって残った医者だけでは運営がままならず、廃業してしまった。
現在では曰く付きと評され、廃病院と化して今も残っている。


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ネフシュタンの鎧

二課の指令室でも、奏者3人の前に襲撃者が現れたことを確認した。襲撃者から放たれる高エネルギー反応の解析結果がモニターに表示される。

 

Nehushtan

 

「バカなっ!!?現場に急行する!!なんとしてでも、鎧を確保するんだ!!」

 

弦十郎は驚愕の声を上げ、翼と響に指示を出して、自身も現場へと向かっていくのであった。それを止める者は誰もいない。

 

~♪~

 

完全聖遺物、ネフシュタンの鎧を身に纏った襲撃者を目の当たりにし、翼は震えた驚愕の声を上げる。

 

「ネフシュタンの・・・鎧・・・!」

 

「へぇ・・・てことはあんた、この鎧の出自を知ってんだぁ?」

 

「2年前・・・私の不始末で奪われたものを忘れるものか!何より!私の不手際で奪われた命を忘れるものか!!」

 

2年前に起きたライブの惨劇・・・あのライブの裏側で二課はネフシュタンの鎧の起動実験を行っていたのだ。ツヴァイウィングの歌によって起動が成功したと思われた矢先、予期せぬ暴走が起き、爆発した。そこにノイズが現れ、惨劇が起きた・・・それが2年前に起きた真実だ。その惨劇を引き起こした元凶、そして大切なパートナー、奏を失った記憶が頭に思い浮かぶ翼。翼は大剣を構え、襲撃者は何かの杖を展開して構える。

 

(奏を失った事件の原因と、奏の残したシンフォギア・・・そして・・・玲奈が残したシンフォギア・・・。時を経て、再び3つそろって現れるというめぐりあわせ・・・。だがこの残酷は、私にとって心地いい!!)

 

一触即発の雰囲気の中、響と日和が駆け寄り、戦いを止めようとする。

 

「やめてください翼さん!相手は人なんです!同じ人間なんです!」

 

「そうですよ!あなたもこんなことはやめて!人同士が争うなんて間違ってる!」

 

「「戦場で何をバカなことを!!」」

 

当然敵対する者同士であるが故、響と日和の静止の声は一蹴される。戦う気である翼と襲撃者は意見が合い、にやりと笑う。

 

「むしろ、あなたとは気が合いそうね」

 

「だったら仲良くじゃれあうかい?」

 

そう言って襲撃者はネフシュタンの鎧に付いている鞭を振るおうと行動を起こす。日和はそれを止めようと前に出る。

 

「だ、ダメ!!絶対にダメ!!」

 

「邪魔だどけぇ!!」

 

襲撃者は立ちふさがる日和に鞭を振るって薙ぎ払う。

 

「あああ!!」

 

「日和さん!!」

 

鞭の薙ぎ払いをくらって日和は軽く吹っ飛ばされて地面に倒れる。遮る者がいなくなった襲撃者は今度は翼に向けて鞭を振るう。翼は止める響を突き飛ばし、高く跳躍して鞭を躱す。高く飛んだ翼は上空から蒼の斬撃を襲撃者に向けて放った。

 

【蒼ノ一閃】

 

襲撃者は放たれた蒼の斬撃を鞭を振るい、直撃コースを逸らさせた。斬撃は襲撃者から逸れ、近くの林で爆散する。技をあしらわれた翼は驚愕しつつも、大剣による連撃で追撃する。翼の連撃を襲撃者はバク転などで躱し、最後の一撃は鞭による防御で受け止める。そして、襲撃者は鞭を振るい、攻撃を躱した翼の鳩尾に蹴りを叩き込む。

 

「がはっ!

(これが・・・完全聖遺物のポテンシャル・・・!)」

 

完全聖遺物とは欠損していない状態の聖遺物。聖遺物の欠片を元にして作られたシンフォギアより高いスペックを持ち合わせている。

 

「ネフシュタンの力だなんて思わないでくれよなぁ?あたしの天辺は、まだまだこんなもんじゃねぇぞぉ!!」

 

全ては実力の差であると言い放つ襲撃者は翼に向けて鞭を振るい続ける。翼は繰り出される攻撃を躱していく。襲撃者の攻撃によって、周囲一帯のものは薙ぎ払われていく。

 

「「翼さん!!」」

 

「お呼びではないんだよぉ。こいつらの相手でもしてな」

 

響と日和を忘れていない襲撃者は持っていた杖を2人に向け、杖から放たれる光線を2人の足元に撃った。放たれた光線から・・・なんとダチョウ型のノイズが出現した。

 

「ウソ・・・ウソ・・・ノイズが・・・なんで・・・?」

 

「ノイズが・・・操られて・・・」

 

どうやらあの杖はノイズを故意的に出現させ、それを意のままに操ることができる代物らしい。

 

「ひ・・・ひぃ・・・や、やだぁ!!」

 

「日和さん!!」

 

目の前で繰り広げられてる戦い、そしてノイズが人によって操られてる姿を目の当たりにした日和は抑えられてた恐怖がぶり返し、逃げ出した。ダチョウ型のノイズはくちばしから接着性のある粘液を響に向けて放った。これによって響は身動きが取れなくなる。

 

「そんな・・・ウソ・・・」

 

「!立花さん!!」

 

その光景を目の当たりにした日和は立ち止まった。ダチョウ型のノイズはその機を逃さずに粘液を飛ばし、日和を拘束する。

 

「ウソ・・・動けない・・・」

 

身動きが取れなくなった日和の顔色はどんどんと恐怖で染まっていき、青く染まっていく。

 

「その子らにかまけて、私を忘れたか!!」

 

その間にも翼は襲撃者に大剣を振るう。襲撃者はそれを鞭で受け止めるが、翼が右足で足を払って態勢を崩される。その隙を狙い翼は足の刃で蹴りを入れる。態勢を立て直した襲撃者は一発目を躱し、二発目は腕で受け止めた。

 

「お高く留まるなぁ!!」

 

襲撃者は受け止めた翼の足を掴み、地面に叩きつけた。地面に叩きつけられた翼はその投げられた勢いで吹っ飛んでいく。そして襲撃者は翼の頭を踏んづける。

 

「のぼせ上がるな人気者ぉ・・・誰もかれもが、構ってくれるなどと思うんじゃねぇ!!この場の主役だと勘違いしてるなら教えてやる。狙いははなっから、こいつをかっさらうことだぁ」

 

「え・・・?」

 

襲撃者の狙いが最初から響をさらうことだと聞いて、響本人が驚愕の声を上げる。

 

「鎧も仲間も、あんたにゃ過ぎてんじゃないのかぁ?あんたにゃあの弱虫泣き虫がお似合いさぁ」

 

「う・・・うぅ・・・ひっく・・・」

 

襲撃者が指さす方には、恐怖ですすり泣いている日和の姿があった。

 

「・・・繰り返すものかと!私は誓った!」

 

翼は大剣を天に掲げる。すると空に無数の刀が出現し、襲撃者に向けて降り注ぐ。

 

【千ノ落涙】

 

降ってきた刀を襲撃者は躱す。襲撃者が離れたことにより動けるようになった翼は態勢を立て直し、戦闘を再開させた。

 

「怖い・・・怖いよぅ・・・」

 

「日和さん!!しっかり!!」

 

恐怖に支配されている日和に響は何とか助ける方法がないか考える。

 

「!そうだ!アームドギア!日和さんを助けるためにも、アームドギアが必要なんだ!」

 

この場の状況をどうにかするには武器であるアームドギアが必要と考えた響は何とかアームドギアを出そうと試みる。だがいくら念じても、アームドギアは出てくる気配はなかった。

 

「出ろ!出てこいアームドギア!なんでだよぉ・・・泣いている人がいるんだよ⁉お願いだから・・・出てきてよぉ!」

 

「立花さん・・・」

 

必死になって頑張ろうとしている響を日和は涙ながらに見ていた。その姿に、恐怖を必死に押し殺して、日和は響に声をかける。

 

「私・・・どうしてもあなたに謝りたくて・・・戦場にも立ってないのに・・・偉そうなこと言って・・・あなたを叩いて・・・ごめんなさい・・・ごめんなさい・・・!」

 

「日和さん・・・。日和さんは悪くないです・・・。私の方こそ・・・日和さんの気に障るようなことを言って・・・ごめんなさい・・」

 

日和の謝罪に響は申し訳なさそうな表情をして、日和に謝罪をする。

 

「そうだ・・・日和さんの分まで、私が頑張るって決めたんだ!絶対に・・・絶対に何とかしてみせる!出てこい!アームドギアぁ!!」

 

「立花さん・・・」

 

日和の姿を見て、何とか諦めないという気持ちを持ち直した響は何度も何度もアームドギアを出そうと念じる。戦場で頑張る響の姿を目の当たりにした日和は、自分がいかに情けないかを思い知らされる。

 

(ダメだなぁ・・・私・・・。後輩ちゃんがあんなにも頑張ってくれてるのに・・・。本当は私の方がしっかりしないといけないのに・・・。それなのに私は・・・先輩らしくない姿ばっかり・・・。自分が情けないよぉ・・・。こんなんじゃ、先輩失格だよぉ・・・)

 

その間にも翼と襲撃者の戦いは続いていた。翼は大剣を襲撃者に振り下ろし、襲撃者は大剣を鞭で防御している。

 

「鎧に振り回されているわけではない・・・この強さは本物・・・!」

 

「ここでふんわり考え事かい!!?」

 

襲撃者は翼に回し蹴りを放ち、翼は蹴りを躱す。距離をとったところで襲撃者は杖から光線を放ち、ノイズを出現させる。ノイズはすぐにでも翼に襲い掛かる。翼は出現したノイズを冷静に対処し、全て殲滅させる。襲撃者は鞭を振るい、翼は大剣を振るう・・・激しい戦闘は続いていく。距離をとった翼は小刀を取り出し、襲撃者に投擲する。

 

「ちょせぇ!!」

 

襲撃者は小刀を鞭で弾き、鞭の先端に黒い雷撃の白いエネルギー球体を作り上げる。襲撃者はそのエネルギー体を鞭で持ち上げ、翼に向けて投げ放った。

 

【NIRUVANA GEDON】

 

放たれたエネルギー球体を翼は大剣で受け止め、防ごうとしたが、エネルギー球体が爆発を引き起こし、吹き飛ばされてしまう。

 

「「翼さん!!」」

 

「ふん、まるでできそこない」

 

倒れる翼を見て襲撃者はそう一言吐き捨てた。

 

「・・・確かに・・・私はできそこないだ」

 

「あぁ?」

 

「この身を一振りの剣として鍛えたはずなのに・・・あの日、無様に生き残ってしまった・・・。できそこないの剣として・・・恥をさらしてきた・・・。だが・・・それも今日までのこと・・・奪われたネフシュタンを取り戻すことで・・・この身の汚名をそそがせてもらう!!」

 

倒れ伏す翼は刀を地面に突き刺し、ゆっくりと立ち上がり、再び襲撃者と対面する。

 

「そうかい。脱がせるもんなら脱がして・・・何っ!!?」

 

に金縛りにあったかのように。その原因に気づいた襲撃者は自身の影に視線を向ける。襲撃者の影には、翼が投げ放ち、自身が弾いた小刀が突き刺さっていた。この小刀が、襲撃者の動きを封じ込めていたのだ。

 

【影縫い】

 

「こんなもんであたしの動きを・・・!!まさか・・・お前・・・」

 

金縛りから逃れようとする襲撃者は今から翼が何をしようとしているのかに気が付いた。

 

「・・・月がのぞいているうちに、決着を着けましょう」

 

「歌うのか・・・絶唱を!!」

 

「・・・絶唱・・・?」

 

絶唱と呼ばれる単語を耳にし、日和は疑問符を浮かべる。

 

「翼さん!!」

 

「防人の生き様・・・覚悟を見せてあげる!あなたたちの胸に焼けつけなさい!!」

 

翼は覚悟のこもった顔で響と日和に顔を向け、刀を突きつける。翼の顔に、一片の迷いはなかった。

 

「くっ・・・!やらせるかよ・・・!好きに・・・勝手に・・・!!」

 

襲撃者はやらせまいとして何とか金縛りを解こうとするも、びくともしない。その間にも、翼は刀を天に突き上げ、歌を口ずさむ。

 

Gatrandis babel ziggurat edenal

 

(!!この歌・・・聞いたことがある・・・あれは・・・あの歌は・・・)

 

日和には翼が歌っている歌に聞き覚えがある。そう・・・それは1年前・・・玲奈が自分を守ろうとし、歌った歌だ。そして・・・その歌の後にノイズが殲滅し・・・玲奈の命は・・・

 

Emustolronzen fine el baral zizzl……

 

「翼さん!!ダメです!!その歌を歌っちゃダメええええええええええ!!!!」

 

日和は翼の身を案じ、声を張り上げてその歌をやめるように言い放った。だが、それで止まらないのが、翼の覚悟である。

 

Gatrandis babel ziggurat edenal

 

「くっ・・・!」

 

襲撃者は翼を止めようと何とか動かし、杖から光線を放ち、ノイズで足止めしようとする。だがその時にはすでに翼は襲撃者の目の前にいた。

 

Emustolronzen fine el zizzl……

 

全て歌い終えた翼は襲撃者の肩にそっと手に触れ、笑みを浮かべた・・・口元に血を流して。歌が終わった瞬間、翼のシンフォギアから凄まじい衝撃波が放たれた。

 

「ああああああああああああああああああ!!!!!」

 

翼のシンフォギアから放たれる衝撃波を間近で受け、襲撃者は突き飛ばされる。さらに、襲撃者が召喚したノイズも全て全滅し、日和と響の拘束は解除される。

 

「翼さあああああああああああん!!!!」

 

衝撃波が止むと、翼の周りには大きなクレーターが出来上がっていた。周りにはノイズの姿もおらず、日和と響も無傷で済んでいる。一方襲撃者の方は衝撃によってボロボロになり、鎧もところどころ壊れている。すると・・・

 

ビキッ!ビキッ!ビキキ・・・!

 

「ぐあああああ!」

 

鎧から伸びる筋が襲撃者の身体をつたう。まるで、鎧が襲撃者の身体を侵食するように。

 

「ちぃ・・・!」

 

これ以上の戦闘は不可能だと判断した襲撃者は空を飛んでこの場を撤退していった。

 

「「翼さーん!」」

 

日和と響はクレーターの中央にいる翼の元へ駆け寄った。さらにそこへ車に乗って現場に急行してきた弦十郎が駆け付けた。

 

「翼!無事か⁉」

 

「・・・私とて・・・人類守護の務めを果たす剣・・・」

 

こちらに振り向いた翼。今の翼を見て、日和は絶句した。なぜなら翼は・・・口だけでなく、目にも大量の血を流し、シンフォギアもボロボロであったからだ。

 

「こんなところで・・・折れる剣ではありません・・・」

 

翼はそれだけを言い放ち、静かに倒れる。弦十郎は倒れる翼に駆けつけ、響はこの光景にショックを受け・・・そして日和は・・・玲奈を失ったあの日の記憶がフラッシュバックする。

 

「「翼さああああああああああああああああああああん!!!!!!」」

 

流れ星が流れる夜空に、日和と響の絶叫が木霊するのであった。




妖棍・如意金箍棒

型式番号:SG-r06 Nyoikinkobou

特異災害対策機動部が管理する第6号聖遺物。中国神話に伝わる大妖怪、セイテンタイセイの棍。
遺跡にて発見された聖遺物で、シンフォギアとして加工されたのだが、これの加工が難しかった。なぜなら発見されたのも奇跡と言われるほどに如意金箍棒は1cmほど小さかったため、力が僅かに若干残っていても、欠片を取り出すのもほぼ不可能だったのだ。
ゆえに如意金箍棒そのものを触媒として、シンフォギアを造り上げた。シンフォギアを造り上げる技術、櫻井理論の提唱者こと櫻井了子はこう発言する。

「数多くの聖遺物の中で、如意金箍棒ほどめんどくさいものはないわよ~」


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落涙

戦いが終わり、ボロボロの状態になった翼は二課の医療施設に緊急搬送された。搬送された翼は緊急治療室に運ばれ、治療を受けている・・・が、状況はあまり著しくない。

 

「辛うじて一命はとりとめました。ですが、容体が安定するまでは絶対安静・・・余談も許されない状況です」

 

「よろしくお願いします」

 

弦十郎と数多くの黒服の男たちは担当医師に頭を下げ、翼の命を託した。

 

「俺たちは鎧の行方を追跡する。どんな手掛かりも見落とすな!」

 

弦十郎たちはネフシュタンの鎧の行方を追跡するため、病院から去っていった。緊急治療室のすぐそばにあった休憩所で日和と響は顔を俯かせている。

 

「あなたたちが気に病む必要はありませんよ。翼さんが自ら望み、歌ったのですから」

 

気落ちする2人に緒川はそう声をかけ、飲み物を買う。

 

「あ・・・あなたは・・・」

 

「緒川慎次です。表では、翼さんのマネージャーをしております」

 

顔は知っていても、名前が浮かばなかった日和に緒川は改めて自己紹介をした。普段なら緒川が翼のマネージャーと聞いて驚く日和だが、状況が状況のため、驚けなかった。

 

「・・・お2人もご存じだと思いますが、以前の翼さんは、アーティストユニットを組んでいまして・・・」

 

「・・・ツヴァイウィング・・・ですよね・・・」

 

「その当時のパートナーが天羽奏さんですよね・・・」

 

「ええ。今は響さんの胸に残るガングニールの装者でした」

 

緒川は日和と響に飲み物を渡し、話を続ける。

 

「2年前のあの日、ノイズに襲撃されたライブの被害を最小限に抑えるため、奏さんは絶唱を解き放ったんです」

 

「絶唱・・・翼さんも言ってた・・・」

 

絶唱は1年前に玲奈が繰り出したあの歌のことであろう。そして、今回翼が歌った歌でもある。それを知った日和は緒川に絶唱が何かを質問する。

 

「教えてください・・・絶唱って、なんですか・・・?1年前・・・玲奈は・・・あの歌を歌って・・・ノイズを倒して・・・そして・・・自分の命まで・・・。それが、絶唱というものなんですか・・・?」

 

「・・・そうでしたか・・・」

 

玲奈が絶唱を歌ったと聞いて、緒川は飲み物を飲み、絶唱の説明をする。

 

「絶唱は増幅したエネルギーを解き放ち、対象に大きなダメージを与えさせる、シンフォギアに備わった攻撃手段です。ですが、その力はあまりにも強大で、シンフォギアで強化された身体でも、大きな負荷を与える諸刃の剣です」

 

「諸刃の・・・剣・・・」

 

「装者への負担を厭わず、シンフォギアの力を限界以上に撃ち放つ絶唱は、ノイズの大群を一気に殲滅せしえましたが、同時に奏さんの命を燃やし尽くしました・・・」

 

「それは・・・私を救うためですか・・・?」

 

2年前のあの惨劇のライブ、実は響もあの会場に来ていたのだ。響はあの日、突然現れたノイズに襲われそうになったが、それを奏が守ったのだ。響の胸にある傷跡は、ガングニールを纏う奏が響を守ろうとした時に、鎧が砕き、その破片が響に直撃した際にできたものだ。手術によって一命はとりとめ、現在に至るというわけだ。

 

「・・・そして1年後、日和さん、あなたが開いたライブの会場にノイズが襲撃しました。日和さんの話が正しいのであれば玲奈さんはあなたを守るために絶唱を撃ち放ったのでしょう。例え、自分の命が尽きようとも」

 

「玲奈・・・どうしてそこまで私のことを・・・」

 

「玲奈さんの気持ちは、あの時の玲奈さんにしかわかりません。もちろん、奏さんも・・・」

 

緒川は飲み物をまた一口すすり、2人が亡くなった後の翼について話す。

 

「奏さんの殉職・・・そしてツヴァイウィングの解散・・・その後翼さんは、奏さんの抜けた穴を埋めるべく、がむしゃらに戦ってきました。そして1年後の玲奈さんの死亡によって、1人になった翼さんは感情をさらに殺し、自らを鍛えぬきました。同じ世代の女の子が知ってしかるべき恋愛や遊びを覚えず、自分を殺し、一振りの剣として生きてきました。そして今日、剣としての使命を果たすため、死ぬことすら覚悟して、歌を歌いました。・・・不器用ですよね。でもそれが、風鳴翼の生き方なんです」

 

翼の生き方を知り、日和と響は体を震わせ、頬に涙がつたう。

 

「・・・そんなの・・・ひどすぎます・・・。それじゃあ・・・翼さんがかわいそうです・・・。玲奈の・・・バカ・・・!」

 

「・・・そして私は・・・翼さんのことを・・・何にも知らずに・・・一緒に戦いたいだなんて・・・奏さんの代わりになるだなんて・・・」

 

涙を流す響と日和を見て緒川は話を続ける。

 

「僕も、あなたに奏さんの代わりになってもらいたいだなんて、思っていません。そんなこと、だれも望んでいません。日和さんだって、1年前に玲奈さんだけではない・・・日和さんのお友達まで亡くなったのです。日和さんの言った、誰かの代わりはいないの意味が、これでわかったでしょう」

 

「「・・・・・・」」

 

「・・・ねぇ、響さん、日和さん。僕からのお願いを聞いてもらえますか?」

 

「「え?」」

 

「翼さんを、嫌いにならないでください。翼さんを、世界に1人ぼっちになんて、させないでください」

 

「「・・・はい」」

 

緒川からのお願いに、日和と響は涙を拭いて、返事を返した。こうして夜は明け、朝の太陽が、登り始めたのであった。

 

~♪~

 

それから数日後・・・誰もいない音楽教室で日和は誰かとセッションする気分にはなれず、ただ1人でベースを弾いている。だが、ベースの音は持ち主の心が表れてるのか沈んでいた。

 

「・・・翼さん・・・」

 

日和は1か月前に翼と響が揉めていたあの日、翼が泣いていた姿を思い返す。

 

『泣いてなんかいません!!涙なんか・・・流していません・・・。風鳴翼は・・・その身を剣と鍛えた戦士です・・・だから・・・』

 

(翼さん・・・泣いてた・・・。あれはただ・・・強がってただけだったんだ・・・。辛くても・・・悲しくても・・・誰かに涙を見せることなく・・・必死に隠して・・・ただただ一振りの剣として・・・戦ってきたんだ・・・。悔しさも、覚悟も、1人で背負って・・・ずっと・・・ずっと・・・)

 

翼の本当の気持ち、それを出さないとする翼の覚悟を再認識し、日和は自分の弱さを恨み、何も行動してこなかった自分を恥じ、涙を流す。

 

「私・・・本当にダメだ・・・。翼さんは・・・自分を押し殺してまで・・・ずっと・・・戦い続けて・・・。立花さんだって・・・本当は怖いはずなのに・・・1か月も、ノイズと戦って・・・。それなのに私は・・・玲奈から力を託されたのに・・・今日までのうのうと見て見ぬふりをして・・・今の生活に・・・平気で甘えてた・・・。こんな思いをするくらいなら・・・力なんて・・・ほしくなかった・・・!」

 

1人でずっと後悔の涙を流し続ける日和。後悔する日和に、そっと優しく抱きしめた人物がいた。それは、いつの間にかこの音楽教室にきた海恋だった。

 

「どうしたの、日和?今日はいつになく、落ち込んでるじゃない。何かあったの?」

 

「か・・・海恋・・・。う・・・ああああああああああああん!!」

 

「もう・・・本当にどうしたの?」

 

海恋を見て日和は我慢できなくなったのか、海恋に抱き着いて思いっきり大声を出して泣いた。抱き着かれた海恋は驚かず、優しく日和の頭をなで、彼女をなだめる。しばらくの時間が経ち、ようやく落ち着きを取り戻した日和は涙を拭く。

 

「どう?少しは落ち着いた?」

 

「うん・・・」

 

「・・・あのさ。日和が今度は何に対して悩んでるかは知らないけどさ・・・。私は、日和は日和の思うがままに行動したらいいわ」

 

「私の・・・思うがまま・・・?」

 

海恋の言葉に日和は彼女の顔に視線を向ける。

 

「怖いなら逃げ出したっていい。人を振り回したって構わない。日和は、ただ猪突猛進に、自分が信じた気持ちに信じて、行動する方が日和らしいわ。1年前のライブの時だってそう。これが正しいと思ったから行動したんでしょ?だったら、自分の思いに従えばいいと思うわ。それで間違ってるなんて誰にも言わせない。そんなの、私が許さないわ」

 

「海恋・・・」

 

1年間ずっと寄り添ってきた海恋の心からの本音を聞いて、日和は自分の中の気持ちが少しだが和らいできた。

 

「ありがとう、海恋。なんか私、気持ちがすっとしたような気がするよ」

 

「そ。それはなによりね」

 

日和の笑顔を見て笑みを浮かべる海恋は思い出したかのようにスマホを取り出す。

 

「あ、そうだ。前にこと座流星群が流れてたんだけど・・・きれいだったわ。ちょうど動画撮ったんだけど・・・あなた見た?見てないなら見る?」

 

「見てない!!見せて見せて!」

 

日和が自分のスマホを確認したのを見て海恋は撮った動画を流した。動画は動き出したが、動画は真っ黒のままで特に変化がない。

 

「・・・真っ暗だよ?」

 

「・・・ごめん、光量不足みたい」

 

「ダメじゃん!」

 

「「・・・ぷ、あははは!」」

 

どうやら光量が不足しているみたいで流れ星は映らなかったようだ。それがおかしくなって日和と海恋は一緒に笑い出す。

 

「あはは・・・あー、おかし。思わず笑っちゃったよ」

 

「じゃあ日和。私は風紀委員の見回りが残ってるから、もう行くわね」

 

「うん。頑張ってね」

 

「ええ。学院の風紀を乱す奴は私が許さないわ。それが日和であろうともね」

 

「えーー!!そりゃないよーー!」

 

他愛ない話を終わらせて、海恋は風紀委員の見回りに戻った。

 

「・・・自分の思うがままに、か・・・」

 

再び1人になった日和は自分が成すべきこと、やりたいことに関して考える。

 

「日和さん!!」

 

「!立花さん?」

 

するとそこへ響が入ってきた。

 

(そういえば・・・学校でこうして立花さんに会うのは、これが初めてかも・・・)

 

あまり学校では会うことがなかった日和はそんなことを思いつつも、本題に入る。

 

「えっと、何か用かな?」

 

「・・・ごめんなさい!!」

 

「えっ?」

 

響は突然日和に向かって頭を下げて謝ってきた。突然の響の謝罪に日和は戸惑いを隠せなかった。

 

「ど、どうしたの?急に・・・」

 

「日和さんも、お友達が亡くなって辛い思いをしてたなのに私・・・日和さんのこと、何にも知らないで・・・奏さんの代わりになるだなんて・・・。そんなの・・・怒って当然ですよね・・・本当にごめんなさい!!」

 

どうやら昨日の緒川の話で日和の過去を聞いた響は罪悪感を感じてこうして謝りに来たのであろう。

 

「い、いいんだよ立花さん・・・むしろ謝るのは私の方だよ。立花さんにそのことを何も話してなかったわけだし・・・それに、戦いに行ってない私にあれこれ言う権利なんてないわけだし・・・」

 

「・・・私、本当にダメですよね・・・」

 

「立花さん?」

 

「奏さんの代わりになろうって・・・日和さんの代わりにもっとしっかりしなくちゃダメだってずっと思い込んで・・・でも、こんな考え方じゃダメなんだなぁって、気づかされちゃいました・・・。翼さんは、私が思っていたよりも・・・ずっと・・・」

 

「立花さん・・・」

 

顔を俯かせながら語る響に日和は何と声を掛けたらいいかわからなかった。

 

「でも!!」

 

すると響は今度は決意がこもったような顔つきで話を続ける。

 

「こんなダメダメな私にだって、守りたいものはあるんです!今の私に守れるものなんて、小さな約束だったり、何でもない日常くらいなのかもしれません!それでも!守りたいものを守れるように、私、強くなります!!日和さんには、それを聞いてもらいたかったんです!!」

 

「守りたいものを・・・守れるように・・・」

 

響の決意表明を聞いた日和は自分が本当に守りたいものを振り返る。日和の浮かび上がるのは姉の咲とのくだらない世間話や、海恋と過ごす、何気ない日常の日々であった。

 

(私は・・・お姉ちゃんとの楽しい世間話が好き・・・海恋との毎日の学校生活が好き・・・。私にとって2人はかけがえのない大切なもの・・・。それを崩そうとするのは、何があっても許せない!立花さんに守りたいものがあるように・・・私にだって、守りたいものがたくさんあるんだ!その大切なものを守るためには・・・今のまんまじゃダメだ・・・。私は・・・強くなりたい・・・!!)

 

正直、シンフォギアを持ってしても、ノイズに対する恐怖は今もなお拭えない。かけがえのない友を失ったトラウマを、そう簡単に克服はできない。だが・・・今のままでは、大切なものを守ることができない。それでは1年前の二の舞になる。そうさせないためにも、変わらなくちゃいけない。そう考えた日和は、今日まで抱え込んでいた悩みが吹っ飛び、覚悟を持った顔つきになる。

 

「・・・あ、あの・・・日和さん・・・?」

 

「・・・立花さん」

 

「は、はい!」

 

「・・・私・・・覚悟を決めたよ」

 

今まで黙っていた日和に戸惑っていた響に日和は決意したようにそう言い放った。その顔にはもう、迷いは何1つなかった。

 

~♪~

 

二課の司令官である弦十郎の屋敷。事前に住所を教えてもらっていた日和と響は現在門の前までやってきていた。2人は息を吸い、大声を上げる。

 

「「たのもーーー!!」」

 

「うおお⁉なんだ、いきなり?」

 

突然押しかけてきた日和と響に当然ながら弦十郎は驚く。

 

「私に、戦い方を教えてください!!」

 

「私も、お願いします!!」

 

「この俺が・・・君たちに?」

 

「はい!弦十郎さんなら、きっとすごい武術なんか知ってるんじゃないかと思って!」

 

どうやら2人は弦十郎に戦い方を習いに来たようだ。シンフォギアを纏った翼の技を人の身でありながら相殺させた弦十郎ならば戦いにおいての心得を1つや2つ知っていても全くおかしくない。

 

「私は・・・もう守られたままの自分は嫌なんです!私にだって、守りたいものがあるんです!それさえ守れるなら、どんなことだって耐えて見せます!だからお願いです!私に戦い方を教えてください!!私を・・・正式に二課に入れてください!!」

 

守りたいもののために、弱い自分を克服しようと弦十郎に自分の決意表明を伝える日和。懸命な日和と響の姿を見て、弦十郎は腕を組み、少し考えると、2人に視線を向ける。

 

「・・・俺のやり方は厳しいぞ?」

 

「「はい!!」」

 

こうして日和と響は弦十郎の弟子となった。2人は元気よく返事をする。

 

「ときに響君、日和君、君たちはアクション映画とか嗜む方かな?」

 

「「はい?」」

 

弦十郎の質問には理解できない日和と響はきょとんとなった。

 

~♪~

 

弦十郎曰く、漢の鍛錬とは、『飯食って映画見て寝る』だそうで、特訓内容の中にアクション映画を鑑賞し、八極拳を会得するのも含まれている。それを会得するための身体づくりも欠かさず、日和と響は弦十郎の指導の下で筋トレ、模擬戦などを行って自分たちを鍛えていった。そうした特訓を重ね、響は自分にあった格闘術、日和はアームドギアである棍を使った武術を覚えるようになった。

 

「「はぁ~・・・疲れたぁ~・・・」」

 

そういった経緯もあって、日和と響は弦十郎の修業が終わったら一緒に帰ることが多くなった。もとより似た者同士であったがゆえに、仲良くなるのはそう時間はかからなかった。

 

「でもなんだか、強くなったっていう実感が湧いてくるよ。なんて言うか・・・こう・・・どーん!ばーん!みたいな感じでさ」

 

「はい!何言ってるかさっぱりわかりませんが、私も強くなった気がします!」

 

日和と響は他愛ない会話で盛り上がり、修行の疲れを少しでもリラックスさせている。

 

「・・・ごめんね、立花さん」

 

「え?日和さん?」

 

「私もギアを持ってるのに、自分だけ何もしてこなくて。立花さんに迷惑かけちゃったよね」

 

「い、いえ!そんなことありません!むしろ、とても嬉しいんです!」

 

「嬉しい?」

 

響の言う嬉しいの意味がわからず、首をかしげる日和。

 

「私、うまく言えないんですけど・・・これから日和さんも一緒に戦ってくれるんだって思うと、とても心強いです!!」

 

「立花さん・・・ありがとう」

 

響の思いを聞いて日和は笑顔を響に向ける。

 

「私、まだまだ足手まといで、迷惑をいっぱいかけると思うけど・・・翼さんが抜けた穴を何とか埋められるように、頑張るよ」

 

「・・・日和さん!私のことは、ぜひ響って呼んでください!!これから一緒に戦う仲間として、頑張っていきましょう!!」

 

響は日和に手を差し出して、握手を求めている。

 

「・・・うん。これからよろしくね、響ちゃん」

 

「はい!!」

 

日和は響の手を握り、握手で親睦を深めていくのであった。




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東雲日和ボイス

ログインボーナス1
イェーイ!今日のプレゼントフォー・ユー!

ログインボーナス2
音楽もバンドも、継続が大事なんだよ?

基本ボイス1
私は東雲日和!好きなものは音楽とベース!よろしくー!

基本ボイス2
ん?どうしたの?もしかして、今暇なの?

基本ボイス3
暇な時こそ音楽!さあ、一緒にセッションしよ!

基本ボイス4
さあさ、張り切っていきましょー!


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なお昏き深淵の底から

早朝の学生寮の日和と海恋の部屋にて、海恋は日和を起こそうと思い、彼女のベッドまで近づく。軽く息を吸い、はいたところで海恋は日和のベッドの布団を引きはがす。

 

「ほら、朝よ日和!起きなさ・・・あれ?」

 

布団を取り上げたはいいが、肝心の日和がすでにベッドからいなかった。それどころか部屋には日和の姿がどこにもいなかった。

 

「最近毎日早起きするのは感心するけど・・・いったいどこに・・・ん?」

 

海恋はベッドには手紙が置いてあった。字を見るに日和のものであるというのが海恋にはわかった。手紙にはこう書かれていた。

 

『修行に行ってきます。今日学校休むから先生に言っておいて。ごめんちゃい(⌒∇⌒)』

 

「修行って・・・風紀委員の前で堂々とサボり宣言とは・・・!!」

 

この手紙の内容を読んだ海恋は怒りでプルプルと震え、手紙をくしゃっと握りつぶす。

 

「・・・日和ぃいいいいいいいいいいいいいい!!!!!(怒)

 

海恋はこの場にはいない日和に向かって怒りの叫びを放ったのであった。

 

~♪~

 

 

「・・・ううぅ!!?」

 

朝から弦十郎の屋敷に来て、修行をしていた日和は身の毛もよだつ寒気に襲われた。

 

「日和さん、どうかしましたか?」

 

「い、いや・・・今一瞬なんかすごい寒気が・・・」

 

「日和君!!響君!!手が止まっているぞ!!」

 

「「は、はい!!」」

 

修行の最中に手が止まっていたことに弦十郎から叱咤を受け、響はサンドバッグの打撃の特訓を再開し、日和も竿を使って棍の技の会得に集中する。

 

「そうじゃない!!稲妻を喰らい、雷を握りつぶすように打つべし!!」

 

「言ってる事全然わかりません!でもやってみます!」

 

弦十郎の言っていることが理解できずとも、響はそれを実践しようと試みる。響はグローブをはめた拳を握り直し、拳を放つタイミングを見計らっている。全集中で神経をとがらせ、心臓の鼓動で、響はサンドバッグに拳を振るった。この衝撃で吊り下げられていた枝が折れ、サンドバッグは池へ向かって飛んでいった。

 

「・・・そこ!!」

 

そのタイミングを見計らったのか日和は竿を構えてサンドバッグまで飛び、飛んできたサンドバッグを竿で打ち返した。日々の修業が功を制し、日和と響は着実に強くなっていっている。

 

「こちらも、スイッチを入れるとするか!!」

 

日和と響の成長ぶりに火が付いた弦十郎はとことんにまで、日和と響の特訓に付き合うのであった。

 

~♪~

 

リディアンの2年生の教室ではクラスの出席をとっている。が、毎度遅刻の常習犯である日和がここにいないため、教師は怒っている。

 

「東雲さん!!東雲日和さん!!いないのですか!!?・・・西園寺さん!!東雲さんはどうしたんですか!!またいつもの寝坊ですか!!?」

 

「えっと・・・東雲さんは・・・その・・・病院で検査受けるようにと指示があったそうで今日は休みです」

 

海恋は病院を使って日和は今日は休みであるということを伝える。嘘をついて欠席の知らせをしないといけない怒りと去年の日和の状態を引き合いに出している罪悪感で、海恋は内心複雑な心境である。

 

「・・・はぁ・・・仕方ないですね・・・。でも西園寺さん、東雲さんに言っておいてください。去年みたいなことになったら、今度こそ進級は危ういと!」

 

「はい・・・強く、厳しく言っておきます・・・」

 

教師が出席を続ける中、海恋は隣の日和の席を見て、頭を抱える。

 

「はぁ・・・帰ってきたら、たっぷりと説教ね」

 

海恋は日和が戻ってきたらいつもより倍の説教をしてやろうと深く心に誓うのであった。

 

~♪~

 

一方その頃、朝のトレーニングを終えた日和と響はというと・・・

 

「ふぁ~・・・朝からハードすぎますよ~・・・」

 

「はひぃ~・・・私、明日多分筋肉痛になっちゃうかも・・・」

 

「頼んだぞ、明日のチャンピオンズ!」

 

二課の本部の司令室のソファーでぐでーっとだらしなく突っ伏す。日和は正式に二課の一員となったために、こうして本部に自由に行き来できるようになったのだ。

 

「はい、ご苦労様」

 

「わぁ、すいません!」

 

「ありがとうございます!いただきます!」

 

友里から飲み物が差し出され、日和と響は嬉しそうにその飲み物を受け取り、おいしそうに飲んでいく。

 

「・・・あの、1つ疑問があるんですけど・・・シンフォギア以外にノイズと戦える武器って他にないんですか?ノイズと戦う機関だからあるような気がするんですけど。例えば外国とか・・・」

 

「あ、それ私も思いました。自分でやると決めたくせに申し訳ないんですけど、何もうら若き女子高生に頼まなくってもそれを使えばと思うんですが・・・」

 

「だよね。響ちゃんもそう思うよね」

 

日和と響のもっともらしい疑問に弦十郎が答える。

 

「公式にはないな。日本だってシンフォギアは最重要機密事項として完全非公開だ」

 

「ええぇ・・・私、あんまり気にしないで結構派手にやらかしてるかも・・・」

 

「私も・・・そんなの全然気にせずに纏っちゃってるんですけど・・・大丈夫なんですか?」

 

「情報封鎖も二課の仕事だから」

 

人の目を全く気にせずにギアを纏った日和と非公式でありながら派手にやらかしたと思ってる響は申し訳なさそうにしているが、二課はそういう情報を封鎖させているらしいので、気にしないでいいと言う友里。

 

「だけど、時々無理を通すから、今や我々のことをよく思っていない閣僚や省長だらけだ。特異災害対策起動二課を縮め、『特起物』って揶揄されている」

 

「情報の秘匿は政府上層部の指示だってのにね。やりきれない」

 

「いずれシンフォギアを、有利な外交カードにしようと目論んでいるんだろう」

 

「EUや米国は何時だって改定の期を窺っているはず。シンフォギアの開発は、基地の系統とは全く異なるところから発生した理論と技術によって成り立っているわ。日本以外の他の国では到底まねできないから、猶更ほしいのでしょうね」

 

「結局やっぱり、いろいろとややこしいってことですよね・・・」

 

「そんな難しい話、私たちには専門外ですよ・・・」

 

友里と藤尭の話にまったくついていけていない日和と響はソファーに寝そべる。すると日和はこの司令室に了子がいないことに気が付いた。

 

「・・・あれ?そういえばししょー、了子さんはどこにいるんですか?改めて挨拶って思ったんですけど・・・」

 

「永田町さ」

 

「「永田町?」」

 

「政府のお偉いさんに呼び出されてね。本部の安全性、及び防衛システムに対して、関係閣僚に対し、説明義務を果たしに行っている。仕方ないことさ」

 

「また難しい話だー・・・頭パンクしちゃう・・・」

 

組織のややこしい仕組みに対し、日和はついていけてない様子でまたも寝そべって足をパタパタとさせる。

 

「ほんと、何もかもがややこしいんですね」

 

「ルールをややこしくするのはいつも、責任を取らずに立ち回りたい連中なんだろう。それでも、広木防衛大臣は・・・了子君の戻りが遅れているようだな」

 

弦十郎は永田町へ向かっていた了子の帰りが遅れていることに多少疑問を抱いているようだ。そんな彼女だが噂されたせいかどこかでくしゃみをしたのは、誰も知る由もないのであった。

 

~♪~

 

絶唱によって致命傷を受けた翼の意識は現在、暗く深い海の底のような精神世界で彷徨っている。まるで、深き深淵の底へと、潜ってしまっているかのような。

 

(・・・私・・・生きてる・・・?・・・違う・・・ただ死に損なっただけ・・・。奏や玲奈は・・・何のために生きて・・・何のために死んだのだろう・・・?)

 

『真面目が過ぎるぞ、翼』

 

翼が奏や玲奈のことを考えていると、橙色の長髪の女性が翼を抱きしめる。そう、彼女こそが、翼にとってかけがえのないパートナー、ツヴァイウィングの片割れ、天羽奏だ。

 

『あんまりガチガチだと、そのうちポッキリいっちゃいそうだ』

 

『・・・1人になって私は、よりいっそうの研鑽を重ねてきた。数えきれないほどのノイズを倒し、死線を越え、そこに意味など求めず、ただひたすら戦い続けてきた。そして・・・気づいたんだ・・・私の命にも・・・意味や価値がないってことに・・・』

 

精神世界は暗き海の底から、2年前の惨劇のライブ会場へと変わっていた。翼の言葉を聞いて、ガングニールを纏っている奏は口を開く。

 

『戦いの裏側とかその向こうには、また違ったものがあるんじゃないかな。あたしはそう考えてきたし、そいつを見てきた。バカな玲奈だって、そう考えてたんじゃないかな』

 

『それは何?』

 

『自分で見つけるものじゃないかな』

 

『・・・奏はいじわるだ』

 

戦いの裏側に違ったものについてはぐらかされた翼はふてくされたように頬を膨らませるが、すぐに顔を俯かせる。

 

『・・・だけど、私にいじわるな奏は、もういないんだね・・・。奏とよくバカみたいに喧嘩する玲奈も、もう・・・』

 

『それは結構なことじゃないか』

 

『私は嫌だ!奏にそばにいてほしいんだよ!玲奈だって、もっと生きていてほしかったんだよ!』

 

『・・・私がそばにいるか、遠くにいるかは、翼が決めることさ』

 

『私が・・・』

 

『その通りだよ、翼』

 

翼の後ろから、別の女性の声が聞こえた。翼が後ろを振り返ってみると、そこには日和にとってかけがえのない人物、そして、翼と奏にとって、最愛の友・・・如意金箍棒を纏った北御門玲奈がいた。場所は1年前のライブ配信会場へと変わっていた。

 

『玲奈・・・』

 

『私たちは確かに死んだよ。けどさ、魂が生きているかどうかは・・・誰かが決めることじゃあない。翼、あんたが決めることさ。私だってそう考えられるようになったからさ』

 

『玲奈も・・・?』

 

『ああ。底なしのバカのおかげでね。あいつに諭されて・・・私の命にも・・・価値があったんだなってやっと思えたのさ。私にできて、翼にできない道理はないでしょ?だってあんたは・・・もう1人じゃないんだからさ』

 

玲奈は翼ににっこりと微笑み、奏の元まで歩んでいく。そして、玲奈は翼の耳元でこうささやいた。

 

『翼・・・日和のこと・・・頼んだよ』

 

言いたいことを言った玲奈は翼に背を向けて、手を振った。

 

「奏・・・玲奈・・・だったら、私は・・・」

 

翼が言葉を紡ごうとした瞬間、彼女の意識は光に包み込まれていった。

 

~♪~

 

場所は現実のICU、ずっと意識を失っていた翼が今、ようやく目を開いた。

 

「!!先生!意識が!」

 

「各部のメディカルチェックだ!急げ!」

 

『はい!』

 

翼の意識が戻ったことで医師は翼のメディカルチェックを執り行う。意識がはっきりしてきた翼は外の景色が目に移る。

 

(・・・不思議な感覚・・・まるで世界から切り抜かれて、私だけ時間がゆっくり流れていくような・・・。・・・そうか・・・私、仕事でも任務でもないのに、学校休むの初めてなんだ・・・。精勤賞は絶望的か・・・)

 

翼はそう思いながら、ICUの天井を見つめる。

 

(心配しないで、奏・・・。私、あなたが言うほど真面目じゃないから・・・ポッキリ折れたりしない・・・。だからこうして・・・今日も無様に生き恥をさらしている)

 

翼は自分の心の中に存在する奏に、そう伝えるのだった。

 

(それと・・・玲奈・・・。あなたの頼みは・・・多分了承できないかも。だってあの子・・・自分から首を突っ込んでくるような子だもの・・・)

 

翼は同じく心の中に存在する玲奈にそう告げて、口元に笑みを浮かべる。そして、彼女の頬に、涙がつたうのであった。

 

~♪~

 

夕方になり、特異災害対策起動部二課の本部では今緊迫した空気が流れている。それもそのはず、なぜなら広木防衛大臣が革命グループからの奇襲にあい、付けていた護衛や秘書を含めて暗殺されてしまったのだ。それだけでも大事なのだが、永田町に向かっている了子が未だに帰ってきていないのだ。連絡も何1つとしてないし、端末にも繋がらない様子でもしや何かあったのではないかと気が気でなく、了子の身を心配する二課のメンバーたち。

 

「大変長らくお待たせしましたぁ!」

 

「!了子君!」

 

噂をすればなんとやらのタイミングでのんきに謎のハイテンションで了子が帰還してきた。

 

「何よ?そんなに心配させちゃった?」

 

「広木防衛大臣が殺害された」

 

「ええ!!?本当!!?」

 

了子もたった今広木防衛大臣が暗殺されたことを知り、驚愕の声を上げる。

 

「複数の革命グループから犯行声明が出されているが、詳しいことは把握できていない。目下全力で捜査中だ」

 

「了子さんに連絡が取れないから、みんな心配してたんです!」

 

「そうですよぉ!どうして連絡してくれなかったんですかぁ!」

 

「えぇ?」

 

響と日和に言われて、了子は端末を取り出し、電源を入れてみるが、まったく反応がない。

 

「・・・壊れてるみたいねぇ」

 

どうやら端末が壊れていたみたいで連絡を取ろうにも取れない状況だったらしい。何はともあれ、了子が無事であったとわかり、一安心する日和と響。

 

「でも、心配してくれてありがとう。そして、政府から受領した機密指令も無事よ」

 

了子は広木防衛大臣より受け取ったトランクをソファーに置き、開けて中身の機密指令内容が入ったチップを取り出した。

 

「任務遂行こそ、広木防衛大臣の弔いだわ」

 

了子の言葉に二課の一同は首を縦に頷いた。ただ・・・ここにいる全員は気づけなかった。受け取ったトランクの死角に、広木防衛大臣の血がついていたことに。




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東雲日和ボイス

レベルアップ1
バーンって強くなったよ!

レベルアップ2
よしよし、いい感じ!

レベルアップ3
強くなった歌、弾いてもいいかな?

レベルアップ4
東雲日和はレベルが上がった!ステータスがアップした!


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デュランダル移送作戦

暗殺された広木防衛大臣の機密指令を受け取った二課のメンバーたちは緊急ミーティングを執り行う。作戦会議室には二課のメンバーが集まっており、この中に日和と響も加わっている。

 

「私立リディアン音楽院高等科・・・つまり、特異災害対策起動二課本部を中心に頻発しているノイズ発生の事例から、その狙いは本部最奥区画、アビスに厳重保管されているサクリスト・D・デュランダルの強奪と政府は結論付けました」

 

「デュランダル・・・」

 

「EU連合が経済破綻した際、不良債権の一部肩代わりを条件に、日本政府が管理、保管することになった数少ない完全聖遺物の1つ」

 

モニターには寂れた剣が映し出されている。これが以前のミーティングの際に話にあった完全聖遺物、サクリスト・D・デュランダルなのだろう。すると、完全聖遺物を知らない日和が手を上げる。

 

「あのぅ・・・そのデュランダルや完全聖遺物って何ですか・・・?」

 

「ああ、そっか。その時は日和さん、いなかったんでしたね」

 

「うん、そうね。じゃあ、日和ちゃんのためにも、完全聖遺物についてもう一度おさらいしておきましょうか」

 

完全聖遺物について知らない日和のために以前響にした話をもう一度話す。が、日和はどうにも理解が追い付いていない様子だ。

 

「???つまり・・・どういうことですか?」

 

「まぁ、日和ちゃんにわかりやすく伝えると、シンフォギアの力を凌駕する力を持った、傷のついていない聖遺物ってところかしら」

 

「なるほど・・・理解しました!!」

 

了子の説明によってある程度のことは理解した日和であった。

 

「そしてその完全聖遺物の1つが、サクリスト・D・デュランダル。敵がこれを狙ってるってわけ」

 

「移送するったって、どこにですか?ここ以上の防衛システムなんて・・・」

 

藤尭の質問に弦十郎が答える。

 

「永田町最深部の特別電算室・・・通称、記憶の遺跡。そこならば・・・ということだ。どのみち、俺たちが国家役人である以上、女将の偉功には逆らえないさ」

 

「デュランダルの移送予定日時は明朝、○5○○・・・詳細はこのメモリーチップに記載されています」

 

モニターにはこの二課の最奥区画、アビスが映し出されており、機械がデュランダルを持ち運び、移送の準備を進める。

 

「あれがアビスですか・・・」

 

「ここよりさらに深いって・・・どれくらいあるんですか?」

 

「東京スカイタワー3本分、地下千八百メートルくらいあるのよ」

 

「へぇ・・・そんなに深いんですね・・・」

 

思っていた以上に深い場所にアビスが存在すると聞いて驚いた表情をする日和。

 

「はい、じゃあ2人とも。予定時間まで休んでいなさい。あなたたちの仕事はそれからよ」

 

「「はい!」」

 

日和と響は作戦開始時間になる前にいったん寮に戻ることにしたのであった。

 

~♪~

 

リディアンの学生寮に戻った日和は緊張した顔つきで自分と海恋の部屋の前に立っている。帰ってきたはいいものの、海恋を怒らせてしまったのは確実なので、中々に入れないでいる。それでも中に入らないわけにはいかず、固唾を飲み、扉を開ける。

 

「た・・・ただい・・・」

 

ひ~よ~り~・・・(怒)

 

「ひぃ!!」

 

扉の先では、海恋が鬼の形相で立っており、明らかに顔を怒りで染めていた。それを見た日和は完全に縮こまる。

 

「あんた朝からどこに行ってたのよ!!学校サボったりして!!何よこの修行って!!」

 

「そ、それはですね・・・えっと・・・」

 

「何?言い訳があるならたっっっぷりと聞いてあげる。ただ反省文は免れないと思いなさい」

 

「いや・・・だからね・・・」

 

完全に怒っている海恋に日和はたじたじである。

 

「あ・・・あー!!そういえばこの後用事があるんだったー!!もう行くね!!」

 

「あ、こら!!まだ説教は終わってな・・・」

 

「帰ってきたらまとめて聞くからーー!!」

 

このまま説教されては予定時間に間に合わない思い、日和は誤魔化して逃げるように部屋から出ていった。

 

「・・・まったく・・・心配くらいさせなさいよ・・・バカ」

 

気遣う間も与えてくれなかった日和に海恋は少し悲しそうな顔つきになるのであった。

 

~♪~

 

二課の本部に戻ってきた日和は廊下のソファーで膝をうずくまって座っていた。

 

「はぁ~・・・やっぱ怒ってた・・・。こんな気持ちじゃ眠れないよぉ・・・」

 

「あ・・・日和さん」

 

「あ、響ちゃん・・・」

 

少し落ち込んでいた日和の前に響がやってきた。顔を見ていると、響も落ち込んでいる様子であった。

 

「どうしたの?」

 

「いやー・・・実はちょっと友達を怒らせちゃって・・・」

 

「友達って、小日向さんのこと?」

 

「は、はい。そういえば日和さんはもう未来に会ったんですね」

 

どうやら響も同じ状況らしく、同じく響を心配する未来を怒らせてここまで逃げてきたようだ。

 

「いやー、実は私も同じでさ・・・西園寺海恋っていうんだけど・・・会ったことあるかな?」

 

「あー・・・はい。あの風紀委員の人ですよね。実はお恥ずかしながら、遅刻でもう何度かお世話になっておりまして・・・」

 

「真面目すぎるんだよねー、海恋は」

 

響は人助けで遅刻することが多々あるのだが、その際に海恋に何度も注意をされていたようで、面識はあるようだ。

 

「はぁー・・・お互い、苦労するよね・・・」

 

「ほんとですね・・・」

 

日和は机にあった新聞を開く。そこには年頃の女子高生には少々刺激が強い写真が載ってあった。

 

「「うひゃあ!!?」」

 

当然その写真を見た日和と響は顔が赤くなり、新聞の記事から目を逸らす。

 

「お、男の人って、こういうのとかエッチな本とか好きだよね・・・」

 

「そ、そうですね・・・」

 

とかなんとか言いつつも、チラ見をする日和と響。すると別のページ欄で翼に関する記事が載ってあるのに気づいた。

 

『風鳴翼、過労で入院』

 

どうやら世間では翼は過労で倒れて入院したということになっているようだ。日和と響はこの記事に注目している。

 

「情報操作も僕の役目でして」

 

2人が翼の記事に注目していると、緒川が声をかけてきた。

 

「「緒川さん」」

 

「翼さんですが、1番危険な状態を脱しました」

 

翼が回復したことを知った日和と響はお互いに顔を合わせて、笑顔になる。

 

「ですが、しばらくは二課の医療施設にて安静が必要です。月末のライブも中止ですね。さて、ファンの皆様にどう謝るか、お2人も一緒に考えてくれませんか?」

 

しかし、まだ安静にしなければいけない状況と、月末のライブが中止になったことを伝えられ、自分が至らなかったと思い込んでいる日和と響は顔を俯かせ、落ち込む。ソファーに座った緒川はそれを見て慌てる。

 

「あ、いや・・・そんなつもりは・・・」

 

慌てた様子の緒川を見て、日和と響はお互いに笑いあう。

 

「ごめんなさい、責めるつもりはありませんでした。伝えたかったのは、何事もたくさんの人間が少しずつ、いろんなところでバックアップしているということです。だから日和さんも響さんも、肩の力を抜いても、大丈夫じゃないでしょうか」

 

「ありがとうございます。私、ちょっと気負いすぎてたかも」

 

「優しいんですね、緒川さんは」

 

「怖がりなだけです。本当に優しい人は他にいますよ」

 

緒川の気遣いに気持ちが楽になった日和と響は立ち上がる。

 

「少し楽になりました。ありがとうございます。私たち、張り切って休んでおきますね。いこ、響ちゃん」

 

「はい!」

 

気持ちが楽になった日和は響と共にこの場を去っていく。

 

「・・・翼さんも、響さんや日和さんくらい、素直になってくれたらなぁ・・・」

 

2人の背中を見送った緒川は微笑んで、この場にいない翼に向かってそう呟いたのであった。

 

~♪~

 

翌日の明朝5時・・・作戦開始時刻。外にはすでに弦十郎と了子が降り、複数人の黒服が待機していた。日和と響も黒服の隣に並ぶ。

 

「防衛大臣殺害犯を検挙する名目で検問を配備!記憶の遺跡まで一気に駆け抜ける!」

 

「名付けてぇ~、『天下の往来独り占め作戦』!」

 

作戦名が発表された後、弦十郎は日和に視線を向ける。

 

「日和君、これが君にとって初任務となるわけだが・・・やれるか?」

 

「・・・正直に言えば・・・今もなおノイズは怖いです。それを操る人も。けど・・・もう逃げないって決めたんです!!絶対にやり遂げてみせます!!」

 

日和の決意が固いことを確認し、今度こそ作戦、『天下の往来独り占め作戦』が開始された。

 

~♪~

 

作戦が開始され、了子、響、日和が輸送車に乗り、デュランダルを護衛する。デュランダルが入ったトランクは今日和が持っている。輸送車の周りには護衛車両が4台あり、上空には弦十郎が乗るヘリコプターが飛んでいる。順調に進んでいると、橋の一部が崩壊する。敵による妨害によるものだ。

 

「!橋が!」

 

「了子さん!」

 

了子は車を運転し、妨害を回避する。だが、護衛車の1台は躱しきれず、橋に衝突し爆発する。

 

「2人とも、しっかり掴まっててね・・・私のドラテクは凶暴よ」

 

『敵襲だ!まだ目視で確認できていないが、ノイズだろう!』

 

「この展開、想定していたより早いかも!」

 

輸送車がマンホールの上を通過した直後、水が噴射し、後ろで走っていた護衛車の一台が吹き飛ばされる。

 

「・・・っ!」

 

日和はその光景に恐怖を感じるものの、気力を保ち、絶対に渡さないと言わんばかりにデュランダルの入ったトランクを抱きかかえる。

 

『下水道だ!ノイズは下水道を使って攻撃してきている!』

 

弦十郎の言うとおり、ノイズは下水道を使って攻撃を仕掛けてきているようで、前を走っていた護衛車も下水道の水で吹き飛ばされる。

 

「「うわわ・・・ぶつかるうううう!!」」

 

輸送車は飛んできた護衛車を躱す。状況は著しくない様子で、残る護衛車は一台しかない。

 

「弦十郎君、ちょっとやばいんじゃない?この先の薬品工場で爆発でも起きたらデュランダルは・・・」

 

『わかっている!さっきから護衛車を狙い撃ちするのはノイズがデュランダルを損壊させないよう、制御されていると見える!!狙いがデュランダルの確保なら、あえて危険な地域に滑り込み、攻め手を封じるって算段だ!』

 

「勝算は?」

 

『思い付きを数字で数えるものかよ!!』

 

弦十郎の作戦に乗り、輸送車は危険区域である薬品工場へ直行する。すると向かった先のマンホールから飛び出し、最後の護衛車に飛び乗る。中にいる黒服は車から飛び出して脱出し、残った車は建物に激突し、爆発する。読み通り、ノイズは輸送車には手を出してこない様子だ。

 

「狙い通りです!」

 

「これなら・・・」

 

好機かと考えた矢先、輸送車はバランスが崩れ、転倒してしまう。

 

「「うわわわわわわ!!?」」

 

『南無三!!』

 

輸送車の転倒によって作戦が失敗し、了子、日和、響は輸送車から脱出する。日和は今もなおデュランダルのトランクを抱きかかえる。周りはノイズによって取り囲まれている。この状況を作り上げた襲撃者は当然ここにおり、以前と同じようにネフシュタンの鎧を纏っている。

 

「了子さん、これ、重いです・・・」

 

「だったら、いっそここに置いて私たちは逃げましょう」

 

「「そんなのダメです!」」

 

「そりゃそうよね・・・」

 

了子が冗談を言っている間にもノイズは襲ってきた。3人はすぐに離れるが、攻撃によって輸送車が爆破し、爆風で吹き飛ばされる。

 

「ああ!!」

 

「日和さん!!」

 

吹き飛ばされたことによって日和は抱えていたデュランダルのトランクを落としてしまう。ノイズが再び襲い掛かってくる。すると了子は手をかざし、何らかのエネルギーのシールドを張った。

 

「了子・・・さん?」

 

「そ、それって・・・」

 

了子が張ったシールドはノイズをびくともせず、逆にノイズだけを炭に変えている。了子の不思議な力に日和と響は目を見開く。

 

「しょうがないわね。あなたたちのやりたいことを、やりたいようにやりなさい」

 

了子の言葉を聞き、日和と響は立ち上がり、覚悟を決める。

 

「「私たち、歌います!!」」

 

clear skies nyoikinkobou tron……

 

Balwisyall Nescell Gungnir tron……

 

日和と響は詠唱を唱え、お互いのシンフォギアを纏い、拳を構える。ノイズは日和と響に突進を仕掛けた。日和と響はノイズの突進を躱す。しかし、響はブーツのヒールが配管に引っ掛かり、転んでしまう。

 

(ヒールが邪魔だ!)

 

(私の・・・戦いやすいように!)

 

響はブーツのヒールを砕き、日和は手首のユニットから小さな棍のアームドギアを取り出し、槍のように長くして互いに戦闘の構えをとる。

 

「いくよ、響ちゃん!」

 

「はい!」

 

突進してきたノイズに響は正拳突きで、日和は棍で突いてノイズを倒す。ノイズは次々に日和と響に襲い掛かってくる。響はノイズの攻撃を見事に流し、太極拳、体術で次々とノイズを倒していく。

 

「さすが響ちゃん!私だって!」

 

日和は棍の武術、そして掌底と蹴りを放ち、こちらも多くのノイズを倒す。そして日和は棍を回し、ノイズに向かって棍を突き上げる。すると棍は日和の歌に答えるように、ノイズに向かって一直線に伸びた。

 

【一点突破】

 

棍は一直線にノイズを貫き、その先にいるノイズを次々と倒していく。

 

「こいつら・・・戦えるようになっていたのか・・・。しかもあいつ・・・短期間でアームドギアを・・・」

 

遠くで見ていた襲撃者は日和と響が戦えるようになっているのに対し、多少ながら驚いている。するとデュランダルの入ったトランクが歌に反応し、自動ロックが解除される。

 

「この反応・・・まさか!!?」

 

了子は驚愕したように日和と響を見る。日和と響はお互いに背中合わせで、協力し合いながら戦い、ノイズを倒していく。すると後方から鞭の攻撃が来た。その音を聞いた日和は棍を伸ばし、それを弾いて響を守る。

 

「今日こそはモノにしてやる!!」

 

ここで襲撃者が乱入してきて、日和に飛び蹴りを放った。蹴りが見事に直撃した日和は踏ん張り、すかさず襲撃者の足を掴み、投げ飛ばす。

 

「響ちゃんはやらせない!!」

 

「泣き虫は引っ込んでえんえんと泣いてなぁ!!」

 

投げ飛ばされた襲撃者は見事に着地し、鞭を振るい攻撃する。日和はそれを棍で防ぎながら近づく。そして日和と襲撃者はお互いに拳を振るい、拳がお互いに交差し、顔にヒットする。

 

「あなたには負けない・・・!!」

 

「てめぇ・・・!!」

 

襲撃者はもう片方の手で日和の手を掴み、背負い投げで地面に叩きつける。地面に叩きつけられた日和は棍を伸ばし、襲撃者の腹部に直撃させる。

 

「ぐぅ!!」

 

「がはっ!!」

 

「日和さん!!」

 

襲撃者と接戦を繰り広げている日和に加勢しようと響は動くが、ノイズに阻まれる。響は阻むノイズを倒していく。

 

(まだシンフォギアを使いこなせてない・・・!このままじゃ日和さんが押し切られちゃう・・・!どうすればアームドギアを・・・!)

 

響がノイズを倒し、日和が襲撃者と戦っていると、デュランダルがトランクを破壊し、空中に浮かび上がる。

 

「覚醒・・・起動!!?」

 

デュランダルが覚醒し、起動をはじめ、淡い光を放った。

 

「こいつがデュランダル」

 

襲撃者は日和を振り払い、デュランダルを手に入れようと手を伸ばす。

 

「渡すかぁ!!」

 

振り払われた日和はすぐに起き上がり、襲撃者に向けて飛び蹴りを放つ。

 

「くっ、こいつ・・・!!」

 

「響ちゃん!!デュランダルを!!」

 

「はい!!」

 

日和が襲撃者の相手をしている間に響はデュランダルを手にした。響がデュランダルを手にした瞬間、デュランダルはさらに強い光を放った。すると、デュランダルの覚醒と共に、響も変化が起こり始める。デュランダルから光の柱が現れ、錆が消え去り、刃も修復され、輝きを増した。そして響は、まるで暴走したかのように顔を強張らせていた。

 

「何・・・あれ・・・?」

 

「こいつ・・・何をしやがった!!?」

 

何が起きているのかわからず、日和は呆然とし、襲撃者も戸惑っている。すると襲撃者はなぜか了子に視線を向けた。了子は覚醒したデュランダルに見惚れていた。

 

「・・・!!邪魔だ!!」

 

「ああ!!」

 

「そんな力を見せびらかすなぁ!!!」

 

襲撃者は呆然とする日和を払いのけ、杖から光線を放ち、ノイズを召喚させる。それによって響は襲撃者に視線を向ける。暴走している様子の響に襲撃者は怯み、すぐに飛び上がる。響は振り向き、デュランダルを振るおうとする。

 

「!!危ない!!」

 

日和は棍を地面に突き刺した。突き刺さった棍は伸びていき、日和を宙に浮かせる。棍の推進力で進む日和はもう片方の手で・・・なんと襲撃者を庇う形で抱きしめる。そして響はデュランダルを振るう。デュランダルから放たれる光はノイズだけでなく、薬品工場の施設も破壊する。それを見た日和はすぐに棍を元のサイズに戻し、太長い盾のような形に変えて爆風の衝撃を抑えようと試みる。

 

【難攻不落】

 

ドオオオオオオオオン!!!!!

 

それによって施設が大爆発し、辺りを巻き込む。日和の出した防御技によって、日和と襲撃者は爆発に巻き込まれずに済んだ。

 

「ううぅ・・・ああああ!!」

 

しかし、さすがに爆風までは防げず、日和と襲撃者は爆風で吹っ飛ばされる。そして、デュランダルを振るった響は気絶し、了子は不思議な力で響を守っている。爆風が収まり、吹っ飛ばされた日和は襲撃者を守るような態勢のまま転がる。ようやく勢いが止まったところで日和は起き上がる。2人とも、日和の防御技によって、大した怪我はなかった。

 

「い・・・たたた・・・大丈夫?怪我とかしなかった?」

 

「お・・・お前・・・なんであたしを助けた!!?あたしはお前らの敵だぞ!!?」

 

襲撃者の当然の疑問に日和は考えるような素振りを見せた。

 

「うーん・・・なんでかな・・・。ただ何となく・・・あなたが寂そうにしてたから・・・かな?」

 

「はあ?」

 

日和は襲撃者が了子を見ていた時の強張った顔を自身を払いのけた際に見ていたのだが、日和にはそれが寂しそうだと感じ取ったようだ。

 

「それに・・・なんだかあなた・・・なんでか知らないけど・・・憎めないんだ。私・・・あなたとお友達になりたいな」

 

日和は襲撃者を見てにっこりと微笑み、手を差し伸べた。日和の言葉を聞き、笑顔を見た襲撃者は顔を強張らせ、日和の手を振り払う。

 

「うぜぇ・・・うぜぇんだよお前!!」

 

襲撃者はそう言って飛んでいく。

 

「ま、待って!!」

 

「次に会ったら潰す!!絶対にお前を踏みにじってやる!!」

 

襲撃者は日和に一方的に物騒なことを言って逃げていった。それを見送った日和はいなくなった襲撃者に向けて笑みを浮かべる。

 

「・・・また、会えるかな・・・」

 

日和は次に襲撃者に会ったら、今度は話し合って、仲良くなりたいという気持ちが芽生えるのであった。

 

~♪~

 

日和は響のところに戻るが、薬品工場エリアは以前見たものの面影はなく、辺りは爆発によって瓦礫の山と化していた。

 

「響ちゃーん!」

 

「日和さん・・・」

 

「なんか、すごいことになっちゃってるね・・・」

 

「これがデュランダル。あなたたちの歌で起動した完全聖遺物よ」

 

了子が自身の髪を結び直しながら、これがデュランダルの力であると説明する。

 

「あの・・・私・・・。それに了子さんのあれ・・・」

 

「あれ私も気になりました。あれは何なんですか?」

 

「んー?まぁ、いいじゃないの。3人とも助かったんだし、ね?」

 

了子がひびの入ったメガネをかけ直した時、彼女の携帯が鳴った。了子が通話に出る。日和と響は何が何だかわからず、首を傾げている。結局、作戦名、天下の往来独り占め作戦は中断し、移送予定のデュランダルは再び二課で管理することとなったのであった。




如意金箍棒の技レパートリー

如意金箍棒の技名は漢字四文字が基本ではあるが、装者によって技名の雰囲気が違ってくる。

【夜露死苦】
玲奈専用の技。2つの棍を連結させ、連節棍にさせ、勢いを着けさせて一閃に薙ぎ払う技。

【仏恥義理】
玲奈専用の技。棍を地面に突き刺し、土で棍を生成させ、それを複数の相手めがけて放つ技。敵に囲まれた時に使用すると効果絶大である。

【一点突破】
日和の技。ごくシンプルで棍を一直線に伸ばし、相手めがけて大打撃を与える技。ノイズが相手だと何体でも貫くことができる。

【難攻不落】
日和の技。棍を巨大な盾に形を変え、障害物や攻撃を防ぐ防御技。棍を2つ利用することによって前後に防ぐことが可能。


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平和な日曜日

どこかの山岳地帯にある屋敷。その屋敷の近くにある湖の桟橋で、デュランダルを身に纏える銀髪の少女はノイズを召喚できる杖を持って湖をじっと見つめて、薬品工場での出来事を思い返す。

 

(完全聖遺物の起動には、相応のフォニックゲインが必要だと"フィーネ"は言っていた。あたしが"ソロモンの杖"に半年もかかずらったことを、あいつはあっという間に成し遂げた・・・)

 

この少女が持っている杖の名はソロモンの杖。ネフシュタンの鎧、及びデュランダルと同じ完全聖遺物の1つである。このソロモンの杖の起動は、この少女でも半年ほどの長い時間がかかった。だが、デュランダルの場合は、響の歌だけで、あっという間に起動させた。少女はそれを思い出している。

 

(そればかりか、無理やり力をぶっ放してみせやがった・・・)

 

少女はあの日の光景を思い出し、歯ぎしりする。

 

「・・・バケモノめっ!!」

 

少女は愚痴をこぼしながら握りしめたソロモンの杖を見つめる。

 

「このあたしに身柄の確保なんてさせるくらい、フィーネはあいつにご執心というわけかよ・・・」

 

少女が思い返すのはまだ自身が幼かった頃。戦果によって死亡した両親と・・・何らかの組織の捕虜とされ・・・手ひどい扱いを受けてきた忌まわしき記憶。

 

「そしてまた・・・あたしはまた1人ぼっちになるわけだ・・・」

 

そよ風が吹き、少女の髪がなびかせる。そんな時に思い出すのは、敵であるはずの日和が自分に手をさし伸ばし、笑顔で放った言葉だ。

 

『私・・・あなたとお友達になりたいな』

 

(何が友達になりたいだ・・・!戦場で甘っちょろいことを!手を繋げば仲良しになれるってか?そういうの、反吐が出る!!)

 

デュランダルの力を無理に引き出した響よりも、日和の甘い考えが少女をさらにイラつかせる。朝日が昇り、山から太陽が昇り、不機嫌な少女を照らす。不意に少女が振り返ると、そこには黒い服を着込み、黒い帽子を被った長い金髪を持った女性が現れる。この女性が少女の言っていたフィーネなのだろう。

 

「わかっている。自分に課せられたことくらいは。こんなもんに頼らなくても、あんたのいうことくらいやってやらぁ」

 

少女はフィーネに向けてソロモンの杖を投げ渡した。フィーネはそのソロモンの杖を受け取る。

 

「あいつよりも、あたしの方が優秀だってことを見せてやる!あたし以外に力を持つ奴は、全部この手でぶちのめしてくれる!そいつが、あたしの目的だからな!!」

 

少女の確固たる決意を聞き、フィーネは満足そうに不敵な笑みを浮かべるのであった。

 

~♪~

 

本日は日曜日・・・つまりは学校は休みの日。そんな休みの日の中でも、リディアンは教室を開けており、リディアンの生徒たちは規則を破らない限り、何をしても自由である。そんな日の音楽教室で日和は海恋と共にセッションをしている。いつもより長くセッションをしているからか、2人の額からは汗をかいていた。

 

「ふぅ・・・少し休憩しましょうか。二時間くらい弾いて疲れたでしょ」

 

「私はもう少し弾くよ。海恋は先に休んでていいよ」

 

「・・・そう?じゃあ、そうさせてもらうわね」

 

「うん。ごめんね、せっかくの日曜日なのに、朝から付き合わせちゃって」

 

「いいわよ。多少のハメは大目に見てあげる」

 

「ありがとう~」

 

海恋はピアノの席から立ち上がり、自分の鞄の方へ向かっていった。日和は座り込んで、1人で黙々とベースを弾く。その際に浮かび上がるのは、デュランダル移送作戦で戦った襲撃者の少女のことだ。

 

(あの子はいったいどういう思いで、私たちと戦ってるんだろう。私たちは人同士なのに・・・ノイズと違って、話し合うことができるはずなのに。どうして・・・私はあの子が、かわいそうに思えるんだろう・・・)

 

あの襲撃者は二課の敵であるのは間違いない。間違いないのだが・・・日和にはどうしても、襲撃者が好き好んで戦っているわけでないと思えてくる。何か目的があったからこそ、響を捕まえようとしたり、戦ってるのではないか。そう思えて仕方ないのだが、実際のところはどうなのかは、襲撃者にしかわからない。

 

(私・・・あの子のことが知りたい!そのためにも・・・身体だけじゃない・・・歌の方も鍛えなくちゃいけない!そのためにも・・・もっと前に・・・前に!)

 

襲撃者を知るためには身体だけでなく、歌も鍛えないといけないと考え、こうしてセッションがてら、歌の特訓をしているというわけだ。歌さえ伝えれば、きっと相手の気持ちに届くという、自分の信条を信じて。

ある程度弾き終えた日和は鞄からドリンクを取り出し、渇いた喉を潤す。すると日和は海恋が何かの雑誌を読んでいることに気が付く。

 

「またその雑誌読んでるの?海恋も飽きないね」

 

「この人たちの出る雑誌はもう出版されないから、私にとっては貴重なものなのよ」

 

「確か・・・雪音雅律・・・それと、ソネット・M・ユキネだっけ?海恋が憧れてる人って」

 

「そう。雪音雅律がバイオリン奏者、ソネット・M・ユキネが声楽家ね」

 

どうやら海恋が読んでる雑誌には海恋が憧れる音楽家夫婦の紹介が載ってあるらしい。日和は海恋の雑誌を覗き込む。

 

「クラシック音楽ってあんまり詳しくないんだけど・・・そんなにすごいの?この人たち」

 

「もちろんよ。この人たちのクラシック音楽は本当に素晴らしかった・・・。子供の頃に見たあの公演・・・今でも鮮明に覚えてるわ。私はあの人たちに憧れてこのリディアンにやってきたのよ。いつか・・・いつかあの人たちが見せてくれた、あの感動を・・・私も与えたいって思いでね」

 

「へぇ~・・・海恋はちゃんと将来を考えてここに来たんだね。私は将来なんて全然わかんないよ。医者もむいてないしさ」

 

「そうね。あんたの場合、ただの翼さんの追っかけだもの」

 

「いやー、それほどでもー・・・」

 

「あんたこれバカにされてるって気が付かないわけ?」

 

きちんと将来を考えて入学してきた海恋にそれとは正反対の日和はすごく感心している。海恋の皮肉に気が付かない日和は雑誌に載ってある雪音夫婦の写真を見る。

 

「・・・この2人って結婚してるんだ・・・」

 

「まぁ、いわゆる国際結婚って奴ね。このグローバルな時代には、珍しくもなんともないけどね」

 

「・・・なんかソネットさんって・・・どこかで見たことあるような・・・」

 

日和はソネット・M・ユキネの顔を見てどこか既視感を覚える。それもつい最近にだ。どこかで会ったのではないかと思考を回らせるが、まったく思い当たらない。

 

「見たって・・・今になって?ありえないわ。だってこの2人、バルベルデのNPO活動ですでに亡くなってるもの」

 

「え?そうなの?だったら違うのかなぁ・・・?でも・・・ん?んんん?」

 

雪音夫婦がバルベルデ共和国という国で亡くなったと知り、余計に頭を混乱させる日和。

 

「もしあんたがその人を見たっていうならそれは・・・ただのそっくりさんじゃないの?ほら、顔が芸能人にそっくりってことあるじゃない」

 

「そうかなぁ?そんなにほいほいいるとは思えないんだけど・・・」

 

海恋は日和が見たのはただ顔が似ているそっくりな人と指摘するが、日和はあまり納得していない様子だ。

 

「とにかく!私は亡くなったこの2人みたいなすごい音楽家になりたくてここに来た!要はそういう話なのよ!はい、この話終わり!」

 

これ以上日和が考えすぎたらダメだと考えた海恋は無理にでもこの話題を終了させる。

 

「そっか。じゃあ海恋が夢を見つけたのは、雅律さんとソネットさんのおかげってことだね」

 

「ん?まぁ・・・そうなるのかしら?」

 

「じゃあさ!その雑誌、ちょっと貸してくれる?」

 

「?いいけど・・・何に使うの?」

 

日和は海恋から雑誌を受け取り、近くに置いてあった楽譜スタンドを取り出して、雪音夫婦のページを固定させてそれを設置する。これを見ても海恋は日和が何をしたいのかわからなかった。

 

「何やってんの?」

 

「海恋の進みたい夢をくれた2人にお礼にって思ってさ」

 

「お礼?」

 

「うん。2人が天国で安らかに眠れるように、黙祷代わりに演奏を・・・って思ってるんだけど・・・どう?」

 

海恋が夢を見つけたきっかけをくれたお礼として、亡くなった2人に黙祷の代わりに自分たちの演奏を捧げようと考えた日和。それを聞いた海恋はほんの少しポカンとし、そしてすぐにクスリと笑う。

 

「あんたってば本当に突然ね。そういうところ、全然変わらないわ」

 

「え?そんなにおかしい?」

 

「おかしいわよ。だって見ず知らずの人にそこまでする人なんて、そう何人もいないわよ。あんた本当に変わった子」

 

「そういう私に付き合ってくれる海恋も変な子~♪」

 

「・・・かもね」

 

お互いに笑いあったところで、海恋はピアノの席に座り、日和はベースをかけ直して、アンプを繋げて音の調整をする。

 

「雅律さん、ソネットさん、この曲・・・私の思い入れの曲をあなたたち2人に捧げます。どうか、聞いてください」

 

亡くなった雪音夫婦にそう言い放ち、日和と海恋は演奏の態勢に入る。日和のベースを軽く叩く音を合図にし、2人は演奏を始める。

 

「~♪」

 

2人の演奏と日和の歌声が音楽教室中に響く。アビスゲートで演奏していた曲とはまた違った・・・優しい演奏に新鮮味を感じながら、日和は楽しく歌を歌う。

 

(雅律さん・・・ソネットさん・・・海恋に夢を与えてくれて、ありがとうございました。もし、これを聞いているのなら・・・どうか、天国で安らかに眠ってください。これは・・・あなたたちに捧げる・・・黙禱です)

 

演奏が終了し、日和は息を整える。そして日和は海恋とハイタッチを交わす。すると・・・

 

パチパチパチッ

 

教室の入り口の前で誰かが拍手する音が聞こえてきた。2人が教室の扉の方に視線を向けてみると、そこには歌を聞いていたのか響が自分たちに拍手を送っていた。隣には彼女の友達である未来もいた。

 

「!響ちゃん!それに小日向さんも!」

 

響たちに気づいた日和は2人に向かって手を振る。海恋が雑誌を片付けている間にも響は日和の元まで駆けつける。

 

「日和さん!今の演奏・・・すごくよかったです!うまく言えないですけど・・・とにかく!胸に響く歌でした!ね、未来もそう思うよね?」

 

「もう、響ったら・・・急に走り出して・・・すみません、立ち聞きするつもりはなかったんですけど・・・」

 

日和と海恋の演奏と歌に興奮した様子を嗜める未来は2人に頭を下げる。

 

「ああ、いいのいいの!お客さんは1人でも多い方が盛り上がるからね!それより、小日向さんはどうだった?私たちの演奏」

 

「あ・・・はい。とてもいい歌でした。もっと聞いていたいくらいに」

 

「わー、ありがと~」

 

特に気にしてない様子の日和は未来に自分たちの演奏を訪ね、褒められて笑顔になる。

 

「立花さんに小日向さん、あなたたちも学校に来てたのね」

 

「はい。響が身体を動かしたいって言っていたので、その付き添いで。今はその帰りで・・・」

 

響はあのデュランダルの一件でもっと自分を鍛えたいと考えていたようで、運動場のトラックで走ってきたようだ。未来はそんな響きの付き添いで付き合っていたようだ。その後に入浴し終えた帰りで2人の演奏を聞いて今に至るわけだ。ちなみに海恋は響の遅刻の関係で度々ちゃんと響を見ておくようにと何度も注意をしてきているので、未来とはお互いに顔見知りである。

 

「おお!それがベッキーですか!こうして生で見るのは初めてです!」

 

「もう・・・響!」

 

「大丈夫だよ、小日向さん。それより響ちゃん、ベッキー触ってみる?」

 

「いいんですか!!?ぜひお願いします!!」

 

響は日和のベースに興味津々で見つめていたところ、未来に咎められるも、日和の厚意でベースを持たせてもらった。

 

「これ・・・思ったより重いんですね・・・」

 

「だよね。私も最初そう思ったもん。そうだ、響ちゃん、ちょっとベッキー弾いてみてよ」

 

「ええ!!?私、ベースの弾き方を知りません!」

 

「大丈夫、私が教えてあげるから。まずは・・・」

 

ベースを介して日和と響は仲のいい先輩と後輩という雰囲気を作り上げた。その様子を見ている未来は響に呆れてため息をし、海恋は笑みを浮かべる。

 

「はぁ・・・すみません・・・響がご迷惑を・・・・」

 

「いいのよ。むしろ2人が楽しそうでいいじゃない」

 

「そうですね。ところで、海恋さんと日和さんはいつもここで演奏をしているんですか?」

 

「まぁね。私は風紀委員の仕事があるから、たまにだけど。まぁそれでも、他のクラスメイトより多いかも」

 

「仲がいいんですね」

 

「そ、そうでもないわよ。毎日日和に付き合わされて、私まで遅刻しそうになるし・・・毎回説教しても直らないし・・・」

 

「ふふ・・・」

 

仲がいいことを言われた海恋は頬を少し赤らめ、髪をいじりながら否定する。この反応だけで肯定を意味していると理解してる未来は笑みを浮かべる。

 

「そ、そういう小日向さんも大変じゃないの?立花さんにいろいろ振り回されて・・・」

 

「そうかもしれませんね。でも、それが響ですから」

 

「・・・お互い、苦労するパートナーを持ったわね」

 

「ですね」

 

風紀委員以外あまり接点がなかった海恋と未来はお互いのパートナーの話で華を咲かせ、中を深めあっている。

 

「ほへ~・・・ベースって結構奥が深いんですね」

 

「響ちゃん、中々見どころあるよ~。なんてったってベッキーを・・・」

 

日和にベースを教えてもらっていると、突然響が持っていた二課の端末に着信が鳴る。

 

「あ、ちょっと失礼しますね~、すぐに戻りますので・・・」

 

「ちゃんと待つからゆっくりでいいよ~」

 

聞かれてはまずい内容かもしれず、いったん音楽教室から出る響。ベースを返してもらい、かけ直そうとする日和に海恋が未来を連れて声をかけてきた。

 

「ねぇ、さっき小日向さんと話し合って、この後一緒に買い物に行くことになったけど・・・あんたと立花さんも一緒にどう?」

 

「本当に⁉いいの⁉」

 

「はい。その後に、ふらわーに行って、お好み焼きでも食べませんか?」

 

「やったーーー!!一度食べてみたかったんだー、ふらわーのお好み焼き!」

 

「前に用事で行けなかったものね。よかったじゃない」

 

買い物、その後にふらわーのお好み焼きを食べに行かないかと誘われ、日和はもちろん大賛成している。日和が大喜びしていると、教室の入り口から響がひょっこり出てきた。

 

「あ、あのー・・・日和さん。ちょっとよろしいですか?」

 

「響ちゃん?2人ともちょっとごめんねー、すぐ戻るから」

 

「「?」」

 

手招きしている様子からして、おそらくは二課関連であろうと悟った日和はすぐに響の元へと向かった。置いてけぼりの海恋と未来は首をかしげるのだった。

 

~♪~

 

音楽教室から出た日和は響から電話の内容を聞いた。緒川からの頼みで翼のお見舞いに行ってほしいという内容で、近くに日和がいるなら、それを伝えて一緒に行ってほしいとのことだ。それを聞いて日和はわかりやすく気落ちする。

 

「そ・・・そっかぁ・・・。せっかく2人に誘ってもらったのになぁ・・・」

 

「あ、あの!私1人で大丈夫ですので、日和さんは海恋さんと未来と買い物に行って大丈夫ですよ!」

 

気落ちする日和を見て響は慌ててそう言いだした。気を遣っての事だろうが、日和は響の提案を断る。

 

「大丈夫だよ。一緒に行こう。どのみち、翼さんに一度挨拶しないといけないし・・・それに、行けなくて残念なのは響ちゃんも同じだしさ」

 

「すみません・・・せっかくのお誘いなのに・・・私って呪われてるかも・・・」

 

「そう落ち込まないで。買い物ならまた今度行けばいいからね。海恋と小日向さんには私から言っておくから、響ちゃんは外で待ってて」

 

「何から何まで・・・すみません・・・」

 

事情説明を日和が引き受けてくれて、何から何まで申し訳ない気持ちでいっぱいになりながらリディアンの外へ出ていく。2人に事情説明のため、日和が教室に戻ろうとすると、海恋が教室から出てきた。

 

「か、海恋!!?」

 

「どうしたのよ、急に驚いて?・・・あれ?立花さんは一緒じゃないの?」

 

「それなんだけど・・・海恋ごめん!!実は急な用事が出来ちゃって買い物に行けなくなっちゃった!響ちゃんも同じで・・・」

 

二課のことを言うことはできない日和はそう言ってごまかして買い物に行けなくなったことを話した。

 

「・・・そう。なら・・・しょうがないわよ。小日向さんには私から言っておくわ」

 

「ごめん・・・。この埋め合わせは、響ちゃんと一緒に話し合うから!」

 

「そんなの気にしなくていいわ。それより急ぎの用じゃないの?早く行ってきなさい」

 

「うん・・・本当にごめんね」

 

日和は何度も海恋に謝り、リディアンの外に出て響と合流する。日和を見送った海恋は寂しそうな顔し、未来に事情説明をしに教室に戻っていく。

 

~♪~

 

二課の医療施設の廊下。日和の姉である咲は診察の資料を持って廊下を歩いている。実は咲は病院は病院でも二課の医療施設に所属しており、その診察医である。二課が所有している病院といっても、一般の病院と変わらず、医者も看護師も二課の仕事内容までは知らされていない。

 

「あ、お姉ちゃーん!」

 

そんな咲に話しかけてきたのは翼のお見舞いにやってきた日和だった。

 

「日和!病院で廊下を走らない!いつも言ってるでしょ!」

 

「はは、ごめん。お姉ちゃんが見えたからつい・・・」

 

「ついじゃないでしょう。患者さんにぶつかったら・・・あら?その子は?」

 

咲が日和に注意していると、日和についてきた響に気が付いた。

 

「紹介するよ。私の後輩の響ちゃん」

 

「立花響です!初めまして、日和さんのお姉さん!」

 

「・・・立花・・・響・・・?」

 

響の名前に聞き覚えがあるのか咲は指を顎に添えて、響をじっと見つめる。

 

「・・・あ、あのぅ・・・」

 

「!あ、あぁ・・・ごめんなさいね、ぼーっとしちゃって。えーっと、初めまして。日和の姉の東雲咲よ。妹がお世話になったみたいね」

 

「あ、いえいえ、お世話だなんて・・・むしろこっちがお世話になっております」

 

反応がなかったことで戸惑う響に気づき、咲は響に謝罪し、改めて自己紹介を行った。

 

「お姉ちゃんはこの病院の診察の先生をしてるんだよ」

 

「へぇ~、そうだったんですね」

 

「・・・あれ?そういえばお姉ちゃん、今日休みじゃなかったっけ?」

 

本来この曜日が咲の休日だったことを思い出し、日和は首をかしげる。

 

「それが今日出勤する先生が体調不良で休んじゃってね・・・先生の代わりに私が出なくちゃいけなくなったのよ」

 

「あらぁ・・・大変そうですね。お勤めご苦労様です」

 

「ふふ、ありがとう、響ちゃん」

 

体調不良で休みになった医者の代わりに出勤することになった咲に響はねぎらいの言葉をかける。

 

「まぁそれはそれとして・・・お姉ちゃん、翼さん、ここの一般病棟に移ったよね。どこの部屋かわかる?」

 

「・・・いったい誰から翼さんがここに入院してるって情報を聞いてきたんだか・・・」

 

二課の情報源で聞かされた事実を知らない咲は日和に対して驚きつつも少し呆れている。

 

「ええ、確かに翼さんは一般病棟に移ったわよ。部屋は402号室。お見舞いはいいけど、はしゃがないようにね。他の患者さんの迷惑なるし」

 

「わかった!ありがとう、お姉ちゃん!」

 

「だーかーらー、廊下は走るなって!!まったく・・・」

 

翼の病室を聞き、日和は走って病室へ向かう。当然ながらまた咲の注意を受けた。聞いていないが。

 

「待ってください日和さん!すみません、咲さん。失礼します」

 

「ちょっと待って響ちゃん」

 

「はい?」

 

響は急いで日和の後を追いかけようとすると、咲に呼び止められる。

 

「あの子、見ての通り話聞かないし、困った子でしょ?何度も迷惑をかけると思うけど・・・あの子を支えてあげてね。ああ見えてあの子、結構怖がりだから」

 

「・・・はい!任せてください!」

 

咲からの頼みに響は元気よく返事をする。その答えを聞いて安心したのか咲はにっこりと微笑む。

 

「響ちゃん何やってるの?早く早くー!!」

 

「す、すみません!では咲さん、失礼します!」

 

「ちょ・・・あなたまで廊下を走らない!!」

 

戻ってきた日和に急かされ、響は廊下を走って日和についていく。もちろん響にも注意をする咲。

 

「・・・立花響・・・2年前のあの子・・・。いい子じゃないの」

 

響の人柄の良さを見た咲は笑みを浮かべながらそう呟き、自分の仕事に戻っていった。

 

~♪~

 

402号室・・・翼の病室の前で日和と響は緊張している。気持ちを落ち着かせるために2人は深呼吸をし、平常心を持って病室を開ける。

 

「し、失礼しまーす」

 

「つ、翼さ・・・え?」

 

翼の病室に入るや否や、日和と響は病室を見て絶句している。

 

「ま・・・まさか・・・そんな・・・」

 

「う・・・ウソ・・・でしょ・・・?」

 

「何をしているの?」

 

そんな2人に話しかけてきたのは、この病室で入院していた翼だった。

 

「だ、大丈夫なんですか!!?本当に無事なんですか!!?」

 

「い、いえ、それよりも、怪我とかしませんでしたか!!?」

 

「入院患者に怪我や無事を聞くってどういうこと?」

 

「だって・・・これは・・・」

 

「これ、どう見ても襲撃後ですよね!!?」

 

響と日和は翼の病室に指をさしてそう言い放った。2人の言い分は最もだろう。なぜなら翼の病室は・・・脱ぎ散らかった服や下着、散乱するゴミや雑誌、しおれた花にぐちゃぐちゃになった栄養ドリンクに薬剤・・・もう言葉では言い表せないほどに散らかっていたのだ。

 

「私たち、翼さんが誘拐されちゃったんじゃないかって思って・・・二課のみんながどこかの国の陰謀を巡らせてるんじゃないかって思ってて・・・」

 

響の言葉を聞いて、翼は恥ずかしそうに顔を赤く染めている。

 

「「・・・え?え?・・・あー・・・えーっと・・・」」

 

翼の様子を見て、日和と響は何とも言えないような声を上げた。そう・・・とどのつまり翼は・・・片付けられない女だったのだ。




東雲日和の楽曲

最高のthankyou

悲しみに支配された自分を救ってくれた友に心からの感謝を込めた歌。主に相手に感謝を伝える時に歌う1曲である。今回は雪音夫婦に海恋に夢を与えてくれたお礼として黙祷代わりの演奏を行った。余談ではあるが、1年前の秋桜祭のカラオケ大会。悲しみより立ち直った日和がこの大会のために誰にも内緒で1人で作詞作曲を行い、本番当日でこの歌を歌い、優勝し、チャンピオンの座に君臨した思い入れの深い曲となっている。


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兆しの行方は

翼の散らかった病室を2人で掃除することになった日和と響。2人で分担して掃除したかいもあって足場もなかったような汚部屋がウソのようにきれいになった。

 

「もう・・・そんなのいいから・・・」

 

「大丈夫です。私、お掃除得意ですから、任せてください」

 

「そうじゃなくって・・・」

 

「私たち、緒川さんからお見舞いを頼まれたんです。お片付けさせてくださいね」

 

もうほぼ終わってる状態で手遅れなような気がするが、翼の言葉に日和と響はそう返し、翼は顔を赤くしてそっぽを向く。

 

「それにしても驚きました。部屋を開けてみたらお姉ちゃんの部屋みたいに汚部屋でしたから」

 

「私は・・・その・・・こういうところに気が回らなくて・・・」

 

「意外です。翼さんって何でも完璧にこなすイメージがありましたから」

 

「私もです」

 

「・・・真実は逆ね。私は戦うことしか知らないのよ」

 

2人の抱いていたイメージに翼は自虐的にそう呟き、寂しそうな顔をする。その間にも部屋の掃除が終わった。

 

「はーい、お掃除おしまいでーす!」

 

「すまないわね。いつもは緒川さんがやってくれてるんだけど・・・」

 

「「えええぇぇ!!?男の人にですか!!?」」

 

男の緒川が翼の部屋を掃除してくれてると聞いて、日和と響は顔が赤くなる。翼はその言葉にハッと気づき、顔を赤くする。

 

「た、確かに考えてみればいろいろ問題ありそうだけど・・・それでも、散らかしっぱなしにしてるの、よくないから」

 

「は、はぁ・・・そういうもの・・・なんですか・・・?」

 

意外な一面はあったものの、翼はひとまずそれは置いておいて、本題に入る。

 

「い、今はこんな状況だけど、報告書は読ませてもらっているわ」

 

「「え?」」

 

「あなたが正式に二課に入ったこと、それから私が抜けた穴を、あなたたちがよく埋めているということもね」

 

「そ、そんなことありません!私、いつも二課のみんなに助けられっぱなしで・・・」

 

「そ、そうですよ。それに私・・・まだまだド新人なものですから・・・」

 

翼の言葉に響と日和は慌てて訂正し、その様子に翼はクスリと笑みを浮かべる。

 

「でも・・・とっても嬉しいです。憧れの翼さんに、そう言ってもらえるのは・・・」

 

「・・・でも、だからこそ聞かせてほしいの。あなたたちの戦う理由を」

 

「「え・・・」」

 

「ノイズとの戦いは遊びではない。それは、今日まで死線を越えてきたあなたたちならわかるはず」

 

真面目な顔をして放つ翼の質問に、響は答える。

 

「・・・よくわかりません。私、人助けが趣味なもので・・・それで・・・」

 

「それで?それだけで?」

 

「だって、勉強とかスポーツとか、誰かと競い合って結果を出すしかないですけど、人助けって誰かと競い合わなくていいじゃないですか。私には特技とか人に誇れるものなんてないから、せめて自分にできることで皆の役に立てればいいかなぁーって・・・えへへ、へへへ、へぇ・・・」

 

響は笑みを浮かべるが、段々と笑い声の力が抜けていく。そして、そこから真面目なトーンになる。

 

「・・・きっかけは・・・きっかけはやっぱり、あの事件かもしれません。私を救うために、奏さんが命を燃やした2年前のライブ・・・。奏さんだけじゃありません。あの日、たくさんの人がそこで亡くなりました。でも、私は生き残って、今日も笑ってご飯を食べたりしています。だからせめて、誰かの役に立ちたいんです。明日も笑ったり、ご飯食べたりしたいから・・・人助けをしたいんです」

 

響は満面な笑みを浮かべてそう言い放った。納得がいった翼は今度は日和に視線を向ける。

 

「あなたらしい、ポジティブな理由ね。それで、あなたは?あなたはどんな思いで、戦場に身を置くの?」

 

「・・・ご存知かもしれませんが・・・私には、玲奈っていう友達がいたんです。それから、小豆っていう友達も。2人は命を落としてまで、私を助けてくれたんです。私のせいなのに・・・。そんな2人から、死に際に約束されたんです。生きてって。私、その約束を果たし続けたいんです」

 

「それだけなら戦場に立つ必要はないと思うけど」

 

「確かにそうですね。でも・・・それじゃダメなんだって気づいたんです。私には、まだまだ他にも、大切な人たちがたくさんいる。誰か1人でもいなくなるなんて・・・私には考えられません。私の人生は、みんなに支えられて成り立ってる。私も、その人たちのために、支えになりたい。これは生きたいからだけじゃありません。みんなを守りたいから戦うんです!」

 

「日和さん・・・」

 

日和の嘘偽りのない覚悟に響は笑みを浮かべ、翼は納得したように笑みを浮かべる。

 

「あなたも覚悟を決めたというわけね。だけど、あなたたちのその思いは前向きな自殺衝動なのかもしれない」

 

「「自殺衝動!!?」」

 

「誰かのために犠牲にすることで、古傷の痛みから救われたいという、自己断罪の表れなのかも」

 

翼の言葉に日和と響は戸惑いを隠せないでいた。

 

「あ、あのぅ・・・私たち、変なこと言っちゃいましたか・・・?」

 

戸惑うばかりの2人の愛想笑いを見て、翼は笑みを浮かべる・

 

~♪~

 

話の続きは病院の屋上ですることになった。この屋上にいるのは、翼、日和、響の3人だけだ。

 

「変かどうかは、私が決めることじゃないわ。自分で考え、自分で決めることね」

 

「考えても考えても、わからないことだらけなんです。デュランダルに触れて、暗闇に飲み込まれかけました・・・。気が付いたら・・・人に向かってあの力を・・・。私がアームドギアをうまく使えていたら、あんなことにもならずに・・・」

 

「そんなことないと思うよ。私だって・・・デュランダルに触れたら、そうなってたかもしれないし・・・あの子を・・・傷つけてしまうかもしれない・・・。未熟なのは私も同じ・・・もっとシンフォギアの力を知らないと・・・」

 

「力の使い方を知るということは、すなわち戦士になるということ」

 

「「戦士・・・」」

 

「それだけ・・・人としての生き方を遠ざかることなのよ。あなたたちに、その覚悟はあるのかしら」

 

屋上に風がなびき、翼の戦士としての問いかけに響は口を開く。

 

「・・・守りたいものがあるんです。それは、何でもないただの日常。そんな日常を大切にしたいと強く思ってるんです。だけど・・・思うばっかりで、空回りして・・・」

 

「私も同じです。みんなを守るって息巻いたはいいですけど・・・どうすればいいのかというのが、まだ具体的わかっていません。そのせいで、響ちゃんや翼さんにも迷惑かけて・・・」

 

「・・・戦いの中、あなたたちが思っていることは?」

 

「ノイズに襲われてる人がいるなら、一秒でも早く救いたいです!最速で、最短で、まっすぐに、一直線で駆けつけたい!」

 

「そして・・・もしその相手がノイズじゃなく誰かなら・・・。どうして戦わなくちゃいけないのかっていう胸の疑問を、私たちの想いを届けたいと考えています!」

 

病院に来る前に、2人で話し合って決めた、確固たる決意を響と日和は翼に向かって堂々と言い切って見せた。

 

「今あなたたちの胸にあるものを、できるだけ強くはっきりと思い描きなさい。それがあなたたちの戦う力・・・立花響と東雲日和のアームドギアに他ならないわ」

 

2人の言葉を聞いた翼は笑みを浮かべてそう2人に伝えた。

 

~♪~

 

夕方ごろ、海恋は未来を連れてふらわーに向かっている。未来の様子はあまり元気がなさそうに見える。それもそうだ。未来は学校の隣なる病院で翼と仲良くしている日和と響の姿を学校の図書館の窓から見たのだ。なぜ自分の隣には響がいないのだろうと考えこんでしまったのだ。それを見た海恋が未来をふらわーに連れて行っているのだ。かける言葉も見つからず、気が付けば2人は店の前までたどり着いた。2人は店のガラス戸を開けて中に入る。

 

「いらっしゃい」

 

店に入る2人に声をかけたのは、この店の店主であるおばちゃんである。海恋や未来、それから響にとってはもはや顔なじみである。

 

「「こんにちは」」

 

「おや、今日は珍しい組み合わせだね。いつも人の三倍は食べる子は一緒じゃないのかい?」

 

「今日は・・・先輩だけです」

 

「すみません。今日もあの子は用事で来られないみたいで・・・」

 

「・・・そうかい」

 

未来の気分が落ち込んでいることに気づいているおばちゃんは深くは尋ねなかった。2人はカウンター席に座り、お好み焼きを注文する。注文を受け、おばちゃんはお好み焼きを焼き始める。

 

「じゃあ、今日はおばちゃんがあの子の分まで食べるとしようかねぇ~」

 

「食べなくていいです。そういう冗談はいいので焼いてください」

 

「あら!あははは」

 

どこまでも真面目な海恋にはおばちゃんの粋なジョークは通用しなかった。ただ、未来を気遣っているのはわかっているため、笑みは浮かべている。

 

「ごめんね、小日向さん。本当は立花さんと一緒に行きたかったでしょう」

 

「いえ、大丈夫です。お腹すいてましたから。おばちゃんのお好み焼きを食べたくて、今日は朝から何も食べてなくて・・・」

 

「小日向さん。落ち込んでいる時こそ、1日3食は忘れちゃダメよ」

 

顔を俯かせている未来に海恋は彼女の頭をなでながら優しく微笑んでそう言った。

 

「そうだねぇ。お腹すいたまま考え込むとね、嫌な答えばかり浮かんでくるもんだよ」

 

海恋の言葉に同意しているおばちゃんは未来に言い聞かせるようにそう言った。

 

「小日向さん。相手が何を考えてるかなんて、結局のところ、誰にもわからないわ。わからないからこそきちんと面と向かって話し合うのよ。少なくとも、私は今までそうして来たし、これからもそれは変わらない」

 

おばちゃんと海恋の言葉を聞いて、未来は響の行動を思い返す。

 

(そうかもしれない・・・。私が勝手に思い込んでるだけだもの。ちゃんと話せば、きっと・・・)

 

自分の中でちゃんとした答えを出せた未来は晴れやかな笑顔になった。

 

「ありがとう、おばちゃん、海恋さん」

 

「何かあったら、またいつでもおばちゃんのところにおいで」

 

「はい」

 

元気になった未来を見て、海恋は微笑ましい顔になる。その間にも、お好み焼きが焼けたようだ。

 

「食べましょうか、小日向さん」

 

「はい」

 

海恋と未来は何気ない会話で盛り上がりながら、お好み焼きを食べるのであった。

 

~♪~

 

一方その頃病院の屋上で、翼と日和と響の3人はベンチに座って話し込んでいた。3人を様子を見る限り、わだかまりはすっかり解けて、仲睦まじい光景である。そんな中、響は難しく考え込んでいる。

 

「う~ん・・・」

 

「どうしたの、響ちゃん?そんな考え込んで」

 

「アームドギアの事です。日和さんと違って、私はアームドギアを出せていませんから・・・」

 

「私はただ、自分の歌を信じて行動してるから・・・」

 

長い鍛錬をこなしてきた翼は刀を、自分の胸の中の歌を信じ、思い描いた日和は棍を出せるが、響は未だにアームドギアを出せていない。かといってすぐに槍を出せと言われてもピンとこないわけでそんなすぐに使い方を思いつくわけがない。

 

「あ、知ってますか翼さん、日和さん!お腹すいたまま考えても、ロクな答えを出せないってこと!」

 

「何よそれ?」

 

「前に私、言われたんです!お好み焼きのおばちゃんに!掛け値なしに名言ですよ!」

 

「それってふらわーの?いいなぁ・・・私、用事が重なっちゃって、ふらわーのお好み焼き食べたことないから」

 

「ええ!!?日和さん、それ人生の半分を損してますよ!!?」

 

日和がふらわーのお好み焼きを食べたことがないことを聞いて非常に驚愕する響。

 

「そうだ日和さん!今からふらわーに行きましょう!!お腹いっぱいになればギアの使い方も閃くと思いますし~」

 

「いいねぇ!行こう行こう!!翼さんの分もお持ち帰りできないかなぁ?」

 

「できますできます!!そういうわけで翼さん、私たち、今からふらわーのお好み焼きをお持ち帰りしてきます!!翼さんもきっと気に入ると思います!!」

 

「楽しみにしててくださいね!」

 

「えっ、あ、ちょ・・・待ちなさい!立花!東雲!」

 

翼は制止の声を上げるが、浮かれて聞こえていないのか響は日和と手を繋いで下の階段へと駆けていく。元気な2人の後姿を見て、翼は楽し気に笑みを浮かべたのであった。

 

~♪~

 

日和と響がふらわーに向かっている時間帯、二課の本部では警報が鳴り響いた。

 

「ネフシュタンの鎧を纏った少女がこちらに接近してきます!」

 

そう、あの襲撃者がまたもネフシュタンの鎧を身に纏って現れたのだ。これはその警報なのだ。

 

「周辺地区に避難警報発令!!そして、日和君と響君に連絡だ!!」

 

弦十郎はすぐに指令を出した。

 

~♪~

 

指令の連絡はすぐに日和と響に届いた。

 

「はい、わかりました!響ちゃんと一緒にすぐに向かいます!」

 

事態を把握した日和と響はふらわーに向かうのを中断し、すぐに襲撃者の出現地へと向かっていく。すると・・・

 

「響ー!」

 

「!!?未来・・・!!?」

 

「か、海恋!!?」

 

前方に未来がこちらに向かい、海恋が未来についていっている。襲撃者出現地に2人がいることに驚愕する日和と響。しかし、2人は左方向に敵意を感じ取り、そこを振り向く。

 

「お前らぁ!!」

 

やはり現れた襲撃者は鞭を振るった。

 

「小日向さん!海恋!来ちゃダメ!!ここは・・・」

 

響たちと未来たちの間を挟むように鞭が通り抜け、衝撃で地面がえぐれ、響に駆け寄ろうとした未来は吹き飛ばされる。

 

「きゃあああああ!!」

 

「「小日向さん!!」」

 

「未来!!」

 

「しまった!あいつらの他にもいたのか!」

 

襲撃者は未来たちを巻き込むつもりはなかったようだ。襲撃者のその声は日和の耳には聞こえていた。吹き飛ばされた未来が起き上がろうとした時、ボロボロになった車が迫ってくる。

 

「小日向さん!!」

 

海恋は未来を守ろうと彼女を庇うように抱きしめる。日和と響きは2人を守るためにすぐに詠唱を唱える。

 

clear skies nyoikinkobou tron……

 

Balwisyall Nescell Gungnir tron……

 

シンフォギアを纏った響は日和より早く行動し、落下してきた車を殴り、弾き返した。2人の姿を見て、未来と海恋は呆然とする。

 

「2人とも・・・よかった・・・」

 

2人が無事を確認した日和は安心し、すぐに襲撃者に視線を向ける。日和は襲撃者に向かって指笛を鳴らし、彼女を挑発して注意を自分に向けさせる。これによって、襲撃者は日和に視線を向け、注意を向かれた日和は市街地から離れていく。

 

「とろくせぇのがいっちょ前に挑発か!上等だ!!」

 

デュランダルの一件で日和に敵対心を強くさせた襲撃者は日和の挑発に乗り、日和を追いかけていく。

 

「立花さん・・・これは・・・」

 

「海恋さん・・・未来・・・ごめん・・・」

 

「ま、待ちなさい!!」

 

響は2人に一言謝り、日和を追いかけに走っていった。

 

「なんで・・・響が・・・」

 

どういうわけか理解できず、残された未来と海恋は戸惑いを隠せないでいた。

 

~♪~

 

一般人が入り込まない林の中に入ったのを確認した日和はすぐに右手首のユニットから棍を取り出す。追いついた襲撃者はすぐに日和に鞭を振るう。日和は棍を振るって鞭を弾き返し、さらに棍を伸ばし攻撃する。襲撃者は伸びた棍を躱す。そして日和は棍を手放して襲撃者に近づき、飛び蹴りを放つ。しかし、襲撃者は鞭で防御し、凌いだ。

 

「ちょせぇんだよ!!」

 

襲撃者は日和の足を掴み、地面に叩きつけた。

 

「ぐっ・・・!!」

 

痛みを堪える日和に襲撃者は鞭を振るった。日和はすぐに左手首のユニットからもう1本の棍を取り出し、それで鞭を防ぐ。攻撃を凌いだ日和は襲撃者から距離を取り、突き刺さった棍を抜き、二刀流になる。戦えるようになったとはいえ、相手は完全聖遺物。その性能差を補うのは、やはり容易ではない。戦闘経験がまだまだ浅い日和ならばなおさらだ。

 

「日和さーん!!」

 

「響ちゃん!」

 

そこへ助太刀するかのように響が駆けつけてきた。

 

「はっ!どんくせぇお仲間の登場かぁ!」

 

「どんくさいなんて名前じゃない!!」

 

襲撃者の言葉に響は声を出して反論する。

 

「私は立花響、15歳!誕生日は9月の13日で血液型はO型!身長は、この間の測定では157センチ!体重は・・・もう少し仲良くなったら教えてあげる!趣味は人助けで好きなものはご飯アンドご飯!あと・・・彼氏いない歴は年齢と同じぃ!!」

 

「な、なんだ・・・?」

 

響きの突然の自己紹介に襲撃者は引いている。それに日和も続く。

 

「私の名前は東雲日和、16歳!誕生日は10月の27日!血液型はB型!身長は160センチ!体重は秘密!好きなものは音楽とベース!趣味はセッションで彼氏は小学校の時にいたけど、1週間で別れた!!」

 

「な、なにをトチ狂ってやがるんだお前ら・・・」

 

襲撃者の反応は至って当然だ。何せ戦場で突然の自己紹介やプロフィール公開する人間がいるなど、誰が想像できるか。

 

「私たちは、ノイズと違って言葉が通じ合えるんだからちゃんと話し合いたい!!」

 

「そうだよ!!私だって、本当はあなたと戦いたくなんかない!!」

 

「なんて悠長、この期に及んで、まだそんな戯言を!!」

 

襲撃者は響と日和に鞭を振るう。日和と響きは襲撃者の攻撃を躱していく。

 

(こいつら・・・動きが変わった・・・⁉覚悟か⁉)

 

「話し合おうよ!私達は戦っちゃいけないんだ!だって、言葉が通じていれば人間は・・・」

 

「うるせぇ!!!」

 

響の言葉を否定するように襲撃者は声を荒げる。

 

「わかりあえるものかよ人間が!そんな風にできているものか!」

 

「そんなことないよ!だって、私はあなたの声を聞いたから!」

 

「ああ!!?」

 

「さっきあなた、しまったって言ってたよね。それは、小日向さんや海恋を巻き込むつもりはなかったってことだよね。本当は優しい子なんだよ、あなたは」

 

「・・・っ!!」

 

まさか自分の言葉を聞こえていたとは思わなかった襲撃者は日和の言葉にさらに顔を強張らせる。彼女の中のイライラも強まっていく。

 

「私はあなたとお友達になりたいの!!もうこんなことやめようよ!!こんなことしたって、何にも・・・」

 

「だまれぇ!!!!」

 

日和の説得の声にも、襲撃者は声を荒げて否定する。

 

「気に入らねぇ・・・気に入らねえ!気に入らねえ!気に入らねぇ!!わかっちゃいねえことを知ったふうに口にするお前らがぁ!!そいつを引きずって来いと言われたがもうそんなことはどうでもいい!!お前らをこの手で叩きつぶす!!特にお前!!お前だけは絶対にぶちのめす!!!お前の全てを踏みにじってやるぅ!!!」

 

「私たちだってやられるわけには・・・」

 

「吹っ飛べ!!!」

 

襲撃者は鞭の先端に黒い雷撃の白いエネルギー球体を作り上げ、荒ぶった感情と共にそれを日和たちの元に放った。

 

【NIRUVANA GEDON】

 

放たれた球体を日和は片方の棍を上に投げ、もう片方の棍をバットのように持ち替え、それを打ち返そうと試みる。日和はエネルギー体を受け止めたが、打ち返すには至らない。

 

「もってけ、ダブルだぁ!!!」

 

襲撃者はさらにもう1つのエネルギー球体を作り上げ、それを撃ち放った。2つのエネルギーは衝突しあい、爆発する。

 

「お前らなんかがいるから、あたしはまた・・・!!」

 

爆発の煙が晴れると、さっきのダメージを耐えた日和が響を守るように立っている。後ろにいる響はアームドギアを顕現させようとエネルギーをためている。だが、それは失敗し、逆に吹っ飛ばされる。

 

「響ちゃん!」

 

(これじゃダメだ・・・翼さんと日和さんのように、ギアのエネルギーを固定できない・・・)

 

「この短期間に、アームドギアを手にしようってのか!!?」

 

(エネルギーはあるんだ・・・アームドギアが形成されないのなら・・・その分のエネルギーをぶつければいいだけ!!)

 

「させるかよっ!!!」

 

エネルギー形成を阻止しようと襲撃者は鞭を振るった。日和はそれを棍で凌いだ。そしてさらに、日和は鞭が絡まるように棍を回し、そして地面に叩きつける。

 

「そんなもんで・・・何っ!!?」

 

襲撃者は鞭を振るおうとするが、鞭が絡まった棍が力強く固定されて、引っ張り上げることができない。日和は自分が投げたもう1つの棍より空高く飛ぶ。回転するもう1つの棍は形を変え、巨大なドリルのような形になる。そして日和は回転したドリルの棍に蹴りを放ち、襲撃者の元まで一直線に降下する。

 

【天元突破】

 

日和と共に降下してくるドリルに襲撃者は腕をクロスさせて防御し、強大な攻撃を受け止める。

 

「この程度でぇ!!!」

 

「響ちゃん!今だよ!!」

 

「!しまった!!」

 

この攻防の間に、響の右手に握りしめられたエネルギーは溜まり、響は襲撃者に迫っていく。

 

(雷を、握りつぶすように・・・最速で、最短で、まっすぐに、一直線に!胸の響きを・・・この想いを、伝えるためにぃ!!!)

 

響はアームドギアのエネルギーをため込んだ強力な一撃を襲撃者の鳩尾に放った。ドリルの棍の衝撃と響の拳の衝撃が襲撃者の身体にダメージを与え、衝撃によってネフシュタンの鎧にひびが入った。

 

(バカな・・・ネフシュタンの鎧が・・・!)

 

2つの衝撃が合わさったことにより、この場に砂煙が立ち込めるのであった。




如意金箍棒の技

【天元突破】
日和の技。棍を上空に投げてドリルのような形に変え、その棍に蹴りを放ち、回転させながら標的に向かって降下させて相手にダメージを与える大技。実は翼の技、【天ノ逆鱗】を意識し、見よう見まねで日和なりにアレンジを加えたらしい。


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撃ちてし止まらぬ運命のもとに

日和と響の連携した大技を襲撃者に放ったことにより、辺りは土煙が上がっている。大技を喰らった襲撃者はダメージを負い、彼女の纏うネフシュタンの鎧にもダメージが入っている。

 

(あいつ・・・なんて無理筋な力の使い方をしやがる・・・!この力・・・あの女の絶唱の力に匹敵しかねない・・・!)

 

ビキッ!ビキッ!ビキキ・・・!

 

ネフシュタンの鎧は黒い筋を伝い、襲撃者の身体を侵食するかのように再生する。この再生には襲撃者に痛みが伴う。

 

(食い破られる前に肩を着けなければ・・・!!?)

 

何とか態勢を整えようとする襲撃者の前にはすでに日和が目の前にいた。襲撃者は日和が攻撃を仕掛けてくると身構える。だがしかし、日和は攻撃態勢を取ろうとしない。それは、日和に攻撃の意思がないことを意味する。それは、後ろにいた響も同じだった。

 

「大丈夫だった?怪我、してないかな?」

 

攻撃しないどころか日和は襲撃者に手を差し伸べ、立たせようとする。日和のその行動は襲撃者の怒りと殺意をさらに助長させ、日和の差し伸べた手を払いのける。

 

「お前・・・あたしをバカにしてんのか!!あたしを・・・雪音クリスを!!」

 

「・・・そっか。クリスちゃんっていうんだ」

 

「クリスちゃんか・・・素敵な名前だね」

 

ここで襲撃者・・・雪音クリスの名を聞けて、響と日和は満足そうな笑みを浮かべる。

 

「ねぇ、クリスちゃん、こんな戦い、もうやめようよ。ノイズと違って、私たちは言葉を交わすことができる。ちゃんと話をすれば、きっとわかりあえるはず!だって私たち、同じ人間だよ?」

 

「そうだよ。私はもうこれ以上クリスちゃんと戦いたくないよ。私は、あなたと友達になりたいだけなんだよ」

 

響と日和は戦いをやめようとクリスに呼び掛けるが・・・

 

「・・・お前ら、くせぇんだよ・・・噓くせぇ、青くせぇ!!!」

 

クリスに攻撃の意思は止むことなく、日和に殴りかかり、蹴り飛ばす。

 

「日和さん!」

 

「・・・青くさくたっていい・・・嘘だと思うならそれでもいい。だけど・・・」

 

追撃するクリスの飛び蹴りに日和は棍で凌ぎながら言葉を続ける。

 

「私のこの気持ちだけは、本物なの!!!」

 

日和は棍を力いっぱい握りしめ、クリスを振り払う。振り払われたクリスは着地と同時に、ネフシュタンの鎧の浸食が深刻であると気が付く。

 

「クリスちゃん!日和さんの言葉を・・・」

 

「吹っ飛べよ!!!アーマーパージだ!!!」

 

クリスが叫んだ瞬間、ネフシュタンの鎧は吹き飛び、破片が飛び散る。破片が辺りの木に直撃し、ボロボロになって倒れる。

 

Killter Ichaival Tron……

 

「!この歌って・・・」

 

「まさか・・・クリスちゃん・・・」

 

「見せてやる・・・イチイバルの力だ!!」

 

クリスが唱えた詠唱によって、クリスは光に包まれる。

 

~♪~

 

二課の本部、戦いの様子を見守っていた時、モニターにて高エネルギー反応の解析結果が表示され、それが文字に表示される。

 

Ichii-Bal

 

「イチイバルだと!!?」

 

判明された聖遺物に弦十郎は驚愕の声を上げる。

 

「アウフヴァッヘン波形、検知!!」

 

「各部のデータとも照合完了!コード・イチイバルです!」

 

「失われた第二号聖遺物までもが、渡っていたというのか・・・!」

 

判明された聖遺物、イチイバルもまた、元は二課が所有していた聖遺物であるため、弦十郎は険しい顔つきになっている。

 

~♪~

 

衝撃によって強い風がなびかせている中、響と日和はクリスの姿を見て、驚愕している。

 

「クリスちゃん・・・私たちと同じ・・・」

 

今のクリスの纏っている鎧は響と日和と同じシンフォギアを纏っていた。カラーリングは白と黒と赤色である。シンフォギアにも驚きだが、日和はそれ以上に、露になったクリスの顔を見てさらに驚愕している。

 

「その顔・・・それに雪音って・・・」

 

クリスの顔は、海恋がいつも愛読している雑誌に載ってあった、ソネット・M・ユキネと酷似していたのだ。そしてさらに雪音という苗字で日和は1つの答えに到達した。

 

「クリスちゃん・・・もしかしてあなた・・・」

 

「・・・歌わせたな・・・」

 

「「え?」」

 

「あたしに歌を歌わせたな!!」

 

クリスの声色は怒りが込められていた。

 

「教えてやる・・・あたしは、歌が大嫌いだ!!!」

 

「「歌が嫌い・・・?」」

 

クリスは二丁のボウガンのアームドギアを展開し、響と日和に向かって矢を撃ち放った。響と日和は放たれた矢を左右に分かれて避けていく。しかし日和の避ける先にクリスが先回りし、クリスが日和を蹴り飛ばす。蹴り飛ばされた日和は響にぶつかり、共に倒れる。その間にもクリスはボウガンを2連装ガトリング砲に変形させ、狙いを2人に定める。

 

【BILLION MAIDEN】

 

二丁のガトリングによる4連装一斉掃射を日和と響に向かって放った。態勢を整えた日和と響は放たれた弾を避けていく。周りの木が崩れようとも、クリスの攻撃は止まない。一斉掃射しつつも左右の多連装射出機から多数の小型ミサイルを展開し、一斉発射する。

 

【MEGA DETH PARTY】

 

発射された小型ミサイルは響と日和を追撃し、爆発を引き起こす。ミサイルが爆発しても、クリスはガトリングを撃ち続ける。ようやく攻撃の手を止める時には、目の前は火の海と化していた。クリスは息を整えながら、日和と響を仕留めたかどうか確認する。火が鎮火し、煙が晴れると・・・目の前には巨大な盾のような物体があった。

 

「盾?」

 

「剣だ!」

 

この巨大な物体は盾ではなく剣であり、真上にはまだ入院していたはずの翼が立っていた。

 

「ふん、死に体でおねんねと聞いていたが、足手まとい共を庇いに来たか」

 

「・・・もう何も、失うものかと決めたのだ!」

 

クリスと対峙する翼に弦十郎からの通信が入った。

 

『翼、無理はするな』

 

「はい」

 

翼の剣のおかげで無傷で済んだ日和と響は翼を見上げる。

 

「「翼さん・・・」」

 

「気づいたか、立花、東雲!だが私も十全ではない。力を貸してほしい」

 

「「はい!」」

 

翼の言葉に日和と響は返事をし、立ち上がる。

 

「うおらあああ!!」

 

クリスは翼に向けてガトリング砲を掃射する。翼は剣から降りてガトリングの弾を躱し、クリスに刀を振るう。斬撃を避けたクリスはガトリング砲を放ったが、翼はクリスを飛び越えて避け、切り払う。クリスはしゃがんで躱すも翼はクリスのガトリング砲を刀の柄で叩き、態勢を一瞬だけ崩させる。クリスが体制を整えるも、後ろに回り込まれた翼に刀を突きだされている。

 

(この女・・・以前とは動きがまるで・・・)

 

以前戦った時はクリスが翼を圧倒していたが、今度はその立場が逆になっている。

 

「翼さん!その子は・・・」

 

「わかっている」

 

クリスがガトリング砲で刀を弾いて、両者は臨戦態勢に入る。

 

(刃を交える敵じゃないと信じたい。それに、10年前に失われた第二号聖遺物のことも正さなければ・・・)

 

クリスが翼に向けてガトリング砲を放とうとしたその時・・・上空から飛行型のノイズが現れ、彼女のガトリング砲に向かって突進し、アームドギアを破壊する。

 

「何っ!!?」

 

突然のことでクリスは驚愕する。そして、最後に残った1匹がクリスに向かって突進してきた。それに気づいた響がクリスを身を挺して守った。響の突進によって最後のノイズは崩れた。

 

「響ちゃん!!」

 

「立花!!」

 

「お前何やってんだよ!!?」

 

「ごめん・・・クリスちゃんに当たりそうだったから・・・つい・・・」

 

そう言った響は気を失い、クリスにもたれかかった。

 

「・・・っ!バカにして!!余計なお節介だ!!」

 

「命じたこともできないなんて・・・あなたはどこまで私を失望させるのかしら・・・」

 

突如として聞こえてきた声にクリスは顔を上げ、翼は刀を、日和は棍を構える。遠くを見ると、木の柵に腕を乗せ、手にはソロモンの杖を持った金髪の女性、フィーネがいた。

 

「だ、誰・・・?」

 

「フィーネ⁉」

 

(フィーネ?終わりの名を持つ者・・・)

 

クリスは気を失っている響を見て、翼に向けて突き飛ばす。翼が響を受け止め、日和は棍を構えて警戒する。

 

「こんな奴がいなくたって、戦争の火種くらいアタシ1人で消してやる!そうすれば、あんたの言うように、人は呪いから解放し、バラバラになった世界は元に戻るんだろ!!?」

 

クリスの言葉を聞き、フィーネはため息をこぼす。

 

「・・・はぁ・・・。・・・もうあなたは必要ないわ」

 

「!!な、なんだよそれ!!?」

 

フィーネの右手は青白く光りだしたと同時に、バラバラになったネフシュタンの鎧も青白く光り、粒子となってフィーネの元に集まっていく。集まった粒子は消え、フィーネはソロモン杖を使ってノイズを操った。操られたノイズは回転し、翼たちに向かって突進してきた。突進してきたノイズを日和が棍で全て薙ぎ払った。その間にもフィーネはどこかへ去っていく。

 

「待てよ!フィーネぇ!!」

 

クリスはフィーネを追いかけてこの場を去っていった。

 

「・・・クリスちゃん・・・」

 

クリスの寂しげな背中を見て、日和は悲しそうな顔になる。

 

~♪~

 

その後、響は二課の本部でメディカルチェックを受けるためにすぐに本部に運ばれた。後を追うように少し遅れて日和と翼が二課のエレベーターに乗って本部に向かっている。

 

「・・・奏が何のために戦い、玲奈があなたを守り、戦ってきたのか、今なら少しわかる気がする」

 

「翼さん?」

 

少しの沈黙の中、翼が日和にそう話しかけてきた。

 

「だけど、それを理解するのは、正直怖い。人の身ならざる私に、受け入れられるのだろうか・・・」

 

「・・・一度人に戻って、一般の生活をしてみればいいと思いますよ」

 

「え?」

 

「私、ライブする時、小豆・・・あ、私の幼馴染なんですけど・・・深く考えすぎ、それじゃいつかポッキリ折れるって何回も言われまして・・・だから私、今の生活もライブも思い切って楽しんで、今を満喫することにしました」

 

「・・・まるで奏みたいなことを言うのだな」

 

「はい。小豆、奏さんの大ファンでしたから」

 

「そうか。奏が聞いたら、喜ぶだろうな」

 

日和の話を聞いて、翼は少し気が楽になったのか日和に笑みを見せた。

 

「人に戻ってか・・・。だが、今さら戻ったところで、何ができるというのだ・・・いや、それ以前に、何をしていいのか、わからないんだ」

 

「・・・好きなことをすればいいと思います」

 

「好きなこと?」

 

「玲奈にもよく言われるんです。悩んでることがあるなら好きなことをやればいいんじゃないかって。きっと翼さんにも言うと思います」

 

好きなことをやればいいと言われて、翼は少し考える。

 

「好きなことか・・・。そういえばそんなこと、ずっと考えていない気がするな。遠い昔、私にも夢中になったものがあったはずなのだが・・・」

 

「え?それって何ですか?私、気になります!」

 

「そ、そうか?そうだな・・・思い出せたら教えてやろう」

 

「本当ですか⁉私、楽しみにしてます!」

 

「そう楽しみにされても、困るのだが・・・」

 

日和と翼はどこにでもいる女子高生の何とも他愛無い会話が弾み、笑いあいながら廊下を歩いていく。

 

~♪~

 

指令室にて、弦十郎はソファに座って響の診察を受け持った了子と装者3人が戻ってくるのを待っていた。

 

「まさか、イチイバルまでもが敵の手に・・・そして、ギア装着候補者であった雪音クリス・・・」

 

響たちが戦っている間、二課の方ではクリスの詳しい詳細が判明された。

雪音クリス・・・現在16歳・・・日和と同い年の女の子。2年前に行方知れずとなった過去に選抜されたギア装着候補者の1人でもあった。

 

「聖遺物を力に変えて戦う技術において、我々の優位性は完全に失われてしまいました」

 

「敵の正体・・・フィーネの目的は・・・」

 

「深刻になるのはわかるけど、シンフォギアの装者は3人とも健在!頭を抱えるには早すぎるわよ♪」

 

友里と藤尭が深刻そうに話していると、了子と装者3人が戻ってきた。

 

「響ちゃん、もう体の方はいいの?」

 

「はい、心配かけてすみません」

 

そうは言っているものの、響の顔色はどことなく暗い。それもそのはずだ。親友である未来にシンフォギアを纏った姿を見られたのだ。隠し事をしていたので、何も思わないわけがない。さっきまで考えないようにしていた日和も、海恋に見られてしまったために、顔を俯かせる。

 

「翼!・・・まったく無茶しやがって・・・」

 

「独断については謝ります。ですが、仲間の危機に臥せっているなどできませんでした」

 

「「え?」」

 

翼が響と日和を仲間と認めてくれている発言に2人は驚く。

 

「立花と東雲は未熟な戦士です。半人前ではありますが、戦士に相違ないと、確信しています」

 

「「翼さん・・・」」

 

「・・・完璧には遠いが、2人の援護くらいなら、戦場に立てるかもな」

 

「「私たち、頑張ります!!」」

 

響と日和の言葉に翼は何も言わず、頼もしいと言わんばかりに目線だけで答えた。

 

「響君のメディカルチェックも気になるところだが・・・」

 

「ご飯をいっぱい食べて、ぐっすり眠れば元気回復です!」

 

響は元気いっぱいに答えたが、すぐに表情を曇らせる。

 

(・・・1番温かいところで眠れば・・・)

 

表情を曇らせる響に了子は彼女の胸をつついた。

 

「んなああああああああ!!?なんてことをお!!?」

 

それには当然ながら響は大きな悲鳴を上げる。

 

「響ちゃんの心臓にあるガングニールの破片が前より対組織と融合してるみたいなの。驚異的なエネルギーと回復力はその所為かもね」

 

「融合・・・ですか・・・?」

 

「!!」

 

了子の言葉に翼の頭によぎったのはクリスが纏ったネフシュタンの鎧だ。あれが破損された時、黒い筋がクリスの身体をつたって再生されていた。それはまるで、ネフシュタンの鎧が人体を蝕みながら融合しているかのように。それを思い返した翼はふと了子に視線を向ける。

 

「大丈夫よ。あなたは可能性なんだから」

 

「よかったぁ」

 

「なんだか私も安心しました」

 

楽観的に捉えている響と日和だったが、翼は了子に対して、疑惑の眼差しを向けるのであった。

 

~♪~

 

その後は解散となり、日和は寮に戻るためにエレベーターに続く廊下を歩いていた。しかしながら少し表情を曇らせている。海恋のことも気がかりだが・・・何よりクリスのことが気がかりなのだ。雪音という苗字・・・そしてソネットによく似た顔。いろいろ考える日和は、もしかして弦十郎なら何か知ってるのではと考え、指令室に引き返した。引き返した指令室にはまだ弦十郎が残っていた。

 

「どうした日和君?忘れ物か?」

 

「・・・あの、ししょー・・・聞きたいことが・・・」

 

「なんだ?」

 

「クリスちゃんの事なんですけど・・・」

 

日和は一瞬聞くべきかどうか悩んだが、どうしても気になるため、弦十郎に質問する。

 

「もしかしてクリスちゃん・・・雅律さんとソネットさんの子供ですか?」

 

「!!!!」

 

日和の口から雪音夫婦の名前が出てきて、弦十郎は驚いたように目を見開かせる。

 

「す、すみません・・・友達が読んでた雑誌に載ってあったので・・・気になって・・・どうしても知りたいんです」

 

日和の言葉を聞いて弦十郎は腕を組んで考え、少しの沈黙の後、日和に視線を向ける。

 

「・・・そういえば、日和君はクリス君と同い年だったな」

 

「え?そうなんですか?」

 

「ふむ・・・そうだな・・・。日和君には話しておこう。クリス君の過去を」

 

弦十郎は自分が知っているクリスの過去を日和に話した。クリスの過去を聞いた日和は驚愕のあまり、言葉が出てこないのであった。




XD-エクスドライブアンリミテッド-

東雲日和ボイス

朝1
ふわぁ・・・おはよ・・・。

朝2
私・・・朝ってかなり苦手なんだよね・・・。

昼1
今日のお昼は何食べよっかなー?海恋とクリスは何がいい?

昼2
お昼ご飯を食べた後って、妙に甘いもの食べたいって思わない?

夜1
あー、今日も1日疲れたぁ・・・。

夜2
夜だと私、作詞作曲がはかどるんだよね~。

深夜1
眠れないの?実は私もなの・・・えへへ・・・。

深夜2
ふっふっふ、今日は朝までオールナイト!あ、海恋には内緒ね、うるさいから。


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運命の巡り合わせ

クリスの過去を聞いた日和は重い足取りで学生寮の自分の部屋に戻っていく。ここに来て何回目かのため息をこぼす日和。

 

(まさかクリスにそんな過去はあったなんて・・・)

 

日和が思い出すのは、クリスが放った言葉だ。

 

『わかりあえるものかよ人間が!そんな風にできているものか!』

 

(・・・そりゃそう言うよね・・・)

 

知らなかったとはいえ、日和はクリスにわかった風に言った自分の言葉に少し後悔する日和。

 

「・・・なんか、いろいろ難しいなぁ・・・」

 

気が重くなってくる日和だが、本当に気が重くなるのはここからだ。日和は海恋が待つ自分の部屋にたどり着く。

 

「・・・か、海恋・・・ただいま・・・」

 

「・・・・・・」

 

日和は弱々しく海恋に挨拶をするが、海恋は何の反応もなく、ただ勉強に集中してた。返事を返さない海恋に日和は内心びくびくと怯えている。

 

「・・・あ、あのね、海恋・・・」

 

「日和」

 

「は、はい!!」

 

海恋に呼ばれた日和はビクッとして思わず返事をする。

 

「話がある。そこに座って」

 

「う、うん・・・」

 

いつもと雰囲気が違う海恋に指示されて、日和は座り込んで海恋に対面する。

 

「・・・大体の事情は黒服の人たちから聞いたわ。あなた、1か月間悩んでた時期あったでしょ。それが昼間の事だったのね」

 

「う・・・黙ってたことは・・・」

 

「私は別に隠し事してたことに怒ってるわけじゃない。隠し事なんて誰にだってあるもの」

 

二課の黒服の話を聞いて怒っている様子の海恋だが、何も隠し事に対して怒っているわけではないようだ。

 

「じゃあなんで私が怒ってるのかわかる?」

 

「えっと・・・」

 

「それはね・・・あなたが命に関わる危険なことに首を突っ込もうとしていることよ!!」

 

下手をすれば命を落とすような任務・・・それを日和が自分の意思でやろうとしていることで怒りを示しているようだ。

 

「この際ハッキリ言うわ。日和・・・今すぐあの人たちと縁を切って!」

 

二課との縁を切れ・・・それを意味するところは二課には二度と関わるなと言っているのだ。それをわかってる日和は戸惑う。

 

「え・・・?なんで・・・?だって、私の思うままにって・・・」

 

「確かに私はあなたの思うがままにやりなさいと言ったわ。でも命が関わるのなら別問題!あなた、小豆と玲奈さんの死を目の前で見たでしょ⁉それを忘れたっていうの⁉」

 

「・・・忘れるわけないよ・・・あの日のことを・・・忘れられるわけないじゃん・・・!」

 

「だったら二度とあの人たちと関わらないで!あなたのやってることは2人の約束を破る行為そのものだわ!!」

 

約束を何より大事にしたい日和は海恋の言葉に怒りを覚え、反論する。

 

「・・・っ!なんでそんなこと海恋に言われないといけないの!!?海恋はあの現場を見たことない癖に!!」

 

「亡くなってることには変わらないじゃない!!戦場に出れば、あなたも同じ目にあうかもしれないのよ!!?」

 

「それは海恋だって同じでしょ!!街にノイズが頻繁に出るんだから!!」

 

「それでも1番危険なのはあなたの方よ!!」

 

日和と海恋がお互いに意見を譲る気がないために大喧嘩が始まってしまう。

 

「とにかく私は大反対!!絶対に縁を切ってもらいますからね!」

 

「・・・どうしてわかってくれないの・・・!私は・・・海恋を守りたくてやってるのに・・・!」

 

「そんなことしても私は喜ばない!私のためにって思うなら・・・」

 

バァン!!

 

「・・・もういい!!!海恋のバカ!!!!」

 

「日和!!待ちなさい!!」

 

日和は怒りで机を叩き、ベースと鞄を持って部屋から出ていった。海恋は呼び止めるも、日和は聞く耳を持たなかった。これが、日和と海恋が仲違いした瞬間であった。

 

~♪~

 

寮から出ていった日和は海恋のことを考えながら夜の街を歩いている。

 

(・・・私はただ・・・ノイズから海恋たちを守りたいだけなのに・・・どうしてわかってくれないんだろう・・・)

 

どんなに怖くても、海恋たちを守るためにやってることが海恋に反対されて、どうしたらいいのかわからないでいる。

 

「はぁ・・・公園に行こ・・・」

 

悩んでる時こそベースを弾こう・・・そう考えた日和は公園に向かった。数分が経ち、公園にたどり着いた日和は顔を俯かせたまま公園に入ろうとする。

 

ドンッ!

 

「きゃっ!」

 

「うわっ!」

 

すると日和は目の前の誰かとぶつかり、誰かと共に尻もちをつく。

 

「いってぇ・・・どこ見て歩いてやがる・・・!」

 

「ご、ごめんなさい!怪我は・・・」

 

日和はぶつかった誰かに謝ろうとした時、公園の街灯に照らされたその顔を見て驚く。

 

「えっ!!?クリスちゃん!!?」

 

「お、お前・・・!!」

 

何とぶつかった相手は昼間に戦いを繰り広げたクリスであった。クリスも会うとは思わなかった相手を見て驚く。

 

「どうしてクリスちゃんがここに・・・?」

 

「それはこっちのセリフだ!!なんでお前がここにいやがる!!」

 

「わ、私はただベースを弾きに来ただけで・・・」

 

日和に対して警戒を露にするクリスに日和は警戒を解こうと自分のベースを取り出そうとする。

 

「うえぇぇん!」

 

「泣くなよ!泣いたってどうしようもないんだぞ!」

 

「だって、だってぇ・・・」

 

すると公園のベンチで泣いている女の子とその女の子に声をかけている男の子がいた。

 

「おいこら!弱い者をいじめるな!」

 

その2人の様子を男の子が女の子をいじめてると解釈したクリスが男の子に注意しようとした。

 

「いじめてなんかいないよ。妹が・・・」

 

「うわあぁぁん!」

 

「いじめるなって言ってん・・・」

 

「待って待ってクリスちゃん!それはダメだよ!」

 

「ああ?」

 

泣き続ける女の子を見てクリスは男の子にげんこつしようとするが、日和がそれを止める。日和はしゃがみこんで2人にやさしく声をかける。

 

「どうしたの2人とも?どうしてその子は泣いてるの?」

 

「父ちゃんを探してたんだ。一緒に探してたんだけど・・・妹がもう歩けないって言ったから・・・それで・・・」

 

「そうなんだ・・・」

 

どうやらこの2人は迷子になっていたようで、女の子がもう歩けないと駄々をこねたのだという。それを理解した日和は微笑み、ベースケースからベースを取り出す。

 

「クリスちゃん、これ持ってて」

 

「はぁ?」

 

日和はクリスにベースケースを預け、ベースをかけて2人の前に立つ。

 

「2人とも、よく聞いててね」

 

「「?」」

 

「1、2・・・1、2、3」

 

日和は自分の声とベースを軽く叩く音を合図にして、演奏を始める。

 

「~~♪」

 

「「わぁ・・・」」

 

「・・・!」

 

日和のきれいな歌声に2人は感動で頬を赤く染めている。クリスも、日和のきれいな歌声に魅了されている。

 

(こんなきれいな歌があるのか・・・。・・・それに比べて、あたしの歌は・・・)

 

クリスが考えている間にも演奏は終わり、2人は日和に拍手を送っていた。

 

「お姉ちゃん!歌声すっごくきれい!」

 

「ありがと♪それで、どうかな?もう歩けそうかな?」

 

「うん!」

 

「そっか。じゃあ、一緒にお父さんを探そうか」

 

「い、いいの?」

 

「もちろん♪歩けなくなったらいつでも言ってね。お姉ちゃんがまた歌ってあげるから」

 

「うん!」

 

日和は2人の手を握って、一緒に父親を探すことに決めた。日和はクリスに視線を向ける。

 

「ねぇ、クリスちゃんも手伝って!」

 

「はぁ!!?なんであたしが・・・」

 

「ここまで来たら乗りかかった船だよ。ほら早く早く早く!」

 

「だー!!めんどくせぇ!わかったよ!!」

 

日和の急かす声に鬱陶しくなったクリスは仕方なく2人の父親を捜すことを協力する。なんだかんだ言いつつも面倒見がいいクリスだった。

 

~♪~

 

日和とクリスは2人の子供と手を繋ぎながら2人の父親を捜しに街を歩いていた。

 

「・・・お前、ガキをあやすのうまいんだな」

 

「どうかな?私はただ、歌でしか解決法を知らないから・・・」

 

「歌、ねぇ・・・」

 

歌でしか解決法を知らない日和に対し、クリスは何とも言えないような顔になる。

 

「・・・ねぇ、私の歌、どうだったかな?」

 

「言ったろ。あたしは歌が大嫌いだ。特に、壊すことしかできないあたしの歌はな・・・」

 

「でも、私の歌、最後まで聞いてたよね?それって、歌が好きだっていう証明になると思うけど・・・」

 

「はぁ!!?ん、んなわけねぇだろ!お前がケースを渡すから・・・」

 

歌が大嫌いと言うクリスに日和はそう反論すると、彼女は頬を赤くしてそれを否定する。

 

「!父ちゃん!」

 

交番を通ろうとした時、2人は自分たちの父親を見つけた。2人は父親の元に駆け寄る。

 

「お前たち!どこに行ってたんだ!」

 

「お姉ちゃんたちが一緒に迷子になってくれた!」

 

「違うだろ。一緒に父ちゃんを捜してくれたんだ」

 

事情を聞いた父親は日和とクリスに頭を下げる。

 

「すみません、ご迷惑をおかけしました」

 

「いえいえ、全然気にしてませんよ」

 

「まぁ・・・ただの成り行きだから・・・その・・・」

 

「ほら、お姉ちゃんたちにお礼言ったのか?」

 

「「ありがとう!」」

 

兄妹の中の良さに微笑む日和とクリス。

 

「仲がいいんだね。そうだ、どうすればそんな風に仲良くできるのか、教えてくれるかな?」

 

日和の問いかけに兄妹は答える。

 

「そんなのわからないよ。いつも喧嘩しちゃうし」

 

「喧嘩しちゃうけど、仲直りするから仲良しー!」

 

「そっか。ありがとね」

 

兄妹の答えに日和はにっこりと笑い、2人の頭を優しくなでる。日和とクリスにお礼を言った家族は自分たちの家に帰っていった。

 

「・・・お前、誰かと喧嘩したのか?」

 

「え?どうしてそう思うの?」

 

「別なんだっていいだろ」

 

クリスの問いかけに日和は少し表情を曇らせる。

 

「・・・うん。だから公園でベースをって思ったんだけど・・・」

 

「だからか・・・」

 

日和が誰かと喧嘩したから家を出たと考えていたクリスは今日日和たちを襲った際に巻き込まれた未来と海恋を思い出す。その原因を作ったのは自分であると、内心申し訳ない気持ちになる。

 

「・・・悪かった」

 

「え?」

 

「言いたいのはそれだけだ!じゃあな!」

 

言いたいことを言ったクリスはどこかへ去ろうとする。すると日和がそれを止める。

 

「ちょ、ちょっと待って!」

 

「なんだよ!」

 

「クリスちゃん、どこに行くの?」

 

普通ならフィーネの屋敷に戻ってるところだが、フィーネに見放されたクリスは今、屋敷に戻るのをためらっているところだ。

 

「別にどこだっていいいだろ」

 

「行く当てがないなら一緒に来ない?」

 

「はあ!!?」

 

ちょっと前まで敵だった日和からの誘いに戸惑いを隠せないクリス。

 

「大丈夫!泊まる当てはあるから!」

 

「そんなこと聞いてねぇよ!なんで敵のお前が・・・」

 

「そんなの言いっこなし!ほらほら行こ行こ!」

 

「ちょ・・・お前・・・人の話聞けよ!!」

 

日和はクリスの手を繋いで今日泊まる予定の場所に走っていく。勢いに流されるがままのクリスは混乱しっぱなしである。

 

~♪~

 

場所は変わって咲が住んでるマンション。仕事を終えた咲はテレビを見ながら煎餅をかじっている。自分の時間を過ごしていると・・・

 

ピンポーン

 

「ん?新聞配達の人かしら?」

 

インターホンが鳴り、咲は立ち上がり、玄関に移動してドアを開ける。

 

「あのー、うちは新聞はお断り・・・って、日和?」

 

「お姉ちゃん、お仕事お疲れさまー」

 

ドアの前にいたのは日和と成り行きで連れてこられたクリスであった。

 

「どうしたの急に?それにその子は?」

 

「あ、あたしはこいつに無理やり・・・」

 

「・・・と、とにかくあがってちょうだい」

 

「ほらクリスちゃん!」

 

「ちょ・・・引っ張んな!」

 

咲の許可を得て日和はクリスを連れて咲の部屋に入っていく・・・が、咲の部屋を見て日和とクリスは口をあんぐりさせる。

 

「ちょ・・・」

 

「な・・・なんだこりゃあ!!??」

 

なぜなら咲の部屋は・・・辺り一面に脱ぎっぱなしの服や乱雑に置いてある雑誌、そして放置したゴミでいっぱいで部屋中が汚かったからだ。

 

「・・・お姉ちゃん!またこんなに部屋を散らかして!!」

 

「う・・・しょうがないじゃない、忙しかったんだもの」

 

「掃除する時間くらい作ってよね!」

 

「はい・・・すみません・・・」

 

妹の日和に怒られてしょんぼりする姉の咲。

 

「もう・・・とりあえず片付けよう。クリスちゃんも手伝って」

 

「なんであたしが・・・」

 

「こんな部屋でお泊りなんかしたくないでしょ?」

 

「泊まるなんて一言も言ってねぇよ!」

 

「お願い!これもお姉ちゃんのためだと思って!」

 

「・・・あー!めんどくせぇなぁ、もう!!」

 

日和の勢いに断り切れず、仕方なくクリスは咲の部屋の掃除を手伝うことにした。

 

~♪~

 

日和とクリスが分断して掃除したため、時間はそれほどかからず、あっという間に咲の部屋はきれいになった。

 

「たく・・・なんであたしがこんなことを・・・」

 

なんだかんだ掃除してしまったことにクリスは愚痴る。咲は日和と対面し、日和と海恋が喧嘩したことを知った。

 

「そう・・・海恋ちゃんと喧嘩したのね」

 

「うん・・・だから、今海恋と会いたくなくて・・・それで・・・」

 

「はぁ・・・仕方ないわね・・・」

 

咲はしょうがないと言わんばかりに手を頭にのせる。

 

「いいわ。気が済むまでまでうちにいなさい。でも学校の方はどうするの?」

 

「・・・行きたくない・・・」

 

「・・・わかった。明日くらいは連絡を入れてあげる。その代わり、明後日は学校行きなさいよ?」

 

「うん・・・」

 

学校の休みは1日だけとはいえ、咲なりの気遣いに日和は彼女に心から感謝している。咲は視線をクリスに変える。

 

「クリスちゃんも、好きなだけうちにいていいからね」

 

「・・・なんであたしを泊めてくれるんだ・・・?」

 

クリスの問いかけに咲は微笑んだ。何か事情があるのは気づいているが、咲はあえてそれを聞かなかった。

 

「そんなことどうだっていいじゃない。私はただ単に、お節介を焼いてるだけ。ただそれだけだから」

 

泊まる予定がなかったクリスは咲の微笑みに何と言っていいかわからない。

 

「さて、と。あなたたちご飯はもう食べた?まだなら先にお風呂入っちゃいなさい。用意しておくから」

 

「はーい。じゃあ、クリスちゃん、お風呂に行こっか」

 

「はあ!!?ちょ・・・おい!!」

 

咲に言われて日和はクリスを連れて浴場へと足を運んでいく。戸惑いっぱなしのクリスは今回日和に振り回されっぱなしである。

 

~♪~

 

浴場で入浴することになった日和とクリスは湯船に浸かっている。日和は気持ちよさそうにしているが、クリスは考え事をしてる。

 

「ふぅ~・・・気持ちいい~・・・」

 

(・・・何やってんだあたしは・・・こいつは敵なんだぞ・・・?それなのに・・・)

 

どうしてこうなったのかわからないでいるクリスの髪を日和は触る。

 

「髪傷んじゃってるなぁ。ダメだよ~、胸が大きくても、髪が痛んでちゃ、女の子失格だよ?」

 

「おい、何触って・・・てかどこ見てんだよてめぇ!!」

 

「まぁまぁ気にしない気にしない。私に任せてよ」

 

さりげなくクリスの大きな胸を見ながらも彼女の髪をケアする日和。・・・クリスの背中に複数の痣があった日和は何も聞かない。

 

「・・・何も聞かないのか?」

 

クリスは日和にそう尋ねてきた。

 

「聞くって何を?私はただクリスちゃんの髪はきれいになるなーって思ってるだけだよ」

 

「・・・そうかよ」

 

なぜ痣があるのか聞かない日和にクリスは素っ気なく返した。そんな日和を見て思うのは彼女の言葉だ。

 

『私・・・あなたとお友達になりたいな』

 

「・・・なぁ、どこまで本気なんだ?」

 

「え?何が?」

 

「お前言ってたろ。そ、その・・・友達って・・・」

 

照れながら言い放つクリスの言葉に日和はきょとんとする。

 

「・・・私、もう友達のつもりだけど・・・」

 

「はあ?」

 

予想してなかった言葉にクリスは驚く。

 

「だってそうでしょ?一緒に掃除したり、お風呂入ったり、これからご飯を食べたりなんてこと・・・。これだけ時間を一緒にしたらもう他人とは呼べないよ。だから友達、でしょ?」

 

何の恥ずかしげもなく言ってのけた日和にクリスは頬を赤くさせる。

 

「ば、バカ!!飛躍しすぎだろ!!」

 

「クリスちゃん?私、変な子と言ったかな?」

 

「・・・クリスでいい」

 

「え?」

 

「呼び捨てでいいって言ってんだ!むず痒いんだよ!」

 

そっぽを向くクリスの言葉に日和はぱぁっと笑顔になる。

 

「クリスー!ありがとー!」

 

「おま・・・くっつくな!!」

 

クリスは日和に振りまわれつつも、湯船に浸かって疲れを癒すのであった。

 

~♪~

 

入浴の後は咲が作ってくれた晩御飯を一緒に食べる日和とクリスなのだが・・・

 

「・・・ねぇちょっとー、汚いよー」

 

「いいんだよ、食えりゃなんでも」

 

クリスの食器周りが汚く、口元も非常に汚れている。その様子には日和はドン引きする。

 

「あーあーあー・・・せっかくきれいにしたのに・・・」

 

「日和、行儀の悪さはあんたも人のこと言えないでしょ。作詞しながら食事なんて・・・」

 

「それはお姉ちゃんもじゃん!仕事しながらご飯なんて!」

 

「手軽に食べれるものならいいの!」

 

「ずるーい!!」

 

仲睦まじい姉妹の微笑ましい小さな言い争い。その様子を見てクリスは考える。

 

(・・・あったけぇな。・・・こういう飯、久しぶりに食べたかもしれねぇ・・・。・・・もし、パパやママが生きてたら・・・あるいは、兄妹とかいたら・・・もっと違った結果になってたのかもな・・・。・・・けど、フィーネは痛みでしか人を繋げないって・・・。でも・・・この光景は・・・。・・・結局・・・何が正しいんだ・・・?)

 

日和と咲の仲のいい姉妹関係を見てクリスは少しばかり羨ましく思った。それと同時に、フィーネに教えられたことに疑念を抱き、何が正しいのか考えるようになった。

 

~♪~

 

時間が経ち就寝時間・・・日和と咲は寝室で布団をかぶって眠っている。その中で布団から起き上がったクリスは2人を起こさないように寝室から出ようとする。

 

「・・・う~ん・・・大・・・丈夫・・・」

 

「!」

 

「話・・・合えば・・・・きっと・・・仲直り・・・」

 

日和の寝言を聞いたクリスは呆れつつも笑みを浮かべる。

 

「本当・・・お前はお人好しのバカだよ」

 

クリスはそれだけを言い残して咲のマンションから出ていく、ある場所へと向かっていく。その場所とは・・・フィーネの屋敷だ。真実を・・・確かめるために。

 

~♪~

 

翌日の昼間近頃・・・日和は未だに咲のマンションで眠っている。

 

「ん・・・んん・・・あれ・・・お姉ちゃん?クリス?」

 

ようやく目が覚めた日和は寝ぼけながら寝室を見回す。寝室にはすでに咲とクリスの姿はなかった。もしやリビングかと思ってそちらへ行っても誰もいなかった。テーブルにはお金と咲からの手紙が置いてあった。日和はそれを読んでみる。

 

『クリスちゃんはもう帰ったかもしれないわ。私は夜まで仕事だからお昼は外で食べるか買って食べてちょうだい。

 

追伸

 

人に頼らず、自分で起きられるようになりなさいよ』

 

「・・・お姉ちゃん・・・手紙で小言言わないでよ・・・」

 

手紙で小言を言われ、がっくりとする日和。そして、1人になってるとわかった途端、咲とクリスと一緒にいることで抑えられてた不安が込み上げてきた。

 

~♪~

 

学校を休む連絡を咲がしたために、何もやることがない日和は街の外を歩いていた。そもそも日和がなぜ学校を休みたいと思ったのかは、まずは海恋に会いたくないことが1つ、もう1つは海恋と仲直りするにはどうすればいいのかというのを、じっくり考えたいからである。ただ・・・仲直りできるのかどうかという不安で、幸先が怪しいところだが。

 

「・・・どうしたら、海恋にわかってもらえるのかなぁ・・・」

 

日和は頭を回転させて仲直りの算段を立てようとするが、考えた案は仲直りするには程遠いものばかりである。

 

「ダメだぁ・・・まったくいい案が浮かばない・・・」

 

いい案が浮かばずに顔を項垂れていると、日和のお腹の音が鳴りだす。

 

「お腹すいたなぁ・・・出された朝食だけじゃ足りないよぉ・・・」

 

一旦考えるのをやめて、今日のお昼は何にしようかと悩む日和。頭をひねっているとふとふらわーのお好み焼きが思い浮かび、日和は駅前にあるふらわーまで足を運ぶ。数分が経ち、日和はふらわーの店の前までたどり着き、さっそく中に入る。

 

「いらっしゃい。おや、初めて見る顔だねぇ」

 

「こんにちは」

 

「・・・あ、わかった。あなたが日和ちゃんだね?海恋ちゃんの言ってた特徴と合ってたからすぐにわかったよ」

 

「ははは・・・」

 

出迎えられたおばちゃんの発言に日和は少しばかり苦笑いをする。

 

「こんな時間にどうしたんだい?今日は学校のはずだろ?」

 

「まぁ・・・あの・・・いろいろわけがありまして・・・」

 

「・・・そうかい」

 

複雑な心境を抱いている日和におばちゃんは察し、深くは聞くことはなかった。

 

「まぁ、ゆっくりしておいき。人生いろいろあるさね」

 

「あ、ありがとうございます。あ、お好み焼き1枚お願いします」

 

「はいよ」

 

日和の注文を受けて、おばちゃんはお好み焼きを焼き始める。おばちゃんがお好み焼きを焼いている間もじっくり考え事をするが、いい案が浮かばなかった。

 

「・・・あの、おばちゃん、聞いていいですか?」

 

「なんだい?」

 

「・・・友達と喧嘩して・・・仲直りするには、どうすればいいと思いますか?」

 

自分の頭ではなかなか思いつかなかったために、参考にと思い、おばちゃんに尋ねる日和。

 

「そうだねぇ・・・おばちゃんだったらまずは、お腹を満たすことから始めるかねぇ」

 

「お腹を?」

 

「日和ちゃん、知ってるかい?お腹すいたまま考え込むとね、嫌な答えばかり出てくるもんだよ」

 

「あ・・・」

 

おばちゃんの答え、そして名言を聞いてハッとする日和。

 

(そうだよね・・・こんな暗い気持ちじゃ・・・後ろ向きな答えしかでないよね。まずは何事も前向きに行かなくちゃ・・・。後悔するのは・・・その後でもいい)

 

正直悩みを解決したわけではないが、日和は自分の気持ちに何とか整理が追い付いてきた。もしかしたら失敗するかもしれない。それでも、必ず仲直りするという前向きな気持ちを持って、海恋ときちんと話し合いたい。日和はそう思うようになった。

 

「はいよ、おまちどおさま」

 

日和がそう決心したと同時に、お好み焼きが焼けて、日和の前にそれが出される。

 

「・・・おばちゃん!お好み焼き、もう1、2枚お願いできる?」

 

「おやおや追加かい?食べきれるかい?」

 

「えへへ、思ってたよりお腹すいてたみたい!」

 

「はいよ、ちょっと待っててね」

 

日和の追加の注文を受けておばちゃんはもう1、2枚のお好み焼きを焼き始め、日和は念願かなってのふらわーのお好み焼きを食べ始めるのであった。

 

~♪~

 

追加分のお好み焼きをぺろりと平らげ、気分満足な日和はおばちゃんに頭を下げてお礼を言う。

 

「おばちゃん、今日はありがとう!」

 

「お代はサービスだよ。何かあったら、いつでもおばちゃんのところにおいで」

 

「うん!」

 

日和はおばちゃんに挨拶をして、ふらわーを後にする。街中を歩く日和はスマホを取り出して海恋の電話番号を探す。

 

(私・・・海恋と仲直りがしたい・・・海恋ともう1度話がしたい。海恋・・・)

 

海恋の電話番号を見つけた日和はすぐに海恋に電話をかける。電話コールが何度か鳴り響く。しかし・・・

 

プルルル、プルルルル・・・ブツッ!

 

通話を拒否するかのように着信を切られてしまう。

 

「・・・着信を・・・拒否された・・・?」

 

今まで通話拒否をしてこなかった海恋らしからぬ事態に、日和は少なからずショックを受けるのだった。




東雲咲

外見:長い黒髪を後ろに結んでいる
   瞳は青色

年齢:26歳

誕生日:9月9日

趣味:料理研究

好きなもの:使い慣れた料理道具

イメージCV:原神:久岐忍
(その他の作品:バカとテストと召喚獣:島田美波
        魔法少女まどか☆マギカ:巴マミ
        テイルズオブレジェンディア:ノーマ・ビアッティ
        その他多数)

二課の医療施設に所属している診察医。日和の実の姉。東雲総合病院が健在時は医者見習いとして働いていた。外科医であった父を尊敬していた。
命というものを真剣に考え、どうすれば助けられるのかと、人の命にたいして誠実で思慮深い性格。世間体でも優しく、大人っぽい性格をしているが、自分の私生活には無頓着で部屋も汚部屋にしてしまうほど片付けが苦手。
診察の道を選んだのは人の命を確実に助けるには、まず病気の原因を探るのが大切。外科医たちに後を繋げるためにも必要なことであるからである。
東雲病院が廃業になった後は、父の無念を晴らすため、東雲総合病院を再建させる夢を持っており、今日も診察で人の命を救っていく。


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本当の気持ち

マリアさんの誕生日までにG編に突入したい今日この頃です。・・・間に合うかなぁ・・・。


夕方、どこかに存在するフィーネの屋敷。その一室にてフィーネは電話で誰かと話をしていた。電話口から聞こえてくる英語からして、相手は米国の人間であることがわかる。

 

「あたしが用済みってなんだよ!!?もう要らないってことかよ!!?あんたもあたしを物のように扱うのかよ!!?」

 

フィーネが話をしてる最中、割り込んでくるようにクリスが扉を開けて部屋に入ってきた。

 

「もう頭ン中ぐちゃぐちゃだ!!何が正しくて何が間違ってるのかわかんねぇんだよ!!」

 

「・・・どうして誰も、私の思い通りに動いてくれないのかしら・・・」

 

フィーネは電話の通話を切り、嘆くように呟いた後、クリスに視線を向け、ソロモン杖からノイズを召喚させる。この様子から、フィーネは本気でクリスを殺すつもりらしい。それを理解したクリスは悲しそうな顔になる。

 

「・・・さすがに潮時かしら。そうねぇ・・・あなたのやり方じゃ、争いをなくすことはできやしないわ。せいぜい1つ潰して、新たな火種を2つ3つばら撒くくらいかしら」

 

「あんたが言ったんじゃないか!!痛みもギアも、あたしにくれたものだけが・・・」

 

「私の与えたシンフォギアを纏えながらも、毛ほどの役にも立たないなんて。そろそろ幕を引きましょうか」

 

フィーネが手をかざすと、青白く光りだし、光はフィーネを包むように纏わる。纏わる光は、黄金色のネフシュタンの鎧に形を変えた。

 

「私も、この鎧も不滅。未来は無限に続いていくのよ。"カ・ディンギル"は完成しているも同然・・・もうあなたの力に固執する理由はないわ」

 

「カ・ディンギル・・・そいつは・・・」

 

「あなたは知りすぎてしまったわ」

 

フィーネはソロモンの杖でノイズを操り、ノイズでクリスを襲わせた。間一髪避けたクリスは外に出て、フィーネに視線を向ける。フィーネは滑稽そうにクリスを嘲笑い、ソロモンの杖を向ける。

 

「ちきしょう・・・チクショオオオオオオォォォォォ!!!!!

 

ようやく自分がフィーネに騙されたことに気づいたクリスは後悔と悔しさが入り混じった涙を流し、大きな叫びをあげるのだった。

 

~♪~

 

翌日の早朝のリディアン音楽院の学生寮の日和と海恋の部屋。朝早くに目覚めた海恋は日和がいたベッドを見つめる。当然ながら、日和は寮を出て行ってしまったためにいない。スマホの方を確認すると、日和からの何着かの着信履歴があった。海恋はこの全ての着信を拒否してきた。

 

「・・・日和・・・」

 

悲しそうに呟く海恋は部屋に飾ってある自分とアビスゲートの3人が一緒に写ってる写真を見つめ、部屋から退室する。

 

~♪~

 

寮から出た海恋は学校には行かず、街の中を歩いている。普段の海恋ならありえない行動で、今降り続けている大雨はまるで、沈んだ心を表しているようだ。学校に行く気分にはならず、1人彷徨っていると、路地裏から物音がした。そこを見てみると、クリスが倒れていた。

 

「えっ!!?ちょっと!!あなた、大丈夫!!?」

 

海恋は倒れてるクリスに駆け寄る。おでこを触ってみると、熱を出しているようだ。

 

「熱が・・・!待ってて!すぐに病院に・・・」

 

「やめろ・・・!」

 

海恋は救急車を呼ぼうとするが、クリスがそれを阻止する。

 

「何言ってんのよ!現にあなた、熱が・・・」

 

「病院は・・・ダメだ・・・」

 

「ちょ、ちょっと!!」

 

クリスがそういうと彼女は気を失う。何か訳ありだと思い至った海恋はどうするべきか考える。

 

「そうだ!あそこなら・・・」

 

何か閃いた海恋はクリスを担いで、目的地へと向かう。

 

「海恋さん!!?」

 

路地裏から出ると、驚いたような声が上がったそちらを見てみると、そこには未来がいた。

 

「小日向さん!すぐに手伝ってちょうだい!急患よ!」

 

「急患!!?わ、わかりました!」

 

何が何だかわからない状況ながらも、未来は海恋と一緒にクリスを担ぐ。海恋は片方の手でスマホを取り出し、電話を入れる。

 

「咲さん!すぐに来てください!急患です!場所は・・・」

 

海恋は咲に連絡を入れて、未来と共にクリスを担いである場所へと向かっていく。

 

~♪~

 

咲のマンションから学校に通った日和は響と共に弦十郎からの連絡を聞いている。

 

「ノイズが出たんですか?」

 

『そうだ。市街地第6区画にノイズのパターンを検知している。未明ということもあり、人的被害がなかったのが救いではあるが・・・ノイズと共に聖遺物イチイバルのパターンも検知した」

 

「ってことは師匠、クリスちゃんがノイズと戦ったってことでしょうか」

 

『そうだろうな・・・』

 

「クリス・・・」

 

弦十郎の言葉を聞いて、日和は夜を共に過ごしたクリスを心配する。すると、響の顔色が沈んでいるのに気が付いた。

 

「響ちゃん、どうしたの?」

 

「いや・・・あの子・・・戻るとこないんじゃないかって・・・」

 

「確かに・・・現に公園を彷徨ってたし・・・クリス、どこに行ったんだろう・・・」

 

響に言われて、日和はクリスをさらに心配する。見限られた以上、さすがにフィーネのところに戻らないだろうと考えていたためにクリスを捜さなかったから事情を聞いて余計にだ。

 

『この件については、引き続きこちらで捜査を続けておく。響君と日和君は指示があるまで待機していてほしい』

 

「「はい、わかりました」」

 

話が終わり、日和は二課の端末の通話を切る。

 

「・・・じゃあ、響ちゃん、私、こっちだから」

 

「あ、はい・・・」

 

日和は響と別れて、二年生の棟へ向かい、教室へと入っていく。すると、日和の数人の友達が駆け付ける。

 

「ひよりん!風邪はもう大丈夫?」

 

「あ・・・う、うん!もうすっかり元気だよ!」

 

「よかったー・・・私心配したよ」

 

「私たち、ひよりんが風邪ひいて咲さんのところで面倒見てもらってるって聞いて、心配で・・・」

 

(お姉ちゃん・・・ありがとう・・・)

 

どうやら日和が休んだ日、咲は風邪をひいたということにして日和の欠席連絡を入れたようだ。咲の気遣いに感謝する日和は、海恋がいないことに気が付く。

 

「あれ?海恋は?」

 

「海恋ちゃん、まだ来てないみたい」

 

「ひよりんが来たのにまだ来てないなんて・・・」

 

「心配だよね・・・」

 

海恋がまだ学校に来ていない事態にクラスメイト達は心配する。

 

(海恋・・・このままだなんて、私、嫌だよ・・・)

 

そんな中日和は海恋を思い、顔を俯かせた。

 

~♪~

 

海恋と未来がクリスを運んだのはふらわーだった。おばちゃんに事情を説明して、快く部屋を貸してくれてもらい、2人はクリスを寝かせ、看病してる。後々に咲が到着し、クリスを診察する。診察の結果は・・・

 

「発熱だけじゃなくて、疲労が蓄積されてる・・・いわゆる過労ね。朝大雨が降ってたでしょ?それに当たって、余計に体力を消耗したんでしょう」

 

熱を出しただけでなく、体力の消耗による過労なのだろう。弦十郎の話と合わせると、大雨の中、ずっとノイズと戦っていたからそのせいだろう。

 

「2人の看病のおかげで、症状はよくなってるけど、無理は禁物ね。一応処方箋は出しておくわ」

 

「ありがとうございます、先生」

 

「私にできるのは診察だけだから。でも、急患がまさか、日和が連れてきた子だったなんてね・・・」

 

「日和が?」

 

日和がクリスを咲のマンションに連れてきたと聞いて、海恋は驚く。

 

「ええ。一昨日にね。海恋ちゃん、日和から何も聞いてないの?」

 

「わ・・・私は・・・なんて言われるか怖くて・・・連絡・・・拒否しちゃいましたから・・・」

 

「そう・・・」

 

顔が沈む海恋を見て、咲は何も言わずにクリスの看病をする。事情を察している未来は何も言えないでいる。すると・・・

 

「・・・はっ!!」

 

うなされていたクリスが目を覚まし、息を整える。

 

「よかった、目が覚めたのね」

 

クリスが目を覚ましたことによって、3人は安心したように微笑む。

 

「びしょ濡れだったから、着替えさせてもらったわ」

 

未来に言われてクリスは自分の上着を見てみる。クリスが今着ているのは『小日向』と書かれたゼッケンを縫ってある体操服だった。

 

「!!勝手なことを!!」

 

「「!!」」

 

「あら」

 

クリスが立ち上がったら、未来と海恋は顔を赤くし、咲は下までは見てなかったため驚く。なぜならクリスは今着込んでいるのは体操服1枚だけであったからだ。

 

「なんでだ!!?」

 

「さすがに下着の変えは持ってなかったから・・・」

 

未来と海恋はクリスから視線をそらし、クリスは自身を隠すように布団にくるまる。そこに主人であるおばちゃんが洗濯物を持ってやってくる。

 

「未来ちゃん、海恋ちゃん、どう?お友達の具合は」

 

「目が覚めたところです」

 

「お部屋とお布団を貸していただき、ありがとうございます」

 

「いえ、こちらこそ、お忙しい中ありがとうございます。あ、お洋服、洗濯しておいたから」

 

咲はおばちゃんに頭を下げて感謝し、おばちゃんもわざわざ来てくれた咲に頭を下げる。

 

「私、お手伝いしますよ」

 

「まぁ先生、ありがとうございます」

 

咲はおばちゃんの選択を手伝いに向かい、未来と海恋はクリスの看病を続けることになった。

 

「・・・あ、ありがとう・・・」

 

クリスは申し訳なさそうに2人にお礼を言う。看病を続ける未来と海恋。クリスの背中には複数の痣があるのだが、2人は何も聞かなかった。

 

「・・・お前らも、あいつと同じように、何も聞かないんだな・・・」

 

「うん・・・私は、そういうの苦手みたいで・・・」

 

「人にはいろいろ事情があるもの。首を突っ込むのは野暮だわ。・・・それなのに私は・・・あの子の事情を反対して・・・あーだこーだ言ってしまって・・・自分でその絆を、壊してしまった・・・」

 

海恋は日和と喧嘩したことに罪悪感を感じてしまい、連絡を入れること、日和の話を聞くのも怖くなってしまったようだ。

 

「その気持ち、わかります」

 

「小日向さん・・・」

 

「私も、今までの関係を壊したくなくて・・・。なのに一番大切なものを壊してしまった・・・」

 

クリスと戦ったあの日の夜、未来と響との関係は悪くなってしまった。理由は響が戦っていたことに対して隠してたこと、もう1つは響が傷ついて戦っているのに、自分は何もできず、何の役に立てないこと。それが決定打となり、響との関係は亀裂が入ってしまい、今は絶交に近い感じになっている。もちろん、未来の中で罪悪感でいっぱいになっているが。

 

「・・・なぁメガネ・・・それって、あのデカリボンと喧嘩したのか?」

 

「え、えぇ・・・そっか。あなた日和と会ったことあったわね」

 

「会ったっていうより・・・世話になった」

 

クリスは2人に日和に世話になった時のことを話した。

 

~♪~

 

結局海恋は昼になっても学校に来ることはなかった。今まで1度も無断欠席をしなかった海恋とまさかそこまで関係が悪化していたとは思わなかった日和は気晴らしに屋上でベースを弾こうと思い、そこへ向かっている。しかし、そこにはすでに響が先約にいた。

 

「響ちゃん?」

 

「あ・・・日和さん・・・」

 

屋上のベンチで落ち込んでいた響の隣に日和が座り込んだ。

 

「・・・小日向さんのこと?」

 

「あ、は、はい・・・」

 

響が悩んでいる理由をなんとなく察している日和に響は今日未来が欠席したこと、悩んでることを打ち明けた。

 

「そっか・・・そっちもなんだ。実は海恋もなんだ・・・」

 

「未来・・・今まで無断欠席するなんて1度もなかったのに・・・」

 

「・・・人生って難しいねぇ・・・」

 

同じ悩みを抱える者同士、何事もうまくいかなくて、少しため息をこぼす。すると、屋上の扉の音がして、2人がそちらに視線を向けると、そこには松葉杖を持った翼がやってきた。

 

「「翼さん・・・」」

 

やってきた翼は2人に近づき、響の隣に座り込む。翼は何となく2人が落ち込んでいるのを察しているのだ。

 

「・・・私、自分なりに覚悟を決めたつもりでした。守りたいものを守るため、シンフォギアの戦士になるんだって。・・・でもダメですね・・・小さなことに乱されて、何も手につきません。私・・・もっと強くなりたいのに・・・変わりたいのに・・・」

 

「私もです。守りたいものがあるって言っても・・・相手に拒否られて・・・。それでも頑張ろうと思っても・・・なんか空回りしちゃって・・・。私も・・・小さなことに気が乱されてるのかもしれません・・・」

 

同じ悩みを持つ響と日和に翼は声をかける。

 

「その小さなものが2人の本当に守りたいものなのだとしたら・・・今のままでもいいんじゃないかな。2人は・・・きっと2人のまま強くなれる」

 

「「翼さん・・・」」

 

「・・・奏のように人を元気づけるのは、難しいな」

 

「いえ、そんなことありません。私もよく小豆と玲奈に励まされてたので・・・。そして今回、翼さんにも励まされたので、気持ちがすっごく楽になりました」

 

「私もです。前にもここで、同じような言葉で親友に励まされたんです。それでも私はまた落ち込んじゃいました。ダメですよね~・・・」

 

響と日和の笑みに翼は優しく微笑む。

 

「翼さん、身体、まだ痛むんですか?」

 

「大事をとってるだけ。気にするほどではない」

 

「そうですか。よかったです」

 

思ってたよりも元気そうな翼に日和は安心した様子だ。すると、翼の顔は急に引き締まる。

 

「絶唱による肉体への負荷は極大。まさに他者も自分も、すべてを破壊しつくす滅びの歌。その代償と思えば、これくらい安いもの」

 

「絶唱・・・滅びの歌・・・」

 

絶唱が滅びの歌だと聞いて、まさにその通りだと思った日和が頭に浮かぶのは1年前の玲奈の死である。彼女の死因は、間違いなく絶唱であるのだから、日和が何も思わないわけがなく、顔を俯かせる。

 

「・・・でも、でもですね、翼さん、日和さん!2年前、私が辛いリハビリを乗り越えられたのは、翼さんの歌に励まされたからです!翼さんの歌が、滅びの歌じゃないってこと、聞く人に元気をくれる歌だってこと、私は知っています!」

 

「立花・・・」

 

「響ちゃん・・・」

 

「だから日和さん、そんなに思い悩まないでください。翼さんも、早く元気になってください。私、2人の歌が大好きです」

 

いつの間にか励まされている翼と日和はお互いに顔を見合わせ、そして笑いあう。

 

「なんだか私たちが響ちゃんに励まされてるみたいだなぁ」

 

「ああ、まったくだ」

 

「へ?」

 

日和と翼の言葉に響は頭をかき、照れたように笑うのであった。

 

~♪~

 

ふらわーにて、未来と海恋の看病と咲の処方箋ですっかり体調が良くなったクリスは渇いた自分の洋服を着替える。

 

「喧嘩か・・・あたしにはよくわからないことだな」

 

「わからないってことはないでしょ。それとも友達いないの?」

 

「・・・ああ。いない」

 

「「え?」」

 

海恋の言葉にあっさりと肯定するクリスに未来と海恋は呆気にとられる。

 

「地球の裏側でパパとママを殺されたあたしはずっと1人で生きてきたからな。友達どころじゃなかった・・・」

 

「そんな・・・」

 

「たった1人理解してくれると思った人も、あたしを道具のように扱うばかりだった。誰もまともに相手してくれなかったのさ。大人は、どいつもこいつもクズ揃いさ!痛いと言っても聞いてくれなかった・・・やめてと言っても聞いてくれなかった・・・あたしの話を、これっぽっちも聞いてくれなかった・・・!」

 

想像してた以上にひどい人生を送ったクリスの話を聞いて未来と海恋は言葉を失う。

 

「大人なんて大嫌いだ。クズばかりだ。・・・そう、思ってたんだけど・・・今は・・・あの医者に会ってから、よくわからねぇ・・・」

 

「咲さんのこと?」

 

「・・・最初はただの成り行きだと思ってた。けどあいつは・・・あたしの話を真剣に聞いてくれたり、何も知らないのに、ありのままのあたしを受け入れてくれた。何より・・・あのデカリボンとの関係を見て・・・あの医者が、いい奴だってことがわかった。大人なのに・・・。おかげで、あたしの頭の中はぐちゃぐちゃだ・・・もうわけわかんねぇ・・・大人って・・・なんなんだ・・・?」

 

咲という大人に出会い、大人の価値観を覆えされかけているクリスは頭の中では今も混乱している。過去に大人から傷を受けたから、現実をそう簡単に受け入れられないゆえに。

 

「・・・ごめんなさい・・・」

 

「私・・・無神経だったわね・・・ごめん・・・」

 

「・・・なぁ、お前らその喧嘩の相手ぶっ飛ばしちまいな」

 

「「えっ?」」

 

「どっちがつえぇのかはっきりさせたらそこで終了。とっとと仲直り。そうだろ?」

 

これがクリスなりの気遣いなのだろう。物騒ではあるものの、根はやはり日和の思った通り、いい人間なのだろう。

 

「・・・できないよ・・・」

 

「・・・確かに、そういう解決方もあるけど・・・そう単純じゃないのよ」

 

ただ響と日和を傷つけたくない未来と海恋はその方法に乗ることはできなかった。

 

「ふん、わっかんねぇよな・・・」

 

「でも、ありがとう」

 

「あぁ?あたしは何もしてねぇぞ」

 

「ううん。本当にありがとう。気遣ってくれて」

 

気遣ってくれたクリスに未来は自分の体操服を置いて、お礼を言う。

 

「・・・ねぇ、あなたでよければ・・・私は、あなたと友達になりたい。いいかしら?」

 

「・・・っ!」

 

立ち上がった海恋から差し出されて、友達になりたいと言われたクリスは海恋が日和の姿と重なって見えた。クリスは海恋手を振り払い、そっぽを向く。

 

『私・・・あなたとお友達になりたいな』

 

「・・・あたしは・・・お前たちにひどいことをしたんだぞ・・・」

 

「うん?」

 

「何それ?意味がよくわからないわ」

 

クリスの言葉の意味が本当に理解していないのか、海恋と未来は首をかしげる。それでもクリスと友達になりたいという気持ちは変わらない。

 

「・・・私は小日向未来。私も、あなたと友達になりたいな」

 

「私は西園寺海恋。あなた、名前は?」

 

「・・・雪音クリスだ」

 

クリスの苗字を聞いた途端、海恋は目を見開いて驚いている。

 

「雪音!!?・・・!どこかで見た顔だと思えば・・・まさかあなた・・・雪音夫婦の!!?」

 

「うおっ!!?な、なんだ急に!!?」

 

「うそ・・・こんな偶然が・・・?」

 

クリスの正体に気づいた海恋は本当に驚いたように声を震わせている。すると・・・

 

ヴヴゥーー!!!

 

街中にノイズが出現したサイレンが鳴り響いた。

 

~♪~

 

サイレンの音を聞いて、リディアンに残っていた翼はすぐに弦十郎との通話に出る。

 

「翼です!立花と東雲と一緒にいます!」

 

『ノイズを検知した!相当な数だ!おそらくは未明に検知されていたノイズと関連があるはずだ!!』

 

「わかりました!現場に急行します!!」

 

翼はすぐにノイズの殲滅に向かおうとするが、弦十郎にストップをかけられる。

 

『ダメだ!!メディカルチェックの結果が出ていない者を出すわけにはいかない!!』

 

「ですが・・・!!」

 

それでも前線に出ようとするが、日和と響が翼の前に立つ。

 

「ノイズの方は私たちに任せてください!」

 

「翼さんはみんなを守ってください!だったら私、前を向いていられます!」

 

心強い日和と響の言葉に、翼はノイズ殲滅を日和と響に託した。

 

~♪~

 

サイレンを聞いて、クリスたちは店の外に出る。外に出てみれば、逃げまとう惑う人々でいっぱいだ。サイレンの意味を知らないクリスは困惑する。

 

「おい、いったい何の騒ぎだ?」

 

「何って、ノイズが現れたのよ!警戒警報を知らないの⁉」

 

「!!」

 

「先生、おばちゃん、急ごう」

 

「あぁ・・・」

 

「えぇ・・・」

 

この警報の意味を理解したクリスは今まで自分のしてきたことに気が付いた。そしてクリスは住民が避難する方とは逆方向へ走っていく。

 

「ちょっとクリス!どこへ行くのよ!!」

 

海恋はクリスを引き止めようとしたが、クリスは海恋の声を振り切る。

 

(バカだ・・・!あたしってば、何やらかしてんだ・・・!!)

 

クリスは今、自分のやってきたことに責任を感じ、自分を責め、罪悪感でいっぱいになりながらノイズの出現場所へと向かうのであった。




日和のベース、ベッキー

日和が音楽を志す際、咲が日和にプレゼントした思い出の深い白いエレキベース。現在までずっと愛用してきており、これからもそれは変わらない。
メンテナンスも本格的でそれに必要な道具も自分で買い揃えて徹底的に行っているため、新品同様の輝きを今も放っている。


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陽だまりに翳りなく

街中に突如として現れたノイズ。狙いはおそらくクリスの始末だ。それを理解してかクリスは自分のやってきたことを責めながらその場へと向かっていく。

 

「あたしのせいで関係ない奴らまで・・・!うわあああああああああ!!!」

 

河川敷までたどり着き、クリスは悔しさを滲ませて叫んだ。

 

「あたしがしたかったのはこんなことじゃない・・・!けどあたしのやることは・・・いつもいつもいつも!!」

 

クリスは悔しさから膝を地につけ、涙を流す。

 

「クリスーーー!!」

 

この場に聞こえてくるはずのない声が聞こえて、目を見開くクリス。声の方をしてみると、クリスを追いかけてきた海恋がこちらに走ってきた。

 

「ば・・・バカ野郎!!!こっちに来るんじゃねぇ!!!」

 

そうやって声を荒げるが、既にもう遅い。河川敷の周りには、複数のノイズが取り囲んでいるではないか。

 

「の、ノイズ・・・!」

 

生でノイズを見た海恋は恐怖で顔を青ざめる。ノイズはそんなことはお構いなしに形を変えて海恋に突進してきた。

 

「あぶねぇ!!!」

 

クリスは海恋を抱きかかえてノイズの突進を躱した。

 

「やめろ!!狙いはあたしなんだろ!!関係ない奴を巻き込むんじゃねぇ!!!」

 

そんなことで止まるはずのないノイズは2人まとめて炭に変えようと突進してきた。ギアを纏おうにも海恋の対処で間に合わない。これまでかと思われた時・・・

 

「ふん!!!」

 

そこへ弦十郎が現れ、足で衝撃を発し、地面をえぐる。出来上がったコンクリートの破片が盾となり、それを凌いだ。ノイズは人を貫く際、一瞬だけ物理化することがある。弦十郎はそれを利用したのだ。

 

「はああああああ!!!」

 

そして弦十郎はコンクリートをぶん殴って破壊し、物質化したノイズに触れずに吹き飛ばした。明らかに人間離れした荒業にクリスと海恋は驚愕する。それでもノイズは弦十郎たちに攻撃をする。

 

「ふん!!!」

 

弦十郎はさっきと同じ要領で地面でコンクリートの盾を作り、ノイズの攻撃を凌いだ。そして弦十郎はクリスと海恋を両肩に担ぎ、ビルの屋上まで高く飛ぶ。どこまでも人間離れをしている弦十郎。それでも彼は人間である。

 

「2人とも、大丈夫か?」

 

弦十郎はクリスと海恋をおろし、安否を確認する。だがその間にも空を飛ぶノイズが現れる。

 

Killter Ichaival Tron……

 

シンフォギア、イチイバルを纏ったクリスはアームドギアであるボウガンを構え、ノイズに向かって矢を撃ち放ち撃退する。海恋は目の前で繰り広げられてる光景に目を見開いて疑わせている。

 

「ご覧の通りさ!あたしのことはいいから、そいつを避難させな!!」

 

「だが・・・!」

 

「こいつらはあたしがまとめて相手にしてやるって言ってんだよ!!」

 

クリスはボウガンをボウガンを2連装ガトリング砲に変形させ、ノイズに向けて撃ち放つ。

 

【BILLION MAIDEN】

 

「ついてこい、クズ共!!!」

 

クリスはガトリング砲を撃ちながら河川へ移動する。

 

「俺は・・・またあの子を救えないのか・・・」

 

「クリス・・・」

 

弦十郎と海恋はノイズを討ちに行ったクリスを見送ることしかできなかった。

 

~♪~

 

ノイズ退治、逃げ遅れた人命救助のために街の中を走っていく日和と響。すると街の至る所にいたノイズは河川敷へと向かっていっている。日和と響もそれを目撃する。

 

「ノイズが・・・。もしかして・・・」

 

あそこでクリスが戦っているのだと予想する日和。すると・・・

 

「きゃあああああ!!」

 

「「!!」」

 

遠くから誰かの悲鳴が聞こえてきた。だが、ノイズを放っておくこともできない。

 

「私があっちのノイズをやっつける!響ちゃんは人命救助をお願い!」

 

「日和さん・・・でも・・・日和さんはまだノイズに・・・」

 

clear skies nyoikinkobou tron……

 

日和は詠唱を唱えてシンフォギアを身に纏う。これによって日和はノイズの恐怖を緩和させる。

 

「ギアさえ纏えば何とかなるよ。それにもしかしたら、まだ逃げ遅れた人がいるかも。だから響ちゃん・・・頼んだよ」

 

「・・・はい!!」

 

人命救助を響に任せ、日和はノイズが向かっていった河川敷へと移動を始める。響も悲鳴が聞こえてきた場所へ移動する。悲鳴が聞こえてきたのは・・・ボロボロになっている建設中の建物の中である。響はこの中へと入る。

 

「誰か!誰かいま・・・」

 

響が声を上げたその時、上から何かの触手が攻撃してきて、響はその場から飛び降りて何とか回避する。上を見てみるとそこには、タコのような姿をしたノイズが柱に張り付いている。それを見た響が声をあげようとし時、誰かに口を塞がれる。口止めをしていたのは、咲とおばちゃんと一緒に逃げていたはずの未来だった。未来は響に静かにするようにジェスチャーし、スマホのメール画面に文字を打ち込んで響に見せる。

 

『静かに

あれは大きな音に反応するみたい』

 

どうやら先ほどノイズが響に攻撃してきたのは、大きな声が聞こえてきたためだったようだ。未来は新しい文章を打ち込む。

 

『あれに追いかけられて、病院の先生とふらわーのおばちゃんと逃げてきたの』

 

離れた場所を見てみると、そこには落ち着いて身を潜めている咲と、気を失っているおばちゃんがいた。少しでも音や声を出せば、ノイズはそこにめがけて攻撃するだろう。当然、響がギアを纏えば、間違いなく3人に危険が及ぶ。

 

(シンフォギアを纏うために歌うと、未来や咲さん、おばちゃんが危ない・・・どうしよう・・・)

 

どうすればいいのか悩む響に未来は新しい文章を響に見せる。それを見た響は驚愕し、慌ててスマホを取り出して、メール画面で文字を打ち込んで未来に見せる。それを見た未来はさらに新しい文章を響に見せる。響はまた目を見開き、新しい文章を打とうするが、未来に止められる。

 

「う・・・うぅ・・・」

 

「「「!」」」

 

おばちゃんがうめき声をあげ、ノイズがそれに反応し、ノイズの触手が動き出す。未来は響の耳元に顔を近づける。

 

「私、響にひどいことした。今更許してもらおうなんて思ってない。それでも、一緒にいたい・・・私だって戦いたいんだ・・・」

 

「ダメだよ・・・未来・・・」

 

「どう思われようと関係ない。響1人に背負わせたくないんだ」

 

未来がそういうと立ち上がる。

 

「私、もう迷わない!!」

 

未来は迷いを吹っ切るようにそう叫んだ。未来は響たちから遠ざかるように走り出す。未来の声は当然ながらノイズが反応し、触手は未来に向けて伸ばされる。未来はノイズの触手からよけながら走って逃げていく。ノイズは未来を追いかけていき、建物から遠ざかっていく。その間に響は咲とおばちゃんの元へ駆けていく。

 

「咲さん!大丈夫ですか⁉」

 

「何とか大丈夫よ。でも、未来ちゃんが・・・いつ・・・」

 

咲は足を痛めてしまったようで思うように立つことができない。それでも咲はノイズに追いかけられている未来を心配する。未来を助けたい気持ちが強い響はすぐに行動に出る。

 

Balwisyall Nescell Gungnir tron……

 

詠唱を唱え、シンフォギアを纏った響はおばちゃんと咲を両肩に担いで建物より高く飛ぶ。シンフォギアを纏った響を見て咲は驚愕の顔になる。するとここでタイミングよく緒川が運転する車が到着する。響は緒川の近くに降り立ち、おばちゃんと咲をおろす。

 

「緒川さん、咲さんとおばちゃんをお願いします!」

 

「響さんは⁉」

 

2人を緒川に任せ、響は未来が逃げていった方角へと向かう。

 

「響ちゃん・・・」

 

正直、何が何だかわからない状況の咲。だが、なんとなくだがわかる。響の着込むものならなんとかできるのではないかと。この問題を解決できるのは、響だけだと。ならば・・・

 

「・・・未来ちゃんを、お願いね・・・」

 

この問題に口を挟んではいけない、止めてはいけないと。自分の心配する気持ちは置いていき、未来の安否を響に託した。

 

~♪~

 

人命救助を響に託し、日和はノイズ退治のため河川敷へ移動しているノイズを追いかける。その途中で日和は弦十郎と海恋を発見する。おそらくは海恋を避難させようとしている最中なのだろう。

 

「ししょー!!海恋!!」

 

「!日和!!?」

 

「日和君!」

 

日和はすぐに2人の元へ駆けつける。海恋は少し日和から視線を逸らす。

 

「ししょー!ノイズがこっちに・・・」

 

「わかっている!今クリス君が戦っている!」

 

「やっぱりクリスが・・・。すぐに加戦に向かいます!」

 

「・・・日和君。彼女を、託してもいいか?」

 

「・・・はい!!」

 

人間ではノイズには勝てない。クリスへの加勢もできない。なればこそ弦十郎は日和にクリスを託した。日和は力強く返事をし、今度は海恋に視線を向ける。

 

「海恋・・・」

 

「・・・・・・」

 

「ありがとう。私のことを思ってくれて。海恋がいてくれたから、今こうして、私はいる」

 

「日和・・・」

 

「私は小豆と玲奈に守られた。海恋も私のことを何度も助けてくれた。だから今度は、私の番」

 

日和の言葉に海恋は彼女に顔を向ける。

 

「これからすることは海恋に反対されると思う。何度も怒られると思う。でもそれでもいい。海恋が生きていてくれるならそれでいい。私、海恋が大好きだから」

 

「!!」

 

日和の伝えたい言葉を聞いた海恋は目を見開かせる。言いたいことを言った日和は今度こそノイズ退治へと向かっていく。日和がこの場を去っていき、海恋は唇をかみしめ、走り出す。

 

「!君、待つんだ!!どこに行く!!?」

 

弦十郎の止める声が聞こえてきたが、海恋はそれを振り切る。

 

(私はバカだ!!何やってるのよ私は!!日和の気持ちを無視して・・・傷つけて・・・!2人が亡くなって1番辛いのはあの子なのに・・・!私は・・・!)

 

海恋は日和の気持ちを軽く考えてしまったことを後悔して涙を流し、ある場所へと向かっていく。

 

~♪~

 

クリスは河川で襲い掛かってくるノイズをボウガンとガトリング砲を使い分けて次々とノイズを殲滅させていく。だが蹴散らしても蹴散らしてもノイズがぞろぞろと集まってくる。完全に完治しきっていないためにクリスの顔色は疲労が出始めている。そんな彼女にノイズが背後から襲い掛かってきた。

 

「危ない!!」

 

そこへ日和が駆け付けてきて、棍でノイズを片付けた。

 

「お、お前・・・!」

 

「クリス!加勢するよ!」

 

日和は自分の背中をクリスの背中とくっつける。

 

「よ、余計なお節介だ!」

 

「いいよそれでも。1人より2人の方が片が付くよ」

 

「お前・・・本当にお人好しだな」

 

わらわらと集まってくるノイズに日和は棍を構え、クリスはボウガンを構え直す。

 

「後ろのクズはやってやる。お前はお前で勝手に暴れてろ」

 

「うん!前の方は任せてよ!」

 

「流れ弾が来ても泣くなよ!」

 

「大丈夫!弾き返すから!」

 

日和とクリスはそう言葉を交わし、目の前のノイズの殲滅に向かった。日和は襲い掛かってくるノイズはうまいこと躱し、棍を振り、そして掌底でノイズを次々と倒していく。クリスもボウガンをガトリング砲に変え、ノイズを纏めて一掃する。お互いが背中を預けあいながら戦っている。歌もデュエットで重なり合い、初めての共闘でも、抜群のコンビネーションを発揮しあっている。だがそれでもノイズは数多く集まり、キリがない。

 

「次から次へと!」

 

やってきたノイズはすかさずクリスと日和を攻撃する。クリスはボウガンを撃って対処し、日和は棍で対処する。しかし日和は対処しきれず、最後のノイズの突進で吹っ飛ばされる。

 

「ああ!!」

 

「お、おい!」

 

ノイズの攻撃を喰らった日和は棍を地面に突き刺して、立ち上がる。

 

(やっぱりノイズは怖い・・・けど・・・私たちがやらないと、街のみんなが・・・)

 

これだけ多くのノイズを見ていると1年前のことを思い出し、緩和している恐怖が込み上げる。それでも気力で何とか持ちこたえようとする。すると・・・

 

「日和ーーーーー!!!」

 

河川敷の柵の方から声が聞こえてきた。そちらを見てみると、走って汗をかいている海恋がいた。

 

「海恋!!?」

 

「バカ野郎!!何しに来やがった!!?」

 

ノイズの現場にわざわざやってきた海恋に日和とクリスは驚愕する。海恋は構わずに日和に声をかける。

 

「私はあなたたちや立花さんみたいにノイズと戦える力はない・・・だから私にできることは、これしかない・・・。今更許してもらおうなんて思ってない・・・。それでも私は・・・日和の力になりたい・・・」

 

「海恋・・・」

 

「だから!!負けるな日和ぃ!!!ノイズなんかに負けるな!!!恐怖なんかに負けるなぁ!!!」

 

危険を承知で日和に応援をする海恋。そんな彼女に後から河川敷にやってきたノイズが迫ってきた。

 

「バカ言ってねぇで早く逃げろ!!」

 

クリスは海恋に迫ってきたノイズをガトリング砲で倒していくが、まだ数がいる。迫りくるノイズは海恋に目掛けて突進していく。日和がこの光景で思い出すのは、1年前にノイズによって殺された小豆の姿だ。

 

「・・・私はもう・・・1年前に何もできなかった私じゃない!あの時の二の舞に・・・させてたまるかあああああああああ!!!!」

 

日和はあの時のようにやらせまいと棍を2つ構え、海恋に向けて投げ放った。放たれた2本の棍は盾のように形を変え、海恋の目の前の地面に突き刺さる。

 

【難攻不落】

 

突進してきたノイズは盾となった棍に直撃し、炭となって消える。そして日和は高く飛んで河川敷に移動し、棍を回収して海恋を守りながらノイズを殲滅する。空のノイズはクリスが撃ち落として殲滅する。さらに日和は一直線に集まってるノイズを棍を伸ばし貫く。

 

【一点突破】

 

(す・・・すごい・・・これが・・・あの臆病だった日和なの・・・?)

 

(そうだ・・・私は1人で戦ってるわけじゃない!みんなと一緒に戦ってるんだ!1年前の、何もできなかったあの時とは違う!)

 

海恋は今まで見たことないが日和の姿に驚き、日和は違う立場でみんなが戦っているとわかり、1人で戦ってるわけではないと実感する。これによって日和の中の恐怖は一気に和らいでいく。最後に残った空のノイズをクリスが撃ち抜き、日和が棍でなぎ倒した。これで河川敷に集まったノイズは全滅した。

 

「はぁ・・・はぁ・・・終わった・・・」

 

「・・・まだ終わりじゃねぇだろ」

 

「え?」

 

「ほら、行けよ」

 

クリスは日和の背中を押して、海恋の元へ行くよう促し、邪魔をしないようにこの場を離れていく。日和はクリスの気遣いに感謝し、海恋に近づく。

 

「海恋・・・私、やっぱり戦うよ」

 

「日和・・・」

 

「納得できないのはわかってるつもりだよ。私だって立場が逆だったら止めるもん。でも私は、1年前みたいに何もできずに奪われるのが嫌なの。今の学校生活も、海恋も守れるなら、どんな怖さも痛みも耐えられる!それに・・・」

 

「それに?」

 

「・・・私は1人で戦ってるわけじゃない。みんなと一緒に戦ってるんだ。その中には・・・海恋も含まれてるんだよ」

 

「私も・・・?」

 

「海恋の応援、届いたよ。ありがとう、海恋」

 

自分の気持ちを伝え、応援で元気づけてくれた海恋に日和はにっと笑う。それを見た海恋はため息をこぼす。

 

「・・・私は、今でもあなたが戦いに行くのは大反対!・・・けど、あなたが決めたことなんでしょ?だったら私にはもう、止められない・・・ううん、止めちゃいけない。咲さんなら・・・きっとそう言うと思う」

 

「うん・・・ごめん」

 

「だから!!日和、約束して!」

 

海恋は日和にゆびきりの手を差し出す。

 

「この先何があっても、絶対に生きて帰ってくること!いい?もし約束破ったりしたら、あなたを一生恨むから!!」

 

「・・・あはは・・・また、破れない約束ができちゃったなぁ・・・」

 

海恋の出した条件に日和は苦笑しながら了承し、海恋とゆびきりげんまんをする。

 

「うん。わかってる。私は絶対に生きる。2人の約束でもあるからね」

 

ゆびきりを交わした瞬間、海恋は涙を流し、日和に抱きしめる。

 

「日和!!ごめん・・・ごめんね!!私・・・日和が戦いに行ったら・・・二度会えないんじゃないかって思って・・・それで・・・」

 

「・・・うん。わかってる。ごめんね・・・心配かけさせて・・・」

 

日和は海恋を抱きしめてなだめながら、自身も少し涙を潤ませる。日和と海恋はこうして、互いの思いを打ち明け、仲直りができた。

 

~♪~

 

日和がノイズと戦っている時と同じころ、咲とおばちゃんを緒川に任せた響は飛んで、ノイズから逃げている未来を探す。

 

(未来、どこ!!?)

 

響はスマホでの文字会話を思い出す。

 

『響聞いて

私が囮になってノイズの気をひくから、

その間に先生とおばちゃんを助けて』

 

『ダメだよ

未来にそんなことさせられない』

 

『元陸上部の逃げ足だからなんとかなる』

 

『なんともならない!』

 

『じゃあ何とかして?

危険なのはわかってる

だからお願いしてるの

私の全部を預けられるの

響だけなんだから』

 

(戦ってるのは、私1人じゃない・・・シンフォギアで誰かの助けになれると思ってたけど、それは思い上がりだ!助ける私だけが一生懸命じゃない・・・助けられる誰かも一生懸命・・・)

 

響の脳裏に浮かび上がるのは2年前・・・自分が重傷を負った時、奏が言った言葉だ。

 

『おい死ぬな!!目を開けてくれ!!生きるのを諦めるな!!!』

 

(日和さんが私に人助けを託したように・・・本当の人助けは、自分1人の力じゃ無理なんだ・・・だからあの日、あの時、奏さんは私に、『生きるのを諦めるな』と叫んだんだ!今ならわかる気がする)

 

「きゃああああ!!」

 

「!!」

 

遠くで未来の悲鳴が聞こえてきた。響は未来の声がした方向に腰部のバーニアも利用し、移動速度を上げる。

 

(そうだ、私が誰かを助けたいという気持ちは、惨劇を生き残った負い目なんかじゃない!2年前、奏さんから託されて、私が受け取った、気持ちなんだ!!)

 

響は脚部のアンカージャッキを展開し、バネを伸ばし切り、直地と同時にアンカーの力で加速し、未来の元へと急ぐ。

 

~♪~

 

ノイズから逃げ続けてきた未来だが、元陸上部の足でもそろそろ限界が来て、足の力が抜けて四つん這いになってしまう。ノイズは容赦なく未来に近づいてくる。

 

(もう走れない・・・ここで終わりなのかな・・・?仕方ないよね・・・響・・・)

 

ノイズは高く飛び、足を広げて未来を覆いつくそうと降ってくる。

 

(だけど・・・私はまだ響と流れ星を見ていない!)

 

諦めかけた未来だが、響と流れ星を見る約束を思い出し、立ち上がったことによってノイズを躱すことができた。しかし、ノイズが着地した衝撃で道路が崩れ、未来はノイズと落ちていく。

そこへなんとか間に合った響が現れ、腕のハンマーパーツを伸ばし、ノイズに向かって拳を放ち、ハンマーパーツの強烈な一撃を放つ。この一撃でノイズは吹き飛び、爆発する。

ノイズを撃破した響はもう片方のアーマーパーツの衝撃で加速し、未来に駆けつけて抱き寄せる。地面に激突する寸前に響は足のパワージャッキを展開し、衝撃を和らげる。

 

「うわっ⁉うわったたたた⁉」

 

だがバランスを崩して着地に失敗し、未来を抱きかかえながら草の上を転がり落ちていく響。同時に響のシンフォギアは解除し、元の制服に戻る。響と未来は2人で腰をさすり、それに気づいた2人は笑いあう。

 

「かっこよく着地するって難しいんだなぁ~」

 

「あっちこっち痛くて・・・でも、生きてるって感じがする!ありがとう。響なら絶対に助けに来てくれるって信じてた」

 

「ありがとう。未来なら絶対に諦めないって信じてた。だって、私の友達だもん!」

 

響の微笑みながら放った言葉に未来は涙を流し、泣きながら響に抱き着く。いきなり抱き着かれたことでバランスが崩れ、響は再び倒れこむ。

 

「怖かった・・・怖かったの・・・」

 

「私も・・・すごい怖かった・・・」

 

「私・・・響きが黙っていたことに腹を立ててたんじゃないの・・・誰かの役に立ちたいと思ってるのは、いつもの響きだから・・・!でも、最近は辛いこと苦しいこと、全部背負い込もうとしてたじゃない・・・私はそれがたまらなく嫌だった・・・。また響が大きな怪我をするんじゃないかって心配してて・・・。だけどそれは、響を失いたくない私のわがままだ・・・。そんな気持ちに気づいたのに・・・今までと同じようになんて、できなかったんだ・・・!」

 

「未来・・・それでも未来は私の・・・」

 

響が未来の今の姿を見ると、急に笑いが込み上げてきた。

 

「?何?」

 

「あははは!だってさ、髪の毛ぼさぼさ、涙でぐちゃぐちゃ・・・なのにシリアスなこと言ってるし!」

 

「もう!響だって似たようなものじゃない!」

 

「うえぇぇ!!?うそ!!?未来、鑑貸して!」

 

「鏡はないけど・・・これで撮れば・・・」

 

響と未来は今のボロボロの姿を確認するために鏡の代わりにスマホのカメラで確認する。

 

「ああ・・・もうちょっと!ああ、ずれた・・・」

 

「撮るよ、響・・・」

 

2人は記念として写真を撮り、撮った写真を確認する響と未来。

 

「うおおお⁉すごいことになってる!これは呪われたレベルだ・・・!」

 

「私も想像以上だった・・・」

 

仲直りを果たした響と未来はこの写真を見て、おかしくなってお互いに笑いあった。

 

~♪~

 

暗くなった頃合いに、二課は今回の被害の後処理をしている。街に被害はあったものの、被害者は1人も出なかったのが幸いだ。

 

「ししょー!緒川さん!お姉ちゃんは・・・?」

 

「軽い捻挫がありますが、命に別状はありませんでした」

 

「よかったぁ・・・」

 

日和は後から咲がノイズに襲われたと聞いて気が気でなかったが、緒川の報告を聞いて、日和は安堵し、海恋は自分の手を日和の肩をぽんと乗せる。ただ咲は秘匿義務を課せられるだろう。

 

「よかったわね」

 

「うん!」

 

咲の無事を聞いて日和は、響に託して本当に良かったと心から思った。

 

「日和さーん!!」

 

「響ちゃん!小日向さんも!仲直りできたんだ!」

 

後に響と未来がやってきた。2人が一緒にいることから、2人も仲直りできたと理解し、日和と海恋はお互いに顔を合わせ、笑いあう。

 

「はい、ふらわーさんから回収しました」

 

「ありがとうございます」

 

緒川はふらわーに置いていった未来の鞄を彼女に返した。

 

「あのぅ・・・師匠・・・この子に戦ってるところを、じっくりバッチリ目の当たりにしてしまって・・・」

 

「私もです・・・ごめんなさい・・・」

 

日和と響はまたも未来と海恋に戦っているところを見られてしまったことに謝罪する。そんな2人に未来と海恋は庇う。

 

「違うんです!私が首を突っ込んでしまったから・・・」

 

「それを言うなら、私にだって非があります!!」

 

「・・・詳細は、後で報告書という形で聞く。まぁ、不可抗力という奴だろう。それに、人命救助の立役者に、うるさいことは言えないだろうよ」

 

弦十郎の言葉を聞いて、4人は笑いあい、日和は3人の肩を並べて、喜び合う。すると、ピンクの車が急ドリフトで突っ込んできた。止まった車から了子が登場する。

 

「主役は遅れてご登場よ!さて、どこから片付けましょうかね♪」

 

遅れてやってきた了子は係りの人間に指示を出す。

 

「後は頼りがいのある大人たちの出番だ。日和君たちは帰って休んでくれ」

 

「「「「はい!」」」」

 

日和たちが友里から飲み物を受け取っている間、海恋は弦十郎に質問する。

 

「あの・・・私たちの友達、雪音クリスなんですけど・・・」

 

「・・・あの後、被害者が出たという知らせは出ていない。いずれは連絡が取れるだろう。心配ない」

 

「じゃあ、もし見かけたら、これを・・・」

 

海恋が取り出したのは、咲が処方した薬だった。

 

「薬?」

 

「疲労回復薬です。熱はもういいんですけど・・・疲労がまだ・・・」

 

「・・・ああ。わかった。渡しておこう」

 

「お願いします」

 

海恋は弦十郎に一礼し、日和の元へ駆けていく。

 

~♪~

 

日和と海恋はあの後、咲のマンションで泊まることになった。いろいろあったが、咲は何も言わず、日和と海恋を受け入れた。日和と海恋は夜景を見ながらスマホの音楽をイヤホンで共有しあっている。

 

「うーん、海恋がチョイスした音楽も最高~♪」

 

「ふふ、そうでしょ。私にお気に入り」

 

「いつかクリスと3人で、共有しあいたいね」

 

「そうね。私も、そう願ってるわ」

 

仲がいい日和と海恋の光景を見て咲はスマホを取り出して、2人の姿を写真に収める。写真に写った2人の顔は、満面の笑顔であった。




XD-エクスドライブアンリミテッド-

東雲日和ボイス

夏1
あ~つ~い~・・・アイス食べた~い・・・

夏2
夏の風物詩は肝試しって・・・わ、私はやらないからね!!?


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大人の恋バナ

これはまだ奏と玲奈が生きていた頃の記憶。その日は翼がバイクの免許を手に入れ、どこかに遠出しようと思っており、先にバイクの免許を手に入れていた玲奈にバイクのメンテナンスをしてもらっていたところだ。

 

「~♪」

 

玲奈が翼のバイクのメンテナンスをしていると、翼が鼻歌を歌ってるのに気づいた。玲奈はその鼻歌をずっと聞いていたいと思いながら作業を進める。そこへ、奏の鼻歌も聞こえてきた。

 

「!か、奏!」

 

奏の鼻歌に気づいた翼は驚く。

 

「ご機嫌ですなぁ」

 

「今日は非番だから、少し遠出に」

 

「ははぁ、それで玲奈に」

 

「ま、気持ちはわかるよ。特別に免許をもらったばかりなんだ、試したくなるのが人間ってもんだ」

 

玲奈は初めてバイクの免許を取り、初めてバイクに乗った時のことを感慨深く感じる。

 

「よし、メンテ終わり。いつでも出れるよ」

 

「ありがとう、玲奈」

 

「いいって。それにしても、任務以外で翼が鼻歌を歌ってるとこなんて初めてだ」

 

「ああ、あたしも初めてだ」

 

「か、奏!玲奈!」

 

「そういうの、なんかいいよな」

 

鼻歌を聞かれて恥ずかしそうにしてる翼に奏は翼に軽くデコピンをする。

 

「また鼻歌聞かせてくれよなー。行こうぜ、玲奈」

 

「ああ。今日はぜってぇーに負けねぇ」

 

「はは、いいねぇ!」

 

「か、奏!鼻歌は、誰かに聞かせるものじゃないから!!」

 

「わかってるって。じゃ、行ってきな」

 

奏はそう言って、翼に手を振り、玲奈と共に手を振って格納庫を去っていった。

 

~♪~

 

日和と海恋、響と未来が仲直りした数日後、二課の外部協力者として登録してもらった海恋と未来は日和と響に二課の内部を案内してもらっている。

 

「うわぁ・・・学校の真下にこんなシェルターや地下基地が・・・」

 

「ね、すごいよね。私も最初見た時は驚いたよ」

 

「そんな場所に歩けるってことが未だに信じられないんだけど・・・」

 

まさか学校の地下に二課の本部があるなどと想像もつかなかった未来と海恋は当然ながら驚きながら二課の廊下を見回す。

 

「あ!翼さーん!!」

 

「あ、待って響ちゃん!」

 

すると響は翼を発見し、駆け寄る。3人も翼の元へと駆け寄る。そばには緒川と藤尭もいる。

 

「立花と東雲か。そちらは・・・確か・・・協力者の・・・」

 

「こんにちは。小日向未来です」

 

「西園寺海恋です。日和がお世話になったようで・・・ありがとうございます」

 

未来と海恋は翼と初対面し、礼儀正しくお辞儀をして自己紹介する。

 

「えっへん!私の親友です!」

 

「むっ・・・私と海恋だって負けてないくらいの親友なんだから!」

 

「なんであんたが張り合ってるのよ。後立花さんも自慢するところじゃないわよ」

 

響はなぜか胸を張って未来と親友だと自慢をし、日和はなぜか意地を張って対抗の意思を示している。そんな2人に海恋は呆れて頭を抱える。

 

「立花と東雲はこういう性格ゆえ、面倒をかけるとは思うが、支えてやってほしい」

 

「いえ、響は残念な子なのですので、ご迷惑をおかけしますが、よろしくお願いします」

 

「日和もああ見えて臆病でアホな子なので、いい印象を持ちませんが、とてもいい子なので、よろしくお願いいたします」

 

「ちょっと海恋!!?私がアホの子ってどういうこと!!?」

 

「えぇ?何?どういうこと?」

 

残念な子である響は3人の会話内容をまったくついていけてない様子で、日和はアホな子認定されていた海恋に対し、遺憾の意を示している。

 

「響さんと日和さんを介して、3人が意気投合しているということですよ」

 

「はぐらかされた気がする・・・」

 

「なんか全然納得いかない~・・・」

 

「ほら、そういうところよ」

 

「「ふふふ」」

 

緒川にはぐらかされて、納得していない様子の響と日和に海恋が指摘する。その様子に未来と翼は笑いあう。

 

(変わったのか・・・それとも変えられたのか・・・)

 

楽しく笑う翼に対し、緒川は考察する。どちらにせよ、翼が笑っているのは、緒川にとっても、喜ばしいことなので、笑みを浮かべている。

 

「でも未来と一緒にここにいるのは、なんかこそばゆいですよ」

 

「私もです。海恋がここにいるなんて、誰が想像できたか・・・」

 

「小日向と西園寺が外部協力者として、二課に移植登録させたのは、指令が手を回してくれた結果だ。それでも、不都合を強いるかもしれないが・・・」

 

現状を説明し、申し訳なさそうにしている翼だが、未来と海恋はまったく気にしていない様子だ。

 

「説明は聞きました。自分でも理解してるつもりです。不都合だなんて、そんな・・・」

 

「ええ。むしろ、とても嬉しいんです。私たちにも、役に立てることがあるんだって・・・」

 

「海恋・・・」

 

「あなたたちとは違うけど・・・これでも、立派な戦い・・・でしょ?」

 

「・・・うん!一緒に頑張ろう!」

 

二課の協力者として、日和たちに協力できることが嬉しく思う海恋は笑みを浮かべて日和に顔を向ける。日和は嬉しそうにそう答える。

 

「・・・あ、そういえば師匠は・・・?」

 

そこで響は弦十郎がいないことに気づき、翼に尋ねる。

 

「ああ、私たちも探しているのだが・・・」

 

「ええ?いないんですか・・・?」

 

どうやら翼たちも探しているようだが、どうやらいないようでどこに行ったかもわからないようだ。

 

「あーら、いいわね、ガールズトーク♪」

 

そこへ了子がやってきて、会話に混ざってきた。

 

「どこからツッコめばいいのか迷いますが・・・とりあえず僕を無視しないでください・・・」

 

さりげなく存在を無視された緒川は困った顔をしてそう発言するも、了子はお構いなしである。しかも日和、響、未来は了子の方に興味を持ち、海恋と翼は緒川に同情する。

 

「了子さんもそういうの、興味あるんですか?」

 

「モチのロン!私の恋バナ百物語聞いたら、夜眠れなくなるわよ~」

 

「まるで怪談みたいですね・・・」

 

了子の言葉に未来は少し苦笑を浮かべているが、響と日和は興奮気味である。

 

「了子さんの恋バナ!!?きっとうっとりメロメロおしゃれで大人な銀座の恋の物語ぃ~!!」

 

「きっとロマンチックなんだろうなぁ~。そういうの憧れちゃうよ~」

 

「あんた小学校の時男子と付き合ったことあったって言ってなかったっけ?」

 

「一週間で別れを言うような男子は王子様じゃない!!!」

 

「王子様って・・・」

 

日和は小学校の頃、男子と付き合っていた頃があったそうだが、たった1週間で別れてしまい、日和はそれっきりいい彼氏を見つけていない。大袈裟に言う日和に海恋は呆れる。

 

「そうねぇ・・・遠い昔の話になるわね・・・こう見えて呆れちゃうくらい一途なんだから・・・」

 

「「「おおおおおお!!」」」

 

了子の意外すぎる一面を聞いて、日和、響、未来は了子の話の続きが気になって仕方ない様子である。海恋と翼は本当に意外そうな顔をしている。

 

「正直、意外すぎます。なんていうか、誰よりも乙女をしてるって感じで・・・」

 

「私もだ。てっきり櫻井女史は恋と言うより、研究一筋であると・・・」

 

「『命短し恋せよ乙女』と言うじゃない?それに女の子の恋するパワーってすごいんだから!」

 

「女の子ですか・・・」

 

バキンッ!!

 

「ぐあ!!?」

 

了子の話を聞いて微妙な反応をする緒川の呟きが聞こえたのか了子は彼に裏拳を叩き込んで彼を黙らせる。

 

「私が聖遺物の研究を始めたのもそもそも・・・」

 

「「「うんうん!!それでそれで!!?」」」

 

日和、響、未来は興奮気味で了子の話の続きを待っている。

 

「・・・ま、まぁ!私も忙しいから、ここで油を売ってられないわ」

 

「自分から割り込んできたくせに・・・」

 

ゲシィッ!!

 

「ぐわあ!!!」

 

「緒川さん!!?」

 

ほんの少し了子は照れた様子で話を中断させる。そして余計なことを言い放った緒川は了子から蹴りを入れられて倒れる。

 

「とにもかくにも!できる女の条件は、どれだけいい恋をしてるかにつきるものなのよ!ガールズたちも、いつかどこかでいい恋しなさいね?んじゃ、ばっははーい♪」

 

了子は女子たちにそれだけを言って手を振り、その場を後にしたのであった。

 

「・・・聞きそびれちゃったね・・・」

 

「んー、ガードは固いかぁ・・・。でもいつか、了子さんのロマンスを聞き出してみせる!」

 

「了子さんの話には、男子を魅了できるものがあるはず!絶対に聞き出すよ!!」

 

「何言ってんのよ。一応は女子高よ?外に出ないと男子なんて出会えないわよ」

 

了子の話を聞けなかった未来は少し残念そうにしており、響と日和はいつか了子の恋バナを聞こうと決意しており、海恋はそんな2人に何度目かの呆れを見せる。

 

~♪~

 

本日は大雨で街は土砂降りだ。そんな街のどこかに存在しているもうボロボロになっているマンション。逃亡生活を送ってきているクリスはこのマンションで身を潜めていた。あれからどれだけ時間が経ったのかわからないクリス。毛布で暖をとるが、毛布が薄いせいで全然暖まることができない。

 

ぐうぅぅ~・・・

 

そのうえ、逃亡生活を強いられているため、まともな食事もとれておらず、クリスは腹を空かせており、お腹が鳴っている。

 

ガチャ・・・

 

「!!」

 

そこで、戸が開く音が聞こえてきた。誰かが入ってきたのだ。クリスは毛布を放り出して部屋の壁に張り付いて、気配を殺す。クリスは恐る恐る誰が入って来たのかを確認する。

 

「ほらよ。応援は連れてきていない。俺だけだ」

 

部屋に入ってきたは、あんパンと牛乳が入ったコンビニ袋を持った弦十郎だった。

 

「君の保護を命じられたのは、もう俺1人になってしまったからな」

 

「・・・どうしてここが・・・」

 

弦十郎に対し、警戒を解かないクリス。クリスに危害を加えるつもりがない弦十郎は胡坐をかいて畳に座り込む。

 

「元公安の御用牙でね。慣れた仕事さ。差し入れだ」

 

弦十郎はクリスに差し入れを渡すが、クリスは受け取ろうとしない。弦十郎たちは敵と認識しているために、受け取れないのだろうが・・・

 

ぐうぅぅ~・・・

 

クリスのお腹は正直に鳴る。弦十郎はクリスにパンを受け取ってもらうためにあんパンをかじって毒味したことを証明させる。

 

「何も盛っちゃいないさ」

 

毒味を確認したクリスは渡されたパンを強引に受け取り、食べ始める。

 

「・・・食後に、これを飲んでおけ」

 

そう言って弦十郎はクリスに差し入れ以外のものを取り出す。取り出されたものはクリスには見覚えがあった。

 

「それは・・・あの人の薬・・・」

 

それは、クリスが看病の際に、咲から受け取った疲労回復の処方箋だ。これを飲んだおかげでクリスは元気になったし、その時のこともはっきりと覚えている。クリスは処方箋を受け取り、中を確認する。薬はクリスが飲んだ分しか減っておらず、あれから手を着けられてないことがわかる。

 

「海恋君が君にだそうだ。倒れていたんだってな。心配していたぞ」

 

「あいつ・・・余計なことを!」

 

海恋の心配する気持ちにクリスは毒づく。

 

「・・・バイオリン奏者、雪音雅律とその妻、声楽家のソネット・M・ユキネが難民救済のNPO活動中に戦火に巻き込まれて死亡したのは8年前・・・残った1人娘も行方不明となった。その後、国連軍のバルベルデ介入によって事態は急転する。現地に囚われてた娘は、発見され保護・・・日本に移送されることになった」

 

弦十郎は牛乳も毒味し、それをクリスに渡す。クリスは牛乳を受け取り、話された過去の内容の正確さに不快感を表している。

 

「ふん、よく調べてんじゃねぇか。そういう詮索、反吐が出る」

 

「当時俺たちは適合者を探すために、音楽界のサラブレッドたちに目をつけていてね。天涯孤独となった少女の身元引受先として、手を挙げたのさ」

 

「ふん、こっちでも前衛かよ」

 

「ところが、少女は帰国直後に消息不明。俺たちも慌てたよ。二課からの相当数の捜索員が駆り出されたが、この件に関わった者の多くは死亡、あるいは、行方不明という最悪の結末で幕を引くこととなった」

 

「何がしたい、おっさん!!」

 

クリスの問いに弦十郎は答える。

 

「俺がやりたいのは・・・君を救い出すことだ」

 

「!!」

 

弦十郎の言葉にクリスの気持ちは揺れ動いた。そして脳裏に浮かび上がるのは、咲の優しい人情だった。

 

「引き受けた仕事をやり遂げるのは、大人の務めだからな」

 

だが弦十郎の言葉で、それも消えた。咲の場合だと、何も言わずに自分を家に止めてくれたし、仕事があったにも関わらず面倒を見てくれた。もし弦十郎のこの一言がなければ、状況は違ったのだろうが、彼はクリスが嫌う大人の務めと言った。それによって弦十郎に嫌悪感を露にするクリス。

 

「ふん!大人の務めと来たか!余計なこと以外は、いつも何もしてくれない大人が偉そうに!!!」

 

クリスは律義に咲の処方箋を一膳を口に入れ、牛乳で流し込んだ後、空になった牛乳パックを放り投げ、窓ガラスを破ってベランダから飛び出す。

 

Killter Ichaival Tron……

 

クリスはシンフォギアを身に纏って逃亡した。弦十郎はそんな彼女の背中を見ていることしかできず、悔しさをにじませた。

 

~♪~

 

一方その頃、日和たちは二課の本部で弦十郎の帰りを待っている様子であったが、当人は未だに帰ってくる気配がない。

 

「司令、まだ戻ってきませんね・・・」

 

「ええ。メディカルチェックの結果を報告しなきゃならないのに・・・」

 

「次のスケジュールが迫ってきましたね」

 

「えぇ!!?翼さん、もうお仕事入れてるんですか!!?」

 

メディカルチェックでもう完全に回復した翼がもうアーティストの仕事を入れてることに驚く日和。

 

「少しずつよ。今はまだ、慣らし運転のつもり」

 

「じゃあ、過密スケジュールじゃないんですよね?」

 

「え、ええ」

 

「だったら翼さん!デートしましょう!!」

 

「デート?」

 

「えええ!!?」

 

響の確認の質問の後の突然のデートの誘いに驚く翼。まさかそう来るとは思わなかった日和は非常に驚き、未来は何となく想像してたようで、やっぱりと言う顔をしていた。

 

「大袈裟ね・・・ただのお出かけっていえばいいのに・・・」

 

大袈裟に言い放つ響の発言に海恋はちょっとあきれた様子だ。とはいえ、断る理由もないため、ここにいる全員はもちろんのこと、翼も響の誘いに了承し、休みの日にお出かけすることに決まったのだった。




パーカー愛好家日和

日和は私服にパーカーをよく着込む・・・というより、私服全部がパーカーで多種多様のパーカーを休みの日に着るらしい。夏であろうと冬であろうと、専用のパーカーを愛着することから海恋に「まるで愛好家だ」と言われたそうな。ちなみに、着込むパーカーは日によって違うため、ファッションの組み合わせも似合う組み合わせがあれば、ダサい組み合わせがある。ダサい組み合わせをするたびに海恋が毎回似合う組み合わせに変えようと奮闘することが多々ある。


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防人の歌

お出かけの約束の日、今日はいい天気で絶好のお出かけ日よりだ。今日は珍しく早起きした日和と、いつも通りの海恋はお出かけ用の服に着替えて、約束時間より早くに寮に出て待ち合わせ場所に向かう。待ち合わせの公園に到着したが、そこにはもうすでに翼が到着していた。

 

「あれっ!!?翼さん!!?」

 

「東雲、西園寺、早かったな」

 

「そういう翼さんこそ・・・まだ待ち合わせの時間じゃないですよ?」

 

海恋の言うとおり、本来の待ち合わせ時間より10分ほど早い。翼はそれより前にここに到着していた。海恋の指摘に翼は少し顔を赤らめる。

 

「少し早めに起きて、やることがなかっただけだ!」

 

「・・・よっぽど楽しみだったみたいね・・・」

 

「翼さんにもそういう一面もあるんだ・・・」

 

可愛い一面がある翼に海恋と日和はひそひそとそう話をする。とにかく、後は響と未来を待つだけとなった。それから数10分時間が経ったが、未だに響と未来はやってこない。

 

「・・・あの子たちは何をやってるのよ!」

 

「まさか・・・寝坊かしら?」

 

「翼さんの約束に遅れるなんて信じられない!」

 

約束の時間に遅れている響と未来に翼は軽く腹を立てており、海恋は遅刻の原因を推察、日和は信じられないといった顔をしている。

 

「はぁ・・・はぁ・・・すみませーん、翼さーん!」

 

そこへようやくといったところで響と未来が到着する。走ってきたので響と未来は息を整える。

 

「申し訳ありません!お察しの事だと思いますが、響のいつもの寝坊が原因でして・・・」

 

「ああ、やっぱり・・・」

 

海恋の推察通り、遅刻の原因は響の寝坊にあったようだ。息を整える響と未来は翼の服装を見て目を丸くさせる。

 

「時間がもったいないわ。急ぎましょう」

 

なぜなら翼の服装は、完全にオフの芸能人がお出かけにふさわしいノリノリの服だったからである。

 

「・・・すっごい楽しみにしてた人みたいだ・・・」

 

響の呟きに翼は顔を赤くして彼女に振り返る。

 

「誰かが遅刻した分を取り戻したいだけだ!!」

 

翼のいきなりの大声に4人はびっくりして首をすくめる。

 

「・・・翼イヤーはなんとやら・・・だね」

 

何はともあれ、全員揃ったところで、デートと言う名のお出かけが始まった。

 

~♪~

 

まず5人が最初に向かったのはショッピングモール。特に目的としているものがあるわけではないが、気の赴くがままに様々な小物を見て回る。

その後も5人そろって感動ものの恋愛映画を見て涙を流して感動したり、ソフトクリーム屋でソフトクリームを食べ歩いたり、洋服のお店に入って、洋服を試着して5人のファッションショーを行ったり、翼の存在にかぎつけたファンたちから逃げ回ったり、見事に振り切って5人で笑いあったりとそれはもう楽しいことだらけだ。

そして今5人はゲームセンターのクレーンゲームで翼が欲しいと思ってるぬいぐるみを取ろうと、響がチャレンジするところだ。

 

「翼さん御所望のぬいぐるみは、この立花響が必ずや手に入れてみせます!!」

 

「響ちゃん、頑張って!!翼さんのために!!」

 

「期待はしているが、たかが遊戯に少しつぎ込みすぎではないか?」

 

「そうですね。うちはバイトは禁止ですから・・・ちょっと危ないかもです」

 

リディアンはバイトを禁止しているので、金銭面で少し心配をする海恋。その間にも響はクレーンゲームに投資して、操作機のボタンを強く叩く。

 

「キエェェェ!」

 

「変な声出さないで!」

 

突然の響の奇声に未来が耳を塞いで注意をする。響の操作したクレーンはお目当てのぬいぐるみに引っ掛かることはなく、空振りに終わる。

 

「このUFOキャッチャー壊れてるぅ!!!私呪われてるかも!!!」

 

「響ちゃん!諦めるのは早いよ!!どうせ壊れてるならこれ以上壊したって問題ないよ!!シンフォギアを纏って・・・」

 

「ああ!こら!平和的に解決しろ!!」

 

「日和やめなさい!!立花さんも!!器物損害で訴えられるわよ!!?」

 

「この怒りに身を任せればアームドギアだってぇ!!!」

 

「大声で喚かないで!!そんなに大声を出したいなら、いいところに連れてってあげるから!!」

 

ぬいぐるみを取れなかったことで暴走しかけている響と日和は4人の手によって取り押さえられる。その後は大声を遠慮なく出せる場所へと行くこととなった。

 

~♪~

 

大声を出せる場所というのはカラオケ店だった。確かにここでなら大声を出せるし、大いに盛り上がるためにストレス解消するにはちょうどいい場所だ。

 

「おおおおお!!すごい!!私たちってばすごーい!!トップアーティストと一緒にカラオケに来るなんて!!」

 

「しかも、憧れの翼さんと一緒に歌を共有できるなんて・・・うぅ・・・感激だよぉ~」

 

翼とカラオケに来れたことに大興奮する響と、感動のあまりうれし涙を流す日和。その間にも和風のメロディが流れ始める。曲名は『恋の桶狭間』。いきなりの曲に選曲者は誰かと4人は顔を見合わせる。戸惑う4人に向けて翼はマイクを手に取り、お辞儀する。どうやらこの曲を入れたのは翼のようだ。

 

「一度こういうの、やってみたいのよね」

 

「・・・渋い・・・」

 

意外なチョイスに未来がそう呟き、3人も同意する。そして、翼が歌いだす。トップアーティストゆえに、歌がうまく、かっこいいため、4人は大興奮だ。

 

「うわ~!」

 

「かっこいい~!」

 

「さすがは翼さん!!」

 

5人はレンタルした時間帯まで、大いに盛り上がりを見せるのであった。

 

~♪~

 

カラオケ店を出た頃にはもうすっかり夕方になっていた。慣れないことをしたために、翼は珍しく息切れし、息を整えている。それとは対照的に4人は元気だ。

 

「翼さーん!」

 

「はぁ・・・はぁ・・・みんなどうしてそんなに元気なんだ?」

 

「翼さんがへばりすぎなんですよー!」

 

「今日は慣れないことばかりだったから」

 

「防人であるこの身は、常に戦場にあったからな」

 

「でも、今日の景色はいつもとは違いますよ」

 

翼が階段を登り切った先には公園があった。今この場に、優しいそよ風がなり響く。

 

「本当に今日は、知らない世界を見てきた気分だ」

 

「そんなことありません!」

 

「お、おい⁉立花、何を⁉」

 

響は翼の手を取り、柵の前まで連れて行き、夕方の街の景色を見せる。夕方の絶景を目にし、翼はその光景に見惚れる。

 

「あそこが待ち合わせした公園です。みんなで一緒に遊んだところも、遊んでないところも全部、翼さんの知ってる世界です!昨日に翼さんが戦ってくれたから、今日にみんなが暮らせてる世界です。だから、知らないなんて言わないでください」

 

響の言葉を聞き、日和は翼の隣に立ち、翼に語り掛ける。

 

「ね。人に戻るっていうのも、案外悪くないでしょ?立ち止まっちゃいけない時があるというのもわかってるつもりです。でも、前に向きすぎると、こんな素敵な光景を、見逃しちゃうかもしれませんよ。たまにでもいいから、一度立ち止まって見ませんか?そうすればきっと、好きなこと、思い出せると思います」

 

翼は響と日和の言葉を聞いて、奏の言葉を思い出す。

 

『戦いの裏側とかその向こうには、また違ったものがあるんじゃないかな。あたしはそう考えてきたし、そいつを見てきた。バカな玲奈だって、そう考えてたんじゃないかな』

 

「・・・そうか・・・これが奏の見てきた世界なんだな・・・」

 

奏の言葉の意味を理解した翼は、答えを見つけ、迷いを吹っ切れたような笑顔を見せるのであった。

 

~♪~

 

翌日のリディアンにて、翼は4人を屋上に呼び出し、あるものを渡した。

 

「へっ!!?復帰ステージ!!?」

 

「翼さん、ステージに復帰できるんですか!!?」

 

「ああ。アーティストフェスが十日後に開催されるのだが、そこに急遽、ねじ込んでもらったのだ」

 

「なるほど~」

 

「つまり、以前翼さんが倒れて中止となったライブの代わりってことですか?」

 

「そうだ」

 

翼が渡したのは十日後にあるアーティストフェスの招待チケットのようだ。響はチケットの裏側のライブ会場場所を確認する。

 

「!翼さん・・・ここって・・・」

 

その場所というのは2年前・・・ツヴァイウィングのライブ事件があったあの会場だった。響の脳裏に浮かび上がるのは、2年前の事件の戦いだ。

 

「・・・立花にとっても・・・辛い思い出のある会場だな・・・」

 

「ありがとうございます、翼さん」

 

顔を俯かせていた翼だったが、予想に反して明るい声の響に驚いて顔をあげる。

 

「響・・・」

 

「いくら辛くても、過去は絶対に乗り越えていけます!そうですよね、日和さん!」

 

「うん。いつか乗り越えなくちゃいけない日が来るのなら・・・それはきっと、今なんだと思います!だからきっと、乗り越えられるはずです!」

 

「日和・・・」

 

響と日和の言葉を聞いて、翼は顔を背け、白い2羽の鳥に視線を向ける。

 

「・・・そうありたいと、私も思っている」

 

翼は響と日和に再び視線を向け、笑みを浮かべる。その瞳は、強い決心で輝いていた。

 

~♪~

 

十日後のアーティストフェス当日。日和と海恋はこの会場にたどり着き、翼の出番を今か今かと待っている。

 

「う~ん・・・翼さんの出番まだかなぁ・・・?」

 

「日和、そわそわしすぎ」

 

「だってぇ~・・・」

 

「はぁ・・・どうしてこうも落ち着きがないのかしら・・・」

 

今までのアーティストの曲もとてもよかったが、日和にとっての本命は翼であるので、出番はまだかとそわそわしてる。すると、日和の二課の端末が鳴った。日和は落ち着きを取り戻して、すぐに通信に出る。ちょうど響にも連絡が入り、同時に通信が入る。

 

『はい、響です!』

 

「日和です!ノイズですか?」

 

『そうだ。ノイズの出現パターンを検知した!これから翼にも連絡を・・・』

 

「ししょー」

 

ノイズの出現を検知した弦十郎は翼にも連絡を入れようとしたが、日和が遮る。

 

『どうした?』

 

「現場には、私と響ちゃんだけでお願いします」

 

『!!』

 

日和はノイズ退治は自分と響に任せるように進言した。

 

「今日の翼さんは、自分の戦いに臨んでほしいんです。この会場で、最後まで歌いきってほしいんです。いいよね、響ちゃん」

 

『日和さん・・・はい!!』

 

日和は響にも確認をとる。響は元気よく、二つ返事で返した。響も同じ気持ちなのだ。

 

『・・・やれるのか?』

 

「『はい!!』」

 

弦十郎の問いに日和と響は力強く答えた。通信を終えた日和は席に立つ。

 

「日和」

 

「海恋・・・」

 

「・・・必ず、生きて帰ってね」

 

「もちろん!帰ったら感想、聞かせてね」

 

日和の答えを聞いた海恋は微笑み、日和を見送った。日和は海恋に笑顔を見せた後、ノイズ退治のために会場を離れる。そして、日和が会場を離れたと同時に、翼のライブの開演が始まり、翼は歌を歌い始める。

 

「・・・あれが風鳴翼か・・・」

 

ライブ会場の入り口付近の壁に、1人の女性がいた。男性用の黒服に長い赤髪と緑と黄色のオッドアイが特徴で一目では男性と間違えそうな顔立ちをしている。黒服の女性は翼のライブに注目している。

 

~♪~

 

ノイズの出現地点では、すでにクリスがノイズと戦っていた。だが、状況はあまり著しくない。なぜなら出現している要塞型の巨大ノイズにガトリング砲と小型ミサイルを撃ち放っているのだが、要塞ノイズにはびくともしない。要塞ノイズは主砲をクリスに狙いを定め、撃ち放つ。クリスは主砲を避けるが主砲の爆風によって吹っ飛ばされる。

 

「ぐわぁ!!」

 

倒れるクリスに要塞ノイズは再び主砲をクリスに向けて放った。砲弾がクリスに直撃しようとした時・・・

 

「クリス!!」

 

現場に到着した日和が棍を伸ばして砲弾を弾いて炭に変える。同じく現場に到着した響は素早く動き、ノイズの群れに突っ込み、拳で群れを粉砕する。響の勢いが止まったところに、要塞ノイズは響に向かって主砲を撃ち放った。砲弾は響に迫ったが、日和の棍とクリスのガトリング砲によって粉砕する。

 

「やろう、響ちゃん、クリス!!」

 

「これで貸し借りはなしだ!!」

 

日和とクリスは互いに背中を合わせ、自分たちの正面にいるノイズを蹴散らしていく。響も負けじと周りにいる小型のノイズを次々と倒していく。要塞ノイズは響に狙いを定めて主砲を撃った。響は砲弾を躱し、腕のハンマーパーツを引き絞る。

 

「はああああああああ!!!」

 

響はハンマーパーツを引き絞めた状態で地面に叩き込み、衝撃を与え、要塞ノイズがいる地盤を傾けさせ、それを崩した。態勢が崩れたのを見計らい、腕のハンマーパーツを力いっぱい、肩まで引き絞る。小型のノイズは要塞ノイズを守ろうとしたが、日和が薙ぎ払い、クリスが撃ち落とした。これで小型ノイズは全滅。残るは要塞型のみ。

 

「でりゃああああああああ!!!!」

 

響は要塞ノイズに接近し、強力な一撃を叩きつける。叩きつけた拳と、ハンマーパーツの衝撃によって、要塞ノイズは吹き飛び、炭となって粉々に砕け散った。戦いを終えた響と日和は遠くにある翼のライブ会場に視線を向け、誇らし気な笑みを浮かべている。

 

~♪~

 

ノイズが全滅した同じ頃、翼の歌が終わり、会場内は観客たちによる大歓声によって響いていた。

 

「ありがとうみんな!今日は思いっきり歌を歌えて、気持ちよかった!!」

 

『わあああああああああ!!!』

 

翼は興奮している観客たちに手を振りながら話を進める。

 

「こんな思いは久しぶり・・・忘れていた・・・でも思い出した!私は、こんなに歌が好きだったんだ!聞いてくれるみんなの前で歌うのが、大好きなんだ!」

 

翼の話を観客たちは静まり返り、落ち着いた様子で真剣に聞いていた。

 

「もう知ってるかもしれないけど、海の向こうで歌ってみないかって、オファーが来ている。自分が何のために歌うのか、ずっと迷ってたんだけど・・・今の私は、もっとたくさんの人に歌を聞いてもらいたいと思っている。言葉は通じなくても、歌で伝えられることがあるならば・・・世界中の人たちに、私の歌を聞いてもらいたい!」

 

『わあああああああああ!!!』

 

翼の海外のオファーを受けると聞いた観客たちは大歓声と大きな拍手を翼に送る。海恋と未来も観客たちと同じく、翼に拍手を送っている。

 

「私の歌が、誰かの助けになると信じて、みんなに向けて歌い続けてきた。だけどこれからは、みんなの中に、自分も加えて歌っていきたい!だって私は、こんなにも歌が好きなのだから!たった1つのわがままだから、聞いてほしい・・・許してほしい・・・」

 

翼の話が終わった直後・・・

 

『許すさ。当たり前だろ』

 

『それでこそ・・・風鳴翼だ』

 

亡くなった奏と玲奈の声が聞こえてきた。それと同時に、会場は観客たちの応援と励ましの言葉で埋め尽くした。

 

「・・・ありがとう!!」

 

大切な友の声、そして観客たちの応援と励ましに、翼は涙を流し、観客たちに感謝を述べ、笑みを浮かべて夜空を見上げた。

 

~♪~

 

ライブが終わって会場の外、黒服のオッドアイの女性はタクシーに乗り、空港に向かっている。そんな彼女の携帯が鳴り響き、彼女は通話に出る。

 

「・・・この休日をセッティングしたのはやはり君か。僕に気遣いはいらないと言っただろう」

 

誰かと電話している女性は表情1つ変えず、淡々と答える。

 

「・・・まぁいいさ。収穫はあった。今日という日は無駄ではなかった。・・・こちらも負けていられない。すぐに戻る。君も僕もこれから忙しくなる。今のうちに英気を養うといい。それから、土産を用意しておいた。2人が気に入るといいのだが・・・」

 

女性の手元には、海外で大活躍するトップアーティストの書類があった。

 

「・・・ああ。もちろんわかってるさ・・・」

 

女性は通話を切り、タクシーの窓から夜景を眺める。夜の月は、美しく輝いていた。




謎の男装女性

外見:赤いストレートロングへア
  :瞳は緑と黄色のオッドアイ

イメージCV:BanG Dream!:美竹蘭
(その他の作品:やはり俺の青春ラブコメはまちがっている。:一色いろは
        五等分の花嫁:中野四葉
        原神:八重神子
        その他多数)

アーティストフェスで翼のライブを見ていた謎の女性。外見は清楚で忠誠的な顔立ちをしているため、体系も相まって初見では男性と間違えられることが多々ある。
海外のトップアーティスト、そして電話口の相手と何か関係があるようだがはたして・・・


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決戦間近

リディアンの生徒会室。そこから海恋と響と未来が出てくる。どうやらまた響がやらかし、海恋からの何度目かの注意を受けているようだ。

 

「少しずつでもいいから、気を付けるように」

 

「はい・・・すみません・・・」

 

「すみません、いつも響が・・・」

 

きっちりと風紀委員の仕事をこなしている海恋に頭を下げて謝罪する響と未来。すると、遠くでリディアンの校歌が聞こえてくる。

 

「~♪」

 

響はそれに感化され、鼻歌で校歌はを歌い始める。

 

「何?合唱部に触発されちゃった?」

 

「ん~、リディアンの校歌を聞いてると、まったりするっていうか・・・すごく落ち着くっていうか・・・みんながいるところって思うと安心する!自分の場所って気がするんだ」

 

響の言葉を聞いて、海恋は微笑む。

 

「立花さんも、もう立派なリディアンの生徒ね」

 

「まぁ、と言いましても、入学して、まだ二か月ちょっとなんですけどね~」

 

「でも、いろいろあった二か月だよ」

 

「うん。そうだね」

 

「ふふ、私にとっては、あれから1年か・・・」

 

3人は感慨深い気持ちで学校の広場を眺める。

 

「・・・あれ?そういえば海恋さん、日和さんは?」

 

「あの子なら今日は休み。迎えに行きたい人がいるとかどうとかでね。だから今回は特別に許可したわ。・・・私も待ってるから」

 

海恋は2人に今日は日和は休みであることを伝える。日和の言う迎えに行きたい人というのはもちろん・・・彼女だ。

 

~♪~

 

どこかに存在するフィーネの屋敷。直観的にここに戻らなければいけないと感じたクリスは戻ってきたが・・・屋敷の中は目を疑うような光景が広がっていた。

 

「何が・・・どうなってやがんだ・・・?」

 

その光景とは、米国の特殊部隊が辺りに倒れて、一面が血で染まっている惨劇の光景だった。出血量から、特殊部隊員たちは全員死んでいることがわかる。当然、この光景を目の当たりにしたクリスは状況が理解できないでいる。

 

「クリス・・・」

 

すると、後ろから声が聞こえてきて、クリスは振り返る。そこにいたのは、日和と、弦十郎が率いる黒服たちであった。目の前の惨劇に日和は吐き気を催すが、何とか堪える。

 

「ち、違う!!あたしじゃない!!やったのは・・・」

 

黒服たちは動き出したが、クリスに拳銃を向けることはない。黒服たちはこの屋敷の調査を行っている。

 

「誰もお前さんがやったとは思っちゃいないさ。全ては、"君や俺たちのそばにいた、彼女"の仕業だ」

 

弦十郎は信頼を置ける部下と共に極秘で調査していた。そして、クリスを裏で操り、この事態を招いた黒幕の正体を掴んだのだ。

 

「クリス!」

 

日和はクリスに近づき、彼女を安心させるようにその手を握る。

 

「よかったぁ・・・やっぱり1人でいるクリスが心配だったから・・・」

 

「お、お前・・・」

 

「すみませんししょー・・・無理言ってついてきちゃって・・・」

 

「君に彼女を託した以上、何も知らないのはフェアじゃないからな。気にするな。それより日和君、大丈夫か?」

 

「は、はい。何とか・・・」

 

日和は弦十郎に無理を言ってここまで連れてきてもらったようだ。それよりも弦十郎はこの惨劇を目の当たりにした日和の心配をする。

 

「風鳴指令!」

 

すると後ろにいた黒服が特殊部隊員に何かの紙が貼ってあったのに気が付く。紙には赤い文字でこう書かれていた。

 

I LOVE YOU SAYONARA

 

黒服はその紙をはがした。すると・・・

 

ドカアアアアアアアアン!!!!!

 

部屋が突如として爆発し、部屋が崩落する。どうやらこの爆発はあの紙が引き金になったようだ。爆発が収まり、煙が晴れると、そこには弦十郎が左腕で日和とクリスを抱いて守り、片手で大きな瓦礫を受け止めていた。黒服の人間は、軽い怪我を負ったが、全員無事であった。

 

「・・・どうなってんだよこいつは・・・?」

 

「衝撃は発勁で掻き消した」

 

「すごい・・・さすがししょー・・・」

 

あの爆発の衝撃を発勁でかき消す弦十郎のすごさに日和は感心する。だがクリスはすぐに弦十郎の腕を振り払い、警戒を露にする。

 

「そうじゃねぇよ!!なんでギアを纏えない奴があたしを守ってんだよ!!」

 

弦十郎は日和を離れさせて、瓦礫をその辺におろしてクリスの問いに答える。

 

「俺が君を守るのは、ギアのあるなしじゃなくて、お前よか少しばかり、大人だからだ」

 

「大人?」

 

この世で最も嫌いな大人という言葉にクリスは嫌悪を表し、口を開く。

 

「あたしは大人が嫌いだ!!死んだパパもママも大嫌いだ!!とんだ夢想家で臆病者!!あたしはあいつらとは違う!!戦地で難民救済?歌で世界を救う?いい大人が夢見てんじゃねえよ!!!」

 

「大人が夢を・・・ねぇ・・・」

 

「それは違うよクリス。だって・・・」

 

「黙れ!!!」

 

日和はクリスに声をかけようとしたが、クリスがそれを拒絶する。

 

「本当に戦争をなくしたいのなら、戦う意思とお前みたいな力を持つ奴らを片っ端からぶっ潰せばいい!!それが1番合理的で現実的だ!!!」

 

「・・・そいつがお前の流儀か。なら聞くが、お前はそのやり方で、戦いをなくせたのか?」

 

「・・・っ!それは・・・」

 

弦十郎に痛いところを突かれて、クリスは何も言えなくなる。

 

「クリス・・・クリスだってもう気づいてるんだよね?そんなやり方じゃ、戦いをなくせないって。それじゃあ、あの人の言ったとおりだって」

 

「くっ・・・!」

 

クリスも薄々は気づいている・・・いや、もうとっくに気づいてると言った方がいいだろう。自分のやってきたことの結果、関係ない人間を巻き込んでしまったのだから。

 

「・・・いい大人は夢を見ない、と言ったな。そうじゃない。大人だからこそ夢を見るんだ。大人になったら背も伸びるし、力も強くなる。財布の中の小遣いだって、ちっとは増える。子供の頃は、ただ見るだけだった夢を、大人になったら叶えるチャンスも大きくなる。夢を見る意味が大きくなる。お前の親は、ただ夢を見に戦場に行ったのか?違うな。歌で世界を平和にするって叶える為、自ら望んで地獄に踏み込んだんじゃないのか?」

 

「なんで・・・そんなこと・・・」

 

「お前に見せたかったんだろう。夢はかなえられるという、揺るがない現実をな」

 

弦十郎の言葉にクリスははっと息をのむ。

 

「お前は嫌いと吐き捨てたが・・・お前の両親は、きっとお前のことを大切に思っていたんだろうな」

 

弦十郎の言葉を聞いて、クリスは涙を潤ませる。そんな彼女に日和は近づく。

 

「クリス・・・もういい。もう・・・1人で抱え込まなくたっていいんだよ。誰かに相談できないなら、せめて私に相談して。それができないなら、一緒に悩んであげる。その悩みが何だかわからないけど・・・私は、クリスと一緒に、気持ちを分かち合いたいよ。だって・・・私たち、友達だから」

 

「友・・・達・・・」

 

日和はクリスと握手を交わそうと手を差し伸べる。クリスはその手を握ってよいか戸惑うが、日和がその手を握った。握手を交わしたクリスは感じ取った優しさと暖かに、涙を流す。それを見て日和もにっこりと微笑む。

 

「・・・いい友に巡り合えたな・・・」

 

その光景を見て弦十郎は微笑ましく笑みを浮かべる。これが、日和とクリスにとって、固い絆になると信じて。

 

~♪~

 

屋敷の調査が終わり、弦十郎たちは撤収の準備に取り掛かる。日和は弦十郎の車に乗ろうとすると、クリスに視線を向ける。

 

「・・・やっぱり、あたしは・・・」

 

「一緒には来られないか?」

 

弦十郎たちの気持ちは十分に理解できたが受けた傷が傷ゆえに、どうしてもすぐには信用できないクリス。

 

「・・・クリス。私、いつまでも待ってるから」

 

日和はクリスに微笑んでそう口にして車の座席に乗り込む。

 

「お前はお前が思っている程、1人ぼっちじゃない。お前が1人道を往くとしても、その道は遠からず、俺達と交わる」

 

「今まで戦ってきた者同士が一緒になれるというのか?世慣れた大人が、そんなきれいごとを言えるのかよ」

 

「ほんと、ひねてんなぁ、お前。ほれ」

 

クリスのひねくれ具合に弦十郎は笑いながら彼女に通信機を渡す。

 

「通信機?」

 

「それがあると便利だよ~。限度額内なら公共交通機関が使えるし、自動販売機でお買い物ができるよ。私も何度もお世話になってますよ~」

 

「日和君、そろそろ戻るぞ」

 

「あ、はい!」

 

日和がクリスと話していると、、車のエンジンが鳴る。するとクリスは弦十郎にあることを教える。

 

「カ・ディンギル!」

 

「ん?」

 

「カ・・・え?何?」

 

「フィーネが言ってたんだ。カ・ディンギルって。それが何なのかわからないけど・・・そいつはもう完成してるみたいなことを・・・」

 

「カ・ディンギル・・・」

 

クリスから得た情報に弦十郎は険しい顔つきになる。

 

「ししょー・・・本当にあの人が・・・?今でも信じられません・・・」

 

日和は弦十郎から黒幕の正体を聞かされていたが、今でも信じられず、顔を俯かせる。信じられない気持ちは弦十郎も同じなので、何も言えない。

 

「・・・後手に回るのはしまいだ。こちらから打って出てやる!」

 

弦十郎たちは黒服たちと共にフィーネの屋敷から去っていった。残ったクリスは受け取った通信機を見つめ、握りしめる。

 

~♪~

 

二課の本部に戻った弦十郎と日和は指令室で響と翼に通信を入れる。モニターには響と翼の顔が映し出される。

 

『はい、翼です』

 

『響です』

 

「収穫はあった。了子君は・・・」

 

「まだ出勤していません。朝から連絡不通でして・・・」

 

「・・・そうか・・・」

 

弦十郎は友里に了子の出勤について尋ねるが、当の了子はまだ来ていない様子だ。

 

『了子さんならきっと大丈夫です!何があったって、私や日和さんを守ってくれた時みたいにドカーンとやってくれます!』

 

楽観的な響の言葉に翼が口を挟む。

 

『いや、戦闘訓練をろくに受講していない櫻井女史にそのようなことは・・・』

 

『んえ?師匠とか了子さんって人間離れした特技とか持ってるんじゃないんですか・・・』

 

「でも、私も見ましたよ。なんか・・・こう・・・エネルギーバリアー!的なもので、ノイズから守ってくれて・・・」

 

日和はデュランダル移送作戦の際に見たことを翼に話す。同時に考える。もし弦十郎の言うことが正しいのであれば、いろいろと辻褄があうと。それでも日和は、どうしても信じられないでいる。すると、音声通信で了子からの通信が入った。

 

『やーっと繋がったぁ!ごめんね、寝坊しちゃったんだけど・・・通信機の状態がよくなくって・・・』

 

了子の言葉に弦十郎の目は鋭くなる。

 

「無事か、了子君。そっちに問題は?」

 

『寝坊してごみを出せなかったけど・・・何かあったの?』

 

『よかったぁ・・・』

 

了子の無事が確認できて、響は安堵の声を上げる。

 

「ならばいい。それより、聞きたいことがある」

 

『せっかちね。何かしら~?』

 

「カ・ディンギル・・・この言葉の意味するものは?」

 

弦十郎の質問に了子が答える。

 

『カ・ディンギルとは、古代シュメールの言葉で高みの存在。転じて天を仰ぐほどの塔を意味しているわね』

 

「何者かがそんな塔を建造していたとして、なぜ俺たちは見過ごしてきたのだ?」

 

『確かに・・・そう言われちゃうと・・・』

 

「そうですね・・・塔なんて、めちゃくちゃわかりやすい建物のはずなのに・・・」

 

塔と呼ばれるからには建造物であるのは間違いないが、なぜ塔ほどわかりやすい建物を二課の目をかいくぐれてきたのか、謎に思う響と日和。

 

「だが、ようやくつかんだ敵のしっぽ。このまま情報を集めれば勝利も同然。相手のすきに、こちらの全力を叩き込むんだ。最終決戦、仕掛けるからには仕損じるな」

 

「了解」

 

「『了解です!』」

 

通信会議が終了し、響と翼の通信が切れる。

 

『ちょっと野暮用を済ませてから、私も急いでそっちに向かうわ』

 

了子との音声通信が切れる。通信が終わった瞬間、二課のオペレーターたちはすぐにカ・ディンギルについての情報をかき集める。

 

「カ・ディンギル・・・秘密の塔・・・う~ん・・・出てくるのはゲームとかの攻略サイトばっかりだぁ・・・」

 

日和も日和なりにスマホで情報を集めようとしているが、やはり一般の情報ではそれらしいものは出てこなかった。

 

「些末なことでも構わん!カ・ディンギルについての情報をかき集めろ!!」

 

ヴゥー!ヴゥー!

 

二課が情報を集めていると、突然の警報が鳴り響いた。

 

「どうした⁉」

 

「飛行タイプの超大型ノイズが一度に3体・・・いえ!さらにもう1体出現!!」

 

「合計で4体・・・すぐに出撃します!!」

 

街に飛行型の大型ノイズの出現の報告を聞き、日和は指令室を出て出撃する。

 

~♪~

 

外にいる装者2人にも飛行型の大型ノイズの出現が伝わった。今響は飛行型ノイズの詳細を聞いている。

 

「今は人を襲うというよりも、ただ移動していると。・・・はい・・・はい!」

 

「・・・行くのね」

 

「響・・・」

 

詳細を聞いている響に未来は心配そうな顔をしている。

 

「平気!私と日和さん、翼さんで何とかするから!だから未来と海恋さんは学校に戻って!」

 

「リディアンに?」

 

「いざとなったら地下のシェルターを解放してこの辺の人たちを避難させないといけない。未来と海恋さんにそれを手伝ってもらいたいんだ」

 

「わかった。でも、日和もそうだけど、無理は禁物よ」

 

「はい!」

 

「う、うん・・・わかった・・・」

 

いざの時のための避難誘導の役目を頼む響に海恋は了承しする。未来も首を縦に頷くが、とても不安そうだ。

 

「・・・私、先にリディアンに行ってるわよ」

 

未来と積もる話もあるため、海恋はすぐに移動を始める。

 

「・・・ごめん、未来を巻き込んじゃって・・・」

 

「ううん、巻き込まれただなんて思ってないよ。私がリディアンに戻るのは、例え響がどんなに遠くに行ったとしても、ちゃんと戻ってこられるように、響の居場所、帰る場所を守ってあげることでもあるんだから」

 

「私の・・・帰る場所・・・」

 

「そう。だから行って。私も響みたいに大切なものを守れるくらいに、強くなるから」

 

にっこりと微笑む未来に響は彼女の手を握る。

 

「小日向未来は私にとっての陽だまりなの!未来のそばが1番あったかところで、私が帰ってくるところ。これまでもそうだし、これからもそう!だから私は絶対に帰ってくる!」

 

「響・・・」

 

「流れ星見る約束、まだだしね!」

 

「うん」

 

響の未来はお互いに笑いあう。

 

「じゃあ、行ってくるよ!」

 

響は任務のために現場へと走っていく。未来はそんな響の背中を見て、妙な胸騒ぎを覚える。まるで、何か嫌な予感を感じたかのように。




ひよりん

日和のニックネーム。主に日和のクラスメイト達がそう呼んでいる。幼稚園で同じクラスになった園児から呼ばれたことがきっかけ。日和はこれを気に入り、仲良くなった相手にそう呼んでほしいとクラスの自己紹介の際に明言している。

タイガー勾玉

日和と海恋が読んでいる漫画。主に買って読むのが日和で、勧められて仕方なく読んでるのが海恋。7つ集めると願いを叶える虎が現れる勾玉を巡って戦いが繰り広げられるバトル漫画。日和はこの漫画の主人公が特に好きで、小学校の頃よく主人公のモノマネをやっていた。今は恥ずかしくてやらなくなってしまったが・・・果たして再びモノマネをする機会は来るのだろうか・・・。


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繋いだ手だけが紡ぐもの

街に大型の飛行型ノイズが現れたため、日和はこれの撃退のために、二課の所有するヘリコプターに乗り込み、移動を開始する。移動している間にも、二課の本部から飛行型ノイズの新しい情報が入ってきた。3人からの通信も入る。

 

「はい、日和です!」

 

『翼です』

 

『ノイズ進行経路に関する、最新情報だ。第41区域に発生したノイズは第33区域を経由しつつ、第28区域方面へ進行中。同様に、第18区域と第17区域のノイズも第24区域方面へと移動している。そして・・・』

 

飛行型ノイズの進行を辿っていると、移動している場所が判明した。

 

『指令、これは・・・』

 

『それぞれのノイズの進行経路の先に、東京スカイタワーがあります!カ・ディンギルが塔を意味するのであれば、スカイタワーはまさに、そのものじゃないでしょうか!』

 

飛行型ノイズが移動しているのは東京スカイタワーであり、藤尭はカ・ディンギルがスカイタワーでないかと推察する。

 

『スカイタワーには俺たち二課が活動時に使用している映像や交信といった電波情報を統括制御する役割を備わっている。3人とも、東京スカイタワーに急行だ!』

 

「はい!」

 

弦十郎はノイズ殲滅のために装者3人に指示を出した。例えこれが・・・罠だとしても。

 

「!運転手さん!あそこ!」

 

ヘリコプターで外を見ていると、日和は現場へ走って急行している響を発見する。日和の声で運転手はすぐに響の元まで下りていく。

 

『スカイタワー・・・でもここからじゃ・・・』

 

『何ともならないことを何とかするのが、俺たちの仕事だ!』

 

「響ちゃん!乗って!!」

 

響は降りてきたヘリコプターに乗り込む。響も乗ったところでヘリコプターはローターを回して空に上昇し、東京スカイタワーまで移動する。少し時間が経ち、日和と響は東京スカイタワーの上空に到着する。スカイタワーの周りには4体の大型飛行型ノイズが飛び回っている。そして、飛行型ノイズは胴体から小型のノイズを地上にばら撒き、小型の飛行型ノイズも出撃するように現れる。ヘリコプターは大型ノイズの真上に飛び、響はそのノイズに向かって飛び降り、詠唱を唱える。

 

Balwisyall Nescell Gungnir tron……

 

シンフォギアを纏った響はハンマーパーツを引き絞め、落下の勢いと共に大型飛行型ノイズの背中に拳を叩き込んで衝撃で貫いた。貫かれた大型飛行型ノイズは爆発し、残りは3体となる。日和はもう1体の大型飛行型ノイズの背中に狙いを定めて、飛び降りる。

 

clear skies nyoikinkobou tron……

 

シンフォギアを纏い、日和は右手を大型飛行型ノイズに向けて、右腕ユニットから棍を放つ。放たれた棍はドリルに形を変え、回転を始める。回転するドリルの棍に向かって日和は落下の勢いに身を任せ蹴りを放ち、小型飛行型ノイズを蹴散らしながら大型飛行型ノイズに一直線に落下する。

 

【天元突破】

 

ドリルの棍は大型飛行型ノイズの背中を貫く。これによって大型飛行型ノイズは爆発を引き起こし、残りは2体となる。ドリルの棍は戦闘時の棍に戻り、日和はそれを取ってうまく地面に着地する。それと同時に翼がバイクに乗って現場に到着する。

 

Imyuteus amenohabakiri tron……

 

バイクから飛んだ翼はシンフォギアを纏い、刀を大剣に変形させ、大型飛行型ノイズに向けて大剣を振るって青い斬撃を放つ。

 

【蒼ノ一閃】

 

斬撃は小型の飛行型ノイズを複数蹴散らしたが、大型飛行型ノイズまで届くことはなかった。翼は苦虫を嚙み潰したような表情をする。そこへ響と日和が合流する。

 

「相手に頭上を取られることが、こうも立ち回りにくいとは!」

 

「ヘリを使って、私たちも空から!」

 

「それなら、建物を利用して飛べばヘリに・・・」

 

ドカアアアアン!!

 

再びヘリに乗って先ほどと同じ要領で攻撃を提案したが、ヘリコプターは小型の飛行型ノイズからの攻撃を受けて、爆発した。その様子は3人も空を見上げて確認した。これでは響の案は利用できない。

 

「ヘリが!」

 

「そんな⁉」

 

「よくも!!」

 

小型の飛行型ノイズは3人に狙いを定めて突進してきたが、3人はそれを躱す。地上にいるノイズはそのタイミングで3人に襲い掛かるが、響は拳で、日和は棍で、翼は刀で簡単にあしらう。

 

「なら!如意金箍棒で!」

 

日和は棍を地面に突き刺して、棍を大型飛行型ノイズに向かって伸びる。伸びる棍を持って移動する日和だが、大型飛行型ノイズがばら撒く小型ノイズによって進行を防がれる。日和はもう1つ棍を取り出し、小型ノイズを蹴散らしながら進むも、バランスを取りながらでは戦いにくい。そして、棍のバランスが崩れ、日和は落下するも華麗に着地する。大型飛行型ノイズはまだまだ小型ノイズをばらまく。

 

「小型ノイズが邪魔をして、あいつまで届かない!」

 

「空飛ぶノイズ・・・どうすれば・・・」

 

「臆するな立花!防人が後ずされば、それだけ戦線が後退するということだ!」

 

攻撃の射程外を飛ぶ大型飛行型ノイズ。日和の一点突破も大型飛行型ノイズの前では威力が足りない。それでなくとも小型ノイズに邪魔をされる。それら3点を踏まえて悪戦苦闘する3人。小型の飛行型ノイズは3人に向かって突進したその時・・・

 

ダダダダダダ!!

 

大量の弾丸が小型の飛行型ノイズを撃墜する。この攻撃ができるのは、3人が知る中で1人しかいない。3人が後ろを振り向くと、そこにはイチイバルを纏い、二丁のガトリング砲を構えたクリスが立っていた。

 

「!クリス!!やっぱり来てくれたんだ!!」

 

クリスが駆け付けてくれたことに日和と響は表情が明るくなる。クリスは通信機を握って悪態をつく。

 

「ちっ・・・こいつがぴーちくぱーちくやかましいから、ちょっと出張ってきただけ。それに勘違いするなよ、お前たちの助っ人になったつもりはねぇ!!」

 

『助っ人だ。少々到着が遅くなったかもしれないがな』

 

「なっ・・・!」

 

「助っ人・・・?」

 

通信機から聞こえてきた弦十郎の言葉にクリスは顔が赤くなる。その言葉に日和と響は満面の笑みを浮かべ、翼は思わず呟いている。

 

『そうだ。第2号聖遺物イチイバルを身に纏う戦士、雪音クリスだ!』

 

「クリスちゃーん!ありがとう!絶対にわかりあえるって信じてた!」

 

「クリス!ずっと待ってた!来てくれて本当にありがとう!」

 

「このバカ共!!あたしの話を聞いてねぇのかよ!!?」

 

響と日和は嬉しさのあまり、クリスに抱き着いた。クリスは抱き着いてきた2人を引きはがそうとする。

 

「とにかく今は、連携してノイズを!」

 

「勝手にやらせてもらう!邪魔だけはすんなよな!」

 

「ええぇ!!?」

 

「そんなぁ!クリスぅ!」

 

クリスは響と日和から距離を取り、ボウガンを構えて、突っ込んできた小型の飛行型ノイズを討ち落としていく。

 

「空中のノイズはあの子に任せて、私たちは地上のノイズを!」

 

「「は、はい!」」

 

大型飛行型ノイズがばら撒く小型ノイズを地上は翼は刀、日和は棍と掌底で、響は拳と蹴りで次々と蹴散らしていく。クリスは空中の小型ノイズをガトリング砲で次々と撃ち落としていく。迫りくるノイズの攻撃を翼は飛んで躱す。しかし、ちょうど同じタイミングでクリスも飛び上がったために、2人は背中でぶつかってしまう。

 

「何しやがる!すっこんでな!」

 

「あなたこそいい加減にして!1人で戦ってるつもり?」

 

「あたしはいつだって1人だ!こちとら仲間と馴れ合ったつもりはこれっぽっちもねぇよ!!」

 

翼の言葉にそう言い返すクリス。その物言いに翼は顔をしかめている。

 

「確かにあたしたちが争う理由なんてないのかもな。だからって、争わない理由もあるものかよぉ!この間まで殺り合ってたんだぞ!そんな簡単に、人と人が・・・」

 

日和は両手でクリスの手を優しく握る。

 

「手を繋げられるよ。誰とだって・・・仲良くなれるんだよ。だって私たち、もう友達じゃない」

 

「なっ・・・!よ、余計なこと思い出させんじゃねぇよ!!」

 

日和の言葉を聞いてクリスは泣いて日和と手を繋いだことを思い出し、顔を赤くして声を荒げる。

 

「それでなくとも私とクリスは、一緒にノイズと戦ってきたんだよ。河川敷の時も、この間のことも・・・そして今回だって。そして、これからもそうだよ。争わない理由は、それで十分だよ。ね、響ちゃん」

 

「はい。日和さんの言うとおり、誰とだって仲良くなれる」

 

日和はクリスの手を握って、もう片方の手を響に差し伸べる。響は日和の手を迷うことなく握り、もう片方の手で、翼の手を握る。

 

「どうして私にはアームドギアがないんだろうって・・・ずっと考えてた。いつまでも半人前は嫌だなぁって。でも、今は思わない。何もこの手に握ってないから、みんなとこうして手を握り合える、仲良くなれるからね」

 

「立花・・・」

 

満面な笑みを浮かべて言う響の言葉に翼は刀を地面に突き刺し、何も握ってない手でクリスに手を差し伸べる。クリスは差し出された手に戸惑いつつ、日和に顔を合わせる。日和はクリスの顔を見てにっこりと笑う。クリスは戸惑いつつ、何も握ってない手を、戸惑いながらも伸ばす。クリスが伸ばした手を翼は握る。しかしそれはすぐにほどかれる。

 

「なっ・・・!このバカ共にあてられたのかぁ!!?」

 

「そうだと思う。そして、あなたもきっと。東雲のおかげでね」

 

「・・・っ!冗談だろ・・・」

 

「クリス可愛いー」

 

「えへへ」

 

翼の言葉にクリスは顔を赤くしてそっぽを向く。そんな4人を大型飛行型ノイズの影が覆う。4人は気を引き締め直す。

 

「親玉をやらないとキリがない」

 

「だったらあたしに考えがある。あたしでなきゃできないことだ」

 

クリスは腰に手を当てて不敵に笑って、大型飛行型ノイズをどうするかの案を述べる。

 

「イチイバルの特性は長射程広域攻撃。派手にぶっ放してやる!!」

 

「まさか、絶唱を・・・!」

 

「そ、それはダメ!!」

 

「バーカ。あたしの命は安物じゃねぇ!」

 

「ならばどうやって・・・」

 

「ギアの出力を引き上げつつも放出を押さえる。行き場のなくなったエネルギーを臨界までため込み、一気に解き放ってやる」

 

「でも、チャージの間はクリスは身動きが取れない・・・すっぽんぽんと同じだよ」

 

イチイバルの特性を考えれば、確かに高エネルギーを保ったままであの大型飛行型ノイズを倒せるかもしれない。だがそのためには日和の言うとおり、チャージが必要で、クリスは身動きが取れない。

 

「これだけの多くのノイズが相手にする状況では、危険すぎるな・・・」

 

「そうですね。でも私たちがクリスちゃんを守ればいいだけのこと!」

 

響の言葉にクリスは目を見開き、翼と日和は笑みを浮かべる。そして、わらわらと集まってくる小型ノイズを響と翼は倒しに向かう。

 

(頼まれてもいないことを・・・。あたしも引き下がれねぇじゃねぇか!!)

