殺人ヒーロー ジャック・ザ・リッパー  (謎多き殺人鬼)
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設定

~主人公~

 

名前:霧先(きりさき)ジル

 

個性:切り裂き魔

 

個性説明:多種多様なナイフを生み出して使用できる。手に取って切るも良し、投げて良しと考えて扱えば戦術の幅は大きく広がるが説明通り非常に殺傷能力は高いのが難点。

 

誕生日:4月3日

 

身長:158㎝

 

血液型:A型

 

好きな物:珈琲 

 

性格:真面目で少し正義感ある程度の鈍感な淑女

 

 

容姿:周りを短めに切って長い銀髪の三つ編み青いリボンで結んでを肩に乗せた髪型をしている。イギリス人と日本人のハーフで非常に整った顔立ちをしている。両方の目は青い瞳をしているがアーサーがジルの身体を借りたり、感情的になると左目が赤い瞳に変わる。

 

キャラ設定:殺人鬼アーサー・ヒューイットの子孫(?)に当たる家系で育つ。

 

母はイギリス人で父が日本人のハーフとして産まれ、元警官であった母と現役ヒーローである父の二人から受け継いだ正義感をもつが所構わず荒事に突っ込む気は無い為、少し正義感がある程度である。

 

だが、目の前で本気で助けを求める者や危険が迫る者を見捨てる様な真似はしない為、良い意味では先祖譲りの行動力を持っている。

 

個性が発現してからと言うものアーサーが見える様になり、からかってきたり、難しい問いかけを仕掛けてきたり、珈琲か紅茶かで喧嘩をしたりする頭の痛い日々を過ごす日々を送っている。

 

また、腐敗が少しずつ進みつつあるヒーロー社会に対し、不満を抱き、自身の進む道に迷いを見せている。

 

 

~ジルの宿す殺人鬼~

 

名前:アーサー・ヒューイット

 

誕生日:不明

 

血液型:不明

 

好きな物:紅茶 悪を裁く行為

 

性格:大人びた言動を取りつつ獣の様な衝動を持つ紳士。

 

キャラ設定:かつて、切り裂きジャックが処刑されてから2年後に現れ、切り裂きジャックの再来だと呼ばれてロンドンを恐怖に陥れた殺人鬼で自称、ジルの祖先。

 

殺人鬼となる前は人の助けになる為に探偵業を営んでいたが秘密結社グリーンメイスンの捜査の際に大切な者達が次々と奪われた事により復讐の鬼となってグリーンメイスンを殺人と言う手段で壊滅させその後、蔓延る悪を殺す悪として活動する。

 

殺人鬼として多くの悪を殺したがアーサーとは逆の正義を掲げ、好敵手として立ちはだかり続けた婦警のシャーロットによって拘束、逮捕された。

 

当然、死刑の判決が下されアーサーは潔く死刑を受けてこの世を去った筈だったが、かつての"相棒"の様な状況になってしまった事に驚きを抱きつつ宿主であるジルを試す様な言動を取る様になる。

 

ちなみに英国紳士(自称)の精神は探偵時代から健在であり、紅茶を好むがジルは珈琲を好む為、よく紅茶と珈琲をどちらを飲むかで喧嘩し、その度にかつての相棒にもう少し好みの味の紅茶を入れてやれば良かったとも思っている。

 

何せ、だいたいはジルが珈琲を飲む形で決するからだ。

 

 



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【第一章】
序章


何処にでもある町、何処にでもある風景、何処にでもある人並み。

 

当たり前の様に広がる日本の町並みは常に仕事で忙しく働く人や買い物を楽しむ人々で賑わう本当に何処にでもある普通の町は一つだけあり得ない事が当たり前の事になっている所がある。

 

それは……。

 

来るんじゃねええぇッ!

 

巨体な怪物みたいな悪人が辺り構わず破壊したり、色々な格好をしたヒーローがそれを制圧する当たり前の様に異能がある世界だ。

 

現在進行形でヒーローと呼ばれる善の人がヴィランと言う悪の人を倒し、捕まえる。

 

そんな事が当たり前の世界。

 

私は霧先ジル。

 

私はそんな時代に"何の能力も無い"事になっており、ほとんど意味ないけど世間では"無個性"として通している。

 

茨の道だったけどそんな事、考えてる暇はなかった。

 

何故なら……。

 

『へぇ……近くにヴィランがいるのか。行かなくても良いのか?』

 

「(私は普通に生きたいの。何で好き好んであんな危ない場所に行かなきゃいけないのよ)」

 

『見物客は多い見せ物なのにな。それともアレか。あのヴィランを殺すか?』 

 

「(事件を見物なんて下らないし私は絶対に殺人なんてしない。もし、この力を使うなら正しく使うべきよ)」

 

私の個性は多種多様なナイフを生み出して使用できる"切り裂き魔"そして個性が芽生えてから私の近くに赤い目を光らせた殺人鬼にして私の祖先を自称する男、アーサー・ヒューイット。

 

かつて、切り裂きジャックの再来と呼ばれロンドンを恐怖に陥れた殺人鬼で個性が芽生えてからと言うものいきなり現れたと思えば常にアーサーが引っ付く形で私の側にいる様になった。

 

……流石に風呂やトイレには入って来ないけど。

 

アーサーの姿と声は私にしか聞こえずアーサーの挑発に思わず一人だと言うのを忘れて怒鳴った時に両親に心配されたのは記憶に新しい。

 

因みにアーサーの事を個性の発覚の確認の為に行った病院でアーサーの事を両親に話したが気味悪がらずに受け入れてくれてアーサーの言う事に負けない様に支えてくれる。

 

だが、アーサーはそれを嘲笑うかの様に常に私に語り掛けてくる。

 

 

正義とは悪とは何か?

 

ヒーローは名声か富があればそれで良いのか?

 

力があれば弱者を虐げても良いのか?

 

 

アーサーは世に蔓延る問題や疑問を問いに出し、痛い所も突いてくる。

 

確かに今の世、ヒーロー社会は何処かおかしくなりつつある。

 

ヒーローは人々の為に動かない者もおりまた、富と名声に固執する者がいたり、集まる野次馬はまるでヒーローショーでも見る様な感覚で事件を見たり、無個性だからと他の個性持ちの者達から差別を受ける事がある。

 

私はこの個性とアーサーの事もあって世間にはその存在を隠し、無個性として振る舞っていた時に虐めの対象にされた事があった。

 

もっとも、アーサーが勝手に身体を操り虐めっ子達を半殺しにしてしまった為に大問題になり、問題が落ち着いてからアーサーに何故、身体を操って虐めっ子達を襲ったのかと聞けば獰猛な笑みを浮かべて。

 

『あぁ?そんなの奴らが身の丈に合わない力を使ってお前を襲ったからだよ。殺しはしてないんだ。寧ろ、見逃してやった事に感謝しろと言いたい所だ』

 

との事だ。

 

おかげで周りの子供含めて大人も極力近寄らなくなったし、幸いナイフをアーサーは使わなかったがあまり広まる事こそなかったが私が異質な個性持ちだとバレてしまったわ。

 

まぁ、私の事情的にはそれで良いけど流石にボッチは堪える。

 

「(はぁ……本当に面倒な個性よね……)」

 

『個性じゃねぇよ。俺は別だ』

 

「(はいはい、分かったから)」

 

アーサーを軽くあしらって私は学校への足を早める。

 

これはヒーロー社会に産まれ落ちた殺人鬼の子孫?である私が善か、悪かを向き合い、選ぶ物語。



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選択

私が通うのは折寺中学校。

 

まぁ、近所の中学校なのだから通うのだけど問題なのはアーサーが昔、半殺しにした虐めっ子も通っているって事。

 

つまり何が言いたいのかと教室にはいれば騒がしかった喧騒がアラ不思議。

 

静まり返って私を怯えた目で見てくる。

 

この中学校に入学してからと言うもの、虐めっ子達が過去の事を綺麗に全部話してくれたのかこのザマだ。

 

『はっははは!相変わらず一人だなジル!』

 

「(誰のせいだと思ってるのかしらね……!)」

 

アーサーが笑いながら私に挑発してくるけどもう無視する。

 

私は一人、退屈な学校生活、面倒くさい授業、進路の話、隣のクラスが笑い声やら爆発やら煩くて堪らない時間をホームルームまで過ごした。

 

私にとってこの中学校は最悪だと評価している。

 

裏でイジメや個性差別もあるから尚更で過去の事が無かったら今、隣のクラスにいる正真正銘の無個性の出久君の様な惨状を受けていただろう。

 

出久君とは一応顔見知りで一度、イジメの現場を目撃し、取り巻きと一緒にイジメを行っていた爆豪勝己に対して思わずビンタを食らわせてしまった。

 

彼が悪いのは確かだが流石にいきなりビンタは駄目だと思って謝ろうとしたが勝己の口が開けば幾らでも出てくる暴言にイラッとしてつい、またビンタを食らわせてしまい更に怒った勝己が個性を使おうとしたから咄嗟に股に目掛けて蹴りを入れてしまった。

 

勝己は股間を押さえながら倒れていく中で取り巻きや出久君はかなり青い顔をしてたけどそんなに痛いのかって聞いたらアーサーに呆れられた……げせぬ。

 

その後で先生に呼び出されてお説教を受ける事になったのも最悪だった。

 

まぁ、そんな感じで出久君と顔見知りだ……いや、もはや友人?

 

『まーたあのヴィラン顔爆発魔が出久を虐めているんだろ?また股に蹴りを入れたらどうだ?』

 

「(もう嫌よ。先生にそれを言ったら両肩を掴まれて真剣な顔で男の股を蹴るのは止めなさいなんて言った後、お説教の時間が延びたのよ」

 

『まぁ……当然だろうな。男のもっともやられたくない所に蹴りを入れたんだからな』

 

アーサーはそう言って苦笑いするけどそんなに痛いものなのかしらね。

 

あ、ホームルームが終わった。

 

取り敢えず私は帰り支度を手早く済ませると速やかに帰宅すべく教室を出て歩く。

 

進路希望どうしようなんて考えてたら鯉のいる池須に出久君がいるのを見つけた。

 

池須で何か焼け焦げた何かを手にして泣いている。

 

私にはそれは何かすぐに理解し、早足に出久君の所に行った。

 

「……誰にやられたの?」

 

「え……?霧先さん……?」

 

「そのノート。大切な物なんでしょ?また彼奴がやったの?また……人を苦しめる事をしたの?」

 

今の私は出久君に対してやった非道な行いに対しての勝己に対する怒りしか無かった。

 

出久君が常に持ち歩いている色々なヒーローの分析記録が載ったヒーロー分析ノート。

 

とても精巧で分かりやすい出久君が何れだけヒーローが好きなのか分かる出久君が大切にしているノート。

 

それを貶す様に爆破させて池須に捨て去った奴は一人しかいない。

 

「呆れて物も言えないわ。あれがヒーロー志望ね……もし、彼奴が人を思いやれない傲慢な性格のままヒーローになったら私、ヒーロー社会なんて信用できなくなるわ」

 

私は怒りのままにそう言って出久君に涙を拭けと言う意図でハンカチを取り敢えず渡す。

 

『確かにな。あんな奴が世を守るヒーローなんてなったらお先真っ暗だな。ヒーローが堂々と暴言と暴力を働く社会。ジル。お前はそれが許せるか?』

 

アーサーは不適に笑いながら言うもどこかで真剣な問いに私は……。

 

「(許せる訳がない!ヒーローは人々を守るこの時代の英雄であり、法の番人!それなのに自分の力を誇示して弱い立場の者達を虐げるのはヒーローじゃない!)」

 

『なら、お前はどうしたい?許せなくても行動しなければ何も変わらないし、変えられない』

 

「私は……」

 

「霧先…さん……?」

 

私は気がつくとかなり考え込んでいたのか出久君が心配そうな表情で見ていた。

 

「ご、ごめんなさい。考え事をしちゃってたわ」

 

「い、良いけどその左目どうしたの?瞳が真っ赤になってるけど?」

 

私はそれを聞いて鞄から手鏡を取り出して顔を見ると左目が普段の青い瞳ではなく赤い瞳に転じていた。

 

いけない……感情が高まり過ぎた。

 

私は感情が高ぶったりアーサーに身体の主導権を取られると左目の瞳が赤くなる性質を持っている。

 

普段からアーサーや個性の事を隠すのに不都合な為、感情が高まったりしてしまった時は万が一のチェックとして手鏡を持ち歩いている。

 

「な、何でもない……ちょっとした体質よ。気にしないで。それより出久君。辛い事があれば言ったって良いのよ。学校が駄目ならうちでも構わない。お父さんはヒーローだし、お母さんも元警察。言ってくれれば……力になってあげれるから。だから自分は一人だと思わないで」

 

私は手鏡をしまってそこからすぐに離れたくて早足にその場から立ち去る。

_______

____

__

 

出久君に瞳を見られてから私は兎に角、歩いていた。

 

誰にも見られたくなかった赤い瞳。

 

私は暫く家に帰りたいとは思えず時間も忘れて町を歩いていた時、田等院商店街の方が騒がしかった。

 

「何かしら?」

 

私は騒ぎが起こっている場所に向かって野次馬達を押し退けて見える所まで来たらヘドロの様なヴィランが勝己を捕らえているのだ。

 

「ッ……!!?」

 

『おいおい、彼奴が人質かよ。いや、違うな……あれは身体を乗っ取るつもりか?』

 

「(身体を……乗っ取る……!?)」

 

『どうやらそうらしいな。ヘドロ状の身体だけ取り柄ではないタイプのヴィランか……面倒な相手だ。見てみろ。ヒーロー共もあの爆発魔がいるせいで迂闊な攻撃が出来てない。恐らくヘドロ状であるせいで掴む事すらできない。おかげでいらない譲り合い(押し付け合い)をヒーロー達がしている。ほっとけば先ず、助からないだろうな』

 

アーサーの言葉に私は身体中が凍り付く様な感覚を覚えた。

 

確かに勝己はとても嫌な奴だ……でも、だからと言って見殺しにするのは違う。

 

『助けに行くつもりか?止めておけ。ヒーロー共は情けない奴らばかりだ。だが、この状況は確かに手が出しにくいのも分かる。ヒーロー共がまともに動かないのに個性を自ら封じているお前に何が出来る?』

 

「(私は……!)」

 

アーサーの言う通りだ。

 

ヒーロー達は適当な理由をつけて避ける言動を見せているが人質である勝己がいる事も周りが狭い場所で尚且つ火事や瓦礫で場所も限定されてから下手な攻撃や行動が出来ない。

 

そんな中で一方間違えれば人を殺す個性を持った私が行って何になると言うのか。

 

 

【それでも助けに行く。見殺しにはできない】

 

【見捨てる。とても助けにはいけない】

 

 

今の私にある選択肢は二つであり、選択できる物は一つ。

 

時間も無い……早く決めなきゃ。

 

私は決断の答えを求められる時間が迫る中、私が選んだのは。



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決断

二つの選択肢。

 

私は迫るタイムリミットの中、私が選んだ答えは。

 

 

【それでも助けに行く。見殺しにはできない】

 

 

私の答えは決まった。

 

迷う必要はもう無く、私は野次馬を押し退けて駆け出した時、私と同時に駆け出した人影があった。

 

その人影には見覚えがある……いや、と言うより学校であってまだそこまで時間が経ってない。

 

「何してるの出久君!?」

 

「霧先さん!?」

 

まさか私と同じタイミングで尚且つヘドロの所に行こうとするなんて驚き過ぎてそれ以上、言葉が続かない。

 

「馬鹿ヤロー!!止まれ!!止まれ!!!」

 

ヒーローの誰かの怒鳴り声が聞こえるけど賽は投げられた。

 

後戻りなんてしていたら勝己は今度こそ助からないのが目に見えているのに引き返せる訳がない。

 

「出久君!貴方は引き返して!死ぬわよ!」

 

「霧先さんこそ死ぬかもしれないのに何で!」

 

「私は彼奴が嫌いでも見殺しになんて出来ない!ヒーローが動かないなら私がやるだけだと考えてたら走ってたのよ!」

 

「僕も気が付いたら走ってて……と、とにかく!行動しなきゃ!」

 

出久君はそう言ってヘドロの近くまで走り抜くと持っていた鞄をヘドロに投げつけヘドロが一瞬、怯んだ所で勝己の元へ飛び込んだ。

 

『おいおい。彼奴まで捕まるぞ?』

 

「無個性なのに無理して……だったら私も覚悟を決めるわよ!」

 

私は二人を助ける為に個性を使う事を決め、左手にナイフを生み出すとヘドロの目に目掛けて投げつけた。

 

「うぉッ!?ナイフだと!?何処から飛んできた!?」

 

ヘドロはナイフを避けたが目をナイフの投擲で狙われたと言う事実によって怯み、勝己の拘束を緩ませる事ができた。 

 

私はその隙を突いて勝己の腕を掴んでいる出久君ごと掴み、勢いよく引っ張り出した。

 

私は二人を引っ張り出すと二人は荒い呼吸をしておりすぐには動けそうにないがとにかくこれでヒーロー達は動ける筈だ。

 

「よくも俺の邪魔をしたな小娘!死ねぇ!!!」

 

私がそれを聞いたときにはヘドロの腕が迫っていた。

 

殺される。

 

私はその考えが過った時、意識が途絶えていく……そんな中、アーサーが話し掛けてきた。

 

『やれやれ。無茶をする奴だ。まぁ、良い。後は俺に任せて寝てろ』

 

私はその言葉を聞くと同時に意識を手放してしまった。

 

~周辺side~

 

ヘドロのヴィランがジルを殺そうとしている。

 

その事実がヒーロー達と出久達を焦らせ、ヒーロー達は必死に駆け出すが距離的に間に合わない位置にいるせいで間に合わない。

 

ヘドロのヴィランの攻撃が当たる……その事実が出久達が認識した時、ヘドロのヴィランの腕が吹き飛んだ。

 

いや、正確には切り飛ばされた。

 

「な、なに!?」

 

出久は急な事態に驚く中、そこにはヴィランに殺される掛けていたジルの姿があるが左手には大きめのナイフが握られ、雰囲気とは違う何処か荒々しく強い殺気を放っていた。、

 

「全く……最近のガキは無茶をするのが流行りなのか?まぁ、良い。おかげで俺がこの場に出られたんだ。感謝するぜヘドロ野郎」

 

明らかに話し方が違う事に出久も咳き込む勝己も気づいた。

 

まるでお手本の様に礼儀正しいが何処か抜けてもいるが丁寧な喋り方は忘れなかったジルが男口調で喋るなど知り合いから刷ればあり得ない話だった。

 

「き、貴様!俺の腕を!」

 

「あぁ?ヘドロの癖に腕を切られたのが嫌だったのか?どうせすぐに戻るんだろ?」

 

ジルはそんな事は言わない。

 

付き合いは短いがジルはどんな理由があろうと犯罪行為は悪だと言い切れる様な人物だ。

 

出久はジルでありながらジルではない誰かを見ているしか出来ずにいるとジルが出久達の方へ振り向く。

 

ジルの顔は笑っており、そして左目の瞳が赤かった。

 

「何している?無謀な行動を無駄にするつもりか?早く逃げろ」

 

「き、霧先……さん……?」 

 

「ほらほら早く行け。巻き込まれるぞ」

 

ジル?はそう言って出久達を逃がそうとした時、ヘドロのヴィランが不意を突いて再び攻撃をするがジル?は無駄もない小さな回避だけで攻撃を避けると再びヘドロのヴィランにナイフで切りつけた。

 

一撃、二撃、三撃と連続して入るジル?のナイフは確実にヘドロのヴィランを追い詰め、そして遂に体力が尽きたのはヘドロのヴィランとなった。

 

「これにてチェックメイトだ。ヘドロのヴィラン君?」

 

「く、くそ……何なんだよ!お前!ナイフなんか使いやがって!」

 

「これは正当防衛。身を守る為なら致しかたないじゃないか?まぁ、良い。お前に刻んでやるよ……"FROM HELL(フロム ヘル)"の文字をな」

 

ジル?はそう言ってナイフを逆手に持ち変えると振り下ろそうとする動作を見せたら。

 

「や、止めろ!そこの君!それ以上は正当防衛じゃないぞ!」

 

ジル?の行動を見て何をするつもりなのか察したヒーローの一人、シンリンカムイが叫ぶがジル?は止まりそうになく、そのままナイフが振るわれようとした所で出久がジル?の身体に抱き付く様に掴み掛かる。

 

「もう止めようジル!それ以上は駄目だよ!」

 

「あぁ?邪魔だぞ出久。退け」

 

ジル?の退けと言う言葉を聞いた出久は身体中が刃物で刺される様な殺気を感じ退きそうになるが放してしまったら取り返しの着かない事になるのは明白。

 

出久は恐怖で逃げ出しそうになりながらも必死にしがみつく中、ヘドロのヴィランは逃げ出そうとするもそこに体格の大きい人物が現れた。

 

「少年の言う通りだぞ少女。幾らヴィランとは言え殺人は許されない」

 

その人物はそう言ってジル?とヘドロのヴィランの間に立つと拳を振るう。

 

「DETROIT SMASH!!!」

 

その人物はまさに必殺技とばかりにそう叫び、振るわれた拳はヘドロのヴィランを吹き飛ばし、発生した上昇気流によって雨が降った。

 

「へぇ、凄いな。あんたがオールマイトか?」

 

「そう言う君こそ霧先少女だね?」

 

「何だ?NO.1ヒーローが俺を知ってんのかよ?」

 

「君のお父さんからよく話を聞いているからね。君には"二つの人格"がある事もね」

 

オールマイトの言葉にジル?は余計は事を言ったなとばかりに舌打ちするとオールマイトは続ける。

 

「さぁ、君はそろそろ本当の霧先少女に身体を返すべきだ」

 

オールマイトは拒否は許さないと言葉で示さなくても伝わる威圧的にジル?は溜め息を吐いた後、ナイフをしまう。

 

「分かった分かった。じゃあ、後はよろしく。しっかり支えろよ?」

 

「支える?…ッ!?霧先少女!」

 

ジル?は突然、意識を手放し、倒れようとした所でオールマイトが慌てて支えた。

 

先ほどの狂暴な気配は無く、眠る様に気を失っているジルにオールマイトは黙って見つめるだけだった。



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選ぶは

私は気が付くと暗闇と霧が広がる古い街並みの中に立っていた。

 

その街は何処か不気味だがそれでも見た事がある街並み……夏休みに母の実家に帰省した時によく見たロンドンの街並みにとてもよく似ていた……いや、ロンドンその物だ。

 

「此所は……まさか……ロンドン?」

 

私は何でロンドンの街のど真ん中にいるのか分からず混乱していると遠くから金属と金属がぶつかる音が響いていた。

 

私はその音に向かって歩き出す。

 

一歩、また一歩と歩き、音の発信源の近くまで辿り着くとそこでは金髪を束ねた何処か母に似ていた女性がトンファー型の警棒でナイフを振るうアーサーと戦っていた。

 

警棒とナイフ。

 

用途は違う二つの武器が火花を散らしながらぶつかり合い、相手を下すべく振るわれる。

 

女性とアーサー、まるで陰陽の様な二人の戦いは苛烈を極めた。

 

「シャーロット!!!」

 

「アァァーサァァーッ!!!」

 

二人は互いに吠え、ナイフと警棒を同時に振るった。

 

私は二人の決着を見る前に意識が薄れていき、そのまま意識を再び失った。

______

____

__

 

私はまた気が付くとそこは知らない天井で尚且つベッドに寝かされていた。

 

周りの状況を見ればそこが病院だと言うのは分かり、あのヴィランの攻撃で死ぬ事はなくのんびり眠っていたと言う事が分かった。

 

「ジル?」

 

私は呼ばれた方を見るとそこには私と同じ髪色だけどあの夢に出てきた女性によく似た人が……いや、間違いなく母さんだ。

 

「母……さん……?」

 

「ジル!良かった!ヴィランに向かって駆け出して殺され掛けたって聞いて!それで!」

 

母さんはワンワンと泣きながら私を抱き締めてくるが苦しいからもう止めて欲しい。

 

『やれやれ。お前が此所に運び込まれると同時に駆け込んで来てたからな。気丈に振る舞っていたがお前が起きて安心してんだろ』

 

「(アーサー?……ッ!?アーサー!まさかヴィランを殺してないわよね!)」

 

『殺してねぇよ。まぁ、殺し損ねたのは確かだがな』

 

アーサーの言動に私は頭が痛くなると同時にまた意識が飛びそうなった。

 

人前でアーサーが暴走したなんて事実を突きつけられたら嫌でも気を失いそうになる。

 

「か、母さん……私……」

 

「分かってる。分かってるから……大丈夫。厳重注意を受けたけど正当防衛である事が認められたから」

 

母さんのその言葉に私は安心して一息をついていると騒ぎを聞いてやってきた老紳士風の医者やら看護師やらと集まってきた。

 

中には何か服を着た動物みたいなのが混じってるのだけど誰が入れたのかな。

 

「ジル君。やっと目が覚めたんだね。体調の変化はないかね?気分は?」

 

「いえ、特には……」

 

どうしよう……はっきり言えばあの動物が気になるんだけど。

 

何なの?

 

何で誰もツッコまないの?

 

「いやはや大した物だ。細い身体ではあるがなかなかの身体能力と精神力だ。君の活躍は聞いているよ。何でもヴィラン相手に立ち回ったとか?」

 

医者はニコやかに笑いながら言ってくる中、私は苦笑いしているとアーサーは黙って医者の方を見ている。 

 

「(どうしたの?)」

 

『いや……俺の知り合いに似ててな……まぁ、気のせいだろう。俺は医者なんて聞くと胡散臭くて堪らなくなるんだ』

 

アーサーはそう言って興味を無くしたのか医者から視線を外す中、医者の元にあの動物が近づいた。

 

「申し訳ないないが外堂先生。そろそろ良いかな?」

 

「おぉ、すまない!それではまた検診に来るから大人しくベッドにいてくれよ」

 

外堂と呼ばれた医者はそう言って看護師達と共に出ていくと残されたのは私とアーサー、母さんと動物。

 

かなり変な組み合わせだけど良いのこれ?

 

「えーと……母さん。この生き物は?」

 

「こら!失礼ですよ!」

 

「いやいや良いよ。では改めて……ネズミなのか犬なのか熊なのか、かくしてその正体は……雄英高校の校長さ!!」

 

「そ、そうですか……」

 

私は取り敢えず人である事は分かったが何でヒーロー志望校として有名な雄英高校の校長が来たのか分からなかった。

 

「それで何故、雄英の校長先生が此所に?」

 

「単刀直入に言うとね。雄英のヒーロー科に受験してみないかと誘いに来たんだ」

 

「わ、私が?何で?」

 

訳が分からない。

 

私は確かに一度はヒーローと言う存在には憧れていた時期があった。

 

だが、自分の個性とアーサーの件がある。

 

それらの事を踏まえ、人の迷惑になるかもしれないし、そんな状態でヒーローになりたいとは思わず……。人の助けとなる仕事を選ぶとしたら探偵になりたいと思っていた。

 

探偵なら小説の様な名探偵の様に危険な事件に巻き込まれる訳ではないし色々な人の助けになれる。

 

その事を考えてたらアーサーに『良いんじゃないか?』なんて言われたのは意外だったけど。

 

「君の個性や人格の事はご両親から聞かされてるよ。でもそれ以上に君が高潔である事もよく聞いている。だから、君がもう1つの人格に負けない様にする為にも、ヒーローに相応しいその高潔な考えを個性1つのせいで失わない為にもね」

 

「でも……私の個性は……」

 

私の個性である切り裂き魔はナイフを生み出す個性。

 

あまりにヒーローに相応しくないこの個性は本当にヒーローとして扱えるのかすら分からない。

 

下手をすれば人を殺す……或いはアーサーが凶器として使う個性として人を殺すかもしれない。

 

「個性の扱い方は君次第さ!人を殺すか、殺さないかじゃない。人の為に振るえる刃、守るべき者達の為に振るう刃なんだ」

 

「人の為に振るえる刃、守るべき者達の為に振るう刃……」

 

根津校長の言葉を聞いて私の個性が人を殺すからと忌避していた私は別の扱い方の解釈など考えた事はなかった。

 

 

【私の個性はナイフを生み出す、ナイフは人を殺す武器】

 

 

私は常にその考えが張り付いて人生を過ごして来ていたがもう1つの扱い方を思い付く。

 

 

【私の個性はナイフを生み出す、ナイフは護身用であり人を守る為の道具】

 

 

考え方を変えれば扱い方も変えられる。

 

だが、アーサー自身の考えそのものは変えられない。

 

「(アーサー。貴方はどうしたいの?)」

 

『あぁ?そんなのお前が決めろ。それとも俺に身体を譲っちまう気か?』

 

「(そうじゃない!そうじゃないけど……貴方は悪と見なした人を殺そうとする。もし、ヒーローになればヴィランと関わる事も多くなる。だから……)」

 

『俺は無理矢理にお前から身体を奪おうとは思わねぇよ。お前が選ぶ道、次第では殺人鬼としてのあり方を教えてやるけどな』

 

アーサーはそう言って不適に笑い、私は不愉快だと不機嫌な表情をしてしまい二人に不安にさせてしまっている事に気付いてすぐに表情を戻す。

 

「大丈夫かい?君のもう1つの人格が何か言ってきたのかい?」

 

「いいえ、大丈夫です。自分で決めろと言われただけです」

 

「そうかい。雄英の受験は強制はしない。ただ、言える事はもう1つの人格の言う通り、君が選ぶべきだ」

 

「ジル。貴方なら大丈夫。ジルがどんな道を選んでも私は味方になるから」

 

二人の言葉に私は今まで忌避していた個性に向き合うべきなのかもしれないと思えた。

 

個性が何だ?アーサーが何だ?

 

私は私の道を進みたい!誰かを助けられるヒーローになりたい!

 

「こんな私で良いんですか?」

 

「勿論さ!ただ、受験だからもしかしたら落ちるかもしれない」

 

「落とされたのなら私はそこまでだっただけです。ですがそれでもやってみたい。私に少しでも人の助けになれるヒーローになれるなら」

 

「これで決まりだね!君の受験を楽しみにしてるよ!」

 

私はそれを聞いて頷く。

 

私は今まで避けてきた物と向き合う為に雄英の受験する事を決め、受験に向けての準備に入る用意をしないと思ったが1つ忘れていた。

 

「私……入院してたんだ……」

 

「問題が無かったから早くて明日か遅くて明後日には退院らしいわ」

 

「大丈夫!筆記試験もあるから此所で勉強くれば良いさ!」

 

やる前からいきなり転んだ事態に私は少し不安になったのは言うまでもない。

 



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ヒーローへの道 ~前編~

ヘドロのヴィランの事件以降、私は出来る限りの事をした。

 

入試試験は勿論、実技試験もあるので勉強をしながら実技に備えたが個性の扱い方はそれなりに分かっているが戦闘となるとそこまで習得している訳ではない。

 

護身術程度、その位のレベルだ。

 

だから本格的に身に付けなければならないが生憎、ヒーローである父さんは地方に出張でいないし、母さんは元警察とは言え個性による戦闘などそこまでやりこんではいない。

 

だから必然的に私が教えを乞う人物は最も個性に適した戦闘スタイルを持ち、尚且つナイフに扱い慣れた殺人鬼アーサーになってしまった。

 

『何だよ。結局、俺が教えるのか?』

 

「あまりそう言いたくないけどね……」

 

『まぁ、良い。俺の指導をきっちりと聞けよ』

 

それからと言うもの、勉学を疎かにしない様に私は実技をアーサーの指導の元で学んだ。

 

ナイフの扱い方、人数に応じての立ち回り方、格闘や体捌き、壁を駆け上がったり、三階くらいから飛び下りて無事に済む訓練と詰め込めるものを積み込んだ。

 

『いや、おかしなの混じってたろ。指摘しろよ』

 

「え?何かおかしな事があったの?」

 

『……あれか?ヒーロー社会ゆえに人離れした動きが当たり前になったからなのか?それとも俺がおかしくなったのか?』

 

アーサーは困惑してるけど私には時間が無い。

 

私はアーサーの指導をうけ、守り、勉学に励み、試験に挑む用意を整えた。

 

動きがパルクールみたいな動きやナイフを手足の様に振るえる様になり、今まで身に付けるつもりがなかった物が身に付く実感を得る様になってきた。

 

私が決死の勢いで試験対策をやって来て遂に10ヶ月後。

 

私は遂に一般入試実技試験を雄英高校の前にやって来た。

 

「大きいわね……」

 

『無駄にデカイな。確か税金とか使われてたなんて聞かなかったか?』

 

「ヴィラン対策でしょ?それよりもう口では話さないから気をつけて」

 

『はいはい。精々、頑張れよ』

 

私は一息ついてから足を踏み出し歩き出す中、周りの受験生達が反応を見せてきた。

 

「うわ、霧先だ……」

 

「え?あのヘドロの時に凶悪化したあの?」

 

「人質になってた爆豪ともう一人を助けたって言うけどヴィラン殺そうとしたんだってよ」

 

「私、怖いんだけど……あの子も受けるの……?」

 

当然、悪い印象が強い。

 

それもそうだ……オールマイトが関わった事件だからニュースになったんだ。

 

アーサーが余計な暴走さえしなければまたボッチフラグなんて立たなかったのに……泣きたい。

 

「き、霧先さん!」

 

「出久君?え…?貴方も雄英なの?」

 

「う、うん」

 

「そうなの。それで何科なの?サポート科?経営科?貴方はヒーローの分析の知識は凄いからどっちもいけると思うわ」

 

「え、えーと……僕……ヒーロー科なんだけど」

 

私は取り敢えず聞き間違えたのかなと思った通り。

 

悪いけど幾ら何でも無個性じゃ出久君にヒーローへの道は開かない方が高い。いや、もはや高いなんて物ではない。

 

なのに何でヒーロー科なんだと問い詰めたくなる。

 

『へぇ、度胸あるな。記念受験か?』

 

「(出久君がそんなのする訳がないでしょ!多分……本気よ)」

 

「霧先さん?」

 

「なに?」

 

「やっぱり……僕には無理だって思ってる?」

 

図星突かれた!?

 

ど、どどど、どうしよう!

 

何ていえば良いのか分からないし、頭が真っ白になりそう!

 

「そ、その……えーと……そうなのね!驚いたけどお互い頑張りましょう!」

 

「やっぱり無理だと思われてる……」

 

結果、かなり無理な返答をしてしまい出久君を泣かせました。

 

私があたふたと出久君をどうにか慰めようとする中、そこに憎き爆破魔、勝己が来た。

 

「どけデク、ジル!!」

 

「かっちゃん!!」

 

「ちッ……やっぱりこいつもか」

 

「俺の前に立つな!殺すぞ!」

 

こいつ本当にヒーローになる気あるのかしら?

 

ヒーローが殺すぞなんて禁句中の禁句だってしらないのかしら。

 

「だったら横に避けて通りなさい。それにヒーローになりたい癖に死ねなんてね……これは一人脱落は確定ね。ねぇ、出久君?」

 

「あぁ?喧嘩売ってんのかテメェ?」

 

「売ってるつもりだけど?」

 

「二人とも落ち着いて!試験前だよ!」

 

出久君の言う通りだ。

 

こんな奴の為に十ヶ月を無駄にしたくないし、勝己もそれが分かってるから舌打ちしてきたくらいで後は何もなく、そのまま会場の方へ歩いていってしまった。

 

「はぁ……全く。ほら、遅れたら大変だし行きましょう」

 

「そ、そうだね。い、いいい、行かないと」

 

出久君、緊張し過ぎて言葉も身体もガッチガチになってる。

 

気を付けないと転ぶよって言おうとしたら言う前に凄い角度で転けそうになってるけど何故か浮いてる。

 

「大丈夫?」

 

声を駆けてきたのはショートボブが似合う受験生の女の子だった。

 

「わッ!え!?」

 

「落ち着きなさい。多分、この人の個性よ」

 

「うん、そうだよ」

 

女の子はそう言って御丁寧にも出久君を地面に下ろしてくれた。

 

「私の個性。ごめんね勝手に。でも転んだら縁起悪いもんね」

 

「此方こそありがとう。えーと……」

 

「お茶子。麗日お茶子っていうの」

 

「お茶子さんね。私は……霧先ジル。ジルって読んでくれる?」

 

自分の悪名がお茶子さんにも伝わってるかもしれないけどそれでも相手が名前を名乗った以上は此方も名前を名乗るのが礼儀。 

 

もしかしたらそれ以降、避けられるかもしれないけどせめてものお礼としてなら安いものだしね。

 

「霧先ジルね。うん、覚えたよ。お互い頑張ろう。二人共」

 

これは予想外。

 

多分、私の事をニュースで聞いてるかと思ったけど全然、普通だった。

 

あと、出久君。

 

なーに顔を赤くしてお茶子さんを見てるのかな?

 

『お?嫉妬か?』

 

「(そんなわけないでしょ。早く行くよ)」

 

私は取り敢えず試験に遅れたら大変だから出久君の手を引っ張って駆け出した。



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ヒーローへの道 ~後編~

出久君と一緒に受験会場に入った私に待ち受けていた光景は数多くの制服がバラバラの受験生が集まる今までに見た事もない物だった。

 

『へぇ、こいつら全員がライバルか?』

 

「(そうみたいね……気が滅入るわ)」

 

ヒーローとして優秀な逸材が多いのは間違いない。

 

私の個性と身に着けた技が何れだけ通用するか全く分からない……何で私、ナイフなんだろう……

 

「今日は俺のライヴにようこそー!!!」

 

『うるせぇッ!何だ彼奴は!』

 

「(プロヒーロー、プレゼント・マイクね。ラジオやってるらしいわ)」

 

『ラジオを?あんな大きな声を聞き続けたら頭がおかしくなる。お前がそのラジオを聞かないのは救いだな』

 

私はアーサーの言葉に苦笑いしか出来ない中、隣にいるヒーローオタクの出久君はプレゼント・マイクに大興奮。

 

何故かその隣にいる勝己はアーサーと同意見で『こればかりは仲良くなれそうだな』なんて言ったわ。

 

まぁ、プレゼント・マイクの言う試験内容は簡単に言えばA~Gの指摘の演習会場に行って10分間の模擬市街地演習つまり、各々のポイント次第で難度が変わるロボット相手に模擬戦をするらしい。

 

無論、妨害行為は失格の対象と言うのもお決まりだ。

 

「質問よろしいでしょうか!?」

 

プレゼント・マイクの試験の説明が行われる中、何か真面目そうな受験生が質問を始めた。

 

「プリントには四種のヴィランが記載されております!誤載であれば日本最高峰たる雄英において恥ずべき痴態!!我々、受験者は規範となるヒーローのご指導を求めてこの場に座しているのです!!」

 

違った。

 

真面目じゃないクソ真面目だ。

 

『何時の時代にも真面目な奴はいるんだな。いや、彼奴は真面目過ぎるか』

 

「(誰か知り合いに真面目な人がいたの?)」

 

『シャーロットだ』

 

「(あぁ……貴方を捕まえた人ね。うん。分かった)」

 

取り敢えず無かった事にしてプリントを見ようとしたら此方見てきた。

 

「先程からボソボソと……気が散る!!物見遊山のつもりなら即刻、雄英(ここ)から去りたまえ!」

 

「すみません……」

 

クソ真面目の矛先が出久君に向いた。

 

と言うかもう少し言い方はなんとかならないのかな?

 

幾ら不愉快でも最初は軽く注意し、それでも直らないなら厳しく言うべきであって最初から一気に厳しくすれば言いと言う訳じゃない。

 

下手したら注意された側が悪いと思っていても不快に思わせて終わってしまう。

 

「オーケーオーケー。受験番号7111君ナイスショットなお便りサンキューな!四番目のヴィランは0P!そいつは言わばお邪魔虫!」

 

『成る程な。試験の邪魔をする要素もあるって事か』

 

「(まぁ、簡単にはいかないでしょうね)」

 

『だが……果たしてそのお邪魔虫の役目はそれだけなのかが問題だけどな』

 

「(それって……何かあるって事?)」

 

『おまえの試験だろ。自分で考えろ』

 

アーサーはそう言ってそれ以上は何も言わなかった。

 

0Pの仮想敵……お邪魔虫たるそれがもたらす何か……間違いなくヒーローに関する内容になるのは間違いない。

 

それは試験を始めたら分かる事だろう。

 

「ナポレオン・ボナパルトは言った!真の英雄とは人生の不幸を乗り越えていく者と!!Plus Ultra!!それでは皆、良い受難を!!」

 

Plus Ultra、更に向こうへ……か。

 

私はCだから二人とは別になり、軽く別れを告げて持参したジャージに着替えていざ、戦場へ!

 

……一言言うわ……広っ!!?

 

ちょっとした都市が広がってるけどマジなの雄英!?

 

『税金の大部分が使われてそうな所だな』

 

「(それ言ったら負けよ)」

 

とにかく気にするな。

 

私は軽く準備運動をしながら受験生達を見るけど皆、受かる気満々で全く、自信が落ちてない。

 

私?

 

私はあれを見てもうごっそり、落ちてしまいそうだよ。

 

『やれやれ。少しは自信を落とした方が不合格の時のショックを和らげるだろうにな』

 

「(それって私に言ってる?)」

 

私はアーサーからの不吉な言葉に不安を覚えそうになった時、スピーカーがなった。

 

《ハイスタート!》

 

私はそれを聞いた瞬間、本能的に駆け出した。

 

アーサー曰く、実戦でカウントなんて無いから万が一、勢い言われても動ける様にしとけと散々言われたけど……まさか当たるとは。

 

《どうしたぁ!?実戦じゃカウントなんざねぇんだよ!ハーフの美人ちゃんが一人で爆走してんぞぉ!走れ走れぇ!!賽は投げられてんぞ!!?》

 

プレゼント・マイクのその言葉に他の受験生も事態を察知したのか一斉に駆け出す足音が聞こえてきた。

 

あと、美人ちゃん?

 

私はそこまで美人じゃないけど……?

 

『おまえは少し、自分の容姿の評価を上げろ』

 

「上げろって言われてもね!」

 

私はアーサーと話しながら生み出したナイフを投擲し、手始めに1Pの仮想敵を倒した。

 

そこからナイフを左手でしっかり握って手足の様に振るい、蹴って、殴って、投擲して、反撃を受けそうなら躱してナイフで切り突ける。

 

軽く37Pは行ったかな。

 

でも、間違いなく私より高い人は多い筈だし油断はできない。

 

「だ、誰かぁ!」

 

「なに?」

 

『何だ?おいおい、運が無い奴だ。破壊された仮想敵の下敷きになってやがる』

 

受験生の一人が飛んできたのか或いは自分でやってしまったのか仮想敵の下敷きになって動けなくなっている。

 

自力では抜け出せない個性持ちなのか全く抜け出せそうにないし、周りはライバルが減ったとばかりに試験に集中してる。

 

『どうすんだ?』

 

「はぁ……助けるわよ」

 

『試験はどうするんだよ?下手したら不合格だ』

 

「それでも助けを呼ぶ相手を無視できない。無視したらそれこそヒーロー失格よ」

 

私はアーサーにそう言って下敷きになってる受験生の元に来ると仮想敵を持ち上げる。

 

……結構、重い。

 

「ほら、這って出なさい……!もたないから……!」

 

「ご、ごめんなさい!ありがとうございます!」

 

受験生がそう言って抜け出すのを見届けた私は一息ついてるとプレゼント・マイクの終了の声が響いた。

 

やってしまった……。

 

『ほら見ろ!終わっちまったぞ!』

 

「……終わった」

 

私はやってしまったこの結果に対し、項垂れるしかなかった。



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結果発表

~雄英side~

 

実技試験と筆記試験を終えた雄英では合格、不合格を決める会議が開かれていた。

 

合格或いは不合格が決まっていく中、そこでジルの結果が決められようとしていた。

 

「実技の結果はヴィランPが37で救助Pが40。一位の爆豪と同列になってしまったな」

 

「でも、試験中に言ってた事や行動を踏まえると40も与えるのは良いと思うわ」

 

「確か……それでも助けを呼ぶ相手を無視できない。無視したらそれこそヒーロー失格よ。でしたよね?」

 

「そうだぜ!俺も見ていたがなかなかにイカした女だぜ!」

 

「だが……問題がある。その子には人格がもう一つある。殺人鬼の人格。それもかなり厄介な人格だ」

 

「アーサー・ヒューイットだね?」

 

校長として会議の参加者の一人である根津はそう言うと他の教員達は驚きの表情を浮かべた。

 

「アーサー・ヒューイットってあのロンドンの切り裂きジャックのか?」

 

「それは初代の方です。アーサーは二代目切り裂きジャックとも言われている殺人鬼で初代同様、捕まって死刑にされたと言われており、またの名を切り裂きジャックの再来だと言われています」

 

「人格に有名な殺人鬼がね……疑わしいですが不安要素があるなら流石に合格は無理では?」

 

教師の一人である相澤が言うと回りな静まり返って重苦しい雰囲気になる。

 

将来有望な受験生が人格が危険な為に落ちる。

 

そんな事を考えれば誰でも気が重くなるのも仕方なかった。

 

「僕が責任を持つよ」

 

「校長!?」

 

そんな中で責任を持つと公言した根津に教員達は驚きの声を挙げた。

 

「誘ったのは他ならぬ僕だしね。それなのにもし、人格なんかで不合格なんて言ったら希望を持った彼女の頑張りを無駄にしてしまうからね。なら、僕が責任を持つ事で彼女をヒーロー科に入れてあげて欲しいのさ」

 

「……なら、その責任は私も持ちます」

 

根津の言葉に挙手してから相澤が言い、他の教員達は相澤に注目した。

 

「その代わり。彼女をA組に入れてください。"見極め"が大事な生徒なら俺が直接見ていた方が合理的だ」 

 

「分かったよ。でも、注意をして欲しい所があるのさ。彼女の人格は"個性に組み込まれていない"みたいなのさ。つまり、君の個性では彼女の個性は止められても人格が切り替わってしまうのを防げないと言う事さ」

 

「個別になっていると言う事ですか……」

 

根津から伝えられたジルの人格に関して聞いた相澤はジルの乗る資料を見つめるのだった。

______

____

__

 

実技試験の後、筆記試験も終えた私は家で試験結果(死刑宣告)の通知を大人しく待っていた。

 

実技でやってしまった以上、筆記ができても合格できているのか分からない中、私は燃え尽きた様にテレビを見ていた。

 

『おいおい、大丈夫か?実技試験の後からずっとそうだぞ?』

 

「大丈夫じゃないかも……」

 

『やれる事はやったんだ。何故か0Pの奴は出なかったがな』

 

「後から聞いた話だとピンポイントでCだけ動作不良を起こして動かなかったんだって。まぁ、かなりデカイ仮想敵だから私じゃどうにもできなかったと思うけど」

 

『なんだそりゃ?お前、運が良いのか悪いのかやら……まぁ、結果を待つんだな』

 

アーサーの言う通り、結果を待つしかない中、溜め息をついてるとバタバタと母さんがやって来た。

 

「ジル!来たわよ!」

 

その言葉に私は通知を受け取って自分の部屋に入って椅子に座った。

 

暫く自分に大丈夫だと言い聞かせてから開封……したら何か出た。

 

文字じゃなくてどうやら映像のようだ。

 

『通知だけで無駄にこってるな』

 

アーサーはそう言う中、私はまじまじと映像を見ているとドアップのスーツ姿のオールマイトが出てきた。

 

《私が投影された!!!》

 

「お、オールマイト!?」

 

『何でオールマイトなんだ?』

 

咄嗟に通知の封筒を確認すると間違いなく雄英の物。

 

だとすればオールマイトは雄英の関係者として出てきた事になるけど……

 

《久しぶりだね霧先ジル君!何故、私が投影されたのかって?それは!私がこの春から雄英に教師として勤めるからさ!おっと!この情報はまだ世間には出ていないからね!内緒で頼むよ!さあ早速、君の合否を発表しよう!》

 

『マジかよ。No.1ヒーローが教師だとよ』

 

「凄いと思うけど合格できたとは思えない……」

 

『まだ言ってんのかよ』

 

ジルはかなり不安になる中で結果が話される事を待つ中、オールマイトが親指を立てた。

 

それはつまり。

 

《おめでとう!君は合格だ!筆記はトップ!実技もヴィランPは37だったが君の行動と言葉が道を開いて救助Pが40も与えられた!しかもお邪魔虫である0Pの仮想敵も此方の事情でCだけ動く事なかった強運も助けたとも言える。君の特殊な事情で少々、危ない橋を渡ったがな!》

 

私はそれを聞いて安心すると身体の力が抜けていく。

 

どうやら緊張し過ぎて力み過ぎていた様で椅子に深く座り込んでしまった。

 

『良かったじゃないか。合格できて』

 

「えぇ……本当に……」

 

私はもう安心し過ぎて泣きそうで堪らなくてヒーローを目指せるんだって思えて嬉しすぎる。

 

《君には見えないハンデがあるかもしれない!しかし!君はそれを物ともせずヒーローへの道を切り開いた!胸を張って来いよ霧先少女!雄英(ここ)が君のヒーローアカデミアだ!》

 

オールマイトのその言葉に私はもう限界で泣いてしまい、アーサーはそれに見ていたが何も言わず笑っていた。

 

でも、そんな事なんて構ってられない。

 

私は合格したと母さんにつたえる為に部屋から飛び出した。

 

危険な個性と不安定な人格だけどそんな私もヒーローになるチャンスがあるって支えてくれた母さんと出張中の父さんに伝えたかったから。



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雄英入学と波乱

季節は春となり、暖かい太陽が照らす絶好の入学日和に私は鏡の前で雄英の制服を着て身嗜みがちゃんとできているのか確認し、部屋を出ると母さんの前に出た。

 

「……ジル。よく似合うよ」

 

「ありがとう母さん。父さんにも出張じゃなかったら直接見せたかったな」

 

「仕方ないわよ。父さんは他のヒーロー達とは違っていろんな所に行かなくちゃいけないからね」

 

私の父さんはヒーロー。

 

でも、他のヒーローの様に有名じゃないし何処へでも行っちゃう様なヒーローで幼い頃はそんな父さんがまた出張に行くって言った時に行かせない様に抱きついたりしたのが懐かしいとと思う。

 

そんな父さんはまた出張でしかも長期間に渡るそうで何時、帰って繰るか分からない。

 

だから、この制服を直接見るのは母さんくらいである。

 

でも、そんな父さんを嫌いになった事はない。

 

父さんはたまにでも帰ってきてくれるし、ヒーローとして有名でなくても多くの人達の為に手柄関係なくヴィランを捕まえたりする人だって知ってるから。

 

でも、後から聞いた話だけど流石にオールマイトと知り合いなんてビックリしたけどね。

 

「もう行かないと。じゃあ、行ってきます」

 

「行ってらっしゃい。気を付けてね」

 

私は母さんからの見送りを受けた後、雄英に向かって力強く歩きだした。

______

____

__

 

私は雄英に着くとさっそく中に入り1-Aの教室を探す……て言うか広すぎて何処にあるのか分かりにくい。

 

『本当にデカイな……初日くらい案内を出せよな』

 

「(過ぎた事を言ってもしょうがないでしょ。あれ?)」

 

私がやっとの思いで1-Aの教室を見つけるとそこでそろ~と個性でのバリアフリーなのか大きすぎるドアを開けようとしている出久君がいた。

 

『あいつ受かったんだな』

 

「(ビックリした……え?でも、どうやって受かったのかしら?)」

 

本当にどうやって受かったのか分からないけどズルをする様な人じゃないし尚且つ雄英にそんな教員は絶対いない。

 

正当な実力で受かったのなら素直に彼の合格を祝福すべきだ。

 

「出久君。おはよう」

 

「え…?ジル!お、おはよう!ジルも受かったんだね!」

 

「えぇ。貴方も雄英に受かったのね。凄いわ。でも……どうやって受かったの?先に言っておくけど疑ってる訳じゃなくて貴方、無個性だって聞いてたから」

 

「え、えーと……それは……き、急に個性が発現したんだ!それで何とか!」

 

何か怪しい言動してる……

 

まさか、本当に不正行為してるなんてあり得ないし……うん、あり得ない。

 

『へぇ、急にね……なんか言動がおかしいが本当なのか?』

 

「(アーサー……知ってるでしょ?出久君はそんな人じゃないわ)」

 

『そうかな?人間って言うのは思いのほか欲が深い。雄英も一つの組織ならそう言った不正もあり得なくはないぞ』

 

「(雄英での試験は個人で判断できない様になってるから不可能なの!全く……変な所で疑り深いわね)」

 

私はアーサーの疑り深さに呆れつつも取り敢えずこれ以上の追求は止める事にした。

 

もし、本当なら個性を使う機会はあるし必ず見る事になる。

 

嘘を言っていないなら個性が発現したなんて言わないからね。

 

「本当に良かったじゃない。でも、突然なら個性を使いなれてないでしょ?何か力になれる事があれば言ってね」

 

「う、うん。ありがとう」

 

追求を止めた途端、安心しだす出久君。

 

結構、疑われる要素が多すぎてちょっと不安になってきたから教室に入って不安を消そうとして扉を開けたけど……不安が一気に大きくなった。

 

「机に足をかけるな!雄英の先輩方や机の製作者方に申し訳ないないと思わないか!?」

 

「思わねーよ!テメーどこ中だよ端役が!」

 

まさかの出久君の苦手な人2ートップ。

 

眼鏡のクソ真面目君と勝己がまさかの同じ教室被りで出久君が顔を真っ青にしてるじゃないの。

 

『あっははは!これは傑作だ!よりにもよってこいつの苦手な奴が二人も揃ったのか!』

 

「(黙りなさい!たく……まぁ、同じならしょうがないわよ。それよりも)」

 

私は爆笑するアーサーを他所に取り敢えず机に足を乗っけてる己の頭に向かって平手で殴った。

 

「ぐほッ!?」

 

殴られて良い音が鳴ると同時に勝己は勢いつけて顔を下に向けると私は一言声をかけた。

 

「あら?爆発不良少年の勝己君じゃない。貴方も受かるなんてね。取り敢えず机から足を下ろしたら?」

 

「てめぇ……入学早々に何すんだジル!」

 

「貴方が注意されてるのに無駄に不良少年感を晒してたから注意しただけよ。物理でね」

 

「普通は口で言うだろうが!馬鹿が!」

 

「君達!入学早々に喧嘩をしてはいけない!あと、ボ……俺は私立聡明中学出身、飯田天哉だ」

 

「あ、ご丁寧にどうも。霧先ジルです。不本意ながらこの爆発野郎と同じ折寺中学校の出身です。あと、後ろにいる出久も同じです」

 

私はそう言って後ろにいる出久君に指を指して言うと出久君はビクリッも身体を震わせた。

 

あ、もしかして心の準備ができてなかった?

 

私が考えてるとクソ真面目君こと飯田君が出久君に急接近してる。

 

「俺は私立聡明中学の」

 

「聞いてたよ!あ……っと僕、緑谷。よろしく飯田君……」

 

「緑谷君……君はあの実技試験の構造に気づいていたのだな?俺は気づけなかった……!!君を見誤っていたよ!!悔しいが君の方が上手だったようだ!」

 

飯田君がそこまで出久君を評価するなんて!?

 

出久君……貴方はとても成長していたのね。

 

私もうかうかしていないで負けないようにしないと。

 

『いや、たぶん気付いてなかっただろ……まぁ、言わなくて良いか』

 

アーサーなんか言ってるけど気にする事でもないわね。

 

それにしても飯田君ってクソ真面目と言うより律儀なタイプなのね……あと、出久君も色々と成長してて良かったわ。

 

「あ!そのモサモサ頭は!!地味めの!!それに綺麗な人!」

 

あ、試験の前にあった女の子。

 

覚えてくれてたんだ……でも、私ってそこまで綺麗じゃないけど。

 

『だから……はぁ……もう良い。どっかの狼に食われっちまえ』

 

「(だから何なのよ。それにこんな都市部に狼なんていないわよ)」

 

私は当たり前の事を返すとアーサーはまた深い溜め息を吐いた。

 

何なのよこの反応?

 

「プレゼント・マイクの言ってた通り受かったんだね!!そりゃそうだ!!パンチ凄かったもん!!」

 

「いや!あのっ……!本っ当あなたの直談判のおかげで……僕は……その……」

 

出久君が凄く照れてるよ。

 

そんなに女の子と話した事がないのかな?……私、女じゃん。

 

『そもそも女と見られてなかったりしてな?』

 

「(うるさい!)」

 

アーサーに言われるとかなり腹が立つからもう黙ってて欲しいと思った時、教室の廊下辺りから声が聞こえた。

 

「お友達ごっこしたなら他所へ行け。此処は……ヒーロー科だぞ」

 

「(え?誰、この人?)」

 

そこにいたのは寝袋に包まった中年で何処か不衛生な男が堂々と廊下で寝転がっていた。

 

『こいつ……やろうと思えばスカートの下のパンツを覗けるぞ。変質者か?』

 

「(その発想が変質者だけどね)」

 

私がそう言ってる間に男は寝袋に入ったまま教室の中に入ってきたよ。

 

もう脱げよ……何の用なのか知らないけどそこまで来たなら寝袋を脱げ。

 

教卓に来てから脱ぐんじゃない!……え?

 

「ハイ。静かになるまで8秒掛かりました。時間は有限。君達は合理性に欠くね。担任の相澤消正だ。よろしくね」

 

さっきまで不審者全開だった人がまさかの教師で尚且つ担任でした。

 

大丈夫なの雄英?

 

不審者丸出しの登場だったけど教師=担任って事はプロヒーローよね?

 

とてもそうには見えない……

 

『成る程な……ジル。経験の浅い奴から見ればこの男、大した奴には見えないのは分かる……が、俺から言わせればかなりできるぞ』

 

「(そうなの?)」

 

『チャランポランとしてるがな。人は見た目では判断できないって事だ。覚えとけ』

 

アーサーからそんな評価を受けるなんて……この人、そんなにできるって言う事なら侮っちゃいけないわね。

 

いや、教師を侮るなんてしないけど。

 

「早速だが体操服(コレ)着てグラウンドに出ろ。時間は有限だからな。早くしろ」

 

相澤先生はそう言ってスタスタと歩いていってしまい残された私達は言われた通り、体操服に着替えてグラウンドに出るしかなかった。

 

……他の行事は良いのかしら?



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個性把握テスト

相澤先生に体操服に着替えてグラウンドに出るとそこでは既に相澤先生が待っていた。

 

「よし。全員揃ったな。個性把握テストを始めるぞ」

 

「「「個性……把握テスト!?」」」

 

あまりに突然なその宣言に周りは勿論、私も唖然としてしまった。

 

何しろ行事の大部分を前倒しにしてテストをすると言っているのだから滅茶苦茶だ。

 

「入学式は!?ガイダンスは!?」

 

「ヒーローになるならそんな悠長な行事出る時間ないよ。雄英は自由な校風が売り文句。そしてそれは先生側もまた然り」

 

『へぇ……面白いな。この先生』

 

「(何が面白いよ。言ってる事は解釈を通り越して滅茶苦茶よ)」

 

私は滅茶苦茶な人だと言う印象を持つ中でアーサーには受けは良かったのか面白いと称された。

 

流石に殺人鬼に面白いなんて言われるのは不本意だろうから黙ってるけど。

 

「ソフトボール投げ、立ち幅跳び、50m走、持久走、握力、反復横跳び、上体起こし、長座体前屈。中学の頃からやってるだろ? 個性禁止の体力テスト」

 

まぁ、当たり前の様にやって来た体力テストのメニューね。

 

個性禁止と言うけど私のこの個性ってほとんど無個性みたいなものだから使っても意味がないから深く考えた事がない。

 

「国は未だ画一的な記録を取って平均を作り続けてる。合理的じゃない。まぁ文部科学省の怠慢だよ。爆豪。ソフトボール投げ何mだった?」

 

「67m」

 

「じゃあ、個性使ってやってみろ。円から出なきゃ何しても良い。早よ。思いっきりな」

 

相澤先生がそう言い終わると勝己は軽くストレッチをした後、勢いよく投げると同時に爆発を起こしてボールを飛ばした。

 

「死ねぇッ!!!」

 

おい、勝己。

 

幾らなんでも死ねって言いながらなげる事はないでしょ。

 

「まず自分の最大限を知る。それがヒーローの素地を形成する合理的手段」

 

相澤先生はそう言いながら勝己の記録を見せると705.2mとかなりの高記録を叩き出していた。

 

「何だこれ!!すげぇ面白そう!」

 

「705mってマジかよ!」

 

「個性思いっきり使えるんだ!!流石ヒーロー科!!」

 

周りは興奮気味に楽しんでるけど気付かないのかしら?

 

相澤先生……面白そうなんて言う言葉が流れると同時に先程の雰囲気から一転した感じがする。

 

多分、怒ってるわね。

 

「…………面白そうか……ヒーローになる為の三年間。そんな腹積もりで過ごす気でいるのかい?よし、トータル成績最下位の者は見込み無しと判断し除籍処分としよう」

 

「「「はあああ!?」」」

 

相澤先生のその一言で周りは一気にお気楽ムードから不安が拡がる暗いムードとなった。

 

「最下位除籍って……!入学初日ですよ!?いや……初日じゃなくても……理不尽すぎる!!」

 

「自然災害……大事故……身勝手なヴィラン達……いつ何処から来るか分からない厄災。日本は理不尽にまみれてる。そういう理不尽(ピンチ)を覆すのがヒーロー」

 

相澤先生は滅茶苦茶だ。

 

だが、滅茶苦茶ではあるが正しい。

 

確かにヒーローになるのならどんな理不尽な厄災にも怯む事なく覆せるそう言う人物こそがヒーローなのだ。

 

生半可な気持ちでは勤まらないだろう。

 

「放課後マックで談笑したかったならお生憎。これから三年間。雄英は全力で君達に苦難を与え続ける。Plus Ultraさ。全力で乗り越えて来い。それと霧先」

 

「は、はい」

 

「お前は各種目を二回やって貰う。意味は分かるな?」

 

相澤先生の言葉に私は背筋を凍らせてしまった。

 

今、何て言ったこの教師は?

 

『つまりアレか?俺もテストに参加する様な感じか?』

 

「(……じゃなかったら何になるのよ。アーサー)」

 

『特別にチャンスが二回あるよ的な感じになる……が、この先生からはそんな愛嬌は無さそうだって言うのは分かる。どうする?身体を貸してくれるのか?』

 

「(……でも、皆がいるし)」

 

『どうせいつかバレるんだ。だったらもう自棄になれば良いんだよ』

 

アーサーはそう言うけどそれでまた皆が離れる様な事があったらと思うと不安でしかない。

 

だが、やれと言うならやるしかない。

 

「分かりました」

 

私は自身の内に潜む殺人鬼を曝す覚悟で私は種目に挑む事に相澤先生は頷くのは真意は合っていると言う事だろう。

 

~第1種目:50m走~

 

まず目立った成績を見せたのが飯田君の個性エンジンで見たまんまの個性で記録はクラス最速の"03秒04"。

 

他の人達は5秒を切ってるけどやはり、ヒーローは足が速いに越したことはない。

 

それだけ速く現場に駆け付けられる能力があると言う事だから。

 

私はもはや特別枠。

 

何しろ二回もやるんだから最後に回された。

 

「霧先って確か爆豪と同列だった奴だよな筆記もトップで?何で二回も?」

 

「さぁ?あの様子だと贔屓してるって感じじゃ無さそうだけど」

 

物凄く悪目立ちしてる……帰りたい。

 

とにかく、相澤先生からの合図が来たからには走る!

 

雄英に入学が決まってからもアーサーに特訓を付き合って貰って走り込みとかしたけどあくまで持久走向けだったし、自信が。

 

「止まれ霧先。なに、考え込んでるのか知らんがゴール過ぎてるぞ」

 

「え?あ、すみません。何秒でした?」

 

「"04秒38"だ」

 

うわ、意外と速かった。

 

皆も皆でビックリしてるじゃないのこれ。

 

「何て足してんだ彼奴!?」

 

「ほとんどボーとしてる感じでしたわ。それでもこの速さですか……」

 

「凄い凄い!何の個性なのかな?」

 

「うーむ……見た所、個性を使った様子は無かったが……」

 

皆がそんな感じで見てくるもんだから少し恥ずかしくなる……でも、問題はまだ残っている。

 

「二回目だ霧先。位置に付き直せ」

 

相澤先生の促され、私は歩きながらアーサーに呼び掛けた。

 

「(アーサー。テストの間だけ私の身体を少し貸してあげる。存分にやっても良いけど他の人は傷つけないで)」

 

『了解。任せてな』

 

本当に大丈夫なのかと思うけどアーサーを信じて身体をアーサーに委ねる感覚で主導権を明け渡すとアーサーは身体の主導権を握った事で肩を軽く回したりし始める。

 

「さて……相澤『先生ね』。……相澤先生。俺の実力を見たいんだろ?だったら見せてやるよ。幾らでも見ていけ」

 

はぁ……明らかに雰囲気変わったから皆、困惑してるし、出久君なんてあの時の事件をぶり返したのか少し震えてる。

 

『良いから速く終わらせて』

 

「はいはい。分かってるよ」

 

アーサーはそう言って位置に着くと相澤先生の合図がきた。

 

……速すぎない?

 

これって私の身体よね?

 

「さて、相澤先生。俺の記録は?」

 

「"03秒57"だ。記録更新だよ」

 

微妙な変化……でも、それはこの身体がアーサーの物では無いからと言うのも理由になるでしょうね。

 

私の身体はアーサー曰く、何か扱い難いらしく胸も重いから肩が凝りそうになるとか。

 

「ちッ……やっぱり扱い辛いな……」

 

『文句言ってないで返してくれる?』

 

「はいはい。変わるぞ」

 

アーサーはそう言い終わるとすぐに私に主導権を明け渡し、私は手を何度か閉じたり開いたりして動作の確認をする。

 

「……大丈夫です。続けましょう」

 

私は只、それだけ言った。

 

~周辺side~

 

50m走二回目でのジルの変化は出久達を驚かせ、恐怖させる。

 

穏やかな雰囲気から周りを威圧する様な雰囲気になり、微笑みから獰猛な笑みに変わったり、また一番の特徴的な変化は左目の瞳の色が優しげな青から血の色とも言える赤へと変わった事だ。

 

口調も私から俺に変わった事からもはや別人の様にも思えてしまった。

 

「(成る程ね……これが人格の変化か……)」

 

相澤は冷静にジルの変化を見て、議題に挙がっていた二つ人格による変化を目の当たりにする中で疑問もあった。

 

「(まるですぐ側にいて対話できている様な感じだな。単なる二重人格と言う訳ではないと言う事か?)」

 

相澤はジルとその内に潜むアーサーは各々、独立した人格で構成され一つの身体にいると言う奇妙な状態に困惑を覚えるも今は気にするべきではないと考え測定に集中する。

 

2種目:握力、3種目:立ち幅跳び、4種目:反復横飛び、5種目:ボール投げと彼女は人格を入れ替えながら二回こなす。

 

「な、なぁ……あれって二回目の時のジルはジルなんだよな?」

 

「分からない……だが、明らかに雰囲気が変わった。個性の影響なのか?」

 

「何だか……近づきにくいそんな感じがするね……」

 

A組の者達は口々に言う中、出久は冷や汗をかいていた。

 

「(やっぱり、あの時のジルだ……!ヴィランを殺そうとした時の……!ジル……君は分かってるんだよね?)」

 

出久は商店街の出来事を思い出しつつジルの事を心配する中、ジルは軽く汗を手で拭った。

 

~周辺side終了~

 

私はアーサーと交互に入れ替わりながら種目をこなし、やっと最後の種目になるボール投げになったが麗日さんが∞を出したのはビックリしたけど個性的にあり得るから良いか。

 

それより問題なのは……

 

『彼奴。そこまで良い記録を出せてないな』

 

「(出久君……)」

 

出久君が個性に目覚めたばかりだから上手く個性を扱えていないと思っている。

 

個性は早くて赤ん坊から遅くて五歳程で発現し、その時から個性の扱い方を学び、一定の範囲で使いこなせる様になる。

 

私も例外ではなく、個性が発現して間もない頃は間違ってナイフを出してはよく手を切ってしまったりしては泣いて、両親を慌てさせたのは良い思い出だ。

 

個性把握テストは終わり、私は5位と言う事で落ち着いてアーサーの方は除外になったみたい。

 

やはり、専門的な個性や特殊な個性を持つ相手では生身ではキツいと言うのがよく分かる結果だ。

 

最下位が誰になるか分からない中、相澤先生を見ていると相澤先生がテスト結果のランキングを写し出した。

 

「因みに除籍は嘘な」

 

「……え?」

 

『へぇ……』

 

相澤先生の突然の嘘宣告に私や他の皆も唖然とする中、相澤先生は続ける。

 

「君らの最大限を引き出す。合理的虚偽」

 

と言って、してやったりと笑ってくる中、はぁッ!?と周りは叫んだ。

 

「あんなの嘘に決まってるじゃない……ちょっと考えれば分かりますわ……」

 

結果の中で一位になった八百万さんがそう言うけど……本当にそうなのかしら?

 

『嘘の嘘だ。彼奴は本当に見込み無しの奴がいたら……除籍にしていた。俺はそう考えるね』

 

「(……そうでしょうね。目が本気だったしね)」

 

相澤先生が除籍処分にするって聞いた時、相澤先生の目を私は見てた。

 

あの目……人を見定めようと細めるその目に嘘はないと思えたのだ。

 

「そゆこと。これにて終わりだ。教室にカリキュラム等の書類があるから目ぇ通しとけ。緑谷。リカバリーガール(ばあさん)のとこ行って治して貰え。それと霧先。自分の事でビビるのは良いが向き合う事を忘れんな。明日からもっと過酷な試練の目白押しだ」

 

相澤先生はそう言って行ってしまい、残された私達は只、相澤先生が見えなくなるまで見守るしかなかった。



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始まる高校生活

波乱の個性把握テストを終え、無事に除籍にされずに済んだ私はカリキュラム等を読んだり、下校時間を迎えるまで質問責めにあった。

 

個性は何だとか、雰囲気が変わったのは個性の影響なのかとか色々と聞かれて大変だったけど私は自分の個性がナイフを生み出す事や人格が私とアーサーで分かれている事を告げた。

 

不安の中、私は皆の反応を伺っていたけどその不安はすぐに祓われた。

 

「大丈夫だよ!」

 

「確かにビビったけどさ。個性も使わないでスゲェと思ったぜ!」

 

「誰にだって気にする所はあるし皆で支えれば大丈夫よ」

 

皆はこんな私を受け入れてくれた。 

 

最初は不安な登校初日だったけど皆が優しい人達で良かった。

 

まぁ、勝己は相変わらず……と言うより個性把握テストから妙に静かになった。

 

『まぁ、簡単な事だ。彼奴は出久の見せたボール投げで予想外の結果を見せたのもそうだが……他の奴等の結果もなかなかのものだ。彼奴は井の中の蛙だ。だが、才能こそ本物だ。彼奴が自分の価値観を壊せば……化けるな』

 

アーサーからの勝己の評価はそれなりに高い物だった。

 

井の中の蛙と言うのはありがち間違ってないが才能は本物で自分の価値観を壊せば化ける。

 

殺人鬼のアーサーがそれを言うと何だか悪い方向に行きそうな感じがするけど……確かに彼奴の才能は認めざるえないけどね。

 

まぁ、取り敢えず下校して明日に備えないといけないから帰らないと。

 

「ジル!」

 

「出久君。それに飯田君」

 

声を掛けて来たのは初日にいきなりピンチになった出久君と50m走で良い走りを見せた飯田君の二人がいた。

 

「ジルも家に帰るなら一緒に帰らない……かな?」

 

「良いわよ。同じ電車ですしね。飯田君も同じ?」

 

「僕も駅までだ。君には今日、驚かされたよ。個性に頼らずにあの記録を出した事に僕ははっきり言うと興味が尽きないでいる」

 

「やっぱり?」

 

私としてもやっぱり興味を持つのは仕方ないだろうなと思う。

 

だって、殺人鬼の人格の持った私がヒーロー目指してるのよ。

 

誰だって気になるのは間違いない。

 

「しかし相澤先生にはやられたよ。俺には「これが最高峰!」とか思ってしまった!教師が嘘で鼓舞するとは……」

 

「飯田君。多分、相澤先生は嘘はついてない。目がマジだった」

 

「なに!?だとしたら下手をすれば本当に除籍が出ていたのか……やはり最高峰と言わざるえないか……!」

 

私の言葉に飯田君、真面目に聞く辺り真面目過ぎるだけで根はやはり良い人なのだと分かった。

 

ところで出久君、顔真っ青だけど……大丈夫?

 

まぁ、危なかったしね。

 

「おーい!三人さーん!」

 

後ろから声を掛けてきたのは麗日さんだった。

 

「駅まで?待ってー!」

 

「慌てなくても待つわよ」

 

私は笑顔で掛けよって来た麗日さんに笑顔でそう答えると麗日さはすぐに私達の所にやってきた。

 

「君は∞女子」

 

「∞女子って……まぁ、合ってるけど」

 

「麗日お茶子です!えっと飯田天哉君に霧先ジルさんに緑谷……デク君!だよね!!」

 

「デク!!?」

 

「麗日さん……デクは……」

 

出久君はいずくと読む名前でデクは勝己が着けた蔑称だ。

 

最低な名前に対して私は勝己に対して断固として呼び捨てや爆発魔と言ってやる形になったのが懐かしい。

 

だが、間違ってもデクは名前の読みでもアダ名でもない。

 

誤解を上手く解ければ良いけど……

 

「え?だってテストの時、爆豪って人がデクてめェー!!って」

 

「あの……本名は出久で……デクはかっちゃんが馬鹿にして……」

 

「蔑称か」

 

「うん。残念だけど愛称じゃないのよ」

 

「そうなんだ!!ごめん!!」

 

麗日さんが謝るけど別に麗日さんが悪い訳じゃない。

 

あの爆発魔が蔑称なんて着けて呼ぶから悪いとしか言えない。

 

「でもデクって……頑張れ!!って感じでなんか好きだ私」

 

「デクです」

 

「緑谷君!!」

 

「貴方それで良いの!?」

 

麗日さんのデクに対するその言葉に一気に陥落した出久がかなり心配になるんだけど……

 

「浅いぞ!!蔑称なんだろ!!」

 

「コぺルニクス的な転回……」

 

「コペ?」

 

「訳が分からないわよ。出久君……」

 

私は褒められて簡単に手の平を返した出久君に呆れたけどそれでも今の時間はとても楽しいと思えた。



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戦闘訓練 ~前編~

個性把握テストでの波乱が終わってからの雄英生としての生活はとても普通だった。

 

まず、プロヒーローによる必須科目等は普通の授業でプレゼント・マイクこと山田先生の英語の授業は少し騒がしいけど普通。

 

授業で何かあった事と言えば山田先生に当てられて問題文を英語で答えたら周りから関心の声が挙がったりしたぐらい。

 

まぁ一応、イギリスに母さんの里帰りに行くから慣れてるだけだからだけどね。

 

昼は大食堂でランチラッシュによる一流の料理を安価で味わえる昼食。

 

定番のカレーライスやカツ丼、定食は勿論、洋食も食べられるから私としても助かるメニューの豊富さだった。

 

けど……やっぱり問題はアーサーの事かしらね。

 

「(何度も言わせないで!珈琲を飲むの!!)」

 

『紅茶にしろ!紅茶に!あの泥水を何度飲ませるつもりだ!!』

 

私とアーサーで珈琲か紅茶のどちらを飲むかで揉めて注文する為に来た生徒で行列を作ってランチラッシュに迷惑を掛けてしまった事かしらね。

 

おかげで大食堂では悪い意味で有名になって私が来る前に多くの生徒が急いで大食堂に向かうなんて現象が起きる様になっちゃった。

 

そしてヒーローになる要素として最も受けるべき午後の授業……ヒーロー基礎学。

 

単なる授業ではなく担当が新たに赴任したNo.1ヒーローのオールマイトが受け持つから皆、楽しみにしてたわ。

 

無論、私も。

 

「わーたーしーが!!普通にドアから来た!!!」

 

オールマイトの登場に皆は興奮を隠しきれないし、私も興奮で胸が一杯になる。

 

『お前も大概だな。オールマイト一人にこれだ』

 

「(良いじゃない。こんな機会。今の私達にしか受けられないものよ)」

 

「オールマイトだ…….!!すげぇや本当に先生をやってるんだな……!!」

 

銀時代(シルバーエイジ)のコスチュームだ……!画風違い過ぎて鳥肌が……」

 

皆が興奮の中でオールマイトは授業を始める。

 

「ヒーロー基礎学!ヒーローの素地を作る為、様々な訓練を行う項目だ!!単位数も最も多いぞ」

 

まぁ、ヒーロー基礎学が単位数が多いのは当然よね。

 

何しろヒーローになる為に通ってるのだから最も疎かに出来ないのは間違いない。

 

「早速だが今日はコレ!!戦闘訓練!!!」

 

「戦闘訓練?」

 

『おいおい。いきなり戦闘訓練かよ』

 

オールマイトはBATTLE のプレートを見せて戦闘訓練を行うと言う。

 

いきなり戦闘訓練なんて大丈夫かしら?

 

「そしてそいつに伴って……こちら!!」

 

オールマイトはそう言って手にしたリモコンのスイッチを押すとあら不思議。

 

壁動き出していくつかの棚が出てきた。

 

「入学前に送って貰った個性届と要望に沿ってあつらえた……戦闘服(コスチューム)!!!」

 

「「「おぉぉ!!!」」」

 

前に送った個性届と要望に沿ったコスチューム。

 

とても憧れるし、何より自分のスタイルに合わせた服装は自ずと有利に戦局を動かす事ができる。

 

だから私のコスチュームの形は決まっていた。

 

『本当に良かったのか?俺みたいな服装だぞ?』

 

「(良いの。あの服装の方が貴方もやりやすいだろうしね)」

 

『その代わりにスカートとスパッツになってるけどな……』

 

私が決めたコスチュームの形はアーサーが着ている服を参考にした古めかしい衣装に手を加えてスカートやスパッツにして女性らしくした物だ。

 

動きやすさも必要だけどもしかしたらアーサーが動く事も考慮すると彼の慣れた服装に近い物にした方が良いかなっと思ったのだけど……スカートやスパッツと言った物に不評を貰ってしまった。

 

「着替えたら順次、グラウンド・βに集まるんだ!!」

 

オールマイトはそう言うと準備の為なのか先に出ていき残された私達は渡されたコスチュームに着替える為に更衣室に向かった。

________

_____

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コスチュームに着替えた私達は指定されたグラウンド・βへとやって来ると皆の思い々のコスチュームを着ており、カッコ良かったり、可愛かったり、変わったコスチュームを着ていたりしている。

 

「始めようか有精卵共!!戦闘訓練のお時間だ!!!」

 

先に来ていたオールマイトは皆を見渡す。

 

「良いじゃないか皆。カッコいいぜ!!」

 

「先生!此処は入試の演習場ですがまた市街地演習を行うのでしょうか!?」

 

あのフルフェイスのコスチュームは飯田君だったんだ。

 

いつも通り、真面目な飯田君が質問し、内容を説明を求める事から始まるのはA組の定番行事になりそうね。

 

「いいや!二歩先に踏み込む!屋内での対人戦闘訓練さ!!」

 

『屋内か……』

 

「(どうしたのアーサー?)」

 

『いや、何でもない。単に俺、切り裂きジャックにとって苦手な場所だ。密室や大通りの様な場所は逃走がしにくいからな』

 

「(へぇ……もしかしてそれで捕まったの?)」

 

『ご明察。シャーロットの奴が対切り裂きジャックの戦法を何処からか見つけ出したのか自分から編み出したのか……それを実行されて捕まったのさ』

 

アーサーは苦い思い出だとばかりにそう言うけど顔が懐かしそうに笑っている。

 

アーサーの事がたまには分からなくなる事の一つで殺人鬼であるのにアーサーにとってシャーロットとは憎い好敵手ではないのかシャーロットと口にしたり聞いたりしても怒った表情を見せたりせず寧ろ、笑っている事が多い。

 

おっと、考えるのはまた今度にしてオールマイトの話を聞かないと。

 

「ヴィラン退治は主に屋外で見られるが統計で見れば屋内の方が凶悪ヴィラン出現率は高いんだ。監禁・軟禁・裏商売……このヒーロー飽和社会。真に賢しいヴィランは屋内(やみ)に潜む!!」

 

『と言っても全員じゃない。露骨な奴は法から逃れる為に権力や金を使って何事も無かったかの様に振る舞って罪から逃げる。悪人が善人ぶって堂々と生活する憎らしい奴がどんな時代にもいる』

 

「(それって貴方もじゃないの?)」

 

『俺は自分の罪から目を背けるつもりはない。捕まった時も逃げるつもりは無かったから大人しく処刑を受け入れた。どんなに行動の正当化をしても殺人は悪でしかないし報いもいつかは受ける事になる。だが、その報いすら受けずに普通に生きている奴がいるとしたらお前はそれを許せるか?』

 

「(……許されるものじゃないわ。罪には罰を。罰には報いを。犯した罪にはそれ相応の罰と報いを受けないといけない。だから私はヒーローになりたい。罪を償わないヴィランを裁きに掛けさせる為にも)」

 

私はそうアーサーに言うと私はオールマイトの授業を聞く事に集中しなおす。

 

「君らにはこれからヴィラン組とヒーロー組に分かれて2対2の屋内戦をやって貰う!!」

 

「基礎訓練も無しに?」

 

「その基礎を知る為の実践さ!!ただし今度はブッ壊せはOKなロボじゃないのがミソだ」 

 

オールマイトの言う事にも一利ある。

 

実際に聞いて学ぶよりも動いて学んだ方が覚えやすいし、私はそれをアーサーから学んだ。

 

聞いて覚えるよりも動いて慣れろ。

 

アーサーはそう言って私との鍛練を着けてくれたのが良い例だ。

 

「勝敗のシステムはどうなりますの?」

 

「ブッ飛ばしても良いんスか」

 

「また相澤先生みたいな除籍とかあるんですか……?」

 

「分かれるとはどの様な分かれ方をすればよろしいですか」

 

「このマント。ヤバくない?」

 

「んんん~~~聖徳太子ィィ!!!」

 

わぁ……皆、一斉に質問するからオールマイトがジョークを言いながら困ってしまってるわ。

 

というか一人、授業内容の質問とは全く関係ない質問してる人がいるんだけど誰よ。

 

まぁ、取り敢えずルールは簡単。

 

ヴィラン組とヒーロー組の2対2に分かれたチームで対人訓練を行う事。

 

ヴィランの目的は建物内にある核兵器を時間まで守り通すかヒーローを捕まえる。

 

ヒーローの目的は制限時間以内に核兵器に確保するかヴィランを捕らえる。

 

チーム分けと組む相手はクジで決める。

 

設定はかなりアメリカンだけどまぁ、目的こそ分かりやすくて良いとして私は誰と組んだ事になったと言うと……。

 

【F コンビ、霧先&砂藤】

 

私はFコンビで砂藤君と同じコンビになった。

 

「よろしくな霧先」

 

「此方こそよろしく」

 

私は軽く砂藤君と軽く挨拶を交わすとそれぞれ決まっていくコンビを見ていく。

 

出久君は麗日さんとAコンビで本当に縁があるわね。

 

飯田君は勝己とDコンビか……ドンマイとしか言いようがない。

 

「続いて最初の対戦相手は……こいつらだ!!」

 

オールマイトがそう言ってヒーローとヴィランの英語の文字で書かれた箱に手を突っ込み取り出した物はそれぞれのコンビのA~Jの文字のボールで書かれているのはヒーローがAでヴィランがDの文字だった。

 

 

つまり、ヒーローのAコンビとヴィランのDコンビの対戦となるから……。

 

『いきなり因縁の対決か。見物だなジル』

 

「大丈夫よね……出久君と麗日さん」

 

『んなもん彼奴ら次第だろう。俺達が心配する程の事じゃない』

 

アーサーの言う事は正論だ。

 

正論だけどやはり出久君の過去をよく知る身としては心配になる。

 

勝己の事だ……絶対に感情に任せて出久君を襲おうと考えてるに違いない。

 

でも、これが授業である以上は私は見守るしかない。



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戦闘訓練 ~中編~

私はヒーローコンビの出久君と麗日さん、ヴィランコンビの勝己と飯田君の戦闘訓練をモニター越しで皆と観察する側として戦闘訓練が始まるのを待っていた。

 

『まだ不安なのか?』

 

「(えぇ……流石にね。出久君の個性を見て凄かったと言えるけど……あの指、見たでしょ?出久君の個性は強力だけど使い方を誤れば大きな反動を受けてしまう危険も持ってる。乱発はできない筈よ。そんな状態であの馬鹿と渡り合わなきゃいけないのだから心配よ。それに飯田君もいてその隙を突いてこないなんて事は無いわ)」

 

私は個性把握テストのボール投げで見た出久君の個性使用による大記録を目撃すると同時に彼の指が酷く痛めているのを見た。

 

使用すれば大怪我を負いかねない大きな反動が来るリスクのある個性を出久君は抱えてる中、良くも悪くも才能のある勝己やコンビ相手の秀才の飯田君も含めて戦う。

 

麗日さんと協力するとは言え、かなり難しい訓練になる筈。

 

『だろうな。だが、あの勝己が飯田と協力するかな?』

 

アーサーはそう言ってニンマリと笑う中、ヒーローコンビとヴィランコンビの両チームの戦闘訓練が始まった。

 

最初はヒーローコンビの出久君と麗日さんの二人が潜入し、中を慎重に歩き出した。

 

「(出久君達は順調……勝己達がどう出るかしら?)」

 

『……何となくだが俺は勝己が一番槍を入れると思うな』

 

「(やっぱり?)」

 

私は考えていたパターンの中で一番考えつく物がアーサーと同じだと同意した時、出久君達が通っていた道の曲がり角から勝己が奇襲を掛けてきたのだ。

 

「いきなり奇襲!!!」

 

「(あぁ、やっぱり……)」

 

『彼奴……味方との連携を考えてるのか?』

 

峰田君が勝己の行動に驚いて叫ぶ中で私とアーサーは予想通りの行動を起こした勝己に呆れる中、勝己は自分の個性である爆破で出久君達を奇襲攻撃を仕掛けた。

 

確かに理由や連携を考えてるのか分からない彼奴の行動こそ呆れるものだけどあの奇襲は相手の意表を大きく突くのには良い。

 

だけど相手には出久君がいる。

 

この行動は出久君も予想していた筈。

 

私の考え通りなら出久君は避ける事ができる。

 

『お?出久の奴、避けたのか』

 

「(まぁ、行動は読めてたのでしょうね。でも、此処からが本番よ)」

 

予想通り、突然の奇襲であるにも関わらず出久君は仮面の様な被り物が半分破けてしまうがかすり傷で済んだようね。

 

「爆豪スッゲェ!!奇襲なんて男らしくねぇ!!」

 

「奇襲も戦略!彼らは今、実戦の最中なんだぜ!」

 

「緑君、よく避けられたな!」

 

皆は奇襲を避けた出久君と奇襲を仕掛けた勝己を評価する中、勝己が右の拳で殴りに行くが大振りだ。

 

それに対して出久君は冷静に見極め、勝己の右腕を掴むとそのまま背負い投げをした。

 

「よし!良いわよ出久君!」

 

『お前な……出久に肩入れし過ぎだ。他の奴の事もちゃんと見てやってるんだろうな?』

 

「(見てるわよ……もう……)」

 

私はアーサーからの指摘に少し落ち込む中、出久君と勝己の二人は互いに対峙し合った。

 

あの二人は幼馴染みだけど私は中学の時に鉢合わせしたあの虐め現場の時からまでしか知らない。

 

幼馴染みなのにあの二人の溝は致命的に深く、出久君と勝己の仲は御世辞にも良いものではない。

 

個性関係が原因でも何処で此処まで拗れてしまうんだと私でも疑問を抱いてしまう。

 

私は二人の戦局を見守る中、出久君が麗日さんを先に行かせた。

 

『麗日を先に行かせるのか?』

 

「(認めたくないけど勝己は強い。それに対してまだ飯田君がいる。もし、飯田君が勝己の暴走に対応する動きを取られたらいくら二人揃っていても出久君は個性が使いこなせてないし、麗日さんの個性だけであの二人を同時に対応できる訳がない。なら、麗日さんを先に行かせる事で対応相手を一人に絞れる。隙あらば核に触れる機会も得られると考えれるわ)」

 

『だが、それは出久が勝己を相手にそれまで耐えれたならの話だろ?彼奴は大振りが目立つが……常に対応しない程、馬鹿じゃない筈だ』

 

アーサーの言う事も最もとしか言えない。

 

勝己の攻撃に対応しながら出久君は確保テープで勝己の左足に引っ掻けるけどまた勝己の爆破攻撃が行われて巻き付けるのに失敗した。

 

「すげぇな彼奴!!個性使わずに渡り合ってるぞ!!」

 

「入試一位と!」

 

皆が二人の戦いに驚かされる中、私は勝己も出久君の対応力に驚いている事に気付いた。

 

『はっはははッ!!やっぱり驚いてやがるな!勝己の奴は』

 

「(そりゃそうでしょ。今まで見下してた相手が自分の動きに着いてこれる事に驚かない筈がないわ。それでも動揺に押し潰されない彼奴も彼奴で強いわね)」

 

『仮にもお前と同列だぞ?確かに衝突猛進が似合う様な風貌だがよく見ればなかなか考えて動いてる節もある。やっぱり手ごわいもんだな』

 

「(そうね……さて。出久君だけじゃなくて麗日さん達も見ないとね)」

 

私は出久君達のいる位置のモニターから目を離して麗日さんのいる所を見ると麗日さんが飯田君を警戒してるのか慎重に進んでいた。

 

慎重に慎重を重ねた結果、飯田君も含めて核も発見する事に成功した。

 

麗日さんは発見しても様子見に徹しているからもしかしたら出久君との合流を狙ってるのかと思った矢先に何故か吹き出した。

 

「(えッ!?なんで!?)」

 

『おおかた飯田の奴が真面目にヴィランをやろうとしている姿に笑ったんだろ?そう予想できるのが容易いくらいに分かりやすい性格してるからな彼奴は』

 

「(あ~……そう来るか……残念だけど減点ものね。訓練とは言え笑うなんて気を抜きすぎてる証拠。訓練じゃなかったら取り返しのつかない失敗になる可能性だってあるからにはね)」

 

『ごもっとも。もしこれが本番だったら……ヴィランとしての俺なら間違いなく気付いた瞬間にヒーローを始末するか、ルールには無いが核を爆破させるかのどちらかを取る。単独でいるんだ。腕はともかく先手を取るチャンスもあって有利ではあるからな』

 

やはり過去に多くの人々を殺した殺人鬼の言い分はかなりが筋が通っている。

 

過去の犯罪者、ヴィランとして活動したアーサーはオールマイトを除けばこの場の誰よりも深くヴィランの行動に理解がある人物であるのは確かだと言うのが私は再認識した。

 

私はモニターに視線を戻せば飯田君は麗日さん対策を講じてか周りの物を片付けて浮かせられる物を無くしている。

 

恐らく今、これが訓練と言う認識ではなく、実際の戦闘であるのと核を守ると言う考えを深く考えているのは飯田君だけなのではと思う中、大きな揺れが起こった。

 

「なに!?」

 

私は慌ててモニターを探って見れば勝己が何かしたのか出久君と勝己の二人がいる位置は大きく崩れてしまっている。

 

「(何したのよ……勝己!)」

 

『ちッ……彼奴。出久を殺す気か?』

 

私はあの威力の爆破を受けた出久君が無事なのかと確認すると吹き飛ばされてはいたけど無事だった事に一先ず安堵する。

 

「先生!止めた方がいいって!爆豪、彼奴相当クレイジーだぜ!殺しちまうぜ!?」

 

「私からもお願いします先生!幾らなんでもアレはやり過ぎです!」

 

切島君が止める様に言う中、私も流石に危険を感じて止める様に言う。

 

「いや……爆豪少年。次それ撃ったら……強制終了で君らの負けとする」

 

「正気ですか!?」

 

『残念だが勝己の奴は中断されないギリギリの攻撃をやっている。証拠に出久は吹き飛ばされたがその攻撃で怪我はしていない。これじゃあオールマイトでも中断なんて言えないだろう』

 

「(そんな……)」

 

私はアーサーの言葉で不安が広がる中、オールマイトが一通りに注意を終えると訓練は再開された。

 

勝己の奴はアレがもう撃てないと分かると今度は肉弾戦を仕掛けた。

 

爆破を利用して突っ込んでくる勝己に対しては出久君はカウンターを仕掛けようとしたが勝己はそれを読んでいたのか爆破で軌道を変えると同時に爆破で出久君の背中を爆破で攻撃した。

 

『へぇ、やるな。あの軌道修正は目眩ましも兼ねられている。あれなら対応を遅らせられると同時に攻撃に転じられるな。一見、力技にも見えるがアレはかなり繊細な行動だ』

 

アーサーの解説は轟君と八百万さんが同じ解説をするけど私はそれよりもあの二人の戦闘が気が気でない状態だ。

 

勝己はそのまま出久君に一度、封じられた右の大振りで攻撃、そして更に御返しとばかりに爆破の威力で勢いを増した状態での片手で背負い投げで地面に叩きつけたのだ。

 

やる事はもうリンチとしか言えない……だが、そこには明確な才能がある事がはっきりと見せつけられる場面だ。

 

私は両手で組んで勝ち負け関係なく出久君が無事でいる事を祈る中、出久君は勝己から逃げ出す様に駆け出した。

 

「出久君……」

 

『逃げた……訳じゃなさそうだぜ』

 

「え?」

 

『見取り図を見たか?そして彼奴は見取り図をよく見ていた。何がしたいのか分からないが何か考えがあるんじゃないか?』

 

アーサーはそう言って当ててみろとばかりに笑う中、私は見取り図をもう一度見てそして出久君のいる位置を見てみると。

 

「(……まさか。核の真下?)」

 

『正解。気になるな……彼奴はまだ具体的に個性を見せていない。それに追い詰められてんのは果たしてどちらかな』

 

アーサーはそう言って楽しみだとばかりに笑う中、私はモニターを見れば出久君は諦めたと言うような表情ではなく、勝己は余裕がなさそうだった。

 

二人は同時に駆け出し、拳を振るおうとする姿勢を取った。

 

「出久君!!!」

 

私は流石に無茶だと思い叫んだ瞬間だった。

 

出久君の拳は目の前の勝己ではなく上へ向け、しかもその威力はボール投げで見せた様な力とは比べられない程の力が上の天井を貫いた。

 

対する勝己の爆破を纏った拳は出久君に間違いなく当たったがアーサーの言っていた出久君の狙いがようやく分かった。

 

出久君は最初から自分の個性で核の真下から狙ってあの力を放ったのだ。

 

それを待機していた麗日さんが対応、最初から掴まっていた折れた柱を個性で軽くした上で利用して飛んでいた瓦礫をボール代わりに飯田君に向けて打ち込んだ。

 

これには飯田君も堪らずに防ぐ姿勢を取ってしまい、麗日さんはその隙を突いて核に抱きつく形でタッチ、勝己と飯田君からに勝利を勝ち取った。

 

「やったの……?」

 

『なかなかやるじゃないか。ちゃんと見取り図を確認しそれを頭の中に叩き込む。あの状況下でも忘れる事もなく対応した出久のもたらした勝利だ。無論、麗日も麗日で出久が作った一瞬の隙を上手く突いたのも良いだろうな』

 

アーサーから高い評価を受ける中、私は出久君がどうなったのかと視線を向ければ出久君は左腕で勝己の攻撃を防いでいた。

 

だけど流石にダメージが大きかったのか出久君はそのまま倒れてしまい、立っていた勝己が聞いたのはオールマイトからのヒーロー側の勝利宣言だった。

 

「負けた方がほぼ無傷で勝った方が倒れてら……」

 

「勝負に負けて試合に勝ったと言う所か」

 

「訓練だけど」

 

この訓練の結果に皆は思い々の感想を言う中、オールマイトが四人の所に向かい講評の時間となった。

________

_____

_____

 

出久君が重症だった為、勝己、飯田君、麗日さんの三人となった中で講評が始まる中で開口一番に言われたのは。

 

「まぁつっても……今戦のベストは飯田少年だけどな!!」

 

「なな!!?」

 

「勝ったお茶子ちゃんや緑谷ちゃんじゃないの?」

 

「何故だろうなぁ~~~?分かる人!!?」

 

「はい。オールマイト先生」

 

此処で手を上げたのは八百万さんだった。

 

「それは飯田さんが一番状況設定に順応していたから。爆号さんの行動は戦闘を見た限り私怨丸出しの独断。そして先程、先生も言っていた通り屋内での大規模攻撃は愚策。緑谷さんも同様の理由ですね。麗日さんは中盤の気の緩み。そして最後の攻撃が乱暴過ぎた事。ハリボテを核として扱っていればあんな危険な行為はできませんわ。相手の対策をこなし且つ、核の争奪を想定していたからこそ飯田さんは最後に対応に遅れた。ヒーローチームの勝ちは訓練だと言う甘い考えから生じた反則の様なものですわ」

 

八百万さんの長い指摘に私はどちらにも評価するべき点もあるが間違いの方が多かったと言わざるえない箇所もあったと言う事に同意する中、オールマイトは正解だとばかりに頷く。

 

「まぁ……飯田君も固すぎる面はあったりするが正解だ……」

 

「常に下学上達!一意専心に励まねばトップヒーローになどなれませんので!」

 

八百万さんはそうはっきりと言い終り、私は勝己の方に視線を向けると彼奴らしくもない無表情な顔を見せてた。

 

『だいぶ落ち込んでるな』

 

「(事実上は負けたからと言うのもあるけど八百万さんの言われた事もあるんじゃないかしら?彼奴はあんなのでもちゃんとやるタイプだから)」

 

私はそう言って勝己をもう一度見るけど落ち込む表情はなかなか消えない。

 

今まで此処に来るまで高い自尊心の塊みたいな彼奴が下に見ていた出久君に負けたのだから仕方ない。

 

これを機に少しだけでも良いから変わって欲しい……本当にヒーローになりたいなら。

 

場所は変わって第2戦はもはや戦闘ですらなかった。

 

轟君の個性である氷が建物を覆って中にいた一気に尾白君と葉隠さんを無力化し、核を確保。

 

轟君の独壇場だった。

 

『厄介な奴だな。彼奴が相手じゃなくて良かったよ。かなり手こずるからな』

 

「(勝つ気はあるんだ……)」

 

アーサーの勝き満々の言葉に私は呆れる中、私の出番が回ってきた。

 

 



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戦闘訓練 ~後編~

私とペアになった砂藤君は今回はヴィランチームとしてヒーローチームとして対峙するのは耳郎、上鳴のペアを相手に戦う事になった。

 

『さて、実戦だ。勝ち目のある作戦は考えてるか?』

 

「(そうね……耳郎さんのあの耳朶。間違いなく音に関する個性でしょうね。あの耳朶はプラグだから音を探ったりするのかしら?上鳴君は……よく分からない。現状、勝ち目があるかは分からない)」

 

「霧先?」

 

「あ、ごめんなさい。考え事に夢中になってた」

 

私ったら砂藤君の事も戦力に入れずに考えてしまっていたわ。

 

砂藤君の個性、シュガードープは糖分10gにつき、三分間だけ通常の5倍の身体能力が発揮できるがその代わりとして脳機能が低下して凄まじい眠気や倦怠感に襲われるという強烈な副作用も抱えている。

 

持久戦や消耗戦に向いていない砂藤の個性と組み合わせる私の個性、切り裂き魔はナイフを生み出す事。

 

ナイフを生み出す際のリスクは無く、無限に出せるけどそれだけ。

 

この個性で未知数の二人を相手にどう立ち回るかが鍵になる。

 

「砂藤君。貴方は二人の個性の事、知ってる?」

 

「確か耳郎は見た目で音に関するって言うのは分かるがそれ以上はな。だけど上鳴は入試の時の実技で見たぜ。雷を纏ってる様な感じの個性だった筈だ」

 

「音に雷ね……」

 

私は相手の個性のヒントを頭に纏め、どう対応し応戦するか考える。

 

持久戦向きではない砂藤のシュガードープとナイフを生み出す私の切り裂き魔。

 

この二つの個性を組み合わせ、尚且つ建物の地形を生かして戦う作戦を練り上げる事は難しいが私は案を練り上げた。

 

「砂藤君。こんな作戦はどうかしら?」

 

私は砂藤君に作戦案を伝えると砂藤君はそれに了承、私の作戦で戦う事になり、核の配置場所を決め、ヒーローチームの潜入を待つ。

_______

____

__

 

私はヒーローチームの二人が侵入すると予想できる窓の近くに気配を消して張り込み、待ち伏せしていた。

 

『お前の作戦通りなら先ずは奇襲と言った所か?』

 

「(そうね。運が良ければ一人は拘束して無力化できる。でも奇襲は本命じゃないけどね)」

 

私はそう言って潜入してきた耳郎さんと上鳴君が視界に入ったのを確認すると作戦を決行、最初に先手としてナイフを手に二人に躍り出ると耳郎を目標に刺しても差程、問題が無い場所に目掛けてナイフを振り下ろした。

 

「耳郎!」

 

「え?…きゃあッ!?」

 

振り下ろしたナイフは上鳴君が咄嗟に耳郎さんを庇った事で避けられたがその代わりに上鳴君の腕を少し掠めた。

 

「痛ってぇッ!?掠った!耳郎大丈夫か!」

 

「ウチは大丈夫!と言うか血がかなり出てるけどそっちが大丈夫!?」

 

二人とも大混乱。

 

まぁ、いきなりナイフで攻撃されたんだから怖いよね……でも、手加減するつもりはない。

 

私は一息つく事もなくナイフを握り直すと素早く上鳴君の肩に目掛けて力を込めて突きを入れる。

 

「やらせるか!」

 

だけど意識を取り戻した耳郎が上鳴君が狙われたのに気付いて個性での攻撃を仕掛けてきた。

 

あの耳のプラグを自分の耳たぶに挿したと思えば爆音の衝撃波が襲い掛かって来ると私は咄嗟に攻撃を止め、爆音の衝撃波から逃れる為に近くの曲がり角に逃げ込み、二人から姿を消すと居場所を知られない様に気配を殺して身を潜めた。

 

~周辺side~

 

気配を極限まで消したジルの奇襲を受けた耳郎と上鳴は今だに心臓が鳴りやまずにいた。

 

「びっくりした!何時からいたんだよ霧先の奴!」

 

「分からないけどウチらが此処を通る事を予測してた思う。しかもあれだけ気配を消せるとなるとウチの個性で索敵できるか……」

 

耳郎は自分の個性であるイヤフォンジャックはプラグを耳たぶに挿して爆音の衝撃波を出すだけでなく、壁にも挿す事も可能であり、分厚い壁でも些細な音でさえ聞き出せる。

 

だが、耳郎の予測を通り越す程にジルの気配は無く、例えジルの居場所を探る為に音を聞いたとしても何処にジルがいて何処を気を付ければ良いのかは別問題なのだ。

 

何しろ音を聞く索敵を行うには壁に挿す必要があり、移動しながら聞ける訳ではない。

 

耳郎がもし、索敵を行おうとプラグを壁に挿そうとした瞬間に気配を殺して近くに潜伏していたジルに襲われれば堪ったものではないのだ。

 

「それよりアンタ、腕動かせる?」

 

「まぁ、痛てぇけど軽く掠っただけだからな。大丈夫だ。血はかなり出てるけどな」

 

上鳴は痛いとばかりに掠めた腕を擦るが二人には余裕が無くなりつつあった。

 

ジルを捉え切れずに奇襲を許し続ければ精神の消耗が激しくなるだけでなく、まだ砂藤もいる。

 

肝心の核も見つけれていない中、時間制限も迫る状況なのだ。

 

「とにかく霧先がこの近くにいるのは確かだと言う事。曲がり角とかの死角とかに気を付けないといけない」

 

「そうだけど時間制限もあるぜ。ゆっくり進むのは無理だ」

 

「確かにそうだけど時間制限で勝つなんて点に響くわよ。だから何処かで私達に決定的な決着を着けてくると思う」

 

二人はジルやまだ現れていない砂藤を警戒しながらどう出てくるのか予測し、話し合う中、警戒しながら核の捜索をする。

 

~side終了~

 

私の作戦の通り、二人は精神的に消耗しつつある。

 

奇襲と言うのは何も一撃で決めて勝利を取るだけの戦術じゃない。

 

一度の奇襲だけで相手に何時、何処から現れ、奇襲してくるのか或いはしてこないのかと言う精神的な疲労を誘う事ができる。

 

しかも屋内は通路が狭く、死角も多い為、奇襲するのにはかなり適した状況であるのだから私が姿を消した事で奇襲をウケる可能性の考えを抱かせた。

 

『作戦は順調だな。お前の読み通り、予定の場所に行きそうだ』

 

「うん。砂藤君。聞こえる?」

 

《おう!》

 

「次の一手で一気に決めるわよ。準備して」

 

私はそう伝えると私は警戒心剥き出しの二人が来たのを確認すると合図を言う準備をする。

 

「3…2…1…。今よ!」

 

《やっと出番だぜ!行くぞぉッ!!》

 

砂藤君はそう言って張り切りながら言うと大きな揺れと同時に耳郎達の目の前で天井が崩れ、煙が周りに立ち込めた。

 

私はその煙に紛れて走り出すと耳郎さんを見つけ出すとそのまま掴み、取り押さえた。

 

「耳郎さん確保!!」

 

私がそう言いながれ確保テープを巻いて確保すると砂藤君も上鳴君の確保に成功したらしくギブを連呼しながら痛がる上鳴君に確保テープを巻き付けていた。

 

「ヴィランチーム!WIN!!」

 

オールマイトが私達の勝利を宣言し、私達は耳郎さん達に勝つ事ができた事に一息ついた。

_______

____

__

 

訓練を終えた私達は講評を受ける為に戻るとさっそくオールマイトから誰がベストだったのかが発表された。

 

「今戦のベストは霧先少女だ!!!その理由が分かる人?」

 

「はい。それは彼女が先行し、ヒーローチームに対して一度の奇襲で精神的な消耗を誘い、そして縦深防御とも取れる方法で自分達の陣地とも言える屋内に深く入り込ませ、指定された場所まで来た所を砂藤さんに合図を送り天井を崩壊させて煙を煙幕代わりに目眩ましを行い反撃を許さずにヒーローチーム二人を確保した事です。これなら被害を最小限にかつ、核を戦闘の影響から守る事も可能だと言えます」

 

此処で講評のいつもの解説役となりつつある八百万が言うとオールマイトは正解だとばかりにサムズアップをする。

 

「正解だ!!確かにヒーローとヴィランの戦闘は状況次第では派手で規模の大きくなる事がある!だが、時として目立たぬ様に慎重な行動もまた必要な要素だ!!」

 

「人質の救出やヴィランを取り逃がさない為ですね!」

 

「その通りだ飯田少年!状況によっては人質を取っているヴィランもいるだろう。少し遠くにいてすぐに追い付く事ができない位置にいるヴィランもまたいる。その場合は場と状況に合わせた適切な思考と行動が求められる!霧先少女がその例と言える!よく覚えておく様に!」

 

オールマイトがそう説明を終える中、私は戦闘訓練を終えて一息つく中、勝己は未だに無表情でいた。

 

やはり何処か堪えているのだと分かりやすい雰囲気で私は授業が終わったら一声掛けてみる事にした。

 

 




~ボーナス・シアター~

※《ボーナス・シアターは小説本編とは異なる世界観であり、フィクションです》


???「はーい!読者の皆!初めまして!私はダークソフィー!このボーナス・シアターの登場人物の一人よ!」

???「俺はもはや同じみ、アーサー・ヒューイットだ」

ダークソフィー「あれれ?アーサーってそんな性格だっけ?」

アーサー「今は殺人鬼のアーサーだから。口調も性格も変わっている。とは言え、あまり立場は変わらなそうだがな」

ダークソフィー「そうなんだ!ま、どうでも良いけど!さて!今回のボーナス・シアターなんだけどある意味、作者の気まぐれ番外編みたいな感じのショートコメディでお送りするわ!」

アーサー「ん?解説とかじゃないのか?」

ダークソフィー「なに言ってるのよ!これは二次創作の小説であってゲームじゃないのよ!BATエンドとかDEADエンドとか作られるのは作者の気まぐれ次第よ! 」

アーサー「気まぐれね……まぁ、良いか」

ダークソフィー「では、そろそろ良い時間だし此処でお開きにするわよ。また次の機会に会いましょう。SEE YOU」

アーサー「SEE YOUだぜ」


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暗躍の凶刃

私はオールマイトの授業を終えてコスチュームから制服に着替え直して教室に戻ると皆が私の所に集まり出した。

 

「あ、霧先!」

 

「訓練お疲れ様!今日は参考になったよ!」

 

「えぇ、お疲れ様」

 

私の所に集まった皆は私とあまり接点がない人達ばかりで少し動揺する中、皆は自己紹介を始めた。

 

「俺ぁ切島鋭児郎!俺達、訓練の反省会をしようと思ってたんだ!一緒にどうだ?」

 

「私、芦戸三奈!」

 

「蛙吸梅雨よ。梅雨ちゃんと呼んで」

 

「改めて俺、砂藤!お前と組めて良かったぜ!」

 

「ウチは耳郎響音。アンタにはやられたわ」

 

「俺は上鳴電気!傷の事は治して貰ったから気にしなくて良いで」

 

「私は霧先ジル。皆、これからよろしくね」

 

入学してからあまり接点は皆と無かったけど仲良くなれそうだと私は思う中、勝己が自分の鞄を持って教室から出ていこうとしていた。

 

「待って勝己」

 

私は勝己に声を掛けると振り返ったがいつものイライラした顔をしておらず罵倒もない。

 

やはりあの訓練で勝己は何処か落ち込んでいるのだと分かった。

 

「ねぇ、勝己。皆が反省会しようって誘ってるんだけど」

 

「……やらねぇ。俺は帰る」

 

「え…ちょっと!勝己!」

 

勝己は短く応えてそのまま呼び掛けにも聞かずに教室から出ていった。

 

私や皆はその姿を黙って見送った後、私はやっぱり勝己の事をほっとくのは出来ない。

 

「……ごめん。私も帰るわ。出久君にも伝えてくれる?」

 

「そ、そうか。なら、伝えておこう」

 

飯田君がそう言ってくれると私は鞄を手に急いで勝己を追い掛けた。

______

____

__

 

私は急いで勝己を追い掛けて走る中、勝己は校門を通ろうとしている所だった。

 

「勝己!」

 

「んだよ……しつけぇぞ」

 

「……少し、話さない?」

 

私はそう言って静かに見つめ、勝己は鋭い視線を返してくるがやがて諦めたのか溜め息をついた私の方を見た。

 

「勝己。貴方、訓練の事を引き摺ってるの?」

 

「それがどうした?そんな事を言う為に来たのかよ?」

 

「違うわよ。貴方は訓練の後から……貴方らしくない。いつものテンションは何処やったの?高笑いして、口悪く言う貴方は何処?」

 

私の言う事に勝己は私を強く睨み付けるがそんなのは慣れっこだ。

 

私は勝己に詰め寄ると話を続ける。

 

「私はね……貴方が嫌いだけど貴方は強い人だと思ってる。性格が悪くて傲慢だけど貴方が弱々しくなる姿なんて見たくないわ」

 

私がそう言うと勝己は無言のままで何も言わない中、後ろから誰かが走ってくる気配を感じて私は振り返るとそこにはボロボロになった出久君がいた。

 

「かっちゃん!!!」

 

「あぁ?ちッ…今度はテメェかよ」

 

勝己は鬱陶しいとばかりにそう言う中、出久君は暫くうつ向いた後、私に視線を向けた。

 

「ごめんジル。僕とかっちゃんだけで話して良いかな?」

 

「……良いの?」

 

「うん……どうしても……かっちゃんに言わなきゃいけない事があるんだ……」

 

出久君はそう言うと私に頭を下げてきた。

 

その姿に私は溜め息をつくと出久君の近くに行き、頭を上げさせる。

 

「分かったわよ。私はもう帰るから後は二人で話なさい。勝己も良いわね?」

 

私は勝己にそう言うと何も言わず無言で見てくるからそれを了承と受け取って私は心配だけど二人を置いて帰宅する事を撰んだ。

______

____

__

 

私は二人を置いての帰り道、駅へと歩く中で二人の事が何処かで引っ掛かりながら黙々と帰宅する。

 

『おいおい、そんなに思い詰めるなら無理矢理にでも残れば良かっただろ?』

 

「(そんなの出来ないわよ。出久君が自分から勝己と話すなんて驚いたけど彼からの頼みだし無下にしたくない)」

 

『だとしても勝己だぞ?怪我人の出久に対して手を出さない保証は無いぞ?』

 

「(そこまで馬鹿ではないと思うわよ。たぶん……)」

 

私はアーサーのせいで心配になる中、路地の前を横切ろうとした時。

 

「ぐわあぁぁぁぁぁぁぁぁッ!!!」

 

「なに!?」

 

路地に響く様に聞こえた悲鳴に私は驚き、路地を見るが薄暗くてよく見えなかった。

 

私は何があったのか路地に近づこうとした時、身体が途中で止まった。

 

『止せ、ジル。お前が行ってどうするつもりだ?』

 

「何って……誰かが襲われてるかもしれない!確かめないと!!」

 

『無理だ。あの悲鳴が聞こえたのは一度きりだ。……もう死んでる。それにもし、見に行ったとしてヴィランに鉢合わせたら?被害者の近くに行ってその姿を見られたら?お前はどうするつもりだ?』

 

「分かってる!分かってるから……もし、何かあれば引き返して警察かヒーローに通報する」

 

『……俺は知らないからな』

 

私はそれを聞くと身体の自由が戻ったのを確認すると薄暗い路地へと足を踏み入れた。

 

路地の中もやはり暗く、よく見えない中で私は悲鳴が発せられた場所へとやっとの思いで来ると暗闇の中だが、むせ返る様な鉄に似た匂いが酷く立ち込め、更に地面には水溜まりの様な液体が広がっていた。

 

……血だ。

 

血溜まりが地面に広がっていてそれが匂いの原因だった。

 

そして、その血溜まりを辿って見れば人らしき影が転がっており、それが死体だと嫌でも理解出来た。

 

「これは……うぐッ!?」

 

『吐くな馬鹿。此処は事件現場だぞ』

 

「……分かってる。やっぱりこれは」

 

『死体だ。この血溜まりなら刃物か何かを使ったんだろうな。地面に這った後や手に汚れの類いは無い……一撃だ』

 

「……とにかく、警察に!」

 

「そこで何してやがる!!」

 

私はその声に視線を向けるとそこには茶髪が似合う青年で、前に開けた目立たない様な色のロングコートやブーツと言った服装だ。

 

驚いている私に青年は早足に歩いてくると私に詰め寄った。

 

「テメェ……まさか巷で騒がせてやがる連続強盗殺人犯のヴィランか?」

 

「ち、違います!私は悲鳴が聞こえたから……」

 

「悲鳴が聞こえたら普通は通報するだろうが。この場にいて連続強盗殺人犯じゃなければなんだって言うんだ?」

 

どうやら青年はヒーローなのか私を事件の犯人なのかと疑っているらしく怪しい奴を見る目で睨んでくる。

 

このままでは私は事件の容疑者として連行され運が悪ければそのまま逮捕になる。

 

個性についてもマズイ所もあり、あの被害者は明らかに刃物で切り裂かれて死んでおり、私の個性ならそれが可能と言う事で余計に疑われてしまう。

 

私は何とか弁明しようとした矢先、そこへ今度は緑のショートヘアの女性が現れた。

 

「何かあったのジャッジ?……死んでるの?」

 

「レディ・クイック。見ての通り事件だ。こいつが例の事件の犯人か別件か分からねぇが一様は容疑者だ。俺がこいつを見張る。お前は死体を調べてくれ」

 

ジャッジと呼ばれた青年に指示されたレディ・クイックは死体の状況を調べ始めた。

 

『だから言ったんだ。どうする?逃げるか?』

 

「(ヒーロー相手に?無理でしょう……それに逃げたら自白した様なもの。しかも顔もバッチリ見られてるのよ)」

 

『確かにな。だが、すぐにお前は疑いから晴れるぜ』

 

「(え…?)」

 

「ジャッジ。その子は違うわ。派手に切られてる……もし、彼女が犯人なら返り血が着いてるわ。そして死体はまだ暖かい……私達はすぐに来たから着替える余裕も無かった筈よ」

 

レディ・クイックの言葉を聞いたジャッジは外れかとばかりに舌打ちした後、私に視線を向けた。

 

「……疑って済まなかった。状況が状況だったからな」

 

「いえ……分かってくれたなら良いです」

 

「貴方、雄英のヒーロー科の子ね。駄目よ。いくらヒーローを志望していても学ばない内に危険な事に踏み込んではね」

 

「すみません……」

 

調べ終わったのかレディ・クイックの注意を受けて私は少し落ち込んでしまう。

 

「仕方ねぇ……下手人のヴィランに逃げられたなら此処で時間を潰しちまった以上はもう追えねぇ。お前。名前は?何年だ?学校名は良い。嫌ってくらい知ってるからな。また雄英に事情聴取に行くから教えろ」

 

「霧先ジルです。1年です」

 

「霧先?お前……まさかミストヒーローのジャスティスの娘か?」

 

「父さんをご存知で?」

 

「ご存知と言うよりも……私達の上司ね。私達はジャスティスのサイドキック。この人はジャッジ。私はレディー・クイックよ」

 

「え?父さんの……サイドキック?」

 

私はまさかこんな所で父さんのサイドキックと会うなんて思わなかった。

 

『へぇ、お前の親父さんはサイドキックを雇ってたんだな?』

 

「(まぁ、余裕が無い訳じゃないから。サイドキックを雇ってるって聞いた事があるけど誰かは知らなかった)」

 

「今はそんな事は良いだろう。それよりも警察と近隣のヒーローを呼べ。調査して下手人を探すぞ」

 

「分かってるわよ。ジル。怖いけど貴方はもう暫く此処にいて。今は送ってあげたいけど二人しかいないから」

 

「はい。ご迷惑をお掛けします」

 

私は迷惑を掛けたのは事実である為、謝罪した後、殺された被害者を見つめる。

 

何故……どうして……殺されなければならなかったのか……

 

どんな理由があったのか分からない……でも……殺人は許されるものではない。

 

私は……何もしなくても……良いのかしら……



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思わぬ再会

七話目の助けた受験生の台詞を都合上、変更をしました。


私は殺人事件に巻き込まて家に帰れたのは夜だった。

 

警察や増援のヒーロー達は来るとレディ・クイックに連れられて家に帰ると母さんとレディ・クイックが少しだけだったけど親しそうに話しているのを見て本当に父さんのサイドキックだと言う事が分かった。

 

だけどその後、元警察と言う事もあるせいか母さんに無闇に路地に入った事に関してこっぴどく怒られてそのお説教は本当に長く続いて疲れてしまった。

 

でも、これは私が悪いのだから文句が言えない。

 

私は母さんからのお説教を終えると自室に行き、部屋に置いてあるラジオを着けてニュースを聴きながら今日の殺人事件について考える。

 

「(今日の殺人事件。アレはかなり手慣れた犯行だった。一撃での殺害。強盗と言ってたからもしかしたら金品の類いも盗られる可能性もあるわね)」

 

『連続強盗殺人事件。ニュースを聞いたり、読んだ事はあるか?』

 

「(たまにあるわ。何でも被害は複数件。被害者は必ず殺され、金品やアクセサリーと言った物まで奪い、正体はまだ依然として掴めていない……冷酷な強盗犯)」

 

『そうか。懐かしいな……俺がそう言った事件に関わる様になったのは同じ様な事件だった』

 

「(そうなの?)」

 

『ロンドンの路地裏で行われる連続強盗殺人事件。犯人は大人しい風貌の少女だが……実際に犯行を行っていたのはその少女が宿すもう一人の別人格であり、兄だった。その事件を調べて欲しいと言う依頼を受けた俺はその少女もとい別人格が事件の犯人だと知った時には……殺すしかなかった』

 

「(そんな……もっと他に方法があったでしょ!!)」

 

『無かった。別人格のそいつは両親を殺した……その兄と呼ばれた人格はもうタガが外れていた。そして少女はその兄が行った犯罪に止められなかった事への後悔もあって自殺しようとしたが兄に止められ、少女はまた罪を犯す前に殺してくれと泣きながらに俺に言った。……今でも忘れる事ができない事件の一つだ』

 

アーサーの過去に関わった事件を聞いた私は他に方法は無かったのかと問い詰めたい気持ちだったがアーサーの語りには何処か懺悔の様な物を感じ、それ以上は言わなかった。

 

アーサーにとっても後悔する物だったのだと考えて。

 

《続いてのニュースです。今日の昼頃、慈善団体である救済支援会の会長、衣緑氏と欲強議員との会談が行われます。お二人は無個性や異形型個性またヴィラン向けと呼ばれている個性の方々の為の差別と貧困の撲滅を目指し、慈善事業を共同で運営しており、労働環境の充実や雇用の充実、無個性での虐め相談や解決の乗り出しを図っております。本日の会談に先駆けて欲強議員からメッセージを頂いております》

 

《皆さん、こんにちは。この日本や世界の国々では残念な事に差別によって貧困に喘ぐ方々、偏見による個性差別そして無個性への虐め、迫害問題等と年々、増えております。私は衣緑氏と共同して行う事業により、日本の延いては世界の貧困改善、差別される人々の為の差別撲滅への解決への糸口になると確信しております。私達は一人ではありません。差別や迫害に苦しむ人々は世界中にいるのです。皆で手を取り合い、より良い社会を作りましょう》

 

《以上、欲強議員からの御言葉でした。続いてのニュースは》

 

流れた慈善団体に関するニュースを聞いた私は良い政策を掲げる議員と共同相手の衣緑に関心を持つ中、アーサーは顔を歪ませていた。

 

「(どうしたのよ?そんなに不機嫌そうに)」

 

『いや……何でもない。まさか同じ様な事にはならないと思いたくてな』

 

アーサーの言葉に私は首を傾げる中、時計は既に11時近くまで回っていた。

 

「(もうこんな時間……早く寝ないと)」

 

『明日は絶対に事情聴取に彼奴らは来るぞ。覚悟しとけよ』

 

「(そんなに早くに?)」

 

『男の方のヒーローは俺の知ってる奴によく似ていた……俺の予想通りならそう簡単に事件解決を諦める奴じゃない筈だ』

 

「(予想通りならね。たまに貴方が分からなくなるわ。どうしたらそんな確信が出るのか……とにかく、私は着替えて寝るわ)」

 

私はそう言って明日に備えて寝巻きに着替えるとベッドに入ると疲れもあったのかそのまま寝付いた。

_______

____

__

 

私は目を覚ますと部屋で寝ていた筈なのに何故か暗い路地を走っていた。

 

暗い筈なのに夜目が利いているのか周りは簡単に見渡せれる程に見える中で私は誰かを追っている。

 

「来るな!来るなぁ!!!」

 

追い掛けてる誰からそう叫びながら逃げる中、遂に行き止まりまで私は追い詰めてそこで怯える相手に……

 

鈍く光るナイフを振り上げた

______

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__

 

「嫌!!駄目!!?……ゆ、夢?」

 

私は誰かにナイフを振り下ろそうとした所で意識が覚醒して目を覚ますとそこは私の部屋で路地では無かった。

 

私は溜め息をついた後、ベッドから起き出してリビングの方へ顔を出した。

 

「おはよう……」

 

「おはようジル。……元気が無いわね。どうしたの?」

 

「ちょっと悪い夢を見ちゃって。殺人事件に関わったからかな?」

 

私は苦笑いしながらそう言うけど母さんは心配そうな顔は晴れない。

 

「ジル。貴方は一人じゃないわ。辛い事や悲しい事があれば貴方が頼れると思う人に頼っても良いのよ」

 

「ありがとう。大丈夫だから……ほら、今日の朝ごはんは何かな?早く食べないと遅刻しちゃうから」

 

私は誤魔化す様に朝ごはんは何かと聞き、母さんは納得しなさげな顔をするも私は母さんが用意した朝食を食べてから部屋に戻って制服に着替えると私は登校した。

_______

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__

 

私は雄英に来ると溜め息をつきながら校内を歩いていた。

 

『おいおい、大丈夫か?』

 

「(夢見が悪すぎて気分が落ち込んでるだけよ……)」

 

「あ、あの……!」

 

「はい?」

 

私は声を掛けられて振り返るとそこには女子生徒が二人いた。

 

金髪と密編みのオサゲが似合う子と綺麗な赤い髪を結んでアホ毛が跳ねている子だ。

 

一人は見覚えがあった。

 

確か……実技試験で私が助けた女子生徒だと分かり、ヒーロー科は落ちて普通科に入ったのだと分かり、もう一人も制服は同じだった。

 

雄英の制服は同じ見えるが実は学科によっては僅かに違う為、何処の科か見分けが出来る様になればすぐに判別できる。

 

私が路地であったジャッジとレディ・クイックの二人にヒーロー科だとすぐに知られたのはそこにある。

 

「えーと……何か?」

 

「そ、その……えーと……」

 

「あはは……ごめんごめん。此処にいる志奈がどうしても試験の時に助けてくれた事のお礼を言いたいそうなんだ。僕はその付き添いだ」

 

赤毛の生徒はそう苦笑いで言うと志奈と呼ばれた生徒はハウゥと顔を両手で隠して申し訳なさそうにしてしまう。

 

「ご、ごめんなさい……本当なら私が説明しないといけないのに……あの……あの時は……助けてくれてありがとうございました」

 

志奈はそう言って頭を深く下げてくると私は慌てて頭を上げる様に促した。

 

「良いわよ。お礼なんて。それに私は……貴方を踏み台に合格してしまった様な物なのに」

 

「運があるか無いかの違いさ。残念だけど志奈には無かった。そして君は彼女を助けた事で合格した。不本意な結果だとしてもこれだけは運も実力も内としか言えない」

 

赤毛の少女はそう言いきり、私も何処かで納得できない所もあるが一理あるものでもあり、私はその言葉を今は受け入れた。

 

私は二人の会話の中、私はアーサーをふと見るとそこにいたアーサーは驚きのあまり目を見開いて固まっていた。

 

『ローリィー……!?』

 

アーサーの口にしたその名前に私は首を傾げ、アーサーの向ける視線に私は視線を向け直すとそこには赤毛の生徒がおり、赤毛の生徒はどうかしたかとばかりに首を傾げて私を見ている。

 

『分かっていた……分かっていたんだ……俺の……僕の……知る人達と似た人々が今の時代にいる事は……だが……』

 

「アーサー?」

 

『ッ!?……なんだ?人を前にしてその名前を口にして良いか?』

 

「……あ」

 

私は二人を見ると奇妙な物を見る様な目で見てくる二人がおり、私は焦りを覚えると赤毛の少女はクスリッと笑ってみせた。

 

「君は随分と面白いな。誰かがそこにいるのかい?」

 

「えーと……ごめんなさい。隣に知り合いがいるも思って……」

 

「分かります!私もお兄ちゃんの事を目を離すといつの間にいなくなってしまって」

 

「誰がいつもいなくなるだ志奈?」

 

「お、お兄ちゃん!どうして此処に?」

 

「お前が急にいなくなるから探しに来たんだろうが!もうすぐ授業が始まるぞ!」

 

そこにいたのは志奈と同じ長い金髪を後ろに結んだ普通科の少年がおり、いかにもお怒りだと言わんばかりだ。

 

「やぁ、力斗。もう目的は果たしたから戻ろうと思ってたんだ」

 

「お前が原因かよ神速。俺の妹をあちこち連れ回すのは止めろ。或いは何か言ってから行け」

 

「ごめんって言ってるだろ。今に始まった事じゃないけどね」

 

神速さんと呼ばれた赤毛の生徒にそう言われた力斗と呼ばれた少年は神速さんを睨んだ後、今度は私に視線を向け、不機嫌そうにする。

 

「ちッ……ヒーロー科かよ」

 

「お兄ちゃん!」

 

「おいおい、力斗。仮にも志奈を助けてくれた恩人だぞ?礼くらい言うのが礼儀だと思うぞ」

 

「分かってる……クソ。一度しか言わねぇぞ。その……妹を助けてくれて……ありがとう……な」

 

照れ臭そうに言う彼。

 

何だろう……どっかの馬鹿に性格は似てるけど素直さが違う。

 

うちの馬鹿にもこの素直さを分けて欲しいものね。

 

「さて……僕達は授業があるからお暇させて貰うよ。君もヒーロー科の授業があるだろ?」

 

「えぇ、そうね。あの、貴方の名前を教えて貰っても良いかな?」

 

『おい!』

 

私が名前を聞いただけでアーサーが怒った声で言うけど私は気にせずに聞く姿勢を取ると神速さん?はニッコリと笑った後、名乗った。

 

「僕は神速 緋色。緋色と呼んでくれ。僕は最初から普通科だ。あと、二人は花咲 力斗と志奈。二人は双子の兄妹だ。試験は……まぁ、志奈は知ってると思うが力斗の結果は彼が許してから聞いてくれ」

 

緋色はそう言って力斗の方を少し視線を向けると凄い顔をした力斗がおり、この通りだとばかりにまた苦笑いをした。

 

「私は霧先ジル。ヒーロー科だけどよろしく」

 

「霧先ジルか。なら、僕はジルと呼ぶよ。おっと、もうすぐこんな時間か……それじゃ、また縁があれば会おう」

 

「本当ありがとうございました!ジルさん!」

 

「良いか!俺は実技で劣ってたから落ちたんじゃないからな!少し実力が足りなかったから」

 

「コラコラ。これ以上、ジルを困らせるな。それに君が落ちたのは日頃の勉強不足からだろ。行くぞ」

 

「分かった!分かったから離せ!それに然り気無く落ちた理由を暴露したなお前!!!」

 

力斗は緋色に引っ張られる様に連れていかれ、志奈は最後にお辞儀した後、そのまま二人に着いていった。

 

と言うか力斗は筆記試験で落ちちゃったんだ……

 

『……どう言うつもりだ?』

 

「(何が?)」

 

『何で名前なんて聞いた!』

 

「(私が知りたかったから)」

 

『そうじゃねぇ!俺の反応を見て言いやがっただろ!』

 

「(さぁね~。……いけない!私も遅刻しそう!相澤先生に遅刻したなんて判定を貰ったら……)」

 

『ふん。自業自得だ。せいぜい除籍を貰わない様な謝り方を考えるんだな』

 

アーサーめ……私への仕返しとばかりに言ってくれる。

 

私は相澤先生の機嫌を損ねる前に教室へと駆け出した結果……取り敢えず何とか相澤先生がくる前に間に合い、少しした後で来た相澤先生から「どうした霧先?昨日は大変だった癖に疲れる位に元気だな」と言われて休み時間に何でそんな事を言われたのかと皆に問い詰められたのは別の話。  

 

 



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善悪の判断

今日は実技の無い普通の授業で終わり私は皆への説明やら出久君が無理に帰した件で頭が吹き飛びそうな程に何度も頭を下げて謝るのを止めたりとしながら疲れたと思いながら帰り支度をする中、相澤先生が来た。

 

「霧先。帰る前にお前に客だ。例の件のだ」

 

相澤先生がそう言った時に私はその後ろを見るとそこにはジャッジがいて、鋭い視線を向けていた。

 

「分かりました(本当に来たよ……)」

 

『ほらな。言った通りだろ?』

 

アーサーはそう言って笑う中、私は生きた心地がしないまま取り敢えず鞄を置いて心配する皆を余所に教室を出た。

 

相澤先生とジャッジの二人に着いて行くと個室へと通されるとそこには刑事さんらしき人がいて私はジャッジと対面する形で座った。

 

まるで取り調べみたいな状況だ。

 

「早速だが本題に入る。お前はあの時間、悲鳴が聞こえて様子を見る為に路地に入り、殺人事件に鉢合わせ、死体を目撃した。間違いないか?」

 

「はい。目撃した後、警察に連絡しようとしてジャッジさんが来ました」

 

「成る程な。犯人……ヴィランは見たか?逃げた姿でも影でも良い。知ってる情報を話せ」

 

「残念ながら……何も見てません」

 

ジャッジはそれを聞いて何かを考える素振りを見せ、私はその姿に不安を抱くとジャッジは言う。

 

「俺の個性を知ってるか?」

 

「いえ、知りませんが?」

 

「俺の個性は……人の善と悪を見極める事ができる審判と言う個性だ。善なら白が、悪なら黒のオーラが見える。お前はあまりに妙なオーラの形を持っている」

 

「妙……とは?」

 

「善と悪……お前にはそれが半分ずつ見える」

 

「ッ!?」

 

『へぇ……』

 

ジャッジの個性によって見えるそのオーラが善と悪で半分ずつに分かれて見える。

 

私は何故、そんな事になっているのか分からずにいるとジャッジは言う。

 

「お前の境遇は知ってる。殺人鬼、アーサー・ヒューイット。又の名を切り裂きジャックの再来……大層な奴を背負ったもんだな。お前は恐らく善と悪の狭間にいる状態だ」

 

「善と悪の狭間……」

 

私はその言葉に夢に見てしまった人を殺す夢……私はその夢を思い出し、青ざめる中、ジャッジは視線を鋭くして問う。

 

「お前はどちらの心に傾けるつもりだ?ヒーローか?それとも殺人鬼か?」

 

「ジャッジ!それを言うのは……」

 

「おい、ジャッジ。それ以上を言うのは教師として俺が許さねぇぞ」

 

「大事な事だ。この問いが後から答えられる時がどちらになっていて殺人鬼になってましたじゃ済まねぇんだよ。後の巨悪が現れかねない可能性がある……酷だがこいつ自身が白黒ハッキリさせてやらねぇと取り返しが着かねぇ事になる。俺が悪者になっても構わねぇから自分で言え、霧先ジル」

 

ジャッジは止まらない。

 

私の心にある善そして悪……

 

私はどう言えば良いのか分からなくなってきた時、個室の扉がノックも無く開かれ、レディー・クイックが入って来るとジャッジに近付いて耳打ちする。

 

「……そうか。また……すぐに向かう」

 

レディ・クイックからの耳打ちの内容を聞いたジャッジは溜め息をつくと立ち上がる。

 

「残念だがまた被害者が出た」

 

「何だと!?今度は誰が?」

 

「眼鏡を掛けた髭を生やした会社員の男だ。被害者だが運が良い……重体だが即死は免れた。今は病院で運ばれて手術している所だそうだ。ただ、被害者が発見された場所は……この雄英の近くの路地だそうだ」

 

「……被害者の名前は?」

 

「花咲 透だ」

 

花咲?……花咲……花咲志奈と力斗……偶然ね……名字が同じなんて……同じ……お願いよ……被害者があの二人の……

 

「普通科の志奈と力斗を呼ぶ。お前達の親父さんがヴィランに襲われて重体だと」

 

そんな……なんて事なの……!!

 

「駅から近付いて来てやがる。まさかと思うが……」

 

「霧先。帰る時は俺に言え。まさかとは思うが……お前、狙われている可能性がある。連続強盗殺人のヴィランにな。俺がお前を家に送る。登校の時も誰かを寄越す」

 

私は目の前が真っ暗になった。

 

私のせいで……私のせいで二人のお父さんが……!!!

 

『ジル。気をしっかり持て。気を失うぞ?』

 

「(でも!!私が……私が事件に関わったせいで二人のお父さんが襲われたかもしれない!!私は……!!!)」

 

『なら……やるか?』

 

「(え……?)」

 

『そのヴィランはどうやら罪から逃げ、多くの罪も何も無い市民を襲い殺す外道だ。ならお前……いや、俺達がそいつを裁かないか?』

 

アーサーは私に対して殺人を……薦めてきた。

 

私はヒーローを目指してる……殺人は絶対にしない……でも……

 

『お前が選べ。俺の手を取るか?こいつらの教えに従うか?』

 

アーサーはそう言って手を伸ばす仕草を見せ、手を取れとばかりに笑っている。

 

『花咲の兄妹は父親を殺され掛けてさぞ、悔しいだろうな?平穏に暮らしていた筈なのに自分達の知らない所で大事な者が傷つけられ、奪われかけた。ジル!!これは正当な復讐だ!!罪から逃れ、平然とする悪に報いをくれてやる為のな!!!』

 

「(私は……)」

 

私は選ぶ。

 

その先の行動は私の全てを決める事になる……だから、私は!!!



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【第一章】再誕の殺人鬼【殺人鬼 END】

私は今日、相澤先生に家に送られて帰ると相澤先生は母さんに色々と事情を話して私がヴィランが捕まるまでは送り迎えを行うと説明していた。

 

母さんは不安になったのか相澤先生が帰った後、しまってあったロンドン市警時代に使っていた時と同じトンファー型の警棒を取り出して腰に着けていた。

 

「大丈夫。貴方には傷一つ付けさせたりはしないわ」

 

と言って笑顔で言ってくれたけど私の心は既に決めている。

 

『本当に良いんだな?お前はこれから……殺人を行うんだぞ?』

 

「(もう決めた事よ……私は許せない……狙うなら私を狙えば良かった!花咲さん達のお父さんを狙って私を待ち構えてるのか単なる偶然なのか分からない!どちらかにしてももう捨て置けない!!)」

 

『そうか。さて!目立つ様な服装は避けろよ。無論、雄英の制服は駄目だ。本当ならあのコスチュームを使いたかったが……贅沢は言えねぇ。ナイフのチェックを忘れるな。唯一の得物である筈の個性が土壇場で使えないなんて笑い話にもならねぇからな』

 

私はアーサーに指示されるまま準備をする。

 

目立たない服装、個性のチェック、何時でもアーサーと入れ替われるかのチェック、そして……これから人を殺す覚悟を決める。

 

「(……何時でもやれるわ)」

 

『よし。俺とお前でやってやろうぜ。闇に潜む悪を暴き、捌き、報いを受けさせようぜ。ジルいや……相棒』 

 

アーサーはそう言ってニヤリと笑うと私は決意と不安そして周りの人達を裏切る行為に走る事への罪悪感を抱きながら私はこっそり家を抜け出した。

______

____

__

 

私は家を抜け出した後、私は路地へと足を踏み入れた。

 

路地はヴィランや浮浪者達の溜まり場で危険だから近付くなと幼い頃から言われてきたがそう言われていたのが不思議なくらいに人がいなかった。

 

『そりゃあ、ヴィランだって夜には寝たいだろ?これから後ろ暗い事をする奴以外は……な!』

 

アーサーはそう言い終わった時、誰かが飛び掛かって来た。

 

アーサーは私から身体の主導権を握るとナイフを産み出して振るわれた何かを弾き返した。

 

鈍くも路地に響く金属と金属がぶつかる音が鳴る中、私とアーサーは襲ってきた相手を見る。

 

相手は目立たない黒い服装とフードを深く被った男で手には大きな刃物を持っている。

 

間違いない……連続強盗殺人事件のヴィランだ。

 

「御大層な挨拶だな。普通は淑女相手には一礼して丁寧に声を掛けるべきだと思うぜ?」

 

「うるせぇ!あと少しと言う所で余計な介入をしやがって……おかげで犯行が何時、バレるか怯える毎日だ!この小娘が!!」

 

「逆ギレか?罪も何も無い市民を殺しておいて自分は悪くないなんて言い様だな?」

 

「……仕方なかったんだ!こうしないと妻を助けられないんだ!!」

 

『このヴィラン、奥さんがいるの?助けられないってどう言う事なの?』

 

私は疑問に思う中、ヴィランは犯行に至った経緯を話し始めた。

 

「妻は肺を患っていて臓器移植が必要だ。手術にはかなりの額がいる……だけど、俺は盗みや喧嘩やらで前科持ちで学歴も中卒までだ……ろくな仕事に着けねぇんだよ。自業自得なのは分かってるけどよ。せめて妻だけは助けねぇと地獄に行くにも行けねぇんだよ。だけど銀行とかそんな所を狙ってもすぐにヒーローが飛んできて捕まる。だから収入は少なくても路上強盗に手を出したんだ」

 

「だからと言って殺した奴にも家族や友人がいた。そいつらはどう思う?お前が奪った奴はそいつらにとって大切な存在なのかもしれない。お前はそれを無惨に奪い去った。どんなに都合の良い大義名分を掲げても悪は悪であり、罪は罪だ」

 

アーサーの言葉にヴィランは何も言い返せず黙る中、アーサーはナイフの先をヴィランに向けた。

 

「だから……お前を殺す」

 

「なッ!?お前……雄英の生徒だろ!しかもヒーロー科だ!そんな事をして良いと思っているのか!!」

 

「勘違いするな。お前を地獄に送るだけだ。知られる事なくな」

 

「く、くそがぁッ!!」

 

ヴィランは切り掛かって来るとアーサーは軽く避け、ヴィランの刃物を持つ腕をナイフで深く刺し、更に怯んだ所を素早くナイフを抜いて太股に突き立てた。

 

「があぁぁぁぁぁぁッ!?」

 

ヴィランは腕を押さえながら倒れるとアーサーと落ちた刃物を蹴り飛ばして遠くにやると笑みを浮かべた。

 

「これで終わりだ。せいぜい地獄への旅を楽しんでこい」

 

「殺人鬼が……!地獄に落ちるのは……お前だ!!」

 

ヴィランは憎しみを込めた目でアーサーが主導権を握る私を睨むけど私は一つだけ聞きたい事があった。

 

『アーサー。この人に一つだけ聞きたい事があるの。変わってくれる?』

 

私はアーサーから了承を得て主導権を一時的に戻すと私はヴィランに対して質問した。

 

「貴方に聞きたい事がある。貴方は私を襲おうと計画したの?それとも偶然?」

 

「急に何だ……ぐわぁッ!?」

 

「質問に答えて」

 

私は質問に答えないヴィランに対して太股の傷口を思いっきり踏みつけた。

 

「ぐうぅ……襲おうと計画したさ!!見られたと思って焦ってな!!だが、時間が無かった!!だから強盗しながらお前が一人になるのを待っていた!!」

 

ヴィランはそう言って痛みのあまり大量の汗を流しながら苦しむ顔にジルは不思議と何も思わなかった。

 

自分を襲おう為に回りを巻き込んだヴィランに対する慈悲は既にジルには無く只、そこにいるのは殺すべき悪だと認識していた。

 

「そう……アーサー。もう良いわ。終わらせて」

 

『了解。ちゃっちゃと終わらせるか』

 

アーサーはそう言って私とまた入れ替わると倒れているヴィランにのし掛かるとナイフを振り上げて首に目掛けて振り下ろした。

 

血が激しく飛び散り、ジルの身体や衣服に返り血が付着する中、ヴィランは暫く痙攣を起こした後、そのまま力尽きた。

 

「……終わったな」

 

アーサーはそう言ってナイフを軽く振るって血糊を払うとジルと入れ替わった。

 

『どうだ?人を殺した感想は?』

 

「……最悪としか言えない」

 

『そうだろうな。さて……まだやる事がある。証拠を隠滅するぞ』

 

「証拠を?」

 

『捕まりたいのか?証拠を消さなければ必ずお前に食い付いてくる。そうなりたくないならやるしかない』

 

私はアーサーのその言葉に暫く考えたけど私はもう罪を犯した……捕まれば家族に迷惑を掛ける。

 

なら、私は証拠の隠滅を図る事を決め、アーサーの指導の元、私に繋がる証拠を消し去り、そして私は人に目撃されない様にその場から去った。

______

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__

 

私は何とか家に戻ると母さんに気付かれない様にこっそりと部屋の窓から入ると椅子に座り、溜め息をついた。

 

『足跡は念入りに消した。指紋は手袋をしておいたから問題は無い。血が付いた衣服は途中で着替えて燃やしたから回収しようがない。これでもう俺達を追えない』

 

「(……随分、慣れてるわね。何れも警察が捜査する様な箇所ばかりじゃない)」

 

『散々、教えられてきたからな。それに俺自身にも捜査の技術があった。最近の捜査技術もそれなりに学ばせて貰ったしな』

 

アーサーはそう言って笑う中、私は我に返って思い返した。

 

あのヴィランは自分の奥さんの為に犯罪を犯した。

 

理由はどうあれそれは確かに人の為の犯罪であり、助けたいと言う強い気持ちと追い詰められた境遇によって引き起こされてしまったものだ。

 

「(アーサー……私のやった事は……正しかったの?)」

 

『……なんでだ?』

 

「(確かに酷いヴィランだった。でも、それは奥さんの為に必死になって、追い詰められた結果なら説得できたんじゃないかなって……)」

 

『ジル。一つだけ言ってやる。彼奴はタガが外れていた。例えその奥さんを助けれたとしてもまた金の為に人を殺すかもしれない。それにあと少しと言っていたが……どの位の額なんだ?それが貯まるまで一体、何人死ぬんだ?』

 

「(それは……)」

 

『後悔するのは良い。だが、受け入れろ。奴はもう……殺すしか止める事ができなかった。それで殺されていたかもしれない誰かの命を助けれた。誰かの無念を晴らせた。お前は人を助けたんだ。例え、血塗られてしまってもな』

 

アーサーの言葉に私は何も言えなかった。

 

決めたのは私……私が殺したのなら受け入れるしかない。

 

私が殺した事で誰かが救われたのならもう、それで良い。



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【第一話】信念貫く【ヒーロー END】

私はアーサーに殺人をして止める様に促されたけど……それが本当に正しいのか?

 

確かに殺せば全て解決するかもしれない……でも、力強くで解決した所で根本的な部分は解決出来ないかもしれない。

 

だから私は……!

 

「(駄目よ!それだけは……絶対に駄目!)」

 

『ジル!!』

 

「(貴方の意見は聞かない!私は私なりの方法で解決する!)」

 

『……そうかよ。勝手にしな』

 

私はそう言ってアーサーの意見を退けると私はこれからやる事は先生達をがっかりさせるかもしれないと分かっていてもやるしかないと思った。

_________

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私は今日、相澤先生に家に送られて帰ると相澤先生は母さんに色々と事情を話して私がヴィランが捕まるまでは送り迎えを行うと説明していた。

 

母さんは不安になったのか相澤先生が帰った後、しまってあったロンドン市警時代に使っていた時と同じトンファー型の警棒を取り出して腰に着けていた。

 

「大丈夫。貴方には傷一つ付けさせたりはしないわ」

 

と言って笑顔で言ってくれたけど私の心は既に決めている。

 

『本当に良いんだな?お前はこれから……』

 

「良いのよ。これは私の問題。私が解決しないと……」

 

自分の信念を貫く為に、私はこれからやる事の覚悟を決めてから母さんに悟られない様に家を抜け出した。

_______

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私は家を抜け出した後、路地へと足を踏み入れた。

 

路地はヴィランや浮浪者達の溜まり場で危険だから近付くなと幼い頃から言われてきたがそう言われていたのが不思議なくらいに人がいなかった。

 

『そりゃあ、ヴィランだって夜には寝たいだろ?これから後ろ暗い事をする奴以外は……な!』

 

アーサーはそう言い終わった時、誰かが飛び掛かって来た。 

 

アーサーは私から身体の主導権を握るとナイフを産み出して振るわれた何かを弾き返した。

 

鈍くも路地に響く金属と金属がぶつかる音が鳴る中、私とアーサーは襲ってきた相手を見る。

 

相手は目立たない黒い服装とフードを深く被った男で手には大きな刃物を持っている。

 

間違いない……連続強盗殺人事件のヴィランだ。

 

「御大層な挨拶だな。普通は淑女相手には一礼して丁寧に声を掛けるべきだと思うぜ?」 

 

「うるせぇ!あと少しと言う所で余計な介入をしやがって……おかげで犯行が何時、バレるか怯える毎日だ!この小娘が!!」

 

「逆ギレか?罪も何も無い市民を殺しておいて自分は悪くないなんて言い様だな?」

 

「……仕方なかったんだ!こうしないと妻を助けられないんだ!!」 

 

『このヴィラン、奥さんがいるの?助けられないってどう言う事なの?』

 

私は疑問に思う中、ヴィランは犯行に至った経緯を話し始めた。

 

「妻は肺を患っていて臓器移植が必要だ。手術にはかなりの額がいる……だけど、俺は盗みや喧嘩やらで前科持ちで学歴も中卒までだ……ろくな仕事に着けねぇんだよ。自業自得なのは分かってるけどよ。せめて妻だけは助けねぇと地獄に行くにも行けねぇんだよ。だけど銀行とかそんな所を狙ってもすぐにヒーローが飛んできて捕まる。だから収入は少なくても路上強盗に手を出したんだ」

 

「だからと言って殺した奴にも家族や友人がいた。そいつらはどう思う?お前が奪った奴はそいつらにとって大切な存在なのかもしれない。お前はそれを無惨に奪い去った。どんなに都合の良い大義名分を掲げても悪は悪であり、罪は罪だ」

 

アーサーはそう言った後、私に主導権を返した。

 

此処からは自分でやれ……そう言う意味で私に渡したのかもしれない。

 

「貴方の言いたい事は分かったわ。でも……お願いだから罪を償って」

 

「何だよ……急に大人しげになりやがって……?」

 

「それは今は良いわ。それよりも本当に奥さんの事を思っているの?」

 

「当たり前だ!だからこうして!!」

 

「ヴィランとして貴方が捕まったら。その奥さんはどうなるの?」

 

私のその問い掛けに彼はうつ向いて黙ってしまった。

 

「これ以上の事をやり続けて捕まりでもしてニュースになればきっと悲しませるだけじゃなくて肩身の狭い思いをさせるかもしれない……貴方が本当に奥さんの事を思っているならこれ以上は止めないと」

 

「う、うるせぇ!!お前に何が分かるんだよ……!俺は……無個性なんだよ……!」

 

「無個性……!?」

 

彼がまさか無個性だとは思わなかった……だって、あの動きは何かしら個性を応用してるかと思っていた。

 

でも、無個性だと言うなら納得出来る。

 

この社会は明らかな異形型の人や変わっていたり、危険な個性を持つ人、無個性の人にはとても冷たい……常に差別の対象にされる。

 

私も……過去に無個性と偽っていた時は酷い虐めを受けていた。

 

「無個性だから遊びでは常にヴィラン!無個性だから高校受験で落とされて!無個性だから素行が悪いとか言われて!……個性を持ってるお前に何が分かるんだよ!!言ってみろよ!!どう足を洗おうとしてももう、ヴィランの肩書きは消えないし!!無個性だからとか理由を付けられて社会から省かれる!!なのにどうしろって言うんだ!!」

 

「……分からなくはないわ。私も昔に虐めを受けてね。無個性だって偽ってた事があったの。自分の個性が嫌だった」

 

私が自分の過去の事を言うと彼は叫ぶのを止めて私の言葉に耳を傾けた。

 

「私の個性はこれ。ナイフを出すのよ。そう、凶器を出せるの。私はもしかしたら何時かは誰かを傷付けてしまうんじゃないかって思って怖かった。だから無個性だって嘘をついた。でも……そんな私に待ってたのは虐め。遊びで無個性だからヴィラン役。可笑しいわよね!無力な人間を守るのがヒーローなのにヒーローが無力な人間を襲うなんて!」

 

私はそう言って自暴自棄になった様に笑った後、私は自分の過去の事を話し続ける。

 

「私は結局、我慢できなくて殴り飛ばしたら中学まで恐怖の対象にされちゃってね。いつも一人だった……でも、そんな私を受け入れてくれる人もいた。私の家族。私の友人。私の雄英の恩師達。私は……いつの間にか沢山の人達に救われていたの。生きていれば受け入れてくれる人もいる。だから貴方にだっている筈よ。大切にしてる奥さんとかね」

 

私はそう言って微笑むと彼はいつの間にか涙を流してそのまま凶器を地面に落とした。

 

地面に落ちる硬質な音がなる中、彼はそのまま地面に膝を着くと泣き出した。

 

「貴方は一人じゃない……貴方と同じ様な境遇を持つ人達は沢山いる。罪を償いましょう……胸を張って奥さんに会う為にも」

 

私がそう言い終わった時、バタバタと足音が聞こえて振り返るとそこにはジャッジとレディ・クイック、相沢先生までいた。

 

「霧先!?お前は帰った筈じゃないのか?」

 

「あの……その……ごめんなさい!!」

 

相沢先生の凄みに私は頭を下げて謝るとジャッジはそのまま泣いている彼の所に近付く。

 

「連続強盗犯のヴィランだな?テメェ……まだ年端も行かない奴を襲うとしやがって。その身できっちり罪を償って貰うからな!クイック!警察に連絡しろ。例の連続強盗犯を捕まえたってな」

 

「待って下さい!」

 

「何だ?」

 

「彼の事は……自首と言う事には出来ませんか?」

 

「はぁ?何だよいきなり?」

 

彼にはもう罪を犯す気力は無い。

 

なら、此処で捕縛と言う形で逮捕するよりも自首と言う形で罪を償わせてあげた方が良い。

 

私は頭を下げてジャッジにお願いする中、ジャッジは。

 

「はぁ……全く。クイック。内容は変更だ。例の連続強盗犯が自首をしたいってな」

 

「分かったわ。連絡してくる」

 

ジャッジのその言葉に私は顔を上げればジャッジはめんどくさそうな表情をし、レディ・クイックは微笑みながら私に頷いた後、連絡しに行った。

 

私は何とか通じた事に安堵の溜め息を吐く。

 

「お前……何で……?」

 

「貴方はもう罪を犯さないと思ったから……だからお願い。これだけは約束して下さい。もう奥さんを泣かせる様な事はしないで。そして罪をちゃんと償って生きて下さい」

 

私はそう彼に言うと彼は声を挙げて泣いた。

_______

_____

___

 

彼は駆け付けた警察達によってパトカーに乗せられて連行されて行き、私はと言うと……

 

「霧先。お前は……自分が何をしたのか分かっているのか!殺されるかもしれなかったんだぞ!!今度、勇気と無謀を履き違えてみろ!俺は必ずお前を除籍にする!!」

 

「本当に……すみませんでした……」

 

私は相沢先生からの有難いお説教を受けていた。

 

事情聴取の為に一度、警察署まで来れば相沢先生からのお説教が始まった。

 

「まぁまぁ、今回は無事だったんだ。それくらいにしてあげてくれ」

 

そこへ現れて言ってくれたのは雄英にジャッジと来ていた刑事さんだった。

 

「駄目だ。甘くすればまた調子に乗る」

 

「だが、彼女は恐らくは自責の念に囚われてあの行動を取ったんだろ?もうこんな無茶はそうそうしないさ。それに彼女はヒーロー活動ではなく、説得で彼奴を止めたんだろ?あまり褒められた事じゃないが……余罪も無いしそのまま帰っても良し!」

 

「適当過ぎるわね……」

 

『よくもまぁ、刑事なんてしてるなこいつ』

 

私とアーサーは刑事さんの適当ぶりに呆れそうになるとレディ・クイックが来た。

 

「終わった?」

 

「おう!終わったぜ。そっちもか?」

 

「手続きも終わったわ。それよりもジル」

 

「は、はい……」

 

「もう少しだけお説教を受けないとね。お母さんが来てるわよ?」

 

あ……終わった。

 

母さんにまでお説教をされる未来を浮かべた時、勢いよく母さんが入ってきた。

 

「ジル!!」

 

「母さん……その……」

 

私は一発ぶたれる事を覚悟して目を強く閉じた時、私は母さんに抱き締められていた。

 

「何て無茶をするのよ!!本当に……心配したのよ……!」

 

「母さん……ごめんなさい……私は……どうしても自分が許せなかった……私のせいで花咲さんのお父さんが襲われて……!」

 

「ジルのせいじゃない!ジルも……被害者なのよ……自分を責めては駄目。貴方は自分が正しい道に行ったって信じているなら自信を持ちなさい。でも、危険な無茶はして欲しくないけどね……」

 

母さんはそう言って少し離れると涙を浮かべて微笑んでいた。

 

私は母さんを泣かせてしまった事に不意目を感じてしまう。

 

「さて……帰ったらたっぷりとお説教だからね!覚悟しなさい!!」

 

「そ、そんな……!」

 

『自業自得だな』

 

私はアーサーに言われて腹がたちながらも無事に済んで良かったと思った。

 

私も説得なんて賭けでしたなかった。

 

もし、説得に失敗していたら……

 

「(殺されていたか……殺していたか……)」

 

終わった以上はもう何も考えるつもりはない。

 

今は長い期間になるかもしれないけど……彼が更正して奥さんに会える事を祈り続ける。



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【第二章】ダークヒーロー【殺人鬼ルート】
消えない後悔


私が連続強盗殺人のヴィランを殺してからと言うもの、死体を見つけたのか朝はテレビでもラジオでも持ちきりになって報道された。

 

《続いてのニュースです。今日の今朝、路地で男が死体で発見されました。死体は無惨にも切り裂かれており、死体を発見した住民によりますと昨晩、誰かが争う音と声が聞こえたと言う証言があり、警察とヒーローが捜査を行っておりますが証拠は無く、依然として捜査が難航している模様です。また、男は連続強盗殺人事件の犯人とされ、それも視野に捜査すると答えております。続いてはNo.1ヒーローのオールマイトが雄英に》

 

私は朝食を食べながらテレビで流れるニュースを聞いて昨夜の事を思い出す。

 

アーサーが殆どやったとは言え、未だに手に残る人をナイフで切り殺した感覚。

 

とても落ち着かないが母さんは勘が鋭い。

 

バレない様に振る舞わないといけない。

 

私は朝食を食べ終えると遅れない為に登校の為の準備をしにいく。

______

____

__

 

私は今回が最初で最後の同伴となるミッドナイトこと香山先生に送迎して貰った。

 

同じ女同士、色々と弾む話をしてくれて私が少しでも元気を出してくれる様に心掛けてくれた香山先生には感謝しかない。

 

まぁ……流石に色々と際どいコスチュームを着てきて送迎に来なかったのは良かったと言うのは内緒だけど。

 

私は雄英に行く前に香山先生に花咲透さんの所へお見舞いに行かせて貰える様に頼むと快く了解してくれて私は透さんが入院している病院に着くとそこへ見知った医師がいた。

 

「おや?ジル君じゃないか」

 

「外堂先生。お久しぶりです」

 

私がヘドロ事件の時に運ばれた病院で外堂先生と再会した。

 

前にあったのは別の病院だったけどどうして此処に?

 

「外堂先生。どうしてこの病院に?」

 

「ふむ。実は此処に緊急搬送された患者の手術をたまたま私が請け負ったからだ。私の腕は確かだからね。危なかったが何とか一命を取り留めたよ」

 

「そう……良かった」

 

私はそれを聞いて安堵しているとそこへ力斗と志奈の二人がやって来た。

 

「あ、ジルさん」

 

「……お前かよ」

 

私は二人を見てどんな顔をすれば良いのか分からなかった。

 

わざとではなかったとしても、二人の父親を巻き込んだのは私だ。

 

二人からすれば私もそれ相応に憎悪の対象だ。

 

「力斗、志奈。私のせいで……ごめ」

 

「謝んな!」

 

私は力斗のその拒絶の言葉に罪悪感を深く抱いていき、胸が苦しくなってくる。

 

「テメェが……巻き込んだとしてもな……ヒーローを目指してんだろ?謝んなよ……正しい事をしたんだって思えよ!許せなくなるだろうが!!」

 

「お兄ちゃん……此処は病院の中だよ」

 

「でも……私は!!(人を殺して……!!)」

 

「うるせぇ!!良いか!テメェのせいじゃねぇ!!分かったか!!たく……」

 

力斗はそう言って足早に病院の外へ歩いていってしまい、残された志奈は私に微笑みかけた。

 

「お兄ちゃんの言う通り、貴方が悪い訳ではありません。確かにお父さんが事件に巻き込まれて重症と聞いた時はどうしてそんな事にって考えました。貴方が関わった事で巻き込まれた。お父さんが死ぬかもしれないって思うと怖いと思いました。でも……一番怖かったのはきっとジルさんの方です」

 

「私……?」

 

「貴方が事件に関わってヴィランに狙われていたと聞きました。貴方は優しい人です。きっと、お父さんの事を聞いて罪悪感を抱いているんじゃないかと思っていました。そこにヴィランに狙われているなんて聞けば……とても怖いですよね」

 

志奈さんのその言葉に私は今更、怖かったなんて思い始めていた。

 

人を巻き込んで、ヴィランに狙われて、そのヴィランを殺して、私の回りにいる人達を裏切った。

 

怖かった……本当に……怖かった……

 

でも、私は……暗い顔を作っただけで涙一つすら流せなかった。

 

「私はヒーローになる自信はもう無いです……でも、貴方の優しい人ならきっと、良いヒーローになれます」

 

志奈はそう言ってお辞儀した後、力斗を追い掛けて行った。

 

残された私は暗い顔をし続ける中、肩に手を置かれた。

 

「あの子達の言う通りよ。貴方のせいじゃない。気に病みすぎては駄目よ」

 

「そうだね。理由はどうあれ君が襲った訳じゃないのだろ?気の病みは健康に影響するからあまり、考え過ぎない方がいいぞ?」

 

二人の慰めに私は心の何処かに鋭い刃物が刺さる感覚を覚えるけど顔に出す訳にはいかない。

 

「ありがとうございます。本当はお見舞いをしてから登校したかったのですがもう行かないと遅刻してしまいますね」

 

「え……?あッ!?」

 

「それは大変だ。お見舞いはまた今度だね。早く行ってきなさい」

 

「はい。では、これで」

 

「ジル!早く行くわよ!」

 

私は香山先生に促されて私は外堂先生にお辞儀した後、病院から出て駆け出して行く。

______

____

__

 

私と香山先生は急いで雄英に来るとそこにはマスコミの群れがいた。

 

「な、何なの……アレ?」

 

『さぁな。どうせ、ろくでもないのを取材してるんだろ?』

 

「面倒な事になってる……」

 

私達は群れるマスコミに唖然としているとマスコミ達が一斉に此方を見てきた。

 

まずい……かなり嫌な予感がする。

 

マスコミの視線に一歩退いてしまった私に対してマスコミ達は個性でも使ってるのかとばかりにかなりの速度で走ってきた。

 

「ヒーロー科の子ですね!オールマイトが教師として赴任した感想を聞かせてください!」  

 

「おい!俺達が先だぞ!!」

 

「何だと!?俺達が先だ!」

 

「あれ?君ってあのヘドロの……?」

 

「え、あの事件の?」

 

あぁ……まずい。

 

お願い止めて……黒歴史を掘り返さないで……!

 

もう私は恥ずかしくてそのままそそくさと群れを掻き分けて進むもうとした時。

 

「まだお話は終わってません!」

 

なんて腕を掴んできた。

 

「邪魔だ」

 

腕を掴まれたのを知ったアーサーが無理矢理に出てくると腕を掴んできたマスコミを睨み、掴んでいた腕をアーサーは外した。

 

「授業に遅れたらどうしてくれる?うちの担任はそういうのには厳しいんだぞ。もし遅刻をして除籍されたら……分かってるな?」

 

アーサーはそう言ってニヤリと笑って見せるとマスコミ達は固まってしまい、アーサーはそのまま校門を抜けると私に主導権を返した。

 

「(何してんの!?)」

 

『ふん。マスゴミ共があんまりにしつこいから威嚇しただけだ。庇う必要はないだろ?』

 

「(庇ってないわよ!寧ろ彼奴ら貴方の事を報道したらどうすんの!?)」

 

『大丈夫だろ。いくら報道の自由シールドがあっても無敵だと思ってるのは奴等だけだ。一回訴えられたら簡単に勝てるし無駄な抵抗するなら……な?』

 

アーサーは愉快そうに笑っているが私は顔を青ざめていく中、そこへ相澤先生が来た。

 

「霧先。遅刻するぞ。早く行け」

 

「あ、はい。でも、香山先生が……」

 

私がそう言った時、校門がいきなり頑丈そうなゲートが出てきて閉じられた……あ、香山先生は外だ。

 

「ちょっとおぉぉぉぉぉぉッ!?」

 

香山先生の悲痛な叫びが聞こえる中、相澤先生が説明する。

 

「雄英バリアーだよ。俺らはそう呼んでる」

 

『もう少しマシな名前にできなかったのか?』

 

「(かなりの技術なのに名前がダサい……)」

 

私とアーサーはあまりにダサい名前に呆れる中、相澤先生は説明を続ける。

 

「学生証とかさ通行許可IDを身に付けていないとあんな風に閉じられる。学生証を忘れたり無くしたりするなよ?」

 

「あ、はい……それで香山先生は?」

 

「俺が中に入れるからお前は先に行け。遅刻すんなよ」

 

相澤先生はそう言って外に弾き出されっぱなしの香山先生を入れに行ってしまい、私は香山先生に申し訳ない思いで教室に向かった。

 

~別視点ide~

 

ジルが登校している頃、ジャッジは根津に事件の報告をしていた。

 

「路地で見つけたヴィランの死体と殺傷力の高い刃物が現場に見つかった。刃物からは多数のDNAが残っていて全てとは言えないが最近の被害者のDNAと一致した。間違いねぇ……連続強盗殺人事件の下手人だ」

 

「そうか……君は誰がヴィランを殺したと思うかな?」

 

「……霧先ジル。俺はある人物の犯行手口を知っている。証拠を残さない殺人。そのある人物こそが切り裂きジャック。あの現場では切り裂きジャックの犯行方法と同じだった。だが、証拠は無論無い……ジルの逮捕は諦める」

 

「ジルがやったと決めつけは良くないね。模倣犯の可能性だってあるさ」

 

「いや、模倣するだけじゃ切り裂きジャックにはなれない。無差別殺人をやると考えて衝動的に無計画にやればすぐに足がついて捕まる。切り裂きジャックは用意周到だ。無差別と見せかけながらもターゲットを絞っていた」

 

「ターゲットを絞るとは?」

 

「切り裂きジャックは悪を殺す悪。19世紀の今で言うヴィジランテだ。切り裂きジャックの二人が狙うは闇に潜む悪だ。ジルがもし、アーサー・ヒューイットの手を取っていたら……被害者は増えるだろう。証拠が無ければ現行犯でもない限りでは捕まらないがな」

 

ジャッジはそう言いきると根津の視線に溜め息を深くついた。

 

「信じろとは言わねぇが……手遅れになる前に引導は早めに出してやった方が人の為になる時がある」

 

「ジルはそんな子じゃないさ。僕らは彼女を信じてヒーローとして育てるさ」

 

根津の言葉にジャッジは何も言わず校長室の扉を開けて立ち去っていき、残された根津は溜め息をついたのだった。



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動き出す悪意

取り敢えずマスコミ達からの一件から暫くしてチャイムが鳴ると相澤先生が何事も無かったかのように教室に入ってきた。

 

「昨日の戦闘訓練お疲れ。Vと成績を見させて貰った。爆豪。お前はガキみてえなマネすんな。能力あるんだから」

 

「分かってる……」

 

相澤先生の厳しい言葉に流石の勝己も反省してるのか元気無く返事を返すと相澤先生は今度は出久君に視線を向けた。

 

無論、お怒りで。

 

「で、緑谷はまた腕ブッ壊して一件落着か」

 

相澤先生のその言葉に出久君は身体を震わすと、相澤先生が不機嫌モードになった。

 

「個性の制御……いつまでも出来ないから仕方ないじゃ通させねぇぞ。俺は同じ事を言うのが嫌いだ。それさえクリアすればやれる事は多い。焦れよ緑谷」

 

「っはい!」

 

相澤先生の言葉に出久君が大きな声で返事をする姿に頼もしさを覚える。

 

「それと霧先。お前は優秀だな。無駄な動きが少なく連携した作戦も立案する能力がある」

 

挨拶先生はそう言うと鋭い視線を私に向けた。

 

「だが、勇気と無謀を履き違えるな。前みたいな事になりたくないなら次からは物事をよく考えてから行動しろ」

 

「はい。ご迷惑をお掛けしました……」

 

私はそう言ってあの時の事を思い出してしまい少し落ち込む中、相澤先生は話を切り替えた。

 

 

「さてHRの本題だ……急で悪いが今日は君らに……」

 

「(またテストかしら?)」

 

『そんなにテストするもんなのか?』

 

私とアーサーは疑問に思う中、相澤先生は本題を切り出した。

 

「学級委員長を決めて貰う」

 

「「「学校っぽいの来たあぁぁぁぁッ!!!」」」

 

相澤先生からの学級委員長を決める話に皆が食い付くと一斉に手を上げて行く。

 

私は……軽く手を挙げておいた。

 

流石に上げないのは目立ち過ぎるし、一人でそんな孤立は嫌だ。

 

『なんだ?やりたくないのか?』

 

「(人殺しの私が委員長だなんて相応しくないわよ。それに飯田君や八百万さんの様な人が相応しいと思えるのよ)」

 

『まぁ、真面目を絵に描いた二人だからな。仕事はきちんとこなすだろうさ』

 

アーサーはそう言って愉快そうに笑う中、皆がやりたいムードで騒ぐ中、やはりこの男である。

 

「静粛にしたまえ!!」

 

飯田君である。

 

「多を牽引する責任重大な仕事だぞ……!やりたい者がやれるものではないだろう!!周囲からの信頼あってこそ勤まる聖務……!民主主義に則り真のリーダーを皆で決めると言うのなら……これは投票で決めるべき議論!!」

 

「飯田君は本当に真面目ね……なら、その腕は何かしら?」

 

「そびえ立ってんじゃねーか!!何故、発案した!!!」

 

私の言葉を皮切りに上鳴君が何故か投票を発案しておいてやりたいとばかりに手を挙げている飯田君にツッコミを入れた。

 

「日浅いのに信頼もクソもないわ飯田ちゃん」

 

「そんなん皆、自分に入れりらぁ!」

 

「あら?私は飯田君に入れたいのだけど?」

 

「「え?」」

 

「だって日こそ浅いけどクソがこびりつくどころか強力接着剤で何回も塗りまくった位に超真面目な飯田君なら信頼出来そうだし」

 

「それ……誉めてるのか?」

 

梅雨ちゃんと上鳴君は意外だと見られ、砂藤君には何故か引かれた視線を向けられた……何で?

 

「と、とにかく!だからこそ此処で複数票を獲った者こそが真に相応しい人間と言う事にならないか!?あと票をありがとう!」

 

入れる決まった訳じゃないのに律儀ね……入れるけど。

 

取り敢えず始まった学級委員長選挙は皆は結局、自分に入れたりする中、此処で予想外な事が起きた。

 

出久が三票、八百万さんが二票、そして私も二票。

 

誰よ私に二票も入れたの?

 

『まぁ、お前もそれなりに真面目だしな。同列の主席と言うのも大きい。しかももう片方の主席とは違って筆記もトップで更に性格は良いとくれば信用する奴は多いだろ』 

 

「(忘れてたわ……勝己と一緒の結果だったの)」

 

私は入試の成績を思い出すと取り敢えず、委員長は出久君になり、副委員長はジャンケンで決める事になった。

 

「(ジャンケンね……何とかなりそう)」

 

私はそう思いながら八百万さんの不意を突くように最初はグーとした後、ジャンケンポンとチョキを出した。

 

八百万さんは……グーだ。

 

これは突然、始めてジャンケンで素早く行う事で反射的にグーを出させるちょっとした必勝法みたいなものだけど私はチョキを出して負けた。

 

「勝ったのは八百万か」

 

「うーん……霧先さんも良い方だと思うけど……」

 

「ジャンケンだからな。だけど、八百万は講評の時のがカッコよかったし!」

 

「緑谷もなんだかんだ熱いしな!」

 

「おいらとしてはどっちでも役得」

 

皆が感想を各々言った後、委員長の出久君と副委員長の八百万さんが前に立った。

 

それにしても項垂れてる飯田君は他に入れちゃったのね……流石に何してるのよ。

 

「うーん悔しい……ですが本当にジャンケンで決めて良かったのですの?」

 

「まままマジでかマジでか……!!」

 

二人は何処か戸惑いを抱いている所があるけど私は二人が委員長、副委員長に着いた事に祝福する。

 

『上手く擦り付けたな。お前』

 

「(擦り付けたって……私は出久君の結果は予想外だったけど八百万さんは相応しいでしょう?)」

 

『いや、確かにそうだがな。小細工使ってまで勝たせたら擦り付けたって言えるだろ』

 

アーサーはそう言って呆れる中、私は首を傾げるしかなかった。

______

____

__

 

私は大食堂へ昼食を出久君と麗日さん、飯田君とで取りに足を運ぶと私を見るなり生徒の皆は一斉に駆け出した。

 

「ヒーロー科の霧先が来たぞぉッ!!」 

 

「急げぇッ!!また飲み物なんかで時間を掛けられるぞ!!」

 

「もう!何でこんな時に限って終わるのが遅くなるのよ!!」

 

もう修羅場だ。

 

私が最初に珈琲か紅茶かでアーサーと揉めたりしたせいでこんな現象が起きてしまう様になったのだ。

 

「わぁ……凄い事になってる……」

 

「霧先さんってそんなに有名なの?」

 

「……少し、注文が遅くなりやすくて。私は珈琲でアーサーは紅茶。好みの問題なのよ」

 

「聞いた事がある……!君は飲み物の注文の際に険しい顔をして時間を掛けるという噂があるが……そういう問題が」

 

「それ以上は言わないで!!」

 

私の恥ずかしい噂を解説しそうになる飯田君を止めた後、私達が注文する為に並ぶと後から来た人は膝をついたり、悔しがったりする者で溢れた。

 

「あぁ……急ぎの用がある人がいるなら先に注文して良いですからそれ、止めて下さい」

 

「ジルが順番を譲りだしちゃった」

 

「人格が二つあるって大変なんだ」

 

「うむ……やはり、彼女の為にも何かしてあげられないのだろうか……よし!此処は先生方に!!」

 

「いや、大丈夫だから飯田君。これ以上、黒歴史を増やさせないで」

 

私はそう言いながら取り敢えずフィッシュアンドチップスとサンドイッチのセットを注文した。

 

雄英には私の様なハーフの人達の為に外国の料理も作ってくれるそうでたまに食べたいもう一つの故郷であるイギリス料理を食べられるのはとても良い。

 

飲み物は……前の騒動から懲りてアーサーに文句を言われたけど頼まない様にしてる。

 

だけど、ランチラッシュが気を遣ってくれたのか紅茶も付けてくれたりするけど多分、イギリス人のハーフだから等のイメージなのか紅茶を付けてくれるのだ。

 

いや、紅茶は嫌いじゃないけど珈琲が良かったな~なんて思ったのは内緒。

 

無論、この予想外のサービスにアーサーは喜び、ランチラッシュへの株が大きく上がったらしい。

 

「それにしても人が相変わらず多いわね」

 

「ヒーロー科の他にサポート科や経営科の生徒も一堂に会するからな」

 

「いざ委員長をやるとなると勤まるか不安だよ……」

 

「ツトマル」

 

「大丈夫さ」

 

「二人の言う通り大丈夫よ。何かあれば助けるし」

 

三人と他愛ない話をしながら私はサンドイッチを頬張る中、視線に昼食を持って席を探す緋色を見つけた私は声を掛けた。

 

「緋色!」

 

「うん?やぁ、ジル。君も昼食かい?」

 

私の呼び声を聞いた緋色は笑顔でやって来ると笑顔を見せ、私も笑顔になった。

 

「霧先さん。その方は?」

 

「普通科の緋色よ。最近、仲良くなって」

 

「神速緋色だ。普通科だがよろしく」

 

「緑谷出久です」

 

「私は麗日お茶子!よろしく!」

 

「飯田天哉だ。此方こそよろしく」

 

各々、挨拶を済ます中、周りの席は相手おらず私は緋色を誘ってみる事にした。

 

「緋色。他に席が空いてなかったら一緒にどうかな?」

 

「それは助かるよ!見た所、他に相手なくて困っていたんだ。だが、三人は私が混ざっても良いのかい?」

 

「良いよ!ジルの友達だし!」

 

「私も!」

 

「僕も構わない。他の科の生徒と交流する事も大事な事だ」

 

三人が緋色が一緒に席に座る事を許してくれると私達は楽しく食事をしながら会話する。

 

「へぇ、委員長ね……雑務をこなすイメージだけど集団を導く素地を鍛えられる役でもあるのか。だからヒーロー科から落ちてきた者達はやる気を出していたのか」

 

「普通科なのにやる気があるの?」

 

「あれ?知らないのかい?雄英体育祭はリザルト次第では編入してくれる可能性があるんだ。だから、落ちて他の科に入ってもヒーロー科を諦めない者も多い。そして逆もあるらしい。つまり除籍だ。体育祭で油断して蹴落とされたなんて無いようにしておいた方が良いぞ?」

 

「へぇ……」

 

「そ、そうなんだ……」

 

緋色から聞かされた雄英体育祭のその仕組みに私は油断なく取り組まないといけないと思うなか、出久君は不安そうだ。

 

確かに出久君の個性はかなり扱いにくい。

 

見た限り強力だけだ使う度に身体を壊すと言うのは長期戦では不利しかないからね。

 

「それにしても飯田君も委員長やりたかったんじゃないの?眼鏡だし!」

 

「麗日さん……眼鏡は違うと思うわ」

 

「ツッコム所はそこではないだろ」

 

緋色はそう言って呆れた表情を浮かべるけど私は何で呆れられたのか分からず首を傾げると飯田君が答えた。

 

「やりたいと相応しいか否かは別の話……僕は僕の正しいと思う判断をしたまでだ」

 

「相変わらず真面目ね。それより一人称が僕になってるわよ?」

 

「僕……!!」

 

「ちょっと思ってたんだけど飯田君って坊っちゃん!?」

 

「坊!!!」

 

坊っちゃん呼ばれた飯田君はカレーを食べながら答える。

 

「……そう言われるのが嫌で一人称を変えていたんだが……俺の家は代々、ヒーロー一家なんだ。俺はその次男だよ」

 

「ええーー凄ーー!!!」

 

「飯田君の家庭ってヒーローの家族なんだ」

 

「ターボヒーロー、インゲニウムは知ってるかい?」

 

「勿論だよ!!東京の事務所に65人ものサイドキックを雇ってる大人気ヒーローじゃないか!!まさか……!」

 

「詳しい……」

 

「だてにヒーローオタクしてないからね。出久君は」

 

ヒーローの話になるといつも目を輝かせて話す出久君に私は楽しく聞いていたりしていた事があり、たまに長過ぎて眠くなりそうになった事もある程なのだ。

 

「それが俺の兄さ」

 

「あからさま!!!凄いや!!!」

 

「規律を重んじ人を導く愛すべきヒーロー!!俺はそんな兄に憧れヒーローを志した。人を導く立場はまだ俺には早いのだと思う。上手の緑谷君が就任するのが正しい」

 

『へぇ……真面目過ぎるがそれ故に規律を重んじ正しいと思う事は自分が損しても相手に譲る姿勢。俺は好きだね』

 

「(貴方に誉められるのは嫌だと思うけど……その考えは同感ね)」

 

私は入試以来の飯田君は真面目過ぎると思っていたけど彼自身の人柄は周りを引き付けるものがある。

 

私は投票でなくても飯田君が委員長になれたらと思う中、私は紅茶を飲もうとした時、警報が鳴り響いたのだ。

 

「警報!?」

 

私達は突然の警報に驚く中、アナウンスが鳴り響いた。

 

《セキュリティ3が突破されました。生徒の皆さんは速やかに屋外へ避難してください》

 

「セキュリティ3?」

 

「セキュリティ3とは何ですか?」

 

「校舎内に誰かが侵入してきたって事だよ!三年間でこんなの初めてだ!!君らも早く!!」

 

「……どうやら冗談ではないらしい。僕達も行こう!」

 

緋色のその言葉に私達は避難をしようと動くが大食堂に集まった生徒だけでもかなりの大人数の為か押し合いが起こる中、私は体勢を崩して転けない様にしながら歩く中、緋色が体勢崩した。

 

「危ない!!」

 

私はそう叫んだ時、アーサーが咄嗟に入れ替わって緋色の腕を掴んで転けない様に引き寄せた。

 

「大丈夫か?」

 

「あ、あぁ……こんな時にアレだが君も口調を変えてたのかい?」

 

「そんな事より気を付けろ。転べば痛いじゃ済まないぞ」

 

『アーサー!!窓の外に人が!!』

 

私はアーサーに窓の外を見る様に促すとそこには窓の外に群がるマスコミがいたのだ。

 

「ちッ……!マスゴミ共の仕業か!!」

 

「じ、ジル?」

 

『アーサー!緋色がいるの忘れないでよ!!』

 

「そんなの気にしてる場合じゃねぇだろ!!」

 

「本当に大丈夫かジル!?」

 

もう大混乱。

 

アーサーはマスコミ達が起こした騒ぎのせいで怒り狂い、緋色はそんなアーサーこと私を見て不安そうな表情を見せ、私はそんな姿を見られた事を気にする。

 

もう私達でも対象できない中、何かが宙を飛んで出入り口の上にへばり着いた。

 

『飯田君!?』

 

それは飯田君だった。

 

 

飯田君は非常口のマークみたいな掴まりかたをすると叫んだ。

 

「皆さん大丈ー夫!!ただのマスコミです!何もパニックになる事はありません!大丈ー夫!!此処は雄英!!最高峰の人間に相応しい行動を取りましょう!!」

 

その叫びに生徒の混乱は収まり、立ち止まっていく。

 

「はぁ……彼奴らは常識すら破るのか?」

 

「ジル?」

 

アーサーはその声に反応して緋色に視線を向けると緋色は不安と疑問の両方を抱いた表情をしており、恐る々に話しかけてきた。

 

「君は本当に……ジルなのか?」

 

『アーサー!!』

 

「……違うな。俺は単に混乱のせいで出てきただけだ。じゃあな」

 

アーサーはそれだけを言うと私は主導権を返された……

 

「えーと……大丈夫だった緋色?」

 

「……取り敢えず。一から説明してくれるかな?」

 

緋色からそう言われた私は今回ばかりはアーサーを深く恨んだ。

 

もしかしたら友達として仲良くなれそうな緋色がアーサーのせいで離れるんじゃないかと思えたから……殺人鬼だし。

 

私は説明責任を果たす為に取り敢えず状況が落ち着いた話そうと言う約束を交わす事になった。

 

「(それにしても単なるマスコミがアレを破壊なんて出来るのかな?)」  

 

確かに存在する疑問を抱きながら。

 

~別視点side~

 

マスコミ侵入騒動が起こる中、対応に追われてもぬけの殻になった職員室に二人の侵入者がいた。

 

「これがカリキュラムか黒霧?」

 

「そのようです。雄英のUSJで救助訓練をするそうでその際にオールマイトが来るようですね」

 

侵入者の片割れである黒霧と呼ばれた男はそれを確認するとカリキュラムをしまう。

 

「手に入れたならさっさと帰るぞ。無駄に此処にいて見つかるのは面倒だ」

 

「分かっています……死柄木弔」

 

黒霧はそう言うと自身の身体である黒い霧を広げるともう一人の片割れである死柄木弔は迷う事もなく入った後、黒霧も消えてしまい残ったのは静かな職員室のみだった。



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USJ襲撃事件 ~前編~

マスコミ侵入騒動から数日が過ぎた頃、ヒーロー基礎学はオールマイトは授業の準備なのかおらず、相澤先生が取り仕切っている。

 

「今日のヒーロー基礎学だが……俺とオールマイトそしてもう一人の三人体制で見る事になった」

 

「(……どう思う?)」

 

『あり得る話だろう。何せどうやったのかマスコミの連中が警備システムを破って中に押し寄せたんだ。念の為に警備は厚くするのは当たり前だ。お前だってもうあの時みたいな修羅場は御免だろ?』

 

「(……そうね。もう嫌よあんな修羅場は)」

 

数日前マスコミ騒動によって避難しようとした生徒達だったが幸いにも踏まれて圧迫死した死人こそ出る事は無かったけど怪我人は多かった。

 

私を含めた動ける生徒で保健室に送ったり、後で緋色から人格の変化について説明を求められたりして大変で……思い出しただけでも嫌になる。

 

でも、緋色は私の人格には殺人鬼のアーサーがいると聞いても笑ってそうかと言っただけだった。

 

理由を聞いたら。

 

「確かに殺人鬼なんて物騒な人格は怖いさ。だけどそのアーサーが私を危ない所を助けてくれたのは事実だし、何より君が危険な人間ではないと知ってる。それに何だか君がほっとけなくてね。私はそんな理由だけじゃ絶縁なんてしないさ」

 

緋色の理由を聞いた私は安心して腰が抜けてしまい暫く動けなくて緋色を困らせたな……と言うのが前の結果だった。

 

「はーい!何するんですか!?」

 

「災害水害なんでもござれ。人命救助(レスキュー)訓練だ!!」

 

相澤先生はそう言ってレスキューのプレートを取り出して見せた。

 

「レスキュー……今回も大変そうだな」

 

「ねー!」

 

「バカおめーこれこそヒーローの本分だぜ!?鳴るぜ!!腕が!!」

 

「水難なら私の独壇場ケロケロ」

 

「おい、まだ途中」

 

レスキュー訓練と聞いた皆が騒ぐのを睨みながら注意した相澤先生はコスチュームの棚を動かす。

 

「今回コスチュームの着用は各自の判断で構わない。中には活動を限定するコスチュームもあるだろうからな。訓練場は少し離れた場所にあるからバスに乗っていく。以上、準備開始」

 

「さて……着替えないと」

 

『待て。コスチュームを着るんだろ?』

 

「(え?いや、あの服装はあまり救助向けじゃないから体操服に着替えるのよ)」

 

『おいおい、せっかくのコスチュームだろ?救助向けとかそんなのを決めるのは一度やってみてから決めろよ』

 

「(それって貴方が着たいからでしょうに……分かったわよ。確かに正論ではあるしね)」

 

私は諦めて棚から自分のコスチュームを手に取ると他の女子メンバー達と更衣室に向かって歩いていく。

______

____

_____

 

コスチュームに着替えた私達は集合場所であるバスの所まで来ると出久君があの時の訓練でコスチュームがボロボロになった為に体操服だったり、飯田君が委員長としてやる気をフルスロットルに出して張り切ったりする中、私は自分の手を見た。

 

別に何も無いけど私に見えるのは血塗れの手、人殺しの手だ。

 

私は……人を救うヒーローに相応しいのか私にはもう分からない……でも、それでもまだ機会があるなら私はヒーローを目指して歩き続けたい。

 

私は手を強く握り締めた後、私は飯田君の指示の元でバスに乗り込んだ……けど。

 

「こう言うタイプだった!くそう!!!」

 

「意味なかったなー」

 

飯田君は予想を外した席の形であった事に悔しそうに落ち込むけど私としてはやる気があって指導力のある飯田君はとても良いと思う。

 

「私思った事を何でも言っちゃうの緑谷ちゃん」

 

「あ!?ハイ!?蛙吹さん!!」

 

「梅雨ちゃんと呼んで。貴方の個性、オールマイトに似てる」

 

バスに揺られる中、梅雨ちゃんの発言にあからさまに出久君が驚いて慌てる姿に私は首を傾げる中、皆は話を進めていく。

 

「そそそそ、そうかな!?いやでも僕はそのえ」

 

「待てよ梅雨ちゃん。オールマイトは怪我しねぇぞ。似て非なるアレだぜ。しかし増強型のシンプルな個性はいいな!派手で出来る事が多い!俺の硬化は対人じゃ強えけどいかせん地味なんだよなー」

 

「僕は凄くカッコいいと思うよ。プロにも十分通用する個性だよ」

 

「プロなー!しかしやっぱヒーローも人気商売みてぇなとこもあるぜ!?」

 

『人気商売ね……気に入らねぇな。悪を裁く為の正義って言うのはそんな安っぽい理由の為にあるんじゃねぇぞ』

 

アーサーは人気商売と言う言葉に批判的な態度を見せた。

 

確かにヒーローは人々を守る為に国から認められた存在であり、悪を捕まえて法の裁きを掛けさせ、時には災害から人々を助け出す。

 

それこそヒーローたる者達が求められる理由であり、芸能人の様に人気さえあれば成立する仕事ではない。

 

「僕のネビルレーザーは派手さも強さもプロ並み」

 

「でもお腹を壊しちゃうのは良くないね!」

 

青山君に芦戸さんがそう言うと青山君の表情は何処か暗くなった。

 

話題は尽きず、今度は勝己と轟君や私に向けられた。

 

「派手で強えっつったら轟と爆豪だな」

 

「派手さこそ無いけど霧先さんも強いし優しいよね。きっと人気が出るよ」

 

二人だけじゃなくて私まで誉められるのは少し照れ臭い……でも私はそこまで優しくない。

 

血塗られさえしなければ私は……素直に認められたかしら。

 

バスの中は話で盛り上がる中、私は内心では暗いまま目的地へと揺られる。

_______

_____

___

 

目的地に着いた私達が見たのは遊園地を連想させる様な演習場で土砂崩れや火災、水害と言った災害が再現され、そこにあった。

 

『おいおい。どんだけ広いんだよ。金かけすぎだろ?』

 

「(無駄にはしてないんだから良いじゃないの。まぁ、本当に大きすぎるけど)」

 

「スッゲーーー!!USJかよ!!?」

 

凄すぎて確かにUSJみたいな感じに見える施設を見ているとそこへ宇宙服みたいなコスチュームを着たヒーローが着た。

 

「水難事故、土砂災害、火事、etc……あらゆる事故や災害を想定し僕が作った演習場です。その名も……嘘の災害や事故ルーム!!略してUSJ!!」

 

「(USJだった!?)」

 

『大丈夫なのか!?あの有名な遊園地に怒られないのかそれ!?』

 

私だけでなくアーサーまでもツッコマずにはいられないパクりの極みみたいな名前に驚愕するいや、するしか選択肢が無さすぎる。

 

「スペースヒーロー、13号だ!災害救助で目覚ましく活躍している紳士的なヒーロー!」

 

「私、好きなの13号!」

 

ヒーローオタクの出久君と好きなヒーローであった為にはしゃいでいる麗日さんは興奮する中、相澤先生と13号先生は何かを話した後、そのまま授業を始める姿勢に入った。

 

オールマイトは……まだ来てない?

 

『何だ?No.1ヒーローとあろうものが遅刻か?』

 

「(オールマイトが遅刻したとしても誰かを助けていたからじゃないからかしら?教師とは言え皆のヒーローであるオールマイトが悪事を見過ごすとは思えないし)」

 

『案外、ヘマをして出てこれないからだったりしてな』

 

アーサーは面白おかしく言うけどオールマイトがそんな間抜けな事をする筈がないと信じて私は授業に集中する。

 

「えー始める前にお小言を一つ二つ……三つ……四つ……」

 

「(増えた……)」

 

13号先生のお小言が増える現象に私は唖然とすると13号先生はお小言を言い始めた。

 

「皆さんご存知だとは思いますが僕の個性はブラックホール。どんな物でも吸い込んでチリにしてしまいます」

 

「その個性でどんな災害からも人を救い上げるんですね」

 

「えぇ……しかし、人を簡単に殺せる力です。皆の中にもそう言う個性がいるでしょう」

 

私はそれを聞いて初めて殺人を犯した事を思い出してしまった。

 

連続強盗殺人犯であるヴィランをこの手でナイフで切り裂き、喉を貫いて殺害した……

 

私は13号先生のその言葉は私にとって自分を責める鞭の衝撃の様なものだった。

 

淡々と説明する13号先生の授業が全く耳に入らない。

 

「以上!ご静聴ありがとうございました」

 

「あ……しまった……」

 

『しっかりしろ。聞いてなかった内容は後で俺が教えてやる」

 

「(ごめん……)」

 

私はアーサーに短く謝った時に噴水の方に黒い靄が見えた。

 

「(何かしら?)」

 

『……ジル。身構えろ』

 

「(え?)」

 

「一塊になって動くな!13号!!生徒を守れ!!」

 

相澤先生から想像できない大声で指示が飛び、13号先生は私達を庇う様に身構えた。

 

「何が起きてるの……?」

 

『分からないか?俺達は今度は訓練での実戦じゃなく、本気の実戦をするのさ』

 

アーサーのその言葉を聞いた私はその意味を知った時、相澤先生が叫ぶ。

 

「ヴィランだ!!!」

 

相澤先生がそう叫ぶ中、ヴィラン達は靄を抜けて出てくる。

 

その数は20人近く……何でこんな所にヴィランが現れたのか知らないけど私達は今、訓練ではない命のやり取りをすると言う事が嫌でも理解できた。



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USJ襲撃事件 ~中編~

突如として現れたヴィラン達に私達は混乱していた。

 

仮にも此処はヒーロー育成を目的とする雄英でまだ有精卵とは言え、ヒーローを志す生徒と現役ヒーローが教鞭を取る様な学校なのだ。

 

なのに奴等は堂々と侵入し、襲撃してきたのだ。

 

「13号に……イレイザーヘッドですか……先日に頂いた教師側のカリキュラムではオールマイトが此処にいる筈ですか……」

 

「やはり先日のはクソ共の仕業だったか」

 

先日のあのマスコミ達を扇動したのはヴィラン達だと私は聞くと拳を強く握り締めた。

 

何がしたいのか知らないけど緋色達の様なヒーロー関連の学科に無関係な人達もいる中で騒動を起こして怪我人まで出した奴等に私は許せずにいた。

 

「何処だよ……せっかくこんなに大衆を引き連れてきたのにさ……オールマイト……平和の象徴……いないなんて……子供を殺せば来るのかな?」

 

手の様なマスクやあちこち手を取り付けてる不気味なヴィランはそう言うと私は恐怖よりも怒りが勝りつつあったけど私は抑える。

 

こんな所で人を殺したら雄英にはいられない……やるとしたら無力化させるしかない。

 

「(アーサー。分かってるわよね?)」

 

『分かっている。万が一でも殺しはしないだろ?だが、手加減なんて悠長な事を彼奴ら許すと思うか?』

 

アーサーの言葉に私は項垂れた。

 

ヴィランの数は増えてる……経験や数で勝る相手に手加減なんて出来るのか私には分からないけどもし、戦わざるえないならやるしかない。

 

「先生!侵入者用のセンサーは!」

 

「勿論ありますが……!」

 

「現れたのは此処だけか学校全体か……何にせよセンサーが反応しねぇなら向こうにそういう事が出来る個性がいるって事だな。校舎と離れた隔離空間。そこに少人数が入る時間割……バカだがアホじゃねぇこれは何らかの目的があって用意周到に画策された奇襲だ」

 

轟君の予測は恐らく正しい。

 

確かにこの個性社会において電子機器に影響を与える個性を持つ者もいる。

 

最初からいないなんて予想をする方がおかしい。

 

そして時間割の情報流失……こいつらのせいで何れだけの生徒が恐怖に怯え、怪我を負ったか。

 

「13号避難開始!学校に電話試せ!センサーの対策も頭にあるヴィランだ。電波系の奴が妨害している可能性もある。上鳴、お前も個性で連絡試せ」

 

「ッス!」

 

相澤先生はそう指示を出すと一人、ヴィラン達の所へ行こうとしている。

 

まさか一人で戦うつもりなの?