 

何も言われなくてもクリスを守る行動をとった響と翼にクリスは初めて感じ取った思いに笑みを浮かべる。日和も響と翼と同じように行動しようと動くと、クリスが呼び止める。

 

「おい。・・・あたしの背中・・・預けたからな」

 

「!!・・・うん!背中は私に任せて!!」

 

クリスが初めて自分から背中を託されて、日和は嬉しさで満面の笑みを浮かべて、響と翼とは反対方面の小型ノイズを殲滅しに向かう。クリスは歌を歌い、アームドギアにエネルギーを溜め込んでいく。

 

(誰もが、繋ぎ繋がる手を持っている!私の戦いは、誰かと手を繋ぐこと!!)

 

響は小型ノイズを蹴りと拳で次々と蹴散らす。

 

(砕いて壊すも、束ねて繋ぐも力!立花らしいアームドギアだ!)

 

翼は響自身のアームドギアに感心して笑みを浮かべ、刀でノイズを次々となぎ倒す。

 

(もしも繋ぐ手が届かないなら、伸ばせばいい!私のアームドギアは、それを助力するためもの!)

 

日和は2つの棍を1つに束ね、それを回転させる。回転する棍は風をかき集め、それを竜巻のように放った。

 

【疾風怒濤】

 

棍から放たれた竜巻の突風は小型ノイズを的確に狙い、次々と蹴散らしていく。3人の攻防によって、クリスのチャージが完了する。

 

「「「託した!!!」」」

 

クリスはガトリング砲、小型ミサイル射出機、そして巨大なミサイルに左右に2つ、合計4つを展開し、その全てを大型飛行型ノイズを含めてた全てのノイズに一斉掃射する。

 

【MEGA DETH QUARTET】

 

発射された大型ミサイルは大型飛行型ノイズに向けて放たれ、発射された小型ミサイルポッドから複数の小型ミサイルが発射し、小型ノイズを撃墜する。クリス自身もガトリング砲を撃ち放ち、小型ノイズを殲滅させる。2体の大型飛行型ノイズに巨大ミサイルが2本ずつ直撃し、爆発する。

 

「やった・・・のか・・・?」

 

「ったりめぇだ!!」

 

大型飛行型ノイズが殲滅した証拠に、空から炭素の欠片が降ってくる。小型ノイズも全滅できたため、これでこの区域での戦闘は終わった。スカイタワーも無事である。

 

「やったやったぁ!!!」

 

「最高だよクリスぅ!!!」

 

「うわっ!やめろバカ共!何しやがるんだ!」

 

響と日和はクリスに駆けつけて思いっきり抱き着いた。クリスはそんな2人をすぐに引きはがす。戦闘が終わり、ギアが解除して響と日和は制服に、翼はライダージャケットに、クリスは私服に戻る。

 

「勝てたのはクリスちゃんのおかげだよ~!」

 

「クリスー!あなた本当に最高の友達だよー!」

 

響と日和は再びクリスに抱き着き、クリスは再度振り払う。

 

「だからやめろって言ってるだろうが!!いいか!あたしはお前たちの仲間になったつもりはないし、お前の友達になった覚えもない!!あたしはただ、フィーネと決着をつけて、やっと見つけた本当の夢を果たしたいだけだ!!」

 

「クリス・・・自分の夢を追いかけるように・・・!一緒に頑張っていこー!!」

 

「夢!!?クリスちゃんの!!?どんな夢!!?聞かせてよ~!!」

 

クリスが自分の夢を追いかけると聞き、日和は嬉しそうにクリスに抱き着き、響もクリスの夢を聞きながら抱き着いてきた。

 

「うるさいバカ!!!お前ら本当のバカ!!!」

 

「そんなにバカバカ言わないでよー、本当のバカになっちゃうじゃん~」

 

「知るかバカ!!」

 

3人が仲良くじゃれあっていると、響の通信機から着信が鳴る。響はすぐに通信機を取り出し、通話に出る。

 

「はい、もしも・・・」

 

『響!!学校が・・・リディアンがノイズに襲われ・・・』

 

ブチッ!!

 

未来の通話が強制的に切られる。リディアンが・・・響たちが帰ってくる場所がノイズに襲われていると聞き、響は唖然となった。




如意金箍棒の技

【疾風怒濤】

日和の技。2つの棍を連結し、回転させることによって竜巻の突風を作り上げ、相手を薙ぎ払う技。日和曰く、回し続けるから手首がちょっと痛くなってくるとのこと。


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フィーネの正体

日和たちが東京スカイタワーで大型飛行型ノイズを撃退しようとしている同じ時間帯、リディアンは突如として現れたノイズによって、戦場と化していた。自衛隊はノイズを倒そうとマシンガンを撃ち放つが、弾はノイズに当たるどころか、すり抜けてしまい、致命傷には至らない。一方避難誘導を担当している自衛隊は慌てて悲鳴を上げている生徒たちに地下シェルターへの避難誘導を行っている。校内でも避難誘導は行われている。

 

「皆さん!落ち着いてください!自衛隊の皆さんの誘導に従い、避難シェルターへ移動してください!!」

 

海恋は落ち着いて学院内に残っている生徒たちの避難誘導の指示を送る。生徒たちは自衛隊についていって避難シェルターへ移動する。そこへ日和たちのクラスメイト達が声をかけてきた。

 

「海恋ちゃん!どうなってるの⁉ノイズが学校を襲ってくるなんて・・・」

 

「落ち着きなさい!いい?あなたたちも自衛隊の人たちの指示に従って避難するのよ!そうすれば助かるから!」

 

「海恋ちゃんは!!?」

 

「私は他の生徒たちが残ってないか見てくる!」

 

海恋はクラスメイト達に避難するように指示を出して、他に生徒がいないか探す。その最中、海恋は頭をフル回転させてカ・ディンギルについて考える。

 

(カ・ディンギルはスカイタワーじゃなかった?でも、天を仰ぐほどの塔だなんて・・・スカイタワー以外に思い当たる場所なんて・・・)

 

海恋がそこまで考えると、ある答えにたどり着く。カ・ディンギルがどこに建てられているのかを。

 

「まさか・・・カ・ディンギルは・・・」

 

「いやああああああああああ!!!」

 

答えが導き出されて、海恋は一瞬立ち止まるが、生徒の悲鳴が聞こえてきて、海恋はそこへ向かって走り出す。海恋が向かった先には、3人の生徒がいた。悲鳴を上げたのはツインテールの女の子のようだ。

 

「あなたたち何をやってるの!!急いでシェルターへ向かいなさい!!」

 

この3人組は響のクラスメイトでよく一緒にいる友達である。左から安藤創世、板場弓美、寺島詩織となっている。海恋は風紀委員の朝のあいさつ運動で3人と顔を合わせている。

 

「こんなところにいたら危険よ!!さあ早く行くわよ!!」

 

「せ、先輩・・・の、ノイズが・・・人が・・・自衛隊の人が・・・」

 

どうやらもう学院内にノイズが入り込んできたようで、弓美は目の前で人がノイズに貫かれて炭素に変わっていく姿を目撃し、悲鳴を上げたようだ。

 

「落ち着きなさい!!大丈夫、避難シェルター行ったら助かるから!」

 

「待ってくださいウミヒメ先輩!ヒナがまだ・・・」

 

「ヒナ?」

 

「小日向さんのことです」

 

どうやら未来はまだ避難誘導に向かっているようで、3人は未来の心配をしているようだ。それを聞いた海恋は自衛隊を待ってる時間はないためすぐに3人に指示を出す。

 

「避難シェルターの場所はわかるわね?あなたたちはそこへ行きなさい!急いで!!」

 

「西園寺先輩は⁉」

 

「私は小日向さんを探しに行く!」

 

海恋は3人にシェルターへ行くよう指示を出した後、未来を探しに行った。階段を下りて辺りを見回すと、この混沌とした状況に唖然としている未来がいた。

 

「学校が・・・響が帰ってくるところが・・・」

 

「小日向さん!!」

 

「か、海恋さん・・・」

 

海恋はすぐに未来に駆け寄る。

 

ガッシャーン!!

 

するとノイズが窓を突き破って学院内に侵入してきた。壁に張り付いたノイズは海恋と未来を発見し、すぐさま突進してきた。2人がノイズにぶつかろうとしたその時、間一髪で緒川が飛び込んできて未来と海恋を助け、ノイズの突進を躱した。

 

「「お、緒川さん!!」」

 

「ギリギリでした!次うまくやれる自信はないですよ」

 

突進を躱されたノイズは狙いを3人に定めた。

 

「走ります!三十六計逃げるに如かずといいます!」

 

ノイズが襲ってくる前に緒川は未来と海恋の手を取ってノイズから逃げる。当然ながらノイズは追いかける。3人は二課に通じるエレベーターに乗り、扉を閉じる。だがノイズは物質ではないため、扉をにょきっとすり抜けた。

 

「「ひっ・・・!」」

 

ノイズの腕が迫ってきた。だが、エレベーターが動き出したため、ノイズはエレベーターからすり抜けて3人から遠ざかる。何とか助かった未来は安堵し、海恋は少し冷静に考える。

 

「・・・?海恋さん?」

 

「・・・私、カ・ディンギルの正体がわかったかもしれない」

 

「えぇ!!?」

 

カ・ディンギルの正体に気が付いた海恋に未来は驚く。緒川もカ・ディンギルの正体に気づいていたが、まさか海恋も気づいていたとは思わず、多少ながらも驚いている。

 

「敵は確かノイズを自在に操れるんだったわよね。私も最初はスカイタワーなんじゃないかって思ってた。でも、それだと日和たちがノイズを倒しに向かった後に、何もないリディアンにノイズを襲撃する説明がつかない。断定ではないけれど・・・カ・ディンギルがあるのは・・・」

 

ドオオン!!

 

「「「!!」」」

 

海恋が推察を話していると、突如エレベーターに衝撃が鳴り、揺れが生じる。揺れ具合から外部から攻撃されてるのがわかる。そして・・・

 

ザシュッ!!

 

「がふっ!!?」

 

「海恋さん!!」

 

エレベーターの天井から鋭利な鞭が飛び出し、海恋の腹部を刺した。海恋は腹部を貫かれ、血を吐いた。そして、エレベーターの天井が破壊され、そこから何者かが侵入してきた。侵入者は鞭で海恋の首を締めあげ、緒川も右手で締め付けられる。

 

「きゃああああ!!」

 

「こうも早く悟られるとは・・・中々頭が冴える小娘だ」

 

侵入してきた人物とは黄金のネフシュタンの鎧を身に纏ったフィーネだった。そして海恋はフィーネの顔に、多少は相違はあるものの、見覚えがある。そして、声にも聞き覚えがあった。

 

「・・・その・・・声・・・その顔・・・了子・・・さん・・・!」

 

フィーネの姿は違いはあるものの、確かに了子の面影があった。そう、フィーネの正体とは、二課の仲間である、櫻井了子だったのだ。

 

「何がきっかけだ?」

 

「・・・塔なんて目立つものなんて・・・誰にも気づかれなく建造するなんて・・・普通なら不可能・・・。それが可能にできるのは・・・地下に手を付けるしかない・・・。それができるとしたら・・・ここ・・・特異災害対策起動二課本部・・・そのエレベーターシャフトこそがカ・ディンギル・・・!そして、それを可能とできるのは・・・あなたのような・・・優秀な・・・」

 

「漏洩した情報を逆手にうまくいなせたと思ったのだが・・・まさかお前のような小娘がそこにたどり着くとはな・・・」

 

二課本部の階にたどり着き、扉が開いたことで緒川の拘束が解き放たれる。そして緒川はフィーネの急所を狙って拳銃を発砲したが、フィーネに貫くことはなく、その弾丸は潰されてしまっている。

 

「ネフシュタン・・・!」

 

フィーネはネフシュタンの鎧の鞭で緒川の身体を強く締めあげ、持ち上げる。

 

「ぐわああああ!」

 

「緒川さ・・・が・・・は・・・!」

 

「海恋さん!!」

 

「未来さん・・・!にげ・・・て・・・!」

 

海恋はフィーネに鞭で首を締めあげられ、呼吸できずに苦しそうにしている。未来は2人を助けようとして、フィーネに体当たりをする。だがそれによってフィーネは未来に目を付け、緒川と海恋を解放する。

 

「ぐっ・・・げほっ!ごほっ!」

 

解放されて呼吸できるようになった海恋は咳き込む。未来を助けようにも海恋は腹部を貫かれた痛みでうまく動けない。

 

「麗しいなぁ。お前たちを利用してきた者を守ろうというのか?」

 

「利用・・・?」

 

二課がリディアン生たちを利用してきたという言葉に未来は疑問符を浮かべる。

 

「なぜ二課本部がリディアンの地下にあるのか。聖遺物に関する歌や音楽のデータを、お前達被験者から集めていたのだ。その点、風鳴翼という偶像は生徒を集めるのによく役立ったよ」

 

リディアンの裏で行われてきた真実をフィーネに突きつけられ、動揺している未来だが・・・それでも未来は響と二課を信じるという気持ちに変わりはない。

 

「嘘をついても!本当のことが言えなくても!誰かの命を守るために、自分の命を危険にさらしている人がいます!私は、そんな人を・・・そんな人たちを信じてる!!」

 

未来の出した答えを聞いたフィーネは苛立ち、彼女の頬を叩き、地面に放り投げる。

 

「まるで興が覚める・・・!」

 

「こ・・・小日向さん・・・!」

 

海恋は傷む腹部を抑えながらも、這いずって未来の元に駆けつける。フィーネは本来の目的であるデュランダルが保管されている部屋へと向かう。フィーネは了子としての自分の端末を使って部屋のロックを解除しようとした時、緒川が銃を発砲し、端末を破壊する。

 

「デュランダルの元へは行かせません!!この命に代えてもです!!」

 

緒川は自分の拳銃を捨て、武術の構えをとる。煩わしくなったフィーネは今度こそ緒川の息の根を止めようと鞭をしならせる。

 

「待ちな、了子」

 

「!」

 

ドオオオオン!!!

 

突如上から声がし、天井を破壊し、何者かがそこから降り2人の間に入ってくる。この声質、そして武術で床に穴をあける人物など、1人しかいない。

 

「私をまだ、その名で呼ぶか・・・」

 

「女に手をあげるのは気が引けるが・・・3人に手を出せば、お前をぶっ倒す」

 

降りてきた人物とは、二課の責任者にして指令、風鳴弦十郎だ。弦十郎は構える。

 

「指令・・・!」

 

「弦十郎・・・さん・・・!」

 

「調査部だって無能じゃあない。米国政府のご丁寧な道案内で、お前の行動にはとっくに行きついていた。燻りだすため、あえてお前の策に乗り、シンフォギア装者を全員動かして見せたのさ!」

 

つまり、東京スカイタワーのノイズはやはり罠で、弦十郎はわざとこの策に乗って、フィーネが現れるのを待っていたのだ。

 

「陽動に陽動をぶつけたか・・・食えない男だ。だが!この私を止められるとでも⁉」

 

「応とも!!ひと汗かいた後で、話を聞かせてもらおうかぁ!!」

 

弦十郎はフィーネに接近する。フィーネは鞭を振るって攻撃するが、その攻撃は弦十郎に容易く避けら、2本目の鞭も天井の梁を掴んで避ける。そして、弦十郎は降りて、フィーネに殴りかかる。フィーネはその拳を避けるが、その力が凄まじく、床に穴が開き、拳圧でネフシュタンの鎧にひびが入る。

 

「何っ⁉」

 

フィーネは弦十郎から距離をとる。鎧に入ったひびはネフシュタンの力で再生される。

 

「肉を削いでくれる!!!」

 

鎧にひびを入れたのが癪に障ったフィーネは弦十郎に向けて2つの鞭を振り下ろす。弦十郎は慌てず、2つの鞭を素手で掴み取り、鞭を引っ張ってフィーネを強引に引き寄せる。そして、自身の元まで近づけさせ、弦十郎はフィーネに鳩尾に拳を叩き込む。フィーネは急所を突かれ、地面に倒れる。

 

「ぐぅ・・・!完全聖遺物を退ける・・・どういうことだ⁉」

 

「知らいでか!飯食って映画見て寝る!漢の鍛錬は、そいつで十分よぉ!!」

 

「なれど人の身である限りはぁ!!」

 

フィーネはソロモンの杖を取り出し、ノイズを召喚しようとする。

 

「させるかぁ!!」

 

弦十郎はそうはさせまいと足で地面に衝撃を与え、浮き上がった破片を蹴り飛ばし、ソロモンの杖に直撃させる。これによってソロモンの杖は天井に突き刺さる。

 

「ノイズが出てこないならばぁ!!」

 

弦十郎は拳でフィーネに殴りかかろうとするが・・・

 

「弦十郎君!!」

 

「・・・っ!!」

 

卑怯なことにフィーネは了子としての声を出し、情を訴えようとする。それが決定打となり、弦十郎は怯んでしまう。その瞬間にフィーネは不敵に笑い・・・

 

ザシュッ!!

 

「司令!!」

 

鞭によって弦十郎の腹部を貫いた。腹部を貫かれた弦十郎は血を吐き、倒れる。

 

「いやあああああああああああ!!!」

 

海恋とは比べものにならないほどに出血して倒れる弦十郎に未来は大きく悲鳴を上げる。フィーネは倒れた弦十郎のポケットから彼の端末を奪い取る。

 

「抗うも、覆せないのが定めなのだ」

 

フィーネは鞭で天井に突き刺さったソロモンの杖を回収する。

 

「殺しはしない。お前たちにそのような救済など施すものか」

 

フィーネは弦十郎の端末を使って、デュランダルの一室のロックを解除する。フィーネは奥へと入っていき、扉を閉じて再び扉にロックをかけた。

 

「司令!!司令!!」

 

「げ、弦十郎さん・・・うぅ・・・!」

 

緒川と未来は弦十郎に駆け寄る。海恋も弦十郎に駆け寄るも、腹部の傷でうまく動けない。目の前の出来事に未来の顔は恐怖に染まっている。

 

~♪~

 

デュランダルまでたどり着いたフィーネはコンピューターキーボードを操作し、デュランダルの解除を試みる。

 

「目覚めよ天を突く魔刀・・・彼方から此方まで現れ出よ!」

 

フィーネの野望を体現するがごとく、デュランダルの輝きはより増していった。

 

~♪~

 

本部の司令室・・・オペレーターたちはモニターで日和たちが東京スカイタワーのノイズを撃墜したことを確認する。そこへ、負傷を負った海恋と弦十郎を背負った緒川と未来が入ってくる。

 

「!!司令!!海恋ちゃん!!」

 

「応急処置をお願いします!!」

 

緒川の指示を受けた女性オペレーターたちは急いで弦十郎と海恋の応急処置を施す。

 

「本部内に侵入者です!狙いはデュランダル!敵の正体は・・・櫻井了子!」

 

「なっ・・・!!」

 

「そんな・・・!」

 

告げられた事実にオペレーターたちの顔は驚愕に包まれる。

 

「小日向さん・・・急いで・・・日和に・・・立花さんに連絡を・・・!」

 

「響さんたちに回線を繋げました!」

 

通信が響の端末と繋がり、未来は響たちに現状を伝えようとする。

 

「響!!学校が・・・リディアンがノイズに襲われてるの!!」

 

バァン!!

 

すると突然司令室の電気が消え、部屋が暗くなる。

 

「なんだ!!?」

 

「本部内からのハッキングです!!」

 

「こちらからの操作を受け付けません!!」

 

「こんなこと・・・了子さんしか・・・」

 

本部内のハッキングという大きなこと、オペレーターたちの対処をブロック・・・それらのことができるのは了子しかいないということを突きつけられ、敵はフィーネ・・・了子であると受け入れざるを得ないオペレーターたち。

 

「・・・う、うぅ・・・」

 

「司令・・・」

 

しばらく時間が経ち、弦十郎が目を覚ました。彼はすぐに現状を確認する。

 

「状況は?」

 

「本部機能のほとんどが制御を受け付けません・・・地上及び、地下施設内も不明です・・・」

 

「・・・そうか・・・」

 

「響・・・」

 

「日和・・・」

 

未来と海恋の気持ちは響と日和の心配でいっぱいになのであった。




海恋の記憶能力

海恋のIQは300以上もある。ただこのIQは自然にできたものではなく、彼女の人の何倍もの努力の積み重ねの結果、そして自身の持つ直観記憶能力のおかげである。直観記憶能力とは、自分が見たもの、聞いたものを写真のように映像で記憶し、普通の記憶と比べて、桁違いの情報量を得ることができる。ただ彼女はこの能力に驕らず、何倍の努力を積み重ね、今のIQを得ている。ゆえに海恋は普通では難しい聖遺物の説明を1回で理解し、推察もかなり鋭い。


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月を穿つ

弦十郎が目を覚まし、緒川は負傷している弦十郎を抱え、海恋は未来が抱え、藤尭と友里と共に端末を頼りに電波が使える部屋を探している。

 

「防衛大臣の殺害手引きとデュランダルの狂言強奪・・・そして、本部にカモフラージュして建造されたカ・ディンギル・・・。俺たちは全て、櫻井了子の掌の上で踊らされてきた・・・」

 

「イチイバルの紛失をはじめ、他にも疑わしい暗躍がありそうですね・・・」

 

広木防衛大臣の殺害を含んだその他多くの案件は全て、櫻井了子の名を騙かったフィーネの仕業であったのだ。そして・・・日和の人生を一変させた出来事にも、全部・・・。

 

「それでも・・・同じ時間を過ごしてきたのだ・・・その全てが噓だったとは・・・俺には・・・」

 

「弦十郎さん・・・」

 

「甘いのはわかっている・・・性分だ・・・」

 

共に過ごしてきた仲間として見てきた弦十郎の言葉に、この場の全員、顔を俯かせた。

 

~♪~

 

未来からリディアン襲撃の連絡が届き、急いでリディアンに戻ってきた響たち4人。だが、戻って来た頃には、リディアンは以前の面影はなく、破壊つくされている。空の月は不気味に赤く輝いていた。

 

「未来ーーー!!みんなーー!!」

 

響は誰かいないか大声をあげるが、返事が返ってこず、膝が地につく。

 

「こんなことって・・・」

 

「リディアンが・・・あ!」

 

翼が人の気配を感じ、校舎の上を見てみると、そこに立つ者がいた。

 

「櫻井女史!」

 

その人物とは、この状況を作り上げた元凶、櫻井了子、もといフィーネであった。フィーネの姿は今了子の姿である。

 

「フィーネ!!お前の仕業かぁ!!」

 

「ふふふ・・・はははははは!」

 

もはや隠す必要がないと言わんばかりにフィーネは高笑いする。

 

「そうなのか⁉その笑いが答えなのか!!?櫻井女史!!」

 

「あいつこそ、あたしが決着を着けなきゃいけないクソッタレ!!フィーネだ!!」

 

「・・・っ!本当・・・だったんだ・・・。信じたくは・・・なかったよ・・・!」

 

フィーネはメガネをはずし、結んでいた髪をほどいた。そして、青白い光が身を包み、光が晴れるとフィーネはネフシュタンの鎧を身に纏い、本来の姿に戻った。

 

「嘘・・・嘘ですよね・・・?そんなの嘘ですよね・・・?だって了子さん、私と日和さんを守ってくれました」

 

「あれはデュランダルを守っただけのこと。希少な完全状態の聖遺物だからね」

 

デュランダルの移送作戦で、フィーネが日和と響を守っていたのは、デュランダルをただ守ることが目的だったと告げられても信じられない響。

 

「嘘ですよ~。了子さんがフィーネというのなら、じゃあ、本当の了子さんは?」

 

「櫻井了子の肉体は、先だって食い尽くされた。いや、意識は12年前に死んだといっていい。超先史文明期の巫女、フィーネは遺伝子に己が意識を刻印し、自身の血を引くものがアウフヴァッヘン波形と接触した際、その身にフィーネとしての記憶、能力を再起動する仕組みを施していたのだ。12年前、風鳴翼が偶然引き起こした天羽々斬の覚醒は、同時に、実験に立ち会った櫻井了子の内に眠る意識を目覚めさせた。その目覚めし意識こそが、私なのだ」

 

「あなたが・・・了子さんをつり潰して・・・」

 

「じゃあ・・・私たちが初めて出会っていたのは、了子さんじゃなくてあなた・・・?」

 

了子の意識がすでに塗りつぶされていたと聞いても、響と日和は信じられない気持ちでいっぱいだった。

 

「まるで過去から蘇る亡霊!!」

 

「ふふふ・・・フィーネとして覚醒したのは私1人ではない。歴史に記される偉人、英雄、世界中に散った私たちは、パラダイムシフトと呼ばれる技術の大きな転換期にいつも立ち会ってきた」

 

「シンフォギアシステム・・・!」

 

技術の転換期に該当する者がシンフォギアシステムだと翼が答えるが、フィーネは否定する。

 

「そのような玩具、為政者からコストを捻出するための福次品にすぎぬ」

 

「お前の戯れに、奏と玲奈は命を散らせたのか!!」

 

「あたしを拾ったり、アメリカの連中とつるんでいたのも、そいつが理由かよ!!」

 

「そう!全てはカ・ディンギルのため!!」

 

ゴゴゴゴゴゴゴ!!

 

フィーネが宣言し、両手を広げると、突如として地響きが発生する。すると、二課のエレベーターシャフトがあった位置より、様々な色や文様で彩られた塔が地面を貫いて伸びてきた。その高さはまさに天を仰ぐ塔といわれるにふさわしく、天に届くほどであった。

 

「これこそが!地より屹立し、天へと届く一撃を放つ過電粒子砲カ・ディンギル!!」

 

「こいつで、バラバラになった世界が1つになると!!?」

 

「ああ。今宵の月を穿つことによってな!」

 

「月を!!?」

 

「穿つと言ったのか!!?」

 

「それって、月を壊すってこと!!?」

 

「なんでさ!!?」

 

4人の疑問に答えるかのように、フィーネは呟く。

 

「私はただ、あのお方と並びたかった。そのために、あのお方へと届く塔を建てようとした。だがあのお方は、人の身が同じ高みにあることを許しはしなかった。あのお方の怒りを買い、雷霆に塔が砕かれたばかりか、人類は交わす言葉までもが砕かれる・・・。果てしなき罰。バラルの呪詛をかけられてしまったのだ。なぜ月が不和の象徴と伝えられてきたか・・・それは!!月こそがバラルの呪詛の源だからだ!!人類の相互理解を妨げるこの呪いを!月を破壊することで解いてくれる!!そして再び、世界を一つに束ねる!!」

 

フィーネは月を握りつぶすように、拳を握る。そして、その瞬間、カ・ディンギルが起動し、エネルギーが充電されていく。

 

「呪いを解く?それは、お前が世界を支配するってことなのか?安い!安さが爆発しすぎている!!」

 

クリスはフィーネを挑発する。フィーネは不敵な笑みを浮かべる。

 

「永遠を生きる私が余人に歩みを止められることなどありえない。お前たちも、あの子娘と同じ運命をたどるのだ」

 

「・・・あの子娘?」

 

フィーネは日和に視線を向け、笑みを浮かべる。

 

「・・・北御門玲奈はお前の最愛の仲間だったな」

 

「「!!」」

 

フィーネが今は亡き玲奈の名を口にし、友であった日和と翼は目を見開かせる。

 

「お前に1年前の真実を教えてやろう、東雲日和。あの日現れたノイズは偶然のものではない。私が差し向けたものだ」

 

「・・・・・・え・・・」

 

1年前のライブ配信に現れたノイズ襲撃の真実。それをフィーネから告げられ、日和は耳を疑った。

 

「2年前・・・ネフシュタンの鎧の起動実験の日・・・北御門玲奈は本部に残り、ネフシュタンの鎧のデータを観測していた。そこで奴は勘づいたのだ・・・あの暴走は、起こるべくして起きるものであると」

 

「なんだと!!?」

 

フィーネに告げられた言葉に日和だけでなく、翼も驚愕する。

 

「二課に対し不信感を抱いた奴は独自の調査を始めた。そして1年の月日を経て、奴は勘づいたのだ・・・ネフシュタンの鎧の出所を・・・そして、この私のことも。その直後だ、お前が奴にライブの計画を打ち明けたのは。結局奴はお前の計画に乗った!あのまま奴を野放しにすれば、計画に支障をきたす。だから・・・お前の計画を乗っ取り・・・奴を始末した。これが・・・1年前の真実だ」

 

フィーネより告げられた真実に日和は目を見開き・・・愕然とする。

 

「わかるか?奴自身の甘さが・・・お前の計画が、北御門玲奈を殺したのだ!!」

 

「・・・っ!だったら・・・だったら小豆や他の人はどう説明するの!!?あの場には他の人もいたんだよ!!?」

 

「元より、あの場にいた全員、始末する予定だった。奴に絶望を与えるためにな」

 

「そんな・・・」

 

「貴様・・・!」

 

「ひどい・・・ひどいよ・・・」

 

「てめぇ・・・!あたしの知らねぇとこで、そんなことまでやってやがったのか!!」

 

日和が開催したライブに集まった全員をフィーネは殺すつもりだった。その言葉に日和は唖然とし、翼は怒りが込み上げる。響は告げられた1年前の真実に悲しみを露にし、クリスは関係ない人間を巻き込ませたフィーネにさらに怒る。

 

「最も、お前だけが生き残り、如意金箍棒が渡り、覚醒を果たしたのは、誤算ではあったがな」

 

1年前のノイズがフィーネが仕向けたもので、そのためにライブをめちゃくちゃにしたこと、そして何より、観客と大切な友を死に追い込ませたことに、日和は怒りを露にし、拳を握りしめる。

 

「・・・私の事ならまだいい。私のせいだっていうのは私が1番知ってる。だけど!!バラルの呪詛とか、月を壊すとか・・・そんなわけのわからないことのためにノイズを使って・・・玲奈を・・・小豆を殺したことは・・・絶対に許せない!!!!」

 

日和はフィーネに向けて指をさし、宣言する。

 

「了子さん・・・いや・・・フィーネ!!!お前を倒す!!!お前は、玲奈と小豆の・・・みんなの仇だ!!!」

 

日和がフィーネに敵対宣言をすると同時に、4人は詠唱を唱える。

 

clear skies nyoikinkobou tron……

 

Balwisyall Nescell Gungnir tron……

 

Imyuteus amenohabakiri tron……

 

Killter Ichaival Tron……

 

4人はシンフォギアを纏い、クリスが先制攻撃として、ボウガンをフィーネに向けて放った。フィーネは軽々と避け、4人はフィーネに向かっていった。

 

~♪~

 

一方二課の本部で海恋たちは端末を頼りにして辛うじて電波が届く部屋へとたどり着く。だが、部屋の扉が瓦礫で防がれてしまったため、その瓦礫をどかして中に入る。部屋に中には誰かがいた。

 

「小日向さん!西園寺先輩!」

 

その人物とは、響のクラスメイトの創世、弓美、詩織の3人だった。どうやら3人は避難シェルターからここまで移動してきたようだ。避難シェルターは二課の本部と繋がっているので、ここに3人がいても不思議ではない。

 

「あなたたち、無事だったのね!」

 

「よかった・・・みんなよかった・・・」

 

3人が無事だったことにより、未来は安堵し、海恋も一安心している。

 

「せ、先輩・・・その怪我・・・」

 

「こんなの大したことないわよ」

 

今にも心が折れそうな弓美は海恋の怪我を心配してるが、海恋は大したことないと言い張る。藤尭は部屋に入る、電波が届くか確認する。すると、小型ながらもモニターが現れる。どうやら本当に辛うじて使えるようだ。

 

「この区画の電力は生きています!」

 

「他のところを調べてきます!」

 

緒川は他に電波が届く場所がないか探しに向かった。当然ながらいきなり知らない大人が入ってきたことに3人は戸惑っている。

 

「ヒナ、この人たちは?」

 

「うん・・・あのね・・・」

 

「我々は、特異災害対策起動部だ。一連の事態の収束に当たっている」

 

「それって・・・政府の・・・」

 

政府の人間がここに来ているとは思わず、さらに戸惑っている3人。

 

「モニターの再接続完了。こちらから操作できそうです!」

 

電波の再接続が終わり、モニターには外の映像が流れる。そこにはフィーネと戦っている4人の姿が映し出されている。

 

「!響!!」

 

「「「えっ!!?」」」

 

「日和!それにクリスも!」

 

まさか自分たちの友達と先輩が戦ってるとは思わず、3人は驚愕する。次にモニターはフィーネの姿を映し出す。

 

「これが・・・!」

 

「了子さん・・・」

 

自分たちの仲間であった了子の姿を見て、藤尭と友里は悲しそうな表情をする。

 

「どうなってるの・・・?こんなのまるでアニメじゃない・・・」

 

「ヒナはビッキーのこと知ってたの?」

 

「・・・ごめん・・・」

 

「話を聞く限りだと、小日向さんと立花さんは、前に喧嘩したことがあったのよね」

 

「は、はい」

 

「あれは、これと関係してたのよ。でも、政府の問題でもあるから、誰にも言えなかった。私の時もそうだった」

 

響と未来が喧嘩した原因を説明した海恋は不安に押しつぶされそうになっている弓美に視線を向ける。

 

「・・・大丈夫。きっと大丈夫だから」

 

海恋は弓美の不安を少しでも和らげるためにそばに寄り添い、彼女の頭を軽く乗せ、優しくなでる。そして海恋は冷静を装いながら、繰り広げられてる戦いを見守るのだった。

 

~♪~

 

4人はフィーネと戦っているが、フィーネ自身の戦闘能力が高いのもそうだが、完全聖遺物であるネフシュタンの鎧を纏っているため、苦戦を強いられている。

 

「うおおおおお!!」

 

【CUT IN CUT OUT】

 

クリスはフィーネに向けて複数の小型ミサイルをフィーネに向けた放った。フィーネは鞭を振り払って小型ミサイルを全て撃ち落とした。小型ミサイルの爆発の奥から竜巻の突風が現れ、フィーネに向かっている。この突風は日和が2つの棍を連結させ、回転させて発生させたものだ。

 

【疾風怒濤】

 

フィーネに慌てた様子はなく、ただ冷静に鞭の先端に黒い雷撃の白いエネルギー球体を作り上げ、突風に向けて放った。

 

【NIRUVANA GEDON】

 

球体は突風と激突し、爆発が生じた。フィーネは球体と突風の激突させることでこれを相殺させたのだ。生じた爆発に乗じて、煙から響が飛び出し、フィーネに武術を叩き込む。しかしフィーネはこれを全て躱し、響に続いて翼が振り下ろした刀を鞭で凌ぐ。フィーナは凌いだ鞭を翼の刀に巻き付け、遠くに放り投げる。

さらにフィーネは鞭で攻撃を仕掛け、翼はこれを躱し、両足のブレードで斬りかかる。フィーネは慌てず鞭を回して、全て防御する。

 

「「はああああああああ!!!」」

 

そこへ左右真横から日和と響が現れ、フィーネに攻撃を仕掛ける。左の日和の棍を、右の響の拳をフィーネは両腕で防ぐ。3人はフィーネから距離をとる。

 

「本命はこっちだ!!!」

 

クリスはフィーネに向けて大型のミサイルを撃ち放った。追撃する大型ミサイルをフィーネは軽々と躱していく。

 

「スナイプ・・・デストロイ!!!!」

 

クリスはもう1つの大型ミサイルを・・・カ・ディンギルに狙いを定め、撃ち放った。

 

「!!させるか!!」

 

それに気づいたフィーネはカ・ディンギルを守るように鞭を振るって大型ミサイルを撃墜する。それによって、自分を追撃していたもう1機の大型ミサイルを見失う。

 

「もう1つは・・・!」

 

フィーネが上を見上げると、大型ミサイルは月に向かって空高く飛んでいた。だがその大型ミサイルにはクリスが乗っていた。

 

「クリスちゃん!!?」

 

「何のつもりだ!!?」

 

「クリス!戻ってきて!!」

 

クリスが何をやろうとしているのかわからず困惑している。クリスの狙いはただ1つ・・・カ・ディンギルの発射を食い止めることだ。

 

「ちっ・・・!だが、足搔いたところで所詮は玩具!カ・ディンギルの発射を止めることなど・・・!」

 

フィーネはそれに気づくも止められるはずなどないと明言する。すると・・・歌が聞こえてきた。

 

Gatrandis babel ziggurat edenal

 

「!!!」

 

「この歌は・・・!まさか・・・!」

 

「絶唱・・・!」

 

そう・・・クリスが歌っている歌は命を燃やす歌・・・絶唱だ。

 

Emustolronzen fine el baral zizzl……

 

「クリス!!!やめてぇ!!!!」

 

日和は大声をあげてそれを止めようとするが、歌は止まらない。

 

Gatrandis babel ziggurat edenal

 

クリスは大型ミサイルから飛び降り、腰部からエネルギーリフレクターを展開する。そしてクリスは二丁拳銃を取り出し、リフレクターに撃った。弾はリフレクターで反射し、その能力が上昇していく。その形はまるで蝶のようだ。

 

Emustolronzen fine el zizzl……

 

クリスの絶唱が歌い終えると、クリスの二丁拳銃は超大型レーザー砲に姿を変えていく。二丁のレーザー砲を束ね、エネルギーが収束する。カ・ディンギルのエネルギーが充電完了すると、カ・ディンギルは月に目がけてエネルギーを発射される。それと同時にクリスのレーザー砲もエネルギーが溜まり、発射される。2つの強大なエネルギーはぶつかり合い、均衡しあっている。

 

「一転収束!!?押しとどめているだと!!?」

 

カ・ディンギルのエネルギーは留まっているが、クリスのレーザー砲は衝撃に耐えきれず、ひびが入っている。

 

(ずっとあたしは・・・パパとママのことが、大好きだった!だから・・・2人の夢を引き継ぐんだ!!)

 

衝撃は凄まじく、さらに絶唱のフィードバックによってクリスのシンフォギアにもひびが入る。

 

(パパとママの代わりに、歌で平和を掴んでみせる!あたしの歌は・・・そのために・・・)

 

クリスの脳裏に浮かんだのは、小さかったクリスと、雪音夫婦との、幸せだった思い出。その次に浮かび上がるのは、満面の笑みを浮かべて手を差し伸べてくれる、日和と海恋の姿だった。

 

(ああ・・・できることなら・・・あたしは・・・お前らと・・・夢を分かち合いたいよ・・・あたしの・・・初めての・・・友だ・・・)

 

クリスの放ったレーザー砲はカ・ディンギルに飲まれ、クリスはカ・ディンギルの砲撃に飲み込まれる。カ・ディンギルの砲撃は・・・月に直撃した。しかし、それは・・・ほんの一部だけで、欠けてしまったが月は健在だ。

 

「し損ねた!!?僅かに逸らされたのか!!?」

 

フィーネが驚いている間にも、クリスは口に血を流し、ボロボロの状態で落ちていく。日和はその光景を見て、玲奈が亡くなった日のことを、翼がボロボロになった日のことがフラッシュバックする。

 

クリスううううううううううううううううううううううううううううう!!!!!!!

 

日和は大声をあげて、悲しみを露にした。日和の叫び声は、リディアン中に響き渡った。




ウミヒメ

創世が海恋に対して付けたニックネーム。海に恋だからウミヒメだそうだが、本人はあまり気に入っていない・・・というか、呼んでもいいとも許可した覚えもない。一度日和もそのニックネームを呼ぼうとしたことがあったが、鋭い眼光で睨みつけられたため、大人しく引き下がったそうな。


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暴走

二課の本部の電波が届く一室で・・・クリスが落ちていく姿はここにいる全員が目撃していた。

 

「嘘でしょ・・・?クリス・・・友達になりたい・・・その返事も・・・まだもらってもいないのに・・・!バカ・・・!あんた・・・日和と同じくらいバカよ・・・!!」

 

「さよならも言わず・・・それっきりだったのに・・・なのにどうして・・・?」

 

クリスが落ちていく姿に、海恋と未来は悲しみを露にする。弦十郎は目の前の光景に目を見開いている。

 

(お前の夢・・・そこにあったのか・・・!そうまでして、まだ夢の途中というなら・・・俺たちはどこまで無力なんだ・・・!)

 

クリスを守ることができず、弦十郎は己の不甲斐なさ、己の無力さに打ちひしがれ、悔しさで目を閉じた。

 

~♪~

 

クリスが身を挺してカ・ディンギルの砲撃に立ち向かい、そして散っていった。その光景を目の当たりにし、3人は目を見開いている。

 

「雪音・・・」

 

「そんな・・・せっかく友達になれたのに・・・。これじゃあ・・・あの時と何も変わらない・・・!!」

 

「う・・・うぅ・・・こんなの・・・嫌だよ・・・嘘だよ・・・」

 

ドクンッ・・・ドクンッ・・・

 

3人が悲しみに打ちひしがれている時、響の心臓の音が、高くなった。

 

「もっと話したかった・・・!話さないと、喧嘩することも・・・今よりもっと仲良くなることもできないんだよ・・・!」

 

「クリス・・・私はまだ・・・あなたの夢を・・・聞くこともできてないんだよ・・・それなのに・・・死んだなんて・・・私は絶対に認めない・・・!!」

 

そんな悲しみを嘲笑うのは・・・フィーネだ。

 

「自分を殺して月への直撃を阻止したか・・・。はっ・・・無駄なことを・・・見た夢も叶えられないとは・・・とんだグズだな・・・」

 

フィーネの嘲笑に翼と日和は怒りの表情を浮かべる。

 

「・・・笑ったか・・・。命を燃やして、大切なものを守り抜くことを・・・お前は無駄と、せせら笑ったか!!!」

 

「ふざけるな・・・ふざけるなぁ!!!!玲奈だけじゃない!!!クリスの夢を・・・グズって・・・バカにして・・・嘲笑って!!!」

 

「・・・それガ・・・」

 

怒りを露にする翼と日和だったが、そこで響に変化が訪れた。

 

「ユメゴトイノチヲ!!!ニギリツブシタヤツノイウコトカアアアアアアアアアア!!!!!」

 

響の身体が真っ黒に染め上げ、怒りの咆哮を上げた。その姿はまさに・・・暴走する獣!

 

「ヴヴゥゥゥゥゥ!!!」

 

「立花⁉おい、立花!!」

 

「響ちゃん!!?どうしたの!!?」

 

突然変わり果てた響の姿に翼も日和も困惑するばかりである。

 

「融合したガングニールの欠片が暴走しているのだ。制御できない力に、やがて意識が塗り固められていく」

 

「そんな・・・」

 

フィーネの説明に、日和は驚愕する。聖遺物との融合とは、それすなわち人体に影響を及ぼす。何もないわけがなかったのだ。

 

『響ちゃんの心臓にあるガングニールの破片が前より対組織と融合してるみたいなの。驚異的なエネルギーと回復力はその所為かもね』

 

了子としてのフィーネの言葉を思い出し、翼はあることに気づいた。

 

「!まさかお前・・・立花を使って、実験を・・・?」

 

「実験を行っていたのは立花だけではない。見てみたいとは思わんか?ガングニールに翻弄されて、人としての機能を損なわれていく様を。北御門玲奈に関しても同様だ」

 

「お前はそのつもりで立花を!!奏を!!」

 

「しかも玲奈まで・・・!どこまで人の命をバカにすれば気が済むの!!!」

 

人の命でガングニールの力・・・いや、聖遺物の実験を行っていたフィーネの非人道的な思考に翼と日和は怒りを燃やす。それと同時に暴走した響が動き出し、フィーネに襲い掛かった。フィーネが響の攻撃を鞭で凌ぐと、辺りの瓦礫は衝撃で打ちあがった。そしてフィーネは響を鞭で薙ぎ払う。

 

「立花!」

 

「響ちゃん!」

 

「もはや人にあらず。今や人の形をした破壊衝動」

 

弾かれた響は四つん這いになり、再びフィーネに襲い掛かった。フィーネは鞭で陣を張り、障壁のバリアを作り上げた。

 

【ASGARD】

 

響の拳は障壁で防がれるが、暴走している響は力づくで破壊し、フィーネに殴りかかった。衝撃によって爆発が引きおこす。煙が晴れると、フィーネは頭から腹部までが真っ二つになっていた。だがしかし、フィーネはぎょろりと日和と翼に視線を合わせ、口元に笑みを浮かべている。

 

「・・・っ!ばけ・・・物・・・!」

 

引き裂かれてもなお生きているフィーネに日和は固唾をのんで、率直にそう言ってのけた。それと同時に、響がフィーネの近くに着地する。

 

「もうよせ立花!!それ以上は、聖遺物との融合を促進させるだけだ!!!」

 

「響ちゃん!!お願い!!正気に戻って!!」

 

翼と日和の言葉に響は反応し、今度は翼に襲い掛かってきた。翼は肘打ちで何とか攻撃を凌ぐ。

 

「響ちゃん!!」

 

弾き返された響は四つん這いになって着地し、必死に呼びかける日和に響は接近し、殴りかかった。対処が遅れた日和は殴られ、吹っ飛ばされる。

 

「あああ!!」

 

「東雲!!もう止まれ立花!!」

 

2人の必死の呼び声は響には届かない。その姿は・・・蹂躙する獣同然である。

 

~♪~

 

響が暴走し、日和と翼に襲い掛かる光景は戦いを見守るメンバーにも見えていた。

 

「日和!!翼さん!!」

 

「どうしちゃったの響!!?正気に戻って!!」

 

聞こえない中でも未来は響に必死に呼び掛ける。だが当然ながら届かない。

 

「・・・もう終わりだよ・・・私たち・・・」

 

「え・・・?」

 

すると、恐怖で震えている弓美が口を開いた。

 

「学院がめちゃめちゃになって・・・響もおかしくなって・・・」

 

「終わりじゃない!響だって、私たちを守るために・・・」

 

「あれが私たちを守る姿なの!!?」

 

未来が弓美を慰めようとするが、モニターには黒く染まった響が映り込んでおり、逆効果ともいえる。響の姿に創世、詩織も畏怖する。

 

バチンッ!!!

 

弱音を吐いている弓美に海恋は怒った顔で平手打ちをする。

 

「いつまでも弱音を吐くんじゃないわよ!!!怖いのはあなただけじゃないのよ!!!みんな同じよ!!!でもそれ以上に怖い思いをしてるのは、戦ってるみんなの方よ!!!それでも・・・それでもね!!!あれを見なさいよ!!!」

 

海恋がモニターの方に指をさす。そこに映ってるのは響に必死に呼びかける日和と翼だ。その中でも日和の目は、まだ諦めていない。

 

「あの子は、怖い思いをしてでも、まだ全然諦めてない!!それだけでも、信じる価値はあるわよ!!それを簡単に諦めないでちょうだい!!!」

 

「・・・私だって響を信じたいよ・・・この状況を何とかなるって信じたい・・・でも・・・でも・・・!」

 

恐怖で涙を流す弓美は膝を地につける。

 

「もう嫌だよ!!誰かなんとかしてよ!!怖いよ・・・死にたくないよぉ!!助けてよ響!!」

 

弓美は泣いて助けを懇願する。そんな中でも海恋は諦めずに、目の前の戦いを見守る。

 

~♪~

 

響の暴走は未だに続く。日和も翼ももうほとんどギアもボロボロの状態だ。2人は息を整える。

 

「ははは・・・どうだ?立花響と刃を交える感想は?お前の望みであったなぁ?」

 

フィーネは2人を嘲笑いながら、ネフシュタンの鎧の力で再生する。脅威の再生能力によって、フィーネの傷は完全に回復した。

 

「人のあり方さえ捨て去ったか・・・!」

 

「私と1つとなったネフシュタンの再生能力だ。おもしろかろう?」

 

言葉を交わす間にも、カ・ディンギルは再び起動し、エネルギーを充電している。

 

「カ・ディンギルが!!なんで!!?」

 

「まさか・・・!」

 

「そう驚くな。カ・ディンギルがいかに最強最大の平気だとしても、ただの一撃で終わってしまうのであれば兵器としては欠陥品。必要である限り何発でも撃ち放てる。そのために、エネルギー炉心には不滅の刃デュランダルが取り付けてある。それは尽きることのない無限の心臓なのだ」

 

「だからお前は・・・デュランダルを欲しがったのか!!」

 

カ・ディンギルの弾を何発でも撃てるようにするために完全聖遺物であるデュランダルを欲しがっていたのだと日和は気づく。

 

「だが、お前を倒せば、カ・ディンギルを動かす者はいなくなる!」

 

翼は刀をフィーネに突きつける。だが、翼の前に響が立ちふさがる。日和は翼を守ろうと前に出ようと動く。

 

「東雲、手を出すな」

 

「翼さん・・・」

 

「この先は、一切の手出しは無用だ」

 

だがそれを翼が止める。翼は響に視線を向け、響に語り掛ける。

 

「立花・・・私はカ・ディンギルを止める。だから・・・」

 

響は無慈悲にも翼に襲い掛かってくる。そんな中翼は・・・刀を地面に突き刺し、自らの身体でそれを受け止める。

 

ザシュッ!!

 

「翼さん!!!」

 

響の拳は翼の身体を突き刺し、ギアも一部粉砕し、血が流れる。響の攻撃を受け止めた翼は彼女を抱き寄せて、血が付いた響の掴んで優しく語る。

 

「これは、束ねてつなげる力のはずだろ?」

 

翼は小刀を取り出し、響の影に向けて投擲した。

 

【影縫い】

 

これによって動けなくなる響。翼は地面に突き刺した刀を抜く。

 

「立花・・・奏から受け継いだ力を、そんな風に使わないでくれ」

 

翼の言葉が効いたのか、響は涙を流す。そして、翼は日和に視線を向ける。

 

「東雲・・・立花を頼む・・・」

 

「翼さん・・・」

 

翼は響を日和に託し、フィーネのところまで向かっていく。翼の言葉を聞き、日和は翼に声をかける。

 

「翼さん!!絶対に・・・絶対に死なないでください!!ちゃんと生きてください!!」

 

「ああ・・・無論だ」

 

翼は日和に視線を向けて微笑む。そして、真剣な眼差しとなり、フィーネと対峙する。

 

「待たせたな」

 

「どこまでも剣ということか・・・」

 

「今日に折れて死んでも、明日に人として歌うために・・・風鳴翼が歌うのは、戦場ばかりでないと知れ!!」

 

「人の世界が剣を受け入れることなどありはしない!!!」

 

フィーネの2本の鞭が翼を襲う。翼はそれを飛んで躱し、追撃する鞭を両足のブレードで弾く。さらに翼は刀を大剣に変形させ、青の斬撃をフィーネに放つ。

 

【蒼ノ一閃】

 

フィーネは青の斬撃を真正面から鞭で相殺させる。翼が着地したと同時にフィーネは2つの鞭を放った。翼はこれをしゃがんで躱し、フィーネに接近して大剣を振るった。フィーネは大剣の斬撃に吹き飛ばされ、カ・ディンギルに激突する。

 

「翼さん・・・」

 

日和は響に近づいて抱きしめながら、翼の勇姿を見守る。翼は大剣を刀に戻し、高く飛んでフィーネに刀を投擲する。刀は先ほどの大剣より巨大になり、翼はスラスターで加速し、大剣に蹴りを入れ、フィーネ目掛けて降下する。

 

【天ノ逆鱗】

 

「ちぃ・・・!」

 

フィーネは鞭で3重もの障壁を張り、大剣を防いだ。だが翼の狙いは初めからフィーネではない。翼は大剣を足場にして高く飛び、両手に備えた剣が炎を纏い、カ・ディンギルに向かって昇っていく。

 

【炎鳥極翔斬】

 

「初めから狙いはカ・ディンギルか!!!」

 

翼の狙いに気づいたフィーネはそうはさせまいと翼に向けて鞭を放った。翼は何とか振り切ろうとするが、追いつかれてしまい、鞭の直撃を喰らってしまう。

 

(やはり・・・私では・・・)

 

翼が心の中で弱音を吐いた時だった・・・

 

『何弱気なこと言ってんだ』

 

『!奏・・・』

 

翼の心の中で、彼女は奏と再会する。

 

『翼・・・あたしと翼、両翼揃ったツヴァイウィングなら、どこまでも飛んでいける』

 

奏は翼に手を伸ばし、翼はそんな彼女の手を取る。

 

「翼さん!!!!飛んでください!!!翼さんなら・・・どこまでも高く、飛んでいけます!!!私が憧れた両翼・・・ツヴァイウィングみたいに!!!」

 

そして現実でも、日和の大きな声援を受けて、翼は何とか態勢を整える。

 

(そうだ・・・両翼揃ったツヴァイウィングなら・・・!)

 

翼は両剣に再び炎を灯し、カ・ディンギルの頂上へと昇っていく。

 

(どんなものでも、越えてみせる!!)

 

フィーネの鞭は翼を振り落とそうとするが、不死鳥が如く燃え盛る炎の前に、鞭は弾かれていく。

 

「翼さん!!!!」

 

「東雲ぇ!!!立花あああああああ!!!!」

 

炎を纏った翼はカ・ディンギルの頂上に昇り、突貫する。翼の思いが届き、カ・ディンギルは貫かれ、火花が散って・・・そして、カ・ディンギルは爆発し、破壊される。

 

「あああああああああああ!!!」

 

「翼さああああああああん!!!!」

 

カ・ディンギルが破壊され、悲願を潰されたフィーネは声をあげて嘆いた。日和は涙を流す響を抱きしめながら、自分も涙を流して翼に向けて声を上げた。

 

~♪~

 

カ・ディンギルが破壊した光景はこちらでも確認できた。それと同時に・・・天羽々斬の反応が亡くなったことも確認された。

 

「天羽々斬・・・反応、途絶・・・」

 

「身命を賭して、カ・ディンギルを破壊したか、翼・・・。お前の歌・・・世界に届いたぞ・・・世界を守り切ったぞ・・・!!」

 

弦十郎は拳を握りしめ、そう呟いた。

 

~♪~

 

カ・ディンギルが破壊されたのを見て、フィーネは目を見開いている。

 

「私の想いは・・・またも・・・!」

 

「翼さん・・・」

 

翼が放った小刀は消滅し、それと同時に響の暴走は収まったが、戦う意味を失い、響は膝を地につける。日和はそんな響を支える。その時、鞭を叩きつける音が聞こえ、日和はフィーネを睨みつける。

 

「ええい!!どこまでも忌々しい!!月の破壊はバラルの呪詛を解くと同時に、重力崩壊を引き起こす!!惑星規模の天変地異は恐怖し、うろたえ、そして聖遺物の力を私の元に帰順するはずであった!!痛みだけが、人の心を繋ぐ絆!!たった1つの真実なのに!!それをお前を・・・お前たちは!!!」

 

バキンッ!!!

 

「ぐっ!!?」

 

怒りに染まるフィーネに日和は拳を振るって殴りつけた。殴られたフィーネは日和にきっと睨みつける。

 

「そんなもので繋ぐ絆なんか・・・お断りだ!!!」

 

日和は右手首のユニットから再び棍を取り出し、うまく回転させて、それを構える。

 

「そろそろ決着をつけようよ・・・フィーネ。私とあなたの間に生まれた、この因縁を、終わりにする!!!」

 

日和はフィーネとの因縁を決着をつける気持ちが固まった。仇だからではない。痛みが人を繋ぐものではないと、手と手が繋がりあえる・・・その信念を貫くために。




海恋の秘密

基本は生真面目で融通があまり効かない海恋。そんな厳しくも世話好きではある彼女は実は赤ん坊には極端に弱く、そして甘い。頼んでもいないのに世話を焼こうとしたり、喋り口調も赤ちゃん言葉になってしまうことがあるとか。ただそれを日和にバレてしまったら終わりだと思っているようで、日和の前で、赤ん坊が現れた時、自分の気持ちを制御できるかどうか心配している。


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シンフォギア

カ・ディンギルが破壊し、怒りに燃えるフィーネ。そんな彼女に日和は因縁に決着をつけるために、己が信念を貫くために、彼女に正々堂々と敵対宣言をする。

 

「・・・ふ、ふふふ・・・はははは!」

 

フィーネは日和の宣言に笑いを上げ、そして日和を睨みつける。

 

「ほざくなぁ!!!!」

 

フィーネは2つの鞭を日和に放った。日和はその鞭をしゃがんで避けて、まっすぐにフィーネへと進んでいき、棍を振るう。だがフィーネはその棍の攻撃を腕で簡単に凌ぎ、逆に腕で日和を振り払う。振り払われた日和は何とか着地し、棍をフィーネに向けて一直線に伸ばす。

 

【一点突破】

 

一直線に伸びる棍をフィーネは片手で受け止める。そしてフィーネは受け止めた棍を握り、日和ごと棍を持ち上げ、地面に叩きつけた。

 

「があっ!!」

 

「日和・・・さん・・・」

 

地面に叩きつけられ、日和は血反吐を吐く。完全に戦意を失った響はただ涙を潤ませて、戦いを眺めることしかできなかった。

 

「たかが小娘が生意気にぃ!!!」

 

フィーネは鞭を日和に向かって振り下ろした。何度も、何度も。血を出ていようが、倒れていようがお構いなしだ。

 

「ああああああああああ!!!」

 

これは戦いと呼べるようなものではない。これでは、ただ一方的な蹂躙だ。

 

~♪~

 

二課の電波が届く一室で・・・日和が蹂躙されていく映像に一同は目を逸らしたくなってくる。

 

「ひ、ひどい・・・こんなの一方的だよ・・・」

 

「・・・っ!もう見てられない!」

 

響のクラスメイトの3人は目を逸らそうとする。それでも海恋と未来は・・・目を逸らさない。

 

「・・・みんな。日和の目を見なさい」

 

3人は海恋に言われた通りに、恐る恐ると、日和の目を見て、驚く。その目は、どんなに痛くても、苦しくても、まだ諦めておらず、生に満ち溢れている。

 

「まだ・・・諦めてないの・・・?」

 

「どうして・・・?」

 

3人の疑問に海恋はモニターを見つめて語る。

 

「・・・1年前の事件は、あなたたちも知ってるわね。あの事件を体験したからこそ、あの子は生きることに執着するのよ。執着しているからこそ、どんな可能性でも捨てない。誰かを助ける可能性も、誰かが生きてる可能性も全部。例え0%の可能性だったとしても、その0.1%でも残っているのなら、あの子は、それに縋るのよ。だからあの子は、最後の瞬間まで諦めず、戦うのよ」

 

最期まで抗い続ける日和の執念ともいえる精神に弓美は涙を流す。

 

「・・・わかんないよ・・・どうしてみんな戦うの⁉あんなに痛い思いをして・・・怖い思いをして!」

 

「わからないの!!?」

 

弓美の言葉に未来が涙を流しながら大声で遮った。そして未来は弓美の肩を掴んで正面から見つめる。

 

「・・・海恋さんの話を聞いても、わからないの?」

 

未来に諭されて、弓美は大声で泣いた。そんな中でも海恋は、日和の戦いを見守る。

 

~♪~

 

鞭で一方的に蹂躙された日和の身体はすでにボロボロだ。ギアの至る所にヒビがあり、日和自身も痛々しいほどに傷ができて、血を流している。それでも日和は・・・痛みを堪えて、棍を頼りに立ち上がる。

 

「・・・いい加減煩わしい」

 

フィーネは日和に鞭を放ち、彼女を地にひれ伏させた。

 

「・・・もうずっと昔、あの方に仕える巫女として仕える身であった私は・・・いつしかあのお方を・・・創造主を愛するようになっていた。だが、この胸の内を告げることはできなかった。その前に私から・・・人類から言葉が奪われた。バラルの呪詛によって、唯一創造主と語り合える統一言語を奪われたのだ。私は数千年にわたり・・・私は・・・たった1人バラルの呪詛を解き放つため、抗ってきた。・・・いつの日か・・・統一言語にて、胸の内の想いを届けるために・・・」

 

フィーネの語りには、人には想像を絶するような悲しみが込められていた。日和はその語りを聞いて・・・フィーネも被害者なのだろうと、哀れむようになる。

 

「・・・だからって・・・だからって・・・人を殺していいわけが・・・」

 

「是非を問うだと!!?遊び半分の恋心しか知らぬお前がぁ!!!!」

 

再び立ち上がる日和の言葉にフィーネは涙を流しながら、鞭を振るった。日和が何度血を吐いても、何度も、何度も。

 

~♪~

 

弓美がようやく落ち着き、一同は日和が諦めずに戦う姿を見守る。すると、複数人の足音がこの部屋に近づいてきた。

 

「司令!周辺区画のシェルターにて、生存者、発見しました!」

 

その音の正体とは緒川とこのシェルターに避難してきた一般市民だった。

 

「そうか!よかった・・・」

 

生存者を何人も確認できて、弦十郎は安心する。

 

「!!日和!!」

 

生存者の中には咲もおり、咲はモニターに映っているボロボロになっている日和を見て、驚愕する。

 

「咲さん・・・これは・・・その・・・」

 

「・・・何か隠してあるとは気づいてたけど・・・こういうことだったのね・・・」

 

海恋は咲に説明しようとしたが、彼女を見てそれをやめた。なぜなら咲はボロボロになってもまだ、諦めずに、希望を捨てずに戦う日和の目を目の当たりにして、涙を流しているのだから。

 

「・・・辛い思いをして・・・自分も苦しいのに・・・それでも前を向いて・・・今も諦めずに・・・。あなたは・・・私の自慢の妹だわ・・・」

 

咲は心配する気持ちよりも、日和の頑張る気持ちに応援したい気持ちでいっぱいになっている。

 

「・・・あ!お母さん!かっこいいお姉ちゃんだ!」

 

「あ、ちょっと!待ちなさい!」

 

すると、小さな女の子が響の姿を見つけて無邪気ながらモニターに近づく。

 

「すみません・・・」

 

「ビッキーのこと、知ってるんですか?」

 

この小さな女の子の母親はあまり詳しいことは伝えず、最低限の事だけは話す。

 

「・・・詳しいことは言えませんが・・・うちの子は、あの子に助けていただいたんです」

 

「え・・・?」

 

そう、この女の子は響がギアを初めて纏った日、ノイズに襲われそうになったところに響が助けてもらったのだ。響が日和と初めて出会ったのは、ちょうどその時だったのだ。

 

「自分の危険も顧みず、助けていただいたんです。きっと、他にもそういう人たちが・・・」

 

「響の・・・人助け・・・」

 

人助けをするというのが響の趣味であり、生きがいでもある。その姿が容易に想像できた弓美はなぜ戦うのかという答えが見つけたような気がする。

 

「ねぇ、かっこいいお姉ちゃんたち、助けられないの?」

 

「助けようと思っても、どうしようもないんです。私たちには何もできないですし・・・」

 

少女の問いかけに詩織が答える。

 

「じゃあ応援しよ!ねぇ!ここから話しかけられないの?」

 

「う、うん・・・できないんだよ・・・」

 

表情が明るい少女の問いかけに藤尭が申し訳なさそうに答えた。いくらサポートのプロの力があったとしても、ここの電波は辛うじて使える状態。音声を届けられない。電波が届かないこの状況下の中では、厳しすぎる。

 

「・・・応援・・・!」

 

海恋は少女の言葉によって、河川敷で自分が日和に応援を送っていた出来事を思い出す。あの日、海恋が日和に応援したことで、日和に力がみなぎったのは事実だ。

 

「ここから日和たちに、私たちの声を・・・無事を知らせるにはどうすればいいんですか?私たち、あの子たちを助けたいんです!」

 

「助ける?」

 

海恋がこの状況の打破するためにどうすればいいかを弦十郎に尋ねた。その問いには弦十郎の代わりに藤尭が答える。。

 

「学校の施設がまだ生きていれば、リンクして、ここから声を届けられるかもしれません」

 

藤尭の言葉に海恋たちはそれに掛けることにした。これが、力を持たない人たちなりの戦い方なのだ。

 

~♪~

 

日和の姿はもうボロボロで普通ならもう起き上がることもできないほどだ。だが日和は、手首を動かした後に、何とか起き上がる。

 

「まだ・・・起き上がるか・・・!」

 

響のように聖遺物と融合していないにも拘らず、あれだけ蹂躙されてそれでもなお立ち上がる日和の驚異的な生命力にさすがのフィーネも驚きを隠せない。

 

「まだ・・・だ・・・まだ・・・私は・・・・!」

 

「何なんだ・・・貴様は!!!」

 

自分の予測を大きく超えた存在である日和にフィーネはとどめとして鞭を放ち、彼女の身体を貫いた。

 

ガシッ!!

 

「なっ・・・!」

 

だが貫かれても日和はまだ生きており、フィーネの放った鞭を掴んでいる。

 

「私は・・・諦めない・・・!」

 

「・・・日和・・・さん・・・」

 

諦めない日和の姿勢に、逆に諦めて生気を失ったような目をしている響が口を開く。

 

「翼さんも・・・クリスちゃんも・・・もういない・・・学校も壊れて・・・みんないなくなって・・・。私は・・・私は何のために・・・何のために・・・戦って・・・」

 

「響ちゃん」

 

日和は響に視線を向け、声をかける。

 

「・・・私のこの力は、奇跡から始まったんだ。ノイズに殺されそうになって・・・偶然目覚めたこの力。ここからなんだ・・・私の人生に、色がさらに増え始めたのは。あの奇跡があったから・・・私はみんながいなくなったなんて認めないし、最後まで、諦めないんだ」

 

「・・・きせ・・・き・・・?」

 

「奇跡は自分で起こすものなんかじゃない。自分でも予測できないからこそ奇跡なんだ。私は奇跡に縋るわけじゃないけど・・・もしも・・・もしもこの状況を覆すことが起きるというのなら・・・私は・・・その可能性を信じたい!奇跡を信じたい!!」

 

日和は心を落ち着かせ、息を吸い込んで大きく吐き出す。そして・・・意を決したように・・・口ずさむ。

 

Gatrandis babel ziggurat edenal

 

「!!まさか・・・!!」

 

Emustolronzen fine el baral zizzl……

 

「・・・絶・・・唱・・」

 

そう、日和が歌っているのは、命を燃やす歌、絶唱だ。この状況下で、日和は自分の命を燃やす覚悟を決めたのだ。だがそれは死ぬためではない。生きるために歌うのだ。

 

Gatrandis babel ziggurat edenal

 

Emustolronzen fine el zizzl……

 

日和が絶唱を歌い切った時、2つの棍が光だし、日和の両手に身に纏う。光は形を整え、赤と黄色が配色された巨大なガントレットに変わる。ガントレットを装備した日和は自分を貫く鞭を力づくで引きちぎった。

 

「愚かな!自ら己が命を投げ捨てるとはな!!」

 

「私は死なない!!」

 

フィーネの言葉を否定するように日和は口に血を流しながら言い放った。

 

「絶対に死にはしない!!死んでいった玲奈と小豆の約束・・・生きてる海恋との約束・・・その約束を・・・私が・・・破るものかあああああああああああ!!!!」

 

日和は拳を構え、フィーネに向かって突進する。フィーネはすかさず障壁を何層も張り、盤石な防御態勢に入る。日和は構わず障壁に向けて拳を放つ。

 

バキンッ!!バキンッ!!バキンッ!!バキンッ!!バキンッ!!

 

「何っ!!?ぐあ!!?」

 

だがそれで止まらず、拳は障壁を全てあっさりと壊し、そのままフィーネに届いた。日和はそれで止まらず、もう1発の拳をフィーネに叩きつけ、吹き飛ばした。

 

ビキビキビキビキッ!!

 

(!!ネフシュタンの鎧に・・・ヒビが・・・!!)

 

日和の絶唱の一撃にネフシュタンの鎧だけでなく、フィーネの身体にもひびが入る。さらに日和は両手にエネルギーを込め、強大な一撃を放とうとする。すると・・・

 

『本当に、無茶ばーーっかりするよね、日和はさ』

 

『仕方ないよ。日和だもの。言い出したら聞きやしない』

 

小豆と玲奈の魂が、日和に寄り添っている。そして、2人の魂はガントレットに手を触れる。

 

『私も手伝ってあげるから・・・思いっきりかましちゃってよ』

 

『そうさ。私たちは・・・3人そろってこそ、アビスゲートなんだから』

 

2人の魂がこもった力を日和は両拳をぎゅっと握りしめ、吹っ飛ばしたフィーネに狙いをつける。

 

「私も鎧も不滅!!たかが玩具に敗れる通りなどない!!」

 

「可能性は0じゃない!!いや・・・例え0だったとしても!!その0.1%でも残っている限り!!私は・・・その可能性を・・・捨てはしないんだあああああ!!!!」

 

日和は力を込めたガントレットをフィーネに向けて伸ばした。凄まじい勢いで伸びていく拳をフィーネに直撃させる。この一撃にフィーネのひびは大きくなっていく。

 

ぐああああああああああああああ!!!!

 

届けええええええええええええええええ!!!!!!

 

伸びていく拳は破壊されたカ・ディンギルに突っ込み、大爆発を引き起こした。

 

~♪~

 

響たちに自分たちの無事を知らせるために海恋たちは緒川の案内の下、学校の施設を復帰させるための制御室の前にたどり着いた。

 

「この奥に切り替えレバーが?」

 

「こちらから動力を送ることで、学校施設の再起動が、できるかもしれません」

 

「でも、緒川さんだとこの隙間には・・・」

 

ただこの部屋のドアは電波が届かないために自動で開けない。自力で動かすこともできない。唯一入れる隙間も、大人では入ることはできない。

 

「なら私が行くわ」

 

「無理しないでください。海恋さんはまだ傷が癒えてないんですから・・・」

 

「けど・・・日和が今も戦っているのに・・・」

 

確かに生徒たちなら隙間に入れるだろうが、海恋はフィーネにやられた傷が癒えてないため、未来が止める。

 

「あ、あたしが行くよ!」

 

「弓美?」

 

すると弓美が勇気を出してこの奥に入ると言い出した。

 

「大人じゃ無理でも、あたしならそこから入っていける!アニメだったらさ、こういう時、こういう時、体のちっこいキャラの役回りだしね。それで日和先輩を・・・響を助けられるなら!!」

 

「でもそれはアニメの話じゃない!」

 

「アニメを真に受けて何が悪い!ここでやらなきゃ、あたしアニメ以下だよ!非実在少年にもなれやしない!この先、響の友達だって胸を張って答えられないじゃない!!」

 

弓美の勇気を出した決断に未来と海恋は表情を明るくさせる。

 

「ナイス決断です。私もお手伝いしますわ」

 

「だね。ひよりん先輩やビッキーが頑張ってるのに、その友達が頑張らない理由はないよね」

 

「みんな・・・」

 

創世、詩織も響たちのためにやるべきことをやると決めたようだ。外には大人の緒川と怪我をしている海恋は残り、未来たち4人が隙間の中に入り、制御室に入る。4人は組体操のピラミッドで天辺の弓美を乗せ、弓美は動力スイッチを入れようと奮闘する。その様子を緒川と海恋が見守る。弓美は限界まで踏ん張り、そしてついに動力スイッチの切り替えに成功する。その際に4人は態勢を崩れてしまうが、成功し、共に喜び合う。その様子に海恋は微笑ましい笑みを浮かべる。

 

~♪~

 

動力スイッチを入れたことによって電波は復旧する。

 

「来ました!動力、学校設備に接続!」

 

「光電のスピーカー、行けそうです!!」

 

「やったぁ!!」

 

電力が復旧し、スピーカーが使えるようになり、少女は喜ぶ。

 

「でも・・・日和が・・・!」

 

咲は心配そうにして、モニターを見ている。モニターには、絶唱でボロボロになった日和の姿があった。

 

~♪~

 

フィーネをカ・ディンギルにぶつけた日和は伸ばしたガントレットを元に戻し、本来の棍の姿に戻す。

 

「・・・やった・・・の・・・」

 

響が口を開くと・・・日和は棍を手放し、口からを血を吐いて、そのまま・・・倒れてしまい、ギアも解除される。

 

「日和・・・さん・・・?」

 

響が声をかけるも、日和はピクリとも反応しない。動かない。それを見て響は・・・日和が亡くなってしまったという考えに至ってしまう。

 

「そん・・・な・・・日和さんまで・・・。奇跡は・・・起こらなかった・・・」

 

響は日和の姿を見て、奇跡は起こらなかったと、涙を流す。

 

ドオオオオン!!!

 

すると、カ・ディンギルから衝撃が現れ、煙から・・・なんと、ボロボロの状態になっていたフィーネが現れた。

 

「ぐっ・・・お・・・おのれぇ・・・たかが小娘ごときに、この私にここまで深傷を負わせるとは・・・!やはりあの時、殺しておくべきだった・・・!!」

 

「・・・そん・・・な・・・」

 

ボロボロになったフィーネの身体はネフシュタンの鎧の再生能力によって傷が全て再生されてゆく。響はその事実に驚愕し、深く絶望する。

 

「お前のおかげだよ・・・生体と聖遺物の初の融合症例。お前という先例があったからこそ、己が身をネフシュタンと同化させられた・・・。つまりこの小娘が、何をやろうとも無駄なことなのだぁ!!!」

 

そう言ってフィーネは日和の身体を蹴り上げて遠くへ吹き飛ばした。そして、フィーネは響の髪を掴み上げて、地面に叩きつけた。

 

「シンフォギアシステムの最大の問題は、絶唱使用時のバックファイア。融合体であるお前が絶唱を放った場合、どこまで負荷を抑えられるのか・・・研究者として興味深いところではあるが・・・もはやお前で実験してみようとは思わぬ。この身も同じ融合体だからなぁ。私に並ぶものは全て絶やしてくれる」

 

そしてフィーネは鞭を突き立て、響を刺そうとする。すると・・・突如としてリディアンの校歌が流れてきた。聞こえてきた校歌にフィーネは不快感を露にする。

 

「耳障りな!何が聞こえている⁉」

 

校歌が流れているのは、まだ生きていた学校のスピーカーからだ。そして、この校歌を歌っているのは、未来と海恋、避難シェルターにいるリディアンの生徒たちであった。

 

(響、私たちは無事だよ。響が帰ってくるのを待っている。だから・・・負けないで!)

 

(日和・・・あなたはまだ・・・諦めてないんでしょ。ボロボロになっても、死にそうになっても・・・あなたは・・・生きるのを諦めないんでしょ。だったら・・・起きて。起きてその信念を貫きなさいよ。私たちの約束・・・でしょ?)

 

この校歌には、未来や海恋の・・・生き残った全員の想いが込められている。

 

「なんだこれは・・・⁉どこから聞こえてくる⁉この不快な、歌!・・・歌、だと⁉」

 

「・・・聞こえる・・・みんなの声が・・・」

 

朝日が昇ると同時に、みんなの歌に、響に生気が戻ってきた。

 

「よかった・・・。私を支えてくれるみんなは、いつだってそばに、みんなが歌ってるんだ。だから・・・まだ歌える・・・頑張れる!!戦える!!!」

 

響は復活した意志と共に立ち上がり、ギアの光を展開し、フィーネを吹き飛ばす。復活した響にフィーネは驚きを隠せない。

 

「まだ戦えるだと!!?何を支えに立ち上がる!!?何を握って力と変える!!?鳴り渡る不快な歌の仕業か?そうだ、お前が纏っているものはなんだ!!?心は確かに居り砕いたはず!なのに!何を纏っている!!?それは私が造ったものか!!?お前が纏っているそれはなんだ!!?なんなのだ・・・!!!??」

 

空に4つの大きな光が伸びていく。森から赤い光が、破壊したカ・ディンギルから青い光が、平地から茶色い光が、響から黄色い光が。そして、4人はシンフォギアを身に纏う。

 

シィィィンフォギィアアアアアアァァァァァ!!!!!!

 

4人は空高く飛翔する。シンフォギアの装甲はいつもとは違い、色は純白で、背中には光の翼を展開している。この力は・・・1人では決してたどり着けない・・・絆と絆が繋ぎ合わせた奇跡・・・その名も・・・

 

エクスドライブ!




日和の絶唱

玲奈が解き放った絶唱は適合率が落ちていたうえに、周りの敵を全て殲滅するためにエネルギーを解き放つという無謀な使い方をしていた。
日和の引き起こした絶唱が如意金箍棒の本来の力で、形をガントレットに変え、絶唱によって上回った力を相手に向けて解き放つ強力な一撃。そして、如意金箍棒の特性である伸縮自在能力も健在で遠く離れた敵に向けて拳をロケットパンチのような容量で伸ばし、強大な一撃を放つことも可能。これは絶唱であるために、当然ながら装者へのバックファイアを起こすため、あまり使用はお勧めはできない。


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奇跡の力、エクスドライブ

無印編-ルナアタック事変-ラストバトル!これならマリアさんの誕生日にはG編間に合うかな。


4人が生きていて、そのうえエクスドライブを身に纏った姿は地下にいる皆が見ていた。

 

「お姉ちゃんたち、かっこいい!」

 

「やっぱりあたしたちがついてないとダメだなぁ」

 

「助け、助けられてこそ、ナイスです」

 

「私たち、一緒に戦ってるんだ!」

 

皆の目は、この光景によって、希望が見え始めた。

 

「本当にもう・・・全員心配ばっかかけさせるんだから・・・」

 

海恋は4人が生きていて、呆れつつも安心したような笑みを浮かべる。

 

~♪~

 

エクスドライブを身に纏うことで空を飛べるようになった4人の背には朝日が昇っていく。

 

「みんなの歌声がくれたギアが、私に負けない力を与えてくれる。クリスちゃんに翼さん、そして日和さんにもう1度立ち上がる力を与えてくれる。歌は戦う力だけじゃない。命なんだ!」

 

空を飛ぶ4人をフィーネは苦々しく地上から見上げる。

 

「高レベルのフォニックゲイン・・・こいつは2年前の趣旨返し・・・」

 

『んなこたどうでもいいんだよ!!』

 

クリスが口を開かずとも、脳で直接会話ができるようになっている。

 

「念話までも・・・。限定解除されたギアを纏って、すっかりその気か!!」

 

フィーネはソロモンの杖から光線を撃ち、複数のノイズを召喚させる。

 

『またノイズを!いい加減鬱陶しいんだよ!!』

 

『世界に尽きぬノイズの災禍は、全てお前の仕業なのか!!』

 

翼の問いかけに、フィーネも念話で答える。

 

『ノイズとはバラルの呪詛にて相互理解を失った人類が同じ人類のみを殺戮するために作り上げた自律兵器』

 

『人が人を殺すために・・・⁉』

 

『バビロニアの宝物庫は、扉が開け放たれたままでな。そこからまろび出る10年一度の偶然を、私は必然と変え、純粋に力として使役しているだけのこと・・・』

 

『またわけわかんねぇことを!!』

 

召喚されたノイズは一斉に4人に向かって突進してきた。4人は難なくそれを躱す。

 

「怖じろ!!!」

 

フィーネは大きなエネルギーを蓄えたソロモンの杖を空に向けて撃ち放った。光線は空中で拡散し、街中に散らばっていった。降り注いだ光線から大型を含め、大量のノイズが出現する。もう街は、完全にノイズのみで埋め尽くされていた。

 

「あっちこっちから!」

 

4人がノイズを見回していると、ふと日和が笑みを浮かべる。

 

「・・・どうしてかな・・・。この光景を見たら、私、怖がるはずなのに。でも、今は・・・どうしてこんなの相手に今まで怖がってたんだろうなって、思えてきたよ」

 

以前までの日和ならば大量のノイズの前に、情けなく泣いて、怖がって逃げ回っていただろうが、今は違う。いや・・・ノイズと戦っていくうちに・・・恐怖というものが少しずつながらもなくなっていたのだ。

 

「私、ノイズなんか全然怖くない!!!!」

 

そして今日この日、日和の中のトラウマ、そして恐怖が完全に克服できたのだ。

 

「おっしゃあ!!どいつもこいつもまとめてぶちのめしてくれる!!なあ!相棒!!」

 

「相棒・・・うん!やろう、クリス!!」

 

クリスから相棒と呼ばれて嬉しくなった日和はクリスと共に真っ先にノイズ殲滅に向かっていく。翼はそんな2人に頼もしい笑みを浮かべる。

 

「翼さん・・・私・・・翼さんに・・・日和さんにも・・・」

 

響は暴走状態であったとはいえ、翼や日和に攻撃してしまったことに対し、申し訳なさそうな表情をする。そんな響に翼は優しい笑みを浮かべる。

 

「どうでもいいことだ」

 

「え?」

 

「立花は私の呼びかけに答えてくれた。自分から戻ってくれた。自分の強さに、胸を張れ」

 

「翼さん・・・」

 

「一緒に戦うぞ、立花」

 

「はい!!」

 

翼の言葉に力強く返事する響。響と翼は日和とクリスと並び、そして散開し、各々がノイズの殲滅に入る。響がバンカーを引き上げ、大型ノイズ2体を貫く。撃破した大型ノイズの爆発で、連動して近くにいた小型ノイズは爆発に巻き込まれて数多く消滅させる。

 

「オラオラオラァ!!」

 

クリスはアームドギアを飛行型の乗り物に変形させ、ビームの拡散射撃を飛行型ノイズを狙い撃ちで撃ち落としていく。

 

【MEGA DETH PARTY】

 

撃ち放つホーミングレーザーで逃げまとう飛行型ノイズを貫き、さらに他の飛行型ノイズをも追撃させ、撃ち落としていく。

 

『やっさいもっさい!!』

 

『すごい!乱れ撃ち!!』

 

『全部狙い撃ってんだ!!』

 

『さすがクリス!!なら私は・・・一点集中だ!!』

 

響のボケにクリスがツッコミを入れてる間に日和は棍をまっすぐに構え、弾丸のように・・・いやそれ以上を上回るスピードでノイズの群れに突っ込む。

 

【電光石火】

 

凄まじいスピードで勢いの乗った棍の一撃によってノイズの群れは一気に殲滅し、奥にいる大型ノイズも複数撃破する。

 

『へっ!やるじゃねぇか!』

 

『すごい!すごいです日和さん!』

 

『どんなもんだい!』

 

『よーし!だったら私は・・・乱れ撃ちだぁ!!』

 

響はバンカーの衝撃で文字通り地上のノイズを乱れ撃ちで次々と殲滅していく。翼は大剣を構え、大型飛行型ノイズに向けて青の斬撃を放った。

 

【蒼ノ一閃】

 

青の斬撃は通常との威力が段違いで苦戦していた大型飛行型ノイズを一気に2体殲滅する。日和が棍で崩し、響が拳で貫き、翼は剣で切り裂き、クリスがビームを撃ち抜いて、街のノイズを殲滅させていく。それなりに多くのノイズを片付け、4人は背中を合わせて臨戦態勢を整える。

 

「どんだけで出ようが今更ノイズ!」

 

「うん!私たちの敵じゃない!」

 

「!!」

 

すると翼はリディアンの方で異変に気付いた。リディアンでは、フィーネが自らの腹にソロモンの杖を貫こうとしている。そして、フィーネが不敵に笑うと・・・彼女は本当にソロモンの杖で己の腹を貫いた。そして、ネフシュタンがソロモンの杖をフィーネの身体だと認識し、ソロモンの杖との同化した。杖の力をコントロールできるようになったフィーネはまだ街に残っているノイズを自らの元へと集めていく。さらにそこに光線でさらにノイズを召喚し、自らに集中させる。

 

「ノイズに・・・取り込まれて・・・?」

 

「そうじゃねぇ!あいつがノイズを取り込んでんだ!!」

 

ノイズを取り込み、異形の塊となったフィーネの一部が4人に襲い掛かった。4人はそれを難なく回避する。

 

「来たれ!デュランダル!!!」

 

そして、異形の一部がカ・ディンギルの内部に侵入し、エネルギー炉心のデュランダルをも取り込んでいく。デュランダルの無限のエネルギーを得た異形の塊は形が成されていき、まるで巨大な竜の姿へと変化させていった。そして、異形の竜の頭部より、赤白いレーザーを街に向けて撃ち放った。そして、その瞬間・・・

 

ドオオオオン!!!!

 

街は大爆発し、強烈な爆風が生じる。4人は防御態勢を取り、何とか吹き飛ばされずに済んだが、街の方は焼け野原と化していた。

 

「!!街が!!」

 

「そんな・・・!」

 

目の前の強大な存在の強力な破壊力に戦慄する4人。

 

「逆さ鱗に触れたのだ・・・相応の覚悟はできておろうな」

 

竜の核と思われる胸部にはデュランダルを手にしたフィーネがおり、不敵に笑っている。そして、竜の頭部は今度は4人に狙いを定め、先ほどと同じレーザーを撃ち放った。

 

「うあっ!!」

 

レーザーの回避は成功できたが、凄まじい熱量と威力の前に吹っ飛ばされる。

 

「このぉ!!!」

 

クリスはアームドギアで何とか吹き飛ばれずに済み、即座にホーミングレーザーをフィーネに向けて放つ。だがしかし、竜の胴体の一部がシャッターのように閉められ、ホーミングレーザーは全て防がれる。そして、今度は竜が翼を広げ、ホーミングレーザーをクリスに撃ち放った。クリスは何とか躱そうとするが、振り切れず直撃してしまう。

 

「ぐあああああ!!」

 

「クリス!!このぉ!!!」

 

日和は2つの棍を連結させて、竜巻のような突風を竜に向けて放った。

 

【疾風怒濤】

 

突風は竜の胴体に直撃した。だがしかし、損傷はかすり傷のようなもので・・・しかもネフシュタンの鎧の能力によって、その傷もすぐに再生される。日和に続いて翼が再び大剣を構え、青の斬撃を放つ。

 

【蒼ノ一閃】

 

斬撃は竜に直撃するも、傷はやはり再生される。響の放つバンカーの強力な拳を放ち、穴をあけるも、その穴は再生される。

 

『いくら限定解除されたギアであっても、所詮は聖遺物の欠片から作られた玩具!完全聖遺物に対抗できるなどと思うてくれるな』

 

フィーネは4人を見下すようにそう言い放ったが、フィーネの言葉に翼とクリスはこの状況を打破する策を思いつき、日和はあることを思い浮かべた。

 

『聞いたか!』

 

「チャンネルをオフにしろ」

 

「あの・・・こんな時に非常識なんですけど、さっきの言葉を聞いて私、学校で習った矛盾が思い浮かんだんですけど・・・もしかして・・・」

 

「東雲も気づいたか」

 

どうやら日和が思い浮かんだ矛盾という言葉は、2人が思いついた策と深く関係しているようだ。

 

「もっぺんやるぞ!」

 

「しかし、そのためには・・・」

 

この策の要として、3人は響の方を見つめる。響は策についてまったく考えていなかった。

 

「響ちゃん・・・これは多分重要なことだと思う。やれそう?」

 

「えっと・・・よくわかりませんが、やってみます!!」

 

響はあまりわかっていない様子だが、気合だけは十分のようだ。ならば3人がやることはただ1つ、響のサポートをしてあげることだ。その間にも竜は4人にレーザーを放ち、4人は回避する。

 

「私と雪音、東雲が露を払う!!」

 

「手加減なしだぜ!!」

 

「わかってる!!本気も本気で行くよ!!」

 

クリスが先行して竜に突っ込んでいき、翼は大剣をさらに巨大なものに変化させて強大な青の斬撃を竜に放った。

 

【蒼ノ一閃 滅破】

 

そして日和は2つの棍を連結し、さらに巨人の身体に匹敵する長さに伸ばし、竜に向けて棍を回した。回転することで風が集まるだけでなく、さらには凄まじい雷が集まり、それを竜巻のように放った。

 

【疾風迅雷】

 

翼の放った強大な青の斬撃と、日和の雷を纏った竜巻の突風が竜に直撃する。これによってフィーネがいる核に穴が開き、再生される前にクリスがその中へと侵入した。そしてクリスは内部でレーザーをばらまき、爆発させて内部に煙を充満させた。フィーネが内部のシャッターを開けた瞬間、そこには大剣を構えた翼、棍を構えた日和がいた。

 

「!!!」

 

「はあああああああ!!!」

 

翼は大剣を振るって蒼の斬撃を放つ。フィーネはそれを防ごうと障壁を放った。斬撃は障壁を破壊したが、フィーネには届かなかった。しかし、これは想定済み。

 

「今だ!東雲!!」

 

「はい!!全力全開!!!!」

 

日和は光の羽を利用して、棍を構えた状態で目では追いつけない猛スピードでフィーネに突っ込んだ。

 

【電光石火】

 

猛スピードでの棍の一撃はフィーネに直撃する。

 

「があっ!!」

 

攻撃をまともにくらったフィーネはこの衝撃でデュランダルを手放してしまう。日和はその勝機を逃さず、デュランダルを棍で打ち払い、響の元まで届ける。

 

「そいつが切り札だ!勝機をこぼすな!つかみ取れ!!」

 

「受け取って!響ちゃん!!」

 

「ちょっせぇ!」

 

足りない飛距離はクリスが銃で弾き上げさせることによって、響はデュランダルを手にすることに成功する。

 

「デュランダルを!!?」

 

だが、その瞬間、響の中にある破壊衝動が掘り起こされ、再び暴走されようとしている。響は何とか踏ん張り、意識を保っているが、飲み込まれつつある。

 

「正念場だ!!!踏ん張りどころだろうが!!!!」

 

と、そこに避難シェルターのゲートを破壊し、外から出てきた弦十郎が檄を飛ばす。

 

「強く自分を意識してください!!」

 

「昨日までの自分を!!」

 

「これからなりたい自分を!!」

 

(みんな・・・!)

 

緒川、藤尭、友里も檄を飛ばす。

 

「屈するな立花!お前の構えた胸の覚悟を、私に見せてくれ!」

 

「お前を信じ、お前に全部かけてんだ!お前が自分を信じなくてどうするんだよ!」

 

「響ちゃんの力は、みんなと手を繋ぐんでしょ!そんな破壊衝動なんかに負けるな!」

 

翼、クリス、日和が響をしっかりと支え、響に声を届ける。

 

「あなたのお節介を!」

 

「あんたの人助けを!」

 

「今日は、私たちが!」

 

詩織、弓美、創世が響の応援をする。

 

「響ちゃん!うちでのリハビリを、思い出して!」

 

「立花さん!あなたの帰ってくる場所を、頭に浮かべなさい!」

 

咲、海恋は響自身の記憶を思い返して正気を保つように声を上げる。

 

「姦しい!!黙らせてやる!!」

 

フィーネは竜を操作して触手で響の妨害をしようとするが、装者4人のエネルギーのバリアによってそれは凌いでいる。だが、響の身体は黒く染まっていき、破壊衝動に支配されようとした。その時・・・

 

響ーーーーーーーーー!!!!

 

未来が響に向けて、意識を呼び覚ますように叫んだ。未来の気持ちは、響の意識に届いた。

 

(そうだ・・・今の私は・・・私だけの力じゃない!そうだ!この衝動に!塗りつぶされてなるものか!!)

 

響は黒い破壊衝動を自らの意思で脱出し、胸の奥のガングニールを強く輝かせる。響の想いに応えるように、デュランダルの刀身は光輝く。

 

「その力!!何を束ねた!!?」

 

「響き合うみんなの歌声がくれた!!

シンフォギアでええええええええええええええ!!!!!!

 

天高く伸びたデュランダルの光の刀身をフィーネに向けて振り下ろした。

 

【Synchrogazer】

 

デュランダルの刃が振り下ろされ、ネフシュタンの鎧と・・・完全聖遺物同士でぶつかり合った。

矛盾・・・それは、何をも貫く矛と、全てを防ぐ盾。その2つが衝突しあうとどうなるかという物事が食い違ってつじつまが合わないことをさす。今目の前の光景はまさにそれを体現しており、無限のエネルギーと無限の再生能力が衝突しあい、対消滅を引き起こしている。

 

(どうしたネフシュタン!!?再生だ!!この身・・・砕けてなるものかああああああああ!!!!)

 

ぶつかり合った力は形を保つことができず、大爆発を引き起こした。




如意金箍棒の技

【電光石火】

日和の技。棍を一直線に構え、背中のブースターを使って弾丸のようなスピードで敵に突っ込み、棍の打撃を与える技。時と状況によっては移動時の軌道を変更させ、スピードを落とさずに威力を保つことができる。なおエクスドライブ時では弾丸以上のスピードを解き放つことが可能。

【疾風迅雷】

日和の技、疾風怒濤の強化技。エクスドライブ限定の技。これまでの疾風怒濤と使用方法は同じだが、そこに雷が集まり、疾風と迅雷で相手を薙ぎ払う文字通りの疾風迅雷。


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流れ星、堕ちて燃えて尽きて、そして--

無印編完結!本当なら次回は番外編を乗せるところですが、先にG編を乗せるのでひとまずすっ飛ばし、G編完結後に改めてまとめて乗せる予定です。


朝日が沈みゆき、夕日がボロボロになった街を明るく照らす。避難シェルターにいた人々も次々と街に戻ってくる。そんな中、咲は日和に近づく。

 

「あ、あのね・・・お姉ちゃん・・・その・・・黙ってたことは・・・」

 

今まで咲に隠し事をしていたことに対し、日和が咲に謝ろうとした時、咲は日和の頭を優しくなでる。

 

「・・・よく頑張りました。花丸をあげるわ」

 

「お姉ちゃん・・・ごめん・・・。そして、ありがとう・・・応援してくれて・・・」

 

咲に優しく頭をなでられて、日和は笑みを浮かべて、謝罪と感謝を咲に送る。

 

「日和ーーー!!」

 

「うわっ!!?」

 

そしてその後、海恋は涙を流して日和に抱き着いてきた。それによってバランスを崩れて転んでしまう。

 

「日和の・・・バカ!!本当に死んじゃったと思ったじゃないの!!心配ばっかかけて!!」

 

「うん・・・ごめんね、海恋。でも、私は死なないから。約束は絶対に守るから。だから大丈夫」

 

日和は泣きじゃくる海恋をなだめながら、2人で一緒に起き上がる。それと同時に、響がボロボロの状態になっているフィーネを担いでみんなの元までやってきた。

 

「お前・・・何をバカなことを・・・」

 

「このスクリューボールが・・・」

 

「でも、それが響ちゃんらしいよね」

 

敵であるフィーネを助ける響にクリスは笑みを浮かべながら呆れ、日和は響らしいと笑っている。

 

「みんなに言われます。親友からも変わった子だーって」

 

響は瓦礫にフィーネを座らせて、話し合おうとする。

 

「もう終わりにしましょう、了子さん」

 

「私はフィーネだ・・・」

 

「でも、了子さんは了子さんですから」

 

誰に何と言われても、響にとっては、フィーネは共に二課で一緒に過ごしてきた仲間、櫻井了子のままなのである。

 

「きっと私たち、分かり合えます」

 

「・・・ノイズを作り出したのは、先史文明期の人間。統一言語を失った我々は手を繋ぐことよりも相手を殺すことを求めた。そんな人間がわかりあえるものか・・・」

 

「人間がノイズを・・・」

 

「私は、この道しか選べなかったのだ!」

 

「おい!」

 

「クリス」

 

フィーネは立ち上がり、響の想いを否定した。クリスはそれに反応するが、日和に止められる。

 

「・・・人が言葉よりも強く繋がれること、わからない私たちじゃありません」

 

響がそう言葉を紡ぎ、フィーネは目を閉じ・・・そして・・・

 

「はあああああああ!!!」

 

目を見開いた瞬間、フィーネは握りしめた鞭を放った。響はそれを躱し、拳を放ったが、目前で止まる。ただこの鞭の狙いは響ではない。

 

「私の勝ちだあ!!!」

 

放たれた鞭は空高く昇っていき、宇宙まで到達していく。そして・・・カ・ディンギルによって破壊された月の欠片に直撃する。ネフシュタンの鎧の最後の力を振り絞ってフィーネは月の欠片を地球に引き寄せた。月の欠片は重力に従い、地球へと落下していく。

 

「月の欠片を落とす!!!」

 

フィーネの言葉を聞き、日和、翼、クリスは月に視線を向ける。

 

「私の悲願を邪魔する禍根はここでまとめて叩いて砕く!!この身はここで果てようと、魂までは絶えやしないのだからなぁ!!聖遺物の発するアウフヴァッヘン波形がある限り、私は世界に何度だって蘇る!!どこかの場所、いつかの時代!今度こそ世界を束ねるために!!あはははは!私は永遠の刹那に存在し続ける巫女、フィーネなのだぁ!!!」

 

勝ちを確信しているフィーネに響は拳を軽く突きつけた。

 

「うん・・・そうですよね・・・。どこかの場所・・・いつかの時代・・・蘇るたびに何度でも、私の代わりに、みんなに伝えてください。世界を1つにするのに、力は必要ないってこと・・・言葉を越えて、私たちは1つなれるってこと・・・私たちは、未来にきっと手を繋げられること!私には伝えられないから・・・了子さんにしかできないから!」

 

「お前・・・まさか・・・」

 

フィーネはこれから響が何をやろうとしているのかを悟った。そして響はフィーネに向けて笑みを浮かべて言った。

 

「了子さんに未来を託すためにも、私が今を・・・守ってみせますね!」

 

「・・・・・・ホントにもう・・・放っておけない子なんだから・・・」

 

響の言葉にフィーネ・・・いや、了子はやれやれと呆れつつも優しい笑みを浮かべる。そして了子は日和に視線を向ける。

 

「日和ちゃん。玲奈ちゃんやお友達のこと、許してくれとは言わないわ。あなたは玲奈ちゃんとお友達の想いを胸に、これからも・・・生き続けなさい。私を驚かせるくらいに」

 

「・・・了子・・・さん・・・」

 

日和は了子の優しい言葉を聞いて、涙を流す。

 

胸の歌を、信じなさい・・・

 

了子はネフシュタンの鎧と共に崩壊し、亡骸を残さず消滅していった。消滅していった了子に二課のメンバーたちは彼女をフィーネとしてではなく、ただ1人の人間として弔った。特にクリスは、利用されていたとしても、それでも様々なことを教えてくれたのだ。彼女との思い入れが深い。ゆえにクリスは、涙を流して了子を弔う。

 

「・・・私にとっては、あの人が仇なのは変わらない。でも・・・やっぱり私は・・・あの人を、憎むことなんてできないよ・・・」

 

「日和・・・」

 

「・・・また・・・破れない約束ができちゃったな・・・」

 

日和は涙を拭き、了子が亡くなった場所に視線を向け・・・

 

「・・・了子さん・・・ありがとうございました!!!」

 

了子に感謝を送り、深く一礼して、彼女を弔った。だが・・・事態はまだ、終わりではない。

 

「軌道計算、出ました。直撃は避けられません・・・」

 

「あんなものがここに落ちたら・・・」

 

「私たち、もう・・・」

 

落ちてくる月の欠片でどの程度の被害が出るかわからないが・・・少なくとも、ここにいる全員が死に絶えることは避けられないだろう。響は落ちてくる月を見て、前に進む。

 

「響・・・」

 

「・・・何とかする。ちょっと行ってくるから、生きるのを諦めないで」

 

響は未来にそう伝え、月の欠片に向かって走り出し、そして飛び立つ。

 

Gatrandis babel ziggurat edenal

 

Emustolronzen fine el baral zizzl……

 

Gatrandis babel ziggurat edenal

 

Emustolronzen fine el zizzl……

 

月の欠片を止めるには、ギアが限定解除された状態で絶唱を放つしかないと考え、響は絶唱を歌った。

 

『そんなにヒーローになりたいのか?』

 

すると、クリスの声が聞こえてきた。響が後ろを振り返ると、日和、翼、クリスの3人が飛んでやってきた。

 

『こんな大舞台で挽歌を歌う事になるとはな。立花には驚かされっぱなしだ』

 

『もしかしたら私たち、とんでもない子を後輩に持っちゃったかもですね』

 

『ま、一生分の歌を歌うにゃ、ちょうどいいんじゃねぇのか?』

 

3人は響と並び立ち、並行して共に飛ぶ。

 

『それでも私は、立花や東雲、雪音ともっと歌いたかった』

 

『何言ってるんですか。これからですよ。私たちは』

 

『ああ・・・そうだな。まだまだこれからだな』

 

3人を巻き込ませてしまったと思い、響は3人に謝る。

 

『・・・ごめんなさい』

 

『バーカ、こういう時、そうじゃねぇだろ』

 

『ありがとう・・・3人とも!』

 

4人は互いに手を繋ぎあい、腰部のブースターを一斉に解除する。

 

『開放全開!行っちゃえ!ハートの全部で!!』

 

『みんなが夢をかなえられないのは分かっている。だけど、夢を叶えるための未来は、みんなに等しくなきゃいけないんだ!』

 

『命は尽きて終わりじゃない。尽きた命が残したものを受け止める、次代に残していくことこそが人の営み。だからこそ、剣が守る意味がある!』

 

『約束は人を縛るだけのものじゃない。明日という、晴天の未来に繋げて行けるものでもある。きっと・・・明るい世界につなげられると信じて!』

 

『たとえ声が枯れたって、子の胸の歌だけは絶やさない!夜明けを告げる鐘の音奏で、鳴り響き渡れ!!』

 

4人はそれぞれに込められた思いを胸に秘め、散開して月の欠片と対峙する。

 

これが私たちの、絶唱だああああああああああああああ!!!!!!

 

翼は星の一部を破壊できるほどの巨大な大剣を手に構え、クリスは数えきれないほどの大型ミサイルを展開させ、日和は棍をやり投げのように構え、星を壊すほどにまでに巨大化させ、棍を伸ばしていき、響は両手足のバンカーを今までの限界を軽く超えるほどにまで伸ばす。4人の全力を月の欠片にぶつけ、破壊させることに成功させる。

 

「・・・流れ星・・・」

 

粉々になった月の欠片は流れ星のように落ちていき、燃え尽きる。その光景を目の当たりにした海恋は涙を流して呆然とし、未来は地面に両手を着けて涙を流した。

 

~♪~

 

月の欠片が落ちてきた事件を、世間でルナアタック事変と呼ばれるようになった。そのルナアタック事変から3週間の時が流れた。大雨が降り続ける中、未来は大雨に打たれ、バス停でバスが来るのを待った。そこにリディアンの制服を着た海恋と葬儀服を着た咲がやってきて、海恋が未来に傘をさしてあげた。

 

「小日向さん・・・風邪ひくわよ」

 

ルナアタック事変から3週間、行方不明になった響たちの捜索が打ち切られた。弦十郎が言うには、作戦行動中の行方不明から死亡扱いになったらしい。郊外には響や日和の墓が建てられたらしいが、そこには何もない。外国政府からの追及をかわすため、機密の関係上、名前も彫られていない。3人が向かっているのは、その墓である。2人の墓には響の写真と日和の写真が飾ってあった。

 

「・・・会いたいよ・・・もう会えないなんて・・・私は嫌だよ・・・響ぃ・・・私が見たかったのは、響と一緒に見る流れ星なんだよ・・・?」

 

響たちの墓の前で、未来は地面に膝を着け、泣き崩れる。海恋も、もう日和と会うこともできないことに対し、大量の涙を流す。咲もまた、大切な妹を失い、静かに涙を流す。すると・・・

 

「いやああああ!!!助けてぇ!!!!」

 

この郊外の近くで女性が助けを求める声が聞こえてきた。未来と海恋がそこへ向かうと、女性が今、ノイズに襲われようとしていた。ルナアタックが終えても、未だにノイズは消えることはなく、度々現れては人間を襲う。

 

「こっちへ!」

 

「咲さん!急いで!」

 

それを見た未来は女性の手を取り、ノイズから逃げ出す。海恋も咲の手を取り、未来と共にノイズから逃げる。ノイズは4人を追いかけていく。未来と海恋は決して諦めていない。

 

(諦めない!絶対に!)

 

未来の頭に思い浮かべるのは、親友の響の姿だった。海恋も、日和の姿を思い浮かべる。今の日和の目は、日和と同じ、生きる執着心の目だ。

 

(私は絶対に諦めない!!生きるのを諦めない!!日和は、最後の瞬間まで、生きるのを諦めなかった!!私だって・・・私だってそうよ!!この場の全員の命を、諦めさせてたまるものですか!!!)

 

体力の限界が来たのか、女性は転んでしまい、今にも諦めそうな気持ちだった。

 

「大丈夫ですか⁉」

 

「私・・・もう・・・」

 

「「お願い、諦めないで!!」」

 

そうは言うものの、4人はノイズに囲まれてしまう。女性はあまりの恐怖で気を失ってしまい、咲は女性を支えながらも、平静を装うが、震えが止まらない。2人はノイズと戦う力は持っていない。人の身がノイズに触れることは死を意味する。それでも・・・それでもなおは2人は諦めない。この絶対的窮地でも。ノイズが海恋たちに襲い掛かろうとした時・・・

 

ドオオオオン!!

 

凄まじい衝撃と共に、棍が伸びてきて、海恋を襲うノイズを全て殲滅させた。あまりの出来事にもそうだが・・・伸びてきたその棍には見覚えがあるため、3人は驚愕した顔になる。

 

「え・・・?」

 

「・・・もしかして・・・」

 

3人が伸びた棍の方向を見てみると、そこには、ギアを解除して、いつもの制服姿の日和、響、翼、そして私服のクリスがそこにいた。

 

「ごめん、いろいろ機密を守らなきゃいけなくて・・・。未来にはまた、本当のことが言えなかったんだ」

 

4人が・・・響と日和が生きていたことに未来と海恋、咲は嬉しさのあまり、涙を流す。未来は喜びのあまり、響に抱き着いた。日和は海恋に近づき、にっと笑う。

 

「ね?言ったでしょ?私は絶対に死なないって。玲奈と小豆、了子さん・・・海恋との約束だもんね!」

 

「・・・っ!バカ・・・!」

 

日和の笑いを見た海恋は涙を流して喜び、日和に抱き着いた。咲も日和に近づき、彼女のその頭を撫で、喜びを分かち合った。

 

ノイズの脅威は尽きることなく、人の闘争は未だ尽きることなく続いている。未だ危機は満ち溢れ、悲しみの連鎖は留まることを知らない。しかし、人々は諦めないことを知っている。なぜなら、この世界には歌があるのだから。




日和の秘密

今でこそ普通の体型を維持しているが、実は日和は小学校の頃はぽっちゃり体型で太っていた。ゆえにその事実は中学校からの付き合いである海恋も知らず、今となっては咲くらいしかその事実を知らない。
今の体型になったきっかけは彼氏と別れた傷を癒えてもずっと家で寝転んでお菓子ばかりつまんでいた姿を当時大学生だった咲がいい加減煩わしくなってこの一言。

「いい加減食うのをやめろ豚野郎!!」

その後咲の運動部の友達に頼んで日和を強制的にダイエットさせていた。目まぐるしい思いをしてようやく痩せて今の体型になったというわけだ。


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G編-フロンティア事変-
ガングニールの少女


8月7日はマリアさんの誕生日!それに合わせてG編に突入!それに伴い、新たなタグを追加させました。午前に1本投稿し、午後にはもう1、2・・・可能なら3本を投稿する予定です。まぁ、多分できるとしたら2本まででしょうが、頑張ってみます。
長々とお待たせしました、G編、開幕です。


昔々、2人の少女がいた。

 

1人は戦場が絶えぬ国より、1人は最愛の姉と共に、1つの施設に連れてこられた。

 

少女は手に入れた力を戦に用いることに抵抗を覚えていた。一方のもう1人の少女が、誰かを守るためには、戦う力が必要と割り切った。少女は・・・その少女の心の強さに、憧れを抱いた。

 

少女は少女に戦い方を教えを乞うた。少女は、少女の自分にはない優しい心に、憧れを抱いた。少女は、戦い方を教える代わりに、歌の存在のあり方について教わる。

 

教え、教えられ・・・2人は師匠と弟子の関係を越え、親友となるには時間はかからなかった。2人は幸せだった。過酷な環境ながらも、最愛の姉と、最愛の友と過ごす時間は、何物でもない宝物だ。

 

だが・・・運命は残酷だ。

 

1つの悪鬼が暴走した。少女は悪鬼と戦うことを選んだ。だが、力及ばず、敗れてしまう。少女は、仲間を、姉を・・・そして師匠であり、親友である少女を守るために、滅びの歌を歌った。

 

親友を失い、少女は心に傷を負った。少女は思う。少女の願う平和とは、何かを。そして少女は望んだ。少女の願う真の平和を。そのために、少女は決断した。

 

「・・・だから僕は戦う。如何なる犠牲を払おうとも、世界に憎まれようとも・・・彼女の望む平和を・・・この手で掴むために」

 

少女は・・・少女の望む世界のために、自らの手を、血で染めることを選んだ。少女には、その覚悟があった。

 

時が経ち・・・少女は、大人となった。胸に秘めた覚悟と、少女の願いを持ったまま。

 

そしてその覚悟が今・・・世界に牙を向けようとしている・・・。

 

戦姫絶唱シンフォギア 大地を照らす斉天の歌

G編-フロンティア事変-

 

ルナアタック事変と呼ばれる事件より3ヵ月の時が流れた。とある場所にて、装甲列車が疾走しているところに、液晶ディスプレイのようなものが付いた生命体が追いかけていた。

この生命体の名はノイズ。触れた人間を炭素の塊を変えて殺す、特異災害と認定された人を殺すための自立兵器。装甲列車はノイズを撃退しようと機銃を撃つが、ノイズは物質化されていないため、弾はすり抜けてしまう。ノイズは装甲列車に突っ込み、中にいた人間を炭素に変えて殺していった。そして、この衝撃で車両が爆発する。

 

「うわっ!!?」

 

「大丈夫ですか⁉」

 

護衛任務にやってきた特異災害対策起動部二課のオペレーター、友里あおいは別車両に乗っており、戦闘の衝撃で転ぶ。それをケースを抱えたメガネをかけた銀髪の男性が駆け付ける。

この男の名はジョン・ウェイソン・ウェルキンゲトリクス、通称ウェル。米国の研究機関に所属している研究者で、今抱えているケースの護衛のために出向いている。

このケースの中に入っているのは、歴史上の偉人たちが残した聖遺物。その聖遺物の中でまったく傷がついていない、いわば完全聖遺物と呼ばれる代物、その中の1つ、ソロモン杖である。

 

「平気です!それよりウェル博士はもっと前方の車両に避難してください!」

 

装甲列車が被害を受けている中、そこに3人の少女たちが入ってきた。

 

「大変です!すごい数のノイズが追ってきます!」

 

栗毛髪の少女の名は立花響。リディアン音楽院に所属する1年生で、特異災害対策起動部二課の一員である。

 

「こんなにノイズが集まるなんて・・・やっぱりそれが狙いなのかな?」

 

黒髪でウサミミリボンのカチューシャを着けた少女の名は東雲日和。リディアン音楽院に所属する2年生で、特異災害対策起動部二課の一員である。そして、響の先輩でもある。

 

「だろうな。連中、明らかにこっちを獲物と定めてやがる。まるで、何者かに操られてるみたいだ」

 

銀髪の少女の名は雪音クリス。かつては特異災害対策起動部二課と敵対関係にあったが、今では味方となり、同じく特異災害対策起動部二課の一員である。そしてこの3人とここにはいないもう1人のメンバーたちこそが、ルナアタック事変の功労者でもある。

 

「急ぎましょう!」

 

友里の声で全員は行動を開始し、別車両へ移動する。そこに、友里の通信機から二課の本部からの通信が入る。

 

「はい・・・はい・・・多数のノイズに混じって移動する反応パターン?」

 

友里が通信でやり取りしている間に、ウェルは口を開く。

 

「3ヵ月前、世界中に衝撃を与えたルナアタックを契機に日本政府より開示された櫻井理論。そのほとんどが、未だ謎に包まれたままとなっていますが、回収されたこのアークセプター、ソロモンの杖を解析し、世界を脅かす認定特異災害ノイズに対抗しうる、新たな可能性を模索することができれば・・・」

 

人類にとって脅威となる存在、ノイズを対抗するために完全聖遺物であるソロモンの杖を解析するのが、ウェルたち米国の研究者の目的なのだが・・・ソロモンの杖は、そんな生易しい聖遺物ではない。ソロモンの杖の脅威を誰よりも知っているクリスがウェルに忠告する。

 

「そいつは・・・ソロモンの杖は・・・簡単に扱っていいものじゃねぇよ」

 

「クリスちゃん・・・」

 

「クリス・・・」

 

「・・・もっとも、あたしにとやかく言う資格はねぇんだけどな・・・」

 

ソロモンの杖を起動させた本人であるクリスは罪の意識からそれ以上のことは言わなかった。すると響はそんな彼女の手を握った。

 

「な、な!お前こんな時に!」

 

「大丈夫だよ!」

 

「・・・っ!お前、本当のバカ!」

 

これは響の気遣いなのだろう。クリスはそれを理解してるのか顔を赤くしてそっぽを向く。そして、日和は後ろからクリスの肩をポンと乗せてにっこりと笑う。

 

「その通り!クリスはもう1人じゃないんだから!私たちに頼っていいからね!」

 

「お前はお前で鬱陶しいんだよ・・・」

 

「またまたぁ~」

 

クリスは顔を赤くしながら悪態をつくが、これが照れ隠しなのはわかってるため、日和は気にしてなかった。

 

「了解しました!迎え撃ちます!」

 

友里は通信を切り、懐から拳銃を取り出し、弾を確認する。それによって、そろそろ出番であると気づく3人。

 

「出番なんだよな?」

 

クリスの問いかけに友里は首を縦に頷き、肯定する。その瞬間、天井に複数のノイズが突き刺さる。

 

「うわああああ!!」

 

ウェルは腰を抜かし、友里は実体化したノイズに銃を発砲するが、決定打となる致命傷には至らない。

 

「行くよ!2人とも、準備はいいね!」

 

「はい!」

 

準備万端の日和の問いかけに響が返事をし、クリスが首を縦に頷いて返事する。そして日和は詠唱を唄う。

 

clear skies nyoikinkobou tron……

 

詠唱を唄い終えたその瞬間、日和の私服は分解し、茶色を基調にしたインナースーツを身に纏う。両手首には機械のユニット、腰部にはパレオのような装飾とそれを貫いた猿の尻尾のような機械の装飾、頭にはウサギ耳を模したようなヘッドギアが展開される。これこそが、唯一ノイズと対抗できる聖遺物。その欠片を用いて作り上げたアンチノイズプロテクター、シンフォギアだ。ルナアタックを経て、日和のギアは一部変化があるのがわかる。

 

Balwisyall Nescell Gungnir tron……

 

Killter Ichaival Tron……

 

響とクリスも同じく、詠唱を唄ってシンフォギアを身に纏う。2人のシンフォギアも一部が変化が見られるのが見てわかる。シンフォギアを身に纏った3人は天井を突き破り、外にいるノイズを迎え撃つ。

 

「夜雀共がうじゃうじゃと!」

 

「だけど今更ノイズだよね!」

 

「どんな敵がどれだけ来ようと、今日まで訓練してきたあのコンビネーションがあれば!」

 

「えっ!!?いきなり解き放つつもり!!?」

 

響がいきなり訓練してきたコンビネーション技を放つと言い出し、日和が驚き、クリスが咎める。

 

「あれはまだ未完成だろ。実戦でいきなりぶっこもうなんて、おかしなこと考えてんじゃねぇぞ」

 

「うん!とっておきだもんね!」

 

「そうそう、最後のお楽しみ、だしね!」

 

「わかってんなら言わせんな」

 

クリスがシンフォギアの武器、アームドギアであるボウガンを装備する。日和も自身のアームドギアである棍を右手首のユニットから取り出し、槍のように伸ばして構える。響は武術の態勢を整える。

 

「背中は預けたからな」

 

「任せて!」

 

「前の方は頼んだよ!」

 

クリスはボウガンの矢をノイズに向けて放ち、撃墜する。撃ちのがしたノイズは響が格闘術を叩き込み、撃破する。背中に回り込んだノイズは日和が棍と蹴りによる打撃で次々と蹴散らしていく。お互いがお互いの背中を預けあっていることから、高い信頼があると取れる。

強襲を仕掛けてくるノイズは響がサマーソルトで、日和が棍を一直線に伸ばした打撃で蹴散らしていく。

 

【一点突破】

 

そんな2人に負けじとクリスはボウガンを二丁の矢に変形させ、矢を放つ。放たれた矢はノイズを貫き、さらに分散し、重力に従って雨のように落下し、ノイズを大型を含め次々と撃破していく。

 

【GIGA ZEPPELIN】

 

ノイズの爆発の中に、ただ1体、他のノイズとは違い、戦闘機のようなノイズが飛んでいる。どうやらあのノイズが他のノイズたちを率いているようだ。

 

「あいつが取り巻きを率いてやがんのか!」

 

狙うべきノイズを見つけてクリスは小型ミサイルを展開して、戦闘機ノイズに向けて撃ち放つ。

 

「うおおおおお!!」

 

【MEGA DETH PARTY】

 

戦闘機ノイズは小型のノイズを盾にしながら、直撃コースを振り切って躱していった。

 

「だったらぁ!!」

 

クリスは拳銃を二丁のガトリング砲に変えて戦闘機ノイズに向けて乱射する。

 

【BILLION MAIDEN】

 

放たれるガトリングの弾を戦闘機ノイズは躱していく。そして、堅牢な装甲で身を守り、弾を弾きながらクリスに向けて突っ込んできた。

 

「クリスちゃん!」

 

「私たちに任せて!」

 

日和は2つの棍を連結させ、棍を回転させて竜巻の突風を創り出し、戦闘機ノイズに放つ。

 

【疾風怒濤】

 

竜巻の突風は戦闘機ノイズに直撃するが、装甲は厚く、貫けないが突進の威力は弱まる。日和に続いて響がバンカーを起動させ、戦闘機ノイズに強力な拳を叩き込んだ。だがしかし、装甲は強大で、この2つの技をもってしても、軌道を逸らさせることしかできなかった。どれだけノイズを蹴散らしても、数は一向に減らない。

 

「あんときみたく空を飛べるエクスドライブモードなら、こんな奴にいちいちおたつくことなんてねえのに!」

 

「何とか持ちこたえて!きっとまだどこかに打開策があるはずだよ!」

 

数が減らないノイズにクリスは愚痴をこぼし、日和は向かってきたノイズを片付けながら何かしらの打開策がないか考える。

 

「!!?ふ、2人ともぉ!!」

 

「あ?」

 

「え?」

 

後ろを振り向いて素っ頓狂な声を上げる響にクリスと日和も思わず後ろを見る。素っ頓狂な声を上げる理由は、トンネルが迫ってきたからだ。

 

「「「うわあああああああ!!??」」」

 

このまま装甲列車が進めば3人の直撃コースは避けられない。そうはさせないとばかりに響は屋根を踏み抜き、日和は棍を使って穴を開けさせて3人は中に避難する。

 

「ギリギリセーフ!」

 

「わりぃ、助かった!」

 

「うぅ・・・冷や汗びっしょり・・・」

 

「くそ!攻めあぐねるとはこういうことか!」

 

クリスはこの状況を悔しそうに拳を掌にぶつける。すると日和はこの状況を打破するための策を閃いた。

 

「あっ!私、閃いちゃった!」

 

「閃いた?何か策を閃いたのか、相棒?」

 

「ししょーの戦術マニュアルに見たことがある!列車の連結部を壊して・・・」

 

「・・・あっ!なるほど!!外した車両をぶつけるってわけですね!!」

 

「その通りです、響ちゃん!!」

 

日和が思いついた策とは、列車の連結部を壊して、外した車両をぶつけるというものだ。だが物質をすり抜けるノイズの特性には、それは無意味というものだ。

 

「はぁ・・・お前らなぁ・・・おっさんのマニュアルとか面白映画だろぉ?そんなものが役に立つものか。だいたい、ノイズに車両をぶつけたって、あいつらは通り抜けてくるだけだろ」

 

「ふっふーん、それだけじゃないんだなぁー、これが!」

 

「日和さん、私も手伝います!!」

 

「お願いね、響ちゃん!」

 

「?」

 

どうもノイズにぶつけるのは車両だけではないようで得意げな顔になる日和。クリスはまだ少し理解できていないが、とにかく日和を信じることにした。作戦を開始し、日和とクリスは車両の連結を外す作業に取り掛かる。

 

「急いで!トンネルを抜ける前に!」

 

クリスがボウガンでジョイントを撃ち放ち、車両同士の連結を外す。外れたところで日和が棍を伸ばし、車両を引き離し、ノイズに向けてぶつけさせる。

 

「ナイスだよクリス!行くよ、響ちゃん!」

 

「はい!!」

 

「・・・本当にこんなんでいけるのかよ」

 

車両を引き離したところで日和と響は車両から降り、響は拳を構え、日和は棍を構える。ノイズは当然ながら通り抜けてきた。そこを狙い、響は変形したバンカーのブーストを展開して、戦闘機ノイズに一直線に突っ込む。それに続いて日和は腰部のブースターを起動させ、弾丸のようなスピードで戦闘機ノイズに突っ込み、響と並んで強力な打撃を戦闘機ノイズに叩き込んだ。

 

【電光石火】

 

響が叩き込んだ拳によって戦闘機ノイズの装甲は崩れ、そこに日和の棍の一撃で戦闘機ノイズは貫かれる。そしてさらに、戦闘機ノイズの爆発、響のバンカーの衝撃、さらに日和の勢いはまだまだ止まらず、小型のノイズを一気に殲滅させた。素早いスピードで爆発を振り切り、日和は響と並び立つ。

 

(閉鎖空間で相手の機動力を封じたうえで、遮蔽物の向こうから重い一撃・・・。こいつら、どこまで・・・)

 

日和が閃いた策を目の前で見てクリスは驚愕する。しかも、日和自身はそこまで考えていないために余計に驚いている。

 

「やったね、響ちゃん!」

 

「はい!」

 

日和と響は作戦がうまくいき、ハイタッチで喜びを分かち合う。その様子にクリスはかなわないなと言わんばかりの笑みを浮かべる。これでノイズは殲滅した。後は米軍基地にソロモンの杖を届けるだけだ。




東雲日和(G編)

外見:黒髪のショートヘア、頭にウサギリボンのようなカチューシャをしている。
   瞳は青色

年齢:16歳

誕生日:10月27日

シンフォギア:妖棍・如意金箍棒

趣味:セッション

好きなもの:ベッキー(日和の白いベース)

スリーサイズ:B:86、W56、H85

イメージCV:輪廻のラグランジェ:京乃まどか
(その他の作品:マギ:アラジン
        変態王子と笑わない猫:小豆梓
        クロスアンジュ 天使と竜の輪舞:ロザリー
        その他多数)

本作品の主人公。リディアン音楽院の2年生。特異災害対策起動部二課のシンフォギア装者で、如意金箍棒の適合者。
以前まではノイズのトラウマを持っていたが、シンフォギア装者として戦っていくうちに恐怖が緩和していき、そしてエクスドライブ発動を期についにノイズのトラウマを克服することができた。
ルナアタックから3ヶ月の時が流れ、親友の海恋と、同じ学校で同じクラスになったクリスと共に、学校生活を満喫しつつ、シンフォギア装者として、今日も今日とて任務を遂行しに向かう。

G編楽曲

『Carrying The Soul』

亡くなった最愛の友、共に過ごした仲間の魂を背負い、約束を守るため、そして大切なものを守るために戦う少女の勇気を込めた楽曲。


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マリア・カデンツァヴナ・イヴ

宣言通り、7日目に2本目です。このままいけば3本は行けると思います。さて、今話で今作品のもう1人の主人公が登場します。・・・いや、もうすでに前の話で出てるか。


迫りきたノイズを全て殲滅し、無事に米軍基地に到着した。友里がタブレットを操作して、電子判子を押した。これによって、ソロモンの杖搬送作戦は終了した。

 

「これで搬送任務は完了となります。ご苦労様でした」

 

「ありがとうございます」

 

米国基地の司令官は手を差し出し、友里がそれを握って互いに握手を交わす。仕事をやり切った3人は満足そうな笑みを浮かべる。そんな3人にウェルが声をかけてきた。

 

「確かめさせていただきましたよ。皆さんが、ルナアタックの英雄と呼ばれることが、伊達ではないとね」

 

「英雄!!?私たちが!!?」

 

英雄と呼ばれ、響は純粋に褒められて喜んでいる。

 

「いやぁ~、普段誰も褒めてくれないので、もっと遠慮なく褒めてください~。むしろ~、褒めちぎってくださ・・・あいた!!?」

 

「このバカ!そういうとこが褒められないんだよ!」

 

「痛いよ~、クリスちゃ~ん・・・」

 

非常に浮かれまくっている響にクリスはチョップを入れて彼女を黙らせる。ただ英雄と呼ばれて浮かれてるのは響だけではない。日和もそうだ。

 

「いやぁ~、英雄という響き・・・悪くない、悪くないですよ~。私も海恋やお姉ちゃんに褒めて~って言っても、調子に乗るなって怒られちゃうんですよ~。だ・か・ら~・・・遠慮なくもっともっと褒めて・・・いたたたたた!!」

 

「お前もお前だ!そういうとこが怒られんだよ!」

 

明らかに調子に乗ってる日和にクリスは彼女の耳を引っ張って黙らせる。

 

「またまたぁ~、本当はうれしいくせに~」

 

「今すぐその口を黙らせてやろうか?」

 

「やーん!カチューシャのうさちゃんリボンを引っ張らないでよー!」

 

「たく・・・」

 

口達者な日和にクリスは彼女のうさ耳カチューシャのうさ耳を掴み上げる。その後に彼女のうさ耳リボンを丁寧に直すクリス。

 

「世界がこんな状況だからこそ、僕たちは英雄を求めている。そう!誰からも信奉される、偉大なる英雄の姿を!!」

 

「あっははー!それほどでもー!」

 

「いやぁ、お世辞が本当にお上手ですね、お旦那さん♪」

 

「お前らなぁ・・・」

 

ウェルを英雄を語る際、どことなく異様な狂気が包まれていた。ただそれを3人は気づくことはなかった。

 

「皆さんが守ってくれたものは、僕が必ず役立ててみせますよ」

 

「ふつつかなソロモンの杖ですが、よろしくお願いします!」

 

「お願いします!」

 

「頼んだからな」

 

話が終わり、4人は米国の軍人たちに一礼し、基地から去っていく。

 

「無事に任務も完了だ!そして・・・」

 

「うん!この時間なら翼さんのステージに間に合いそうだ!」

 

「会場には翼さんグッズもたくさんあるはず!買い占めなくちゃ・・・!」

 

響と日和は自分たちが憧れているトップアーティスト、風鳴翼のライブをすごく楽しみにしているのが見てわかる。最も、今回開かれるライブに出演するのは、翼だけではないが。

 

「3人が頑張ってくれたから、指令が東京までヘリを出してくれるみたいよ」

 

「「マジっすか!!?」」

 

ヘリを出してくれると聞いて、響と日和は喜びを露にする。すると・・・

 

ドガアアアアン!!!

 

突如として後にした米国基地が大爆発を起こした。しかもその爆発からノイズが出現した。

 

「マジっすかぁ・・・」

 

「マジだな!」

 

「マジですかぁ・・・」

 

ノイズと対抗できる3人は急いで米国基地に戻り、ノイズの殲滅に向かった。

 

~♪~

 

ライブ会場・・・この場所では本日開かれるライブの準備が行われている。クイーン・オブ・ミュージック。それが今回のライブの名前で、翼も今回限定のユニットを組んで出演をするのだ。

 

「~♪」

 

「・・・・・・」

 

準備中のライブ会場の観客席で、真剣な表情をしているピンク色の長い髪を持ち、蝶のような髪留めをしている女性が鼻唄を唄いながら準備の光景を眺めている。その隣では赤く長い髪を持ち、緑と黄色のオッドアイを持つ黒服の男装女性が端末を操作して仕事をしている。すると、赤髪の女性の別端末から通信が鳴る。赤髪の女性はすぐに通話に出る。通信機から老女性の声が聞こえてきた。

 

『こちらの準備は完了。サクリストSが到着次第、始められる手はずです』

 

「・・・了解した。こちらも準備を進める」

 

通信が終わり、男装女性は通信を切る。

 

「・・・ぐずぐずしてる時間はないわけね」

 

「ああ」

 

ピンクの長髪の女性の問いに男装女性は率直にそう答えた。

 

「OKフォルテ。世界最後のステージの幕をあげましょう」

 

女性・・・マリア・カデンツァヴナ・イヴは席から立ち上がり、そう宣言した。男装女性・・・フォルテ・トワイライトは静かにライブ会場をじっと見つめるのであった。

 

~♪~

 

特異災害対策起動部二課の本部には、赤いワイシャツを着込んだ大漢がいる。大漢の名は風鳴弦十郎。特異災害対策起動部二課の司令を務めており、響と日和にとっては師匠ともいえる存在だ。弦十郎は米国基地にいる友里から通信で報告を受けている。

 

『はい、事態はすでに収拾・・・ですが行方不明者の中にウェル博士の名前があります。そして・・・ソロモンの杖もまた・・・』

 

どうやらあの場の戦闘は終わったようだが、その際にウェルが行方不明になり、護衛していたソロモンの杖もなくなったようなのだ。

 

「そうか・・・わかった。急ぎ、こちらに帰島してくれ」

 

『わかりました』

 

報告が終わり、弦十郎は友里に帰還の指示を出し、通信を切る。

 

「今回の襲撃・・・やはり何者かの手引きによるものなんでしょうか?」

 

ノイズとは本来、人を殺すためだけに単調な動きをするのが基本だ。だが今回のソロモンの杖を追いかけてきたノイズ、そして米国のノイズは、明らかに制御されていたようだった。そんなことができるのは、ノイズを操作することができる聖遺物、ソロモン杖のみ。二課の男性オペレーター、藤尭朔也は推察するが、弦十郎は黙り込んだまま、考えるのだった。

 

~♪~

 

クイーン・オブ・ミュージック会場の裏方。世界の歌姫と評されるマリアのライブの最中にて、黒服の茶髪の男が二課からの通信で連絡を受けている。この男の名は緒川慎次。特異災害対策起動部二課のエージェントで表では翼のマネージャーをしている。

 

「状況はわかりました。それでは翼さんを・・・」

 

『無用だ。ノイズの襲撃と聞けば、今日のステージを放り出しかねない』

 

「そうですね・・・では、そちらにお任せします」

 

緒川は現状の対処を本部の方に任せて通信を切ってかけていたメガネを外す。

 

「司令からはいったい何を?」

 

そんな緒川に詳細の確認を取ろうとする少女がいた。彼女の名は風鳴翼。リディアン音楽院に所属する3年生で今や日本中の誰もが認めるトップアーティストであり、特異災害対策起動部二課に所属する防人でもある。響と日和にとって、誰よりも憧れる人物である。

 

「今日のステージを全うしてほしいと・・・」

 

「はぁ・・・」

 

緒川の答えに翼はなぜかため息をこぼしている。なぜなら、緒川の癖を見抜いているからだ。

 

「メガネを外したということは、マネージャーモードの緒川さんじゃないということです。自分の癖を覚えておかないと、敵に足元をすくわれ・・・」

 

「お時間そろそろでーす。お願いしまーす」

 

「はーい!今行きます!」

 

翼の緒川への小言がライブスタッフによって遮られる。その隙を使って緒川は笑みを浮かべて、翼に伝えたいことを伝える。

 

「傷ついた人の心を癒すのも、風鳴翼の大切な務めです。頑張ってください」

 

満面の笑みでそう言われ、翼は多少不服そうな顔をしている。

 

「・・・不承不承ながら、了承しましょう。詳しいことは後で聞かせてもらいます」

 

翼は緒川にそう言って自分の出番の準備に向かっていく。

 

そんな2人の遠くで、男装女性、フォルテは今行われているマリアのライブを見つめる。フォルテは表向きはマリアのマネージャーを務めているため、彼女のライブを見守るのは当然だろうが、フォルテたちにとってはこのライブは観客に感動を与えるのとは別の意味を持っている。そんな彼女の端末に何かの文字が表示される。その内容というのが・・・

 

Si Vis Pacem,Para Bellum(汝、平和を欲せば、戦への備えをせよ)

 

「・・・到着したか・・・」

 

フォルテは端末の電源を切ってそれを懐にしまう。

 

「・・・いよいよだ・・・。君が望む平和を・・・僕が、この手に・・・」

 

フォルテの瞳には、この先何があろうとも、目的を完遂させるという、絶対的な覚悟が宿っていた。

 

~♪~

 

たった二ヶ月でデビューを果たしたマリアのライブの会場は大盛り上がりであり、まさにその名の通り、世界の歌姫といっても過言ではない。そのため、予約席の獲得確率は非常に低い。コネなどがなければ自力で手に入れるのは至難の業である。そんな獲得困難な席以上に入手困難な特別招待席では、響のクラスメイト達と先輩、その保護者1名がマリアのライブを見に来ていた。

 

「おお!さっすがマリア・カデンツァヴナ・イヴ!生の迫力は違うねー!」

 

「全米チャートに登場してからまだ数か月なのに、この貫禄はナイスです!」

 

「今度の学祭の参考になればと思ったけど、さっすがにまねできないわ~」

 

「それは始めっから無理ですよ、板場さん」

 

響のクラスメイトである板場弓美と寺島詩織はマリアのステージに盛り上がっている。

 

「彼女のマネージャーさんも、非常に有名みたいね。雑誌のインタビューにも載ってあったけど、すごく男前よね」

 

二課の医療施設の診察医であり、日和の血の繋がった姉、東雲咲がマリアのマネージャーについても触れる。咲の話題に水色髪の三つ編みポニーテールの少女が反応する。

 

「確か、フォルテ・トワイライトさんでしたよね?マリアさんのデビュー前からマネージメントしてくれてるっていう」

 

この少女の名は西園寺海恋。リディアン音楽院の2年生で風紀委員を務めており、日和のルームメイトであり親友でもある。

 

「そうそう。男前だし、気配りも完璧、発言力も行動力も備わっていて、まさにパーフェクトプリンスって呼ばれてるみたいね」

 

「それなのにあの人、女性なんですよね。本当に驚きですよ」

 

「何やらせても完璧なイケメン女子って、まるでアニメみたいな人よね」

 

弓美と同じく響のクラスメイトの安藤創世はマリアのマネージャーであるフォルテの話題でも盛り上がってる。それだけフォルテという存在も有名であるのだ。マリアやフォルテの話題で盛り上がっている中、黒い短髪で白いリボンを結んだ少女が腕時計を確認している。

 

「・・・まだビッキーたちから連絡来ないの?メインイベント始まっちゃうよ?」

 

「・・・うん・・・」

 

少女の名は小日向未来。リディアン音楽院の1年生で、響のルームメイトであり、親友である。ここにいる全員、日和と響が内容までは知らないが、二課の任務に出向いていることは知っている。それ関係でまだ来ていないため、未来は肩を落とす。

 

「せっかく風鳴さんが招待してくれたのに・・・今夜限りの特別ユニットを見逃すなんて」

 

「まぁまぁ。あっちもお仕事だもの。仕方ないわ」

 

「でも、もったいないわね・・・」

 

「本当ですよ~。アニメみたいに期待を裏切らないんですから、あの子たち!」

 

咲はこれも仕事だと仕方ないと割り切っている。海恋はメインイベントを見逃した日和たちを哀れみ、弓美が便乗する。すると会場が暗くなり、大歓声が大きくなる。これよりメインイベントが始まるのだ。本日のメインイベント・・・今夜限りの特別ユニット・・・風鳴翼とマリア・カデンツァヴナ・イヴによるデュエットが。会場には、ステージにふさわしい衣装を身に纏った翼とマリアが登場する。

 

「見せてもらうわよ、戦場に冴える抜身のあなたを!」

 

翼とマリアにスポットライトが照らし出され、メインライブが始まった。曲名は・・・不死鳥のフランメ。

 

「「~~♪」」

 

剣の舞が如く、剣に模したマイクパフォーマンス、そして舞台の炎グラフィックによる2人の歌声、そして舞いに観客の興奮は最高潮である。

 

「ありがとう、みんな!」

 

『きゃあああああああ!!』

 

ライブの曲が終了し、翼とマリアは観客に手を振る。翼は観客に感謝し、観客はそれに答えるかのようにさらに歓声をあげる。

 

「私はいつもみんなからたくさんの勇気を分けてもらっている!だから今日は、私たちの歌を聞いてくれる人たちに、少しでも勇気を分けて上げられたらと思っている!」

 

翼のスピーチに、マリアが続く。

 

「私が歌う全部、世界中にくれてあげる!振り返らない、全力疾走だ!ついてこれる奴だけついてこい!!!」

 

『わあああああああああ!!!』

 

マリアの言葉に観客は大歓声。このライブを見ている世界中の人々も感動で涙を流しているだろう。

 

「今日のライブに参加できたことを感謝している。そしてこの大舞台に、日本のトップアーティスト、風鳴翼とユニットを組み、歌えたことを」

 

「私も素晴らしいアーティストに巡り合えたことを光栄に思う」

 

翼とマリアは互いに向き合い、手を差し出して握手を交わす。

 

「私たちが世界に伝えていかなきゃね。歌には力があるってことを」

 

「それは、世界を変えていける力だ」

 

「・・・そして、もう1つ・・・」

 

「?」

 

マリアは翼から手を離し、背を向ける。そして、彼女がスカート翻したその瞬間・・・

 

『きゃああああああああああ!!!???』

 

複数のノイズが召喚されて、観客は大パニックに陥っている。突然のノイズの出現に、翼は動揺を隠せない。

 

「うろたえるな!!!」

 

マリアのこの一声でうろたえる観客たちは静まり返る。ノイズたちは観客を襲うことなく、ただ立ち尽くしているだけだ。どうやらこのノイズも制御されているようだ。

 

「あ、アニメじゃないのよ⁉」

 

「なんでまたこんなことに・・・」

 

「大丈夫・・・みんな落ち着いて」

 

「響・・・」

 

「日和・・・」

 

特別招待室にいる弓美たちも動揺を隠せていない。咲は弓美たちを落ち着かせ、未来と海恋は2人が来るのを待っている。

 

~♪~

 

状況を聞きつけた装者3人はヘリに乗って現場に急いで急行している。

 

「了解です。装者3名と共に、状況介入に40分を予定。事態の収拾にあたります」

 

友里は通信を切り、装者3人に顔を向ける。

 

「聞いてのとおりよ。疲労を抜かずの3連戦になるけど、お願い」

 

友里の言葉に3人は顔を縦に頷き、事態の状況をモニターで確認する。

 

「またしても操られたノイズ・・・」

 

「一体何なんですか?このできすぎた状況は?」

 

「詳細はわからないわ。だけど・・・」

 

「だけど・・・?」

 

「ソロモンの杖を狙った襲撃とライブ会場に出現したノイズが、まったくの無関係だとは思えない。

 

これまでの一連関連、そして今回のライブ襲撃が関係ありだと聞いて、3人は固唾をのんでいる。

 

~♪~

 

ノイズを召喚させ、混乱を招いたマリアに翼は彼女を見つめ、自身のギアペンダントを露にする。

 

「怖い子ね。この状況にあっても私に飛び掛かる気を窺っているなんて。でもはやらないの。オーディエンスたちがノイズからの攻撃を防げると思って?」

 

「くっ・・・」

 

「それに・・・」

 

マリアは翼に挑発ともとれる言葉を放ちつつ、全世界に生中継されているモニターに視線を向ける。

 

「ライブの模様は世界中に中継されているのよ?日本政府はシンフォギアに関する概要を公開しても、その装者については秘匿したままじゃなかったかしら?ねぇ?風鳴翼さん?」

 

「甘く見ないでもらいたい。そうとでも言えば、私が鞘走るのを躊躇うとでも思ったか⁉」

 

翼はマイクを突きつけ、マリアは笑う。

 

「ふっ・・・あなたのそういうところ、嫌いじゃないわ。あなたのように誰もが誰かを守るために戦えたら・・・世界は、もう少しまともだったかもしれないわね」

 

「なん・・・だと・・・?マリア・カデンツァヴナ・イヴ・・・貴様はいったい・・・」

 

「そうね。そろそろ頃合いかしら」

 

マリアはマイクを回転させて、意を決して高らかに宣言する。

 

「私たちは、ノイズを操る力を持ってして、この星の全ての国家に要求する!!」

 

マリアの宣言は世界中に響き渡った。

 

「世界に敵を回しての口上!!?これはまるで・・・」

 

~♪~

 

「・・・宣戦布告。これは・・・君たちに対する宣戦布告だ」

 

翼の言葉の続きは裏方で待機しているフォルテが言い放った。

 

~♪~

 

「そして・・・」

 

マリアは持っていたマイクを上空に投げ、そして口ずさむ。

 

Granzizel Bilfen Gungnir Zizzl……

 

「!!?まさか!!?」

 

翼が驚愕している間にマリアは光に包まれる。

 

~♪~

 

二課の本部でも、ノイズの出現、そして、聖遺物より発せられるエネルギー、アウフヴァッヘン波形を感知していた。

 

「この波形パターン・・・これはまさか・・・!」

 

解析したアウフヴァッヘン波形に、藤尭は驚愕する。そして、解析結果がモニターに表示される。

 

GUNGNIL

 

「ガングニールだとぉ!!??」

 

響が纏うガングニールと同じアウフヴァッヘン波形に、弦十郎も驚愕し、声を上げた。

 

~♪~

 

マリアが身に纏った聖遺物。その姿は、黒い配色が多いものの、その姿は紛れもなく、響が纏うガングニールと同列のものだった。その光景は、装者3人が乗っているヘリのモニターでも確認された。

 

「これって・・・響ちゃんと・・・同じ・・・」

 

「黒い・・・ガングニール・・・」

 

マリアの身に纏うガングニールを見て、装者3人は驚愕の顔つきになる。そして・・・ガングニールを身に纏ったマリアは、全世界に向けて、高らかに宣言した。

 

~♪~

 

「私は・・・私たちはフィーネ。そう・・・終わりの名を持つものだ!!!」




西園寺海恋(G編)

外見:水色髪の三つ編みポニーテール
   茶色の縁のメガネをかけ、瞳は緑色

年齢:16歳➡17歳

誕生日:9月30日

趣味:勉強、読書

好きなもの:クラシック音楽

スリーサイズ:B:84、W55、H86

イメージCV:ウマ娘プリティーダービー:マンハッタンカフェ
(その他の作品:プリンセスコネクト!Re:Dive:キョウカ
        変態王子と笑わない猫:筒隠月子
        クロスアンジュ 天使と竜の輪舞:クリス
        その他多数)

リディアン音楽院の2年生。日和のルームメイトであり親友。風紀委員に属しており、特異災害対策起動部二課の外部協力者。
シンフォギア装者としていつも危なっかしい日和とクリスを心配しているが、生きてという約束をきちんと果たして戻ってくるため、彼女たちを心の奥底から信頼している。
応援以外に日和とクリスに何か役立てないかと思い、オペレーター業の勉強を始めている。オペレーターを務めるには、専門的な知識が必要ではあるのだが、海恋は持ち前の頭脳を大きく発揮させてオペレーター業の知識を頭に叩き込ませている。海恋の驚異的な理解の速さに友里や藤尭を含めたオペレーター・・・いや、日和以外の全員が驚いていた。


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黒いガングニール

7日目ギリギリで何とか3本目の投稿です。よかった、宣言通りに投稿できて・・・。


翼がシンフォギアを纏えないことを余所に、黒いガングニールを身に纏ったマリアは全国に生中継されているカメラに向かって、全世界に自分たちの要求を告げる。

 

「我ら武装組織フィーネは各国政府に対して要求する。そうだなぁ・・・さしあたっては、国土の割譲を求めようか!」

 

「バカな・・・!」

 

あまりにも大きく、非現実的な要求内容に翼は驚愕。マリアはそれには構わず、話を続ける。

 

「もしも24時間以内にこちらの要求が果たされない場合は、各国の首都機能がノイズによって憮然となるだろう」

 

このマリアの要求は、生中継を通じて各国の最高権力者たちに知れ渡っていた。各国の権力者は慌てる人間もいれば、断固とした態度をとる人間もいるだろう。

 

「どこまで本気なのか・・・」

 

「私が王道を敷き、私たちが住まうための楽土だ!素晴らしいと思わないか?」

 

マリアは翼にそう問いかけ、翼が口を開く。

 

「何を意図しての騙りか知らぬが・・・」

 

「私が騙りだと?」

 

「そうだ!ガングニールのシンフォギアは、貴様のような輩に纏えるものではないと覚えろ!」

 

Imyuteus ameno……

 

『待ってください翼さん!』

 

翼が詠唱を唄い、シンフォギアを纏おうとすると、通信機から緒川の止める声が聞こえてきた。

 

『今動けば、風鳴翼がシンフォギア装者だと、全世界に知られてしまいます!』

 

「でも、この状況で・・・」

 

『風鳴翼の歌は!戦いの歌ばかりではありません!傷ついた人を癒し、勇気づける歌でもあるのです!』

 

「・・・っ!」

 

緒川にそのようなことを言われてしまっては、うかつにシンフォギアを纏うことができなくなってしまった翼。シンフォギアを纏えない中で、翼はマリアに視線を向ける。

 

「・・・確かめたらどう?私が言ったことが、騙りなのかどうか」

 

マリアと翼はお互いに目で見つめあっている。そして、マリアが口を開く。

 

「・・・なら・・・会場のオーディエンス諸君を解放する!ノイズに手出しはさせない!速やかにお引き取り願おうか!!」

 

なんとマリアは、事を有利に進めるための手段である人質の解放を宣言した。意図がまるで見えないマリアに観客はざわつく。

 

「何が狙いだ?」

 

「ふっ・・・」

 

マリアの狙いがわからない翼がそう問い、マリアが笑う。すると、マリアの通信機からフォルテの声が聞こえてきた。

 

『マリア、どういうつもりだ?こちらの有利を放棄するなど、作戦内容には存在していない。君の考えを聞かせてもらおう』

 

会話の内容からして、どうやら人実の解放は武装組織フィーネの作戦にはなかったようだ。フォルテの問いかけにマリアは答える。

 

「このステージの主役は私・・・人質なんて、私の趣味じゃないわ」

 

『それは覚悟無き者の言葉だ』

 

マリアの出した答えにフォルテは声質を変えず、淡々とそう述べた。

 

『何を恐れる?血で穢れることか?人を傷つけることか?どちらにせよ、そんなことはどうでもいい。君は彼女のために戦うと選んだのではなかったのか?そのために覚悟を持ったのではなかったのか?』

 

フォルテの問いかけにマリアは何も答えず、ただ翼を見つめるだけであった。何を言っても意志は変わらないだろう。すると、マリアの通信機から老女性からの通信が入った。

 

『・・・調と切歌を向かわせています。フォルテは2人に合流、マリアは・・・作戦目的を履き違えない範囲でやりなさい』

 

『・・・了解した。これより月読と暁に合流する』

 

「・・・ありがとう、マム。フォルテ、ごめんなさい・・・」

 

老女性とフォルテの通信が切れ、マリアは老女性に感謝を述べ、フォルテに謝罪を述べた。その間にも観客は避難していき、会場から離れていく。

 

「さあ、みんな、ここにいたら危険よ。私たちも、避難しましょう」

 

特別招待室にいる一同も咲を筆頭にして、避難活動を始める。そんな中、未来は翼を心配して、会場を不安そうに見つめている。

 

「小日向さん。早く行くわよ」

 

「ヒナ。私たちがここに残っていても、足を引っ張っちゃうよ」

 

「立花さんだって帰国してますけど、向かってるんですし」

 

「期待を裏切らないわよ、あの子は!」

 

「・・・そう・・・だよね。わかった・・・」

 

海恋たちの言葉で、未来は不安は残ってるものの、自分たちも会場から避難するために移動を開始する。

 

(・・・響・・・早く来て・・・)

 

未来はこちらに向かっている響たちがここに来るのを強く願った。

 

~♪~

 

装者3人を乗せたヘリは急いでクイーン・オブ・ミュージックの会場へと急行している。移動の最中に装者3人は二課の本部から現状の連絡を受けていた。

 

「よかった!じゃあ観客に被害は出てないんですね!」

 

「はぁ~・・・よかったぁ・・・みんなに何かあったらどうしようと思っちゃったよ・・・」

 

どうやらマリアは宣言通りに観客を逃がしているようで、被害が誰1人として出ていないことに響と日和はほっと一安心する。

 

『現場で検知されたアウフヴァッヘン波形については、現在調査中。だけど、フェイクであると・・・』

 

藤尭はマリアの纏うガングニールが偽物であると睨んでいるようだが、響は自分の心臓付近に食い込んであるシンフォギア、ガングニールの破片のある個所に手を当てる。

 

「・・・私の胸のガングニールがなくなったわけではなさそうです」

 

「ということは・・・やっぱり偽物か・・・そうじゃなかったら・・・」

 

「もう一振りの・・・撃槍・・・」

 

「それが・・・黒いガングニール・・・」

 

マリアの纏うガングニールが偽物であるかどうかはわからないが・・・あの黒いガングニールが二課全員に強い印象を与えたのは、間違いないだろう。

 

~♪~

 

一方その頃、老女性からの指示を受け、マリアと同じ武装組織フィーネの一員であるフォルテは調と切歌という人物と合流するために、施設内を移動している。そんな中考えるのは、あの状況下で翼がどう動くか・・・そして相手側がどう状況を覆すか・・・そして、それの対応方法についてだ。

 

(今風鳴翼は世界中の視線に晒されている。日本政府からの盾がある以上・・・うかつな行動をすることはない。さて、その状況でどう覆すものか・・・ん・・・?)

 

何者かの気配を感じ取ったフォルテは壁に張り付いて隠れ、自分の気配を消して状況を確認する。やってきた気配とは緒川だった。緒川はどこかへ目指して走っている様子であった。

 

(あれは・・・二課の・・・。奴が向かったのは・・・制御室か。なるほど・・・有効的な手段ではあるな)

 

緒川がやろうとしていることにフォルテは察したが、作戦には関係ないことだと思い、素通りしようとしたが、その奥で2人の少女が奥に進んでる姿を目撃した。それを発見した緒川はその少女2名の元へ向かっていく。

 

(・・・迂闊な・・・)

 

表情をかけることはなかったが、フォルテは内心では2人の少女に呆れている。なぜならあの2人が合流相手なのだ。さすがに放っておくことはできず、フォルテは緒川の後を追っていく。

 

「やっべぇ!あいつこっちに来るデスよ!」

 

2人組の少女は緒川に見つかって隠れているが、緒川は近づいてきている。緒川が近づいてきて、金髪で独特な口癖を持つ少女は慌てている。この少女の名は暁切歌。武装組織フィーネの一員で、マリアとフォルテの仲間である。

 

「大丈夫だよ、切ちゃん」

 

切歌とは違い、黒髪のツインテールの少女は特に慌てた様子はなく、冷静だ。この少女の名は月読調。同じく武装組織フィーネの一員で、マリアとフォルテの仲間であり、切歌のパートナーである。

 

「いざとなったら・・・」

 

調は赤い結晶のネックレスを取り出した。

 

「あわわわ!調ってば、穏やかに考えられないタイプデスか⁉」

 

「どうかしましたか!!?」

 

切歌が調のネックレスを彼女の服の中にしまい込んだ時、緒川が声をかけてきた。

 

「早く避難を!」

 

「あ、えっとデスね・・・」

 

「じぃー・・・」

 

緒川は切歌と調に避難するように呼び掛けたが、調はじーっと緒川を見つめている。それを切歌が慌てながらなんとか誤魔化そうとする。

 

「この子が急にトイレとかって・・・」

 

「じぃー・・・」

 

「言い出しちゃってデスね⁉」

 

「じぃー・・・」

 

「いやー、参ったデスよ!あはは・・・」

 

誤魔化そうとする切歌だが、調はひょっこりと出てきて、緒川をじーっと見つめている。

 

「え?じゃあ・・・」

 

「緒川さん」

 

予想外な回答に緒川が用事を済ませたら非常口まで連れ出そうと言い出した時、フォルテがマネージャーモードとして自然に彼に声をかけた。

 

「フォ・・・」

 

「し、調!!」

 

調が彼女の名前を呼ぼうとした時、切歌が慌てて調の口を閉じて黙らせる。

 

「あなたは・・・マリアさんのマネージャーの・・・」

 

「フォルテ・トワイライトです。何かありましたか?それに、その子たちは?」

 

フォルテはあえて切歌たちとは他人ふりをしている。

 

「あ、いえ・・・実は・・・お手洗いに来たようでして・・・」

 

「・・・わかりました。彼女たちは私が責任を持って、非常口まで送りましょう」

 

「心配ご無用デスよ!ここいらでチャチャッと済ませ・・・」

 

「・・・とにかく、この子たちは私にお任せください。緒川さんも、どうか逃げてください」

 

「・・・わかりました。用事を済ませましたらすぐに逃げます。フォルテさんも、どうかお気をつけて」

 

フォルテはマリアと一緒に行動をしていたため、緒川は彼女を疑っている様子だが、彼女の目には切歌と調に危害を加えないというのが伝わってくる。そして何より緒川には何よりも優先すべきことがある。2人を民間人だと思っている緒川はこの場をフォルテに任せて制御室まで向かっていく。

 

「・・・はぁ・・・何とかやり過ごしたデスかね・・・。フォルテ、助かったデス!」

 

「・・・迂闊だな。身を隠す時、侵入する際は常に己を気を配らせろと言ったはずだ。本物の戦場であれば、死んでいたぞ」

 

「うっ・・・こんな時にお説教は勘弁デスよ・・・」

 

やり過ごした切歌はフォルテに感謝するが、彼女の無表情ながらの説教に顔を項垂れる。

 

「月読。君は少し前に出すぎだ。迂闊な行動は自分の首を絞めるとも教えたはずだ」

 

「・・・大丈夫。いざとなったら・・・」

 

「わわわ!調!本当に穏やかじゃないデスね!」

 

「・・・それが迂闊な行動なのだが・・・まぁいい。状況によってはマリアを助太刀する。行くぞ」

 

これ以上とやかく言ってもキリがなく、時間の無駄であると判断したフォルテは緒川とは逆方向へと進んでいく。

 

「・・・はぁ・・・フォルテはあたしたちを思ってくれるのはありがたいデスが・・・無愛想だからやり辛いデスよ・・・」

 

「じぃー・・・」

 

切歌は疲れからため息をこぼすと、調がじーっと切歌を見つめている。

 

「?どうしたデスか?」

 

「私、こんなところで済ませたりしない」

 

「・・・さいデスか・・・。まったく、調を守るのはあたしの役目とはいえ、毎度こんなんじゃ、フォルテのお説教フルコースで体が持たないでデスよ?」

 

「いつもありがと、切ちゃん」

 

調は切歌の気遣いに笑みを浮かべている。

 

「さ、早くしないとまたフォルテに怒られるデス。行くとしますデスかね!」

 

切歌と調は急いでフォルテの後についていき、マリアの元へと向かうのであった。

 

~♪~

 

観客全員が避難を終えたことで、会場にはマリアと翼、ノイズ以外は、誰もいなかった。

 

「・・・帰るところがあるというのは・・・羨ましいものだな・・・」

 

「マリア・・・貴様はいったい・・・!」

 

会場を見つめるマリアは翼に視線を戻す。

 

「観客は皆退去した!もう被害者が出ることはない。それでも私と戦えないというのであれば、それはあなたの保身のため。あなたは、その程度の覚悟しかできてないのかしら?」

 

マリアはそう言ってアームドギアは展開せず、手に持っていた剣を模したマイクを構え、翼に襲い掛かってきた。ギアを纏っていないとはいえ、剣の扱いに長けている翼はマリアの攻撃をマイクで凌いでいく。

 

「ふっ!」

 

マリアは自身の羽織るマントを刃のように扱い、翼のマイクを切断させた。翼はマントをぎりぎりで回避し、バク転でマリアと距離をとる。もう使えなくなったマイクを捨て、翼は回避の姿勢をとる。

 

~♪~

 

ヘリに乗っている装者3人ははらはらした様子でマリアと翼の交戦をモニターで見ていた。

 

「中継されている限り、翼さんはギアを纏えない・・・!」

 

「せめて・・・せめて私たちが・・・うぅ・・・早く加勢に行かなくちゃ!」

 

「おい!もっとスピード上がらないのか!!?」

 

早く手助けをしたい気持ちの響と日和はもどかしい気持ちでうずうずしており、クリスが苛立ちで怒鳴りながら友里に問いかける。

 

「後10分もあれば到着よ!」

 

「後10分・・・それまで何とか持ちこたえてください・・・翼さん・・・!」

 

10分もの間、日和たちは翼の無事を必死に祈りながらマリアとの交戦を見つめるのであった。

 

~♪~

 

翼とマリアの交戦は今も続いている。マリアはマイクで翼を攻撃を続け、翼はそれを躱し続ける。防戦一方の状況だが、翼はこれを打破する状況を見つけた。それは、ステージの裏側だ。

 

(よし!カメラの目の外に逃げてしまえば・・・!)

 

ステージの裏側であればカメラなどは目が届かない。そこでギアを纏えば翼はノイズやマリアに対抗できる。その答えに至った。翼はステージの裏側へと移動を開始する。マリアは逃がさないと言わんばかりにマイクを翼に向けて投げた。翼はマイクを避けてステージの裏側へ移動しようとしたが・・・彼女のヒールが壊れてしまい、バランスを崩してしまう。

 

「あなたはまだ、ステージを降りることは許されない」

 

マリアは翼の腹部を蹴り上げ、彼女をステージへ吹っ飛ばす。すると、ノイズは落ちていく翼の方へ向かってきている。

 

「!!勝手なことを!!」

 

これはマリアの想定には入っておらず、ノイズを操作している人間に対し、怒りを露にするマリア。翼はノイズの元へと落ちていく。

 

(決別だ・・・歌女であった私に・・・)

 

翼は目を閉じて・・・そして・・・

 

「聞くがいい!!!防人の歌を!!!」

 

意を決したようにして、目を見開いたのであった。




マリアの誕生日(F.I.Sにいた時)

調「マリア、誕生日おめでとう」

切歌「おめでとデース!」

マリア「ふふ、調、切歌、ありがとう」

フォルテ「マリア、誕生日おめでとう」

マリア「あら、フォルテ。あなたも・・・」

マリアはフォルテの顔を見て固まった。なぜなら・・・いつも無表情で無愛想な彼女が、一目見たら惚れてしまうような笑顔を浮かべていたからだ。

マリア「ふぉ、ふぉふぉふぉふぉ・・・フォルテ!!?」

フォルテ「マリア、どうだろうか、僕の誕生日プレゼントは?気に入ってくれただろうか?」

マリア「ま、待って待って!!」

マリア(えっ?何あれ!!?あれがいつも無愛想なフォルテなの!!?あんな満面な笑顔、初めてみたんだけど!!?ちょっとやめてよ!!私たちは女同士なのよ!!?変な気を持ってどうす・・・)

フォルテを見ていると、マリアはあることに気づいた。フォルテの肌が顔だけ妙に艶やかなのが。指を触れてみると・・・

ガキンッ!

・・・ちょっと触れただけでもすごい音がなった。

マリア「・・・調!!切歌ぁ!!」

調「わ、私たちはただ、フォルテに笑うだけで誕生日プレゼントになるって答えただけなんだけど・・・」

切歌「まさか笑顔のままで顔を固めるなんて思わなかったんデスよー!!」

フォルテ「何故2人に怒っているんだ?2人は何も関わっていないぞ?」

マリア「あなた体張りすぎよぉ!!」

フォルテ「マリア、この場合は体張りすぎではなく、顔張りすぎの方が・・・」

マリア「うるさい!!誰がうまいことを言えと言ったこの天然堅物!!ちょっと来なさい!!顔を洗うわよ!!」

マリアはフォルテの顔を洗っている間、あの笑顔は悪くなかったとまんざらでもなかった。ただもう1回やってほしいとは思わなかった。


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胸に力と偽りを

今話を投稿したら、他の作品の制作もあるのでいったん休憩に入ります。まぁ、休憩といいましても休憩中でも本編はもちろん書きます。ひとまず・・・そうですね・・・1週間分のストックが溜まったらまた投稿っていった感じですかね。


翼がシンフォギアを纏わずに、ノイズの元へと落ちていく姿を装者3人は現場へ急行しているヘリのモニターで確認している。

 

「「翼さあああああああん!!!!」」

 

翼のピンチに響と日和は大声をあげる。すると、モニターが突然切れ、表示された文字にはNO SIGNALと表示された。

 

「えええ!!?なんで消えちゃうんだよぉ!!翼さん!!翼さぁん!!」

 

モニターが消えたことで響は涙目ながらモニターをがたがた揺らす。

 

「現場からの中継が遮断された・・・?」

 

「てことはつまりぃ・・・?」

 

「ええ!」

 

「・・・ああ!なるほどぉ!」

 

「え?ええ?」

 

中継が遮断されたということは、世界中の人間に翼がシンフォギア装者だと知られることがなくなったというわけだ。クリスと友里の反応に日和は後から気づく。響はわかっていない様子ではあるが。

 

~♪~

 

Imyuteus amenohabakiri tron……

 

意を決して翼はシンフォギアを纏うための詠唱を唄い、シンフォギアを纏って真下にいたノイズを倒す。翼のシンフォギアもまた、一部変化が見られる。シンフォギアを纏ったことによってノイズは位相差障壁が解除され、物質化する。翼は刀で次々とノイズを殲滅させ、さらに刀を大剣へと変化させ、ノイズに向かって青の斬撃を放った。

 

【蒼ノ一閃】

 

斬撃は複数のノイズを蹴散らしていく。そして翼は逆立ちして足を開き、両足のブレードを展開し、回りながらノイズをブレードで切り裂いていく。

 

【逆羅刹】

 

翼がノイズを殲滅している間、マリアは中継が遮断されたことに気が付く。

 

「中継が中断された⁉」

 

そう、この中継の遮断を行ったのは制御室に向かった緒川のおかげだ。翼がシンフォギア装者だと世界中に知られ、アーティスト活動ができなくなってしまうのは、彼女のマネージャーとして許せるわけがないから。全てのノイズを殲滅した翼はステージに上がり、マリアと対峙して剣を構える。

 

「いざ!押してまいる!!」

 

翼はマリアに刀を振るい、連撃を放つが、マリアはその全てを躱す。反撃としてマリアはマントを使って翼に攻撃する。翼はマントを剣で受け止めるが、それでも攻撃は止まらず翼に迫る。翼は逆手で弾いてマリアから距離をとる。

 

「このガングニールは本物!!?」

 

「ようやく御墨を着けてもらった。そうだ。これが私のガングニール。何物をも貫き通す、無双の一振り!!」

 

マリアはマントを刃のように振るって、翼に攻撃を仕掛ける。翼はその攻撃を刀で防ぐ。

 

「だからとて!私が引き下がる通りなど、ありはしない!!」

 

2人の戦いは続く。すると、マリアの通信機より、老女性の通信が入る。

 

『マリア、お聞きなさい。フォニックゲインは現在、22付近をマークしています』

 

(!!?まだ78%も足りてない!!?)

 

老女性の言葉を聞いて、マリアは動揺を見せた。当然、生まれた隙を翼が逃すはずがない。

 

「私を相手に気を取られるとは!!」

 

マリアの攻撃を弾いた翼は両大腿部より二刀の両剣を取り出し、1つに連結させる。そしてその瞬間、炎が発せられ、刃に纏う。翼はそれを風車のように振り回し、印を結んでブースターを展開させて、マリアに高速で接近し、炎の一撃を放った。

 

【風輪火斬】

 

「くっ・・・!!」

 

「話はベッドで聞かせてもらおう!!」

 

翼がマリアにもう一撃を放とうとしたその時・・・何者かが空から降りてきて、翼に向かって大剣を振り下ろしてきた。

 

ガキィィン!!!

 

翼はその気配を感じ取り、両剣でその大剣を受け止めた。降りてきた人物が身に纏っているのは・・・濃い灰色基調に、マリアのガングニールと同じく黒が配色されたインナースーツの鎧だ。裏生地には血のように赤く染まった濃い灰色のマントを羽織っている。濃い灰色の鎧を纏った人物は同じく血のように赤い大剣を翼を払いのける。

 

「くっ・・・!」

 

翼を払いのけた人物は赤い刀身を形をチェーンソーのような形に変え、刃を回転させて翼に向けて赤黒い斬撃を放った。

 

【Belphegor Of Sloth】

 

放たれた赤黒い斬撃を翼は何とか躱すが、上空から追撃と言わんばかりに無数の丸鋸が翼を襲う。これらを放ったのはピンクと黒が配色されたインナースーツの鎧を纏った少女だった。

 

【α式・百輪廻】

 

少女はさらに丸鋸を翼に放った。翼は両剣を回して、丸鋸を次々と破壊していく。だがこれで翼の身動きは取れなくなった。

 

「行くデス!!はっ!!」

 

そこに、少女の背後から緑と黒が配色されたインナースーツの鎧を纏った少女が大鎌を構えて現れ、鎌の刃を分裂させて、それをブーメランのように放った。

 

【切・呪りeッTぉ】

 

鎌の刃は翼へと迫り、先に乱入した人物は赤黒い斬撃をもう一度放った。

 

「ぐあっ!!」

 

両方の死角からは対処できず、翼はこの2つの刃を喰らい、ダメージを負った。乱入者たちはマリアたちの前に立つ。

 

「危機一髪・・・」

 

「まさに間一髪だったデスよ!」

 

現れた乱入者とは、マリアを援護しに来た調と切歌だった。2人が身に纏っているのは、マリアたちと同じ、シンフォギアだ。

 

「装者が4人!!?しかも・・・貴様は・・・マリアのマネージャーの・・・!」

 

装者がこの場に4人もいることに翼は驚くが、それ以上に驚いているのは自分の背後に立っているシンフォギア装者だ。その人物とは、マリアのマネージャーのフォルテだったからだ。

 

「・・・この程度か?防人の歌とやらは」

 

シンフォギアを身に纏ったフォルテは無表情ながらに翼を下に見ている。

 

「調と切歌、フォルテに救われなくとも、あなた程度に後れを取る私ではないのだけれどね」

 

「貴様みたいなのはそうやって・・・見下ろしてばかりだから勝機を逃す!」

 

「!上か!!」

 

翼の笑みの意図を理解し、マリアたちは上を見上げる。上にはようやく現場に到着した装者3人はヘリから飛び降りる。

 

「土砂降りのぉ!十億連発!!」

 

クリスはガトリング砲をマリアたちに狙いを定めて、空中から弾を乱射して先制攻撃を行う。

 

【BILLION MAIDEN】

 

放たれたガトリングの雨を調と切歌は躱し、マリアはマントで凌ぎ、フォルテは大剣を盾のように構えて弾を防ぐ。

 

「これでどうだぁ!!」

 

降りてくる日和は棍をフォルテに狙いを定めて投げる。棍はドリルに形を変えて回転を始める。日和はドリルの棍に飛び蹴りを放ち、一直線にフォルテに向かって落下する。

 

【天元突破】

 

迫りくるドリルにフォルテは慌てることなく大剣をチェーンソーに変えてドリルに迎え撃った。ドリルとチェーンソーの間に衝撃が走り、日和はドリルから降りて衝撃を避ける。衝撃を受けつつも立っているフォルテは無人となったドリルを弾き返す。ドリルは元の棍に戻り、突き刺さる。

 

「はあああああああ!!」

 

響はマリアに向けて拳を振るったが、それは避けられる。回避と同時にマリアは響に向けてマントを放った。響は翼を抱えてステージから降りてマントの攻撃を回避する。そこにクリスと日和が並び立つ。これで互いにシンフォギア装者は4対4となり、戦局は五分五分になった。

 

「やめようよこんな戦い!今日出会った私たちが争う理由なんてないよ!」

 

響は戦わず、相手との対話を試みようとするが・・・

 

「そんなきれいごとを・・・!!」

 

「へ?」

 

「きれいごとで戦う奴のことなんか、信じられるものかデス!!」

 

調と切歌にバッサリと切り捨てられ、対話を拒絶されてしまう。当然ながらマリアもフォルテも戦う姿勢を止めるつもりはない。

 

「そんな!話し合えばわかるよ!戦う必要なんか・・・」

 

「偽善者・・・!」

 

それでも諦めずに対話しようとする響に調は憎悪を向けてそう吐き捨てた。

 

「この世界には、あなたのような偽善者が多すぎる・・・!」

 

調は響に向かって丸鋸を複数放った。調の言葉にショックを受けて響は対応に遅れてしまう。

 

「響ちゃん!!ボーっとしないで!!」

 

迫りくる丸鋸を日和が棍を回転させて防ぎながら破壊する。クリスはマリアたちに向けてガトリング砲を放つ。マリアたちはガトリングの弾をよけ切歌は鎌を回転させて弾を弾きながらクリスに迫り、斬撃を放つ。

 

「近すぎんだよ!!」

 

クリスはすぐに鎌からよけてボウガンの矢を切歌に向けて放つ。切歌は鎌でボウガンの矢を叩き落とす。日和は明らかに響を狙おうとしている調に近づき、棍を振るう。調はツインテールの部位を伸縮可能のアームとして扱い、巨大な丸鋸を展開しながら防ぎつつ日和に放つ。日和は丸鋸を躱しつつ戦いながら対話をしようとする。

 

「響ちゃんは偽善者なんかじゃない!ただ、あなたたちと手を取り合いたいだけ!困ってる人を助けたいだけなんだよ!だから・・・」

 

「それこそが偽善・・・!痛みを知らない人に誰かのためになんて言ってほしくない!!」

 

調は日和の言葉を否定し、巨大な丸鋸を日和に放った。

 

【γ式・卍火車】

 

日和は迫りくる巨大丸鋸を前に棍を自分の目の前に刺し、それを巨大な盾の形に変えて全て凌ぎきる。

 

【難攻不落】

 

「・・・その言葉、取り消して!!」

 

「取り消さない。事実だもの」

 

「それはあなたの偏見だよ!!人の痛みを知ってるのは自分たちだけなんて思わないで!!人が目の前で殺されたところを、見たことないくせに!!!」

 

1年前に大切なバンドメンバー、北御門玲奈と伊南小豆の死を目の前で見たからこそ自分の痛みを今も抱えている日和。それを知らない調に対し、日和はかなりムキになって怒り、避ける彼女を追いかけながら棍を振るう。

 

一方の翼はマリアと再び戦い、両剣を切り離して二刀に戻し、マリアに斬りかかるがマリアはその斬撃を全てマントで防ぐ。

 

そしてフォルテは響に対して片手で大剣を振るい、斬撃を放っていく。響は対話を諦めるつもりはないらしく、フォルテの攻撃を躱しつつ、彼女に対話を求める。

 

「やめてください!!私たちに戦う理由なんてないはずです!!」

 

「君は甘いな。君に戦う理由がなくとも、こちらにはあるのだよ。戦場ではそのような戯言は死に繋がる。人助けで人の痛みが癒えると思っているのなら・・・それは詭弁だ。それでは月読の言うとおり、偽善でしかない」

 

「!!?」

 

フォルテが大剣を両手に持ち、2つに分離させて双剣になる。フォルテは双剣に雷を纏い、響に向けて放った。

 

【Asmodeus Of Lust】

 

放たれた雷が響に迫ってくる。ショックを受けている響はまたも対処が遅れてしまう。直撃間近になった時、翼とクリスが駆け付け、翼が両剣で、クリスがボウガンで雷を退ける。

 

「どんくさいことしてんじゃねぇ!!」

 

「気持ちを乱すな!!」

 

「は、はい!!」

 

翼とクリスの渇で気を引き締め直した響。それぞれの戦いが再開された時、中央ステージにぶよぶよした巨大なノイズが出現する。

 

「うわぁ!!?何あのでっかいイボイボ!!?」

 

「うえぇ、気持ち悪い!!」

 

巨大なノイズの出現に響は驚愕し、日和はノイズの見た目の気持ち悪さに嫌悪感を表す。

 

「増殖分裂タイプ・・・」

 

「こんなの使うなんて、聞いてないデスよ!」

 

「最終手段だろう。数値が低い場合、おかしいことではない」

 

あの巨大ノイズの出現は想定に入っていなかったようだが、フォルテだけは冷静に分析している。

 

「・・・マム?」

 

『4人とも退きなさい』

 

「・・・わかったわ。フォルテ」

 

「ああ」

 

老女性から撤退指示を受けて、フォルテは双剣を構え直す。そしてマリアも両腕のガントレットを揃えて、それを槍の形に変えて構える。この槍がマリアのガングニールのアームドギアだ。

 

「アームドギアを温存していただと⁉」

 

フォルテは出現した巨大ノイズに向けて双剣に纏った雷を放った。そしてマリアも槍の矛先を巨大ノイズに向け、エネルギー砲を発射させた。

 

【HORIZON†SPEAR】

 

マリアの砲撃とフォルテの雷の斬撃をまともに喰らったノイズは直撃部位が爆散し、その破片が飛び散る。

 

「おいおい!自分たちで出したノイズだろ!!?」

 

マリアたちがノイズを攻撃したのに対し驚愕するクリス。攻撃の際に放たれた閃光で目をくらまさせ、マリアたちは撤退を開始する。

 

「ここで撤退だと⁉」

 

「せっかく温まってきたところで、尻尾を巻くのかよ!」

 

「今はそんなことを言ってる暇はないよ!」

 

「!ノイズが!」

 

先ほどばら撒かれたノイズの破片は徐々に膨れ上がり、破片同士がくっつきあい、そして巨大ノイズともくっつき、さらに巨大化する。翼が刀を大剣に変形させ、欠片を切り裂くが、すぐに再生を初めてそれも巨大化し始める。

 

「こいつの特性は増殖分裂」

 

「それって、すぐに増えるってことですか!!?」

 

「放っておいたら、最限もねぇってか!そのうちここから溢れ出すぞ!」

 

どんどんと巨大ノイズが巨大化していく中、響たちのヘッドギアから緒川からの通信が入る。

 

『皆さん、聞こえますか⁉会場のすぐ外には避難したばかりの観客たちがいます!そのノイズをここから出すわけには・・・!』

 

「観客・・・!」

 

「観客の中には、海恋たちが・・・!」

 

巨大ノイズを放っておけば、観客だけでない、海恋たちが危ないとわかり、危機感を覚える響と日和。

 

「迂闊な攻撃では、いたずらに増殖と分裂を促進させるだけ・・・!」

 

「でも攻撃しないと、このノイズの増殖は止まりませんよ!!?」

 

「どうすりゃいいんだよ!!?」

 

下手な攻撃では増殖と分裂を促進させ、かといって放っておいてもノイズの増殖と分裂は止まない。そんな危機的状況を打破する方法を考える3人。すると、響はこの状況を打破できる策を提案する。

 

「・・・絶唱・・・絶唱です!」

 

絶唱とはシンフォギアの増幅したエネルギーを解き放ち、特大ダメージを負わすことができる反面、負荷を自分たちに与えてしまう諸刃の剣の歌である。そのままでは自分たちに大きなダメージを与えてしまうが、響たちはその絶唱を使い、負荷を抑えて一気に解き放つ手段を編み出している。ただそこには1つ欠点がある。

 

「あのコンビネーションは未完成だぞ!!?」

 

そう、それはまだ未完成のもので、絶唱を発動させ、それをうまく機能できる保証はない。それでも、この状況を打破できるには、それしかないのも事実である。

 

「増殖力を上回る破壊力を持って一気に殲滅・・・立花らしいが、理に適っている」

 

「おいおい、本気かよ!!?」

 

「でも・・・この状況だと、もうそれしかないよね!」

 

翼と日和は響の案に賛同している。クリスも反対意見を出していたが、このままではどのみちノイズは増殖するばかり。ならばやるしかあるまいとクリスも仕方なくその策に乗る。左から翼の右手を響が握り、響の左手を日和が握り、日和の左手をクリスが握る。

 

「行きます!S2CAスクエアバースト!!!」

 

手を握った4人は目を閉じ、絶唱を唄う。

 

Gatrandis babel ziggurat edenal

 

Emustolronzen fine el baral zizzl……

 

Gatrandis babel ziggurat edenal

 

Emustolronzen fine el zizzl……

 

「スパーブソング!!」

 

「コンビネーションアーツ!!」

 

「「セット!!ハーモニクス!!!!」」

 

4人が絶唱を唄い切り、4人から通常の絶唱とは比べ物にならない凄まじいエネルギーを解き放つ。絶唱のバックファイアが4人を襲う。4人はそのバックファイアを制御し、力を響に集中させる。その分の負荷は響に集中される。

 

「耐えろ!立花!」

 

「もう少しだ!」

 

「頑張って、響ちゃん!」

 

S2CAスクエアバーストは装者4人の絶唱を響が調律師、1つのハーモニーと化する。それは手を繋ぎあうことをアームドギアの特性とする響だけにしかできない。だがその負荷は響だけに集中する。これによって、ノイズの身体は抉れていき、ノイズの骨格が現れる。

 

「今だ!!」

 

翼が響に攻撃のチャンスを伝える。響は両腕のガントレットを右腕に連結させ、絶唱のエネルギーをこの拳に集約させる。ガントレットパーツが回転し、響は絶唱のエネルギーを保ち、構える。

 

「一撃必殺の拳を!!!」

 

「ぶちかませ!!!」

 

「これが私たちの・・・

絶唱だああああああああああああああ!!!!!!

 

響は腰部のブースターを展開させて、ノイズの増殖が始まるまでに強烈な拳を叩き込んだ。そして、4つのピックが展開し、それを回転させて、ハンマーパーツを解き放った。これによって虹色の竜巻を発生させ、ノイズを貫き、消滅させる。

 

~♪~

 

響が発生させた絶唱のエネルギーは空高く舞い、天をも貫く勢いだった。そんな光輝くエネルギーを建物の上でマリアたち4人も見ていた。

 

「なんデスか、あのトンデモは!!?」

 

「きれい・・・」

 

「こんな化け物もまた・・・私たちの戦う相手・・・」

 

「関係ない。何が相手であろうと、目的は果たす。彼女の・・・願いを叶えるために」

 

目の前の光景に切歌は驚愕し、調は純粋に目の前の光景に見惚れている。マリアは苦虫を嚙み潰したような表情をし、歯ぎしりする。フォルテは動揺することなく、自分の果たすべき目的完遂の未来を見据えている。

 

~♪~

 

ノイズを倒し、戦いが終わったことで4人は元の服装に戻っていく。そんな中響は膝を地に着いた。

 

「無事か、立花!」

 

日和、翼、クリスは響の元へと駆け寄る。響を見てみると、彼女は涙を流していた。

 

「響ちゃん・・・泣いてるの・・・?」

 

「へいき・・・へっちゃらです・・・」

 

「へっちゃらなもんか!痛むのか?まさか、絶唱の負荷を中和しきれて・・・」

 

「ううん・・・」

 

調が放った偽善という言葉・・・その言葉によって、響は2年間の日々を思い出す。・・・地獄のような日々を。

 

「私のしていることって・・・偽善なのかな・・・?胸が痛くなることだって・・・知っているのに・・・」

 

「お前・・・」

 

「響ちゃん・・・」

 

日和は涙を流す響の頭を優しく撫でて慰める。翼とクリスは、その姿をただ見ていることしかできなかった。




フォルテ・トワイライト

外見:赤いストレートロングへア
   瞳は緑と黄色のオッドアイ

【挿絵表示】

↑Picrewより『妙子式2』

年齢:23歳

誕生日:6月28日

シンフォギア:怨樹・ミスティルテイン

趣味:食べ歩き

好きなもの:ジャパニーズフード

スリーサイズ:B:77、W53、H85

イメージCV:BanG Dream!:美竹蘭
(その他の作品:やはり俺の青春ラブコメはまちがっている。:一色いろは
        五等分の花嫁:中野四葉
        原神:八重神子
        その他多数)

本作品のもう1人の主人公。F.I.Sに所属するレセプターチルドレン。マリアたちの中で1番年上であるため、リーダーのような立ち位置だが、自分には向かないとし、マリアをリーダーとし、自分は副リーダーとなっている。彼女の片眼は6年前にすでに潰れたため、黄色の瞳は義眼である。
無表情で無愛想、感情も表に出さないような無機質な性格をしており、目的のためなら邪魔者の命を奪う冷酷な一面を持つ。しかし、マリアたちに無表情ながらに気遣ったり、邪魔をしない者、特に子供であれば見逃すと言ったようにそこまで非道には堕ちていない様子である。戦い、戦闘教育以外であれば超ド天然でマリアたちの会話とあまり噛み合わなかったり、彼女たちを驚かすような奇行に走ることがしばしばある。
バルベルデ共和国の出身で戦闘能力はレセプターチルドレンの中でずば抜けて高い。マネージャー業を営んでおり、マリアをマネージメントする前はたった数ヶ月で海外のアーティストを世界進出させた経緯を持つ。
無愛想で冷酷な一面を持つフォルテだが、マリア、調、切歌が言うには、6年前まではそうでもなかったようで、少なくとも感情も少しは出ており、他人に冷たくもなかったらしい。
名前は音楽の強弱記号のフォルテの強いを由来し、苗字は黄昏といったように、日和とは真逆の由来である。

楽曲

『怨樹・ミスティルテイン』

少女の願う真の平和のため、あらゆる犠牲を厭わない剣を振るう女の絶対的な覚悟を象徴させた歌。


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平穏な生活と蠢く暗躍

1週間分ストックが溜まったら投稿と言いましたが・・・休憩中に偶然見つけたPicrewのキャラメーカーで日和ちゃんたちを作ってみました。せっかくと思ったので、本編1話と同時に投稿します。当然メインは小説ですが、少しでも目の保養になったり、イメージしやすくなったら幸いです。あ、投稿したら再度1週間分のストックが溜まるまで休憩に入ります。

8/21:よく確認していなかったために、ガイドラインに引っ掛かり、海恋ちゃんの画像が利用禁止になりました。それに伴い、またこのようなことが起らぬよう、そちらを削除、Picrewの画像は一旦全て非公開にしました。もう1度よく確認し、こちらで利用できる範囲で再び投稿します。お騒がせして申し訳ありませんでした。


どこかに存在する廃病院。この廃病院こそが武装組織フィーネの現在の潜伏拠点である。この施設の暗い一室にて、一週間前のクイーン・オブ・ミュージックの戦いを観測している老女性がいた。

この老女性の名はナスターシャ・セルゲイヴナ・トルスタヤ。世間ではナスターシャ教授と呼ばれ、マリアたちからはマムと呼ばれている。彼女は半身不随で車椅子に乗っており、右目には眼帯を着けている。マリアたちに指示を出していたのも、分裂増殖型のノイズを召喚させたのも彼女だ。

 

「皮肉なものだな。このような形で敵に手助けしてもらうとは」

 

「フォルテですか」

 

ナスターシャがクイーン・オブ・ミュージックの映像を見ていると、フォルテが入室してきた。フォルテはナスターシャに近づき、自分もモニターを確認する。

 

「この作戦、本来ならばマリアと風鳴翼の歌の力によって、フォニックゲインを高め、ネフィリムを起動させる予定だった。しかし、数値は結果を出さなかった。だから敵を利用した。違うかい?」

 

「さすがの観察力ですね」

 

「しかし、絶唱は装者に命を燃やすほどの負荷を齎す。だが彼女たちはそういったものが見られない。タネはなんだい?」

 

戦いに必要なシンフォギアの知識は頭に叩き込んであるフォルテはS2CAスクエアバーストの詳細を求めている。

 

「他者の絶唱と響き合うことでその威力を増幅したばかりか、生体と聖遺物のはざまに生じる負荷を低減せしめたのです」

 

「櫻井理論によれば、手にしたアームドギアの延長に絶唱の特性があると言われてはいたが・・・」

 

「ええ。誰かと手を繋ぐことに特化したこの性質こそ、まさしく立花響の絶唱。降下する月の欠片を砕くために絶唱を口にしても尚、装者たちが無事に帰還できた最大の理由がこれです」

 

「絶唱の四重奏ならばこそ計測される、爆発的なフォニックゲイン。これによって天より堕ちた巨人、ネフィリムを目覚めさせた・・・か」

 

ナスターシャがモニターを切り替えると、異形の化け物が映し出された。この化け物の名はネフィリム。驚くべきことにこの化け物も完全聖遺物の1つである。ただ、他の聖遺物とは違い、ネフィリムは命を宿しており、自立行動ができる異端ともいえる聖遺物である。ネフィリムはF.I.Sが所持する聖遺物を喰らっている。その姿を見てフォルテは義眼の黄色い瞳を抑える。

 

「・・・古傷が痛みますか?」

 

「気遣いは無用だ。僕のこの目こそ、僕の罪の象徴でもあるのだから」

 

ネフィリムに強い因縁を持っているフォルテは無表情で義眼を抑えながらそれを見つめる。だが、感情を露にしないフォルテにしては珍しく、片方の手に感情を乗せて力を込め、握りしめる。込めた力強すぎて、血が流れていることに気づかないほどに。

 

~♪~

 

クイーン・オブ・ミュージックから一週間、二課では行方をくらませた武装組織フィーネをオペレーターたちは全力を持って行方を追っていたが、何も進展がない。というのもこの一週間、武装組織フィーネはこれといった動きを見せていないのだ。

 

「ライブ会場の宣戦布告から、もう一週間ですね・・・」

 

「ああ。何もないまますぎた一週間だった」

 

「政府筋からの情報では、その後、フィーネと名乗るテロ組織の一切の恣意行動や、各国との交渉も確認されていないとのことですが・・・」

 

「つまり、連中の狙いはまるで見えて来やしないということだ」

 

武装組織フィーネ情報を集めているのだが、どれもこれも小さいものばかりで、情報というにはかなり程遠いものばかりで、二課の捜査も難航しているようだ。

 

「傍目には、派手なパフォーマンスで自分たちの存在を知らしめたくらいです。おかげで、我々二課も即応出来たのですが・・・」

 

「事を企むには、似つかわしくないやり方だ。案外、狙いはその辺りだろうが・・・」

 

二課は武装組織フィーネがただの武装組織ではないということを認識した。するとそこに、緒川からの通信が入った。

 

『風鳴司令』

 

「お?緒川か。そっちはどうなっている?」

 

『ライブ会場付近に乗り捨てられていたトレーラーの入手経路から遡っているのですが・・・』

 

緒川の通信には何やら他にも怒声が混じっていた。それもそのはずだろう。緒川がいる場所というのが、ヤクザの事務所だからだ。ヤクザたちに襲われようとも、緒川はヤクザたちをいなしながら調査報告を続けている。

 

『たどり着いたとある土建屋さんの出納帳に、架空の企業から大型医療器具や医薬品、計測機器が大量発注されている痕跡を発見しまして・・・』

 

「ん?医療機器が?」

 

『日付はほぼ2ヶ月前ですね。反社会的なこちらの方々は、資金洗浄に体よく使っていたようですが・・・この記録、気になりませんか?』

 

「うむ・・・追いかけてみる価値はありそうだな」

 

緒川が入手してきた情報・・・そこに武装組織フィーネが絡んでいる可能性を信じ、弦十郎はその情報を追及することにした。

 

~♪~

 

リディアン音楽院・・・音楽教育を中心にしたカリキュラムを特徴としているこの学校は、ルナアタック事変の際、過電粒子砲カ・ディンギルが起動したことにより、校舎が破壊され、もう使われないものとなってしまった。ゆえに、廃校となった別の学校を政府が買い取ったことにより、今ではその校舎が新生リディアン音楽院となっている。生徒も6割ほど減少してしまったが、混乱も収まっていき、今では心機一転して、新たな新生活が始まっていた。

 

「おはようございまーす」

 

「はい、おはようございます」

 

「海恋ちゃんおはよー」

 

「はい、おはよう」

 

そんな新リディアン音楽院の校門前では風紀委員による朝のあいさつ運動が行われていた。海恋も風紀委員に属しているため、当然あいさつ運動に参加している。登校してきた生徒たちに挨拶している中、ある学生が登校してきて、海恋は微笑む。

 

「おはよう、クリス」

 

その生徒というのが、クリスであった。ルナアタック事変後に、装者たちは事が収束するまでの3週間もの間、監禁状態になっていた。ようやくそれが解除された後に、クリスは二課の計らいによってリディアンに編入してきたのだ。しかも、日和と海恋と同じクラスである。

 

「お、おう・・・」

 

クリスはぶっきらぼうな返事をしている。それが気に入らない海恋は通り過ぎようとするクリスの首根っこを掴んで止める。

 

「うおっ⁉な、なんだよ⁉」

 

「日常生活において挨拶は基本!これができてないと後々苦労するわよ。ほら、もう1回!お・は・よ・う!」

 

「わ、わかったわかった!やりゃいいんだろやりゃ!」

 

一度風紀委員・・・というか海恋に絡まれたらキリがないと編入してから学んだクリスは少し恥ずかしそうに朝のあいさつをする。

 

「お・・・おはよぅ・・・」

 

「はい、おはよう」

 

クリスの挨拶に海恋は満足そうに笑顔になる。

 

「お前いちいち細かすぎだろ・・・」

 

「細かいことを風紀委員が気にするのは当たり前よ。ああ、それから、放課後秋桜祭の準備をするから必ず残ること。いい?」

 

「うっ・・・」

 

秋桜祭という単語を聞いて、クリスは若干渋った顔つきになる。というのも、編入してから今日まで、クリスは今までのこともあって、日和と海恋以外の生徒とはあまり馴染んでいない・・・というか、馴染もうとしていないで逃げ回っている。海恋はそれを改変がてら3日後に開催される秋桜祭の準備に参加させようとしている。

 

「嫌そうな顔してもダメよ。あんたもリディアン生なら、学校行事はきちんと参加なさい」

 

「フィーネを名乗る謎の武装集団も現れたんだぞ?そんなことをしてる暇はねぇだろ」

 

「だからこそ秋桜祭を楽しもう・・・て、日和なら言うんじゃない?」

 

「なんだそりゃ・・・」

 

秋桜祭の準備云々を話していると、クリスは思い出したように質問する。

 

「・・・そういやぁ・・・あいつはどうした?」

 

「・・・・・・・・・はぁ・・・」

 

クリスの質問に海恋は長い沈黙の後、ため息をこぼした。とどのつまり、また遅刻である。

 

「またかよ・・・」

 

「そうまたなのよ・・・。最近早起きできるようになったと思えばこれなんだから・・・」

 

もはや恒例といってもいいような日和の遅刻癖に海恋もクリスも呆れている。

 

~♪~

 

一方その頃日和はというと・・・

 

「・・・zzz・・・もう食べられないよ・・・zzz・・・」

 

絶賛爆睡中である。朝の登校時間になっても、授業が始まっても起きない。日和にとってはこれは日常茶飯事である。二課に入ってからはマシになったのだが、習慣というのはそう簡単には抜けきれないものだ。声をかけても眠り続け、無理やりに起こそうとしても寝相で被害にあう。普通なら常人はこれで起こすのを諦めるのだが、海恋は毎日、あいさつ運動をするギリギリまで起こそうと試みる。それでも眠り続けるのが日和である。

 

「・・・ん・・・んあ・・・?」

 

ようやく目が覚めた日和は寝ぼけた目をこすりながら目覚まし時計の時刻を確認して・・・そして、顔を青ざめる。

 

「だ、大遅刻だああああああああああ!!!!」

 

目が覚めた日和は慌ててベッドから起き、パジャマから制服に着替え、朝食に出されたパンを1枚くわえて寮を飛び出して学校へ向かう。だが、いくら頑張ったところで遅刻は確定している。そのため、学校についても・・・

 

「・・・東雲さん?私の言いたいこと・・・わかりますよね・・・?」

 

「・・・えーっと・・・寝坊しちゃった♪てへっ♪」

 

「東雲さん!!!!」

 

「ひぅ・・・」

 

「新校舎に移転して、学祭も3日後に控え、みんな新しい環境で新しい生活を送っているというのに!それなのにあなたは・・・いつもいつもいつも!!お昼前まで寝坊して・・・悪ふざけして!!」

 

「すいませんでしたーーー!!!」

 

先生の説教が待っているわけで、日和は先生に涙目ながらにぺこぺこと頭を下げながら謝罪している。

 

「ぷっ・・・ぷふふ・・・」

 

「やっぱりひよりんは期待を裏切らないね」

 

「今年分を合わせてもう100回くらいは怒られてるんじゃない?」

 

日和が先生に怒られてる姿にクラスメイト達はくすくすと笑いながらこそこそ話をしてる。

 

「はぁ・・・まったく・・・」

 

「懲りねぇ奴だ・・・」

 

日常茶飯事の光景に海恋もクリスも非常に呆れている。

 

~♪~

 

リディアンの放課後、生徒一同は3日後に開かれる秋桜祭の準備を進めていた。そして、日和のクラスも当然進めている。準備を取り仕切っているのは風紀委員の海恋だ。

 

「とりあえずみんな、自分の配役のセリフ、きちんと覚えたわね。じゃあ、今まで練習してきたことを、本番のように。小道具係は舞台で使う道具のチェックをお願いね」

 

日和たちが出す出し物はオペラ演劇に決まった。演目は白雪姫だ。ちなみに、海恋が主役の白雪姫役だ。

 

「うぅ・・・私、うまく演じられるかな・・・」

 

「大丈夫だよ乙女!こういうのは勢いとノリが大事だから!楽しんでやればきっとうまくいくよ!」

 

「ひよりんは本当に気楽だね・・・」

 

小人役になったメガネをかけた少女、鏑木乙女は少し不安そうだが、日和が元気づける。ポジティブに捉える日和にポニーテールの少女、五代由貴は苦笑する。

 

「というか、海恋ちゃんとひよりんは大丈夫?演劇の後、本番があるけど・・・」

 

そう言って日和と海恋を心配するカチューシャを着けた長髪の少女、綾野小路。小路が言っているのは演劇の後に行われるカラオケ大会のことだ。去年のカラオケ大会で悲しみを脱した日和がチャンピオンに選ばれ、そして今回は海恋とコンビを組んで参加する予定なのだ。

 

「モチのロン!今回も最高の演奏をして、チャンピオンの座を守り通すよ!」

 

「おー、さすがの意気込みだね、チャンピオン!」

 

小路、由貴、乙女の3人と日和と海恋は1年の時からよくセッションをしているので、特に仲のいいグループだというのが、会話でよく伝わる。ちなみに、3人がセッションを始めるようになったのは、日和の影響だったりする。

 

「ねぇ!そんなことよりクリスはどうしたのよ?」

 

「あれ?そういえば雪音さんは?」

 

「雪音さーん?」

 

「・・・いないね・・・」

 

海恋に指摘されてクリスがいないかクラス全員が見回すが、クリスは教室にどこにもいなかった。

 

「さてはクリス!逃げたなぁ~!せっかくの学祭なのに!」

 

「はぁ・・・放課後残るようにって言ったのに・・・」

 

「私、雪音さんを探してくるよ!」

 

「あたしも!」

 

「お願いね、小路、由貴」

 

小道具係の小路、由貴はクリスに学祭に参加してもらうために彼女を探しに教室を出ていった。

 

「海恋、私もいくよ!」

 

「あんたは王子役でしょうが」

 

日和もクリスを探そうと名乗りを上げた。しかし、日和は王子役に配役されている。本番の段取りで練習すると言った手前なので海恋は却下と言おうとしたら乙女が手を挙げた。

 

「あの、海恋ちゃん、私もいくよ。ダメ?」

 

「乙女まで・・・」

 

日和と乙女の名乗りに海恋は少し頭を抱え、仕方ないといった様子で口を開く。

 

「ふぅ・・・1回全部やってみて、気になるところがあればそこ中心に練習する。その間なら構わないから・・・今は残ってちょうだい」

 

「わ、わかった」

 

「ありがとう、海恋!」

 

ひとまずは1回だけ練習し、その後は好きにしていいとお墨付きをもらい、日和と乙女は顔を明るくさせた。

 

「はいはい、時間は有限。早く練習を始めちゃいましょう」

 

『はーい』

 

クラスメイト達は海恋の仕切りの下、舞台の道具作り、出演者は本番に近い練習を始める。1回の練習が終わった後、日和と乙女はクリスを探しに教室を出るのであった。

 

~♪~

 

武装組織フィーネの潜伏拠点のシャワールーム。そこで調と切歌はシャワーを浴びている。

 

「でね!信じられないのがフォルテがそれをご飯にざっばーっと!かけちゃったわけデスよ!絶対におかしいじゃないデスか!そしたらフォルテがこの一言デスよ・・・」

 

切歌は面白い話題を出しているが、調は反応していない。

 

「・・・まだ、あいつの事、デスか?」

 

「・・・何も背負ってないあいつが、人類を救った英雄だなんて・・・私は認めたくない・・・!」

 

調は響のことを思い返し、怒りが込み上げていたのだ。

 

「うん・・・本当にやらなきゃいけないことがあるなら、たとえ悪いとわかっていても、背負わなきゃいけないものだって・・・」

 

調はシャワーの元栓を閉じて、壁を殴りつけた。

 

「困っている人たちを助けるというのなら・・・どうして・・・」

 

響の言葉だけでも苛立っているが、日和の放った言葉も思い出し、さらに苛立ちを増す調。

 

『それはあなたの偏見だよ!!人の痛みを知ってるのは自分たちだけなんて思わないで!!人が目の前で殺されたところを、見たことないくせに!!!』

 

「・・・そっちだって・・・私たちの事、何も知らないくせに・・・!!」

 

怒りが増す調の手を、切歌は優しく包み、彼女を励ます。そこへマリアが入室し、元栓を開いてシャワーを浴びる。

 

「それでも私たちは、私たちの正義とよろしくやっていくしかない。迷って振り返ったりする時間なんてもう・・・残されていないのだから・・・」

 

「マリア・・・」

 

マリアたちが思いにふけってシャワーを浴びていると・・・

 

ヴゥー!ヴゥー!

 

突如として警報が鳴りだした。

 

~♪~

 

鳴り響く警報音はネフィリムが空腹から暴れた衝動によるものである。すぐに隔壁を閉じてネフィリムを隔離する。その様子をナスターシャとフォルテはモニターで見ていた。

 

(あれこそが伝承にも絵がかれし共食いすらいとわぬ飢餓衝動・・・。やはりネフィリムとは、人の身に過ぎた・・・)

 

「人の身に過ぎた、先史文明期の遺産・・・なんて言わないでくださいよ?」

 

するとそこに、ナスターシャの考えてること言い当てるように1人の男が入ってきた。

 

「・・・ドクターウェルか・・・」

 

その正体とは、岩国で行方不明となっていたはずのジョン・ウェイソン・ウェルキンゲトリクス、通称ウェルだった。

 

「たとえ人の身に過ぎていても、英雄たるものの身の丈にあっていれば、それでいいじゃないですか」

 

まるで英雄は自分であると言いたげな口ぶりであった。

 

「・・・果たして、君が英雄たる器であるかな」

 

そこにフォルテが表情を変えずにウェルにそう言い放った。

 

「・・・何が言いたいのです?」

 

「独裁者とはき違えるなと言っている。せいぜいそうならないよう、気を付けることだ」

 

フォルテの言い放った言葉にウェルは眉を歪ませる。フォルテは英雄を嫌っているのではなく、英雄が掲げる栄光や栄誉といったものが大嫌いなのである。そんなものがあるから争いはなくならない。だから自分は栄誉を求めない。自分が信じるもののためだけに戦う。それがフォルテのスタンスであるがため、英雄を求めるウェルを嫌っているのだ。そしてウェルもまた、そのことから英雄を軽視するフォルテが大嫌いなのだ。

 

「マム!フォルテ!・・・っ!」

 

そこへマリアたち3人が駆け付けてきた。マリアがウェルを見た時、不快感を露にする。

 

「・・・次の花は未だつぼみゆえ、大切に扱いたいものです」

 

ウェルはフォルテから受けた不快感を消し、平静に装ってマリアたちと対応する。

 

「心配してくれたのね?でも大丈夫。ネフィリムが少し暴れただけ。隔壁を下ろして食事を与えているから、時期に収まるはず」

 

ネフィリムの暴れた衝撃で施設が揺れる。

 

「マム!」

 

「対応措置は済んでいるので大丈夫です」

 

「それより、そろそろ視察の時間では?」

 

「フロンティアは計画遂行のもう一つの要・・・起動に先立って、その視察を怠るわけにはいきませんが・・・」

 

ナスターシャはウェルの野心を見抜いているがために信用していない。だが計画遂行のためには彼の能力が必要不可欠。ゆえに仲間として引き入れた、ただそれだけの関係である。

 

「こちらの心配は無用。留守番がてらにネフィリムの食糧調達の算段でもしておきますよ」

 

「では僕が君の護衛に付こう」

 

監視がてらにフォルテがウェルの護衛に出ようとしたが、ウェルはそれを拒む。

 

「こちらに荒事の予定はないから平気です。むしろそちらに戦力を集中させるべきでは?」

 

「・・・わかりました。予定時刻には帰還します。後はお願いします」

 

ナスターシャは装者4人を連れて、車椅子を操作して拠点を後にした。

 

(さて・・・撒いた餌に獲物はかかってくれるでしょうか・・・)

 

1人残ったウェルは狡猾な笑みを浮かべるのであった。




綾野小路
五代由貴
鏑木乙女

日和と海恋のクラスメイトであり、セッション仲間。原作にも登場している。
クラスメイトの中で特に仲がよく、一緒にいることが多いグループ。日和をふらわーに誘ったり、日和が休んで真っ先に心配していたのも彼女たちである。亡くなった小豆とも仲が良かった。
彼女たちが日和たちとセッションするようになったきっかけは日和と小豆の2人だけでバンドの練習をしていた時に楽しそうにしてると思っていたところに日和が3人を見てからこの一言。

「一緒にやらない?絶対に楽しいよ!」

それからというもの、3人は日和たちとセッションするようになり、これがきっかけで仲良くなった。ちなみに、使っている楽器は学校にあったものを使用している。


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終焉を望む者、終焉に挑む者

ガイドラインをもう1度よく確認し、これならば問題ないと改めて判断し、Picrewより作ったキャラの非公開を解除し、再び載せました。そして、別のキャラメーカーで海恋ちゃんを作り直しました。こちらのガイドラインも確認しましたし、問題ない・・・はず!


突然だが、クリスは今追われている。捕まってしまえば一巻の終わり。ならば捕まるわけにはいかない。なんとしてでも逃げ切る。現在のクリスはそんな思いでいっぱいいっぱいだった。クリスは曲がり角を曲がって追手を振り切ろうとした時、偶然通りがかった生徒とぶつかってしまう。

 

「つ・・・わき見しつつ廊下を駆け抜けるとは、あまり感心できないな・・・」

 

そのぶつかった相手というのは翼であった。

 

「いっつつ・・・」

 

「雪音。何をそんなに慌てて・・・」

 

「奴らだ・・・奴らに追われてるんだ!もうすぐそこまで・・・」

 

「何っ!!?」

 

クリスは人影の気配を感じ取り、壁に隠れる。翼は追手を確認するため身構えて奥を見つめる。クリスを追いかけていたのは日和、小路、由貴、乙女であった。

 

「・・・?特に不審の輩は見当たらない。強いてあげるなら、東雲がいたくらいだ」

 

「くっそ・・・あいつしつこすぎだろ・・・」

 

未だに近くに徘徊している日和にクリスは項垂れて彼女を毒づく。

 

「・・・もしや東雲に追われていたのか?」

 

「ああ。あいつ、クラスの連中を焚きつけてあたしを学校行事に巻き込もうと一生懸命になってるんだよ」

 

学校行事に乗り気でないクリスは教室から出たはいいが、練習を終えた日和と乙女に見つかり、その後は3人で追いかけっこ。さらに小路、由貴と合流されて、現在に至るわけだ。

 

「雪音さーん!」

 

「もう・・・どこ行っちゃったのかしら・・・」

 

「すんすん・・・すんすん・・・まだ近くにいる匂いがする!多分すぐ近くにいるよ!」

 

「ひよりん、そんな犬みたいに・・・」

 

日和たちはクリスを一生懸命に探している。その際に4人は手分けして探しにいき、残った日和は犬みたいに鼻をくんくんさせながらクリスを探している。その様子を見ていたクリスは呆れている。

 

「あいつ浮かれすぎだろ・・・。今のあたしたちの状況を忘れたわけじゃないだろうな?・・・て、そっちこそ何やってんだ?」

 

クリスは紙袋に入っていたものをしまい直す翼に問いかける。

 

「見ての通り、雪音が巻き込まれかけている学校行事の準備だ」

 

翼も現在、3日後に開かれる秋桜祭の準備を執り行ってる最中だ。というより、もう3日日も迫っているのだ。リディアン中、どこもかしこも準備に追われているのは当然であろう。

 

「それでは、雪音にも手伝ってもらおうかな」

 

「なんでだ!!?」

 

手伝いから逃げてきたのにまさかの翼からの申し出に突っかかるクリス。

 

「戻ったところでどうせ巻き込まれるのだ。少しくらい付き合ってくれてもいいだろう。こういう時だからこそ楽しむべき・・・と、東雲なら言うのではないか?」

 

「あんたまで・・・」

 

翼の言うとおり、このままではどうせ巻き込まれる。それならば翼に付き合った方がまだマシと思い、クリスは渋々ながらに了承した。2人は翼の教室に移動して飾りつけの花飾りを作っている。

 

「まだこの生活には馴染めないのか?」

 

「まるで馴染んでない奴に言われたかないね」

 

「ふふっ、確かにそうだ。しかしだな、雪音・・・」

 

「あ!翼さん!いたいた!」

 

話ながら花飾りを作っていると、翼の同級生の3人組が入ってきた。

 

「材料取りに行ったまま戻ってこないから、みんな探してたんだよ?」

 

「でも心配して損した。いつの間にかかわいい下級生連れ込んでるし」

 

「みんな、先に帰ったとばかり・・・」

 

「だって翼さん、学祭の準備遅れてるの自分のせいだと思ってそうだし・・・」

 

「だから私たちで手伝おうって」

 

「私を・・・手伝って・・・?」

 

同級生の言葉を聞いて、翼は少しポカンとしている。

 

「案外人気者じゃねぇか」

 

その様子にクリスは仕返しと言わんばかりに茶化してきた。同級生3人も加わり、5人で花飾り作りを再開する。

 

「でも昔は、ちょっと近寄りがたかったのも事実かな」

 

「そうそう。孤高の歌姫って言えば聞こえはいいけれどね」

 

「初めはなんか、私たちの知らない世界の住人みたいだった」

 

「そりゃ芸能人でトップアーティストだもん。でもね」

 

「うん!」

 

「思い切って話しかけてみたら、私たちと同じなんだってよくわかった!」

 

「みんな・・・」

 

「特に最近は、そう思うよ」

 

クラスメイト達の思っていることを聞けて、翼は少し嬉しそうな顔になっている。

 

「ちぇっ、うまくやってるぅ」

 

先輩の話を聞いてクリスは微笑んだ後、わざとらしくそっぽを向く。

 

「面目ない。気に障ったか?」

 

「さぁてね」

 

申し訳なさそうにする翼にクリスはそう答えた。

 

「すみません!ここに・・・あ!クリス・・・に、翼さん!!?」

 

「げっ・・・」

 

「あぁ、東雲か」

 

そこに日和が扉を開けて入ってきた。見つかったクリスは嫌そうな顔をし、翼は普通に接している。

 

「日和ちゃん、お疲れ様ー」

 

「あ、先輩!お疲れ様です!・・・それよりクリス!ずるい!翼さんのお手伝いをするなんて!私も翼さんを手伝う!!」

 

「はあ?んな勝手に・・・て、おい!さりげなく隣座んな!」

 

「本当に?日和ちゃん手伝ってくれるの?」

 

日和は翼の手伝いをしているクリスに嫉妬し、さりげなくクリスの隣に座って花飾り作りを手伝う。

 

「でも大丈夫?そっちも準備があるんじゃ・・・」

 

「大丈夫です!みんなには私たちの分まで頑張ってもらいますから!」

 

「あはは!何それー」

 

日和は先輩たちと楽しく笑いあいながら、一生懸命に花飾り作りに集中している。そんな日和にクリスは質問する。

 

「・・・なぁ。お前、なんでそこまで学祭に熱心なんだよ」

 

「え?う~ん・・・」

 

クリスの質問に対し、日和は考える素振りを見せ、その後に笑みを浮かべる。

 

「挙げてみたら結構いっぱいあったや。まず私が楽しむこと、それから初めて参加する人にも楽しんでもらうこと、先輩たちに記憶に残る学祭にしたいこと。それからそれから・・・」

 

「あー、もういいわかった・・・それ以上挙げたらキリねぇわ・・・」

 

結構いっぱい理由を述べてきたのでクリスは話を切り上げようとする。

 

「・・・でも、1番の理由はやっぱり海恋かな」

 

「?西園寺?西園寺と何か関係があるのか?」

 

「学祭当日、海恋の誕生日なんです」

 

「え?」

 

「何?そうだったのか?」

 

秋桜祭当日が海恋の誕生日という偶然にここにいる全員が驚いていた。

 

「海恋、親とちょっと仲が悪いらしくて・・・誕生日をまともに祝ってもらったことがなかったらしいんです。しかも、海恋とっても頭いいから・・・疎まれて誰も海恋と仲良くしてくれなかったみたいなんです」

 

「あいつが・・・」

 

今の海恋からはあまり想像できない過去にクリスは驚愕する。少なくとも、今の海恋は誰もが信頼され、クラスとも仲良くできてるから、昔は友達がいなかったこと自体が想像できないのだ。

 

「だから、誰にも祝ってもらえないのって、かわいそうだなぁって。そう思ってた時に海恋の誕生日と学祭が同じ日だって去年わかったんです。だから・・・その・・・今まで祝ってもらえなかった分、今年も学祭でいっぱいお祝いして、記憶に残る最高の学祭と誕生日になってほしいなぁって・・・。変ですかね・・・?」

 

日和の海恋を想う気持ちを聞いて翼と先輩は笑みを浮かべる。

 

「全然変じゃないよ!ね?」

 

「うん!」

 

「むしろすごく見直したよ!」

 

「今まで祝えなかった分か・・・実にシンプルだが、東雲らしいな」

 

「えへへ・・・そうですかね・・・。そう言ってもらえると、とっても嬉しいです」

 

先輩たちの言葉を聞いて、日和は頬を少し赤くして照れたように笑う。その様子にクリスも口元に笑みを浮かべる。すると日和のスマホから着信が鳴った。相手は噂をすればなんとやらで海恋からだった。

 

「あっと・・・海恋からだ。すみません、ちょこっとだけ席外しますね」

 

日和はそう言って席を立って教室から出て電話に出た。

 

「へっ、仲がいいこった」

 

「なんだ?ヤキモチか?」

 

「そ、そんなんじゃねぇよ!けど・・・あたしももうちょっとだけ、頑張ってみようかな・・・」

 

「そうか・・・」

 

クリスは翼の話、日和の話を聞いて、同級生との交流をもうちょっと頑張ってみようと思った。それを聞いた翼は笑みを浮かべる。

 

「もうひと頑張りといきますか!」

 

「うん!」

 

「よし!さっさと片付けちゃおう!」

 

先輩たちがそう言ったところで5人は花飾り作りのペースを上げる。途中で日和が戻ってきたところで、準備は着々と進んでいった。

 

~♪~

 

時間が経ち、夜となった廃病院。装者4人に任務の連絡が入り、その廃病院近くに4人は集まっている。

 

『いいか!今夜中に終わらせるつもりでいくぞ!』

 

『明日も学校があるのに、夜半の出動を強いてしまい、すみません』

 

通信端末から弦十郎の気合を入れる人声が入り、緒川からは明日の学校に響くのではないかと、謝罪の言葉を述べている。

 

「気にしないでください。これが私たち、防人の務めです」

 

緒川の謝罪に翼は勇ましく答える。

 

「・・・まさかここに来るなんて思わなかったよ・・・」

 

この廃病院、浜崎病院にはあまりいい噂を聞かない。もともとは医療費の価格破壊を掲げていたが、度重なる医療ミス、事故に見せかけて患者を殺害する事件までもが発生し、閉鎖することになったのだ。ずっと昔に廃病院となっていたが、一応は初期の浜崎病院と日和の実家、東雲総合病院と病診連携をとっていたことがあったために日和はこの病院の存在は知っていた。ただこの病院は最近では心霊スポットとしてかなり有名で肝試しの場として使われている。元が臆病な性格の日和が絶対に行きたくなかった場所でもある。

 

「街のすぐ外れにあの子たちが潜んでいたなんて・・・」

 

そしてこの廃病院は現在、武装組織フィーネの潜伏拠点となっている。今回の任務は奇襲を仕掛け、一気に叩いて終わりにするというものだ。

 

『ここはずっと昔に閉鎖された病院なのですが・・・2ヶ月前から少しずつ、物資が搬入されてるみたいなんです。ただ、現段階ではこれ以上の情報が得られず、痛し痒しではあるのですが・・・』

 

「しっぽが出ていないのなら、こちらから引きずりだしてやるまでだ!!」

 

そう言ってクリスが先行し、それに続いて翼、日和、響が廃病院の中へと入っていった。

 

~♪~

 

二課の装者4人が廃病院が入ってきた姿は、別室でウェルが確認していた。

 

「おもてなしといきましょう」

 

ウェルはキーボードを操作し、ダクトより何やら赤い煙を噴出させた。装者4人がその赤い煙が立ち込める場所にたどり着く。

 

~♪~

 

廃病院に進入した装者4人は赤い煙が立ち込める部屋の外で警戒をしていた。そんな中で響は及び腰で、日和は廃病院の雰囲気からか恐怖が立ち込めている。

 

「やっぱり、元病院ってのが雰囲気だしてますよね・・・」

 

「い、嫌なこと言わないでよ・・・こ、怖いよ・・・」

 

「なんだぁ?ビビってるのかぁ?」

 

「私が臆病なの知ってるでしょ⁉もう・・・早く終わらせて帰りたい・・・」

 

「そうですねぇ・・・なんだか空気が重いような気がしてなりません・・・」

 

「・・・意外に早い出迎えだぞ」

 

クリスは日和をからかっていると、常に警戒を怠らなかった翼が口を開く。部屋の奥より、大量のノイズが出現した。装者4人はすぐに戦闘態勢に入る。

 

clear skies nyoikinkobou tron……

 

Balwisyall Nescell Gungnir tron……

 

Imyuteus amenohabakiri tron……

 

Killter Ichaival Tron……

 

装者4人がシンフォギアを身に纏い、クリスが先手必勝としてボウガンをガトリング砲に変形させ、ノイズに向けて乱射する。

 

【BILLION MAIDEN】

 

ガトリングによってノイズは次々と殲滅していったが、それを上回るように後ろからさらにノイズが出現し、数が元通りになる。

 

「新しいノイズが!」

 

「やっぱりこのノイズは!」

 

「ああ。間違いなく制御されている」

 

装者4人はノイズの群れへと突っ込んでいく。

 

「立花!雪音のカバーを!懐に潜り込ませないように立ち回れ!東雲は私と共に来い!先陣に切り込む!」

 

「「はい!」」

 

先陣に回る日和はユニットから棍を取り出し、それを前衛のノイズに向けて投げ飛ばす。投擲した棍は分裂して数を増やし、ノイズに向かっていく。そして数多くの小さな棍は部屋に被害が出ない程度の小爆発を引き起こす。

 

【才気煥発】

 

小爆発によってノイズは炭と化して消えるがまだ数が多い。小爆発の煙より、翼が刀を、日和が新たな棍を構えて飛び出し、ノイズを殲滅する。後衛のノイズはクリスがボウガンで次々と撃墜し、響はクリスの援護するように近づいてくるノイズを拳で殲滅していく。順調にノイズを倒していくと、ここで変化が起きた。自分たちが相手をしていたノイズに一撃を放っても、仕留めきれなかったのかすぐに復活してしまう。それならばと翼が刀を大剣に変形させ、蒼の斬撃をノイズの群れに放った。

 

【蒼ノ一閃】

 

蒼の斬撃でノイズの群れを蹴散らした。しかし、蹴散らしたノイズはすぐに元通りになっていく。ノイズは装者4人に襲い掛かる。4人は突っ込んできたノイズをあしらうも、復活する。これによって装者4人は体力が消耗していき、息が上がる。

 

「なんで・・・こんなに手間取るんだ・・・⁉」

 

「・・・ギアの出力が落ちている・・・⁉」

 

どうやらこの現象は装者の適合率が下がっていき、思うような力を存分に発揮できないようだ。二課の本部でも同じ結論に至った。それでも何とかノイズを全て殲滅させた装者4人。だが、息も絶え絶えで息を整えるので精いっぱいだ。すると、日和は何かが近づいてきた音を聞き取った。

 

「!!?みんな!何か来る!!」

 

日和の一声で3人は音の出所に視線を向けた時だった・・・それが暗闇の中からこちらに襲い掛かってきたのは。

 

「!!?3人とも、気を付けて!!」

 

咄嗟に響が拳を放ち、異形の化け物は吹っ飛ばされるもまたも襲い掛かってきた。そこで翼の刀の斬撃と日和の棍の打撃で遠くへ吹っ飛ばす。異形の化け物はアームドギアで攻撃しても、炭素にならないどころか、攻撃も利いてる様子がない。

 

「!!?アームドギアで迎撃したんだぞ!!?」

 

「なのになぜ炭素と砕けない!!?」

 

「まさか・・・ノイズじゃない・・・?」

 

「ウソ・・・じゃああの化け物はいったい何・・・?」

 

4人が動揺していると、怪物の背後より、拍手を送る音が聞こえてきた。暗闇の奥より、白衣を着込んだ男の姿が露になった。

 

「えぇ!!?」

 

「あなたは!!?」

 

「ウェル博士!!?」

 

その男とは、ウェルであった。行方不明だと聞いていた装者4人はウェルを見て驚愕する。異形の化け物、ネフィリムは用意されていたケージの中へと入りこむ。

 

「意外に聡いじゃないですか」

 

「そんな!博士は岩国基地が襲われた時に・・・」

 

「つまり・・・ノイズの襲撃は全部・・・!」

 

「明かしてしまえば単純な仕掛けです。あの時既にアタッシュケースにソロモンの杖はなく、コートの内側にて隠し持っていたんですよ」

 

つまり、装甲列車に追いかけていたノイズも、岩国基地を襲ったノイズも全てウェルの仕業で、ウェルはあの時自作自演を行っていたのだ。

 

「ソロモンの杖を奪うため、自分で制御し、自分に襲わせる芝居を打ったのか!!?」

 

「じゃあ・・・私たちをずっと騙してたんですか!!?」

 

「バビロニアの宝物庫よりノイズを呼び出し、制御することを可能にするなど、この杖を置いて他にありません」

 

ウェルはソロモンの杖を取り出し、辺りに新たなノイズを召喚する。

 

「そして、この杖の所有者は今や自分こそが相応しい。そうは思いませんか?」

 

「思うかよ!!」

 

ウェルの言葉に腹を立てたクリスは小型ミサイルを展開し、それをノイズへと放った。ミサイルはノイズに直撃し、部屋ごと爆発する。しかし・・・

 

「ぐあああああっ!!」

 

クリスが技を放った瞬間、彼女に強烈な激痛が走った。この現象は、適合率が低下したために、バックファイアで装者を蝕んでいるのだ。ゆえに、技を出してしまえば、装者に激痛が走るのだ。

 

「クリス、大丈夫?」

 

「くっそ・・・!なんでこっちがズタボロなんだよ・・・!」

 

(この状況で大きな技を使えば、最悪の場合、そのバックファイアで身に纏ったシンフォギアに殺されかねない・・・!)

 

日和がクリスを支えていると、空から何やら音が聞こえてきた。

 

「!あれは!」

 

音のする方へ視線を向けると、ネフィリムが入ったケージを気球型のノイズがどこかへと運んでいる。

 

「ノイズがさっきのケージを持って・・・!」

 

このノイズは海へ向かって進んでいる。ネフィリムを持ってどこかへ逃げる算段も立てていたようだ。

 

(さて・・・身軽になったところで、もう少しデータを取りたいところだけど・・・)

 

響はウェルに拳を構え、日和はクリスを地面に座らせて彼女を安静にさせる。ウェルは両手をあげて降参を示した。

 

「立花!その男の確保と、雪音を頼む!東雲は私と共に来い!」

 

「はい!」

 

(天羽々斬と如意金箍棒の機動性ならば!)

 

ウェルの確保を響に任せ、翼と日和は海へ向かっているノイズを追いかける。

 

「ここなら!射程範囲内!!」

 

気球型ノイズに十分届きそうな位置までたどり着いた日和は狙いを定めて棍を気球型ノイズに向けて投げ放った。投擲した棍は気球型ノイズへと迫ってきて、あと少しで直撃できるその時だった・・・そこに横やりが入り、棍は大剣によって振り落とされた。

 

「何っ⁉」

 

「ウソっ⁉」

 

棍を叩き落とした第三者は日和と翼が驚いている間にも大剣を構え直し、ブースターを使って2人に接近し、大剣を振るって斬撃を与える。

 

「ぐわぁ!!」

 

「ああ!!」

 

「翼さん!!日和さん!!」

 

「あいつは・・・!」

 

「時間通りの帰還ですね・・・フォルテさん」

 

割り込んできた第三者とは、シンフォギアを身に纏ったフォルテだった。地に着地したフォルテは倒れた翼に近づき、大剣を突き刺そうと構えた。

 

「翼さん!!」

 

日和はそうはさせまいと右腕のユニットをフォルテに突きつけ、弾丸のように棍を撃ち放つ。それを感じ取ったフォルテは態勢を変え、大剣でガードする。

 

「む・・・」

 

「翼さん!!そのまま進んでください!!」

 

起き上がった日和は翼にそう声をあげて、フォルテに向かって飛び蹴りを放つ。フォルテは日和の飛び蹴りをもう片腕でガードし、蹴りの反動で後ずさる。

 

「東雲・・・すまない!何とか持ちこたえてくれ!」

 

翼はフォルテの相手を日和に任せ、自分はノイズの追撃を再開する。だが、気球型ノイズはすでに海を通っている。いくら機動性に優れた天羽々斬でも、届かずに海に落ちてしまうだろう。

 

『そのまま!飛べっ!!翼!!』

 

そこに弦十郎の声が通信機を通じて聞こえてきた。

 

(飛ぶ?)

 

『海に向かって飛んでください!どんな時でもあなたは!』

 

指示を聞いた翼は途切れている道路を跳躍し、脚部のブースターを使い、飛距離を伸ばしながら飛ぶ。

 

『仮設本部!急速浮上!』

 

弦十郎の指示と同時に、二課の仮設本部である潜水艦が浮上し、翼はその先頭を使ってさらに飛び、気球型ノイズに接近し、乱切りにする。炭となってノイズが消えたことにより、ネフィリムが入ったケージは重力に従って落ちていく。翼がケージに近づいて手を伸ばし、あと少しで手が届きそうになった時・・・空から槍が飛んできて翼を弾き返す。

 

「うあっ!!」

 

「翼さん!!」

 

「横槍!!?うわぁ!!」

 

「相棒!!」

 

槍の衝撃で弾き返された翼は海に落ち、日和は一瞬の隙を突かれ、フォルテからの蹴りを喰らい、吹っ飛ばされる。槍は海上の上で止まり、その上に襲撃者が降り立ち、落ちてきたケージを回収した。

 

「時間通りですよ、フィーネ」

 

「フィーネだと!!?」

 

ウェルの放ったフィーネという名にクリスが反応する。起き上がろうとする日和にフォルテは大剣を突きつけて語る。

 

「終わりを意味するその名は、我々の組織の象徴であり、彼女の二つ名でもある」

 

「そんな・・・じゃあ・・・まさか・・・マリアさんは・・・」

 

「そう・・・新たに目覚めた・・・再誕したフィーネだ」

 

衝撃の告白と共に出迎えた朝日は、まるでマリアを祝福するかのように、昇ってきたのであった。




怨樹・ミスティルテイン

型式番号:SG-x01Mistilteinn

F.I.Sが所有する聖遺物。盲目の神ヘズが光の神バルドルを絶命させ、ラグナロクを発展させたという伝説があるアイテムを触媒とし、シンフォギアへと加工させた・・・と、表向きの研究書類には書かれているが、多くのことはあまりわかっておらず、謎に包まれている聖遺物。イラク戦争時、シュルシャガナ、イガリマ、アガートラームと共に中東から米国へと持ち込まれたために、なぜ北米の聖遺物が中東に存在しているのかも、疑問の声をあげているとされている。


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終わりの女王と暗黒騎士

フィーネ。その存在は、先史文明期の巫女で、現代ではその血を引く者が聖遺物から発するアウフヴァッヘン波形と接触した際、その身にフィーネの意識が蘇る文字通りの先史文明期の亡霊。そして、二課の研究員である櫻井了子の意識を塗りつぶし、ルナアタック事変を引き起こした張本人でもある。そして今、その亡霊が、自分たちの前にも立ちふさがった。

 

「つまり、異端技術を使うことからフィーネの名を組織になぞらえたのではなく・・・」

 

「蘇ったフィーネそのものが組織を統率しているというのか・・・」

 

「またしても先史文明期の亡霊が、今に生きる俺たちに立ちはだかるのか・・・。俺たちはまた戦わなければならないのか・・・了子君・・・!」

 

かつて共にしていた仲間と、再び戦わねばならないという運命のいたずらに、弦十郎は苦渋の表情を浮かべている。

 

~♪~

 

廃病院にて、二課の装者たちとフォルテ、マリアとの睨みあいは今も均衡している。ただ、響と日和は、マリアがフィーネであるということに、未だに信じられずにいる。

 

「嘘、ですよ・・・。だってあの時、了子さんは・・・」

 

響の頭に浮かび上がるのは、3ヶ月前の響と日和に向けて、彼女からの激励の言葉だった。

 

『あなたは玲奈ちゃんとお友達の想いを胸に、これからも・・・生き続けなさい』

 

『胸の歌を、信じなさい・・・』

 

「それなのに・・・どうして・・・?」

 

あの言葉を今も鮮明に・・・いや、忘れることができないものだ。あれ、響たちに後を託した彼女の言葉だからだ。そんな彼女が今、再び敵になったのが、信じられるわけがない。

 

「リインカーネイション」

 

そんな響たちの疑問に答えるようにウェルがそう呟いた。

 

「遺伝子にフィーネの刻印を持つものを魂の器とし、永遠の刹那に存在し続ける輪廻転生システム・・・!」

 

「そんな・・・じゃあ、あのアーティストだったマリアさんは?」

 

「意識は・・・もうフィーネに塗りつぶされたってこと・・・?」

 

「さて・・・それは自分も知りたいところですね」

 

話が本当ならばマリアの意識はもうすでにフィーネに塗りつぶされたはずだ。だが当のマリアにはその様子が見られない。研究者としてその真相について知りたいウェルはそう口にした。フォルテは一瞬だけ視線をマリアに向けていたが、すぐに日和に視線を戻す。

 

(ネフィリムの回収できたのは僥倖。だがこの盤面・・・数だけ見れば決めあぐねる。ならば盤面を・・・崩せばいい)

 

フォルテは大剣を構えて日和に振り下ろそうとする。それを見た日和は右手首のユニットをフォルテに向けて棍を撃つ。持ち前の条件反射でフォルテは棍を躱す。

 

「今だ!」

 

フォルテが棍を避ける隙に日和は自身の身体を転がしてフォルテから距離を取り、左手首のユニットを回し、新たな棍を取り出す。さらに、放った棍が戻ってきて、二刀流になる。そして日和は2つの棍を振り、形をヌンチャクに変えて、フォルテに近づいてそれを振るった。フォルテは難なくこの攻撃を躱し、二課の仮設本部の潜水艦の上に移動する。

 

「ほう・・・適合率が下がった状態でなかなかやる。ではこれならばどうだ」

 

潜水艦に着地したフォルテは大剣の刃が回転し、まるで銃のようになった。フォルテは日和に向けて銃となった大剣を日和に向け、エネルギー弾をマシンガンのように放った。

 

【Mammon Of Greed】

 

「うわっ・・・うわわ⁉」

 

まさかそんな方法で攻撃してくると予想してなかった日和は危なげなくエネルギー弾から避け、弾を避けつつ自分も潜水艦に飛び移り着地する。

 

ザパアアアアン!!

 

それと同時に海より水柱が上がり、翼がそこより現れる。翼は脚部のブースターを使い、海面に着地し、突き進んでいってマリアに斬りかかる。

 

「はあああっ!」

 

「っ!」

 

マリアは翼の斬撃を紙一重で避け、上空に飛び上がった翼を見上げる。

 

「甘く見ないでもらおうか!」

 

翼は刀を大剣に変形させ、マリアに向けて青の斬撃を放った。

 

【蒼ノ一閃】

 

放たれた斬撃をマリアは自身のマントを纏って弾いた。

 

「甘くなど見ていない!」

 

大剣で再び斬りかかる翼の一撃をマリアはマントで防ぎ、そのマントで翼に打撃を与える。翼が吹っ飛ばされた気配を感じ取ったフォルテは視線を翼に変えて大剣を振るう。まともに喰らうつもりがない翼は自身の大剣を振るってフォルテの斬撃を防ぐ。

 

「たあああああ!!」

 

そこへ日和が右手のヌンチャクをフォルテに振るった。フォルテは慌てることなく翼の大剣を防ぎつつもう片方の手で柄を持ち、双剣へと変形させ、その剣でヌンチャクを弾いた。日和が左手のヌンチャクを振るおうとし、フォルテは翼を押しのけ、その攻撃を躱す。

 

「翼さん、大丈夫ですか!」

 

「心配ない」

 

日和は翼の元へ駆けつけ、並び立つ。それと同時にマリアはケージを上に放り投げる。ケージが消えたのを見計らい、彼女は槍から飛び立ち、フォルテと並び立つ。そして、手を掲げると槍が彼女の元へと引き寄せられ、それを手に持つ。

 

「だからこうして、私は全力で戦っている!」

 

マリアは翼に向けてそう宣言し、翼に接近し、槍を振るう。翼は槍の一撃を弾くも、マリアはさらにもう一撃放つ。翼はそれを防ぎ、マリアを距離を取る。そこへ日和がヌンチャクを振るってきて、マリアがマントで防いで日和と距離をとる。そこへ頭上よりフォルテが大剣を突き刺す構えで降りてきて、日和はそれを躱す。

 

「たああああ!」

 

翼は刀を構え、フォルテに近づく。フォルテは大剣を銃の形に変え、エネルギー弾を連射する。翼はそれを躱し、フォルテの懐に入る。懐に入る前に元の大剣に戻したフォルテは斬撃を大剣で受け止め、翼を弾き飛ばす。日和は片方のヌンチャクを棍に戻してマリアに接近する。マリアは日和にマントで攻撃する。日和はそれを棍で弾き、マリアの懐に入って棍を振るう。マリアは槍を振るって棍を受け止め、日和を弾く。

 

「マリア」

 

「ええ!」

 

フォルテの合図でマリアは槍を上に掲げ、自身のマントを回転させ、攻撃を通らせない竜巻に形作る。フォルテはそこに向かって銃となった大剣のエネルギー弾を乱射する。乱射した弾は回転するマントによって弾かれ、それが翼と日和に降り注ぐ。2人は反射されたエネルギー弾を躱す。

 

「東雲!奴を止めろ!」

 

「はい!」

 

指示で日和はフォルテを止めようと接近して棍を振るう。フォルテは射撃をやめて大剣で棍を受け止める。エネルギー弾の乱射が止まり、翼は飛び上がり、竜巻の弱い部分、台風の目に向けて刀を突きつける。だがマリアはそれを予測しており、逆に槍を突きあげたことによって阻まれる。回転が止み、マントが刃のように翼を襲い掛かる。翼は転がってその攻撃を躱す。

 

「翼さん!」

 

「よそ見をしてる場合か?」

 

日和は翼に気に掛けるが、その隙をついてフォルテは大剣を振るって日和を吹き飛ばす。

 

「うわあ!!」

 

「東雲!!」

 

「これくらい・・・どうってことないです!!」

 

立ち上がって強がって見せているものの、やはり適合率が下がっているため、息が上がっている。それは翼も同様だ。

 

『被害状況出ました!』

 

『船体に損傷!このままでは潜行機能に支障が出ます!』

 

『翼!日和君!マリアとフォルテを振り払うんだ!』

 

「はい!」

 

通信機からの弦十郎の指示で翼は刀をバインダーにしまい、逆立ちで脚部のブレードを展開し、回転してマリアに斬りかかる。マリアはこの攻撃を槍で弾き続ける。日和は棍をフォルテに向けて突く。フォルテはその突きを躱す。日和は何度も何度も突きを繰り返し、フォルテは躱し続ける。

 

「そこだ!!」

 

日和は今度はフォルテの腹部に向けて棍を突く。だがその攻撃はフォルテが左手で棍を掴んで凌いだ。

 

「ウソっ⁉」

 

「・・・その状態ながら、いい腕をしてる。優秀な師で鍛えてもらったのがよくわかる。だが、その力、未だ未熟」

 

フォルテは日和の腹部を狙って蹴りを放った。まともに直撃を喰らった日和は吹っ飛ばされるも、何とか着地する。

 

「つぅ・・・!今のは効いたぁ・・・!」

 

「日和さん!!」

 

「あの野郎・・・とんでもなく強ぇ・・・」

 

マリアの竜巻を利用した戦法、さらに日和の棍を片手で受け止めた防御方・・・それらの立ち振る舞い方にクリスはフォルテがただものではないと理解する。その間にも翼とマリアの攻防は続く。

 

「勝機!」

 

「ふざけるな!」

 

マリアはマントで翼の斬撃を受け流し、翼は態勢を整える。だが着地の瞬間、左膝に痛みが走り、態勢を崩した。

 

「マイターン!!」

 

マリアはその隙を見逃さず、槍で追撃する。翼はとっさに刀を手に取り、カウンターを仕掛けようとしたが、マリアの方が素早く、手痛い一撃をもらってしまう。

 

「がぁ!」

 

「翼さん!!」

 

「あいつ、何を⁉」

 

「最初にもらったのを効いてるんだ!」

 

態勢を崩してしまった原因はマリアの最初の槍の投擲で弾き返されたダメージが響いていたのだ。

 

「だったら白騎士のお出ましだぁ!」

 

そう言ってクリスはクロスボウを取り出し、マリアとフォルテに狙いを定める。その時、フォルテはクリスの方に視線を向けている。

 

「!!?気づかれてる!!?だが、構うもんかぁ!!」

 

(・・・では、こちらもそろそろ・・・)

 

フォルテに見られてもお構いなしにクリスがボウガンを撃とうとしたその時だった・・・突如として無数の丸鋸が響たちに襲い掛かった。ウェルを拘束していた響は彼を押し上げて解放し、間に入ってきた丸鋸を躱す。2人を狙い打とうとしていたクリスも丸鋸を躱す。

 

「なんと、イガリマァ!!」

 

そこに突然現れた切歌が鎌を構え、クリスに向かって振り下ろした。クリスは何とか躱すも、切歌の追撃が続く。反撃と行きたいが、片手にソロモンの杖を持っているため、思うような反撃ができない。響はこちらも突然現れた調の相手をしている。調は脚部に展開した鋸をローラースケートのようにして移動し、ツインテール部位から数多くの丸鋸を発射する。響は射出された丸鋸を拳と蹴りで次々と破壊する。そこに調は脚部の鋸を車輪のように展開した。

 

【非常Σ式・禁月輪】

 

調は展開させた車輪鋸を回し、響に向かって真正面に突っ込んできた。響は突っ込んできた車輪鋸を飛んで避け、転がって態勢を立て直す。それと同時に切歌は鎌の柄でクリスの腹部に打撃を与え、吹き飛ばす。

 

「があっ!」

 

「クリスちゃん!大丈夫⁉クリスちゃん!」

 

響はすぐにクリスの元へと駆けつける。クリスは無事だが、ソロモンの杖奪われてしまっていた。ソロモンの杖を回収した調はウェルの元へ移動する。

 

「時間ピッタリの帰還です。おかげで助かりました。むしろ、こちらが少し遊び足りないくらいです」

 

「助けたの、あなたのためじゃない」

 

「いやぁ、これは手厳しい」

 

ウェルの言葉に調はバッサリと切り捨て、ウェルは肩をすくめて笑う。

 

「くっ・・・クソッタレ・・・適合係数の低下で体がまともに動きやしねぇ・・・」

 

「でも・・・いったいどこから・・・?」

 

伏兵の調と切歌に気づけなかったのは無理もない。なぜなら、2人の出現の瞬間までアウフヴァッヘン波形を含めたその他シグナルがジャミングされていて、索敵不可能だったのだ。こんなことができるのは、異端技術のみだ。それも、二課の知りえない異端技術だ。

 

「翼さん、大丈夫ですか?」

 

「戦う分には、問題ない。それより、東雲は大丈夫か?」

 

「結構効きましたけど、まだやれます!」

 

翼は負傷した膝を抑え、日和は蹴られた腹部を抑えているが、まだ闘志は消えていない。マリアは翼を見て、苦虫を嚙み潰したような表情をしている。フォルテはその原因に気づいた。

 

(なるほど・・・マリアの一撃に合わせたか・・・やはり奴らの1番の戦力は風鳴翼か・・・)

 

(くっ・・・この剣・・・かわいくない・・・!)

 

その原因とは、マリアの一撃を放つ際、翼のカウンターによって装甲が斬られたのだ。肉を切らせて骨を断つとはよく言ったものだ。

 

(少しずつだが・・・ギアの出力が戻っている・・・いけるか?)

 

翼は手を握っては開いて、ギアの出力の調子を確認する。どうやら徐々にギアの調子が戻ってきたようだ。

 

(さて、あちらはギアの出力が戻ったか・・・。・・・む?)

 

それに対してフォルテは自分の身体が重くなっていくように感じた。マリアに至っては呼吸が荒くなり、息を整えている。

 

(・・・時間か。このまま続けては、こちらが負ける。それは得策ではない)

 

自分たちの活動時間が限界だとわかったフォルテはマリアに声をかける。

 

「マリア、こちらの適合係数が低下している。ネフィリムはすでに回収できている。戻るぞ」

 

「くっ・・・時限式ではここまでなの!!?」

 

マリアの放った時限式という単語に翼は反応する。それと同時に記憶に思い浮かぶのは、亡くなってしまった天羽奏と玲奈だった。

 

「まさか・・・奏と玲奈と同じく、LiNKERを?」

 

シンフォギアは鎧を形成する際に、歌の力以外にも、適合係数が高くないと纏うことができないもの。仮に纏うことができたとしても、適合係数が低ければ、ギアのバックファイアが装者を襲うのだ。その適合係数をあげるのがLiNKERだ。ただし、LiNKERとは言ってみれば劇薬だ。適性がない人間が使用すれば使用者に耐えがたき激痛が伴い、最悪の場合死に繋がる危険な薬物である。マリアたちは、シンフォギアに僅かながらに適性があったために、LiNKERを使用してシンフォギア装者になっていたのだ。このような疑似装者のことを、時限式と呼ぶ。そして、亡くなった奏と玲奈も、その時限式に該当しているのだ。

 

「つ、翼さん!あ、あれ!」

 

日和と翼が空を見ると、上空に浮かんでいたエアキャリアが突然姿を現した。マリアとフォルテはエアキャリアから放たれたロープに掴み、エアキャリアの中へと撤退する。

 

「あなたたちはいったい何を!!?」

 

響は調と切歌に自分たちの目的について聞き出そうとしていた。

 

「正義では守れないものを守るために」

 

「え・・・?」

 

調が答えたと同時に、エアキャリアが調と切歌の頭上まで移動し、ロープを下ろす。切歌はウェルを抱え、調と共にロープに掴まる。全員を回収したエアキャリアは戦線を離脱しようと移動する。このまま逃がすつもりがないクリスはボウガンをスナイパーライフルに変形させ、展開したスコープで標的の狙いを定める。

 

【RED HOT BLAZE】

 

「ソロモンの杖を返しやがれ・・・!」

 

エアキャリアをロックオンし、引き金を引こうとした瞬間、エアキャリアは突然姿を消し、スコープでの反応も途絶してしまう。

 

「なんだと・・・」

 

「クリスちゃん」

 

二課の方でも追跡していたが、反応は途絶してしまったようで、これ以上索敵するのは不可能だと断定された。

 

~♪~

 

一方のエアキャリア。操縦席でエアキャリアをナスターシャが操縦していた。エアキャリアの装置には赤い結晶・・・つまり、シンフォギアのネックレスが設置されてある。このシンフォギアの名は神獣鏡。

 

(神獣鏡の機能解析の過程で手に入れたステルステクノロジー・・・私達のアドバンテージは大きくても、同時に儚く、脆い・・・)

 

ナスターシャが心の中でそう呟いていると・・・

 

「ゴホッ!ゴホッ!」

 

突然ナスターシャは咳き込む。口元を抑えていた手を見てみると、吐血した血がついていた。それすなわち、彼女には残された時間がないという証明となっている。

 

「急がねば・・・儚くも脆いものは他にもあるのだから・・・」

 

一方その頃、エアキャリアの胴体部では・・・

 

バキッ!!

 

「ぐっ・・・!」

 

拠点を押さえられてしまったことに腹を立てた切歌がウェルを殴りつけ、胸倉を掴む。

 

「下手打ちやがって!連中にアジトを押さえられたら、計画実行までどこに身を顰めればいいんデスか!」

 

「やめろ暁。時間の無駄だ」

 

「でも!」

 

「フォルテの言う通りよ。こんなことをしたって、何も変わらないのだから」

 

腹を立てる切歌にフォルテが一言放ち、マリアが嗜める。

 

「・・・胸糞悪いデス!」

 

フォルテとマリアに言われ、切歌は手を離す。

 

「驚きましたよぉ、謝罪の機会すらくれないのですから」

 

ウェルが皮肉を言い放ち、切歌はさらに腹を立てる。それと同時にモニターにナスターシャが映し出され、彼女は口を開く。

 

『虎の子を守れたのが勿怪の幸い。とはいえ、アジトを押さえられた今、ネフィリムに与えるエサがないのが我々にとって大きな痛手です』

 

「今は大人しくしてても、いつまたお腹を空かせて暴れだすかわからない・・・」

 

調は檻の中で大人しくしているネフィリムを見てそう言った。

 

「持ち出した餌こそ失えど、全ての策を失ったわけではありません」

 

ウェルは自身の白衣の襟を正して立ち上がり、切歌たちが持つシンフォギアのネックレスを見て怪しく笑う。

 

~♪~

 

戦いが終わり、二課の仮設本部の潜水艦の船体に装者4人は座り込んで、顔を俯かせている。

 

「無事か!お前たち!」

 

弦十郎が潜水艦の出入り口を開けて出てきて、装者4人の心配をしている。

 

「師匠・・・了子さんと・・・たとえ全部わかり合えなくとも、せめて少しは通じ合えたと思ってました。なのに・・・」

 

「・・・結局あれは・・・上辺だけの言葉・・・だったんでしょうか・・・?」

 

フィーネ、もとい了子と少しは分かり合えたと思っていた響と日和にとっては今回の出来事はショックが大きい。そんな響と日和に弦十郎が声をかける。

 

「通じないなら、通じ合うまでぶつけてみろ!言葉より強いもの、知らぬお前達ではあるまい!」

 

「言ってること、全然わかりません。でも、やってみます!」

 

「私も・・・あれが上辺だけなんて思いたくありません!だから、諦めずに、何とか頑張ってみます!」

 

弦十郎のわけのわからない言葉に呆れつつも、装者4人はとにかく自分たちがやれることはとにかくやってみようと決意するのであった。




ミスティルテインの技

ミスティルテインの技名は七つの大罪や八つの枢要罪、エニアグラムの九つの大罪などの人間の罪とその罪を象徴した生物の名を英語で用いている。主に悪魔や堕天使が1番使われている。

【Belphegor Of Sloth】
フォルテの技。日本語に略すとベルフェゴールの怠惰。大剣をチェーンソーに変えて、回転させた刃で赤黒い斬撃を放つ技。

【Asmodeus Of Lust】
フォルテの技。日本語で略すとアスモデウスの色欲。大剣を真っ二つに分けて双剣にし、刃に雷を宿らせ、2つの雷撃を放つ技。

【Mammon Of Greed】
フォルテの技。日本語で略すとマモンの強欲。大剣の刃を回転させ、アサルトライフルのような形をし、エネルギー弾を放つ遠距離技。使用用途によって、マシンガンやショットガン、バズーカや大砲にもなりえる文字通りの強欲。


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あたしの帰る場所

今回は日和ちゃんと海恋ちゃんが歌います。楽曲のモデルはゆいかおりさんの楽曲です。どれもいい曲ばかりです。


二課の本部内に、防衛相が武装組織フィーネについての情報を手に入れ、その情報を二課に伝えようと通信が入ってきた。通信モニターにはそばを啜っている食している老人が映っている。彼の名は斯波田賢仁。防衛相に所属している外務省事務次官で、弦十郎のよき理解者である。ちなみ好物は、今啜っているそばである。

 

「では、自らフィーネと名乗ったテロ組織は、米国政府に所属していた科学者たちによって構成されていると?」

 

『正しくは、米国聖遺物研究機関、F.I.Sの一部職員が統率を離れ暴走した集団ということらしい』

 

「ソロモンの杖と共に行方知れずとなり、そして再び現れたウェル博士も、F.I.S所属の研究者の1人・・・」

 

武装組織フィーネとは、元々は米国聖遺物研究機関F.I.Sに所属していた研究者が異を唱え、組織から離れ、立ち上げた組織らしい。そして。ウェル同様に、ナスターシャも、元はF.I.Sに所属していた異端技術者であったのだ。

 

『F.I.Sってのは日本政府の情報開示以前より存在しているとのことだ』

 

「つまり、米国と通謀していた彼女が、フィーネが由来となる研究機関ですか?」

 

弦十郎のそばにいた緒川がそう質問し、新発田が肯定する。

 

『出自が、そんなだからな。連中がフィーネの名を冠する道理もあるのかもしれん』

 

新発田はそばを啜り、咀嚼して言葉を続ける。

 

『テロ組織には似つかわしくないこれまでの行動。存外、周到に仕組まれているのかもしれないな』

 

「うーむ・・・」

 

新発田から提供された情報に弦十郎は唸らせるばかりであった。

 

~♪~

 

リディアン音楽院にて、いよいよ秋桜祭が開催された。在校生だけでなく、ここには他校の友人や親などもこの秋桜祭に来ており、大きく賑わっている。そんな中響はただ1人、ぼんやりと秋桜祭を楽しんでいる人たちを見ていた。

 

「ひーびき」

 

そんな響に声をかけたのは、彼女にとって陽だまりの存在、未来であった。

 

「未来?どうしたの?」

 

「どうしたの?じゃないわよ。もうすぐ日和さんたちの劇が始まる時間よ?」

 

「ええ!!?もうそんな時間だっけ!!?」

 

もうすぐ日和たちのクラスの劇が始まる時間と聞いて響はとても驚いている。未来が響の手を握る。

 

「いこ?きっと楽しいよ」

 

「うん。ありがとう、未来」

 

響と未来は日和たちの劇を見に行こうと移動を開始した。

 

~♪~

 

日和たちのやる劇は講堂にて行われる。講堂の客席には大勢の人々が集まっていた。その大勢の中に、わざわざ有休をとって秋桜祭に来た咲もいる。

 

「あ、咲さん!」

 

そこへ日和の劇を見に来た響と未来がやってきた。

 

「2人とも、席は空いてるわよ。お隣どうぞ」

 

「ありがとうございます。じゃあ、お言葉に甘えて」

 

咲のお言葉に甘え、響と未来は咲の隣の席に座る。

 

「劇、これからですね」

 

「咲さん、日和さんが何の役をやるか聞いてませんか?」

 

「さあ・・・あの子、見てのお楽しみって言って教えてくれなかったのよね・・・」

 

響は日和が何の役をやるかを訪ねたが、咲にも教えていないようで何も知らない様子である。

 

「お待たせいたしました!オペラ劇、白雪姫、開演です!」

 

開演時間となり、日和たちのクラスの劇が開演される。まず会場に登場したのは白雪姫役の海恋だった。

 

「わあ!海恋さんが白雪姫なんだ!」

 

「すごい・・・きれい・・・」

 

「ふふ、海恋ちゃん、また一段とかわいくなったわね」

 

中々にはまり役の海恋に響と未来、咲は大絶賛。周りの人たちも海恋の美しさに見惚れている。白雪姫を見事に演じている海恋は内心では少し照れて恥ずかしい思いをしている。劇は恙なく続き、オペラも取り入れているために、観客たちは劇に新鮮味を感じている。劇は終盤までやってきたが、いつまでたっても日和が出てくる様子はなかった。

 

「日和さん、まだ出てこないね」

 

「もしかして・・・日和さんの役って・・・」

 

「まぁ・・・海恋ちゃんが白雪姫って時点で、なんとなく想像がつくけど・・・」

 

未来と咲は日和が何の役をやるのかというのが想像がついたようで苦笑を浮かべている。そして、劇は1番の見せ場に突入した。そこでついに、王子役の日和が壇上より登場した。

 

「えぇっ!!?日和さんが、王子役!!?」

 

「あぁ・・・やっぱり・・・」

 

「あの子・・・わかりやすすぎなのよ・・・」

 

予想的中といったようで未来と咲は少し呆れた様子であったが、響は本当に予想できてなかったようで非常に驚いていた。その間にも劇は見せ場シーン、王子のキスで目覚めるが行われようとしていた。もちろん、キスはフリであるのだが。だがここで問題が発生した。フリであるはずなのに日和が悪ふざけに本気でキスを迫ろうとしていた。

 

(ちょ、ちょっと!何やってんのよあんた!!フリ!!フリをしなさいって!!)

 

海恋はそれに気づいて小声でやめるように言ったが、日和は止まらない。裏方にいるクラスメイト達もかを赤くしつつも慌てている。日和の唇はだんだんと海恋に迫ってきて・・・

 

(やめなさいっての!!)

 

「いてっ!」

 

目の前で海恋が日和にデコピンをしてそれを阻止した。少し日和の声がもれてしまったが流れる音楽のおかげか、誰も聞こえておらず、海恋のデコピンも日和の姿勢のおかげで観客には見えていなかった。トラブルはあったものの、何とか劇が終わった。講堂には大きな拍手が送られている。

 

「あの子、またやらかしたわね・・・まぁ、やるとは思ってたけど・・・」

 

「でもすごくおもしろかったです!また劇やってほしいなぁ」

 

咲は日和がやらかしたことを理解しており、非常に呆れている。響は本当に劇が面白かったのか楽しそうに笑っている。

 

(やっぱり、響にはいつも笑っててほしい・・・。だって、それが1番響らしいもの)

 

響が笑っている姿に未来は微笑んでいる。

 

「この後は秋桜祭、カラオケ大会が開催します。出演者の方は、準備の方をお願いします」

 

「板場さんたちのステージ、まだ時間があるから、少し屋台を見に行かない?」

 

「行きたい!あ、咲さんは何か欲しいものはありますか?買ってきます!」

 

「そう?じゃあ・・・アイスコーヒーをお願いできるかしら?」

 

「アイスコーヒーですね!わかりました!行こ、未来」

 

「うん」

 

これから始まろうとしているカラオケ大会。そこに出場する弓美たちのステージ開演までの時間、響と未来は少し屋台を見に講堂を後にする。咲はカラオケ大会の鑑賞をしようとそのまま講堂に残るのであった。

 

~♪~

 

劇が無事に終了し、日和と海恋の2人はカラオケ大会の本番の時間になるまで屋台エリアで束の間の休息を楽しむ。しかし、海恋の顔はどことなく怒りが込められる。理由はやはり日和の本気のキスの件だ。

 

「・・・どうしてあんたが王子に挙手して私に白雪姫を立候補したのか、よーーっくわかったわ・・・!」

 

「そ、そんなんじゃないって~。ただ、見てる人がもっと盛り上がるようにしただけで・・・」

 

「だとしても、節度を考えろって言ってんの!あんな大勢の人前で・・・思い出しただけでも恥ずかしい・・・」

 

どうやら白雪姫は海恋が挙手したわけでなく、日和の推薦で選ばれたものらしい。ちょっとしたハプニングを思い返し、海恋は顔を赤らめる。

 

「まぁまぁ、無事劇が成功したんだし、よかったじゃん!みんなには怒られたけど・・・」

 

「そりゃ怒られて当然よ・・・フリって言ってんのに・・・」

 

やはりクラスメイト達から怒られたようで日和の頭には少したんこぶが1個できていた。

 

「細かいことは気にしない気にしない!それよりさ、なんか食べようよ。お腹すいちゃった」

 

「それよりって・・・はぁ・・・私は別に何でもいいけど・・・日和は何がいいの?」

 

「えっとねー、から揚げでしょ、たこ焼きでしょ?あ、クレープもいいしー・・・あ、でもでも、パンケーキだけは絶対に外せない!それからそれから・・・」

 

「はいはい、全部ね。本番もあるんだから、ひとまず1か所だけにしなさいよ」

 

日和は屋台のリストを1個1個上げていって、海恋は全部回りたいというのが理解できた。

 

「あ!1か所だけならパンケーキ!パンケーキがいい!!」

 

「わかったわかった。じゃ、行きましょう」

 

日和はパンケーキは外すつもりがないため、行く場所はパンケーキに決まった。移動を開始して、パンケーキの屋台に到着した。屋台からはパンケーキのおいしそうな匂いが漂ってきている。

 

「あ、海恋は座って待ってて!私が買ってくるから!ついてきちゃダメだからね!!」

 

「?わかったわ」

 

変についてくるなっていう日和の強調が強く、海恋は首を傾げる。日和はパンケーキの屋台に向かっていき、海恋は近くにあったベンチに腰掛ける。しばらく待っていると、屋台から日和が戻ってきた。

 

「お待たせー!はい、これが海恋の分!」

 

「ありがと」

 

「ねね!早く開けてみてよ!驚くと思うから!」

 

「??驚くって・・・ただのパンケーキでしょ?」

 

日和に言われて海恋は先にパンケーキが入ったプラスチックの皿の蓋を開けてみた。中身を見て海恋は目を見開いた。入っていたパンケーキはまるでケーキのようにクリームが多く塗ってあり、イチゴもトッピングされ、極めつけはチョコプレート。プレートに書かれていた文字にはこう書かれている。

 

『誕生日おめでとう!!』

 

「日和、これ・・・」

 

「本当はちゃんとしたケーキでサプライズしたかったんだけど・・・部屋一緒だから大きいケーキは用意できなくってさ・・・。だから屋台の子に前もってこんな風にできないかって相談してたの。海恋の心に残る誕生日にしたかったから」

 

「・・・・・・」

 

日和の誕生日サプライズに海恋は驚いた様子でパンケーキをじっと見つめる。

 

「・・・私にとって誕生日は普通の日と何にも変わらないと思ってた。親に祝ってもらったことも、誰かに祝ってもらったことも一度もなかったから。だから去年の誕生日にあんたたちに祝ってもらっても、ただの気まぐれだと思ってた。失礼よね・・・こんなこと思うなんて・・・」

 

「ううん、私は気にしてないよ。それに、そう思ってたなら、その思いを塗り替えちゃえばいいんだしさ!そのために私は・・・・去年のカラオケ大会で感謝とお祝いを込めて歌ったんだから」

 

「日和・・・」

 

去年の誕生日の秋桜祭の日に日和が歌った歌に込められた思いを聞いて、海恋は微笑む。

 

「・・・いいの?そんなこと言っちゃって。そう言われたら私・・・来年の誕生日も、期待するかもしれないわよ?」

 

「期待しちゃっていいんだよ!だって、年に一度の誕生日だもん!誰にだって、祝ってもらえる権利があるんだから!」

 

「日和・・・ありがとう」

 

海恋は日和に感謝を述べ、パンケーキを1切を切り、それを日和に向ける。

 

「日和。この後の本番、楽しみましょう」

 

海恋の意図を理解した日和は普通のパンケーキの蓋を開けて、自分の分のパンケーキの1切れを切り、海恋に向けた。

 

「もちろん!海恋にとっても、みんなにとっても、最高の学祭にしよう!」

 

自分のパンケーキの一切れを日和は海恋の口に、海恋は日和の口に運んだ。ほんのり甘いパンケーキを食べながら、日和と海恋は共に笑いあった。

 

~♪~

 

秋桜祭の別エリアの屋台も大いに盛り上がりを見せていた。そんな盛り上がっている秋桜祭に、この2人も来ていた。

 

「楽しいデスなぁ・・・何を食べてもおいしいデスよぉ」

 

その2人というのは、潜入用のメガネをかけた切歌と調であった。この2人は遊びに来ているわけではないのだが、切歌はそれを忘れているのではないかと疑いたくなるほど満喫していた。

 

「じぃー・・・」

 

学祭を楽しんでいる切歌に調はジト目でじーっと彼女を見つめている。

 

「あぅ・・・なんデスか、調・・・」

 

切歌と調は場所を変えて、校舎裏の木の裏に身を隠す。

 

「私達の任務は学祭を全力で満喫することじゃないよ、切ちゃん」

 

「わ、わかっているデス!これもまた、捜査の一環なのデス!」

 

「捜査?」

 

切歌の返答に首を傾げる調に切歌はポケットから学院に入る際にもらったうまいもんMAPを取り出す。

 

「人間誰しもおいしいものに引き寄せられるものデス!学院内のうまいもんMAPを完成させることが、捜査対象の絞り込みには有効なのデス!」

 

切歌の言い分に完全に疑っている調はジト目になり、頬を膨らませて詰め寄ってくる。

 

「心配しないでも大丈夫デス。この身に課せられた使命は、1秒だって忘れていないデス」

 

少したじたじになったものの、使命を忘れていない切歌は表情を真面目なものに変えた。

 

~♪~

 

事の発端は先日のエアキャリアでの話に遡る。

 

「アジトを押さえられ、ネフィリムの成長に必要な餌・・・聖遺物の欠片もまた、二課の手に落ちてしまったのは事実ですが、本国の研究機関より持ち出したその数も残りわずか・・・遠からず、補給しなければなりませんでした」

 

「わかっているのなら、対策もまた、考えているということ?」

 

「対策などと大袈裟なことは考えていませんよ。今時聖遺物の欠片なんて、その辺にごろごろ転がっていますからね」

 

ウェルが調と切歌の持つギアのペンダントを見てそう口を開いた。

 

「まさか・・・このペンダントを食べさせるの?」

 

調が目を見開いてそう言葉にし、フォルテがそれを否定する。

 

「僕たちのギアをネフィリムに与える・・・それは戦力低下に他ならない。そのような愚策を考えるはずなどない」

 

「さすがですね。僕の事をよくわかっていらっしゃる」

 

「誰にでも導き出せる答えだ」

 

ウェルの皮肉を込めた言葉にフォルテは表情を変えずに淡々と述べる。

 

「だったら私が、奴らが持っているシンフォギアを・・・」

 

「それはダメデス!!」

 

マリアが翼たちのギアを纏めて奪うことを提案したが、それは切歌と調が異を唱えた。

 

「絶対ダメ!マリアが力を使うたび、フィーネの魂がより強く目覚めてしまう。それは、マリアの魂を塗りつぶしてしまうこと。そんなのは・・・絶対にダメ」

 

「2人とも・・・」

 

調の言い分にマリアは申し訳なさそうな表情をし、フォルテは何も言わずにマリアを見て、しばらくして目を閉じ、そして調と切歌に向けて口を開く。

 

「・・・だとすれば、どうするつもりだ?」

 

「あたしたちがやるデス!マリアを守るのは、あたしたちの戦いデス!」

 

この会話が、切歌と調がリディアンに潜入するきっかけとなったのだ。

 

~♪~

 

そう息巻いたものの、今現在捜査は見てのとおりで、難航している。

 

「・・・とは言ったものの・・・どうしたらいいかデス・・・」

 

切歌が頭を悩ませていると、調は目的対象である翼を発見し、笑顔を浮かべる。

 

「切ちゃん、鴨葱!」

 

調はすぐに行動を開始しようとすると、切歌が彼女の腕掴んで止め、引っ張った反動でバランスを崩した彼女を抱きとめる。

 

「作戦も心の準備もできてないのに、鴨も葱もないデスよ!」

 

ひとまず切歌と調は翼の後をつけることにした。2人は翼に見つからないように柱に隠れながら後をつける。

 

「・・・?」

 

気配を感じ取ったのか翼は後ろを振り返る。切歌と調は慌てて柱に身を引っ込める。

 

「こっそりギアのペンダントだけ奪うなんて土台無理な話デス」

 

「だったらいっそ、力づくで・・・」

 

「落ち着くデス!そんなことしたらまたフォルテに怒られるデスよ⁉」

 

力づくでギアを奪おうとする調に場所が場所なので切歌が慌てて止める。その間にも翼は先ほどから感じる気配で警戒心を強くさせながら移動する。そうしていると、近くのドアから曲がってきたクリスにぶつかってしまう。

 

「いってぇ~・・・」

 

「またしても雪音か。何をそんなに慌てて・・・」

 

「追われてるんだ!さっきから連中の包囲網が少しづつ狭められて・・・」

 

どうもクリスはまたしてもクラスメイトたちに追われて逃げているようだ。

 

「雪音も気づいていたか・・・。先刻より、こちらを監視しているような視線を私も感じていたところだ」

 

翼が言っているのは調と切歌の事なのだが、完全に食い違いが発生している。しかも2人はそのことに気づいていない。

 

「気づかれていたデスか・・・」

 

「見つけた!雪音さん!」

 

「お願い!登壇まで時間がないの!」

 

そこに小路、由貴、乙女の3人がやってきた。見つかったクリスは引きつったような顔をしている。

 

~♪~

 

講堂では、秋桜祭のカラオケ大会が開かれており、観客たちは参加者たちの歌声を聞いて、大いに盛り上がっている。スポットライトに照らされたステージに出場した弓美、詩織、創世が登壇する。ただ、彼女たちの格好はアニメのコスプレをしている。

 

「さて!次なるは1年生トリオの挑戦者たち!優勝すれば、生徒会権限の範疇で一つだけ望みがかなえられるのですが・・・彼女たちは果たして、何を望むのか⁉」

 

「もちろん!アニソン同好会の設立です!あたしの野望も伝説も、全てはそこから始まります!」

 

どうも弓美にはアニソン同好会なるものをつくりたいようだが・・・こんなことをしなくても普通に申請すれば後は人数と担任を見つければ済む話なのだ。事を大きくしているが、歓声が大きく、盛り上がってるため、結果オーライだ。

 

「ナイスですわ~。これっぽっちもぶれてませんもの」

 

「あぁ・・・なんかもうどうにでもなれぇ・・・」

 

詩織は結構ノリノリの様子だが、創世は羞恥心でもう投げやりの様子である。

 

「咲さん、ただいま戻りました~」

 

「ありがとう、2人とも。弓美ちゃんたちのステージ、始まるわよ」

 

屋台から戻ってきた響と未来は咲がキープしていた席に座り、彼女にアイスコーヒーを手渡す。講堂内では、テレビアニメ、電光刑事バンの主題歌のましいイントロが流れ、弓美たちが歌う。歌は盛り上がりを見せ、これからサビに突入・・・

 

カーンッ

 

不合格を言い渡す鐘が鳴った。弓美の野望、叶わず。

 

「えー!!まだフルコーラス歌ってない・・・二番の歌詞が泣けるのにぃ~!!なぁんでぇ~!!」

 

最後まで歌わせてもらえず、弓美は項垂れて落ち込み、会場は笑いに包まれる。響たちもおかしくなって笑いが止まらなかった。その後も参加者は歌を歌い、カラオケ大会は大きく盛り上がった。

 

「お待たせいたしました!次なるは大本命中の大本命!!前回のカラオケ大会で、素敵な歌声を届けたチャンピオン!今回はパートナーを引き連れての参加です!!今年もチャンピオンの座を狙いに来たか!!それでは、登場していただきましょう!!」

 

司会の声に合わせて、前カラオケ大会のチャンピオンが会場に入場する。

 

「前回チャンピオン、二回生コンビ、東雲日和&西園寺海恋です!!」

 

『わあああああああああ!!!』

 

「待ってましたー!!日和さーん!!海恋さーん!!」

 

チャンピオンである日和と、そのパートナーである海恋の登場により、観客は大きな歓声を上げた。日和と海恋が観客に手を振り終えると、今回歌う曲が流れ始めた。明るいメロディが流れ、日和と海恋はデュエットで踊りながら歌いだす。

 

「「~♪~~♪」」

 

日和のかっこいい声質と普段の海恋からは聞けない海恋のかわいらしい声質が重なり合い、絶妙なハーモニーに観客は大興奮だ。響と未来も目を輝かせており、咲も感慨深そうに微笑み、2人を見守っている。

 

(海恋と一緒に歌えることで、より一層の高ぶりを感じる!やっぱり歌は最高・・・!気持ちいい!)

 

(私がこうして歌に専念できるのは、日和のおかげ。みんなのおかげ。今日という日に、私の気持ちを乗せて歌えるのが、最高に心地が良い!)

 

2人は無事に全て歌いきることができた。観客はとても興奮しており、大歓声が上がっている。全力を出し切った日和と海恋はハイタッチを交わし、観客に手を振りながら会場の裏へ退場する。

 

「さて!次なる挑戦者の登場です!」

 

会場裏に移動した日和と海恋はそこにいた次なる参加者に顔を向け、笑みを浮かべる。

 

「ほら、次はあなたの番よ」

 

「ほらほら、行った行ったぁ!」

 

「うわっ!!?」

 

海恋と日和は次の参加者の背中を押して、壇上へと入場させた。入場した人物を見て、観客席の響たちは驚く。

 

「響、あれって!」

 

「うそぉ⁉」

 

「雪音だ」

 

響たちが驚く中、翼は3人の隣に座る。

 

「東雲と同じく、私立リディアン音楽院。2回生の雪音クリスだ」

 

ステージに入場した人物、クリスは恥ずかしさで頬を赤くしている。美しいイントロが流れ、歌唱パートに入ったが、クリスは緊張で歌えてない。それには会場はどよめく。

 

「クリスちゃん・・・!」

 

クリスは会場裏にいる同級生たちをチラ見する。

 

「クリス、頑張れー!」

 

日和を含めた2年生グループはクリスを応援している。応援を無下にするわけにはいかず、クリスは歌い始める。クリスは歌っている最中、これまでの学校生活を思い出す。編入してからというもの、クリスは誰にも関わらないようにクラスメイト達から避けていた。しかし、そんなクリスに日和と海恋は今日までずっと彼女に寄り添ってきた。断られても、日和と海恋は寄り添い続けた。そんな2人に感化され、他のクラスメイト達も、クリスを寄り添うようになり、クリスの学校生活は、明るいものとなった。

 

~♪~

 

そもそもなぜクリスがカラオケ大会に参加することになったのかは、3人に頼まれたからである。

 

「いったいどうしたんだ?」

 

「勝ち抜きステージで、雪音さんに歌ってほしいんです!」

 

「だからなんであたしが!!」

 

「だって雪音さん、ひよりんと同じくらい楽しそうに歌ってたから!」

 

小路に言われた言葉にクリスは驚いたように目を見開く。

 

「・・・雪音は歌、嫌いなのか?」

 

「あ・・・あたしは・・・」

 

翼にかけられた言葉にクリスは頬を赤くした。結局クリスは断り切れずに、カラオケ大会の勝ち抜きステージに出場することになったのだ。

 

~♪~

 

クリスが歌いながら頭に思い浮かべるのは、仲間である翼、響、未来・・・クラスメイトの小路、由貴、乙女・・・そして、ずっとそばに一緒にいてくれたかけがえのない友である、日和と海恋。みんながいたから、クリスは今こうして、ここにいる。

 

(楽しいな・・・あたし、こんなに楽しく歌を歌えるんだ・・・)

 

日和は常に歌は楽しいって言っていた。最初はクリスは理解できなかったが、今なら理解できる。歌を歌うことが楽しいことだと。嫌いだと思っていたものが、本当は大好きなんだと。それに気づかせてくれたかけがえのない相棒に、クリスは心の中で感謝している。

 

(そっか・・・ここはきっと、あたしがいてもいいところなんだ・・・)

 

歌が終わり、クリスは礼をする。素敵な歌声に観客はクリスに大きな拍手を送る。この後の判定が出た。結果は・・・なんと、日和と海恋との1点差でクリスがチャンピオンに輝いた。これには日和が悔しがっていたが、それ以上に楽しませてもらったためにクリスに手を差し伸べる。照れたクリスは差し出された手を戸惑いつつも、握り返す。新チャンピオンと前回チャンピオンの友情の握手に観客たちは大きな拍手を送った。

 

「勝ち抜きステージ、新チャンピオン誕生!さあ!次なる挑戦者は⁉飛び入りも大歓迎ですよ~!」

 

ただでさえ日和と海恋の歌、さらにクリスの歌も素晴らしかったのだから名乗りを上げるものはいないだろうと思っていた時・・・

 

「やるデス!!」

 

ここで名乗りを上げた人物たちに観客たちは驚きの声を上げる。名乗りを上げた人物を見て、クリスは驚愕する。いや、二課の装者たちも驚いているだろう。

 

「チャンピオンに」

 

「挑戦デス!!」

 

名乗りを上げた人物とは、二課と敵対関係にある調と切歌だった。




XD-エクスドライブアンリミテッド-

フォルテ・トワイライトボイス

ログインボーナス1
贈り物だ。受け取るといい。

ログインボーナス2
日々の継続は大事だ。

基本ボイス1
フォルテ・トワイライトだ。よろしく頼む。

基本ボイス2
何か用か?