 

「先生は一人で戦うのですか!?あの数じゃ幾ら個性を消すっていっても!!イレイザーヘッドの戦闘スタイルはヴィランの個性を消してからの捕縛だ!正面戦闘は……」

 

「一芸だけじゃヒーローは務まらん。13号!任せたぞ」

 

出久君の制止を他所に相澤先生はそれだけを言うと捕縛布を手にヴィラン達に向かっていく。

 

『あの先生……良い事を言うな。覚えとけよジル。ヒーローもヴィランもそして……殺人鬼も一芸だけじゃ務まらない。それを見ておけ』

 

アーサーに言われて私は相澤先生の戦いを見守る。

 

ヴィラン達は個性で相澤先生を迎撃しようと狙うけど相澤先生に個性を消されて撃てず、そのまま捕縛布で拘束し、ヴィランの二人をぶつける。

 

相澤先生の初手が終われば今度は異形系の個性を持つ岩の様な身体のヴィランが現れたけど顔を殴られて瞬殺すると同時に捕縛布で足を絡ませ、後ろから来たヴィランの攻撃を躱し、そのまま捕縛布を引っ張れば足を絡ませておいた異形系のヴィランが飛んできてそのまま後ろから攻撃したヴィランにぶつかった。

 

凄い……何れも隙が無く、洗練された技の数々……私は相澤先生と戦っても勝てる自信が無いくらいに実力差を見せつけられた。

 

『良いか?これが経験を持つ奴の動きと戦いだ。無駄な動きは最小限に。攻撃は隙をなるべく無くし。そして相手に確実にダウンさせる攻撃を行う。戦う事を専門とする奴には必要な要素だ。彼奴はそれを合理的な動きで行っていて模範としては良い。見ていて損は無い』

 

「(そうね……残念だけど避難しないといけないけどね)」

 

『本当にそうか?絶対に逃がしちゃくれないぞ?何せ、此処まで計画的なんだ。増援を呼ばせない為に俺達を始末したがるだろうな』

 

アーサーの言葉に私は出入り口の方へ振り返って出久君達と避難しようとするとそこへ靄を広げていた黒い霧の様なヴィランが現れた。

 

「させませんよ」

 

「ッ!?しまった!!」

 

奴の後ろは出入り口であり、つまり私達は退路を完全に断たれてしまった。

 

「初めまして。我々はヴィラン連合。せんえつながら……この度、ヒーローの巣窟。雄英高校に入らせて頂いたのは……平和の象徴。オールマイトに息絶えて頂きたいと思っての事でして」

 

「オールマイトを……!?」

 

『コイツら……』

 

ヴィランの目的がまさかオールマイトの殺害だなんて……無謀な事でしかない考えとしか思えないけど殺害計画が立てられたのなら可能性があると言う事になる。

 

「本来ならば此処にオールマイトがいらっしゃる筈……ですが何か変更あったのでしょうか?まぁ……それとは関係なく……」

 

ヴィランの個性は恐らく場所をワープ出来る個性で自分や周りの人達を他の場所にワープ出来ると思える……つまり、私達も例外は無く。

 

「全員そいつから離れて!!」

 

「遅いです。私の役目はこれ」

 

身体を揺らして私達を何処かに飛ばそうとするヴィランに私は咄嗟に叫ぶけど皆が上手く反応しない。

 

私はナイフを投げて少しでも皆が離れる時間を稼ごうとしたけどそこで二人の影が飛び出てヴィランを攻撃した。

 

攻撃したのは勝己と切島君だ。

 

「その前に俺達にやられる事は考えてなかったのか!?」

 

「この馬鹿二人!!13号先生の邪魔よ!!」

 

『あーあ……何してんだよ。こいつら』

 

私は二人が行った愚策に慌てて退くように促すけど土煙と共にヴィランが無傷で現れたのだ。

 

「危ない危ない……そう……生徒と言えど、優秀な金の卵」

 

「駄目だ退きなさい二人共!」

 

「退くのよ!退け!!」

 

私は必死にそう叫ぶけど既に遅く、ヴィランの個性が発動してしまった。

 

黒い靄が覆い、私達を何処かに散らそうとする中、私はアーサーに主導権を取られ、その場から飛び退いた。

 

私の視線には13号先生、麗日さん、芦戸さん、飯田君と言った面々は無事だったが出久君等を含めた一部の皆がいない事に気づいた。

 

『そんな……!』

 

「今は気にするな。彼奴らなら必ず状況を打開して戻ってくる。知ってるだろ?彼奴らは……強い」

 

アーサーの言葉に私は我に帰って気を取り直すとアーサーはニヤリと笑ってヴィランを睨む。

 

「おや?そこのお嬢さんはかなりやる気がある様ですね?」

 

「駄目です!ヴィランから離れて!!」

 

「まぁ、ジルならそう言われたら引き下がるかもな……だが!」

 

アーサーはそう言って地面を蹴り、ナイフを手にするとヴィランに向かって躍り出た。

 

『アーサー!!』

 

あのヴィランは物理的な攻撃は通用しない。

 

なのにアーサーは何をするつもりなのか分からないまま、アーサーはそのまま。

 

 

 

ナイフでヴィランを叩き切った。

 

 

 

え?叩き切った?

 

物理的な攻撃が効かなかったヴィラン相手に?ナイフにはたしかに血らしき何かが付いてる……

 

「ぐうッ!?貴様!!」

 

「はッ!思った通りだ!お前、本体があるな?」

 

『本体?』

 

「個性を持つ奴は……大概は人間だ。それは異形系だろうが関係無くな。だったらこいつは?個性が発現してから身体は?だったら試すのさ。中身があるのかなてな!」

 

アーサーはあの状況でヴィランの特性を観察し、そしてあの黒い靄が本体では無く、中身に本体がある事を突き止めた。

 

「だが、それでもナイフの感触が浅かった。あの黒い靄は確かに物理は無効に出来る。だが、全てでは無い」

 

アーサーはそう言ってニヤリと笑ってナイフの刃をちらつかせる中、ヴィランは苛つきながらもあくまでも冷静にアーサーを見つめる。

 

「……貴方は何者なんですか?」

 

「俺か?俺はなぁ……お前達が虐げてきた弱者。そして亡者さ」

 

アーサーはそう言って両手を広げて、笑う。

 

その左手には鈍く光るナイフ。

 

「亡者……ですか?」

 

「あぁ、そうだ!亡者が地獄から、お前達を殺しに来たぜ!……と言っても先生方の前では殺りはしないし、ジルの望みじゃないからな。まぁ……痛い目に合う事には代わりはないぜ」

 

アーサーはそう名乗り終えるとヴィランの姿勢は戦闘態勢であり、その姿には油断が無い。

 

13号先生達はアーサーの滲み出る殺気や威圧で身体が固まっている。

 

お願いだからアーサー……やり過ぎないで。

 

「この個性社会。亡者の様な方もいてもおかしくありませんね……貴方はどうやら相手にするのはかなり面倒な方の様です」

 

「なら、とっとと捕まれ。さもないと……殺すぞ」

 

「霧先さん!!離れて下さい!!」

 

アーサーから発せられた殺すと言う言葉に反応してか13号先生がそう言うとアーサーはこれからなのにとばかりに不機嫌になりながら油断無くヴィランに視線を向け続けながら言う。

 

「テメェは他の生徒を守れ。こいつは俺がやる」

 

「許可しません!今の貴方は……危険です」

 

「危険?」

 

「貴方の行動力と洞察力は評価します。ですが忘れたのですか。個性は」

 

「人を殺す事が出来る。分かってるさ」

 

「なら!」

 

「こいつはお前とは相性が最悪だ。お前の個性であるブラックホールの隙を突いてワープでカウンター……はい、終わりだ。テメェはテメェの個性で死ぬかもしれないな?」

 

アーサーの予想に13号は何も言えず黙る中、アーサーは叫ぶ。

 

「テメェの役目は生徒を避難させる事だろ!!だが、今は無理だ……飯田を突破させろ!!理由は分かってるな!!」

 

「貴方も生徒じゃないですか……!しかし今は……委員長!」

 

「は…は!!」

 

「君に託します。学校まで駆けてこの事を伝えて下さい。警報鳴らず。そして電話も圏外になっていました。警報器は赤外線式……先輩……イレイザーヘッドが下で個性を消し回っているにも拘わらず無作動なのは……恐らくそれらを妨害可能な個性がいて……即座に隠したのでしょう。とするとそれを見つけ出すより君が駆けた方が早い!」

 

13号先生の言う事が最もだと私も思えた。

 

アーサーもその可能性に辿り着いていて飯田君を走らせて知らせた方が速いと考えたから飯田君を突破させる様に言ったのだ。

 

「しかし!クラスを置いて行くなど委員長の風上にも…」

 

「行けって非常口!!」

 

「外に出れば警報がある!だからこいつらはこん中だけで事をおこしてんだろ!?」

 

「外にさえ出られりぁ追ってはこれねぇよ!!お前のその足で靄を振り切れ!!」

 

「救う為に個性を使って下さい!!霧先さんの為にも!!」

 

「食堂の時みたく……サポートなら私超出来るから!する!!から!!お願いね委員長!!」

 

「テメェが一番の足を持っているんだ!!守りたい者があるなら自分の行動で守れ!!」

 

周りにいる皆やアーサーの声に押され、飯田君は駆け出した。

 

ヴィランは飯田君を阻止しようとするけどアーサーのナイフの投擲が邪魔をした。

 

『分かってると思うけど……手加減してね。色々と聞き出さないといけないし』

 

「ふん。分かってる。さて……始めるとするか。黒靄野郎!」

 

「貴方は13号よりも危険ですね……此処で必ず芽を摘み取らせて頂きましょう」

 

初めての実戦……それは私以外の皆であり、私はあの時に初体験はアーサーが殆どやったけどある意味では終わっている。

 

人を殺したからかヴィランが目の前にいて殺そうとしてきてるのに異様に落ち着いていられた。

 

……必ず、皆を守る。

 

どんな手を使ってでも。



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USJ襲撃事件 ~後編~

私は殺しこそしないけど目の前にいるヴィランだけは倒すと決め、あのヴィランも飯田君を諦めたのか私に集中し、全力で殺そうと狙っている。

 

「良いのか?飯田が逃げちまうぞ?」

 

「確かに厄介ですね……ですが……貴方は私が阻止しようとしたらそれを阻止しようと動く……そうでしょう?」

 

「当たり前だ。増援を呼んでくれた方がこいつらの為になる」

 

アーサーは周りにいる皆の事を指して言うとヴィランは身構えた。

 

「貴方は非常に危険です。計画を台無しにされるだけではない……我々の存続にも影響しかねないと判断しました。つまり……此処で殺します」

 

「やれるもんならやってみろ!」

 

アーサーはそう言って地面を蹴り、ナイフでヴィランに飛び掛かるとヴィランはナイフの刃先が突き出される位置に小さなゲートを展開して背後から自分で刺せようと目論むがアーサーはそれを読み、咄嗟にナイフを引くと強烈な蹴りをヴィランの顔に目掛けて当てる。

 

個性の特性によってダメージは小さいがアーサーはそれに構わず追撃にナイフで右肩から左脇まで切り裂く様に振るう。

 

ナイフには血が付いている……だけど明らかに軽症であり、油断も無く防御に徹していたとしか思えない。

 

「流石の私もナイフの刃までは防ぎきれませんね。貴方は本当にヒーロー志望ですか?中々、鋭い切り込みです。そう……まるで殺し屋です」

 

「誰が殺し屋だ。亡者だって言ったろ。テメェは殺さずに捕縛しなきゃならねぇんだ。大怪我を負いたくなければ降参しな。テメェじゃ、勝てねえよ」

 

アーサーはそう言ってナイフを今度は頸動脈のある箇所に正確に振るうもヴィランは霧になってアーサーからの攻撃を避けると今度はアーサーの真下にゲートを展開し、落とし穴の要領で飲み込もうとするもアーサーはそれを飛び退いて避けるとアーサーとヴィランは再び身構えて対峙する。

 

「……確かに。少し戦っただけでも分かる。貴方は素人ではありませんね。熟達した何か……と予想します。殺すと言いましたが今、私が倒れる訳にはいきません。あの眼鏡を逃がした以上はそろそろ合流させて頂きますね」

 

「あぁ?逃げんのか!」

 

「撤退も戦略です。今は勝てないと分かれば引くのも手ですよ。では、これで」

 

「待て!!」

 

アーサーは逃げるのを止めようとしたがヴィランの方が早く、ゲートを展開されてそのまま逃げられてしまった。

 

これはまずい……あのヴィランは侵入と逃走の手段。

 

奴だけは逃がしてはいけないのに逃がしてしまった。

 

「ちッ……!追うぞ!奴は相澤の所だ!!」

 

「待ちなさい!」

 

「またお前か!今度もまた」

 

「無茶はしないで下さい」

 

アーサーと私は13号先生からまた止められるのだと思っていたけど私も含めて拍子抜けして13号を見る。

 

「僕にはもう貴方達を止める事が出来ません……する資格もありません。ヒーローとして教師として私がヴィランと戦うべきでした。ですが……私は生徒をバラバラに移動させられただけでなく、貴方に怖気ついて只、止めるしかしませんでした……先輩の所に行くなら"貴方達"の方が適任です。だから……必ず無事に戻って来て下さい」

 

「……ふん。そんな事は分かってるさ。あんたは自分を過小評価しているが……あんたは戦闘にあまり慣れていないだけで人を災害から助ける良いヒーローだ。辞めるなよ」

 

アーサーはそれだけを言うと相澤先生が戦う広場へと駆け出して行く。

 

他の皆が呼び止めようとする声も聞かず私達は只、ひたすら駆け出してヴィランの群れで戦う相澤先生の元へと急いだ。

________

_____

___

 

私はアーサーが操るままに身体を任せて相澤先生がいる広場へと来るとそこには相澤先生が脳が剥き出しの巨体なヴィランに右腕を握り潰されて取り押さえられていた。

 

右腕だけじゃない……左腕も……頭も……

 

やめてよ……やめろ……やめろ……!

 

「やめろ!!!」

 

私はいつの間にかアーサーから主導権を取り返していた。

 

声は響き、ヴィラン達や水辺にいる出久君や梅雨ちゃんに峰田君もいる。

 

でも、今はそれを気にする訳にはいかない……自分の身は自分で守って欲しい。

 

私は今……とても熱い……まるで血そのものが燃えてる様な気がする……

 

私はゆっくりと歩き、ヴィラン達の前にやって来ると私は睨み付けた。

 

「相澤先生を……離せ。屑共」

 

「……誰だコイツ?こんな奴、俺達に着いてきてたか?」

 

「いえ、違いますよ。死柄木弔。奴は雄英の生徒です。……かなりの手練れですよ。しかし……瞳が二つとも真っ赤に……何が……?」

 

そこには逃がしたヴィランがいて死柄木弔と言う手だらけお化けのヴィランに報告している……奴が親玉?

 

「はぁ?どう見てもヴィランだろうが。見ろよあの殺気。他の奴らはビビって声も出してねぇぞ」

 

誰がヴィランよあの手だらけお化けめ。

 

私は確かに怒ってるけどね……お前達とは違う。

 

「もう一度言うわ。相澤先生を離せ。さもないと単なる怪我じゃ済ませないわよ」

 

「面倒くせぇ……脳無。殺れ」

 

脳無って呼ばれた脳味噌お化けがとんでもない速さで向かってきた。

 

でも何だろう……全く怖くないし、視認しきれない訳でもない。

 

寧ろ、コイツを今なら確実にやれる……弱点みたいな所は自分から出してるみたいな奴だし。

 

私は右に逸れてみると脳無の拳は私のいた位置の地面を砕き、そこから右に逸れた私を攻撃しようとしてきたから私はナイフを横薙ぎに振るった。

 

血が激しく飛び散り、返り血を浴びる中、私は静かに脳無を睨む中、脳を直接切られた脳無はガタガタと震えて動かなかった。

 

「は?どうした?」

 

「……恐らく脳を傷つけられたからでしょう。脳は生きる全ての生き物にとって非常に重要な器官。いくら超再生を持ってしても直接、脳を切られたりすればその再生は正確性を失い、誤作動を引き起こしたのでしょう」

 

「ちッ!いくら強くても弱点剥き出しじゃ意味ねぇじゃねぇか!!」

 

死柄木弔は怒り狂いながら叫ぶけど私には関係無い。

 

私は死柄木弔の元へゆっくりと歩き出せば他のヴィランが怯えたり、逃げ腰になったり、私に攻撃しようと身構える者で溢れる。

 

「逃げて!!ジル!!」

 

「止せよ!!あのクソ強いヴィランを倒しても相澤先生がボロボロなのにこの数を相手にすんのは無理だよ!!」

 

「霧先ちゃん……」

 

三人は不安の中にいる。

 

私は少しでも落ち着いて欲しいから笑顔で三人を見る。

 

「大丈夫。絶対に皆を助けるから」

 

私はそれだけを言うと身構えていたヴィランは恐怖に負けたのか一斉に掛かってきた。

 

「邪魔よ。雑魚が」

 

私は殺さない様にナイフをヴィラン達に向けて切り、刺し、抉り、蹴り、殴り、また切り、刺す。

 

切れば切る程に返り血が飛び散り、私に降り掛かる。

 

私の身体は返り血で真っ赤になる中、私はヴィラン達を蹴散らすと血糊を払って再び歩き出す。

 

「何なんだよコイツは!!」

 

「死柄木弔!脳無は今は動けません!離れて下さい!!」

 

「うるせぇ!!俺がこんな奴にビビって退いたなんて出来るか!!」

 

死柄木弔は怒り狂いながら私に殺気を向け、私は構わず彼の所へ来ると対峙した。

 

「……帰れ。さもないと目的のオールマイトに会う前に切り刻むわよ?」

 

「……仕方ない。オールマイトが来ないうえに何十人ものプロ相手じゃ敵わない。ゲームオーバーだ。あーあー……今回はゲームオーバーだ……帰ろっか」

 

死柄木弔は帰ると言う発言。

 

本当に信用が足るのか?

 

今回はと言う事は次もオールマイトを狙う陰謀を企てて来るのか別の陰謀を練るのかは知らないけど……今は退いて欲しい。

 

このままじゃ相澤先生が死んでしまう……何とか退かせて相澤先生を助けないと。

 

私はそう考えていた矢先死柄木弔は動いた。

 

「けどもその前に平和の象徴の矜持を少しでもへし折って帰ろう!」

 

死柄木弔は目にも止まらない速さで遠くにいた三人に向かって行き、何かの個性を使うつもりなのか梅雨ちゃんに降れようとしている。

 

「ッ!?彼女から離れろ!!」

 

私はナイフを投擲しようとするけど此処で脳無が持ち直したのか私に攻撃を仕掛け、私はそれを避けるしかなかった。

 

私は脳無からの攻撃を避けながら隙を突いて梅雨ちゃんを見ると何もされていない……いや、相澤先生がギリギリで個性を使ってくれたのだ。

 

「手ッ……離せぇッ!!」

 

「脳無」

 

今度は出久君が仕掛けた時、死柄木弔の言葉を聞いた脳無は私から離れて死柄木弔を守る形で盾になると出久君の強烈なパンチが脳無を襲った。

 

「SMASH!!!」

 

出久君のその叫びと共に攻撃は行われると土煙が広がる。

 

「………終わってない」

 

私はそう呟いた時、そこには無傷の脳無が出久君を見下ろす形で見ていた。

 

「良い動きするなぁ……スマッシュってオールマイトのフォロワーかい?まぁ、良いや君」

 

「出久!!!梅雨ちゃん!!!」

 

私は脳無に掴まれた出久君と死柄木弔に再び襲われる梅雨ちゃんを助けようと動くと今度はあの靄ヴィランが私の邪魔をする。

 

「貴方の相手は私が暫く勤めましょう」

 

「邪魔よ退けぇッ!!!」

 

私はナイフを突き立てて殺してでも駆けつけるつもりでヴィランを突破しようとした時、出入り口の扉が破壊された。

 

私やヴィラン達も動きを止めて注視する中、そこから現れたのは。

 

「もう大丈夫。私が来た」

 

「……オールマイト」

 

「オールマイトーーー!!」

 

やっと……来てくれた……遅すぎるわよ平和の象徴なのに……でも……

 

「笑ってないわね……」

 

私がそう呟いた時、オールマイトは一瞬の内にヴィランを蹴散らし、相澤先生を助け出すと今度は私をそして、出久達を助け出した。

 

私は徐々に意識が朦朧とする中、私はオールマイトに何て言い訳しようか考えているとオールマイトは私の肩に手を置いた。

 

「良くやった。後は私に任せて休みたまえ。……負担を掛けさせて済まなかった」

 

オールマイトのその言葉に私は意識を失って誰かに抱えられる様に倒れた。

 

何か前と同じね……

 

~周辺side~

 

ジルが気を失うとオールマイトは彼女の頭を優しく撫でた。

 

「……私がもっと早く来ていれば彼女に血を浴びせさせるまねはさせなかった……済まない……霧先少女……」

 

「オールマイト……」

 

「彼女を頼むよ。私は私の役目を果たすとしよう」

 

オールマイトはそう言ってジルを出久達に託すとオールマイトはその無茶に答えるべく、ヒーローとして平和の象徴として動き出す。

 

誰かの為に血を浴び、その姿を友に見られ、恐れられながらも仲間の為に戦ったたった一人の少女の為に。



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罪に罰を 

私はまた夢を見ているのか明かりの着いていない月光のみの何処か古い様式の家……と言うより事務所の様な所にいた。

 

私は辺りを見渡すと扉が開けられ中に入って来た人がいてその人は何処かアーサーに似ており、その腕にはコートに包まれた何かを抱えていた。

 

その人は腕に抱えていた物を下ろすとコートを取り払うとそこには緋色に似た少女が眠る様に死んでいた。

 

彼は少女を丁寧に血を拭き取り、怪我の痕を包帯で巻いた後、拳を握りしめた。

 

「……全部僕のせいだ……問題を解決する事が最善だと思った……彼女を匿う間に、敵の姿を暴けば良いと……だけど……違ったんだ。大切なものはこの手で守らないと。自分の知らない所で傷つけられ、奪われてしまう」

 

彼は大事な人を奪われたのだと理解した。

 

そうでなければ此処まで死んだ少女を運ぶなどまずない。

 

私は何故かそんな彼をアーサーの面影に重ねて見てしまう。

 

「ジャック。僕は……奴等が憎い。人から平然と大切なものを奪っていく奴等が憎い!そんな奴等が善人の顔をしてのうのうと生きている事が許せない!……お前もそうだったんだろ?切り裂きジャック」

 

私は彼の言葉を聞いて驚くしかなかった。

 

周囲を見渡しても何処にも切り裂きジャックはいない……なら、彼は何と、誰と話していると言うのか。

 

「……思うわけないさ。罪には罰を。犯した罪に向き合い、罰を受けるべきだ」

 

彼が誰と話しているのか分からない……だけど彼の言葉は私に重くのし掛かる。

 

罪には罰を。

 

その言葉は私の過去に起こした殺人と襲撃事件の際に傷付けたヴィラン達を思い出しながら私はうつ向く。

 

「僕が迷っていたからローリィは死んだ。もっと早く、こうすべきだった……お前の言う通り、悪を……」

 

悪を成し、悪を制す。

 

それは彼が言わなくても分かる言葉。

 

毒を以て毒を制すと同じ様に悪を以て悪を制す。

 

私はどうするべきだろう……

 

「……僕はいつだって迷って、目を背けてきた。それも今日で終わりだ。僕はもう、逃げない」

 

彼の目には決意と憎悪の火が灯っていた。

 

私は理解していた……でも、目を背けた。

 

彼こそがアーサー・ヒューイット。

 

切り裂きジャックの再来だと。

______

____

__

 

私は次に目を覚ますとそこは知らない天井……と言うより一度は知ってる天井だった。

 

此処は雄英の保健室の天井だと分かり、頭を押さえながら体を起こす。

 

「気がついたか?」

 

「……緋色?」

 

「そうだ。ヴィランに襲撃されたって聞いて驚いたよ。来てみれば服は血塗れだったし正直、重症なのかと疑ったぞ。花咲の二人も来てたがもう帰ってしまったし、僕も帰らせて貰うよ」

 

「緋色。その……私が血塗れだった理由……聞いた?」

 

「……聞いたさ。ヴィラン達を蹴散らしたんだろ。君の個性で。だが、正当防衛の筈だ。君もA組も危ない所だったんだ。そうでなければ抗議するつもりだった」

 

「するつもりだったって言う事は……」

 

「正当防衛さ。明らかなね。相澤先生は重症で13号先生は……落ち込んでるけどヴィラン側にも死人は出なかったから安心して欲しい」  

 

私はそれを聞くと安堵する中、緋色の位置とは反対にアーサーがいるのを確認した。

 

あの時……アーサーの姿が見えかったからどうしたのか気になっていた。

 

「(アーサー。今まで何処に?)」

 

『お前に取り込まれかけてた。ハッキリ言えば……怒りに呑まれた勢いで俺の魂とお前の魂が混ざり合いあったって所だ。それでも人格が分かれてたが』

 

「(魂……?)」

 

『俺もお前にも魂つまり、人格がある。それが混ざり合い、別の人格になりかけたって所だ』

 

アーサーの言う事は全く理解出来ないけどかなり危険な状態だったのは間違いない。

 

私はもうどうしたら分からなくなりそうになっていると緋色が私の手に触れた。

 

「どうした?顔色が悪くなったぞ?」

 

「……大丈夫……大丈夫よ……きっと……」

 

私は不安の中、両手を見る。

 

何でだろう……もう血は無いのに……真っ赤に見える……

 

「ジル。最近、可笑しいぞ。何が君をそこまで怯えさせるんだ?」

 

「私は……殺人鬼何かじゃない……私は……!」

 

「ジル……君は……」

 

私は緋色を見ると悲しげに見てくる緋色を見てしまった。

 

勘づかれた?

 

そうなら私は緋色を殺さなきゃいけないの?

 

私が不安や恐怖に陥る中、緋色は私を抱き締めた。

 

「大丈夫だ……君に何があったかは知らない……だがもし、君がもう折れてしまいそうなら私が支える。僕は何があっても君の味方だ。君の恐怖、君の不安も僕の物だ。……本当に何でだろうな。君を一人にしておけない。誰も君の辛さを知らないなら……僕が知る。君が良ければね」

 

緋色の優しいその言葉に私は涙を流して泣き崩れた。

 

リカバリーガールがいるかもと思っていたけど今はいないのか足音一つ聞こえない空間の中、私はただ、泣き続けた。

 

~別視点side~

 

襲撃事件から数時間が経過し辺りが暗くなる頃、緋色は難しい顔をしながら校門へと歩いていた。

 

「(人を殺した……か。思っている以上に大変な事になっているな……)」

 

緋色はジルの異変に気付き、訳を聞くべく少しずつ紐解いて聞き出した事が連続強盗殺人事件の犯人はジルが殺したと聞き出した。

 

緋色はその事実に驚きながらもそれを周囲に知られない為に口をつぐみ、墓まで持っていく事を決めた。

 

もはやジルと緋色は事実上の共犯、秘密を共有した仲となった。

 

「(しかし……今のジルは不安定だ。殺人鬼の人格が表に出始めてる今、彼女の意思は……)」

 

「お嬢」

 

緋色はお嬢と呼ばれた方を見ると黒塗りの車と体格の良い男がいた。

 

「遅いですよお嬢……もう夜じゃないですか」

 

「ごめんごめん。少し友達が落ち込んでてね。慰めていたら遅くなったよ。じゃあ、帰ろうか」

 

緋色はそう言って、男が後部座席の扉を開けた車に乗り込むと男は扉を閉め、運転席に乗り込むと車を走らせた。

 

「それにしてもお友達が落ち込んでいるとは何が起きたのですか?」

 

「女同士の秘密だ。言わないよ」

 

「そうですか……しかし、雄英もしっかりして欲しいですね。ヴィランが侵入してきて襲い掛かってきたと電話が鳴った時は親父達がカチコミに行きかねない程の騒ぎになりましたよ」

 

「それは僕が直接、電話で止めただろ?本当に過保護で困るよ」

 

緋色はそう言って苦笑いしながら言うとすぐに難しい顔に戻り、ジルのこれからを考えた。

 

~side終了~

 

私は緋色に秘密を打ち明けた後、リカバリーガールから帰宅する許可がおりて家に帰った。

 

母さんにまた心配させてしまった事を思えば気が重くなる中、私は家の玄関の扉を開けた。

 

「ただいま……」

 

私がそう言いながら玄関を閉めようとした時、私は微かに普段なら絶対にしない筈の匂いを感じた。

 

「……鉄臭いの匂い……ッ!?母さん!!」

 

私は嫌な予感がした。

 

そんな予感なんて当たらないで欲しいとばかり考えてリビングに急いで来るとそこには血塗れで倒れている母さんがいた。

 

手には警棒を手にしている事から抵抗しようとしていたのが分かる。

 

身体には銃で撃たれた様な痕がハッキリと残っており、私は鞄なんて投げ捨てて血に触れる事も構わず母さんを抱き上げた。

 

「母さん!しっかりして!母さん!!」

 

「……ジル?」

 

「母さん!?」

 

「ジル……ごめんなさい……私……貴方の苦し……み……に気付け……なかった……」

 

「苦しみ?」

 

「……殺人を……してしまった……のでしょ……?」

 

私は驚いていると母さんは笑って私の頬を撫でた。

 

とても弱々しいその手を私は触れずにいられなかった。

 

「此処にね……急に誰かが押し掛けてきて……抵抗したけど撃たれて……」

 

「もう良い!早く……病院に……!!」

 

「ボヤけて……分からな……かったけど………声……は……女性で……その……人か……ら……貴方が……殺人犯……だと……言われて……貴方が最近、塞ぎ込んで……た……のは……それが理由……なんだって知って……私……気付いてあげられなくて……」

 

「母さん……!」  

 

「ごめん……なさい……ジル……復讐に走ら……ないで……貴方は……ヒー……ローに……なるの……よ……殺人鬼……じゃない……誰に……でも慕われ……る……ヒーロー……に……」

 

母さんはそう言ってゆっくり静かに瞳を閉じると完全に力が抜けてしまい死んだ事が分かった。

 

分かりたくなくても……分かるしかなかった。

 

母さんは……死んだ。

 

「母さん……母さん……!」

 

『泣くなジル。酷な事だが……もう』

 

「お前に……何が分かるのよ!殺人鬼が母さんの死に対して!!」

 

『俺も母さんを殺された。だからお前の気持ちは分かる』

 

アーサーはそう言って女性を象ったカメオにそっと撫でた。

 

『母さんは警告の為に殺された。ある事件を父さんに追わせない為に。刺客を送り込まれて一人になった所を』

 

私はアーサーに言った事は暴言だった事に気付いてただ、落ち込むしかなかった私にアーサーは言う。

 

『辛くても向き合うしかない。お前の母親は何の為に殺されたのかは今は分からない。だが、このままで良いのかと思うのはお前自身だ』

 

「……良い訳がない。母さんを誰が殺したのかは分からない……一体何処の誰で何の為に殺したか……そんなのはどうでも良い……分かる事は一つだけ……母さんを殺した奴が許せない!!」

 

『罪には罰を。犯した罪に向き合い罰を受けるべきだ。だが、世の中にはその報いを受けない悪が山程いる。先代と俺。切り裂きジャックはそれが許せなかった。弱者を虐げる者。権力さえあれば思い通りになるなんて思ってる者。罪を犯しながら平然と暮らす者。そんな奴等が山程いてそいつらに振り回され続ける世界。そんなの許せるか?』

 

「答えなんてもう、知ってるでしょ?……この世界には悪党が多すぎる。間引きが必要ね」

 

『ジル。止めるつもりは無いが……それは茨の道だ。それ以上、進めばお前は悪党。つまりヴィランになる。それでも良いか?』

 

「私は何度も迷って、目を剃らして現実を見なかった。その結果が母さんの死なら……それが私への報いなら……それで構わない。私は……もう逃げない」

 

私は拳を血が出る程に強く握りしめ、決意を固める。

 

悪は私が裁く、その過程で必ず母さんを殺した人を……奴を見つけ出し、報いを受けさせてやる。

 

私は鏡の前に立つと自分の今の姿を見た。

 

雄英の制服に身を包んだ私。

 

かつてはヒーローになりたいと思った……今はもう……復讐の事しか頭にない……私は三つ編みを結んでいるリボンを取ってしまうと両目が紅くなる。

 

「行きましょう相棒……私達が」

 

「俺達が」

 

 

 

 

ジャック・ザ・リッパーだ



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動き出す殺人鬼

暗い夜の路地。

 

私は今、一人の悪を追い掛けていた。

 

「ひぃッ!?く、来るなぁッ!」

 

男は誘拐、人身売買、殺人、放火、強盗ともはや数えるのも馬鹿々しい罪状を持っており、見当違いな人を殺さない為に裏取りもしっかりやってから殺人を決行した。

 

迷路の様な路地を私は笑いながら男をなぶる様に追い掛け回し、恐怖を植え付けながら上手く路地の行き止まりまで追い込んだ。

 

「もう、逃げないでよね。追い付くのに苦労したじゃないの」

 

「あ、悪魔め!お、俺なんか殺しても何の特にはならねぇぞ!!」

 

「いいえ。特にはなるわ……悪がまた、一人減るの。さようなら」

 

私はそう言ってナイフで頸動脈を正確に狙って切り裂くと血は勢いよく吹き出し、私は返り血を浴びる中、血糊を払った後、近くの壁に分かりやすく血でメッセージを残す。

 

"FROM HELL(フロム ヘル)"

"Jack the Ripper(ジャック・ザ・リッパー)"

 

『上出来だぜ。ジル』

 

「ふふふ……明日のニュースが楽しみね」 

 

私は笑いながら明日のニュースの一面を楽しみその場から歩いて離れた。

________

______

____

 

~別視点side~

 

今朝、路地の奥で一人の男の無惨な遺体が発見された。

 

残されていた壁に書かれた血文字のメッセージに警察やヒーローはこの凶行に及んだヴィランである切り裂きジャックに怒りや困惑を覚えていた。

 

「被害者は多くの罪に問われているヴィラン。過去にヒーローが捕縛し逮捕に至ったが釈放。こいつの後ろには何か大きな組織があると噂があり、もう一度調べている最中に殺害されてしまった……か」

 

現場には近くにいた事からウィングヒーロー、ホークスが訪れていた。

 

ホークスが最初に目にしたのは何度か刺されたり、切られたりした傷があり、追い詰められた末に最後に首の頸動脈を一切りに切り裂かれた無惨な死体でホークスも流石に顔をしかめた程に酷い状態だった。

 

状態は死体が放置されていた事や壁に血文字のメッセージ、金品は手付かずで残され、金品目的ではなく殺人自体に目的を見出だす断定的な快楽殺人とされた。

 

そして……証拠は消されており、痕跡を追うにも掴めなければ追えない状況に陥っていた。

 

「FROM HELLね……まるでかの有名な切り裂きジャックじゃないか……と言いたいけど本当に切り裂きジャックと名乗ってくるとはね……」

 

ホークスはメッセージの中に自らの名前も入っており、Jack the Ripper、切り裂きジャックと名乗っているのだ。

 

「はぁ……自称切り裂きジャックのヴィランもいる所か見当が付かないし、これじゃヒーローがいても意味ないね」

 

速すぎる男と称されたホークスはお手上げとばかりに両手を挙げた後、少しでも切り裂きジャックの後を追うべく調査するが結局、追う所か尻尾すら掴めないまま幕を閉じた。

 

その頃、雄英では暗いニュースが舞い込んだ。

 

霧先ジルの母親が何者かに射殺、死亡し、ジルは行方不明となった。

 

残されていた物は丁寧に寝かされていたジルの母親とジルが日頃から身に付けていた青いリボン、ジルの自室に置かれていた退学届だった。

 

最初こそジルが母親の射殺の犯人とされたがわざわざ銃を使う程にジルは弱くないとされ、疑いは晴れたが何処へ消えたのか未だに行方不明となっている。

 

「何処に行ったんだろう……」

 

「霧先さん……」

 

「ちッ……」

 

「霧先さんはきっと大丈夫だ。彼女を信じて待とう」

 

緑谷や麗日は行方不明となったジルを心配し、勝己は無言で窓の外を見て、飯田はいつも通りの行動を心掛けているがそれでも心配である事は変わりなかった。

 

クラスの皆もジルを心配し、安否を少しでも知ろうとニュースや新聞を通して何か僅かな情報は無いかと探す者もいる。

 

だが、ジルの安否を探すのに夢中で記事の見出しに"切り裂きジャックの亡霊"と言う題名のニュースが乗っているのを見逃してしまった。

 

~side終了~

 

昼頃の時間帯になった頃、路地の壁に持たれながら私は新聞を読んでいた。

__________________________

 

〈"切り裂きジャックの亡霊"現る!?〉

 

今朝、路地の奥で無惨に切り裂かれた男性の遺体が発見された。

 

男は複数箇所の刺し傷や切り傷を受け、逃走するも追い詰められた末に頸動脈を正確に切られ、声も出せないまま出血多量で死亡。

 

金品の類いには手がつけられておらず、また壁には血でメッセージが残されていた。

 

"FROM HELL(フロム ヘル)"そして、"Jack the Ripper"(ジャック・ザ・リッパー)と書かれていた。

 

この事から我々は殺人犯に対して19世紀の殺人鬼が地獄より蘇ったと例え、"切り裂きジャックの亡霊"と称する事に決めました。

 

切り裂きジャックの亡霊は再び殺人を犯すのか?

 

此処で終えるのか?

 

また、ヒーローに取り押さえられるのか?

 

切り裂きジャックの亡霊の新たな情報が入り次第、ニュースの続報として記載致します。

 

__________________________

 

 

新聞を一通り読んだジルは新聞を軽く畳むと地面に捨て去って歩き出した。

 

『一先ず初めての仕事はこなしたな。新聞を見た限りではまだそこまで話題になっていないがな』

 

「これからよ。これから徐々に切り裂きジャックの名を知らしめる。知らしめ、法を逃れる悪を暴いて捌き、そして……母さんの仇を探し出す。私はその為なら何でもするだけよ」

 

『そうか。なら、次の獲物探しをしようか』

 

「獲物ね……悪は本当に多い。獲物が定まらなさすぎる

位に……あれはなに?」

 

私は路地の外側を覗き込む様に見るとそこでは人が大勢集まっていた。

 

老若男女と問わない群衆に私は何かあるのかと見る中、その中心には天使と間違えそうな程に綺麗な人が修道服を着た二人の男を連れていた。

 

「皆様。私達、アズエル教会そして私、フォールン・救火は社会的弱者の救済に主に力を注ぎ、活動しております。個性社会と呼ばれる現代では異質な個性であるから、異形の個性であるから、無個性であるからと差別が繰り返され、苦しむ人々が沢山います。我々はそんな社会的弱者を救済し、普通の生活を送れる日々を勝ち取る為にそんな彼らを助け、教会に招き、互いに力を合わせて共に活動しております。どうか我々、アズエル教会にご協力を。差別無き社会の為に戦いましょう。全ての人々に救済を」

 

綺麗な人ことフォールン・救火が演説を終えると周りの人々は大きな歓声と拍手で迎えた。

 

よく見ると異形系の個性持ちもいる事から差別に苦しむ経緯を持っていると推測した。

 

『何だ?この現代社会で新興宗教立ち上げしてるのか?』

 

「(さぁ?私にも分からないわ。でも良いんじゃない。人助けみたいな事を言ってるし)」

 

『いや……宗教と言うのは胡散臭い。一回調べてみようぜ』

 

「(宗教とか医者とか貴方って疑り深いわね。まぁ良いわ。調べてみて何かあれば……やるだけよ)」

 

私は今は暇と言う事もあってアズエル教会を調べてみる事にした。

 

個性差別を受ける者達への救済と撲滅を掲げる宗教団体……一見、良さそうだけどアーサーの勘通りならどんな悪事を働いているのかしらね。



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教会への調査

私はフォールン・救火の率いるアズエル教会を調査する為に人目を避けつつ教団員を追い、その教会があるとされる位置まで来るとそこには何の変哲も無さそうな大きめな礼拝堂が一つだけあった。

 

「(此処がアズエル教会?)」

 

『そうらしいな。どうする?一度入ってみるか?』

 

「(殺人鬼の私達が?)」

 

『別に顔バレまでしてないんだ。さっき入っていった信者らしい奴がいたが奴等の服装を見た限り、どんなご身分でも歓迎らしい。だったら堂々と入らせて貰おうぜ』

 

「(……まぁ、それもそうね)」

 

私はアーサーに賛同し、教会へ近づくとドアノブに手を伸ばして扉を開けた。

 

中には信者らしき人々がおり、静かに座っており何かを待っている素振りだ。

 

私は取り敢えず席を探して歩いていると視線に笑顔で手招きしている丸眼鏡の少し質素な服装をした女性がいた。

 

隣が空いているのが分かり、綺麗な人なのにもう少し着飾らないのかななんて思いながら私は遠慮なく座らせて貰った。

 

「ありがとうございます。助かりました」

 

「良いのよ。貴方、若いわね。学校は良いのかしら?」

 

「はい。もう……行く事はありませんので」

 

「……訳ありなのね」

 

女性は悲しげな表情を見せるけど私は特に何も思わなかった。

 

私に雄英を去った事には後悔は無い……あるのは復讐だ。

 

警察やヒーローでは裁けない悪を見つけ出し、罪を暴き、自らの手で裁く。

 

その先の目的である母さんの仇を取る為に。

 

その為なら……誰にも迷惑を掛ける必要が無くなるなら……辞めたって良い、行方を眩ませたって良いから。

 

「えぇ……そんな感じです。貴方は?この時間です。仕事をしていてもおかしくなさそうですが?」

 

「……私は……帰る場所を失くしたの……」

 

「帰る場所を?」

 

「そうよ……帰る場所……待っていてくれる人……その全てを……私の夫はどうしようもない人だった……でも、彼にも良い所があるって知っていたから……私はずっと一緒にいたかった……なのにあの人は私が肺を患ったばかりに……罪を犯して……殺されて……」

 

「(それって……)」

 

『成る程な。彼奴の妻か。こいつは』

 

私は過去に殺した連続強盗殺人犯のヴィランを思い出した。

 

彼は妻がいると聞いてたけどまさか、こんな所で会う事になるなんて……帰る場所が失くなったと言うのは恐らく、文字通りか周りの人からの嫌がらせか。

 

何れにしても私のせいね。

 

「そうですか……辛い思いをしましたでしょう。私も大切な人が殺されまして」

 

「貴方も?」

 

「そうです。母さんが……殺されました。犯人は誰かは分かりません。私は……犯人が憎いです。殺したくて堪りません。貴方はヴィランとは言え、貴方の大切な夫を殺した相手を恨んでますか?」

 

「……そうね。恨みが無い訳じゃないわ。でも、私は復讐を望まないわ。あの人が私の人生を壊したかもしれない。でもね……それでも病院で入院していた私に欠かさずにお見舞いに来てくれていたあの人は……どんなに他人に悪く言われても私にとっては優しい人だった。そんな彼が私が復讐をしたなんて知ったら悲しんでしまうわ」

 

綺麗事に聞こえる……でも、憎まない気持ち……それはどんなものかしらね。

 

とても重いものでしょうね……なら、もし貴方がその仇を目の当たりにしたら……恨まないといえるのかしら?

 

まぁ、言うつもりも無いけどね。

 

「そうですか……貴方は強い人ですね」

 

「そんな事はないわ。現に私は此処に来たから」

 

「それってどういう意味で?」

 

私はその言葉に疑問を持ち、聞いたが奥からフォールン・救火が現れ、女性は人差し指を立てて静かにと言う仕草を取った。

 

「皆様。お待たせしました。これより祈りの時間とさせて頂きます」

 

「(祈りの時間?……普通ね)」

 

私は宗教でもよくある様な事に首を傾げているとフォールン・救火は続ける。

 

「この祈りの時間によって今回の救済される方が決まり、その方は現世の枷から解放され、神聖な炎によって救われるでしょう」

 

「(救済される方?現世の枷?それに神聖な炎?……何だろう……急に胡散臭くなってきたわね)」

 

『新興宗教なんてそんなものだ。具体的に何されるか言ってないな……奴等の言う救済とは何か……気になるよな?』

 

アーサーの言葉に私は軽く頷くと聖歌が流れ、信者達は一斉に下を向いて目を閉じ、両手を合わせると祈りを捧げ始めた。

 

私もそれに習いつつ薄目を開けて周りの様子を伺うと聖歌はフォールンが聖歌を歌っており、その声は天にも届きそうな程の歌声だ。

 

だが、周りの教団員達は祈っていない。

 

寧ろ、何か……選別してる様子だ。

 

うつ向きながらで尚且つ薄目で見てるからよく見えないけど教団員は祈りを捧げていた男の人に話し掛けると連れて行き、奥にある重厚な扉を開けてそのまま中に入ってしまうと再び閉じられてしまった。

 

『怪しい扉だなジル。何でこの状況で連れていったのやら』

 

「(分からない。けど……この教団はおかしい)」

 

私はアズエル教会が何かおかしいと確信した時、聖歌は終わり、信徒達は祈りを止めて頭を上げ始めており、私もそれに合わせる。

 

「皆様。今回の救済すべき方が決まりました。かの方は救済の炎に当てられ、浄化され、天に召されるでしょう。選ばれなかった方々は気を落とさないで下さい。貴方方も必ず……救われますから」

 

フォールン・救火はそう言って天使の様に微笑むと他の信者達はありがたい物でも見た様に歓喜している。

 

隣にいる女性も同じで笑顔で祈る手を止めない……言わば狂信者とでも言うべき姿だった。

 

「(さて……取り敢えず内部事情は知れた。次の目的は……)」

 

『あの扉の奥に何があるかだ。……まさか、麻薬を扱ってないだろうな?』

 

「(神の家なのに?)」

 

『神の家だからって犯罪が無い訳ではないからな。ほら、気を見て此処から出るぞ』

 

私はアーサーの助言に従い信徒達が礼拝堂から立ち去り始めたのを見計らって私も外に出ようとしたけど誰かに肩を掴まれた。

 

「お待ち下さい。綺麗な紅い瞳の方」

 

『逃げそこねるなよ?』

 

「(分かってる)」

 

私は一呼吸すると反転して笑顔でそこにいるであろうフォールン・救火の方へ振り向いた。

 

「何でしょうか?」

 

「貴方は……初めての方ですね?」

 

「そうですが分かるのですか?」

 

「はい。信徒の方々のお顔を私は覚えているので貴方を見た時に初めての方だとお見受けしました」

 

フォールン・救火は笑顔でそう言ってくるけど私は内心、ヒヤッとした。

 

流石に初めて来た人なんて言ってもすぐに分かる者ではないと思う。

 

「それでご用件は?」

 

「……貴方は……此処へ何をしに参られましたか?」

 

「……参られましたかと言われても此処に興味があったので」

 

「それは随分昔に聞かせて貰った言い訳ですね。……アーサー・ヒューイットさん」

 

「ッ!?。……誰の事を言ってますか?」

 

まさかアーサーの名前を言ってくるなんて……でも、何でアーサーの事を知ってるの?

 

『……ジル。少し身体を貸せ』

 

「(どうするの?)」

 

『俺の予想通りなら……知り合いだ』

 

私はどうせ言っても聞かないと分かっているので素直にアーサーに身体を貸すとアーサーはニヤリと笑って見せ、フォールン・救火を見つめる。

 

「まさか……お前とまた会う事になるとはな……ザフカ・エル・ビナー」

 

「やはり貴方でしたか。大変お久し振りですね。だいたい……100年程ですか?」

 

「そんなもんだろうな」

 

嘘……アーサーは19世紀の殺人鬼。

 

当然、アーサーの知り合いなんて尽く死んでる筈……なのに此処にいるフォールン・救火もといザフカ・エル・ビナーはアーサーの知り合いとして此処にいる。

 

「今度は何をするつもりだ?麻薬か?遺体強奪か?」

 

「いいえ……そんな物では人は救えないともう分かっています。人を救う方法……それは私の手で救済する事です」

 

「……テメェ……あの時に言っていた救いとやらをやるつもりか……!!」

 

『救い?』

 

「(過去にこいつは医療用麻薬を使って洗脳し、金を巻き上げる広告塔の様な奴だった。俺はその裏で操っていた奴は殺したが証拠隠滅のつもりなのか火事を起こされて……麻薬に犯された信徒達は自ら炎に飛び込んで死んだ。その時にこいつは狂って自らの手で救いを与える……つまり、殺せば良かったと言ったんだ)」

 

『……それは……とても深い考えね……悪い意味で』

 

私は目の前の天使と思えた人物が悪魔の様な考えを持っている事に寒気を感じるとフォールン・救火の笑顔はまるで悪魔の様な物だった。

 

「人には寿命があります。いずれ来る死には抗えない。そこに貴賤はありません。ならば……社会の差別に苦しみ、治せない病で苦しみ、居場所を失って孤独に、全てに絶望した方々に救済し、痛みも病も差別すら無い楽園へと導くのです」

 

「あの時の男は?どうするつもりだ?救済の炎……まさか」

 

「救済の炎。それは火で身体を焼いて……楽園に導くのです」

 

フォールン・救火のその言葉に私はアーサーから無理矢理に主導権を奪い返すとその首にナイフの刃を突き付けた。

 

だが、フォールン・救火は笑っている……まるで殺されないとばかりの余裕だ。

 

「無駄ですよ。私が死んでも私を継ぐものが行います。そして周りをよく確認しましたか?此処はヒーロー事務所が建ち並ぶ中心地……騒ぎを起こし、私を殺せば貴殿方は終わりです。私を訴えてもこの地域のヒーロー達とは良い関係を得させて頂いています。そう……例え証拠はあっても私は捕まえられません。どちらを取ってもです」

 

フォールン・救火はそう言ってのけ、私はその言葉に怒りを抱いた。

 

状況が悪いなら仕方ない……機会をまた伺って計画を建てて殺せば良い。

 

でも……ヒーローと癒着しているなんて思わなかった!

 

人殺しを容認する新興宗教と腐敗したヒーロー達……最悪で卑劣な関係を持つこいつらはとても許せない!

 

『落ち着け。慌てる事はない』

 

「(でも!!)」

 

『俺は諦めたなんて言ってないぞ?策を練り直せば良い……そうだろ?ほら、変われ』

 

アーサーはそう言って私からまた主導権を取るとナイフを下げ、また笑みを浮かべた。

 

「アーサーさん。私は昔も今も変わりませんよ。死がもたらすのは……救いだと言う事を」

 

「……なら、俺が否定してやるよ。それが俺の役目だ。待っていろよザフカ……必ずお前を地獄に送り返してやる」

 

「それは楽しみですね。またのご来訪を……お待ちしておりますよ」

 

フォールン・救火はそう言って出口は彼方だとばかりに手を礼拝堂の扉に向け、アーサーは扉に向かって真っ直ぐと歩いていく。

 

その時のアーサーの表情はとても……悲しげだった。



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腐敗ヒーロー狩り

アズエル教会とフォールン・救火の正体を掴んだ私は現状では彼等を裁く事が出来ない為に退いたけど……待っていても事態は変わらないし、被害者も増えてしまう。

 

なら、どう動こうかしら?

 

『先ずは奴等の後ろ楯をどうするかだ。腐敗してるとは言え、ヒーローはヒーロー。実力云々は兎も角、ヒーローとして活動しているなら支持もある。もし、信用するなら殺人鬼かヒーローかなんて聞けば間違いなくヒーローだと答える奴が圧倒的だろう。だから先ずはそのヒーロー共から消すぞ』

 

「(それならアズエル教会に繋がってるヒーローを探し出さないといけないわね)」

 

『簡単だ。教団員の連中に聞けば良いのさ。夜の路地で……ゆっくりな』

 

「(……それ……良いわね)」

 

私はアーサーの提案に笑って答えると夜までに用意を整える為にその場から去った。

________

______

____

 

夜になり、私は夜闇に紛れてアズエル教会の教団員の誰かが出てくるのを待ち構えていた。

 

もう夜も遅く、人通りも少ない中、私は静かに待っていると一人で出てきた教団員を見た私は獲物が来たと分かり、教団員の背中を追いつつ人気の無い場所まで来た所を狙って路地の暗闇に引き摺り込むと叫ばれない様に口元を手で強く押さえると壁に押し付け、すぐに逃げられない様に太股をナイフで深く突き刺した。

 

「むぐうぅぅぅぅぅッ!?」

 

教団員は痛みで叫ぼうとするけど口を押さえられてるから響く事もなく、無様に涙や鼻水を……ちょっと止めて欲しいわね。

 

汚いわね……後で手袋を変えないと……。

 

「ごめんなさいね。少し、聞きたい事があるのよ。……私の質問に答えてくれる?」

 

私は教団員を微笑みつつ睨みながら言うと教団員は激しく頷き、私は口を押さえるのを止め、その代わりに首を押さえた。

 

「アズエル教会の後ろ楯……ヒーローと呼ぶのも烏滸がましい連中の名前を吐きなさい。知ってるだけで良い。もし、拒否するならもっと痛い思いをして貰うわ」

 

「や、止めてくれ!言うから!う、後ろ楯はレッサーヒーローのレッサーパンダーやマネーヒーローのゴール・D・マネーがいる!ソードヒーローのブロードマンもだ!その下のサイドキックもグルだ!!」

 

「へぇ……事務職絡みでね……しかも三つも……人を助けるべきヒーローが不正なんて最低な連中ね」

 

私は三人のプロヒーローとその下にいるサイドキック達までも腐敗にまみれている事に腹が立つ中、教団員は命乞いとばかりに恐怖を浮かべた顔で私に言ってくる。

 

「ゆ、有益な情報だろ?アズエル教会とも縁を切って真っ当に生きるから……い、命だけは取らないでくれ!」

 

「……そうね。良い情報だわ。じゃあ、早速だけど……お礼よ。受け取りなさい」

 

私はそう言って逆手でナイフを持つと勢いよく教団員の首を突き刺して息絶えるのを確認してからナイフを抜き取ると血糊を払った後、壁に"FROM HELL"(フロム ヘル)と書き、その場を後にした。

_______

_____

___

 

次に足を運んだ場所はレッサーヒーローのレッサーパンダと言うヒーロー事務所で私は迷わずに中に入った。

 

「ん?おい、嬢ちゃん。此処はレッサーパンダのヒーロー事務所だぜ。何かの店と間違ったか?」

 

レッサーパンダのサイドキックらしきコスチューム姿の男が近づいてくる。

 

あくまでも丁寧な口調だが何処か嫌らしい目付きをしている……単なる被害妄想かもしれないけど嫌なものは嫌だ。

 

「いいえ。此処に用がありまして」

 

「用?事件かな?」

 

「用はですね……」

 

私はサイドキックの不意を突いて頸動脈目掛けてナイフを振るい、返り血を大量に浴びた。

 

サイドキックは声にならない悲鳴を挙げながら床に倒れると私は告げた。

 

「地獄から弱者達を踏みにじった屑を始末しに来たのよ」

 

私はそう呟いた時、異変に気付いたのかバタバタとレッサーパンダのサイドキック達が現れた。

 

「貴様!何者だ!」

 

「此処がプロヒーロー、レッサーパンダの事務所と知っての事か!!」

 

「知っての事に決まってるでしょ?ほら、早くレッサーパンダに取り次ぎなさい。と言っても……腐ったヒーローは皆殺しだけどね」

 

私の言葉に苛立ちか恐怖を覚えたのかサイドキック達は一斉に向かってきた。

 

私は冷静にどのサイドキックから始末するか考えて床を蹴ると、先ずは無駄に露出の多い女のサイドキックの首を切り、巨漢のサイドキックの顎を蹴ってから脇腹と手首の動脈を切り、首を深く突き刺す。

 

今度は猫や犬みたいなのが来たけどナイフを投擲して胸や首に当てて黙らせた。

 

サイドキック達をそうやって蹴散らしに蹴散らして歩いて行くと大きな部屋に一人でいるレッサーパンダみたいなの男がいた。

 

「俺はレッサーヒーロー、レッサーパンダ!此処まで来たと言う事は俺のサイドキック達を殺したのか!!」

 

「そうだけど?仲間として情があるの?」

 

「はッ!あんな奴等は手駒にしか過ぎん!寧ろ給料をこれ以上、払わなくて済むと思えば安いもんだ!雄英体育祭もあるんだ!有能な人材はまた抱えれば良い!」

 

ヒーローとは思えない腐った言動。

 

間違いない……完全に腐敗しきったヒーローだ。

 

「そう。良かったわね。でも貴方も死ぬの。腐敗したヒーローなんて……善ある市民達には必要無い」

 

「何が善ある市民だ!奴等は我々を潤す為にある!それに死ぬのは貴様だぁッ!!」

 

レッサーパンダはそう言って飛び掛かってくるけど……見た目通りの個性ならもう少しそれに合ったものにしたら良かったのに……早く終わらせよ。

 

私はレッサーパンダの攻撃を避けて躍り掛かるとそのまま頸動脈に一撃、腹や脇腹に二刺し、目を横薙ぎに切り裂き、そのまま蹴り飛ばした。

 

レッサーパンダは頸動脈を切られて声も出せず、痛みに悶えた後にそのまま死んだ。

 

私は血糊を払うと事務所の壁を見てニヤリと笑った後、いつもとは違うアピールに動き出した。

________

_____

__

 

~別視点side~

 

レッサーパンダのヒーロー事務所襲撃から翌日の朝。

 

レッサーパンダの経営を預かっていた男がやって来た事で事件が発覚し、多くの警察とヒーローが駆け付ける事態となった。

 

「これは……酷い……!」

 

警官の一人がそう呟く程に内部は無惨に切り裂かれ、血が溢れ、時には臓器が飛び出してしまっている死体もあり、捜査に来た警官やヒーローの中には吐き気を覚えて現場を荒らさない為に慌てて外に飛び出す者までいた程だ。

 

ベテランの警官やヒーローまでも顔をしかめてしまう様な惨状の中、殺人事件として捜査を開始、被害者はプロヒーローであるレッサーパンダを含んだサイドキック全員。

 

相手は複数犯と最初は見ていたがある物を見てその考えは捨てた。

 

"FROM HELL(フロム ヘル)"

 

事務所の壁に大きく、目立つ様に書かれた血文字がそこにあった。

 

現場から遠く離れた場所には別の死体があり、その現場にもメッセージがあった事から同一犯そして……単独犯の線が浮上した。

 

警察とヒーロー達はこの悲惨な殺人事件に怒りを覚え、犯人であるヴィランを取り押さえる為に徹底した調査をするも証拠は挙がらず難航する事になる。

 

そして、警察とヒーロー達は恐怖する。

 

最近になってメディアに取り上げられつつある""劇場型犯罪の元祖"にして伝説の殺人鬼"、切り裂きジャック(ジャック・ザ・リッパー)が過去から本当に復活したのではないかと。

 

「……犯行は続くと決まったな……はぁ……切り裂きジャックの呪われた血筋は……消えやしないと言うのかよ……なぁ……ジル……」

 

その場にいた髭ずらの男のヒーローはそう呟いて壁に書かれる"FROM HELL(フロム ヘル)"の文字を見つめていた。



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恐怖の象徴

私は腐敗ヒーローであったレッサーヒーローのレッサーパンダを仕留めると次の獲物を殺す為の行動に移った。

 

次の相手はマネーヒーローのゴール・D・マネー。

 

彼の個性は非常に独特でお金を武器にして戦うプロヒーロー……らしい。

 

彼の個性の関係上な非常に出費が高い筈なのに特に赤字に苦しんだと言う噂は無く、称賛を浴びつつも良識ある者達から怪しまれる事も多い。

 

だけど真相は闇の中。

 

ゴール・D・マネーを調べようとしたヒーロー達が次々に消えて消息不明な事から黒い何かがあるのは明白だった。

 

私はゴール・D・マネーの事務所を襲撃し、サイドキック達を殺してゴール・D・マネーの両足の腱を切って逃げられない様に主に何をしていたのか聞き出した。

 

「わ、私は確かにあの教会から多額の金を貰っていた!何処から出てきている金かは知らないが個性の都合上もあって受け取って奴等のする事に黙認してきた!誓ってそれ以上はしていない!!だから、助けてくれぇッ!!」

 

「嫌よ。あんたの都合なんて知らない」

 

私はそう吐き捨てて言うとゴール・D・マネーの頸動脈を切り裂いてトドメを刺し、いつもの様に"FROM HELL(フロム ヘル)"と壁にを書き込む。

 

どいつもこいつも腐った連中ばかり……

 

ある時は傲慢、ある時は怠慢、ある時は命乞い、ある時は犯罪組織との癒着。

 

始末した二人の書類や文章からそう言った内容が幾つも出てきて、アズエル教会以外にも多くの組織の犯罪に目を瞑っていた。

 

そしてヒーローとしての責務を半ば放棄し、利益のありそうな事件のみを解決し、助けを求める声があってもそれが小さく利益の少ない事件ならわざと見逃す等と傲慢や怠慢が見え隠れしている。

 

そして先程の命乞い……情けないわね。

 

あれがヒーロー。

 

私が目指したもの。

 

あんなものにならなくて良かったかもしれない……あんな奴等の様になりたくない……でも、知っている。

 

ヒーローはあんな奴等だけがヒーローをしている訳じゃない。

 

父さんやオールマイト、相澤先生ことイレイザーヘッドに13号、ミッドナイト、プレゼントマイク……どのヒーローも本当に誰かの為に戦うヒーロー。

 

そんなヒーロー達の名誉を傷付ける腐敗したヒーローいや、屑共。

 

偶然だったとは言え見逃せない……必ず殺す。

 

あんな屑共の為にヒーローの名誉を傷付けられ、貶され、貶められるなどあってはならない。

 

例え望まれなくても……私はやる。

 

私は……切り裂きジャック(ジャック・ザ・リッパー)なんだから。

 

どれだけ血を流しても……返り血を受けても……殺しても……私は……悪を殺す……私が……悪を裁く!!

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__

 

~別視点side~

 

切り裂きジャックによる連続殺人は止まる所か勢いを増し続けた。

 

プロヒーローのレッサーパンダとそのサイドキックに続き、今度はマネーヒーローのゴール・D・マネーとそのサイドキック達が事務所を襲撃され、殺害されてしまった。

 

警察とヒーロー達は念入りな捜査をするも証拠以前に正体すら掴めず捜査が悪戦苦闘される中でやはり批判は避けられなかった。

 

「切り裂きジャックの足取りはまだ掴めないのですか!」

 

「二人のプロヒーローとそのサイドキック達が殺害されましたが容疑者のヴィランについて何か情報は!」

 

「殺人鬼が未だに野放しになっている責任は誰が取るのですか!」

 

マスコミはここぞとばかりに捲し立てて警察や捜査に参加しているヒーロー達に押し掛け、切り裂きジャックの正体や足取り、責任は誰が取るのかと騒ぐ中でマスコミの間でも切り裂きジャックの正体を予測する報道がなされた。

 

ある時は。

 

《私としては幼少期に虐待された子供が大人になり、心の不安定さによって起こされた犯行だと推測しますね》

 

ある時は。

 

《ヒーロー達に怨みを持つヴィランが引き起こしたものだと思いますね。何しろ被害者がプロ二人にサイドキック……全員が殺害されましたからね》

 

ある時は。

 

《単に目的が無い殺人で自身のスリルを味わう為の快楽殺人であると思います。被害者にはプロヒーローやサイドキック以外にも見つかっていて明らかに犯罪を誇張する趣旨するメッセージもありますから》

 

テレビでは色々な専門家達が殺人鬼、切り裂きジャックの事を持ち出して様々な推測の中で年齢や姿、目的と言った内容のものが大々的に報道され、それはテレビやラジオ、新聞、ネットと言った環境で情報を得た人々の関心を得る。

 

「切り裂きジャックって怖いね……」

 

「殺された人って無惨に切り裂かれたんですって」

 

「"FROM HELL(フロム ヘル)"って何の為のメッセージなんだろうな?」

 

「意味は地獄よりだろ?地獄から来ましたよ~なんて意味だったりして」

 

「そんな訳ないだろ」

 

切り裂きジャックは年齢問わず話題として会話の中に持ち出され、遂には学校でも注意喚起が出される事態となった。

 

「お前ら。最近になって話題になっている切り裂きジャックって言う殺人鬼がいるだろ?そいつが何時、犯罪を起こすか分からねぇから夜遅くに出回ったり、路地に入ったりするなって注意喚起が出た。言われた通り、夜遅くに出歩いたり、路地に入るのは控えろよ」

 

「切り裂きジャック……」

 

「まさか……霧先さんじゃないよね……?」

 

「んな訳あるかぁ!彼奴が殺人鬼な訳がねぇ!!」

 

「落ち着きたまえ爆豪君!そう信じたいのは我々も同じだ!霧先さんが殺人鬼ではないと信じている!!」

 

「……でも……それなら霧先さんは何処へ行ってしまわれたの……」

 

「彼奴が本当に殺人鬼じゃないなら……此処にいるだろうな」

 

「轟!……今はそれを言うな。良いか?探しに行くなんてするなよ?……殺人鬼が霧先とは限らないからな」

 

雄英でも注意喚起が起き、1年A組にもその恐ろしい殺人鬼の話が話題となっていた。

 

殺人鬼、切り裂きジャック。

 

ヒーロー社会史上、最悪の殺人鬼であり、プロヒーローやサイドキック数人では太刀打ち出来ない実力を持つ正体不明の殺人鬼。

 

大胆不敵、神出鬼没、正体を悟らせない証拠隠滅能力、ずば抜けた戦闘能力。

 

ヒーロー社会が始めって以来、正体不明などありはしなかった程に検挙率はあったが恐怖を撒き散らし、闇に紛れた殺人鬼一人に翻弄されてしまっている。

 

次は誰か?

 

誰が切り裂かれる?

 

切り裂きジャックは何処にいる?

 

恐怖は蔓延する……社会は揺れ動き……殺人鬼の刃によって全てが切り裂かれる。

 

「もう耐えられない!!俺はサイドキックを止めます!!」

 

「待ってくれ!!これ以上、辞められたら捜査が!!」

 

「切り裂きジャックは私達を狙ってるかもしれない!!もう嫌!!怖いのよ!!何時、何処から切り裂きジャックが現れるのか分からないのに!!私には家族がいるの!!養わなきゃいけないの!!犯行理由すら分からない殺人鬼に殺されるなんて嫌だ!!!」

 

「……切り裂きジャックの他にも……ヒーロー殺しもいる……ヒーローを襲って殺すヴィランが二人もいる状況です。怖いわけがないですよ……ヒーローのサイドキックしてる自分が言うのは恥ですがね……」

 

切り裂きジャックの犯行現場付近のヒーロー事務所では続々とサイドキック達が辞めてしまい、他の事務所に移ってしまったり、ヒーロー免許その物を返却して引退してしまう事態となった。

 

中にはプロヒーローもおり、他の場所に事務所を移したり、引退する者が現れた。

 

だが、その逆もいる。

 

「これ以上の凶行はこのインゲニウムが許さない!!」

 

ターボヒーロー、インゲニウム。

 

「古臭い亡霊の殺人鬼め……No.1への道のりの糧にしてやる」

 

フレイムヒーロー、エンデヴァー。

 

「何処だい?切り裂きジャックなんて言う奴は?」

 

ラビットヒーロー、ミルコ。

 

切り裂ジャックが犯行の中心としている街に続々と名のあるプロヒーロー達が訪れ、殺人鬼、切り裂きジャックの恐怖を終わらせるべく立ち上がったのだ。

 

「全く……世話の焼ける奴だ……行くぞお前ら」

 

ミストヒーロー、ジャスティス。

 

彼女の父もまた、切り裂きジャックを捕らえるべく立ち上がった。

 

切り裂きジャック、確保の要請を受けたプロヒーロー及びサイドキックが多数が集結する前代未聞の事態が幕を上げた。

 

捕らえろ恐怖の象徴……切り裂きジャック(ジャック・ザ・リッパー)を。



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望まぬ再会

ゴール・D・マネーとそのサイドキック達を殺してから暫くして各地のプロヒーロー達とそのサイドキック達が集結しているとニュースで知った。

 

エンデヴァーを始めとしたプロヒーローとサイドキック達は所狭しに昼夜問わずに巡回し、少しでも怪しい人物がいないかを見て回っている。

 

この街から出る道や交通手段は検問が敷かれ、蟻一匹たりとも逃がさないとばかりの鉄壁の布陣で私としてもたまったものではない事態だ。

 

私は適当な建物の屋上でその様子を眺めているがとても隙が無い。

 

『どうするジル?奴等は本気でお前を捕らえに来たぞ?』

 

「(どうするも何もこれだとブロードマンに近付けない。対策を練らないと……)」

 

私は回りを見渡しもヒーローやサイドキックの群れが見え、特にヒーロー事務所付近を重点的に警戒している様子が分かる。

 

「(どうしようかな……)」

 

「おい、お前」

 

「ん?」

 

私はヒーローかサイドキックに見つかって声を掛けられたのかと思い振り替えればそこには包帯を顔に巻いた様なマスクにボロボロの赤い布を首に巻いたりしたコスチュームを着た背中に日本刀を背負い、身体に幾つもの刃物を装備していた。

 

「ハァ……お前が切り裂きジャックか?」

 

「貴方は……ヒーロー殺し、ステインね?」

 

『先輩殺人鬼のおでましか?』

 

そこにいるのはヒーロー殺しとして有名なヴィラン、ステインだ。

 

これまでに多くのヒーローを殺害及び再起不能にした凶悪犯で私と同じであり、思想違いの神出鬼没の連続殺人鬼。

 

「何の用かしらヒーロー殺しさん?私は手をこまねいてる状態だから相手にしてる暇はないわよ?それに……どうやって私の事を探ったのかしら?」

 

「簡単だ……ハァ……今のこの状況でヴィランは全員、隠れ家に引っ込み、出てこない。そんな中で路地を人目を避けて歩き、誰にも悟らせない動き……霞む程に濃い血の匂い……そして……見ただけで気配が只者ではないと物語っている……」

 

「へぇ……そうなんだ……今度から気を付けるから参考にさせて貰うわ。それで結局、何の用?」

 

私はステインの意図が掴めずに再度、そう聞くとステインは暫く無言でいた後に答えた。

 

「お前は……二人のヒーローとサイドキック共を殺した……ハァ……お前の目的は何だ?」

 

「法から逃れ、報いを受けず、のうのうと生きる悪に裁きを下してるだけ。二人のヒーローは犯罪組織と癒着した。許される事じゃない……だから殺した。サイドキックもまた同じ。全員、死刑よ。もしかして……貴方の獲物だった?」

 

「いや……俺は世に蔓延る贋物を粛清しているだけだ……ヒーローに足る者は対価を求めるべきではない……」

 

「そう……ある意味では私と同じね。最近のヒーロー達の行動……情けないものよね。苦手だから押し付けあいをして動かないなんて事を私は見た。平気で人を見捨てたり、不正を働くヒーローを知った。……ヒーローは誰もが憧れ、人々の手本となり、悪人が恐れる法の番人でならなければならない。ヒーローの名誉を汚す者は私は許さない。ヒーローの名誉を守る為に。悪を殺す事で未来で虐げられる人々を助けられるなら。私は……悪人でも良いと思ってる」

 

私にとっての正義はとても褒められたものじゃない……人を殺し、未来を奪うそんな所業を幾度となく繰り返して悪を裁き続ける。

 

殺人鬼、切り裂きジャックはヒーローにはなれない……だけど、人を助け、未来で奪われるかもしれない人々を守り、法から逃れた悪人に唯一報いを与えられる法に縛られない無法者(アウトロー)

 

ヴィジランテにもなれやしない無法者(アウトロー)だけどそれでも人は助けられると信じている。

 

「……貴様は……足る者らしいな……ハァ……惜しいものだ……」

 

「惜しくもないわ。最初に掲げたのは復讐。個人的な私怨……ヒーローなんて相応しくない……でも、誰かを助けたい。誰かを守りたい。私の様に奪われてしまわない様にしたい。復讐を誓ってもそれだけは手放せなかっただけよ。ステイン。私はヒーローの器なんて柄じゃないわよ」  

 

私はそう言って微笑んで見せるとステインは暫く無言でいたがやがて背中を見せ、立ち去る雰囲気を見せた。

 

「切り裂きジャック……お前が何と言おうと足る者だ……ハァ……」

 

そう言ってステインは立ち去ってしまった。

 

きっと、ヒーローの誰かを殺しに行ったのでしょうね……何しろ色んなヒーローが集まっている。

 

これ程の機会は滅多に無いし、少々殺しても私のせいになるでしょうね。

 

「……それって結構なトバっちりね」

 

もう考えていられない……さっさとブロードマンを殺しに行きましょう。

 

そしてアズエル教会の悪事を暴く。

 

私はそう決めると厳戒態勢の中、ブロードマンの事務所へと足を運ぶ為に屋上から立ち去った。

 

~別視点side~

 

一方、切り裂きジャックの目標となったブロードマンの事務所では中世の甲冑を着た白い髭が似合うプロヒーローのソードヒーロー、ブロードマンが震えながらソファーに座っていた。

 

そしてその対面に座る様にミストヒーロー、ジャスティスがおり、その横をサイドキックのジャッジとレディ・クイックが立っていた。

 

ブロードマンは震える中、ジャスティスは笑みを浮かべて話し始める。

 

「さて……俺が此処に来た理由はな。お前らの繋がりだ」

 

「つ、繋がり……とは?」

 

「レッサーヒーローのレッサーパンダ。マネーヒーローのゴール・D・マネー。そしてお前、ソードヒーローのブロードマン。一見、無関係な感じだがな……誤魔化せると思うなよ?たまに会ってたよなお前ら?」

 

「何の事か知らん!一体、何の証拠があっての事だ!!」

 

「これだ」

 

ジャスティスはそう言って一枚の写真をブロードマンに突き付けるとブロードマンは顔を青くする。

 

そこにはアズエル教会を立ち去ろうとするレッサーヒーロー、ゴール・D・マネー、ブロードマンの三人がいた。

 

「脅しのネタになるなんて持ってたヴィランがいてな……没収した。何をしていたのかは知らないし、交友関係も口出しはしない。だが、切り裂きジャックの被害者はこの写真の三人中、二人を殺した。だったら二度ある事は三度ある……次はお前がターゲットだ。ブロードマン。正直に話せば切り裂きジャックから守ってやる。何をしていた?……新興宗教の連中と何をしていた!!」

 

ジャスティスはそう言って机を殴るとブロードマンはガタガタと身体を震わせるだけで何も言わない。

 

ジャスティスはその様子を見て溜め息をつくとソファーから立ち上がった。  

 

「もう良い……お前がそのつもりなら俺は助けたりしない。せいぜい切り裂きジャックの玩具になりな」

 

「ま、待ってくれ!私は不正をしていた訳じゃない!それだけは断言する!」

 

ブロードマンは慌ててソファーから立ち上がって弁明するとジャスティスはニヤリと笑った。

 

「不正ね……俺、そんな事は言ってないが?」

 

「そ、そのようだな。だが、私は本当に何も不正に関与していない!していたのは……あの二人だ。多額の金を受け取って教会のしている行為を見逃した。私は拒否したが……サイドキックの一人が殺された」

 

「ん?事故死の筈だろ?まさかそれに見せかけて……」

 

「……奴等は想像以上に大きな組織と繋がりを得ている可能性ある。私は家族に……孫達に危害が及ぶのを恐れた……情けないが奴等に屈した……だが、私は意地を貫いて賄賂だけは受け取らなかった。それでも奴等の為に黙認や証拠隠滅に力を貸してしまった……ヒーロー失格だな……」

 

ブロードマンはそう言ってソファーに深く座り込むと意気消沈した様子を見せ、ジャスティスは静かに見つめた後、ブロードマンに告げる。

 

「お前は罪を犯した。ヒーローである筈なのに。許されない事だ……だが、それでも反省の意思を見せ、罪に向き合っている。一度、牢獄で頭を冷やしてやり直せ。それが今のお前の役目だ」

 

ジャスティスはそう告げた時、足音が鳴り響いた。

 

ジャスティス達が足音のする方へ視線を向けるとやがて足音はジャスティス達がいる部屋の前まで来た時、扉が勢いよく開かれた。

 

現れたのは切り裂きジャックこと霧先ジル本人でそのまま歩いて来たと思われる

 

「来てやったわよブロードマン!サイド……父さん……!」

 

「……ジル。残念としか言えねぇな」

 

「霧先ジル。いや、切り裂きジャック。お前を殺人の容疑で拘束させて貰うぜ。逃げられるとは思うなよ?」

 

「ジル……何でなの……お母様の復讐?」

 

望まぬ再会。

 

それを果たしてしまった二人は正義(ヒーロー)(殺人鬼)として対立する事となった。

 

~side終了~

 

私は驚きのあまり固まってしまっていた。

 

ブロードマンを殺しに巡回の目を掻い潜ってブロードマンの事務所に来ればサイドキック達は一人もいない。

 

罠かと警戒しながら進んだけど誰一人会わないまま突き進んでブロードマンがいると思う部屋の扉を開けたら父さん達がいた。

 

「ジル……負けちまったのか?アーサーに……殺人鬼の人格に……」

 

「……邪魔しないで父さん。これは私が決めた事だから」

 

「殺人はどんな理由があろうも罪だ!お前が一番分かっていただろ!!」

 

「母さんが殺された!!誰が?何の為に?誰がやったのか分からず、犯人は裁かれない……なら、私が探しだして裁く!!父さんは……その時に父さんは何してたの!一体、何してたの!!」

 

「大きな事件を追っていた……言い訳にしかならねぇよな……出張はその事件を追う為にしていた。何年もな。オリヴィアも理解してくれてた……甘かったと思うよ」

 

「……そうよね。父さんってヒーローだからね……だから……母さんが死ぬ間際まで一人にしてたものね」

 

私は父さんに冷たい言葉を投げ掛けた。

 

本当は責めるつもりはなかった……本当は抱き締めて欲しかった……でも……それはもう許されない。

 

私は……殺人鬼だから。

 

自分の責任を逃れる様な事はしない。

 

「ごめんなジル……俺にはお前を捕まえるしかできねぇ……覚悟しろ、切り裂きジャック。テメェの悪事はこれで終わりだ」

 

 

「捕まえられるものなら捕まえてみせなさいよ!!」

 

私はもう覚悟を決めた。

 

例え父さんが相手でも決して立ち止まるつもりはない……でも、善人は殺してはならないのが切り裂きジャックとしてのルール。

 

私はナイフを使わず、拳で父さんに殴り掛かったけど父さんを殴った感触は無く、煙に殴りつけた様な感覚が残った。

 

「忘れたか?俺の個性は(ミスト)。俺の身体は霧になっている。無論、触れたりする事は出きるが……基本的には霧そのものを相手にしてるもんだぜ?」

 

「……忘れてたわ。長い間、会ってなかったから」

 

私は冷や汗を流しながら父さんとジャッジとレディー・クイックと対峙する。

 

父さんの個性は物理的な攻撃は無効化できる対物理においてかなり厄介な存在。

 

ジャッジやレディー・クイックの二人の実力もよく分からない中、私が選んだ選択肢は……

 

 

「逃げの一択ね!!」

 

私はそう言って近くの窓に飛び込むとガラスを割りながらそのまま落下し、地面に勢いよくかつ、衝撃を逃がしながら着地するとそのまま路地の中へ入り込み、三人を巻いた。

 

今回の殺害は……失敗に終わった。



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逃走劇

私は捕まらない為に必死に路地の中を走り、父さん達の追跡を振り切って尚且つ姿を消そうとしたけど……早まったわ……私はとっくに包囲されていたのね。

 

「切り裂きジャック!逃がしはしないぞ!!」

 

後ろからターボヒーローのインゲニウムが物凄いスピードで追い掛けて来ていたのだ。

 

幸いにも路地は要り組んでいたから角を右に、左にと曲がってインゲニウムの追跡をやり辛くさせるけど諦める様子がない。

 

このままだとインゲニウムのチームIDATENまで相手にする事になる。

 

私はもう面倒くさいから下水道に逃げ込んでしまおうかと思ったら今度は上からミルコが突っ込んできた。

 

私は咄嗟に飛び退いて見てみるとミルコの周辺に小さなクレーターが出来ている……なんて脚力なの。

 

「私の蹴りを躱すなんてやるな!お前が切り裂きジャックか?」

 

「ミルコ!その子が切り裂きジャックだ!!連絡の通りの容姿と服装だ!!それと聞くなら聞く前に蹴りをいれてはいけないだろ!!」

 

「だいたいの事は蹴りゃ分かるよ!」

 

「……はぁ……面倒な事になったわね……」

 

ミルコの後に追い掛けてきていたインゲニウムが合流し、更に状況が悪化した。

 

戦闘力が高いミルコと最速の足を持つインゲニウム。

 

戦闘も逃亡も不利な状況だけど時間を掛けてはインゲニウムのチームIDATENのサイドキックや他のプロヒーローとサイドキック達が集まるかもしれない。

 

なら、この人達が上手く動けない場所に逃げるしかない。

 

私は二人が言い合いをしてる間に走り出すと角を曲がると同時に建物の壁を素早く登って屋上へと出た。

 

「器用だな彼奴!!」

 

「くッ!俺の足は建物を直接上るのは無理だ!!」

 

「そんな事はしなくても良いんだよ!私を舐めるなよ切り裂きジャック!!」

 

そんな声が聞こえると同時に大きな音と共にミルコが跳んで屋上まで来たのだ。

 

「貴方……しつこいわよ」

 

「なら、大人しく捕まりな!テメェは私達に狙われる程にそれだけの事をしでかしたんだからな!」

 

「そうね。私はどう足掻いても悪。無法者(アウトロー)なのよ……でも、悪人が人から大切な何かを奪っておいて法から逃れ、善人が復讐すら許されず泣く……そんなの理不尽だと思わない?」

 

「おいおい、説法染みた言い回しは嫌いだぞ?」

 

ミルコは嫌なものを聞く様な素振りを見せるけど私には関係無い……私は言わなくてはいけない……

 

「私は……地獄からの使者……理不尽に死んでいった者達の代弁者……切り裂きジャック(ジャック・ザ・リッパー)。私は……世に生きる理不尽を強いられた者達の為の復讐者!!例え正義の為に戦うヒーローでも決して阻む事は許さない!!」

 

「なら、そんなもんごと蹴り跳ばしてやるよ!!」

 

ミルコはそう言って向かって私に蹴りを仕掛けて来るけど私はそれを躱すとナイフを手にミルコに刃を振るった。

 

激しく飛び散る血。

 

本来なら善人に向けられるべきものではない刃を私は止む追えず振るった事に後悔は無いけど……ミルコ、貴方は……。

 

「化け物ね……!」

 

「へッ……化け物のお前が言ってくれるじゃねぇか……!」

 

ミルコは蹴りを避けられ、私に腹を切られて出血してもなお、私に拳で殴ってきた……

 

私は脇腹にそれを諸に受けてしまい、肋骨が折れた感覚を覚えた……

 

本命の蹴りではないとは言え……かなり堪えた……

 

そして彼女は笑っている……普通なら痛みで暫くは動けない様な痛みなのに……笑って立ち上がってきた……!

 

「ミルコ!無事か!ッ!?ミルコ!!」  

 

インゲニウムが来てしまった……わざわざ階段から上ってくるなんてね……

 

「私は良いんだよ別に!それより切り裂きジャックに傷を負わせてやった!彼奴もそう簡単に逃げられないよ!」

 

「……貴方もね。早く病院に行きなさい。死ぬわよ?」

 

「殺人鬼が他人の心配か?」

 

「善人は殺さない……悪人を殺す……それだけよ……」

 

私は脇腹の痛みに襲われながら駆け出し、建物を飛んで飛び越えて逃げる。

 

~別視点side~

 

殺人鬼、切り裂きジャックによってミルコは腹を裂かれてしまい場所が走るのに不向きな屋上である事から追跡が困難と考えたインゲニウムはミルコを助けるべく応援を呼んでた。

 

「至急!救護班を!!ミルコが負傷した!!致命傷ではないが出血が激しい!!すぐに治療が必要だ!!!」

 

「クソッ……彼奴……何が善人は殺さないだ……ヒーローとサイドキックを全員殺しておいてな……」

 

「今は喋るな!傷に障る!すぐに救護班は来るから大人しくしていてくれ!」

 

「切り裂きジャックを取り逃がしちまうとはな……まぁ、良いか……今回は痛み分けだ……次は蹴っ飛ばす」

 

ミルコはインゲニウムに無理矢理に介護されながら切り裂きジャックとの痛み分けに悔しがりながら次こそはと考えながら笑った。

 

~side終了~

 

私は屋上を次々に飛んで二人から逃げ切ると近くの物陰に隠れる様に座り込んだ。

 

荒い息を整えながら脇腹を見るとかなりの激痛が走った。

 

「はぁ……はぁ……かなり痛い……わね……」

 

『大丈夫か?』

 

「このくらいは平気よ……でも……これ以上、戦うのは愚策ね……」

 

私は負傷した以上は何処かで治療に専念しなければならないと考えていた時、建物の下から声が響いた。

 

「地元住民を至急、避難させろ!この近くに切り裂きジャックが潜んでいる!奴は何をするか分からない殺人鬼だ!見つけ次第、確保しろ!」

 

指示を出しているのはエンデヴァーのサイドキック、バーニンで自分の後輩に指示しているのか避難の準備を行っている。

 

様子をこっそり見てみればぞろぞろと集まるエンデヴァーのサイドキック達、暫くすれば大本命のエンデヴァーが現れた。

 

「奴はこの付近にいる!!見つけ出せ!!奴はミルコの攻撃で手負いだ!!手負いの獣程、抵抗する!!被害を拡大させられる前に取り押さえる!!」

 

エンデヴァーはやる気満々とばかりにそう叫ぶとサイドキック達は避難と同時に厳戒体制で付近の巡回を始めた。

 

『ちッ……此処にいても必ず見つかる。動けるか?』

 

「動ける……でも、戦う余力は無いわよ?」

 

『逃げれるだけならマシだ。急げ』

 

私はアーサーに急かされながら流石に一気に飛び降りるのは無理だから壁の出っ張りに掴まりながらゆっくりと地面に降りた。

 

私は痛みを堪えながら歩く中、エンデヴァーのサイドキック達は油断なく私を探している。

 

「(流石に年貢の納め時かしらね?)」

 

『おいおい、始まったばかりだぞ?歴代最短で終わらせる気か?』

 

「(そんな訳ないでしょ。兎に角、逃げないとね)」

 

私は暗闇の路地を歩いて行く中、私は人がいない事を確認しながら路地の外を覗こうとした時。

 

「だ、誰か助けてぇッ!!!」

 

私はその悲鳴を聞き、痛みなんてほっといて駆け出した。

 

声は少女、避難の最中に何かあったのだと推測、私は悲鳴の発生源まで来るとそこには長いツインテールを多きなリボンで結んだ少女が体格の大きなヴィランに襲われていた。

 

「ゲヒヒッ!もう我慢できねぇッ!!俺と遊ぼうぜぇ……お嬢ちゃん!!!」

 

「だ、誰か助けて……誰か……!」

 

少女の周りには誰もいない。

 

助けられるヒーローもサイドキックもいない。

 

だから……私は……例え捕まるリスクはあってもあの子を助け出す。

 

『やれやれ……お前らしい行動だな……』

 

「うるさい。静かにして」

 

私はアーサーにそう言うとナイフを生成し、変態ヴィランの首に向かって切り付けると同時に少女を抱き締めて離れた。

 

ヴィランは首から血を流して倒れると私は一息ついてから少女を見ると怯えた目で私を見ていた。

 

それもそうね……人を目の前で殺したもの……

 

「大丈夫だった?ごめんね……私、こんな方法しか出来ないから……」

 

「うぅ……怖かった……怖かったよ!!」

 

少女は泣き出して強く抱き締め返してくるけど止めて!脇腹がかなり痛いから力を抑えて!?

 

私は少女を遠ざけ様とするけど安心した様にワンワン泣いていてとてもその気になれない……困ったわね……

 

「いたぞ!!切り裂きジャックだ!!!」

 

「捕まえろ!!!」

 

『見つかったな……これはエンデヴァーとか来るぞ?』

 

確かにマズイ……どうにかして逃げないと私が思っていた時、少女が急に離れて庇う様に私とサイドキック達の間に立った。

 

「止めてよ!!お姉ちゃんが何したのよ!!」

 

「え?いや、お嬢ちゃん。そいつは悪いヴィランだよ?捕まえないといけないしお嬢ちゃんも離れて」

 

「嫌よ!お姉ちゃんは私が怖い人に襲われてたら助けてくれた人だよ!なのに何で捕まえられなきゃいけないの!!」

 

少女の庇う姿にサイドキック達は困り果てていた時、そこへ何処から途もなく黒塗りの車が急ブレーキを掛けつつ現れ、器用に少女と私の間に止まった。

 

「ジル!!」

 

「緋色……?」

 

後部座席の扉が開け放たれて現れたのは男物のマフィアの様にスーツを着こなした緋色で私に手を伸ばしてきた。

 

「僕の手を取れ!!早く!!!」

 

私は一瞬、迷うけど緋色ならと手を伸ばすと私は緋色に力一杯に中に引っ張られると車の扉は閉められた。

 

「出せ!!エンデヴァーが来るぞ!!」

 

「分かってます!!しっかり捕まっていて下さいねお嬢!!透面!!個性を使え!!」

 

「あいよ!!」

 

透面と呼ばれた小柄の男は何かの個性を使うのか念仏を唱える様なポーズを取り、真剣な表情で黙り始める。

 

車が出て私は後ろを見るとまるで車が見えていないとばかりにサイドキック達は慌てており、後から来たエンデヴァーが悔しそうな顔をしていた。

 

「大丈夫かジル!?怪我は?……その脇腹か?骨は?」

 

「緋色……何で……?庇う理由も無いのに……」

 

「言ったろ。君をほっとけないんだ。僕は君を……その……そう!君の共犯者だからさ!君が人を殺したと告白してくれた時から君を……助けたいと思って……でも、行方を眩ませた……探すのにかなりの額を使ってしまったよ。手間を掛けさせてくれたこの借りは必ず返して貰うとしてだけど……先ずは病院だな」

 

「病院なんて駄目……もう私の情報は出回ってる筈よ……」

 

「大丈夫!私達には専属の医者がいてね。その先生の診療所に行くのさ。口も固いし、腕も良い。だから……疲れたなら安心して眠れば良い……眠れてないのだろ?」

 

緋色の言葉に私は切り裂きジャックの活動の疲れが出始めて私は睡魔に襲われながら私は緋色の膝に頭を乗せる様に横にされると私は眠りについた。

 

~別視点side~

 

ジルを追ってから助け出した緋色は安心した様に眠るジルに傷が障らない様にしつつ頭を静かに撫でる中、微笑んだ。

 

ようやく掴み直した手、もう離したくない、誰にも渡さない。

 

そんな欲求が緋色の心に広がる中、ジルの寝顔を見てその微笑みを深める。

 

「君は本当に世話が焼けるね……君の綺麗な青い瞳は無くなったけど赤い瞳も綺麗で良いね……僕は……君を愛している……誰にも渡さない……君の髪の先から足の爪先までの全て……僕の物だ……でも、そんな事を急に言えば君は困るし、またいなくなるかもしれない……なら、好きにやらせてあげるよ……本当はもう二度と危険な事はして欲しくないけど……僕は心が広いからね……その代わりに必ず私だけを見させてみせるよ……友達ではなく、愛する人として……ね……」

 

「「(お嬢、怖えぇ……)」」

 

「何か言ったかい?」

 

「いいえ!」

 

「……(よ、読まれた!?)」

 

緋色の怖い一人言に運転している男と透面は怖いと心の中で言ったのに緋色に読まれた事に驚きながら暫く、震えながら診療所を目指した。

 

~side終了~



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協力者

私は目を覚ますとそこはまた知らない天井だった。

 

このパターンを何度も繰り返してるけど今回は何も夢を見ずに終わり、私は起き上がろうとすると脇腹に受けた傷が痛む。

 

と言うか今の私、上半身は包帯を巻かれてるけど脇腹辺りにブラ着けてるくらいの服装じゃない……つまり半裸にされてる。

 

私は痛いのを我慢してシャツを着たりしていると部屋の扉が開けられた。

 

「目が覚めたかジル」

 

「緋色……うん。まだ痛い……」

 

脇腹が痛む中、私は上を着直すと深い溜め息をついた。

 

目の前に随分と勇ましい服装をした緋色がおり、どうしてあの場所に来て私を探し出したのか、そしてあの二人の男は誰なのか知りたかった。

 

「取り敢えず……色々と説明して欲しいわね?」

 

「そうだな。最初に言うべきは僕の実家は極道の一家。つまり、ヤクザなんだ」

 

「ヤクザ?」

 

「そうだ。僕は実家、獅子皇会と言う一家で僕はその会長の娘だ。まぁ、この御時世にヤクザなんて天然記念物扱いだがな。だが、獅子皇会は任侠を重んじる。それはどんなに時代が変わろうとも弱い立場の者達を貶める様な行為は絶対にしない。それでも警察やヒーロー達は信じないだろうけど君が求める悪とは別だと思うよ」

 

「そう……つまりあの二人は?」

 

「僕の舎弟だ。信用できる二人だから安心して欲しい。僕が保証するよ」

 

緋色はそう言って微笑んで見せると私は今は緋色を信じよう。

 

「何で……私を探しだしたの?」

 

「何でって言われても……君は僕にとっても大切な人だからだ。急にいなくなってから花咲の二人やA組の皆も酷く心配していたぞ?探しだして説得でもと思っていた矢先に君が切り裂きジャックとして追われてるなんて聞いて慌てたぞ。その様子だと本当の様だし、とても連れ戻せないな」

 

「……ごめん」

 

私は心配させてしまった緋色に謝ると緋色は暫く無言で見つめてきた後、私を軽く抱き締めた。

 

「君が謝る必要はないさ……大丈夫。世間も警察もヒーローすら敵にしても君を守る。君が大切なんだ……僕の……友達だからね」

 

緋色は恥ずかしそうに笑いながら言うと私も何処か元気が出てきていつの間にか一緒に笑いだしていた。

 

殺人鬼になっても失わない物もある……私はそれを知った時、アーサーは無言で私達を見ているのを見た時、扉が開けられてそこへ知った人物が入ってきた。

 

「ジル君。声が聞こえたから目が覚めたのかと思って来たが良かったよ」

 

「外堂先生?」

 

「知り合いだったのかジル?」

 

「一度、病院で見て貰った事があったり、会ったりしてね」

 

本当に縁のある外堂先生に私は驚いたけど、まさか此処は外堂先生の個人病院とは思わなかった。

 

「いやはや。まさか緋色君が切り裂きジャックを連れてくるなんて聞かされた時は驚いたがまさか君が切り裂きジャックだったとは思わなかったよ」

 

「緋色?」

 

「大丈夫だ。先生は僕達の様なヤクザ者にも治療を施してくれる人だ。間違いなく口は固い。それにある程度の素性を教えないと治療はしてくれなくてな」

 

「私としては流石に正体が分からない者を治療するのはリスクが高すぎるからね。私には娘もいるから余計にね」

 

「娘?」

 

外堂先生に娘さんがいるんだなんて思っていてるとそこへカルテを持った変態ヴィランに襲われてた少女が来たのだ。

 

「お姉ちゃん起きたんだね!」

 

「えぇ……貴方が外堂先生の?」

 

「外堂 智枝美。智枝美って呼んでね。お姉ちゃん」 

 

「はっはは!君に助けられてからすっかり君に懐いてね。良くしてやってくれ。それと……智枝美を危ない所から助けてくれてありがとう」

 

外堂先生のそのお礼の言葉に私のあの時の行動は間違いはなかったと改めて思えた。

 

悪人の誰かを殺す事で善人の誰かを救う。

 

その意味を改めて私は感じた。

 

『……お前もかソフィー』

 

「(え?)」

 

『何でもない。それで?これからどうする?あのブロードマンとやらはもう捕まっていているだろうな。何せお前の親父達が出向いてたんだ。繋がりだって気付いてるから余計にな』

 

「(だったら父さん達にブロードマンの処遇を任せて私達はアズエル教会の罪を暴き、フォールン・救火を地獄に送る)」

 

『ブロードマンは見逃すのか?』

 

「(どのみちエンデヴァーとかのトップヒーローまで来ているなら仕留めるのは無理。それに法で裁けるならそれで構わないし、何かの圧力で出てこれるなら……殺し直すだけ)」

 

『なら、決まりか。奴を……ザフカを地獄に送り返してやる。二度と出てこれないくらいに徹底的にな』

 

「お姉ちゃん?」

 

私は決意を新たにしていると智枝美が不思議そうな顔で私を見ていて私の手はいつの間にか拳を強く握っていた。

 

その様子を見た緋色は不安そうな表情を浮かべ、外堂先生は興味深そうな顔をして観察する様に私を見ていた。

 

「どうやら君の"仕事"はまだ片付いていないようだね?」

 

「はい。先生……私の怪我はどの位で完治しますか?」

 

「肋骨は折れこそしていなかったがヒビが入っていた。本来の治療なら二、三月は掛かるが……私の個性である応急治療を使ったからね。すぐに良くなる。私が何を言っても"仕事"に行くのだろう?。本当なら用心の為に一週間は安静にして欲しい所なんだがね。何しろ私の個性は麻酔を使わないと治療過程でかなりの激痛を伴う個性だし体力もそれなりに消耗する。無理をすれば間違いなく身体に障る。こう言う時にリカバリーガールの癒しの個性が羨ましいね。私のよりデメリットが少ない」

 

外堂先生はそう愚痴を言うと私は苦笑いする中、緋色は心配そうな表情をした。

 

「ジル。君の"仕事"の邪魔をするつもりはないがあまり無茶はしないでくれ。何かあったら悲しむ者もいるんだ。例え殺人鬼でもな。僕達は協力者で共犯者だ。必要な事があれば出来る限り助けるから言ってくれ」

 

「私も乗り掛かった船だ。何かあれば訪ねてきなさい。治療も相談もね」

 

「……ありがとう緋色、外堂先生」

 

二人の協力者を得た私はそう言って頷くと明日、フォールン・救火を殺す為に今は身体を休めておこう。

 

~別視点side~

 

その頃、切り裂きジャックもといジルを捕まえ損ねたヒーロー達。

 

エデンヴァーは苛立ちを隠さず、ミルコは笑いながらも痛そうに腹を擦り、インゲニウムは難しい顔をし、ジャスティスはジルの次の行動は何かを思考する。

 

「クソッ!忌々しい小娘め!単独犯だと聞いていたが共犯者を着けていた!!」

 

「落ち着けよエンデヴァー。一人、接敵しなかったのは笑えるがそれだけお前を避けたかっただけだろ?痛たた……!」

 

「おい、大丈夫かミルコ?動けるとは言え、腹を思いっきり切られたんだぞ?」

 

「んなもん平気だ!こんな傷なんかすぐに治して切り裂きジャックを蹴っ飛ばす!!」

 

「……と言っても居場所が分からんがな」

 

「お前の娘だろ?何故、掴めん」

 

エンデヴァーの問いにミルコやインゲニウムも注目する中、ジャスティスは暫く無言を貫いた後、頭をかきながら笑った。

 

「いやぁ、暫く彼奴と会ってなかったからな!考えてる事がとことん分からん!はっははは!!」

 

「馬鹿者!!笑い事か!!!」

 

「……そうだな。笑い事じゃない。彼奴は罪を犯した。手加減する事は無い。全力で捕まえなきゃならない。だがな……考える事までは本当に分からん。いや、次の目標は予想出来るがな」

 

「次の目標とは何処に?」

 

インゲニウムが聞くとジャスティスは真剣な表情で告げる。

 

「アズエル教会のフォールン・救火。ヒーロー不正疑惑の中心人物。ブロードマンを俺達が確保した事はジル…いや、ジャックも予想してるだろうし、彼奴は手出しはしてこないだろうな」

 

「ん?何でだ?悪人を殺すとかほざいた奴だぞ?」

 

「法で裁ける可能性があると判断したからさ。切り裂きジャック。俺は過去の趣味で調べた事がある。奴は19世紀の悪人を殺す義賊。現代風で言えば過激派なヴィジランテとでも言うか。そんな奴だ。法で裁けぬ悪を殺す悪。法に縛られぬ無法者(アウトロー)。それが奴だ」

 

「ちッ……単なるヴィランではないか」

 

「その通りだエンデヴァー。切り裂きジャックをヒーローだとかヴィジランテだとかで認めてはならない。殺人は殺人……悪は悪だ。どんな理由があろうと法の裁きに掛けさせる。絶対にな」

 

エンデヴァーのヴィラン扱いに対してジャスティスは迷う事すらせず、実の娘を凶悪なヴィランとして扱うジャスティスにインゲニウムやミルコ、エデンヴァーまでもが異様な物を見る目をした。

 

「何だお前ら?俺がジャックを庇うと思ってたのか?」

 

「普通ならそうだろうが。娘だろ?」

 

「彼奴は犯罪者だ」

 

「庇うつもりはないがそれでもあんまりでは?」

 

「自業自得。それだけの事をしたんだから報いを受けなければならない。彼奴は悪の道を選んだ。正さなければならない。俺が……そう教えてきた様にな」 

 

ジャスティスは笑う。

 

だが、目は全く笑っていない。

 

正義を行う為なら実の娘にも容赦はしないジャスティスにミルコまで暗い雰囲気に陥る中、エンデヴァーが話し合いの席から立ち上がった。

 

「此処で言い合っていても意味がない。なら、そのアズエル教会の周辺とフォールン・救火に張り込むべきだろう」

 

「いや、確保しちまおう」

 

「はぁッ!?」

 

「確保すると!?」

 

「ジャスティス。仮に確保するとしても何の容疑でだ?」

 

エデンヴァーの案を一蹴りにジャスティスは予想の斜め上を行く案を繰り出した事で全員を驚かす中、ジャスティスはニヤリと笑う。

 

「勿論、不正の疑惑でだ。何しろバッチリにアズエル教会の礼拝堂とあの三人が写ってやがる。十分な理由だ。疑惑の証拠は手に入らなくても目的はどうあれ、此方に引き摺り込んでしまえば取り敢えずは殺されない。ジャックの奴がそれを予想してなければその場に殺す為に現れる。様は待ち伏せだ。予想を外したジャックを俺達が一斉に確保し、切り裂きジャックによる連続殺人を終わらせる。こんな感じだが……どうだ?」

 

「構わないと思うが……礼状は?」

 

「ジャックも手痛い目にあったからな。ミルコに脇腹辺りを殴られてから押さえながら逃げていたそうだな。恐らく、肋骨にヒビが入ったか骨折したんだろう。そんだけの怪我を負って逃げ切ってもすぐに完治なんてリカバリーガールみたいな医者でもいないと無理だ。つまり、奴は襲う為には回復の時間が嫌でも掛かる筈だ。慌てる事はない筈だ」

 

ジャスティスはそう予測を立てて言うと一先ずはそれで行こうと言う事で礼状が取れ次第、フォールン・救火を確保し、切り裂きジャックを待ち伏せする算段を立てたが彼らの予想は大きく裏切られる。

 

まさかリカバリーガールに近い個性を持つ医者によって戦えるまでに回復し、明日にでも襲いに出向いてくるなど思いもしなかった事を。

 

~side終了~



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堕天使の歌声

私は昨日、しっかりと身体を休ませてフォールン・救火そしてアズエル教会の教団員達を始末するべく私は今まで以上に警戒しながら街の路地を歩きながらイヤフォンを耳に着けてラジオを聞いていた。

 

《続いてニュースです。昨日、遂にあの切り裂きジャック(ジャック・ザ・リッパー)の亡霊の正体が判明しました。容疑者は霧先ジル。16歳の少女で規模の大きい事件である事から名前と容姿を公開しての捜査になると発表となりました。これまでにプロヒーローやサイドキック、その他の被害者の殺害に関与しているとされ、警察及びヒーロー達は全力で霧先ジル容疑者を追うと発言しております。また、霧先ジル容疑者はプロヒーロー、ジャスティスの娘で切り裂きジャックによる連続殺人事件が起こる前に妻である霧先オリヴィアさんが殺害されていた事から復讐殺人の可能性もあると専門家は指摘しております》

 

流れるラジオのニュースから私の事がしっかりと伝えられる中、私はラジオを切ってイヤフォンを外すとアズエル教会の礼拝堂の前に立った。

 

「さぁ、"仕事"の時間よ。アーサー」

 

『張り切って行こうかジル!』

 

私はアズエル教会の悪事を暴くべく礼拝堂の扉を開け放つとそこにはアズエル教会に集められた信者達と教団員、そしてフォールン・救火がそこにいた。

 

「じ、切り裂きジャック(ジャック・ザ・リッパー)だぁッ!!」

 

「いやあぁぁぁぁぁぁぁッ!!!」

 

「ふ、フォールン・救火様!!」

 

信者達は私を恐れてフォールン・救火の後ろへと行き、フォールン・救火は信者達を庇う様に前に立つと教団員達は何処から出したらのか一部、武器を持つ者もいる。

 

「フォールン・救火!来てあげたわよ。覚悟は良いかしら?」

 

私はそう言って礼拝堂の扉を後ろ手で扉を閉めると鍵を掛けた。

 

この礼拝堂は恐らくは防音性があり、もう祈りの時間とやらは始まってだけど全く歌声は聞こえなかった。

 

つまり、閉じてしまえばもう外には聞こえない。

 

一部、悲鳴を挙げられたけど外は私とヒーロー達の混乱のせいで人が戻りきっていない。

 

つまり、通報される心配すらないので安心して殺せる。

 

「これはこれは。やはり来ましたか。今はどちらでしょうか?」

 

「今はジルよ。フォールン・救火。お前は罪を犯した。それが何か……分かるかしら?」

 

「あっはっは!突然、何を言い出すかと思えば私が罪を犯したと?」

 

「嘘を言うな殺人鬼め!!」

 

「フォールン・救火様が罪を犯したなど戯れ言を!!」

 

「恥を知れ!!」

 

当然の様にフォールン・救火は否定し、信者達は出鱈目だとばかりに私に罵倒してくる。

 

これは……かなりの重症ね。

 

『ふん。信じるのも良いがな……ジル。現実を信者共に見せつけてやれ』

 

「フォールン・救火!お前が幾ら誤魔化しても罪は暴かれるのよ!これを見なさい!!」

 

私はフォールン・救火や教団員、信者達に見せつける様にある物を見せつけた。

 

そのある物は個性届の書類だった。

 

その個性届の登録者は……フォールン・救火の物だ。

 

顔写真付きでご丁寧にレッサーパンダの事務所の金庫に厳重に保管されていたのを見つけだした。

 

フォールン・救火の個性……それは。

 

「魅力の歌声。お前の歌声によって人々を魅力し、洗脳していく個性。効果は小さなものだけど何日も聞き続ければもはや疑う事を知らない人形に成り果てる。ただし!それは真実が知られないまでの間だけ……そうでしょう?」

 

「……まさかそれを見つけるとは思いませんでしたね」

 

「おかしいと思ったわ。ヒーローを後ろ楯にしていたとは言え、何処から賄賂に使う大金を得ていたのか……つまり、他に後ろ楯がいて後ろ楯と言ったヒーローの三人はブラフ。厄介な存在になりつつあったから私に始末させようとしたのね?」

 

「えぇ、そうです!あと一人だったのですがその最後を始末し損ねるとは思いませんでした。そして、その個性届も見つけるのも。予想外でしたよ!」

 

フォールン・救火はそう言って高笑いする。

 

その顔は天使の顔ではない……それは悪魔、堕天使の笑顔だった。

 

「ふ、フォールン・救火様……?」

 

「そ、そんなの嘘ですよね?」

 

「ワシらは貴方様が救済の炎を受けきれて死ねば幸福になれると聞いていたのです!そうでしょう!?」

 

「えぇ、そうです!真実はどうあれ!幸福になり、あらゆる苦しみから解放されますよ」

 

「それは違う!!お前の行った洗脳で信者達にそうすれば幸せになれると言い、死に追いやろうとしているだけだ!信者の皆は本当に死にたいのかしら?自分の胸に聞きなさい!宗教ではなく、己自身の心の声に!!」

 

私の訴えに信者達は迷う者、現実を受け入れられない者、フォールン・救火に疑いの目を向ける者と分かれる。

 

「……俺、確か単に差別反対の団体だって聞いて此処に来たんだった……」

 

「わ、私は無個性だからと虐められて……だけど死のうなんて考えてない!!」

 

「俺はこんな姿でも受け入れてくれるって聞いたから入ったんだが……死ぬつもりは全く無かった」

 

信者達は己が本当に死にたかったのかと考え、そして得られた答えが死ぬつもりは無かったと言う事実だった。

 

信者達は自分が何故、そんな事を考えていたのかと混乱し、恐怖し、フォールン・救火を睨み付けた。

 

「フォールン・救火!俺達を騙していたのか!!」

 

「私は貴方の親切な言葉や優しい歌声を信じていたのに!!」

 

「あんまりです……あんまりです!!うぅ……!」

 

「それじゃあ、俺達より前の奴は……」

 

「こ、殺されたって事か……!?」

 

信者達は怒り、嘆き、絶望する状況となり、私はフォールン・救火に詰め寄ろうとすると教団員達がフォールン・救火を庇おうと前に出て来たけどまだ殺るつもりはない。

 

「分かったでしょ?……貴方達の慕ってたフォールン・救火は……偽物の救い手よ」

 

「そんな事はありません!!」

 

その声は礼拝堂に響き、私は視線を向けるとそこには前に会った女性だった。

 

「私は……死にたかった!夫を喪って!行く場所も無くて!犯罪者の身内だからと疎まれ、虐げられて!……もう……生きる事に疲れていた時にフォールン・救火様が私に此処に留まって良いと。私に死こそ救いだと教えてくれたの。……だから、フォールン・救火様を悪く言わないで!!」

 

「貴方……洗脳を受けてないの?」

 

「私は……死こそが救いだと信じています。それを信者達に隠し、執り行っていた事は事実。ですがそれは少しでも死の恐怖を無くす為、少しでも楽にしてあげたかっただけ。私は隠した事は事実でも……騙してはいません」

 

「死ぬつもりは無かった人達がいるのに言うのか!!」

 

私はそれを指摘しても悪魔の様な笑みは消えない。

 

『こいつは振り切っている。何を言っても無意味だ。それを気付け、ジル』

 

アーサーのその言葉に私は自分が何処か、フォールン・救火を説得して罪を償わせようとしていた事に気付き、私はフォールン・救火を殺す為にナイフを手にした。

 

「フォールン・救火!!お前の言いたい事は分かった……でも、認められない。例え人を救う為とは言え、そのつもりは無かった人達を害する行為は悪であり、罪!!貴方は私が……裁く」

 

「そうですか。なら……仕方ありませんね」

 

フォールン・救火がそう言った時、何だろう……焦げ臭い匂いが礼拝堂内に立ち込めた。

 

まさか……!?

 

「礼拝堂に火を点けたのか!!」

 

「あっははは!!さぁ、皆様!!私と共に救済を受けましょう!!あーはっはっは!!!」

 

フォールン・救火が狂った様に高笑いし始め、私はナイフを片手に躍り出ると教団員達を素早く仕留めると私はフォールン・救火の首にナイフを深く突き立てた。

 

「がはぁッ!?」

 

「終わりよ……これ以上は死なせない。私が必ず彼らを助ける」

 

私はそう告げるとフォールン・救火は虚ろな目をする中、私に微笑みを見せた。

 

悪魔でも堕天使でもない……天使そのものの微笑みだった。

 

私はナイフを引き抜くとフォールン・救火は倒れそうになると私はそれを受け止め、静かに寝かせた。

 

火は油でも仕込んでいたのか礼拝堂の全体をすぐに覆ってしまう中、出入り口の扉はまだ、何とか突破出来そうだ。

 

「……全員、聞け!今から此処から抜け出させてあげる!死にたくない人達はすぐに動きなさい!!」

 

「……行くぞ!死にたくはないからな!!」

 

「そうよ!私達は生きるの!!」

 

「差別や虐めなんかに負けない!!私達はどんなに辛くても生きていく!」

 

「異形系で力のある奴は扉をぶち破ってくれ!まだ間に合う!!」

 

「おうよ!!」

 

信者達は生きる事に意味を見いだすと一斉に動き出し、異形系の男が勢いよく扉に突進するとぶち破った。

 

そこから信者達は逃げだす中、一人だけ放心して動かないあの時の女性がいた。

 

「……行かないの?」

 

「……そうね……私はもう疲れたの……皆の様に強くはないわ……」

 

「生きていれば必ず良い事はあるわ!貴方は此処にいる時、信者達に何かされたの?恐らくは何もされていないでしょ?」

 

「皆は優しかった……ヴィランの妻の私にとても親切で……境遇を悲しんでくれて……でも……フォールン・救火様も同じだった……私の相談を心身に聞いてくれて……この教会の真の目的を話された時も引き返す事も言ってくれたの……」

 

『彼奴が?』

 

「引き返す道を?」

 

私は死こそ救いだと言っていたフォールン・救火がまさかそう言うとは思わなかった。

 

「フォールン・救火様は過去に自身の過ちで多くの人々を死なせたと話してくれたの……その罪を……報いを受け入れる為に……一度決めた道を誤れないと……その行いによって地獄からの亡者の使いが来ても静かに受け入れると……言っていたわ……ふふ、今思えば地獄からの使いは貴方の事なのね」

 

「……もう一度、言う。逃げないのね?」

 

「えぇ……知っていで皆に教えなかったのは私も同罪。罪を……受け入れるわ」

 

女性はそう言って優しい微笑みを見せると自分の鞄から何かを取り出した。

 

「これを。フォールン・救火様が貴方にと」

 

「……これは?」

 

「貴方なら……きっと、分かると……このアズエル教会を設立した真の黒幕。その人物に行き着ける為の物だと」

 

私が渡されたのは何かの書類で所々読んでもおかしな所は無い……よく調べないといけないわね。

 

「分かった。もう……言わないわよ」

 

「えぇ……ありがとう。それと夫の事は……もう、恨んでないからね」

 

「……知ってたなら……もう少し、早く言って欲しかった……ごめんなさい……貴方の大切な夫を殺した事を……」

 

私はそれだけを告げると礼拝堂から脱出する。

 

その際に死んだ筈のフォールン・救火の歌声が聞こえた様な気がした。

 

それは美しく、心を落ち着かせ、そして悲しいものだった。

 

私は礼拝堂から抜け出すと出入り口は火災で崩れ落ち、もう立ち入れなくなる。

 

信者達は無事、一人だけ残った彼女を除いて全員、脱出するとお互い身を寄せ会いながら泣いていた。

 

自分達を助けてくれると思っていた者からの裏切りとも取れる行為……だけど、それでも信者の事を思っていたフォールン・救火に怒りを覚えても恨む事が出来ない。

 

そんな感情が入り乱れる中で彼らは生きようと言う強い意思を見せていた。

 

私はそれを見届けるとヒーローや警察が集まりだす前にその場から立ち去る為に歩き、路地へと入った。

 

路地を歩く中、雨が降ってきて私はずぶ濡れながらも歩き続けた。

 

雨のせい目の前の光景がボヤけてしまい、何度も目を拭いてもその光景はボヤけたままだった。

 

……アーサーもこんな感じだったのだと思いながらやるせない気持ちの中、私は路地の奥へと進んだ。



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【第二話】潜む社会の深淵【END】

私はアズエル教会の周辺から大きく離れた位置にある複雑に入り組んだ路地の道の先にある古いビルへと足を運んだ。

 

仕事に行く前に緋色から鍵を渡されて

 

「まだ落ち着ける場所が無いならここの住所の物件を使ってくれ。それとスマフォもな。少し、色々としてるから万が一、その場に捨てても使っても身元バレはしないから安心してくれ」

 

と、言われてスマフォも私は持っている。

 

連絡先には緋色やあの二人の舎弟、外堂先生の物がある。

 

本当に問題は無いのか分からないけど緋色のあの顔は何かしらの細工をしているからこそ見せたと思えば持っておいて損は無いと考えて私は古いビルに入った。

 

コツコツと無機質な音が鳴り響く中、私はビルの部屋の一つへと辿り着くと鍵を取り出して鍵穴に差すと回した。

 

鍵が開いたのを確認すると私はドアノブを手にし、回すと扉を上げて入った。

 

扉を開けた先には丁寧に清掃されているのか埃が無く、真新しい家具が置かれた事務所の光景がそこにあった。

 

私はその光景を静かに見ているとスマフォの電話が鳴り、私は相手は緋色だと確認し、電話に出た。

 

「私だけど?」

 

《ジル。僕が渡した鍵の場所まで行けたかい?》

 

「えぇ、行けたわ」

 

《そうか。そこは君の物だ。好きに使ってくれ》

 

「ありがとう緋色。それにしても此処まで色々して良いの?貴方にも立場があるのに?」

 

《確かにそうだけどその周辺は僕の管轄の縄張りだからね。獅子皇会全体の利益に関わったり、お父様が何か言わない限りは大丈夫だ。何かあったらまた連絡してくれ。それじゃあ、また》

 

緋色はそう言って電話を切ると私はスマフォをしまって近くにあるソファーに腰掛けると女性に渡された書類に目を通した。

 

何処からどう見ても普通に見える書類……だけどよく見れば不自然な文字が幾つもある。

 

「暗号かしら……?」

 

『それは厄介だな。暗号にも種類があるし、解き方も違う。どう解くつもりだ?』

 

「それが分かれば苦労はしないわよ……換字式かしら?なら、一部なら」

 

私はそう言って別の紙に読み取れた内容を書いていく。

 

"資金提供" "死体の始末" "病院" "復原" "送る" "売り払う" "欲強議員"

 

解けた暗号の一部だけ読めるけど正確な内容は分からない……でも、死体の始末に何かしら嫌な物が絡んでると言うのはよく分かる。

 

そして……欲強議員。

 

確か救済支援会と慈善事業を共同で運営している活動家で知られていて支持もある。

 

最近だとオールマイトとの握手の写真が乗った新聞が出回ったりしてたわね。

 

『この議員さんが何か関わってるのか?』

 

「そうとしか言えない……ただ、確証も無く襲うのは駄目。もっと決定的な何かがほしい……」

 

私は書類に載る暗号を更に読み解こうと私はある一部に注目する。 

 

それは多岐に渡って暗号の中に頻出する単語があった。

 

それを私は組み上げると出来た物は。

 

「グリーン……メイスン?」

 

『グリーン・メイスンだと!?』

 

「知ってるの?」

 

私はグリーン・メイスンと言う単語に反応したアーサーの方を見るとその顔は……怒りの表情になっていた。

 

『壊滅させたと思っていたが……しつこい奴等だ』

 

「アーサー。……教えて。グリーン・メイスンって何なの?」

 

『……グリーン・メイスン。ロンドンに蔓延った秘密結社だ。目的は不老不死を成立させて楽園を実現させようだとか抜かした奴等だ。その為に他者の事なんてお構い無し、邪魔なら消し、弱者を虐げ、危うくなれば事件を揉み消す。俺の母さんは奴等の警告で殺され、父さんは間接的に奴等のせいで死に、そして……ローリィを殺した』

 

「緋色に反応してたって事はそのローリィに似てたの?」

 

『そんな感じだ。奴等はゴッドスピード・ユニオン・ファミリーと言うロンドンを牛耳っていたマフィアを傘下にしようとしたが断られた事で壊滅させた。それだけでは飽きたらずマフィアの関係者なら全員を攻撃した。そして……ローリィも執拗に狙われて……俺は……守れなかった』

 

アーサーは拳を強く握りしめ、怒りと悲しみ、憎しみの感情を出しながら語り続ける。

 

『だから奴等に復讐した!!母さんと父さんを奪うに飽きたらずローリィの全てを奪い、ローリィの命すら奪い去っておきながら法で裁かれない奴等が!!まやかしなんかの為に人の大切な物を平然と奪うそんな奴等が!!』

 

「アーサー……」

 

『ジル。もし、奴等がまだ存続していて尚且つ日本に潜伏しているなら……必ず見つけ出せ。奴等は生かしておく事は絶対に許されない。絶対にな……』

 

アーサーはそう言って憎しみを宿した目で私に言うと嫌な事を思い出したとばかりに何も喋らなくなった。

 

アーサーは大切な物を奪われた……私もそう。

 

憎しみは憎しみでしか返らないなんて言うけどなら、その憎しみはどうするのか?

 

復讐はしてはならないならどうすれば良いのか?

 

……簡単だ。

 

法で裁けない奴等は生かしておく価値は無く、復讐は正当な行為であり、憎しみは憎しみでしか返らないと言うが例外だってある。

 

大切な誰かを守る為、誰かの大切な何かを守る為、私は躊躇を捨てなくちゃいけない。

 

「アーサー。分かってる……私は法で裁けない悪は絶対に許さない。そのグリーン・メイスンと言う組織が存在するなら……私は刃を向ける」

 

『……その意気だジル。だが、油断するな。グリーン・メイスンは単なるヴィランの秘密組織じゃない。一般の市民に紛れて暗躍する組織だ。油断すればお前は背後から攻撃されるか関係者が狙われると思え』

 

アーサーのその忠告に私は頷くと暗く、深い社会の深淵に紛れ込む悪を必ず見つけ出すと誓った。

 

~別視点side~

 

その頃、とある場所にある施設に揃い緑頭巾とローブ、何の特徴も無い白い仮面を身に付けた者達が集まっていた。

 

まるで個人の個性そのものを消し、複製品の様な格好をする者達は一堂に会した事で話し合いが始まった。

 

切り裂きジャック(ジャック・ザ・リッパー)の亡霊とやらが……アズエル教会を潰したそうだ」

 

切り裂きジャック(ジャック・ザ・リッパー)……嫌な名前だ。我々の崇高な計画の全てを潰した」

 

「今回は……その子孫だとか。忌々しい……だから早めに消すべきだったのです。過去と同じ様に壊滅などさせられるなどあってはならない」

 

「ふん。切り裂きジャック(ジャック・ザ・リッパー)。霧先ジルは我々には気付いていない。それに社会そのものも。今は捨て置いても良いだろう」

 

「その油断が我々がロンドンの支配を永遠に遠ざけられた理由だぞ!幸いにも一部の者達は海外いたからこそ切り裂きジャック(ジャック・ザ・リッパー)に追われなかったが今、この日本にいるのだぞ!!」

 

緑頭巾の者達は議論を交わす中、彼らに近付く者達が現れた。

 

仮面で顔を隠し、長い銀髪を前に垂らした緑のローブを纏った女性と思われる人物だ。

 

切り裂きジャック(ジャック・ザ・リッパー)など捨て置きなさい」

 

「し、しかし……よろしいので?」

 

「奴の怒りを買ったからこそ我々は滅ぼされた。ならば、今すぐ始末する為に怒りを買うよりも今は捨て置いて力を付け、基盤を固め、もはや抵抗すらままならぬ状況に追い込む方か良いでしょう」

 

仮面の人物はそう言うと緑頭巾の者達は次々に賛同の意思を示すと静かになった。

 

「さぁ、皆さん。楽園の実現の為に。我々の理想の為に。よりいっそう邁進しましょう。このヒーロー飽和社会。腐敗したヒーローを取り込むなど簡単です。そうした者達には金を掴ませなさい。応じないなら力で黙らせなさい。アズエル教会の件は残念でした……我々の取引相手であるかの御方も残念でならないと仰せです。まぁ、これは別の施設から調達出来るので良しとしましょう。我々は政治の中核に入り込みました。次の方針は……警察機構の掌握です。ヒーローよりも警察機構の方が権限は高い。ならば、警察機構を抑えてしまえば……ヒーローを抑えつけれる日も近いでしょう」

 

「ですが、問題が……平和の象徴であるオールマイトがおります」

 

「それなら及びません。かの御方からこう聞かされました。……オールマイトは全盛期から衰え、弱っていると」

 

仮面の人物からのその言葉に緑頭巾の者達は歓喜の声を挙げた。

 

オールマイトはどのヴィランであってもかなりの驚異であり、一度でも組織の前に現れればそれは終演を意味する。

 

故にオールマイトが弱っていると言うのはかなりの吉報なのだ。

 

「計画を進め、企業と医療技術に投資し、不老不死へ至る道を探りましょう。個性と呼ばれる祝福があるのですからね。可能性としては数多くある個性の中にはそう言った物もあるでしょう……故に目を光らせ続けなさい。全ては楽園の実現の為に。我々の理想の実現の為に」

 

仮面の人物はそう言って笑ったのだった。

 

その頃、ジャスティスは一人、項垂れていた。

 

まさか、ジルが逃走してからすぐにアズエル教会を襲撃するとは予想外で礼状が取れた日にアズエル教会で火事が起きたと聞いてエンデヴァー達と来てみれば手が付けられない位に燃えていたのだ。

 

そこにはアズエル教会の信者達と鎮火を消防と共にしていたバックドラフトとそのサイドキック達がいた。

 

「全然消えねぇッ!油でも使ってんのこれ!?」

 

と言うバックドラフトの怒号が飛んだりする中、数時間掛けてやっと鎮火したのだ。

 

中は無論、悲惨だった。

 

焼けた人間の匂いが立ち込める中、ジャスティス達は警察と共に立ち入ると数人の死体と寄り添う様に死んでいる二人の死体があった。

 

焼けた死体は一人を除いてナイフで切られた様な跡があり、切り裂きジャックの仕業と断定されたが火事の一件までは分からなかった。

 

何しろ現代社会で火なんて料理やその他の娯楽用品以外で態々、使わない。

 

アズエル教は何かしら火に関する儀式を行っていたと言われて要るが信者達は口をつぐんでしまっており、真相が聞き出せない状態になってしまった。

 

しかし、信者達は口々に言うのだ。

 

"切り裂きジャック(ジャック・ザ・リッパー)"に救われたのだと。

 

その証言が何処から漏れたのかマスコミは挙って切り裂きジャック(ジャック・ザ・リッパー)の真実などと言う記事やニュースを流し始めた。

 

曰く、悪を許さぬ無法者(アウトロー)

 

曰く、弱き善人を助け、法で裁けぬ悪人を裁く殺人鬼。

 

曰く、現代社会の闇を切り裂くヴィジランテ。

 

曰く、ヒーロー殺しの対たるヴィラン殺し。

 

曰く、社会の闇を暴くダークヒーロー、切り裂きジャック(ジャック・ザ・リッパー)

 

等と脚色も加えて広く報道してしまい市民の者達は皆、半信半疑ではあるが切り裂きジャック(ジャック・ザ・リッパー)は凶悪なヴィランではなく、義賊的なヴィジランテと言う認識が強くなりつつあった。

 

多くの疚しい何かを抱えていない者達は安心し、疚しい何かを抱える者達は震えあがる。

 

社会は今、たった一人の殺人鬼によって揺れ動いているのだ。

 

ジャスティスは深い溜め息を吐く中、そこへ一人の人物がやって来た。

 

「すみません。ミストヒーローのジャスティスこと霧先 真さんですか?」

 

「ん?俺だが……あんたは誰だ?」

 

そこにいたのはジャケットに、キャスケット帽を被りショルダーバッグをかけたジャーナリスト然とした出で立ちの黒髪の女性がそこにいた。

 

「私はこう言う者でして」

 

女性は名刺を差し出すとジャスティスはそれを受け取り確認する。

 

「社会報書新聞。広瀬 綾乃?」

 

「はい。貴方様に話題の切り裂きジャック(ジャック・ザ・リッパー)|の亡霊について御聞きしたくて参りました。取材許可も取れてるので後は貴方様から許可さえ得られたら取材出来るのですが……?」

 

綾乃の申し訳程度にそう言うとジャスティスとしては取材やらマスコミに追い掛けられるのはうんざりしていたが数多くのマスコミの中でかなり礼儀正しく更に外堀を埋めて対策してくる彼女にジャスティスは負けた。

 

「ふーん……まぁ、良いか。何を取材したいんだ?」

 

「ありがとうございます!単刀直入に言いますが切り裂きジャックこと霧先ジルさんとは親子であるそうですがそこに何か御気持ちはありますか?」

 

「結構攻めるな~おい。気持ちなんてもんはな……残念としか言えないな」

 

「残念とは?」

 

「俺は彼奴には正義とは何か?正しい事と間違った事とは何か?と教えてきたつもりだった。彼奴は俺の教えを受け入れていたと思っていた……と言うか彼女自身の形になってたな。軽く教えただけなのに。なのに彼女は社会の過ちを自らの手を汚す事で無理矢理に変えようとしている」

 

「となると……その正義が暴走したと?」

 

「正義の在り方は人、各々だ。金の為やら名誉の為やらでも人を守る。それも一つの正義だが……その為に不正をする馬鹿もいる。彼奴は……それが許せなかったのかもな。それにオリヴィアの事も……」

 

「その時の事はお悔やみ申し上げます」

 

綾乃の言葉にジャスティスは軽く笑うと綾乃はメモを終えると次の質問をする。

 

「実の娘さんである切り裂きジャックを捕まえる意思はありますか?」

 

「あるに決まってるだろ?彼奴を間違った正義を止めなくてはいけない。毒を以て毒を制してはならない……過去に組んだ事がある警官にそう教えられた事がある。彼奴がどんだけ正しくても決して殺しはしてはならない。殺人はどんなに見栄えの良い大義を掲げても悪であるのは間違いないからな」

 

「なるほど……ありがとうございました。もしかしたら度々、取材させて貰うかもしれませんのでどうか御贔屓に」

 

「待ちな」

 

綾乃はそうそうに立ち去ろうとする所呼び止められるとジャスティスから何かを投げられ、綾乃はそれを空中で受け取ると営業スマイルを消した。

 

投げられたのはプロペラが付いたカメラが取り付けられた小型のロボットだった。

 

「そう言った小型の機械の使用はサポートアイテムの不正使用になるかもしれないぞ。止めといた方が良い。お前だろ?信者達の証言をばら蒔いたのは?……次は見逃さねぇぞ」

 

「……肝に銘じます。ですが、私は他の記者(馬鹿)達とは違いますので……失礼しますね」

 

綾乃はそう言って再び営業スマイルに戻るとそそくさと立ち去って行き、ジャスティスは厄介な奴に目を付けられたかもしれないと思い、また溜め息を吐いた。

 

その一方、綾乃はロボットの事を見破られた事に戸惑いつつもニヤリと笑う。

 

「まぁ良いや。次は……霧先ジルさんに取材でもしましょうか。探し出すのは面倒だけど」

 

綾乃はそう呟きながらその場から立ち去って行った。



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【第三章】闇に蠢く者達【殺人鬼ルート】
殺人鬼の信望者


私は暗号を解いていたらいつの間にか眠っていたのか目が覚めるとまだ暗い朝が私を出迎えた。

 

私は欠伸をしながら軽く背伸びをすると事務所の部屋に当然の様に置かれていたテレビを着けた。

 

《続いてのニュースです。切り裂きジャック(ジャック・ザ・リッパー)の亡霊に関する続報です。切り裂きジャック(ジャック・ザ・リッパー)の亡霊は近日に渡って路地や建物内においての連続殺人の容疑者、霧先ジルの主な行動が分かってきました。霧先ジルは法で裁けない犯罪者を狙う殺人鬼であり、彼女のターゲットは全て黒い噂の絶えない者達であり、彼女の行為はヴィジランテ的な活動であるとされます。こういった行為に捜査関係者は断じて許される事ではない。速やかに逮捕し、残虐な私刑行為に歯止めを掛けるとコメントしました。また、市民の間では切り裂きジャック(ジャック・ザ・リッパー)の亡霊を英雄視する者もおり、社会的な影響が起こる事は間違いないでしょう。続いては》

 

私はそれを見てチャンネルを変えても何処もかしこ切り裂きジャック(ジャック・ザ・リッパー)に関するニュースで私の殺人理由が挙げられていた。

 

「何これ……?」

 

『さぁな。信者達の誰かが喋って辿りに辿って真相に行き着いたのか何処からか情報が漏れたのか……まぁ、好都合だ。支持者がいるって言う事は俺達の味方になる奴が現れる可能性もあるって事だ』

 

「あんまり人を巻き込みたくない……」

 

『トップヒーローに追われてるんだぞ?庇って貰える奴が一人でもいるなら引き込んだ方が良い』

 

「そうだとしても個人的な復讐から始まった切り裂きジャック(ジャック・ザ・リッパー)の活動に赤の他人を巻き込む……それはもう、緋色や外堂先生だけで良い。不可抗力で巻き込んでしまったから……これ以上、巻き込むのは駄目よ。別の案だってある筈よ」

 

『はぁ……甘い奴だな。まぁ良い、その内に限界が見えるだろう。その時には考えておけ』

 

アーサーの助言を私は受け入れる事は出来ず、頭を悩ます中、今夜も仕事に出掛けるから朝と昼の間に暗号解読に捗ろうと思いながら私はシャワーを浴びに風呂場へと向かった。

 

~別視点side~

 

広瀬綾乃は社会報書新聞社の記者の一人で最も取り上げるネタはヒーローの不祥事、不正、職務怠慢と言ったヒーローにとって挙げられたら困るでは済まない様な物だ。

 

常にヒーローの動向に目を光らせ、何かしらのヒーローにとって不利益な情報を握れば容赦無く記事にしてしまうメディア関係をよく知るヒーロー達には悪名高い記者の一人なのだ。

 

だが、彼女の言う事ももっともで実際に書かれているのは事実であり、創作でも捏造でも脚色も無い正当な批判記事の為、真っ当に仕事をするヒーローは文句も言えないし、言いやしない。

 

寧ろ、彼女に見られ、ヒーローとしてどの様な評価になるかと敢えて彼女を近くに置く様なヒーローもいたり、新人のヒーローに彼女を着かせる様に薦める者達がいたりし、特にインゲニウムは寧ろ望む所だとばかりに彼女を指名してくれる大お得意様と言える前がらだ。

 

だが、最近では圧力が掛けられているのかまともな批判記事を書かせてくれない毎日。

 

上層部が代わってから一転してヒーローを称賛する記事ばかりで後ろ暗い何かを抱えたヒーローや実際に不祥事や不正を起こしたヒーローの事件は揉み消されている。 

 

「つまらない事をしてくれますね……」

 

上層部は恐らく都合が良い様な形に置き換えられており、ヒーロー至上主義者にとって都合の良い社会にする為にヒーローの闇を知らせない様にしたいのだと綾乃は嫌でも理解させられたのだ。

 

最近、ヒーローであり、連続殺人鬼で名を馳せる切り裂きジャック(ジャック・ザ・リッパー)の父親であるジャスティスに取材したが中々に高潔なヒーローだと評価した。

 

実の娘に対しても容赦無く捕縛する意思を持ち、悪を見逃さない……そんなヒーローだと綾乃は感心しながら記事を纏める中、霧先ジルの行動にも感心を寄せた。

 

「悪を裁く悪……法から隠れる悪を見つけ出し殺害する無法者(アウトロー)……彼女なら私の考えに賛同してくれるのかしら……?」

 

綾乃はそう呟きながら自身のデスクから立ち上がると上着を着て、キャスケット帽を被ると同僚に外に出てくると言って歩いて行く。

 

彼女は広瀬 綾乃。

 

ヒーロー社会で誰よりもヒーロー嫌いであり、誰よりも腐敗を怨み、誰よりも社会の闇潜む悪事を憎む女。

 

過去に受けた仕打ちは決して忘れない……彼女にはその意思があった。

 

だからこそ、切り裂きジャック(ジャック・ザ・リッパー)が自分の望む真の正義の体現者であるのか確かめる為に動いた。

 

~side終了~

______

____

__

 

夜、私は闇夜に紛れて犯罪行為を行うヴィランを殺し回っていた。

 

「ひぃッ!?」

 

「た、助け」

 

「逃げるな!屑が!!」

 

私はそう叫びながらナイフを二本投擲して逃げるヴィランに当てると一人は絶命し、もう一人はまだ生きていた。

 

「た、助けて……助けてくれ……!」

 

「人様の命を何人も奪っておいて……助けて?ハッ!笑わせてくれるわね。存分に恐怖に慄き、死なさい」

 

私はそう言って倒れているヴィランにトドメの一撃を与えるとヴィランは今度こそ死んだ。

 

私は壁にいつもの様に"FROM HELL(フロム ヘル)"と書いていた時、後ろから足音が聞こえ、私は振り替えるとそこには不適な笑みを浮かべる女がいた。

 

格好はジャケットに、キャスケット帽をかぶりショルダーバッグをかけたジャーナリスト然とした出で立ちをした女性でその顔を全く恐怖が無い。

 

「貴方が……切り裂きジャック(ジャック・ザ・リッパー)の亡霊ですか?」

 

「そうだけど貴方は?」

 

「私は広瀬綾乃です。単なるしがない記者です」

 

「記者?マスコミと言う事?」

 

「はい!貴方に是非、取材をしたいのです」  

 

この女……今の状況を分かっているの?

 

殺人現場に現れたと思えばその犯人である私に取材?

 

ある意味ではイカれた女ね……断ろう。

 

「取材には興味は無いわ」

 

「待って下さい!私は貴方に……貴方に聞きたいのです!この社会の闇に潜む悪を何故、貴方は裁くのですか!!」

 

「何故?どう言う意味で?」 

 

「私は……昔、ヒーローに……家族が殺される所を見捨てられた……それだけじゃない……そのヒーローもグルで……私は……そのヒーローとヴィランに女としての尊厳まで奪われた……警察や他のヒーローに何度も訴えても取り合ってもくれない現実……私はヒーローやこの社会の闇が憎い!でも、行動が起こせなかった!私がせいぜい批判記事を書く位の抵抗しか出来なかった中で貴方は悪を裁く事をやり遂げた!貴方は……何の理由で悪を裁くのですか!!」

 

イカれた女と言うのは撤回すべきかもしれない……彼女はこの社会を……腐敗したヒーローを……深く憎んでいる。

 

だから、此処までの無茶を仕出かせる……

 

イカれたよりも狂気に満ちきった人格と言えば正しいのかもしれない。

 

「私は闇に紛れた悪が許さない……だけじゃない。単に母さんが殺されたからその仇を追っていたらいつの間にか悪を裁く殺人鬼になっていただけ。だけど、法から逃れる悪は許さない。どんな罪にも報いは受けるべき。それから逃れようとするなら……私が裁く」

 

私はそう言いきると綾乃は満面の笑みを浮かべている……とても狂気的で闇夜にも関わらず整ったその顔立ちは不気味とも言えた。

 

「貴方はやはり……私の理想の体現者でしたか……!!」

 

「……悪いけどもう行くわよ」

 

「そうですか。なら、これを。私の名刺です。何時でも連絡を下さい。私は……貴方様の力になりたいのですから……」

 

怖い……物凄く怖いから早く帰ろう……尾行されたりしないわよね?

 

ストーカーと化したりして常にいられるのは嫌だし……緋色に相談してみようかしら?

_______

_____

___

 

私は残り時間を寝て朝を迎えると緋色と連絡を取って広瀬綾乃の事を相談すると直接、事務所まで足を運んでくれた。

 

そういえば今日は日曜日だったわね……悪い事したな。

 

「一通り広瀬綾乃の事を調べたぞ。広瀬綾乃。名刺に書いてある通り、社会報書新聞社で働いている記者だ。ヒーローに対してかなりアンチ的な記事を書く事でメディアに広く出ているヒーローには悪名高く知られているらしいが公正公平な批評である為、ヒーローの評価者として密着して着く事がよくあるらしい」

 

「へぇ……意外ね。真実とか関係なく批判記事書いてそうなくらいに社会の全てを恨んでそうな目をしてたのに」

 

「それは間違いは無いだろうな……彼女の過去はかなり悲惨だ。高校二年の時に両親は強盗目的で押し入ったヴィランに殺され、彼女は拉致された。その拉致先でヒーローが来たと思えばそいつはグルでヴィランとそのヒーローに……それ以上は言いたくない。同じ女として許せないとしか言えないな」

 

「……屑共め」

 

「その後、捨て置かれたらしく自力で脱出して後日、警察やヒーローに訴えたそうだ。だが……取り合わなかった。何せそのヒーローは当時、トップヒーローに届こうとしている様なやつでな。不正が暴かれてNo.1になる事しか頭に無いエンデヴァーが悲惨過ぎる事件のせいか珍しく怒り狂ってそのヒーローは散々にやられたそうだ。それでもそいつは牢屋に入れられるまで絶対的な信頼とやらによって守られたんだ。笑えるな。多少、人気があるから信頼できるだって事がね」

 

緋色はそう皮肉を言った後、出された珈琲を飲むと良い笑顔を見せた。

 

私が入れた珈琲を飲んで喜んでくれた父さんや母さんを思い出す。

 

「その後、彼女はヒーローに社会に怨みを持った。対応が遅く、被害者なのに被害妄想だと言われ周囲から嫌がらせを受けたり、解決してもエンデヴァー以外に謝罪無し。本当に意外だよね。あのエンデヴァーが謝罪と言うのはね。話は戻すと僕でもこれは怨んでも文句は言えないな。そして記者となりその鬱憤を晴らす為にヒーローの不祥事や不正、怠慢を内容にした記事にして晒したそうだ」

 

「本当に悲惨ね……」

 

『世の中にはそうした者が多くいる。どれだけ声を張り上げても聞いてくれない、聞こえないフリをされる。ヒーローの数が増した事で腐敗が進み、本当の意味で助けを求める者達が蔑ろにされる社会。許せるか?』

 

「(許せないわよ。そんなの……!)」

 

『だったら手伝わせてやろうぜ。その広瀬って奴にも。俺達の同じでこの腐りきった社会に異議を唱える奴だ。今の時代は一人では勝ちきれない。なら極力、味方を作る努力をするべきだと思うぞ?』

 

「(……分かったわよ。本当はあんまり会いたくない人だけど……記者が協力者になるなら有益な情報を持ち込んでくれそうだしね)」

 

私はそう言うと広瀬綾乃の名刺を片手に眺めながらあの狂気に満ちきった笑顔をまた見るのかと思うと憂鬱になった。



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繋がる過去

私は名刺の連絡先を使って綾乃を指定の場所に呼び出して接触する事に決めた。

 

緋色が人払いをしてくれてる為か夜間ではあるけど人の気配が無く、二人で話すのには丁度良い空間が出来上がっていた。

 

私は指定場所で待っているとそこへ綾乃が現れた。

 

「来ましたよ。貴方様が私を呼んだと言う事は受け入れてくれるのかそれとも……口封じかのどちらかですか?」

 

「しないわよ。……貴方の協力を受け入れるわ。貴方の事を知り次第だけどね」

 

「あぁ!ありがとうございます!」

 

物凄く狂気に満ちた顔で感謝の言葉を言われても怖い。

 

早めに用件を終わらせてしまいたいから本題を切り出そう。

 

「それで?どんな協力の仕方なの?」

 

「幅広い情報の提供。そして、私の個性です」

 

「貴方の個性?」

 

「私の個性は転移。私が認識し、記憶している場所に人や物を送り込んだり、呼び込んだり出来ます。自分は転移出来ませんがやろうと思えば雄英の校内のど真ん中に転移させれます。ただ、記憶していればの話ですが」

 

「へぇ……ヒーローを目指そうとは思わなかったの?」

 

「私はヒーローになるよりもヒーローの活躍する所が好きでした。あの時の事さえ無ければ……今はヒーローなんて嫌いですね」

 

綾乃はそう言って無表情になり、表情の温度差が激しすぎないかと思いながら彼女の有益性はかなりの物だ。

 

情報と言っても何処までか分からないけど記者としての顔を持つ彼女なら顔が広く、有益な情報を沢山持っていてもおかしくない。

 

でも、もしかしら取り入る為の嘘かもしれない。

 

信用するかしないかは先ずは試してみる事から始めないと。

 

「なら、欲強議員について何か知ってるかしら?」

 

「あの強欲な議員さんの事ですか?」

 

きょとんとした顔で聞いてくる綾乃に私は知ってるんだと思っていると綾乃は手帳を取り出してパラパラとページを捲ってから説明してきた。

 

「欲強議員は一見、慈善事業を衣緑氏と共同運営してる弱者に優しく、社会に多大に貢献する議員ですが……黒い噂も絶えない人ですね。何でも欲強議員のゴシップを狙った記者がいて尾行している時に怪しげな人と会っていたと言っていたんです。まぁ、それがその人を見た最後の日なのでよく分かりませんが……何か犯罪組織に関わっているのではと噂されてます」

 

「それが何で強欲な議員になるのよ?」

 

「それが……いたんですよ。執念深く探っていた記者が。それも生きて。その人が言うには欲強議員が誰かは分からない人と料亭に入った所を部屋を割り出して中を覗き見たそうです。そして欲強議員がお金を受け取っていたと」

 

「へぇ……議員が賄賂ね。何の為の賄賂かしらね?」

 

「そこまでは分かりません。それで探りを入れていた人はすぐに警察に駆け込んで証拠に取って来た写真も見せて訴えたそうですが……証拠を取られたまま有耶無耶にされたそうです。無論、抗議したそうでしたが無駄だったそうで……その人は無念のまま今度は会社にも手が回されて辞めさせれて田舎に引っ込んでしまったそうです」

 

汚職疑惑のある欲強議員。

 

でも、単なる汚職政治家ではない……何か後ろ楯のある議員なのは間違いない。

 

でないと人が忽然と消えたり、証拠を揉み消したり、会社に手が回されて辞めさせられたりなんて普通はあり得ない。

 

はっきり言って、黒に近くなった。

 

あの暗号文が正しければ後ろ楯は……グリーン・メイスンの可能性がある。

 

それの話が本当なら。

 

彼女の話は確かに信憑性はあるけど裏付けが無い。 

 

「あ、これ。その人の住所と電話番号です」

 

「え?持ってたの?」

 

「私を舐めないで下さい。それ位の裏付けもします。記者は常に事件の匂いを嗅ぎ付けるのが得意ですからね。それに……もし、議員とヒーローが関わっていたら……奴等の化けの皮を剥がすのが楽しみになるじゃないですか」

 

綾乃はそう言って歪んだ笑みを浮かべてるけど本当にヒーローに対する怨みが強い。

 

綾乃自身が関わった悲惨な事件の事を考えるとそうなるのは無理はないけどやはり、何処か歪みきってると言うのが一目瞭然だった。

 

『意外と実は綾乃とその議員は関係あったりしてな』

 

「(どういう事?)」

 

『簡単だ。こいつが事件に巻き込まれたのは高校二年だろ?今の見た目で何れだけ歳を取ってるか分かるか?どうみても二十代後半だ。その議員さんが出てきた時期は?』

 

「(本格的に出てきて動いたのはだいたい二年前かしら?選挙活動で手を振ったり、握手したりし、演説してた。でも、政治家としてはそれなりに古株みたいね)」

 

『そうだろ?結構な年月は経ってるしそれなりに歳だ。そのヴィランと議員の年齢は近くないか?それに……ヒーローの方は捕まったらしいが……肝心の相方は何処に行った?この数年間の間にな』

 

「(……まさかよね?)」

 

『証拠は無いがな。だがまぁ、調べ尽くしてやろうぜ。もしかしたら遠回しに知らせてるのかもな。こいつの人生を滅茶苦茶にした腐敗ヒーローの相方のヴィランは……欲強議員だったてな』

 

アーサーはニヤリと笑いながら言うと綾乃は微笑みながら結果を待っている。

 

私は思考を巡らした後、私は溜め息をついた後、私の結論を綾乃に伝える。

 

「分かった。貴方は私の味方と思っておくわ」

 

「ありがとうございます!」

 

「……今夜は喋りすぎた。今回は此処までにしましょう。また聞きたい事や力を貸して欲しい事があれば知らせるし、貴方からも有益な情報があったら教えて」

 

「えぇ、喜んで……ジャック様」

 

本当に慣れないわね……フォールン・救火はよくこの視線や笑みに平気でいられたわね……そういえばあの人も狂人に近い人だったわね。

 

私はその場を後にするとスマフォを取り出して緋色に連絡する。

 

「終わったわ。人払いはもうしなくても良い」

 

《そうか。なら、僕達も撤収するよ。そろそろヒーロー達の巡回もありそうだかね。迎えはいるかい?》

 

「大丈夫。一人でも帰れる。それに……調べたい事が増えたからもう少し外にいるわ」

 

《そうか。無理はしないでくれ。それじゃあ、また》

 

緋色はそう言って電話を切ると私もスマフォをしまうと夜の街に紛れていく。

 

淡々と路地を歩く中、雨が降り始めた。

 

~別視点side~

 

フレイムヒーロー、エンデヴァーは自身の事務所の窓の外を見つめていた。

 

夜の空から降る冷たい雨。

 

その光景にエンデヴァーは過去に起きた出来事を思い出していた。

 

「助けてよ……何で……誰も助けてくれないのよ……こんな社会なんか……ヒーローなんか……消えれば良い……!!」

 

過去に夜の雨の中で出会った一人の高校生の少女。

 

彼女は……泣いていた。

 

社会への……ヒーローへの……自身を苦しめる全てに呪詛を唱える様に叫びながら泣き続けていた。

 

エンデヴァーはこの時、非番でヒーローのコスチュームではなく、私服であり、偶然立ち寄った道に崩れ落ちる様に座り込んでいた彼女を見つけたのだ。

 

悲しみ、失望、怒り、憎しみと各々を宿したあの時に見せた瞳は今でもエンデヴァーを忘れさせないのだ。

 

"忘れるな"と常に付きまとっている。

 

自分の家庭でもバラバラであるのに心の中で少女のあの瞳の色が消えない日々にエンデヴァーははっきり言えば参っていた。

 

少女と出会ってから身元の特定やそして関わった事件を詳しく調べあげ、そして強盗のヴィランとグルだった挙げ句、少女を拉致し、少女の尊厳を奪う様な乱暴を働いた腐敗したヒーローを見つけ出し、証拠を手に問い詰めた。

 

そのヒーローは平和過ぎる社会への鬱憤を晴らす為にヴィランの犯罪に目を瞑り、少女が好みだったから共に襲い、そして訴えられても良い様に根回しや証拠の隠滅をしていたとエンデヴァーに怯えながらベラベラと吐いた。

 

主犯のヴィランは何ヵ月も経った後の事件の為に既に逃亡して行方を眩ましてしまい探し出せず、エンデヴァーはこんな奴が同じヒーローをしていると思うと怒りを抱き、過剰に攻撃してしまうも捕縛し、事件は主犯は行方知らずと言う納得のいかない形で幕を下ろした。

 

エンデヴァーは自分らしくもないが少女の元に謝罪しに行く。

 

その少女はあの時の夜に会ったのがエンデヴァーとは気付いておらず、エンデヴァーを見るや憎悪の表情を見せ、構わず謝罪するも少女の瞳から憎しみの炎は消える事はなかった。

 

エンデヴァーは夜の雨を見るとあの時の少女と事件を思い出し、ヒーローとは、No.1とは何かと問われている感覚を覚えるのだ。

 

本来、今いるNo.2はある意味ではジャスティスに譲られた地位でもあった。

 

ジャスティスは結婚もしていない若い頃から悪を断罪する事を常としたヒーローで悪を許さず、汚い手段を使ってでも捕縛すると言う強い意思を見せ、市民からの信頼が厚いヒーローだったが数年前に議員の汚職を暴こうとして逆に嵌められ、ヒーローとしての信頼を無くし、トップヒーローから転落し、忘れ去られたのだ。

 

失意の内に一時期、日本から去り、遠いイギリスのロンドンへ旅立ち、エンデヴァーは繰り上げのランクアップと勢いあってNo.2へと上りつめたがもし、議員の不正をジャスティスが暴ききっていたらエンデヴァーはNo.3に留まっていたかもしれない。

 

「……ふん。くだらん」

 

エンデヴァーは考えるのは止めだとばかりにそう吐き捨てると仕事へと戻った。

 

調査報告書や警察に提出する書類などが机にあるがその中に強盗を起こしたヴィランとグルであったヒーローが起こした事件の捜査資料も置かれていた。

 

エンデヴァーは未だに諦めていなかった。

 

その事件の片割れのヴィランには"時効"までまだ数日の猶予があり、それまでエンデヴァーは諦めるつもりはないのだから。

 

~side終了~



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獅子皇会

雨が降り頻る中、私は綾乃の言っていた証拠である写真の持ち込み場所である警察署前の路地の闇に紛れながら見ていた。

 

夜は夜勤の者しかおらず、忍び込むなら十分な数の警官しかいないと推測できた。

 

『本当に入るのか?都合の悪い写真なんだから処分されている可能性だってあるぞ?』

 

「(それでも探す価値はあるわ。さぁ、行きましょう。捜し物にね)」

 

私はそう言って警察署の周りを先ず、見渡して侵入経路を探ると二階の窓が開いている。

 

取っても十分あるし簡単に登れると思い、私は取ってを掴み、足に掛けて登ると窓から侵入する。

 

私は警察署に侵入してから先ず、証拠の保管場所を探る為に警察署の中を足音を消して歩くと警官の一人が歩いて来た。

 

私は息を潜めて近寄るのを待ってから私は素早く押さえ込み、口を押さえながら首を殺さない程度まで絞めた。

 

「ごめんなさい。大丈夫。殺さないから」

 

私は警官にそう呟きながら言うと警官が気を失ったのを確認してから近くの部屋に寝転ばせてから私は探索を再開する。

 

道中何度も同じ事が起きたけど何とかバレずに証拠品が保管されている部屋に辿り着くと私は部屋の扉を開けて中に入ろうとして目にしたのはしゃがみ込んで何かを探ってた父さんだった。

 

……とんでもない所で出会したわね。

 

「何やってるの父さん?」

 

「しぃーッ!声を出すな……!!」

 

「……で?何やってるの?」

 

「何って……証拠を探してるんだよ。詳細は言わねぇがな。今回は状況が状況だから捕まえられねぇが次会ったら覚えとけよ?」

 

「ふーん……まぁ、私も同じだし、探らせて貰うわよ」

 

 

「は…はぁ……!?探るっておい……!!」

 

「父さんも私と同じで忍び込んだのでしょ?物音を大きく立てるわよ」

 

私の脅しに父さんは苦虫を噛んだ顔をしながら証拠を探しに戻った。

 

父さんまで証拠探し……もしかして目的は同じ?

 

私は兎に角、汚職の証拠の写真を探し出す為にありそうな所を出来る限り音を立てない様に探る中、気まずい空気が流れ続ける。

 

『なぁ、せめて何か会話しろよ?親子だろ?』

 

「袂を分かつ関係なのよ。今更……何の話をするのよ……」

 

「またアーサーか?」

 

「気まずいから何か喋れって」

 

「そうか」

 

それで会話が止まった。

 

アーサーはその状況にムシャクシャしてるのかイライラした表情をしている……そのまま黙ってて欲しいわね。

 

「で?お前は何の証拠を探してんだ?お前にとってヤバいのか?」

 

「悪党の証拠よ。揉み消されたね」

 

「あぁ?偶然だな……俺もだ。写真なんだけどな」

 

「奇遇ね。私も……ねぇ、まさかと思うけど欲強議員の写真?」

 

「知ってたのかよ?なら聞くなよな……おい、まさかよ」

 

お互いに顔を見て探し物がお互い何なのか察し、暫く無言の空間が広がる中、私は急いで写真を探した。

 

「あぁ、もう!何でよりにもよって同じなのよ!」

 

「テメェなんかに取られてたまるか!畜生が!」

 

『やれやれ……こんな所は親子なんだな』

 

アーサーは苦笑いしてるけどそんなのに構ってられないのよ。

 

私は大急ぎで探っていると紙みたいなのに触った。

 

私はもしやと思い、取り出すと写真の束だった。

 

写真の写りは……よく撮れてる。

 

間違いなく欲強議員が料亭で金を受け取っている姿が何枚もあったのだ。

 

「取ったぁッ!!!」

 

「馬鹿野郎!!大声を出すな!!あとそれ渡せ!!!」

 

『テメェらが黙れ!!!』

 

私は父さんよりも先に証拠を確保出来た事に喜ぶあまり大声を出してしまい、父さんも大声を出した事でこの後に起こる事が目に見えていた。

 

「おい!今の声は何だ!?」

 

「証拠の保管室だぞ!!」

 

「おい!此処に気絶した奴がいるぞ!!」

 

続々と警官達の声が聞こえてくる中、私はかなりマズイと思っていると父さんは……霧になって隙間から逃げてた。

 

「卑怯者!!!」

 

『早く逃げろ馬鹿!!!』

 

私は父さんが完全に逃げたのを確認した後、扉を開け放つと警官達が近くに集まっていた。

 

「切り裂きジャックだ!!」

 

「止まれ!止まらなければ撃つぞ!!」

 

警官達が銃を構えてくるけど構っている暇は無い。

 

私は射線から外れる様に角に逃げると一斉発砲される音が響き、更にサイレンが鳴り響いた。

 

「切り裂きジャックがいるぞ!!」

 

「待て!!」

 

「面倒な事になったわね……」

 

『声を出すからだ。ほら、窓だ』

 

私はアーサーの見つけた窓を開けるとそこから飛び降り、地面に降り立つと路地に入り込んで逃げる。

________

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死ぬ気で警官達から逃げた私は息を整えると証拠をもう一度確認してから懐にしまうと道を歩く。

 

降り続ける雨に私はずぶ濡れになりながら嫌な気分の中、歩いているとそこへヤクザとしての格好をして部下らしき男達を引き連れ、その一人に傘を差されながら歩いている緋色に鉢合わせた。

 

「ジル?まだ帰ってなかったのか?かなり濡れてるぞ?」

 

「今、用が済んでね。貴方は何してるの?」

 

「縄張りにある家の経営店を回っていたのさ。経営も管理も仕事だからね。許可を得て経営した正当な儲けだし、法に従ってるんだからヒーローにも文句は言わせないよ」

 

緋色はそう言ってニヤリと笑って見せると私は今時のヤクザとしては儲けてるんだなって思っているとくしゃみをしちゃった。

 

「風邪引きそうだから私、帰るわね。また明日ね」

 

「……ジル。良かったら家に来ないか?」

 

「え?」

 

「お父様にも友達として紹介したいし、そんなにずぶ濡れだと本当に風邪を引くよ。僕の家は近いし、雨宿り次いでに泊まっていけば良いさ」

 

「仮にも指名手配犯だけど私……」

 

「バレなきゃ犯罪じゃないよ。ほら、何処に目があるか分からないんだから早く行くよ。お前達。ジルを隠す様に歩け。特に(ごん)。君が一番大きいのだから特にな」

 

「はい。お嬢」

 

緋色の命令を受けた黒服のヤクザ達に隠される囲まれると緋色は満足げに笑っているけどこれって借金した奴が逃げない陣形みたいで借金で捕まった人はこんな気持ち何だなって思っていると緋色に合わせて全員が動いたから私も歩かざる得なかった。

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__

 

私が緋色達に連れて来られた所は和風ではあるけど洋風寄りの屋敷で明治の様な名残を持っている雰囲気を出していた。

 

「完全に和風じゃないのね」

 

「別に和風と言う拘りは無いよ。昔にも洋風の家を建てたりしてたヤクザの親分もいたからね」

 

「へぇ……そうなんだ」

 

私はヤクザ達の意外な家事情を聞くとそのまま中に入れば出迎えたのは獅子皇会の構成員のヤクザ達で緋色だと分かると一斉に頭を下げて出迎えた。

 

「「「お帰りなさいませ。お嬢」」」

 

「はいはい、ただいま。いつもご苦労様」

 

『すげェな。テレビで見た奴だぞ』

 

「(本当にヤクザの親分の娘なのね……)」

 

私は出迎えたヤクザ達を他所に屋敷に入ると緋色は命令を出した。

 

「風呂の用意をしてくれ。あと、着替えもね。いつまでも濡れたままじゃ駄目だからな。お父様は?」

 

「仕事が立て込んでいるのでもう暫く掛かるそうです」

 

近くにいたヤクザの一人にそれを聞いた緋色はニヤリと笑うのを私は見た。

 

「なら、次いでに僕もジルと一緒に入ってしまおう。汗もかいたしね」

 

「一緒に入るの?」

 

「別に恥ずかしくないだろう?同性だしね。僕は役得だけど

 

「ごめん。最後の言葉が聞き取れなかったけど?」

 

「ほらほら。お父様が仕事を終わらせる前に風呂に入ってしまうぞ。行こう」

 

私はそのまま緋色に連れられて行き、そのまま風呂場へと直行していく。

 

何だろう……ちょっと緋色が怖いと思ったけど気のせいかしら?

 

~別視点side~

 

獅子皇会の会長、神速 英一郎は大量に割り当てられた仕事を黙々とこなしていた。

 

ヤクザの親分として威厳があり、そして容赦無さはそれなりに修羅場を潜り抜けたヴィラン達にも余程の事が無い限りでは獅子皇会の縄張りで暴れる様な真似は避ける程だ。

 

たまに獅子皇会を天然記念物のヤクザだと侮ったヴィランが山に埋められたり、海の底に棄てられたりとされ、経験あるヴィランは間違っても獅子皇会に手を出さないと言うのは暗黙の了解だった。

 

また、ヒーローも迂闊に手は出さなかった。

 

獅子皇会の縄張りでは滅多にヴィランによる事件は起きずひとえに治安が良いのはヒーローの活躍があるからだとされているが実際は獅子皇会を恐れたヴィラン達が近寄らないだけで尚且つ地元住民とは恐れられるも一定の信頼関係を持っている事から下手な手出しが出来ないのだ。

 

そんな獅子皇会の会長、神速英一郎の元に諢は来た。

 

会長自らの呼び出しに諢は自分は何かしたのかと冷や汗をかきながら来ると用件を話されるのを待った。

 

「……それで。知っているのか?」

 

「は……?」

 

「娘に……緋色に男が出来たと言うのは本当か?」

 

「いえ、出来てません」

 

諢は即刻、否定した。

 

獅子皇会の会長、神速英一郎は情け容赦ない男……だが、娘の緋色の事をかなり溺愛している。

 

「なら何故、さほど興味を持たなかった化粧や着る服を選ぶお洒落に手を出しているのだ?それも顔を赤めながら笑顔でだ」

 

緋色は男物の衣服を好み、化粧にも興味を示した事はジルと出会うまで興味を示さなかった。

 

示してなくても緋色はそのままの容姿でも十分に整った顔と分かり、英一郎は娘に余計な羽虫が近寄らない様に徹底していた筈だったのだ。

 

「男が出来てません。同性のお友達(想い人)がいるだけです」

 

「ふむ……友達(友人)か……本当なのだろうな?)」

 

「はい。間違いないかと」

 

「本当なのだろうな?」

 

「本当です」

 

英一郎と諢の噛み合いそうで噛み合わない会話は暫く続く事となった。

 

~side終了~

________

______

____

 

私はお風呂に入ったんだけど……その……緋色に物凄く触られた……胸を……

 

「良い物を持ってるね~」

 

「何処を触ってるの!?」

 

なんてやり取りを暫く続けてやっと止めてくれたけど感触が自棄に残っていて何だか落ち着かない。

 

「ごめんってジル。機嫌を直してくれ」

 

「嫌よ」

 

「お願いだよジル~。僕と君の仲じゃないか~」

 

私はもう不機嫌になりながらそっぽを向いてると謝りながら後ろから抱き締めてくる緋色に軽く拒絶の意思を見せる中、そこへ如何にも親分と言う風格のある男の人が来た。

 

「何している緋色?」

 

「あぁ……お父様。何もしてません……うん。紹介しますね僕の友達のジルです」

 

「初めまして。ジルです」

 

「……噂の切り裂きジャック(ジャック・ザ・リッパー)か。緋色。私は友人を選べとは言わんが肩入れをし過ぎない様にしろ。お前は組織の」

 

「お父様。それは重々承知しております。私も獅子皇会の一員ですから。さぁ、ジル。僕の部屋に行こう。……誰にも邪魔されない様にね」

 

私は緋色に手を引っ張られながら緋色のお父さんを尻目にその場を後にし、緋色の自室へと向かった。

 

~別視点side~

 

一方、英一郎は緋色が連れてきた友達を見て安堵していた。

 

「……男ではなかったか」

 

「だからそう言ってるでしょう」 

 

物陰から諢が現れて呆れながら言うと英一郎は威厳たっぷりな顔で言う。

 

「馬鹿者。娘を何処と知れぬ男なぞに渡せるか。もし、連れてきた暁には私が自ら引導を渡そう」

 

「お嬢の嫁入りが遅れるので止めてください」

 

「嫁なんぞに行かせん!ずっと私の側にいさせるぞ!!」

 

「(駄目だ……何言っても聞かねぇ……)」

 

「それにしても緋色の友人が切り裂きジャック(ジャック・ザ・リッパー)とはな……やはり、友人は選ばせるべきか?」

 

「彼女はお嬢を深く信頼し、お嬢もジルをあい……信頼してますから問題ありません」

 

「……諢。今、愛してると言い掛けてなかったか?」

 

英一郎はそう言いながらギロリと睨むと諢はしまったとばかりに汗を滝の様に流した。

 

「つまりアレか?緋色は男が好きではなく……女色だったと?今、部屋に連れていったジルと色々とするつもりか?」

 

「き、きっと違いますよ!」

 

「諢!!お前が着いていながら同性に目覚めさせるとは!!私の可愛い娘になんて事を!!!」

 

「すみません!!お嬢が怖くて止められませんでした!!!」

 

獅子皇会の会長、英一郎と緋色の舎弟の諢の漫才とも言える会話に周りのヤクザ達は呆れ眼で二人を見るしかなかった。

 

~side終了~

 

私は緋色の自室に招かれると緋色はベッドまで行くとそのまま座った。

 

「ほら。早く来なよ」

 

「う、うん……」

 

何だかいけない事をしようとしてる感じがして気が気でないのだけど私は緋色の隣に座ると緋色はボイスレコーダーを取り出して私に差し出した。

 

「君が綾乃から手に入れた情報を元に田舎に引っ込んだって言う記者の所に部下を向かわせて話を聞き出させた。欲強議員に対して不満はやはり持っていて、その記者は議員が賄賂の他にも多くの余罪を抱えている可能性もあるって言っていたらしい。これはその証言が入っている。後で聞いてくれ」

 

「ありがとう。ねぇ、緋色」

 

「何だ?」

 

「……貴方のお父さんは私に肩入れし過ぎるなって言ってた。もし、これ以上の」

 

「つまらない事は言わないでくれないか?」

 

私が言い切る前に緋色は無比で尚且つ怒った雰囲気を見せている。

 

私は戸惑っていると緋色は私を急にベッドに押し倒して上乗りになり、その目は何度も人を殺してる私ですら怖いと思う程に鋭い視線を見せていた。

 

「僕は君が欲しいんだ。肩入れしようとしまいと僕の目の届く所に、僕のすぐ側でずっといて欲しい。僕は女だが、おかしな事を言うよ。……愛してるんだ。本当は何処にも行かない様に閉じ込めてしまいたい……誰の目にも留まらせない様な場所に置いてしまいたい……でも……君の意思は尊重したい。だが……もう我慢が出来ない……頼むから僕を……拒絶しないでくれるか?」

 

緋色はそう言ってそのまま口付けし、着ている服に手を掛けていく。

 

『俺は何も見てないし何も聞いていないからな』

 

アーサーに匙を投げられてしまい、私はもうどうにでもなれとばかりにそのまま緋色のやる事に身を委ねた。

 



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雄英体育祭に向けて

緋色との一夜を過ごしてから朝になり、私は色々とした後、眠りはしたけどそれでも少し疲れが出て、緋色は肌がツヤツヤになった様な感じに見える。

 

今、朝食まで貰ってるのだけど……緋色のお父さんが凄い顔をしながら私を見てるんだけど……怖い……まるで憎い相手が目の前にいるかの様に見てくる緋色のお父さんに私は流石にビクビクとしながら朝食を食べるしかなかった。

 

因みに緋色は今日は登校なので雄英の制服姿だ。

 

「……緋色が随分と機嫌が良いが……昨夜は何かあったのか?」

 

突然、昨夜は何をしていたのか聞かれた私は昨夜の事を思い出してしまい目を反らしてしまうと緋色は賑やかに言う。

 

「ガールズトークですよ。女同士。気になる事や好きな相手の話をしていましたよ。それと……ちょっとジャレたりしてましたね」

 

「す、好きな相手……!?ジャレる……!?」

 

「(緋色!?)」

 

明らかに動揺とショックを受けている緋色のお父さんを見た私は昨夜、私と緋色が何をしていたのか察しているのは明白、そして更にそれを察した緋色がからかう様に言った事に私は勘弁して欲しいと思った時、緋色はいつの間にか朝食を食べ終えていた。

 

「それじゃ私はもう出ないと行けないので。ジル。また会おう」

 

「ち、ちょっと緋色!?」

 

「私も二人で話さなければならない事が出来た様だ。行ってくると良い」

 

私にとっての死刑宣告が緋色のお父さんから聞こえるとアーサーに鼻で笑われた。

 

緋色を向かえに来た諢は私の状況を見て同情すると言わんばかりの表情で見た後、緋色と出ていってしまい、残された私は緋色のお父さんの方を見るとそんなの出ない筈なのにオーラが出ている様に見える。

 

「……貴様……女だからと緋色に手を出すとは!!しかもまだ16歳だぞ!!」

 

「ご、誤解です!!お父さん!!……あ」

 

「誰がお義父さんだ!!!」

 

私の失言で怒りの火を点けてしまった私は涙目になりながら嵐が過ぎるのを待つしかなかった。

______

____

__

 

~別視点side~

 

緋色はいつもの様に登校し、放課後まで授業を受けた後、やる事も無いので諢に向かえに来る様に連絡しようとしていた時、クラスの全員が突如として移動を開始した。

 

「何だ?急にどうした?」

 

緋色は謎の団体行動に戸惑う中、力斗と志奈の二人に聞くと力斗は呆れた様に言う。

 

「決まってるだろ神速。雄英体育祭に向けてヒーロー科A組に敵情視察だ。ヴィラン追っ払ったて言う奴等がどんなものか拝みに行くんだよ」

 

「私はお兄ちゃんが喧嘩しない様に着いて行くの」

 

「そう言えばもうすぐだったな……なら、私も行こう。ジルの事で気が病んでるだろうし様子を見に行こうと思っていたんだ」

 

「そうだよね……ジルさんは何処に行っちゃったのかな……」

 

「ふん。勝手に辞めていった奴の事なんか気にするな。……元気にしてるだろ。そんな事より今年の雄英体育祭で彼奴が辞めて空いた席には俺が座ってやる。必ずな」

 

力斗はそう言って決意を固めた瞳を二人に見せた。

 

絶対に譲らない……そんな強い意志が力斗から感じられた緋色はジルがもし、まだそこにいたら諦めていたのかと思いながらも良い心構えだと思えた。

 

「お兄ちゃん……」

 

「やれやれ。この普通科で一番気にしてるのは君じゃないか。もしかして惚れてたのか?」

 

「う、うるせぇ!!惚れるか馬鹿が!!ほら、行くぞ!!」

 

「はいはい(まぁ、昨日の内に僕が食べたから君の物にはならないしね)」

 

力斗からジルへの脈を感じた緋色は女の余裕を出しながらドスドスと歩いていく力斗に着いていった。

 

緋色達が来るとA組の教室前は既に人だかりが出来ており、緋色は予想以上にA組は注目されていると感じた。

 

「やっぱりヴィランを追い払った彼等はちがうね~。注目の的だ。……悪い意味でな」

 

「私……やっぱりヒーロー科にならなくて良かった……とてもA組みたいになれない」

 

「弱音を吐くな志奈。俺まで不安になるだろうが」

 

緋色達はそれぞれの感想を言う中、そこへA組で主席の爆豪勝己が現れた。

 

「敵情視察だろ雑魚。ヴィランの襲撃に耐え抜いた連中だもんな。体育祭の前に見ときてえんだろ。意味ねぇからどけ、モブ共」

 

「知らない人の事、取り敢えずモブって言うの止めなよ!!」

 

飯田の注意するが爆豪の挑発染みた言葉に集まった生徒達は苛立ちを覚え、緋色達も苛立ちと不安を覚えた。

 

「何だ彼奴……!」

 

「主席の人だよお兄ちゃん。私、苦手かもしれない……」

 

「ふーん。大した自信だな。慢心が過ぎる……と、言いたいがそんな感じじゃないな」

 

「何でだ?」

 

「ある意味では……君と同じだろうね力斗。負けられない。ただ、それだけだろうが良い目をしてるな」

 

緋色はヤクザの娘として幹部として培った洞察力で爆豪に良い判断を下すと生徒の群れの中から爆豪の前に現れた者がいた。

 

「どんなもんかと見に来たが随分と偉そうだなぁ。ヒーロー科に在籍する奴は皆こうななのかい?こういうの見ちゃうと幻滅しちゃうなぁ。折角、席が一つ空いたのに」

 

「心操か」

 

緋色は出てきた人物が同じ普通科の心操人使だと知ると意外だなと思っていた。

 

「普通科とか他の科ってヒーロー科落ちたから入ったって奴、結構いるんだ知ってた?体育祭のリザルトによっちゃヒーロー科編入も検討してくれるんだって。その逆もまた然りだってよ……敵情視察?少なくとも俺は調子にのってっと足元ごっそり掬っちゃうぞって宣戦布告しに来たつもり」

 

「「「(この人も大胆不敵だな!!)」」」

 

近くにいた緑谷、麗日、飯田はそうツッコミを入れてしまう。

 

「隣のB組の者だけどよぅ!!ヴィランと戦ったつうから話聞こうと思ってたんだがよぅ!!エラく調子付いちゃってんなオイ!!!本番で恥ずかしい事になっぞ!!」

 

「「「また不敵な人が来た!!」」」

 

三人はまたツッコミを入れた後、爆豪の方へ頼むから何も言わないでくれとばかりに見る中、このままでは喧嘩になるのではと緋色は考えて取り敢えず止めに入った。

 

「まぁまぁこれ以上の言い合いは止そう」

 

「誰だテメェ!!A組か!!」

 

「違う。俺と同じ普通科だ。制服をちゃんと見ろ」

 

「神速さん!」

 

「何だ?知り合いか?」

 

緑谷の反応に心操はヒーロー科の生徒が普通科の生徒と顔見知りな事に意外だと感じていた。

 

「まぁね……取り敢えず言い合いは終わりだ。此処にいつまでもいても埒が明かない。なら、決着は雄英体育祭で決めるべきだ。そうだろ?心操。それに……誰だ?」

 

「俺はB組の鉄哲徹鐵だ!!」

 

「そうか。私は神速緋色だ。よろしく。爆豪も異論は無いな?」

 

緋色はそう聞くと爆豪はそのまま黙って群衆を押し退けて帰ろうとする所で切島が、文句を言う。

 

「待てコラ!!どうしてくれんだ!おめーのせいでヘイト集まりまくったじゃねぇか!!」

 

「関係ねぇよ……」

 

「はぁーーー!?」

 

「上に上がりゃ関係ねぇ」

 

爆豪はそう言って帰ってしまうと緋色はジルが嫌っているのにそれなりに気に掛けている理由がそれなりに分かった気がすると近くにいた生徒の話が聞こえた。

 

「知ってる?雄英体育祭に欲強議員も来るらしいよ」

 

「あの慈善活動で有名な議員さんが?」

 

「そうなのよ。選挙活動が目的と言う訳じゃないらしいけどその場を借りて犯罪抑止と差別の反対を訴える事になったらしいよ」

 

「(へぇ……雄英体育祭にあの議員が……ジルに知らせるとするか。まさか体育祭に乗り込むなんて事はしないだろうけど)」

 

緋色は聞き耳を立てた後、思いがけない形でジルに伝えるべき情報を手に入れ、後で知らせる事になった。

 

~side終了~

 

私は緋色のお父さんをどうにか宥めて事務所に帰って来るとソファーに深く座りながら緋色に対して流石に恨み言の一つは言ってやりたいと思った時、スマフォの電話が鳴り、私は電話に出た。

 

《ジルか?今日は》

 

「緋色。先ず、謝らなきゃいけない事があるよね?」

 

《いや……その……》

 

「緋色」

 

《……ごめんなさい》

 

「全く……冗談も程々にして。あれから色々と大変だったから……それで連絡を入れたのは何で?」

 

《それが実は》

 

私は緋色が今日、起きたら出来事のあらすじを聞き、勝己は相変わらずだななんて思いながら私は欲強議員が雄英体育祭に現れると聞いた。

 

「まさか体育祭に出てくるなんてね」

 

《オリンピックに取って変わった行事だからな。注目を求めたいなら雄英体育祭だろうし何より悪い事を言いに行く訳じゃない》

 

「言ってる事とやってる事は違うけどね」

 

私は賄賂を受け取る写真以降、欲強議員の不正と疑惑を暴きつつあった。

 

人身売買、違法薬物、暗殺、脅迫と挙げれば切りが無い程に悪事を働いている事が分かった。

 

しかし、こう言った情報の出所は全て綾乃経由。

 

此処まで詳しく調べあげる綾乃にまるで欲強議員に消えて貰いたいとばかりの憎しみ感情が見え隠れしている。

 

本当に私の味方なるつもりか或いは利用するだけに近づいたかは真意は分からない。

 

だけど分かる事は一つ……欲強議員は裁かれるべき悪だと言う事。

 

「……綾乃を呼ぶわよ」

 

《なに?》

 

「綾乃の個性なら雄英に入り込めるのでしょ?なら、乗り込んで殺す」

 

《待て待て。雄英体育祭は他の体育祭とは違うんだぞ?警備はヴィランの襲撃があってからかなり高まっていて更にスカウト目的で訪れるヒーローが何百人と来る様な所だ。しかもオールマイトもいるんだぞ?》

 

「そうかもね。でもね……知らしめたいのよ。法から逃れる悪に安全な場所は存在しないって事をね。私、指名手配犯だから顔バレも問題ないわ」

 

《君はな……分かった。でも、雄英内では僕は助けてあげられない。それは分かってるね?》

 

「うん。分かってる。何とかするわ」

 

《何とかね……当日、健闘を祈るよ。頼むから捕まらないでくれ。もし捕まったら僕は……》

 

「大丈夫よ緋色、私は捕まらないから。それじゃあね」

 

私はそう言って電話を切ると一息ついた。

 

~別視点side~

 

明かりを点けていない暗い部屋。

 

そこでは綾乃が床に座りながら狂気的な笑みや営業スマイルも無い無表情か顔で置かれている写真を見ていた。

 

綾乃の父とそして母。

 

理不尽な理由で殺された二人、そして自分の身体を好き勝手にしたヴィランは捕まらず時効を迎えつつある事に怒りを覚えつつも不適に笑った。

 

「もうすぐだからね……お父さん……お母さん……もうすぐで彼奴を地獄に落とせる……でも、万が一の時は……」

 

綾乃はそう言って立ち上がると衣服をしまっているタンスの引き出しの一つを開け、服の間に無造作に手を突っ込むとそこからある物を取り出した。

 

そのある物とは……拳銃だった。

 

ヒーロー社会の今でもヒーローでもない一般人が銃を持つ事は違法行為であり、昔よりも手に入れやすい環境とは言え見つかれば逮捕は免れない代物だった。

 

「私が……仇を取るからね」

 

綾乃はそう言って冷たい憎しみを宿しながら笑っていた。

 

~side終了~



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雄英体育祭 ~前編~

※サブタイトルを変更しました

書いてたら普通の雄英体育祭の観戦みたいになってしまったのでこの際、変更しようと思いました。m(_ _)m




悪党を殺しつつ雄英体育祭まで過ごした私は当日、多くの報道人やヒーロー達を遠目に眺めつつ綾乃を待っていると集合時間通りに綾乃がやって来た。

 

「おはようございます。ジャック様」

 

「おはよう。取り敢えずあの人混みをどうするのかね。此処で転移しても始まってすらいないのに欲強議員を見つけられないし、時間を潰しつつ中で過ごそうにもあの警備は難しいわ」

 

「私に任せて下さい。方法はありますから」

 

私は綾乃の言う事に疑問を抱きつつも他に何も出来ないので綾乃の案に乗る事にした。

_______

_____

___

 

私は綾乃に何をされたかと言うと……単純に変装だった。

 

銀髪は黒髪のかつらで隠し、目の色はカラーコンタクトで誤魔化し、服装も何時もの服は厳重に隠しつつ、別の服装にした。

 

一目では分からない変装だけど天下の雄英がこんなので見逃すとは思えないまま堂々と受付へと来て綾乃が席取りと身元確認を行い、私は綾乃の臨時の助手として来訪した事にしつつそのまま手続きを行うと……通った。

 

「こんなので良いの雄英?」

 

『奴等もまさか変装してまで入り込むなんて思わなかったんだろう。傑作だな。警備強化して単純な変装した殺人鬼が通れましたとかな』

 

アーサーにまで皮肉を言われる雄英の警備体制に私は庇う事すら出来ないなと思いながら綾乃と共に取れた席に着けば他の記者やテレビ関係者の人達で多く、集まっていた。

 

それだけじゃない、一般の観客やスカウト目的で来たヒーローと顔触れも多く、正に時代を象徴する祭典と認識出来る。

 

でも、私はスポーツの祭典であり、平和の祭典でもあるオリンピックの方が好きなんだけどね……

 

「今年も白熱ですね。白咲さん」

 

白咲は私の偽名だ。

 

ジルとかジャックとか公然の場で言える筈がないからね。

 

「そうね。欲強議員はまだ?」

 

「残念ながら。この体育祭が終わってからだそうですよ。ですが姿は見れますね。彼処にほら」

 

綾乃の指を指す方を見るとそこには割腹の良い老年男性がおり、周りにSPやヒーロー達の護衛を受けつつ観戦している。

 

「成る程ね……あのままじゃ手が出しにくいわ。折角、取材をしたかったのに」

 

「そうですよね~。此処の生徒さんだけではなく議員さんにも是非、コメントが欲しかったですね」

 

私の言葉の意味に合わせて綾乃も遠回しに言ってくるとプレゼントマイクの声が会場に響いた。

 

《雄英体育祭!!ヒーローの卵達が我こそはとシノギを削る年に一度の大バトル!!どうせテメーらアレだろこいつらだろ!!?ヴィランの襲撃を受けたにも拘わらず鋼の精神で乗り越えた奇跡の新生!!!ヒーロー科!!1年!!!A組だろぉぉ!!?》

 

プレゼントマイクの実況の叫びと共に出久君達、1年A組が入場してきた。

 

皆……暫く会ってなかったけど……逞しくなったわね。

 

特に出久のあの目は強い意思を感じれてとても良いわ。

 

勝己は……あんまり変わらない……と言う訳じゃない。

 

彼なりに変わっている、そう感じる。

 

「懐かしいですか?貴方の同級生達は?」

 

「知ってたの?」

 

「記者ですからね。調べれば学歴くらいは分かりますよ」

 

綾乃の言う事はもっともだ。

 

記者なら私が元雄英生だと調べあげるのは当然の行為だと考えているとプレゼントマイクは他の組の人達をオマケ扱いで紹介し始め、私はそんな彼らの扱いに少し苛立ちを覚えた。

 

『何だ?お前には関係ない奴等だろ?』

 

「(だとしても彼らだって人生を掛けてヒーローを目指した人達よ。そんな彼等の頑張りを無下にする形なんてとても納得出来ない)」

 

『お前ならそう言うと思ったよ。もし、お前が彼処にいたらプレゼントマイクに怒鳴りこんでそうな気がするな』

 

アーサーはそう言って苦笑いしていると開会式が始まろうとしていた。

 

開会宣言の際に立ったのはミッドナイトで同伴した時の会話は楽しかった……私が自主退学して殺人鬼になった事に怒ってくれたのかまたは悲しんでくれたのかと思う辛い所がある。

 

「選手宣誓!!」

 

ミッドナイトはそう言って手に待った鞭を振るうと良い音が鳴った。 

 

何か色々と言われており、私は小さく笑っていると選手宣誓は進行していた。

 

「選手代表!!1-A、爆豪勝己!!」

 

「そう言えば主席だったわね彼奴」

 

「貴方もですよ。白咲さん」

 

私は綾乃の言う事を軽く無視すると勝己はミッドナイトの前に立った……と言うか選手宣誓くらいはポケットから手を出しなさいよ馬鹿。

 

勝己はミッドナイトの前に立ってから暫くして宣誓を始めた。

 

「せんせー……俺が一位になる

 

「(やると思った!!)」

 

『相変わらずだな彼奴は』

 

勝己の宣誓に他の組からだけではなくA組からもブーイングが飛ぶ中、終わりかと思ってたけど勝己はそのまま続けるのか息を軽く整えていた。

 

「だから……見ていろよジル!!ぜってぇ俺が一位になってやるからな!!!

 

勝己はそれだけを言うとそのまま戻って行き、周りが唖然とする中、私も動揺していた。

 

彼奴なら私がいなくなって喜んでそうな感じなのに何で私の名前を態々、選手宣誓で言うのか全く理解出来ない……いえ、本当は理解してる。

 

勝己は勝己なりに私の事を見ていたって事を。

 

「さ、さーて!それじゃあ早速、第一種目行きましょう!!所謂、予選よ!毎年此処で多くの者が涙を飲むわ(ティアドリンク)!!さて運命の第一種目!!今年は……これ!!!」

 

ミッドナイトが言うと同時に画面に出されたのは障害物競争と書かれた文字だった。

 

「計11クラスでの総当たりレースよ!コースはこのスタジアム外周約4㎞!我が高は自由が売り文句!ウフフフ……コースさえ守れば何をしたって構わないわ!」

 

『つまりは妨害もアリって事だな。これは初手から楽しい事になるぞ』

 

「(そうでしょうね。皆、必死だもの)」

 

ルール内容に何でアリと言う意味はとても大きい。

 

無論、犯罪行為は御法度だとしても道を塞いでしまう様な妨害は見過ごされると言う事も同義。

 

もし、そんな個性を持つ人が前に出たら……道を確実に絶つかもしれない。

 

「さぁさぁ位置に着きまくりなさい……」

 

ミッドナイトのその言葉に皆はスタートの位置に着けど……何だかゲートは小さいわね……あぁ、分かった。

 

此処で最初のふるいとしてるのね。

 

「スターーーーーート!!」

 

その合図と共に一斉に走り出す中、やはりあのゲートの狭さで引っ掛かり通れずにいると轟君がトップで前に出た。

 

その後、器用に地面に凍らせると後続の足止めをしたのだ。

 

《さーて実況していくぜ!解説アーユーレディ!?ミイラマン!!》

 

《無理矢理呼んだんだろが》

 

実況席にイレイザーヘッドもいるのか低い声が響く中、A組の皆は轟君の妨害を各々の個性と身体能力で回避し、突破する。

 

「やりますね~流石はヴィランと交戦した事はあります」

 

「まぁね……でも、此処からよ」

 

私は皆が轟君の氷を突破するのを見届けた時、峰田君が横から出てきたロボットに引かれた。

 

《さぁ、いきなり障害物だ!!先ずは手始め……第一関門!ロボ・インフェルノ!!》

 

プレゼントマイクがそう言うと今度は0Pのロボットが大量に出てきた。

 

「あれは入試の時のロボットね。気持ち悪い位にいるわね」

 

「え?あんなのと戦ってヒーロー科に入ったのですか?」

 

「そうだけど?いや、私は運が良くてあのデカイのとは戦ってない」

 

「それは……運が良かったですね……」 

 

『本当にな。運が良すぎるぜ』

 

アーサーは軽く笑い、綾乃は何を想像してるのか引き気味に言われていると轟君があのデカイロボットを凍らせ、更に不安定な時に凍らせたからそのまま倒れた。

 

《1-A 轟!!攻略と妨害を一度に!!こいつぁシヴィー!!!》

 

攻略と妨害。

 

その両方を両立させた行動に私は素直に凄いと思える中、ふと綾乃を見ると無表情で轟君を見ていた。

 

「綾乃?」

 

「ッ!?……何か?」

 

「どうしたの?何時もの営業スマイルは何処やってたの?」

 

「……凄いと思っていただけですよ。そう……流石はエンデヴァーの息子さんですね」

 

綾乃はそう言って不適な笑みを浮かべ、私は過去の事を思い出してしまっていたのかと思ってそれ以上は追及しなかった。

 

《スゲェな!!一抜けだ!!アレだなもうなんか……ズリィな!!》

 

まぁ、確かにあれは狡い……けど、確かな才能と実力が無ければあれ程の事は出来ない。

 

実戦を実戦に重ねる様に連続殺人を行っていたからこそ私にはよく分かる。

 

ロボットが倒れている所を見ていたら切島君が下敷きになってた。

 

あ、他の人も一人下敷き……と言うか個性が被ってるわね。

 

突破出来てない人達は他の組でも一時協力して突破を図ったり、勝己が爆発を利用して飛んで上空から突破する様に瀬呂君と常闇君が便乗して突破した。

 

他の組の人達も悪くない……でも、A組の皆はヴィランとの襲撃の際に経験と恐怖を感じ得たからこそ成せる行動の速さもあるなど思えた。

 

何しろ私自身も別の形でそう言った経験を糧にしたのだから。

 

出久君は個性を多用出来ない為に近くにあったロボットの残骸の装甲を拾うと勢いよく来たロボットに向けて振るうとロボットは急には止まれずにそのまま直撃して壊れた。

 

「やりますね彼!どんな個性ですか?」

 

「分からない」

 

「分からない?」

 

「えぇ……何度かはぐらかされて……使えない事はないけどパワーはあるの。でも、そのパワーは諸刃の刃。使うと自分も壊すの」

 

「……なんて使いにくい個性なんですか」

 

綾乃はまた営業スマイルを消してしまう程に出久君の個性の不憫さに引いてしまい、私は苦笑いするしかなかった。

 

八百万さんは大砲を出して砲撃して破壊を切っ掛けに次々に突破する中、やってきたのは巨大な渓谷の様な場所だった。

 

離れた位置に所々に地面があり、ロープが一本張っているだけの場所だった。

 

「あれって……死なないわよね?」

 

「底が見えませんからね。まぁ、腐ってもヒーロー育成校。きっと崖の下には保護用の何かがあるのでしょうね」

 

私は次の障害に不安を覚えているとプレゼントマイクの実況が響く。

 

《オイオイ!第一関門チョロいってよ!!んじゃ第二はどうさ!?落ちればアウト!!それが嫌なら這いずりな!!ザ・フォーーーール!!!

 

プレゼントマイクはそう紹介すると梅雨ちゃんは蛙の個性を生かしてロープを渡って行き、何かメカメカしい女の子が尖端の付いたロープを飛ばして飛ぶとロープを巻き付ける力を利用して渡り、着地にはボバーが仕込まれた靴を使って衝撃を吸収している。

 

「サポート科ですね。ヒーロー科の様に訓練を受けていない科はあんな風にサポートアイテムが使えるんです」

 

「そうなんだ。まぁ、公平な競技にするならそれくらい無いとね」

 

『悪平等の間違いだろ?』

 

私はアーサーの言葉を無視して観戦に戻ると飯田君が個性のエンジンを利用して直線移動してる姿を見て少し吹き出した。

 

いや、良いと思うのよ……けど……あれは反則的な面白さがある。

 

「しかし、1位の子は凄いなぁ」

 

「知らないのか?あのNo.2のフレイムヒーロー、エンデヴァーの息子さんだぞ?」

 

「そうなのか?とすると流石としか言えないな。No.2ヒーローの血を引いているだけはある」

 

周りの記者達は独走する轟君に注目し、カメラを回していく中、綾乃は無表情で轟君を見ていた。

 

「(綾乃。やっぱり……)」

 

『ほっとけ。過去は過去だ。こいつ自身でどうにかしないとならない。どんな事を考えてるのか分からないがな』

 

過去に囚われている綾乃にアーサーはそう言うと轟君はそのまま最終関門へと来た。

 

《早くも最終関門!!かくしてその実態は……一面地雷原!!!怒りのアフガンだ!!地雷の位置はよく見りゃ分かる仕様になってんぞ!!目と脚を酷使しろ!!》

 

もう滅茶苦茶だ……。

 

地雷ってかなり危ないへいきじゃ……あ、誰か踏んで吹き飛んだ。

 

良かった……手足が無事で。

 

『心配するとこそこかよ?』

 

何かアーサーにツッコまれた様な気がするけど気にせずに見ていると此処で勝己が追い付いてトップに出た。

 

二人は譲らないとばかりに妨害合戦を繰り広げていた時、地雷原の後続が大爆発して何かが飛んだ。

 

「あれって……出久君!?」

 

「無茶しますね彼!?」

 

『彼奴……やる様になったもんだな』

 

地雷を利用したのかそのまま勢いよく飛び、地雷原を突破しようとしている皆を飛び越えてそのまま抜いてしまった。

 

だけど二人もそれを静観したりしない。

 

勝己は凍らされていない腕で爆破を使用し、轟君は形振り構わず地面を凍らせて地雷を突破し、二人は出久君を追い越そうと脚を速めた。

 

出久君の勢いは止まりつつある……そう思っていた時、出久君は一回転したと思えば地雷のある地面にあの装甲を叩き付けるとまた勢いよく飛び、更に二人を妨害した。

 

これには会場は盛り上がり、マスコミ達も出久君にカメラを回すと言う異例の事態を見せた。

 

「……貴方の彼って凄いですね」

 

「彼って?」

 

「彼氏さん?」

 

「いや、違う。中学の時からの付き合いなの。それに……私の場合は彼女……かしら?」

 

「……あぁ……すみません。そっちでしたか」

 

綾乃はそう言って笑うと私も苦笑いする中、最初に戻ってきたのはやはり。

 

《さぁさぁ!序盤の展開から誰が予想出来た!?今一番にスタジアムへ還ってきたその男……緑谷出久の存在を!!