基本ボイス3
戦場では気を抜けば死ぬ・・・そうならないよう常に気を配るんだ。

基本ボイス4
力は愛と答えたらマリアがなぜそこで愛と言われたのだが・・・変なことを言ったか?


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血に染まりゆく騎士

武装組織フィーネはどこかに存在する波止場の倉庫にエアキャリアを隠し、身を潜めている。フォルテは目を閉じて腕組んでじっとしており、マリアは物思いにふけっている。マリアの脳裏に浮かび上がるのは調と切歌が放った言葉だ。

 

『マリアが力を使うたび、フィーネの魂がより強く目覚めてしまう。それは、マリアの魂を塗りつぶしてしまうこと。そんなのは・・・絶対にダメ』

 

『あたしたちがやるデス!マリアを守るのは、あたしたちの戦いデス!』

 

この言葉によって、マリアは果たして、自分の下した判断は正しいのだろうか、自分が間違っているのだろうかと疑心暗鬼に陥っている。

 

「後悔しているのですか?」

 

ナスターシャの質問にマリアは首を横に振り、決意を示す。

 

「大丈夫よマム。私は、私に与えられた使命を全うして見せる」

 

「口だけなら何とでも言える。行動で示せ」

 

「わかってるわ」

 

フォルテの言葉をマリアは首を縦に頷く。

 

ヴーヴー、ヴーヴー・・・

 

すると突然アラートが鳴り響き、ナスターシャは外の様子をモニターで確認する。モニターには特殊な装備を着込んだ軍隊が倉庫内に侵入していた。

 

「今度は本国からの追手・・・」

 

「もうここが嗅ぎつけられたの!!?」

 

どうやら侵入してきたのは米国政府の特殊部隊で、マリアたちを捕らえる・・・もしくは抹殺のために送り込まれたようだ。

 

「相手は米国政府の特殊部隊・・・訓練された戦いのプロか・・・。どうやら、本気で僕たちを排除する気みたいだな」

 

「どうするの?」

 

フォルテは冷静に分析し、マリアはナスターシャに問いかける。そして、ナスターシャは当然のように答える。

 

「踏み込まれる前に攻めの枕を抑えにかかりましょう。マリア、排撃をお願いします」

 

ナスターシャの言葉にマリアは後ずさる。

 

「排撃って・・・相手はただの人間・・・ガングニールの一撃を喰らえば・・・」

 

「そうしなさいと言っているのです」

 

聖遺物で排撃する・・・それすなわち、相手を殺すことを意味している。それを十分に理解しているマリアは躊躇っている。

 

「・・・ライブ会場占拠の時もそうでした。マリア・・・その手を血で染めることを恐れているのですか?」

 

「・・・マム・・・私は・・・」

 

マリアは何とか口を開こうとするも、ナスターシャの静かな視線に何も言えなくなってしまう。

 

カシャンッ!

 

ナスターシャがマリアに覚悟を問いていると、近くで突然銃火器の音が鳴る。その音に視線を向けていると、フォルテが銃を手に持ち、出撃準備に取り掛かっている。

 

「フォルテ?何をしているの?」

 

「君の覚悟を待っている時間はない。僕が奴らを殲滅する。マム、排撃許可を」

 

「!!?」

 

マリアにはフォルテが何を言っているのか理解できなかった。いや、理解したくもないのだろう。なぜなら、仲間であるフォルテが自分から人間を殺すという選択肢を選んでいるのだから。

 

「ほ、本気なの!!?」

 

「ああ」

 

フォルテの目には絶対にやるという意志が伝わってきている。

 

「勝算はあるのですか?」

 

「いかに戦闘のプロと言えど、奴らとは、潜り抜けた修羅場が違う」

 

フォルテには、特殊部隊をどうにかできるという絶対的な自信があった。その自信は、彼女の出身地と深く関係している。

 

「・・・時間がありません。手早くお願いします」

 

「イエス、マム」

 

「ま、待って!!」

 

ナスターシャの許可をもらい、フォルテは彼女に敬礼し、銃を持ってエアキャリアを出ていく。マリアはフォルテを止めるが、彼女は聞く耳持たず、行ってしまった。

 

「マリア、よく見ていなさい。本物の覚悟が、どういうものかを」

 

ナスターシャに言われ、マリアはモニターを確認して、これから起こることを見守る。

 

~♪~

 

ドガーーン!!ドカーン!!

 

米国の特殊部隊は倉庫に爆弾を使って攻撃を開始した。爆破に紛れ、特殊部隊は倉庫に侵入し、エアキャリアを押さえようと近づく。

 

ダダダダダダッ!!

 

「「「ぐわああああ!!」」」

 

そこにエアキャリアの奥より弾丸が放たれ、特殊部隊の何名かは弾丸に直撃し、血を流す。特殊部隊が警戒をし、弾丸が放たれ場所に銃を向ける。エアキャリアの奥より、弾丸を防ぐためにシンフォギアを身に纏ったフォルテがライフルを特殊部隊に向けて現れた。

 

「消えろ」

 

ダダダダダダッ!!

 

フォルテは容赦なく起き上がろうとする特殊部隊の頭に向けてライフルを発砲し、その命を奪った。それに合わせ、他の特殊部隊もフォルテに向かって発砲を開始する。フォルテはかなり慣れた足取りで銃撃を躱し、貨物に隠れ、さらにライフルを撃ち放つ。フォルテの撃つ弾はどれも特殊部隊の頭を撃ち抜き、次々と多くの命を奪っていく。フォルテを無視してエアキャリアの元へ向かうとする部隊も、その前にフォルテが撃ち殺す。特殊部隊は挟み撃ちをしようと部隊を分けてフォルテが隠れる貨物に近づくが・・・

 

グサッ!!!

 

フォルテが右の特殊部隊の1人を大剣でぶっ刺して殺した。右部隊をフォルテは大剣を振るって全員薙ぎ払った。さらにフォルテは現れた左部隊に向けてライフルは撃ち放ち、大勢の命を奪っていく。特殊部隊は抵抗を続けるも、悟ってしまった。例えシンフォギアを纏っていなくとも、こんな化け物には勝てない・・・と。

 

「う・・・ううぅ・・・!!」

 

エアキャリア内にて、モニターで繰り広げられている戦い、そして人間の殺されゆく様・・・そして辺りに飛び散る血だまりを見てマリアは激しい吐き気を催す。

 

(異端技術を手にしたと言っても、私たちは素人の集団・・・訓練されたプロを相手に立ち回れない。・・・フォルテを除けば)

 

幼い頃、フォルテがまだF.I.Sに連れていかれる前は、生まれ故郷であるバルベルデ共和国の反乱軍に所属していた。フォルテは幼いながらも数えきれないほどの戦場を渡り歩き、生き延びてきた。つまりフォルテには、生きながらえる術を、いくつも持っている。いくら戦闘のプロと言えども、幼き頃から何年もずっと戦ってきたフォルテと比べれば・・・その差は天と地ほどの差がある。

 

「ひ・・・ひぃ・・・!!」

 

あれほど率いていた部隊がたった1人の女性によって壊滅されて、生き残った何人かの兵士はフォルテに対し、深い深い恐怖に陥った。

 

~♪~

 

秋桜祭のカラオケ大会の勝ち抜きステージに名乗りを上げた切歌と調。敵である彼女たちが現れ、クリスは警戒心を露にしている。会場裏にいる日和は驚いた表情をしており、何も知らない海恋はそんな日和を見て首を傾げている。

 

「翼さん、あの子たちは・・・」

 

「ああ。だが何のつもりで・・・」

 

「響、あの子たちを知ってるの?」

 

「う、うん・・・あのね、未来・・・」

 

2人の登場に驚いている響と翼も驚いている。海恋と同じく、何も知らない未来は響に質問する。響は口ごもり、代わりに翼が答える。

 

「彼女たちは、世界に向けて宣戦布告し、私達と敵対するシンフォギア装者だ」

 

「じゃあ、マリアさんの仲間ってことなの?ライブ会場でノイズを操ってみせた・・・」

 

「待って。マリアさんの仲間・・・ということは、フォルテさんも?」

 

「そう・・・なんです・・・」

 

未来と咲は告げられた事実に内心驚きつつも、顔を俯かせて悲しそうな顔をしている響を心配する。その間にも切歌と調はステージに近づいてきた。

 

「べー」

 

切歌はクリスと会場裏から出てきた日和に向かってあっかんべーをする。それを見てクリスは飛び掛かりそうになるが、日和と海恋に止められる。

 

「クリス!抑えて抑えて!」

 

「やめなさいって。子供の挑発よ」

 

「わかってるっての!くそ!」

 

子供の挑発とわかっていても、それでも毒づくクリス。

 

「切ちゃん、私達の目的は?」

 

「聖遺物の欠片から作られたペンダントを奪い取る事デース」

 

挑発する切歌を調が嗜める。切歌は挑発をやめたが、どこかふてくされている。

 

「だったらこんなやり方しなくても・・・」

 

「聞けば、このステージを勝ち抜けると、望みを叶えてくれるとか。このチャンス逃すわけには・・・」

 

「おもしれぇ。やり合おうってならこちとら準備はできてる!」

 

勝手に話を進められて、海恋と調はお互いに呆れている。

 

「はぁ~・・・特別に付き合ってあげる。でも、忘れないで。これは・・・」

 

「わかってる!首尾よく果たして見せるデス!」

 

切歌と調は壇上へと上がっていき、クリスたちは会場裏へと下がっていく。

 

「あの子たち・・・本気で優勝を狙うつもりなの?」

 

「どっちにしても・・・あの子たちの願いは完全に生徒会の権限を越えてるから・・・」

 

一般生徒が聖遺物の事情を知るわけがないのだが・・・どっちにしろ生徒会の権限を越えている以上、切歌たちの望みが叶うことは決してない。というか、それ以前に人の物をとるということ自体、生徒会が許すわけない。それに気が付かない切歌は意気揚々としている。

 

「それでは歌ってもらいましょう!・・・えぇっと・・・」

 

「月読調と」

 

「暁切歌デス!」

 

「オッケーイ!二人が歌うORBITALBEAT!もちろんツヴァイウイングのナンバーだぁ!」

 

講堂にツヴァイウィングのイントロが流れ出した。この曲が流れ出したことにより、日和の目の色が煌びやかに変わる。

 

「これはツヴァイウィングの!!くぅー!あの子たち、中々いいセンスを持ってるぅ!!」

 

「このおバカ!この曲を選んだ意味全然わかってないでしょ!」

 

的外れな発言する日和に海恋がツッコミを入れる。

 

「この歌⁉」

 

「翼さんと奏さんの・・・!」

 

「何のつもりの当てこすり?挑発のつもりか?」

 

敵が敵対するアーティストの持ち曲を歌うなど・・・これは明らかなる挑発行為に他ならない。それを知っている切歌と調はデュエットでツヴァイウィングの歌を歌うのであった。挑発行為だとしても、楽しそうに歌っている切歌と調の姿に、クリス、日和、海恋はその歌声に聞き惚れていた。

 

~♪~

 

一方その頃、エアキャリアを隠している倉庫内で、今もなお抵抗を続ける兵士はフォルテに蹴り飛ばされ、地面に倒れ伏す。そしてフォルテはその兵士の頭に拳銃を突きつける。

 

「や、やめ・・・」

 

ダダダダダダッ!

 

戦意がまだ失っていないのに感づいているのか、フォルテは容赦なく兵士の脳天に拳銃を撃ち、その命を奪った。兵士の血が飛び散り、フォルテの頬に付いたが、彼女はお構いなしだ。彼女はすっかり怖気づいている兵士に視線を向ける。

 

「「「た・・・助けてくれえええええええええ!!!!」」」

 

兵士たちは命惜しさから情けない声を出して倉庫から逃げ出していく。兵士たちにはもう戦意はない。ならばこれ以上の殺生の必要はないと判断し、フォルテはシンフォギアは解除する。

 

「・・・何?」

 

フォルテがシンフォギアが解除されると、逃げ出していった何人かの兵士は炭と化して崩れ去っていった。これすなわち、ノイズに触れて炭素分解してしまったのだ。そして、今現在、こんなことを狙って引き起こせる人物など、ただ1人だけだ。

 

「炭素分解だと?」

 

「ダメじゃないですかぁ~、フォルテさ~ん。やるからには、全員始末しないと」

 

「・・・ドクターウェル」

 

そう、ソロモンの杖でノイズを召喚し、逃げ出した兵士を炭素分解したのは、この男、ウェルなのだ。

 

「奴らは戦意を喪失している。殺す意味がない」

 

「こいつらを戻したら、新たな追手が来るのですよ?意味なんて、あるに決まってるじゃあないですかぁ!」

 

そう言ってウェルはソロモンの杖で新たなノイズを召喚し、逃げ出した兵士全員をノイズに襲わせ、炭素分解させた。その光景は、騒ぎを聞きつけてやってきた野球少年たちに見られてしまう。

 

「おやぁ~?」

 

ウェルは歪な笑みを浮かべ、ゆらりゆらりと野球少年に近づく。

 

「・・・ドクターウェル。何をしている?・・・まさか貴様・・・!!」

 

今からウェルが何をやろうとしているかに気が付いたフォルテは珍しく顔を強張らせている。

 

『やめろウェル!その子たちは関係ない!やめろおおおお!!!』

 

通信機のマリアの叫びを無視して、ウェルはノイズを召喚し、野球少年たちを襲わせた。野球少年たちはノイズによって、炭素と化し、消滅してしまった。通信機にはマリアの慟哭が響く。愉快そうに笑うウェルにフォルテは彼に近づいて自分に顔を振り向かせる。

 

バキィ!!!

 

「ぐああああああ!!?」

 

そして突然にウェルを殴り飛ばす。起き上がろうとするウェルにフォルテは彼の頭に拳銃を突きつける。フォルテの顔はいつも通りの無表情・・・いや、それ以上に冷酷で彼を本気で殺しにかかる顔をしている。

 

「ひっ!!!」

 

『フォルテ!!やめなさい!!計画を破綻させる気ですか!!』

 

通信機でナスターシャがフォルテを止める。フォルテはすぐに拳銃を下ろし・・・代わりにウェルを蹴とばす。

 

「ぐおおお!!!」

 

ウェルは蹴とばされて地面倒れ、顔をフォルテに踏みつけられる。

 

「・・・君は僕たちの計画には必要不可欠な存在。命は取らないでおいてやる。だが、次はないと思え。今度愚かな行為を行った場合は、死よりも辛い目に合わせる。これは脅しでも警告でもない。戒めだ」

 

フォルテは言いたいことを言い、不機嫌を隠さずにエアキャリアへと戻っていく。

 

「・・・ふぅ・・・やれやれ・・・あなたもとんだ甘ちゃんですねぇ。全てを犠牲にすると聞いて呆れるわぁ」

 

まったく懲りた様子がないウェルは割れてしまったメガネをかけ直して、歪な笑みを浮かべるのだった。

 

~♪~

 

切歌と調が歌を歌い切り、講堂内では観客の大興奮と大きな拍手で包まれている。

 

「翼さん・・・」

 

「何故・・・歌を歌う者同士が、戦わねばならないのか・・・」

 

楽しそうに歌っていた切歌と調を見て、翼はどうして歌を愛する者同士で戦わねばいけないのか、疑問を浮かべた。

 

「チャンピオンとてうかうかしていられない、素晴らしい歌声でしたぁ~。コレは得点が気になるところです!」

 

「2人がかりとはやってくれる!」

 

「クリス、どうどう・・・」

 

クリスが2人にかみつこうとして、日和と海恋がたしなめる。すると、切歌と調の通信機からナスターシャからの通信が入った。

 

『アジトが特定されました。襲撃者を退けることはできましたが、場所を知られた以上、長居はできません。私たちも移動しますので、こちらの指示するポイントで落ち合いましょう』

 

「そんな!!少しでペンダントが手に入るかもしれないのデスよ⁉」

 

『緊急事態です。命令に従いなさい』

 

切歌は異を唱えたが、ナスターシャはそれに取り付く島もなく、そう指示を出して通信を切った。

 

「さあ!採点結果が出た模様です!」

 

カラオケ大会の採点結果を発表する前に調は切歌の手を引いて壇上から降り、講堂から去ろうとする。

 

「おい!ケツを捲くんのかぁ⁉」

 

「調!!」

 

「フォルテがいるから、マリアに力を使わせることはしないと思う。でも、心配だから・・・」

 

調の言葉に切歌は何も言えず、仕方なく大会を放棄し、彼女と共に講堂を出ていく。

 

「ちっ・・・追うぞ、相棒!」

 

「う、うん。海恋はここで待ってて。すぐに戻るから」

 

「え、ええ」

 

クリスと日和は2人を追いかけに向かった。

 

「私たちも追うぞ、立花」

 

状況を見て翼も2人を追いかけに席を立ち、講堂を後にする。響は心配そうにしている未来を見て真剣な声で口を開く。

 

「未来はここにいて。もしかすると、戦うことになるかもしれない」

 

「う、うん・・・」

 

「咲さん、未来をお願いします」

 

「・・・ええ。わかったわ」

 

響は咲に未来を任せて、翼と共に2人を追いかけに向かった。

 

「・・・響・・・やっぱりこんなのって・・・」

 

心配そうな表情している未来に咲は何と声をかけていいかわからず、彼女を見つめることしかできない。

 

~♪~

 

講堂から出た調と切歌は急いで移動するが、途中で通路をクジラのオブジェが通過し、足止めをくらってしまう。

 

「くそっ!どうしたものかデス!」

 

切歌が毒づいている間に、クジラのオブジェがやっと通過し、通ろうとした時、目の前に翼と響が立ちふさがる。道を引き返そうとした時、クリスと日和に追いつかれる。

 

「切歌ちゃんと調ちゃん・・・だよね・・・?」

 

「4対2・・・数の上ではそっちに分がある。だけど、ここで戦うことであなたたちが失うもののことを考えて」

 

調はそう言って生徒たちを見つめる。

 

「お前、そんな汚いこと言うのかよ!さっき、あんなに楽しそうに歌ったばかりで・・・」

 

クリスの言葉で切歌は一瞬だけ調に視線を向け、口を開く。

 

「ここで今戦いたくないだけ・・・そうデス!決闘デス!然るべき決闘を申し込むのデェス!!」

 

「どうして⁉会えば戦わなくちゃいけないってわけでもないでしょ?」

 

「「どっちなんだよ(デス)!!」」

 

響の矛盾しまくっている言葉にクリスと切歌がツッコミを入れる。

 

「ねぇ、本当に戦わなくちゃいけないの?そんなことしなくたって、話し合いで解決できない?」

 

日和の言葉に響は同意するようにうんうんと首を縦に頷く。

 

「話し合うことなんかない。少なくとも、フォルテならそう言う。とにかく、決闘の時はこちらから告げる。だから・・・」

 

調は切歌の手を引いて、リディアンから出ていく。その後ろ姿を見た後、二課からの通信が入った。

 

『4人とも揃っているか?ノイズの出現パターン、及びアウフヴァッヘン波形を検知した。ほどなく反応は消失したが、念のために周辺の調査を行う』

 

「「はい」」

 

「ああ」

 

「・・・はい・・・」

 

決闘を言い渡されて、響は沈んだ表情をしているのだった。




XD-エクスドライブアンリミテッド-

フォルテ・トワイライトボイス

朝1
ああ、おはよう

朝2
早起きとは感心するな

昼1
いいジャパニーズフードの店を知っている。一緒にどうだ?

昼2
午後からが本番だ。気を抜くな

夜1
仕事がまだ残っている。話は後にしてくれ

夜2
今日は疲れただろう。早めに休むといい

深夜1
夜更かしは身体に響く。早く寝た方がいい

深夜2
む・・・今夜食を作っている。月読には黙っていてくれ


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血飛沫の小夜曲

二課の仮設本部内では確認されたアウフヴァッヘン波形とノイズの出現パターンを解析している。弦十郎は放棄されたアジト、その場に残った特殊部隊の死体、ノイズの被災者の痕跡など、今までにない状況に弦十郎は考える。

 

(遺棄されたアジトと、大量に残された特殊部隊の死体、ノイズ被災者の痕跡・・・これまでと異なる状況は、何を意味している・・・?)

 

「司令!」

 

藤尭の声で弦十郎は一旦考えたことを隅において、藤尭の言葉に耳を傾ける。

 

「永田町深部電算室による、解析結果が出ました。モニターに回します!」

 

モニターに響のガングニールと、マリアの黒いガングニールのアウフヴァッヘン波形が表示される。この2つのアウフヴァッヘン波形を合わせると、形が全く一緒である・・・つまり、誤差は一切ないことを意味している。

 

「アウフヴァッヘン波形照合。誤差、パーツは鳥四レベルまで確認できません」

 

「マリア・カデンツァヴナ・イヴが纏う黒いガングニールは響君のものと数文違わぬということか・・・」

 

「私と・・・同じ・・・」

 

マリアのガングニールが響の胸にあるガングニールと同じであるとわかり、響は自身の胸に手を当てる。

 

「考えられるとすれば、米国政府と通じていた了子さんによってガングニールの一部が持ち出され、作られたものではないでしょうか?」

 

「櫻井理論に基づいて作られた、もう1つのガングニールのシンフォギア」

 

「だけど妙だな・・・」

 

藤尭の推察と友里の言葉にクリスは割って入ってきた。

 

「妙って・・・クリス、どういうこと?」

 

「お前な、ちょっとは考えてみろ。米国政府の連中は、フィーネの研究を狙っていたんだぞ?F.I.Sなんて機関があって、シンフォギアまで作っているのなら、その必要はないはずだろ」

 

「????全然わかんない・・・」

 

「はぁ・・・」

 

聖遺物関連の説明をされても、日和は全く理解できず、首を傾げてばかりだった。それにはクリスは少し呆れ気味だ。

 

「政府の管理から離れ、暴走しているという現状から察するに、F.I.Sは聖遺物に関する技術や情報を独占し、独自判断で動いているとみて間違いないと思う」

 

「・・・よくわかりませんけど、フィーネの技術を独り占めしようとして、政府を裏切ったってことですか?」

 

「ああ、その認識で構わない」

 

「はぁ・・・F.I.Sは自国の政府まで敵に回して、何をしようと企んでいるのだ」

 

F.I.Sが何の目的で動いているのかわからず、弦十郎は思わずため息をこぼすのであった。

 

~♪~

 

エアキャリアは神獣鏡のステルス機能を利用し、エアキャリアの姿を消して、切歌と調の回収ポイントへと向かっていく。エアキャリアを操縦するナスターシャはスイッチを押して、モニターに格納庫にいるネフィリムを映し出す。

 

(ついに本国からの追手にも補足されてしまった・・・。だけど、依然ネフィリムの成長は途中段階・・・フロンティアの機動には遠く至らない・・・)

 

ナスターシャは一度目をつむり、カメラ映像をマリアとフォルテがいるブリーフィングルームに変える。

 

(セレナの遺志を継ぐために、あなたは全てを受け入れたはずですよ、マリア。もう迷っている暇などないのです)

 

~♪~

 

ブリーフィングルームでマリアはガングニールとは別のシンフォギアを握りしめ、顔を俯かせている。フォルテはそんなマリアの姿を見て、義眼の目を押さえる。

 

「・・・セレナ・・・」

 

フォルテは、今は亡きかけがえのない友の名を口にした。そして、6年前までの・・・セレナと呼ばれる友と過ごした記憶を思い出す。

 

~♪~

 

6年前・・・米国政府の聖遺物研究機関、F.I.Sの訓練士施設。当時17歳のフォルテは模擬戦の対戦相手の少女の振るう木刀を木刀で軽く受け止める。優れた身のこなしで少女の木刀を弾き飛ばす。

 

「今日はここまでにしよう、セレナ」

 

フォルテの模擬戦の相手の橙色の長髪を持つ少女の名はセレナ・カデンツァヴナ・イヴ。マリアの実の妹であり、フォルテにとっては弟子であり、親友でもある。

 

「大丈夫です、フォルテ師匠(せんせい)。私はまだ・・・」

 

模擬戦を続けようとするセレナにフォルテは彼女のおでこにデコピンを軽くかました。

 

「あぅ・・・」

 

「この程度も見切れないのは疲れてる証拠だ。そんな状態で僕に1本、取れると思うかい?」

 

「むぅ~・・・師匠(せんせい)はいじわるです」

 

「ははは」

 

セレナはふてくされたように頬を膨らませ、フォルテは楽しそうに笑っている。

 

「この時間には誰も来ない。僕たち2人だけのものだ。座って話をしよう」

 

そう言ってフォルテは訓練場の地面に腰を掛けて胡坐をかく。それに合わせてセレナも座り込む。

 

「あーあ、今日も1本取れなかったなぁ・・・」

 

「そう悲観になるな。君は着実に強くなっている。いや、もうすでにその実力まで達しているかな?」

 

「本当ですかぁ!!」

 

フォルテの言葉にセレナは表情をパーッとしている。

 

「冗談だ。僕にはまだまだほど遠いし、1本も取らせるつもりもない」

 

「むぅー!師匠(せんせい)はいじわるです!怒りました!」

 

「あはは、ごめんごめん」

 

フォルテの冗談にセレナは頬を膨らませてフォルテをポカポカと叩く。そんなかわいらしいセレナにフォルテは本当に楽しそうに笑っている。

 

「でも強くなってるのは本当のことだ。教え甲斐があるというものだよ」

 

「えへへ、師匠(せんせい)のおかげです!」

 

「その調子で強くなって、マリアのことを、守ってあげるんだよ」

 

「はい!」

 

フォルテはセレナの頭をなでながらそう口にし、セレナは満面な笑顔で返事をする。

 

「そうだ、聞いてもいいですか?」

 

「なんだい?」

 

師匠(せんせい)の守りたいものって、何ですか?」

 

「・・・わからない」

 

「わからない?」

 

セレナの質問に、フォルテは苦笑を浮かべて答え、わからないという答えにセレナは首を傾げる。

 

「以前の僕は力をつけ、いずれここを抜け出し、仲間の元へ戻るつもりだった。だが、日が経つにつれ、考えるんだ。仲間は、果たして生きているのだろうかと。それに・・・その仲間は僕を裏切り、本国でも死亡扱いされた。だからここに連れてこられたというのに。たった1人になってしまった僕が守るものは、いったい何なのだろうと・・・」

 

師匠(せんせい)・・・」

 

「セレナ・・・僕にはわからない。僕は何のために生まれ・・・何を守ればいいのか・・・。わからなく・・・なってしまったんだ・・・」

 

自分の当初の目標は最初からなかったと気づき、何を守ればいいかわからなくなったフォルテは悲しそうに俯く。

 

「じゃあ、一緒にどうすればいいのか、考えましょう!」

 

「一緒に?考える?」

 

「はい!師匠(せんせい)が本当に守りたいもの、それがいったい何なのか。一緒に考えれば、答えは見つかるかもしれません!それに・・・もしかしたら、師匠(せんせい)にとって大切なものを気づけたり、新しく見つかるかもしれませんしね」

 

「新しい・・・」

 

セレナの新しいという言葉を聞いて、フォルテは思った。自分は、過去に固執しすぎていたのかもしれないと。だから見つかるものも見つけられないと。そう気づいた時、フォルテは本当に守りたいものを、ようやく気付くことができた。

 

「・・・セレナ・・・ありがとう」

 

「え?なんですか?」

 

「いや、なんとなくこう言いたかっただけさ」

 

フォルテとセレナはお互いに笑いあい、一夜を共に過ごした。だが・・・皮肉なことに、この楽しい日々が、今日で最後になってしまった。

 

~♪~

 

翌日、ネフィリムの起動実験。研究者たちは歌を使わずにネフィリムの起動を試みた。目覚めさせることはできたが、ネフィリムはアルビノのように白くなっており、制御もままならず、暴走して部屋中を暴れまわる。

 

「ネフィリムの出力は依然不安定。やはり歌を介さずの強制起動では完全聖遺物を制御できるものではなかったのですね」

 

そのネフィリムの暴走を阻止しようとフォルテはシンフォギアを身に纏い、ネフィリムと戦っている。フォルテが苦しそうに戦っている姿を見て、セレナは決心する。

 

「・・・私、歌うよ」

 

「でも、あの歌は・・・」

 

「私の絶唱でネフィリムを起動する前の状態にリセットできるかもしれないの」

 

「そんな賭けみたいな・・・!フォルテが心配なのはわかるけど・・・!もしそれでもネフィリムを抑えられなかったら・・・」

 

「その時は、マリア姉さんが何とかしてくれる。F.I.Sの人たちも、フォルテ師匠(せんせい)だっている。私だけじゃない。だから、何とかなる!」

 

「セレナ・・・」

 

「ギアを纏う力は、私が望んだものじゃないけど・・・この力でみんなを守りたいと望んだのは、私なんだから。フォルテ師匠(せんせい)がそれを教えてくれた。だから、師匠(せんせい)に恩返しがしたい」

 

「セレナ!」

 

セレナの覚悟は揺るぎなく、彼女はネフィリムの部屋へと向かっていく。

 

~♪~

 

アルビノ・ネフィリムと戦っているフォルテはLiNKERを打たずにシンフォギアを纏っているため、激痛を伴っている。それでも、気力で持ち直しているフォルテは大剣を双剣に変え、片方の剣をネフィリムに向けて投げた。投げ放たれた剣をアルビノ・ネフィリムは腕を振り下ろして粉々に砕いた。その砕かれた破片は・・・フォルテに迫り・・・彼女の左目を・・・

 

ぐわあああああああああああ!!!!

 

フォルテは片目が潰れ、おびただしい血が流れる。アルビノ・ネフィリムはフォルテの聖遺物を食らおうと、彼女に迫る。

 

「ぐっ・・・ここまでか・・・!」

 

片目を失い、バックファイアによってもう動けない・・・。フォルテが死を覚悟した時だった、セレナがシンフォギア、アガートラームを身に纏って現れたのは。

 

「セレナ・・・?なぜ・・・」

 

セレナはフォルテの質問には答えず、絶唱を放つ。

 

Gatrandis babel ziggurat edenal

 

「!!!や、やめろセレナ!!やめるんだ!!」

 

フォルテは絶唱を歌おうとするセレナを止めようと彼女に声を荒げる。

 

(僕が守りたいものは君なんだ・・・国なんかどうだっていい!!僕が本当に守りたかったものは君だったんだよ!!!)

 

Emustolronzen fine el zizzl……

 

「セレナああああああああ!!!」

 

セレナは絶唱を歌い切り、部屋は凄まじい力で包まれた。

 

~♪~

 

凄まじい力は収まり、部屋は炎で包まれている。セレナは起動する前の状態に戻ったネフィリムを手に元に戻った。

 

「セレナ!!セレナ!!」

 

マリアは気を失ったフォルテを抱え、セレナの元へ向かうが、炎に阻まれて近づけない。

 

「誰か!!私の妹が!!」

 

マリアは誰かに助けを求めようと声を上げるが・・・

 

「貴重な実験サンプルが自滅したか!!」

 

「実験はただじゃないんだぞ!!」

 

「無能共め!!」

 

「どうしてそんな風に言うの⁉あなたたちを守るために血を流したのは、私の妹なのよ⁉」

 

米国の偉人は誰も助けないどころか、セレナを実験サンプルとしか見ていなかった。セレナは顔におびただしい血を流して、マリアに視線を向けた。

 

「よかった・・・マリア姉さん・・・フォルテ師匠(せんせい)・・・」

 

「セレナ・・・セレナぁ!!」

 

マリアの頭上に瓦礫が落ちてきて、ナスターシャが身を挺してマリアとフォルテを守った。だが・・・セレナは落ちてきた瓦礫に埋もれてしまった。

 

セレナあああああああああ!!!!

 

大切な妹を目の前で失い、マリアは悲痛な叫びをあげた。これが、マリアとフォルテが経験した、6年前の過去だ。

 

~♪~

 

マリアが今抱えているシンフォギアこそが、亡くなってしまったマリアの妹、セレナのシンフォギア、アガートラームだ。今は壊れてしまって、起動すらできない。

 

「・・・セレナ・・・」

 

6年前にセレナを守ることができなかったフォルテはそれを思い出し、涙を流す。だが、流れるのは右目だけ。左目は、流したくても流れない。彼女の左目は、もう失ってしまったのだから。

 

「・・・~♪」

 

フォルテは気を紛らわせるために、彼女との思い出を繋げる曲、Appleを歌う。今のフォルテにとってこの歌はなによりも大事なもので、気持ちが沈んだ時は、いつもこの歌を歌っている。

 

『まもなくランデブーポイントに到着します。いいですね』

 

「・・・了解した。行くぞ、マリア」

 

「・・・ええ・・・」

 

ナスターシャの言葉を聞いて、フォルテは涙を拭き、マリアに声をかける。フォルテに言われてマリアは立ち上がる。エアキャリアが到着した場所とは、フィーネが建設した過電粒子砲カ・ディンギルの跡地だった。エアキャリが着地して、岩陰から調と切歌が出てくる。2人はエアキャリアから出てきたマリアに駆けつける。

 

「マリア!大丈夫デスか⁉」

 

「ええ・・・」

 

マリアの無事に2人は安堵し、調はマリアに抱き着いた。

 

「よかった・・・マリアの中のフィーネが覚醒したら、もう会えなくなってしまうから・・・」

 

「フィーネの器となっても、私は私よ。心配しないで」

 

マリアの言葉を聞いて、切歌もマリアに抱き着く。その様子を見ていたフォルテはマリアをじっと見つめる。

 

「・・・フォルテ?どうしかしたデス?」

 

「・・・いや、何でもない」

 

切歌に声をかけられ、フォルテは無表情で何もないように装う。エアキャリアからナスターシャとウェルが降りてきた。

 

「2人とも無事でなによりです。さぁ、追いつかれる前に出発しましょう」

 

「待ってマム!私たち、ペンダントを取り損なってるデス!このまま引き下がれないデスよ!」

 

「決闘すると、そう約束したから・・・」

 

パチンッ!

 

「うっ・・・!」

 

「マム!」

 

バチンッ!

 

ナスターシャは勝手な約束を交わした2人の頬を叩いた。切歌は叩かれた頬を抑え、調は切歌の服を掴んでいる。

 

「いい加減にしなさい!!マリアも、あなたたち2人も、この戦いは遊びではないのですよ!!」

 

「そのくらいにしましょう。まだ取り返しのつかない状況ではないですし・・・ねぇ?」

 

2人を説教をするナスターシャをウェルがたしなめる。

 

「それに・・・その約束とやら・・・利用できる」

 

ぞわっ・・・

 

フォルテがそう口にした瞬間、マリアたちはとてつもない寒気に襲われる。その原因はフォルテにあった。

 

「この機を便乗すれば・・・奴らのギアを纏めて奪うことが可能だ」

 

なぜならフォルテの目には・・・マリアたちには決してない・・・二課の装者たちへの明確な殺意を宿していたからだ。

 

~♪~

 

ヴゥー!ヴゥー!

 

二課の本部で仮説を立てていると、突如として警報音が鳴り響く。

 

「アウフヴァッヘン波形を検知!!」

 

「古風な真似を・・・決闘の合図に狼煙とは!」

 

現段階でアウフヴァッヘン波形を発することができるのは、二課の装者とマリアたちくらいしかいない。よって、このアウフヴァッヘン波形はマリアたちの誰かだと理解できる。

 

「位置特定。!!?ここは!!?」

 

「どうした!」

 

波形の発生地点を見て、藤尭は驚愕する。それもそのはずだ。なぜならその場所というのが・・・

 

「東京番外地、特別指定封鎖区域!」

 

「「「「!!」」」」

 

「カ・ディンギル跡地だとぉ!!?」

 

かつてフィーネの野望を止めるために、彼女と戦ったカ・ディンギル跡地だったのだ。因縁深い場所を指名されて、驚かない方が無理だ。

 

~♪~

 

装者4人はすぐに因縁深いカ・ディンギル跡地へと足を運んでいる。時間帯はすでに夜で美しい星空が輝いている。

 

「決着を求めるのにおあつらえ向きの舞台というわけか・・・」

 

カ・ディンギルにたどり着いた4人。そこにはシンフォギアをに見纏い、威風堂々としたフォルテが大剣を地に突き刺して待っていた。

 

「・・・待っていたぞ」

 

4人の気配を感じ取ったフォルテは目を開け、大剣を地から抜く。

 

「調ちゃんと切歌ちゃんは!!?」

 

「あの2人は勝手な約束をし、謹慎処分を受けている。ゆえに、僕が君たちのギアをもらい受けに来た。遊び感覚で勝手に動かれては、計画に支障をきたすのでな」

 

響の問いかけにフォルテは淡々と答える。

 

「何を企てる!F.I.S!」

 

「・・・冥途の土産だ。教えてやろう。僕たちの目的は人類の救済。月の落下により失われゆく命を可能な限り救い、その先にある真なる平和・・・それを築き上げることだ」

 

「月を!!?」

 

翼の問いにフォルテは月を指をさして答えた。予想外の答えに装者4人は驚愕する。

 

「月の公転軌道は、各国機関が3ヶ月前から計測中!落下などと結果が出たら黙っているわけがない!!」

 

「君はそう断言できるほどにどれほど奴らを理解しているというのだ?月の落下は紛れもなく極大災厄。対処法もわからない災厄など政府にとって不都合な真実。隠蔽する理由など、それで十分だ」

 

「まさか!この事実を知る連中ってのは、自分たちだけ助かるような算段を始めているわけじゃ!!?」

 

「そうだ。そして、僕たちはそんな奴らのやり方を良しとはしない。だから僕たちは組織を離反し、人類救済の計画を立てた。そのために必要な鍵がネフィリム・・・君たちが廃病院で見たあの化け物のことだ」

 

「あんな化け物が・・・人類救済の鍵・・・?」

 

フォルテの口から告げられた真実・・・そして敵の計画を聞いて、翼たちは驚愕する。

 

「人類を束ね、新たな組織を作り、新たな国家を築き上げる。それによって、真なる平和が導かれるのだ。ネフィリムの力は、そのためにある」

 

「フォルテさん・・・その真なる平和って・・・いったい・・・」

 

「答える義理はない」

 

日和はフォルテの言う真なる平和について問いただすが、そこまでは答えるつもりはないようだ。そしてフォルテは装者4人に向けて大剣を構える。

 

「おしゃべりは終わりだ。ギアを纏え。まとめて相手をしてやる。纏わなければ、君たちを一方的に殺す」

 

「そんな!!なにも戦わなくたって話し合えば・・・」

 

「おしゃべりは終わりだと言ったはずだ」

 

フォルテは大剣を振るって4人に向けて斬撃を放った。4人は放たれた斬撃を咄嗟に躱す。

 

「立花!奴は本気だ!戦わねばやられるぞ!」

 

「・・・っ」

 

これ以上は話しをすることは叶わず、4人はシンフォギアを身に纏う。

 

clear skies nyoikinkobou tron……

 

Balwisyall Nescell Gungnir tron……

 

Imyuteus amenohabakiri tron……

 

Killter Ichaival Tron……

 

クリスがボウガンをガトリング砲に変形させ、フォルテに狙いを定めて弾を撃ち放つ。

 

【BILLION MAIDEN】

 

フォルテはガトリング砲の弾を躱し、大剣を銃のように変形し、エネルギー弾を溜め、クリス目掛けてそれを撃ち放った。

 

【Mammon Of Greed】

 

ドカアアアン!!

 

「ぐわあ!!」

 

放たれたエネルギー弾をクリスは躱すも、爆発の爆風によって吹き飛ばされる。地に着地したフォルテに翼は刀で斬りかかる。フォルテは慌てることなく、大剣で難なく連撃を防ぐ。攻防が続いていると、フォルテの背後に日和が棍を振るい、薙ぎ払おうとする。フォルテは足を使って砂を飛ばし、目つぶしにかかる。

 

「うわっ⁉」

 

「東雲!・・・ぐわ!」

 

「きゃあ!!」

 

日和は砂が目に入って目を閉じてしまう。そしてフォルテは大剣で翼の刀を払いのけ、迫ってきた日和に裏拳を振るって吹っ飛ばす。

 

「はあああああ!!」

 

「!ぐっ・・・!」

 

その隙を狙って響がフォルテに拳を叩きつけ、蹴りで彼女を後ずさる。後ずさった彼女にクリスはボウガンを放ち、フォルテは躱す。

 

「ふん・・・やはり素人と言えど、シンフォギア装者4人まとめては骨が折れる・・・」

 

普通の人間相手なら何とかなるが、自分にとって未知数の力であるシンフォギア・・・それを纏めて4人を相手にするのは、いくら戦闘力が高いフォルテでも苦戦する。

 

「クソッタレ!4人がかりでやっと互角かよ!」

 

「以前とは比べ物にならない・・・私たちの戦力を確かめていたのか!」

 

「フォルテさん・・・底が知れない・・・!」

 

力の底が見えないフォルテにいかに彼女が強いかが改めて認識する。今度はフォルテが日和に斬りかかり、日和は棍で何とか防ぐ。3人も日和を援護しようと動き出そうとした時、突然目の前で光線が落ちてきて、ノイズが出現した。

 

「何っ⁉」

 

「みんな!!きゃあ!!」

 

目の前で突然ノイズが現れ、驚愕する。日和は気がそがれて、フォルテに大剣によって吹っ飛ばされた。

 

「・・・僕1人でいいと言ったはずだ、ドクター」

 

カ・ディンギル跡地から現れたのは、げひた笑みを浮かべるウェルだった。このノイズも彼が召喚した者だ。

 

「いえいえ、だいぶ苦戦されているようでしたので、微力ながらにお力添えしようと思いましてね」

 

「貴様、昼間に言ったことを忘れたわけでは・・・」

 

「拷問したければお好きにどうぞ?僕は構いませんよ?」

 

「・・・処遇は終わった後に下す」

 

「くぅ・・・!もうめちゃくちゃだよ・・・!」

 

本来1人で肩を着けるつもりだったフォルテは余計なことをされて無表情ながらに苛立ちを覚える。私情よりも今は任務が優先と考え、日和を力で圧倒する。他の3人は現れたノイズを次々と殲滅していく。

 

「野郎・・・!こんな汚ねぇ真似しやがって!」

 

ウェルの登場、さらにこんな奇襲を仕掛けて苛立ったクリスはウェルに向けてボウガンを放とうとする。

 

ドガアア!!

 

「ぐあっ!」

 

すると突如として地響きが鳴り、地面より廃病院で見た化け物・・・ネフィリムが出現し、クリスを吹っ飛ばす。

 

「クリスちゃん!」

 

「クリス!」

 

「雪音!」

 

「何・・・?ネフィリムだと?」

 

まさかネフィリムまで登場してくるとは思わず、少なからず驚くフォルテ。クリスは地面に叩きつけられ、気を失う。翼が彼女に駆け寄ったその時、ダチョウ型ノイズが粘着液を放ち、2人の身動きを取れなくさせる。

 

「くっ、このようなもので・・・!」

 

「クリス!翼さん!くっ・・・!」

 

翼は抵抗するが、動けない。日和は2人に駆けつけたいが、フォルテの攻撃で思うように動けない。動けない2人にネフィリムが迫ってきた。そうはさせまいと響がネフィリムの頭部を蹴り、さらに拳の連撃を放つ。

 

「ルナアタックの英雄よ!その拳で何を守る!」

 

響は両腕のバンカーを引き延ばし、右拳をネフィリムに叩きつけて起動し、ネフィリムを吹っ飛ばす。そして、ブースターを起動させ、左腕の拳を叩きつけようとする。そこへウェルが新たなノイズを召喚し、響は右拳と蹴りでノイズを蹴散らす。

 

「そうやって君は!誰かを守るための拳で、もっと多くのだれかをぶっ殺して見せるわけだぁ!!」

 

ウェルの言葉で、響は調が言った偽善者という言葉を思い返し、動きが止まる。そしてすぐに左拳を放とうとした時・・・

 

バクンッ!!

 

「・・・へ?」

 

ネフィリムが響の左腕を食らい、嚙み千切った。頭の理解が追い付かず、響は気の抜けた声をあげた。そして、響の左腕から大量の血飛沫が出る。

 

「立花ああああああ!!!!!」

 

「響ちゃああああああああん!!!!!」

 

あまりの出来事に翼と日和は声を上げた。ウェルは非常にゲスい笑みを浮かべている。

 

「あ・・・あぁ・・・

ああああああああああああああああああ!!!!

 

理解が追い付いた響は悲鳴を上げた。その悲鳴は夜に響き渡った。




XD-エクスドライブアンリミテッド-

東雲日和ボイス

秋1
秋といえば食欲の秋!今からサツマイモいっぱい買って、焼き芋パーティー!

秋2
運動の秋・・・読書の秋・・・歌を歌うのって、芸術の秋に含まれるかな?

フォルテ・トワイライトボイス

夏1
暑い・・・熱中症にならないよう、水分と塩分をとるんだ。

夏2
ん?これか?特製アイスドリンクだ。うまいぞ。飲むか?

秋1
日本には食欲の秋という文化があるそうだが・・・焼き芋はジャパニーズフードに入るのか?

秋2
秋は残暑も残るが、後に寒くなる。服装は日によって慎重に選ぶことだ


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奇跡ーそれは残酷な軌跡

ネフィリムは響の腕を食らい、飲み込んだ。響は失ってしまった左腕を抑え、顔を苦痛に歪めて地に膝をついた。

 

「立花!立花ぁ!!」

 

「響ちゃん!気をしっかり持って!!」

 

ウェルは歪んだ笑みを浮かべて、大声をあげて喜んだ。

 

「いったあああああああああああ!!!!パクついたぁ!!!!シンフォギアをぉ!!!!これでえええええええ!!!!」

 

聖遺物を人ごとネフィリムに食べさせるという残酷な行為を簡単にやり遂げたウェルはまさに狂気じみている。

 

「・・・ドクター!!!貴様、最初からそのつもりでネフィリムを!!!」

 

フォルテもさすがにこの行為を見過ごすわけにはいかず、いつも無表情だった顔が怒りに染まっている。

 

「おや、これはこれは珍しいものを見たぁ。あなたがそんなに怒ってる姿は初めてだぁ」

 

「・・・僕は奴らを殺すつもりでいた。それは否定はしない。だが、僕はあくまで正々堂々と戦い、人としての尊厳を尊重して殺す!!このような人の道を踏み外した者が英雄だと?ふざけるな!!!!貴様のやった行為は、全ての生命、全人類に対する冒涜!!!貴様は、世にも卑しい悪鬼外道だ!!!」

 

フォルテは正々堂々と戦ってギアを纏めて奪うつもりだった。それがこの男の歪んだ思想のせいで踏みにじられた。だが怒っているのはそこではない。重要なのは・・・人としての尊厳を踏みにじったこと。それがフォルテの逆鱗に触れたのだ。

 

「そう嫌なことを仰らず・・・この喜びを分かち合いましょうよぉ・・・ねぇ・・・冷酷非道の殺人鬼さん?」

 

ウェルはフォルテの怒りなどなんのその、フォルテが戦争で殺してきた人間を棚に上げてそう返した。

 

「完全聖遺物ネフィリムはいわば自立稼働する増殖炉!他のエネルギー炉を暴食し、取り込むことでさらなる出力を可能とするぅ!!さあ、始まるぞ!!!」

 

ネフィリムはガングニールの一部を飲み込んだことにより、身体が肥大化し、引き締まった肉体を得た。そう、ネフィリムが進化を遂げたのだ。

 

「フォルテさ~ん、聞こえるでしょう?この覚醒の鼓動が!!!この力が、フロンティアを浮上させるのだぁ!!!フハハハハハ!!イィーヒヒヒヒヒヒ!!!!」

 

「下衆が・・・!」

 

非人道的な行いで進化したネフィリムにウェルは狂気の笑いを上げた。いくら計画に必要と言えど、フォルテも我慢の限界が近づいてきた。すると、響に変化が訪れた。

 

ヴ・・・ヴゥ・・・!!!

 

響は獣のような呻き声を上げ、響の心臓付近に宿ったガングニールの破片が輝きだし、そこを中心に黒い闇が響を包み込んだ。

 

「そんな・・・まさか・・・!!」

 

「失念していた・・・!このようなことがあれば、起こりえる事態に!これが・・・フィーネの観測記録にもあった・・・立花響の・・・」

 

「・・・暴走・・・!!」

 

そう、響は破壊衝動に飲み込まれ、再び暴走を引き起こし、暴れる獣と化したのだ。

 

ヴゥ・・・ガアアアアアアアア!!!

 

響が咆哮を上げると・・・なんと、失ったはずの腕が生やすように出現し、再生していった。

 

「ウソ・・・腕が・・・生えて・・・!!?」

 

「ギアのエネルギーを腕の形に固定!!?まるでアームドギアを形成するように・・・!!」

 

「奴は・・・聖遺物との融合症例・・・何が起きても不思議ではないが・・・これほどとは・・・!」

 

腕を再生させるという信じられない現象に日和と翼は驚愕する。フォルテも驚きつつ、冷や汗をかいている。

 

ヴゥゥゥ・・・!!

 

「ま、まさか・・・!」

 

響は四つん這いになり、ネフィリムに向かっていき、獣が如く拳を連続で叩きつけて、ネフィリムを蹂躙する。

 

「や、やめろぉ!!!やめるんだぁ!!!成長したネフィリムはこれからの新世界に必要なものだ!!それを・・・それをおおおおおおおお!!!」

 

ネフィリムは抵抗として響を吹っ飛ばしたが、響はすぐにネフィリムに向かって突進して、蹂躙を繰り返す。

 

「いやあああああああああああ!!!」

 

ウェルはそれを止めようとして響の目の前にノイズを複数召喚する。複数のノイズはくっつきあい、1体の大型ノイズへと変化する。獣のように動く響は大型ノイズの口の中へと入りこみ、体内で暴れまわって、大型ノイズを一気に消滅させた。

 

ガアアアアアアアアア!!!!

 

暴走する響にネフィリムは防衛本能からか逃げようと動き出した。その動きを見逃さなかった響はネフィリムに飛び掛かり、手がネフィリムの体内を貫き、内臓を抉っていく。そして、内臓の中で、ネフィリムの心臓を引きちぎった。

 

「ネフィリムの心臓を!!?」

 

「ひぃぃ・・・うわああああああああ!!!!」

 

ネフィリムの心臓を抜き取った響にフォルテは驚愕し、ウェルは発狂の声を上げる。響は引きちぎったネフィリムの心臓をその場に放り投げ、高く飛んで腕を矢の形に形成、ネフィリムを貫いた。それによって、凄まじい衝撃が辺りを包み、ネフィリムの身体は跡形もなく消え去り、翼たちを拘束していたノイズも消滅する。

 

「立花響の生命力の低下で、胸の中の聖遺物が・・・制御不全を引き起こした・・・それが・・・暴走の原因・・・」

 

暴走をする響を見てフォルテが脳裏に浮かび上がったのは、暴走するネフィリム・・・それを絶唱で止めたセレナの姿だ。それと重なって見えたフォルテは目を見開く。

 

「響ちゃん・・・」

 

「立花・・・」

 

「・・・なんだってんだ・・・?」

 

ちょうど気を失っていたクリスが気が付き、暴走する響に視線が向く。響は獣が如く、荒い息遣いをしている。

 

「ひぃ・・・ひぃぃぃ・・・!」

 

暴走する響にウェルは恐怖のあまり腰を抜かしている。暴れたりないのか響がまた動こうとした時、フォルテが羽交い締めで響を止める。

 

「フォルテさん⁉」

 

「お前・・・」

 

「何をしている!!止めろ!!こいつを止めるんだ!!」

 

敵であるにも関わらず、逃げることはせず、暴走する響を止めるフォルテの姿勢に日和たちは驚く。フォルテの言葉で自分たちのやるべきことを思い出し、日和たちも響を止めにかかる。

 

「よせ立花!!もういいんだ!!」

 

「お前、黒いの似合わないんだよ!!」

 

「お願い、響ちゃん!!正気に戻って!!」

 

暴れている響を4人は協力して何とか抑える。

 

「うわああああああああああ!!!!」

 

ウェルは恐怖のあまり、その場から逃げ出していった。

 

ガアアアアアアアアア!!!!

 

響が獣のような大きな咆哮を上げると、凄まじい衝撃が放たれる。4人はその衝撃を何とか耐えながら、響を抑え続ける。衝撃が収まると、辺りには大きなクレーターが出来上がり、暴走する響も、ギアを纏う前の姿に戻っていた。

 

「立花!!しっかりしろ立花!!立花!!」

 

「響ちゃん!響ちゃん!目を開けて響ちゃん!!」

 

気を失っている響に日和と翼は呼び掛けるが、ここで2人はあることに気が付く。失ったはずの左腕が、まるで何もなかったかのようにしっかりついていたことに。

 

(左腕は・・・無事なのか・・・?)

 

(いや・・・それよりも・・・響ちゃんは、本当に無事と言えるの・・・?)

 

2人が疑問を浮かべる中、暴走が収まったと判断したフォルテは手を離し、その場から去ろうと動く。

 

「おい待てよ!なんであたしたちを助けた⁉」

 

去ろうとするフォルテにクリスが呼び止めて質問をする。

 

「・・・別に君たちを助けたわけではない。今回の件はこちらの落ち度だ。僕はその露払いをした。それだけだ」

 

フォルテはそう答えて、4人に顔を向ける。

 

「次に会う時は、君たちを殺す時だ。それを肝に銘じておくのだな」

 

フォルテはそれだけを言い残してその場を去っていく。その場に残った3人は気を失った響の治療のため、急いで二課に連絡を入れた。

 

~♪~

 

任務失敗と判断し、エアキャリアへと歩きで帰還するフォルテは敵である響を助けた行為に、らしくないと考える。

 

(・・・本当は助けるつもりなどなかった・・・。これでは、マムに呆れられてしまうか・・・)

 

フォルテは目を閉じて、ナスターシャに言われたことを思い出す。

 

~♪~

 

時は遡り、フォルテがあの場に残り、他のメンバーがエアキャリアの中へ入ってく時。

 

「フォルテ、あなたに言っておき事があります」

 

「なんだ?」

 

エアキャリアに乗り込む前にナスターシャがフォルテに声をかけ、彼女は耳を傾ける。

 

「あなたはマリアたちと違い、人を殺すことに何の躊躇いもない。しかし、それでもあなたは優しさが目立ちます」

 

「・・・昼間の事か」

 

ナスターシャの言葉にフォルテは昼間に逃げ出した特殊部隊を見逃そうとしたり、ウェルによって炭素分解された野球少年たちを思い、彼を殺しかけたことを差して言っているのだとわかった。

 

「その優しさは、今日限りで捨ててしまいなさい。私たちには、微笑など必要ないのだから」

 

「わかっている」

 

ナスターシャの言葉にフォルテは深々と受け止め、口を開く。

 

「僕たちは、僕たちの成すべき使命を果たす。例えそれが悪なのだとしても、成就するべき悲願のためには、犠牲はやむを得ない。それだけだ」

 

「・・・わかっているのならばいいのです」

 

本人が理解しているのならば、これ以上言うことがないナスターシャは車椅子を操作してエアキャリアの中へと入っていく。エアキャリアはこの場にフォルテを残し、どこかへと移動していった。

 

~♪~

 

そして今、現在に至る。ナスターシャに釘を刺されてたにも関わらず、彼女は響たちを助けた。フォルテは6年前の悲劇を思い出し、拳を強く握りしめる。

 

「・・・それでも・・・それでも僕は・・・暴走によって何かの命が失われるのは、耐えられなかった・・・。そんな思いをするのは、・・・僕1人だけで十分だ・・・」

 

引き起した暴走を止め、失われゆく命をフォルテは知っている。暴走によって命が失われてゆき、誰かが辛い思いをするのは、フォルテにとっては許せないことだ。この思いを背負うのは、自分1人だけでいいと。それが響を助けた理由であり、今回日和たちに協力した理由である。思いふけっていると、フォルテの通信機に通信が入った。通信を入れたのは切歌と調だった。

 

『フォルテ!!やっと繋がったデス!!』

 

「どうした?」

 

『マムが・・・マムの容体が・・・』

 

「何っ⁉」

 

ナスターシャの容体が悪くなったと聞き、フォルテは目を見開く。緊急事態と感じ取り、彼女は急いでエアキャリアへと帰還していく。

 

~♪~

 

エアキャリアに帰還したフォルテはすぐにナスターシャの元へと向かう。

 

「マム!無事か⁉」

 

ナスターシャの元にはマリアが寄り添っており、ナスターシャは口もとには血がついていた。どうやらまた発作が起きて血を吐き、今度は意識まで失っているようだ。フォルテはナスターシャに近づき、彼女の容体を確認する。そしてすぐに切歌と調に指示を出す。

 

「暁、月読、ドクターをすぐに回収してきてくれ」

 

「!・・・あの人を・・・」

 

「でも・・・」

 

元よりウェルのことを快く思っていない切歌と調はかなり渋っている。

 

「今は選り好みをしている場合ではない。この程度の容体ならば僕とマリアで応急処置ができる。だが、より容態を安定させるには、ドクターの能力が必要不可欠だ。急を要する。急げ!!」

 

「・・・わかったデス!」

 

ナスターシャを助けたいのは2人も同じだ。ゆえに、今は気持ちを抑え、切歌と調はウェルの回収に向かった。

 

「・・・全ては・・・私がフィーネを背負いきれないから・・・」

 

「後悔を口にする前に手を動かせ!この人を失うわけにはいかない!」

 

「!え、ええ・・・」

 

マリアが自身の生半可な覚悟を抱いていたことに後悔していると、応急処置の準備をしているフォルテに叱咤され、すぐに行動を開始する。フォルテはナスターシャの手に触れる。

 

(マム・・・いやナスターシャ教授・・・あなたは僕に居場所を与えてくれた恩がある。なのに僕は、未だにその恩を返していない・・・。決してあなたを死なせはしない!例え悪魔に魂を売ってでも、あなたを救ってみせる!)

 

フォルテは、例えウェルに施しを受けることになっても、ナスターシャを助けようとする強い意志が宿っていた。

 

~♪~

 

気を失った響はメディカルルームへと搬送された。運ばれていく響を見て、弦十郎を含め、日和たちは響を心配する。特に翼は悔しさで拳を壁に叩きつけていた。

 

メディカルルームで治療を受けている響は夢を見ていた。もう見ることはなかった、あの忌まわしき日々を。

 

2年前のツヴァイウィングの事件・・・あの惨劇を生き残った響の生活は、まるで地獄のようだった。最初はみんなから心配されていたのだが、たまたま同級生のサッカー部のキャプテンが同じライブにいて、ノイズによってその子の将来を奪った。それをガールフレンドが響に向かって喚いたのがきっかけで同級生から陰口を言い放ち、陰湿ないじめを受けるようになった。家の方でもネットリテラシーのない一般市民からひどいバッシングを受けていて、しまいには石を投げつけ、ガラスを割られてしまうなんてこともあった。日和の実家の東雲総合病院で頑張ってリハビリをして元気になることで、母や、祖母が喜んでくれると思っていたが・・・それが逆に苦しめることになってしまうとは、何とも皮肉で、悲しい話だ。

 

~♪~

 

メディカルルームで眠っていた響は目を覚ました。目を覚ました響が首を横に振り向くと、未来からの手紙がベッドに置いてあった。

 

『早く元気になってね』

 

今の響が挫けることなくここまで来れたのは、間違いなく未来のおかげだろう。彼女がいなければ、きっと違う未来を歩んでいただろう。だが、心に受けた傷は、どれほど時間が経とうと、心に残り続ける。

 

(・・・私のやってることって、調ちゃんの言うように、偽善なのかな・・・?私が頑張っても、誰かを傷つけて、悲しませることしかできないのかな・・・?)

 

響がそこまで考えると、2年前の傷跡に何か違和感を感じ取った。なんだろうと思い、響は起き上がり、傷跡に触れた時、何かが落ちてきた。

 

「え・・・?瘡蓋・・・?」

 

それは瘡蓋であった。響自身の身体に変化が起きている・・・それは、この瘡蓋が証明している。だが響は、そのことに気づくことはなかった。




フォルテの夜食

マネージャー業務を務めている彼女の仕事は常に忙しい。そのために夕食をとることがままならない日もある。そういう日には調が夕食をとっておいてくれている。だがフォルテは夜食に日本のインスタント麺を作って、調の作ったおかずを麺のトッピングにして食べていることが多い。作ったおさんどんを普通に食べてくれないのと、保存していたインスタント麺を勝手に食べたことに対して、調はよくフォルテを叱っている。その時のフォルテはいつもこう呟く。

「何故だ・・・」

その時の彼女の瞳は若干涙目であった。(義眼からは涙は出ない)


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無情なる浸食

次の投稿は響ちゃんの誕生日の日ですかね。その後の投稿も考えて、今のうちにストックを溜めとこうかな。


響は日常生活に戻れるほどに回復し、学院に登校できるようになった。

 

「いやぁ~、面目ない~。ご心配、おかけしました~」

 

数日ぶりに学院に登校し、響は翼、日和、クリスに笑って、元気そうに振舞っている。

 

「存外元気そうじゃねぇか。ま、いい機会だからしばらく休んでな」

 

「なんと!!この立花響、休んだりとかぼんやりしたりとかは得意中の得意でーす!任せてくださーい!」

 

響の様子は元気に気丈に振る舞っているが、逆に言えば、3人に気を遣っているようにも見て取れる。

 

「・・・響ちゃん、本当に大丈夫?無理とかはしてない?」

 

「私たちを安心させようと、気丈に振る舞っているのではあるまいな?」

 

「え?いやぁ・・・そんなことは・・・」

 

翼の言葉に響は若干口ごもっている。すると翼は響の左手を掴み、それをじっと見つめる。腕の感触、そして響の動作からして、本当に何ともないようだが・・・。

 

「翼さん・・・痛いです・・・」

 

「あ・・・すまない・・・」

 

響の言葉に翼は申し訳なさそうに彼女の手を放す。日和は翼の心情を知っているため、複雑そうな顔をしている。

 

「はぁ・・・相棒もあんたも、いったいどうしちまったんだぁ?ここんとこ様子がおかしいのは、このバカに合わせてってわけじゃないんだろ?」

 

「「・・・・・・」」

 

クリスが質問しても、翼と日和は複雑な顔をして何も答えない。

 

「・・・ごめんなさい・・・」

 

沈黙が続く中、響が2人に謝罪した。

 

「・・・本当に何もないなら・・・それでいい・・・」

 

「うん・・・ただ、響ちゃんが元気なかったらって思っただけだから」

 

2人がこんなにも複雑な気持ちになっているのは、今の響の身体の状況を知っているからだ。

 

~♪~

 

響がメディカルルームで眠っている間、二課の本部ではフォルテが言った月の落下について各国と話し合っていた。調査の結果、どうやら月の落下は本当に起こっているらしい。その対応策を話し合ったが、意見が全くまとまらない。まとまらない話が終わり、弦十郎は翼と日和を映像水槽のある部屋に呼び出し、あるものを2人に見せた。それは何やら鉱石のようにキラキラした物体だ。

 

「・・・ししょー、このキラキラした物体は何ですか?」

 

「メディカルチェックの際に採取された響君の体組織の一部だ」

 

どうやらこの物体は響の体組織の一部らしい。なぜ人間の体組織がこのような異物が混ざりこんであるのか。それは、弦十郎が見せたレントゲン写真が物語っている。

 

「胸のガングニールが・・・!」

 

「大きくなってる⁉」

 

以前メディカルチェックで見た響のレントゲン写真のものと比べて、ガングニールの破片が大きくなっており、全身に線のように纏わりついている。

 

「身に纏うシンフォギアとして、エネルギー化と再構成を繰り返してきた結果、体内の浸食進度が進んだんだ」

 

「生体と聖遺物が1つに溶け合って・・・」

 

「適合者を超越した響君の爆発的な力の源だ」

 

人体と聖遺物の融合とはすなわち1つとなるという意味。ゆえに日和はこの融合によって響の命に与える影響が気になっている。

 

「このまま融合が進んだら・・・響ちゃん、どうなっちゃうんですか・・・?」

 

「遠からず・・・死に至るだろう」

 

「!!?」

 

このまま浸食が進めば響が死ぬと告げられ、日和は驚愕し、目を見開かせる。翼もその事実によって震えている。

 

「響ちゃんが・・・死ぬ・・・⁉」

 

「バカな・・・」

 

「そうでなくとも、これ以上の融合状態が進行してしまうと、それは果たして・・・人として生きていると言えるのか・・・」

 

弦十郎の表情にはどこか、このような事態になるまでに気が付かなかった悔しさがにじみ出ていた。

 

「皮肉なことだな・・・先の暴走時に観測されたデータによって、我々では知りえなかった危険が、明るみに出たというわけだ・・・」

 

「壊れた立花・・・壊れた月・・・」

 

「どうして・・・どうして響ちゃんだけが・・・そんなことに・・・」

 

響の立たされた状況に翼も日和も悲しそうな表情をしている。

 

「F.I.Sは月の落下に伴う世界の救済などと立派な題目を掲げてはいるが・・・その実ノイズを操り、進んで人命を損なうような輩だ。このまま放っておくわけにはいくまい。だが・・・響君を欠いた状態で、我々はどこまで対抗できるのか・・・」

 

「・・・それでも・・・立花をこれ以上戦わせるわけにはいきません。かかる危難は全て防人の剣で払ってみせます」

 

「・・・そうですね。私も同じ意見です。響ちゃんを死なせるくらいなら、戦わせない方を、迷わずに選びます」

 

響を死なせたくない翼と日和はこれ以上響に戦いに赴かせないようにすると決意する。

 

「あの時も私は、怖くて何もできず、響ちゃんに責任を押し付けてしまった・・・。だから今度は、私が響ちゃんの分まで頑張る番だ」

 

特に日和は、まだ二課に入る前までの1か月間のことを思い返し、よりいっそうに頑張ろうと決意していた。

 

~♪~

 

この出来事はクリス・・・そして響本人にも伝えていない。装者の中で伝えていたのは、響の暴走時に腕を再生した姿を見た翼と日和だけだ。

 

「なぁ相棒・・・もしかしてお前、オッサンに何か言われたのか?」

 

「えっ!!?え、えぇーっと・・・その・・・なんていえばいいのかなぁ・・・?」

 

クリスに質問された日和はしどろもどろになって目を泳がせている。もう十分に怪しんでくれと言っているようなものだ。ボロを出されては困ると思った翼は日和が先を喋る前に口を開いた。

 

「手強い相手を前にして、いちいち暴走しているような半人前を、まともな戦力として数えるなと言われたのだ」

 

「え・・・?」

 

「戦場に立つなと言っている。足手まといが、二度とギアを身に纏うな」

 

翼は響に向かって冷たい言葉を言い放ち、彼女を突き飛ばす。いくら響を守るためだとしても、これではクリスに反感を買ってしまう。

 

「お前、それ本気なのか!」

 

案の定反感を買ったクリスは翼に突っかかる。翼は何も答えず、そっぽを向く。

 

「おい!何とか言ったらどうだ!」

 

「く、クリス!翼さんにも考えがあるはずだから・・・ね?」

 

「考え?考えだと?なら言ってみろよ、その考えをよ!」

 

「クリスちゃん!」

 

日和はクリスをなだめようとするが、逆効果でクリスは日和にも当たってしまう。大喧嘩になりかねない状況に響が止める。

 

「いいよ・・・暴走したのも・・・半人前なのも・・・本当の事だから・・・」

 

「・・・ちっ・・・」

 

響に止められ、少し落ち着いたのかクリスは舌打ちをして場を収めた。

 

「F.I.Sには、私と東雲、雪音で対応すればいい。行方をくらませたウェル博士についても、目下二課の中心となって捜査を続けている。たかが知れている立花の助力など、無用だ」

 

「・・・っ」

 

翼は響に冷たい言葉をかけて、自分の教室へと戻っていく。

 

「待ちやがれ!おい!お前何のつもりだよ!」

 

まったく納得がいっていないクリスは翼を追いかけて問い詰めようとしている。その場に残った日和は沈んだ表情をしている響に顔を向ける。

 

「ごめんね、響ちゃん・・・翼さんがあんな・・・」

 

「いえ・・・翼さんの言ってることは・・・本当のことですから・・・」

 

「・・・でもね、響ちゃん・・・私も・・・翼さんと同じ意見なんだ・・・」

 

「え・・・?」

 

まさか日和も翼と同じように戦いに出てほしくないという意見に驚く。日和は響の両肩を掴んで、まっすぐに彼女の顔を見て言い放つ。

 

「響ちゃん・・・お願いだからもう二度と戦場に出ないで。それが・・・響ちゃんのためなの・・・。だから・・・ごめん」

 

日和は響に一言謝罪を入れてから自分の教室へと戻っていく。戦いに必要とされてないと言われた響は悲しそうに顔を俯かせた。

 

~♪~

 

一方その頃、逃げ出したウェルは逃げ疲れてもうボロボロでヘロヘロの状態だった。ウェルは元々研究員なので、戦闘員とはそもそもの体力が違う。こうなるのも当然というもの。ふらふらしているウェルは足を滑らせて土砂から滑り落ちた。落としたソロモンの杖を拾おうとした時、あるものを見つけて、ウェルは歪んだ笑みを浮かべた。

 

「ひ、ひひ・・・いひひひ・・・こんなところにあったのかぁ・・・いひひ・・・」

 

ウェルが見つけたものとは、暴走した響が引きちぎってゴミのように捨てたネフィリムの心臓だった。これを見つけたウェルは気分がだんだんと上がってきている。

 

「これさえあれば英雄だぁ・・・!」

 

英雄願望を諦めていないウェルはソロモンの杖を回収して、誰かが来る前にその場から立ち去っていく。

 

~♪~

 

エアキャリア内・・・応急処置が終わり、容体が安定したナスターシャはベッドで横になっている。椅子に座っているフォルテはそんな彼女の手を優しく握っている。この時のフォルテの表情は、いつもの無表情ではなく、優しい笑みである。

 

「~♪」

 

同じ車両にいるマリアはセレナとの繋がりの歌、Appleを歌っている。

 

「・・・優しい子ですね」

 

「ああ。マリアはいつだって優しいさ。僕とは違う。彼女がセレナの姉だというのが、改めて実感できるよ」

 

自分の手を握るフォルテの手をナスターシャは優しく握りしめた。

 

「私は知っていますよ。あなたは、ただ不器用なだけで、本当は心優しい、普通の女の子ということを」

 

「マム・・・」

 

「・・・マリアだけではない・・・私は、優しい子たちに十字架を背負わせようとしている・・・。特に、あなたには数多くの十字架を背負わせてしまった・・・。・・・間違っているのは、私の方かもしれない・・・」

 

「・・・あなたは月の落下を阻止するために行動している。それが間違ってるなんて・・・僕は思わない」

 

マリアたちに重荷を背負わせてしまった責任を感じているナスターシャにフォルテは優しい声質でそう告げた。彼女がナスターシャを尊敬し、労わっている様子が見てわかる。フォルテの気遣いにナスターシャは起き上がり、普段見せなかった優しい笑みを彼女に見せている。それを見たフォルテは目を見開き、回復してよかったと安心した微笑を見せる。すると、エアキャリア内に通信が入った。通信の相手は切歌と調である。ナスターシャは通信に出た。

 

「私です」

 

『とと⁉もしかして・・・もしかしたらマムデスか⁉』

 

ナスターシャが通信に出るとは思わなかった切歌は驚いた声をあげている。

 

『具合はもういいの?』

 

「マリアとフォルテの処置で急場は凌げました」

 

『よかった・・・』

 

『ふぅ・・・』

 

ナスターシャの具合がよくなったことに切歌と調は安堵する。

 

『・・・で、でね、マム・・・待機しているはずの私たちが出歩いているのはデスね・・・』

 

「わかっています。フォルテの指示ですね」

 

『マムの容態を診ることができるのはドクターだけ。でも、連絡が取れなくて・・・』

 

今もなお切歌と調がウェルを探しているということは、エアキャリアには戻らず、今もどこかで彷徨っているようだ。

 

「2人ともありがとう。では、ドクターと合流次第連絡を。ランデブーポイントを通達します」

 

『了解デース!』

 

切歌は元気そうな声で返事をして、通信を切った。

 

(・・・久しぶりに見たな・・・あなたの優しい微笑を・・・)

 

ナスターシャの優しい笑みを見て、フォルテは心が癒されていった。

 

~♪~

 

リディアンの授業が終わり、日和と海恋は商店街にやってきてお菓子や折り紙などいろいろなものを買っている。

 

「日和、必要なものはこれで全部かしら?」

 

「ううん、あともう一軒だけ。もう少しだけ付き合ってくれる?」

 

「はいはい・・・仕方ないわね」

 

多くの物を買って、残り一軒のお店へと足を運んでいく。

 

「まったく、日和らしいわね。立花さんの退院祝いにパーティを開くって言い出すなんて」

 

「退院できたらみんな嬉しいからねー。嬉しさはみーんなで共有しあわないと」

 

「はいはい、もう何回も聞いたわよ」

 

どうやら日和は響の退院パーティを計画しているようで、その買い出しを海恋に頼んで一緒に来てもらっているらしい。

 

「それより、クリスを巻き込まなくてもよかったの?あんたのことだから、クリスも誘うと思ってたのに・・・」

 

「うっ・・・ま、まぁ・・・クリスも、最近みんなと仲良くなってきたし、みんなと交流させてあげるのもいいかなーなーんて・・・」

 

クリスとは今朝のぎくしゃくもあった故に誘いにくいのだ。しかも日和は嘘は言ってはいないが、響の一件のことは隠しているため余計に誘いにくい。そんな日和の心情に海恋は彼女をジト目で見つめている。

 

「な、何・・・?」

 

「・・・ここ数日あんたの様子がおかしかったこと、今日のクリスの不機嫌。あんた、何か隠してるでしょ?よっぽどよくないことを」

 

「うぅ・・・なんで海恋にはバレちゃうかなぁ・・・」

 

核心を突かれて日和は頭をかいて困ったような表情をしている。

 

「あんた隠し事が下手すぎなのよ。そんなんじゃ、ぜひ怪しんでくださいって言ってるようなものよ」

 

「あう・・・だからかなぁ・・・翼さんにフォロー入れられたの・・・。でも、何もあんないい方しなくても・・・」

 

「はぁ・・・まったく・・・。それでよく隠しごとをしようと思ったわね・・・」

 

隠し事が苦手な日和に海恋は非常に呆れた様子でため息をこぼす。

 

「・・・何があったかは聞かないし、あなたの隠し事にも乗せられてあげる。けどね、日和・・・もうちょっと私に頼りなさいよ・・・。私は日和みたいに戦うことはできないけど・・・私だって、あなたの力になりたいのよ」

 

「海恋・・・うん・・・ありがとう。少し、気分が楽になったよ」

 

「そう。それはなによりだわ」

 

海恋の気遣いで日和の暗かった気持ちが少し明るくなった。数日ぶりに見れた日和の微笑みに海恋は笑みを浮かべる。

 

「で?最後は何を買うつもり?」

 

「そりゃもちろん!お祝い事の醍醐味と言えばケーキ・・・」

 

最後の一軒のお店へ向かっていくと、道路で二課の黒服たちが乗る車が3台がどこかへ向かっていくのを見つけた。ガードレールで車が見えなくなったその時・・・

 

ドカアアアアアン!!!

 

車が爆発する音が聞こえてきた。音の出所は先ほど通り過ぎていった車からだ。

 

「今のは!!」

 

「ちょ、ちょっと日和!!」

 

何かあったのかと思い、日和は急いでその現場へと移動し、海恋は慌てて日和についていく。現場にたどり着くと、そこには黒煙を放つ車、不自然にある炭の塊・・・そして複数体のノイズがいた。

 

「くくくく・・・誰が追いかけてきたって、こいつを渡すわけには・・・」

 

この現場の中心にいたのはウェルだった。どうやらウェルがノイズを召喚して、車の中にいた人間をノイズで襲わせたようだ。

 

「ウェル・・・博士・・・!」

 

「!な、なんで・・・お前がここに・・・!!?・・・えええい!!!」

 

日和を追手だと思い込んだウェルはソロモンの杖でさらにノイズを召喚した。ウェルを見つけたのは偶然だが、放っておくわけにはいかないため、日和はすぐに戦闘態勢に入る。

 

clear skies nyoikinkobou tron……

 

日和はシンフォギアを身に纏い、右手首のユニットより棍を取り出して一気にノイズを薙ぎ払う。

 

「日和さーーん!!!」

 

するとそこに響がこの戦場に駆けつけてきた。その後ろには未来、弓美、詩織、創世がいた。

 

「!!??ひ、響ちゃん!!?来ちゃダメ!!!みんなと一緒に下がって!!!!」

 

まさかこの場に響が来るとは思わなかった日和は響に声をあげて下がるように言った。

 

「日和さん・・・やっぱり私は・・・」

 

「戦うなって言ってるでしょ!!!!!先輩の言うことが聞けないの!!!??」

 

「日和・・・?」

 

あまり声を荒げない日和がここぞとばかりに声を荒げたために、海恋はどういうことか首を傾げる。

 

「ひっ!!?お、お前は!!!??うわああああああああ!!!!」

 

響を見たウェルは恐怖のあまり、響に向かってノイズを召喚した。それを見た響は召喚されたノイズに向かっていく。

 

「響ちゃん!!!ダメ!!!」

 

Balwisyall Nescell Gungnir tron……

 

響はシンフォギアを纏う前にノイズに拳を叩きつけた。

 

「響!!」

 

「立花さん!!」

 

装者と言えども人間・・・シンフォギアを纏わなければ炭となってしまう。・・・普通なら。だが今の響はもう・・・普通ではない。

 

「人の身で・・・ノイズに触れて・・・!!?」

 

響はノイズに触れても炭素と化しない。それにはウェルは驚愕する。そして、その後に響はシンフォギアを身に纏った。

 

「この身も、命も!!シンフォギアだ!!」

 

ノイズを粉砕した響は拳を構える。ガングニールの無情な浸食で、ほぼ聖遺物と一体化している響を見て、日和は悲しそうな顔になり、そして意を決したような顔をする。

 

「響ちゃん・・・ごめん!!」

 

バキィ!!

 

戦う姿勢を見せる響に日和は絶対に響に力を使わせないため、棍で響の頭を殴り、気絶させようとした。

 

「日和さん!!?」

 

「日和!!あんた何を!!?」

 

日和がそのような行動に出るとは思わなかった未来と海恋は驚愕する。

 

「日和・・・さん・・・どう・・・して・・・?」

 

響は日和の行動に疑問をぶつける前に気を失い、ギアが解除される。

 

「・・・ダメなんだよ・・・響ちゃんを・・・戦わせるわけにはいかないんだ」

 

響を守るためとはいえ、このような強硬手段をとった日和は心が痛んだ。そしてすぐに気持ちを入れ替えてウェルと対峙する。




フォルテの悩み

世間からよく男前やイケメン男子と呼ばれて女性から多大な人気を誇っているフォルテ。しかし彼女も乙女の端くれ。男みたいと言われて喜べるはずもない。しかも、仲間たちからもたまに男と間違われて頭を悩ませている。そして悩みはもう1つ、自分自身の胸。バストサイズが77というようにとても小さい。ただでさえ自分より年下のマリアと切歌が育っていて、劣等感を感じているのに、翼よりも胸が小さいという事実に、フォルテは無表情を越えた虚無となっているとかなっていないとか。


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ザババの二重唱

9月13日は響ちゃんの誕生日です。本日の投稿は今回の午前と、午後に1本ずつの投稿を決めています。


ガングニールの浸食を止めるために響を気絶させてギアを解除させた日和は、棍を構え直し、片方の手首ユニットからもう1つの棍を取り出し、素早く振ってヌンチャクにする。

 

「みんな!響ちゃんを連れてこの場を離れて!!」

 

日和は未来たちにそう言って、ウェルの元へと向かっていく。

 

「く、来るなああああああ!!!」

 

ウェルはソロモンの杖でノイズを召喚して抵抗をする。日和は召喚されたノイズをヌンチャクを振るって次々と殲滅していく。ウェルは負けじと次々とノイズを召喚する。

 

「響ぃ!!」

 

未来たちは日和によって気絶させられた響の元へと向かう。

 

「・・・気絶してるだけみたいね・・・」

 

「海恋さん・・・日和さんはどうして・・・」

 

「わからない・・・。けど、こういう時の日和に限って、何の意味もなくこんなことするとは思えない。多分、立花さんの身体に何か異変が起きた・・・そうとしか考えられないわ・・・」

 

「響の身に・・・」

 

響を気絶させた理由を海恋は推察をする。薄々嫌な予感は感じていた未来だが、海恋の推察によってそれは的中した。外れてほしかったと思いながら、未来は響の身を案ずる。

 

「とにかく、ここを離れましょう。小日向さんはそっちを担いで。あなたたちは先に行きなさい」

 

「「「は、はい!」」」

 

「響・・・」

 

海恋と未来は響の両腕を担いで3人と共にこの戦場から離れていく。その間にもノイズの攻撃を避けた日和はヌンチャクに炎を纏わせ、まるで演舞のように舞いながらノイズを次々と焼き尽くしていく。

 

【気炎万丈】

 

日和は次々とノイズを倒していくもウェルがノイズを次々と召喚していくために数が一向に減らない。しかし抵抗する手段がそれしかないのならば、捕まるまでは時間の問題だ。

 

「ウェル博士!こんなことしたって意味ありません!!大人しくソロモンの杖を渡して、潔く投降してください!!」

 

「冗談じゃないわ!!!僕は、僕は英雄となるんだ!!!邪魔をするなあああああああああ!!!!」

 

日和はウェルに投降を施そうとしているが、当然ながら聞き入れるはずがないウェルはさらにノイズを次々と召喚する。

 

「いつもいつも!!都合のいいところで!!こっちの都合をひっちゃかめっちゃかにしてくれる、お前はあああああああ!!!!」

 

ウェルは私怨を乗せて休むことなくノイズを召喚していく。日和は慌てることなく炎を纏ったヌンチャクを舞いながら振るい、ノイズを焼き尽くしていく。

 

「いつもいつも!!!いつも!!いつも!!いつも!!いつも!!いつも!!!」

 

ウェルは懲りることなくノイズを召喚して自身の防御を固めていく。これではキリがないと判断した日和は2つのヌンチャクを元の棍を元に戻す。そして、右手の棍を投げやりのように構え、さらに長く伸ばす。十分に伸び切り、ノイズの群れに向かって投擲する。そして投擲した棍は複数に分裂し、それぞれのノイズへと向かっていく。そして、ノイズに直撃するところで分裂した棍は爆弾のように爆発した。

 

【才気煥発】

 

爆発をもろに食らったノイズは炭となり、木っ端微塵に吹き飛ぶ。

 

「ひいいいいいいいいいい!!!!!」

 

爆風の勢いがウェルに届き、情けない悲鳴をあげつつも何とか立っている。爆発の煙が晴れると、日和は棍を構えてウェルに突撃する姿勢を整えている。

 

「ひいぃ!!!」

 

日和に怯えているウェルはノイズを召喚して防御を試みようとする。そして、日和は腰部のブースターを起動させ、弾丸のようなスピードでノイズの群れに突っ込んでいく。

 

【電光石火】

 

日和の突撃でノイズの群れは貫かれ、ウェルの防御は崩れた。

 

「ひぃやあああああああああ!!!!!」

 

ものすごいスピードで突っ込んでくる日和にウェルは大きな悲鳴を上げる。日和の棍があと少しでウェルに直撃しようとしたその時・・・

 

ガキィィン!!!

 

突如として現れた盾のようなもので日和の一撃は防がれてしまう。

 

「盾⁉」

 

「なんとノコギリ」

 

「!調ちゃんに切歌ちゃん・・・!」

 

日和の一撃を凌いだ盾のようなものとは、何と巨大な丸鋸だった。それを展開させたのは調でその後ろには切歌が彼女を支えている。

 

「この身に纏うシュルシャガナはおっかない見た目よりもずっと汎用性に富んでいる。防御性能だって不足なし」

 

「それでも、全力の2人がかりでどうにかこうにか受け止めてるんデスけどね!」

 

「ごめんね、切ちゃん。私のヒールじゃ踏ん張りが利かないから・・・」

 

「いいってことデス!」

 

一撃を巨大丸鋸で受け止められた日和は一度距離を置いて抉れてしまった棍を調と切歌に向かって投擲した。切歌がウェルを抱えて調と共に投擲された棍を躱す。投擲した棍は人命に影響がない爆発を放った。調と切歌は火薬の臭いで顔をしかめ、日和は秋桜祭で楽しそうに歌を歌っていた2人と戦わねばならないのかと思い、気が気でなかった。しかし、戦わねばならないのならと思い、右手首のユニットを回転させ、新たな棍を取り出し、構える。

 

~♪~

 

エアキャリアに残っていた3人はノイズの出現反応パターンを感知したのを確認し、移動を開始している。エアキャリアを操縦しているフォルテは神獣鏡のステルス機能で機体の姿を消してノイズの出現地点へと向かっている。そこにウェルがいるとわかっているから。

 

「櫻井理論に基づく異端技術は特異災害対策起動の専有物でもあります。ドクターがノイズを発生させたことで、その位置を絞り込むことなど容易い」

 

「だけどマム・・・」

 

「わかっています。こちらが知りえたということは、相手もまた然りです。急ぎましょう」

 

ノイズの出現パターンの反応を確認できたのは自分たちだけでなく、二課の方にも知れ渡っている。3人はそれを十分に理解している。

 

「月読、暁、聞こえているか?君たちが今やるべき使命はわかるな?」

 

フォルテは通信機を使い、調と切歌に通信を入れる。

 

~♪~

 

切歌は日和に接近し、鎌を振るって斬撃を放つ。日和は切歌の鎌を飛んで躱す。だが躱したところに調が複数の丸鋸を放ち、日和に迫る。日和は棍を回転させて、迫りくる丸鋸を破壊する。戦いながらでも、フォルテからの通信は2人にはちゃんと聞こえている。

 

「ドクターを回収して速やかに離脱・・・」

 

「それはもちろんそうなのデスが・・・」

 

日和は左手首のユニットを回転させて新たな棍を取り出し、2つの棍を切歌と調に向けて一直線に伸ばす。

 

【一点突破・二刀流】

 

こちらに向けて伸びてきた2つの棍を切歌と調は躱す。

 

「あいつを相手に、そう簡単ではないデスよ・・・!」

 

そう簡単に逃がしてもらえないのはわかっている切歌はそう呟く。とはいっても、2対1とあれば、何とか切り抜けられると思い、離脱の機会を伺う切歌と調。

 

(やっぱり2対1だと結構厳しい・・・。しかも、その相手があの子たちだと余計にやりづらい・・・。だけど・・・)

 

日和の脳裏に浮かび上がるのは、弦十郎から告げられた言葉だ。

 

『このまま融合が進んだら・・・響ちゃん、どうなっちゃうんですか・・・?』

 

『遠からず・・・死に至るだろう』

 

『そうでなくとも、これ以上の融合状態が進行してしまうと、それは果たして・・・人として生きていると言えるのか・・・』

 

(・・・響ちゃんを戦わせないためにも、私が気張るしかない!!何とか、翼さんとクリスが来るまで、何とか持ちこたえないと!!)

 

響を絶対に死なせない思いで日和は2つの棍を振るい、再びヌンチャクにして構える。戦闘態勢に入る日和に切歌と調は身構える。

 

「頑張る2人にプレゼントです」

 

するとウェルは2人の背後に迫り、2人の首筋にガンタイプの注射器を当て、中に入ってある薬品を2人に流し込んだ。

 

「!!?な、何をしてるの⁉」

 

「何しやがるデスか!!?」

 

「LiNKER・・・⁉」

 

そう、ウェルが2人に注射したのはシンフォギアの適合率を上げる薬品、LiNKERだった。だが2人の適合率は十分にあり、投与する必要性がない。

 

「効果時間にはまだ余裕があるデス!!」

 

「だからこその連続投与です。あいつは並大抵の技では倒せません。それはフィーネの観測記録で観測済み。そんな化け物に対抗するには、今以上の質力でねじ伏せるしかありませぇん。そのためにはまず、無理矢理にでも適合係数を引き上げる必要があります!」

 

ウェルたちは二課の装者たちとフィーネとの戦いの記録を見たことがある。ゆえに日和がいかにタフなのかも十分に知っている。だからなのだろう。ウェルが2人の適合率をさらに上げ、倍の質力でねじ伏せようと考えたのは。だが、この連続投与には当然リスクがある。

 

「でも、そんなことすれば、オーバードーズによる負荷で・・・」

 

元々劇薬であるLiNKER。それを過剰摂取したのだ。何が起きても不思議ではない。

 

「ふざけんな!!!なんであたしたちが、あんたを助けるためにそんなことを・・・」

 

「するんですよ!!!いや、せざるを得ないのでしょう!!!」

 

切歌の怒りの講義にウェルは食い気味に断言している。

 

「あなたたちが連帯感や仲間意識などで、僕の救出に向かうとは到底考えられないこと!!!大方、あのおばはんの容体が悪化したから、うっからびっくり駆けつけたに違いありませぇん!!!」

 

「「・・・っ!」」

 

「病に侵されたナスターシャには生化学者である僕の治療が不可欠!!さあ!!自分の限界を越えた力で、私を助けてみせたらどうですか!!!」

 

どこまでも卑劣なウェルに調と切歌は苦虫を嚙み潰したような表情をする。

 

~♪~

 

日和に託されて、海恋たちは気を失った響を連れて戦場から離れていく。

 

「・・・う・・・うぅ・・・」

 

「!響!」

 

「立花さん、大丈夫?」

 

すると、響が目を覚まし、辺りを見回す。

 

「未来・・・海恋さん・・・日和さんは・・・?」

 

「あなたが知る必要はないわ。早く行きましょう」

 

海恋は日和を信じて、響をできる限り戦場から離れさせようとしている。だが響はおぼろげだが覚えている。日和がウェルを捕まえようと、ノイズと戦っていたところを。それを放っておくことなど、響にはできない。

 

「・・・未来、海恋さん・・・ごめんなさい・・・私、行きます」

 

響が戦いに戻ると言い出して未来と海恋の手を振り払い、日和の元へ戻ろうとする。

 

「響⁉」

 

「立花さん、あなた何を言い出し・・・」

 

「日和さんは今も戦ってるんですよね!!?なら私も戦わないと!!」

 

響は止めようとする未来と海恋にそう言って戦場へと戻っていく。

 

「響!!」

 

未来は響を止めようとして彼女を追いかけていった。

 

「小日向さん!あーもう!!あなたたちは先に避難して!!私は2人を引っ張ってでも連れ戻す!!」

 

「「「は、はい!!」」」

 

海恋は弓美たちにそう言って響と未来を連れ戻そうと追いかけていった。

 

Balwisyall Nescell Gungnir tron……

 

響は少しでも戦場に早く戻ろうとシンフォギアを身に纏って急いで現場へと向かっていく。シンフォギアを身に纏うことによって、響に力がみなぎってくる。

 

(力が・・・みなぎる・・・!!)

 

だが響は気づいていない。シンフォギアを身に纏うと同時に、凄まじい熱気が上がっていることに。その熱気が、舞っている葉を燃やし尽くしたことに。

 

~♪~

 

ウェルが打ったLiNKERによって、調と切歌の適合係数は通常状態よりも倍の数値を叩きだしている。だが、過剰投与によって、少し弱ってきている。

 

「調ちゃん!!切歌ちゃん!!」

 

日和はよろめいている2人を見て心配をする。

 

「くっ・・・やろう、切ちゃん・・・!マムのところにドクターを連れ帰るのが・・・私たちの使命だ・・・!」

 

「・・・絶唱・・・デスか・・・」

 

「そう、YOUたち唄っちゃえよ!適合係数がてっぺんに届くほど、ギアからのバックファイアを軽減出来ることは過去の臨床データが実証済み!!だったらLiNKERぶっ込んだばかりの今なら、絶唱唄い放題のやりたい放題!!!!」

 

ナスターシャを助けるためとはいえ、ウェルにいいように使われていることに対して、調と切歌は屈辱でいっぱいだった。

 

「・・・やらいでか・・・デーーース!!!!」

 

しかしなりふり構ってる場合ではなく、絶唱を歌う決意を固めた切歌と調。当然、この会話を聞いていた日和はそれを止めようと動き出す。

 

「歌わせない!!2人の絶唱を止めないと!!」

 

「やらせるわけないでしょうが!!!」

 

ウェルは2人の絶唱を阻止するのを阻むためにソロモンの杖でノイズを大量に召喚した。

 

「邪魔するなぁ!!」

 

日和は召喚されたノイズを棍で薙ぎ払いながら進んでいく。だが、ノイズも攻撃を仕掛けてきているので、中々奥に進むことができない。その間にも・・・

 

Gatrandis babel ziggurat edenal

 

Emustolronzen fine el baral zizzl……

 

切歌と調は絶唱を歌い始めた。日和はノイズを蹴散らしつつ2人に呼び掛ける。

 

「2人ともダメだよ!!絶唱は、装者の命をボロボロにしちゃうんだ!!」

 

Gatrandis babel ziggurat edenal

 

「女神ザババの絶唱二段構え!!!この場の見事な攻略法!!!これさえあれば・・・!こいつを持ち帰ることだって・・・!」

 

Emustolronzen fine el zizzl……

 

日和がノイズを倒し終えると同時に、2人の絶唱が歌い終わった。そして、調と切歌のアームドギアが凄まじい力を解き放ち、変形していく。

 

「シュルシャガナの絶唱は無限軌道から繰り出される果てしなき斬撃。これでなませに刻めな動きさえ封殺できれば!」

 

「続き、刃の一閃で対象の魂を両断するのがイガリマの絶唱!そこに物質的な防御手段などありえない!まさに、絶対に絶対デス!!!」

 

調の荒々しく丸鋸のアームが4本に変形し、切歌の鎌もこれまでの形状より禍々しく、鋭く変形した。

 

(使われた・・・!この状況で2人を止めるにはどうすれば・・・!)

 

日和はどうすれば2人を助けつつ、絶唱を止められるか、必死になって考えている。すると・・・

 

Gatrandis babel ziggurat edenal

 

この場に聞こえるはずのない声が聞こえてきて、日和はその声に驚愕する。

 

Emustolronzen fine el baral zizzl……

 

「そんな・・・どうして・・・ここに・・・?」

 

その声とは、シンフォギアを身に纏った響だった。彼女はここに駆けつけ、2人の絶唱を止めようと、自身も絶唱を歌っていた。

 

Gatrandis babel ziggurat edenal

 

「響ちゃん!!!ダメ!!!!その力を使っちゃダメぇ!!!!!」

 

Emustolronzen fine el zizzl……

 

日和が止めようとするも、絶唱は歌い終わり、響は両者側の間に立った。

 

「!!?エネルギーレベルが、絶唱発動まで高まらない・・・⁉」

 

「吸圧⁉」

 

調と切歌のアームドギアは絶唱を解き放つことはなく、絶唱を歌う前の状態に戻った。

 

「響ちゃん!!ダメェ!!!!」

 

「セット!!ハーモニクス!!!!」

 

響はS2CAを発動し、調と切歌の絶唱の負荷を響に集中させていく。

 

「こいつが・・・エネルギーを奪い取ってるのデスか⁉」

 

ドクンッ!!!

 

S2CAの発動によって響の胸のガングニールの浸食が急速に高まり、心臓の鼓動が鳴り響いた。そして響の熱気がさらに高まり、響の足元にも、微量の炎が灯っていた。

 

「響ちゃん!!!!」

 

「調ちゃんと切歌ちゃんの歌が聞こえた・・・2人に・・・絶唱を・・・使わせない・・・!!」

 

響は襲い掛かる負荷を耐えて両腕のガントレットを右腕に連結させ、パーツが回転し、絶唱のエネルギーを上空に放ち、虹色の竜巻を発生させた。




如意金箍棒の技

【才気煥発】
日和の技。棍を爆弾とし、日和のタイミングで爆発する技。槍のように投擲した後で爆発、複数に分離して爆発、時と状況によって、使用用途とタイミングが変わってくる。ちなみに、爆発の火力は人命に影響を与えないように調整してある。

【気炎万丈】
日和の技。棍をヌンチャクに変形し、炎を纏わせて武闘演舞のように舞いながら敵に打撃を与えていく連撃技。もちろん炎を纏わずに使用するのも可能だが、炎を纏った方が威力が高い。

【一点突破・二刀流】
日和の技、一点突破の二刀流。使用方法は1本の棍を伸ばした後にもう1本の棍を伸ばして攻撃、2つ同時に一直線に伸ばすの二択である。


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君でいられなくなるキミに

宣言通りに2本目です。また1週間分を溜めて投稿しようと考えております。


響がS2CAを発動させたことによって、街の上空には虹色の竜巻が天高く発生していたが、すぐにそれは消え去った。その光景はエアキャリアにいる3人もモニターで観測できている。

 

「吹き荒れる破壊のエネルギーをその身に無理やり抱え込んで・・・⁉」

 

「繋ぎ、繋がることで絶唱をコントロールできる奴にとってこの程度造作もないということか・・・末恐ろしい奴だ・・・」

 

クイーン・オブ・ミュージックで見せたものと同じ光景を見て、マリアとフォルテは驚いていた。

 

「うっ・・・!ゴホッ!ゴホッ!」

 

するとナスターシャが再び発作を引き起こし、咳き込んで血反吐を吐いた。

 

「「!マム!!」」

 

「心配いりません・・・ゴホッ・・・」

 

マリアとフォルテが容体を心配する。ナスターシャはモニターを確認して、二課の装者の位置を確認する。場所は響と日和にもう間近まで近づいてきている。

 

「この反応は・・・」

 

「追いつかれたようですね・・・」

 

ナスターシャはすぐに通信機を使い、2人に通信を送った。

 

~♪~

 

S2CAを放った響の周りにはクレーターが出来上がっており、辺りにも微量の炎が灯っている。この状況下の中で調と切歌の通信機から通信が届く。

 

『聞こえて?ドクターを連れて、急いで帰投しなさい』

 

「・・・だけど・・・」

 

今なら響だけでも倒せると調は考えているが、響の前に日和が立ちふさがり、彼女を守ろうと棍を構えている。

 

『如意金箍棒の装者は健在・・・さらにそちらに向かう反応が2つ。おそらくは、天羽々斬とイチイバル』

 

『君たちもLiNKERの過剰投与で負荷を抱えている。あまりにも分が悪い。指示に従ってくれ』

 

「・・・わかったデス・・・」

 

フォルテは戦いに関する知識は誰よりも詳しい。そのフォルテが分が悪いというのだから間違いはないのだろう。ゆえに切歌は渋々ながらウェルを抱えて、調と共に姿を現したエアキャリアから出たロープに掴まり、この場を離脱する。エアキャリアが姿を再び消して離脱したのを見計らい、日和はすぐに響に視線を向ける。

 

「響ちゃん!!だいじょ・・・!!?」

 

日和は響を見て、驚愕で目を見開かせる。なぜなら響の胸の傷跡から鉱石ようなキラキラした物体が現れているからだ。日和はこれがガングニールの欠片だというのがすぐにわかった。このままでは響は、ガングニールの浸食によって・・・やがて・・・

 

「響ちゃん!!!待ってて、すぐに・・・」

 

じゅううう・・・!!

 

「熱っ!!?な、なんて熱気なの・・・」

 

日和はすぐに響に近づこうとするも、彼女の周りに漂う熱気が炎のようにすさまじく、下手に近づけば自分が焼かれてしまう。

 

「響ぃーー!!!」

 

「!!未来ちゃん!!海恋!!」

 

そこへ響を追いかけてきた未来と海恋がやってきて、響の異常を目のあたりにする。

 

「何よ・・・この熱気・・・立花さんから・・・?」

 

「いやぁ!!響ぃ!!!」

 

海恋が驚いている間にも未来は響の異常に取り乱し、彼女に駆けつけようとする。そこにようやく駆けつけたクリスが未来を止める。海恋は何が何だかわからないが、ひとまずクリスと共に未来を止める。

 

「よせ!!火傷じゃ済まないぞ!!」

 

「でも!!響が!!」

 

「小日向さん!!落ち着いて!!」

 

「こういう時どうすれば・・・!そ、そうだ!水!!で、でも・・・この場に水なんて・・・」

 

日和はどうにかして響の周りの熱気を止めようと必死に考えて水が必要と判断するが、それらしいものがないか辺りを見回す。するとそこへ、翼が乗るバイクの音が近づいてきた。

 

Imyuteus amenohabakiri tron……

 

翼はバイクに乗りながらシンフォギアを身に纏い、両足のブレードを車体前方に展開させた。バイクはスピードを保ったまま、貯水タンクに向かって飛び、前方のブレードで貯水タンクを切り裂いた。

 

【騎刃ノ一閃】

 

斬れ目が付いた貯水タンクから水が流れ出し、下にいる響にかかる。これによって熱気が蒸発し、高温が消え去った。響はギアが解除され、気を失って倒れた。未来はすぐに響に駆けつける。

 

「日和・・・あんた・・・」

 

「・・・だから・・・あれほどダメだって言ったのに・・・」

 

「・・・私は・・・立花を守れなかったのか・・・!」

 

日和と翼の悔しさが込められた言葉を聞いたクリスは2人に詰め寄ってきた。

 

「だからダメ?私は守れなかった?なんだよそれ!!?お前ら、あのバカがこうなると知ってたのか!!?おい!!」

 

「「・・・・・・」」

 

クリスの問い詰めに日和と翼は何も答えようとしない。

 

「響!!響ぃ!!」

 

未来は気を失っている響に呼び掛けるが、何の反応もない。その後響は、二課の仮設本部に搬送され、適切な治療を受けることになるのであった。

 

~♪~

 

戦線を離脱したエアキャリアが止めた場所は自然豊かな場所だ。この場所でならば、ナスターシャにとっていいリラックスにはなるだろう。ウェルの適切な治療のおかげで、ナスターシャの容体は安定している。しばらくは持つであろう。

 

「それでは、本題に入りましょう」

 

ナスターシャの容体が安定したところで、ウェルは今後の計画の会議を取り仕切る。そのために必要なネフィリムの心臓をモニターでマリアたちに見せる。

 

「これは・・・ネフィリムの・・・」

 

「苦労して持ち帰った覚醒心臓です。必要量の聖遺物を餌と与えることでようやく本来の出力を発揮できるようになりました。この心臓とあなたが5年前に入手した・・・」

 

5年前に入手したものにたいして、マリアは反応する。

 

「お忘れなのですか?フィーネであるあなたが、水上山から発掘チームより強奪した神獣鏡のことですよ」

 

「・・・え、えぇ・・・そうだったわね・・・」

 

「・・・・・・」

 

ウェルの言葉にマリアは言葉を詰まりながらそう言った。あまり覚えていない様子のようだが、フォルテとナスターシャは知っている。本当の真実を。ウェルに悟られないように、ナスターシャが補足を入れる。

 

「マリアはまだ記憶の再生が完了していないのです。いずれにせよ聖遺物の扱いは当面私の担当。話はこちらにお願いします」

 

「これは失礼」

 

ウェルはナスターシャに一礼し、話を戻す。

 

「話を戻すと、フロンティアの封印を解く神獣鏡と起動させるためにネフィリムの心臓がようやくここに揃ったわけです」

 

「そしてフロンティアが封印されたポイントも先だって確認済み」

 

「そうです!すでにでたらめなパーティの開催準備は整っているのですよぉ!!後は僕たちの奏でる狂想曲にて、全人類が踊り狂うだけえぇ!!」

 

フロンティアなるものの起動を想像し、ウェルは狂気じみた笑い声をあげる。

 

「近く計画を最終段階に進めましょう。ですが今は少し休ませていただきますよ」

 

会議が終わり、ナスターシャは車椅子を操作して車両から出る。少ししてマリアたちも車両から出ていく。この場に残っているのはフォルテとウェルだけだ。

 

「・・・ドクター。君に問おう。仮に英雄になれたとして、その先に何を見る?」

 

「・・・逆に、あなたはその先に何を見るのですか?」

 

フォルテの質問にウェルは質問で返した。フォルテは表情を変えず、当然のように答えた。

 

「何もない」

 

「あぁん?」

 

「僕は真なる平和さえ訪れればそれでいい。それ以上のことは何も求めない」

 

「・・・夢がない、つまらない人だぁ」

 

ウェルはフォルテの出した答えにけたけたと笑いながらそう言った。

 

「英雄などとくだらない肩書を持つよりは、よっぽどいい」

 

しかし、フォルテが英雄を軽視する発言に、ウェルは眉を歪ませる。

 

「英雄によって争いは確かに収束されたが、戦が終わればその存在は不要となる。かの英雄ジークフリートもそうであった。結局は皆そうなのだ。栄光と栄誉などとくだらないものに疎み・・・そしてそれに目がくらみ、最後には殺されゆく。人間とは欲望でできている。君のようにな」

 

「じれったいですねぇ。何が言いたいのです?」

 

バァン!

 

「ひっ!!?」

 

ウェルがイラつかせながら続きを促すと、フォルテは懐から拳銃を取り出し、彼の頬をかするように弾丸を撃ち放った。銃を撃ったフォルテはすぐに拳銃を下ろす。

 

「・・・そんなに英雄になりたいならば、僕が君を英雄にしてやろうと言っている。・・・君の望む結果になるかは、保証しかねるが」

 

「ま、まさかお前・・・フロンティア起動後に僕を・・・!」

 

「命令無視、一般人の殺害、命を軽んじる行為、そして今回の2人のLiNKERの過剰投与・・・マムを救ったことは感謝するが、君の度重なる問題行動は目に余る。ゆえに、君は真なる平和には不必要だ。執行猶予があるだけありがたいと思え」

 

わざと外したとはいえ、容赦なく拳銃を撃ったフォルテにウェルは腰を抜かしている。

 

「安心しろ。墓標くらいは立ててやる。・・・人類史上最低最悪自称英雄の独裁者としてな」

 

フォルテは拳銃をしまい、ウェルを残して外に出ようとする。

 

「・・・本当、好き勝手言ってくれますねぇ・・・。あなたのそういう英雄を軽んじる態度、僕は大嫌いですよぉ・・・!」

 

「奇遇だな。僕も、英雄を目指す君が嫌いだ」

 

お互いに悪態をついた後、フォルテは車両から出ていく。残ったウェルが考えることは・・・執行猶予までにどうやってフォルテを殺せるかの作戦だ。

 

~♪~

 

二課の仮設本部である潜水艦のメディカルルームで響は治療を受けている。あの戦場にいた未来と海恋は椅子に座って響が回復するのを待っていた。しばらく待っていると、治療の結果を知らせるために緒川がやってきた。

 

「当座の応急処置は無事に終わりました」

 

「無事・・・?響は無事なんですよね・・・?」

 

「・・・はい」

 

「・・・教えてください。立花さんの身体は・・・いったいどうなってしまったんですか?」

 

響の身体の状況を知りたい未来と海恋に緒川は少し顔を俯かせている。状況を説明するために、緒川は潜水艦の司令室へと移動した。たどり着いた司令室では弦十郎が待っていた。クリスもたった今、弦十郎から真実を知らされていた。日和は悲しそうな顔で腕を掴んで顔を俯かせている。

 

「・・・未来君には、知ってもらいたいことがある」

 

モニターより、メディカルルームで撮った響のレントゲン写真が映し出された。響のガングニールの浸食は進んでおり、身体に纏わりついているように見える。これを見た未来と海恋は目を見開き、驚愕する。

 

「・・・最初から教えてあげればよかった・・・。そうすれば・・・何とかできたかもしれなかった・・・。響ちゃんも・・・力を使わなかったかもしれない・・・。それなのに・・・」

 

「・・・クソッタレが!!!!」

 

事実を隠したままにしたことを後悔して日和は悲しそうに目を閉じ、クリスも机を蹴り上げ、やり場のない怒りをぶつけた。その間にも弦十郎は未来と海恋に響の現状を伝える。

 

「胸に埋まった聖遺物の欠片が響君の身体を蝕んでいる。これ以上の進行は、彼女を彼女でなくしてしまうだろう・・・」

 

「・・・聖遺物を使うことで浸食が進んでいった・・・そうか・・・それで日和はあの時、立花さんを殴って気絶させたのね・・・力を使わせないために・・・」

 

「うん・・・」

 

響を気絶させた理由に合点がいった海恋は顎に手を添えて考える。

 

「立花さんの聖遺物の浸食を食い止めるには、力を使わせないのは必須条件・・・。それには、立花さんを今後これ以上戦わせないこと。それができる人物がいるとしたら・・・」

 

海恋と弦十郎は視線を未来に向けた。未来には、その意図がすぐに理解できた。

 

「・・・私・・・なんですね・・・」

 

「響君にとって、親友の君こそが、最も大切な日常・・・君のそばで穏やかに時間を過ごすことだけが、ガングニールの浸食を抑制できると考えている」

 

「私が・・・響を・・・」

 

「・・・響君を・・・守ってほしい」

 

弦十郎は真剣な眼差しで未来にそう頼んだ。真実を告げられ、未来にはもう答えが出ていた。自分が・・・響を守るんだと。

 

~♪~

 

先日に降っていた雨が止み、本日は晴天・・・エアキャリアを止めている大自然はより美しく、湖も輝いてみえる。そんな中でマリアはナスターシャの車椅子を押して、フォルテと共に散歩をしている。散歩の最中、マリアは自身の胸の内をフォルテとナスターシャに明かす。

 

「・・・これまでのことで、よくわかった・・・私の覚悟の甘さ・・・決意の軽さを・・・」

 

「「・・・・・・」」

 

「その結末がもたらすものが何なのかも・・・。そのせいで、フォルテには多くの負担をかけさせてしまった・・・」

 

マリアは押していた車椅子から手を放し、ナスターシャとフォルテと対面する。

 

「だからね、マム・・・私は・・・」

 

「その必要はありません」

 

「え・・・?」

 

マリアの決意を話す前にナスターシャが目を閉じて口を開いた。

 

「・・・それがあなたの答えなのだな・・・」

 

真実を全て知っているフォルテは目を閉じ、深々とナスターシャの意思を汲み取る。

 

~♪~

 

一方その頃、調と切歌はスーパーに行って買い出しに出かけていた。本日の買い出しを終え、2人は食材が入った袋を両手に持って隠れ場所に戻ろうとする。

 

「楽しい楽しい買い出しだって、こうも荷物が多いと面倒くさい労働デスよ!」

 

「仕方ないよ。過剰投与したLiNKERの副作用を抜ききるまでは、おさんどん担当だもの」

 

切歌は調の様子が若干おかしいことに気づき、彼女の前に立つ。

 

「持ってあげるデス!調ってば、なんだか調子が悪そうデスし・・・」

 

「ありがとう。でも平気だから」

 

切歌は調を気遣って袋を持つと提案したが、調は大丈夫と言い張る。

 

「・・・じゃあ!少し休憩していくデス!」

 

意外と強情な部分がある調に切歌はそれでも彼女を楽にしてあげようとそう提案した。調はせっかくの好意ということで断らず、その提案に乗った。2人が休憩の場に選んだのは、工事中止となった工事現場であった。2人はそこの廃材に座り、スーパーで買ってきた菓子パンを取り出す。

 

「嫌なこともたくさんあるけど、こんなに自由があるなんて、施設にいたころは、想像もつかなかったデスよ。任務とはいえ、フォルテもこういう空気を味わってたんデスなぁ・・・」

 

「うん・・・そだね・・・・あの時は・・・フォルテが羨ましいって、思ったっけ・・・」

 

切歌は菓子パンをおいしそうに食べているが、調は本当に体調が悪いのか、菓子パンの袋さえも開けていない。すると切歌は沈んだ表情で語りだす。

 

「・・・フィーネの魂が宿る器として、施設に閉じ込められていたあたし達。あたし達の代わりに、フィーネの魂を背負うことになったマリア・・・。自分が自分でなくなるなんて怖いことを、結果的にマリア1人に押し付けてしまったあたし達。大切な友達をなくして、どんどん怖くなっていくフォルテ・・・。そんなフォルテを、止めることができないあたし達・・・」

 

様々なことを思い浮かべた切歌だが、気持ちを切り替えてご機嫌に振る舞い、最後の一口を彼女は頬張る。すると切歌は調の体調が悪化していることに気づいた。調は大量の汗をかいており、息遣いも荒い。重度の風邪のような症状に陥っている。

 

「調⁉ずっとそんな調子だったデスか⁉」

 

「大丈夫・・・ここで休んだからもう・・・」

 

大丈夫と言い張るが、調は足元がおぼつかず、ふらついている。

 

「調!!」

 

切歌は調を支えようとした時・・・

 

ガシャンッ!!ガラガラガラガラ!!!!

 

調は近くにあった廃材に倒れ掛かる。それによって不安定だった骨組みが崩壊し、数多くの鉄パイプが落下してきて、彼女たちを押しつぶさんとしている。

 

~♪~

 

ナスターシャはマリアに向けて、衝撃的な言葉を口にする。

 

「あなたにこれ以上、新生フィーネを演じてもらう必要はありません」

 

新生フィーネを演じる・・・それが行きつく答えとは、マリアはフィーネに覚醒したわけでなく、ただフィーネとして演技していただけということだ。これは、組織の根幹に関わる、重大なことだ。

 

「マム⁉何を言うの!!?」

 

「あなたは、マリア・カデンツァヴナ・イヴ。フィーネの魂など宿していない。ただの優しいマリアなのですから・・・」

 

「大したことではないさ。フィーネの魂はどの器にも宿らなかった・・・ただそれだけの事だからね」

 

驚くマリアにナスターシャは優しい表情で、フォルテはいつも通りの無表情でそう口を開いた。ただ・・・その会話を木陰に隠れて聞いていた者がいた。英雄志願者である、ウェルであった。重大な事実に、ウェルは怪しく、静かにほくそ笑んでいる。

 

~♪~

 

ズシャーン!!!

 

鉄パイプが大量に落ちてきたことによって、工事跡地では凄まじい音が鳴り響き、辺りも土煙が立ち込める。

 

「・・・・・・あれ・・・?」

 

直撃コースにいたはずの切歌と調は死んではいない。痛みもないどころか、当たった気配もない。恐る恐る切歌は目を開け、防衛本能から突き出した手を見て、驚愕する。なぜなら・・・彼女の手からバリアのような障壁が展開されていたからだ。

 

「何が・・・どうなってるデスか・・・?」

 

何が起きたのかわからず・・・そもそも、自分が何をしたのかもわかっていない切歌は困惑するばかりであった。




響の誕生日

未来「響、誕生日おめでとう」

海恋「立花さん、おめでとう」

日和「響ちゃんおめでとーう!今日は響ちゃんのためにベッキーと一緒に張り切って歌っちゃうよー!」

響「わー、ありがとうございます!すごくうれしいです!」

未来「今日は響のために3人でお好み焼きのケーキを作ったの」

海恋「と言っても、お好み焼きをただ重ねただけなのだけどね」

日和「さあ響ちゃん!ご賞味あれ!」

響「うわー!おいしそう!いっただき・・・」

お好み焼きケーキを見て日和は物欲しそうによだれを垂らしながら見つめている。

海恋「こら!日和!これは立花さんのものよ!」

日和「わかってる・・・けど・・・おいしそう・・・」

未来「もう・・・味見したじゃないですか・・・」

響「・・・こんなにいっぱいあるんですから、頑張った日和さんたちもどうぞ!」

日和「えっ!!?いいの!!?じゃあ遠慮なく!!」

未来「すごい・・・もう食いついてる・・・」

海恋「はあ・・・ごめんなさいね、立花さん、日和が勝手に・・・」

響「いえいえ。みんなとこうして一緒に食事するだけでも、素敵なプレゼントですから!」

未来「響ったら・・・」

海恋「そういうことにしておきましょうか」

響「未来、日和さん、海恋さん、本当にありがとう!!」

響は日和たちと一緒に食事を楽しみ、その後に日和の演奏と歌を聞いて、充実した誕生日になったとさ。


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突きつけられる事実

ルナアタックより1ヶ月が経った頃・・・月の落下の軌道線を割り出したNASAの観測結果が不正だとナスターシャは判断した。この事実を公表するために、武力行使することを彼女は決断した。フォルテは彼女の計画に真っ先に賛同し、後にマリア、調、切歌も賛同する。計画を実行するためにも、必要なことがある。それは・・・ドクターウェルを自分たちの味方に引き入れることだ。時はちょうどその時・・・F.I.Sの訓練施設。訓練場はF.I.Sの技術によって風景を本物の街のように映し出している。シンフォギアを身に纏う4人の前に、シュミレーターノイズが出現する。マリアは槍で、フォルテは大剣で、調は放った丸鋸で、切歌は鎌で次々とシュミレーターノイズを殲滅していく。

 

「・・・マリア。月読と暁には聞こえないように話す。大事なことだ。よく聞いてほしい」

 

マリアとフォルテが背中を合わせた時、フォルテは戦闘音で調と切歌には聞こえないようにして、マリアに話しかける。

 

「またあの話?私にフィーネを演じろと」

 

マリアはシュミレーターノイズから、シュミレーターの人間を守りながら槍を振るってフォルテの話に耳を傾ける。

 

「僕たちの計画遂行のためには、不本意だが、ドクターウェルの助力が必要不可欠だ。奴を僕たちの元に引き入れるためには、君の身体にフィーネが再誕したこととすることで、僕たちこそが異端技術の先端を所有していると示さねばならない。あの英雄願望のことだ・・・必ず食いつく」

 

「無理よ!確かに私たちは、レセプターチルドレン!フィーネの魂が宿る器として集められた孤児だけど・・・現実は、魂を受け止められなかったわ!今更そんな!!」

 

マリアは自らの感情に流され、槍のエネルギー砲を発射させた。だが発射されたエネルギー砲は・・・シュミレーターの人間に直撃してしまった。それによって、シュミレーターは任務失敗と判断し、シュミレーションは終了し、元の訓練施設に戻っていく。

 

パチパチパチッ

 

そこへ、ウェルが入室し、彼女たちに向けて拍手する。

 

「シンフォギアシステム。素晴らしい力だ。そして、適性の薄い君たちに力を授ける僕が改良したLiNKERも。この力を持ってすれば、英雄として世界を・・・くくく・・・」

 

ウェルは下卑た笑みを浮かべながら切歌と調のシンフォギアを馴れ馴れしく触る。これには切歌と調、マリアも不快感を露にする。

 

触るな

 

「ひっ・・・!!?」

 

フォルテはウェルに向けて殺気を放つ。フォルテの殺気を感じたウェルは恐怖のあまり、思わず2人から離れた。フォルテはギアを解除して部屋から出ていった。何はともあれ、マリアたちはこの後ウェルを味方に引き入れることに成功した。

 

~♪~

 

そして時は、今に至るというわけだ。休息を終え、マリアはエアキャリアを操縦し、目標地点・・・計画に必要不可欠のフロンティアが封印の地へと向かっている。マリアの脳裏には、ナスターシャに告げられた言葉が振り返る。

 

(だけど・・・マムはこれ以上フィーネを演じる必要はないと言った・・・。神獣鏡とネフィリムの心臓・・・フロンティア起動の鍵が揃った今・・・どうしてマムはこれ以上、嘘をつく必要はないと言ったのか・・・)

 

フィーネを演じる必要はない・・・その真意がマリアには理解できなかった。

 

~♪~

 

エアキャリアの車両で、買い出しから戻ってきた切歌と調はウェルからメディカルチェックを受けていた。調の番は終わり、今は切歌の番だ。数値の結果は良好・・・戦線に戻れる状態になったことを指す。

 

「オーバードーズによる不正数値もようやく安定してきましたね」

 

「よかった・・・これでもう足を引っ張ったりしない」

 

「・・・・・・」

 

調はようやく元の状態に戻れて安堵しているが、切歌はどことなく顔色が優れない。

 

「LiNKERによって装者を生み出すと同時に、装者の管理と維持もあなたの務めです。よろしくお願いしますよ」

 

「わかってますって。もちろんあなたの身体のこともね」

 

ナスターシャはウェルに釘を刺したが、彼は不敵な笑みを浮かべてそう返した。そこへフォルテが彼の耳元に近づき、ナスターシャたちには聞こえないように話す。

 

(自分のことも忘れるな。君は用が済めば終わりだ。生化学者など、後でいくらでも見つけられるからな)

 

(言われんでもわかってますよ。ただ・・・先にくたばるのはどっちの方ですかねぇ?)

 

(・・・どういう意味だ?)

 

(さぁてねぇ?)

 

意味ありげに話すウェルにフォルテは相変わらずの無表情だが、怪訝に思っている。ウェルははぐらかすように肩をすくめて、フォルテから放れる。そんな中切歌は工場跡地で自分が出したあの障壁のことを思い返していた。

 

(・・・あれは・・・あたしのしたことデスか・・・?)

 

切歌は何が何だかわからなかった。どうしてあの障壁を出せたのかも・・・そもそも、あれが一体何なのかも。

 

(あんなこと・・・どうして・・・。あれは・・・)

 

考えていると、切歌はある1つの過程が浮かび上がった。あれは・・・フィーネの力なのではと。その考えが浮かび上がると、切歌は目を見開いた。

 

~♪~

 

二課の仮設本部の潜水艦のメディカルルーム。そこに翼、日和、クリスが集まり、目を覚ました響の様子を見に来ていた。そして、後からやってきた弦十郎がスキャン画像を使い、響の身体の状況を伝える。スキャン画像に映っているのは、何かの臓器で、至る所に鉱石のようなものが埋め込まれている。これがガングニールの浸食によってできたものだ。

 

「これは響君の身体のスキャン画像だ。体内にあるガングニールがさらなる浸食と増殖を果たした結果、新たな臓器を形成している。これが響君の爆発力の源であり、命を蝕んでいる原因だ」

 

見たこともない臓器が響の命を蝕んでいると聞き、クリスは悔しそうな表情をし、日和も悲しそうに顔を俯かせている。重大な事実を伝えられた響は呑気に笑っている。

 

「あは・・・あははは・・・つまり、胸のガングニールを活性化させる度に融合してしまうから、今後はなるべくギアを纏わないようにしろと・・・あはは・・・」

 

「いい加減にしろ!!!」

 

呑気そうに笑っている響に翼は彼女の腕を掴み、怒りの形相を浮かべている。

 

「なるべくだと?寝言を口にするな!!!!今後一切の戦闘行動を禁止すると言っているのだ!!!東雲も言っていただろう!!!」

 

「翼さん・・・」

 

「このままで死ぬんだぞ!!?立花!!!!」

 

「!!!」

 

翼の涙を流しながら放たれた言葉に響は目を見開く。

 

「そんくらいにしときな!このバカだって、わかってやってるんだ!」

 

クリスがその場をなだめる。翼はただ1人、メディカルルームを出ていく。

 

「翼さん?どこ行くんですか⁉翼さん!!」

 

日和も出ていった翼を追いかけ、メディカルルームを後にする。

 

「医療班だって、無能ではない。目下、了子君が残したデータを基に対策を進めている最中だ」

 

「師匠・・・」

 

弦十郎は優しい口調でしゃべり、響の頭に手をぽんとのせる。

 

「治療法なんてすぐに見つかる。そのほんの僅かな時間、ゆっくりしてもバチなど当たるものか。だから、今は休め」

 

「・・・わかり・・・ました・・・」

 

弦十郎が自分を気遣っているのはわかるが、響はどうにも沈んだ表情で、顔を俯かせている。メディカルルームを退室した翼は響を守れなかった悔しさから拳を壁に叩きつけた。

 

(涙など・・・剣には無用・・・なのに・・・なぜ溢れて止まらぬ・・・?今の私は、仲間を守る剣にあたわずということか・・・!)

 

「翼さん・・・」

 

響を守れなかった悔しさは日和も十分に理解しているため、どう声をかけたらいいかわからなかった。そこへ緒川がやってきた。

 

「翼さん」

 

「っ!わかっています。今日は取材がいくつか入っていましたね」

 

翼は自身の涙を拭き、この場から離れようと歩き出す。

 

「翼さん!」

 

「1人でもいけます。心配しないでください」

 

「つ、翼さん・・・」

 

「・・・すまない。1人にしてくれ」

 

日和と緒川は寂しげな翼の背中をただ見送ることしかできなかった。

 

「・・・なんだか翼さん・・・寂しそう・・・。まるで、前の状態に戻ったみたい・・・」

 

今の翼ならばそうなるのも無理もない気がするが、やはり心配になってくる日和。

 

「・・・ううん!いつまでもうじうじしてても仕方ない!悲しいのはみんな同じ!私が気張らないと!」

 

いつまでも後ろめたい気持ちになっても仕方ないと思い、日和はしっかりするという思いで自身の頬を強く叩いた。が、思った以上に強かったために痛がる。

 

「いったぁ~・・・強くやりすぎた・・・」

 

「・・・日和さんは強いんですね」

 

「・・・強くなんかないですよ。全然強くない。ただ、前向いて進んでるだけです」

 

日和は今も不安な気持ちでいっぱいである。それでも前へ進もうとする日和の前向き思考に緒川は頼もしそうに笑みを浮かべている。

 

「・・・あの、緒川さん。緒川さんはフォルテさんと同じマネージャーですよね?あの人から何か聞いていませんか?」

 

「・・・気になるんですね。フォルテさんが」

 

「あの日から私、ずっと考えてたんです。フォルテさんの言う真なる平和って何だろうって。仮にそのよくわからないものがあったとして、それは・・・フォルテさん自身が望んだものなのかなって・・・。なんか、自分に言い聞かせてるような・・・そんな気がして・・・」

 

決闘の夜でフォルテが言っていた真なる平和。響のことでずっと後回しにしてきたが、日和はそれが気になって仕方ない。

 

「すみません・・・よくわかんないことを言ってしまって」

 

「いえ。ただ・・・すみません。彼女とは仕事で数回話をしただけでそれ以上のことは何も・・・」

 

緒川はクイーン・オブ・ミュージックでフォルテと初めて出会い、仕事の話はしていたものの、それ以上のことは何も・・・というより、その時はフォルテがまだ武装組織フィーネの一員であったことさえも知らなかったのだ。情報を聞き出すという発想自体なかった。

 

「そう・・・ですよね・・・。フォルテさんのことがわかれば・・・話し合いに応じてくれるんじゃないかって思ったんですけど・・・なかなかうまくいきませんね」

 

「なるほど・・・」

 

日和なりに考えていたようだが、案の定、簡単にはいかず、彼女は苦笑いを浮かべている。日和の気持ちを理解した緒川はその気持ちを汲み取ろうとする。

 

「わかりました。こちらでも彼女のことについて調べてみます」

 

「本当ですか⁉ぜひ、お願いします!」

 

緒川がフォルテについて調べようとしてくれて、日和は彼に感謝して頭を下げて調査の依頼をするのであった。

 

~♪~

 

フロンティアが封印されている海洋上。エアキャリアはそこを飛んでいる。

 

「マリア、お願いします」

 

マリアはエアキャリアを操作して、シャトルマーカーを射出し、海洋上に展開させた。

 

「シャトルマーカー、展開を確認」

 

「ステルスカット、神獣鏡のエネルギーを収束」

 

エアキャリアはステルス機能を解除し、エネルギーを神獣鏡に収束させる。

 

長野県水上山より出土した神獣鏡とは鏡の聖遺物。その特性は光を屈折させて周囲の景色に溶け込む鏡面迷彩と古来より伝えられる魔を払う力。今までのエアキャリアの透明化はこの神獣鏡の鏡面迷彩能力によるものである。5年前にフィーネがノイズを放ち、二課の発掘チームを襲わせて、強奪したものが神獣鏡。そして、この時両親についていったツヴァイウィングの片割れである天羽奏はその時に1人だけ生き残った生存者でもあった。

 

「聖遺物由来のエネルギーを中和する神獣鏡の力を持ってして、フロンティアに施された封印を解除します」

 

ナスターシャがフロンティアの封印を解除しようと機械を操作していたところに、ウェルが彼女の腕を掴んでストップをかけた。

 

「フロンティアの封印が解けるということは、その存在を露にするということ。全ての準備を整ってからでも遅くないのでは?」

 

「心配は無用です」

 

「やけに慎重だな。何を企んでいる?」

 

「・・・いえ?何にも?」

 

ストップをかけたウェルに対し、疑いの目を向けるフォルテ。ウェルはナスターシャの手を放し、肩をすくめて不敵な笑みを浮かべる。

 

「リムーバーレイ・ディスチャージ」

 

ナスターシャはスイッチを押し、収束した神獣鏡のエネルギーをシャトルマーカーに向けて放った。シャトルマーカーがエネルギーを反射し、フロンティアが眠る海の底にエネルギーが沈んでいく。

 

「これで・・・フロンティアに施された封印が解ける・・・解けるぅ~・・・」

 

ウェルは嬉々とした表情でフロンティアの解除を待ち望んでいる。エネルギーはフロンティアに直撃し、放たれたエネルギーによって、水飛沫をあげた。だが・・・ただそれだけで・・・フロンティアが浮上してくることはなかった。

 

「・・・解け・・・ない・・・?と・・・と・・・解け・・・ない・・・?」

 

「・・・やはりな・・・」

 

フロンティアの封印が解けていないということに、ウェルは動揺しているが、ある程度の予想がついていたフォルテは至って冷静だ。

 

「出力不足です。いかに神獣鏡の力といえど、機械的に増幅した程度ではフロンティアに施された封印を解くまでには至らないということ」

 

フロンティアの起動に必要な鍵は揃っているの関わらず、封印が解けないのは出力が足りていない。そのことを知っていたナスターシャにウェルは怒りを露にする。

 

「あなたは知っていたのか!聖遺物の権威であるあなたが、この地を調査に訪れて何も知らないはずなど考えられない!この実験は、今の我々ではフロンティアの封印解放には程遠いという事実を知らしめるために!違いますか⁉」

 

「・・・これからの大切な話をしましょう」

 

フロンティアの封印解除に至らない・・・その事実を突きつけられ、ウェルは歯ぎしりを立てる。そこへフォルテが彼に耳打ちをする。

 

「・・・運がよかったな」

 

ひとまずはまだ生かしておいてやるとフォルテは言っている。どこまでも自分を下に見るフォルテによって、ウェルの怒りは爆発寸前まで来ているが、彼は何とか怒りを抑えるのであった。




日和のストレス発散法

いつも元気に立ち振る舞う彼女にだってストレスを溜め込んでしまう時はある。そんな彼女のストレス解消法は歌を歌うこと。しかし、歌を歌う気分でない場合も存在する。そんな時の彼女のストレス発散法は食べること。自身の秘密も相まって、響並みの食欲を持っている彼女は歌を歌わない日はおやつを爆食いし、ストレスをなくしていく。ただ、節度を持たなければ夕食を食べれない、海恋に怒られる、さらには気を付けないと昔の体型に戻ってしまうという大きなリスクもある。特に3つ目の例を日和は気にしており、気を付けて食べるように心がけている。


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繋ぐ手と手・・・戸惑うわたしのため・・・

実はGX編の後に、XDと同じように、並行世界の玲奈ちゃんが登場する話を考えています。だってXDで並行世界が存在すると発覚されたのは、だいたいGX編終了後だったはずなので。その時に日和ちゃんとの出会った時を描こうかなとも思ってます。まぁ、だいぶ先ですけど。


ある日の休日、日和は本日は休みである咲からの外食の誘いを受けて、海恋とクリスを誘い、3人と共にファミリーレストラン、イルズベイルで昼食をとっている。

 

「んー、おいしい。たまには外食もいいわね」

 

各々が注文した料理を食べているが、海恋は3人の食べ方がかなり気になっている。

 

「・・・日和!スープを直接口につけない!音も出さない!マナー違反よ!」

 

「んぐ・・・こんなとこでも説教~?」

 

「咲さんも!お肉を切る時はカチャカチャ音を立てないでください!」

 

「あらら・・・ごめんなさいね、つい・・・」

 

「クリスに至っては論外!食べ方が汚すぎ!ソースがこっちにまで飛んできてるのよ!」

 

「あ?あぁ、わりぃ」

 

海恋からのテーブルマナーを指摘されて、3人は少し反省している。

 

「まったく・・・テーブルマナーができてなきゃ、世間に・・・」

 

「そ、それにしても2人は日和と本当に仲がいいわね」

 

咲は海恋の小言を逸らすように話題を無理やり変えてきた。

 

「あ、あたしは別に・・・」

 

「あの、咲さん?誤魔化そうとしてませんか?」

 

クリスは少し照れたように頬を朱に染め、話題を変えられて海恋は咲をジト目で見つめる。

 

「そ、そんなことないわよ?ただ、何というかその、あなたたちの仲を見て、平和だなぁって思っただけだから・・・」

 

「咲さん?」

 

「・・・すみません・・・」

 

「平和・・・か・・・」

 

苦笑交じりで放った咲の平和という単語に日和は食事の手を止める。

 

「だいたい咲さんは・・・て、日和?どうしたのよ?」

 

「・・・ねぇお姉ちゃん・・・平和って、何なんだろう?」

 

「?何その質問?」

 

突然の日和の質問に咲は首を傾げる。日和の質問にクリスが脳裏に浮かばせるのは、フォルテの放った言葉だ。

 

『月の落下により失われゆく命を可能な限り救い、その先にある真なる平和・・・それを築き上げることだ』

 

(あいつは、真なる平和が欲しいみたいなことを言ってた・・・ありゃどういう意味だ・・・?)

 

クリスもフォルテの言う真なる平和が気になるようで、多少のヒントでもと思い、咲にとっての平和の価値観について耳を傾ける。

 

「あー、いや、その・・・ね?たまーに考えるの。平和ってなんだろーって。それって、争いがないことだけが平和なのかなーって」

 

「そうねぇ・・・世界全部が平和・・・てわけでもないしね・・・。実際に日本でも犯罪が起きてるし」

 

「そうだよねぇ・・・」

 

「・・・でも、あえて言わせてもらうとしたら・・・」

 

「もらうとしたら・・・?」

 

「誰かと一緒に幸せになるところとか、誰かがお家に帰れるようになるとか、そういう何気ない日常が、私にとっての平和なんだと思うわ」

 

「何気ない日常・・・」

 

「何の変哲もない日常を守るために、人の命を守る医者は必要なんだと、私は考えてるわ」

 

咲の平和の価値観を聞いて、日和はいかにも咲らしいと考える。

 

「そっか・・・そうだよね。ありがとう、お姉ちゃん」

 

日和は咲にお礼を言って再び食事を再開しつつ、フォルテの真意について考える。

 

(人によって平和の価値観はやっぱり違うんだ・・・。じゃあフォルテさんにとっての平和は?その真なる平和がフォルテさんの平和なの?それが実現できたとして・・・フォルテさんは・・・本当に幸せになれるの・・・?)

 

日和はよく考えるが、まったく答えが出ず、彼女はもやもやを払うことができなかった。

 

~♪~

 

一方その頃、東京スカイタワー。このスカイタワーの上階には会議室が存在しており、ナスターシャはそこへ向かっており、彼女の護衛のためにマリアとフォルテがついてきている。彼女の車椅子を押しているマリアは彼女に言われた言葉を思い返す。

 

『あなたにこれ以上、新生フィーネを演じてもらう必要はありません』

 

マリアはそのことを考えているのだが、どうしても答えが出てこない。彼女の真意を少なからず理解してるフォルテにマリアはそのことについて訪ねる。

 

「ねぇフォルテ・・・マムのあの言葉は、どういう・・・」

 

マリアの問いかけに、フォルテは表情を変えずに答える。

 

「言葉通りの意味だ。僕たちのしてきたことは、ただのテロリストの真似事にすぎない。僕たちが今真にやるべきことは、月が齎す災厄の被害を抑えること。違うかい?」

 

「・・・つまり、今の私たちでは世界を救えないと?」

 

「・・・・・・」

 

マリアとフォルテが話している間にも、目的地である会議室に到着した。そこで待っていたのは、複数人の黒服の男たちであった。

 

「マム、これは・・・?」

 

「米国政府のエージェントです。講和を持ちかけるため、私が招集しました」

 

「講和を・・・結ぶつもりなの?」

 

「ドクターウェルには通達済みです」

 

この黒服の男たちは米国政府のエージェントで、どうやらナスターシャは米国政府と講和を結ぶために彼らを呼んだようだ。何も知らされていないマリアはただ驚愕するばかりであった。事前に講和の話を聞かされていたフォルテはナスターシャに耳打ちをする。

 

(先日も言ったが、あまり期待はしない方がいい。いざとなれば、武力行使もやむを得ない)

 

「・・・そうならないことを祈っております」

 

米国政府にたいしてあまりいい印象を持っていないフォルテは万が一にはエージェントを殺すつもりでいる。それを理解しているナスターシャはこれ以上フォルテに血で染まらないようにしたいと心から願っており、講和がうまくいくように祈っている。

 

「さあ、これからの大切な話をしましょう」

 

ナスターシャはこれからのために米国政府のエージェントとの講和を結ぶための話し合いを始める。マリアとフォルテは彼女の後ろでその成り行きを見守る。

 

~♪~

 

同じくスカイタワーにある水族館エリア。響は未来からの誘いでこのスカイタワーに遊びに来ていたのだが、響の顔はどこか心ここにあらずといった様子である。そんな状態で脳裏に浮かぶのは、翼の言葉だ。

 

『このままで死ぬんだぞ!!?立花!!!!』

 

(死ぬ・・・戦えば死ぬ・・・考えてみれば当たり前のこと・・・でもいつか、感覚が麻痺してしまって・・・それはとても遠い事だと錯覚していた・・・)

 

響が振り返るのは、これまで戦ってきた自分自身だ。

 

(戦えない私って、誰からも必要とされない私なのかな・・・)

 

響が考え込んでいると、彼女の首筋に冷たい缶ジュースを未来に当てられた。

 

「うひゃあああ!!?」

 

それには当然素っ頓狂な声を上げる響。その声で周りの観客は響たちに注目している。

 

「大きな声出さないで」

 

「だだだだ、だってぇ、こんなことされたら誰だって声が出ちゃうって・・・」

 

「響が悪いんだからね」

 

「え?私?」

 

「だって、せっかく2人で遊びに来たのに、ずっとつまらなさそうにしてるから・・・」

 

「あ・・・ごめん・・・」

 

未来の不機嫌そうな顔でそう言われ、響は申し訳なさそうに謝っている。

 

「心配しないで~。今日は久しぶりのデートだもの~。楽しくないはずがないよ♪」

 

「響・・・」

 

響自身お出かけは楽しんでいるのは嘘ではないようだが、響のガングニールの浸食について知っている未来はとても心配そうにしている。

 

「デートの続きだよ♪せっかくのスカイタワー、まるごと楽しまなきゃ!」

 

心配する未来をよそに響は未来を連れてスカイタワーの次のフロアへと向かっていった。

 

~♪~

 

エアキャリアにて、調と切歌は留守番をしている。調が昼食の準備をしている中、切歌は木にもたれかかって考え事をしている。

 

(リインカーネイション・・・もしもあたしに、フィーネの魂が宿っているのなら・・・あたしの魂は、消えてしまうのデスか・・・?)

 

無意識に使ったと思われるあの障壁が、フィーネの力なのだとしたら、フィーネの魂は自分に宿っている。そう考えるようになった切歌は自分の魂が消えてしまわないか不安に駆られている。そこまで考えると切歌はあることに気が付く。

 

(ちょっと待つデス!あたしがフィーネの魂の器なのだとすると、マリアがフィーネというのは・・・)

 

真実に勘づき始めた切歌はもう1つあることに気が付いた。

 

(そういえば・・・あたしたちがフィーネの話をするたびに、フォルテはマリアをじっと見ていたデス。まさか・・・フォルテは最初から気づいてて・・・?)

 

不安材料が次から次へと浮かび上がってくる切歌の元に調が近づいてきた。

 

「切ちゃん、ご飯の支度できたよ」

 

切歌は調に気遣われないように明るく振る舞おうとする。

 

「あ、ありがとデス!何を作ってくれたデスか?」

 

「フォルテの大好物、298円」

 

「ごちそうデース!!」

 

調の言っている、298円でフォルテの大好物というのは、日本で売っているカップラーメンのことである。

 

「ドクターは何かの任務?見当たらないけど」

 

調がそういう質問をしているのは、ウェルがどこにもいないからである。大方どこかに出かけているのだろうが、元々嫌われているのだ。どこに行ったかなど、切歌には興味がない。

 

「知らないデス。気にもならないデス。あいつの顔を見ないうちに、さっさとご飯にするデスよ!」

 

切歌はそう言ってエアキャリアへと戻っていく。調もエアキャリアに戻り、切歌と共に昼食にありつくのであった。

 

~♪~

 

スカイタワーの会議室、ナスターシャと米国エージェントの講話交渉は今のところは問題なく進み、マリアが講和の必要材料である異端技術のデータチップをエージェントに渡した。

 

「異端技術に関する情報、確かに受け取りました」

 

「取扱いに関しては私が教授します。つきましては・・・」

 

カチャッ!

 

ナスターシャが取り扱いについての話をしようとした時、エージェントたちがマリアたちに向けて拳銃を向けてきた。

 

バン!!バン!!バン!!

 

「「「ぐおっ!!?」」」

 

それと同時にフォルテが拳銃を取り出して、エージェントが銃を撃つより早く、エージェントたちの拳銃に向けて撃ち放った。それによってエージェント全員の銃が地面に落ちてしまう。そしてフォルテはすぐにエージェントに向けて銃を向ける。

 

「フォルテ!!?」

 

「動くな。君たちが動くより先に、躊躇なく弾丸を撃ち込む」

 

フォルテの手によって、下手に動くことができなくなってしまうエージェントたち。

 

「き、貴様・・・なぜわかった・・・⁉」

 

「僕は端から君たちのことは信用していない。大方、必要とするものを手に入れ、僕たちを始末するつもりだったのだろう。君たちが考えそうなことだ」

 

「・・・では初めから取引に応じるつもりはなかったのですね」

 

「くっ・・・!!」

 

警戒心が高いフォルテに計画を看破され、圧倒的不利に陥ったエージェントたちは歯ぎしりを立てる。そして、それに追い打ちをかけるようなことが発生する。

 

「!!?ノイズ!!?」

 

「何っ?」

 

スカイタワーの周りに突然飛行型ノイズが現れたのだ。この事態はフォルテの計算には入っていない。これはウェルの独断によるものだ。ノイズは窓を透き通って、エージェントたちを押し倒して、彼らを炭に変えて自分事消滅した。他にも、カエル型やヒューマノイド型も天井より透き通って現れて、エージェントを襲った。

 

「ちっ・・・ドクターめ・・・どこまでも勝手なことばかり・・・」

 

フォルテは忌々しく思いながら、マリアと共に詠唱を唄う。

 

Ragnarok Dear Mistilteinn tron……

 

Granzizel Bilfen Gungnir Zizzl……

 

シンフォギアを纏ったフォルテは大剣を分離して双剣に変形させ、現れたノイズを斬撃で次々と殲滅する。マリアも槍でノイズを薙ぎ払い、部屋にいたノイズを殲滅させる。

 

ドカーーン!!!

 

その過程で爆発が生じ、会議室のドアが破壊された。

 

~♪~

 

上階にある爆発音は響たちがいる階にも響き渡った。当然観客は何事かと思いざわつきだす。

 

「何・・・?」

 

響と未来も何事かと思っていると、外に飛行型ノイズが飛び回っている姿を目撃する。

 

「あれ、ノイズじゃないか⁉逃げるぞ!!」

 

『うわあああああ!!』

 

観客もノイズを見た途端にノイズから逃げようと動き出す。響は戦うために動き出そうとした。しかしそれは未来に手を引っ張られて止められる。

 

「行っちゃダメ!行かないで!」

 

「未来⁉だけど行かなきゃ!」

 

「この手は離さない!響を戦わせたくない!遠くに行ってほしくない!」

 

響の命を守るために、響を遠くへ行かせないために未来は響に必死に訴える。

 

「お母さんどこぉ~・・・?お母さん怖いよぉ~・・・」

 

この混乱の中で、母親とはぐれてしまった子供の泣き声が聞こえてきた。それを見て放っておくなど、響にはできない。

 

「胸のガングニールを使わなきゃ・・・大丈夫なんだ!このままじゃ・・・!」

 

「響・・・」

 

響は未来の手を放し、子供を助けようと駆けつける。未来はそんな響についていく。

 

~♪~

 

爆発が晴れ、フォルテはエージェントが残した異端技術のデータチップを足で踏みつけ、粉々になるまで砕く。

 

「マリア!マムを!」

 

「ええ!」

 

フォルテはナスターシャを守るために先陣を切る。マリアはナスターシャを抱きかかえ、フォルテの後をついていく。フォルテたちの行く先にノイズが出現する。

 

「邪魔だ!どけ!」

 

フォルテは出現したノイズを双剣で切り裂いていく。ところどころに爆発が鳴り響く中、フォルテたちは先へ進んでいく。すると、エレベーターから米国の特殊部隊が現れ、彼女たちに向けてライフルを放つ。マリアはマントで銃弾を防ぎ、フォルテは双剣を大剣に戻し、それを盾代わりにして前に進む。

 

「フォルテ!彼らは殺さぬようにお願いします!」

 

「・・・了解した」

 

フォルテは一瞬特殊部隊を殺そうとしたが、ナスターシャの指示によって殺気を引っ込めた。そして彼女は特殊部隊を殺さぬように大剣を振るって複数人の特殊部隊を吹っ飛ばした。さらに彼女は残りの特殊部隊を蹴り飛ばし、そして残った1人をかかと落としで気絶させる。

 

「2人とも、待ち伏せを避けるため、上の階からの脱出を試みましょう」

 

ナスターシャの指示に従い、フォルテは階段に通じる扉を蹴とばし、上の階へと向かっていく。マリアも彼女の後を追うようについていく。だが上の階にも特殊部隊が待ち構えており、マリアたちに向けてライフルを発砲する。フォルテは大剣を盾にして、マリアはマントで銃弾を防ぐ。

 

「うわぁ!!!」

 

「!!!!」

 

逃げ出していた一般人がいたにも関わらず、特殊部隊はお構いなしに発砲し、一般人は巻き込まれてマリアたちの目の前で命を落とした。マリアはマントを操って特殊部隊を叩きつけて気絶させた。目の前の命を守れなかったマリアは犠牲になった彼らを見て愕然とする。

 

「マリア・・・」

 

「落ち込んでいる暇はない!また来たぞ!」

 

フォルテの言うとおり、マリアが愕然としている間にも、新たな特殊部隊が現れ、ライフルを構えている。

 

「・・・私のせいだ・・・。全ては、フィーネを背負いきれなかった、私のせいだああああああ!!!」

 

マリアは咆哮を上げて、マントを操って特殊部隊に打撃を放つ。数名の特殊部隊は躱したが、1人は直撃を食らう。マントによって視線が逸れた特殊部隊の隙を狙い、フォルテは2人の特殊部隊を蹴とばした。

 

「あああああああ!!!」

 

さらにマリアは残った特殊部隊を槍で叩きのめした。刺し貫いたわけではないため、特殊部隊は死んではいない。しかし、マリアが持つ槍には返り血が付いている。マリアは涙を目元にため、唇をかみしめ、命を守ることができなかった悔しさから身体が震えていた。

 

~♪~

 

この大混乱の中、響と未来は迷子の子供と共に避難経路の階段へと歩いていく。

 

「ほらほら、男の子が泣いてちゃみっともないよ?」

 

「みんなと一緒に避難すればお母さんにもきっと会えるから大丈夫だよ」

 

泣いている子供をなだめながら階段までたどり着いた響と未来。そこへスカイタワーのスタッフが現れた。

 

「大丈夫ですか⁉早くこっちへ!あなたたちも急いで!」

 

スタッフは迷子の子供を抱きかかえ、2人に避難を促して避難経路を進んでいく。2人も急いで先へ進もうとした時・・・

 

ドカーンッ!!

 

飛行型ノイズが上階に突っ込んできて、その衝撃で上階が爆発する。爆発で天井が崩れてきて、響に向かって落下する。

 

「危ない!!」

 

「うわっ⁉」

 

未来は響を守ろうとして彼女の背中を突き飛ばし、勢いのまま自分も倒れこんだ。これによって落ちてきた天井に直撃せずに済んだ。

 

「ありがとう、未来・・・」

 

「うん・・・。あのね、響・・・」

 

ゴゴゴゴゴッ!

 

「うぁっ!!?」

 

突如として展望台が崩落する揺れでバランスが崩れる。2人がいる足場は展望台が崩落したことによって跳ね上がった。

 

「うわわっ!!?」

 

「響ぃ!!!」

 

その反動で響は後ろによろめき、何もない空中に放り出されてしまい、落ちようとしていた。未来はとっさに響の手を掴み、何とか彼女は落ちずに済んだ。とはいえ、早く引き上げなければ、落ちるのも時間の問題だ。

 

~♪~

 

自分たちを始末しに来た特殊部隊は全て気絶させたマリアとフォルテ。フォルテは息は乱れてはいないが、マリアは息を整えている。廊下には特殊部隊の血がべったりとついており、近くにいた一般人はこの惨状を作ったであろうマリアとフォルテに恐怖している。

 

「嫌ぁ!助けて・・・助けてぇ!」

 

「うろたえるな!!」

 

「ひぃ!!」

 

マリアは恐怖する一般人に発破をかける。

 

「命は取らない。早く行け」

 

「「「は、はいぃ!!」」」

 

フォルテは早く逃げるように促し、一般人は2人から逃げるようにこの場から離れる。うろたえるな・・・この言葉にマリアが思い浮かべるのは、クイーン・オブ・ミュージックで自分が発した同じ言葉だ。

 

(あの言葉は・・・他の誰でもない・・・私に向けて叫んだ言葉だ!)

 

「マリア・・・」

 

フォルテは大剣を背に背負い、ナスターシャを守るように彼女を抱きかかえる。

 

「もう迷わない!!一気に駆け抜ける!!」

 

マリアは槍を天井に掲げ、回転させる。さらにマントも回転させ、彼女はドリルのように天井へ突っ込んでいく。フォルテはナスターシャを抱え、マリアがつくった穴に向かって飛び、彼女についていった。

 

~♪~

 

響の窮地は未だに続いている。引き上げようにも、今の未来は響を支える力と、自分が落ちないようにするために踏ん張っているために、これが精いっぱいだった。仮に落ちても、響がシンフォギアを纏えば何とかなるのだが、そうするとガングニールの浸食が進んでしまう。未来はそれだけは何としてでも阻止したいのだ。

 

「未来!ここは長く持たない!手を放して!!」

 

「ダメ!!私が響を守らなきゃ!!」

 

「未来・・・」

 

響を守りたい、未来にはその思いが強い。しかし、それと同じように、響も未来を守りたい気持ちが強い。

 

「・・・いつか・・・本当に私が困った時・・・未来に助けてもらうから・・・。今日はもう少しだけ、私に頑張らせて・・・」

 

響はあえて自分の力を抜いていく。シンフォギアを纏うつもりなのだ。そうさせたくない未来は響の手を強く握りしめる。未来の目からは涙がこぼれている。

 

「私だって・・・守りたいのに・・・」

 

響は力を緩め、未来の掴む手から手を放した。それによって、響は重力に従って落下していく。

 

「響ぃーーーっ!!!」

 

Balwisyall Nescell Gungnir tron……

 

地に向かって落下していく響はシンフォギアを身に纏い、きれいに着地する。着地の衝撃で地面が砕け、沈み込み、響のギアは負荷を軽減する蒸気が放出された。

 

「未来!今行く!!」

 

響は未来を助けようとスカイタワーを見上げる。しかし・・・

 

ドカーーンッ!!!

 

未来がいた階に大爆発が起き、そのフロアは吹き飛び、黒煙が立ち上る。

 

未来ううううううううううううう!!!!!

 

響の絶叫が辺りに響き渡った。




海恋の家

海恋の父親は有名企業の社長で母はお嬢様学校の教師をやっている。そう言ったことから西園寺家はお金持ちで海恋は社長令嬢ということになっている。家の方針も厳しく、付き合う人間も見合った相手でないとダメらしく、子供らしい遊びというもの海恋は教わってこなかった。小学校も中学校も親に決められた学校に通っていた。不満を抱いていた海恋に転機が訪れたのはやはり日和と出会ってからである。日和と出会ってから海恋は親には内緒で日和たちと仲良く遊んだりし、最終的には親を見返すために、子供の頃の夢を叶えるために親の反対を押し切って日和と同じリディアンに通うことを選んだ。これが海恋にとっての反抗期ともいえるかもしれない。ちなみに、リディアンの三者面談が行われる時は、執事のじいやに来てもらっている。


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マリアの決断と覚悟

スカイタワーの上階が爆発した。そして爆発した階には未来がいた。この爆発に未来は巻き込まれたと考えるのが妥当だ。少なくとも、自ら彼女の手を放した響はそう思っている。

 

「未来・・・」

 

手を放してはならなかった手を放してしまった響が浮かび上がるは、未来と過ごした今までの記憶だ。

 

「なんで・・・こんなことに・・・」

 

未来を助けられなかった響は悲しみ、膝を地につけ、涙を流す。悲しみの心からギアを維持できず、元の服装に戻っていく。悲しみにくれようがくれまいがノイズはお構いなしに響に襲い掛かってくる。煙から飛び出してきた飛行型ノイズは彼女の辺りの地に突き刺さる。そして最後の1体が響を貫こうとした時、赤いエネルギーの矢がノイズを貫き、地に突き刺さるノイズは棍による打撃、刀による斬撃で消滅する。翼、日和、クリスが駆け付けてくれたのだ。

 

「立花!!」

 

「翼さん!響ちゃんをお願いします!行くよ、クリス!」

 

「おう!」

 

日和は響を翼に託し、クリスと共にノイズ殲滅に向かう。ノイズは日和とクリスに向かって突進してきた。日和は突進してきたノイズに向かって棍を槍投げのように投擲する。投擲した棍棒は分裂し、突進してくるノイズに向かっていく。

 

【才気煥発】

 

続いてクリスは小型のミサイルが搭載されたユニットを展開し、発射され、小型ミサイルはノイズへと向かっていく。

 

【MEGA DETH PARTY】

 

小型ミサイルはノイズに直撃して爆発し、分離した棍もまた、ノイズに直撃するタイミングで爆発した。突進してきたノイズは爆発したが、他の飛行型ノイズがさらに突っ込んできた。日和は左手首から棍を取り出し、クリスを守るように棍を振るい、ノイズを倒していく。

 

(少しずつ何かが狂って、壊れていきやがる・・・あたしの居場所を蝕んでいきやがる!!)

 

クリスは二丁ボウガンをガトリング砲に変形させ、狙いを飛行型ノイズに定める。

 

【BILLION MAIDEN】

 

日和は飛行型ノイズに蹴りを入れ、その反動でクリスの射程距離から離れる。日和が射程距離から離れたのを見計らい、クリスがガトリング砲をノイズに向かって乱射し、次々と撃墜していく。

 

(やってくれるのはどこのどいつだ!!)

 

「クリス!!そっちに行ったよ!!」

 

(お前か!!?)

 

低空を飛行するノイズがクリスに向かって突進してきている。クリスは跳躍して躱し、ガトリング砲を乱射してノイズをハチの巣にする。

 

(お前らか!!?)

 

着地と同時にクリスはこちらに突進してくるノイズに向けてガトリング砲を乱射してさらにノイズを撃墜していく。日和は右手首のユニットを回転して、新しい棍を取り出し、左手の棍と連結する。そして棍を回転させて突風の竜巻を創り出して突進してくるノイズに放つ。

 

【疾風怒濤】

 

竜巻はノイズを巻き込ませていき、次々とノイズを切り刻んでいく。

 

(ノイズ!!あたしがソロモンの杖を起動させてしまったばっかりに!!・・・なんだ・・・悪いのは全部あたしのせいじゃねぇか・・・。あたしが・・・!!)

 

クリスは自分がやってしまったことの後悔の思考を抱きながら大型飛行ノイズに狙いを定め、大型ミサイルを展開する。

 

【MEGA DETH FUGA】

 

大型ミサイルは点火し、大型飛行ノイズに向かっていき、そのまま直撃して爆発した。これで全てのノイズを殲滅できた。

 

「はぁ・・・はぁ・・・はぁ・・・」

 

「・・・クリス?」

 

全力を出し切ったクリスは汗をかき、乱れた息を整えている。そしてその表情はどこか、後悔が入り混じっている。その様子を見た日和はクリスを心配している。

 

~♪~

 

ノイズを全滅し、事態の収拾のために二課と警察が同時に動いている。弦十郎も現場に来ており、レシーバーで部下に指示を出す。そこに緒川がやってきて、調べた情報を伝える。

 

「米国政府が?」

 

「間違いありません。F.I.Sと接触し、交渉を試みたようです」

 

「その結果がこの惨状とは・・・交渉は決裂したと考えるのが妥当だが・・・」

 

「ただ、どちらが何を企てようと、人目につくことは極力避けるはず」

 

「F.I.Sや米国が結びつくことを良しとしない、第3の思惑が横紙を破ったか・・・」

 

最も考えられる推測に弦十郎は目を伏せる。二課と警察が動いている中、響は二課の車の中にいた。ただ、彼女の顔は、未来を失ったことにより、心ここにあらずといった様子だ。

 

(絶対に放しちゃいけなかったんだ・・・未来と繋いだこの手だけは・・・)

 

響は未来の手を放してしまったことを後悔し、自身の手を握る力が強くなる。

 

「温かいものどうぞ。少しは落ち着くから」

 

そこへ友里が開いた窓から温かい飲み物を差し出す。響はそれを両手で受け取るが、飲めるような心境ではなかった。さらに言えば、彼女は悲しみから身体が震えていた。

 

「響ちゃん?」

 

「・・・でも、私にとって1番温かいものは、もう・・・どこにも・・・」

 

守りたかった陽だまりを守れなかった・・・その悔しさ、悲しみで響は涙を流し、泣いた。

 

~♪~

 

夕方ごろ、エアキャリアに帰還したマリアは、スカイタワーでの出来事を思い返し、人の命を守れなかったこと、そして、自らも血で汚してしまったことを悔やみ、窓に拳を叩きつけた。

 

「この手は血に穢れて・・・。セレナ・・・私はもう・・・」

 

マリアは声をあげて泣いた。そんなマリアの様子を心配している調と切歌。

 

「マム、フォルテ、教えて。いったい何が・・・」

 

「「・・・・・・」」

 

調が尋ねても、ナスターシャとフォルテは何も答えない。

 

「それは僕からお話ししましょう」

 

そこへ、スカイタワーの惨状を生み出した張本人であるウェルがやってきて、2人の代わりに事態を話した。

 

「ナスターシャは10年を待たずに訪れる月の落下より、1つでも多くの命を救いたいという崇高な理念を米国政府に売ろうとしたのですよ」

 

ウェルに告げられた事実に調と切歌は信じられない気持ちになっている。

 

「・・・マム?」

 

「本当なのデスか?」

 

「それだけではありません。マリアを器にフィーネの魂が宿ったというのも、とんだでたらめ。ナスターシャとフォルテ、マリアが仕組んだ狂言芝居」

 

告げられた真実にフォルテは目を閉じ、マリアは調と切歌に謝罪する。

 

「・・・ごめん・・・。2人とも・・・ごめん・・・」

 

「マリアがフィーネでないとしたら、じゃあ・・・」

 

切歌がマリアに質問しようとした時、ウェルが遮って話を進める。

 

「僕に計画を加担させる為とはいえ、あなたたちを巻き込んだこの裏切りは、あんまりだと思いませんか?せっかく手に入れたネフィリムの心臓も無駄になるところでしたよ」

 

「一般人すらを巻き込む君の強行に比べれば、かわいいものだと思うがな」

 

ウェルの皮肉に動じず、フォルテは口を開いた。それに対して彼は皮肉めいた笑みを浮かべる。

 

「ほおぉ~?では数多の命を奪ってきたあなたはどうなんです?フォルテ・・・いやトレイシー・テレサ」

 

「・・・トレイシー・テレサ?」

 

ウェルはもはやフォルテにさん付けをしないどころか、別の名を口にした。聞き覚えのない名が出てきて、調と切歌は首を傾げる。この名はフォルテに向けて告げられている。

 

「それが、かつてバルベルデの反乱軍に所属してたフォルテの本名ですよ」

 

「・・・その名はとっくの昔に捨てた。今ここにいるのはフォルテ・トワイライト・・・それだけだ」

 

フォルテは自身がトレイシー・テレサだというのは否定はしていないが、別人として扱っている。

 

「おや?開き直っちゃうんですかぁ?」

 

「弁解する気はない」

 

「けっ!澄ましちゃって・・・これだから殺人鬼は・・・」

 

ウェルはフォルテに悪態をつくが、彼女は気にした様子はない。次々告げられる事実に調と切歌は頭が混乱してくる。

 

~♪~

 

スカイタワー近くの河川敷でも二課と警察の捜査は続いていた。その様子を遠くで見つめている日和。後で合流してきた海恋が日和に声をかける。

 

「日和、これ以上は邪魔になるわ。早く行きましょう」

 

「・・・どうしてこんなことになるのかなぁ・・・」

 

「日和?」

 

日和は遠くを見て呟き、その呟きに海恋は首を傾げる。

 

「ただでさえ響ちゃんが大変だって時に、今度は未来ちゃんが死んじゃった・・・。どうしてこうも悲しいことばっかり続くんだろう・・・」

 

「日和・・・」

 

「私・・・小豆と玲奈が死んだ時と全然変わってない・・・。急げば助けられたはずなのに・・・。なのに・・・未来ちゃんが・・・」

 

今にも泣き出しそうな日和に海恋は彼女の両肩を掴む。

 

「何も変わってないわけないじゃない。現にあなたは、私をノイズから守ってくれたじゃない。あなたがいなかったら、私はとっくに死んでた。あなたはベストを尽くしてる。だからあなたは何も悪くない。だからそう自分を責めないで」

 

海恋は日和を励ましているが、そんなことで日和の気持ちは晴れない。

 

「・・・でも・・・未来ちゃんは・・・」

 

「日和・・・ん・・・?」

 

海恋はどうすればいいか悩んでいると、河川敷に何かが沈んであることに気づいた。海恋はすぐに何が沈んであるかを確かめに向かう。

 

「海恋?」

 

「あ、こら!君!勝手に入っちゃ・・・」

 

捜査員が止める声を聞かず、海恋は川に近づき、沈んであったものを回収した。それは、壊れてしまった二課の通信端末であった。

 

「これは・・・!」

 

この壊れた通信端末を見て、これの持ち主が誰かというのに気が付いた。そして、この壊れ方を見て、ある可能性も浮かび上がった。

 

「日和!!今すぐに弦十郎さんに連絡を!!」

 

「え?え?え?」

 

日和は何が何だかわからず、戸惑っている。

 

「小日向さんは・・・死んでないかもしれない!!」

 

「えっ!!?」

 

未来が生きている・・・その可能性を聞いた日和は驚いた顔をし、すぐに弦十郎に連絡を入れるのであった。

 

~♪~

 

夜の9時、クリスはファミリーレストラン、イルズベイルが気に入ったのか、ここに翼を連れてきている。翼は何も注文していない中、クリスは口の汚れを気にせずにパスタを食べている。

 

「何か頼めよ。奢るぞ?」

 

「夜の9時以降は食事を控えている」

 

ただでさえ機嫌が悪い翼だが、何の用で呼ばれたかわからない翼はさらにご立腹だ。

 

「そんなだからそんななんだよ」

 

「何が言いたい!用がないなら帰るぞ!」

 

「・・・怒ってるのか?」

 

「愉快でいられる道理がない。F.I.Sの事、立花の事・・・何より・・・仲間を守れない私の不甲斐なさを思えば・・・!」

 

翼の言い分は最もだ。敵の動きを気に掛けるのはもちろんのことだが、仲間たちの不幸が立て続けに起こっているのだ。気も張りつめてしまうのも無理はない。

 

「・・・呼び出したのは一度一緒に飯を食ってみたかっただけさ。腹を割っていろいろ話し合うってのも悪くないと思ってな」

 

クリスはパスタを食べ終え、フォークを皿においてつまようじを取り出す。

 

「あたしらいつからこうなんだ?目的は同じはずなのに、点でバラバラになっちまってる。もっと連携を取りあっ・・・」

 

「雪音」

 

クリスの話を翼が真剣な声質で遮った。

 

「腹を割って話すなら、いい加減名前ぐらい呼んでもらいたいものだ」

 

「はあ!!?」

 

クリスは頬を朱に染めて驚愕するが、翼の言葉も一理ある。確かにクリスは今日まで、誰にたいしても名前で呼ぼうとはしない。普段相棒と呼んでいる日和にたいしてもそうだ。信頼はしているのだが、照れの方が勝ってしまい、誰かの名前を呼ぶことは、クリスにはやっぱり抵抗があるようだ。

 

「そ、それは・・・おめぇ・・・」

 

クリスが言いよどんでいる間にも翼はヘルメットを持って店を出て行ってしまう。

 

「あ!ちょっ・・・。・・・はぁ・・・結局話せずじまいか・・・。相棒みてぇにはいかねぇなぁ・・・。・・・でもそれでよかったのかもな・・・」

 

クリスは何とも言えないような表情で、コーヒーを啜る。

 

「・・・にっがいなぁ・・・」

 

今の言葉は、コーヒーの味に対してか、それとも現在の状況かと問われると・・・それは、両方なのであろう。

 

~♪~

 

エアキャリア内で、調と切歌は混乱しっぱなしだったが、少しずつ落ち着いてきた。だが不穏な空気が抜けたわけではない。

 

「マム・・・マリア・・・フォルテ・・・ドクターの言ってることなんて、嘘デスよね・・・?」

 

切歌の問いかけにマリアが答える。

 

「本当よ。私がフィーネでないことも、人類救済の計画を一時棚上げにしようとしたこともね」

 

「そんな・・・」

 

信じられない気持ちでいっぱいになる2人にフォルテが口を開く。

 

「マムは、フロンティアの情報を米国政府に供与し、協力を仰ごうとした。僕はそれに賛成した」

 

「だって、米国政府とその経営者たちは自分たちだけが助かろうとしてるって・・・」

 

「それに!切り捨てられる人たちを少しでも守るため、世界に敵対してきたはずデェス!」

 

「恩師の想いに応えたい。そう思うのは至極当然のこと。違うかい?」

 

「「それは・・・」」

 

ナスターシャを思うフォルテの嘘偽りない言葉、そしてフォルテ自身の優しさを知っている調と切歌は言葉を詰まらせる。

 

「だがその思いは、この男に踏みにじられたがな」

 

「・・・あのまま講和が結ばれてしまえば、私達の優位性は失われてしまう・・・。だからあなたは、あの場にノイズを召喚し、会議の場を踏みにじってみせた・・・」

 

名指しされたウェルのメガネは光を反射し、彼は笑みを浮かべる。

 

「嫌だなぁ、悪辣な米国の連中からあなたを守って見せたというのに・・・このソロモンの杖で・・・!」

 

ウェルはナスターシャに杖の先端を向けさせた。フォルテは誰よりも早く動き、ウェルの手を蹴り上げてソロモンの杖を引きはがす。

 

「なっ・・・!!?」

 

「今ここで君の命を奪ってもいいのだぞ?スカイタワーで失われた命のように」

 

フォルテはウェルから引き離されたソロモンの杖を回収しようとすると、マリアが彼女の前に立ちふさがる。

 

「・・・マリア。どけ」

 

「いいえ、どかないわ」

 

「・・・君のその行為は、ドクターを援助すると捉えてもいいのか?」

 

フォルテの問いかけにマリアは無言で首を縦に頷いた。フォルテはいつも通りの無表情だが、調と切歌は動揺している。

 

「マリア?」

 

「ど、どうしてデスか!!?」

 

「は・・・はははは!そうこなくっちゃあ!」

 

フォルテに反撃されて内心ビビったものの、嬉しい展開にウェルは笑う。

 

「偽りの気持ちでは世界は守れない。セレナの思いを継ぐことなんてできやしない。全ては力。力を持って貫かなければ、正義を成すことなんてできやしない!世界を変えていけるのはドクターのやり方だけ!ならば私はドクターに賛同する!!」

 

マリアの決意に対し、フォルテは本当に覚悟があるのかどうか、強い睨みで試した。いかにも殺しそうな殺意の視線・・・マリアはその視線に耐えることこそが、覚悟を証明できるとし、冷や汗をかきつつ、まっすぐに見つめる。2人の衝突に、ウェルは怪しく笑う。

 

「・・・そんなの嫌だよ・・・。だってそれじゃあ、力で弱い人たちを抑え込むってことだよ・・・」

 

マリアが出した決断に調は賛同したくはない。切歌はそんな調に視線を向けた後、2人の衝突に視線を戻す。

 

「・・・どちらにせよ、真なる平和を導くにも、フロンティアの封印解除にも、今はドクターの知恵が必要不可欠か・・・。いいだろう。君の覚悟は見届けた。ドクターの企みに、1枚かもう」

 

「そんな・・・」

 

マリアの覚悟は本物とし、フォルテはいつもの無表情に戻り、ウェルの肩を担ぐことを決めた。

 

「ただし、目的が果たせればその男は用済み・・・後のことは僕の好きにさせてもらう。構わないな?」

 

「ええ」

 

(ちぃ・・・!さすがはフォルテ・・・さすがに忘れてはくれませんか・・・!)

 

フォルテは宣言通りに目的達成の後はウェルを処刑するつもりでいる。フォルテの言葉にマリアは了承する。ある意味でフォルテを認めているウェルは冷や汗をかいている。

 

「・・・わかりました。それが偽りのフィーネでなく、マリア・カデンツァヴナ・イヴの選択なのですね?」

 

ナスターシャの問いかけに、マリアは沈黙で答えた。この沈黙が、肯定を意味していると、ナスターシャには理解できた。

 

「ゴホッ!ゴホッ!」

 

「!マム!」

 

ナスターシャは発作が起きて咳き込み、フォルテは彼女に駆け寄る。マリアも駆け寄ろうとしたが、それでは覚悟を証明した意味が無駄になると思い、踏みとどまった。

 

「大丈夫デスか⁉」

 

調と切歌もナスターシャの容体を心配する。その間にもウェルはソロモンの杖を回収する。

 

「後のことは僕に任せて、ナスターシャはゆっくり静養してください。さて、計画の軌道修正に忙しくなりそうだぁ。来客の対応もありますからねぇ~」

 

計画の主導権がナスターシャからウェルに変わった。その事実で喜びが隠しきれていないウェルはそう言って部屋を後にした。




トレイシー・テレサ

バルベルデ共和国の反乱軍に所属していたフォルテの本名。赤ん坊の頃から両親はすでに他界しており、反乱軍の人間がその名を与え、1人の兵士として育て上げた。ある作戦の最中に彼女は仲間に裏切られ、手ひどい大怪我を負った。そんな状況ながら拠点に戻ってみると、彼女はすでに死亡扱いされていた。天涯孤独の身となり、バルベルデを彷徨っていた時にF.I.Sの人間に拉致された。F.I.Sに連れてこられ、彼女を気遣っていたナスターシャが新たな名を与えた。それがフォルテ・トワイライトだ。ナスターシャによくしてもらったナスターシャの恩義に報いるため、彼女はかつてのトレイシー・テレサを捨て、フォルテ・トワイライトとして生きることを選んだ。


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英雄故事

アニメでのこの回で面白いところは、やっぱり気分転換という名の特訓シーンですかねw


二課の仮設本部の潜水艦、装者たちは弦十郎に呼び出され、ブリッジに集まっている。ブリッジにはすでに日和と海恋がおり、海恋は響に壊れた二課の通信端末を渡す。

 

「これは・・・?」

 

「スカイタワーの少し離れた河川敷で見つけた小日向さんの通信端末よ」

 

弦十郎はモニターを使って響にとても重大なことを告げる。

 

「発信記録を追跡した結果、破損されるまでの数分間、ほぼ一定の速度で移動していたことが判明した」

 

「え・・・?」

 

「海恋君の推測通り、未来君は死んじゃいない。何者かによって連れ出され、拉致されていると見るのが妥当のところだな」

 

未来は生きている・・・。その事実を聞いて、響の翳りは消え、希望が見え始めた。

 

「師匠、それってつまり・・・!」

 

「こんなところで呆けてる場合じゃないってことだろうよ!」

 

弦十郎はそう言って、響の頭を撫でる。

 

「さて、気分転換に身体を動かしに行くぞ!」

 

「はい!!」

 

弦十郎の言葉に元気に返事をする響。

 

こうして始まった気分転換という名の特訓。5人はジャージに着替えて海岸沿いをランニングする。先頭を走る。弦十郎は伝説となっているアクション俳優が出演し、歌った映画の主題歌を歌いながら走る。弦十郎の後ろを装者4人が走っているが、クリスだけが息をあげている。

 

「何でオッサンが歌ってんだよ⁉てかそもそもこれ何の歌だ⁉大丈夫か⁉」

 

「ほらほらクリス、もう少し頑張って!奥で海恋が待ってるよ!」

 

「たく・・・慣れたもんだなぁ・・・」

 

弦十郎の後ろを装者4人が走っているが、クリスだけが息をあげている。

 

(そうだ!俯いてちゃダメだ!私が未来を助けるんだ!)

 

響は未来を助けるという思いで気合が増していき、弦十郎と並行して走りながら、共に歌う。

 

この後の特訓もかなり厳しいものだ。逆さの状態で足に棒を引っ掛け、壺の水をお猪口で汲み、腹筋しつつ樽に水を入れる特訓、縄跳び、空気椅子で腕をまっすぐ伸ばし、腕や太腿、頭の上に先程のお猪口を乗せ姿勢を保つ特訓などと様々な種類がある。気分転換を大きく超えた特訓を響はめげずに気合で、翼は冷静にこなした。日和は音を上げる特訓がいくつかありつつも、全て乗り越え、クリスも音をあげつつも何とかやりきる。

 

(どいつもこいつもご陽気で、あたしみたいなやつの居場所にしては、ここは暖かすぎんだよ・・・)

 

特訓の中、クリスはそんなことを心で呟いた。

 

~♪~

 

エアキャリア内の後部、フォルテは監視するように腕組んで牢を見張っている。牢の中にいるのは、スカイタワーの爆発に巻き込まれたと思われる未来であった。

 

「~♪」

 

フォルテはセレナとの思い出の歌、Appleを歌っている。美しい歌声に未来は思わず聞き惚れている。

 

「・・・何を見ている?」

 

視線に気づいているフォルテは未来に視線を向ける。

 

「いえ・・・。ありがとうございました・・・」

 

「礼ならマリアに言え。君を助けたのは彼女だからな」

 

未来はフォルテにお礼を言っているが、礼を言われる筋合いはないと言わんばかりにフォルテはそう言い放つ。実はスカイタワーの脱出の最中、マリアとフォルテは、偶然にも響と手を放してしまったばかりの未来と遭遇したのだ。マリアはその時の未来の姿がセレナと重なり、スカイタワーが爆発する前に彼女を助けたのだ。それが、爆発の前に起きた出来事だ。

 

「・・・マリアさんは、どうして私を助けてくれたのですか?」

 

「そんなことは知らん。だが心当たりはある。君は、あの時のセレナと、あまりにも似すぎている」

 

「セレナ?」

 

「亡くなってしまったマリアの妹・・・僕の・・・最愛の友だった・・・」

 

未来の問いかけに答えるフォルテの顔は、どこ悲しそうな顔をしている。未来は聞いちゃまずかったと思い、思わず謝罪する。

 

「・・・ごめんなさい・・・」

 

「・・・君には、親友と呼べる友はいるか?」

 

「・・・はい・・・」

 

「・・・そうか・・・。すまなかった・・・」

 

フォルテの問いかけに未来は答え、親友と離れさせてしまったことに対し、彼女は未来に謝罪をする。そこへマリアが車両に入室してきた。

 

「彼女の様子はどう?」

 

「見ての通りだ。少し、友の話をしていた」

 

「・・・そう・・・」

 

マリアはフォルテとセレナが互いに親友と呼べるぐらいに仲が良かったことは知っている。そんなフォルテの心情を察して、マリアは少し申し訳なさそうに顔を俯かせる。

 

「で、何の用だ?」

 

「私がというより・・・ドクターがね」

 

「お話は終わりましたか?」

 

フォルテとマリアの会話を割って入るようにウェルが入室してきた。ウェルを見た未来は不安そうな表情をしている。

 

「この子を助けたのは私だけれど、ここまで連行するように指示したのはあなたよ。いったい何のために?」

 

「もちろん、今後の計画遂行の一環ですよ」

 

ウェルは牢に近づき、未来と対面する。未来はウェルを警戒している。

 

「そんなに警戒しないでください。今度は私とお話しませんか?きっとあなたの力になってあげられますよ」

 

ウェルは未来にたいして優しい微笑みを見せている。だがその微笑みは・・・ペテン師が見せるそれと同じだ。

 

~♪~

 

エアキャリアの外で、調と切歌は洗濯を取り組んでいる。そんな中切歌は不安な気持ちでいっぱいになっている。

 

(マリアがフィーネでないのなら、きっとあたしの中に・・・。怖いデスよ・・・)

 

自身が張ったと思われるエネルギーの障壁・・・そして、マリアがフィーネでないこと。それらのことから切歌は、自分こそフィーネの魂が宿っていると確信しているのだ。だからこそ、自分の意識がフィーネに塗りつぶされないか不安になっている。

 

「マリア、どうしちゃったんだろう・・・?」

 

「え?」

 

調の発した言葉で切歌は彼女に視線を向ける。

 

「私は、マリアだからお手伝いがしたかった・・・フィーネだからじゃないよ・・・」

 

「う、うん。そうデスとも・・・」

 

「身寄りがなくて、泣いてばかりの私たちに、優しくしてくれたマリア・・・弱い人たちの味方だったマリア・・・。なのに・・・」

 

寂しそうな表情をする調が思い浮かべるのは、マリアなら言わないはずであった言葉であった。

 

『全ては力。力を持って貫かなければ、正義を成すことなんてできやしない!』

 

マリアはとても優しい。そんな優しい彼女だからこそ、調は彼女を姉のような存在として慕ってきた。そのマリアが、力で世界を掌握し、ねじ伏せようとするやり方を選んだ。調は、それが信じられないし、賛成もできない。

 

「フォルテだってそう・・・。昔は軍人だとか、反乱軍だとか、そんなの関係ない・・・。フォルテはいつも私たちを励ましたり、間違ってたら怒ったりしてくれて、マリアとは違った優しさがあった・・・。そんなフォルテだから、私はフォルテを尊敬してる・・・」

 

「そ、それはあたしだってそうデス・・・」

 

マリアとは違う優しさを持ち、調たちといつもまっすぐに向き合い、勇気を与えてくれるフォルテを、調と切歌はマリアと同じように慕っている。昔は反乱軍に所属して、何人の人間を殺してきたと言われても、それだけは変わらない。そう思えるのは、フォルテの優しさに触れているからだ。

 

「でも、セレナが亡くなって・・・フォルテは変わっちゃった・・・」

 

セレナが亡くなり、フォルテが無表情になったこと、人を殺すことに対し抵抗がなくなったこと・・・。冷酷に変わり果てたフォルテに調は寂しそうな表情で目を閉じる。フォルテが変わった・・・その話題に切歌はフィーネに意識が塗りつぶされ、自分も変わってしまうのではないかという不安の思考が再びよぎる。

 

「・・・調は怖くないデスか?」

 

切歌が別の話題に切り替えてきて、調は切歌に顔を向ける。

 

「マリアがフィーネでないのなら、その魂の器として集められた、あたしたちがフィーネになってしまうかもしれないんデスよ?」

 

フィーネに塗りつぶされ、フォルテのように変わってしまうことを恐れている切歌。

 

「・・・よく・・・わからないよ・・・」

 

「それだけ!!?」

 

調の回答に驚愕する切歌。

 

「・・・どうしたの?」

 

「・・・っ」

 

切歌の驚愕の声に調は彼女に首を傾げる。切歌は逃げ出すようにエアキャリアに戻っていった。

 

「切ちゃん⁉」

 

調は切歌がどうしたのかわからず、彼女の背を見送るしかなかった。見えないながらにも、2人の友情に亀裂が入り始めている。

 

~♪~

 

二課の潜水艦のブリッジ、特訓で帰還した装者たちは用意された部屋で休息をとっている。装者たちが特訓している中、海恋は今回ばかりは何もしないわけにはいかず、無理を通して一時的に二課のオペレーターとなり、実践研修を行っている。本来ならもっと経験を積まねばいけないのだが、海恋の持ち前の記憶力ならば問題ないとし、オペレーターの席に座らせている。装者たちが休んでいる間にも、海恋は今も研修を続けている。そこへ、海恋の様子を見に来た日和が入ってきた。

 

「・・・ねぇ、海恋・・・」

 

「何も言わないで」

 

海恋を心配する日和だが、海恋はキーボードを操作しながら日和の言葉を遮った。

 

「あなたたちが頑張ってるのに、私だけが何もしないのは納得できない。私だって、小日向さんを助けたいのよ」

 

海恋はキーボードを打つのをやめ、日和に視線を向けて微笑む。

 

「戦うだけが戦いじゃないってことを、あなたたちにも教えてあげる」

 

「海恋・・・」

 

海恋の並々ならない覚悟を目にして、日和はもうこれ以上は口出ししないようにする。

 

「わかった。もう何も言わない。一緒に小日向さんを助けよう!」

 

「もちろんよ」

 

日和と海恋はお互いに手を出し、握手を交わした。それを見た藤尭と友里は笑みを浮かべ、自分たちも負けていられないという思いを胸に、海恋にいろいろ教えつつ、自分の業務に専念するのであった。

 

~♪~

 

休息を終え、マリアたちはエアキャリアで海洋上を飛行し、フロンティアが封印されている地へと向かっている。

 

「マムの具合はどうなのデスか?」

 

切歌は医務室で眠っているナスターシャの具合を、舵をとっているマリアに尋ねる。

 

「少し安静にする必要があるわ。疲労に加えて、病状も進行してるみたい」

 

「そんな・・・」

 

「つまり、のんびり構えていられないということですよ。月が落下する前に、人類は新天地にて、1つに結集しなければならない。その旗振りこそが、僕たちに課せられた使命なのですから!」

 

主導権を握ったウェルが尊大な態度でそう口にした。そんなウェルにたいして、切歌と調は不満な表情で彼を睨んでいる。そこで、レーダーが何かの反応をキャッチした。モニターに映し出して見れば、米国の哨戒艦艇がこちらに近づいているのがわかる。

 

「これは・・・」

 

「米国の哨戒艦艇デスか!!?」

 

「こうなるのも予想の範疇。精々連中を派手に葬って、世間の目をこちらに向けさせるのはどうでしょう?」

 

ウェルは余裕な笑みでマリアに提案している。それは、強者が弱者をいたぶることを意味しているため、調は反対する。

 

「そんなのは弱者を生み出す、強者のやり方・・・」

 

「世界に私たちの主張を届けるには、恰好のデモンストレーションかもしれないわね」

 

しかし、無益な殺生を好まないマリアが、ウェルの提案に賛成した。

 

「マリア・・・」

 

「私は・・・私たちはフィーネ。弱者を支配する強者の世界構造を終わらせるもの。この道を行くことを恐れはしない」

 

変わり果ててしまったマリアの姿に調はもう見ていられなかった。そんな中、フォルテは調と切歌の前に立つ。

 

「・・・君たちの意思表示を、まだ聞いていなかったな」

 

「「え・・・?」」

 

「この道を進む覚悟が、君たちにはあるのか?覚悟がないのならば・・・この戦いには参加するな」

 

フォルテに覚悟を問われ、調と切歌はお互いに顔を合わせる。その間にもマリアたちは米国の哨戒艦艇にノイズを放った。

 

~♪~

 

マリアたちが米国の哨戒艦艇にノイズを放ったことにより、二課の潜水艦でノイズの反応を確認できた。

 

「ノイズのパターンを検知!」

 

「米国所属艦艇より、応援要請!」

 

「この海域より遠くない!急行するぞ!!」

 

「応援の準備にあたります!」

 

翼はすぐにブリッジを出て、出撃準備に取り掛かる。

 

「翼さん!私も・・・」

 

「響ちゃんはダメ!!!」

 

「死ぬ気かお前!!!」

 

響も出撃しようとしたが、日和とクリスに強く止められる。

 

「未来ちゃんは私たちが助けるからさ・・・響ちゃんはここにいて?未来ちゃんを、笑顔で出迎えるためにも、響ちゃんはいなくなっちゃダメなんだ」

 

「日和さん・・・」

 

「ちょっとは先輩らしいこと、させてよね」

 

少しでも響を安心させようと、日和はそう言ってにっこりと微笑みを見せた。

 

「そういうこった。行くぞ、相棒!」

 

「うん!海恋、行ってくるよ!」

 

「バッチリサポートしてあげるから、必ず帰ってきなさいよ!」

 

「もちろん!」

 

日和とクリスも出撃のためにブリッジを後にする。響にできることはただ、戦いを見守ることだけだ。

 

~♪~

 

米国の哨戒艦艇にノイズが乗ってきて、米国の兵士たちはノイズを撃退しようと、現代兵器で応戦する。だが当然ながらノイズにそんなものは通用せず、ただ無残に次々と炭素化していくだけだった。一方的な殺戮にマリアは耐えるべく唇を噛みしめる。フォルテに覚悟を問われている調はマリアに向けて口を開く。

 

「・・・こんなことが、マリアの望んでいることなの?弱い人たちを守るために、本当に必要なことなの?」

 

「・・・・・・」

 

調の問いにマリアは黙ったままだ。

 

「果たすべき望みがあるのなら、リスクを背負わねばならない。マリアはその覚悟を背負っている。それだけだ」

 

フォルテの言葉を聞いて、調は目を閉じて顔を俯く。そして、調は突然エアキャリアの扉を開けた。

 

「調⁉何やってるのデスか⁉」

 

「・・・それが君の決めた覚悟か?」

 

「うん。マリアが苦しんでいるのなら、私が助けてあげるんだ」

 

「・・・そうか」

 

調の答えを聞いたフォルテは目を閉じ、調から視線を逸らす。

 

「・・・ならば信じる道を行くといい。だが、僕の前に現れた時は容赦はしない。それだけは忘れるな」

 

本音を言えば、フォルテは調に出て行ってほしくはない。だが今調を止めれば、自身の覚悟が揺らいでしまう。それはセレナが望むはずがないと思っている。そして何より、他の誰でもない、調自身が決めたことに、口出しはしたくなかった。調は自分を見ようとしないそんなフォルテに微笑みを見せる。

 

「・・・やっぱり変わってもフォルテはフォルテだ。ありがとう」

 

「・・・くっ・・・」

 

調の言葉にフォルテは本当に仲間が離れてしまうと改めて認識し、歯ぎしりを立てる。彼女に感謝を述べた調はエアキャリアから飛び降りる。

 

「調!!」

 

Various Shul Shagana tron……

 

調はシンフォギアを身に纏い、ノイズ殲滅へと向かっていく。

 

「フォルテ!!どうして止めなかったのデスか!!?」

 

「月読自身が決め、覚悟を持って行動しているのだ。それを止めるなど、僕にはできない」

 

「だからって・・・」

 

「君も行きたいなら好きにするといい。僕は止めたりはしない」

 

これ以上覚悟が揺るがぬように、フォルテは切歌にも視線を向けず、マリアの元へと向かっていく。調と一緒に自分も離反しても構わない。そう言われ、切歌は戸惑っている。

 

「あ・・・あたしは・・・」

 

「無理ですよねぇ」

 

戸惑う切歌にウェルは意地の悪い笑みを浮かべながら彼女の肩を掴む。

 

「連れ戻したいのなら、いい方法がありますよ」

 

ウェルの出す提案は、悪魔のささやきに他ならない。

 

~♪~

 

哨戒艦艇に向かって降りていく調はツインテールの部位を展開し、複数の丸鋸をノイズに向けて発射する。

 

【α式・百輪廻】

 

複数の丸鋸はノイズに複数体直撃し、ノイズは炭となって消滅する。さらに哨戒艦艇に着地した調は足に丸鋸を展開し、ローラーのように滑っていき、ノイズの群体の中心に立つ。そして、ツインテールの部位より巨大な丸鋸を2つ展開し、自身も回転しながらノイズを次々と切り刻んでいく。葡萄型のノイズも実の部位を飛ばし、反撃する。調はこれを躱し、葡萄型ノイズを切り刻む。しかしノイズはまだまだおり、背後から他のノイズが調に攻撃を仕掛けようとしてきた。すると、そのノイズの頭上に鎌が投擲されてノイズはその刃に切り刻まれ、消滅する。

 

「切ちゃん・・・!」

 

そう、この鎌は切歌のイガリマだ。調は切歌も一緒に来てくれたものだと思い、嬉しい気持ちになった。

 

「ありが・・・」

 

カチッ!プシュー!

 

だが切歌は調の首筋にガンタイプの注射器を当て、中の薬品を彼女に流し込んだ。

 

「な・・・何を・・・?」

 

今調に流し込んだ薬品の名はAnti LiNKER。LiNKERがシンフォギアの適合係数をあげる薬品ならば、Anti LiNKERはその真逆・・・シンフォギアの適合係数を下げる薬品だ。適合率を下げる・・・それすなわちバックファイアで耐えがたい苦しみが装者を襲う。LiNKERとは違うが、これも十分な劇薬である。

 

「ギアが・・・馴染まない・・・!」

 

LiNKERで適合係数を上げていた調はAnti LiNKERによって適合係数が下がり、調のギアは強制的に解除される。しかも、バックファイアによって調は立つのもやっとの状態になる。

 

「あたし・・・あたしじゃなくなってしまうかもしれないデス!そうなる前に、何か残さなきゃ!調に忘れられちゃうデス!」

 

「切ちゃん・・・?」

 

調にとって切歌は親友と呼べる存在。その親友がウェルのやり方に賛同してしまった。その事実が調には信じられなかった。

 

「たとえあたしが消えたとしても、世界が残れば、あたしと調の思い出は残るデス!だからあたしは、ドクターのやり方で世界を守るデス!もう、そうするしか・・・」

 

ドゴオオオオン!!

 

突如として海中にミサイルが出現し、それが上空で分解していった。分解したミサイルから翼、日和、クリスがシンフォギアを纏った状態で現れる。飛び出した翼と日和は切歌と交戦し、クリスは調を組伏せ、拘束させる。Anti LiNKERを打ち込まれたため調には成すすべもない。

 

「邪魔するなデス!!」

 

切歌は拘束された調を取り戻すために抵抗をする。

 

「切ちゃん・・・」

 

「おい、ウェルの野郎はここに居ないのか!ソロモンの杖を使うあいつはどこにいやがる!!?」

 

ソロモンの杖を起動してしまった責任を感じているクリスは調に問いかけるが、彼女は答えない。翼と日和を相手にしていた切歌は2対1では分が悪いため、圧倒的に不利な状況である。

 

~♪~

 

エアキャリアにいるマリアたちは今繰り広げられている戦いを確認している。

 

「切歌!」

 

「この状況・・・こちらが不利だな。ならば僕が・・・」

 

「その必要はありませんよぉ」

 

フォルテが出撃しようとしたが、ウェルはそれを止めた。むしろ、この展開こそが、彼が望んでいた展開である。

 

「どうせ天秤を戻すならぁ・・・できるだけドラマティックに・・・できるだけロマンティックに」

 

「まさかあれを!」

 

「貴様・・・!」

 

ウェルはあくどい笑みを浮かべながらコンソールを操作する。彼の意図を理解したフォルテは彼を忌々し気に睨みつける。

 

~♪~

 

哨戒艦艇で戦いが繰り広げられている中、突如として詠唱が聞こえてきた。

 

Rei Shen Shou Jing Rei Zizzl……

 

詠唱が終わると同時に、突然輝く光が発し、それが哨戒艦艇に降り立ち、衝撃で煙が立ち込める。煙が晴れると、そこには、白と黒、紫色が配色されたインナースーツの鎧、すなわちシンフォギアを身に纏った少女がいた。

 

「・・・ウソ・・・なんで・・・?」

 

日和はその相手を見て、信じられない気持ちでいっぱいになった。なぜならその少女は・・・今日和たちが助けようとしていた人物・・・

 

「なんで・・・それを身に着けてるの・・・?未来ちゃん・・・」

 

響の親友であり、陽だまりでもある存在・・・小日向未来だった。シンフォギア装者となった未来の目は、虚ろいていた。




フォルテの義眼

6年前に失ってしまった片目を何とかするためにフォルテがウェルに依頼してつくられたもの。この義眼はウェルにしか作ることができない特別製でこれを着けることによってフォルテの失われた視力が回復し、見えるようになる。ただ残念ながら所全は義眼は義眼・・・涙を流すことはもう叶わない。1年に1回はウェルの手入れが必要になってくるため、これをおろそかにしていると、段々と義眼の視力が失われていく。


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歪鏡・神獣鏡

9月30日は今作品のヒロイン、西園寺海恋の誕生日。いつもは夜の投稿ですが、この日はちょっと趣向を変えて投稿の時間帯を朝か昼頃にしたいと思っております。


未来がシンフォギア装者として現れた。その光景は二課のモニターでも確認できている。エアキャリア内にいる3人もその光景を目撃している。

 

「神獣鏡をギアとして、人に纏わせたのですね・・・」

 

そこに、車椅子に乗ったナスターシャが入室してきて、ウェルに問いただす。安静にしなければいけない彼女をフォルテが気を遣う。

 

「マム・・・まだ眠っていないと・・・」

 

「あれは封印解除に不可欠なれど、人の心を惑わす力・・・。あなたの差し金ですね、ドクター・・・!」

 

ナスターシャの問いかけにウェルは悪びれた様子は一切ない。

 

「ふぅん。使い時に使ったまでの事ですよ。マリアが連れてきたあの娘は、聞けば融合症例第1号の級友らしいじゃないですか」

 

「リディアンに通う生徒は、シンフォギアへの適合が見込まれた装者候補たち・・・。つまりあなたのLiNKERによって、あの子は何もわからぬまま無理矢理に・・・」

 

「んっんっん~・・・ちょっと違うかなぁ。LiNKER使ってほいほいシンフォギアに適合できれば、誰も苦労はしませんよ。装者量産し放題ですよ」

 

「ならば、どうやってあの子を⁉」

 

ナスターシャの問いかけにウェルは狂気じみた顔で断言する。

 

、ですよぉ!!」

 

「なぜそこで愛!!?」

 

ここで愛という言葉が出てきて、目を見開かせるナスターシャ。ウェルは狂気の表情のまま語る。

 

「LiNKERがこれ以上級友を戦わせたくないと願う思いを、神獣鏡に繋げてくれたのですよ!!ヤバいくらいに麗しいじゃありませんか!!」

 

「・・・バカバカしい・・・」

 

ウェルの狂気の言葉にフォルテは吐き捨てた。

 

「バカバカしいってことはないんじゃあないですかぁ?あなただってそうでしょう?あなたはセレナのために・・・」

 

貴様がセレナを語るな

 

ウェルがセレナの名を口にした瞬間、フォルテは今までにないほどの殺気の視線を彼に向けた。ウェルは殺気に冷や汗をかきつつも、ここぞとばかりに強気に言い放つ。

 

「そう!それですよ!!あなたの真なる平和を築き上げたいと思うのは、元々はセレナのため!!セレナのために動くそれは、まさしく、愛!!!じゃあありませんか!!?」

 

フォルテの脳裏に浮かび上がるのは、未来との会話だ。

 

『・・・君には、親友と呼べる友はいるか?』

 

『・・・はい・・・』

 

『・・・そうか・・・』

 

親友がいた者として、何かと思うところがあるフォルテ。しかし、ウェルの言うとおり、フォルテの原動力はセレナの思い・・・それは愛にも等しい。よりにもよってウェルにそれを指摘されたフォルテは歯ぎしりを立て、悔いるような思いをする。

 

(・・・巻き込みたかったわけではない・・・。だが、フロンティアの鍵の候補に選ばれたのなら使うしかない・・・。恨んでくれて構わないが、あえて言おう。すまない・・・セレナの望むもののために生贄になってくれ・・・)

 

セレナの望む世界のため、フォルテは渋々ながらに未来を犠牲にする道を選んだ。そうしなければ、自身の覚悟の意味がないのだから。

 

~♪~

 

シンフォギアを身に纏う未来を見て、日和はもちろんのこと、翼もクリスも驚愕に満ちている。

 

「小日向がっ!!?」

 

「なんで、そんな格好しているんだよ!!?」

 

驚愕する3人にクリスに拘束された調は口を開く。

 

「あの装者は、LiNKERで無理矢理に仕立てられた消耗品・・・私たち以上に急ごしらえな分、壊れやすい・・・」

 

「ふざけやがって・・・!」

 

「なんてことを・・・人の命をなんだと思ってるんだ!!!ウェル博士!!!」

 

無理やりシンフォギアに仕立て上げたウェルのやり方に、日和は彼に対し、怒りを向けている。クリスも、日和と同じ気持ちである。翼は動揺しつつも、二課の本部に報告をする。

 

「・・・行方不明となっていた、小日向未来の無事を確認・・・ですが・・・」

 

「無事だと!!?あれを見て無事だというのか!!?だとしたら、あたしらはあのバカに、なんて説明すればいいんだよ!!?」

 

クリスの言うとおり、未来が敵として自分たちの前に現れたのだ。これは無事とは言い難い。虚ろな瞳をした未来はヘッドギアを閉じ、脚部のユニットで浮上し、行動を開始する。

 

「こういうのはあたしの仕事だ!!」

 

クリスは調の拘束を解除し、腕の装甲をボウガンに変形させ、未来を迎え撃つ。未来はクリスに向けてアームドギアの鏡の扇子の光線を撃ち放つ。クリスは光線を躱し、ボウガンを未来に向けて乱射する。

 

【QUEEN's INFERNO】

 

未来はクリスが撃ち放つボウガンの矢を次々と躱していき、海上に浮かびながら移動する。クリスは他の艦艇に移動しながら未来に向けてボウガンを撃ち続ける。

 

「響ちゃんに未来ちゃんを連れ戻すって約束したんだ!クリス!私もサポートするよ!」

 

日和は少しでもクリスをサポートしようとし、彼女の元へ近づく。切歌はそんな日和を攻撃しようと動くが、翼に刀を突きつけられ、思うような動きができない。

 

(すまない、東雲、雪音・・・)

 

日和は左手首のユニットよりもう1つ棍を取り出し、遠くに離れている未来に向けて一直線に棍を伸ばす。未来はその棍を躱し別方向へ移動するが、日和のもう1つの棍が伸びてきて、進行方向を妨げる。

 

【一点突破・二刀流】

 

「クリス!」

 

「言われなくてもわかってる!!」

 

クリスはボウガンをガトリング砲に変形させ、動きを制限された未来に向けて弾を乱射する。

 

【BILLION MAIDEN】

 

動きが制限されている中で、未来は脳へのダイレクト・フィードバックによって己の意思とは関係なくプログラムされたバトルパターンを実行して、ガトリング砲を躱しつつ、扇子より光線を放ち攻撃を仕掛けている。クリスと日和は光線を躱しつつ未来を捕らえ続ける。乱射するガトリング砲の弾は次々と未来に直撃しており、圧倒している。やはり、経験が豊富な装者と、偽りの心で動く装者との間では差が開いてしまっている。

 

(くっ・・・やりづれぇ・・・!助けるためとはいえ、あの子はあたしの恩人だ・・・!)

 

(未来ちゃん・・・ごめん・・・!私だってかわいい後輩にこんな仕打ちはしたくないの・・・!)

 

圧倒しているものの、日和にとってはかわいい後輩、クリスにとっては恩人なのだ。助けるためとはいえ、それが枷となってしまい、やりづらいことこのうえない。2つの棍の進行妨害を何とかするために未来は高く飛び、翼、切歌、調のいる艦艇の甲板に乗り込む。それを確認したクリスは小型ミサイルを展開し、未来に向けて撃ち放つ。

 

【MEGA DETH PARTY】

 

未来はミサイルが直撃する前にクリスに向かって突撃してきたが、未来が行動を移す前にクリスはガトリング砲を彼女に撃ち放つ。弾は未来に直撃し、放たれたミサイルの爆発も直撃する。爆発をもろに食らい、落ちていく未来に日和は近づき、棍を振るって強力な打撃を与え甲板にクレーターが出来上がるくらいに叩きつけた。クレーターの中心に倒れる未来にクリスと日和は近づく。

 

「こんなもん、早く脱がせちまおうぜ」

 

「待ってクリス。ギアは外しちゃダメだよ」

 

クリスは早く未来のギアを外そうと動こうとするが、日和がそれを止める。

 

「何言ってんだ!ただ脱がすだけで・・・」

 

「未来ちゃんは操られてるんだよ?そんな状態で無理やりギアを外しちゃったら・・・未来ちゃんの命はどうなっちゃうの?」

 

「!!」

 

命にたいして何かと敏感な日和の指摘に、クリスははっとした表情をする。

 

『意外に聡いじゃないですか』

 

「「「!!!」」

 

すると、2人のヘッドギアから、ハッキングして通信可能になったウェルの声が聞こえてきた。

 

『そうですよねぇ。女の子は優しく扱わないとぉ。乱暴にギアを引きはがせば、接続された端末が脳を傷つけかねませんからねぇ』

 

「あなたって人は・・・!」

 

端末を介して脳を直接傷つけてしまうことは、下手をすれば命を落としかねない。命を平気で天秤にかけることができるウェルに日和は怒りを覚える。2人が話している間に未来は起き上がり、鏡の扇子を円状に展開し、2人に向ける。

 

「避けろ!!東雲、雪音!!」

 

未来は展開した扇子の鏡より、紫色の閃光をいくつも放った。

 

【閃光】

 

放たれた閃光をクリスと日和は危なげなく避け、未来から距離をとる。

 

「あれは・・・鏡・・・?」

 

「まだそんなちょせぇのを!!」

 

未来は扇子をしまい、脚部ユニットの鏡を展開し、背部の鞭の鏡と連結する。巨大な円状の鏡は紫色のエネルギーを収束させている。

 

「でっかいのが来る!!」

 

「デェェェス!!」

 

日和は強大なエネルギーを放ってくると理解し、切歌はエネルギーを放つのをやめるように声を上げた。だがそれで操られた未来が止まるはずがない。

 

「相棒!後ろに下がってろ!!こいつは・・・リフレクターでぇ!!!」

 

クリスはこれから放たれるエネルギーを迎え撃とうと、リフレクターを展開して迎撃の構えをとる。十分にエネルギーが溜まり、未来はクリスに向けて強大なエネルギーを放った。

 

【流星】

 

放たれたエネルギーはリフレクターに直撃した。リフレクターは強大なエネルギーを反射しているが、まだエネルギーが止まる様子はない。

 

「調!!今のうちに逃げるデス!!消し去られる前に!!」

 

「!!?どういうことだ!!?」

 

「まさか・・・あの人は自分の仲間も・・・!!?」

 

切歌の言葉で日和はウェルが未来を使って調までも消すつもりであると理解した。

 

「イチイバルのリフレクターは月をも穿つ一撃すら対抗できる・・・!そいつがどんな聖遺物で作られたシンフォギアか知らないが・・・今さらどんなのをぶっこまれたところで・・・!」

 

クリスはリフレクターで強大なエネルギーを受け止め続けているが、クリスが圧倒的に押されており、リフレクターの結晶が次々と破壊されていく。

 

「くっ・・・!なんで押されてんだ・・・!!」

 

「無垢にして苛烈、魔を退ける輝きの奔流。これが、神獣鏡のシンフォギア」

 

クリスは何とか残り少ないリフレクターを維持して持ちこたえる。だが、クリスの腕の装甲にダメージが入り始める。このままでリフレクターが完全に破壊され、クリスはエネルギーに包まれてしまう。

 

「リフレクターが・・・分解されていく・・・!」

 

「クリス!!危ない!!!」

 

日和は右手の棍を上空に投げ放つ。投げ放たれた棍は巨大な盾の形となり、クリスの前に落ちてきて、エネルギーを防ぐ

 

【難攻不落】

 

日和の出した棍の盾の出現でクリスは何とか助かる。しかし、この閃光はリフレクターの結晶さえも分解する。すぐにでも棍の盾は貫かれてしまうだろう。

 

「呆けない!!!」

 

翼は脚部のブースターを使い、調と気が緩んでしまったクリスを抱えてエネルギーから逃げるようにまっすぐ移動する。エネルギーは棍の盾を貫き、翼たちに向かってくる。翼は背後に巨大な剣を落として盾にしながら移動する。しかしエネルギーは剣を貫通し、翼たちに向かっている。

 

(横に躱せば、減速は免れない!!その瞬間に巻き込まれる!!)

 

減速ができないならばまっすぐ進むしかない。しかし、エネルギーはもう間もなく、翼たちに追いつかれてしまう。

 

「翼さん!!これを使ってください!!」

 

日和はもう1つの棍を上空に投げて、巨大な盾の形になり、今度は翼の目の前に落ちてきた。翼は棍の盾をブースターを使って垂直に走る。エネルギーは棍の盾を貫いたが、翼は直撃コースから免れたために無事だ。未来は先ほどのエネルギーをもう1度放とうとする。そこに、切歌が静止の声を上げる。

 

「やめるデス!!調は仲間!あたしたちの大切な・・・」

 

『仲間と言い切れますか?』

 

そこへ切歌のヘッドギアを通して、ウェルが遮る。

 

『僕たちを裏切り、敵に利する彼女を・・・月読調を・・・仲間と言い切れるのですか?』

 

「違う・・・あたしが調にちゃんと打ち明けられなかったんデス・・・!あたしが調を裏切ってしまったんデス!!」

 

「切ちゃん・・・!」

 

ウェルの言葉に震え、泣き出したい気持ちを堪えている切歌に調が口を開く。

 

「ドクターのやり方では、弱い人たちを救えない・・・」

 

調の言葉にウェルが未来のヘッドギアを通じて話す。

 

『そうかもしれません。何せ我々は、かかる災厄にあまりにも無力ですからね。シンフォギアと聖遺物に関する研究データは、こちらだけの専有物ではありませんから。アドバンテージがあるとすればぁ・・・精々このソロモンの杖!!』

 

ウェルはエアキャリアの扉を開き、艦艇と海に向けてソロモンの杖の光線を放った。これによってノイズが召喚され、生き残った米国の軍人をノイズに襲わせ、次々と炭素化させていく。

 

「ノイズを放ったか!!」

 

「クソッタレがぁ!!」

 

クリスは意図も簡単に行えるウェルの虐殺行為に怒りを向けながら放れたノイズの殲滅に向かっていく。

 

(ソロモンの杖がある限りは、バビロニアの宝物庫は開けっ放しってことか!!)

 

クリスは高く飛び、両手にガトリング砲を構え、小型ミサイルも展開し、複数体のノイズに向けて撃ち放ち、次々と迎撃していく。その間にも切歌は鎌を振るい、翼に斬撃を放ち、翼は刀で受け止める。

 

「こうするしか、何も残せないんデス!!」

 

『そうそう、それそれ。そのまま抑えていてください。後は彼女の仕上げを御覧じろ』

 

未来は展開していた鏡を脚部ユニットに収め、海上を移動していく。

 

「東雲!!小日向を追え!!倒そうとはせず、抑えることだけを考えろ!!」

 

「わかりました!!」

 

翼の指示を受けて日和は右手首のユニットを回転して、新たな棍を取り出し、未来を追いかけに向かった。




XD-エクスドライブアンリミテッド-

フォルテ・トワイライトボイス

レベルアップ1
修練の賜物だ。

レベルアップ2
よし。

レベルアップ3
これで満足などしていられない。

レベルアップ4
おお・・・予想を上回る結果だ。


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喪失までのカウントダウン

本日は海恋ちゃんの誕生日です。宣言通りの時間に投稿してみました。よろしければぜひとも海恋ちゃんを祝ってあげてください。


海上を脚部のユニットで浮かせて交戦内を移動している未来。ノイズ殲滅はクリスに任せ、彼女を追いかける日和は海を渡るために棍を長く伸ばし、上空に投擲し、棍を複数に分裂させ、海上に浮かび上がらせて足場を作る。日和は分離した棍を足場にして、バランスを取りながら未来を追いかける。未来は艦艇に昇りながら、追いかけてきた日和に向けて光線を放つ。日和は放たれた光線を躱し、別の艦艇に乗り込む。日和はさらに左手首のユニットを回転して棍を取り出し、未来のいる艦艇に向けて棍を伸ばした。伸ばした棍は艦艇を貫き、先端をフックの形にして開いた穴に固定する。日和は棍を元のサイズに戻して未来のいる艦艇に移動する。未来は日和に向けて光線を撃ち放つ。

 

「未来ちゃん・・・少しの辛抱だからね!」

 

日和は棍を手放して光線を躱して未来のいる艦艇に着地する。そしてすぐに棍を抜き取り、未来に棍を振るって攻撃する。未来は鏡の扇子で受け止める。さらに未来はその状態で扇子を開き、円状に展開させた。日和は嫌な予感がし、未来から距離をとる。未来は扇子の鏡より、複数の閃光を日和に放つ。

 

【閃光】

 

放たれた紫色の閃光を日和は何とか躱す。だがこの閃光は日和の棍には直撃する。これによって日和の棍の半分は分解された。

 

「!!?棍が・・・半分消えた!!?」

 

自分の武器である棍がこうも簡単に無力化されて驚愕する日和。驚いている間にも未来は鏡の閃光を日和に放ち続ける。あの閃光は危険だと感じ、日和は回避に専念する。日和に頭に思い浮かぶのは、月を穿つ一撃を凌いだクリスのリフレクターが分解されていく光景、そして、調が放った言葉だ。

 

『無垢にして苛烈、魔を退ける輝きの奔流。これが、神獣鏡のシンフォギア』

 

「・・・まさか・・・あの光、シンフォギアの力を無効化させてる!!?」

 

魔を退ける輝き。それが意味するところは、その名の通り魔を祓う力。その力の前では、シンフォギアの力を無力にしてしまう。それこそが、シンフォギア殺しの神獣鏡の力だ。日和と未来との戦いの様子を翼は鎌を振るう切歌を刀で抑えながら見ていた。

 

(振り切ることはたやすい。だが、そうするわけには・・・)

 

翼の実力ならば切歌を振り切ることなどわけない。だがしかし、翼の後ろには調がいる。切歌は必ず調を優先にして動く。ゆえに、そうはさせまいとしているため、動くわけにはいかないのだ。この場をどう切り抜ければいいか考えている翼。すると、突如として海中から巨大な水柱が出現する。突然現れた水柱に両者は視線を向ける。水柱がほどけると、そこから印を結んだ緒川が出現する。先ほどの水柱は、忍者の末裔である緒川の忍術だ。艦艇に降り立った緒川は調を軽く拘束する。

 

「調!!」

 

「緒川さん!」

 

「人命救助は僕たちに任せて!それよりも翼さんは、日和さんと協力して、未来さんの補足を!」

 

緒川は未来を託し、調を拘束したまま、残像が残るような速度で戦線を離脱する。

 

「緒川さん!お願いします!」

 

調と人命救助を緒川に任せ、翼は鎌を弾いて蹴りを叩き込む。そして翼はバク宙し、カタパルトの上に乗り、刀を突きさして無理やり起動させる。

 

「あぁぁっ!」

 

カタパルトの加速を利用し、翼は高く飛び、脚部のブースターを利用して日和との合流を目指す。

 

「調・・・!」

 

切歌は連れ去られた調に一瞬気を取られたが、今は翼を追いかけ、食い止める選択を選んだ。

 

「切ちゃん・・・」

 

海上を目も止まらない速さで走る緒川に抱かれながら、調は道を違えてしまった親友の名を口にする。

 

(あたしが消えてなくなる前に、やらなきゃいけないことがあるデス!)

 

切歌は背のブースターを使い、翼を追いかけていく。

 

「マストォ・・・ダアアアアイ!!」

 

切歌は背部ユニットから翼に向けて鎖を放った。翼は刀で鎖を弾くが、全ては凌ぎきれず、鎖は翼を拘束する。切歌は鎖の近くに鎌の柄を突き刺し、鎌の刃の上に立つ。その形はまるで、ギロチン。

 

「やるデス!」

 

切歌はブースターを使って、鎌の刃に蹴り込み、翼へと迫っていく。

 

【断殺・邪刃ウォttKKK】

 

鎌の刃が迫ってきたところに翼は上空に複数の刃を出現させ、自身を拘束する鎖に向けて降り注ぐ。

 

【千ノ落涙】

 

複数の剣で鎖を切り落とし、翼は間一髪で鎌の刃を躱す。自身の纏わりつく鎖を振り払う。

 

「お前は何を求めて!!」

 

「あたしがいなくなっても、調には忘れてほしくないんデス!!」

 

翼は刀を構え、切歌は鎌を元の形に戻し、構え直し、両者ともに再び対峙する。

 

~♪~

 

二課の仮設本部である潜水艦のブリッジ。外で繰り広げられている戦いを響たちはモニターで見守っている。その中で、日和と未来との戦いで、未来の纏うシンフォギア、神獣鏡の能力が明らかになる。

 

「未来ちゃんの纏うギアを発せられたエネルギー派は聖遺物由来の力を分解する特性が見られます!!」

 

「それってつまり、シンフォギアでは防げないってこと!!?」

 

「それが・・・クリスのリフレクターや日和の棍が分解した理由・・・文字通りのシンフォギア殺し・・・!」

 

シンフォギアでは防御不可能とする神獣鏡の力に驚愕する海恋を含んだオペレーターたち。

 

「この聖遺物殺しをどうやったら止められるのか・・・!」

 

どうすれば未来を止めることができるのか、弦十郎は真剣に考える。この戦いを見ていた響はあることを閃いた。

 

「師匠!!」

 

「どうした?」

 

響の眼差しはいつにもまして真剣みが帯びていた。

 

「・・・!立花さん・・・あなたまさか・・・!」

 

海恋は響が何をやろうとしているのかに勘づき、驚愕に満ちた表情をする。

 

~♪~

 

米国の艦艇で繰り広げられている戦いをウェルたちはエアキャリアから見下ろしてみていた。

 

「少女の歌には血が流れている。くくく・・・人のフォニックゲインで出力が増した神獣鏡の輝き・・・これがフロンティアへと照射すれば・・・!」

 

「今度こそフロンティアに施された封印が解除される」

 

「そのための生贄に選ばれたのが・・・彼女というわけか・・・」

 

機械で増幅した力では封印解除には至らない。ならばどうすればいいのか。それは、神獣鏡をシンフォギアとして人に纏わせ、その力をフロンティアに注ぎ込むのだ。未来はそのために連れてこられたのだ。

 

「だというのに・・・!あいつ邪魔すぎですよぉ・・・!これじゃあ照準が全然定まらないじゃあないですか!」

 

目的達成は目の前というところで日和が未来の行動を阻んでいる。そのためウェルはイライラしてストレスをため込んでいる。

 

「ゴホッ・・・ゴホッ!ゴホッ!」

 

「「!マム!!」」

 

すると、ナスターシャがまたも発作で咳き込む。しかも血反吐を吐いてしまっているため、症状は深刻であるとわかる。

 

「ドクター!!マムを!!」

 

「・・・いい加減お役御免なんだけど・・・」

 

マリアはマムの治療を依頼しているが、ウェルはどこかやる気を見せていない。

 

つべこべ言わずやれ・・・!!

 

「・・・ま、ここで断ったら僕の死刑が早まるだけか・・・。それは困る・・・仕方ない・・・」

 

フォルテの凄まじい殺気で自分の立場を思い出し、仕方なくナスターシャを連れて操縦室から退室する。

 

「・・・邪魔者はいるが、問題はない。マリア、僕のタイミングでシャトルマーカーを展開するんだ」

 

「・・・私がやらねば・・・私が・・・」

 

フロンティア封印解除の責任がマリアに委ねられ、彼女はプレッシャーを感じている。準備は整っている。後は・・・シャトルマーカーを放つタイミングを待つだけだ。

 

~♪~

 

神獣鏡のシンフォギア殺しを目の当たりにして、日和は冷や汗をかきながら使い物にならなくなった棍を放り投げ、両手首のユニットを回転して、新たな棍を2つ取り出し、構える。

 

「注意するべきなのはあの光・・・あの光に警戒しつつ・・・未来ちゃんを気絶させる!!」

 

日和は2つの棍を振ってヌンチャクに形を変え、未来に接近してヌンチャクを振るう。未来は艦艇を移動して日和から距離を取りつつ、光線を放つ。日和は放たれた光線をヌンチャクにも当たらないように気を着けながら躱していく。未来はダイレクト・フィードバックで日和の動きを予測し、そのバトルパターンに従い、日和が避けにくいポイントを的確に狙い、光線を放ち続ける。

 

「よ・・・避けづらい・・・これじゃあ攻撃に回れない・・・!」

 

日和は鍛え上げた身体能力を生かして光線を何とか躱していく。反撃と行きたいが、ヌンチャクが無力化されないように気を遣っているために立ち回れない。日和がヌンチャクを気を遣いながら躱すため、バトルパターンの予測が立てやすく、未来はそのパターンに従い、移動しながら光線を放ち続ける。まさに防戦一方だ。

 

「こうなったら・・・一か八か・・・!」

 

日和は光線を避け、左手のヌンチャクを自分の元に置いた。そしてその瞬間にヌンチャクは爆発を引き起こした。

 

【才気煥発】

 

ヌンチャクが引き起こした爆発の煙で未来は日和の姿をダイレクト・フィードバックで捉えられない。爆発の爆風を利用して日和は未来からさらに距離を取り、煙の先にいる未来に向かって棍を伸ばして打撃を与える。棍は煙で見えなかったため、未来は対処に遅れ、直撃を食らった。日和は別の艦艇に乗り、棍を構え直す。未来は脚部ユニットの鏡を展開し、背部の鞭の鏡と連結し、強大な一撃を放とうとする。そう、クリスのリフレクターを分解したあの一撃だ。

 

「まずい・・・!距離が遠すぎる!止める前にこっちが直撃をくらっちゃう・・・!」

 

日和はこれから発射される未来の一撃をどうすればいいのか必死に考える。すると・・・

 

「未来!日和さん!」

 

この戦場に響の声が聞こえてきた。未来はその声に動きを止め、脚部のユニットを収めた。日和も響の声がした方向を見てみると、二課の潜水艦が2人が乗る艦艇の間に割って入ってきた。そして、甲板には響が立っていた。

 

「響ちゃん!!?なんで・・・」

 

なんで響が外に出てきたのか質問をぶつける前に、日和のヘッドギアから弦十郎の通信が入る。

 

『日和君。未来君の相手は・・・響君に委ねるんだ』

 

響を未来と戦わせると弦十郎は言っている。意味が理解できない日和は当然反論する。

 

「何言ってるんですかししょー!!ギアを纏ったら響ちゃんの命が・・・」

 

日和が反論していると、今度は海恋の声がヘッドギアから聞こえてきた。

 

『立花さんがとんでもない策を思いついたのよ!勝算はわからないけど・・・成功すれば立花さんも小日向さんも助かるわ!』

 

響も未来も助かると聞いて、日和は驚愕に満ちた顔になる。

 

「それ・・・本当なの・・・?」

 

『日和・・・ここは立花さんを信じてあげて』

 

「でも・・・」

 

『先輩が後輩のことを信じてあげられないでどうするのよ!!』

 

かなり渋っている日和に海恋がヘッドギア越しに渇を入れた。日和はそれが効いたのか自分の中の響を心配する気持ちをぐっと堪える。

 

「・・・だったら・・・だったら響ちゃん!!約束して!!必ず・・・必ず未来ちゃんと一緒に生きて帰ってくること!!いい!!?絶対だよ!!?死んだりしたら許さないんだから!!!」

 

今までは相手に約束される側だった日和が今度は自分が響に約束を言いつけた。生きるという約束を大事にする日和が言ったら、その重みはかなり深い。

 

「必ず生きて帰ってきます!!!」

 

響はその重みを十分に受け止め、日和に負けじと強気に言い放った。響の言葉を聞いた日和は安心した表情になる。

 

『日和君もクリス君と合流し、ノイズを対処するんだ』

 

「はい!!」

 

弦十郎の指示に従い、日和はクリスと合流するために移動を開始した。響と未来はお互いに対面しあう。

 

「一緒に帰ろう・・・未来」

 

響がそう言うと、未来は自身のバイザーを開く。虚ろな瞳が露になり、未来はこの戦場で初めて口を開いた。

 

「帰れないよ・・・。だって私には、やらなきゃならないことがあるもの」

 

「やらなきゃならないこと・・・?」

 

「このギアが放つ輝きがね、新しい世界を照らし出すんだって。そこには争いもなく、誰もが穏やかに笑って暮らせる世界なんだよ」

 

「争いのない世界・・・」

 

「私は響に戦ってほしくない。だから響が戦わなくていい世界を創るの」

 

響が戦わなくいい世界を創る・・・それが未来がシンフォギアを身に纏い、戦いに赴ける最大の理由・・・成さねばならないこと。

 

「・・・だけど未来。こんなやり方で創った世界は、暖かいのかな?私が1番好きな世界は、未来が傍にいてくれる、暖かい陽だまりなんだ」

 

響は言葉を詰まらせたが、それでも自身の思いを未来にぶつける。誰もが争わなくてもいい世界を創るのは同意できる。だが、残虐を尽くしてまで出来上がった世界に意味などない。ゆえに、響はこのやり方を認めるわけにはいかない。

 

「でも、響が戦わなくていい世界だよ?」

 

「例え未来と戦ってでも・・・そんなことさせない!」

 

「私は響を戦わせたくないの」

 

「ありがとう。でも私・・・戦うよ」

 

響は強く言い切って、詠唱を唄う。

 

Balwisyall Nescell Gungnir tron……

 

未来を止めるために、シンフォギアを身に纏った響。それと同時に、響の死のカウントダウンが始まった。その時間・・・2分40秒。響は未来に拳と蹴りを繰り出し、未来はダイレクト・フィードバックで的確に防いでいく。距離をとる響と未来は同じ艦艇の甲板に立つ。シンフォギアを纏うことにより、響のガングニールの浸食は進んでいき、大きな熱を帯びていく。

 

(熱い・・・身体中は沸騰しそうだ・・・)

 

それでも響は引くわけにはいかない。必ず未来を助けるために。

 

~♪~

 

そもそもなぜ響が戦うことになったのかは、それは日和が未来と戦っている時間に遡る。

 

「あのエネルギー波を利用して、未来君の纏うギアを解除する・・・だと?」

 

「私がやります!やってみせます!」

 

神獣鏡の力が聖遺物の力をかき消す。その力は根元である神獣鏡にも有効で、うまく利用できれば未来のシンフォギアを解除できるかもしれない。だが、出撃しようとする響の身を弦十郎は案じる。

 

「だが君の身体は・・・」

 

「死んでも連れて帰ります!!」

 

「死ぬのは許さん!!!」

 

「じゃあ、死んでも生きて帰ってきます!!それは、絶対に絶対です!!」

 

未来を助けるため、響は意地でも意見を譲るつもりはない様子だ。そんな響の背中を押すように、海恋が口を開く。

 

「私からもお願いします!立花さんを行かせてあげてください!」

 

「海恋君、君まで・・・」

 

「私の推測が正しいなら、その無茶が立花さんの命も、助かる可能性大です!」

 

「何っ・・・?」

 

響が助かる可能性が高いと聞いて、弦十郎は驚愕する。モニターでは才気煥発で吹っ飛んで攻撃する日和の無茶が映し出される。

 

「日和だって、何度無茶しても、ちゃんと戻ってきたんです!私は、立花さんのその無茶を信じてみたい!!」

 

「海恋さん・・・」

 

「子供の背中を押してあげるのも、大人の務めなんじゃないですか!!?」

 

海恋が弦十郎に言葉の一喝を入れる。それでも弦十郎は渋った顔をしている。

 

「過去のデータと現在の融合進度から計測すると、響さんの活動限界は2分40秒となります!」

 

「例え微力でも・・・響ちゃんの支えることができれば・・・きっと・・・」

 

藤尭がシンフォギアを纏う際の活動限界を詳細に伝えた。それは止めるためではなく、友里の言うとおり、響を支えるためだ。活動時間の計算を聞いた弦十郎は響に問いかける。

 

「オーバーヒートまでの時間は限られている。勝算はあるのか?」

 

「思いつきを数字で語れるものかよ!!」

 

かつて自分が言った言葉を、このような形で自分に返された弦十郎。響の強い思いを信じ、弦十郎は出撃の許可を出したのだった。

 

~♪~

 

響は未来に蹴りを放つが、未来は扇子で蹴りを凌ぎ、逆に響を甲板の壁に叩きつける。さらに未来は背部の鞭でさらに追撃する。響は繰り出される攻撃を防御する。

 

『胸に抱える時限爆弾は本物だ!作戦時間の超過、その代償が確実な死である事を忘れるな!』

 

(死ぬ・・・私が・・・死ぬ・・・)

 

死という言葉に響は日和との約束を振り返る。

 

『必ず・・・必ず未来ちゃんと一緒に生きて帰ってくること!!いい!!?絶対だよ!!?』

 

「・・・死ねるかああああああ!!!」

 

鞭の攻撃に対し、響は鞭を弾き返し、脚部のジャッキを利用して未来に突進した。攻撃をくらった未来は距離を取り、鞭の鏡と脚部の鏡と連結し、強大なエネルギーを放つ。

 

【流星】

 

響はジャッキを利用して、強大なエネルギーを躱したが、艦艇に直撃する。未来はさらに小型の鏡を展開し、光線を響に放つ。響は放たれた光線を足場にしながら直撃を躱す。

エアキャリアからも未来が光線を放ったのを確認ができた。そのタイミングに合わせ、エアキャリアからミサイルのようにシャトルマーカーが発射される。シャトルマーカーは円形の陣を敷き、体部を展開して光線を反射する。

 

「戦うなんて間違ってる・・・戦わない事だけが、本当に暖かい世界を約束してくれる・・・戦いから解放してあげないと・・・」

 

未来は響を戦いから解放するために攻撃を続ける。

 

『立花さん急いで!!危険域を越えたら、あなたの命は・・・!』

 

残り時間25秒内をきった時、響のヘッドギアから海恋の危険を知らせる通知が届いた。そして、その瞬間・・・

 

ドクンッ!パキパキパキ・・・!

 

「ぐっ・・・うあぁぁ・・・!!」

 

響のガングニールの破片が身体の至る所に現れ、苦痛が響を襲う。それを見た未来は自分が助けるはずの彼女を、自分が戦うことによって逆に苦しめていると気づき、動揺する。

 

「(違う!私がしたいのはこんな事じゃない・・・!こんなことじゃ・・・)ないのにいいいいい!!!」

 

未来の慟哭が響き、バイザーを開いてみると、彼女は涙を流していた。

 

(誰が未来の身体を好き勝手してるんだ!!)

 

響は飛び交う光線を躱しながら、未来に突っ込み、そのまま彼女を抱きかかえた。それと同時に、展開していた鏡が割れる。

 

「離して!!」

 

「嫌だ!!離さない!!もう二度と離さない!!!」

 

「響ぃいいいいいい!!!」

 

「離さない!!!」

 

シャトルマーカーに反射された神獣鏡の光線は次々と別のシャトルマーカーに反射していく。それを確認した響は水面を跳躍してそこへ向かう。

 

「そいつが聖遺物を消し去るっていうんなら・・・こんなの脱いじゃえ!!未来うううううううううううう!!!!」

 

展開された光線が下中央のシャトルマーカーに反射されると、光線が強大なものとなって反射される。響は未来を抱えてその光線の中へと突っ込んでいった。光線に包まれた響と未来のギアは粉々に砕き、未来の後頭部のダイレクト・フィードバックも、ガングニールの破片も形を残さずに消え去った。最後のシャトルマーカーは強大な光線を反射し、海の中へと沈んでいく。すると、海中から凄まじい光が放たれる。

 

~♪~

 

突如として現れた凄まじい光は二課の潜水艦にいる弦十郎たちも、エアキャリアにいるフォルテたちにも確認できた。

 

「・・・作戦は成功した。フロンティアの封印は解除され、間もなく浮上される」

 

光が収まってくると、突如として大陸といっても過言ではないほどの島が海中から浮上してきた。これこそが、マリアたちが求めていたもの・・・フロンティアだ。

 

「・・・もう間もなくだ・・・セレナ・・・。君の望む真なる平和が・・・訪れる」

 

フロンティアが浮上したのを確認したフォルテは歯を見せ、不敵な笑みを浮かべた。

 

~♪~

 

一方ノイズの殲滅を言い渡された日和は艦艇に乗り込み、辺りの惨状を見渡す。日和が駆け付けた時にはすでに遅く、何人もの人間が、ノイズによって炭へと変えられ、命を落としている。そして、その中には、大切な家族を残して亡くなった人間もいる。

 

「ドクターウェル・・・あのろくでなし・・・!!!」

 

日和は炭となった人間たちを見て、強い怒りを示している。

 

「相棒」

 

そこにクリスが真剣な顔をして日和の元に駆けつけた。

 

「クリス・・・どうしたの?」

 

「・・・お前はこの先も・・・あたしを信じるつもりか?」

 

日和にはクリスの言っている言葉の真意が理解できない。しかし、彼女を信じるということだけは確かだ。

 

「急にどうしたの?そんなの当たり前だよ。だって私たちは、友達なんだから・・・」

 

「・・・そうか・・・」

 

それを聞いたクリスは目を閉じ・・・

 

ドゴォ!!

 

「がっ・・・!!?」

 

日和の鳩尾に拳を叩き込んだ。

 

「これがあたしの答えだ」

 

「く・・・クリス・・・どう・・・して・・・?」

 

突然急所を突かれた日和はクリスに問い詰める前に気絶してしまう。

 

「・・・悪いな・・・相棒。さよならだ」

 

クリスは日和が気絶したのを見届け、乗っている艦艇から降りていった。




海恋の誕生日(リディアン一回生)

父「誕生日?そんなものに現を抜かす余裕がお前にあるのか?」

母「いい?あなたは特別な人間なのよ?そんなことでお母さんたちを困らせないで」

いつだってそうだった。特別な人間だからって・・・そんな理由で父さんも母さんも誕生日を祝ってくれなかった。使用人も見て見ぬふり、唯一じいやが私に気を遣っているけど、私はもうすっかり諦めてた。友達もあまりいなかったし、誰も私の誕生日を知ってる人はいない。知ってたとしても誰も祝わない。だから私にとって誕生日という日は特別なものはない。ただ普通の日常。それと変わらない。そう思ってた。だけど、秋春祭が終わった後の教室・・・

クラスメイト「海恋ちゃん!誕生日おめでとう!!」

海恋「・・・え?」

由貴「へへ、驚いたかな?」

乙女「ひよりんが教えてくれたんだよ。今日は海恋ちゃんの誕生日だって」

小路「言ってくれればよかったのに・・・水くさいなー」

海恋「・・・誕生日?」

日和「おじいちゃんが教えてくれたんだよ。だから盛大に祝ってやってほしいって頼まれて・・・サプライズを用意したんだ!どっきり大成功だね!」

海恋「じいやが・・・」

日和「みんなー!主役の到着だよー!盛り上がっていこー!」

海恋「ちょ、ちょっと・・・」

・・・単なる気まぐれ・・・よね・・・?今まで誕生日を祝ってもらったことなかったし・・・日和はともかく、知り合ってまだ1年も経ってない相手に・・・。・・でも・・・気まぐれだとしても・・・悪い気分じゃないわ。

海恋「・・・日和」

日和「んー?何ー?」

海恋「・・・ありがと」


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ディスティニーアーク

G編もクライマックスに近づいてきました。決戦の時は近い・・・


「・・・はっ!!」

 

気絶していた日和が目を覚ますと、二課の潜水艦の個室の天井が広がっていた。目線で周りを見回すと、海恋がいた。

 

「日和!目が覚めたのね!」

 

「・・・海恋?ここは・・・」

 

「あなたの個室よ。目が覚めてよかった・・・」

 

「私の個室・・・?」

 

日和は気絶する前に自分が何をしていたのかを振り返り、クリスに気絶させられたことを思い出す。

 

「そっか・・・私クリスに・・・。てことは、マリアさんたちのところに寝返った・・・のかな・・・ははは・・・」

 

「日和・・・」

 

日和が苦笑いを浮かべていると、それ以上に気になったことを思い出した。

 

「!海恋!響ちゃんと未来ちゃんは⁉」

 

日和の問いかけに海恋はにっこりと微笑む。

 

「安心して。2人とも無事よ。約束通り、2人はちゃんと戻ってきたのよ」

 

「そっか・・・よかった・・・」

 

響と未来がちゃんと生きて戻ってきてくれて日和は心の底から安心する。海恋は日和にクリスのことについて質問をする。

 

「ねぇ日和・・・クリスは・・・あなたに何か言ってた?」

 

「・・・うん。これがあたしの答えって・・・よくわからないことを・・・」

 

「そう・・・」

 

「でも・・・でも私は・・・クリスが何の意味もなく寝返るなんて思えない」

 

日和はスカイタワーで見せたクリスの責任を感じる顔を今も覚えている。責任感が強い彼女だからこそ、寝返ったからには何か意味があると考えている。

 

「それで?」

 

「私は・・・クリスを信じる。だってクリスは、私たちの友達だもん」

 

日和はクリスを信じ続けることを海恋に伝える。海恋は少し呆れつつも、日和らしいと笑みを浮かべる。

 

「てっ・・・何の説得力もないよね。他に何て言えばいいかわからないし・・・」

 

「いいんじゃない?とてもシンプルでわかりやすい。あの石頭もたじろぐわよ」

 

日和と海恋は共に笑いあい、会話に華を咲かせている。そこへ、緒川が入室してきた。

 

「日和さん。目が覚めたのですね」

 

「緒川さん!おかげさまで!」

 

緒川は日和が目が覚めてほっと安心し、すぐに気持ちを切り替えて本題に入る。

 

「海恋さん、少し席を外していただけませんか?日和さんにお伝えしたいことがありまして・・・」

 

「え?でも・・・」

 

「海恋、お願い」

 

緒川のお願いに海恋は少し渋っていたが、日和の真剣みな表情を見て、何かわけがあると気づく。

 

「わかったわ。私、小日向さんのところに行ってるわね」

 

「うん」

 

海恋は日和の個室を退室し、メディカルルームへと向かう。この個室に残っているのは、日和と緒川だけだ。

 

「緒川さん、もしかして・・・」

 

「はい。フォルテさんの調査が終わりました。どうやら彼女はかつて、バルベルデ共和国の政治に反発する反乱軍に属していたようです」

 

「バルベルデって・・・確かクリスのお父さんとお母さんが亡くなった・・・」

 

緒川は何かの資料を懐から取り出し、日和に渡した。

 

「これは?」

 

「バルベルデで亡くなられた方のリストです。中を開いてみてください」

 

日和はどうやってそんなリストを手に入れたのか疑問に思ったが、ひとまず資料を開いてみる。資料には亡くなった人間の顔写真とその人物の詳細が載ってある。ページをめくり続けると、見覚えのある人物の顔写真が出てきた。両目の瞳が緑色で幼さがかなりあるが・・・その顔は見間違えるはずもない。写っているのはF.I.Sに所属しているフォルテであった。

 

「え?この子は・・・。でもフォルテさんは確かに生きて・・・。それに、このトレイシー・テレサって・・・」

 

「それが彼女の本名なのでしょう。具体的な詳細はわかりませんが、表向きではバルベルデの作戦に参加し、彼女は戦死したことにされていたようです」

 

緒川が調べてくれた情報で、日和は真なる平和が何を意味しているのか・・・少しだが、わかってきたような気がした。だが肝心のフォルテが真なる平和を求める理由が曖昧なのだ。戦争をなくすというのはもちろん入っているだろうが・・・日和にはどうもそれだけじゃないように思える。

 

「マリアさんたちなら、何か知ってるかなぁ・・・?」

 

「そのことなのですが・・・実は、日和さんが未来さんを追ったすぐ後、僕は月読調さんをここに収容しました。今はここの独房にいます」

 

「えっ!!?本当ですか!!?」

 

「僕はちょうど、彼女に話を聞こうと思うのですが・・・どうしますか?」

 

調がここに収容されていると聞いて驚いたが、日和にとってかなり都合がいい。調ならばフォルテについて何か知っている・・・真なる平和を求める理由を知っているはずだと。

 

「私に取り調べをさせてください!!フォルテさんの仲間なら・・・きっと何か知ってるはずです!フォルテさんが、真なる平和を求める理由も!」

 

日和は調の取り調べを自分にやらせてほしいと緒川に頭を下げて頼み込む。

 

「・・・日和さんならそう言うと思っていました」

 

緒川はそう言って、懐から調がいる独房の鍵であるカードキーを日和に渡した。

 

「後のことはお願いしますね」

 

「緒川さん・・・私の個人的なお願いに付き合ってもらって、ありがとうございます!」

 

日和はカードキーを受け取り、緒川に頭を下げてお礼を言い、調のいる独房へと向かっていく。そんな日和の姿を見て緒川は微笑ましい笑みを浮かべた。

 

~♪~

 

ブリッジにて、現れた島、フロンティアの姿の確認作業を行う藤尭。

 

「映像回します!」

 

フロンティアの姿はモニターで見ても、とても巨大であるのがわかる。

 

「これが・・・F.I.Sの求めていたフロンティア・・・」

 

「海面に出ている部分は全体から見てもほんの一部・・・フロンティアと呼ばれるだけのことはありますね・・・」

 

ヴー!ヴー!

 

ブリッジ内に警告音が鳴り響く。モニターでその正体を確認してみると、新たな米国の艦隊が接近してきている。

 

「新たな米国所属の艦隊が接近しています」

 

「第二陣か・・・」

 

艦隊が近づいてきたと同時に、日本政府からの通信が入った。この状況で通信を入れてくれるのは斯波田以外にはいない。斯波田は以前の通信と同じようにそばを啜っている。

 

『まさか、アンクル・サムは落下する月を避けるためフロンティアに移住する腹じゃあるめぇな?』

 

「我々も急行します」

 

斯波田にそう伝えた弦十郎はすぐにオペレーターに指示を出し、事態の収束のために出現したフロンティアへと向かうのだった。

 

~♪~

 

メディカルルームでは神獣鏡から解放された未来が治療を受けていた。目立った外傷はないが、念のためだ。治療を終え、今は大人しくしている未来。そんな時に響、翼、海恋、友里が入室した。

 

「未来ーー!!」

 

響は未来にすぐさまに抱き着いた。大切な親友が戻ってきたのだ。その喜びは誰よりも強い。

 

「小日向の容態は?」

 

「LiNKERの洗浄も完了。ギア強制装着の後遺症も見られないわ」

 

「ほっ・・・何もなくてよかった・・・」

 

「よかったぁ~!ほんとによかったぁ~!」

 

後遺症も何も残っていないようで、響は満面な笑みで安心している。海恋も安心しており、翼も軽く微笑みを見せている。

 

「・・・響・・・その怪我・・・」

 

操られていた中でも、未来は自分が何をしていたのかをしっかりと覚えており、響の怪我を気にしている。当の響は何ともないように答える。

 

「うん」

 

「・・・私の・・・私のせいだよね・・・」

 

未来は口もとに手を当て、涙を流している。大切な親友を守るどころか、傷つけてしまった。未来はそれで自分を責めている。

 

「うん!未来のおかげだよ!」

 

「え・・・?」

 

「ありがとう、未来!」

 

「響・・・?」

 

「私が未来を助けたんじゃない・・・未来が私を助けてくれたんだよ!」

 

響の言っている意味がわからない未来は疑問符を浮かべている。友里が未来の疑問を答えるように、響のレントゲン写真を未来に見せる。以前までのレントゲン写真にはガングニールの破片がしっかりと残っていたのだが、今見せている写真にはそれが一切見られない。まるで最初から破片などなかったかのように。

 

「これ・・・響・・・?」

 

「あのギアが放つ輝きには聖遺物由来の力を分解し、無力化する効果があったの。その結果、2人のギアのみならず、響ちゃんを蝕んでいたガングニールの欠片も除去されたのよ」

 

「ふぇ・・・?」

 

「小日向さんの立花さんを守りたいって強い思いが、死に向かっていく立花さんの命を救ってくれたのよ」

 

「私がホントに困った時、やっぱり未来は助けてくれた!ありがとう!」

 

「私が・・・響を・・・!」

 

「うん!」

 

過程がどうであれ、守りたかった響がこうして助かり、生きている。それを成したのが未来。それを聞いて未来は笑顔を見せてくれた。

 

(・・・でも・・・それって・・・)

 

だがそれと同時に、響はもう、シンフォギア装者ではなくなった。その事実に未来は顔を俯かせている。

 

「力があったとしても、命を蝕んでしまうものなら、ない方がいいもの。立花さんを助けたんだから、もっと胸を張っていいのよ」

 

「海恋さん・・・」

 

海恋は顔を俯かせる未来を自分なりに励ましている。

 

「だけど、F.I.Sはついにフロンティアを浮上させたわ。本当の戦いはこれからよ」

 

「F.I.Sの企みなど、私と東雲の2人で払ってみせる。心配など無用だ」

 

「・・・2人?」

 

翼の言葉を聞いて未来はこの場に日和とクリスがいないことに気が付いた。

 

「そういえば、日和さんとクリスは・・・?」

 

「日和なら今月読さんのところに行ってるわ」

 

「・・・クリスちゃんは・・・」

 

未来の問いに海恋は日和の居場所を伝えた。そして響は・・・クリスが今二課にはいないことを告げた。

 

~♪~

 

エアキャリアを浮上してきたフロンティアに止め、マリアたちはフロンティアの中枢区へと向かっている。その中には・・・二課を裏切ったクリスがいた。

 

「こんなものが海中に眠ってたとはな・・・」

 

これほど巨大な島が海の中に封印されていたことにクリスは多少ながらも驚いている。

 

「あなたが望んだ新天地ですよ」

 

クリスはフロンティアの建築物を見て、自分がしたことを思い返す。

 

~♪~

 

そもそもなぜクリスがマリアたちの元にいるのかは・・・それは、クリスが日和を気絶させた後、フロンティアが浮上してきた時に遡る。

 

「いったい何が・・・?」

 

突如として現れたフロンティアに翼が驚愕している時・・・

 

バァン!バァン!バァン!

 

クリスが翼の背後に立ち、彼女をアームドギアの銃で撃ったのだ。クリスが仲間である翼を撃ったことに切歌は驚愕している。

 

「なっ・・・⁉」

 

「くっ・・・雪音・・・⁉」

 

「・・・さよならだ」

 

バァン!

 

そう言ってクリスは翼に向けて銃をもう一発撃ち放った。これによって翼は気を失ってしまう。その後にクリスは切歌にマリア側に付きたいと言い出したのだ。

 

「仲間を裏切って、私たちに付くというのデスか⁉」

 

「こいつが証明証代わりだ。向こうにいる相棒も沈めてきた」

 

「しかしデスね・・・」

 

切歌はクリスには何か裏があるのではとかなり渋っている様子だ。

 

「力を叩き潰せるのは、さらに大きな力だけ。あたしの望みは、これ以上戦果を広げない事。無駄に散る命を一つでも少なくしたい」

 

クリスの言葉を聞いて、切歌はひとまずはクリスの言葉を信じ、自分たち側に引き入れることを選んだ。

 

~♪~

 

そして今に至るというわけだ。とはいえ、クリスの出した答えに、迎え入れたとはいえ、マリアたちも疑っている。ゆえに簡単には信用できない。

 

「本当に私たちと一緒に戦う事が、戦火の拡大を防げると信じているの?」

 

「ふん、信用されてねえんだな。気に入らなければ鉄火場の最前線で戦うあたしを後ろから撃てばいい」

 

「無論そのつもりだ。僕たちは君を信じたわけではない。使えると思ったから迎え入れている。それを忘れるな」

 

特にフォルテはいつ裏切ってもおかしくないと思い、常にクリスを警戒している。

 

「着きました。ここがジェネレータールームです」

 

話している間にも目的であるジェネレータールームに到着した。中央には祭壇のように奉られている球体の巨大な建造物があった。

 

「なんデスかあれは・・・?」

 

切歌の問いには答えず、ウェルは祭壇に近づき、トランクケースよりネフィリムの心臓を取り出す。ウェルはネフィリムの心臓を球体に押し付ける。するとネフィリムの心臓は血管が伸びていき、球体に繋がった。そしてその瞬間、球体は黄金色に輝きだし、フロンティアが起動した。

 

「ネフィリムの心臓が・・・」

 

「心臓だけとなっても聖遺物を食らい、取り込む性質はそのままだなんて・・・卑しいですねぇ・・・ひひひ・・・」

 

ウェルは下卑た笑みを浮かべる。フロンティアが起動した瞬間、島の大自然が復活したかのように、緑が生い茂る。

 

「エネルギーがフロンティアに行き渡ったようですね」

 

「さて、僕はブリッジに向かうとしましょうか。ナスターシャ先生も制御室にて、フロンティアの面倒をお願いしますよ」

 

ウェルはナスターシャにそう告げて、フロンティアのブリッジへと向かっていく。切歌は輝く球体を見て、調が言った言葉を思い返す。

 

『ドクターのやり方では、弱い人たちを救えない・・・』

 

「・・・そうじゃないデス・・・フロンティアの力でないと、誰も助けられないデス・・・。調だって助けられないデス!!」

 

切歌のその言葉を聞いて、フォルテは目を閉じ、ただ1人フロンティアの外へと向かっていく。

 

「・・・いよいよだ・・・セレナ・・・。いよいよ・・・君の望む真なる平和が実現する。その時こそ・・・僕の役目は・・・終わりを迎える」

 

外に出たフォルテは空を見上げ、自身の手を見つめ、そう呟いた。

 

~♪~

 

二課の潜水艦の独房で、調は手錠をかけられ、大人しくしていた。独房といっても思っているようなものではなく、部屋は清潔で不快感など全く感じられないような至って普通の部屋である。どうすれば暴走した仲間を止められるのか・・・調はそのことばかり考えている。そんな時、部屋のロックが解除される音が聞こえてきた。そちらに視線を向けていると、日和が部屋に入ってきた。

 

「や。調子はどうかな?」

 

「あなたは・・・」

 

のほほんとした様子で入ってきた日和は調に近づき、彼女のシンフォギアのネックレスを外す。

 

「悪いけど、これはこっちで預からせてもらうね」

 

日和は調のシンフォギアのネックレスを自分のポケットの中にしまった。

 

「・・・お願い・・・みんなを止めて・・・」

 

「え?」

 

「・・・助けて・・・」

 

調は今にも泣きそうな様子で、そう縋るような思いで頼みこんできた。調の泣きそうな表情を見て、日和は笑みを浮かべて、持ってきたベースを取り出す。まずは調の気持ちを落ち着かせようと思ったからだ。

 

「・・・調ちゃん。まずは、私の演奏を・・・聞いてくれる?」

 

「え・・・?」

 

調は日和がどうしてここで演奏しようとするのかわからなかった。日和はそんな調の疑問を無視して調の隣に座り、ベースを弾く体制になる。

 

「こほん・・・えー、それじゃあ・・・聞いてください。生きる道のり」

 

日和はベースを軽く叩く音を合図にして、演奏を始め、歌い始めた。

 

「~~♪~♪」

 

「・・・っ!」

 

日和の歌声を聞いて、調は日和の歌に魅了し始めた。美しい歌声、楽しそうに歌う顔・・・そして何より、歌に込められたフレーズ。歌の中には・・・差別も弊害もなく、誰もが平等に生きてほしいという願いが込められている。調は日和の歌の何もかもが、魅了された。日和は歌い終え、語り始める。

 

「・・・私ね、2人の友達がいたんだ。大切な友達で、大切なバンドメンバーだったよ。私が今こうしていられるのは、2人が私を守ってくれたからなんだ。でも、その代償として、2人は死んじゃった・・・しかも、私の目の前で」

 

「・・・・・・」

 

調は日和の語りに驚かずに聞いている。まるで、最初から知っているかのように。

 

「そんな2人にね、約束されたんだ。生きてってさ。2人だけじゃないよ。今も生きてる友達にも、それから・・・お世話になった人にも。でもその約束は、私だけが生きるっていうのは、ちょっと違うと思うんだ」

 

「・・・どういうこと?」

 

「調ちゃんたちに大切な人たちがいるように、私にも大切な人たちがいる。その大切な人たちと一緒に、笑いあったり、悲しみあったり、泣いたり、そして喜びを分かち合う。それが、私にとっての、生きるっていう意味で・・・果たすべき約束なの。だから私は、調ちゃんにもそういう意味で、ちゃんと生きてほしいって思ってるんだ。もちろん、切歌ちゃんもマリアさんも・・・それに、フォルテさんだって」

 

日和の言葉を聞いて、調は笑みを浮かべる。

 

「・・・ちゃんと守ってくれてるのね。安心したわ」

 

「へ?」

 

調の守ってくれてるの言葉の意味が理解できず、多くの疑問符を浮かべる日和。

 

「・・・私の知ってること、全部話す。だから・・・みんなを・・・フォルテを止めて」

 

そう言って調は自分の知っていることを、憶測も交えながら日和に話した。

 

~♪~

 

調との話を終えた日和はブリッジに向かい、弦十郎に調のシンフォギアのネックレスを渡し、聞いた話を報告する。

 

「助けてほしい・・・そう言ったのか?」

 

「はい。目的を見失って暴走する仲間を止めてほしいって」

 

「うぅむ・・・」

 

調の話を聞いて、日和は絶対にマリアたちを・・・フォルテを止めなくてはいけないという思いが強くなっている。それゆえなのかいつにもまして真剣な表情だ。2人が話していると、未来、響、翼、海恋、友里が入ってきた。

 

「未来ちゃん!身体はもういいの?」

 

「はい。いてもたってもいられなくなって・・・」

 

「クリスちゃんがいなくなったって聞いて、どうしてもって・・・」

 

未来にとってクリスも大切な友達なのだ。そんな彼女がいなくなったと聞いて、大人しくしてるわけにはいかなかったのだろう。

 

「確かに響君とクリス君が抜けた事は、作戦遂行に大きく影を落としているのだが・・・」

 

「でも、翼さんに大事がなかったのは本当に良かった。致命傷を全て躱すなんて、さすがです」

 

友里の言うとおり、翼はクリスに撃たれ、頭に包帯が巻かれているが、致命傷といえる傷は負っていない。翼と海恋はどうにもそこが引っ掛かる。

 

(躱した・・・?あの状況で雪音の射撃を躱せるものか。だとしたら・・・あれは・・・)

 

(日和・・・あなたの勘、まったく間違ってないかもしれないわ・・・)

 

クリスはあえて致命傷を外したと考え、何か裏があってマリアたちに付いた・・・そう考える翼と海恋。

 

「フロンティアの接近、もう間もなくです!!」

 

二課の潜水艦はフロンティアにまで近づいている。決戦の時は、もう間もなくだ。

 

~♪~

 

フロンティアのブリッジにやってきたマリアとウェル。部屋の中心には球体がそびえ立っており、2人は球体の前に近づく。そしてウェルは懐からガンタイプの注射器を取り出す。

 

「それは?」

 

「LiNKERですよ。聖遺物を取り込む、ネフィリムの細胞サンプルから生成したLiNKERです」

 

ウェルは自身の左腕に注射器を当て、LiNKERを自ら流し込んだ。すると、LiNKERが打ち込まれた腕は黒く変色し、変形して人間とかけ離れた歪な腕になった。その腕はまるで、ネフィリムの腕のようにも見える。ウェルは変化した腕で球体に触れる。すると球体はネフィリムの細胞に反応した。

 

「ふふへへへ・・・早く動かしたいなぁ・・・ちょっとくらい動かしてもいいと思いませんかぁ?ねぇ、マリア」

 

「・・・っ!」

 

ウェルの下劣な笑みを見て、マリアは嫌な予感が浮かび上がる。こういう笑みを浮かべる時のウェルはたいていがろくなことにならないと知っているからだ。起動したフロンティアでウェルは外の様子をモニターで映す。外では米国の第二艦隊が近づいてきている。

 

~♪~

 

一方その頃、ナスターシャは制御室でこのフロンティアのエネルギーをコントロールしている。

 

(フロンティアが、先史文明期に飛来したカストディアンの遺産ならば、それは異端技術の集積体・・・月の落下に対抗する手段もきっと・・・)

 

ナスターシャがパネルを操作していると、1つの情報が開示され、それを見て彼女は驚愕する。

 

「これは・・・!」

 

『どうやら、のっぴきならない状況の様ですよ?』

 

そこへ、ウェルの通信が入り、外の状況の映像が映し出される。

 

『1つに繋がることで、フロンティアのエネルギー状況が伝わってくる・・・これだけあれば、十分にいきり立つぅ・・・』

 

「早すぎます!!ドクター!!!」

 

『そうさ・・・どうせフォルテに殺されるんだ・・・ならば早いに越したことはなあああい!!!!』

 

ナスターシャはウェルを止めようとするが、加速するウェルの欲望の前では、その声は無に帰す。

 

『さぁ、いけぇー!!!』

 

ウェルに応えるかのように、フロンティアの3本の柱より光が放たれ、雲を突き破って宇宙へと昇っていく。そして光は手の形となり、月に到達し、それを抑え込む。

 

『どっこいしょおおおおお!!!!』

 

月を抑え込んだ光の手は霧散した。そして、その瞬間、フロンティアが浮上し始めた。

 

「加速するドクターの欲望!手遅れになる前に、私の信じた異端技術で阻止して見せる!」

 

ナスターシャは起こり始めた緊急事態を何とか止めるべく、動き始める。

 

~♪~

 

フロンティアが浮上したことにより、海流が攪拌され、潜航していた二課の潜水艦を大きく揺らす。ものに掴まっていないと立つことができないほどだ。

 

「いったい何が!!?」

 

「広範囲にわたって海底が隆起!我々の直下からも迫ってきます!」

 

潜水艦は浮上するフロンティアの陸に着底し、衝撃が走る。そして、浮上するフロンティアと共に、海より打ち上げられた。

 

~♪~

 

米国の艦艇は本部の命令により、フロンティアを制圧するために砲撃を開始するが、フロンティアには傷1つ着けることはかなわない。ウェルはモニターを介してその様子を見下ろしている。

 

「楽しすぎてメガネがずり落ちてしまいそうだぁ・・・!」

 

ウェルはネフィリムの腕を介してフロンティアに指示を出す。フロンティアの突起が光を放ち、航行していた艦艇を持ち上げる。打ち上げられた艦艇は空中で押しつぶされ、圧壊し、爆発を引き起こした。

 

「ふぅん・・・制御できる重力はこれくらいが限度の様ですねぇ・・・ふふふははははは!!!」

 

(果たしてこれが・・・人類を救済する力なのか・・・?)

 

ウェルが高笑いする中、マリアは本当にフロンティアで人類を救済できるのか、疑問を持ち始める。

 

「手に入れたぞ・・・蹂躙する力を・・・!!これで僕も英雄になれるぅ・・・!!この星のラストアクションヒーローだぁ~!!!いひひひひひひ!!!やったぁーーー!!!」

 

ウェルは自身のメガネを外し、笑いながら高らかに叫んだ。ジョン・ウェイソン・ウェルキンゲトリクス・・・通称ウェル。彼はもう・・・ドクターでも、英雄でもない。ただの下劣な・・・英雄を語る諸悪の権化だ。




日和と海恋のお小遣い

2人は咲から寮で生活していくための資金を毎月もらっている。日和は家族だから、姉妹だからと遠慮はしないが海恋はもちろん受け取りを拒否している。だが海恋の家庭の事情を知っている咲は海恋の反対を押し切って渡している。そのたびに海恋は咲には申し訳ない気持ちでいっぱいになり、いつか必ずお金は返そうと心に決めている。二課に入り、給料が入るようになった今でも、咲はご厚意で2人にお金を渡している。ただ事情を知った後では、渡すお金も本当にお小遣い程度になったとかで日和はショックを受け、海恋は少しだけ安堵している。


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3つの戦いの開幕

フロンティアの封印が解け、浮上した光景は世界中のテレビで中継されている。フロンティアの上空を飛んでいたテレビ局のヘリがフロンティアを撮影していたが、そのヘリも米国の艦隊と同じように押しつぶされて爆発を起こした。そんな状況下、二課の潜水艦はフロンティアが浮上したことにより、打ち上げられている。

 

「下からいいものをもらったみたいだ!」

 

海恋を含めたオペレーターたちは揺れの計測を確認している。

 

「計測結果出ました!」

 

「直下からの近く上昇は、奴らが月にアンカーを打ち込むことで・・・」

 

「フロンティアを引き上げた!!?」

 

揺れの原因がフロンティアが引き上げられた結果によるものだと判明する。

 

「それだけじゃありません!事態は思ってた以上に最悪な状況です!」

 

海恋はフロンティアが浮上したことにより、新たな問題が発生したことを告げる。その問題とは、以前にも話していた月の落下のことだ。

 

~♪~

 

月の落下を阻止することこそが、マリアたちの目的だ。しかし今は・・・その目的とは大きくかけ離れてしまった。

 

「行き掛けの駄賃に月を引き寄せちゃいましたよ」

 

そう、発生した問題というのは、ウェルが月を引き寄せ、月の落下が速まってしまったのだ。当のウェルは悪びれた様子は一切ない。

 

「月を・・・⁉落下を速めたのか⁉救済の準備は何もできていない!!このままでは本当に、人類は絶滅してしまう!!」

 

マリアはウェルをどけさせてフロンティアを操作する球体に触れてコントロールしようとする。だが球体は光を失い、マリアの操作を一切受け付けない。

 

「どうして⁉どうして私の操作は受け付けないの!!?」

 

「いひひひ・・・LiNKERが作用している限り、制御権は僕にあるのです」

 

つまり、現在でフロンティアを思うがままに操ることができるのは、ネフィリムの腕を手に入れたウェル以外にいないということだ。

 

「人類は絶滅なんてしませんよ。僕が生きている限りはね。これが僕の提唱する、1番確実な人類の救済方法です」

 

「そんなことのために、私は悪を背負ってきたわけではない!!」

 

もはや横暴といえるウェルの救済にマリアは異を唱えてウェルに詰め寄ろうとした。しかしウェルはネフィリムの腕でマリアを払いのけた。

 

「ここで僕を手をかけても、地球の余命が後僅かなのは変わらない事実だろう?お前はフォルテがいないとダメな女だなぁ!フィーネを気取ってた頃でも思い出してぇ、そこで恥ずかしさで悶えてな」

 

「セレナ・・・セレナ・・・私・・・!」

 

マリアは己の無力さを嘆き、すすり泣いている。

 

「気が済むまで泣いてなさい。帰ったらぁ、わずかに残った地球人類をどう増やしていくか。一緒に考えましょう」

 

ウェルはマリアを見下してそう言い放ち、ブリッジを後にした。

 

~♪~

 

二課の潜水艦にて、翼と日和は戦闘の準備を行っている。現状で戦える装者はこの2人だけだから。翼はライダースーツを着込んでおり、日和は頬を強めに叩いて気合を入れている。

 

「翼、日和君、行けるか?」

 

「無論です」

 

「バッチコイです!」

 

「翼さん、日和さん・・・」

 

これから戦地へと赴く翼と日和に響は呼び止める。その表情もどこか不安そうだ。

 

「案ずるな、立花」

 

「全部終わらせてくるからさ・・・心配しないでね」

 

翼と日和は響を安心させるようにそう言って、ブリッジから出ていった。だが響は今も不安そうにしている。自分もガングニールを纏うことができたらと、そう考えてしまう。

 

~♪~

 

潜水艦のハッチが開き、翼はバイクに乗り、そこに日和を後ろに乗せて出撃経路を走り、フロンティアの大地に向かって飛び立つ。

 

Imyuteus amenohabakiri tron……

 

clear skies nyoikinkobou tron……

 

バイクに乗る翼と日和はシンフォギアを身に纏い、向かってくるノイズの群れに突進する。翼は両足のブレードを車体前方に展開させ、バイクを走らせながらノイズを切り刻んでいく。

 

【騎刃ノ一閃】

 

バイクに乗りつつノイズを蹴散らす翼に掴まりながら日和は右手首のユニットから棍を取り出し、ヌンチャクに形を変えてノイズに振るって次々と蹴散らしていく。

 

「・・・!!翼さん!!飛んでください!!」

 

何かの音を聞いた日和は翼にそう言ってバイクから飛び降りる。日和の指示を聞いた翼もバイクを放棄して飛び降りる。その瞬間、赤黒い斬撃波が飛んできて、バイクを真っ二つに切り裂いた。切り裂かれたことにより、バイクは爆発する。

 

「真なる平和の道が・・・崩れ始めている・・・。なんとしてでも軌道修正しなければいけない」

 

翼と日和は声のした方角に視線を向ける。赤黒い斬撃波を放った人物など、自分たちが知る中ではたった1人しかいない。

 

「だがそれは・・・君たちを排除した後でも遅くはない」

 

そう、この斬撃波を放ったのはフォルテだ。フォルテはノイズを蹴散らしながら翼と日和に近づき、そして大剣を構える。

 

「ドクターにも、君たちにも・・・誰にも真なる平和の実現の邪魔はさせない」

 

フォルテは明確な殺気を翼と日和に向ける。殺気に当てられた翼と日和は冷や汗をかく。

 

「くっ・・・!奴め・・・私たちを始末しにかかってきたか!」

 

翼はフォルテを迎え撃とうと刀を構える。すると日和がそんな翼を棍で止めた。その様子にフォルテは疑問符を浮かべる。

 

「翼さん。ここは私にやらせてください」

 

なんと日和はたった1人でフォルテと戦おうという意志を示した。

 

「何を言っている⁉奴は4人がかりでやっと互角となる相手だぞ⁉」

 

「それでもです!!!」

 

翼は1人で戦うことを拒んだが、日和の決意は揺るがなかった。翼はそんな日和の決断に驚きを隠せなかった。

 

「この人は・・・私がやらないといけないんです!!調ちゃんとも・・・約束しましたから!!」

 

日和がそこまで言い放つには、何かわけがあるのだと悟った。

 

「勝算はあるのか?」

 

「思い付きを数字で語れるものかよ!!」

 

使いどころを間違ってる気がするが、日和もかつて弦十郎が言い放った言葉を使った。その言葉に、日和も弦十郎の弟子だなとつくづく思う。

 

「・・・ならば、この場をお前に任せる。だが、決して無理はするな。危険だと感じたらすぐに撤退するんだ」

 

「翼さん・・・ありがとうございます!」

 

翼はこの場を日和に任せ、先へ進もうと移動を開始する。

 

「行かせるものか」

 

話を聞いていたフォルテはそうはさせまいと翼の行く手を阻もうとする。日和は棍を構えて、腰部のブースターを起動させ、弾丸のようなスピードでフォルテに突進する。

 

【電光石火】

 

「ぐっ・・・!」

 

日和の素早さに対応が遅れたフォルテは棍の打撃を受けて吹っ飛ぶ。フォルテは大剣を双剣にし、地面に片方の剣を刺して勢いをとどめる。日和は追撃として棍をフォルテに振るうが、フォルテはもう片方の剣で凌ぐ。翼が先に行ってしまったのを見たフォルテは日和に視線を戻し、払いのける。日和を払いのけたフォルテは双剣を大剣に戻し、構える。

 

「・・・どうやらよほど先に死にたいらしいな」

 

「・・・フォルテさん。あなたは暴走する響ちゃんを助けてくれました。何とか穏便に済ませることはできないのですか?」

 

ガングニールによって暴走する響を共に止めたことを覚えている日和は何とか話し合いを設けようと試みる。だがフォルテはそれに応じる気はない。

 

「あれはこちらの落ち度があっただけだ。だが今は、君たちを見逃す理由がない」

 

「月が落ちてくるんですよ!!?今はそんなことを言ってる場合じゃないですよ!!」

 

「くどい。僕は言ったはずだ・・・次に会う時は君たちを殺す時だと」

 

意見を曲げようとしないフォルテに、戦いはどうしても避けられないと悟った日和は棍を構える。

 

「なら私はどんなことをしてもあなたを止めてみせます。調ちゃんにそう約束しましたから!」

 

「僕は誓った。真なる平和を実現させると。邪魔をする者は全員排除する!」

 

日和はフォルテを止めるために、フォルテは真なる平和を実現させるために。互いに譲れない想いを胸に、日和とフォルテの戦いは始まった。

 

~♪~

 

翼がフロンティアの先へと進んでいき、日和とフォルテが戦い始めたところを二課のモニターで捉えていた。

 

「日和がフォルテさんと交戦を開始しました!」

 

「フォルテさんはとてつもなく強い・・・さらに先へ進んでいるのは翼さん1人だけ・・・この先、どう立ち回れば・・・」

 

強敵のフォルテによる足止め、さらに動ける装者は翼だけ。立ち回りが困難な状況をどう対処すればいいか、緒川は考える。そんな中で響は弦十郎たちに進言する。

 

「シンフォギア装者はまだいます」

 

「ギアのない響君を戦わせるつもりはないからな」

 

「いえ。戦うのは、私じゃありません」

 

「響・・・」

 

この状況下で戦うことができるシンフォギア装者・・・それは、たった1人しかいない。

 

~♪~

 

独房にいた調は緒川に連れられてブリッジにやってきた。その理由は、調に出撃を要請するためだ。そう、響の言う戦えるシンフォギア装者とは、調のことだ。緒川は調にかけてあった電子式の手錠を外す。

 

「捕虜に出撃要請って・・・どこまで本気なの?」

 

「もちろん全部!」

 

さも当然のように言う響の答えに調は訝し気な表情をしている。

 

「あなたのそういうところ、好きじゃない。正しさを振りかざす、偽善者のあなたが」

 

調の発言に響は困ったような表情を浮かべながら話す。

 

「私、自分のやってることが正しいだなんて、思ってないよ・・・。以前、大きな怪我をした時、家族が喜んでくれると思ってリハビリを頑張ったんだけどね。私が家に帰ってから、お母さんもおばあちゃんもずっと暗い顔ばかりしてた・・・。それでも私は、自分の気持ちだけは偽りたくない。偽ってしまったら、誰とも手を繋げなくなる」

 

響は自分の気持ちを信じてもらおうと、調に自身の過去を話した。響の過去を知って調は少し揺らいだが、それでも信じ切れていない。

 

「手を繋ぐ・・・そんなこと本気で・・・」

 

調が言葉を紡ごうとした時、響が調の手を握ってきた。

 

「だから調ちゃんにも、やりたい事をやり遂げとほしい。もし私たちと同じ目的なら、力を貸してほしいんだ」

 

「私の・・・やりたいこと・・・」

 

響の言葉を聞いて、調は日和と戦っているフォルテを見つめる。調のやりたいことは、仲間たちを止めること・・・仲間たちと共に、笑って過ごしたいことだ。

 

「やりたいことは、暴走する仲間を止めること・・・でしたよね」

 

緒川にそれを言われ、調は響の手を振りほどき、そっぽを向けて言う。

 

「・・・みんなを助けるためなら・・・手伝ってもいい・・・」

 

調が協力してくれるようになって、響と未来は笑みを浮かべる。海恋も作業をしつつ、笑みを浮かべている。

 

「だけど信じるの?敵だったのよ?」

 

「敵とか味方とかいう前に、子供のやりたいことをさせてやれない大人なんて、カッコ悪くてかなわないんだよ」

 

「師匠~!」

 

弦十郎は預かっていた調のシンフォギアのネックレスを彼女に返却する。

 

「こいつは、可能性だ」

 

ネックレスを受け取った調は流れかけた涙を拭う。

 

「相変わらずなのね・・・」

 

「甘いのはわかってる、性分だ。・・・うん?」

 

調の言葉に弦十郎は違和感を覚える。調と弦十郎は初対面なのだ。相変わらずなんて言葉など出てくるはずがないのだ。

 

「ハッチまで案内してあげる!急ごう!」

 

響が調をハッチまで案内しに行ったことにより、違和感はうやむやになってしまう。弦十郎は気を取り直してモニターでの翼の様子、日和の戦いの様子を見守る。別のモニターではちょうど調がシンフォギアを身に纏い、出撃した様子が映し出される。だがそれを見て、弦十郎は驚愕する。なぜなら・・・鋸を車輪のように展開して移動する調に掴まる形で響も乗っていたからだ。

 

「響⁉」

 

「何をやっている!!?響君を戦わせるつもりはないと言ったはずだ!!」

 

『戦いじゃありません!人助けです!』

 

弦十郎の問いかけに響は通信越しで当然のように言ってのけた。

 

「減らず口の上手い映画など、見せた覚えはないぞ!!」

 

「行かせてあげてください!」

 

そこに未来が響の背中を押すように、割って入ってきた。

 

「人助けは、1番響らしい事ですから!」

 

未来の言葉に弦十郎は呆れたように頭をかく。

 

「弦十郎さん、子供のやりたいことをさせてやれない大人なんて、カッコ悪いんじゃなかったんでしたっけ?」

 

「・・・こういう無理無茶無謀は、本来俺の役目だったはずなんだがな・・・」

 

笑みを浮かべながら放つ海恋の言葉に弦十郎は1本取られたかのように笑ってそう言った。

 

「弦十郎さんも?」

 

「帰ったらお灸ですか?」

 

「特大のをくれてやる!だから俺たちは・・・」

 

「バックアップは任せてください!」

 

「私達のやれる事でサポートします!」

 

藤尭も友里もやる気を見せ、響をバックアップする。

 

「子供ばかりに、いい格好させてたまるか!」

 

弦十郎は腕を組んでそう宣言した。

 

~♪~

 

フォルテの相手を日和に任せ、ノイズを殲滅しながら進む翼の元に弦十郎からの通信が入る。内容はやはり、響が調と共に戦場に突入したことだ。

 

「立花があの装者と一緒にですか?」

 

響が調と共に出撃したことを知り、多少は驚いている翼。

 

(想像の斜め上すぎる・・・)

 

だがそれも響らしいと思い、翼は笑みを浮かべている。

 

「了解です。直ちに合流します」

 

翼はそう言って気持ちを切り替えて、通信を切る。

 

「・・・ノイズを深追いしすぎたか・・・」

 

翼が行動に移そうとしたその瞬間、上空より大量の矢が降り注いだ。寸前でそれを感じ取った翼はとっさに矢を躱した。

 

「どうやら誘い出されたようだな」

 

矢の遠距離攻撃を行える人物など、たった1人しかいない。

 

「そろそろだと思っていたぞ、雪音」

 

矢を放ったクリスはボウガンを腕の装甲に変形させ、翼を崖上から見下ろしていた。

 

~♪~

 

一方の調と響はフロンティアの中枢区に向かって移動している。

 

「あそこにみんなが?」

 

「わからない・・・だけど・・・そんな気がする・・・」

 

「気がするって・・・」

 

中枢に向かっていた調は急に車輪として展開していた鋸をしまい、立ち止まる。

 

「どうしたの⁉」

 

響がフロンティアの建造物を見上げる。その建造物の上で、切歌が待ち構えていた。

 

「切歌ちゃん⁉」

 

Zeios Igalima Raizen Tron……

 

切歌は詠唱を唄ってシンフォギアを身に纏い、鎌の柄を回転させて刃を展開させて構える。

 

「切ちゃん!!」

 

「調!どうしてもデスか⁉」

 

「ドクターのやり方では、何も残らない!」

 

「ドクターのやり方でないと何も残せないデス!間に合わないデス!!」

 

切歌の言葉にはどこか焦りのようなものが感じられる。今や本来の目的とはかけ離れているのは切歌もわかっているはずだ。だがそれでももう後には引けない・・・必ず成さねばならない・・・自分が自分でいられるうちに。フィーネに塗りつぶされる前に。切歌にはその思いでいっぱいになっている。

 

「2人とも!!落ち着いて話し合おうよ!!」

 

「「戦場で何をバカなことを!!」」

 

響は話し合うように2人に訴えたが、いつぞやに翼とクリスに言われたことを今度は2人に返された。

 

「あなたは先に行って。あなたならきっと、マリアを止められる。手をつないでくれる」

 

「調ちゃん・・・」

 

「私とギアを繋ぐLiNKERだって、限りがある。だから行って!」

 

調は響に顔を向ける。この時の調の瞳は、フィーネと同じ金色になっていた。

 

「胸の歌を、信じなさい・・・」

 

調の言葉を聞いて、自分たちに向けてその言葉を放ったフィーネの姿が思い浮かぶ。どうして今になって思い出したかわからないが、響は調の言葉に頷き、先へと進んでいく。

 

「させるもんかデス!!」

 

切歌が響を止めようとするが、その前に調が複数の丸鋸を切歌に放って止める。切歌は鎌を回転させて丸鋸を破壊する。

 

「調!!なんであいつを!!?あいつは調が嫌った、偽善者じゃないデスか!!?」

 

「でもあいつは、自分を偽って動いてるんじゃない。動きたいときに動くあいつが、眩しくて羨ましくて、少しだけ信じてみたい・・・」

 

「さいデスか・・・。でも、あたしだって引き下がれないんデス!あたしがあたしでいられるうちに、何かを形で残したいんデス!」

 

「切ちゃんでいられるうちに・・・?」

 

切歌の言っている意味が理解できず、調は疑問符を浮かべている。

 

「調やマリア、フォルテにマムが暮らす世界に、あたしがここにいたっていう証を残したいんデス!!」

 

「それが理由?」

 

「これが理由デス・・・!」

 

調はツインテールの部位より、巨大な丸鋸を展開し、脚部の小型鋸を展開させる。切歌も鎌を構え、刃を3つに展開させた。互いに対峙しあい、先に動いたのは切歌だ。切歌は鎌を振るって、3つの刃を調に向けて放った。

 

【切・呪りeッTぉ】

 

迫りくる3つの刃に調は展開した巨大丸鋸を刃に向けて放った。

 

【γ式・卍火車】

 

2つの丸鋸と3つの鎌の刃は衝突し、相殺する。切歌は鎌を構えてブースターを使い、調に接近する。それに対抗するために調は展開したアームをさらに展開し、4本となったアームに4つの丸鋸を展開させる。

 

【裏γ式・滅多卍切】

 

切歌の鎌の一撃を調は巨大丸鋸で防ぐ。地に着地した切歌に追撃として調は丸鋸のアームを伸ばして追撃していく。繰り出される連撃に切歌はバク転で回避する。

 

「この胸に!」

 

「ぶつかる理由が!」

 

「「あるのならーーー!!」」

 

切歌は鎌をもう1本取り出し、調の4つのアームに対抗する。2人の戦況は均衡している。

 

~♪~

 

一方の翼はクリスと対峙し、戦いを繰り広げている。翼が振るう刀をクリスは拳銃で受け止め、もう片方の拳銃で翼に連射する。

 

「はっ!」

 

連射する弾を翼は刀で弾き、追撃する。クリスは刀の斬撃をバク宙で回避し、二丁拳銃を撃ち放つ。翼は弾を弾きながら躱し、刀を振るう。クリスは躱しながら拳銃を連射していき、最後の一撃は二丁拳銃で防御する。クリスは翼と距離を取りつつ、弾のリロードを行う。

 

「はあああっ!」

 

翼は脚部のブースターを利用しながらクリスの弾丸を躱しつつクリスとの距離を詰め、斬撃を放つ。斬撃を躱しながら拳銃を連射する。着地する瞬間を狙って翼は刀を振るったが、それも回避される。クリスは銃撃で反撃し、翼は弾丸を躱す。水辺に着地する翼は刀を構え、クリスは銃を翼に向ける。激戦はこちらも続いている。

 

~♪~

 

さらに別の場所で繰り広げられてる日和とフォルテの戦い。日和は棍を振るってフォルテに連撃を放つ。フォルテはその連撃を見切って全て躱していく。一旦距離を取ったフォルテは大剣を構え、日和に近づいて大剣を振るった。日和は棍で防御するも、一撃が重く、吹っ飛ばされる。

 

「ぐっ・・・!」

 

さらにフォルテは大剣を銃のように変形させ、エネルギーを溜め込み、日和に向けてエネルギー弾を放った。

 

【Mammon Of Greed】

 

ドカアアアン!!