 

プレゼントマイクのその言葉にスタジアムは大歓声。

 

誰も予想しなかった彼の一位に私は平静を装いつつも興奮が隠しきれない。

 

轟君が二位、勝己が三位そして他の面々もまた順序よくゴールする中、力斗が全速力で予選通過のゴール、更に予選通過でのゴールには緋色の姿もあった。

 

……え、緋色?

 

「(緋色凄い!?アレを抜けてゴールしたの!?力斗もいるし!?)」

 

『何がどうなった?いや、彼奴の個性は俺達も知らねぇ……スゲェ個性を持っている可能性があるぞ。しかも力斗もいるな。本当に何の個性だ彼奴ら?』

 

確かに緋色と力斗の個性は私も知らない……一体、どんな個性なんだろうと思いながら困った様子で立たずむ緋色と雄叫びを挙げてる力斗に私は唖然としてたけど二人を含めて予選通過した皆に向けて健闘を讃えて拍手した。

 

 



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雄英体育祭 ~中編~

障害物競争を制した出久君。

 

体育祭はまだまだ始まったばかりでA組だけでなくB組や緋色と力斗と……何かイレイザーヘッドみたいな少し暗い普通科の生徒と言う異色の実力者までいる中で次も実力を示せるかがポイントだった。

 

「予選通過は上位42名!!!残念ながら落ちちゃった人も安心しなさい!まだ見せ場は用意されてるわ!!そして次からいよいよ本選よ!!此処からは取材陣も白熱してくるよ!気張りなさい!!!」

 

私は本選となるとより勢いの増した競技になると思う中、やはり緋色の個性が気になる。

 

緋色はヤクザの家系とは言え、入れない訳ではなかったヒーロー科を目指していた訳でもない。

 

なら何故、緋色が予選通過なんてしたのか不思議に思うしかなかった。

 

~別視点side~

 

緋色は非常に困っていた。

 

父である英一郎と諢を含めた獅子皇会のヤクザ達は挙って緋色の勝利祈願をし、更に応援団風の衣装を着て応援に来ようとするので緋色が恥ずかしいし、雄英に色々な意味で迷惑を掛けるのでと慌てて止めに入った事で何とか抑えた。

 

それでも緋色の活躍を見たがる英一郎達に良い成果を出すから家でテレビを見てろと言ってやっと収まった。

 

だが、一度でも口にした良い成果を出すと言っておいて駄目でしたはかなり嫌だった。

 

だから、緋色は自分の個性である運勢操作を使ったのだ。

 

触れた相手に明確な意思を持って幸運と不幸を一日だけ逆転させるだけの個性だがこれが使い様によっては相手を簡単に不幸にし、不運の末に破滅する………なんて言う一日しか効力しか無い使いにくい個性だ。

 

しかも相手の運に依存する。

 

例としてアイスの当たりが本来であれば当たるが、個性を使用して逆転させると当たらずに終わると言う感じだ。

 

小さい幸運なら小さな不幸に、大きいな幸運なら大きいな不幸になる。

 

逆もまたしかりだ。

 

その運勢操作を使って本来なら運の良さげな生徒に触れては幸運を不幸に逆転させて脱落させる等して工作しつつ、ちゃっかり抜け出しているといつの間にか地雷原の所にいて偶然にも最後に触れたのは……

 

「お、お腹が……凄く……痛い……!!」

 

A組の青山だったのだ。

 

その為、ゴール直前で青山は個性多様に伴う可能性のある腹痛を引き起こしてへたり込み、緋色は唖然としながら最後に予選通過でのゴールしてしまったのだ。

 

青山のゴールして予選通過と言う幸運からゴール直前で腹を痛めて抜かれて予選落ちと言う不幸に変わってしまったと言う事だ。

 

「43位で良かったんだけどな……」

 

もう諦めよう……と言う言葉と共に緋色の目には予選通過と聞いて大興奮で叫んでる獅子皇会(家族)の皆を想像でき、近くで予選通過できた喜びで興奮して叫んでる力斗の近くで軽く溜め息をついた。

 

~side終了~

 

遠目でも分かる。

 

緋色はゴールするつもりは無かったと言う表情が見え、私は計画通りにいかなかったのかと思いながら苦笑いする中、ミッドナイトは次の種目を伝える。

 

「さーて第二種目よ!!私はもう知ってるけど~~~~……何かしら!!?言ってるそばから……コレよ!!!」

 

ミッドナイトはそう言うと画面には騎馬戦と書かれていた。

 

「騎馬戦?」

 

「最初あれだけ争っていたのに……大丈夫ですかね?」

 

私は疑問を浮かべながら説明を待っているとミッドナイトは騎馬戦のルール説明を行う。

 

「参加者は二~四人のチームを自由に組んで騎馬を作って貰うわ!基本は普通の騎馬戦と同じルールだけど一つ違うのが…先程の結果に従い各自にPとが割り当てられる事!」

 

『成る程な。つまりは入試の様なやり方と言う事だ。まぁ、やり方としてはロボットじゃなくて相手は人で尚且つ連携が必要な種目だと言う事だな』

 

「(難しい種目ね。選ぶチームを慎重に考えないとすぐにやられる仕組みと言う事になるわね。しかも組み合わせ次第でPも変わるのも)」

 

教えられたルール通りの騎馬戦の難しさに私は唸る中、ミッドナイトはルールの説明を続けた。

 

「与えられるPは下から5ずつ!42位から5P、41位が10P……と言った具合よ。そして……1位に与えられるPと1000万!!!」

 

「うわぁ……出久君、御愁傷様……」

 

「あれは間違いなく争奪戦の渦の中心になりますね~」

 

『彼奴は運が良いのか?それとも悪いのか?1位を予選通過したと思えば1000万も与えられるなんざ大変なんてものじゃねぇぞ?』 

 

出久君の与えられた莫大なPを聞いて出久君の周りにいる人達の目が全員、出久君に向いた。

 

獲物を狙う眼、利用しようとする眼、挑戦的な眼と様々な視線が飛び交う中、出久君は無論、固まっている。

 

「上に行く者には更なる受難を。雄英に在籍する以上、何度でも聞かされるわよ。これぞ"Plus Ultra"(プルス ウルトラ)!予選通過1位の緑谷出久君!!持ちP1000万!!」

 

改めて確定した1000万。

 

哀れな出久君に皆は今にも飛び掛かりそうな視線が出久君を貫く中、出久君は戦意を損失していない……やる気ね。

 

「制限時間は15分。割り当てられたPの合計が騎馬の合計となり、騎手はそのP数が表示されたハチマキを装着!終了までにハチマキを奪い合い、保持Pを競うのよ。取ったハチマキは首から上に巻く事。取りまくれば取りまくる程、管理は大変になるわよ!そして重要なのはハチマキを取られても、騎馬が崩れてもアウトにはならないってところ!」

 

「騎馬が崩れても良いって事は一旦、離れてもOKって事かしら?」

 

『戦術次第だとそう解釈通りなら応用は多いぞ。何しろ奇妙奇っ怪な個性持ちが多い時代だからな』

 

アーサーの言う事に私は頷くとミッドナイトは残りのルールを説明した後、15分間のチーム決めの交渉が始まった。

 

~別視点side~

 

緋色はまた困っていた。

 

今更ら勝つ気が無いなんて言える様な状況ではない程に熱い雰囲気になる中、組む相手がいない。

 

「参ったな……」

 

困り果てても仕方ないと緋色はまだ空いてるチームの所へ行こうとした時、そこへ心操がやって来た。

 

「神速」

 

「どうした心操?……まさかと思うが個性で僕を操り人形にしたりしないよな?」

 

緋色は心操の個性について知っていた。

 

緋色は自身の個性を教える代わりに心操の個性を教えて貰っていたのだ。

 

興味で聞いただけではあったが心操の個性は上手く使えばかなり厄介な個性だと緋色は悟り、ヒーローにはなって欲しくない人材だと内心では思っていた。

 

「相手がいないんだろ?チームになるか?」

 

「へぇ……何故だい?」

 

「お前の個性は使い様によっては混乱を起こせる。さっきの予選の様に幸運を不幸にする。それが一日だけでも今の日なら十分だ」   

 

「そうかい。……まぁ、君の内心はどうあれチーム選びに困っていたんだ。参加させて貰うよ。どうせ引き下がれない戦いだ。とことんやるさ」

 

ある意味、腹黒い二人は互いに利害が一致するとチームを組む事となった。

 

~side終了~

 

15分のチーム決めの時間が終わり、各々のチームが組まれる中、騎馬達が睨み合うステージは自然と戦意が沸き上がる。

 

《よォーし!組み終わったな!!?準備良いかななんて聞かねぇぞ!!行くぜ!!残虐バトルロワイヤル、カウントダウン!!》

 

カウントダウンが始まる。

 

『なぁ、ジル。お前なら目標はどうする?出久の奴か?』

 

「(いいえ、アーサー。目の前の大魚は狙ったら駄目。欲を掻いてしまうと他の人達に出し抜かれるだけ。単に通過するなら……出久君を餌に他のチームのハチマキを取る)」

 

START(スタート)!》

 

私がそう言い終わった時、カウントはゼロとなると一斉に出久君チームに襲い掛かった。

 

出久君のチームは常闇君と麗日さんと……さっきの変人サポート科の女子生徒も加わった異色のチームだ。

 

二組の騎馬相手に対する出久君は逃げの一手を打とうとしてると思うけど地面が溶ける様に泥みたいになった。

 

あれなら足止めになり、出久君からハチマキを取る事が出来る……でも、出久君がそれを予期しなかったとは思えない。

 

私は見守っていると出久君が文字通り飛んだ。

 

後ろに着けてるのはジェットパックね。

 

出久君を阻もうと耳郎さんが動くけど常闇君の個性が邪魔をする。

 

司令塔は出久君、防御は常闇君とかなり厄介な組み合わせ。

 

しかも、そこに麗日さんが個性で軽くする事で機動力も確保、サポートアイテムの提供はあのサポート科の生徒。

 

破るのは難しい……例えるなら難攻不落の要塞を短期間かつ作戦無く力ずくで攻め落とそうとする位にだ。

 

出久君と言う名の天守を常闇君、麗日さん、サポート科の生徒の三面の城壁。

 

まさに出久君が編み出した要塞だ。

 

「はぁ……難しいわね。攻める気がしないわ」

 

「貴方でも?」

 

「隙が少ない……各々の役目をしっかりとこなしてる……こうなったら簡単にはいかない。私でも攻めあぐねるわ。それに見てみて。出久君を狙ってた葉隠さんのハチマキが取られた」   

 

「本当ですね。いつの間に」

 

私が注目したのは先程まで出久君を狙っていた葉隠さんのハチマキが取られている事。

 

相手はB組の生徒ね……ハチマキをクルクルと回しながら余裕そうにしてる……何か腹立つわね。

 

私は取り敢えず落ち着いてもう一度、出久君の方を見れば障子君が一人で独走して出久君に向かってた。

 

「(あれ?何で一人?)」

 

『ジル。よく見ろ。中にいるぞ』

 

「(中に?あ、障子君のあの翼みたいのに峰田君が……いえ、梅雨ちゃんまでいる。何処に行ったのかと思ったらそんな裏技が)」

 

周りを完全防御のうえで一方的な攻勢に転じれる障子君達の奇策にミッドナイトのOK判定のお墨付きで行われている。

 

峰田君は……性格に難ありだけど個性は足止め系としては強いし、梅雨ちゃんの蛙の舌はあの狭い穴からハチマキを奪うのにも適している。

 

何で皆はこんなに良策、奇策を思い付くのかしら?

 

出久達は堪らずにジェットパックで逃げるとサポートアイテムの靴が峰田君の個性から逃れる為に千切れてしまったけど離れられた……と思えば今度は勝己だ。

 

馬を放置して空を飛んでハチマキを奪おうとしたけど常闇君が上手く防ぎ、勝己は瀬呂君の個性のテープで引き戻された。

 

彼奴……あんまり考えてなさそうに見えて組み合わせはちゃんとしてたのね……でもね。

 

油断したわね、彼奴。

 

私が見たのは現在のランキングの順位。

 

一位は当然、出久君だけど……上位組が轟君以外のチームがB組になってる。

 

多分……あの、いけ好かない物間の策でしょうね。

 

A組を重点的にB組がグルになって潰す。

 

ヴィランとの戦闘経験を得て精鋭と化してるA組を集団で抑えるのは利に適ってると言えるわね。

 

私は余裕だと言わんばかりに勝己を煽ってる物間は間違いなく後で勝己に途轍もない仕返しを貰うなと思っていた時、そこに心操君のチームが出てきた。

 

そのチームの中には騎馬役をしている緋色がいて、笑顔で物間の肩に手を置いた。

 

何だろう……物間がこれから先、不運になりそうな感じがしてるんだけど……あ、物間チームが転けて物間本人が顔から地面に落ちた。

 

それって……。

 

《おォと!!物間チームが痛恨のミス!!しかも顔から落ちてチョー痛そう!!この判定は!!?》

 

「無し!」

 

ミッドナイトの無し宣言に物間は騎馬から落ちた事で失格、物間チームは退場となり、奪ったハチマキは元の選手に戻された。

 

緋色が触っただけであんな風になる?

 

本当に何の個性なのか気になるけど殆ど振り出しに戻ったし、物間が失格になって少しスッキリしたから良いや。

 

「(それでも振り出しになっただけ…て、うわぁ……勝己が自分でトドメさせれなかったからって周りに八つ当たりする様にハチマキを奪いまくってる。折角、ハチマキを間接的に取り戻したのにね)」

 

勝己が怒りながら手当たり次第にハチマキを奪う姿に本当に何を言われたのかと呆れていると勝己の暴走を見越して心操君チームはスタコラと逃げてるから被害を受けずに済んでる。

 

出久君は混乱している内に逃げようとするけど……轟君は逃がしはしないでしょうね。

 

出久君を前に戦闘体制に入った轟君に出久君はどうするのか。

 

轟君のチームは飯田君、八百万さん、上鳴君とかなり優秀なチーム。

 

彼らを上手く指揮できたら間違いなく難攻不落の要塞を落とす最強の鎚になる。

 

その轟君を狙おうとした周りのチームは轟君の的確な指示で動く三人との連携は止めるに至らない。

 

飯田君が前進しつつ八百万さんがガードと伝導を用意し、そして上鳴君の帯電の個性での無差別放電。

 

放電させられたチームは動けないまま痺れさせられるとガードで上鳴君の放電を防いで無事だった轟君は伝導を使って地面を凍らせると周りのチームを確実に無力化させてしまった。

 

《上鳴の放電で確実に動きを止めてから凍らせた……流石と言うか……障害物競走で結構な数に避けられたのを省みてるな……》

 

《ナイス解説!!》

 

イレイザーヘッドの解説も入る程の轟君チームの見事な連携を見せながらそのまま他のチームのハチマキも奪って行くと出久君チームに接近した。

 

出久君チームはジェットパックがイカれたのか飛ばず、常闇君が牽制しても八百万さんが防ぐ。

 

一進一退の攻防。

 

出久君の防御と轟君の攻撃。

 

どちらも譲らない中、轟君達が動いた。

 

飯田君の個性であるエンジンをフルに使って猛スピードで迫ると轟君が出久君からハチマキを奪った。

 

此処で初めて奪われ、尚且つあと一分と言う所で出久君はしてやられたみたい。

 

《なーーー!!?何が起きた!!?速っ速ーーー!!》

 

プレゼントマイクもビックリな速さでのハチマキの奪取に対し、出久君は轟君に向かっていく。

 

他のチームのPが散りすぎて把握できない以上、轟君達に向かうしかない。

 

だけど、轟君がそれを簡単に許す訳がない。

 

出久君達は轟君達にハチマキを奪う為に接近し、此処で初めて出久君は個性を使う兆しを見せた……いや、違う。

 

最低限の力で轟君に対して空を切る様に振るった時、轟君の左腕に一瞬だけ熱を帯びた様な気がした。

 

「(炎を使わなかった?)」

 

轟君の個性は半冷半燃は氷は勿論、炎も使える。

 

戦闘訓練でもその威力を見ていてかなり強力な個性ではある……けど、轟君は咄嗟とは言え炎を使わなかった。

 

幾らなんでも個性の半分の力しか使わないなんて利に適わない。

 

私は轟君の行動に疑問を抱いていると出久君が一瞬の隙を突いてハチマキを奪い返した。

 

だけど見る限りではPは70で出久君は嵌められてしまった様だ。

 

残りはあと数秒となる中、轟君チームと出久君チームそして後から来た勝己チームの三又の戦いになり掛けたが。

 

《TIME UP!》

 

非情にも騎馬戦終了の声が響き、出久君は悔しげに拳を握り、轟君は浮かない顔をしている。

 

勝己に至っては取る所か参戦すら出来ずに終了した事で悔しげに唸っている。

 

各々のチームが各々の役目を果たし、戦った騎馬戦は此処に終わった。

 

《早速、上位4位を見てみようか!!1位、轟チーム!!2位、爆豪チーム!!3位、鉄て……アレェ!?オイ!!!心操チーム!!?いつの間に逆転してんだよオイオイ!!》

 

プレゼントマイクからも驚く声が挙がる中、心操は不適に笑い、緋色は困った様子を見せながら手を軽く振っている。

 

残りのチームメンバーの尾白君とB組の生徒らしき子が何が起きてるのかと分からないとばかりに周りを見渡している。

 

何だか怪しい感じがするけど心操君達が得たのは勝利で間違いないのは確かだと言う事。

 

残ったのは……これは驚いたわ。

 

まさかあの土壇場で取れてたとは思わなかった。

 

《4位、緑谷チーム!!》

 

その声は間違いなく出久君が最終種目に出れる事を意味するものだった。

 

常闇君が轟君の隙を突いて頭に巻かれていたハチマキを取った事で得た奇跡とも言える通過だった。

 

私は安堵して一息ついてから綾乃の方を見るとそこには綾乃がいなかった。

 

「あれ?綾乃は?」

 

『飯を買いに行くってお前に言ってただろ?まさかそれに気付かない程に熱中してたのか?全く……仮にも指名手配犯が観戦に夢中になり過ぎるなんてな』

 

「(うぅ……言い返せない……)」

 

アーサーの小言に私は何も言い返せないまま丁度、昼休憩なのは事実なので私は下手に動かずに綾乃の帰りを待つ事にした。

 

お腹も空いたしね……。

 

~別視点side~

 

その頃、綾乃は適当な屋台から昼食を買って戻る道中にいた。

 

「たこ焼きに焼きそばと買いましたが……気に入るでしょうかね?」

 

綾乃はジルの食べ物の好みを知らず、聞こうにも食い見る様に観戦していたジルの邪魔は出来ないので取り敢えず一言添えてから昼食を買いに行った。

 

綾乃は特別、早めに昼食を買いに行かなくても良かったがエンデヴァーの息子である轟焦凍を見たくなかった。

 

憎らしいヒーロー、その血を受け継ぐ息子。

 

だが唯一、エンデヴァーが一人立ち上がり、事件解決に奔走したのは事実であり、憎らしいヒーローではあるが特別、エンデヴァーを敵視していない。

 

だが、割りきれないでいた。

 

エンデヴァーがもう一人の犯人であり、綾乃の両親の仇である実行役のヴィランを取り逃がしたと言うもう一つの事実が今も心に絡まる様に付いている。

 

綾乃は何とも言えない気分のまま歩いていると鉢合わせてしまった。

 

「ッ!?お前は……!」

 

「……お久しぶりです。エンデヴァーさん」

 

No.2ヒーローのエンデヴァーと。

 

~side終了~



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雄英体育祭 ~後編~

~別視点side~

 

綾乃とエンデヴァーの予想だにしない鉢合わせにどちらも無言の中、静まり返るその場から切り抜けるべく切り出したのは綾乃だった。

 

「本当に久しぶりですね~。No.2はお忙しそうですが……誰かのスカウトとかですか?」

 

「息子を見に来ただけだ」

 

「あらそうですか?私は途中までしか見てなくて……とても優秀な息子さんなんですね~。……家庭環境は最悪なのに」

 

綾乃の営業スマイルでのその言葉にエンデヴァーは小さな反応を見せ、綾乃はそれを見逃さなかった。

 

「何をしたら長男を死なせたり、奥さんを精神病院に送ったり、次男と三男に嫌われるのやら……娘さんの頑張りにくらいは答えたらどうですか?」

 

「何処で知ったのかは分からないが……これは俺と家族の問題だ。お前には関係ない」

 

「そうですか……まぁ、そうですよね。私には関係ありません。私は記者ですし、貴方はNo.1になる為なら家族の犠牲もやむを得ないなんて考える……ゲスなヒーローですもんね?」

 

綾乃はそう言って無表情でエンデヴァーに視線を向けるとエンデヴァーは冷や汗をかかされる。

 

綾乃の瞳は輝きが無く、どんよりと濁った様な暗い瞳にエンデヴァーは見えてしまった。

 

「私は常にヒーローの動向を見ています。例え、プライベートな家庭でも私生活でも。ヒーローの化けの皮を剥がしたいので。まぁ、行動に移しても上層部から圧力を掛けられたりして駄目なんですがね」

 

綾乃はそう言い終わると再び営業スマイルに戻るとエンデヴァーは一体、どうやってそう言った情報を握ってきているのかと疑問に駆られ、聞き出そうとした所で後ろから足音が聞こえた。

 

「喧嘩はそれくらいにしておけ。御二人さん」

 

「ジャスティス」

 

「あら~。お久しぶりですね。今度もまた取材してもよろしいですか?」

 

「お断りかな。今は忙しいたらありゃしなくてな」

 

ジャスティスはそう言うと二人の近くへと歩いてきた。

 

「喧嘩は終わりだ。お互いこんな不毛な事をして特にもならないだろ?解散だ解散」

 

「ジャスティス。今、貴様に構っている暇は」

 

「奴を捕まえるんだろ?我慢しろ」

 

ジャスティスはエンデヴァーの耳元でそう言うとエンデヴァーは綾乃に問い質したい事があるが本来の目的を見失えないと考え黙り込む。

 

「よし。エンデヴァーは退いた。お前は?」

 

「……私も止めておきます。知り合いがお腹を空かせているかも知れないので」

 

「なら決定だ。じゃあな、綾乃。暇が出来たら取材に付き合ってやるよ」

 

ジャスティスの言葉を聞き、綾乃は一礼してからその場を去っていく。

 

その姿を見届けたジャスティスは溜め息をついて壁にもたれる。

 

「驚かすなよエンデヴァー。彼奴は奴と関わりのある被害者だろ?」

 

「偶然鉢合わせただけだ。他意はない」

 

「まぁ、そうだろうな。コスチュームを着たお前は間違っても私情なんかで動く奴じゃない。だが、綾乃だけは気を付けろ。勘も良いだけじゃなくて手広い情報網も構築してる奴だ。俺達の目的に気付いて行動を起こすなんてしたら……」

 

「奴の件だけは悟らせなかった。話は終わりだ」

 

エンデヴァーはそう言うとその場から去っていき、ジャスティスはその後ろ姿を見つめるだけだった。

 

~side終了~

 

私は観客席で待ち惚けを食らっている中、綾乃はたこ焼きや焼きそばを抱えて戻ってきた。

 

その顔は笑顔だが何処か浮かない雰囲気を纏っている。

 

「何かあった?」

 

「……いいえ。昔の知り合いと会って話し込んでいただけです。そんな事より!色々と買って来ましたよ。早く食べましょう」

 

綾乃はそう言って持ってきた昼食の一部を渡してくると美味しそうに食事を始める。

 

私も焼きそばを一口食べるとソースとかが上手く効いててとても美味しい。

 

たこ焼きも上手く焼かれて尚且つ無駄なく丸められている……大食堂のサービス精神もある雄英は本当に美味しい物が多いわね。

 

『確かに旨い料理が多いな。まぁ、人にやる気を出させるには胃袋から掴んだ方が早いからだろうと言う事かもしれないがな』

 

何でも良い。

 

どんな考えが雄英にあるかは置いといて兎に角、食事を楽しんでおきたい。

________

_____

___

 

昼休憩が終わり、昼食を取りに行っていた人達が続々と戻って来ると最初の様な賑わいにすぐに戻った。

 

《最終種目発表の前に予選落ちの皆へ朗報だ!あくまで体育祭!ちゃんと全員参加のレクリエーション種目も用意してんのさ!本場アメリカからチアリーダーも呼んで一層盛り上げ……ん?アリャ?》

 

《なーにやってんだ……?》

 

プレゼントマイクとイレイザーベッドの二人の言いたい事はとても分かるわ……本当に……チアリーダーの格好なんて着て何してんの皆?

 

《どーしたA組!!?》

 

私は何でまたチアリーダーの服装なんてしてるのか分からないけど……A組女子を唆したのが峰田君と上鳴君だって分かるわ。

 

何しろサムズアップする二人の姿をたしかに見たからね。

 

『つまりアレか?お前が彼処に残ってたらお前も……』

 

「(着ないわよ!)」

 

「白咲さん。良ければ後で用意をしますよ。と言うより見たいです」

 

「着ないって!……て、緋色!?(物凄く悪い顔してる!?終わったら後で着せようなんて考えてないわよね!?)」

 

何なのよ……綾乃も緋色も……私が着ても似合わないでしょうに。

 

私は少し不機嫌になると綾乃は苦笑いを見せる中、普通科も入ってきて……あら、やる気無いわね。

 

《進出4チーム!総勢41名からなるトーナメント形式!!一対一のガチバトルだ!!》

 

プレゼントマイクの発表した最終種目はトーナメント形式の単純な試合だった。

 

試合と言っても戦闘に適した個性なら有利だけど戦闘に不向きでも上手く立ち回ればそう言った個性相手でも勝つ事も不可能ではない。

 

イレイザーヘッドがその例になる。

 

個性の抹消は一見便利だけどそれは個性を消すだけで異形系の個性は消せないと言った短所もある。

 

消すだけでは戦闘は勝てない。

 

だからイレイザーベッドの戦闘は捕縛布と格闘を掛け合わせたスタイルの戦闘方法を確立し、個性の弱点を補っている。

 

"ヒーローは一芸だけじゃ務まらん"

 

その言葉が今、この場で試される種目になるわよ皆。

 

「それじゃあ組み合わせ決めのくじ引きしちゃうわよ。組が決まったらレクリエーションを挟んで開始になります!」

 

「あの……!すみません」

 

対戦相手はくじ引きで決める様でくじ引きの箱を手にしたミッドナイトがそう説明した時に尾白君が急に手を挙げた。

 

「俺、辞退します」

 

その声は周りが静かだったからよく聞こえた。

 

突然の辞退に周りは騒ぐ中、私は尻白君が心操君達と組んでた時に何処かおかしかった事を思い出して何処か気にする所があったのだと分かった。

 

「僕も同様の理由から棄権したい!実力如何以前に……何もしていない者が上がるのはこの体育祭の趣旨と相反するのではないだろうか!」

 

そして更にそこでB組の庄田君も棄権を宣言、二人の空席が空いた時、緋色も手を挙げた。

 

「なら、僕もだ。僕は……実はヒーローになるつもりはないんだ。偶然が重なって此処まで来てしまったがやる気の無いのにこれ以上、上がっても本気でヒーローを志す者に対する侮辱になってしまう。だから本当に志のある人達の為に私は棄権させて欲しい。青田には本当に申し訳ないと思うが……」

 

緋色は正直に話し、棄権を宣言すると三人の空席が空いた事になる。

 

《何か妙な事になってるが……》

 

《此処は主審ミッドナイトの采配がどうなるか……》

 

私は三人の棄権宣言をミッドナイトが受託するのか注目する。

 

「そう言う青臭い話はさぁ……好み!!!庄田、尾白、神速の棄権を認めます!」

 

「好みで決めちゃった……」

 

「まぁ、ミッドナイトはそう言うのが好きなヒーローですからね~。見た目は凄いのに」

 

私はちょっと呆れつつもランキング的には繰り上がりは5位の拳藤さんのチームだけど……

 

「そう言う話で来るなら……ほぼ動けなかった私らよりアレだよな?な?馴れ合いとかじゃなくさ。フツーに」

 

「お……おめェらァ!!!」

 

どうやら拳藤さん達は上位を最後までキープしていた鉄哲君達に譲るそうで鉄哲君は感激している。

 

「いや、俺は良い」

 

「俺もだ。確かにキープしてたけどそれは鉄哲と塩崎が踏ん張ってくれたからだ。なら、俺達も譲る」

 

「なら誰が繰り上るんだよ?また下に行くのか?」

 

「だったら拳拳が行きなよ」

 

「私が!?言ったじゃんほぼ動けなかったって!」

 

「それでも5位に持ち込めたんだよ。チームを代表して行ってきなよ」

 

「……分かったよ。行くからには負けないからな」

 

こうして鉄哲と塩崎、拳藤が繰り上がった。

 

B組も中々に良いクラスだと言うのが分かり、A組にも負けない力強さがあった事に納得出来る一面だ。

 

「という訳で鉄哲と塩崎そして拳藤が繰り上がって16名!!組はこうなりました!」

 

ミッドナイトがそう言った時、トーナメントの組み合わせが映像に表示された。

 

出久君は心操君と当たったのか……しかも勝っても轟君とぶつかる可能性もある組み合わせとなるも厄日なのかもしれないわね。

 

麗日さん……もっと運が悪いわね……初戦から勝己とぶつかったなんて。

 

「本当……楽しみね」

 

逆境を吹き飛ばしてこそ"Plus Ultra(プルス ウルトラ)"と呼べるの。

 

楽しみにしてるわ……最後の"お楽しみ"もあるんだから。

_______

____

__

 

大田転がしや借り物競争等のレクリエーションを終え、セメントスが闘技場の様な舞台を造り上げるとプレゼントマイクの実況が再び始まった。

 

《サンキューセメントス!ヘイガズアァユゥレディ!?色々やってきましたが!!結局、これだぜガチンコ勝負!!頼れるのは己のみ!ヒーローでなくてもそんな場面ばっかりだ!分かるよな!!心・技・体に知恵知識!!総動員して駆け上がれ!!》

 

周りからの歓声がスタジアムを包む中、遂に一回戦が羽島ろうとしていた。

 

泣いても笑ってもこれが体育祭最後の種目。

 

此処まで来たなら皆が目指すのは優勝でしょうね。

 

《一回戦!!成績の割に何だその顔!ヒーロー科、緑谷出久!!対、ごめん!まだ目立つ活躍無し!普通科、心操人使!!》

 

プレゼントマイクの紹介に合わせる様に出てきて舞台に上がった二人は対峙した。

 

《ルールは簡単!相手を場外に落とすか行動不能にする。あとは参ったとか言わせても勝ちのガチンコだ!!ケガ上等!!此方は我らがリカバリーガールが待機してっから!!道徳論理は一旦捨て置け!!だがまぁ勿論。命に関わるよーなのはクソだぜ!!アウト!ヒーローはヴィランを"捕まえる為"に拳を振るうのだ!》

 

プレゼントマイクのその言葉に私は笑ってしまった。

 

間違ってはいない……捕まえる為に武力を使わざるえないのならそうするしかない……でも、それで解決出来なければどうするのか?

 

拳を振るえない状況だったら?

 

ヒーローに求められるのは武力だけじゃない。

 

それをヒーロー科と他の科の人達は……分かるのかしら?

 

きっと、この一戦はそれが問われる……そんな気がする。

 

《レディィィィィイSTART(スタート)!!》

 

プレゼントマイクの試合開始宣言と同時に何を言われたのか出久君が怒りながら心操君の元へ駆け出そうとすると急に止まってしまった。

 

「何が起きてるのですか?」

 

「……分からないけど心操君の個性に引っ掛かったのね。催眠な洗脳の類いの個性かしら?」

 

『出久の奴は怒っていた。何かを言われてな……発動条件としては奴の返事に答えたらか、感情の変化によってなのか……厄介な奴だ。知らない奴からしたら堪ったもんじゃないな』

 

私は心操君の個性について憶測を立てている中、出久君は固まったまま動けない。

 

でも、あの温厚な出久君を怒らせるなんて単に挑発したんじゃないわね……相手の性格を見抜き、どんな事を言えば確実に怒るのか……それをしっかりと見て、そして判断する能力はかなり高い。

 

心操君の個性を諸に受けた出久君はそのまま場外に出る様に指示されたのかゆっくりと場外へと歩き出した。

 

さぁ、どうする出久君?

 

単純な武力では解決出来ない搦手を扱う相手にどう巻き返すか……それを問われてるわよ。

 

場外の近くまで歩いてきてしまった出久君は……もしかしたら負けるのかもしれない……と思ってたけど急に出久君が少し個性を使って指を一本だけ失う代わりに踏み留まった。

 

心操君も驚いてるし、私も驚いた。

 

何で彼は此処まで予想外の事が出来るのかしら?

 

出久君が振り返って心操君へ向かって行き、心操君はもう一度挑戦して個性を使おうとするけどもうそれは出久君には通じない。

 

そのまま出久君に掴まれると心操君は顔を殴って離れさせ様としても出久君は離れないまま押し出そうとし、心操君は顔を掴んで抵抗した時、出久君はそのまま背負い投げを決めて心操君の足を場外に出した。

 

「心操君、場外!!緑谷君二回戦進出!!」

 

ミッドナイトのその判定に会場は歓声の声を挙げた。

 

負けた心操君は暫くして戻って行く中、普通科の面々から出迎えられていた。

 

その中には緋色や志奈、力斗もおり、最終種目まで登り詰めた心操君を褒めていた。

 

それだけじゃなく、スカウト目的で訪れていたヒーロー達にも一目置かれ、ヒーロー科でない事を非常に惜しまれていた。

 

『力だけが勝ち方じゃない。自分が劣っていると認め、搦手を使って勝つ意思を持つ。心操はそれを体現した惜しい奴だって事だ』

 

「(えぇ、そうね。もしかしたら彼の様な偏見を持たれる個性の人達の希望になっていたかもしれないわ。とても惜しいわね)」

 

私は彼が劣った面がある中でヒーロー科の皆を相手に登り抜きながら負けてしまった事に惜しいと思いながら拍手する。

 

その後、轟君が瀬呂君を大きすぎる氷で圧倒、瀬呂君を同情してドンマイコールが流れた中で轟君が二回戦に進出した。

 

その姿は何処か暗いけどね。

 

次の試合も瞬殺だった。

 

上鳴君と塩崎さんの試合だったけど……茨に拘束されて阿保顔を去らしながらプレゼントマイクに敢えて瞬殺だと言われる上鳴君だった。

 

その次の試合は……と言うよりも飯田君とサポート科で出久君と組んでた発目さんだけど……飯田君は真面目さを利用してサポートアイテムフル装備にさせられるとテレビショッピング的な紹介を発目さんはして言い切った後、そのまま自ら場外負けした。

 

飯田君は試合には勝ったが勝負には負けてしまった……単に真面目過ぎるが故に。

 

その後も拳藤さんと芦戸さんの試合や八百万さんと常闇君の試合そして、個性被り同士の切島君と鉄哲君の個性を使ったうえで殴り合いの戦いになった後で共倒れして引き分け、簡単な勝負で勝敗を決める事になった。

 

そして、最も不穏な組み合わせである勝己と麗日さんの試合だ。

 

《中学からちょっとした有名人!!堅気の顔じゃねぇ!ヒーロー科、爆豪勝己!!対……俺こっちを応援したい!!ヒーロー科、麗日お茶子!》

 

プレゼントマイクの紹介が終えると二人は対峙しする中、試合開始の合図を叫ばれると先手を打ったのは麗日さんだった。

 

麗日さんは個性で浮かせようと詰め寄るけど勝己はそれを迎撃し、爆破を麗日さんに使った。

 

大きな爆発と煙が立ち込める中、勝己はそれで終わらずトドメを刺そうとしたけどそこにあったのは麗日さんが着ていたジャージの上で麗日さんは勝己の後ろに回り込んで個性を使おうとしたけど、勝己はそれを見越した様に地面を沿う様に爆破させた。

 

「(やっぱり戦闘のセンスは勝己が上みたいね)」

 

『そうだろうな。才能と戦闘の経験が彼奴を強くしている。だが、麗日も負けていない。分かってるだろ?弱いなら弱い奴なりに搦手を使うんだって事をな』

 

アーサーの言っている事に私は二人の周りを見て見れば瓦礫が広がりつつある。

 

他の皆は気付いていないけどその状況は麗日さんが戦うにはもってこいの環境になりつつある。

 

食い付く麗日さんに勝己はなぶってる様に見えるけど実態としては麗日さんを油断していないからこそ迂闊な一手は打たない。

 

周りからブーイングが起こっても冷静さが欠けないのはやはり戦闘面での圧倒的な才能があるからこそね。

 

対してる麗日さんの眼は……全く諦めてない。

 

これは手強い相手ね。

 

いつの間にか麗日さんは武器を手にしていたのだからね。

 

麗日が両手の指を合わせると地面に落ちていた瓦礫の破片を浮かせると流星群の様に一斉に勝己に落とした。

 

……でも、勝己はそれを一撃で爆破し、無傷で正面突破した。

 

それを見た麗日さんは一瞬だけ絶望の表情を見せたけどそれでも食い付き、勝己もそれに答える様に向かって行こうとしたけど……麗日さんはもう限界を迎えていた。

 

そのまま倒れてしまってミッドナイトの行動不能の判定を受け、麗日さんは負けて勝己が二回戦へと勝ち進めた。

 

「頑張ったわね。麗日さん」

 

「……白咲さん。やはり貴方には後悔があるのですか?」

 

「後悔?」

 

「自主退学した事を。彼等との学びを捨てた事を」

 

「……確かに後悔はある。もしも……この手を染めなかったら……でも、私の手は汚れたし、ヒーローにはなれない。でも、私は今さら止めるつもりはないからね。綾乃」

 

私はそれだけを言うと綾乃も笑って見せた後、切島君と鉄哲君の決着は腕相撲で行われ、数分にも及ぶ腕相撲の結果、切島が勝ち進んだ。

 

その後、二人はお互いに熱い握手を交わした。

 

小休憩の終え、最初の二回戦は出久君と轟君の二人が戦う。

 

ある意味では因縁の対決……でも、私はそれを見届けられない。

 

"仕事"の用意をそろそろしないといけないから……

 

「綾乃。私の服と……"武器"はあるわね?」

 

「勿論です。これが全てです」

 

綾乃はそう言って私に荷物の入った鞄を渡してきた。

 

手元には無かった筈の物……恐らく個性で持ち込んだのだと推測出来た。

 

「色々と準備があるからね……試合を見たかったな……」

 

「私が録画しておきますから安心して下さい。貴方は……本当の目的の為に行動して下さいね」

 

「分かってるわ。この場で私がやると決めたのは……皆にちゃんとお別れを言う為でもあるもの。議員が出てきたら指定の場所まで来てね」

 

私はそう言って荷物を手にし、その場を去った。

 

本当に……この目でちゃんと見たかったわね……



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殺人劇場

会場は盛り上がり、人々の歓声は響き、熱い戦いが繰り広げられた会場……輝かしい青春の1ページになる筈だったこの雄英体育祭を私は……

 

 

"で染め上げる"

 

 

ごめんなさい……私は貴方達に対して袂を分かつ事を此処に選ぶと伝える為だけに全てを台無しにする……

 

私は愛用している服に着替え……仕込みを整えて……今まで隠していた髪色や瞳を曝け出した。

 

一般人、白咲から殺人鬼、切り裂きジャック(ジャック・ザ・リッパー)へと戻った私は……後から来た綾乃と合流した。

 

~別視点side~

 

栄光の雄英体育祭は一位の爆豪勝己、二位の轟焦凍、三位の常闇踏影の順となる結果でちょっとしたトラブルはあったが幕を下ろす事となる……が、まだ少し続く。

 

《疲れた所で申し訳ないが少しだけ帰るのを待て。慈善活動家で知られる欲強議員がこの場を借りて話したいそうだ。人としてもヒーローを目指すにしても大事な話になるからよく聞けよ》

 

イレイザーヘッドこと相沢がそう言うと片付けれてすっかり平地に戻ったスタジアムの中心に欲強議員が現れると一部から歓声が挙がっている。

 

「凄く人気だね欲強議員さんって!」

 

「異形系や無個性の人達の為の慈善事業を救済支援会の衣緑さんと一緒にやってる事もあるけどあんな風に自分から動く人だからだと思うよ」

 

出久はそう麗日に言うと欲強議員は軽く手を挙げると周りは静まり返り、演説する環境が整うと欲強議員は演説を始めた。

 

「皆さん。今日、この場を御借りできた事をとても感謝します。私は皆さんも知っていると思いますが異形系の個性の方や無個性の方の為に慈善活動を行っています。私が何故、その様な事を」

 

《お金の為でしょう?》

 

その放送は何処からともなく響き渡り、スタジアムにいる人々は混乱に包まれた。

 

《な、何だ?何処からマイクが!?》

 

《発生源は何処からだ!?》

 

実況席にいる二人からも予想外の事態に混乱する素振りを見せた事でスタジアムにいる人々はこれは茶番ではないと知り、ますます混乱する中、謎の放送は止まらない。

 

《知ってるわよ私は。賄賂に脅迫、口封しの殺人、証拠の隠滅に……過去に起こした色々な犯罪。慈善活動家が聞いてあきれるわね》

 

そう言って放送越しに笑っている者に欲強議員は怒った表情を見せながら怒鳴る。

 

「何者だ!私の行いを汚すとは!名誉毀損で訴えるぞ!」

 

《惚けないでくれる?さぁ、慈善活動家のその正体……化けの皮を剥がさせて貰うわよ》

 

放送はそう言い終わった時、欲強議員の近くからゲートの様な物が現れ、そこから勢いよく飛び出したのは……。

 

Ladies and Gentlemen(レディース アンド ジェントルメン)!!!」 

 

そう愉快そうに笑いながら誰にでも分かる程の大きな声で叫んだ霧先ジルこと切り裂きジャック(ジャック・ザ・リッパー)その人だった。

 

「ひいぃぃぃッ!き、切り裂きジャック!?」

 

欲強議員はジルを認識すると顔を青くして情けない悲鳴と共に腰を抜かしてしまった。

 

「ジル!?」

 

「嘘!?本当にジルなの!?」

 

「ジル……!」

 

「本当にジルなのかよ……まるで……別人みたいだぜ……!」

 

出久達、A組もジルを認識すると驚きと動揺が広がり、実況席にいたイレイザーヘッドやプレゼントマイク、オールマイトやミッドナイト、13号そして周りの一般客やヒーロー達にも影響が広がった。

 

「切り裂きジャックだと!?」

 

「殺人鬼が何でこの雄英体育祭に乗り込んだんだ!?」

 

観客達は驚きと動揺、恐怖の中、ジル一人が乗り込んだだけで今までの熱狂は夢の様に目覚めてしまった。

 

~side終了~

 

私は綾乃の個性を利用して欲強議員の近くまで転移すると芝居をする様な言動を見せながら私は大げさに一礼する。

 

「本日、お集まり頂いた紳士、淑女の皆様。私は既に知られている通り……殺人鬼、切り裂きジャック(ジャック・ザ・リッパー)で御座います。私が何故、ヒーローの巣窟であり、厳重厳戒な雄英へと訪れたのか……それは欲強議員の本性を暴く為で御座います」

 

私は大袈裟にそう言って見せると観衆はざわついた。

 

それもそうでしょうね……慈善活動家で通る欲強議員が何かしら黒い何かを抱えているなんて思ってもみなかっただろうから。

 

「な、何の事だ?殺人鬼が何を世迷言を!?」

 

「貴方に突きつける最初の証拠にこれ。貴方は……見覚えあるかしら?」

 

私はちょっと苦労して手に入れた証拠である欲強議員が賄賂を受け取る姿をバッチリ写した写真だ。

 

「そ、それは……!隠滅する様にしっかり言い渡した筈の……!?」

 

「あら、否定しないの?これが賄賂を受け取っている姿だって」

 

私は写真を何枚を出してヒラヒラと団扇の様に振った後、私の姿を生放送でテレビカメラを向けたり、写真を撮ってるマスコミ達に向けて証拠写真を見せびらかした。

 

「ほらほらこれ見てよ!バッチリ撮れてるのよ。凄いでしょ!」

 

「や、やめろ……!」

 

「それについては俺達も話したい事があるぞ」

 

私が欲強議員の不正を生中継で暴いていると父さんと……エンデヴァーがいる。

 

勘弁してよ……追い掛けられるのは嫌よ。

 

「た、助かった!お願いだ……助けてくれ!」

 

「お前がそれを口にするのか?」

 

欲強議員の言葉にエンデヴァーは殺人鬼も裸で逃げ出したくなる様な鬼の形相を浮かべていて周りもエンデヴァーがかなり怒っている事が伝わっているのか静まり返っている。

 

「貴様は数年前にある強盗殺人でヒーローと結託した容疑者のヴィランだ……そうだな?」

 

「な、何を?」

 

「惚けるな!!!」

 

エンデヴァーの怒りの声と炎に欲強議員はもはや口すら聞けなくなってしまっている。

 

「証拠は既に掴んでいる!!この数年間、お前を追い続けた!どんな些細な事でも見逃さずにだ!そして時効の成立寸前で今、此処で捕らえる事が出来る!!貴様にとっては被害者は石ころ程度だと思っていようと……ヒーローにとって、被害者の悲痛な叫びは永遠に響くんだ!!必ず報いを受けさせてやる!!」

 

向上心が高いエンデヴァーがそんな事を言うなんて思いもしなかった。

 

エンデヴァーは世間にはファンサービスと言う物には一切、触れず尚且つ常に周りを威圧する様な雰囲気もあって近付きがたい存在だった。

 

でも、割りとヒーローらしい事を考えているんだと私は思っていると今度は父さんが欲強議員を睨んだ。

 

「欲強。俺を覚えているか?」

 

「し、知らない顔だな。何処かで会ったか?」

 

「あぁ、そうだ。会ったぞ。俺がテメェの不正に気付いて糾弾しようとして逆に嵌められた……間抜けな元トップヒーローさ」

 

父さんのその言葉を聞いた欲強議員は何かを思い出したのか青い顔をすると父さんは話し続ける。

 

「テメェは議員になりたての頃から怪しい取引をしている疑惑が数多くあった。俺はその疑惑の真相を突き止めようとして証拠を握って糾弾したが……その証拠は真っ赤な偽物。お前の用意した餌で俺はまんまと釣られて信頼を無くした。トップヒーローの座も失ってイギリスのロンドンに行ったが……それだけは感謝するよ。ロンドンで俺はヒーローとしての自信を取り戻したし、愛する嫁さんと娘を手に入れたんだからな。まぁ、家族は今、バラバラだけどな」

 

父さんはそう言って苦笑いしてるけど目が笑っていなかった。

 

どちらもお怒りで欲強議員は二人からも後退るけどその先には私がいる。

 

挟まれる形で怯える議員に観衆たる人々は失望や怒りの表情を見せ、欲強議員の支持は消え失せつつある。

 

だから、もう可哀想だから議員の人生を終わらせてあげましょう。

 

「父さんなら当然、証拠はあるんでしょ?」

 

「勿論。苦労したぜ……お前が賄賂の証拠を奪っちまったから探すのは大変だったぜ。エンデヴァー。お前もだろ?何せ、数年前の強盗殺人事件だからな」

 

「ふん。大した事ではない。こいつは被害者の両親が不正の証拠を掴んだ事でこいつが自ら証拠を奪う為に犯行に及び、強盗に見せ掛けたと言った所だ。その証拠に当時、荒らされていた箇所に書斎が特に荒らされていたそうだ。その両親の仕事は……警察。そう言った不正の証拠を握り、保管していてもおかしくない立場の人間だ。そして当時。お前と共犯だったヒーローに嘘を見抜く個性を持った警官の協力の元、証言も得た。結果は……貴様が強盗犯のヴィランだと話した。無論、嘘は無かった」

 

「あ…あぁ……そんな……!?」

 

「俺はテメェの悪事を暴露してやる。テメェ……賄賂以外にもやってくれてるな?人身売買や違法薬物の売買、口封じ目的の暗殺、脅迫。お前は本当に議員か?言っておくが証拠は信頼出来る方々に提出済みだ。揉み消しは……不可能だ。諦めろ。お前の負けだ」

 

父さんの勝利宣言に欲強議員は既に意識を失ってしまっていた。

 

泡を吹いて情けない姿を全国に曝す姿に私は満足した後、ナイフを手にした。

 

「さぁ、FINALE(フィナーレ)と行きましょうか?」

 

「いやいや、待て待て。此処まで来たら捕縛だろうが普通。それに遅くなったがこいつは確実に法で裁ける。お前が手を出す相手じゃない」

 

「……そいつの為に何人の人達が泣かされた?」

 

私の問いに父さんは黙ったまま私を見つめている。

 

エンデヴァーも手を出す様子も無く、周りも静観の様子の為、私は遠慮無く言い続ける。

 

「こいつの目的は恐らくは金。金を稼ぐ為に多くの人達の人生を奪い、苦しめ、涙を流させた……のうのうと生きていて罪悪感すら無い奴を……牢獄で隠居生活をさせるつもりなの?」

 

「隠居生活ね……まぁ、自由は無いが飲食住が確実に保証されてるしな。だがな、ジャック。世の中にはこんな奴でも裁判を受ける権利がある。俺達、ヒーローは力強くでもヴィランを捕まえて、法の裁きを掛けさせなきゃいけない。感情任せな私刑なんて……もっての他だ」

 

「そのヒーローが全て正しい訳じゃない。ヒーローは英雄だけど所詮は人。時に間違えるし、腐り果てる。そんなのが沢山いるこの社会の法に……価値はあるの?ヒーローがヴィランをちゃんと取り締まれるの?捕まえられるの?誰かの助けてと言う言葉を聞けるの?」

 

「確かにヒーローは人だ。英雄でもましてや神でもない。間違えたり、法を自ら犯してしまっりする。だが、それでも全員じゃない。今、この場に立つ俺達がそうだ。そうだろお前ら?」

 

ジャスティスが笑ってそう言うと空からオールマイトが現れるとイレイザーヘッドやミッドナイト、プレゼントマイク、13号、セメントス、スナイプと言ったプロにして雄英の教師達が現れた。

 

「残念だ霧先少女……私が来た」

 

「お前は良い教え子だと思ってたよ。仮にも怪我人に無茶させやがって」

 

「ジル……今でも嘘だと思いたいわ」

 

「入試が懐かしいぜ……お前が一番輝いていたんだぜ?」

 

「これも教師としてヒーローとして君を導けなかった僕の責任です……大人しく罪を償って下さい」

 

「残念だよ。元とは言え、生徒に個性を使わなければならないのは」

 

「お前は信頼してくれた多くの人々を裏切った……俺はお前を許さない」

 

この陣容は私にとってはかなり不利だ。

 

オールマイトだけでも厳しいのにエンデヴァーや父さん、イレイザーヘッド達、プロヒーローの教師達。

 

今すぐにでも降参のポーズが取りたいけど……。

 

「楽しくもなってきたわね」

 

私は笑ってしまうとオールマイト達は身構えて今にも戦闘が起こりそうになった時、そこへよく見知った人が来た。

 

「ジル!!」

 

「緑谷少年!?」

 

「焦凍と戦ってた奴か!何しに来やがった!!」

 

「ジルのお父さん。僕に……僕に説得の時間をください!!」

 

「馬鹿か!!こいつはもう吹っ切ってる!!殺人鬼になる道を明確に選んだ事を伝える為にも此処を殺人の現場に選びやがったんだぞ!!」

 

「それでも……僕は……!」

 

「いい加減にして出久」

 

私が出久君を呼び捨てした事に驚いていれのかまたは動揺しているのか分からないけど固まっている。

 

でも、はっきり言わないといけない……彼には光ある場所でヒーローになって欲しいから。

 

「あんたなんか……どうでも良いのよ。最近まで無個性ずらしてていざ、個性が使えたら……無駄に怪我する嵩の個性なんて聞いて私は影で笑ってたわ。本当に鈍くてのろまな人ね」 

 

「ジル……」

 

「あんたが目の前にいるだけでも目障りよ。利用価値がありそうだと思ってたら懐いちゃってさ。全く……怪我しないと分からいかしら?」  

 

私は初めて出久君を貶した……嘲笑った……心が痛い……でも、彼まで巻き込みたくない。

 

「ジル……そこまで思うならさ……何で泣いてるの?」

 

「泣いてる?私が?」

 

『ジル。目元を触れろ』

 

私はアーサーに言われて目元を触れると濡れた感触があった。

 

私が泣いていた証拠だった。

 

「君が言った事は本音じゃない」

 

「本音よ」

 

「本心から言いたかった事じゃない」

 

「本心よ……」

 

「君が僕をいつも助けてくれた事に偽りなんて無かった」

 

「……偽りはあった」

 

「君はいつも僕を心配してくれた!今度は僕を、僕達を巻き込まない為に嘘をつこうとしていた!」

 

「いい加減にしてよ!!!」

 

「君自身は何処かで助けを求めてる!!今度は僕が君を助ける番だ!!お願いだジル!!罪を償おう!!!」

 

出久君はいつもそうよ……あんなに酷い事を言ったのに……傷付けたのに……それでも私を助けたいですって……でも……私は後戻り出来ない!!

 

「全力で拒否させて貰うわ!!」

 

「ちッ!離れてろ緑谷!!」

 

イレイザーヘッドが私に視線を剥けて個性でナイフを封じるつもりだけどその辺の対策だってしてるのよ。

 

私は個性を消されると同時に腰から持ち込んだ武器であるナイフを抜くとそのままイレイザーヘッドの肩に投擲した。

 

「ぐッ!?個性ではないナイフか!」

 

「そのまま個性を封じるんだ!!持ち込んだナイフは個性とは違って有限!!限りがある!!スナイプ!!」

 

「こうなったら足や腕を狙わせて貰うぞ!!」

 

「至近距離で撃てるの?」

 

私は素早くスナイプの懐に飛び込むとその腹に思いっきり膝蹴りを食らわせると続けて裏拳で殴り飛ばし、咄嗟に奪い取ったスナイプの銃を弾を抜いて投げ捨てた。

 

「お願いよジル!抵抗しないで!!」

 

「個性は人殺しの為の武器じゃない!!そう教えた筈だよ!!」

 

今度はミッドナイトと13号が現れ、眠り香を使うけど私は生憎、女で効きにくいけど意識が逸らされたら13号のブラックホールでやられる。

 

私は個性を使われる前にまた素早く飛び込むとミッドナイトの腕と足を支障を残さないていどに切りつけて蹴り飛ばし、13号には身体に飛び付くとナイフの柄で何度も殴りつけて宇宙服みたいなヘルメットを破壊してから直接、殴って気絶させた。

 

「やりすぎなんだよォお前!!!」

 

プレゼントマイクがそう叫びながら個性、ヴォイスを使おうとすれば同じ手を使うだけ、使われる前に飛び込んで非常に申し訳ないけど……死なない程度に喉を殴った。

 

喉を殴られた後のプレゼントマイクは首を押さえながら倒れ込んだから暫くは起き上がれないし、声も出せない。

 

「君はやはり手加減すらしないのか!!」

 

今度はセメントス。

 

残念だけど先手を打たれて周りのセメントを操られて私を方位しようとしてる。

 

でも、私を止めるに至らない。

 

セメントの壁が構築される前に足蹴りに飛びながらセメントの方位から抜け出しつつ、私に尚も方位しようと狙うセメントスの元へ素早く飛び掛かると顔に思いっきり空中で回し蹴りをした。

 

私はある程度まで彼等を蹴散らすと残ったのはオールマイトとエンデヴァー、父さんのみになった。

 

手強い三人がいっぺんにいるなんて悪夢ね。

 

「霧先少女……それ程までに堕ちたのか……!」

 

「実力はお前の娘と言うのは確かだな……」

 

「本当にすまねぇ……才能だけはあるんだ……あんまり手荒な事はしたくないが……」

 

私はかなりキツいと思っているといつの間にか欲強議員は気絶から目を覚まして這って逃げようとしており、私はナイフを欲強議員の足に投擲した。

 

「ぐひぃッ!?」

 

「何逃げようとしてるのよ。この、屑が」

 

「た、助けてくれ!私は……私はまだ死にたくない!!」

 

「それを貴方が死に追いやった人に言ってみなさいよ。絶対に許されないからね」

 

「止めろジャック!!」

 

私が欲強議員にトドメを刺そうとすると父さんが議員との間に割って入って来た。

 

「もう良いだろう。殺人なんて止めようぜ」

 

「退いて父さん。その屑は生かしてはおけない。絶対に地獄に送ってやらないと」

 

「ジャスティスの言う通り、私刑を行ってはならない!!霧先少女!!」 

 

「私は切り裂きジャック(ジャック・ザ・リッパー)よ。そこを間違えないでオールマイト」

 

私はそう言った後、父さんに向かってナイフを振るうけどやはり、物理的な攻撃は通らない。

 

「前に言っただろ!お前のナイフは通用しない!!オールマイト!!」

 

TEXAS SMASH(テキサス スマッシュ)!!」

 

オールマイトが必殺技の一つを使うと私を強烈な風圧を起こして吹き飛ばし、そこで今度はエンデヴァーが飛ばされた先にいた。

 

「赫灼熱拳ジェットバーン!!!」

 

エンデヴァーの必殺技、肘や足裏から炎を放射して突進し、拳からも炎を放射しつつ繰り出す拳撃。

 

私はそれを防ごうとしても強烈な炎の拳を防ぎきれずに諸に受けて吹き飛んで地面に転がったけどすぐに体勢を整えて起き上がった。

 

でも、ダメージは当然、大きい……熱いし、痛い。

 

「油断するなよジャック。俺もいるんだぜ?」

 

そこで今度は父さんがいつの間にか背後にいて霧状になりながら私を拘束しに掛かった所でいつの間にか三人とは離れた位置にいた。

 

綾乃が私を助ける為に個性を使ったのだと分かり、今回は綾乃に助けらられたと思うと一息ついたら今度は欲強議員が目の前に落ちてきた。

 

「あら、欲強議員。空から落ちてくるなんて面白い芸ですね?」

 

「ひぃッ!?」

 

「お前!やっぱり共犯者がいんのかよ!!」

 

「まぁね。私に手を貸す物好きがいるくらいに世の中に不満を持つ人がいるのよ。父さん」

 

私はそう言うと父さん達は欲強議員が私の近くにいるからなのか攻撃してこない。

 

こんな奴の安全を守らないといけないなんて……ヒーローも不憫ね。

 

「ごめんね父さん。私の勝ちよ」

 

「止めろ!ジル!!」

 

私の事をヴィラン名ではなく、名前で私を呼んで止めようとしてくる父さんの事を無視して……私は欲強議員の頸動脈に向けてナイフを横振りに切り裂いた。

 

大量の返り血が付着する中、欲強議員は首元を押さえながら最後まで無様な姿を曝しながら息絶えると私はナイフの血糊を払ってからナイフを鞘に納めた。

 

「精々、地獄で弄んできた人達に責め立てられていなさい……屑め」

 

私はそう欲強議員の死体に向けて吐き捨てる私はいつの間にか立ち直ったヒーロー達に囲まれていた。

 

「何て事だ……この雄英体育祭の終わりに暗殺を成功させられてしまうとは!!」

 

「ジル!!貴方、何をしたのか分かっているの!?」

 

「分かってるわミッドナイト。私はどうしようもない悪党を殺しただけよ。そう……全ては……犯罪の無い皆が幸せな世界の為に」 

 

私はアーサーがかつて目指した目標であり、私自身すら消し去る夢を言った。

 

悪党がいなくなれば残るのは善人のみ……単純な話だし、不可能だとも分かっている。

 

でも、目指さずにはいられないの。

 

幸せな世界の中で笑っている人達の笑顔に光を見いだしている私はこの光を守る為に戦うと心に誓ったのだから……それを壊す悪党には容赦しない……皆殺しよ。

 

「そこにお前はいねぇぞ!!それで良いのかよ!!」

 

「それで良い!!」

 

「霧先少女……良い理想だ……だが、言わせて貰うぞ。誰かの幸せの為に誰かを犠牲にするのは間違っている!!これはロンドンの名誉市警、シャーロット・ピースレイの言葉だ!!切り裂きジャック(ジャック・ザ・リッパー)である君なら分かるだろう!!」

 

ロンドンの名誉市警、シャーロット・ピースレイ。

 

彼女はロンドン市警として常に市民の側に立ち、悪人を許さず、犯罪を犯して捕まった人々の為の福祉を率先して行い彼女を知る市民達の信頼はとても厚い婦警だった。

 

過去に起きたら切り裂きジャック(ジャック・ザ・リッパー)の再来でもアーサーを追い続け、追い詰めて捕まえた事で彼女は名誉市警として死後は彼女の行ってきた行動はロンドン市警達やイギリスのヒーロー達の模範として語られる人物とされているアーサーの宿敵だ。

 

「そこまでして得た世界に君がいなかったら悲しむ者がいる……霧先少女。我々に投降してくれ。罪を償ってまた、皆で笑おうじゃないか」

 

「……ごめんなさいオールマイト。私は後戻りはしない。せめて母さんの仇を討つまでは」

 

「オリヴィアはそんな事は望んでない……!」

 

父さんはそう悲痛な表情で言ってくるけどこれは私の気持ちの問題……どうしようもないの。

 

「そうね……母さんは私にヒーローになって欲しいって言ってた。けど、無理だった。顔もあわせられない……だから私はヴィランとして殺人鬼として生きていくわ」

 

私はそう言って片手を上げて合図を送るとゲートが私を包み込んでいく中、舞台は終わったと伝える様に一礼する。

 

「さよなら……皆様。また会いましょう」

 

「待て!!ジル!!」

 

私はその言葉を聞くと同時にゲートを潜り抜けて雄英から脱出した。



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体育祭のその後

私は雄英での大仕事を終えてから外堂先生の所に言って戦闘での傷の手当てを受けていた。

 

「全く、君は……オールマイトとエンデヴァーの二人を相手にしただけではなく多くのプロヒーロー達に囲まれた状態で仕事をやり遂げるのは無茶も良いところだぞ?」

 

「はい……すみません……」

 

私は傷の手当てをしてくれる外堂先生からのありがたいお説教を受けていると診療所にある備え付けのテレビから緊急のニュース速報が流れた。

 

勿論、雄英での私が起こした事件についての。

 

《今日、雄英体育祭においての切り裂きジャック(ジャック・ザ・リッパー)の亡霊による欲強議員の殺害事件についての続報です。今日、雄英体育祭の終わり頃に演説を行おうとしていた欲強議員が切り裂きジャック(ジャック・ザ・リッパー)の亡霊によって殺害されました。切り裂きジャック(ジャック・ザ・リッパー)の亡霊はオールマイトやエンデヴァー、教員であるプロヒーロー達と交戦しましたが逃亡し、現在も行方を眩ませています。この事態に雄英に批判の声が相次ぎ、明日の朝、雄英の関係者による記者会見が開かれる模様です。なお、欲強議員には汚職の疑惑と余罪が浮上し、現在でもその事実確認が行われている模様で、欲強議員のこの疑惑に野党は与党に対して追及する姿勢であるとしています》

 

「大騒ぎだねぇ。君のやった事は前代未聞、過去に無い出来事だったよ。あの雄英に泥を塗ったのだからね」

 

「えぇ、してやったわ。これで私が何処まで本気なのか……皆、分かったでしょうね」

 

私はそう言うと外堂先生は傷の手当てを終えてしまうと使った医療品をしまっていく。

 

「本当は不本意だったのだろう?決別したとは言え、彼等の記憶にトラウマを残したかもしれないのだから」

 

「……そうね。悪いと思ってる。でも、やらなきゃ何時までも私を優しいジルと見てくる。それじゃあ駄目。ヒーローになる覚悟があるなら……私と言う悪を……殺人鬼、切り裂きジャック(ジャック・ザ・リッパー)を許さない気でいて欲しいの」

 

私はそう言うと巻かれた包帯を見たりしていた時、そこへヤクザとしての格好をした緋色と綾乃がやって来た。 

 

「ジル!大丈夫か!?」

 

「エンデヴァーに思いっきりやられてましたけど無事ですか?」

 

「何とかね……本当に運だけは良かった。折れずに火傷で済んだ」

 

「火傷!?君の綺麗な肌にか!?」

 

「いや、残っちゃう程じゃないから大丈夫」

 

「そうか……良かった」

 

緋色はそう言って安堵する中、私は綾乃に視線を向けた。

 

「さて、綾乃……貴方の恨みは晴らせたかしら?」

 

「……そうですね。これで両親も静かに眠れるでしょう。これを使わなくて良かったです」

 

綾乃はそう言って鞄から拳銃を取り出すと緋色は目を見開き、外堂先生は興味深けな顔をする。

 

「本物?よく手に入れたわね?」

 

「あの豚を仕留める為に色々な所に伝手を持ちましたからね。情報もこう言った武器、横流しされたサポートアイテムの入手経路も」

 

「それを聞いたら貴方って闇のブローカーみたいな感じに聞こえるわよ?」

 

「そうですね~。良ければ貴方が必要とするなら限りこそありますが必要な物を手に入れますよ。勿論、足は付きません」

 

「気が向いたらね」

 

綾乃のやる事、なす事が何れも規模が大きい事に私は笑ってしまう中、緋色は何かを思い出したかの様に不適に笑った。

 

「そうだ……なぁ、ジル。君に頼みたい事があるんだ」

 

「え、なに?」

 

「これを着て欲しい」

 

緋色が取り出したのは何処から手に入れたのかチアガールの制服だった。

 

「えッ!?」

 

「そう言えばA組の女子達は何故かチアガールでしたね?」

 

「そうなんだ。後で着せようと思って色々と誤魔化しながら手に入れたんだ。勿論、ジルのサイズにピッタリにね」

 

「な、何でサイズを知ってるの!?」

 

「当たり前だろう?君と僕は深い関係なんだからね?」

 

緋色の言葉に私は顔に熱が籠るのを感じつつ、チアガールの制服に着替えさせられる……て、思うと後ろに下がってしまった時、綾乃に肩を掴まれた。

 

「私も是非、見たいですね~。あの子達だけなんて不公平ですしね」

 

「そうだとも。ほらほら早く着ないと手伝っちゃうよ~?」

 

「ち、ちょっと待ってよ!」

 

「私は着替え終わるまで別の部屋にいるから用があったら呼んでくれたまえ」

 

「外堂先生!?」

 

外堂先生にまで見放された私は放心状態でいたけど最終的に諦めてチアガールの制服に着替えた。

 

うぅ……お腹出てるし、下がミニスカートだから違和感があって嫌だ……

 

「似合うじゃないかジル」

 

「スタイルが良いと出てる所も出てますね~」

 

「お願いだから早く着替え直させてよぉ……!」

 

緋色と綾乃はニヤニヤしながら私を見てくる為、私はもう恥ずかしさでいっぱいになる。

 

『お前は本当にそう言う事には慣れないんだな』

 

「(だって!こんなに露出した服なんて破廉恥にも程があるじゃないの!?)」

 

『男がメイド服を着せられるよりマシだろ』

 

アーサーはそう言って嫌な事を思い出したと言わんばかりの顔をするけどね……私は女だけど!?

 

と言うよりもその口振りからメイド服を着せられた事でもあるのかしら?

 

確かに顔は整ってるし、女装させれば女性と間違えてもおかしくない体格と顔だしね。

 

私はもう泣きそうになる中、そこへ智枝美がやって来た。

 

「あれ?お姉ちゃん達、何してるの?」

 

「僕達はね。ジルにチアガールの服を着せていたんだ」

 

「チアガールって凄い動きをする人達の?」

 

「そうですよ。ジルさんがどうしてもと」

 

「そんなの言ってないわよ」

 

私はない事を言われそうになって取り敢えず止めると自分の服を取ると緋色は残念そうな顔をしている。

 

「なんだ……もう着替えるのか?」

 

「十分見たでしょ?それに何時までも遊んでたら外堂先生に申し訳ないし」

 

私はさっさといつもの服に着替えてしまうと智枝美は少しモジモジした動きをしながら私の前に来た。

 

「ねぇ、ジルお姉ちゃん」

 

「ん?」

 

「今度ね。一緒にお買い物に行きたいけど……良いかな?」

 

「……えーと……一緒に買い物を?」  

 

「うん!」

 

智枝美はそう返事して期待の眼差しを見せてくれるんだけど……私、指名手配犯なうえに雄英に喧嘩を売ったばかり。

 

今は下手に出歩くのは危険だから断るべきだけど……智枝美の願いも聞いてあげたいし……

 

『おいおい、優柔不断になるなよ。智枝美の願いにどうこたえるつもりだ?』

 

「(今、出歩くのは危険だけど……智枝美が折角、誘ってくれたんだしね……でも、仕事が……)」

 

「行ってきなよ。ジル」

 

私はどうするべきか決めかねていると緋色に行って来るように言われた。

 

「仕事ばかりだと気が滅入るだろ?だったら、たまには出掛けて気分を変えた方が良いと思うぞ?」

 

「でも……」

 

「心配するな。君を血眼で探し回ってるヒーロー達を誤魔化す方法は色々あるからね」

 

緋色はそう言ってニッコリと笑った時、綾乃のスマフォの電話が鳴り、綾乃は電話に出た。

 

「はい、広瀬です。……え、インゲニウムさんが?そうですか……はい……分かりました……また、お見舞いにお伺いします。では……」

 

「どうしたの?お見舞いって?」

 

「……インゲニウムさんが……ヒーロー殺しに襲われました……重症の様です……」

 

「え……?」

 

まさか……インゲニウムがステインに襲われたなんて……飯田君はこの事にどう思ってるんのか……

 

「ジルお姉ちゃん?」

 

「なに?」

 

「また、仕事なの……?」

 

私がまた仕事に行くのか不安そうに見つめてくる智枝美に私は微笑むと頭を撫でた。

 

「……今回は違うかな。心配しなくても良いわ。一緒に行きましょう」

 

「本当!ありがとう!」

 

智枝美の嬉しそうな顔に私は微笑ましいと思う中、綾乃はインゲニウムの件が気になるのか少し暗い顔をしている事に気づいた。

 

「インゲニウムの所へ行ってみたら?」

 

「え?」

 

「いや、何だか気になってしょうがない……て、顔をしてたしね」

 

「ち、違いますよ!彼は私によく贔屓してくれる人だったので活動が出来ないならネタに困ると思っただけで……!」

 

何で綾乃は顔を紅くして否定するのかしら?

 

否定くらい別に普通にしても良いと思うのに……もしかして私、怒らせちゃった?

 

『お前な……アレは脈ありの奴がする顔だ。意外だなぁ。まさか、ヒーロー嫌いなこいつがヒーローを。ましてや男に惚れ込むなんてな』

 

「(惚れ込む?……綾乃は確か過去の事件とかのトラウマとかありそうだけど……?)」

 

『その辺は分からないがそうじゃなきゃ、インゲニウムの事を気にしてるなんてしないだろ?寧ろ、死ねとか思いながら笑ってるぞ』

 

「(ありそうな話を出さないでよ……まぁ、恋愛なら過去の復讐を終えたなら新しい生き方を見つける切っ掛けになるなら祝福しても良いでしょうね。私が殺人鬼で彼がヒーローでなければ良かったのだけど)」 

 

私はそう思いながら私は慌てる綾乃に落ち着かせながら智枝美との買い物でどう誤魔化して溶け込むかと緋色に相談しようと思った。 

 

~別視点side~

 

その頃、雄英ではマスコミや苦情の対応に追われていた。

 

殺人鬼が雄英体育祭の終わり頃とは言え、殺人が行われてそれが全国生放送なのだから当然の結果だった。

 

影響は雄英に止まらず、欲強議員の汚職や過去の犯罪が証明されると野党による与党追及と言う事態になり、しかもやっていた事が事なので大騒ぎになった。

 

事件が落ち着き次第、明日には根津を始めとした職員関係者が記者会見を開き、謝罪と今後の対応策を説明する事となっているがそれでも終息するまで長い時間が必要になるのは明白だった。

 

そして、ヒーロー達にも影響が出た。

 

雄英体育祭にスカウト目的で来ていたヒーロー達がジルの捕縛に動かなかった事にも少なくない批判が殺到、多くのヒーロー達が謝罪する中、ジルの思想とヒーローに対する考えを聞き、自身のヒーローとしての在り方を見失ってしまったヒーロー達もいた。

 

ジルの行動で状況が悪くなる中、ヴィランにも影響があった。

 

「あんなイカれた奴に付け狙われるくらいなら自首した方がマシだ!!」

 

ヴィラン達は雄英体育祭の終わりで見せたジルの行動とオールマイトを含めた多数のヒーロー達との戦闘で逃げ切った姿を見て恐れをなして逃げる様に自首をして来る様になり、治安が徐々に上がる現象を見せていた。

 

「なんて皮肉だ。俺達は大失態を犯したがそのお陰で治安が向上したなんて笑えねぇ話だ」

 

「我々が批難されるのは構わないが他のヒーローのメンタルを考えるとなると……」

 

「良い切っ掛けになるだろう?飽和社会なんて皮肉られる時代でヒーローとしてどう行動し、向き合うか。それを考えさせる機会を提供されたんだ。人を守る覚悟を決め直す時さ」

 

オールマイトの心配を他所にジャスティスはそう言い切るとオールマイトは心配する素振りを見せた。

 

「霧先少女を……どう思っている?」

 

「愛してるぞ?娘として、家族としてな。何を心配してるのか知らねぇが彼奴が堕ちちまっても家族として愛し続けるさ」

 

ジャスティスはそう言い切って笑った。

 

一方、A組の面々は暗い面持ちになっていた。

 

「ジルを……僕はジルを止められなかった……僕のせいで……!!」

 

「デク君のせいやないよ。私達は近くにいたのに何にも出来ひんかった……デク君は一人でも説得に行ったのに……」

 

「クソがぁッ!!……何で俺は動かなかったんだよ……彼奴を見た時に……体が思うように動かなかった……何でなんだよ……!!」

 

「それはジルちゃんの雰囲気がとても怖かったからだと思うわ……勘違いしないでね。これだけは……皆、同じだったのよ。もう……私達の知ってるジルちゃんじゃない。別人よ」

 

ジルの変わり果てた殺意と殺気だった雰囲気に気圧され、出久以外に動く事すら出来なかった事を悔やみ、嘆くA組の面々に相沢は教室の扉の隙間から覗いた後、今はそっとしておくべきと判断し、廊下の壁に持たれながら自分の無力を嘆くしかなかった。

 

ジルは大きな影響を社会に与える中、ヒーロー公安委員会はこの事態を深刻に受け止めていた。

 

「今回ばかりはもう捨て置けん!!奴を葬るべきだ!!」

 

「だが、悪い話だけではないと言うのが行動を阻害されている要因になっている……切り裂きジャック(ジャック・ザ・リッパー)の活動でヴィランによる犯罪は減り続け、あまつさえ自ら自首する者もいる。その事に切り裂きジャック(ジャック・ザ・リッパー)を法で裁かれない悪を暴き、裁くヒーローとして世間から見られている。そんな霧先ジルを始末すればどうなるか……」

 

「しかし!奴の行った所業で何れだけのヒーローが引退してしまったのか御存知ですか!!腐敗したヒーローを仕留めるだけなら良い……だが、彼女の行いは社会への影響が大きすぎるのだ!!」

 

「我々の側に引き込むのはどうだ?」

 

「それは無理でしょう。彼女は自身を悪だと認識して行動しています。わざわざ免罪符代わりに我々、公安に属するとは思えませんし議員すら殺す殺人鬼です。我々の行っている行動を知って闇に紛れる悪だと認識されれば大変な事になるでしょう」

 

ヒーロー公安委員会はジルをどうするべきかと頭を悩ませ、決めかねる。

 

社会は知らない内に少しずつ変化していく……一人の殺人鬼のナイフによって。

 



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殺人鬼の休息

雄英体育祭の騒動から一週間後、私は智枝美との約束を果たす為に診療所へやって来た。

 

緋色からは目的の場所からヒーローを遠ざけて貰い、私は変装をして智枝美との買い物に付き合うと言った具合だった。

 

そう……そんな具合だったのだけど……

 

「本当に大丈夫かい?ジル君がいるとは言え、私から離れて買い物に行くのはやはり心配だ。ジル君から離れたりするんじゃないぞ?それと危ない事もやめるんだぞ?」

 

「もうお父さん!朝から何度も聞いてるわよ!もう!」

 

外堂先生が智枝美の事が心配になり過ぎて何度も引き留めては注意し、智枝美は少しウンザリした様子を見せていて私は心配なんだなって苦笑いした。

 

「ジル君。智枝美の事をくれぐれも頼むよ?」  

 

「はい。責任を持って預かりますから」

 

「行ってきますお父さん!」

 

私は智枝美を連れて診療所を出ると智枝美は私の手を握ってつなぐと微笑み、私は微笑み返した。 

 

~別視点side~

 

その頃、綾乃はインゲニウムが運ばれた病院である保須総合病院へとやって来ていた。

 

綾乃は受付を済ませてインゲニウムこと飯田天晴の病室の前へやって来ると迷う事もなく開け放った。

 

「失礼しますよインゲニウムさん」

 

「広瀬さん。わざわざお見舞いに来て頂いてすみません」

 

「長く贔屓させて貰ってますからね。それはそうと怪我の方は?」

 

「……下半身麻痺だそうです。もうヒーローとして活動出来ないそうです」

 

インゲニウムのその言葉に綾乃は笑う事もなく無表情でインゲニウムを見つめる。

 

「あはは……駄目ですよね。弟の為にも笑っていないといけないのに」

 

「……あまり、無理しないで下さいね。天晴さん」

 

「珍しいですね。貴方が名前で呼んでくれるなんて?」

 

「ヒーローを辞めるならヒーロー名ではなく、本名で呼ばれる事に馴れないといけませんよ」

 

綾乃のもっともな言い方にインゲニウムは笑った。

 

インゲニウムのその笑顔の裏には最後まで切り裂きジャック(ジャック・ザ・リッパー)を捕らえる事が出来なかった事が悔いとして残ったままだった。

 

弟は友人であり、冷酷な殺人鬼であり、悲しみを見せる少女。

 

インゲニウムはもう二度とヒーローとして彼女を救えない。

 

~side終了~

 

私は智枝美と一緒に近くのお店が建ち並ぶ場所に訪れると洋服屋やスイーツ店、アクセサリー店と色々な店がある中で私は智枝美が行きたい所に行くつもり。

 

「沢山あるけど……どうする?」

 

「お洋服屋さんに行きたい」

 

「うん。なら、行きましょうか」

 

私は智枝美の手を引いて洋服屋へと入ると私達は彩り鮮やかな服を選びながら試着……と言うより殆ど智枝美にさせてたりした。

 

いや、私は今は変装をしてるから試着は少し無理があるからそんなに頬を膨らませて怒らないで智枝美。

 

次はケーキを主に販売しているスイーツ店へ足を運ぶと私はガトーショコラを頼んで智枝美はショートケーキを頼んだ。

 

飲み物には智枝美はミルクティーを頼んで私は……

 

「(こんな所まで止めてよ!珈琲を飲むの!!)」

 

『紅茶にしろ!前にも散々、飲ませてやったろ!!』

 

「(私は甘いものには苦い珈琲って決めてるのよ!!)」

 

「どうしたの?」

 

「い、いや……何でもないから。珈琲お願いします。ブラックで」

 

『おい!!』

 

アーサーと喧嘩しながらも智枝美と美味しいケーキを食べながら頼んだ飲み物を飲んで楽しむと今度は適当にふらついていると路上ライブをしている集団がおり、私達は流れる音楽に耳を傾けた。

 

私達は思い々に楽しむと次に寄ったのがアクセサリー店だった。

 

髪止めやリボンと様々な物が売られていて何れも智枝美に似合いそうな物ばかりだった。

 

「何れが良い?」

 

「うーん……これかな」

 

そう言って智枝美が手にしたのは……青いリボンだった。

 

私が過去に身に付けていた両親からの贈り物だったリボンはもうあの家に置いてきた。

 

智枝美の手に取った青いリボンを凝視してしまったけど私はすぐに笑顔になって誤魔化した。

 

「素敵ね。きっと似合うわよ」

 

「違うよ。お姉ちゃんに着けてほしいの」

 

「私に?」

 

「うん!きっと凄く似合うと思う!」

 

智枝美のその言葉に私は迷ってしまうけど……智枝美を悲しませるといけないから買う事にしましょう。

 

「ありがとう智枝美。帰ったら着けてみるわね」

 

私はそう言って智枝美と一緒にリボンの会計をした後、私達は良い時間なのでそろそろ帰る事にした。

 

「今日はありがとう。楽しかったよお姉ちゃん」

 

「別に良いわよ。気分転換も出来たしね」

 

私はそう言って微笑むと智枝美も微笑み返してくれた。

 

今日は智枝美のお陰で良い気分転換になったし、また機会があれば智枝美や緋色と一緒に行こうかな。

 

~別視点side~ 

 

ジャスティスは自分の事務所で思考を巡らせていた。

 

霧先ジルこと切り裂きジャック(ジャック・ザ・リッパー)の連続殺人は止まらないがそれではなく、もっと別件であり、数年前から追い続けている事件の事だった。

 

ロンドンにいた時から半信半疑ながらも調べている内にその存在が今もなお存在し、この日本にいると確信した。

 

グリーン・メイスン。

 

かつて19世紀のロンドンでは子供の躾に使われた秘密結社で緑頭巾の者達が子供を拐うロンドンの暗躍する者、グリーン・メイスン。

 

そんな感じで現代でも都市伝説めいた話があるがジャスティスはその存在が日本におり、尚且つ昔に嵌められた欲強議員と繋がりがあったと掴んだが生憎、ジルに始末された。

 

折角の手掛かりが無くなり途方に暮れて溜め息をつくジャスティスの元へレディ・クイックがやって来た。

 

「ジャスティス。今日の見廻りの報告に来ました」

 

「そうか。ありがとう。お前は真面目で良いな」

 

「普通ですよ。それよりも今回、切り裂きジャックの動きが今日は無かったです」

 

「……彼奴も休む事を覚えたか」

 

「ジャスティス?」

 

「いや、何でもない。ご苦労さん。休んでて良いぞ」

 

ジャスティスはそう笑いながら言うもレディ・クイックは動かなかった。

 

「何だ?まだ何かあるのか?」

 

「……レディ・ナガンの事件についてです」

 

「お前……それをまだ追っていたのか?」

 

「当然です!彼女は……彼女は確かに罪を犯しました!!しかし、事実と異なる罪を着せられた!!彼女は本当の罪で償うべきです!!」

 

「俺だってどうにかしたいが……公安が相手だ。しかも暗部のな。俺だってこんな事は言いたくない……諦めろ」

 

「ッ!?ジャスティス!!」

 

レディ・クイックは怒りを露にして机を強く叩くもジャスティスは動じずに話す。

 

「なぁ、打美。確かに昔の俺は罪を暴く為なら汚い手段だって使ってきた。だがな、それをやり続けた事で全てを失った。幸い、支えてくれた奴がいて立ち直ったがお前にはいない。お前の憧れで師であるそいつはタルタロスの中。お前に何かあっても俺は助けられないかもしれない」

 

ジャスティスのその言葉を聞いたレディ・クイックは怒りを露にしながらその場から去るとジャスティスは深い溜め息を吐いた。

  

「(悪いなぁ打美。俺が公安なんかに目を付けられちまったばかりにな。今、俺は公安なんかに邪魔される訳にはいかねぇんだ)」

 

ジャスティスはそう思いながらまだ手掛かりがあるか調べていく。

 

 



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保須へ

私は久しぶりに休みを満喫して楽しんだのだけど……いざ、仕事に出ようとしたらいつの間にかヒーローがわんさか歩き回ってるし、A組とB組の生徒がコスチューム着て同伴してる姿も見かけた。

 

「それは多分、職場体験だろうな」

 

様子を見に来た緋色のその言葉に首を傾げていると私は体育祭の本来の趣旨を思い出した。

 

「あぁ、雄英体育祭のね。ヒーロー達もスカウト目的で沢山来てたし」

 

体育祭にな多くのヒーロー達がスカウト目的で来てた。

 

あれだけいて誰一人として動かなかったのは後で疑問に思ったりしてだけどそれは良いとして今は。

 

「飯田君は……やっぱり?」

 

「保須のノーマルヒーロー、マニュアルの所に行ったらしい。保須はヒーロー殺しが出没した街だ。全く……ジル。これは明らかな私怨だ。お兄さんの仇であるヒーロー殺しを追おうとしている。でなければ態々、ヒーロー殺しが出没した保須に事務所を構えるマニュアルの所なんて行かない」

 

「……そうよね。本当に馬鹿な委員長よ。普段は馬鹿真面目な癖に私情に振り回されるなんてね。……だから……飯田君の無念は分かる。私だって母さんの仇を追ってるもの。でも、飯田君はヒーローを志している。仇を討つ為に全てを溝に捨てる必要はない」

 

私はそう言い切り、拳を握りしめると緋色は小さく溜め息をついた。

 

「つまり、行くんだね。保須に?」

 

「復讐するつもりなら止めてあげないといけない。雄英出身の復讐者なんて私一人で十分よ」

 

私はそう言うと緋色は仕方ないなと笑った。

______

____

__

 

私は飯田君が行ったとされ、ヒーロー殺しが今もそこに潜伏していると思われる保須へと足を運ぶと私は路地を歩く中、私は背後に気配を感じて振り替えるとそこにはヒーロー殺し、ステイン本人がそこにいた。

 

「この保須に何の用だ……ハァ……切り裂きジャック?」

 

「元クラスメイトに忠告に来たのよ。貴方が潰したヒーロー……インゲニウムの弟が貴方を探してる」

 

「ハァ……インゲニウム?」

 

「足をやったのでしょう?覚えてないの?」

 

「知らんな……インゲニウムなどに手を出してはいない。ハァ……」

 

ステインの主張が正しいならインゲニウムは誰にやられたと言うのかしら?

 

私は思考を凝らしているとステインは立ち去る素振りを見せている。

 

「ハァ……要件を済ませたいのなら早くする事だ切り裂きジャック…………もし、その弟を俺を見つけたら……殺す」

 

「……何で?」

 

「ヒーローが私情で動く事は許されない……その弟は私怨に駆られて俺を探しているのなら……ハァ……そいつも偽物だ」

 

ステインはそう言い放ってその場から立ち去ってしまった。

 

私は残された時間は少ないと考え、このままでは飯田君がステインを見つけてしまえばすぐにでも殺される。

 

「全く……本当に世話の焼ける委員長ね……」

 

お願いだから飯田君……ステインを見つけないでね。

 

~別視点side~

 

ステインとジルが話していた頃、飯田天哉は保須に事務所を置くノーマルヒーロー、マニュアルの元に職場体験に訪れていた。

 

一見すると普通の行いだが飯田の捉える視線は全て路地に集中していた。

 

「(ヒーロー殺し……現代社会の包囲網でも捉えられぬ霧先さんいや、切り裂きジャック(ジャック・ザ・リッパー)と同様の神出鬼没ぶり。無駄な事かもしれない……それでも今は追わずにはいられない。僕は彼奴が許せない)」

 

飯田の心にはステインへの憎しみ、殺意が芽生えていた。

 

本能が兄を傷付けたヒーロー殺しに対し復讐すべきだと訴えているのだ。

 

しかし、同時にヒーローとしての心がそれを許さない。

 

理性は兄の意思を継いでヒーロー殺しを捕縛すべきだと告げているのだ。

 

「(僕は……どうすれば……ジルはこんな思いを抱きながら殺人鬼になったのか……)」

 

飯田は母が殺されたジルの感情がこんな風に分かれた末に殺人鬼に墜ちたのかと理解した。

 

飯田には最初は何故、ジルが殺人鬼に墜ちてしまったのか理解しきれなかった……したくなかった。

 

だが、もう誤魔化せない……飯田の心は今、ジルと同様に復讐の心に耳を傾けようとしているのだから。

 

~side終了~

 

私は一日中、飯田君を探して歩いたけど指名手配されている都合もあって探せる範囲に限界があったせいで全く成果が無かった。

 

「最悪ね……これだけヒーローに彷徨かれてたら……」

 

私は舌打ちして難航する捜索に手を焼いていると後ろから足音が聞こえた。

 

振り替えるとそこには鋭い視線を向ける父さんのサイドキック、ジャッジがそこにいた。

 

手にはトンファー型の警棒が握られているから間違いなく私を捕まえに来たのは確かだった。

 

「切り裂きジャック。やっと見つけたぞ」

 

「……久しぶりねジャッジ。何で私を見つけられたの?」

 

「少ないがお前の目撃情報を元に居場所を洗い出した。そこからは難しいが……お前の中途半端な善、悪のオーラは変わってなかったんでな。視線に入れば簡単だったのさ」

 

「そう言えば貴方はそう言う個性だったわね」

 

『やるねぇ……戦闘に特化しないからこそ、こう言う使い方をするのか。これは厄介な相手になるなぁ、ジル?』

 

ジャッジの個性で審判……単純に善悪を見分ける個性だけどこうして変装してり、隠れる相手を見つけるのに適しているのは厄介ね。

 

いつの間にか雨が降り頻る中、私とジャッジは対峙した。

 

「切り裂きジャック!テメェを殺人罪で拘束する!大人しくしてれば痛い目に合わせたりはしねぇぞ?」

 

「はッ!大人しく捕まるとでも?」

 

「そうだろうな!!」

 

ジャッジはそう言って警棒を振るって来ると私は素早くナイフを手にすると警棒を受け止める。

 

硬質な音が路地に鳴り響く中、ジャッジから距離を置いてから素早く懐に入り込んで顔に向けてナイフを振るうけどジャッジはそれを紙一重で躱してから警棒を持たない手で私を殴って来た。

 

私はそれを腕で防ぐと蹴りを入れて離れさせてからナイフを右肩に投げつければジャッジはそれを避けて私に接近すれば警棒を何度も振い、私も応戦して警棒をナイフで防ぎつつ、ナイフで切り付け、ジャッジも警棒で防ぎながら攻撃する。

 

一進一退の攻防に私はジャッジが予想以上に強い事に驚きと焦りを覚えた。

 

「(強い……!)」

 

『あの警棒の技……ロンドン市警か。何度もやり合ったが訓練を施された市警を何度も相手にしたが……彼奴は別格だな。シャーロットみたいだ。やれるか?』

 

「(大丈夫よ。でも、不安ね……)」

 

私はそうアーサーに言うとジャッジは叫んできた。

 

「切り裂きジャック!!テメェがやっている事は偽善だ!!法に基づかない私刑が何をもたらしているのか分かっているのか!!」

 

「ヒーロー達の士気が下がった事?それともヒーローの信用が失いつつある事?全部、自業自得よ!!ヒーロー達はそれだけ怠慢だったと言うだけでしかない!!」

 

「ちげぇよ馬鹿が!!テメェは確かに悪人を裁いてるだろうがそのせいでテメェの言った通り、ヒーロー達の士気と信頼は下がった!!それだけならマシだ。だが、信用を無くした事でヒーロー達への通報に戸惑う奴が出てきた!!そのせいで被害が死人が出る程に大きかった!!その理由が何だと思う?ヒーローよりもテメェの方が良かったなんてほざいたのさ!!」

 

「ッ!?」

 

私はそれを聞かされて動揺を覚えた時、ジャッジの警棒と私のナイフで噛み合い、互いの顔が近い程に接近した。

 

「テメェのやった結果が人を傷付けた!!そして殺したんだ!!」

 

「……そうね。それが私のした事の結果なら悔いるわ。でも、悪党を一人殺せばこの先の百人は助けられる!!私のやっている事は無駄じゃない!!それに法で裁けないのに貴方達はどうするつもりよ?私よりも野放しにする様な法こそが間違ってるのでしょう!」

 

「これは受け売りだがな……法や制度は人が作った物だ。完璧じゃねぇ。だがな、全てが誤りじゃねぇ筈だ!」

 

「だけど!その誤りの部分が弱者を踏みにじり、苦しめ、権力者や法から逃げる悪を生き長らえさせている!そんな奴等を相手にするなら同じ土俵に登ってでもいえ、その上を行く悪党にならなきゃいけない!」

 

私はそう言い放つとジャッジは力任せに跳ね除けた。

 

でも、私は怯まずに間合いを詰めてジャッジに切り掛かるけどジャッジは動じる事もなく冷静に突き出されるナイフの刃を警棒で的確に弾いていく。

 

「確かにな……俺もかつてはそうだった……だが、俺を胸を張ってヒーローだと言わせてくれたジャスティスに言われた事がある!毒を以って毒を制してはならない!どんなに許せない相手でも、心の底から憎い相手でも、与えられた役目を果たす。それがヒーローとしての在り方だってな」

 

ジャッジのその言葉を言い終わると同時に私はナイフを勢いよく振るうとまた、警棒とナイフが噛み合った。

 

「心意気なんかで犯罪なんか無くせないわよ!建前だけ……虚しい言葉よ。でも、貴方にはそれを言う資格はありそうね」

 

「資格なんて興味はねぇ。だがな……ジル。俺達はお前を信じていたんだぞ?俺が……俺達がもう少し、テメェを疑っていれば此処までの犯行を許さなかった筈だ。テメェが罪を犯した可能性に俺は気付いていたがそれを言えなかった。何故だとおもう?……信じていたからだ!!俺がもう少し疑い深い性格だったなら行動はもっと早く出来た筈だった」

 

「そうね。私は周りの皆を裏切った……それは覆しようがない事実。だけどそれを選らんだのは私!私の選択よ!!選んだ選択への責任を取る覚悟でやってるのよ!!今更、裏切ったなんて不意目を感じてる暇なんて無いのよ!!」

 

「ジル。お前もそうだったろ?悪を許さない、人を助けたい。その思いはお前の周りのいた奴等も強く抱いていただろ?なのに自ら否定してきた物を自ら被りに行った事に……罪悪感すら感じなくなったのかよ!」

 

「そんな物!!」

 

「ジル!!お前にまだ引き返したい気持ちがあるなら戻ってこいって言ってやりたかった!だが、現実は非常だな!テメェはもう戻る事すらねぇ冷酷な殺人鬼だ!!」

 

ジャッジはそう叫ぶと私を蹴り飛ばして地面に転ばすとそのまま上にのし掛かり、押さえ付けた。

 

「切り裂きジャック!!テメェを拘束する!!」

 

「離しなさい!!離せぇッ!!」

 

「離さねぇよ!!テメェに罪を償わせてやる!!観念しな!!」

 

私はこのままでは逮捕される……最悪な考えと共に観念する時が来たと思った時、何処からか爆発音が鳴り響いた。

 

「何だ!?」

 

ジャッジが驚いて拘束の手を緩めた時、私は咄嗟に力強くで押し退けると駆け出した。

 

「待て!!……クソッ!」

 

その声からして追跡よりも爆発で起きた民間人の安否の方が先だと判断したと私は思うと出来る限り早くその場から離れた。

 

一体……何が起きてるのかしら?



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二人の殺人鬼

私はジャッジから逃れつつ騒ぎが起きた場所へと向かって行くと路地の外に見えるその地獄の様な光景だった。

 

二体の脳無が複数のヒーロー達を相手に蹂躙する姿が見え、私はこの事件にはヴィラン連合が絡んでいる事を察した時、此方に向かって走ってくる人影が見えた。

 

「ヒーロー?……ッ!?出久!?」

 

「ッ!?ジル!?」

 

私と出久は鉢合わせると私は出久も敵と認識して臨戦態勢に入るけど出久は全く身構えない。

 

「何してるの出久?ヴィランとヒーローが会ったからには戦うのが筋でしょ?」

 

「まさか君も関わっているのか……?」

 

「……この件は違うわね。ヴィラン連合もやってくれるわ。脳無を放って無差別に攻撃するなんてね」

 

私はそう言うと出久は戦う素振りを見せる所か頭を深く下げてきた。

 

「お願いだジル!君に構ってる暇はないんだ!退いてくれ!!」

 

「へぇ……構っている暇は無い……ね。」

 

『目の前に凶悪なヴィランがいるのに何言ってんだ?免許すら無いとは言え、ヒーローの卵だろこいつ?』

 

私とアーサーは困惑していると出久は理由を言ってきた。

 

「あの真面目な飯田君がこの大事件に前にしていないなんておかしいんだ!飯田君がいないのと保須でのヒーロー殺しの事件!ヴィラン連合とヒーロー殺しが繋がっていてもしかしたら飯田君がヒーロー殺しを見つけてしまったかもしれないんだ!!今、飯田君の所に行かないと危険なんだ!!」

 

「そう……見つけてしまった可能性があるのね……良いわ。通してあげる」

 

私のその言葉に出久は頭を上げた時を狙って顎を指で軽く掴んで引き寄せると私は微笑みながら言う。

 

「私も飯田君の所へ連れていってくれるって約束を守ってくれたらね」

 

「ッ!?何で……?」

 

「一回、言っておかないといけない事があってね……飯田君の事だからお兄さんの復讐でしょ?でもね……ステイン本人はやってないって言ってたわ」

 

「そ、それじゃあ誰が!?」

 

「それが分からないから苦労してるのよ。だからせめて飯田君に下手人が他にいる可能性があるって伝えないと……間違った犯人を殺すかもしれないわよ?」

 

私の言葉に出久は青ざめていく中、決断をしようとしているのかかなり真剣な顔つきになってるけど……

 

「遅い。決断はすぐにしなさい。私が貴方を殺す気でいるヴィランならそんな風に考え込んでいる間に殺すわよ?」

 

私がそれを指摘すると出久はハッと我に帰ると決断出来たのか私に強い意思を宿した瞳を見せてきた。

 

「……分かった。行こう、ジル。飯田君の所へ」

 

『交渉成立。こいつにどんな宛があるのか知らねぇがな』

 

「そうね……さぁ、行きましょう。モタモタしてたら本当に飯田君がこの世からお別れする事になるからね」

 

私はそう冷たく言うと出久は何か言いたそうだけどそれを聞くつもりはないって言う雰囲気を出していたら出久は先にやる事を決めたみたいで真っ直ぐな瞳で私を見てきた。

 

「此方だ!来て!!」

 

私は出久に促される様に追い掛ける形で駆け出したけど……速い。

 

明らかに個性を応用した身体能力……しかも身体の外傷を負う事もなくこなしている。

 

常人の速さで駆けるその姿に私は出久の成長に微笑みながら出久に負けない様な速さで駆けて追い掛けていく。

 

~別視点side~

 

その頃、飯田はヒーロー殺し、ステインと接敵し、戦闘となるがステインとの圧倒的な実力差によって軽く捻られる様にスパイクの付いたブーツで右腕を蹴られると体を踏まれて地面に押し潰され、左腕に刀を突き立てられてしまった。

 

何度も修羅場を潜り抜けたヴィラン(殺人鬼)と経験が足りなさすぎるヒーロー(学生)では勝つ事は不可能だった。

 

「お前は弱い……贋物だからだ」

 

「黙れ悪党……!!」

 

「脊髄損傷で下半身麻痺だそうだ……!もうヒーロー活動は適わないそうだ!!兄さんは多くの人を助け……導いてきた立派なヒーローなんだ!!」

 

飯田の心に写るのは兄であるインゲニウム、飯田天晴の姿だった。

 

「お前が潰して良い理由なんて無いんだ……!」

 

飯田の過去に家族と食卓を囲んでいた時に話していた天晴はヒーローとしての誇りを胸に持った人物だった。

 

「僕のヒーローだ……僕に夢を抱かせてくれた立派なヒーローなんだ!!!」 

 

飯田の心は徐々にドス黒い何かが芽生え様としていた。

 

本能がヒーロー殺しを殺せと高ぶり叫んでいるのだ。

 

「殺してやる!!!」

 

「彼奴を先ず助けろよ」

 

ステインのその一言で飯田は嘘の様に一気に冷静になった。

 

助けろよ。

 

仇から発せられたその言葉は何故か飯田の心によく響く中、ステインは続ける。

 

「自らを顧みず他を救い出せ。己の為に力を振るうな。目先の憎しみに捉われ私欲を満たそうなど……ヒーローから最も遠い行いだ……ハァ……だから決別した友などに心配されるんだ」

 

「(決別した友……?霧先さんが僕を……?)」

 

ステインはそう言いながら血を舐め取ると飯田の身体は動く事が出来なくなった。

 

「じゃあな正しき社会への供物……切り裂きジャックに会ったら死んだと伝えておこう」

 

「黙れ……黙れ!!!」

 

飯田は復讐はおろかヒーローとしても何も出来なかった事、ヴィランとなった筈のジルにすら心配を掛けさせた事を悔やみながらも最後まで叫んだ。

 

「何を言ったってお前は兄を傷付けた犯罪者だ!!!」

 

「そうよ。どんな大義を掲げても、もっともらしい理由をつけたとしても殺人や人を傷付ける行為は悪よ」

 

その言葉が路地に響くと動じに高速で跳んできた何かがステインの顔を殴った。

 

「緑谷……君……霧先……さん……!?」

 

「助けに来たよ!飯田君!!」

 

「全く……世話を焼かさないでくれる?」

 

飯田の窮地に現れたのはヒーロー(友人)殺人鬼(友人)だった。

 

~side終了~

 

私は飯田君を見つけるまでやった事は出久と一緒にノーマルヒーロー、マニュアルの事務所付近の路地を手当たり次第に探す事だった。

 

確かに手掛かりは無いけど手当たり次第に探すのは少し無理があるんじゃないのかと思いながら他に方法が無かったからやったら見つけ出してしまった。

 

「本当に世話が焼けるわね……飯田君?」

 

「霧先さん……?」

 

私が飯田君の所に駆け寄ってしゃがみこむと飯田君は涙を流しながら私を見てきた。

 

「貴方、ヒーローになるんじゃなかったの?復讐なんてらしくない」

 

「分かっている……分かっているんだ……でも、どうしても……この心が……奴が憎くて堪らないんだ……!分かっていても許せないんだ!!兄を傷付けた彼奴がどうしても!!!」

 

「……そうね。その気持ちは分かる……でも、聞いて飯田君。もしかしたらインゲニウムの件はヒーロー殺しが関わっていない可能性があるの」

 

「え……?」

 

「下手をしたら別に犯人がいる可能性がある。確かにおかしな話よね。ヒーローがやられた、獲物は刃物で犯人はヒーロー殺しだ!……なんて結論なんてね。刃物を扱うヴィランなんて私を含めたら探せばいくらでもいるし、動機も沢山ある。あ、私じゃないからね。……何でヒーロー殺しだって断言できるの?」

 

私のその問いに飯田君は少し冷静になったのか涙で濡らした顔が呆然としている。

 

仕方ない事よね……何でヒーロー殺しだと断定してしまったのか?

 

他に恨みがあるヴィランの犯行だと思われなかったのか?

 

他に刃物を扱うヴィランの可能性は考えられなかったのか?

 

そんな考えが今になって出てきても混乱するだけよね。

 

「ヒーロー殺しのステインもやってないって言ってるから確証は無いけど……貴方、下手したら無実の人間を殺そうとしたわよ」

 

私はそう言うと飯田君は顔を青ざめさせながら項垂れてしまった……言い過ぎた。

 

『気にすんな。そいつはそれだけ言ってやるしかない。ヒーローとして間違った道を一直線に突き進もうとしたんだ……責任を負わせろ。それで折れるならヒーローに向いてなかっただけだ』

 

「(……そうね。飯田君には悪いけど今は)」

 

私は飯田君から目線を外して立ち上がるとステインに視線を向けた。

 

出久が油断なく身構える中、ステインは静かに佇むその姿に気圧されそうな威圧感があるけど私は負けじと前に出た。

 

「じ、ジル……?」

 

出久からそんな声が聞こえたけど今はステインに集中させて貰うわ。

 

「ステイン………」

 

「切り裂きジャック……ハァ……何故、邪魔をした?情にほだされたか?」

 

「違う……訳じゃないわね。それに近いとしかね」

 

「そこにいるインゲニウムの弟は私情に身を委ねた挙げ句、無実の人間を殺そうとした……ヒーローとしてあるまじき行為、贋物だ……ハァ……」

 

「殺すつもり?」

 

「そうだ……」

 

ステインはそう言って殺意と鋭い殺気、やり遂げると言う強い意思を含んだ視線を向けるけど私は負けじと静かにステインを睨む。

 

路地が殺意と殺気で溢れた雰囲気の中、私は一歩前に出てそして……

 

「お願い。今回だけは見逃してあげて」

 

頭を下げた。

 

見えなくても分かる……戦闘になっても良い様に身構えてたステインが唖然としているのを、出久達も唖然としているのも。

 

「どういうつもりだ……?」

 

「勝手な事を言ってるのは分かってる。でも、飯田君を見逃してあげて。飯田君は確かにヒーローとして間違った行動して貴方を殺そうとしたわ。でも、それは彼がまだ仮免許も無い学びきっていない未熟な状態だった事もある。全てを学んで免許を持ってるプロならまだしも学生でヒーロー失格までには至らない。だから、此処は私の顔を立てると思って……お願い」

 

私はステインがこんな事で退いてくれる様な思想犯ではないと分かってるけどそれでも彼との戦いは避けないといけない。

 

彼は強い……私でも戦うとなると骨が折れるのに出久と負傷した飯田君、壁に持たれて負傷したヒーローを庇いながら戦うのは無謀。

 

だから、戦闘を避けるしかない……彼がこれで退いてくれただけど。

 

私は神にも縋る思いでステインに頭を下げ続ける中、良い返事は期待しないけどステインの返答を待つ。

 

「ハァ……良いだろう……見逃してやる……頭を下げさせてまで庇われる様な奴だ……殺す価値すらない……ハァ……」

 

「……ありがとう」

 

「だが……条件がある……」

 

私は安堵した所でステインから条件があると聞いて頭を上げるとその視線は出久に向いていた。

 

「こいつのヒーローとしての価値を見極めさせろ……それが条件だ……」

 

「でも……!」

 

「大丈夫だよジル。僕は……やれる。僕とヒーロー殺しが戦うだけで飯田君が助かるなら僕は挑む!」

 

出久はそう言ってステインと対峙するとステインは出久を睨む。

 

その鋭い視線に出久は気圧されそうになっている。

 

「切り裂きジャックが示した様にお前が足る者かどうか見極めさせて貰うぞ……ぶつかり合えば当然……弱い方が沙汰される訳だが……さぁ、戦うか……?」

 

ステインの雰囲気に飲まれて気圧されそうになっている出久だけど気圧されそうになりながらも逃げる素振りもない。

 

あるのは……ヒーローとしての本物の覚悟。

 

「飯田君、霧先さん……言いたい事は色々あるけど……後にする……!オールマイトが言っていたんだ……余計なお世話はヒーローの本質なんだって」

 

出久のその言葉と覚悟にステインだけじゃない私も笑っていた。

 

彼にはある……ヒーローとして立ち、導くだけの器が確かに存在する。

 

これは思想こそ違うけどステインと私が求めるヒーローとしての姿だった。

 

『嬉しそうだな?』

 

「(彼と最初に会った時は情けないけど優しい人だって思ってた。けど、今は違う。まだ半人前だけどそれでも……彼はヒーローとして相応しい人だって確信したのよ)」

 

私は友人である出久の成長を喜んでいると出久はステインとの

間合いを詰めた。

 

長物の得物に対して間合いを詰めるのは良いけどそれだけじゃ駄目。

 

ステインもその辺りは対策しているわ。

 

ステインの装備している刃物の一本が抜かれて居合いの様に切りつけられるけどそれを股を潜って避ければ今度は刀が襲う。

 

でも、それすら跳んで避けるとステインに反撃した。

 

「5%デトロイト……SMASH!!!

 

出久の攻撃がステインの頭に決まった。

 

本当に驚いたわ……出久は個性の反動も受けずに技を使った……今までなら反動で少なくても指一本は駄目にしていたのに……。

 

でも、ステインが技を諸に受けたのは事実……どうする?

 

私は見守っているとステインが左手に持っていた刃物の刃に付いた血を舐めると出久は動きを止めた……いや、動けなくなった。

 

「パワーが足りない……俺の動きを見切ったんじゃない……視界から外れ確実に仕留められるよう画策した……そういう動きだった……口先だけの人間は幾らでもいるが……お前は生かす価値が、ある……」

 

ステインはそう言って私の前に立った。

 

「約束だ……今回は生かしてやろう……だが、次に会えば……どんな事を言おうが殺す……ハァ……そこのヒーローもどのみち終わりだ……」

 

「分かってる。早く行って。私はまだ仕事が残ってる」

 

私がそう言ってステインを立ち去らせようたした時、路地の外から気配を感じて振り返って見れば轟君がそこにいた。

 

「緑谷から位置情報を受け取った来たが……予想外だぞジル」

 

「そうね……私もこれは予想外だわ」

 

「ハァ……邪魔者か?」

 

「貴方は帰って良いわ。話は私がつける。話って言っても聞かなければ痛い目に合って貰う」

 

「ふん……好きにしろ……」

 

ステインはそう言って姿を消すと残された私と動けない出久、負傷して尚且つ動けない飯田君、そして轟君がこの場に残された。

 

「久しぶりね轟君。相変わらず少し無愛想かな?」

 

「無愛想かは知らねぇがお前も加わってやったのか?」

 

「違う轟君。ジルは僕達を助けてくれたんだ」

 

「助けたって程じゃないわ。でも、今回ばかりは見過ごせなかっただけ。飯田君も十分反省してるし私も仕事に行かないと」

 

「その仕事って言うのは殺人に行くって事で良いんだな?」

 

「そうだけど?やるの轟君?」

 

私のその問いに轟君は左手に炎を出すと私に対峙した。

 

体育祭では全く見せなかった個性の一部である炎に私は目を見開いていると轟君は何かを確信した様子を見せた。

 

「やっぱりお前、体育祭を見てたんだな?」

 

「なッ!?」

 

「体育祭を……見ていた……?」

 

出久と飯田君は驚く中、私は轟君が私がのんびり体育祭を見ていた事を推測した事に驚きつつも合っているとばかりに拍手した。

 

「正解よ轟君。そう……私は体育祭を見ていた。楽しかったわよ。観客席から眺める貴方達の活躍を見るのはね」

 

「そうだろうな。お前が俺が炎を見せた時に反応を見せたのは体育祭で殆ど氷しか使ってない事を見ていないとおかしい。ワープ系の個性持ちの共犯者がいるとは聞いているが何処まで飛ばせるのかは不明だ。テレビ越しに見ていたのかと疑ったが限定的な情報になる以上、その可能性は低いし、あの汚職議員を確実に見つけて仕留めるならその場に直接いた方が効率的だったから……そうだろ?」

 

「良い推理力ね。父さんが欲しがりそうね」

 

「それだけじゃない。あの演説の場で殺害すれば誇示する事も出来る。お前の魔の手は例え雄英であろうと伸びると言う意味でだ」

 

轟君の推測は全て当たっている。

 

凄いわね轟君……やっぱり、エンデヴァーは息子いえ、それは違うわね。

 

元から備わっていたヒーローとしての素質、それが磨かれている途中の物。

 

単なる身体能力や個性の力だけではない轟君の才能が完全に磨き終わった時の恐ろしさを思えばとても怖いわね。

 

「そんな……そんな事の為に体育祭で殺人を行ったのか!!」

 

「そうよ飯田君。この世に蔓延る法から逃れる悪は……全員殺す。何処へ逃れようと私は追い詰める。その為の宣伝に使わせて貰ったわ。青春を汚してごめんね」

 

「ジィィィィルゥゥゥゥ!!!」

 

私が軽く謝った事で飯田君の怒りは頂点に達したのか飯田君は恨めしそうに叫ぶけど……何かね……

 

「嫌いよ。その眼。お兄さんはそんな眼はしなかったわよ。そんな眼でインゲニウムを継ぐつもりなら……ヒーローなんて止めろ」

 

「ッ!?」

 

「悲しむ事は結構、憎む事も結構。だけど割り切りなさい。貴方はヒーローを目指してるの。復讐を目的にしたヴィランじゃない。私の様になりたいなら勝手にしろ。でも、なるなら雄英と家族、友人の全てと決別しろ。それが光から闇に行く覚悟よ」

 

私の言葉に飯田君は今度こそ喋らなくなった。

 

私は溜め息をつくといつの間にか出久が起き上がってた。

 

「ジル……!」

 

「さて……此処まで来るまで戦わなかったけど……どうする?」

 

「やるに決まってるだろ?此処にもうすぐプロが来る。それまでお前を足止めさせて貰う」

 

「……ジル……君の言いたい事は分かったよ……僕も覚悟を決めた。君を此処で止める。ジル!」

 

体育祭ではこの二人は激戦を繰り広げてたって後から聞いたけど……成る程ね……これは強いわ。

 

『こんな所で体育祭の最終種目を再現する事になるなんてなジル?』

 

「(あっちは二人がかりだけどね)」

 

私はそう言うと左手にナイフを生み出すと静かに構えた。

 

鈍く光るその刃は二人を威圧するには十分な物で私は二人に微笑みを浮かべた。

 

「私のルールとして貴方達を殺しはしないわ。だから安心して戦ってね」

 

「ルール?」

 

切り裂きジャック(ジャック・ザ・リッパー)の殺人でのルールだ。法から逃れる悪人のみ殺し、善人には決して手を出さない。何処まで信憑性があるかは知らねぇがな」

 

「合ってるわよ。だから二人は殺さない。勿論、飯田君もそこにいるヒーローも。切り裂きジャック(ジャック・ザ・リッパー)として誓うわ。善人である貴方達は決して殺さない」

 

私は演技をする様にそう言ってのけると二人は油断なく身構えてきた。

 

やっぱり、この二人はヒーローとしての素質がある。

 

ステインもニッコリの才能に私は……二人の力を試したくて仕方ない。

 

「手加減して勝てる相手だと思うなよ!!!」  

 

「行くよ!ジル!!!」

 

「来なさい二人とも!!私を止めて見せなさい!!!」

 

こうして私と二人の戦いが始まった。

 

 



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全ては

私は二人に対峙する中、最初に動いたのは轟君だった。

 

右手の氷で地面を殺させて来るのを確認すると私は地面を強く蹴って跳ぶと壁を蹴る様に跳び跳ねるとそのまま轟君の左肩に目掛けてナイフを突き立てようとすると出久がカバーに入り、空中にいる私に向かって拳を振るい、私はそれを防ぐと凍った地面を転がると今度は轟君が炎を操って私を牽制して離れさせた。

 

「ジル!君は犯罪を……悪を誰よりも許さない人なんだって思ってた!誰よりも優しくて良い人だって!オールマイトだって君の事は善人だって言っていたのに!!」

 

「善人……?それは間違いよ。良い!善人はね……悪人に負けるのよ。騙されて、搾取され、惨めに死ぬの。善人ばかりが死んで悪人は自らの手を汚さずに闇に潜む!知ってるでしょ?欲強議員の汚職を。……あんな奴等を潰すには善人じゃいられない!だから……私は悪人にだってなってやるわよ!!」

 

私は出久にそう叫ぶとナイフを投擲し、出久はそれを紙一重で避けるけど私は一瞬の隙を見逃さずに駆け出し、出久の腹に蹴りを入れ、次にナイフをまた生み出して轟君に横薙ぎ振るうと轟君はそれを頬を掠めながらも避けて炎で牽制しつつ氷で捕縛しようとしてくる。

 

私は炎と氷を上手く躱しながら轟君の隙を見つけながら切りつけたり、投擲して攻撃していく。

 

「お前とはあまり関わってないがはっきり言えば殺人鬼になるなんて思いもしなかった」

 

「そうよね。普通、思いもしない。でも、現実は常に非情。見ての通り私は殺人鬼、切り裂きジャック(ジャック・ザ・リッパー)になったわ」

 

「テメェは切り裂きジャック(ジャック・ザ・リッパー)なんかじゃねぇ。過去の殺人鬼を騙る贋物だ」

 

「別に本物、贋物とか気にしないわ。結果は行動で示す。私が切り裂きジャック(ジャック・ザ・リッパー)と名乗った以上はやった事の責任から逃げるつもりもない。それが歴代からの切り裂きジャック(ジャック・ザ・リッパー)のやり方よ」

 

私は轟君にそう言うと轟君を掴むと向かって来ようとしていた出久に向けて投げてぶつけると二人して地面に倒れた。

 

「情けないわよ二人とも。女一人に男二人揃って手こずってどうするの?」

 

「クソッ……!」

 

「くッ……!」

 

「はぁ……もう良いわ。弱い貴方達にいつまでも構ってる暇はないのよ」

 

「うおぉぉぉぉぉぉぉッ!!!」

 

私は立ち去って仕事に行こうとした時、飯田君が私に向かって走ってきた。

 

その眼は憎しみに満ちていないヒーローとして決意を固めた眼だ。

 

「レシプロバースト!!」

 

「ッ!?」

 

私は咄嗟に腕で防ぐけど強い衝撃と共にナイフが飛ばされてしまい、武器を失った状態でまた飯田君が蹴りを入れてくるのを私は避けて後ろに大きく後退した。

 

「飯田君!!!」

 

「解けたか。意外と大した事がねぇ個性だな」

 

「二人ともすまない……僕がどうかしていた」

 

ステインの個性で動きを封じられていた飯田君が解けた事で事実上の一対三となった。

 

「あら、飯田君。意気消沈してた癖に闘うの?私に対して報復するの?」

 

「違う……あの時、どうかしていた。僕は自分の憎しみに負けて殺意を抱いてしまった。ヒーロー失格だ……だが、此処で立ち上がらなければ二度と彼らに、兄さんに追い付けなくなってしまう!僕は折れる訳にはいかない……僕が……俺が折れればインゲニウムは死んでまう」

 

「……良い眼ね。好きよ。その眼をして欲しかった。飯田君。忘れないでね。貴方はヒーローなんだから」

 

私はそう笑顔で言うと三人は身構え、私は折れたナイフの代わりとして個性でナイフをもう一度、生み出して構え直して戦闘を再開した。

 

成長して怪我をしない出久、氷と炎の強個性の轟君、エンジンによる高速のインゲニウム。

 

三人は強く、私は押される中、ナイフを振るい、投げ、蹴り、殴り、掴んで投げると攻撃を避けつつ反撃してもこの三人は攻めの手を緩めない為に隙を見せてしまった私は出久の攻撃を防ぐけど自分に有利な地形だった路地から大通りに飛ばされてしまった。

 

「むッ!あれは切り裂きジャックか!?」

 

その声に私が振り向いた時、目の前に私を飛び蹴りしようとしている老人のヒーローがいた。

 

私は咄嗟に飛び退いて避けると老人のヒーローと対峙した。

 

「やるじゃないか。若い癖に良い反射神経だ。ヴィランにするには勿体ないな」

 

「それはどうも、お爺さん。誰なの?」

 

「グラントリノだ。覚えておけ小娘」

 

老人のヒーロー、グラントリノ。

 

聞いたことがない……でも、あの飛び蹴りではっきり分かる。

 

実力はあるけど無名のヒーローと言う事がね。

 

「ジル!て、グラントリノ!?」

 

「んなっ……何故、お前が此処に!?座ってろっつったろ!!!」

 

「ごめなさい……」

 

怒られてるみたいだからどうやら知り合い……と言うより出久の職場見学先みたいね。

 

出久の成長を助けれる様なヒーローが無名……世の中も分からない事が多いわね。

 

「逃がさないぞ霧先さん!!」

 

今度は轟君と飯田君まで出てくると次は脳無に対応していたヒーロー達まで駆けつけ私を見ると身構えて戦闘態勢に入った。

 

「まさかヒーロー殺しだけではなく切り裂きジャックまでいるとは!?」

 

「保須は呪われてんのかよ!!」

 

「ちッ……鬱陶しいわね」

 

私はヒーロー達を睨むと割りと簡単に気圧されて後退りするヒーローがチラホラといて私は情けないヒーローに苛立ちを覚えた。

 

「聞いて呆れるわね。ヒーローが数人いて殺人鬼一人に怯えるなんて……情けない。本当に情けない」

 

私の言葉にヒーロー達は目を逸らして誤魔化そうとするけど遠慮なく言ってやるわ。

 

「貴方達はヒーローなのよね?どう?殺人鬼一人が好き勝手に活動して挙げ句の果てにはヒーロー扱いされてる姿は?」

 

「……お前なんかヒーローじゃない」

 

「はっきり視線を合わせてから言いなさいよ。弱虫ヒーロー」

 

私はせめてもの反論程度にとほざいてきたヒーローにそう言うとそのヒーローは黙りを決め込んだ。

 

「はぁ……ステインが活動したくなる理由が分かるわ。情けなさ過ぎる。こんなのが大勢いるなんてね」

 

「そろそろ止めてやりなジャック」

 

私がヒーロー達を酷評する中、グラントリノが話し掛けてきた。

 

「確かにあの姿は情けないが……お前は自分の威圧を知らないで出しているのか?寒気がする様な殺意が嫌でも分かるぞ」

 

グラントリノに言われて私は首を傾げていると何処からか羽ばたく音が聞こえた時、グラントリノが叫んだ。

 

「伏せろ!!」

 

その叫びと共に羽で飛んできた脳無が急降下してくるとそのまま出久を鷲掴みして飛び立とうとしていた。

 

「なに、どさくさ紛れて人拐いしてんのよ!!」

 

私はそう叫びながら咄嗟にナイフを投擲して脳無の翼に当てたけど飛ぶバランスを奪った位でまだ飛び続けてる。

 

このままだと本当に出久が連れ去られてしまうと思った時、脳無が急に力を抜いて出久を放した後、その出久を掴んで怪我をしない様に落ちていく脳無を仕留めるステインがそこにいた。

 

「ステイン……」

 

私はてっきり何処かへ姿を消したのかと思っていたけどまだ近くにいるとは思わなかった。

 

「贋物が蔓延るこの社会も徒に力を振りまく犯罪者も粛清対象だ……ハァ……ハァ……全ては正しき社会の為に」

 

ステインはそう言って手にしていた刃物を脳無から引き抜くと私に視線を向けた。

 

「だから……行け、切り裂きジャック……お前の信念ある殺意と刃で……ハァ……この社会を切り裂いていけ」

 

「貴方はどうするのつもりなの?」

 

「此処に多くいる贋物を仕留める……」

 

ステインはそう言って刀とナイフを手にヒーロー達に飛び掛かり、交戦状態に陥った。

 

私はそれを遠巻きに見ていたけど私はステインの言葉を思い返す。

 

"信念ある殺意と刃で社会を切り裂いていけ"

 

思想こそ違うけどステインは私に託すように掛けた言葉を胸に私は逃げる為に駆け出した。

 

"全ては犯罪の無い誰もが幸せな世界の為に"

 

その為に私はまだ捕まってあげる訳にはいかない。

 

「ジル!!!」

 

私の事を叫ぶ出久を他所に私は駆けて近くの路地に入った所で黒い靄が私を包み込むと次に見た光景は何処かのバーだった。

 

「此処は……?」

 

『ジル。気を付けろ。さっきの靄はUSJで見た彼奴のだ』

 

「……ヴィラン連合」

 

「その通りです。切り裂きジャック」

 

私は振り返り様にナイフを手に振り向くとそこにはヴィラン連合のワープの個性を持つあのヴィランとヴィラン連合を率いてた死柄木弔がそこにいた。

 

「我々は敵対するつもりはありません。出来ればお時間を頂けますか?」

 

靄のヴィランはそう私に言ったのだった。



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交渉

敵対するつもりはないと言う言葉に私は信じていないけどUSJで彼らの見せた実力を知っている私は今は不利だと考えて彼らの言いなりになってみる事にした。

 

手お化けでヴィラン連合のリーダー?の死柄木弔と参謀と移動手段的な立ち位置の黒霧。

 

この二人との対話ははっきり言って胸糞が悪くて嫌だけど……黒霧の個性で逃げようにもすぐに戻されるのは目に見えてるし、戦おうにも実力者二人の相手は難しいうえに強力な個性持ち、下手に戦闘に持ち込むよりも隙を伺いつつ話を聞いた方が懸命だった。

 

「それで?つまらない話なら切り刻むわよ?」

 

「では、単刀直入に言わせて頂きます。我々、ヴィラン連合と貴方とで不可侵の約定を結びたいのです」

 

「不可侵の約定?それはどういうつもりで?」

 

「お前が融通の利かない殺人鬼だからヴィラン連合に入れるのが無理があるからだとよ。無理矢理入れて反逆されるより互いに手を出さない方が良いんだと」

 

「へぇ……考えてるじゃないヴィラン連合。確かに私は悪だけどその悪を殺す殺人鬼だもの。懐に入れて後からナイフで胸に突き立てられるよりマシな選択ね」

 

私はそう言ってやる死柄木弔は舌打ちしてそっぽを向いた。

 

「それに貴方は我々の身内であるブローカーの教え子の上客。無理をして潰す行為はいささか反感を持たれてしまう。そのブローカーは大層、自分の娘の様に可愛がっている様でしてね」

 

「身内のブローカーの教え子?……いえ、分かった。何となくだけど」

 

私と繋がっている裏に通ずる様な情報と流れのサポートアイテムの調達をする様な人物は綾乃一人しかいない。

 

長年、復讐する機会を伺う様な女……裏社会に生きるブローカーと繋がってて尚且つ役立つなら下に着いて何でも学んでいてもおかしくない。

 

それにしても卑猥な事じゃないとはいえ、娘の様に可愛がられるって何したらそんな関係になるのかしら?

 

「それでYESかNOかはっきりしろ。俺はステインの件でイライラしてんだよ」

 

「そう言えば脳無を放ったのは貴方達だったわね。残念な結果だったみたいだけどね」

 

「テメェ……俺は不機嫌だって言ったよなぁ?」

 

「やるつもり?」

 

死柄木弔が仕掛けてくるなら私も容赦はしないつもりで睨んでいると黒霧にある言葉で制止された。

 

「グリーン・メイスン」

 

「ッ!?」

 

「は?何だそれ?」

 

「過去に存在したとされるイギリスのロンドンで強大な勢力を保持していた秘密結社……ですが、半ば都市伝説になっている存在です」

 

「都市伝説の秘密結社なんかに興味はねぇよ」

 

「ジャックは違う様ですがね」

 

黒霧の言葉に私は黒霧を睨む中、何故、グリーン・メイスンの事を持ち出したのか私は思考を凝らす中、黒霧は続けた。

 

「グリーン・メイスンは間違いなく日本に存在し、そして尚も活動しています。その実態は不明ですが……貴方の母親の仇が属し、そしてヒーロー殺しにインゲニウム襲撃の冤罪を被せたのも同一人物。つまり、グリーン・メイスンの実行役の一人が貴方の母親殺害とインゲニウム襲撃に関わっている事は掴みました。……その実行役の名前も」

 

「……成る程ね。情報が欲しければ要求に答えろと?」

 

「我々は貴方と争うつもりはありません。寧ろ暴れて頂いた方が我々に都合が良いです。無論、要求を蹴ってお帰り頂いても構いませんが……その代わりに二度とグリーン・メイスンの情報は手に入りません。オマケを付けるとすれば定期的にグリーン・メイスンの情報を提供しましょう。如何ですか?」

 

あまりに破格な条件で尚且つ母の仇がグリーン・メイスンの実行役でインゲニウムの一件にも関わっている事が知れた。

 

グリーン・メイスンと仇についての情報は喉から手が出る程に欲しい……でも、こう言った良い話には裏が必ずある。

 

「随分と破格ね。それだと不可侵の約定以外にもやらせたい事がありそうな気がするわね」

 

「ふむ……勘が良いですね。心配しなくても問題ありませんよ。少し、宣伝の為に貴方の名前と顔を御借りしたい」

 

「宣伝……ね。ステインを利用して仲間集めでもするつもり?」

 

「貴方はどうやら相当に勘がよろしい様ですね。ステインと我々が繋がっている事に気づいていたのですね?」

 

「実際は確証は無かった。でも、貴方達に連れ去られてから確信を持てたのよ。だって、何で少し逃げた所で私の位置を把握して連れてこられたのか……答えなんて分かるでしょ?貴方達は保須にいて尚且つ実際に高みの見物をしていたのよ。だから私が逃げた路地でピンポイントにワープさせられたのよ。そうでしょ?」

 

「その通りです。我々としても適当にかき集めた兵隊では今後、支障をきたす恐れがあります。ならば……少数精鋭で優秀な人材を集める。その為にステインを利用しました。貴方もステインと関わってしかも、そのステインに逃がされたとなれば貴方の事も自然とステインの話と共に広がる。そう……例え我々が手出ししなくてもです」

 

黒霧はそう言ってくると私はこいつらの思考通りになったと思うと虫酸が走る中、大人しくしていた死柄木弔が叫び出した。

 

「早くしろよ!長話しやがって!さっさと決めてさっさと帰れ!」

 

「せっかちね……まぁ、良いわ。そんな話、御断りよ。帰らせて貰うわ」

 

「グリーン・メイスンの情報が欲しくないのですか?貴方一人で秘密結社、況してや都市伝説扱いにもされる程に存在を薄める組織相手に追い続けると?」

 

「一人じゃないわよ。私には頼もしい相棒がいるもの」

 

私はそう言ってアーサーの方を見るとアーサーは少し驚いた後、微笑みを見せた。

 

「お前……頭大丈夫か?何処見て言ってんだよ。そこには誰もいないぞ?」

 

「彼女には見えるのです。過去の大罪人、アーサー・ヒューイットが。私も少し手合わせしましたが……はっきり言えば戦い続ければ負けていたのは私でしょう。もっとも彼女自身が自分の持つ殺人衝動を誤魔化す為の幻覚かもしれませんがね」

 

「過去だが幻覚か知らねぇが常に近くに人がいるのかよ。鬱陶しい」

 

「ふふ、そうね」

 

『おい、そりゃねぇだろう?』

 

私は笑い、アーサーはあんまりだとばかりに私を見て、死柄木弔は痛い奴を見てくる目をしてくるけどあんただけには思われたくない。

 

黒霧は何を考えてるのか分からない……さて、断ったけど本当に帰すつもりはあるのかしら?

 

「致し方ありませんね。"先生"も貴方をこの場で殺す事を望みません。寧ろ生かしておいた方が面白い事になると仰っています。お帰りは私のワープをお使いください。お望みの場所へとお連れします」

 

「……面白い事ね。その"先生"に伝えておいて。私を生かした事を……後悔させてやるってね。あと、保須から出た位の場所にお願い」

 

「えぇ……御伝えさせて頂きます。では、またお会いしましょう」

 

「二度と来るな」

 

死柄木弔の悪態を最後に黒霧はワープを開くと私を包み込んで望みの場所へと出した。

 

周囲に警察もヒーローも無し、あの騒ぎで街の外側までは手が回らないみたいね。

 

「……さて。行きましょう」

 

『やれやれ。今日は無駄に疲れたぜ。ステインの奴はどうしたんだろうな?』

 

「あれだけヒーローがいたのよ。無事じゃないかもしれないけど流石に捕まる事は……」

 

《臨時ニュースを御伝えします。今日、保須で起きた襲撃事件の際にヒーロー殺し、ステインがエンデヴァーを始めとしたヒーロー達との戦闘の末に捕縛され、逮捕されました。ステインはこれまでにも多くのヒーローを手に掛けているとされ、現在も調査中との事》

 

私は近くで流れていたラジオを聞いてステインが捕縛され、逮捕された事を知った。

 

自身の理想を貫き、最後に捕まった連続殺人鬼。

 

私もいつかそんな末路を辿るのだろうかと思いながらその場から立ち去った。

 

~別視点side~

 

その頃、保須の路地の深く、光すらままらない様な場所で連絡を取る者がいた。

 

「申し訳ありません。ジャックの始末に失敗しました。はい……いえ、その様な事はありません。現に彼女の母であるオリヴィアを殺し、ターボヒーロー、インゲニウムを使った作戦も遂行しました。只、あと一歩の所でヴィラン連合があそこで脳無を投入するとは……はい……分かりました。それで約束が果たされるのなら……では、また後日」

 

その者は連絡を終えると一息つくと鋭い眼光を露にした。

 

「必ずやり遂げてみせる。絶対に……どんな手段を使ってでも彼女を救いだしてみせる。どれだけ人を傷付け、殺してでも絶対に」

 

その者はそう呟くとその場から気配を消すように姿を消した。 

 

一方、ヴィラン連合のアジトであるバはーでは。

 

《はっはは!やはり面白い子だったね。黒霧、弔?》

 

「何処がだよ先生。無駄に生意気なだけだ。しかも俺達に明確な敵対の意思を見せてやがる」

 

「本当によろしいのですか?ジャックを……霧先ジルを生かす事を?」

 

《それで良い。彼女にはヒーローのごとき善意があり、自身すら悪と弾劾し、ヴィランを殺す殺意の持ち主。彼女の様な悪はそう滅多にいない。必ずこの社会を切り刻んでくれるよ。ヒーロー殺し以上にね》

 

「社会を切り刻むですか……」

 

「彼女は革命を起こせる。社会の全てを壊し、正す。ヒーローの信用を奪い、ヴィランであるジャックが支持を集める。切り裂きジャック(ジャック・ザ・リッパー)のやる事はこの社会に分裂を招く程までに影響をもたらしているのだよ。これ程までにオールマイトへの嫌がらせに最適な存在は他にいない」

 

"先生"と呼ばれるその存在はそう言って再び不気味に笑うのだった。

 

~side終了~




番外編を書き始めました。良ければどうぞ


https://syosetu.org/novel/300417/


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【第三章】堕ちていく光【END】

~別視点side~  

 

保須襲撃事件から2日後、世間ではヒーロー殺しと切り裂きジャック(ジャック・ザ・リッパー)の話題で持ちきりとなった。

 

ヒーロー殺しと切り裂きジャック(ジャック・ザ・リッパー)の二人は接触していたが互いに争わず寧ろヒーロー殺しが切り裂きジャック(ジャック・ザ・リッパー)を逃がす姿や言動が収められた動画が出回ったのだ。

 

ヒーロー殺しの過去やヒーローを襲う事になった経緯と切り裂きジャック(ジャック・ザ・リッパー)が若くしてヴィランを付け狙う連続殺人のヴィランと成り果てた事の真相の追及と言った内容が長く語られており、更に二人の関係への考察まで話されていた。

 

曰く、二人は師弟関係だから。

 

曰く、互いに似た様な境遇故に仲間意識を持ったから。

 

曰く、特に争う理由は無かった。

 

曰く、切り裂きジャック(ジャック・ザ・リッパー)はヒーロー殺しとはほぼ関係ないがヒーロー殺しは意思を継ぐ後継者として指名したかった。

 

色々な憶測やデマが飛び交う動画とコメント欄は遂に動画から離れて掲示板サイトで多くの人々がコメントや推測をしていく。

 

《ヒーロー殺しと切り裂きジャック(ジャック・ザ・リッパー)は師弟関係って本当かな?》

 

《違うだろ。戦い方は似てるけど思想が全然違う。ヒーロー殺しは英雄回帰って思想の元でヒーローを襲ってて切り裂きジャック(ジャック・ザ・リッパー)は法から逃れる悪を裁く事を目的にしてるし》

 

《雄英体育祭の時、凄かったよね。汚職議員をオールマイトもいたのに多数のプロ相手に大立ち回りして最後に殺したよね》

 

《その日からヒーローの信用失墜して切り裂きジャック(ジャック・ザ・リッパー)の株が上がったわ。ヒーローおつかれさんw》

 

《殺人鬼は殺人鬼だろ?ヴィランが褒め称えられて良い筈がない》

 

《確かに殺人は良くないけどさ。本来、ヒーローが捕まえるべきなのに全く仕事してねぇじゃん。あの議員を守ろうとしてたのオールマイトとエンデヴァーとジャスティスって言う切り裂きジャック(ジャック・ザ・リッパー)のお父さんと教員のプロヒーローだけだったし。観客席にいたプロ全く動いてなかったの見たろ?》

 

とコメントが波の様に書かれる中、都市部では多くの人々が集まっていた。

 

「切り裂きジャックを捕まえろ!!!」

 

「「「切り裂きジャックを捕まえろ!!!」」」

 

「ヴィランの勝手を許すな!!!」

 

「「「ヴィランの勝手を許すな!!!」」」

 

そう言った具合で切り裂きジャック(ジャック・ザ・リッパー)の逮捕を望み、"反・切り裂きジャック"のデモを行う者達がいる一方で。

 

「私刑ではなく正当な裁きだ!!!」

 

「「「私刑ではなく正当な裁きだ!!!」」」

 

「切り裂きジャックは我々のヒーローだ!!!」

 

「「「切り裂きジャックは我々のヒーローだ!!!」」」

 

犯行を容認する"親・切り裂きジャック"のデモが行われると言う事態が起こり、両者が出会えばそのまま言い合いや喧嘩になると言うもはや暴動と言っても過言ではない事態となり、切り裂きジャック(ジャック・ザ・リッパー)を巡って親、反で分かれて派閥が作られてしまう始末だった。

 

社会は今、二分する情勢となり、混乱を極める中、闇に潜む者達にも反応があった。

 

「ステ様!ジャク様!どっちも血に濡れて素敵ですねぇ!」

 

大量の血が流れている死体の近くで口元を血で濡らした少女。

 

「後継者か……切り裂きジャックが果たして継ぐ気があるのやら」

 

継ぎ接ぎされた皮が目立つ読めない男。  

 

「後継者がいようが関係ねぇ!俺は彼の夢を継ぐ!!」

 

ステインに憧れを抱く異形系のリザードマンの様な男。

 

ステインの思想に、切り裂きジャックの影響力に反応していく闇に紛れる悪意達はヴィラン連合へと目指す。

 

自分達の各々の思惑の為に。

 

「世間はステインとジャックの話題で持ちきりだな。綾乃」

 

「そうですね。流石はジャック様です」

 

「そう言えばお前はジャック側の人間になったんだったな?一様言っておくが商売元をヴィラン連合に移す気はないか?」

 

「なに言ってるのですか義爛さん。いくら儲けが良くても私は彼女を裏切りませんよ」

 

「そうかい。ヴィラン連合と繋がりを持てばお前ももっと名を挙げられる筈なんだがな」

 

「私は元々は復讐の為に貴方から全てを教わりました。金儲けの為じゃありません。良くしてくれているのは知っていますがジャック様には返しきれない恩を貰いましたから」

 

「成る程ね。俺はヴィラン連合。お前は切り裂きジャック(ジャック・ザ・リッパー)。互いに商売相手は違うがよろしくやり続けたいものだな」

 

「そうですね」

 

義爛はそう言って微笑むと綾乃も微笑んで師弟である二人は互いに違う道を進む事を選んだ。

 

「ニュースでも新聞でも動画でも殺人鬼が話題になってるなんて……この社会はどうなってしまうんだ……?」

 

「少し前まではヒーローの活躍の話題で持ちきりだった。だが、今はヒーローの失態や不正が中心になり、ジャックのヴィラン殺しが目立つばかりだな……不安はあるがその代わりに」

 

「切り裂きジャックが現れてからは治安が良くなってるしな……もし、切り裂きジャックが捕まったらまた、鳴りを潜めていたヴィランが暴れる様になるのか……?」

 

二人の殺人鬼の話題でこの社会がどうなるのかと人々は色々な場所で議論し。話し合う者達はこれから先の社会に不安を抱え込む中、ヒーロー達は。

 

「切り裂きジャックが正しいのだろうか……」

 

「おい!滅多な事は言うな!」

 

「だが、切り裂きジャックは確かに法から逃れる悪のみを殺す殺人鬼だ!考えてみろ!俺達が必至になって捕またヴィランが突然、釈放されて行方を眩ませた事件の事を!あれ以来、捜査はそのまま中止だ……遺族も悔しいし、俺はヒーローとしてもヴィランに罪を償わせる事が出来なくて悔しいんだよ。こんな事ってあるかよ……」

 

「だからといって私刑を容認するヒーローが何処にいる!!我々の役目はヴィランを捕まえる事だ。例え相手が正しくても法に反するなら心を鬼にしてでもだ」

 

ヒーロー達もまた、分裂しようとしていた。

 

最近になってヴィランの活発化だけでなく、不可解な捜査中止や事件終了やヴィランの釈放などが多発しており、ヒーロー達は挙って抗議した。

 

無論、その中にはトップヒーロー達の姿もあったがそれでも尚、認められる事がなく警察での不可解な事態が収まる事はなかった。

 

それによって切り裂きジャック(ジャック・ザ・リッパー)の私刑に賛同するヒーロー達が現れ始め、中には切り裂きジャック(ジャック・ザ・リッパー)の活動に黙認する様な行動を取り始めるヒーローもいた。

 

悪を許さない強い正義感を持つが故に法に準ずる者と殺人鬼に加担する者と分かれてしまった。

 

そして最近になっておかしくなり始めた警察は。

 

「こ、怖かった……」

 

「笑顔のイメージがあるミルコが鬼の形相で来た時には死んだと思ったよな……何とか帰って貰ったけど」

 

「確かに怒るよな。通り魔殺人の現行犯で捕まえた筈のヴィランが連行してきて僅か10分足らずで釈放……はっきり言って狂ってる」

 

「最近になって一気に上層部が変わっちまってからな……何かに見えない圧力を掛けられてる気もするしな」

 

「とは言え証拠も無く糾弾してもな……今度、詳しく調べて見るか」

 

まともな警官達は今の警察機構の異常事態について話し、調べる事にした警官はその後、行方不明となったそうだ。

 

ありとあらゆる場所で影響を及ぼした保須襲撃事件は深刻な社会問題となり、国は対応に追われる事となった。

 

切り裂かれる様に善の正義悪の正義に分かれていく。

 

その過程で暗躍する闇もまた、姿を少しずつ現そうとしながら。

________

_____

__

 

保須襲撃事件から少し明けてからオールマイトを除いたトップヒーロー達は集まっていた。

 

トップヒーロー達は現在、起きている親・切り裂きジャック(ジャック・ザ・リッパー)派と反・切り裂きジャック(ジャック・ザ・リッパー)派に分かれて争い始めた社会問題に対し険しい顔で現状をどう打開するかを考え、頭を悩ませる。

 

「一人の殺人鬼の為に派閥争いか……全くもって理解が出来んな」

 

ファイバーヒーローのベストジーニストは溜め息を吐く。

 

「可愛そうに……不安が広がりつつある。このままではヒーローはおろか社会にも多大な影響を及ぼしかねない」

 

シールドヒーローのクラストは不安の広がる社会に涙しながら影響の危険性を言う。

 

「まぁ、確かに今回ばかりは対応が遅すぎたとしか言えないな……そろそろ止めないと面倒な事になるね」

 

ウィングヒーローのホークスは頭をかきながら切り裂きジャック(ジャック・ザ・リッパー)をそろそろ止めるべきと言った。

 

「切り裂きジャックの事は良いんだがよ……最近の警察の連中……頭おかしいんじゃねぇのか?通り魔殺人のヴィランを逃がしやがった。クソが」

 

ラビットヒーローのミルコは不機嫌そうにしながらもう一つの問題である警察機構がまともに機能しない事態を言う。

 

切り裂きジャック(ジャック・ザ・リッパー)を捨て置けばより大きな悪影響を及ぼしかねず、警察機構の対象を捨て置けば捕縛は出来ても逮捕権を持たないヒーローは例えヴィランを捕まえても警察がまともな対応をしない可能性が出てくる。

 

最悪な二択、両方取ろうにも社会全体が不安に陥り、疑心暗鬼になりつつある中で上手く動けるとは思えなかった。

 

そんな現状にエンデヴァーは何も案が出ないとばかりに無言を貫き、トップヒーロー達は八方塞がりなまま話は平行線を辿る羽目になった。

_______

____

__

 

その頃、ジャスティスは保須から戻ったジャッジから報告を受けていた。

 

「そして保須の路地で彷徨いていたジャックと遭遇し、戦闘になりましたが脳無の襲撃があり、逃げたジャックより民間人の安全を優先した事でジャックを取り逃がした。すまない……あと少しだったが……」

 

「いや、良い。だが、まさか匿名の告発が当たるとはな。驚いたぜ」

 

「えぇ……だが、都合が良すぎる。その匿名の告発者は何処でジャックの居場所を知ったのか。何故、告発に至ったのか。それが分かりません」

 

「……はっきり言うが今回は俺達は利用されちまったな。ジャックを邪魔だと考えた誰かが俺達をけしかけてジャック捕縛に動かさせたんだろうよ」

 

「俺もそう思います。そうじゃなきゃ辻褄が合わない。話題のヴィラン連合かもっと別の組織か……調べる価値はある」

 

「だが今は不安な情勢をどうにか建て直してからだ。こんなんじゃまともな捜査はできねぇ。ジャックの事も次いでに含めて今は治安維持を勤めようぜ」

 

ジャスティスが頬笑みながらそう言うと事務所にレディ・クイックが入ってきた。

 

「戻りました」

 

「お帰り。何か……成果はあったか?」  

 

「いつも通り。平穏な1日で」

 

レディ・クイックが話している時、石が窓を突き破って飛んで来た。

 

その事態に三人は驚かず寧ろ二人はジャスティスを心配する様に見ている。

 

「気にするな。また張り直せば良いさ」

 

「……ジャスティス。暫くは静かな所で休みを取った方が良い。体に障る」

 

「精神もね。とんだ嫌がらせね。建造物破損だし捕まえてくるわ」

 

「よせよせ。一人、二人捕まえたってまた来るさ。それよりもちゃっちゃと切り裂きジャック事件を解決して安心させてやろうぜ」

 

そう笑いながら言うジャスティスに二人は心配する素振りを見せるがそれ以上は何も言わなかった。

 

只、これ以上に悪化するならジャスティスが何れだけ言おうと嫌がらせをしてくる連中を捕まえてやると二人は怒りを露にしながら考えるのだった。



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【第四章】復讐の刃【殺人鬼ルート】
凶行の夜


保須から帰って来た私はヴィラン連合の手など借りる必要は無いと言う事を証明する為に私は本格的にグリーン・メイスンの調査を始めた。

 

だけど、やっぱり簡単ではなく寧ろ、唯一の手掛かりは換字式の書類のみでしかも解けたのは極一部に過ぎない。

 

夜も更けてしまい、私は深い溜め息を吐いてやっぱり嘘でもヴィラン連合の条件に乗るべきだったかと思ってしまう。

 

『よしとけよ。ヴィラン連合が単に不可侵の約定を結ぶだけで終わらせる訳がない。あれやこれやとしている内にいつの間にかお仲間認定されて引き返せない事になっちまってるぞ』

 

「分かってるわよ……でも、グリーン・メイスンの手掛かりが掴めない。情報を集めようにも目立ちすぎたし……暫くは目立つ動きは出来ないわね」

 

『お前の活動に対しての派閥争い。俺達の時には無かった社会現象だからな。まぁ、19世紀のロンドンの報道なんて権力者達が思うがままに動かせたから現代とは違うせいでもあるからだろうな』

 

「報道の自由は鬱陶しい物だと思うけど……その自由が無ければ権力者達の知らせたい事しか知らせられない物になる。難しい話よね」 

 

私は報道の有方の難しさに答えが出ないけど今はグリーン・メイスンの事に集中したい。

 

アーサーはどうやってグリーン・メイスンを見つけ出して根絶したのかしら?

 

「アーサー。貴方はどうやってグリーン・メイスンを見つけたの?」

 

『そうだな……彼奴らの構成員を見つけ出す所から始まるな。見つけ出したら一人の所を襲ってそいつよりも上のグリーン・メイスンの構成員の名前を答えさせるまで拷問する。聞き出したら始末してその次へ……後は同じだ。その順を辿れば嫌でも辿り着くって寸法だ』

 

「……悪趣味ね」

 

『そうでもしないと見つけられない。それがグリーン・メイスンだ。だが、残念だが肝心の構成員をまだ見つけられてすらいない。面倒な事だな』

 

アーサーはそう言って忌々しげに言う姿からやはりグリーン・メイスンへの憎しみは誰よりも抱いてると思える。

 

大切な者をグリーン・メイスンに何度も奪われた彼にとってもっとも根絶したい組織なのは確かで私も奴等には恨みがある。

 

絶対に見つけ出して殺してやる……!

 

「なら、構成員を見つけないとね」

 

『やるのか?』

 

「私はもう引き返せないのよ。だったら何処までも堕ちてやるわ」

 

私は決意を露にして歩きだすと近くの棚に明けると行き奥にあった取っ手を上げると奥の板が戸の様に開く。

 

それは隠し棚で奥には個性に頼れない、頼らない時の為のナイフが隠されてあり、大小様々な軽めの装飾が施されたナイフは全て綾乃が取り繕ってくれたサポートアイテムと言える。

 

私の個性のナイフを参考にして特注された一品に私は満足していて何れもお気に入りだけど消耗品だと言う事も忘れない様に手に取りつつ状態を確かめた後、ベルトに取り付けられた鞘にナイフを仕込んでいく。

 

「さぁ、仕事の時間よ。アーサー」

 

『様になったもんだな……ジル』

 

私とアーサーはそう言い合うと不適に笑いあった。

 

~別視点side~

 

保須襲撃事件から暫くして真夜中の事務所でジャスティスはグリーン・メイスンの調査資料と睨む様に見ていた時、レディ・クイックが外出しようとしている姿を見た。

 

「何処へ行くんだ?」

 

「少し所要がありまして……すぐに戻ります」

 

「そうか。気を付けて行けよ。只でさえ物騒な時なんだからな」

 

レディ・クイックはそれを聞いてから事務所から出て行くとジャスティスはその姿を暫く見た後でやって来たジャッジに言う。

 

「頼むぞジャッジ。最近の彼奴……様子がおかしいからな」

 

「分かっています」

 

ジャッジはそう言ってレディ・クイックを追い掛ける様に事務所を出ていくとジャスティスは項垂れる。

 

「(俺の考え過ぎだと良いんだがな……頼むぞ、ジャッジ)」

 

ジャスティスはそう思った後、再びグリーン・メイスンに関する調査資料を見通す。

_______

_____

___

 

場所は変わり、ジャッジは夜の闇に紛れて歩くレディ・クイックを尾行していた。

 

これはジャスティスの命であり、最近になってよく外出する様になったレディ・クイックを怪しんだ行為だった。

 

単に出掛けるだけなら良かったが出掛ける様になってからはジャスティスの周りがおかしくなった。

 

ギリギリまで公表はしない筈だった欲強議員の演説の情報が漏れたり、保須に切り裂きジャックが現れると言う告発があったり、調査中のヴィランが突然、行方不明になったり、死んだりした事もあった。

 

「(身内を怪しみたくないが……全部、お前が事務所にいない時だった。悪く思うなよ)」

 

ジャッジはそう思いながら尾行する中、レディ・クイックは近くの古びた地下駐車場へと入って行き、ジャッジはそれに続いて行くと中で何者かと話していた。

 

「誰だ……?」

 

ジャッジは話を聞こうともう少し近付こうとした時、レディ・クイックと話していた相手の会話は止まった。

 

「申し訳ありません。邪魔が入りました」

 

「……始末はするのですよね?」

 

「はい。私の手で葬らせて貰います」

 

「なら、任せましたよ。レディ・クイック」

 

その人物は去ったのか気配を完全に消し去っていたがジャッジは最後に話していた内容を聞いて引き返そうとした時、大きな破裂音と共にジャッジの足元に銃弾が飛んだ。

 

「逃げるなジャッジ。此処に来た以上は死んで貰うわ」

 

「……ヒーローがヴィランの台詞を言うなよ」

 

ジャッジはそう言いながら物陰から出てくるとレディ・クイックは"ピースメーカー"と呼ばれるヒーロー仕様に独自改良されたリボルバーをジャッジに向けて構えていた。

 

「ジャッジ……こんな事になるなんて……残念ね」

 

「残念か……確かにそうだな。お前はそんな奴じゃなかったと思っていた。一体、何に手を出してやがる?」

 

「死んでいく貴方に言っても仕方ないわ」

 

レディ・クイックはそう言って撃鉄を起こすと確実に死ぬ様に頭に照準を向けた。

 

「俺が簡単に死ぬと思ってんのかよ?」

 

「思ってないわね。どうする?」

 

「こうすんだよ!!」

 

ジャッジは素早く警棒を抜いてレディ・クイックに迫ろうとするがレディ・クイックの銃撃により後退せざるえなくなり、物陰に隠れた。

 

「(落ち着け……彼奴の弾は6発。既に2発使ったから残り4発だ。それまで耐えれば)」

 

「甘いわよ」

 

レディ・クイックのその言葉と発砲音と共にジャッジの警棒の持つ腕が銃弾で撃ち抜かれた。

 

「ぐうッ!?」

 

ジャッジは堪らず警棒を落とし、撃たれた腕を利き手で押さえて膝をつくといつの間にか来ていたレディ・クイックに銃口を突き付けられた。

 

「私の個性を忘れてた?それとも貴方を私が撃たないと思ってた?」

 

「……どうだろうな。お前が個性を使ってまで俺を殺す……その先に何を見てんだよ?」

 

「私はこの社会のねじ曲げられた真実を白日の下に晒す。権力者達の理想の為に一人のヒーローが暗い牢獄の中に入れられただけでなく自分達に火種が飛ばない様に真実まで曲げた。私は許せない……彼女は確かに殺人はしたけど何でその原因は裁かれないのよ!!」

 

レディ・クイックはそう言って撃鉄を起こすとジャッジは笑った。

 

「その為にお前も犯罪者……ヴィランになるのかよ。お前の師であるレディ・ナガンが泣くぜ?」

 

「軽蔑される事は覚悟のうえよ。……さよなら、ジャッジ。貴方の死を無駄にしない為にも私は引き返せない。それが……私なりの"復讐"だから」

 

レディ・クイックはそう言ってゆっくりと引き金を引いた。

 

大きな発砲音と共にジャッジは倒れると血が床に流れていく。

 

その様子をレディ・クイックは涙を流しながら見た。

 

「さようなら……ジャッジ。本当に……ごめんなさい……愛してたわ……」

 

レディ・クイックはそう言って足早に立ち去って行き、残されたジャッジは物言わぬ亡骸となり、銃声を聞き付けた警察のサイレンが辺りに鳴り響いたのだった。



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旧友達の危機

翌朝、私はソファーに深く座り込んで落ち込んでいた。

 

昨日の夜にジャッジが……ジャッジが何者かに射殺された報道が全国のテレビや新聞に取り上げられた。

 

争った形跡があった事からジャッジはヴィランとの戦闘の末に銃による致命傷を受けた様で駆け付けた警察とヒーローがすぐに救急車に連絡したけど駄目だったらしい。

 

『彼奴が死んだか……だが、お前すら拘束できるくらいの彼奴が簡単に殺されると思うか?』

 

「簡単には死なないでしょうね……ネームドヴィランとの戦闘か……身内の裏切りでもない限りは……まさかね」

 

私はジャッジを殺したのは身内つまり、ヒーローがやったのではと思えた。

 

ネームドなんて簡単には見つからないし、況してや偶然会って、偶然殺しましたなんてあり得ない。

 

ヒーローの誰かが不意を突いて殺したと言われた方が納得できる。

 

一度、交戦したくらいだけどそれくらいにジャッジの死は信じられない……

 

「入るぞジル。だいぶ落ち込んでるね……ジル」

 

「ごめん緋色。流石に堪えてね……貴方も暫く顔を見てないって思ってたけど疲れてるわよね?」

 

「そうなんだ。最近、獅子皇会の縄張りで御法度の筈の薬が出回っていてね。その流れ先が同じヤクザである死穢八斎會からだと言う話しでね……はっきり言えば関係が悪化してるんだ。昔はこんな事は無かった筈なのに」

 

「昔は?」

 

「死穢八斎會の組長とはお父様と良き友人で僕も慕ってたんだ。でも、急に病気になって寝たきりになった辺りから若頭の治崎 廻が組を取り仕切り始めてから方針を大きく変えて御法度の筈の薬の売買を始めたんだ。その事業は僕達、獅子皇会の縄張りにも広がってきたと言う所だ」

 

緋色はそう言って不機嫌な表情を見せる。

 

「抗議とかしてるの?」

 

「勿論してるさ。僕達は無益な抗争を避ける為にも何度も抗議や話し合いの場を設けた。だが、奴等は話を聞く様子は無い。僕達を舐めてるのか……或いは聞きたくない事情でもあるのか」

 

緋色は死穢八斎會の暴挙について考え込んでいるとそこへ今度は綾乃がやってきた。

 

「お邪魔しま……あら、緋色さんはご機嫌斜めですか?それにジャック様も元気が無いようで?」

 

「色々あるのよ……それよりどうしたの?」

 

「えぇ、実はとんでもない情報を手に入れまして」

 

「どんなの?」

 

「実は急ですが雄英の林間合宿をヴィラン連合が襲撃すると言う情報です。目的は不明。また嫌がらせじみた襲撃なのかもしれません」

 

「彼奴ら……全く、懲りない連中ね」

 

私はヴィラン連合がまた出久達を襲おうとしている事に腹が立ってくる。

 

「それで?情報は掴んだのは良いが林間合宿の場所は?度重なる失態で雄英の管理レベルは今まで以上に厳しくなっている。簡単には特定出来ないぞ?」

 

「プッシーキャッツのマタタビ荘です」

 

「……は?」

 

「だからプッシーキャッツの所です。正確にはマタタビ荘付近で林間合宿です」

 

「いやいや、何で簡単に情報を掴んでるんだ」

 

「ふふふ。企業秘密です」

 

綾乃はそう言ってウィンクして誤魔化し、緋色は唖然としてるけど決断は早い方が良いし、私はすぐにでも向かう事に決めた。

 

「綾乃が言うなら確かなのね。緋色。私はプッシーキャッツの所に行くわ」

 

「そうかい。まぁ、緑谷達には世話になったからな。知ってて何もしないと言うのは夢見が悪いだろう。だが、僕は死穢八斎會の事があるからこの場から離れられないがね」

 

「大丈夫。いつも通りに帰ってくるから」

 

私はそう言って緋色に近付くと軽めのキスをし、緋色は顔を赤らめて微笑む姿に私は少し照れ臭いと思っていると綾乃の咳払いが聞こえて正気に戻り、私は髪を整えて誤魔化しておく。

 

「綾乃。そこにはすぐに行けるの?」

 

「いつでも飛べる様にしてます。只、帰りは迎えに行かないと……それに襲撃の時期もまだはっきりしていませんが」 

 

「構わない。また連絡するからその場で待機していてね。それじゃ、行ってくるわね緋色」

 

「気を付けてくれ。無理はするなよ?」

 

私はそれを聞いて頷くと綾乃の個性を使ってプッシーキャッツへと向かった。

______

____

__

 

私は綾乃の個性でマタタビ荘付近にやって来た私は付近に先生達やプッシャーキャッツの面々がいない事を確認した。

 

一先ずは誰もいない事と遠くから大きな音が幾つも聞こえる事を確認して此処には誰もいないと判断してスマフォを取り出して連絡しようとした時、後ろから何かが落ちる音が聞こえた。

 

「うん?……あら」

 

「あ……あぁ……」

 

私が振り返って見た物は角の帽子を被った男の子でマタタビ荘の手伝いをしていたのか手にしていた物を落として私をガン見していた。

 

「ちょっと君。私の事は」

 

「うおわぁぁぁぁぁぁぁッ!?」

 

「いやいやいや!ちょっと待ってくれない!?」

 

私は叫びながら逃げ出した男の子を追い掛けて取り敢えず羽交い締めにして掴まえるとかなり暴れて掴みにくい。

 

「離せ!!ヴィラン女!殺人鬼!ショタコン!!!」

 

「いや、最後のは違うからね!?ショタコンじゃないしと言うかショタコンって貴方は幾つなの!?」

 

『とんだマセガキだな。どうする?』

 

「(どうするって……今は幸いな事に遠く離れてるのと音で叫び声は聞こえてないから駆け付けて来ないと思うけど……無理矢理に黙らすのもね。突然、子供がいなくなったりしたら大騒ぎになるし……)」

 

私はこの暴れるやんちゃ小僧をどうしようかと悩みながらも取り敢えず説得する。

 

「ね…ねぇ、君。お姉ちゃんが此処に来た事は皆には内緒にしてくれない?」

 

「うるさい!お前みたいなヴィランなんか!……ヴィランなんか……!」

 

男の子は叫びながらもトーンを徐々に落として何も言わなくなり、暴れるのを止めるのを確認した私は溜め息をつきながら男の子を地面に下ろして同じ目線に合わせて屈んだ。

 

「ヴィランなんかって何かな?ヒーローが来てくれるから?」

 

「黙れよ……ヒーローも個性も嫌いだ。何で俺を置いていったんだよ……!」

 

「……聞くのは野暮だけど君は捨てられたの?」

 

「違う!捨てられてなんかいない!!二人は……死んだ。俺は身寄りが無いから此処に預けられただけだ」

 

「ごめんなさい……御両親を亡くしたなんて……辛いわね」 

 

私は男の子の頭をそっと撫でると意外だって顔をするけど私だって子供に優しくするくらいの優しさは残してるわよ。

 

「私もね……母さんを亡くしたの。殺されてね。だから君の思っている事は分かる。何で置いていったのとか……もっとずっといて欲しかったとか……そう……何でも良いから生きていて欲しかったとかね。母さんの死が切っ掛けで私も今、此処に来てる人達と同じ様にヒーロー目指してたけど止めちゃった」

 

「何でヴィランなんかになったんだよ……ヒーローになるのを止めても生きていけるだろ……?」

 

「復讐してやりたいから」

 

私の一言に男の子は恐怖の顔つきになっちゃった。

 

しまったな……私、殺人鬼に慣れきっちゃって自分でも人を安心させる顔を忘れてしまいそうになる。

 

「ごめんごめん。怖い思いさせたかった訳じゃないの。ただね……どうしても許せないの。母さんを殺して平気で生きてる奴が。法から逃れて人から大切な者を奪って踏みにじる汚い連中が。それが私……殺人鬼、切り裂きジャック(ジャック・ザ・リッパー)よ」

 

私はそう言って立ち上がると固まる男の子を見下ろす様にして警告した。

 

「だからね……お願いだから邪魔をする様な行為はしないでね。もし、私の存在を知らせたりしたら……プッシャーキャッツ達は死にはしなくても怪我をして帰って来る事になるからね。覚えといて」  

 

私はそう言って男の子を背にして潜伏場所を探しに森の中に入って行った。

 

~別視点side~

 

一人残された男の子こと洸汰は恐怖しながらその場にへたり込んだ。

 

マタタビ荘で一人、手伝いの作業をしていた時に殺人鬼、切り裂きジャック(ジャック・ザ・リッパー)が現れたのを目撃し、優しげな雰囲気と荒々しい殺意の両方を受けて身体が震えきっていた。

 

「何だよ……何なんだよ……!」

 

切り裂きジャック(ジャック・ザ・リッパー)は殺された母親の復讐の為にヴィランとなったと聞いた洸汰は自分の両親であるウォーターホース夫妻を殺害したヴィランを憎まなかった事は無かったが殺したい程とは思っていなかった。

 

だが、切り裂きジャック(ジャック・ザ・リッパー)は明確な憎しみと殺意を持ってヴィランとして生きている姿に洸汰は恐怖と同時に怒りを覚えた。

 

「どいつもこいつも身勝手だ……!」

 

ウォーターホースはヒーローを全うして死に、両親を殺したヴィランは逃げ去ってしまい、世間は両親を褒め称える事しかしない。

 

個性に弄ばれる様に奪い、奪われると言う現実にそれが当たり前だと言う世間に洸汰は身勝手な奴等しかいないと思った。

 

彼女の事を言うか?

 

だが、それだと戦闘は避けられなくなり、ヴィランの中でも屈指の実力を持つ切り裂きジャック(ジャック・ザ・リッパー)の警告の通り、死にはしなくても怪我をして帰ってくる事になる。

 

それは何処までの範疇か分からず、下手をすれば再起不能にされて終わるかもしれない。

 

子供ながら彼女が何れだけ危険な存在なのか知っているからこそ、洸汰は決断出来ないまま帰って来た面々を迎える事になった。

 

~side終了~

 



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互いの辛さ

私は潜伏場所を探索して取り敢えず近くにあった崖にある小さな洞窟に身を隠した私はスマフォが繋がる事を確認してから綾乃に連絡を取った。

 

「聞こえるかしら綾乃?」

 

《えぇ、勿論です。今、車で其方に向かってますから間に合わなくても隠れていて下さいね?》

 

「分かってるわよ。取り敢えず切るわね。また連絡して頂戴な」

 

私はそう言ってスマフォを切ると洞窟内の壁に背中を預ける様に座り込むと遠くから聞こえる皆の訓練する音を聞いている内に私はそのまま瞼を閉じていった。

______

____

__

 

揺すられる感覚を受けて私は目を開けるといつの間にか眠っていたのか当たりはすっかり夜になっていた。

 

「起きろ!このヴィラン女!!」

 

「……何で此処にいるのよ?」

 

私を起こしたのはマタタビ荘であったあの男の子で怒ってるぞとばかりの顔をしてるけど可愛いだけで特に怖くない。

 

「此処は俺の秘密基地だぞ!出ていけ!!」

 

「それは……ごめんね。丁度良い隠れ場所だったから。でも良いじゃない。少し間借りしても」

 

私はそう言って欠伸しながら背伸びをするとスマフォを確認すれば綾乃からのメッセージがあり、連絡求むの文字が何回かある。

 

私はスマフォで綾乃に連絡を取るとすぐに綾乃が出た。

 

《大丈夫ですかジャック様!?連絡がありませんでしたよ!?》

 

「ごめんごめん。少し寝てたわ。変わった事はあった?」

 

《特には……お願いですから安否の連絡は下さいね。あと、渋滞に引っ掛かりまして明日には着きますが……もう!夏休みなんて嫌いです!何時間も待ってるのに動きません!!》

 

「分かった分かった。定期的に連絡するから。それじゃあまたね」

 

私はそう言って切ると男の子は凄い目付きで私を見てるけど割りと律儀に連絡が終わるのを待っているのはちょっと申し訳ないと思った。

 

「ねぇ、貴方はなんて名前なの?」

 

「……洸汰だ」

 

「そう。洸汰君ね……悪いけどもう暫く此処にいさせてね。別に仕事が始まればすぐに消えるから」

 

「今、出ていけよ!!仕事って殺人何だろ!誰を殺すんだよ!!」

 

「これから来る……悪党の群れかしらね」

 

私はそう言って星空を静かに眺めていると人の気配を感じて洞窟の奥に身を寄せた。

 

「ごめん。誰か来たわ」

 

「誰かって?」

 

「洸汰君?」

 

その声に洸汰君は反応して私から視線を外して声の掛けられた方を見た。

 

その声の持ち主は私はよく知っている……出久だ。

 

今、見つかるのはかなり面倒な事になってしまうからお願いだから洸汰君が私の事を言わないでいて欲しい。

 

「お腹空いたよね?これ食べなよ」

 

「テメェ!何故、此処が……!」

 

「あ、ごめん。足跡を追って……!ご飯食べないのかなと……」

 

相変わらず誰かを心配する出久らしく洸汰君がご飯を食べずにいた事が気になってやって来たみたいだった。

 

と言うかカレーの良い匂いが私を襲ってくるんだけど。

 

「良いよ。いらねぇよ言ったろ。つるむ気などねぇ。俺の秘密基地から出ていけ」

 

洸汰君って本当に幾つなんだろう……喋り口調と言い、余計な事を知ってたり……後で聞こう。

 

「個性を伸ばすとか張り切っちゃってさ……気味悪い。そんなにひけらかしたいのかよ力を」

 

「君の両親さ……ひょっとして水の個性のウォーターホース……?」

 

「……マンダレイか!?」

 

「あ、いや、えっと……ごめん!!うん……何か流れで聞いちゃって……情報的にそうかなって……」

 

水の個性の使い手であるヒーロー、ウォーターホース。

 

確か夫婦でヒーロー活動をするタイプのヒーローで市民を守る為にヴィラン、マスキュラーとの戦いで命を落としてしまった。

 

彼らは勇気があり、人を思い、家族の愛が強いヒーローだったと父さんが二人が亡くなった日に言っていた。

 

「残念な事件だった。覚えてる」

 

「……うるせぇよ。頭イカれてるよみーんな……馬鹿みたいヒーローとかヴィランとか言っちゃって殺しあって個性とか言っちゃって……ひけらかしてるからそうなるんだ。バーーーカ」

 

「(洸汰君……)」

 

『ヒーローだけじゃなくこの社会そのものが嫌いなんだな。まぁ、無理もないな』

 

「(そうよね。両親を亡くして悲しむ中で名誉ある事だとか何だとか言われても置いていかれたと言う事実には変わらない……どんな醜態を晒しても良いから生きていて欲しかったのがあの子の気持ちなのよ)」

 

『そうだな』

 

私とアーサー。

 

私は母を亡くし、アーサーは母と父の二人を亡くし、掛け替えの無い大切な人すら殺されている。

 

洸汰君が悲しみ、社会の仕組みに憎む事は私達も分かる。

 

「何だよ!もう用が無いなら出ていけよ!」

 

「友達……僕は友達さ!……親から個性が引き継がれなくてね……先定的な物で希にあるらしいんだけど……でもそいつはヒーローに憧れちゃって。個性が無いとヒーローになれなくて。そいつさ暫く受け入れられずに練習したんだ。物を引き寄せようとしたり、火を吹こうとしたり……個性に対して色々な考えがあって一概には言えないけど……そこまで否定しちゃうと君が辛くなるだけだよ。えと……だから……」

 

「うるせぇズケズケと!!出ていけよ!!」

 

出久の言葉を遮る様に怒鳴る洸汰君に出久は流石に退いたのかカレーだけを置いていくと言う言葉を最後にその場を離れる気配を私は感じた後、洞窟から出てきて洸汰君を見つめる。

 

「カレー……食べないの?」

 

「うるせぇ!!お前も出ていけよ!!殺人鬼が!!!」

 

私は洸汰君を暫く見つめた後、後ろから抱き締めた。

 

「何だよ!!離せよ!!」

 

「嫌よ。暫くこうする。貴方も泣いて良いのよ」

 

「うるせぇ!!うるせぇよ!!」

 

洸汰君は怒鳴り散らすけど私には強がって泣かないだけの子供にしか見えない。

 

「大人だって泣くのよ。大切な人を亡くして泣かない人はいない。沢山、泣いて。沢山、怒って。沢山、笑って……前に少しずつ進めば良い。ヒーローになりたくないならやらなくても良い。やれと言う法は無いのだから」

 

私のその言葉に洸汰君は徐々に泣き出していき、やがて泣いた。

 

ずっと溜め込んでいた悲しみや怒り、悔しさの感情がやっと爆発して起きた光景に私も母さんの事を思い出して静かに泣いた。

_______

_____

___

 

私達は暫くして泣き止むと二人で星空が綺麗な山の光景を眺めながら落ち着いていた。

 

「ごめんね。本当なら此処まで関わるつもりはなかったのだけど……」

 

「良い……色々と言って……ごめんなさい」

 

「良いわよ。慣れてるし。貴方だって辛かったのでしょう?」

 

私は洸汰君の頭をそっと撫でると何だか照れ臭そうにしてる姿が可愛くて微笑んでいると洸汰君は不意に立ち上がった。

 

「マンダレイが呼んでるから帰る」

 

「そうなの?獣道だし、暗いから気を付けてね」

 

私は慣れてそうだけど取り敢えず注意すると洸汰君は黙ったままスタスタと歩いて行ってしまい、私は首を傾げながら見送るとアーサーはニヤニヤしていた。

 

『彼奴。惚れたな?』

 

「何が?」

 

『何でもないさ。初めての想いって言うのは叶わないものなんだって事さ』

 

私はアーサーの言葉に首を傾げながら何でそんな事を言ったのかと一晩中、考える事になった……けど、何時になったらヴィラン来るのよ。

 

綾乃が間違えたとは思えないし……取り敢えず明日、留守の間に何か食べ物をクスねよ。

 

~別視点side~

 

その頃、洸汰は顔を真っ赤にしながらスタスタと歩きながらマタタビ荘に帰って来ると私服姿のマンダレイ達が出迎えた。

 

「ただいま」

 

「お帰り洸汰……あれ?ちょっと待って!顔赤いわよ!?」

 

「どうしたの?」

 

「あらま。顔真っ赤ね」

 

「風邪か?体温計を持ってこようか?」

 

マンダレイ達は洸汰の顔が真っ赤である事に夏風邪かと考えていたが洸汰は首を振った。

 

「何でもない。しんどくもない」

 

「いやいや!顔、赤いし一応、体温を計ろう!」

 

「うむ……しんどい箇所はあるか?頭は?喉は?」

 

虎はそう聞くと洸汰は少し考えた後、答えた。

 

「……胸が」

 

「胸?」

 

ラグドールは聞くとプッシーキャッツの面々が見つめる中、洸汰は答えた。

 

「ドキドキして……苦しい?ある人を思い浮かべたら余計にドキドキして苦しくなる」

 

「……え?」

 

「それって……」

 

「おぉ……!」

 

「成る程な」

 

四人は洸汰の症状を聞いた瞬間、心配する表情から一転してニヤニヤとした表情を見せた。

 

「成る程ね~。洸汰もそんな年頃か~」

 

「今晩はお赤飯にしとけば良かったかな?」

 

「今からでも間に合うかも!」

 

「いや無理だ。だが、明日ならいけるぞ」

 

「お赤飯って何かめでたいのか?」

 

洸汰がそう聞くとラグドールは笑いながら答えた。

 

「洸汰が抱えてる病気はね……恋の病よ」

 

「恋の病?」

 

「隅に置けないわね~。相手はどんな人なのよ。同い年?雄英の子達?」

 

洸汰は恋の病と聞いて自分の記憶から思い起こす人物を探すとジルの姿が出てきて洸汰は更に顔を真っ赤にさせると……

 

「うおぁぁぁぁぁぁぁッ!!」

 

奇っ怪な悲鳴を挙げながら駆け出していった。

 

「あらま。これはよっぽど重症ね」

 

マンダレイはそう言って駆け出していった洸汰に預かってからあまり感情を現さなかった事を思えば少し前に進んだ事を嬉しく感じた。

 

まさかその相手が殺人鬼とは思わずに。

 

~side終了~



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ヴィラン狩りの夜 ~前編~

私が此処に来てから洞窟で過ごして朝になった。

 

昨日から何も食べてなくてお腹が空いたからマタタビ荘にこっそり忍び込んでカロリーメイトをつまみ食いしていた。

 

皆が訓練に出掛けている間に食べてるとそこへ洸汰君が通り掛かった。

 

「……何してんだ?」

 

「お腹空いちゃって。大丈夫。カロリーメイトだけ貰ったから」

 

「それ、マンダレイのだぞ。しかもお気に入りのチーズ味」

 

「あぁ……うん。内緒ね」

 

私がそう言うと洸汰君は溜め息をつくと私は洸汰君を抱き寄せた。

 

「ありがとう洸汰君。大好きよ」

 

「だ、だだだだだ、大好き!?」

 

洸汰君は私の言葉を聞いて、顔を真っ赤にして固まってしまい私は首を傾げた。

 

『おいおい。初な少年にストレートに言ってやるなよ』

 

「(普通にお礼言っただけよ?)」

 

『はぁ……鈍感め』

 

アーサーに呆れられる中、私は洸汰君を抱き締めながら頭を撫でてると洸汰君は離れてしまった。

 

「そ、そんな事より!用が済んだら出てろ!何時、マンダレイ達が来るか分からないんだからな!!」

 

「そうね。そろそろ出て行くわ。それじゃ洸汰君。また会おうね」

 

私はそう言ってマタタビ荘から抜け出す為に歩いて行いていった。

______

____

__

 

時間は大きく流れて夕方。

 

何時もの様に洸汰君が秘密基地で過ごす傍ら、私は秘密基地の洞窟に身を隠しながらヴィラン連合が現れるのを待ちながらスマフォで綾乃に連絡していた。

 

「そう。取り敢えず近くにいるのね?」

 

《苦労しましたよ……渋滞でほぼ一日掛けてやっと通り抜けたらガス欠して立ち往生。何とかガソリンを調達して動かしてもまだ移動に距離もあって……やっとの思いで着きました》

 

「ご苦労様。今はゆっくり休んで頂戴」

 

《そうさせて貰います。では、私は少し寝かせて貰いますので》

 

綾乃はそう言って電話を切るのを確認した私は一息ついていると肝試しでもしてるのか悲鳴が挙がっている。

 

私はこのまま誤報であればと思いながら皆が林間合宿を何事も無く終る事を祈っていた……そう……祈っていたのよ。

 

山の森からガスの様な煙や黒煙が立ち込めており、明らかな非常事態だった。

 

「な、何だ……あれ?」

 

「洸汰君!今すぐにマタタビ荘に戻りなさい!決して此処に残らないで駆け足でね!」

 

「何だよ……何が起きてるんだ?」

 

「……ヴィランの襲撃よ」

 

私は情報通りになった事に空気の読めないヴィラン連合の行動に怒りを覚えていると洸汰君以外の気配を感じて視線を向けるとそこにはフード付き外衣とマスクを付けた大男らしき奴がいた。

 

私は洸汰君を背中に庇いながらナイフを手に対峙した。

 

「見晴らしの良いところを探して来てみればどうも資料に無かった顔と……有名な殺人鬼様だ」

 

「私を知っているなら死ぬ覚悟はあるのかしらね……ヴィランが」

 

「はッ!死ぬ覚悟がなけりゃあヴィランなんてやらねぇよ。なぁ、所でそこにいる子供のセンスの良い帽子。俺のダセェマスクと交換しねぇか?新参は納期がどうとかってこんなオモチャを付けられてんだ」

 

「子供の物を奪うつもり?ヴィラン以前に人としても終ってるわね」

 

私は洸汰君の身につけている帽子を欲しがるヴィランに呆れと怒りを覚える中、私は後ろに片手を隠すようにすると洸汰君に逃げる様に合図を送る。

 

洸汰君は戸惑っているのか暫く動かなかったけどやっと駆け出してくれた……けど、あのヴィランは異常なスピードですぐに洸汰君の逃げ道を塞いでしまった。

 

「殺人鬼を殺る前に景気に一杯やらせろよ」

 

「洸汰君!!」

 

私はヴィランの腕の筋肉が皮でも覆い隠せない程に増強されたのを見て咄嗟に後ろに引っ張ったけど奴の攻撃を躱しきれない体勢になってしまった。

 

私は攻撃を受ける覚悟を抱いた時、私は崖下から来た誰かに抱えられてヴィランの攻撃を避ける様に庇われると地面を二人で転がった。

 

この場所を知っているのは洸汰君と私そして……。

 

「ゴホッ……!怪我は無い!?ジル!」

 

「……やっぱり、貴方は肝心な時に来てくれるわね」

 

私はそう言って立ち上がると駆け付けて来てくれた出久の腕を掴んで引っ張りあげて起こした。

 

これで二対一になった。

 

でも、私は出来ればあのヴィランは一人で片付けたいと思っている。

 

「出久。貴方は隙を見て洸汰君を逃がして。私が奴を始末する」

 

「ジル!君を一人にするなんて!!」

 

「良いから言われた事をやって!!」

 

私は強めにそう言って洸汰君の方を見ると涙を流していた。

 

それは恐怖もあるだろうけど実際には目の前にいるヴィランも原因だとも言える。 

 

出久は悔しげに顔を歪ませた後、洸汰君を抱えて素早く離れたのを確認した私はマスキュラーに姿勢を戻して睨み付ける。

 

「洸汰君の悪夢は私が祓う……」  

 

私は決意を胸にナイフを強く握りしめて目の前のヴィランを睨み付けるとヴィランは私を見てニヤニヤとし始める。

 

「良い眼じゃねぇか。気に入ったぜ」

 

「お前に褒められる謂れはない。快楽の為に人を殺し、人の大切な者を踏みにじったお前を……私は絶対に許さない。殺人鬼、マスキュラー!!私がお前を裁く!!!」

 

私はそう言ってウォーターホースの仇であるマスキュラーとの戦闘に身を投じた。

 

マスキュラーは個性である筋肉の増強でスピードとパワーを上げて攻撃して来るのを私はそれを受けない様に立ち回りながら避けつつナイフで切り付ける。

 

マスキュラーのパワーは簡単にへこみの跡を作る程の力……まともに受けたら一発で終わる。

 

「はっはは!!やるじゃねぇか!!だが、そんなちゃちなナイフで俺を殺せるか!!」

 

「鉄とかに強化されていたら勝ち目は薄いけど貴方は筋肉。つまり、肉ならナイフで切り刻んでいれば出血死に持ち込めるわよ」

 

「それはいけねぇな。だったらその前に殺してやるぜ!!」

 

マスキュラーの拳がまた、振るわれるけど私はそれを躱してナイフを三本投げればマスキュラーは二本避けて一本は腕で防いだ。

 

「テメェはヴィラン連合に属してるもんだと思っていたぜ!何でヒーローなんかに与してんだよ!」

 

「お前みたいな外道を殺す。ヴィラン連合はその集まりなら属す意味は無い」

 

「はッ!外道の集まりねぇ……ある意味じゃ正しいぜ!だがなジャック!テメェには見えねぇだろうな!好きでヴィランになった奴とヴィランにならざるえなかった奴の違いをな!!」

 

私はマスキュラーのその言葉に初めて殺した連続強盗犯の事を思い出した。

 

彼の犯行目的は奥さんの治療費を稼ぐ事。

 

その為に何人も殺した彼を私は捨て置けず、アーサーと一緒にこの手で殺した。

 

そして殺人鬼になって間もない頃にその奥さんを死なせた。

 

私は悪を裁く殺人鬼……でも、彼らにそんな結末を与えるつもりは無かった……私は……

 

『伏せろ!!』

 

「ッ!?」

 

私はアーサーの叫びを聞いて伏せるとマスキュラーの大振りな攻撃が私の頭の位置を通って横切った。

 

「テメェには覚えがあるようだな……ヴィランにならざるえなかった奴の事をな。だが、殺した!」

 

「私は……!」

 

「結局、お前は気前の良い大義を掲げて人を殺すのを楽しんでんだよ!認めろよ!俺と同じだ!!」

 

「黙れッ!!!」

 

私はそう叫んでマスキュラーの一瞬の隙を突いて顔を蹴り飛ばすと怯んだ隙を逃さずそのまま頸動脈を切り裂こうとした時、私の身体に衝撃が走って壁に激突した。

 

身体中が痛い……口から血を吐く中、マスキュラーは余裕そうに私を見ている。

 

「テメェは何度もヴィランを殺してる様だがな……結局は其処らの雑魚を殺して経験を詰んだ様に思っているだけだ。だから、こんな所で負ける」

 

「……クソが」

 

私は此処で死ぬの……?

 

「もう二度と元に戻れないならせいぜい今の人生を楽しませて貰うだけだ!じゃあな切り裂きジャック(ジャック・ザ・リッパー)!!短い伝説だったな!!!」

 

死ぬわね……あぁ、本当に短い伝説よね……

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

でも、私はまだ死ぬつもりはない!!!

 

「アーサー!!!」

 

『こんな時にだけ人使いが荒いな……たく』

 

私はアーサーに身を委ねて身体の主導権を渡すとアーサーは痛みも無視してマスキュラーからの攻撃を避けると素早い動きでマスキュラーの肉を切り刻んでいく。

 

「何だ!?」

 

「本当に胸糞悪い筋肉野郎だな!!そろそろ地獄へ行きな!!!」

 

アーサーはそう言ってもはやマスキュラーでも視認できていない速さで地面や宙を動き回り、ナイフで切り刻み、血や肉がいくら飛び散ろうと止めない……敢えて必殺技を付けるとしたら……

 

 

 

"殺人刃舞"

 

 

 

個性をフルに使ってる訳じゃないけど視認しきれない速さで素早く動き、相手の血も肉も関係なく切り刻む……アーサーが見せてくれたこの動きが私に出来たら使えるんだけどね……

 

「いや、お前の身体だろうが」

 

『そうだったわね』

 

私達が軽く話す頃にはマスキュラーは荒い息を吐きながら血塗れで倒れており、もはや動く事すら出来ない。

 

「これで短いか長いかどうかは……はっきり分かったよな?」

 

「はぁ……はぁ……急に動きが変わりやがった……なにもんだよ……お前……!!」

 

マスキュラーは驚きながらも笑っており、根っからの戦闘狂としか言い様がないその姿に私そしてアーサーは呆れと怒りの視線を向けていた。

 

「何を言っているんだ。俺は霧先ジル。今、この世を騒がす殺人鬼……知ってるだろ?」

 

「んなわけねぇ!動きも変わった!口調も変わった!全くの別人だ!!がはぁ……ゴホゴホッ!!」

 

マスキュラーの鋭い観察眼は以外だけどもうどうでも良い。

 

『アーサー。もう終わらせて』

 

「了解だ」

 

アーサーはそう言ってマスキュラーの頸動脈を今度こそ切り裂くとマスキュラーは声一つ出せないまま苦しみ、最後まで笑いながら死んでいった。

 

「ふぅ……さて、もう戻るぞ」

 

アーサーはそう言って私に身体を返すと死んだマスキュラーを見下ろす。

 

「お前が殺した人達の罵声を浴びながら……せいぜい、地獄に堕ちなさい。この死は好き勝手に人を殺した報いよ」

 

私はそう吐き捨てるとそこへ出久が戻ってきた。

 

「ジル……!」

 

「何で戻ってきたのかしらね?貴方はまだ」

 

「どうして殺したんだ!!ジル!!!」

 

私の言葉を遮る様に叫んできた出久に私は何も言えなかった。

 

「どうして!!君は……君はどんな理由でも殺人や犯罪を許さなかった!!どうしてなんだ!!!」

 

「出久。仕方ないのよ……罪を犯したなら報いを受ける為に法に裁かれなければいけない……でもね。その報いすら受けない奴もいるの。そんなの許せないじゃない。殺して止めるしかない……殺すしかないのよ!!それが法から逃げる奴らを裁く唯一の方法!そして悔しい思いをした人達の救いよ!!」

 

「そんなのは救いじゃない!!確かに罪を逃れるヴィランはいるよ……でも、殺して止めるなんて……間違っているじゃないか!!」

 

「はっはは!……出久。だったら貴方はどうするのよ。折角、捕まえたヴィランが裁かれずに釈放されたら?証拠が集まらなくて、逃げられて、捕まらないまま何度も犯罪を犯されたら?どう被害者や遺族に弁明するの?」

 

出久は私の問いに答えられないまま黙り込む中、私は森に視線を向けた。

 

「皆が襲われてる……私はヴィランを殺しに行く。止めないでね」

 

「ッ!?ジル!!」

 

「止めるな!!まともに答えすら返せない癖に!!!」

 

私の怒鳴り声に出久は固まると私はその隣を通る前に通り過ぎ様に言う。

 

「残念ね。貴方なら答えを言ってくれるって信じてたのに」

 

私はそれだけを言うと皆を襲っているヴィランを殺す為に襲撃現場へと足を運んでいく。



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ヴィラン狩りの夜 ~中編~

私はマスキュラーに言われた事が頭に響きかせながら森を駆けていた。

 

"結局、お前は気前の良い大義を掲げて人を殺すのを楽しんでんだよ!認めろよ!俺と同じだ!!"

 

「(違う!私は……奴の様に快楽で殺しはしていない……!)」

 

『ジル。奴の言う事なんか気にするな。お前自身がそう思っているなら俺がとうの昔に殺している。何しろ俺達は良くも悪くも一心同体。一蓮托生だ。考えてる事なんて嫌でも聞こえるし、行動を見て判断出きるしな』

 

「……そうね……気にする事はないわ。私は……私よ」

 

私は今は気にする時ではないと判断して走り続けている内に明らかに女装した猫のおっさんとサングラスのオカマと言う変態同士の戦いと猫の女性と無駄にナイフで組み合わせた大剣を使うトカゲがいた。

 

「どちらがヴィランだと思う?」

 

『どう見てもサングラスのオカマとトカゲだろ?』

 

「そうよね」

 

私はそう言うとナイフを猫の女性に振り下ろそうとしているトカゲの腕に投げて当てるとトカゲは叫びながら大剣を取り落とすとバラバラになった。

 

いや、脆いな。

 

もう少し頑丈にしてるのかと思った。

 

「クソッ……誰だ!!俺の腕にナイフを投げやがったのは!!」

 

「私だけど?」

 

私はそう言って姿を現すとそこにいた全員が驚きに包まれた。

 

「切り裂きジャック!?」

 

「ちょっと嘘でしょ!?こんな時にまで現れるなんて!!」

 

「あら……これはマズイわね……」

 

「切り裂きジャック……!ステインの後継者!!」

 

「いや、後継者じゃないし……まさかと思うけどステインにあてられたの?」 

 

「俺はスピナー!!ステインの夢を紡ぐ者としてお前に勝負を挑む!!ステインの後継者!!」

 

私がトカゲに質問するけどトカゲは全く聞いてない。

 

所謂、狂信者……つまりは一時期の流行りに乗っかった馬鹿であると言う事だと言うのがわかる。

 

「行くぞぉッ!!」

 

トカゲことスピナーはそう叫んで壊れた大剣の一部であるナイフを持って向かって来る。

 

「ちょっと!?待ちなさいよスピナー!!」

 

「仕方ない……どうせ、殺すしね。簡単に人の命を奪おうとするなら……思想家だろうが何だろうが……容赦はしないわよ?」

 

オカマの止める声も聞かないスピナーに呆れながら私はそう言ってナイフを片手に立つとスピナーのナイフを受け止めた。

 

激しい金の硬質な音が鳴り響き、噛み合う形で押し合う。

 

「ぐぅッ……!」

 

「あら?女に力負けしてるわよ。トカゲさん」

 

「トカゲと言うなッ!!!」

 

スピナーは怒りに任せて私を押すとそのまま切り込もうとする。

 

でも、隙だらけで私は腕よりもリーチのある足で腹に一発、蹴りを入れてあげると地面を転がっていく。

 

「あら、足が入ったわね?ごめんなさいね……トカゲさん」

 

「ッ!?この尼がぁッ!!!」

 

スピナーはそう怒りに任せて叫びながらナイフを私に何度も振るうけど私は受け止めもせずにその刃を何度も避けてあげた。

 

何だろう……マスキュラーは強かったのにスピナーは何処か素人の様に思える……まさか本当にその場の勢いに任せて参加したのかしら?

 

「スピナー。もう止めといた方が良いわ。大人しく捕まれば短い期間で出所できるかもしれないわよ?」

 

「何を言っている……!」

 

「だって、貴方……人を一度でもちゃんと殺したの?まるで戦いにも慣れていない様にも感じる……いえ、少しは出来ると言った具合かしら。見てたけど戦闘向きじゃないとは言えヒーローと戦えてるし、才能はありそうだけど……無駄な所で使ったわね。もう止めたら?私一人に傷一つ付けられない時点で無駄だもの」

 

私の言葉にスピナーは怒りや絶望が入り雑じった表情を見せる中、奴は腹の底から叫んできた。

 

「うるせぇッ!!!俺は……俺はステインの夢を紡ぐんだ!!お前なんかがステインの後継者だとは認めん!!!私利私欲に動き、人並みの幸せを夢見るヒーロー擬きは粛清してやる!!!」

 

「私利私欲で動くのは兎も角……ヒーローが人並みの幸せを夢見たらいけない理由なんてあるの?」

 

私の言葉にスピナーや他の三人も唖然としている……そんなに意外かしら?