 

「ああああ!!」

 

エネルギー弾は日和に直撃するタイミングで爆発した。爆発でさらに吹っ飛ばされる日和は地に倒れる。

 

「以前より力が増したようだが、未だ未熟。その程度では僕には勝てない」

 

「・・・フォルテさん。あなたがそうまでして真なる平和を願うのは・・・セレナちゃんのためですか?」

 

日和がセレナの名を口にした時、フォルテは驚いたように目を見開かせる。

 

「何故君がセレナの名を知っている?月読から聞いたのか?」

 

「・・・やっぱりそうなんですね・・・」

 

フォルテの反応を見て、日和はフォルテの考えが完全に理解できた。日和がセレナを知っているのは、当然調から聞いたからである。

 

「誰かのために願いを実現させるのは立派だと思います。でもそれは・・・人を・・・自分も殺してまで成さなきゃいけないことなんですか!!?」

 

日和の問いかけにフォルテは驚きつつも、さも当然のように真なる平和について語る。

 

「・・・真なる平和とは、世界のあるべき秩序だ。誰も争わない、誰も憎しみ合わない・・・穏やかで、平穏なる世界だ。そこに血に染まった連中など、僕を含め不要だ。争いの種を全て排除したその時こそ、セレナが願った世界が誕生する。僕は、その時にまで生かされているにすぎない」

 

つまり真なる平和とは、この世に存在する戦争や犯罪・・・その全てが除去され、正しい心を持った人間たちだけで構成された、実にシンプルな内容だ。フォルテはフロンティアこそそれを成すことが可能と本気で信じており、それが達成されれば・・・自分の命をも絶つつもりなのだ。

 

「・・・フォルテさん。ハッキリ言います。そんなことしたって、セレナちゃんは喜ばない!!!」

 

日和は大声を出してフォルテの考えを否定する。日和の言葉にフォルテはセレナの思いを侮辱したと捉え、眉をひそめる。

 

「・・・では、君はそう言い切れるほどに、セレナの何を知っているのだ?」

 

「何も知りません!!確かに私はセレナちゃんのことは何も知らない!!だけど、フォルテさんを守りたいって思う気持ちだけはわかる!!それを・・・フォルテさんに気づいてもらいます!!」

 

「・・・戯言を。セレナを侮辱したその罪、万死に値する」

 

日和はセレナの本当の気持ちを知ってもらうために、棍を構え直して態勢を立て直す。フォルテは日和を完全に敵視し、日和だけは必ず殺すという気持ちで大剣を構える。そんな2人の様子をウェルは遠くで望遠鏡で眺め、ソロモンの杖を持って下卑た笑い声をあげている。

 

~♪~

 

フロンティアのブリッジでマリアは繰り広げられている戦いをモニターで確認していた。その中で、調と切歌が戦っているという事実を信じられずにいる。

 

「どうして・・・仲の良かった調と切歌までが・・・!私の選択は・・・こんなものを見たいがためではなかったのに・・・!!」

 

自分の下した選択が間違ってしまったばかりに・・・そう思い後悔と己の無力さに涙を流すマリア。そこに、ナスターシャの通信が入る。

 

『マリア』

 

「!マム⁉」

 

『今、あなた1人ですね?フロンティアの情報を解析して、月の落下を止められるかもしれない手立てを見つけました』

 

「え・・・?」

 

『最後に残された希望・・・それには、あなたの歌が必要です』

 

「私の・・・歌・・・」

 

月を止められる手段がマリアの歌にある。それを聞いてマリアは目を見開かせて驚愕する。

 

~♪~

 

切歌の相手を調に任せた響は急ぎ、フロンティアの中枢へと向かっている。己の胸の歌を信じて。

 

「胸の歌が・・・ある限りぃいいいい!!」

 

この戦いを終わらせるための戦いは、既に幕を開けているのだ。




東雲日和の楽曲

生きる道しるべ

ノイズの恐怖を克服し、これまでの戦いや経験を振り返り、自分の思いを込めた聞いた人に勇気を与える歌。自分の価値観を押し付けるのではなく、生きるという当たり前のことがどう幸せに繋がるのかを、自分で考えさせ、幸せになってもらいたいという願いも込められている。


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絶刀と魔弓、鏖鋸と獄鎌、妖棍と怨樹

翼とクリスの戦いは激しさを増している。クリスは翼に向けて銃弾を放つ。翼は刀を大剣にし、弾丸を弾き、間髪入れずに蒼ノ一閃をクリスに放つ。クリスは蒼ノ一閃の一撃を飛んで躱し、さらに銃弾を叩き込む。翼は冷静に大剣を盾として使い、弾丸を防ぐ。

 

「何故弓を引く!雪音!!」

 

翼は大剣を刀に戻して、クリスに問いかけるが、彼女は何も答えない。

 

「その沈黙を、私は答えと受け取らねばならないのか!」

 

クリスは目を見開き、翼に接近する。翼は近づいてきたクリスに刀を振るい、斬撃を放つが、クリスは直前で飛んで回避し、弾丸を撃ち放つ。地に着地し、さらに弾丸を撃つ。翼は弾丸を全て躱し、クリスに刀を振り下ろす。クリスはその一撃を拳銃で受け止める。

 

「何を求めて手を伸ばしている!」

 

鍔迫り合いが崩れ、クリスはもう1つの拳銃で銃弾を撃ち放ち、翼はこれを回避する。さらに翼は身体を回転させ、再び刀を振り下ろす。クリスはその一撃を二丁拳銃で防ぎ、弾き返して拳銃を向ける。

 

「あたしの十字架を!他の誰かに負わすわけにはいかねえだろ!!」

 

「何・・・?・・・!!?」

 

翼はクリスの首に何やらチョーカーが着けられているのに気が付いた。チカチカと不穏気に点滅しているということは爆弾なのだろう。翼がそれに気を取られた瞬間にクリスは発砲する。翼は刀で防ぐが、力が込められておらず、後方に吹き飛ばされてしまった。

 

~♪~

 

一方の日和とフォルテの戦いは経験の差が大きく出ている。フォルテは大剣を分離し、双剣として扱い、日和に連撃を繰り出していく。日和は連撃を棍で何とか凌いでいくが、全てを防ぎきることはできず、至る所に傷ができる。日和は負けじと棍を振るって応戦するが、フォルテは飛んで躱し、逆に日和の棍の上に乗り、剣を振るおうとする。日和はフォルテを振り払おうと棍を振るう。フォルテはそれを想定に入れ、これも飛んで躱し、そして日和の顔に蹴りを入れて吹き飛ばす。吹き飛ばされた日和は一回転して地に着地する。

 

「フォルテさん!あなたは間違ってます!!」

 

「正しいか否かの問題ではない。重要なのは真なる平和を実現できるかどうかだ。セレナが望むは平和・・・争いのない世界だ!そのための手段など、選んでなどいられないのだ!」

 

フォルテは大剣を銃に変形させ、日和に向かってMammon Of Greedをマシンガンのように放つ。放たれたエネルギー弾を日和は走って避けつつ、棍をフォルテに向けて投擲する。棍は爆発したが、フォルテは爆発する前に即座に回転して躱していて無傷だ。

 

「手段の話じゃないんです!!本当にこんなことを、セレナちゃんが頼んだんですか!!?」

 

「!!」

 

「そうじゃないでしょ!!平和は人によって感じ方が違う!!その真なる平和はフォルテさんの平和であって、セレナちゃんの望む平和じゃない!!」

 

日和は右手首のユニットを回転して、新たな棍を取り出し、フォルテの頭目掛けて振るった。フォルテは双剣でその棍の一撃を受け止める。

 

「あるいはそうかもしれない。しかし平和は保証される。戦の種をなくすことでな。ならば僕はセレナのため、この命を捧げ、平和を確定のものとする!それこそが、僕に与えられた彼女への唯一の贖罪だ!」

 

フォルテは双剣で棍を払いのけ、日和に向けて右手の剣を振るう。襲い来る剣を日和は左手首のユニットより棍を一部射出し、それで剣を防ぐ。

 

「だからそうじゃないって言ってるでしょ!!フォルテさんのわからずや!!」

 

日和は左手を振るって剣を押しのける。そして射出した棍をユニットに引っ込めさせ、持っていた棍で横一閃に払う。フォルテは左手の剣で棍を防ぎきる。

 

~♪~

 

一方で調と切歌の戦いは均衡しあっている。お互いの戦い方をお互いが1番理解しているがために、どう攻撃してくるかもわかっているのだ。互角に戦えている理由がそれだ。

 

「切ちゃんが切ちゃんのままでいられるうちにって、どういうこと?」

 

ここで調が切歌の言葉の意味を問いかける。

 

「あたしの中に・・・フィーネの魂が覚醒しそうなんデス」

 

切歌の言葉に調は驚愕している。切歌は今も鮮明に覚えている。工事跡地で大量の鉄パイプが落ちてきて、謎の障壁で防いだ時のことを。

 

「施設に集められたレセプターチルドレンだもの・・・こうなる可能性はあったデス!」

 

「だとしたら、私はなおのこと切ちゃんを止めてみせる」

 

「⁉」

 

「これ以上塗り潰されないように、大好きな切ちゃんを守る為に!」

 

調は切歌を止める思いをより強くし、アームの丸鋸の回転をさらに速くさせる。切歌も鎌の先端を調に突きつける。

 

「大好きとか言うな!!あたしの方がずっと、調が大好きデス!!だから、大好きな人達がいる世界を守るんデス!!」

 

「切ちゃん・・・!」

 

2つのアームの丸鋸がプロペラに変形し、調の頭上と足元に移動することで、彼女の体を宙に浮かせた。

 

【緊急φ式・双月カルマ】

 

「調・・・!」

 

切歌も肩の左右のアームが変形し、左右に2つ、合計4つのアームに刃を展開させる。

 

【封伐・PィNo奇ぉ】

 

「「大好きだってぇ・・・言ってるでしょおおおおおお!!!」」

 

鋸と鎌の壮絶な火花の散らし合いが繰り広げられている。

 

~♪~

 

二課の潜水艦のハッチ、弦十郎と緒川は敵対する装者は3人の装者に任せ、自分たちはウェルを捕獲するために行動を開始し、ジープに乗り込む。

 

「世話のかかる弟子のおかげでこれだ」

 

「きっかけを作ってくれたと、素直に喜ぶべきでは?」

 

ハンドルを握る緒川の言葉に腕を組む弦十郎はふっと笑みを浮かべる。すると、指令室より通信が届いた。

 

『指令!』

 

「なんだ!」

 

『出撃の前に、これをご覧ください!』

 

取り出した二課のタブレットに、フロンティアのブリッジにいるマリアの映像が映しだされた。

 

『私は、マリア・カデンツァヴナ・イヴ。月の落下がもたらす災厄を最小限に抑えるため、フィーネの名を語った者だ』

 

マリアはこの映像を世界に中継し、真実を語っていく。

 

『フロンティアから発信されている映像情報です。世界各地に中継されています』

 

『こんな時にF.I.Sは何を狙っているのでしょうか・・・?』

 

「・・・・・・」

 

通信越しで海恋の疑問の声が聞こえてきた。弦十郎は静かに映像を見つめ、悩むように眉をひそめた。

 

~♪~

 

時は、ナスターシャが通信越しでマリアに月の落下を阻止する情報を伝えるところまで遡る。マリアは自分の歌が月を止められる鍵だということに驚く。

 

「月を・・・私の歌で・・・?」

 

『月は、地球人類より相互理解をはく奪するため、カストディアンが設置した監視装置・・・。ルナアタックで一部不全となった月機能を再起動できれば、公転軌道上に修正可能です。・・・うっ!ごほぉっ!!」

 

ナスターシャは発作によって大量の血を吐きだした。それは音声のみでもわかるもので、もはや猶予がないのは明らかだ。

 

「マムっ⁉マム!!」

 

『・・・あなたの歌で、世界を救いなさい・・・!』

 

ナスターシャはかすれた声を出して、人類の未来を託した。

 

~♪~

 

そして現在に至る。マリアは中継を使って全世界の人間に自分の思いを伝える。

 

「全てを偽ってきた私の言葉が、どれほど届くか自信はない。だが、歌が力になるという真実だけは、信じてほしい!」

 

マリアは目を閉じて、詠唱を唄う。

 

Granzizel Bilfen Gungnir Zizzl……

 

漆黒のガングニールを身に纏い、マリアは全人類に告げる。

 

「私1人の力では、落下する月を受け止めきれない・・・だから貸してほしい!皆の歌を、届けてほしい!!」

 

この星の人類を救いたい・・・その強い思いを込め、マリアは歌う。

 

(セレナが助けてくれた私の命で、誰かの命を救って見せる。それだけが、セレナの死に報いられる!!)

 

マリアの歌に共鳴するように、ガングニールが赤く輝き始めた。

 

~♪~

 

世界を救おうとするマリアの歌が始まった時、二課の潜水艦のハッチが開く。

 

「緒川!」

 

「わかっています!この映像の発信源を辿ります!」

 

緒川はアクセルを強く踏み、ジープを発車して映像の発信源へと、向かっていく。

 

~♪~

 

響はマリアのいるブリッジに向かうため、フロンティアの中枢へと汗水たらして走っている。

 

(誰かが頑張っている・・・!私も負けられない・・・!)

 

すぐ近くで爆発が起きたが、響は目を向けず、ただただ前へと進む。

 

(進むこと以外、答えなんてあるわけがない!!)

 

マリアたちを助けるためにも、響は止まらず、前だけを見て突き進んでいく。

 

~♪~

 

一方、翼とクリスの戦いは未だなお続いている。クリスは翼に銃弾を撃ち続け、翼は全ての弾丸を刀で弾く。そこにクリスのヘッドギアからウェルの通信が聞こえる。

 

『こっちは面白いことになってますよ。わかってると思いますが、ちゃんと仕留めないと約束のおもちゃはお預けですよ』

 

ウェルのいう約束のおもちゃとは、ソロモンの杖のことである。どうやらクリスは二課の装者を仕留めることを条件にソロモンの杖を渡してもらうように取引したようだ。

 

(ソロモンの杖・・・!人だけを殺す力なんて、人が持ってちゃいけないんだ!)

 

ウェルの通信にクリスは焦りを生じさせる。そんな中でクリスのチョーカーがチカチカと点滅する。

 

(あれが雪音を従わせているのか!)

 

翼がそのチョーカーが危険なものであると勘づき、それがクリスを従わせていると理解した。

 

「犬の首輪をはめられてまで、何をなそうとしているのか⁉」

 

「汚れ仕事は、居場所のない奴がこなすってのが相場だ。違うか?」

 

クリスの言葉に、翼は小さく笑う。

 

「首根っこ引きずってでも連れ帰ってやる。お前の居場所、帰る場所に。東雲も西園寺も、お前を信じて待っている」

 

「・・・っ!」

 

翼の言葉にクリスは目を見開き、思わず顔をそむけた。

 

「お前がどんなに拒絶しようと、私はお前がやりたいことに手を貸してやる。それが、片翼では飛べぬことを知る私の・・・先輩と風を吹かせるものの果たすべき使命だ!」

 

翼は堂々とクリスと向き合い、そう宣言した。

 

(そうだったよね・・・奏・・・玲奈・・・)

 

(そうさ!だから翼のやりたいことは、あたしが、周りのみんなが助けてやる!)

 

(だから翼・・・あんたは堂々と胸を張っていいんだ!)

 

翼の心の中に、自分と共に戦い、道しるべとなってくれた奏と玲奈が映る。

 

「その仕上がりで偉そうなことを!!」

 

クリスは目に涙を溜め込み、叫んだ。すると、またもウェルからの通信が入る。

 

『戻ってくるまでにやっちゃってくださいよぉ?じゃないと、その首のギアスが爆ぜちゃいますよぉ?』

 

「・・・っ!」

 

ウェルは念入りの脅しをかけた。どちらにせよ、ウェルに従わざるを得ないクリスはまっすぐに翼を見据える。

 

「・・・風鳴・・・先輩・・・」

 

「!!」

 

クリスの口から出た先輩というワードに翼は反応する。

 

「次で決める!昨日まで組み立てて来た、あたしのコンビネーションだ!!」

 

「ならばこちらも真打をくれてやる!」

 

クリスは翼に拳銃を向けて弾丸を撃ち込み、二丁拳銃をボウガンに変形させる。翼は刀を大剣に変え、弾丸を躱し、蒼ノ一閃を放つ。蒼の斬撃でクリスの左手のボウガンは破損する。だが右手のボウガンで結晶の矢を撃ち放つ。矢は小型結晶となって分裂し、翼に迫る。翼はすかさず大剣で矢を防ぐ。さらにクリスは小型のミサイルを展開し、全弾発射する。

 

【MEGA DETH PARTY】

 

「はああああ!」

 

そして翼も上空で複数の剣を出現させ、迫ってくるミサイル目掛けて放った。

 

【千ノ落涙】

 

ミサイルと剣はぶつかり合い、空中で爆ぜた。その爆炎にクリスも翼も巻き込まれていった。

 

~♪~

 

時間は遡って、日和とフォルテの戦い。フォルテは日和が放つ棍の薙ぎ払いをバク宙で回避し、着地と同時に大剣を振るって日和を吹っ飛ばす。

 

「あああ!!」

 

吹っ飛ばされた日和は地面に転がる。日和はボロボロの状態だが、フォルテにはダメージがほとんど入っていない。明らかに差が出ている戦いだ。それでも日和はまだ立ち上がる。

 

「しぶといな。が、それももう終わりだ。僕はドクターを始末し、フロンティアの権利をこちらに移し、月の落下を防ぐ。残るべく人類も厳選し、そこから真なる平和へと発展するのだ。そのためにも・・・」

 

フォルテは大剣を構え、日和に近づいて大剣を振るった。日和はその攻撃を避けることが叶わず、大剣の斬撃をくらってしまう。

 

「1番の脅威である君たちを・・・1人残らず根絶やしにする」

 

大剣の手痛い一撃をもらい、日和は吹っ飛ばされる。だがその際に、日和はフォルテを見据えた。それを見たフォルテは目を見開いた。そしてその瞬間・・・

 

ドォン!!

 

「ぐぁっ!!?」

 

日和が右手首のユニットから棍を発射して、フォルテの腹部に打撃を与える。日和はダメージに耐えつつ、一回転して地に着地する。そして日和はフォルテに反撃の隙を与えないように、彼女に接近して2つの棍をヌンチャクにして、炎を纏った連撃を繰り出す。

 

【気炎万丈】

 

「フォルテさんは何もわかってない!!何のために、セレナちゃんがあなたを生かしたのか!!全然わかってない!!」

 

日和の繰り出す連撃にフォルテは反撃する暇もなく、ただただダメージを負っていく。

 

「セレナちゃんは平和を望んでるかもしれない!でもそれ以上に!!」

 

日和は片方の炎を纏わないヌンチャクを振るって、フォルテの頭に打撃を与え、脳を揺らした。ふらついた隙を逃さず、日和は2つのヌンチャクを棍に戻して連結し、棍を回してフォルテに突風の竜巻を放った。

 

「マリアさんたちに・・・フォルテさんに、生きてほしいと願ったはずです!!」

 

【疾風怒濤】

 

「ぐっ・・・ぐああああ!!」

 

フォルテは突風に耐えようとするが、至近距離であるため勢いが凄まじく、勢いのまま上空に放たれる。

 

「私にはわかる!!誰かを守りたいっていう思いが!!誰かに生きてほしいっていう願いが!!私も、この目で見たから!!私の友達の思いを!!友達の願いを!!だからセレナちゃんの願いがわかる!!」

 

日和は棍を上空に投げ、棍はドリルに形を変えて回転を始める。日和は棍の上まで飛び、ドリルに蹴りを入れ、フォルテ目掛けて突撃する。

 

【天元突破】

 

「友達に生きてほしいという願いは、何ものにも代えがたい・・・素敵な幸せで・・・真なる平和以上の価値があるものだからぁ!!!」

 

「ああああああああああ!!!」

 

フォルテはドリルに直撃し、ドリルと共に地に直撃し、2つの激突の板挟みになった。日和は棍からドリルから離れ、ドリルは元の棍に戻り、日和の手に戻る。

 

「フォルテさんに隙が生まれるのは難しくて、ほんの一瞬。そのほんの一瞬させ突けば、後は反撃を与えないように、大技を叩き込むだけ。後はその繰り返し・・・隙が生まれるまで、持久戦との勝負。調ちゃんが考えた戦法です!」

 

日和は元気に棍を振り回し、構え直す。大きくダメージは負ってるものの、まだまだ余裕そうだ。

 

「こう見えても私、持久戦は得意です!フォルテさんにわかってもらうまで、何度だって立ち上がって見せますよ!」

 

一方のフォルテはふらふらしつつも、何とか立ち上がる。日和の大技の連発でフォルテの身体はボロボロの状態だ。これを何度も繰り出されたら、自分に勝機はない・・・ゆえに持久戦はこの場において不利・・・彼女はそう察している。

 

「・・・僕に生きてもらいたい・・・それがセレナの願い・・・だと?」

 

「思い出してください。セレナちゃんが・・・どんな子だったのかを」

 

「・・・っ!」

 

日和に言われ、フォルテは迷い始めている。セレナが平和を望んでいるが、人が傷つくことを良しとしない優しい子だというのはわかっている。自分はそれとは真逆の行動をしている。日和の言葉でこれまでの自分を振り返り、後ろめたさを初めて抱いた。だが・・・そうでもしないと平和は実現できないとフォルテは割り切る。

 

「・・・例えそれが願いでも・・・僕たちはもう後には引けない!!後戻りなどできないのだ!!」

 

フォルテはそう叫び、大剣を地面に突き刺した。そして・・・自身の覚悟を解き放つ。

 

Gatrandis babel ziggurat edenal

 

「!!まさか・・・絶唱!」

 

Emustolronzen fine el baral zizzl……

 

そう、フォルテが今歌っているのは絶唱・・・それも、LiNKERの過剰投与をせずにだ。目的のために自分の命すらも顧みない・・・フォルテの覚悟がこの絶唱に込められている。

 

Gatrandis babel ziggurat edenal

 

「フォルテさん!!やめてください!!それじゃあ、セレナちゃんが悲しみます!!」

 

Emustolronzen fine el zizzl……

 

絶唱を歌いきると、フォルテは地に刺した大剣を抜いて構える。すると、フォルテの大剣は形を変えていく。

 

「ミスティルテインの絶唱はあらゆる生命を吸い取り、力に変える。数多の命から得た力の前に、何人たりとも、死を免れはしない」

 

大剣は黒く変色し、刀身も禍々しく鋭く変化する。そして、刀身より赤いエネルギーが帯び、フロンティアの大地の自然の命を吸い取っていく。生命を吸い取られた植物は枯れ果てていく。命を奪う絶唱・・・まさに魔剣と呼ぶにふさわしい力だ。そしてそれは、人間も対象で、日和は生命力が奪われ、力が抜けていく。

 

「うぅ・・・力が抜けていく・・・どうすれば・・・。・・・あっ!」

 

日和は何かを思い出し、武装の中から何かを取り出した。それは、ガンタイプの注射器だ。中に入ってあるのはLiNKERだ。これは、調から託されたものだ。日和は調の言葉とウェルの言葉を思い出す。

 

『いざという時に使って。そのLiNKERが・・・フォルテの命を繋いでくれるはず』

 

『適合係数がてっぺんに届くほど、ギアからのバックファイアを軽減出来ることは過去の臨床データが実証済み!!』

 

(・・・あんな状態じゃあもうこれはフォルテさんに使えない・・・。でも・・・適合係数?が高い私が使ったらどうなるの?)

 

日和は今とんでもないことを考えている。LiNKERという劇薬。それを適合係数が高い日和自身が使うというのだ。もちろん適合係数は今より上がるだろうが、何が起こるかなど未知数だ。

 

「・・・ええい!!今は副作用なんてどうだっていい!!一か八か・・・これに賭ける!!」

 

日和は副作用や後のことを顧みず、思い切ってガンタイプの注射器を首に当て、LiNKERを注射した。そして、超えた適語係数をどうにかするため、フォルテを止めるために、すぐに行動は始まった。

 

Gatrandis babel ziggurat edenal

 

Emustolronzen fine el baral zizzl……

 

日和がとった行動とは、絶唱を唄うことだ。ウェルの言うことが正しいならば、適合係数を越えた今ならバックファイアを軽減し、ダメージを負うことはなくなる。そして絶唱同士でぶつかり合うことで、相殺し、フォルテのバックファイアが防げるのではと考える。そんな保障は全くない。しかし今はこれに賭けたい・・・少しでも可能性があるのなら。

 

Gatrandis babel ziggurat edenal

 

Emustolronzen fine el zizzl……

 

絶唱を唄い切り、2つの棍は光だし、日和の両腕に身に纏い、巨大なガントレットに形を変える。日和はガントレットを装備した状態で拳と拳をぶつける。

 

「絶唱を放ったところで無駄だ!数多の命を喰らったミスティルテインの力は、万物を越えた!死ね!!」

 

「私は・・・死なないぃいいいいいい!!!」

 

フォルテは巨大な魔剣を日和に向けて振るい、日和は拳を振るい、魔剣を受け止める。金属同士の音が鳴り響き、大きな火花が散り、生じた光が2人を包み込む。ミスティルテインの射程範囲外で見ていたウェルはこの光景に歓喜する。

 

「いやっはーー!!願ったり叶ったりぃ・・・してやったりぃ!!」

 

ウェルのこの喜びは、日和とフォルテが絶唱によって倒れるのを確信したが故のものである。

 

~♪~

 

一方、調と切歌の戦いの均衡は続いている。調は丸鋸のアームを振るい、切歌は鎌で丸鋸を受け止め、さらに4つのアームの刃で追撃する。追撃を丸鋸で受け止めた調は丸鋸を鋭利な刃の車輪として展開する。

 

【非常Σ式・禁月輪】

 

切歌はそれを迎え撃つように、2つの鎌を重ね、高枝切りばさみのように形作る。

 

【双斬・死nデRぇラ】

 

切歌はアームを鎖のように放つ。調は鎖を躱し、車輪丸鋸を展開したまま切歌に突っ込む。切歌ははさみの鎌で車輪丸鋸を受け止める。調は技を解除し、アームより複数の丸鋸を切歌に放つ。切歌は2つの鎌を分離し、向かってきた丸鋸を次々破壊する。さらに切歌はこちらに向かってくる調に鎖を放つ。調は向かい来る鎖を次々と躱していく。鎌と鋸の刃のぶつかり合いは決め手に欠け、これではキリがない。

 

「切ちゃん・・・どうしても引けないの?」

 

「引かせたいのなら、力ずくでやってみせるといいデスよ」

 

切歌は調の足元にガンタイプの注射器を放り投げた。中に入ってあるのはLiNKERだ。

 

「LiNKER・・・!」

 

「ままならない想いは・・・力づくで押し通すしかないじゃないデスか」

 

そう言って切歌は自分の分のLiNKERを取り出し、自ら注射する。調も受け取ったLiNKERを自ら注射する。そして2人は唄いだす・・・命を燃やす歌・・・絶唱を。

 

Gatrandis babel ziggurat edenal

 

Emustolronzen fine el baral zizzl……

 

Gatrandis babel ziggurat edenal

 

Emustolronzen fine el zizzl……

 

絶唱を唄い終えた切歌の鎌は柄が伸長し、刃も身長以上の大きさへと変形していく。

 

「絶唱にて繰り出されるイガリマは、相手の魂を刈り取る刃!わからずやの調から、ほんの少し負けん気を削れば!!」

 

対する調は両手足の装甲が大きくなり、丸鋸を四肢としてロボのように変形した。

 

「わからずやなのはどっち・・・!私の望む世界は、切ちゃんもいなくちゃダメ・・・!寂しさを押し付ける世界なんて・・・ほしくないよ!」

 

切歌は大鎌のブースターで調に接近し、大鎌を振るい、調は右腕のアーマーで振り払う。

 

「あたしが、調を守るんデス!!例えフィーネの魂に、あたしが塗りつぶされることになっても!!」

 

防がれようとも、切歌は大鎌のブースターで回転して、勢いをつけて再び調を襲う。

 

「ドクターのやり方で助かる人たちも・・・大切な人を失ってしまうんだよ!!?」

 

調はアームで受け止めようとしたが、大鎌の威力が上回り、アームが砕け散る。

 

「そんな世界に残ったって、私は二度と歌えない!!」

 

「でも、それしかないです!!そうするしかないデス!!例えあたしが・・・調に嫌われてもおおおお!!」

 

切歌は叫びながら大鎌を振るい、調のもう1本のアームを粉々に砕いた。

 

「切ちゃん・・・もう戦わないで・・・!私から、大好きな切ちゃんを奪わないでええええ!!」

 

切歌が大鎌を振るおうとし、調が両手をかざしたその時だった。調の手よりフィーネの障壁が張られる。大鎌はその障壁で弾き返される。

 

「えっ・・・?」

 

「何・・・これ・・・?」

 

突如として現れたこの障壁に切歌と調は困惑する。そして切歌はすぐに、この意味が理解できた。

 

「まさか・・・調・・・デスか・・・?フィーネの器になったのは調なのに・・・あたしは調を・・・?」

 

そう・・・本当にフィーネの器となっていたのは、調であり、工場跡地で障壁を張ったのも、気を失っていた調の方だったのだ。

 

「切ちゃん・・・?」

 

「調に悲しい思いをしてほしくなかったのに・・・できたのは調を泣かすことだけデス・・・」

 

自分自身の大きな勘違いによって、大好きな親友である調を傷つけたことに、切歌は自己嫌悪を示し、涙を流す。

 

「あたし・・・本当に嫌な子だね・・・消えてなくなりたいデス・・・」

 

切歌は手を動かし、大鎌を操って宙に高く浮かせ、勢いよく回転しながら自らの元へと向かった。その意味は・・・自らの命を絶つ。

 

「ダメ!!!切ちゃん!!!」

 

その意味を理解した調は切歌に近づき、突き飛ばす。

 

ズンッ!!

 

だが・・・その代償として・・・

 

「・・・調・・・?」

 

大鎌の刃が調の背中を貫いた。

 

調ええええええええ!!!!

 

切歌の悲痛な叫びが、フロンティアの空に響いた。




ミスティルテインの絶唱

フォルテが発動した絶唱は大剣が巨大化し、刀身もより鋭く禍々しくなり、赤い剣が黒く変色する。さらに、刀身に赤いオーラを漂わせ、ミスティルテインの許容範囲内にいる植物、大地、生物とありとあらゆる生命を吸い取り、力に変換する。そして絶唱の力と吸い上げた力を解き放ち、相手に強大な一撃を放つ。この絶唱は敵味方関係なく、許容範囲内に入る全ての生命を吸い上げ、さらに絶唱でバックファイアを引き起こすため、使用は禁じ手となっている。ちなみにノイズは自立型兵器であるため、生命がない。よってノイズはミスティルテインの対象外だ。


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撃槍

次の投稿は14日と15日、もしくは15日に2つ投稿を考えています。その理由は、15日はセレナちゃんの誕生日であることと、G編ラストの回だからです。


月の落下を阻止するため、マリアは歌を歌い続ける。その歌によってフロンティアの建造物は輝いている。だがそれでも・・・月の落下を止めるには・・・まだフォニックゲインが足りない。マリアが歌い終わると同時に、フロンティアの光が消滅する。

 

『・・・月の遺跡は依然沈黙・・・』

 

無情な結果にマリアは膝と手を地につけ、項垂れる。

 

「私の歌は・・・誰の命も救えないの・・・?セレナ・・・」

 

己の情けなさを肌身に感じ、マリアは涙を流す。

 

~♪~

 

互いに絶唱を唄い、ぶつけ合った日和とフォルテ。生じた光が晴れると、状況に変化が起きていた。日和のガントレットに・・・大きなヒビがところどころできていた。フォルテはこれで勝ちだと確信した時・・・

 

バキッ!バキバキ・・・!

 

「何っ!!?」

 

フォルテの黒い大剣に大きなヒビが入っており、纏っていた赤いエネルギーが消え去っていた。フォルテもこれには動揺を隠せない。

 

「ば、バカな!数多の生命を喰らったミスティルテインが、敗れるなど・・・!」

 

驚いている中、フォルテは気が付いた。バックファイアで自分にダメージが負ってもおかしくない。なのにそれが来ないことを。そして、ミスティルテインの力が、絶唱を放つ前に戻っていることに。そこでフォルテは、如意金箍棒の絶唱の隠された能力に気が付いた。

 

「ま・・・まさか・・・如意金箍棒の伸縮自在能力・・・それは、触れた物質の力も対象だというのか!!?」

 

ガントレットが魔剣とぶつかった。それによって物質である魔剣に帯びていた力が、絶唱のバックファイアを引き起こせないほどに、小さく縮めた。それが力が弱まった原因だと気づいた。そうだと気が付かない日和はもう片方のガントレットに力を込める。

 

『さあ日和、やっちゃいな』

 

『あのわからずやに、きつい一発を!』

 

そこに、玲奈と小豆の魂が日和のガントレットに寄り添い、思いを込める。

 

「やあああああああ!!!」

 

日和は力を込めたガントレットの拳をフォルテに向けて伸ばした。フォルテはすかさず大剣でガードするも、大剣は拳によって砕かれ、フォルテは直撃をくらい、岩と板挟みになる。

 

「こ・・・こんなことが・・・!すまない・・・セレナ・・・!」

 

大きなダメージを負ったフォルテはギアが解除されたと同時に、気を失い、倒れる。

 

「フォルテさん!!!」

 

日和はすぐにガントレットを元の棍に戻し、フォルテに駆けより、彼女の体を抱き寄せ、安否を確認する。バックファイアを起こした様子もなく、呼吸も整っており、無事であるのがわかる。

 

「よかったぁ・・・」

 

フォルテが生きてると安心すると、今度は手を開いたり閉じたりして、状態を確認する。どうやらLiNKERによって、負担を抑えこみ、超えた適合係数も絶唱で元の数値に戻ったようだ。

 

「・・・不思議・・・何ともない・・・」

 

「いやはや・・・驚きましたよ・・・」

 

日和が状態を確認していると、今まで高みの見物をしていたウェルが拍手をしながら近づいてきた。日和はウェルに視線を向けると、彼の腕を見て驚愕する。

 

「ウェル博士・・・?その腕・・・」

 

「まさかあなたが生きていて、フォルテが負けるなんて想像すらしてなかった。本当に面白い結果だぁ・・・」

 

ウェルはそう言いながら懐よりソロモンの杖を取り出し、光線を放ってノイズを召喚する。

 

「今さらノイズ・・・!」

 

「おおっと!!それ以上動いたらお友達の首は木端微塵ですよぉ!!」

 

日和はすぐにノイズを殲滅しようとした時、ウェルは右ポケットから何かのスイッチを取り出す。今にも押しそうな勢いだ。

 

「お友達って・・・まさか!そのスイッチはクリスの・・・!」

 

日和はウェルの言葉でスイッチがギアスの起爆スイッチだと理解し、クリスが今爆弾を抱えていると理解する。人質を取られ、日和は動けないでいる。

 

「そこでフォルテが炭になる瞬間でも見てなさい」

 

「!!?」

 

日和はウェルの言葉に耳を疑った。ノイズも、日和には目を向けず、ギアが解除されたフォルテに向かっている。

 

「自分の仲間の命も奪うつもりなんですか!!?」

 

「シンフォギア装者は僕の統治する未来には不要!それに僕はこいつが最初から気に入らなかったんですよぉ!だから手始めにこいつを始末するとずっと決めていたのです!!そのためにあんたたちに頑張ってもらおうと思ってたのですが・・・こんな結果になるなんて面白すぎるぅ・・・!」

 

ウェルは下卑た笑みを浮かべてカミングアウトする。日和はその内容にひどい嫌悪感を覚える。

 

「サイッテー・・・!」

 

「いひひひ・・・!さあ、あんたはどっちを選ぶんです?お友達の首か、フォルテの命か・・・究極の選択ですねぇ?」

 

クリスの命とフォルテの命を天秤にかけられ、日和はどう打開すればいいのか必死に考える。だがそうしている間にも、ノイズはフォルテに迫る。

 

~♪~

 

気を失ったフォルテの意識は暗闇の中にいた。深き、深き闇の底へと沈んでいくように、フォルテは落ちていく。

 

(・・・掴めなかった・・・真なる平和を・・・。結局僕にできたことは・・・人の命を弄んだことだけ・・・。もう・・・セレナに顔向けができない・・・)

 

目的を果たすことができなかったフォルテは自己嫌悪から、このまま消えてなくなりたい・・・そう思った。

 

『フォルテ師匠(せんせい)・・・』

 

すると、暗闇の空間に一筋の光がフォルテに近づいてきた。フォルテはその光をじっと見つめ、そして目を見開き驚愕する。なぜならその光は・・・今は亡きフォルテの最愛の友、セレナ・カデンツァヴナ・イヴだったからだ。

 

『せ・・・セレナ・・・君・・・なのか・・・?』

 

『私、知ってるよ。師匠(せんせい)がどんな思いで戦ってきたのか』

 

セレナはフォルテの手を取り彼女に微笑みを見せる。

 

『ありがとう、師匠(せんせい)・・・私のために。でも・・・もういい。もういいの。私は・・・マリア姉さんやみんな・・・フォルテ師匠(せんせい)が生きていてくれるだけで・・・十分に幸せだから』

 

セレナの本当の思いを聞いて、フォルテは左目に涙を流す。

 

『セレナ・・・君は・・・僕を許すというのか・・・?君を守ることができなかった・・・血で染めすぎた僕を・・・』

 

フォルテの問いかけにセレナは優しい微笑を浮かべながら、フォルテを抱きしめた。セレナの思いを・・・優しさを・・・言葉ではなく、心で理解し、フォルテは・・・自分がどれほど愚かだったかを思い知った。セレナの優しさに触れ、フォルテの流れなかった右目に・・・涙が流れた。

 

『さあ、行ってください・・・師匠(せんせい)師匠(せんせい)の・・・本当にかっこいい姿を、私に見せてください』

 

セレナはそう言い終えると、身体が光の粒子となり、フォルテの義眼を包んでいく。セレナがいなくなり、フォルテは自身の涙を拭い、目を開く。

 

『セレナ・・・わかったよ・・・君が・・・そう望むのなら!!』

 

目を開いたフォルテの義眼が、金色から、紫色に変わっている。

 

~♪~

 

日和が身動きが取れないうちに、ノイズはもう少しでフォルテに触れてしまいそうだ。

 

「永遠にさようならだ!!フォルテぇ!!」

 

「フォルテさああああん!!」

 

ウェルの指示によってノイズはフォルテに突進を仕掛ける。すると・・・

 

Ragnarok Dear Mistilteinn tron……

 

「!!?」

 

フォルテが詠唱を唄い出し、フォルテの身体が光に包まれる。突然発せられた光にウェルは思わず腕で目を塞ぐ。突進してきたノイズは、大剣で振り払われて炭となって消滅する。

 

「い、いったい何が・・・!!?」

 

ウェルが驚いている間に、再びシンフォギアを纏ったフォルテは大剣を銃に変え、ウェルの右手に持つスイッチに目掛けてエネルギー弾を一発放つ。右手に見事にヒットし、ウェルはその反動でスイッチを落としてしまう。

 

「うあっ!!?す、スイッチが!!?」

 

日和はその隙を見逃さず、彼をスイッチから離れるように棍を振るって吹き飛ばす。

 

「ぎゃあああああ!!」

 

「東雲日和!それを壊せ!そうすればギアスは爆破しない!」

 

フォルテの声を聞いて日和はすぐに足でギアスのスイッチを踏みつけて壊し、粉々にする。

 

「ひ、ひいいぃぃ!!」

 

形勢を逆転され、ウェルは恐怖で腰を抜かす。日和は棍を、フォルテは大剣をウェルに突きつける。

 

「ひぃ!!」

 

「私、あなたを許すつもりなんて一生ないから」

 

「ドクター。僕と共に・・・己の罪を償うんだ」

 

「ぼ・・・僕は英雄となるんだ!!こんなところで終わってたまるかぁ!!!」

 

ウェルは悪あがきといわんばかりに、ソロモンの杖で大型を含めた複数のノイズを召喚する。日和とフォルテはそちらに向く。ウェルはその隙に逃げ出していく。

 

「・・・東雲日和。僕の言うことなど、信用できないだろう。だが今は・・・力を貸してほしい」

 

フォルテは自分から日和に協力を頼みこんできた。フォルテは、生きる選択を選んだ。それを理解した日和は嬉しくなってくる。

 

「もちろんです、フォルテさん!一緒に戦いましょう!」

 

「・・・ありがとう」

 

日和が快く協力に応じてくれて、フォルテは笑みを浮かべて礼を言う。そしてすぐにノイズに視線を向け、ノイズを殲滅に向かう。日和は棍を振るい、フォルテは大剣を振るって次々とノイズを殲滅する。そこに大型ノイズはフォルテに腕を振るって攻撃するが、フォルテは難なく躱す。そしてフォルテは大剣をチェーンソーに変形し、刃を回転させて赤黒い斬撃を放った。

 

【Belphegor Of Sloth】

 

赤黒い斬撃が大型ノイズを真っ二つにし、爆発する。その瞬間に、戦闘機型ノイズがフォルテに迫ってきた。フォルテは慌てることなく、チェーンソーを大剣に戻し、地に突き刺す。そしてその瞬間、大量の剣が地面から現れ、小型ノイズを蹴散らし、そして2つの剣が戦闘機型ノイズを貫き、動きを止める。

 

【Satan Of Wrath】

 

「今だ!!」

 

フォルテの合図で日和は棍を宙に投げ、ドリルの形に変える。日和は回転するドリルに蹴りを入れ、戦闘機型ノイズに突っ込み、貫いた。

 

【天元突破】

 

戦闘機型ノイズは爆発し、消滅。残りのノイズが殲滅でき、辺りに敵はいない。

 

「すごい・・・すごいです!やっぱりフォルテさんはすごい!」

 

「・・・ぐっ・・・」

 

日和がフォルテを称賛すると、フォルテはふらつき、大剣を地に刺す。

 

「フォルテさん!!」

 

「なんてことはない・・・少し疲れただけだ。少し休めばまた動ける」

 

フォルテは日和に視線を向け、口を開く。

 

「東雲日和・・・マリアを・・・頼む。君なら・・・君たちならきっと・・・彼女を救える・・・。僕も・・・後で行く」

 

マリアを気遣っている様子のフォルテは日和にマリアを託した。

 

「・・・必ず・・・マリアさんを救ってみせます!」

 

日和の言葉を聞いてフォルテは笑みを浮かべる。日和はまずは翼たちと合流するために移動する。残ったフォルテは胡坐をかき、空を見上げる。

 

「・・・セレナ・・・これで、いいのだろう?」

 

その表情は、とても清々しいものだ。

 

~♪~

 

自分の思い通りにならなかったウェルは日和とフォルテから逃げようと、フロンティアの中枢へと向かっている。

 

「くそ!!くそ!!こんなはずじゃあ・・・うわあああ!!?」

 

その際にウェルは足を踏み外し、大きな穴にずり落ちる。ずり落ちたウェルが顔を見上げると、そこにはボロボロになって倒れたクリスと、ギアが解除されて倒れた翼がいた。どうやらここは翼とクリスが戦った場所で、爆発のせいで、大地が穿たれて穴ができたようだ。

 

「・・・その様子じゃあ、失敗したみてぇだな」

 

すると、ボロボロのクリスが起き上がり、ウェルに近づいてきた。そして、右手を差し出す。

 

「約束通り、二課所属の装者は片付けた。だから・・・ソロモンの杖を・・・」

 

報酬のソロモンの杖を要求するクリスだが、ウェルは自身の怒りをぶつけるように、ソロモンの杖で辺りにノイズを召喚する。

 

「こんな飯事みたいな取引にどこまで応じる必要があるんですかねぇ!!!」

 

ウェルは約束を反故した。だがクリスは、それを想定に入れていた。

 

「どうした?スイッチ、押さねぇのか?」

 

「!」

 

「いや・・・押さねぇんじゃねぇ・・・壊されたんだ!あたしの相棒にな!」

 

クリスに痛いところを突かれたウェルは苦虫を嚙み潰したような表情になる。

 

「ま、そうでなくても、こいつはとっくに壊れてたけどな!」

 

そう言ってクリスは自身に付けられたチョーカーを強引に外し、それを破壊する。

 

「ひ・・・ひぃ!!」

 

「約束の反故とは悪党のやりそうなことだ・・・」

 

クリスはノイズを殲滅しようと、アームドギアを展開しようとしたが・・・

 

「あっ・・・!!?」

 

突然ギアから激痛が走った。この症状は、適合係数が下がり、バックファイアが襲ったのだ。辺りには赤い霧が巻き散っている。

 

「Anti LiNKERは忘れたころにやってくるぅ・・・!」

 

そう、この赤い霧はAnti LiNKERで、ウェルが腰を抜かした際に巻き散ったものだ。これでクリスを一網打尽するにつもりだ。

 

「なら・・・ぶっ飛べ!!アーマーパージだ!!」

 

クリスの纏ったシンフォギアの装甲が弾丸のように放たれ、ノイズを撃破していく。ウェルは何とか回避し、岩陰に隠れた。音が聞こえなくなり、ウェルは様子を確認しようと岩陰から覗く。そしてその瞬間、一糸纏わぬ姿となったクリスがソロモンの杖を奪い取ろうと強襲する。ウェルは突然の不意打ちにソロモンの杖を手放してしまう。

 

「杖を!!?」

 

「ひ、ひいぃぃぃ!!」

 

ソロモンの杖を手放したことで、制御が失った。そして、残ったノイズは兵器としてプログラムに従い、人間であるウェルとクリスに狙いを向ける。

 

「・・・先輩!!」

 

クリスは叫んだ。そして、その瞬間・・・上空に複数の剣が降り注ぎ、ノイズが切り刻まれて消滅する。土煙が晴れると・・・そこには、シンフォギアを纏った翼がいた。翼が身に纏っているギアは・・・ルナアタック時に身に纏っていたものだ。

 

「そのギアは・・・!!?バカな!!?Anti LiNKERの負荷を抑えるため、あえてフォニックゲインを高めず、出力の低いギアを纏うだと・・・!!?そんなことができるのか・・・!!?」

 

「できんだよ。そういう先輩だ」

 

あの時のミサイルと剣のぶつかり合い・・・その際に生じた爆発とミサイルを翼は躱し、見事にクリスのチョーカーを斬ったのだ。それが、ギアスが壊れていた理由だ。

 

(一緒に積み上げてきたコンビネーションだからこそ、目をつぶっていてもわかる・・・だから躱せる・・・躱してくれる・・・ただの一言で通じ合えるから・・・あたしのバカに、付き合ってもらえる!)

 

これらの芸当も目の前の光景も奇跡ではない。互いに信じあっていたからこその、必然だ。翼は刀でノイズを切り伏せ、脚部のブレードも展開し、逆立ちで回転しながらノイズを次々と殲滅する。そしてさらに刀を大剣に変え、蒼の斬撃をノイズに放つ。

 

「付き合える・・・」

 

「やあああああ!!」

 

「ぐべえええええ!!!」

 

ウェルは逃亡を図ろうとしたが、日和が追い付き、彼に飛び蹴りを放った。蹴りを入れたウェルは吹き飛ぶ。

 

「相棒!!」

 

「クリス!信じてたよ!」

 

クリスと日和は互いに目が合い、にっと笑い合う。

 

「ひ・・・ひいいいいいいい!!!」

 

日和に追いつかれ、恐怖を抱くウェルはすぐに起き上がり、逃亡する。

 

「東雲!!奴を追え!!」

 

「はい!!」

 

翼の指示を受け、日和はすぐにウェルを追いかける。ウェルを日和に任せ翼は刀に炎を纏わせ、ノイズに向けて振るった。ノイズは焼き払われ、全滅する。同時にクリスは服装が元に戻り、手元にギアのネックレスが渡る。翼もギアを解除し、ライダースーツに戻る。

 

「回収完了。これで一安心だな」

 

翼は回収したソロモンの杖をクリスに渡す。クリスは照れで頬が赤くなる。

 

「・・・1人で飛び出して・・・ごめんなさい・・・」

 

「気に病むな。私も1人では何もできないことを思い出せた。何より・・・こんな殊勝な雪音を知る事が出来たのは僥倖だ」

 

翼のセリフで照れたクリスはぷいっとそっぽを向く。

 

「・・・それにしたってよ・・・なんで、あたしの言葉を信じてくれたんだ?」

 

「雪音が先輩と呼んでくれたのだ。続く言葉を斜めに聞き流すわけにはいかぬだろう」

 

「それだけか?」

 

「それだけだ。さ、立花と合流するぞ。東雲も、必ず合流する」

 

翼はクリスの問いに答え、響の元へと合流するため移動をする。

 

(まったくどうかしていやがる。だからこいつらのそばは、どうしようもなく・・・あたしの帰る場所なんだな・・・)

 

クリスは自分の居場所を改めて認識し、翼の後をついていく。

 

~♪~

 

日和はウェルを捕らえようと、彼を追いかける。

 

「待て!ウェル博士!」

 

「く・・・来るなあああああ!!」

 

ウェルはフロンティアのエレベーターに乗り込み、すぐに扉を閉じる。乗り遅れた日和は他に行ける道を走ってウェルを追いかける。

 

「くそっ!!フォルテが生きていて、さらにソロモンの杖を手放すとは・・・!こうなったらマリアをぶつけてやる・・・!」

 

ウェルの行き先は・・・マリアのいるブリッジだ。

 

~♪~

 

イガリマの絶唱の刃で貫かれた調は意識を失い、生死を彷徨っている。傷は深くはないが、イガリマの絶唱は魂を切断する。よってダメージは深刻なものだ。

 

「調・・・!目を開けて・・・調・・・!!」

 

切歌は涙を流しながら調に呼び掛けるが、返事が全くしない。

 

~♪~

 

調の意識はどんどんと暗闇の中へと落ちていく。闇の中でも、切歌の呼ぶ声は聞こえてくる。調が目を開けると・・・彼女の前に、黒い靄が人の形として集まる。

 

「切ちゃん・・・じゃない・・・。だとすると・・・あなたが・・・」

 

黒い靄が晴れると、そこに白いローブを纏った女性・・・ルナアタックを引き起こした張本人、フィーネが現れる。

 

「どうだっていいじゃない、そんなこと」

 

「どうでもよくない。私の友達が泣いている・・・」

 

「そうね・・・。誰の魂も塗りつぶすことなく、このまま大人しくしているつもりだったけれど・・・そうもいかないものね・・・。魂を両断する一撃を受けて、あまり長くは持ちそうもないか・・・」

 

フィーネの身体はだんだんと光の粒子となっていく。それすなわち、彼女の魂が消滅していくのだ。

 

「私を庇って・・・?でも、どうして・・・?」

 

「あの子に伝えてほしいの」

 

「あの子・・・?」

 

調はフィーネの言っているあの子が誰なのかわからない。構わずフィーネは口を開く。

 

「だって、数千年も悪者やって来たのよ?いつかの時代、どこかの場所で、今さら正義の味方を気取ることなんてできないって・・・。今日を生きるあなたでなんとかなさい」

 

フィーネの身体はとうとう透け始める。調はフィーネの言うあの子が、響であると気づいた。

 

「立花響・・・」

 

「いつか未来に、人が繋がれるなんてことは・・・亡霊が語れるものではないわ・・・」

 

調にそう言い残し、フィーネの魂は、完全に消滅した。

 

~♪~

 

現実では、目を覚まさない調に、切歌は大量の涙を流し、悲しんでいる。

 

「目を開けてよ・・・調・・・」

 

「開いているよ・・・切ちゃん・・・」

 

「え・・・?え?え・・・?」

 

返ってくるはずのなかった返答が返ってきて、切歌は驚いている。さらに辺りに漂っていた粒子に気が付き、さらに驚く。粒子が消えると、調は何事もなかったかのように起き上がる。

 

「身体の怪我が・・・!」

 

さらには調の怪我が魔法のようにすっかり消え去っていた。まるで何もなかったかのように。

 

「じー・・・」

 

「調!!」

 

調が無事だったことに切歌は喜びを隠さず、彼女を抱きしめる。ただ、疑問は残ったままだ。

 

「でも、どうして・・・?」

 

「多分・・・フィーネの魂に助けられた」

 

「フィーネに・・・デスか・・・?」

 

切歌は一度調から離れる。すると今度は調が切歌を抱きしめる。

 

「みんなが私を助けてくれている・・・だから切ちゃんの力も貸してほしい・・・一緒にマリアを救おう?」

 

「あ・・・。うん・・・今度こそ調と一緒に、みんなを助けるデスよ・・・」

 

調と切歌は和解しあった。その光景をフォルテは木の陰に隠れて見ていた。フォルテは安心した笑みを浮かべ、視線をフロンティアの中枢区へ向ける。

 

~♪~

 

どんなに歌っても月の遺跡が再起動しない・・・それを突きつけられたマリアは絶望し、涙を流している。

 

『マリア、もう1度月遺跡の再起動を・・・』

 

「無理よ・・・!私の歌で世界を救うなんて・・・!」

 

『マリア・・・!月の落下を食い止める、最後のチャンスなのですよ・・・!』

 

ナスターシャが通信越しでマリアを説得している間に、思い通りにいかず、これまでの怒りが爆発しそうなウェルが戻ってきた。彼は意味不明な叫びをあげて、ネフィリムの腕でマリアをどかす。不意打ちを喰らってマリアは倒れる。

 

「月が落ちなきゃ、好き勝手できないだろうが!!!!」

 

『マリア!!』

 

「あぁん!!?やっぱりおばはんか・・・」

 

ウェルはネフィリムの腕で球体を起動させ、フロンティアを操作する。ナスターシャは通信越しでウェルを止めようとする。

 

『よしなさい!!ドクターウェル!!フロンティアの機能を使って、収束したフォニックゲインを月へと照射し、バラルの呪詛を司どる遺跡を再起動できれば、月を元の起動に戻せるのです!!』

 

不測の事態が立て続けに起こって、怒りを溜め込んでいるウェルにとって、ナスターシャの声は不快でしかなかった。

 

「そんなに遺跡を動かしたいのなら!!あんたが月に行ってくればいいだろ!!!!」

 

ウェルは怒りをぶつけるようにネフィリムの腕でフロンティアに指示を出す。すると、ナスターシャがいた制御区画が煙を上げながら、月へと上昇していった。

 

「マム!!!」

 

「有史以来、数多の英雄が人類支配をなし得なかったのは、人の数がその手に余るからだ!!!だったら支配可能なまでに減らせばいい!!!僕だからこそ気づいた必勝法!!!英雄にあこがれる僕が英雄を超えて見せる・・・!!!フハハハハ!!!!」

 

ウェルは高笑いをしているが、その姿は英雄とは大きくかけ離れている。今の姿は・・・フォルテの言ったとおり、独裁者となっている。

 

「よくもマムを!!!」

 

マリアはナスターシャに手をかけた怒りで、ウェルを殺そうとする。その殺気は・・・フォルテが放つ殺気とは違うが、よく似ている。

 

「手にかけるのか!!?この僕を殺すことは、全人類を殺すことだぞ!!!」

 

「殺す!!!!」

 

マリアは槍を振り上げ、ウェルに襲い掛かろうとする。

 

「うわあああああ!!?」

 

ウェルは情けない悲鳴をあげる。するとそこに、ようやくブリッジにたどり着いた響が介入する。

 

「そこをどけ!!融合症例第1号!!」

 

「違う!!私は立花響16歳!!融合症例なんかじゃない!!ただの立花響が、マリアさんとお話ししたくてここにきてる!!」

 

「お前と話す必要はない!!マムがこの男に殺されたのだ!!ならば私もこいつを殺す!!世界が守れないのなら、私も生きる意味はない!!!」

 

マリアは響を無視して、ウェルに向かって槍を突き出す。だが響が槍の刃に手を握り、受け止めた。響は出血した痛みを堪え、マリアを説得する。

 

「お前・・・!」

 

「意味なんて、後から探せばいいじゃないですか。だから、生きるのを諦めないで!!」

 

響は目を閉じて、唄う。もう胸にはない・・・ガングニールの詠唱を。

 

Balwisyall Nescell Gungnir トロオオオオオオーーン!!!!

 

叫びが混じった詠唱に、マリアのガングニールが応えた。マリアのガングニールは光の粒子となり、輝きを放つ。

 

~♪~

 

ガングールの輝きは、外でも見えていた。

 

「あれは・・・」

 

驚いている調と切歌に、フォルテが2人の肩に手を置く。

 

「マリアを救うぞ!」

 

「フォルテ!」

 

フォルテも駆けつけ、調と切歌は笑みを浮かべる。

 

「あのバカの仕業だな」

 

「ああ。だが立花らしい」

 

クリスと翼も笑みを浮かべている。

 

「やっぱり響ちゃんはすごいなぁ・・・」

 

弦十郎と緒川と合流した日和も、タブレットの映像を見て、笑みを浮かべる。映像は、全世界で放送されている。

 

~♪~

 

今起きている現象に、マリアは困惑している。

 

「何が起きているの・・・?こんなことってありえない・・・!!融合者は適合者ではないはず!!これは、あなたの歌・・・胸の歌がしてみせたこと!!?あなたの歌って何!!?なんなの!!??」

 

マリアが困惑している間にも、粒子は響を纏う。

 

~♪~

 

二課の潜水艦でも、この映像が流れている。

 

(解読が難しいのが、立花さんの歌よ!)

 

「行っちゃえ響!!ハートの全部で!!」

 

海恋は心の中で響を応援し、未来が叫ぶ。

 

~♪~

 

響に纏う粒子は、形を纏い、シンフォギアとなる。

 

撃槍!!!ガングニールだあああああああああああ!!!

 

響は大きく叫ぶ。撃槍・ガングニールが・・・復活した瞬間であった。




如意金箍棒の絶唱の隠された能力

如意金箍棒の特性である伸縮自在能力。それは何も自身のガントレットだけが対象ではない。絶唱限定ではあるが、ガントレットで触れた物質の持つ力を引き延ばしたり、逆に縮めたりすることが可能で、これを利用して相手の力を極限まで低下させることが可能である。無限の再生能力を持つデュランダルに大きなヒビを着けたり、フィーネが張った障壁が容易く砕けたのはこの能力のおかげである。フィーネの観測記録では知ることができなかった隠された能力である。ただ、絶唱であるがために、これらを使用する機会はないだろう。なお日和自身、この能力に気づいた様子は一切ない。


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70億の絶唱

15日はセレナちゃんの誕生日!と、いうわけで・・・本日に2話投稿することに決定しました。もう1本目は朝か昼・・・もしくは夜の8時か9時くらいに投稿しようと思います。G編のラストバトル、開幕!


響の歌によって、マリアのガングニールが響に応えたことにより、マリアのギアが解除され、代わりに響がガングニールのシンフォギアを身に纏った。

 

「ガングニールに適合・・・だと⁉」

 

適合者でない響がガングニールに適合したことに、マリアは驚きを隠せなかった。

 

「うわああああああ!!!」

 

目の前の出来事を目の当たりにしたウェルは悲鳴を上げて逃亡する。響はそれを確認したが、マリアが倒れこみ、彼女を支える。相当な疲労を抱え込んでいたのだろう。

 

「こんなところでぇ・・・うわぁ!!?」

 

その最中、ウェルは階段から転げ落ちるが、痛みを気にした様子はない。それほどまでに追い詰められている証拠だ。

 

「こんなところでぇ・・・終われるものかぁ!!!」

 

ウェルはネフィリムの腕でフロンティアを操作し、下り階に通じる穴を出現させる。

 

「ウェル博士!!!」

 

そこへ弦十郎と緒川、日和がブリッジに乗り込んできた。日和はウェルに一発殴って気絶させようと早く行動を起こす。

 

「ひ、ひいいぃぃ!!」

 

日和を見た途端ウェルは恐怖で悲鳴を上げ、急いで穴に入って下り階に入る。日和の拳は空振りで終わり、穴もすぐに塞がれてしまう。

 

「響さん!そのシンフォギアは⁉」

 

「マリアさんのガングニールが、私に応えてくれたんです!」

 

緒川の問いに響が答えたその時、突如フロンティアが地響きを起こした。今起きている状況を、二課のオペレーターたちが通信越しで報告する。

 

『重力場の異常を計測!』

 

『フロンティア、上昇しつつ移動を開始!』

 

どうやらこの揺れはフロンティアがさらに浮上しながら移動を開始したことによる揺れらしい。

 

「今のウェルは・・・左腕をフロンティアと繋げる事で、意のままに制御できる・・・」

 

マリアの言葉の通り、このフロンティアを意のままに操ることができるのは、ネフィリムの腕を持つウェルだけだ。

 

~♪~

 

下り階に逃げおおせたウェルは廊下を歩きつつ、悪あがきを続ける。

 

「ソロモンの杖がなくとも・・・僕にはまだフロンティアがある・・・!邪魔する奴らは・・・重力波にて、足元から引っぺがしてやる・・・!!」

 

ウェルはフロンティアを持ち上げるだけでは飽き足らず、まだ何かやろうとして、奥へと進んでいく。

 

~♪~

 

マリアは意気消沈した様子で、フロンティアを止める方法を響たちに伝える。

 

「フロンティアの動力は・・・ネフィリムの心臓・・・それを停止させれば、ウェルの暴挙も止められる・・・。お願い・・・戦う資格のない私に変わって・・・お願い・・・」

 

マリアは今この場で戦える響と日和に懇願する。

 

「調ちゃんにも頼まれてるんだ。マリアさんを助けてって」

 

「えっ・・・?」

 

「うん。それに、フォルテさんにだって頼まれたからね。マリアさんを救ってくれって」

 

「フォルテが・・・?」

 

「だから、心配しないください!」

 

響と日和はマリアに任せてほしいの意味を込めて、にっと笑う。すると弦十郎は拳を地面にぶつけ、強引に穴をあけた。

 

「ウェル博士の追跡は、俺たちに任せろ。だから響君と日和君は・・・」

 

「「ネフィリムの心臓を止めます!!」」

 

「行くぞ!」

 

「はい!」

 

弦十郎と緒川は強引に作った穴に入って下り階に向かい、ウェルを追いかける。

 

「待ってて!ちょーっと行ってくるから!」

 

「行こう、響ちゃん!」

 

「はい!」

 

日和と響は無重力圏に突入したことで浮いた岩を足場に使って、跳躍しながら外に出ていった。2人が進んでいく先に、翼とクリスがいた。

 

「翼さん!」

 

「クリス!」

 

「立花!東雲!」

 

日和と響は翼とクリスと合流を果たした。

 

「もう遅れは取りません!!だから!!」

 

「ああ!一緒に戦うぞ!」

 

「はい!!」

 

翼と響は面と向き合っているが、クリスはそっぽを向いている。そんなクリスに日和は彼女の右肩を掴んで自分の元まで引き寄せた。

 

「やったねクリス!クリスなら、きっとやってくれるって信じてたよ!!」

 

「お、おま・・・!」

 

そんな日和につられ、響もクリスの手を取り喜びを分かち合う。

 

「私も!!クリスちゃんならきっと取り戻して帰ってくると信じてた!!」

 

「あ・・・ったりまえだ!」

 

クリスはそう言い放って照れを隠している。だが喜んでばかりもいられない。弦十郎からの通信が入る。

 

『本部の解析にて、高出量のエネルギー反応を特定した!!おそらくはそこがフロンティアの炉心・・・心臓部に違いない!!装者たちは本部からの新情報に従って急行せよ!!』

 

通信が終わり、指示を受けた翼はリーダーとして号令を上げる。

 

「行くぞ!!この場に槍と弓、そして、棍と剣を携えているのは、私たちだけだ!!」

 

フロンティアを止めるため、4人の装者は情報に従って移動を開始する。

 

~♪~

 

フロンティアを止めようと行動する4人の姿をウェルはジェネレータールームのモニターで確認している。

 

「人んちの庭を走り回る野良ネコめ・・・!!フロンティアを喰らって同化したネフィリムの力を、思い知るがいい!!!」

 

ウェルはネフィリムの腕でフロンティアに指示を出した。その瞬間、炉心に繋がれたネフィリムの心臓が反応している。

 

「食らいつくせ・・・!僕の邪魔をする何もかもを・・・!暴食の二つ名で呼ばされた力をぉ!!示すんだぁ!!ネフィリイイイイイム!!!!」

 

ウェルの大きな叫びが、ジェネレータールームで響いた。

 

~♪~

 

装者4人が移動していると、突如として地面が割れ、大地が巨大な生物へと姿を変える。

 

「何っ⁉」

 

「今さら何が来たって!」

 

大地が生物の形に整い、その全貌が露になった。それは、フロンティアのエネルギーを喰らい、以前よりもさらに進化を遂げ、巨人の姿となった自立型完全聖遺物、ネフィリムだった。ネフィリムは咆哮を上げ、身体からミサイルを装者4人に撃ち放った。4人は向かってきたミサイルを躱し、爆発を回避する。

 

「あの時の自立型完全聖遺物なのか!!?」

 

ネフィリムは間髪入れず、口を開いて熱塊を吐き出す。クリスは向かってきた熱塊を飛んで躱す。

 

「にしては張り切りすぎだ!!」

 

「本当だよ!これじゃあ映画の怪獣だよ!」

 

ネフィリムは大きな咆哮を上げた。

 

~♪~

 

ブリッジに残ったマリアは放心状態で階段を下りていく。

 

「私では、何もできやしない・・・セレナの歌を・・・セレナの死を・・・無駄なものにしてしまう・・・」

 

己の選択を間違い、最悪な事態を招いてしまった。マリアはそれを悔いり、さらに己の無力さに涙を流す。すると・・・

 

『マリア姉さん・・・』

 

突如として暖かい光がブリッジを照らす。そして、もう聞くことが叶わなかった声を聞いて、マリアは後ろを振り向き、上を見上げる。そこには、亡くなったはずのセレナがいた。

 

「セレナ・・・?」

 

『マリア姉さんがやりたいことは何?』

 

マリアは戸惑いながらも、自分のやりたいことを、妹に打ち明ける。

 

「歌で、世界を救いたい・・・月の落下が齎す災厄から・・・みんなを助けたい・・・」

 

マリアの答えを聞いたセレナは姉の手を取る。

 

『生まれたままの感情も、隠さないで・・・?』

 

「セレナ・・・」

 

セレナは目を閉じて、歌い出す。その歌は、思い出の歌・・・唯一繋がりを感じられる歌、Appleだ。そこに、マリアの手に優しく触れる手があった。その人物は、セレナの師匠で親友であったフォルテだ。フォルテはマリアに優しい微笑みを見せ、自分もAppleを歌う。2人の後に続き、マリアも歌う。

 

~♪~

 

3人が歌う歌は、世界中に届き、全人類は・・・世界の存続を願い、祈りを捧げた。まさに、世界の願いが繋がり、合唱するように。その祈りが、フォニックゲインを生み出し、フロンティアへと集まってくる。そしてそのエネルギーはウェルによって宇宙に飛ばされたフロンティアの制御区画に流れる。落ちてきた瓦礫に埋もれたナスターシャは車椅子を変形させて、脱出した。

 

「世界中のフォニックゲインが、フロンティアを経由して、ここに収束している・・・!これだけのフォニックゲインを照射すれば、月の遺跡を再起動させ、公転軌道の修正も可能・・・!」

 

そうなれば、行動しないわけにはいかない。ナスターシャは通信機能を使い、地上にいるマリアに通信を入れた。

 

~♪~

 

ナスターシャがいれた通信が、マリアのいるブリッジに届いた。

 

『マリア!マリア!』

 

「「!マム⁉」」

 

マリアとフォルテは急ぎ、球体に近づく。

 

『あなたの歌に、世界が共鳴しています!フォニックゲインが高まれば、月の遺跡を稼働させるには十分です!月は私が責任を持って止めます!』

 

「マム!!」

 

ナスターシャの意思を聞いたマリアは涙を流し、叫ぶ。ナスターシャは優しく諭すようにマリアに語り掛ける。

 

『もう何もあなたを縛るものはありません。行きなさい・・・マリア・・・行って私に・・・あなたの歌を聞かせなさい・・・』

 

「マム・・・」

 

『フォルテ・・・』

 

ナスターシャはマリアの次にフォルテに優しく諭すように話す。

 

『この先、何があっても・・・マリアを守りなさい・・・。あなたのやりたいことを・・・マリアと共に生きて・・・成し遂げてみせなさい・・・』

 

「・・・イエス・・・マム・・・」

 

ナスターシャの思いが伝わり、両目から涙があふれるフォルテ。フォルテは涙を拭き、マリアに視線を向け、まるで女王の騎士の忠誠のように膝をつき、彼女に手を差し述べる。

 

「マリア・・・共に行こう。セレナの願いのために。君の望むもののために。マムの思いを・・・無駄にしないために。僕が・・・君を守る」

 

「フォルテ・・・」

 

マリアは2人の思いに涙を流す。しばし目を閉じ・・・そして覚悟を決めて目を開き、フォルテの手を取り、彼女を起き上がらせる。

 

「OKマム!!フォルテ!!世界最高のステージの幕を開けましょう!!」

 

マリアの目に、もう迷いはない。

 

~♪~

 

二課の装者たちとネフィリムとの戦いが始まった。響はアンカージャッキを利用して宙を跳ね、翼が刀を構え、日和が棍を構えてネフィリムに接近する。クリスは遠距離で弾幕を張り、ネフィリムに攻撃をする。翼は刀を大剣に変形させて、ネフィリムの腕を斬り落とそうとするが、刃が通らない。日和もネフィリムのバランスを崩させようと棍を足に向けて振り払うが、ビクともしない。響もネフィリムの胴体に拳を叩き込んだが、効いた様子はない。

 

「なら、全部乗せだあ!!!」

 

クリスはボウガンからガトリング砲に変形させ、ミサイルも展開して全弾をネフィリムに向けて放った。弾とミサイルは全て命中するが、これも効いておらず、ネフィリムはクリスに向けて熱塊を吐き出す。

 

「うわああああ!!」

 

「雪音!!」

 

「クリス!!」

 

クリスは熱塊を躱したが、爆発によって吹き飛ばされる。さらにネフィリムは翼と日和を押しつぶそうと、両腕を彼女たちに向けて押しつぶすように下ろす。日和と翼は間一髪躱す。しかしその威力は絶大で地面が抉れる。

 

「翼さん!日和さん!」

 

響は翼と日和に呼び掛ける。それに反応してネフィリムは背後にいる響に目を向けず、腕を伸ばして響を襲おうとする。この一撃は避けられないと察知し、拳で受け止めようとした時、ネフィリムの腕に鎖のようなものが巻き付かれ、地に突き刺さる。

 

「デース!!」

 

そこに、切歌が展開したギロチンのような刃がネフィリムの腕を切断する。さらに追撃として調が丸鋸を車輪として展開し、ネフィリムに接近して腹部を斬りつける。

 

「シュルシャガナと・・・」

 

「イガリマ、到着デース!!」

 

2人が来てくれたことに、響は歓喜する。

 

「来てくれたんだ!!」

 

「とはいえ・・・こいつを相手にするのは結構骨が折れるデスよ」

 

切歌の言うとおり、この程度ではネフィリムは倒れない。ネフィリムは斬り落とされた腕を再生し、もう片方の腕を2人に振り下ろした。そこに、フォルテが戦場に駆けつけ、ネフィリムの腕を大剣で斬り落とす。

 

「だが、歌がある!!」

 

「フォルテさん!!」

 

フォルテも来てくれたことで、日和は歓喜の声を上げた。

 

「フォルテ、遅い」

 

「待ちくたびれたデース!」

 

「君たちが早すぎるんだ。彼女を迎えに行く身にもなれ」

 

フォルテは岩の上に視線を向ける。そこには、仁王立ちで立っているマリアがいた。

 

「「マリア!」」

 

調と切歌、フォルテはマリアの元まで駆け寄る。響と日和、翼とクリスもマリアの元に駆け寄り、岩の上に、8人の装者が揃った。

 

「マリアさん!」

 

「もう迷わない・・・!だって・・・マムが命懸けで、月の落下を阻止してくれている!」

 

マリアは空を見上げる。

 

~♪~

 

ジェネレータールームでウェルは装者が集まった光景を下卑た笑みを浮かべて見ていた。

 

「出来損ない共が集まったところで、こちらの優位は揺るがない!!焼き尽くせ!!ネフィリイイイイイイム!!!!」

 

ウェルの叫びに応えるがごとく、ネフィリムは岩の上にいるマリアたちに狙いを定め、口から熱塊の炎を吐き出す。その大きさは、今までのものを越えていた。熱塊は見事に直撃し、大きな爆発が彼女たちを包んだ。

 

「いひひひひ・・・ひゃーはははははは!!!」

 

ウェルは勝利を確信し、大きな高笑いを上げた。

 

Seilien coffin airget-lamh tron……

 

だがその高笑いは、マリアの詠唱によって止まった。

 

~♪~

 

ネフィリムが放った熱塊の爆発が晴れると、マリアのギア装着の際のバリアによって、守られている装者たちがいる。壊れていたはずのシンフォギア、アガートラームがマリアに応えてくれたのだ。

 

「(調がいる・・・切歌がいる・・・フォルテがいる・・・マムも、セレナもついている・・・。みんながいるから・・・このぐらいの奇跡・・・)安いもの!!!」

 

マリアがそう叫ぶ。みんながいるからこそ成すことができる奇跡・・・。これもまた、必然といえるのかもしれない。

 

~♪~

 

モニターに映っている光景を見ていたウェルはこの現象に驚きを隠しきれない。

 

「装着時のエネルギーをバリアフィールドに!!?だが、そんな芸当!いつまでも続くものではなあああい!!!」

 

ウェルはネフィリムの腕でネフィリムに指示を出した。

 

~♪~

 

ネフィリムはウェルの指示に従い、装者たちに向けて再び巨大な熱塊を放った。熱塊を前にし、響は日和の持つ棍を手に持つ。そして2人は叫ぶ。

 

「「セット!ハーモニクス!!」」

 

2人の叫びに応えるように、ガングニールの脚部装甲が展開し、日和の如意金箍棒の棍が変形し、響のガントレットと合体する。

 

「S2CA!!」

 

「フォニックゲインを!!」

 

「「力に変えてぇ!!!」」

 

響はさらに両腕のガントレットと連結して、向かってきた熱塊に拳を叩きつける。そして、日和が空振りの拳を振るうと、響のガントレットと連結した如意金箍棒が反応し、角のように伸ばして熱塊を貫き、霧散させた。このS2CAは8人の装者によるものだが、そうではない。8人の思いを1つに束ね、重なり合った奇跡の集大成だ。

 

「惹かれ合う音色に、理由などいらない」

 

翼は左手を調に差し伸べる。調もぎこちなくだが、その手を右手で繋ぐ。

 

「あたしも、付ける薬がないな」

 

「それはお互い様デスよ」

 

クリスも右手を切歌に差し出し、切歌も左手でその手を繋ぐ。

 

「歌があれば、繋がる絆は無限大ですよ」

 

「・・・ああ・・・僕もそう思うよ」

 

日和は右手をフォルテに差し出し、フォルテも左手でその手を繋いだ。さらに日和は左手を切歌に差し出し、切歌も右手でその手を繋いだ。

 

「調ちゃん!フォルテさん!」

 

響は左手でフォルテの右手を繋ぎ、右手で調の左手を繋ぎ合う。調は響を見据える。

 

「あなたのやってること、偽善じゃないって信じたい。だから近くで私に見せて。あなたの言う人助けを・・・私たちに・・・」

 

「うん」

 

調の言葉に、響は笑みを浮かべて頷いた。

 

(繋いだ手だけが紡ぐもの・・・重ねた心だけが紡ぐもの・・・)

 

8人の歌が重なり合い、力がだんだんと高まっていくのが見ていてわかる。

 

~♪~

 

ジェネレータールームでこの光景を見ても、ウェルは勝ちを確信している。

 

「絶唱8人分・・・たかだか8人ぽっちで、すっかりその気かあああああ!!?」

 

ウェルはネフィリムの腕でさらにネフィリムに指示を出した。ネフィリムは全身から赤色黎明砲が照射される。その威力は絶大で、8人のギアが分解していく。だが・・・ウェルは勘違いをしている。この絶唱がたった8人だけの絶唱ではないことを。

 

~♪~

 

ネフィリムが放った赤色黎明砲によって、ギアが分解されていくが、心が折れる者は誰1人としていない。この絶唱は、8人の思い・・・世界の全人類の祈りも込められ、装者たちの力は、ネフィリムの力を越えている。

 

(8人じゃない・・・!)

 

(私たちが束ねるこの歌は・・・!)

 

「「70億の!!!絶唱おおおおおおおおおお!!!!!」」

 

装者8人は、己の配色がより輝く、純白に輝き、光の翼が展開されたギアを身に纏う。そう、このギアは・・・奇跡が形となったシンフォギア・・・エクスドライブ!

 

「「響き合うみんなの歌声がくれた!!

シンフォギアだああああああああああああ!!!!!」」

 

8つの光と力、歌が1つに束ね、宙を切り裂き、ネフィリムを貫いた。積み重ねた戦慄が、虹色の嵐となりて、宇宙へ昇るように、大きく渦巻いた。




XD-エクスドライブアンリミテッド-

セレナの誕生日ボイス

東雲日和①
今日はセレナちゃんの誕生日!今日が忘れらないように、気合入れて歌うよ!

東雲日和②
セレナちゃん!誕生日おめでとう!プレゼントに、セレナちゃんの好きなもの、何でも買ってあげるよ!

フォルテ・トワイライト①
セレナ、ハッピーバースデー。誕生日というめでたい日。最高の祝福を、君に捧げよう。

フォルテ・トワイライト②
セレナ・・・君の誕生日を祝うことができる・・・友として、これほど嬉しいことはない。本当に・・・君に出会えてよかった・・・。


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遥か彼方、星が音楽となった・・・かの日

本日2話目!G編完結!番外編の後はいよいよGX編。ぶっちゃけこれ書いてみたかったんですよ。お楽しみに!

それから、今回フォルテさんのある挿絵はPicrewの『妙子式2』のキャラメーカーを使用しております。G編のラストなので!あ、自作ではないのであしからず。

そして・・・セレナちゃん、お誕生日おめでとう!


70億の絶唱を喰らい、粉々になったネフィリム。その光景をウェルはジェネレータールームで見て、信じられない気持ちでいっぱいなっている。

 

「なん・・・だと・・・?」

 

ネフィリムが負けるはずがないと確信していたのに敗れ・・・敗北を突きつけられたことを、ウェルは認められないでいる。

 

「ウェル博士!!」

 

「はっ!!?」

 

そこに、弦十郎と緒川がジェネレータールームに入ってきた。他に逃げ道は一切なく、ウェルは逃げることができず、追い詰められていく。

 

「お前の手に世界は大きすぎたようだな!」

 

ウェルは急いでネフィリムの腕で制御盤に触れようとする。しかしそれをこの2人が見逃すはずがない。緒川は拳銃を取り出し、発砲する。放たれた弾丸は弧を描くように軌道を変え、ネフィリムの腕の影に突き刺さる。

 

【影縫い】

 

「なっ!!?」

 

「あなたの好きにはさせません!」

 

この弾丸によって影は固定化され、左腕は動くことができなくなる。どんなに力を入れても、ピクリともしない。だがウェルはネフィリムの腕に血管が浮かび上がる程に力を入れ、抵抗する。それこそ、血管が破れ、出血し、目にも血が流れるほどに。

 

「奇跡が一生懸命の報酬なら・・・僕にこそおおおおおおお!!!!」

 

ウェルは最後の悪あがきに力づくで影縫いを破り、ネフィリムの腕で制御盤に触れ、フロンティアに命令を下す。

 

「何をした!!?」

 

「ただ一言・・・ネフィリムの心臓を切り離せと命じただけ!!」

 

「「!!?」」

 

装者たちが撃破したはずのネフィリムの心臓が炉心である球体に浮かび上がり、赤く禍々しく輝き始めた。

 

「こちらの制御から離れたネフィリムの心臓はフロンティアの船体を喰らい!糧として暴走を開始する!!そこから放たれるエネルギ-は・・・一兆度だああああ!!!!フハハハハハハハ!!!」

 

一兆度ものエネルギーの核爆弾・・・そんなものが地上に降り立ってしまえば、世界は一瞬で蒸発し、終わりを迎えてしまうだろう。

 

「僕が英雄になれない世界なんて、蒸発してしまえば・・・」

 

「ふん!!!」

 

ドゴォ!!!

 

「うわぁ!!?」

 

弦十郎はウェルが操作していた制御盤を破壊し、暴走を止めようと試みた。だが制御盤が壊れても、暴走は止まらない。心臓部が完全に切り離されてしまえば、どんなに制御盤を壊しても、意味がないのだ。

 

「壊してどうにかなる状況じゃ、なさそうですね・・・」

 

弦十郎は翼に通信を送り、指示を出す。その間にも、ネフィリムの心臓は、鼓動を続けている。

 

~♪~

 

フロンティアの外にいる翼たちの元に弦十郎からの指示が届く。臨界に達する前に、ネフィリムの心臓を止めろという指示を。

 

「わかりました。臨界に達する前に対処します。・・・!!?」

 

指示を受け、行動を開始しようとした瞬間、予想外なことが発生した。ネフィリムの心臓の鼓動は、フォニックゲインを収束していた建造物の先端に到達してしまった。ネフィリムの心臓は、フォニックゲインのエネルギーを取り込んでいる。

 

一方それと同時に、ウェルに電子手錠をかけ確保した後、弦十郎と緒川はジープに乗り込み、二課の潜水艦へと帰還を開始する。

 

「確保だなんて悠長なことを・・・僕を殺せば簡単なこと・・・」

 

彼らの頭上に影が覆った。上を見上げてみると、ネフィリムの暴走によってフロンティアの建造物が吹き飛ばされ、それが巨大な落石となって落ちてきて、彼らを押しつぶそうとしていた。

 

「うわあああああああ!!?」

 

ウェルは情けない悲鳴を上げるが、弦十郎は動じずに・・・

 

「あああああああああ!!!!」

 

ドゴォン!!!

 

落石に拳を振るい、この一撃で何と落石を軽々と粉砕してみせた。

 

「殺しはしない・・・。お前を、世界を滅ぼした悪魔にも・・・理想に殉じた英雄にもさせはしない。どこにでもいる、ただの人間として裁いてやる!」

 

英雄となることを望んでいるウェルにとって、その言葉はこの世で1番聞きたくなかった言葉だ。

 

「チクショオオオ!!!!僕を殺せえええ!!!!英雄にしてくれえええ!!!!英雄にしてくれよおおおおおお!!!!!」

 

ウェルは半狂乱したように喚き散らした。当然それを聞き入れるようなことはしない。英雄を夢見て、人の道を踏み外した世界史上最低の男ウェルは英雄ではなく、ただどこにでもいる人間として収容されるという末路を辿った。

 

~♪~

 

潜水艦に戻ってきた弦十郎はウェルを独房に収容した後、ブリッジに入り、オペレーターに指示を出す。

 

「藤尭!出番だ!」

 

「忙しすぎますよ!」

 

「ぼやかないで!」

 

「私もお手伝いします!」

 

オペレーター陣の迅速な行動と正確な計算とプログラミングによって、潜水艦よりミサイルが発射され、潜水艦周囲に着弾する。ミサイルが爆破したことにより、地面が割れ、潜水艦はフロンティアから落下、海へと落下していく。

 

~♪~

 

70億分の絶唱のエネルギーを取り込み、吸収することで、ネフィリムの心臓は尋常でないスピードで成長していく。さらにフロンティアそのものを取り込んでいき、赤く禍々しく巨大化していく。

 

「あれを見ろ!あれが・・・指令の言っていた・・・」

 

ネフィリムはフロンティアを取り込むことによって、姿形が成していく。そして、完全に形を成したネフィリムは装者たちの前に再誕した。

 

「再生する・・・ネフィリムの心臓・・・!」

 

飛行能力を持たないネフィリムは地球への落下を開始していく。それを阻止しようと調と切歌が動き出す。調は自身の装甲をパージし、変形させ、合体することでロボットと化す。調がロボットに乗り込み、ツインテールのアームと連結する。

 

【終Ω式・ディストピア】

 

さらに切歌は鎌の刃を3つに展開し、鎌を高速回転させながらネフィリムに突撃する。

 

【終虐・Ne破aア乱怒】

 

調の鋸と切歌の鎌による息の合った合体攻撃で、ネフィリムを切り裂く。だがネフィリムにダメージを負った様子はない。それどころか・・・

 

「「ああああああ!!」」

 

攻撃を仕掛けた調と切歌の聖遺物のエネルギーを取り込まれてしまい、返り討ちに遭う。

 

「月読!!暁!!」

 

「聖遺物どころか、そのエネルギーまでも喰らっているのか!!?」

 

そう、ネフィリムは、聖遺物だけでなく、そのエネルギーさえも取り込むようになったのだ。今のネフィリムはどんな攻撃も受け付けないどころか、全て吸収してしまうのだ。

 

「臨界に達したら、地上は・・・!」

 

「蒸発しちゃう!!」

 

ネフィリムが地球に到達してしまえば、地球は一瞬で蒸発し、世界が終わってしまう。それだけは何としてでも阻止したい装者たち。

 

「クリス!!」

 

「わかってらぁ!!バビロニア、フルオープンだあああああ!!」

 

攻撃がダメならと思い、日和はクリスに声をかける。考えていることが同じなのかクリスはすぐに行動に移す。クリスは前に出て、ソロモンの杖で緑の光線を放つ。緑の光線によって、異空間の入り口、バビロニアの宝物庫の入り口が大きく開かれる。

 

「バビロニアの宝物庫!!?」

 

「エクスドライブの出力で、ソロモンの杖を機能拡張したのか!!?」

 

このバビロニアの宝物庫にネフィリムを格納し、入り口を閉じれば地球への被害はなくなる。だがそれは、精神力と集中力との勝負だ。

 

「んぐううううう!!!」

 

その証拠に、クリスがうめき声をあげている。

 

「ゲートの向こう、バビロニアの宝物庫にネフィリムを格納できれば!」

 

「だが、これではネフィリムを格納できない!!」

 

フォルテの言うとおり、今のバビロニアの宝物庫の入り口では、巨大化したネフィリムは入らない。ネフィリムが入れるようにするためには、もっと入り口を広くする必要がある。そのためには、もっと集中力と精神力が必要だ。

 

「相棒!!」

 

「うん!!」

 

日和はすぐにクリスに近づき、ソロモンの杖に触れ、自身の集中力と精神力を分け与える。

 

「地球を守るために・・・開け!!!バビロニアの宝物庫おおおおお!!!」

 

「人を殺すだけじゃないってぇ!!やって見せろよ!!ソロモォオオオン!!!」

 

日和とクリスの思いにソロモンの杖が応えるかのように、バビロニアの宝物庫の入り口を拡張させた。これならばネフィリムはバビロニアの宝物庫に入れる。

 

「これなら!!」

 

だがネフィリムは抵抗するがごとく、ネフィリムがクリスと日和に向けて剛腕を振るう。

 

「避けろ!東雲!雪音!」

 

翼が日和とクリスに避けるよう叫んだが、対応が遅れ、2人は剛腕に吹き飛ばされる。

 

「「うあああ!!」」

 

2人が吹き飛ばされた際、ソロモンの杖を手放してしまうが、マリアが駆け付け、ソロモンの杖を回収した。

 

「明日をおおおおおお!!!」

 

マリアは回収したソロモンの杖で開けていたバビロニアの宝物庫の入り口をさらに大きく広げた。ネフィリムは呻き声を上げて腕を伸ばす。マリアは回避したが、手から伸びた触手に絡めとられ、引きずり込まれてしまう。ネフィリムはマリアを道連れにしようとしているのだ。

 

「ぐっ・・・!」

 

「「「マリア!!」」」

 

「格納後、私が内部よりゲートを閉じる!!ネフィリムは私が!!」

 

「自分を犠牲にするつもりデスか!!?」

 

「マリアーー!!!」

 

マリアが全員を巻き込むわけにはいかないと考え、ネフィリムと共に自らを犠牲にすることを選んだ。マリアの決断に、切歌と調が叫ぶ。

 

「こんなことで、私の罪が償えるはずがない・・・。だけど、全ての命は私が守って見せる・・・」

 

マリアが覚悟を決めて目を閉じた時・・・

 

「それじゃ、マリアさんの命は、私たちが守って見せますね」

 

響がマリアの隣に寄り添ってきた。いや、響だけではない。装者全員が、マリアの周りに集まってきた。全員が笑みを浮かべ、やる気を見せている。

 

「あなたたち・・・」

 

「英雄でない私に、世界なんて守れやしない。でも、私・・・私たちは・・・1人じゃないんだ」

 

響はそう言ってマリアに微笑みを見せた。フォルテはマリアの隣に寄り添い、語り掛ける。

 

「マリア・・・僕は、セレナの望みが叶えれば、自分は死んでもいいと思っていた。だが今は違う。僕は・・・月読と暁・・・そして・・・君と共に今を生きたいと思っている。君1人が欠けてしまっては、意味がないんだ」

 

「フォルテ・・・」

 

「マリア・・・僕たちと共に生きよう。セレナの願いのために・・・そして何より・・・僕たち自身のために」

 

フォルテは自分の本心を言って、マリアに笑みを見せる。フォルテの本心を聞いてマリアは、微笑みで返した。そして・・・ネフィリムと装者全員は数えきれないほどのノイズがいるバビロニアの宝物庫へと入っていく。そして、宝物庫の入り口が揺らぎ、完全に入り口が閉ざされた。

 

~♪~

 

ネフィリムと装者たちがバビロニアの宝物庫に格納される瞬間は、二課のモニターでも確認できた。

 

「響ぃー!!」

 

「ちょっと・・・日和!本当に大丈夫なんでしょうね⁉」

 

この光景を見た未来は叫び、全員が宝物庫から脱出できるか、心配になる海恋。

 

「衝撃に備えて!!」

 

友里の叫びと同時に、二課の潜水艦はブリッジと本体を切り離し、ブリッジにパラシュートを展開し、落下速度を緩めた。

 

~♪~

 

宇宙空間を彷徨うフロンティアの制御区画でナスターシャは月に向けてフォニックゲインの照射を続けていた。

 

「フォニックゲインの照射継続・・・!ゴホッ!!」

 

だがナスターシャは血反吐を吐いてしまう。限界がもう近づいてきているのだ。だが、まだ倒れるわけにはいかない。フォニックゲインの照射が月の砕けた個所に照射され、そこに模様が輝きだす。

 

「月遺跡・・・バラルの呪詛・・・管制装置の再起動を確認・・・!月軌道、アジャスト開始・・・!」

 

ナスターシャの命がけの戦いによって、月の落下は防がれた。後はネフィリムの脅威を何とかすればいいだけだ。ナスターシャはパネルに映る地球を見上げる。

 

「星が・・・音楽となって・・・」

 

ナスターシャは己の役目を果たし切り・・・満足そうな笑みを浮かべ・・・安らかに眠り、息を引き取った。

 

~♪~

 

バビロニアの宝物庫のノイズは無尽蔵にいる。そこに人間が入って来たならば当然、人間を襲いにかかる。だが装者たちはノイズを対処できる。

 

「うおおおおおおお!!!」

 

響は右手の装甲を槍の矛先を模したアームに変形させ、ブースターを点火して加速させる。

 

「いっけええええええええ!!!」

 

そのスピードの勢いに乗り、響はノイズの群れを槍の矛先で貫いていく。

 

「はああああああ!!」

 

翼は手に持つ刀でノイズを一刀両断し、さらに脚部のブレードを展開し、巨大化させて宙を舞いながら回転してノイズを切り刻む。

 

「おおおおりゃああああああ!!!」

 

日和は両手首のユニットから棍を射出し、地球まで届くくらいの長さまで伸ばす。そして、自分自身を回転して、数多くのノイズを棍の回転に巻き込ませ、打撃を与えていく。

 

「くらえぇ!!!」

 

クリスはアームドギアを巨大化させ、自身を覆うように砲門を形成する。前方の複数のノイズに狙いを定め、エネルギー砲で一斉射撃し、ノイズを次々撃墜する。一方の調はマリアを縛る触手をロボットの鋸で切断作業を行っている。それを阻止しようと迫りくるネフィリムの触手の対処は切歌の鎌で振り払い、フォルテが両手の巨大な大剣の斬撃波で薙ぎ払う。

 

「月読!後どのくらいだ!!」

 

「調!!まだデスか!!」

 

「もう少し・・・で・・・!!」

 

調の頑張りによって、ロボットは崩壊したものの、マリアを救出することは成功した。

 

「マリア・・・!」

 

「一振りの杖では、これだけの数を・・・制御が追いつかない!」

 

いかにノイズを操ることができるソロモンの杖でも、無限にも思えてくるほどの数のノイズを全て制御しきるのは難しい。そこで、響が叫ぶ。

 

「マリアさんは、杖でもう1度宝物庫を開くことに集中してください!」

 

「何っ⁉」

 

「外から開けられるのなら、中から開けることだってできるはずだ!」

 

「鍵なんだよ!そいつは!」

 

「そして今それができるのは、マリアさんだけなんです!」

 

続けて翼、クリス、日和がノイズを殲滅しながら叫んだ。彼女たちの意図に気づいたマリアはすぐに行動に出る。

 

「セレナあああああああ!!!」

 

マリアは最愛の妹の名を叫びながら、ソロモンの杖で最大出力の光線を放ち、このバビロニアの宝物庫の出口が開く。

 

「脱出デス!!」

 

「ネフィリムが飛び出す前に!!」

 

「君たちも急げ!!」

 

マリアたちは開いた出口に向かって飛翔を開始する。

 

「私たちもここから出ましょう!!」

 

日和は両手首のユニットの棍を発射し、翼と合流する。

 

「行くぞ!雪音!」

 

翼は脚部のブレードを分離して砲撃を続けるクリスに声をかける。

 

「おおっ!」

 

クリスはアームドギアをパージし、ノイズに向けて砲撃を発射する。そして、日和と翼と共に出口に向かって飛翔する。響とも合流し、8人で脱出しようとするが・・・その行く手をネフィリムが遮る。

 

「なんて悪あがきを・・・!」

 

「ちっ・・・迂回路はなさそうだ・・・!」

 

「ならば、行く道は1つ!」

 

「手を繋ごう!!」

 

切歌、調、フォルテが手を繋ぎ、響、日和、翼、クリスも手を繋ぎ合う。

 

「さあ、マリア」

 

「マリアさん」

 

フォルテと響がマリアに手を差し出す。マリアは胸の結晶より、聖剣を取り出し、宙に浮かせる。

 

「この手、簡単には離さない!!!」

 

マリアはフォルテの手と響の手を強く握る。

 

「「「「最速で最短で!!真っ直ぐに!!!!」」」」

 

聖剣が輝きだすと、光の粒子となって装者全員を包みこみ、装者たちは飛翔する。そして、響のガングニール、日和の如意金箍棒、マリアのアガートラーム、フォルテのミスティルテインの装甲が分離する。そして、ガングニールと如意金箍棒が連結した右手、アガートラームとミスティルテインが連結した左手に変形し、右手は黄金に、左手は白銀に輝きを放ち、拳をつくるように繋ぎ合わせる。

 

「「「「一直線にいいいいいいいいい!!!!!」」」」

 

繋ぎ合わせた拳は回転しながらネフィリムに突撃する。ネフィリムは触手を大量に伸ばして抵抗するが、繋ぎ合わせた両手の拳の前に全て跳ね返っていき、高速回転する拳はネフィリムの胴体を貫いた。

 

【Vi†aliza†ion】

 

彼女たちはその勢いのまま、宝物庫の出口を通り、脱出し、海辺の砂浜に放り出される。ソロモンの杖は砂浜に刺さるように立っている。

 

「杖が・・・!すぐにゲートを閉じなければ・・・まもなくネフィリムの爆発が・・・!」

 

腹部を貫かれたということは、ネフィリムは間もなく爆発を開始する。早く出口を閉じなければ爆発が地球を巻き込んでしまう。そうなればおしまいだ。だが装者たちは先の技の衝撃で立つことができない。

 

「まだ・・・だ・・・!」

 

「心強い仲間は・・・!」

 

「他にもいる・・・!」

 

「仲間・・・?」

 

翼たちに言葉にマリアは問いかけ、響が答える。

 

「私の・・・親友だよ・・・」

 

響がそう言うと、こちらに駆けつけてくれた少女がいた。そう、響の親友、小日向未来だ。

 

「(ギアだけが戦う力じゃないって響が教えてくれた!)

私だって・・・戦うんだ!!」

 

未来は走ってソロモンの杖まで向かっていく。そこに、遠くでタブレットを操作して投擲距離の計算をしている海恋が叫ぶ。

 

「小日向さん!!そこから全力で投擲すれば、宝物庫に格納して、扉を閉じることができるわ!!」

 

未来は海恋の指摘を聞いて、ソロモンの杖を手に持ち、指定されたその場所で力いっぱい杖を宝物庫の出口に向けて投擲する。

 

「お願い!閉じてえええええぇぇぇ!!!」

 

ネフィリムはエネルギーを吸収しきれず、光が漏れ始める。爆発までもう時間がない。

 

「もう響が・・・誰もが戦わなくていいような・・・世界にいいいいいいい!!!!」

 

未来の思いに応えるように、ソロモンの杖が宝物庫に向かって加速する。ネフィリムは大きな光を放ち、周りにいるノイズを全て塵に変える。その光が・・・地球に迫る前にソロモンの杖が扉に入り、扉を閉じた。ネフィリムの爆発は異空間を越えて現実世界にも視覚で確認できた。それ以上の被害は地球には来なかった。世界は守られた・・・これによって未来と海恋は安堵し、響と日和も安心して目を閉じた。

 

~♪~

 

時間は流れ、夕暮れ。この海辺には事件の収拾のために二課と軍人が集まっている。ウェルは銃を持った軍人に連行されていく。

 

「いひひ・・・間違っている・・・英雄を必要としない世界なんて・・・」

 

ウェルは未だ自分を英雄と信じているようで、そんな譫言を呟いている。

 

「月の軌道は、正常値へと近づきつつあります。ですが、ナスターシャ教授との連絡は・・・」

 

緒川は弦十郎に月の軌道と、ナスターシャの生存についての報告をする。弦十郎は報告を聞いて、マリアたちに視線を向ける。フォルテ、マリア、調、切歌は夕暮れの空を見上げている。マリアのアガートラームは、半壊している。

 

「マムが僕たちの未来を繋げてくれた・・・。あなたの行動に、僕たちは感謝を送ります。心よりの感謝を・・・。ありがとう・・・母上・・・」

 

フォルテを筆頭に、マリアたちは逝ってしまったナスターシャに感謝を捧げている。

 

「マリアさん」

 

響はマリアに声をかけ、ガングニールのネックレスを彼女に返却しようとしている。マリアは響に優しく微笑み、言葉を放った。

 

「ガングニールは君にこそふさわしい」

 

マリアの言葉を聞いて、響はネックレスを握りしめる。このガングニールのネックレスは、正式に響のものとなった瞬間だ。

 

「だが、月の遺跡は再起動させてしまった・・・」

 

「バラルの呪詛か・・・」

 

「ああ。世界を救うためとはいえ・・・」

 

「人類の相互理解は、また遠のいたってわけか・・・」

 

皆が悔しい思いを浮かべている中、響と日和はポジティブに考えている。

 

「へいき、へっちゃらです!」

 

「うん!だってこの世界には、歌があるんですよ!」

 

響と日和の前向きさに、皆は驚いている。だがそんな彼女たちを知っている未来、海恋、翼、クリスは笑みを浮かべている。響と日和もにこっと笑っている。

 

「歌・・・デスか・・・」

 

「いつか人は繋がれる・・・だけどそれは、どこかの場所でも、いつかの未来でもない。確かに、伝えたから」

 

「うん」

 

調はフィーネより預かった伝言を響に伝え、彼女は首を縦に頷いた。

 

「立花響。君に出会えてよかった」

 

マリアは響を見据えてそう言った。フォルテは日和に近づき、笑みを浮かべている。

 

「東雲日和。君には感謝してもしきれない。君のおかげで・・・セレナの真の願いに気づけた」

 

「そんなことないですよ。フォルテさん自身が、セレナちゃんの思いに気づいたんですよ」

 

日和はフォルテに満面な笑みでそう答えた。フォルテはそんな日和の顔見て・・・

 

「・・・君に出会うことができて・・・本当によかった」

 

 

【挿絵表示】

 

 

マリアたちですら見たことがない満面な笑みで返した。フォルテ、マリア、調、切歌はロータリーへと乗り、この海辺から去った。

 

~♪~

 

フロンティアが起動した事件を、フロンティア事変と名付けられた。フロンティア事変が終わり、ほとぼりが冷め、平和な日常を取り戻した装者たちは、今日もリディアンへと向かう。それが学生の本分なのだから。

 

「ほら日和!!ちゃんとシャキッとする!!だらしない姿を見せない!!」

 

「ふぁ~・・・そんなこと言われたって・・・眠いんだもん・・・」

 

朝からかなり眠そうにしている日和に海恋が渇を入れようと声を上げている。

 

「日和さーん!海恋さーん!おはようございまーす!」

 

「おはようございます」

 

「あ・・・響ちゃん、未来ちゃん・・・おはよ・・・ふわああぁ~・・・」

 

そこへ響と未来がやってきた。2人はきちんと挨拶しているが、日和は本当に眠そうに大きなあくびをする。

 

「おはよう、2人とも。ねぇ、2人からも何か言ってやってちょうだいよ・・・日和がご覧の通りで・・・」

 

「本当に眠そうですね・・・」

 

「これなら授業中に爆睡できそう・・・」

 

「あー、それわかります。授業中って、眠たくなりますものね」

 

「ほーう?風紀委員の前で堂々と居眠り宣言かしら?」

 

「あわわ・・・ごめんなさい!!」

 

日和の言葉に響が便乗したことで、海恋は目を鋭くさせる。まずいと思った響はとっさに海恋に謝る。未来は響に呆れた様子で、日和は変わらずに眠そうにしている。楽しい話で華を咲かせながら歩いていると、翼とクリスの姿が見えてきた。

 

「翼さーん!クリスちゃーん!」

 

響は元気よく2人の元に駆けつけ、3人は響の後をついていく。

 

「聞いてくれ立花。あれ以来、雪音は私のことを先輩と呼んでくれないのだ」

 

「だーからー!」

 

翼は残念そうな顔で口を開き、クリスは顔を赤らめて翼にかみつこうとする。翼の言葉に響はにやにやとした表情になる。

 

「なになに~?クリスちゃんってば翼さんのこと先輩って呼んでるのぉ?」

 

「ちょ、ちょっと響ったら・・・」

 

響の物言いにクリスは眉をひくつかせる。

 

「いい機会だから教えてやる・・・あたしはお前より年上で!先輩だってことをー!!」

 

響とクリスのやり取りに未来と翼はため息をこぼす。

 

「でも確かに2人のクリスへの態度は同級生のそれよね。何でかしら?」

 

「出会い方の問題じゃないの・・・?ふわぁ・・・」

 

「ん・・・だとてめぇ!!もってけダブルだぁ!!」

 

「もうそのくらいにしておけ・・・傷もまだ癒えてないというのに」

 

日和の物言いにクリスは今度は日和に突っかかろうとしたが、翼に止められる。

 

「ねぇ響・・・体、平気?おかしくない?」

 

未来は響の体について心配そうに尋ねている。

 

「心配性だなぁ未来は。私を蝕む聖遺物は、あの時きれいさっぱり消えたんだって」

 

響はそんな未来に抱きしめる。

 

「響・・・」

 

「でもね・・・胸のガングニールはなくなったけれど、奏さんから託された歌は、絶対になくしたりしないよ」

 

響の言葉に翼は嬉しそうに笑い、クリスも海恋も微笑んでいる。

 

「それに、それは響ちゃんだけじゃないよ」

 

ようやく眠気から覚めた日和は空を見上げ、手を伸ばし、何かを掴むように握って胸に当てる。

 

「きっとそれは、誰の胸にもある、歌なんだ・・・」

 

日和は星が音楽となったあの日が蘇える。




セレナの誕生日

完全聖遺物、ギャラルホルンのゲートを通り、こちらの世界に遊びに来たセレナ。そんなセレナをフォルテはとある場所に連れていく。そこは自然が豊かで空気も澄んだ美しい場所だ。

セレナ「わぁ・・・!」

フォルテ「ここはこの地域の中で、特に空気が澄んでいて、植物も美しい。暇さえあれば、よくここでボーっとしている」

セレナ「きれい・・・とても素敵な場所ですね!」

フォルテ「ああ。すごく気に入っている。だから君の誕生日に、この場所を見せたいとずっと思っていた」

セレナ「フォルテ師匠(せんせい)・・・」

フォルテ「こうして、また君の誕生日を祝うことができて・・・僕は嬉しく思うよ。ハッピーバースデー、セレナ」

セレナ「・・・こんな素敵な場所で、私の誕生日を祝ってくれるなんて・・・。ありがとうございます、フォルテ師匠(せんせい)!」

フォルテ「・・・もう少しボーっとしたら戻ろうか。今頃マリアたちが君のためにパーティの準備をしているだろうからな」

セレナ「えへへ・・・はい!」


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番外編
戦姫絶唱しないシンフォギア①


番外編といえばやはりこれ!


『月の欠片処理から約2週間・・・』

 

 

 

月の欠片が落ちてきた事件、ルナアタック事変・・・この事件が収拾するまでの間、装者たちは行動制限を課せられ、監禁状態に陥っている。そしてそれから2週間の時が経った頃・・・

 

「「うわあああああああ!!!!」」

 

この監禁状態に不満を抱いている日和と響は両手足をじたばたして喚いている。翼は静かに読書をしている。

 

「・・・今日も今日とて、立花と東雲の様子がおかしいのは相変わらずだな」

 

「だってだってだってぇ!!翼さんは何ともないんですか⁉こんなところに閉じ込められてもうずっとお日様を拝んでいないんですよ⁉」

 

「そうですよぉ!!どこかにショッピングに行くこともできないし、学院のみんなとも会いに行けないんですよ⁉不満を抱かない方がおかしいですって!!」

 

外に出れないという点以外では本を読んだり、音楽を聴いたり、ベースを弾いたりしても問題ないのだがそういう問題ではない。外に出れないおかげで日の光を拝めない、友達にも会いに行けない。日和と響はそこに不満たっぷりなのである。だがもちろん、こういった状況にはちゃんとした理由はある。

 

「そうは言ってもだな・・・月の損壊、及びそれらに纏わる一連の処理や調整が済むまでは、行方不明としていた方が何かと都合がいい、というのが指令たちの判断だ。それに・・・」

 

「そんなことわかってますよぅ・・・海恋と未来ちゃんを危険に巻き込まないため・・・ですよね?」

 

「そうだ」

 

今述べられたことから装者たちは一度行方不明扱いにした方がいいとのことで、監禁状態になっているのだ。

 

「うわああああ!!未来に会いたいよおおおおお!!きっと未来も寂しがってるよおおおお!!うわあああああ!!」

 

響は未来に会えないことへの寂しさからまたも喚き始めた。

 

「小日向が絡むところに自己評価は、意外に高いんだな・・・立花は」

 

「冷たい布団を温めるくらいしか役に立たない私だけど、いなくなったらいなくなったできっと悲しむと思うし・・・借りっぱなしのお金も返せてないし・・・」

 

「あ・・・そういえば私も海恋に借りたお金まだ返せてない・・・海恋怒ってないかなぁ・・・?」

 

「おいおい・・・」

 

響の呟く言葉に日和は顔を青ざめて急に会いたくなくなってそう呟く。翼は響と日和の言葉に呆れている。

 

「てゆーか、ここまで引っ張っていざ無事でしたー!ってなったらそれはそれできっと怒りますよね?連絡もしないでなにしてるの!!?って。ああ見えて怒った未来は怖いんですよ!一緒にご飯食べてても口聞いてくれないというか・・・だからといってずっとここにいても退屈だし、退屈しのぎに未来に怒られるなんてそこまで上級者ではないし、寝そびれれば寝そびれただけ言い訳みたいな笑顔になるしで、止めどなく溢れてくるし!!」

 

「・・・ん?ねぇちょっと・・・響ちゃん?響ちゃんってば」

 

「はい?」

 

喚いている響の言葉にふと疑問が浮かんだ日和は彼女に声をかけて質問する。

 

「あのね、心配してるのは未来ちゃんのこと?それとも、自分のこと?どっち?」

 

「それはもちろん!!・・・あれ?」

 

日和の問いかけに響は勢いよく答えようとしたが、自分も混乱しているようで、どっちを心配してるのかわからず首を傾げるのだった。

 

 

 

『これが特起物?』

 

 

 

監禁状態が未だ続く中、クリスは響たちと同じ部屋の片隅でただ1人考え事をしていた。

 

(成り行き任せで一緒に手を繋いでしまったが、あたしはこいつらのように笑えない・・・いや、笑っちゃいけないんだ。あたしがしでかしたことからは、一生目を背けちゃいけない・・・そうしないとあたしは・・・あたしは・・・あたしは・・・)

 

「あれ?どうしたのクリス?さっきからずっと黙ってて・・・」

 

そんな中日和はクリスが黙っていたことに気づき、声をかける。日和の声で響もクリスに近づく。

 

「わかった!お腹空いたんだよね!わかるよわかる!マジでガチでハンパなくお腹空くと、おしゃべりするのも億劫だものねぇ・・・」

 

「ああ!なるほど!そうならそうと言ってくれればいいのにぃ~」

 

盛大な勘違いをしている響と日和はクリスを置いて盛り上がっている。

 

「どうする?あ、ピザでも頼む?さっき新聞の折り込みチラシを見たんだけどね、カロリーに比例してうまさが天上して・・・」

 

「・・・て、鬱陶しいんだよ!!!お前ら本当のバカだろ!!!」

 

勘違いしてる響と日和にクリスはいい加減鬱陶しくなって怒鳴った。

 

「な、なんで怒ってるの⁉」

 

「お、お腹が空きすぎてクリスちゃんが怒りっぽくなっちゃったぁ!!?」

 

「うっきいいいいい!!!お前は黙れ!!!あたしは静寂を求めている!!!だから黙れ!!!ひと時でいいからあたしに静間をよこしやがれぇ!!!」

 

また的外れな発言をする響にクリスは響・・・とついでに日和を怒鳴る。クリスに怒鳴られ、しゅんとなった2人はようやく黙った。

 

~♪~

 

響と日和が黙ったため、クリスは考え事を続ける。

 

(あいつのこと、流されるままに相棒って呼んじまったが・・・昨日までの罪を背負っちまったあたしに、そんな資格は・・・)

 

「つん。つんつん」

 

そんな中日和はクリスの頬をつんつんと突っついている。

 

(そうだ・・・あたしがそんな・・・)

 

「つんつんつん・・・。ほへぇ~・・・クリスの頬っぺた、やわらかぁ~い・・・」

 

「・・・てさっきから何やってんだお前!!?気が散んだろうが!!!」

 

日和のつつきに煩わしくなったクリスは日和を怒鳴りつける。

 

「だ、だってぇ・・・クリスが面白くなさそうな顔ばっかりしてるから・・・和ませようと思って・・・」

 

「うがあああああ!!!いいからお前も静かにしてくれ!!!何もするな!!!あたしに一時でもいいから静寂をよこしやがれえええ!!!」

 

またもクリスに怒鳴られ、日和はしゅんとなり、今度こそ黙った。悲しいからか、彼女のうさ耳リボンが項垂れている。

 

~♪~

 

響と日和が部屋にいないことを見計らい、考え事を再開するクリス。

 

(昨日までにやらかした罪は、簡単に償えるもんじゃない・・・そいつを分かっているからこそ、あたしはもう逃げだしたりしない。そうだ・・・あたしに、安らぎなんていら・・・)

 

「じぃー・・・」

 

クリスがそこまで考え込んでいると、翼の視線に気がついた。

 

(この身は常に鉄火場のど真ん中に・・・あって・・・こそ・・・)

 

クリスは考え事を続けようとするが・・・まったく集中できない。それどころかずっと見つめてくる翼にクリスは変な恐怖心が芽生える。

 

「じぃー・・・」

 

(な、なんで今度の奴はずっとだんまり決め込んでるだけなんだ⁉)

 

クリスはしびれを切らして、翼に問いかける。

 

「な、なんだよ⁉黙って見てないで何か喋ったらどうだ⁉」

 

クリスの問いかけに翼は少し間を開け・・・

 

「常在戦場」

 

真顔でただ一言そう呟いた。そんな翼にクリスは悲鳴を上げて翼から距離をとる。

 

「ひいぃぃぃ!!!やっぱいい!!!あんたも喋ってくれるな!!!頼むから喋らないでくれ!!!」

 

クリスの言葉に翼はふっと薄ら笑いを浮かべる。その印象は一言で言うなら怖いに限る。

 

「ふっ・・・そういうな、雪音・・・」

 

「特起物にはまともな人間はいないのかああああああ!!??」

 

この場にまともそうな人間がおらず、クリスは悲鳴に近い声を上げた。

 

 

 

『幽霊はいる?』

 

 

 

夜時間・・・監禁状態が続く中、装者たちは眠りについている。そんな中、クリスは未だに起きている。

 

「あ・・・クリス・・・起きてたんだ・・・」

 

そこに眠りから覚めた日和が彼女に近づく。

 

「あ?なんだよ?なんか用か・・・?」

 

クリスの問いかけに日和はもじもじした様子で口を開く。

 

「お・・・おトイレ行きたい・・・クリス・・・一緒に来て・・・」

 

「はあ?なんで付き合わなきゃいけねぇんだ。1人で行けよ」

 

「クリスは私が幽霊に呪われてもいいの!!?私とクリスの友情はそんな薄情なものだったの!!?」

 

クリスの言葉に日和は青ざめた顔で叫ぶ。ノイズとの戦いで日和は度胸はついたものの、臆病なところは直っておらず、16歳の今でも夜に1人でトイレに行けないようだ。

 

「は、はぁ?お前そんなもん気にしてんのかよ?ゆ、幽霊なんて・・・実際にいるわけないだろ・・・」

 

と、言いつつもクリスは若干顔を青ざめてしゃべっている。そんなクリスに日和はすごい剣幕で叫ぶ。

 

「幽霊はいるんだよぉ!!!だって・・・この目で見たんだもん!!!小学校の時、実家の夜の病院を歩いてたら・・・」

 

「ひいぃぃ!!や、やめろぉ!!聞きたくねぇ!!頼むからしゃべらないでくれ!!」

 

日和の話を聞いて、クリスは悲鳴に近い声を上げて話を終わりにするよう懇願する。

 

「世の中には怖い話がたくさんあって、きっと実在したことなんだよ!!例えば夜の・・・」

 

「お前怖い怖いとか言っておきながら、実は楽しんでんじゃないだろうなぁ!!!??」

 

だが日和はお構いなしにいろいろ語ろうとしている。恐怖に顔が青ざめているが、実は楽しんでないだろうかと疑いを日和に向けるクリス。結局話をこれ以上聞きたくないのか、日和のトイレに付き合うことになったとか。

 

 

 

『歓迎パーティ』

 

 

 

監禁状態から約3週間となったその日。二課の一室にて二課のメンバーたちが集まっている。何のために集まっているのかというと、クリスの歓迎パーティーを開くからだ。部屋の垂れ幕にも・・・

 

『歓迎!!雪音クリスさん!!』

 

と書かれており、豪華な料理も並べられており、すっかり歓迎ムード一色である。

 

「と、いうわけで、改めての紹介だ。雪音クリス君。第二号聖遺物イチイバルの装者にして、心強い仲間だ!」

 

「・・・ど、どうも・・・よろしく・・・///」

 

紹介されたクリスは若干・・・いや結構照れていて、頬を赤く染めている。

 

「やったー!改めてよろしくね、クリス!」

 

「んなっ!!?」

 

二課の仲間入りをしたクリスに日和は彼女の手を握る。それによってクリスは顔をさらに赤く染める。

 

「さらに、本日をもって装者4人の行動制限も解除となる!」

 

「えっ!!?行動制限解除ってことは・・・」

 

「師匠!!それってつまり・・・」

 

「そうだ!君たちの日常に帰れるのだ!!」

 

「やったー!!やっと未来に会えるー!!」

 

「わーい!!やっとお日様の下で海恋に会えるんだー!!」

 

立て続けに起こるめでたいことに響と日和は喜びを露にしている。

 

「クリス君の住まいも、手配済みだぞ。そこで暮らすといい」

 

「あ、あたしに!!?いいのか!!?」

 

クリスに新しい住まいを提供してくれた弦十郎にクリスは驚きながら問いかける。弦十郎はさも当然のように答える。

 

「もちろんだ!装者としての任務遂行時以外の自由やプライバシーは保障する!」

 

クリスは自分の帰る居場所を手に入れ、感動からか目元に涙をためる。だがすぐに気を取り直して、目元の涙を拭った。そんなクリスを見て翼は何かを察して、あるものを見せて彼女に声をかけた。

 

「案ずるな雪音!合鍵は持っている!いつだって遊びに行けるぞ!!」

 

「はあ!!??」

 

翼が持っていたのはクリスの住まいの合鍵だったようだ。突然のありがた迷惑な告白にクリスは耳を疑った。

 

「もちろん!私の分や・・・海恋の分もあるよ!これでいつでも一緒だね!」

 

「私も持ってるばかりかなぁんと・・・未来の分まで!!」

 

さらに日和と響までもが同じ型の鍵を2つも持っていた。未来と海恋の分まで用意されていたようだ。

 

「自由とプライバシーなんてどっこにもねぇじゃねーかああああああああ!!!!!」

 

クリスはもうすっかり涙が引っ込み、怒りで日和たちを怒鳴った。

 

 

 

『そういうことは家でやれ①』

 

 

 

二課のメンバーがクリスの歓迎パーティを楽しんでいると、その楽しみの終わりを告げる警報が鳴り響く。

 

ヴゥー!ヴゥー!

 

「こいつは・・・ノイズの発生を知らせるものか!」

 

警報が鳴り響く中、翼たちが気持ちを切り替え、気合を見せている。

 

「行動制限は解除!ならばここからは防人の務めを存分に果たすまで!!」

 

そんな中、何が起こったのかわからないでいるクリスは困惑している。そんな中日和はクリスの手を繋ぐ。

 

「クリス!今日から一緒に行こう!」

 

「はあ!!?」

 

日和の行動にクリスは理解が追い付かないでいる。そしてクリスは日和の手を振り払う。

 

「お手手繋いで同伴出勤とかできるもんかよ!」

 

「でも任務だよ!!」

 

日和は再びクリスの手を握る。日和の行動にクリスは頬が赤くなる。

 

「だ、だからって!いきなりお友達って訳には・・・」

 

「日和さん!クリスちゃん!早く早く!」

 

「何をやっている2人とも!!そういうことは家でやれ!!」

 

「家ならいいってのか・・・!!?」

 

翼の言動にクリスはさらに顔を赤く染め、真っ赤になる。

 

 

 

『嬉しいのはわかるが・・・』

 

 

 

ノイズが現れた現場に向かい、ノイズを殲滅したことにより、襲われそうになっていた海恋たちを助けた装者たち。

 

「ね?言ったでしょ?私は絶対に死なないって。玲奈と小豆、了子さん・・・海恋との約束だもんね!」

 

「・・・っ!バカ・・・!」

 

海恋の笑いを見て涙を流し、日和に抱き着いてきた。

 

「はは・・・やっぱり心配かけちゃったよね?ごめんね・・・」

 

ぎゅうううう・・・

 

「あ、あの・・・海恋さん?ちょっと苦しくなってきたから・・・放してもらっても・・・なんて・・・」

 

海恋が日和を抱きしめる力が急に強くなり、次第に日和の顔色が苦しいものに変わる。だがさらに海恋の力が強まる。

 

ぎゅうううううう!!

 

「痛い痛い痛い痛い!!海恋!!?海恋ってば!!?このままじゃ私背骨骨折しちゃう!!やめて!!やめてってばぁ!!ねぇ!!?」

 

あまりの力強さに日和が抱きしめるのをやめるよう懇願している。隣の方では未来も響が心配だった思いが爆発し、ポカポカ叩く力が強まって、逆に響を苦しめている。

 

「弦十郎さん?どういうことか説明お願いできませんかねぇ?」

 

「い、いや・・・これには深い事情がありましてな・・・」

 

咲は般若のような形相で弦十郎の耳を引っ張りながら黒い笑顔で事情を問い詰めている。世界最強のOTONAも、咲の気迫にはたじたじである。

 

 

 

『そういうことは家でやれ②』

 

 

 

夕方ごろになって海恋はようやく落ち着きを取り戻し、抱く力を普通に戻している。ここまで心配かけさせてしまったことに反省している日和。

 

「ごめんね。本当にごめん・・・ごめんなさい」

 

「・・・次にこんなことやったら、許さないんだから・・・。本当に・・・本当に死んだかと思ったのよ・・・」

 

「うん・・・心配かけて本当にごめん・・・」

 

日和は謝りつつ、海恋を抱きしめた。隣の方もでも響と未来がお互いに抱き合っている。その光景を装者2人と大人たちは遠くで見ていた。

 

「いやはや何とも・・・現代っ子ってのは、みんなこうなのか?」

 

「初々しいとは思いますけどもね・・・」

 

「さすがに、家に帰ってからやってほしいですね」

 

「だから家ならいいのか!!??どうかしてるぞ特起物!!!!」

 

大人たちの発言にクリスは顔を赤くしながらツッコミを入れた。茶々を入れるように、カラスが鳴き始める。




XD-エクスドライブアンリミテッド-

東雲日和ハロウィン型ギア

狼の仮想をイメージしたシンフォギア。今までのインナースーツのような姿ではなく、狼らしさを強調しており、両腕と両足の装甲は狼のような装甲、黒い短パンに狼の毛のパレオが付いている。胸部の服装は狼の毛皮を使っており、短くてへそが出ている。胸にはかわいらしいリボンが付いている。尻尾の機械装飾も狼のもので、ヘッドギアも狼ものである。


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戦姫絶唱しないシンフォギア②

『装者たちの歌』

 

装者たちの行動制限が解除され、いつもの穏やかな日常に送れるようになったある日。未来が響にあることを質問する。

 

「そういえば前から聞きたかったことなんだけど、戦いながら歌うって、あれはどういう仕組みなの?」

 

「ああ、それは私も気になったわ。シンフォギアについては頭では理解できても、仕組みがいまいち理解できないのよね」

 

シンフォギアは歌いながら戦う・・・その仕組みが気になっている未来。そこに海恋が便乗する。

 

「うーん・・・手っ取り早く言うと・・・シンフォギアってカラオケ装置なんだよね」

 

「「か、カラオケ!!?」」

 

まさかそんな答えが返ってくるとは思わなかった未来と海恋は驚愕する。

 

「そ!私もよくわかってないんだけど・・・シンフォギアから伴奏が流れると、胸に歌詞が沸き上がってくるんだ!」

 

「・・・胸に・・・歌詞が・・・?」

 

「えーっと、つまり?シンフォギアを纏えば、その胸に浮かんだ歌詞が浮かび上がるってこと?」

 

「ま、そういうこったな」

 

響の答えに海恋なりに推察していると、いつの間にか合流してきたクリスがそれを肯定するように頷いた。後ろから翼と日和もやってきた。

 

「歌詞もまた、装者が心象に描く風景に由来とした物だと、かつて櫻井女史は言っていたな」

 

「あー、なるほどぉ!それで私の胸に浮かんでくる歌詞には、生きることに勇気が湧いてくるものが多いんだね!」

 

「そうだな。友の約束のために生きるという意志が伝わるあの歌は、実に東雲らしい」

 

装者たちの胸に流れる歌が心象によって浮かび上がるものだと知り、日和は納得したような表情になる。

 

「そっかぁ・・・なるほどぉ・・・それでクリスの歌詞には・・・」

 

「お、おい!!お前何を言い出そうとしてんだ!!やめろ!!」

 

日和はクリスがシンフォギアを纏い歌っていた時の歌詞を出そうとした時、クリスに止められる。

 

「え?なんで?私は好きだよ?ぎも・・・」

 

「うあああああああ!!やめろって言ってるだろぉ!!」

 

日和がクリスの歌詞を今ここで口に開こうとした時、クリスに止められる。今ここで歌詞なんて広げられたら絶対にいじられると思ったからだ。

 

「ふっ・・・雪音はどこまでも奔放だな」

 

「ちょっと待て!!あんただけには言われたかないぞ!!自覚がサッパリかもしれないが、そっちの歌も大概なんだからな!!あれが心象由来というのなら、医者も裸足で逃げ出すレベルだ!!」

 

クリスの歌詞を思い浮かべた翼の言葉にクリスは彼女に突っかかってきた。

 

 

 

『日和の秘密』

 

 

 

ルナアタック事変によって、旧リディアンは学校としての機能を失ったために、新たな校舎に移転することとなる。そのため、学生寮もお引越しをすることになった。寮生の皆は今頃新たな寮に移り、自分たちの部屋の掃除や整理を行っているだろう。無論、寮生である日和と海恋も新たな寮の自分たちの部屋の整理を行っている。と、ここで、日和に1つの問題が発生する。今日和の手元には、日和の小学校の頃のアルバムが握られている。

 

(ううぅ・・・このアルバムをあのタンスの奥深くにしまいたいんだけど・・・今海恋がそこにいるからなぁ・・・やだなぁ・・・)

 

日和は整理の際に見つけたアルバムを海恋に見られたくないらしく、しまえる隙を伺っている。

 

(これだけは・・・これだけは誰にも見られたくない・・・だって・・・この中には・・・太ってた頃の私の写真が・・・!こんなの知られたら・・・もうお嫁にいけない・・・!)

 

日和は小学校の頃、ぽっちゃり体系で太っていて、それは日和にとっては黒歴史であり、誰にも知られたくない秘密である。だから親友である海恋にも見られたくないのだ。太った自分を自分だと思われたくないから。ちなみに、なぜ咲に預けなかったのかというと、咲の散らかし癖ならアルバムどころか写真を絶対にどこかに散乱するからである。

 

「ちょっと・・・何さっきからサボってるのよ?そっちの方はもう終わったの?」

 

「えっ!!?あ、いや!ま、まだだよ!ちょーっと、時間かかっちゃって・・・」

 

海恋が近づいてきたことによって日和は思わず抱えていたアルバムを背中に隠す。それを見た海恋は少し怪訝な顔をする。

 

「今何を隠したの?まさか危険物とかじゃないわよね?」

 

「えっ!!?危険物?はは、まさかぁ。そんなもの持ち込むわけ・・・」

 

「本当?ちょっと確認するから見せなさいよ」

 

「えっ!!?」

 

海恋が隠したものを確認すると言い出し、日和はかなり焦っている。

 

「いや、別に信用してないわけじゃないけど・・・万が一の可能性を考えると、やっぱり風紀委員としては見過ごせないのよ。ほら、見せて」

 

「い・・・嫌だ・・・!」

 

海恋は隠したものを出すように催促するが、日和はここぞとばかりに抵抗している。

 

「ふーん・・・なら・・・」

 

海恋は強硬手段として日和にこちょこちょを仕掛け、笑わせようとする。

 

「ちょ・・・やめ・・・あははははは!」

 

こちょこちょに弱い日和は大声で笑い、持っていたアルバムを出してしまう。海恋はすぐにそのアルバムを奪い取る。

 

「はい、取った」

 

「あああ!!ちょ・・・卑怯だよ!!」

 

「アルバムぅ?なんでこれを隠す必要があるのよ?」

 

「あああああ!!!見ちゃらめえええええええ!!!」

 

日和がなんでアルバムを隠したがるのかわからない海恋は理由を確かめるために中身を拝見する。写真を拝見すると、小さかった頃の日和の友達、小豆が目に移る。

 

「これが小さい頃の小豆?へぇ・・・かわいいじゃない。・・・で・・・このちょっと太った子は・・・誰?」

 

写真に写っていた小豆の隣に写っているぽっちゃり体系の少女を海恋は見つめる。これが小学校の頃の日和なのだが、海恋はこれが日和だと気づいていない。

 

「でも誰かに似てる気が・・・」

 

「わあああああああああん!!!海恋のバカあああああああ!!!」

 

日和は写真を見られて泣きわめき、部屋に閉じこもってしまった。

 

「え・・・えぇ!!?な、なんで泣くのよ!!?ちょ、ちょっと日和!!?」

 

写真の少女が日和だと気づいてない海恋はわけがわからず、アルバムをタンスにしまって日和の慰めに向かった。

 

 

 

『給料の使い道』

 

 

 

ある日のこと、海恋は日和たちの役に少しでも立とうと思い、二課のオペレーターに頼んでオペレーターの本を貸してもらった。海恋が帰ろうとした時、偶然自分の通帳を眺めているクリスを見つけ、彼女に声をかける。

 

「あらクリス。自分の通帳を眺めてどうしたの?」

 

「い、いや・・・知らなかったよ・・・特起物のシンフォギア装者やってると、小遣い貰えるんだって・・・」

 

「ああ、それね。日和が初めて給料をもらった時は大はしゃぎしてたのを覚えてるわ」

 

「目に浮かぶぜ・・・」

 

シンフォギア装者としてノイズを倒す・・・これも一種の仕事・・・きちんと役目を果たすことができれば給料がもらえる。クリスはその点について驚いており、初めて給料をもらった時の日和の反応を海恋は思い出す。

 

「で、クリスはそのお金を何に使うの?」

 

「それなんだよなぁ・・・。・・・ちなみにお前だったら何に使う?」

 

「何?参考?私なら・・・使わずにそのまま貯金するわね」

 

「真面目だなぁ・・・」

 

クリスはお金の使い道について海恋に尋ねるが、あまりにも真面目すぎて参考にすらならなかった。

 

「だったら他の誰かを参考にしたらどう?」

 

「他の奴なんて参考になるかよ。どうせあのバカときたら・・・」

 

『あは、あははは!ご飯&ご飯ー!あは、あははは!』

 

「とか言って食費に溶かして損だし・・・」

 

「あー・・・確かに・・・」

 

他の人に参考として響のお金の使い道について考えるが、2人ともその光景が容易に想像できて、参考にならない。

 

「翼さんなら・・・」

 

『常在戦場・・・常在戦場・・・』

 

「とか言って、乗り捨て用のバイクを何台も買ってそうなイメージがあるわね・・・。いや、勝手な想像だけども・・・」

 

「それもありえるぜ・・・」

 

海恋は翼が乗り捨て用のバイクを何台も買う姿を想像する。クリスもそのイメージができてるようで、苦笑いを浮かべる。

 

「あいつなんてきっと・・・」

 

『えへへー、ベッキー、きれいに・・・きれいにしてあげるからねー』

 

「とか言って自分のベースの手入れ道具をこれでもかってくらいに買ってそうだし・・・」

 

「あらよくわかったわね。日和ってばもらったお金をほとんどベースの手入れ道具に使ってるのよ」

 

「当たりかよ!!?」

 

日和のお金の使い道も想像したクリスだが、本当に当たっていたようで思わずツッコミを入れるクリス。

 

「こ、これでもかってくらいに参考にならないわね・・・」

 

「だろ?だからこいつを何に使うかって迷っててなぁ・・・」

 

「よかったら一緒に考えてあげようか?」

 

「んー・・・いや、いい。こういうのは自分で考えた方がいいだろ」

 

「そう。わかったわ」

 

クリスは給料を何に使うか真剣に考える。そのクリスを邪魔しちゃいけないと思い、海恋は寮に戻る。

 

~♪~

 

そして翌日。ようやく買うものが決まったようで、クリスは弦十郎を連れてどこかへと向かっている。海恋はクリスの買うものが気になるようで、ついてきている。

 

「というわけで、あたしの買い物に付き合ってもらう!」

 

「だからってなんで俺が?」

 

「あの2人じゃダメなんだよ!てか、なんでお前ついてきてんだ?」

 

「気になるのよ。あなたが何にお金を使うのかを」

 

「傑作アクション映画でも探してるのか?だったら・・・」

 

弦十郎はクリスが何を買うのかと推察していると、彼女の歩みを止めた。どうやら目的地に着いたらしい。弦十郎と海恋が顔を見上げてみると・・・店の看板には仏具店と書かれている。

 

「「ぶ、仏具店!!?」」

 

まさか仏壇を買うためにやって来たとは思わず、弦十郎と海恋は驚愕する。

 

「へへ、1番かっこいい仏壇を買いに来たぜ!」

 

「意外というか・・・なんというか・・・想像を絶する渋い趣味をお持ちの用で・・・」

 

「というか、1番かっこいい仏壇っていったい何なのよ・・・?」

 

クリスのお金の使い道に対し、弦十郎と海恋は何と反応すればいいのかわからなかった。

 

~♪~

 

購入した仏壇はクリスの家まで運ばれた。ちなみに、なぜ弦十郎を呼んだのかというと、この仏壇を家まで運ぶためだったのだ。それもむき出しで。普通に業者に頼めばよかったのではないかと思うが。

 

「わりぃな。でかい荷物を運ばせちまって。おかげで助かった」

 

「むき出しで運ばされるなんて思ってもみなかったぞ・・・」

 

「ていうか、仏壇なんて買って、どうするつもりだったのよ?」

 

海恋はクリスが仏壇を買った理由を尋ねる。するとクリスは笑みを浮かべる。

 

「ふ・・・あたしばっかり帰る家ができちゃ、パパとママに、申し訳ねぇだろ?」

 

クリスの話を聞いた時、弦十郎と海恋は驚き、笑顔を浮かべる。

 

「クリス・・・あんたやっぱりちゃんと考えていたのね・・・見直したわ」

 

(仏具店からここまでの帰り道・・・7回も職質された甲斐があったのかもしれないな・・・)

 

弦十郎はうんうんと頷いている。

 

 

 

『お料理の支度』

 

 

 

ある日の休日、日和と海恋は咲の住んでるマンションに遊びに来ている。時間はその時のちょうど夜ご飯の時間帯。今日は咲からの誘いで夕食はここでとることになった。その際に海恋が料理を手伝うと言い出したので、3人で料理をすることになった。本日のメニューはビーフシチューだそうだ。

 

「ねぇねぇ、お肉も野菜もいい感じになって来たんじゃないかなぁ?」

 

「う~ん・・・そうねぇ・・・こんなものでいいかしらね。日和、ルーを取ってもらえる?」

 

「うん!わかったよ!」

 

ルーを入れる頃合いと判断した咲は日和にルーをとってくるように頼み、日和は冷蔵庫からルーを探す。

 

「2人が手伝ってくれて、こっちも大助かりよ」

 

「いえいえ、日頃から何から何まで咲さんにはお世話になりっぱなしですし・・・せめてこれくらいは・・・」

 

「本当、海恋ちゃんは健気ねぇ・・・。それなのに西園寺家ときたら・・・」

 

自分から手伝いを申し込んでくれる海恋に対し、咲は感心しており、それとは逆に彼女の実家である西園寺家に対し、軽蔑的な反応を示している。そんな咲を見て海恋はまずいと思い、別の話題を振る。

 

「と、ところで咲さんは昔から料理を?」

 

「え?ええ。昔っから日和は食べることが好きでね・・・出された料理は苦手なもの以外何でもおいしく食べるの。その時の顔を見ると、心が晴れるものだから・・・思い切って料理を始めたのもちょうどその頃ね」

 

「わかります。私も料理を始めたのはそんな感じでして・・・生まれて初めて知りましたよ。おいしく食べてくれるってことが、こんなに嬉しいものだったなんて。実家にいた頃は、料理すらさせてもらえませんでしたので・・・」

 

「そうよねぇ・・・。辛かったわよねぇ・・・。ほんっとうに西園寺家はろくでもないんだから・・・」

 

(や、やば・・・ぶり返した・・・)

 

思わず実家の話をしてしまい、話題を逸らすどころか逆にぶり返し、海恋はしまったと思った。咲は西園寺家に対する愚痴を延々を言い続けている。

 

「お姉ちゃんー、ルー持ってきたから入れるねー」

 

「え?あ、持ってきたの?じゃあ・・・お願いね」

 

「はーい」

 

(ひ、日和!グッジョブ!)

 

そこに救世主現るかのタイミングで日和がルーを持ってきたので、咲の愚痴はそこで止まった。海恋は日和に対し、感謝を心から送っている。ルーを入れて時間をかけて煮込んで完成だ。完成した品は食卓に並べられ、3人で食事を始める。ただ完成した品を見て、海恋が口を開く。

 

「・・・な・ん・で・・・ビーフシチューのはずがカレーになっちゃうのよ!!?」

 

そう、食卓に並べられたのはビーフシチューではなくカレーだったのだ。どうやら日和はカレーとビーフシチューのルーを間違えてしまったようだ。

 

「まあまあ海恋ちゃん・・・失敗は誰にだってあるわ。ね?」

 

「そうそう、失敗は成功の元って言うでしょ?だから失敗してもへっちゃらへっちゃら!」

 

咲は冷や汗をかきながら日和を庇っている。日和はその咲に便乗している。だが海恋は知っている・・・咲が同じ失敗をやらかしてしまっていたことを。

 

「・・・この姉にして妹ありね・・・」

 

海恋は咲と日和の姉妹を見てそう呟きながらテレビをつける。番組はちょうど咲が見たいニュース番組になっているようだ。

 

『・・・風鳴翼さんが、クイズ番組に出演との・・・』

 

「つ、翼さんが!!??」

 

「クイズ番組に!!??」

 

「マジでぇ!!??」

 

翼がクイズ番組に出演するとの放送が流れ、テレビを見ていた3人は驚愕で満ちていた。その後、日和は翼に電話で確認してみたところ、どうやら緒川にそういうスケジュールを入れられたそうだ。とはいえ、翼ファンである日和はそれを止めるようなことはせず・・・というかむしろ出てくださいと頼み込んだとか。

 

 

 

『Gが始まる少し前・・・』

 

 

 

夏休みが終わって数日・・・今日も学校が始まる。クリスも編入してリディアンに通うようになったため、制服に着替えている。クリスは両親の仏壇の前に座り、リンの音を響かせ、挨拶をする。

 

「おはようさん」

 

クリスは2つの位牌に挨拶がてら合掌する。

 

「クリスー!早くしなさいよー!」

 

その最中、外から海恋の声が響いてきた。どうやらわざわざクリスの家まで迎えに来たらしい。ちなみに日和は寮でまだ寝ている。

 

「朝から騒々しくてわりぃな。でも、騒々しいのは音楽一家らしいだろ」

 

クリスは一礼して、学校鞄を持って立ち上がる。

 

「んじゃ、学校に行ってくる。・・・正直、まだ慣れないし、騒々しいところだけど・・・パパとママの子供だから、あたしも騒々しいのは嫌いじゃないみたいだ」

 

位牌に向けてそう呟いた後、家の外に出た。

 

「よう・・・待たせて悪かったな」

 

「挨拶は済んだみたいね。さ、行きましょう」

 

海恋と合流したクリスは彼女と共に、今日もリディアンへと向かうのであった。




XD-エクスドライブアンリミテッド-

東雲日和ーメイド型ギアー

その名の通り、メイド衣装を模したギア。日和のメイドギアはメイド衣装に胸元がハートマークのように開いており、ギアの結晶部分にリボンがついている。スカート部には機械装飾の猫の尻尾があり、メイドカチューシャのヘッドギアには猫耳がついている。使用するアームドギアは熊手付箒である。


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戦姫絶唱しないシンフォギアG①

『クイーンズ・オブ・ミュージック開催数日前・・・』

 

 

 

翼がマリア・カデンツァヴナ・イヴとのコラボをするライブ、クイーンズ・オブ・ミュージック。もちろん日和たちはこの日を楽しみにしてはいる・・・のだが・・・

 

「えっ!!?クイーンズ・オブ・ミュージックにいけないかもしれないの!!?」

 

「そ、それはまた・・・残念ね・・・」

 

日和たちはその当日にライブに行くことができないかもしれないのだ。

 

「で、それってやっぱり二課の任務?」

 

「そうなんだよ~・・・私と響ちゃんとクリスで遠出しないといけない任務でさ~・・・」

 

「というわけで・・・未来!本当にごめん!」

 

「・・・日和さんとクリスと遠出って・・・」

 

確定というわけではないが、ライブに行けない理由というのはやはり任務だ。その内容はソロモンの杖を米国基地に届ける・・・いわゆる輸送任務だ。

 

「でも、早く終われば日和さんとクリスちゃんと一緒に駆けつけるから!翼さんのステージに間に合うかもしれない!」

 

「・・・それって、同伴出勤では・・・?」

 

日和とクリスとで遠出の同伴出勤があまり気に入らない様子の未来は少ししらーっとしている。

 

「大丈夫だって!日和さんとクリスちゃんも一緒だから、心配しないで!」

 

響は未来と海恋を心配させないようにそう言った。

 

「ちゃんと帰ってきてくれるなら大丈夫よ。任務、頑張ってちょうだい、2人とも」

 

「ありがとう海恋!必ず間に合わせてみせるから!」

 

海恋は日和たちが帰ってきてくれるだけで満足ゆえにそう言った。ただ未来は任務の危険よりも別のことにたいしてで響を心配している。

 

「日和さんとクリスが一緒だからって・・・ううん、だからこその心配だってあるんだよ⁉」

 

「ど、どうしたの?」

 

響の問いかけに未来は顔を赤らめながら話す。

 

「あ、あのね・・・響・・・」

 

「???」

 

「・・・昔の船乗りさんには、港々に家庭があったって聞いてるわ・・・///」

 

未来の言っていることがわからず、響と日和の頭に疑問符が大量に浮かび上がる。

 

「え?何の話?今関係あることかな?」

 

「???ねぇねぇ海恋、未来ちゃんは何の話をしてるの?」

 

「・・・小日向さん・・・あなたはいったい何を想像してるのよ・・・」

 

未来が想像していることが理解した海恋はちょっとあきれた様子である。

 

 

 

『クイーンズ・オブ・ミュージック当日』

 

 

 

クイーンズ・オブ・ミュージック当日。その会場にライブ出演としてやってきたマリアは自分のマネージャーであるフォルテを連れて施設のパーティー会場にやってきていた。そこには豪華な食事がたくさん並んである。いわゆるケータリングサービスというものだ。

 

「ケータリング~!!」

 

ケータリングサービスを目の当たりにしてマリアは目を輝かせており、フォルテは無表情で端末を操作して仕事をしながらマリアを見守る。マリアは誰もいないことを見計らい、タッパーを用意して料理を次々とタッパーに詰めていく。

 

「・・・あまり取りすぎないようにな。品性が疑われる」

 

「でもフォルテ、調と切歌はまだ育ち盛りなのよ?たくさんお土産を持って帰らなくちゃ!特に調にはもっとお肉を食べさせなきゃ!切歌のために色の濃い野菜を詰め合わせてっと・・・」

 

「・・・少し係りの人間と電話してくる。マリア、僕の分も取っておいてほしい」

 

フォルテはマリアにそう言って、電話のために一旦会場から退室する。マリアはフォルテが出ていった後、周りに誰かいないかもう1度見回し、いないことを見計らい、どんどんとタッパーに料理を詰めていきながらフォルテの分の料理を取っていく。

 

「フォルテは日本食が好きで・・・というか、隙あらば日本食だけを食べてるし!ああ見えてマムもお肉好きだし・・・ていうか、お肉ばっかり食べるし!どうしてみんなは好きなものしか食べないのかしら!バランス悪いったらありゃしない!!ドクターはドクターでお菓子ばっかりの偏食家だし!ああ、もう!!まるで私がみんなのお母さんみたいなんじゃないの!!でも、これから人類救済に向けて頑張らないといけない正念場だから、せめて元気の出るご飯をしっかり食べてもらって・・・!!」

 

「今戻った。・・・取りすぎじゃないか・・・?」

 

たった今フォルテが電話から戻ってきた。マリアのタッパーに料理を詰める勢いが凄まじく、その様子を見たフォルテは取りすぎだと呟いた。多くの料理を詰めたマリアは満足気に、実にうっとりとした表情になる。

 

(引っ込み思案の私でも、アイドルやっててよかった・・・♪と、心から思えるのは、ケーリングが充実している現場に巡り合えた時・・・♪)

 

「・・・マリア、僕の分の料理、寿司が少ないぞ。もっと寿司を入れてくれ」

 

フォルテはマリアに入れてもらった料理が入ったタッパーを見て、寿司をもっと入れるように要求した。

 

 

 

『マリアと翼の初対面』

 

 

 

料理を一通り取ったマリアはフォルテと共に控え室に戻り、取った料理を共に食べる。

 

(これよ!!これさえあれば!!)

 

「・・・うまいな」

 

高級料理を食べたマリアは目を輝かせ、自信に満ち溢れる。フォルテは特に変わった様子はなく、黙々と食べている。食事を済ませた後、マリアとフォルテは翼の控室に向かった。翼の控室にたどり着いたマリアはまずドアをノックする。

 

コンッコンッ

 

「邪魔するわよ!」

 

そしてマリアは扉を開けて堂々とした態度で控室に入っていき、フォルテも後ろからついていく。打ち合わせをしていた翼と緒川は突然のマリアの登場に驚いている。

 

「今日はよろしく。せいぜい私の足を引っ張らないように頑張ってちょうだい」

 

「一度幕が上がれば、そこは戦場・・・未熟な私を助けてくれるとありがたい」

 

翼は共に出演するマリアに手を差し伸べ、握手を求めている。

 

「続きはステージで・・・楽しみにしているわよ」

 

マリアは翼の手は取らず、そう言って控室から出ていった。残ったフォルテは翼と緒川にお辞儀をしてから部屋を退室した。そして、自分の控室に戻ったマリアは・・・

 

「あれが・・・その筋では有名な日本政府の防人と忍者・・・!間近で見たらとんでもない迫力・・・あんなのとやり合わなきゃいけないなんて無理よマム・・・!」

 

「・・・強気に出たと思えば急に弱気になる・・・。・・・そういう遊びなのか?」

 

翼と緒川を間近に見てオーラを感じ取ったのかすっかり弱気になっている。フォルテはその様子をただ無表情で見ている。

 

「高級食材食べてちょっとばかり強気で高飛車になれた気がするけど・・・その気になれただけでどうにかできるなら誰も苦労しないわよぉ~!!」

 

「・・・寿司がまだ残っているが・・・食べるか?」

 

「食べるぅ~!!」

 

さすがにいたたまれないのかフォルテは取っておいた寿司を食べないかマリアに尋ねる。マリアは泣きべそをかきつつも食べると答えた。

 

~♪~

 

突然現れ、嵐のように去っていったマリアに翼と緒川はポツンと眺め、見送ることしかできなかった様子である。

 

「すごい迫力でしたね・・・さすが海外のトップアーティスト・・・」

 

「あれが・・・マリア・カデンツァヴナ・イヴ・・・」

 

強気に気取っていたマリアだったのだが、翼と緒川には迫力があると感じ取っていたようだ。

 

「第一印象、いかがでしたか?」

 

「う~ん・・・かわいいタイプ・・・かな・・・?」

 

「え?かわいい?今のがですか?そうでしたっけ?」

 

マリアの第一印象がかわいいという翼の発言に緒川は首を傾げている。

 

「彼女はこう・・・散らかった部屋を片付けられずに、べそをかいて・・・あのマネージャーに慰めてもらっているような・・・手がかかるけれど、かわいいタイプに違いない」

 

(つまり・・・似た者同士と・・・)

 

翼の解釈に緒川は似た者同士という考えに行きつく。

 

「アーティスト同士、どこか通じ合うところがあるようですね」

 

「歌で通じ合えるか・・・今日のステージを終えて、もう少し気心が知れると嬉しいな・・・」

 

翼はマリアと共演することで、彼女のことを理解できたらいいなと考えている。一方その頃マリアは・・・

 

「へっくち!ああ!!きっと世界のどこかで私の悪口がまかり通っているううううううう!!!」

 

「・・・天ぷらもあるが・・・食べるか?」

 

「食べるぅ~!!」

 

翼が言ったこととは気づいていないが、解釈自体はなぜか感じ取ったようで、よりネガティブな思考に陥っている。フォルテは今度は天ぷらを出して食べないかと尋ね、マリアは食べると答えた。

 

 

 

『テロ組織の決起より数日後・・・』

 

 

 

武装組織フィーネの潜伏拠点である廃病院。その廃病院の一室でフォルテはただ1人、目を閉じて座禅を組んでいる。その光景を遠くから覗き込んでいるマリア。

 

(フォルテは今日も瞑想かしら?真なる平和をフォルテのことだから・・・きっと人類救済に向けて力をつけてるんだわ!きっとそうに違いない・・・さすがはフォルテ・・・)

 

マリアはこの座禅がフォルテ自身が強くなるための特訓の1つだと考えている。

 

(あなたはリーダーにふさわしくないって言っていたけれど・・・あなた以外にリーダーにふさわしい人は他にいないわ!)

 

マリアはフォルテに対し、レセプターチルドレンのリーダーにふさわしいと高く評価している。マリアがそう考えている中、フォルテは座禅の中で・・・

 

(・・・真なる平和が訪れたら、きっとマリアは有名になる。ならばこの命尽きる前に、彼女の名が上がるように宣伝しないといけないな・・・)

 

真なる平和が実現し、マリアがさらに有名なトップアーティストになるための宣伝について考えている。

 

(ふむ・・・以前風鳴翼が出演したクイズ番組の出演をオファーするか?いや、もっと別路線で名を広めてもいいはずだ。さらにバラエティ番組にて、身体の張ったコントなど様々なことを挑戦させても・・・いや待て・・・商品で売り出す方向性も捨てがたい・・・)

 

マネージャーとしての使命だからだろうか・・・フォルテはマリアのためになりそうなことを考えている。だが・・・どれもこれも、マリアのためになりそうにないものばかり考えている。

 

 

 

『F.I.S病院アジト放棄後』

 

 

 

潜伏拠点であった廃病院を放棄後はエアキャリアで身を潜めるマリアたち。そんな中の夕飯の準備中。今日の夕飯当番・・・言い方を変えるとおさんどん当番は調である。調はおさんどんの歌を歌いながら今日の夕飯の準備をしている。一通りできて、、一口味見をする。そこへ、切歌がやってきた。

 

「今日のご飯はなんデスか~?すっかりお腹がぐーぐーへりんこファイアーデスよ~」

 

「冷蔵庫の残り物を全部使ったシチュー」

 

「ごちそうデース!!」

 

今日の夕飯が残り物を全て使ったシチューだと知って切歌は大喜び。ただ、調はシチューの味にあまりピンと来てない様子。

 

「だけど・・・思った通りの味が出ない・・・」

 

「どれどれ・・・?」

 

切歌は調が持ってた皿を取り、シチューを少し注いで味見をする。自分が口にした皿で味見をする切歌に調は頬が赤くなる。

 

「んー・・・十分おいしいと思うんだけど・・・」

 

「十分?目指すべき料理の頂にこれで十分なんてないよ切ちゃん」

 

調は切歌から皿を取り、シチューを注いで味見をする。自分が口にした皿で味見をする調に切歌は頬が赤くなる。

 

「・・・味にパンチ不足・・・?お塩が足りないのかも」

 

「そうでもないのデス!!塩分の取りすぎはよくないのデス!!」

 

「それはそうだけど・・・」

 

「わからずやだなぁ、調は!」

 

「わからずやはどっち!」

 

調と切歌は言い合いをしながらどんどんとシチューの味見をする。そんな2人の背後にスーパーで日本食を買ってきたフォルテが帰ってきた。

 

「・・・君たち、何をしている?」

 

「あ、フォルテ、聞いてほしいデス!調が・・・はっ!!」

 

切歌がフォルテに話をしようとする、はっとした表情になり、鍋を覗く。鍋にはシチューが全部なくなっていた。そう、味見のしすぎでなくなってしまったのだ。

 

「・・・暁、後で僕の部屋に来るように」

 

フォルテの部屋に来る=説教。

 

「デーーーーーーース!!!!!」

 

そこに行きついた切歌は口癖の悲鳴を上げる。

 

「困った時、何でもデースで済ませちゃダメだよ、切ちゃん」

 

「月読、君も僕の部屋に来るように」

 

「えぇ・・・」

 

調もフォルテの部屋に来るように言われ、目に若干涙をためた。

 

 

 

『スーパーの特売日』

 

 

 

本日はスーパーの特売日。その情報を知っていた調と切歌はそのスーパーで買い物をすることに。その際、フォルテを荷物持ちとして連れてきた。

 

「なんと!特売日ー!」

 

「どんどんぱふぱふ、わーわー」

 

「・・・・・・」

 

「ちょっと遠出した甲斐があったデスよー。アジの開きが5枚で・・・」

 

「298円」

 

「まさかの価格破壊にあたしも驚きを禁じ得ないデース!」

 

切歌はアジの開きの価格を興奮気味にじろじろと見つめている。

 

「ああ・・・いいよねぇ、アジの開き・・・」

 

「開いている分、少し大きく見えるところがまた心憎い」

 

「きっと、お腹だけじゃなく、心も満たせるようにって神様が発明したんデスよねー」

 

切歌の妙な解釈にフォルテが1つ指摘する。

 

「暁、それは違う。発明したのは昔の漁師だ」

 

「さ、さいデスか!!??」

 

常識を指摘された切歌は非常に驚いている。

 

「暁、君はもっと勉学を励んだ方がいい。特に一般常識ができていなければ話にもならない」

 

「ううぅ・・・面目ないデス・・・」

 

フォルテから遠回しに勉強ができていないと指摘され、切歌は膝を地につけて落ち込みを見せる。そんな切歌に調はアジの開きを推奨する。

 

「そんな切ちゃんにこそアジの開き。豊富なドコサヘキサエン酸が効果覿面」

 

「やっぱり調は優しいデース!!」

 

調の心配りに切歌は笑顔で彼女と手を一緒に合わせた。

 

「ふむ・・・これが百合というものか」

 

調と切歌の仲の良さを見てフォルテは無表情でそう呟いた。

 

 

 

『意外に大きい?』

 

 

 

二課の所有する仮拠点である潜水艦。その廊下を翼、クリス、日和が歩いている。そんな中クリスは翼をちらりと見つめた。

 

(・・・知ってはいたが・・・意外とでかいんだな・・・(身長が))

 

クリスは翼の身長に対し、感心している。そして翼もまた、クリスにちらりと視線を向けた。

 

(・・・気づいてはいたが・・・やっぱり大きいんだな・・・(胸が))

 

翼はクリスの体の一部を見て、心の中でそう呟いた。大きいは大きいでも、まったくと言っていいほどに食い違いが発生している。

 

(・・・ケーキは大きい方がいいのかな?小さいほうがいいのかな?)

 

日和はというと2人とは全然関係ないことを考えていた。




XD-エクスドライブアンリミテッド-

フォルテ・トワイライトーハロウィン型ギアー

ドラキュラ伯爵をイメージしたシンフォギア。服装は黒い長ズボンに黒い靴、白いボタンシャツを着こんでいる。ギアの結晶部分に蝙蝠のような装飾品があり、裏生地には血のように赤い濃い灰色のマントを羽織っている。黒いハット帽子もセット。アームドギアの大剣の柄は蝙蝠の羽の柄で刃の色は黒い。


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戦姫絶唱しないシンフォギアG②

今回で番外編は終了!次回からGX編に突入!次の番外編には、コラボ型ギアも考えてみようかな。そして、10月27日は本作品の主人公、日和ちゃんの誕生日です。というわけで、この誕生日の日には朝かお昼に投稿したいと思っております。


『一緒に寝よう』

 

 

 

エアキャリア内での潜伏生活は続いている。そんな中の就寝時間、フォルテはエアキャリア内で夜の見回りをしており、他の全員は眠りについている。切歌が自分の自室で眠っていると、誰かが入ってきて、誰かの足音が聞こえてきた。それを感じ取った切歌が目を覚ます。彼女の目の前には・・・

 

「・・・切ちゃん・・・一緒に寝よう?」

 

自身をじーっと見つめる調がいた。

 

「デーーーーーーーース!!!???」

 

自分の部屋に調が来ていて、いきなり自分の目の前に現れたことに切歌は非常に驚き、大きな悲鳴を上げた。偶然通りかかったフォルテはこの光景をこっそり見ていた。

 

「・・・やはりこれが百合というものか・・・」

 

フォルテはそう呟いて、見回りを再開する。その後切歌と調はマリアの元に向かい、3人で一緒に寝ることになった。

 

「・・・と、まぁ・・・そんなこんなで、調が潜り込んできた時には、恥ずかしながら、うっかり大きな声が出ちゃったデスよ・・・」

 

「だって・・・寒くて寝られなかったから・・・」

 

どうやら調は寒さで眠ることができず、切歌と一緒に寝れば身体が暖まると考えたのだろう。その結果、こうなってるわけだが。

 

「最初のアジトを追われて以来、ずっと寒空の下に放り出されてるからねぇ・・・。おまけに節約節約って・・・暖房もままならないお財布事情だし・・・」

 

ピトッ

 

「・・・って、冷たっ!!?もしかして調の足!!??」

 

マリアが話していると、突然調はマリアの足に自分の足をくっつけてきたようだ。調の冷えた足にマリアはあまりの冷たさに驚く。

 

「・・・ごめんなさい・・・」

 

ピトッ

 

「ひゃああああああああ!!??」

 

すると今度は切歌の足がマリアの足にくっついてきた。切歌の足も結構冷たいようでマリアは大きな悲鳴を上げた。

 

「ていうか、マリアってばなんでこんなに温かいの?おまけにいいにおいするし・・・」

 

「知らないわよ!!あなたたちと同じはずよ!!いきなりくっついてこないで!!」

 

「・・・ごめんなさい」

 

ピトッ

 

調はマリアに謝りながら自分のもう片方の足をマリアの足とくっつけた。やっぱりというべきか、もう片方の足も冷たいようだ。

 

「ひゃあ!!?あ、謝ってからならもう1つの足をくっつけてもいいわけじゃなーい!!」

 

2人の冷たい足のせいで思うように眠ることができないマリアは非常に困っている。そんな中、またまた偶然通りかかったフォルテがこの光景を見つめていた。マリアはフォルテが覗いていたのに気がついた。

 

「ふぉ、フォルテ助けて!!この子たちの足が冷たくてとてもじゃないけど眠れないの!!」

 

「・・・これもそういう遊びなのか?」

 

「違う!!遊びじゃないわよ!!いいから2人を引き離して!!」

 

変な解釈をしているフォルテにマリアはツッコミを入れながら助けを求めている。

 

「いや・・・僕は見回りの途中だから無理だ。それになんだかんだで楽しそうなのでな・・・まぁ・・・止めはしないさ。ゆっくり続きを楽しんでくれ」

 

「いや止めなさいよ!!?あ、ちょっと待ってフォルテ!!行かないでぇ!!!」

 

フォルテはマリアを気遣い、この場を後にして見回りを再開した。全然喜べないフォルテの気遣いにマリアはツッコミを入れつつ、彼女を呼び止めようとしたがもう行ってしまった。

 

「・・・ごめんなさいデス」

 

ピトッ

 

その間にも切歌はもう片方の足をマリアの足とくっつけてきた。当然ながらこの足も冷たいようだ。

 

「ひゃあ!!?い、いい加減に足をどけなさーーい!!」

 

マリアは2人の足の冷たさに思わず叫んだ。

 

 

 

『F.I.Sと米国政府の交渉決裂後』

 

 

 

米国政府との交渉が決裂し、その後ウェルがマリアがフィーネと語っていたのが自作自演だったと語られた翌日。今日のおさんどん担当は調。

 

「おさんどん・・・おさんどん・・・」

 

調はおさんどんの歌を歌いながらご飯の準備をしているのだが・・・その歌声にはあまり元気が込められていない。それというのも・・・仲間たちがあまり元気がないことに関係している。

 

(・・・最近、マリアの元気がない・・・。マリアだけじゃない・・・いつからか、切ちゃんも、何かを考え込むようになっている・・・)

 

マリアは東京スカイタワーで目の前の人を守ることができなかったこと、さらには自分の手で人を傷つけ、血で汚してしまい、ショックを今も受けている。切歌の方はというと、自身にフィーネの魂が宿っていると思い込み、いつか自分が自分でなくなってしまうという不安に駆られている。それが2人が膝を抱えている原因。そうとは知らない調はどうしてしまったのか深く考える。

 

(・・・フォルテだって・・・前から空を見上げて何かぶつぶつ言っていた時はあったけれど・・・最近は特に多い・・・。膝を抱えるばかりの2人・・・譫言を呟くフォルテ・・・いったいどうしちゃったんだろう・・・?)

 

どんな辛い時でも笑って過ごしてきた仲間。その仲間たちの様子がおかしいことに、調は心配になっている。

 

(・・・事情を知らないまま、踏み込めないのはわかってる・・・。・・・でも・・・でも・・・)

 

いろいろと考えた調は意を決したような顔つきになる。

 

「切ちゃんに膝を抱えると、時々パンツ丸出しになるのを注意しよう。それとなく注意して、フォルテみたいに長ズボンを履くように注意しよう。そうしよう」

 

調は切歌にたいしてそれとなく注意しておこうと決意するのだった。

 

 

 

『特訓メニュー『英雄故事』終了後』

 

 

 

未来が生きていた、何者かに連れ去られたと知り、希望が湧いた響のために開いた気分転換がてらの特訓メニュー英雄故事。それを全て終えたクリスが疲れた様子で今自宅に帰宅してきた。ついでとして、日和と海恋も今日は家に上がり込んできた。理由は今日は一緒に晩御飯を食べるからだ。

 

「たっだいま~っと・・・」

 

「「お邪魔しまーす」」

 

家に帰ってきたクリスはリビングにつくなり、疲れで膝を地に付けた。

 

「今日の晩御飯はカップ焼きそばでよかったかな?」

 

「いいんじゃない?今日はみんな疲れてるんだし・・・」

 

「そうだねー。クリスー、キッチン借りるねー」

 

「おーう・・・」

 

2人より疲れがない日和はまだ元気な様子の日和は買ってきたカップ焼きそばをキッチンまで持って行って夕飯の準備をしている。

 

「はぁ・・・オペレーター業務ってやっぱり大変なのね・・・。色々覚えることが多すぎて、結構疲れちゃったわ・・・」

 

クリスたちが特訓をしている間、海恋もオペレーターの研修を受けていて、彼女はそれで疲れている様子だ。それでもクリスたちと比べればマシだが。

 

「お前の方がまだマシだろ・・・。たく・・・なんであたしまでバカのフルコースみたいな特訓に付き合わなくきゃいけないんだよぉ~・・・」

 

運動能力が4人の中でダントツでビリなクリスは特訓を終えることはできたが、疲労は4人の中で1番多い。

 

「あ、そういえば・・・クリス、弦十郎さんから何かもらってたわよね?それ何かしら?」

 

「あ?あー・・・そういや帰り際にオッサンが・・・」

 

海恋はクリスの持って帰ってきたものが何かと尋ねる。クリスは頭が回らずあまり覚えていないが、確かに弦十郎から紙袋をもらった記憶はある。弦十郎曰く・・・

 

『頑張ったクリス君にご褒美だぁ!!家に帰ったら、開けてみるといい!!』

 

ということらしい。中身はまだ見ていないからわからない。

 

「確か、ご褒美って言ってたわよね?」

 

「ご褒美ってなんだぁ?お菓子かな?」

 

「お菓子なら日和が喜びそうだけど・・・」

 

中身が気になるクリスはさっそくご褒美の品を開けてみることに。紙袋を開けて中に入ってあるものを取り出す。中に入っていたのはアクション映画のDVDだった。

 

「あ、アクション映画のDVDね・・・」

 

「期待させやがって!!こんなので喜ぶ奴がいるのかよぉ!!!」

 

ご褒美が食べ物じゃないとわかり、クリスは怒りを示したが、まじまじとDVDを見つめる。そしてDVDディスクをDVDレコーダーに入れて再生する。

 

「で、結局見るのね・・・」

 

「しょ、しょうがねぇだろ、せっかくの差し入れなんだから。放っておくわけにもいかねぇだろ?」

 

「まぁ、そうだけど・・・」

 

「できたよー」

 

クリスたち3人は出来上がったカップ焼きそばを食べつつ、流れ始めた映画を鑑賞する。するとクリスはその映画の魅力に惹かれ、すっかり映画に夢中になっている。日和と海恋は普通に焼きそばを食べているが。

 

「クリスー、食べないのー?」

 

焼きそばを食べるのを忘れるくらい、クリスはその映画に興奮している。映画が終わり、クリスはすぐさま通信端末を使って弦十郎に電話を入れた。

 

『おーう!そろそろ来る頃だと思っていたぞぉ!』

 

「・・・飛び道具で接近したって・・・ありなんだよな・・・!」

 

電話をしているクリスは感動からか涙がかなり溜まっている。余程にハマったらしい。

 

「ぶどうおいしいねー」

 

「そうね。旬だものね」

 

その後ろで日和と海恋はというとデザートのぶどうを黙々と食べていた。

 

 

 

『フロンティア浮上後』

 

 

 

フロンティアが浮上し、最終決戦に挑む日和たち。そんな中海恋はオペレーター見習いとして全力でバックアップをし、未来は戦う日和たちをモニターで見守っている。すると未来はふとシンフォギア、神獣鏡を自身が身に纏っていた時に流れた歌の歌詞を思い返していた。その際に、以前質問したシンフォギアの仕組みについて、響たちの答えを思い出す。

 

『私もよくわかってないんだけど・・・シンフォギアから伴奏が流れると、胸に歌詞が沸き上がってくるんだ!』

 

『・・・胸に・・・歌詞が・・・?』

 

『えーっと、つまり?シンフォギアを纏えば、その胸に浮かんだ歌詞が浮かび上がるってこと?』

 

『ま、そういうこったな』

 

『歌詞もまた、装者が心象に描く風景に由来とした物だと、かつて櫻井女史は言っていたな』

 

『あー、なるほどぉ!それで私の胸に浮かんでくる歌詞には、生きることに勇気が湧いてくるものが多いんだね!』

 

その言葉を思い出し、あの歌詞は響を思っていた心象が由来しているのだと未来は気がついた。それを理解し、自身がそれを歌っていたことを思い出し、未来は顔を真っ赤にして・・・

 

「うわあああああああああ!!!!」

 

「うわあ!!??こ、小日向さん!!?いったいどうしたの!!?」

 

恥ずかしさのあまり、大きな悲鳴を上げた。近くにいた海恋はびっくりしてどうしたのかと疑問符を浮かべた。

 

 

 

『フロンティア事変収束後』

 

 

 

ネフィリムの脅威がなくなり、世界が救われた。その後、事件の収拾のために二課の職員と米国の軍人が集まっている。最終的に世界を救ったとはいえ、フロンティア事変に加担したフォルテたちも、容疑者として身柄を確保されることになる。

 

「君たちの身柄は、日本政府で預からせてもらう。今後の事態収拾に協力してほしい」

 

「ああ・・・わかっている・・・」

 

やったことの償いはしなくてはいけない。それをきちんと理解しているフォルテたちは日本政府の判断に了承している。そこへ響が声をかけてきた。

 

「きっとまた・・・会えますよね。そしたらいっぱいお話ししましょうよ。私たちずっと・・・きっと、もっと、仲良くなれます!」

 

響らしい言葉を聞いて、フォルテは少し顔を俯かせる。

 

「・・・果たして・・・僕たちにそれができるだろうか・・・」

 

フォルテの言葉に響は笑顔で答える。

 

「できますよ~。だってクリスちゃんだって、最初はとんでもなかったんですよ~?」

 

「ば、ばばばば、バカ!!!お前こんな時に何を!!??」

 

「本当本当~。いや~・・・フォルテさんたちにも見せてあげたかったなぁ~・・・クリスのあの姿・・・」

 

響の言葉にクリスはものすごく焦りを見せており、そこに日和も便乗する。

 

「では皆さんは、こちらに」

 

フォルテたちは緒川の案内によってロータリーへと向かっていく。

 

「ゴートゥー、ヘル!!!」

 

「「へぶし!!!」」

 

さすがに頭に来たのかクリスは無駄なおしゃべりをする日和と響を叩いた。叩かれた日和と響は勢いで浜辺に倒れる。

 

「フォルテさん」

 

浜辺に倒れた日和はロータリーに乗ろうとしたフォルテを呼び止める。

 

「とまぁ、こんな風にですよ。だから・・・またいつか・・・絶対にまた会いましょう!」

 

日和は笑顔を向けてまた会おうと約束を交わそうとする。

 

「・・・ああ・・・そうだな・・・。いつかきっと・・・また会おう」

 

その笑顔につられ、フォルテは満面な笑顔を見せて、またいつか会おうという約束を交わし、マリアたちと共にロータリーに乗り込んだ。




XD-エクスドライブアンリミテッド-

フォルテ・トワイライトー怪盗型ギアー

フォルテがイメージした怪盗服を模したギア。服装は黒い燕尾服で黒い靴を履いている。両手には赤い手袋をはめており、マントは変わらず濃い灰色で裏生地は赤色である。髪型はストレートロングだったものがポニーテールに変化しており、白いドミノマスクを着けている。


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GX編ー魔法少女事変ー
新たな幕開け


本日は本作品の主人公、東雲日和ちゃんの誕生日!宣言通りの時間帯に投稿です!ぜひとも日和ちゃんを祝ってあげてください。そして同時に、GX編の開幕です!


昔々・・・遠い昔・・・1人の少女がいた。

 

少女は、とある村で父と2人で暮らしていた。母はすでに亡くなっていない。それでも少女は父と楽しく暮らしていた。

 

父にはとある力がある。父は自身の力に誇りを持ち、その力を人のために使う。世界を知り、人々がわかり合える世界のために。

 

だが・・・運命とは残酷で、非情なものだ。

 

人々のために力を使う父。だが村人たちはその力を恐れた。村人たちは・・・父の成した全てを・・・『奇跡』と一括りにし・・・挙句の果てに悪魔の力だと罵った。

 

そしてある日・・・悪魔を浄化するために村人たちは、父を火刑に処した。まだ小さかった少女はあまりに無力で・・・目の前で父が焼かれてしまうことを、泣き叫ぶことしかできなかった。父は、娘にこう言った。

 

『世界を知るんだ』

 

それこそが、父が娘に託した、命題である。少女は・・・この出来事をきっかけに、人々を憎み、奇跡を忌み嫌うようになった。

 

「奇跡など・・・オレが殺す!オレは・・・奇跡の殺戮者だ!!」

 

人々を憎む少女の願いはただ1つ・・・父の命題を果たすこと。それ以外のことは、何も求めない。

 

そして・・・その命題を果たすという思いが今・・・世界に脅威を齎そうとしている。

 

 

戦姫絶唱シンフォギア 大地を照らす斉天の歌

GX編ー魔法少女事変ー

 

 

フロンティア事変と呼ばれる事件が終わって時が経ち・・・それは起きた。宇宙空間にて、国連調査団のスペースシャトルが任務を果たし、地球に帰還しようとしたところ・・・シャトルがシステムトラブルを引き起こし、コントロールを失ってしまった。それによって、適切な突入角を維持できない。この事態に、特異災害対策起動部二課はスペースシャトルの人間と、回収したものを救うために動き出す。

 

「現在の墜落予想地点、ウランバートル周辺、人口密集地です!」

 

二課の男性オペレーター、藤尭朔也がシャトルの墜落予想地点を伝える。

 

「安保理からの回答はまだか!」

 

赤いワイシャツを着込んだ大漢が安保理からの回答が来ていないか問いている。この大漢の名は風鳴弦十郎。特異災害対策起動部二課の司令を務めている漢だ。

 

「外務省、内閣府を通じて再三打診していますが、未だありません!」

 

弦十郎の問いに女性オペレーター、友里あおいが答える。モニターには通常ではありえない角度で大気圏に突入するシャトルがあり、断熱圧縮された空気が船体を加熱している。シャトルももう限界が近づいている。

 

「まさか、見捨てるつもりでは・・・」

 

再三の打診を黙殺され、藤尭はそのような考えに行きつく。

 

「ラグランジュ点に漂うフロンティアの一区画から、国連調査団が回収した異端技術と、ナスターシャ教授の遺体・・・」

 

「それが、帰還時のシステムトラブルなんて・・・!」

 

シャトルのシステムトラブルによって茶髪の黒服の男が冷や汗をかいている。彼の名は緒川慎次。特異災害対策起動部二課のエージェントを務めている男だ。そして、国連調査団が回収したものとは、フロンティア事変の名がつけられた島・・・フロンティアのその一部である制御区画にあった異端技術。そして、異端技術を用いて月の落下を凌いでみせた功労者・・・ナスターシャ・セルゲイヴナ・トルスタヤ、彼女の遺体である。指示がないため、ただ見守ることしかできないその時、安保理からのメッセージが届いた。

 

「承認下りました!安保理の規定範囲で、我々の国外活動。行けます!」

 

国外活動許可が出たことによって、二課は行動に移ることができる。その言葉を待っていた弦十郎は拳を手のひらに打ち付けた。

 

「よおおおし!!お役所仕事に見せてやれ!!藤尭ぁ!!」

 

「軌道計算なんてとっくにですよ!」

 

弦十郎の指示を受けて藤尭はパネルを操作して、二課の仮拠点であるこの潜水艦の装填されているミサイルをシャトルに向けて発射した。だがこのミサイルは、決して撃ち落とすためのものではない。

 

~♪~

 

宇宙の大気圏で加熱したシャトルを操縦している宇宙飛行士たちは諦めることなく、軌道修正を行っている。だが、損傷部が外部で、大気圏も突入しているのだ。復旧は不可能に近い。

 

「システムの再チェック!軌道を修正し、せめて人のいないところに・・・!」

 

「そんなのわかってますよ!!」

 

パイロットたちがせめて人手がいないところにと思い、シャトルを動かそうとする。だがシャトルのエンジンが爆発し、さらに危機に陥る。そして、シャトルの背後より、ミサイルが迫ってきたのが確認できた。

 

「ミサイル・・・!!?俺たちを撃墜するために・・・!!?」

 

「・・・致し方なしか・・・!!」

 

これも国の決定ならばと、年上のパイロットは覚悟を決めて目を閉じる。そこに・・・

 

『へいき!へっちゃらです!』

 

「「!!」」

 

突如として少女の通信が聞こえてきて、パイロットたちは驚愕する。

 

『だから、生きるのを諦めないで!!』

 

二課から発射されたミサイルは宇宙に到達すると同時に、外装がパージされた。分解したミサイルより、インナースーツのような鎧を身に纏った少女4人が現れる。少女たちがに身に纏った鎧は、特異災害と認定された自立型兵器、ノイズと対抗するための聖遺物。それを基にして作られたアンチノイズプロテクター、シンフォギアだ。そして今4人の少女の中で、パイロットたちに通信を入れた栗毛髪の少女の名は立花響。特異災害対策起動部二課の一員で、橙色のシンフォギア、ガングニールを身に纏う装者だ。赤いシンフォギアを身に纏う少女は大型ミサイルを2つ展開し、青いシンフォギアを纏った少女、さらに響がミサイルに乗り込む。2人が乗ったのを見計らい、2つのミサイルはシャトルに向けて発射された。

 

「まるで、雪音のようなじゃじゃ馬っぷり!」

 

青いシンフォギアを身に纏った青い長髪の少女は大型ミサイルをサーフボードのように乗りこなしている。この少女の名は風鳴翼。特異災害対策起動部二課のシンフォギア装者で青いシンフォギア、天羽々斬の装者だ。そして、弦十郎の姪っ子で、響たちの先輩である。

 

「だったら乗りこなしてくださいよ、先輩!」

 

大型ミサイルを放った銀髪の少女も大型ミサイルに乗り込み、仁王立ちで立っている。少女の名は雪音クリス。同じく特異災害対策起動部二課のシンフォギア装者で赤いシンフォギア、イチイバルの装者だ。翼の後輩で、響の先輩、そしてもう1人の少女の同級生だ。

 

「まったく、無理難題を言ってくれるよね、クリスは!」

 

クリスと同様に、後から大型ミサイルに乗り込んだ茶色のシンフォギアを身に纏った黒い短髪の少女がバランスを取りながらそう言い放つ。この少女の名は東雲日和。同じく特異災害対策起動部二課のシンフォギア装者で茶色のシンフォギア、如意金箍棒の装者だ。響の先輩で、クリスと同級生、そして翼の後輩である。

 

「立花!東雲!」

 

「「はい!」」

 

響と日和、翼はシャトルに乗り込み、シンフォギアのブースターを点火して、シャトルを減速して、軌道修正を行う。

 

『装者取り付きました!減速を確認!』

 

『墜落地点再計測!依然、カラコルム山渓への激突コースにあります!』

 

装者たちが何とか軌道修正を試みている。何とか軌道はずれたものの、シャトルの軌道上の激突は依然免れない。

 

~♪~

 

シャトルを何とか食い止めるために装者たちが動いている姿を外務省の人間も見ている。そして・・・一時的にフロンティア事変の肩を担ぎ、事件を引き起こした米国聖遺物研究機関、F.I.Sのレセプターチルドレンたちの面々も見守っている。

 

「マムを・・・」

 

「お願いするデス・・・」

 

「「・・・・・・」」

 

囚人服を着込んでいるレセプターチルドレンの面々は、装者たちに全てを託し、育ての母であるナスターシャの遺体が無事であるのを祈るのであった。

 

シャトルに乗り込んだ装者4人は各々の方法でシャトルの減速を試みる。クリスは展開したミサイルでブースター代わりにし、響は脚部のアンガージャッキで体を固定し、バンカーユニットを展開し、ブースター代わりにする。翼は2つの刀をシャトルに突き刺し、脚部のブレードを展開して巨大化させてブースター代わりにし、日和は尻尾の機械装飾に備わった棍を展開してシャトルに突き刺して固定し、2つの棍を固定、回転させて竜巻を発してブースター代わりにする。4人の装者の尽力によって大気圏を突破できたが、カラコルムを越えるには高さが依然足りない。

 

『シャトルの減速間に合いません!カラコルム山渓を越えることは不可能です!』

 

『何とか船内に飛び込んで、操縦士だけでも・・・!』

 

通信で緒川がシャトルのパイロットたちだけでも救ってほしいとの声が聞こえた。

 

「それじゃマムが・・・」

 

「帰れないじゃないデスか・・・!」

 

「くっ・・・ここまでなのか・・・!」

 

「・・・っ!」

 

このままではナスターシャが帰ってこれないかもしれない可能性に、レセプターチルドレンの面々は悔しさが募る。

 

『そいつは聞けない相談だ!』

 

そこにクリスがその指示は聞けないという声が上がってきた。その声にレセプターチルドレンの面々は驚愕する。

 

『人命と等しく、人の尊厳は守らなければならないもの』

 

『ナスターシャ教授が世界を守ってくれたんですよ?なのに、帰ってこれないなんておかしいです!』

 

『何がなんでもナスターシャ教授は救います!人が亡くなったらから後はどうでもいいなんて、納得できないですよ!』

 

響たちは何が何でもナスターシャを救おうと頑張るつもりだ。死んでいようがいまいが関係ない。

 

「どこまでも・・・」

 

「欲張りですよ・・・」

 

「だが僕たちは、その心に救われたんだ・・・」

 

「ちくしょう・・・敵わないわけだ・・・」

 

響たちの想いを聞いて、レセプターチルドレンたちは涙を溜めながら、その心に嬉しさを感じている。

 

~♪~

 

大気圏は突入しても、このままでは激突は免れない。

 

「もう・・・!」

 

若いパイロットが諦めようとした時、熟練パイロットが彼の手を取る。

 

「燃え尽きそうな空に、歌が聞こえてくるんだ!諦めるな!」

 

熟練パイロットが若いパイロットに勇気づける。しかし、状況は変わらない。

 

『K2への激突コース、避けられません!』

 

『直撃まで、1キロを切りました!』

 

目の前に山脈が迫ってきた。もうコースの軌道修正ができないならば・・・

 

「行くぞ相棒おおおおおお!!」

 

「よっしバチコーイ!!」

 

クリスが日和に向かって走り出し、彼女の身体に飛びつき、日和はクリスを受け止め、しっかりと彼女を固定する。そしてクリスの腰部の装甲を変形させ、6つのミサイルを展開する。

 

【MEGA DETH SYMPHONY】

 

発車された6つのミサイルは空中で分解し、散弾のように山脈に直撃し、爆発する。

 

「ぶん殴れぇ!!!」

 

「行こう、響ちゃん!!」

 

「ええええ!!?」

 

クリスが離れ、日和は響に声をかけてシャトルを飛び出す。何が何だかわからない響は日和についていき、彼女と共に行動を起こす。日和は棍を投擲し、棍をドリルに変形させる。日和はドリルに向けて蹴りを放ち、山脈に向けて突撃する。

 

【天元突破】

 

響もそれに合わせて拳を構え、フルパワーで山脈をぶん殴る。2人の力によって、山頂は一瞬だけ宙に浮き、その間をシャトルが通過する。激突は免れた。

 

『K2の標高、世界三位に下方修正!』

 

『不時着を強行します!』

 

第1関門の大気圏、第2関門の山脈を突破し、最終関門の不時着が開始される。シャトルが山肌を滑走し、加速しながら山を下っていく。目の前に立ちはだかろうとする森林を前に翼は刀を構える。刀の刀身は伸びていき、巨大な大剣へと変形する。巨大な大剣はシャトルの滑る勢いに合わせ、森林をバッサリと切り裂いていく。森林を突破し、次は渓谷地帯に突入する。目の前の岩の障害物は日和は棍を岩に向けて伸ばし、打撃を与えることで躱す。岩が逸れたのも束の間、新たな岩が立ちふさがる。

 

「響ちゃん、左をお願い!!」

 

日和に反応し、響が岩に拳を叩きつけて粉砕して、さらに軌道を変える。目の前の小岩の障害物をクリスがミサイルで破壊しながらシャトルは滑走していく。

 

「この調子でふもとまで行ければ!」

 

「!!?やばい!!」

 

「へ?」

 

余裕綽々な様子だったが、切羽詰まったクリスの声を聞いて日和と響は前を見る。

 

「村が!!?」

 

前方には村があり、シャトルが村に激突するのは免れない。被害を最小に抑えようと響と日和が前に出る。

 

「バカ!!?」

 

「何を!!?」

 

響は向かってきたシャトルを両手で受け止め、足で踏ん張る。そんな響を日和が支え、尻尾先端にある棍を突き刺し、ブースターを起動して減速を試みる。幸いのことに、進行先は村の大通りだったために被害は最小限に抑えられる。

 

「立花ああ!!」

 

「相棒!!」

 

『南無三!!!?』

 

進路の先には講堂があり、このままではぶつかり、シャトルどころか2人も無事では済まないだろう。もう少しで講堂にぶつかる寸前で響はバンカーユニットを地面に撃ち放ち、身体を固定させることでシャトルをスープレックスのように投げ放った。シャトルは講堂の屋根を越えていく。だがまだ飛距離が足りない。そこを若いパイロットが最後の力を振り絞り、シャトルを操作してジェット噴射をかけることによって講堂のすぐ後ろに直立することに成功する。翼はシャトルに刀を突きさして固定させ、クリスの手を握ることで2人は落ちずに済んでいる。

 

「たは~・・・」

 

「任務、完了しました」

 

無事任務が完了したことに二課の面々は喜び、独房にいるレセプターチルドレンたちもナスターシャが無事で喜びで満たされていることだろう。

 

「無事か!立花、東雲!」

 

一緒に倒れ伏している2人に翼とクリスが駆け付ける。

 

「「ふふふ・・・あははは!」」

 

2人は翼の問いには答えず、お互いに笑いあっている。

 

「おかしなところでもぶつけたか・・・?」

 

「私・・・シンフォギアを纏える奇跡が、嬉しいんです!」

 

「私も・・・シンフォギアを纏えてよかったと、心から思えるんです!」

 

笑いながら答える響と日和に翼は笑みを浮かべ、クリスは苦笑いを浮かべる。

 

「お前ら・・・本当のバカだな」

 

だがそれでもクリスは嬉しそうにしながら、2人に向けてそう言い放った。

 

~♪~

 

シャトルの事件より3ヶ月の時が流れ、特異災害対策起動部二課は国連の総意で解体され、国連直轄の部隊に再編された。その名も、国連所属の超常災害対策機動部タスクフォース・・・通称、『S.O.N.G 』。幸いにも編成は、二課にいたメンバーと全く変わらない。

 

「はい、温かいものどうぞ」

 

シャトルの一件の情報整理をする藤尭に友里が温かい飲み物を差し出す。

 

「温かいものどうも。珍しいね」

 

「一言余計よ」

 

藤尭は温かい飲み物を受け取り、一口すすった。

 

「シャトル救出任務から、3ヶ月になるのね・・・」

 

「あの事件の後、二課は国連直轄のS.O.N.Gとして再編され、今は世界各国の災害救助が主だった任務・・・。このまま大きな事件もなく、定年まで給料もらえたら万々歳なんだけど・・・」

 

ヴゥー!ヴゥー!

 

藤尭がそう口にすると、突如としてアラームが鳴り響いた。すぐに友里は自分のモニターを確認する。

 

「横浜港付近に未確認の反応を検知!」

 

未確認反応を確認するも、その反応はすぐに消えてしまった。

 

「消失・・・!!?急ぎ、司令に連絡を!」

 

「了解!」

 

この反応を見て友里はすぐに弦十郎に連絡を入れようと動き出す。

 

~♪~

 

未知の反応があった横浜港付近・・・そこにローブを羽織った人物が何かを抱え、何かに逃げるように走っていた。その人物の足元に、何か弾丸のようなものが打ち込まれる。ローブの人物は足を躓きつつも、公衆電話に隠れる。

 

(ドヴェルグ=ダインの遺産・・・全てが手遅れになる前に、この遺産を届けることがボクの償い・・・)

 

ローブの人物は抱えていたものを持って、再び逃げ出す。そんな人物の姿を、月をバックにポーズを決めたディーラー風の女性が捉えた。

 

「私に地味は似合わない・・・。だから・・・次は派手にやる」

 

ディーラーの女性がそう口にした時、その後ろにいたカウガール風の女性が持っていた拳銃のようなものを回転させる。

 

「そういうことなら・・・こっちも、クールに決めさせてもらうぜ?」

 

カウガール風の女性は、ローブの人物を見据えながら、拳銃でカウガール帽子をくいっと上げた。

 

~♪~

 

リディアン音楽院・・・そこは、音楽教育を中心にしたカリキュラムを特徴としており、日和たちはこのリディアンの生徒である。季節は夏の炎天下・・・そんな中でリディアンの校門では、生徒会や風紀委員があいさつ運動として校門の前に立ち、登校してきた生徒たちに挨拶をしている。その風紀委員の一員である水色髪の三つ編みポニーテールの少女も、あいさつ運動に参加している。

 

「おはようございまーす」

 

「はい、おはよう」

 

この水色髪の三つ編みポニーテールの少女の名は西園寺海恋。日和の親友でリディアン音楽院に通う生徒で、風紀委員に属している。そんな海恋があいさつ運動をする中、とっても珍しい光景が映っている。

 

「お・・・はよ・・・う・・・ござ・・・zzz」

 

風紀委員でも生徒会でもない日和が何と朝のあいさつ運動に参加している・・・のだが、今にも眠ってしまいそうな勢いだ。

 

「ちょっと日和!何寝ようとしてるのよ!しっかりしなさいよ!」

 

「だってぇ~・・・眠いだもん・・・」

 

日和の言い訳に海恋は日和を睨み、彼女の頬を触れてもみくちゃする。

 

「あのね!あんたが先輩らしいことしたいって言うからわざわざ生徒会に頼んであんたもあいさつ運動に参加させてあげてるんじゃない!それなのに何それ?それが先輩の威厳だとでもいうの?」

 

ひょういわれひぇも(そう言われても)・・・あひゃは無理ひゃひょ(朝は無理だよ)~・・・」

 

海恋が日和と戯れていると、学生服を着込んだクリスが2人の少女を連れて登校してきた。

 

「うおっ・・・マジで参加してやがる・・・こりゃ明日槍でも降るんじゃねぇか・・・?」

 

「クリスひどぉ~い・・・」

 

日和があいさつ運動に参加していることに、クリスは少なからず驚いている。

 

「ああ、クリス、おはよう」

 

「おう、おはよーさん」

 

海恋は日和の頬をもみくしゃしながら2人の少女にも顔を向ける。

 

「月読さんも暁さんも、おはよう」

 

「おはようございます、海恋先輩」

 

海恋に挨拶された黒髪ツインテールの少女は礼儀正しく挨拶する。この少女の名は月読調。かつては響たちと敵対していたF.I.Sのレセプターチルドレンの1人である。レセプターチルドレンたちはフロンティア事変の後、響たちと和解し、罪を償うために独房に入っていたのだが、今年になって仲間と共に釈放され、こうして普通の生活を送れている。

 

「ひよりん先輩も、おはよーデース!」

 

調の隣にいる短い金髪の少女は日和に向けて元気いっぱいに挨拶する。この独特な口癖を持つ少女の名は暁切歌。調と同じくレセプターチルドレンの1人で、調の親友だ。会話でわかるとおり、調と切歌は今年からこのリディアンに入学し、日和たちの後輩にあたる。

 

「しぃちゃん・・・切ちゃん・・・おは・・・よ・・・」

 

日和は眠そうにしながらも2人に挨拶をする。ちなみに、日和の言うしぃちゃんとは調のことである。

 

「たく・・・しっかりしてくれよ相棒。お前がそんなんじゃ、先輩として示しがつかねぇだろ・・・む!」

 

クリスが日和に声をかけていると、何やら邪な何かを感じ取った。それはすぐにこちらに迫ってきた。

 

「ク~リスちゅわあぁ・・・ぶへっ!!?」

 

響がクリスの背後から彼女に抱き着こうとした時、クリスは響の後頭部に鞄を振り下ろして打撃を与えた。

 

「相変わらずねぇ・・・あなたたち・・・」

 

「あたしは年上で、学校では先輩!こいつらの前で示しがつかないだろ」

 

響が頭をさすっていると、彼女と一緒に登校してきている短い黒髪で後ろ髪に白いリボンを付けた少女は調と切歌に挨拶をする。

 

「おはよう、調ちゃん、切歌ちゃん」

 

この少女の名は小日向未来。リディアンに通う生徒で、響の親友である。

 

「おはよう、ございます」

 

「ごきげんようデース!!」

 

「暑いのに相変わらずね」

 

どこでも仲良しな調と切歌に未来が感心する。すると響と未来は調と切歌が手を繋いでいることに気がついた。

 

「いやぁ・・・暑いのに相変わらずだね」

 

「いやいやそれがデスね・・・調の手はちょっとひんやりするのでついつい繋ぎたくなるのデス」

 

切歌が照れくさそうにそう説明していると、調は切歌の二の腕をつまむ。

 

「そういう切ちゃんのぷにった二の腕も、ひんやりしてて癖になる」

 

「それ、本当なの!!?」

 

調の説明に未来が食いつくように反応し、確かめるために彼女は響の二の腕をつまんできた。

 

「いや~~!やめて止めてやめて止めてあぁ~!」

 

響はあまりのくすぐったさに笑いを浮かべつつ大声を上げる。その様子を見たクリスは顔を真っ赤にしてバッグで響の背中を叩いた。

 

「そういうことなら家でやれ・・・」

 

「家ならいい・・・ていう問題じゃないんだけどね・・・」

 

クリスの発言に海恋は日和の頬をもみくちゃにしつつも呆れている。今年はいろいろめでたいことばかりだ。まず、リディアンの生徒だった翼は今年で卒業し、トップアーティストとして海外で活動するようになった。そして、今年になって調と切歌の入学。さらに、響と未来が進級し、2年生になる。そして・・・日和、海恋、クリスの3人は、最上級生の、3年生に進級したのだ。




日和の誕生日

本日は日和の誕生日・・・ということで、本日は3年生の少数のメンバーが咲の家でパーティをすることに。

クラスメイト「ひよりん!誕生日おめでとー!!」

日和「わー!みんなありがとう!すっごくうれしいよ!」

咲「よかったわね、日和。ほら、私からの誕生日プレゼント」

日和「わ!ありがとうお姉ちゃん!これほしかったんだー」

小路「私たちもプレゼント用意したよ」

乙女「ひよりん、よかったらこれ使ってね」

由貴「大事にしないと怒るぞー」

日和「みんなありがとー!全部大事に使うよ!」

日和がクラスメイトたちに囲まれている中、クリスは包みを抱えて照れくさそうにしている。

海恋「いつまでくよくよしてるのよ。ほら、次はクリスの番よ」

クリス「お、おい!や、やめろ!」

日和「あ、クリス!クリスは何か用意してくれたの?あるならちょうだい!」

クリス「はぁ・・・なんてがめつい奴なんだ・・・。・・・ほら、一応誕生日だしな。くれてやるよ」

日和「わ、中身なんだろう・・・?わー!かわいい手袋!」

クリス「た・・・たまたまよさげなものがあったから・・・それで・・・」

海恋「よく言うわ。編み物、私から学ぼうとしてたくせに・・・」

クリス「ば、バカ・・・!!」

日和「え!!?これ手作りなの!!?ありがとうクリス!!絶対に大事にするから!!」

クリス「ちょ・・・くっつくなぁ!!」

海恋「最後は私ね。日和、誕生日おめでとう」

日和「ありがとう海恋!・・・あ!新しいうさ耳リボンカチューシャ!かわいいー!」

海恋「あなたそれがないとやる気が起きないでしょ?そのリボンももうだいぶ古くなってきたし、ちょうどいいと思ったのよ」

日和「海恋~!本当にありがとう!!私、とっても嬉しい!!」

海恋「古いのよりも長く使いなさいよ?」

日和「もちろん!みんな・・・私のためにありがとう!私・・・生きていて本当によかった!!」

日和(本当は小豆と玲奈もこの場にいてほしかったけど・・・2人に救われた命だもんね。2人の分まで、ちゃんと生きなきゃ・・・。そういう約束だからね)


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奇跡の殺戮者

リディアンの午前中の授業が終わり、日和たち3年生組の3人は休み時間を使って羽を伸ばす。そんな中、クリスは1枚の用紙を見て面倒そうな表情をしている。

 

「たく・・・面倒だよな・・・三者面談ってよぉ・・・」

 

その用紙というのは三者面談についての用紙だ。近いうちにリディアンは三者面談を実施するようだ。それは3年だけでなく、全学年が対象だ。

 

「そう言わないの。三者面談は成績のことだけじゃなく、自分の将来についての相談ってのもあるんだし。特に私たちは3年生。学校とかの希望進路についても、話さないといけないし」

 

「あ~・・・面倒くせぇ~・・・」

 

海恋の説明に両親がいないクリスは本当に面倒そうにしている。

 

「クリスはししょーに来てもらうの?」

 

「そうするしかねぇだろ・・・。お前はいいよな・・・姉貴に来てもらえればいいんだからよ・・・」

 

「そうでもないよ。お姉ちゃんのお仕事の都合とかもあるから、ちゃんと調整しないと・・・」

 

「特に咲さんは医者だしね。時間の調整も難しいでしょう」

 

今回の三者面談には日和は自分の姉であり、診察医である咲に、クリスは弦十郎に来てもらう予定のようだ。どちらにしても、2人とも時間調整の話し合いが必要になるのは必須だろう。

 

「で?お前はやっぱりパパかママに来てもらうのか?」

 

「冗談じゃないわよ。何で父さんか母さんに来てもらわないといけないのよ」

 

クリスが海恋の両親の話題を振ったら、海恋は誰が見てもわかるような不機嫌そうな表情になっている。その表情に驚いているクリスに日和が説明する。

 

「海恋ね、お父さんとお母さんの反りが合わなくて、今絶縁中なの」

 

「げっ・・・マジか・・・わ、わりぃ・・・」

 

海恋の家庭事情を聞いてクリスはバツが悪そうに彼女に謝った。

 

「いいわよ。気にしたってしょうがないもの」

 

「けど・・・それだとどうすんだよ・・・三者面談」

 

「はぁ・・・気は進まないけど、じいやに頼むしかないわよ」

 

「じいやって誰だよ?」

 

海恋の口から出てきたじいやという人物を知らないクリスは首を傾げる。ここでも日和が説明する。

 

「海恋の家の使用人のおじいちゃんだよ」

 

「は!!?使用人!!?」

 

「知らないの?西園寺家ってこの辺りじゃ有名なお金持ちだよ?」

 

「てことはお前・・・金持ちのお嬢様だってのかぁ!!?」

 

海恋の身分について知ったクリスは非常に驚いた様子だ。その様子にもう見飽きたといった様子である。

 

「日和が言ってたでしょ、絶縁してるって。お嬢様なんかじゃないわよ。お金もないし」

 

「海恋、クリスが驚きすぎて口があんぐりしてるよ?」

 

日和の言うとおり、クリスは海恋の身分に驚きすぎて口をあんぐり開けている。

 

「はぁ・・・この話はもうおしまい。別の話をしましょう」

 

「あ、それなら・・・ねぇねぇクリス、今日クリスの家に遊びに行ってもいい?」

 

「・・・あ?なんだよ突然・・・」

 

別の話題を振られて、日和がクリスの家に遊びに行っていいか尋ねる。放心状態から回復したクリスは日和の提案に明らかに嫌そうにしている。

 

「だって今日は翼さんが出演するチャリティロックフェスだよ?それも・・・マリアさんとのコラボ!大いに盛り上がりたいじゃん?寮じゃ・・・ほら、盛り上がりに欠けるじゃん?」

 

チャリティロックフェスと呼ばれるライブが今日開催されるのだが、日和の目的はそこに出演する翼、そして世界のトップアーティスト、マリア・カデンツァヴナ・イヴとのコラボ。その中継をテレビで見て、大いに盛り上がるためにクリスの家に行きたいらしい。

 

「だからってあたしん家に転がり込んでくるかよ・・・」

 

「ね!お願い!!ちゃんと大人しくするからさ!!部屋だって汚さない!!だから・・・ね?ね?ね?」

 

「諦めなさいクリス、こうなった日和はかなりしつこいわよ」

 

必死に頼み込んでくる日和の姿に海恋はちょっとあきれた様子でそうクリスに言う。必死に頼まれてクリスは自身の頭をかく。

 

「あー!もう、わかったわかった!その代わり、絶対にうちを汚すんじゃ・・・」

 

「やったーー!!クリス、ありがとーー!!」

 

「うあっ!!?く、くっつくなぁ!!」

 

家に来てもいいという許可をもらい、日和はクリスに抱き着いた。いきなり抱き着かれたクリスは日和を引きはがそうとする。微笑ましい光景に海恋は微笑みを見せる。

 

~♪~

 

リディアンの全ての授業が終わり、日和と海恋は宣言通りにクリスの家に遊びに来た。開演時間は夜ゆえに、夕飯を済ませ、入浴を済ませ、お菓子を用意することで後は開演を待つだけだ。ただ・・・

 

「おい!なんか増えてねぇか!!?なんも聞いてねぇぞ!!?」

 

「・・・どうやら、全員同じ気持ちみたいね・・・」

 

ライブをクリスの家で見たいのは響たちも同じらしく、友人含めて全員がここに集まっている。

 

「すみません、こんな時間に大人数で押しかけてしまいました」

 

「ロンドンとの時差は約8時間!」

 

「チャリティロックフェスをみんなで楽しむには、こうするしかないわけでして・・・」

 

響の友達である寺島詩織と安藤創世は申し訳なさそうにしているが、板場弓美は特に悪びれた様子はない。

 

「ま、頼れる先輩ってことで!それに、やっと自分の夢を追いかけられるようになった翼さんのステージだよ?」

 

「・・・みんなで応援・・・しないわけにはいかないよな!」

 

「それに、翼さんだって、世界で歌えると知った時、嬉しそうだったものね」

 

海外進出して世界で歌おうとする翼を応援したい気持ちはクリスも同じだったようだ。

 

「そしてもう1人・・・」

 

「マリア・・・!」

 

「歌姫のコラボユニット、復活デス!」

 

「きっとフォルテさんも、近くで応援してるんだろうなぁ・・・」

 

話し込んでいる間にもチャリティロックフェスが開演された。翼とマリアが歌う曲は、星天ギャラクシィクロス。

 

『『~~♪』』

 

テレビの奥の会場の証明が明るく、本ステージの主役である翼と、マリア・カデンツァヴナ・イヴがライトアップし、2人の歌姫は水上を滑るように歌う。音楽が始まると、水のアーチが噴射し、宙に虹を生み出す。

サビに入ると夕日は夜となり、天井に映し出されるプロジェクターから星々のように降り注ぐ。まさに、星天ギャラクシィクロスにふさわしく、星をイメージした演出、そして2人の歌声に観客全員は魅了される。そして歌の最後に青と桃色の銀河が1つに混ざり合い、超新星爆発を起こし、クロス状に輝きを放つ。

 

『わああああああああ!!』

 

ライブの歌が終わり翼とマリアは観客たちに手を振っている。会場は観客たちの興奮で満ち溢れている。テレビで見ていた響たちも興奮である。

 

「キャー!こんな2人と一緒に友達が世界を救っただなんて、まるでアニメだねぇ~!」

 

「アー、ウン、ホントダヨー」

 

「ウン、ソダネー・・・」

 

弓美の言葉に響と日和は曖昧な表情でそう返した。

 

~♪~

 

チャリティロックフェスで歌う全ての歌が終わり、世界のトップアーティストであり、レセプターチルドレンの1人であるピンクの長髪の女性、マリア・カデンツァヴナ・イヴはエレベーターに乗って会場の下に降りる。そんなマリアを出迎えたのは、赤い長髪で緑と紫のオッドアイの黒服の男装女性であった。

 

「マリア。お疲れ」

 

彼女の名はフォルテ・トライライト。マリアたちと同じくレセプターチルドレンの1人で、4人のリーダーである。現在ではマリアのマネージャーを務めている。フォルテはマリアに暖かい飲み物を渡す。

 

「ありがとう、フォルテ」

 

フォルテの出迎えにマリアは笑顔を見せている。するとフォルテの後に続くように、黒服の男たちが近づいてきた。それを見たフォルテとマリアはあまり気に入らないような様子を見せている。

 

「任務、ご苦労様です」

 

「アイドルとそのマネージャーの監視ほどでもないわ」

 

「監視ではなく警護です。世界を守った英雄を狙う輩も、少なくはないので」

 

黒服の男たちの言葉には裏が見え透いている。それにはいい気分はしないマリアはフォルテと耳打ちで会話する。

 

(わかっていたけれど・・・あまりいい気分じゃないわね)

 

(仕方がない。僕たちは、それを受け入れるほかあるまい)

 

不満は多々あるものの、マリアとフォルテは黒服たちの裏に従いつつ、うまくやっていくしかないと判断している。

 

~♪~

 

そもそもなぜマリアとフォルテが黒服たちの裏に従わなければいけないのか、その理由を切歌と調が話す。

 

「月の落下とフロンティアに関する事件を収束させるため、マリアとフォルテは生贄とされてしまったデス・・・」

 

「大人たちの体裁を守るためにマリアはアイドルを・・・フォルテはマネージャーを・・・。文字通り偶像を強いられるなんて・・・」

 

マリアとフォルテはフロンティア事変収束後の裁判で無罪となったのだが、米国政府の思惑でマリアとフォルテは米国政府のエージェントとなり、マリアは世界の歌姫、フォルテは歌姫を守るマネージャーとして立ち振る舞わなくてはいけなくなったのだ。米国政府の裏に、調と切歌は皮肉を感じている。

 

「そんなことないよ」

 

暗くなっている調たちに未来は口を開いた。その言葉に事件の当事者のメンバーは未来に視線を向ける。

 

「マリアさんたちが守っているのはきっと、誰もが笑っていられる日常なんだと思う」

 

「未来・・・」

 

未来の言葉に、調と切歌は表情が明るくなる。

 

「そうデスよね!」

 

「だからこそ、私たちがマリアとフォルテを応援しないと・・・!」

 

調と切歌はマリアとフォルテを応援したい気持ちが強くなる。2人にとって、マリアとフォルテは、同じ施設で育った、家族なのだから。

 

~♪~

 

夜の月が輝きだした頃・・・建物の頂上に黄色のディーラー服を纏う女性と、紫色のカウガール服を身に纏う女性がたたずんでいる。ディーラーの女性は持っていたコインを数枚指ではじき、コインは運転中のタンクローリーのタンクを貫き、さらにタイヤを貫き、破裂させる。

ハンドルを切れなくなったタンクローリーはガードレールを破壊し、崖に転落した。街のど真ん中に横転したタンクローリーのタンクには穴が開いており、ガソリンが流れ出ている。運転手はタンクローリーを放棄してその場から逃げ出す。

そして、カウガール服の女性はタンクローリーに向けて拳銃の弾を発砲する。弾はタンクローリーに直撃する。すると・・・

 

バリバリバリバリ!!!ドガアアアアアン!!!

 

タンクローリーはまるで落雷に当たったかのように感電し、中のガソリンが引火して大爆発を引き起こした。女性2人は爆発に目を向けていない。視線に捉えているのはその先・・・何かを抱えて逃げているローブの人物である。

 

~♪~

 

日和たちがクリスの家でテレビを見ている時、弦十郎からの通信が入った。

 

『第7区域に大規模な火災発生。消防活動が困難なため、応援要請だ』

 

「わかりました!響ちゃんとクリスと一緒にすぐに向かいます!」

 

任務の通知が来て、日和、響、クリスの3人は立ち上がる。

 

「響・・・」

 

「大丈夫、人助けだから!」

 

未来は響を心配している様子だ。そんな彼女を響は安心させようと笑みを浮かべてそう言った。

 

「私たちも・・・」

 

「手伝うデス!!」

 

調と切歌も響たちを手伝おうと名乗りを上げている。確かに2人はシンフォギアを持っている装者ではあるのだが・・・

 

「2人は留守番だ!LiNKERもなしに出動なんてさせないからな!!」

 

2人は適合係数を引き上げるための薬品、LiNKERを使うことでシンフォギアを纏うことができる。そしてそのLiNKERを作れる科学者は現時点ではいない。そのため、2人はシンフォギアを纏うこと自体はできるが、LiNKERがないためにバックファイアを引き起こすのは間違いない。ゆえにクリスたちは2人の出撃はさせない。

 

「「むぅ~・・・!」」

 

留守番を言い渡された調と切歌はふてくされたように頬を膨らませる。日和、響、クリスは急いで家を出て、火災発生現場に向かう。

 

~♪~

 

一方、マリアとフォルテの方も異変が起きている。マリアとフォルテは黒服の男たちと共にマネキンが並ぶ廊下を歩いている。すると、その廊下に風が吹く。ここは密室であるため、風が吹くことはまずない。それによってマリアたちは警戒態勢をとる。

 

「風・・・⁉誰かいるの・・・⁉」

 

「・・・司法取引と情報操作によって仕立て上げられたフロンティア事変の汚れた英雄、マリア・カデンツァヴナ・イヴ・・・」

 

マリアたちが警戒していると、どこからか女性の声が聞こえてきた。周囲を見回すが、周りにはマネキンしかいない。

 

「何者だ?姿を現せ」

 

警戒を続けていると、突然マネキンの中に紛れていた緑のフラメンコドレスを着た女性が黒服の男に襲い掛かり、右腕を彼の首に回して引き寄せ、強引に口づけを交わした。

 

「離れろ!!」

 

もう1人の黒服はフラメンコの女性に向けて銃を突きつけるが、女性はお構いなしだ。すると、口づけされている男に変化が起きる。男は何かを吸われているかのようにみるみると白髪と化し、生気が失われていく。女性は生気を失った男はもう用はないとし、襟を首を掴んで床に落とした。同時に黒服が弾丸を3発発砲する。女性は微笑みを浮かべ、スカートを翻す。すると・・・

 

ビュオオオオオ!!

 

彼女の周りに突如暴風が発生した。暴風は弾丸を全て弾き返し、黒服の男に全て命中する。しかも、最後の弾は眉間に直撃・・・つまり即死だ。女性はフラメンコダンスをしながらステップを踏み、マリアたちと向き合う。異形な力を持つ女性にマリアは驚愕している中、フォルテは彼女の前に出て、構えをとる。

 

「・・・ミスティルテインの装者・・・フォルテ・トワイライト・・・」

 

「もう1度言う。何者だ?なぜ僕の名を知っている?」

 

「・・・今宵は、あなたの歌を聞きにまいりましたの」

 

フラメンコの女性はフォルテの問いには答えず、彼女に向けてそう言った。その口ぶりは、マリアには用はないと言った様子だ。

 

~♪~

 

同時刻、何かを抱えているローブの人物はディーラーの女性とカウガールの女性から逃げている。2人はローブの人物を逃がすつもりはない。

 

「踊れ、踊らせるがままに・・・」

 

ディーラーの女性はポーズを取りつつ、指の間からコインを召喚し、それを弾いて弾丸のように放った。コインは車のガソリンタンクに通過する。それによって車は爆発する。

 

「ああ!!」

 

ローブの人物は爆発によって吹き飛ばされる。吹き飛ばされたローブの人物は何とか起き上がり、階段を駆け下りていく。

 

「逃がさないぜ!!ヒーハー!!!」

 

カウガールの女性はローブの人物に向けて拳銃を撃ち放つ。弾丸はローブの人物の周りに直撃していく。不思議なことに直撃した弾丸の弾は1つも残っていない。カウガールの女性の放つ弾丸で逃げ道を制限されてもローブの人物は必死に逃げる。そんな中・・・燃え広がっていく建物を・・・とんがり帽子を被った少女が見つめていた。

 

~♪~

 

日和、響、クリスの3人は火災が発生している地区にヘリでやってきた。現在は弦十郎から通信で現状を聞いている。

 

『付近一帯の避難は、ほぼ完了。だが、このマンションに多数の生体反応を確認している』

 

「まさか人が・・・⁉」

 

『防火壁の向こうに閉じ込められているようだ。さらに気になるのは、被害状況は依然四時の方向に拡大していることだ』

 

「それって意図的にってこと⁉」

 

「赤猫が暴れていやがるのか?」

 

『響君は救助活動を。日和君とクリス君は被害状況の確認にあたってもらう』

 

「「了解です!」」

 

弦十郎の指示を受け、響はヘリの扉を開ける。

 

「任せたぞ!」

 

「任された!」

 

「響ちゃん、絶対に無理しないでね!」

 

「2人も無茶は禁物ですよ!」

 

響は火災現場のマンションに向かって、ヘリから飛び降りる。そして響はシンフォギアを纏う詠唱を唄う。

 

Balwisyall Nescell Gungnir tron……

 

詠唱を唄った響の制服は分解し、シンフォギアを身に纏い、マンションの屋根に蹴りを放って内部に侵入した。マンション内部は炎が蔓延しており、煙も充満している。

 

『響ちゃんの反応座標までの誘導、開始します!』

 

マンション内部に侵入した響は友里が通信で送った反応座標を頼りに、移動を開始する。

 

~♪~

 

一方のフォルテはフラメンコの女性との交戦が始まった。女性は剣を取り出し、フォルテに剣を振るって攻撃する。フォルテは元反乱軍の軍人としての能力を生かし、女性の振るう剣を躱す。女性の振るう剣の一瞬の隙を狙い、フォルテは女性に腹部に掌底を放った。

 

「この感触は・・・!」

 

フォルテは掌底を放った際に触れた女性の身体の感触に違和感を覚え、すぐに女性は危険だと判断したフォルテはジャンプして女性に向けて蹴りを放ち、蹴りの勢いで後ろに下がり女性から距離を置く。

 

「・・・歌わないのであれば、そうさせるまでのこと」

 

シンフォギアを身に纏う様子がないフォルテに女性は標的をマリアに変更し、彼女に襲い掛かる。

 

「マリア!!」

 

女性はマリアに向けて剣を振るう。マリアはその攻撃をバク転で回避し、次々繰り出される剣技を避け、さらに振り下ろした剣を飛んで躱す。

 

「はあああああ!!」

 

マリアは空中で回し蹴りを放ち、女性の首に叩き込んだ。だが女性には効いた様子はなく、逆にマリアの体を押し上げた。

 

「しまった!!」

 

「マリアぁ!!」

 

女性はスカートをはためかせ、マリアに向けて真っ直ぐに剣を突き上げようとする。フォルテはマリアを助けようと動くが、間に合わない。

 

~♪~

 

避難が遅れた人々を救出するために響は移動していく。途中で階段が瓦礫で防がれた時は、床に拳を叩きつけて、穴を開けながら下に降りていく。救助対象のいる階に響が到達すると、友里の通信が届く。

 

『響ちゃん!左手90度の壁をぶち抜いて迂回路を作って!』

 

友里の指示を受け、響は言われた通りの角度に拳を叩きつけて、壁を破壊して迂回路を次々と破壊していく。そうしながら先へ進み、救助対象がいる場所にたどり着く。響は立ちふさがる壁を拳で破壊する。

 

「避難経路はこちらです!」

 

逃げ遅れた人々たちは助けが来てくれたことに喜び、響の避難誘導に従い、避難経路を進んでマンションから脱出する。

 

『響ちゃん、生体反応ラスト1!』

 

響はまだ逃げ遅れた人を見つけるため、反応座標を頼りに壁を破壊しながら先へ進んでいく。立ちふさがる壁を破壊していくと、倒れこんでいる少年を発見する。おそらくは煙を吸いすぎて身体が弱ってしまったのだろう。響は少年に駆けつけ、抱きかかえる。すると天井より瓦礫が落ちてきて響たちを押しつぶそうとする。響は慌てることなく、飛びながら蹴りを放ち、瓦礫を破壊し、マンションから飛び出した。後は駆けつけてきた救急車まで運べば任務完了だ。

 

~♪~

 

フラメンコの女性が剣を突き上げ、マリアを貫こうとした時、2人の間にシンフォギアを身に纏った翼が滑り込み、女性の剣を刀で受け止めた。

 

「翼!!?」

 

「友の危難を前にして、鞘走らずいられようか!」

 

「すまない、風鳴」

 

女性と距離を取った翼の元にフォルテが駆け寄る。

 

「待ち焦がれていましたわ・・・」

 

「貴様は何者だ!!?」

 

翼の問いかけに女性はフラメンコのポーズを取り、3度目の問いに答えた。

 

「オートスコアラー」

 

「オートスコアラー・・・?」

 

聞いたこともない言葉に翼たちは疑問符を浮かべる。だが襲ってきたからには敵であるというのは変わらない。

 

「あなたの歌を聞きに来ましたのよ」

 

そう言った女性は剣先を翼に向けて突きかかってきた。翼は女性の振るう剣を刀で正面から受け止め、押し返す。翼はさらにもう1本の刀を取り出し、女性に刀を振るってそこから連撃を振るう。女性は翼の振るう刀を難なく剣で受け止める。さらに翼は2つの刀の柄を連結させ、双刀に炎を纏わせ、脚部のブレードのブースターを起動し、飛んで躱した女性が着地した瞬間を狙う。

 

「風鳴る刃、和を結び、寡欲をもって切そぐう・・・」

 

刀の炎が上昇し、蒼き炎に変化する。

 

「月よ、煌めけ!!」

 

翼は刀を回転させ、女性が着地した瞬間に振るった。

 

【風輪火斬・月煌】

 

炎を纏った斬撃を喰らった女性は吹き飛ばされ、荷物にぶつかり、崩れ落ちた荷物の下敷きになる。

 

~♪~

 

同じ時間帯、火災現場には救急車と消防車が集まっており、消防隊員は消火活動を開始している。救急救命士は運ばれてきた負傷者を救急車に収容する。中には子供が取り残され、救急救命士に救出を依頼する人もいる。そこに響が負傷した少年を抱えてやってきた。

 

「お願いします!」

 

「!コウちゃん!」

 

「煙をたくさん吸い込んでいます!早く病院へ!」

 

「ご協力感謝します!」

 

響は負傷した少年を救急救命士に後を託した。逃げ遅れた人々を全て救出した響はその場を後にしようとした時、視界の先にとんがり帽子を被った少女が燃え上がるマンションの炎を見つめている。少女は燃え広がる炎を見て、昔の記憶を思い返している。

 

『それが神の奇跡でないのなら、人の身にすぎた悪魔の知恵だ!!』

 

『裁きを!!浄罪の炎でイザークの穢れを清めよ!!』

 

『パパ!!パパぁ!!』

 

『キャロル。生きて・・・世界をもっと知るんだ』

 

『世界を・・・?』

 

『それが、キャロルの・・・』

 

父が炎に焼かれていく光景を思い出した少女は目に涙を溜めている。

 

「・・・消えてしまえばいい思い出・・・」

 

「そんなところにいたら危ないよ!!」

 

少女の思考は響の声で現実に戻る。少女は響の声を聞き、彼女に視線を向けた。

 

「パパとママとははぐれちゃったのかな?そこは危ないから、お姉ちゃんが行くまで待っ・・・」

 

「黙れ」

 

少女は円を描き、緑の紋章を描く。すると紋章より、竜巻が現れ、それを響に放った。

 

「うわあ!!?」

 

響はとっさに竜巻を躱したことで直撃は免れた。竜巻が直撃した箇所は、抉られており、凄まじい威力だというのがわかる。そこにクリスと日和の通信が入る。

 

『敵だ!!敵の襲撃だ!!』

 

『響ちゃん!そっちはどうなってるの!!?』

 

「敵・・・?」

 

敵というワードに響は思わず少女に視線を向けた。攻撃を放ってきた少女は緑の紋章を掲げ、響を見下ろしている。

 

~♪~

 

勢いよく吹っ飛ばされ、女性は荷物の下敷きになっている。マリアはそのことで翼に叱咤する。

 

「やりすぎだ!人を相手に・・・」

 

マリアの言葉にフォルテが異を唱える。フォルテ自身も、放った掌底で女性が普通じゃないとわかっているからだ。

 

「やりすぎなものか!風鳴、剣を交えた君ならわかるはずだ!」

 

「ああ・・・!手合わせしてわかった・・・!」

 

翼が荷物に視線を向けたと同時に、女性は荷物を蹴散らし、再び立ち上がる。女性には傷を負った様子は1ミリもない。

 

「「こいつは・・・どうしようもなく、化け物だ!!」」

 

「聞いてたよりずっとしょぼい歌ね・・・。確かにこんなのじゃ、やられてあげるわけにはいきませんわ」

 

女性はフラメンコのポーズを取りつつ、余裕そうな笑みを浮かべている。

 

~♪~

 

響を見下ろす少女は緑の紋章を掲げ、さらに複数の陣を張った。

 

「キャロル・マールス・ディーンハイムの錬金術が・・・世界を壊し、万象黙示録を完成させる」

 

「世界を・・・壊す・・・?」

 

「オレが奇跡を殺すと言っている!」

 

そう宣言した少女、キャロル・マールス・ディーンハイムは展開した陣を響に向け、1つとなった陣より、複数のエネルギー波を放ち、襲い掛かった。




東雲日和(GX編)

外見:黒髪のショートヘア、頭にウサギリボンのようなカチューシャをしている。
   瞳は青色

年齢:17歳

誕生日:10月27日

シンフォギア:妖棍・如意金箍棒

趣味:セッション

好きなもの:ベッキー(日和の白いベース)

スリーサイズ:B:86、W56、H85

イメージCV:輪廻のラグランジェ:京乃まどか
(その他の作品:マギ:アラジン
        変態王子と笑わない猫:小豆梓
        クロスアンジュ 天使と竜の輪舞:ロザリー
        その他多数)

本作の主人公。リディアン音楽院の3年生。特異災害対策起動部二課改め、S.O.N.Gのシンフォギア装者で、如意金箍棒の適合者。
フロンティア事変より時が流れ、3年生となり、調と切歌がリディアンに入学したことにより、最上級生となったと自覚を持つようになり、先輩らしいところを見せたいと日々奮闘している。
彼女のここ最近の悩みはバンドメンバーである小豆の墓参りで彼女の家族にどのようにして会わないようにするかである。2年前のあの惨劇は、今も記憶に残っており・・・彼女にとってあの事件は未だ続いており、まだ終わりではないのだから。

GX編楽曲

『My Best Soulfrend』

亡くなった友との繋がりを途絶えさせぬよう、がむしゃらに奮闘し、今を精いっぱい頑張るという誓いの楽曲。


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世界を壊すーその前に

キャロルと名乗る少女が響に向けて放った竜巻は彼女に直撃することはなかった。だが、響の足元に命中し、地面がめくれ上がり、響を吹き飛ばした。巻き起こった土煙が消え、抉り壊された地面に響が倒れ込んだ。響はボロボロの状態になりながらも、キャロルを見上げる。

 

「・・・なぜシンフォギアを纏おうとしない。戦おうとしない」

 

キャロルは響に疑問をぶつける。攻撃を仕掛けてきた以上、キャロルは間違いなく、敵なのだ。しかし響は戦うことよりも、話し合うことを優先している。

 

「戦う・・・よりも、世界を壊したい理由を教えてよ!」

 

響の問いかけにキャロルは煩わしそうな瞳を響に向ける。キャロルは物理法則を無視した速度で橋から飛び降りる。響の目の前にある瓦礫にキャロルは陣を張り、ゆっくりと着地する。

 

「理由を言えば受け入れるのか?」

 

「私は・・・戦いたくない!」

 

響の言葉にキャロルは忌々しく歯噛みする。

 

「お前と違い・・・戦ってでも欲しい真実が、オレにはある!!」

 

キャロルの表情、そして瞳の奥には激しい憎悪、そして嫌悪の炎が宿っている。

 

~♪~

 

本日のお泊り会は家主であるクリスが任務に出かけてしまったために、お開きになってしまった。そのため、海恋を含めたお泊り会に参加していたメンバー全員は帰路を歩いている。

 

「あ~あ~・・・せっかくみんなでお泊りだと思ったのにー・・・」

 

強制的にお開きになってしまい、弓美は不満をこぼしている。

 

「立花さんたちが頑張っているのに、私たちだけ遊ぶわけにはいきませんから」

 

「ウミヒメ先輩とヒナがキネクリ先輩の家の合鍵を持ってたからよかったけど・・・。でもどうして持ってたの?」

 

「え・・・そうだよね・・・どうしてだろう・・・?前に響から預かってたんだったかなー?」

 

「私も似たようなものよ。日和は結構立花さんと似てるところがあるから」

 

「ふーん・・・」

 

創世の疑問に未来は答えに詰まったが、当たり障りのない回答でこの場を濁す。海恋は特に慌てた様子はなく、淡々と答える。すると切歌と調が前に出てきた。

 

「じゃあじゃあ先輩方ー、あたしらはこっちなのデース!」

 

「誘ってくれてありがとう」

 

切歌は元気よく、調は静かに先輩たちに別れの挨拶をする。

 

「失礼するデース!」

 

「ああ・・・!切ちゃん・・・!」

 

「バイバーイ」

 

「また明日ね」

 

「気を付けてねー!」

 

切歌が調の手を取って、2人は帰路を走って帰る。相変わらず仲がいい2人に海恋たちは微笑みを見せて、2人を見送る。

 

「・・・さて、コンビニでおむすびでも買っておこうかな」

 

「あらあら」

 

「まあまあ」

 

未来の言葉に4人は視線を彼女に向ける。

 

「てっきり心配してるのかと思ってたら・・・」

 

「小日向さんも少しは成長してるってことよ」

 

「そんなんじゃないですよ、海恋さん。響の趣味の人助けですから。むしろ、お腹空かせて変える方が心配かも」

 

「かもね」

 

4人はたわいもない話で盛り上がりながら、まずはコンビニへと向かっていくのであった。

 

~♪~

 

火災の被害状況を確認するために日和とクリスはヘリから降りる。ヘリが飛んでいくところを見上げている2人に友里からの通信が届く。

 

『火災マンションの救助活動は響ちゃんのおかげで順調よ』

 

「ふっ・・・あいつばっかりいい格好させるかよ」

 

「うん!先輩らしいところ、見せないとね!」

 

響の活躍に、日和とクリスは気合が入る。

 

ピンッ・・・

 

すると、何かが弾く音が聞こえてきた。そして・・・

 

ドガアアアアアン!!

 

飛んでいたヘリが何かに直撃して爆発した。日和とクリスが驚いている中、何者かの気配を感じた。上を見上げてみるとそこには、黄色いディーラー服を着込んだ女性がポーズを決めて立っていた。

 

「この仕業はお前か!!?」

 

「だとしたら・・・どうするんだい?ガールズ?」

 

「「!!」」

 

クリスがディーラーの女性に問いかけていると、別の声が背後から聞こえてきた。2人が後ろを振り返ってみると、そこには紫色のカウガール服を着込んだ女性が立っていた。そして、カウガールの女性は拳銃を抜き、弾丸を2発撃つ。弾は2人には当たらない。威嚇射撃のようだ。それと同時にディーラーの女性もコインを召喚し、戦闘態勢に入る。

 

「こちらの準備はできている」

 

「ヘイ、ガールズ!遊ぼうぜ~?」

 

カウガール女性も拳銃を回転させた後、カッコよくポーズを決めて戦闘態勢に入っている。

 

「・・・抜いたなぁ。だったら貸し借りなしでやらせてもらう。後で吠え面かくんじゃねぇぞ!!」

 

「あんまり戦いたくなんかないけど・・・そっちがその気なら、こっちだって遠慮しない!!」

 

日和とクリスは自分の持っているギアネックレスを取り出し、詠唱を唄う。

 

clear skies nyoikinkobou tron……

 

Killter Ichaival Tron……

 

詠唱を唄い、日和とクリスはシンフォギアを身に纏う。

 

「相棒はそいつを頼む!あたしはあいつをやる!」

 

「わかった!」

 

日和は右手首のユニットから、棍を取り出し、一回転して構え、カウガールの女性に向かって走り出し、棍を振るう。カウガールの女性はブリッジで棍の打撃を躱し、そのまま一回転しながら蹴りで日和の棍に蹴りを入れる。それによって日和は棍を手放してしまう。だが日和は左手首のユニットからもう1本棍を取り出し、カウガール女性に棍を縦に振るった。その攻撃をカウガール女性は今度は側転で躱し、拳銃を持ってない手の指1本で逆立ちをしながら回転し、距離を取りながら日和に向けて拳銃を発砲する。

 

「あの態勢で銃を!!?何なのこの人・・・身体能力が尋常じゃない・・・!!そもそもこの人、本当に人間なの!!?」

 

常識を逸脱したカウガール女性の身体能力に日和は驚愕しつつも弾丸を避け、本当に相手が人間なのか疑いを向けている。指一本の逆立ち回転を終えたカウガール女性は飛び上がり、拳銃をもう1本取り出す。

 

「ヒーハーーー!!!!」

 

カウガール女性は空中で二丁拳銃の弾丸を日和に向けて連発で撃ち放つ。しかも、カウガール女性の放つ連射は拳銃が撃ったとは思えないほどに素早い。

 

「連射!!?しかもクリスのガトリング並みの速さ!!」

 

連射の素早さに日和は驚きつつも、向かってきた弾丸を走って避ける。日和は弾丸を走って避けながら手放した棍を回収し、カウガール女性が着地する瞬間を狙って投擲する。カウガール女性は連射をやめ、拳銃で棍を弾きながら着地する。日和はその隙を狙って飛び、カウガール女性に棍を背後から振るう。だが予想外なことに、カウガール女性は日和に目を向けることなく、わかっているかのようにそのままの態勢で左手の拳銃で棍の一撃を防いだ。

 

「ウソっ!!?」

 

こちらを見ないで攻撃を防いでみせたカウガール女性に日和は驚きを隠せない。さらにカウガール女性はこの態勢のまま、日和にもう片方の拳銃を突きつける。日和はまずいと思い、棍を伸ばすことで撃ち放たれた弾丸を間一髪で躱した。

 

「こんなの・・・人間にできる業じゃない・・・!」

 

人間離れの身体能力を持つカウガール女性に日和は相手が人間ではないと直感的に感じ取る。いや、人間離れをしているのはカウガール女性だけではない。クリスが相手をしているディーラーの女性もそうだった。クリスが放ったボウガンの複数の矢をディーラーの女性はブレイクダンスのように踊るかのように回転しながら全て躱す。射撃されている中でブレイクダンスの回転で躱すなど、人間では絶対にありえない。

 

(この動き・・・人間離れどころじゃねぇ・・・!人外そのもの!!)

 

クリスはディーラーの女性の動きから、人間じゃないと判断した。ディーラーの女性はボウガンの矢を手で掴み取るという荒業を見せ、ステップを踏んで止まる。

 

「つまり・・・やりやすい!!!」

 

相手が人間じゃないとわかったクリスはもう遠慮はしないかのように、ボウガンが変形し、さらに矢の総数を増やし、ディーラーの女性に向けて放った。対し、ディーラーの女性は複数枚のコインを召喚し、次々と弾いて矢を相殺させている。日和がカウガール女性と、クリスがディーラー女性と戦っている姿を、ローブを纏った人物は隠れて見ていた。

 

「装者屈指の戦闘力とフォニックゲイン・・・それでも、レイアとシャルには通じない・・・」

 

ローブの人物はあの2人を知っている様子である。黄色いディーラーの女性の名はレイア・ダラーヒム、カウガール女性の名はシャル・サンドリオン。

 

「やはり、ドヴェルグ=ダインの遺産を届けないと・・・!」

 

ローブの人物が戦いを見守る中、クリスはボウガンをガトリング砲に変形させ、レイアにガトリング砲を向ける。そして、クリスが日和に声をかける。

 

「相棒!!遠慮はいらねぇ!!こいつら一気に片付けるぞ!!」

 

「・・・一か所に集中・・・だね!」

 

作戦が伝わった日和はシャルが放つ弾丸を避けつつ、棍を振るっていく。シャルは日和の振るった棍を人体離れの身体能力で軽々と避けていき、最後の薙ぎ払いはジャンプで躱す。クリスはレイアにガトリング砲を放っていく。レイアは軽々とガトリングの弾を避けていき、飛んで躱す。これによって、レイアとシャルを近づけることに成功した。それを見た日和は棍を2人に向けて投擲する。投擲された棍は複数に分離し、2人に向かっていく。

 

【才気煥発】

 

クリスもミサイルを展開し、レイアとシャルに放った。

 

【MEGA DETH PARTY】

 

放たれたミサイルはレイアとシャルに見事に直撃し、爆発を引き起こす。分離した棍も直撃を見計らい、大きな爆発を引き起こす。

 

「直撃!!?」

 

隠れているローブの人物は驚いているが、クリスと日和は、どこか警戒している顔をしている。

 

「今のは・・・確かに直撃した・・・けど・・・」

 

「もったいぶらねぇでさっさと出てきやがれ!!」

 

爆発の煙が晴れると・・・そこにはレイアが黄色の防御壁を、シャルは紫の防御壁を張った姿があった。2人ともまったくダメージを負っておらず、傷1つついていない。レイアは2人にコインを弾いて投擲、シャルは二丁拳銃の弾丸を放つ。

 

『何があったの⁉クリスちゃん、日和ちゃん!』

 

「敵だ!!敵の襲撃だ!!」

 

「響ちゃん!そっちはどうなってるの!!?」

 

クリスと日和は放たれたコインと弾丸を躱しながらなんとか対処をしている。

 

「危ない!!!」

 

そこにローブの人物は2人に危険を知らせるために大きな声を上げた。謎の声にクリスと日和は上を見上げてみると、複数の船がこちらに落ちてきたではないか。

 

「う、ウソでしょ!!?」

 

「な、何の冗談だあ!!?」

 

日和とクリスは急いで落ちてきた船を躱した。おかげで直撃は免れた・・・が、船は直撃の衝撃で爆発し、2人は爆風に巻き込まれて吹き飛ばされる。

 

「おいおい・・・お遊びに水をさすたぁいただけないねぇ・・・なぁ?シスター?」

 

「・・・私に地味は似合わない。だけどこれは少し派手すぎる・・・」

 

レイアとシャルの前方に見える海には、ビルと同じくらいの高さを誇る巨人がおり、巨人は船を片手で鷲掴みにしていた。

 

「・・・後は私が地味にやる」

 

「・・・へぇ。なら、あたいは高見の見物としゃれこもうかねぇ」

 

レイアの言葉にシャルはにやりと笑いながら左手の拳銃をしまい、右手の拳銃でカウガール帽子を突きつけ、くいっと上げる。同時に、背後にいた巨人も姿を消した。

 

~♪~

 

一方、チャリティロックフェス会場のマネキンの部屋でフラメンコの女性と対峙している翼は刀を構え直し、女性に刀を突きさす。だが女性は剣を振るい、翼の刀を上空に払いのけた。上空を舞う刀は大剣に変形した。そして大剣は刃を女性に向けて落下していき、女性を巻き込んで地面を突き刺した。

 

「やったの⁉」

 

「この手ごたえ・・・下に叩き落としたにすぎない!」

 

「だろうな・・・君の一撃を受けても平然としていたんだ・・・そう考えるのが妥当だ」

 

翼とフォルテはあの一撃を喰らっても女性は生きていると判断している。そしておそらく、その考えは間違いではない。戦いを見ていたマリアは突如として翼の腕を掴む。

 

「行くわよ、翼!フォルテ!」

 

「ああ!」

 

「え・・・えぇ⁉」

 

女性が戻ってこないうちにマリアは翼を連れてこの場を離れることにした。マリアの考えを察したフォルテは何も言わず、マリアについていき、それとは逆に意図が理解できてない翼は戸惑いの声を上げている。

 

~♪~

 

同時刻、海恋たちと別れ、自分たちの家に向かって調と切歌は帰路を歩いている。その道中、信号が赤になったために立ち止まる。そんな中2人はクリスの言葉を思い返しながら考え事をしている。

 

『2人は留守番だ!LiNKERもなしに出動なんてさせないからな!!』

 

「・・・考えてみれば、当たり前のこと・・・」

 

「ああ見えて、底抜けにお人よしぞろいデスからね」

 

クリスのあの言葉は、調と切歌を心配しての言葉だ。それは調と切歌もわかっている。2人が思い出すのは、釈放され、マリアとフォルテと共に独房から解放された後のことだ。独房から出てきた4人を出迎えてくれたのは、笑顔を向け、ドーナツの入った箱を持って差し入れを持ってきた響たちだ。

 

「フロンティア事件の後、拘束されたあたしたちの身柄を引き取ってくれたのは、敵として戦ってきたはずの人たちデス・・・」

 

「それが保護観察なのかもしれないけれど・・・学校にも通わせてくれて・・・」

 

次に思い出すのは今年の春。リディアンの生徒として学校に通うことになった調と切歌。初めて通う学校の前で立ち止まる2人の背中を、日和とクリスが押した。

 

『おい!なにビビってんだよ!』

 

『ほらほら2人とも!早く行かないと、遅刻しちゃうよー!』

 

あの時、自分たちを温かく迎えてくれた響たち。その光景にあの時の2人は放心していたこともよく覚えている。それを思い出すたびに、何か恩返しがしたい・・・そんな思いが強くなっていくのだ。

 

「F.I.Sの研究施設にいたころには想像もできないくらい、毎日笑って過ごせているデスよ」

 

2人があの日を思い出していると、信号が青になる。だが2人の足は止まったままだ。

 

「何とか、力になれないのかな・・・」

 

「何とか、力になりたいデスよ・・・」

 

切歌は自分のシンフォギアのネックレスを取り出し、悔しそうに握りしめる。

 

「力は、間違いなくここにあるんデスけどね・・・」

 

「でも、それだけじゃ何も変えられなかったのが、昨日までの私達だよ、切ちゃん・・・」

 

力があるのにそれが自由に振る舞えない・・・響たちの助けに行くこともできない・・・。2人がそれにもどかしさを感じている中、ビルのモニターから火災発生の速報ニュースが流れる。

 

『都内に発生した高層マンション、及び周辺火災の速報です。混乱が続く現場では、不審な人影の目撃が相次ぎ、テロの可能性が指摘されています』

 

2人がニュースのモニターに視線を向けていると、テレビの火災現場に映っていたヘリが爆発した。

 

「!今の・・・!」

 

「空中で爆発したデス!」

 

「何か・・・別の事件が起きてるのかも・・・」

 

モニターのニュースを見た調と切歌はいてもたってもいられず、すぐさま行動を開始するのであった。

 

~♪~

 

船の爆風に巻き込まれ、吹っ飛ばされた日和とクリスは草むらに隠れ、元いた場所に視線を向けている。

 

「ハチャメチャしやがる・・・!」

 

「まさかあんな方法で攻撃してくるなんて思わなかったよ・・・」

 

クリスはでたらめな攻撃方法に悪態をつき、日和はかいた冷や汗を拭いている。

 

「大丈夫ですか・・・?」

 

すると2人の背後からローブの人物が声をかけてきた。

 

「あぁ・・・って!!?」

 

「どうしたの・・・って、ひゃーーー!!」

 

クリスは声をかけてきたローブの人物の格好を見て顔を赤面する。日和もローブの人物の格好を見て顔を赤くして両手で顔を覆う。なぜならローブの人物はローブで体は隠せているが、パンツ1枚という恥ずかしい格好をしているからだ。

 

「お、おま・・・その恰好・・・!」

 

「あなたたちは・・・」

 

クリスは慌てて顔を隠す。

 

「お・・・おっす!オラ悟心!つえぇ奴と戦えてオラわくわくすっぞ!」

 

「わ、私は、快傑☆うたずきん!国連とも、日本政府とも全然関係なく、日夜無償で世直しを・・・」

 

日和とクリスは自分たちが好きな漫画の作品のキャラを真似て変に誤魔化そうとするが・・・

 

「如意金箍棒のシンフォギア装者、東雲日和さんに、イチイバルのシンフォギア装者、雪音クリスさんですよね」

 

ローブの人物は2人の身分をすでに知っているようだ。日和とクリスは自分たちの身分を知っていたことに驚いているのもそうだが、ローブの人物の声にも驚く。自分たちを助けてくれた声でもあったのだから無理もない。

 

「その声・・・さっき私たちを助けた・・・」

 

ローブの人物は自身が纏っているフードをまくり、素顔を露にする。ローブの人物の顔は、今響と対峙しているキャロルの顔と瓜二つであった。

 

「ボクの名前はエルフナイン。キャロルの錬金術から世界を守るため、皆さんを探していました」

 

「・・・キャロル・・・?錬金術・・・?」

 

「・・・錬金術・・・だと・・・!!?」

 

ローブを纏っていた人物、エルフナインから発した初めて聞くワードと名前に日和は首を傾げているが、クリスは息をのんでいた。




西園寺海恋(GX編)

外見:水色髪の三つ編みポニーテール
   茶色の縁のメガネをかけ、瞳は緑色

年齢:17歳

誕生日:9月30日

趣味:勉強、読書

好きなもの:クラシック音楽

スリーサイズ:B:84、W55、H86

イメージCV:ウマ娘プリティーダービー:マンハッタンカフェ
(その他の作品:プリンセスコネクト!Re:Dive:キョウカ
        変態王子と笑わない猫:筒隠月子
        クロスアンジュ 天使と竜の輪舞:クリス
        その他多数)

リディアン音楽院の3年生。日和のルームメイトであり親友。風紀委員に属しており、特異災害対策起動部二課改め、S.O.N.Gの外部協力者。
1年という月日が流れ、生徒会や風紀委員の先輩からこれまでの成績、規律正しさを評価して、風紀委員長の席を譲るという提案があったらしいが、海恋は今の方が性に合っていると言って、その誘いは断っている。二課がS.O.N.Gに再編した今でもオペレーター業の勉強を続けている。
2年の時は慌ただしくて日和と共に玲奈と小豆の墓参りができていなかったがために今年は日和と一緒に必ず行くことにしている。ただ、日和が小豆の家族と会わせないようにするために時間の段取りも調整を行っていて、少し憂鬱気味である。


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錬金術師のノイズ

オリジナルオートスコアラーがたった1機だけだと思った?


S.O.N.Gの仮設本部である潜水艦にいる弦十郎とオペレーターたちも、日和とクリスが聞いたワード、錬金術の意味を解析している。

 

「錬金術・・・科学と魔術が分化する以前の、オーバーテクノロジーだった、あの錬金術の事なのでしょうか・・・」

 

「だとしたら、シンフォギアとは別系統の異端技術が挑んできているということ・・・」

 

「・・・新たな敵・・・錬金術師・・・」

 

弦十郎は腕を組みながら、モニターに映っているキャロルの姿を見据える。

 

~♪~

 

キャロルが響と対峙しているその頃、その光景を建物に隠れてスマホで撮影している青年がいた。青年は画像がうまく撮れていて、満足そうな笑みを浮かべている。

 

「へへ、こういう映像ってどうやってテレビ局に売ればいいんだっけぇ?」

 

どうやらこの青年、金稼ぎ目的で動画をテレビに売ろうとしているようだ。

 

「断りもなく撮るなんて・・・躾の程度が窺えちゃうわね」

 

「!!?」

 

青年の横にはいつの間にか青いワンピースを着込んだ少女が壁にもたれかかっていた。突然現れた少女に青年は驚いている。

 

「どうやら・・・劣悪な環境で育った殿方のようです・・・」

 

さらに青い服の少女の背後より、止まった時計を身に着けている白い修道服を着込み、全てを凍てつかせるような水色の瞳を持つ女性が現れた。女性の美しい容姿に青年は一目ぼれをしている。そんなことはお構いなしに修道服の女性は青年に近づき、強引に青年に口づけをする。すると青年は髪が白髪と化し、生気をなくして力なく倒れる。

 

「少し・・・お仕置きが必要のようですね」

 

修道服の女性は冷たい笑みを浮かべてそう言うと、女性の周りに冷たいとは比べ物にならない極寒の冷気が発せられ、青年の手が、足が、身体が徐々に凍り始めた。

 

「うーわ、マジかわいそー」

 

青い服の少女は青年に同情するような声を上げているが、表情は小悪魔のように笑っており、同情している気配は一切ない。完全に氷漬けになった青年に修道服の女性は・・・

 

グシャッ!!

 

青年の足を踏みつけ、踏んだ足を粉々に砕いた。それだけに飽き足らず修道服の女性は青年をどんどん踏みつけ、粉々に砕いていく。

 

「うふ・・・うふふふふ・・・」

 

修道服の女性は冷たく笑いながら、氷となって粉々になった青年を見下し、青年の持っていたスマホの氷も粉々に踏み砕いた。その間にもキャロルと対面している響は彼女の言う真実に疑問符を浮かべる。

 

「戦ってでも欲しい真実・・・?」

 

「そうだ。お前にだってあるだろう?だからその歌で月の破壊を食い止めて見せた。その歌で、シンフォギアで!戦ってみせた!!」

 

キャロルは響たちが1年前のルナアタック事変で先史文明期の巫女、フィーネと戦っていたことを知っているようだ。キャロルの言葉に響は否定する。

 

「違う!!そうするしかなかっただけで・・・そうしたかったわけじゃない・・・私は、戦いたかったんじゃない!シンフォギアで・・・守りたかったんだ!!」

 

戦いたくない響の訴えにキャロルは表情を歪めている。

 

「それでも戦え・・・!お前にできることをやってみせろ!」

 

キャロルは自身の足元に橙色の錬成陣を展開させ、響に戦うように促す。

 

「人助けの力で・・・戦うのは嫌だよ・・・」

 

「・・・っ、お前も人助けをして殺される口なのか!!」

 

キャロルは両手を掲げ、足元の錬成陣と同じ陣を作り上げ、膨大なエネルギーを収束させる。

 

~♪~

 

キャロルの錬金術の膨大なエネルギーはS.O.N.Gの潜水艦内でも感知している。

 

「高出量のエネルギー反応!敵を前にしてどうして戦わないんだ!」

 

命の危険を前にしても、シンフォギアを纏わず、戦おうとしない響に藤尭は疑問の声を上げる。

 

「救援を回せ!!いや・・・相手がノイズで無いなら俺が出張る!!本部を現場に向かわせろ!!」

 

弦十郎は潜水艦を現場に出向くようにオペレーターたちに指示を出すが、友里が反論する。

 

「いけません!!指令がいないと指揮系統が麻痺します!」

 

「くっ・・・!」

 

至極当然の反論に弦十郎は歯噛みしてしまう。今弦十郎たちにできるのは、装者たちを見守ることだけだ。

 

~♪~

 

キャロルの錬金術による攻撃が来る。それは響もわかっている。だがそれでも響はシンフォギアを纏うことなく、話し合うことを選んでいる。

 

「だって・・・さっきのキャロルちゃん・・・泣いてた・・・」

 

「!!?」

 

「だったら、戦うよりも、そのわけを聞かないと!」

 

響は何とか話し合おうとするが、キャロルは響の言葉を聞いて、怒りで顔が歪んでいる。

 

「見られた・・・!知られた・・・!踏み込まれた・・・!世界ごと・・・!!」

 

キャロルが指をパチンと弾く。すると紋章が浮かび上がり、錬成陣に刻印させることによって、錬成陣が完成する。

 

「ぶっ飛べえええええ!!!」

 

キャロルが完成させた錬成陣は周囲の地面を抉り、破壊していく。

 

「わああ!!!!」

 

錬成陣が放つエネルギーに響はあまりの威力に吹っ飛ばされる。凄まじい威力の衝撃が収まり、土煙が晴れると、キャロルがいる瓦礫以外は全ての地面が抉れており、大きな穴ができている。響は何とか無事で瓦礫を掴んで支えている。キャロルは怒りのまま錬金術を使ったせいか、疲れが生じ、息を整えている。

 

「どうして・・・世界を・・・」

 

「・・・父親に託された命題だ・・・。お前にだってあるはずだ・・・」

 

「え・・・お父・・・さんに・・・?」

 

響は父親というワードによって心の傷口に引っ掛かる。響が呆然としていると・・・

 

ガシッ!バコォ!!

 

響は突如背後より何者かに頭を掴まれ、地面に叩きつけられる。響の頭を掴んでいるのは、修道服を着た女性だった。

 

「マスターのお手を煩わせるとは何たる重罪か・・・!」

 

修道服を着込んだ女性は響を凍てつかせるように睨んでいた。

 

「・・・よせ、リリィ」

 

「はっ、申し訳ございません、マスター」

 

キャロルの一声で修道服の女性、リリィ・ハールートはすぐに響の頭を放し、キャロルに頭を下げる。

 

「めんどくさい奴ですねぇ~」

 

一連の会話を全て聞いていた青い服の少女は上の渡り廊下に座って、リリィが響から手を放したタイミングで口を開いた。

 

「お前たち、見ていたのか。リリィはともかく、性根が腐ったガリィらしい・・・」

 

青い服の少女、ガリィ・トゥーマーンはひょいっと渡り廊下から飛び降り、キャロルの乗っている瓦礫の上のそばに着地し、カラコロとバレエのように回転する。あの高さから飛び降りれば怪我は確実なのだが、少女は怪我を負っていない。彼女もまた、人間ではないのだ。そして、ガリィと共にいたリリィもまた、人間ではない。そしてそんな2人の主がキャロルのようだ。

 

「やめてくださいよぉ。そういう風にしたのはマスターじゃないですかぁ」

 

ガリィが心外そうな顔をしている。だがそう言われても無理もない。なぜならガリィは、仲間・・・ましてや主であるキャロルに言われるほどに、性根が腐った性格なのだから。

 

「・・・思い出の採集はどうなっている」

 

「順調ですよぉ。でもミカちゃん~、大喰いなので足りてませぇん!えぇ~ん!」

 

誰が見ても明らかなウソ泣きをするガリィ。ガリィの言葉の後に、リリィがキャロルに報告する。

 

「申し訳ございません。今しばらくお時間をいただければ、ミカ様のご満足いただける思い出の狩場が整えられます」

 

思い出とは人間が誰しも持つ記憶そのものである。ガリィたち、オートスコアラーは人間と口づけすることで、その人間の思い出を吸い取っていたようなのだ。

 

「ならば急げ。こちらも出直しだ」

 

「承りました」

 

「りょうか~い!ガリィ頑張りまぁ~す!」

 

ガリィは懐より何かの液体が入ったアンプルを取り出し、地面に投げつけた。アンプルが割れたことで、地面に波紋が広がり、錬成陣が浮かび上がり輝いた。

 

「さよならぁ~」

 

ガリィは場違いな笑顔を向けながら錬成陣の上に乗る。すると、ガリィはどこかにワープするかのように一瞬で消えた。

 

「・・・次は戦え。でないと、お前のなにもかもをぶち砕けないからな」

 

キャロルも同じアンプルを取り出し、地面に叩きつけ、同じ錬成陣を作り上げ、ガリィと同じように消えた。残ったリリィは響を見下ろして口を開く。

 

「今後マスターのお手を煩わせるようならば・・・心身共に、氷漬けにしますのでそのおつもりで。では、失礼します」

 

そう言ってリリィは深くお辞儀した後、飛び上がって大穴から脱出し、靴の裏に氷のローラーを作り上げ、ローラースケートとなった靴で着地する。そしてリリィは自分の任務を遂行するべく、ローラースケートのように滑りながらその場を去っていく。

 

「・・・託された・・・?私には、お父さんからもらったものなんて・・・なに・・・も・・・」

 

リリィから地面に叩きつけられた響は起き上がろうとするが、体に限界が来ており、力なく倒れた。

 

~♪~

 

響が倒れた姿はS.O.N.Gのモニターでも確認した。響の前に敵が去ったのを見たオペレーターたちは救護班たちに回収要請を送る。

 

「大至急響ちゃんの回収を!」

 

(・・・なんだ・・・?この拭えない違和感は・・・!)

 

そんな中弦十郎は正体がわからない違和感に顔をしかめている。

 

~♪~

 

ロンドンのチャリティロックフェスの会場にて、マリア、フォルテ、翼の3人はフラメンコの女性から遠く離れるために、会場の外に出て、待機してある車に向かっている。その途中で黒服の男がマリアたちを止める声を上げる。

 

「エージェントマリア!エージェントフォルテ!あなたたちの行動は保護プログラムにて制限されているはず!」

 

「今は有事よ」

 

黒服の言葉にマリアはそう一蹴する。

 

「車両を借り受ける」

 

「ええっ⁉」

 

フォルテは車の運転手にそう言って車に乗り込もうとするが、その瞬間に黒服がピストルを向けて警告をする。

 

「そんな勝手は許されない!!」

 

バンッ!バンッ!バンッ!

 

「「「ぐおっ!!?」」」

 

フォルテは懐からピストルを取り出し、黒服のピストルに向けて発砲した。さらに回収できないように落としたピストルを撃って黒服からピストルを遠ざける。

 

「有事だと言ったはずだ」

 

フォルテは弾切れになったピストルを捨て、車の運転席に乗り込む。黒服はそうはさせまいと武力行使で彼女に近づこうとする。すると・・・

 

バンッ!バンッ!バンッ!

 

黒服の背後より銃声が聞こえてきた。それと同時に、武力行使しようとした黒服は金縛りにあったかのように動けなくなった。

 

「なんだ!!?」

 

「体が、動かん!!?」

 

彼らの足元の影を見てみると、弾丸が打ち込まれているではないか。

 

【影縫い】

 

黒服の後ろには弦十郎からの指示を受けて、ここに駆けつけた翼のマネージャーである緒川であった。

 

「緒川さん!!?」

 

緒川は黙って頷いている。マリアたちのやることをわかっていて、援護をしてくれたようだ。翼とマリアは車の後ろ座席に乗り込む。

 

「緒川さん、助かります」

 

「悪いが翼は好きにさせてもらう!」

 

フォルテは緒川に感謝を述べ、エンジンを入れてアクセルを踏んで車を発車させ、会場を後にした。

 

「いったい何が・・・」

 

駆けつけたはいいものの、会場で何が起こったのかわからず、緒川はそう呟いた。

 

~♪~

 

同時刻、日和とクリスはエルフナインを連れて本部に向かって移動を開始している。そんな時、友里からの通信で響がやられたという知らせを受けた。

 

「響ちゃんがやられた!!?他の襲撃者にですか!!?」

 

『翼さんたちも撤退しつつ、体勢を立て直してるみたい何だけど・・・』

 

ロンドンにいる翼までもが撤退を強いられていると聞いて、日和とクリスはお互いに顔を見合わせる。

 

「錬金術ってのは、シンフォギアよりつえぇのか・・・⁉」

 

2人の脳裏に浮かび上がるのは、2人が戦っていったレイアとシャルの常人を遥かに上回った戦闘能力だ。だが今は2人を相手にするよりも、エルフナインの保護が最優先事項なのは日和もクリスも理解している。

 

「こっちにも252がいるんだ!ランデブーの指定を・・・!!」

 

2人は上空よりの攻撃の気配を感じ取った。日和は咄嗟に飛び、クリスはエルフナインを抱えて飛び退いた。それと同時に、2人がさっきまでいた場所に何かが飛んできて、地に着いた瞬間に爆発した。

 

「何・・・これ・・・?」

 

爆発の中心点には赤い粒子のような煙が発せられており、爆心地が赤く発光している。

 

~♪~

 

チャリティロックフェス会場を車で離れた翼たちはロンドンの街を走っている。フォルテが車を運転する中、翼の通信機から緒川の通信が届く。

 

『翼さん!いったい何が起きているんですか!!?』

 

「すみません。マリアに何か考えがあるようなので、そちらはお任せします」

 

翼は緒川との通信を切り、マリアに説明を求める。

 

「いい加減説明してもらいたいところだ」

 

「思い返してみなさい」

 

「?」

 

翼はマリアに言われた通り、フラメンコの女性との戦いを思い出す。そして、その前に彼女はこう言っていた。

 

『待ち焦がれていましたわ・・・』

 

あの女性の発言から見て、マリアは女性の狙いを断言する。

 

「奴の狙いは他でもない、翼自身とみて間違いない」

 

「いや、より正確に言うならば、狙いはシンフォギアを纏った僕たち自身と言っていいだろう」

 

フォルテは女性と戦う前に、彼女が言っていたことを思い出す。

 

『・・・歌わないのであれば、そうさせるまでのこと』

 

女性は翼を待つと同時に、フォルテがシンフォギアを纏う機会をずっと狙っていた。その点からして、女性の狙いはシンフォギアを纏ったフォルテと翼であると判断している。

 

「この状況で被害を抑えるには、翼とフォルテを人混みから引き離すのが最善手よ」

 

「ならばこそ、皆の協力を取り付けて・・・」

 

「それができればこっちも苦労はしない」

 

マリアの意見に翼は反論するが、フォルテが論破する。

 

「そうね。私もフォルテも、ままならない不自由を抱えている身だからね・・・」

 

マリアとフォルテは、独房で過ごし、国連の御偉方が面会にやって来た日のことを思い出す。

 

~♪~

 

時は遡り、場所は牢屋の中。フロンティア事変に一時肩を担いだフォルテたちは容疑者としてここに収容された。刑を免れ、後は釈放されるのを待っていた時、国連の御偉方がマリアとフォルテを指定に面会にやってきた。国連の御偉方と顔を交えた2人は渡された端末に書かれた内容を読んだ。そこでフォルテが声を上げる。

 

「ふざけないでいただきたい!マリアにこれ以上嘘を重ねろというのか!!?」

 

これまでマリアに計画のためとはいえ、噓をつくように強要しづ続けてきたフォルテ。そんな彼女はこれからの人生は、彼女の好きにさせてあげたいと考えていた。そんな時にまたマリアに嘘をつけという内容を突きつけられ、フォルテは異を唱えた。

 

「マリア君の高い知名度を生かし、事態をできるだけ穏便に収束させるための役割を演じてほしいと要請しているんだよ、フォルテ君」

 

「・・・聞かせてもらおうか。その役割とやらを」

 

フォルテは苛立ちを隠さずに、御偉方が口にする役割に耳を傾ける。

 

「歌姫マリアの正体は、我ら国連所属のエージェント。聖遺物を悪用するアナキストの野望を食い止めるために潜入捜査を行っていた。大衆にはこれくらいわかりやすい英雄譚こそ、都合がいい」

 

「・・・再び、偶像を演じなければならないのか・・・」

 

事態を穏便に済ませるための内容に、マリアは嫌悪感を抱いている。

 

「偶像・・・そうだ。アイドルだよ。正義の味方にしてアイドルが世界各地でチャリティライブを行えば、プロパガンダにもなる。フォルテ君には、その手助けをしてもらいたい」

 

「お断りさせていただく。そちらの都合に、マリアを巻き込まないでいただきたい」

 

国連の御偉方の要請にフォルテははっきりと断りを入れる。その言葉に国連の御偉方はため息をこぼし、席を立つ。

 

「はぁ・・・米国は真相隠蔽のため遠手動からのバックトレースを行い、個人のPCを含む全てのネットワーク上から関連データを廃棄させたらしいが・・・」

 

国連の御偉方がそう口にすると、マリアたちに渡された端末から別の資料の映像が映る。そこに映っていたのは、調と切歌、響たちが載っていた。

 

「彼女や君たちと行動を共にしていた未成年の共犯者たちにも将来がある」

 

「・・・!!」

 

「貴様・・・!!」

 

そう、実質的にこれは人質である。もう1度断るようならば、彼女たちに何が起こるかわからない。そのため人質を取った国連の御偉方にフォルテは怒りの目を向ける。

 

「例えギアを失っても、君はまだ誰かを守るために戦えるということだよ」

 

もっともらしいことを言い放つ国連の御偉方。

 

~♪~

 

そういう事情があり、結局、マリアとフォルテは響たちのために、国連側の要請に応じるしか手はなかった。そして今に至るというわけだ。

 

(それでも、そんなことが私の戦いであるものか・・・!)