 

「だって別に家庭を持ってもヒーローとしての志を忘れなければ良いだけの事。それが無理なら引退して身を引くのもまた一つの道。私はね……人並みの幸せを……家庭を持ってもヒーローとして誇りを持って活動しているヒーローを知っている。全く家にかえって来ないのが玉に瑕だけどそれでも……私はそれを……父さんを誇りに思っている。他にも壊されてしまったけどウォーターホース夫妻もまた、命を賭けてでも市民を守った素晴らしいヒーローがいる。……幸せを抱くのが何がいけないの?ヒーローも人なのよ?」

 

私のその問いにスピナーは答えられずに固まる中、私はナイフの刃を向けた。 

 

これは最後通牒だ。

 

「スピナー。手遅れになる前に投降しておきなさい。それでもやると言うなら止めはしない……私が地獄に送るだけよ」

 

私はスピナーを睨みながらそう言った時、猫の女性がスピナーを後ろから取り押さえた。

 

「貴方にこの場で殺人はさせないわよ!!」

 

「ちょっとスピナー!!あんたのせいよ!切り裂きジャックに構うから!!」

 

「うるさい!誰かのせいと言うなら……悪事を働いた己の所為だ」

 

ヒーロー二人がスピナーとオカマを押さえるのを見た私は残念な思いを抱きながらナイフをしまうと次の獲物を探しに行く。

 

「何処に行くつもりよ!!」

 

「何処へって……次の獲物探し?」

 

「止めろ!!ヴィランを殺して何になる!」

 

「悪を少しでも減らして……私の理想の世界にする。犯罪の無い幸せな世界……誰にも大切な人が奪われないそんな世界にする。邪魔はしないで。それと……洸汰君は大丈夫だから安心してね」

 

「洸汰……!?洸汰に近づいたの!」

 

「別になにもしてない。マスキュラーとの戦闘の際に出久と一緒に逃がしたから無事の筈よ。それと洸汰君に伝えてね。……仇は討ったからって。もう悪夢を見る必要は無いからって」

 

私はそれだけを告げると取り押さえていて身動きが出来ない二人を置いて残っているヴィラン連合のヴィラン達を狙う為に移動する。

 

~別視点side~

 

マンダレイと虎はマグネとスピナーを取り押さえたがその間にジルが別の獲物を探しに行ってしまった事を受け、マンダレイが個性、テレパスで相沢や他の雄英生達にすぐに伝達した。

 

《皆!!!切り裂きジャックが現れたわ!下手に刺激を与えず当初の目的に沿って行動して!!良いわね!間違っても彼女の元に向かっては駄目よ!!特にA組!!!》

 

マンダレイ達はジルの事情を把握しており、自主退学として処理された元A組であり殺された母親の復讐と法では裁かれない悪を殺す殺人鬼とも聞いているし、ニュースでも嫌と言う程に見た。

 

ヴィラン連合によるUSJの襲撃や切り裂きジャックによる雄英体育祭の議員暗殺劇からは慎重に慎重を重ねて此処が選ばれていたがヴィラン連合の襲撃によってマンダレイは此処まで来られてしまった以上はやむ終えないとし、ジルの到来を伝えた。

 

いずれにしても何処かで接触してしまう可能性がある……A組がジルの元に行ってしまわない事を祈りながらも洸汰の事をマンダレイは考えた。

 

「何で洸汰の事を知っていたのかしら?それにマスキュラーを殺したの?あの子が?」

 

「分からん……もしかしたらとうの昔に来ていた可能性がある……それがヴィラン連合の襲撃直前か、それを見越して潜伏していたのか。いずれにしてもA組が彼女に接触しようと思わなければ良いが……話が本当ならマスキュラーはジャックと戦闘の際に既に殺害されたと言う事になるな」

 

マスキュラーが殺された事に驚きつつもマンダレイはジルが襲撃前に現地入りしていた可能性がある事を考えればマタタビ荘にも立ち寄っている可能性があり、そこで何度も接触している事も考えられた。

 

でなければ彼女が洸汰の事を知り、尚且つ案じるなんてしない。

 

「私達は何時から彼女の接近を許していたの……?」

 

マンダレイは殺人鬼が容易に近づき、尚且つ潜伏していた事実に困惑と恐怖を覚えながらも確保したスピナーを逃がさない様にしつつ他の生徒や連絡の無いラグドールの安否を確かめなければとだけ考えた。

 

~side終了~



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ヴィラン狩りの夜 ~後編~

私が獲物を探して駆け出す中、私はヴィランとの戦闘が激化している事を肌で感じながら木々を掻き分けて忙しいでいると麗日さんと梅雨ちゃんが同じ高校生位の趣味の悪そうなマスクをした女の子と対峙している。

 

女の子の手には刀身の短いナイフがあり、麗日さんが血が出ている左腕を押さえている姿からあの女の子が襲ったと判断し、女の子に向けて踊り出ると、ナイフを振るう。

 

女の子は私の接近に気付き、ナイフを避けて大きく後退するとマスク越しでも分かる程の笑みを浮かべた。

 

「あッ!ジャク様だ!やっと会えて嬉しいです!」

 

「霧先さん!?」

 

「もう此処まで来たのね……」

 

三人は各々の反応を見せるけど私はそれよりも麗日さんを傷付けたヴィランを私は許さない。

 

「……貴方もヴィラン連合なの?同い歳に見えるけど?」

 

「トガです!トガヒミコ!」

 

「……トガヒミコ。貴方は何人の人を殺したの?テレビで見た連続失血事件……貴方でしょ?」

 

「そうです!好きな人がいますよね!そしてその人みたいになりたいって思ってしまいますよね!」

 

「(こいつ……!)」

 

『狂ってやがるな……こんな奴、俺でも見た事がねぇぞ』

 

殺人鬼の私やアーサーすら凍りつく様な寒気をトガヒミコから感じる中、トガヒミコは構わず続けてくる。

 

「好きな人と同じになりたいですよね!当然ですよね!同じ物を身に付けちゃったりしますよね!でも、だんだん満足出来なくなっちゃいますよね!その人そのものになりたくなっちゃいますよね!しょうがないですよね!ジャク様はあんまりボロボロじゃありませんがジャク様から漂う血の香りが濃くてとても良い香りで大好きです!だから……」

 

トガヒミコはナイフを構えて私に微笑んできた。

 

「だから!ジャク様!!刺して良いですか!!血をチウチウ吸って良いですか!!」

 

「生憎だけど……流石にそんは趣味は無い!!」

 

私はそう叫ぶとナイフを投擲し、トガヒミコはそれを軽く避けて私に急接近してナイフを突き出してきた。

 

私は突き出されたナイフを避けると横薙ぎに振るい、トガヒミコはそれを一歩退いてからナイフを縦に振るってくるのを私はナイフで受け流して突くも頬を掠めて終わる。

 

「戦い慣れてる……」

 

「あはは!少し当たっちゃいました!」

 

私は決定打が与えにくいトガヒミコにどう攻撃するか考えていると麗日さんと梅雨ちゃんの二人はまだいたのだ。

 

「何やってるの!早く逃げなさい!!」

 

「で、でも!」

 

「早く!!」

 

「あれれ?もしかして……あの子達を狙えば刺しやすくなります?」

 

最悪な事にトガヒミコが二人に注意を向けてしまった。

 

トガヒミコは背中から何かを取ると注射器の様な太い針が出てきた。

 

「この機械は刺すだけでチウチウするそうでお仕事が大変捗るとの事でした。貴方のお友達を刺しますね」

 

トガヒミコはそう言って駆け出し、二人に向かって行ってしまう。

 

「だから逃げろって言ったのよ!!」

 

私はそう叫びながら持っていたナイフを投擲してトガヒミコを狙うけどそれよりも前に接近を見て麗日さんを投げて逃がした梅雨ちゃんを狙ってナイフを振るい、舌を軽く切った。

 

投擲したナイフはトガヒミコの左肩に当たったけどトガヒミコは痛がる様子も顔を歪める様子もなく……笑っている。

 

それに私の右腕にあの注射器の機械が刺さっている……いつの間に。

 

私は少し血を取られたけど注射器の後ろに延びてるチューブを切り落としてから注射器を抜くと投げ捨てた。

 

「やっぱり刺しやすかったですね!私も痛いですがジャク様の血を貰えました!」

 

トガヒミコは嬉しそうにしながらピョンピョンと飛んで喜ぶ姿に私は狂ってるとしか思えなかった……いや、私も見方によっては狂ってるのか。

 

「お願いだから麗日さん、梅雨ちゃん。逃げなさい。多分、貴方達は身を守る為に戦闘許可を貰ってるでしょ?相沢先生がこの事態で身を守る術を与えないなんてあり得ない。それで身を守って逃げて」

 

「それだと霧先さんが!」

 

「……お茶子ちゃん。今は逃げましょう。私達は確かに戦闘許可を与えられているわ。でも、それは身を守る為に許されたの。それに此処で戦ってもジルちゃんの邪魔にしかならないわ」

 

「でも!それだと殺人を見逃すって事になるよ!」

 

「今の私達に彼女達に勝てるお茶子ちゃん?確かにこれ以上、ジルちゃんに人を殺して欲しくない。でも、だからと言って私達がこれ以上、留まれば彼女の邪魔になるだけじゃなくて私達も危ないって事になる……さっきも見たでしょ?トガヒミコって言う子がジルちゃんの隙を作る為に私達を襲ってきたのを」

 

梅雨ちゃんの説得に麗日さんは迷いを見せる中、トガヒミコは左肩に刺さったナイフを引き抜くとうっとりした様子で私のナイフを眺めている。

 

「ジャク様のナイフだぁ……私の血が垂れて綺麗だねぇ!私には少し大振りですが貰っちゃいますね」

 

「好きにしたら。生きていたらだけど」

 

「死ぬのは嫌です。ですがもっと貴方とお話したいですね!」

 

トガヒミコはそう言って駆け出し、私のナイフを片手に突っ込んで来ようとしてきた時、そこに麗日さんが駆けて来た。

 

「もう止めて!!」

 

「馬鹿!!そんな闇雲に来るのは!!」

 

麗日さんが接近したのを見たトガヒミコが私のナイフで突き殺そうとした。

 

でも、それを避けた麗日さんが見事な近接格闘術でトガヒミコの腕を掴み、押さえると地面に叩きつけた。

 

「うわ、すご……」

 

『彼奴の職場体験は何処だったんだ?』

 

「いや、知らない」 

 

麗日さんが見せた意外な技に私は驚いていると麗日さんはトガヒミコを押さえながら私を見てくる。

 

「お願いだから……人殺しをしないで……!」

 

「それは出来ない相談ね。悪は全て根絶やしにするその時まで私は殺人鬼を止めない。それに母さんの仇もまだ取れてない」

 

「復讐をしたって誰も生き返らないわ」

 

私の言葉に梅雨ちゃんがもっともな事を言ってきた。

 

確かに復讐したってもう誰も生き返らない……でも、残された者の気持ちはどうなると言うの?

 

大切な者を奪った奴がのうのうと生きてヘラヘラ笑っていたら?

 

私は……私はそんなの許せない!

 

「そんな事は分かっているわよ……!でも、私はそれでも復讐を果たす。例え私が永遠に殺人鬼として語られても構わない。復讐を成し、犯罪の無い理想の世界を実現出来るのなら私は……悪でも構わない」

 

「そんなの……そんなの貴方までいなくなるって言うのと同じだよ!!」

 

麗日の言う通り、私の理想が叶うと事は私も悪として裁かれて潰えたと言う事になる……悪が存在しない世界とはそう言う事なのだから当然よね。

 

「その覚悟は私にはある。責任を丸投げして全てを終わらせられない。貴方だってヒーローとしての責任を捨てて逃げなかったでしょ?」

 

麗日さんは逃げようと思えば何時でも逃げれた。

 

でも、私が交戦を続けようとする事を止める為に、梅雨ちゃんを助ける為に彼女は危険も省みずにトガヒミコを取り押さえた。

 

これは彼女は無自覚だとしてもヒーローとしての責任を持って対処した行為だとも言えるし、彼女の優しさからも来ていると思う。

 

「責任と言うのは辛いわね……ヒーローも殺人鬼も。行動一つ々に責任が伴う。私は責任から逃げるつもりはない。私がいつか裁かれると言うのなら潔く、裁きを受けるつもりよ。まだ捕まるつもりはないけどね」

 

私は二人にそう言い終わった時、トガヒミコが麗日さんの足にあの注射器を突き刺していた。

 

チューブから伝っていく血は麗日さんの物。

 

どんな個性があるか分からないトガヒミコに私はナイフを手に向かっていく。

 

「トガヒミコ!!」

 

「エッ!?ちょっと待って!?」

 

「お仕事が一つ出来ました。あと、麗日さん。邪魔です」

 

私が向かってくる事に戸惑いを見せてしまっま麗日さんの隙を突いてトガヒミコは抜け出すとすぐに距離を取るとすぐにナイフで切り掛かってきた。

 

一進一退のナイフでの戦いは激しさを増した。

 

私の投擲したナイフを器用に使いつつ持参していた小型のナイフを投げつけてくるトガヒミコに対して私は一瞬の隙を突きながら少しずつナイフで切り合い、投擲するを繰り返す。

 

「アッハハ!楽しいねぇ!」

 

「いい加減しつこいのよ!二人を散々に傷付けて!!」

 

「もっとお話ししましょう!殺し合いましょう!血を見せ合いましょう!!」

 

「黙りなさい!この、サイコパス!!」

 

そうしている内にトガヒミコが姿勢を崩した所で私がナイフでトドメを刺そうとした時、私とトガヒミコの間に氷の壁が出来た。

 

「ッ!?轟君ね……」

 

「もうよせ霧先」

 

「霧先!此処にいたのか!」

 

「霧先さん!?それに麗日さんに蛙水さんも!」

 

「障子ちゃん。皆……!」

 

そこには轟君だけじゃなく、障子君や出久までいる。

 

数が一気に形勢逆転した所で私は舌打ちするとトガヒミコは素早く森の深い方へ駆け出した。

 

「人増えたので殺されるのは嫌だから。バイバイ。またねジャク様……素敵……」

 

逃げ去ろうとしているトガヒミコは最後に何処か見ていた様な気がした。

 

でも、私は今それを気にしている暇は無い。

 

「邪魔しないでよね本当に。私も行くわ」

 

「霧先さん!」

 

私も森の深い方へ駆け出して紛れ込むとそのまま離れた。

______

____

__

 

それから私は見逃したり、逃がしたりしてしまったけど拘束された黒の学生服を着た子がいた。

 

顔を力一杯に殴られたのか、かなり腫れているけど同情をするつもりはない。

 

今は目を覚ましていて私を見るなり、怯えだした。

 

「た、助けて!助けて!!殺される!!誰か!!お母さん!!お父さん!!誰でも良いから助けて!!!もうヴィランなんて止めるから!!!」

 

「人生を棒に振ったわね……さよなら。来世ではなく、地獄へ行く事を願って」

 

私はそう言ってナイフを心臓に振り下ろすと痛みのあまり叫び、冠絶するヴィランはやがて死んだ。

 

「3人目……逃げた先にいたベルトを含めれば最低でもヴィランは6人以上……狩りがいのある夜ね」

 

私はこのヴィランの他にも伸びてたベルトのヴィランも殺しており、これでマスキュラーを含めれば三人目となる。

 

それでもトガヒミコ、スピナー、オカマを含めれば経験豊富なヴィランがかなりの人数で投入されたと言う事になる。

 

仲間が危ないけど同時に長年、逃げ続けていたヴィランを殺す絶好の機会。

 

逃すわけにはいかない。

 

「それにしても伸びてたり、拘束されてたりされてるわね?」

 

『それだけ強くなってんだよ彼奴らは。いや、今回はB組も入れてやらないとな?』

 

「そうね……」

 

私は歩き出そうとした時、死んだヴィランから声が響いた。

 

《開闢行動隊!目標回収達成だ!短い間だったがこれにて幕引き!!予定通りこの通信後、五分以内に回収地点へ向え!》

 

それは通信機の類いによる連絡でヴィラン連合が何かしらを回収して逃げようとしていた。

 

『聞いたか?』

 

「えぇ、聞いたわ。急がないと……待って。アーサー。彼奴ら何を回収したのかな?」

 

『……物ならこんな所に何がある?人しかいない。……おいおい、まさか!』

 

「私の馬鹿!何で尋問しなかったの!!」

 

大失態だった。

 

ヴィラン連合のヴィランを始末出来ると考え、行動に焦りを覚えて尋問もせずに殺し回ってしまった。

 

奴らの回収物は人……つまり、生徒か教師、プッシーキャッツの誰かと言う事。

 

回収が完了して逃げると言う事は誰かが捕まったのだ。

 

『悲観している場合か!!行け!!』

 

「分かってるわよ!!」

 

追い付ける以前に見つけられるか分からない……あれ、あれは……何よあの化け物。

 

チェーンソーやらドリルならハンマーやらくっ付けた脳無が走っている……いや、それより最悪な事が!

 

「八百万さん!?と……泡瀬さん!?」

 

「何だその次いでみたいな言い方!?いや、それよりも助けてくれ!!」

 

追われていたのはB組の泡潮さんも頭から血を流して縫っていた髪がほどけてしまっている八百万さんだった。

 

私は二人を助ける為にナイフを構えて脳無と対峙した時、脳無は追撃を止めてピタリと止まるとそのまま引き返してしまった。

 

「帰った……?いや、それよりも八百万さん!!」

 

「霧先……さん……?」

 

「痛い思いをしている所だけどごめん!お願いがあるの!発信器を作って!」

 

「今の貴方のお願いは……聞きたくありませんが……」

 

八百万さんはそう言いながらも発信器を作ってくれると次に泡潮さんに渡す。

 

「これを彼奴に付けて!」

 

「な、何が何だかしらねぇがやってやるよ!!」

 

そう言って泡潮さんは個性、溶接で発信器を付けてくれた。

 

これで万が一にでも取り逃がしてもオールマイト達がすぐに追跡してくれる筈。

 

後は……

 

「ありがとう。私はあの脳無を追うから泡潮さん。八百万さんをお願いね」

 

「何が何だか知らねぇが……無理すんなよ!泣くのはA組なんだからな!」

 

泡潮さんはそう言って八百万さんを抱えて行ってしまうと私は脳無を追跡した。

 

役目を終えた帰還するなら必ず私を回収地点へ導いてくれる。

 

必ず奴等の目的を潰す!

 

「わざわざ追う事も無いよ切り裂きジャック(ジャック・ザ・リッパー)。僕が招くからね」

 

「ッ!?」

 

私は突然、聞こえたその声に驚いた時、私を包み込む様に黒い靄が現れた。

 

「この個性……黒霧!!」

 

「手荒ですがご容赦ください。貴方を先生の元へとお連れします」

 

黒霧はそう言って私を完全に包み込んでしまうとそのまま私を何処かへと連れ去った。



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闇に潜む巨悪

~別視点side~

 

雄英の林間合宿の事件は瞬く間に知れ渡った。

 

ヴィラン連合の開闢行動隊はプロヒーローを一人を重症に追い込み、一人は大量の血痕を遺して行方不明となった。

 

生徒も40名の内、ガスで意識不明が15名、重・軽傷者11名と無傷で済んだ者は13名、行方不明1名と悲惨な結果となった。

 

更に切り裂きジャック(ジャック・ザ・リッパー)も現れ、マスキュラー、マスタード、ムーンフィッシュと言ったヴィラン達は殺害された状態で発見され、切り裂きジャック(ジャック・ザ・リッパー)の犯行だと警察は判断し、行方を追っている。

 

雄英ではマスコミが押し寄せる中、職員会議を開いていた。

 

「ヴィランとの戦闘に備える為の合宿で襲来……恥を承知でのたまおう。ヴィラン活性化の恐れ……と言う我々の認識が甘すぎた。奴等は既に戦争を始めていた。ヒーロー社会を壊す戦争をさ。そして……切り裂きジャックもまた、ヴィラン連合との戦争を始めていた」

 

「認識出来ていたとしても防げていたかどうか……これ程に執拗で矢継ぎ早な展開……オールマイト以降、組織だった犯罪はほぼ淘汰されてましたからね……それに組織化と言えばジャック……ジルの事もあります」

 

「そうだよな……おかしな話だよ。単独犯の彼奴が何で林間合宿の情報を掴んでいたのか気になるよな?」

 

「共犯者……彼女には強力な後ろ楯がいるのは確か……その後ろ楯が姿を見せないのであれば打つ手がない。かなり厳重に隠していた情報をリークする程の者はともかく……過去にジャックを助けた者の所在も掴めていない」

 

ジャックをエンデヴァー達から助け出した黒塗りの車の者達は依然として見つかっていない。 

 

車を廃棄したのか個性で隠したのか……判断が出来ない状態だった。

 

「メディアは雄英非難の話題で持ちきりさ。爆豪君を狙ったのは彼の粗暴な面が少なからず周知されていたからだね。もし、彼がヴィランに懐柔されでもしたら教育機関としての雄英は今度こそおしまいだ」

 

雄英は過去にジルが殺人鬼、切り裂きジャック(ジャック・ザ・リッパー)となった事実が明るみとなり、カルト教団であるアズエル教会の壊滅までは冷酷で無差別な殺人鬼として世間に認知されていた。

 

その為、自首退学をしたとはいえ雄英には多くの批判が殺到し、一時期は根津は雄英の教育機関を守る為に校長を辞任する事も考えたがアズエル教会の壊滅後の信者達が語ったジルの活躍が広まった事で首の皮が一枚繋がったのだ。

 

とは言え、雄英体育祭の失態が痛い訳ではないが。

 

「信頼云々で言わせて貰うがよ……今回で決定的になったぜ。いるんだろ内通者。合宿先は教師陣とプッシーキャッツしか知らなかった!怪しいのはこれだけじゃねぇ!ケータイの位置情報なり使えば生徒にだって!」

 

「マイク。止めてよ」

 

「止めてたまるか!洗おうぜ!てってー的に!!」

 

「お前は自分が100%白と言う証拠を出せるのか?ここの者を白だと断言出来るのか?」

 

スナイプの言葉にプレゼントマイクは唸る中、スナイプは続ける。

 

「お互い疑心暗鬼となり、内側から崩壊していく……内通者探しは焦って行うべきじゃない」

 

「少なくとも私は君達を信頼している。その私が白だとも証明しきれない訳だが……取り敢えず学校として行わなければならないのは生徒の安全保証さ。内通者の件も踏まえ……予てより考えていた事があるんだ。それは」

 

《でーんーわーがーーー来た!》

 

「すみません。電話が」

 

「会議中っスよ!電話切っときましょーよ!」

 

「(着信音ダサ……)」

 

会議中になった電話に対応する為に出たオールマイトは自身の無力を嘆きながらも電話に出た。

 

「すまん。何だい?塚内君」

 

《今、二人から調書を取っていたんだが思わぬ進展があったぞ!ヴィラン連合の居場所が突き止められるかもしれない》 

 

それはまさにヒーロー達が反撃の狼煙を挙げる一言だった。

 

~side終了~

 

私が次に目を覚ました時にはそこは何処かの工場で、私は冷静に辺りを見渡す中、私の前に不気味なマスクを着けた男が現れた。

 

「初めましてだね。切り裂きジャック(ジャック・ザ・リッパー)。或いは霧先ジル」

 

「誰なのよあんた?」

 

「僕かい?僕はオールフォーワン。ヴィラン連合を率いている弔の先生みたいなものさ」

 

弔……死柄木弔ね。 

 

彼に師となる人物がいるなんて……驚きね。

 

「君は面白いね。僕が怖くないのかい?」

 

「あんたよりおっかないのが近くにいんのよ」

 

『おい。それ俺か?俺の事か?』

 

何故か焦ってるアーサーをほっておくとオールフォーワンは不適に笑ってきた。

 

「いや、失礼。僕も久しぶりでね。僕を見て、恐れない者はね。そうか……確かに君の中に潜む闇は僕よりも恐ろしいだろうね」

 

「世間話なんて良いから要件は何?」

 

「そうだね……単刀直入に言うと君はもう1つ個性が欲しくないかい?」

 

「……は?」

 

私はオールフォーワンの言っている意味がよく分からなかった。

 

個性をもう1つ手に入れる?

 

そんなの一体どうやるのよ……馬鹿みたいね。

 

「疑問に思っているね。無理もない。僕の個性は個性を与える事が出来てね……君に望む個性を与えようじゃないか」

 

「そんな個性もあるのね……で?何で個性を与えたいの?」

 

「君はこの社会の現状を知っているかい?君の行いが良くも悪くも社会を壊し、闇を暴きつつある。個性社会の闇をね……君も見てきただろ?この社会の腐敗と衰退を」

 

確かに私の行いが良い方向にも悪い方向にも転がっている……この社会は腐っている……人を救うべきヒーローが私欲にまみれ、本当に価値のあるヒーロー達の名誉を汚す。

 

私が殺人鬼として活動してからターゲットにはヒーローも少なくない。

 

「君は間違いなくこの社会を壊し、革命ですら成すだろう。だから君に投資と言うべきかな?君の力を増し、更に暴れて貰いたい」

 

「……くだらない」

 

私がそう吐き捨てるとオールフォーワンは興味深く私を見てくる。

 

「革命?投資?馬鹿みたいね……私はね……お前みたいな悪党を皆殺しにするって決めてんのよ。社会の腐敗と言うならお前も含められてるのよ」

 

「成る程……そうきたか。確かに僕すらも殺す気だね。オールマイトの様に」

 

「へぇ、オールマイトが殺す気でね……まぁ、たしかにあんたみたいのが生きてたら安心出来ないわね。回りも物騒だわ。これって全部が脳無でしょ?」

 

「そうだよ。此処はもう破棄する予定だからもうバレても構わない。オールマイト達、ヒーローが駆け付けてくるからね。君の一手が功を奏したと言う事だ」

 

「バレてたのね。発信器」

 

オールフォーワンの手には発信器があり、明らかにバレていたと言うのが丸分かりだった。

 

それでも発信器は無駄に終わらなかった……と、言いたいけどバレてるならわざわざ此処で交渉したりしない筈よね。

 

「別にオールマイト以外が来ようと敵ではないよ。さて……少し時間が余ったね」

 

「殺してあげましょうか?」

 

「残念だけど僕は君に殺されている余裕は無くてね」

 

オールフォーワンがそう言うと私は睨む中、私は隅を方を見た時、裸で寝かされているプッシーキャッツのラグドールを見つけた。

 

私はラグドールの姿を見て怒りを抱きながらオールフォーワンに聞く。

 

「……何でラグドールが此処にいるの?」

 

「あぁ、彼女か。彼女の個性は便利そうだったからね。貰ってしまったよ。確か……サーチだったか?」

 

『こいつ!与えるだけじゃなく奪う事も出来るのか!』

 

オールフォーワンのその言葉を聞いた時、私はもう我慢が出来なかった。

 

「貴様!!」

 

私がナイフを手に振るうとオールフォーワンは軽々とナイフを指で掴んできたけど今はそんな事で動揺する事はしない。

 

「この社会で個性が何れだけ大事な物なのか知ってるでしょ!!」

 

「そうだね。僕の悪い癖でね。珍しい個性があれば貰いたくなるんだ」

 

息をする様に奪う事に戸惑いが無いこの男……こいつは生かしておけない。

 

私はナイフを一度手放すとナイフを二本手に取るとオールフォーワンに切り付けていく。

 

でも、オールフォーワンは軽々と私の攻撃を受け流して一度も攻撃が通らなかった。

 

「君は強い。しかし、若さ故にその強さを生かしきれていないね」

 

「言ってくれるわね!」

 

「臆さずに向かって来るのは素晴らしい。だが、遊びは終わらせよう」

 

オールフォーワンはそう言って私の顔を掴んでくると勝ち誇った笑い声を響かせた。

 

「君を殺すのは簡単だ。この頭を握り潰すだけ。だが、君の個性に利用価値くらいはあるだろうから貰っておくよ」

 

オールフォーワンはそう言って個性を奪おうとした時、急に風景が闇に変わった。

 

「何だ?」

 

オールフォーワンは驚く中、私の顔を掴んでいた腕が切り飛ばされて私は地面に落ちて咳き込んだ。

 

「ッ!?」

 

オールフォーワンは驚きながら後退りし、私は横を見るとそこには父さんに似た髭面の男がナイフを手にして笑っていた。

 

「おいおい。相棒の孫娘に気安く触れるんじゃねぇよ」

 

「誰だい君は?」 

 

「俺か?俺は……切り裂きジャック(ジャック・ザ・リッパー)だ!!テメェみたいな悪党を殺す男の名だ。地獄に行くまで覚えときな」  

 

切り裂きジャック(ジャック・ザ・リッパー)と名乗った男に私はアーサーとは全く違う姿に戸惑う中、そこへもう一人の気配を感じた。

 

「全く……何やってんだジル」

 

「アーサー!」

 

「遅刻だぞ相棒。後で砂糖とミルクをたっぷり入れた紅茶を所望する!」

 

「それってミルクティーじゃ……?」

 

「言っても無駄だ。あの馬鹿舌には普通の味覚は通じない」

 

「聞こえてんぞお前ら!!」 

 

三人でワイワイ騒ぐ中、オールフォーワンには余裕が無くなりつつある事が私には見えた。

 

「良い観察眼だ娘っ子。此処はある意味では精神世界の様な所だ。つまり、今の奴に個性は使えねぇ」

 

「仕留めるなら今、此処でだ。責任を果たせジル。三代目になるのならな」

 

「……そう。私は責任からは逃げない」

 

私はそう言って一歩踏み出すとオールフォーワンは一歩後退りした。

 

「少し待たないか?」

 

「嫌だ」

 

私はそう言ってまた一歩踏み出すとオールフォーワンはまた一歩後退りした。

 

「少しだけさ……」

 

「お前は苦しめて殺してきた人達の願いを聞いた?」

 

私はまたまた一歩踏み出すとオールフォーワンはまたまた一歩後退りした。

 

「僕は終われないんだ……僕は……!!」

 

オールフォーワンはそう言って後退りした時、彼の足に手が纏わりついた。

 

一本所か複数の手がオールフォーワンの身体を掴み、暗い穴に引き摺り込もうと引っ張っている。

 

「どうやら貴方が遊び感覚で奪ってきた人達が地獄から迎えに来たらしいわね?」

 

「嫌だ……!!」

 

「せめてさ。黒幕らしくカッコ良く死んで欲しいわね。さよならオールフォーワン。地獄で苦しめて殺してきた人々から報いを受けなさい。永遠にね」

 

「嫌だあぁぁぁぁぁぁぁぁッ!!!」

 

私は叫びながら地獄行きを拒絶するオールフォーワンにナイフを突き立てた時、辺り一面の景色が戻っていく。

 

『頑張れよ……ジル』

 

切り裂きジャック(ジャック・ザ・リッパー)を自称した男の声を最後に景色が全て戻った時には私の手には血濡れたナイフが一本。

 

そして、絶望の中で息絶えたであろうオールフォーワンの姿だった。

 

「……終わった?」

 

私はそう呟いた時、突然、工場の壁が崩されるとそこへヒーロー達が雪崩れ込んできた。

 

「ッ!?切り裂きジャック!!」

 

「まさかお前もヴィラン連合の仲間か!?」

 

「違うわよ。それよりラグドールをお願い」

 

「ラグドール!!」

 

私がラグドールの事をお願いするとプッシーキャッツのあの変態のおじさんこと虎がラグドールを抱き抱えた。

 

「ラグドールよ!返事をするのだ!!」

 

「チームメイトか!息はあるのか。良かったな」

 

「しかし……様子が……何をされたのだ……ラグドール!!」

 

「ごめんなさい。ラグドールの個性は奪われた……」

 

「どういう事だジャック!」

 

「今は問答は良い。それよりも脳無の確保を。切り裂きジャック。お前も殺人の容疑で拘束させて貰う」

 

そう指示するのはNo.4ヒーローのベストジーニストね。

 

ベストジーニストの他にも名のあるヒーローがわんさか此処に来ている……厄介だわ。

 

「ジャックの近くに死体があるんだけど!?」

 

「ついさっき殺したから。本当にムカつく奴でね。ラグドールをこんなにしたのもこいつ」

 

「……何があったかは知らないが……ラグドールの仇であっても殺人はどんな理由があろうと容認されない……切り裂きジャック!貴様は法の元に裁かれるべき人間だ!」

 

「そうね。殺人はどんな場合でも悪。私はいつか裁かれると分かってるけど……今じゃない」

 

私はそう言って微笑んで見せると周りのヒーロー達は警戒を露にした時、そこへ最も偉大なヒーローが現れた。

 

「私が君を止めにきた」

 

「オールマイト」

 

オールマイトと私。

 

の交わる事の無い正反対の正義を掲げ合う私達は再び対峙した。



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善の正義、悪の正義

オールマイトは笑っている……でも、眼は全く笑っていない……正に平和の象徴が今、私を捕らえようとしているのが嫌でも分かる威圧感だ。

 

「霧先少女。大人しく投降してくれないか?オールフォーワンを殺害したのは驚いた……しかし、どんな悪人でも正式な場で裁かなくてはならない」

 

「無理ね。正式な場?この男が大人しく牢に入っていてくれるとは思えないわね」

 

「確かにそうだ。だが、それでも法を破る理由にはならない。我々はヒーローだ。君の正義には全く賛同出来ない」

 

「賛同しようがしまいが私は必ず悪を裁く。例え貴方でも邪魔をするなら容赦はしない」

 

私はそう言ってナイフを構えるとオールマイトは身構え、他のヒーローも続こうとした。

 

「ベストジーニスト。霧先少女との戦闘は私一人にやらせてくれないか?」

 

「ッ!?良いのか?」

 

「私はヒーローとして……一人の教師として教え子を正さなければならない。と言う訳だ霧先少女。私と特別授業をしよう」

 

「舐めてるの?確かに私は貴方よりも遥かに弱いけど流石に屈辱よ」

 

「言っただろ?君は私の教え子の一人だ。君を正す為にも私は君と戦い、諭す」

 

「……良いわ。やってやろうじゃない」

 

私は一騎討ちを了承するとオールマイトの雰囲気の重みが増した。

 

「行くぞ……霧先少女!!」

 

オールマイトはそう言って捉えるのが難しい速度で私に迫り、拳の一撃で私を工場の奥に飛ばした。

 

~別視点side~

 

出久、飯田、八百万、切島、轟の五人は拐われた勝己を助けるべく独断で神奈川県の横浜市、神野区にやって来ていた。

 

だが、そこには勝己はおらずいたのは"オールフォーワンを殺した"ジルだった。

 

「(ジルが……オールフォーワンを殺した?)」

 

オールマイトから継承したOFAが彼に向けられず一人の殺人鬼の少女によって呆気なく幕を降ろした。

 

その事実に出久は信じられない思いと同時にジルがもはや手の届かない所にいると言う現実に打ちのめされる感覚を覚えた。

 

「何なんだよ……どうして此処まで出来るんだよジル……!」

 

「……霧先さんはヴィランだ」

 

「飯田さん!」

 

「分かっている!分かっているが……それが事実なんだ……」

 

「飯田の言う通りだ。彼奴はもう……俺達の所には戻らない。帰れないんだ。彼奴が人を殺した以上は」

 

もう帰ってくる事はない旧友に出久達は項垂れながらもオールマイトと戦うジルを見守るしかなかった。

 

「(そう言えばオールマイトの制限時間は大丈夫なのかな……?)」

 

出久は不安に駆られる中、オールマイトが工場奥へと飛び込んでいった。

 

~side終了~

 

オールマイトの先制攻撃に私は何とか耐えるとすぐに建物の影に紛れてオールマイトの視界から外れた。

 

私は壁をよじ登って天井で待ち伏せしているとオールマイトがやって来て辺りを見渡した。

 

「かくれんぼのつもりか?霧先少女!」

 

オールマイトのその言葉が終わると同時に私は飛び降りるとオールマイトの肩にナイフを突き立てた。

 

「貴方相手だとそうせざるえないのよ」

 

「ッ!?」

 

「これくらいだったら死にはしないでしょ?No.1ヒーローさん」

 

「本当に容赦無いな!!」

 

オールマイトはそう言って私を掴み、投げれば私はまた影に紛れて攻撃の機会を伺う。

 

「霧先少女!急がば回れと言う言葉は知っているな!」

 

「危なくて短い道よりも安全で長い道を通ったほうが速く着くと言う意味ですよね!」

 

「そうだ!そして物事は慌てずに着実に進めることが結果として上手くいくという意味でもある!それが我々のやり方だ!君はヴィランを殺す事で裁こうとするがそうした事で社会に大きな混乱が起きた!それが君の望みか!!」

 

オールマイトはそう言いながら拳を振るうけどハズレで私は一瞬の隙を突いて背中からナイフで思いっきり切り裂いた。

 

「ッ!?Sitts(シッツ)!!」

 

「望んでない!でも、そうでもしないと苦しまなくても良い、死ななくても良い人が死ぬ!!もしかしたら貴方の大切な人がそれで良いの!!」

 

私はナイフで突き立てたようとすればオールマイトは私の腕を掴んできた。

 

「良い訳ではない!!だが、我々は苦しまなければならない!もしかしたら我々の大切な誰かを失うかも知れない!だが、それでも我々は法を蔑ろにしてはならない!!私は!我々はヒーローなのだから!!君だってそうだっただろ!!」

 

「もう失いたくないのよ!!」

 

私は腕を離させる為にオールマイトの横腹に蹴りを入れた時、オールマイトは苦しげな表情を見せ、吐血した。

 

そんなつもりじゃなかった……吐血させる様な怪我はさせていなかった筈だった……

 

私はその姿を見て固まっていると落ち着きを取り戻したオールマイトは身構えてきた。

 

「確かに失いたくないよな……私も同じだ。私もお師匠を亡くした。君が殺したオールフォーワンとの戦いでね」

 

オールマイトに師と呼べる人がいるなんて初耳だった。

 

確かに最初からヒーローで強いなんてあり得ない話だけどやはりいるなんて聞いた事が無かった。

 

「恨みはしたさ……殺してやりたいとも思ったさ……だが……憎しみに負けて。衝動に任せて。復讐を果たした所でお師匠が目指し、望んだ世界(もの)にはならないし、叱られてしまうからね」

 

オールマイトはそう言いながら必殺技を出そうとしている……逃げなきゃ……でも、動けない……

 

「だから……君を必ず止める(救う)!!平和の象徴としてでなく!教え子を叱る教師(ヒーロー)として!!」

 

まずい……このままだと……!

 

UNITED STATES OF SMASH(ユナイテッド ステイツ オブ スマッシュ)!!!

 

負ける……

 

オールマイトが必殺技を放った時、工場は吹き飛んでしまい、残されたのは工場の荒れた土地と何故か痩せこけたオールマイトそして……意識が飛びそうになっている私だった。

 

~別視点side~

 

オールマイトと切り裂きジャック(ジャック・ザ・リッパー)の戦いが行われていると言う話は瞬く間に世間に広がっていた。

 

報道関係の人間や野次馬が集まり、遠くから見守る中で爆発し、壊れる工場を見守る中、工場が吹き飛んだ時……そこにいたのは骸骨の様な容貌のオールマイトと負傷して倒れた切り裂きジャック(ジャック・ザ・リッパー)だった。

 

「な、なんだ……あの姿は……?」

 

「オールマイト……?」

 

「それよりも切り裂きジャック(ジャック・ザ・リッパー)が倒された……?」

 

「な、何が何だか分からねぇけどやっぱり、オールマイト強えぇッ!」

 

「ジャック様が……!」

 

野次馬達は思い々に言う中、報道関係の者達は二人にカメラを向けている。

 

「ご覧下さい!たった今!変わり果てたオールマイトが切り裂きジャック(ジャック・ザ・リッパー)を下し、勝利しました!!これで残忍な私刑活動は止むのか!」

 

「我々は信じられない思いです!オールマイトの姿は正に骸骨と言えます!しかし、ジャックを倒したのは他ならぬオールマイトであるのは間違いありません!」

 

「私としては切り裂きジャック(ジャック・ザ・リッパー)が倒れた事が残念でありません。言ってはいけないのは分かっていますが……確かに彼女は正義の人間でした」

 

報道関係者のリポーター達は思い々に言う中で出久達もこの戦いの結果を見て複雑な気持ちを抱いた。

 

「オールマイトが……!」

 

「それよりも霧先さんは!?」

 

「……大丈夫ですわ。確かにオールマイトの一撃を受けていますが息はしている様に見えますわ」

 

「これが彼奴の殺人鬼としての終り方か……」

 

「……オールマイト」

 

変わり果てた平和の象徴に敗れた若き恐怖の象徴の姿に出久達はやるせない気持ちのまま帰宅しようと足を動かした時。

 

「まだだあぁぁぁぁぁぁッ!!!」

 

再び立ち上がったのだ……恐怖の象徴が。

 

~side終了~

 

私は身体中の痛みを我慢しながら立ち上がると額から血が流れているのも気にする暇もなくオールマイトを睨み付けた。

 

私の手には折れてしまったナイフ……これで十分よ。

 

「霧先少女……!」

 

「私は……まだ……負けていない……!」

 

責任を果たす……私の胸にはそれだけが埋められている……オールマイト一人に負ける訳にはいかない!

 

考える暇も無く、私は折れたナイフを手に駆け出すとオールマイトに向かって折れた刃先を突き立てようとする。

 

あれ……オールマイトって悪人だったかしら?

 

私はその一瞬の疑問を抱くけど足が止まらないままオールマイトを突き殺そうとした時、私を押し倒された形で地面を転がった。

 

「駄目だジル!それだけは駄目だ!!」

 

「出久……!?何で此処にいるのよ!!」

 

「僕は……分かっていたけど助けたくて……ごめん……でも、駄目だ!オールマイトを殺しちゃ駄目だ!!君は殺人犯だけど良い人達は殺さなかったじゃないか!!なのにオールマイトを殺したら本当に冷酷な殺人鬼になっちゃうよ!!!」

 

出久の言葉で私は正気に戻った時、変わり果てたオールマイトが目の前にいて私に手を差し伸べていた。

 

「もう帰ろう……君には帰るべき場所がまだ残っている筈だ。罪を償ってまた皆で笑い合おうじゃないか」

 

今の私にその言葉は狡いとしか言えなかった……帰りたかった……また皆で笑い合いたかった……

 

"もう二度と戻れない"

 

マスキュラーの言葉が私に響く……

 

そう……この手は人殺しの手……血で染め上げられてしまった物……

 

"責任を果たせ"

 

アーサーの言葉が私に響く……

 

人を殺した以上は戻れない……悪人とは言え死んでいった者達の命を無駄にしない為にも……恨み言を言われようと私が成した事で浮かばれる様にする為にも…… 

 

私は戻れない!

 

「私は……戻らない」

 

「霧先少女!」

 

「ジル!」

 

「責任を果たさないと」

 

「駄目だ!君がその責任を果たし続ければ本当に戻れなくなる!」

 

「駄目じゃない!私は……人殺しだから……少しでも奪った命を無駄にしない為にも……私は……責任を果たす」

 

私がそう言い終わった時、私の襟が引っ張られる形で引き摺られた。

 

私は引っ張られる方向を見るとそこには綾乃のゲートがあって私を通らせようとしているのが分かった。

 

「ジル!!」

 

でも、私の足を掴んで離さない出久がそこにいた。

 

お互いに引っ張るから痛いのなんのって……ちょっと本当に止めなさい二人とも!

 

「止めなさい!」

 

「止めないよ!」

 

「いや、本当に止めて!普通に痛いから!」

 

「ご、ごめん!でも、離したら君が逃げるから!」

 

お互いに平行線の中、私は困り果てていた時、ゲートから何か出た。

 

それは……銃口だった。

 

「出久!今すぐに離して!!」

 

「え……?」

 

私を助ける為に出久が撃たれる。

 

綾乃か緋色のどちらの銃口か分からないけど最悪のシナリオが出た時。

 

「緑谷少年!!!」

 

オールマイトが銃口の存在に気付き、出久を庇って押し退けた瞬間……

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

発砲された

 



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悩み、苦しむ

私が銃声を聴きながらゲートを通り抜けた時、すぐに二人を見ると綾乃は唖然としており、緋色は……息を荒くしてその手に拳銃を手にしていた。

 

「緋色……何で……」

 

「仕方なかった……銃口を向ければ出久が離れると思って……オールマイトを撃つつもりはなかった!!」 

 

私がテレビを見るとそこには血を流して倒れたオールマイトが出久やベストジーニスト、後から来たのかエンデヴァーやあの時の老人のヒーローが駆け寄っており、オールマイトの周り意外の場は静まり返っていた。

 

何も言わない、動きもしないオールマイトを見た私は緋色を見たら私を怯えた眼で見てくる……当然よね……私を助ける為とは言え……オールマイトを撃った。

 

「出ていって……」

 

「ジル……僕は!」

 

「出ていけ!!」

 

「ジャック様!」

 

「……一人に……なりたいの……」

 

私はそう言ってソファーに座る。

 

今は喋りたくないし人にも会いたくない……その内に早足で帰って行った緋色とそれを追い掛ける綾乃。

 

私は一人になった時……アーサーが声を掛けてきた。

 

『ジル。あんな言い方はないだろ?』

 

「……分かってる。分かってるけどオールマイトが……私のせいで……」

 

『お前のせいじゃない』

 

「じゃあ、オールマイトの撃たれた原因は何なの?私が彼処で負けたからよ!!そうじゃなかったら私を助ける為に緋色は銃なんて使わなかった!!そうでしょう!!!」

 

私はアーサーに当たる様に言うとアーサーに溜め息を吐かれた。

 

『もう良い。そうやってウジウジしてろ。じっとしてても答えなんて出てこねぇからな。たく……』

 

アーサーはそう言ってそっぽを向き、私は今は何も考えたくなくてうつ向き続けるしかなかった。

 

~別視点side~

 

対個性最高警備特殊拘置所、通称"タルタロス"

 

本土から約5km離れた沖に建造された収容施設。便宜上拘置所とされているが、実態は国民の安全を著しく脅かす、または脅かした人物を厳重に禁固し監視下に置くものであり、刑の確定・未確定を問わず様々な”個性”の持ち主が収容されている。

 

居房は6つに区分されており、”個性”の危険性や事件の重大性によって振り分けられている。危険性の高い人物程、地下深くに収監される。

 

一度はいれば生きて出ることは叶わないといわれており、”個性”社会の闇とも呼ばれている。

 

そんなタルタロスの厳重警戒な面会室では囚人服を着た女とジャスティスが面会していた。

 

「どの面を下げて面会に来たんだ……ジャスティス?」

 

「いや~……あれだ。その……だな……」

 

「打美一人すらまともに見れない奴がどの面を下げて来たって言ってるんだよ!このボケ!!」

 

「いや、本当にすまなかった!!だからな!落ち着かないと撃たれるぞ!ナガン!」

 

「ちッ!」

 

女ことレディ・ナガンは舌打ちした後、ジャスティスを睨む中、ジャスティスは個性への対応能力の高い強化ガラス越しとは言えかなりビビった面持ちでレディ・ナガンを見る。

 

「それがな……その……いなくなった」

 

「誰がだ?」

 

「……打美」

 

「よし。お前をぶっ殺す」

 

「待て待て待て!?だから撃たれるって!?」

 

「こんなやり取りを繰り返していたら警戒のケすらなくなるわ!!見てみろ!あの看守、欠伸をしてたぞ!!」

 

実際の所、レディ・ナガンとジャスティスはたまに面会する中で時々、ジャスティスが預かった打美ことレディ・クイックの状態を聞かせる為にジャスティスが訪れては毎回の様にレディ・ナガンを怒らせたりする。

 

このやり取りが毎回の様にする為に厳重警戒の筈のタルタロスの看守がこの面会だけは少し気を緩めてしまう程だ。

 

「打美は何処に行ったんだ!!」

 

「分からねぇ……」

 

「あぁ?分からねぇだ?」

 

「マジだ。ジャッジ……秋人がやられてからいなくなった。実は秋人に打美の尾行をさせていた……何もないと信じて送ったが結果は秋人が死んで打美が行方を眩ませた」

 

「……打美が黒だって言うのか?」

 

「そんな事……思いたくねぇ。打美がそんな事をするとは思いたくない。だが……いなくなった。もしかしたら拐われた可能性もあるが殺害した可能性もある……それだけだ」

 

レディ・ナガンはそれを聞いて拳を握りしめた時、ジャスティスから予想外の提案を受けた。

 

「取り敢えず出るか?」

 

「は?」

 

「いや、タルタロスから出るかって?」

 

突然の言葉にレディ・ナガンが固まった後、立ち直ってから少し考え込んだ後、ジャスティスに呆れた視線を向けた。

 

「……馬鹿かお前?」

 

「いや大マジだ!!……あの公安のババァから了承を取れた。仕事が上手くいけばお前は無罪放免で自由の身だ。俺の追っている事件の解決にはお前の力が必要だし、何より打美が拐われた可能性があるなら見つけ出してやらねぇと。……力を貸してくれ。ナガン」

 

「……あのババァがね。何か裏でもあるんじゃないのか?」

 

二人が言う公安のババァとは現ヒーロー公安委員会の会長の事を言っており、レディ・ナガンが公安直属のヒーローにスカウトされる際にもその場にいた。

 

その為、暗部時代のレディ・ナガンの事もよく知っている。

 

「お前が公安や今の社会に不審を覚えてるのは無理もないが……俺とあのババァはお前に嘘はつかねぇ。命だって賭ける。万が一、裏切ったら俺とババァの頭を撃ち抜いても構わねぇ。因みに嘘ついたら頭を撃ち抜かれるのはババァも了承済みだ」

 

レディ・ナガンは頭をかきむしりながら苛立ちを見せた後、ジャスティスに顔を近づけて結論を言う。

 

「……一度だけだぞ。それ以上は絶対に関わらねぇからな」

 

「よし!手続きが終わったら迎えに行くぜ!久々のシャバだ!楽しみにしとけよ!」

 

ジャスティスはそう言って面会室から出ていくとレディ・ナガンは軽く溜め息を吐いた後、看守に連れられながら若い頃に見た嵌められて全てに絶望した表情のジャスティスを思い出した。

 

「よくもまぁ、立ち直ったもんだよ。私じゃ駄目だった癖にな」

 

「何か言ったか?」

 

「忘れろ」

 

看守にそう悪態をつきながらレディ・ナガンは自分の独房へと戻って行った。

 

一方、その打美ことレディ・クイックはある場所に訪れていた。

 

「ジャッジを始末出来たのは大きいですね。レディ・クイック」

 

「しかし、ジャスティスの元にはいられなくなりました。これからは監視は出来ないでしょう」

 

「いいえ。監視はもう良い。だけど……邪魔ね。奴に追われて数年。何度と邪魔されかけた。ジャックが暴れた事で我々、グリーン・メイスンは力を付けれた。そろそろ目障りですし……永遠の眠りと言う引退をして貰いましょう」

 

「……しかし、ジャスティスの個性は厄介です」

 

「その心配はありません。これをお使いなさい」

 

その人物はそう言ってある物をレディ・クイックに手渡した。

 

「個性消失弾。ちょっとした伝手で手に入れました。と言っても効果時間がある劣化品……ですが奴の個性を封じる間に始末すれば済む話です」

 

その人物はそう言って笑い、レディ・クイックは個性消失弾を手に見つめる。

 

その見つめる瞳には何の光も宿さない冷酷な闇が広がる。

 

~side終了~

 

あの後のニュースでオールマイトは駆け付けたリカバリーガールの懸命な治療によって奇跡的に助かったそうだ。

 

だけどもう、オールマイトは以前の様な活動は出来ないとニュースで告げられた。

 

ヴィラン連合は拐われていたのは勝己で、何とか奪回したものの肝心のヴィラン連合は何処かに転移させられて消息不明となったそうだ。

 

オールフォーワンと言う巨悪を殺し、勝己は助かり、オールマイトは活動こそ出来ないけど命は助かった……でも、何かが足りなかった。

 

考えても分からない……

 

私はじっとしているのも嫌になって夜の散歩がてらにフラフラと出歩いていた。

 

夏の夜風が心地い中、私は歩いていると前から人が数人歩いて来るのが見え、私は気にも止めずに通り過ぎようとした時、突然、獣の爪の様な腕が振るわれ、私は避けるといつの間にか取り囲まれていた。

 

五人とか十人とかの規模じゃない……もっと沢山に囲まれてる。

 

「何よ。貴方達は?」

 

「悪いが死んでくれよジャック」

 

「出来れば大人しくしてな。すぐに済ませてやる」

 

辺りを埋め尽くす程の人数に私は……はっきり言ってイライラしてたから丁度良いと思った。

 

「分かった……死ね」

 

「……は?」

 

私が放った一閃は通り魔の集団の一人を切り裂くと赤い血が飛び散り、私は返り血を受けると不適に微笑んで見せた。

 

「貴方達が何処の刺客か……吐いて貰うわよ?」

 

私はそう言って強く蹴り出すと刺客達を切り裂いて行った。

_______

____

__

 

私は無数の刺客達を一掃すると生き残ったリーダーらしき奴をボコボコに殴って胸ぐらを掴んだ後、ナイフを首元に突きつけた。

 

「さぁ、白状しなさい!誰の刺客よ!」

 

「し、知らねぇ!俺達は指示されて来ただけだ!!切り裂きジャック擬きを殺れってそう言われて!!」

 

「擬き?私は正真正銘、切り裂きジャック(ジャック・ザ・リッパー)よ!!誰の指示か言え!」

 

「ほ、本名は知らねぇ。遣いが来てR.Kって言う奴からの多額の依頼でお前を殺す様に指示された。それ以外に知らねぇ!だから助けてくれ!!」

 

「R.Kね……単調な名前だわ。まぁ、良いわ。ありがとう。御礼をあげるわ……このナイフの冷たい感触を味わえる最高の時間よ」

 

私はそう言ってナイフをゆっくりと刺していき、リーダーらしき奴の腹を切り裂いていく。

 

「い、嫌だぁ!!死にたくない!!死に……たく……な……い……!!」

 

リーダーらしき奴の死を確認した私はその場に捨てると血糊を払ってからいつもの様に"FROM HELL(フロム ヘル)"と書き込んでからその場を後にした。

 

「R.Kって奴は何で私なんかを狙ったのかしらね?」

 

『さぁな。だが、もしかしたら大元がお前を邪魔扱いし始めたのかもしれないな』

 

「大元ね……グリーン・メイスンかしら?」

 

『それはこれから探れ。奴等が現れる時は……近いぞ』

 

私はアーサーのその言葉に頷くと夜の散歩を止めて足早に帰路に着いた。

 

喧嘩してしまった緋色に何て言えば良いかと考えながら。



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荒れ狂う時代

あれから一夜明けてから私はR.Kの雇われた刺客達を退けたあの日からR.Kを追っていた。

 

でも、名前こそ単調なのに全く正体を掴ませてくれないR.Kに私は頭を悩ませる中、ニュースが流れ始めた。

 

《続いてのニュースです。昨日、神野区にて世間を騒がせるヴィラン連合の摘発がオールマイトを中心に行われました。ヴィラン連合は雄英を襲撃し、林間合宿ではヒーロー科の生徒一人を拉致する等と悪質な犯罪行為を行ってきました。生徒はオールマイト達の活躍で無事に救出されましたがヴィラン連合は逃走し、現在も行方を眩ませています。また、神野区でオールマイトと切り裂きジャック(ジャック・ザ・リッパー)の亡霊の二人による直接対決があり、勝敗はオールマイトに決しましたが切り裂きジャック(ジャック・ザ・リッパー)の亡霊の協力者の銃弾によって意識不明の重症を負いました。命には別状ありませんが今後のヒーロー活動は以前の様な活躍は見られない可能性があるとされています》

 

ニュースは昨日の神野区の件でオールマイトの本当の姿やもう戦えない事、自称専門家がオールマイトへの発砲に対して私や協力者こと緋色達を批判する内容の物だ。

 

まぁ、自称専門家が言いたい事はよく分かる……もしかしたらオールマイトにトドメを刺したのは私達なのかもしれないのだから。

 

ヴィランの活性化、ヴィラン連合の逃亡、崩れる平和の象徴、と度重なれば嫌でも予想出来る事は治安の悪化。

 

只でさえ危うい状態になった社会なのにオールマイトがもし、前線を退けば意気揚々とヴィラン達が大挙して暴れる可能性がある。

 

私はこれから忙しくなると思うと憂鬱になる中、緋色が顔を出してこないし連絡も無い。

 

綾乃は来るけど緋色の事を聞いても口止めされてるからと誤魔化される。

 

……謝りたいのにこれじゃあね。

 

《臨時ニュースをお伝えします。今朝、東京近郊でヴィラン組織同士による大規模な抗争が勃発した模様です。抗争を起こしたのは死穢八斎會と獅子皇会の指定ヴィラン団体で激しい銃撃戦や個性を使用した抗争が行われ、ヒーローや警察が鎮圧に動きましたがあまりの大規模な抗争にヒーローと警察側に多数の死傷者を出したとの事です。現在、政府は特例の非常事態宣言を東京都及びその近郊に発令し、ヒーローと警察による巡回強化を行う一方で極力、外出は控える様にとの事です》  

 

「え……?」

 

『マジかよ……緋色の奴、大丈夫なのか?』

 

「緋色……」

 

私は心配になって獅子皇会の屋敷に行こうとした所で私の意識を保った状態で身体をアーサーに取られた。

 

『無駄だから止めとけ。綾乃にすら口止めさせた程だ。例えいたとしても会うとは思わねぇよ』

 

「だからって放っておくって言うの!」

 

『違う。会うのは無理だ。だが、解決の為の糸口を探す位なら出来る筈だ。先ず探るのは……』

 

「死穢八斎會……」

 

私は何故、急に獅子皇会と死穢八斎會が抗争を始めたのかを探り、緋色が無事なのか確かめる為にも私はR.Kの事も視野に入れつつ死穢八斎會の調査を開始した。

 

~別視点side~

 

その頃、東京都の近郊にある街の路地で死穢八斎會の組員の一人を複数の黒服を率いて追い詰めた緋色がいた。

 

「さて……どうしてくれようかな?君が死穢八斎會……オーバーホールの目的を言ってくれないなら酷い死に方をするしかないよ?」

 

「クソ……!獅子皇会の小娘が!ぐあぁッ!?」

 

「おっと……すまない。足が滑った」

 

緋色は追い詰めた死穢八斎會の組員の傷口に思い切り踏むと足を軽く動かしながら更に踏む力を強めていく。

 

「すまないね。残念だけど僕達には時間が無い……さぁ、オーバーホールの目的と壊理の居場所を教えろ。さもないと楽に死ぬ事は出来なくなるぞ?」

 

「だ、誰が教えるか!!」

 

「そうか……お前達」

 

「はい」

 

「こいつを丁重に私達の元に招け。殺すなよ?引き出せる情報を取り尽くすまで徹底的に痛め付けろ」 

 

「かしこまりました」

 

獅子皇会の組員達は死穢八斎會の組員を二人がかりで連れ去って行く姿を緋色は無表情で見つめていると諢がやって来た。

 

「お嬢。お嬢に会いたいと言う者が」

 

「誰だ?僕は忙しいんだ。……まさかジルか?」

 

「いえ……ヴィラン連合の者です。名前はマグネと」

 

「マグネね……通して良いよ。確か名前は引石健磁。個性は磁石のヴィランだったね。と言う事は彼……いや、彼女からの紹介かな?」

 

緋色が許可を出して組員達から通されたマグネは驚きと興味を示した表情をしている。

 

「私の事を……いえ、私達の事をよく調べているわね」

 

「素性が割れれば調べはつくさ。それよりも君の友人から紹介されて来たんだろ?味方を得るなら誰に頼るべきかね」

 

「まさか彼女の知り合いに極道。しかもこんな可愛い子がいるなんて驚いたわ」

 

「まぁ、彼女に何かと世話を焼いちゃってね。僕は別に性別云々は気にしない。君にとって彼女は良い友人だね。大切にしなよ。さて……本体に入ろう。君は僕を……僕達、獅子皇会とどうしたい?」

 

「貴方が望むなら私達と同盟を結びたい……て、弔君が言ってたわ。勿論、対等のね」

 

「やっぱり君達の後ろ楯が失ったのは痛かったのかい?」

 

「暫くは弔君は荒れたわね。自分の先生が切り裂きジャック(ジャック・ザ・リッパー)に殺されたなんて信じられないって叫んでたもの」

 

マグネは思い出したくないとばかりに言うと余程酷い目にあったのだと緋色は察して同情した後、同盟の件について考える。

 

死穢八斎會の勢力は比較的に小規模だが所属する人材は侮れず下手に戦えば負ける。

 

そして現在、獅子皇会は緋色が"会長代理"に立って何とか保った状態で組織は混乱をようやく終息させた後だ。

 

打てる手は全て打ち、組める相手とは極力慎重に選んで組む。

 

緋色は考え込んだ後、笑みを浮かべて答える。

 

「良いだろう。同盟の話をしに行こうか。案内してくれるかい?あ、護衛も着けて良いかな?皆、心配性でね。納得させる為にも出来ればね」

 

「分かったわ。後で連絡しておくわ。来て頂戴」

 

マグネと緋色は夜の街に消えていく……獅子皇会と死穢八斎會による抗争事件は更に混沌を極めていく。

 

~side終了~

 

暗殺、戦闘、破壊、巻き込まれる一般人……連日に渡る抗争事件のニュースが社会に流れる中、私はと言うと。

 

「呼び出したのは他でもないわ……白状してくれる?」

 

「な、何の事でしょうか……?」

 

私は綾乃を呼び出して何故、急に獅子皇会が死穢八斎會と抗争を始めたのか?

 

そして緋色は無事なのか?

 

調査もあるし、私情も混じってるのは分かってる……でも、聞かずにいられないのよ。

 

「お願いだから……答えなさい」

 

「で、ですが……」

 

「綾乃?」

 

「……はい。白状します」

 

綾乃は諦めた表情を浮かべ、私はやっと本末を聞ける事に安堵すると綾乃は話始める。

 

「……実は死穢八斎會の鉄砲玉が獅子皇会の会長さんと緋色さんを親子水入らずでの外食中に襲いまして」

 

「嘘!?死んでないわよね!?」

 

「緋色さんは無事でした。ですが無事だったのは会長さんが緋色さんを庇ってしまい意識不明になったからだとか。……そのせいで抗争を避けるべきと考えていた獅子皇会は緋色さんを含めて一気に死穢八斎會との抗争をと考えを改めてしまいました」

 

「そんな……」

 

会っていない内に緋色がそんな事になっていたなんて……私は守るって誓ったのに……

 

「緋色……」

 

「悲観しないで下さい。……本来は貴方まで抗争に巻き込めないと緋色さんに固く口止めされていましたがこのままではどちらが勝っても緋色さんにヒーロー達の手が伸びるのは時間の問題です。何とか早期に抗争を終わらせなければなりません」

 

「……そうね。終わらせるなら簡単よ。死穢八斎會を潰す。緋色と緋色のお父さんを手に掛けた以上は許さない。それに奴等は薬をばら蒔いて資金を得ているなら尚更よ」

 

私は決意を新たにし、緋色を守ると誓った後、私は先ず抗争の現状とヒーロー達の動向を予測する所から始めるべく綾乃と外に向かった。



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不審の追及

~別視点side~ 

 

死穢八斎會の若頭、治崎 廻ことオーバーホールは苛立っていた。

 

計画遂行の為の準備をしていた矢先に獅子皇会の神速 緋色が抗争を仕掛けて来て死穢八斎會の各地の縄張りは荒れたり、奪われてしまう始末だった。

 

人材の質は負けていないが物量で勝る獅子皇会が相手では部が悪い。

 

だから抗争を避けてきたつもりだったが獅子皇会の会長、神速 英一郎を意識不明に追い詰めたと言う"言い掛かり"を言われた"一方的な宣戦布告"だった。

 

「あの小娘め……!」 

 

「恐らくは……獅子皇会を含めて俺達は嵌められたと思いやす。個性消失弾の作成に投資した物好きのあの組織……」

 

「グリーン・メイスンか?」

 

若頭補佐の玄野 針ことクロノスタシスと話していたオーバーホールは思い返すとグリーン・メイスンと接触したのはグリーン・メイスンの使者と名乗る者が屋敷に来た事から始まった。

 

最初はロンドンの都市伝説めいた組織名や緑の外衣と無機質な仮面の姿に不審に思いつつも何処から聞いてきたのか個性消失弾に投資をしたいと持ち掛けてきた。

 

オーバーホールは投資は歓迎しても訳の分からない輩を信用するつもりはなく個性で分解してしまおうかと考えたが使者がアタッシュケースを前に出して大金を見せてきた。

 

それも三つ、しかも前金として簡単に置いたのだ。

 

計画遂行の為には多額の資金が必要であり、オールフォーワンが亡き後、覇権争いに勝つ為にもグリーン・メイスンの話に乗り、最初の見返りとして未完成品の個性消失弾を融通したのだ。

 

最初は名を挙げつつあるヴィラン連合を傘下にして資金と戦力増強を考えていたがそれを取り止めていた。

 

「どちらが勝っても損は無く……寧ろ、どちらが倒れてもグリーン・メイスンがやりやすくなると言う事か」

 

「奴等の思惑にこれ以上乗れば計画どころか組も潰されます!!抗争の件は兎も角、奴等とは手切れをしましょう!!」

 

「手切れを出来たとしてもその先だ。これが陰謀か知らないが獅子皇会が本気で俺達を潰しに掛かってきている。どちらにしても……詰みだ」

 

オーバーホールはそう言って獅子皇会をどう退けるか或いはどうやって計画を守るかと思考を廻らせているとそこは死穢八斎會の組員が慌てた様子でやって来た。

 

「すみませんオーバーホール!壊理が逃げ出しました!!」

 

その言葉を聞いたオーバーホールは静かな怒りを見せた。

 

~side終了~

 

私は服装変えてと顔をフルフェイスのマスクで隠した綾乃と共に抗争が繰り広げられている東京近郊に足を運ぶとそこはまるで戦場の様に荒れ果て、一通りも無く、血の跡が残っている道路もあった。

 

「酷い……」

 

「これが私達が天然記念物扱いしてた極道達の争いの跡ですか……怖いですね。巻きこまれたら一溜りもありませんよ」

 

夜でなくても指名手配の私が平然と歩ける位に一通りの無い道を歩くけど……。

 

「何よそのマスク?」

 

「うーん……趣味です。カッコいいですよね?」

 

綾乃が何処かキラキラした視線を向けてくる姿に意外だと思いつつ適当に頷く。

 

綾乃は万が一に私と行動している姿を見られても良い様に自身の服装を変えた……でも、そのフルフェイスのマスクを着けるのは逆に目立つと思っていると小さな何かにぶつかった。

 

「ん?子供?」

 

私にぶつかったのは角を片方生やした小さな女の子で、腕や足に包帯を巻いている痛々しい姿をしていた。

 

それに怯えた表情も見せている。

 

「ジャック様」

 

「……ねぇ、どうしたの?その包帯はどんな理由で巻いてるのかな?」

 

只事ではない……私はそう判断して声を掛けてみたけど人見知りなのかはっきり言ってくれない。

 

「どうしましょうか……?」

 

「そうね……」

 

「駄目じゃないか。人に迷惑をかけちゃあ」

 

私はその声を聞いて視線を向けるとそこには嘴の様なマスクをした男が女の子を見下ろしていた。

 

「すみませんね。うちの娘が。帰るぞ、エリ」

 

「あ……あぁ……!」

 

男は女の子ことエリに帰る様に促している……そして女の子は怯えている……包帯を巻いた怪我……これは……。

 

「すみません。貴方が保護者ですか?」

 

「そうですが……貴方は?」

 

「いえ……通りすがりです。しかし、この女の子……エリちゃんの包帯ですが。明らかに不自然ですね……何をしたらこうなるんですか?」

 

「遊び盛りでしてね。怪我が多いんですよ。困った物です」

 

(ダウト)ね。

 

そう言う言い訳がとても多いの……子供を虐待して目立つ傷を作る様な親がね。

 

見て分かる位に異常な怪我……事故で受けた傷って言った方が信憑性はある。

 

点定的な言い訳だけどこの男……私が誰だか知ってても穏便に済ませたがってる。

 

「へぇ……遊びですか。どんな遊びで?」

 

「追い駆けっこですよ。それで階段から転げ落ちてしまってね」

 

「それにしては痣とかないですね。それに……この傷は切傷。明らかに何かで切った様な傷よ。お父さん?」

 

「……あくまでも家の関係ですよ。殺人鬼さん。あんまり……関わらないで頂きたいものですね」

 

男は明らかに苛立ちと殺気を見せ、私は綾乃にエリちゃんを預けていつでも戦闘が出来る状態でいた時、私の肩に誰かが触れた。

 

「すみません。少し伺ってもよろしいですか?」

 

「……ヒーロー?それに……」

 

「ジル……!?」

 

そこにはヒーローと出久がいて私達が今から何をしようとしていたのか悟って来たのかまたは、このエリちゃんを見て来たのか知らないけど取り敢えずこれで下手な戦闘は出来なくなった。

 

「何ですか?」

 

「いえ、何処か険悪な雰囲気になってましたので喧嘩かと?」

 

「違いますよ。この女がうちの娘にしつこくてね……それで揉めてたんですよ。お連れの方は何をしてるんだか」

 

こいつ、私達のせいにして来やがった。

 

でも、明らかに女の子の身体の傷がおかしい事に嫌でも気付く筈……どうするヒーロー?

 

「その素敵なマスクは八斎會の方ですね!ここら辺じゃ有名ですよね!」

 

「えぇ。マスクはお気になさらず……汚れに敏感でして」

 

八斎會……!!

 

こいつ、死穢八斎會のヤクザって事ね。

 

こいつが緋色を……緋色のお父さんを狙った奴等の一人なら此処で!

 

「すみません!うちの連れが!もう揉めませんので許してくれませんか?」

 

「ちょっと……!」

 

「分かってます……しかし、今ではありません」

 

綾乃の言葉に私は納得出来ない気持ちを押さえながら男を睨み付けているとヒーローはにこやかに首を横に振った。

 

「残念ですが個人的に貴方方に事情聴取しなければいけませんので。帰らないで下さいね」

 

「そうですか……」

 

綾乃の軽く舌打ちする音を私は聞いた後、男はヒーローと出久を追及するつもりなのか逆に質問してきた。

 

「お二人とも初めて見るヒーローだ。新人ですか?随分、若い」

 

「そうです!まだ新人なんで緊張しちゃって!さ!相棒。彼女達に話を聞こうじゃないか!」

 

「何処の事務所所属なんです?」 

 

「学生ですよ!所属だなんて烏滸がましいくらいのピヨッ子でして……職場体験で色々と回らせてもらってるんです」

 

このヒーローは学生だったのね。

 

見てない顔……つまり、私の元先輩。

 

成る程ね……先輩はこの男が何者か知っているけど手は出さない。

 

それは学生としてもそうだけど世話になっている事務所から何かしら事前に教えられている事があるって事も考えられる。

 

例えば……この子の事とかね。

 

「学生さん。なら、この子の状態を見てどう思う?明らかに……虐待だよね?」

 

「それは……」

 

「あの!」

 

先輩が何か言おうとした出久が切り出してきた。

 

「娘さん。怯えてますけど?」

 

「叱りつけた後なので」

 

「いやぁでも。遊び盛りって感じの包帯じゃないですよね……」

 

私は何故、出久が急にそんな事を切り出したのかと疑問に思っていると私の服を女の子が強く握っていた。

 

怯えて、涙を流して、誰かに助けを求めている姿……私はその姿を出久が見たからなのか事情なんて省みずに男に問い質したのだ。

 

「よく転ぶんですよ」

 

「さっきから聞いてれば……お前。ふざけてるの?どう見てもこの子はお前を見て怯えている!普通じゃないでしょ!!」

 

今度は綾乃が男を問い質し始めた。

 

助けを求めていたエリちゃんと過去の自分と重ねたのかマスク越しでも分かるくらいに怒りを露にしている。

 

「その人の言う通り……こんな小さな子が声も出さずに震えて怯えるって普通じゃないと思うんですけど?」

 

「人の家庭に自分達の普通を押し付けないで下さいよ」

 

「性格は様々だよね」

 

追及する出久に男はシラを切り、先輩はまるで一刻も早くその場から去りたいと言いたい様に出久に追及を止めさせようとしている……普通なら出久の様に追及を仕掛けてもおかしくないのに。 

 

何かある。

 

私達はもしかしたらとんでもないヒントに廻りあったかもしれないわね。

 

「この子に何をしてるんですか?」

 

「……ふう。全くヒーローは人の機微に敏感ですね。それに貴方方にも。分かりました。恥ずかしい話です。実は最近、エリについて悩んでまして……何を言っても反抗ばかりで」

 

「子育て……ですか?大変ですね……」

 

「えぇ……難解ですよ。子供は。自分が何者かになる、なれると本気で思ってる」

 

男がそう言って手袋を脱ぎ掛けた時、エリちゃんが男の元へ駆け出してしまった。

 

「何だ……もう駄々は済んだのか?」

 

男のその言葉にエリちゃんは頷くと出久が追い掛けようとした所を私は止めた。

 

あの男……なんて殺意を見せてくれるのかしら。

 

明らかに多くの修羅場を潜り抜けてきた猛者……下手な事をしたら無事じゃ済まない。

 

でも、一言だけ言ってやるわ。

 

「必ずよ。必ずお前が何をしようとしているのか暴いてやるわ。八斎會!」

 

「……何の事か分かりやせんね」

 

男はそう言ってエリちゃんを連れて言って路地の闇に消えてしまうと私は先輩と出久の方へ視線を向けた。

 

「それで?何がしたかったの?」

 

「何の事か分からないね。ジャック」

 

「やっぱり気付いてた……まぁ、ヒーローを目指すなら指名手配犯の顔くらい覚えるわね。先輩?」

 

「残念だけど今の君に先輩と呼ばれたくないな。此処で君を捕まえても良いんだよ?」

 

「でも、騒ぎは極力起こしたくない……そうでしょ?貴方達が世話になっている事務所で何をしようとしているのか知らない。でも、私は行動を止めないからね。それと出久」

 

「なに……?」

 

「……良い判断だったわよ。あの場で追及一つせずにそそくさと行ってしまってたら……貴方達の計画は水の泡だったのかもね」

 

私はそう言って笑って見せると出久は綾乃の方に視線を向けた。

 

「この人が君の協力者なの?」

 

「オールマイトの件は関わってない方のね。最初に言っておくけど撃った私のもう一人の仲間は……酷く後悔してるからあまり責めないであげて。私がモタモタしてたせいだから」

 

私はオールマイトの事を思い出して暗い気持ちになる中、出久の心の真意は分からない……もしかしたら憎んでるかもしれないし、憎んでないかもしれない。

 

私は協力者が複数いると言うヒントをあげてしまったけど別に支障はない。

 

「やっぱり……君の仲間が……」

 

「君達は……何をしたのか分かってて言っているのか?オールマイトを……平和の象徴を壊した!平和の象徴がいなくなった事で平然と抗争を起こして!皆を苦しめる輩が増えたんだよ!!例え正義の為でも悪い方向に進んでは意味は無いんだ!!」

 

「そうね……私達のせいよ。それは揺るぎない事実よ先輩。だからそれに見合った報いを……受ける事になる覚悟をしてる」

 

私の言葉に先輩は何も言わず、ただ苦しげな表情で私達を見ていたけど私は綾乃と一緒に立ち去ろうとする。

 

「ジル!!」

 

「出久。そろそろ答えを聞かせてね。私の言った事。ちゃんと返せるかどうかをね」

 

私はそれだけを言うと綾乃と一緒にその場から去って行った。

 

~別視点side~

 

暫くして出久と通形はヒーロー、サー・ナイトアイの元へやって来ていた。

 

「すみません!事故りました!まさか殺人鬼、切り裂きジャックと治崎が接触するとは」

 

「いや、これは私の失態。事前にお前達を見ていればふせげた……いや、ジャックがいた時点で駄目だったと思うが対策は出来た」

 

「取り敢えず無事で良かったよ!下手に動いて怪しまれたら危なかったかも」

 

「ジルは兎も角、そんな恐ろしい感じには……」

 

「先日、強盗団が逃走中に人を巻き込むトラック事故を起こした。巻き込まれたのは治崎ら八斎會。だが死傷者はゼロだった。」

 

サー・ナイトアイのその説明に出久は不審に思わず疑問の表情を浮かべるとサーナイトはそれを見越して更に説明する。

 

「強盗団の連中は激痛を感じ、気を失ったが何故か傷一つ無く、どころか持病のリマウチや虫歯など綺麗に治っていたそうだ。治崎の個性だと思われるが結果的に怪我人ゼロのヴィラン逮捕となった為、特に罪には問われなかった」

 

「でも、奪われたお金だけは綺麗に燃えて無くなっちゃったんだって。警察は事件性無しって結論を出したけどどう考えても怪しいって事でナイトアイ事務所は本格マークを始めたの。何を考えてるか分からないけどやる時はやる奴ってこと」

 

サー・ナイトアイのサイドキックであるバブルガールの補足の説明が終わると通形が手を挙げた。

 

「あ、そうだ!サー!!怪我の功名と言うか……新しい情報を得ましたよね!治崎には娘がいます!」

 

「娘……?」

 

「エリちゃんと呼ばれてました。手足に包帯が巻かれていました……とても怯えていた。何も分からないけど助けを求めていた……!どうにか保護してあげられていたら……」

 

「傲慢な考えをするんじゃない」

 

「そんな……」

 

サー・ナイトアイの冷たい言葉が出久に突き刺さった。

 

「事を急いては仕損じる。現在、此方も他事務所にチームアップを要請中だ。焦って追えば益々逃げられる。救けたい時に救けられる程に貴様は特別じゃない。まず相手が何をしたいのか予測し、分析を重ねた上で万全の準備を整えねばならない。志だけで救けられる程、世の中甘くない。現に切り裂きジャックの行き当たりばったりのその後を考えない行動によって世の中は大きく荒れ果てた」

 

切り裂きジャック(ジャック・ザ・リッパー)であるジルの行動は人によっては正義を成す、義賊にも見える。

 

だが、更に人によってはその後に起こる影響を全く考えない行き当たりばったりの無責任な殺人鬼とも捉えられる。

 

切り裂きジャック(ジャック・ザ・リッパー)によって救われた者がいても、法を無視した私刑が原因で悪い状況に陥る……現に裏社会の悪の帝王たるオールフォーワンが切り裂きジャック(ジャック・ザ・リッパー)によって死んだ事で都市伝説めいていても絶大な影響力を持っていた彼が急にいなくなった事で各地の無法者達は我こそはと名乗りを挙げてしまったのだ。

 

ヒーロー達は切り裂きジャック(ジャック・ザ・リッパー)の台頭で自信を失い、ヒーローを辞め、そのヒーローの管轄だった辺りの治安は悪化する。

 

そして平和の象徴であるオールマイトを意図せず撃った共犯者が平和にトドメを刺したのだ。

 

サー・ナイトアイは出久だけでなく、この場にいないジルにすらその甘さを指摘したのだ。

 

「真に賢しいヴィランは闇に潜む。時間を掛けねばならない時もあると心得ろ。決してジャックが正しいと思わずにだ。今日の所は二人共事務所に戻っていろ。バブル、行くぞ」

 

「あ、はい!」

 

出久の胸に大きな痼を残して初日のインターンは終わった。

 

これから起きるのは何なのか分からない闇の中を出久は歩くしかなかった。

 

その姿と会話を撮っていた綾乃の小型のドローンが飛んでいた事にも気付かずに。

 

 



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任侠決戦 ~前編~

私は近くの廃墟で綾乃のおかげで出久達のインターン先がオールマイトの元サイドキックである敏腕ヒーローのサー・ナイトアイだと判明してサー・ナイトアイの言っていた事を気にしていた。

 

"志だけで救けられる程、世の中甘くない。現に切り裂きジャックの行き当たりばったりのその後を考えない行動によって世の中は大きく荒れ果てた"

 

その言葉が響き、心苦しくなる中でそこへ綾乃がやって来た。

 

「お食事ですよ。と言ってもコンビニのサンドイッチとミルクティーですが」

 

「珈琲は?」

 

「残念ながらありませんでしたね。生憎、品揃えが……」

 

「ごめん。我が儘を言うつもりはなかった」

 

私はそう言って綾乃からサンドイッチとミルクティーを受け取ると綾乃は困った微笑みを見せている。

 

「気にしているのですか?」

 

「……まぁね」

 

「確かにサー・ナイトアイの言う事ももっともですよ。しかし、貴方のおかげで助けられた人もいます。そしてこれからも」

 

「でも、私がやった事で全てが滅茶苦茶。サー・ナイトアイに言い返せる言葉も無い」

 

「ジル」

 

綾乃が突然、私の名前を呼び捨てしてきたのに驚いて視線を向けると綾乃は真剣な表情を見せていた。

 

「どんな結果でもそこにいる人を助けられた事実は消えません。それに助けるのに時間を掛けてはいけない時だってある筈です。貴方が弱気になってどうするのですか?貴方にはまだ助けるべき人々がいるのですよ?しっかりしてください」

 

「綾乃……」

 

私は厳しくも優しく叱咤する綾乃に何処か母の面影を見た後、街の何処かでまた大きな崩れる音が鳴り響いた。

 

「抗争ね」

 

「恐らくは個性による戦闘でしょう。でなければ此処まで音は届きません」

 

「早く終わらせないと……」

 

私は兎に角、緋色の安否が心配だった。

 

これだけ大きな抗争の指揮を取っているのなら命を常に狙われていてもおかしくない状況だ。

 

もしも緋色に何かあれば……アーサー。

 

アーサーならこの時、どうしていたの?

 

「(アーサー?)」

 

『ん?あぁ……すまない。少しボーっとしていた』

 

「(……ねぇ、最近になって会話が少なくなってない?)」

 

『そうか?いつも通りだぞ?』

 

私はアーサーがいつもの笑みを浮かべても不安だった。

 

個性が発現してから常に一緒にいた私の相棒であり、師であるアーサーがいつか居なくなるんじゃないかと思ってしまう。

 

もう何年もいるのよ……せめて私が死ぬまで側にいて欲しい。

 

『何を考えてるのか分からねぇが。人間、いつかは別れが来る。例え老衰だろうが病死だろうが殺されようがだ。お前と俺はいつかは別れる時が来る。それが何時になるのか分からねぇがな』

 

「(どういう意味?)」

 

『俺達の人格は合わさろうとしている。昔に言ったろ?俺はお前に持っていかれ掛けている。もし、持っていかれたら俺は生きているのか……死ぬのか分からない。だが、例えそうなっても俺は常にお前の心にいるさ』

 

「(アーサー……)」

 

私は近い日にアーサーとの別れを受ける事になる事が分かった。

 

嫌な奴と思った……頼りになる助言者でもあった……自称英国紳士気取りの紅茶マンでもあった……一人の家族として好きだった……私はアーサーとの別れに耐えられるのかしら。

 

「ジャック様?」

 

「なに?」

 

「何故……泣いているのですか?」

 

「そうね……親しい人との別れを思い浮かべたら泣いちゃったのよ」

 

私はそれだけを言うともうサー・ナイトアイの言う事なんて気にしないと決めて決意を新たにした。

 

「行きましょう綾乃。緋色の居場所は掴んでるのでしょ?」

 

「はい。しかし、急ぎましょう。既に緋色さん達は決戦の構えを見せています。場所は死穢八斎會の本拠である屋敷。そこに戦力を集中させて雌雄を決するつもりの様です。しかもヒーローと警察まで集結しつつあります」

 

「なら、モタモタ出来ないわね。ヒーロー側だって死穢八斎會をマークしていた。何かしらとんでもない事があるのは間違いない。そうなるとヒーロー側の戦力だって馬鹿にならない」

 

私と綾乃は抗争を止める為、緋色を助ける為にも急いで死穢八斎會の本拠へと向かった。

 

~別視点side~

 

その頃、緋色は死穢八斎會の本拠である屋敷の前に部下を集結させていた。

 

「オーバーホール!聞こえているか!!聞こえいるなら今すぐに壊理を解放しろ!!さもないとお前達の築いた全てを壊す!!全てだ!!お前のした事は極道の風上にすら置けない外道だと理解して負けを認めるなら八斎會の面子が保つ様に休戦する!今すぐに顔を見せろ!!」

 

緋色の最後通帳が言い渡された時、屋敷の玄関が吹き飛び、デカイ筋肉質の体格をしたマスクの大男、乱波肩動が出てきた。

 

「こんな所にノコノコ来やがったか。獅子皇会さんよ?」

 

「ちッ……やっぱり、一筋縄にさせてくれないか……行くぞ!!!」

 

緋色の号令と共に獅子皇会と死穢八斎會の決戦が始まった。

 

激しい戦いが繰り広げられ、銃の弾が飛び、個性を発動し合い、殺し会う光景は戦場そのものだった。

 

「遅かったか……!」

 

その戦場にサー・ナイトアイ達、ヒーローと警察の捜査隊がやって来るとその光景の酷さを目の当たりにした。

 

「おらおら!どうした!!」

 

「舐めんなぁッ!!」 

 

乱波の猛攻に対して獅子皇会の組員達が飛び掛かるが乱波の猛攻によって次々に蹴散らされている。

 

他にも獅子皇会と死穢八斎會の組員同士の血みどろの戦いが繰り広げられている。

 

出久はそんな状況で視線に緋色の姿を一瞬、捉えた。

 

「神速さん!?」

 

「えッ!何処!?」

 

出久に反応して麗日も辺りを見渡すと丁度、屋敷の中に入っていく緋色の姿を見つけた。

 

「いた!神速さんだ!!」

 

「神速って……会長は意識不明やから神速 緋色か!?」

 

「獅子皇会の大物の一人じゃねぇか!?自ら飛び込んで来たのか!?」

 

要請に応え集まった時に説明された死穢八斎會の抗争相手である獅子皇会の会長とその娘の神速の名字に反応し、驚くファットガムとロックロックの二人は驚くとサー・ナイトアイは冷静に告げた。

 

「このまま進ませればいずれ治崎達と接触しかねない。何としても進まなければ」

 

「なら、彼らはリューキュウ事務所が対処します!皆は引き続き仕事を!」

 

ヒーローのリーキュウはそう言うと竜化して乱波を押し潰し、両勢力の組員達を出入り口から払う。

 

「さぁ、今の内に!!」

 

「クソ!獅子皇会め!後でたっぷり絞ったるからな!!兎に角、行け行け!!」

 

「神速さんの事は任せるね!!」

 

「うん!麗日さんも気を付けてね!!」

 

こうして出久達が突入してからリーキュウ事務所と残った警察、死穢八斎會、獅子皇会で三者入り乱れる戦闘が繰り広げられる中、そこへ一人の影が素早く駆けて乱闘を避けて行く。

 

「あれは誰なの!?」  

 

リーキュウが影を目撃して叫ぶと蛙水と麗日はその影を見る。

 

「私達以外にも来たのかしら?」

 

「もしかして……」

 

「少し退いて頂戴」

 

その声が不思議と響くと死穢八斎會の組員達が血の華を咲かせた。

 

~side終了~

_______

_____

___

 

私は乱闘になった死穢八斎會の屋敷前で手始めに死穢八斎會の組員達を切り捨てた。

 

「じゃ、切り裂きジャック(ジャック・ザ・リッパー)だぁッ!!」

 

その声に周りの全ての視線が私に注がれた。

 

「何じゃテメェ!殺人鬼が何の用じゃコラァ!!」

 

「何の用?お前達を潰しに来てやったのよ!」

 

私はそう言って死穢八斎會の組員を切り捨てると出入り口を目指して突き進む。

 

「止めろや!!」

 

「殺人鬼風情に八斎會を潰させるか!!」

 

「退け!!雑魚には用は無い!!」

 

私はそう言いながらナイフを振るって、投擲するを繰り返しながら進む中、そこへ何かドラゴンが出てきた。

 

「行かせない!!」

 

ドラゴンは恐らくヒーロー……そしてドラゴンのヒーローと言えばリーキュウね。

 

生で見ると迫力あるわね。

 

「いいえ。ジャック様を通させて貰いますよ」

 

同行していた綾乃が私をリーキュウから反対の方向へ転移させると私はそのまま駆け出す。

 

「霧先さん!!」

 

「貴方を行かせる訳には行かないわ」

 

今度は麗日さんに梅雨ちゃんが立ちはだかった。

 

私は麗日さんの個性を受けない様にしつつ梅雨ちゃんの拘束しようとする舌を上手く避けながら軽めの挨拶をしておく。

 

「あら、おはよう二人共。腕を上げたわね」

 

「こっちも貴方を止めたいって必死だからね!!」

 

「いつまでも貴方を野放しに出来ない。貴方は大切なお友達よ。だから貴方のお友達として止めるわ」

 

私は二人を傷つけない様にしつつ立ち回りながら会話をしつつ隙を伺うけど……全く、見せない。

 

二人は間違いなく経験を積んでより強くなってる。

 

これはウカウカしてたら危ないわね。

 

「目標にしてくれて嬉しいけど緋色がいるでしょ?彼女が危ないの。通して頂戴」

 

「残念だけどそれは無理!それにデク君達が入って行ったからきっと大丈夫だよ!!」

 

「その大丈夫が私にとって不安なのよ!!」

 

私はついカッとなって叫んだ事に気が付いて小さく咳払いして誤魔化した。

 

「出久達を信頼していない訳じゃない……でも、不安なのよ。近くで直接、守らないとこの不安は消えないのよ。母さんを助けられなかった私にとって……守れないって言うのは辛いのよ……」 

 

「霧先さん……」

 

麗日さんは悲しげな表情を見せるけどそれでも私を通さないとばかりに屋敷の出入り口を固めて立つ中、麗日さんが綾乃に遠くへ転移させられた。

 

「行ってください!私が時間を稼ぎます!!」

 

「分かった!任せるわよ!!」

 

私は綾乃に任せて先を急ぐ形で屋敷に侵入し、緋色を追って行った。

 

~別視点side~

 

一方、その光景を眺めているジャスティスと公安会長によって特別に"仮釈放"されたレディ・ナガンがいた。

 

「新聞やテレビで見た時は半信半疑だったけど……あんたの娘さん。まさか本当に殺人鬼に成り下がってたんだな」

 

「言い訳も立たねぇな……」

 

「……それで?どうするつもりだ?あん中に手掛かりがあるんだろ?グリーン・メイスンって奴等の」

 

「そうなんだよな……たく、ヤクザ連中とヒーローと警察での乱闘。これじゃ、迂闊に間に入ったら一発貰いかねないな」

 

「あんたは物理攻撃なら無敵だろ?」

 

「まぁな……はぁ、嫌だな……行きたくねぇ……ジルに間違いなく罵倒されるしな……」

 

「つべこべ言わずに行くぞ!」

 

ジャスティスはレディ・ナガンに引っ張られる様に乱闘のどさくさに紛れながら屋敷への侵入していった。

 

~side終了~



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任侠決戦 ~中編~

~別視点side~

 

屋敷内に突入した出久達は特に邪魔を受けずに突き進めた。

 

その理由として屋敷内に死穢八斎會の組員の死体が沢山、転がっている事から邪魔をしようにも人員は今は死んで何処にもいない状態と言う皮肉な光景がヒーローや警察達に写ったのだ。

 

「獅子皇会め!やり過ぎやろ!!」

 

「ヤクザ者を少し舐めてたぜ!!ヒーローや警察の真ん前でも抗争を止めねぇ!寧ろ激化しやがったからな!!」

 

「外の皆は大丈夫だろうか?」

 

ファットガムとロックロックは影に隠れているだけのヤクザがあれだけの力を振るった事に驚きと恐怖を覚える中、天喰は外で行われる三又の戦いの最中で残って戦っている者達を心配する。

 

「リーキュウ達がいるんだ。大丈夫の筈だ。問題なのは屋敷の中に入っていった神速 緋色だ。まだ高校一年とは思えねぇ過激な性格だ。何を仕出かすか分からねぇ。下手したら鉄砲を向けてきてもおかしくねぇぞ」

 

刑事は嫌な物を考えたとばかりに顔をしかめた後、駆け続ける中で緋色が掛軸や花瓶の飾られた場所を弄っている姿が見えた。

 

「あそこは隠し通路を開く為の仕掛けがある場所だ」

 

「神速さん!!」

 

「ッ!?緑谷か?」

 

緋色は出久の存在に気が付きつつも仕掛けを動かそうとする手を止めない。

 

「神速さん!抗争なんてもう止めよう!!仇討ちなんてしても意味は無いよ!!」

 

「すまないが今は出来ないな。この抗争は無益だがやらなきゃいけないんだ。それにお父様の仇討ちの為に私は抗争をしているつもりはないよ」

 

「じゃあ、何でだよ!!お前の事は全然知らねぇけどよ!良い奴だって俺だって分かってるんだぜ!!理由もねぇ抗争なんてお前はしないだろ!!」

 

「……壊理と言う少女に関係があるのか?」

 

サー・ナイトアイの指摘に緋色は動きを止めて暫く停止した後、微笑んだ。

 

「正解だ。壊理……元々は八斎會の組長の孫娘でね。八斎會に引き取られてからまだ交流があった時に僕の事を姉の様に思ってくれてね……お父様が意識不明になった日に重症を負いながら駆け込んできた壊理の世話役が来て、オーバーホールが下らない計画の為に壊理を傷付けているって聞かされた。その世話役は僕に知らせた後に壊理を頼むと言ってそのまま息を引き取取った。そんなの言われたら黙れないし、その世話役の無念を考えれば尚更だ」

 

「あれか?つまりは壊理をあんたらが保護する為にあんなデカイ抗争をしたんか?」

 

「抗争はしたけど……僕達とは違う何かが暴れた様でね。信じなくても良いけど半分以上は私達は無関係だ。それに極道の抗争と言うのはかなり静かにやるんだ。カタギ達を巻き込まない為にね」

 

「じゃあ、あの街の惨状は何だよ!抗争で人っ子一人いねぇんだよ!!ふざけるなよ!!」

 

「ふざけてる暇があるなら壊理を助けに行くよ。よし、これで開くな」

 

緋色はいつの間にか仕掛けを動かす事に再開しており、特定の手順で仕掛けを動かして隠し通路を開くとそこから三人の死穢八斎會の組員が出てきた。

 

「死ねぇッ!!神速!!!」

 

「バブルガール!!一人頼む!」

 

センチピーダーはそう指示し、組員二人を拘束し、バブルガールは個性で生み出した泡でもう一人を目潰しの要領で使用し、怯んだ隙に床に押さえ付けて拘束した。

 

「目があぁぁッ!!!」

 

「君はかなりえげつない事をするね……」

 

「神速さん!貴方も大人しくしてください!!貴方を殺人、傷害罪及び凶器準備集合罪の罪で拘束させて貰います!!」

 

「悪いけどそれは遠慮するよ。お前達。すまないが足止めを頼めるか?」

 

「分かってますよお嬢。早く行ってあげてください」

 

「こいつらの足止めなんて俺達で十分です」

 

緋色の部下の半数はそう言ってゾロゾロとヒーローと警察の前に立ち塞がると緋色は彼らの無事を祈った。

 

「行くぞお前達!!」

 

緋色はそう指示を出すと諢を含めた付いてくる部下達を連れて地下へと降りて行き、追い掛けようとした出久達の前に立ち塞がった。

 

「おっと。何処へ行くつもりだ?」

 

「ヒーローが俺達を無視とは怠慢が過ぎるぜ?」

 

「どんな職業でも勤労でないとなぁ?」

 

「早く行かないと行けないのに……!」

 

緋色の部下達の相手を強制力にさせられる事になった出久達は何としても突破しようとし、足止めをしようとする緋色の部下達は何としても緋色が目的を終えるまで足止めをしようとするのだった。

 

~side終了~

 

私は緋色達がやったと思える床に転がる死体を軽く跨ぎながら急いだ。

 

『随分と派手にやるな……若いとは言え、裏社会に生きている事はあるな』

 

「そうね……」

 

『何だ?緋色が人を殺す事が嫌なのか?』

 

「違うわよ。ヤクザの娘なら容赦が無い所もあるのは私も承知してる事よ。でも……頼って欲しかった。緋色が自分からましてや組織を危険に晒す抗争なんて起こしたのに私は後から気付いて……何も助けられていない」

 

『顔を合わせ辛かっただけだろ?それに抗争に巻き込みたくないって言う話を綾乃から聞いたろ?お前の事を案じての事だ。言えば無理をしてでも八斎會を潰そうとしたろ』

 

「そうだけど……」

 

『お前が無理をして、傷付いていく事が緋色にとっては苦痛だった筈だ。緋色の心情を察すれば顔を合わせ辛いうえに自分の都合でお前を巻き込むのは嫌だと思ったんだろう』

 

アーサーの言葉に私は感情に任せて緋色を怒鳴った事に深い後悔を覚える中、緋色が向かった先と思える廊下を進んでいるとそこで揉めてる人達がいた。

 

「いい加減に大人しくせいや!!」

 

「お前らが大人しくしろよ!!」

 

「退いて下さい!先に進まないと行けないんです!!」

 

「なら、俺らを倒してからにしな!ヒーローの小僧!!」

 

ヒーローや警察に混じって出久も戦う姿があり、相手は獅子皇会の組員達。

 

揉み合い、戦い、取り押さえると言う具合にヒーロー達は一向に進まないのか獅子皇会の粘りによって地下への道らしき入口から一歩も入れていない。

 

私は極力、勘づかれない様に静かに通り過ぎようとした時、丸っこい身体が特徴のヒーロー、ファットガムが転けて出てきた。

 

「痛てて……ん?お、お前は!?」

 

「……何処見てるのよ」

 

転けた拍子に倒れたせいで私のスカートの下を覗く形でいる事に気付いて凄い早さで起き上がった。

 

「すまん!他意はない……て、それ所とちゃうやろ!?切り裂きジャック!!お前まで関わってたんか!!」

 

「わぁ、流石は大阪のヒーロー。ツッコミも冴えてる」

 

私は流石は大阪のヒーローと拍手しつつ隙を見てサッサと行こうとした時、後ろから肩に手が置かれて振り替えるとそこには眼鏡の男性ことサー・ナイトアイが鋭い視線を見せていた。

 

「切り裂きジャック……」

 

「離してくれます?」

 

「駄目だ。君は此処で捕まらなければならい。そうでなければ……君は悲惨な結末を迎え……そして全てを失う」

 

サー・ナイトアイのその言葉は何処か私の心に突き刺さる中、世迷言だと断じて振り払うとそのまま駆け出して地下へと走り出した。

 

~別視点side~

 

ジルが地下に走り去った姿を見たロックロックは獅子皇会の組員をやっとの思いで取り押さえるとサー・ナイトアイを怒鳴り付けた。

 

「何やってんだよ!!切り裂きジャックを逃がしやがって!!」

 

「これは本気で洒落にならへんで!!」

 

ファットガムもロックロックと同じで警察に取り押さえた組員を引き渡しながらサー・ナイトアイの行動を批判した。

 

ヴィランのみを専門とする連続殺人鬼であり、社会に大きな影響を与え続けるジルを逃がす行為は愚策であるのは誰の目にも明らかで、批判されるのも致し方ないものだ。

 

しかし、サー・ナイトアイは眼鏡のズレを直すと静かに告げる。

 

「彼女の未来を見た」

 

「は?切り裂きジャックの未来のか?」

 

「彼女がこれから先に起こす事を知れば対策や次の行動も取りやすい。だが私が見たものは……悲惨だった」

 

「何だ。彼奴が酷い死に方をするのかよ?だったら自業自得だろ」

 

「彼女は死なない。だが、親しく、そして最も大切な者を失う。最初に死ぬのは……」

 

サー・ナイトアイは冷や汗を流しながらジルの未来を語った。

 

~side終了~

 

私は地下に降りてから廊下を全力で駆け続けた。

 

和風の屋敷とは思えない研究所の様な廊下に私は何を研究していたのかと思いながら先に進もうとするといきなり地面に穴が空いて落ちた。

 

「今時、落とし穴!?」

 

『まぁ、別に無効じゃねぇけどな。着地を誤るなよ?』

 

私は深い落とし穴を落ちて上手く地面に着地すると広間に出てからすぐに上を向くと穴が塞がれた。

 

「ちッ……小細工を……!」

 

「何だ?空から殺人鬼一匹が落ちてきたぞ?不思議な事もあるもんだ」

 

私はその声を聞いて視線を向けるとそこには死穢八斎會の組員らしき三人がいた。

 

「また綺麗な嬢ちゃんだなぁ。奴等が来る前にお楽しみでもするか?」

 

「生憎、好みじゃないわね。死ね……あら?」

 

「嬢ちゃんのさがしてんのはこれか?」

 

そう言って刀を持っている組員の男の手には私のナイフがあった。

 

いつの間に……人の物を盗む個性って事ね……でも。

 

「切り裂きジャックも武器を取られちゃ形無し……え?」

 

「だったら素手でやれば良いじゃない。一々盗られるのもめどくさいし」

 

私は彼等が認識する前に躍り出てナイフを盗んだ男の頭を掴んで勢いよく捻って首をへし折ると唖然としているハゲの組員の頸動脈を切り捨てて、ずだ袋の組員の額にナイフを思いっきり突き立てて殺した。

 

「邪魔なのよ……立ちはだかるなら容赦はしない。そこにいるあんたにも言ってるのよ?」

 

私は気配のする壁の割れ目の方に視線を向けると既に移動しているのかそこに気配は存在しなかった。

 

「……それじゃ通らせて貰うわよ」

 

私は意気揚々と歩きだそうとした時、私の後ろから何かが落ちる音が聞こえて振り替えれば出久達、ヒーローと警察がいた。

 

「えぇ……嘘でしょ」

 

私は此処に落として来た奴が出久達を利用して来たのに唖然としていると警察の一人が私に気付いた。

 

「切り裂きジャック!?」

 

「なんやって!こんな所におったんかいな!!」

 

「獅子皇会の次は切り裂きジャックかよ……お前ら!!いい加減にしろよ!!此方は時間がねぇんだよ!!」

 

「あぁ……うん。ごめんなさい!!」

 

「いや、逃げんのかい!?」

 

私が謝った後に後ろのドアから飛び出して逃げると出久達は当然の様に追い掛けてきた。

 

「待ってよジル!話を聞いて!!」

 

「聞いてる暇なんて無いわよ!!」

 

「切り裂きジャック!あの三人はお前がやったのか?」

 

「うん。瞬殺してやったわ。それがどうしたの?」

 

「お前は俺の後輩だと聞いた……そんなに簡単に殺人を犯す奴は許す訳にはいかない!!大人しく捕まってくれ!!」

 

まさかの先輩2号登場だった。

 

先輩は手を伸ばすとタコの足に変えて私を拘束しようとするけど私はそれを躱して先にあった階段を上がる。

 

「器用だなオイ!!」

 

「あら、切島君もいたのね?」

 

「男がこんな大事件をほっとけるかよ!!抗争を終わらせて!!エリちゃんを助け出して!!お前を取っ捕まえて罪を償わせてやる!!」

 

相変わらず気合いの入ってるわね切島君。

 

取り敢えず……本当にどうしよう。

 

出久達、学生組も入ればプロも複数いて拳銃で武装した警察も多くいる。

 

流石にそんなに相手してられないし、どうにかして撒かないと。

 

「止まれ!!霧先!!」

 

「うわ、相澤先生もいた……なによこれ。オールスターなの?」

 

「御託は良い!!いい加減に捕まれ!!」

 

「嫌です。私は自分の責任を貫くって決めてるんです」

 

「そんな責任を貫くな!!俺はお前を正しく導けなかった!!教師もヒーローも失格としか言えないがお前を捕縛する機会を得られた!みすみす逃せば俺は後悔する!また闇の彼方にお前を行かせたと!!」

 

「珍しく熱く語るのは良いけどそろそろ気を付けてね」

 

私がそう言うと私は咄嗟に立ち止まると横の壁が押し出す様に飛び出してきた。

 

飛び出した壁の先には穴があり、そこへ私を放り込もうとした様だ。

 

「危ないわね……あら?」

 

「いや、避けんのかぁぁい!?」

 

「ファット!?」

 

私を咄嗟に助けようとしたのかファットガムが押し出す壁に自分から飛び出してそのまま穴に落ちた。

 

しかもよく見たら切島君までいない。

 

私は二人が穴に落ちたのを確認すると出久達からの視線が痛い。

 

「……ごめんね」

 

「流石に駄目だろ!?」

 

「この馬鹿は……」

 

「君が悪い訳じゃないけどこれは……」

 

ロックロックや相澤先生しかも出久にまでツッコまれた私は居心地が悪くなった私は。

 

「本当にごめんなさい!!」

 

「逃げんな馬鹿!!」

 

私はそれから全速力で逃げて行く。

 

道中、廊下が捻れ曲がるけど私は走る所は走り、飛ぶ所は飛んで、壁を蹴って飛ぶ所は飛んだ。

 

「大した事はないわね!!本気出してる?」

 

私はそう挑発した時、ますます廊下の変化がはげしくなった。

 

「この馬鹿野郎が!!無闇に刺激すんな!!」

 

「よく鍛えられている……あれは独学か?」

 

「彼女が自主退学してから殺人に手を染めていたのなら殆どが独学の我流の筈だ。だが、明らかに誰かの教えを受けている……もう一人の人格か?」

 

「私だって一人じゃ学べないからね。アーサーに教わった。殺人も、証拠の隠滅方法も、逃走方法も全てね」

 

私は今度は分断しようとする動きを見せた廊下の隙間を間一髪で通るとやっと、出久達を撒いた。

 

「全く……しつこいのよね」

 

私は溜め息をつきながら辺りを見渡すと広い空間になっており、廊下に動きはない。

 

「ジャク様!!どわぁッ!?」

 

警戒を怠らずに進もうとした時、後ろからそう私を呼んで誰かが抱きついてきた瞬間に背負い投げをして地面に叩きつけると。

 

「トガヒミコ!?」

 

「痛いです……少しは手加減して欲しかったです……」

 

「うぉ!?見事な背負い投げ!いや下手くそだぞ!!」

 

「そこの覆面はどっちの意見よ……」

 

私はまさかこんな所でトガヒミコとヴィラン連合のメンバーらしきの男を含めて再開するとは思わなかった。



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任侠決戦 ~後編~

~別視点side~

 

オーバーホールは若頭補佐であるクロノスタシスと共に壊理と個性消失弾を持って脱出ししようとしていた。

 

オーバーホールはその道中に数年前の事を思い出していた。

 

まだ中学生になりたてだった緋色が笑顔で自分を見つけて"治崎兄(ちざきにい)"と呼んではよく振り回されたのだ。

 

壊理とも仲が良く、本当の姉妹の様に笑い合う姿に八斎會の組長と獅子皇会の会長である英一郎も微笑みながら見守る姿と緋色と壊理の二人を見習えと組長に説教される日々。

 

緋色の振り回しにうんざりさせられていた筈なのに袂を分かつ前柄になってその姿やあの時の日々が失くなってから心の何処に穴が空いた様なそんな感じを抱いた。

 

「(何故……こうなった……俺は間違っていない筈だ……)」

 

オーバーホールには野心と組を守りたいばかりにもはや見えなくなっていた。

 

本当はヤクザの復権や裏社会の頂点に立つなどどうでも良い……只、本当はあの時の日々を、当たり前の笑い合う毎日を守りたかっただけなのだと。

 

自身の目的の為に多くを犠牲にしてしまったオーバーホールこと治崎廻にはもはやそれを理解し、戻る事も出来なくなっていた。

 

「オーバーホール!!」

 

「……来たか……獅子皇会の小娘」

 

オーバーホールの視線には部下である諢達を引き連れて緋色が鋭い視線を向けて現れたのだ。

 

「決着を着けよう……私の義妹を返して貰うぞ?」

 

「利用価値も分からない奴め……余程、死にたい様だな?」

 

二人の極道が対峙し、己の道を貫くべく互いに戦いの火蓋を切ろうとした時、そこへもう一人現れた。

 

「お二人ともすいませんね。……少し待って貰って良いですか?」 

 

妨害の為に動かされていた壁を個性ですり抜けて僅かな時間で追い付いたミリオだった。

 

~side終了~

 

私は予想だにしなかった同行者であるトガヒミコと支離滅裂な会話をするマスクのヴィランであるトゥワイスが私に着いてくる。

 

「あのさ……着いて来ないでよ!緋色の味方だとか何とか知らないけど!!」

 

「仕方ないじゃないですか。緋色ちゃんはジャック様の向かう方向と同じなのですから」

 

「そうだぞ!俺達は着いて行く!いや、お前がどっか行け!!」

 

トガヒミコは狂気染みた笑顔を見せ、トゥワイスはまた矛盾した言葉を発すると私は溜め息をついた時、急にまた周りが動いた。

 

「あぁ、もう!またなの!!」

 

「本当そうですよね~。いい加減にしろって感じてすよね~。……無駄なのに」

 

トガヒミコがそう言った時、今度は激しく動く。

 

私は何やってんのよと思ったけど周りの動きが何処か甘い事に気付いた。

 

もしかしてわざと挑発してる?