 

表情を歪ませるマリアの横顔を翼が見つめる。翼がふと前を向くと、振り切ったはずのフラメンコの女性が剣を構えて待ち構えていた。

 

「フォルテ!!」

 

「・・・伏せていろ!このまま突っ込む!」

 

フォルテはアクセルを強く踏み、車を加速させて女性に突進させる。マリアと翼は言われた通りに伏せる。女性は向かってきた車を避ける素振りはせず、逆に迎え撃ち、剣を振りぬく。剣は車を真っ二つに切り裂く。マリアと翼は事前に伏せていたために直撃は免れ、フォルテはリクライニングレバーを引くことで直撃を避けた。直撃を免れた翼はギアネックレスを取り出し、詠唱を唄う。

 

Imyuteus amenohabakiri tron……

 

翼はシンフォギアを身に纏い、車が爆発する前にマリアを救出して脱出する。フォルテも車が爆発する前に飛び出して何とか脱出する。

 

「風鳴、今の僕では万が一でしかギアを纏えない。だから・・・」

 

「心得ている。フォルテはマリアを守ってくれ!」

 

翼はマリアをフォルテに託し、刀を大剣に変形し、女性に斬りかかる。女性は落ち着いた様子で翼が振るった大剣を剣で受け止める。

 

「剣は剣でも私の剣は剣殺し、『ソードブレイカー』」

 

剣殺しの名の通り、女性の振るう剣に翼の大剣は粉々に砕け散った。翼は大剣になる前の状態である刀を構え直し、バックステップで距離を取る。すると女性は赤い発光体が入った結晶を周囲にばら撒いた。その瞬間に結晶は割れ、そこから化学式の陣が出現し、そこから液晶ディスプレイのようなものが付いた生命体・・・特異災害と認定された人を殺すための自立兵器が現れた。その名も・・・ノイズ。

 

「ああ、そんな・・・ノイズ!!?」

 

目の前に現れたノイズの出現に、マリアもフォルテも驚きを隠せなかった。

 

「バカな!!?ソロモンの杖も、バビロニアの宝物庫も一兆度の熱量に蒸発したはずではなかったのか!!?」

 

そう、ノイズは完全聖遺物であるソロモン杖と、ノイズを保管していた空間、バビロニアの宝物庫と共に、暴走した自立型完全聖遺物、ネフィリムの爆発によって全て蒸発したのだ。それなのにもう現れることもない兵器が再び現れたのだ。驚くのも無理はない。2人が驚いている間にも、ノイズは翼に襲い掛かる。翼は向かってくるノイズを刀で次々と斬り倒していく。斬り倒されたノイズは赤い粒子となって消えていく。

 

(赤い粒子・・・?あんなもの・・・ノイズにはあったか・・・?)

 

本来ノイズは倒されれば炭となる。だが目の前のノイズは炭ではなく赤い粒子となっている。大きな違いにフォルテは多少の違和感を覚える。

 

「あなたの剣、大人しく殺されてもらえると助かります」

 

「そのような叶え出を、未だ私に求めているとは!」

 

翼は向かってくるノイズを次々と蹴散らし、刀を構え直す。

 

「防人の剣は可愛くないと、友が語って聞かせてくれた!」

 

翼は場違いながらそう言って笑みを浮かべる。以前そう発言したマリア本人は翼に言われ、赤面する。

 

「こ、こんなところで言うことか・・・⁉」

 

「風鳴、油断するな!」

 

フォルテは翼に注意するように言い放った。もちろん言われなくてもわかっている翼は刀でノイズを蹴散らし、そのまま逆立ちをして脚部のブレードを展開し、回転しながらノイズを切り裂いていく。

 

【逆羅刹】

 

翼は逆立ちから元の態勢に戻し、刀でノイズを倒していく。そこに武者のようなノイズが翼に向けてトゲのようなものを突きつけようとする。そのトゲには妙に白く発光している。翼はそのトゲを刀で貫こうとし、突き刺そうとする。刀とトゲが衝突した時、女性は不敵に笑った。

 

~♪~

 

同時刻、日和とクリスの目の前にノイズが出現していた。爆発した中心点から現れた様子である。

 

『クリスちゃん!!』

 

「わかってるって。こっちも旧友と鉢合わせ中だ」

 

目の前に現れたノイズにクリスはボウガンを、日和は棍を構えている。

 

「またノイズが現れたなら、やることは1つ、だよね!!」

 

日和とクリスはお互いに顔を見合わせ、首を縦に頷く。いつもの要領で、日和は接近戦で、クリスは遠距離攻撃でノイズを対処する。日和は棍を振るって打撃を与えていきながらノイズを蹴散らしていく。クリスもボウガンをガトリング砲に変形させ、ノイズに向けて乱射して、次々と撃墜していく。

 

「どんだけいようが今更ノイズ!!負けるかよ!!」

 

クリスがノイズを次々倒していくと、他のノイズはクリスに向けて発光器官を振るってきた。クリスはアームドギアでノイズの発光器官の攻撃を防いだ。そして・・・次の瞬間・・・

 

ギュイィィィン・・・

 

何と、クリスのアームドギアが分解を始めたではないか。

 

「なんだと・・・!!?」

 

「クリスのアームドギアが・・・!!?」

 

目の前の現象に日和とクリスは驚きを隠せないでいる。

 

そして、ロンドンにいる翼のアームドギアにも、同じ現象が起きている。ノイズの発光器官に触れた翼の刀は分解を始めていく。

 

「剣が・・・!!?」

 

翼が驚いている間にも、ノイズの発光器官は刀を分解し、彼女のギアの心臓部、コンバーターユニットを傷つけた。すると、コンバーターユニットにひびが入り・・・翼のシンフォギアが分解されていく。

 

「風鳴のシンフォギアが・・・分解されていく・・・!!?」

 

それは、同じくクリスも同じだった。ノイズの攻撃がコンバーターユニットが直撃し、クリスのシンフォギアが分解されていく。

 

「まさか・・・ノイズじゃ・・・ない・・・!!?」

 

今までのノイズはシンフォギアを分解することはなかった。それが目の前で起きて日和は目の前のノイズがノイズじゃないと勘づき、驚愕する。

 

「無知ってのは怖いねぇ。それで負けちまうんだからなぁ」

 

「ノイズだと、括った高がそうさせる・・・」

 

ノイズを放った本人であるレイアと、高みの見物をしているシャルはポーズを決めながら笑みを浮かべている。

 

「敗北で済まされるなんて、思わないことね」

 

翼のシンフォギアが分解されていく姿を見てフラメンコの女性も笑みを浮かべている。

 

~♪~

 

響を倒したキャロルはどこかに存在する拠点の玉座に座っている。

 

「アルカ・ノイズ・・・」

 

アルカ・ノイズ。それが、クリスたちの目の前に現れた、錬金術師が放つノイズの名前のようだ。

 

「何するものぞ!!シンフォギアアアアアアア!!!」

 

キャロルの叫びが部屋中に響き渡る。部屋の中央には6つの台座があり、そのうちの1つにツインロールの赤い髪の少女が曲芸師のようなポーズで止まっていた。




XD-エクスドライブアンリミテッド-

東雲日和ボイス

ハロウィン1
お化けの仮想くらい怖くないから私でも参加できる!というわけで・・・トリックオアトリート!お菓子くれないと・・・食べちゃうぞー!

ハロウィン2
1つ忠告ね。いたずらするにしても、海恋にはあまりやりすぎちゃダメだよ?じゃないと・・・あわわ・・・思い出すだけで怖い!!

フォルテ・トワイライトボイス

ハロウィン1
お菓子を渡さなければいたずらされる?ハロウィンとはずいぶんと殺伐とした行事なのだな。・・・ん?想像してるのとは違うだって?

ハロウィン2
セレナが僕にお菓子をせがんできたのだが・・・今日はハロウィンだったか。そんな事せずともいつでもお菓子をあげるのだが・・・ん?それでは意味がない?なぜだ?


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装者たちの黄昏

本日は未来ちゃんの誕生日です!というわけで、お昼に投稿しました。


フラメンコの女性が放った錬金術師のノイズ、アルカ・ノイズ。その中の武者型アルカ・ノイズの発光器官が翼のギアコンバーターユニットを傷つけた瞬間、翼のシンフォギアは徐々に分解されていった。だが翼はギアが完全に分解される前に、刀を取り出し、武者型ノイズを斬り裂く。それと同時に、翼のシンフォギアが完全に分解される。

 

「翼!!」

 

「風鳴!!」

 

マリアとフォルテは倒れてしまった翼に駆け寄る。アルカ・ノイズはまだ相当な数がいる。

 

「システムの破壊を確認。あなたもそろそろ歌を歌ってくれると助かります」

 

女性が不敵な笑みを浮かべながらフラメンコダンスのステップを踏む。それを見たフォルテはマリアと翼を守るように前に立ち、自分の上着を脱ぎ、一糸纏わぬ姿となって気を失った翼にその上着を羽織らせる。

 

「マリア、風鳴を頼む」

 

「フォルテ・・・」

 

「・・・いいだろう。お望み通り、ギアを纏ってやる」

 

そう言ってフォルテは自分の黒服のネクタイを緩め、首の包帯を外して自身のギアネックレスを取り出す。そして、詠唱を唄う。

 

Ragnarok Dear Mistilteinn tron……

 

詠唱を唄い終えると、フォルテの黒服は分解し、濃い灰色を基調とし、黒い配色が白く変化したシンフォギアを身に纏った。シンフォギアを身に纏ったフォルテは大剣を手に持ち、構える。アルカ・ノイズはフォルテに襲い掛かってくる。フォルテは大剣を構えつつ、アルカ・ノイズについている発光器官に目をつける。

 

(あれに触れた瞬間、風鳴のアームドギアは分解された・・・奴らに注意すべきは・・・あの発光器官!!)

 

アルカ・ノイズは発光器官を伸ばしてフォルテに攻撃を仕掛けた。フォルテは攻撃を高く飛んで回避する。着地と同時にアルカ・ノイズの群体に向かって大剣を振るい、アルカ・ノイズの群体を斬り裂いて消滅させる。武者型アルカ・ノイズがフォルテに向かって発光器官を突き刺そうとする。フォルテはその攻撃を身体を捻らせることでうまくかわし、大剣を双剣に変形して武者型アルカ・ノイズを斬り裂く。

 

バチチ・・・!

 

「ぐっ・・・!」

 

だがフォルテはシンフォギアの適合係数が低い。LiNKERを打たないままにシンフォギアを纏っているので、その反動でバックファイアを引き起こしている。

 

「フォルテ!」

 

「この程度・・・なんてことは・・・ない!」

 

フォルテは身体中に走る激痛に耐えつつも、高く飛び、双剣を大剣に戻し、さらにチェーンソーへと変形する。フォルテはチェーンソーの刃を回転させ、赤黒い斬撃波を連続で放った。

 

【Belphegor Of Sloth】

 

フォルテの放った赤黒い斬撃波はアルカ・ノイズではなく、高速道路に次々と直撃し、破壊する。破壊されたことと赤黒い斬撃波の衝撃でその場に土煙が発せられる。女性はステップを踏みつつ、剣を振るって暴風を引き起こし、土煙を払う。土煙が完全に晴れると、その場にマリア、翼、フォルテの姿はもうなかった。

 

「・・・最後まで歌ってくれないなんて・・・つまらない人・・・」

 

女性はフォルテが翼たちを連れて逃げたと理解し、つまらなさそうな表情をして、独り言のように誰かと話をする。

 

「・・・標的1人が逃亡しました。指示をください、マスター」

 

女性がそう言うと、キャロルの声が聞こえてくる。

 

『・・・まぁいいだろう。あのギアは次の計画の際に破壊するとしよう。ファラ、お前に帰投を命ずる』

 

「わかりました。ではその様に」

 

フラメンコの女性、ファラ・スユーフは液体の入ったアンプル、テレポートジェムを取り出し、地面に落とした。現れた転送の陣により、ファラは一瞬で姿を消した。召喚されたアルカ・ノイズは陣の中へと消えていく。一方フォルテは高速道路のすぐ真下の海の上でマリアと気を失った翼を抱えて、大剣をサーフボードのように扱って戦線を離脱していた。

 

「マリア、この態勢はきついだろうが、辛抱してくれ」

 

「それはいいのだけれど・・・あなたの負担が・・・」

 

フォルテはマリアを気遣っているが、マリアはそれよりもフォルテのバックファイアのダメージの方がよっぽど気にしている。

 

「僕のことより、自分と風鳴の心配をしていろ」

 

今もバックファイアのダメージを負っているフォルテだが、それよりもマリアと翼を優先している。そんな中、マリアはファラが言った言葉、敗北で済まされないの言葉が気にかかっている。

 

「ねぇ、フォルテ。あいつの言った、敗北で済まされないって・・・どういう意味かしら・・・?」

 

「わからない・・・情報量が少なすぎる・・・。だが今はとにかく、陸地に到着しなければな」

 

敵の目的などを含め、いろいろと考えるが、フォルテはひとまず先に陸地を目指して移動するのであった。

 

~♪~

 

同時刻、アルカ・ノイズの発光器官がギアコンバーターユニットに直撃したことにより、クリスのシンフォギアも分解されてしまった。

 

「クリス!!」

 

「クリスさん!!」

 

シンフォギアが完全に分解され、気を失って倒れるクリスにエルフナインが駆け寄る。驚いている日和にアルカ・ノイズが発光気管を振るってきた。日和は飛んで、間一髪で躱す。

 

「エルフナインちゃん!あれは一体どういうことなの!!?どうしてシンフォギアが・・・」

 

「世界の解剖のために作られたアルカ・ノイズは、兵器と使えば・・・」

 

「シンフォギアに備わる各種防御フィールドを突破することなど、容易い」

 

街灯の上にポーズを決めて立っていたレイアは降りてきた。シャルは未だに高みの見物をしている。

 

「次なる仕上げに次なるキャストを」

 

「まぁそういうわけなんで。ガールズには何の恨みもないが、ユーも大人しくやられてくれないかい?」

 

見物はしているものの、シャルはいつでも攻撃できるように拳銃を構えている。複数体のアルカ・ノイズに加え、2人の強大な敵・・・さらに保護対象のエルフナインと気を失ったクリスを守りながら戦わなければいけない状況下。絶対的な窮地に陥った時・・・

 

「させないデスよ!!」

 

「あん?」

 

上の方から突如として声が聞こえてきた。全員が上を見上げてみると、切歌が立っており、マントのように羽織っていた旗を脱ぎ捨てた。

 

Zeios Igalima Raizen tron……

 

切歌は詠唱を唄い、緑のシンフォギア、イガリマを身に纏った。切歌は鎌を構え、3つの刃を展開し、アルカ・ノイズに目掛けて放った。

 

【切・呪りeッTぉ】

 

放たれた3つの刃はアルカ・ノイズを次々と斬り裂いていく。しかし、LiNKERを投与していないため、バックファイアによる激痛が切歌を襲う。

 

「切ちゃん!!?なんでここに!!?」

 

日和が驚いている間にも自分の元にアルカ・ノイズが迫ってきた。日和は棍をヌンチャクに変形させ、炎を纏わせて、舞いながらアルカ・ノイズにヌンチャクを振るう。

 

【気炎万丈】

 

炎を纏ったヌンチャクの打撃、舞うように踊る炎に包まれ、アルカ・ノイズは次々消滅していく。切歌は自分も回転しながら鎌を振るってアルカ・ノイズの群れを殲滅する。

 

【災輪・TぃN渦ぁBェル】

 

切歌の回転する勢いはブースターで強まり、さらに多くのアルカ・ノイズを斬り倒していく。

 

「派手にやってくれる」

 

「仲間の危機にってかい?いいねぇ・・・なかなかクールじゃないの!」

 

ずっと見ているのも飽きたのか、それともこの光景に触発されたのかわからないが、シャルは拳銃を構え、切歌に向かって弾丸を発砲する。発砲音を聞き取った切歌は向かってきた弾丸をジャンプで躱す。それを見た日和は棍を構え、ブースターを起動させて、シャルに向かって弾丸のようなスピードで突進をする。

 

【電光石火】

 

日和の素早い突進は見事にシャルに直撃する。ただ・・・シャルならばその気になれば躱すこともできる。さらに言えばこの攻撃も効いていない。わざと攻撃を喰らった理由・・・それは日和に感づかれることなく、アルカ・ノイズの結晶をエルフナインとクリスの近くに放つためだ。シャルから放たれた結晶より、アルカ・ノイズが出現する。

 

「!しまった!!」

 

日和が気づいた時にはすでに遅し。召喚されたアルカ・ノイズはエルフナインたちに襲い掛かろうとしている。エルフナインはクリスを守ろうと前に出るが、背後にもアルカ・ノイズがいる。それに気づかなかったエルフナインは慌てて振り返る。すると、群れてきたアルカ・ノイズは突如降ってきた無数の丸鋸によって切り刻まれる。この丸鋸は、ピンク色のシンフォギア、シュルシャガナを身に纏う調が放ったものだ。助けに駆けつけた調はツインテール部位のアームを展開し、複数の丸鋸をアルカ・ノイズに向けて放つ。

 

【α式・百輪廻】

 

放たれた複数の丸鋸はアルカ・ノイズを切り刻んでいく。

 

「しぃちゃんまで・・・」

 

調も助けに入ってくれたおかげで助かったが、切歌と同じような無茶に日和は少し呆れている。

 

「女神・・・ザババ・・・」

 

助けが来たことにより、エルフナインは緊張の糸が切れ、気を失う。倒れかけたところに調が彼女を支え、彼女を抱えて撤退を開始する。

 

「派手な立ち回りは陽動・・・?」

 

「ちぃ・・・!」

 

撤退を開始した調をシャルが逃がさないと言わんばかりに拳銃を向けた。それを見逃さない日和はシャルに棍を振るって攻撃する。シャルはその攻撃を飛んで躱した。その間にも切歌は脱ぎ捨てた旗を回収して、気を失っているクリスの身体を包んで抱きかかえて撤退する。

 

「陽動もまた陽動・・・」

 

調は丸鋸を車輪のように展開して道路を疾走する。疾走する調の前にアルカ・ノイズが立ちふさがるが、調が展開する丸鋸に切り刻まれ、アルカ・ノイズは消滅する。しかし・・・

 

ビリ!ビリリ・・・!

 

「くっ・・・!」

 

調もまたLiNKERを投与していないため、バックファイアによる激痛が走り、展開していた丸鋸の車輪が解除される。

 

(やっぱり、私達の適合係数では、ギアをうまく扱えない・・・!)

 

「調!!」

 

「2人とも!私が足止めするから、2人はそのまま撤退を!」

 

「「了解(デス)・・・!」」

 

日和の言葉を聞いて調と切歌はそのまま撤退。守るべき対象が戦線から離れたのを確認した日和は左手首にもう1本の棍を取り出し、左右の棍棒を一直線に伸ばす。

 

【一点突破・二刀流】

 

一直線に伸びる2つの棍はアルカ・ノイズを何体も貫く。そして、日和はそのまま回転をし、全てのアルカ・ノイズに棍の打撃を与える。レイアとシャルは回転する棍に巻き込まれぬように飛んで躱した。全てのアルカ・ノイズを片付けた日和は棍を元の長さに戻して地に突き刺してその場を離れる。地に刺さった棍は日和が離れたと同時に、爆発する。大きな爆発で辺りには煙が立ち込める。この爆発は攻撃のためではなく、レイアとシャルの視界から逃れるための目くらましだ。

 

「・・・つれないねぇ・・・」

 

標的に逃げられ、シャルは肩をすくめる。レイアは独り言を呟くように、誰かと通信を行う。

 

「予定にない闖入者。指示をください」

 

その通信の相手は、やはりキャロルだった。

 

『追跡の必要はない。もう十分だ。レイア、シャル、お前たちも帰投しろ』

 

「了解」

 

「ふっ・・・マスターのオーダーなら、仕方ねぇな」

 

キャロルの命令を聞き、シャルはカウガール帽子より、テレポートジェムを取り出し、地面に放り投げる。アンプルは割れ、転送の陣が現れ、レイアとシャルは一瞬で姿を消した。

 

~♪~

 

調と切歌、日和が戦線より撤退した姿は、S.O.N.Gのオペレーターたちも確認している。

 

「調ちゃんと切歌ちゃん、日和ちゃん離脱。クリスちゃんや保護対象の無事も確認しています」

 

「装者との合流と、回収を急ぎます!」

 

オペレーターたちはパネルを操作して、装者たちの回収作業を行っている。

 

「・・・錬金術師キャロルと同じ顔を持つ少女・・・」

 

弦十郎は調が回収したエルフナインを静かに見据えている。S.O.N.Gが抱える疑問がさらに深くなっていくのだった。

 

~♪~

 

時刻は月が沈み、太陽が昇り始めた朝日。湾岸沿いの道を走る調と切歌の後に日和が走ってきている。シンフォギアのバックファイアの痛みが走り、調は立ち止まり、切歌と日和が駆け寄る。

 

「2人とも、大丈夫だった?LiNKERもないのに、無茶しちゃって・・・」

 

「LiNKERがなくたって、あんな奴に負けるもんかデス!」

 

切歌は怒りと悔しさを込めて八つ当たりをするかのように声を上げた。

 

「切ちゃん・・・」

 

そんな切歌を調がなだめようと声をかける。

 

「わかってるデス・・・」

 

「そうだよね・・・悔しいよね・・・私も同じだよ・・・」

 

切歌は申し訳なく思い、顔が項垂れる。切歌の悔しさをよく理解している日和は気を失っているクリスに目を向ける。日和自身も、大切な友がこんな目にあってしまって、悔しいからだ。

 

「・・・私たち、どこまで行けばいいのかな・・・」

 

「行けるとこまで・・・デス」

 

「でもそれじゃ、あの頃と変わらないよ?」

 

調と切歌が思い出すのは様々だ。F.I.Sの研究施設に連れてこられ、苦しい日々を送った自分自身、今は亡きナスターシャからフロンティア計画を知らされた時のこと、そしてフロンティア事変での戦いの出来事、その全てを思い返す。

 

「身寄りのない私たちが連れてこられた、壁も天井も、真っ白な世界」

 

「そこで出会ったシンフォギアは昨日までの嫌なこと、全部ぶっ飛ばしてくれる、特別な力だと思っていたデスよ」

 

「聖遺物が引き起こした災厄から人類を守るには、聖遺物の力で対抗するしかない・・・」

 

「そう考えるマムを、手伝いたいと思ったわけデスが・・・」

 

「状況に流されるままに、力を振るっても、何も変えられない現実だけを思い知らされた・・・」

 

調と切歌が抱える悩みは2人にしかわからない。それをよく理解している日和は口出しせずに、今は2人の話を聞いている。

 

「マムやマリア、フォルテのやりたいことじゃない。あたしたちが、あたしたちのやるべきことを見つけられなかったから、あんな風になってしまったデス」

 

「目的もなく、行ける所まで行った所に、望んだゴールがある保障なんてない・・・。がむしゃらなだけでは、ダメなんだ・・・」

 

調と切歌の話を聞いて、日和は心の中で思った。この2人は、昔の自分とよく似ていると。だからこそ日和は、2人に経験者として・・・先輩として・・・2人に自分と同じようにならないように話す。

 

「がむしゃらじゃダメ・・・確かにその通りだよ。それだけじゃ何も変えられない・・・私も、2年前に思い知らされたから、よくわかるよ」

 

「ひよりん先輩も・・・デスか・・・?」

 

「うん。あの日の出来事は・・・今も胸に刻まれてるよ・・・」

 

日和の脳裏に浮かび上がってくるのは、2年前の忌まわしき記憶・・・幼馴染の伊南小豆がノイズに殺され、同じく最愛の友の北御門玲奈の死だ。さらに浮かび上がるのはその後・・・小豆の両親から人殺しと蔑まれた日・・・母が蒸発して家を出ていった日・・・そして・・・父が何人もの医者を巻き込み、自殺してしまった日だ。

 

「しぃちゃんの言うとおり、望んだ結果にならないかもしれない。過去を変えることだってもうできない。だけど・・・未来なら変えられる。より良い未来にするためにも何をすればいいのか、もっとよく考えないといけなんだ」

 

「日和先輩・・・」

 

「私は2人に私みたいになってほしくない。考えて、考えて、考え抜いて・・・自分が何をすればいいのか・・・何が正しいのか・・・その答えを掴みとってほしいんだ。もちろん、私もその手助けはするからさ」

 

日和は自身の心境を話し終えたと同時に、気を失っていたクリスが目を覚ました。

 

「!クリス!」

 

「よかった・・・」

 

「大丈夫デスか⁉」

 

「大丈夫なものかよ!!」

 

クリスは怒りの声を上げた。クリスの怒りを察し、3人は顔を見合わせる。

 

(相棒に負担をかけさせて・・・守らなきゃいけない後輩に守られて・・・大丈夫なわけないだろ・・・!!)

 

クリスの心には、怒りと悔しさが渦巻いていた。

 

~♪~

 

シンフォギアを分解された翼は一糸纏わぬ姿となっていたが、フォルテの上着とマリアの衣装の一部を借りて応急的に隠している。地上に到達した後は、S.O.N.Gに報告している。翼の手元にあるギアネックレスの結晶は、ボロボロになっていた。

 

「完全敗北・・・いえ、状況はもっと悪いかもしれません。ギアの解除に伴って、身に着けていた衣服が元に戻っていないのは、コンバーターの損壊による機能不全であると見て間違いないでしょう」

 

「まさか、翼のシンフォギアは・・・」

 

「絶刀・天羽々斬が手折られたということだ・・・」

 

「それが・・・敗北では済まされないの意味・・・か・・・」

 

ファラの言っていた言葉の意味がここで理解し、フォルテは思案顔になる。翼のシンフォギアは確かに手折られた。しかし、翼の中の剣は、まだ折れたわけではないのは、顔を見ればわかる。しかし、状況が悪いのは変わらない。

 

~♪~

 

S.O.N.G内では翼の報告を聞いて、意気消沈している。

 

「クリスちゃんのイチイバルと、翼さんの天羽々斬が破損・・・」

 

「了子さんがいない中、一体どうすればいいんだ・・・」

 

シンフォギアを作り上げたデータ、櫻井理論はもちろん残っている。しかし、破損してしまったシンフォギアを直す技術者がいないというのが現状だ。つまり、現段階でシンフォギアを直す術はなく、戦力は響と日和だけということになる。

 

「響君の回収はどうなっている?」

 

弦十郎が響の回収について訪ねると、ちょうどいいタイミングで響の通信が入った。

 

『もう平気です。ごめんなさい・・・私がキャロルちゃんときちんと話ができていれば・・・』

 

「話を・・・だと・・・?」

 

響の言葉を聞いて、弦十郎は面を喰らった表情になった。

 

~♪~

 

一方その頃、ロンドンにいるマリアたちは黒い車が彼女たちの周りに配備し、黒服たちはマリアとフォルテに向けて拳銃を向ける。規定を越えた行動をとったマリアとフォルテを捕らえるためだ。

 

「状況報告は聞いている。だが、マリア・カデンツァヴナ・イヴ、フォルテ・トワイライト・・・君たちの行動制限は解除されていない」

 

黒服たちに拳銃を突きつけられても、マリアとフォルテは至って冷静だ。マリアとフォルテはお互いに顔を合わせる。2人は首を縦に頷き、マリアは翼の耳から通信機を外し、弦十郎と話す。

 

「風鳴司令。私とフォルテは、S.O.N.Gの転属を希望します」

 

「マリア・・・」

 

「ギアを持たない私ですが、この状況に、偶像のままではいられません」

 

そう言ったマリアは月を見上げた。




未来の誕生日

響「未来ー!誕生日おめでとー!」

未来「ありがとう、響」

日和「未来ちゃんおめでとー!お姉ちゃんに頼んでおいしいケーキを買ったから、みんなで食べよう!」

未来「日和さんもありがとうございます」

海恋「小日向さん、誕生日おめでとう。はい、私からの誕生日プレゼントよ」

未来「あ・・・ありがとうございます、海恋さん!」

海恋「えーっと・・・一応・・・かわいがってあげて・・・?」

未来「もちろんです!」

日和「ねぇねぇ海恋、未来ちゃんに何をプレゼントしたの?」

海恋「・・・立花さんのぬいぐるみ・・・」

日和「え?響ちゃんの?本人いるのに?」

海恋「私、一応裁縫でぬいぐるみを作れるって話をした時に・・・食い気味にね・・・。そしたらいつの間にか誕生日プレゼントってことになっちゃって・・・」

日和「えぇ・・・重い・・・愛がものすごく重いよ・・・」

フォルテ「愛の形は様々ということだ、東雲」

日和「フォルテさん!!?あれ!!?いない!!?」

海恋「何言ってるのよ?フォルテさんは今ロンドンにいるはずでしょ?」

日和「ええ!!?やだ!!怖い!!怖いよ!!」

響「未来ー、海恋さんから何もらったの?」

未来「うーん・・・秘密♡」


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雷鳴轟く

任務がない装者たちは普段通りの学生生活を送るのだが・・・昨夜の戦いの結果がちらついているのが一目でわかるほどに明らかだ。切歌と調はLiNKERを打たないままシンフォギアを纏ったので、大事を取って検査入院。調理実習を行っている響もどこか上の空の状態、そしてクリスも、昨夜の戦いを引きずっており、ボーッとしている。水泳の授業でもボーっとしているクリスを遠くから日和と海恋が見ていた。

 

「・・・今日はずっとボーッとしてるわね。昨日の出動で何かあったわけ?」

 

「んー・・・まぁ・・・ちょっと・・・ね」

 

日和も昨夜の戦いを気にしているため、海恋の問いかけにかなり歯切れの悪い回答をする。その回答に海恋はムッとした表情になる。

 

「ちょっと、真面目に答えなさいよ。あれでちょっとなわけないじゃない。月読さんや暁さんだって検査入院してるんでしょ?」

 

「うん。今クリスが悩んでるのはまさにそれ・・・」

 

「まぁ・・・確かにクリスは入学当初から2人をかわいがってたけど・・・」

 

「特にクリスって結構こだわりが強いっていうかさ・・・とにかく2人のことで相当堪えたものがあったわけなの」

 

「それであんたはそっとしてるってわけ?」

 

「うん」

 

日和自身も何とかクリスを元気づけてあげたいとは思ってるが、口で言っても余計に悩みを抱え込むのはわかっている。ゆえに日和は今は時間が必要だと考え、今はそっとすることにしたのだ。

 

「・・・ていうか、あんたも他人事じゃないからね」

 

「えぇ・・・私?」

 

まさか自分までも指摘してくるとは思わず、少し驚く日和。

 

「当たり前でしょ?あんた今まで何回私に隠し事してきたと思ってんの?」

 

「うっ・・・あはは・・・」

 

海恋に痛いところを突かれて苦笑いを浮かべる日和。

 

「はぁ・・・ただでさえあんたは1人で悩み事を抱えたりするんだから・・・」

 

「うぅ・・・ごめん・・・」

 

「まぁ私も深く追及したりしないけど・・・あんたはもうちょっと悩みを共有しあうってことを覚えなさいよ。じゃないと、いつか痛い目を見ることになるわよ」

 

「うん。心配してくれてありがとう。肝に銘じておくよ」

 

親友として常に気にかけてくれる海恋に日和は彼女に感謝を告げた。少し気分が晴れた日和は軽めの準備運動をして、プールに飛び込んだ。

 

「よいしょっと!」

 

バシャーーン!!

 

「ちょっと!プールには飛び込まない!!危ないでしょ!!」

 

勢いよくプールに飛び込んだ日和に海恋は注意する。

 

「海恋も早く入りなよー!自由時間のプールは気持ちいいよー!」

 

「私はいいわよ・・・泳げないし・・・」

 

「大丈夫だって!ほら!」

 

「きゃっ!!?」

 

バシャーーン!!

 

日和はプールに入るのを渋っている海恋の手を引いて、彼女をプールに入れた。無論この後日和は海恋にめちゃくちゃ怒られた。

 

~♪~

 

LiNKERを打たずにシンフォギアを纏ったフォルテのメディカルチェックも兼ねて、翼とマリア、フォルテは日本へ帰国するために専用のジェット機に乗っている。シンフォギアを破壊されただけでなく、襲撃者のファラが自分より強いという事実に、翼の表情はどこか暗く、険しい。そんな翼が思い出すのは、自身を海外進出にスカウトした男、トニー・グレイザーとの会話である。

 

『日本に戻ると?』

 

『世界を舞台に歌うことは、私の夢でした。ですが・・・』

 

『それが君の意思なら尊重したい。だが、いつかもう1度自分の夢を追いかけると、約束してもらえないだろうか?』

 

『それは・・・』

 

あの時、グレイザーの言葉に翼は返答を濁した。この先の戦い、どうなるかわからない。最悪の場合、命を落とすかもしれないからだ。その時のことを思い返している翼をマリアとフォルテが見つめている。そこに、ジェット機のアナウンスが鳴る。

 

『まもなく、着陸態勢に入ります。シートベルトの着用をお願いします』

 

ジェット機が空港に到着した。荷物を緒川とフォルテに預け、翼たちは暗い表情のまま、ジェット機を降りて空港の廊下を歩く。

 

「翼さーん!マリアさーん!フォルテさーん!」

 

そんな彼女たちを出迎えたのは、響たち装者一同であった。元気そうにぶんぶんと手を振る響を見て、翼の強張った表情も、自然と頬がほころんだ。

 

~♪~

 

装者が全員集まり、一同はS.O.N.Gの潜水艦に集まり、ミーティングが始まる。

 

「シンフォギア装者勢ぞろい・・・とは言い難いかもしれないな・・・」

 

モニターに破壊された翼とクリスのギアの破損状態の詳細が表示される。

 

「これは・・・?」

 

「新型ノイズに破壊された天羽々斬とイチイバルです。コアとなる聖遺物の欠片は無事なのですが・・・」

 

「エネルギーをプロテクターとして固着させる機能が、損なわれている状態です」

 

「セレナのギアと同じ・・・」

 

マリアは今は亡き妹・・・セレナ・カデンツァヴナ・イヴが持っていたシンフォギア、アガートラームの半壊したギアネックレスを取り出し、見つめる。

 

「もちろん直るんだよな?」

 

クリスはギアは直るかどうかについて訪ねるが、オペレーターたちはそれはできないと指摘する。

 

「櫻井理論が世界に開示されたことで、各国の異端技術研究所は飛躍に進行しているわ」

 

「それでも・・・了子さんでなければ、シンフォギアシステムの修復は望めない・・・」

 

いかに櫻井理論が世界に開示され、異端技術の研究が進歩したとしても、ギアを修復できる研究者がいないのであれば、話にならない。

 

「現状動ける装者は、日和君と響君だけ・・・」

 

「私と日和さんだけ・・・」

 

確かに何の負担もなく活動できる装者は現時点では日和と響だけだ。しかし、そこに切歌と調が反論する。

 

「そんなことないデスよ!」

 

「私たちだって・・・」

 

「ダメだ!」

 

調と切歌の反論に弦十郎が叱咤する。

 

「どうしてデスか!!?」

 

「LiNKERで適合値の不足値を補わないシンフォギアの運用が、どれほど体の負荷になっているのか・・・」

 

「君たちに合わせて調整したLiNKERがない以上、無理を強いることはできないよ・・・」

 

事実、LiNKERを纏わずに戦った調と切歌の状態、さらに戦闘データを見てみれば、どれだけ負担がかかってるかなど、一目見ればわかる。

 

「どこまでも私たちは、役に立たないお子様なのね・・・」

 

「メディカルチェックの結果が思った以上によくないのは知っているデスよ・・・それでも・・・!」

 

悔しさを募らせる切歌と調にフォルテが口を開いた。

 

「月読、暁、今は耐え忍ぶ時だ」

 

「フォルテは悔しくないんデスか⁉」

 

「わがままを言ったところでどうしようもない。それに、戦えないのは風鳴と雪音も同じだ。しかし、落ち着いている」

 

フォルテの言うとおり、翼とクリスも戦えない悔しさはあるだろうが、焦った様子はない。

 

「こんなことで仲間を失うのは、二度とごめんだからな」

 

「その気持ちだけで十分だ」

 

翼とクリスも、2人に向けてフォローを入れた。現時点で戦えるのは日和と響のみ・・・悪い状況は未だ続いている。

 

~♪~

 

キャロルの居城の玉座。この部屋の中央の台座にファラとレイア、シャルが鎮座している。リリィはまだ戻ってきていない。唯一台座から離れているガリィはまだ起動していないオートスコアラー、ミカ・ジャウカーンの起動を試みる。

 

「いきまぁ~す」

 

ガリィはミカに口づけをし、オートスコアラーのエネルギー源である思い出を譲渡している。思い出はオートスコアラーを起動する際に必要不可欠なエネルギー。しかしミカには自ら思い出を摂取することができない。ゆえに思い出を分配できるというガリィの特性を生かし、ミカに思い出を蓄えているのだ。動くのに十分な思い出を蓄えたミカは動き出した。起動に成功したのだ。

 

「・・・あうぅ~・・・」

 

しかしミカはブリキ人形のようにぎこちない動きで、その場にへたり込んでしまう。

 

「最大戦力となるミカを動かすだけの思い出を集めるのは、存外時間がかかったようだな」

 

「嫌ですよぉ〜これでも頑張ったんですよぉ?リリィちゃんのおかげでスムーズに進んだとはいえ~、なるべく目立たずに〜事を進めるのは大変だったんですからぁ~」

 

隠密行動が得意なリリィの情報を頼りに人目につかない夜道でならず者の思い出を確実に摂取したようだが、ミカを十分に動かすほどの思い出はなかったようだ。

 

「まぁ問題なかろう。これで、オートスコアラーは全機起動。計画を次の階梯に進めることができる・・・」

 

「ふぁぁぁ・・・ぁぁぁぁ・・・」

 

思い出が不十分で腕を満足に上げることができないミカは気の抜けた声を上げている。

 

「どうした、ミカ」

 

「お腹が空いて動けないゾ・・・」

 

ミカの言葉と同時に、空席だった玉座にテレポートジェムを通して、リリィが帰還してきた。帰還したリリィはすぐにキャロルに報告する。

 

「ただいま戻りました、マスター。ご報告いたします。エルフナイン様が彼らに保護された模様です」

 

「把握している」

 

「はっ。失礼いたしました。もう1つは、思い出の狩場に最適な場所を見つけました。ミカ様の足りない思い出の補充ができる絶好の場でございます」

 

「ご苦労だった」

 

「ああ・・・そのようなもったいなきお言葉・・・。感謝いたします、我が創造主・・・」

 

キャロルから労いの言葉をもらったリリィは彼女に祈りを捧げるようなポーズを取り、感謝を述べている。キャロルはすぐにガリィに視線を向ける。

 

「ガリィ」

 

「はいはい、ガリィのお仕事ですよね~」

 

ガリィはキャロルの与える任務を言う前からよく理解している様子だ。

 

「ついでにもう一仕事、こなしてくるといい。シャル、お前も行け」

 

「ふっ・・・オーケーだ、マスター。今度は逃がさねぇ」

 

キャロルの指示を受けて、シャルも出撃するようだ。シャルの目の奥には、激しい稲光が宿っているように見える。

 

~♪~

 

S.O.N.Gの潜水艦の一室、弦十郎と装者たちは保護したエルフナインからキャロルに関する情報を聞いている。

 

「ボクはキャロルに命じられるまま巨大装置の一部の建造に携わっていました。ある時、アクセスしたデータベースよりこの装置が世界をバラバラに解剖するものだと知ってしまい、目論見を阻止するために逃げ出してきたのです」

 

「世界をバラバラにたぁ、穏やかじゃないな」

 

「それを可能としているのが錬金術です。ノイズのレシピを元に作られたアルカ・ノイズを見ればわかるように、シンフォギアを始めとする万物を分解する力は既にあり、その力を世界規模に拡大するのが建造途中の巨大装置・・・チフォージュ・シャトーになります」

 

エルフナインの言う巨大装置・・・チフォージュ・シャトー。おそらくそれがキャロルの居城となるものの名であり、世界を分解するための要となるのだろう。

 

「ふむ・・・装置の建造に携わっていた、ということは・・・君もまた、錬金術師なのか?」

 

フォルテの問いかけにエルフナインは答える。

 

「はい。ですが、キャロルのように全ての知識や能力を統括しているのではなく、限定した目的のために造られたにすぎません・・・」

 

「造られた・・・?」

 

「装置の建造に必要な、最低限の錬金知識をインストールされただけなのです」

 

エルフナインは次々と説明していくが、知識をインストールなどと人間ではありえないことばかり出てくる。

 

「インストールと言ったわね?」

 

「必要な情報を、知識として脳に転送・複写することです。残念ながら、ボクにインストールされた知識に計画の詳細はありません・・・。ですが・・・世界解剖の装置、チフォージュ・シャトーが完成間近だということはわかります!お願いです!力を貸して下さい!そのためにボクは、ドヴェルグ=ダインの遺産を持ってここまで来たのです!」

 

「ドヴェルグ=ダインの遺産・・・?」

 

エルフナインはキャロルの野望を阻止してほしいと頼み込みながら、持ってきた箱の蓋を開けて、中に入っていたものを取り出す。

 

「アルカ・ノイズに・・・錬金術師キャロルの力に対抗しうる聖遺物。魔剣・ダインスレイフの欠片です」

 

エルフナインが取り出したものは、聖遺物、魔剣・ダインスレイフの刃の欠片であった。欠片にはルーン文字が刻まれている。

 

~♪~

 

聴取の後、装者たちはブリッジに戻り、友里と藤尭からエルフナインの検査結果の報告を聞く。モニターにはエルフナインの検査結果が出ているのだが、その結果は人間では本来ではありえないものだ。

 

「エルフナインちゃんの検査結果です」

 

「念のために彼女の・・・えぇ・・・彼女のメディカルチェックを行ったところ・・・」

 

「身体面や健康に異常はなく、またインプラントや高催眠といった怪しいところは見られなかったのですが・・・」

 

どことなく藤尭と友里の口調は歯切れが悪かった。その原因は、エルフナインのありえない検査結果が物語っている。

 

「ですが?」

 

「彼女・・・エルフナインちゃんには性別がなく、本人曰く、自分はただのホムンクルスであり、決して怪しくはないと・・・」

 

「「「「「「「「怪しすぎる(な)(デース)・・・」」」」」」」」

 

怪しくないと言われても、エルフナインの情報は怪しすぎるため、装者たちは思わずそう呟いた。

 

~♪~

 

エルフナインの検査結果を聞き終えた後、日和たちは翼たち3人が見たというアルカ・ノイズの詳細な姿を翼の絵で確認するのだが・・・

 

「こいつが・・・ロンドンで天羽々斬を壊したアルカ・ノイズ?」

 

「ああ。我ながらうまく描けたと思う」

 

翼の描いた絵とは子供が描くような侍で、現物でフォルテたちが見たアルカ・ノイズの姿とはかなりかけ離れすぎている。当の翼は自信満々だ。

 

「ぷっ・・・ぷふふ・・・wこれは・・・くくく・・・w」

 

「アバンギャルドがすぎるだろ!!?現代美術の方面でも世界進出するつもりかぁ!!?」

 

翼の絵を見て日和は笑いを堪えるのに必死でお腹を抱えており、クリスは呆れながらツッコミを入れている。話が脱線しているところを、フォルテとマリアが正す。

 

「姿、形など、この際重要ではない」

 

「問題は、アルカ・ノイズを使役する錬金術師と戦えるシンフォギア装者は、たった2人だという事実よ」

 

「ふぅ・・・確かに、深刻な問題ですね・・・」

 

話が元に戻ったところでようやく日和は笑いが止まり、真剣みな表情になる。すると、響が暗い表情をして口を開いた。

 

「戦わずにわかりあうことは・・・できないのでしょうか・・・」

 

「不可能だ。それは君自身もわかるはずだが?」

 

響の問いかけにフォルテは表情を変えずに一刀両断するように答える。さらにマリアも口を開く。

 

「逃げているの?」

 

「逃げているつもりじゃありません!だけど・・・適合して、ガングニールを自分の力だと実感して以来、この人助けの力で誰かを傷つけることが・・・すごく嫌なんです・・・」

 

「響ちゃん・・・」

 

響の思いを聞き、日和は少し悲しい表情になる。

 

「・・・それが逃げているというのだ」

 

「そしてそれは・・・力を持つ者の傲慢だ!」

 

響の主張に、フォルテとマリアは一刀両断する。2人の主張に響は2人から逸らすように、顔を俯かせることしかできなかった。

 

~♪~

 

翌日の放課後、全ての授業を終え、日和と海恋は帰路を歩いている。その最中に日和はスマホに撮った翼が描いた絵を海恋に見せた。

 

「ぷっ・・・ふふ・・・ちょっと・・・それは・・・あまりにも・・・w」

 

「ぷっ・・・くく・・・でしょ・・・wあ、やばい・・・我慢でき・・・あはははは!!」

 

翼の絵には海恋も失礼と思いながらも笑ってしまい、日和もまた我慢できずに笑い出してしまう。

 

「ちょっと・・・w翼さんに・・・失礼でしょ・・・ふふ・・・w」

 

「あははは!!だって・・・だってさ・・・はは・・・こんなの笑うでしょあはははは!!」

 

翼の絵1つで日和は大爆笑だ。ちなみに翼はこのことを感じ取ったのか本部内でくしゃみしたのだとか。これ以上笑ってもキリがないため、海恋は話題を変える。

 

「そ・・・そういえば・・・ふぅ・・・小豆の墓参り、日付はいつにする?」

 

「はぁ・・・はぁ・・・ひぃ・・・小豆の墓参り?う~ん・・・」

 

一通り笑い終えた日和は海恋の問いかけに若干困ったような顔になる。その理由は小豆の家族が原因だ。

 

「近いうちにはしたいとは思ってるんだけど・・・」

 

「わかってる。小豆の家族でしょ?あの日以降、あの人たちはあなたを恨んでるものね・・・」

 

2年前、小豆が死んだという知らせを受けた彼女の家族は皆、日和を憎むようになったため、日和はなるべく会わないようにずっと過ごしてきたのだ。

 

「このままじゃダメだっていうのも・・・わかってるんだけど・・・やっぱり・・・怖いよ・・・」

 

小豆の両親から受けた罵倒は、今も心の奥深くに刻まれており、日和はそれを思い出し、恐怖で体が震えている。震えている日和に海恋は彼女の両肩を持つ。

 

「日和。会いたくないなら会わなくたっていいわ。でも、ちゃんと向き合いたい気持ちがあるなら・・・焦る必要はないわ。ゆっくりでいい。時間はいくらでもある。少しずつあの人たちと向き合えるように、頑張っていきましょう。私もついてるから・・・ね?」

 

「海恋・・・ありがとう」

 

海恋の心遣いによって日和の震えは止まった。日和は彼女の気遣いに感謝しつつ、笑顔を向ける。その光景を建物の上に立っているシャルが見ていた。

 

「まずは・・・ガールのお手並み拝見と行こうかな」

 

シャルはアルカ・ノイズの結晶を拳銃に装填する。そして彼女は日和たちの周りに、アルカ・ノイズの結晶の弾丸を撃ち放った。アルカ・ノイズの結晶の弾丸は日和たちの周りに直撃し、その衝撃で結晶が割れる。それによってアルカ・ノイズが日和たちの前に出現する。

 

「の・・・ノイズ!!?」

 

「っ!海恋は下がってて!海恋は私が守る!!」

 

アルカ・ノイズの出現に海恋は驚愕し、日和は海恋に下がるように言ってギアネックレスを取り出す。

 

clear skies nyoikinkobou tron……

 

日和は詠唱を唄い、シンフォギアを身に纏った。そして、右手首のユニットより棍を取り出し、構えながらアルカ・ノイズの発光器官を確認する。

 

(あの発光してるのが、解剖器官・・・なら!あれに当たらないようにして戦わなくちゃ!)

 

アルカ・ノイズは日和のギアコンバーターを狙って攻撃を仕掛けるが、日和はこれを躱す。そして日和は棍の両端を伸ばして前後にいるアルカ・ノイズに打撃を与えて倒す。そして日和は棍を棒高跳びのように利用して、前方のアルカ・ノイズの背後に回る。日和は左手首のユニットから棍をもう1つ取りだし、2つの棍を連結させる。そして日和は連結した棍を回して、竜巻を創り出してアルカ・ノイズに放つ。

 

【疾風怒濤】

 

竜巻に包まれたアルカ・ノイズは次々と消滅し、全滅する。日和が地に着地した瞬間、足元に弾丸が直撃する音が聞こえた。それを聞いた日和は上を見上げる。

 

「ヒーハーーー!!!!」

 

日和が上を見上げた瞬間、シャルは建物から飛び降り、日和に向けて弾丸を撃ち放つ。日和はその弾丸を飛んで躱した。

 

「あなたは・・・あの時の・・・!」

 

「そして、ガールズの戦うべき相手だぜ」

 

シャルは地に着地し、首をブリキ人形のように音を鳴らしながら日和に顔を向ける。そして日和に向けて弾丸を二発撃ち放った。後ろには海恋がいるため、避けるわけにはいかない。ゆえに日和は弾丸を棍で弾いた。その瞬間、シャルはにっと笑う。

 

「弾丸にヒットしたな?」

 

意味ありげな言葉を放つシャル。そして、次の瞬間・・・

 

ビビビ・・・バリバリバリバリ!!!

 

あああああああああああああ!!!!!

 

「日和!!!!」

 

日和の持つ棍が突如として凄まじい電気が走り出し、それを通して日和は電気に包まれ、大きなダメージを負う。

 

「あたいの銃・・・レールガンの弾は電気でできてる。こいつの弾丸にヒットした物体は、木だろうが何だろうが、落雷のように感電する。そこに物質的な防御手段はないってわけさ」

 

電気のダメージを負った日和は倒れる。日和は身体中に痛みが走りながらも立ち上がろうとする。

 

「先日は逃がしちまったが・・・今度は逃がさないぜ、ガール」

 

シャルは日和に右手の拳銃・・・レールガンを向けた。レールガンの銃口には、凄まじい電気が走っている。

 

~♪~

 

同時刻、下校途中であった響たちの方でも、危機に直面していた。響たちが下校している時、思い出を吸われ生気を失った人の死体が何人も転がっていたのを見つけた。そんな響たちの前に現れたのはガリィだった。

 

「聖杯に思い出は満たされて・・・生贄の少女が現れる」

 

「キャロルちゃんの仲間・・・だよね・・・?」

 

「そしてあなたの戦うべき敵」

 

ガリィはブリキ人形のように音を鳴らし、首を響たちに向けた。戦うつもりのガリィの言葉に響は否定する。

 

「違うよ!私は人助けがしたいんだ!だから・・・戦いたくなんかない!」

 

「・・・ちっ」

 

響の言葉を聞いたガリィは舌打ちをし、カラコロとかわいらしい音を鳴らしながら、アルカ・ノイズの結晶をばらまいた。地面との衝突で結晶は割れ、錬金陣よりアルカ・ノイズが出現する。

 

「あなたみたいなめんどくさいのを戦わせる方法はよぉく知ってるの」

 

ガリィはいやらしい笑みを浮かべている。

 

「こいつ、性格悪っ!」

 

「あたしらの状況もよくないって!」

 

「このままじゃ・・・!」

 

「頭の中のお花畑を踏みにじってあげる」

 

ガリィは指を鳴らして、アルカ・ノイズに指示を出した。指示を受け取ったアルカ・ノイズは響たちに向かって進行を始めた。響はアルカ・ノイズを撃退するためにギアレックレスを取り出し、シンフォギアを纏おうとする。だが・・・

 

「・・・っ!!?・・・!」

 

「響?」

 

「ごほ!ごほ!」

 

どういうわけか響は詠唱を唄おうとしても唄えず、数回咳き込んでしまう。

 

「・・・歌えない・・・」

 

「・・・いい加減観念しなよ・・・」

 

響がシンフォギアを纏おうとしない姿を見て、ガリィは苛立ちを隠せない。いや・・・纏おうとしないのではない・・・纏えないのだ。

 

「聖詠が・・・胸に浮かばない・・・」

 

そう、詠唱である聖詠が響の胸に浮かばず、唄うことができないのだ。

 

「ガングニールが・・・応えてくれないんだ・・・!」

 

響がガングニールを纏うことができない・・・まさに現在進行形で最悪な状況に陥ってしまった。




フォルテ・トワイライト(GX編)

外見:赤いストレートロングへア
   瞳は緑と紫色のオッドアイ

【挿絵表示】

↑Picrewより『妙子式2』

年齢:24歳

誕生日:6月28日

シンフォギア:怨樹・ミスティルテイン

趣味:食べ歩き

好きなもの:ジャパニーズフード

スリーサイズ:B:77、W53、H85

イメージCV:BanG Dream!:美竹蘭
(その他の作品:やはり俺の青春ラブコメはまちがっている。:一色いろは
        五等分の花嫁:中野四葉
        原神:八重神子
        その他多数)

本作品のもう1人の主人公。F.I.Sに所属していたレセプターチルドレンであり、シンフォギア、ミスティルテインの適合者。現在では引き続き、マリアのマネージャーを務めつつ、米国政府のエージェントとして活動していたが、S.O.N.Gに転属した。義眼は元は金色であったが、セレナの願いを知った後では紫色に変わっている。
相も変わらず無表情だが、以前と比べれば感情を表に出し、表情も柔らかくなった。マリアたち曰く、昔のフォルテに戻ったとのこと。ただド天然なところは相変わらずだ。
今までは目的のために人を殺めてきたが、現在ではマリアを含めた大切なものを守りたいと願うようになり、彼女にあった冷酷さは鳴りを潜めた。それと同時に、今まで殺めてきた人間に償いがしたいという思いが芽生え、どうすれば亡くなった者に償いができるのかと、日々頭を悩ませている。

GX編楽曲

『贖罪のFlame』

己の罪と向き合い、償いのために罪という名の燃え盛る炎を突き進もうとする女の決心が込もった楽曲


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ガングニール、再び

後書きにオートスコアラーのイメージを載せます。こちらはPicrewの『妙子式2』のキャラメーカーを使用しております。服のイメージとカラーリング、そして帽子などの足りないものはイメージでお願いします。当然自作ではないのであしからず。


S.O.N.Gの潜水艦の食堂にて、マリアは遅めの昼食をとっている。そんな中マリアは、今は亡きナスターシャからセレナのアガートラームを受け取った日を思い返している。

 

『これは・・・セレナのアガートラーム・・・』

 

『破損したシンフォギアを作戦行動に組み込むことはありません。持っていなさい』

 

あの日、ナスターシャからアガートラームを託され、目を見開いたことはよく覚えている。

 

『これから、偽りを背負って戦わなければいけないあなたに・・・小さなお守りです』

 

『・・・ありがとう、マム・・・。大丈夫よ・・・。私・・・セレナのように強く輝けるかな・・・?』

 

強く輝けるか・・・その答えは、未だ見つかっていない。戦うべきギアを持たない今のマリアは、強さとは何かを考え込んでいる。

 

「・・・強く・・・」

 

ヴゥー!ヴゥー!

 

マリアが考え事をしていると、艦内からアルカ・ノイズ出現のブザーが鳴り響く。

 

「アルカ・ノイズ・・・!」

 

アルカ・ノイズのブザーを聞いたマリアはすぐに立ち上がり、食堂を出ていった。

 

~♪~

 

ブリッジの方では、アルカ・ノイズの反応を検知し、出現座標を絞り込む。

 

「アルカ・ノイズの出現を検知!座標絞り込みます!」

 

「エルフナインちゃんからの情報で、捕捉精度が格段に上がっている・・・!」

 

友里の言うとおり、エルフナインが提供してくれたアルカ・ノイズの情報のおかげで、捕捉精度が上がり、座標を絞り込むのにそう時間はかからなかった。モニターにはアルカ・ノイズに囲まれている響たちと、オートスコアラー、シャルと戦っている日和が映っていた。

 

「急ぎ装者たちに対応を・・・っ」

 

「調ちゃんと切歌ちゃんのコンディションで戦闘行為は無謀です!フォルテさんのメディカルチェックの結果だってまだ出ていません!使用可能なギアがない以上、翼さん、クリスちゃん、マリアさんだって出せません!」

 

現状でまともにギアを纏うことができるのは日和と響の2人だけ。戦力が圧倒的に不足している状況に、弦十郎は歯噛みをしている。

 

「まともにギアを纏えるのは、日和君と響君のみ・・・!」

 

S.O.N.Gのメンバーが見守っている中、日和のモニターでは、シャルの弾丸を弾いた日和が雷に打たれ、倒れる姿があった。

 

~♪~

 

シャルの弾丸の雷を受けて倒れる日和は痛みを堪えつつも、立ち上がろうとする。そんな日和にシャルはレールガンを突きつける。

 

「悪いな。大人しくやられてくれや」

 

シャルが引き金を引こうとした時、日和は左手首のユニットより棍を射出させ、シャルの腕を無理やり上げさせた。これによって弾丸は宙を飛ぶ。

 

「悪あがきしない方が、身のためだぜ」

 

シャルはもう一丁のレールガンを取り出し、日和に向けて弾丸を発砲する。日和はすぐに転がって弾を躱し、飛び上がって立ち上がる。

 

「あたいの弾丸はこういう使い方もできるんだぜ」

 

ビリビリビリビリ!!

 

地に直撃した弾丸は電気が走りだし、電気は地面を這いずるように日和に向かって進行している。日和は電気に当たらないように飛んで躱す。シャルはそれを見てすぐに日和に弾丸を連射する。日和は近くの建物に棍を伸ばし、そしてすぐに引き寄せられるようにしながら棍を元の形に戻して弾丸を躱した。

 

「日和!!」

 

(海恋が近くにいたら巻き込まれる・・・!あいつを海恋から離れさせなくちゃ・・・!幸いあいつの狙いは私だけ・・・なら・・・!)

 

日和はシャルを海恋に目を着けられないようにするため、棍をシャルに伸ばして、注目をこちらに向けさせる。伸びてきた棍をシャルはバク宙で躱した。

 

「こっちだノロマ!来れるもんなら来てみろ!」

 

日和はわかりやすい挑発を言いながらその場を離れていく。

 

「はっ、鬼ごっこでもするつもりかい?オーケー、捕まえてやるよ!」

 

元よりキャロルに命じられた任務以外に眼中にないシャルは日和を追いかけながら、彼女にレールガンを連射する。日和は何とか弾丸を躱しながらさらに先へと進んでいく。

 

「・・・いったい何なの・・・?この胸騒ぎは・・・?」

 

日和がシャルを引き付けている姿を見て、妙な胸騒ぎを感じた。日和が遠くになっていくにつれ、だんだんと嫌な予感が込み上げてきて海恋は思わず走って日和を追いかけていった。

 

~♪~

 

一方その頃、ガリィが放ったアルカ・ノイズに囲まれた響たちは危機的状況に陥っている。響が聖詠の詠唱を唄うことができない。それによって響はシンフォギアを纏うことができない。すなわち、今この場で戦える術は何1つないということだ。

 

「なんで・・・聖詠が浮かばないんだ・・・」

 

響は聖詠が浮かび上がらないことに動揺し、大きく戸惑っている。

 

(ギアを纏えないこいつと戦ったところで意味ない・・・シャルはもう1人の奴と遊んでるし・・・ここは試しに、仲良しこよしを粉と引いてみるべきか・・・?)

 

ガリィは未来たちの方に視線を向け、あくどい笑みを浮かべている。破壊対象は響のガングニール・・・ならば響が無理にでもシンフォギアを纏わせるように仕向けようと考えたのだ。ガリィがアルカ・ノイズに指示を出そうとした時・・・

 

「あぁ、まどろっこしいなぁ・・・」

 

突然詩織が口を開いた。しかしその口調は普段の彼女とかけ離れて粗暴だ。それには全員が驚き、詩織に視線を向けた。

 

「あんたと立花たちがどんな関係か知らんけど、だらだらやんのならあたしら巻き込まないでくれる?」

 

「お前、こいつの仲間じゃないのか?」

 

「冗談!たまたま帰り道が同じなだけ・・・ほら、道を開けなよ」

 

「・・・っ」

 

ガリィは苛立った様子でアルカ・ノイズに指示を出して後退させた。そして、その瞬間詩織が皆に視線で合図を送り・・・

 

「行くよ!」

 

彼女の合図を理解した創世は未来の手を掴み、弓美と詩織と共にアルカ・ノイズの間を通って走り出した。響も3人の後ろを追いかける。

 

「あんたって、変なところで度胸あるわよね!」

 

「去年の学祭もテンション違ったし!」

 

それは去年の学祭のカラオケ大会で電光刑事バンのオープニングを歌った時のことであるのは間違いない。確かにあの時詩織は結構ノリノリであった。この状況を掴めてない未来が3人に問いかける。

 

「さっきのはお芝居!!?」

 

「たまにはあたしたちがビッキーを助けたっていいじゃない!」

 

「我ながら、ナイスな作戦でした!」

 

そう、先ほどの詩織の豹変ぶりはガリィを騙すための芝居だったのだ。そのおかげで逃げることができたのだが・・・

 

「・・・のぼせた希望をここでバッサリ摘み取るならねぇ・・・」

 

ガリィはあれが芝居であるというのはとっくに見抜いており、あえて見逃していたのだ。そして、ある程度離れたところでアルカ・ノイズに襲わせる。上げてから落とす・・・まさに性根が腐っている彼女らしいあくどい作戦だ。アルカ・ノイズは発光気管を伸ばし、街灯やベンチ、レンガの道を赤い粒子へと分解していく。ガリィは錬金術で足元を凍らせてスケートのように滑ってアルカ・ノイズの後を追いかける。

 

「上げて落とせば、いい加減戦うムードにでもなるんじゃないかしらぁ?」

 

「アニメじゃないんだからぁ!」

 

アルカ・ノイズの1体は響の足元を狙って発光気管を伸ばしてきた。アルカ・ノイズの発光気管が響の靴に当たろうとした時・・・

 

ズンッ!

 

アルカ・ノイズは棍に貫かれ、赤い粒子となって消滅した。それによって発光気管も消滅する。上を見上げてみると、日和がもう1本の棍をアルカ・ノイズの群れに向けて投擲する姿があった。投擲した棍は分裂し、複数体のアルカ・ノイズに直撃する時、爆発を引き起こした。

 

【才気煥発】

 

アルカ・ノイズは爆発に飲まれて消滅した。

 

「日和さん!」

 

「みんな、大丈夫⁉」

 

「は、はい!」

 

空中を舞う日和は響たちが無事かを問いかける。皆が無事でほっとしたのも束の間・・・

 

「!!日和さん!!後ろ!!」

 

日和を追いかけていたシャルが彼女の背後にいるではないか。日和が気づいた時にはもう遅い。

 

「!!しま・・・」

 

「ほぅら、捕まえたぜ!」

 

シャルは日和にかかと落としを放った。かかと落としを喰らった日和はそのまま地面に衝突する。

 

「「日和さん!!」」

 

「「「先輩!!」」」

 

地面に叩きつけられた日和は立ち上がろうとする。シャルは地に着地し、奥にいるガリィを見る。

 

「ずいぶん手こずってるようだねぇ。なんなら手を貸してやろうかい?」

 

「うっさい。余計なお世話だっつの」

 

余裕綽々なシャルの言葉にガリィは悪態をつきながらアルカ・ノイズの結晶をばら撒き、新たなアルカ・ノイズを召喚させる。召喚されたアルカ・ノイズは日和に襲い掛かろうとしている。立ち上がった日和は襲い掛かるアルカ・ノイズの攻撃を避けながら棍を振るってアルカ・ノイズを次々と倒していく。だがそこにシャルがレールガンによる射撃攻撃を放ってくる。日和は迫ってきた弾を危なげなくかわす。日和がアルカ・ノイズとシャルの対応をしている間にも、残ったアルカ・ノイズは響たちに向かって進行している。

 

「!いけない!!」

 

それに気づいた日和は棍を横払いしてアルカ・ノイズを倒し、すぐに響たちに向かうアルカ・ノイズを追いかけようとするが、そこにシャルが足止めをする。前に出てきたシャルに日和は棍を振るうが、シャルは両手のレールガンで棍を防ぐ。

 

「おいおい、逃げようなんてつれないねぇ。もっと遊ぼうぜ~?」

 

「みんな!!逃げて!!」

 

日和の叫びを聞いて、創世たちはこちらに向かってくるアルカ・ノイズから逃げ出す。響は自分も戦おうと思い、詠唱を唄おうとするが、やはり聖詠が浮かび上がらず、唄うことができない。

 

「響!」

 

未来の声を聞いて、響はアルカ・ノイズから離れるために逃げる。アルカ・ノイズは今度こそ響の足元を狙って発光気管を放った。発光気管は響の靴に直撃した。その瞬間、響の靴が分解し始めた。

 

「うわぁ!!?」

 

靴が分解したことにより響は転んでしまい、手に持っていたギアネックレスを手放してしまう。

 

「ギアが!!」

 

ギアネックレスが宙を舞った時、S.O.N.Gの黒い車がこちらに向かってきて、回転しながら急停止をした。車からマリアが飛び出し、飛んで宙に舞うギアネックレスを掴む。

 

「マリアさん⁉」

 

Granzizel Bilfen Gungnir Zizzl……

 

マリアが聖詠の詠唱を唄うと、ガングニールはマリアに応え、彼女に身に纏った。マリアのガングニールは響のガングニールと違い、黒い配色が多い。地に着地したマリアは両腕のガントレットを射出し、それを槍に変形させ、手に持つ。

 

ビリ・・・

 

だが、彼女もまた適合係数が低い。LiNKERを打たなければ、自身にダメージが返ってくる。マリアはそれに構わず、槍を構え、エネルギー砲をアルカ・ノイズに放った。

 

【HORIZON†SPEAR】

 

エネルギー砲はアルカ・ノイズを貫き、爆発。さらにその爆発で他のアルカ・ノイズを巻き込ませて消滅させる。

 

(戦える・・・この力があれば・・・!)

 

少しでも戦える力があれば、この状況を打破できるとマリアは考える。

 

「黒い・・・ガングニール・・・」

 

「へぇ・・・こいつは予想外だねぇ・・・」

 

これを見たシャルは意外そうな表情をしながらレールガンで日和の棍を跳ね除け、右手のレールガンで日和に撃ち放つ。日和は機械装飾の尻尾の先端に備わってる棍を地につけ、伸ばすことでその弾丸を回避する。宙を舞う日和はそのままマリアと背中を合わせる。

 

「マリアさん!」

 

「あなたはそのままあいつを止めておいて!アルカ・ノイズは私が片付ける!」

 

「はい!」

 

マリアの指示で日和はシャルに向かっていき、棍を連撃で振るう。シャルはそれを躱したり、レールガンで防いだり防御に徹している。だがその表情は余裕だ。そこに弦十郎たちからの通信が届く。

 

『緒川さん、マリアさん到着!』

 

『ガングニール、エンゲージ!』

 

『マリア君!発光する攻撃部位こそ解剖器官!気をつけて立ち回れ!!』

 

ガリィは新たなにアルカ・ノイズの結晶をばら撒き、アルカ・ノイズをさらに増やす。マリアはアルカ・ノイズを槍を振るって、襲い掛かるアルカ・ノイズを次々と倒していく。

 

「想定外に次ぐ想定外・・・捨てておいたポンコツが、意外なくらいにやってくれるなんて・・・」

 

ガリィはあくどい笑みを浮かべて余裕な様子だ。マリアはアルカ・ノイズに槍を投擲して、アルカ・ノイズを貫く。さらに襲い掛かるアルカ・ノイズを蹴りと拳の格闘技で次々と倒していき、槍を回収してアルカ・ノイズを薙ぎ払う。

 

「私のガングニールで・・・マリアさんが戦っている・・・」

 

自分が纏えなくて、マリアが纏えている・・・この現実は響自身に問題があると突きつけられている瞬間であった。アルカ・ノイズを倒したマリアは高く飛び、ガリィに向かって突き下ろそうとした。だがガリィは両手をかざし、水の錬金術で生み出した氷の盾を張り、槍を凌いだ。盾は小さく薄いが、防御力は絶大で突破することができない。

 

「それでも!!」

 

マリアは槍の先端部の両部位をパージし、ガリィの氷の盾を突破する。そしてマリアは小さくなった槍をガリィの胸元に突き刺した。ガリィの顔は項垂れ、誰もがマリアの勝利を確信した。だが・・・

 

「・・・!!?」

 

槍はガリィを貫いておらず、直前で青の障壁によって阻まれていた。ガリィはにたぁっとあくどい笑みを浮かべている。

 

「頭でも冷しやぁ!」

 

ガリィが張った青の障壁は広がり、そこから水の奔流が発生し、マリアを弾き飛ばした。弾き飛ばされたマリアは地に着地し、槍を突き立ててブレーキをかける。

 

「マリアさん!!」

 

日和がマリアに視線を向けた時、その一瞬の隙をついてシャルは彼女を蹴り上げて宙に浮かせる。

 

「がっ・・・!」

 

「よそ見してる場合かい?ガール」

 

シャルは宙に浮く日和の腹部にレールガンを突き立てる。そして、突き立てた左手のレールガンでゼロ距離射撃を放つ。

 

ビリビリビリビリビリ!!!!!

 

あああああああああ!!!!!

 

これによって日和は弾丸に直撃し、電気が身体中に感電し、大きなダメージを負う。マリアの方もギアのバックファイアで限界が近づいており、立つのもやっとの状態だ。

 

「決めた。ガリィの相手はあんたよ」

 

ガリィは標的をマリアに定め、深くお辞儀をする。

 

「いただきまぁ~す!」

 

ガリィは地面を凍らせて、高速で鋭角に滑ってマリアに接近する。そして、マリアの間近に迫り、右手を凍らせて、ギアコンバーターに向けて刃を振るおうとする。

 

パリィーン!!

 

だがその前に、マリアのシンフォギアが強制的に解除された。元の服装に戻ったマリアは地に膝をつく。彼女の呼吸は荒く、血涙と喀血を流している。

 

「それでもこの程度・・・」

 

ガリィは面白くなさそうな表情をして、右手の氷の刃を解除する。

 

「何よこれぇ・・・まともに歌える奴があいつしかいないなんて、聞いてないんだけどぉ?」

 

ガリィは日和に向けて指をさす。当の日和は2回の雷を喰らい、ボロボロの状態で、息遣いも荒い。

 

「はぁ・・・はぁ・・・」

 

「そろそろパーティは、お開きにするとしようかね」

 

シャルは両手のレールガンを日和に向ける。2つのレールガンの銃口に紫の錬金陣が現れ、凄まじい稲光が走りだし、雷は2つのレールガンの銃口に一か所に集まる。

 

「こいつで、ジ・エンド!!」

 

シャルは溜まった雷の弾丸を日和に向けて放った。もう素早く動けない日和は棍を突き刺して手放し、棍を盾の形に変形させた。

 

【難攻不落】

 

巨大な盾は迫ってきた雷の弾丸を受け止めた。これによって盾は凄まじく感電する。棍を手を放したためにこちらには感電しない。この場を凌いで反撃に出る・・・はずだった。

 

ズンッ!

 

「・・・え・・・?」

 

雷の弾は盾を貫通し、日和の腹部に直撃した。絶対的な防御技が貫通してきて、日和は目を丸くしている。

 

「言ったはずだぜ。物質的な防御手段はないってな」

 

弾が盾を貫通して日和に直撃した・・・そして・・・

 

バリバリバリバリバリ!!!!!

 

あああああああああああああ!!!!!

 

「「日和さん!!!」

 

「「「先輩!!!!」」」

 

1回目、2回目と比べ物にならない電気が日和の身体を走る。悲鳴を上げる日和にシャルは追い打ちをかけるように右手のレールガンを突きつけ、日和のギアコンバーターに狙いを定める。そこにちょうど、日和を追いかけていた海恋が到着し、この光景を見て、目を見開く。

 

「日和ぃ!!」

 

「グッバイ、ガール」

 

シャルはレールガンの弾を撃ち放った。ギアコンバーターに弾が直撃し、ヒビがはいる。そして・・・

 

ビリビリビリビリビリビリ!!!!!!

 

あああああああああああああ!!!!!

 

「日和いいいいいいいいい!!!」

 

ギアコンバーターに通じて、日和は追撃の雷を受け、悲鳴を上げる。これを見た海恋は悲痛な叫びをあげる。日和のギアは分解をはじめ、雷が収まると同時に完全に分解される。一糸まとわぬ姿となった日和は気を失い、倒れる。海恋はすぐに日和の元に駆けつける。

 

「日和!!しっかりして!!日和!!日和ぃ!!」

 

海恋は必死に声を上げるが、日和は目を覚まさない。

 

「ガールの運命は、あたいと出会った瞬間から終わってるんだぜ?」

 

一仕事を終えたシャルは決め台詞を言い放った。一部始終を見ていたガリィは面白くなさそうな表情をしている。

 

「クッソ面白くない」

 

ガリィはテレポートジェムを取り出し、地面に叩きつけ、一瞬で姿を消した。それを見たシャルはすぐにキャロルと通信を取る。

 

「・・・後はどうします?無理にでもギアを纏わせるかい?」

 

『・・・もういい。帰還しろ』

 

「オーケー。リリィが怒ってないといいが・・・」

 

シャルはキャロルの指示を聞き、テレポートジェムを取り出し、地面に叩きつけて、一瞬で姿を消した。

 

~♪~

 

戦いが終わったころにS.O.N.Gのブリッジにエルフナインと装者たちが集まってきた。エルフナインの服装は日常的に使う服装になっている。

 

「空間移動・・・あれもまた、錬金術の・・・」

 

「現代に新型ノイズを完成させるとは、位相空間に干渉する技術を備えているということです」

 

「んなことよりあいつらは・・・相棒は無事なのかよ!!?」

 

クリスの問いかけに友里が答える。

 

「駆け付けたマリアさんが、ガングニールを纏って敵を退けてくれたわ」

 

「マリアがデスか!!?」

 

マリアが出撃していたことに切歌は驚いている。

 

「それってつまり・・・私たちと同じように・・・」

 

「シンフォギアからのバックファイアに、自分をいじめながらか・・・。無茶をしてくれる・・・」

 

バックファイアに耐えながら戦ったマリアに翼はそう口を開いた。

 

「だけど・・・日和ちゃんは重傷を負って・・・ギアまで・・・」

 

「マジかよ・・・!」

 

「なんということだ・・・東雲が・・・」

 

日和が重傷を負い、ギアまで破壊されたという悪い知らせにクリスとフォルテは顔を俯かせる。これで、現時点でギアを纏えるのは響だけ・・・いや、纏えない状況下にあるのならば・・・戦えるシンフォギア装者はいないという最悪の事態に陥っている。

 

~♪~

 

響たちが気を失った日和の元に駆けつけている中、緒川は通信機で日和を搬送する報告と今回の件の報告を本部に入れている。マリアは負傷した日和を見て、悔しそうな表情をし、視線をギアネックレスに向ける。

 

(もし私が・・・ガングニールを手放していなければ・・・!・・・いや・・・それは未練だな・・・)

 

マリアはふらつきながらも立ち上がり、響たちに近づき、日和を守れなかったことに謝罪する。

 

「ごめんなさい・・・」

 

「い、いえ・・・マリアさんだって傷だらけで・・・」

 

「歌って戦ってボロボロになって・・・大丈夫なんですか?」

 

マリアは響に視線を向け、ガングニールにギアネックレスを返そうとする。

 

「君のガングニール・・・」

 

「私のガングニールです!!!」

 

「響⁉」

 

響はガングニールのギアネックレスを強引に奪い取る。

 

「これは!誰かを助けるために使う力!私がもらった!私のガングニールなんです!!」

 

パチンッ!!

 

響の言い分に海恋は怒った顔をして、彼女の頬に平手打ちを放つ。

 

「助けてもらっておいて・・・なんなのその態度は!!それが人助けをする人間の態度なの!!?」

 

そう言った海恋はすぐにはっとし、申し訳なさそうな表情になり、叩かれた頬を抑えて顔を俯く響に謝罪する。

 

「・・・ごめんなさい・・・」

 

「・・・いえ・・・私も・・・ごめんなさい・・・」

 

謝罪する響だが、納得しておらず、その顔は不満と怒りで示している。これを見たマリアは昨日の響との会話を思い出す。

 

『逃げているの?』

 

『逃げているつもりじゃありません!だけど・・・適合して、ガングニールを自分の力だと実感して以来、この人助けの力で誰かを傷つけることが・・・すごく嫌なんです・・・』

 

マリアは響に一歩近づき、ガングニールを託そうという意志を伝える。

 

「そうだ。ガングニールはお前の力だ。だから・・・目を背けるな!」

 

「目を・・・そむけるな・・・」

 

ガングニールを自分が背負わなければいけないその重圧に、響は目を逸らすことしかできなかった。

 

~♪~

 

キャロルの拠点、チフォージュ・シャトーの玉座の中央部の台座・・・そこにガリィとシャルが帰還する。キャロルは不機嫌そうな表情をしているが、それ以上に不機嫌な顔をしているのはリリィだ。

 

「・・・ガリィ様、どういうことです?マスターの命令は彼女のギアの破壊だったはずです」

 

「そんな顔しないでよぉ。ろくに唄えないのと、唄っても大したことない相手だったんだからぁ!あんな歌を毟り取った所で役に立たねぇって」

 

「理由になりません。私ならば速攻で完璧に破壊します」

 

「こそこそしてるのを何ていうか知ってるぅ?チキンっていうのよぉ?リリィね・え・さ・ま♡」

 

「・・・痛い目を見ないと反省しないのですか?」

 

「やめろ」

 

リリィとガリィの口喧嘩をキャロルの一声で止まる。ガリィはリリィのことを姉さまと言っていたが、あながち間違いではない。というのも、リリィとガリィは同じパーツを組み込んだ姉妹機に値しており、与えられた属性も近しい。ただ相性が悪く、仲がいいとは言えない。

 

「申し訳ございません」

 

「・・・自分が作られた目的を忘れていないのならそれでいい・・・」

 

キャロルは初めて響と邂逅した日のことを思い返し、顔には出していないが、不快感を露にしている。キャロルは立ち上がり、ガリィに厳命する。

 

「だが次こそはあいつの歌を叩いて砕け。これ以上の遅延は計画が滞る」

 

「レイラインの解放・・・わかってますとも・・・ガリィにお任せです♡」

 

きゃぴきゃぴした言動を放つガリィにキャロルはため息をこぼし、次は確実にガングニールを破壊するために、念には念を入れ、戦力の増強を言い渡す。

 

「お前には戦闘特化のミカ、そして姉妹機のリリィをつける。いいな」

 

「いいゾ~!」

 

命令したのはガリィなのだが、なぜかミカが返事をする。

 

「そっちに言ってんじゃねぇよ!」

 

今までの口調とは違い、荒々しい口調でミカを怒鳴るガリィ。これまでのキャラ付けは猫かぶりだったのだ。

 

(せめてあの時、ハズレ装者のギアが解除されなければ・・・)

 

マリアが身に纏ったガングニールを破壊できず、与えられた任務をこなせなかったことに、ガリィは心の中で悔しがっている。

 

~♪~

 

S.O.N.Gのメディカルルームに運ばれた日和はベッドで眠っている。今は海恋、響、未来の3人だけだが、さっきまでは翼やクリスたちがお見舞いに来ていた。響は日和の姿を見て、申し訳ない気持ちでいっぱいになっており、ずっと日和に寄り添っている海恋に謝罪する。

 

「・・・ごめんなさい・・・」

 

「もういいわよ。私も言い過ぎたわ」

 

「そうじゃなくって・・・」

 

響が気にしているのは、シンフォギアを纏えず、自分も戦うことができなかったことだ。それに気づいてる未来が口を開く。

 

「ギアを纏えなかったことを考えてるんだよね」

 

「・・・戦えないんだ・・・。歌を歌って、この手で誰かを傷つけることが、とても怖くて・・・。私の弱さがみんなを危険に巻き込んだ・・・日和さんだって・・・こんな事にはならなかった・・・」

 

悔しそうに拳を握りしめる響の手を、未来が両手で優しく包む。

 

「私は知ってるよ。響の歌が、誰かを傷つける歌じゃないことを」

 

未来の優しい言葉を聞き、響は顔を俯かせる。

 

「そう思いつめないで。日和ならこういう時、笑って励ますだろうから」

 

「・・・はい・・・」

 

「・・・小日向さん。立花さんのこと、お願いね」

 

「はい」

 

海恋は響を励ましつつ、未来に響を支えるように頼んだ。未来は海恋の言葉に了承し、響の心の支えになると決めたのだった。




シャル・サンドリオン

外見:金髪の長髪にところどころに紫のメッシュが入っている。
   服装は紫のカウガール服で、青い長ズボンを履いている。胸ポケットに星型バッジと星形のベルトをつけている。
   紫のカウガール帽子を被っている。
   瞳は紫。

【挿絵表示】

↑Picrewより『妙子式2』

型式番号:XMH_091

属性:雷

イメージCV:閃乱カグラシリーズ:蓮華
(その他の作品:ウマ娘プリティーダービー:エアシャカール
       :アイドルマスターシンデレラガールズ:小日向美穂
       :ゼノブレイド3:ミオ
        その他多数)

キャロルが造りだした6機のオートスコアラーの1機。待機中のポーズは左手に星形ベルトを握り、レールガンで帽子を上げている。
非情にかっこつけたがりな性格で言葉の言語にところどころで英語で話すことがある。例えば、男を呼ぶときはダンディかボーイ、女を呼ぶときはレディかガール、さらに破壊の時はデストロイなど様々だ。さらに一度狙いを定めた獲物は決して逃がさないというガンマンとしてのプライドを持ち合わせており、狙いを定めた日和に執着心を抱いている。
戦闘スタイルは遠距離特化型でレールガンによる防御不可能の銃撃戦を得意としている。近接戦闘は一応できるが、他の5機に比べると性能が低い。一方の遠距離戦闘においては右に出る者はおらず、戦闘特化型のミカでさえ手間取らせるほどだ。
ちなみに、標的を仕留めた際に「○○の運命はあたいと出会った瞬間に終わってるんだぜ?」という決め台詞をはく癖がある。


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氷の暗殺者

今回はリリィのイメージを載せます。こちらはPicrewの『テイク式女キャラメーカー』を使用しました。前回と同じく足りない部分はイメージでお願いします。もちろん自作ではないのであしからず。


雨が降り出しそうな曇天の日、フォルテ、マリア、調、切歌はナスターシャの墓参りに訪れた。マリアはナスターシャの墓に花束を添えた。

 

「ごめんね、マム。遅くなっちゃって・・・」

 

「マムの大好きな日本の味デス!」

 

「僕も月読も反対したのだがな・・・」

 

「常識人の切ちゃんがどうしてもって・・・」

 

切歌はお供え物にキクコーマンのしょうゆを備えた。フォルテも調も反対したそうだが、切歌は意見を曲げることはなかったため、今に至る。

 

「マムと一緒に帰ってきたフロンティアの一部や、月遺跡に関するデータは、各国が調査している最中だって」

 

「みんなで一緒に研究して、みんなのために役立てようとしてるデス!」

 

「ゆっくりだけど、ちょっとずつ世界は変わろうとしてるみたい」

 

「その道しるべとなったのは・・・マム、あなただ。心からの感謝を」

 

フォルテは絆で繋がった家族の代表として、胸に手を添えて、深くお辞儀する。

 

(変わろうとしているのは世界だけじゃない・・・。なのに、私だけは・・・。ネフィリムと対決したアガートラームも、再び纏ったガングニールも、窮地を切り抜けるのはいつも、自分のものではない力・・・)

 

マリアは自分だけが何も変わっていない、何も成長していないという思いから、強くなりたいと願っている。

 

「私も変わりたい・・・本当の意味で強くなりたい・・・」

 

「それはマリアだけじゃないよ・・・」

 

「あたしたちだって同じデス・・・」

 

「それは・・・ここにいる全員が同じ思いだ・・・」

 

マリアは弱さを打ち破りたい・・・調と切歌はみんなの役に立ちたい・・・そしてフォルテは・・・今まで殺めてきた者たちに償いがしたい。方向性は違うが、4人にはそれぞれの心の弱さが現れ出てる。だからこそ強くなりたい。そう打ち明けた時、雨が降り始めた。

 

「昔のように、叱ってくれないのね・・・。大丈夫よマム。答えは自分で探すわ」

 

「先は長いかもしれないが・・・真剣に考え、必ず答えを見つける」

 

「ここはマムが遺してくれた世界デス」

 

「答えは全部あるはずだもの」

 

降り続ける雨はさらに強くなっていった。

 

~♪~

 

リディアンの方では前半の授業が終わりお昼休み。日和は現在S.O.N.Gの潜水艦のメディカルルームで眠っているためいない。そして海恋はただ1人、お弁当を持って食堂に来てどの席に座ろうか悩んでいる。1人食堂を歩いていると、未来、弓美、創世、詩織が昼食をとっている姿を見つけた。海恋は彼女たちに近づいて声をかける。

 

「小日向さんたち、こんにちは。お昼相席してもいいかしら?」

 

「あ、海恋さん。もちろん大丈夫です」

 

「ありがとう」

 

相席の許可を4人からもらい、海恋は未来の隣の席に座る。そこで詩織が日和の状況について質問する。

 

「あの・・・東雲先輩の容態はどうなんですか?」

 

「順調に回復してるみたいよ。もう少し眠ったら目が覚めると言ってたわね」

 

「よかったぁ~・・・」

 

日和が順調に回復していると知り、4人は安堵する。

 

「それで・・・立花さんはまだ元気なさそうかしら?」

 

「そうなんですよ~。お昼ごはんより、課題を優先するくらいなんですから・・・」

 

「そう。確かに重症のようね」

 

響は好きなものがご飯&ご飯というくらいに食べることが好きだ。その響がご飯よりも課題を優先しているのだ。知っている人間から見れば、重傷であるのがよくわかる。

 

「歌えない理由かぁ・・・」

 

「私たちが励ましても、立花さんってば、余計に気を遣いそうですし・・・」

 

「普段は単純なくせに、こういう時ばっかり、ややこしいんだよね」

 

響と仲良くしている3人も、この状況には頭を悩ませている。

 

「・・・これは私の推測なんだけど、立花さんが歌えないのは、歌う理由を忘れたんじゃないかしら?」

 

「・・・響が・・・歌う理由・・・」

 

「それを立花さんが思い出すことができれば・・・」

 

「響はまた歌える・・・」

 

「まぁ・・・あくまで推測なのだけれど・・・」

 

海恋の推測に未来は響に何をしてあげられるのかを考える。

 

~♪~

 

寄港したS.O.N.Gの潜水艦のブリッジで一同はエルフナインから開示される敵の情報を聞いていた。もちろん知りえる情報のみだが、有用性のある情報であるのは変わりない。

 

「先日響さんを強襲したガリィと、日和さんのギアを破壊したシャル、クリスさんと対決したレイア。これに、翼さんがロンドンでまみえたファラと、まだ戦線に出てこないリリィと、未だ姿を見せないミカの6体がキャロルの率いるオートスコアラーになります」

 

「人形遊びに付き合わされてこの体たらくかよ・・・!」

 

「その機械人形は、お姫様を取り巻く護衛の騎士・・・と言ったところでしょうか」

 

「スペックをはじめとする詳細な情報は僕に記録されていません。ですが・・・」

 

「シンフォギアを凌駕する戦闘力を見て、間違いないだろう」

 

事実、先日シャルは日和のシンフォギアを破壊し、重傷を負わせたのだ。その戦闘能力は、現段階では到底太刀打ちできないのは明らかだ。さらに響がギアを纏うことができない最悪の状況である。

 

「超常脅威への対抗こそ、俺たちの使命。この現状を打開するため、エルフナイン君より計画の立案があった」

 

モニターの画面が切り替わり、そこに計画名が表示される。

 

「Project IGNITEだ」

 

Project IGNITE・・・それがこの計画の名であり、キャロル攻略の鍵となる。

 

~♪~

 

雨が降り続ける中、全ての授業が終わり、響と未来は相合傘で寮へ帰宅していく。帰宅する時も沈黙は続いている。そこで未来が話を切り出す。

 

「やっぱりまだ、歌うのが怖いの?」

 

「え・・・うん・・・誰かを傷つけちゃうんじゃないかって思うと・・・ね・・・」

 

今も上の空な状態の響は未来の問いに返事が遅れている。シンフォギアを纏えない原因はわかっているのだが、この問題はそう簡単には解決できない・・・だから余計に考え込んでしまう。

 

「響は初めてシンフォギアを身に纏った時って、覚えてる?」

 

「どうだったかな・・・?無我夢中だったし・・・」

 

「その時の響は、誰かを傷つけたいと思って、歌を唄ったのかな?」

 

「え・・・」

 

そんなはずはない。響はそう否定したかったが、即答できなかった。本当に何が何だかわからない状況だったのだ。その時の細かい心境など、覚えているはずもない。最初にシンフォギアを纏った日の事・・・どうやってシンフォギアを纏えるようになったか・・・響は本当にわからないでいた。

 

~♪~

 

場所は戻ってS.O.N.Gの潜水艦のブリッジ。Project IGNITEの具体的な詳細がモニターに表示されている。

 

「イグナイトモジュール・・・こんなことが、本当に可能なのですか?」

 

「錬金術を応用することで、理論上不可能ではありません。リスクを背負うことで対価を勝ち取る・・・そのための魔剣・ダインスレイフです」

 

ヴゥー!ヴゥー!

 

エルフナインが説明している中、突然アルカ・ノイズ出現のアラートが鳴り響いた。オペレーターたちはすぐにアルカ・ノイズの出現座標を特定する。

 

「アルカ・ノイズの反応を検知!」

 

「位置特定!モニターに出します!」

 

モニターのカメラが表示される。そこに映っていたのは、赤い髪のオートスコアラー、ミカが響と未来を追いかけている姿だった。

 

「!!?」

 

「んなっ!!?」

 

「ついにミカまでも・・・」

 

このモニターを見て、エルフナインが一言そう呟いた。

 

~♪~

 

墓参りが終わり、マリアたちはフォルテが用意した車で帰ろうとした時、通信機でS.O.N.Gから響と未来が襲われているという報告を受けた。

 

「敵の襲撃!!?」

 

「でも、ここからでは・・・」

 

「間に合わないデス!」

 

「いや、何とか間に合わせる!」

 

フォルテは車の収納スペースより、緊急出動用のバイクを外に出し、乗り込む。

 

「フォルテ!」

 

「マリアたちは戻ってくれ!救援には僕が行く!」

 

フォルテはそう言ってバイクのエンジンを入れ、大急ぎで現場に向かった。フォルテの心境は、どうか間に合ってほしいという思いでいっぱいだった。

 

~♪~

 

ミカとアルカ・ノイズの襲撃にあい、響と未来は工事現場に入り、走り抜ける。ミカとアルカ・ノイズはそんな2人・・・正確には響を追いかける。彼女の両手は爪があまりにも鋭く、人の形をしていない。

 

「逃げないで歌ってほしいゾ~!あ、それとも、歌いやすいところに誘ってるのか~?う~ん・・・おぉう!それならそうと言ってほしいゾ!それ~!」

 

ミカは右手と左手を打ち付けて、1人納得すると、アルカ・ノイズに指示を出した。ヒル型のアルカ・ノイズが先行し、2人の左右の道を分解し、人型アルカ・ノイズが追いかける。コースを誘導しているのが見てわかる。響たちは急いで工事現場に入り、階段を登って逃げる。未来を先に行かせて、響が後ろについていく。だがその最中、人型アルカ・ノイズは発光気管を階段に当てる。それによって、階段は分解し、上り切れていない響は下に落下する。

 

「響ー!」

 

「がっ⁉」

 

落下の勢いが強く、響は端にあった手すりを破壊し、さらに下に落下し、地面に叩きつけられる。

 

「未来・・・!」

 

響はぼやける視界で未来を捉えた。そんな響の視界にミカが覗き込んできた。ミカは強靭な爪で未来を指さす。

 

「いい加減戦ってくれないと、君の大切なモノ解剖しちゃうゾ?友達バラバラでも戦わなければ、この町の人間を、犬を猫を、みーんな解剖だゾ~?」

 

ミカは無邪気ながらに残忍な言葉を楽し気に言い放った。そうはさせないと響はギアネックレスを取り出し、シンフォギアを纏おうと詠唱を唄おうとするが、やはり聖詠が浮かばないため唄うことができず、シンフォギアを纏えない。

 

「ふ~ん・・・本気にしてもらえないなら・・・」

 

ミカは拍子抜けし、ニヤリと笑ってアルカ・ノイズに未来を襲わせるように指示を出した。彼女の1つ下の階にアルカ・ノイズが集まる。未来は恐怖ですくみ上りそうになるが、その恐怖を押し殺し、響に向かって声を上げる。

 

「あのね、響!!響の歌は誰かを傷つける歌じゃないよ!!伸ばしたその手も、誰かを傷つける手じゃないって私は知ってる!!私だから知ってる!!だって私は響と戦って、救われたんだよ!!?」

 

「!!」

 

「私だけじゃない!!響の歌に救われて、響の手で今日に繋がってる人はたくさんいるよ!!だから怖がらないで!!!」

 

必死に響に訴えかける未来に、アルカ・ノイズの魔の手が迫る。

 

「ばいなら~!」

 

ミカの指示を受けたアルカ・ノイズは未来に飛び掛かり、彼女の足場を破壊する。足場を失った未来は宙に放り出される。

 

「うおおおおおおおおおお!!!」

 

響は魂の限り叫びをあげた。

 

Balwisyall Nescell Gungnir トロオオオオオオーーン!!!!

 

響の魂の叫びに、ガングニールが応える。

 

「私の大好きな響の歌を・・・みんなのために・・・歌って・・・」

 

落下していく未来はこれまでの思い出の走馬灯を見たが、それは響がガングニールを身に纏った響が彼女の背中を受け止めたことで吹き飛ばされる。響は未来を傷つけぬように、可能な限り衝撃を殺して着地する。ビルの天井が衝撃で崩れ落ち、溜まった雨水が一気に落ちてきた。

 

「ごめん・・・私、この力と責任から逃げ出してた・・・。だけどもう迷わない。だから聞いて、私の歌を!!」

 

天井が破れた空から雨がやみ、太陽の光が差す。

 

~♪~

 

響がシンフォギアを再び纏えるようになった姿はS.O.N.Gでも確認できた。

 

「どうしようもねぇバカだな」

 

クリスは腰に手を当て、そう呟きつつも笑みを浮かべている。

 

そして、響が復活した同時期、メディカルルームで眠っていた日和が目を覚まし、ゆっくりと目を開けた。

 

~♪~

 

ミカと対峙する響は未来を下ろした。

 

「行ってくる!」

 

「待ってる」

 

短く会話をして、響は歌を歌い、ミカへと向かっていく。その表情には、もう迷いはない。戦う目的を取り戻したのだ。

 

「うおりゃぁ~!」

 

ミカは両手いっぱいのアルカ・ノイズの結晶をばら撒き、さらにアルカ・ノイズを召喚する。響はブースターで距離を詰め、懐に入ったアルカ・ノイズに拳を叩き込んで撃破する。さらに響は拳と蹴りの格闘技の連続でアルカ・ノイズを次々と倒していく。さらに響は右腕のバンカーユニットを伸ばし、地面に叩きつけ、衝撃波を放ち、アルカ・ノイズを全滅させる。残るはミカ1人だけ。響はミカに拳を振るう。戦闘特化型のミカは右手の掌より赤熱化しているカーボンロッドを射出し、響の拳を受け止めた。火花が散りながらも、響は何とか押し通そうとする。

 

「こいつ、へし折り甲斐があるゾ~!」

 

全く余裕の表情を崩していないミカはツインロールの髪の毛をブースターのように使い、響を押し返した。後退した響はアンカージャッキで反動を受け止め、弾き返り、回転して勢いをつけさせた肘鉄をミカの鳩尾に叩き込んだ。耐え切れなかったミカは弾き飛ばされる。さらに響は追撃するためにブースターで加速し、ミカに向かって拳を振るった。

 

バシャアアン!!

 

だが、響の放った拳が貫いたのは、ミカではなく、ミカの姿に形作られた水の塊だった。

 

「なっ!!?」

 

響は驚愕の顔になる。揺れる響の視界の先に、柱に人影が見えた。それは、バレエのポーズをとっているガリィだった。

 

「ざぁんねん。それは水に移った幻・・・」

 

彼女の存在によって響の思考は正常に戻る。本物のミカはどこにいるのか・・・そう思って下を振り向くと、本物のミカがギアコンバーターに狙いを定め、満面の笑みを浮かべている。そして、響のギアコンバーターに向けてカーボンロッドを放った。カーボンロッドはそのまま響のギアコンバーターに向かっていく。そこに・・・

 

ドゴォン!!バァン!!ドカァン!!

 

突如として何かの破壊音と発砲音が鳴り響き、カーボンロッドはどこからか飛んできたエネルギー弾によって破壊される。

 

「お?」

 

「何ぃ!!?」

 

カーボンロッドが破壊され、ミカはきょとんとし、勝利を確信したガリィは驚愕する。エネルギー弾が放たれた方向を見てみると、シンフォギアを身に纏い、バイクで突進してきているフォルテがいた。今の破壊音はバイクで工事現場に突っ込み、建物を破壊した音のようだ。フォルテはそのままバイクでミカに突撃した。

 

「おわあ~!」

 

ミカはそのままバイクと衝突し、吹っ飛ばされる。フォルテはすぐにバイクから飛び降り、大剣を手に取ってチェーンソーに変形させ、ガリィに向けて赤黒い斬撃波を放った。

 

「げぇ!!?」

 

来てすぐに居場所を特定され、攻撃をしてきたフォルテにガリィは驚愕しつつも、青い障壁を張って斬撃波を防いだ。響のすぐ近くに着地する。

 

「無事か?立花、小日向」

 

「「フォルテさん!」」

 

フォルテという心強い救援が駆け付けてくれたことで響と未来は笑みを浮かべている。

 

~♪~

 

フォルテが響の窮地を救った場面をS.O.N.Gの面々がモニターで見ていた。

 

「フォルテさんが現場に到着!」

 

「適合係数、正常に安定しています!」

 

フォルテがシンフォギアを纏って現れたこと、さらにシンフォギアの適合係数が正常値に達していることにクリスと翼は驚いている。

 

「どうなってるんだぁ?」

 

驚いている2人に、弦十郎が説明する。

 

「あらかじめフォルテ君には、LiNKERを持たせておいたのだ」

 

「LiNKERを?」

 

「メディカルチェックの結果、フォルテ君は、model_RのLiNKERに十分適応できるとわかったのだ」

 

「model_R⁉まさか、玲奈が使っていたLiNKER⁉」

 

model_R・・・それは、シンフォギア如意金箍棒の最初の適合者、北御門玲奈に合わせて作られたLiNKERだ。旧式であるため、身体の負担が大きく、危険度が高い。だが幸いにも、フォルテはそのmodel_Rに適応できるようで、負担も軽く済んでいるのだ。

 

「てぇことは・・・」

 

「心強い戦力が増したということだ!」

 

フォルテがシンフォギアを纏い、戦えるようになったのは、S.O.N.Gにとって喜ばしい吉報だ。

 

~♪~

 

場所は戻って工事跡地、フォルテと響はバイクが突っ込んで爆発し、炎上した場所を見つめる。すると、爆煙の奥から、満面な笑みを浮かべているミカが現れた。ダメージは全く負っていない。

 

「今のはちょっとだけビックリしたゾ!でも敵が増えて燃えてきたんだゾ~!」

 

ミカは戦う相手が増えたと無邪気に喜んでいる。

 

「立花、やれそうか?」

 

フォルテは響に戦えるかどうかの確認を取る。響は当然気合を入れて答える。

 

「もちろんです!!」

 

「よし。では、共に奴らを撃退するぞ」

 

「はい!!」

 

フォルテが大剣を構え、響が拳を握り、戦闘態勢に入ったその時だった。

 

ビョオオオオオ・・・ビキビキビキ!!

 

ビルの内部に突如として爆発の炎さえも凍り付く冷気が放たれ、辺りが凍り付いていく。

 

「な、何っ!!?」

 

「これは・・・冷気?」

 

響とフォルテは目の前の景色に目を凝らす。すると、風景の一部に突如としてひびが入る。ヒビが広がっていき、砕け散っていく。そこから突如として修道服を着込んだオートスコアラー、リリィが立っていた。

 

「今回の目的は・・・あなたのギアの破壊・・・。絶対に見逃しはしません」

 

リリィの冷たい瞳は響に向けていた。

 

~♪~

 

工事現場に突然リリィが現れた光景はS.O.N.Gの方でもモニターで見えていた。

 

「新たなオートスコアラー・・・だと・・・!!?」

 

リリィが登場したことにより、弦十郎は驚愕の声を上げた。

 

「リリィ・・・隠密、暗殺に特化した彼女が、ついに戦線に・・・」

 

エルフナインはモニターに映るリリィを見てそう呟いた。

 

~♪~

 

辺りが凍り付いた工事現場のビルに突然現れたリリィにフォルテと響は身構える。

 

「ずっと見てたの?ずいぶんといい趣味してるんじゃなぁい?」

 

「性根が腐ったガリィ様に言われたくはないですね」

 

「けっ・・・」

 

ガリィはあくどい笑みを浮かべてリリィに悪態をついた。それにリリィは表情を変えず、淡々と答えた。

 

「あたしの獲物を横取りしないでほしいんだゾ~!」

 

ミカは頬を膨らませてリリィにぷんぷんと怒っている。しかしリリィはミカの言い分を無視して2人に指示を出す。

 

「ガリィ様とミカ様はミスティルテインの足止めで十分なので引きつけてください。私がガングニールを破壊します」

 

「はいはい、わかってるってーの」

 

「う~ん・・・おう!戦えるのならそれでいいゾ!」

 

リリィの指示にガリィは面倒そうな顔をしながら了承、ミカは戦えるならそれでいいという単純な考えで了承した。その間にもフォルテはリリィに向かって接近し、大剣を振るう。ミカはそうはさせまいとフォルテの前に立ちふさがり、右手のカーボンロッドで防ぐ。

 

「お前の相手はあたしだゾ~!」

 

「・・・どけ!」

 

フォルテは大剣を分離して双剣にし、ミカを切り裂いた。だが切り裂いたのはまたしてもガリィが作ったミカの水の分身だった。本物のミカはフォルテの真横におり、カーボンロッドを射出しようとする。フォルテはミカの殺気を頼りにして右手の剣で凌ぐ。

 

「こいつ強いゾ~!へし折り甲斐がありそうだゾ~!」

 

「ぐっ・・・こいつ・・・!」

 

フォルテにはわかる。ミカがどれほど手強い相手なのかというのが。一方の響を担当すると言ったリリィはずっと立ったままの状態だ。何を仕掛けてくるのかわからない。仕掛けてくる前に叩くと考えた響は右腕のバンカーユニットを伸ばし、ブースターで素早く移動し、渾身の一撃をリリィに叩き込んだ。拳は見事にリリィに直撃した。

 

ビキ、ビキ、ビキ・・・バリイイイイン!!

 

リリィは渾身の拳を喰らい、身体中にヒビが入って氷のように粉々に砕け散った。あまりのあっけなさに響は驚いている。

 

「倒した・・・の・・・?」

 

『違います!!それは氷で造られた偽物です!!』

 

そこにエルフナインからの通信でさっきのリリィは氷の偽物であると告げられた。では本物のリリィはどこにいるのかと響は辺りを見回す。

 

「ひ、響!!」

 

「・・・え・・・」

 

未来の一声で響は気がついた。自分の身体に、一筋の傷口ができていたことに。その傷口の血は、凍り付いて固まっている。

 

「あなたでは決して私の姿を捕らえられない」

 

どこからともなくリリィの声が聞こえてきた。そして、その間にも響の身体には1つ、また1つと、次々と傷が増えていく。

 

「暗殺とは、闇に紛れ、息を殺し、標的に気付かれることなく、息の根を止めることです」

 

そして、響のギアコンバーターまでもが凍り付く。そして、風景の一部にヒビが入り、氷のように砕けると、再びリリィが姿を現した。リリィの右腕には、氷で造られた刃がついていた。

 

「そして、脳内で標的を殺すと思ったその時には・・・」

 

リリィが右腕を振るったその瞬間・・・

 

パリイィィン!!

 

「暗殺は完了しているのです」

 

響の傷口の氷とギアコンバーターの氷が一気に砕け散った。それによって、響の傷口の血は一気に噴き出し、ギアコンバーターも破壊され、シンフォギアが分解され、一糸まとわぬ姿となる。

 

「立花ぁ!!」

 

「響いいいいいいい!!!」

 

響がやられたことでフォルテは驚愕し、未来は悲鳴を上げた。

 

「ギアの破壊を確認。ガリィ様、ミカ様、帰還しますよ」

 

「ちぇ・・・早すぎだっつーの・・・」

 

「えー・・・もう少し戦いたかったゾ・・・」

 

リリィの言葉を聞き、ガリィは悪態をつきながらテレポートジェムで転移する。ミカは露骨にがっかりした様子で同じくテレポートジェムで転移する。

 

「・・・あなたはもうしばらく見逃してあげます。ですが、次に会う時こそ・・・確実にギアを破壊するのでそのおつもりで。では、失礼します」

 

リリィはフォルテにそう告げてテレポートジェムで転移した。

 

「響!!響ぃ!!いやあ!!しっかりして!!響!!響いい!!」

 

未来は響に呼び掛けるが、彼女は意識を失ってしまっている。これを見たフォルテは仲間を守れなかった己の不甲斐なさを悔やみ、柱を殴りつけた。

 

「・・・またも守れなかった・・・!僕は・・・人を殺めることしかできないのか・・・!!」

 

フォルテはバルベルデの反乱軍の仲間を守れず、セレナを守れず・・・そして響も守ることができず、悔しさでいっぱいになっている。

 

~♪~

 

響がリリィの前に手も足も出ず、成す術なくやられてしまい、S.O.N.G本部内では驚愕で満ちている。モニターではオートスコアラーが撤退した姿が映し出されている。

 

「オートスコアラーの撤退を確認!!」

 

「響ちゃんの救出を!!」

 

「急行します!!」

 

緒川がブリッジを出ていき、現場へと急いで向かう。

 

「あたしらならやれる!だから、Project IGNITEを進めてくれ!」

 

「強化型シンフォギアの完成を!!」

 

元よりそのつもりで、計画の準備はすでに進めてある。モニターにはProject IGNITEによって強化されたシンフォギアの姿が映し出されている。

 

「私からも・・・お願い」

 

そこに、松葉杖を頼りに、フラフラな状態の日和がブリッジに入ってきた。

 

「このまま・・・終わりにしたくない・・・!」

 

日和の目には、このままで終わりにしたくないという強い思いが込められていた。




リリィ・ハールート

外見:黒髪の短髪に白いメッシュが入っている。
   服装は白い修道服を着込んでいる
   瞳は水色

【挿絵表示】

↑Picrewより『テイク式女キャラメーカー』

型式番号:XMH_010

属性:氷

イメージCV:オーバーロード:アルベド
(その他の作品:閃乱カグラシリーズ:雪泉
       :THEiDOLM@STERシリーズ:四条貴音
       :トリニティセブン:浅見リリス
        その他多数)

キャロルが造りだした6機のオートスコアラーの1機。ガリィとは姉妹機に該当する。待機中のポーズは両手を合わせて神に祈る姿勢。
口調は常に丁寧語で話し、表向きは穏やかに振る舞っているが、裏向きは残虐な性格で人間の思い出を摂取した後証拠を残さないように氷漬けて楽しそうに粉々にするという残忍性を持っている。
創造主であるキャロルに忠誠を尽くすのがオートスコアラーだが、リリィの忠誠心は神のように信仰しているかのよう。その信仰ぶりは狂信的であり、少しでもキャロルに不利益を起こすようならば味方以外は全員皆殺しにするという危険な思想を持ち合わせている。
戦闘スタイルは暗殺に特化しており、氷を自身の身に纏わせ、錬金術で風景と溶け込んで標的に気付かれないうちに氷で造った武器で攻撃する。時には氷の分身で標的を惑わせ、注意を逸らす戦法もとる。その性質上、暗殺だけでなく、隠密活動にも適しているため、主に隠密任務が与えられている。


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Edge Works

今回の話の中に・・・まぁ、わかりやすいかもしれませんが、今後のフラグが混じっております。いやぁ、今後が楽しみになりますねぇ。


リリィの手により、一方的にやられ、気を失った響はストレッチャーに乗せられ、S.O.N.G本部のメディカルルームに運ばれていく。響のそばにはドクターの他に、未来、翼、クリス、日和、フォルテがついていた。

 

「目を開けて!!響、お願い!!響!!」

 

未来は必死に響に呼び掛けるが、目を覚まさない。ドクターは響をメディカルルームに収容した。

 

「響・・・」

 

「・・・あの時、僕が判断を間違えていなければ・・・くそ!」

 

フォルテは響を守れなかった悔しさに、壁に拳を叩きつけた。未来はメディカルルームに収容された響を心配している。そんな彼女たちに、日和たちが声をかける。

 

「大丈夫だよ未来ちゃん。響ちゃんなら、きっと目を覚ますから」

 

「たりめえだぁ!!あのバカが・・・こんなことで退場するものかよ・・・!!」

 

「・・・その通りだ・・・!私たちとて・・・このままくすぶっていられるものか!」

 

翼の声には、静かな怒りが込められていた。この怒りは、戦場に出向き、戦うことがままならない自分にたいしてであった。

 

~♪~

 

響がメディカルルームで治療してから1週間の時が流れた。日和はというと、今日までメディカルルームの別室で未だ入院を続けていたが、傷がすっかり完治し退院できるようになった。元気になった日和を海恋が出迎えてくれた。

 

「東雲日和、完全復活!ご心配をおかけしました~」

 

「本当、あなたって頑丈さが取り柄よね。あれだけの雷を喰らって、一週間で治るんだから・・・。本来ならそんな早く治らないんだからね?」

 

「いやぁ・・・本当、シンフォギアとS.O.N.Gの治療、そして私の頑丈さには感謝だね~」

 

本来なら治療にはもっと日数がかかるものだが、日和がこうして元気な状態でいられるのは、シンフォギアの各種防御フィールドが機能していたことと、S.O.N.Gの治療・・・さらに付け加えるなら日和の頑丈さのおかげなのだ。

 

「はぁ・・・まぁでも、本当にあなたが無事で何よりだわ」

 

「えへへ、何度もお見舞いに来てくれて、ありがと~」

 

いろいろ言いたいことはあるものの、ひとまず海恋は日和が退院したことを素直に喜び、日和は海恋が毎回お見舞いに来たことに感謝している。

 

「それで・・・未来ちゃんは?」

 

「今日も心ここにあらずって感じよ。無理もないわ。立花さんがあんなことになったもの・・・」

 

「そう・・・だよね」

 

未来はここ1週間、響のことを考えており、気分が沈んでいたようだ。日和は自分が眠っている間、海恋にも同じ気持ちにさせてしまったことを、申し訳なく思っている。

 

「響ちゃんが起きて、胸の歌が壊されたことを知ったら、どう思うんだろう・・・?」

 

「・・・さぁ・・・こればっかりは・・・わからないわ・・・」

 

日和と海恋は未だ眠っている響を心配するのだった。

 

~♪~

 

S.O.N.Gの本部である潜水艦はメンテナンスと補給のために寄港している。ブリッジではオペレーターたちがProject IGNITEの進捗状況を報告する。そのタイミングで日和が入ってきた。

 

「Project IGNITE。現在の進捗は89%。旧二課が保有していた第一号、第二号、及び、第六号聖遺物のデータと、エルフナインちゃんの頑張りのおかげで、予定よりずっと早い進行です」

 

「各動力部のメンテナンスと重なって、一時はどうなることかと思いましたが、作業や本部機能の維持に必要なエネルギーは、外部から供給できたのが幸いでした」

 

この情報は有益なのは確かではある。そこで緒川がある疑問を口にする。

 

「それにしても、シンフォギアの改修となれば機密の中枢に触れるということなのに」

 

この疑問は最もだ。シンフォギアは元々最重要機密事項として完全非公開だったもの。櫻井理論が公表されたとはいえ、この機密情報は決して漏らしてはならないものだ。それを、政府とは何の関係もないエルフナインに情報を開示するのだ。こんなことは本来あってはならないのだ。緒川の疑問に弦十郎が答える。

 

「状況が状況だからな・・・。それに、八紘兄貴の口利きもあった」

 

初めて聞く名前に日和とクリスは顔を見合わせ、首を傾げている。

 

「八紘兄貴・・・?」

 

「八紘兄貴って・・・誰だ?」

 

クリスの質問に弦十郎が答えるよりも先に、翼が答えた。

 

「限りなく非合法に近い実行力を持って、安全保障を陰から支える政府要人の1人。超法規措置による対応のねじ込みなど、彼にとっては茶飯事であり・・・」

 

「え・・・え~っと・・・?」

 

「とどのつまりが何なんだ⁉」

 

人物の概要というまったく答えになっていない翼の説明に日和は頭に疑問符を浮かべ、煮えを切らしたクリスが詰め寄った。そこに緒川が代わりに答える。

 

「内閣情報官、風鳴八紘。指令の兄上であり、翼さんの御父上です」

 

「ししょーのお兄さんで・・・翼さんのお父さん!!?」

 

「だったらはじめっからそう言えよな!蒟蒻問答がすぎるんだよ!」

 

「僕とマリアのS.O.N.G編入を後押ししてくれたのも、その人物なのだが・・・」

 

「なるほど・・・やはり親族だったのね」

 

たった今上がった人物、風鳴八紘が翼の父だと知り、日和は驚愕している。フォルテとマリアは風鳴という苗字から、翼たちの親族であると推察していた。八紘の話になった途端、翼は表情を曇らせている。

 

「ん?どうした、風鳴?」

 

フォルテの問いかけに翼は何も答えない。家庭事情を知っている弦十郎は複雑そうな表情で目を閉じ、頭をかく。そこに未来がブリッジに入ってきた。

 

「響の様子を見てきました」

 

「響さんは生命維持装置に繋がれたままですが、大きな外傷もありませんし、心配いりませんよ」

 

緒川から響の容態を聞いて、無事であることに未来はほっとしている。

 

「ありがとうございます・・・」

 

しかしそれでも心配しており、未来は寂しそうな表情をしている。

 

~♪~

 

これは、大昔の記憶。とある一軒家には木でできたテーブルが置いてあり、そこには試験管やフラスコが置いてあり、壁は石造り、辺りにはあらゆる化学式が描かれている。この家に、キャロルと彼女の父、イザーク・マールス・ディーンハイムが住んでいる。キャロルが分厚い本を読んでいると・・・

 

ドォン!!

 

「うわあああ!!?」

 

突然小さな爆発音とイザークの悲鳴が聞こえてきた。キャロルはそれに驚いて、ビクついた。

 

「パパ?」

 

「・・・爆発したぞぉ?」

 

「・・・うふふふふ」

 

爆発で少し黒く汚れてしまったイザークを見て、キャロルはおかしくて思わず笑った。その後2人は食事をとる。しかし、出された皿には焦げてしまった肉のような塊があった。他に出されてるのはパンとスープだ。キャロルは少しイザークに視線を向ける。イザークは苦笑いを浮かべている。キャロルは意を決して切った肉を口に運んだ。

 

「はむ・・・んむっ!!?」

 

「・・・っうまいか・・・?」

 

「苦いし臭いしおいしくないし、零点としか言いようがないし」

 

キャロルは思ったことを正直に話した。覚悟はしていたものの、娘の辛辣な感想にイザークはため息をこぼし、背中を椅子にもたれかかる。

 

「はぁ・・・料理も錬金術も、レシピ通りにすれば間違いないはずなんだけどなぁ・・・。どうしてママみたいにできないのか・・・」

 

料理がうまいことできず、イザークは天井を見上げる。するとキャロルが椅子から立ち上がり、笑みを浮かべて宣言する。

 

「明日は私が作る!その方が絶対おいしいに決まってる!」

 

「コツでもあるのか?」

 

「内緒。秘密はパパが解き明かして。錬金術師なんでしょ?」

 

「あははは・・・この命題は難題だ」

 

「問題が解けるまで、私がパパの料理を作ってあげる」

 

キャロルは楽しそうに笑っている。キャロルの思い出は、辛い時もあるが、この時の思い出は幸せそのもであった。

 

~♪~

 

Project IGNITEを進めているエルフナインは研究室にこもって強化型シンフォギアの改修を行っている。だが先ほどまでは眠っており、キャロルとイザークの夢を見ていたようだ。

 

「今のは・・・夢・・・?数百年を経たキャロルの記憶・・・」

 

目が覚めたエルフナインはモニターの時刻を確認する。

 

「10分そこら寝落ちしてましたか・・・。でもその分頭は冴えたはず。ギアの改修を急がないと・・・」

 

エルフナインは再び起き上がって、ギアの改修作業を再開させる。そんな中、エルフナインは自分の中にあるキャロルの思い出・・・その中の父、イザークが命題を残したあの日を振り返る。

 

『キャロル。生きて・・・もっと世界を知るんだ』

 

『世界を・・・?』

 

『それが、キャロルの・・・』

 

(パパは何を告げようとしたのかな・・・?その答えを知りたくて、僕はキャロルから世界を守ると決めて・・・。でも、どうしてキャロルは錬金術だけでなく、自分の思い出まで僕に転送複写したのだろう・・・?)

 

エルフナインが考え事をしながら作業を進めていると、ドアのノック音が聞こえてきた。

 

「はい、どうぞ」

 

ドアが開かれると、海恋が研究室に入ってきた。

 

「エルフナイン、どう?調子の方は」

 

「はい。問題ありません。もう少しすれば、4つのシンフォギアの改修が完了します」

 

「本当?すごいわね」

 

ギアの改修とはとても大変なもので、非情に困難なことであるのは海恋もわかっている。何せエルフナインが現れるまではギアを改修できるのは、かつての仲間、櫻井了子しかいなかったからだ。海恋は椅子を取り出して、エルフナインの隣に座る。

 

「ねぇ、よければ少しだけ、手伝わせてくれないかしら?」

 

「お手伝い・・・ですか・・・?」

 

「ええ。さすがに改修とかの作業はできないけど・・・あなたから教えてもらった錬金術の知識は頭に叩き込んだ。2人の知恵を合わされば、きっと早く終わるんじゃないかしら」

 

海恋の知恵の出し合いで手伝いの申し出にエルフナインは驚いている。実は日和が入院している間、海恋はエルフナインから錬金術についての説明をあらかじめ聞いていた。錬金術は複雑な知識ゆえに、理解するのは困難なのだが、海恋はたった1回聞いただけで、それを全て覚えたのだ。その記憶力に驚いたのはエルフナイン自身も覚えてる。

 

「海恋さんは本当にすごいですね。歴代の錬金術師でも、それ程の記憶力を持った人はそういませんでした」

 

「へぇ。そうなのね」

 

「もし・・・海恋さんが別の時代に生まれていれば・・・偉大な錬金術師になっていたでしょうね」

 

「・・・買いかぶりすぎよ。私はただの一般人・・・錬金術師なんかじゃないわ」

 

エルフナインの誉め言葉に、海恋は少し頬を赤らめ、照れくさそうにしながら髪をくるくるといじるのだった。

 

~♪~

 

チフォージュ・シャトーの玉座の間の玉座にキャロルが座っており、目を閉じていた。

 

「・・・頃合いだ。仕上げるぞ」

 

目を開けたキャロルはそう呟いた。中央の台座に鎮座するオートスコアラー全機はすでに出撃していた。1週間まで大人しくしていたキャロル一派は、ついに動き出したのだ。

 

~♪~

 

同時刻、本部内のブリッジにアルカ・ノイズ出現のアラートが鳴り響いた。

 

「アルカ・ノイズの反応を検知!」

 

「座標、絞り込みます!」

 

ドオオン!!

 

オペレーターたちがアルカ・ノイズの出現座標を絞り込んでいると、突如外から爆発音が響き、ブリッジ内が揺れた。モニターで確認すると、アルカ・ノイズが出現したのはここ、補給を受けている発電所であった。

 

「まさか・・・敵の狙いは、我々が補給を受けている、この基地の発電施設・・・!」

 

モニターに映るアルカ・ノイズは発電所に攻撃を仕掛け、施設の一部が次々と分解していく。

 

「何が起きてるデスか!!?」

 

そこへ、切歌と調がブリッジに入ってきた。

 

「アルカ・ノイズに、このドックの発電所が襲われてるの!」

 

「ここだけではありません!都内複数個所にて、同様の被害を確認!各地の電力供給率、大幅に低下しています!」

 

モニターで他の発電施設を確認してみると、確かにここの施設と同じように襲撃にあっており、施設から煙が出ていた。現段階で出撃できるのはフォルテのみ。他の施設に援護を回せない以上、この施設こそが最後の砦だ。

 

「今本部への電力供給が断たれると、ギアの改修への影響は免れない!」

 

「内臓電源も、そう長くは持ちませんからね・・・」

 

「それじゃあ、メディカルルームも・・・」

 

最後の砦であるこの施設が破壊されれば、補給が断たれてしまうだけでなく、治療を受けている響にも影響を及ぼすだろう。

 

「フォルテ君!直ちに発電所の防衛を・・・」

 

「心得ている!!」

 

今やるべきことを理解しているフォルテは弦十郎が指示を出す前に、アルカ・ノイズを殲滅するためにブリッジを出ていった。フォルテがブリッジを出たと同時に、調はどこからともなくメガネを取り出し、それをかける。

 

「ど、どうしたデス調・・・」

 

「しー・・・」

 

「?」

 

調は意図を理解できていない切歌の手を引き、全員に気付かれないようにブリッジを抜け出した。抜け出した後調はどこかに向かって走り出し、切歌は調と同じようにメガネをかけて彼女の後をついていく。

 

「潜入美人捜査官メガネで飛び出して、いったい何をするつもりデスか⁉」

 

「時間稼ぎ・・・!」

 

「何デスと!!?」

 

「今大切なのは、強化型シンフォギアの完成までに必要な時間と、エネルギーを確保すること!」

 

「確かにそうデスが、まったくの無策じゃ何も・・・」

 

「まったくの無策じゃないよ」

 

調と切歌が向かった先というのは響が眠っているメディカルルームだった。2人はメディカルルームの中に入る。

 

「メディカルルーム?こんなところでギア改修までの時間稼ぎデスか?」

 

「このままだと、メディカルルームの維持もできなくなる」

 

調は生命維持装置に繋がって眠っている響の顔を覗き込んだ。調の心情を理解している切歌は微笑ましい笑みを浮かべる。

 

「だったらだったで、助けたい人がいると言えばいいデスよ」

 

「嫌だ」

 

「どうしてデスか?」

 

切歌の純粋な疑問に調は恥ずかしそうに頬を朱に染めている。

 

「・・・恥ずかしい・・・。切ちゃん以外に、私の恥ずかしいところは見せたくないもの」

 

「・・・!調~~!!」

 

調の言葉に切歌は感激し、彼女に抱き着こうとする。だがその前に調は何かを発見し、そちらへ向かったことで抱き着きは回避され、床と激突する切歌。

 

「ててて・・・まったくなんデスか、もう・・・」

 

調は見つけた何かのロックの解除行動に移っていた。ロックは解除され、中が開かれた。

 

「見つけた・・・」

 

中に入っていたのは、今調と切歌にとって、必要不可欠なものであった。

 

~♪~

 

発電所ではこの場所の防衛のために、自衛隊がアルカ・ノイズとの銃撃戦が繰り広げられている。

 

「新型ノイズの位相差障壁は従来ほどではないとのことだ!解剖器官を避けて集中斉射!」

 

自衛隊はライフルやバズーカなどを用いて、アルカ・ノイズに向けて一斉射撃を行っている。ライフルの弾やバズーカはアルカ・ノイズに直撃し、ダメージを与えられている。アルカ・ノイズとは簡単に言うならば人工的に造り上げられたノイズ。本来のノイズに存在する位相差障壁よりも弱い。だからこそ通常兵器でもダメージを与えることができる。

 

「いけそうです!」

 

「ぐわああ!!」

 

だがその分、分解能力は凶悪だ。本来のノイズは人間を炭素変換する際自分も炭素と化す。だがアルカ・ノイズは何かを分解しても分解されず、次の標的に襲い掛かるのだ。その性質もあって自衛隊は数が多いアルカ・ノイズにダメージを与えられても、好転に立ち回ることが難しく、アルカ・ノイズに襲われて1人、また1人と分解していく。

 

Ragnarok Dear Mistilteinn tron……

 

そこにフォルテが現場に到着し、シンフォギアを身に纏ってアルカ・ノイズの群れに接近する。フォルテは大剣を手に持ち、大剣の一振りで複数体のアルカ・ノイズを薙ぎ払う。さらに追撃で大剣を振るっていき、アルカ・ノイズを斬り倒していく。だがそれでも数が多く、アルカ・ノイズは自衛隊をまた1人分解していく。

 

「ちぃ・・・!」

 

フォルテは襲われている自衛隊員を守るために大剣を銃に変形させ、アルカ・ノイズの群れに向けてエネルギー弾を連射していく。

 

【Mammon Of Greed】

 

自衛隊を襲っているアルカ・ノイズはエネルギー弾に直撃し、殲滅する。だがそれでも全滅には至らず、他の陣に配置している自衛隊もまた1人アルカ・ノイズによって分解されていく。

 

「くっ・・・このままでは・・・」

 

戦況が好転できない状況下にフォルテは苦虫を嚙み潰したような表情になる。すると・・・

 

「行くデス!」

 

「うん!」

 

Various Shul Shagana tron……

 

Zeios Igalima Raizen tron……

 

施設の屋根に立っていた調と切歌が詠唱を唄い、シンフォギアを身に纏い、戦線に介入してきた。調はツインテールの部位を展開し、複数の丸鋸をアルカ・ノイズに放った。

 

【α式・百輪廻】

 

放たれた複数の丸鋸はアルカ・ノイズを切り刻み、群れを殲滅させていく。さらに切歌は鎌の刃を3つに展開し、アルカ・ノイズに向けて刃を放った。

 

【切・呪りeッTぉ】

 

ブーメランのように放たれた刃はアルカ・ノイズを次々と斬り裂いていく。

 

「月読⁉暁⁉」

 

突然調と切歌が戦線に介入したことでフォルテは多少なりとも驚いている。その間にも調はツインテール部位に大型丸鋸を展開し、アルカ・ノイズを切り刻み、切歌は鎌を振るってアルカ・ノイズを一刀両断する。

 

「フォルテ!助太刀するデス!」

 

「き、君たち・・・」

 

『お前たち!!何をやっているのかわかっているのか!!?』

 

フォルテが2人を叱る前に弦十郎が通信越しで2人に怒鳴ってきた。だが2人はそんな怒鳴り声は気にしない。

 

「もちろんデスとも!」

 

「今のうちに、強化型シンフォギアの完成をお願いします!」

 

「・・・君たち、事が終わったら説教で済むと思うなよ!」

 

今はなによりもシンフォギアの改修が最優先なのはフォルテもわかっている。ゆえに彼女は異を唱えることはせず、アルカ・ノイズ殲滅を優先する。調と切歌もアルカ・ノイズの殲滅を再開する。フォルテは大剣で、切歌は鎌で、調は鋸でそれぞれの戦法を用いてアルカ・ノイズを蹴散らしていく。遠距離攻撃を放つアルカ・ノイズは切歌に向けて解剖器官の弾を放つ。

 

「当たらなければぁ!!」

 

切歌は空中で鎌を振り回して軌道を変えて解剖器官の弾を躱し、そのまま遠距離攻撃型のアルカ・ノイズを鎌で斬り倒す。調は脚部の小型丸鋸をローラーのように利用し、アルカ・ノイズの群れの中央まで移動する。中央に到達した調はスカートを鋸に変形させ、自身も回転しながら鋸でアルカ・ノイズを刻んでいく。

 

【Δ式・艶殺アクセル】

 

さらにフォルテは右手に持つ大剣を変形させ、両端に刃を展開させ、両剣となった大剣をアルカ・ノイズに振るっていく。

 

【Leviathan Of Envy】

 

フォルテの振るう両剣によって彼女の周囲のアルカ・ノイズは斬り倒されていく。3人の力によって状況は少しは好転してきた。その様子を2体のオートスコアラー、リリィとミカは発電施設のパネルの上に乗って眺めていた。

 

「ニコイチでもギリギリ?これはお先真っ暗だゾ」

 

「如何なる状況下であれ、マスターの命令は絶対です。それを阻む者には、裁きを下さねばなりません」

 

ミカは少し呆れた様子で見つめ、リリィは冷たい視線でアルカ・ノイズと戦っている3人を見つめるのであった。




ミスティルテインの技

【Satan Of Wrath】
フォルテの技。日本語に略すとサタンの憤怒。地中から複数の剣が出現し、空中の標的を貫く技。翼の技、千ノ落涙の逆バージョン。剣で標的を止めるという使い方もある。

【Leviathan Of Envy】
フォルテの技。日本語に略すとレヴィアタンの嫉妬。大剣の刃が両端に展開し、両剣に変形させ、両剣による剣技を放つ技。両剣を渦潮のように回転させ、周りの敵を切り刻む戦法もある。


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越えられない壁

メディカルルームで眠っている響は夢を見ていた。その夢は3年前・・・世間からバッシングを受け続けた日々。その夢の中で、自身の父親の姿を見た。

 

(私・・・みんなで暮らせるように、リハビリ頑張ったよ・・・?なのに・・・どうして・・・?お父さん・・・)

 

現実と同じように、夢の中でも父親と手を繋ぐことができなかった響は、涙を流しながら夢から覚め、目を開いた。父親のことを夢で思い出し、響は自身の手を見つめる。

 

(大切なものを壊してばかりの私・・・。でも未来は、そんな私に救われたって励ましてくれた・・・)

 

気落ちはしたものの、響はゆっくりと起き上がる。

 

「未来の気持ちに応えなきゃ・・・」

 

響は胸に手を当てる。そこでギアネックレスがないことに気がつき、思い出した。リリィに手も足も出せず、一方的にやられ、ギアを破壊されてしまったことを。響は不甲斐なく思い、体が震えた。

 

~♪~

 

S.O.N.Gの潜水艦のブリッジで、オペレーターたちは戦線に介入してきた調と切歌のバイタルを確認する。現在の調と切歌に表示されているバイタルは、以前のものとは違っていた。

 

「シュルシャガナとイガリマ、装者2人のバイタル安定・・・?ギアからのバックファイアを低く抑えられています!」

 

そう、調と切歌のシンフォギアの適合係数が基準値に入っており、ギアのバックファイアを受けていないのだ。

 

「いったいどういうことなんだ!!?」

 

クリスの疑問の通り、2人はフォルテと同じく、自身の身体にあったLiNKERを投与しなければシンフォギアを纏うことはできない。当然ながら、響のような例外はともかく、突然適合係数が上がるなんてことはなく、model_RのLiNKERはフォルテが管理している。ではどうして適合係数が安定しているのか。心当たりがあった緒川が口を開いた。

 

「さっきの警報・・・そういうことでしたか・・・」

 

「ああ・・・あいつらメディカルルームからもう1つのLiNKERを持ち出しやがった・・・!」

 

「まさか、model_Kを⁉奏の残したLiNKERを・・・」

 

model_Kはかつてのガングニールの適合者、翼のパートナーであった天羽奏に合わせて作られたLiNKERである。model_Rと同じく旧式のため、身体の負担が大きく、危険度が高い。2人は、そのmodel_Kを使って適合係数を上げたのだ。ただ1つ不安要素があるとすれば、2人はどちらのLiNKERも適応できてないということだ。

 

~♪~

 

時間は調と切歌がメディカルルームに入り、LiNKERを見つけたところまで遡る。

 

「まったく調ってば、穏やかに済ませられないタイプデスか?」

 

「メディカルルームならシンフォギアのバックファイアを治療する薬があってもおかしくないもの」

 

「訓練の後、リカバリーを行うのもここだったデス」

 

調がLiNKERを取り出そうとして、それに触れた時・・・

 

ヴゥー!ヴゥー!ヴゥー!

 

警報音が鳴り響いた。調と切歌はお互いに顔を合わせ、首を縦に頷き、いくつかのLiNKERを持ち出していった。緒川の言っていた警報とは、この出来事を指していたようだったのだ。

 

~♪~

 

チフォージュ・シャトーの玉座、キャロルは玉座に座り、各地の発電施設の様子をモニターで見ていた。各モニターには、各オートスコアラーが発電施設を襲撃している。

 

1つの発電施設は、レイアが錬金術を用いて、既に破壊を完了させている。

 

「対象、派手に破壊完了・・・」

 

他の発電施設では、ガリィが水の錬金術を用いて、パネルを破壊している。

 

「まるで積み木のお城。レイアちゃんの妹に手伝ってもらうまでもないわね」

 

他の発電施設では、シャルがレールガンで発電施設やパネルに雷の弾丸を撃ち放ち、建物全体を感電させて、過電流を引き起こして破壊している。

 

「ヒーハー!!スパーキン、デストローーーイ!!」

 

さらに他の発電施設ではファラが数多の竜巻を引き起こし、ソードブレイカーを用いて発電施設を破壊していく。

 

このように、オートスコアラーたちはキャロルの指示通りに発電施設を襲撃し、破壊の限りを尽くしている。この様子をキャロルはモニターを介して見ているのだ。そこに、ファラからの通信が入る。

 

『該当エリアのエネルギー総量が低下中。まもなく目標数値に到達しますわ』

 

「レイラインの解放は任せる。オレは、最後の仕上げに取り掛かる」

 

『いよいよ始まるのですね』

 

「いよいよ終わるのだ。そして万象は、黙示録に記される」

 

キャロルは計画の総仕上げのために、玉座から立ち上がった。

 

~♪~

 

S.O.N.Gの潜水艦が寄港している発電施設を守るため、フォルテ、調、切歌は襲い掛かるアルカ・ノイズを次々と殲滅していく。

 

「ギアの改修が終わるまで!」

 

「発電所は守ってみせるデス!」

 

調と切歌がそう言い放つと同時に、ずっと戦闘を見ていたミカが動き出した。

 

「そ~りゃ~!」

 

「!!」

 

ミカは切歌に向けて右手に持ったカーボンロッドで殴りかかってきた。切歌はミカの気配を感じ取り、鎌でカーボンロッドの一撃を凌いだ。調が援護に回ろうとした時、ミカは左手にカーボンロッドを取り出し、切歌に打撃を与え、彼女を駆けつけた調を巻き込んで吹っ飛ばす。

 

「「きゃああああ!!」」

 

「暁!月読!・・・!!」

 

フォルテがそれを見て、ミカに近づこうとした時、背後から殺気を感じ取り、後ろを振り向いて両剣を振るった。

 

ガキンッ!!

 

空に向けて振るった両剣は透明な何かに激突し、鳴るはずがない金属音を鳴らした。この音は、氷で風景と一体化したリリィの氷の刃との激突音だ。

 

「見えない相手・・・立花をやったオートスコアラーか!」

 

透明化しているリリィはフォルテの両剣を右腕の氷の刃で止め、左足でフォルテの横腹に蹴りを入れた。

 

「ぐあっ!!?」

 

透明化しているため、目で見ることができないフォルテは対処できずに蹴りをまともに喰らい、吹っ飛ばされた。彼女が吹っ飛ばされたと同時に、リリィに纏っていた透明の氷にひびが入り、割れたことで姿を現した。リリィの左足の氷は金槌のような鈍器となっている。

 

~♪~

 

切歌と調がミカに、フォルテはリリィに吹っ飛ばされた姿は潜水艦のブリッジのモニターで映し出された。

 

「調!切歌!」

 

「フォルテさん!」

 

「このまま見ていられるか!!」

 

仲間の窮地を黙って見ていることができないクリスはすぐにブリッジに出て3人を助けようと動く。だがクリスがブリッジに出たところで翼が彼女の腕を掴んで止めた。

 

「待て!今の私たちに何ができる!!」

 

「黙って咥えてろってのか!!」

 

クリスは翼の言い分に反論しようとするが、握られた手の力強さ、そして翼の真剣な表情を見て、思いとどまった。翼も同じ気持ちであるからだ。そこに日和もブリッジから出てくる。

 

「クリス・・・焦る気持ちはわかるけど・・・今は堪えて」

 

「・・・・・・」

 

日和の言葉を聞いて、クリスも少しは落ち着きを取り戻した。それでも表情は悔しさで満ちていた。

 

「翼さん、クリスさん、日和さん」

 

そこに、研究室から出てきたエルフナインが声をかけてきた。

 

「3人にお願いがあります」

 

エルフナインは3人にとある協力の申し出を出してきた。

 

~♪~

 

吹っ飛ばされた調と切歌、フォルテは起き上がり、襲撃してきたオートスコアラー2機を見据える。

 

「あいったたた・・・」

 

「簡単にはいかせてもらえない・・・」

 

「さらに厄介なのは・・・あの透明化するオートスコアラーもいるということだ」

 

リリィは両腕を背中に組んで、静かに佇み、ミカはカーボンロッドの上に乗り、やじろべぇのように立っている。

 

「我が崇高なる主であるマスターに歯向かう罪・・・その身をもって償っていただきましょうか」

 

リリィは両足に氷のローラー、両腕に氷の刃を創り出す。

 

「こいつらには生半可な力では通用しない・・・ならば・・・」

 

フォルテはそう言って懐からmodel_RのLiNKERを取り出す。

 

「じゃりんこ共~、あたしは強いゾ~」

 

「子供だとバカにして・・・」

 

「目にもの見せてやるデスよ!」

 

ミカの挑発的な発言で調と切歌はmodel_KのLiNKERを取り出した。

 

~♪~

 

3人がLiNKERを取り出したということは、さらにLiNKERを自身に打ち込もうとしているのだと誰もが気づいた。そしてLiNKERの過剰投与で命の危険性を高めてしまうことも理解している。

 

「!さらにLiNKERを・・・!」

 

3人がLiNKERの過剰投与しようとしている姿を見て、未来は驚愕する。

 

「3人を連れ戻せ!!これ以上は・・・」

 

『止めてくれるな!』

 

弦十郎が指示を出そうとしたところで、フォルテが通信越しで止めた。

 

『こうでもしなければ、奴らとまともに戦えない。そして、ここを破られれば、シンフォギアの改修に影響を及ぼす!ならば、引くわけにはいかない!』

 

フォルテの言い分はわかるが、命の危険性がある以上、弦十郎はこれ以上戦闘を続けさせるわけにはいかなかった。

 

「しかし!!」

 

「やらせてあげてください」

 

そこでマリアが3人の背中を後押しする声が上がった。

 

「これは、あの日道に迷った臆病者たちの償いでもあるんです」

 

「臆病者たちの償い・・・?」

 

「・・・誰かを信じる勇気がなかったばかりに、迷ったまま独走した私たち。だから、エルフナインがシンフォギアを蘇らせてくれると信じて戦うことこそ、私たちの償いなんです!!」

 

そう語るマリアは唇を噛みしめ、血を流している。本当は止めたい気持ちはあったが、マリアはぐっと堪え、3人を信じる道を選んだ。弦十郎はそう言われてしまっては何も言えず、3人の戦いを静かに見守ることを決めた。

 

~♪~

 

ミカとリリィと対峙するフォルテはガンタイプの注射器を自分の首筋に当て、LiNKERを投与しようとしている。

 

(こんなことで、亡くなった者たちへの償いになるとは思わない。しかし・・・ここで引くわけにはいかない・・・。成すべきことを成し遂げられないようでは・・・これまで犠牲になった者たち・・・そして最愛の友・・・セレナに合わす顔がない!)

 

フォルテの決意を現すかのように、LiNKERを自身に投与した。それと同時に、調と切歌もお互いに手を合わせ、ガンタイプの注射器をお互いの首筋に当てた。

 

「2人でなら・・・」

 

「怖くないデス!!」

 

調と切歌はお互いの首筋にLiNKERを同時に投与した。これで3人の適合係数が今以上に上がり、力がみなぎってくる。そしてそれと同時に、3人の鼻から鼻血が出てきた。

 

「オーバードーズ・・・」

 

そう、これはLiNKERの過剰投与のオーバードーズによるものだ。3人は垂れてきた鼻血を拭く。

 

「鼻血がなんぼのもんかデス!!」

 

「・・・いくぞ!」

 

先手としてフォルテは両剣を構え、リリィに向かって走り出す。

 

「・・・粛清を」

 

リリィはフォルテが動いたと同時に動き、フォルテに向かって右手の氷の刃を振るった。フォルテはリリィの氷の刃を両剣で防いだ。

 

「私たちも行こう、切ちゃん!一緒に!」

 

「切り刻むデス!!」

 

切歌は両手に持つ鎌の刃を展開し、それを1つに束ね、禍々しい鎌へと変形させる。

 

【対鎌・螺Pぅn痛ェる】

 

調はツインテール部位のアームより大型丸鋸を展開し、回転し始める。2人は並び立ち、ミカと対峙する。

 

「お!面白くしてくれるのか?」

 

カーボンロッドの上に立っていたミカは飛び上がり、調と切歌に向けてカーボンロッドを投げ放った。調と切歌は迫ってくるカーボンロッドを飛んで躱す。

 

「おぉ!」

 

ミカはさらに切歌に向けてカーボンロッドを3回右手から射出する。切歌はブースターを使ってミカに接近しながら放たれたカーボンロッドを鎌で弾き、そのままミカに鎌を振るった。ミカはカーボンロッドで難なく受け止めたが、すぐにひびが入る。カーボンロッドが破壊されると同時に、ミカはしゃがんで鎌を躱した。追撃として調がミカに向けて回転する大型丸鋸を放った。

 

【γ式・卍火車】

 

向かってきた2つの大型丸鋸をミカはカーボンロッド1本で弾き返した。だが調の攻撃はまだ続く。調は脚部の鋸を車輪のように展開し、ミカに接近する。

 

【非常Σ式・禁月輪】

 

ミカはニタニタ笑いながら向かってきた調の車輪鋸をカーボンロッドで受け止めた。カーボンロッドは回転する鋸の刃の負担に耐え切れず、真っ二つに引き裂かれた。同時にミカは鋸を横に躱してからジャンプして距離を取る。

 

「ふっ・・・さすがだな・・・僕も2人に負けていられん!」

 

リリィの氷の刃を受け止めているフォルテは両剣を押し上げてリリィの右腕を無理やり上げさせ、両剣を振るって追撃する。だがその攻撃はリリィの左手の氷の刃で防がれる。

 

「・・・お薬のおかげで、確かに出力も上がっているようですね。しかし・・・あの2人、そしてあなたのその輝きもまた時限式・・・その程度で勝てると本気で思っているのですか?」

 

リリィは再び右手の氷の刃をフォルテに振るった。フォルテはマントを操って氷の刃を防ぎ、両剣を分離して双大剣にして、左手に持った大剣でリリィを薙ぎ払おうとする。リリィは両足のローラーを利用して後ろ向きで滑ってフォルテの一撃を躱す。スケーターのように滑るリリィは地面に突き刺さっていたミカのカーボンロッドを一瞬で凍らせ、氷の刃で打ち込んでフォルテに放った。フォルテは双大剣を振るってカーボンロッドを破壊する。

さらに追撃としてリリィは空気を凍らせ、氷柱をいくつも作り上げ、フォルテに放った。フォルテは双大剣を元の両剣に戻し、回転させて氷柱を壊していく。氷柱を対処している間にもリリィの姿はどこにもなかった。フォルテは両剣を大剣に戻し、地に突き刺した。同時に地に複数の剣が現れる。

 

【Satan Of Wrath】

 

複数の剣が出現したがフォルテにはわかる。剣は全てリリィには直撃していないことを。

 

(落ち着け・・・見えない相手は目で追うな・・・。奴は必ずどこかにいる・・・集中力を研ぎ澄まし、奴を見つける・・・!)

 

フォルテは目を閉じて、集中力を研ぎ澄ませる。オートスコアラーには心臓音、呼吸音など存在しない。さらに暗殺タイプの相手は足音を殺すことも簡単だ。頼りになるのはほんの一瞬で放たれる殺気・・・そして集中力。フォルテは集中し、五感を研ぎ澄ましてリリィの殺気が放たれるその瞬間を待つ。待ち続けていると、背後より僅かながらの殺気がフォルテに迫ってきた。

 

「そこかぁ!!」

 

フォルテは殺気に向けて大剣を振り下ろした。大剣は何の手ごたえも感じず、そのまま地面と衝突し、土煙が発せられる。

 

「大雑把。そんな攻撃が私に当たるとでも?」

 

土煙が立ち込める中、フォルテは見えた。土煙の土が人の形になっており、人の形が今、フォルテの背後で刃を振るおうとしているのが。

 

「はあ!!」

 

フォルテは大剣を分離して双剣にし、人の形に向けて左手の剣を振るった。人の形は剣に直撃した。吹っ飛ばされた人の形にひびが入り、割れると同時にリリィが出現した。吹っ飛ばされているリリィは地面の剣に右手で掴み、凍り付かせ、凍った剣の上に乗った。フォルテは双剣を大きくさせ、高く飛んでリリィに向けて双大剣を振るった。

 

【Belial Of Vanity】

 

高い場所から振り下ろされる斬撃をリリィは両腕の氷の刃で難なく受け止めた。

 

「なるほど・・・先ほどの一撃は攻撃のためではなく、土煙で私の位置を特定するためだったのですね。僅かな殺気を感じ取ることと言い・・・少々やるようですね。ですが・・・それは何の攻略法にもなっていません」

 

リリィは氷の刃でフォルテの双大剣を押し返し、再び氷を身に纏って姿を消す。押し返されたフォルテは地に着く。

 

(奴が身に纏っていたものは氷・・・その氷はステルス機能だけでなく、防御も盤石だとは・・・!)

 

リリィの身に纏う氷はステルスだけでなく、防御性能もいかんなく発揮しているようで、ダメージが入っていない。それにフォルテは苦虫を噛みしめた表情になる。一方、施設のパネルの上でミカと戦いを繰り広げている調は丸鋸で、切歌は鎌で攻撃を繰り出した。ミカは両者の攻撃をカーボンロッドで凌いだ。

 

「子供でも下駄を履けばそれなりのフォニックゲイン・・・出力の高い子猫1人で十分かもだゾ」

 

ニヤリと笑うミカ。調は両手に持った武装を1つに束ね、ヨーヨーのように空高くに放ち、刃を展開する。展開した刃は回転し、調はそれをミカに向けて放った。

 

【β式・巨円斬】

 

回転する刃をミカは両手を掲げて、炎で結晶のようなものを作り上げ、それで弾いた。追撃として調と切歌は高く飛び、一回転し、調は鋸の刃を、切歌は鎌の刃を片足に展開して、ミカに向けて蹴りを放つ。2人の刃が展開された蹴りは結晶のようなものに直撃する。

 

「どっかーん!」

 

「「!!」」

 

ドカアアアアアン!!!!

 

結晶のようなものは発火し、爆弾のように爆発した。

 

「月読!!暁!!」

 

「よそ見をしている場合ですか?」

 

「・・・!」

 

フォルテは爆発に巻き込まれた2人を心配した時、またも殺気が近づいてきたのに気がつく。フォルテは先ほどと同じ要領で土煙を放とうと大剣を地に向けて振り下ろした。だが地面は凍り付いており、打撃を与えても、土煙が現れない。

 

「何っ!!?」

 

フォルテが驚いている間にも、彼女の身体に一筋の傷ができ、傷が凍り付く。

 

「くっ・・・!」

 

「同じ手は二度も通用しません」

 

フォルテは出ている殺気に向けて大剣を振るうが、空振り。その間にもフォルテには次々と傷が増えていく。

 

(早すぎて・・・対処しきれない・・・!)

 

対処できずにフォルテは躱す動作をするが、それでも傷は増えていく。そして、ステルス化した氷にひびが入り、割れてリリィが姿を現した。それと同時にフォルテにできた傷の氷は砕け散り、血は一気に噴き出す。

 

「がっ・・・!」

 

大きなダメージを負ったフォルテは大剣を地に刺して、身体を支える。

 

~♪~

 

発電施設のパネルが破壊されたことで、潜水艦の電源が切れ、モニターの画面と電気が消える。

 

「内臓電源に切り替えます!」

 

すぐに潜水艦の内臓電源に切り替わったことで電気はつき、モニターも映し出された。

 

「負けないで・・・!」

 

「お願い、セレナ・・・3人に奇跡を・・・!」

 

未来とマリアが3人の勝利を祈っていると、ブリッジに響が入ってきた。

 

「!響君!」

 

「響!!」

 

未来は響が目を覚ました喜びで彼女に抱き着いた。

 

「ありがとう・・・響のおかげで私・・・」

 

「私の方こそ。また歌えるようになったのは、未来のおかげだよ」

 

響は未来に向けてにっこりと微笑んだ。

 

「・・・でも・・・平気なの・・・?」

 

「大丈夫!へっちゃらだよ!」

 

そうは言うものの、響は悔しさからか、拳を強く握っていた。

 

「・・・状況を・・・教えてください」

 

響はすぐに弦十郎に現在の状況を訪ねた。現在の状況は、モニターに映っている通りだ。

 

~♪~

 

オートスコアラー2機の圧倒的な力の差を見せつけられた3人は痛みに耐えつつ、立ち上がっている。同時にフォルテは、目の前の壁は越えられないことに気付いている。

 

「くっ・・・手合わせをしてわかった・・・今の僕らでは・・・奴らには勝てない・・・!」

 

「そんな・・・。これじゃあ・・・何も変わらない・・・変えられない・・・」

 

「こんなに頑張っているのに・・・どうしてデスか!!?こんなの嫌デスよ・・・変わりたいデス!!」

 

非情な現実を突きつけられ、3人は悔しい気持ちでいっぱいになる。

 

「まぁまぁ強かったゾ!でもそろそろ遊びは終わりだゾ!」

 

ミカはニヤニヤしながらそう言ってツインロールの髪の毛をブースターとして使い、切歌の懐まで急接近した。

 

「ばいなら~!」

 

ミカは左手よりカーボンロッドを射出し、切歌のギアコンバーターにダメージを与え、砕け散った。反応に遅れた切歌は吹っ飛ばされ、ギアが分解され、一糸まとわぬ姿となった。

 

「切ちゃん!!」

 

調はすぐに切歌に駆けつけようとする。

 

「待て月読!!下手に・・・」

 

フォルテが調を止めようとした時にはすでに遅い。調のギアコンバーターは何か斬りつけられた瞬間に凍り付いた。

 

「え・・・?」

 

「敵に背後を見せたのが、命取りですね」

 

風景にヒビが入ったと同時に、粉々に砕け散り、リリィが姿を現した。それと同時に、凍り付いた氷が砕け散り、調はダメージを負い、一糸まとわぬ姿となって倒れる。

 

「月読!!」

 

「・・・マスターに下された命令はあなたのギアを破壊すること。どんな手を使ってでも果たしてみせます」

 

「それ~!」

 

リリィとミカはアルカ・ノイズの結晶を辺りにばら撒き、アルカ・ノイズを召喚した。フォルテはアルカ・ノイズに囲まれてしまう。

 

「フォル・・・テ・・・」

 

「何も心配するな。君たちは僕が守る」

 

「始まるゾ、バラバラ解体ショー!!」

 

「・・・やりなさい」

 

ミカとリリィの指示でアルカ・ノイズは一斉にフォルテに襲い掛かる。フォルテは襲い掛かるアルカ・ノイズを迎え撃ち、大剣で次々と薙ぎ払う。だが、リリィとの戦いでフォルテの体力は限界に近い。

 

「フォルテ・・・逃げて・・・」

 

「できるものか!大切な仲間を・・・家族を・・・僕は!!」

 

調はフォルテに逃げるように言った。だがフォルテは決して見捨てはない。アルカ・ノイズの分解器官を避けながら、大剣で1体、また1体と倒していく。

 

「そう、あなたはアルカ・ノイズ程度では倒されない」

 

フォルテがアルカ・ノイズに対処していると、フォルテの背後より、リリィが忍び寄ってきた。

 

「!しま・・・」

 

「ゆえに・・・あなたは私が破壊します」

 

フォルテが気づいた時にはリリィが右腕の氷の刃はすでに、フォルテのギアコンバーターを斬りつけ、凍り付かせた。そして、素早く氷が砕けて、ギアコンバーターは破損し、フォルテは一糸まとわぬ姿となってしまう。

 

「がぁ・・・!」

 

フォルテが倒れようとした時、リリィは彼女の首を右手で掴み、締め上げている。リリィはフォルテを持ち上げ、足元に氷の高台を作り上げ、足場を高くする。氷の高台の周りにはアルカ・ノイズが集まっている。

 

「ぐっ・・・き・・・貴様・・・!」

 

「ずいぶんと手こずりましたが・・・これで命令は果たされました。そのお礼として、楽に始末して差し上げます」

 

「や・・・やめて・・・」

 

調はやめるように懇願する。リリィはその声にちょうど良いと言いたげな様子で調と切歌に向けて口を開く。

 

「これは見せしめです。その目でじっくり見るのです。マスターに歯向かうとどうなるか・・・」

 

リリィは口もとの口角を上げ、鋭利な歯を見せ、目を見開いた。その表情には、まさに狂気がはらんでいた。

 

「大切なお仲間が・・・バラバラになるのを見て、絶望しながら思い知りなさい」

 

リリィはフォルテの首を離し、彼女をアルカ・ノイズの群れに落とした。このまま落ちればフォルテはアルカ・ノイズに分解され、死亡してしまうだろう。

 

「誰か・・・フォルテを・・・誰かああああああああ!!!」

 

切歌は叫び、思わず目を瞑った。調も目を瞑る。しかし、いつまでたっても、フォルテの悲鳴は聞こえてこない。2人は恐る恐ると目を開けてみると、アルカ・ノイズは分解器官が切り裂かれ、ハチの巣のように風穴があいていた。

 

「え・・・?」

 

「誰かだなんて、ツレねぇこと言ってくれるなよ」

 

聞き覚えのある声が聞こえてきた。アルカ・ノイズの群れの奥には、誰かがフォルテをお姫様抱っこで抱えていた。

 

「何とか・・・間に合った!」

 

散っていくアルカ・ノイズを葬ったのは、きらめきを見せている刀であった。

 

「剣・・・?」

 

「ああ・・・振り抜けば、風が鳴る剣だ!」

 

この窮地を救ったのは・・・強化型シンフォギアを身に纏った翼、日和、クリスの3人であった。3人の頑張りは、今ここに、形となって実った。




レールガン

雷のオートスコアラーシャルの雷の錬金術を最大限に活用することができる哲学兵装。弾は全て電気でできている。レールガンの弾に直撃した物体はシャルの意思で何でも感電させることができ、物質の防御は絶対不可能。武器に直撃した場合の対処法は武器を手放す他ないのだが、感電するスピードが速いため実現は難しい。ゆえにシャルと渡り合うためには、レールガンの弾を絶対に避けることが必須となってくる。


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心の闇

我が作品のキャロルちゃん、若干ながら強化されてるかもしれません。

次回の更新はクリスマスにしようかと思っております。


これはキャロルの大昔の記憶。少し肌寒さが残る山をキャロルとイザークは登っていく。山の平原には黄色い花が咲き誇り、美しい青い湖は大空の光を反射している。

 

『パパ、どこまで行くの?』

 

『この先でとれるアルニムという薬草には高い薬効があるらしい。その成分を調べて、はやり病を治す薬を作るんだ』

 

イザークは心優しい男だ。錬金術さえ用いれば、金を錬成し、巨大な富を作ることだって可能なのだ。だがイザークはそのようなことに錬金術は使わず、人々の幸福のために力を振るっている。

 

『見てごらん』

 

『わあぁぁ・・・!』

 

イザークに促され、山の美しい大自然を見て、キャロルは感嘆の声を上げた。

 

『パパはね、世界の全てを知りたいんだ。人と人がわかり合うためには、とても大切なことなんだよ』

 

人同士がわかり合うためには、相手をよく知る必要がある。それが世界中の人というのならばなおさらだ。人はもちろんのこと、世界をもっと知る必要がある。イザークはそれを知っているのだ。

 

『さあ、もう少しだ。行こう』

 

チフォージュ・シャトーの玉座の間の玉座に座っているキャロルはその記憶を思い出していた。

 

「ああ行くとも。思い出を力と変えて・・・。万象黙示録の完成のために・・・!」

 

キャロルは玉座から立ち上がった。

 

~♪~

 

フォルテ、切歌、調が奮闘するも、発電施設は破壊されてしまった。だが間一髪だが、強化型シンフォギアの改修が完了したことにより、翼、日和、クリスはそれを身に纏い、戦線に立っている。

 

「フォルテさん・・・しぃちゃん、切ちゃん・・・ありがとう。おかげで間に合ったよ」

 

日和はここまで頑張ってくれた3人に労いの言葉をかける。フォルテはその言葉に安堵して、笑みを浮かべて気を失った。翼、日和、クリスはミカとリリィに視線を向ける。

 

「さて、どうしてくれる?先輩、相棒」

 

「そうだね・・・フォルテさんやかわいい後輩をここまで痛めつけてくれたからね・・・」

 

「反撃・・・程度では生ぬるいな。逆襲するぞ!」

 

ミカは楽しげに笑っており、リリィは静かに3人を見下ろしている。

 

~♪~

 

一方、S.O.N.Gの潜水艦のブリッジのモニターでは、一糸まとわぬ姿となり、気を失ったフォルテの裸体が映し出されていた。

 

「男どもは見るな!!!」

 

「ぬ」

 

「んぐ」

 

「うぁぁ!!?な、ななな、なんで私まで!!?」

 

「あ、ごめん・・・!つい勢いで・・・」

 

マリアが女性代表として叫び、弦十郎と藤尭が目を背け、なぜか未来が響の目を塞いでいた。戦闘管制担当である藤尭はこのままでは職務遂行できないので、恥を承知で進言する。

 

「モニターから目を離したままでは、戦闘管制ができません!」

 

「何その必死すぎるボヤきは⁉」

 

「3人が撤退するまでの間よ。それに、今の翼とクリス、日和ならそれくらい問題ないはず」

 

藤尭の進言は友里とマリアの言葉であっけなく両断された。マリアは、3人が戦闘管制がなくても、十分に渡り合えると確信していた。

 

~♪~

 

2機のオートスコアラーと対峙している中、日和は抱えていたフォルテを調と切歌に任せた。ミカとリリィはまずは小手調べと言わんばかりにアルカ・ノイズの結晶を放ち、アルカ・ノイズを召喚した。

 

「慣らし運転がてら片付けるぞ!」

 

「はい!」

 

「きれいに平らげてやる!」

 

3人はアルカ・ノイズの群れに突っ込んでいく。翼は刀でアルカ・ノイズを次々と斬り裂きながら進み、クリスはボウガンの矢をアルカ・ノイズに撃ち放って撃墜させていく。日和も拳や格闘技でアルカ・ノイズを倒していき、さらにもう1体のアルカ・ノイズに右拳を叩きつけ、ゼロ距離で右手首の棍を射出してアルカ・ノイズを貫いていく。

 

~♪~

 

強化型シンフォギアを身に纏い戦う3人の姿を潜水艦のブリッジにいるメンバーはモニターで見守っている。3人の戦いぶりを見る限り、強化型シンフォギアのコンディションは良好だ。

 

「天羽々斬、如意金箍棒、イチイバル共に、各部コンディショングリーン!」

 

「これが・・・強化型シンフォギア・・・!」

 

「Project IGNITEは壊れたシンフォギアシステムの修復で終わるものじゃなかったんです。そうよね、エルフナイン」

 

オペレーターたちが強化型シンフォギアに驚いていると、海恋とエルフナインがブリッジに入ってきた。海恋の言葉にエルフナインは首を縦に頷き、解説する。

 

「出力を引き上げると同時に、解剖器官の分解効果を減衰するよう、バリアフィールドの調整を施しています」

 

「つまり、アルカ・ノイズではもうシンフォギアを分解できない!」

 

モニターに映っているアルカ・ノイズが日和の持つ棍を分解しようと解剖器官を伸ばした。分解器官は棍に巻き付いたが海恋の力強い言葉通り、日和の棍は分解器官に触れても分解されなかった。日和は左手首のユニットよりもう1本の棍を取り出し、分解器官を伸ばしたアルカ・ノイズに接近して左手の棍で打撃を与えてアルカ・ノイズを消滅させた。

 

~♪~

 

3人が戦っている間に調と切歌はジャケットを羽織り、気を失っているフォルテを担いで撤退を始めている。

 

「ここは3人に任せるデス!」

 

「私たちが足手まといだから・・・」

 

託されたのに発電施設を守れなかっただけでなく、フォルテに守られてばかりで、彼女を守れなかったことに調は心を痛め、悔しさでいっぱいになっている。その間にもクリスはガトリング砲をアルカ・ノイズに撃ち放ち、翼は逆立ち状態で脚部のブレードでアルカ・ノイズを切り裂き、日和はアルカ・ノイズに棍による格闘技を繰り出してアルカ・ノイズを倒していく。これによってアルカ・ノイズは全滅し、残る障害はミカとリリィだけだ。

 

「ふむ・・・」

 

リリィは氷の氷柱をいくつも創り出し、日和に向けて放つ。日和は右手の棍に炎を纏わせ、槍投げのように構える。そして日和は炎を纏った棍をリリィに向けて投擲する。

 

【猪突猛進】

 

炎の棍は氷の氷柱を溶かしながら、リリィに向かっている。リリィは向かってきた炎の棍を跳躍で躱す。炎の棍はリリィの乗っていた氷の高台を破壊した。さらに翼は大剣より刀を抜刀し、クロス状の蒼い斬撃をミカに放つ。

 

【蒼刃罰光斬】

 

翼の放ったクロス状の斬撃をミカは飛んで躱した。クリスは2台の大型ミサイルを展開し、ミカとリリィの着地地点に向けて発射する。

 

【MEGA DEATH FUGA】

 

空中ではミサイルを回避することはできない。そしてミサイルを真正面から防ぐこともできない。そのため、ミカとリリィが地に着地したと同時に、ミサイルは着弾し、大爆発を引き起こした。

 

「ふん、ちょせぇ」

 

これでオートスコアラー2機に大ダメージを与えられた・・・少なくともクリスはそう思っていた。

 

「いや待て・・・」

 

「何っ⁉」

 

「あれは・・・」

 

だがその思いは見慣れぬ錬金陣によってかき消された。爆発地点に立ち、錬金陣を張っていたのはオートスコアラーの主であるキャロルだった。彼女が2機の前に立ち、障壁を張って防いだのだ。

 

「お・・・お手煩わせてしまい申し訳ございません!!」

 

「面目ないゾ」

 

「いや、手ずから凌いでわかった・・・オレの出番だ」

 

ミカはキャロルに謝罪し、リリィは跪き、頭を下げて謝罪する。キャロルはクリスの攻撃を凌いで、自分が出るべきだと結論づけた。

 

「あの子がキャロルちゃん・・・」

 

「ラスボスがお出ましとはなぁ・・・!」

 

「だが、決着を望むのはこちらも同じこと・・・!」

 

キャロルの登場に身構える3人。キャロルは冷静に2機に命令を下す。

 

「全てに優先されるのは計画の遂行。ここはオレに任せてお前たちは戻れ」

 

「わかったゾ!」

 

「承りました。どうか、お気をつけて」

 

帰還命令を受けたミカとリリィは高く飛び、テレポートジェムを砕いてチフォージュ・シャトーへと転移する。敵前逃亡した2機にクリスは驚く。

 

「とんずらする気かよ⁉」

 

「案ずるな。この身一つでお前ら3人を相手するぐらい、造作もないこと」

 

「それで挑発したつもりなの?」

 

「その風体でぬけぬけと吠える・・・!」

 

3人の装者に対し、キャロルはたった1人・・・しかも生身でやり合うというのだ。これは挑発以外の何ものでもない。だがそんな挑発に乗る翼たちではあらず、逆に挑発してみせた。キャロルもこれが挑発であるのはわかっている。しかし彼女は不敵な笑みを浮かべてあえてわざと挑発に乗ることにした。

 

「なるほど。なりを理由に本気が出せなかったなどと言い訳されるわけにはいかないな・・・。ならば刮目せよ!」

 

キャロルは自身の真横に錬金陣を展開し、そこから紫色のハープのような楽器を取り出した。ハープを手に持ったキャロルに3人は武器を構えて警戒する。キャロルは変わったことはせず、ハープの弦をつま弾いた。ハープの美しい音色が鳴った。

 

~♪~

 

キャロルがハープを引くと同時に、潜水艦のブリッジで強大なエネルギー反応が観測された。そのエネルギーは、シンフォギアの放つアウフヴァッヘン波形と似ているが、異なるものだ。

 

「アウフヴァッヘン!!?いえ、違います!ですが非常に近いエネルギーパターンです!」

 

「まさか・・・聖遺物起動!!?」

 

キャロルの持つあのハープは何かしらの聖遺物ではないかと考えが出る。唯一あのハープを知るエルフナインが口を開いた。

 

「ダウルダブラのファウストローブ・・・!」

 

ダウルダブラ。それがキャロルが持つあのハープの名称である。

 

~♪~

 

ダウルダブラの弦を弾いた瞬間、ダウルダブラは形を変えていき、キャロルの身に纏っていく。同時に、キャロルの身体が成人の女性の艶やかな身体へと成長していく。キャロルの身に纏ったダウルダブラは紫の鎧へと変化する。その鎧は、シンフォギアのものと似て異なるものであり、言うなれば、錬金術師のシンフォギアといったところだ。その名も、ファウストローブ。

 

「これくらいあれば不足はなかろう?」

 

キャロルは自身の身体に不具合はないかを確認するため、自らの胸を揉みしだき、後に指先よりハープのような弦を伸ばし、3人に攻撃してきた。3人は伸びてきた弦を飛んで躱した。伸びてきた弦はかなり鋭利で先ほどまで3人がいた地面は容易く切り裂かれた。さらにキャロルは伸ばした弦を翼に目掛けて横薙ぎに払う。翼はそれを伏せることで回避する。弦に切り裂かれたタンクは爆発を引き起こした。

 

「大きくなったところで!」

 

「引くわけにはいかない!」

 

「張り合うのは望むところだ!」

 

翼は刀を構え、日和は棍を構えて突進し、クリスはガトリング砲の弾幕をキャロルに撃ち放つ。キャロルは3人の攻撃を潰すべく、背部ユニットを展開し、張られた弦を弾く。弾いたと同時に、水と炎、雷の錬金陣を展開する。炎の錬金陣からは火柱、水の錬金陣からは水柱、雷の錬金陣からは雷柱が放たれ、それぞれ3人に向かって一直線に打ち込まれる。3人は飛んで躱すが、3属性の特大な柱の威力は凄まじく、直撃した地面は大爆発を引き起こした。

 

~♪~

 

キャロルの錬金術の威力はブリッジのモニターで見ている者たちにもわかる。同時に、藤尭はある疑問を浮かべる。

 

「歌うわけでもなく、こんなにも膨大なエネルギー・・・いったいどこから・・・」

 

シンフォギアと違い、歌を必要としないファウストローブもそうだが、キャロルの錬金術の力は見てわかるように強力だ。これほどの強力な力が何の代償もなしに得られるはずがない。その疑問にキャロルが答える。

 

「思い出の焼却です」

 

「思い出の焼却?」

 

「キャロルやオートスコアラーの力は思い出という脳内の電気信号を変換錬成したもの。作られて日の浅いものには力に変えるだけの思い出がないので、他者から奪う必要があるのですが・・・数百年を長らえて、相応の思い出が蓄えられたキャロルは・・・」

 

「それだけ強大な力を秘めている・・・!」

 

思い出という誰もが持っている記憶を錬金術の力で錬成し、それが現実の力になる。それがキャロルやオートスコアラーの力の起源。今映っているキャロルの力も、これまでのオートスコアラーの力も全て、思い出の焼却によるものであったのだ。海恋はその思い出について、ある1つの疑問をエルフナインに質問する。

 

「力に変えた思い出はどうなるの?」

 

「燃え尽きて失われます」

 

思い出が燃えてなくなる・・・それすなわち、記憶が消えてしまうことを意味している。それを理解していないはずがないキャロルがこうして力を使ったということは・・・

 

「・・・キャロルは、この戦いで結果を出すつもりです・・・!」

 

キャロルはこの戦いで全てを出し切るつもりなのだ。思い出が消えようと構わない。全ては、世界を解剖するために・・・万象黙示録のために。

 

~♪~

 

キャロルが放つ弦は戦場のありとあらゆるものを切り裂いていく。タンクは切り裂かれたことで誘爆し、その爆風で翼は吹っ飛ばされ、地に叩きつけられる。その隙を見逃さないキャロルは背部ユニットの弦を弾き、複数のエーテルの錬金陣を張り、光の弾を翼に向けて放った。全弾が命中し、翼は炎に包まれる。

 

「先輩!!」

 

「このぉ!!」

 

日和は棍を構え、キャロルに向かって弾丸のようなスピードで突進した。

 

【電光石火】

 

しかし日和のこの突進はキャロルが指先の弦を盾のように束ね、それで凌いだ。さらに弦の盾より氷の錬金陣が現れ、そこから猛吹雪が発生し、日和を吹っ飛ばした。

 

「ああああああ!!!」

 

「相棒!!」

 

「その程度の歌でオレを満たせるなどと!!」

 

キャロルはクリスに向けて伸ばした弦を振るう。迫ってきた弦をクリスは飛んで躱し、空中で反転しボウガンより巨大な2本の矢を放った。

 

【GIGA ZEPPELIN】

 

2本の矢は分散し、小さな複数の矢となってキャロルに降り注ぐ。キャロルは冷静に弦を高速回転させて全ての矢を破壊する。さらにキャロルは自身の手に弦を束ね、ドリルを形作る。キャロルは創り出した弦のドリルより風の錬金術をクリスに向けて突き放つ。竜巻は地面を抉りながらクリスに襲い掛かった。竜巻の無風空間に拘束されたクリスにキャロルは弦のドリルで突きを放つ。突きを喰らったクリスは竜巻によって上空に巻き上げられ、竜巻が収まったと同時に落下し、地面に叩きつけられる。

 

「クソッタレがぁ・・・!」

 

「大丈夫か?東雲、雪音」

 

「あれを試すくらいにゃぁ、ギリギリ大丈夫ってとこかな・・・!」

 

「私も・・・まだやれます!」

 

3人は痛みを堪え、何とか立ち上がる。強化型シンフォギアに搭載された、イグナイトモジュールの可能性が、まだ残っているのだから。

 

「ふん。弾を隠しているなら見せてみろ。オレはお前らの全ての希望をぶち砕いてやる!」

 

「付き合ってくれるよな?」

 

「もちろん!」

 

「無論、1人で行かせるものか!」

 

3人は笑みを浮かべながら胸のギアコンバーターに触れ、声を合わせる。

 

「「「イグナイトモジュール!抜剣!!」」」

 

3人はギアコンバーターのスイッチを押し、宙に投げる。ギアコンバーターより、無機質な『ダインスレイフ』という音声が鳴り、コンバーターが変形し、中央部に光の刃が現れる。ギアコンバーターはイグナイトモジュールの発動主に向かって、光の刃で刺し貫いた。すると、禍々しいオーラが3人を纏い、3人は苦し気に声にならない呻き声を上げている。

 

「・・・っ!腸を掻きまわすような・・・!これが・・・この力が・・・」

 

翼は苦しみながらも、Project IGNITEの計画の概要を思い返す。

 

~♪~

 

時は遡り、Project IGNITE計画が発表された日。エルフナインはこのProject IGNITEの概要を説明する。

 

「ご存じの通り、シンフォギア・システムにはいくつかの決戦機能が搭載されています」

 

「絶唱と・・・」

 

「エクスドライブモードか・・・」

 

絶唱。それはシンフォギアに搭載されたシステムの1つで、歌を歌えば増幅したエネルギーを解き放ち、特大ダメージを負わすことができると同時に、多大な負荷を与えてしまう諸刃の剣そのもので、使用者も無事では済まされない。エルフナインもそれは理解している。

 

「とはいえ、絶唱は相打ち前提の肉弾。使用局面が限られてきます」

 

「そんときゃあエクスドライブで・・・!」

 

エクスドライブはシンフォギアに搭載されている奇跡と呼ぶに相応しい決戦機能だ。だがそのエクスドライブの発動はそう簡単ではない。

 

「いえ、それには相当量のフォニックゲインが必要となります。奇跡を戦略に組み込むわけには・・・」

 

エクスドライブは奇跡の集大成といっても過言ではない。その奇跡を顕現するためには莫大なフォニックゲインが必要となってくる。それを狙って出そうというのは無謀であり、不可能だ。だから緒川はこの案を否定している。

 

「役立たずみたく言ってくれるな!」

 

クリスが緒川にかみついている間にも、エルフナインは話を続ける。

 

「シンフォギアにはもう1つの決戦機能があるのをお忘れですか?」

 

エルフナインの言葉に翼とクリスは1つ心当たりがあった。それは響がシンフォギアの力に飲まれ、暴走した時の姿だ。ただあれは、決戦機能には程遠い。

 

「立花の暴走は搭載機能ではない!!」

 

「トンチキなこと考えてないだろうな!!?」

 

翼は声を荒げ、クリスは感情のままにエルフナインの胸倉を掴み上げる。暴走を利用して戦うなど、認められるわけがない。だがエルフナインは冷静に話を続ける。

 

「暴走を制御する事で、純粋な戦闘力へと変換錬成し、キャロルへの対抗手段とする・・・これが、Project IGNITEの目指すところです」

 

暴走を制御するとは言うが・・・当然ながらそれは簡単なことではない。

 

~♪~

 

暴走を制御するのがとても難しく、苦しい道のりであることは・・・ブリッジのモニターに映っている苦しさにもがいている3人を見ればわかる。

 

「モジュールのコアとなるダインスレイフは、伝承にある殺戮の魔剣。その呪いは、誰もが心の奥に眠らせる闇を増幅し、人為的に暴走状態を引き起こします」

 

「それでも、人の心と叡智が、破壊衝動をねじ伏せることができれば・・・!」

 

「シンフォギアは、キャロルの錬金術に打ち勝てます・・・!」

 

「心と・・・叡智で・・・!」

 

一同が3人を見守っている中・・・海恋は3人が・・・日和が呪いを打ち破ってほしいと願って両手を合わせて祈っている。

 

「お願い・・・負けないで・・・!」

 

海恋がここまで心配するのは・・・日和のことを誰よりも理解しているからだ。明るい性格で忘れがちだが・・・日和はとても臆病だ。お化けも、人の恨みが込められた言葉を怖がるほどに繊細だ。そして装者の中で日和が1番心が弱い。そんな彼女が心の闇を打ち砕けるかどうかわからない。そしてそれを打ち破るきっかけもない。だから海恋は心配でならないのだ。

 

~♪~

 

ダインスレイフより流れる負の呪いによって苦しむ3人は、響が暴走する際、どんな苦しみを味わってきたのか、こういった形で知ることとなった。

 

(流れ込んでくる・・・怒りや恐怖・・・憎しみが・・・この身体に・・・!!)

 

(あのバカは・・・ずっとこんな衝動にさらされてきたのかぁ・・・!!)

 

(気を抜けば・・・まるで深い闇に・・・!)

 

3人はダインスレイフの呪いを耐えようとするが・・・ダインスレイフが見せる悪夢を目の当たりにする。

 

~♪~

 

翼の心の闇。翼はステージで大好きな歌を歌う。だが、翼の歌を聞くのは観客ではない。ステージの観客席を覆いつくすのは、人類の敵ノイズだけで、翼の歌を聞いてくれるのは誰1人いなかった。

 

(新たな脅威の出現に、戦いの歌を余儀なくされ・・・剣に戻ることを強いられた私は・・・)

 

本当は世界で羽ばたいて歌いたいが、それもできない。父である風鳴八紘に認められたいがゆえに、夢を捨て、その身を剣に戻す。だが・・・

 

「お前が娘であるものか。どこまでも穢れた風鳴の道具にすぎん」

 

八紘は翼を認めてはくれなかった。

 

(それでも認められたい・・・だから私は・・・私はこの身を剣と鍛えた!そうだ・・・この身は剣・・・夢を見ることなど許されない道具・・・!)

 

そう考える翼の前に現れたのは、大切なパートナー・・・天羽奏と、かけがえのない大切な戦友、北御門玲奈だ。

 

(でも・・・私は・・・)

 

翼は目の前に現れた奏と玲奈を抱きしめようとする。だが、翼は2人を抱きしめることは叶わず・・・その手で2人を切り裂いてしまった。

 

(剣では・・・誰も抱きしめられない・・・)

 

これが・・・翼の抱える、心の闇だ。

 

~♪~

 

3人は自身の抱える闇によって、苦しんでいる。それによって、3人のバイタルが不安定になってきている。

 

「システムから逆流する負荷に、3人の精神が耐えられません!!」

 

「このままでは、翼さんや日和ちゃん、クリスちゃんが!!」

 

心の闇に打ち勝てなかった者の末路・・・それはここにいる誰もが理解しているだろう。

 

「暴走・・・!」

 

「やはり・・・ぶっつけ本番では・・・!」

 

「だとしても信じてあげてください・・・3人を・・・」

 

ここにいる者ができることは、3人を見守ることだけ・・・だが、海恋はだんだんと、嫌な予感が込み上げてくる。

 

~♪~

 

クリスの心の闇。リディアンという、彼女がいていい、心の休める場所。ずっとほしかったものだが、今も違和感を感じてしまう。

 

(それでも・・・この春からは、新しい後輩ができた・・・なのに・・・あたしの不甲斐なさで・・・あいつらがボロッカスになって・・・)

 

今年になって調と切歌の先輩になったのに・・・それらしいことが何1つできない。

 

(1人ぼっちが、仲間とか、友達とか・・・先輩とか後輩とか・・・相棒とか求めちゃいけないんだ!でないと・・・でないと・・・!)

 

次に現れたのは何もかもが破壊された光景。そして、そばには・・・大切な後輩である調と切歌が力なく倒れた姿。そして目の前には、かけがえのない相棒の日和が、弱々しくも、にっこりと笑いかけてくれる姿。だがその背後に、オートスコアラーシャルがレールガンの引き金を引こうとしていた。クリスは駆けつけようとするが・・・それよりも早くシャルが引き金を引き、日和を雷で殺害した。

 

(残酷な未来がみんなを殺しちまって・・・本当に1人ぼっちとなってしまう・・・!)

 

1人ぼっちは嫌だ。そんな思いから今見た悪夢から目を背けようと、クリスは逃げ出そうとする。そんな時に、誰かから手を握られた。

 

~♪~

 

自身の闇に飲まれかけていた翼は咄嗟にクリスと日和の手を握って何とか自我を保とうとする。

 

「すまないな・・・東雲と雪音の手でも握ってないと、底なしの縁に、飲み込まれてしまいそうなのだ・・・!」

 

「おかげで・・・こっちもいい気付けになったみたいだ・・・危うくあの夢に溶けてしまいそうで・・・!」

 

翼とクリスの禍々しいオーラが消え、辛うじて自身を制御することができたが、己の闇を克服できず、ギアも変わっていない。2人の息も絶え絶えの様子だ。だが、それよりも・・・

 

ヴ・・・ヴウゥゥ・・・!!

 

日和だけは禍々しいオーラが消えておらず、日和の口からは獣のような呻き声を上げている。

 

「お・・・おい・・・相棒・・・?」

 

「まさか・・・!!」

 

クリスと翼は最悪な状況が頭によぎる。今の日和は・・・響が暴走する時の衝動とかなり似た雰囲気を出している。そして、ギアコンバーターが輝きだし、黒い闇が日和を包み込んだ。

 

ヴゥ・・・ギャオアアアアアアアアアア!!!

 

黒い闇が全身に回った日和は獣のような大きな咆哮を上げた。そう・・・日和はすでに自身の心の闇に負けてしまい暴走してしまったのだ。3人のイグナイトモジュールは・・・失敗は失敗でも・・・日和が暴走するという最悪な失敗で終わってしまった。




リリィにとっての神

リリィのキャロルに対する忠誠心はオートスコアラーの中で1番強く、その姿勢はまるで神を見るかのようだ。いや・・・リリィにとってキャロルという存在は自分を生み出した神そのものなのだ。それゆえなのかリリィは神という存在に何の興味も示さない。興味本位で聖書などを読んでいるが、それさえもつまらないの一言で終わる。リリィにとって神とは創造主であるキャロルただ1人・・・神など、古き文明のただの故人と考えているのだ。


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抜剣

予定通り、クリスマスの日に投稿しました。本日はちょっと趣向を変えて夜は夜でも6時あたりに投稿してみました。
今回、日和ちゃんの心の闇が明らかになるわけですが・・・今回の話に、GX編で日和ちゃんにとってとっても重要な人物が登場します。名前は今後のお話にでも。


日和の心の闇。日和が立ち上げたバンド、アビスゲートでバンドメンバーである玲奈と小豆と共に、これからも活動を頑張っていこうと思っていた。だがその思いは簡単に崩れ・・・ライブに来ていた観客・・・そして玲奈と小豆は何の前触れもなく、炭となって砕け散った。

 

(あの時・・・私がライブ配信さえ企画しなければ・・・誰も・・・誰も死ぬことはなかった・・・。私のせいで・・・お客さんも・・・玲奈も小豆も・・・)

 

日和は自分が提案したライブのせいで観客も、大切なバンドメンバーも死ぬことはなかった・・・。自分がみんなを死に追いやった。その思いが、日和の心をかき乱す。次に現れた光景は、小豆の家族に彼女の死を告げた日だ。

 

「人殺し!!!!」

 

「・・・っ!」

 

人殺し。小豆の母からそのような言葉を聞かされて、日和の心は焦燥心と恐怖・・・そして罪悪感が込みあがってくる。

 

「どうして小豆が死んであなたが生きているのよ!!?返してよ!!!私たちの大事な娘を返してよ!!!」

 

「小豆には将来があった。叶えたかった夢があった!!それをお前が奪ったんだ!!小豆じゃなくてお前が死ねばよかったんだ!!」

 

(違う・・・違う!!私じゃない!!私が殺したんじゃない!!そんな・・・そんな・・・!!)

 

小豆の家族から攻め立てられ、日和は叫びたかったが・・・恐怖のあまり、それはできなかった。もうこの場から逃げ出したかった。

 

「お前のせいだ・・・!お前のせいで・・・姉ちゃんは・・・!!お前が・・・姉ちゃんを殺したんだ!!!」

 

自分を尊敬してくれていた小豆の弟にまでそう言われ、日和はこのような悪夢から逃れたくて、逃げ出した。だが悪夢は、決して日和を逃がしはしない。逃げ出す日和が次に見たのは日和の母と、当時の自分だった。

 

「ま・・・ママ・・・」

 

「・・・あなたなんて生むんじゃなかった・・・この疫病神・・・!」

 

2年前の事件のせいで変わってしまった母からそのようなことを言われ、日和の心はもう砕けそうになる。

 

(私のせいで・・・病院の経営も悪くなって・・・大好きなママも変わっちゃった・・・)

 

そして、追い打ちをかけるように悪夢はまだ続く。次に映ったのは、病院の医者と、大好きな父親だ。

 

(ぱ・・・パパ・・・助け・・・)

 

日和は父に助けを求めようと手を伸ばしたが・・・すでに病んでしまった父親は手に持ったナイフで・・・何人もの医者を殺め・・・そして最後には・・・自らナイフを刺して、自殺してしまった。

 

「い・・・いや・・・いやああああああああ!!!」

 

日和は目の前の光景が受け入れられず、悪夢から逃げ出したい一心でこの場を逃げ出した。だが逃げ出す日和の手を誰かが掴んだ。日和の手を掴んだのは・・・死んだはずの小豆だった。

 

「わかる?日和のせいで・・・みーんなの人生台無しだよ?私の人生も一瞬で終わっちゃった・・・もっと生きたかったのになぁ・・・」

 

「私の・・・せい・・・」

 

自分のせい。それが小豆の口から告げられ・・・日和は絶望した。日和の周りにはこれまで出会って来た仲間たちや大好きな姉の咲がいたが・・・全員が日和から遠ざかっていく。

 

「ま・・・待って・・・私を・・・私を置いていかないでぇ!!」

 

「無駄だよ。日和の味方なんて・・・最初からいなかったんだから。人殺しにはお似合いの末路だよね。ただ1人・・・孤独の中で野垂れ死んじゃえ!!」

 

小豆は日和に恨みが籠った声で罵声し、消えていった。1人残った日和は涙を流し・・・茫然自失となる。

 

「私のせいで・・・みんな・・・。・・・ああ・・・そうだ・・・あんなことが起きたのも・・・家族がめちゃめちゃになったのも・・・全部全部・・・私の・・・」

 

日和の心が孤独と絶望・・・そして罪悪感がこの身を全て支配された時・・・彼女は・・・黒い闇に飲み込まれてしまった。

 

~♪~

 

装者3人のイグナイトモジュールが失敗し、日和だけが暴走した状況下に、S.O.N.Gの潜水艦のブリッジにいる一同が緊迫した雰囲気が醸し出ていた。

 

「日和いいいいいいいい!!!」

 

「まずい!!」

 

「装者、モジュールの使用に失敗!いや・・・それどころか・・・」

 

「暴走・・・だと・・・!!」

 

エルフナインもこのような結果になることを望んでいたわけではなかった。だが最悪の結果を突きつけられ、涙目になっている。

 

「ボクの錬金術では・・・キャロルを止めることはできない・・・」

 

落ち込んでいるエルフナインに未来が歩み寄る。

 

「きっと大丈夫・・・可能性が、全て尽きたわけじゃないから・・・」

 

未来がエルフナインの手を優しく包む。エルフナインの手には、何かが握られていることに気付いた。響はエルフナインに近づき、確信を持ったようにそれを問いかける。

 

「それって?」

 

「改修したガングニール・・・」

 

エルフナインが持っていたのは、既に改修が終わったガングニールのギアネックレスだ。響はエルフナインの手を握り、彼女を見つめる。

 

「ギアも可能性も・・・二度と壊させやしないから!」

 

響は笑みを浮かべながら、力強く言い切った。その言葉を聞いた海恋は彼女に視線を向け、決心するかのように彼女に近づく。

 

「立花さん・・・お願いがあるの」

 

海恋の表情は、真剣そのものである。

 

~♪~

 

目の前で日和が暴走してしまった姿を目の当たりにし、クリスと翼は驚愕している。

 

グルルルゥゥ・・・!!

 

「あの姿は・・・立花の時と同じ・・・」

 

「まさか・・・悪夢に溶け込んじまったってのかぁ!!?」

 

暴走した日和は獣のような四つ這いになり、獣のような呻き声を上げてキャロルを見ている。暴走する日和の姿を見たキャロルは失望したかのような表情をしている。

 

「闇に飲まれ、堕ちたか・・・失望させてくれる」

 

ガアアアアアアアアア!!!!!

 

大きな咆哮を上げた日和はキャロルに向かって移動し、彼女に向けて拳を振るおうとした。だがキャロルは暴走状態の相手に後れを取るようなことは決してない。キャロルは慌てることなく、指先の弦を伸ばし、日和の両手、両足、胴体に巻き付かせ、身動きを取れなくさせる。

 

グルゥゥ・・・!!グルゥアアアアアアアア!!!

 

しかし日和は力いっぱい暴れ、弦を無理やり引きちぎった。そして暴れる勢いのまま、キャロルに拳を振るう日和。キャロルは繰り出される日和の拳の連撃を難なく躱す。

 

「そんなろれつが回らぬ歌で、オレを沈めようなどとぉ!」

 

キャロルは炎の錬金陣を展開し、特大の火柱を日和に放った。火柱は日和を包み込み、地に直撃して大爆発を引き起こした。翼とクリスは爆発の衝撃に何とか耐えている。辺りに炎が立ち込める中、煙の奥より、日和が出てきた。日和は未だ暴走状態で、さらに厄介なことに、タフさも健在のようで、動きが止まる様子はない。

 

「あれを受けてもなお・・・動くのか・・・!」

 

フゥー・・・!フゥー・・・!!

 

あの強力な一撃を受けても動ける日和に翼は驚愕する。日和は獣のような荒い息遣いをしている。キャロルはイグナイトモジュールの失敗で未だ動けない2人と、暴走する日和の様子をしらけた様子で見ている。

 

「・・・これでは話にもならん。着付けする時間くらいはくれてやる」

 

キャロルはアルカ・ノイズの結晶を取り出し、それを上空に放った。空中より割れた結晶より錬金陣が現れ、四足歩行する動物のような母艦型のアルカ・ノイズが召喚される。暴走する日和が母艦型アルカ・ノイズを見上げると同時に、母艦型アルカ・ノイズは足部位にある穴より、無数の飛行型アルカ・ノイズが姿を現す。

 

「くっ・・・!ここにきてアルカ・ノイズを・・・!」

 

街中を飛び回る飛行型アルカ・ノイズは分解器官である羽を回転しながら、街へと降りていき、建物を次々と分解していく。分解されたことにより、街中に赤い煙が立ち込め、建物が爆発していく。

 

「いつまでも地べたに膝をついていては、市街の被害は抑えられまい」

 

翼とクリスは未だに痛みが残っている。それでもアルカ・ノイズの被害を食い止めるために、日和の暴走を止めるために、懸命に立ち上がろうとする。

 

(手をつく力を・・・!)

 

(奴に突き立てる牙を・・・!)

 

2人は何とか立ち上がることができたが、立っているのがやっとで痛みを堪えるので必死で戦えるような状態ではなかった。

 

ガアアアアアアアアア!!!!!

 

そんな中で日和は獣のような動きで現れた母艦型アルカ・ノイズに突進し、つかみかかる。さらに日和は掴んだアルカ・ノイズを落とそうと体を動かし、ぶらつかせる。今もなお増える飛行型アルカ・ノイズの1体は羽を回転させながら日和に向かってきている。しかし日和は母艦型アルカ・ノイズをよじ登って、その攻撃を躱した。そして日和は母艦型アルカ・ノイズの頭まで登りきると、力いっぱいにその頭に拳を何度も何度も叩きつけた。

 

ガルアアアアアアア!!!

 

そこに先ほど攻撃してきた飛行型アルカ・ノイズが再び日和に向かって突進してきた。だが日和は目をぎらつかせ、拳を振るってアルカ・ノイズに打撃を与え、消滅させた。そして日和はその場より高く飛び、両拳を合わせ、その腕をまるでアームドギアを形成するかのように、槌のような鈍器に形を変える。

 

ギャオオオオオオオオオオオオオ!!!

 

そして日和は大きな咆哮を上げ、鈍器となった腕を振り下ろし、母艦型アルカ・ノイズに強烈な一撃を与え、叩き落とした。だが蹂躙はまだこれで終わりではない。日和は落とした母艦型アルカ・ノイズをまさぐるかのように、拳を貫き、ところどころを抉っていく。その姿はまさに、空腹に飢えた獣のよう。

 

「もうよせ!!止まるんだ東雲!!」

 

「相棒!!お前はそんな簡単に黒くなっちまうたまじゃねぇだろ!!」

 

もう日和のあの様子を見ていられなかった翼とクリスが彼女に呼び掛けた。蹂躙する日和はその声に反応する。だが日和が2人に向けた視線は・・・次なる獲物を定めたかのような目だ。

 

グルゥアアアアアアアア!!!

 

母艦型アルカ・ノイズは日和に拳で払われ、完全に消滅した。暴走が止まらない日和は翼とクリスに向かって突進し、拳を振るった。振るった拳は地に直撃し、凄まじい衝撃が放たれ、翼とクリスを吹っ飛ばした。

 

「「ぐあああああああ!!」」

 

吹っ飛ばされた翼とクリスは地に倒れる。今の日和に敵も味方もない。目に移るものを破壊しつくすまで止まることのない暴君だ。日和が2人に近づいてくる間にも、まだ数多く残っている飛行型アルカ・ノイズは街を蹂躙しており、逃げ遅れた住民の悲鳴も聞こえてくる。

 

(くっ・・・このままでは・・・)

 

日和の対処だけでない。アルカ・ノイズとキャロルの脅威もまだ残っている。だが2人は未だに痛みでうまく体を動かせないでいる。どうすればいいと悩ませていると、クリスだけは聞こえた。本部の潜水艦から複数のミサイルが撃ち放たれた音が。そのうちの1つにシンフォギアを身に纏った響が海恋をお姫様抱っこした状態で乗っていた。響はミサイルから降りて、海恋を傷つけないようにしながら、2人のそばに着地する。残ったミサイルは何体かのアルカ・ノイズに直撃して爆発する。

 

「立花・・・西園寺!!?」

 

「お前・・・なんでここに!!?」

 

「日和を・・・助けるために決まってるでしょ!!」

 

海恋が響に頼んだこと・・・それは、自分を日和の元まで連れていくことだった。もちろんそれは最初は弦十郎から反対されたが響や未来、マリアの後押し、そして何より、海恋の真剣さと、断固とした力強い決意によって、出撃を勝ち取ったのだ。

 

「あれが・・・日和・・・」

 

暴走する日和を見て海恋は固唾を飲んでいる。恐怖はあれども、引くわけにはいかない。そう思い、海恋は息を吸い込み、日和に呼び掛ける。

 

「日和!!よく聞きなさい!!」

 

海恋の一声で、日和は視線をギラリと海恋に向けられた。標的を海恋に定めたのだ。だがそれでもかまわず、海恋は自分の胸の内を打ち明ける。

 

「私はあなたに出会ったおかげで、夢を追いかける道を選べた!!窮屈だったあの日々を抜け出すことができた!!私がこうして生きているのも、今があるのも・・・全部全部・・・あなたのおかげなのよ!!」

 

ギャオオオオオオオ!!!!

 

日和は獣のような動きで海恋に近づき、強靭な腕を振るおうとする。そこに響が前に出て、海恋を傷つけまいとし、両腕を掴んでそれを止めた。

 

ヴゥゥゥゥ・・・!!

 

「日和さん・・・落ち着いてください・・・!!海恋さんの話を・・・聞いてください・・・!!」

 

日和は腕を掴まれ、抵抗するかのように暴れている。止めている響も気を抜けば振り払われそうだが、決して放さないように、力を込め続ける。

 

「確かにあなたは・・・弱虫で臆病な弱い心を持ってる・・・だけど、私は知ってる。同時に、前向きで、明るくて・・・交わした約束を必死に守って、破るようなことは絶対にしない、力強い思いを持ってる子だってことを!!」

 

響に抑えられ、暴れる日和に海恋は近づきながら、呼び掛けることを続ける。

 

「私はそんなあなたの力になりたい、支えてあげたいってずっと思ってる。今も・・・昔も・・・そして・・・これからも・・・ずっと・・・ずぅーっとよ!!」

 

ガアアアアアア!!!

 

「うわぁ!!?」

 

日和は両手を広げて無理やり響の拘束を破り、高く飛び、落下で勢いをつけてそのまま海恋を押し倒した。

 

「海恋さん!!」

 

「西園寺ぃ!!」

 

日和に押し倒され、地面に激突したことで、海恋の身体に激痛が走る。だが海恋は口もとに笑みを浮かべる。

 

「日和・・・」

 

海恋は痛みに構うことなく、両手で日和の身体に触れ、そのまま抱きしめた。その行為によって、日和の動きは止まった。

 

「たとえこの先・・・誰もがあなたから離れたとしても・・・ううん・・・世界中の人間が、あなたの敵になったんだとしても・・・私がいる!私がついてる!!あなたを1人ぼっちになんてさせない!!」

 

「ア・・・ア・・・ガ・・・」

 

「暴言?風評被害?上等じゃない!言いたい奴は言わせてやればいい!あなたと一緒なら私は、何も怖くない!ううん・・・あなたとじゃないとダメなのよ!!私には、あなたが必要なのよ!!だから・・・この手は絶対に放さない!!!」

 

海恋は痛みを気にすることなく、自身の思いの内を日和に一方的に打ち明けた。嘘偽りない言葉・・・力強い思い・・・そして誰よりも自分を大切にしようとする強い意志が暴走する心を溶かしていく。

 

「・・・・・・カ・・・レ・・・ン・・・」

 

「そうよ。私はここよ。その目で・・・ちゃんと私だって認識して!」

 

「ア・・・あ・・・」

 

日和の赤い目は海恋の姿を映し出した。海恋を見た日和の目に涙が流れ、視界はだんだんと鮮明になっていき、そして彼女は自らの意思で、両手を動かす。そして・・・

 

「・・・海恋!!!」

 

日和は自分を抱きしめている海恋に自分も抱きしめた。その瞬間、日和を覆っていた闇は完全に祓われ、服装も元のシンフォギアの鎧に戻っている。

 

「海恋・・・海恋・・・!ごめん・・・!私・・・私・・・!」

 

「言いたいことなんてわかってる。でも・・・ごめん、じゃなくて、他に何か言うこと・・・あるでしょ?」

 

「うん・・・うん・・・!海恋・・・ありがとう・・・!」

 

日和は危険を冒してまで暴走する自分から救ってくれた海恋に謝罪と心からの感謝を述べた。

 

「日和さん!」

 

「元に戻ったのだな!」

 

「たく・・・ひやひやさせやがってよぉ・・・」

 

日和が暴走から元に戻り、3人は喜びが顔に出ていた。迷惑をかけてしまったと思った日和はすぐに3人にも謝る。

 

「響ちゃん・・・翼さん、クリス・・・迷惑をかけて、ごめんなさい・・・」

 

「そんな・・・顔を上げてください」

 

「うむ。もう過ぎたことだ。気にするな」

 

「それに・・・まだやるべきことが、あるだろ?」

 

「・・・うん!」

 

クリスの言うとおり、まだ終わりではない。アルカ・ノイズの殲滅・・・そして・・・キャロルとの決着がまだ終わっていないのだ。

 

「ようやく揃うか・・・」

 

一部始終を全て見ていたキャロルは待ちくたびれたかのように呟いた。

 

「つっても・・・どうしたものか・・・」

 

4人そろったとしても、キャロルの力は強大。1人増えたとしても状況は好転したわけではない。どうすればいいかとクリスが呟いた時、日和が提案する。

 

「みんな・・・イグナイトモジュールを・・・もう1度やろう!」

 

日和の提案に翼とクリスはかなり渋った顔を見せている。先ほどの日和の暴走を見せられたのだ。今度は失敗では済まないかもしれない・・・そんな思いが頭によぎる。

 

「だが・・・」

 

「大丈夫・・・もう遅れを取ったりはしない!!私を信じてほしい!」

 

そう言った日和は笑みを浮かべて海恋を見つめる。日和と海恋はお互い通じ合ってるかのように、首を縦に頷く。それでも渋っている2人に、響が口を開いた。

 

「未来が教えてくれたんです!自分はシンフォギアの力に救われたって!この力が、本当に誰かを救う力なら、身に纏った私達だって、きっと救ってくれるはず!だから強く信じるんです!ダインスレイフの呪いを破るのは・・・」

 

「いつも一緒だった、天羽々斬・・・」

 

「あたしを変えてくれた、イチイバル・・・」

 

「私をずっと支えてくれた如意金箍棒・・・」

 

「そしてガングニール!」

 

4人は決意を固め、互いに顔を合わせた。

 

「信じよう!胸の歌を!シンフォギアを!!」

 

「みんなと・・・海恋と一緒なら怖くない!!」

 

「ふっ・・・バカ2人に乗せられたみたいでカッコつかないが・・・」

 

「もう1度行くぞ・・・!」

 

「「「「イグナイトモジュール!抜剣!!」」」」

 

4人はギアコンバーターのスイッチを押し、それを取り外して掲げた。ギアコンバーターが起動し、無機質な『ダインスレイフ』という音声が鳴り、宙に浮かんで変形し、展開された光の刃が4人を刺し貫いた。これによって4人の身体にダインスレイフの呪いが流れ込んでくる。呪いによって4人は苦しみ、苦痛の呻き声を上げた。

 

~♪~

 

再びイグナイトモジュールを使い、ダインスレイフの呪いに打ち勝てるように祈りつつ、潜水艦のブリッジにいる一同は見守っている。だが、数値から見れば、このままでは再び失敗・・・下手すれば暴走の可能性が出ている。

 

「このままではさっきのように・・・!」

 

懸念の声が上がっていると、調と切歌がフォルテを担いでブリッジに入ってきた。そして、マリアたちは声を上げる。

 

「呪いなど斬り裂け!!」

 

「撃ち抜くんデス!!」

 

「叩いて砕け!!」

 

「恐れずに砕けばきっと・・・!!」

 

未来は何も言わずに、モニターに映る4人を見守っている。4人なら・・・響なら必ず呪いを打ち砕けると信じて。

 

~♪~

 

4人はダインスレイフの呪いに必死に抗っている。1度は呪いに負けてしまった日和だが、今は違う。

 

「日和・・・!」

 

今はそばに海恋がいる。彼女が自分の手を繋いで、自分を見失わないでいられる。だから今度こそ、日和は呪いに負けないと確信している。

 

(未来が教えてくれたんだ・・・!力の意味を・・・!背負う覚悟を・・・!だからこの衝動に塗りつぶされて・・・)

 

((((なるものかああああああ!!!))))

 

4人の強い思いにより、ついにダインスレイフの呪いをねじ伏せ、力に変えた。4人のギアの一部が弾け飛び、全身を漆黒の闇が覆いつくし、闇がシンフォギアの形に作り替える。4人のギアは各所に禍々しく鋭角的に黒く染まり、以前より攻撃的な姿となる。

 

「日和・・・」

 

ダインスレイフの呪いに打ち勝った4人・・・日和の姿を見て、海恋は笑みを浮かべている。

 

『モジュール稼働!セーフティダウンまでのカウント、開始します!』

 

モジュールが稼働したことにより、セーフティダウンまでのカウントが開始される。その時間、約『999』秒。この数字が0になると、イグナイトは強制的に解除されるのだ。

 

「海恋、行ってくるよ!」

 

「待ってる」

 

キャロルはこの時を待っていたかのように、アルカ・ノイズの結晶を辺りにばら撒き、数を増やしていく。その数、3000。だがこれだけ多くのアルカ・ノイズでも、今の響たちには道端に転がる小石同然だ。

 

「たかだか3000!!」

 

響はアルカ・ノイズの群れに突っ込み、黒く染まったバンカーユニットを展開し、アルカ・ノイズを殴りぬき、貫いて多くのアルカ・ノイズを塵にする。

翼は黒く染まった刀を頭上に掲げる。すると刀身が展開され、青の刃が出現し、翼はそれをアルカ・ノイズに目掛けて振り下ろし、青の斬撃を放った。

 

【蒼ノ一閃】

 

青の斬撃はアルカ・ノイズを次々と斬り裂いていき、巨大なアルカ・ノイズもいとも簡単に切り裂いて見せた。

日和は黒く染まった棍をアルカ・ノイズの群れに目掛けて一直線に伸ばす。そのスピードも威力も以前とは段違いだ。

 

【一点突破】

 

伸びた棍はアルカ・ノイズを貫いたが、それで終わりではない。日和は伸びた棍を持ったまま、そのまま自身を回転し、大型を含めた多くのアルカ・ノイズに打撃を与え、消滅させていく。

クリスは腰部の小型ミサイルを展開、さらに4つの大型ミサイルを展開する。そして、小型ミサイルを正面のアルカ・ノイズに向けて一斉に発射する。

 

【MEGA DETH PARTY】

 

アルカ・ノイズの群れはこの小型ミサイルの爆発によって塵となる。そして大型ミサイルを発射し、さらに中より小型ミサイルを発射し、空中のアルカ・ノイズを全滅させた。4人の出力は通常のものと比べ、遥かに大きく上回っており、その出力をいかんなく発揮することによって、3000のアルカ・ノイズの数は減っていく。

 

「臍下辺りがむず痒い!!」

 

キャロルは跳躍し、指先の弦でアルカ・ノイズもろとも響に切り裂きにかかった。響はその弦を躱す。さらにキャロルはクリスに向けてエーテルの錬金陣を展開し、そのエネルギーを放った。クリスはそのエネルギーを飛んで躱した。

 

~♪~

 

潜水艦のブリッジにいる一同は装者4人とキャロルの戦いを見守っている。

 

「強大なキャロルの錬金術・・・ですが、装者たちもまた、それに対抗できる力を・・・!」

 

緒川の言うとおり、キャロルの力は強大だ。しかし、装者たちはダインスレイフの呪いに打ち勝つことによって、彼女と渡り合い、対抗できる力を手に入れたのは、紛れもない事実だ。

 

(それでも響は、傷つけ傷つく痛みに、隠れて泣いている。私は何もできないけれど、響の笑顔も、その裏にある涙も、拳に包んだ優しさも、全部抱きしめて見せる・・・だから・・・!)

 

「負けるなーー!!」

 

未来は戦う響に向けて、力いっぱいの声援を送った。そして、皆の思いは、4人に伝わった。

 

~♪~

 

キャロルは伸ばした弦を響の右腕に巻き付かせた。だが響はその弦を逆に利用し、引っ張り上げることでキャロルをこちらに引き寄せる。

 

『稲妻を喰らえぇ!!!』

 

「いけええええええ!!!」

 

弦十郎と海恋の声に呼応するかのように翼は斬撃を放ち、クリスはボウガンの矢を撃ち放ち、日和は棍を投げ放った。キャロルは弦を右手に束ね、その全てを束ねた弦で破壊する。その隙をついて響が炎を纏い、キャロルに突撃した。キャロルはその攻撃を受け止めるが、イグナイトによって強化された出力は高く、強引に押し込まれ、周りの施設を巻き込みながら、鳩尾に拳を受けたまま外壁に叩きつけられた。ダウルダブラのファウストローブも今の攻撃でボロボロになっている。

追撃として響は高く飛び、脚部と腰部のブースターを起動させ、落下する速度を底上げさせて、キャロルに強烈な蹴りを放った。

さらに日和は左手首のユニットより新たな棍を取り出し、キャロルに向けて構え、ブースターを起動して猛スピードを出し、黒炎を纏って突進した。

 

【電光石火・獄炎】

 

「「でりゃあああああああああ!!!!」」

 

ドカアアアアアアアン!!!!

 

蹴りと黒炎の突進の2つの攻撃がキャロルに直撃し、その衝撃で大爆発が起きる。

 

~♪~

 

潜水艦のブリッジのモニターは爆発による黒煙のみが映っている。黒煙が晴れると、そこには漆黒のギアを纏った響と日和が息を整えながら立っていた。キャロルはファウストローブを纏う前の元の幼い姿に戻っており、腹部に血を流しながら瓦礫にもたれかかっている。

 

「勝ったの・・・?」

 

「デスデス、デース!」

 

4人がキャロルに勝ったことにより調と切歌は喜びを露にしている。フォルテ自身も目を閉じ、口元に笑みを浮かべている。

 

「キャロル・・・」

 

エルフナインはキャロルの痛ましい姿を見て、悲しそうな表情をしている。計画を止めるためとはいえども、エルフナインは複雑な心境であろう。

 

~♪~

 

戦いが終わった後、響はキャロルに近づき、彼女に手を差し伸べた。

 

「キャロルちゃん・・・どうして世界をバラバラにしようなんて・・・」

 

キャロルは響の差し出された手を取ることはなく、その手を逆に払いのける。

 

「忘れたよ・・・理由なんて・・・思い出を焼却・・・戦う力と変えた時に・・・」

 

「・・・・・・」

 

響はその答えに何も言えない。キャロルは様々な感情が合わさった瞳で響を見つめ、口を開く。

 

「その呪われた旋律で誰かを救えるなどと思いあがるな・・・!」

 

「・・・っ」

 

言いたいことを言ったキャロルはニヤリと笑い、奥歯を噛みしめた。すると、キャロルはゆっくりと倒れ込む。

 

「キャロルちゃん?キャロルちゃん!!?」

 

そして、キャロルが倒れ伏すと、彼女の身体が黒く変色し、緑の炎が彼女を纏い、焼却する。キャロルは自らの意思で自害したのだ。響たちとは決して相容れることはないと告げるかのように。キャロルの自害を見て、響は悲痛な叫びをあげた。

 

~♪~

 

チフォージュ・シャトーの玉座。キャロルが死亡したと同時に、広間にて、6機のオートスコアラーの頭上に、それぞれの色の垂れ幕が降ろされた。

 

「・・・マスターのお望みのままに、計画を次なる段階へ」

 

目を開けたリリィがそう一言呟いた。キャロルがいなくなっても、彼女の計画は止まることはなく、次の段階へと一歩進んでいく。

 

~♪~

 

響は燃え上がるキャロルの亡骸を見つめる。

 

「呪われた旋律・・・誰も救えない・・・。そんなことない・・・そんな風にはしないよ・・・キャロルちゃん・・・」

 

空へと昇っていく煙を見ながら、響はそう呟いたのであった。

 




XD-エクスドライブアンリミテッド-

クリスマスボイス

東雲日和①
クリスマスといえばチキン!クリスマスといえばクリスマスケーキ!両方食べるぞー!

東雲日和②
メリークリスマース!!こういう聖なる夜にこそ、クリスマスソングで盛り上げちゃおー!

フォルテ・トワイライト①
メリークリスマス。いつもなら、マリアたちと過ごしていたが、こうして大勢で過ごすのも、悪くない。

フォルテ・トワイライト②
僕の生まれ故郷ではクリスマスでも戦いが繰り広げられていた。だからこうして皆と共に過ごすクリスマスは、かけがえのない幸せだ。


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黒く染まる銀腕

本日はクリスちゃんの誕生日ということで、今回は昼間の投稿です。クリスちゃん、お誕生日おめでとう!

さて、今話では日和ちゃんたちが水着を着るのですが、小説内では説明しないので、この前書きにてどんな水着を着るのか紹介します。

日和:一輪の白い花模様のフリルが付いた茶色の水着。ビキニタイプ。

海恋:水色のレースアップタイプの水着。おへそが出ている。

フォルテ:シンプルに黒いビキニの水着。上にジャケットを羽織っている。


イグナイトモジュール、ダインスレイフの呪いに打ち勝った響たちを見て、マリアは弱い自分自身に頭を悩ませ、苦悩している。それだけではない。レセプターチルドレンとしてF.I.Sとして連れてこられた時も、これまでの己の運命も。どれもこれも、運命に翻弄され続け、自分が情けないと思ったことなど、数えきれないほどしてきた。

 

(強くなりたい・・・翻弄する運命にも、立ちはだかる脅威にも負けない力が欲しくて、ずっと藻掻いて来た・・・)

 

そんな彼女の視界に映っているのは、暑い夏の太陽が照らし、水が光を反射してキラキラと輝いている、青い海だ。海の波は浜辺をいったりきたりしている。

 

「おーい!マリアー!」

 

「何をやってるデスかー?」

 

「そんなところに立ってないで、パラソルをつけるのを手伝ってくれ」

 

水着を着込んでいる調たちがマリアを呼び掛けている。悩みを抱えるマリアは今、水着を着込み、サングラスをかけて太陽を見上げている。

 

(求める強さを手に入れるため、私は、ここに来た!)

 

そして彼女はなぜか笑みを浮かべてサングラスを外した。

 

~♪~

 

あの意味不明な状況を説明するために、時は遡る。キャロルが自害した後日、フォルテの元に、リリィに破壊されたギアが改修されて戻ってきた。いや、それだけではない。

 

「すまないな、エルフナイン。ミスティルテインの改修だけでなく、僕の義眼の手入れをしてくれて」

 

フォルテは自分の義眼をはめながらエルフナインにお礼を言った。フォルテの義眼はとある男が作った特別製のもので、エルフナインが現れるまではその男以外手入れすることができなかった。ゆえにフォルテはエルフナインにギアの改修だけでなく、義眼の手入れをしてくれて感謝を述べているのだ。

 

「壊されたイガリマと・・・」

 

「シュルシャガナも改修完了デス!」

 

ギアの改修が終わったのはミスティルテインだけではない。調のシュルシャガナと、切歌のイガリマも改修が終わったのだ。調と切歌は共に喜び合う。

 

「機能向上に加え、イグナイトモジュールも組み込んでいます。そしてもちろん・・・」

 

「復活の・・・アガートラーム・・・」

 

機能停止していたシンフォギア、アガートラームもギアとしての機能を取り戻し、マリアの手元に戻ったのだ。

 

「改修ではなく、コンバーター部分を新造しました。一度神経パスを通わせているので、身に纏えるはずです」

 

「我が友、セレナのアガートラームが再び君が纏うことになろうとは・・・」

 

今は亡き大切な友であるセレナのアガートラームが復活し、マリアの手に渡ることに、フォルテは感慨深いものを感じている。

 

「セレナのギアをもう一度・・・。この輝きで、強くなりたい・・・!」

 

マリアはエルフナインからアガートラームのギアを受け取って、そう口を開いた。

 

「うむ。新たな力の投入に伴い、ここらで一つ特訓だ!」

 

「「「「「「「特訓!!?」」」」」」」

 

「・・・特訓か・・・」

 

「?」

 

装者たちは特訓という言葉に反応する。響は目を輝かせ、クリスは嫌そうな顔をしている。エルフナインはよくわかっていない様子だ。

 

「オートスコアラーとの再戦へ向け、強化型シンフォギアと、イグナイトモジュールを使いこなす事は急務である!近く、筑波の異端技術研究機構にて、調査結果の受領任務がある。諸君らはそこで、心身の訓練に励むと良いだろう!」

 

「特訓と言えばこの私!任せてください!」

 

弦十郎の言葉に、響は元気よくそう返した。

 

~♪~

 

そういうわけで、装者たちは茨城県、筑波にある政府保有のビーチまで来て特訓に来ているというわけだ。とは言ったものの・・・

 

「ひゃっほー!1番乗りもーらいー!」

 

「こら!日和!海に入る前に準備運動くらいしなさい!」

 

水着を着込んだ日和は誰よりも早く海に入り、文字通りの1番乗りを取った。準備運動もせずに海に入ったため、同じく水着を着た海恋に注意された。しかし水着を着た響たちも準備運動などせずに、海に入っていく。この様子に海恋はかなり呆れている。ちなみに、この場に来ているのは装者だけでなく、海恋と未来も来ている。

 

特訓とは言っているが・・・実際にやっていることとは単純に遊びである。響は未来とエルフナインと一緒に水の掛け合いっこ、日和は海恋の手を取って泳ぎ方を教え、練習の付き添い、クリスは浮き輪に乗って海の波に揺られ、調と切歌は砂でお城を作っている。装者の中でも特に真面目な翼やフォルテでさえ水着に着替え、これも特訓の一部だと本当に思っている様子である。

 

~♪~

 

装者たちが海を満喫しているその頃、緒川と藤尭は異端技術研究機構にやって来ていた。ここの職員が機械を操作して、部屋の中央に光の球体が表示される。

 

「これは・・・?」

 

「ナスターシャ教授がフロンティアに遺したデータから構築したものです」

 

「光の・・・球体・・・?」

 

「そうですね。我々も便宜上、フォトスフィアと呼称しています。実際はもっと巨大なサイズとなり、これで約四千万分の一の大きさです」

 

フォトスフィアには地球儀のように陸や海が表示されており、各所に配置されている点が線を伸ばしている。

 

「フォトスフィアとはいったい・・・」

 

フォトスフィアがなんであるかはわからないが、ひとまずは調査結果は受領された。緒川は外に出て翼に通信を入れる。

 

「調査データの受領、完了しました。そちらの特訓は進んでますか?」

 

『くっ・・・!なかなかどうしてッ・・・タフなメニューの連続です・・・!』

 

「ん?」

 

『後でまた連絡します!詳しい話はその時に!』

 

通信は切られてしまう。声だけ聞けば切羽詰まった状況のようだが・・・緒川はいったいどんな特訓をしているのかと考察する。

 

~♪~

 

実際にやっているのはビーチバレーである。他の全員はこれが単なるレクリエーションだと理解しているのだが、翼とフォルテだけは本当に特訓だと思い込んでいるようで、彼女たちが出る試合は本気で白熱している。ちなみに現在のチーム分けの方は、翼側は日和とクリス、マリア側はフォルテとエルフナインとなっている。

 

「2人とも・・・本気にしちゃってるよ・・・?」

 

「とりあえず肩の力を抜くためのレクリエーションなんだけどなぁ・・・ははは・・・」

 

「はぁ・・・これ・・・本当のこと知ったら怒られるわよ・・・」

 

響と未来は苦笑いを浮かべており、海恋は少し頭を抱え、ため息をこぼした。試合の方はというと、ちょうどエルフナインのサーブに入るところだ。

 

「エルフナインちゃーん!遠慮しなくていいからねー!」

 

「おらおらぁ!バッチコーイ!」

 

「それ!」

 

エルフナインはボールを高く投げ、ジャンプサーブを決めようとしたが・・・

 

スカッ・・・

 

「あれ?」

 

ボールは見事に空振ってしまい、エルフナインはボール共々砂浜に落ち、転んでしまう。

 

「エルフナイン、大丈夫か?」

 

「なんでだろう?強いサーブを打つための知識はあるのですが・・・実際やってみると全然違うんですね」

 

「背伸びをして誰かの真似をしなくても大丈夫。下からこう、こんな感じに」

 

マリアは下からボールを打つやり方の手本を見せた。それを見たエルフナインは縮こまる。

 

「はぅ・・・ずびばぜん・・・」

 

「弱く打っても大丈夫。大事なのは、自分らしく打つことだから」

 

マリアはエルフナインの視線に合わせ、優しくアドバイスをする。

 

「はい!頑張ります!」

 

アドバイスをもらったエルフナインは笑顔を見せてくれた。

 

~♪~

 

それからも白熱した試合は続き、試合が終わったころには装者の大半が疲れ果て、ビーチチェアやレジャーシートに寝転がっている。

 

「気が付けば特訓になっていた・・・」

 

「どこのどいつだぁ~?途中から本気になったのはぁ~・・・」

 

「みんな、勝ちを狙ってたからねぇ~・・・」

 

「あんたたち、だらしない姿勢ね・・・」

 

クリスも日和も疲れているのかビーチチェアでぐでーとへばりついている。海恋はレジャーシートの上に座って本を読んでいる。

 

「晴れてよかったですね!」

 

「昨日、台風が通り過ぎたおかげだよ」

 

「日頃の行いデース!」

 

「ところでみんなー、お腹すきません?」

 

ここで響がみんなに向けてそう呼び掛けた。その声に日和が最初に反応する。

 

「あ、それならジュースの追加もありかもー!」

 

「だがここは、政府保有のビーチ故・・・」

 

「一般の海水客がいないと、必然売店の類も見当たらない・・・」

 

「で、あれば、やることは1つだ」

 

売店がない以上やることは1つ、コンビニへ買い出しだ。だが全員で行く必要はない。であるならばやることは1つだけだ。全員が一か所に集まり・・・

 

『コンビニ買い出しジャンケンポン!!』

 

それぞれが手を出し、一瞬の静寂が訪れる。そして、その静寂を最初に破ったのは響だ。

 

「あはははは!翼さん変なチョキ出して負けてるし!」

 

「変ではない!かっこいいチョキだ!」

 

「むっ・・・君たち全員グーか・・・」

 

「斬撃武器が・・・」

 

「軒並み負けたデス!」

 

ジャンケンは、斬撃武器を扱う翼とフォルテ、調と切歌がチョキで他の全員がグーである。

 

「好きな物ばかりでなく、塩分やミネラルを補給できるものもね!」

 

マリアは調と切歌に熱中症対策できるものも買うように言いつける。翼は負けて悔しいのか、かっこいいチョキをじっと難しい表情で見ていた。そんな彼女にフォルテはサングラスをかけ、自身もサングラスをかける。

 

「君は人気者なんだ。これをかけておくんだ」

 

「・・・なんだか父親のような顔になっているぞ、フォルテ」

 

「風鳴、その言葉は正しくない。僕は女だ。父親の顔ではなく、母親と・・・」

 

「そういう細かいことはいいから行ってきなさい!」

 

翼の言葉にフォルテは細かく指摘したところにマリアが背中を押し、コンビニに行くように促した。

 

~♪~

 

コンビニで買い出しを済ませた4人は大量のお菓子が入ったレジ袋と、丸ごとのスイカを持って皆が待っているビーチへの道を歩いていく。

 

「切ちゃん自分の好きなのばっかり・・・」

 

「こういうのを役得というのデース!」

 

調と切歌のやり取りを微笑ましく見ている翼とフォルテ。

 

「まったく・・・仕方のない奴だ・・・」

 

「・・・やはり父親のように見えるぞ、フォルテ」

 

「何度も言うが風鳴、僕は女だ。そこは母親のようにと言うべきだろう」

 

「母親が似合うのはマリアの方だろう?」

 

「なぜだ?」

 

翼とフォルテが他愛無い話をしていると、あるものが目に留まった。それは、社が巨大な氷塊によって破壊されていた光景だ。

 

「昨日の台風かなぁ?」

 

「お社も壊れたってさ」

 

近隣住民は台風の影響で壊れたと噂している様子だが、どう見たって台風でこのような氷塊ができるわけもなく、壊され方も台風によるものではないとわかる。4人はこの氷塊を見て、オートスコアラーのガリィとリリィが頭によぎり、嫌な予感を募らせている。

 

~♪~

 

一方その頃、ビーチにいる日和と海恋は青い海を眺めている。

 

「こうしてみんなで海に来れるなんて、思いもしなかったわ」

 

「本当だねぇ~。水着、新調してよかったよ~」

 

海で遊んでいる装者たちにエルフナインは心配そうな顔つきで歩み寄ってきた。特訓ではなく、遊んでばかりだから懸念しているのだ。

 

「皆さん、特訓しなくて平気なんですか?」

 

「真面目だなぁ~、エルフナインちゃんは」

 

響は呑気に答えた。しかしエルフナインは不安が大きくなっていくため、装者たちに特訓をするように促す。

 

「暴走のメカニズムを応用したイグナイトモジュールは、三段階のセーフティにて制御される、危険な機能でもあります!だから、自我を保つ特訓を・・・」

 

バァン!!

 

だがその言葉は突如として噴き出した水柱によって遮られた。水柱の頂点には、水の錬金術を操るオートスコアラー、ガリィがバレエのようなポーズで立っていた。

 

「ガリィ!!?」

 

「夏の思い出作りは十分かしらぁ?」

 

「んなわけねえだろ!!」

 

クリスが走り込み、響たちの前に立ってそう言い返した。

 

Killter Ichaival Tron……

 

詠唱を唄い、クリスはシンフォギアを身に纏う。それに続くように日和と響もシンフォギアを身に纏った。先手必勝としてクリスはボウガンの矢を放ち、日和は棍をガリィに向けて伸ばした。ニヤリと笑いながらこちらに突っ込むガリィは放たれた矢と棍に直撃した。だが突っ込んできたガリィは水で造られた偽物で、直撃したと同時に水となって破裂する。本物のガリィは装者3人の背後にいきなり現れ、3人に攻撃した。

 

「ぐあっ!!」

 

「くぅ・・・!!」

 

「あぁ!!マリアさん!!3人をお願いします!!」

 

攻撃を喰らった響たちは海恋、未来、エルフナインをマリアに託した。この場を離れるマリアたちをガリィは追おうとする。響たちはそうはさせまいとガリィの前に立つ。

 

「どうしてあなたがこんなところに⁉」

 

「キャロルちゃんの命令もなく動いてるの⁉」

 

「さぁ~ねぇ~?」

 

響と日和の問いにガリィはしらを切り、アルカ・ノイズの結晶を辺りにばら撒き、アルカ・ノイズを召喚した。響はアルカ・ノイズの群れに突っ込み、拳で次々と殴り倒していく。日和は棍の格闘技をアルカ・ノイズに叩き込んで倒していく。クリスは周りのアルカ・ノイズにボウガンの矢を撃ち放ち、さらにガトリング砲に変形させて弾を乱射して倒していく。飛行型アルカ・ノイズはクリスの放つ小型ミサイルで撃墜していく。

 

~♪~

 

コンビニに買い出しに行っていた翼たちは海岸で発せられている爆発を目撃した。近隣住民たちもこれを見てざわめきだし、不安がっている。

 

「あれは・・・!」

 

「もしかすると、もしかするデスか!!?」

 

「行かなきゃ!」

 

調と切歌を先にビーチに向かわせ、翼とフォルテは近くにいた唯一の大人に避難誘導の協力を仰ごうとする。

 

「ここは危険です!子供たちを誘導して、安全なところにまで!」

 

「冗談じゃない!どうして俺がそんなことを!」

 

「なっ⁉おい待て!!」

 

だが協力を仰ごうとした唯一の大人は逃げ出していった。フォルテは呼び止めようとしたが行ってしまった。行ってしまった男に翼とフォルテは不快感を覚えつつも、すぐに気持ちを切り替え、子供たちと向き合う。

 

「大丈夫!慌てなければ危険はない!」

 

「ああ!僕たちの誘導に従って避難してくれ!」

 

翼とフォルテは子供たちに指示を出して避難誘導を行った。

 

~♪~

 

召喚されたアルカ・ノイズを響、日和、クリスの3人が次々と倒していき、数を減らしていく。とここで日和が辺りを見回してみると、ガリィの姿がどこにもなかった。

 

「オートスコアラーがいない!!?」

 

「何ぃ!!?」

 

「きっとマリアさんたちのところに行ったんだ!」

 

「急がないと!!」

 

マリアのもとには海恋、未来、エルフナインの3人がいる。急がなくてはならない。3人は放たれたアルカ・ノイズを殲滅させ、急ぎマリアたちの元へと向かっていく。

 

~♪~

 

マリアは海恋、未来、エルフナインを護衛しつつ、前に出てガリィから離れようと移動している。だがそんなマリアたちの前に追いついたガリィが立ちふさがる。

 

「見つけたよ、ハズレ装者!」

 

「・・・っ」

 

「さあ、いつまでも逃げ回ってないで!」

 

ガリィは左手に錬金術で生成した氷を纏い、マリアに向けて突き立てようとする。

 

Seilien coffin airget-lamh tron……

 

マリアはガリィが突き立てた氷の刃を紙一重で躱し、ガリィの顔面を左手の拳で殴り飛ばした。そしてマリアはそのまま新生されたシンフォギア、アガートラームを身に纏った。

 

(銀の・・・左腕・・・!!?)

 

「マリアさん!それは・・・!」

 

「新生アガートラームです!」

 

「アガートラーム・・・」

 

顔面を殴られたガリィは涼しい顔で態勢を立て直し、ギアを纏ったマリアと相対する。

 

「あの時みたく失望させないでよ?」

 

ガリィはあくどい笑みを浮かべてアルカ・ノイズの結晶をばら撒き、アルカ・ノイズを召喚させる。マリアは左腕の篭手より短剣を持ち、複数の短剣を錬成し、手に持つ短剣以外は全てアルカ・ノイズに向けて放つ。

 

【INFINITE†CRIME】

 

複数の短剣はアルカ・ノイズに突き刺さり、赤い塵に変える。向かってくるアルカ・ノイズにマリアは真正面から迎え撃ち、短剣で次々切り裂いていく。襲い掛かるヒル型アルカ・ノイズもマリアは慌てることなく短剣で切り裂いた。

 

(特訓用のLiNKERが利いている・・・今のうちに・・・!)

 

シンフォギアを纏えるものの、やはりマリアにはLiNKERが必要である。あらかじめ打っておいた特訓用のLiNKERが切れる前に、マリアは短期勝負に挑む。

 

~♪~

 

ビーチで戦闘が繰り広げられていることを緒川は本部にいる弦十郎に報告を入れる。

 

「オートスコアラーの強襲だとぉ!!?」

 

『はい!装者は分断され、マリアさん1人でガリィに対応しています!』

 

「慣らしもなしにか・・・!イグナイトは諸刃の剣・・・あまり無茶をしてくれるなよ・・・!」

 

弦十郎は1人でガリィと戦うマリアを心配する。

 

~♪~

 

まだ残っているアルカ・ノイズはマリアに襲い掛かろうとする。マリアは短剣を蛇腹状の刃に可変し、変則的な斬撃で向かってきたアルカ・ノイズを斬り裂く。

 

【EMPRESS†REBELLION】

 

「ウワーアタシマケチャウカモー。ギャハハ!」

 

ガリィはあからさまな棒読みの後、高笑いをする。アルカ・ノイズを殲滅し、マリアは短剣でガリィに斬りかかろうとする。だが・・・

 

「なんてね」

 

「っ⁉」

 

ガリィはマリアの斬撃を躱し、氷の柱を振るってマリアに攻撃をする。マリアはまともに氷の攻撃を喰らい、地面に転がされる。地に彼女が手放した短剣が突き刺さる。

 

「マリアさん!!」

 

「強い・・・!だけど・・・!」

 

マリアは胸にあるギアコンバーターを握りしめる。

 

「聞かせてもらうわぁ」

 

「この力で決めて見せる!イグナイトモジュール!抜剣!!」

 

マリアはギアコンバーターのスイッチを押し、天に掲げた。ギアコンバーターは起動し、無機質な『ダインスレイフ』という音声が鳴り、宙を舞って変形し、展開された光の刃がマリアを刺し貫く。これによってマリアの身体にダインスレイフの呪いが流れ込み、呪いによってマリアは苦しみの声を上げる。

 

「弱い自分を・・・殺すんだぁ・・・!!」

 

マリアは何とか呪いに耐えようとする。だが、マリアは呪いに打ち勝つことができず、闇がマリアの全身を覆った。

 

「あれれ」

 

「マリアさん!!」

 

破壊衝動に飲まれてしまったマリアはもう暴れ狂う獣と化してしまった。マリアは破壊衝動の赴くままに獣のように腕を振るってガリィに襲い掛かる。ガリィは難なく攻撃を躱す。

 

「獣と落ちやがった・・・!」

 

ガリィは吐き捨てるように言った。ちょうど同じタイミングで響、日和、クリスの3人が到着する。

 

「あれは・・・暴走・・・⁉」

 

「私と響ちゃんと同じように・・・」

 

「魔剣の呪いに飲み込まれて・・・!」

 

暴走するマリアはガリィに向けて爪を振るおうとしたが、ガリィはバレエのように回転しながらその攻撃を躱す。ガリィは面倒くさそうな表情をしている。

 

「いやいや、こんな無理くりなんかでなく・・・歌ってみせなよ!アイドル大統領!!」

 

ガリィは襲い掛かるマリアの頭を鷲掴みにし、思いっきり振り上げて地面に叩きつけた。凄まじい衝撃に土煙が立ち込める。

 

「マリアさん!!」

 

土煙から光が発せられ、煙が晴れるとギアが強制的に解除され、水着姿で横たわるマリアの姿があった。ギアが強制的に解除されたため、暴走も強制的に終わったようだ。

 

「やけっぱちで強くなれるなどとのぼせるな!」

 

ガリィはポケットよりハンカチを取り出して手を拭いている。そんな彼女にクリスはボウガンの矢を放ち、日和は高く飛んで棍を振り下ろす。しかしガリィは向かってきた矢を左手で破壊し、振り下ろされた棍を一回転しながら躱す。

 

「ハズレ装者にはがっかりだ・・・」

 

ガリィはテレポートジェムを取り出し、地面に叩きつけてチフォージュ・シャトーに転移する。日和、クリス、エルフナインはマリアに駆けつける。

 

「マリアさん!大丈夫ですか⁉」

 

「おい!しっかりしろ!」

 

「マリアさん!マリアさん!!」

 

倒れるマリアはゆっくりと目を開けた。

 

「・・・勝てなかった・・・。私は何に負けたのだ・・・?」

 

マリアはうわごとを呟くように、そう口を開いたのであった。




クリスの誕生日

一同『お誕生日おめでとーう!!』

クリス「・・・は?え?」

マリア「やっぱり驚いてるわね」

翼「東雲と西園寺が提案したのだ。雪音を驚かそうと、本部で誕生日パーティを開こうと」

フォルテ「僕としては、立花や暁がうっかりばらさないか不安だったがな」

響「えー、そりゃないですよフォルテさん・・・」

切歌「そんなへまはしないデスよ!」

クリス「あ、あいつらが・・・あたしのために・・・?」

調「クリス先輩のために、たくさん料理を作りました」

未来「プレゼントもみんなで用意したんだよ」

クリス「・・・っ」

海恋「クリス、違うでしょ?こういうのは泣くんじゃなくて・・・」

日和「とびっきりの笑顔を見せる時、なんだよ!さあさ、クリス、思いっきり笑ってみて!」

クリス「たく・・・無茶ぶりを振んなよ・・・」

海恋「まぁ、いいじゃない。この日くらい、思いっきり笑ってみても」

クリス「お前まで・・・」

日和「海恋、クリス!これからも、3人で一緒にいようね!!」

海恋「もう・・・」

クリス「たく・・・。けど・・・ありがとな・・・海恋、日和・・・」

日和「!!?クリス、今・・・私の名前を・・・?」

クリス「!き、聞き間違いだ聞き間違い!!」

海恋「いえ、私も聞こえたわ。小さいけど、私たちの名前を・・・」

クリス「~~~!!///」

日和「クリス~!もう1回!もう1回私の名前を呼んで!できれば大きな声で!」

クリス「だぁ~~!!くっつくなぁ!!」

海恋「もう・・・。・・・誕生日おめでとう、クリス」


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輝きを継ぐ、君らしく

これが今年最後の投稿になります。来年も小説の達筆、頑張っていこうと思います。

それでは、よいお年を!


チフォージュ・シャトーの玉座の間。そこの広間の台座には5機のオートスコアラーが各々のポーズで鎮座している。そこへ、空いていた台座にテレポートジェムの陣が出現し、ガリィが帰還した。

 

「派手に立ち回ったな」

 

「目的ついでにちょっと寄り道よ」

 

レイアの言葉にガリィは素っ気なく返した。こうも不機嫌なのはマリアとの戦闘が原因なのは間違いない。

 

「ヘイ、ずいぶんご機嫌斜めだねぇ。どうしたんだい?」

 

「自分だけペンダントを壊せなかったのを引きずってるみたいだゾ」

 

「オウ、そいつはソーリー。気が回らなかったね、へへへ」

 

「うっさい!!!」

 

ミカとシャルの煽りの言動にガリィは声を荒げた。どうやら図星のようだ。言われてみれば確かに、他のオートスコアラーは装者たちのギアネックレスを1つは必ず破壊していたが、ガリィだけは破壊できていなかった。

 

「だからあのハズレ装者から1番にむしり取るって決めたのよ!!」

 

「その心意気は立派ですが・・・結果が伴わなければ意味がありません」

 

「わかってるっつーの!!」

 

マリアに標的を定めているガリィに対し、リリィが正論で返した。指摘されなくともやるべきことはわかっているガリィはさらに声を荒げる。

 

「本当、頑張り屋さんなんだから。私もそろそろ動かないとね」

 

唯一ファラだけが微笑んでそう口を開いた。

 

(1番乗りは譲れない・・・!)

 

ガリィは6つの垂れ下がっている幕を見上げ睨みつけている。

 

~♪~

 

日が沈み、時刻は夕方。夕日によって青かった海はオレンジ色に変わっている。マリアとフォルテを除いた装者全員と海恋と未来は研究機構の一室に集まっている。話題は、オートスコアラーについてだ。

 

「主を失ってもなお襲い掛かる人形・・・」

 

「どうして優位に事を運んでも、とどめを刺さずに撤退を繰り返してるんだろう・・・?」

 

「あー、言われてみればとんだアハ体験デス!」

 

「いちいち盆が暗すぎるんだよな」

 

キャロルがいなくても未だに動き続けるオートスコアラー、さらに装者たちにとどめを刺さずに撤退を繰り返すその奇行は謎に包まれている。だが今もっと気になるのはマリアの方だ。

 

「気になるのは、マリアさんの様子も・・・」

 

「力の暴走に飲み込まれると、頭の中まで黒く塗りつぶされて、何もかもわからなくなってしまうんだ・・・」

 

「うん・・・よくわかるよ。あの時は海恋のおかげで何とかなったけど・・・もしあのままだったら・・・自分が自分じゃなくなっちゃってたかも・・・」

 

イグナイトモジュール・・・ダインスレイフの呪いを経験した響と日和は少し顔を俯かせて話した。翼とクリスも肯定するかのように、神妙な顔つきになっている。まだ呪いを経験していない調と切歌は不安そうな顔になっている。

 

~♪~

 

装者たちが話している中、マリアはビーチの外に出て、海を眺め考え込んでいる。彼女の頭は負傷して包帯が巻かれている。フォルテはそんな彼女の隣に立ち、寄り添っている。お互いに口を開こうとしない。

 

(人形に救われるとは情けない・・・私が弱いばかりに、魔剣の呪いに抗えないなんて・・・)

 

マリアは自身が暴走してしまったこと、さらにはガリィによって救われたことに不甲斐なく思い、自身の無力さを呪い、握りしめた拳を見つめる。長い付き合いであるフォルテはマリアの考えていることがよくわかる。だがフォルテは口達者ではないので、こういう時、どう話をすればいいのかわからない。だから自分にできることは、ただ彼女に寄り添うことだけだとフォルテは思っている。

 

「・・・強くなりたい・・・」

 

「ん?」

 

「何者にも負けない、フォルテみたいに・・・強く・・・」

 

「・・・・・・」

 

自分のように強くなりたい・・・マリアがそう口にした時、フォルテは少し複雑そうな顔をしている。フォルテはよく皆に強いと言われているが、本人はそう思ったことは一度もない。むしろ自分が弱いせいで多くの仲間を失った。多くの命が失われたのは自分のせいだと考えているフォルテは皆に言われる強いという言葉に、どうしても受け入れられないでいるのだ。

2人が考え事をしている時、彼女たちの前に黄色いバレーボールが転がってきた。転がってきたボールの後をエルフナインが追いかけていた。彼女はマリアたちの前に立ちどまり、申し訳なさそうに謝罪する。

 

「ごめんなさい・・・皆さんの邪魔をしないよう持ってたのに・・・」

 

「邪魔だなんて・・・練習、私も付き合うわ」

 

「はい」

 

マリアはエルフナインに優しく微笑み、彼女のビーチバレーの練習に付き合う。フォルテは2人の練習を邪魔しないように、遠くで腕を組んで見守ることにした。エルフナインはあの後何度も練習を繰り返してきたようで、うまいとは言えないが、最初と比べるとボールは飛ぶようになっていた。

 

「おかしいなぁ、うまくいかないなぁ、やっぱり・・・」

 

「いろいろな知識に通じてるエルフナインなら、わかるのかな・・・」

 

「ん・・・?」

 

マリアの独り言を聞いたエルフナインはボールを持ったままマリアに顔を向ける。

 

「だとしたら教えてほしい。強いって、どういうことかしら・・・?」

 

「それは・・・・マリアさんがボクに教えてくれたじゃないですか」

 

「え・・・?」

 

エルフナインの答えにマリアは驚く。自分がエルフナインに何を教えたのか、見当もついていないのだ。マリアがエルフナインに聞き出そうとすると・・・

 

バァン!!

 

マリアの背後より、突然水柱が吹きあがった。水柱の頂上にはガリィがバレエのポーズで立っていた。

 

「お待たせ、ハズレ装者」

 

「マリア!!」

 

ガリィの出現にフォルテはすぐさまマリアとエルフナインの元に駆け寄ろうとする。ガリィは邪魔されないようにアルカ・ノイズの結晶をフォルテの前にばら撒き、アルカ・ノイズを召喚する。

 

「ちっ・・・アルカ・ノイズ・・・」

 

「あんたはお呼びじゃないのよ。それより・・・」

 

「マリアさん・・・」

 

マリアはすぐにエルフナインを庇うように前に立ち、頭の包帯をほどいて投げ捨てた。

 

「今度こそ歌ってもらえるんでしょうね?」

 

ガリィの問いにマリアは何も答えない。

 

「大丈夫です!マリアさんならできます!」

 

エルフナインの励ましの声に応え、マリアはギアネックレスを取り出し、詠唱を唄う。

 

Seilien coffin airget-lamh tron……

 

マリアは白銀のシンフォギア、アガートラームを身に纏い、短剣を構えてガリィと対峙する。

 

「ハズレでないのなら!戦いの中で示して見せてよ!」

 

ガリィはそう挑発してマリアの前にアルカ・ノイズの結晶をばら撒き、アルカ・ノイズを召喚する。先手を取るマリアは現れたアルカ・ノイズを短剣で切り裂き、続いて短剣を蛇腹状の刃に変形させて次々とアルカ・ノイズを斬り倒していく。

足止めをくらっているフォルテはシンフォギアを身に纏い、大剣を大きく振り回して、アルカ・ノイズを薙ぎ払っていく。アルカ・ノイズは次々とフォルテに襲い掛かり、フォルテは慌てることなく、落ち着いてアルカ・ノイズを対処していく。

そんな彼女たちの戦いの様子を腕を組んでいるリリィとバラを咥えているファラが見ていた。

 

「始まりましたか。私たちも動きましょう」

 

そう言ってリリィは氷の錬金術で自身に氷を身に纏って透明化し、ファラも風の錬金術による光学迷彩で姿を消した。ただこれは加勢するためではなく、ある目的のために動いているのだ。

 

~♪~

 

アルカ・ノイズが出現したことにより、藤尭がアルカ・ノイズの出現の反応を捉える。

 

「アルカ・ノイズの反応を検知!!」

 

「マリアたちがピンチデス!!」

 

装者たちは急ぎマリアたちの援護のために部屋を飛び出していった。最後に響が部屋から出た時、僅かながらの弱い風が吹き込んできた。それを感じ取った緒川は部屋を出て確認する。だが廊下には誰もいない。

 

「風・・・?」

 

「緒川さん?」

 

「どうかしたんですか?」

 

「いえ、大丈夫です。・・・きっと・・・」

 

未来と海恋には大丈夫と言っていたが、先ほど感じた風が気になっている様子だ。

 

~♪~

 

マリアはアルカ・ノイズの群れに複数の短剣を投擲し、1体ずつ倒していく。道が切り開けたことにより、マリアは真正面からガリィに突撃する。ガリィは錬金術で大きな水を生成し、マリアに向けて放った。迫りくる水にマリアは短剣を3本投げ、逆三角形のバリアを構築してこれを防ぐ。ガリィはその水を正面に移動させ、さらに追加で放つ水の奔流を放つ。マリアはバリアを正面に移動させるが、水は防ぎきれないほどの大きさで、防ぎ切れない末端から凍り付いていき、マリアは氷に包まれる。

 

(強く・・・!強くならねば・・・!!)

 

「マリアさん!!」

 

「くぅ・・・!強く・・・!!」

 

マリアは力を振り絞って、身に纏った氷を粉々に砕いた。だがすでに満身創痍で地に膝をつけてしまう。

 

「マリア!!」

 

足止めしていたアルカ・ノイズをようやく全て倒したフォルテはすぐにマリアのもとに駆け寄る。

 

「てんで弱すぎる!」

 

マリアは再びイグナイトモジュールを使おうとギアコンバーターに触れようとする。だがそれをフォルテが止める。

 

「やめろ!今の君が使っても、また暴走するだけだ!」

 

「でも・・・この力でなければ・・・!」

 

「その力。弱いあんたに使えるの?」

 

「・・・っ!!・・・私はまだ弱いまま・・・どうしたら強く・・・!!」

 

ガリィの言葉が自身の胸に突き刺さるマリア。己の弱さに悔やまれるマリアはどうすれば強くなれるのかと自問自答を繰り返す。そんな時、エルフナインが言った言葉を思い出す。

 

『それは・・・・マリアさんがボクに教えてくれたじゃないですか』

 

「・・・私が・・・?」

 

「マリアさん!!」

 

そこにエルフナインがマリアに向けて大きな声で呼びかける。

 

「大事なのは、自分らしくあることです!!」

 

エルフナインの言葉でマリアが思い出すのは、彼女に向けた自分の言葉だ。

 

『弱く打っても大丈夫。大事なのは、自分らしく打つことだから』

 

弱くても、自分らしくあること。自分で言った言葉を思い出し、痛みを押し殺して立ち上がる。そんな彼女をフォルテが支える。

 

「弱い・・・そうだ」

 

「ん?」

 

「強くなれない私に、エルフナインが気付かせてくれた。弱くても、自分らしくある事。それが・・・強さ!エルフナインは戦えない身でありながら、危険を顧みず勇気を持って行動を起こし、私達に希望を届けてくれた!」

 

「ふーん・・・」

 

「エルフナイン、そこで聞いていてほしい!君の勇気に応える歌だ!イグナイトモジュール!抜剣!!」

 

マリアはギアコンバーターのスイッチを押し、天に掲げた。ギアコンバーターは起動し、無機質な『ダインスレイフ』という音声が鳴り、宙を舞って変形し、展開された光の刃がマリアを刺し貫く。マリアの身体にダインスレイフの呪いが流れ込むが、彼女はもう以前とは違う。

 

(うろたえるたび、偽りにすがってきた昨日までの私・・・。そうだ!らしくある事が強さであるなら!!!)

 

「マリア!!!」

 

「マリアさーん!!」

 

「私は弱いまま!!この呪いに反逆して見せる!!!」

 

マリアの強い思いが、ダインスレイフの呪いを打ち砕く。マリアは漆黒の闇を身に纏い、闇は漆黒のシンフォギアの形へと変わる。マリアも、イグナイトモジュールに成功したのだ。

 

「弱さを受け入れることで強さに変わる・・・それが、マリアの力・・・」

 

マリア自身が勝ち取った力に、フォルテは驚いた顔になっている。

 

「弱さが強さだなんて、頓智を聞かせすぎだってぇ!!」

 

ガリィは悪態をつきながらアルカ・ノイズの結晶をばら撒く。マリアは短剣を左腕のガントレットに連結させて、光の刃をアルカ・ノイズに向けて連射する。アルカ・ノイズは光の刃に貫かれ消滅する。

 

「いいねいいねぇ!」

 

ガリィはスケートのように滑走してマリアに接近する。マリアは近づいてくるガリィを漆黒の短剣で一刀両断する。だが切り裂かされたガリィは水の泡となって分裂する。どうやらこれも分身のようだ。マリアは分裂した水の泡を光の刃を連射させて破裂させる。全て破裂させると、マリアの背後より巨大な泡が現れ、破裂するとガリィが現れる。

 

「私が1番乗りなんだから!」

 

マリアはすぐにガリィと距離を詰め、短剣を振るう。ガリィはその斬撃を防壁を展開して防ぐ。しかし短剣が輝きだし、威力が増すことによって防壁を破った。ガリィが驚愕した隙を狙い、マリアは彼女にアッパーを繰り出し、吹き飛ばす。空中に吹き飛ぶガリィにマリアは高く飛び、短剣を左腕のガントレットの後部に連結させ、刃を大きくさせる。そして、腰部のブースターと、ガントレットのブースターを点火させ、勢いを乗せてガリィに接近し、すれ違いざまに刃で胴体を一刀両断する。

 

「1番乗りなんだからあああああああああ!!!」

 

ガリィは最後にそのような断末魔を上げて、爆散した。

 

【SERE†NADE】

 

「マリアさん!!」

 

マリアがガリィを倒し、一息つくと装者たちが駆け付けてきた。マリアが膝をつくと、ギアは解除される。

 

「オートスコアラーを倒したのか?」

 

「どうにかこうにかね・・・」

 

「これがマリアさんの強さ・・・」

 

「弱さかもしれない・・・」

 

「え?」

 

「私らしくある力だ。教えてくれてありがとう」

 

「・・・はい!」

 

弱さを認め、受け入れることが彼女自身の強さ。自分だけの強さを手に入れたきっかけとなったエルフナインにマリアはお礼を述べた。エルフナインは満面な笑みでそれに答えた。強くなったマリアの姿をフォルテは見つめる。

 

「弱さを認め、強くなる・・・か・・・」

 

マリアの戦いを見ていたフォルテは自身がバルベルデの反乱軍であった頃の記憶を思い出し、悲しそうな表情をしている。

 

「フォルテさん?どうしました?」

 

「・・・いや、何でもない」

 

日和に声をかけられ、フォルテはいつもの無表情に戻り、笑いあう装者たちの元まで歩いていった。

 

ちょうど同じ頃、研究機構の屋上。何もない風景にヒビが割れ、粉々に砕け散ると、リリィが現れる。それと同じタイミングで透明化を解除したファラが姿を現した。

 

「ガリィ様・・・どうかあなたに、安らぎがあらんことを・・・」

 

リリィは散っていったガリィに手向けるように両手を合わせ、祈りを捧げた。

 

「お疲れさま、ガリィ。無事に私たちは目的を果たせました・・・」

 

ファラの長い舌には何かの情報が入ったマイクロチップが張り付いていた。己の目的を果たしたリリィとファラは拠点であるチフォージュ・シャトーに帰還する。

 

~♪~

 

チフォージュ・シャトーの玉座の間。ガリィが破壊されたと同時に、彼女が鎮座していた台座から青い光が放たれ、真上にあった青い垂れ幕を包む。すると青い布には錬金術の化学式が描かれた。

 

~♪~

 

時刻は夜となり、装者たちは浜辺で花火を楽しんでいた。クリスが銃型の花火でロケット花火に点火したり、日和がねずみ花火でみんなを驚かせたりと、楽しい時間を過ごしている。

 

「マリアが元気になって、本当によかった」

 

「おかげで気持ちよく東京に帰れそうデスよ!ありゃ・・・」

 

マリアが元気になったことで調と切歌は喜んでいた。そして同時に切歌の線香花火の火の玉が落ちてしまった。

 

「うむ、充実した特訓であったな!」

 

「ああ。悪くない特訓であった」

 

「それ本気で言ってるんすか・・・?」

 

最後まで特訓だと本気で思っている翼とフォルテにクリスがツッコむ。

 

「充実も充実ぅ!おかげでお腹もすいてきたと思いません?」

 

「確かに!お腹すいたー!」

 

「いつもお腹すいてるんですね・・・」

 

響の言葉に同意するように日和は笑顔で手を上げた。いつもお腹を空かせている響と日和にエルフナインは苦笑する。

 

「だとすれば・・・やることは1つ!」

 

マリアの音頭で全員が円陣を組み、例のあれを決行する。

 

『コンビニ買い出しジャンケンポン!!』

 

ジャンケンの結果、日和と響がパーで、後の全員はチョキを出したことにより、買い出し係は日和と言い出しっぺの響に決まった。翼は例のかっこいいチョキを出している。

 

「パーとは実にお前ららしいな」

 

「く、悔しい・・・!穴があったら入りたい・・・!」

 

「拳の可能性を疑ったばっかりに・・・」

 

ジャンケンに負けた日和と響は悔しがっており、そんな彼女たちにクリスが煽る。

 

「しょうがない。付き合ってあげる」

 

「私もあなたたちに付き添ってあげるわ」

 

そこに未来と海恋が2人の買い出しの付き添いに名乗りを上げた。

 

「「いいのぉ⁉」」

 

「買い込むのも大変でしょ?」

 

「それに、この2人だと買う量は多いだろうし、何よりなんか余計なもの買いそうだし」

 

こうして買い出し係が4人になり、4人はコンビに向かっていくのであった。

 

~♪~

 

コンビニにたどり着いた未来と海恋はさっそく中に入ろうとしたが、響と日和は外にある自販機のある商品に釘付けになっている。

 

「もう何やってるのー!」

 

「すごいよ未来!東京じゃお目にかかれないキノコのジュースがある!」

 

「響ちゃん響ちゃん!こっちはネギ塩納豆味があるよ!」

 

「わあ!こっちは鮟鱇汁ドリンクってありますよ!」

 

「何よそのゲテモノドリンクは・・・まずそう・・・」

 

東京じゃ見たことないドリンクに興味津々な響と日和だが、海恋はあまりにも個性豊かなドリンクに怪訝な顔をしている。

 

「ねぇねぇ、せっかくだからさ、買ってみようよ!度胸試しってやつ!」

 

「えぇ!マジっすかぁ!」

 

「とんだチャレンジャーね・・・どうなっても知らないわよ・・・」

 

「もう・・・早く入りましょう」

 

「それもそうね」

 

響と日和が個性豊かなドリンクに釘付けになっている間未来と海恋はコンビニ入ろうとする。

 

「あれぇ?確か君は・・・」

 

と、そこにコンビニから出てきた冴えない男が未来に声をかけてきた。その男は昼間に翼たちが避難誘導の協力を仰ごうとした時、一目散に逃げだした男だ。

 

「未来ちゃん・・・じゃなかったっけ・・・?」

 

「へ?」

 

「ほら、昔うちの子と遊んでくれていた・・・」

 

「・・・誰?でも・・・誰かに似てるような・・・」

 

未来はその顔に見覚えがあったが、はっきりと思い出せないでいる。海恋は目の前の男の顔が誰かに似ている気がして思案する。

 

「あれ?その男の人誰?」

 

「どうしたの未来・・・え・・・」

 

個性豊かなドリンクを買ってきた日和と響が2人の元に近づいた時、響は男の顔を見て驚愕した。男も響の顔を見て目を見開いて驚愕する。

 

「響・・・」

 

「おとう・・・さん・・・」

 

響の声は震えていた。少しの間が空き、響は突然逃げるかのように夜道を駆けだした。

 

「響ちゃん!!?」

 

「響ー!!」

 

未来たちの叫び声が、夜に響くのであった。




XD-エクスドライブアンリミテッド-

大晦日ボイス

東雲日和①
今年ももう終わりだね。来年も、海恋とクリスと一緒に、楽しい1年になるといいなぁ。

東雲日和②
1年間、お疲れ様~。君も年越しそばを食べて、1年の終わりを締めくくろうね。

フォルテ・トワイライト①
日本の伝統では大晦日に年越しそばを食べる風習があるが、僕はこの風習が好きだ。日本の文化に触れられるからな。

フォルテ・トワイライト②
今年はやり残したことはないか?ないのならば気持ちよく、よい1年を迎えようではないか。


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やるせない怒り

あけましておめでとうございます!

今年もたくさん小説を書けるように精いっぱい頑張っていきます!

あ、今話には、GX編において最も重要な人物がちょこっとだけ登場しています。それが誰かはすぐにわかると思いますが。

それでは今年1発目、どうぞ




リディアンの授業が全て終わり、放課後。二年生の教室、響は帰り支度をしているところを未来が心配そうな表情で見ている。というのも、筑波から帰ってきてから、響の元気がないのだ。その原因はやはり、偶然出会った響の父親が関係しているのだ。

 

「私、余計なことしたかもしれない・・・」

 

心配そうな顔をしている未来に響は笑顔を向けている。だがその笑顔はどこか無理をしているようにも見える。

 

「そんなことないよ。未来のおかげで、私も逃げずに向き合おうって決心がついた」

 

「本当?」

 

「ホントだって。ありがとう、未来」

 

「・・・うん・・・わかった・・・」

 

教科書を全部鞄にしまい終えた響は鞄を持って教室から出て、再び未来に顔を向ける。

 

「じゃあ、ちょ―っと行ってくるから、先に帰ってて―!」

 

響は玄関に向かって廊下を走っていく。そこへすれ違うように日和と海恋が2年生の教室に入ってきた。

 

「響ちゃんの様子はどう?」

 

「今日もぼんやりとした様子で・・・。やっぱりパパさんのこと、気にしてるんだと思います」

 

「そっか・・・」

 

響の様子を聞いた日和は少し難しそうな表情をしている。と、そこに海恋が質問をする。

 

「ねぇ小日向さん。立花さんのお父さんって、立花洸さんであってる?」

 

海恋が響の父親の名前を言い当てて、未来は驚いたような顔になる。

 

「え?海恋さん、なんでそれを知ってるんですか?」

 

「私は直接会ったことはないのだけど・・・まだ実家にいた頃、父さんが電話してた際に、その名前が出てて、もしかしたらって思ったのだけれど・・・」

 

「そう・・・だったんですか・・・」

 

どうやら海恋は響の父親、立花洸の名前だけは父親の電話で偶然聞いたようで、彼がかなり気になっている様子だ。

 

「ねぇ未来ちゃん、その・・・洸さん?がどういう人だったか教えてくれるかな?」

 

「あ、はい。えっと・・・」

 

未来は2人に洸がどういう人間であったのか知っている範囲で教えた。未来の話を聞くにつれ、海恋の顔は眉間にしわを寄せている。

 

「海恋?」

 

「え?ああ、ごめん。私、ちょっと風紀委員の仕事がまだ残ってたから、2人とも、先に帰ってて」

 

「え?あ、うん・・・」

 

海恋は2人にそう言って2年の教室を出て屋上まで移動する。風紀委員の仕事が残っているというのは嘘だ。屋上までたどり着いた海恋はすぐに電話をする。

 

「もしもしじいや?・・・ええ。三者面談もそうだけど・・・ちょっと聞きたいことがあるの」

 

電話している相手は実家にいる執事のじいやだ。

 

「立花洸さん・・・この人についてあなたの知ってる範囲でいいから教えてちょうだい」

 

海恋は真剣な表情をして洸の情報をじいやに訪ねた。

 

~♪~

 

街中にあるカフェ。窓際のテーブル席に響と、彼女と向かい合う形で洸が座っていた。テーブルには注文した飲み物とサンドウィッチが置いてあり、洸はそのサンドウィッチを取り、口に運んでいく。響は洸のでかい態度にかなりむすっとした表情だ。洸は自身のグラスのストローをいじりながら話す。

 

「前に月が落ちる落ちないで騒いだ事件があっただろ?あの時のニュース映像に映ってた女の子が、お前によく似ててなぁ・・・」

 

洸が言っているのはフロンティア事変の事を指しているのだろう。あの事件は確かにテレビなどで全国で放送されていた。その時に響は確かに映っていた。最も、洸はその少女が響であるとまだ気づいてない様子だが。

 

「以来お前のことが気になって、もう一度やり直せないかと考えてたんだ」

 

もう1度やり直す・・・ということは洸は家族との復縁を持ちかけているのだろう。だが洸の態度から見て、その誠意が全く感じられない。

 

「やり直す・・・?」

 

「勝手なのはわかってる・・・。でもあの環境でやっていくなんて、俺には耐えられなかったんだ。なあ、またみんなで一緒に・・・母さんに俺の事伝えてもらえないか?」

 

「無理だよ・・・」

 

響は洸との復縁を拒否した。3年前、バッシングを受け続けたあの苦しい日々の中で、洸は蒸発して出ていった。いてほしい時にいなかった洸に響は怒りを募らせている。そして、自分で関係を改善したいと言っておきながら、自分から家族に伝えに行こうとせず、娘である自分に縋ろうとしている姿にもっと怒りを抱く。

 

「1番いてほしい時にいなくなったのは、お父さんじゃない・・・」

 

響の拒絶に洸はあっけからんとした様子だ。

 

「やっぱ無理かぁ。何とかなると思ったんだけどなぁ。いい加減時間もたってるし。覚えてるか響?どうしようもないことをどうにかやり過ごす魔法の言葉。小さいころ、お父さんが教えただろ?」

 

洸のこの態度に響は握った拳を震わせていた。そして、いい加減耐え切れないのか響は席を立ち、店から出ようとする。

 

「待ってくれ響!」

 

「?」

 

洸の呼び止める声に響は彼に振り向いた。もしかしたら本当に復縁を求めているのではと淡い期待を抱いていた。だが洸が突き出したのはレシートだった。

 

「持ち合わせが心もとなくてなぁ・・・」

 

「・・・っ!!」

 

会計を娘に支払わせるという父親らしからぬ発言に響は怒りをぶつけたくなった。しかし響はそんな激情を抑え込み、レシートをひったくって走っていった。店員や他の客が見ていたが、気にしてる余裕はなかった。この原因を作った洸は悪びれていない様子で頭をかき、またサンドウィッチを口に運ぶ。会計を済ませ、店を出ていった響は流れ出た涙を拭いながら逃げるように走っていく。

 

ドンッ!

 

「うおっ⁉」

 

その際にスキンヘッドの不良男子とぶつかった。

 

「ちゃんと前見ろやボケェ!!!!」

 

不良は響に向けて怒鳴ったが、響は気づいていないのか、それとも気に掛ける余裕がないのか目も合わせず、走っていく。

 

「・・・ちっ!」

 

不良は忌々し気に舌打ちをして、その場を去っていった。

 

~♪~

 

チフォージュ・シャトーの玉座の間。広間にある台座に鎮座しているオートスコアラーはレイア、ファラ、リリィの3機。シャルとミカは別任務に出ているためにいない。ファラは戦果を見せるため、筑波の研究機構で盗んだマイクロチップを口に含み、錬金術を応用してデータを開示する。開示されたものとは研究機構に保存されたフォトスフィアであった。ファラは手を広げ、フォトスフィアを大きく展開する。

 

「筑波から地味に入手したらしいな」

 

「強奪もありでしたが、防衛の為にデータを壊されては元も子もありません」

 

「彼らとて無能ではないのです。如何なる可能性も無視するわけにはいきませんので」

 

オートスコアラー3機はフォトスフィアに視線を向けている。

 

「一本一本が地球にめぐらされた血管のようなもの。かつてナスターシャ教授は、このラインに沿わせてフォニックゲインをフロンティアへと収束させました」

 

「これがレイラインマップ・・・」

 

「マスターのお望みであられる世界解剖のために必要なメスはここ、チフォージュ・シャトーに揃いつつあります。滅びの時は一刻・・・また一刻と進んでゆくのです」

 

「そうでなくては、このままでは暴れたりないと、妹も言っている」

 

リリィの言うように、世界解剖の計画は1秒ずつ、その時が進んでいく。

 

~♪~

 

リディアンの放課後、調と切歌は自動販売機で飲み物を買っている。調がりんごジュースを選び、飲み物の缶がガシャンと音を鳴らす。調がりんごジュースを取り出し、切歌が自動販売機の前に立つ。

 

「今朝の計測数値なら、イグナイトモジュールを使えるかもしれないデース!」

 

調は缶のプルトップを開け、りんごジュースを飲む。切歌はいい調子だと言っているが、問題はそこではない。問題なのは、起動した後に訪れる、ダインスレイフの呪いだ。例えイグナイトを起動したとしても、それが制御できなければ、日和やマリアと同じように、暴走という末路が待っているのだから。

 

「後は、ダインスレイフの衝動に抗える強さがあれば・・・。・・・ねぇ、切ちゃん・・・」

 

「ん~・・・これデス!!」

 

切歌は変な動きをした後、両手の指2本、合わせて4本の指で同時に飲み物のスイッチを押す。こういう時、基本的に1番左のものに反応するようになっているため、1番左の指が押したコーヒーが選ばれ、それがガシャンと音を鳴らして取っ手口まで落下する。

 

「あぁー!苦いコーヒーを選んじゃったデスよぁー!」

 

切歌は苦いコーヒーが苦手である。ゆえにコーヒーが出てきて嘆いている。調はその様子を見た後、ギアネックレスを取り出し、それを見つめる。

 

「誰かの足を引っ張らないようにするには、どうしたらいいんだろう・・・?」

 

「きっと自分の選択を後悔しないよう、強い意志を持つことデスよ!」

 

そう言う切歌の顔はかなり引きつっている。よほどコーヒーが嫌なのだろう。すると調は切歌のコーヒーを取り上げ、自分のりんごジュースと入れ替えた。

 

「およ?」

 

「私、ブラックでも平気だもの」

 

調はそう言ってコーヒーを飲む。顔が引きつってないことから、本当に飲めるようだ。

 

「ご、ごっつあんデス・・・」

 

切歌がりんごジュースを飲もうとした時、本部からの緊急通信が届いた。こうして緊急で通信が入るということは、伝えられることはただ1つだ。

 

『アルカ・ノイズの反応を検知した!場所は、地下68メートル、共同溝内であると思われる!』

 

「キョードーコー・・・?」

 

「何デスかそれは?」

 

全く聞き覚えのない単語に2人は弦十郎に聞き返した。共同溝について弦十郎がわかりやすく簡潔に説明する。

 

『電線をはじめとする、エネルギー経路を埋設した、地下溝だ!すぐ近くにエントランスが見えるだろう』

 

通信機から送られてくるルートを進んでいくと、小さな小屋のような建物が見えてきた。これが共同溝のエントランスだ。

 

「お?」

 

「あれが・・・」

 

『本部は現場に向けて航行中』

 

『先んじて立花を向かわせている』

 

『緊急事態だが、飛び込むのはバカと合流してからだぞ!』

 

『月読、暁、頼んだぞ』

 

『私たちが着くまで絶対に無理はしないでね!』

 

マリアたちからの忠告を聞いて、調と切歌は通信を切って響が到着するのを待つ。しばらくしていると、響が現場にやってきた。

 

「あ、ここデース!」

 

切歌は手を振ってそう言う。だが響の様子はおかしかった。響は涙を拭いながら2人の間を通り過ぎる。一瞬だけ見えたが、今の響の顔はいつもの元気な顔ではなく、怒りと悲しみが混じった複雑な表情だった。

 

「何かあったの・・・?」

 

調は様子がおかしい響に何があったか聞いてみる。

 

「・・・何でもない・・・」

 

何でもないと言うが、腕や声は震えていて、とても大丈夫には見えなかった。

 

「とてもそうは見えないデス・・・」

 

「2人には関係ないことだから!!」

 

響は声を荒げて怒鳴り声をあげる。あの響が怒鳴り声を上げるなど初めての事ゆえ、調と切歌は驚いている。

 

「・・・確かに、私たちでは力になれないかもしれない。だけど・・・それでも・・・」

 

「・・・ごめん・・・どうかしてた・・・」

 

調の言葉で冷静になった響は申し訳ない表情をして、共同溝の入り口へと入っていく。

 

(拳でどうにかなることって・・・実は簡単な問題ばかりかもしれない・・・。だから・・・さっさと片づけちゃおう!)

 

3人が共同溝のエントランスを進んでいくと、地下へと続く大穴へとたどり着いた。大穴には地上から底まで3本のケーブルが伝っている。これが街や都市のエネルギー回路になっているのだ。

 

「行くよ、2人とも!」

 

響はギアネックレスを取り出し、詠唱を唄う。

 

Balwisyall Nescell Gungnir tron……

 

響はシンフォギアを纏い、飛び降りて地下へと向かっていく。調と切歌もシンフォギアを身に纏って響の後に続く。地下に到達した3人は講道内を進んでいく。そこに、赤い錬金陣が現れ、そこから大量のアルカ・ノイズが現れ、3人を取り囲む。奥の方では梯子の上の作業台に乗って錬金術でケーブル装置に記入しているミカとシャルがいた。

 

「来たなぁ」

 

「ヘイ、ガール!また会ったねぇ。チルドレンを引き連れて遠足かい?」

 

シャルは響に向けてわかりやすい煽りを放つ。

 

「だけど、今日はお前たちの相手をしてる場合じゃ・・・」

 

ミカが言い終わる前に響が飛び出して殴りかかってきた。驚いたミカとシャルは間一髪で回避する響が殴った外壁は壊れ、穴が開く。

 

「ワオ・・・」

 

「まだ全部言い終わってないんだゾ!!」

 

驚いたシャルはカウガール帽子を被り直す。いきなり攻撃を仕掛けてきた響に怒ったミカはアルカ・ノイズの結晶をばら撒き、新たにアルカ・ノイズを召喚させる。響は腰部のブースターでアルカ・ノイズの群れに突撃し、アルカ・ノイズに八つ当たりするかのように次々と殴り倒していく。響の目からは涙が落ちていた。

 

「泣いてる・・・?」

 

「やっぱり様子がおかしいデス!」

 

響の様子がおかしいと確信した調と切歌は周りのアルカ・ノイズをアームドギアで倒していく。単身でミカに挑む響は拳や蹴りを力任せに振るう。ただ力任せの格闘技がミカに当たるはずもなく、難なく躱され、共同溝にばかり被害が出る。その間にもシャルは壊れた作業台の上に立ち、作業を再開させている。

 

「ヘイ、ミカ!後はやっとくから、適当に足止めしてな!」

 

「わかったゾ!」

 

シャルの言葉にミカは響の力任せの攻撃を躱しながらそう返した。攻撃を続ける響の頭に浮かんでくるのは昼間の洸との話だ。響は未だに洸の一件を引きずっているのだ。

 

(なんでそんな簡単にやり直したいとか言えるんだ!!?壊したのはお父さんのくせに!!お父さんのくせに!!)

 

「突っかかりすぎデス!!」

 

切歌が指摘してきたが、今の響には聞こえない。響は複数のアルカ・ノイズを天井に叩きつけてバンカーユニットを引き出して外壁ごと破壊する。

 

(お父さんのくせにいいいいいいい!!!!)

 

壊れた外壁を見て、響は3年前の苦しかった日々を思い出し、動きが止まった。

 

(違う・・・壊したのはきっと、私も同じだ・・・)

 

洸が蒸発して出ていったことも悪いが、最終的に家族を不幸にしてしまったのは自分であり、自分は洸に自分の不幸を押し付けたと悟った響。

 

「しょんぼりだゾぉ!」

 

そして、動きが止まったところをミカが見逃すはずがない。ミカはツインロールの髪の毛をブースターにして飛行し、動きが止まった響にカーボンロッドを左手の掌から射出して叩きつけた。隙を突かれてしまった響は防御も受け身もできず、カーボンロッドに直撃し、溝道内を転がり、背後にあった足場に背中からぶつかり、気を失ってしまう。

 

「言わんこっちゃないデス!」

 

気を失ってしまった響に切歌が駆け寄り、彼女を抱きかかえる。調は襲い掛かるアルカ・ノイズをツインテール部位の丸鋸で切り裂いて撃破する。

 

「大丈夫デスか・・・?」

 

切歌は響の安否を確認するが・・・

 

「歌わないのかぁ?歌わないと・・・死んじゃうゾぉ!!!」

 

ミカは容赦なく左手の噴出孔から火炎放射を放つ。その勢いは凄まじく、全てを焼き尽くさんとするほどの熱量だ。響を抱える切歌はこの炎に対処はできない。迫りくる炎に切歌は目を瞑るが、熱は届いているが、炎は切歌と響に到達することはなかった。切歌が目を開けるとそこには調がツインテール部位の丸鋸を大きくして、盾のように使って2人を守っている姿があった。

 

「くっ・・・うぅ・・・!」

 

だが炎の威力は凄まじく、炎の熱で調の意識は朦朧になっていく。そのため調は膝を地につけるが、何とか踏ん張る。自分たちを守る調に切歌は目を見開いている。

 

「切ちゃん・・・大丈夫・・・?」

 

「・・・な・・・わけ・・・ないデス・・・!」

 

「え・・・?」

 

「大丈夫なわけ・・・ないデス!!」

 

自分を守ろうとする調にたいして声を荒げる切歌は、こうした形でクリスの心情を理解した。

 

『相棒に負担をかけさせて・・・守らなきゃいけない後輩に守られて・・・大丈夫なわけないだろ・・・!!』

 

親友であり相棒である調を守ろうと戦っているのに、先輩である日和たちに負担をかけてまで守られ、そして今、守ろうとしている調に守られている。これらによって切歌は不甲斐なさと情けなさが込み上げてくる。そして、切歌は切り札のイグナイトを使用しようとギアコンバーターを握りしめる。

 

「こうなったらイグナイトで・・・!」

 

「ダメ・・・!無茶をするのは、私が足手まといだから・・・?」

 

切歌が自分を守ろうとイグナイトを使用したところを調は止める。意地になっているのは調も同じだ。大好きな親友を守りたい・・・そう言った意地と意地がぶつかり合い、溝ができてしまい、敵の目の前だというのに喧嘩になってしまった。笑みを浮かべるミカの脳内に、ファラからの通信が入る。

 

『道草はよくないわ』

 

「正論かもだけど・・・鼻につくゾ!!」

 

ミカは火炎放射の火力をさらに高めた。これによって防ぎきれなくなり、3人は炎によって吹き飛ばされ、外壁に叩きつけられ、そしてそのまま地に落下する。炎が収まったと同時に、作業を終えたシャルが作業台から飛び降り、地に着地する。

 

「ミッションコンプリート。パーティはお開きだぜ、ミカ」

 

シャルは倒れている調と切歌に視線を向ける。

 

「ヘイ、チルドレン。ビーストガールに伝えときな。ユーのハートをいずれ必ず、撃ち抜くってな」

 

おそらくだが、このビーストガールは日和のことを指しているのだろう。シャルはカウガール帽子よりテレポートジェムを取り出し、地面に叩きつけ、転送陣を展開する。

 

「スィーユーアゲイン~♪」

 

シャルはレールガンで帽子をくいっと上げながらウィンクしてチフォージュ・シャトーに帰還する。

 

「預けるゾー。だから、次は歌うんだゾー」

 

ミカもテレポートジェムを地面に叩きつけ、転送陣でチフォージュ・シャトーに帰還する。

 

「待つデス・・・よ・・・」

 

「切・・・ちゃん・・・」

 

調と切歌は意識を失い、気絶してしまった。

 

~♪~

 

翼たちが到着した頃には、もうすでに戦闘は終わっており、響、調、切歌は医療班によって搬送された。溝道内をS.O.N.G 所属の黒服たちが調査している。

 

「押っ取り刀で駆け付けたのだが・・・」

 

「間に合わなければ意味がねえ・・・!」

 

「人形は何を企てていたのか・・・?」

 

翼たち5人も溝道内の調査を開始する。講堂内はところどころ破損個所があるが、これらはミカとシャルがやったわけではなく、ほとんどが響たちが破壊したものばかりだ。

 

「これ・・・響ちゃんたちが?オートスコアラーがやったわけじゃなくて?」

 

「はい。大きく破損した個所は、いずれも響さんたちの攻撃ばかり・・・」

 

「・・・緒川さん、これを見ていただきたい」

 

周りを観察していたフォルテが発見したのはケーブルの操作パネルの端末だ。この操作パネルは起動しており、ケーブルの操作した跡がある。この痕跡を見た緒川は目を鋭くさせている。

 

「これは・・・!オートスコアラーの狙いはまさか!急ぎ、指令に連絡を!」

 

「はっ!」

 

緒川は何かに勘づき、黒服の1人を呼び出し、弦十郎に報告するように指示を出した。




XD-エクスドライブアンリミテッド-

お正月ボイス

東雲日和
あっけおめ~♪新年早々、お姉ちゃんからお年玉もらったんだ。いいでしょ~♪

フォルテ・トワイライト
あけましておめでとう。今年もいい1年になるように、共に励もう。


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向き合う勇気

次回はオリジナルエピソードでございます。

今回の後書きのおまけはおそらく気になるであろう変身バンクの細かい描写です。いつかは前バージョンのものも書こうかなぁとは考えております。


S.O.N.G本部のメディカルルームにて、意識を失っていた響が目を覚ました。そばには未来と海恋がいる。エルフナインがカルテを持って検査結果を伝える。

 

「検査の結果、響さんに大きな怪我は見られませんでした。大したけがはありませんでした。でも、安静は必要です」

 

「よかった・・・」

 

「うん・・・」

 

さほど大きな怪我がなくて未来は安堵している。

 

「それはよかったことなのだけど・・・気になると言えば・・・」

 

響が無事だったことは喜ばしいが、海恋にはもう1つ気になっていることがある。それは、後ろの席で調と切歌が喧嘩をしているところだ。2人とも大した怪我はなかったのだが、2人とも頭に包帯が巻かれており、湿布も貼ってあった。

 

「調が悪いんデス!」

 

「切ちゃんが無茶するからでしょ!」

 

「調が後先考えずに飛び出すからデス!」

 

「切ちゃんが私のことを足手纏いに思ってるからでしょ!」

 

あれほど仲が良かった調と切歌の仲が拗れ、口喧嘩に発展している。喧嘩している光景に未来は驚いている。

 

「2人が喧嘩だなんて・・・」

 

「あんなに仲がよかったのにね・・・」

 

響は2人が喧嘩する原因は自分にあると理解しているため、表情を曇らせている。2人の喧嘩をエルフナインが仲裁する。

 

「傷に障るからやめてください!そんな精神状態では、イグナイトモジュールを制御できませんよ⁉」

 

エルフナインの言葉を聞いて、切歌と調は落ち込む。

 

「「・・・ふん!」」

 

お互いに顔を合わせようとしたが、視線に合ったと同時にそっぽを向いてしまう。そこに響が2人の前に歩み寄る。

 

「ごめん2人とも・・・。最初にペースを乱したのは・・・私だ・・・」

 

響は2人の手を取り、2人の手を重ねた。

 

「さっきはどうしたデスか・・・?」

 

切歌が不安げな表情で何があったのか尋ねた。響は任務の前に何をしてたのかを話した。

 

「うん・・・。あれからまた、お父さんに会ったんだ・・・。ずっと昔の記憶だと、優しくてカッコよかったのにね。すごく嫌な姿を見ちゃったんだ・・・」

 

「嫌な姿・・・?」

 

「自分のしたことがわかってなかったお父さん・・・。無責任でカッコ悪かった・・・。見たくなかった・・・こんな思いをするなら・・・二度と会いたくなかった・・・!」

 

自分の尊敬していた父親がこの3年ですっかり変わり果て、情けない男に成り下がってしまい、響はそれがショックで溜まらなかった。響はそれを思い返し、涙が溢れている。

 

「私が悪いの・・・私が・・・」

 

今回響が洸と話し合いをすることになったのは、未来がよかれと思って話し合いの場を設けたからだ。それが逆に裏目に出ただけでなく、響を悲しませてしまうことになり、未来は自分を責めた。

 

「それを言ってしまったら・・・洸さんがそうなってしまったのは・・・西園寺家に責任があるわ・・・」

 

海恋は響に申し訳ない表情で頭を下げる。

 

「立花さん・・・本当にごめんなさい!私の父が・・・社員に・・・洸さんに気にかけてあげれば・・・こんな事には・・・!」

 

実は洸はかつて海恋の父親が社長を務める商社でサラリーマンとして働いていた。ところが、3年前のツヴァイウィングのライブの事件。その被害者の中に、取引先の社長令嬢がおり、洸が響の生存を喜んだことをきっかけに、取引先の社長によって取引を白紙・・・さらに社長である海恋の父親から社内プロジェクトから外され、社内で持て余されるような扱いを受けたのだ。

その事実をじいやから聞いた海恋は利益しか求めない自分の父親を軽蔑した。とはいえ、父親のしでかしたことは家の責任であると考える海恋はかなりの責任を感じており、こうして頭を下げているのだ。

 

「それは違います・・・未来や海恋さんは悪くありません・・・。もう過ぎたことですし・・・。それに・・・悪いのはお父さんですから・・・」

 

響は涙を溜めつつも、悪いのは洸であると言い放った。

 

「でも・・・」

 

響は未来に歩み寄り、涙を拭いて笑う。

 

「へいきへっちゃら。だから、泣かないで、未来・・・」

 

「うん・・・」

 

顔を俯かせている海恋は響に顔を合わせる。

 

「立花さん・・・こんなこと私が言う資格がないのはわかってるつもり。でもね・・・あまり洸さんを責めないであげて。洸さんは・・・父さんの会社の被害者でもあるんだから・・・」

 

海恋の言葉を聞いて響は何とも言えないような悲しい顔をして俯く。そんな中調と切歌はこの雰囲気に耐え切れず、メディカルルームから揃って退室した。2人は1度はお互いに顔を向き合うが・・・

 

「「・・・ふん!」」

 

またお互いにそっぽを向いてしまう。そこにエルフナインがガンタイプの注射器を持ってメディカルルームから出てきた。

 

「これを、調さんと切歌さんに・・・」

 

エルフナインが渡したのはmodel_KのLiNKERであった。

 

「model_K・・・?」

 

「オートスコアラーの再襲撃が予想されます。投与はくれぐれも慎重に。体への負担もそうですが、ここに残されているLiNKERにも限りがありますので」

 

エルフナインは2人に念押しするように説明した。2人は受け取ったLiNKERを黙って見つめる。

 

~♪~

 

シャワー室では共同溝の調査を終えて帰還した翼たち5人がシャワーを浴びて身体の汚れを落としていた。5人は響の父親について聞かされており、今回の一件で響の身を案じている。

 

「やはり父親の一件だったのね」

 

「響ちゃん・・・とっても辛そう・・・。私のママも出ていったから・・・響ちゃんの気持ち・・・よくわかるよ・・・」

 

親が出て行ってしまったこともあり、日和には響の気持ちがよくわかる。万が一日和の母が縒りを戻そうと帰ってきたならば、自分も響と同じことをするだろうとわかっているからだ。

 

「こういう時は、どんなふうにすればいいんだ・・・?」

 

「どうしていいのかわからないのは、私も同じだ。一般的な家庭のあり方を知らぬまま、今日に至る私だからな・・・」

 

「いずれにしても、両親を持たぬ僕たちに立花にしてあげられることは・・・おそらくないだろう・・・」

 

5人は響の手伝いをしてやりたい気持ちはあるものの、4人とも両親がいない、翼は一般の家庭とは違うために手助けをしてあげることができない。この問題は響自身が解決するほか選択肢はないのだ。

 

~♪~

 

一方ブリッジにて弦十郎は緒川から講堂内の調査報告を受けている。

 

「敵の狙いは電気経路の調査だとぉ?」

 

『はい!発電施設の破壊によって、電力総量が低下した現在、政府の拠点には、優先的に電力が供給されています。ここを辿ることにより・・・』

 

「表から見えない首都構造を探ることが、可能となるか・・・」

 

緒川の報告を聞いて弦十郎は思案顔になる。

 

~♪~

 

チフォージュ・シャトーの玉座の間。玉座に設置された棺のようなものに、パイプオルガンのような装置から光が流れ込んでいる。

 

「これで~!どや~!」

 

台座に鎮座するミカとシャルが腕を振り下ろすと、床一面に共同溝から奪取してきた電機経路図が映し出された。

 

「派手にひん剥いたな。ん・・・?」

 

レイアがミカとシャルの戦果を称賛すると、ミカは鼻をこすり、台座からぴょんと飛び降り、玉座の間から出ていこうとする。

 

「どこへ行くの、ミカ?まもなく思い出のインストールは完了するというのに」

 

「自分の任務くらいわかってる!!きちんと遂行してやるから、後は好きにさせてほしいゾ・・・!」

 

ミカは声を荒げてそう言い放った。その姿はまるでわがままを言って出ていく子供の所作だ。玉座の間から出ていったミカにシャルは肩をすくめる。

 

「ふぅ~。ミカもチャイルドだねぇ」

 

「しかし、課せられた任務はきちんと理解しています。ならば好きにさせてあげましょう」

 

リリィの言うとおり、ミカは自分の果たすべき使命は理解している。それはここにいる全員が知っているため、誰も文句は言わない。

 

~♪~

 

時刻は夕暮れ。ミンミンゼミが鳴いている中、調と切歌は帰路を歩いている。いつもなら2人並んで帰るのだが、2人の間には少し距離が開いていた。お互いに何もしゃべらない。そんな沈黙を最初に破ったのは調だ。

 

「私に言いたいこと、あるんでしょ・・・?」

 

「それは調の方デス!」

 

「私は・・・」

 

切歌の反論に調は目を逸らした。切歌もそれ以上のことは追及できず、黙り込む。再び沈黙に入ろうとしたその時・・・

 

ドカアアアアアン!!

 

『きゃあああああああああ!!!!』

 

突如近くで爆発が発せられた。2人が爆発した場所を見てみると、空から熱が込められたカーボンロッドが雨のように降ってきた。近くの住民たちは降ってきたカーボンロッドから逃げながら悲鳴を上げている。

 

「これは・・・!」

 

ドカアアアアン!!

 

2人が驚いている間にも2人の背後にもカーボンロッドが降り注ぎ、爆発する。これらの攻撃が何を意味しているのか、2人にはすぐにわかった。

 

「あたしたちを焚きつけるつもりデス!」

 

前方から歪な気配を感じ、2人が見上げてみると、壊された鳥居の上にミカが立っていた。これらの爆発は全てミカが引き起こしたものだったのだ。

 

「足手纏いと・・・軽く見てるなら・・・!」

 

調は頬に貼ってあった絆創膏と湿布を外して、ギアネックレスを取り出して詠唱を唄う。

 

Various Shul Shagana tron……

 

シンフォギアを身に纏った調はツインテール部位のバインダーを展開し、無数の丸鋸をミカに向けて放った。

 

【α式・百輪廻】

 

放たれた無数の丸鋸をミカは躱すことなく、これまでの2倍ほどの長さがあるカーボンロッドを取り出し、手首ごと回転して破壊する。ミカはシンフォギアを身に纏った切歌に狙いを定め、鳥居から飛び降りる。切歌も鎌を構え、ミカとの距離を詰める。

 

~♪~

 

調と切歌がミカと戦っている光景はS.O.N.G本部のブリッジでも確認できている。弦十郎はすぐに2人に通信し、指示を出そうとする。

 

「今から応援をよこす!それまで持ちこたえ・・・」

 

ズゥン!!

 

「ぬぅ!」

 

そこに潜水艦に大きな衝撃が走り、艦内が揺れる。だがこの揺れは岩にぶつかったわけでも、座礁したわけでもない。ならばこの衝撃は何か。その答えは目の前のモニターに映っていた。

 

「海底に巨大な人影だとぉ!!?」

 

目の前のモニターには、巨大な人影があり、この巨人の左が本部である潜水艦を掴んで進行を妨害していた。この巨人はレイアの妹である。そして海上には腕を組んでいるレイアがいた。

 

「私と妹が支援してやる・・・だから存分に暴れろ、ミカ」

 

レイアは妹と共にミカの戦闘に邪魔が入らないようにこうして潜水艦の進行を阻止するのであった。

 

~♪~

 

調と切歌と戦っているミカは文字通り大暴れだ。ミカは2人に向けて左手の掌からカーボンロッドを射出する。放たれたカーボンロッドを調は左右に移動して躱し、切歌は跳躍で躱していく。調は高く飛び、スカートを鋸に変形させて、自身も回転しながらミカに斬撃を放とうとする。

 

【Δ式・艶殺アクセル】

 

鋸と化したスカートの刃をミカはカーボンロッドで受け止め、そのまま弾き返した。そこに切歌が大鎌を振り下ろしたが、ミカはこれを躱し、蹴りを放って切歌を吹き飛ばす。調は絵馬掛所の屋根に着地し、切歌も鎌を振り回して地に着地する。

 

「コレっぽっちぃ~?これじゃギアを強化する前の方がマシだったゾ・・・」

 

ミカは鳥居から飛び降りて着地し、カーボンロッドを首にかけて、それを両手に乗せてつまらなさそうにそう言った。

 

「そんなこと、あるもんかデス!!」

 

「ダメ!!」

 

切歌はミカの挑発に乗って単身で斬りかかろうとする。調は静止の声を上げるが、切歌は聞く耳を持たない。切歌が振り下ろした鎌をミカは跳躍して躱す。切歌は鎌の刃を3つに展開し、追撃として3つの刃をブーメランのように放った。

 

【切・呪りeッTぉ】

 

ミカは迫ってきた刃をカーボンロッドで受け止めたが、空中で爆発した。

 

「どんなもんデス!」

 

切歌は歓喜の声を上げたが、爆発の煙が晴れて見てみると、ミカは全くの無傷でツインロールの髪のブースターで宙に浮いていた。

 

「こんなもんだゾー!」

 

ミカは空中に浮かばせているカーボンロッドを切歌に放つ。切歌はカーボンロッドを躱したが、残ったカーボンロッドは逃げ道を奪うように地に突き刺さる。

 

「連携しないと無理だぞぉ~?」

 

放たれたカーボンロッドはまだ残っており、突き刺さったカーボンロッドのせいで切歌は避けることができない。

 

「躱せないなら・・・受け止めるだけデス!!」

 

切歌は頑なに調と連携しようとはせず、自分1人で攻撃を受け止めようとしている。だがカーボンロッドの数は多く、切歌のイガリマでは防ぎきることはできない。カーボンロッドが切歌に迫ってきた時、調が切歌の前に割って入ってきて、ツインテール部位のバインダーを展開し、4つの巨大な丸鋸で防御壁を作った。カーボンロッドは丸鋸に直撃し、爆発したが、2人にダメージはない。

 

「なんで!!?後先考えずに庇うデスか!!?」

 

だが切歌は自分を守ってくれた調を突き飛ばす。調はそんな切歌にむすっとした表情になる。

 

「やっぱり、私を足手纏いと・・・」

 

「違うデス!!調が大好きだからデス!!!」

 

「え・・・?」

 

調は切歌の口から出た言葉に驚く。切歌はミカに向かって鎌を振るうが、ミカはカーボンロッドで防ぐ。戦いながら切歌は自分の思いを調に伝える。

 

「大好きな調だから・・・傷だらけになる事が許せなかったんデス!!」

 

「じゃあ・・・私は・・・」

 

「あたしがそう思えるのは・・・あの時調に庇ってもらったからデス!!」

 

切歌の脳裏に浮かび上がるのは、共同溝で調が自分を守ってくれた姿。そして、今日に至るまで自分たちのために怒ってくれた大切な仲間たちだ。

 

「みんなが私たちに怒るのは、私たちを大切に思ってくれているからなんデス!!」

 

「私たちを・・・大切に思ってくれる・・・優しい人たちが・・・」

 

切歌とミカの鍔迫り合いは拮抗を保たれていたが、ミカが放った火炎放射で切歌は吹き飛ばされる。

 

「ああああああ!!」

 

吹き飛ばされた切歌に調は彼女を受け止め、支える。

 

「なんとなくで勝てる相手じゃないゾ!」

 

ミカは手首を回転させながらさらに2人を煽っていく。

 

「マムが遺してくれたこの世界で・・・カッコ悪いまま終わりたくない!」

 

2人の脳裏に浮かび上がるのは、悲しそうな表情をした響が洸に対して言った言葉だ。

 

『無責任でカッコ悪かった・・・』

 

「だったら・・・カッコよくなるしかないデス!」

 

「自分のしたことに向き合う強さを・・・!イグナイトモジュール!!」

 

「「抜剣(デース)!!!」」

 

調と切歌はギアコンバーターのスイッチを押し、掲げた。2つのギアコンバーターは起動し、無機質な『ダインスレイフ』という音声が鳴り、宙を舞って変形し、展開された光の刃が調と切歌を刺し貫く。そして、2人の身体にダインスレイフの呪いが流れ込む。これを見たミカは確信していた。イグナイトが成功し、2人は強くなると。

 

「底知れず、天井知らずに高まる力ぁ!!」

 

ミカの高ぶりは向上し、彼女の全身が炎に包まれる。ミカのロールの髪はほどけ、上着は焼け落ちる。だがミカの戦闘能力は最高まで高まっている。これこそが、ミカに搭載された決戦機能『バーニングハート・メカニクス』だ。その効果は、思い出が焼失しきるまでの4分間だ。

 

「ごめんね・・・切ちゃん・・・!」

 

「いいですよ・・・それよりもみんなに・・・!」

 

「そうだ・・・みんなに謝らないと・・・!そのために強くなるんだ!!」

 

1人の力では敵わなくとも、2人の力が合わされば、乗り越えられないものはない。2人の強い思いがダインスレイフの呪いを支配する。調と切歌は漆黒の闇を身に纏い、闇は漆黒のシンフォギアの形へと変わる。イグナイトの力を得た2人は力を合わせて全力のミカに立ち向かう。

切歌が鎌でミカに斬りかかり、調はヨーヨー型の丸鋸を放つ。ミカは切歌の斬撃を弾き返し、迫ってきたヨーヨー型の丸鋸を受け止め、それを調ごと投げ飛ばした。

 

「調!!」

 

「サイキョーのあたしには響かないゾ!もっと強く激しく歌うんだゾ!!」

 

ミカは高く飛び、切歌に向けてカーボンロッドを乱射する。切歌は迫ってきたカーボンロッドを鎌で全て弾いたが、ミカの接近を許してしまい、射出されたカーボンロッドの打撃を喰らってしまい、神社の外壁に背中を打ち付けられる。ミカは攻撃の手を緩めることなく、カーボンロッドを射出し、切歌の逃げ道を奪う。そして、切歌の目の間でミカは右手の掌から炎を放とうとしている。

 

「向き合うんだ!出ないと乗り越えられない!!」

 

調はそれを阻止しようと、通常の何倍もの小型丸鋸をミカに向けて放った。迫ってきた無数の丸鋸をミカは髪を自在に操って叩き落とし、跳躍して宙に浮く。ミカは空中で円を書き、巨大な炎の錬金陣を展開する。錬金陣より巨大なカーボンロッドが複数現れ、それが雨のように降り注いだ。切歌は降ってきたカーボンロッドの間を避けるように走る。

 

「闇雲に逃げてたらじり貧だゾ!!」

 

ミカはさらに今までより1番巨大なカーボンロッドの上に乗り、これを切歌に放つ。

 

「知ってるデス!だから!!」

 

切歌は迫った来た巨大なカーボンロッドを他に突き刺さっていたカーボンロッドに鎌を引っ掛けて旋回することでこれを回避する。

 

「ぞなもし!!?」

 

カーボンロッドを回避した切歌は鎌から手を放し、肩のアーマーをアンカーのように発射。このアンカーはミカを通り過ぎ、彼女の背後にいる調が展開したバインダーに引っ掛ける。残りのアンカーはミカの身体に巻き付き、地に突き刺して彼女を拘束する。ミカの背後には調の車輪鋸が、前方には切歌のギロチンの刃が迫ってくる。

 

【禁殺邪輪 Zぁ破刃エクLィプssSS】

 

「足りない出力をかけ合わせてぇ!!?」

 

ミカは刈られるにも関わらず、満面な笑みを浮かべながら2つの刃によって切断され、爆散した。

 

~♪~

 

戦いが終わり、神社にはS.O.N.Gの職員が集まり、事後処理に当たっている。だが、ミカを倒したのはいいが、独断専行した調と切歌はクリスに怒られている。

 

「こっちの気も知らないで!!」

 

クリスの怒鳴り声に2人は縮こまる。クリスの隣には腕を組んでいる弦十郎とフォルテがいる。

 

「君たちの独断は目に余る」

 

「たまには指示に従ったらどうだ?」

 

フォルテと弦十郎の言葉に2人は謝罪する。

 

「独断が過ぎました・・・」

 

「これからは気を付けるデス・・・」

 

「んぉ?」

 

「お、おぉ・・・珍しくしおらしいな・・・」

 

2人の予想外の謝罪に3人は驚きを隠しきれない。

 

「私たちが背伸びしないでできるのは、受け止めて、受け入れること・・・」

 

「だから、ごめんなさいデス・・・」

 

「う、うむ・・・わかればそれでいい・・・」

 

2人の謝罪で説教はすぐに終わった。とぼとぼと帰路を歩く調と切歌の背中を3人は見送る。

 

「まったく・・・」

 

「先輩が手を引かなくたって、いっちょ前に歩いて行きやがる・・・。

(あたしとは、違うんだな・・・)」

 

クリスは2人の背中をじっと見つめ、フォルテは自分の仕事をこなそうと持ち場へと向かう。

 

(マリアは自分のあるべき力を見つけ、2人もまた、2人らしい強さを見つけた。3人はとても強い・・・そして、これからも強くなる・・・)

 

そこまで考えるとフォルテは歩みを止め、拳を握りしめる。

 

(そう・・・僕だけだ。僕だけが・・・未だに弱いままだ・・・)

 

フォルテの脳裏に浮かび上がるのは、セレナを含んだこれまで亡くなった仲間たちの、最後の瞬間であった。

 

(このままでは・・・同じことが繰り返されてしまう・・・!)

 

いつまでも弱い自分にフォルテは焦りが生じ始め、拳を血が流れるほどに強く握りしめる。

 

~♪~

 

調と切歌はゆっくりと帰路を歩ていく。

 

「足手纏いにならないこと・・・それは強くなることだけじゃない・・・自分の行動に責任を伴わせる事だったんだ」

 

切歌はスマホで責任という単語を調べる。

 

「責任・・・自らの義に正しくあること。でも、それを正義と言ったら、調の嫌いな偽善っぽいデスか?」

 

調は以前響たちと敵対していた時、彼女に向けて言った言葉を思い出す。

 

『それこそが偽善・・・!』

 

「ずっと謝りたかった・・・。薄っぺらい言葉で、響さんを傷つけてしまったこと・・・」

 

「ごめんなさいの勇気を出すのは、調1人じゃないデスよ・・・」

 

切歌は調の肩に手を落ち、彼女の額と自分の額とくっつける。

 

「調を守るのはあたしの役目デス!」

 

「切ちゃん・・・。ありがとう・・・いつも、全部本当だよ・・・」

 

いつも通りの仲良しに戻った調と切歌はお互いに笑いあった。

 

~♪~

 

チフォージュ・シャトーの玉座の間。ミカが破壊されたことで、ミカの台座から赤い光が放たれ、赤い垂れ幕を包んだ。そして、赤い垂れ幕に錬金術の化学式が描かれた。同時に、玉座の間に設置してあった棺が開いた。棺より出てきたのは・・・なんと亡くなったはずのキャロルであった。彼女の前に4機のオートスコアラーはひざまずく。

 

「お目覚めになりましたか」

 

「マスターのお目覚め、心よりお待ちしておりました」

 

キャロルは垂れさがっている赤と青の垂れ幕を見て、状況を把握した。

 

「・・・そうか・・・ガリィとミカが・・・」

 

「派手に散りました」

 

「これからどうするんだい?」

 

シャルの問いかけにキャロルは迷うことなく断言する。

 

「言うまでもない。万象黙示録を完成させる・・・。この手で奇跡を皆殺すことこそ、数百年来の大願・・・」

 

キャロルの断言を聞いたリリィはさらに頭を下げ、口を開く。

 

「我々にお任せくださいませ、マスター。あなた様の大願であられる世界解剖・・・それを阻む奇跡は全て・・・凍てつくして砕いてごらんにいれましょう・・・」

 

そう断言をし、リリィは顔を下げたまま、口元に笑みを浮かべる。キャロルに絶対の忠誠を誓っているリリィの目はまるで絶対零度のように冷たかった。




日和の変身バンクGXバージョン

聖歌を歌い、身に纏っていた衣服を分解し、インナースーツを身に纏う。
次に腕部の装甲を纏い、棍を射出するリボルバー式ユニットを手首に装着。
脚部の機械装甲を纏い、腰部にパレオが出現し、機械の部品が連結し、尻尾を生成、腰部と連結する。
最後に耳から順にヘッドギアを生成し、仕上げに機械部品がウサギ耳を作り上げ、ヘッドギアと連結する。
シンフォギアを身に纏った後は右手首のユニットより棍を射出して、それを手に取って回転し、最後には両手で棍を持ち、構える。



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命の記憶

今回からオリジナルエピソードでございます。


これはフォルテの昔の記憶。フォルテの故郷バルベルデ共和国では戦が絶えなかった。どこの景色も火の粉が散るばかり。当時フォルテもトレイシー・テレサという名で子供ながらに反乱軍の戦に参加していた。

 

『ぐああああああ!!』

 

フォルテ・・・テレサが多く聞くのは兵士たちの断末魔だ。戦争に参加するということは、命の奪い合いに加担するということ。ゆえにテレサはその手で数多くの命を奪ってきた。政府軍を屈服させれば、国の情勢は安定すると言い聞かせながら。

 

そんなある時、反乱軍の一部兵士が自分の命惜しさに仲間を裏切った。その結果、テレサを含んだ兵士たちは政府軍が待ち構えていた戦地に送り込まれ、彼女たちが属していた拠点も奪われることとなった。

 

『な、なんだと!!?政府軍が待ち構え・・・ぎゃああああ!!』

 

『みんな下がれー!!このままでは・・・ごふっ!!?」

 

『撤退!!撤退!!!』

 

『うわあああああ!!!』

 

戦の結果は誰が見ても明らかで、待ち伏せされていた政府軍に一網打尽にされ、送り込まれた兵士は全滅した。運良く生き残ったテレサを除いては。

 

『な・・・なぜだ・・・どうしてこうなったんだ・・・?』

 

数多くの仲間たちが目の前で失い、テレサは涙を流し、悔しさで拳を地面に叩きつけた。その後は生き残ることだけを考え、各地を彷徨い続けたが、そう長くは続かず、疲労で倒れ込んでしまう。テレサが死を覚悟した時、現地に来ていたF.I.Sの人間に拉致された。これによってテレサの人生は大きく変わり、己の名を捨て、フォルテ・トワイライトとして生きることとなった。

 

その当時のことを思い出していたフォルテはS.O.N.G本部の個室で拳を強く握らせている。

 

「・・・同じことは・・・もう決して・・・繰り返させてなるものか・・・!」

 

フォルテの心の内は、本人も自覚しない焦燥感に駆られていた。

 

~♪~

 

調と切歌がミカを倒した翌日、響は検査入院という項目で都内の病院に移ることとなった。そしてその病院は日和の姉、東雲咲が勤務している病院だ。日和、海恋、クリスの3年生組はお見舞いの果物を持って響のお見舞いに来ている。現在は彼女の病室に向かって歩いている。

 

「悪いわね、日和の買い物に付き合ってもらっちゃって」

 

「まぁ、バカの様子を見るついでだ。これくらい気にすんな」

 

「まったく・・・ただの検査入院だっていうのに・・・」

 

「だってベッドで寝た切りのままだなんてかわいそうじゃん?おいしい果物でも食べて、気を紛らわせないとでしょ?」

 

「んなこと考えてんのはお前とバカだけだ」

 

「えー。そりゃないよー・・・」

 

他愛ない雑談で盛り上がっているうちに3人は響の病室にたどり着いた。3人が病室に入るとそこにはベッドから起き上がった響と同じくお見舞いに来ていた未来がいた。

 

「あ、クリスちゃん!日和さんに海恋さんも!」

 

「思ったより元気そうだな」

 

「もう、ただの検査入院なのに、みんな大騒ぎしすぎだよぉ~」

 

「響のせいで大騒ぎしてるんでしょ」

 

「状況が状況とはいえ、そうなってるのは自分の行いの結果なんだから、反省なさい」

 

「うぅ・・・外でもお説教は勘弁してくださいよぉ~・・・」

 

結果から見れば入院することになったのは響自身の行動によるものだと海恋から指摘され、響は渋い顔つきになる。

 

「大丈夫だよ、響ちゃん。お姉ちゃんの言うことをちゃんと聞いてれば、すぐに退院できるって。はい、これお見舞いの品!1番いいものを選んだからねー」

 

「わあ!ありがとうございます、日和さん!」

 

日和から果物を受け取り、響は彼女にお礼を言った。未来もわざわざ持ってきてくれた日和に頭を下げる。

 

「本当にすみません。気を遣っちゃって・・・」

 

「いいのいいの。私が好きでやってることだからね。あ、そうだ。喉渇いてない?お茶とか買ってきてあげるよ」

 

「あ、それなら私が・・・」

 

「大丈夫大丈夫、自販機で買うからさ。未来ちゃんは響ちゃんのそばにいてあげて」

 

飲み物を買いに日和は病室から退室した。どこまでも元気な日和に響と未来は笑みを浮かべ、海恋とクリスは呆れる。

 

「たく、あのバカ2号は・・・」

 

「まぁ、日和らしいけど」

 

海恋はそう言って笑みを浮かべた後、海恋は2人に質問をする。

 

「あ、ところで今日は咲さん来てないかしら?ついでに挨拶しておこうと思ったのだけど・・・」

 

「咲さんですか?そういえば今日は見ないですね」

 

「私もです。もしかして、今日は休みなんじゃないですか?」

 

「マジかぁ・・・。タイミングが悪かったかぁ・・・」

 

病院に入院している響も見ていないことから今日は咲は休みなんじゃないかと推測し、クリスは少し残念そうにしている。

 

「まぁ、いないなら仕方ないわ。また後日改めて顔を合わせましょう」

 

いないなら仕方ないと思い、2人は咲の顔合わせは後日にしようと決め、しばらくは響の様子でも見ようと病室に残った。

 

~♪~

 

一方その頃、本日は休みである咲は自分の部屋に溜まってあったゴミを出しに行っていた。その隣には調と切歌がおり、2人は咲のゴミ出しの手伝いをしている。

 

「2人ともごめんね、掃除に付き合ってもらっちゃって」

 

「このくらいおちゃのこさいさいデース!」

 

「それに、日和先輩から頼まれてましたから」

 

日和に頼まれたと聞いて、咲は嫌な予感がして冷や汗をかいている。

 

「ねぇ・・・一応聞くけど・・・・日和に何頼まれたの?」

 

「咲さんはお片付けができないから、遊びに行く時は掃除してあげてって言ってました」

 

「日和・・・なんて余計なことを・・・」

 

実際事実だから何とも言えないが、いらないことを教えた日和に咲は自分の妹をちょっと恨んだ。どうして調と切歌が咲と親しいのか。それは、現在2人の住まいは咲が住んでいるマンションだからだ。しかも、部屋も隣同士。日和からの紹介ということもあって、必然的に会う機会が多く、よく咲の部屋を掃除しているのだ。ちなみにこれによって日和は『自分の負担が減った』と大いに喜んでいた。

全てのゴミをゴミ捨て場に置いて3人はひと段落する。

 

「これで全部だね」

 

「こうもゴミが多いと、掃除も一苦労デスね」

 

「2人ともありがとう。頑張った子にはご褒美をあげなきゃね。今からお菓子、買いに行こっか。好きなもの、何でも買っていいからね」

 

「わーい!やったデース!」

 

掃除のお礼として咲は2人にお菓子を何でも買っていいと宣言する。喜んでいる切歌に調が彼女をじーっと見つめる。

 

「切ちゃん、それが目当てでしょ」

 

「これも役得というものデース」

 

2人のやり取りに咲は微笑ましい笑みを浮かべる。

 

「おや先生、こんにちは」

 

すると、同じくゴミ出しに来たおばあさんが咲に挨拶してきた。このおばあさんは以前咲が診察した患者でお互いに顔見知りである。

 

「あ、こんにちは。ほら、2人とも挨拶」

 

「「こんにちは(デース)」」

 

調と切歌もおばあさんに挨拶をする。

 

「はい、こんにちは。もしかして、妹ちゃんかい?」

 

「まぁ、似たようなものです。そちらもゴミ出しを?」

 

「まぁ、散歩ついでにですね。こうして散歩できるのも、先生のおかげです」

 

「いえ、私は診察をしただけです。治療はしてません」

 

「いえいえ、先生が診察してくれたおかげで、こうして病気を治すことができたんです」

 

「そう言っていただけて、嬉しいです」

 

調と切歌は2人の会話を聞いて、おばあさんが咲のことをどれだけ慕っているのかがよく伝わる。同時に、どうして外科医ではなく、診察医になったのか、疑問を浮かべる。

 

~♪~

 

その頃、とある神社。フォルテは緒川と調査部と共にこの場所の調査に来ている。

 

「・・・ここもまたひどい有様ですね・・・」

 

「ええ・・・」

 

訪れた神社はところどころ破壊されており、地面も至る所に切り裂かれているように抉れている。いや、被害にあっている神社はここだけではない。それが調査部がここに訪れた理由になる。

 

「ここ最近、事故や事件による神社や祠の損壊が頻発しているのは知っています。しかし、この神社といい、筑波の神社の破壊の跡・・・事故などで片付けるには・・・」

 

「ええ。あまりにも不自然なんです。もしこれがオートスコアラーの仕業なのだとすれば、何のために破壊するのか・・・」

 

「そこを調べれば、人形の目的がわかるかもしれない・・・そういうことですね」

 

「はい。フォルテさん、お手数をお掛けしますが、よろしくお願いします」

 

最近被害に遭っている神社や祠・・・これらは事故や事件で破壊されたとあるが、目の前の神社の壊れ具合や筑波の神社の異常な壊れ方は不自然であり、これらの事件の全てはオートスコアラーの仕業であるのがわかる。ではなぜ破壊するのか・・・破壊跡地である神社を調べれば、彼女らの目的と共にわかるかもしれない。そういう事情で調査部はここを含めた神社の破壊跡地を調べに来たのだ。調査部の人間たちは神社の周りを調べている。フォルテも地面の傷口を触れながら調査を行う。

 

「・・・ここ自体は、普通の神社のようだが・・・」

 

この破壊された神社を見ていると、フォルテは嫌でも思い出す。幼き頃の記憶を。

裏切り者の罠から無事生還し、拠点に戻ってみれば、その拠点が炎に包まれ、ところどころ破壊されつくされた光景を。その近くで、無惨に倒れている仲間の光景を。その思い出を振り返っていたフォルテはハッとなり、ぶんぶんと首を振り、思考を現実に戻す。

 

「フォルテさん?どうかしましたか?」

 

その様子が気になった緒川はフォルテに声をかける。

 

「・・・いえ、何でもないです。調査を続けましょう」

 

フォルテは何でもないと言い張り、奥にある祠へと向かった。緒川もフォルテの様子が気になりつつも、祠へと向かった。

 

~♪~

 

コンビニで買いたいお菓子などを咲に買ってもらった調と切歌はきれいになった咲の部屋に上がり込み、お菓子を机に並べてそれを咲と一緒に食べながら会話で盛り上がっている。

 

「咲さんはいろんな人に慕われてますね」

 

「あら?そうかしら?」

 

「デスデス。おばあちゃんだけでなく、おっちゃんも近所の子供たちも、みーんな咲さんにデレデレのにっこにこデス」

 

「それは・・・少し恥ずかしいけど・・・嬉しいわね」

 

ここに帰るまで、咲はこれまで診察してきたサラリーマンや近所の子供たちに声をかけられており、みんな咲を慕ってくれていた。それを指摘された咲は少し照れている。

 

「でも、それ以上に嬉しいのは、みんな元気になって、明るい日常に戻ってくれている・・・これにつきるわね」

 

誇らしい表情をしながら語る咲に調は疑問に思ったことを質問する。

 

「あの・・・咲さんはどうして、お医者さんになろうって思ったんですか?」

 

調の質問に咲は彼女に視線を移し、微笑んでお菓子をつまみながら話す。

 

「・・・うちの実家が病院だったってこともあって・・・いつしか医者になりたいって子供の頃から思ってたわ」

 

お菓子を口に含んだ後、真剣な表情になる。

 

「でも、本当の意味での医者になりたいって思ったのは、3年前の事件と、2年前の事件がきっかけね」

 

3年前の事件とは、ツヴァイウィングのライブ会場襲撃事件、2年前の事件は日和が経験した事件のことだ。

 

「2人はツヴァイウィングのライブの事件は知ってる?」

 

「えぇ・・・まぁ・・・」

 

「実を言うとね・・・ツヴァイウィングのライブの事件で生き残った人を、当時私は快く思ってなかったの」

 

「「え?」」

 

「彼らが実家に運ばれたおかげで、経営も危うくなってくるし、こっちにもひどく言われるし・・・そして何より、人が死んでるのに、生きてるってだけで税金をもらって、のうのうと生きていることが、許せなかった」

 

あれほど心優しい咲がツヴァイウィングのライブの事件の生き残りに対してよく思っておらず、悪く言えばバッシングする人間側についていたことに2人は驚きを隠せなかった。とはいえ、手をあげることはしなかったし、日和もこのことは知らない。

 

「命は皆平等で許せないことはない。如何なる理由や問題があっても、命を見捨ててはいけない。父はそう言って彼らを見捨てなかった。当時の私は父の言ってることが理解できなかった。そんな時ね。2年前の・・・日和が企画したライブ配信の事件が起きたのは」

 

咲は寂しそうに笑みを浮かべながら紅茶を飲む。

 

「あの事件も被害者は出たわ。でも生き残ったのは日和だけ。規模が小さかったから、3年前みたいに騒がれなかったわ。・・・ある一家を除けば」

 

「その一家って・・・」

 

「伊南家・・・亡くなった小豆ちゃんのご家族よ」

 

さらに咲はため息をこぼし、天井を見上げる。

 

「小豆ちゃんが亡くなったことで、日和はあの家族からひどい罵声を浴びせられたわ。ううん、日和だけじゃない。私たち家族や実家に対しても同様に扱われて・・・しまいには呪われてるなんて言われる始末。それが実家中に広まって、経営がさらに悪化、患者さんからの信用も失って、それに耐えきれなくなった母も蒸発して出て行って、拠り所を失った父も薬に染まって・・・最後には多くの先生を巻き込んで自殺したわ」

 

ある程度の経緯は日和から聞かされてはいたが、まさかそこまで重い話だったとは思わず、2人は言葉を失う。

 

「こんなことがあって、日和は寮に引きこもった。その姿はあまりにも痛々しいものだったわ。これまでのことと、日和の姿を見て、私はようやく気がついたの。彼らもこんな気持ちで生きてきたんだって。そう思ってから私は、今までの自分を憎んで、自分を責めたわ」

 

咲は視線を2人に戻して、続きを話す。

 

「だから私は決めたの。人の気持ちに寄り添って、心身共に救えるような本当の医者になるって。だから私は人との繋がりが持てる診察の道を選んだの」

 

驚いている2人の顔を見て咲は少しバツが悪そうな顔になった。

 

「て・・・ごめんなさいね、かなり重たい話だったわよね」

 

「い、いえいえいえ!滅相もないデス!むしろ、感動したデス!」

 

「うん。それだけひどい仕打ちを受けてもそう考えられるのは、中々できないと思います」

 

「それに、これまで慕ってきた人たちはきっと、咲さんの頑張りを認めてくれたんだと思うデス!」

 

「うん。私たち、咲さんのこと、本当に心から尊敬してます」

 

「あら、ありがとう」

 

2人に気を遣われて、咲は申し訳ない半面、そう言われて嬉しい気持ちもあった。

 

「こんなことで彼らの償いになるとは思ってないわ。実際に亡くなった方もいるし。それでも私はこれからも逃げずに、まっすぐに彼らと患者さんに向き合おうと思ってるわ。それが、命と向き合う医者の大事な務めですもの」

 

誇らしい笑みを浮かべてそう宣言する咲に2人は笑みを浮かべながら咲のこれからを応援すると決めた。

 

~♪~

 

破壊された神社を調査しているフォルテたちは林の先にある祠までやってきた。この祠の壊れようは特にひどく、原型も留められていない。

 

「ここはさらにひどいですね・・・」

 

「やはり・・・」

 

緒川は何か思い当たることがあるようで、難しい顔をしている。

 

「何か心当たりでも?」

 

「フォルテさん、あなたはレイラインについてご存じですか?」

 

「ええ。確か、明治政府帝都構想で霊的防衛を支えていた龍脈・・・でしたね」

 

「実はですね、破壊された神社や祠にはここを含め、レイラインのコントロールを担っていた要所なんです」

 

「人形たちはその要所を狙って破壊した・・・」

 

これまで破壊された神社がレイラインをコントロールする要所だと聞かされ、フォルテは少し考え込む。すると、フォルテは何か気がついたようにハッとした顔になる。

 

「電気経路の調査に・・・要所の破壊・・・まさか・・・キャロルの言う世界解剖というのは・・・」

 

「察しがよろしいですね」

 

「「!!」」

 

不意に第三者の声が聞こえてきた。フォルテと緒川は警戒して声のした方向を振り向くが、誰もいない。だがそこにいるのはわかる。緒川は拳銃を取り出し、声のした方向に発砲した。だが放たれた弾丸は急に凍り付き、空中で止まって粉々に砕け散った。さらに・・・

 

「ぐあ!!?」

 

「緒川さん!!ぐぅ!!」

 

緒川とフォルテは何者かに殴られたかのように吹っ飛び、背中が木に衝突する。2人が先ほどまでいた風景にひびが入り、割れるとそこから右手に氷柱を纏ったリリィが現れる。

 

「オートスコアラー・・・!」

 

「ここを張っていれば必ず現れると思っていましたよ」

 

リリィが現れたことで調査部員は彼女に向けて拳銃を向けた。リリィはそれを見て、ため息をこぼし、アルカ・ノイズの結晶を放ってアルカ・ノイズを召喚する。調査部員はアルカ・ノイズに向けて拳銃を発砲するが・・・

 

『ぐあああああああ!!』

 

アルカ・ノイズに大したダメージは入らず、そのまま調査部員を分解していった。フォルテはそれを見た時、昔の仲間が殺されていく光景が頭によぎり、リリィを睨みつける。

 

「貴様・・・!!」

 

「見極めてあげましょう。マスターの贄に相応しいか否かを」

 

「後悔させてやる・・・!」

 

フォルテは自分の首の包帯を外し、ギアネックレスを取り出して詠唱を唄う。

 

Ragnarok Dear Mistilteinn tron……

 

シンフォギアを身に纏ったフォルテは大剣を銃に変形させ、アルカ・ノイズに向けてエネルギー弾を連射する。

 

【Mammon Of Greed】

 

エネルギー弾に貫かれたアルカ・ノイズは赤い塵となって消滅し、さらにフォルテは大剣をリリィに向け、エネルギー弾を一発撃ち放つ。リリィはエネルギー弾を跳躍で躱し、右足に回転する氷の刃を纏い、フォルテに蹴りを放つ。フォルテは放たれた蹴りを大剣で受け止め、防御する。フォルテが戦っている間にも緒川は本部に連絡を入れる。

 

~♪~

 

本部のブリッジにいる弦十郎は緒川の報告を聞いて現状を把握する。モニターでもフォルテが戦っている姿が映っている。

 

『オートスコアラーが襲撃してきました!現在フォルテさんが1人でリリィと交戦中です!』

 

「こちらでも状況は確認した!今翼たちがそちらに向かっている!何とか持ちこたえるんだ!」

 

弦十郎はすぐに現段階で最善の指示を出した。

 

「フォルテ君・・・1人で無茶をしてくれるなよ・・・!」

 

いくらフォルテが装者の中で戦闘能力が高いとはいえ、相手はフォルテを戦闘不能にさせたオートスコアラー。心配が絶えなかった。

 

~♪~

 

大剣で払いのけられたリリィは左手を地にかざし、地面を凍らせ、フォルテに向けて巨大な氷の柱をいくつも創り出して攻撃する。向かってきた氷の柱をフォルテは大剣を分離して双剣にし、氷の柱を切り裂く。リリィの姿を捉えたフォルテは彼女に向けて双剣に纏った雷を放った。

 

【Asmodeus Of Lust】

 

向かってきた雷撃をリリィは足の氷のローラーで滑って躱した。滑りながら移動するリリィは氷の氷柱をフォルテに放って木の陰に隠れる。向かってきた氷柱をフォルテは双剣で1つずつ破壊し、リリィが隠れた木を切り裂く。だがそこにはリリィの姿はなかった。自分の得意技でまた姿を消したのだ。

 

(ここは木が生い茂っている・・・暗殺するにはうってつけの場・・・つまり、ここは奴にとって有利に運べる環境!)

 

フォルテはリリィの戦法を考察しながら、双剣を大剣に戻し、リリィの殺気を探ろうとする。じっと待っていると、目の前に殺気を感じた。フォルテはすぐに大剣を地に突き刺し、複数の剣を自身の周りに出現させる。

 

【Satan Of Wrath】

 

フォルテの周りに剣が出現したことで目の前の殺気は上空に移動する。上空の風景にヒビが現れ、リリィが出現する。リリィはフォルテに向けて右手の氷の刃を振るおうとしている。フォルテは向かってきたリリィに向けて大剣で突きを放ち、胴体を貫いた。

 

ビキビキ・・・パリーン!!

 

「何っ!!?」

 

だが貫かれたリリィは氷となって粉々に砕け散った。これはリリィが作った氷の偽物だ。フォルテが驚いている間にも背後に姿を現したリリィは左手の氷の刃で周りの剣と一緒に斬撃を放った。

 

「がっ・・・!」

 

周りの剣が砕かれ、背中に傷を負ったフォルテは地に倒れる。

 

「フォルテさん!!」

 

緒川は拳銃を撃ってフォルテを援護しようと動こうとしたが、自身の腕や足に氷が纏わりついていたことに気付き、思うように身動きが取れなかった。

 

「・・・以前に比べて、キレがないですね」

 

リリィは少し失望したような顔でフォルテにそう述べた。

 

(こうなれば・・・イグナイトを・・・!)

 

フォルテはイグナイトを使用しようとギアコンバーターに触れた。だがそこで、響が暴走した時の光景を思い出し、使用を踏みとどまらせる。果たして今の自分に呪いの衝動を抑えられるだろうか。問題を抱えていることを自覚している彼女はそんなことばかりが頭によぎる。

 

「使わないのですか?その力」

 

「!!」

 

確信を突くようなリリィの発言にフォルテは目を見開く。

 

「マスターはその力によって敗れた・・・ならば、その力を使った状態で始末しなければ、粛清したとはいえません。ゆえに私は、あなたにその力を使ってもらいたいと思っています。もっとも・・・あなたにそれができれば・・・の話ですが」

 

「・・・っ!なめるな!!」

 

リリィの挑発に触発されたフォルテは大剣を持ってリリィに突っ込んでいく。

 

「貴様など!イグナイトを使わなくとも!!」

 

「・・・強情。そして浅はか」

 

リリィは向かってきたフォルテの振るう大剣を屈んで躱し、即座に右手に氷の刃を創り出して腹部を斬り裂いた。

 

「がぁ・・・!」

 

「その程度で私を倒そうなどと、自惚れないでください」

 

腹部を斬られたフォルテは倒れ込み、傷口を抑える。

 

「さて・・・あなたに残された選択は2つ・・・その力を使うか・・・このまま粛清されるか・・・」

 

リリィがフォルテに2つの選択を選ばせようとすると、翼が現れ、手に持つ大剣で青の斬撃を放った。

 

【蒼ノ一閃】

 

迫ってきた青の斬撃をリリィは跳躍して躱す。リリィが地に着地した瞬間に翼と同じく駆けつけたマリアが複数の短剣を彼女に放った。

 

【INFINITE†CRIME】

 

リリィは慌てることなく手を翳し、氷の柱を創り出して短剣を全て防御する。

 

「フォルテ!大丈夫?」

 

「マリア・・・風鳴・・・」

 

「緒川さんも、無事でよかった」

 

「すみません・・・助かりました」

 

マリアと翼は2人が無事で安堵する。翼は刀で緒川に纏わりついた氷を外していく。

 

「・・・形勢逆転・・・ですか・・・」

 

他の装者も合流してくるであろうと考えるリリィは有利から不利へと変わったと理解し、テレポートジェムを取り出す。

 

「いいでしょう。少しばかり猶予を与えましょう」

 

「待て!逃げるつもりか!」

 

「お好きに捉えてもらって結構。それから・・・あなた。少しは頭を冷やしてはどうでしょうか。でなければ到底私には追い付けません」

 

「くっ・・・」

 

「では、これにて失礼いたします」

 

リリィはテレポートジェムを地面に叩きつけ、深くお辞儀をしてチフォージュ・シャトーに帰還する。

 

「くっ・・・。いや、それよりも、フォルテ、立てるか?」

 

翼はフォルテに手を差し伸べようとするが、彼女は手に取ろうとせず、拳を強く握りしめている。

 

「フォルテ?」

 

「どうしたの?」

 

「フォルテさーん!大丈夫ですかー!」

 

2人がフォルテを心配していると、日和たちもやってきた。フォルテは握りしめた拳を地面に叩きつけた。

 

「敵に情けをかけられるとは・・・不甲斐ない・・・!!」

 

自分が弱かったせいで調査員を守れず、なおかつ敵にいいようにやられ、フォルテの心情は悔しさでいっぱいだった。




東雲咲(GX編)

外見:長い黒髪を後ろに結んでいる
   瞳は青色

年齢:27歳

誕生日:9月9日

趣味:料理研究

好きなもの:使い慣れた料理道具

イメージCV:原神:久岐忍
(その他の作品:バカとテストと召喚獣:島田美波
        魔法少女まどか☆マギカ:巴マミ
        テイルズオブレジェンディア:ノーマ・ビアッティ
        その他多数)

都内の病院に勤務している診察医。日和の実の姉。ルナアタック事変にて所属していた医療施設が破壊されたために現在の病院に勤務している。
3年前の彼女はツヴァイウィングのライブの事件の生き残りをよく思っていなかったらしい。(それは響も含む)だがその1年後のライブ配信事件で日和が引きこもった姿を見て、彼らもこんな思いを抱いていたのだと気づいて深く自分を責め、本当の意味での医者になりたいと強く願った。それが診察医になったもう1つの理由となっている。
それゆえなのか、人の命についてよく考えるようになり、もしそれによって迷っている人間がいるのなら、手助けしてあげたいと思っている。


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自分を信じて

今話の最後、前の話に少しだけ登場した重要な人物の正体が明らかになります。


S.O.N.G本部のメディカルルームでフォルテはエルフナインにリリィに付けられた傷の手当てをしてもらっている。

 

「傷の方はそんなに深くありません。もう動いてもらっても大丈夫ですよ」

 

「よかった・・・」

 

「・・・・・・」

 

傷の方は軽傷だったらしく、動いても大丈夫のようだ。マリアが安堵している中、フォルテは悔しそうに顔を歪め、布団を強く握りしめている。

 

「でも、気を付けてください。フォルテさん、あなたはリリィに目をつけられました。彼女はキャロルのためならどんなことでも平気でやります。ここがリリィに襲撃されたとしても、おかしくありません」

 

エルフナインはフォルテのことを思い、そんな忠告を入れた。

 

「・・・つまりは、僕がここにいるだけで、君たちに危険な目に合うか。ならば、僕はここにいない方がいいな・・・」

 

フォルテはその忠告に自身を自嘲するかのようにそう言った。何も出て行ってほしいというわけではなかったので、エルフナインはかなり戸惑っている。

 

「いや・・・あの・・・ボクはそんなつもりで言ったわけじゃ・・・」

 

「フォルテ、いったいどうしたの?そんなこと言うなんて、あなたらしくもない・・・」

 

「・・・・・・」

 

自身を責めているような物言いにマリアがフォルテがらしくないと感じ取り、どうしたのか尋ねた。彼女は何も答えない。

 

「何か悩みを抱えているのなら・・・」

 

「何でもない・・・少し頭に血が上っただけだ」

 

フォルテはベッドから起き上がり、上着を着込んでメディカルルームから出ようとする。

 

「フォルテ!」

 

「・・・少し1人にさせてくれ・・・」

 

マリアの止める声にフォルテは一言そう言って出ていった。そのタイミングで翼とすれ違った。

 

「フォルテ、傷の方は・・・お、おい・・・」

 

翼はフォルテに声をかけたが、フォルテはそのまま廊下を歩いていった。

 

「いったいどうしたというのだ?ずっとあの調子のようだが・・・」

 

ここで何の話をしていたのかわからない翼は首を傾げている。

 

「ごめんなさい・・・余計なことを言ってしまって・・・」

 

「エルフナインのせいじゃないわ。ただあれの頭が固いだけよ。本当に・・・昔からそうなんだから・・・」

 

自分が忠告したせいでと思っているエルフナインは落ち込み、マリアが慰める。マリアはF.I.Sで共に過ごしてきた者として、フォルテを心配している。

 

~♪~

 

S.O.N.G本部の一室で日和はクリス、調、切歌に飲み物を渡す。

 

「やっぱり戦争が関係してるのかなぁ?」

 

すると日和が突然そんなことを言いだした。

 

「ああ?何の話だ?」

 

「フォルテさんだよ。ほら、フォルテさんって元反乱軍なわけじゃん?悩むとしたらそこかなぁって」

 

フォルテは無表情ゆえに何を考えているかわからないことがあるが、少なくとも何か悩みがあるのだというのは今回の件でわかった。日和はその話を振っていたのだ。

 

「つってもなぁ・・・お前らだってあいつのこと何も知らねぇんだろ?」

 

「はい・・・フォルテはあんまり昔のことはしゃべらないから・・・」

 

「というか、初めて会った頃は無視ばっかりされたデスよ!」

 

「ああ、それは何となく想像できるぜ・・・」

 

共に過ごした2人でさえ、昔のフォルテについては全くと言っていいほどに知らない。

 

「もしかしてフォルテは・・・私たちにまだ心を開いてくれてないのかな・・・?」

 

「そんなことないと思うけど・・・」

 

「そう思いたくもなるデスよ。フォルテが昔のことを話した相手は、セレナだけだったんデスから」

 

「まぁ・・・ただ私たちを気遣ってるのかもしれないけれど・・・」

 

「フォルテさん・・・」

 

話を調と切歌に聞いている中、フォルテは今何をしているのだろうと日和は考えている。

 

~♪~

 

夕暮れ時の墓地。フォルテはこの場所に訪れ、文字が刻まれていない墓の前に立っている。墓には数多くの軍人の大人たちが映った写真が飾られている。この墓はバルベルデで散ったフォルテのかつての仲間たちの墓でS.O.N.Gの方でフォルテに気を利かせて建てられたものだ。だが遺骨は何もない。ただの空っぽな墓だ。

 

(・・・僕の行動が遅かったせいで・・・彼らが死ぬことはなかった・・・)

 

フォルテの頭の中に浮かび上がってくるのは、リリィが召喚したアルカ・ノイズによって分解された調査部員の人間たちだ。

 

(いや・・・今日だけじゃない・・・。自衛隊の連中も・・・立花の怪我も・・・そして・・・セレナも・・・みんな・・・僕のせいで・・・)

 

これまでの出来事を振り返って、自分に関わった者が皆傷ついてしまったのは全て自身の責任だと感じているフォルテは悔しさで拳を握りしめる。同時に、自分はいつまでたっても人を傷つけることしかできないと思いこんでしまう。

 

(僕では・・・誰1人として誰かを守ることは・・・できない・・・)

 

誰も守れないと思い込んでいるフォルテは墓を見つめていったいどうすればいいのかと考えている。そこへ・・・

 

「あら・・・?フォルテさん?」

 

ふと誰かに声をかけられた。声をかけられた方角を見てみると、そこには墓参りの道具を持った咲がいた。

 

「咲殿・・・」

 

「こんなところで会うなんて・・・フォルテさんもお墓参りですか?」

 

「ええ・・・まぁ・・・」

 

「・・・そうですか・・・」

 

フォルテの答えを聞き、咲は小さく微笑む。会話する気分ではないフォルテはそれ以上の会話が続かず、思わず目を逸らしてしまう。何も語ろうとしないフォルテに咲はこんなことを聞いてくる。

 

「あの、フォルテさん。もしよろしければ、彼らに黙祷を捧げても、構いませんか?」

 

「え?」

 

フォルテのかつての仲間たちと何の関係もない咲が彼らのために黙祷を捧げたいと聞いて、フォルテは驚いている。

 

「やはり・・・ダメですか?」

 

「いえ・・・大丈夫ですが・・・」

 

「そうですか。よかった」

 

フォルテは戸惑いながらも黙祷を捧げることを了承した。許可をもらった咲は墓前にしゃがみこんで線香を立て、両手を合わせてフォルテの仲間たちに冥福を祈った。その姿を見てフォルテはなぜそんなことをするのか不思議でならなかった。

 

~♪~

 

黙祷を捧げ終わり、フォルテは咲を自宅まで送ろうと思い、彼女を自身が乗ってきた車まで案内している。そこに至るまで2人の間には会話は1つもなかった。咲はフォルテの心情を察し、彼女が話すまで何も言わなかった。

 

「・・・咲殿」

 

「はい?」

 

長い沈黙の中、フォルテは口を開いて、咲に質問をする。

 

「・・・なぜ・・・彼らに黙祷を捧げてくれたのですか?あなたと彼らは何の関りもないのに。それなのにあなたは、何も言わず、彼らの冥福を捧げてくれた。なぜ・・・?」

 

フォルテの至極当然の質問に咲は口を開く。

 

「確かに私はあの人たちと何の関りもありません。あの人たちが何のために戦争に赴くのかさえも、私にはわかりません」

 

「なら・・・」

 

「命は皆平等」

 

咲の口から発せられたその言葉にフォルテは目を見開いた。

 

「犬も、虫も、魚も、花も・・・そして人間。この世界に生まれた命は皆等しく美しい。だからこそ美しい命を守らないといけない。だけどそれは、命が散ればそれで終わりというわけじゃない。散ってしまったからこそ、散った命とちゃんと向き合い、弔わなければいけない。父の教えです」

 

「父上の・・・」

 

「医者とは命と向き合う職業です。当然常に責任が伴います。命尽きればそれで終わりじゃ済まされないんです」

 

咲は夕日を眺め、続きを話した。

 

「私はもう、無責任な医者にはなりたくないんです。誰々があれだとか、恩を売っておけばとか関係ありません。人も、亡くなった方も・・・両者の気持ちや思い真摯に受け止められるような本当の医者になりたいんです」

 

本当の医者になりたいがゆえに冥福を捧げたい。おそらくそれがフォルテの仲間・・・いや、あそこに眠る人々に黙祷を捧げた理由なのだろう。咲はそこまで言い張ると、今度はフォルテに視線を向ける。

 

「お節介なのはわかってます。でもそれが私の信念ですから」

 

「咲殿・・・」

 

ドガアアアアン!!!

 

フォルテが咲に何か話そうとした時、突如爆発が発せられた。2人が爆発がした場所に視線を向けてみると、そこには巨大な氷の柱に貫かれたフォルテの車があり、爆発の炎も凍り付いていた。氷の柱の上には、リリィが腕を後ろに組んで立っていた。

 

「・・・少しは、頭を冷やされましたか?」

 

「フォルテさん・・・これはいったい・・・?」

 

「咲殿・・・下がっていてくれ」

 

事情をまったく知らない咲は目の前の現状に戸惑っており、フォルテは咲を守るように前に出て、首の包帯を外してギアネックレスを取り出す。

 

Ragnarok Dear Mistilteinn tron……

 

詠唱を唄い、フォルテはシンフォギアを身に纏って大剣を構える。

 

「今回は、失望させないでくださいね」

 

リリィは小手調べとしてアルカ・ノイズの結晶をばら撒き、アルカ・ノイズを召喚した。

 

「の、ノイズ・・・⁉」

 

「何も心配ない。あなたには、指一本触れさせない!」

 

アルカ・ノイズを見て驚く咲を守ろうと、フォルテはアルカ・ノイズの群れに突撃する。アルカ・ノイズもフォルテに襲い掛かる。フォルテはアルカ・ノイズの攻撃を躱したり、大剣で受け止めたりしながら、咲まで行かないようにしながら、アルカ・ノイズを大剣で薙ぎ払っていく。

 

~♪~

 

S.O.N.G本部のブリッジにて、オペレーターたちはアルカ・ノイズの反応を検知し、フォルテがまた1人で戦っている姿を確認する。

 

「アルカ・ノイズの反応を検知!」

 

「現在フォルテさんがアルカ・ノイズと交戦中!近くにオートスコアラーもいます!」

 

「すぐに日和君たちに出撃を・・・」

 

弦十郎が指示を出そうとした時、新たなアルカ・ノイズの反応が別の場所で確認された。それも1か所ではなく、複数だ。

 

「都内複数の発電施設にて、新たなアルカ・ノイズの反応を検知!」

 

「同時多発・・・だと・・・!!?」

 

フォルテが戦い始めた直後にアルカ・ノイズによる各発電施設の襲撃に弦十郎は驚愕する。その狙いは、戦力の分散であるということも同時に理解した。

 

~♪~

 

襲われている発電施設は3か所。その3か所でアルカ・ノイズは解剖器官を用いて施設を分解している。その3か所にレイア、シャル、ファラが配置されている。

 

「リリィにしては、派手すぎる戦略・・・」

 

「それだけリリィは本気ってことかい?殊勝だねぇ」

 

「ふふ、そういうところは、ガリィと似ているんだから」

 

リリィが発案した作戦が大胆すぎることに対し、3機のオートスコアラーは各地で思っていることを口にした。

 

~♪~

 

リリィの襲撃にあったフォルテは彼女が召喚したアルカ・ノイズを全て切り裂き、視線を氷の柱に立っているリリィに向けた。フォルテは大剣をチェーンソーへと変形させ、刃を回転させ、赤黒い斬撃波を放った。

 

【Belphegor Of Sloth】

 

放たれた斬撃波をリリィは跳躍して躱した。斬撃波によって砕かれた柱の破片がリリィに向かってきた。リリィはこの破片を逆に利用し、右手の氷の刃でさらに小さく砕き、さらに鋭くなった破片をフォルテに放った。フォルテはチェーンソーを元の大剣に戻し、向かってきた氷の破片を大剣の一振りで砕いた。しかし、放たれた氷の破片は1つだけではなく、複数あり、その破片はフォルテの周辺に突き刺さった。

 

(なんだ・・・?)

 

この氷は何を意味をしているのだろうと考えていると、氷の破片から冷気が発し、フォルテの足元に巨大な錬金陣が出来上がる。地に着地したリリィが手を地にかざした瞬間に、錬金陣から強烈な猛吹雪が放たれる。

 

「フォルテさん!!」

 

「これしきのこと・・・!」

 

フォルテは吹雪をまともに喰らったが、何とか堪える。そして、大剣に炎を纏い、跳躍して吹雪から脱出し、リリィに炎の大剣を振るう。だがその一撃は氷の纏った右手で難なく止められる。それだけでなく、大剣に纏った炎までもが凍り付く。

 

「なんだと・・・⁉」

 

「炎でどうにかできると思わないでください。私が操りしは、炎さえも凍てつくす絶対零度。どんなものであろうと、絶対零度の前では全てが凍る」

 

そう言ってリリィは左手に氷の刃を纏わせ、フォルテに向けて突きを放った。フォルテは対応が遅れ、氷の刃の突きをまともに喰らってしまう。

 

「ぐ・・・あ・・・!」

 

突きを喰らったフォルテは後ずさり、膝を地についてしまう。そんなフォルテを見てリリィはため息をこぼす。

 

「はぁ・・・どこまでも強情ですね。これでは全力を出すに出せませんよ」

 

「黙れ・・・!貴様は・・・なんとしてでも・・・」

 

「・・・私もあなたに構ってばかりいられるほど暇ではありません。イグナイトを使わないのであれば・・・このまま・・・」

 

(くっ・・・やはり・・・僕では・・・奴に勝てないのか・・・)

 

リリィは右手に纏った氷に刃を創り出し、フォルテに近づく。自信が失われそうになった時・・・

 

「そぉ・・・れ!!」

 

咲が杉桶樽に入った水をリリィに向けて放った。

 

「咲殿!!?」

 

だが水はリリィに当たることなく、そのまま凍り付き、粉々に砕け散った。リリィは咲に視線を向け、睨みつける。

 

「・・・何の真似ですか?」

 

咲はリリィの質問には答えず、フォルテに向けて声を上げる。

 

「フォルテさん!!怖がらないで、自分自身を、信じるんです!!」

 

咲の言葉を聞いて、フォルテは目を見開いた。同時に、かつての仲間と交わした言葉を思い出した。

 

『てめぇは心のどこかで、自分じゃ何もできねぇ、役に立たねぇとかネガティブに思い込んでビビっちまってるんだよ。そんな甘ったれに何ができる?てめぇがてめぇ自身を信じねぇでどうする?そんなんじゃ、守れるもんも守れなくて当たり前だろうが』

 

『でも・・・前の戦いでも・・・僕がもっと素早く・・・』

 

『それを暗示っつーんだよ。ビビってるのを隠すための。そういうのがよくねーつってんだ』

 

『別にビビってるわけでは・・・』

 

『いーやビビってるね。いいか?戦場じゃあ、結局最後に頼れるのは自分だけなんだ。ビビっちまってたら守るどころか自分も生き残れねぇ。てめぇはまず自分の自慢できるもんを作れ。なんだっていいんだ。それがてめぇの自信に繋がる』

 

『自信・・・』

 

『いいか?信じるのはてめぇ自身だ。てめぇを信じる俺でもない。俺を信じるてめぇでもない』

 

「『てめぇを信じる・・・てめぇを信じろ』・・・」

 

フォルテが仲間に言われたことを口にしている間にも、戦いの邪魔をした咲にリリィが氷の刃を纏って近づいている。

 

「わけのわからないことを・・・。そんなに死にたいのならばお望み通り・・・楽にしてあげましょう」

 

リリィは咲の首に目掛けて右手の氷の刃を振るった。咲は迫ってくる氷の刃を前に、恐怖を押し殺して目を瞑る。

 

「はああああああ!!」

 

そうはさせまいとフォルテはリリィに向けて大剣を振るう。それを感じ取ったリリィは咲への攻撃をやめ、両腕の氷の刃で大剣を受け止め、払いのける。

 

「確かに僕は・・・この身に纏う罪に・・・失うことの恐怖により、自信をなくしていた。自身では何もできないと・・・。そんなことでは、何も守れないのに・・・」

 

「・・・・・・」

 

「仲間に頼れるならば頼ればいい。だが・・・頼れる仲間がいないならば・・・自分がやらなくてはならない。友はそう言って・・・自信を持つことの大切さを教えてくれた」

 

「フォルテさん・・・」

 

「咲殿は恐怖を押し殺し、立ち向かった!それは僕が守ってくれると本気で信じたからだ!ならば僕は・・・己を信じ、その期待に応えよう!イグナイトモジュール!抜剣!!」

 

危険を冒したことは感心しなかったが、咲の勇気ある行動によって、フォルテは勇気が湧き、躊躇していたイグナイトを使用した。フォルテはギアコンバーターのスイッチを押し、掲げた。ギアコンバーターは起動し、無機質な『ダインスレイフ』という音声が鳴り、宙を舞って変形し、展開された光の刃がフォルテを刺し貫いた。そして、ダインスレイフの呪いがフォルテの身体に流れ込む。呪いで苦しむフォルテの脳裏に、かつての仲間と、セレナが死ぬ間際に放った最後の言葉を思い出す。

 

『いいかテレサ・・・てめぇを信じろ・・・そして・・・てめぇの未来を掴め・・・』

 

『フォルテ師匠(せんせい)・・・みんなを・・・よろしくね・・・』

 

(今にして思えば、あいつやセレナは・・・僕に後を託したのだろう・・・。僕ならば・・・必ず未来を掴めると信じて・・・)

 

「フォルテさん・・・」

 

「己を信ずることもまた強さであるならば・・・!僕はセレナや同胞たち・・・そして志半ば死した者の無念を、全て背負おう!!それが僕にできる、唯一の償いだ!!」

 

己を信じ、歩むべき道を見出せる強い思いが、ダインスレイフの呪いを凌駕する。フォルテは漆黒の闇を身に纏い、闇は漆黒のシンフォギアの形へと変わる。フォルテもイグナイトに成功したことに、リリィは目を見開いて、笑みを浮かべた。

 

「時は来たれり!今こそ、粛清の時!!」

 

この時を待っていたと言わんばかりにリリィはアルカ・ノイズの結晶をばら撒き、さらにアルカ・ノイズを召喚する。フォルテは黒い双大剣を持ち、地に向けて双大剣を振るった。

 

「飛べ!!」

 

双大剣が地と衝突した瞬間、アルカ・ノイズがいる地面が盛り上がり、アルカ・ノイズは宙に放り投げられる。フォルテはアルカ・ノイズに向かって跳躍し、双大剣による連撃を放って、アルカ・ノイズを全て斬り裂いた。アルカ・ノイズを倒した時、凄まじい殺気がこちらに向かってきた。フォルテはそこに向けて右手の大剣を振るった。

 

ガキィン!!

 

その瞬間、右手の大剣が空中で金属音が鳴り響いた。これは、透明化したリリィが作った氷の刃と重なった音だ。フォルテは攻撃の手を緩めず、左手の大剣も振るった。この攻撃はリリィにヒットし、地に激突する。フォルテはリリィが激突した地に向けて双大剣を振るった。

 

【Belial Of Vanity】

 

フォルテの双大剣は地と激突する。だがフォルテにはわかる。この一撃はリリィには当たっていないことを。

 

「それでこそ粛清し甲斐があるというもの!」

 

フォルテの一撃を躱したリリィは透明化を解除しており、その際に割れた氷の破片をフォルテに放った。向かってきた氷の破片をフォルテは今度は1つ残らず双大剣で切り裂く。これに乗じてリリィは再び氷を身に纏って姿を消した。

 

「もうこれ以上、貴様の思い通りにはさせん!」

 

フォルテは双大剣に虹色の炎を纏わせ、咲に当たらぬように周辺に放った。放たれた炎は辺りに燃え盛る。すると、水滴が落ちる音がある。そちらに視線を向けてみると、リリィが身に纏った透明の氷が溶けだしている。

 

「そんな!!?全てを凍てつくす絶対零度の氷が・・・なぜ溶けるのです!!?」

 

自身の得意技が炎によって溶かされていることにリリィは信じられず、動揺を隠せないでいた。

 

「これはただの炎ではない。この炎は、死した者の思いが宿った、魂の炎!不滅の魂の炎は、絶対零度で凍てつくせぬと知れ!!!」

 

フォルテは双大剣の魂の炎をブースターとして利用し、リリィに突撃する。完全に姿を現したリリィに向けてフォルテは双大剣を振るい、二刀両断に斬り裂いた。

 

【Lucifer Of Pride】

 

「きゃはははははははは!!!!」

 

切り裂かれたリリィは狂気じみた笑い声をあげ、炎に包まれて爆散した。リリィを倒したフォルテは大剣を地につけ、膝をつく。そんなフォルテに咲が駆け寄る。

 

「フォルテさん!大丈夫ですか?」

 

「ええ・・・なんてことはないです」

 

フォルテは咲に微笑みで返して立ち上がり、マリアと日和に連絡を入れる。

 

「マリア」

 

『フォルテ⁉オートスコアラーは・・・』

 

「心配ない。何とか倒したさ。そっちの状況は通信で聞いた。そっちはどうだ?」

 

『は、はい!大丈夫です!出てきたアルカ・ノイズは全部倒しました!翼さんたちやしぃちゃんたちも同様です!』

 

「そうか・・・。心配はしてなかったが、それを聞いて安心した」

 

フォルテは日和たちが何とかしてくれると信じていたようで心配してなかったが、報告を聞いて笑みを浮かべた。

 

『・・・フォルテ、なんだか変わったわね』

 

「?そうか?」

 

『とにかく、すぐに迎えに行くわ。待ってて』

 

「それは助かる。車が壊され、咲殿も送らねばならなかったから困っていた」

 

『お姉ちゃんが⁉すぐに行きます!!』

 

「ああ。頼む」

 

フォルテが通信を切ると、近くで咲が黙祷を捧げるように手を合わせていた。

 

「何をしているんです?」

 

「さっきの人に黙祷を捧げてたんです」

 

「黙祷を・・・あなたを殺そうとした人形ですよ?」

 

「それでも、生きていたことには変わりませんから」

 

リリィに黙祷を捧げていた咲はフォルテの疑問の声に笑みを浮かべて答える。フォルテは咲に対し、笑みを浮かべた。

 

「・・・やはりあなたは、どこまでも甘いですよ」

 

「でも、それが信念ですから」

 

「・・・まぁ・・・僕もその信念に、救われましたがね」

 

咲の信念に呆れながらも、フォルテは咲に感謝しながら夕焼けを眺め、日和たちの到着を待つのであった。

 

「そういえば・・・咲殿はなぜ、僕が自分自身に恐れていたとわかったのですか?」

 

「それは・・・」

 

フォルテの疑問に咲は日和とそっくりな茶目っ気たっぷりの笑みを浮かべて答えた。

 

「診察医、ですから♪」

 

咲の解答とその笑顔でフォルテはやはり姉妹なのだなと、感心して笑みを浮かべた。

 

~♪~

 

チフォージュ・シャトーの玉座の間。任務に出ていた3機のオートスコアラーが帰還した。同時に、リリィの台座から白い光が放たれ、白い垂れ幕を包んだ。これによって、白い垂れ幕に錬金術の化学式が描かれる。

 

「・・・リリィは散ったか・・・」

 

台座の光を見てキャロルはリリィが倒されたのだと理解する。すると・・・

 

「ぐうぅ・・・⁉」

 

キャロルは突然頭を抱え、苦しみだした。

 

「マスター・・・」

 

「最後の予備躯体に不調ですか?」

 

「負荷を度外視した思い出の高速インストール・・・さらに自分を殺した記憶が拒絶反応を起こしているようだ・・・」

 

現在のキャロルの身体は予備躯体と呼ばれるもので、この予備躯体に自身の思い出のインストールをすることでこうして生き永らえている。だがその予備躯体は、自分が死んだ思い出・・・それも自分自身を殺したという思い出によって、拒絶反応を引き起こし、痛みを引き起こしたのだ。キャロル自身、こうなることは覚悟していたのだが想像以上の激痛が彼女に襲い掛かっている。3機のオートスコアラーはキャロルを心配する。

 

「マスター・・・このまま計画を続行するのかい?」

 

「無論だ・・・!万象黙示録が完成されるまで、この歩みは止まることはない・・・!」

 

心配するシャルの問いにキャロルは迷うことなく断言した。キャロルがこうだと決めたのならば、残るオートスコアラーはその使命を最後まで全うすると誓った。

 

~♪~

 

翌日の早朝・・・日和と海恋はリディアンに向かう前に、とある場所に向かっている。場所が場所であるため、海恋は日和を心配する。

 

「ねぇ・・・本当に大丈夫?無理してない?」

 

「大丈夫だよ。いつまでも、目を背けていられないから」

 

そうは言うものの、日和の笑顔は少し引きつっている。海恋は日和が心配ではあるが、今は何も言わない。数分歩いていると、目的地にたどり着いた。その場所とは、かけがえのない大切なバンドメンバー・・・伊南小豆が眠る墓地であった。

 

「小豆・・・遅くなってごめんね・・・」

 

2人は小豆の墓に向かって歩き出す。

 

「あら・・・?誰かいるわ」

 

小豆の墓までたどり着くと、墓の前には先客がいた。その後ろ姿は黒いTシャツを着こんだスキンヘッドの男だ。男は後ろを振り返り、2人と目があった。

 

「え・・・!!?」

 

「ウソでしょ・・・」

 

日和と海恋はその男を見て、非情に驚いている。2人はこの男を知っているからだ。昔とかなり印象が変わってしまったが見間違えるはずがない。

 

「てめぇらは・・・」

 

「・・・大悟・・・君・・・」

 

この男・・・伊南大悟は・・・亡くなった小豆の弟で、かつては日和を尊敬していた少年だ。海恋が恐れていた事態が、起きてしまったのだ。




ミスティルテインの技

【Belial Of Vanity】
フォルテの技。日本語に略すとベリアルの虚飾。双大剣を持ち、空高く跳躍し、刃に赤黒いエネルギーを纏い、目標に目掛けて降下し、双大剣を振り下ろして斬撃を放つ技。敵を上空に放り投げるという使い方もある。

【Lucifer Of Pride】
フォルテの技。日本語に略すとルシファーの傲慢。大剣に業火の炎を纏わせ、斬撃と共に炎を放ち、敵を焼き払い、切り裂く技。今回は1度だけ、自分を信じ、散った命を背負う勇気を持ったフォルテは虹色の不滅の魂の炎を放つことに成功した。この炎はリリィの絶対零度の冷気さえも打ち勝てるほどの熱量を持つ。


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罪悪感と憎しみ

今回の後書きのおまけはバレンタインボイスと、キャラ紹介の2つです。


リディアン音楽院の3年生の教室。全ての授業を終え、日和は教科書を鞄の中に入れ、帰り支度の準備をしている。その表情はどこか曇っているように見える。そこにクリスが声をかけてきた。

 

「おい、今日は本部に直行するぞ」

 

「・・・なんで?」

 

「なんでって・・・今日作戦会議があるって言ってただろ。オッサンの話聞いてなかったのか?」

 

「・・・行きたくない・・・」

 

「はあ?」

 

今日は本部で作戦会議が開かれるのだが、日和はどういうわけか行くのを嫌がっている。全ての事情を知っている海恋は2人の話を聞いていた。

 

「ごめん・・・今日そういう気分じゃないの・・・」

 

「気分じゃないってお前・・・」

 

明らかに様子がおかしい日和にクリスはいったいどうしたのかと尋ねようとした時、噂話が聞こえてくる。

 

「ねぇ聞いた?ボロボロになった暴走族の話」

 

「う、うん・・・。近所を走り回ってた怖い人たちのことだよね・・・」

 

「ボロボロにしたの、噂じゃ小豆ちゃんの弟君らしいよ?」

 

「え?小豆ちゃん、弟いたの?」

 

「いるよ。本人に紹介してもらったもん」

 

「・・・っ!」

 

噂話に小豆の弟というワードが出た途端、日和は反応して、逃げるように教室から出ていった。

 

「お、おい!」

 

クリスは日和を呼び止めようとしたが、行ってしまった。海恋はクリスに声をかける。

 

「今日は・・・そっとしてあげて」

 

「なぁ、今日は朝っぱらから墓参りに行ったんだろ?いったい何があったってんだ?」

 

「・・・ちょっと複雑な事情があってね・・・」

 

事情を聞かれた海恋はかなり複雑そうに顔をしかめている。

 

~♪~

 

時は今朝に遡る。小豆の墓参りにやってきた日和と海恋はそこで偶然小豆の弟、伊南大悟と再会する。日和は久しぶりに会った大悟に対し、申し訳なさと罪悪感を抱いている。そんな気持ちを抱いたまま、日和は彼に声をかける。

 

「だ、大悟君・・・ひさ・・・」

 

「ちっ!」

 

日和が口を開くと同時に、大悟は忌々し気に舌打ちをした。

 

「朝っぱらから見たくもねぇ面を見るとはな・・・」

 

「・・・・・・」

 

悪態をつく大悟に日和は悲しそうに顔を俯かせる。そんな大悟の態度に海恋が堂々と異を唱える。

 

「ちょっと!久しぶりに会ったのになんなのよその態度!挨拶くらいしたっていいでしょ!」

 

「るせぇな・・・てめぇらの面見てっと、しらけんだろうが・・・とっとと帰れよ」

 

「あんた・・・なんなの!」

 

「んだこら!」

 

海恋と大悟は互いに睨みあう。一触即発な2人に日和が止める。

 

「や、やめてよ2人とも!」

 

「だけど・・・」

 

「大悟君が私のことが嫌いなのは・・・わかってるから・・・」

 

「日和・・・」

 

「ハンッ!意外だな。ちゃんとわかってるとはな・・・。そういう利口ぶり、反吐が出るぜ」

 

悲しそうにしている日和に大悟は鼻で笑い、悪態をつく。その悪態に海恋は大悟を睨みつける。

 

「あなた・・・日和をいじめてそんなに楽しい?そんなに日和が憎いの?」

 

「ああ、憎いね!当たり前だろ。そいつが余計なことさえしなけりゃ・・・姉貴は・・・俺は・・・!」

 

2年前の事件で、姉を殺したのは日和だと思い込んでいる大悟に海恋は呆れている。

 

「呆れた。まだそんなことを言ってるの?」

 

「んだと?」

 

「大悟、あれは事故よ。日和が悪いわけじゃないわ。ノイズだって、いつ現れるかわからないことくらい、あんただってわかってるでしょ?」

 

2年前の事件の真相は2人はちゃんと知っている。だが、2人と違って、大悟はただの一般人。真相を話したところで、それを信じることはないだろう。ゆえに、こうやって事故だと言うしかない海恋。

 

「だったら何でこいつは生きてる!!?おかしいだろうが!!何でこいつ1人だけ生きて、姉貴が死ななきゃいけなかったんだ!!!」

 

「大悟、それは・・・」

 

「こいつのせいで俺たちはめちゃくちゃだ・・・!あれ以来、クソ親父は仕事を辞めて酒に溺れて御袋をぶん殴りやがった・・・!御袋も御袋で、俺を蹴ったり殴ったり・・・自分の痛みを正当化して・・・飯もろくに食わせてくれねぇ・・・。親父も御袋も、クソに成り果てやがった・・・てめぇのせいでな!!」

 

2年前の事件で大悟の両親は毒親へと変わってしまい、大悟自身も散々な目にあってきたようだ。そしてその原因を作ったのが、日和であると大悟は思っているようだ。それを聞いた海恋は大悟に怒る。

 

「何よそれ?自分の不幸話?あんただけ辛い思いをしてると言いたいの?甘ったれるんじゃないわよ!!日和があの後、どんな苦しみを味わったと思ってるのよ!!」

 

「知るかよ!!知りたくもねぇ!!!」

 

「現実を見なさいよ!!現実を見れないから現実逃避するんでしょ!!だからそんな不良の真似事なんてしてるんでしょ!!」

 

「てめぇ・・・!女だからって容赦すると思ってんのか!!?やんぞこらぁ!!!」

 

「お願いだからもうやめて!!!」

 

喧嘩が激しくなってきたところに日和が大声を上げて止めた。その一声で海恋も大悟も止まった。

 

「日和・・・」

 

「わかったよ・・・今すぐここから出ていくよ・・・。顔も見せない・・・。で、でも・・・」

 

日和は持ってきていた見舞いの花を大悟に見せる。

 

「せめて・・・せめてこの花だけでも・・・小豆のお墓に・・・添えさせてくれないかな・・・?」

 

大悟は日和が出した花をじっと見つめ、少しの沈黙の後、花をひったくるように奪い取った。

 

「とっとと失せろや!!!」

 

「・・・・・・」

 

花を取られ、大悟の怒声を聞いた日和は涙が出そうなのを堪え、走ってこの場を去る。

 

「日和!待ちなさい日和!」

 

海恋はそんな日和を慌てて追いかける。1人残った大悟は日和から奪い取った花をじっと見つめ続ける。

 

~♪~

 

時は現在に戻り、街の公園。逃げるように走ってこの場所にたどり着いた日和はここのブランコに乗って、きこきこと静かに揺らした。

 

(目を背けないつもりでいたけど・・・ダメだった・・・。いざ大悟君と話そうと思っても・・・言葉が喉を詰まらせる・・・)

 

日和は今朝の大悟との会話を未だに引きずっており、それを思い返すたびに罪悪感が込み上げてくる。

 

(大悟君もあの後辛い目にあってた・・・。ううん、大悟君だけじゃない・・・おじさんもおばさんも変わったって・・・私のせいで・・・)

 

大悟が今の不良学生になってしまったこと、伊南家の両親が息子である大悟にひどい仕打ちをしたという話。これら全てを見て、聞いて、日和は改めて思った。2年前の事件は全て・・・自分が悪く、責任が全部自分にあると。

 

「はぁ・・・どうして私って・・・いつもこうなんだろう・・・」

 

変わろうと思っても何も変わっていない。そんなことを思っている日和は自分を卑下するようにため息をこぼしながら、ブランコを揺らしていく。

 

~♪~

 

S.O.N.G本部のブリーフィングルーム。響と日和を除いた装者全員が本日の作戦会議に参加するためにここに集まっている。

 

「全員集まっているか?・・・おや?日和君はまだ来ていないのか?」

 

弦十郎はこの場に日和が来ていないことに疑問符を浮かべている。

 

「今日は来る気はないんだってよ」

 

「何かあったのか?」

 

「・・・・・・」

 

「「クリス先輩・・・?」」

 

クリスが日和は今日は来る気がないと伝えると、翼が訪ねる。クリスはバツが悪そうな顔をして何も話そうとしない。事情を知らない装者たちは首を傾げるばかりだ。

 

「ううむ・・・今後の打開策を練る大事な会議なのだが・・・。仕方がない・・・日和君抜きで話を進めよう。詳細はクリス君が後から伝えてくれ」

 

「ああ・・・」

 

「では、対策会議を始めるぞ!」

 

日和がいないのが気がかりだが、時間は1秒でも惜しいため、日和抜きで対策会議を始めるのであった。

 

~♪~

 

チフォージュ・シャトーの玉座の間。玉座に座っているキャロルはまたも拒絶反応を引き起こし、頭を抱えて苦しんでいた。

 

「ぐっ・・・ぐぅ・・・!」

 

「マスター・・・」

 

「大丈夫ですか・・・?」

 

キャロルの容態を心配するファラとレイア。キャロルは拒絶反応など構うものかと言わんばかりに、玉座から立ち上がろうとする。

 

「なぁに、焦るこたぁないぜ。計画は今も進んでるんだ。マスターはどーんと構えて、あたいらに指示を出してくれりゃいいのさ」

 

「ぬぅ・・・」

 

「それに、ガールズが何をしようと、"全部筒抜け"なんだ。余裕で対処ができる」

 

シャルはカウガール帽子を被り直し、右手のレールガンをくるくる回しながら台座から降り、玉座から出ようとする。

 

「どこに行く?」

 

「んー?ビッグビジネスさ。後のことはユーたちに任せるぜ」

 

レイアの問いかけにシャルは呑気に答えながら今度こそ玉座の間から出ていった。

 

「よろしいのですか?」

 

「くぅ・・・あれもあれで己が指名を全うしている・・・。ならば好きにさせてやれ・・・」

 

ファラの問いにようやく落ち着きを取り戻したキャロルはそう答えた。シャルは飄々とした態度が目立つが、仕事に関しては全く抜け目がないことを知っているからだ。

 

~♪~

 

響が検査入院している病院。咲は検査機器を使って響の検査を進めていく。一通りの検査が終わり、咲は響と未来を診察室に呼んで検査結果を伝える。

 

「傷も順調に回復してるし、身体の方も特に異常なし。明日の検査が最後だから、それが終わったらもう退院してもいいわよ」

 

「本当ですか!」

 

「気が早いわよ。あくまでも明日の検査の結果次第なんだから」

 

「はぁい」

 

退院という言葉に響は気が早く喜んでいたが、咲が注意する。

 

「今日の検査はここまで。早く病室に戻りなさいな」

 

「はい」

 

「先生、本当にありがとうございます」

 

本日の検査が終わり、響は病室に戻っていき、未来が彼女に付き添う。咲は椅子で一息ついた後、次の患者の対応の準備をしようとした時、看護師がやってきた。

 

「東雲先生・・・」

 

「ん?どうしたの?」

 

何事かと思って咲は看護師に耳を傾ける。

 

「実は・・・彼がまた・・・」

 

「あー・・・なるほどね・・・」

 

看護師の言葉に咲は全てを理解したような表情をし、席から立ち上がる。

 

「なら、後のことは叶先生にお任せして。彼、どうせ私が相手だと暴れそうだし」

 

「わかりました」

 

咲はそう言って診察を別の先生に任せ、自分は他の仕事を優先しに診察室を後にした。

 

~♪~

 

響が病室に戻ったタイミングで海恋がお見舞いにやってきた。2人は病室で今日の結果を海恋に伝えた。

 

「そう。明日には退院できるのね」

 

「明日の検査次第、ではあるんですけどね」

 

「でも、体調はすっごくいいんです!この調子なら、明日には退院は間違いなしです!」

 

「まぁ、そうね。でも、退院しても、安静はしていなさいよ?調子に乗ってまた入院なんて嫌でしょ?」

 

「うぅ・・・はい・・・」

 

明日には退院できるということで気分がよくなっている響に海恋は注意を促す。それには響はほんのちょっぴりしゅんとなり、未来は苦笑いを浮かべている。そんな時、響のスマホから着信音が鳴る。響はスマホの画面を確認する。画面には『お父さん』と表示されている。どうやら洸からの電話のようだ。だが響は黙ってこの着信を切る。

 

「・・・私、もう寝るね」

 

響はさっきと打って変わって声質を落とし、ベッドに横になった。

 

「響・・・」

 

「小日向さん」

 

未来は響に何か言おうとした時、海恋は彼女の肩を持ち、首を横に振った。そっとしてあげてと言っているのだろうというのは理解できた。響を気遣い、海恋と未来は病室から退室する。あの後ゆえに空気が気まずくなり、互いに会話はなかった。2人は病院を後にしようと廊下に歩ていた時、偶然咲と遭遇した。

 

「あら?2人とも、お見舞いはもういいの?」

 

「咲先生・・・」

 

「ええ・・・まぁ・・・。そういえば、咲さんはこの時間はまだ診察の時間では・・・?」

 

まだ診察の時間なのに咲が診察室から退室していることに疑問を持った海恋が質問する。

 

「そうなんだけど・・・実は、彼が怪我してここに来てね・・・」

 

「彼・・・?」

 

「・・・!まさか・・・大悟・・・⁉」

 

「え?」

 

この病院に大悟が来ていると海恋は感づいて驚いた顔をする。未来は何が何だかわからない顔をし、咲は苦笑いを浮かべて首を縦に頷いた。

 

「だから叶先生に変わってもらったの。1回に限った話じゃないから、病院の方でも許可はもらってる」

 

「あの子・・・!」

 

日和を悲しませただけでなく、咲にまで迷惑をかけに来たことに海恋は怒りの表情を浮かべている。そんな海恋に咲は彼女の肩をポンと乗せる。

 

「彼をそんなに怒らないであげて」

 

「咲さん・・・?」

 

「彼だって本当はわかってるのよ。ただ認めたくないだけ。じゃなかったら、どうしてわざわざ嫌いな相手の病院を選ぶのかしら?」

 

「それは・・・単なる嫌がらせで・・・」

 

「わざわざ怪我してるのに?」

 

「・・・・・・」

 

咲に痛いところを突かれて、海恋は言葉を詰まらせる。咲は海恋の肩をポンポンと叩く。

 

「海恋ちゃん、あなたが両親とは違うように、彼もあの人たちとは違うわ」

 

「・・・でも・・・」

 

「もう少しだけ大悟君を信じてあげて」

 

咲からそう言われてしまっては何も言えない海恋は曖昧ながらも、首を縦に頷いた。

 

「あの・・・」

 

「あ、ああ、ごめんなさいね、小日向さん・・・」

 

「・・・そうね。小日向さんにも、少し、話しておかないとね」

 

話についていけてない未来に海恋は謝り、咲は少しだけ、大悟との関係性について彼女に話した。

 

~♪~

 

S.O.N.G本部、装者一行は作戦会議が終わった後、一室で待機している。そんな時、クリスが翼に2年前の事件について触れる。

 

「なぁ。先輩は・・・2年前の事件を知ってんだよな?」

 

「ああ。東雲のライブ配信の事件だろう?規模は小さいが、多くの犠牲者が出た。・・・そして・・・玲奈もそこで・・・」

 

翼は2年前の事件で玲奈を失ってしまったことを思い出し、少しだけ悲しそうな顔をした。

 

「私も資料でその事件については知ってるわ。でも、その犠牲者の中に、日和の友達がいたなんてね・・・」

 

「そして、東雲はその友人の家族に憎まれたと・・・皮肉なものだ・・・」

 

「そんなのおかしいデスよ!だって、ひよりん先輩は何もしてないじゃないデスか!同じ被害者なのに・・・」

 

被害者である日和自身が加害者として扱われていることに切歌は納得がいっていないように異を唱えた。隣にいる調も口に出していないが、同じ気持ちだ。

 

「残された側にとって、過程などどうでもいいのかもしれないな。重要なのは、娘が生きているか否か・・・それだけなのかもしれない」

 

「そんなの・・・ひどすぎる・・・」

 

「あくまで推測だがな・・・」

 

フォルテの出した推測に調は悲しそうな顔をしている。

 

「・・・くそ!結局は全部、あたしの責任じゃねぇか!あたしが、ソロモンの杖を起動させちまったばっかりに・・・!」

 

もう存在しない完全聖遺物の1つであるソロモンの杖を起動させたのはクリスだ。2年前の事件には関わっていないとはいえ、そのせいで日和に辛い目に合わせてしまったことに彼女は大きな責任を抱いている。

 

「いや・・・あの一件には私にも責任がある。玲奈の言葉に、もう少し耳を傾けていれば、被害を抑えられたかもしれない・・・玲奈だって・・・」

 

翼自身もあの事件に責任を感じており、少し暗い表情をしている。そんな思い空気が流れていると・・・

 

ヴゥー!ヴゥー!

 

艦内でアルカ・ノイズ出現のブザーが鳴り響いた。装者たちは暗い気持ちを切り替えて、ブリッジに移動する。たどり着いたブリッジのモニターには、複数のアルカ・ノイズが映し出されており、今も増え続けている。そして別のモニターではシャルがレールガンでアルカ・ノイズの結晶を撃ちばら撒き、アルカ・ノイズを召喚し続けている。

 

「アルカ・ノイズの出現を検知!」

 

「アルカ・ノイズは依然増殖を続けております」

 

装者たちはアルカ・ノイズが出現した座標を確認する。

 

「この出現位置・・・奴らの目的がこれでハッキリしたな」

 

「ただ・・・アルカ・ノイズは増えるばかりで動きをまったく見せません。まるで・・・こちらを誘っているかのように・・・」

 

モニターに映るアルカ・ノイズの出現位置によって、オートスコアラーの狙いがはっきりしたのだが、アルカ・ノイズは動いている様子はない。何かしらの罠の可能性があるとも推察される。だがそれでも、動かない理由にはならない。

 

「狙いが何だろうと、返り討ちにしてやる!」

 

「すぐ近くにシャルがいます。戦闘に乱入してくる可能性が十分にあります。注意してください」

 

エルフナインからの忠告の後、装者たちはアルカ・ノイズ、及びシャルの対応のために出撃の準備を始める。

 

「日和君への連絡も急げ!」

 

「はい!」

 

弦十郎はオペレーターたちにこの場にいない日和に出撃の連絡をするように指示を出した。

 

~♪~

 

ちょうど同じ時間帯、日和は未だに公園のブランコをギコギコと揺らしている。空を見上げて、もう夕方になったことに気付き、そろそろ帰ろうとする。そこへ、日和の通信端末が鳴り響いた。日和は申し訳ないと思いながら、通話に出る。

 

「もしもし・・・ごめんなさい・・・今日、会議に出る気分じゃなくて・・・」

 

日和が謝っている間にも、S.O.N.Gのオペレーターはアルカ・ノイズが出現したことを彼女に伝える。そして、アルカ・ノイズの出現場所を聞いて、目を見開いて驚く。

 

「え・・・なんで・・・?だってあそこは・・・」

 

連絡を聞いた日和はこうしてはいられないと言わんばかりに通信を切り、急いでその場所へと走っていく。

 

~♪~

 

同じ頃、不良たちとの喧嘩で怪我を負った大悟は病院で簡単な治療を受けた後、原付バイクに乗ってある場所へと向かっている。その表情はイライラしている様子だ。目的地にもうすぐで到着するところで、ふと見上げてみると、その目的地で赤い煙が立ち込めている。

 

「おい・・・嘘だろ!!?」

 

大悟は赤い煙を見て驚愕と焦りの表情を浮かべた。なぜならその目的地・・・アルカ・ノイズが出現した場所とは、小豆の墓がある墓地であるからだ。

 

~♪~

 

墓地で増え続けているアルカ・ノイズのうち1体は近くにあった木に向けて分解器官を伸ばして、それを分解した。これはしびれを切らしたシャルが下した命令だ。墓地より離れた場所でシャルは次はどれを分解させようか悩んでいる。

 

「早く来ないと、辺りのものぜーんぶデリートしちまうぜー?」

 

この状況を楽しんでいる様子のシャルはふと上に気配を感じ、顔を見上げた。視線の先にはS.O.N.Gのヘリコプターが墓地の上空を飛んでおり、ヘリコプターから翼が飛び降りてきた。降下する翼はギアネックレスを取り出し、詠唱を唄う。

 

Imyuteus amenohabakiri tron……

 

シンフォギアを身に纏った翼は刀を抜き、複数の剣を召喚し、アルカ・ノイズに向けて剣を雨のように降り注いだ。

 

【千ノ落涙】

 

アルカ・ノイズは降り注いだ剣に貫かれ、複数消滅したが、その数はまだまだ多く、全滅には至らない。地に着地した翼は刀で襲い掛かるアルカ・ノイズをバッタバッタと切り裂いていく。そして、墓地にたどり着いたのは翼だけではない。シンフォギアを纏った調と切歌もヘリコプターから降り、アルカ・ノイズと対峙する。切歌は鎌の刃を3つに展開し、展開した刃を飛行型アルカ・ノイズに向けてブーメランのように放った。

 

【切・呪りeッTぉ】

 

ブーメランのように放たれた刃は空中型アルカ・ノイズを次々と斬り裂いていく。調は脚部に備わった鋸を車輪のように展開し、アルカ・ノイズの群れに一直線に突っ込む。

 

【非常Σ式・禁月輪】

 

調の車輪鋸はまっすぐに突き進みながらアルカ・ノイズの群れを次々と切り刻んでいく。墓地より離れた場所でその様子を見ていたシャルはワクワクしている。

 

「へへへ、いよいよパーティの幕開けだな。なぁ、そうだろ!」

 

シャルは突然後ろを振り向き、レールガンの弾を2発発砲する。弾はこちらに向かってきたボウガンの矢を相殺させた。シャルの視界の先にはボウガンの矢を放ったクリスがいた。クリスはボウガンをガトリング砲に変形させて、シャルに目掛けて弾を乱射する。さすがにガトリングの弾は対処しきれないシャルはガトリングの弾を跳躍で移動しながら躱していく。

 

「面白れぇ・・・射撃であたいに勝負しようってかい?」

 

シャルが避けた先で待ち構えていたフォルテが飛び出してきて、フォルテは横払いでシャルを一閃しようとする。だがこの一撃はシャルがブリッジをすることで躱されてしまう。シャルはその勢いで回転しながらフォルテと距離を取る。

 

「マリア!」

 

「ええ!」

 

フォルテの合図でマリアが距離を取るシャルを逃がさないように短剣を蛇腹状の刃に可変し、変則的な軌道で刃を伸ばしてシャルに迫る。

 

【EMPRESS†REBELLION】

 

迫った来る刃にシャルは特に慌てた様子はなく、伸びている刀身に向けてレールガンの弾丸を放った。弾は刃に直撃し・・・

 

ビリビリビリ!!!

 

「なっ・・・!」

 

刃は感電し始め、電気が素早いスピードで短剣の柄まで迫っていく。このままでは自分まで感電すると感づいたマリアはその短剣を手放した。これによってシャルに攻撃は当たることはなく、マリアに隙ができた。シャルはそこを突いて左手のレールガンを抜き、弾丸を撃ち放った。弾丸はマリアに直撃する。

 

ビリビリビリ!!!

 

「あああああああ!!!」

 

レールガンの特性によって、弾にヒットしたマリアは電気が走り、ダメージが入る。

 

「マリア!!」

 

「野郎!!」

 

クリスはシャルに向けてガトリング砲を撃ち放つ。シャルは走りながら弾を躱して、フォルテとクリスに向けてレールガンの弾を放つ。フォルテは弾丸を避け、クリスも連射を辞めてその弾を飛んで躱す。そしてボウガンに変形し、複数の矢をシャルに放つ。シャルは余裕綽々の様子で飛んで躱す。

 

「これならどうだぁ!!」

 

クリスはミサイルを展開して、シャルに向けて全弾を発射する。

 

【MEGA DETH PARTY】

 

「そいつはスイーツより甘いぜ、ガール!」

 

シャルは両手のレールガンで迫ってくるミサイルに向けて一発一発弾丸を撃ち放つ。弾がヒットすることにより、ミサイルは爆発し、シャルは爆発に巻き込まれる。全てのミサイルが爆発したことで空中に煙が漂う。2人が煙を注意深く見ていると、煙からレールガンの弾が飛んできて、クリスに直撃する。

 

「ぐあっ⁉な、何ぃ・・・!!?」

 

ビリビリビリビリ!!

 

「ぐああああああああ!!!」

 

これによってクリスの身体に電気が走り、ダメージが入る。

 

「雪音!!」

 

「そしてレディには・・・」

 

放たれたレールガンの弾はまだあり、その弾はフォルテの頭上で止まり、雷の錬金陣変わる。そして・・・

 

「落雷注意報だぜ!」

 

ズドォン!!ビリビリビリ!!

 

「おおおおおおおおおお!!!」

 

錬金陣より雷が落ち、フォルテは雷によってダメージが入る。

 

「チクショォ・・・あたしが射撃で負けるなんて・・・!」

 

「こいつ・・・なんて身のこなしなの・・・!」

 

「強い・・・!」

 

飄々としている割に隙の無い動きで圧倒されている3人はシャルが一筋縄ではいかないと改めて実感される。

 

「おいおい、パーティのお開きにはまだ早いぜ。もっと楽しもうぜ、ガールズ」

 

シャルは右手のレールガンでカウガール帽子をくいっと上げる。だがシャルにとってこの戦いは、ただのオードブルにすぎなかった。シャルの真の目的はアルカ・ノイズが配置されている墓地にあるものと・・・日和だけだ。




XD-エクスドライブアンリミテッド-

バレンタインボイス

東雲日和
お姉ちゃんみたいにうまくはないけど・・・一生懸命作ってみたよ!手作りチョコ、受け取ってほしいな。

フォルテ・トワイライト
チョコだ。受け取ってくれ。・・・手作りではないから、そんな期待した顔をしても困る。

~♪~

伊南大悟

外見:スキンヘッドヘア
   目は鋭く、瞳の色は黄色

年齢:15歳

趣味:バイクでドライブ

好きなもの:バイク

イメージCV:ジョジョの奇妙な冒険 黄金の風:ホルマジオ
(その他の作品:この素晴らしい世界に祝福を!:カズマ(佐藤和真)  
       :アクエリオンEVOL:ジン・ムソウ
       :モンスターストライク:オラゴン
        その多数)

都内の不良校として有名な男子校に通う高校生。亡くなった小豆の弟。高身長で間違われがちだが、調と切歌と同学年。現在は祖父と祖母の元で生活している。
見た目こそ不良学生で気に入らないものがあれば怒鳴ったり舌打ちをしたり、度が過ぎれば殴りかかるなどという態度が目立つものの、根は情に厚く、ぶっきらぼうながらも相手を気にかけたり、バイトでも真面目に業務をこなしたり、よっぽどのことがない限り、女には手を上げようともしないなどといった意外にも真面目な性格。何かを了承する時の口癖は『しょうがねぇなぁ~』
日和とは小豆との交流の付き合いで仲良くやっていて、昔からあった日和のここぞとばかりの勇気に憧れ、尊敬を抱いていたが、小豆が亡くなったことをきっかけに現在は彼女を憎んでいる。


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花言葉、終わりのない友情

本日は調ちゃんの誕生日でございます。調ちゃん、お誕生日おめでとう!

さて、今回でGX編のオリジナルエピソードは終了です。面白くできているか不安はありますが、私はめげません。


墓地より離れた場所でシャルと戦っているクリス、マリア、フォルテの3人はかなり苦戦を強いられている。

 

「もうギブアップかい?始まったばかりなのにさ。だらしないねぇ」

 

「なめやがって・・・!」

 

「これしきのこと・・・!」

 

レールガンの電気でしびれはあるものの、戦えないほどではなく、立ち上がってアームドギアを構える3人。

 

「つっても、ユーたちだけでパーティを楽しむのも不公平か・・・なら・・・」

 

シャルはにやにや笑いながら考える素振りをした後、アルカ・ノイズの結晶を辺りにばら撒き、アルカ・ノイズを複数召喚させた。

 

「またアルカ・ノイズを・・・」

 

「味な真似を・・・」

 

「しばらくおもちゃで遊んでな!」

 

シャルはアルカ・ノイズをその場に残して墓地の方面へ移動を開始した。

 

「逃げるつもり⁉」

 

「待ちやがれ!」

 

3人はすぐにシャルを追いかけようとしたが、召喚したアルカ・ノイズが襲い掛かり、さらにシャルは移動しながらレールガンでアルカ・ノイズの結晶を撃ち放ち、さらにアルカ・ノイズを召喚した。

 

「くっ、邪魔をするな!」

 

襲い掛かるアルカ・ノイズを3人は各々の戦法で次々と倒していく。そうしていく間にも3人はシャルの姿を見失った。

 

~♪~

 

墓地に現れたアルカ・ノイズを翼が刀で、切歌が鎌で、調が鋸で切り刻んでいく。そのおかげでアルカ・ノイズは数が減ってきた。だがこの様子を岩場に隠れて見ている者がいた。それは大悟だった。

 

(な・・・なんだよありゃあ・・・!お、女がノイズを斬ってやがる・・・!何がどうなってんだ・・・⁉何者なんだあいつら・・・いったい、何が起きてやがんだ!!?)

 

アルカ・ノイズを元来のノイズだと思い込んでいる大悟は目の前の光景に目を疑っており、混乱して頭の整理が追い付いていない様子だ。見られてることに気付いてない3人はアルカ・ノイズを全て倒し終えた。

 

「これで全部・・・!」

 

「後はオートスコアラーだけデス!」

 

「奴がいる限り、アルカ・ノイズはまた増える!急ぎ、雪音たちと・・・」

 

3人がクリスたちと合流しようと移動を始めようとしたところで、翼は弾丸が発砲される音が聞こえた。身の危険を感じた翼は身を屈める。すると、翼の頭上に雷の弾丸が通り過ぎた。

 

「翼さん!」

 

「今のは・・・」

 

「へぇ・・・やるねぇ。発砲音を聞き分けるとは」

 

弾丸が放たれた方角を見ると、そこにはレールガンを構えながら近づくシャルがいた。

 

「貴様は・・・!」

 

「レディたちならおもちゃで遊んでるぜ。パーティに仲間外れは不公平だからな。ユーたちの相手もしねぇと」

 

シャルの登場に翼たちはアームドギアを構える。

 

「お前の狙いは"要石"か!」

 

「要石ぃ?あれのことかい?」

 

ズドォン!!

 

翼の問いに答えるようにここから離れた場所にそびえ立っている巨石にシャルが左手の親指を指すと、その場に落雷が落ちた。

 

「落雷・・・⁉」

 

落雷の煙が晴れると、巨石は粉々に砕け散っていた。

 

「要石が・・・!」

 

「術はあたいが来た時からずっと張ってあったのさ。つまりユーたちが来ようが来なかろうが、あたいのビジネスはすでに終わっていたってことさ」

 

「ならばなぜ・・・」

 

「なぜここにいるのかって?チルドレンには伝えたはずだぜ?ビーストガールのハートを撃ち抜くってな」

 

「ビーストガール・・・?」

 

「!ひよりん先輩のことデスか⁉」

 

シャルの放つビーストガールとは何かと言わんばかりに翼は疑問符を浮かべていたが、特徴からして、それが日和であると切歌は気づいた。

 

「まさか・・・あなたの狙いは最初から・・・」

 

「ザッツライト!あたいはビーストガールを気に入ったからよぉ、最初に仕留めるって決めてたのよ。だからおもちゃを使ってユーたちを誘き寄せたんだ。けど全員を相手にするのは疲れるから、戦力を分散しようとしたんだが・・・まさかビーストガールが来てないとは予想外だぜ。まぁ、どうせユーたちの相手をすりゃ必ず来るさ。それまであたいを楽しませておくれよ!」

 

シャルはそう言いながら3人に向けて両手のレールガンで弾丸を連射する。切歌は右に、調は左に弾丸を躱し、翼は弾丸を躱してシャルに向かって突撃する。

 

「私が先陣を切る!月読と暁は奴に回り込め!」

 

「「了解(デス)!」」

 

翼の指示に従い、調と切歌は指示通りに動く。シャルは突撃してくる翼に向けて弾丸を撃ち続ける。翼は弾丸を避けながらシャルに接近し、彼女の懐に入って刀を振るう。シャルは刀を避ける。翼は反撃の隙を与えず、連撃を繰り返す。シャルは翼の追撃をかわすばかりで弾丸を撃ち放てない。

 

(どうやら近接戦闘は不得意のようだな。ならば、そこを突くのみ!)

 

シャルの弱点に気付いた翼はさらに刀を振るってシャルを攻撃する。シャルはその攻撃を跳躍して躱し、バク転しながら翼と距離を取る。

 

「「はあああああ!」」

 

シャルの着地地点まで回り込んだ調と切歌は挟み撃ちでシャルに攻撃を仕掛ける。シャルは右手のレールガンで切歌の鎌を、左手のレールガンで調の丸鋸を防ぐ。

 

「これで両手を封じた!」

 

「撃てるもんなら撃ってみろデス!」

 

翼はもう1本刀を取り出し、2つの刀の柄を連結させ、脚部のブースターを使ってシャルまで突撃する。この状況下にシャルはにやりと笑う。

 

「そいつはちと甘いぜ、防人」

 

シャルがそう口にした瞬間、シャルが放ち、地に着いた弾丸に稲光が走り、電気となって猛スピードで翼に迫り、翼に直撃した。

 

「何っ・・・⁉」

 

ビリビリビリビリ!!!

 

「ぐあああああ!!」

 

「「翼さん!」」

 

電気に包まれた翼はダメージを負う。さらにシャルは2人の刃をレールガンで払いのけ、両腕を交差して2人の腹部にレールガンを突きつけ、弾丸を放つ。

 

ビリビリビリビリ!!!

 

「「ああああああああ!!」」

 

調と切歌も電気のダメージを負い、地に倒れる。シャルはレールガンを回し、ポーズを決めながら、レールガンを自分の頭にツンツンと突っつく。

 

「ユーたちの考えてる通り、あたいは射撃性能に特化してる分、近接スキルは今一つ。そんな特徴はある。だが、ユーたちをそんな様にすりゃ、近接スキルなんて、いらねぇんじゃねぇか?ここを柔軟に使って、一発弾丸を当てりゃ、簡単なんだぜ?」

 

「くっ・・・たった一発でこれほどの威力・・・!」

 

「しかも・・・以外にも頭脳派タイプ・・・」

 

「ずるいデスよ・・・!」

 

好戦的でありながらも、知略に長けたシャルの能力に3人は苦い表情をしている。この一部始終を隠れて見ている大悟は何が何だかわからないでいる。だが、少なくともシャルがとんでもない存在であるというのはわかっている。

 

(な・・・なんなんだよさっきから・・・!ノイズが出たり、雷が落ちたり・・・!あの化け物の仕業か・・・⁉)

 

シャルの力を目の当たりにしている大悟の身体は恐怖で震えている。

 

(び・・・ビビってんのか・・・俺は・・・!)

 

大悟が自分の震える右手を見ていると、ふと亡くなった小豆の言葉を思い出す。

 

『ダサい男になっちゃダメだよ』

 

(なんで今になって姉貴を思い出すんだよ・・・!あんな化け物相手に、何ができるってんだ・・・!)

 

自分ではどうにもできないと理解している大悟は隠れてただ見ていることしかできなかった。

 

「さて、まだ立ち上がるかい?先にあたいがくたばるか、そっちが全滅するか、比べるのも悪かねぇ」

 

3人は電気の痛みを堪えて、立ち上がろうとした時、誰かがシャルに向かって突撃した。

 

「「「!」」」

 

「お?」

 

「やああああああああ!!」

 

突撃した人物とは、シンフォギアを纏った日和だった。日和はシャルに向けて棍を振るった。シャルは両手のレールガンで難なく日和の棍を受け止める。

 

(あいつは⁉)

 

「「先輩!!」」

 

「来てくれたか、東雲!」

 

日和の登場に翼たちは笑みを浮かべ、隠れていた大悟は驚愕する。

 

「はっ!ようやくご到着かい!待ちかねたぜ!」

 

シャルは左手のレールガンで棍を防いだまま右手のレールガンでゼロ距離射撃を狙う。日和は左手首のユニットの棍を伸ばし、木に引っ掛ける。そして棍を元のサイズに戻し、引っ張られるようにして弾丸を躱した。

 

「相棒!」

 

「今そっちに・・・」

 

向こう側のアルカ・ノイズを全て倒し終えたクリスたちが墓地にやってきて、日和たちに加勢しようとする。

 

「こっからはメインディッシュだ!誰にも邪魔はさせねぇ!」

 

シャルはアルカ・ノイズの結晶を2つのレールガンに装填させ、翼側とクリス側に向けて撃ち放つ。これによってアルカ・ノイズが再び現れ、日和以外の装者たちはアルカ・ノイズに囲まれる。

 

「くっ!またか!」

 

装者たちがアルカ・ノイズの相手をしている間、日和はシャルに突撃する。向かってくる日和にシャルは両手のレールガンで弾丸を何発も撃ち放つ。日和は左右に動いたり、咄嗟に転がったりして弾丸を躱していく。シャルの懐に入り、日和は棍を振り上げる。シャルはその攻撃を跳躍で躱し、バク転しながら距離を取る。同時に、地に着いた弾丸の電気は這いずるように日和に迫った。二度も戦った相手だからか、この攻撃を予想し、飛んで電気を躱し、シャルに向けて棍を伸ばす。この攻撃もシャルはバク転で躱す。

 

「ひゅ~♪やるねぇ」

 

まだまだ余裕なシャルは空中にいる日和に向けて弾丸を撃ち放った。日和はさっきと同じように木に棍を引っ掛けて戻す移動法を何度も繰り返して複数の弾丸を躱す。シャルは負けじと弾丸を撃ち続ける。

 

(あいつの格好・・・あの女共と同じだ・・・!なんなんだありゃあ・・・?なんでノイズを倒せる・・・?なんであいつは・・・化け物と戦ってるんだ・・・!!?)

 

隠れている大悟は目の前の光景に驚いてばかりいるが、目の前の戦いに釘付けになって目が離せないでいる。日和は右手に持っている棍をシャルに伸ばして攻撃を仕掛ける。一直線に伸びる棍をシャルは難なく躱し、右手のレールガンを振り下ろして棍を地に叩きつける。そしてシャルはそのまま棍に向けてレールガンの弾丸を放とうとした時、棍は元の大きさに戻っていき、棍を持っている日和はそれに引っ張られる形でシャルに猛接近する。

 

「これでもくらええええ!!」

 

日和はこの勢いに乗ってシャルに拳を振るったが、シャルはブリッジをしてその拳を躱した。

 

「ウソッ⁉」

 

「甘いぜガール!」

 

シャルは片手を地につけて1回横回転し、その勢いで日和に一蹴りを入れた。背中に蹴りを喰らった日和は吹っ飛ばされ、墓に激突する。

 

「がは・・・!」

 

「「先輩!」」

 

「くっ・・・こいつら・・・邪魔だ!」

 

調たちも日和に駆けつけたいが、アルカ・ノイズが邪魔をしてくる。さらにそこにまたシャルがアルカ・ノイズの結晶を撃ち放ったことで数が増え、合流が難しい。

 

「あたいは接近戦は苦手だけどよ・・・威力はヒューマンのものとはわけが違うぜ!」

 

シャルはそう言いながらレールガンを日和に向けた。また弾が向かってくると思い、すぐに離れようとしたが、激突した墓を見て、目を見開いた。

 

(こ・・・これは・・・!)

 

「避けろ東雲!!」

 

フォルテの呼びかけと同時にシャルはレールガンの弾丸を撃ち放った。日和はすぐに後ろを振り向いたが・・・避けることはせず、腕を交差して防御する。だが・・・

 

ビリビリビリビリ!!!!

 

ああああああああ!!!!!

 

防御を無視する電気の前では、それは無意味だ。弾丸に当たった日和は感電し、電気に包まれる。

 

「相棒!!」

 

「どうして避けなかったの⁉」

 

防御行為が無意味なのは日和もわかってるはずなのに、なぜ避けなかったのか疑問を浮かべる装者たち。シャルもこれには怪訝な顔をする。

 

「どういうつもりだい?ユーなら避けられたはずだぜ?ほれ・・・避けてみろ!」

 

シャルは日和にもう二発弾丸を撃ち放つ。それでも日和は避けることはなく、防御の姿勢をとる。

 

ビリビリビリビリ!!!!

 

「ぐううううううううう!!!」

 

弾丸に当たり、日和は電気に包まれる。日和はこの電気に耐えようとしている。

 

「おかしい・・・東雲ならばあれを避けられるはずだ。なのになぜ・・・?」

 

「まるで・・・何かを守ってるような・・・」

 

日和は何かを守っている様子だが、何を守っているのかわからなかった。ただ、隠れている大悟は日和が何を守っているのかすぐに理解できた。

 

(あ・・・ありゃあ・・・姉貴の墓か!!)

 

そう、日和が守っているのは小豆の墓だ。もし避けたりすれば弾は墓に直撃し、壊れるかもしれない。日和はそれだけは何としてでも阻止したいのだ。

 

(あいつバカかよ・・・!!そんなもん放っておけばいいだろ!!墓1つのために死ぬ気かよあいつ!!)

 

大悟は命を懸けてまで小豆の墓を守ろうとする日和の行動が理解できないでいる。避ける様子がない日和にシャルはレールガンを彼女に突きつけたまま口を開く。

 

「・・・なぜ避けねぇ?あたいの電気を耐えるつもりなのかい?舐められたもんだ。あたいの電気の流れは永久に止まることはないんだぜ?」

 

「・・・これは・・・壊させない・・・!」

 

「あ?」

 

「小豆は・・・自分の命を引き換えにしてまで私を守ってくれた・・・!今の私がいるのは・・・小豆のおかげ・・・!だから・・・!せめて・・・小豆が安らげるこの場所は・・・誰にも壊させない!!」

 

日和の揺るぎない思いを聞いて、大悟は目を見開き、子供の頃、生きていた小豆と話したことを思い出す。

 

『姉ちゃん・・・日和姉って・・・すごいね』

 

『でしょ?日和は臆病だけどさ・・・ここぞって時にはとんでもない勇気を見せてくれるんだよね。臆病を克服できたらさ・・・あの子、絶対驚くくらい化けるよ。こりゃ、大悟も負けてられないよ?』

 

『え?』

 

『大悟のかっこいい姿、いつか姉ちゃんに見せてよねってこと』

 

その会話を思い出した大悟は顔を俯かせ、歯ぎしりを立てる。そして、立ち上がり、岩場から出てきてシャルに向かって駆けだす。

 

「なんだ⁉」

 

「一般人・・・だと⁉」

 

装者たちは隠れていた大悟が出てきて、驚いている。

 

「大悟君!!?」

 

「くたばりやがれ、このやろぉ!!!」

 

大悟はシャルに向かって拳を振るおうとしたが、シャルは右手のレールガンを振り下ろして大悟を殴りつけ、地面に叩きつけた。

 

「ぐあ・・・!!」

 

「大悟君!!!」

 

「・・・知ってたよ、ボーイが隠れたのは。邪魔すんなら、ユーをキルしちまうぜ?いいのかい?」

 

「・・・その前に・・・てめぇをぶっ殺す!!!」

 

シャルの挑発ともとれる言動に大悟は言い返した。それと同時にシャルは大悟の顎を蹴り上げる。さらにシャルは大悟を何度も何度も蹴り続ける。

 

「減らず口だけ叩くボーイはきれぇだぜ」

 

「ぶっ殺す・・・のは・・・俺じゃねぇ・・・!なぁ・・・そうだろ!!」

 

蹴られ続ける大悟の視線は日和に向けられている。

 

「大悟君・・・」

 

「俺は・・・今もてめぇが嫌いだ・・・!だがなぁ・・・もっと嫌いなのは・・・本当のてめぇを知っていながら・・・目を逸らしながら人に嫌われようとする・・・チキン野郎の・・・俺自身だぁ!!」

 

大悟の語りを煩わしいと思ったシャルはレールガンを大悟に向けようとした時、ようやくアルカ・ノイズを全滅させた翼が彼女を刀で薙ぎ払う。シャルはこれを躱した。距離を取ったところでクリスがシャルにボウガンの矢を放った。シャルは弾丸を撃ってそれを相殺させる。

 

「君、大丈夫?」

 

マリアたちが怪我を負った大悟に駆け寄る。大悟は構わず日和に声をかけ続ける。

 

「てめぇの・・・ありったけが本気なら・・・俺の偏見を・・・覆してみろよ・・・!もう1度・・・てめぇを信じさせてみろよ・・・!!」

 

「大悟・・・君・・・」

 

大悟の言葉を聞いて、日和は涙を流した。大悟自身も、自分の苦しみと、ずっと戦い続けていたと知ったから。

 

「わかったよ・・・大悟君・・・なら、ちゃんと見ててね・・・日和お姉ちゃんの・・・ありったけを!!イグナイトモジュール・・・抜剣!!!!」

 

日和はギアコンバーターのスイッチを押し、イグナイトを起動する。ギアコンバーターは『ダインスレイフ』という音声が鳴り、宙を舞って変形し、展開された光の刃が日和の胸を刺し貫いた。これによって日和は漆黒の闇を身に纏い、闇はシンフォギアの形へと変わる。

 

「みんな・・・大悟君を守ってあげて。こいつは私が倒す!!」

 

大悟を守る役を翼たちに任せ、日和は素早く跳躍してシャルに接近し、蹴りを入れた。

 

「アウチ!!」

 

蹴りを入れられたシャルは吹っ飛ばされるものの、きれいに地に着地する。そして日和の姿を見て、シャルはにやりと笑う。

 

「はっ!いいねぇいいねぇ!高ぶってきたぜぇ!!」

 

シャルの身体に電気が走りだすと、シャルに変化が訪れる。まず両手のレールガンが分解し、分解されたレールガンは再構築されてシャルの手に纏い、機銃となる。さらに服装も変形していき、ズボンから上着まで材質が機械と化し、カウガール帽子にスカウターのようなものが現れ、シャルの左目に装着する。これがシャルに搭載された機能『デストロイヤー』。この姿になった分、思い出の消費も激しい。

 

「姿が変わった⁉」

 

「まだ奥の手を隠していたのか!」

 

「それでも、私が勝つ!!」

 

シャルの奥の手の使用に翼たちは驚いているが、日和はそれでも自分が勝つことを疑わない。

 

「ヒー・・・ハーーーー!!!!」

 

シャルは機銃となった両手を日和に向け、機銃の弾を連射する。連射速度もレールガンのものとは段違いで早い。シャルが離れたことにより、もう小豆の墓に当たる心配がないと判断した日和は臆さずに左右に動きながら弾を躱し続け、そして、シャルに近づいたところで跳躍して棍を振り下ろした。だがシャルはまるで電気のように素早く動き、一瞬で日和の背後を取った。シャルは両手の機銃を日和に向けて連射しようとする。

 

「速い・・・けど・・・!!」

 

日和は尻尾部位の先端の棍を地面に突き刺し、棍を伸ばすことて上に上がることでシャルの機銃の弾を躱した。だがシャルは機械の服装より小型ミサイルが展開し、日和に向けて全弾を発射する。日和は棍を回転させて竜巻を引き起こしてミサイルに放った。

 

【疾風怒濤】

 

竜巻は向かってきたミサイルを全て斬り裂いて爆散させた。それを見たシャルは本当に楽しそうに笑みを浮かべている。

 

「イエス・・・イエス、イエス、イエス!!やっぱガールは最高だ・・・!あたいも・・・全力を出し切らねぇとなぁ!!」

 

そう言ってシャルは両手に機銃を合わせ、電気を溜めていく。その充電時間も素早く・・・そして威力もデストロイヤーの前とは非じゃない。

 

「な、何・・・あの電気・・・!」

 

「辺り全部を吹き飛ばすつもりデスか!!?」

 

桁違いの電気のエネルギーがこの地に放たれれば、この墓地は吹き飛ぶ。奏者たちはこれを見てそう感じた。

 

「いや!この場所は・・・壊させない!!!」

 

そう言って日和は棍を回転させて、電気に対抗しようとする。だが竜巻を創り出しているのではなく、回転によって生じたエネルギーを一か所に集めている。

 

「こいつで・・・フィニーーッシュ!!!」

 

電気が十分にたまり、シャルは巨大な電気のエネルギーを日和に向けて放った。

 

「この場所は・・・小豆が安らげる大事な場所!!それを・・・私が・・・守るんだあああああああああ!!!」

 

同時に日和は溜まったエネルギーを棍を振り下ろすことで放った。放たれたエネルギーは向かってくる電気と衝突し、均衡しあう。電気はエネルギーを押し上げ、日和に迫ろうとしたが、エネルギーは威力を増し、放たれた電気が消滅する。

 

「あたいの全力がかき消されて・・・!!?」

 

シャルが驚いている間にもエネルギーは彼女に迫り、そのまま彼女を包み込んだ。

 

「ヒーーーーハーーーーーー!!!!!」

 

シャルは笑みを浮かべながらそう叫んで、エネルギーの爆発と共に爆散した。

 

【闘魂炸裂】

 

「・・・はは・・・すげぇ・・・」

 

現実ではありえないことを目の当たりにした大悟はあまりのすごさに感動して身体が震えている。

 

~♪~

 

戦いが終わり、墓地にはS.O.N.Gの職員が集まり、事後処理に当たっている。そんな中、大悟は弦十郎や緒川から2年前の事件の真相を話した。今日のことがなければ信じなかっただろうが、今は納得したような顔をしている。

 

「君には、今話したこと、今日見たことは誰にも話さないでもらいたい」

 

弦十郎は大悟の命を守る意味も込めて、国家機密に触れる今回の件と話したことを秘密にしてほしいと頼む。

 

「それよぉ、俺が話すってこと考えねぇのか?えぇ?」

 

大悟は弦十郎の体格に臆さず、意地の悪いことを言いだした。そんな大悟に弦十郎は笑みを浮かべながら彼の右肩を優しくつかむ。

 

「君はそんなことはしない。目を見ればわかる」

 

「わかんねぇぜ?うっかりバラすかもなぁ」

 

「大丈夫ですよ、ししょー。大悟君はしっかり者ですから」

 

大悟の言葉に日和は笑みを浮かべながらそう言った。日和にそんなこと言われた大悟はため息をこぼして頭をかく。

 

「はぁ~・・・どいつもこいつもバカかよ・・・。たくっ・・・しょうがねぇなぁ~。こういうのってサインとかいんのか?」

 

「ご協力感謝します」

 

なんだかんだ言いつつも大悟は国家機密を守ることを選んだ。その様子に日和は微笑みながら小豆の墓に近づき、黙祷を捧げる。そこで日和は墓に備えられている花に気付いた。それは大悟が日和から奪い取った花であった。

 

「あ・・・これ・・・」

 

「ローダンセ。お前が持ってきたもんだろうが」

 

驚いている日和の隣に大悟が座り込み、彼も小豆に黙祷を捧げる。

 

「そっか・・・しっかり備えてくれたんだ・・・」

 

「けっ・・・お前の花を供えんのは癪だったがな」

 

「それでも嬉しいよ。ありがとう、大悟君」

 

「ふん」

 

なんだかんだ言いつつも日和の花を墓に備えてくれていた大悟に日和は彼にお礼を言った。大悟は素っ気なくそっぽを向いた。

 

「・・・姉貴はよ・・・この花がマジで好きなんだ。特にこの花の花言葉が気に入ってるらしくてよ・・・」

 

「花言葉?」

 

「・・・変わらぬ思い。終わりのない友情」

 

「終わりのない友情・・・」

 

「姉貴が言ってたのを思い出した。例え世界がお前を恨んだとしても、自分が死んだとしても、お前との友情は永遠に不滅・・・だってよ。相当愛されてたんだろうな。羨ましいぜ、チクショウ」

 

「・・・小豆・・・」

 

ローダンセの花言葉と小豆の心情を大悟から聞いて、日和は嬉しさのあまり、涙を流す。同時に、この場所を守れて本当によかったと思っている。

 

「・・・あー・・・それと・・・な・・・」

 

「うん・・・?」

 

「知りもしねぇくせぇに散々言って・・・悪かったな・・・」

 

真実を知った大悟は2年前のこと、今回のことについてを彼女に顔を合わせないで謝罪する。素っ気ない態度だが、気持ちだけはちゃんと伝わった日和は涙を拭き、彼の頭を撫でる。

 

「う~ん、おっきくなってもかわいいなぁ、大悟君は」

 

「・・・てめぇ・・・バカにしてんのか?」

 

頭を撫でられた大悟は日和を睨みつけ、こめかみをひくひくさせている。かわいいという言葉も、頭を撫でられることも彼は嫌いなのだ。

 

「単なる誉め言葉だよ~。そんな怒っちゃいやん♡」

 

「・・・殺す!」

 

「わー!怒ったー!」

 

「てめぇ!!待てやゴラァ!!」

 

日和の悪ふざけにキレた大悟は彼女を追いかけまわす。日和は笑いながらも大悟から逃げる。傍から見れば他愛ないじゃれ合いのような光景に装者たちは微笑ましく笑っている。大悟に捕まった日和はぐりぐりを受けている。2人の間にはもう以前のような壁はなくなっていた。2人は2年前の過去より・・・少しずつだが、着実に前に向いて進んでいっている。

 

~♪~

 

チフォージュ・シャトーの玉座の間。シャルが倒されたことにより、彼女の台座から紫の光が放たれ、紫の垂れ幕を包む。例によって垂れ幕に錬金術の化学式が描かれる。

 

「・・・シャルは役目を果たし、散ったか・・・」

 

キャロルは4つの垂れ幕に描かれた錬金術の化学式を見つめる。

 

「これで4つの"旋律"が集まった・・・万象黙示録の完成も近い・・・」

 

そう言い放つとキャロルの視界が別ものに変わる。今キャロルの目に移っているのは、S.O.N.G本部に帰還したフォルテだった。そして、この目線は・・・エルフナインから通じて見えている。

 

『やはり東雲は腕も・・・精神も少しずつ・・・確実に強くなっている。エルフナインもそう思わないか?』

 

フォルテのこの声が聞こえているのかキャロルは同意するように口を開く。

 

「ああ、思うとも。ゆえに・・・世界の終わりが加速する!」

 

キャロルの世界解剖の計画は・・・装者たちが思っていた以上に進んでいた。




調の誕生日

フォルテ「月読」

調「どうしたの?」

フォルテ「今から出かけるぞ。行き先は、風の赴くままに、だ」

調「え?え?」

半ば強引に調を連れ出しドライブを決行したフォルテ。そして時間が経ち、家に戻ってみると・・・

切歌「調ー!!お誕生日、おめでうデース!!」

調「わ・・・切ちゃん・・・?これは・・・」

マリア「切歌が咲さんと一緒にバースデーパーティの準備をしていたそうよ」

フォルテ「ただ、暁はへまをやらかす。マリア同様に落ち着きがないからな」

マリア「どういう意味よ!!?」

フォルテ「だから強引にも連れ出す必要があった。すまなかったな、付き合わせて」

調「そうだったんだ・・・。ありがとう、切ちゃん。私のために」

切歌「えへへ・・・調。これからも、ずっと一緒デスよ!」

調「本当にありがとう、切ちゃん・・・全部本当だよ」


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剣を殺す剣

チフォージュ・シャトーの玉座の間。玉座に座っているキャロルが立ち上がろうとした時・・・

 

「ぐぅ・・・!」

 

また拒絶反応が起き、激痛が走り苦しむ。キャロルは激痛を抑えるべく、背中を丸め、膝をつかせて痛みを抑えようとする。無論これでどうにかなるわけではないが、今はそれが最善なのだろう。

 

「マスター・・・いかがなさいますか?」

 

キャロルの不調を心配してか、レイアがそう問いかける。

 

「無論、まかり通る・・・!歌女共が揃っている・・・この瞬間を逃すわけにはいかぬのだ!」

 

元よりこうなることは覚悟はしていたキャロル。大願である世界解剖が果たされるその時は近い。ならばここで立ち止まるわけにはいかないのだ。

 

~♪~

 

都内の病院。海恋は今日も今日とて響のお見舞いにやってきた。海恋は響の病室に入る前に任務に出かけている日和に電話をしている。

 

「日和・・・本当に大丈夫?休んでなきゃいけないんじゃないの?」

 

『平気だよ平気。むしろ・・・ほら、私、昨日みんなに迷惑かけちゃったからさ。その分汚名挽回したいんだよ』

 

「それを言うなら汚名返上。挽回してどうすんのよ」

 

『とにかく大丈夫だよ。ししょーにも許可もらったし』

 

昨日のシャルの戦いで装者たちはレールガンの雷を受けたのだが、シンフォギアの防御機能が働いていたおかげで軽く休むことで無理なく任務に行くことができる。ただ日和だけは何度も雷を撃たれたのでダメージは大きい。本当は休んでた方がいいのだが、日和がどうしてもと言い出して、しまいには地に頭をつけてまで土下座をかましたことで弦十郎の方が折れてしまい、無理をしない条件で出撃の許可をもらった。

 

「どうせ、止めたところで黙ってついていこうとするでしょ?」

 

『えっ?なんでわかったの?海恋ってエスパー?』

 

「誰でもわかります!はぁ・・・本当頑固なんだから・・・。けど、本当に無理しないでよ?」

 

『うん。ありがとう、海恋。じゃ、任務、行ってくるであります!響ちゃんや大悟君のこと、お願いね』

 

「はいはい、気を付けていってらっしゃい」

 

海恋は頑固な日和の一面に呆れつつも笑いながら通話を切る。電話を終わらせた海恋はスマホをしまい、響の病室に入る。病室では響が未来に患者衣を着替えさせられていた。

 

「ふへえぇ~・・・前が全然見えないよぉ~・・・お先真っ暗だって・・・」

 

「いいからほら、バンザイして?バンザイ」

 

「ぶは・・・」

 

未来に面倒を見てもらっている響を見て海恋は少しおかしくなり、笑みを浮かべる。

 

「こっちもこっちで相変わらずね」

 

「あ、海恋さん!」

 

「こんにちは」

 

「退院しても、大人しくしてなさいよ?ただでさえ危なっかしいんだから」

 

「もぉ~、それ昨日も聞きましたよぉ~」

 

「響のために言ってるんでしょ」

 

海恋の言葉に頭をかいて笑っている響。そんな時、響のスマホに着信音が鳴る。着信相手は『お父さん』・・・つまり洸からだ。どうやらまた電話をかけてきたようだ。響は昨日と同じように何も言わず着信を切る。

 

「・・・検査、行かなきゃ」

 

響はすっと立ち上がり、検査のために病室から出ようとする。

 

「響・・・」

 

「へいき・・・」

 

「へっちゃらじゃない!」

 

平気を装うとする響に未来は立ち上がって声を上げた。響は立ち止まった。

 

「・・・未来がいる・・・みんながいる・・・だからお父さんがいなくったってへっちゃら」

 

そう言って響は病室を後にした。

 

「・・・洸さんから?」

 

「はい・・・」

 

「そう・・・」

 

海恋は響の家族に思うところが多々あるゆえか、響の背中を見つめるように、病室のドアを見つめている。

 

~♪~

 

一方その頃、武家屋敷ともいえる館の前に、緒川が運転する車が停車する。車から翼、マリア、フォルテの3人が降りる。

 

「ここが?」

 

「風鳴八紘邸・・・翼さんの生家です」

 

そう、この館は翼の父、風鳴八紘が住んでいる館であり、翼が生まれた家でもある。

 

「10年ぶり・・・まさか、こんな形で帰るとは思わなかったな・・・」

 

幼少期に過ごしてきた家に10年ぶりに帰ってきた翼だが、思いふけっている様子は一切ない。

 

~♪~

 

3人がどうして風鳴八紘邸に行くことになったのかは、昨日の作戦会議まで遡る。

 

「計測結果、出します」

 

モニターから電力供給図が表示される。オートスコアラーによって発電施設を多々破壊されたために、電力供給は政府要所に優先されている。いくつも表示されているが、その中に一か所、海の中に大きく表示されているものがある。

 

「電力の優先供給地点になります」

 

「こんなにあるデスか⁉」

 

「その中でも、ひときわ目立ってるのが・・・」

 

「深淵の竜宮・・・異端技術に関連した、危険物や未解析品を封印した、絶対禁区・・・秘匿レベルの高さから、俺にも詳細な情報が伏せられている、拠点中の拠点」

 

「オートスコアラーがその位置を割り出していたとなると・・・」

 

「狙いはそこにある危険物・・・」

 

これまでオートスコアラーが発電施設を破壊していたのは、深淵の竜宮という場所の特定するためであり、そこに眠っている危険物を奪うためであると装者たちは予測する。

 

「だったら話は簡単だ!先回りして迎え撃つだけのこと!」

 

「いや、事はそう簡単ではない。襲撃予測地点は、もう二か所ある」

 

フォルテがそう言うと、モニターには街の地図が表示され、オートスコアラーの襲撃予測地点が現れる。

 

「1つ目はこの墓地・・・」

 

そう、この1つ目の襲撃予測地点こそが、小豆の墓がある墓地で後にシャルが襲撃してくる場所となっている。

 

「そしてもう1つが・・・ここだ」

 

モニターに別の襲撃予測地点が現れる。その地点こそが風鳴八紘邸だ。当然、その場所を見た翼は驚きの声を上げる。

 

「ここって!」

 

「気になることがあったので、フォルテさんと共に調査部で動いてみました」

 

「調査の結果、神社や祠の損壊していた場所はいずれも明治政府帝都構想で霊的防衛を支えていた龍脈・・・レイラインのコントロールを担っていた要所であると判明した」

 

「錬金術とレイライン・・・敵の狙いの一環と見て、間違いないだろう」

 

「風鳴の屋敷には、要石がある。狙われる道理もあるというわけか・・・」

 

「検査入院で響君が欠けるが・・・打って出る好機かもしれないな・・・」

 

弦十郎はエルフナインに目配せをし、エルフナインは首を縦に頷き、装者たちに顔を向ける。

 

「キャロルの怨念を止めてください」

 

装者たちはわかっているかのように、全員が首を縦に頷いた。

 

「よし!チームを編成するぞ!」

 

その後だったのだ。襲撃予測地点の墓地にシャルが襲撃してきたのは。そのおかげで、出撃した装者たちはダメージを負い、翌日まで身動きが取れなくなり、チームの編成をし直したというわけだ。

 

~♪~

 

チームの再編成の結果、深淵の竜宮に向かうチームがクリス、調、切歌・・・そして飛び入りで日和の4人に。風鳴の屋敷に向かうチームが、翼、マリア、フォルテの3人になった。そして今に至るわけだ。翼、マリア、フォルテ、緒川の4人は屋敷の門の前に立ち、緒川は弦十郎の連絡を聞いている。

 

「了解しました」

 

連絡を聞き終えた緒川は内容を翼たちに報告する。

 

「クリスさんたちも、間もなく深淵の竜宮に到着するみたいです」

 

「東雲が無理をしないか心配だが、こちらはこちらのやるべきことをやろう」

 

「ああ。伏魔殿に飲み込まれないように気を付けたいものだ」

 

翼がそう言い終えると、木でできた門の両扉がゆっくりと開く。翼が先陣を切るように中に入り、3人もそれに続く。玄関へと続く道を歩いていき、その途中に見えた庭に鎮座する巨大な石に視線を向け、立ち止まる。これが要石・・・昨日の墓地の要石と同じものだ。

 

「要石・・・」

 

「あれが・・・」

 

「僕たちはオートスコアラーの相手をしていたゆえ、見るのは初めてだな・・・」

 

「翼さん」

 

緒川が翼を呼ぶと同時に、玄関から黒服の男たちを引き連れた着物を着た男がやってきた。この男こそが、弦十郎の兄であり、翼の父である、風鳴八紘だ。

 

「お父様・・・」

 

「ご苦労だったな、慎次」

 

八紘は翼に目を向けることなく、緒川に労いの言葉をかけた。緒川は黙って頷いた。

 

「それにS.O.N.Gに編入した君たちの活躍も聞いている」

 

「は、はい・・・」

 

「任務を全うしたまでです」

 

八紘の言葉にマリアは少し戸惑いつつも答え、フォルテはいつものように淡々と述べる。

 

「アーネンエルベの神秘学部門より、アルカ・ノイズに関する報告書も届いている。後で、開示させよう」

 

「はい」

 

八紘は翼に顔を合わせようとしていない。そのことで翼は顔を俯かせている。そして八紘は最後まで翼に一声かけることもなく、屋敷に戻ろうとする。

 

「・・・っお父様・・・!」

 

翼は思わず声を上げて彼を呼んだ。その声に八紘は足を止めた。ただ、やはり翼と顔を合わせる様子はない。

 

「沙汰もなく、申し訳ありませんでした・・・」

 

「・・・お前がいなくとも、風鳴の家に揺るぎはない。務めを果たし次第、戦場に戻ればいいだろう」

 

しかし八紘の返ってきた言葉はとても冷たかった。そんな父親らしからぬ言動にマリアが彼に文句を言おうとする。

 

「待ちなさい!あなた翼のパパさんでしょ⁉だったらもっと他に・・・!」

 

「マリア、落ち着け」

 

だがそんな彼女をフォルテが止める。

 

「でも・・・」

 

「いいんだ、マリア。いいんだ・・・」

 

「気持ちはわからんでもないが、抑えろ」

 

翼自身がそう言うならば今は下がる他ないマリア。もう話すことはないと言わんばかりに八紘は屋敷に戻っていく。そんな時、庭の池の前で大気が揺れた。その揺らめきに気づいた緒川とフォルテは拳銃を取り出し、大気に向けて弾を発砲する。しかし、弾丸は突如発生した強風によってかき消された。そして、その強風が晴れると、風のオートスコアラー、ファラが現れる。

 

「野暮ね。親子水入らずを邪魔するつもりなんてなかったのに」

 

「あの時のオートスコアラー!」

 

突如現れたファラに翼とマリアも身構え、黒服の男たちも八紘を守るために拳銃を構える。

 

「レイラインの解放・・・やらせていただきますわ」

 

「やはり狙いは要石か!」

 

「ダンス・マカブル!」

 

ダンス・マカブル・・・その言葉の意味するところは死の舞踏。それを体現するかのようにファラはアルカ・ノイズの結晶をばら撒いてアルカ・ノイズを召喚させる。

 

「ああ、付き合ってやるとも!」

 

翼は不敵な笑みを浮かべ、ファラの誘いに乗る。ギアネックレスを握りしめ、翼は詠唱を唄う。

 

Imyuteus amenohabakiri tron……

 

シンフォギアを身に纏った翼はまずは前座であるアルカ・ノイズを刀で1体、また1体と次々と蹴散らしていく。同じくシンフォギアを纏ったマリアは篭手の短剣をアルカ・ノイズに向けて複数投擲して蹴散らし、さらに右手に持った短剣を蛇腹剣に変形させ、変則的な動きでアルカ・ノイズを斬り裂く。さらにシンフォギアを纏ったフォルテは大剣を両剣に変形させ、両剣を回転させながら斬撃を振るい、アルカ・ノイズを蹴散らし、さらに両剣をブーメランのように投擲して次々とアルカ・ノイズを斬り裂く。

 

「ここは私が!」

 

「うむ!務めを果たせ!」

 

この場を翼たちに託し、八紘は黒服の男たちと共に戦線を離脱する。娘としてではなく、防人としてかけられた言葉に翼は表情を曇らせたが、すぐに気持ちを切り替えて目の前の戦いに集中し、向かってくるアルカ・ノイズを刀で切り裂いていく。

 

「さあ、捕まえてごらんなさい」

 

ファラは足元に竜巻を纏い、宙を飛びながら体当たりを仕掛ける。翼は繰り出された風の体当たりを躱し、刀を大剣に変形させて、空中に飛び交うファラに蒼の斬撃波を放つ。

 

【蒼ノ一閃】

 

向かってくる青の斬撃波をファラは自身の剣であるソードブレイカーが放つ斬撃波で相殺させた。翼は地に着地してすぐに跳躍し、刀を放り投げる。投げられた刀は巨大な剣へと変形し、翼は脚部のブースターを展開して剣の柄に蹴りを放ち、ファラに向かって降下する。

 

【天ノ逆鱗】

 

「ふふ、何かしらぁ?」

 

ファラは小さく微笑みながら向かってくる巨大な剣をソードブレイカーの剣先で受け止めた。そして、その瞬間、ソードブレイカーの刀身に紋様が現れ、受け止めた大剣を赤黒く変色していく。

 

「な、何!!?」

 

そして、巨大な剣に大きな亀裂が走り、砕かれていく。

 

(剣が・・・砕かれていく・・・!)

 

剣が砕かれたと同時に強力な閃光が放たれ、翼は吹っ飛ばされる。

 

「うああああ!!」

 

「翼!!」

 

「風鳴!!」

 

衝撃に吹っ飛ばされた翼は地に叩きつけられる。

 

「私のソードブレイカーは『剣』と定義される物であれば、強度も硬度も問わずかみ砕く哲学兵装。さ、いかがいたしますか?」

 

剣殺しの剣、ソードブレイカー。文字通りの名を持つ剣の切っ先を横たわっている翼に指し向けるファラ。自身を剣と評している翼とはまさに相性は最悪である。

 

「強化型シンフォギアでも敵わないのか・・・⁉」

 

「剣がダメなら・・・これはどうだ!」

 

フォルテは大剣を銃に変形させ、ファラに切っ先を向け、エネルギー弾のエネルギーを溜め、大きくなった弾をファラに撃ち放つ。

 

「無駄よ」

 

ファラはソードブレイカーを振るい、斬撃波を放って向かってきたエネルギー弾の弾を飲み込んでいく。向かってきた斬撃波にフォルテはすぐに大剣を元に戻し、地面を大剣で抉って巨大な土の盾を創り出す。斬撃波は土の盾を破壊した。斬撃波を防ぐことはできたが、衝撃までは消すことができず、風圧でフォルテは吹っ飛ばされる。

 

「うおおおおお!」

 

「フォルテ!」

 

「申し訳ないけど、あなたの歌には興味がなくなりましたの」

 

フォルテに興味をなくしたファラは彼女に向けてそう言い放った。

 

「くっ・・・おのれ・・・!」

 

「ぜああああ!!」

 

マリアは複数の短剣をファラに向けて投擲して攻撃を仕掛けた。ファラは先ほどと同じようにソードブレイカーを振るって斬撃波を放った。放たれた短剣はこれもまた剣と定義とされ、斬撃波によって砕かれた。まったく衰えない一撃にマリアは間一髪で躱した。しかし、それによって射線上にある要石に斬撃波が直撃し、粉々に砕け散った。

 

「あら?アガートラームも剣と定義されてたかしらぁ?」

 

ファラの物言いからして、マリアは最初から最後まで眼中にない様子だ。

 

「哲学兵装・・・概念や呪いに干渉するゲッシュに近いのか・・・?」

 

「ごめんなさい?あなたの歌にも興味がないの」

 

ファラはそう言って右手を振り下ろして自身の周りに竜巻を引き起こした。

 

「剣ちゃんに伝えてくれる?目が覚めたら改めてあなたの歌を聞きに伺いますって」

 

ファラがそう言い残すと竜巻は周囲に霧散した。そこにファラの姿はどこにもなかった。同時に雲行きが悪くなり、雨が降り始めた。要石の防衛に失敗したマリアとフォルテは気を失っている翼を屋敷に運んでいく。

 

~♪~

 

S.O.N.G本部の潜水艦は目的地である深淵の竜宮に向かっている。ブリッジで弦十郎は緒川からの報告を聞く。

 

『要石の防衛に失敗しました。申し訳ありません・・・』

 

「二点を同時に責められるとは・・・」

 

『二点・・・?まさか・・・!』

 

「ああ、深淵の竜宮にも侵入者だ!セキュリティが奴らを補足している!」

 

モニターの映像に映っていたのは深淵の竜宮に侵入したレイアと復活したキャロルであった。レイアはコインを投擲して、目の前のセキュリティを難なく突破する。キャロルは監視カメラに気付いているのかこちらをちらりと見つめた。

 

「キャロル・・・」

 

「キャロルちゃんはあの時私たちの目の前で自殺したはずなのにどうして・・・?」

 

「閻魔様に土下座して蘇ったのか?」

 

自害したはずのキャロルが生きていたことに少なからずここにいる一同全員が驚いている。

 

「奴らの策に乗るのは癪だが、見過ごすわけにはいくまい。クリス君は、調君と切歌君と、一緒に行ってくれ」

 

「おうよ!」

 

弦十郎の指示にクリスは威勢よく答える。

 

「ししょー!私も行きます!」

 

「ふぅ・・・どうせ止めたって行くつもりだろう?」

 

日和も一緒に行くと聞き、弦十郎は少しため息をこぼしてそう答えた。

 

「わっ!ししょーまで!もしかしてししょーもエスパー?」

 

「さすがにあそこまで必死になったら折れるだろ・・・」

 

弦十郎に考えを見抜かれた日和は非常に驚いたが、頼み込む一部始終を見ていたクリスは呆れてツッコミを入れる。

 

「えへへ・・・。でも、昨日迷惑をかけた分、私も精いっぱい頑張りたいんです!ししょー、私に汚名挽回のチャンスをください!!」

 

「それを言うなら汚名返上・・・」

 

「わかったわかった。だが、無理だけはするなよ」

 

「はい!!」

 

出撃の許可をもらい、日和は元気よく返事をする。その間にもカメラに映っているキャロルたちは先へ進んでいき、レイアは監視カメラに向けてコインを投擲してカメラを破壊した。




デストロイヤーモード

雷のオートスコアラー、シャルに搭載された決戦機能。通常状態が制圧戦が得意なのに対し、デストロイヤーモードは殲滅戦を得意としている。外見はカウガールの服装が機械化し、レールガンはシャルの手に纏い、機銃となる。この状態になった時の雷の弾丸は威力、連射性能、感電性能も向上されており、さらにミサイルも搭載されている。思い出が消費しきるか、相手を殲滅するまで止まることは決してない。当然、この形態になった時の思い出の消費量は凄まじく、滅多なことではシャルはこの形態を使うことはない。


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夢の途中

S.O.N.G本部の潜水艦から小型潜水艦に日和、クリス、調、切歌の4人が乗り込み、深淵の竜宮に乗り込む。彼女たちに与えられた任務は、この深淵の竜宮に眠る危険物をキャロルの手に渡る前に入手することだ。小型潜水艦は深淵の竜宮の海底ドッグに入り、そこで止める。

 

「ここが深淵の竜宮?」

 

「だだっ広いデス!」

 

「ねー。音もすごく響きそう」

 

「ピクニックじゃねぇんだ、行くぞ」

 

「は、はいデス!」

 

「あ、待ってよー!」

 

クリスが先頭に先に進み、日和は彼女の隣に並び、調と切歌も後からついていく。

 

「・・・日和先輩、本当に大丈夫?」

 

調は日和のダメージを心配してかそんなことを聞いてくる。当の本人はにっこり笑い、腕をぶんぶん振っている。

 

「大丈夫だよ。私、これでも頑丈ですから」

 

「あたしたち以上に元気そうデス」

 

「ならいいけどよ・・・本当に無理すんなよ」

 

「わかってるってー」

 

日和の様子からして、本当に大丈夫そうだが、クリスは念には念を入れて注意をする。日和は呑気に笑いながらそう答えた。

 

~♪~

 

4人が出撃している間、S.O.N.G本部は深淵の竜宮の入り口まで待機している。待機しているオペレーターたちも4人のサポートのために可能な限りの情報収集に当たっている。

 

「施設構造データ、取得しました」

 

「侵入者の捜索急げ!」

 

「キャロルの目的は世界の破壊・・・収められた聖遺物、もしくはそれに類する危険物を手に入れようとしているに違いありません」

 

エルフナインの言葉を聞いた弦十郎は唸り、指令椅子に背中をもたれかかった。

 

~♪~

 

日和たちが任務当たっている同時刻、ファラに敗れ、気を失っていた翼は風鳴八紘亭の畳の上に敷いた布団で眠っていた。

 

「う・・・んん・・・」

 

目が覚めた翼は軽く唸ってゆっくり目を開き、場所を確認するように周囲を見渡して、ゆっくりと起き上がる。

 

「・・・はぁ・・・そうか・・・私はファラと戦って・・・」

 

翼はため息をこぼした。彼女の脳裏に思い浮かべたのは、グレイザーに日本に戻ると告げたあの日・・・歌女としての夢を捨て、防人として身を投じたあの日だ。

 

(身に余る夢を捨ててなお・・・私では届かないのか・・・)

 

「大丈夫?翼」

 

翼が内心で打ちひしがれていると、障子の向こうからマリアが話しかけてきた。日の光の関係上、翼には影が見えている。隣にはフォルテもいる。

 

「すまない・・・不覚を取った・・・」

 

「気にしていない。それより、動けるならば来てほしい。八紘殿が呼んでいたぞ」

 

「・・・わかった・・・」

 

翼は顔を俯かせながらも返事をし、私服に着替える。

 

~♪~

 

呼び出された場所は八紘の書斎であった。机の上には無数の書類が山のように置かれていた。3人はその書類の一部を手に取り、中身を確認する。

 

「これは?」

 

「アルカ・ノイズの攻撃によって生じる赤い粒子を、アーネンエルベに調査依頼していました。これはその報告書になります」

 

書類の内容を緒川が説明した。

 

「アーネンエルベ・・・シンフォギアの開発に関わりの深い、独国政府の研究機関・・・」

 

「報告によると、赤い物質は『プリマ・マテリア』。万能の溶媒、アルカ・ヘストによって分解・還元された、物質の根源要素らしい」

 

「物質の根源?分解による?」

 

「僕もかじった程度だが、錬金術とは分解と解析・・・そこからの構築によって成り立つ、異端技術の理論体系とあるらしい」

 

「キャロルは世界を分解した後、何を構築しようとしているのかしら?」

 

キャロルの目的は世界を分解することであろうということは知っているが、彼女は世界を分解した後、何を構築するつもりなのか・・・マリアはそこに首を傾げている。

 

「翼」

 

「はい・・・」

 

八紘に声をかけられ、翼は素早く反応しつつも、自信なさげに返答し、顔を上げる。

 

「傷の具合は?」

 

「ぁ・・・はい・・・痛みは殺せます」

 

「ならばここを発ち、然るべき施設にて、これらの情報の解析を進めるといい。お前が守るべき要石は、もうないのだ」

 

「・・・わかりました・・・」

 

娘としてではなく、やはり防人としてかけられた言葉なのだとわかると、翼は落ち込むが、その心情は表には出さなかった。そこに八紘の対応が気に食わないマリアが割って入る。

 

「それを合理的というのかもしれないけど、傷ついた自分の娘にかける言葉にしては、冷たすぎるんじゃないかしら?」

 

「マリア、やめろ。僕らの編入を後押ししてくれた方だぞ」

 

「でも・・・!」

 

八紘に突っかかるマリアにフォルテが止める。だがマリアは納得していないのかまだ引き下がらない。

 

「いいんだ、マリア」

 

「翼・・・」

 

「いいんだ・・・」

 

そんなマリアを翼がそう言って止めた。その声質や表情からはもう半ば諦めたような雰囲気を出していた。

 

~♪~

 

話が終わり、3人は書斎から出て屋敷の廊下を歩く。外はもうすでに夕方となっており、夏の終わりを告げるヒグラシが鳴いている。そんな中マリアは不機嫌そうにしながら歩いている。不機嫌の理由はやはり八紘の翼に対する接し方だ。最初に出会った時もそうだが、八紘が翼にかけた言葉は娘としてではなく、防人としての言葉であり、翼を心配している様子がどこにも見られなかった。マリアはそれが気に入らないのだ。

 

「あれは何だ!!?安全保障のスペシャリストかもしれないが、家族の繋がりを蔑ろにして!!」

 

「マリア、落ち着け。気持ちはわかるが、八紘殿も考えあってのことかもしれないだろ」

 

怒りの感情を隠そうとしないマリアにフォルテがなだめる。

 

「すまない。だがあれが、私たちの在り方なのだ」

 

翼が2人にそう謝罪していると、とある一室の襖の前まで到着した。ここは幼少期の翼が過ごしていた部屋であった。

 

「ここが、子供時分の私の部屋だ。話の続きは中でしよう」

 

翼が部屋の襖を開ける。すると、部屋の中を見たマリアとフォルテは思わず戦闘態勢をとる。

 

「!!?敵襲!!?また人形が!!?」

 

「くっ・・・おのれ・・・!どこに隠れている!!」

 

2人の反応を見た翼は前にもこんなことがあったと思いつつ、困ったような表情をしながら口を開く。

 

「いや・・・あ・・・その・・・私の不徳だ・・・」

 

「な、何!!?」

 

そう、翼の部屋はかなり散らかっていたのだ。あまりの汚部屋ぶりにフォルテはかなり驚いた反応を見せる。

 

「いや・・・だって・・・暮らせないだろ・・・こんな汚い部屋で・・・」

 

「そ、そんなにストレートに言わないでくれ・・・」

 

驚いているフォルテのドストレートな言葉に翼は恥ずかしそうにしている。だがそんな汚部屋製造機である翼でもこの部屋の惨状ついて気掛かりなことがある。

 

「・・・しかし、だからって10年間そのままにしておくなんて・・・幼い頃にはこの部屋で、お父様に流行歌を聞かせた思い出があるのに・・・」

 

気掛かりなこととは、10年間もこの汚部屋の状態のままで、手が付けられていないという点だ。翼が散乱している着替えを押し入れに入れている中、マリアとフォルテは彼女の部屋を見渡す。

 

「それにしても・・・この部屋は・・・昔からなの?」

 

「私が片づけられない女って事⁉」

 

マリアの言葉に翼が突っかかってきた。実際に片付けられないのはその通りだが。

 

「そうじゃない。パパさんのことだ」

 

マリアの問いかけが部屋の事ではないとわかると、翼は目を瞑って語る。

 

「私のおじい様・・・現当主の風鳴訃堂は、老齢の域に差し掛かると、跡継ぎを考えるようになった。候補者は、嫡男である父、八紘と、その弟の弦十郎叔父様」

 

「風鳴司令か・・・」

 

「ふむ・・・確かにそれが自然の流れだろうな」

 

「だが、おじい様に任命されたのは、お父様や叔父様を差し置いて、生まれたばかりの私だった」

 

「翼を?」

 

「なぜだ?なぜそうなる?」

 

翼の祖父・・・風鳴訃堂が風鳴の家の跡継ぎに任命されたのは、息子である八紘と弦十郎ではなく、幼い翼を選んだ。その不自然さにマリアとフォルテは首を傾げる。

 

「理由は聞いていない。だが今日まで生きていると、うかがい知ることもある。どうやら私には、お父様の血が流れていないらしい」

 

「何っ!!?」

 

「どういうことだ?」

 

八紘の血が流れていない。それが意味するところは翼は彼の子供ではないということを意味している。もちろん意味は知っているが、やはり驚きを隠せないマリアとフォルテ。

 

「風鳴の血を濃く、絶やさぬよう、おじい様がお母様の腹より産ませたのが、私だ」

 

「なんということだ・・・下郎め・・・!」

 

「風鳴訃堂は・・・人の道を外れたか・・・!」

 

翼の衝撃的な出生を聞いたフォルテとマリアは風鳴訃堂に対し怒りを覚える。翼が思い返すのは幼少期に八紘の口から放たれた言葉だ。

 

『お前が私の娘であるものか!どこまでも穢れた風鳴の道具にすぎん!』

 

この言葉は、幼い翼からしても、今にしても、かなり衝撃的な言葉であっただろう。

 

「以来私は、お父様に少しでも受け入れてもらいたくて、この身を人ではなく、道具として・・・剣として研鑽してきたのだ。・・・なのに、この体たらくでは・・・ますますもって鬼子と疎まれてしまうな・・・」

 

翼は自身の掌を虚しく見つめ、目を瞑って自傷するかのようにそう口を開いた。

 

~♪~

 

一方その頃、深淵の竜宮の外で待機しているS.O.N.G本部のブリッジでは、オペレーターたちが竜宮の深淵のセキュリティシステムのリンクを試みている。竜宮のシステムとのリンクが成功すると、モニターには竜宮に収納されているもののリストが表示される。

 

「竜宮の管理システムと、リンク完了しました!」

 

「キャロルの狙いを絞り込めば、対策を打つことができるかも・・・⁉止めてください!」

 

高速スクロールする収納リストの中にあるものの名前が見つかり、エルフナインがストップをかける。エルフナインが見つけたあるものの名は・・・

 

「ヤントラ・サルヴァスパ・・・!」

 

「なんだ?そいつは?」

 

「あらゆる機械の起動と制御を可能にする情報収集体。キャロルがトリガーパーツを手に入れれば・・・『ワールド・デストラクター・チフォージュ・シャトー』は完成してしまいます」

 

つまりキャロルの狙いはヤントラ・サルヴァスパであり、それを手に入れるために竜宮に侵入したのだ。

 

「ヤントラ・サルヴァスパの管理区域、割り出しました」

 

「クリス君たちを急行させるんだ!!」

 

モニターにヤントラ・サルヴァスパの管理区域の地図が表示され、弦十郎はクリスたちがそこに向かうように指示を出す。

 

~♪~

 

外が暗くなり、夜となった風鳴八紘邸。

 

ドオオオオン!!

 

屋敷の翼の部屋にいた翼、マリア、フォルテの3人は外から何か破壊音が聞こえ、音の元凶を確かめに外を出た。そこには屋敷の屋根が破壊されていた。破壊された屋根の上にはソードブレイカーを構えたファラが立っていた。

 

「要石を破壊した今、貴様に何の目的がある⁉」

 

要石はもうこの屋敷にはない。なのになぜ襲撃するのか翼はファラに問いかけた。

 

「ふふ・・・私は歌を聞きたいだけ・・・」

 

ファラの答えは問いかけの答えになっていないものであった。聞くだけ無駄であると判断したマリアはシンフォギアを纏うために詠唱を唄う。

 

Seilien coffin airget-lamh tron……

 

詠唱を唄い終えることでマリアはシンフォギアを身に纏った。翼とフォルテも共にシンフォギアを身に纏う。3人はアームドギアを構え、ファラに斬りかかろうと走り出し、跳躍する。マリアはファラに向かって短剣を投擲して攻撃を仕掛けたが、ファラはそれを跳躍して躱す。3人は屋根に着地し、跳躍してファラを追いかける。ファラは風の錬金術で竜巻を創り出し、それを3人に放つ。3人はその竜巻を躱すことができたが、連携が分断された。マリアは短剣を籠手から抜き出し、蛇腹状の刃に変形させて、伸ばした刃でファラを切り裂こうとする。

 

【EMPRESS†REBELLION】

 

向かってくる蛇腹状の刃にファラはソードブレイカーに風を纏わせ、それを振るって斬撃波を放った。風の斬撃波は蛇腹状の刃に直撃し、粉々に砕け散った。やはりアガートラームも剣と定義されているため、ソードブレイカーの餌食になってしまった。そして、風の勢いは止まらず、そのままマリアに直撃し、彼女を吹き飛ばす。

 

「うああああああ!!」

 

「マリア!!貴様!!」

 

フォルテは大剣を銃に変形させ、狙いをファラに定め、エネルギー弾をマシンガンのように撃ち放つ。

 

【Mammon Of Greed】

 

ファラは向かってきたエネルギー弾を跳躍して躱し、ソードブレイカーを振るって3つの竜巻をフォルテに向かって放った。向かってきた3つの竜巻の対処に遅れたフォルテは3つの竜巻によって吹き飛ばされる。

 

「ぐあああああ!!」

 

「フォルテ!!」

 

吹っ飛ばされたフォルテの持っていた大剣は3つの竜巻によって粉々に砕けた。ミスティルテインも剣と定義されているのならば、どのような戦法で攻撃しようとも、ソードブレイカーの前では簡単に砕かれてしまうのだ。

 

「くっ・・・!この身は剣!切り開くまで!!」

 

自分までやられるわけにはいかない翼は刀を構え直し、ファラに向かって駆けだす。

 

「その身が剣であるなら、哲学が凌辱しましょう」

 

ファラは翼にソードブレイカーの切っ先を向け、そのまま振り下ろして風の一撃を放つ。翼はその風の一撃をまともに喰らってしまう。翼は堪えようとするが、剣を壊す哲学によって、刀が砕かれようとしている。いや、刀だけではない。翼の身に纏うシンフォギアにもヒビが入り、そして翼自身も傷を負っていく。これは翼が自らの肉体を剣と定義してしまっており、ソードブレイカーがそれに反応しているのだ。それにより、翼の受けるダメージは、通常の倍以上のものとなってしまっているのだ。

 

「く・・・砕かれていく・・・剣と鍛えたこの身も・・・誇りも・・・あああああああ!!!」

 

哲学の奔流に耐え切れず、翼は・・・翼という名の剣は吹き飛ばされてしまった。

 

~♪~

 

同時刻、S.O.N.G本部のブリッジのモニターには深淵の竜宮の監視カメラの映像が映し出されている。モニターにはヤントラ・サルヴァスパの区域に進入したキャロルとレイアが映し出されている。カメラをズームしてみると、キャロルは何かを持っている。

 

「あれは・・・」

 

「ヤントラ・サルヴァスパです!」

 

そう、キャロルが持っているものこそが彼女の目的の品物であるヤントラ・サルヴァスパである。彼女の計画を阻止するためには、このヤントラ・サルヴァスパを奪い取る他ない。

 

「クリスちゃんたちが現着!」

 

そこにクリス、日和、調、切歌の4人が到着し、キャロルと彼女の護衛であるレイアの前に立ちはだかる。

 

~♪~

 

ファラのソードブレイカーの攻撃を喰らい、倒れた翼は起き上がろうとするが、凄まじい激痛によって立つことがままならない。

 

「夢に破れ・・・それでも縋った誇りで戦ってみたものの・・・くっ・・・どこまで無力なのだ、私は・・・」

 

「翼!!」

 

「翼さん!!」

 

「風鳴!!」

 

マリア、緒川、フォルテは翼に呼び掛けるが、彼女たちの声は翼には届かない。翼が悔しさで打ちひしがれていると・・・

 

「翼!」

 

1人の男の声が聞こえた。翼はその声に反応し、そちらに視線を向けた。視線の先には、厳格な立ち姿の八紘がいた。

 

「お父様・・・?」

 

「唄え、翼!」

 

「・・・ですが私では・・・風鳴の道具にも・・・剣にも・・・」

 

「ならなくていい!」

 

八紘は今も風鳴の道具として振る舞おうとする翼に、彼女の父親としての発破をかける。

 

「お父様・・・?」

 

「夢を見続けることを恐れるな!」

 

「!私の・・・夢・・・?」

 

「そうだ!翼の部屋、10年間そのまんまなんかじゃない!」

 

八紘に続いてマリアが翼に発破をかける。マリアとフォルテは、10年間散らかったままの翼の部屋の真意に気付いたのだ。

 

「散らかっていても、塵一つなかった!お前との思い出を無くさないよう、そのままに保たれていたのがあの部屋だ!」

 

「それが八紘殿の思いだ!娘を疎んだ父親のすることではないだろう!いい加減に気づかんか馬鹿娘!!」

 

翼は自分の部屋の光景を思い返す。確かに、あの部屋がそのままであったのならば塵があってもおかしくはない。だが部屋に置かれていたマイクやCDデッキ、あらゆるものには塵が1つもついていなかった。それこそが、八紘の隠された翼への思いだ。それに気づいた翼は涙を流す。

 

「まさかお父様は・・・私が夢を僅かでも追いかけられるよう・・・風鳴の家より遠ざけてきた・・・?」

 

八紘は目を閉じたまま何も答えない。

 

「それが、お父様の望みならば・・・私はもう一度、夢を見てもいいのですか・・・?」

 

八紘は何も言わず、首を縦に頷いて答えた。八紘の真意を知った翼は防人としてではなく、彼の娘として、立ち上がる。

 

「ならば聞いてください!イグナイトモジュール!抜剣!!」

 

翼はギアコンバーターのスイッチを押し、イグナイトを起動する。ギアコンバーターは『ダインスレイフ』という音声が鳴り、宙を舞って変形し、展開された光の刃が翼の胸を刺し貫く。ダインスレイフの闇は翼の身に纏い、シンフォギアの形となって力と化す。

 

「味見させていただきます」

 

ソードブレイカーを自身に指し向けるファラに翼は駆けだして跳躍し、黒く染まった刀を彼女に振り下ろした。ファラはこの攻撃を躱し、翼はさらに刀を振るって追撃する。この攻撃も受け流されてしまうが、翼の追撃は止まらない。刀の刀身は中心が割れ、そこからエネルギーの刃を展開し、翼はそれをファラに放つ。

 

【蒼ノ一閃】

 

ファラはこの青の斬撃をソードブレイカーを振るって受け流す。翼はさらに蒼ノ一閃を放つ。

 

~♪~

 

同時刻、深淵の竜宮でクリスたちもキャロルたちとの交戦を開始していた。クリスはキャロルに狙いを定め、小型ミサイル展開し、発射する。向かってくるミサイルにキャロルはエーテルの錬金術でバリアを展開し、ミサイルの軌道をずらした。

切歌はレイアに向かって鎌を振り下ろす。レイアはこの攻撃を躱し、コインを投擲して攻撃する。日和はそのコインの攻撃を右手の棍を回して弾き、さらに左手のユニットから棍を射出して伸ばして攻撃する。伸びてきた棍をレイアは躱す。

調は脚部の鋸を車輪のように展開し、召喚されたアルカ・ノイズを次々と斬り裂いていく。

 

【非常Σ式・禁月輪】

 

そして調は空中で非常Σ式・禁月輪を解除し、ツインテール部位を展開し、複数の小型丸鋸をキャロルに放つ。丸鋸はキャロルが展開するバリアの前では弾かれるばかりだ。

 

「ぐっ・・・!」

 

だがここでキャロルに拒絶反応が起き、展開していたバリアが一瞬解除される。そして、向かってきた丸鋸が彼女が持っていたヤントラ・サルヴァスパを弾き飛ばし、もう1つの丸鋸がそれを真っ二つに切り裂く。

 

「ヤントラ・サルヴァスパが!!?」

 

「盗られるくらいならいっそ壊した方がマシだ!!」

 

ヤントラ・サルヴァスパが切り裂かれ、驚愕するキャロルは向かってくる丸鋸をバリアを展開し防ぎ続けるが、そこに日和が右手に持っていた棍をキャロルに向かって伸ばし、打撃を与える。隙を突かれたキャロルはその打撃を受け、壁と激突する。

 

「ぐっ・・・!」

 

「マスター!」

 

「その隙は見逃さねぇ!!」

 

クリスは小型ミサイルと大型ミサイルを同時に展開し、キャロルに向けて全弾を発射する。

 

【MEGA DETH QUARTET】

 

「地味に窮地!」

 

キャロルに向かって放たれたミサイルをレイアがそうはさせないと言わんばかりにコインをマシンガンのように連射投擲して次々と撃ち落としていく。いくつものミサイルを誘爆したが、ミサイルの数の方が上回り、最後のミサイル・・・特に1番巨大なミサイルを撃ち漏らしてしまい、それがキャロルに迫る。

 

「マスター!!」

 

滅多に焦りを見せないレイアが叫ぶ。壁に激突し、立ち上がろうとするキャロルにミサイルが迫ってくる。

 

~♪~

 

ファラと戦っている翼は空高く跳躍し、数多のエネルギーの剣を創り出し、雨のように降り注ぐ。

 

【千ノ落涙】

 

「いくら出力を増したところで」

 

だがその剣はファラの振るうソードブレイカーの一撃で全て砕かれてしまう。

 

「その存在が剣である以上、私には毛ほどの傷すら負わせることは敵わない」

 

ファラはもう一振りのソードブレイカーを取り出し、それらを振るって2つの竜巻を放ち、2つの竜巻の間に入り、翼に向かって突撃する。翼は避けることはせず、八紘の言葉を胸に、真っ向から迎え撃つ。

 

『夢を見続けることを恐れるな!』

 

「剣にあらず!!」

 

翼は逆立ちをし、脚部のブレードを展開し、回転してファラのソードブレイカーとぶつけ合う。そして、その瞬間、翼の刃がファラのソードブレイカーを砕いた。

 

「ありえない・・・!哲学の牙がなぜ・・・⁉」

 

翼から距離を取ったファラは折れたソードブレイカーを見て、このありえない事態に狼狽えている。

 

「貴様はこれを剣と呼ぶのか?否!これは、夢に向かって羽撃く『翼』!!」

 

翼は脚部のブレードに炎を纏わせ、剣ではなく、『夢へと向かって羽ばたく翼』と定義された2つの刀を構え、空高く飛翔する。

 

「貴様の哲学に!!翼は折れぬと心得よおおお!!!」

 

翼は2つの刀にも炎を灯し、自分の身体ごと回転しながら、炎の翼となった刃でファラに斬りかかる。ファラはソードブレイカーで受け止めようとするが、もはやこれは剣ではない。翼なのだ。ソードブレイカーでは受け止められることはなく、ファラは身体を真っ二つに両断される。

 

【羅刹・零ノ型】

 

「あはははははは!!」

 

ファラは狂ったように、高らかに笑い出した。

 

~♪~

 

深淵の竜宮にて、クリスが放ったミサイルはキャロルに直撃しておらず、止まっていた。ミサイルの煙が放たれ、状況がよく見えない。

 

「何がどうなってやがる・・・?」

 

4人が驚いていると、煙の中から聞き覚えのある憎たらしい笑い声が聞こえてきた。

 

「はははははは!久方ぶりの聖遺物・・・この味は甘く蕩けて癖になるううぅぅ!!」

 

煙が晴れると、そこにはキャロル以外にも別の男がいた。男の異形な手はミサイルを受け止め、吸収した。その男を見た3人は驚愕し、日和は嫌いなものを見るような顔になる。

 

「なっ・・・!!?」

 

「なんで・・・あなたがここにいるんだよ・・・!」

 

「そんな・・・」

 

「嘘デスよ・・・」

 

4人がそんな顔になるのも無理はない。この狂気を纏った男を忘れるはずもないのだから。

 

「噓なものか。僕こそが真実の人ぉ・・・ドクターウェルううううう!!!」

 

この銀髪の男の名はジョン・ウェイソン・ウェルキンゲトリクス・・・通称ウェル。ナスターシャを亡き者にし、フロンティア事変を最悪の事態に招いた張本人である。

 

~♪~

 

一方その頃、検査入院をしていた響は無事退院でき、学生寮に戻っている。響は自身のスマホの着信履歴を見ている。着信履歴には全て『お父さん』と表示されている。どうやらファミレスの一件以降、洸は響に何度も電話をかけていたようだが、彼女はこれを全て無視している。

 

「・・・壊れたものは・・・元には戻らない・・・」

 

響はそう呟いて電源を切ろうとした時、着信が届いた。またお父さんからかと思ってみてみると、今度は違った。着信者は海恋からだ。響はすぐに通話に出る。

 

「もしもし、海恋さん?」

 

『・・・立花さん、退院早々で悪いんだけど・・・ちょっと外に出てくれる?』

 

「え?外?」

 

『ちょっと・・・話がしたいの』

 

真面目な声質で放つ言葉に、響は話とは何だろうと、首を傾げた。




XD-エクスドライブアンリミテッド-

東雲日和ボイス

冬1
へ・・・へくちっ!うぅ・・・さむさむ~・・・息もこんなに白いよ~・・・

冬2
ほわ~・・・雪だー!かまくら造ってお餅焼こうー!

春1
私、この季節きらーい。鼻がムズムズするし、目も痒くなる・・・へくち!うぅ・・・私、花粉症なの・・・。

春2
暖かいなぁ~・・・。こういう季節にお昼寝すると気持ちいいんだろうなぁ・・・。はぁ・・・鼻がムズムズする・・・。

フォルテ・トワイライトボイス

冬1
これが噂に聞くこたつ・・・人をダメにする道具・・・。こんなものに頼らず、運動して温まるのが1番だな。

冬2
月読と暁の話によると、マリアの足はとても温かいそうだ。ふむ・・・季節的にもちょうどいい。試してみるとしよう。

春1
この季節に食べる団子は格別にうまい。君も食べるか?

春2
日本の桜は、日中でも美しいが、夜桜だと、さらに美しさを増す。だから桜は好きだな。


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ヒビ割れる絆

ジョン・ウェイソン・ウェルキンゲトリクス・・・通称ウェル。この男は元はF.I.S所属の研究者であり、かつてはマリアたちと行動を共にしていた。だが彼の内にある『英雄の憧れ』は常人には理解できないほどに狂っており、言動も行動も支離滅裂としている。

 

フロンティア事変が収束した後、ウェルは米国政府に捕らえられた。しかし米国政府はF.I.Sの存在を情報操作でなかったことにし、彼という存在、経歴、行動を全て否定した。そして人として否定される決定打となっているのが自立型聖遺物、ネフィリムの細胞を取り込んだ左腕。彼の左腕はもうすでに異形のもの。これが原因で彼は『人間』ではなく、1つの『聖遺物』・・・つまり物として深淵の竜宮に幽閉されることとなったのだ。

 

幽閉されたウェルはこの牢獄の中で自身を・・・英雄を望むその時をずっと待っていた。そんなことを考え出して1年が経ち、キャロルが深淵の竜宮に侵入し、装者たちとの戦闘を耳にした時、彼は確信した。時が来たのだと。

 

「花火が上がった・・・。くくく・・・騒乱が近い・・・。ならば、求められるのは・・・英雄だ!!」

 

そして、戦闘の余波で彼を閉じ込めていた牢が壊れ、彼が出たところでクリスが放ったミサイルをネフィリムの腕で受け止め、吸収したのだ。

 

~♪~

 

そして、今に至り、装者たちは牢から出てきたウェルと対面しているというわけだ。

 

「へへーん。旧世代のLiNKERぶっこんで、騙し騙しのギア運用というわけね」

 

「くっ・・・!」

 

「「うぇ~・・・」」

 

「すごいムカつく・・・!」

 

勝気になってふんぞり返るウェル。クリスは放ったミサイルを無力化され、歯ぎしりを立て、調と切歌は見たくもなかった顔に吐き気を催す。彼を見たくなかったのは日和も同じで今にも彼を殴りたくてたまらなかった。

 

「優しさでできたLiNKERは僕が作ったものだけぇ~。そんなので戦わされてるなんてぇ・・・不憫すぎて笑いが止まらぁ~ん!!」

 

「不憫の一等賞が何を言うデス!」

 

「・・・あたしの一発を止めてくれたなぁ・・・!」

 

「クリス・・・?」

 

ウェルの癪に障る挑発に切歌が反論したところで、クリスの様子がおかしいことに日和が真っ先に気がついた。

 

(後輩の前でかかされた恥は、百万倍にして返してくれる!!)

 

クリスの内心は焦りに囚われている。普段の彼女ならここで調と切歌に指示を出し、日和と共に冷静に対処できた。だが、クリスの中にある『後輩を守る』『先輩らしくあるべき』という固定概念に囚われ、まともな判断ができなくなっている。さらに言えば、ダインスレイフの呪い、先日の調と切歌の活躍、そして昨日の日和が大悟を守るという行動によって、固定概念はさらに強まっている。だからこそ、錬金術で止められるならまだしも、最も嫌いな存在であるウェルに自身の一撃を止められ、頭に血を登らせ、冷静さを失っている。

 

「待つデスよ!」

 

「ドクターを傷つけるのは・・・」

 

「何言ってやがる!!」

 

クリスがウェルに攻撃しようと行動を起こそうとした時、切歌と調に呼び止められる。クリスは当然ながら行動を止められて2人に怒鳴る。

 

「だって・・・LiNKERを作れるのは・・・」

 

「・・・悔しいけど・・・あの人だけってことか・・・」

 

現段階でLiNKERを作ることができる科学者は目の前にいる憎き存在、ウェルだけだ。それを理解した日和は悔しそうに歯ぎしりを立てる。

 

「そうとも!僕に何かあったら、LiNKERは永遠に失われてしまうぞぉ!!」

 

ウェルはそこを突いてさらに挑発を続ける。しかし、日和とクリスはLiNKERがなくともギアを纏うことができる。日和はともかく、今のクリスにはそんなことは知ったことではない。

 

「ぽっと出が勝手に話を進めるな」

 

頼んでもいない自分を助けたウェルの登場により置いてけぼりをくらったキャロルはアルカ・ノイズの結晶をばら撒き、アルカ・ノイズを召喚する。

 

「2人が戦えなくても、あたしが!!」

 

クリスはガトリング砲を構え、アルカ・ノイズに弾丸を撃ち放つ。弾丸はアルカ・ノイズを貫き消滅させながら射線上にいるキャロルに迫っていく。ウェルはさっきまでの強気の態度から打って変わって情けなくキャロルの後ろに下がる。キャロルは迫ってくる弾丸を錬金術のバリアで防いでいく。

 

「その男の識別不能。マスター、指示をお願いします」

 

レイアや他のオートスコアラーは皆、主であるキャロルを守ることが第一の優先事項としている。ゆえに、自分の意思でウェルを守る気がないためキャロルに指示を求めている。

 

「敵でも味方でもない!!英雄だ!!!」

 

そんなレイアにウェルはまたも強気な態度で突っかかってくる。

 

「だったら英雄様に・・・さっきよりでかいの纏めてくれてやる!!」

 

クリスは巨大なミサイルを展開し、狙いをキャロルたちに向けている。

 

「ちょ・・・ちょっとクリス!」

 

「このおっちょこちょい!!!」

 

クリスがミサイルを発射しようとすると、ウェルが怒鳴り声をあげる。

 

「何のつもりか知らないが、そんなの使えば、施設も!僕も!海の藻屑だぞぉ!!・・・なんてね?」

 

最初に放ったミサイルは数が圧倒的に多かったが、今回のミサイルは威力を重視している。ウェルの言うとおり、そんなものを今この場で放ったりすれば、この場の全員、無事では済まされないだろう。クリスが撃つのを躊躇ったところでウェルはキャロルに身体を振り向き、あどけた態度を見せる。

 

「レイア、この埒を開けてみせろ」

 

「即時、遂行」

 

キャロルの指示を受け、レイアは行動を開始した。それを確認したクリスはミサイルを格納し、ガトリング砲をレイアに向けて放つ。レイアはその弾丸をアルカ・ノイズに巻き込ませながら華麗な動きで躱していく。

 

(後輩なんかに任せてられるかぁ!ここは先輩のあたしがああああ!!)

 

レイアのこの動きは攪乱に挑発も兼ねていた。頭に血が上っているクリスにこの方法は効果覿面で動きがだんだんと鈍くなり、照準がだんだんと狙いからズレていく。

 

「ばら撒きではとらえられない!!」

 

「クリス!!止まって!!」

 

「落ち着くデスよ!!」

 

3人はクリスに射撃を止めるように声を上げたが、クリスの耳にはこの声は届かない。それどころか、闇雲に乱射したおかげで、ガトリング砲の砲門が調を捉えた。当然それを切歌が許すはずもなく、切歌は鎌を振るってクリスのガトリング砲を持ち上げた。

 

「もろともに、巻き込むつもりデスか・・・!」

 

「・・・っ!!」

 

切歌の素早い行動のおかげで、調は被弾せずに済んだ。意図しなかったとはいえ、危うく大事な後輩を誤射するところだったクリスは強く歯ぎしりを立てた。

 

「あいつらは!!?どこに消えた!!?」

 

周囲にはアルカ・ノイズが倒された際に舞う赤い粒子、プリマ・マテリアしか漂っていない。そんな中調は1つの大穴を発見した。おそらく、キャロルたちはこの大穴に入って逃げたのだろう。

 

「きっと、ここから・・・」

 

「逃がしちまったのか・・・」

 

「ごめんなさい・・・ドクターに何かあると、LiNKERが作れなくなると思って・・・」

 

「うんん、しぃちゃんも切ちゃんも、何も悪くないよ。気にしなくていいからね」

 

調は謝罪の言葉を述べた。日和は気にしなくていいと笑って許してあげている。

 

「でも、もう惑わされないデス!!あたしたち4人が力を合わせれば、今度こそ・・・!」

 

切歌は気合を入れ直し、切歌は次は失敗しないと意気込んでクリスに近づく。だがクリスはそんな切歌を右手で突っぱねた。

 

「後輩の力なんてあてにしない!お手手つないで仲良しごっこじゃねえんだ。あたし1人でやって見せる!!」

 

クリスの必死な形相に調と切歌は悲しそうな顔をしている。

 

(1人でやり遂げなきゃ、先輩として後輩に示しがつかねぇんだよ・・・!)

 

クリスがそう考えていた時、日和はクリスに近づいて・・・

 

パァン!!!

 

大きな音を出すほどの平手打ちで彼女の頬を叩いた。それを見た調と切歌は驚いた顔をしている。

 

「クリス・・・あなたがそんな最低なことをするなんて思わなかったよ。それに、しぃちゃんにもまだ、謝ってないよね?」

 

クリスが切歌の思いを無下にしたこと、調を誤射しそうになったことにたいして謝罪もしていないこと。先輩としてやってはいけないことをやっているクリスに対し、日和は怒っているのだ。日和に叩かれたクリスは驚いた顔をした後、怒りの表情を日和に向け・・・

 

「何しやがる!!!」

 

バキッ!!

 

彼女の頬を殴った。

 

「何するんだよ!!!」

 

バキッ!!

 

日和はさっきのお返しと言わんばかりにクリスの頬を殴った。

 

「やりやがったな、てめぇ!!」

 

「このわからず屋!!」

 

お互いに激昂したクリスと日和はこの場で取っ組み合いの喧嘩を始めてしまう。調は日和を抑えて、切歌はクリスを抑えて2人の喧嘩を止める。

 

「2人とも喧嘩はやめてください!」

 

「そうデスよ!落ち着くデスよ!」

 

「落ち着け⁉先に手を出したのはあいつだろ!!」

 

「クリスがそうさせたのが悪いんじゃん!!」

 

「なんだと!!」

 

「なんだよ!!」

 

「もうやめるデスよ!!」

 

調と切歌に止められて日和とクリスは取っ組み合いはやめたが、喧嘩は止まらない。

 

「だいたい初めて会った時からそうだよね!変なことを勝手に思い込んで勝手に突っ走る!私たちの意見は全部無視なわけ⁉」

 

「ビビッて泣いてた泣き虫野郎に言われたくねぇな!無理せず帰ってミルクでも飲んでな!」

 

「キイイィィィ!!クリスの頑固者!!」

 

「あたしが頑固ならてめぇは臆病者だ!!」

 

「日和先輩・・・クリス先輩・・・」

 

調と切歌から見ても、日和とクリスはお互いに仲がいいように見える。それがここに来ていがみ合い、喧嘩をするなんて思わず、未だに喧嘩を続けるクリスと日和に2人はどうすればいいのかわからなくなってしまう。

 

~♪~

 

S.O.N.G本部で待機しているオペレーターたちも日和とクリスの大喧嘩に戸惑いを隠せないでいる。

 

「日和ちゃんとクリスちゃんが喧嘩をするなんて・・・」

 

「2人は本当に仲良しだったのに・・・どうしてこんな時に・・・」

 

日和とクリスの関係修復も大事なことなのだが、キャロルたちのことも忘れてはならない。弦十郎はまずキャロルたちの反応を確認する。

 

「・・・侵入者の反応は?」

 

「は、はい!侵入者ロスト・・・大きな動きがない限り、ここからでは捕捉できません・・・」

 

「ドクターウェル・・・隔離情報を公開されていれば、こんな事には・・・」

 

「ネフィリムの力も健在・・・厄介だな・・・」

 

「追跡の再開、急げ!!」

 

弦十郎はキャロルたちの追跡指示をオペレーターたちに出した。そんな中エルフナインは真っ二つに切断されたヤントラ・サルヴァスパをモニター越しで見つめる。

 

「最後のパーツ、ヤントラ・サルヴァスパがが失われたことで、チフォージュ・シャトーの完成を阻止できました。なのに、キャロルはまだ・・・」

 

エルフナインはキャロルからシャトー建造の任から解任された当時のことを思い出し、悲しそうな顔をする。

 

~♪~

 

時間は遡り、チフォージュ・シャトーの玉座の間。シャトーの建造の任を任され、計画の詳細を何も聞かされていないエルフナインはシャトーが世界解剖のためのものであると知り、キャロルに説明を求めている。

 

「説明してください!ボクが建造に携わったチフォージュ・シャトーは、ボクたちのパパの遺志を継ぐためだったはず!世界をバラバラにするなんて聞いてません!!」

 

エルフナインの問いかけにキャロルは答える。

 

「いかにも。チフォージュ・シャトーは錬金技術の粋を集めたワールド・デストラクターにして、巨大なフラスコだ」

 

「ボクを騙すつもりで・・・?」

 

「さて、そうと知ってどうする?力のないお前が、オレを止めてみせるのか?」

 

キャロルの問いかけにエルフナインは拳を握りしめ、自身の考えをキャロルに訴える。

 

「・・・それでも・・・それでもボクが思い出のパパが大好きなように、あなたも、パパのことが大好きなはずです」

 

「!お前・・・何を・・・?」

 

「パパは世界をバラバラにすることなんて望んでいなかった!!望んでないことをボクはあなたにさせたくない!!」

 

バンッ!!

 

エルフナインの訴えにキャロルは玉座を強く叩き、エルフナインを睨みつける。

 

「思い出を複写されただけの廃棄躯体風情が!!出来損ないの娘が語ることではないと覚えよ!!」

 

キャロルの怒鳴り声にエルフナインはビクつく。

 

「・・・お前はシャトーの建造の任より解く。後はどうとでも好きにするがいい」

 

こうしてエルフナインはシャトーの建造の任から外れ、キャロルの世界解剖を阻止するため、ダインスレイフの欠片を持って、シャトーから逃亡した。これが、S.O.N.Gに協力を頼む前の出来事だ。

 

~♪~

 

時間は戻り、深淵の竜宮。過去の思い出の夢を見ていたキャロルは目を覚ました。

 

「・・・っ。オレは・・・堕ちていたのか・・・?」

 

「またしても拒絶反応です。撤退の途中で意識を・・・」

 

拒絶反応によって気絶していたキャロルは自分を抱きかかえていたレイアから離れて1人で立ち上がる。レイアは主でキャロルを心配している。

 

「高レベルフォニックゲイナーが複数揃う僥倖に、はやるのは理解できますが・・・」

 

「杞憂だ」

 

キャロルは自分の手を見つめ、開いたり閉じたりして身体の状態を確認する。問題ないと判断すると、視線を背後に立っているウェルに向ける。

 

「・・・知っているぞ、ドクターウェル。フロンティア事変関係者の1人。そんなお前が何故ここに・・・?」

 

「我が身可愛さの連中が、フロンティア事変も、僕の活躍も!寄って集って無かったことにしてくれた!人権も存在も失った僕は、人ではなく物。回収されたネフィリムの一部として、放り込まれていたのさ!」

 

ウェルはフロンティア事変後の処遇に不満をこぼしているが、彼は月の落下をフロンティアを使って速めたこと、ナスターシャを死に追いやったこと、それ以外にもやりたい放題に多くの罪を犯している。本来なら死刑になってもおかしくはない。むしろ、物として扱われたとはいえ、ここに幽閉されることは、処遇としてはかなり軽い。だがこの処遇は英雄になることを望んでいるウェルにとっては死んだも同然の処遇だ。

 

「その左腕が・・・」

 

ウェルのこの異形な腕こそがネフィリムの細胞を取り込んだ腕だ。ネフィリムの腕は人型から活動状態にし、そこから活動状態から人型に戻した。キャロルは表情を変えることなく、ネフィリムの腕に興味を示している。

 

「イチイバルの砲撃も、腕の力で受け止めたんじゃない。接触の一瞬にネフィリムが喰らって同化!体の一部として推進力を制御したまでの事!」

 

キャロルはウェルのネフィリムの腕は使えると判断し、不敵な笑みを浮かべる。

 

「面白い男だ。よし、ついてこい」

 

「ここから僕を連れ出すつもりかい?だったら騒乱の只中に案内してくれ」

 

「騒乱の只中?」

 

「英雄の立つところだぁ・・・ん?」

 

突然キャロルは黙って左手を差し出した。その意図を察したウェルはネフィリムの手を白衣で拭き、キャロルの左手を握る。

 

「その左腕、その力の詳細は、追っ手をまきつつ聞かせてもらおう」

 

「脱出を急がなくてもいいのかい?」

 

「奴らの動きは把握済み。時間稼ぎなぞ造作もない」

 

キャロルは装者たちの動きなど手に取るようにわかると言わんばかりにそう言った。それもそのはずだ。なぜならその情報の発信源は、"S.O.N.G本部"にいるのだから。

 

~♪~

 

一旦態勢を立て直すためにクリスたちは深淵の竜宮にある通信システムで弦十郎と通信を取っている。通信の最中でも、日和とクリスは未だに喧嘩を続けている。

 

「だぁ~かぁ~らぁ~!!力を使うなって言ってるんじゃなくて!!その使い方を考えろって言ってんの!!あんな場所であんなもの・・・私たちを殺す気なの!!?」

 

「新しくなったシンフォギアは、キャロルの錬金術に対抗する力だ!!使い所は今をおいて他にねぇ!!眠てぇこと言ってんじゃねぇぞ、おい!!」

 

「ここが海の底の施設だってことを忘れてませんかぁ~?はぁ~、やだやだ、これだから・・・」

 

「正論で超常と渡り合えるかってんだ!!」

 

「言ってることめちゃくちゃだよ!!」

 

「どこがだよ!!」

 

クリスは日和に突っかかってくるが、日和の言ってることは何も間違っていない。もしあのままクリスがミサイルを撃ち放って外装に穴でも開くものならば深海の水が施設内を飲み込み、ウェル言うとおり、海の藻屑となってしまうだろう。そんなことは今のクリスでもわかっている。だが先ほどの失態を取り戻したいという焦りが理解を拒んでしまっている。

 

『お前たち、落ち着かんか!!!!今は争っている場合ではない!!!!』

 

いつまでも喧嘩を続けている日和とクリスに弦十郎が通信越しで大きな怒鳴り声をあげ、2人を叱る。あまりに大きな怒鳴り声に弦十郎と同じ部屋にいた友里と藤尭は思わず肩をすくめる。

 

「ししょー!!だってクリスが・・・!」

 

「こいつがあたしの邪魔をしたからだろうが!!」

 

「邪魔になってんのはどっちの方だよ!!」

 

「あたしが邪魔だって言いたいのか!!」

 

『いい加減にしろ!!!!!』

 

弦十郎のさらに大きな怒鳴り声でようやく醜い口喧嘩が止まったが、日和とクリスはお互いに睨みあっている。

 

「・・・ふん!!」

 

「・・・クソッタレ!!」

 

日和は不機嫌そうにそっぽを向き、クリスは壁に八つ当たりするかのように蹴り上げる。口で言ってもできてしまった溝が直らない2人の仲に弦十郎は頭を抱える。

 

『念のため、各ブロックの隔壁や、パージスイッチの確認をお願い』

 

友里は深淵の竜宮のマップデータを通信システムに送り、モニターに表示させた。マップには隔壁やスイッチの場所が表示されている。だがこの施設のエリアは膨大だ。当然隔壁やスイッチの数も多いため、切歌では覚えきれない。

 

「こんなにいっぺんに覚えられないデスよー!」

 

「じゃあ切ちゃん、覚えるのは2人で半分こにしよう」

 

1人で無理ならば2人でということで、調が切歌のサポートに入る。2人がマップデータの半分を頭に入れていると、藤尭が報告する。

 

『セキュリティシステムに侵入者の痕跡を発見!!』

 

「そういう知らせを待っていた!!」

 

名誉挽回できるチャンスにクリスは歓喜の声を上げる。だがその目には冷静さが失われている。

 

~♪~

 

風鳴の屋敷で翼に倒されたファラの残骸は破壊された要石の前で横たわっていた。四肢は失われ、胴体は上半身しか残っていない。人形とはいえ、その姿には痛々しさが感じられる。

 

「これは・・・先ほどの!」

 

「ええ。翼さんが退けた、オートスコアラーの残骸です」

 

「この状態で稼働するのだろうか・・・」

 

フォルテが疑問を口にしたのと同時に、ファラの瞳孔がぎょろりと動いた。

 

「いつか、しょぼいだなんて言って、ごめんなさい。剣ちゃんの歌、本当に素晴らしかったわ・・・」

 

「私の・・・歌・・・?」

 

「あははははははは!!まるで身体がバッサリ2つになるくらい素晴らしく呪われた旋律だったわ!!あはははははは!!」

 

狂ったように言い放つファラの言葉・・・呪われた旋律という言葉に翼たちは反応した。

 

「待て。貴様、今聞き捨てならないことを言ったな」

 

「呪われた旋律・・・確か以前に・・・キャロルも言っていた・・・」

 

「答えてもらうわ!」

 

呪われた旋律・・・それが何なのか、マリアはファラに問いかけた。

 

~♪~

 

一方その頃、深淵の竜宮でキャロルたちの追跡のため、クリスたちは走っている。S.O.N.G本部のモニターのマップにはクリスたちの位置とキャロルたちとの位置が表示されている。本来であればクリスたちはもうすでにキャロルたちと遭遇し、戦っているはずなのだが、どういうわけか走っても走っても、キャロルたちには追い付くことができない。

 

『どこまで行けばいいデスか⁉』

 

『いい加減、追いついてもいいのに・・・』

 

『2人とも、頑張って!』

 

『この道で間違いないんだろうな!!?』

 

「ああ。だが向こうも巧みに追跡を躱して進行している」

 

弦十郎の言うとおり、キャロルたちはクリスたちの追跡をうまいこと躱しながら先に進んでいる。そのおかげでクリスたちはキャロルと遭遇できないでいる。

 

「まるでこちらの位置や選択ルートを把握しているみたいに・・・」

 

友里の呟きで、ブリッジにいる全員は違和感の正体に気付いた。

 

「まさか・・・本部へのハッキング・・・!!?」

 

「知らず、毒を仕込まれていたのか・・・!!?」

 

自分たちが知らないうちに本部に『毒』が仕込まれていたことに気付いた弦十郎は目を見開いて驚愕した。




フォルテのの変身バンクGXバージョン

聖歌を歌い、身に纏っていた衣服を分解し、インナースーツを身に纏う。
次に脚部の装甲のパーツが構築され、両脚部に装着。
次に腰部のパーツが腰に装着され、肩の装甲も纏い、マントが構築され、なびかせる。
腕部の装甲も構築され、腕に纏い、最後に耳から順にヘッドギアを構築し、装着する。
シンフォギアを身に纏い、右肩のパーツより柄を手に取り、それを振るって大剣に変形させ、大剣を構え直す。


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こんなにも、残酷だけど

いつもなら後書きは解説なんですけど、今日は少しばかり趣向を変えてみました。


海恋に話があると言われ、外に出た響は彼女と共にどこかに向かっている。隣には響が心配ということで未来もついてきている。海恋曰く、ここでは話せないということらしい。

 

「海恋さん、どこまで行くんですか?」

 

長い道のりを歩いているからか、響がそう質問してきた。

 

「もう少しよ」

 

響の質問に海恋はそう返した。歩いて先へ進んでいくと、海恋は立ち止まる。立ち止まった場所の先にある光景を見て、響と未来は感嘆な声を上げた。

 

「「わぁ~・・・!」」

 

「あれが・・・私の実家・・・西園寺家の屋敷よ」

 

遠くからでもよく見えるその光景とは、海恋の実家である西園寺家の洋屋敷であった。西園寺家の屋敷を見た響と未来は目を輝かせている一方で、海恋はかなり複雑そうな顔をしている。

 

「ここが海恋さんの家・・・す、すごい!」

 

「本当・・・次元が違いすぎる・・・」

 

「・・・本当は、夢を叶えるまでは、帰ってくる気はなかったんだけどね・・・」

 

「海恋さん・・・?」

 

久しぶりの実家を見ても嬉しくなさそうな海恋に気付いたのか、響と未来は首を傾げる。海恋は自分の両親ついて話す。

 

「・・・西園寺家は代々続いている名家でね、西園寺家に生まれた父も西園寺の血を誇りにしていて、西園寺家をもっと大きくすることに熱を注いでいた。だから誰に対しても厳しかった。・・・娘である私に対しても」

 

海恋は西園寺家で過ごしてきた日々を思い出す。学びたくもない帝王学を学ばせられたり、進むべき進路を勝手に決められて医療学問を学ばせたりした。会社の社交パーティに参加させられたり、エリート学校に通わせられ、トップの成績を叩きだして全ての生徒から反感を買われたりと、普通の子供では耐え切れないような生活を海恋は送ってきた。

 

「子供の夢を否定して、西園寺家の業績だけを考える父。父に魅了され、母親らしいことをしてこなかった母。使用人も父の言いなり。私にとっての味方はじいやだけ。あの家で過ごしてきた思い出なんて何1つない。本当に・・・最低の家族よ」

 

「「海恋さん・・・」」

 

西園寺家に生まれた者の宿命ともいえる実態を聞いた響と未来は壮大でありながらも苦しい生活を送った海恋に同情している。

 

「でもね・・・それでも私は・・・今のあの人たちが・・・本当の私を認めてほしいって願ってる!叶わないかもしれない願いを・・・願い続けてる!西園寺家の道具じゃない・・・ただ1人の人間・・・西園寺海恋という人間を認めてほしい・・・私を・・・娘として見てほしいって・・・!」

 

海恋は心の内に秘めた両親に認められたいという気持ちを屋敷を見て、大きな声でしゃべった。自分の親が何を言ったところで聞く耳を持たないことは海恋が1番知っている。だから彼女は両親に認めてもらうために夢であるクラシック音楽家になると決めているのだ。その決意表明のためにこの屋敷には戻らないと決めていたのだ。その決意を破ったのは、響に、前へ進んでほしいと思ったからだ。

 

「・・・洸さんも、同じ思いなんじゃないかしら?」

 

「え・・・?」

 

自分の話から突然洸の話にすり替えた海恋に響は驚いた顔をする。

 

「だってそうでしょう?家族を見捨てて逃げ出しておいて、やり直したいなんて、都合がいい。そんなことは洸さんだってわかってるはずよ。それでもあなたに何度電話を切られても、諦めずにあなたに電話をかけている。それは、あなたに父親であるってことを認めてもらいたいってことじゃないかしら」

 

「それは・・・」

 

海恋の解釈に響は戸惑っている。海恋はそんな響に微笑みを見せる。

 

「・・・立花さん。あなた、洸さん・・・お父さんのこと、好きなんでしょ?」

 

「!!」

 

「やっぱりね」

 

響が洸の事が好きなんだと指摘すると、響は驚いたような反応をする。それを見て海恋は直感は当たっていたと言った顔をする。

 

「その少しでも好きだという気持ちがあるなら・・・1度だけでもいい。話し合うべきだわ。今までだって、敵味方関係なしに、そうして来たでしょ?何も行動しなかったら・・・あなたはきっとこの先、後悔すると思うわ」

 

「でも・・・私、怖いです・・・。どうなるのか不安でたまらない・・・」

 

まだ洸と向き合う覚悟が決まらない響に海恋は彼女の頭を撫でる。

 

「立花さん。こういう時こそ、へいき、へっちゃら、でしょ?」

 

「!海恋さん!」

 

「その言葉・・・」

 

海恋が響の口癖である『へいきへっちゃら』を口にして、響と未来は驚いた顔をする。

 

「あなたの口癖でしょ」

 

「・・・はい。いつから口癖になったのかは忘れたけど・・・どんな辛いことがあっても何とかなりそうになる魔法の言葉なんです」

 

「なら、その魔法の言葉を信じて、なんとかできるって思いなさい。きっとうまくいくから」

 

「海恋さん・・・」

 

海恋の励ましによって、響は笑み浮かべた。同時に、響の気持ちも固まった。

 

「ありがとうございます。私・・・もう1度だけ、お父さんと話をしてみます!」

 

「なら、悔いのないように、頑張りなさい」

 

「はい!」

 

響の決意を確認できた海恋は自分なりのエールを送った。海恋の応援の言葉に響は笑顔で答える。元気を取り戻した響に未来も笑みを浮かべている。

 

「元気が出たね。海恋さんと魔法の言葉に感謝しないと」

 

「うん!そうだね!」

 

互いに笑いあう響と未来を見て、海恋はほっとした表情を見せる。

 

「そろそろ帰りましょうか」

 

「「はい」」

 

3人は寮に戻る帰路を歩いていく。その途中で海恋は歩みを止め、西園寺家の屋敷に振り向く。

 

「・・・次に来る時は、私が夢を叶えたその日。その時まで・・・さようなら・・・お父様・・・お母様・・・」

 

海恋は深くお辞儀をして、屋敷にいるであろう自分の父と母に別れの言葉をかけた。挨拶を終えた海恋は2人と共に寮に戻っていった。

 

~♪~

 

八紘邸の屋敷の破壊された要石の前で、上半身のみが残ったファラは狂気が込められた笑みを浮かべながら口を開く。

 

「知らず毒は仕込まれて、知るころには手の施しようがないまま、確実な死をもたらしますわ」

 

「毒・・・?」

 

S.O.N.G本部に毒が仕込まれている。翼たちはその毒が何を指しているのかわからず、首を傾げる。

 

~♪~

 

一方その頃、S.O.N.G本部で弦十郎たちは本部に仕込まれた毒とは何であるのか・・・その推測をしている。

 

「俺たちの追跡を的確に躱すこの現状・・・聖遺物の管理区域の特定したのも・・・まさか、こちらの情報を出歯亀にして・・・?」

 

「それが仕込まれた毒・・・内通者の手引だとしたら・・・」

 

内部に侵入し、キャロルと内通し、情報を送っていた。その可能性がある人物とは、この中では、たった1人しかいない。唯一キャロルと接点がある人物・・・エルフナインだ。

 

「ち、違います!!ボクは何も・・・ボクじゃありません!!」

 

疑いの目を向けられたエルフナインはすぐに否定をする。すると・・・

 

『いいや、お前だよ、エルフナイン』

 

突如としてキャロルの声が聞こえてきた。全員が驚いていると、エルフナインから分離するようにキャロルの幻影が現れる。

 

「これは・・・いったい・・・⁉」

 

「なんで・・・?」

 

キャロルが自分たちの本拠地に現れたこの現象に弦十郎たちは驚きを見せている。

 

「キャロル・・・そんな・・・ボクが・・・毒・・・?」

 

エルフナインは自分自身が毒であったと気づいていなかったのか、困惑した表情を浮かべている。

 

~♪~

 

S.O.N.G本部に仕込まれた毒について、緒川がファラに問いただす。

 

「あなたの言う毒とは、いったい何を意味しているのですか⁉」

 

「マスターが世界を分解するために、どうしても必要なものがいくつかありましたの。魔剣の欠片が奏でる呪われた旋律。それを装者に歌わせ、体に刻んで収集することが、私たちオートスコアラーの使命!」

 

「では、イグナイトモジュールが!!?」

 

ファラは瞳孔を動かしながら答えた。魔剣ダインスレイフの欠片を持ってきたのはエルフナイン。これだけで毒の正体がエルフナインであると翼たちは気づいた。だが、エルフナインは大切な仲間であると信じているマリアとフォルテはそれを否定する。

 

「バカな!!?エルフナインを疑えるものか!!」

 

「仮にそれが本当だとして・・・リリィが僕を殺そうとしてきたことはどう説明する!!」

 

フォルテの言うとおり、リリィはフォルテを何度も殺しにかかろうとしてきた。それを指摘されたファラは答える。

 

「リリィはあらゆる無駄を嫌い、あらゆる可能性を重視して行動します。剣ちゃんが助けに入ることを計算したのも、あなたに殺害宣言をしたのも・・・全ては計画の真相を隠すため。恐ろしい子ね・・・マスターのためなら自分の性格さえも利用するなんて」

 

リリィの行動が全て計算されたうえでの行動であったと聞かされたフォルテは驚愕で目を見開かせる。だが事実としてリリィは計算外なことはあれど、命令通りにイグナイトモジュールで破壊された。

 

「最初にマスターが呪われた旋律をその身に受ける事で、譜面が作成されますの。後はあなたたちにイグナイトモジュールを使わせればいいだけの、簡単なお仕事」

 

「最初から全部仕組まれていたのか!!?」

 

計画の詳細を全て話し終えたファラは満足そうに笑い、自ら自爆して爆ぜた。起こった爆発に緒川とフォルテは翼とマリアの前に出て風呂敷で覆って爆発から守った。そのおかげで全員傷を負わずに済んだ。宙には粉塵が舞っている。

 

「呪われた旋律を手に入れれば、装者を生かす道理がなくなったということなの!!?だから、こちらの気を引くことを滑らかに・・・」

 

敵の狙いがわかったことで、これ以上、イグナイトモジュールを使うわけにはいかなくなった。

 

「緒川さん!本部に連絡を!イグナイトモジュールの使用を控えさせなければ・・・」

 

「ダメです!おそらくこの粉塵が・・・」

 

「付近一帯の通信攪乱・・・周到な!」

 

緒川は本部への通信を行うが、付近一帯を舞うこの粉塵が通信を妨害しているため、連絡が取れない。用意周到な対応にマリアは毒づく。

 

「残るオートスコアラーは1体・・・奴は深淵の竜宮に・・・!あそこには東雲たちが・・・!」

 

ファラの言うとおり、毒の存在に気付いた頃にはもう手の施しようがなかった。フォルテたちは八紘邸を後にした。

 

~♪~

 

自身が毒であったと困惑するエルフナインにキャロルはさらに話を続ける。

 

『とはいえ、エルフナイン自身、自分が仕込まれた毒であるとは知る由もない。オレが此奴の目を、耳を、感覚器官の全てを一方的にジャックしてきたのだからな』

 

「ボクの感覚器官が・・・勝手に・・・?」

 

『同じ素体から作られたホムンクルス躯体だからこそできることだ』

 

つまりキャロルはエルフナインの感覚器官を一方的に使ってS.O.N.Gの内部情報を手に入れ、作戦や行動パターンを把握していたのだ。以前シャルが言っていた『全部筒抜け』とはこのことを指していて、全てはキャロルの掌の上で踊らされていたのだ。キャロルを止めるはずが、自分が彼女の計画を手助けしていたことに気付いたエルフナインは贖罪を求める。

 

「お願いです・・・ボクを拘束してください!誰も接触できないよう、独房にでも閉じ込めて・・・いいえ・・・キャロルの企みを知らしめるというボクの目的は既に果たされています・・・だから・・・だからいっそボクを・・・!」

 

泣きそうになりながら、自分を殺めてほしいと懇願しようとするエルフナインに弦十郎は彼女の頭に優しく手を乗せる。

 

「ならよかった・・・エルフナインちゃんが悪い子じゃなくて・・・」

 

「敵に利用されただけだもんな」

 

「友里さん・・・藤尭さん・・・?」

 

「君の目的はキャロルの企みを止める事。そいつを最後まで見届ける事」

 

「弦十郎さん・・・」

 

「だからここにいろ。敵に覗き見されようとも、構うものか」

 

「は・・・はい!」

 

艦内にいる全員は、今日まで共に過ごしてきたエルフナインの味方であり続けた。例えキャロルに全てを覗かれていたとしても関係ない。

 

『・・・ちっ・・・!』

 

キャロルの幻影は使われるだけの存在であったエルフナインがS.O.N.Gのメンバーとして受け入れられているこの結果に面白くなさそうに舌打ちをして消えた。

 

~♪~

 

錬金術を使って本部に幻影を創り出していたキャロルは錬金術を解除する。

 

「・・・使われるだけの分際で・・・!」

 

計画のために創り出したエルフナインが自分にたてついてきたのだ。この結果は彼女にとって不愉快以外何者でもない。キャロルが錬金術を使っている間にも、日和たちが追い付いてきた。

 

「ここまでよ!キャロル、ドクター!」

 

「さっきみたいにはいくもんかデス!」

 

「だがすでに、シャトー完成に必要な最後のパーツの代わりは入手している」

 

追いつかれてもキャロルは余裕の表情を崩すことなく、アルカ・ノイズの結晶をばら撒き、アルカ・ノイズを召喚する。キャロルの言う最後のパーツの代わりとは、言うまでもなくウェルのネフィリムの腕だ。

 

「子供に好かれる英雄ってのも悪くないが・・・あいにく僕はケツカッティンでね!!」

 

「誰がお前なんか!!」

 

「こいつだけは絶対にぶん殴る!!!」

 

ウェルの煽りに切歌と日和は怒鳴り声をあげる。その間にもアルカ・ノイズが並び、装者たちもギアネックレスを取り出し、詠唱を唄う。

 

Zeios Igalima Raizen tron……

 

4人はシンフォギアを身に纏い、戦闘を開始する。切歌は鎌をアルカ・ノイズに振るって真っ二つにする。調は高く跳躍し、ツインテール部位のアームを展開し、複数の小型丸鋸をアルカ・ノイズに放つ。

 

【α式・百輪廻】

 

複数の丸鋸は次々とアルカ・ノイズを蹴散らしていく。日和は両手首のユニットから2つの棍を射出してそれを手に持って振るってヌンチャクにし、炎を纏わせる。そしてそのままアルカ・ノイズの群れに突撃し、演舞のように舞いながらヌンチャクを振るいながらアルカ・ノイズを焼き払っていく。

 

【気炎万丈】

 

クリスはボウガンをピストルに変形させて、アルカ・ノイズの群れの中心に入り、1体1体と次々とアルカ・ノイズを撃ち抜いていく。ここでレイアが動き出した。レイアはコインを重ね合わせ、錬金術でトンファーに形作り、クリスに接近する。レイアはクリスと距離を詰め、クリスの射撃をトンファーで受け止めつつ躱しながらトンファーと蹴りで攻撃を仕掛ける。

距離を詰められた程度で後れは取らないクリスはレイアにピストルの弾丸を撃ち放つ。レイアは弾丸を華麗なステップを踏みながら躱し、地にコインを投擲する。投擲されたコインが基点となり、地の錬金術で岩が隆起し、足元にいたクリスは吹っ飛ばされる。

 

「がはっ!!」

 

「後は私と、間もなく到着する妹で対処します」

 

「オートスコアラーの務めを・・・」

 

「派手に果たしてみせましょう」

 

後の対処をレイアに任せ、キャロルは足元にテレポートジェムを割って、転送陣を出現させる。ウェルも転送陣の上に乗る。

 

「ばっはは~い!」

 

ウェルは4人を嘲笑うように手を振って、キャロルと共にチフォージュ・シャトーに転送される。

 

「待ちやがれ!!」

 

クリスは2人を追いかけようとしたが、そうはさせまいとレイアが立ちふさがり、隙だらけとなった彼女の顔面をトンファーで殴打される。殴られたクリスは宙に浮き、地面に叩きつけられる。

 

「また勝手に突っ走って!!」

 

「まずいデス!!大火力が使えないのにまともに飛び出すのは!!」

 

「ダメ!流れが淀む・・・!」

 

3人はクリスの援護に向かおうとしたが、レイアの追撃が襲い掛かる。レイアはコインを空中にばら撒き、空中に舞うコインはマシンガンのように放たれた。日和は2つのヌンチャクを棍に戻して連結し、回転させることで向かってきたコインを弾く。切歌は何とか踏ん張って耐えるが、調はまともにコインをくらって吹き飛ばされる。レイアはそこを突いて2つのコインを巨大化させて放ち、調と切歌を押しつぶした。巨大化したコインは霧散し、2人は倒れる。

 

「2人とも!!」

 

日和は2人に駆け寄ろうとした時、日和の上空に巨大化したコインが降ってきて、押しつぶさんとしている。それに勘づいた日和は棍をコインに向かって突きたてて防いだ。

 

「お・・・押しつぶされる・・・!!」

 

日和は力を込めて、押しつぶされないように踏ん張っている。そこで倒れていたクリスがゆっくりと目を開けた。彼女の瞳に倒れた切歌と調と、今にも押しつぶされそうな日和の姿が映っていた。

 

「あ・・・相棒!!!」

 

「く・・・クリス・・・」

 

クリスは日和を助けようと動き出したが、その前に日和は押し切れず、コインに押しつぶされてしまう。状況は違えども、この光景はダインスレイフの呪いで見た光景と似ていた。大切な後輩と相棒を守ろうと戦っていたはずが、それを壊したのは自分自身であったと自分を責め、涙を流す。

 

「1人ぼっちが・・・仲間とか友達とか・・・先輩とか後輩とか・・・相棒なんて・・・求めちゃいけないんだ・・・!でないと・・・でないと・・・残酷な世界が皆を殺しちまって・・・本当の1人ぼっちになってしまう・・・!なんで・・・世界はこんなにも残酷なのに・・・パパとママは歌で救おうとしたんだ・・・!」

 

クリスは地に膝をつけ、悲しみに暮れる。だがレイアはそんなことで考慮などしない。

 

「滂沱の暇があれば、唄え!」

 

レイアは跳躍し、落下の勢いに乗ってトンファーをクリスに振るう。その一撃が振るわんとした時、倒れていたはずの調がツインテール部位の伸ばしたバインダーで、切歌は鎌でトンファーを防いだ。

 

「なっ・・・!」

 

「1人じゃないデスよ!」

 

「未熟者で・・・半人前の私たちだけど・・・!傍にいれば、誰かを1人ぼっちにさせないくらいには・・・!」

 

攻撃を受け止められたレイアはさらに力を込め、既にボロボロになった2人を押し返す。

 

「「うああああ!!」」

 

「2人とも・・・」

 

「自分が1人ぼっちだなんて、勝手に決めつけんな、バカクリス!!」

 

巨大化したコインから巨大な棍が伸びてきて、コインを貫いた。それと同時に日和が飛び出してきて、ブースターを使ってレイアの懐まで接近し、彼女を殴り飛ばした。レイアは吹っ飛ばされ、壁に激突する。

 

「相棒・・・」

 

「1人じゃあ、先輩も後輩もないでしょ?響ちゃんや未来ちゃん、しぃちゃんや切ちゃんがいてくれるから・・・私たちは初めて、先輩としていられるんだよ?」

 

日和は満身創痍の状態で片膝を地に付けながら、クリスにそう言った。日和の言葉に、切歌と調も口を開く。

 

「後輩を求めちゃいけないとか言われたら、ちょっとショックデスよ・・・」

 

「私達は、先輩が先輩でいてくれること・・・頼りにしてるのに・・・」

 

2人がいてくれているからこそ、自分は先輩としていられる。自分が間違ってたら相棒が正してくれる。それらのことに気付いたクリスは再起する。

 

「そっか・・・あたしみたいなのでも、先輩やれるとするならば・・・お前たちみたいな後輩がいてやれるからなんだな・・・!相棒は・・・それを伝えようとしてくれていたんだな・・・!」

 

流れが変わったことに勘づいたレイアは即座に立ち上がり、構え直す。

 

「もう怖くない・・・!イグナイトモジュール!抜剣!!」

 

クリスはギアコンバーターのスイッチを押し、イグナイトを起動する。ギアコンバーターは『ダインスレイフ』という音声が鳴り、宙を舞って変形し、展開された光の刃がクリスの胸を刺し貫く。ダインスレイフの呪いが、光の刃を通して彼女の身体に流れ込む。だが、今のクリスならば、この呪いに打ち勝てる。

 

(あいつらが・・・あたしをギリギリ先輩にしてくれる・・・!相棒が・・・あたしに激励をくれる・・・!そいつに応えられないなんて・・・他の誰かが許しても・・・あたし様が許せねぇってんだあああああ!!)

 

クリスは呪いを打ち破り、漆黒の闇を力へと変えた。闇はクリスの身に纏い、シンフォギアへと形作り、クリスの力となる。クリスはボウガンをレイアに向け、矢を連射させる。レイアはボウガンの矢をトンファーを回転させて全て叩き落とし、そのまま接近戦に持ち込む。殴りかかったレイアにクリスはボウガンをピストルに変形させて、攻撃を躱しつつ、ピストルの弾を撃ち放ちながら応戦する。その動きには全くの無駄がなく、攻撃と防御をちゃんと使い分けている。

 

(失うことの怖さから・・・せっかく掴んだ強さも暖かさも全部、手放そうとしていたあたしを止めてくれたのは・・・!)

 

クリスはちらりと視線だけを向ける。その視線に気づいた日和はグッドサインを送った。クリスは2つのピストルを連結させ、ロングライフルを形作った。

 

「ライフルで・・・?」

 

「殴るんだよ!!」

 

クリスの行動に虚を突かれ、驚愕するレイアにクリスはロングライフルを鈍器のように振り下ろして打撃を放った。

 

【RED HOT BLAZE】

 

(先輩と後輩・・・頼れる相棒・・・この絆は、世界がくれたもの・・・!世界は大切なものを奪うけど、大切なものをくれたりもする!そうか・・・!パパとママは、少しでももらえるものを多くするため、歌で平和を・・・!)

 

せっかくもらった絆をもう手放しはしない。その思いを胸にクリスは大型ミサイルを展開し、レイアに向けて発射する。

 

【MEGA DETH FUGA】

 

高速で向かってくるミサイルの1つをレイアは叩き折る。だがもう1つのミサイルの上にクリスが乗っており、それが今こちらに向かってきている。

 

「諸共に巻き込むつもりで・・・⁉」

 

レイアはトンファーを元の複数枚のコインに戻し、コインを弾いて投擲し、ミサイルを撃ち落とそうとする。クリスは向かってきたコインをガトリング砲を撃ち放って破壊していく。そして同時に、ミサイルの下からかいくぐるように竜巻が通り抜けてきた。この竜巻は、遠くで日和が棍を回転させて放ったものだ。

 

【疾風怒濤】

 

迫ってくる竜巻にレイアはミサイルに直撃しないようにより高く跳躍して躱した。だがそれは日和とクリスの狙い通りだ。ミサイルは突如軌道を変えて、そのままレイアに向けて一直線に進む。

 

「ミサイルを曲げて・・・!!?」

 

空中にいる以上、レイアはこのミサイルからは避けられない。だがこのままではクリスも巻き込まれてしまう。日和の放った竜巻は軌道を変え、ミサイルの直撃コースを外れないようにしつつ、レイアを吹き飛ばす。そのタイミングで切歌がアンカーを放ち、クリスの身体に巻き付け、爆発に巻き込まれないように彼女を引っ張って戦線を離脱させる。レイアは自身の使命を果たせたことに笑みを浮かべ、ミサイルの直撃をくらった。

 

「しぃちゃん!」

 

「スイッチの場所は覚えてる!!」

 

調はツインテール部位のアームを展開し、小型丸鋸を複数放ち、隔壁のスイッチを撃ち抜いた。最初の日和の竜巻はレイアを隔壁まで誘導するためのものだったようだ。爆風が迫ってくるところで隔壁は閉じ、クリスもギリギリ閉じきる前に回収できた。4人の連携が決まり、切歌はガッツポーズをとる。

 

「やったデス!」

 

「即興のコンビネーションでまったくもって無茶苦茶・・・」

 

「その無茶は、頼もしい相棒と後輩がいてくれてこそだ」

 

クリスは調と切歌の手を取って笑みを浮かべる。

 

「ありがとな」

 

2人はその言葉を聞いて、笑みを浮かべる。そしてクリスはすぐに日和に顔を向ける。

 

「あん時は、カッとなってた。ごめんな、相棒」

 

クリスの謝罪の言葉を聞いて、日和はもう大丈夫だなと思い、笑みを浮かべる。

 

「何々~?クリスにしてはしおらしい~♪」

 

「お前、この野郎!」

 

「わー♪」

 

日和に茶化され、クリスは自分の腕を彼女の首に巻き付ける。2人はお互いに笑いあい、傍から見ればじゃれ合っているように見える。元の関係に戻った2人に調と切歌も笑顔を浮かべている。だが、そんな余韻に浸っている余裕はない。施設内が大きく揺れ始めた。

 

~♪~

 

S.O.N.G本部でも非常事態を感知し、アラームが鳴り響いている。

 

「深淵の竜宮、被害拡大!クリスちゃんたちの位置付近より、圧壊しつつあります!」

 

「この海域に接近する巨大な物体を確認!」

 

さらにこの海域に接近する物体をモニターで確認した。近づいてきたのは、巨大人型兵器、レイアの妹だ。

 

「これは・・・!」

 

「いつかの人型兵器か!」

 

あの時は何とか振り切ることができたが、今回も同じように行くとは限らない。さらに日和たちの帰りも待たねばならないのだ。かなり危機的状況だ。

 

「装者たちの状況は⁉」

 

弦十郎が指示を出している間にも、レイアの妹はどんどん近づいてきている。

 

~♪~

 

崩壊が始まっている深淵の竜宮で日和は切歌を、クリスは調を背中に担いで自分たちが載ってきた小型潜水艦まで目指す。2人はLiNKERが切れてギアが解除されている。

 

「ちょ・・・死ぬ!死んじゃうってばぁ!!」

 

「ダメ、間に合わない・・・!」

 

「さっきの連携は、無駄だったデスか・・・?」

 

「まだだ!まだ諦めるな!!」

 

諦めないで走ったおかげで4人は何とか間に合い、小型潜水艦までたどり着いた。日和とクリスは先に調と切歌を潜水艦に乗り込ませ、後から自分たちも乗り込んだ。小型潜水艦は深淵の竜宮から脱出し、本部である潜水艦に帰投した。

 

「潜航艇の着艦を確認!」

 

「緊急浮上!油圧を気にせず、振り切るんだ!!」

 

潜水艦は可能な限りのスピードを出し、浮上させようとするが、レイアの妹が追ってくる。

 

「総員をブリッジに集め、衝撃に備えろ!急げ友里!!」

 

友里は慌てず、冷静にコンソールを叩く。潜水艦は夜明けの光を指した海面に浮上した。が、同時にレイアの妹も海面から姿を現し、その巨大な右腕を振り上げた。そして、巨大な右腕が振り下ろされ、潜水艦は真っ二つに叩き割られた。

 

~♪~

 

ちょうど同じころ、学生寮の窓から響は太陽が昇っていくその瞬間を見ていた。

 

「決戦の朝だ・・・」

 

昨日の海恋の話のおかげで、響の覚悟は決まった。後は、実行するだけだ。




3年生組の学力成績(2年生だった時)

日和「・・・・・・」チーン・・・

クリス「お前、何死んでんだよ・・・」

日和「だって・・・」

海恋「あんたが赤点とって補修になったのはそもそも勉強不足が原因なんでしょうが・・・」

日和「えーん!勉強やだよー!」

海恋「やだよじゃない!」

日和「だいたい何でクリスは補修になってないんだよ~。こんなのおかしいよ、あんまりだよ~・・・」

クリス「あたしはちゃんとコツコツやってんだよ!お前と一緒にすんな!」

海恋「でも意外ね。編入し立てでテストで上位成績を収めるなんて。やるじゃない」

クリス「あ、あたしのことはもういいだろ。お前は・・・まぁ言うまでもないわな・・・」

日和「本当にすごいよね~、学年1位だなんて・・・さすが海恋!」

海恋「まぁ少し手こずった問題はあったけど・・・って、誤魔化そうたってそうはいかないわよ。さあ、今から勉強会するわよ」

日和「うわーん!逃げきれなかったー!やだやだやだ!勉強やだー!」

海恋「クリス、もし赤点取りそうだったらいつでも言いなさい?みっっっっっっっちり勉強、教えてあげるから」目の光が消えた。

クリス「あ、ああ・・・そん時は頼むわ・・・
   (・・・こりゃ是が非でも赤点は取れねぇなぁ・・・)」

海恋の勉強会に対し、クリスは実態を知らないながらも、恐怖を覚えた。


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顕現、チフォージュ・シャトー

S.O.N.Gの本部である潜水艦がレイアの妹によって破壊された。だが、ブリッジはギリギリのタイミングで切り離されたため、そこは壊されずに済んだ。だが外部の衝撃によって大きな揺れが発生し、何かに捕まっていないと地面に叩きつけられてしまう。そこに照明が外れ、友里の頭上に落ちてくる。

 

「危ない!!」

 

同時にエルフナインが友里に飛び掛かった。

 

~♪~

 

潜水艦が割れたタイミングでブリッジからミサイルが発射される。ミサイルの装甲が割れると、イグナイト状態のままのクリスが現れ、宙を舞ったまま大きな弓を展開し、狙いをレイアの妹に定め、矢型のミサイルを放った。

 

【ARTHEMIS SPIRAL】

 

放たれたミサイルの矢はブースターが点火し、加速して速度を上げ、レイアの妹の腹部を射抜いた。腹部を貫かれたレイアの妹は爆発する。爆発によって発生する波がブリッジを揺らすが、転覆することはなく、クリスはブリッジの上に乗った。

 

「本部が・・・連中は、何もかもをまとめてぶっ飛ばすつもりで・・・!」

 

クリスは空を見上げた後、急いでブリッジの中に入る。

 

~♪~

 

ブリッジの内部は照明が外れたことで薄暗い。友里が目を覚ますと、エルフナインが自分に覆いかぶさっていた。

 

「エルフナインちゃん!!?」

 

「ボクは・・・誰に操られたんじゃなく・・・」

 

エルフナインはそのまま力が抜け落ちたように気を失う。よく見てみれば、彼女の腹部が出血していた。そこに帰還した日和、調、切歌の3人が駆け寄ってきた。

 

「エルフナインちゃん!」

 

「大丈夫デスか⁉」

 

「早く手当しないと!」

 

「2人とも、早く救急セットを!」

 

「「は、はい(デス)!」」

 

エルフナインの怪我を見た日和は2人に救急セットを持ってくるように指示を出す。日和も一応は医者の娘。こういう時の応急処置のやり方くらいは知っている。指示を受けた2人は急いで救急セットを取りに向かった。

 

「目を開けて!エルフナインちゃん!エルフナインちゃん!!」

 

友里はエルフナインに呼び掛けるが、彼女は目を閉じたまま、目を開けなかった。

 

~♪~

 

一方その頃、響は前にも来たカフェで洸と会っていた。洸は前回と同じように響にご飯を奢ってもらっていた。

 

「悪いな・・・腹減ってたんだ」

 

「うん・・・」

 

食事を終えた洸と話をする前に響は自分のスマホのメール画面を見る。差出人は未来からだ。その文面は『へいき、へっちゃら』という例の魔法の言葉だ。そして、心強い味方は未来だけではない。

 

「なんで俺がこんなことに付き合わなきゃいけねぇんだ?意味わかんねぇ」

 

「嫌なら検査入院でもする?あんたが嫌いな病院で一晩過ごしたいなら別にいいわよ?」

 

「ちっ・・・しょうがねぇなぁ~・・・きったねぇ手使いやがって・・・」

 

洸の後ろの席には海恋と大悟がいた。海恋は成り行きを見守るために先に来ていたのだ。そして、響たちと無関係を装うためにわざわざ大悟を連れてきて、カップルを演出しているのだ。全然そんな風には見えないが。ちなみになぜ大悟を選んだのかは、他に頼れる男がいないからだそうだ。

 

(ありがとう、未来、海恋さん・・・)

 

心強い味方がいてくれることに響は安堵し、意を決して洸と話をする。

 

「あのね・・・お父さん・・・」

 

「どうした?」

 

「本当に・・・お母さんとやり直すつもり・・・?」

 

「本当だとも。お前が口添えしてくれたら、きっとお母さんも・・・」

 

「だったら!はじめの一歩は、お父さんが踏み出して・・・。逃げ出したのはお父さんなんだよ?帰ってくるのも、お父さんからじゃないと・・・」

 

響の勇気を出した訴えに洸は席に座り直し、弱気ながらも話す。

 

「・・・そいつは嫌だなぁ・・・。だって・・・怖いだろ・・・?何より俺には、男のプライドがある」

 

本当なら海恋は洸の弱気な発言にここでビシッと言ってやりたいところだが、自分にそんな資格はないと思い、そしてこれは響と洸の問題であるが故、あえてコーヒーを飲み、諦観の姿勢を取っている。大悟はもとより興味がなく、つまらなさそうにホットドックを食べている。

 

「私・・・もう1度やり直したくて・・・勇気を出して会いに来たんだよ・・・?」

 

「響・・・」

 

「だからお父さんも、勇気を出してよ!」

 

「だけど・・・やっぱり、俺1人では・・・」

 

情けない姿を見せる洸に響は顔を俯かせる。

 

「もうお父さんは・・・お父さんじゃない・・・1度壊れた家族は・・・元に戻らない・・・」

 

洸は響に何か声をかけようとしたが、何と声をかければいいかわからず、思わず窓の外を見る。

 

「もうさ・・・あれ無理だろ。ダッセェ姿見せちゃそりゃそうなるわ」

 

「立花さん・・・」

 

海恋は少し悲しそうな顔で後ろを振り向いて響を見ている。大悟は残ったホットドッグを食べながら窓を見つめる。窓の外には小さな子供と母親が手を繋いでいる姿があった。子供は転び、その拍子に持っていた赤い風船を手放してしまい、泣きじゃくる。大悟が赤い風船を目で追って空を見上げる。すると、空が急に割れ、割れた空間の中から何かが出てきた。

 

「な、なんなんだ!!?」

 

「空が・・・割れる・・・⁉」

 

「おいおいおい・・・一昨日からなんだってんだよ!!?」

 

「まさか・・・あれが・・・チフォージュ・シャトー・・・?」

 

そう・・・あの巨大な城のような建造物こそが、キャロルの居城にして、ワールド・デストラクター・・・チフォージュ・シャトーだ。

 

~♪~

 

シャトーの玉座の間。中央にはワール・ドデストラクターの起動のためのコンソールがあり、ウェルはネフィリムの腕を突っ込んで起動を試みている。

 

「ワールド・デストラクターシステムをセットアップ。シャトーの全機能をオートドライブモードに固定・・・」

 

起動の工程を完了させたウェルはネフィリムの腕をコンソールから引き抜き、下卑た笑みを浮かべる。

 

「けけけ!どうだ!僕の左腕は!トリガーパーツなど必要としない!僕と繋がった聖遺物は、全て意のままに動くのだ!!」

 

「オートスコアラーによって、呪われた旋律は全てそろった。これで世界はバラバラにかみ砕かれる・・・」

 

「あぁん?世界を・・・かみ砕くぅ・・・?」

 

キャロルの目的に今初めて知ったウェルは急に顔をしかめ、キャロルに顔を向ける。

 

「父親に託された命題だ・・・」

 

キャロルは悲しそうな顔をして俯き、父、イザークが処刑された日・・・彼の言葉を思い返す。

 

『キャロル。生きて・・・もっと世界を知るんだ』

 

「わかってるって!だから世界をバラバラにするの!解剖して分析すれば、万象の全てを理解できるわ!」

 

さっきまでの冷たい言動とは打って変わって、かつての自分のようなかわいらしい声をキャロルは上げたが、彼女の目には光が宿っていなかった。

 

「つまり至高の叡智!ならばレディは、その知をもって何を求めるぅ?」

 

「何もしない・・・」

 

「あぁん?」

 

ウェルは膝を曲げ、キャロルと視線を合わせる。キャロルの言動はまぶたを閉じた時に元に戻っていた。

 

「父親に託された命題とは、世界を解き明かすこと。それ以上も以下もない」

 

「オウ・・・レディに夢はないのかぁ・・・?」

 

ウェルはキャロルの真の目的に心底呆れ、自分の英雄の価値観を演説する。

 

「英雄とはあくなき夢を見、誰かに夢を見せる者!託されたものなんかで満足してたら、底もてっぺんもたかが知れる!!」

 

「・・・『なんか』・・・と言ったか・・・?」

 

父親から託された命題・・・それを貶され、侮辱されたキャロルは光が戻った瞳で、ウェルに怒りを露にする。

 

~♪~

 

突然現れたチフォージュ・シャトー。これによって一般市民は不気味がっている。響たちもシャトーの姿を確認した時、響の端末から本部からの通信が入った。

 

「はい!」

 

『響ちゃん!通信回復を確認!』

 

『手短に伝えるぞ。周到に仕込まれていたキャロルの計画が最後の段階に入ったようだ』

 

「えぇ⁉」

 

状況確認のために外に出た響は弦十郎の報告に驚愕する。

 

『敵の攻撃でエルフナイン君が負傷。応急処置を施したが、危険な状態だ』

 

『ボクは平気です・・・だから・・・ここにいさせてください・・・』

 

『エルフナインちゃん!動いちゃダメだよ!傷口が開いちゃう!』

 

「エルフナインちゃん・・・!」

 

通信越しでエルフナインの弱々しい声が聞こえてきた。動こうとしたらしいエルフナインに日和の声が聞こえてきた。彼女がどれだけ危険な状態なのかは、通信越しでもよくわかる。

 

『俺たちは現在東京に急行中。装者が合流次第、迎撃任務にあたってもらう。それまでは・・・』

 

「はい!避難誘導にあたり、被害の拡大を抑えます!」

 

通信を切り、響が行動に出ようと海恋にも声をかける。

 

「海恋さん!」

 

「わかってる!今大悟が避難誘導してるから!」

 

「オラぁ!死にたくなかったらとっととここを離れろぉ!!」

 

『ひいいいいい!!』

 

海恋はいち早く状況を察して、大悟に指示を出して戸惑っている一般市民の避難誘導にあたっていたようだ。大悟は指示通りに一般市民に避難するように声をかけている。ただ大悟が不良の外見でああいった物言いだと、ただ単に脅しているようにも見える。だがそれでも一般市民は避難誘導のルートに従っているため結果的にはこれでいい。

 

「私たちも行動に移りましょう!」

 

「はい!お父さん、みんなの避難を・・・」

 

「こういう映像って、どうやってテレビ局に売ればいいんだっけ・・・?」

 

「ちょっと!こんな時に何やってるんですか!!?」

 

「お父さん・・・」

 

一般市民が避難している中、洸はカメラでチフォージュ・シャトーの映像を撮影していた。どうやら小遣い稼ぎのために撮った映像をテレビ局に売るつもりらしい。その様子に海恋は信じられないと言いたげな顔で声を上げ、こんな時でも楽観的な洸に響は彼に失望を抱いていた。

 

~♪~

 

父親に託された命題を貶したウェルにキャロルは怒りで声を荒げた。

 

「父親から託されたものを・・・『なんか』とお前は切って捨てたか!!?」

 

キャロルの怒りもなんのその、ウェルは構わず煽り続ける。

 

「ほかしたともさ!ふんっ!レディがそんなこんなでは、その命題とやらも解き明かせるのか疑わしいものだ!」

 

「何・・・?」

 

「至高の叡智を手にするなど、天荒を破れるのは英雄だけ!英雄の器が小学生サイズのレディには、荷が勝ちすぎるぅ!!」

 

「ちっ・・・」

 

とことん癪に障るウェルの物言いにキャロルは舌打ちをする。だがこれでハッキリした。この男とは、一時利害が一致していても、決して相容れることなどできないと。

 

「やはり世界に英雄は僕1人ぼっち・・・2人と並ぶものはなぁい!!やはり僕だ!僕が英雄となって・・・」

 

「どうするつもりだ・・・?」

 

「無論、人類のため!善悪を超越した僕が!チフォージュ・シャトーを制御して・・・」

 

ズシャッ!

 

「え・・・いや・・・ん・・・」

 

ウェルの言葉は最後まで言い切ることはなかった。なぜなら、キャロルがダウルダブラを召喚し、その先端をウェルの身体を刺し貫いたのだ。

 

「支離にして滅裂。貴様みたいな左巻きが英雄になれるものか・・・」

 

キャロルはウェルからダウルダブラを引き抜き、風の錬金術で突風を放ち、彼を柵まで吹き飛ばした。ウェルは柵に背をもたれながら腹部の傷に触れて出血を確認する。

 

「ダメじゃないか・・・楽器を・・・そんなことに使っちゃあ・・・」

 

キャロルはダウルダブラを抱え、ウェルに近づく。用がなくなった彼の廃棄・・・つまり始末するために。

 

「シャトーは起動し、世界分解のプログラムは自律制御されている・・・。ご苦労だったな、ドクターウェル。世界の腑分けは・・・オレが1人で執刀しよう!!」

 

キャロルはダウルダブラを振り下ろした。

 

「顔はやめてぇ!うわあぁ!!?」

 

だがダウルダブラはウェルに当たることはなく、バランスを崩してしまい、柵から落ちてしまった。

 

「うわあああああああああ!!」

 

落ちていくウェルの声がシャトー内に響き渡る。もともとウェルは始末する予定であったためにキャロルは手間が省けたと言ったようにどうでもよさそうにしている。

 

「廃棄予定が些かに早まったか・・・ぐっ・・・!!?」

 

ここでまたも拒絶反応を引き起こし、キャロルは苦しそうに自身の胸を抑え、この苦しみに耐える。

 

「立ち止まれるものか・・・!計画の障害は、例外なく排除するのだ・・・!」

 

キャロルは錬金陣を展開し、外の様子を映し出して確認する。モニターのように映し出された錬金陣には響と海恋、洸が映っていた。

 

~♪~

 

非常事態だというのにチフォージュ・シャトーを撮影し、テレビ局に売ろうとしている洸に響は怒鳴った。娘に怒られた洸は申し訳ないと思いつつ、頭をかいている。

 

「やっぱ、まずいよなぁ・・・」

 

「いい加減にしてよお父さん!!」

 

「立花さん!!今は怒ってる場合じゃないでしょ!!今やるべきことは何!!?街の人の避難でしょ!!」

 

「・・・っ・・・ごめんなさい・・・」

 

海恋の正論に今やるべきことを見失いそうになった響は冷静になり、頭を下げる。そして海恋は洸にも一言物申す。

 

「あなたもあなたです!!こんな非常事態に何を考えてるんですか!!?」

 

「・・・君は・・・もしかして・・・?」

 

洸は海恋の顔を見て驚いたような顔をしている。海恋がかつて自分が勤めていた会社の社長の面影があり、雰囲気もかなり似ていたからだ。

 

「お父さん!それよりも早く・・・」

 

「ほう・・・そいつがお前の父親か・・・」

 

「「!!」」

 

響が洸に避難誘導をしようとした時、上からキャロルの声が聞こえてきた。

 

「響!空から人が!」

 

キャロルと相対する形となって彼女を見た洸が真っ先に反応した。洸の声で響と海恋は後ろに振り返り、顔を上げてキャロルと対面する。

 

「キャロルちゃん・・・」

 

「どうして・・・生きて・・・!!?」

 

通信でキャロルが生きていたことを知っていた響はともかく、その事実を知らなかった海恋は驚愕している。

 

「終焉の手始めに、お前の悲鳴を聞きたいと、馴染まぬ身体が急かすのでな。それに・・・」

 

キャロルは響の隣にいる海恋に視線を移した。海恋のことはエルフナインの視界を通じて見ていたため、彼女のことはもちろんキャロルは知っている。そして、海恋の記憶力も。

 

「そいつの驚異的な記憶能力は無視できん。『才能の芽』は、今ここでかみ砕いてくれる」

 

才能の芽・・・それは海恋に向けられて放っている。この言葉の意味が理解できない海恋は彼女に問いかける。

 

「才能の芽・・・?それはどういう意味⁉いったい何のことよ!!?」

 

「知る必要などない。お前たちは終焉の贄となるのだからな」

 

海恋の問いにキャロルは答える気はないと言わんばかりに風の錬金陣を展開し、突風を彼女に向けて放った。

 

「きゃああああ!!」

 

「海恋さん!!」

 

キャロルの突然の攻撃に海恋は避ける行動が遅れ、そのまま突風で吹っ飛ばされ、地に倒れ伏す。

 

「き、君!大丈夫か⁉」

 

「は、はい・・・何とか・・・」

 

海恋は痛みを堪えて、立ち上がる。

 

「キャロルちゃん・・・」

 

どうやら本当に海恋を始末するようで、キャロルは再び風の錬金陣を展開する。そこへ、響が海恋を守るために前に出てキャロルと対面するのであった。




XD-エクスドライブアンリミテッド-

ホワイトデーボイス

東雲日和
え?これ・・・私にくれるの?ありがとー!お礼に一曲・・・て、それじゃあホワイトデーの意味ないか。あはは。

フォルテ・トワイライト
ん?僕に贈り物か?・・・そうか、今日はホワイトデーだったな。だが・・・いや、ありがたく受け取っておこう。


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へいき、へっちゃら

響はキャロルの風の錬金術で吹っ飛ばされた海恋の前に立ち、彼女の後ろにあるチフォージュ・シャトーを見る。

 

「あれはやっぱり、キャロルちゃんの・・・?」

 

「いかにも。オレの城、チフォージュ・シャトー・・・アルカ・ノイズを発展応用した世界をバラバラにする解剖器官でもある」

 

キャロルは風の錬金陣を展開したまま、響の問いかけに答える。

 

「世界を・・・。あの時もそう言ってたよね?」

 

「あの時、お前は戦えないと寝言を繰り返していたが、今もそうなのかぁ?」

 

キャロルの問いかけに響は一瞬だけ手を止めたが、すぐに気を引き絞めた顔になる。自分の拳が誰かを守るためにあるものであると理解した。だからギアを纏える。響はすぐにギアネックレスを掲げようとしたが、キャロルが風の錬金術で竜巻を放ち、ギアネックレスの紐を切断される。これによってギアネックレスは遠くへ飛ばされてしまう。ギアネックレスを纏うことができない。

 

「ギアが!!?」

 

「これじゃあギアを纏えない!!」

 

「もはや、ギアを纏わせるつもりは毛ほどもないのでな!!」

 

キャロルはさらに錬金陣を展開して攻撃態勢に入る。ギアがなくても響は迎え撃とうと構えを取る。

 

「オレは、父親から託された命題を胸に、世界へと立ちはだかる!!」

 

「お父さんから・・・託された・・・?」

 

「誰にだってあるはずだ!」

 

「っ⁉私は何も・・・託されていない・・・」

 

自分には父親から託されたものなど何もない・・・そう思っている響はキャロルの言葉によって、戦意が失われていく。

 

「何もなければ耐えられまいてぇ!!」

 

だがそんなことはキャロルには関係ない。彼女は竜巻を響に向けて放った。

 

「立花さん!!避けてぇ!!」

 

海恋は響に向けて声を上げたが、戦意を失った響は避けようともしない。そこへ、洸が響を掴んで横っ飛びで竜巻を回避する。

 

「響!おい!響!!」

 

洸が響に呼び掛けた時、キャロルは標的を洸に変え、新たに土の錬金陣を展開する。

 

「世界の前に分解してくれる」

 

「うわああああああ!!」

 

標的が自分に向けられた洸は情けない悲鳴を上げながら一目散に逃げだした。

 

「お父さん・・・?」

 

「助けてくれえぇ!こんなの、どうかしていやがる!」

 

逃げ出した洸はなぜかその場で足を止め、周囲を見回しながら悲鳴を上げている。父親に見捨てられた響は洸に絶望し、涙を流した。響の頭に、洸が家族を捨てた時の光景がフラッシュバックされる。

 

「ははっ!逃げたぞ!娘を放り出して、身軽な男が駆けていきおる!」

 

キャロルは情けない洸の姿を見て嘲笑い、彼に向けて錬金術を放つ。だがこの攻撃は洸にはギリギリで当たらない。わざと攻撃を外し、洸にわざと走らせているのだ。だが海恋は洸の逃げる姿を見て、どこか違和感を覚える。

 

(おかしい・・・本気で逃げるならさっさとこの場から離れるのが自然なのに・・・。それに最初に立ち止まった時・・・何かを探してたような・・・!もしかして・・・!)

 

洸の行動の真意に気付いた海恋は洸に視線を向けた。同時に洸はキャロルに追い詰められ、しりもちをついた。その近くにキャロルは降り立つ。

 

「来るな・・・来るなぁ!!」

 

洸は近くにあった小石を投げつけ、惨めに喚きながら立ち上がり、再び周辺を走り出した。キャロルは洸で遊び感覚で彼に錬金術を放ち続ける。

 

「大した男だなぁ、お前の父親は。オレの父親は、最後まで逃げなかった!」

 

「立花さん!起きなさい!ここで諦めるつもりなの!!?」

 

海恋は響に近づき、両肩を掴んで立ち上がるように促す。それでも響は立ち上がる気力が起こらない。そんな中で洸はキャロルの錬金術から逃げながら響に向かって声を上げる。

 

「響!!今のうちに逃げろ!!壊れた家族を元に戻すには!そこに響もいなくちゃダメなんだ!!」

 

叫んでいる洸の足元にキャロルの錬金術が着弾して爆発し、彼は吹き飛ばされる。

 

「うわぁ!!!」

 

「洸さん!!」

 

「お父さん!!?お父さん!お父さん!!」

 

吹き飛ばされた洸に、海恋と響は叫んだ。倒れ伏した洸は痛みを堪えながら、何とか立ち上がる。

 

「うぅ・・・これくらい・・・へいき、へっちゃらだ・・・」

 

「!」

 

へいき、へっちゃら。彼は響の口癖であるこの言葉を使った。これによって響は幼少期の出来事を思い出した。あの時洸が料理で包丁を使っていた時、失敗して指を切って出血し、幼かった自分が洸を心配したあの時。

 

『お父さん、大丈夫?』

 

『へいき、へっちゃらだ』

 

洸はどんな時でも、痛い思いをしても、響の前で『へいき、へっちゃら』と笑った顔を見せた。それを見た響も自然と笑顔を見せた。この言葉は、笑顔を見せるための魔法の言葉であり・・・洸が響に託した言葉でもあった。

 

(そっか・・・あれはいつも、お父さんが言っていた・・・)

 

響は父親が自分に託したものに気がついた。洸はゆっくりと起き上がり、キャロルと相対する。

 

「逃げたのではなかったのか?」

 

「逃げたさ・・・。だけど、どこまで逃げても!この子の父親であることには逃げられないんだ!」

 

「お父さん・・・」

 

「俺は生半だったかもしれないが、それでも娘は本気で!壊れた家族を元に戻そうと!勇気を出して向き合ってくれた!だから俺も!なけなしの勇気を振り絞ると決めたんだ!」

 

洸は足元にあった石をキャロルに何個か投げつけた。だが投げた石は全てキャロルには当たらない。当たったとしても大した痛手にはならないだろう。だが響は見逃さなかった。今洸の手に握りしめたものを。響は完全に立ち上がって洸を正面から見つめる。

 

「響!!受け取れえええええええ!!!」

 

「!!?」

 

洸が響に向けて投げたものを見て、キャロルは驚愕した。なぜならそれは石ではなく、キャロルの攻撃によって落としてしまったギアネックレスだ。洸のおかげでギアネックレスを取り戻した響は、父の思いを胸に、詠唱を唄う。

 

Balwisyall Nescell Gungnir tron……

 

シンフォギアを纏おうとする響にキャロルはそうはさせまいと錬金術を放とうとする。

 

「オラぁ!!!!」

 

「!!」

 

そこへ避難誘導からここに戻ってきた大悟が全力の力を持ってキャロルに殴りかかってきた。それに気づいたキャロルは咄嗟にダウルダブラで拳を防ぎ、風の錬金術を放って彼を吹っ飛ばした。

 

「うおおおお!!」

 

「大悟!!!」

 

「ぐっ・・・出血大サービスだ・・・この野郎・・・!」

 

大悟は痛みを堪えながら、笑みを浮かべた。キャロルの気を引くことに成功して、響はシンフォギアを身に纏うことに成功したからだ。

 

「へいき、へっちゃら・・・」

 

「響・・・」

 

「私、お父さんから大切なものを受け取ったよ・・・受け取っていたよ!」

 

ツヴァイウィングのライブ会場の惨劇で生き残り、リハビリを頑張っていた時も、学校でいじめを受けていていた時も、洸から教わったへいき、へっちゃらの言葉のおかげで、響は今日というこの日まで乗り越えられた。

 

「お父さんは、何時だってくじけそうになる私を支えてくれていた・・・ずっと、守ってくれていたんだ!」

 

「響・・・」

 

洸の呟きに響は首を縦に頷いて答え、歌を歌い、キャロルに向かって駆けていく。向かってくる響にキャロルはアルカ・ノイズの結晶をばら撒き、アルカ・ノイズを召喚して迎え撃つ。立ちふさがるアルカ・ノイズを響は次々と殴り倒していく。響が戦っている間に海恋は大悟に駆け寄る。

 

「大悟、大丈夫?」

 

「俺の事より、オッサンの心配をしてろ」

 

心配をする海恋に大悟は強がりを見せて起き上がる。ふらつく大悟に海恋が支える。そこへ洸が駆け寄り、彼も大悟を支える。

 

「大丈夫か⁉あんな無茶をして・・・」

 

「るせぇ。オッサンに心配されるほど、俺は落ちぶれちゃいねぇ」

 

「あんたねぇ・・・」

 

誰に対しても捻くれた物言いをする大悟に海恋は呆れている。洸は大悟を支えたまま、海恋に声をかける。

 

「君は、社長のところの娘さんだろう?雰囲気が似てたからすぐにわかったよ」

 

筑波で初めて会った時、響の一件でそれどころではなかったが、洸はあの時海恋のこともちゃんと見ていた。ただその時は社長に娘がいたとは知らなかったため、気づかなかったが。社長の娘だと知られた海恋は少し悲しそうな顔をしながら洸に謝罪する。

 

「・・・ごめんなさい・・・父のせいで・・・」

 

「謝らないでくれ。悪いのは俺の方なんだから。それに、君はずっと未来ちゃんと一緒に響を支えてくれていたんだろう?だから君には、感謝してもしきれないよ」

 

蔑まれるかと思いきや、自分に感謝してきた洸に海恋は若干戸惑いを感じながらも、口を開いた。

 

「わ・・・私はただ・・・父の責任の肩代わりと罪滅ぼしをしただけです・・・。それに・・・」

 

海恋はアルカ・ノイズと戦っている響の勇敢な姿を見る。

 

「あの子には・・・元気な後輩のままでいてほしいから・・・」

 

響は腰部のブースターを起動して回転しながらアルカ・ノイズに蹴りを放っていく。そして、竜巻のように空に上昇し、右手のハンマーパーツを展開し、ブースターで降下の勢いをつけて空中のアルカ・ノイズを拳で貫いていく。響の戦う姿を見て洸はフロンティア事変のテレビ中継で響がシンフォギアを纏った映像を思い出した。

 

(じゃあやっぱり・・・あの女の子は響だったのか・・・。逃げるばかりの俺と違い、お前は何があっても踏みとどまって、ずっと頑張ってきたんだな・・・)

 

アルカ・ノイズを全て倒し終え、今度はキャロルに向かって突撃する響。キャロルは初めて会った時と違い、手加減なしに響を潰すために風の錬金術で竜巻を放つ。竜巻の勢いは凄まじく、響はその威力で建物に背を打ち付けられる。

 

「立花さん!!!」

 

「響ぃ!!!!」

 

ダメージを負った響は打ち付けられた建物から離れ、落下する。

 

「負けるなああああああああ!!!響、負けるなああああああああ!!!!」

 

娘の勇姿を見届ける洸は彼女に叫ぶように大声を出して応援する。その声に反応してキャロルは3人に向かってアルカ・ノイズの結晶を放った。洸と海恋は響を見ていて気づいていないが、大悟はその瞬間を見逃さなかった。同時に、父の声に目を見開いた響は地に着地し、ブースターを起動してキャロルの懐に入る。さらに右手にハンマーパーツを展開し、彼女の腹部に拳を叩きつけた。

 

「がぁ・・・!!」

 

響は一度地に着地してすぐに跳躍してブースターを使ってキャロルに接近して先ほどと同じ拳を振るおうとする。

 

「ヘルメス・トリスメギストス!」

 

キャロルはそうはさせまいと錬金術で4層の防御壁を創り出し、防御を試みる。

 

「知るもんかあああああああああ!!!!」

 

響は関係ないと言わんばかりに拳を振るい、4層の防御壁を破壊し、キャロルの顔面を殴り、彼女を吹っ飛ばす。

 

「やったわ!」

 

海恋が声を上げたと同時に、3人の足元にアルカ・ノイズ召喚の錬金陣が現れる。

 

「ボケっとしてんじゃねぇ!!!どけ!!!!」

 

「きゃっ!!?」

 

「うわぁ!!?」

 

大悟は錬金陣にまだ気づいていない海恋と洸を庇うように突き飛ばした。2人が突き飛ばされたと同時に、錬金陣からアルカ・ノイズが召喚される。

 

「うわああああ!!?」

 

「大悟!!!」

 

「しまった!」

 

キャロルは響の力の源が父親ならば、海恋もろともまとめて始末するつもりだった。だがそれを何の力も持たない大悟に二度も邪魔をされ、キャロルは彼に怒りを抱く。

 

「一度ならず二度までもオレの邪魔を・・・!」

 

キャロルの声が聞こえたのか大悟は吹っ飛ばされたキャロルに視線を向け、中指を立てて彼女を煽る。それに触発されたキャロルは目を見開く。

 

「青二才の小僧が!!二度と邪魔ができぬよう、バラバラに分解してくれる!!!」

 

キャロルの指示によってアルカ・ノイズは分解器官を伸ばし、大悟を分解しようとする。

 

(何やってんだ俺は・・・冴えねぇオッサン庇って死ぬとか、ダサすぎんだろ・・・)

 

これで自分は死んだと直感した大悟は姉の小豆から『かっこいい男になれ』と言われた日のことを思い出す。

 

『かっこいい男って・・・具体的には?』

 

『う~ん・・・人助けできるイケイケ男子とか?』

 

『曖昧じゃねぇかよ・・・使えねぇなぁ』

 

『何を~?実の姉に向かって使えないとは何だ!』

 

(姉貴よぉ・・・俺は・・・イケてる男になれたか・・・?)

 

大悟はこれから迫りくる死を覚悟し、目を閉じる。すると、空から突如として赤い棍が降ってきて、分解器官を伸ばしたアルカ・ノイズが頭から貫かれて赤い塵となる。いつまでたっても痛みが来ないと思い、大悟は目を開ける。そこには、降ってきた棍からシンフォギアを纏った日和が降りてきて、アルカ・ノイズを殴り、次々と消滅させた光景が映っていた。アルカ・ノイズを全滅させた日和は大悟に駆け寄る。

 

「大悟君!大丈夫?」

 

「・・・へっ、てめぇのせいでくたばりそこなったぜ」

 

大悟は悪態をはいてはいるものの、その表情はどこか安堵していた。

 

「ちっ・・・!」

 

それを見たキャロルが動こうとした時、彼女の目の前に巨大な赤い大剣が地に突き刺さった。大剣の柄の上にはシンフォギアを纏ったフォルテが腕を組んで立っていた。それだけではない。建物の上にはシンフォギア装者が勢ぞろいしていた。響が残りのアルカ・ノイズを倒している間にも、緒川の車が到着する。

 

「緒川さん!」

 

「ここは危険です!!早く!!」

 

3人は緒川の車に乗り込み、何とか安全を確保することができた。今ここに装者が全員揃い、一同はキャロルと対面する。

 

「もうやめよう!キャロルちゃん!」

 

「本懐を遂げようとしているのだ!今さらやめられるものか!思い出も・・・何もかもを焼却してでも!!」

 

世界の分解をやめようとしないキャロルはダウルダブラの弦をつま弾く。ダウルダブラは形を変え、思い出を焼却して身体を成長させたキャロルの身に纏い、ファウストローブとなる。

 

「ダウルダブラのファウストローブ・・・その輝きは、まるでシンフォギアを思わせるが・・・」

 

「ふん!輝きだけではないと、覚えてもらおうか!」

 

キャロルはそう言って歌い出した。同時に、展開された錬金術の出力がこれまで以上に跳ね上がっている。

 

~♪~

 

ブリッジだけとなったS.O.N.G本部でもダウルダブラの反応は捉えていた。だが、それだけでなく、以前にはなかった反応もキャッチされている。

 

「交戦地点でのエネルギー圧、急上昇!」

 

「照合完了!この波形パターンは・・・!!」

 

「フォニックゲイン・・・だと!!?」

 

「これは・・・キャロルの・・・」

 

そう、反応を示したエネルギーはフォニックゲイン。キャロルが歌う歌によって発せられ、彼女の錬金術が強化されたのだ。

 

~♪~

 

キャロルの歌によって強化された錬金術。さらにキャロルは背部ユニットの弦を展開し、共振効果によってさらに威力を増していく。そして、十分な力が溜まったキャロルは錬金術を装者たちに向けて放った。圧倒的な力となった錬金術を装者たちは何とか回避した。だがその威力は凄まじく、直撃でもしたらひとたまりもない。

 

「この威力・・・まるで・・・!」

 

「すっとぼけが利くものか・・・!こいつは、絶唱だ!」

 

キャロルの絶唱級の威力を持つ錬金術が翼とクリスに放たれる。2人は跳躍して錬金術を躱す。

 

「絶唱を負荷もなく口にする・・・」

 

「錬金術ってのは何でもありデスか!!?」

 

調と切歌も向かってきた錬金術を躱していく。絶唱は確かに歌うことで絶大な威力を発揮することができるが、同時に自分たちに負荷ダメージを負わせる諸刃の剣。それをキャロルは何の負荷もなく連発で繰り出してくるのだ。脅威以外の何ものでもない。

 

「だったらS2CAで!」

 

S2CAは大人数の絶唱を響が調律し、1つのハーモニーに束ねる。人と手を繋ぎ合わせる響のアームドギアだからこそ成せる業でもある。だが・・・

 

「ダメだよ響ちゃん!あの威力じゃ、響ちゃんの身体が持たないよ!」

 

日和の言うとおり、今のキャロルの錬金術の威力は絶唱1人分のものではない。それにS2CAは言うなれば大人数で放つ絶唱。装者たちの負担は全て響に集中されるのだ。その負担の量は尋常ではない。さらに万が一切り抜けたとしても、響が動けなくなってそこを狙われでもしたら勝ち目はない。

 

「でも・・・!」

 

キャロルの放つの錬金術はさらに威力が跳ね上がっていく。

 

「翼、あれを!!」

 

マリアが声を上げ、装者たちが見上げると、突如としてチフォージュ・シャトーは緑色の光が帯び始めた。

 

「明滅・・・鼓動・・・共振!!?」

 

チフォージュ・シャトーはキャロルの居城にして、キャロルの意思そのものでもある。キャロルの歌に反応して、チフォージュ・シャトーの光がさらに輝きを増す。

 

~♪~

 

本部でもチフォージュ・シャトーから発せられるエネルギーは感知している。

 

「まるで、城塞全体が音叉のように、キャロルの歌に共振・・・!エネルギーを増幅!」

 

モニターに映るチフォージュ・シャトーの光は地に向かって放たれた。放射線状に拡散したエネルギー波は地球全体に地表にそって、地球を切り刻むように収縮されようとしている。

 

「放射線状に拡散したエネルギー波は地表に沿って収斂されつつあります!」

 

エネルギー波の軌道進路を見て、弦十郎は光の正体に気付く。

 

「この軌道は・・・まさか・・・!」

 

「フォトスフィア・・・」

 

エルフナインがあの光の正体を呟いた。そこへ、戦場から避難してきた海恋が入ってきた。

 

「皆さん!私もサポートに入ります!」

 

海恋は空いていたオペレーターの席に座り、キーボードを打って装者たちのサポート行動に入った。さらにそこに洸、大悟が入ってきた。もちろんここは一般人が入れる場所ではないため、緒川が止めに入る。

 

「いけません!ここは・・・!」

 

「こっちはもう十分巻き込まれてんだ!!今回はそっちの都合が飲めると思うなよ、ボケ!!」

 

大悟は緒川を押しのけ、ブリッジに入って装者たちの戦いを見守る。

 

「頼む!俺はもう二度と、娘の頑張りから目を逸らしたくないんだ!娘の・・・響の戦いを見守らせてくれ!」

 

洸もブリッジの中に入り、装者たちの・・・響の戦いを見守ろうとする。2人の意志の強さに緒川が折れ、仕方なく入室を許可した。

 

「エネルギー波、体積地へと収束!!」

 

「屹立します!!」

 

放たれたエネルギー波はフォトスフィアの軌道線状に沿って収斂していく。海上に浮かぶ漁船、そこに乗っている何も知らない漁師たちはこのエネルギー波に驚いていたが、すぐにエネルギー波に飲み込まれていった。世界の分解が、今始まったのだ。

 

~♪~

 

世界の分解が始まり、キャロルは愉悦に浸るように笑みを浮かべた。

 

「これが世界の分解だ!」

 

「そんなことは・・・!!」

 

響はブースターを起動して、キャロルに接近して殴りかかろうとするが、それは直撃する間近で止まった。止まった原因はキャロルが張り巡らせた弦だ。弦は響の身体に巻き付き、動きを止めたのだ。

 

「ふん、お前にアームドギアがあれば、届いたかもな!」

 

キャロルは笑みを浮かべて響を煽る。するとフォルテとマリアは突然飛び出していった。

 

「フォルテ!マリア!どこへ⁉」

 

「僕たちはあの巨大装置を止めに行く!!」

 

フォルテとマリアはビルの屋上に着地し、チフォージュ・シャトーに向かって走り出す。すると、非常Σ式・禁月輪の丸鋸を展開して走行する調と、それに同乗する切歌も追いかける。2人がマリアとフォルテの間を通ると、調は左手でマリアの右手を、切歌が右手でフォルテの左手を掴んだ。

 

「LiNKER頼りの私たちだけど・・・」

 

「その絆は、時限式じゃないのデス!」

 

頼りになる2人がついてきてくれることに、マリアとフォルテは心強さを感じ、笑みを浮かべる。そして2人は調の非常Σ式・禁月輪に同乗し、別のビルに飛び移ってチフォージュ・シャトーへと向かっていく。もちろんキャロルはそれを見ていたが、止めようとしない。止められるはずがないと思っているからだ。キャロルは弦の糸を利用して響を吹き飛ばす。

 

「あああ!!」

 

「それでもシャトーの守りは越えられまい。俺を止めるなど能わない!」

 

キャロルの背後を取った翼は刀で彼女に斬りかかるが、キャロルは容易く躱し、逆に翼の背後を取る。そうはさせまいと後ろからクリスがガトリング砲を撃ち放ち、高く跳躍した日和はキャロルに目掛けて棍を振り下ろして打撃を与えようとする。だが2人の攻撃はキャロルが放つ錬金術によって消し飛ばされ、日和とクリスはまともに錬金術をくらってしまう。

 

「「うわあああああ!!!」」

 

側面から響と翼がキャロルに攻撃を仕掛けようとするも、キャロルはダウルダブラの弦を自分の周りに張り、2人を弾き飛ばすように吹き飛ばした。

 

「世界を壊す、歌がある!!」

 

キャロルは4人の装者たちを見下ろして、叫んだ。

 

~♪~

 

チフォージュ・シャトーに到着したフォルテ、マリア、調、切歌の前にシャトーの防御機能として複数のアルカ・ノイズが出現する。4人は立ちふさがるアルカ・ノイズを蹴散らし、シャトー内部へと侵入した。S.O.N.G本部のモニターでその姿が確認できた。

 

「チフォージュ・シャトー、侵入を確認!」

 

「響ちゃんたちのバイタル、大幅に低下!!」

 

別のモニターでは響たちが息を吐きながら必死に痛みを堪えて、キャロルに立ち向かおうとしている。

 

「二度と目を・・・逸らすものか・・・!」

 

洸はもう目を逸らし、逃げ出そうとしないという思いから、響たちの戦いを見守るのであった。

 

~♪~

 

シャトーの内部に侵入した4人は床に這いつくばって倒されていた。キャロルの絶対的な自信の通り、シャトーの守りは非常に強力なのだろう。だが4人を倒したのはアルカ・ノイズではない。4人を倒したそれは身に纏っていた車椅子を変形させ、その姿を4人に見せる。

 

「マム・・・」

 

その人物とは、フロンティア事変で亡くなったはずのナスターシャであった。




大悟の祖父と祖母

両親からの虐待を受けた大悟は家から出ていき、祖父と祖母の家で暮らしている。2人は当時の大悟の姿を見て、何も言わずに大悟を住まわせ、変わり果てた大悟の両親から守ることに決めたそうだ。
大悟を正しい人間になってもらおうと厳しく接するのが祖父、ありのままの大悟を受け入れ、見守っているのが祖母である。
日和とは何度も会ったことがあるが、小豆の死亡以来、一度も会っていない。だいたいの事情は大悟から聞いて知っているが、2人は日和が小豆を殺したと思ったことは1度もない。大悟本人の前では絶対に言わないが、日和が今どうしているのか、元気で暮らしているのかと何かと気にかけている様子だ。


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罪を乗り越えて

チフォージュ・シャトー内部で亡くなったはずのナスターシャが自分たちの目の前に現れたこの事象に、フォルテ、マリア、調、切歌の4人は床に倒れながらも驚愕している。ナスターシャは車椅子を操作して、4人に近づき、口を開く。

 

「思い出しなさい、血に汚れたあなたの手を。どうしてその手で、世界を救えるなんて、夢想できますか」

 

ナスターシャの言葉にマリアは狼狽えながらも口を開く。

 

「それでも・・・私は・・・」

 

「そう・・・あなたが世界を救いたいと願うのは、自分が救われたいがため・・・」

 

「あ・・・」

 

ナスターシャはマリアの言葉を遮ってそう言った。狼狽えているマリアに調と切歌が呼び掛ける。

 

「マリア!あれはマムじゃないデス!!」

 

「私たちはマムが今どこで眠っているのか知っている!!きっとこの城塞の・・・」

 

「そんなのわかってる!あれは偽りのマム・・・だけど、語った言葉は真実だわ!」

 

目の前にいるナスターシャが偽物であるということはマリア自身もわかっている。だが、これがシャトーが見せる幻影だとしても、ナスターシャに突き付けられた言葉は真実であるため、マリアは動揺している。

 

「救われたいのですね・・・眩しすぎる銀の輝きからも・・・」

 

「っ!?」

 

「マリア、惑わされるな!!君の生まれたままの感情を思い出すんだ!!」

 

動揺するマリアを引き戻そうとフォルテが声を上げて呼び掛けた。すると突然、装者たちとナスターシャの間に障壁が現れた。これに乗じ、調はマリアの手を取り、フォルテと切歌と共に彼女を連れ、この場を離れる。

 

「切ちゃん、フォルテ、マリア、行こう!」

 

「どうなってるデスか⁉」

 

「わからん。だが、今はこうするしかない」

 

「とってもとっても・・・罠っぽいデスよ!」

 

「例え罠だとしても、進むんだ!」

 

これが罠だとしても、4人はチフォージュ・シャトーを止めるために先に進む以外道はない。

 

~♪~

 

チフォージュ・シャトーから放たれた光は地表を添って、世界のありとあらゆるものの分解を始めている。この現象はS.O.N.G本部のブリッジのモニターで確認できる。

 

「世界の分解現象、依然拡大中!!」

 

「まもなく都市部へ到達します!!」

 

「くっ・・・!」

 

世界分解の前に自分たちはただ見守ることしかできない弦十郎は歯がゆさを感じている。

 

「これが・・・計画の最終段階・・・」

 

エルフナインは立ち上がるも、腹部の怪我のせいでふらつき、倒れそうになる。そこへ大悟がエルフナインを支える。

 

「てめぇ、何考えてやがる!!そんな大怪我してんのに居座ってんじゃねぇ!!」

 

エルフナインを思って大悟は彼女を叱る。

 

「・・・キャロルを止めるのはボクの戦い・・・見届けなくちゃならないんです・・・」

 

エルフナインはこの戦いを見届けるために頑なにここに残ろうとする意志を見せた。大悟はこのままメディカルルームに連れて行こうと考えていたが、エルフナインの意思を汲み取り、それをやめ、共に見届けることにした。

 

~♪~

 

シャトーの外でキャロルと戦う響、日和、翼、クリスの4人。だが彼女の力は発電所で戦った時と違い、フォニックゲインも力に変えているため、錬金術の威力は絶大であり、実力も以前のものとは比べ物にならない。

 

「なんで、錬金術師が歌っていやがる・・・!」

 

クリスの悪態にキャロルがそれに答えるように口を開く。

 

「七つの惑星と七つの音階、錬金術の深奥たる宇宙の調和は、音楽の調和。ハーモニーより通ずる絶対心理・・・」

 

「どういうことだ⁉」

 

「音楽の調和・・・もしかして・・・成り立ちが同じってこと・・・?」

 

翼の問いかけに日和が音楽の調和を基準に考え、シンフォギアと錬金術は同じ成り立ちなのではと推測する。

 

「そうだと言っている。おかしなことではあるまい」

 

どうやら日和の推測は当たりだったようで、キャロルは続きを話す。

 

「先史文明期、バラルの呪詛が引き起こした相互理解の不全を克服するため、人類は新たな手段を探し求めたという。万象を知ることで通じ、世界と調和するのが錬金術ならば、言葉を超えて、世界と繋がろうと試みたのが・・・」

 

「歌・・・」

 

世界と繋がるものの答えを響が答えた。

 

「錬金術も歌も、失われた統一言語を取り戻すために創造されたのだ!」

 

「「「「まさか!!」」」」

 

「その起源は明らかにされてないが・・・お前たちなら推察するのも容易かろう?」

 

先史文明期、バラルの呪詛、相互理解の不全、統一言語・・・これら全てと関りがある人物とは、先史文明期の巫女であり、かつては過去の亡霊であった存在、フィーネ以外にいなかった。

 

~♪~

 

一方、チフォージュ・シャトー内部では障壁に誘導される形で先へ進んでいくフォルテ、マリア、調、切歌の4人。これが罠であるならば、今仕掛けてきてもおかしくないのだが、未だ罠らしいものは見当たらなかった。

 

「罠ならそろそろ仕掛けてきてもいい頃合いなのデスが・・・」

 

「待て。誰かいる」

 

奥に誰かいるとフォルテが真っ先に気付き、3人にストップをかけた。目をよく凝らしてみると、ある人物が傷を負い、壁に横たわっていた。4人はその人物をよく知っている。

 

「まさか、君にまた会うとは思わなかったぞ・・・」

 

「罠以下の罠・・・!」

 

「もしかして、あたしたちを誘導していたのは・・・」

 

「ドクター・・・ウェル・・・!」

 

そう、その人物とは英雄になることを夢見ている最低最悪のマッドサイエンティスト、ジョン・ウェイソン・ウェルキンゲトリクス・・・通称ウェルであった。4人をここまで誘導していたのは他ならない、このウェルであったのだ。

 

「ご覧のありさまでね・・・血が足りず、シャトーの機能を完全掌握する事もままならないから難儀したよ・・・。さて、戦場で僕と取引だよ!!」

 

ウェルは不遜な態度を変えずに、4人に取引を持ち掛けてきた。普通なら突っぱねるところだが・・・本当に偶然なことに、4人とウェルの利害は見事に一致していた。

 

~♪~

 

切歌に担がれているウェルの案内によって4人が移動した場所とは、チフォージュ・シャトーの制御装置が置いてある玉座の間であった。

 

「これがチフォージュ・シャトーの制御装置・・・これを破壊すれば・・・」

 

「待て、むやみに破壊するな。何のためにドクターを連れてきたと思ってる」

 

「さすがはフォルテ・・・理解が早い・・・。それに比べて・・・君のおつむのプロセッサは何世代前なんだい?壊しでもしたら制御不能になるだけだろう?」

 

マリアが制御装置を破壊しようと考えたところをフォルテが止める。それによってウェルは腹部の傷を抑えながらフォルテを称賛しつつ、マリアを煽っていく。

 

「フォルテ、私たちは何をすれば・・・」

 

調が自分たちはどうしたらいいのかと尋ねようとした時、玉座の間に錬金陣が現れ、そこからアルカ・ノイズが現れた。おそらく、制御装置を守るために配置されているのだろう。

 

「君たちがむずがる間にも、世界の分解が進んでることを忘れるなよぉ!!!」

 

ウェルはそう言って制御装置に向かって走り出した。

 

~♪~

 

外で装者4人がキャロルに攻撃しても、彼女の錬金術の前ではまるで歯が立たなかった。こうしている間にも、世界の分解がどんどん進んでいっている。

 

「歌・・・歌が世界を壊すなんて・・・」

 

「東京の中心とは、張り巡らされたレイラインの終着点。逆に考えれば、ここを起点に全世界へと歌を伝播させられるという道理だ」

 

「そのために安全弁である要石の破壊を!」

 

霊脈を守るためにあった柱、及び要石はもうない。ならばこの世界の分解を止めるには、シャトーを破壊するか、世界を壊す歌を歌うキャロルを倒すしか方法がない。だが、今キャロルと戦っている4人との戦闘能力の差は明らかであり、内部に侵入したフォルテたちではシャトーを破壊する力は持たない。

 

「どうしよう・・・このままじゃ世界が・・・!」

 

「もうどうしようもないのか・・・⁉」

 

もはや万策尽きた・・・そう思われた時・・・

 

『ないことなどない!!』

 

通信越しでマリアが4人に発破の声を上げた。

 

~♪~

 

チフォージュ・シャトーの玉座の間に現れたアルカ・ノイズは装者たちとウェルに襲い掛かろうとしている。マリアは短剣の蛇腹状の刃を伸ばしてアルカ・ノイズを斬り裂いていき、フォルテは大剣を振るってアルカ・ノイズを斬り倒し、さらに側面のアルカ・ノイズを裏拳で殴り、消滅させる。

 

「たとえ万策尽きたとしても、一万と一つ目の手立てはきっとある!」

 

「ゆえに戦え!!戦わなければ、守るものも守れない!!」

 

2人が外でキャロルと戦う装者たちにそう呼び掛ける。その間にも、調は丸鋸を放ってアルカ・ノイズを切り刻み、切歌は鎌を振るってアルカ・ノイズを刈り取っていく。そして、残るウェルはシャトーの制御装置にネフィリムの腕を当てて、シャトーの制御権を奪おうとしている。

 

「私たちが食い止めているうちに!!」

 

「ちゃっちゃと済ませるデス!!」

 

「血が足りないから踏ん張れないって言っただろう!!子供はいつも勝手を言う!!」

 

調と切歌の指示にウェルは文句を言い放っている。そんな時、錬金術を介したモニターが現れ、そこにキャロルが映る。

 

『生きていたのか、ドクターウェル!何をしている⁉』

 

「シャトーのプログラムを書き換えているのさ。錬金術の工程は分解と解析、そして・・・」

 

『ちっ・・・!機能を反転し、分解した世界を再構築するつもりなのか⁉バカな!そんな運用にシャトーの構造が耐えられるものか!お前たちごと丸ごと飲み込んで・・・』

 

「そう!爆散する!」

 

アルカ・ノイズと戦っている4人はウェルの言葉に驚いている。自分たちはともかく、ウェルが自分の命を賭けようとしていることに。だがウェル自身はわかっている。もう自分の命はそこまで長くないことを。ならば、キャロルの計画を阻止して、彼女に一矢報いたい。それがウェルの考えていることだ。彼女に対し仕返しができることにウェルは下卑た笑みを浮かべている。

 

「どっちにしても分解は阻止できる!はんっ!本当、嫌がらせってのは最高だ!!」

 

「ドクターウェル・・・」

 

「君は・・・」

 

アルカ・ノイズを倒し終えたマリアとフォルテが意外そうにウェルに視線を向けている。すると、調と切歌が何者かに吹っ飛ばされた。

 

「「マム・・・」」

 

2人を吹っ飛ばした人物とはナスターシャの幻影であった。

 

~♪~

 

ウェルが生きていた。そのことについては想定外なのだが、キャロルが問題としているのはそんなことではない。ウェルがシャトーの機能を書き換えて分解から再構築に変更しようとしていることだ。世界の分解は彼女の目的・・・その逆のことをすれば、彼女が黙っているはずがない。

 

「世界の分解は止まらない・・・些事で止めさせてなるものか!」

 

「止めてみせる!エルフナインちゃんの想いで!」

 

響はギアコンバーターに触れ、イグナイトモジュールを使おうとする。だがそれは3人が反対する。

 

「よせ!」

 

「イグナイトがキャロルちゃんの計画の1つなら、制限時間だって知ってるはずだよ!」

 

「イグナイトモジュールの起動は、キャロルに利される恐れがある!」

 

「え?」

 

イグナイトの使用の制限時間は999秒。それが0になれば、如何なる状況下でもギアは強制解除される。イグナイトを計画に用いるキャロルのことだ。そこに付け入ろうとするかもしれない。そうなれば4人に勝ち目はない。翼から計画の全容を聞いていた日和とクリスはともかく、当然響はそのことを知らないため、疑問符を浮かべていた。その間にもキャロルはダウルダブラの弦を地に突き刺し、辺りに張り巡らせて4人を吹き飛ばす。

 

「「「「うあああああああ!!!」」」」

 

キャロルは背部ユニットをさらに展開し、弦を通して錬金術のエネルギーを溜める。

 

「極太のとどめを・・・ぶっ刺してやる!!!」

 

力が溜まった錬金術のエネルギーをキャロルは4人に向けて放った。放たれた錬金術の凄まじい威力に4人はさらに吹っ飛ばされる。

 

~♪~

 

シャトーの内部、再び相まみえたナスターシャの幻影。だがマリアはもう狼狽えたりしていない。

 

「お前がマムであるものか!!」

 

「汚らわしい偽物め・・・僕たちの視界から消え失せろ!!」

 

マリアとフォルテががナスターシャの幻影にそう啖呵を切ると、ナスターシャの幻影は黒い何かに覆われる。覆われていたものが晴れると、ナスターシャの幻影は別の人物に変わっていた。それは、黒いガングニールを身に纏ったマリアだった。突然の変化に驚く2人にマリアの幻影は槍の矛先を展開し、エネルギー波をマリアに放った。放たれたエネルギー波をフォルテはマリアの前に出て、大剣で防ぐ。だが、その威力の前に受け止めきれず、フォルテはマリアと共に吹っ飛ばされる。

 

「「うあああああ!!」」

 

マリアの幻影は槍の矛先を地に突き刺し、機械質な声で口を開く。

 

「私はフィーネ。そう・・・終わりの名を持つ者」

 

マリアは目の前の存在がなんであるのかを悟った。

 

「そうか・・・お前は私・・・過ちのまま行き着いた・・・私たちの成れの果て・・・」

 

「だけど・・・黒歴史は塗り替えてなんぼデス!」

 

「シャトーが爆発する前に、この罪を乗り越えて脱出しよう!」

 

「ああ・・・君も僕たちの罪の象徴ならば・・・それを受け入れ、越えていくのみ!」

 

幻影が自分たちが越えるべきものならば、4人は立ち上がり、並び立って構え、共に歌う。まず調がツインテール部位のアームに丸鋸を展開し、それを振るう。マリアの幻影はそれを槍で受け止め、後ずさるも調を押し返す。そこへ跳躍した切歌が鎌を振り下ろす。マリアの幻影が鎌の一撃を躱したところでマリアとフォルテが追撃する。マリアの短剣の一撃とフォルテの大剣の一撃をマリアの幻影はマントで防御しつつ、攻撃を仕掛ける。2人はマントの攻撃を躱す。そこに、フォルテの元にエルフナインからの通信が届く。

 

『フォルテさん、通信機をウェル博士の預けてもらえますか⁉』

 

「何?」

 

『自分らしく、戦います!』

 

通信越しで伝わるエルフナインの意思を汲み取り、フォルテは自身の通信端末を取り出す。

 

「ドクター!」

 

そしてそれをウェルに投げ渡す。ウェルは組み換え作業を続けながらフォルテの通信端末を受け取る。

 

『この端末をシャトーに繋いでください!海恋さんと一緒にサポートします!』

 

「胸が躍る・・・!だけどできるのかぁい?」

 

楽し気に笑うウェルはエルフナインの指示に従い、通信端末を制御装置に設置した。

 

~♪~

 

ウェルが通信端末を制御端末に設置したと同時に、ブリッジのモニターに、フォトスフィアの図が表示される。

 

「そうか!フォトスフィアで!」

 

「レイラインのモデルデータを処理すればここからでも!」

 

「藤尭ぁ!」

 

「ナスターシャ教授の忘れ形見・・・使われるばかりじゃ癪ですからね!やり返してみせますよ!」

 

「演算をこちらで肩代わりして負荷を抑えます!掌握しているシャトーの機能を再構築に全て当ててください!」

 

海恋やエルフナイン、藤尭はコンソールを打って、シャトーの書き換え作業を遠距離でサポートをする。

 

~♪~

 

マリアの幻影は槍の矛先をマリアに向け、エネルギー砲を撃ち放った。マリアは3つの短剣を投擲して逆三角形の障壁を作り上げて防御する。ぶつかり合った障壁とエネルギー砲は相殺される。

 

「(私が重ねた罪は・・・私1人で!)

3人とも!ここは私に任せて、みんなの加勢を・・・!」

 

マリアが3人に視線を向けた時、マリアの幻影は彼女に向けて槍を投擲した。マリアがそれに気づいたが、防御が間に合わない。しかし、マリアは1人ではない。間一髪で直撃するところを、調の丸鋸と切歌の鎌で凌いだ。そして、フォルテがマリアの幻影に接近し、大剣を振るう。マリアの幻影は大剣の一撃をマントで防ぎ、同時に攻撃を仕掛けた。フォルテはすぐに大剣を分離して双剣に変え、その攻撃を防いだ。

 

「この罪は、君1人だけのものではない!」

 

「だからこの罪を乗り越えるのは・・・!」

 

「4人一緒じゃなきゃダメなのデス!」

 

「ありがとう・・・3人とも・・・」

 

マリアは3人が共に来てくれることに心強さを感じる。短剣を強く握りしめ、視線をウェルに向ける。

 

「ドクター!私たちが命に代えても守ってみせる!だから・・・ドクターは世界を!」

 

フロンティア事変で世界を窮地に追いやったウェル。それが皮肉にも、世界の全てがこの男にかかっている。ならばマリアたちは世界を守るために、ウェルに全てを託した。世界の命運を託されたウェルは口角を上げて笑う。同時に、シャトー内部の歯車が回り始めた。

 

~♪~

 

シャトーの変化は外でも起きていた。機能が分解から再構築に書き換えられていることにより、シャトーのエネルギーが逆流を起こし、シャトーの周りに稲光が走る。

 

「やめろ・・・オレの邪魔をするのはやめろ・・・!やめろおおおおおお!!!」

 

シャトーの異変に気付いたキャロルは初めて狼狽え、シャトーに向かって飛び立った。立ち上がろうとする装者たち4人に、マリアたちが通信越しで語り始める。

 

『翼と立つステージは楽しかった・・・。次があるならその時は、朝まであなたと歌い明かしてみたいわね・・・』

 

「マリア・・・何を・・・!!?」

 

『世界は広く、美しく、暖かい・・・東雲に生かされなければ、それを知ることはなかっただろう。君には深く感謝している』

 

「そんな・・・知らないことはまだたくさんあるんですよ⁉」

 

『命懸けで戦った相手と絆を深めて、仲良くできるクリス先輩はすごいなって・・・!憧れてたデスよ!』

 

「お前だってできる!できてる!!」

 

『ごめんなさい・・・!あの日、何も知らずに『偽善』と言ったこと・・・本当は直接謝らないといけないのに!』

 

「そんなの気にしてない!だから・・・!!」

 

まるで最後の遺言のように語るマリアたちに響たちは声を上げた。エネルギーが逆流し、暴走するにつれてシャトーに光が漏れ始める。

 

「お願いやめて!!これ以上私とパパの邪魔をしないで!!!」

 

シャトーの爆発寸前の前に、キャロルは思わず幼き少女のような声で懇願している。

 

~♪~

 

ブリッジで世界再構築の演算を続けるエルフナインの頬は脂汗が流れ、腹部の血も床に落ちている。彼女自身の限界が近づいてきているのだ。

 

「エルフナイン・・・これ以上はあなたの命が・・・」

 

「ボクは・・・ボクの錬金術で世界を守る・・・!キャロルに世界を壊させない・・・!!」

 

海恋がエルフナインに声をかけるが、エルフナインは構わず、演算に心血を注ぐ。例えこれで自分の命が失われようとも。

 

~♪~

 

マリアの幻影の戦いも終わりに迫った。調と切歌が自身のアームドギアを振るい、マリアの幻影の槍を弾いた。マリアは左手のガントレットに短剣を連結させ、刀身を長くさせる。フォルテは大剣を構え、地獄の業火の炎を刀身に纏わせる。2人が同時にマリアの幻影に斬りかかろうと跳躍する。するとマリアの幻影はマントを纏い、別の人物に姿を変えた。その人物とは、マリアの最愛の妹であり、フォルテの弟子にして親友・・・今は亡き、セレナ・カデンツァヴナ・イヴだ。だが、セレナを前にしても、2人に迷いは一切ない。

 

「「セレナあああああああああ!!!!」」

 

マリアとフォルテはセレナの名を口にしながら、光の一撃と魔の一撃を彼女の幻影に放った。

 

【Pride Of SERE†NADE】

 

聖剣の斬撃と魔剣の斬撃が交差し、十字架を作り上げてセレナの幻影を切り裂いた。

 

~♪~

 

シャトーの光がより一層と輝きを増していき、間もなく爆発を引き起こそうとしていた。

 

やめろおおおおおおおおおおおおおお!!!!!!!

 

キャロルは大きな叫び声をあげ、火、水、風、地、雷、氷の6つの錬金陣を展開し、1つに合わさった強大な錬金術のエネルギーをシャトーに向けて撃ち放った。キャロルの錬金術に貫かれたシャトーは・・・

 

ドガアアアアアアアアアアアン!!!!!!

 

大爆発を引き起こし、硝煙が大きく立ち込める。自ら攻撃を撃ち放ったキャロルは呆然と、シャトーが落ちていく様を見ていることしかできなかった。




ミスティルテインとアガートラームの連携技

【Pride Of SERE†NADE】
フォルテの技、Lucifer Of Prideとマリアの技、SERE†NADEが合わさった連携技。マリアのSERE†NADEによる斬撃とフォルテのLucifer Of Prideの斬撃が交差し、標的を十字架に切り裂いていく。聖と魔が合わさった表裏一体の一撃ともいえる。


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GX

いよいよラストスパートということで、次の投稿は2話投稿しようと思っております。


チフォージュ・シャトーが放った分解の光は、機能が再構築に書き換えられたことにより、今まで分解された建物や地形、人々、全てのものが再構築されていき、元に戻っていく。それはS.O.N.G本部のブリッジのモニターで確認されている。

 

「分解領域の修復を観測!」

 

「ですが・・・マリアさんたちが・・・」

 

しかし、その代償はとても大きかった。マリアたちはまだシャトーの中にいた。脱出したという報告もない。こうなってしまっては、生存の可能性は著しく低い。

 

「くっ・・・!俺たちは・・・代価なしでは明日を繋ぎ留められないのか・・・!」

 

マリアたちの犠牲で成り立ったこの結果に、弦十郎は悔しそうに顔をしかめている。

 

~♪~

 

シャトーはキャロルの強大な錬金術によって撃ち抜かれて、破壊された。外壁はまだ形を保ってはいるが、大きな爆発によってその機能は全て失われたのは間違いない。その証拠としてシャトーは落ちていき、真上にあったツインタワービルに衝突した。

 

「あ・・・あぁ・・・シャトーが・・・託された命題が・・・」

 

父から託された命題を解き明かす手段が失われたキャロルは絶望し、呆然とシャトーが落ちていく様を見ていた。

 

「みんな・・・」

 

「嘘だ・・・こんなの嘘だ・・・」

 

「なんでだ!!クソッタレ!!」

 

一方装者たちも、マリアたちが爆発に巻き込まれ、犠牲になったと思い、悲しみに暮れている。

 

「うあああああああ!!」

 

翼は慟哭を上げて刀を地に突き刺す。そして、キャロルに向けて投降の勧告をする。

 

「投降の勧告だ!貴様が描いた未来は、もう瓦礫と果てて崩れ落ちた!!」

 

「・・・未来・・・?」

 

『もう・・・やめよう・・・?』

 

キャロルがシャトーを見上げ、呆然としていると、エルフナインが通信越しで彼女に呼び掛ける。

 

~♪~

 

エルフナインは弱った身体を海恋に支えてもらいながら、キャロルの説得を試みている。

 

「お願い、キャロル・・・。こんなこと、ボクたちのパパはきっと望んでいない・・・。火あぶりにされながら・・・世界を知れと言ったのは・・・ボクたちにこんなことをさせるためじゃない・・・!」

 

『そんなのわかってる!!!だけど、殺されたパパの無念はどう晴らせばいい!!?パパを殺された私たちの悲しみは、どう晴らせばいいんだ!!?パパは命題を出しただけで、その答えは教えてくれなかったじゃないか!!!!』

 

「それは・・・」

 

キャロルの悲痛な言葉にエルフナインは言葉を詰まらせている。そこに、大悟と洸が口を開いた。

 

「なぁ、知ってっか?人間はさぁ、死に間際に自分の正直な本音を言うことがあるってよ。死んだ俺の姉貴もそうだったらしいぜ」

 

「君たちのお父さんは、何か大事な事を伝えたかったんじゃないか?命懸けの瞬間に出るのは、1番伝えたい言葉だと思うんだが・・・」

 

「だな。その当時のことを思い出してみろよ」

 

2人とイザークとの年代はかけ離れすぎている。ゆえに会ったこともなければ、会う機会など存在しない。だが、洸は娘を持つ父親同士・・・大悟は大切な姉を失ったからこそ、イザークの心中を察することができる。

 

「錬金術師であるパパが、1番伝えたかったこと・・・」

 

エルフナインが呟くと、ブリッジにキャロルの幻影が現れる。全員は彼女の幻影に視線を向ける。

 

『ならば真理以外ありえない』

 

「錬金術の到達点は・・・万象を知ることで通じ・・・世界と調和する・・・こと・・・」

 

『っ⁉調和だと⁉パパを拒絶した世界を受け入れろというのか⁉言ってない!!パパがそんなこと言うものか!!!』

 

「だったら代わりに解答する・・・」

 

駄々をこねる子供のように調和を受け入れようとしないキャロルに、エルフナインが弱々しくも、イザークが出した命題の答えを口にする。

 

「命題の答えは・・・『許し』」

 

『⁉』

 

「世界の仕打ちを許せと・・・パパはボクたちに伝えていたんだ・・・」

 

ここまで話しきると、エルフナインの身体がとうとう限界を迎え、血を吐いてしまう。

 

「ゴホッ!!」

 

「君!!」

 

「エルフナイン!!」

 

「おい、大丈夫か!!」

 

エルフナインの身体の具合を心配する3人。それと同時に、キャロルの幻影は消えていた。

 

~♪~

 

キャロルは自ら攻撃し、破壊してしまったシャトーを見上げ、絶望の涙を流す。

 

「・・・チフォージュ・シャトーは大破し、万象黙示録の完成という未来は潰えた・・・」

 

そして、キャロルは目を見開き、叫んで宣言をする。

 

「ならば!今を蹂躙してくれる!!」

 

命題の答えがわかっていたとしても、父親を亡き者にしたこの世界をキャロルは許しはしなかった。ゆえに、この世界の何もかもを、破壊しようとしている。キャロルは響たちに振り向き、敵意を向けている。今の彼女には強大な力が蓄えられている。そう・・・思い出の焼却だ。

 

~♪~

 

キャロルが思い出を焼却して、さらに強大な力を得ていることをエルフナインにはわかっていた。

 

「ダメだよ!!そんなことしたらパパとの思い出も燃え尽きてしまう!!」

 

エルフナインの悲痛な訴えにも、キャロルに耳には一切届かない。

 

「これは・・・思い出の焼却⁉」

 

「ありったけの思い出を焼却し、戦う力へと練成しようというのか!!?」

 

モニターに映るキャロルを見て、海恋と弦十郎はそう推察し、驚愕の声を上げている。

 

~♪~

 

自分の思い出を焼却していくことによって、キャロルの力はどんどん増していく。

 

「おおおおお・・・!!」

 

「キャロルちゃん!!何を!!?」

 

「復讐だ!!!」

 

キャロルはダウルダブラの弦を張り巡らせ、装者たちを吹き飛ばす。思い出の焼却で蓄えた力によって、その威力は増している。

 

「「「「うわああああああ!!!」」」」

 

吹き飛ばされた3人は地に倒れ伏し、響は壁に背中から激突する。

 

「もはや復讐しかありえない・・・!」

 

憎悪の炎を爆発させているキャロルの攻撃をくらった装者たちは痛みを堪え、立ち上がる。

 

「復讐の炎は・・・・全ての思い出を燃やすまで、消えないのか!!?」

 

「そんなことしても・・・残るのは虚しさと罪悪感だけだよ・・・!」

 

「エルフナインは・・・復讐なんて望んじゃいねぇ・・・!」

 

「うん・・・エルフナインちゃんの望みは・・・!」

 

響はギアコンバーターに触れる。イグナイトモジュールを使うつもりだ。

 

「イグナイトって、本気か!!?」

 

「うん」

 

クリスの問いかけに響は迷わず頷いた。イグナイトはキャロルの計画の1つだったもの。イグナイトの強さも、その弱点ももちろん知っている。そして装者たちのダメージが大きい。使ったところで勝算があるとも限らない。言うなれば、これは悪い賭けなのだ。

 

「なんかめちゃくちゃ分が悪い賭けになりそうだね・・・」

 

「だが嫌ではない。この状況ではなおのこと」

 

しかし、今キャロルを止めることができるのは響たちだけ。ならば一縷の望みだとしても、3人はその悪い賭けに乗った。

 

「この力はエルフナインちゃんがくれた力だ。だから疑うものか!イグナイトモジュール・・・」

 

「「「「ダブル抜剣!!!」」」」

 

4人はギアコンバーターのスイッチを2回押した。ギアコンバーターから『ダインスレイフ』という音声が2回重なって鳴り、それぞれのギアコンバーターは使用者の胸を刺し貫いた。4人は漆黒の闇を身に纏い、闇はシンフォギアの形に変わった。だが、これはただのイグナイトではない。4人の装者の身には白の燐光も纏っている。

 

イグナイトモジュールには三段階のセーフティ機能が存在している。これまで使ってきた第一段階が『フェイズ・ニグレド』。そして今回、ダブル抜剣によるイグナイト使用が第二段階、『フェイズ・アルベド』。出力も第一段階より上回っているが、それと同時に、カウントダウンが加速し、稼働時間が短くなる。イグナイトは諸刃の剣ではあるが、そのメリットとリスクがさらに跳ね上がっているのだ。

 

まずは響が1番槍としてキャロルに突撃し、殴りかかる。しかし、響の拳はキャロルが張った障壁の前に防がれ、軽くいなされる。そこからクリスがガトリング砲を撃ち放っていくが、これはダウルダブラの弦を使用して、全弾を防がれる。キャロルの背後を取った翼が刀で斬りかかるが、キャロルは防御壁を張って防御し、彼女を吹き飛ばす。そこへ日和が巨大なドリルの形に変形させた棍を蹴り上げ、回転しながらキャロルに向かって降下してきた。

 

【天元突破】

 

キャロルは慌てることなく、弦を張って巨大なドリルの棍を止め、力を込めることで粉々に砕いた。宙を舞う日和は右手首のユニットから新たな棍を取り出し、響、翼と共に一気に叩き込もうとする。

 

~♪~

 

本部のモニターにはイグナイトモジュールのカウントダウンが表示されている。カウントダウンは999秒だが、やはりカウントが加速しており、数字の減りが早い。

 

「イグナイトモジュールの3つあるセーフティのうち2つを連続して解除!」

 

「フェイズ・ニグレドから、アルベドへとシフト!」

 

「出力に伴って跳ね上がるリスク・・・」

 

弦十郎や緒川、オペレーターたちは緊迫した状況下の中で装者たちの戦いを見守る。

 

「エルフナイン、しっかり・・・!」

 

海恋たちは身体の限界が来て倒れているエルフナインを支えている。エルフナインの身体の状態を見る限り、もう応急処置ではどうしようもないのが見てわかる。

 

~♪~

 

右側の響の拳の乱打、左側の翼の複数の剣による斬撃、背後の日和のヌンチャクによる連撃、そしてクリスのガトリング砲の一斉射撃。4方面から攻撃しているが、キャロルは4つの防御壁を張って全て凌いでいる。

 

「ふん・・・力押し・・・実にらしいしかわいらしい・・・が!」

 

キャロルは腕を振るって4方向の攻撃を全て吹き飛ばした。突っ込んでいた響と日和も吹き飛ばされるが、響は翼が、日和はクリスが受け止めたことで遠くへ吹き飛ばされずには澄んだ。

 

「イグナイトの二段回励起だぞ!!?」

 

「それでも届いてないなんて・・・!」

 

「ふん、次はこちらで唄うぞ」

 

キャロルが歌い出すと同時に、彼女の背後に錬金陣が展開される。強大な力を溜め込んでいくため、エネルギーの風圧が伝わり、これだけで辺りが吹き飛ばされそうになる。

 

「さらに出力を・・・!!?」

 

「一体どれだけのフォニックゲインなんだよ!!?」

 

「でも、こっちもやられっぱなしじゃない!!」

 

「待っていたのはこの瞬間!!」

 

4人はこれからキャロルが繰り出される錬金術に対抗すべく、再びギアコンバーターに触れる。

 

「抜剣、オールセーフティ!」

 

「「「「リリィィーース!!!!」」」」

 

4人はギアコンバーターのスイッチを押し、イグナイトの最終段階である『フェイズ・ルベド』を起動させる。

 

『最終フェイズ、ルべドへとシフト!!』

 

ルベドに移行したことにより、イグナイトのカウントダウンがさらに加速し、ブリッジのカウントモニターも赤くなり、乱れている。

 

「「「「おおおおおおお!!!」」」」

 

だがその分出力も大幅に上昇した。これによって放たれたキャロルの強大な錬金術を受け止め、均衡しあっている。

 

「イグナイトの出力でねじ伏せて!!」

 

「吹き荒れるこのフォニックゲインを束ねて撃ち放つ!!」

 

「これが私たちの、全力全開!!!」

 

「S2CAスクエアバーストおおおおおおお!!!!」

 

イグナイトの全てのセーフティを解除し、そのうえでの4つの絶唱、S2CAスクエアバーストとキャロルの錬金術がぶつかり合う。しかし、キャロルの錬金術は4人分の絶唱を軽く上回っているため、4人は踏ん張るだけで精いっぱいだ。

 

「このままじゃ暴発する・・・!!」

 

「イグナイトの最大出力は知っている!だからこそそのまま捨て置いたのがわからなかったのか!!?オレの歌は、ただの1人で70億の絶唱を凌駕する、フォニックゲインだあああああああ!!!」

 

「「「「うあああああああ!!!!」」」」

 

70億の絶唱さえも超える錬金術の前に、4人が繰り出したS2CAスクエアバーストを打ち消しされ、4人は錬金術で吹っ飛ばされる。

 

「ははは!他愛もない・・・」

 

絶唱を越える錬金術で相当なダメージをくらった4人は立ち上がることがままならない。

 

「ぐっ・・・諦めない・・・諦めてたまるか・・・!」

 

「たとえ万策が尽きたとしても・・・1万と1つ目の手立てはきっと・・・!」

 

それでも4人は諦めずに、立ち向かおうとする。すると・・・

 

Gatrandis babel ziggurat edenal

 

Emustolronzen fine el baral zizzl……

 

突然この場に絶唱の歌が聞こえてきた。だがそれは4人ではない。歌が聞こえる方面に振り返ると、そこにはイグナイトを纏ったフォルテ、マリア、調、切歌が立っていた。

 

「フォルテさん!」

 

マリアたちが生きていたことに喜ぶ響だが、フォルテはどこか複雑そうに、シャトーの残骸に視線を向ける。

 

~♪~

 

シャトーが崩落したことによって、天井が瓦礫となって容赦なくフォルテたちに襲い掛かったのは間違いない。だが4人は瓦礫に押しつぶされることなく、無事であった。ただ1人を除いて・・・。

 

「ドクターウェル!」

 

ウェルは天井の瓦礫に押しつぶされている。マリアは彼に駆け寄り、フォルテも歩いて彼に近づく。

 

「僕が守った・・・何もかも・・・」

 

「まさか・・・君・・・」

 

そう、こうしてマリアたちが無事なのは、ウェルが自分という代償を引き換えに、彼女たちを助けたからだ。

 

「君を助けたのは・・・僕の英雄的行為を・・・世に知らしめるため・・・」

 

正直に言えば、4人はウェルのことが嫌いだ。嫌いではあるが、死んでほしいとは思っていない。特にフォルテは、彼には生きて自身の罪を償ってもらいたかったと思っていた。しかし、どのみちウェルはもう助からない。だからこそ、彼女たちは彼の言葉に耳を傾けることしかできない。

 

「さっさと行って・・・死に損なった恥を晒して来い・・・!それとも君は・・・あの時と変わらない・・・ダメな女のままなのかい・・・?」

 

もうじき命が尽きようというのに、変わらずにマリアを煽るウェルは、自身の最後の力を振り絞って、マイクロチップをマリアたちに差し出そうとしている。

 

「これは・・・?」

 

「『愛』ですよ・・・」

 

「なぜそこで愛⁉」

 

ウェルは全てを教えるつもりはないが、ヒントだけは与える。

 

「シンフォギアの適合に、奇跡などは介在しない・・・!その力、自分のものとしたいなら手を伸ばし続けるがいい・・・!」

 

フォルテはウェルからマイクロチップを受け取る。そしてそれを確認したウェルは力尽き、脱力した。

 

「ドクターウェル・・・確かに受け取ったぞ・・・」

 

「フォルテ・・・僕は・・・英雄になれたかな・・・?」

 

ウェルはその言葉を最後に、永遠の眠りについた。フォルテは英雄が掲げる栄光や栄誉が嫌いだ。それは今も変わってない。だが英雄が嫌いというわけではない。少なくとも今のウェルは・・・彼女が想像する英雄の像と、合致している。

 

「ああ・・・君は最低の・・・」

 

だからこそフォルテは、最低最悪はつくものの・・・彼が望む英雄として、彼を称賛した。それこそが、彼女にできる、彼に送る最大の敬意だ。

 

~♪~

 

装者たちが全員揃い、彼女たちは並び立ち、絶唱を唄う。

 

Gatrandis babel ziggurat edenal

 

「オレを止められるなどと・・・自惚れるなあああああああ!!!」

 

キャロルはもう1度70億を超える錬金術を装者たちに向けて放った。

 

Emustolronzen fine el zizzl……

 

絶唱を唄い終えた装者たちは、その力を解き放ち、キャロルの錬金術を受け止めた。

 

「S2CAオクタゴンバージョン!!今度こそ、ガングニールで束ね!!」

 

「アガートラームで制御、再配置する!!」

 

「そして如意金箍棒で出力を限界まで引き延ばし!!」

 

「ミスティルテインで負担、反動を全て喰らいつくす!!」

 

響、マリア、日和、フォルテのギアの最大の特性を生かし、ぶつかり合うフォニックゲインを1つに束ねていく。すると、響とマリアのガントレットが変形し、響のマフラーが虹色に輝きだし、装者たちを包み込む。

 

~♪~

 

ブリッジのモニターのカウントが素早く減り、間もなくタイムリミットが訪れようとしている。ここが勝負どころだ。

 

「最後の・・・奇跡を・・・」

 

海恋に支えられているエルフナインは弱々しくも、その手を伸ばした。

 

~♪~

 

ぶつかり合うフォニックゲインが1つに束ねていっていることに気がついたキャロルは、響たちが何を狙っているのかに気付いた。

 

「まさか・・・オレのぶっ放したフォニックゲインを使って・・・!」

 

「うおおおおおおおおお!!!」

 

強大なフォニックゲインを利用し、響たちは自分たちが狙っていた最後の切り札を発動させる。

 

「「ジェネレイトォ!!!!」」

 

「「エクスドラアアアアアアアアイブ!!!!」」

 

4人が叫び、響がガントレットを空に掲げると、装者たちがいる場所に巨大な虹色の竜巻が発生し、暗雲の空を貫いた。

 

「そ・・・そんな・・・!!」

 

キャロルは目の前の現象に目を見開き、驚愕する。竜巻が晴れると、空から快晴の光が輝きだし、神々しい光の翼を纏った装者たちが降り立った。装者たちが身に纏うは・・・奇跡の結晶・・・エクスドライブ!

 

~♪~

 

「これが・・・奇跡の形・・・」

 

モニターで奇跡を目の当たりにしたエルフナインは、とうとう力尽きた。




フォルテの服装

フォルテは基本的には四六時中黒服で過ごしているが、彼女とて1人の女性。年頃の女性たちのようにおしゃれに興味がある。だが自分にはしゃれた服は似合わないと思い込んでおり、中々ファッションに手を付けようとしない。それを見かねたマリアが休日に彼女を連れまわし、彼女に似合う女性らしい服装をコーディネイトしている。女として扱われることに慣れていないフォルテは突き付けられる服装に毎回恥ずかしがって頬を赤らめているとか。


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世界を知るため、手を伸ばせ

GX編ラストスパート!前話にも話した通り、今回は2話投稿を行いたいと思います。まずはこの1本、そして夜のだいたい7~8時あたりに投稿しようと思っております。GX編ラストスパート、開幕!


ブリッジで装者たちがエクスドライブを身に纏う奇跡を見たエルフナインは意識を失った。誰が見ても彼女が危険域を超えているのは明らかだ。

 

「バカ野郎が・・・無理しやがって・・・!」

 

「エルフナイン!しっかりしなさい!」

 

海恋はエルフナインに呼び掛けるが、応答がない。

 

「・・・涙・・・?」

 

そんな中洸はエルフナインが一筋の涙を流していることに気がついた。

 

~♪~

 

キャロルの70億の絶唱を越えた錬金術を利用することによってエクスドライブを纏った装者たちは浮遊してキャロルと対峙する。

 

「単騎対八騎・・・」

 

「錬金術師であるならば、彼我の戦力差を指折る必要もないであろう」

 

「おまけにトドメのエクスドライブ!これ以上はもう終いだ!」

 

エクスドライブを纏った装者は8人。対し、キャロルはただ1人。戦力の差は明らかのはずなのだが、キャロルは狼狽える様子は見せていない。むしろ鼻で嘲笑しているくらいだ。

 

「ふん、奇跡を身に纏ったくらいでオレをどうにかできるつもりか?」

 

「みんなで紡いだこの力を・・・」

 

「奇跡で片付けるつもりデスか!!?」

 

「片付けるとも!!」

 

調と切歌の言葉を・・・奇跡をキャロルは恨みが込められた瞳で真正面から否定した。自身を奇跡の殺戮者と名乗るほどに、彼女は奇跡そのものを嫌っている。それは、彼女が体験してきた過去がそれを物語っている。

 

「奇跡など・・・あの日、蔓延する疫病より村を救った俺の父親は、衆愚によって研鑽を奇跡へとすり替えられた。そればかりか資格なき奇跡の代行者として、焚刑の煤とされたのだ!」

 

「お父さんを・・・」

 

愛する父が人間たちの愚かな考えによって殺された。ゆえに彼女は、託された命題の答えを否定し、復讐を選んだ。奇跡などこの手で殺す。父が殺されたあの日の思い出こそが、長い時を生き続けてきたキャロルの忌むべきものであり、彼女をその道を歩ませる最大の理由である。

 

「万象に存在する摂理と術理。それらを隠す覆いを外し、チフォージュ・シャトーに記すことがオレの使命!即ち万象黙示録の完成だった・・・だったのに・・・!」

 

だがそのキャロルの願いは潰えた。彼女は憎悪が込められた瞳で装者たちを睨み、歯ぎしりを立てる。彼女の憎悪の瞳には、一筋の涙が溢れていた。

 

「キャロルちゃん・・・泣いて・・・」

 

「奇跡とは、蔓延る病魔に似た害悪だ!ゆえにオレは殺すと誓った!だからオレは、奇跡を纏うものだけには負けられんのだぁ!!!」

 

キャロルはアルカ・ノイズの結晶を辺りにばら撒いた。これによって、空中に複数の母艦型のアルカ・ノイズ、地上には大型、小型を含めた数多のアルカ・ノイズが出現した。

 

「貴様、何をするつもりだ!」

 

母艦型のアルカ・ノイズは小型の飛行型アルカ・ノイズを増やしていっている。

 

~♪~

 

ブリッジのレーダーでもアルカ・ノイズの出現が確認されており、その数は全体を覆いつくすほどで、レーダーのほとんどが赤一色に染まっていく。

 

「まだ、キャロルは・・・」

 

「これほどまでのアルカ・ノイズを・・・」

 

「チフォージュ・シャトーを失ったとしても、世界を分解するだけなら不足はないということか!」

 

「この状況で、僕たちにできることは・・・」

 

この状況下で自分たちに何ができるのかを模索していると、エルフナインがうめき声をあげている。

 

「う・・・うぅ・・・」

 

「響・・・響!!」

 

そこへ洸が響に通信越しで呼びかける。

 

『その声・・・お父さん!!?』

 

「響!泣いている子が、ここにいる!」

 

「!」

 

エルフナインは意識は失ってはいるが、一筋の涙が流れている。洸はそれを響を伝えようとしている。そして響も、キャロルも一筋の涙を流している。洸が伝えようとしていることを理解した響は・・・

 

『泣いている子には・・・手を差し伸べなくちゃね!』

 

響が拳を構えると同時に、今度は大悟が日和に向けて声を上げる。

 

「おおい!!聞こえてるかぁ!!」

 

『大悟君!!?』

 

「そいつの恨み辛み・・・てめぇらで解放してみやがれ!!俺にしてくれたようによぉ!!!」

 

大悟は拳を握りしめ、自分なりのエールを通信越しで送っている。

 

~♪~

 

大悟の頼もしいエールが胸に響いた日和は何倍もの勇気が湧いてきて、笑みを浮かべている。

 

「うん・・・やってみせるよ・・・苦しみから・・・キャロルちゃんを救うんだ!!」

 

日和は右手首のユニットより棍を射出し、それを回転した後に、構えを取る。

 

「何もかも・・・壊れてしまえばあああ!!!」

 

キャロルの叫びに共鳴するように、アルカ・ノイズは一斉に動き出し、ありとあらゆるものを攻撃し、分解して破壊していく。

 

「「翼さん!」」

 

「わかっている、立花、東雲」

 

「スクリューボールに付き合うのは、初めてじゃねえからな!」

 

「そのためにも散開しつつ、アルカ・ノイズを各個に撃ち破る!」

 

「キャロルの憎悪を・・・今ここで断ち切る!」

 

装者たちは各々のアームドギアを手に持ち、それぞれのアルカ・ノイズの群れに向かって散開する。

 

「はあああ!」

 

響は右手のガントレットを巨大な槍に変形させて、ブースターで素早く移動してアルカ・ノイズの群れに突っ込んで次々と貫いて撃墜していく。

 

『あの子も、あたしたちと同じだったんデスね・・・』

 

『踏みにじられて、翻弄されて・・・だけど、何とかしたいと藻掻き続けて・・・』

 

切歌と調は2人アームドギアを合体させてクワガタのようなロボットに搭乗し、ハサミとなっているイガリマの刃でアルカ・ノイズの群れを刈り取っていく。

 

『違っていたのは1人ぼっちだったこと・・・ただそれだけ!』

 

マリアは短剣を振るって光を伸ばし、光に沿って刃が出現した。そして、マリアは短剣を振るって光の刃で大型アルカ・ノイズを両断する。

 

『1人であったからこそ、苦しみを吐き出せず・・・ずっと痛みを抱えるしかなかった・・・』

 

フォルテは両手に持つ巨大な大剣をチェーンソーに変形させて、刃を高速回転させる。そして、高速回転する刃の斬撃波を放ち、巨大アルカ・ノイズと小型アルカ・ノイズを切り刻んでいく。

 

『救ってあげなきゃな・・・何せあたしも救われた身だ!』

 

クリスは変形させて身に纏った砲門を複数の母艦型アルカ・ノイズに向けて、エネルギー砲を発射させて撃墜していく。さらにエネルギー砲を拡散させてさらにアルカ・ノイズを撃ち抜く。

 

『そのためであれば!奇跡を纏い、何度だって立ち上がってみせる!』

 

翼は刀を抜刀した鞘も刀に変え、両足のブレードを巨大化させ、宙返りで回転して母艦型アルカ・ノイズを斬り裂いてく。

 

『逃げ出したり、目を逸らしたりなんかしない!あの子を救えるのは、私たちだけ!』

 

日和が構えた棍の先端に穴が開き、中からスパイクがついた鉄球が現れ、モーニングスターとなる。日和は鉄球を巨大化させ、モーニングスターを大型アルカ・ノイズに振るって打撃を当てる。そして、モーニングスターを振るって鉄球を飛ばしてながらアルカ・ノイズを薙ぎ払う。

 

『そのために私たちは!この戦いの空に、歌を歌う!!』

 

響は天に駆け上がるように槍となった拳を突き上げ、空中のアルカ・ノイズを貫いていく。

さらにマリアは両手の短剣を振るって複数の短剣を射出する。射出された短剣はビットのように飛び回り、光線を放って母艦型アルカ・ノイズを撃ち抜く。さらにフォルテは両手のチェーンソーの先端からエネルギーが集中され、それをガトリングのように撃ち放って大型アルカ・ノイズをハチの巣にしていく。そして調と切歌が操作するロボットは大型アルカ・ノイズに突っ込み、胴体であるシュルシャガナの丸鋸で切り刻み、さらにイガリマの刃で小型アルカ・ノイズを挟んで刈り取っていく。

 

~♪~

 

装者たちの全力の力で召喚されたアルカ・ノイズは次々と消滅していき、ブリッジのモニターではその光景が盛大に映し出されていた。

 

「エクスドライブのパワーであれば!」

 

「だが、同等のフォニックゲインを備えているのがキャロルだ!」

 

エクスドライブのおかげで勝機が見えてきたが、キャロルはまだ強大なフォニックゲインを秘めている。弦十郎はそこに警戒をしている。

 

~♪~

 

アルカ・ノイズは全滅できた。残るはキャロルただ1人。だがそのキャロルは火、水、風、地、雷、氷の6つの元素の錬金陣を大量に展開し、さらに力を蓄えている。

 

「なんてすごい力・・・!」

 

「さっきのアルカ・ノイズは時間稼ぎ⁉」

 

「残った思い出丸ごと焼却するつもりなのか⁉」

 

キャロルの目からは涙ではなく、血が流れている。

 

「何もかも壊れてしまえ・・・世界も、奇跡も・・・オレの思い出も!!!」

 

キャロルがそう叫ぶと錬金陣は輝きだし、凄まじい風圧が発生する。その風圧で装者たちは吹き飛ばされそうになるが、何とか踏ん張る。

 

「救うと誓った!!」

 

「おおとも!共に駆けるぞ、マリア、フォルテ!」

 

「今こそ、剣を合わせる時!」

 

翼、マリア、フォルテは身体を重ね合わせ、9つの剣をドリルのように回転しながらキャロルに突っ込んでいく。だがその攻撃はキャロルが展開した巨大な防御壁に阻まれる。

 

「散れええええぇぇ!!!」

 

そして、展開された防御壁によって3人は弾き飛ばされる。

 

「「「うあああああ!!」」」

 

「先輩!!」

 

「マリア!!」

 

「フォルテさん!!」

 

「ぜああああああ!!」

 

キャロルの背部のユニットより弦が伸びていき、それが1つの塊に形成されていく。

 

「なんだ!!?」

 

弦の塊は次第に装甲になっていき、まるで機械の獣へと変わっていく。その姿は、緑の外装に金色の角、鋭い爪を持った碧の獅子機である。獅子機はキャロルの怒りや嘆きを具現化させた終焉の象徴・・・キャロルは自身の数多の思い出を焼却させることで顕現させ、中で操作しているのだ。

 

(全てを無に帰す・・・なんだかどうでもよくなってきたが、そうでもしなければ臍の下の疼きが収まらん・・・!)

 

獅子機は大きく口を開く。

 

「仕掛けてくるぞ!!」

 

装者たちは散開してこれから来る攻撃から躱す。獅子機は咆哮を上げたと同時に炎を吐き出した。その炎の威力は圧倒的でその軌道上にあったビルは跡形もなく消え、湾岸部にまで炎は燃え盛る。

 

「あの威力・・・どこまで・・・!」

 

「だったらやられる前に・・・!」

 

「やるだけデス!」

 

「あ!2人とも待って!!危ないよ!!」

 

調と切歌は日和の静止の声を聞かず、獅子機に攻撃を仕掛けた。だが獅子機にダメージは与えられず、逆に吹っ飛ばされる。

 

「あああああ!!」

 

「月読!!暁!!」

 

「あの鉄壁は金城!散発を繰り返すばかりでは突破できない!!」

 

「ならば!アームドギアにエクスドライブの全エネルギーを集束し、鎧通すまで!」

 

響以外の装者たちが地に降り立ち、並び立つ。

 

「身を捨てて拾う、瞬間最大火力!」

 

「ついでにその攻撃も同時収束デス!」

 

「御託は後だ!マシマシが来るぞ!」

 

「チャンスは1度だけ・・・失敗はできないよ!」

 

獅子機は口を開き、光が発し、輝き始める。同時に、装者たちは自身のアームドギアを構えた。光のエネルギーは雨のように放たれ、装者たちに向かっていく。向かってくる光の光線を響が槍のアームで全て受け止めた。

 

「やるぞ!!全てのエネルギーを立花に!!」

 

フォルテの合図で7人の装者はアームドギアと、装甲を解除してそれをエネルギーに変える。

 

「「「「「「「はぁ!!!」」」」」」」

 

7人の装者は7つのエネルギーが1つに束ねた一撃を獅子機に向けて放った。強大な一撃は獅子機に直撃し、額の装甲を撃ち抜いた。これによって獅子機のコアであるキャロルを露出できたものの、獅子機を止めるまでには至らなかった。

 

「アームドギアが1つ足りなかったようだな・・・っ⁉」

 

キャロルは勝ちを確信した笑みを浮かべていたが、それはすぐに消え失せた。なぜなら、7人の装者が放ったエネルギーはまだ残っており、それが響の槍に纏っていく。最初の一撃はあくまで獅子機の装甲を剝がすため。本命は、7つのエネルギーが纏った響の一撃だ。全ては、想いを繋ぐ響のアームドギアに託された。キャロルはその力を真っ向から否定する。

 

「奇跡は殺す!!皆殺す!!オレは奇跡の殺戮者にいいいい!!!」

 

獅子機はキャロルの拒絶の意に答え、光の光線を響に放った。光の光線は響に直撃した。

 

「響ちゃん!!!!」

 

響が光線をくらい、キャロルは笑みを浮かべたが、それもすぐに消えた。その理由は・・・

 

「繋ぐこの手が、私のアームドギアだ!!!!」

 

7人のエネルギーが纏ったことにより、響の右手のアームが巨大化し、強大な光の光線を受け止めていたからだ。

 

(当たると痛いこの拳・・・だけど未来は、誰かを傷付けるだけじゃないって教えてくれた!)

 

「ぐぅ・・・!!枕を潰す・・・!!っ!!?」

 

苦虫を噛みしめた表情をしたキャロルに拒絶反応に似た症状が出た。

 

「ぐぅ・・・こんな時に拒絶反応・・・!!?」

 

キャロルの脳裏に愛する父、イザークと過ごした楽しかった思い出が浮かび上がる。

 

「違う・・・!これは・・・オレを止めようとするパパの思い出・・・!!」

 

そう、彼女の中のイザークとの思い出が暴走するキャロルが自身を見失わせないようにしていたのだ。だが、それでも彼女は認めようとせず、その思い出さえも否定する。

 

「くぅ・・・!!認めるか!!!認めるものか!!!オレを否定する思い出などいらぬぅ!!!全部燃やして力と変われぇ!!!!」

 

意地になっているキャロルは大切だったはずのイザークとの思い出さえも焼却し、さらなる力が彼女に蓄えられ、獅子機に輝きが放たれる。響も獅子機に迎え撃つために右手のアームドギアを分解し、そこから再構築して巨大な拳へと組み替えていく。

 

「うおあああああああ!!!」

 

響は拳を構え、獅子機に向かって突っ込んでいき、拳を振るおうとする。同時に、獅子機は響に向けて光線を撃ち放ち、響の拳とぶつかり合う。

 

「あああああああ!!!」

 

「うおおおおおお!!!」

 

だがキャロルの力の方が上回り、響は光線に押し負けそうになる。だが響は1人ではない。彼女には、頼もしい仲間がいる。それがこの勝負の勝敗を決める。

 

「みんな!!響ちゃんに力を与えて!!如意金箍棒!!」

 

「天羽々斬!!」

 

「イチイバル!!」

 

「ミスティルテイン!!」

 

「シュルシャガナ!!」

 

「イガリマ!!」

 

「アガートラーム!!」

 

8つのアウフヴァッヘン波形が1つとなり、響の力へと変わる。響の拳は獅子機の光線を押し切っていく。

 

「っ!!?」

 

ガングニィィィィィィーーール!!!!!

 

響の拳は彼女の叫びと共に、ついに、キャロルに届いた。

 

【Glorious Break】

 

響の繰り出した拳によってキャロルは敗れた。だが彼女はそれでも笑みを浮かべていた。獅子機は自身のエネルギーが暴走し始め、輝きを放ちながら上昇し始める。

 

~♪~

 

ブリッジにいるオペレーターが獅子機の現象を分析する。

 

「行き場を失ったエネルギーが、暴走を始めています!!」

 

「被害予測、開始します!!」

 

「エネルギー臨界到達まで、後60秒!!」

 

「このままでは、半径12キロが爆心地となり、30キロまでの建造物は深刻な被害に見舞われます!!」

 

「ぬううぅ・・・!!」

 

「まるで、小型の太陽・・・」

 

「キャロルは・・・自分ごと道連れに・・・⁉」

 

これこそが、キャロルが笑っていた理由・・・最後のあがきなのだ。歌では何も救えないと響に突きつけうるために。

 

~♪~

 

最後のあがきをするキャロルは響を逃がさないためにダウルダブラの弦で彼女の身体に巻き付けて拘束する。

 

「くくく・・・お前に見せて刻んでやる・・・歌では何も救えない世界の心理を・・・」

 

「諦めない・・・!奇跡だって手繰ってみせる!!」

 

響は拘束されている中でも諦めず、キャロルに手を差し伸べようとする。

 

「奇跡は呪いだ。縋る者をとり殺す!!」

 

獅子機の内部が爆発する。獅子機の完全爆発まで時間がない。

 

『後20秒!!』

 

獅子機の内部はどんどん爆発していき、その爆発の衝撃でキャロルは吹っ飛ばされ、元の姿に戻り、編み降ろしていた髪が爆発の衝撃で千切れ、空へ投げ出される。

 

「うあああああ!!」

 

「キャロルちゃん!!」

 

響はキャロルを助けようと手を伸ばそうと動くが、弦が絡みついているため、早いスピードが出せない。

 

「手を取るんだ!!」

 

「お前の歌で救えるものか・・・誰も救えるものかよおおお!!」

 

キャロルは差し出された手を否定し、手を伸ばそうとしない。

 

「それでも救う!!抜剣!!」

 

『ダインスレェェーーイフ!!!』

 

諦めない響はギアコンバーターのスイッチを押し、イグナイトを起動した。白い装甲から黒い装甲に変わり、瞬間出力のスピードを利用してキャロルとの距離を縮め、手を伸ばす。

 

「うおおおおおお!!」

 

『キャロル!!』

 

だが手を伸ばしているのは響の手だけではない。彼女を救いたいというエルフナインの思いが形となり、キャロルに手を伸ばす。そしてもう1人・・・彼女を救おうと手を伸ばした。手を差し伸べようとしているもう1つ手を見て、キャロルは驚愕する。

 

『キャロル・・・世界を知るんだ!』

 

そう、それはキャロルの最愛の父、イザークだった。

 

「パパ・・・!」

 

『いつか人と人が分かり合うことこそ、僕たちに与えられた命題なんだ』

 

「うん・・・!」

 

キャロルの目からは涙が溢れている。

 

『賢いキャロルにはわかるよね?そのためにはどうすればいいのかも・・・』

 

どれだけ否定されようとも、拒まれようとも、イザークは涙を流すキャロルに手を差し伸べる。彼女は彼の最愛の娘なのだから。

 

パパァァァァァ!!!!

 

キャロルは手を伸ばし、響はその手を掴みとった。そして、その瞬間・・・

 

ドカアアアアアアアン!!!!

 

獅子機は爆発を引きこした。イグナイトの漆黒の闇は響とキャロルを守るように2人を包み込んだ。獅子機の爆発は建物を破壊していき、巨大な硝煙が巻き上がった。




如意金箍棒の技

【猪突猛進】
日和の技。棍をやり投げのように構え、炎を纏わせて標的に向けて投擲する技。その威力はこれまでの技より上回り、炎も纏ってるためちょっとやそっとでは叩き落とせない。

【電光石火・獄炎】
日和の技、電光石火の強化技。標的に向けて電光石火を放つ際、自身の身体に炎を纏わせ、相手の強大な一撃を放つ。イグナイトモジュールを起動した際にはこの技はさらに強大になり、炎が黒くなり、出力も火力も上昇する。

【闘魂炸裂】
日和の技。棍を回し続け、闘気のエネルギーを溜めて一点に集中し、敵に目掛けて放ち、爆発させる技。爆発はエネルギーのため具合によって変わるが、街など回りを巻き込ませるほどではない。


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正義を信じて、握り締めて

GX編最終回!後書きに予告もありますのでぜひともそちらも拝見お願いいたします。


キャロルとの決戦から3日の時が流れた。都市部は獅子機の爆発によって壊滅状態となっていた。そこに緒川率いる再編されたS.O.N.Gの調査部の人間が行方不明となっているキャロルの捜索にあたっていた。しかし、あれから3日・・・72時間も経過している。これだけの時間を捜索しても、進展がなかった。

 

「そうか・・・未だにキャロルの行方が知れないままか・・・」

 

新たに新設されたS.O.N.G本部で弦十郎は緒川の報告を聞いている。

 

『すでに決着から72時間が経過しています。これ以上は・・・』

 

「わかった。捜索を打ち切り、帰投してくれ」

 

『了解しました』

 

弦十郎は緒川に捜索を打ち切って帰投命令を出した。了承した緒川はそう返答し、通信を切った。

 

「保護された響ちゃんが無事だったことから、生存してるとは考えられますが・・・」

 

唯一わかっているのは、キャロルは生きているということだけ。その根拠は彼女に手を伸ばし、彼女手を掴んだ響が生きているからだ。だがあれから影も形も見つからないため、誰もが不安を抱えていた。

 

「気掛かりなのは、キャロルの行方だけではありません」

 

藤尭の言う気掛かりのことは、負傷して気を失ったエルフナインのことだ。

 

~♪~

 

現在エルフナインは咲が勤務している病院で入院しており、ベッドに横たわっている。装者たちと未来、海恋は彼女のお見舞いに来ている。

 

「来てくれて嬉しいです・・・毎日すみません・・・」

 

「大丈夫大丈夫。今は夏休み期間だから」

 

「夏休み・・・?」

 

日和が口にした単語、夏休みはエルフナインにとって初めて聞くもので彼女は疑問符を浮かべている。

 

「楽しいんだって、夏休み」

 

「あたしたちも初めてデス!」

 

リディアンに入学して、初めて体験する夏休みに調と切歌も楽しそうにしていた。

 

「早起きしなくていいし、夜更かしもし放題なんだよ?」

 

「それは響のライフスタイル・・・」

 

「日和といい立花さんといい、そろいもそろって・・・」

 

「あんま変なこと吹き込むんじゃねぇぞ?」

 

平常運転なことを言いだした響に未来、海恋、クリスの3人は呆れている。

 

「夏休みはねぇ、商店街でお祭りもあるんだ!焼きそば、綿あめ、たこ焼き、焼きイカ!ここだけの話、盛り上がってくるとマリアさんのギアから盆踊りの曲が流れるんだよ!」

 

響はどさくさに紛れてマリアをからかっている。響の言葉を聞いたエルフナインは視線をマリアに向けた。

 

「本当ですか・・・?」

 

「本当なわけないでしょ!!?だいたいそういうのは私のより翼のギアの方がお似合いよ!

 

エルフナインの言葉にマリアは否定し、今度は翼に飛び火を入れる。

 

『あはははははは!!』

 

容易にその姿が想像できるため、一部のメンバーが笑いだした。だがこの話に面白くないと思っているのが、今笑い者にされている翼だ。

 

「なるほどなるほど・・・?皆が天羽々斬についてどう認識しているか、よーくわかった・・・」

 

「だが、似合うと言えば、東雲の如意金箍棒もそうではないか?」

 

「本当ですかぁ!!?やったー!翼さんとお揃いだー♪」

 

「からかわれてるのよ!」

 

「なんで喜んでんだよ・・・」

 

フォルテの言葉に翼とお揃いだと認識した日和は大いに喜んでいた。ただこれがからかわれてるというのが海恋とクリスにはわかっていたため、2人は呆れている。装者たちと一緒にいたエルフナインは笑いすぎて涙が出てきて、彼女はそれを拭く。

 

「ボクにはまだ知らないことがたくさんあるんですね・・・。世界や皆さんについてもっと知ることができたら、今よりずっと仲良くなれますでしょうか・・・?」

 

「なれるよ!」

 

響はエルフナインの手を取る。

 

「だから早く元気にならなくちゃ!ね?」

 

響は微笑ましい笑顔をエルフナインに見せた。装者たちも笑みを見せ、エルフナインもにっこりと微笑みを見せる。

 

「じゃあ、また明日ね」

 

「ごきげんようデース!」

 

一同はエルフナインに挨拶をして、病室から退出する。

 

「あー・・・私、ちょっとトイレに・・・」

 

響の言葉に彼女の心情を察した装者たちは何とも言えない表情をする。

 

「・・・そうか」

 

「・・・行っておいで」

 

響はちょっぴり舌を出してにっこり笑い、トイレに向かって走り出した。その途中でお見舞いに来た大悟にぶつかりそうになるが、響は軽やかに避ける。

 

「うおっ!ちゃんと前見ろや、ボケェ!!!」

 

「ご、ごめんなさーい!!」

 

大悟の怒鳴り声に響は謝罪しながら走っていく。

 

「大悟、うるさい。ここは病院よ?」

 

「るせぇ。知ったことかよ」

 

「もー・・・いつもそんなことを言う・・・」

 

海恋は大きな声を出した大悟に注意するが、言って聞くような男ではない大悟は素っ気ない態度をとる。

 

「でも、ありがとうね。わざわざエルフナインちゃんのお見舞いに来てくれて」

 

「んなんじゃねぇ。筋が通らねぇことはしたくねぇだけだ」

 

だがどこまでも素直じゃない大悟は素っ気なく振る舞う。彼が未来を通り過ぎようとした時、立ち止まる。

 

「・・・早く行ってやれよ。あいつ・・・泣いてたぞ」

 

「大悟君・・・うん・・・」

 

未来に一言言った大悟はエルフナインの病室に入っていく。未来は大悟の言葉を聞いて首を縦に頷き、装者たちに一礼してから響が走っていた方角へ向かっていく。

 

「・・・行くぞ」

 

「え?戻ってくるのを待たなくていいデスか?」

 

「いいのよ」

 

切歌が響を待とうとしていたが、マリアに窘められ、クリスに引っ張られる形で病室を後にする。この場に残ったのは日和と海恋だけだ。2人は少しだけ病室の扉を開けて様子を覗き見る。扉の隙間から見える大悟は悔しそうに拳を握りしめ、顔は見えないが涙を流しているのがわかる。

 

「皮肉なことよね・・・あの子自身、まだまだ未来があるというのに・・・こんなことになって・・・」

 

「お姉ちゃん・・・」

 

覗き見る2人に声をかけたのは白衣を着込んだ咲だった。咲の表情はとても寂しいものである。なぜなら、エルフナインの余命は残り僅かなのだ。今でこそ延命はしているものの、彼女がもう助からないのは明らかだ。当然それは響もエルフナイン自身も知っている。

 

「エルフナイン・・・もっと生きたかったでしょうね・・・」

 

「お姉ちゃんは・・・大丈夫・・・?」

 

「大丈夫・・・とは言えないわね。患者が1人亡くなろうとしているのよ?こんな苦しみ・・・慣れるわけないわ・・・」

 

「咲さん・・・」

 

患者を1人1人大切に思っている咲にとって、患者が死ぬというのは、とても辛いことで、慣れることはない。職業柄、患者が死ぬとわかっていても、平常に振る舞わなければいけないというのも、彼女にとっては辛いものだ。

 

「と・・・いけないわね。医者がこんなのじゃ。しっかりしないと」

 

「ごめん・・・私がもっと応急処置がうまかったら・・・」

 

エルフナインの応急処置を担当した日和はあの時の処置がうまくできていたらと自分を責めている。

 

「事情はよく知らないけれど・・・日和は最善の選択を取ったんでしょ?それだけでも十分、誇れるわ。もっと胸を張りなさい」

 

「お姉ちゃん・・・うん・・・」

 

咲は日和の頭に手を乗せ、優しくなでる。咲に励まされて、日和は曇った気分が少し腫れた。

 

「さてと・・・後のことは私たちに任せて、あなたたちは先に帰ってなさい」

 

「うん・・・行こ、海恋」

 

「ええ。咲さん、エルフナインのこと、よろしくお願いします」

 

「ええ。もちろん」

 

日和と海恋は後のことを咲に任せ、先に行ってしまった装者たちの元へ向かう。残った咲はドアをノックして病室へと入っていく。

 

~♪~

 

トイレに向かった響は手洗い場で流れていた涙を流している。響を追いかけてきた未来はそんな彼女を見つめる。

 

「ごめん・・・私が泣いてたら、元気になるはずのエルフナインちゃんも、元気になれないよね・・・?」

 

響がトイレに向かっていた理由はおそらく、誰にも自分の泣き顔を見せたくなかったのだろう。

 

「世の中・・・拳でどうにかなることって・・・簡単な問題ばかりだ・・・。自分にできるのが些細なことばかりで・・・本当に悔しい・・・!」

 

「・・・そうかもしれない」

 

涙を流す響に未来は近づき、彼女の手を優しく握る。

 

「だけどね?響が正しいと思って握った拳は、特別だよ?」

 

「・・・特別・・・?」

 

「世界で1番優しい拳だもの。いつかきっと、嫌なことを全部解決してくれるんだから」

 

「未来・・・」

 

未来の言葉に響は彼女に抱き着いた。

 

「ありがとう・・・やっぱり未来は、私の陽だまりだ・・・」

 

響に抱きしめられた未来は笑みを浮かべて、優しく彼女を抱きしめた。洗面台に張られている水に水滴が落ち、波紋が広がった。

 

~♪~

 

時間が経ち、時刻は夜。エルフナインは病室のベッドで眠っていたが、呼吸が荒い。もうすぐ命が尽きようとしている証拠だ。すると、病室のドアが開き、誰かが入ってきた。その人物とは、行方不明になっていたはずのキャロルだ。

 

「キャロル・・・」

 

キャロルの来客に気付いたエルフナインは起き上がることもままならず、顔だけを彼女に向ける。

 

「キャロル・・・それがオレの名前・・・」

 

だがキャロルは自分が何者であるかわからない以前に、自分の名前も覚えていない様子だ。その理由はたった1つしかない。

 

「記憶障害・・・思い出のほとんどを焼却したばっかりに・・・」

 

あの戦いでほとんどの思い出を焼き尽くし、力に変えた。それによって彼女はほとんどの記憶がなくなって記憶障害に陥っているのだ。

 

「全てが断片的で、霞がかったように輪郭が定まらない・・・。オレは、いったい何者なのだ・・・?目を閉じると瞼に浮かぶお前なら、オレのことを知っていると思いここに来た・・・」

 

キャロルの問いかけにエルフナインは答える。

 

「君は・・・もう1人のボク・・・」

 

「オレは・・・もう1人のお前・・・?」

 

「ええ・・・2人で、パパの残した言葉を追いかけてきたんです・・・」

 

「!パパの言葉・・・?オレはそんな大切なことも忘れて・・・」

 

思い出の焼却によってイザークとの思い出も忘れてしまったキャロルは膝を地につけ、エルフナインにイザークの言葉の教えを乞う

 

「教えてくれ!こうしている間にもオレはどんどん・・・」

 

「ゴホッ!ゴホッ!」

 

だがそれはエルフナインが咳き込むことで遮られる。口を抑え込んでいた手には、吐き出された血がついていた。

 

「!お前!」

 

「順を追うとね・・・一言では伝えられないです・・・ボクの身体もこんなだから・・・」

 

「オレだけじゃなく、お前も消えかけているんだな・・・」

 

「・・・・・・・・・うん・・・」

 

エルフナインは悲し気な返事をし、白い天井を見つめる。

 

「世界を守れるなら・・・消えてもいいって思ってた・・・。でも・・・!今はここから消えたくありません・・・!」

 

まだたくさん生きていたい・・・S.O.N.Gのメンバーと出会い、触れ合い、思い出を共有しあったことでできた、エルフナインの願い。だが彼女の願いは、叶うことはない。それがわかっているからこそ、エルフナインは涙を流す。彼女の流す涙を見て、キャロルは決断をする。

 

「ならば・・・もう1度2人で・・・!」

 

キャロルはエルフナインと口づけを交わした。指を絡ませ合い、強く握りしめる。すると、そこから輝かしい光が発せられる。同時にエルフナインのバイタルを表示する心電図の波形が平坦となり、警告音がピーーッと鳴り響いた。

 

~♪~

 

エルフナインが死亡した。その知らせを聞いた装者たちは急いエルフナインの病室へと駆けつけた。扉を開けると、月の光に照らされるように、キャロルが立っていた。ベッドで眠っていたエルフナインの姿はどこにもない。

 

「キャロル・・・ちゃん・・・?」

 

響の問いかけにキャロルは首を横に振り、彼女は装者たちに顔を向ける。

 

「ボクは・・・」

 

声の主はエルフナインであった。エルフナインの生存に響は涙を流しながら彼女に抱き着いた。未来とクリスも笑い、調と切歌抱き合い、日和と海恋は涙を流しながら笑みを浮かべ、翼、マリア、フォルテは微笑んで彼女の生存を喜んだ。

 

~♪~

 

それから時が流れ、キャロルが引き起こした事件は『魔法少女事変』と名付けられるようになった。魔法少女事変から数日が経ち、響は洸と共に実家のある街に向かっていた。その理由はもちろん、響の母と洸の仲直りのためだ。

 

「この街にはいい思い出なんてないはずなのにねぇ。今は懐かしく思えちゃう」

 

「それはあの時よりも、響が強くなったからじゃないかな?」

 

「え?」

 

洸の言葉に響は首を傾げている。

 

「さて俺も、頑張らなくちゃ・・・な?」

 

「うん!お父さん!」

 

「「へいき、へっちゃらだ!」」

 

響と洸はお互いにハイタッチを交わした。

 

~♪~

 

同時刻、日和は大悟と2人きりで小豆の墓参りに来ている。今までは海恋と一緒でも来ることを渋っていたのだが、日和がちょっとずつ成長したおかげで、こうして大悟とも来れるようになったのだ。

 

「小豆・・・私、ベーシストになるよ。ベーシストになって、いろんな世界を見て回って、翼さんとは違う、自分だけの輝きを見つけてみせるよ」

 

今までは翼を追いかけることしかしなかった日和だが、今は目標を見つけて、自分だけの輝きを掴みたいと願うようになっている。これも、シンフォギア装者にならなければ、決して辿り着けなかった思いだ。

 

「ちょうど、ファン第1号もいるからね」

 

「はあ!!?いつ俺がてめぇのファンになったよ!!?」

 

「だってそうでしょ?私は大悟君のお姉ちゃん・・・だからね!」

 

大悟の問いかけに日和はにっこりと笑い、さぞ当たり前のように答えた。

 

「ちっ・・・俺の姉貴はあの人だけで十分だっつの」

 

頬を赤らめる大悟は自分の姉は小豆だけだと言い張り、日和の言葉を否定して立ち上がった。

 

「・・・なぁ、一曲弾いてみろよ。お前の下手くそな演奏を聞いて笑ってやるからよ」

 

「・・・うん!じゃあ、ファン第1号のご期待に応えて、一曲歌うよ!」

 

大悟の挑発的な言葉に日和は笑いながら答え、持ってきたベースを取り出し、演奏を始めた。

 

~♪~

 

同時刻、クリスの家に遊びに来ていた調と切歌は夏休みの宿題に取り組んでいた。同じく家に遊びに来ていた海恋は2人の宿題を見ており、クリスはソファに寝転がってアイスを食べている。

 

「だから・・・この答えは違うって言ってるでしょ?いい?もう1回教えるからちゃんと覚えなさい」

 

「・・・楽しいはずの夏休みはどこへ・・・」

 

海恋が切歌に問題の説明をしている中、調は夏休みに宿題をやることに不満があるのかそう呟いた。

 

「だけどどうしてクリス先輩は余裕なんデスか?」

 

切歌はクリスがのんびりしていることに疑問符を浮かべている。そんな切歌の疑問にクリスは得意げに学校の成績表を見せて話す。

 

「いい機会だから教えてやる。こう見えて、学校の成績は悪くないあたしだ」

 

「嘘ぉ!!?」

 

「んん!!?」

 

好成績を収めているクリスの成績表に調は驚いていた。その反応が気に食わないのかクリスは眉をひそめる。

 

「い、今言ったのは調デス!!」

 

「私を守ってくれる切ちゃんはどこ行っちゃったの・・・?」

 

「はい、よそはよそ、うちはうち・・・ていうことで、ちゃっちゃと宿題、やっちゃいなさい?たーーーーっぷり、教えてあげるから・・・」

 

「「ひぃ!!」」

 

切歌と調が揉めて宿題から脱線しようとした時、海恋が黒い笑顔を浮かべて2人頭を掴み、宿題に視線を向けさせようとする。2人はそんな海恋に恐怖を抱く。

 

「・・・やっぱあいつ、勉強のことになるとこえぇ・・・」

 

ソファで寝転がっているクリスは勉強のことになると人が変わる海恋に若干身震いする気持ちになる。

 

~♪~

 

同時刻、翼はロンドンに戻るため、緒川と共に空港に来ている。

 

「翼さん」

 

緒川に声をかけられ、前を見てみると、奥にはマリアとフォルテが待っていた。

 

「たまさか私たちもイギリス行きなのよねぇ」

 

「ぷっ・・・たまさかね・・・ふふ・・・」

 

マリアの意図を察したのか、翼は思わず笑っている。それを見たマリアは頬を赤らめており、そこに笑みを浮かべたフォルテが彼女の肩に手を置く。

 

「マリア、素直になれ」

 

「ちょっと!!あんたねぇ!!・・・もう!やっぱりこの剣2人、かわいくない!!」

 

2人の反応に拗ねたマリアはそう言い放った。

 

~♪~

 

翼たちが乗るイギリス行きの飛行機が飛行していく様子を、空港の外で弦十郎が見送っている。彼がもたれかかっている車には八紘が乗っていた。

 

「見送りもまともにできないなんて、父親失格じゃあないのか?」

 

「私たちはこれで十分だ」

 

遠くで翼を見送った後、八紘は真剣な表情に戻り、本題に入る。

 

「それよりも弦、今回の魔法少女事変・・・どう考える?」

 

「・・・米国の失墜に乗じた欧州の胎動・・・」

 

「あるいは・・・」

 

魔法少女事変の裏側に欧州に何かしらの関りがあり、別勢力が裏で動いているのではないか・・・そんな考えがよぎる弦十郎と八紘であった。

 

~♪~

 

S.O.N.G本部のブリッジではオペレーターたちがあるものの解析にあたっていた。

 

「遅くなりましたぁ~!!」

 

そこへ、新たにS.O.N.Gの一員となったキャロルの姿となったエルフナインが入ってきた。

 

「遅刻だぞー」

 

「はうぅ~・・・ずびばぜん・・・」

 

友里とエルフナインは共に笑いあう。

 

「さっそく解析の続きを始めましょうか」

 

オペレーターたちが解析しているのは、死したウェルから託されたマイクロチップだ。

 

~♪~

 

その頃実家にたどり着いた洸は妻ともう1度やり直すため、彼女と向き合っている。隣で響がその成り行きを見守っている。

 

「やり直したいんだ!みんなで、もう1度!だから・・・!」

 

洸は頭を下げながら妻に頭を下げて、手を差し出す。戸惑っている妻は困った顔をし、玄関で隠れている妻に少し顔を向け、視線を洸に戻す。そして、差し出された手を握ろうともしたが、やはり踏みとどまっている。

 

「・・・あはは・・・勢いなんかで手を繋げないって・・・」

 

洸はやはりダメかと思い、苦笑いを浮かべていると、響が洸と母の手を握る。

 

「響・・・」

 

「・・・こうしてることが正しいって、信じて握ってる。だから・・・簡単には放さないよ!」

 

響は両親に向けて、にっこりと笑ってそう言った。

 

~♪~

 

調と切歌の宿題を終わらせた後、海恋は外に出て日和に電話をしている。

 

「立花さんたち・・・うまくいくかしら・・・?」

 

『大丈夫だよ。響ちゃんがいるから・・・きっと大丈夫。だから・・・もう自分を責めないで、海恋』

 

「うん・・・ありがとう、日和」

 

響たちを心配していた海恋は日和に励まされて、少しほっとした気分になった。

 

「そうだ、私たちこれからお昼なんだけど・・・一緒にどう?」

 

『ごめ~ん・・・私、今大悟君とランチ中なの。こんなことなら断っとけばよかったぁ~・・・』

 

「いいわよ別に。今までの埋め合わせはしっかり埋めときなさい。また今度、ランチに行きましょう」

 

『うん。ありがとうね、海恋。その日を楽しみにしておくね』

 

話を終わり、海恋は電話を切った。その後海恋はクリスと調と切歌と一緒に昼食を食べにお店を探しに向かうのであった。

誰もいなくなったクリスの家のテレビは消し忘れてつけっぱなしであった。テレビではニュースが流れており、たった今速報が流れた。

 

『西園寺グループ、買収か!!?』

 

西園寺グループ・・・つまり海恋の父が経営する会社が買収されるという知らせ。これによって、海恋の運命を左右されることになろうとは・・・この時の装者たち・・・そして海恋自身も知る由もなかったのであった。




予告

物語はAXZ編に突入!

装者たちは任務でバルベルデ共和国へ向かうことに!

バルベルデはフォルテの生まれ故郷・・・。帰ってきた故郷の現状を見て、フォルテは何を思い、何を見出すのか・・・。

そして、日本でも西園寺グループの買収の話題によって世間は騒がれている。この件で悩む海恋に日和は彼女ために何をしてあげられるのか・・・。

そして、海恋の選ぶ道は・・・

AXZ編、番外編の後にスタート!

そして・・・

最近日和はバンドメンバーと一緒に過ごしてきた夢を見ることが多くなった。

そんな時に完全聖遺物の1つであるギャラルホルンからアラートが鳴りだす。

並行世界の異変を解決するために、日和を含んだ装者たちはその並行世界へと向かってゆく。

辿り着いた並行世界で、日和は思いがけない人物と再会を・・・。

閉ざされてしまった地平線の扉が・・・今、開かれようとしていた。

戦姫絶唱シンフォギアXD ー開く地平線の扉ー

AXZ編と同時にスタート!


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番外編
戦姫絶唱しないシンフォギアGX①


番外編、戦姫絶唱しないシンフォギアGX編、始まるよー。
そして本日は切歌ちゃんの誕生日!おめでとう!


『リディアンの期末考査前夜』

 

 

 

季節は冬・・・リディアンの期末考査試験が行われる時期になった。リディアンの生徒たちは期末考査に向けて勉強に励んでいる。一方、学生寮に住んでいる日和と海恋はというと・・・

 

「やだーーーー!!勉強やだーーーーー!!」

 

日和は勉強を嫌がってタンスにしがみついている。海恋はそんな日和に勉強をさせようと引っ張って机に連れて行こうとしている。

 

「やだーじゃないのよ!あんた自分の立場ちゃんとわかってるの?」

 

「勉強は昔から嫌いなんだよー!やりたくなーい!!」

 

日和は昔から勉強が苦手で実家にいる時も勉強から逃げようとこっそり家を抜け出そうとしたことが何度もある。そのたびに咲に捕まって部屋に引き連られてしまうが。それが今では海恋がその役目を担うことに。

 

「そんなこと言ってる場合じゃないでしょ!あんたの成績、下から数える方が早いくらいなのよ?もうちょっと緊張感持ちなさいよ!」

 

「やだぁ~~!!」

 

「このままじゃあんた、留年するのよ?それでもいいの?」

 

「それはもっとやだぁ~~~!!」

 

「だったら勉強する以外選択肢はないの!ほら、さっさとやるわよ!」

 

「やあああぁぁぁ~~~・・・」

 

留年がかなり利いたのか日和の抵抗は弱まり、彼女はタンスから手が離れ、海恋にずるずると引き連られていく。

 

「だいたいリディアンは二課と関係のある学校でしょ~?どうして普通の授業が普通にあるんだよ~・・・」

 

日和は引き連られながらそんな疑問を口にしたが、すぐにその答えに気付いた。

 

「あ・・・そっか・・・案外そういうことなのかも・・・」

 

「?どうしたのよ突然・・・?」

 

「なんだかさ、やっと普通の日常に戻ってこれたような気がするの」

 

「?」

 

日和の言葉に首を傾げている海恋。

 

「遅くなっちゃったけど・・・ただいま、海恋」

 

「!・・・ええ。おかえり、日和」

 

日和からただいまの言葉を聞いて、海恋は笑みを浮かべて返事を返した。・・・引き連られているので、まったく締まりがないが。

 

 

 

『フロンティア事変から2週間』

 

 

 

二課の本部にて、緒川はフロンティア事変に関わるものの証拠品について、弦十郎に報告をする。

 

「フロンティアの崩壊に伴い、海中に没したエアキャリアより、事件の裏側を伺い知る証拠品を多数引き上げました」

 

「とはいえ、あの状況だからなぁ・・・」

 

「はい。そのほとんどが破損し、証拠品として、機能していなかったのですが・・・」

 

モニターにはエアキャリアより回収された証拠品の一部が映し出された。それは、ボロボロになってしまったが、何かの手紙だった。

 

「ん?これは?」

 

「海水に揉まれてボロボロになったうえ、文字も滲んで判読不能の状態だったのですが、二課情報部、化学班の先端技術を結集させて、元の状態にまで復元しました」

 

「金かけたなぁ!」

 

証拠品1つに先端技術を結集させてまで復元させたことに、弦十郎はそう言って驚く。

 

「一読する限りでは、意味不明の謎ポエムにも思われるのですが・・・高度な暗号の可能性もあるため、専門チームを編成して、解析にあたってみたのですが・・・」

 

「そうか・・・F.I.Sの背後関係を暴くきっかけになるかと期待するのは、少々虫が良すぎたな・・・」

 

「特殊性はないと判断しましたので、これは私物ということで、彼女たちの元へ戻るよう手配しておきます」

 

「うむ、そうしてやってくれ」

 

手紙は私物であると判断したが故、弦十郎たちはそれをマリアたちの元へ返すことにしたようだ。その様子はオペレーターの本を返しに来た海恋がちらっとだが見ていた。

 

(・・・あれ、絶対黒歴史的な何かだわ・・・)

 

モニターの手紙をちらっと見て海恋はそれが黒歴史であるものではないかと推測し、持ち主に向けて哀れな感情を抱いた・・・。

 

~♪~

 

一方その頃、F.I.Sのレセプターチルドレンたちが収監されている牢屋で・・・

 

「デデデデデデデーーーース!!!」

 

なぜか切歌が顔を青ざめて叫び、その場で縮こまった。

 

「どうしたの?切ちゃん?」

 

「かつてない悪寒が・・・突然背中を駆け巡ったのデース・・・」

 

「腹でも痛いのか?トイレならそこにある。行ってくるといい」

 

切歌のこの様子からして、どうやら手紙の持ち主は切歌だったようだ。手紙が返却されてくることが直感的なもので感じ取ったようで寒気がして今に至るようだ。

 

 

 

『刑務所での食事』

 

 

 

牢屋の中で調はモニターに表示されている現在の時刻をじーっと見ている。現在の時刻は11時55分だ。

 

「じぃーーー・・・」

 

調がじーっと見つめている中、時間は一刻一刻進んでいき、そして時刻は12時になった。すると、独房に4人分の食事が届けられた。

 

「ごはん!ごはんデース!!」

 

どうやら調が時計を見ていたのは、昼食時間になるその瞬間を待っていたからのようだ。出された食事は刑務所のご飯とは思えないほどに充実していた。4人は届けられた昼食にありつく。調は今日の昼食を食べて、にこやかな笑顔になる。

 

(いったいどこの誰だろう・・・?刑務所のご飯を臭い飯なんて言ったのは・・・?)

 

3人が食事にありついている中、マリアはにこにこと笑ってご飯を食べている調を見ていた。

 

(どうして調ったら、こんなにも塀の中の暮らしを満喫できるのかしら・・・?)

 

調の考えを理解していないマリアはそんな疑問ばかりが浮かび上がる。

 

「食べないのか?」

 

「!食べる!食べるわよ!」

 

フォルテに食が進んでいないことに指摘されたマリアは慌てて食事を再開する。その際にマリアは温かいご飯をふーふーして冷ましていた。

 

「熱いのか?」

 

「ふーふーするほどじゃないと思うけど・・・」

 

「!!く、癖よ!つい癖が出ただけよ!猫舌なわけないじゃない!」

 

3人にふーふーする姿を見られたマリアは妙な言い訳を始めた。

 

「癖だとしたら十分猫舌デース・・・」

 

マリアの言い訳に切歌はそう呟いた。

 

 

 

『期末考査が終わって冬休み』

 

 

 

期末考査試験が終わり、冬休みになったある日。日和と海恋、響と未来はクリスの家に遊びに来て、こたつに入って身体を暖まりながらテレビを見ている。今テレビに映っているのは、歌番組。今は翼の番が来て、その歌声を披露している。

 

「はぁ~~・・・やっぱり翼さんって・・・かわいいしかっこいい・・・憧れちゃうなぁ~・・・」

 

翼の姿と歌声に魅了されている日和は目を輝かせている。

 

「こうして見ると、翼さんってやっぱり翼さんだよね~」

 

「ああ、そうだな」

 

響の言葉にクリスは同意した。歌番組が終わり、日和は別のチャンネルに変える。次の番組はクイズ番組でこの番組にも翼が出演している。

 

『話題の片づけ術でときめき収納方という・・・』

 

ピポーン!

 

『今度こそ断捨離!』

 

ブブーッ!

 

出された問題に意気揚々と答える翼だったが、当然ながら不正解だ。

 

『くっ・・・!何のつもりの当て擦りだ・・・!』

 

翼は出した答えが不正解だったことに悔しがっている。

 

「なんていうか・・・翼さんらしいね」

 

「こうして見ると・・・翼さんって・・・やっぱり翼さんだよね・・・」

 

「そうだな」

 

響の言葉にクリスはみかんを食べながら同意した。

 

「3人とも!翼さんに怒られるわよ!」

 

「はぁ・・・そうなっても私たちは庇えないわよ?」

 

3人の反応に未来が注意をし、海恋は呆れてため息をこぼし、そう一言しゃべった。

 

 

 

『収容施設のお正月』

 

 

 

1年に終わりを迎え、新年を迎えたお正月。収容施設の牢屋に入っている4人は今日も出された食事にありつく。本日のメニューはお正月にちなんでおせち料理だ。しかも二段重ねだ。

 

「二段重ねのおせち・・・!」

 

「大晦日には年越しのおそばもあったデース!」

 

「298円のインスタントだけどね!」

 

「大晦日のそばに正月のおせち・・・これぞ日本の醍醐味・・・」

 

刑務所のご飯とは思えない食事に3人はご満悦の様子だ。そんな中でマリアは頭を悩ませている。

 

(作戦行動中には考えられないくらい充実した食生活・・・!自供も捜査協力もしないでずるずる引き延ばしていれば、それだけ長くごちそうにありつけるのかもしれない・・・!だけどそれは、正義とよろしくやっていく私の信念に反して・・・!)

 

今の充実した食事をとるか、己の信念を貫くか・・・どちらを取るべきかで悩んでいるマリアは頭を抱えている。

 

「マリアは食欲がないみたいなので、僭越ではありますが、ここはあたしが・・・」

 

「わあ!チョコやクッキーがついてる!」

 

「僕は甘い洋菓子は好きじゃない。僕のチョコとクッキーは2人で分けるといい」

 

「やったデス!!」

 

それに対して3人は今の牢屋生活に慣れてしまっており、充実していた。

 

「3人とも!!ここでの生活に慣れすぎよ!!!」

 

あまりの充実っぷりにマリアは3人にツッコミを入れるのであった。

 

 

 

『2月のとある日曜日』

 

 

 

2月の日曜日に、リディアンの制服を着た未来と海恋と装者たちがドーナツの差し入れも持ってマリアたちの面会にやってきた。4人の元気な姿を見て、装者たちはほっとしている。

 

「よかったぁー、みんな元気そうで」

 

「2人の入学手続きは、こっちの方で済ませたからね」

 

「春からは一緒の学校だよ!」

 

「新しい後輩ができて、嬉しいなぁ~♪」

 

「先輩として厳しく指導してやるから覚悟しておけよな!」

 

装者たちが調と切歌を暖かく迎え入れてくれている様子にマリアとフォルテは笑みを浮かべていた。

 

(特起物に身を預けたのは、間違いではなかったのね・・・)

 

自分たちの出した決断が間違いではなかったとマリアが思っていた時・・・

 

「4人とも・・・丸くなったな」

 

「「!!!??」」

 

「・・・・・・」

 

「?」

 

「翼さん!!?」

 

翼がとんでもない爆弾発言をかましてきた。翼の発言に調と切歌は驚き、マリアは顔を俯かせている。フォルテは意味がわかっておらず、首を傾げている。

 

「な・・・何を言い出すデスか・・・」

 

「ごはんが、以前より充実してるとか、ありえないし・・・」

 

翼の発言に気にしている切歌と調はそのような言い分を述べた。2人の解釈と翼の解釈が全く違うため、翼はきょとんとした顔をしている。

 

「?皆の印象を言ったまでだが・・・どうかしたのか?」

 

「天然でこの切れ味・・・!」

 

翼は人当たりがよくなったと言いたかったのだが、あの発言では太ったなと言っているようなものであると翼は全く気付いていない。

 

「特にマリアが丸くなったな」

 

「この剣、かわいくない・・・!」

 

またも翼がいらない発言をして、マリアは若干涙目になっている。

 

「?丸くなった・・・とはどういう意味だ?」

 

「うるさい!!自分で考えなさい!!」

 

「なぜ怒る・・・」

 

意味を理解していないフォルテはマリアに質問したが、八つ当たりするかのように怒られるのであった。

 

 

 

『もうすぐ翼の卒業式』

 

 

 

季節は春、卒業シーズンに入った。翼はリディアンの3年生。彼女もまたこの春でリディアンを卒業を控える卒業生である。

 

「もうすぐ、卒業しちゃうんですよね・・・」

 

「そうなると、やっぱり翼さんはロンドンに・・・」

 

「本当にノイズが根絶されたのなら、いつか、世界を舞台に歌を歌ってみたいと夢見ていた・・・」

 

ノイズが消滅した今、卒業して夢見ていたことが実現できることに、翼は感慨深いものを感じ取っていた。

 

「私たちも私たちで頑張りますから、こっちのことは心配しないでください!」

 

日和が皆を代表してそう言い、翼の夢を応援する。心なしか頼りになる雰囲気も出ている。

 

「こういう時の東雲は頼もしいな。むしろ、心配なのは雪音の方だ」

 

「はあああああ!!?」

 

翼の発言を聞いてクリスは頬を赤らめながら驚愕する。

 

「確かに、この中で1番べそをかきそうなのはクリスよね」

 

「雪音の場合、べそというより、べしょべしょの号泣かもしれないな」

 

言いたい放題言われているクリスは翼に向けて反論する。

 

「元栓閉め忘れてるんじゃねぇんだ!!簡単に泣くものかよ!!むしろ泣くのは、卒業するそっちだろ!!?」

 

「剣に涙は似合わない!二度と泣かぬと決めたのだ!!」

 

クリスの反論に翼は堂々とそう言い返すのであった。

 

 

 

『卒業式当日』

 

 

 

時が流れ、いよいよ卒業式が執り行われた。その最中で、泣かないと宣言していたはずの翼は誰よりも泣いていた。卒業式が無事終わり、日和たちは翼に顔を見せる。

 

「言わんこっちゃねぇな!!」

 

そう言っているクリスの目には涙が溜まっていた。

 

「面目ない・・・皆と一緒に、いられなくなると思うと・・・つい・・・」

 

「「・・・うわああああああ!!」」

 

翼の言葉でクリスの涙腺が崩壊し、号泣する。言い出した本人である翼自身も号泣している。

 

「・・・なんていうか、意外ね。日和が泣かなかったの」

 

日和なら泣くものだと思っていたが、意外にも泣かなかったことに海恋は驚いている。

 

「いやぁ・・・だってさぁ・・・誰とは言わないけど隣で号泣されたら・・・ねぇ・・・?」

 

「まぁ、確かに」

 

日和は号泣しているクリスに視線を向けながら言う言葉に海恋は納得している。どうやらクリスは式の最中にも泣いていたらしい。そのおかげで泣けなかったと主張する日和。

 

「寂しくなるね・・・」

 

「ずっと一緒だと思ってたから、余計にね」

 

ピピピ、ピピピ!ピピピ、ピピピ!

 

響が話していると、4人の通信端末が鳴りだした。本部からの連絡だと思い、4人は気を引き絞めた顔になり、通話に出る。

 

「「「「はい!」」」」

 

4人は本部からの任務の通達を聞く。

 

「国連所属のスペースシャトルが⁉」

 

「帰還時のシステムトラブルかよ・・・!」

 

国連所属のスペースシャトルがシステムトラブルを引き起こし、落下しているらしいのだ。

 

「了解です!本部にて合流します!」

 

3人は事態を把握し、通信を切って翼に視線を向ける。

 

「翼さん!最後にもう少しだけ、手伝ってくれますか?」

 

「無論だ!これからどんなに離れようと、私たちはずっと一緒だ!」

 

「そういうのは後回しだ!行くぞ!」

 

装者たちはスペースシャトル墜落を何とかするために急ぎ本部へと向かっていく。

 

「行ってらっしゃい!」

 

「必ず帰ってくるのよ!」

 

海恋と未来は手を振って装者たちを見送った。日和と響は2人の声に手を振って返事を返すのであった。




切歌の誕生日

調「切ちゃん、お誕生日、おめでとう。今日は切ちゃんの好きなもの、たくさん作ったよ」

切歌「調ー!ありがとうデース!」

マリア「私もフォルテも、プレゼントを用意したわ。気に入ってくれるといいけれど」

切歌「マリアもフォルテもありがとうデース!あたしの誕生日を祝ってくれて・・・」

フォルテ「誕生日を祝うのは当然のことだ。僕たちは、絆で繋がった家族だからな」

切歌「ふぉ、フォルテー!」

フォルテ「みんなも暁の誕生日を祝いたがっている。早く行くぞ」

マリア「そうね。待たせるわけにもいかないもの」

調「切ちゃん、一緒に行こう」

切歌「うん!あたし、みんな・・・調に会えて・・・本当によかったデス!」


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戦姫絶唱しないシンフォギアGX②

番外編の後書きのギア紹介についてですが、以前コラボ型を考えてみようと覚えていますか?今回紹介するのはまさにそれです。この作品は知らないという方はぜひ調べてみてください。
ちなみに、我が作品で何かの作品でコラボするかどうかは未定です。一応は何作品かは考えてるんですが・・・。まぁ、考えがまとまったらアンケートを取ってみようかと思います。


『リディアンの入学式』

 

 

 

時期は春のリディアンの入学式。講堂にて入学式に参列している教師や生徒が今年入学してくるリディアンの生徒たちを出迎えてくれている。その新入生の中に調と切歌もいる。2人の晴れ舞台を日和たちが講堂の外で見守っていた。そんな中クリスはマリアとフォルテに2人を任された時のことを思い出す。

 

『国連所属のエージェントとして日本を発つことになったの。私たちの代わりに調と切歌をお願いするわ』

 

『わかった。けど、なんであたしなんだ?』

 

『愛されキャラの君ならば、あの2人もきっと新しい環境になじめるのではと思ってな』

 

『はあ!!?何の話だ!!?』

 

回想は愛されキャラと言われてもなんのことだかさっぱりわからなかったクリスにフォルテが説明する場面に変わる。

 

『君はいかにもな格好でいかにもなセリフを吐きまくってきたのに、ふたを開けてみたらちゃっかりいいポジションに収まっていた愛されキャラだと、立花と東雲から聞いていたのだが・・・』

 

「出所はやっぱりそこかぁ!!!!」

 

「「おおおおお!!??」」

 

その当時のことを思い出して怒ったクリスは響と日和に強烈なチョップを繰り出す。いきなり攻撃された響と日和は涙目になりながら疑問符を浮かべる。

 

「「なぜ・・・?どうして・・・?」」

 

「思い出し激怒だ!!!」

 

「初めて聞く日本語だ・・・」

 

「あんたそういうの好きね・・・」

 

「「この人、そんなのばっかりだよ・・・」」

 

怒りながら放つクリスの言葉に響と日和は冷めた目で彼女を見つめるのであった。

 

「まぁそれはそれとして・・・あの2人が新入生として入ってくるんだ。だから・・・その・・・こういうのはきちんとしなければいけないと思うんだ。もちろん、当然わかってるとは思うが・・・」

 

「「???ごめん、言ってること全然わかんないよ、クリス(ちゃん)」」

 

「それだそれ!!相棒と委員長はともかく、あたしは年上で先輩なんだから、ちゃん付けだと示しがつかないってことだ!!!」

 

クリスが気にしているのは響の呼び方にたいしてだ。響は初めて会い、名前を聞いてから今日までずっとクリスをちゃん付けで呼んでいる。年下の後輩にそんな風に呼ばれることがクリスは気に入らないようだ。

 

「よくわかんないけど・・・響ちゃんにちゃん付けされるのが嫌ってこと?」

 

「正確には、後輩らしい振る舞いをしてほしいってことなんじゃないかしら?」

 

「まぁ、そういうこった」

 

日和と海恋の指摘でそれに気づいた響と未来は笑みを浮かべている。

 

「なぁんだ、そんなことか~」

 

「私たちなら気にしないよ、クリス」

 

「呼び捨て!!」

 

「未来ちゃんは呼び捨てだ」

 

「そうだった・・・小日向さんも小日向さんで友達感覚だったわね・・・」

 

未来もクリスを呼び捨てで呼んでおり、クリスはそのことに少なからずショックを受ける。

 

「出会った時からそうだったから、つい・・・」

 

「やっぱり最初の出会いって肝心なんだね・・・」

 

「そうね・・・その時によってその人のだいたいの印象が決まるもの・・・」

 

「ぐはっ!!」

 

日和と海恋の発言がクリスの心に突き刺さり、ショックを受ける。

 

「くっ・・・筋を通したり、形から入るってのは大事だと思うんだが・・・だけど、年上とか先輩とか関係なく、恩人にはそんなことさせられねぇ!それでも、あのバカにため口聞かれるってのは・・・!だいたい何で相棒と委員長は普通にさん付けであたしだけこうなんだよ・・・!筋が通らねぇじゃねぇか・・・!」

 

頭を抱えてぶつぶつと呟くクリス。響はそんな彼女の考えが理解できず、頭に疑問符を浮かべる。

 

「やっぱり、言ってること全然わかんないんだけど、クリスちゃんは今まで通りクリスちゃんでいいんだよね?」

 

「もう好きに呼べ!!!」

 

もう何を言っても無駄なのを悟ったのかどうかは知らないが、クリスはやけくそ気味にそう叫んだ。

 

「え~っと・・・私たちはどうすれば・・・?」

 

「私たちは同級生だし別に今まで通りでいいでしょ」

 

日和と海恋に対してはクリスと同級生ということで今まで通りに接すればいいという決断に至った。結局進級しても関係性は今までと変わらないのであった。

 

 

 

『今のリディアンと前のリディアン』

 

 

 

入学式が無事終わり、日和たちは屋上で調と切歌の入学を祝う。

 

「調ちゃん!切歌ちゃん!」

 

「入学おめでとう!」

 

「あ、ありがとう・・・」

 

「なんだかまだ、慣れないデスよ・・・」

 

響たちから祝いの言葉をかけられて調と切歌は照れくさそうに頬を赤らめている。

 

「やーん!照れてるー!かわいいー!これからしぃちゃん、切ちゃんって呼んじゃってもいい?」

 

「またあんたは勝手に・・・この子話は軽く流していいからね」

 

2人の照れ姿に感激している日和に呆れている海恋。

 

「ところで、2人はこの校舎を見て回ったかしら?よかったら・・・」

 

「まぁまぁ!ここでの慣れも兼ねて、ここは先輩であるあたしが、かわいい後輩に校舎を案内してやろう!」

 

海恋が2人に校舎の案内役に名乗ろうとした時、クリスが前に出てきてそれを遮られる。話を遮られた海恋はクリスを恨めしそうな目で睨む。

 

「あ!2人ともずるい!私も案内するー!」

 

さらにそこに日和が便乗して案内役を買って出てきた。

 

「そ、そういうのは、オリエンテーションでもう・・・」

 

「遠慮すんなって!ほらいくぞ!」

 

調はオリエンテーションでもう見て回ったと言ってやんわりと断ろうとするが、誰よりも張り切っているクリスに遮られる。クリスを筆頭とした上級生組は2人に校舎を案内しようと移動を始める。2人が校舎を知っているのは何もオリエンテーションが理由というわけではない。

 

「・・・むしろ、校舎の作りなんて前に潜入捜査した時にあらかた調査済みなんデスが・・・」

 

「あんなに張り切ってる人には言い出せない・・・」

 

2人は秋桜祭でリディアンの潜入調査の際にすでに校舎を把握しているのだが、クリスの張り切りようを見ると、断るに断れないため。2人は仕方なくすでに知っている校舎を案内してもらうことにした。まず最初に案内されたのは皆の学び舎である教室である。

 

「なんとここが教室だ!」

 

「ワー、スゴーイ」

 

「タシカニキョウシツデース」

 

教室に案内されても何にも驚きがないからか、調と切歌は棒読みである。それでも驚いたように振る舞っているのはクリスに気を遣っているからだろう。

 

「廃校になってた昔のミッションスクールを改装して、今の教室になったのよ」

 

「前の校舎も特徴的だったけど、今の校舎もすごく趣があるの」

 

「前の校舎・・・?」

 

未来の言う前の校舎に反応する調。

 

「うん。前の校舎はすごかったんだよー。そのおかげで、ペンを落とした時大変な思いをしたことあるのを覚えてるよー」

 

「わかりますよー。教室の傾斜がきつすぎて、落とした消しゴムを拾おうと屈んだら、もろともに1番下まで最速で最短でまっすぐに一直線に転がり落ちた時もありましたから」

 

「わかるー」

 

「デデデデーース!!?」

 

日和と響の前校舎の教室の話を聞いた切歌と調は驚愕した顔になる。

その後の校舎案内はまだまだ続き、一通り見て回り、次に案内されたのはグラウンドである。

 

「そしてお待ちかね!体育の授業で使うグラウンドがここだ!」

 

「どう見ても・・・」

 

「普通のグラウンド、デス・・・」

 

クリスは自慢げに言っているが、2人の言うとおり、確かにこのグラウンドはどこの学校にもある普通のグラウンドである。

 

「うん・・・やっぱりグラウンドはこうでなくっちゃね」

 

この普通のグラウンドを見て響は腕を組み、うんうんと納得した表情をしている。この表情になるのも、前のリディアンのグラウンドと関係しているからだ。

 

「前の学校のトラックのコーナーなんて、ほぼ直角に曲がっていたから、真面目に走るとコースアウトする人が続出だったの」

 

「後にも先にも、あんなグラウンドにはお目にかかったことはないよー」

 

「まぁ、私は運動苦手だから、今の方が大助かりだけどね」

 

改めて考えて見ると、前のリディアンがどれほど特殊な学校だったのか、今の校舎を見ればよくわかる。1年の時からリディアンに通っていた日和と海恋は今と昔の違いに感慨深いものを感じ取っている。

 

「・・・かつてのリディアンには、シンフォギア装者の候補が通うと聞いていたけれど・・・まさか校舎の施設を過酷な環境とすることで、トレーニングを想定していたのかもしれない・・・!」

 

「あながち間違いでもじゃないかもデス・・・!」

 

前の校舎の詳細を聞いた調は想像を膨らませており、切歌はその想像に同意するのであった。

 

 

 

『国連エージェントフォルテ』

 

 

 

国連側の指示によって国連エージェントとなったフォルテとマリアはチャリティライブのために各国を転々と移動していく。その最初の国の宿泊先にて、フォルテは1人、当面の任務内容を端末で確認する。

 

「ふむ・・・当面の任務はチャリティライブ・・・そこで僕の役目はマリアのマネージャーとして、様々なサポートをすること・・・か・・・」

 

マリアのマネージャーとしてサポートをすると言われても、フォルテはそのマネージャー業に不安を感じ取っている。

 

「しかしマネージャー業は元々任務のためにやってきたこと。これも任務だが、あの時とは状況が違う・・・。かじった程度の知識で果たしてうまくこなせるものであろうか・・・」

 

そもそもフォルテがマネージャー業を始めたきっかけはF.I.Sから与えられた任務である。任務内容は神獣鏡の適合者候補を探し出すことだ。ゆえにフォルテは候補を探し出すために潜入調査の一環としてマネージャー業の知識を頭に叩き込み、音楽会社に潜入したというわけだ。しかしその任務も月の落下を阻止する計画が始動したことでお蔵入りとなった。だから当時のフォルテにとってマネージャー業はそこまで愛着を持っているわけではなかった。ちなみにこの適合者候補で1番有力だったのはマリアの前に担当していた歌姫だったりする。

 

「むぅ・・・このままではいかんな・・・」

 

しかし昔と今とでは状況が違うため、生半可な気持ちでは任務を全うできないとフォルテが考えたところで回想が終了。現在フォルテはマネージャー業の何かしらのアドバイスを求め、緒川に電話をしている。

 

『それで僕に電話を・・・?』

 

「僕はまだまだ若輩の身。至らぬことが多々ありますゆえ、ぜひともアドバイスのご教授をお願いいただきたいのですが・・・」

 

『何も謙遜しなくとも・・・。フォルテさんだって偉業を成し遂げたではないですか』

 

フォルテは短期間でかつて担当していた歌姫をトップスターに導いた功績がある。緒川はそれを指しているのだ。

 

「それは彼女自身の頑張りの結果です。僕はただ学んだことを実践しただけです」

 

どうやらフォルテはこの功績は自分のものではなく、歌姫のものであると考えているようだ。

 

(学んで試しただけで成し遂げられることでもないと思うけどなぁ・・・)

 

ただ緒川はフォルテの功績を努力なくして結果は得られないと考えており、お互いにそれ相応の努力をしてきたんだなと考えるが、それはあえて口にはしなかった。

 

『そうですね・・・これはお互いに言えることですが、強いて言うならば日々の積み重ねでしょうか』

 

「日々の積み重ね、ですか・・・」

 

緒川の話を聞いて、フォルテは納得した顔になり、もらったアドバイスを忘れないようにメモを取ろうとする。

 

『はい。数々のバラエティ番組で爪痕を残してきた翼さんに今イギリスのテレビ局から出演依頼が殺到してまして・・・』

 

「バ、バラエティ方面!!?」

 

フォルテの想像ではステージ方面だと予想していたために、バラエティ方面のオファーだったことに驚いている。ちなみに、翼も同じ反応だったとか。

 

「あの・・・差し支えなければ、どんな内容なのか伺っても・・・?」

 

『今までのクイズやゲームではなく、新天地に挑戦する翼さんの人となりに迫る密着系でして・・・』

 

「ほう・・・密着系・・・」

 

『想像を絶する寒い海で、危険なカニ漁に挑んでもらうと・・・』

 

「テレビ局はいったい風鳴の何を求めているのだ・・・」

 

もはやバラエティの粋を越えた内容にフォルテはドン引きするのであった。

 

 

 

『国連エージェントマリア』

 

 

 

宿泊先の部屋でマリアは端末で用意された国連が用意したシナリオの内容を確認する。

 

「歌姫マリアの正体は国連所属のエージェントであり、全てはアナキストの野望を食い止めるための偽装工作であった・・・。ちょっと頑張りすぎな気がするけれど・・・それでみんなを守れるなら仕方ない・・・」

 

「マリア、照れが見え隠れしているぞ」

 

シナリオの内容にちょっと照れているマリアにフォルテがそれを指摘する。

 

「う、うるさいわね・・・。えっと・・・当面の任務は各地のチャリティライブ・・・。だけど、どの面下げてステージに立てばいいのかしら・・・」

 

元が引っ込み思案なマリアはここでもそれが発現し、頭を抱えて悩んでいる。

 

「私に・・・なんだかよくわからないけど、堂々とした振る舞いと、有無を言わせない存在感、多少様子がおかしくても確固たる自信さえあれば・・・」

 

「いるではないか。参考になる人物が」

 

「参考に・・・?はっ!!」

 

フォルテの言葉にマリアは首を傾げたが、参考になる人物像にすぐに翼が当てはまった。

 

『話はベッドで聞かせてもらう!!』

 

「ちくしょう!敵わないわけだ!」

 

初めて戦った時の翼の姿を思い出し、マリアは悔しそうに唸るのであった。

 

 

 

『新天地、ロンドン』

 

 

 

数か月後にロンドンでチャリティライブが行われることになり、マリアは翼に電話をかける。

 

「ハロハロー。もしもーし」

 

『マリアか?』

 

マリアは翼にチャリティライブの件について話す。

 

『私とマリアの2人でもう1度ステージに立つ?』

 

「海外ショウビズの宣伝に翼が打ちひしがれてるんじゃないかと思ってね。慣れるためにも私が手伝ってあげるわ」

 

そうは言っているものの、実際のところ1人でステージに立つのが不安なだけである。

 

「結局風鳴に頼るのか」

 

「ちょっと黙っててよ!翼に聞こえるでしょ!」

 

不安解消に翼を頼ろうとするマリアにフォルテは呆れており、茶々を入れられた彼女にマリアは恥ずかしそうに小声で怒鳴る。

 

『翼さん、他にもいろいろバラエティのオファーがあるのですが・・・』

 

『どうせ不承不承どころか、了承できかねるものばかりです!』

 

翼は翼でバラエティの話に持ち込もうとする緒川を小声で怒鳴っている。

 

『ま、まぁ、この瞬間にも、殺到するオファーをどう断ろうかと難儀していたところだが、仕方あるまい。ここは、マリアの顔を立てるとしよう』

 

「話が早いのね。あなたのそういうところ嫌いじゃないわ。じゃあ、細かい話は後程詰めましょう」

 

話がまとまったところで、マリアと翼は通話を切った。

 

「「はぁ・・・助かった・・・持つべきものは友達だ・・・」」

 

お互いに利害が一致して、一時の危機を回避できたことでマリアと別の宿泊先にいる翼は安心しきっている。隣で事の経緯を見ていたフォルテはやれやれと肩をすくめている。

 

 

 

『それから数か月後』

 

 

 

日本ではチャリティライブの中継は夜に放送されることになる。そのため、クリスの家でライブ中継を見ることになった。日和と海恋はその準備に覆われている。

 

「翼さんとマリアさんのステージ、楽しみだなー♪何を着ていこっかなー?」

 

「何を着るって・・・パジャマで過ごすのに何を言ってんのよ・・・」

 

中継が始めるのが夜なのだから海恋の指摘は最もだ。

 

「わかってないなー。こういうのは最初が肝心なんだよ?」

 

「ライブ見るだけなのに何が肝心なのよ・・・本当にもう・・・」

 

観点がちょっとずれている日和に海恋は持っていくものを鞄に詰めながら呆れている。

 

「私、もう準備できたから、先に外に出るわよー?」

 

「ああ!待って待って!すぐに支度終わるからー!」

 

支度を終えた海恋は部屋を出ていき、日和は慌てて持っていくものを鞄に詰め込んで急いで海恋を追いかけるのであった。




XD-エクスドライブアンリミテッド-

東雲日和バンド型ギア

BanG Dream!に登場するバンド『RAISE A SUILEN』通称『RAS』のバンドメンバーのバンド衣装を模したコスチュームになっている。上はターコイズ色の刺繍がある黒い袖なし服を着込む。
腰部にはベルトを着けており、機械装飾の黒猫の尻尾がある。
下は黒いスタートを履いており、紫色のフリルがついており、靴はターコイズ色の靴紐がついた黒いブーツ。
ヘッドギアは黒猫耳がついたヘッドフォンとなっている。
アームドギアは茶色い棍であるが、必殺技を放つ際、茶色のベースへと変わる。


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戦姫絶唱しないシンフォギアGX③

今回はキャロルちゃんとオートスコアラー6機がメインですので日和ちゃんたちの出番は今回はなしです。


『GX1話が始まる少し前』

 

 

 

チフォージュ・シャトーの主であるキャロルには1つ、嘆かわしいことがあった。その嘆かわしいこととは、自身が造り上げた6機のオートスコアラーにある。

 

「マスター?いかがなさいましたでしょうか・・・?」

 

自分たちを見ていたキャロルの様子が心配になったリリィがキャロルに尋ねる。

 

「・・・人工知能のサンプルデータとして、オレの思考パターンを使ってみたのだが・・・」

 

オートスコアラーの持つ知能はキャロルの思考パターンのデータを基にしているようなのだが、キャロルはそこに不満があるようだ。

 

「いやですよぅ、マスター。あたしら飛び切りの最高傑作なんだから、もっと胸を張ってくださいよぅ」

 

「自分の中にこんなキメキメの立ちポーズ取りたがる潜在意識があったなんて突きつけられてみろ!そんなのオレでなくともへこむわ!!」

 

キャロルの言うとおり、6機のオートスコアラーは皆、待機している際、各々のスタイルの立ちポーズをとることが多い。そしてオートスコアラーがキャロルの思考パターンを元にしているのならば、これはキャロルの中にあった潜在意識ということになる。だからこそキャロルはそれを突きつけられてショックを受けているのだ。

 

「えんやえんや需要ありますってぇ。きょうびなラスボスはこれくらいの器量が求められているものですよぉ~?こぉ~んなポーズもぉ~、実はマスターもやってみたいだなんて。あーははは!」

 

性根が腐った発言をするガリィはくるくる回ってバレエのポーズをとって高らかに笑う。

 

「お前のその・・・性根が腐った性格が1番堪えるんだよ・・・そいつが自分の中にあると思うと・・・!」

 

「あれで私と姉妹機というのですから・・・嘆かわしいことです・・・」

 

ガリィの性根の腐った性格に姉妹機であり、1番最初に起動したリリィは嘆かわしさを感じ取っている。特にキャロルはあれが自分の中にあると考えると、ダメージも大きいだろう。

とにもかくにも、ガリィはまだ起動していないオートスコアラーに自身の中にある思い出のエネルギーを口移しで送り込んでいる。口づけするという光景を目の当たりにしたキャロルは頬を赤らめている。

 

「ん~、デリーシャース!グレートな味わい深さだったぜ」

 

「馳走になったな」

 

「何とも、お粗末様でした♪」

 

これによってファラ、レイア、シャルの起動に成功する。

 

「仕方ないとはいえ、見せつけられると妬けちゃいますわ」

 

「そ、そうだ・・・仕方ないとはいえ、もう少し人目を気にしてもらいたいものだ・・・」

 

ファラの言葉にキャロルは頬を赤らめたまま腕を組んでそう発言する。

 

「しかしマスター。私たちの人工知能はマスターがベースになっておられますので・・・」

 

「むっ・・・!」

 

リリィの発言にキャロルは顔をしかめている。

 

「実はマスターってば、衆人環視のただなかでこれでもかと言わんばかりにむずみあいたい性癖でもあるんじゃないですかぁ~?」

 

「あるわけないだろ!!」

 

ガリィの空気の読めない発言にキャロルは怒鳴り声を上げた。

 

~♪~

 

チフォージュ・シャトーの玉座の間。キャロルはここにある玉座に座りこみ、オートスコアラー6機は各々のポーズで待機している。そこへ、エルフナインが玉座の間に入ってくる。

 

「よく来たな。廃棄躯体11号・・・いや、エルフナイン」

 

「キャロル・・・そして・・・これが6機のオートスコアラー・・・」

 

エルフナインは各々のポーズをとっているオートスコアラーに視線を向ける。

 

「これがキャロルの・・・」

 

「ああそうだよ!!どうやらオレの中にあるらしいオレの潜在意識がそうさせてるんだよぉ!!」

 

「ぼ・・・ボクはまだ何も・・・」

 

エルフナインが口を開こうとした時、キャロルが前に出てきて羞恥心が混じった声で彼女を怒鳴った。

 

~♪~

 

『お前をシャトー建造の任を解く。後はどうとでも好きにするがいい』

 

あれから時間が経ち、エルフナインをシャトー建造の任を解いたキャロルはその当時のことを思い返す。

 

「さて、そろそろ出奔する頃合いだろうか。思い出を共有する疑似同一体でありオレの目からは逃れられんぞ」

 

キャロルはそろそろ頃合いと見て、エルフナインの視界をジャックして彼女の様子を伺う。視界に映るのはエルフナインが使っていた部屋。彼女は自分が使った部屋を掃除しているようだ。

 

『立つ鳥跡を濁さずといいますからね。まずは自分の部屋の後片付けをきちんとしないと・・・残った方々に迷惑がかかります!』

 

「脱走前にやることか・・・」

 

エルフナインが脱走すること自体はわかっていることだが、その前に自分の部屋の掃除をするという行為にキャロルは呆れている。

 

『戸締りよし!ドヴェルグ=ダインの遺産よし!指さし確認問題なし!』

 

「おいおい・・・真面目が過ぎるだろう・・・」

 

発つ前にこれでもかという確認をするエルフナインにキャロルはさらに呆れる。

 

『今日は脱走デビューとなると、特別な日なので、相応しい一張羅にしないと・・・!』

 

今度は自分の着ている服を選びだすエルフナイン。

 

「いいからさっさと脱走しろー!!」

 

我慢できず、キャロルは思わずこの場にはいないエルフナインを怒鳴りつける。

 

『ひっ・・・!い、今、誰かに怒鳴られた気が・・・』

 

怒鳴り声を感じ取ったのかエルフナインは辺りを見回した。気を取り直してエルフナインはチフォージュ・シャトーの脱走を図った。が、ただの自動ドアに服が挟まり、身動きが取れなくなっている。

 

『これが・・・侵入者を阻み、脱走者を立ちはだかるというチフォージュ・シャトーの防衛システム・・・きゃあ!』

 

ようやく挟まっていた服が取れ、その反動でエルフナインは転んでしまう。

 

『いけない・・・早くも大ダメージ・・・!』

 

大袈裟なことを言うエルフナイン。その一部始終を見ていたキャロルはレイアとシャルに命令をする。

 

「・・・レイア、シャル、こちらが誘導してると悟られぬよう、追い立ててやれ」

 

オートスコアラーにとって自身を作った主の命令は絶対。ゆえに断る道理などないのだが・・・

 

「オーケーだ、マスター。ただ・・・なぁ?」

 

「ただ・・・なんだ?」

 

「マスターの命令とはいえ、エルフナインのあの様子を見てしまうと、地味に良心が痛みます」

 

レイアとシャルはエルフナインのあまりにどんくさい動きに多少なりとも良心を痛めているようだ。

 

「良心回路なんて取り付けた覚えはないぞ!!」

 

だがキャロルは良心回路をオートスコアラーに入れていない。ということはやはり、キャロルの思考パターンに基づいたものなのだろう。

 

~♪~

 

キャロルから与えられた任務に向かう前に、ファラ、シャル、レイアは少しだけ話し合っている。

 

「今後何かを決めるにあたり、私たちオートスコアラーの間では、公平な意思決定方法を定めておく必要がありそうね。例えば、あみだとか」

 

「あみだだぁ~?おいおいファラ・・・そいつはクールじゃないんじゃねぇか?」

 

「シャルに同意だな。あみだとはまた地味な。ジャンケンの方がポピュラーではないか?」

 

意思決定方法についてあみだを提案するファラに対し、シャルは不満をこぼし、レイアはジャンケンを提案する。と、ここでファラがソードブレイカーを取り出し、2機の提案に異を唱える。

 

「ジャンケンにおいて、斬撃武器使いはチョキを出す傾向が高いと統計的に立証されておりますわ。公平を期すのであれば、ここはやはり、あみだ以外にありえません」

 

統計学を持ち出され、レイアとシャルは納得する。

 

「そ、そうか・・・地味にすごいな、統計学・・・」

 

「アメイジング・・・統計学ってのはそんなのまで立証してんのかい・・・」

 

「錬金術も驚きの新事実ですわ・・・」

 

レイア、シャル、ファラは統計学の立証率に多少なりとも驚きを見せているのであった。

 

 

 

『Project IGNITE始動の少し前』

 

 

 

S.O.N.Gの方でProject IGNITE計画が始動する少し前の時間、6機のオートスコアラーはキャロルの命令で待機状態にある。そんな時、ミカがガリィを追いかけている。

 

「ガリィ~。なぁガリィったら~。お腹が空いたゾ。チューしてくれよ~。ペコペコだゾ~・・・」

 

「うっさい!あたしは今忙しいんだ」

 

ガリィはそう言って断っているが、実際のところガリィは現在待機命令で暇を持て余している。

 

「頼まれていない時はところかまわずチューしまくるのにね」

 

「頼まれると人にしないあたりが、性根が腐ったガリィらしい」

 

「ランチが欲しいならガリィを説得できるリリィに言えやいいのになぁ?」

 

「そう何回も来られても困るのですけれどもね・・・」

 

オートスコアラー4機はガリィとミカの様子を遠くから見てそう話すのであった。

 

~♪~

 

オートスコアラーの待機は未だに続いている。そんな中オートスコアラー5機は少々気になっていることがある。それはミカの待機状態のポーズについてだ。ミカはがに股を開き、両手を広げてまるで怪獣のようなポーズをとっている。

 

「あれはいったい・・・」

 

「何がモチーフなんだ・・・?」

 

「んなのあたいが知るかよ・・・」

 

「大道芸・・・でしょうか・・・?」

 

「皆目見当もつきませんわ・・・」

 

ミカのポーズを見てオートスコアラー5機はひそひそと話し合っている。それを見ていたミカはぷんすかと怒っている。

 

「ひそひそ話は感じ悪いゾ!!これは、かっこいいポーズなんだゾ!!あたしにも全然わからないけど、そうなんだゾ!!」

 

ミカ本人もわかっていないようだが、どうやらかっこいいポーズをとっているらしい。

 

「・・・ということは・・・」

 

「必然的に・・・」

 

「そうだよなぁ・・・?」

 

「・・・申し訳ございません・・・」

 

オートスコアラー5機の視線は玉座に座っているキャロルに向けられている。

 

「オレか!!?オレだっていうのか!!?」

 

自身の潜在意識を目の前で突きつけられている感覚に陥っているキャロルはオートスコアラー5機に向けられた視線に耳を塞ぎながらそう叫んだ。

 

~♪~

 

まだまだ待機が続く中ファラはソードブレイカーを構え、薔薇を口にくわえて華麗なポーズをとっている。

 

「私の武器は剣と定義されるものは硬度も強度も問わずにかみ砕く哲学兵装のソードブレイカー・・・そして何より、奇天烈な言動揃いのオートスコアラーの中にあって、これっぽっちも損なわれない立ち振る舞い・・・」

 

「後、言動も忘れちゃダメだゾー」

 

「な、何を!!?」

 

自分の有能ぶりをアピールしている中、ミカの一言で驚くファラ。

 

「ファラ、キャラ設定盛りすぎなんだよ。あたいとキャラ被るだろうが」

 

さらにそこへシャルが本人がかっこいいと思っているポーズを取りながらファラにたいしてそう指摘する。

 

「あたし知ってるゾ。シャルのカッコつけてるところ、ナルシストっていうんだゾ」

 

「ヘーイ、ミカ・・・ちょっとこっちに来いよ・・・ちっと話があるからよ・・・」

 

ミカの余計な一言に苛立ったシャルは自身の武器であるレールガンを向けながらそう言った。どうやらナルシストという言葉はお気に召さないようだ。

 

「私からすれば、みんな同じだと思いますが・・・」

 

リリィの目から見れば、自分を含めたオートスコアラーがポーズを取りたがり、カッコつけることからみんな同じだと思っているようだ。

 

~♪~

 

さらに時間が経った頃、リリィとガリィが他愛のない話をしている。そこへ困ったような顔をしているミカがやってきた。

 

「なぁ~、リリィ、ガリィ~・・・」

 

「どうしましたかミカ様?もしかして、お腹が空いたのですか?」

 

「もうかよ!!?さっきチューしたばっかりだろ!!」

 

用があるとすればまたお腹を空かせているから思い出を欲しがっているのだろう。リリィやガリィに話すことはたいていがそれだからそう思っていたが、ミカの様子からしてそうではないようだ。

 

「いや・・・そうではなくてだゾ・・・」

 

「そうでないならなんなんだよ?」

 

「ほどけちゃったんだゾ・・・」

 

どうやらミカの服についていたリボンの紐がほどけてしまって結んでほしいようだ。

 

「ちっ・・・最強のオートスコアラーなんだから、最強らしくなんでも1人でしてみせろよ」

 

「ガリィ様、ミカ様の手ではリボンを結べません」

 

ガリィは面倒くさくてやりたくないようなのだが、リリィの指摘通り、ミカの凶暴な手では細かい作業することはできない。

 

「そうなんだゾ・・・最強だけど・・・リボンの結び直しも、思い出の採取も、ガリィがいなきゃダメダメなあたしなんだゾ・・・」

 

「・・・しゃあねぇなぁ・・・」

 

ガリィはリリィに何か言われるより先にミカのリボンを結び直す。

 

「すまないゾ。あたしのその機能があれば、ガリィにお礼のチューしてあげるんだけどなぁ~・・・。残念だゾ・・・」

 

「バァカ、できもしねぇこと言ってんじゃねぇ」

 

なんだかんだ言いつつも、面倒見がいいガリィにリリィは腕を組んで感心して、氷を身に纏って姿を消してその場を後にする。

 

~♪~

 

あの場を後にしたリリィは透明化を解除し、シャルとガリィについての話をしている。

 

「普段からああしていればいいのですが・・・どうしてああも面倒くさがったりするのでしょうか・・・?」

 

「いいじゃねぇか。ガリィに腐った性根が取り除かれたら何が残るってんだい?」

 

「ガリィ様もマスターに作り上げられた最高傑作の1つなのですから・・・待機においても相応しい行動をとってもらいたいものです」

 

「よっぽど信頼してるんだなぁ、ガリィのこと」

 

口を開けばお互いに言い争いをしてしまうリリィとガリィだが、お互いに信頼しあっているようだ。もっとも、それはその2機に限った話ではない。

 

「ガリィ様だけではありませんよ」

 

「ワッツ?」

 

「マスターはもちろんのこと・・・レイア様にファラ様・・・ミカ様も信頼に値しております。そして何より・・・シャル様・・・私はあなたを1番頼りにしていますよ」

 

「ヘイ、そいつはお世辞かい?だとしても、嬉しいことを言ってくれるねぇ」

 

効率を重視するリリィから信頼されていたとは思っていなかったシャルは上機嫌に右手のレールガンをくるくる回す。

 

「これからもあなたの完璧な仕事ぶり、期待していますよ」

 

「ハッ・・・オーケーオーケー。ならその期待にビジネスでちぃっと応えてやろうじゃねぇの」

 

笑みを浮かべてしゃべるリリィにシャルは笑って帽子を被り直した。




東雲姉妹のビーフシチュー?カレー?

東雲姉妹の料理の失敗の産物。最初の工程自体は手順通りなのだが、入れるルーを間違えてしまって当初のメニューとは違うものになってしまった料理。カレーだと思ったら、ビーフシチュー、ビーフシチューだと思ったらカレー・・・そんなどちらなのかはっきりとしない一品。


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戦姫絶唱しないシンフォギアGX④

『手紙』

調「切ちゃん、押収された証拠品の中からこんなのがって・・・」

『手紙』

切歌「デーーーース!!!で、でで、デース!!」

フォルテ(・・・あれはいったいなんだ・・・?)

~♪~

G編で乗せなかったあれをここを使ってみました。時間軸的にはここら辺がちょうどいいと思ったので。まぁ、あくまで想像ですが。
さて、今回で番外編は終了で、次回でAXZ編に突入です。もちろん、XD ー開く地平線の扉ーも忘れてはいませんよ。


『帰国の途に就く翼とマリアとフォルテ』

 

 

 

新たな敵の出現によって今後の対策を取るためにジェット機に乗って日本に帰国することになった翼とマリアとフォルテの3人。そんな中マリアはロンドンで開かれたチャリティライブのことを思い出していた。

 

(・・・明るく送るレイクエムって、難しいわね・・・)

 

マリアは空の光景を見ている翼に視線を向ける。

 

(翼が一緒にいてくれたから、歌に没頭しすぎてたかもしれない・・・。ああ!なんだか今になって恥ずかしくなってきたかも・・・!)

 

ライブで歌ってきたことを思い返して、今さらながら羞恥心で頬を赤らめている。

 

『いやー、すっかり任務を忘れて、お楽しみでしたねー』

 

(とか言われたらどんな顔して答えればいいのかしら・・・!)

 

なぜか日和の第一声を想像してマリアは頭を抱えて悩んでいる。その様子に気付いた翼とフォルテはマリアに顔を向けている。

 

「ど、どうしたのだマリア?もしかして、飛行機に乗るのが怖かったのか?」

 

「飛行機を降りるのが怖いのよ!!」

 

「ああ、そういう遊びなんだ。あまり気にしないでやってくれ」

 

「そうなのか?」

 

「これが遊んでいるような顔に見えるわけ!!?」

 

フォルテの的外れな発言にマリアは思わずツッコミを入れるのであった。

 

~♪~

 

ジェット機が日本の空港に到着し、荷物を緒川とフォルテに預け、翼たちはジェット機を降りて空港の廊下を歩いていく。

 

「翼さーん!マリアさーん!フォルテさーん!」

 

翼たちを出迎えたのは、元気そうに手を振っている響と装者一同たちだ。

 

「挨拶は後!新たな敵の出現に、それどころではないはずよ!」

 

『おお~・・・!』

 

マリアは翼たちの前に出て、強気にそう言い放った。マリアの貫禄のある言葉に装者たちは彼女を頼もしく感じている。

 

「ちょっと頼もしくてかっこいいデス!」

 

「やっぱりマリアはこうでなくっちゃ」

 

頼もしいマリアの姿に切歌と調はそう評価した。ただこの威厳の良さには、ある秘密がある。

 

(さすが、政府が用意した特別チャーター機ね・・・。機内食が豪華だったのが利いている!)

 

そう、政府が用意してくれたチャーター機の機内食が豪華であったが故、気分が上がってこうした立ち振る舞いができたというわけだ。

 

(・・・日本食食べたいなぁ・・・)

 

カッコよく振る舞っているマリアに対し、フォルテは日本食について考えていた。彼女の食のセンスは相変わらずブレないようだ。

 

 

 

『あなたは料理は作れるの?』

 

 

 

現在日和たちが受けている授業は体育の水泳。その水泳の授業の自由時間。日和は海恋に泳ぎ方を教えている最中だ。そんな時、日和はふと思ったことがある。

 

「そういえば今日響ちゃんたちの授業って調理実習だったよね?」

 

「ええ。メニューはビーフストロガノフだと聞いてるわね」

 

どうやら響たちの方では調理実習をやっているそうで、ビーフストロガノフを作っているらしい。

 

「でもそれがどうかしたの?」

 

「いやー・・・さ?もしも・・・本当、もしもだよ?ビーフストロガノフが余ってたら・・・ご相伴しよっかなー・・・なーんて・・・」

 

「そんなことだろうと思ったわ・・・卑しいわねぇ・・・」

 

日和は調理実習のメニューが余っていたら食べたいと思っているらしい。想像通りの甘い考えをしていた日和に海恋は呆れている。

 

「やっぱりダメ・・・だよねぇ・・・」

 

「当たり前でしょ。だいたい、そんなことを授業で想定してやるわけがないでしょう」

 

「う~ん・・・そっかぁ・・・」

 

日和本人も淡い期待だと思っていたらしいが、いざダメと言われると露骨にがっかりした顔になる。そこでふとあることに気づいた。

 

「あっ!そういえば!」

 

「今度は何?」

 

「響ちゃんや未来ちゃんって、料理できたっけ?」

 

「さぁ・・・?立花さんの場合はだいたい想像がつくけど・・・」

 

「もし2人ともあまり料理が得意じゃないなら・・・2人は今頃何ともいえないビーフストロガノフ食べてるのかなぁ・・・。ちょっとご愁傷様・・・」

 

「そうと決まったわけじゃないでしょ?あんた何気に失礼ね」

 

響と未来が料理できたかどうかで、あまり得意じゃないと考えている日和はこの場にいない2人に気の毒さを感じている。何気に失礼なことを言う日和に海恋はさらに呆れる。

 

「あんたあーだこーだ言ってるけど、あんたは1人で料理したことあるの?」

 

いろいろ言いたいことを言っている日和に海恋は逆に1人で料理したことがあるのかと尋ねている。返ってきた返事は意外なものだった。

 

「あるよー。お腹が空いた時、自分でクッキーとかケーキとか作ったことがあるもん」

 

「へぇ・・・意外ね」

 

意外に知らなかったことを聞かされて海恋は少し驚いた様子を見せている。

 

「でも初めの方は全然上手じゃなかったんだー。いっつも黒焦げになっちゃってさー」

 

「まぁ、初めの内はみんなそうよ」

 

「特に初めて料理をした時なんてもう大変だったんだからー。出来上がった料理を口に運んだ瞬間、パパもママも、お姉ちゃんも私もみーんな机に突っ伏しちゃってその日の晩御飯は抜きになっちゃったんだからー。これは新種の毒薬だーってパパが大袈裟に騒いでたくらいだし」

 

「あんたよくそんな話を笑い話にできるわね・・・」

 

盛大な失敗話を笑い話に変えている日和に海恋は呆れを通り越して逆に感心している。

 

「失敗は成功の基っていうからね!」

 

海恋の言葉に日和はドヤ顔でそう返した。話をしている間にも水泳の授業が終わり、話の続きは更衣室ですることに。

 

「海恋はよく料理をするよね」

 

「まぁね。毎日持って行ってるお弁当も、自分で作ってるもの」

 

「おー、さっすが海恋!」

 

「キッチンを貸してくれるおばさんたちに感謝だわ」

 

海恋がお昼にいつも食べているお弁当は海恋が自分で作ったものらしい。

 

「あー、こういう話してたらなんだかお腹が空いてきちゃった。海恋、今日のお昼ごはんなんだけど・・・」

 

「今さら何言ってるのよ。どうせあなたも食べるだろうから、多めに作ってるわよ」

 

「やったーーー!!海恋、だーいすき!!」

 

日和もお弁当のおかずを食べることを想定して作っている海恋に日和は嬉しさのあまり彼女に抱き着いた。

 

「ちょ、ちょっと!急に抱き着いてこないでよ!」

 

「ごめんごめん、海恋のご飯って本当においしいから、つい・・・」

 

「ついって・・・いっつも食べてるでしょ・・・」

 

「えへへ・・・でもおいしいのは本当のことだよ」

 

「そう思ってるってことは、隠し味が利いてるのかもね」

 

海恋の言う隠し味という言葉に日和は反応する。

 

「え?隠し味って何?気になるー!何入れてるの?」

 

「教えたら隠し味の意味がないでしょ」

 

「えー!いいじゃーん!教えてくれたってー!」

 

「ダメ!」

 

「ちぇー」

 

頑なに隠し味が何かを喋ろうとしないに海恋に日和はふてくされたような顔になる。

 

(こういうのは教えない方がいいのよ。何せ、愛情は最大の隠し味ともいうしね)

 

海恋が隠し味を隠そうとしている理由は、その隠し味が愛情だったりするからだ。

 

 

 

『ガングニール、再び』

 

 

 

ガリィとシャルの襲撃を退いたはいいものの、日和は大ダメージで気を失い、響は聖詠の詠唱を唄えず、ギアを纏うことができないといった厳しい状況下に陥っている。戦いが終わり、マリアはガングニールを響に託そうと、彼女と対面する。・・・血涙を流したままで。

 

「そうだ。ガングニールはお前の力だ。だから・・・目を背けるな!」

 

「目を・・・そむけるな・・・」

 

響は重圧だけでなく、血涙を流したまま話すマリアの姿に響は目を逸らしてしまう。

 

(マリアさん・・・お願いですから・・・顔の血を拭いてください・・・立花さんでなくても目を合わせられません・・・!)

 

あまりにもすごい絵ずらに日和を支えている海恋は心の中でマリアに訴えかけているのであった。

 

 

 

『ギアの交換』

 

 

 

戦いが終わったころ合いに、装者たちがブリッジに集まってきた。そこでマリアが響のガングニールを身に纏って応戦したことを聞いた。

 

「あのバカのガングニールを身に纏ったのか・・・。ってことは、あたしも身に纏うことも・・・」

 

クリスはガングニールを身に纏った自分を頭の中で想像を膨らませる。

 

『ご飯&ご飯!』

 

(ひあああ!あたしってば黄色が似合わねぇー!!)

 

が、自分のキャラに合わないと思ったのか首を横に振ってこの想像をかき消す。この想像を上書きするかのように調のシュルシャガナ、切歌のイガリマを身に纏った自分自身を想像する。

 

『それこそが偽善』

 

『デスデス、デース!!』

 

「・・・へ、へへへ・・・」

 

そんな想像を膨らませるクリスはにやにや笑っている。

 

「ど、どうしたのだろう・・・?」

 

「なんだか様子がおかしいデス!!」

 

クリスが自分たちのギアを纏った時の想像をしてるとは知らない調と切歌はクリスが心配になってくる。

 

~♪~

 

その後、クリスはギア交換の提案を翼とフォルテに持ちかけてみようと2人に話を試みようとする。

 

「なぁ?いい考えがあるんだ!」

 

「ダメだ」

 

「却下だ」

 

「はあ!!?まだ何も言ってないだろ!!?」

 

だが話を持ち出す隙も無く、あっけなく2人に却下された。

 

「言わなくとも、雪音の胸の内などだいたいわかる」

 

「大方、ギアの交換を持ち掛けに来たのだろう?許可できん」

 

「なんでだよ!!」

 

何も言わなくてもクリスの考えを見通し、それを却下する翼とフォルテにクリスは納得できず異を唱えている。その様子に翼とフォルテは遠くを見つめるような顔になる。

 

「「・・・私(僕)も通ってきた道だ・・・」」

 

「それ本当っすか!!?」

 

まさか翼やフォルテが同じ道を辿って来たとは思わなかったためにクリスは驚愕で声を上げた。そんなクリスに翼は聖遺物についての説明をする。

 

「私たちの歌に全ての聖遺物が反応するわけではない。相性・・・とでもいうべきか。1つの歌にマッチングするのは1つの聖遺物。マリアのようなダブルコンダクトは例外中の例外なのだ」

 

「そういうことなら、さっさとそう言ってくれればいいのによー」

 

「説明しないのはする必要がないと思っていたからなのだがな」

 

なんにせよ、シンフォギア装者の適合者に反応する聖遺物は本来なら1つだけということを理解したクリス。

 

「ん⁉って、ことは、まさか先輩やあんたも⁉」

 

2人が自分が考えた案と同じ道を歩んできたという点を思い出したクリスは翼がイチイバルを、フォルテがイガリマを身に纏った姿を想像する。

 

『やっさいもっさい!』

 

『デスデス、デース!!』

 

「・・・プーッ!」

 

あまりにシュールすぎる想像をしたクリスは思わず吹き出して笑ってしまう。

 

「な、なんだ!!?なぜ笑う!!?」

 

「人の顔を見て噴き出すとは、無礼な奴だな!」

 

自分たちの顔を見て突然笑い出したクリスにフォルテと翼は憤慨するのであった。

 

 

 

『錬金術師キャロルとの対決』

 

 

 

キャロルとの対決の中、4人の装者が集った。キャロル力は強大・・・それに対抗できるのはイグナイトモジュールのみ。だが失敗すれば暴走の道を辿る。

 

「信じよう!胸の歌を!シンフォギアを!!」

 

それでも4人は決意を固め、イグナイトモジュールを起動する。

 

「「「「イグナイトモジュール!抜剣!!」」」」

 

4人はギアコンバーターのスイッチを押し、それを取り外して掲げた。ギアコンバーターが起動し、無機質な『ダインスレイフ』という音声が鳴り、宙に浮かんで変形し、展開された光の刃が4人を刺し貫いた。

 

「いってぇええええ!!!」

 

刺し貫かれた際にもかなりの痛みが生じたようで響は思わずそう叫んだ。

 

~♪~

 

ブリッジにいる一同はモニターでその様子を見ていた。

 

『『『『わああああ!!死ぬううううう!!』』』』

 

『日和いいいい!!みんなああああ!!』

 

ダインスレイフの呪いによるものなのか、それとも刺し貫かれた際の痛みよるものなのかわからないが、4人は苦痛の声を上げている。

 

「「え、えぇ・・・」」

 

この光景を見ていた調と切歌は困惑の声を上げている。

 

「抜剣とはいうものの・・・」

 

「ずいぶんと痛そうなものが刺さってるように見えるのは、目の錯覚デスか⁉」

 

2人は先ほど見た光の刃に4人が刺し貫かれた光景に悪寒が走るのであった。

 

 

 

『錬金術師キャロルとの対決を終えて』

 

 

 

キャロルとの戦いが終わった後日、エルフナインは破壊されたギアの改修作業を全うし、本日がその返却日。フォルテ、調、切歌の元に改修されたギアが戻ってきた。

 

「すまないな、エルフナイン。ミスティルテインの改修だけでなく、僕の義眼の手入れをしてくれて」

 

「壊されたイガリマと・・・」

 

「シュルシャガナも改修完了デス!」

 

ギアの改修が終わったのは喜ばしいことなのだが、切歌はどうも素直に喜びきれない思いもある。その原因は、先日のイグナイトモジュールを発動する際に伴う呪いと痛みだ。

 

(シュルシャガナとイガリマ、ミスティルテインが戻ったのは嬉しいデスけど・・・あんな物騒なのが仕込まれてるかと思うと、全力で喜ぶのは躊躇しちゃうデスよ・・・)

 

確かに切歌の思っている通り、あのような痛みが伴うようなものがギアに搭載されていると考えてみれば、ゾッとする話である。それに対し、調は特に気にした様子もなく、普段通りの表情だ。

 

(なのに、全然動じないなんて、大したもんデスよ、調は。尊敬するデスよ。大好きデス」

 

切歌の心の声がだんだん口に出してしまっており、それを聞いた調は顔を赤らめて照れている。切歌は今の調の様子に気がついた。

 

「およ?」

 

「・・・人前なのに・・・///」

 

何のことかわからないでいる切歌にマリアが指摘する。

 

「割と駄々洩れよ、切歌」

 

「ああ。清々しいほどにこっ恥ずかしいセリフだ」

 

「なんデスとぉ!!?」

 

心の声が口に出してしまっていたことを指摘された切歌は驚愕の反応を示した。

 

 

 

『特訓当日』

 

 

 

オートスコアラーとの再戦に向けて装者たちは筑波の政府保有のビーチで特訓・・・とは言ったものの、水着を着てただ遊んでいるようにしか見えない。

 

「特訓と言えばこの私!任せてくださーい!」

 

響はこの特訓の取り仕切り役に買って出た。

 

「これが特訓なら、映像として、記録しておかなくちゃね!」

 

「え?」

 

未来はそう言ってカメラを持って響の写真を撮って撮って撮りまくる。下心が丸出しである。

 

「ねぇねぇ海恋、私の水着姿、撮ってもいいんだよ~?」

 

「何バカなこと言ってんのよ」

 

日和はセクシーなポーズを取りながら海恋にそう言ったが、当の海恋は冷めた表情をして冷めた声でそれを否定した。

一方浅い海辺の方では、調と切歌は水に浸かった右足を上げて、一歩を踏み出そうとしている。なぜこの姿勢なのか、それは、2人にはやってみたいことがあるからだ。

 

「右足が沈む前に・・・」

 

「左足で踏み出せばいいだけデス!」

 

2人はそう言って右足を踏み出すが、当然ながら足は水に沈んでいく。2人の脳裏に浮かび上がるのは、緒川がフロンティア事変で見せてくれた海上を走るという業だ。

 

(あれはいったい・・・なんだったの・・・?)

 

そう、2人は緒川が見せてくれたあの業をやってみようと思い、実践したのだ。だが結果はご覧の通りで、緒川のようにはいかなかった。

 

(緒川さんの真似でもしているのか?)

 

フォルテはそんな2人にそう思いながら、ほっこりとした様子で見守るのであった。




XD-エクスドライブアンリミテッド-

フォルテ・トワイライトリリィ型ギア

アサルトリリィに登場するキャラ、『二川二水』を模したコスチュームとなっている。
ギアの外見はフォルテのギアのメインカラーリングである濃い灰色のインナースーツにアサルトリリィの学院『百合ヶ丘女学院』の制服を混ざったものとなっている。制服の色は黒を基調としており、腕や足の装甲も制服とミスティルティンのギアと組み合わさったものとなっている。
アームドギアは二水の使用する『CHARM』、『グングニル』を模した銃大剣となっている。アームドギアのカラーリングは紅の赤がメインとなっている。


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XD編ー開く地平線の扉ー
アビスゲート


ようやく完成した・・・。やはりAXZ編とオリジナルエピソードであるこの章を合わせると時間かかっちゃいますね。ちゃっかりとAXZ編はもう1話も書きましたが、それは翌日に投稿します。

さて、本日からXD ー開く地平線の扉ーとAXZ編のスタートです。AXZ編はこれの投稿の後にすぐに投稿します。


私は歌が好き。歌うのも好き。ベースを弾くのも好き。

 

根本的なきっかけはツヴァイウィング・・・翼さんの影響が大きかった。

 

だけど私の音楽の方向性は翼さんとは大きく違う。その方向性こそがバンド。

 

一からベースを習い、メンバーも一から集めて、何度も何度も音を合わせて・・・そうして出来上がった私のバンドが・・・アビスゲート。地平線の扉。

 

玲奈と小豆と一緒に演奏してた時は本当に楽しかった。2人一緒に演奏してた時こそ、私は・・・ありのままの私をみんなにぶつけられた。私は輝くことができた。

 

だけどもう一緒にはいられない。アビスゲートもなくなった。それでも・・・それでも私は音楽をやめたくない。音楽をやめたら、玲奈と小豆に怒られちゃうと思うから。そして何より・・・私はまだ自分だけの輝きを見つけれていない。

 

だから私はベーシストになる。自分だけの輝きを掴みとるために。

 

・・・もし。もしもだよ?玲奈や小豆が生きていたら、今の私を見てどう思うのだろう?私の目標を聞いたらどう思うのだろう?大声を出して笑うのかな?それとも、応援してくれるのかな?

 

・・・わかってる。そんなこと聞くことも、2人に会うことももうできないってことくらい。

 

だけど・・・もし・・・玲奈や小豆に会うことができる。そんな願いが叶うのだとしたら・・・

 

・・・会いたい・・・会いたいよ・・・。

 

~♪~

 

時刻は早朝のリディアン音楽院の学生寮。いつも海恋がもうすぐ起きる時間。しかし今日はとても珍しいことが起こった。海恋が起きるより先に日和が目を覚めた。それだけでももう十分珍しいのだが・・・日和の目元には一筋の涙が流れていた。日和は部屋に飾ってあった写真・・・自分と海恋、そして、今は亡き玲奈と小豆の写真を見つめていた。

 

「玲奈・・・小豆・・・」

 

ピピピッ、ピピピッ

 

「ん・・・んん・・・」

 

セットしていた海恋の目覚まし時計のアラームの音で海恋は目を覚まし、スイッチを押してアラームを止める。

 

「ふぁ・・・ぁぁ・・・。・・・日和・・・?こんな時間に起きるなんて珍し・・・」

 

海恋は少し眠たそうにあくびを噛みしめ、メガネをかけて視界を良好にさせる。それで日和を見た時、彼女が涙を流してた姿を見た。

 

「日和?どうしたの?」

 

海恋の呼びかけで日和は彼女が起きたことに気付いた。

 

「あ・・・あぁ、海恋、おはよ。何でもないよ。ただ・・・玲奈と小豆の夢を見ただけだから」

 

「玲奈さんと小豆の?・・・そう」

 

日和の言葉を聞いて、日和の心情をなんとなく察した海恋。海恋は日和に近づき、日和が見ていた写真を見つめる。

 

「あれから2年か・・・」

 

「うん・・・」

 

日和と海恋は写真を見て、4人と一緒に過ごしてきた日々を思い出していた。海恋は日和を気遣い、彼女の頭を優しく撫でる。

 

「大丈夫よ。2人はきっと、天国で日和を見守ってくれてるわ」

 

「海恋・・・うん、そうだよね」

 

海恋の励ましで日和は元気を取り戻し、背筋を伸ばす。

 

「んー・・・せっかくこんな時間に起きたんだし、一緒に朝食食べに行こーよ。ね?」

 

「はいはい、こんな機会なんて、滅多にないものね」

 

日和と海恋は今日の朝食を食べるために食堂へ向かうのであった。

 

~♪~

 

それから数日の時が流れた。場所はS.O.N.G本部のシュミレーションルーム。今日は装者同士の1対1の模擬戦が行われており、今戦っているのは翼とフォルテで、他の装者は模擬戦の様子を見守っている。

翼の刀による連撃をフォルテは大剣で一撃ずつ丁寧に防いでいき、最後の一撃は身を屈んで転がって躱し、大剣を分離して双剣にして翼に攻撃を仕掛けた。翼はその攻撃を刀で防いだ。刃と刃の鍔迫り合いは続き、態勢を整えるため互いに距離を取った。次はどう出るかと思考を巡らせていると、試合終了時間となり、模擬戦が終了する。

 

「ここまでか・・・。また腕が上がったな、風鳴」

 

「いや、私はお前に1本取れなかった。私などまだまだだ。さすがは歴戦の戦士だな」

 

「そう謙遜するな。ここまで持ちこたえられたのならば、戦士としては一流だ。誇りを持っていい」

 

「ふふ、フォルテにそう言われると、自信がみなぎってくるな」

 

今回の模擬戦、お互いに得るものが多かったのか、2人ともいい笑顔を浮かべている。

 

「・・・前から思ってたけど、やっぱ強ぇな、あの人」

 

「そうね。フォルテはF.I.Sに来る前から戦っていたらしいし、戦士としての心構えを誰よりも理解しているんじゃないかしら」

 

「すごいなぁ、フォルテさん。1本取れる気がしないよぉ」

 

「私たちも1本取ろうと頑張って来たけど、結局1本も取れなかった」

 

「本当に強すぎなんデスよー・・・。もう一生1本取れないんじゃないかって思い始めてるくらいデース・・・」

 

模擬戦の様子を見ていた装者たちはフォルテの強さを称賛しており、1本取ることに少し弱気になっている。

 

「そんな弱気を言っているようでは、フォルテに1本取るのは難しいだろうな」

 

「翼さん」

 

このやり取りを聞いていた翼とフォルテが話しの輪に入ってきた。

 

「風鳴の言うとおりだ。気持ちから負けてしまってはいい結果も出せるはずがない。君たちはまだ未熟だが、筋がいいし、腕も上がっている。後は戦術眼も養っていけば、いずれは1本取ることができる」

 

「そうですかねぇ・・・」

 

「状況が状況とは言え、現に東雲は僕を倒したことがある。そして風鳴も、強くなった。僕自身も1本取らせないので精いっぱいだった。君たちだってその気になれば、1本取るどころか、そのうち僕を越えることもできるかもしれないぞ」

 

フォルテはフロンティア事変で日和と戦った時のこと例に出して装者たちのやる気を引き出そうと試みた。

 

「そっか・・・そういえば日和先輩、フォルテに勝ったことがあるんだった・・・すっかり忘れてた・・・」

 

調はその話を聞いて、日和がフォルテに勝った事実を思い出した。もっともその当時は疑いがあったが。フォルテ本人が言ったので本当のことであると理解できたのが懐かしく思うくらいだ。

 

「気持ちの問題かぁ・・・うん、そっか。その通りだよね!」

 

「ひよりん先輩でいけたのなら、あたしたちもワンチャン・・・」

 

「相棒にできてあたしらにできねぇ道理はねぇな。上等だ、やってやる」

 

この話で装者たちはやる気を見出し、訓練により積極的になった。それを見たフォルテは笑みを浮かべながら首を縦に頷いた。

 

「皆、より鍛錬に前向きになったな。いい心がけだ」

 

「ああ」

 

「でもよかったの?そんな話を切り出して」

 

「訓練に精を出してくれるのならば安いものだ」

 

「ふふ、そうね。もしかしたら、本当にあなたを越えることができるかもしれないしね」

 

「ふっ、抜かせ。そうはさせないさ」

 

やる気になっている装者たちを見て、フォルテたちは笑いながらそう話した。

 

「よし、次はあたしと相棒の番だな。行くぞ」

 

「・・・・・・」

 

次の模擬戦の組み合わせはクリスと日和だ。クリスはやる気を出しているが、日和は先ほどから一言もしゃべっておらず、ぼんやりとしている。

 

「おい、聞いてんのかよ?」

 

「日和さん?」

 

「おーい、デスデース」

 

「・・・え?」

 

何回か声をかけられて日和はようやく気がついた。

 

「あ・・・ごめん・・・えっと、何の話だったっけ?」

 

「だから次はあたしたちの番だって言ってんだろ」

 

「え?あ・・・そっか・・・今、模擬戦の最中だったね、うん。ははは、参ったね」

 

今が何の時間だったのかようやく思い出し、少し苦笑いを浮かべている日和。その様子に少し心配になる装者たち。

 

「そういえば今日は一言もしゃべってないな。どうしたんだ?」

 

「ひよりん先輩・・・?」

 

「何か嫌なことでもあった・・・?」

 

「い、いや、そうじゃないよ!ただ・・・バンド活動してた日々を思い出してさ・・・」

 

「バンド・・・ですか・・・?」

 

「うん。なんか最近、玲奈と小豆と一緒に過ごしてきた夢を見ることが多くなってきて・・・」

 

「玲奈と小豆って・・・あなたの友達の?」

 

「はい・・・」

 

どうやら日和はここ最近見るようになった玲奈と小豆のことを考えて思いふけっていたようだ。

 

「あの頃は本当に楽しかったんです。2人とふざけあって、笑ったりして・・・時々けんかもして・・・毎日が色鮮やかだったなぁって・・・懐かしくなっちゃって・・・ついボーっとしちゃいました」

 

「・・・・・・」

 

寂しそうに笑いながら話す日和の顔を見て翼は玲奈に関して思うところもあるため、複雑そうな顔をしている。装者たちも日和の寂しさを感じ取ってるため、少し心配する顔つきになっている。

 

「ふむ・・・東雲、君の友達とは、どんな人物だったんだ?」

 

フォルテの質問に日和は小豆と玲奈がどんな人間だったのかを教える。

 

「えっとですね・・・。小豆は私の幼馴染で、本当にのんびり屋のマイペースな女の子だったんですけど、私よりもずーっとしっかりしてて・・・いつだってバンドの励まし役に徹してくれてすごく頼りになるんです。

玲奈とは知り合って1年の付き合いなんですけど、気難しいのは最初だけで、毎日接してると玲奈の優しい人柄が見えてくるんです。私たちが悲しい気持ちになった時は一緒に悲しんでくれたり、楽しい気持ちになったら一緒に笑ってくれたり・・・付き合ってみると本当に感情豊かで一緒にいると、本当に安心した気持ちになるんです。

あの2人が一緒にいてくれたから、毎日が楽しかったし、今の私がいるんじゃないかなって、思います」

 

玲奈と小豆の話をする時の日和は海恋の話をする時と同じで本当に自分のことのように嬉しそうに語っている。

 

「だから時々も思うんです。もし、2人が今も生きていたら・・・どうなっていたんだろうって。みんなと、仲良くなれるんじゃないかって・・・そう思うんです」

 

もう2人に会うこともできないのがわかっているからか、そのような切実な思いを語る日和の表情は寂しさが伝わってくる。

 

「日和さん・・・」

 

装者たちのしんみりした空気を感じ取ったのか日和は慌てて軌道修正する。

 

「あ、あー!大丈夫だから!心配しないで!私は2人から生きるって約束をしたからね!だから前向きに生きないと、2人に申し訳ないからね!」

 

日和はそうは言うものの、彼女は1度考え込むと1人で抱え込む節がある。それを理解している装者たちはやはり心配に思ってしまう。

 

「なんだか話したら気分が楽になってきたよ!クリス!この気持ちが冷めないうちに、早いところ模擬戦を始めようよ!」

 

「お、おう・・・」

 

元気に振る舞おうとする日和は模擬戦を始めようと促す。

 

(・・・もしかしたら・・・)

 

日和のこの様子を見て、響はある可能性が浮上してきて、翼たちに話してみようとした時・・・

 

ヴゥー!ヴゥー!

 

本部内に警報音が鳴り響いた。この警報を聞いた装者全員は気を引き絞めた顔になる。

 

「この警報は・・・!」

 

事態把握のため、装者たちは模擬戦を中断し、、急ぎブリッジへと向かうのであった。

 

~♪~

 

ブリッジに集まった装者たちは弦十郎に先ほどの警報音の詳細について訪ねる。

 

「司令、先ほどの警報音はもしや・・・」

 

「うむ・・・フォルテ君の想像通りだ。ギャラルホルンからアラートが発した」

 

「新たな並行世界と繋がった、ということね・・・」

 

ギャラルホルン・・・それは、S.O.N.G聖遺物保管区画に収納されている完全聖遺物の1つで、この聖遺物の最大の特徴は、こことは別にある別世界・・・パラレルワールドと繋げられる点にある。

このギャラルホルンを見つけたのは、当時の発掘チームを率いていたかつての仲間であった、櫻井了子であり、その時からすでにギャラルホルンは起動状態にあった。ギャラルホルンは非常に特殊で危険な聖遺物であるため、一部の人間にのみ極秘で実験と解析を行っていた。それによって判明したのは並行世界に異変が起きた際、この世界と並行世界が繋がるということだ。先ほどの警告音はそのギャラルホルンがどこかの並行世界と繋がったことによって起きた異変によるものだ。

 

そして、このギャラルホルンの1番の問題というのは、異なる世界と交わる影響によって、大量のノイズが観測されるのだ。最初の段階ではバビロニアの宝物庫が閉じていなかったため、はっきりしたことがわからなかったが、前回の観測で現れたノイズは並行世界よりこちらの世界にきたノイズだということがはっきりとわかった。

 

この異常事態を解決するには、並行世界に向かい、異変を解決することによって解決する。実はこれまでに4回も並行世界が繋がり、異変が起きていたのだが、1件目を除いて装者たちが無事に解決したとされる。

 

1つ目の並行世界では今は亡き装者、天羽奏と玲奈が出向いたことによって事件は解決した。

 

2つ目の並行世界は誰も行ける状況になかった。それもそのはず、なぜなら発生時期はネフシュタンの起動実験の時に起きたのだ。ネフシュタンの暴走も相まって、とても対処できなかったために異変が収まるのを待つしかなかった。これが、例外とされるものだ。

 

3つ目の並行世界は翼、マリア、響、日和が出向き、その並行世界では生きていた奏と共に異変を解決させた。

 

4つ目の並行世界では翼、マリア、クリス、フォルテが向かい、後に作戦に合流した他の装者たちと共に異変を解決させた。

 

そして今、新たなる並行世界がギャラルホルンの力によってこの世界と繋がった。となれば、並行世界に起こっている異変を解決しなければ、この世界にノイズが現れることになる。それは3件目で実証済みである。

 

ちなみに、2件目でわかるとおり、並行世界に行かずに放っておいてもいずれ解決するのだが、その間どれほどの被害が被るかは検討もつかない。ゆえにこの解決方法は推奨できるものではない。

 

「向こうでどのような異変が起きているかは知らんが、並行世界と繋がった以上、到底無視することはできないな」

 

「うむ。したがって前回同様、調査に行く班とこちらに現れるであろうノイズに対処する班に分かれてもらいたい」

 

この場にいる装者たちにとって、並行世界の異変解決に赴くのはこれで3回目となる。3回目ともなると、ある程度話がスムーズに進んでいく。

 

「今回は誰が行く・・・?」

 

「デス・・・?」

 

今回の並行世界に誰が行こうかと話し合いが始まろうとした時、日和が真っ先に名乗りを上げた。

 

「今回は私が行きます!」

 

「相棒・・・?」

 

「なんかね、アラートが鳴った時から胸騒ぎがして・・・直観的に思ったんだ。また並行世界が繋がったら、それは私がやらなくちゃいけないんだって。だからお願いします!」

 

日和は頭を下げて今回の並行世界の調査の申し出を上げる。

 

「ふむ・・・わかった。日和君の意思を尊重しよう」

 

「ししょー!ありがとうございます!」

 

並行世界調査の1人目は日和に決まった。

 

「司令、私も行きます」

 

「翼さん・・・一緒に頑張りましょう!」

 

「ああ」

 

2人目のメンバーは翼が名乗り出た。

 

「じゃあ3人目は私が・・・」

 

「待て。マリアは残れ。今回は僕が出向く」

 

「フォルテ?」

 

3人目のメンバーにマリアが申し出ようとした時、フォルテが彼女を残らせ、自分が出ると言い出した。

 

「東雲の見る夢は何かの兆しかもしれない。ならば1人でも東雲をサポートできる者がいいだろう。それに・・・」

 

「それに・・・?」

 

「マリア、君は少し働きすぎが目立つぞ」

 

「うっ・・・」

 

フォルテに痛いところを突かれたマリアは動揺している。

 

「前回の並行世界での休息でメリハリがついたのはいいが、だからといってその倍働けばいいというのはお門違いだ。これを機に、ノイズ出現時以外は羽を伸ばしておけ」

 

「うぅ・・・わかったわよ・・・」

 

フォルテに言われて、渋々ながら出撃をフォルテに譲った。

 

「それをフォルテが言うかな・・・?」

 

「フォルテの方が働きすぎな気が・・・」

 

「何か言ったか?」

 

「「い、いえ!」」

 

調と切歌はひそひそと話していた時、フォルテのひと睨みによって口を慎んだ。ともあれ、3人目のメンバーはフォルテに決まった。

 

「さて、最後の1人は・・・」

 

「私が行きます!」

 

最後の1人は響が名乗りを上げた。

 

「響ちゃん」

 

「そういえば立花と東雲は同じ時期に力に目覚めた者同士だったな」

 

「ならば東雲のサポートにも回りやすいか。それに、奴らも出ないとは限らない。2つの意味で有力かもしれん。こちらからもお願いできるか?」

 

「はい!」

 

「みんな・・・本当にありがとうね。私のわがままに付き合ってもらって・・・」

 

日和の支えと戦力面を考えて、最後のメンバーは響に決まった。

 

「では今回の調査は日和君、翼、フォルテ君、響君に頼もう」

 

「またお留守番デス・・・」

 

「むぅー・・・」

 

今回も留守番になることに切歌と調は少し不満気だ。まぁ、前回の並行世界では赴くことができたわけだが、それでも外されたことに不満を抱いている。

 

~♪~

 

出撃の準備を整えた調査組の装者たち4人はギャラルホルンのゲートを通るためにギアを纏った状態で聖遺物保管区画に集まっている。保管区画の中心にはほら貝のようなものが輝きを放っている。これこそが、並行世界を繋げることができる聖遺物、ギャラルホルンだ。今放たれている光は並行世界の異常を特殊な振動派で知らせるためのもので、これが並行世界の異常を感知している状態なのだ。

補足を入れると、並行世界に行くことができるのは、現段階ではシンフォギア装者だけだ。理由は明らかにされていないが、推測によるとギャラルホルンが並行世界側の異変を収めるために必要な能力を持った者のみを選別しているらしい。

 

「クリス、しぃちゃんと切ちゃんのこと、お願いね」

 

「はっ、お前こそ大口叩いたんだ。ヘマすんじゃねぇぞ」

 

「わかってるよ」

 

日和とクリスはお互いの役目を託した。

 

「マリア、僕が見てないからって休むのを怠るなよ」

 

「もう、何度も言わないでったら・・・」

 

もう何度目かわからないフォルテからの休めの言葉にマリアは少しうんざり気味だ。

 

「そろそろ行くぞ。3人とも、準備はいいな?」

 

「ああ、問題ない」

 

「「はい!」」

 

「向こうでは何が起こるかわかりません。くれぐれも慎重にお願いします」

 

「お土産話、待ってるデース!」

 

「気を付けて」

 

装者4人はエルフナインやここに残る4人に見送られながら、ギャラルホルンゲートをくぐり、並行世界へと向かうのであった。

 

~♪~

 

ゲートを通り抜け、並行世界にたどり着いた日和、翼、フォルテ、響の4人。4人がまず最初に辺りを見回し、ここがどこなのか確認する。辺りを見回す限り、場所は自分たちが住んでいる世界と同じように見える。

 

「ここは・・・私たちの世界とあまり変わりないようだが・・・」

 

「僕は日本の地形はまだ慣れていない。どうだ?元の世界との何か違いはあるか?」

 

「えっと・・・一通り見てみると・・・この世界では月は欠けてないみたいです」

 

「ということは、この世界もルナアタックは起きていないということか」

 

「そのようだな」

 

大きな違いと言えば、やはり月である。元の世界ではルナアタックの影響で月が割れているが、こちらの世界では月は割れていない。そのことから、この世界はルナアタックは起きていないということがわかる。

 

(で、あれば・・・確定ではないが、この世界でも天羽奏が生きている可能性があるか・・・もしくは風鳴、あるいは・・・)

 

フォルテはこの並行世界の可能性をいくつも推察していく。

 

「それで、まずはどこから行けばいいんでしょうか?」

 

「この世界も私たちの世界と変わらないのならば、S.O.N.G・・・旧二課がここにも存在しているかもしれないな。まずは・・・」

 

「!翼さん!フォルテさん!」

 

翼が最初の目的地について話そうとした時、日和はこちらに近づいてくる存在に気がついた。こちらに向かってきているのは、装者たちがよく知る存在・・・ノイズであった。

 

「さっそくお出迎えのようだ」

 

「もしかして、この世界の異変も・・・」

 

「どうだろうな。もしかしたら別にあるかもしれん。なんにせよ、放っておくわけにもいくまい!」

 

「ですね!」

 

ノイズが向かってくるのならば、装者たちがやることはただ1つ。ノイズの殲滅だ。装者たちは各々のアームドギアを構え、向かってくるノイズの群れに突っ込んでいく。

 

~♪~

 

どこかにある施設の司令室。ここに集まっているオペレーターたちはノイズの反応と、聖遺物反応を観測した。

 

「ノイズの出現を確認!」

 

「さらに、謎の高エネルギー反応を検知!

 

「波形を照合!・・・!!こ、これは・・・!」

 

聖遺物から発せられる波形を見た時、オペレーターたちは驚愕している。

 

「どうした!!?」」

 

「4つある反応の1つは未知の聖遺物・・・2つは如意金箍棒・・・そして・・・残り2つの聖遺物は・・・ガングニールと天羽々斬です・・・」

 

「なんだとぉ!!??」

 

4つの聖遺物の反応の内2つの正体がガングニールと天羽々斬だと知り、司令官の男は驚愕した。

 

「間違いありません」

 

「むぅ・・・!彼女はどうした!!?」

 

「指示を待たずすでに出撃しています」

 

「えぇい!また突っ走りやがって・・・!無茶はしてくれるなよ・・・!」

 

司令官の男はすでに出撃したという女が無茶をしないか心配になってくる。

 

~♪~

 

向かってきたノイズは自分たちのよく知っているノイズとそう変わらなかった。であれば、成長しきっている装者たちの敵ではなかった。響は拳と蹴りを駆使して向かってきたノイズを蹴散らしていき、翼は刀による連撃で数多くのノイズを斬り裂く。フォルテは大剣を大きく振るい、ノイズの大群を纏めて斬り払い、日和も棍による打撃を駆使してノイズを次々と葬り去っていく。そして、日和は残ったノイズを纏めて一掃するために、棍を回転させて竜巻を作り上げ、それをノイズに放った。

 

【疾風怒濤】

 

竜巻の突風は見事全てのノイズを巻き込み、風によって切り刻まれて消滅した。日和が倒したノイズが最後のようで、戦闘は呆気なく終わった。

 

「ふぅ・・・これで全部かな?」

 

「ですね。他のノイズも見当たりませんし」

 

全てのノイズが倒し終えたことを確認した4人はひとまずは安心した。その光景を遠くにある建物の上で見ていた者がいた。

 

「あの人の言ったとおりだ・・・本当に来た」

 

何者かは装者たちを確認するや否や、すぐさまこの場から立ち去った。

 

「・・・ん?」

 

何者かの視線を感じ取ったフォルテはその方角に視線を向けた。だがすでに立ち去った後なので誰もいない。

 

「どうしたフォルテ?」

 

「いや・・・誰かがこちらを見ていたような気がしてな・・・」

 

「誰かって誰ですか?」

 

「わからない。だがもし本当に誰かが見ていたのだとすれば・・・」

 

「フォルテが感じた視線か・・・確かに気になるな・・・」

 

自分たちを見ていたという視線に怪しさを感じているフォルテと翼。

 

「どうしてですか?」

 

「立花、もし君が何の力もない一般人だとして、ノイズを見たら君はどうする?」

 

「えっと・・・逃げると思います」

 

「そうだな。それが普通だ。では誰かがノイズを見ても悲鳴を上げず、ただ諦観の姿勢をとる者がいると思うか?」

 

「思いません!」

 

「そういうことだ。そもそもこの場で視線を感じるということがおかしいんだ」

 

響の疑問はフォルテのわかりやすい質問によって解消された。

 

「もしかして・・・敵・・・ですか?」

 

「それはまだ早合点だろう。私たちにはまだ情報が足りなすぎる。十分に情報が集まってから整理した方がいい」

 

「そうですね・・・じゃあ、最初の予定通り・・・」

 

「ああ。旧二課があるであろうリディアンに・・・」

 

「待て」

 

当初の予定通り旧二課に向かおうという方針を固めた直後、フォルテがストップをかけた。

 

「どうしたんですか?」

 

「まだギアを解くなよ。殺気を感じ取った。こちらに近づいてきている」

 

「ええ!!?」

 

殺気を感じ取り、それが自分たちの元に近づいてきているという言葉に響は驚愕する。

 

「もしや、さっきフォルテが感じた視線の・・・?」

 

「いや、それとはまったく別ものだ」

 

こちらに近づいてくるであろう者に警戒し、アームドギアを構える4人。すると、日和は地面の下から僅かながら音がしたことに気がついた。

 

「!みんな!避けて!!」

 

「「!」」

 

危機を感じ取った日和の一声に翼とフォルテは跳躍する。すると、地面から複数の赤い棍が現れた。

 

【仏恥義理】

 

「うわぁ!!?」

 

対処が遅れた響は棍には直撃しなかったが、態勢を崩して転んでしまう。

 

「こ・・・この技は・・・!!?」

 

翼は現れた棍、そしてこの技を見て驚愕の顔になった。

 

「殺気が近くなっている・・・!上か!!」

 

殺気を感じ取り、フォルテは空を見上げる。すると、その視線の先で何者かが降りてきて、手に持っていた棍を振り下ろした。フォルテは咄嗟に大剣を構えて防御する。棍を振り下ろした人物の姿は、自分たちと同じ力、シンフォギアを身に纏っていた。

 

「その姿・・・!この世界のシンフォギア装者か!」

 

「怪しい奴らが・・・お前らいったい何者だ?」

 

この世界のシンフォギア装者の棍に込める力が強くなっていく。

 

「日和さん?翼さん・・・?」

 

「・・・・・・ウソ・・・こんなことが・・・?」

 

「あの技・・・あの顔・・・見間違えるはずもない・・・!」

 

この世界のシンフォギア装者の顔を見て、翼の顔は驚いている。特に日和は・・・信じられないものを見るかのように、驚愕で満たされていた。それもそのはずだ。その相手とは・・・もう会うことも叶わないと思っていた人物だから。

 

「・・・れ・・・玲奈・・・!」

 

北御門玲奈。如意金箍棒の最初の適合者にして、翼の戦友・・・そして・・・日和のかけがえのない大切なバンドメンバーの1人。その玲奈が今、日和たちの前に現れたのだ。




日和の思い出の写真

アビスゲートが初めてライブを成功し、そのお祝いとして海恋と共に撮った写真。日和にとって深く思い入れのある品であり、今も写真立てに収めて飾ってある。もしかしたら、今の日和が頑張っていられているのも、思い出の写真があるからなのかもしれない。


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玲奈の怒り

先日、コロナ陽性になってしまって5日間の隔離、及び体調が完全に万全になるまで休んでいたため、これほど長い時間をおかけしてしまい、誠に申し訳ございませんでした。少しでもペースを取り戻していきたいと思っております。

さて、この話を入れると、この作品の総合話数もいよいよ100となりました。私がここまで頑張れていれるのは、私の作品を読んでくださっている読者様のおかげでございます。1人でも読んでくださることが、私にとって何よりの励みとなっております。

本当にありがとうございます!


あの配信ライブの日の出来事は今でも夢に見る。

 

東雲日和と伊南小豆は・・・私にとって太陽のような存在。

 

両親がノイズに殺されたあの日、私はノイズへの復讐に囚われた。そして奏が死んだあの日から私の復讐心は大きくなっていく。そんな私の復讐心を溶かしてくれたのがあの2人だ。

 

何度突き放しても、その度に何度も何度も私に声をかけて・・・いつも私を気に掛ける。そんな真っ直ぐな気持ちだったからこそ、私はあの子らに惹かれた。

 

だけど・・・そんな日和ももういない・・・力もないのに、私を庇ったばっかりに・・・。小豆もあれ以降姿を消した。どこを探しても見つけることができなかった。あの運命の日を境に、私は全てを失った。この身に残ったのは、ほんのわずかに残っていたノイズへの復讐心。それが再び大きくなり、私のこの身を支配した。

 

許さない。

 

絶対に許すものか。

 

ノイズ・・・私から全てを奪ったお前らを1匹残らずぶち殺してやる。

 

そんな思いで戦い続けて2年・・・今日もノイズをぶちのめそうと戦場に赴いた時、驚くべきものを目の当たりにした。

 

未知のシンフォギアを纏った女・・・奏のガングニールを纏った女・・・そして・・・死んだはずの翼と日和がそこにいた。しかも日和は・・・シンフォギア装者として戦って・・・

 

・・・

 

・・・・・・

 

・・・・・・・・・

 

認めない!!

 

認めない認めない!!

 

認めない認めない認めない!!

 

認めてたまるか!!!!

 

日和は私の目の前で死んだ!もうこの世にはいないんだ!この世に日和の代わりになる奴なんてどこにもいない!それを・・・それを!!

 

誰だか知らないけど、私の周りで好き勝手なことはさせるものか。ましてや・・・私の大事な人と同じ顔をしたふざけた連中なんかに!!

 

~♪~

 

ギャラルホルンのゲートを渡って並行世界にたどり着いた日和、響、翼、フォルテに待ち受けていたのはノイズの襲撃。そして、ノイズ殲滅した後に現れたこの並行世界のシンフォギア装者からの奇襲。だが日和たちが衝撃を受けたのは・・・そのシンフォギア装者が自分たちの世界では死んだはずの人間、北御門玲奈であったからだ。

 

「れ・・・玲奈・・・」

 

攻撃を仕掛けてきた相手が玲奈であったと聞いた響は驚愕する。

 

「えっ⁉玲奈さんって・・・あの人が・・・⁉」

 

「ああ・・・間違いない。かつて共に戦った友を、忘れるわけがない」

 

かつて一緒に戦った仲間、大切な戦友でも会ったからこそ今目の前にいる玲奈が本物であるということが翼にはわかる。

 

(ということは、ここは玲奈が生きている世界線ということか・・・。だが・・・玲奈に身に纏うあの怒りはいったい・・・?)

 

翼が考えている間にもフォルテに攻撃を受け止められた玲奈は左手首のユニットよりもう1つの棍を取り出し、攻撃を仕掛ける。それを察知したフォルテはマントでその攻撃を防ぎ、玲奈の右手の棍を払いのけ、跳躍して距離を取る。だがそれを許さないと言わんばかりに玲奈は接近してフォルテに連撃を放つ。フォルテは大剣を双剣にして、攻撃を防いでいく。

 

「やめろ!僕らは戦いに来たんじゃない!話を聞いてくれ!」

 

「うるせぇ!お前らみたいな怪しい奴らの言葉なんて、聞く耳持たねぇよ!」

 

フォルテは話し合いを求めているが、知ったことではないと言わんばかりに玲奈はフォルテに攻撃を続ける。玲奈を止めたい一心で今度は日和が上げる。

 

「やめて玲奈!私たち、本当に戦う気がないの!ただ玲奈と話し合いがしたいんだよ!」

 

「黙れ!!」

 

日和の言葉に玲奈は声を荒げ、動きを止めたと同時に日和をキッと睨みつける。

 

「玲奈!」

 

「気安く私の名前を呼ぶな!!よりにもよって・・・お前なんかが!!!」

 

またも自分の名を呼んだ日和に玲奈はさらに激昂し、彼女に向けて右手の棍を投擲した。日和に棍が迫ってきた時、響が間に入ってその棍を両腕をクロスしてガードして、何とか防いだ。弾かれた棍は玲奈の手に戻っていく。

 

「響ちゃん!大丈夫?」

 

「大丈夫です!日和さんは?」

 

「わ、私も、大丈夫!」

 

2人が気にかけている間にも玲奈は両手に棍を持って2人に向かって走り、右手の棍を振るう。その攻撃を翼が間に入って刀で止めた。

 

「「翼さん!」」

 

「くっ・・・玲奈・・・やめてくれ・・・話を・・・」

 

「聞く耳持たないって言ってるだろ!!」

 

玲奈は刀を押し上げて翼の腹部に蹴りを決め込んだ。対処に遅れた翼はもろに蹴りをくらい、後ずさる。

 

「ぐぁ!」

 

「翼さん!」

 

「こうなれば仕方がない・・・3人とも、構えろ!」

 

フォルテが3人に向かってそう言い放った。構えろということは、玲奈と戦えと言っているのだ。

 

「で、でも・・・」

 

戦えと言われても、相手は大切なバンドメンバー。そんな相手と戦うのはやはり抵抗がある日和。

 

「このままでは話もままならない!何も倒せとは言っていない!動きを止めるだけでいいんだ!」

 

フォルテが言葉を紡いでいる間にも玲奈はフォルテに棍を振るって連撃を放つ。フォルテはその棍を大剣で連撃を弾きながら防御に徹している。

 

「くっ・・・不本意だが・・・やむを得まい。立花、東雲!」

 

「・・・っ。わかりました」

 

「・・・・・・玲奈・・・ごめん!」

 

話をしようにも玲奈が一方的に敵視、攻撃を仕掛けてくるために話し合いが難しいと判断し、渋々ながら応戦を決断した3人。防御を続けていたフォルテは玲奈の一撃を払いのけ、一度距離を取る。そのタイミングで翼は刀を大剣に変形させ、蒼の斬撃を玲奈に放った。

 

【蒼ノ一閃】

 

放たれた蒼の一撃を玲奈は跳躍して躱した。玲奈が地に着地した瞬間を狙うようにフォルテが跳躍して玲奈に向けて双剣を振り下ろした。それに察知した玲奈は棍で防ぐ。そのタイミングで拳を構えていた響が腰部のブースターを起動し、玲奈に接近する。

 

「玲奈さん・・・ごめんなさい!」

 

「!しま・・・」

 

フォルテの双剣を払いのけたタイミングで響に気付いた玲奈はブースターで勢いに乗った彼女の強烈な拳を腹部に叩き込まれてしまう。

 

「がぁ・・・!」

 

まともに拳をくらった玲奈はその衝撃で吹っ飛ばされる。地面を転がって後ずさった後、玲奈は痛みを押し殺して立ち上がろうとする。だが状況から見ても玲奈が劣勢なのは言うまでもない。

 

「くっ・・・!こいつら・・・!」

 

玲奈が劣勢に追い込まれているのは数多くの理由がある。まず人数的にも圧倒的に不利で相手の連携がうまく、その立ち回りについていけていないのだ。それから、玲奈のギアは翼たちのものと比べて旧世代のギアだ。彼女たちのギアのものと比べると、やはり出力が低いのだ。そして何より、玲奈は怒りで周りが全く見えておらず、周囲への立ち回りが疎かになっており、本来の力を充分に発揮できていないのが何よりの原因だ。さらにそこに・・・

 

ビキッ!

 

「ぐぁ・・・!こんな時に・・・!」

 

玲奈はLiNKERを投与することで初めてギアを纏うことができる装者。その投与したLiNKERの効果時間が経過し、バックファイアで痛みが走った。動きが鈍くなってしまい、ギアが解除されるのも時間の問題だ。

 

「やああああ!」

 

(・・・っ!やられる・・・!)

 

起き上がろうとしたタイミングで日和が棍を構えて突っ込んできた。もはやこの攻撃は避けられないと思い、玲奈は思わず目を閉じた。しかし、いつまでたっても攻撃が来ない。不審に思った玲奈が目を開けて見ることで、その原因がわかった。それは、日和が棍が玲奈に直撃する寸前で攻撃を自分で止めたのだ。

 

「お・・・お前・・・」

 

「・・・やっぱり・・・無理です・・・。玲奈と戦うなんて・・・私にはできません・・・!」

 

「日和さん・・・」

 

どうやらここで友を傷つけたくないという気持ちが上回ってしまい、戦意を喪失してしまったようだ。特に玲奈は日和にとって大事な友達でありバンドメンバーだ。その思い入れは、装者たちの中で誰よりも強いだろう。もう十分であると判断した3人は自分たちの武器を下ろした。

 

「もう十分だろう。これ以上戦っても意味などない。話に応じてくれるな?」

 

「くっ・・・!」

 

「玲奈、大丈夫?手を貸そうか?」

 

日和は玲奈に手を差し伸べようとした。その姿を見た玲奈は、日和と初めて出会った時の光景を思い出した。その時の日和の姿と今の日和の姿が重なって見えたのだ。

 

「・・・っ!触るな!!」

 

「あ・・・!」

 

頑なに同一人物と認めたくない玲奈は日和の差し出された手を振り払い、痛みを堪えながら跳躍で距離を取り、棍を構える。

 

「話に応じろだと?何度言わせるな!話を聞く気はない!!」

 

まだ戦う意志を見せている玲奈に、どうしたものかと困り果てるフォルテたち。するとそこに数台の黒い車がやってきて、車から黒服の男たちが出てきた。

 

「そこまでだ、玲奈君」

 

その言葉と共に黒服の男たちと一緒に車から出てきたのは、自分たちにとって見知った大漢であった。

 

「し、師匠⁉」

 

「いや、この世界の司令だろう」

 

そう、その大漢とは、S.O.N.Gの司令を務めている風鳴弦十郎であった。もっとも、この世界の弦十郎であることと、そもそもS.O.N.Gがこの世界にあるかどうかもわからないが。

 

「なんで止めるんだよ、おやっさん!」

 

戦いを止められた玲奈は弦十郎に対し突っかかろうとしてきた。

 

「これ以上の独断は目に余る。大人しくするんだ」

 

「うるせぇ!私の邪魔をしてくんな!」

 

「それ以上続けるのであれば、君のギアを預かざるを得なくなるぞ」

 

「・・・・・・ちっ!」

 

自分のギアを誰にも触ってほしくない・・・いや、渡したくない思いから玲奈は渋々ながら指示に従い、棍を下ろした。それを確認したフォルテはようやく大人しくしてくれたことにほっとした気持ちになった。その間にも弦十郎は装者たちに近づき、彼女たちに向けて頭を下げて謝罪する。

 

「すまない。玲奈君が無礼を働いてしまったな」

 

「無礼だなんてとんでもない・・・」

 

「・・・重ね重ね申し訳ないのだが、君たちと詳しい話がしたい。我々、特異災害対策起動部二課まで同行してもらいたい」

 

「構いません。むしろ話し合いの場を設けていただき、感謝しています」

 

「そう言ってもらえるとありがたい」

 

ちゃんとした話し合いをするためにこの世界の特異災害対策起動部二課の本部まで向かうことが決まった。

 

「・・・玲奈・・・」

 

日和は悲しそうな表情で玲奈を見つめる。その視線に気づいた玲奈は不機嫌を隠さずにぷいっとそっぽを向いて車に乗り込んでしまう。

 

「日和さん・・・大丈夫・・・ですか?」

 

「大丈夫・・・じゃないかも・・・」

 

「東雲、気持ちは理解できるが、今は・・・」

 

「わかってます・・・」

 

複雑な心境はあるものの、今はこの世界の二課本部に移動するのであった。

 

~♪~

 

特異災害対策起動部二課の本部は元いた世界と似ているため、やはりリディアンの地下に存在していた。本部に到着した装者たちはさっそくこの世界の弦十郎たちに自分たちの素性、どうやってこの世界にやってきたのかを話した。

 

「なるほど・・・つまり君たちは並行世界の人間で、そのギャラルホルンのゲートを通ってこの世界にやってきたということか・・・。どうりで亡くなったはずの翼が・・・」

 

「亡くなった・・・?」

 

「風鳴、その話はまた追々にしよう」

 

弦十郎の言った亡くなったという単語に翼が反応するが、フォルテに止められる。彼女の視線の先には先ほどから腕を組んでこちらを睨みつけている玲奈がいる。

 

「どうやら、その話に触れられたくない者がいるようなのでな」

 

「あ、ああ・・・わかった・・・」

 

「玲奈・・・」

 

また玲奈が暴れる可能性があることを考慮し、いったん過去の話を掘り出すのはやめることにした。日和は敵意を向けてくる玲奈を気にかけているが、何と声をかけていいかわからないでいる。

 

「・・・話を戻しますが、完全聖遺物、ギャラルホルンのゲートからアラートが発せられた・・・それすなわち、この世界に何かしらの危機が訪れている可能性がある。僕たちは、その危機を解決するためにこの世界にやって来ました」

 

「危機、か・・・」

 

フォルテの話を聞いて弦十郎はこの世界の危機に対して何かしらの心当たりがあるのか考えるしぐさを見せる。

 

「何か心当たりでも?」

 

「うむ・・・実は、君たちがここに来る3年前、そして2年前より、通常より異なるノイズの出現が観測されているのだ。それが数か月前に再び現れた」

 

「!それってもしかして・・・黒いノイズじゃありませんか?」

 

「あ、ああ、確かにそうだが・・・知っているのか?」

 

「はい。僕たちはその黒いノイズをカルマ化と定義づけ、変異した便宣上、カルマノイズと呼んでいます」

 

カルマノイズ。それは以前装者たちが並行世界に渡った時に出くわしたノイズの変異体であり、これまでの並行世界にて危機をもたらしてきた元凶でもある。このカルマノイズの特徴は、まず見た目は日和の言うとおりに黒く、戦闘能力も元来のノイズと違って極めて高く、1体を討伐するにしても困難を強いられるのだ。そしてこのカルマノイズの最大にして最悪の特徴は人間を無尽蔵に炭素化し、殺害するということだ。通常ノイズとは人間を炭素分解させる際、自らも炭素となってしまうのだがカルマノイズは人間に触れても自分は炭素化することはない。つまり、カルマノイズは己自身が消えることはなく、何人もの人間を炭素分解することができるということだ。

 

「このカルマノイズがこれまで私たちが渡り歩いてきた並行世界の元凶であった」

 

「ならばこの世界にカルマノイズが存在しているというのならば、この世界の元凶もカルマノイズの可能性が高いでしょう」

 

「だが、脅威となっている存在は、そのカルマノイズだけではない」

 

「と、言いますと?」

 

「数か月前、カルマノイズが再び現れるようになったと同時に、正体不明の黒い仮面が現れるようになったのだ」

 

「黒い仮面?」

 

黒い仮面の存在を知らない響たち4人は疑問符を浮かべている。

 

「我々もあの黒い仮面の詳しい情報を掴めていない。だがわかっていることは・・・奴は我々の敵であるということだ」

 

「敵・・・」

 

「私たちにはあまりピンとこない情報だな・・・。その黒い仮面が現れた時の状況を、詳しく教えていただけますか?」

 

まだピンと来ていない4人は黒い仮面と遭遇した状況の詳細を求め、弦十郎はそれに応じて答える。

 

「カルマノイズが現れ、玲奈君が対処していた時だった。突如として黒い仮面が現れ、両方に攻撃を仕掛けてきたのだ」

 

「え?カルマノイズにも攻撃したんですか?」

 

黒い仮面が玲奈だけでなく、カルマノイズにも攻撃を仕掛けてきたという情報に4人は驚く。

 

「玲奈はともかく・・・なぜカルマノイズにも?」

 

「これはあくまでも推測なのだが・・・黒い仮面は、カルマノイズの狙っているのではないだろうか」

 

「つまり、黒い仮面はカルマノイズを自分の手中に収めようとしていると?」

 

「少なくとも、我々にはそう見えた」

 

黒い仮面の狙いがカルマノイズだということに、フォルテは考えるしぐさを取る。

 

「手中に収めるって・・・そんなことができるのですか?」

 

「そこも疑問点の1つだな。そもそも、あれをどうやって手に入れるのかもわかっていないのだからな」

 

「でも・・・カルマノイズを誰かが利用するなんてこと・・・あっちゃいけません!」

 

「その通りだ。理由が何であれ、あれは世界にとって害悪だ。存在してはならない」

 

黒い仮面の目的が何であろうと、カルマノイズを野放しにしてはならないという決断に至り、この世界のカルマノイズを倒す方針を決めた4人。

 

「ある程度の状況は理解できました。僕たちの目的はこの世界の異変を解決すること。そちらが抱えている問題、僕たちにも協力させてもらいたい」

 

「本当か⁉それは願ってもいない申し出だが・・・いいのか?」

 

「もちろんです!どーんと任せて・・・」

 

「冗談じゃねぇ!!!!」

 

4人がこの世界の二課に協力の意を示したところに、玲奈が異を唱えるような怒鳴り声を上げた。

 

「れ・・・玲奈・・・?」

 

「さっきから黙って聞いてれば・・・協力するだと?お前ら何様のつもりなんだよ!!」

 

「玲奈君!!」

 

「お前らの助けなんかいらねぇ!!そのカルマノイズとかも、あの黒い仮面の奴も・・・全部私がぶっ潰す!!お前らは帰れ!!!」

 

「ま、待ってよ玲奈・・・私たちは・・・」

 

玲奈は一方的に4人の申し出を否定し、怒りを隠さずに司令室から出ていった。

 

「玲奈・・・」

 

「・・・・・・」

 

非協力的でわかり合おうとしない玲奈に彼女をよく知る日和と翼は悲しそうな顔をしている。

 

「・・・すまない、何度も玲奈君が無礼を・・・」

 

「その点についてなのですが・・・」

 

「なんだ?」

 

玲奈がああまで自分たち・・・ましてや翼や日和を否定するのかが気になったフォルテは、聞いてもよいものか悩んだが、話を纏めるために必要だと思い、後回しにした話題に触れることにした。

 

「3年の間・・・北御門玲奈に何があったのですか?」

 

「!」

 

今日に至るまでの3年間の話を振られ、目を見開く弦十郎。

 

「あなたが最初に言ったことです。風鳴は亡くなったはずと。それだけではない。東雲に対するあの拒否反応・・・。3年の間に何かしらの関りがないとできないはずだ」

 

「・・・・・・」

 

玲奈の過去を知っている弦十郎は彼女の心境もあって複雑そうな表情をしている。

 

「お願いします・・・教えてください」

 

「東雲」

 

「君は・・・玲奈君の・・・」

 

「あの人が私たちの世界の玲奈じゃないってことはわかってます。でも・・・直観でわかるんです。あの人は正真正銘、私の知っている玲奈だって。そんな玲奈が過去のことで苦しんでいるのなら・・・私は玲奈を支えたいんです!だから・・・」

 

玲奈を支えたい、助けてあげたい気持ちでいっぱいになっている日和はこの世界の玲奈が体験したことを話してほしいと言おうとした時・・・

 

ヴゥー!ヴゥー!

 

「ノイズの反応を検知!」

 

タイミングが悪いことにノイズが現れた警報が鳴り響く。

 

「玲奈君は?」

 

「こちらを指示を待たず、先行しております」

 

「またか・・・!LiNKERの洗浄もまだだろうに・・・!」

 

二課と連携を取ろうとしない玲奈に弦十郎は苦い表情をしている。

 

「私たちも行きます!」

 

「うん!玲奈を助けなきゃ!」

 

「行ってくれるのか?」

 

「市民を守るのは防人の務め・・・果たしてみせます」

 

「・・・すまない・・・だがくれぐれも、無理をするなよ」

 

「時間が惜しい。行くぞ3人とも」

 

「ああ!」

 

「「はい!」」

 

装者たちは弦十郎から出撃許可をもらい、急ぎ玲奈の元へ合流しようと行動を開始するのであった。

 

~♪~

 

ノイズの出現区域、一足早くに現場に到着した玲奈はノイズの群れを憎悪に満ちた目で睨みつけている。彼女の脳裏に浮かび上がるのはこの世界の日和の言葉。

 

『玲奈・・・生きて・・・』

 

「ああ・・・もちろん生きるさ・・・日和・・・ノイズを・・・1匹残らず根絶やしにするまでは!」

 

violent nyoikinkobou Zizzl……

 

詠唱を唄った玲奈はギアを身に纏い、ノイズの群れに突撃し、取り出した棍で薙ぎ払った。さらに襲い掛かるノイズを棍による格闘技で次々と倒していく。

 

(殺す殺す殺す!!私から全てを奪ったノイズ・・・お前らからもらった絶望を・・・数億倍にして返してやる!!!)

 

復讐に燃える玲奈の目にはノイズしか見えていない。まるで周りがどうなろうと知ったことではないと言わんばかりに。そこへ・・・

 

「玲奈ーーー!!」

 

「!」

 

二課のヘリに乗って現場に到着した日和が玲奈に声をかけた。そばにはもちろん響たちもいる。

 

「待ってて!今加勢に・・・」

 

「帰れ!!お前らの助けなんかいらねぇ!!」

 

やはり日和たちを拒絶する玲奈に別のノイズが襲い掛かる。玲奈はそのノイズを棍を振るって倒す。その間にも日和はヘリから飛び降り、ギアネックレスを取り出す。

 

clear skies nyoikinkobou tron……

 

詠唱を唄い、ギアを纏った日和はノイズの群れに向かって下降していく。同じくギアを纏った響もヘリから飛び降り、日和と並んでノイズの群れに向かって拳を構える。そして、群れに突っ込むと同時に日和は棍を振り下ろし、拳を振るってノイズを貫き、衝撃波を発して周りのノイズを吹っ飛ばし、消滅させた。翼も下降し、空中に複数の剣を召喚し、それをノイズの群れに向かって放った。

 

【千ノ落涙】

 

放たれた複数の剣は地上のノイズを1体1体確実に貫いていく。 そこへ空中型のノイズが二課のヘリに向かって突撃しようとしていた。だがまだヘリに残っていたフォルテが大剣を銃に変形させ、向かってくるノイズを弾丸で撃ち落とす。

 

【Mammon Of Greed】

 

放たれた弾丸によって空中型のノイズは撃墜されていく。4人のコンビネーションも相まってノイズの数がどんどん減っていく。

 

(こいつら・・・なんて強さだ・・・!)

 

4人のコンビネーションと実力を目の当たりにした玲奈は驚きと同時に、自分の実力不足を実感した。彼女が呆然としていると、地響きと共に、ビルの奥から大型ノイズが現れる。大型ノイズは日和に向けて左腕を振り下ろした。日和はその攻撃を避け、大型ノイズの右腕に向けて棍を伸ばして打撃を与え、ノイズの一手を制限させた。さらにそこへ翼とフォルテが突撃し、大型ノイズの胴体を刀と大剣で斬りつける。

 

「行け、立花!」

 

翼の掛け声に応えるように、響がブースターで勢いをつけ、バンカーユニットを展開して大型ノイズに強烈な拳を叩きつけた。その反動によって大型ノイズは態勢を崩し、倒れようとしている。

 

「玲奈さん!!今です!」

 

「・・・っ!」

 

響に呼び掛けられ、玲奈は強張った表情を見せつつも行動に出る。玲奈は棍を大型ノイズの真上に向けて投擲した。投擲された棍は回転しながら上空を舞い、大型ノイズの真上で止まり、巨大化して一気に真下に落下し、大型ノイズを貫いた。

 

【鬼魔愚零】

 

巨大な棍に貫かれたノイズは炭素となって消滅した。この大型のノイズが最後の1体のようで、辺りにはノイズの気配はなくなった。戦いが終わり、日和は玲奈に駆け寄る。

 

「玲奈ー!怪我は・・・」

 

「余計なことしやがって!!」

 

玲奈は怒りを隠すことなく怒鳴り声をあげる。その怒鳴り声に日和はビクッとなった。

 

「あいつらなんか私1人で十分だった!獲物をかっさらいやがって!」

 

「ご、ごめん・・・でも・・・」

 

「でもじゃねぇ!!ざけんな!!」

 

玲奈に怒鳴られ、しょんぼりする日和。そこにフォルテが異を唱える。

 

「好き放題言うが・・・勝手をしているのは自分だという自覚はあるか?今回被害がなかったからいいものの、もし民間人が巻き込まれれば・・・」

 

「知ったことかよ!!周りがどうなろうと、私には関係ない!!」

 

フォルテの異によってさらに怒りが増し、声をさらに荒げる玲奈。

 

「そんな言い方・・・」

 

「・・・ちっ!とにかく、私はお前らを絶対に認めねぇ!さっさと自分たちの世界に帰れ!!」

 

これ以上の言い合いは無駄だと判断した玲奈は舌打ち交じりで一方的に4人を否定して1歩とで本部に帰還していく。

 

「玲奈さん・・・ひどく一方的でしたね・・・」

 

「玲奈・・・どうして・・・」

 

「・・・風鳴、戦場での北御門玲奈とは、いつもああなのか?」

 

「そんなわけないだろう。似たような状態でも、玲奈は常に人々にちゃんと目を向けていたからな」

 

「つまり、この世界の北御門玲奈は僕たちの知らない3年の間で、価値観が変わってしまった・・・ということか」

 

「・・・・・・」

 

フォルテの推測に日和はまたも悲しい表情を見せた。

 

「・・・ひとまず、二課本部に帰還しよう。話はそれからだ」

 

「ああ・・・そうだな」

 

「日和さん・・・」

 

「・・・うん・・・」

 

今後の方針について考えるために、4人は二課の本部へと戻るのであった。4人が帰還していく様子を路地裏に潜んでいた者が見つめていた。

 

「・・・精々想像以上の成果を出してちょうだいな。私のためにさ」

 

暗躍する者はそう呟き、小さい笑い声をあげるのであった。

 

~♪~

 

二課本部に戻った玲奈はLiNKERの洗浄を済ませ、シャワーを浴びていた。その表情は今も不機嫌なままだ。

 

「・・・くそ!」

 

玲奈はイラつきをぶつけるように壁に拳を叩きつけた。あまりに強く握りしめているために、血が流れている。このイラつきの原因はやはり日和たちにあった。並行世界の存在自体許せないのに、今日の戦闘での4人の実力。嫌でも自分の力が不足しているとわからされるのだから余計に腹が立つのだ。

 

「・・・私に・・・もっと力があれば・・・こんな思いは・・・」

 

玲奈は自身の不甲斐なさを恨み、忌まわしき3年前、2年前の出来事を思い出すのであった。




北御門玲奈(並行世界)

外見:跳ね返った金髪のショートヘア
  :瞳は赤色
  :学校の制服は黒いセーラー服

年齢:19歳

シンフォギア:妖棍・如意金箍棒

好きなもの:ゲーム、硬貨(古銭の方)

スリーサイズ:B:80、W:59、H83

イメージCV:NARUTO -ナルト-:うずまきナルト
(その他の作品:イナズマイレブン:円堂守
       :遊☆戯☆王デュエルモンスターズ:海馬モクバ
       :Yes!プリキュア5:夏木りん / キュアルージュ
        その他多数)

並行世界の特異災害対策起動部二課の一員。日和の友達にして、翼と奏の戦友。去年は一般の普通科の高校に通っていたが、卒業して今はフリーのギタリストをやっている。
奏や日和のおかげで自身の考え方を変えられたが、2つの事件をきっかけに以前まで執着していた復讐心が燃え上がって笑顔を見せることはなくなった。いや、以前よりひどくなってしまい、復讐鬼になってしまった、が正しいのかもしれない。
大事な人間(例えば日和など)は1人しかいないと考えており、代わりの人間などいない思っている。そのため並行世界からやってきた日和たちを別人だと強く思い込んでおり、並行世界も、彼女たちの存在を拒絶している。


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AXZ編
バルベルデ地獄変


AXZ編、開幕!


少女の暮らしは裕福であり・・・不自由である。

 

代々続いてきた名家に生まれた少女は常に特別な人間と称され、少女は望まぬ進路、勉学・・・様々なことをやってきた。少女はそんな生活に息苦しさを感じている。

 

両親に直談判しても、全てもみ消されてしまう。何を言っても聞き入れてくれない、受け入れてくれない・・・少女はそう思うようになり、夢を諦めた。

 

しかし、そんな彼女を変えたのは、後に親友と呼べる少女だった。

 

彼女は何度も何度も少女の元に来て、少女の冷めきった心を温めた。少女は、彼女の自由気ままな心に惹かれ・・・そして、彼女の影響もあって、もう1度両親と話をし、自らの意思で家を出た。そうして少女はようやく、少女が憧れた自由・・・そして夢に進む道を手に入れた。今の少女の望みは、親友の彼女と共に、何気ない平和を謳歌したい。ただそれだけであった。

 

しかし、彼女は力を得て、戦いに出てしまっていることを知った。少女は当然彼女が戦いに行くことを反対した。だが、いくら止めたところで、彼女の思いは止まらない・・・いや、止めてはならないと悟った。ゆえに少女は『生きて』という約束を彼女と交わし、いつも彼女の無事を願った。

 

だが、彼女が傷ついた姿を見て、時折思う。本当に、これが彼女のためになるのか?本当に、彼女はもう1度、生きて戻ってくることができるのか?

 

そう考えると、彼女は不安で不安で仕方がなくなる。そして、もし自分に力があったらどうするのかとも・・・そう考えることがある。

 

「世界があの子を傷つけるというのなら・・・いっそのこと・・・」

 

だがいくら考えたところで、少女の元に力が宿ることはないと思っていた。自分にできるのは、彼女が返ってくることを待つことだけであると。

 

・・・そう・・・ある出来事が起こるまでは・・・。

 

 

 

戦姫絶唱シンフォギア 大地を照らす斉天の歌

AXZ編

 

 

 

リディアン音楽院・・・そこは、音楽教育を中心にしたカリキュラムを特徴とした学校である。そんなリディアンも今は夏休み。しかし季節的にはもう終盤まで来ている。そのリディアンの教室にて、黒髪でウサミミリボンのカチューシャを着けた少女が勉強に勤しんでいた。

 

「・・・たはぁ~・・・やっと今日のノルマが終わったよ~・・・」

 

この少女の名は東雲日和。リディアン音楽院に所属する3年生だ。日和は自慢ではないが、勉強が苦手で有名だ。そんな彼女でも勉強しなくてはいけない事情もある。それは、大学受験だ。日和たちは3年生・・・学校生活も本年度で終わるのだ。学校を卒業すれば、どこかに就職、あるいは大学に進学することであろう。日和はそんな数ある進路の中で音楽関連のある大学進学を選んだ。自分の見つけた夢を、一歩でも前に進むために。そのための勉強をやっているというわけだ。

 

「海恋~・・・今日のノルマ終わったよ」

 

日和はそばにいた親友の少女に声をかけた。その少女の姿は水色髪の三つ編みポニーテールでメガネをかけている。

 

「ねぇ海恋、聞いてる?」

 

「えっ?あ・・・何?」

 

少女は日和の2回目の呼びかけでやっと気がつく。この少女の名は西園寺海恋。日和と同じリディアン音楽院に所属する3年生で風紀委員に所属している。普段の海恋ならば、1回目の呼びかけで反応するのだが、今の彼女はどこか上の空だった。

 

「いや、ノルマ終わったってば」

 

「あ、ああ、そう・・・ご苦労様・・・」

 

返事もどこか歯切れが悪く、煮え切らない様子だ。ただ日和は海恋がそうなっている原因はわかっている。

 

「・・・やっぱり実家が心配?」

 

この夏休み期間の間、世間ではこのようなニュースで持ちきりになっている。

 

『西園寺グループ、買収か!!?』

 

西園寺グループ・・・それは海恋の父が経営する会社で現在その会社が何者かによって買収をかけられている。もちろん、西園寺グループはこの事態に対処しているが、それからの進展が未だにない状況下にある。自分の夢のため、自ら家を出ていった海恋がこの件に関わっているのはせいぜい西園寺家の令嬢という点だけである。だが、心のどこかで両親に認められたいと願う海恋にとっては、やはり思うところが多々あるのだ。

 

「心配じゃない・・・て言えば嘘になるけど・・・だからって私にできることなんて何1つないわよ。それに・・・家を出ていった娘が、今さらどんな顔をして会えばいいっていうのよ・・・」

 

「海恋・・・」

 

気丈に振る舞う海恋の言葉に日和は海恋が心配になってきている。

 

「心配しなくていいわよ。ビジネスマンのあの人のことだから、こんな知らせに黙ってるはずがないわ。きっとすぐに解決する」

 

「だといいけど・・・」

 

海恋は父ならば買収相手を何とかするだろうと思い、大丈夫だろうと考える。ただ日和には、それが無理に納得させようとしているのではないだろうかと思っている。

 

「私のことより自分の心配をしてなさい。ただでさえあなたは成績が悪いんだから・・・後れを取り戻すのは大変よ?」

 

「わかってるよ・・・でもやらなきゃいけないんでしょ?」

 

「わかってるのならいいのよ」

 

渋々ながらとはいえ、自ら進んで勉強に取り組もうとする日和に海恋は少し感心を抱く。

 

「しかし、あなたが自分から勉強に取り組むとはね・・・成長したじゃない」

 

「だって・・・私、海恋と同じ大学に行きたいもの・・・」

 

「!・・・そうね。私も、あなたと一緒に大学に行きたいわ」

 

日和から一緒の大学に行きたいと言われ、嬉しい半面、照れくささを感じる海恋。少しは海恋の気持ちも晴れて安心した日和はにししと笑う。すると、窓の外にヘリが接近してきた。ヘリのスライド式のドアが開き、中から3人の少女が顔を出した。

 

『おい、相棒!聞こえるか!!』

 

『本部から緊急招集!!』

 

「え!!?何!!?全然聞こえない!!」

 

『デスデスデース!!』

 

「なんだって!!?もう1度プリーズ!!」

 

3人の少女が何か言ってるようだが、ヘリのローター音でかき消され、何を言ってるのか全然わからなかった。その様子に銀髪の少女は自分の靴を日和に向けて投げた。放たれた靴は日和に直撃した。

 

「うごっ!!?」

 

「日和!!」

 

「いったぁ~・・・何も靴投げることないじゃん・・・」

 

日和は直撃した頭を抱えながら靴を拾う。

 

「・・・行くのね」

 

「・・・うん。ちょっと行ってくるけど、心配しないで。受験勉強も任務も、両方やってみせるよ!」

 

「ええ。でも、絶対に生きて帰ってくるのよ」

 

「わかってるって!約束、だもんね!」

 

日和は海恋に見送られながら、教室から出て、ヘリの元まで向かっていく。東雲日和は、ただのリディアンの生徒ではない。彼女は、国連所属の超常災害対策機動部タスクフォース・・・通称、『S.O.N.G 』に所属する、シンフォギア装者である。

 

~♪~

 

バルベルデ共和国・・・南アメリカ大陸に存在する小国で常に政情不安定な軍事政権国家である。長きにわたる独裁によって、自国民たちは過酷な環境で暮らされることを強いられており、それに反発して結成された反政府組織・・・つまりは反乱軍との内戦が繰り返されている。

政府軍の軍隊やモラルの精度は最悪であり、軍人としての誇りや愛国心も存在しない、いわば愚連隊である。

そんなバルベルデ共和国のジャングルで、爆発音が鳴り響く。爆発の発生元の大地にて、一台のバイクがかけていく。その様子を政府軍が所有する駐屯地で政府軍の軍人がパソコンのモニターで捉える。

 

「高速で接近する車両を確認!」

 

「対空砲を避けるために陸路を強行してきた?だが浅薄だ。通常兵装で我々に太刀打ちできるものか」

 

サングラスをかけた上官が余裕の態度を見せている。ジャングルの地面に設置された装置が起動すると、中から何かの結晶が放たれる。ジェムが割れると、そこから陣が出現し、陣より液晶ディスプレイのようなものが付いた生命体が現れる。この生命体は、特異災害と認定された人を殺すための自立兵器・・・ノイズを元にして造り上げられた存在・・・アルカ・ノイズである。アルカ・ノイズの特徴は、通常兵器ではダメージが入りにくいこと、備わっている発光気管に触れたものは何でも赤い粒子、プリマ・マテリアとなって分解するというものだ。

そんな危険な存在であるアルカ・ノイズを前にしても、接近するバイクは止まらず、一直線に進んでいく。

 

「接近車両モニターで捕捉!」

 

「こいつは・・・!」

 

モニターでバイクに乗っている者の正体に気付き、上官の余裕が崩れ落ちた。

 

「敵は・・・シンフォギアです!!」

 

そう、バイクに乗っている女性の身に纏っているものこそが、ノイズと対抗するための聖遺物を元にして作られたアンチノイズプロテクター、シンフォギアだ。そしてそれを身に纏っている女性の名は風鳴翼。S.O.N.Gに所属するシンフォギア装者の1人で、世界の誰もが認めるトップアーティストでもある。翼はバイクでそのままアルカ・ノイズの群れに突っ込み、展開されたブレードでアルカ・ノイズを次々と斬り裂いていく。

 

「対空砲には近づけるな!!」

 

上官は指示を出すがもう遅い。翼はアルカ・ノイズを斬り裂きながら対空砲に到達し、バイクを回転させながらブレードで対空砲を伐採する。

 

【騎刃ノ一閃・旋】

 

「緒川さん!!」

 

舞台が整い、翼は空に舞う凧とパラシュートを見上げて叫んだ。凧には黒服を着込んだ茶髪の男性、さらに翼と同じシンフォギアを身に纏った日和と2人の少女が張り付いていた。

黒服の男の名は緒川慎次。S.O.N.Gに所属するエージェントで、表向きでは翼のマネージャーを務めている。

そして、橙色のシンフォギアを身に纏っているのが立花響、赤いシンフォギアを身に纏っているのが雪音クリス。2人とも日和と同じリディアンの生徒であり、S.O.N.Gに所属するシンフォギア装者である。響は日和の後輩であり、クリスは日和と同学年であり、相棒である。

 

政府軍は凧に目掛けて装甲車からの機銃掃射を放つ。それを確認した緒川は3人の装者と共に凧から跳び下り、機銃の弾を回避する。そこから緒川は煙球を投げて、煙幕を張った。煙幕にクリスはボウガンでアルカ・ノイズを撃ち抜き、響は拳で、日和は棍で打撃を与えてアルカ・ノイズを蹴散らしていく。

 

緒川はムササビの術で落下速度を弱らせて降り立ち、装者たちが対処しづらい歩兵たちを手刀で無力化させていく。歩兵部隊の何人かは狙いを緒川に向け、マシンガンを撃とうとする。そこへ、戦乱に乗じて隠れていた赤い長髪の緑と紫のオッドアイの女性が現れ、歩兵の溝内を殴って歩兵を気絶させた。

オッドアイの女性の名はフォルテ・トワイライト。かつては敵対していた組織、F.I.Sに所属していたレセプターチルドレンのリーダーであり、彼女もまたS.O.N.Gのシンフォギア装者である。だが彼女には現在はむやみにギアを纏うことができないため、今はこうして生身で戦わなければいけない状況下である。

歩兵はフォルテに気がついたが彼女は素早く動き、次々と歩兵たちの溝内を殴って気絶させていく。歩兵の中に彼女の正体に気がついた者が現れる。

 

「!!あの動き!!あの赤い髪!!間違いない!!奴は・・・」

 

フォルテの正体に気がついた歩兵も、フォルテに溝内を殴られる。

 

「トレイシー・テレサ・・・生きて・・・いたのか・・・!」

 

歩兵はフォルテの本名を口にしながら気絶した。フォルテはかつてはバルベルデの反乱軍に属していた兵士で、その当時は本名、トレイシー・テレサと名乗っていたのだ。

 

「トレイシー・テレサは死んだ。僕はフォルテ・トワイライトだ」

 

フォルテは気絶した兵士たちに向けてそう言い放った。その間にもアルカ・ノイズを対処している装者4人はアルカ・ノイズを一掃していく。

アルカ・ノイズの次に待ち構えていたのは政府軍の第二歩兵部隊と戦車だ。歩兵部隊は装者たちに向けてマシンガンを撃ち放ち、戦車も砲弾を発射させる。翼は刀で向かってきた弾を全て弾き、砲弾も切り裂いて無力化させる。装者たちに恐れをなした兵士は逃げ出し、戦車は後退しつつも砲弾を放つが、翼は戦車に近づき、砲身を切り裂いて無力化させた。

まだ残っている戦車は響に狙いを定め、砲弾を発射させたが、響がその砲弾を拳で打ち払い、そこに翼が両足のブレードを展開させて、バーニアを点火して身体を高速回転させて戦車を切り裂いて無力化させる。

 

【無想三刃】

 

クリスは回転しながらボウガンの矢を放ち、アルカ・ノイズを次々と撃ち抜いていく。

 

「一斉射撃!!」

 

その隙をついて歩兵部隊はクリスに向けてマシンガンを撃ち放ち、さらにロケットランチャーも発射させる。クリスは向かってきた弾を装甲とボウガンで防ぐが、その後のロケットが直撃し、爆発した。

 

「よし・・・!」

 

ロケットが直撃し、歩兵は笑みを浮かべたが、それもすぐに消えた。なぜなら、爆発の煙が晴れると、クリスはかすり傷1つもない状態で立っていたからだ。クリスは口に含んだ弾丸を吐き捨て、ボウガンの矢を放ち、歩兵のマシンガンを撃ち落とす。

 

「て・・・撤退ー!!」

 

歩兵たちは恐れをなして逃げ出した。日和は棍による技を繰り出して向かってくるアルカ・ノイズをばったばったと薙ぎ払っていく。そこへ歩兵部隊が日和に向けてマシンガンを撃ち放つ。それに気づいた日和は跳躍で弾丸を躱す。そこに、戦車が日和に狙いを向けて砲弾を撃ち放った。それに対し日和は棍を振るって砲弾を上空に打ち返した。そして、即座に右手首のユニットよりもう1本の棍を取り出し、戦車の砲身に向けて投擲する。投擲された棍は砲口にすっぽりはまり、巨大なドリルに変形する。砲身は内側から抉れて破壊され、戦車が無力化する。

 

響は向かってくる砲弾を拳で次々と打ち返し、後退する戦車に近づき、キャタピラを力づくで引きはがしていき、さらには戦車上部も無理やり持ち上げていく。

 

「あ・・・あんまりだ!」

 

戦車の操縦者たちは響に恐れて逃げ出した。もう1台の戦車が響に向けて砲弾を放とうとした時、響が戦車上部を振るって戦車の砲身を折り曲げて無力化させた。

 

~♪~

 

S.O.N.G本部ではバルベルデでの戦闘の状況をモニターで確認している。

 

「敵戦力の消耗率、34%!」

 

「昨晩対戦車用に視聴した映画の効果覿面です!」

 

「国連軍の上陸は15分後!それまでに迎撃施設を無力化するんだ!」

 

赤いワイシャツを着込んだ大漢が装者たちに向けて通信越しで指示を出した。この大漢の名は風鳴弦十郎。S.O.N.Gの司令を務めている漢だ。

 

~♪~

 

向かってくるアルカ・ノイズをクリスはボウガンをガトリング砲に変形させて、弾丸を撃ち放って撃墜させていく。その隙に戦車がクリスに狙いを定めて砲弾を発射させる。だがそうはさせまいと日和が棍をバットのように振るって受け止める。

 

「無茶してくれる!!」

 

日和は尻尾装飾に備わった棍を地に突き刺して身体を固定し、砲弾を打ち返した。

 

「クリス!!」

 

「おう!」

 

日和の合図でクリスは砲弾に向けてガトリングの弾を撃ち放つ。弾を砲弾に直撃し、爆発する。その衝撃で、戦車はひっくり返る。

 

~♪~

 

軍駐屯地では下っ端兵士が戦況を上官に報告する。

 

「防衛ラインが瓦解していきます!このままでは・・・隊長!!?どちらへ!!?」

 

報告を聞いた上官はどこかへと走り去っていってしまう。

 

~♪~

 

敵の戦力をほぼ片付けた装者たちは一か所に集まる。すると、突然奥の軍駐屯地に光が放たれ、大型召喚陣が現れる。そこから現れたのは、巨大な航空戦艦であった。

 

「でかすぎでしょ!!?」

 

「空に・・・あんなのが!」

 

「本丸のお出ましか!」

 

装者たちが航空戦艦を確認すると同時に、S.O.N.Gのヘリ4機が低空飛行でこちらに接近してきた。

 

『あなたたち!ぐずぐずしないで、追うわよ!』

 

4機のヘリのうち1機にピンクの長髪の女性が搭乗している。この女性の名はマリア・カデンツァヴナ・イヴ。フォルテと同じレセプターチルドレンの1人で、S.O.N.Gに所属するフォルテと同タイプのシンフォギア装者だ。

 

『ふん!ヘリか!ならば直上からの攻撃を凌げまい!』

 

現れた戦艦のブリッジには上官が乗っており、ブリッジでヘリがこちらに接近していることを確認して、スイッチを押す。すると、戦艦に搭載された爆弾をヘリに目掛けて投下する。爆弾はヘリの真上で爆発した。

 

『やったぜ狂い咲きィ!・・・ん!!?』

 

上官は喜びを露にするが、モニター映ったヘリは撃墜されていない。4機のヘリのプロペラの上にはそれぞれの装者たちが立っていた。先ほどの爆弾の爆発はクリスのガトリングで撃ち抜かれたことによるものだったのだ。

 

『シンフォギアで迎え撃っただと!!?ならば非常識には非常識だ!!』

 

上官がスイッチを押したことで、戦艦から数えきれないほどのミサイルが発射される。向かってくるミサイルにクリスはガトリングで次々と撃墜していく。

 

「立花!東雲!しんがりは雪音に任せるんだ!」

 

「はい!」

 

「うえぇ!!?」

 

翼と日和と響はミサイルを足場にして飛び移りながら戦艦に接近する。ただミサイルの速度よりガトリングによる破壊速度が速く、背後にミサイルが迫ってきている。

 

「こっちで抑えているうちに、他の3機はさっさと戦域を離脱してくれぇ!」

 

クリスの声に応えるように、3機のヘリは離脱を開始するが、1発のミサイルが1機のヘリに迫ってきた。フレアを放ってもミサイルは撃ち落とせず、ヘリに迫る。

 

「ダメだ!!間に合わない!!」

 

振り切れず、パイロットは死を覚悟したが・・・

 

「やるよ、切ちゃん!」

 

「合点デス!」

 

ヘリに乗っていた2人の少女がヘリのドアを同時に開け放った。その間に入ったミサイルは通り過ぎていきった。これによってヘリは無傷だ。通り過ぎたミサイルをクリスが撃ち落とす。

 

「やればできる・・・」

 

「あたしたちデース!」

 

先ほどドアを開けた黒髪ツインテールの少女は月読調、短い金髪の少女は暁切歌。2人ともレセプターチルドレンの1人で、フォルテとマリアと同タイプのシンフォギア装者だ。2人はリディアンの1年生で日和たちの後輩でもある。

 

「初手から奥義にて仕る!」

 

戦艦までたどり着いた翼は刀を戦艦と同じ大きさを誇る大剣に変形させ、それを振り下ろして戦艦上部を真っ二つに切り裂く。中にいた上官は傷1つついていないが、サングラスが斬り下ろされた。そして、戦艦の裂け目から響が中に入り、バンカーユニットをドリルのように変形する。外にいた日和は棍を巨大なドリルに変形して攻撃態勢を整える。恐れをなした上官は逃げ出そうとする。そして、響はバンカーのブースターを起動して、上官の襟をつかみながら内部装甲に向かって突っ込む。さらに日和は回転するドリルの棍に蹴りを放ち、響と並走するように内部装甲に突っ込んだ。

 

【天元突破】

 

2つのドリルが戦艦内部を貫き、ぶち破ることで響と日和は戦艦から脱出する。全てのミサイルを撃墜したクリスが多くの大型ミサイルを展開し、戦艦目掛けて放った。

 

【MEGA DETH INFINITY】

 

全てのミサイルは戦艦に直撃し、跡形もなく爆散した。宙に浮かぶ日和はドリルの棍を展開したままで、地上に突っ込む。

 

「響ちゃん!!」

 

「日和さん!!」

 

日和に響に手を伸ばし、響は日和の手を掴んだ。ドリルの棍はそのまま地面に激突する。地面は衝撃が発し、土埃が放たれるが、ドリルの棍の上に乗っている日和と響は無事だ。上官は恐怖体験によって気絶してしまっているが。

 

「立花!東雲!怪我はないか?」

 

「はい!」

 

「ひとまずは任務完了ですね!」

 

「ああ。後は彼らに任せよう」

 

空を見上げて見ると、国連所属のヘリが向かってきている。これにて、装者たちの任務はひとまず完了である。

 

~♪~

 

政府軍の駐屯地を制圧後、国連軍はここにテントを張り、疲弊しきった国民に水や食事などの配給品を配っていく。中には負傷して治療を受けている者もいる。これらの様子をS.O.N.Gの制服を着込んだ日和、響、翼、クリスがフェンス越しで見ていた。

 

「よかった・・・国連軍の対応が速くて・・・」

 

「そうだな・・・」

 

響と翼はこの様子に安堵しているが、クリスは悔し気に歯噛みしている。

 

「クリス?大丈夫?」

 

「!いや・・・何でもねぇ」

 

クリスの様子に気がついた日和が彼女を気にかけている。何でもないというが、その表情から見て、何かを悩みを抱えているのは明らかだ。日和はクリスの過去についてを一応は知ってるため、その悩みには心当たりがある。ただ、本人が話したがらないため、無理に聞こうとはしなかった。そこに荷台車が止まる。市街巡回を終えたフォルテ、マリア、調、切歌が戻ってきたのだ。切歌は荷台から立ち上がり、敬礼ポーズをとる。

 

「市街の巡回完了デース!」

 

「乗れ。本部に戻るぞ」

 

フォルテが運転席から日和たちに声をかけた。日和たちが荷台に乗ったのを確認したフォルテは車を運転して本部に戻る。

 

「・・・私たちを苦しめた、アルカ・ノイズ・・・錬金術の断片が、武器として、軍事政権にわたっているなんて・・・」

 

錬金術。それは、科学と魔術が分化する以前のオーバーテクノロジーであり、それを行使する者を錬金術師と呼ぶ。装者たちが戦ったアルカ・ノイズを創り出したのは、この錬金術によるものだ。それが、軍事政権の手に渡っていることに調は憂いている。錬金術はシンフォギアと同様、異端技術の結晶そのもので、軍事政権がそう簡単に手に入れられるものではない。ただの人間がアルカ・ノイズを作ることはできないのだから。となれば、これらを提供した者がいると考えるのが妥当だ。

 

「パヴァリア光明結社・・・」

 

響は組織の名を呟いた。

 

~♪~

 

そもそも日和たちがなぜバルベルデに向かうことになったのか。それは、時は本部から招集がかかった日に遡る。リディアンの制服を着た日和たちがブリッジに到着した。

 

「「遅くなりました!」」

 

「揃ったな!さっそくブリーフィングを始めるぞ!」

 

弦十郎の一声でモニターにテレビ通信が繋がった。モニターにはロンドンにいる翼、マリア、フォルテ、緒川の4人が映っている。

 

「先輩!」

 

「マリア、フォルテ、そっちで何かあったの?」

 

『翼のパパさんからの特命でね。S.O.N.G のエージェントとして、魔法少女事変のバッググラウンドを探っていたの』

 

『私も知らされていなかったので、てっきり寂しくなったマリアが、勝手についてきたとばかり・・・』

 

『だから!!そんなわけないでしょ!!』

 

『いや、風鳴の言葉は意外にも的を射て・・・』

 

『ちょっと!!フォルテもふざけないでよ!!』

 

調の問い答えていたマリアは翼とフォルテの発言で顔を赤くして叫んだ。緊張感が崩れた中で、緒川は苦笑を浮かべた後、話を元に戻す。

 

『マリアさんとフォルテさんの捜査で1つの組織の名が浮上してきました。それが、パヴァリア光明結社です』

 

緒川の言葉に金髪の少女が口を開いた。

彼女の名はエルフナイン。かつてS.O.N.Gと敵対していた人物、キャロル・マールス・ディーンハイムという錬金術師が造り上げたホムンクルスであり、彼女の計画を止めるために装者たちに協力していた。現在のエルフナインの姿はそのキャロルのものであり、今ではすっかりS.O.N.Gの頼れる仲間である。

 

「チフォージュ・シャトーの建造にあたり、キャロルに支援していた組織だったようです。裏歴史に暗躍し、一部に今の欧州を暗黒大陸と言わしめる要因ともささやかれています」

 

モニターには各地の崩壊現場や火災現場が映し出され、その上にパヴァリア光明結社の蛇を基調としたマークが現れる。そのマークに調と切歌は見覚えがあった。

 

「あのマーク!見たことあるデスよ!」

 

「確か、あれって・・・」

 

『そうね。マムやドクターと通じ、F.I.Sを武装蜂起させた謎の組織・・・私たちにとっても、向き合い続けなければならない闇の奥底だわ』

 

『フロンティア事変と魔法少女事変の双方に関わっていた組織、パヴァリア光明結社・・・』

 

装者たちがこれまで解決してきた事件、フロンティア事変と、魔法少女事変・・・パヴァリア光明結社はその両方と裏で関わっていたのが、調査で判明した。

 

「これを機会に、知られざる結社の実態へと至ることができるかもしれません!」

 

『存在を伺わせつつも、中々尻尾を掴ませてもらえなかったのですが、マリアさんとフォルテさんからの情報を元に、調査部も動いてみたところ・・・』

 

緒川はある1つの画像を表示させた。その画像には、アルカ・ノイズが映っていた。

 

「アルカ・ノイズ!!?」

 

『撮影されたのは、僕の生まれ故郷・・・政情不安定な南米の軍事政権国家、バルベルデ共和国』

 

「バルベルデかよ!!?」

 

バルベルデの名前にクリスが過剰に反応した。日和はその時に見せたクリスの表情が気になっている様子だ。

 

「装者達は現地合流後、作戦行動に移ってもらう。忙しくなるぞ!」

 

アルカ・ノイズが関わっているのならば、装者たちが動かない理由はない。こうして、S.O.N.Gはバルベルデの戦いに介入することとなったのだ。




東雲日和(AXZ編)

外見:黒髪のショートヘア、頭にウサギリボンのようなカチューシャをしている。
   瞳は青色

年齢:17歳

誕生日:10月27日

シンフォギア:妖棍・如意金箍棒

趣味:セッション

好きなもの:ベッキー(日和の白いベース)

スリーサイズ:B:86、W56、H85

イメージCV:輪廻のラグランジェ:京乃まどか
(その他の作品:マギ:アラジン
        変態王子と笑わない猫:小豆梓
        クロスアンジュ 天使と竜の輪舞:ロザリー
        その他多数)

本作の主人公。リディアン音楽院の3年生。S.O.N.Gのシンフォギア装者で、如意金箍棒の適合者。
立派なベーシストになるという目標を見つけた彼女は音楽関連の大学進学に向けて嫌々ながら受験勉強を進めている。S.O.N.Gの任務との両立で大変ではあるが、それでもめげずに頑張っている。
大切な友達であるクリスと海恋をとても気にかけているが故、クリスと海恋が悩みを抱えている様子を見ると、何とかしてあげたいと考えている。2人の現状を見ればなおさらのこと。

AXZ編楽曲

『Dear Friend』

心から大切に思う親友。そんな彼女に自分の思いを全身全霊でぶつけようと少女の決意が込められた楽曲。


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パヴァリアの錬金術師

今話にて、オリジナル錬金術師が登場します。


バルベルデで1つの任務を終えた装者たちはS.O.N.Gの本部である潜水艦に帰還し、土埃を払うためにシャワーを浴びている。

 

「S.O.N.Gが国連直轄の組織だとしても、本来であれば、武力での干渉は許されない・・・」

 

「だが、異端技術を行使する相手であれば、見過ごすわけにはいかないからな」

 

「アルカ・ノイズの軍事利用・・・!」

 

「奴らのことは僕が1番知っている。いずれこうなるだろうとは思っていた」

 

「LiNKERの数が十分にあれば、私たちだってもっと・・・!」

 

LiNKER。それはシンフォギアの適合係数を上げるための薬品でフォルテたちはそれを使うことで適合係数を上げ、シンフォギアを十分に纏うことができるのだが、LiNKERを作った科学者の1人、ジョン・ウェイソン・ウェルキンゲトリクス、通称ウェルが残したLiNKERのレシピの解析がまだ終わっておらず、LiNKERを十分に用意できない状況下にある。そして現在あるLiNKERの数は、4人の分それぞれ1本ずつである。

 

「ラスト一発の虎の子デス。そう簡単に使うわけには・・・」

 

「大丈夫だよ!」

 

シャワーを浴び終えた切歌に響が駆け寄り、両手を握る。

 

「何かをするのに、LiNKERやギアが不可欠ってわけじゃないんだよ!さっきだってヘリを守ってくれた!ありがとう!」

 

響は真剣な眼差しで語るが、切歌は顔を上下させながら顔を赤らめる。シャワーに浴びている者全員が全裸なので、顔を赤らめるのも無理はない。

 

「な、なんだか照れ臭いデスよ~!あっ・・・」

 

「じーっ・・・」

 

切歌が照れている様子を、調がジト目で見つめていた。

 

「め、目のやり場に困るくらいデース!」

 

こんなやり取りをしている中、フォルテはシャワーを浴び、兵士時代だった頃を思い返す。彼女の脳裏に浮かび上がるのは、止むことのない戦、空を舞い続ける火の粉、さらに辺り一面が炎で燃えている光景だ。昔のことを思い出していることに気付いたマリアはフォルテに声をかける。

 

「・・・昔のことを思い出してたの?」

 

「・・・ここは何も変わっていない。彼奴らは何も成長しておらず、己のエゴを押し通そうとしている。・・・反吐が出る」

 

市街を巡回して、自国民たちを見て改めて思った。政府軍は愚かな愚連隊でしかないと。愚かな思想がこの世に残る限り、このバルベルデに安息はない。自身の、誇れる故郷になることはできないと。だが今の自分はS.O.N.Gに所属している身。独断でどうすることもできないし、自国のために何かしてあげられることはない。フォルテのその思いが歯がゆさを感じている。

 

「あなたが昔ここでどう過ごしてきたかは知らないけれど・・・あなたは1人じゃない。私たちがいる・・・それだけは忘れないで」

 

「・・・ああ」

 

マリアの言葉にフォルテは首を縦に頷いた。一方の日和はシャワーから出て、シャワーを浴びているクリスに視線を向けている。クリスはシャワーを浴び、深刻そうな顔をしている。彼女が思い出すのは、バルベルデでの忌まわしい記憶だ。

 

「くそったれな思い出ばかりが、領空侵犯してきやがる・・・!」

 

バルベルデで体験した思い出にクリスが苛んでいると、日和が彼女を優しく抱きしめる。

 

「相棒・・・」

 

「大丈夫・・・大丈夫だから・・・。私がついてるよ・・・」

 

「・・・すまねぇ・・・」

 

日和の気遣いのおかげで、クリスの気持ちは和らいだと同時に、相棒に気遣われて自分が情けない気持ちで埋め尽くされるのだった。

 

~♪~

 

時刻は夜、シャワーを浴びえ終えた日和、響、翼、クリスの3人はブリッジに集まり、弦十郎から新たな任務が与えられる。

 

「新たな軍事拠点が判明した。次の任務を通達するぞ」

 

弦十郎はモニターの映像を使って任務を伝える。

 

「目標は、化学兵器を生産するプラント。川を遡上して、上流の軍事施設へ進攻する。周辺への被害拡大を抑えつつ、制圧を行うんだ!」

 

「「「「了解!!」」」」

 

任務内容を理解した4人は早々に任務を開始する。

 

~♪~

 

装者たちは緒川が操作する小型ボートに乗り込み、目的地へと向かっていく。そんな中でクリスはバルベルデで過ごし、両親が爆発に巻き込まれて亡くなってしま、辺りに炎が広がっていく記憶を思い出す。

 

『パパ!!ママ!!離して、ソーニャ!!』

 

『ダメよ、危ないわ!!』

 

『ソーニャのせいだ!!』

 

またも思い出す惨劇にクリスは思いつめた顔をする。日和はまたそれに気がつき、今度は翼も見逃さなかった。

 

「昔のことか?」

 

「!ああ!昔の事だ!だから気にすんな!」

 

「気にするよ!だってクリスは私の大事な友達だもん!!」

 

「うぇあ!!?」

 

クリスは普段通りに振る舞おうとした時、日和がクリスの両手を掴んでそう言い放った。突然両手を掴まれたクリスは顔を赤らめる。

 

「東雲、そういうことは家でやれ。それから雪音、詮索はしないが、今は前だけを見ろ。でないと・・・」

 

翼は忠告するが、それは不意に照らされた光で遮られる。この光の正体は装甲車の照明灯である。装甲車に乗る兵士はボートに狙いを定め、機銃を撃ち放つ。

 

「状況、開始!」

 

緒川はボードを操作して機銃の弾を回避する。

 

「1番槍、突貫します!」

 

ボートから飛び立った響は制服からシンフォギアを纏うための赤い結晶のネックレスを取り出し、詠唱を唄う。

 

Balwisyall Nescell Gungnir tron……

 

詠唱を唄い終えた時、ギアネックレスが唄に反応し、響の身に纏っていた制服が分解し、インナースーツの鎧、シンフォギアを身に纏った。シンフォギアを纏った響はブースターを使い、装甲車に突進して拳で殴って装甲車を吹き飛ばす。その際の音によって施設の照明が点灯し、地面の装置が起動して、アルカ・ノイズの結晶が放たれてアルカ・ノイズが召喚される。

 

響に続いて、日和、翼、クリスもギアをに見纏い、3人はアルカ・ノイズの群れに向かっていく。翼は刀で切り刻み、日和は棍による打撃技を放ち、クリスはガトリングを撃ち放ち、アルカ・ノイズを蹴散らしていく。この場が戦場になり、そこにいた多くの民間人が慌てて逃げ出していく。

響は3人に負けじと拳と蹴りを放ってアルカ・ノイズを倒していく。だが相手にするのはアルカ・ノイズだけではない。それを操る兵士たちもだ。一部隊は装者たちはに向けてマシンガンを撃ち放つ。翼は臆さずに兵士に突っ込み、刀で兵士のマシンガンを切り裂く。クリスはアームドギアを弓に変形し、狙いをバナナ型のアルカ・ノイズに狙いを定め、矢を放って射抜いていく。

 

戦闘の衝撃によって施設の柱が崩れていき、逃げ遅れた少年が押しつぶされそうになった時、響が少年を抱え、間一髪で救出した。

 

~♪~

 

施設にいる小太りした司令官がモニターで自分の軍が劣勢を強いられていることを確認した。

 

「我が軍が押されるのか!!?こうなったら諸共に吹き飛ばしてくれる!!」

 

追い詰められた司令官は手元にあった金色のスイッチを押した。

 

~♪~

 

スイッチと連動するように施設に錬金陣が現れ、そこから巨大なアルカ・ノイズが召喚される。

兵士たちは驚いているが、その間にも巨大アルカ・ノイズは両手からヘドロの液体を出し、そこから小型のアルカ・ノイズが複数召喚される。

 

「デカブツまで出すなんて!!」

 

「みんな頑張れは作戦じゃない!!」

 

小型のアルカ・ノイズは何と味方である兵士も攻撃を仕掛けてきて、兵士を分解していく。兵士まで分解するとあっては翼も黙っておらず、アルカ・ノイズを斬り裂いて、政府軍を守った。

 

「手当たり次第に・・・!」

 

「誰でもいいのかよ!!?」

 

クリスは弓の狙いを巨大アルカ・ノイズに定め、矢を放った。矢は巨大アルカ・ノイズに命中した。その瞬間、矢が巨大アルカ・ノイズの体内から赤い針となって出現し、巨大アルカ・ノイズを拘束する。

 

【ARTHEMIS CAPTURE】

 

翼は両手に刀を両手に持ち、刃に青い炎を纏わせ、拘束された巨大アルカ・ノイズに接近する。そして、翼は刀を振るって巨大アルカ・ノイズを細切れにする。

 

【炎鳥極翔斬】

 

アルカ・ノイズが全滅したと思われた矢先、兵士の1人は上空を見上げて何かがこちらに向かってきているのに気がついた。

 

「おい!あれ!」

 

兵士が気がついたのは、コマ型の巨大アルカ・ノイズが回転しながらこちらに降りてきている。

 

「プラントに突っ込まれたら、辺り一面汚染されちまうぞ!!」

 

「何とかしないと!!」

 

「響ちゃん!私に任せて!」

 

響はバンカーユニットを伸ばし、立ちふさがってくる小型アルカ・ノイズを目にも止まらぬ速さで拳で打撃を与えて消滅させていく。日和は巨大アルカ・ノイズを見上げ、左手首のユニットより棍を取り出し、2つの棍を構える。巨大アルカ・ノイズは変形して、効果の速度を速めた。日和はブースターを起動して、向かってくるアルカ・ノイズに向かって突進し、エネルギーを纏った棍を振るって十字のエネルギー波を放った。

 

【破邪顕正】

 

日和が放った十字のエネルギー波は巨大アルカ・ノイズを貫いた。貫かれたアルカ・ノイズは爆発し、プリマ・マテリアが霧散する。

 

~♪~

 

一方その頃、バルベルデにあるオペラハウス。明かりがついていないこの場所で、軍事政権のトップが集まり、今後の対策について話していた。

 

「閣下、念のため、エスカロン空港にダミーの特別機を手配しておきました」

 

「無用だ。亡命将校の遺産『ディー・シュピネの結界』が張られている以上、この地こそが一番安全なのだ」

 

ディー・シュピネの結界・・・それは人や無機物・・・ありとあらゆる万物を存在させないように認知させるための結界である。ゆえに誰にも見つけられるはずがない・・・そのはずだった。

 

「つまり、本当に守るべきものはここに隠されている」

 

突如として、このオペラハウスに女性の声が聞こえてきた。

 

「何者だ!!?」

 

軍事トップの1人が声が聞こえてきたガラス張りの窓を見上げる。そこには3人の人影が見えた。

 

「主だった軍事施設を探っても見つけられなかったけど・・・」

 

最初に口を開いたのは3人のリーダー格である男性貴族の服を着込み、白衣を着た銀髪の男装麗人だ。

 

「S.O.N.Gを誘導して、秘密の花園を暴く作戦は上手くいったワケダ」

 

次に口を開いたのは3人の中で1番小さく、奇妙なカエルのぬいぐるみを抱き、メガネをかけた黒髪の少女だ。

 

「うふふ、慌てふためいて、自分たちで案内してくれるなんて、可愛い大統領♡」

 

その次に口を開いたのは肩と脚を大胆に露出させた、軽装を纏うグラマラスボディを持った水色髪の女性だ。

 

「サンジェルマン!プレラーティ!カリオストロ!」

 

大統領の男は女性たちの名を口にした。男装麗人がサンジェルマン、メガネの少女がプレラーティ、グラマラスボディの女性がカリオストロ。

 

「せっかくだから、最後にもう一仕事してもらうワケダね」

 

プレラーティがそう言うと、3人は歌い始める。突然歌いだす3人に側近は戸惑っており、大統領の男に尋ねる。

 

「あの者たちは・・・?」

 

「パヴァリア光明結社が遣わせた錬金術師」

 

「あれが異端技術の提供者たち・・・!」

 

そう、彼女たちこそが、バルベルデの政権を裏で支援していた組織、パヴァリア光明結社に所属する錬金術師だ。

 

「だがもう1人錬金術師がいたはずだが・・・」

 

大統領は当時いたと思われるもう1人の錬金術師を思い出そうとしたが、それは今はどうでもいいと思い、スーツについていたバッジを見せて口を開く。

 

「同盟の証がある者には、手を貸す約定となっている!国連軍がすぐそこにまで迫っているのだ!!奴らを撃退してくれぇ!!」

 

大統領は要望を叫んで伝えるが、返ってくるのはカリオストロの投げキッスだけだった。大統領は困惑して顔を引きつっている。その間にも3人は歌い終える。すると、男たちの身に着けていた同盟のバッジが輝き始めた。すると・・・

 

「う・・・うあああああああああ!!!」

 

側近の男の身体も突然輝きだし、身体中を搔きむしって光の粒子となって消滅した。彼だけではない。バッジを身に着けた男たち全員輝きだし、身体中を掻きむしって粒子となって消滅した。粒子は天井付近の一か所に集まり、渦を巻いている。そして、大統領も輝きだし、彼らと同じように身体中を掻きむしる。

 

「痒い!!痒い!!でも・・・ちょっと気持ちいいぃ・・・」

 

大統領は最後にその言葉を残して粒子となって消滅した。粒子はサンジェルマンの掲げた右手に集まり、白く輝く球体となった。

 

「7万3千7百88・・・」

 

サンジェルマンは何かの数字を呟いた。おそらく、先ほどの最期を迎えた人間たちの数だろう。この様子を、隠れていたS.O.N.Gのオペレーターたちと黒服の男たちが見ていた。

 

(調査部からの報告通り、このオペラハウスを中心に、衛星からの補足不可能だ・・・。この結界のようなものは、指向性の信号波形を妨害しているのか・・・?プラント制圧を陽動に乗り込んでみたら、とんだ拠点のようだ・・・)

 

男性オペレーター、藤尭朔也はこのオペラハウスに張られているディー・シュピネの結界の推測を立てる。その間にもサンジェルマンたちは地下に続く階段を見つけ、下へと降りていく。その後をサンジェルマンたちに気付かれないように、女性オペレーター、友里あおいが黒服を引き連れて追いかける。

 

「ちょ・・・ちょっと・・・!」

 

藤尭は先に行ってしまった友里たちの後を追っていく。

 

~♪~

 

プラント施設を制圧した装者たちは司令官がいると思われる部屋までやってきたが、既に司令官はこの場を去ったようだ。

 

「如何やら指揮官には逐電されてしまったようだな・・・」

 

翼がそう呟くと、響と日和、クリスの3人が響が助けた少年を連れてきた。

 

「翼さん!この子が!」

 

「俺、見たんだ!工場長が車で逃げていくのを!もしかしたら、この先の村に身を潜めたのかも!」

 

「君は・・・?」

 

「俺はステファン!俺たちは無理やり、村からこのプラントに連れてこられたんだ!」

 

政府軍のやり方はここに来る前にフォルテから嫌というほど聞かされた。この少年、ステファンの言うことが本当ならば、政府軍は村の人間を人質にとるかもしれない。

 

「七面倒なことになる前に、とっ捕まえなきゃな!」

 

「うん。放っておくことはできないもんね」

 

クリスが掌に拳を打ち付け、彼女の言葉に日和は首を縦に頷いた。4人はステファンの案内の下、村へと向かっていくのであった。

 

~♪~

 

オペラハウスの地下。地下にはオペラハウスにふさわしくない異端技術の品が数多く置かれていた。サンジェルマンたちの目的はただ1つ、地下の奥にある布に覆われたものだ。サンジェルマンが布を取り払うと、そこにはオレンジ色の水晶の中に眠っているヘッドギアを付けた子供の人形があった。

サンジェルマンたちの様子を友里たちが隠れて特殊双眼鏡越しで観察する。だが・・・

 

ビーッ!!ビーッ!!

 

「なっ!!」

 

藤尭の持っていたタブレットからアラームが鳴り、それが地下中に鳴り響いた。それは当然、サンジェルマンたちにも聞こえ、尾行していたことがバレてしまう。

 

「撤収準備!!」

 

友里の号令と共に、黒服の男たちはサンジェルマンたちに拳銃を撃ち放ちながら撤収準備に入る。サンジェルマンは錬金術のバリアを張って弾を防ぐ。だが重要なのは撤退すること。迅速な対応のおかげで素早く撤収を完了させた。

 

「会ってすぐとはせっかちねぇ・・・え?」

 

カリオストロが錬金術を放とうとすると、サンジェルマンが止めた。彼女は近くに置いてあった置物に顔を向ける。

 

「実験にはちょうどいい・・・。ついでに、大統領閣下の願いも叶えましょう・・・」

 

サンジェルマンは右手に光の球体を出現させる。

 

「生贄より抽出されたエネルギーに、荒魂の概念を付与させる」

 

白い球体から小さな竜の思念のようなものが現れ、置物の中に入っていく。すると、置物は輝きだした。

 

~♪~

 

S.O.N.Gの調査隊は車に乗って本部に撤退していく。すると、オペラハウスから光が放たれ、そこから巨大な竜がオペラハウスの天井を突き破って現れた。

 

「なんなのあれ!!?」

 

「本部!!応答してください!!本部!!」

 

白い竜はS.O.N.Gの車を追いかけ、そのうちの一台を口に含めて破壊した。

 

『友里さん!藤尭さん!』

 

藤尭の叫びにエルフナインの通信機器に通じた。

 

『装者は作戦行動中だ!死んでも振り切れ!』

 

「死んだら振り切れません!!」

 

藤尭が泣き言を言っている間にも白い竜はもう1台の車を破壊していく。残るは友里と藤尭が乗る車だけだ。白い竜は狙いを車の前方に定めて襲い掛かろうとしている。

 

「うわああああああ!!!軌道計算!!暗算でぇ!!!」

 

藤尭がサイドブレーキを引き、車の速度を落とすことによって車は竜の一撃をぎりぎりで回避した。

 

「やり過ごせた・・・うわぁ!!!」

 

だが躱された竜は地面の中を潜り、地面下より車両を突き上げた。これによって車はさかさまにひっくり返ってしまう。この様子を様子を岸壁の上からサンジェルマンたちが眺めていた。

 

「あなたたちで7万3千7百94・・・その命、世界革命の礎と使わせていただきます」

 

「革命・・・?」

 

革命とは何か疑問が残るが、どのみち絶体絶命の状況下である。ここまでかと思われた時・・・

 

Ragnarok Dear Mistilteinn tron……

 

「っ」

 

「歌・・・?」

 

「どこから・・・?」

 

フォルテの詠唱が聞こえてきた。一台の車がこちらに向かってきて、そのまま竜に突っ込んで爆発した。友里と藤尭の窮地を救ったのは、シンフォギアを身に纏ったフォルテ、マリア、切歌、調の4人だった。

 

~♪~

 

太平洋を渡る豪華客船。この豪華客船はバルベルデに向かっている。そんな豪華客船のカジノフロア。ここには多くの貴族が賭博を楽しんでいる。その中の1つテーブル。そこには3人の貴族が1人女性とポーカーというギャンブルを勤しんでいた。女性の姿はこの場には似つかわしくない格好だ。着ているものは高級ではあるがこの場に似つかわしくない花柄の黒い着物、髪は金髪で長い髪を両サイドに結んでいる。そして、異質であると決定づけるのが、彼女の顔を覆う狐のお面だ。

 

「大口叩いた割には大したことないな」

 

「ゲームもこれで最後・・・お前のチップも最下位。これまでだ」

 

「お前のその面の下を泣きっ面で歪めてやる」

 

貴族の男3人は憎たらしい笑みを浮かべてにやにやしている。だが女性はお面をつけてるため表情はわからないが、まったく慌てた様子はない。

 

「・・・運とは天からの贈り物じゃ」

 

女性の放った言葉に貴族の男は顔をしかめている。

 

「強運を授けられる者は一握り・・・恵まれなかった者はありのままを受け入れるか、無理にでも高みに昇ろうとする。だいたいは後者にあたるのう」

 

「何を・・・?」

 

「じゃが、いくら努力したところで・・・天からの定めは避けられぬ」

 

女性は出来上がった役をテーブルに叩きつける。

 

「ロイヤルストレートフラッシュ」

 

「「「なっ!!??」」」

 

最大級役、ロイヤルストレートフラッシュを出されたことで、男たちは驚愕する。それもそのはずだ。このポーカー、相手にバレないように貴族のリーダー格が勝てるように3人がかりでイカサマが仕組まれていたのだ。それが何の小細工もなしに女性が最終局面でロイヤルストレートフラッシュを出したのだから。もっとも、女性は相手がイカサマをしていたことなど、最初からお見通しだったが。

 

「これでチップは汝らを上回り、妾の勝ちじゃ。ハンデをくれてやったのにこの程度か?」

 

女性は堂々と自身の勝利を通達する。勝気な態度をとる女性に我慢の限界が来たのか貴族のリーダー格はテーブルを蹴り上げてひっくり返す。この騒動に周りがざわつき始めた。

 

「こんな結果認められるか!!!てめぇ!!なんかイカサマしやがったな!!そうじゃなきゃ、俺が負けるなんてありえねぇ!!!」

 

貴族は女性にイカサマを疑い始め、言いがかりをつけてきた。周りはどの口が言うかと言わんばかりに貴族に冷たい視線を送っている。その瞬間、女性の身に纏う雰囲気が変わった。そして・・・

 

ザシュッ!!

 

「・・・あ・・・?」

 

女性を掴んでいた貴族の右手が突然腕ごと斬り飛ばされた。

 

「「「う・・・うわああああああああ!!??」」」

 

『いやああああああああ!!?』

 

突然腕がなくなったことに貴族たちはもちろん、周りも騒ぎ始めた。女性は腕を組んだまま貴族3人に視線を向ける。

 

「汝らの行為は・・・神聖なる勝負を汚す行為そのものであるぞ」

 

女性から溢れ出ている雰囲気に貴族たちは恐怖で顔を歪めている。

 

「神聖なる勝負を汚した罪・・・その代価を・・・たっぷり支払ってもらうぞ」

 

女性は椅子から立ち上がって、貴族の3人に近づいた。

 

~♪~

 

カジノフロアはその後、無惨なものとなっていた。辺り一面は血で穢れており、貴族の3人はまるでゾンビのような死体に成り果てている。その光景を間近に見た人間は恐怖で悲鳴を上げたり、取り乱したり、その場を動けない者もいた。それを生み出した張本人であるお面の和服の女性は豪華客船のテラスにやってきて太平洋を見つめる。

 

「・・・妾にとって、賭博とは人生の分岐点そのもの・・・勝者は繁栄をもたらし、敗者は絶望の淵に落ちてゆく。互いに譲れぬ命運のぶつけ合いほど、胸躍るものはない。じゃが、それを反故する者も少なからず存在する。その者が代価を支払うのは当然の理よ」

 

女性は賭博に対し、相応の価値観があるようで、3人の貴族はその価値観のタブーに触れた。だからこそ女性はその3人の存在を亡き者にした。まるで3人の命で汚された聖域を浄化するかのように。女性の手には白い球体があり、それを札に変えて懐にしまった。

 

「今宵も妾を楽しませるほどの逸材は現れなかったか・・・」

 

女性は顔を覆っていた狐のお面を外し、素顔を露にした。瞳の色は赤く、瞼には赤のペイントが塗られている。顔は誰もが魅了させるほどの美しい美貌を持っていた。

 

「つまらぬのう・・・どこかに、妾を頼ませてくれるわっぱはおらぬものか・・・」

 

彼女の名はエドワード。賭博を愛し、賭博勝負を汚すことを何よりも嫌う、パヴァリア光明結社の錬金術師の1人である。




フォルテ・トワイライト

外見:赤いストレートロングへア
   瞳は緑と紫色のオッドアイ

年齢:24歳

誕生日:6月28日

シンフォギア:怨樹・ミスティルテイン

趣味:食べ歩き

好きなもの:ジャパニーズフード

スリーサイズ:B:77、W53、H85

イメージCV:BanG Dream!:美竹蘭
(その他の作品:やはり俺の青春ラブコメはまちがっている。:一色いろは
        五等分の花嫁:中野四葉
        原神:八重神子
        その他多数)

本作品のもう1人の主人公。S.O.N.Gのエージェントにして、シンフォギア装者。ミスティルテインの適合者。
これまでに犠牲になった者たちの想いを背負う自信を身に着けたことにより、より一層感情表現が豊かになった。最近ではマリアをからかう様子が増えてきたが、本人にはその自覚はない。
十数年ぶりに帰還したバルベルデの現状を見て、自国の政府軍により一層の嘆きを感じている。任務を終えたら、自国をより良い国にするために陰ながら支援するために物資を送ってもよいか相談しようかと考えている。

AXZ編楽曲

『インフェルノ・ダウン』

故郷で味わった地獄の光景。同じ悲劇を繰り返させないために、剣を振るう女の揺るぎなき信念が籠った楽曲。


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残酷な選択

本日は翼さんの誕生日!翼さん、誕生日おめでとうございます!

・・・しっかし、せっかくの翼さんの誕生日なのに、投降する話がこれとは・・・


これは昔の記録。バルベルデに到着した船から乗客していた人々が降りていく。兵士たちは船に積んであった高価な額縁や金などの積み荷を降ろしていく。そんな中で政府のトップの人間は部下の兵士たちを引き連れ、1人の敗残兵と顔を合わせ、敬礼する。

 

「ようこそ、バルベルデへ」

 

「敗残の身を受け入れてくれたこと、感謝に絶えない」

 

相手の敬礼に対し、敗残兵も敬礼で返す。兵士の1人は降ろされた積み荷の1つをこじ開ける。

 

「ほう・・・これが聖遺物・・・争闘の偉功にして世界史とゲルマニア抗争の要・・・」

 

積み荷の中に入っていたのは、オレンジ色の水晶の中に眠っているヘッドギアを付けた子供の人形だった。

 

「聖遺物の力は、未来を解脈する第4のエネルギーともいえるだろう」

 

これがパヴァリアの錬金術師が欲していた存在が政府軍に渡った瞬間である。そしてこれが今、現代において姿を現そうとしていた。

 

~♪~

 

一方その頃、翼、日和、響、クリスの4人はステファンが運転する荷台者に乗って、プラントの司令官が向かった村に移動している。

 

「化学兵器プラントは緒川さんにお任せして、こちらは逃亡した管理者を追跡中」

 

本部に現状を報告している翼。そこで、フォルテたちが錬金術師と対峙しているという報告を聞いた。

 

「え・・・?マリアたちが?」

 

「「「!」」」

 

4人はその報告に反応を示した。

 

『藤尭と友里の救助に際し、錬金術師とエンゲージ。緊急の事態に、最後のLiNKERを使っている』

 

「ですが、その効果時間は、本人に合わせて調整されていない以上、あまり長く持たないはず!」

 

翼の言うとおり、4人が持っているLiNKERは元々は今は亡き装者、天羽奏と北御門玲奈に合わせて作られたもので、効果時間は本来の時間より短くなっているのだ。

 

「急いで戻らなきゃ!」

 

響は戻ることを提案するが、クリスがそれを止める。

 

「バカ!こっちも任務のど真ん中!仲間を信じるんだ!」

 

「そうだよ!それに、フォルテさんがついてる!フォルテさんは私たちの中で、1番強いんだから!」

 

マリアたちが心配ではあるものの、彼女たちを信じ、今は任務に集中するために気を引き絞める4人であった。

 

~♪~

 

S.O.N.Gの本部に残っているメンバーにできることは、ブリッジで装者たちに指示を出し、見守ることだけ。そんな中で、LiNKERのレシピの解析を担当しているエルフナインはこの現状に悲しそうな顔をしている。

 

「ウェル博士のチップに記録されたLiNKER製造のレシピ・・・その解析はボクの役目なのに・・・いつまでもグズグズしてたから・・・」

 

自責の念を抱いているエルフナインに弦十郎は彼女の頭を優しく撫でる。

 

「わっ⁉な、何を・・・?」

 

「仲間を信じるのは、俺たちも同じだ」

 

「仲間を・・・信じる・・・」

 

弦十郎の言葉に、エルフナインはモニターに映っているフォルテたちの戦いを見守る。

 

~♪~

 

友里と藤尭を窮地から救ったフォルテ、マリア、調、切歌の4人はアームドギアを構え、自分たちを見下ろしているパヴァリアの錬金術師の3人を見上げる。

 

「2人とも大丈夫⁉」

 

「ええ!」

 

「後は私たちに・・・」

 

「任せるデス!」

 

こちらに敵対するフォルテたちを見ている錬金術師のリーダー格であるサンジェルマンが口を開いた。

 

「出てきたな、シンフォギア」

 

「ようやく会うことができたな、パヴァリア光明結社。貴様らはいったい何を企んでいる?」

 

「革命よ。紡ぐべき人の歴史の奪還こそが、積年の本懐!」

 

フォルテの問いかけにサンジェルマンが答える。その直後、白き竜、ヨナルデパストーリがフォルテたちに襲い掛かってきた。フォルテとマリアは正面から迎え撃ち、マリアは縦横無尽に、フォルテは横一閃にヨナルデパストーリの身体を切り刻む。だが、ヨナルデパストーリにダメージが入った様子はなく、そのまま切歌たちに襲い掛かろうとしている。

 

「なっ⁉」

 

「攻撃が利いてないデス!」

 

襲い掛かるヨナルデパストーリに調は友里を抱え、切歌は藤尭を背負って攻撃を躱した。

 

「やぁだぁ、ちょこまかとぉ!」

 

「だったらこれで動きを封じるワケダ」

 

カリオストロが親指をかんで苦々しくしているところ、プレラーティが表情を変えずにアルカ・ノイズの結晶をばら撒き、アルカ・ノイズを召喚する。装者4人はアルカ・ノイズに囲まれたが、これで動揺などしない。マリアは短剣で、フォルテは大剣で、調は鋸で、切歌は鎌で次々とアルカ・ノイズを斬り裂いていく。だが、最後のLiNKERを使った以上、後は時間との勝負だ。LiNKERの効果時間が切れてしまえば、成す術を失ってしまい、ヨナルデパストーリの餌食になってしまうのだから。

 

『この身体はキャロルがくれたもの・・・いつだってボクは無力で足手纏いだ・・・!』

 

戦いの様子を本部のモニターで見ているエルフナインは見守ることしかできない状況下に悔しさを抱いている。

 

フォルテがアルカ・ノイズの対処をしていると、彼女の足元に大きなヒビが入り、地面からヨナルデパストーリがアルカ・ノイズを巻き込んで出現する。フォルテは出現するギリギリのタイミングで跳躍して躱している。

 

「フォルテ!」

 

調は2つのヨーヨー型鋸を1つに合わせ、刃を展開させてヨナルデパストーリに放つ。切歌は展開した2つの刃をブーメランのように放った。フォルテはヨナルデパストーリの口が閉じたところを狙い、歯を踏み台にして跳躍し、大剣を振り下ろして斬撃を頭に放ちながら降りていく。その直後に調の攻撃と切歌の攻撃が直撃した。

 

「決まった!」

 

「などと思っているワケダ」

 

だがヨナルデパストーリは3人の強力な攻撃をくらっても、まったくダメージを負っていない。

 

「利いてない!!?」

 

「ノイズと同じ、位相差何とかデスか⁉」

 

「位相差障壁だ。そうだとしら、シンフォギアの攻撃で調律できていないのはおかしいことだ」

 

元来のノイズには位相差障壁というものが存在し、これによって通常兵器が利かなくなる。だがこれはシンフォギアの歌による調律によって無力化される。切歌はそれを彷彿とさせるが、それではヨナルデパストーリに攻撃が通らない説明がつかない。

 

「ダメージを減衰させているのなら、それを上回る一撃で!!」

 

マリアは左腕の籠手から複数の短剣を取り出し、それらを自身の周りに円状で囲み、高速回転を開始させる。マリアはこれによって発生した竜巻を纏い、ヨナルデパストーリに突撃する。

 

【TORNADO✝IMPACT】

 

マリアの一撃はヨナルデパストーリの口に大きなダメージを与えさせることに成功した。しかしその直後だった。ヨナルデパストーリは突然輝きだし、何とダメージが再生した・・・いや、まるで攻撃など受けていなかったかのような状態になった。

 

「再生⁉」

 

「いや、違う・・・これは・・・」

 

「なかったことになるダメージ」

 

「実験は成功したワケダ」

 

「不可逆であるはずの摂理を覆す埒外の現象。ついに錬金術は人知の到達点・・・神の力を完成させたわ」

 

この不死身ともいえるヨナルデパストーリの能力。これがある限り、ヨナルデパストーリは倒すことはできない。

 

「36剣が通じない相手には・・・!フォルテ!」

 

「わかっている!」

 

標的を3人の錬金術師に変え、マリアは複数の短剣を放ち、フォルテは大剣を銃に変形し、エネルギー弾を連射する。カリオストロはその攻撃を錬金術の障壁を張って防ぐ。

 

「この隙に!」

 

「ええ!」

 

その隙に友里たちは本部からの逃走経路に沿って走っていく。フォルテはマリアに先に先行させ、錬金術に遠距離攻撃を続けながら逃走経路を進んでいく。

 

「逃がさないんだから♡」

 

攻撃は全て障壁によって防がれてしまうが、フォルテは構わずエネルギー弾を撃ち続ける。そして・・・

 

シュッ!

 

「あ・・・!いった~い!顔に傷~!やだもぉ~!」

 

エネルギー弾の1発は障壁の守りを突破し、カリオストロの頬に掠った。その間にも逃走経路を走っていくが、先に進んだ先には崖があり、これ以上先に進めない。

 

『こちらが割り出した逃走経路は以上だ!やれるな!』

 

どうやら逃走経路はこの崖を飛び降りるところまで割り出されているようだ。

 

「やってみせます!」

 

「無茶だって!いったい何メートルまであるんだぁ!!?」

 

崖の高さは非常に高く、普通の人間がこのまま落ちれば無事では済まさないだろう。だが泣き言を言っている間にもヨナルデパストーリはしつこく追いかけてくる。

 

「蛇のようにしつこい!」

 

「実際とてつもない蛇野郎デス!」

 

向かってくるヨナルデパストーリに対し、マリアとフォルテがアームドギアを構える。

 

『タイミング、来ました!!』

 

『うむ!飛べぇ!!!』

 

弦十郎のタイミングに合わせ、調は友里を抱え、切歌は藤尭を背負って崖から飛び降りた。

 

「ああああああああ!!」

 

「うわあああああああああ!!!」

 

友里と藤尭の悲鳴が聞こえる中、ヨナルデパストーリがマリアに突っ込んできた。対するマリアは短剣を振るい、迎え撃とうとするが・・・

 

「ああ!!」

 

「マリア!!」

 

ヨナルデパストーリの突進の強さが勝り、マリアは吹っ飛ばされる。フォルテは跳躍し、吹っ飛ばされたマリアを抱え、そのまま崖の下に落ちていく。全員が落ちていると、真下から真下から貨物列車が走ってきた。

 

「来た!!」

 

調と切歌はタイミング通りに来た貨物列車の上に乗り移った。同時に、フォルテも貨物列車の上に乗り移り、マリアを下ろす。

 

「ありがとう、フォルテ」

 

「構わない。それよりもだ・・・」

 

貨物列車に乗り移ったのはいいが、肝心のヨナルデパストーリはまだ追いかけてきている。このままでは列車ごとやられてしまうだろう。

 

「粘っこいデス!」

 

ヨナルデパストーリは貨物列車に向けてそのまま突進しようとしたその時だ。ヨナルデパストーリは突然輝きだし、光の粒子となって消えた。

 

「消えた・・・?」

 

「考えるのは後だ。この隙に撤退するぞ」

 

なぜ消えたのかわからないが、今はとにかく、フォルテの言うとおり撤退を最優先とした。

 

そして、光の粒子となったヨナルデパストーリはサンジェルマンの手元に戻ってくる。あのまま追撃することは容易い。だが優先するべきは結晶の中に入っている人形の方だ。だからサンジェルマンはマリアたちを見逃し、ヨナルデパストーリを消したのだ。

 

「なぁに~?ヨナルデパストーリをけしかけちゃわないのぉ?」

 

「神の力の完成は確認できた。まずはそれで十分よ」

 

「追跡は無用というワケダ」

 

「それよりも、ティキを回収して、エドワードとの合流を急ぎましょう」

 

サンジェルマンたちはオペラハウスの地下に置いてきたままの人形を回収するために、オペラハウスへと戻るのであった。

 

~♪~

 

一方その頃、翼たち4人はステファンの案内の下、指揮官が逃げたと思われる村に向かっていく。

 

「この先が俺の村です!軍人達が逃げ込むとしたらきっと・・・」

 

5人が曲がり角を曲がったその先の光景を見て、驚愕する。その光景とは、指揮官の男が村人の少女を人質をとるかのように盾にしており、右手にはアルカ・ノイズを操作する黄金のスイッチがある。そして、辺りには村民たちがアルカ・ノイズに囲まれている。

 

「アルカ・ノイズ・・・!」

 

「くっ・・・!」

 

「わかってるだろうなぁ?おかしな真似をしたらこいつら全員、アルカ・ノイズで分解してやる!」

 

「あんにゃろう・・・!」

 

「この・・・卑怯者!!!」

 

自分たちが下手に行動すれば指揮官が先に動き、アルカ・ノイズで村人たちが皆殺しにされてしまうだろう。指揮官の卑劣なやり方にクリスと日和は嫌悪感を出している。

 

「要求は簡単だ。俺を見逃せ!さもないと出なくてもいい犠牲者が出るぞ!」

 

「卑劣な・・・!」

 

このままでは指揮官を見逃してしまう。それは何としてでも阻止したいところだが、人質をとられている以上、動くことができない。

 

「お前らも、余計な手出しは・・・」

 

ボンッ!

 

「がぁっ!!?」

 

指揮官の要求を呑む以外方法はないと思われた時、突然指揮官の後頭部にサッカーボールが直撃する。このサッカーボールを飛ばしたのはステファンだった。指揮官は装者ばかりに注目をしていた。そのおかげでステファンへの注意が疎かになり、こうして彼が裏手に回って指揮官の背後をとることができたというわけだ。ボールが直撃したことで、その拍子で少女を手放すことができた。

 

「ステファン!!」

 

「・・・っ!」

 

ステファンを呼ぶ女性の声にクリスは一瞬だけ驚きの表情を見せた。

 

「行くよ!」

 

指揮官が頭を抱えている間にも、ステファンは少女を救出した。

 

「続くぞ、立花、東雲!」

 

「「はい!」」

 

好機が生まれ、3人はノイズ殲滅のために動き出した。

 

clear skies nyoikinkobou tron……

 

装者たちはギアの詠唱を唄い、シンフォギアを身に纏った。翼は刀で切り裂き、響は拳と蹴りを放ち、クリスはボウガンで矢を放ち、日和は棍で薙ぎ払いながらアルカ・ノイズを次々と倒していく。

 

「くそ・・・!あのガキぃ・・・!!」

 

指揮官は優勢が逆転されたきっかけを作ったステファンを睨みつけ、アルカ・ノイズの結晶を取り出した。結晶のジャラッとしたわずかな音を聞き取った日和はすぐに指揮官の元に駆け、彼の頭を地面に押さえつけ、結晶を持っていた右手を掴んで取り押さえる。

 

「ぬおっ!!?」

 

「大人しくしろ卑怯者!!」

 

日和が指揮官を押さえつけたことで、アルカ・ノイズを増やすことを阻止できた。だが詰めが甘かった。

 

「おのれぇ・・・!ならばせめて・・・!」

 

まだ自由が利いた左手に持っていた黄金のスイッチを押した。

 

「きゃああああ!!」

 

「!しまった!!」

 

それによって、死角よりアルカ・ノイズが現れ、ステファンたちの行く手を遮った。翼や響は他のアルカ・ノイズの相手をしていたために、気づくのが遅かった。

 

「君は逃げて!!」

 

ステファンは少女に向けてそう言い放った時だった。アルカ・ノイズが解剖器官を伸ばし、それがステファンの右足に巻き付いてしまった。

 

「ステファン!!!」

 

「うわああああっ!!」

 

今ここでアルカ・ノイズを倒しても、解剖器官が巻き付いてしまったが最後、そこを通してステファンの身体は分解されてしまうだろう。今ここで彼の命を助ける方法は1つしかない。だがそれは最も残虐な方法である。そして今、それを可能にできるのが、遠距離攻撃ができるクリスだけだ。非情な選択を迫られたクリスは・・・

 

「クソッタレがああああああ!!!」

 

構えていたボウガンの矢を放った。

 

うわあああああああああああああ!!!!!

 

バルベルデの夜に、ステファンの悲痛な悲鳴が響きわたった。

 

~♪~

 

アルカ・ノイズを全滅し、指揮官の拘束も完了した。これで装者たちの任務は完了だ。だが、いいことばかりでもなかった。翼は今回の任務の詳細を報告している。

 

「プラントの管理者を確保。ですが・・・民間人に負傷者を出してしまいました・・・」

 

そう、その負傷者というのが他でもない・・・ステファンのことだ。クリスが放った矢が射抜いたのは、ステファンの右足だ。全身が分解される前にクリスがまだ浸食されていない右足をボウガンの矢で引きちぎった。これによってステファンは分解されずに済んだが、その代償として、右足を失ってしまったのだ。

 

「ステファン!!ステファン!!」

 

彼のそばには1人の女性がおり、彼の名を叫び続けている。そんな中で日和は吐き気を堪えながらも、ステファンの失った右足の応急手当てをしている。いくら医者の娘として応急手当のやり方は知っているとしても、切断された部分を処置するのは当然これが初めてだ。さらに言えば医療物資もかなり少ない。ゆえにかなり苦戦している。それでも日和は用意されていた物資、民家にあった少ない医療具と清潔なロープを使って強引にでも止血することには成功した。

 

「後は病院とか施設とかで適切な治療すれば大丈夫です。でも・・・失った足は・・・やっぱり・・・」

 

「そんなぁ・・・」

 

「どうしてこんな・・・」

 

「ソーニャ・・・」

 

ステファンの足を撃った本人であるクリスが女性、ソーニャに声をかけた。クリス自身も、彼の右足を好きで撃ったわけはない。助けるためとはいえ、彼女は申し訳ない気持ちでいっぱいだった。

 

「・・・クリス・・・!あなたが弟を・・・ステファンの足を!!」

 

ソーニャはこの事態を招いたクリスに怒りの感情をぶつけた。大切な弟が無事だったとはいえ、右足を失い、大量の血を流して苦しんでいるのだ。無理もない話だ。

 

「ちょ、ちょっと待ってください!!クリスは何も悪くないです!!それを言ってしまったら私が悪いし・・・えっと・・・あの・・・その・・・」

 

日和は必死に弁明しようとしているが、かける言葉が思いつかず、しどろもどろになっている。

 

「いいんだ相棒・・・」

 

「よくない!!全然よくない!!」

 

「いいんだ!!!」

 

クリスは日和の主張を声を荒げてでも遮った。

 

「ああ・・・撃ったのは・・・このあたしだ・・・」

 

「クリス!!」

 

どう言い訳しようと、クリスが撃った事実は変わらない。それを理解しているがゆえに、クリスは全ての罪を自分1人で背負おうとしている。その様子に日和は納得がいかない表情をしている。




翼の誕生日

誕生日前日

翼「フォルテか?そちらから電話してくるのは珍しいな。どうしたんだ?」

フォルテ『風鳴、今日は君に1つ仕事を持ってきたのだが・・・受けるかどうかは君が決めてくれ』

翼「仕事?まさか・・・お前までバラエティとか言わないだろうな・・・?」

フォルテ『残念ながら違う。マリアとのコラボライブだ。前回のチャリティライブと似たようなものだと考えてくれればいい』

翼「な、なんだ・・・それならば喜んで引き受けよう」

フォルテ『わかった。ではマリアにはそう伝えておく』

そしてライブ当日

マリア「ハロー。今日はよろしくね」

翼「ああ。またマリアと共に歌えて、嬉しく思う」

フォルテ「マリア、何度も言うが君の出番は最後だからな」

翼「最後・・・?どういうことだ?」

マリア「ちょっとフォルテ!翼に説明しなかったの⁉」

フォルテ「サプライズにならないからな。風鳴、実を言うとな、今回のライブは君の生誕祝いのライブとなっている」

翼「生誕祝い・・・?・・・ああ、そういえば今日だったか・・・私の誕生日・・・」

フォルテ「今回のライブは君がメインのステージで曲も君の歌うものばかりをセッティングしてある。マリアとのコラボは最後になる。ちなみに、これはマリアが考えたものだ」

マリア「フォルテ!!余計なこと言わなくていいから!!」

フォルテ「ライブも君の思い出に残るものだと思ったから同意したのだが・・・迷惑だったか?」

翼「ふふ・・・いや、これ以上にない・・・最高の思い出になるだろう。ありがとう、マリア、フォルテ」

フォルテ「・・・そろそろ時間だ。行ってくるといい」

マリア「あなたの歌、期待しているわよ」

翼「ああ。行ってくる!」

この後のライブは大成功を収めるのであった。


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ラストリゾート

ヨナルデパストーリから何とか逃げ切ることに成功したマリアたちは無事本部帰投することができた。

 

「観測任務より帰還しました」

 

「ご苦労だった」

 

「ふぅ・・・やっぱり本部が1番だぁ・・・安心できる・・・」

 

本部に戻ってようやくプレッシャーから解放された藤尭はほっと一息ついた。

 

「だが今夜はまだ眠れそうにないぞぉ!」

 

「ええ。死ぬ思いをして手に入れたデータサンプルもありますしね。そのつもりです」

 

「それにつけても、無敵の怪物の出現か・・・パヴァリア光明結社を表に引きずり出せたものの、一筋縄ではいかないようだ」

 

無敵を誇る怪物、ヨナルデパストーリがパヴァリア光明結社に控えていることに思案顔になる弦十郎。

 

「心配ない」

 

「そうデス!次があれば必ず・・・」

 

「・・・・・・」

 

「こほん」

 

調と切歌は前向きな発言をしていると、マリアが2人を見つめ、フォルテが咳払いをする。2人の発言を聞いて、エルフナインは落ち込んだ表情を見せている。

 

「「あ・・・」」

 

「ごめんなさい・・・LiNKERが十分揃っていれば、次の機会なんていくらでも作れるのに・・・」

 

そう、LiNKERのレシピ解析こそがエルフナインに課せられた使命。それが未だに進展がなく、LiNKERが完成できてないまま最後の1本を使ったのだ。このようなことになってしまったことにエルフナインは責任を感じているのだ。

 

「いや、あのぅ、そういうつもりじゃなくてデスね・・・」

 

自分たちの失言に気付いた切歌は慌てて誤解を解こうとする。

 

「やっぱりボクにレシピの解析は・・・」

 

レシピの解析に自信をなくしてしまっているエルフナインにマリアは彼女に近づき、頬を引っ張る。

 

「わ!何をするんですかぁ⁉」

 

突然のことにエルフナインは頬を赤らめ、マリアの指から離れ、自分の頬を手で押さえる。そんな彼女の頭にフォルテは優しく手を乗せる。

 

「諦めるには、まだ早いのではないだろうか」

 

「フォルテの言う通りよ。それに、ボロボロで帰還しても、まだ負けたとは思ってない。誰も悪くないんだから、エルフナインが謝る必要はないわ」

 

「そうね。私達はまだ、諦めてないもの」

 

「ごめんなさいよりも応援が欲しい年ごろなのデス!」

 

4人はエルフナインを元気づける言葉をかけている。その中で両手を腰につけて胸を張る切歌が発した言葉に疑問符を浮かべる。

 

「・・・ごめんなさいよりほしい・・・?」

 

「そうだ」

 

フォルテはエルフナインの頭を優しく撫でる。エルフナインは顔を俯かせ、少し悩んだ表情をする。彼女がこの言葉の意味を知るのは、もう少し先であろう。

 

~♪~

 

オペラハウスの地下。この場所に戻ってきた3人の錬金術師はオレンジ色の水晶の中で今も眠っている人形・・・いや、オートスコアラーを見ていた。実はサンジェルマンはすでに、エドワードと共にこのオートスコアラーと相まみえたことがある。それは今から400年前のことである。サンジェルマンはその当時のことを思い出していた。

 

「はるか昔、フィーネが残した異端技術の断片を収斂させ、独自に錬金術を編み出してきた私たち、パヴァリア光明結社。だからこそ、異端技術を独占し、優位を保とうとするフィーネとの激突は避けられず、統制局長アダムは神の力を形とする計画を進めていたのだけれど・・・要たるティキを失ってしまった光明結社は歴史の裏側に追い立てられてしまう・・・」

 

そう、彼女たちの目の前にいるオートスコアラーこそが、光明結社の計画に必要不可欠な存在なのだ。名をティキという。

 

「400年の時を経て、フィーネは消滅した。そして米国政府を失墜させた私たちは、ついに、回天の機会を繰り寄せた・・・」

 

「後はこのお人形をお持ち帰りすれば、目的達成ってワケダ」

 

「それはそれでおもしろくないわ」

 

カリオストロはフォルテによってつけられた傷に貼った絆創膏を撫でながら、恨めしそうにそう発言した。

 

「天体運航観測機であるティキの奪還は、結社の計画遂行に不可欠。何より・・・」

 

「この星に、正しく人の歴史を紡ぐのに必要なワケダ。そうだよね、サンジェルマン」

 

「人は誰でも支配されるべきではないわ」

 

「じゃあ、ティキの回収はサンジェルマンにお任せして、あーしはほっぺたのお礼参りにでも洒落こもうかしら」

 

そう言ってカリオストロは地上へと向かう階段へ向かおうと歩き出す。そんな彼女の行動をサンジェルマンが咎める。

 

「ラピスの完成を前にして、シンフォギア装者との決着を求めるつもり?」

 

「勝手な行動をする・・・後でエドに小言を言われても知らないワケダ」

 

彼女たちの仲間であるエドワードが目的を果たし、こちらに向かってきていることはテレパスで確認済みだ。それでもカリオストロは止まらない。ちなみではあるが、プレラーティとカリオストロはエドワードのことをエドと呼び慕っている。

 

「それでも、ヨナルデパズトーリがあれば、造作もないことでしょ?今までさんざっぱら嘘をついてきたからね。エドには申し訳ないと思うけど、せめてこれからは、自分の心には嘘をつきたくないの」

 

元々は嘘で埋め尽くされた詐欺師の男であったカリオストロ。サンジェルマンと出会い、自分に居場所を与えてくれた彼女をカリオストロは慕っている。彼女の力によって生物学的に完全な身体構造である女性になってしまったが、それを含めても彼女はサンジェルマンに感謝している。それから彼女は自分の気持ちには嘘をつくのはやめることにした。ゆえに借りを返さなければ気が済まない。その思いでカリオストロはシンフォギア装者との対決を求め、地下から外に出るのであった。

 

~♪~

 

負傷してしまったステファンを都市病院に送るため、翼たちは彼を荷台車の荷台に乗せ、移動している。装者とステファンの姉であるソーニャも乗っている。任務は完了しても、負傷者を出してしまったのだ。素直に喜ぼうとする者は誰1人としていない。特にクリスの表情は誰よりも暗かった。

 

ソーニャ・ヴィレーナ。歌で世界を平和にしたいと考えるクリスの両親の賛同者であり、バルベルデで住んでいた小さなクリスにとって、姉のように慕っていた人物だ。ところがある日、届いた救援物資が爆弾であったと知らず、ソーニャは持ち込んでしまった。その結果、爆弾は爆発し、それによってクリスの両親は亡き者となってしまった。両親が亡くなってしまったのは、ソーニャの不注意のせいだと思い込んでいる。その時に言った言葉が・・・

 

『ソーニャのせいだ!』

 

その後和解もできず、別れてしまったままであったが、このような形で再会してしまう。何とも皮肉なことだ。クリスはステファンの足を射抜き、ソーニャに詰め寄られた時のことを思い出す。

 

『あなたが私を許せないように、私もあなたが許せない!!』

 

『待ってください!ステファン君の足に解剖器官が巻き付いたから、クリスはああするしかなかった!アルカ・ノイズの分解から救うにはそれしかなかったから!』

 

『やめろ相棒!もういいって言ってるだろ!』

 

『クリスは黙ってて!!クリスだって好きでやりたかったわけじゃないんです!仕方なかったことなんです!』

 

『あなたの言ってることは間違ってないかもしれない・・・クリスの選択も正しいのかもしれない・・・だけど・・・!!』

 

『だったらクリスじゃなくて私を憎んでください!元を正せば、あの人を取り押さえきれなかったのが原因だから!』

 

『相棒!!』

 

『大丈夫・・・私・・・憎まれるの・・・慣れてるから・・・』

 

日和の言い分が間違っていないのはソーニャだってわかっている。ただそれで納得できるようなら最初っから怒りなどぶつけない。ソーニャの怒りを受け止めるべきなのに、日和に庇われ、気遣われてしまっている自分に、クリスは不甲斐なさを感じている。

 

(自分が情けねぇ・・・!あたしの選択ってば・・・どうしていつもいつも・・・!)

 

「クリスちゃん・・・」

 

自分を思い詰めているクリスを響は心配している。

 

「・・・クリスとは・・・あの混乱に話もできずに、はぐれてしまった・・・。だから・・・こんな形で再会したくなかった・・・」

 

「ソーニャさん・・・」

 

ソーニャの言葉に思うところがあり、日和はバツが悪そうに、彼女から視線を逸らす。クリスも複雑そうに顔を俯かせている。そんな時、足を失い、荒い息遣いをするステファンがクリスの足に手を添えている。この場で1番辛いのは彼なのに、クリスを安心させようとしているのだ。その意図を察したクリスは彼に触れるべきか躊躇いながらも、ゆっくりとその手を握った。

荷台車を運転していた翼の端末に通信が届き、彼女は通信を繋ぐ。

 

「翼です」

 

『エスカロン空港にて、アルカ・ノイズの反応を検知した!現場にはマリア君たちを向かわせている』

 

『マリアさんたちはLiNKERの効果時間内で決着させるつもりです!』

 

「了解です。都市部の病院に負傷者を搬送後、私たちも救援に向かいます」

 

翼は通信を切った後、マリアたちの救援に急ぐためにステファンを都市部の病院に搬送するのであった。

 

~♪~

 

アルカ・ノイズが発生したエスカロン空港は地獄絵図と化していた。ここには政府軍が駐屯していたのだが、なんとアルカ・ノイズが政府軍に襲い掛かっているのだ。

 

「こいつら味方じゃなかったのか!!?」

 

「そんな見た目じゃない・・・うわああああ!!!」

 

味方であったはずのアルカ・ノイズが突然自分たちに襲い掛かってきて困惑している政府軍たちは応戦するも、敵うわけがなく、アルカ・ノイズによってあっけなく分解されてしまう。アルカ・ノイズを放った本人であるカリオストロはこの光景を倉庫の屋根で見ていた。パヴァリア光明結社が政府軍に施したのは支援だけ。彼女らに仲間意識など初めから持っていない。ただ、装者たちを誘き寄せるための餌として利用しているにすぎない。

 

「派手に暴れて装者たちを引きずり出すワケダ」

 

そこにプレラーティがカリオストロの隣に立つ。

 

「あら、手伝ってくれるの?」

 

「私は楽しいこと優先。ティキの回収はサンジェルマンに押し付けたワケダ」

 

プレラーティがそう言うと、ヘリのローター音が聞こえてきて、彼女は顔を上げる。近づいてきたヘリにはプレラーティの予想通り、フォルテ、マリア、調、切歌の4人が乗っていた。

 

「待ち人来たり♡」

 

マリアたちはヘリから飛び降り、ギアの詠唱を唄う。

 

Seilien coffin airget-lamh tron……

 

ギアを纏ったマリアたちはブースターを使い、敵に向かっていく。調のツインテール部位のアームが開き、小型丸鋸をアルカ・ノイズに放った。

 

【α式・百輪廻】

 

複数の丸鋸はアルカ・ノイズを次々と切り刻んでいく。マリアとフォルテはカリオストロとプレラーティに向けてかかと落としを放つ。カリオストロはバックジャンプ、プレラーティは隣の倉庫の屋根に飛び移って回避する。

 

「のっけからおっぴろげなワケダ・・・ならばさっそく!」

 

プレラーティが錬金陣を展開し、ヨナルデパストーリを召喚しようと動くが、切歌が肩部のアンカーを放ち、プレラーティの身体に巻き付かせて拘束させる。

 

「さっそく捕まえたデス!」

 

「もう!何やってるのよぅ!」

 

カリオストロがプレラーティに呆れている間にもマリアが短剣で斬りかかりに来た。カリオストロは斬撃を躱し、後退しながらマリアに向けて光の光線を放つ。そこへフォルテが前に出て、両剣に変形した大剣を回転させて光線を弾きながら前進する。

 

『ミスティルテイン、アガートラーム、シュルシャガナ、イガリマ、敵と交戦!』

 

『適合係数、安定しています!』

 

『皆さん・・・』

 

マリアとフォルテはアイコンタクトを交わし、首に縦に頷くとフォルテはカリオストロの側面に回り込もうとする。

 

「今度はこっちで、無敵のヨナルデパストーリを・・・!」

 

「はああああ!!」

 

カリオストロがヨナルデパストーリを召喚しようとすると、マリアが前進し、彼女の顔面に強烈な拳を叩きつける。それも、フォルテが着けた傷と同じ頬に。

 

「攻撃の無効化、鉄壁の防御・・・」

 

「だが貴様は無敵ではない!!」

 

マリアがカリオストロを吹っ飛ばしたところにフォルテが彼女を蹴り飛ばす。カリオストロはそれによって別方向に吹っ飛ぶ。

 

「ああん!!」

 

一方プレラーティはこのまま拘束されたままでいるわけがない。彼女は錬金陣を展開し、アンカーを吹き飛ばして拘束を破る。そこに調の丸鋸が展開されたアームが斬りかかってきて、プレラーティは右手の防御障壁で防ぐ。さらに切歌が鎌を振るったがプレラーティは左手で防御障壁を張って防ぐ。切歌と調は負けじと2人の連携でプレラーティに攻撃を続ける。

 

(繰り出す手数で、あの怪物の召喚さえ押さえてしまえば・・・!)

 

マリアとフォルテも2人に負けておらず、息の合った連携でカリオストロを攻撃していく。カリオストロは両手に防御障壁を張ってマリアとフォルテの連続攻撃を凌いでいく。しかし、短剣と大剣の強力な斬撃によって、両手の防御障壁は破壊される。好機と踏み、マリアとフォルテは攻撃を仕掛けようとするが・・・

 

ビビビビ・・・!

 

LiNKERの効果時間が間もなく切れかけており、その反動が出始め、2人の動きを鈍らせた。いや、2人だけではない。調も切歌も反動が出始めている。

 

『適合係数急激に低下!まもなくLiNKERの有効時間が超過します!』

 

『!!司令!シュルシャガナとイガリマの交戦地帯に、滑走中の!』

 

『航空機だとぉ!!?』

 

調と切歌たちの交戦地帯に滑走中の航空機が近づいてきていた。この航空機に乗っていたサブパイロットがメインパイロットに報告をする。

 

「人が!割とかわいい子たちが・・・!」

 

「構うな!止まったら、こっちが死ぬんだぞ!」

 

普通ならここで航空機を止めるのだが、航空機は止まる気配はない。それもそのはずだ。なぜなら後ろには複数のアルカ・ノイズがおり、タイヤのように転がって地面を分解しながら航空機を追っているのだ。ここで航空機が止まれば、アルカ・ノイズの餌食になるのは目に見えている。

 

「調!」

 

「切ちゃんの思うところはお見通し!」

 

「行きなさい!」

 

「後のことは僕たちが引き受けた!」

 

「了解デス!」

 

切歌は鎌を振るってプレラーティを引きはがした。彼女らの相手をマリアとフォルテに託し、切歌と調は航空機を追いかけるアルカ・ノイズの殲滅に向かう。プレラーティは地面に落ちたカエルのぬいぐるみを拾い上げる。

 

「あの2人でどうにかなると思っているワケダ・・・」

 

「でもこの2人をどうにかできるかしら?」

 

「なめるな。こちらも2人いる」

 

ハッキリ言ってしまえば、LiNKERの効果時間が残り少ないため、どうあがいても勝ち目はない。だがマリアとフォルテは最初から倒そうという考えはない。日和たちが来るまでの間、2人を引き付け、足止めをし、ヨナルデパストーリの召喚を阻止すればいいだけだ。それができれば、十分だ。そのためにマリアはプレラーティを、フォルテはカリオストロに攻撃を仕掛けて彼女たちの動きを制限し、ヨナルデパストーリの召喚を止める。

航空機を追いかけてくるアルカ・ノイズを調は複数の小型丸鋸を放ち、切歌は鎌を振るって切り裂いていく。それでも数が残っているアルカ・ノイズ。そのうちに2体が攻撃をかいくぐって航空機のタイヤに突進し、タイヤを分解する。バランスを崩しかける航空機を調が脚部の小型丸鋸を展開して進み、切歌が脚部にブレードを展開し、ブーストで進みながら航空機を支える。

 

(諦めない心・・・)

 

本部のモニター越しで戦いを見守っているエルフナインはいつギアが解除されてもおかしくない状況下でも諦めずに戦う4人の姿に感銘を受けている。すると、カリオストロとプレラーティの足止めをしていたマリアに青い輝きを、フォルテは赤い輝きが現れる。

 

(あれは・・・!)

 

エルフナインはそれを見逃さなかった。だがギアのバックファイアが入り、その輝きは消えた。エルフナインは通信越しで装者たちに声をかける。

 

『皆さん!もう一瞬だけ踏みとどまってください!その一瞬は、ボクがきっと永遠にして見せます!ボクもまだリンカーのレシピ解析を諦めていません!だから・・・諦めないで!!』

 

エルフナインの叫びに4人はその思いに必ず答えるというように、首を縦に頷く。調は航空機の支えを離し、前に出る。切歌は脚部と肩部のアームを巨大化させて、速度を保たせる。機体前方に出た調は脚部の丸鋸をタイヤのように巨大化させる。そこへ切歌が鎌の柄を調の肩の真上を通るように伸ばし、調は伸びた鎌の柄を掴んで、タイヤにスパイク形成して、ブレーキをかける。そして切歌はさらに加速をかけて、鎌を振るって航空機を投げるように強引に飛ばした。これによって航空機は管制塔を飛び越え、空へと飛び立った。

そして、マリアは短剣を籠手の後部に接続して、砲台に変形する。そして、狙いをプレラーティとカリオストロに目掛けて光線を撃ち放つ。

 

【HORIZON✝CANNON】

 

フォルテが大剣を構えると、大剣の刃が変形し、さらに鋭くなり、刀身に赤黒いエネルギー波が纏う。そして、マリアに続くように突きを放ってエネルギー波は飛ばされる。

 

【Beelzebul Of Gluttony】

 

竜のような頭部になったエネルギー波と強大な砲撃はプレラーティとカリオストロを飲み込んで爆発した。爆炎が昇っていく。

 

『さすがです・・・皆さん・・・』

 

全力を出し切ったマリアたち4人のギアが解除された。LiNKERの効果時間を越え、バックファイアのダメージもあったため息遣いが荒い。そしてその直後、マリアは目の前の光景に目を疑った。先ほどの2人の攻撃は確かに直撃した。それなのに2人の錬金術師は未だに健在・・・しかもダメージも負っていない。カリオストロはちっちっちと指を振っている。

 

「まだ戦えるデスか!!?」

 

「でも、こっちはもう・・・」

 

そう、LiNKERがない以上、4人はもうギアを纏うことができない。それすなわち、ヨナルデパストーリの召喚を許してしまうことになる。

 

「くっ・・・だが・・・やらせるわけには・・・!」

 

フォルテは足搔きとして拳銃を取り出し、2人の錬金術師に向けて全弾を発砲する。だが通常兵器が通るはずもなく、弾はプレラーティの防御障壁によって防がれる。

 

「無駄な足搔きなワケダ」

 

その間にもカリオストロは錬金陣を展開し、ヨナルデパストーリを召喚しようとする。

 

「おいでませ!無敵のヨナルデパストーリ!」

 

錬金陣より白い光が放たれ、天に昇っていき、眩い光が発せられた。光が収まると、無敵の怪物、ヨナルデパストーリがその姿を現す。

 

『そんな・・・!』

 

「時限式ではここまでなの・・・⁉」

 

「ちぃ・・・!」

 

ヨナルデパストーリの召喚によって、絶望が漂ってきたその時だった・・・

 

「「うおおおおおおお!!!」」

 

ギアを纏った響と日和が雄たけびを上げて、響はブースターの勢いが乗った拳を、日和は棍による強烈な突きをヨナルデパストーリに叩きつけた。

 

【電光石火】

 

「ふふん、効かないワケダ」

 

攻撃を通さないヨナルデパストーリの前には無駄な足搔きだとプレラーティは嘲笑う。だが、錬金術師にとって予想外なことが起きた。ヨナルデパストーリの受けたダメージが修復されないと同時に、破壊エネルギーが膨張されていた。

 

「!!?」

 

「んなっ!!?」

 

これには当然、プレラーティとカリオストロは驚愕する。

 

「それでも無理を貫けば!」

 

「道理なんてぶち破れるデス!!」

 

「「はああああああああ!!!!」」

 

2人の力がさらに強まっていき、そしてヨナルデパストーリの身体を貫いて破壊した。胴体を破壊されたヨナルデパストーリは粒子となって霧散していった。

 

「どういうワケダ・・・⁉」

 

「もう!無敵はどこ行ったのよぅ!!」

 

無敵のヨナルデパストーリが消滅した事実にプレラーティは理解が追い付いていない。カリオストロは身体をくねらせ、疑問を口にした。

 

「「だけど私たちは、ここにいる!!」」

 

響と日和が着地し、構えをとってプレラーティとカリオストロと相対する。




西園寺海恋(AXZ編)

外見:水色髪の三つ編みポニーテール
   茶色の縁のメガネをかけ、瞳は緑色

年齢:17歳

誕生日:9月30日

趣味:勉強、読書

好きなもの:クラシック音楽

スリーサイズ:B:84、W55、H86

イメージCV:ウマ娘プリティーダービー:マンハッタンカフェ
(その他の作品:プリンセスコネクト!Re:Dive:キョウカ
        変態王子と笑わない猫:筒隠月子
        クロスアンジュ 天使と竜の輪舞:クリス
        その他多数)

リディアン音楽院の3年生。日和のルームメイトであり親友。風紀委員に属しており、S.O.N.Gの外部協力者。
実家の会社である西園寺グループが買収されているという状況下においても両親を心配しており、何もできない自分に嫌気がさしている。この2つが相まって、彼女は心ここにあらずの状態である。
これから起こる出来事によって彼女自身、自分が何をするべきか、そして、自分の望むものが何か・・・それによって彼女の運命を左右することになろうとは、この時の彼女はまだ知らない。


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歯車が描くホロスコープ

無敵の怪物、ヨナルデパストーリを響、日和が倒したことにより、装者たち側に有利な状況になってきた。さらにそこに翼、クリスも到着したことにより、形勢が逆転する。

 

「そこまでだ!パヴァリア光明結社!」

 

「こちとら虫の居所が悪くてなぁ・・・抵抗するなら容赦はできないからな!」

 

「あなたたちのせいでもうめちゃくちゃなんだから・・・覚悟してもらうよ!」

 

日和は棍を構え、翼は刀を、クリスはボウガンを2人の錬金術師に突きつける。

 

「生意気に~!踏んづけてやるわ!」

 

だがそれで抵抗の意思を止まるわけがなく、戦いが開戦しようとした時、彼女たちの目の前に転送陣が現れ、そこから和服を着込んだ錬金術師、エドワードが現れる。

 

「うひゃあ!!?」

 

「エド!!?」

 

「そこまでじゃ。それ以上の戦は、妾が許さぬえ」

 

突然現れたエドワードにカリオストロとプレラーティは驚愕する。

 

「僕たちが会った錬金術師とは違う・・・もう1人いたのか!」

 

「ほほぅ、あれがシンフォギア装者か・・・ふふふ、なんとも元気があるわっぱではないか」

 

2人にサンジェルマン以外の仲間がいたことにフォルテは毒づき、逆にエドワードは装者たちを見て愉快そうに笑っている。が、すぐにカリオストロとプレラーティに視線を戻す。

 

「それはそうと、ずいぶん面白いことをやっておったではないか。妾は除け者かえ?悲しいのぅ・・・妾は仲間ではなかったのかえ?」

 

「ほら・・・出たワケダ・・・」

 

わざとらしさが見え見えな小言にプレラーティはうんざりした顔になる。

 

「んもう!小言なら後で聞くってば!今はそんな場合じゃないでしょ⁉」

 

「ふむ・・・まぁよい。もっと面白いものを見させてもらった・・・それで不問としよう。のう?サンジェルマン」

 

エドワードが扇子を開き、口元に添えたと同時に、転送陣が現れ、そこからサンジェルマンが現れる。サンジェルマンは装者たちに顔を向けて口を開いた。

 

「フィーネの残滓、シンフォギア!だけどその力では、人類を未来に解き放つことはできない!」

 

サンジェルマンがフィーネの名を口にしたことに、装者たちは驚愕する。

 

「フィーネを知っている⁉」

 

「それに、人類を解き放つとは・・・それは・・・」

 

「まるで、了子さんと同じ・・・バラルの呪詛から解放するってこと!!?」

 

「まさか・・・それがお前たちの目的なのか⁉」

 

「人に聞くのではなく、まずは自分で考えたらどうじゃ?」

 

装者たちの疑問にサンジェルマンは答えようとせず、逆にエドワードにそう言われてしまう。

 

「カリオストロ、プレラーティ、ここは引くわよ。エドワードも」

 

「ヨナルデパストーリがやられたものねぇ」

 

「態勢を立て直すワケダ」

 

「妾は長旅で疲れておる。少しは休ませてもらうぞ」

 

「未来を、人の手に取り戻すため、私達は時間も命も費やしてきた。この歩みは誰にも止めさせやしない」

 

「未来を人の手にって・・・待って!」

 

サンジェルマンはテレポートジェムを取り出し、足元に放り投げて割る。そこから転送陣が現れ、響の問いかけを最後まで聞くことなく、4人は自分たちの拠点に転移する。革命、そして人類の解放・・・それが何を意味するのかわからず、S.O.N.Gは自分たちの役目を終え、日本に帰還するのであった。

 

~♪~

 

バルベルデから帰還した後日。リディアンでの始業式が終わり、いつも通りの日常を過ごしていく装者たち。そして、最初の授業が終わり、今は休み時間。海恋はクリスからバルベルデで起こったことを聞かされる。

 

「アルカ・ノイズを使役する政府軍に、新たな錬金術師・・・そっちではそんなことが起きてたのね・・・」

 

「ああ、まぁな」

 

「パヴァリア光明結社・・・目的が了子さんと同じだとしたら・・・人を犠牲にしてでも掴みたいものがあるってことなのかしら・・・?」

 

「さあな。そこまでは知らねぇよ」

 

クリスの話を聞いて海恋は少し考える素振りを見せる。だが情報が少ない以上、いくら考えても答えなどでない。ゆえに海恋はこの話は一旦置いておくことにする。

 

「・・・それで?あんたはどうなの?まだ話してないこと、あるんじゃないの?」

 

「うっ・・・それは・・・」

 

海恋がまだ話していないことを振られ、クリスは口ごもる。話してないことというのは、自分がステファンの足を斬り落とし、それによって怒りをぶつけるソーニャの件のことだ。話してない・・・というより、そもそも話すつもりがないのだ。仲間に、それも大切な友達に余計な心配をかけたくないから。

 

「話せないことなの?」

 

「そういうわけじゃねぇよ。大したことじゃないから気にすんな」

 

「ふーん?ま、別にいいけど。隠し事なんて今に始まったことじゃないし。けど、我慢と無理は別物だからね。そこだけははき違えないでちょうだい」

 

「・・・ああ・・・わかった・・・」

 

クリスが隠し事をしていることは容易に想像できる。日和に聞けばクリスの悩みもすぐにわかる。だが海恋はあえて聞こうとはしなかった。自分だって辛い状況にいるのに、気を遣ってくれている海恋にクリスは申し訳なく思っている。

 

「・・・なぁ・・・そっちはどうなんだ?お前の家・・・」

 

「未だに進展なし。目立った動きもなければ、吉報と言えるものも、悪い話も聞かない・・・もどかしい状況よ」

 

「そうか・・・」

 

クリスはこういう時、なんて声をかければいいかわからず、ただただ、どうやって元気づけようかと悩んでいる。

 

「ふふーん♪ねぇねぇ、海恋、クリス♪」

 

そんな時に、妙ににこやかな笑顔をしている日和が声をかけてきた。

 

「あ?なんだよ、気持ちわりぃ笑顔を浮かべやがって・・・」

 

日和は両手に持っていたクッキーが入った包みをクリスと海恋に渡した。

 

「クッキー?」

 

「うまく焼けたと思うんだー♪よかったらぜひ食べてよ♪」

 

「あんた、珍しく早起きして何してるのかと思えば・・・」

 

「本当はすぐ渡したかったんだけど、始業式が始まるからバタバタしちゃってさー。けど、冷めてもおいしいから!うん!」

 

自慢げに笑う日和は本題に入り、伝えたいことを伝える。

 

「・・・あの・・・さ。2人とも今は辛い状況だと思うけど・・・大丈夫だよきっと!いつかソーニャさんもきっと許してくれるし、おじさんの会社も元通りになるよ!・・・て、これじゃ無責任になっちゃうか・・・でも私がどうにかできることじゃないし・・・うぅ~ん・・・」

 

しっかり決めたと思ったが、考え直してみると逆効果なのではと思い始め、頭をうんうんと捻らせる日和。この様子から見て日和は自分たちを元気づけようとしているのがわかった海恋とクリス。

 

「余計な気遣いはいいって言ってるだろ」

 

「私にとっては余計なことじゃない!」

 

「お前なぁ・・・」

 

「言ったって無駄よ。言おうが言うまいが変に付きまとってくるのが日和だもの」

 

「だからってなぁ・・・」

 

気遣いはいらないとクリスは主張するも、日和は考えを改める気は全くないようで言い返す。海恋は諦めた様子で肩をすくめる。

 

「とーにーかーく!海恋やクリスがそんな調子だと、私も元気が出ないよ。だからさ・・・そんなに深く思いつめないで。ね?」

 

「「・・・・・・」」

 

日和の言葉を聞き、海恋とクリスはお互いに顔を見合わせる。

 

「ねー、ひよりん、ちょっといいかな?」

 

「あ、大丈夫だよー。じゃ、そういうわけなんで、早く元気出してね!」

 

日和はそれだけを言い残して自分を呼んだクラスメイトの元へ向かっていった。

 

「たく・・・本当に情けねぇ・・・ここまで気遣われちまってよ・・・」

 

「まぁ・・・そうさせているのも、私たちってことよね・・・」

 

海恋とクリスは受け取ったクッキーの包みを開け、クッキーを1枚口に運んだ。

 

「・・・あめぇ・・・」

 

「これ、絶対に日和の好みに合わせてるわよね・・・」

 

「ちげぇねぇや」

 

しかし、このクッキーの甘さが今の2人は少しだけ安心した気持ちになった。

 

~♪~

 

一方その頃、バルベルデに残って調査を続けていた翼、マリア、フォルテの3人はプライベートジェット機に乗って日本に帰国している。機内でマリアは雑誌を読み、フォルテは端末を操作して仕事をこなし、翼は窓の外を眺めていた。翼の足元には厳重なロックがかけられているケースが立てかけられていた。

 

~♪~

 

海辺のどこかにある高級ホテルのような屋敷の一室。薄暗いこの部屋にはサンジェルマンとエドワード、そしてオートスコアラーのティキしかいない。エドワードは椅子に腰かけ、日本酒を飲みながらサンジェルマンの作業を眺める。結晶から取り出されたティキはベッドで横たわっており、サンジェルマンは錬金術でティキの胸部カバーを開ける。開かれた胸部には歯車のような窪みがある。

 

(ティキは、惑星の運航を製図と記録するために作られたオートスコアラー。機密保持の為に休眠状態となっていても、『アンティキティラの歯車』によって再起動し、ここに目覚める)

 

ティキのそばに置いてあった石化した歯車のような物体が錬金術によって宙に浮き、歯車に纏っていた石が外れ、元の道具、アンティキティラの歯車が復活する。歯車はエーテルによって回転し始め、ティキの胸部の窪みにはめ込まれる。歯車がはめ込まれた時、胸部カバーは元に戻り、ティキは再起動を始めた。これによって目のようなバイザーが発行し、球体部が浮遊し、輝きを放つ。すると、プラネタリウムのように星を映し出した。それが終わると球体はバイザーに収まり、400年の眠りからティキが目覚めた。ティキはぎこちない動きで起き上がり、顔を纏うバイザーを取り外した。

 

「ふぅ・・・」

 

「久しぶりね、ティキ」

 

「汝と会うのは400年ぶりじゃのぅ」

 

2人に声をかけられたティキは彼女たちに顔を向ける。すると、彼女の表情はぱあっと明るくなった。

 

「サンジェルマンにエドワード?ああ~!400年近く経過しても、2人は2人のままなのね!」

 

「そうよ。時を移ろうとも、何も変わってないわ」

 

「つまり、今もまだ、人類を支配の軛から解き放つためとかなんとか、辛気臭いことを繰り返しているのね!よかった、元気そうで!」

 

「その小生意気な口調・・・汝も変わらぬのぅ、ふふ」

 

踊りながら発するティキの口調にエドワードは懐かしさを感じ取りながら、おちょこに日本酒を注ぐ。するとティキは辺りを見回し、何かを探している。

 

「うん?うぅ~ん?ところでアダムは?大好きなアダムがいないと、あたしはあたしでいられないぃ~!」

 

まるで恋する乙女のように自分の身体を抱きかかえ、悶えているティキ。どうやらティキはそのアダムという人物に恋をしているようだ。すると・・・

 

ジリリリリ! ジリリリリ!

 

突然テラスから電話の音が鳴り響いた。そちらに視線を向けて見ると、柵の上にダイヤル式の固定電話が置かれていた。

 

「噂をすれば影がさす、じゃのう」

 

エドワードはそう呟き、日本酒を飲む。電話の鳴り響いている。サンジェルマンは電話の受話器を取り、耳に当てる。

 

「局長・・・」

 

「え!!?それ何!!?もしかしてアダムと繋がってるの!!?」

 

「あ・・・」

 

しかしそこにティキがいきなり現れ、彼女から受話器を横取りする。電話をよくわかっていないティキは受話器をまじまじと見つめ、上下逆さに耳を当てる。

 

「アダムー!いるのー?」

 

『久しぶりに聞いたよ、その声を』

 

受話器から男の声が聞こえてきた。この声の主こそが、パヴァリア光明結社のトップ、統制局長のアダムである。アダムは独特に倒置法を用いて話している。

 

「やっぱりアダムだ!あたしだよ!アダムのためならなんでもできるティキだよ!」

 

『姦しいなぁ、相変わらず。だけど後にしようか。積もる話は』

 

「アダムのいけずぅ!つれないんだからぁ!そんな所も好きだけどね!」

 

話の相手が自分ではないとわかったティキはサンジェルマンに受話器を返した。サンジェルマンはそれを受け取り、耳を当てて話を続ける。

 

「申し訳ありません、局長。神の力の構成実験には成功しましたが、維持にかなわず喪失してしまいました」

 

『やはり忌々しいものだな、フィーネの忘れ形見、シンフォギア・・・』

 

「疑似神とも言わしめる不可逆の無敵性を覆す一撃。そのメカニズムの解明に時間を割く必要がありますが・・・」

 

『無用だよ、理由の解明は。シンプルに壊せば解決だ。シンフォギアをね』

 

「・・・了解です・・・。カリオストロとプレラーティが先行して討伐作戦を進めています。私たちも急ぎ、合流します」

 

サンジェルマンの解明の案をアダムは却下した。納得のいかないサンジェルマンだったが、今は統制局長であるアダムの指示に従う。話を終え、サンジェルマンは受話器を電話機に戻した。アダムは解明は無駄と言っていたが、サンジェルはやはりヨナルデパストーリの無敵性を覆した一撃が不可解で思考がそちらに回っている。

 

「汝らはどうも今も常識に囚われとる筋があるのぅ」

 

サンジェルマンが考えている時、不意にエドワードが口を開いた。

 

「確かに原因もメカニズムも不明じゃが、何もおかしいことはあるまい。わからないが普通じゃからな。元々神の力とは、常人では理解できぬ神聖な知識。不可逆の摂理を覆すものあらば、その逆も然り。解明を望むならば、非常識に常識は不必要じゃ。この世には、ありえぬことなど存在せぬからのぅ」

 

エドワードは空になったおちょこをテーブルに置き、サンジェルマンの隣まで移動する。

 

「・・・非常識には非常識か・・・確かにそのとおりね」

 

「なぁに、どうせわっぱたちとは長い付き合いになる。焦る必要などない。局長殿の指示に従いつつ、解明を進めればよかろう。妾も協力は惜しまぬえ」

 

「ありがとう。やはりあなたを結社に迎え入れたのは間違いではなかった」

 

実はこのエドワード、以前は光明結社とは別の錬金術師の組織に所属していたことがある。それゆえに、知識も経験も遥かにサンジェルマンを上回る。そんな彼女は長い時間をかけて結果を出すタイプの錬金術師だ。だが、以前所属していた組織は結果を待つことに我慢ならず、エドワードを牢屋に投獄した。牢屋で脱獄の機会を伺っていた時に組織に侵入したサンジェルマンと出会い、彼女から組織にスカウトされたのだ。エドワードはサンジェルマンの理想を聞いて、その理想に興味がわき、そのスカウトを受けて、錬金術の組織を滅ぼし、パヴァリア光明結社に移転したということだ。

 

「では行くとするか。わっぱ2人を待たせるのも悪いからのう」

 

サンジェルマンとエドワードはプレラーティとカリオストロと合流するために部屋から退出するのであった。

 

~♪~

 

翼たちが乗っているプライベートジェット機は日本に到着し、間もなく着陸態勢に入ろうとしていた。だがその時、ジェット機に突然大きな揺れが生じた。

 

「何!!?」

 

何事かと思い、窓の外を見て見ると、辺りに飛行型アルカ・ノイズが飛び回っており、ジェット機の主翼が一部分解され、プリマ・マテリアが立ち込めている。

 

「アルカ・ノイズ⁉」

 

このアルカ・ノイズを放ったのはプレラーティとカリオストロだ。彼女たちは管制塔の上に立ち、落ちていくジェット機の様子を眺めていた。

 

「うふふ、命中命中♡さて、攻撃の二段三段と行きましょうか」

 

「出迎えの花火は派手で大きいほど喜ばれるワケダねぇ」

 

アルカ・ノイズは2人の指示に従い、ジェット機を攻撃し、コックピットにいたパイロットもまとめて分解した。

 

「着陸直前の無防備な瞬間を狙われるなんて・・・!」

 

「日本まで追って来たということか・・・!」

 

「どこまでもしつこい連中め・・・」

 

そう言っている間にもアルカ・ノイズは機体の側面を攻撃し、分解する。それにより爆発が生じ、亀裂が生まれる。この衝撃によってケースが外に飛び出そうとしていた。

 

「ケースが!!」

 

「はあああああ!!」

 

そうはさせまいとマリアが手を伸ばし、ケースの取っ手を掴んだが、そのまま放り出されてしまった。

 

「マリア!!」

 

フォルテはマリアを助けようと危険を顧みず、自ら外に飛び出した。様々な状況を対処できるフォルテでも、今はギアは纏えない。仮に落下の方は何とかなっても、アルカ・ノイズまでは対処することはできない。ならば翼は友を助けるために、ギアの詠唱を唄う。

 

Imyuteus amenohabakiri tron……

 

アルカ・ノイズは航空機全体に攻撃を仕掛け、そして機体は分解し、爆発した。

 

「翼!」

 

「風鳴!」

 

だがシンフォギアを身に纏った翼にはこの爆発で影響を及ぼすことなどない。爆炎の中から飛び出した翼は刀を大剣に変形させ、蒼の斬撃波を放った。

 

【蒼ノ一閃】

 

蒼の斬撃波はマリアたちを襲おうとするアルカ・ノイズを斬り下ろした。さらに翼は宙を舞いながら大剣を振るい、アルカ・ノイズを次々と斬り倒していく。

 

『特別機、206員、反応途絶!』

 

『翼さん、マリアさん、フォルテさん、脱出を確認!ですが・・・』

 

『このままでは海面に叩きつけられてしまいます!』

 

『翼!2人をキャッチし、着水時の衝撃に備えるんだ!』

 

本部にいる弦十郎は翼に指示を出した。

 

「そうはさせないワケダ」

 

「たたみかけちゃうんだからー!」

 

プレラーティとカリオストロがそうはさせまいとアルカ・ノイズに指示出した。アルカ・ノイズは回転しながらマリアたちに襲い掛かろうとしている。翼は冷静に迫ってくるアルカ・ノイズを大剣で斬り倒していく。だがそれでも何体が残り、マリアたちに迫ってきた。翼は慌てず斬撃波を放ち、アルカ・ノイズを倒すが、まだまだ残っている。

 

『マリアさん!!フォルテさん!!』

 

「加速してやり過ごす!!掴まっていろ!!」

 

「ええ!」

 

身体を大の字にして落下速度をやり過ごしていた2人だったが、フォルテがマリアを抱き寄せ、身体の姿勢をまっすぐにして、落下速度を上げる。これによってアルカ・ノイズの攻撃を間一髪のギリギリで躱すことができた。見事かいくぐったフォルテはマリアを翼に託すため、一度彼女から離れ、装備していたパラシュートを開く。フォルテの意図を理解した翼は脚部のブレードのブースターを点火して、アルカ・ノイズの群れをかいくぐり、マリアをキャッチした。そして翼は大剣を空に掲げ、無数のエネルギーの剣を生成し、雨のように降り注いだ。

 

【千ノ落涙】

 

アルカ・ノイズは無数の剣に切り刻まれ、全て消滅する。落下していく翼はブレードを展開し、ホバークラフトして着水する。パラシュートでゆっくり降りていくフォルテはそのまま海に着水する。海面から顔を出したフォルテを翼は回収する。

 

この様子を見ていたプレラーティはつまらなさそうな表情をしている。

 

「さすがにしぶといワケダ」

 

「癪だけど、続きはサンジェルマンとエドが合流してからね」

 

仕方なくカリオストロとプレラーティはサンジェルマンとエドワードが来るまでの間、次の算段を考えるのであった。

 

戦いが終わり、マリアとフォルテを抱えて水面をホバークラフトで移動する翼は今海岸に向かっている。

 

「手厚い歓迎を受けてしまったわね・・・」

 

「果たして、連中の狙いは私たち装者か・・・それとも・・・」

 

「いずれにせよ、こちらもそれ相応の対策を、急がねばなるまい」

 

3人は回収したケースを見て、思考するが、今はひとまず本部の帰還を急ぐのであった。




エドワード

外見:長い金髪を円状に結んでいる。
   瞳は赤、瞼に赤いペイントが塗られている。
   頭に狐のお面をつけている。


【挿絵表示】

↑Picrewより『しおみず式和服女子メーカー』

趣味:研究、酒

好きなもの:ギャンブル

イメージCV:Re:ゼロから始める異世界生活:プリシラ・バーリエル
(その他の作品:カードファイト!!ヴァンガードGZ:グレドーラ
       :魔法少女リリカルなのは:高町なのは
       :原神:七七:ナヒーダ
        その他多数)

パヴァリア光明結社に所属する錬金術師の幹部の1人。プレラーティとカリオストロからはエドと呼ばれている。年齢は不明だが、少なくとも500年以上は生きている。
貴族ゆえなのか高飛車な性格をしており、誰に対しても常に高圧的な態度をとる。相手の長所や短所を一目で見抜き、それ相応の対応をとることができる筋が通った一面もあり、人を引き付けるカリスマ性も持ち合わせている。
賭博とは人生と豪語しているほどにギャンブル好き。どのような結果であっても従うことをモットーとしており、それを反する者は死して当然という冷酷な一面もある。ちなみにこれまでの勝負で全勝しており、負けたことは1度もない。
かつては別の錬金術師の組織に所属しており、そこで爵位をもらうほどの地位を持っていた。だが長い時間をかけて結果を出す彼女と組織とは合わず、爵位を剝奪され、牢屋に投獄された経験がある。脱獄する機会を伺っていたところにサンジェルマンと出会い、結社にスカウトされた。彼女の理想に深く興味を持ち、その理想が実現した世界を見てみたいという思いから、スカウトを受け、結社に移転することとなった。なお錬金術師の組織はサンジェルマンとエドワードの手によって滅ぼされた。


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亜空間の檻の中

S.O.N.G本部に帰還した翼たちはフォルテの着替えを待ってからブリッジに集まった。しばらくしていると、響たちがブリッジに入ってきた。

 

「先輩!」

 

「翼さん!」

 

「フォルテさん!」

 

「マリア!」

 

「デス!デス!デース!」

 

1番最後に入ってきた切歌がマリアに抱き着いてきた。

 

「大騒ぎしなくても大丈夫。バルベルデ政府が保有していた資料は、この通りピンシャンしてるわよ」

 

マリアはケースを見せて、響たちを安心させようとしたが、心配していたのはそこではない。

 

「そうじゃなくて!敵に襲われたんですよね・・・?ホントに無事でよかった・・・」

 

響の言葉に心配をかけさせてしまったと自覚した3人はお互いに顔を合わせ、翼が彼女たちにお礼の言葉をかける。

 

「帰国早々心配かけてすまない。気遣ってくれてありがとう」

 

「だが、安心してばかりいられないのが今の現状だ。司令」

 

「うむ。これを見てほしい」

 

フォルテが本題に移すことで、弦十郎は首を縦に頷き、親指で背後のモニターを指す。モニターには友里たちが撮影したオートスコアラー、ティキが映し出されていた。

 

「これは・・・?」

 

「私たちがバルベルデ政府の秘密施設に潜入した際に記録した人形の映像よ」

 

「もしかして・・・オートスコアラー⁉」

 

モニターに映っているティキがオートスコアラーなのではと思い、真剣みな表情をしている装者たち。

 

「前大戦時、ドイツは、化石燃料に代替するエネルギーとして、多くの聖遺物を収集したという。そのいくつかは、研究目的で当時の同盟国である日本にも持ち込まれたのだが・・・」

 

「私のガングニール・・・」

 

「それに、ネフシュタンの鎧や、雪音のイチイバルもそうであったと・・・」

 

「戦後に亡命したドイツ高官の手により、南米にも多くの聖遺物が渡ったとされています」

 

「それが、シュルシャガナやイガリマ、アガートラームにミスティルテインということか。そして、他の聖遺物も」

 

「おそらくは、この人形もそうした経緯でバルベルデにたどり着いたものだと推察されます」

 

推察が飛び交う中、緒川はマリアが持っていたケースを受け取って口を開く。

 

「全てを明らかにするには、この、バルベルデ政府が保有していた機密資料を解析するしかありません」

 

「翼とマリア君、フォルテ君が襲われたことから、パヴァリア光明結社の錬金術師は日本に潜入していることは明らかだ。くれぐれも、注意を怠らないでほしい」

 

弦十郎は装者たちにパヴァリア光明結社の錬金術師に注意するように警告する。そんな中クリスは自分の髪をいじって思いつめた表情をしている。その様子に気付いた日和は彼女を心配そうな顔で見つめている。

 

~♪~

 

会議を終わった頃にはすでに夕方になっていた。響は会議が終わった後、街で待っていた短い黒髪の後ろ髪白いリボンを付けた少女の元に駆けつけた。

 

「未来ー!お待たせー!」

 

この少女の名は小日向未来。リディアンに通う2年生で、響の親友である。そして、日和たちの後輩、そして調と切歌の先輩でもある。

 

「翼さんたち大丈夫だった?」

 

「うん!3人とも元気そうで安心したよー!」

 

合流を果たした響と未来はどこかへ向かって歩き出した。

 

『次のニュースです。先日、アメリカ合衆国の領海外で救出された遭難者はバルベルデ共和国からの亡命を希望していることが、明らかになりました』

 

街のモニターに映っているニュースではその様な情報が流れていた。

 

~♪~

 

響と未来が向かったのはカフェであった。ここに来た理由は未来に学校で相談した話の続きをするためだ。その内容は、クリスと海恋が話してたものとほとんど同じものだ。テーブルには未来側にはイチゴのかき氷が、響側にはお茶が置かれていた。

 

「それで?今朝の話の続きを聞かせて」

 

「うん・・・バルベルデでのこと話したでしょ?クリスちゃん、あれからずっと落ち込んでるみたいなんだ・・・。何とか元気づけたいんだけど・・・」

 

落ち込んでいるクリスにどう元気づけようかと響が相談しようとすると・・・

 

「大きなお世話だ!」

 

「うええ!!?」

 

後ろの席にいたクリスが口を開いた。本人が後ろの席にいたことに響は驚愕している。

 

「その言い草はないだろう、雪音。2人はお前を案じているんだ」

 

「そうだよ。それを無下にすることないんじゃない?」

 

「えー⁉翼さんと日和さんもいるー⁉」

 

さらに翼と日和がクリスと同じ席にいたことにさらに驚愕する響。

 

「私たちだけでなく、皆雪音のことを心配している」

 

「わかってる!けどほっといてくれ!あたしなら大丈夫だ!ステファンのことはああするしかなかったし、同じ状況なら、あたしなら何度でも同じ選択をする!」

 

「それが雪音にとっての、正義の選択というわけか」

 

「ああ。だから相棒、あたしのことは気にせず、委員長の方を気にかけとけ」

 

「無理!!!」

 

気にしないでくれというクリスの言葉に日和は即答で否定する。その言葉にクリスはずっこける。

 

「お、お前な・・・話聞いてたか⁉」

 

「聞いてたよ!!聞いたらなおさらほっとけないじゃん!!」

 

「うわぁ!!?」

 

クリスの言葉に日和は食い入るように顔をグイっとクリスに近づける。いきなり顔を近づけてきてクリスは思わず驚く。

 

「私は大悟君やおじさんたち、ママに恨まれて、すっごく辛かった!それこそ心が壊れちゃうぐらいに!海恋がいなかったら私、ずっと壊れたまんまだったかもしれない!」

 

日和はそこまで言い終えると、少しだけ冷静になり、落ち着くために深呼吸をする。だいぶ気持ちが落ち着いたところで日和は話を続ける。

 

「すぅー・・・はぁー・・・。・・・だから私は、クリスには私と同じようになってほしくないの。海恋が私の隣にいてくれたように私はクリスのそばにいる。友達の悲しい姿を見るのは、嫌だから」

 

「・・・っ」

 

日和の言葉を聞いて、クリスは悟った。日和に何を言っても無駄であると。どんなに嫌がられても、煙たがられても、彼女は懲りずに自分に気に掛ける。実際に恨まれた経験があるからなおさらであると無理やりな理論を押し付けて。そんな強引な彼女を誰が止められる?いや、止められるはずがないと悟ったのだ。

 

「・・・あー、くそ!もう勝手にしろよ!」

 

日和の根気に負けしたクリスは顔を赤くしてそう言い放ち、照れを隠すためにそっぽを向いた。その様子を見た日和はにっこりと微笑んでいる。

 

「照れてる。かわいいなぁ」

 

「うるせー!!それはマジでほっとけ!!」

 

「東雲の前では、雪音も形無しだな」

 

クリスの頑固な一面も日和の強引さで少しは和らいだことに翼は微笑み、そう呟いた。同じくこの光景を見ていた響と未来も、日和はすごいと感じながら笑みを浮かべている。

 

「あ、そういえば響ちゃん、クラスの子から聞いたんだけど、夏休みの宿題、提出できてないんだって?」

 

「ぎょっ!!?そおだった~~!!」

 

日和の思い出したように話を夏休みの宿題になった時、響は頭を抱えて絶叫した。実は響は夏休みの宿題を夏休みまでにやり切れず、始業式にまで伸ばしてもらったのだがその直後にバルベルデに行くことになったので宿題を終わらせることができなかったのだ。

 

「ダメだよ~、宿題はちゃーんとやらなきゃ」

 

「わーん!日和さんに言われた~~!!」

 

日和は得意げな顔になり、ふんすと鼻を鳴らして胸を張っているところ、あきれ顔のクリスがここで1つ指摘する。

 

「とか言ってお前、委員長がいなきゃ絶対間に合わなかっただろ」

 

そう、日和自身もちゃんと提出しているからいいものの、もし海恋の手伝いがなければ響と同じ道を辿っていたのだ。

 

「いやいや、あれもあれでかなり地獄だよ?宿題が終わるまでお買い物に行くことも気晴らしもできなかったんだから~。おかげで夏休みの序盤は宿題漬けでした・・・」

 

海恋がいないことをいいことに、日和は夏休み序盤の苦行に対する愚痴をこぼしている。ちなみに日和が夏休み序盤から宿題をやることになったのは、海恋が言うには『日和のペースでやったら絶対に間に合わない』とのことである。

 

「日頃の行いの結果だろ」

 

「なんだよクリスまで~・・・」

 

「まぁいいではないか。西園寺も東雲を思ってのことなのだろう?」

 

「ぶぅー・・・」

 

あまり納得いかない日和はふてくされたように頬を膨らませている。それとは余所に響は未来に泣きついている。

 

「うぅ~・・・どうしよう未来ぅ~・・・」

 

「頑張るしかないわね。誕生日までに終わらせないと」

 

誕生日という単語に翼が反応した。

 

「立花の誕生日は近いのか?」

 

「はい。13日です」

 

「へぇ~、海恋と同じ9月生まれか~」

 

響と海恋の誕生日が9月だということに日和は意外な共通点に驚いている。

 

「おいおい、後2週間もないじゃねぇか。このままだと、誕生日も宿題に追われて・・・」

 

他愛な話をしているところに、装者たちの通信端末が鳴り響いた。装者たちはすぐに端末を取り出し、通信に応答する。

 

「はい、響です!」

 

『アルカ・ノイズが現れた!位置は19区域、北西Aポイント!そこから近いはずだ!急行してくれ!』

 

弦十郎の指示に従い装者たちは急ぎ、アルカ・ノイズが現れた区域へと移動を開始するのであった。

 

~♪~

 

アルカ・ノイズ出現区域までたどり着くと、そこには錬金陣が展開され、そこから数多くのアルカ・ノイズが現れる。応戦するために響たちはすぐにギアを纏うため詠唱を唄う。

 

Balwisyall Nescell Gungnir tron……

 

ギアを纏った装者たちはすぐにアルカ・ノイズを殲滅するために行動を開始する。響は拳で、翼は刀で、日和は棍で、クリスはボウガンで次々とアルカ・ノイズを蹴散らしていく。装者4人が戦っている様子をプレラーティとカリオストロが建物の上で眺めていた。そこに、転送陣が出現し、そこからサンジェルマンとエドワードが転移してきた。

 

「待たせたかのぅ?」

 

「ようやくご到着なワケダ」

 

「首尾は?」

 

「誘い出したところよ」

 

「エドワード、例の物を」

 

「無論、用意しておる」

 

エドワードは1枚の札を取り出し、それをサンジェルマンに渡す。サンジェルマンがそれを受け取ると、札は形を変え、ダイヤルが組み込まれた筒のようなものになった。筒の中に入ってあるのはアルカ・ノイズの結晶だ。

 

「試作に終わった機能特化型じゃ。暇つぶし程度に作ったものじゃが、今が使い時じゃろうて」

 

サンジェルマンが筒のダイヤルのロックを錬金術で解除し、中を開けてアルカ・ノイズの結晶を1つ取り出した。

 

「その力、見せてもらいましょう」

 

サンジェルマンは手に取ったアルカ・ノイズの結晶を装者たちが戦っている戦闘区域に向けて放り投げた。結晶は落下地点で砕け散り、赤い輝きを放った。

 

「あれはアルカ・ノイズか?」

 

「新手のお出ましみたいだな!」

 

新たに現れるアルカ・ノイズに装者たちは身構えるが、辺りがプラネタリウムの様に星が投影され、白い輝きが辺り一面を覆い尽くした。

 

~♪~

 

本部の方でもアルカ・ノイズの反応を示しており、そのサイズは大型である。モニターには大型アルカ・ノイズが放った光で覆われていた。

 

「大型のアルカ・ノイズを確認!」

 

光が晴れると、モニターにはまるで何もなかったかのように装者たちもアルカ・ノイズも消えていた。

 

「消えただとぉ!!?」

 

「装者たちの映像を捉えられません!」

 

「ギア搭載の集音器より、辛うじて音声を拾えます!」

 

「空間を閉じてしまうアルカ・ノイズ・・・」

 

間違いなくアルカ・ノイズはいるはずだが、本部のモニターには装者を含め、捉えることができない。幸いにも、集音器のおかげで音声は拾えるが、目では状況を見ることができないため、サポートが困難になってくる。

 

~♪~

 

戦闘区域内で戦っていた装者たちは大型アルカ・ノイズの力によって、宇宙空間のような空間に閉じ込められてしまっている。どういうことかわからず、4人は困惑している。

 

「さっきまで街中だったのに・・・」

 

「いったいどうなってるの・・・?」

 

困惑している間にも、この空間内にいるアルカ・ノイズの群れが4人に向かって近づいてきている。ここがどこだろうとアルカ・ノイズ殲滅することには変わらない。向かってきたアルカ・ノイズを翼は刀で切り払う。だが、ここで異常が発生した。普段通りならばここでアルカ・ノイズはプリマ・マテリアとなって塵となるはずなのだが、切り裂かれたアルカ・ノイズは切り裂かれた胴体を結合して、元の状態に戻ってしまったのだ。

 

「⁉バカな⁉」

 

「攻撃が・・・」

 

「全部通らねぇのか!!?」

 

「いったいどうして!!?」

 

響が拳で打撃を与えても、日和が棍で振り払っても、クリスがガトリングで貫いても、アルカ・ノイズに攻撃が通らず、倒すことができない。

 

~♪~

 

装者たちの声でアルカ・ノイズに攻撃が通らなくなってしまった状況に藤尭はある推測を立てる。

 

「⁉まさかAnti LiNKER!!?でもいったい、誰が・・・」

 

Anti LiNKERはシンフォギア装者の適合率を下げてしまう薬物でそれによって適合率が下がり、攻撃力が下がったとと考えてるらしいが、装者たちはこれによって息切れしてる様子は見られない。

 

「いえ!各装者、適合係数に低減は見られません!」

 

「つまり、こちらの攻撃力を下げることなく、守りを固めているのだな!」

 

Anti LiNKERの可能性がなくなったと判断した弦十郎はすぐに装者たちに情報を伝えようとする。

 

~♪~

 

何をやっても元通りになってしまうアルカ・ノイズに苦戦する装者たちに弦十郎からの通信が届いた。

 

『4人とも、聞こえるか!』

 

「おっさん!どうなってやがる⁉」

 

『そこはアルカ・ノイズが創り出した亜空間の檻の中と見て間違いない!』

 

「亜空間の檻・・・ですか・・・?」

 

『そこではアルカ・ノイズの位相差障壁がフラクタルに変化し、インパクトによる調律が阻害されています!』

 

『ギアの出力が下がったように思えるのは、そのためです!』

 

アルカ・ノイズにも位相差障壁はあるが、元来のノイズと比べれば極端に低い。だが姿が見えないアルカ・ノイズが作ったこの亜空間内ではそれが大幅に強化され、ただの一撃では倒しきることができない。それが苦戦している原因となっているのだ。

 

「だったら、ドカーンとパワーを底上げてぶち抜けば・・・!」

 

「呪いの剣の抜きどころだね!」

 

4人はこの状況を打破するために、ギアに搭載された呪いの剣の解放を決断する。

 

「「「「イグナイトモジュール!抜剣!!」」」」

 

4人は自身のギアコンバーターのスイッチを押し、それを取り外して掲げた。ギアコンバーターが起動し、無機質な『ダインスレイフ』という音声が鳴り、宙に浮いて変形し、光の刃を展開された。そして、光の刃は4人の胸を刺し貫いた。これによって、禍々しい呪いの力が4人の身体に流れ込み、それが力となる。身体を包み込んだ闇は黒く染まった禍々しいシンフォギアとなった。これこそが、シンフォギアに搭載された呪いの剣、イグナイトモジュールである。

イグナイトを身に纏った4人は襲い掛かってくるアルカ・ノイズに各々の力で攻撃を仕掛ける。攻撃が直撃したアルカ・ノイズは再生されず、プリマ・マテリアとなって消滅する。

 

(イグナイトの力でなら、守りをこじ開けられる。だが・・・)

 

「こいつらに限りはあんのか!!?」

 

「倒しても倒してもキリがない・・・!」

 

攻撃が通るようになったのはいいが、いくら倒してもアルカ・ノイズの数は一向に減る様子がない。さらにイグナイトには制限時間が存在する。解決策がない以上、状況が好転したとは言えない。

 

~♪~

 

音声だけで状況把握することしかできない状況下の中でブリッジにマリアたちが駆け付けた。

 

「抜剣した以上、カウントオーバーはギアの停止!立ち止まるな!」

 

マリアは亜空間内で戦う4人にエールを送る。

 

「何もできないもどかしさ・・・」

 

「黙って見るばかりなんて嫌デスよ・・・!」

 

「それでも・・・信じて見守ることしかできない・・・」

 

調と切歌は見守ることしかできない状況下にもどかしさを感じている。フォルテはこの状況下でも冷静に、仲間を信じて見守っている。

 

「ボクがLiNKERの研究に手間取ってるから・・・。でも・・・!」

 

LiNKERの開発に手間取っている事態に責任を感じつつも、エルフナインは最後まで諦めず、何か状況が好転できないか、アルカ・ノイズが現れた状況を思い出す。

 

(何か・・・ボクにも何かできるはず!位相差障壁を亜空間の檻に・・・そして強固な鎧と使いこなす新型アルカ・ノイズ・・・出現した時に観測したフィールドの形状は半球・・・)

 

様々な状況を考察して、エルフナインはこの状況を打破する突破口を閃いた。

 

「皆さん!そこから空間の中心地点を探れますか⁉こちらで観測した空間の形状は半球!であれば、制御気管は中心にある可能性が高いと思われます!』

 

エルフナインは閃いた突破口を戦っている4人に通信で伝えた。

 

~♪~

 

エルフナインの言葉を聞き、最初に行動したのはクリスだ。クリスは回転しながらガトリングを撃ち放ち、弾丸を辺りに存在する岩に直撃させる。

 

「クリス!そんな闇雲に撃っても・・・」

 

「歌い続けろ!ばら撒いたのは、マイクユニットと連動するスピーカーだ!空間内に反響する歌声をギアで拾うんだ!」

 

「そうか!ソナーの要領で私たちの位置と、空間内の形状を把握できれば!」

 

クリスの考えを理解できた3人は歌いながら戦闘を再開する。スピーカーから4人の声が合わさった歌が流れ始めている。このスピーカーの音波が空間内に響き、この音波によって、かすかながらに敵影が見えた。

 

「そこだぁ!!!」

 

クリスはその瞬間を見逃さず、腰部のミサイルを展開して見えた敵影に向かって一斉発射する。

 

【MEGA DETH PARTY】

 

発射されたミサイルは敵影に直撃し、爆発した。爆発の煙が晴れると、不可視だった存在がようやく姿を現した。その姿は菱形の胴体に長い両手と両足が地に着いた奇妙な大型アルカ・ノイズだ。

 

「あれが、この空間を作り出しているアルカ・ノイズ・・・!」

 

『それです!それを破壊してください!』

 

「立花!乗れ!」

 

「はい!」

 

響は翼の指示で彼女が構えた刀の上に乗ると、巨大な両刃剣に変形し、カタパルトを創り出す。クリスが翼の後ろに立ちに、両刃剣の両サイドに巨大なミサイルを装填する。そしてクリスの後ろに日和が立ち、両腕のユニットから棍を取り出し、それを両刃剣にレバーになるように突き刺した。そして、日和のギアの尻尾装飾の先端の棍を展開し、それを逆立たせる。最後に響がクラウチングスタートの態勢をとった。

 

【QUATRITY RESONANCE】

 

「勝機一瞬!この一撃に全てを賭けろ!!」

 

翼の号令で両サイドのミサイルが点火し、両刃剣が大型アルカ・ノイズに向かって発射される。そこへ日和がレバーの棍を前に倒し、さらに尻尾装飾の棍が素早く回転し、竜巻を創り出してさらに両刃剣のスピードを加速させた。一定の距離までたどり着いたところでカタパルトが発射され、響が飛び出した。発射されたスピードに乗って響は大型アルカ・ノイズに飛び蹴りを放ち、アルカ・ノイズの胴体を貫いた。さらに後に続くように翼の両刃剣が突撃し、大型アルカ・ノイズを斬り裂いた。

 

大型アルカ・ノイズを倒したことにより、亜空間は消え去り、元の街に戻った。残った小型アルカ・ノイズをクリスがガトリングで、日和が棍を振り下ろして倒したことで全てが片付いた。

 

~♪~

 

本部の方でもモニターでその様子を確認できた。

 

「どうやら、うまくいったみたいですね」

 

「ふぅ・・・」

 

装者たちが無事に戻ってきてくれたことに弦十郎はほっとしたように息を吐いた。調と切歌が手を繋いで笑顔で飛び跳ね、今回アルカ・ノイズを倒すことができた立役者のエルフナインにマリアが彼女の肩にpんと手を乗せた。そして、フォルテが笑みを浮かべて彼女に労いの言葉をかける。

 

「よくやってくれたな、エルフナイン」

 

「マリアさん!フォルテさん!皆さんからもらった諦めない心は、ボクの中にもあります!だからきっと、LiNKERを完成させてみせます!」

 

「待っているわ」

 

エルフナインの意気込みに、マリアたちはLiNKERが完成されるその時を待つことに決めた。

 

~♪~

 

全ての一部始終を見ていた錬金術師。その中でもカリオストロはつまらなさそうな顔をしていた。

 

「あーあ、あわよくば、と思っていたけど、仕方ないわね。目的は果たせたし」

 

「ふふ、妾は十分に楽しめたぞ。やはり物事が簡単に進むものほどつまらぬものはない。しばらく退屈せずに済みそうじゃ」

 

逆にエドワードは愉快そうに笑っている。そもそも試作型にそこまでの期待はしていなかったが、それでも自分の作品を倒した装者たちの力量がエドワードの琴線に触れたようだ。

 

「ふーん?そんなのんきでいいの?」

 

するとそんな彼女たちの前にティキが現れた。

 

「ティキ。アジトに残るよう言ったはずよ」

 

どうやらサンジェルマンはティキに待機を指示していたようだが、ティキはそれを無視してやってきたようだ。

 

「だってぇ、アダムに会えるかと思ってぇ。でも怒らないで?いいことがわかっちゃったの!」

 

「何?」

 

「なんと!ここは私たちが神様に喧嘩を売るのに具合がよさそうなところよ!これ以上ないってくらいにね?」

 

くるくると回るティキが空を見上げると、彼女の瞳に観測した星の運航が映し出された。

 

~♪~

 

戦いが終わった頃には夜になっており、その時間帯の日和と海恋の部屋。そこに海恋当ての手紙が届いた。日和の帰りを待っていた海恋はこの手紙と、封筒と一緒に入っていたものを見て驚愕している。手紙にはこう書かれている。

 

『翌日の早朝、指定場所に来い。懸命な判断を求む』

 

封筒に一緒に入っていたものは数枚の写真。そこにはフードを被った人間たちが西園寺家の使用人・・・海恋の両親に迫っている姿が映し出されていた。

 

「な・・・によ・・・これ・・・!」

 

こんな写真と手紙が届いたことに海恋は手が震えている。驚きのあまり手紙と写真を手放してしまう。すると・・・

 

ボウッ!

 

「なっ・・・」

 

届いた手紙と写真に突然火が付き、手紙と写真が火に包まれた。火は不思議なことに机や本などに火がつかない。海恋はこれを見た瞬間、1つの可能性が浮かんだ。そんな時に日和が帰ってきた。

 

「ただいまー。海恋ー?」

 

「お・・・おかえり。今机の整理をしてるところだから、その間手を洗ってきなさい」

 

海恋は日和を勉強机に近づけさせないようにそう言った。

 

「わかったー」

 

すぐに了承した日和は手を洗うために洗面所に移動する。日和が行ったところで海恋はほっと息を吐き、燃えカスが残った勉強机に視線を向ける。燃えカスは丁寧に描いたように、パヴァリア光明結社のマークを形作られていた。




日和の変身バンクAXZバージョン

聖歌を歌い終えると、上に掲げていた手から順にインナースーツを身に纏う。
次にリボルバー式ユニットが回転しながら生成し、両手首に装着。同時に両腕に腕部の装甲が生成され、装着。右手首のユニットより棍を射出し、槍の長さまで伸ばし、手に取って回す。
次に腰部に尻尾装飾を生成し、腰部に装着。同時にベルト装飾が腰に巻き付き、パレオが出現し、脚部に機械装甲を装着する。
最後に機械のウサギ耳のヘッドギアを生成し、それを耳を覆うように装着する。最後に回した棍を振るい、とどめに歌舞伎のように左手の棍を構え、右手の掌を前方に掲げたポーズを取る。


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トラブル・イズ・西園寺

本日はフォルテさんの誕生日でございます。ぜひとも祝ってあげてくださいませ。


これは大昔の記憶。サンジェルマンがまだ子供であった頃の記憶。サンジェルマンは病に患っている母を助けようと思い、父に助けを求めようとした。身分の違いで相手にもされず、サンジェルマンは部下の男たちに取り押さえられていた。

 

「お母さんを助けてください!!ずっと熱が下がらなくてすごく苦しそうで・・・お願いです、助けて、お父さん!!」

 

「奴隷が私にすり寄るな!!!粉吹く虫の分際で!!」

 

サンジェルマンの声が煩わしくなった父は振り返り、怒鳴り声を上げた。そしてサンジェルマンに近づき、彼女を張り倒した。サンジェルマンは階級貴族である父が戯れで奴隷である母に手を出したことで生まれた子供で、父からの愛情などあるはずもない。

 

「慰みを与えた女の落とし子につけあがらせるな。奴隷根性を躾けておけ」

 

父はそう吐き捨て、去っていった。

 

援助を得ることができなかったサンジェルマンは母がいる部屋に戻った。

 

「ごめんお母さん。今日も食べ物を手に入れられなくて・・・。でも一昨日のパンがまだ残っているから・・・」

 

声をかけたが返事はなかった。どうしたのかと思い、サンジェルマンは母に呼び掛ける。

 

「お母さん?お母さん!」

 

何度も声をかけたが、母に返事はなかった。それどころか母はピクリとも動くことはなかった。

 

「お母・・・さん・・・」

 

そう・・・母はすでに衰弱死し、この世を去ってしまったのであった。

 

~♪~

 

サンジェルマンは明かりが灯っていないエドワードの研究部屋で自身が奴隷であった頃の記憶を思い出していた。研究部屋は和が強調されており、床は畳、書物などは巻物、筆記用具などは筆などといった徹底ぶりだ。書物には神の力の解析、アルカ・ノイズのレシピ、錬金術師でも解読困難な図面などが書かれている。そんな和の研究部屋に場違いな装置が設置されいる。装置の中にはハート形の結晶が4つ入っていた。

 

「ラピス・・・錬金の技術は、支配に満ちた世の理を、正すために・・・」

 

サンジェルマンには、自分と同じ境遇の者を生み出せはしないという強い志が燃えていた。

 

~♪~

 

西園寺家の洋屋敷。この屋敷の正門が開かれ、緊迫した顔をした海恋が入ってきた。先日届いた手紙に書かれていた指定場所とは西園寺家の屋敷だったのだ。夢を叶えるまでは戻らないと誓った家だが、そうも言ってられない状況であるのは間違いない。海恋は警戒を解くことなく、慎重に奥へと進む。懐かしい屋敷、変わらない額縁を見ても、懐かしいという感情は抱かない。その理由は、屋敷が不気味なほど静かで、使用人が誰1人として見当たらないからである。心地悪い心境を抱きながら、海恋は指定場所である父の執務室に入る。だが執務室には誰も人がいない。

 

「1人で来たわよ!いい加減姿を見せたらどう⁉」

 

海恋が声を上げても、待っていたのはしばらくの沈黙。すると、その沈黙を破るように床から複数の転送陣が現れ、そこから数多くのフードを被った人間が現れる。突然現れたフードの人間に海恋は固唾を飲んでいる。

 

「誰にも相談せず、たった1人で来ようとは・・・なかなか勇気があるではないか」

 

同時に執務室に女性の声が聞こえてきた。その声の主はいつの間にかオフィスチェアに座っていて、海恋に背を向けている。発せられた声にフードの人間たちは全員片膝をついて跪いた。

 

「あなたは・・・何者なの・・・?」

 

海恋の問いかけにオフィスチェアに座った女性は座ったまま海恋に顔を向けた。

 

「妾は、パヴァリア光明結社の錬金術師。名をエドワードという。気軽にエドと呼んでくれて構わぬぞ」

 

その女性とは、パヴァリア光明結社の幹部の1人、エドワードであった。エドワードは視線を海恋に向けたまま、妖しく笑っている。

 

~♪~

 

錬金術師たちは街中にある高級ホテルで待機していた。カリオストロは街の光景を眺めており、ティキはベッドに寝そべり、少女漫画であるうたずきんを読んでいる。だが何が面白いのかわからないといったように、退屈そうにしている。

 

「はぁ~・・・退屈ったら退屈~!いい加減アダムが来てくれないと、あたし、退屈にくびり殺されちゃうかも~!!このこの~!!」

 

「・・・ふん」

 

その様子をソファに座って見ていたプレラーティは鼻を鳴らして紅茶を飲んでいた。プレラーティはティキのことが苦手というより、大がつくほどに嫌いである。ティキが計画の要でなければ、とっくの昔に壊していたところだ。

 

「ねぇ、エドは?」

 

カリオストロがエドワードがどこにいるか訪ねてきた。

 

「知らないワケダ。でも自分の配下の錬金術師を何人も引き連れているのを見たワケダ」

 

「あらあら、ずいぶん大所帯ねぇ」

 

どうやらエドワードは自分が何をやっているかまでは教えていないようだ。

 

「まぁ、あの人ならヘマはしないワケダ」

 

「それもそうね。で、サンジェルマンは?」

 

「私たちのファウストローブの最終調整中なワケダ。踊るキャロルのおかげで、ずいぶんと捗らせてもらったワケダ。後は・・・?どこに行こうとしてるワケダ?」

 

質問に答えたプレラーティの横をカリオストロは通り抜ける。プレラーティはティーカップとソーサーを持ったままソファから立ち上がる。

 

「もしかしてもしかしたらぁ!まさかの抜け駆け⁉」

 

「ファウストローブ完成まで待機できないワケダ・・・」

 

「ローブ越しってのがもどかしいのよねぇ。あの子たちは直接触れて、組みしきたぁいの♡」

 

カリオストロは振り返り、自身の身体を抱いて楽しそうに言った。

 

「直接触れたいって、まるで恋ような執心じゃな~い!あー!あたしもアダムに触れてみたい!むしろ散々バラ振れ倒されたい~!!」

 

カリオストロの言葉に共感したのかティキはが身をよじらせ、ベッドに倒れ込んで左右に転げまわった。その様子にプレラーティは深い呆れの感情を抱いた。

 

~♪~

 

西園寺家の屋敷でエドワードと対面する海恋は自分が今気になっていることを問いつめようとする。

 

「みんなをいったいどこにやったの!!?あなたたちの目的はいったい何!!?」

 

海恋の態度を無礼だと感じ取ったフードの人間・・・いや錬金術師たちは海恋に近づこうとした時、エドワードが左手を軽く上げて、それを制した。

 

「ふぅ・・・最近のわっぱは困ったものじゃ。ロクに考えようとせず、すぐに答えを求めようとする」

 

「答えて!!」

 

「まぁ、よかろう。1人でやってきたその勇気に免じよう。1つ目の質問じゃが・・・汝が言っておるのは・・・これのことかのぅ?」

 

海恋の質問に答えるようにエドワードは黄金の球体を取り出した。黄金の球体には、西園寺家の使用人、海恋の両親が眠っていた。

 

「父さん!!母さん!!みんな!!」

 

「安心せい。殺してはおらぬ。今はただ、眠っておるだけじゃ。事が終われば全員解放すると約束しよう」

 

海恋を安心させるようにエドワードはそう言ったが、当の本人はキッとした表情で睨みつけてくる。その様子にエドワードはクスリと笑っている。

 

「もう1つの質問についてじゃが・・・そうじゃのぅ・・・あるべき姿を取り戻すため・・・と言わせてもらおうかのぅ?」

 

「あるべき・・・姿・・・?」

 

あるべき姿という単語に海恋は疑問符を浮かべている。

 

「この家には元々あるべきものが存在しておった。じゃが、それは時代の流れによって、今や忘れ去られた存在となってしもうた。妾はそれを取り戻したい。そのためには今の支配構造が邪魔でのぅ。現代の仕組みに乗っ取らせて、このようにさせてもらったというわけじゃ」

 

「現代の仕組み・・・?」

 

現代の仕組みという単語を聞き、海恋は考えた。そして、すぐにその答えを見つけた。

 

「まさか・・・西園寺グループの買収は・・・!」

 

「なかなか察しがよいのぅ。そうとも。買収相手とは・・・妾のことであるぞ」

 

この西園寺グループの買収を仕掛けたのは、このエドワードであったのだ。だが海恋はそれならばこのように西園寺家を襲撃した意味が理解できなかった。

 

「だったら何でこの屋敷を襲ったのよ!それも取り戻したい何かが関係しているの⁉」

 

「そうじゃのぅ・・・教えてやってもよいが、それではつまらぬからのぅ・・・ふむ・・・」

 

エドワードは考える素振りをして、笑みを浮かべながらある提案をした。

 

「ではどうじゃろうか?ここは1つ、妾と勝負せぬか?」

 

「・・・勝負?」

 

「そうとも。勝負を受ければ、妾の取り戻したいものを教えてやろう。それだけではない。もし汝が勝てば、買収の話は全てなかったことにしてやろう」

 

「!!?」

 

「逆に、妾が勝てば、その西園寺グループとやらは妾のものじゃ」

 

海恋は耳を疑った。これだけ事を大きくしておきながら、勝負1つ勝つだけで全てをなかったことにしようとしていることが信じられなかった。

 

「本気で言っているの!!?」

 

「買収の件じゃがのう。もうすでに9割は完了して、株主も納得しておる。あと一押しで妾の目的は達成する。じゃが妾はあえてそれをしない。それではつまらぬからのぅ。スリルが足りぬ。この妾を激しく燃えたぎるスリルが。ならばこの状況はうってつけだとは思わぬか?西園寺の命運を賭けた大博打。ぞくぞくするじゃろう?」

 

エドワードの解釈に海恋は彼女を睨みつけつつ、黄金の球体を見る。普段なら挑発に乗ることはないのだが、あの球体には両親や使用人がいる。危害は加えないと言っていたが、どこまで信じていいかわからない。曲がりなりにも育ててくれた家族を放っておくなど、海恋にはできなかった。

 

「・・・わかった。その代わり、その人たちには手を出さないで!」

 

「ふふふ、自分や家よりも家族優先とは、健気じゃのぅ。妾はそういう思いやりは好きじゃぞ。いいじゃろう。元よりこちらもこれ以上事を荒立てるつもりはないのでな」

 

エドワードは笑いながら懐から花札を取り出し、それを海恋の足元に飛ばした。

 

「いつもなら賭博・・・と言いたいところじゃが、汝はまだわっぱじゃからのぅ。ここは1つ、こいこいという遊びをしようではないか。じゃが、ただ普通にやるのではない。自身の番が終わるたびに、1つ問題を出し、正解ならば番を譲り、不正解ならばもう1度自分の番を行う特殊ルールじゃ。推測、知恵、そして運が試される勝負じゃ。賭博ほどではないが、中々おもしろいじゃろぅ?」

 

特殊ルールを聞いた海恋は花札を拾い、エドワードに促されたテーブルの椅子に座る。それを確認したエドワードはもう1つの椅子に座り、錬金術でテーブルに花札を並べた。

 

「さあ・・・始めるとするかのぅ」

 

全ての準備を整え、エドワードは頭の狐のお面を被る。海恋にとって負けられない特殊こいこいが始まった。

 

~♪~

 

一方その頃、S.O.N.G主要メンバーと装者一行を乗せた装甲車はとある場所へと向かうために松代の道を走っている。

 

「先の大戦末期、旧陸軍が大本営移設のために選んだこの松代には特異災害対策起動部の前身となる非公開組織、『風鳴機関』の本部もおかれていたのだ」

 

「風鳴機関・・・」

 

風鳴という名前に日和、響、クリスの3人は思わず翼に視線を向ける。風鳴は翼や弦十郎、そして翼の父八紘の苗字だ。風鳴機関と深く関係があるのは、言うまでもない。

 

「資源や物資の乏しい日本の戦局を覆すべく、早くから聖遺物の研究がおこなわれてきたと聞いている」

 

「それが天羽々斬と、同盟国ドイツより齎されたネフシュタンの鎧やイチイバル、ガングニール・・・そして遺跡より新しく発見された如意金箍棒・・・」

 

「バルベルデで入手した資料はかつてドイツ軍が採用した方式で暗号化されていました。そのため、ここに備わっている解読器に掛ける必要が出てきたのです」

 

翼たち3人が持ち帰ってきた資料はドイツ軍の採用された暗号のおかげで解読困難とされている。その状況を打破するために風鳴機関に向かわなくてはいけないというのが現状だ。ただ、その間、最高レベルの警戒態勢に入るため、そこに住む住民たちは退去命令が下されるのだ。その光景は装甲車の窓からよく見える。

 

「暗号解読器の使用にあたり、最高レベルの警備態勢を周辺に敷くのは理解できます。ですが、退去命令で、この地に暮らす人々に無理を強いるというのは・・・」

 

「守るべきは、人でなく・・・国」

 

「人ではなく・・・」

 

守るべき対象は人ではなく国であるという風鳴機関の考えに装者たちは顔を強張らせる。響は顔を俯かせて、曇った表情を見せている。

 

「世も末だな。民あっての国であろうに」

 

「少なくとも、鎌倉の意思はそういうことらしい」

 

フォルテの皮肉ともいえる言葉に弦十郎は静かにそう返答を返した。話している間にも装甲車は風鳴機関の研究施設に到着した。

 

~♪~

 

風鳴機関の研究施設内。ここにあった暗号解読器が稼働を始め、バルベルデの資料の解読が始まった。

 

「難易度が高い複雑な暗号だ。その解析にはそれなりの時間が要するだろう。翼」

 

「ブリーフィング後、雪音、東雲、立花を伴って周辺地区へ待機。警戒任務にあたります」

 

「うむ」

 

弦十郎が指示を出す前に翼が警戒任務の進言した。翼の言葉に弦十郎は首を縦に頷く。

 

「あの・・・私たちは何をすれば・・・」

 

ギアを纏うことができない自分たちは何をすればいいか調は弦十郎に訪ねた。

 

~♪~

 

フォルテ、マリア、調、切歌に与えられた役目は避難に遅れた住民たちの捜索である。双眼鏡を持って周囲を見渡す調と切歌。その後ろにマリアとフォルテがついていきながら辺りを見渡す。

 

「9時方向異常なし!」

 

「12時方向異常・・・ああああああ!!」

 

何かを発見した切歌は突然大きな声を上げた。3人は切歌が見た視線の方向に顔を向ける。

 

「あそこにいるデス!!252!レッツラゴーデス!」

 

切歌は農園で見えたかかしに指をさし、そちらへと向かっていった。

 

「真似してみたいのはわかるけど切ちゃん・・・それは・・・」

 

「早くここから離れて・・・て、怖!!人じゃないデスよー!!」

 

「最近のかかしはよくできてるから・・・」

 

「まぁ・・・間違えるのも無理はないだろう」

 

切歌の様子に調は呆れ、彼女の元に近づいていった。その様子に微笑むフォルテだが、マリアの表情はどこか暗かった。

 

「LiNKERのない私たちにできる仕事はこれくらい・・・」

 

「これも立派な仕事だ。悲観することはない」

 

LiNKERがない状況下がもどかしく感じるマリア。それは調と切歌も同じであろう。そんな3人の気持ちを纏めるように1番大人なフォルテがフォローに入っている。

 

「これを機に気を紛らわせたい気持ちはわかる。だが焦るな。エルフナインは必ずやってくれる。そうだろう?」

 

「・・・そうね。フォルテの言うとおりね」

 

フォルテのフォローによって沈んでいた気持ちが少しは和らいだマリア。

 

「そうデス!今は住民が残っているかを全力で見回るのデス!」

 

「ふっ、力みすぎて空回りしないようにな」

 

「わかってるデス!任務再開デース!」

 

頬を叩いて気合を入れ直した切歌は前を見ずに走り出した。そのちょうど同じタイミングで切歌の目の前でトマト畑から人影が飛び出してきた。

 

「切ちゃん!後ろ!」

 

「ひょえ!!」

 

「言っているそばでか・・・」

 

調が注意するもすでに遅く、切歌目の前に現れた人物とぶつかってしまった。その際にいくつかのトマトが転げ落ちて地面に転がっている。ぶつかった人物のおばあさんは格好から見てこの畑の主と見て間違いないだろう。マリアとフォルテはぶつかった人物の元へ駆けよる。

 

「大丈夫ですか⁉」

 

「ごめんなさいデス!」

 

切歌はすぐに膝をついてぶつかったおばあさんに謝罪する。

 

「いやいや、こっちこそすまないねぇ」

 

切歌の不注意をおばあさんは笑って許してあげた。

 

「政府からの退去指示が出ています。急いでここを離れてください」

 

「はいはい。そうじゃね。けど、トマトが最後の収穫の時期を迎えていてねぇ」

 

おばあさんはかごの中に入っていたトマトを握って見せてくれた。

 

「わぁ!」

 

「おいしそうデス!」

 

「おいしいよぉ。食べてごらん」

 

調と切歌はおばあさんからトマトを受け取り、切歌はさっそくそれをかぶりついた。

 

「ん~!!おいしいデス!!調も食べるデスよ!」

 

「いただきます。はむ・・・。本当だ!近所のスーパーのとは違う!」

 

トマトの味はとてもおいしく、2人はお互いに笑いあっている。

 

「そうじゃろう。丹精込めて育てたトマトじゃからなぁ」

 

「あ、あのね、お母さん・・・」

 

マリアがおばあさんに避難を促そうとした時・・・

 

「きゃはーん!みぃーっつけた♡」

 

マリアが危惧していたことが的中するかのように、カリオストロが急襲してきた。マリアがおばあさんを下がらせ、フォルテ、調、切歌が前に出る。

 

「あれま、じゃない方。いろいろと残念な三食団子ちゃんたちに、超絶美形なイケメン君かぁ・・・」

 

「三!!?」

 

「食!!?」

 

「団子とはという意味デスか!!?」

 

カリオストロの挑発ともとれる言葉にマリア、調が反応し、切歌が憤慨する。フォルテ自身も言葉にはしないが、イケメンと言われても嬉しくないため、こめかみが引くついている。

 

「見た感じよ?怒った?まあがっかり団子三姉妹たちとやり合ってもねぇ~・・・」

 

「その舐めた態度が命取りだ!」

 

先手に出たのはフォルテだった。フォルテは走り出し、カリオストロに目掛けて拳を振るった。カリオストロはその拳をぎりぎりで躱した。

 

「ちょ・・・!!?」

 

さらに追撃するようにフォルテはカリオストロに蹴りを放つが、これも避けられてしまう。しかしフォルテの身体能力を見抜けなかったのは、よほど舐めきっていたからであろう。

 

「フォルテ!」

 

「君たちはご婦人をお守りしろ!」

 

フォルテはマリアたちに的確な指示を送り、マリアたちは首を縦に頷いた。

 

「ちょっと~、生身でも戦えるってあり~?でも、嫌いじゃないわ。あんたあーし的にはタイプかも。どう?あーしとデートでも♡」

 

「断る!」

 

フォルテはカリオストロの挑発に乗らず、拳銃を取り出して発砲する。迫ってくる弾をカリオストロは錬金術の障壁で防いだ。

 

「あらま、残念。なら、信号機とウサちゃんが来る前に、片付けてあげちゃう!」

 

カリオストロはアルカ・ノイズの結晶をばら撒き、アルカ・ノイズを召喚した。いくらフォルテでもギアを纏っていないならば太刀打ちができない。ならば自分たちができることはただ1つ。おばあさんを守りながら逃げるしかない。

 

~♪~

 

アルカ・ノイズが出現した知らせは風鳴機関の施設内でも確認できた。警戒任務にあたっていた装者たちに知らせが届いた。

 

『アルカ・ノイズの反応を検知!出現ポイント、S16!数およそ、50!』

 

「了解です!すぐに・・・」

 

『あたしに任せな!』

 

日和が応答したところに、クリスの通信が遮った。

 

「こっちの方が、近いからな!」

 

現場に向かっているクリスはギアネックレスを取り出し、詠唱を唄う。

 

Killter Ichaival tron……

 

ギアを纏ったクリスは大型ミサイルを放ち、その上に乗ってアルカ・ノイズ出現ポイントに向かうのであった。

 

~♪~

 

マリアがおばあさんを背負い、調と切歌を伴って追いかけてくるアルカ・ノイズから逃げる。フォルテも3人の後を追いながら、迫ってくるアルカ・ノイズに拳銃を撃ち放つ。だがその程度でアルカ・ノイズが止まるはずもなく、弾を受けながらも追いかけてくる。

 

「マリア!もっと急ぐデス!」

 

「くっ・・・!」

 

「こんな奴らに、背中を見せるなんて!」

 

「ぼやくな!走れ!」

 

アルカ・ノイズの1体はフォルテに向かって解剖器官を伸ばしてきた。危機を察知したフォルテは解剖器官に向けて拳銃を放り投げた。解剖器官は拳銃に巻き付き、それを分解した。すると同時に、上空から矢の雨がアルカ・ノイズに降り注いだ。矢に貫かれたアルカ・ノイズは消滅した。放たれた矢は上空に飛ぶミサイルに乗るクリスが放ったものだ。

 

「助かったデス!憧れるデス!」

 

「後は任せた!行くぞ、3人とも!」

 

後をクリスに任せ、4人はおばあさんと共に戦線を離脱する。

 

『クリスちゃん、現着!』

 

『そのまま交戦状態へと移行!』

 

『錬金術師は破格の脅威だ!まずは翼たちの到着を待って・・・』

 

「そうも・・・言ってられなさそうだ!!」

 

弦十郎が通信越しで指示を出す間にも、カリオストロがクリスに向けて光弾を放ってきた。

 

「会いたかったわぁ!ああ〜ん!巡る女性ホルモンが煮えたぎりそうよぉ〜!」

 

クリスはボウガンの矢を放って光弾を相殺するが、全て相殺はできず、一部がミサイルのブースターが直撃し、クリスが降りると同時に爆発する。地に着地したクリスはさらに追撃してきた光弾を躱す。

 

「やっと近くに来てくれたぁ~~~!!」

 

カリオストロは歓喜の声を上げて、多くの錬金陣を展開し、そこよりさらに大量の光弾が放たれる。クリスはバク転して光弾を回避してカリオストロから距離を取る。光弾の直撃によって砂埃が舞う。砂埃が晴れると大弓を構えたクリスが矢の狙いをカリオストロに定める。

 

「焦って大技。それが!命取り、なのよね」

 

だがカリオストロはクリスが矢を放つ前にクリスの背後に回った。だがそれは想定内である。

 

「ああ。誘い水に乗って隙だらけだ」

 

「なっ⁉」

 

逆に自分が誘い込まれていたことに気付いたカリオストロが首を横に振り向くと、響が自身の懐まで入られ、彼女から肘打ちを腹部にもらった。

 

「内なる三合、外三合より勁を発す。これなる拳は六合大槍!!映画は何でも教えてくれる!」

 

カリオストロは起き上がったと同時に上空に気配を感じ、上を見上げる。上空には日和がカリオストロに狙いを定めて棍を投擲する態勢をとっている。

 

「天上天下唯我独尊!それ即ち唯一無二の一撃なり!その身に叩き込め!」

 

決め台詞を放った日和は力強く棍を投擲した。迫りくる棍にカリオストロは跳躍して躱した。棍は地に直撃し、土煙が発する。地に着地したカリオストロはすぐ近くに壁のようなものがあることに気付いた。壁のようなものは鏡のようにカリオストロを映し出している。

 

「壁・・・?」

 

「壁呼ばわりとは不躾な!剣だ!」

 

突き刺さっていたものは壁ではなく、巨大な大剣であった。柄の上で腰に手を当てて佇んでいる翼は剣を壁呼ばわりしたことに力強くそう指摘する。

 

「信号機共がチカチカと・・・!ウサちゃんもちょろちょろと鬱陶しい!」

 

この状況下でも交戦を続けようとするカリオストロにサンジェルマンからのテレパスが届いた。

 

『私の指示を無視して遊ぶのはここまでよ』

 

「ちっ・・・!」

 

カリオストロは舌打ちをして、テレポートジェムを足元に放り投げた。

 

「次の舞踏会は、新調したおべべで参加するわ。楽しみにしてなさい。ばあ~い♪」

 

カリオストロは手を振りながら自分たちの拠点へと転移するのであった。

 

~♪~

 

一方西園寺家の屋敷。執務室で西園寺の命運をかけたこいこいは最終局面に入っている。ポイント数的にはエドワードが非常に有利な状況で、役も揃いかけている。

 

(相手の役は揃いつつある・・・総合得点も、あっちが有利・・・多分、次の一手が勝負の決め所!)

 

「では、錬金術に関する問題を1つ」

 

(来た!錬金術の問題!)

 

エドワードは次の番を決めるための問題を海恋に出す。海恋は相手が錬金術師ならば、必ずこの問題を出すという推測が当たり、身構える。

 

「錬金術は、解析、分解、構築からなる3つが基本じゃが、その構築において最も必要なこと、そして、それに伴うリスクを答えてみよ」

 

人々は錬金術という技術そのものを知らない。普通なら答えられないものだ。だが海恋はエルフナインを通じて錬金術を学び、今も学びを続けている。ゆえに答えられる。

 

「構築に必要なこと・・・それは等価交換。いかに錬金術と言えども、無から有を作ることは決してできない。ゆえに原材料が必要不可欠。そして、正しい構築、原材料を揃えなければ失敗し、それが対価以上のものとなれば、リバウンドが発生し、術者に多大なダメージを負うこととなる!これが、構築に伴うリスク!」

 

海恋が出した答えにしばらくの沈黙・・・そしてしばらくたつとエドワードが拍手を送る。

 

「お見事。実に素晴らしい回答じゃ。さあ、汝の番じゃ」

 

正解して海恋の番になったのはいいが、手元の札では、合い札で札を回収することはできるが、役を作ることはできない。ならば、勝負は山札の1枚で決まる。海恋が山札をめくろうとした時、脳裏に幼少期に培った苦労、孤独、虚無感を味わった日常を思い出した。それら全てを虐げられてきた原因は、他ならない、この西園寺家にある。ならば助ける必要があるのか?しかし、それでも育ててもらった事実は変わらない。自分を娘として認めてほしい。様々な感情が海恋の心に渦巻いてきた。海恋はそんな迷いを無理やり振り払う。

 

(それでも・・・こんなところで終わらせられたら・・・後味が悪いのよ!!」

 

迷いを強引に振り払い、海恋は札を1枚めくった。出てきた札は・・・『松に鶴』。海恋が獲得した合い札が揃い、1つの役が完成した。

 

「雨四光・・・これで・・・あなたの持つ得点を越えた・・・私の・・・勝ちよ!」

 

海恋の得点が雨四光の完成で1点差でエドワードのポイントを越えた。ギリギリと言えど、海恋は勝利を収めたのだ。

 

「・・・一目で記憶できる直観記憶力・・・あらゆる問題を推測する洞察力・・・難問を難なく回答する知恵・・・そして・・・土壇場で掴みとる、天からの恵み、運・・・」

 

エドワードはぶつぶつ呟きながら海恋をじーっと見つめる。そして・・・

 

「・・・ふ・・・ふふ・・・」

 

バッ!ガシャーン!!

 

「はははははははは!!」

 

顔を覆っていた狐のお面を放り投げ、嬉しそうに大きな笑い声をあげた。放り投げた狐のお面は大きな音を立てて割れてしまう。突然高笑いをするエドワードに海恋は彼女を不気味に思った。

 

「な、何がおかし・・・」

 

海恋が問い詰めるよりも先に、エドワードは海恋の顔にずずいっと近づいた。表情も元の状態に戻っている。そして・・・エドワードは驚くべきことを言い放った。

 

「気に入った。西園寺海恋。妾たちパヴァリア光明結社に入らぬか?」

 

S.O.N.Gの敵であるパヴァリア光明結社。そこに所属するエドワードが何の力も持たない海恋を勧誘してきた。海恋は何を言っているのか意味が理解できず、驚愕した表情でエドワードを見つめるのであった。




フォルテの誕生日

マリア「ねぇ、フォルテ・・・」

フォルテ「なんだ?何か言いた・・・」

プルルル・・・

フォルテ「と・・・電話だ。すまないが後にしてくれ」

マリア「あ・・・」

数分経過・・・

マリア「フォルテ、今日なんだけど・・・」

フォルテ「すまない、やらなければいけない仕事ができた。もう少し待ってくれ」

マリア「あ・・・もう!」

仕事が終わるころには夜に・・・

フォルテ「思いのほか時間がかかってしまった・・・。そういえばマリアは、いったい何を伝えようとしていたのか・・・?」

フォルテ、宿泊先のホテルに帰還

フォルテ「今戻った」

マリア「遅い!どれだけ待たせるつもりなのよ!」

フォルテ「マリア?待たせる・・・とはどういう意味だ?」

マリア「どうもこうもないわよ!今日はあなたの誕生日でしょ⁉」

フォルテ「・・・ああ、そうか。今日は僕の誕生日だったか。では話したかったこととは・・・」

マリア「誕生日プレゼントを渡そうと思ってたのよ!それなのにあなたは仕事でのらりくらりと・・・」

フォルテ「すまない・・・」

マリア「・・・まぁ、反省はしてるようだし、特別に許す!みんなのバースデーメッセージも届いてるわよ」

フォルテ「ああ。全て見させてもらう。だが・・・お腹が空いた。ご飯を食べてからでもいいか?」

マリア「あなたはそうやってまた・・・まぁいいか。今日はあなたの好きなものを揃えてあるわ。用意するの、結構大変だったのよ?」

フォルテ「マリア」

マリア「何?」

フォルテ「・・・ありがとう。僕は幸せ者だ」


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黄金錬成

次はそろそろXD編の続きを投稿しようと思っております。


「・・・・・・は?」

 

エドワードからパヴァリア光明結社入りの勧誘された海恋はすぐには理解が追い付けなかった。

 

「何を・・・言っているの・・・?」

 

「汝を結社に迎え入れたいと言うておる。汝の能力は実に素晴らしいものじゃ。妾が提示する問題を難なく答え、なおかつ妾を出しぬくような問題を提示できる豊富な知恵。相手の考えを推測、策を立てる洞察力・・・そして、ギリギリと言えど、この妾に勝利をもたらすほどの運。才能の芽とはよく言ったものじゃのぅ」

 

エドワードの発した単語、才能の芽に海恋は反応した。それは以前キャロルが自分に対して向けられた単語だからだ。

 

「また才能の芽・・・いったい何なの⁉何の才能なのよ⁉」

 

「決まっておろう・・・錬金術師としての才能じゃ」

 

「!!?」

 

錬金術師としての才能・・・それを自身にあると言われて驚愕している。それもそのはずだ。外部協力者という点を除けば、今の今まで普通の女子高生として過ごしてきたのだ。実感を湧くわけがない。

 

「汝のことはキャロルが引き起こした・・・魔法少女事変・・・だったかのぅ?一部始終を観測させてもらったが、汝の記憶力には目を見張るものがあった。すぐに顔合わせでもしたかったが、S.O.N.Gにかぎつけられると面倒でのぅ。どうしたものかと悩んだものじゃが、汝はここの現当主の娘らしいではないか。ならば家出した娘を炙り出すなら簡単じゃ。ざっと120通りも思いつくわ」

 

「じゃあ・・・これは・・・私を誘き寄せるために・・・?」

 

「その通り。あるべき姿を取り戻すためでもあったがのぅ」

 

エドワードは着物の袖口より扇子を取り出し、それを振るって開いて口元に当てる。

 

「なぁに、汝に不自由は強いらせぬ。寝床も、学び舎も、食事も、全てこちらで用意してやろう。体術も後々に身に着けるがよかろう。好きな時に学び、汝の思うように行動するがよい。どうじゃ?不自由を強いられた汝にとって悪い話でもなかろう?」

 

「お断りよ!!」

 

エドワードの勧誘に海恋は声を上げて勧誘を振り払う。

 

「あなたたちのことは知ってる!あなたたちはS.O.N.Gの敵で、いろんなものを利用して、人々を苦しめている!そんな人たちの組織に入るなんて・・・」

 

「浅はかじゃのう」

 

海恋の主張にエドワードは薄ら笑いを浮かべてそう一蹴した。そして、さらに言葉を述べる。

 

「他人の聞いた噂を鵜吞みにし、組織の実態、内情、人間関係・・・様々な要素を払い、何も考えずこれを否定する・・・それは、怠慢というべきではないか?」

 

「誤魔化さないで!!あなたたちは現に人を・・・」

 

「確かにのう。じゃが、革命には犠牲はつきもの・・・如何なる時代においてもこれは変わっておらぬ。ならば、犠牲になった命が新世界の礎になれたことは、このうえない光栄だと思わぬか?」

 

「そんなわけ・・・」

 

「では、逆に汝に質問しよう」

 

自身の主張を否定しようとした海恋にエドワードは彼女の言葉を遮って1つの質問をする。

 

「汝の今の人生は、本当の意味で幸せか?」

 

「え・・・?」

 

質問の内容に海恋は唖然とする。エドワードは海恋の背後に回り込み、両肩を掴んで耳元に囁くようにしゃべる。

 

「例えばじゃ。親に認めてもらえず、ただ操り人形のように人生を弄ばれる。友人が汝の願いとは裏腹に、望まぬ結末へと歩んでいく。それは果たして、汝にとっての幸せと言えるか?納得さえしていれば、友を死地へと送り出すそれは、果たして互いに理解しあえたと言えるか?」

 

「そ・・・それは・・・」

 

エドワードの指摘によって海恋が思い浮かべるのは、苦い思いを味わった幼少期の日常。そして、1番大事な親友、日和が傷つき、倒れていく姿だ。

 

「革命が果たされれば、そんな苦い思いはせずに済むぞ?」

 

「・・・っ!だ、誰が・・・!」

 

海恋はエドワードの勧誘を断り続けているものの、意志はだんだんと揺らぎ始めている。エドワードの指摘に、思うところが多々あるがゆえに。

 

「まぁ、無理強いはせん。返事も急がぬ。決断を急がず、悩み、よく考えてから決めることじゃ。これは他ならぬ、汝自身の人生じゃからのう」

 

エドワードは海恋の両肩に乗せた手を放す。そして、割れたお面に近づき、錬金術でお面を分解して塵にした。

 

「撤収を急がせよ。全て元通りにな」

 

エドワードの指示を受けた錬金術師たちはお辞儀をして、テレポートジェムを割ってどこかへ転移した。

 

「!待って!本当に買収をなかったことにする気⁉」

 

「そういう勝負じゃからのう。それに・・・汝という存在が現れた以上、もはや買収に拘る理由もなくなった」

 

「・・・どういう意味よ?」

 

「ふふ・・・」

 

意味深な言葉に海恋は疑問符を浮かべながらエドワードに問いかけるも、当の本人は笑っているだけだ。エドワードが錬金術で出来上がった塵を手元に集めさせる。そして、錬金陣が塵を包み込ませると、最初に被っていた狐のお面に戻る。

 

「また会いに来るぞ。その時こそ、妾の取り戻したいものを語ってやろう」

 

エドワードがそう言い放つと、黄金の球体は眩い光を放ち、部屋全体を包み込む。海恋はその光に思わず目を閉じる。光が収まり、目を開けて見ると、エドワードの姿はなくなっていた。代わりに、黄金の球体に閉じ込められていた西園寺家の使用人と両親が気を失った状態で現れた。同時に黄金の球体はなくなっていた。

 

「父さん!!母さん!!みんな!!」

 

海恋はすぐに気を失った父親に駆け寄り、容態を確認する。気を失っているだけで、全員無事であることが確認できた海恋は安心してほっと息を吐く。

 

『汝の今の人生は、本当の意味で幸せか?』

 

「・・・・・・」

 

エドワードから放たれた言葉を思い返した海恋は神妙な顔つきになる。まるで全てを見透かされたような・・・そんな気がしてならなかった。海恋は使用人たちが目を覚ます前に執務室から出て、西園寺家の屋敷から離れていった。一旦はどうにかなったが、海恋の頭には、複雑な心境が渦巻いたままであった。

 

~♪~

 

場所は変わって松代。日はすっかり傾いて夕方となり、おばあさんを連れて撤退したマリアたちは退避場所である小学校にいる。おばあさんを背負っていたマリアは彼女を下ろす。

 

「ありがとね」

 

「いえ・・・」

 

「お水もらってくるデスよ!」

 

「待って切ちゃん!私も一緒に!」

 

切歌は物資を運んでいる自衛隊の元に向かい、調が彼女の後を追う。元気な2人を見ておばあさんは優しい微笑みを見せる。

 

「ふふ、元気じゃのう」

 

「ご婦人、お怪我はありませんか?」

 

「大丈夫じゃよ。むしろあんたらの方が疲れたじゃろうに・・・わしがぐずぐずしていたばっかりに迷惑をかけてしまったねぇ」

 

「いえ、これもまた任務ですので」

 

申し訳なさそうにしているおばあさんにフォルテは表情を変えずに淡々とそう返事をした。逆にマリアはおばあさんを危険な目に合わせてしまったことに落ち込みを見せている。

 

「・・・私たちに守る力があれば、お母さんをこんな目には・・・」

 

「・・・・・・」

 

LiNKERさえあればギアを纏って戦うことができる。それがままならないからこそ、マリアは歯がゆさを感じている。それはフォルテも同じことだが、彼女たちを纏めるために、毅然と振る舞い、不安要素である歯がゆさを押し殺している。

 

「そうじゃ。せっかくだからこのトマト、あんたたちも食べておくれ」

 

おばあさんは思いついたように背負っていた籠を下ろし、中に入っていたトマトをマリアとフォルテに差し出した。

 

「では、お言葉に甘えて1つ・・・」

 

「わ、私、トマトはあんまり・・・」

 

フォルテはおばあさんのご厚意に甘え、トマトを受け取るが、マリアはトマトが苦手であるがために表情が引きつっている。やんわりと断ろうとするが、おばあさんの優しい笑顔もあって、断り切れないでいた。

 

「では・・・ちょっとだけいただきます」

 

マリアはおばあさんからトマトを受け取るも、やはり苦手なものは苦手で、躊躇している。逆にフォルテは遠慮なくトマトに齧り付く。

 

「!うまい!マリアも食べてみろ!」

 

余程にトマトがおいしかったのかフォルテは目を見開き、マリアも食べるように勧めてきた。マリアは観念するかのように目を瞑り、トマトを一口齧った。

 

「!甘い・・・!フルーツみたい!」

 

「そうだろう?本当にうまい・・・」

 

トマトが苦手な自分でもおいしく食べられていることにマリアは驚き、フォルテはもう1度トマトを齧り付いてトマトの味を噛みしめる。

 

「トマトをおいしくするコツは、厳しい環境に置いてあげること。ギリギリまで水を与えずにおくと、自然と甘みを蓄えてくれるもんじゃよ」

 

「・・・厳しさに、枯れたりしないのですか?」

 

マリアは齧ったトマトを見つめ、おばあさんにそう質問した。

 

「むしろ甘やかしすぎるとダメになってしまう。大いなる実りは、厳しさに耐えた先にこそじゃよ」

 

おばあさんの言葉にフォルテは幼少期に経験したバルベルデやF.I.Sでの厳しい訓練を思い出した。おばあさんの言葉の意味が理解できたフォルテは笑みを浮かべる。

 

「ええ・・・わかる気がします」

 

「厳しさに耐えた先にこそ・・・」

 

逆にマリアは言葉の意味が理解できず、マリアは悩んだ表情を見せている。そんな彼女にフォルテは彼女の頭にそっと手を乗せる。彼女なりに励ましているのだろう。

 

「トマトも人間も、きっと同じじゃ」

 

おばあさんは優しい笑顔をマリアに見せてそう言った。

 

~♪~

 

仮設本部でバルベルデで手に入れた資料の解析を進めている弦十郎たち。だが進行状況は著しくないのが現状である。

 

「解析は難航していますね・・・」

 

「ぬぅ・・・」

 

解析が進んでいない状況下に弦十郎は苦い表情をしている。そこへ・・・

 

「司令、鎌倉からの入電です」

 

鎌倉という単語に弦十郎は目を見開き、すぐに渋い顔つきになる。それもそのはずだ。その鎌倉とは、人より国を思想としている者、風鳴訃堂。その人物の屋敷の地名であり、この場合であると本人であるからだ。

 

「直接来たか・・・。繋いでくれ」

 

「はい・・・」

 

「・・・?」

 

弦十郎を始めとする訃堂をよく知る者たちは緊張した面持ちでモニターを見つめる。訃堂のことを知らないエルフナインは首を傾げ、疑問符を浮かべている。

 

「出します」

 

モニターには風鳴の家紋と人影が映し出された。着物姿で肩幅が広い筋肉質な老人である。この者こそが、この国の組織を裏で牛耳っている者、弦十郎と八紘の父、翼の祖父にあたる人物、風鳴訃堂である。もっとも、血縁的には翼の父親ではあるが。

 

『無様な。閉鎖区域への侵入を許すばかりか、仕留めそこなうとは』

 

訃堂の声は厳格で力強いものでこの場にいる者を震え上がらせるには十分なものである。

 

「いずれこちらの詰めの甘さ、申し開きはできません」

 

『機関本部の使用は、国連へ貸しを作るための特措だ。だが、その為に国土安全保障の要を危険にさらすなどまかりならん!』

 

「無論です・・・!」

 

『これ以上夷狄に八洲を踏み荒らさせるな』

 

訃堂は言いたいことだけを言って通信を切った。息子である弦十郎はため息をはいた。弦十郎は訃堂が掲げる思想とは全く真逆のために、父親である彼が苦手である。

 

「ふぅ・・・さすがにお冠だったな・・・」

 

「それにしても司令。ここ松代まで追って来た敵の狙いは一体・・・?」

 

「狙いはバルベルデドキュメント。または装者との決着。あるいは・・・」

 

どちらにしても、情報量が少ないがために、対策を練ることもできない。今できることと言えば、バルベルデドキュメントの解析を急ぐことであった。その裏で、暗躍している者が海恋と接触していることも知らずに。

 

~♪~

 

時刻は夜。仮設本部で友里がバルベルデドキュメントの解析の補助を、エルフナインはLiNKERのレシピの解析にあたっている。自分の仕事に奮闘する中、調たちがコーヒーを彼女たちに運んできた。

 

「友里さん。温かいもの、どうぞ」

 

「デース」

 

「温かいものどうも。なんだかいつもとあべこべね」

 

いつも温かいものは友里が届ける側だったのだが、今回は逆の立場になっているのがおかしくて、つい笑う友里であった。

 

「あなたにも」

 

「ありがとうございます」

 

「今日のは自信作だ。ゆっくり味わってくれ」

 

エルフナインの元にもコーヒーが届いた。

 

「調べもの?順調かしら?」

 

「・・・・・・」

 

マリアがそう尋ねると、エルフナインはしょんぼりとした顔で俯いた。それが気になったマリアはエルフナインのモニターを覗いてみる。モニターにはかつてF.I.Sに所属していた子供たちの顔写真であった。

 

「これ・・・もしかして・・・」

 

「はい・・・少しでもLiNKERの完成が求められている今、必要だと思って・・・」

 

「私たちの忌まわしい思い出ね・・・。フィーネの器と認定されなかったばかりに、適合係数の上昇実験にあてがわれた孤児たちの記録・・・」

 

マリアは苦い思いをした忌まわしい思い出を振り返る。マリアはかつて自分も強くならねばとガングニールを纏っていた時があった。しかし、彼女には適合係数が低いため、バックファイアの痛みが襲い掛かり、何度も適合に失敗したことがあった。マリアはその当時の事を思い出す。

 

『無理よ、マム・・・やっぱり私には・・・セレナみたいにはなれはしない・・・』

 

『マリア。ここで諦めることは許されません。悪を背負い、悪を貫くと決めたあなたは、苦しくとも、耐えなければならないのです』

 

あの時、適合がうまくいかず、何度諦めかけたかも数えきれない。そして、それを許さなかったのは、マリアたちの恩人、今は亡きナスターシャ・セルゲイヴナ・トルスタヤであった。

 

「マム・・・」

 

マリアはその当時の苦い思い出を振り返って呟いた。すると・・・

 

ヴゥー!ヴゥー!

 

突如としてアルカ・ノイズ出現のアラートが鳴り響いた。友里は一旦解析を止め、アルカ・ノイズの出現場所を割り出す。

 

「多数のアルカ・ノイズ反応!場所は・・・松代第三小学校付近から風鳴機関本部へ進攻中!」

 

「トマトおばあちゃんを連れて行った所デス!」

 

「マリア!フォルテ!」

 

「ええ!」

 

「行くぞ!」

 

「いけません!皆さんにはまだLiNKERがありません!」

 

4人は自分の成すべきことを果たすために行こうとしたところ、エルフナインが呼び止める。ちょうどそのタイミングで弦十郎が戻ってきた。

 

「どこへ行く?」

 

「敵は風鳴たちに任せる!僕たちは民間人の避難誘導を!司令、出撃許可を!」

 

「わかった。無茶はするなよ」

 

「了解!」

 

弦十郎からの出撃許可をもらい、フォルテたちは急ぎ、小学校に向かって走り出した。

 

~♪~

 

アルカ・ノイズ出現区域にて、響、日和、翼、クリスの4人がアルカ・ノイズの群れと対峙している。

 

「これだけの数・・・」

 

「先に行かせてたまるかよ!」

 

「猶予はない。刹那に薙ぎ払うぞ!」

 

「「「了解!!」」」

 

時間をかけられないと判断し、短期決着のために4人はイグナイトモジュールの使用を決断する。

 

「イグナイトモジュール!」

 

「「「「抜剣!!!!」」」」

 

『『『『ダインスレイフ』』』』

 

4人がギアコンバーターのスイッチを押し、イグナイトモジュールを起動させる。4人のギアは通常状態から禍々しい漆黒のギアへと変わる。イグナイト纏い、クリスはボウガンで飛行型アルカ・ノイズを撃ち抜き、翼は刀で次々と斬り裂き、日和は棍でまとめて薙ぎ払い、響は格闘技で1体ずつ蹴散らしていく。イグナイトの使用ともなれば、やはりアルカ・ノイズを片付けるスピードは速い。その様子をサンジェルマンたちが施設の屋根の上で見ていた。

 

「抜剣、待ってました♡」

 

「さすがイグナイト・・・すごいワケダ」

 

「確かに。じゃが、わっぱ共は陰と陽の理に気付いておらぬ」

 

「ええ。だからこそこの手には、赤く輝く勝機がある」

 

4人の錬金術師はイグナイトに対抗できるアイテムを取り出した。プレラーティは玉部分に宝石が埋め込まれたけん玉を、カリオストロは宝石が装飾された指輪を、エドワードは鞘に宝石がついた刀を、サンジェルマンは受け皿の部分に宝石が装飾された西洋銃を。共通しているのは、ハート型の宝石が埋め込まれていることだ。サンジェルマンが西洋銃の引き金を引くと、鉄劇が弾き、4人の宝石が赤く輝き始める。翼が4人の存在に気付き、姿を捉える。そして、高く跳躍し両手に刀を持ち、刃に炎を纏わせて飛翔する。

 

【炎鳥極翔斬】

 

「押してまいるは風鳴る翼!この羽撃きは、何人たりとも止められまい!!」

 

翼は4人の錬金術師に突撃し、間合いに入ったところで炎が青くなり、それを纏った2つの刀を振り下ろした。だが翼の一撃は、4人を身に纏う赤い結界によって止められてしまう。いや、それだけではない。結界に触れた瞬間に、翼のギアが粒子変換され始めている。

 

「!!?ギアが・・・ぐあああああああ!!!」

 

翼が気を取られていた瞬間に相手の力に押し負けてしまい、吹き飛ばされてしまう。

 

「「翼さん!!」」

 

さらに翼のギアは漆黒が祓われており、イグナイトから通常の元のギアに戻ってしまっていた。そして、翼は弾き返されただけなのに立ち上がれないほどのダメージを負っていた。3人はサンジェルマンたちに視線を向ける。錬金術師たちは屋根の上で装者たちを見下ろしている。だが、格好は先ほどまでのものとは違う。彼女たちはそれぞれ形状が異なるボディースーツとアーマーを纏っていた。装者たちは似たものを目にしている。それは、キャロルが身に纏っていたダウルダブラのものと同じだ。だからこそ、その身に纏っているものがなんであるかがわかる。

 

「まさか・・・ファウストローブ!!?」

 

「よくも先輩を!!!」

 

クリスは激情に身を任せて小型ミサイルを展開し、錬金術師たちに向けて全弾を発射する。向かってくるミサイルを赤いファウストローブを身に纏ったプレラーティはけん玉を巨大化させ、それを振るって光の糸で繋がれた巨大な弾を放り投げる。巨大な弾は障壁を展開し、ミサイルの爆発を全て防いだ。

 

「はあ!!」

 

爆発の煙に乗じて黄色いファウストローブを纏ったカリオストロが飛び出し、クリス目掛けて拳を振るって光線を発射させた。すぐさまクリスはリフレクターを展開して光線を受け止めるが・・・

 

「このくらい・・・!!?」

 

「ふふ」

 

「ぐあああああ!!」

 

クリスのギアも粒子変換され、漆黒を祓われて元のギアに戻って吹っ飛ばされてしまい、建物と激突した。

 

「イグ・・・ナイトが・・・」

 

「クリス!!!」

 

「クリスちゃん!!!」

 

「どうした?イグナイトが解かれて驚いておるのか?」

 

「「!!」」

 

日和と響がクリスに気を取られている間にも黒いファウストローブを身に纏ったエドワードが背後に立っていた。日和が動こうとするよりも先にエドワードが先に行動した。エドワードは鞘から刀を抜刀し、日和の身体を一閃する。エドワードは赤く輝く刀身を鞘に納める。すると・・・

 

「うあああああああああ!!!!」

 

斬り口から赤い光が発し、光に包まれた日和はギアが粒子変換され、漆黒が祓われて元のギアに戻り、倒れてしまう。

 

「な・・・なんで・・・イグナイトが・・・」

 

「日和さん!!!」

 

響の背後にサンジェルマンが立ち、彼女に気付いた響は振り返る。サンジェルマンは西洋銃を響に向け、一発の弾丸を撃ち放った。弾丸は響には当たらず、通り過ぎた。しかし弾は響の背後で止まり、宙を浮いている。響が振り返ると、弾のエネルギーが圧縮し、響を巻き込んで爆発を引き起こした。爆煙が晴れると、響は倒れており、ギアも元の状態に戻っていた。

 

『なぜ・・・イグナイトが・・・?』

 

イグナイトが強制的に解除されてしまった事態に本部にいるエルフナインは動揺を隠せないでいた。サンジェルマンは響に近づき、彼女を見下ろす。

 

「ラピス・フィロソフィカスのファウストローブ。錬金技術の秘奥。賢者の石と、人は言う」

 

「その錬成には、チフォージュ・シャトーにて解析した世界構造のデータを利用・・・もとい、応用させてもらったワケダ」

 

ラピス・フィロソフィカス・・・それが、賢者の石と呼ばれる代物で、4人のファウストローブの源となっているハート型の宝石だ。

 

「やれやれ・・・もう少し楽しませてくれると思ったが・・・何ともくだらぬ幕引きよのう」

 

予想以上にあっけなく4人のイグナイトが解除されたことにエドワードはつまらなさそうにそう呟いた。

 

「・・・あなたたちがその力で、誰かを苦しめるというのなら・・・私は・・・」

 

響は痛みで起き上がることができず、仰向けのままでしゃべる。

 

「誰かを苦しめる?慮外な。積年の大願は、人類の解放。支配のくびきから解き放つことに他ならない」

 

「人類の解放・・・?だったら、ちゃんと理由を聞かせてよ・・・。それが誰かのためならば・・・私たち・・・きっと・・・手を取り合える・・・」

 

「・・・手を取り合う・・・?」

 

響が倒れてもサンジェルマンと話し合いをしようという姿勢に、エドワードは面白くなってきたと言わんばかりに笑みを浮かべる。

 

「サンジェルマン。さっさと・・・?」

 

しびれを切らしたカリオストロが口を開いた時、夜の中に光が発せられたことに気付いた。光が発する方角を見て、カリオストロは驚愕する。

 

「あの光!!?」

 

光の発生源を見て、サンジェルマンは顔を強張らせている。光の発生元は小さな極光であり、それを作り上げたスーツを着込んだ男が右掌にそれを乗せて宙を浮いていた。

 

「統制局長アダム・ヴァイスハウプト!」

 

そう、この男こそがパヴァリア社の首魁にして、サンジェルマンたちの上司、統制局長アダム・ヴァイスハウプトである。

 

「何ゆえ局長殿がここにおる?」

 

「ふっ」

 

アダムは被っていた帽子を放り投げる。極光の輝きがさらに増し、増大した熱で彼のスーツが焼却し、一糸まとわぬ姿となる。

 

「何を見せてくれるワケダ!」

 

「金を錬成するんだ。決まってるだろう?錬金術師だからね、僕たちは!」

 

アダムが極光を頭上に掲げると、背後に錬金陣が展開され、極光もさらに巨大なものとなる。

 

~♪~

 

アダムが作り上げられた極光は仮設本部でも目で確認できるほどに強大だ。仮設本部でエルフナインがこの超常現象の解析にあたる。

 

「まさか・・・錬金術を用いて常温下での核融合!!?」

 

錬金術を用いた核融合は前回のキャロルとの戦いでも起きたことはある。ただあれは膨大な思い出を焼却して力に変えてようやく放つことができた悪あがきのようなもの。だがアダムの場合はそれを必要とすることなく容易に創り出し、その威力もキャロルのものと越えるものだ。そんなものが地に放たれれば、辺りが消し飛ぶのは間違いない。

 

「新たな敵生体に加え、光線地点にて、ミスティルテイン、アガートラーム、シュルシャガナ、そしてイガリマの反応を確認!!」

 

「フォルテさんたちが!!」

 

モニターには光線地点に駆けつけたフォルテたちがイグナイトモジュールを起動してアルカ・ノイズを殲滅する姿が映る。

 

「LiNKERを介さずの運用です!このままでは、負荷に身体が引き裂かれます!」

 

フォルテたちは気を失った響たちを助けるために彼女たちに駆け寄る。その間にも極光の輝きはさらに増していく。

 

「膨張し続けるエネルギーの推定破壊力、約10メガトン超!」

 

「ツングースカ級だとおおおお!!?」

 

あまりにも膨大な被害予測情報に弦十郎は驚愕の声を上げた。

 

~♪~

 

フォルテたちは気を失っている4人を担ぎ、戦線から離脱しようとするも、LiNKERを使わずにギアを纏っているため、バックファイアの痛みが走る。

 

「3人とも!局長の黄金錬成に巻き込まれる前に!」

 

「当然じゃ!巻き込まれは御免蒙る!」

 

サンジェルマンたちはアダムの黄金錬成に巻き込まれないようにテレポートジェムを使って戦線を離脱した。フォルテたちもバックファイアの痛みに耐えながら4人を抱えたまま走る。しかしアダムは極光を地に向けて放ち、着弾した極光は大爆発を引き起こした。大規模な爆発がフォルテたちに迫ろうとしている。

 

「「例えこの身が・・・砕けてもおおおおお!!!」」

 

マリアとフォルテが叫んだ時、マリアは白い燐光、フォルテは赤い燐光に包まれる。同時に迫ってきた爆発が収まり、一瞬の輝きを放って、極光は消滅した。

 

黄金錬成によって地面が抉れ、蒸発してしまった大地をアダムは見下ろし、握っていた右手を開く。アダムの掌にはビー玉のように小さな黄金の玉があった。

 

「ほう・・・?ははははは!ビタイチか!安いものだなぁ、命の価値は!」

 

アダムの高笑いが静寂な夜に響くのであった。




フォルテの(自称)特技

マネージャー業務やその他諸々の作業をしていると、深夜なってしまうことが多々ある。少しでも作業を進めたいと考える彼女は自分でコーヒーを入れて飲むことで眠気を吹っ飛ばそうとすることが多い。それらを繰り返していると、昼夜問わずコーヒーを入れるようになり、日を重ねるとインスタントでは物足りなくなり、専用の道具と豆を使ってコーヒーを入れるようになった。それも相まってフォルテはコーヒーを入れることを何よりも得意だと自称するようになった。ちなみにコーヒーの味は可もなく不可もなくといったところだ。


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最後の鍵は

アダムが放った黄金錬成の威力は壮大なものであった。爆発個所は非常に巨大で、地面は蒸発し、底も赤熱化していた。そんな黄金錬成のギリギリ範囲外に響たちは倒れていた。気を失っていたクリスから順に、3人は何とか立ち上がる。

 

「何が・・・いったいどうなって・・・」

 

「風鳴機関本部が・・・跡形もなく・・・」

 

「・・・!マリアさんたちは⁉」

 

響は自分たちを助けに来てくれたマリアたちを思い出し、周囲を見回す。ちょうどそのタイミングで、切歌が覆いかぶさっていた瓦礫を押しのけて出てきた。

 

「切ちゃん!」

 

日和が切歌に声をかけた。彼女の背後にはマリア、フォルテ、調の3人もいる。4人とも無事ではあるようだが、マリアとフォルテの疲労はかなり大きいようだ。

 

「しっかりするデスよ、マリア」

 

「フォルテ・・・」

 

2人が目を開けると、上空よりヘリの音と同時に、眩いライトが自分たちを照らした。マリアはその光の眩しさに思わず目を閉じ、顔を背ける。

 

「・・・生き・・・てる・・・」

 

マリアは弱々しく、そう一言呟いた。

 

~♪~

 

襲撃から一夜が明け、一部装者たちは仮設本部の装甲車に集合していた。

 

「敗北だ。徹底的にして完膚なきまでに」

 

腕を組んでいた弦十郎が悔しさを滲ませながらそう言い放った。風鳴機関が破壊されたということは、バルベルデドキュメントも消えたことを意味する。装者たちが戦闘不能になったことを踏まえると、確かにこれは完全なる敗北でしかない。モニターには黄金錬成を放つ一糸まとわぬ姿のアダムが映っており、それに次いでファウストローブを身に纏った4人の錬金術師が映し出された。

 

「ついに現れた、パヴァリア光明結社統制局長、アダム・ヴァイスハウプト。そして・・・」

 

「錬金術師共のファウストローブ・・・」

 

「打ち合った瞬間に、イグナイトの力を無理矢理引きはがされたような、あの衝撃は・・・」

 

ファウストローブ纏った錬金術師と打ち合った時、イグナイトが強制解除されたうえに多大なダメージを負ったあの現象に翼が疑問を浮かべていると、エルフナインが答える。

 

「ラピス・フィロソフィカス。賢者の石の力だと思われます」

 

「賢者の石・・・確かに言っていた」

 

「その・・・ラピス・フィロなんとかって・・・いったい何?」

 

「ラピス・フィロソフィカス。完全を追い求める錬金思想の到達点にして、その結晶体。病をはじめとする不浄を正し、焼き尽くす作用をもって浄化する特性に、イグナイトモジュールのコアとなるダインスレイフの魔力は、為すすべもありませんでした」

 

イグナイトの原動力は呪い・・・ラピスとは全くの真逆の力。つまりラピスの特性である不浄を焼き尽くして浄化する作用がイグナイトに働き、打ち合った瞬間にイグナイトの呪いを焼き尽くしたことで強制解除され、大きなダメージを負ったのだ。これらを踏まえると、ラピス・フィロソフィカスはイグナイトにとって天敵と言えるだろう。

 

「とどのつまりは、イグナイトの天敵・・・!この身を引き裂かんばかりの衝撃は、強制解除によるもの!」

 

「決戦仕様であるはずが、こっちの泣き所になっちまうのか!!?」

 

切り札と言えるイグナイトが通用しないラピス・フィロソフィカスの出現は装者たちには大きな痛手になっているのは間違いない。

 

「東京に搬送されたマリアさんたちは大丈夫でしょうか・・・?」

 

この場にはいないマリアたち容態を心配する響は友里にそう質問をした。この質問に友里は答える。

 

「精密検査の結果次第だけど、奇跡的に大きなダメージは受けてないそうよ」

 

「マリアさんたちならきっと無事だよ!ね、響ちゃん」

 

「そうですね・・・。大丈夫・・・絶対・・・」

 

日和が響を安心させようとしているところで、エルフナインには1つの疑問点が浮かび上がる。

 

(LiNKERを介さずの運用・・・ましてやイグナイトによる体への負荷・・・絶唱級のバックファイアを受けてもおかしくなかったはず。なのに・・・)

 

あの時マリアたちは確かにLiNKERを使わずにイグナイトを使用していた。下手をすればシンフォギアの機能の1つである絶唱と同等レベルのバックファイアで絶命してもおかしくない状況下でもあった。それにも関わらず、マリアたちは大したダメージを負っていない。その原因はあの時マリアとフォルテに発せられた光にあると考えられるのだが、それが何なのかが検討もつかない。

 

「風鳴機関本部は、現時点での破棄が決定した。各自、撤収準備に入ってくれ」

 

弦十郎が一同に撤収指示を出した。

 

「バルベルデドキュメントが解析できていれば、状況打開の手がかりがあったのかな・・・」

 

「・・・・・・」

 

藤尭がたらればを呟いた。そこに、緒川の端末から通信が鳴り響いた。緒川が端末を取り出して確認して見ると、端末には鎌倉のシグナルが点滅している。これには緒川は驚いた表情をする。緒川の表情に気付いたのは翼だけであった。緒川はすぐに弦十郎のそばに近づき、耳打ちする。

 

「司令・・・鎌倉への招致がかかりました」

 

「しぼられるどころじゃ済まなさそうだ・・・」

 

本音を言ってしまえば、鎌倉の地には近づきたくないところなのだが、そうも言ってられないことはわかっているため、弦十郎は腹をくくるように笑ってみせた。

 

~♪~

 

サンジェルマンたち錬金術師が現時点での拠点としているホテルに統制局長であるアダムの姿があった。アダムはベッドに腰かけて読書をしており、すぐそばにはまるで子猫のように甘えて彼にすりすりしているティキ。そんな中、サンジェルマンたちは不服そうな態度をとっている。その原因は当然、松代での戦闘での件だ。

 

「ラピスの輝きは、イグナイトの闇を圧倒。勝利は約束されていた・・・それを・・・」

 

「下手こいちゃうとあーしたち、こんがりサクジュワーだったわよ?」

 

「しかもその上、仕留めそこなっていたというワケダ」

 

プレラーティが出した錬金術のモニターには車に乗り込む装者たちの姿があった。これはプレラーティが使役するカエルの視界から送られているものだ。

 

「さて、局長殿。妾たちに何か言い訳はあるかえ?」

 

エドワードは扇子を口元に当て、上司であるアダムに鋭い視線を送っている。

 

「みんな!せっかくアダムが来てくれたんだよ?!ギスギスするより、キラキラしようよ!」

 

ティキはそう発言しているが、4人はアダムと仲良くやっていこうという気持ちは微塵もない。むしろその逆といってもいいだろう。その証拠としてティキの発言に4人は返事を返さず、表情も変えずただ黙っている。

 

「み~ん~な~!」

 

「どうどうティキ。だけどもっともだねぇ、サンジェルマンたちの言い分は。いいとこ見せようと加勢したつもりだったんだ、出てきたついでにね」

 

アダムはティキをなだめ、読書をやめて帽子を被り直し、ベッドから降り、腕に抱き着くティキを気にせず玄関へと向かっていく。

 

「でもやっぱり、君たちに任せるとしよう、シンフォギア共の相手は」

 

「統制局長、どちらへ?」

 

「教えてくれたのさ、星の巡りを読んだティキが。ね?」

 

「うん!」

 

「成功したんだろう?実験は。なら次は本格的に行こうじゃないか。神の力の具現化を」

 

足を止めたアダムは視線をサンジェルマンに向けてそう言い放った。

 

~♪~

 

人がいない街中に、数多のアルカ・ノイズが出現した。現れたアルカ・ノイズの前に、復調したばかりの調と切歌が戦線に立つ。この場にはLiNKERなしで戦うことができる日和たちもいない。手元にはLiNKERもない。だがそれでも構わず、調と切歌はギアネックレスを取り出し、詠唱を唄う。

 

Zeios Igalima Raizen tron……

 

ギアを纏った調と切歌はアルカ・ノイズとの交戦を開始する。まず切歌は鎌を大きく振りかぶり、3つに分割した刃をブーメランのように放った。放たれた刃は高速回転して、アルカ・ノイズの群れを切り裂いていく。さらに切歌はもう1つ鎌を取り出し、2つの鎌を合体させて左右対称の三日月型の刃の鎌を形作った。

 

【対鎌・螺Pぅn痛ェる】

 

対する調はツインテール部位のアームを展開して搭載されている大型丸鋸を操って、アルカ・ノイズを次々と切り刻んでいく。

 

(シュルシャガナの刃は、全てを切り開く無限軌道!目の前の障害も!私達の、明日も!)

 

さらに調はプリマ・マテリアの中を突っ走り、アルカ・ノイズの群れの真ん中でスケートの要領で回転し、鋸に変化したスカートでアルカ・ノイズ真っ二つに切り裂いてく。

 

Δ式・艶殺アクセル

 

ビビビッ・・・

 

だが、調はLiNKERを使わずにギアを纏っているのだ。適合係数が低いがために、バックファイアが発生し、調の身体に痛みが生じている。もちろん、それは切歌も同じだ。

 

(絶対鋭利のイガリマはその気になったら!幽霊だって!神様だって!真っ二つデス!)

 

だがそれでも2人はバックファイアの痛みを耐えながら、戦闘を続けていく。

 

~♪~

 

調と切歌が戦っている中、まだ全回復していないマリアとフォルテは本部潜水艦の通路を走っている。

 

「あの2人・・・!いったい何を考えている⁉」

 

「本当に、無茶を重ねて!」

 

マリアとフォルテの後をエルフナイン、日和、響、クリスが2人の後を追う。

 

「マリアさん!フォルテさん!」

 

「もういいのか⁉そっちだって大変だったんだろう⁉」

 

確かに2人のコンディションはまだ万全ではないが、今気にするべきは調と切歌の方だ。そのためにも急ぎある場所へと向かっていく。

 

~♪~

 

切歌はバナナ型のアルカ・ノイズを肩部から射出したアンカーで巻き付け拘束する。身動きが取れなくなったところで、切歌は両足をギロチンの刃と連結し、ブースターを使って勢いをつけて刃を下ろした。だが・・・

 

ビビビッ・・・!

 

「ああ!!」

 

ギアのバックファイアによる痛みによってギロチンは砕け散り、切歌は真っ逆さまに地面に激突する。

 

「切ちゃん!!」

 

この様子を見た調は慌てて切歌に駆け寄った。同時に、アルカ・ノイズは消滅し、街の光景は訓練場に戻った。先ほどまでの光景とアルカ・ノイズはホログラムによって作り出したものである。つまり2人がやっていたのは実践ではなく、戦闘訓練であったのだ。

 

「大丈夫・・・?」

 

「調ちゃん!切歌ちゃん!」

 

シュミレータールームに響たちが入ってきた。

 

「君たち・・・なんという無茶を・・・!」

 

「LiNKERもないのに、どうして・・・」

 

マリアの疑問はもっともだ。もしもこれが実践であったのならば、アルカ・ノイズに分解されてもおかしくない。いや、それ以前にギアの拒絶反応によって体が耐え切れなく慣れ、最悪の場合死に至ることもある。

 

「私たちが・・・LiNKERに頼らなくても戦えていれば・・・あんな・・・」

 

調たちの想いがわからないわけではない。もしあの場でLiNKERなしで戦うことができれば、もう少しマシな状況になったかもしれないし、アダムの妨害も可能だったかもしれない。その思いにマリアは何も言えない。

 

「確かに理解できなくもない・・・だが・・・」

 

「だからって・・・!」

 

「平気!」

 

フォルテやクリスの言葉を遮ってでも大丈夫に振る舞おうとする調と切歌。

 

「それより、訓練の続行を・・・」

 

「LiNKERに頼らなくてもいいように、適合係数を上昇させなきゃデス・・・」

 

訓練を再開しようとする2人に響と日和が止めようとする。

 

「ダメだよそんな無茶!一歩間違えたら死んじゃうかもしれないんだよ⁉」

 

「そうだよ!そんなの絶対にダメ!そんな危険なこと、かわいい後輩には・・・」

 

「経緯もよくわからないままに十分な適合係数を物にした響さんや日和先輩にはわからない!!」

 

「「・・・っ」」

 

あまりにも焦りの方が強いからか、調は2人に対し、辛辣な言葉をかけてしまう。その言葉に、響と日和は思わず口ごもってしまう。

 

「いつまでも味噌っかす扱いは・・・死ななくたって・・・死ぬほどつらくて・・・死にそうデス・・・!」

 

長い沈黙が続く。そんな沈黙を最初に破ったのはマリアだった。

 

「やらせてあげて」

 

「マリア?何を言っている?」

 

訓練続行を申し入れるマリアの言葉をフォルテには理解できなかった。

 

「2人がやりすぎないように、私も一緒に訓練に付き合うから・・・」

 

「適合係数じゃなく、この場のバカ率を引き上げてどうする!!?」

 

「いつかきっとLiNKERは完成する。だけど、そのいつかを待ち続けるほど、私達の盤面に余裕はないわ」

 

マリアの言葉にまだLiNKER完成のめどが立つことができないエルフナインは顔を俯かせる。そこでフォルテが異を唱えるように口を開く。

 

「・・・だからといって、無茶をしていい理由にはならない。万が一誰か1人死んだとき、残された者たちは、どのような思いをして戦場に赴かなければいけないのだ?仲間の死という重圧に、君たちは耐えられるのか?」

 

「それは・・・」

 

「暁と月読の行為は、LiNKER解析に精を出しているエルフナインの信頼の裏切りと同然だ」

 

「・・・っ、そんなつもりは・・・」

 

「いい加減にしろ!!!」

 

「「っ!」」

 

普段は怒鳴り声を上げないフォルテがここぞとばかりに叱るように怒鳴ったことに調と切歌は驚愕する。2人だけでなく、他の装者たちもだ。

 

「君たちの薄っぺらい覚悟は覚悟にあらず・・・ただの甘えだ。そんなものは捨ててしまえ!」

 

ポタ・・・ポタ・・・

 

「「!」」

 

調と切歌は何か言い返そうとした時、何かが滴る音が聞こえた。それは、フォルテの左拳から流れる血だった。彼女は自身の左手を強く握りしめていたのが原因だ。それだけではない。彼女の唇も自ら噛んで血を出している。フォルテ自身も同じ思いなのだ。だが無理したところでどうにかなるわけでもない。すぐに状況を打破できるわけでもない。それを1番理解しているからこそ、自分に鞭を打ってまで、押し殺しているのだ。全ては自分たちが無茶をやらないように。それに気づいた2人はもう何も言えず、マリアも軽はずみな発言をして申し訳なさそうな顔をしている。場の空気が悪くなる4人に日和は何とかしようと口を開く。

 

「ほ・・・ほら・・・無茶な訓練なんかしなくても、他に方法があるかもしれないでしょ?それを一緒に探そうよ・・・ね?」

 

「でも・・・」

 

「方法はあります!」

 

日和の言葉に賛同するかのように、エルフナインが話に割って入ってきた。

 

「LiNKERの完成を手繰り寄せる、最後のピースを埋めるかもしれない方法が・・・」

 

「最後のピース・・・」

 

「本当デスか⁉」

 

ようやく見えてきた光明の知らせに調と切歌は起き上がる。

 

「ウェル博士に手渡されたLiNKERのレシピで、唯一解析できていない部分。それは、LiNKERがシンフォギアを脳のどの領域に接続し、負荷を抑制しているか・・・です。フィーネやF.I.Sの支援があったとはいえ、一からLiNKERを作り上げたウェル博士は、いろいろはともかく、本当に素晴らしい生化学者だったとは言えます」

 

「素晴らしい・・・ゾッとしない話ね・・・」

 

「僕のこの特別製の義眼を作り上げたのはドクターだ。性格面はともかく、腕自体は認めざるを得ないだろう」

 

今は亡きウェルの腕前はマリアたちがよく理解しているため、彼女たちは納得している。話の意図が全く理解していない日和と響は頭に疑問符を浮かべている。

 

「???難しくてよくわかんない・・・」

 

「あ、あの、難しい話は早送りにして、最後のピースのとこまで飛ばしてよ・・・」

 

理解できていない2人のためにエルフナインは話を最後のピースのところまで飛ばす。

 

「鍵は、マリアさんの纏うアガートラームです」

 

「白銀の・・・私のギアに⁉」

 

自分のギアがLiNKER完成の鍵になっていることに驚愕するマリア。

 

「アガートラームの特性の一つに、『エネルギーベクトルの制御』があります。土壇場にたびたび見られた発光現象・・・。あれは、脳とシンフォギアを行き来する電気信号が、アガートラームの特性によって可視化、そればかりか、ギアからの負荷をも緩和したのではないかと、ボクは推論します。これまでずっと、任務の間に繰り返してきた訓練によって、マリアさんたちの適合係数は少しずつ上昇してきました。おそらくは、その結果だと思われます」

 

「マリアの適合係数は、私たちの中で一番高い数値。それが・・・!」

 

「今までの頑張り、無駄ではなかったというわけデスか!!?」

 

見えてきた希望に調と切歌は目を輝かせている。

 

「ええ!マリアさんの脳内に残された電気信号の痕跡を辿っていけば・・・!」

 

「LiNKERが作用している箇所が判明する・・・か。だがどうやってそれを解明する?」

 

そう、1番の問題と言えばどうやって脳の電気信号を辿っていくかだ。いくらS.O.N.G でも、そんなことを可能にできるものは存在しない。

 

「それこそウェルの野郎に頭を下げない限りは・・・」

 

「でもそのウェル博士はもう・・・」

 

ウェルに訪ねようには彼はもうこの世を去っている。彼に聞き出す術はないのだ。

 

「ついてきてください」

 

エルフナインはシュミレータールームを後にし、ある場所へと向かっていく。装者たちは言われたとおりにエルフナインについていく。

 

~♪~

 

エルフナインが向かった場所とは自分の研究室だった。研究室にはヘッドギアのような装置がケーブルに接続されていた。

 

「これは?」

 

「ウェル博士の置き土産、ダイレクトフィードバックシステムを、錬金技術を応用し、再現してみました」

 

ダイレクトフィードバックシステム。それはかつてF.I.Sに未来が洗脳され、シンフォギア、神獣鏡に搭載されていたシステムだ。数多くの戦闘データの中から最適解を算出し、それを装着者の脳に直接伝達することで装着者の肉体を動かすことが可能なのだ。戦闘経験が皆無の未来が装者たち・・・響と立ち回ることができたのは、このシステムが大きく働いていたからだ。そのシステムをエルフナインは研究目的のために創り出したのだ。

 

「対象の脳内に電気信号化した他者の意識を割り込ませることで、観測を行います」

 

「つまり、そいつで頭の中を覗けるってことか?」

 

「理論上は・・・。ですが、人の脳内は意識が複雑に入り組んだ迷宮。最悪の場合、観測者ごと被験者の意識は溶け合い、廃人となる恐れもあります。そこで使用したいのが、フォルテさんのミスティルテインです」

 

「僕の魔のギアを?」

 

ミスティルティンを使用する疑問を浮かべるフォルテにエルフナインが答える。

 

「ミスティルティンにも、アガートラームと同じエネルギーベクトルの制御がありますが、ミスティルティンにはもう1つ、『エネルギー負荷の抑制』があります。これは、周囲に漂う微量の自然エネルギーを吸収し、ミスティルティンのエネルギーと調和。それを排出することにより、身体への負担を抑えていたのです」

 

「生命を喰らうミスティルティンだからこその特性と言えるな」

 

「バックファイアのダメージで、フォルテさんにかかる負担が1番少なかったのも、この特性が作用されているものだとボクは推測します。これをダイレクトフィードバックシステムに応用できれば・・・」

 

「・・・そうか。この2つの特性を組み合わせることで、御前に電気信号が絡み合わせることを防げる。そういうことだな?」

 

エルフナインの説明を理解したフォルテは推測を出した。その推測にエルフナインは首を縦に頷く。

 

「しかし絶対はありません。失敗すれば、先ほど申しあげたとおり、廃人となるかもしれません」

 

「やるわ」

 

「「「!」」」

 

うまくいかなかった場合のリスクを聞いたうえで、マリアは迷うことなく答えた。

 

「ようやくLiNKER完成のめどが立ちそうなのに、見逃せようはないでしょ」

 

「でも危険すぎる!」

 

「やけっぱちのマリアデス!」

 

「君たちがそれを言うか、愚か者」

 

「「・・・っ」」

 

調と切歌は止めようとしたが、LiNKERを使用せずに訓練をやっていたために、フォルテに言い返されてしまう。無茶をやった自覚がある2人はぐぅの音もでない。

 

「・・・1つ確認したい。観測者・・・即ち、君にもその危険が及ぶのだな?」

 

エルフナインの説明には観測者が出ていた。この場合によると、エルフナインが観測者となるわけだから、彼女も廃人となる可能性は十分にあるということだ。

 

「それがボクにできる戦いです」

 

だがエルフナインはそれを覚悟したうえでこの提案をしているのだ。

 

「ボクと一緒に戦ってください、マリアさん!」

 

エルフナインの覚悟にマリアは心強い笑みを浮かべ、首を縦に頷くのであった。

 

~♪~

 

一方同時刻、海恋は都内にある図書館で本を借りに来ていた。借りようとする本を見つめる時、思い浮かべるのはエドワードの言葉だ。

 

『他人の聞いた噂を鵜吞みにし、組織の実態、内情、人間関係・・・様々な要素を払い、何も考えずこれを否定する・・・それは、怠慢というべきではないか?』

 

『友人が汝の願いとは裏腹に、望まぬ結末へと歩んでいく。それは果たして、汝にとっての幸せと言えるか?納得さえしていれば、友を死地へと送り出すそれは、果たして互いに理解しあえたと言えるか?』

 

「・・・・・・」

 

西園寺家の一件を終えてからというもの、海恋は寝ても覚めてもこれらの言葉に自問自答を繰り返している。果たして自分の出した選択は、本当に正しいのか。果たして本当に、よい結果を導くことができるのか。彼女はそのことばかり考え、苦悩の表情を浮かべている。

 

「書物とは知恵の宝庫。知恵を蓄える手段。知恵を振るうための道具。面白いものよの。たった1つの書物で、様々な知恵のあり方が表れ出るのじゃからな」

 

「!」

 

考え事をしていると、背後から聞き覚えのある声が聞こえてきた。背後に視線を向けて見ると、そこには椅子に座り、難しい本を読んでいるエドワードの姿があった。

 

「どうじゃ?あれから決心は固まったかのう?」

 

「バカを言わないで。何度来ても、あなたの誘いには乗ったりなんかしないわ」

 

「本心から出た言葉とは思えぬな」

 

海恋の否定の言葉にエドワードは読んでいた本を閉じた。

 

「その気になればS.O.N.Gに全てを報告できたはずじゃ。なのに汝はそれをしなかった。それ即ち、汝は迷いの渦に飲まれておる。妾の言っていることは間違っておるか?」

 

「・・・っ」

 

痛いところを突かれて海恋は口ごもる。その様子を見てエドワードはふっと笑う。

 

「そう警戒するでない。妾はただ汝と話がしたいだけじゃ。妾とおしゃべりしようではないか。甘味でも食しながら・・・のう?」

 

妖しく笑うエドワードとは対照的に、海恋は緊迫したような表情で固唾を飲みこむのであった。




エドワードのギャンブルの賭け金

彼女は自身が勝利するという絶対的な自信を持ち、なおかつギャンブルで味わうことができるスリルや緊張感を何よりも好んでいるがために、ギャンブル1回に賭ける金額は所持金全てである。例え敗北しても彼女の錬金術の腕や実力があれば億単位の金額を入手できるルートも用意されており、後にも先にも常に用意周到で抜かりがない。ただギャンブルで敗北したことなど一度もないため、資金の入手ルートは常に見送りとなり、勝利を重ねて賭け金がさらに跳ね上がっていっている。
ちなみにたまにサンジェルマンたちを誘っているが、カリオストロとプレラーティはエドワードの強運を目の当たりにしてからというもの、何かしらの言い訳をして勝負を避けており、サンジェルマンはそもそもギャンブルをするつもりがないためいつも断っている。


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虚構戦域に命を賭して

先日引っ越しして心機一転・・・と思いきやWi-Fiを繋げられるのが11月1日というので若干ながらに悲しい気分です。
一応スマホで書けるので書いているのですが、やはり使い勝手が悪いので11月まで更新ペースが大幅にダウンすると思います。申し訳ございません!
さて、今日は海恋ちゃんの誕生日!よかったらみんなと一緒に祝ってあげてください。


鎌倉の地にある巨大な武家屋敷、風鳴訃堂の屋敷。この屋敷の広間に、S.O.N.Gの司令である弦十郎と内閣情報官である風鳴八紘がこの屋敷の主である老人、風鳴訃堂と面会している。共に来ていた翼は障子の外にある縁側に座して待機している。2人と訃堂との距離は遠く、その間には非常に剣呑な空気が漂っている。

 

「して、夷狄による蹂躙を許したと・・・?」

 

「結果、松代にある風鳴機関本部は壊滅。大戦時より所蔵してきた、機密のほとんどを失うこととなりました」

 

「外患の誘致、及び撃ち退けることの叶わなかったのは、こちらの落ち度にほかならず、全くもって申し開き・・・」

 

「聞くに堪えん」

 

我が息子ながら不甲斐ないと言わんばかりに訃堂はそう吐き捨て、立ち上がって座敷の障子の前に立つ。そして、八紘に向けて口を開く。

 

「わかっておろうな?」

 

「国土防衛に関する例の法案の採決を、急がせます」

 

「有事に手ぬるい!即時施行せよ!」

 

訃堂がそう言い切ったところで、外で待機していた翼が見計らったかのように障子を開けた。訃堂がそこを通り、縁側をある程度進んだところで立ち止まる。そして、翼に背を向けたまま口を開いた。

 

「まるで不肖の防人よ。風鳴の血が流れておきながら、嘆かわしい」

 

「我らを防人たらしめるは血にあらず、その心意気だと信じております」

 

「ふん・・・」

 

翼の言葉を訃堂は鼻で笑い、それ以上何も言わず縁側を歩き、その場を立ち去った。

 

~♪~

 

一方その頃、S.O.N.G本部ではマリアとエルフナインは自分たちの頭にダイレクトフィードバックシステムであるヘッドギアを装着する。黒服に着替えたフォルテはダイレクトフィードバックシステムに自分のギアネックレスをかつて自分たちの飛行船エアキャリアに接続していた神獣鏡と同じ要領で接続している。フォルテの役目はこの場で待機し、キーボードを操作してミスティルティンの特性を使って電気信号が絡み合わせることを防ぐことだ。2人の廃人化を防ぐための責任重大な役目だ。

 

「接続は完了した。いつでもいけるぞ」

 

「始めましょうか」

 

「ええ。あなたが私のここに入ってくるわけね」

 

マリアは自分の頭に手を指してそう質問してきた。エルフナインはその質問に答える。

 

「正しくは、仮想空間に複写したマリアさんの脳構造に接続。ボクとマリアさんの意識を共有します」

 

「了解」

 

マリアとエルフナインの準備は完了している。後はスタートの合図を出すだけだ。

 

~♪~

 

一方その頃、他の装者たちは特にやることがないため束の間の休息として未来と共に外出している。今いる場所は公園だが、今日この日は多くの出店が並んでおり、装者たち以外にも多くの人が来ており、賑わっていた。そんな中で切歌は後悔している。その原因は手に持っているクレープにあった。

 

「うええぇぇ~・・・」

 

「切ちゃん、心配なのはわかるけど・・・」

 

「なんでそんなの買っちゃうの・・・」

 

切歌が買ったクレープは期間限定のチョコ明太子味というかなり変わったクレープである。チョコレートがけポテトチップの甘じょっぱさに店主が発想を得たことで作られたのがチョコ明太子というわけである。ちなみに明太子は博多直送のふっくら明太子を一腹まるまるが使われてるらしい。

 

「わ、わかってるデス!全てはわかったうえでの決断なのデス!」

 

切歌は意を決してチョコ明太子のクレープに齧り付いた。が、口の中でチョコの甘さと明太子の辛さが暴力的に広がり、若干ながらに悶えるのであった。

 

「~~!」

 

「チョコ明太子味なんて大冒険するから・・・」

 

「あたしのおごりを残すなよ、常識人。・・・ん、うまいじゃねぇか」

 

「えぇ~・・・それが?」

 

クリスも一口食べる。彼女の味覚にはかなりあっているようで、好印象を抱いている。それを隣で見ていた日和は信じられないといった顔をしている。

 

「一口食ってみるか?」

 

「私明太子きらーい」

 

どうやら日和は明太子が好きでないようでクリスに差し出されたクレープに目を向けず、自分のクレープを食べながら右手でスマホを操作して電話を入れようとしている。電話しようとしている相手は海恋だ。

 

「これは願掛けなんデス!全部食べたら、マリアとエルフナインの挑戦はきっとうまくいくのデス!」

 

「ふふふ」

 

チョコ明太子クレープを完食するという切歌の意気込みに未来は微笑ましそうに笑みを浮かべた。とそこで隣で響がソフトクリームを持ったままどこか上の空の表情をしていることに気付いた。

 

「響・・・ねぇ響!」

 

「え?何・・・?」

 

「溶けちゃってるけど?」

 

「うわあぁぁ⁉」

 

クリームが溶けてコーンに垂れ下がっているところを指摘された響は慌ててクリームを口に運んだ。当然、クリームが大きいので響の口の周りにクリームがついてべとべとになっている。未来はポケットからハンカチを取り出して響の口の周りのクリームを拭う。

 

「話を聞いたり、溶けたアイスを拭うぐらいはしてあげる。だから、何かあるときは頼ってよね?」

 

「ありがとう未来。やっぱり未来は私の陽だまりだ」

 

響と未来が笑いあってると、巨大モニターに映っていたニュースが次の話題に入った。そこで聞き覚え名前が出てきて、響と日和、クリスがニュースに目を向ける。

 

『次のニュースです。内乱が続く祖国で片足を失ったステファン君。どうしても大好きなサッカーをもう1度したいと、最新の義足を取り付けるための手術を受けるため、本日バルベルデ共和国より来日しました』

 

モニターに映っていたのは、アルカ・ノイズによって片足を失ってしまい、車椅子に乗っている少年、ステファンの姿があった。どうやら義足を取り付ける手術を受けるために今日バルベルデからこの日本までやってきたようだ。

 

「よかったね、あの子。またサッカーができるようになるんだね」

 

「だといいんだけどな・・・」

 

「クリス・・・」

 

「悩んで下した決断が、いつも正しいわけじゃない。それどころか、はじめっから正解がないなんてこともザラにある」

 

クリスは真剣な表情でモニターのニュースに視線を向けている。片足を失う原因はアルカ・ノイズではあるが、彼の片足を撃ったのはクリスだ。やはり彼女なりに思うところが多々あるのだろう。ステファンのニュースが終わると、今度は別のニュースが出る。

 

『次のニュースです。西園寺グループの買収を仕掛けた株主が買収の取り下げを発表しました』

 

西園寺グループの買収の取り下げが報じられて、装者たちはこのニュースにも目を向けている。どうやらエドワードは律義に勝負の約束を守り、即座に行動したようだ。当然、そのことを知る由もない装者たちはこの知らせに喜んでいる。

 

「買収の話、なくなったんだ・・・よかった・・・」

 

「これで海恋先輩も一安心デスね!」

 

「・・・・・・はぁ・・・」

 

皆が安堵を浮かべている時、日和は残念そうな表情で電話を切った。その理由は海恋が電話に出ないことにある。

 

「なんだぁ?あいつ出ねぇのか?」

 

「うん・・・。朝に電話した時はちゃんと出たのに・・・どうしたんだろう・・・?」

 

日和は海恋に何かあったのではないかと気が気でない心境を抱えるのであった。

 

~♪~

 

同時刻、都内を一望できるカフェテリア。エドワードによってこの場所に連れてこられた海恋は緊迫した表情で彼女を警戒している。そこへエドワードが注文したであろう抹茶の白玉あんみつが届いた。

 

「遠慮することはない。妾のおごりじゃ。存分に食すがよい」

 

エドワードはそう言っているが、海恋は届いた白玉あんみつを食べようとせず、ただただエドワードを警戒して見つめるだけだ。

 

「ふむぅ・・・どうすれば汝は妾を信用するのかのう?」

 

「信用も何もないでしょ。あなたはただ単に私を利用したいだけでしょ」

 

「汝らにはそういった経験があるのかえ?だとすれば、汝の考え方はとんでもない偏見じゃのう」

 

海恋の発言にエドワードは笑みを浮かべてそう言い放ち、さらに発言を続ける。

 

「確かに妾の取り戻したいものは汝と関係があるが、だからとて、汝に特別なことを強いるつもりは毛頭ない。むしろ錬金術に触れたことによって、さらなる根源に自ずと手を伸ばすと確信しておる。妾が手を差し伸べずともな」

 

「そんなことない!だいたい、なんでそんなことがわかるのよ⁉」

 

海恋の否定の言葉にエドワードは懐かしむような表情を見せた。

 

「・・・かつて妾には、友と呼べる者がおった。少し変わり種であったが、汝のように聡明で、頭の切れが非常に良い。妾はあやつこそが、次代の錬金術師たちを担える柱であると、妾は確信しておった」

 

突然自分の友人のことを話し始めた海恋は怪訝な表情をしている。

 

「いったい何の話をしているのよ?」

 

「まぁ話は最後まで聞くがよい。あやつには大層な夢を持っておったわ。錬金術で人々を正しく導き、世界を豊かにするというな。一介の錬金術師でも無謀であるとわかるものじゃが、周囲が何と言おうと、あやつの意思が曲がることはなかった。夫と添い遂げ、子を成してもそれだけは変わらなかった。そこに目を見張るものがあった。ゆえに、妾はその夢のために、あらゆる支援を惜しまなかった。ところが、人間はやはり愚かな一面が目立つ」

 

笑みを浮かべていたエドワードの表情は一気に冷めて冷たいものへと変わった。

 

「人間は錬金術の力のありようを考え、理解しようとせずにこれを否定し、力を行使する者を撲滅しようという考えに至った。これにより、妾の友やその夫を含め、数多の錬金術師は人間の愚かさによって命を絶たれてしもうた」

 

「・・・・・・」

 

海恋はエドワードから冷たき表情の中から漂う哀愁に、思うところがあり、警戒しつつも、話に耳を傾ける。

 

「そして・・・残された子は夫婦を死に追いやった人間を憎み、錬金術そのものも憎み、憎むもの全てを忘却の彼方へと追いやった。そう・・・思い出の焼却じゃ。子は思い出の焼却で得た力で、村を焼き払った。その代償として、子は両親も、自分が引き起こした出来事も、錬金術の全てを忘れたのじゃ。もちろん、全てを失ったことで、途方に暮れたわ。そんな弱った子の前に、ある日偶然現れたのが・・・当時の西園寺の主・・・汝の先祖じゃな」

 

「・・・え?」

 

話の中に西園寺の先祖が出てきて、海恋は驚かずにはいられなかった。

 

「当初は善意で近づいたようじゃが、次第に西園寺は子に惹かれ、子もまた西園寺の人当たりの良さに惹かれ、長い時を重ね、ついに2人は結ばれた。それが西園寺家の始まりであり、子の錬金術師としての自分の、終わりであった。その2人が築いた西園寺の繁栄は、過去から現代に至るまで続いた。錬金術という存在を忘れてな」

 

ここまで話し終えると、エドワードは再び笑みをこぼした。

 

「じゃが、いくら時代が移ろうとも、子孫の代が変わろうとも、錬金術師としての血が途絶えることは決してない。先祖の血というものは、子孫に必ず受け継がれる。例えば・・・桁外れの記憶能力・・・とかのう」

 

エドワードは驚いている海恋に対して、指をさし、こう告げた。

 

「わかるかのう?西園寺家とは妾の友の子・・・途絶えてしまった錬金術師の末裔。そしてその末裔の血を最も引き継いでおるのが汝であり、汝の問いの答えじゃ」

 

~♪~

 

場所は変わってS.O.N.G本部、マリアとエルフナインの覚悟も決まり、いよいよダイレクトフィードバックシステムを使う時が来た。

 

「では、始めるぞ」

 

フォルテがキーボードのボタンを押したことで、ダイレクトフィードバックが稼働し、エルフナインの意識はマリアの記憶へと入り込んだ。

 

「頼んだぞ・・・マリア、エルフナイン」

 

フォルテはエルフナインの健闘を祈りながらキーボードを操作して自分の成すべきことを集中する。

 

~♪~

 

ダイレクトフィードバックによってマリアの記憶の中に入り込んだエルフナインが最初に目にした光景はどこかに存在する辺り一面にきれいな花が咲き誇っている自然豊かな草原であった。

 

「これが・・・マリアさんの脳内・・・記憶が描く心象光景・・・」

 

エルフナインがマリアの記憶に唖然としていると、近くで少女たちの笑い声が聞こえてきた。そちらに視線を向けて見ると、そこには2人の少女が楽しそうに花の冠を作っている姿があった。その2人の少女とは、幼きマリアと彼女の妹、幼きセレナ・カデンツァヴナ・イヴであった。

 

「マリアさん・・・」

 

エルフナインが幼きマリアを見たと同時に、1人の女性が突然現れ、幼きマリアたちに近づく。同時に記憶の風景がF.I.Sの施設内部に変わった。幼きマリアに近づいた女性は彼女の手を取り、鞭で引っ叩いた。

 

「痛っ!」

 

幼きマリアが鞭で引っ叩かれたと同時に、エルフナインに痛みが走った。エルフナインの腕には痣ができていた。

 

「どうして・・・?」

 

どうして痛みや痣が出てきたのか疑問を浮かべたエルフナインは現れた女性を見る。その女性とは、今は亡きナスターシャであった。彼女の姿はまだ怪我を負っていないからか車椅子も乗っておらず、眼帯もしていない。

 

「今日からあなたたちには戦闘訓練を行ってもらいます!フィーネの器となれなかったレセプターチルドレンは、涙より血を流すことで組織に貢献するのです!」

 

幼きマリアが叩かれた腕にはエルフナインと同じ痣ができていた。生じる痛み、痣の箇所を見て、エルフナインはこの現象がなんであるのかを理解した。

 

(意識を共有してるからには、記憶と体験はボクにも及ぶ・・・)

 

つまり記憶の中のマリアに痛みが発すれば、記憶と体験を共有しているエルフナインにもその痛みが伝わるということだ。フォルテのサポートがあるとはいえ、元々廃人化のリスクを踏まえたうえでのダイレクトフィードバックだ。エルフナインは気を引き締め直してLiNKER解析の鍵を探す。

 

「どこなんだろう・・・?ギアと繋がる脳の領域は・・・」

 

エルフナインはマリアが経験してきた記憶にどんどん飛ばされていく。わけもわからず施設に集められ、集まった子供たちが涙を流していた記憶、研究員についていき、戦闘訓練やシュミレーターなどで悲鳴を上げる子供たちの記憶、完成されたLiNKERを飲んだ記憶、完全聖遺物、ネフィリムの起動実験の際の記憶などなど。連続でこれほどまでの記憶に飛ばされ、いろんなものを見てきたのだ。少なくとも、現実に影響は出ているだろう。

 

そして、新たに飛ばされた記憶は暗雲が立ち込める寂しい街の記憶だ。そこでエルフナインは人類の脅威である存在と出くわす。それこそが、アルカ・ノイズの元となり、触れた人間を炭素の塊を変えて殺す、特異災害と認定された人を殺すための自立兵器、ノイズだ。

 

「これは・・・ノイズの記憶⁉」

 

ノイズの群れはエルフナインを見るや否や、彼女に近づいていく。危機を感じ取ったエルフナインはノイズから逃げ出す。そんな彼女をノイズは追いかける。

 

(もしここでボクが死んだら、恐らく、現実のボクも目を覚まさずに・・・!)

 

ここでノイズに触れてしまえば、エルフナインの意識は消えてしまい、現実の彼女は廃人と化すだろう。そうすれば、LiNKER完成の道は閉ざされてしまうだろう。それだけは何としてでも阻止したいエルフナインは必死でノイズから逃げる。

 

「あっ!」

 

瓦礫の段差を降りる際、エルフナインは足首をくじいてしまい、転んでしまう。起き上がろうとした時、彼女の背後にはノイズが迫っていた。もはやここまでかと思われた時・・・

 

Seilien coffin airget-lamh tron……

 

どこからかギア起動の詠唱が聞こえてきた。詠唱が終わると同時に、空から白く輝くエネルギーの刃が降り注ぎ、ノイズを切り刻んでいく。立ち込めた土煙が晴れると、彼女の目の前にはアガートラームのギアを纏ったマリアがいた。

 

「マリアさん⁉」

 

「いくら相手がエルフナインでも、思い出を見られるのはちょっと照れくさいわね」

 

「あの・・・いつの記憶の・・・どのマリアさんですか・・・?」

 

目の前にいるマリアがいつの時代のマリアなのかがわからず、エルフナインは困惑する。そんな彼女にマリアはさも当然のように口を開く。

 

「一緒に戦うって約束したばかりでしょ?この場に意識を共有するのならば、いるのはあなただけじゃない。私の中で私が暴れて・・・何が悪い!!」

 

マリアはノイズの群れに突っ込んで、迫りくるノイズを短剣で切り裂き、次々と一個体を薙ぎ払っていく。

 

「記憶じゃない・・・マリアさんの意識が・・・」

 

マリアの戦いぶりを見て、目の前の彼女が記憶ではなく、自分と共に来ているマリアの意識であると理解したエルフナイン。

 

「それに・・・戦っているのは私たちだけじゃない!」

 

マリアがそう言い放つと、奥で複数体のノイズの群れが吹っ飛ばされた。奥の土煙から、人の形を赤い何かが現れた。赤い何かは大剣のようなものでノイズを薙ぎ払い、さらに追撃で他のノイズを斬り裂く。

 

「あれは・・・フォルテさん・・・?」

 

よく見てみれば、確かにフォルテにも見えるが、あれには実体がない。よく目を凝らしてみると、土壇場でフォルテが見せた赤いオーラと酷似していた。そのことから、エルフナインはあれの正体に気がつく。

 

「あれはまさか・・・ミスティルティンのエネルギー・・・?ミスティルティンの力が、こんな形で現れるなんて・・・」

 

そう、あれはダイレクトフィードバックに接続されたミスティルティンが放った力そのものだ。こんなことができるのは、外にいるフォルテ以外にはいない。

 

(そうか・・・戦っているのはボクたちだけじゃない・・・フォルテさんも同じなんだ・・・)

 

外で自分たちをサポートしてくれているフォルテも自分たちと共に戦っているのだと気付いたエルフナインは心強さを抱いた。

 

「突破する!」

 

「はい!」

 

マリアはエルフナインの手を引いて、迫るノイズを蹴散らしながら前に進んでいく。そしてミスティルティンのエネルギーは後ろから来るノイズを倒しながらマリアたちを守っていく。先へ進んでいくとまた記憶が変わり、暗雲が立ち込めるどこかの雪原に辿り着いた。ただこの景色はマリアには覚えがない。

 

「ここは・・・どこ・・・?」

 

「マリアさん自身も忘れかけている深層意識のイメージでしょうか・・・?」

 

「深層・・・」

 

マリアが自身の記憶を振り返ろうとすると、彼女たちの頭上や足元に突如として謎の空間が出現し、2人を飲み込もうとしている。

 

~♪~

 

ビィイイイー!!

 

記憶の中で行った現象が現実で眠っているマリアたちに影響が出ており、2人は苦しそうな表情をしている。バイタルの数値も低下し始めている。

 

「これは・・・⁉️」

 

『2人の様子は?』

 

そこへ鎌倉から戻ってきた翼が2人の状況を確認してきた。

 

「バイタル、安定期から大幅に数値を下げています。このままの状態が続けば・・・」

 

『ミスティルティンは?』

 

「機能はしている!だが、何かが干渉を妨げているのだ!」

 

『やむを得まい・・・場合によっては観測の一時中断を・・・』

 

ヴゥー!ヴゥー!

 

弦十郎が中断を視野に入れると、タイミング悪く緊急のアラームが鳴り響いた。

 

~♪~

 

突然鳴り響いたアラームに弦十郎は状況を訪ねる。

 

「どうした⁉️」

 

「東京湾にアルカ・ノイズ反応!」

 

モニターに写し出された東京湾には八岐大蛇のような複数の首を持った大型アルカ・ノイズがいた。

 

「空間を切り取るタイプに続き、またしても新たな形状・・・しかもかなり巨大なタイプのようです」

 

「まかり通らせるわけには・・・行きます!」

 

翼は現れた巨大アルカ・ノイズを対処するべく、指令室から飛び出し、現場へ急ぐのだった。

 

~♪~

 

同時刻、西園寺家が亡くなった錬金術師の末裔であると聞かされ、驚く海恋にエドワードはさらに口を開く。

 

「妾は、あやつが夢見た理想を、失われた錬金術の歴史を取り戻したい。それを可能とできるのは・・・サンジェルマンのいう革命。そして、あやつの血を最も受け継いだ汝のみなのじゃ」

 

自分の友の錬金術の歴史を取り戻す鍵を担っているのが、その者と同じ血が流れている海恋であると確信しているエドワードに対し、海恋は戸惑いがありつつも、相手のペースに飲まれないように反論する。

 

「・・・か、仮にその話が本当だとしても・・・私は私よ!!ご先祖様とは関係ない!!」

 

海恋の反論にエドワードはふっと笑う。

 

「百歩譲ってそうだとして、汝の友が亡くなった時・・・汝は同じことが言えるかのう?」

 

「日和たちはあなたたちなんかに負けないわ!!」

 

海恋がテーブルを叩いて言い返した時、エドワードは彼女の右腕を掴みあげた。

 

「事は勝ち負けの話ではない。妾が言っておるのは、今のままでよいのかということじゃ」

 

「・・・どういう意味よ?」

 

「わからぬか?ならば、実際にその目で確かめてみるがよかろう」

 

「確かめる・・・?」

 

「ふふ」

 

海恋の戸惑いとは余所に、エドワードはどこまでも余裕がある笑みを浮かべている。

 

~♪~

 

八岐大蛇型のアルカ・ノイズが現れた東京湾。アルカ・ノイズの背後には光学迷彩で姿を消した航空母艦が控えている。母艦の甲板には、サンジェルマンたちが立っていた。

 

「オペラハウスの地下には、ティキ以外にも、おもしろいものがごろごろ眠っていたのよねぇ」

 

カリオストロの手には三つ首の竜のような杖が握られていた。

 

「勿体ぶってなんていられないワケダ」

 

「そう、我らパヴァリア光明結社は神の力をもってして、世の理をある形へと修正する」

 

サンジェルマンの脳裏に浮かび上がるのは、響の言葉だ。

 

『それが誰かのためならば・・・私たち・・・きっと・・・手を取り合える・・・』

 

「大義は・・・いや、正義は我らにこそあるわ。行く道を振り返るものか。例え1人で駆けたとしても・・・」

 

「1人じゃない」

 

サンジェルマンが響の言葉を否定するように語ると、プレラーティが口を開いた。

 

「1人になんてさせないワケダ」

 

「サンジェルマンのおかげで、あーしたちはここにいる。どこだって4人でよ♪」

 

自分と共に来てくれるプレラーティとカリオストロの思いにサンジェルマンは心強さを感じ、笑みを浮かべる。

 

「妾は汝の志に賭けたのじゃ。中途半端な妥協は妾が許さぬえ」

 

そこへ同じく、サンジェルマンの志を共にするエドワードが転移してきた。

 

「遅いじゃない・・・てっ、誰よその子?」

 

エドワードの近くにいるのはなんと海恋であった。どうやらエドワードがテレポートジェムを使って海恋を連れてきたようだ。

 

「あなたたちが・・・パヴァリア光明結社の・・・!」

 

「!こいつ、魔法少女事変の時に装者と一緒にいた小娘なワケダ」

 

一般人とはいえ、装者と共にいた海恋を連れてきたことに対し、サンジェルマンはエドワードを睨む。

 

「いったいどういうつもり?」

 

「そう睨むでない。妾たちの新たな同志になりえる子ぞ」

 

「同志ぃ~?」

 

「意味がわからないワケダ」

 

エドワードの言葉に本当にわけがわからないといった顔をするカリオストロとプレラーティ。

 

「・・・事情は後で聞かせてもらうわ」

 

「ちょっと待ちなさい!私はあなたたちの仲間になんて・・・」

 

海恋が異をとなえようとすると、エドワードが人差し指を海恋の唇に触れて発言を止めた。

 

「汝が求むるは何か・・・しかとその目で見極めるがよい」

 

エドワードは必要以上なことは求めず、ただこれからの戦いを見ることを海恋に促すのであった。

 

~♪~

 

アルカ・ノイズが現れた情報はニュースでも流れていた。その情報を目にした装者たちに本部から連絡が入る。

 

「わかりました!ヘリの降下地点へ向かいます!」

 

「もたもたは後回しだ!行くぞ!」

 

「うん!」

 

「私たちは本部に!」

 

「マリアたちの様子が気になるデス!」

 

クリスと日和はヘリの降下地点に移動し、調と切歌は本部へと向かって行く。

 

「未来も、学校のシェルターに避難してて!」

 

「響!」

 

響も未来に避難を促してから移動を開始すると、未来が呼び止める。響は立ち止まって口を開く。

 

「・・・誰だって、譲れない思いを抱えてる。だからって、勝てない理由になんてならない・・・」

 

「勝たなくてもいいよ」

 

「え?」

 

「だけど絶対に・・・負けないで」

 

未来の言葉を聞いて、響は嬉しさからか頬が赤くなり、目に涙が溜まる。サンジェルマンたちとわかりあいたいと願う響の悩みは、この言葉で晴れたようだ。

 

「私の胸には、歌がある!」

 

未来からもらった勇気を胸に、響はヘリの降下地点へと向かうのであった。

 

~♪~

 

マリアの記憶の深層心理の謎の空間に飛ばされたマリアとエルフナインの意識は気を失っていた。

 

「マリア・・・マリア・・・しっかり・・・」

 

すると、どこからともなく自分たちを呼ぶ声が聞こえる。マリアたちが目を覚ますと、そこには意外な人物がいた。

 

「あ、あなたは・・・!」

 

「そうとも・・・僕は行きずりの英雄・・・」

 

「ドクターウェル!!?」

 

その人物とは、亡くなったはずのジョン・ウェイソン・ウェルキンゲトリクス、通称ウェルであった。

 

「死んだはずでは!!?」

 

「それでもこうして君の胸に生き続けている。死んだ人間ってのは・・・だいたいそうみたいだねぇ!!!」

 

ウェルが歪な笑みを浮かべると同時に辺りの空間が歪んだ。




XD-エクスドライブアンリミテッド-

海恋の誕生日ボイス①

東雲日和
今日は待ちに待った海恋の誕生日だよ!海恋のやりたいこと、全部叶えてあげるんだー。えへへ。

立花響
今日は海恋さんの誕生日だよ!みんなでお祝いしようね!

風鳴翼
今日は西園寺の誕生日。大切な日を皆で祝いたいものだ。

雪音クリス
海恋の誕生日って今日だったよな・・・?ええと、その・・・誕生日、おめでとう。

フォルテ・トワイライト
西園寺、ハッピーバースデー。今日はめでたい日だな。

マリア・カデンツァヴナ・イヴ
今日は海恋の誕生日ね。ハッピーバースデー、西園寺海恋!

月読調
今日は海恋先輩の誕生日だって。一緒にお祝いしよう。

暁切歌
今日は海恋先輩のお誕生日デス!盛大に祝うデスよー!

天羽奏
今日は海恋の誕生日だな。海恋、ハッピーバースデー。

小日向未来
今日は海恋さんの誕生日だよ。みんなでたくさんお祝いしようね!

セレナ・カデンツァヴナ・イヴ
今日は、西園寺さんの誕生日ですよ!皆さんで、お祝いしましょう!

本日の主役、西園寺海恋
え・・・あ、そう言えば今日だったわね、誕生日。ありがとう。私、自分の誕生日が好きになりそうだわ。


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繰り広げられる消耗戦

更新ペースは遅いですが、この日だけには間に合わせてみました。

なんの日かって?今日は日和ちゃんの誕生日です。どうかぜひとも祝ってあげてください。


東京湾に出現した八岐大蛇型の大型アルカ・ノイズは地上や空中に小型のアルカ・ノイズを大量に生み出し、進軍を開始する。

 

「人類が、この星の完全なる霊長となるためには、支配される存在であってはならない。完全を希求する錬金の理念。シンフォギアなどに阻まれるわけにはいかない!」

 

航空空母の甲板の上に立つサンジェルマンは高らかに宣言する。

 

「中々におもしろい代物じゃのう。おもしろくなってきたわ」

 

八岐大蛇型のアルカ・ノイズを見て、エドワードは愉快そうに笑みをこぼしている。

 

(大丈夫よね・・・日和・・・みんな・・・)

 

エドワードによって連れてこられた海恋はこれから来るであろう装者たちの心配をしている。

 

「よーく見ていることじゃ・・・さすれば、汝に光明が開かれるじゃろう」

 

エドワードの耳元からの囁きに海恋は冷や汗をかきながらキッと彼女を睨んだ。エドワードは特に気にした様子もなく、変わらずに余裕の笑みを浮かべている。

 

~♪~

 

一方日和、響、クリスの3人はヘリの降下地点へと走って向かっている。降下地点にたどり着くと同時に、ヘリが到着し、地に着陸する。ヘリには緒川と翼も乗っている。3人はヘリに乗り込んだのを確認すると、ヘリは上昇し、急ぎ東京湾へと向かっていった。

 

~♪~

 

ダイレクトフィードバックシステムを着用して横になっているマリアとエルフナインは苦しそうに唸っている。フォルテはキーボードを操作して、何とか持ち直そうと頑張っているが、その表情から見て、あまり芳しくない様子だ。そこへ調と切歌がやってきた。

 

「マリアとエルフナインはあたしたちが見ているのデス!」

 

「だから発令所へ!司令が呼んでいる!」

 

「友里さん、後のことは僕に任せてください」

 

「ありがとう。2人のことはお願いするわね。フォルテさんも、後はお願いします」

 

フォルテのサポートをしていた友里はマリアとエルフナインを2人に任せ、フォルテに全ての操作を託し、発令所へと向かった。

 

「うぅ・・・ドクター・・・ウェル・・・死んだはず・・・」

 

「なんだかよくわからないけど・・・」

 

「どうにも様子がおかしいのデス・・・」

 

「何に唸っているか知らないが・・・もう少し耐えてくれ・・・マリア・・・エルフナイン・・・!」

 

苦しそうに唸っている2人を心配する調と切歌。そんな中フォルテは低下しているバイタルを正常化するために必死にキーボードを操作している。

 

~♪~

 

ダイレクトフィードバックによってマリアの記憶の中にいるマリアとエルフナインの意識。そんな2人の目の前で高笑いをしているのは死んだはずのジョン・ウェイソン・ウェルキンゲトリクス、通称ウェル。

 

「これもあれも、きっとあれですよ、あれ。マリアの中心で叫べるなんてちょ~最高~!」

 

ウェルの高笑いにマリアは頭を抱えている。

 

「あんな言動、私の記憶にないはずよ・・・?」

 

「だとすると、ウェル博士の印象や別の記憶を元に投影されたイメージ、ということになるのでしょうか・・・」

 

「自分の記憶を叱りたい・・・!」

 

エルフナインは目の前に現れたウェルと彼の言動に1つの推論を述べた。ウェルは憎たらしい笑みを浮かべてメガネをクイッと上げている。

 

「もしかしたら、マリアさんの深層意識がシンフォギアと繋がる脳梁点を指し示しているのかもしれません」

 

「アガートラームの導き・・・?だったらセレナとか、もっと適役がいたはずよ?」

 

「示しているのは、ウェル博士から直接想起されるもの・・・だとするならば・・・」

 

現れたウェルから直接想起されているもの。それがなんであるか考えるエルフナイン。

 

「生化学者にして英雄!定食屋のチャレンジメニューもかくやという盛り設定!そうとも!!いつだって僕はハッキリと伝えてきた!!はぐらかしなんてするものか!!」

 

当のウェルはただただやかましいだけで正確な答えを伝えないでいる。それでも彼は何かを伝えたとハッキリと言っている。

 

「だったら・・・!」

 

「忘れているのなら手を伸ばし、自分の力で拾い上げなきゃ。記憶の底の底の底!そこには確かに転がっている!」

 

ウェルがそう言い切ると、辺りに霧が発生し、この空間を包もうとしている。

 

「マリアさん!」

 

「放れないで、エルフナイン!」

 

霧が辺りを充満する前にマリアはエルフナインに手を差し伸べる。エルフナインもマリアとはぐれないように手を伸ばし、2人は手を握ることに成功する。

 

~♪~

 

八岐大蛇型のアルカ・ノイズと小型のアルカ・ノイズが進軍している東京湾にヘリが到着する。1番槍としてまずは響がヘリに飛び降り、詠唱を唄う。

 

Balwisyall Nescell Gungnir tron……

 

響がシンフォギアを身に纏い、日和、翼、クリスもシンフォギアを纏い後に続く。4人の装者はクリスが放った大型ミサイルの上に乗り、アルカ・ノイズの群れに突っ込む。

 

「気になるのは錬金術師の出方だ。抜剣を控え、イグナイト抜きで迎え撃つぞ!」

 

「了解です!」

 

「何のつもりか知らねぇが、企んだ相手に遅れは取らねぇ!!」

 

クリスはボウガンをガトリング砲に変形させ、空中型のアルカ・ノイズに弾幕をばら撒く。

 

【BILLION MAIDEN】

 

弾幕は空中型アルカ・ノイズを貫き、次々とプリマ・マテリアとなって消滅する。撃ち漏らし、向かってきた空中型アルカ・ノイズは響が拳を振るって打撃を与えることで撃破する。さらに日和は取り出した2つの棍を構え、アルカ・ノイズを増やす2体の大型空中アルカ・ノイズに向けて投擲する。勢いをつけた2つの棍は2体の大型空中アルカ・ノイズを貫き、体内で強力な爆発を引き起こした。

 

【才気煥発】

 

爆発は2体の大型空中アルカ・ノイズだけでなく、周りにいる多くのアルカ・ノイズを巻き込み、撃墜していく。

 

「この身を防人たらしめるのは、血よりも熱き心意気ぃ!」

 

翼は大型空中アルカ・ノイズにミサイルが直撃する寸前で跳躍してミサイルの爆発を回避する。さらに翼は両足を広げ、脚部のブレードを展開して回転しながらアルカ・ノイズをブレードで次々切り裂いていく。

 

【逆羅刹】

 

4人の装者たちの繰り出す技によってアルカ・ノイズの数は減ってきている。だが錬金術師たちは未だに姿を現そうとしない。

 

~♪~

 

東京湾での戦いを弦十郎たちはS.O.N.G本部の司令室で見守っていた。そこへ友里が入室し、装者たちの戦いの状況を確認し、すぐに弦十郎に報告する。

 

「アルカ・ノイズ、残像数68%!」

 

「それでも出てこない錬金術師・・・」

 

錬金術師たちがどういった手を出してくるのか見当もつかない弦十郎は顎に手を当て、思案を張り巡らせる。

 

~♪~

 

アルカ・ノイズの数が減ってきたところで、八岐大蛇型のアルカ・ノイズに動きがあった。八岐大蛇型のアルカ・ノイズの胴体が開き、小型アルカ・ノイズを地上に放出している。上空を舞う大型ミサイルの上に乗る装者たちがその姿を確認する。

 

「こうも奴らをうじゃつかせてるのは、あいつの仕業か!」

 

「つまりは狙いどころ!」

 

「ならここは、強力な大技をぶち込む!!」

 

「ぶっ放すタイミングはこっちで!トリガーは翼さんに!」

 

残った大型ミサイルは八岐大蛇型のアルカ・ノイズに向かい、真上で日和が飛び降り、それに続いて響、翼も飛び降りる。翼の刀は変形し、大剣となってエネルギーを収束させる。日和は右ユニットより棍を射出し、ドリルに変形させ、勢いよく回転させる。さらにそこに日和が棍を構え、電光石火による突進を放ち、さらに勢いをつける。そして響の右拳のバンカーユニットを最大展開し、内部機構を回転させて強大な螺旋エネルギーを収束させる。

 

「目にもの見せる!!はあああああ!!」

 

3つの強大な力は八岐大蛇型のアルカ・ノイズに向かって放たれる。強力な連携による連撃は八岐大蛇型のアルカ・ノイズにダメージを与える。だがこれで終わりではない。

 

「そしてあたしは、片付けられる女だぁ!!」

 

とどめにクリスが12機の大型ミサイル同時に展開し、八岐大蛇型のアルカ・ノイズに全てミサイルを発射させた。

 

【MEGA DETH INFINITY】

 

同時発射されたミサイルは全弾見事、八岐大蛇型のアルカ・ノイズに直撃した。ミサイルを喰らった八岐大蛇型のアルカ・ノイズ悲鳴を上げ、胴体が四分割された。これによって八岐大蛇型のアルカ・ノイズは消滅する・・・はずだった。四分割された八岐大蛇型のアルカ・ノイズは胴体が再生され、一体のアルカ・ノイズが三分の一のサイズとなったが4体に増えてしまった。

 

「まさか、仕損じたのか⁉️」

 

小さくなったとはいえ、一体のアルカ・ノイズが分裂してまで残ったことは予想外の事態だ。

 

~♪~

 

本部のモニターに映る分裂したアルカ・ノイズは個別にそれぞれ別方向に進んでいく。

 

「分裂した巨大アルカ・ノイズ、個別に活動を再開しました!総数4!」

 

「それぞれが別方向に進行・・・」

 

「くっ・・・!敵の狙いは装者の分断か!」

 

分断されてしまっては連携がとれなくなってしまい、強力な連携技が使えなくなる。まんまと敵の策略にはまってしまい、苦虫を噛み潰したような表情をする弦十郎。すると、入間の軍事基地より入電が届く。

 

「指令!入間基地より入電!必要であれば応援をよこしてくれると・・・」

 

「無理だ!相手がアルカ・ノイズでは、軍事の装備品じゃ足止めにもならない!下手すれば被害が・・・!」

 

藤尭の言うことは最もだ。仮に援軍を出したとしても、軍事装備ではアルカ・ノイズにダメージを与えることはできない。それどころか逆に被害が大きくなる一方だろう。

 

「いや、入間基地には、高度な814を要請してくれ」

 

「ハリヤーをここに・・・ですか?わかりました」

 

弦十郎には何か考えがあるようで救援要請の指示を出し、オペレーターたちはすぐに指示に従った。

 

~♪~

 

1体に分裂したアルカ・ノイズはそれぞれ東西南北に移動を開始した。例え分断されたとしても、アルカ・ノイズを放置するわけにはいかない。なので装者たちもそれぞれ東西南北に分かれてアルカ・ノイズを追いかける。

 

「狙いが私たちの分断だとしても、分裂後のサイズなら、それぞれで対応できます!」

 

「ならやることは簡単!」

 

「4人で4体を仕留めればいいんだろ!」

 

「確かに、そうかもしれないが・・・」

 

それぞれの分裂したアルカ・ノイズを追いかける装者たちは通信機を使って会話をしている。響が追いかけているアルカ・ノイズは空港の滑走路にいる一般人を見つけ、そちらに向けて小型のアルカ・ノイズを吐き出した。このままでは一般人はアルカ・ノイズに分解されてしまう。

 

「これ以上、みんなを巻き込むわけには!」

 

響はそうはさせまいと跳躍し、ブースターで勢いをつけて分裂したアルカ・ノイズに拳を叩きつける。これによってアルカ・ノイズの首を吹き飛ばすことに成功したが、首はもう1つある。アルカ・ノイズはもう1つの首で響に攻撃し、空中ではろくに防御ができない響はもろに攻撃を喰らってしまう。

 

「うあ!」

 

吹っ飛ばされた響は地に叩きつけられる。その間にもアルカ・ノイズは口からさらにアルカ・ノイズを吐き出す。

 

「キリがない・・・!」

 

一方、他の分裂したアルカ・ノイズを担当する翼はその個体を追いかけ、斬撃が届きそうな距離で跳躍する。

 

「はああ!」

 

翼の大剣による一撃でアルカ・ノイズの首は斬り飛ぶ。だが斬り飛んだアルカ・ノイズは再生し、さらに1体の個体となる。

 

「くっ・・・!やはり、さらなる分裂!」

 

翼が懸念していたことはまさにこのことであったのだ。ダメージを与えてもまた分裂されてしまっては倒すどころか増える一方だ。

一方日和が追いかけるアルカ・ノイズは口から光線を放って攻撃する。日和はブースターを使って棍を構えながら避け、素早く軌道を変えながら移動する。

 

「やあああ!!」

 

【電光石火】

 

そしてアルカ・ノイズに向かって突進し、胴体を貫かせる。だがアルカ・ノイズは別れた身体を再生し、また新たな個体が誕生する。

 

「また増殖・・・!終わりが見えない・・・!」

 

一方のクリスが追いかけるアルカ・ノイズは翼の一部を槍に変形し、クリスに向けて攻撃を仕掛けてきた。クリスは横移動とジャンプで回避する。反撃としてクリスは腰部の小型ミサイルを展開し、全てのミサイルを一斉掃射させる。

 

「おおおらあああ!!」

 

【MEGA DETH PARTY】

 

ミサイルは全弾命中した。だが、やはりアルカ・ノイズは分かれた身体を再生し、新たな個体を生み出した。2体のアルカ・ノイズはクリスに向けて光線を放つ。クリスは避けようとするが、爆風によって吹き飛ばされてしまう。

 

「ぐああ!」

 

大したダメージは入っていないようで、すぐに立ち上がることはできた。

 

「どこまで頑張らせるつもりだ・・・!」

 

ダメージを与えてもさらに分裂して増殖する。厄介なアルカ・ノイズを相手に、装者たちは苦戦を強いられる。

 

~♪~

 

一方、マリアとエルフナインは未だにバイタルが安定せず、苦しい表情を浮かべて唸ったままだ。苦しそうにしている2人に調はエルフナインの手を、切歌はマリアの手を握る。

 

「頑張って・・・2人とも・・・!」

 

「みんなも頑張っているデスよ・・・!」

 

フォルテはキーボードを操作して、何とか2人のバイタルを軌道修正しようとする。だが、バイタルの確認もしつつ、さらにミスティルティンの能力を発揮させるには、かなり骨が折れる作業だ。

 

「後少し・・・後少しで届きそうだ・・・!それまで何とか持ちこたえてくれ・・・!」

 

1つのミスも許されない状況下の中で、フォルテはようやく光明を見出し、油断することなく操作を続けていく。

 

~♪~

 

マリアの記憶の深層心理。覆っていた霧が晴れると、辺り一面が星で輝き、まるで宇宙のような空間が広がっている。

 

「ここは・・・?」

 

「心象が描く風景・・・ではなさそうです・・・」

 

ここがどこなのか考えていると、2人の目の前に1筋の光が放たれた。すると・・・

 

『強く・・・なりたい・・・』

 

光からマリアの声が聞こえてきた。もちろんこの声は、今この場にいるマリアが発したものではない。

 

「今の声は・・・私・・・?」

 

さらに2人の背後に光が灯された。いや、辺り一面に光が灯され、マリアの心の声が聞こえてくる。

 

『弱い自分は見せたくない・・・』

 

『誰に嘘をついてでも・・・自分の心を偽ってでも・・・』

 

『でも本当は、嘘なんてつきたくない・・・!』

 

マリアの心の声を聞いて、エルフナインはこの場所がなんであるか、なんとなくだが理解した。

 

「ここは・・・マリアさんの内的宇宙・・・?」

 

エルフナインが推測をしていると、マリアは自身の身を抱き寄せて震えてだした。表情もどこか暗い。

 

「私の心の闇・・・受け入れられない弱さに怯えて、誰かと繋がることすら拒んでいた・・・あの頃の・・・!」

 

「マリアさん・・・?」

 

マリアの様子がおかしいことに気づいたエルフナインは首を傾げている。

 

「誰かと手を取り合いたければ、自分の伸ばさなければいけない・・・だけど・・・その手がもし・・・振り払われてしまったら・・・!」

 

マリアは自分の顔に手を覆い、不安な気持ちがどんどんと込み上げてくる。すると、内的宇宙の空間がどんどん暗くなっていき、エルフナインの身体が足から消えかけようとしていた。

 

「⁉️マリアさん・・・!」

 

いけないと思い、エルフナインはマリアに手を伸ばす。しかし、エルフナインとマリアの距離が遠くなっていき、マリアも消えかけようとしていた。

 

「マリアさん!マリアさん!!マリアさーーーん!!!」

 

エルフナインは必死に呼び掛け、手を伸ばそうにも、届かず、暗闇に飲み込まれようとしていた。

 

~♪~

 

ビィィー!!

 

「!まずい!」

 

マリアとエルフナインの容態が悪化した様子はバイタルで確認できた。数値を見てフォルテは危機感を持ち、キーボードを操作して作業を急ぐ。

 

「「う・・・ううぅ・・・!」」

 

「マリア・・・エルフナイン・・・しっかり・・・!」

 

「フォルテ!大丈夫なんデスよね⁉」

 

「焦らすな!手元が狂う!」

 

2人の容態が心配になってくる調と切歌。フォルテは焦りはあるものの、何とか冷静さを保ち、作業を的確に進める。

 

「自分を見誤るなよ、マリア・・・!君はそんなに弱くはないはずだ・・・!」

 

フォルテが作業している中、ダイレクトフィードバックに設置されているミスティルティンのギアネックレスが輝きだした。




XD-エクスドライブアンリミテッド-

日和の誕生日ボイス

立花響
日和さん!誕生日おめでとうございます!これからも変わらずに日和さんのままでいてください!

風鳴翼
今日は東雲の誕生日だな。ふふ、今日はいつにもまして、東雲ははしゃいでいるな。

雪音クリス
相棒、誕生日おめでとさん。・・・えと・・・お前に会えて・・・よかったと・・・思ってるよ・・。

フォルテ・トワイライト
ハッピーバースデー、東雲日和。ふ・・・恩人の誕生日を、忘れるわけがないだろう。

マリア・カデンツァヴナ・イヴ
今日は日和の誕生日・・・ふふ、派手なパーティにしないと、満足しそうにないわね。

月読調
日和先輩、お誕生日おめでとうございます。咲さんに教わってもらったおさんどん、いっぱい作ってみました。

暁切歌
歌好きなひよりん先輩のために、お誕生日の歌を作ってみたデス!ぜひとも聞いてもらいたいのデス!

小日向未来
今日は日和さんの誕生日。ふふ、あんなにはしゃいで・・・海恋さんも嬉しそう。

西園寺海恋
日和、誕生日おめでとう。あなたと初めて出会った日、あなたと過ごす日々は、私の一生の宝物よ。

本日の主役、東雲日和
私の誕生日を祝ってくれるなんて・・・!ありがとう!すっごく嬉しい!おかげで次に作る歌のフレーズが決まったよ!お礼に今度聞かせてあげるね!


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決死圏からの浮上

ようやくWi-Fiが繋がったのでパソコンでの達筆を再開。これを機に更新が止まっていた2作品を達筆を再開したので、こんなに遅くなってしまったことを謝罪いたします。申し訳ございません!

この後、私の作品の六等分の花嫁とこの微笑ましい双子に幸運をの投稿するつもりなので、もし気になる方がいればぜひそちらも読んだいただけると嬉しいです。


装者たちの攻撃によってどんどんと増殖する八岐大蛇型のアルカ・ノイズは新たな小型のアルカ・ノイズを生み出していく。生まれた小型のアルカ・ノイズは響と対面し、一斉に襲い掛かる。響は向かってくるアルカ・ノイズの攻撃を躱しながら拳による打撃と蹴りを放って1体ずつ次々と倒していき、分裂したアルカ・ノイズに向かって跳躍する。

 

「たあああ!!」

 

アルカ・ノイズが新たな個体を生み出そうとしたところに響はアルカ・ノイズの頭にかかと落としを繰り出してそれを阻止する。

 

「うおおおお!!」

 

さらに響はバンカーユニットを引いてアルカ・ノイズの頭に強烈な拳を振るってアルカ・ノイズの首をへし折る。だがアルカ・ノイズのもう1つの首が襲い掛かろうとする。

 

一方分裂した別のアルカ・ノイズは触手を伸ばして追いかけてくる翼に攻撃を仕掛ける。翼はその攻撃を躱し、うまいこと伸びてきた触手に乗り、スライディングで本体に近づく。もう1体の分裂したアルカ・ノイズは別の触手を伸ばして攻撃するが、翼はこの攻撃を跳躍で躱す。

 

「勝機!」

 

翼は空中で複数の刃を生成し、アルカ・ノイズに目掛けて刃を降り注いだ。

 

【千ノ落涙】

 

降り注いだ複数の刃は2体のアルカ・ノイズを刺し貫く。この攻撃によって2体のアルカ・ノイズの撃破に成功する。だが2体のアルカ・ノイズのうち1体は消滅間際に唾液を吐き、その唾液からアルカ・ノイズが現れる。地に着地する翼は息が上がり、汗を流している。

 

「消耗戦を仕掛けてくると踏んでいたが・・・なかなか、どうして・・・!」

 

消耗戦を仕掛けてくるというのは予想はついていたが、やはり疲労で身体が悲鳴を上げているようだ。

 

別のアルカ・ノイズを担当するクリスはこちらに空中から接近する2体の分裂アルカ・ノイズにガトリング砲の銃口、及び大型ミサイルを展開し、発射する。

 

「全発全中、持ってけデストロイ!!!」

 

【MEGA DETH FUGA】

 

ガトリング砲の弾を2体のアルカ・ノイズは躱していくが、発射された大型ミサイルに直撃し、爆散する。これによって2体のアルカ・ノイズの撃破に成功する。

 

「はぁ・・・はぁ・・・増殖の元を絶ちさえすれば・・・」

 

クリスの身体は疲労で悲鳴を上げているが、気が休まらない。なぜなら、アルカ・ノイズが最後の足搔きとして小型のアルカ・ノイズを大量に召喚したからだ。

 

「後は鴨を撃つばかりだっての・・・」

 

他の分裂したアルカ・ノイズを担当する日和はアルカ・ノイズの吐く光線を跳躍で躱し、アルカ・ノイズの真上まで昇っていく。そして、これ以上増殖させないように棍を2本構え、アルカ・ノイズに狙いを定める。

 

「一撃で仕留める!やあ!!」

 

日和は2体のアルカ・ノイズに向けて棍を2つ投擲する。投擲された2つの棍は炎を纏って勢いをつけていく。

 

【猪突猛進】

 

投擲された炎の棍は2体のアルカ・ノイズの腹部に直撃し、纏った炎に包まれて焼き尽くされていく。そして、最後の足搔きとしてアルカ・ノイズは口から唾液を飛ばし、小型のアルカ・ノイズを大量に召喚した。

 

「だから何だ!いくら小型集まったって!」

 

持久戦を得意としている日和は他の装者たちと比べればまだまだ余裕な表情だ。

 

3人が分裂個体を倒したことで分裂したアルカ・ノイズは響が担当するもので最後だ。最後のアルカ・ノイズは翼を槍の形に変形させ、響に向かって突きさしていく。響はその攻撃を躱し、槍の上に乗ってアルカ・ノイズに向かっていく。

 

「分裂したって!増殖したって!」

 

アルカ・ノイズは向かってくる響に首を伸ばして攻撃を仕掛けようとする。だが響はその攻撃を回転蹴りで蹴り飛ばして撥ね退ける。そしてそのままバンカーユニットを展開し、ブースターをかけ、拳を振るう。

 

「何度だって、叩き潰す!!」

 

響が放った強烈な一撃はアルカ・ノイズの顔を直撃させ、粉砕させる。だが散り間際、アルカ・ノイズのは尻尾を斬り落とし、首に変えて蛇のような姿となって何とか生き残った。そしてそのまま戦域へと離脱しようとしている。

 

「何度だって・・・!」

 

響は疲労で膝がガクッと倒れそうになるも、気力を振り絞って立ち上がり、逃げていくアルカ・ノイズを追いかける。

 

~♪~

 

マリアの深層心理の内的宇宙より聞こえる自身の弱かった頃の心の声によって、深み闇の中へと沈んでいくマリア。

 

(私は・・・自分の創った闇におぼれて・・・かき消されてしまうの・・・?)

 

闇の中へとどんどん沈んでいくマリア。諦めかけようとしたその時・・・暗き闇の中より一筋に輝く赤い光がマリアの元に降りていく。

 

『マリア・・・マリア・・・』

 

(・・・この・・・声は・・・)

 

赤い光より、自分のことをよく知る友の声が聞こえてくる。強くて、逞しく・・・何者にも屈しない強い心を持った・・・憧れの存在。その声に反応したマリアは目を開ける。同時に、目の前の赤い光は輝きを増し、マリアを包んだ。

 

「・・・っ」

 

マリアはその輝きに思わず目を閉じる。輝きが収まり、目を開けて見ると、光景は別の空間に変わっていた。そこはどこかの森の中。

 

「ここは・・・?」

 

ここはどこだろうとマリアが見回してみると、ある光景が目に移る。それは、怪我でボロボロの状態の軍服姿のフォルテ・・・いや、トレイシー・テレサがライフルを持ってフラフラと歩いている姿だった。

 

(あれは・・・フォルテ⁉ということはここは・・・バルベルデ⁉)

 

フォルテは幼き頃反乱軍の軍人であったことを思い出したマリアはここがバルベルデのどこかの森であるとわかった。

 

(これは・・・私の記憶じゃない・・・フォルテの記憶・・・?)

 

幼き頃の自分はこの光景を見たことは一度もない。となれば考えられるのはただ1つ。この光景は、フォルテの記憶に他ならない。おそらくこれも、ミスティルティンの力によるものであろうとマリアは考える。マリアが結論を出したと同時に、テレサはライフルを木にもたれかかり、項垂れる。

 

「・・・仲間を失い・・・帰る場所もない・・・。もう・・・疲れた・・・何もかも・・・どうでもいい・・・」

 

(・・・あんな姿・・・今まで見たことがない・・・)

 

自分の知っているフォルテはいつも毅然として、堂々とした立ち振る舞いをしていた。だが目の前の彼女はそれとは全く真逆。目は虚ろで生気が一切感じられない。まるで全てを諦めたかのような。あまりにも弱々しい姿にマリアは困惑せずにはいられなかった。困惑している間にもマリアは違う記憶に飛ばされる。次に目にしたのは、F.I.Sの施設の中でナスターシャが手錠をかけられたテレサと対面している光景であった。

 

「・・・殺してくれ・・・」

 

「⁉」

 

テレサの死を望む声にマリアは驚愕する。ナスターシャは動揺せず、テレサを見つめ、問いかける。

 

「・・・なぜです?」

 

「僕には・・・利用価値も・・・生きる価値もない・・・。存在する意味も・・・資格も・・・」

 

テレサの答えに沈黙が流れた。そして、沈黙を破るようにナスターシャは口を開く。

 

「・・・フォルテ・トワイライト」

 

「!」

 

「トレイシー・テレサはたった今死にました。今日からあなたはフォルテ・トワイライトとして生きるのです」

 

「フォルテ・・・トワイライト・・・」

 

「それでも死にたいと望むならば、組織に貢献して死になさい。意味や価値を決めるのはあなたではない。我々なのです」

 

「・・・・・・」

 

ナスターシャの厳しい言葉にテレサ・・・いやフォルテは納得いっていない表情を見せた後、首を縦に頷いた。

 

その後、記憶は目まぐるしく変わっていく。最初は誰も寄せ付けず、1人で行動する姿。次にF.I.Sの仲間と衝突する姿。次にセレナと交流する姿。次に仲間に心を開き、笑みを浮かべる姿。次に自分の戦う意味を見出した姿。次にアルビノ・ネフィリムと戦う姿。次にフロンティア計画実行に、覚悟を見出した姿。最後に・・・これまでの過去に吹っ切れ、心からの笑みを浮かべる姿。

 

(これは・・・フォルテが辿ってきた・・・道のりの過程・・・)

 

これまでのフォルテの今に至るまでの過程を見て、マリアは気づいた。フォルテという人物を。

 

(そうか・・・フォルテは・・・最初から強かったわけじゃなかったんだ・・・。辛いことを経験して、挫折して・・・それさえも許されず・・・。それでも前に進むことを選んで・・・セレナと出会って・・・みんなと出会って・・・今の強さを得た。私と・・・同じだったんだ・・・)

 

フォルテも自分と同じ弱さを持っていたことに気づくと、辺りは暗き海のような空間に変わり、目の前には赤く輝くフォルテの幻がいた。フォルテの幻は無表情のまま、マリアに手を差し伸べる。マリアはその手を取るべきか戸惑っている。すると、どこからともなくウェルの声が聞こえてくる。

 

『シンフォギアとの適合率に、奇跡という物は介在しない。その力、自分のものとしたいなら、手を伸ばし続ければいい』

 

ウェルの言葉と自分を見つめ続けるフォルテの幻を見て、『手を伸ばさなければいけない・・・』そんな考えがよぎり、手を伸ばしてフォルテの幻の手を握る。すると、暗い闇が晴れるかのように、辺りに光が覆われていく。

 

~♪~

 

「マリアさん!」

 

エルフナインの呼び声でマリアは目を覚ます。辺りを見てみると、そこはF.I.Sの施設、白い孤児院の中であった。

 

「ここは・・・白い孤児院・・・私たちが連れてこられた・・・F.I.Sの・・・」

 

ここが白い孤児院での記憶であるとわかった時、フォルテの幻が再び現れる。マリアとエルフナインが彼女の幻を見た時、幻はある場所に向けて指をさした。幻が指をさす方向に目を向けて見ると、そこにはナスターシャと施設の関係者を怯えながら見つめていた幼きマリアとセレナがいた。

 

「・・・・・・」

 

当時の記憶を見てマリアは少し悲しそうな表情をした。施設の関係者は笑みを浮かべ、幼きマリアとセレナに手を差し伸べた。幼きマリアはその手を取ろうとしたが、それを許さないがごとく、ナスターシャが鞭で幼きマリアの手を叩いた。

 

「今日からあなたたちには戦闘訓練を行ってもらいます!フィーネの器となれなかったレセプターチルドレンは、涙より血を流すことで組織に貢献するのです!」

 

幼きマリアはナスターシャに対し恐れを抱き、涙を流した。ここで、ウェルの声が聞こえてきて、フォルテの幻が口を開く。

 

『本当にそうなのかい?』

 

『本当に君の記憶は、マムへの恐れだけだったのか?』

 

ウェルとフォルテの幻の声を聞いて、当時目を背けていたナスターシャに初めて目を向けるマリア。その表情を見て、マリアは目を見開いた。この時のナスターシャの表情は・・・とても悲しそうな顔をしていた。

 

(そうだ・・・恐れと痛みから、記憶に蓋をしていた・・・。いつだってマムは、私を打った後悲しそうな顔をして・・・)

 

ナスターシャの辛そうな顔を見て、マリアは思い出す。LiNKERの投与を強要する時も、彼女は悲しそうな顔をしていた。それだけでない。戦闘訓練で負傷した仲間たちの治療も施していた。さらに、マリアのガングニールの適合の時だって・・・

 

『無理よ、マム・・・やっぱり私は・・・セレナみたいにはなれやしない・・・』

 

『マリア。ここで諦めることは許されません。悪を背負い、悪を貫くと決めたあなたは、苦しくとも、耐えなければならないのです』

 

その言葉の最後に彼女は・・・唇を噛んで血を流し、辛い感情を押し殺していた。その光景は、今日調と切歌を叱った時のフォルテと重なっていた。これらの記憶によって、マリアは思い出した。

 

(そうだ・・・!私たちにどれほど過酷な訓練や実験を課したとしても、マムはただの1人も脱落させなかった。それだけじゃない・・・私たちが決起することで、存在が明るみに出たレセプターチルドレンは、全員保護されている・・・。全ては、私達を生かすために・・・いつも自分を殺して・・・)

 

ナスターシャの厳しさに隠された本当の気持ちを思い出したマリアは松代で出会ったトマト農園のおばあさんの言葉を思い出す。

 

『トマトをおいしくするコツは、厳しい環境に置いてあげること。ギリギリまで水を与えずにおくと、自然と甘みを蓄えてくるもんじゃよ』

 

厳しさを与えることで、甘さを蓄えさせる。ナスターシャがやってきたことは、まさにそれと同じだ。そしてそれを深く受け継いだのが・・・フォルテであった。それに気がついたマリアをフォルテの幻が見つめる。

 

「大いなる実りは、厳しさに耐えてこそ・・・。優しさばかりでは、今日まで生きてこられなかった・・・。私たちに生きる強さを授けてくれたマムの厳しさ・・・その裏にあるのは・・・」

 

全ての答えにたどり着いたマリアにフォルテの幻は笑みを浮かべ、光の粒子となってマリアの身体を包み込む。光が収まると、マリアはアガートラームのギアを纏っていた。

 

『ナスターシャにも、フォルテにも、マリアにも、いつだって伝えてきた・・・。そう、人とシンフォギアを繋ぐのは・・・』

 

「可視化された電気信号が示すここは、ギアとつながる脳領域・・・。誰かを想いやる、熱くて深い感情を司るここに、LiNKERを作用させることができれば・・・!」

 

一部始終を見ていたエルフナインも、LiNKER完成の最後の鍵がなんであるかに気がついた。となれば、後にやることは1つだけだ。

 

~♪~

 

「ん・・・んん・・・はっ!」

 

ダイレクトフィードバックシステムをつけてずっと眠っていたエルフナインは目を覚まし、飛び上がった。いきなり目を覚ました彼女に調と切歌は驚く。

 

「エルフナイン⁉」

 

「どうなったデスか⁉」

 

「もうひと踏ん張り・・・その後は、お願いします!」

 

エルフナインはヘッドギアを外して研究室を後にした。その様子に2人はポカンとしている。ちょうどそのタイミングにマリアは目を覚ました。

 

「マリア!」

 

「・・・ありがとう・・・マム・・・」

 

記憶の中でナスターシャの思いを思い出したマリアの目には一筋の涙が溜まっており、彼女はそれを拭った。

 

「まったく・・・ひやひやさせてくれる・・・」

 

ずっとバイタルを確認しつつ作業をずっとしていたフォルテは安心し、椅子に座ってもたれかかる。

 

「・・・フォルテ」

 

「ん?」

 

「ありがとう」

 

「・・・なんだ、突然?」

 

マリアからのお礼の言葉に、何のことかよくわかってはいないが、悪い気はせず、フォルテは笑みを浮かべるのであった。

 

~♪~

 

一方その頃、どこかへ逃げていく蛇のような姿となったアルカ・ノイズに響は追いついた。アルカ・ノイズは前進を止め、プラナリアのようにまた分裂し、数を増やした。分裂した1個体は響に向かって突進してきた。

 

「何度分裂したってぇ!!」

 

響は突進してきたアルカ・ノイズの角を掴んで受け止め、足のアンガージャッキを地面に突き刺して身体を固定させる。だがその間にも分裂したもう1体のアルカ・ノイズはどこかへと戦線離脱しようとする。

 

「!しまった!どおおりゃああああ!!」

 

響は受け止めたアルカ・ノイズを放り投げて地面に叩きつけ、そこから跳躍してアンガージャッキを伸ばす。

 

「はああああ!!」

 

響はアルカ・ノイズに蹴りを放ち、アンガージャッキを突き刺してアルカ・ノイズを倒した。

 

「今逃げた奴を追いかけなきゃ!」

 

響が逃げたアルカ・ノイズを追いかけようとした時、何かに気付き上を見上げる。何もない空より、光学迷彩を解除した航空母艦が姿を現した。

 

「あれは、バルベルデで堕とした・・・」

 

姿を現した航空母艦は他の装者たちにも確認できた。

 

「いくらシンフォギアが堅固でも・・・」

 

「装者の心はたやすく折れるワケダ」

 

「・・・っ」

 

杖を撫でてキスをするカリオストロとカエルのぬいぐるみの首を絞めるプレラーティ。

 

「総力戦を仕掛けるわ」

 

サンジェルマンの指揮により、錬金陣が現れ、母艦型のアルカ・ノイズが複数現れる。そこへ響の通信機から衝撃な報告が聞こえてきた。

 

『アルカ・ノイズ、第19区域方面へ進攻!』

 

「!それって・・・リディアンの方じゃ・・・!」

 

そう、第19区域とは、リディアンがある方角である。

 

「立花さん!!」

 

「!!?海恋さん!!?」

 

ここに聞こえるはずのない海恋の声に響は驚愕した。

 

~♪~

 

S.O.N.G本部のモニターにも、航空母艦の甲板に乗っている海恋の姿が確認できた。

 

「そんな・・・!まさか・・・!」

 

「バカな!!?なぜ海恋君が!!?」

 

敵の元に海恋がいるという事実にオペレーターたちも、弦十郎も驚かずにはいられなかった。

 

~♪~

 

響の驚愕に構わず海恋は航空母艦の上から声を上げる。

 

「空のアルカ・ノイズは日和たちに任せて、あなたは逃げていったアルカ・ノイズを追いかけて!!」

 

「で、でも・・・それじゃあ・・・」

 

「今ここで行かなかったらリディアンはどうなるの!!?」

 

「!!」

 

海恋の叱咤の声に響が思い浮かべるのは、親友の未来の笑顔だ。

 

「私やみんななら大丈夫!!あなたはあなたの正義を信じて握りしめて!!せめて、自分の最善を選んでくれ!!」

 

海恋の叱咤する声を近くで聞いていたカリオストロはエドワードに問いかける。

 

「いいの?あんなこと言ってるけど」

 

「よい」

 

相変わらず何を考えているのかわからないエドワード。だが何を言っても意見を曲げないのはわかりきってるため、仕方なく放っておくことにする3人の錬金術師たち。

 

「・・・ありがとうございます・・・海恋さん・・・。必ず助けてみせます・・・!」

 

響はそう言って胸のギアコンバーターを手にかける。イグナイトを使用しようとしているのだ。だがそれは、錬金術師たちが待ち望んでいたものだ。

 

「待っていたのはこの瞬間!」

 

「待て」

 

「エドワード?」

 

サンジェルマンがラピスが埋め込まれた銃を取り出した時、エドワードが静止した。

 

「・・・そろそろ面白くなるぞ」

 

まるでこの先の展開を先読んだかのようにエドワードは楽しそうに笑みを浮かべる。

 

「イグナイトモジュール・・・」

 

『その無茶は後に取っとくデス!』

 

『わがままなのは、響さん1人じゃないから!』

 

響がイグナイトを使用しようとした時、通信機から切歌と調の声が割って入ってきた。すると、轟音と共に空から使用要請をしていたハリヤーがやってきて、航空戦艦の頭上を通っていく。そして、航空母艦の真上から切歌と調がハリヤーから降りて降下する。そして・・・

 

Various Shul Shagana tron……

 

詠唱を唄うことによって、2人はシンフォギアを身に纏った。降下していく調はヨーヨー型の丸鋸を放って小型の空中アルカ・ノイズを撃墜し、さらにツインテール部位のアームを展開し、小型の丸鋸を複数放った。

 

【α式・百輪廻】

 

放たれた丸鋸は飛び回る空中アルカ・ノイズを次々撃墜していく。さらに切歌は鎌の刃を3つに増やし、そのまま振るって刃をブーメランのように放った。

 

【切・呪りeッTぉ】

 

放たれた2つの刃は空中アルカ・ノイズを何体も斬り裂いていく。これらの技を放った2人にはバックファイアによるダメージは入らなかった。それ即ち・・・LiNKERが完成したのだ。

 

~♪~

 

S.O.N.G本部のモニターには航空母艦の上に着地した2人の姿が映し出されている。

 

「シュルシャガナとイガリマ!エンゲージ!」

 

「協力してもらった入間の方々には、感謝してもしきれないですね」

 

「バイタル安定・・・シンフォギアからのバックファイアは、規定値内に抑えられています」

 

「こっちもよく間に合わせてくれた。感謝するぞ、エルフナイン君!」

 

LiNKER完成の功労者であるエルフナインは弦十郎は感謝の言葉を述べた。

 

一方、LiNKERを完成させたエルフナインは自身の研究室で一息ついていた。モニターにはLiNKERの原子配列を立体的にした図が映し出されている。

 

「LiNKER完成に必要だったのは、ギアと装者の間を繋ぐ脳領域を突き止めること。その部位が司るのは……自分を殺してでも、誰かを守りたい一生の思い。それを一言で言うならば!」

 

~♪~

 

「愛よ!!」

 

シンフォギアを身に纏ったマリアはリディアンの屋上で待機し、こちらに向かってきたアルカ・ノイズを迎え撃つ。

 

「はああああああ!!」

 

跳躍したマリアは短剣を蛇腹状の刃に可変し、伸ばした刃を向かってくるアルカ・ノイズに放った。

 

【EMPRESS†REBELLION】

 

放たれた刃はアルカ・ノイズを真っ二つに両断した。これで分裂するアルカ・ノイズは全滅した。

 

「最高・・・なんて言わないわ」

 

リディアンの屋根に着地したマリアはゆっくりと立ち上がる。

 

(あなたは最低の最低よ。・・・ドクターウェル)

 

~♪~

 

航空母艦の甲板。そこに立つ錬金術師たちの足元が突然熱し始めた。

 

「「「「!!」」」」

 

異変を感じ取った錬金術師たちはすぐにその場から跳躍し、その場を離れる。すると・・・

 

ドオオオオオン!!

 

熱した甲板の下より炎が突き破って噴き出した。炎を追うように現れたのはシンフォギアを身に纏ったフォルテだった。フォルテは海恋の元まで降り立ち、彼女を守るように立った。

 

「無事か?西園寺」

 

「フォルテさん・・・はい!」

 

「待っていろ、すぐに終わらせる」

 

フォルテは大剣を双剣に変形させ、雷を纏って母艦型アルカ・ノイズに雷撃を放った。

 

【Asmodeus Of Lust】

 

放たれた雷撃は母艦型のアルカ・ノイズをX文字に切り裂かれ、爆散した。

 

「デース!!」

 

同時に、切歌3つの刃を展開した大鎌を構え、1体の母艦型アルカ・ノイズに接近して両断する。さらに調はツインテール部位より展開した大型丸鋸を放ち、もう1体の母艦型アルカ・ノイズを斬り裂いた。そんな彼女の足元に火炎弾が撃ち込まれた。調はその火炎弾を跳躍して躱す。この火炎弾を放ったのはプレラーティだ。プレラーティは両腕に炎を灯し、調に向けてボールのように放つ。向かってくる炎を調は小型丸鋸を複数放ち、相殺させる。そこへフォルテがプレラーティに双剣を振り下ろし、攻撃を仕掛けるが、これを難なく躱される。

そこに1つの氷のドリルが突っ込んできたが、フォルテは慌てることなく双剣で氷を切り裂いて砕く。その隙をついて突っ込んでくるのはエドワードだ。エドワードは甲板の一部素材を一瞬で構築錬成し、忍者刀を作り、フォルテに振るう。フォルテは右手の剣で忍者刀を受け止める。

 

「ちと派手にやってくれたのう」

 

エドワードは笑って忍者刀で受け止めながら左手で構築錬成を行い、もう忍者刀を創り出してフォルテに振るう。フォルテは左手の剣で忍者刀を受け止め、そして双剣でエドワードを押し返し、右手の剣を振るう。しかしその攻撃をエドワードは後ろへ軽く跳躍して簡単に躱す。そこへ切歌が接近し、鎌を振り下ろすが、エドワードは2つの忍者刀で鎌を受け止め、そして切歌を押し退ける。そのタイミングでカリオストロが切歌に向けて光弾を発射し掌底を放つ。切歌は光弾を弾き、カリオストロの掌底を鎌の柄で受け止める。

 

「結局、お薬頼りのくせして」

 

「LiNKERをただの薬と思わないでほしいデス!」

 

「みんなの思いが完成させた絆で!」

 

調はヨーヨーの丸鋸を威力を引き上げてプレラーティに投擲する。対するプレラーティはカエルのぬいぐるみを通して防御障壁展開して丸鋸を弾く。さらに展開した5つ水の錬金陣より氷の槍を放った。調は氷の槍を踊るように躱し、プレラーティに接近してスカートを丸鋸に変形させる。

 

Δ式・艶殺アクセル

 

プレラーティは防御障壁を展開して丸鋸を受け止めるが、調の攻撃の方が重い。防御障壁が耐えられないと判断したプレラーティは障壁を解除し、調から距離を取る。切歌もカリオストロの攻撃を押し返し、肩アーマーのアンカーを放つ。カリオストロは防御障壁を放つも、呆気なく吹き飛ばされる。

 

「ああん!」

 

吹き飛ばされたカリオストロは後ろにいたプレラーティと背中をぶつけてしまう。調と切歌と2人を追撃に攻撃を仕掛けようとする。エドワードはそうはさせまいと調と切歌に2つの忍者刀を投擲する。フォルテはその隙を逃さず双剣を大剣に戻し、彼女に振るう。エドワードは慌てる素振りは見せず、右手で難なく防御障壁を張って防ぐ。飛んできた忍者刀を調と切歌は跳躍して躱し、お互いに手を繋ぎ合う。

 

「きっと勝利を!」

 

「むしり取るデス!」

 

調は脚部に大型丸鋸を、切歌はつま先に三日月形の鎌を展開し、プレラーティとカリオストロに向けて2つの刃の飛び蹴り放った。それを見たエドワードは防御障壁を張りつつ、袖から札を取り出し、調と切歌に放った。それを見たフォルテはエドワードを押し返し、ブースターを使って投擲された札に接近し、大剣を両剣に変形させ、両剣を回転させて札を全て斬り裂いた。切り裂かれた札は爆発し、硝煙が立ち上る。調と切歌は硝煙を突き破ってそのままカリオストロとプレラーティに突っ込む。そこへサンジェルマンが2人を守るように間に入り、防御障壁を張った。障壁と2つの刃は均衡しあっている。

 

「・・・っ!」

 

「「はあああああああ!!」」

 

力の押し合いは調と切歌が上回り、防御障壁は見事砕け散り、2人の刃の蹴りは艦首箇所を貫いた。これによって航空母艦は連鎖的に大爆発した。フォルテは海恋をお姫様抱っこで抱えて航空母艦から脱出し、調と切歌と共に地面に土煙を巻き上げながら着地する。

 

「あいつらはどこデスか⁉」

 

土煙でよく見えない中、切歌は辺りを見回し、脱出したであろう錬金術師たちを探す。そこに・・・

 

ドォン!!

 

煙の中より銃声が聞こえてきた。これはファウストローブを纏ったサンジェルマンが放った弾丸だ。サンジェルマンだけでなく、エドワード以外の2人もファウストローブを纏っていた。弾丸は切歌に向かって飛来している。

 

「暁!後ろだ!」

 

「切ちゃん!」

 

「その命、革命の礎に」

 

フォルテが声をかけるも切歌が反応に遅れたため躱すことができない。弾丸が直撃しようとしたその時、響が間に入り、掌で弾丸を受け止めた。弾はめり込み、威力を失い地面に落下する。

 

「何・・・?」

 

「響さん!」

 

「間違ってる・・・命を礎だなんて!間違ってるよ!」

 

「ふふふ、青いのう」

 

「4対4になったからって・・・」

 

「気持ちが大きくなってるワケダ」

 

カリオストロとプレラーティが小バカにした発言をした時、上空より赤い光の矢が飛んできた。響たちが後ろを振り向くと、崖の上よりクリス、日和、翼、マリアの4人の姿がそこにいた。

 

「いいや!これで8対4だ!」

 

「日和!!」

 

「翼さん!クリスちゃん!」

 

「「マリア!」」

 

「・・・っ」

 

「海恋!!」

 

日和は海恋を確認すると、3人より先に崖から跳躍し、彼女の元まで駆け寄り、抱きしめる。

 

「よかったぁ・・・無事で・・・どこも怪我してない?」

 

「日和・・・うん。大丈夫」

 

海恋が無事であると安心した日和はほっと息を吐き、彼女を守るように前に立ち、錬金術師たちを睨みつける。日和の前に翼とマリアが降り立ち、次いでクリスも降り立つ。翼は刀の切っ先を錬金術師たちに向ける。

 

「いい加減聞かせてもらおうか、パヴァリア光明結社。その目的を!」

 

「人を支配から解放するって言っていたあなたたちは、一体何と戦っているの⁉あなたたちが何を望んでいるのかを教えて!本当に誰かのために戦っているのなら、私たちは手を取り合える!」

 

「手を取るだと?傲慢な」

 

サンジェルマンは響の言葉を拒絶するように言い放ち、自身の目的を言い放つ。

 

「我らは神の力をもってして、バラルの呪詛を解き放つ!」

 

サンジェルマンたちの目的に装者と海恋は驚愕する。

 

「神の力で・・・バラルの呪詛をだと⁉」

 

「月の遺跡を掌握する!」

 

サンジェルマンは顔の前で右拳を力強く握りしめた。




エドワードの戦闘スタイル(通常状態)

エドワードが最も得意としているのは構築、再構築錬成。通常の錬金術だけでなく、それらを駆使して状況に応じた武器を錬成して攻撃、さらに錬金術の力を封じ込めた札を放って攻撃するなど、状況に応じて戦い方を変えていく万能型のスタイル。ちなみに、構築錬成に使う際の材料は時には地面の砂などを使ったりするが、大抵は錬金術で札に封じ込めた素材を主に使ったりしている。


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見えてきた光明、揺れ動く感情

前回同様に、今回も3作品の投稿を行いました。そして今回の投稿で今年のシンフォギアの投稿は最後となります。

来年もシンフォギア、投稿を再開した2作品も頑張って達筆していこうと思います。

それではよいお年を!


サンジェルマンたちの目的・・・神の力を持って月の遺跡を掌握し、バラルの呪詛を解放するという壮大な目的に装者と海恋は衝撃が走り、驚愕する。

 

「月にある・・・遺跡を・・・?」

 

「人が人を蹂躙する不完全な世界秩序は、魂に刻まれたバラルの呪詛に起因する不和がもたらす結果だ」

 

「不完全を改め、完全と正すことこそ、サンジェルマンの理想であり、パヴァリア光明結社の掲げる思想なのよ」

 

「月遺跡の管理権限を上書いて人の手で制御するには、神と呼ばれた旧支配者に並ぶ力が必要なワケダ」

 

「じゃが神の力は非常識・・・ちっぽけな人間では到底その頂に辿り着けぬ。ならばどうする?知れたこと。命の灯をかき集めればよい。よく言うじゃろう?賊と言えど数を揃えれば侮れんとな」

 

「そのためにも、バルベルデを始め各地で儀式を行ってきたワケダ」

 

パヴァリア光明結社がこれまでに陰で行ってきた数々の事件は全てその目的のために命を集めていたのだ。以前に豪華客船でエドワードが持っていた光の球体は、彼女に殺された人間の命のエネルギーだったのだ。

 

「だとしても!誰かを犠牲にしていい理由にはならない!」

 

「犠牲ではない!流れた血も失われた命も、革命の礎だ!」

 

「そんなくだらぬことのためにバルベルデを・・・我が故郷を!!」

 

「くだらぬ?くだらぬだと?」

 

革命のためにバルベルデを巻き込んだことに怒りを覚えるフォルテのくだらないという発言に、サンジェルマンもまた怒りを浮かべる。そんなサンジェルマンをエドワードが片手で制す。

 

「よせサンジェルマン。許しを請う気など初めからないわ。革命は命を散らしてこそ価値がある・・・小さなことにいちいち拘ってなどおれぬ」

 

「だったら何で海恋を連れ去ったんだ!!言ってることが矛盾してるじゃないか!!」

 

革命のために命を散らすのが前提ならば海恋を連れてきたことはおかしいと日和は主張する。

 

「そこはエドに聞いてくれる?その子に関してはあーしらまったく関係ないし」

 

日和の主張、そして装者たちの姿勢を見て、エドワードは肩をすくめて、心底呆れながら札を取り出す。札は黒い火薬と鉄に変わり、構築錬成することで火縄銃へと練成される。

 

「ふぅ・・・やれやれ・・・汝らは最初から質問ばかりでまとも考えようともせん。そんなに気になるならば・・・無理やり吐かせてみよ!」

 

ドォン!!

 

エドワードは火縄銃を装者に向けて、弾を発砲した。装者たちは散開して弾を避け、日和は海恋をお姫様抱っこをして彼女を戦域へと離脱させる。

 

「海恋はここで待ってて!すぐに終わらせるから!」

 

「日和・・・」

 

海恋の避難を終えた日和はすぐに戦線に戻り、戦闘を開始する。最初に攻撃を仕掛けるのは翼だ。翼は刀を大剣に変形させて、錬金術師たちに向けて放った。

 

【天ノ逆鱗】

 

下降してくる大剣にサンジェルマン、カリオストロ、プレラーティは散開する。エドワードは臆することなく火縄銃を再構築錬成し、薙刀へと形を変える。そして、薙刀の切っ先に風の錬金術の力を蓄え、大剣に向けて斬撃を放つ。風の斬撃によって大剣は軌道が変化し、直撃が逸れてしまう。好機を逃がすことなくサンジェルマンは着地した瞬間に翼に弾丸を3発撃ち放つ。翼は攻撃を喰らうまいと大剣を盾のように利用する。だが弾丸は錬金術によって形を変え、大剣を難なく貫く。

 

「がっ・・・!」

 

弾丸が貫いてきたことによって翼に弾が掠ってしまう。

 

「はああああ!!」

 

響がサンジェルマンに向かって行こうとした時、サンジェルマンは狙いを響に変え、彼女の足元に弾丸を撃ち放つ。地に着弾した弾は錬金術によって岩石の塊に変化し、響を襲う。響は咄嗟に横っ飛びで回避するが、サンジェルマンは同じ弾を撃ち放って追撃する。響は回避し続けるが、うまく近づくことができない。

 

エドワードは懐から札を何枚も取り出し、それをマリアに目掛けて放つ向かってくる札は込められた力を解放し、雷へと変わる。向かってくる雷をマリアは躱していき、短剣を抜刀する。

 

「はああああああ!!」

 

マリアは短剣を蛇腹剣に変形し、伸ばした刃でエドワードに攻撃する。エドワードは薙刀を振るって風の錬金術を放ち、蛇腹剣を弾いた。

 

「やああああああ!!」

 

その隙を狙うように日和がエドワードに接近し、棍を振り下ろそうとする。しかしエドワードはそれを予測していたかのように薙刀を再構築錬成し、両手槌に形を変えてそれを振るって棍を受け止め、そのままマリアの元まで押し返す。

 

「未熟じゃのう。ラピスを纏うまでもないわ」

 

エドワードは両手槌に炎の錬金術の力を纏わせ、地面に向けて槌を叩きつける。そして、その瞬間に日和とマリアの足元がぐらつき、一気に炎が噴き上がり、彼女たちを吹っ飛ばす。

 

「「あああああああ!!」」

 

もろに炎の攻撃を喰らった日和とマリアは吹っ飛ばされる。

 

カリオストロはフォルテに向かって光の光弾を複数放った。フォルテは向かってきて光弾を両剣を回転させ、その全てを弾いた。

 

「ふん!」

 

フォルテは両剣をチェーンソーに変え、回転する刃による斬撃波を放つ。だがカリオストロは光の光線を自身に纏わせることによって、斬撃波を凌いだ。

 

「これならどうだぁ!!」

 

クリスがフォルテの前に立ち、カリオストロにボウガンを撃ち放つ。フォルテもクリスを援護するように大剣を銃に変形させ、エネルギー弾を連射する。だがボウガンの矢とエネルギー弾はカリオストロを纏う光線によって全て弾かれてしまう。

 

「いつぞやのお返しなんだからぁ!」

 

攻撃を全て弾いたカリオストロは光線を凝縮させた光弾をクリスとフォルテに放つ。

 

「「うああああああ!!」」

 

対応が遅れてしまったクリスとフォルテは光弾に直撃し、吹き飛ばされる。

 

調と切歌の相手をするプレラーティは巨大なけん玉を振るい、巨大な玉を2人に放つ。迫ってきた玉を調と切歌は跳躍して避ける。しかしプレラーティは上空に避けた調に狙いを定め、返ってきた玉を使を使ってハンマーの要領で打ち返した。空中では避けることができないため、調は向かってきた玉に叩き込まれる。

 

「ああ!!」

 

「調!」

 

プレラーティは今度は切歌を狙い、また返ってくる玉を打ち返した。地面を抉りながら向かってくる玉を切歌は跳躍して避けた。だが着地地点を誤り、崩れやすい斜面に着地したために切歌はバランスを崩し、滑り落ちた。

 

「このままでは・・・!」

 

「だったらやるデスよ、調!」

 

このままでは勝ち目がないと判断した切歌と調はイグナイトを使用しようと、ギアコンバーターに触れる。しかし、それはイグナイトを無効化するラピスの前では悪手中の悪手だ。

 

『いけません!!ダインスレイフの力は、賢者の石によって・・・!』

 

「「イグナイトモジュール(デース)!!!」」

 

通信越しでエルフナインが止めに入るものの、もう遅い。調と切歌はギアコンバーターのスイッチを押し、イグナイトを起動させた。調と切歌のギアは漆黒の闇を纏い、禍々しい漆黒のギアへと変わった。イグナイトを起動させた2人にプレラーティは嘲笑うかのように不敵な笑みを浮かべる。

 

「先走るワケダ」

 

「当たりさえしなければ!!」

 

攻撃が当たればイグナイトは解除される。それは調と切歌も重々承知だ。ゆえに当たらないように遠距離で攻撃する。調は展開したアームより複数の丸鋸を複数放ち、切歌は鎌の刃を3つ展開し、それをブーメランのように放った。向かってくる数多の刃にプレラーティはけん玉の玉を放つ。玉はエネルギーフィールドを展開させ、向かってくる刃を消滅させる。同時に、エネルギーフィールドを広範囲に広げ、調と切歌にぶつけさせる。

 

「ノリの軽さは浅はかさなワケダ!!」

 

「「あああああああああ!!」」

 

エネルギーフィールドに押し返された調と切歌は吹っ飛ばされ、斜面に叩きつけれて滑り落ちる。当然、ギアもイグナイトが強制解除され、元に戻っている。

 

「月読!暁!」

 

それを見た翼は倒れている2人の元へ駆けつける。

 

一方日和とマリアはお互いにうまく連携しあってエドワードに攻撃を続ける。エドワードは余裕な笑みを浮かべ、2人の連携を難なく躱し続けている。そして、日和が一撃を加えようと棍を振り下ろそうとした時、エドワードは事前に槌を再構築錬成させた矛を振るって棍を弾き飛ばした。

 

「くっ・・・!」

 

「遅いのう」

 

日和は右手首のユニットから棍を取り出そうとするも、その隙をつくようにエドワードは矛の長柄で日和に打撃を叩き込んだ。

 

「あああ!!」

 

「はあ!!」

 

打撃を叩き込まれて倒れる日和に代わり、マリアが短剣で連撃を放つもエドワードは躱し、最後の一撃を放とうとするマリアの腹部に蹴りを入れ込んだ。

 

「ぐあ・・・!」

 

「無理をするでない。疲れておろう?」

 

腹部に蹴りを入れられ、うずくまるマリアに対し、エドワードは疲れている様子は一切見られず、汗も1つもかいていない。まさに圧倒的だ。しかも、ファウストローブを纏わずにだ。

 

(くっ・・・!ファウストローブを使わないでこの強さ・・・!このエドワードとかいう錬金術師・・・まるで格が違う!)

 

いくらイグナイトを纏ってない状態と言えど、通常でこれほどの力の差を見せつけられたことで、エドワードが3人とはレベルが違う錬金術師であると思い知らされるマリア。さらに恐ろしいのが、これで手加減しているということだ。

 

各所で激戦を繰り広げている中、サンジェルマンは銃に新たなる弾丸を装填させる。

 

未来(あした)のために、私の銃弾は躊躇わないわ」

 

「なぜ⁉どうして⁉」

 

「わかるまい・・・だがそれこそがバラルの呪詛!人を支配する軛!」

 

銃口を響に向けるサンジェルマンの脳裏には、力を持てなかったが故に息絶えた母の姿が浮かび上がる。

 

「だとしても、人の手は誰かを傷つけるためではなく、取り合うために・・・」

 

「取り合うだと・・・⁉いわれなき理由に、踏みにじられた事のない者が言うことだ!」

 

響の訴えに逆鱗に触れたサンジェルマンは錬金術のエネルギーが込められた銃弾を撃ち放った。弾丸に込められたエネルギーは形を変え、まるで狼のように響に襲い掛かる。向かってくる弾に響は避けることはせず、バンカーユニットを最大展開させて、真正面から迎え撃つ。

 

「言ってること・・・全然わかりません!!」

 

バンカーユニットを展開して繰り出した響の拳は、狼の弾丸と激突。これによって弾丸のエネルギーは響の力に負け、サンジェルマンの元に跳ね返される。

 

「何っ⁉うぁっ!!」

 

反射して起こったエネルギーの奔流により、サンジェルマンは後退する。そして、閃光の土煙が晴れると、サンジェルマンの目の前には響の拳が止まっていた。

 

「だとしても・・・あなたの想い・・・私にもきっと理解できる・・・」

 

響の脳裏に浮かび上がるのは、ツヴァイウィングでの事件で生き残ったが故にバッシングを受けてきた辛い過去だ。

 

「今日の誰かを踏みにじるやり方では・・・明日の誰も踏みにじらない世界なんて作れません!!」

 

「お前・・・」

 

響がサンジェルマンと話し合いを試みようとしている一方、カリオストロの相手をしているクリスはボウガンをガトリング砲に変形し、銃弾を連射する。向かってくる無数の弾丸をカリオストロは水の障壁を張り、全弾を全て防いだ。

 

「むず痒いのよ!」

 

お返しと言わんばかりにカリオストロは両拳を振るい、数多の光線をクリスに放つ。向かってくる光線をフォルテがクリスを守るように前に出て、両剣を回転させて弾く。だが弾いた光線は響とサンジェルマンに襲い掛かろうとしている。

 

「!しまった!」

 

「あらやだ!」

 

「こっち!」

 

響はサンジェルマンの手を取り、彼女と共に段差からダイブして光線を回避する。光線が地を抉ることで土煙が発せられる。立ち込める土煙の中で、サンジェルマンは起き上がろうとする。

 

「・・・私たちは・・・共に天を頂けないはず・・・」

 

「だとしても・・・です・・・」

 

響は起き上がり、サンジェルマンに手を差し伸べようと手を伸ばそうとする。

 

「思いあがるな!」

 

だがサンジェルマンは差し伸べられた響の手を彼女を拒絶するかのように振り払った。

 

未来(あした)を開く手は!いつだって怒りに握った拳だけだ!」

 

起き上がったサンジェルマンは響を見下ろし、そう言い放って彼女から距離を取る。

 

「これ以上は無用な問答・・・!預けるぞ、シンフォギア!」

 

サンジェルマンは足元にテレポートジェムを投げ捨てて、転移していった。

 

「ここぞで任務放棄って・・・どういうワケダ、サンジェルマン」

 

「あーしのせい⁉だったらメンゴ!鬼メンゴ!」

 

プレラーティはサンジェルマンの任務放棄に疑問符を浮かべながら、カリオストロは謝る動作をした後にサンジェルマンを追いかける形で同じくテレポートジェムで転移した。

 

「ははは・・・サンジェルマンも、まだまだ青いのう」

 

エドワードは愉快そうに笑い、装者たちに視線を向ける。

 

「大人になれ、青二才のわっぱ共」

 

エドワードはそれだけを言い残してテレポートジェムで転移した。戦闘は終了したが、この場には何とも言えない空気が流れるのであった。

 

~♪~

 

S.O.N.G本部のブリッジに集まる大人たちは今回の戦闘で得た情報の整理をしている。勝利を収めることは叶わなかったものの、敵の目的を知ることができた。今はこれだけでも十分な収穫だ。

 

「パヴァリア光明結社の目的は、月遺跡の掌握・・・」

 

「そのために必要とされる、通称神の力を、生命エネルギーにより練成しようとしていると・・・」

 

モニターにはバルベルデでサンジェルマンたちが使役していたヨナルデパズトーリが映し出されている。あの時は響と日和の一撃を打ち込むことによって無敵性能を破壊することができたが、また同じ手が通用するかどうかはわからない。何せなぜ無敵性能を突破することができたのか、解明できていないのだから。

 

「仮にそうだとしても、響君と日和君の一撃で分解するようではいくまい。おそらくは・・・もっと巨大で強大な・・・」

 

「その規模の生命エネルギー・・・いったいどこからどうやって・・・」

 

緒川の疑問は最もだ。いくら人間の生命エネルギーを束ねようとも、月遺跡の掌握するためにはどうしたって人間の生命エネルギーだけでは足りない。

 

「まさかレイラインでは⁉」

 

「何っ⁉」

 

レイライン・・・それは明治政府帝都構想で霊的防衛を支えていた龍脈・・・言い方を変えれば世界中に張り巡らしている地球の血脈のようなもので、星の生命エネルギーと言っても過言ではない。以前キャロルが世界分解のために利用したのもレイライン・・・パヴァリア光明結社はそのレイラインを使い、星の命のエネルギーを取り出すのではと友里は推察する。

 

「キャロルが世界の分解・解析に利用しようとしたレイライン。巡る地脈から、星の命をエネルギーとして取り出すことができれば・・・!」

 

「パヴァリア光明結社は、チフォージュ・シャトーの建造にかかわっていた・・・。関連性は大いにありそうですよ」

 

「取り急ぎ、神社本庁を通じて各地のレイライン観測所を仰ぎます」

 

緒川は弦十郎が指示を出すことなく、素早く行動に出た。

 

「うむ。後は、装者たちと海恋君の問題だな。LiNKERは問題なく作用したらしいが・・・」

 

錬金術師たちは強大ではあるが、それ以上に厄介なのがラピス・フィロソフィカスだ。あれがある以上、装者たちのイグナイトは封じられたも同然だ。それだけではない。エドワードの実力は3人の力を遥かに上回っていた。ラピスを使用せずに装者たちを苦しめたのが何よりの証拠だ。そしてその背後には統制局長であるアダムもいる。彼の力はもう言わずもがな、エドワードをも超える力を持っているのは明らかだ。

 

「賢者の石による抜剣封殺・・・その対策を、急いで講じなければ・・・」

 

「エルフナイン君は?」

 

「無理は禁物と言っているのですが・・・ラボにこもりっきりで・・・」

 

賢者の石対策から何から何まで・・・考えなければいけないことは山積みだ。

 

「・・・しかし、パヴァリア光明結社はなぜ海恋君を・・・?彼女はどこにでもいる、普通の女の子だというのに・・・」

 

錬金術師たち・・・主にエドワードがなぜ海恋を戦場に連れてきたのか・・・その真意とは何か・・・その一点においても、大人たちは頭を悩ませるばかりだ。

 

~♪~

 

メディカルルームにはイグナイトの強制解除によってダメージを負った調と切歌がベッドの上で座り込んで落ち込みを見せていた。2人に付き添っているマリアとフォルテは自分のギアをじっと見つめていた。

 

「ごめんなさいデス・・・」

 

「え?」

 

突然の切歌の謝罪にマリアとフォルテは2人に顔を向ける。

 

「マリアとエルフナインが、命がけでLiNKERを作ってくれたのに・・・」

 

LiNKERを完成できたことはいい。問題はイグナイトを無効化されることをわかっていたのに使用し、イグナイト強制解除によってダメージを負い、何もできなかった。2人はそれが悔しかったのだ。

 

「それは私たちも同じ。戦うことさえできればどうにかなると思っていた。けど・・・甘かったわ」

 

「ああ・・・。奴らは・・・特にあのエドワードという錬金術師・・・想像以上に強かった・・・」

 

実際に打ち合ったからこそ実感した。今の自分たちでは・・・錬金術師たちに勝つことはまだできないと。

 

「くそ!!なんなんだよ・・・!!」

 

メディカルルームの外にいたクリスは悔しさから八つ当たりするように自販機に拳を叩きつけた。近くのソファで響は顔を俯かせており、翼はただ窓に映る海中をただ眺めるだけであった。

 

~♪~

 

海恋の護衛のため、先に寮に戻っていた日和は何の面白みのないニュースをただただぼんやりと見つめている。そんな時、海恋がどこかへ出ようとしていることに気付いた。

 

「・・・海恋?どこに行くの?」

 

「・・・ちょっと外の空気を吸いに」

 

「気分転換?私も行くよ」

 

海恋が心配な日和は彼女についていこうとするが、それを拒む海恋。

 

「いい。すぐに帰るし」

 

「で、でも・・・今日みたいなことがあったら・・・」

 

「いいって言ってるでしょ!!」

 

「・・・っ!」ビクッ!

 

ついていこうとする日和に海恋は大声を上げた。日和はその声にビクついた。

 

「・・・今は1人になりたいの。放っておいて」

 

海恋はそう言って部屋から退室する。

 

「海恋・・・」

 

日和には今海恋が何を考えているのかわからない。ただ1つだけ言えるとすれば・・・2人の間に、少しずつ、すれ違いが起こっているということだ。

 

~♪~

 

外を出た海恋は特に何かをするというわけでもなく、ただ夜の街を歩いているだけだ。海恋の脳裏に浮かび上がるのは、今日の戦いの出来事・・・サンジェルマンの言葉だ。

 

未来(あした)のために、私の銃弾は躊躇わないわ』

 

『取り合うだと・・・⁉いわれなき理由に、踏みにじられた事のない者が言うことだ!』

 

未来(あした)を開く手は!いつだって怒りに握った拳だけだ!』

 

(・・・似てる・・・あのサンジェルマンって人・・・。昔の私に・・・)

 

日和に出会う前、海恋は不自由な生活を送ってきた。ただ特別だという理由だけで、必要ない勉強をやらされたこと。進路を死ぬまで決められること。何もかも、自分の意思でやりたいこともやらせてもらえない不自由な生活。まるで奴隷にされてるような気分だった。昔のサンジェルマンと自分との身分はだいぶ違うが・・・不自由という点において、確かに似ているのだ。海恋はサンジェルマンの過去を知らない。だが彼女に言い分に、考えさせられるものがあった。ゆえに頭を悩ませている。

 

「・・・そろそろ来ると思ってたわ」

 

いつの間にか海恋の背後にはエドワードが立っていた。

 

「ふむ・・・これでも気配を消した方なのじゃがのう・・・やはり汝は錬金術師の素質があるわい」

 

「あなた1人?ずいぶん暇なのね」

 

「いやなに、局長殿の小言は面倒なのでな。1人一抜けさせてもらったわ」

 

海恋の皮肉な言葉にエドワードはただくすくすと笑っているだけだ。

 

「・・・で、どうじゃ?妾の言っていること、少しは理解できたか?」

 

「まったくわからないわよ」

 

「ふむぅ・・・そうか。戦いを見れば少しは見方を変えてくれると思ったのじゃがのう」

 

エドワードは残念そうな表情をしているが、彼女は知っている。海恋の中に渦巻き始めた感情が。

 

「・・・革命・・・」

 

「ん?」

 

「前に革命は犠牲がつきものって、言ったわよね?」

 

「ああ、言うたの」

 

「あの人がどういう気持ちで革命に臨んでいるかわからない。けど・・・あの人の言ってることは何も間違ってない・・・。それは歴史が物語っている。だけど・・・立花さんの言っていることも、間違ってない・・・」

 

「・・・ほう?」

 

サンジェルマンの言い分と響の言い分、そのどちらをも肯定している海恋にエドワードは興味深そうな顔になる。

 

「いったい何が正しいの?あなたはいったい何を伝えようとしているの?私にいったい何を求めてるの?もういろんな感情がぐるぐるしてて・・・頭がおかしくなりそうよ・・・」

 

海恋自身、今回ことも含め、エドワードのスカウトされた時からいろいろ考えてきた。だがいくら考えても具体的な答えが見出せない。何が正しくて何が間違っているのか・・・それを踏まえて自分は何がしたいのか・・・サンジェルマンが、本当は悪い人間じゃないのか・・・考えれば考えるほど、わけがわからなくなり、海恋は混乱しているのだ。

 

「・・・正直汝にはすまぬと思っておる。しかし考えることを放棄してはならぬ。考えを放棄することは、ある意味では廃人と同然じゃ。悩み、苦しみ、思考を張り巡らせ、辿り着いた答えこそ、真に価値あるものと言える。考える力こそが、この世で最も輝ける、至高の宝石なのじゃ」

 

人間は考える力があってこそ・・・それこそがエドワードが考える人間の価値観であり、自身の掲げるモットーである。ゆえにエドワードはあらゆる質問に対し、すぐに答えを出さずに相手に考えることを促させようとする。時には実力行使することも辞さない。

 

「・・・・・・」

 

海恋はただ黙るのみ。エドワードの考え方には、海恋自身も考えさせられるものもある。だがそれを素直に肯定したくない自分もいるのだ。その様子を見たエドワードはくすりと笑う。

 

「汝にいいものをくれてやろう」

 

エドワードは着物の袖からあるものを取り出した。それは何の装飾もない黄色い腕輪であった。

 

「腕輪?」

 

一見ただの腕輪のように見えるが、なんとなく感じる。腕輪から漂う、神々しい何かが。

 

「西園寺海恋。この先、汝が何をしようが、妾は咎めたりはせぬ。それが自身で考えた結果ならばな。汝自身、何がしたいのか、何を守りたいのか・・・真剣に悩むことじゃ」

 

「・・・・・・」

 

エドワードは海恋に有無を言わさず、腕輪を渡した。海恋は受け取った腕輪をじっと見つめる。

 

「さて・・・そろそろ戻らねばサンジェルマンがうるさい。ここでお暇するとしようかのう。では西園寺海恋・・・汝の考えが改まったら・・・またお会いしよう」

 

エドワードは足元にテレポートジェムを放り投げ、光明結社の拠点へと戻っていく。1人残された海恋は、ただただ、腕輪を見つめ、自身の考えを纏めるのであった。

 

~♪~

 

S.O.N.G本部。弦十郎は異端技術に関する資料をかき集め、それらを荷台に山のように積み、エルフナインのラボに届けていた。

 

「異端技術の資料らしい資料はかき集めてきたつもりだ。必要なものがあったら、何でも言ってほしい」

 

「はい、ありがとう・・・うわっ!」

 

根を詰めすぎて疲労がたまっているせいかエルフナインは倒れ、膝をつく。そのせいで資料の一部が崩れ落ちる。

 

「大丈夫か⁉根を詰めすぎちゃいないか?」

 

「ごめんなさい・・・でも・・・キャロルからもらった身体です。2人で1人・・・だから2人分頑張らないと・・・」

 

エルフナインが起き上がろうとした時、崩れた資料のページに目が留まった。何かを感じたエルフナインはその資料を手に取り、そのページをまじまじと見つめる。

 

「どうした?」

 

「これは・・・」

 

資料には響の顔写真と、かつて響の体内に食い込んでいたガングニールの破片である鉱石が埋め込まれた瘡蓋であった。この鉱石こそが、賢者の石に対抗するカギとなる。




??????

形状:黄色い腕輪

使用者:?????

製作者:エドワード

エドワードが作り上げた装飾品が何もない黄色い腕輪。どこからどう見ても普通の腕輪にしか見えないが、神々しい力を常に纏わせてる。このことからエドワードが作った黄色い腕輪は何かしらの聖遺物であるということがわかる。3人の錬金術師から見ても、腕輪は強力な力が秘められたものであると見抜いている。


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