 

私は少し考えて二人の意図に勘づくと私も乗ってみた。

 

「あのね……無駄に挑発しないでよ……此処まで規模の大きく個性を使ってるのに誰一人、殺す所か満足に足止め出来てないおじさんが可哀想よ」

 

私がそうわざと挑発染みた事を言うとトガヒミコは満面の笑顔を見せて挑発を続ける。

 

「ですよね~。可哀想で可哀想で仕方ありません。気の小さい人ほど怒りっぽいです。怒って注意が散漫になります」

 

「呆れるわよね。短気な人程、すぐに身を滅ぼすと言うのに」

 

「気の小さな人程、自分が弱いの隠したがります」 

 

「その弱さを隠すのが弱いと言ってるのと同じなのに」

 

「自分を強く見せたくて他人を上から見下すのです」

 

「見下しといて見下されたら感情任せに怒って。馬鹿よね」

 

「「八斎會の極道って、カッコ悪いわよね(ですね)」」

 

私とトガヒミコが交互に挑発し、トドメに二人同時に八斎會の事を貶すと怒りの声が辺りに響き渡り、すぐに破壊された音が響けば男が落ちてきた。

 

やっぱり、この二人の策略で男をわざと怒らせる事でヒーロー側に見つけ出させる機会を作り仕留めさせる……悪い考えだけどわりと名案でもあったわね。

 

「カッコ良かったのは緋色ちゃん達の方でしたね」

 

「だよな!」

 

「……そうよね。人をましてや子供を道具にして切り刻む奴等が極道を名乗るなんて……緋色の様な本当に任侠を貫く人達に失礼極まるわ。それじゃあ、さよなら。短気なお馬鹿さん」

 

「「バイ」」

 

私達は落ちていく男に最後の別れを告げた時、男の怒鳴り声が響いたけど気にせずに緋色の所へ急ごうとするとトガヒミコとトゥワイスが別の方向に向かい出した。

 

「短い間でしたが私達は別件があるのです!」

 

「あばよジャック!いや、お前も来いよ!」

 

「行かないわよ……それに別件?」

 

「オーバーホールに吠え面をかかせに行くのです」

 

トガヒミコのその表情は急に黒い物になり、先程まで見せていた笑顔とは違った。

 

「緋色ちゃんは優しいのです。八斎會みたいに私達を見下したりしないのです。優しい緋色ちゃんを泣かせたオーバーホールに悔しがらせないと気が済まないのです」

 

「だよな!気が済まねぇよな!」

 

緋色……いつの間に懐かれたのよ。

 

いや、確かに緋色は優しい所も多いし、雄英でも友人は多そうだったけど……

 

「という訳でジャック様。緋色ちゃんは任せますね」

 

トガヒミコはそう言ってトゥワイスと共に崩壊している空間に消えて行くのを私は見届けた後、駆け出した。

 

~別視点side~

 

オーバーホールと緋色が対峙した頃、ミリオは息を切らせながら酒木と音本を撃破して二人に追い付いていた。

 

「邪魔をしないでくれヒーロー。僕は」

 

「壊理ちゃんを助けるですね。分かってます」

 

「……僕達のやる事は殺し合いだ。捕縛じゃない」

 

「壊理ちゃんの前でですか?」

 

ミリオの言葉に緋色は項垂れる中、オーバーホールは馬鹿にした様子で緋色を見る。

 

「何だ?お前はまだそんな小さな情に囚われているのか?」

 

「黙れ。僕の義妹を返せオーバーホール。それ以上、傷つけて苦しめるな」

 

「お前はこいつの利用価値を知らないからそんな事が言えるんだ」

 

「そんなおぞましい利用価値なんていらない!!お前は壊理を……人を何だと思っているんだ!!」

 

"あの子を……人を何だと思ってんだ"

 

過去に言われた組長の言葉の緋色の言葉が重なり、オーバーホールは非常に苛立った。

 

「答えろオーバーホール!!昔のお前はそんな奴じゃなかったのに!!!」

 

「黙れ!!!」

 

オーバーホールが初めて怒鳴り、側にいたクロノスタシスは驚き、その腕に抱えられた壊理は震え、ミリオは冷や汗をかいた。

 

「お前に何が分かる!!次々に解体される他の組を見ても大局を見ずに自分の道しか見なかったオヤジや何時、組が解体されるかと不安になる気持ちを知らず組の者は家族だとぬかすお前に何が分かる!!こうするしか道は無い!!無いんだ!!!」

 

「治崎兄……」

 

緋色の悲痛そうな表情と共に発せられたその言葉を聞いたオーバーホールは一瞬の動揺を見せた時、緋色は懐から拳銃を抜いた。

 

「もう……あの時の日々に戻れないなら……」

 

「止めろ!!」

 

緋色が撃とうとしている事を察知してミリオは止めに入ろうと動く。

 

オーバーホールも撃たれまいと避ける姿勢を見せ、クロノスタシスは壊理を抱えながら臨戦態勢に入った。

 

獅子皇会の組員達も臨戦態勢に入った時、緋色は引き金を引いた。

 

~side終了~

 

遠くから銃声が聞こえ、そこから激しい戦いの音が鳴り響くのを聞いた私は急いで向かった。

 

"君は悲惨な結末を迎え……そして全てを失う"

 

その言葉が胸に刺さり、嫌な予感に駆られた私は緋色の無事を願って音の震源へ来るとそこには。

 

「嘘……嘘よね……」

 

私が見たものは刺が生えた地面や歪な壁に覆われた場所で、白フードのマスクの男、血塗れで死んだ獅子皇会の組員達、女の子を抱えて対峙する先輩と八斎會の男。

 

そして……脇腹辺りから血を流して諢に横抱きに抱えられている緋色の姿だった。

 

「緋色!!」

 

私は後ろが塞がれた様な音が聞こえたけど気にせずに緋色の元へ行くと諢は驚いた様子を見せるけど気にせずに来た。

 

「ジル!?どうして此処に来た!」

 

「そんな事を言ってる場合!緋色!しっかりして!!」

 

「……ジル?」

 

「えぇ、そうよ!この馬鹿!!何で私に何も言わなかったのよ……!」

 

「すまない……オールマイトの事もあって君に会いづらかった……それにこの抗争は僕達、獅子皇会の問題だった……君は僕達の組織の一員じゃない……君はこの社会の味方だ……僕の様な裏の人間の為に……力を使ってはいけない……」

 

「貴方が求めたのよ!!拒絶するなって……ずるいわよ!!一方的に約束させといていざとなったら破るなんて!!もうオールマイトの事は良いから!!生きて!!!」

 

私は冷たくなっていく緋色の手を取りながらそう叫ぶけど緋色は力無く笑うと私の頬を優しく撫でてきた。

 

「良かったよ……君と最後に話せて……和解出来て……お願いだジル……最後の願いだけ……壊理を……助けてやってくれ……あの子に明るい未来を見せてやってくれ……」

 

「緋色……!」

 

「お嬢!!」

 

「頼んだよ……あと、最後に……愛してるよ……ジル……」

 

緋色はそれだけを伝え終わるとそのまま息を引き取り、眠る様に死んだ。

 

そう……死んだのだ……間に合わなかった……私のせいで……私がモタモタして時間を掛けすぎて……緋色が……

 

『ジル。まだ仕事が終わっていない。……緋色の願いを聞いてやれるな?』  

 

「……えぇ、聞けるわ」

 

「ジル……?」  

 

アーサーへの返答での私の言葉を聞いた諢は涙を流しながら困惑の表情を浮かべるけど私は緋色の頭を優しく撫でてから立ち上がると元凶の男……オーバーホールに視線を向けた。

 

『俺達は止まれない』

 

「止まるつもりはない」

 

私達は諢に緋色を任せてオーバーホールの元へ足を進める。

 

『大切なものをこれからも失うかもしれない』

 

「それでも誓いを破れない」

 

私達はナイフを手に殺す相手を明確にし、睨む。

 

『俺達の手は多くを殺す。罰を与える為に』

 

「私達はこの命に変えてでも……人々の大切なものを奪われない様にこの手を汚す」

 

罪には罰、罰には報いを……犯した罪を償わせる為に。

 

「『私達がジャック・ザ・リッパーよ!!(俺達が|ジャック・ザ・リッパーだ!!)』」

 

私達こそ切り裂きジャック(ジャック・ザ・リッパー)

 

法から逃れる悪を殺す悪、法に縛られない無法者(アウトロー)

 

オーバーホールは多くを殺し、踏みにじり、傷つけた……彼に与えられる罰は……。

 

「ジャック……!」

 

「先輩は下がって。例え……私が法を犯したとしても」

 

「駄目だ!どんなに理由でも仇討ちは」

 

「仇討ちじゃない」

 

私はそう言って先輩を見ると先輩の顔は何処か恐怖の色があった。

 

その腕に抱えられている女の子も私に怯えている。

 

「これは……私なりのケジメよ。助けられなかった緋色との約束を果たす。その為には先輩。その子を守って。まだあの白フードもいる。私が奴らの相手をする。殺せなくても出久達の為の時間稼ぎにもなる。だから……ヒーローなら倒すよりも守りを重視して」

 

私はそう言って泣いた。

 

失くした者が大きすぎるから……でも、折れる分けにもいかなかった。

 

「ジャック……」  

 

先輩の顔からは恐怖が消えて悲しげだった。

 

私の泣き顔はあまり怖くないのかもしれない……いつの間に壊理ちゃんも怖がっていなかった。

 

「そろそろ話し合いは終わりか?」

 

オーバーホールの言葉に私は視線を向け、睨み付けた。

 

「ジャックと言ったな?何だ?緋色がそんなに大切だったのか?それは悪い事をした……うっかり、殺してしまった」

 

「そうみたいね……あんたみたいな外道に殺されて無念でしょうに……絶対に許さない!!必ず貴方の身体に刻んでやるわ!!"FROM HELL(フロム ヘル)"の文字をね!!」

 

"FROM HELL(フロム ヘル)"……死のみよ。



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負の連鎖

私は足を蹴り、オーバーホールの前に躍り出るとナイフで先ず、腕を狙った。

 

奴の個性は何なのか分からないけど兎に角、腕を落とせば勝てると言う勘が働いて私はその勘に従ってナイフを振るったけどオーバーホールはそれを避けて私に触れようとした。

 

私はとても嫌な予感を感じて後ろに後退しながらナイフを投擲するとオーバーホールは投擲されたナイフを掴めば刃から崩れ落ちてしまった。

 

「あれがオーバーホールの個性……」

 

「気を付けろ!オーバーホールの個性は崩壊と修復が出来るオーバーホールと言う個性だ!触れられたら終わりだぞ!!」

 

「名前の通りって事ね」

 

諢にオーバーホールの個性を教えて貰うと私は接近戦は不利と考える。

 

けど、それだと私が攻撃しにくいし、何よりも周りの刺の事を考えれば中距離での戦いもオーバーホールは可能だと考えれば打てる手は限られてしまう。

 

『焦るなジル。動きを読み、躱せ。殺意を読み、防げ。教えたろ?基本を忘れるな。どんな相手でも必ずナイフの刃を突き付けれる隙がある。狙い続けろ。相手の急所をな』

 

「分かってるわよ……アーサー」

 

私は駆け出してオーバーホールに突進する様に向かっていく。

 

「そんな闇雲に行ったら!!」

 

「血迷ったか」

 

焦る先輩を他所にオーバーホールは大した事はなかったとばかりに突っ込む私に向かって刺の床を出して向かわせてくる。

 

茨の様な刺が襲って来るけど私は僅かなすき間を潜って突破するとオーバーホールは今度は波の様に床を崩壊させて修復させると押し潰そうと狙う。

 

でも、それでも私は軽く避けて間近まで迫れば流石に焦りを見せていた。

 

「英雄症候群の小娘が!!」

 

オーバーホールはそう言って近くの変化した床を触ると私との間に壁を作って私からの攻撃を防げば横から発砲音を聞き、私は僅かに身体を動かして銃弾を避けるとナイフを投擲、不意を突いて発砲してきた白フードの首に刺した。

 

「がぁッ……!すいやせん……廻……」

 

白フードはそう言って息絶えると私は冷たくオーバーホールを見つめる。

 

「これで五分ね。オーバーホール」

 

「まだだ……まだ終わっていない。一人死んだだけだ」

 

「その一人が死んで貴方は大きく追い詰められた。誰も味方はいない。誰も貴方を助けない。助けるとしてもそれは責務を果たす為に来たヒーローだけ。結局、捕まるか死ぬかの二択。つまり、詰みよ」

 

私はそう言うけどオーバーホールは執念染みた何かで敗けは認めないとばかりに私を睨んでくる。

 

「どんな理由でも一度外道になれば報われないの。それは私もふくめて。たった今、私は大切な人を亡くした。次は貴方よオーバーホール……お前の大切なものを壊されるか……死ね」

 

「煩い黙れ!!」

 

オーバーホールはそう言って床を両手で触れれば変形した床が私を襲う。

 

刺で刺そうとするけど私はそれを避け続けて次の刺を見極め、勢いよく飛び出した刺を踏み台して飛び上がると天井を蹴って、オーバーホールに上空から急接近する。

 

「死ねぇッ!!」

 

「死ぬのは貴方よ」

 

私はオーバーホールの振るわれた手をギリギリ避けてすれ違い様に頸動脈を切り裂き、まだ動いている所をナイフで両腕を切断、脇腹と胸に二ヶ所素早く突き刺した。

 

「があぁッ……!あが……!!」

 

「凄い執念ね……まだ死なない。だったら特別に生きている内に言ってあげる。……地獄に堕ちろ。それが私からお前に与える罰よ。緋色の無念を胸に死んでいきなさい」

 

オーバーホールは私に対する憎しみを宿した眼で睨みながらそのまま崩れ落ちていくと倒れ伏し、死んだ。

 

私は返り血を浴びて身体中、真っ赤なってしまった中、ナイフに付いた血糊を払うと先輩に視線を向けた。

 

「終わったわ。これで死穢八斎會も存続出来ない」

 

「……どうして殺したんだ?」

 

「報いを受けさせる為よ。たしかに牢獄にぶち込んでも報いになる。でも、もしかしたらまた出てくるかもしれない。そうなったら保護された後に平穏に生きてた壊理ちゃんがまた非道な実験に付き合わされるかもしれない。……殺して止めるしかないのよ。救い様が無い悪は殺して止めるしかないのよ」  

 

「そんな事は決して無い!!」

 

「なら、オーバーホールは反省する意思を見せてたって言うの?」

 

私のその問いに先輩は何も答えなかった。

 

オーバーホールは反省するつもりもなく、寧ろ逃れようと必死だった。

 

法から逃げて、壊理を苦しめて、怪しげな実験で作り上げた弾を売り捌く。

 

そんなの最悪ね……

 

それにしてもあの二人には悪い事をしたわね……獲物を横取りしちゃったし。

 

「……先輩。私の役目は終わったわ。壊理と……緋色の事を任せても良い?」

 

私は此処から立ち去る決意を決めた時、大きな爆発と煙と共に歪な壁に穴が空いた。

 

「やっと出久達が来たのかしら?」

 

『……いや、違う。気配の中に殺意が混じってやがる。明らかに別だ』

 

「君達の知り合いかい……?」

 

「先輩も気付いた?」

 

「サーとも他の人達とも違う。初めての……ましてや殺意のある気配をしている知り合いは今の所、君だけだ」

 

先輩はそう言って身構える中、その穴から数人の人影が入って来るのを見た私は眼を見開いた。

 

「何あれ……?」

 

その影の正体は緑衣のフードと特徴の無い白い仮面を着けた人達だった。

 

その人達の手には拳銃なんて眼じゃない威力を持つ小銃を手にし、私達に構えている。

 

「ご苦労でした。切り裂きジャック(ジャック・ザ・リッパー)。それにヒーロー、獅子皇会の皆様」

 

『グリーン・メイスン!?』

 

「(え?あれが?)」

 

『薄気味悪い仮面に趣味の悪い服装……間違いない。まさか奴等の正装のままで来るとは思わなかったがな』

 

私はいきなり現れて小銃を構えてきたグリーン・メイスンを睨む中、先輩が反応を見せた。

 

「君達は誰だ!!」

 

「知る必要はありません。どちらにせよ……貴方方は此処で死ぬのです。さぁ、全てを諦めてその手の中に包んでいる少女と個性消失弾を渡しなさい。そうすれば楽に殺してあげましょう」

 

「死ぬだと?ふざけるな!!急に現れたと思えば好き勝手言いやがって!!」

 

諢がそう怒りを見せれば全く怖くないとばかりにグリーン・メイスンの一人が笑った。

 

「はっはは!どちらにしても個性があってもこの距離からの銃撃は避けられませんよ。貴方方の中で銃弾の効かない厄介者はそこにいるミリオただ一人……別に避けても構いませんよミリオ。その少女を……壊理を見殺しにして逃げると言うならね」

 

「くッ……俺が透過を使えば壊理に当てるつもりか!」

 

「別に死んでも構いませんからね……さて、どうしますか?」

 

グリーン・メイスンの連中は勝ち誇った様子で銃口を向けてくる中、私は単身なら兎も角、先輩達がいては下手に戦えなかった。

 

「(何か良い手は……!)」

 

私は賭けに出るべきかと考えた矢先、突然、室内なのに霧が立ち込めてグリーン・メイスンの一人が殴られて倒れた。

 

「手掛かり探しに来たら……まさかのご本人様が来やがったな」

 

「取り敢えず捕縛か?」

 

「そうだぜ。絶対に逃がすなよ」

 

「言われなくてもやるよ」

 

その声が聞こえると霧で見えない中、大きな音が何度も響きながらグリーン・メイスン達が倒される影がチラホラと見えて私は唖然としていると霧が晴れるとそこには。

 

「父さん……」

 

「あぁ……久しぶりだな……取り敢えず元気か?」

 

「うん……あまり……」

 

「……そうか……亡くしたんだな……」

 

父さんは緋色の亡骸を見てそう呟いた時、グリーン・メイスンの一人が突然立ち上がると拳銃を向けてきた。

 

「また邪魔をするか!ジャスティス!!」

 

グリーン・メイスンはそう言って拳銃を撃とうとしたけど逆に何処からか撃たれた弾で拳銃がバラバラになる形で落ち、その隙を突いて父さんがグリーン・メイスンの顎を蹴りあげて気絶させた。

 

「たく……助かったぜ。ナガン」

 

「もう少し気を付けな。霧化すれば効かないけど意識してないと霧化出来ないって忘れてただろ?」

 

現れたのは変形した右腕を戻すタルタロスに収監されていた筈のレディ・ナガンがそこにいた。

 

一度入ると出られない牢獄から一体どうやって出てきたのよ……

 

「すまんすまん。さて、取り敢えずそこにいる……ミリオか?まぁ、兎に角、応援を呼べ。ナイトアイでも誰でも良い。あと獅子皇会のお前。そこを動くな。寧ろ、殆ど制圧されてるから無駄な抵抗なんてしない方が良い。ジル。お前は……無駄だと思うが逃げるなよ?逃げても捕まえてやる」

 

「捕まるのは嫌ね。……でも、これは私の不利かしら……」

 

私の天敵的な存在である父さんと遠距離戦が得意なレディ・ナガン。

 

戦うも逃げるも厳しい二人に私はマズイと思っていた時、再び銃声が鳴った。

 

「また!?」

 

「おい!今度は何処から撃たれた!?」

 

「私はまだ何もしてないわよ!?」

 

「私じゃないに決まってるだろ!!」

 

私達は伏せながら誰が何処から撃ったのか探っていてフラりと身体を崩す父さんの姿を見た。

 

「父さん!?」

 

「来るな!!撃たれたのは腕だが傷は大した事じゃない。くそ……個性が出ねぇ……!」

 

「個性消失弾か……!?」

 

諢の言葉を聞いた私はオーバーホールの方を見ると死体が少し動かされた様な痕跡があった。

 

「そんな話は聞いていたが……俺が貰うとはな」

 

「良いから伏せとけ!あんたが狙われてるんだよ!!」

 

レディ・ナガンはそう言って父さんの頭を掴んで無理矢理に伏せさせると辺りを見渡した。

 

私も見渡すけど何処から撃ったのか分からない……私は見えない狙撃主に苛立ちを覚えていると周りが突然、煙に包まれた。

 

「今度は何だ!!」

 

父さんがそう叫んだと言う事は父さんの個性ではないのがハッキリ分かった。

 

私は何処から撃たれるのか分からない中、誰かに腕を引っ張られた。

 

「ジャック様!」

 

「綾乃?」

 

「ご無事で何よりです。さぁ、行きましょう」

 

「でも……緋色が……それに父さんも……」

 

「緋色さんは死にました。ジャスティスはプロのヒーローで間違っても死にません。……今は退くべきです」

 

綾乃の言葉に私は頷くと一緒に走った。

 

緋色を失って、目の前で父さんが傷つけられた……救えなかった苦しみを抱えながら私は只、走った。

 

~別視点side~

 

ジル達が逃げ去った後、ジャスティスは撃たれた腕を押さえながら逃げ去ったジルを他所にオーバーホールの死体を見た。

 

「……ミリオ。話に聞いていたが個性を消失させるんだよな?その弾ってのは?」

 

「そうです……ですがまだ希望があります!もしかしたら未完成の弾を撃たれた可能性も!!」

 

「そうだと良いがな……オーバーホールが漁られていたって事は完成品は奪われた可能性がある。どちらにしても最悪だ」

 

ジャスティスの言葉にミリオをうつ向くとジャスティスは笑って見せた。

 

「心配すんな。完成品を撃たれたって可能性があるだけだ。それによくやった。お前はヒーローとしてそいつを守り通したんだ。誇れよ」

 

「ですが……!」

 

「止められなかったのは仕方ない。ヒーローだって人だ。失敗もする。救けられない時もある。だがな、ミリオ。これだけは言う。……失敗をしてしまっても次に行かせる様に胸に留めておけ。もう失敗はしない、必ず救ける。その為にな」

 

ジャスティスはそう言ってミリオの頭を撫でていた時、歪な壁が破壊されて突入してきたのは出久達、ヒーローだった。

 

サー・ナイトアイは周りの現状を見てジルの未来通りになった事を知り、顔をしかめ、相澤は主犯であるオーバーホールとクロノシスタスの死亡を確認して拳を握りしめ、出久は……。

 

「神速……さん……」

 

友人の死を目の当たりにして立ち尽くした。

 

「お前はお嬢の友人か?」

 

「……はい」

 

「そうか……気に病むなよヒーロー……それがお嬢からの伝言もとい遺言だ。こうなる事になっても極道である以上は後ろ暗い事もしてきた。死ぬならそれが報いなのだと言っていた」

 

「そんな……報いだなんて……!」

 

「俺達は極道。どうやっても表社会の様に明るい道は進めない……裏社会に生きる奴は何かしらの罪を犯す。お嬢もその一人だった。だが、とても優しい方だった。俺達みたいなはぐれ者を拾っては家族だと言ってくれるお嬢は死んだ。お嬢が報いを受けたって言うなら俺は何で受けなかったんだ……!」

 

諢はそう言って死んだ緋色を抱き締めながら泣き始める中、出久は何も言えなかった。

 

結局の所、ジルへの返答も混乱によって言えずじまいで後味が悪る過ぎる結末だった。

 

「何故、此処に貴様がいる?」

 

「……答えないと駄目か?」

 

「駄目だ。捜査関係者でもない貴様が此処にいるのは不自然だ。それに誰だこの緑衣の連中は?服役していたレディ・ナガンが何故?何を探っていた?」

 

「残念だが共有出来ないんだよ。文句があるなら公安のババァに言いな」

 

ジャスティスはそう言ってサー・ナイトアイの追及を躱すと撃たれた腕を掴まれた。

 

「今回の事でもはぐらかすつもりか?お前は個性消失弾を撃たれた。未完成か完成品か……どちらか分からない。なのに無力化されているお前はそれでも何かを隠して捜査するつもりか?」

 

「ナイトアイ。……大切な奴がいるなら俺達の探る件に関わるな。失うぞ」

 

ジャスティスのその言葉にミリオ達を思い返し、サー・ナイトアイは手を放してしまうとジャスティスは笑っているが何処か悲しげな雰囲気を出していた。

 

「オリヴィアが殺されたのも俺の捜査を止めさせる為の脅しに過ぎない。連中はそう言う奴だ。本人は狙わず、大切な者を狙う……生半可なヴィランよりも卑劣な連中だ。そんな奴等の相手は大切な者が無いに等しい俺とナガンで十分だよ。聴取が必要なら連絡してくれ。あと、そいつらはすぐに釈放されちまうが捕まえとけ。行くぞナガン」

 

「……無茶だけはさせない。それだけは約束するよ」

 

レディ・ナガンはそう言ってジャスティスと共に立ち去り、サー・ナイトアイは社会に蠢く何かが闇にいる事を知るも深追いも出来ずに終わった。 

 

~side終了~



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大義無き刃 ~前編~

私は綾乃の用意した逃走用の車で雨の中で何とか追跡の手を撒いて事務所に戻ろうとしたけど車から流れるニュースで取り止めた。

 

《緊急速報をお伝えします。今日の昼頃、切り裂きジャック(ジャック・ザ・リッパー)の亡霊のアジトにエンデヴァー達、ヒーローが突入しました。死穢八斎會と獅子皇会による抗争の際に神速 緋色との関係が浮上し、獅子皇会関係の物件の捜査、聞き込みによってアジトの提供が行われていた事が明らかになり、緊急捜査となりました。エンデヴァーが切り裂きジャック(ジャック・ザ・リッパー)の亡霊のアジトに突入し捜査した所、隠し棚が発見され、中から大量のナイフが見つかったとの報告があり、現在でも獅子皇会と切り裂きジャック(ジャック・ザ・リッパー)の亡霊との関係性を調べている模様です》

 

そのニュースではエンデヴァー等のヒーローが事務所に突入してきたと言うもので緋色との関係がバレたのなら発覚も時間の問題だとは思ってた。

 

緋色を喪う、帰る場所も無くした。

 

私は車内が揺れる中、一つの決断を下した。

 

「綾乃……」

 

「何ですか?」

 

「もう……関わるのは止めて……」

 

私のその一言で車内は静粛に包まれたけど綾乃は何かの冗談だと受け取ったのか笑った。

 

「何を言っているのですか?まだこれからです。緋色さんは……残念でしたけど貴方がまだいる。なのに私がいなくなるのは」

 

「死なせたくないから……緋色が死んで分かった……私は……誰の手も借りてはいけなかった……借りたから緋色は死んだ……」

 

「止めてください」

 

「貴方まで私に関わり続けたら死んでしまう……だから綾乃。貴方は」

 

「止めてください!!」

 

その怒鳴り声が車の中に響くと同時に車が急停止して綾乃は私を悲痛か表情で見てくるけど怯まずに綾乃に視線を向けた。

 

「もう……私一人で大丈夫だから……貴方は……貴方の幸せの為に生きて……さようなら、綾乃」

 

私はそう言って車から降りて早歩きで離れようとすると綾乃の視線が背中から伝わる。

 

少しでも遠ざけないとまた失ってしまう……それに私には逃げる前にまだやり残した事が残っている。

 

グリーン・メイスン。

 

奴等がやっと姿を現した……此処で放り出して逃げてしまっては全ての犠牲が無駄になる。

 

「アーサー。貴方がグリーン・メイスンを暴いた方法は拷問しつつ自分より上の仲間の名前を吐かせて行ったからよね?」

 

『そうだ。だが、良いのか?一人で戦うのは……とても辛いものだぞ?』

 

「分かってるわよ。また、喪うくらいなら……私は一人で良い。一人なら私は慈悲を……優しさを捨てられる。そう……優しいジルは不要なのよ。悪は決して赦さない。どんな罪に対しても罰を与える。無慈悲で冷酷な殺人鬼……私がそうなれば良い」

 

私はそう言いきるとアーサーは何を考えてるのか黙ったまま私を見つめていた。

 

「必ず見つけ出して、必ず殺す。母さんの仇を。緋色を巻き込んだグリーン・メイスンを。必ず私が全て切り裂いてやる」

 

『……そうか。なら、もう何も言わない。好きにしろ。だがな、ジル。優しさを捨てるのは良いが……後悔するなよ?』 

 

「えぇ、約束する。私は……後悔なんてもうしない」

 

私はアーサーにそう誓うと雨の中、歩き出す。

 

グリーン・メイスンの宛はもうある……ヒーローと警察に連行された連中だ。

 

奴等はグリーン・メイスンの加護下の人間で助けるのも始末するのも一度は釈放を促す可能性がある。

 

マークも当然着くけど必ず全体的にまではいかない。

 

必ずある隙を突いて……聞き出す。

 

絶対に逃がさない……絶対によ。

______

____

__ 

 

その夜、狙いを付けたグリーン・メイスンからナイフで切り裂かれた傷から血を飛び散る光景と悲鳴を聞いた私は冷たく見た後、問う。

 

「吐け!!グリーン・メイスン!!お前の上の奴の名前を吐きなさい。そうすれば次の奴の所に聞きに行ってあげるから」

 

「ひ、ひぃッ!?た、助けてくれ!!お、俺は……ぎあぁぁぁぁッ!!?」

 

「吐けと言ったのが分からない?はぁ……だったらもっと痛い目を合わせないとね」  

 

私は吐かない奴には徹底的に痛め付けた。

 

刃を突き立て、切って、殴って、蹴り上げて。

 

思い付く限りの拷問を行ってグリーン・メイスンの口を割らせた。

 

けど、今回は外れね。

 

「た、助けてくれ……!知らないんだ!!本当だよ!!」

 

「……まぁ、良いわ。次の宛はあるしね。そろそろ死になさい」

 

私はそう言った後、ナイフを突き立てて"FROM HELL(フロム ヘル)"の血文字を残して次を当たる。

 

次に当たれば情報を引き出し、外れても既に捕まった奴以外の検討が付く程にグリーン・メイスンの末端の構成員の居場所は特定出来てるからすぐに情報を引き出せに行けた。

 

中には妻子や友人がいる者もいたらしいけど……奴等は多くを奪った。

 

なら、今度は奪われる側になるべきよ。

 

別にグリーン・メイスンでなければその人達には手は出さない。

 

あくまでも悪のみを殺す事を心掛けてグリーン・メイスンの命を奪う。

 

私は虐げられてきた者達の代表として、地獄からの使者として奴等を炙り出す。

 

何日か粘ってみた結果、私は思いがけない人物の名前を聞き出した。

 

「速撃 打美?」

 

「お、お前も知ってるだろ?れ、レディ・クイック……ジャスティスのサイドキックでスパイだった!!正体がバレそうになって別件の任務に着いた筈だ!!」

 

「へぇ……まさか父さんの所にスパイね……仮にもヒーローが秘密結社の一員とはね」

 

「ゆ、有力な情報だろ?それにあんたの母親の仇を知ってるか?そいつだよ!!レディ・クイックがやったんだ!!変装した後、押し入って何発も撃ったって聞いた!仇だって事も教えたんだ!!見逃してくれよ!!!」

 

私はそれをまさか近くに仇がいるなんて思いながら笑うとナイフをグリーン・メイスンの首筋に当てた。

 

「ありがとうね。おかげてやっと主目的を達成出来そうだわ。これは細やかな御礼よ。……取ってろ!!」

 

私はそう言って勢いよくナイフで頸動脈を切り裂くと返り血を浴びながら死んでいくグリーン・メイスンを睨み付けた。

 

『やれやれ。やっと仇が取れそうか?』

 

「えぇ……ヒーローの裏切り者、レディ・クイック。彼女が仇と言うなら私は迷うつもりはない。絶対に殺す」

 

『言っておくがなジル。復讐はあまりスッキリしないぞ?寧ろ余計に苦しくなる』

 

「今更それを言うの?」

 

『そうだな。お前はお前の道を行け。仇を取りたいなら止めやしないさ』    

 

アーサーはそう言って笑うと私は母さんの仇を取る為にレディ・クイックを見つけ出すべく歩き出す。

 

必ず殺してやる

 



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大義無き刃 ~中編~

~別視点side~

 

ジャスティスは撃たれた個性消失弾が未完成品か完成品か分かるまで謹慎しろとサー・ナイトアイ達にしつこく何度も言われ、挙げ句の果てにレディ・ナガンの厳重な監視を受けていたが上手く抜け出していた。

 

夜の暗闇の中を歩きながら考え事をしながら歩いていると前から見知った顔の人物がやって来た。

 

「はぁ……やっぱりな。いつかは出てくると思ってたぜ。レディ・クイック」

 

「少し……話しませんか?」

 

レディ・クイックに話さないかと促され、近くのベンチに並んで座るとジャスティスは切り出した。

 

「何で姿を消していたんだ?心配したんだぞ……お前が何かあったかってな。訳を教えてくれるか?」

 

「心配を御掛けしてすみません……その訳は言えません。しかし、私は只、自分のやるべき仕事をしていただけです」

 

レディ・クイックのその言葉にジャスティスは簡単には話さないよなと思っていると次はレディ・クイックから切り出した。

 

「何故、レディ・ナガンが釈放されたのですか?私は別に釈放までは望んでいない。罪を犯したのなら例え師であっても罪を償うべきと思っています。貴方の働き掛けですか?」

 

「まぁな。ナガンに司法取引的な感じで交渉してな。ある仕事が終えたら無罪放免で永遠に自由の身にするって約束で手伝って貰ってる。勿論、後ろ暗い仕事じゃない。……俺が追い続けた連中の調査だ」

 

「グリーン・メイスンですね?」

 

「そうだ。奴等は尻尾を簡単には出さなかった。だが、油断したのか分かりやすい手掛かりを残した……が、ジルの奴がまた滅茶苦茶にしやがった……マークしていた奴等を尽く甚振ってから殺してやがる。恐らくは……」

 

「拷問して仲間の居場所を吐かせいると言う事ですね?」

 

レディ・クイックのその言葉にジャスティスは溜め息を吐くと頷いた。

 

「そうだ。ジルは非道な手段で真相に逸早く辿り着こうとしてやがる。こんな犯行方法はしなかった筈だがな……だが、俺は前の事があったから一人だけ取っといていたんだ。グリーン・メイスンの一人をな」

 

レディ・クイックは無言でジャスティスを見る中、ジャスティスはレディ・クイックに鋭い視線を向けた。

 

「誰だか分かるか?」

 

「……いいえ。誰ですか?」

 

「それはな……テメェの事だよ!打美!!」

 

ジャスティスはそう言い、レディ・クイックを取り押さえようとしたがそれを予期していた様にレディ・クイックは避け、ピースメーカーを向けた。

 

「貴方は今は個性が使えない事は知っている。苦しまない様に殺しますから大人しくして貰えますか?」

 

「馬鹿か?誰が大人しく殺されるか!!テメェを捕まえてグリーン・メイスンの全てを吐かせてやるよ!!」

 

ジャスティスはそう言ってレディ・クイックの懐に飛び込もうと地面を蹴り、踊り出るとレディ・クイックは冷静に銃口を向けて引き金を引く。

 

放たれる銃弾をジャスティスは避けてレディ・クイックに一撃を与えようとした時、後ろから迫る銃弾を察知し、間一髪で躱した。

 

「卑怯だぜ。個性を使いやがって」

 

「私の個性……ガンスリンガーを覚えていてくれましたか」

 

「そりゃ覚えてるだろ?仮にも雇ってた身だぞ?」

 

「そうですよね。なら、私の"もう一つの個性の能力"も覚えてる?」   

 

レディ・クイックのその言葉にジャスティスは冷や汗を流しながら考え込む素振りをしつつ答える。

 

「確か複合個性だったよなお前?銃の弾を変幻自在に操り、そして……右眼を存在する全てのスコープに切り替えられる。熟達すれば百発百中の技となる。そしてお前自身が身に付けた速撃ち。まさに銃に愛され、銃を撃つ為に産まれた……なんて言われてたよな」

 

「おかげで人殺しに特化したヴィラン女だって言われて虐められました。そんな私を助けてくれたのがレディ・ナガン。私を拾って、私に人を救ける為に撃つ術を教えてくれた」

 

「そんなお前はナガンを裏切ったんだぜ。人を殺し、悪行に加担したお前はナガンから教わった人を救ける為の技を自身の私欲を叶える為に使った」

 

「仕方なかった。そうしなきゃレディ・ナガンは永遠に浮かばれなかった。背負った罪、暴かれない罪。どちらが重いと思いますか?」

 

レディ・クイックのその言葉にジャスティスは溜め息をつくと頭をかきむしりながら答える。

 

「両方に決まってんだろうが」

 

「貴方ならそう言うと思いました」

 

レディ・クイックはそう言って笑い、銃口を向けた。

 

右目はスコープに切り替わり、確実に撃ち殺す為に狙いを定めた。

 

「もう私は引き返せない……目的も見えなくなった……だったらせめて全てを巻き込んで社会を滅茶苦茶にしてやる!!」

 

「止めろよ。そんな事をしたって誰も喜ばねえよ」

 

「喜ばれる必要は無い。脆いこの社会はいつか破綻するのだから早めに壊れても良いじゃないですか。新しく作り直すには壊す必要もありますから」

 

「別に作り直すのに全部壊す事なく直せるかもしれないぜ?」

 

「そんな事には絶対にならない。現に今でも公安は後ろ暗い事を隠し、ヒーローの一部は腐敗した。警察もグリーン・メイスンの工作ですぐに駄目になった。どうです?これで一部を直せば建て直せますか?」

 

「やってみるさ。何もしないで無理なんて言うのは最初から諦めた奴の言う事だ。だから、俺の命……建て直す前に取られる訳にはいかねぇよ」

 

ジャスティスはそう言って睨む中、レディ・クイックは撃鉄を起こした。

 

「なぁ……打美。お前がジャッジをやったのか?」

 

「……えぇ、私です。私が殺しました」

 

「何でだよ……お前ら付き合ってたろ?何を間違ったら殺すんだよ……」

 

「命令でした……始末しておけと……言われなくても遠回しに……私も組織に属する身なら従わざるを得ないです」

 

「そんなにグリーン・メイスンが大事かよ?」

 

「目的の為なら秘密結社でも利用しますよ。さよなら……ジャスティス。恩を仇で返して……申し訳ありませんでした……死んでください」

 

レディ・クイックに銃口を狙われれば最後、個性無しに戦う事も逃げる事も困難であるとジャスティスは考え、少しくらい人の言う事を聞けば良かったかと思いながら笑い、駆け出した時、銃声が鳴り響いた。

 

~side終了~

 

一週間が経って、私がいくら探しても、グリーン・メイスンに問い質しても一向に見つからないレディ・クイックに対して苛立ちを覚えていた。

 

『落ち着けよ。焦ったって見つかりやしないぞ』

 

「分かってるわよ……」

 

母さんを殺した女が今も何処かでのうのうと生きているそいつが許せない。

 

私はレディ・クイックが身を隠しているのは私に母の仇だと知られたのを悟られたのかと思いながら路地を歩いていると後ろに気配を感じた。

 

私は振り向くとそこには。

 

「オールマイト……!?」

 

「やぁ、霧先少女……少しだけ時間をくれないか?」

 

そこには痩せこけて平和の象徴の面影など全く無いオールマイト本人がそこにいた。

 

「何でまた……?貴方は引退したと聞きました」

 

「そう。引退してもうヒーローではなくなった。私に君を捕まえる権限は無いよ」

 

「だったら関わらないで。私は何を言われても引き返さない」

 

私はそう言い放って立ち去ろうとした時、オールマイトの声が路地に響いた。

 

「君のお父さんが危篤なんだ!!」

 

「……え?」

 

「君のお父さん……ジャスティスが撃たれた。個性消失弾を撃たれて個性が使えない状態を狙われた。すぐに病院に運ばれて治療が行われたが残念だが僅かに延命しか出来なかった。目を離してしまった我々の失態だ……君に何かを言う資格も無い……償いと言う訳じゃないが頼む。最後にジャスティスの元に行ってくれ。もう時間が無いんだ。元ヒーローとして失格の行為だが君を面会までの間、一時的に見逃そう。だから……頼む!!彼の元に行ってやってくれ!!」

 

オールマイトはそう言って頭を下げるけど私は父さんが撃たれて危篤と聞いて冷静じゃいられなかった。

 

『どうするつもりだ?』

 

「(どうするって……父さん……!)」

 

私は本当にどうすれば良いのか分からなかった。

 

罠かもしれない……オールマイトに芝居をする様にさせてのこのこと来た所を取り押さえる……いや、雄英で学んでいた時のオールマイトは何処か抜けてた。

 

オールマイトが芝居をすると頷いても本気と演技では必ず言動や身体の変化に食い違いがある。

 

オールマイトのそれは……本気だ。

 

芝居なんてしてないと完全には言えないけどもしかしたら……いや、オールマイトには秘密にして他のヒーロー達が罠を……

 

「信じられないのは分かる!!だが、本当だとしか言えない!!君と君のお父さんの最後の別れになるかもしれない!!信じてくれないか!!」

 

『会ってみたらどうだ?』

 

「(アーサー?)」

 

『最後の別れになるかもしれないなら会っておけ。それだけは後悔したくないだろ?』

 

アーサーのその言葉に私は暫く考えた後、最後かもしれない父さんとの別れをする為にオールマイトの誘いに乗った。

 

「罠じゃないでしょうね?」

 

「私が保証する。もし、私に何も知らせずに他の者達が罠を仕掛けていたら身体を張って止めるさ」

 

「その言葉……信じるわよ」

 

寧ろ嘘だと思いたい……父さんが死ぬなんて思いたくない……お願いだから行った瞬間にドッキリでしたって父さんの悪ふざけじみた罠だとかで良いから……生きてて欲しい。

______

____

__

 

私はオールマイトに連れられた病院へ来るとこっそり裏口から入った。

 

オールマイトの案内の元、父さんにいる病室前に密かに来るとオールマイトは頷き、私は病室に入った。

 

そこには弱々しい吐息で目蓋を閉じて人口呼吸器が取り付けられた状態で寝かされた父さんがそこにいた。

 

「父さん……!」

 

私は父さんの手を取ると危篤状態だった筈ので父さんの目が開いた。

 

「……ジルか?」

 

「うん……私よ……」

 

「なぁ、今までのは夢だったのか……?長い間、寝てて記憶が曖昧だ……お前が殺人鬼になって……人を殺しちまった……今のお前は……」

 

「ヒーローよ……殺人鬼じゃない……誰かを救う……父さんの誇れる様なヒーローよ」

 

私は嘘をついた……父さんが死ぬと思えばこれくらいの嘘は良いと思った。

 

「……馬鹿か……嘘丸出しだ……お前の眼を見れば分かる……お前はオリヴィア譲りの綺麗な青い瞳だった……今のお前の瞳は……殺人鬼の赤だ……」

 

「馬鹿とは何よ……父さんが死ぬなんて聞いたから言ったのに……」

 

「だからって嘘をつくな……お前は自分でその道を選んだなら……もう止めはしない……もう止めてやれないからな……」

 

「父さん……!」

 

「やっぱり良いな……愛する娘から父さんって言ってくれるのは……お前が殺人鬼に堕ちても……俺を父親として見てくれた……ありがとうな……」

 

父さんはそう言って弱々しく握り返してくれた。

 

私は泣くしかなかった……私の大切な家族がまた喪う事実に私は……

 

「父さんをやった相手はレディ・クイックよね……?」

 

「……彼奴の正体を知ったのか……良いかジル……俺の……オリヴィアの仇を取りに行くな……」

 

「でも……!」

 

「俺は復讐は望まない……オリヴィアもだ……彼奴は自分の道を見失った……捕まえて……正して……やらねぇと……」

 

「……父さん。私は」

 

「どうせ行くんだろ……?困った娘だな……全く……彼奴はかなりの銃の使い手だ……間違っても彼奴の土俵に上がるなよ……アドバイスはそれだけだ……」

 

「父さん……?」

 

「言って何だがな……彼奴はもう法じゃ裁いてやれない……ジル……言いたくなかったが……レディ・クイックを……打美を止めてやってくれ……彼奴を……苦しみから解放してやって……くれ……」

 

父さんはそう言ってまた目蓋を閉じて……そのまま呼吸が止まって……私の手を握っていた手は落ちていった。

 

父さんが死んだ……私がそう悟った時、病室に入ってくる者達が現れた。

 

「ジャスティス!!」

 

「落ち着くんだエンデヴァー!!」

 

「黙れ!!奴はこんな所で死ぬ男ではない!!起きろ!!貴様はオールマイトの次に越えてやると誓った相手だ!!起きろ!!!」

 

「黙れって言ってんだよ!!少しは空気読め!!」

 

「そうだよ。遺族の娘さんもいるんだ……少しごめんね」

 

入ってきたのはオールマイトを始め、いつの間にか来ていたエンデヴァーとレディ・ナガン、リカバリーガールだった。

リカバリーガールは父さんが死んだ事を確認すると死亡時刻を言って死んだ事を伝えた。

 

「残念だったね……私達は此処ではヒーローとして手を出すつもりはないから……気が済むまでいなさい」

 

リカバリーガールはそう言って私の頭を撫でた後、エンデヴァーは足早に出ていき、オールマイトは悲しげに出ていき、レディ・ナガンは私を抱き締めて慰めてくれた後、静かに出ていった。

 

『ヴィランの俺達に最後の別れをさせてくれるなんてな。ヒーローもお人好しだな』

 

「今は感謝してる……そのお人好しな優しさがあったから最後のお別れが出来た……」

 

『これでますます仇を取らなきゃな。あの頑固親父に言われたろ?……レディ・クイックを殺してくれって』

 

「父さんがそれを言うなんて思わなかった……でも……言われなくても殺すわよ……」

 

私はそう言ってそろそろ立ち去ろうと病室の扉に手を掛けた時、扉の下の隙間に綺麗に折り畳まれた紙が落ちてた。

 

私はそれを拾って広げるとそこには場所と時刻が書かれていてその復讐戦を受けると書いてあり、最後の辺りに名前が書かれていた。

 

レディ・クイックと。

 

『丁度良い!彼奴から果たし状だぞ』

 

「……そうね。アーサー……必ず仇を取るわよ」

 

私は燃える憎悪の火を激しく燃やしながら病室を開けて密かに立ち去った。  

 

 



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大義無き刃 ~後編~

私は街灯が光る夜、レディ・クイックの指定の場所と時刻に合わせてやって来るとそこにレディ・クイックが確かにいた。

 

「指定されて来たけど……罠すら張らずに待ち構えてるなんて舐めてるの?」

 

「別に……ねぇ、私が貴方のお母さんの仇だって知って……どう思ってる?」

 

「貴方が許せない。それだけはハッキリしてる。父さんを殺したのも貴方でしょ?」

 

「えぇ……残念でしかなかった。私としては敵同士として戦いたくなかった」

 

「殺しておいて……!」

 

私がナイフを手にするとレディ・クイックは拳銃を構えてきた。

 

抜いて構えるまでが全く見えなかった……ヒーロー名に因まれる様に速撃ちが得意なのね。

 

「この距離ならナイフよりも銃が速い。もう少し考えてからナイフを抜くべきだったわね?」

 

「舐めるな!」

 

私はナイフを投擲し、レディ・クイックが拳銃でナイフの投擲を防いだ隙に私は接近戦に持ち込んでナイフの刃で貫こうとしたけど僅かなどうさで避けられて一瞬の隙を逃されず拳銃で殴られ、蹴り飛ばされた。

 

私はそのまま地面に転がるとすぐに銃弾が飛んできて咄嗟に避けると私のい位置の地面を正確に着弾した。

 

そこからまた、発砲されて私はそれを避けてまた攻撃しようとした時、私の背中に痛みが走った。

 

「がはぁッ……!」

 

『ジル!!』

 

「甘いわね……私だって個性持ちよ。少しは後ろに注意しなさい」

 

飛んでい弾の中に個性の力が影響した弾があったのか私の背中に被弾してしまった。

 

私は片膝をつくとレディ・クイックは弾込めをしながら話し掛けてくる。

 

「その程度で仇を取れると思ったの?銃は接近すれば勝てるなんて素人の考えよ。私はもしもの時に接近戦での訓練も受けてる。ヒーローは一芸だけじゃ務まらないって聞いた事があるでしょ?」

 

「黙れ……貴方はヒーローじゃない……私と同じ……いいえ……同じだと思いたくない殺人犯よ……」

 

「遺言はそれだけ?まぁ、良いわ。御両親と早く再会させてあげるわ。あの世でね」

 

レディ・クイックは撃鉄を引きこ起こして私に照準を向けるけど私は負けるつもりはない。

 

私は近くの街灯に何本かナイフを投擲して壊して光を打ち消すと暗闇に紛れた。

 

「暗闇に逃げても無駄よ」

 

もしかしたら暗闇に対応する何かを持っているかもしれない……完璧じゃないと思うけど注意しないと。

 

私は暗闇に紛れ、隠れて隙を伺いながらレディ・クイックが一瞬、後ろを向いた所を突いてナイフを振り下ろした。

 

「ぐッ!?」

 

ナイフはレディ・クイックの右肩に深く突き刺さり、レディ・クイックは痛みで持っていた銃を落としたけど変わりに左腕の拳が私の顔に飛んできた。

 

私は殴られたけど流れた鼻血を拭いながらレディ・クイックの懐に飛び込んで力付くで押し倒した。

 

互いに倒れて体勢の有利を取り合う様に転がる中、ナイフは落としてしまったけど私が上乗りになる形になり、体勢の優位を取ったけどレディ・クイックは諦めずに私を睨みながら残った左腕で抵抗してきた。

 

「ジル!!!」

 

「クイック!!!」

 

もはや個性関係無しの殴り合いになり、私は殴られても殴り返す様に、レディ・クイックも殴り返してきた。

 

互いに殴り合う中、私は鬱陶しい左腕を足で押さえ込むとそのままレディ・クイックを何度も殴った。

 

母さんを見せしめの為に殺し、父さんの想いを踏みにじって殺し、それを指示した連中に尚も従う彼女に私は消えない憎しみを晴らす様に何度も殴っているとレディ・クイックが左腕の拘束を解いて私を殴り飛ばすとそのまま拳銃を取ろうとしたから私は咄嗟にナイフを投擲してレディ・クイックの右足に当てて転ばした。

 

「私は……まだ……!」

 

レディ・クイックは尚も這いずって拳銃を取ろうとするのを私は近づいて手にしようとしていた左手を踏みつけた。

 

痛みで小さな悲鳴を挙げるレディ・クイックに私は冷たい視線を向け続ける。

 

「無様ね。あれだけ優位に立ってたのに今は私の前で這いつくばってるなんてね」

 

「貴方には分からない……たった一人に責任を押し付けてのうのうと権力の椅子に座る連中への怒りを!!私は只、奴等を引きずり下ろしてやりたかった!!引きずり下ろして責任を押し付けた報いを受けさせてやりたかった!!レディ・ナガンは私にとって母親の様な人なのよ!!」

 

レディ・クイックは興奮気味にそう言ってきた。

 

母親……こいつがその言葉を吐くとは思わなかった。

 

「私は……孤児だった……親の顔も知らないし、ましてや親なんて呼べそうな職員は無関心。同い年の同じ孤児達には個性のせいでヴィラン扱いにしてヒーローごっこと称した虐めを受けてた……」

 

私も個性を隠して無個性なんて言ってたから虐めを受けていた……

 

「毎日辛い時に孤児院にレディ・ナガンが慰問にやって来た。孤児院の皆は本物のヒーローに大はしゃぎで私はどうせ個性がヴィランみたいだと思われると思って離れてた。でも……レディ・ナガンが私に気付いてくれた。自分も似た様な個性だって……私もヒーローになれるって言ってくれた……」

 

ヒーローになれるって言ってくれる人がいた……それは根津校長や母さんの様に私を私と見てくれる人達……

 

「私を引き取って、私に戦い方を教えてくれて、ヒーローになれた私をサイドキックとして連れていってくれて……楽しかった……なのに……公安の連中はレディ・ナガンの力を利用して汚れ仕事を押し付けていた!!レディ・ナガンが帰ってくる度に疲れきって……落ち込んでて……最後には公安の会長を殺してタルタロス……事件は揉み消されてレディ・ナガンが仲間殺しをしたから入れられたなんて言われた」

 

罪事態はレディ・ナガンにはある……だけど確かにやるせない。

 

レディ・ナガンにはレディ・ナガンの罪があり、公安には公安の罪がある。

 

「レディ・ナガンだけが世間から悪く言われ続けて公安は知らぬ顔をして!!平気そうな顔で社会を動かして卑怯よ!!私は許さない!!絶対に奴等を潰す!!奴等が大事に守ってきた社会を粉々にしてやる!!!」

 

「……貴方の境遇は分かった。でも、だからと言って人の大切な人を奪う権利は無いでしょ?私も自分勝手に動いて、殺して、逃げ回った。でもね……私は誰かの大切な人を奪ったりはしなかった。貴方は自分のやっている事を正当化して周りに押し付けて罪を犯した」

 

「違う!!」

 

「母さんを殺すだけじゃ飽きたらず父さんも殺した」

 

「命令だった……オリヴィアは見せしめにしろって……ジャスティスを抹殺しろって未完成の個性消失弾を渡されてそれを他のグリーン・メイスンが狙った所を撃って一人になった所でトドメを刺して……」

 

「止めて。言い訳なんて聞きたくない。もう……終わりにしましょう……」

 

私はナイフを逆手にして持つとレディ・クイックを背中きら突き刺そうと狙った時、レディ・クイックはまだ諦めないのか左手を外そうと踠く。

 

「ジル!!だったら公安の罪はどうなのよ!奴等は今でも知らぬ顔で存続してる!貴方が法に裁かれない悪を殺すって言うなら何で奴等にその刃を向けないの!!」

 

「向けない訳じゃない。只、全員に向ける訳にはいかない。純粋に社会に貢献しようと働いてる人だっている筈よ。狙うなら腐敗した連中を叩くだけで良い」

 

「どちらにしても公安の闇は晴れないじゃない!!」

 

「法は完璧じゃない……だから逃げられたり、知らぬ顔でのうのうと生きる奴も現れる。でも、それを不満にして善悪関係無しに無差別に殺したら大義も何も無い。それに私は今は……大義なんて語らない。あるのは復讐だけよ。さよならレディ・クイック。両親を殺した……その報いを受けろ!!」

 

私はそう言ってナイフをレディ・クイックに突き立てるとレディ・クイックは深く刺されてもなお、諦めずに抵抗しようとしている。

 

「私は……負ける訳には……レディ・ナガン……!」

 

その言葉を聞いた私はもはや何も思わず再度、ナイフを深く突き立てるとレディ・クイックは最後まで抵抗し、レディ・ナガンの名前を言いながら死んでいった。

 

これで……私の復讐は果たされた……

 

でも……何故か……

 

とても……虚しかった……



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【第四章】復讐を終えて【END】

私はレディ・クイックを殺してその場で佇んだ……憎い相手を殺したのに全く心が晴れない……やり場の無い虚しさと悲しさが残った……

 

「アーサー……私……やったよね……?」

 

『そうだ。復讐を終えた。どうだ?満足か?』

 

「……分からない。復讐は終わったのに……何でか心が晴れない……寧ろ……虚しくて仕方ない……」

 

『だから言ったろ?復讐はスッキリするもんじゃない。寧ろ虚しく、悲しくなるのさ』  

 

アーサーのその言葉に私は此処まで来る為に多くの悪を殺してきた。

 

でも、悪と言っても私の復讐には関係の無い者ばかりで殺した者の中には誰かの大切な人がいたりした。

 

それだけじゃない……私に味方をしてくれた緋色は死んで、父さんも死んだ。

 

私が殺人鬼にさえならなかったら……もしかしたら生きていたかもしれない……

 

「アーサー……私……自首をするって言ったら」

 

私が自首を仄めかす発言をした時、アーサーが左腕だけを動かしてナイフを手にすると私の首に刃を突きつけた。

 

『面白くないな……そんな冗談はな』

 

そう言うけど眼が笑っていないアーサーに初めてナイフを突き付けられて私が混乱しているとアーサーは鋭い視線を向け続ける。

 

『お前は法に縛られない無法者(アウトロー)として法から逃れる悪を殺した。犯罪の無い誰もが幸せな世界の為にな。なのにいざ、自分の復讐を終えたら一気に後悔して自首して逃げ様なんてな』

 

「そう言うけど……追跡されない様に証拠を消したり、ヒーローから逃亡するのも逃げじゃないの?」

 

『お前は悪だ。いつかは裁かれる時が来る……だが、お前は捕まれない。何故なら全ての犠牲を無駄にしない為にも。目的や理想を果たす為にも。捕まって水の泡にする訳にはいかないだろ?』

 

アーサーの言う事も確か……悪人だけど今での犠牲を無駄にしてしまうは抵抗がある……犯罪の無い誰もが幸せな世界の実現の為にも……

 

『俺は逃げたりした。嘘もつく。だが、無駄な殺しはしなかった。だが、お前は恥知らずにもしてきた責任を捨て去って自首して逃げ去ろうとした。もし、まだ自首をしたいなんて言うなら……霧先ジル。ここで死ね。同じ身体のよしみだ。地獄まで付き合うぜ。だが、まだ仕事が残ってる』

 

「仕事……」

 

『グリーン・メイスン。奴等が残っているし、殆どの事件の首謀者だ。奴等さえいなけりゃ生きてた奴や不幸にならなかった奴もいただろう。それにレディ・クイック。奴はグリーン・メイスンに属していた。奴を唆して悪の道に進ませたのが奴等なら……必然的に仇討ちはまだ終わっていない』

 

仇討ちは終わっていない……確かにグリーン・メイスンはまだ存在している。

 

奴等を潰さないで捕まるなんて出来ない。

 

私は拳を握り締めて決意を固めた。

 

「アーサー。もう少しだけ……付き合ってくれる?」

 

『喜んで。グリーン・メイスンを根絶出来るなら尚更な』

 

私達はグリーン・メイスンを潰す決意を固めた……のは良かったけど忘れてた事がある。

 

「……背中とか痛いから先に治療に行きましょう」

 

『やれやれ。撃たれた傷や殴られてた事も忘れてたなんてな。サッサと診療所に行け』

 

診療所までの道のりは綾乃がもういないので歩くしかないけど考えても始まらないから暗闇の中を歩いて行った。

 

~別視点side~

 

ジルの仇討ちから数日が経ち、レディ・クイックこと速撃 打美の死亡が確認され、ジャスティス事務所の全滅が確認される事となった。

 

滞る対応策、ヒーローの大幅な減少、治安の悪化、切り裂きジャック(ジャック・ザ・リッパー)の支持者達、そして……

 

《今日の昼頃、ヴィジランテのチームであるロックアウトが強盗団を拘束する活躍を見せました。ロックアウトはヒーロー減少問題に伴い、尚且つ頼りにならないヒーローを見かねて立ち上がったヴィジランテの三人組のチームでヒーローが去った地区に現れては瞬く間にヴィランを拘束する活躍を見せています。彼らは報酬を求めず治安維持のみに貢献する姿から本物のヒーローだと称賛を集めている模様です》

 

そのニュースが連日に流れヒーローへの信頼が揺らぎ続ける中、引退したオールマイトやNo.1へと繰り上がったエンデヴァーと言ったトップヒーロー達が公安の会長に呼び出されていた。

 

「よく来てくれました皆さん」

 

「御託は良い。何故、引退したオールマイトをも呼んだのか理由を答えて貰おうか?」

 

エンデヴァーがそう言って話をする様に促すとオールマイト達も真剣な面持ちで会長を見ていた。

 

「本題に入らせて貰います。理由としては他に信用出来るヒーローがいなかったらから」

 

「おいおい、そりゃねぇだろ?確かに不正疑惑やら不祥事が幾つも挙げられたけどよう。何も信用してない風に言ってやるなよ」

 

ミルコが反発し、他のヒーロー達も同意したり、声に出さなくてもミルコに同意する素振りを見せる者もいた。

 

「残念ながら本当に信用が出来ないのです。貴方達も既に把握している通り……警察での不審な動き、そして犯罪の活発化、過去の欲欲議員の汚職、八斎會と獅子皇会の抗争……全て繋がっています」

 

「繋がっている!?どういう事ですか!?」

 

オールマイトは関係無さそうな事件が全て繋がっていると聞いて驚愕すると会長は告げた。

 

「グリーン・メイスン。それが裏で糸を引いていた存在です。彼等は並大抵のヴィラン組織ましてやヴィラン連合よりも遥かに厄介であり、露骨な秘密結社です」

 

「ヴィラン連合よりも?」

 

「グリーン・メイスンは聞いた事がある……19世紀ロンドンで話されていた秘密結社で、緑頭巾のグリーン・メイスンが言う事を聞かない悪い子供を攫いに来るぞ。と言う御伽話的な存在だ」

 

「はぁ?何だよ……御伽話かよ」

 

ベストジーニストの説明にミルコは呆気に取られて呆れる中、会長は続ける。

 

「もし……グリーン・メイスンが実在していたら……と言えばどう思いますか?」

 

「実在するのか?御伽話なのだろ?」

 

「敢えて御伽話として広め自分達の存在を隠していた……そう言う事だろ?」

 

「大まかな推察としては其方が正しいでしょう。正確な事は昔の話である以上は掴め切れませんが」

 

「と言う事は今までの警察による理由不明な釈放は!?」

 

「グリーン・メイスンが警察内部に手を伸ばしきったと言う事になります。そして議員もいた事から政府にもいる可能性があり、そんな状態であるならヒーローの中にも……だからこそ信頼出来ると思える貴方達を呼びました」

 

オールマイト達は予想だにしなかった案件に声も出せないでいると会長は纏められた多くの報告書を取り出した。

 

「これは全てジャスティスが調べ挙げたもの。公安の中にはジャスティスを危険視し、監視している者もいましたがそんな状態でもグリーン・メイスンを追ってくれたのですが……残念ながら刺客に……」

 

「ジャスティスを殺したのがそのグリーン・メイスンの刺客なのか……!」

 

エンデヴァーは怒りの炎を見せ、オールマイトや他のヒーロー達も怒りの表情を見せていた。

 

忘れ去られていたトップヒーローではあるが誰よりも正義感あるヒーローであるのは他のヒーロー達は忘れなかった。

 

そんなジャスティスが殺された……しかも前に妻であるオリヴィアも殺されている。

 

残されたのは殺人鬼である一人娘のジルだけ。

 

いくら殺人鬼でも彼女から両親を奪った連中をオールマイト達は許さない気持ちだった。

 

「この事は私や一部の者しか知り得ません。公安にも奴等の影がいてもおかしくない状況です。我々はグリーン・メイスンは捨て置けない危険な組織とし、全力で対応する必要があります。皆様、どうか……我々に力を貸してください」

 

会長がそう言って頭を下げる姿にヒーロー達の答えは決まっていた。  

 

グリーン・メイスンを捕まえる。

 

ジャスティスがやり残した事を終わらせる為に元No.1とトップヒーロー達はグリーン・メイスンへの対決姿勢を強めた。

 

その頃、綾乃は元インゲニウムである天晴の元へと訪れて日の差し込める公園を車椅子を押して散歩していた。

 

あれから足を悪くした天晴に綾乃は仕事で世話になった事もあり引きこもりがちになった天晴を散歩と言う名目で外に連れ出していた。

 

だが、今日は何処か天晴はぎこちなかった。

 

「今日も良い天気ですね」

 

「そうだな……うん……」

 

「どうしました?何だかぎこちないですけど?」

 

「いや!た、大した事じゃないんだ!」

 

「ハッキリ言ってくれます?」

 

綾乃の追及に天晴は何処か顔を赤くし、緊張した面持ちで綾乃の方へ身体を向けると綾乃の両手を手に取る。

 

「広瀬さんいえ、綾乃……俺とずっと側にいてくれないか?」

 

「え……?」

 

綾乃は予想外の言葉固まる中、天晴は必死に綾乃に伝える。

 

「君がヒーロー嫌いなのは重々承知している!しかし、それでも君と過ごす日々を繰り返す内に想いが止められないんだ!!……俺の足は動かないから苦労を掛けるかもしれないが……」

 

「で、ですが……」

 

「必ず幸せにする……どうか俺と……結婚してくれ」

 

天晴のプロポーズに綾乃は思考を止めて固まるがジルが涙を流している姿を記憶に過った。

 

自分だけが幸せになっても良いのか?

 

綾乃は迷う中、どう返答するべきか分からない。

 

~side終了~



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【第五章】殺人鬼の決意(アヴェンジャー)【殺人鬼ルート】
決意を固めて


両親の仇であるレディ・クイックの訃報は全国のテレビで流れていた。

 

私が"FROM HELL(フロム ヘル)"の文字を書かなかったから別の誰かの仕業だと言う憶測が出ているけど世間ではやはり私の仕業だと考えられている。

 

犯行方法は刃物……だけど何度も殴られた跡と殴った跡がある事から殴り合いになったと言う事は確かだと伝えられている事からわりと隠されずに公表されている事が分かる。

 

「それにしてもヒーローいないわね……」

 

『自信を無くして勝手に辞めたんだ。常に責められてるよりマシさ』

 

私が見た光景は前まで当たり前の様に一人か二人は巡回していた筈のヒーロー達がいない事だった。

 

見たとしても本当に稀で休んでいないのかとても疲れきった顔をしていた。

 

「見てられないわね……」

 

『ほっとけ。ある意味では付けを支払う時なんだよ。飽和社会なんて呼ばれてヒーローが当たり前の様に溢れて更にオールマイトがいた事でオールマイト一人に甘える時があったヒーロー達……少しは苦労するべきだ。よく言うだろう?勤労であるべきだってな』

 

「だからと言って重労働なのは間違ってると思うけどね」

 

『俺のいた時代はお前より年下の子供ですら当たり前に働いてたからな。お前達は学業に専念できる事は本当に恵まれてるってコトだ』

 

アーサーや切り裂きジャック(ジャック・ザ・リッパー)の事を調べていた時に知った当時のロンドンの事だ。

 

19世紀の英国は労働環境はある意味では最悪だった。

 

長時間労働、低賃金、児童労働。

 

負の連鎖が支配する悪循環な労働環境はとても酷い物だと言われている。

 

工場で働いていて事故が起きても子供が怪我をしてようが保険なんて当時は無いから給料から引かれる。

 

しかも怪我した後の保証も無しと来る。

 

「本当に恵まれたわよね……私達」

 

『だろ?さて……ん?あれは……』

 

私が見つけたのは公園のベンチに座る私服姿のデステゴロだった。

 

その姿は何処か老けた様な姿でボンヤリと遠くを眺めていた。

 

私はデステゴロの所に近付くと私に気付いてもデステゴロは身構えもしなかった。

 

「何だよ……ジャック……」

 

「貴方こそ何してるのよ?ヒーロー活動は?」

 

「辞めたよ……俺は……ヒーローじゃなく人間だったて思いしらされてな……」

 

デステゴロはそう言ってまたボンヤリと遠くを見る。

 

「昔の貴方はそんなのじゃなかったのに」

 

「お前に何が分かるんだよ……殺人鬼の癖に……お前が現れたせいで何もかも滅茶苦茶なんだよ……!今までオールマイトに甘えてきた俺や俺達が言うべきじゃないのは分かってるがよ!!お前が滅茶苦茶しなきゃ此処まで荒れやしなかったんだ!!」

 

デステゴロのその言葉に私は胸が締め付けれ、鋭い刃が心に突き刺さった様な感覚を覚えた。

 

私のせい……それは認める……でも、直接言われるのはやっぱり堪えるわね……

 

「消えろよ!!今すぐに俺の……俺達の目の前から消え失せろ!!殺人鬼が!!!」

 

「消えてやるわよ。勝手に拗ねてなさいよ馬鹿ヒーロー。私は私のやり方を貫いてやるから」

 

私はそう吐き捨てて背を向けて歩き出す。

 

私は歩いた……歩いていれば現役ヒーローよりも引退したヒーロー達が目立っている。

 

私は覚えていても周囲からは忘れ去られ、慣れない仕事をして怒鳴られている者やデステゴロの様に放心状態の者、ヒーローよりも副業が成功してそのままそっちに行ってしまった者、犯罪を犯す者。

 

殆どの者は私に気付かないか、無視するか、或いは敵意を向けるか、怯えるか。

 

もうあの日のヒーロー社会は存在しない……ヒーローは衰退の時代を迎えた。

 

他ならぬ私のせいで壊れていく。

 

確かに社会の腐敗には不満があった……でも……誰かの笑顔を奪いたいとまでは思っていなかった。

 

今いる人達の表情は暗く、疑心暗鬼に満ちていた。

 

ヴィランが活性化し、警察はおかしくなり、ヒーローの不正が明らかになる。

 

私は此処まで来たけど本当に正しかったの……?

 

いや、もう良い。

 

私は貫くって決めた以上はやり抜くだけ……それだけは絶対に譲らない。



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大物と小物

私はグリーン・メイスンのメンバーの元に行っては拷問、殺害を繰り返してはいるけど情報が全く掴めなくなっていた。

 

もしかしたら過去のアーサーの所業から学んで対策して来てるのかもしれないと考えると打つ手を変えないといけない。

 

「聞いてるのかいジル?」

 

「え?あ、すみません……」

 

行き詰まっている私は定期検診に外堂先生の診療所に来て傷口を見て貰いながらお説教を受ける事になってしまった。

 

「全く……君と言う娘は……緋色君を亡くしたのは残念だが最近では無理をし過ぎて困る。殴られて痣が出来ていたり、背中に銃弾を受けていたりと何をしたらそうなるのか」

 

外堂先生は呆れながら私に言ってくる事に私は何も言い返せない……うん、これは私が悪いもの。

 

「本当にすみません……ですがやっと仇が取れたんです。やっと……」

 

「それで?君は気が晴れたのかい?」

 

「いいえ……」

 

私が首を横に振ると外堂先生は溜め息をつくとカルテを書きながら話す。

 

「復讐と言うものは一時期においては大きな精神的な支えにもなる。だが、もし復讐が果たされれば待ち受けるのは達成感か無気力か或いは……新たに復讐を求めるかだ。君は何れだね?」

 

「……恐らく新しい復讐を求めているのかと」

 

「だろうね。そうでなければ君は殺人を続けやしない。君は強いと思われているが君自身、心はとても脆い。君は優しさを捨てるつもりでいる様だが……その覚悟は本当にあるのかい?優しさを捨てると言う事は君は冷酷に振る舞い、周りの全てを震え上がらせる存在になる。つまりは……怪物となる」

 

「怪物……?」

 

「復讐と怒り抱く怪物。ヴィランなんて生易しいものではないだろう。誰かに恐れられ、憎まれる様な存在に君は成り果てると言う事だ。本当にそうなりたいのかい?」

 

外堂先生のその言葉に私は答えようとしたけど口には出来なかった。

 

私自身……覚悟が足りないのかもしれない。

 

怪物になる覚悟が……

 

「私は……」

 

どう答えようかと悩んでいた時、そこへ誰かがやって来る気配を感じて視線を向けるとそこに智枝美がいた。

 

「ジルお姉ちゃん」

 

「どうしたの?」

 

「緋色お姉ちゃん……亡くなっちゃったんだよね?」

 

智枝美はそう言って微かに涙を見せる姿に私は只、静かに智枝美を抱き締めた。

 

「うん……そうよ。私が不甲斐ないばかりに彼女は……」

 

「お姉ちゃん……」

 

「二人共。気が滅入る話は此処でよそう。彼女も何時までも引き摺って欲しいとは思っていない筈だからね。それとジル君。一ヶ月後は診療所は休みかもしれないから怪我はくれぐれもしないでくれよ?」

 

「休み?」

 

「雄英の文化祭だよ。診療所を休みにして智枝美と一緒に回ろうと思ってね」

 

文化祭……雄英も学校なら文化祭もあるわよね……ちょっと行ってみたい気もするけど行ったら文化祭は中止になっちゃうし体育祭を潰してしまった御詫び代わりと言わないけど近付かない様にしないと。

 

「分かったわ。文化祭の日は休むとするわ。仕事をして怪我をしたけど治療出来ないなんて困るもの」

 

「お姉ちゃんは来ないの?」

 

「流石にちょっとね……楽しんで来なさい。私の友達も良い人達ばかりだから」

 

私は智枝美にそう言って頭を撫でた後、一通り治療を終えてお礼を言った後に診療所を後にした。

______

____

__

 

私は路地の壁にもたれながら何か情報はないかスマフォを弄っていると一本の動画が挙げられていたのを確認した。

 

「何これ?」

 

私は"ジェントル・クリミナル"と言う人物の動画を開けばその内容は単なるコンビニ強盗……しかも、無駄にキザでわざわざブリーフケースでかつ、千円札を十枚単位で纏めさせてる。

 

ジェントルが無駄な事をしてたらヒーローがかなりの人数で来たけどカットされればヒーロー達はジェントルに倒されていた。

 

「何をしたのかしらね?しかもコンビニが揺れてる?」

 

「たった一人でヒーロー共をやったのか……何で無名なんだ?」

 

「馬鹿みたいな事をしてるからじゃない?でも……そうね」

 

私はコメント欄まで画面を動かすコメントをしておく。

 

「これ以上の馬鹿な行為をしたら殺しに行くわよ。切り裂きジャック(ジャック・ザ・リッパー)より」

 

『わざわざコメントするか?』

 

「警告よ。止めたら見逃してあげるつもり。そう……止めたらね。その時は殺す」

 

私はそう冷たく吐き捨ててスマフォをしまうと一先ず文化祭の日の休みまで私はグリーン・メイスン狩りを続ける事にしてその場から去った。

 

~別視点side~

 

その頃、コンビニ強盗を撮影していたジェントルとラブラバは唖然としていた。

 

「物凄く再生回数が増えてるわ!?」

 

「う、うむ……やはりこれか……?」

 

ジェントルが注目したのは世間だけでなく世界的にも有名になりつつある美しき殺人鬼、切り裂きジャック(ジャック・ザ・リッパー)ことジルからの警告コメント。

 

齢16歳にして捕まる事すらなく、オールマイト等のトップとも渡り合い、数多くのヴィランを殺害して回り、またヴィラン以外の者は抵抗の為に怪我こそさせても殺さない事からダークヒーローとも呼ばれている。

 

そんな彼女からの直々の……と言うか見てると思ってなかったまさかのジルからのコメントにジェントルは冷や汗をかきっぱなしだ。

 

ほぼ無名で尚且つ小さな悪事しかしないジェントルとヴィランのみ殺し尚且つオールマイトにすら最後まで逃げ切ったジル。

 

どちらが影響力があるかは明らかに明白だった。

 

世間は今、切り裂きジャック(ジャック・ザ・リッパー)であるジルの警告コメントを見つけ、書かれていたジェントルのコンビニ強盗の動画が大きな注目を浴びただけなのだ。

 

「むぅ……しかし、これでは丸被りだね」

 

「問題無いわ!!ジェントルの方が素敵だもの!!」

 

ジェントルが更に注目したのは犯行目的。

 

"ジェントル"

 

何かしらの疑惑やら不祥事があったらちょっかいを出すセコい義賊(?)の紳士。

 

"ジル"

 

法から逃れる悪を裁く為に殺人を厭わない義賊的な無法者(アウトロー)の淑女。

 

「ほら、この義賊とか特に」

 

「確かに……で、でも!ジェントルは無用な暴力は好まないわ!!」

 

「その通り!!私は力ずくで解決するのは好まないからね」

 

ジェントルはそう言って頷くと問題のコメントを考え直す。

 

「しかし……まさか彼女に眼を付けられるとはね。これは次なる目的の障害にならないと良いが」

 

「こ、このコメントって明らかに殺人予告よね?」

 

コメントの内容に堂々と載せられた殺しに行くと言うメッセージにラブラバはかなり不安になる中、ジェントルは高らかに宣言する。

 

「過激で暴力的な行動は時に人を魅力する。私の流儀に反する……そして彼女は個人でありながら勢いと確かな実力があるのも事実。しかし、だからと言って屈するつもりはない!!私はその次の企画でそれを証明しよう!!それにこのコメント事態がフェイク。つまりジャックを騙る者のコメントかもしれないしね」

 

「そうよね!!聞かせてジェントル!次の企画は何なのよ!?」  

 

「偉業とは常に時代への問い掛けだ。彼らを話の中心足らしめた始まりの地。そして話題の彼女の母校でもある。そこが次の案件だ。一ヶ月後、例年と通りならば文化祭があるんだ。一度襲撃に逢い、セキュリティを強化した学校。ヒーローの今を象徴するあの学校にこの私が侵入してみたらそれは凄い大事になるだろうねぇ」

 

ジェントルはそう言って微笑んだのだった。

 

それが……後にジルの怒りを買う行いだとも知らずに。

 

~side終了~



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歪な信念

タイトルも話も思い付かない……助けて( ;∀;)

とにかく頑張ります


一ヶ月後が経って私は一本のジェントルの動画を見ていた。

 

諸君(リスナー)は何時、どんな紅茶を飲む?》

 

その動画は下手くそな入れ方をして溢した紅茶のカップから始まった。

 

《私は必ず仕事前と後。仕事の大きさによってブランドを選ぶ。そしてこの紅茶は高級紅茶ロイヤルフラッシュ。つまりどういう事かお分かりか?》

 

《違いが分かるジェントルカッコいいって事!?》

 

高級紅茶ロイヤルフラッシュ……母さんも欲しがってた逸品だったわね。

 

仕事の大きさでブランドを選ぶならロイヤルフラッシュを選んだと言う事はかなり大きな仕事になるわね。

 

《次に出す動画。諸君(リスナー)だけでなく社会全体に警鐘を鳴らす事になる。心して待って頂きたい!そして……私は切り裂きジャック(ジャック・ザ・リッパー)を名乗る者の脅しに屈するつもりはない!それだけは明記して頂こう!!》

 

最後にジェントルの相方であるラブラバの黄色い声で終わると私は決めた。

 

「……ジェントルを殺すわよ」

 

『おいおい、こんな小物相手に何に怒ってんだよ?』

 

「別に……」

 

私は苛立ちを覚えながらジェントルが何をするのかはもう既に掴んでる……と言うか下調べをしてる姿を偶然、目撃して後を尾行したら雄英がある山を見ていた。

 

恐らくは雄英が目的と言うなら万が一にでも雄英にちょっかいを掛けられたらせっかくの文化祭も中止、それだけならマシだけどもし、それで出久達や先生達にも悪い影響が出たら……それに智枝美達、一般人も多くいる筈。

 

もし、混乱が一つでも前の記者達の侵入騒動の様に起きれば大惨事になるかもしれない。

 

「私って甘さは捨てられ切れないのね……」

 

私はそう言いながらジェントル・クリミナルとラブラバをターゲットにして行動を開始した。

______

____

__

 

彼等の行動パターンを把握は既に把握している。

 

道中で隠れ家的な喫茶店にある幻の紅茶と呼ばれるゴールド・ティップス・インペリアルを90分程、楽しんでから行動する。

 

私は午前7時に開くその喫茶店で待って彼等と堂々と会う。

 

最後の紅茶よ……堪能して貰ってからゆっくりと殺してあげないと。

 

『此処がそうか?』

 

「そうみたいね。雄英の近くに喫茶店があるなんて知らなかったわ」

 

私は計画通りに喫茶店に来てから時間を確かめるとまだ6時30分で開店までまだ30分ある。

 

少し早く来すぎた私は店の前で待とうと壁にもたれようとした時、店の扉が開いて中から白髪と立派な髭が特徴的でとても若々しい様に見える老年の男性が現れた。

 

恐らく男性は服装からして喫茶店のマスターだと思うけど私を静かに見つめてくる事に首を傾げた。

 

私は特に変装はしていない。

 

なら、やる事と言えば通報か何かする筈……でも、彼は何もしない。

 

私は不思議がっていると男性から声を掛けてきた。

 

「入りなさい」

 

「え?いや……まだ開店の時間じゃないわよ?」

 

「どのみち人は来る者は少ない。少し早く開けても構わないだろう」

 

そう言って男性こと喫茶店のマスターさんは店の中に入ってしまい、私は戸惑いながらも店の中に入れば建物のボロボロな見た目とは裏腹に中はしっかりした店の雰囲気を醸し出していた。

 

「とても良いお店ね」

 

「驚いただろう?私も歳だ。店の周りを清掃する余力が無くてな。何が飲みたいかな?」

 

「そうね……なら、あんたのオススメを出せ。あ……すみません……(アーサー!何よ急に!!)」

 

『黙ってろ』

 

私は急に一瞬だけ入れかわったアーサーに文句を言ったけどアーサーは気にも止めない。

 

マスターさんは微笑んだ後、アーサーの注目通りにオススメを出すつもりなのか作業を始めた。

 

「(やっぱりゴールド・ティップス・インペリアルなのかしら?)」

 

『さぁな……』

 

「(アーサー。何でまた急に入れ替わろうとしたのよ?流石にびっくりしたわ)」

 

『気まぐれだ。気にするな』

 

気まぐれって……全く……長い付き合いだけどアーサーの考えてる事が分からないわ。

 

私は不貞腐れているとマスターさんは作業が終わったのか入れたての一杯の紅茶を私に差し出した。

 

「これって……」

 

『代われ』

 

「(え!?ちょっと、アーサー!?)」

 

私は無理矢理に入れ替わるとアーサーは紅茶のカップを静かに取ると最初は香りをそして少し飲んでゆっくりと味わった。

 

この風味……何処にでもある一般の茶葉の物。

 

高級でも幻でもない一般でも簡単に手に入る様な茶葉……でも、珈琲にしか興味が無かった私すら満足出来る。

 

そう……母さんがいつも入れてくれた様な懐かしい味だった。

 

母さん曰く、代々受け継がれてきた味……それに近い。

 

「どうかな?」

 

「あぁ……旨いな。誰から入れ方を教わったんだ?」

 

「殆ど独学だ。亡くなった妻の味を再現しようとしていたらいつの間にか店を開いていた。と言っても私はそこまで繁盛させるつもりはないがな」

 

「どうしてこの茶葉なんだ?此処には幻の紅茶があるそうじゃないか?」

 

「確かにある。しかし、高級や幻と付いているだけで紅茶の入れ方次第では旨くも不味くもなる。例え一般の茶葉であっても入れ方を工夫すればどの茶葉にも負けはしない味となる。それに人によっては好みも異なるからな」

 

マスターさんはそう言って微笑むとアーサーは紅茶を堪能した後、マスターさんに問い掛けた。

 

「さて、マスター。俺達が切り裂きジャック(ジャック・ザ・リッパー)だって事を分かってるだろ?何でわざわざ店に招き入れた?」

 

「店の前で待つ客を入れないマスターがいると思うか?」

 

「開店前だ。それに明らかに俺達を見てあからさまに早く開いていたが……オープンクローズがひっくり返ったまんまだぜ?」

 

「……懐かしく思えてな。私は無個性ではあるが警官だった」

 

警官だったって……まさかマスターは私達を罠に嵌めるつもりで入れた?

 

いや……罠ならとっくの昔に私は包囲されて逃げ回っている。

 

マスターさんの考えが全く読めない。

 

「(当たり前だ。お前には分からない)」

 

『アーサー?』

 

「(黙っていな。これはマスターと俺の会話だ)」

 

アーサーはそう言って私に黙っている様に言ってマスターの会話に耳を傾けた。

 

「私は警官として君と同じ思想を持つ殺人鬼を追っていた。何度も逃げられ、苦労する事もあった。だが、殺人はどんな事があっても許されない行為だ。共感しなかったと言えば嘘になる……しかし、それでも私は己の信念を信じて殺人鬼を捕まえた」

 

『捕まったんだ……』

 

私は自分と同じ様な思想を持つ殺人鬼がいた事に驚きつつ捕まった事に気落ちした気分になった時、何か会話がおかしかった。

 

私達以外に同じ考えの殺人鬼なんていたのかと。

 

その疑問の答えはマスターから発せられた。

 

「アーサー。お前は……復讐の為に殺人鬼に墜ちたのか?」

 

「それもあるが俺は俺の信念を貫く為に殺人鬼になった。法から逃れる悪。平気で人の大切な者を奪っていく奴等が憎い。俺はそれが許せなかった。だから殺人鬼、切り裂きジャック(ジャック・ザ・リッパー)になった」

 

「その子を巻き込んでまでもか?」

 

「殺人鬼になったのはジル自身の選択だ。俺はどの道を貫くか……問いただけさ。結局、俺と同じ道を進んじまったがな」

 

「そうか……その子はジルと言うのか。お前に似てるな。血縁か?」

 

「孫だ。一様、父さんの孫でもあるな」

 

やっぱり……アーサーと関係のある人だった。

 

寧ろ、こんな所でアーサーのお父さん……私のもう一人の祖父と会うなんて思わなかった。

 

「ジル。君は本当に後悔は無いのか?」

 

これは私への質問ね。

 

私はアーサーと代わるとマスターさんへの質問に答える。

 

「無いわ」

 

「迷いも無いのか……」

 

「此処まで来て……何度も後悔した……でも……私は自分の責任からはもう……逃げない」

 

私はそう言った時、店の扉が開かれた。

 

「申し訳ない。開いている時間であるのに関わらず店が閉まっているのかとドアノブに手を掛け……き、君は!?」

 

そこには下手な変装をしたジェントルとラブラバの二人がいて私はつい、ニヤついてしまった。

 

「あら、やっと来たのねMr.(ミスタァ)ジェントル。そしてMs.(ミス)ラブラバ。Morning Tea(モーニング ティー)でもどう?……貴方達、人生最後のね」

 

「な、何の事かね?我々は……」

 

「逃げなさい!!」

 

マスターさんのその一言で私は駆け出す姿勢を見せた時、ジェントルは咄嗟にラブラバを抱えようとした所で私はナイフを投擲した。

 

「きゃぁッ!?」

 

「ラブラバ!?」

 

ナイフはラブラバの腹の辺りに当たり、倒れそうになるとジェントルは咄嗟にナイフを刺したままラブラバを抱き抱えて逃げ去った。

 

対応が良い。

 

ナイフを下手に抜けばそのまま血は余計に止まらずに出血死する危険性がある。

 

何処からかそう言った対応の方法を学んだのか、独学なのか。

 

「何れにしても逃がすつもりはない」

 

「待つんだ!!」

 

私はその声に振り替えるとマスターさんは険しい顔で私を見てくるけど私はそのまま近付いてお金を置いた。

 

「ありがとう。良い味だったわ」

 

「ジル……」

 

「ごめんなさい……もう引き返さないって決めたから」

 

私はそう言ってジェントルを仕留める為に流れた血の跡を追って、追跡を開始した。

 

 



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無慈悲な刃

~別視点side~

 

ジェントルは人の無い路地をひたすら走っていた。

 

ナイフが刺さった辺りから血が垂れるラブラバを抱えてジルの追跡を振り切ってすぐにでも病院に駆け込もうと必死だった。

 

「ジェントル……」

 

「大丈夫だラブラバだ!!傷は幸い着込んでいたから浅く済んでいる!必ず助かる!病院に行くまでの辛抱だ!!」

 

「ごめんなさい……私が……足を引っ張って……」

 

「謝らなければならないのは私だ……私が本人からのコメントではないと言って実行に移そうとした事が間違いだった……本当にすまない……!」

 

ジェントルは必死に走りながらラブラバに謝り、路地の真ん中辺りまで来た時、上から気配を感じたジェントルは咄嗟に避けるとジェントルがいた位置にジルがナイフを片手に飛び降りて突き立てようとしてきたのだ。

 

「経験もあるわね……面倒だわ」

 

「まだ追って!……血を追って来たのか!?」

 

「駄目よねぇ……逃げるなら痕跡を消してからにしないと……危ない殺人鬼に追い付かれるわよ?」

 

ジェントルは急激な寒気を覚えて形振り構わずに駆け出し、ジルはゆっくりと追い掛ける。

 

「逃がさないわよ?」

 

その声を聞いたジェントルは全力を掛けて逃走する。

 

「(どうにかして撒かねば!しかし……!)」

 

ジェントルが視線を向けるのはポタポタと地面に落ちるラブラバが流す血。

 

その跡がハッキリと残っており、ジェントルはこれではまた追い付かれ、先回りされる事を危惧した。

 

「ジェントルお願い……私を置いて逃げて……」

 

「何を言っている!!私は絶対に見捨てたりしない!!私は義賊と名乗る以上は最も信頼している君を見捨てれば私は生涯、後悔する!!何があっても見捨てるつもりはない!!絶対にだ!!!」

 

「ジェントル……!」 

 

「お喋りしてる余裕ある?」

 

ジェントルが角の近くを通ろうとした時、角の死角からナイフの刃が飛び出し、ジェントルは辛うじて避けたが頬に掠り傷を負った。

 

「本当に経験と言うのは面倒ね……分かってるアーサー。遊びも此処までにしないとね」  

 

「(誰と話して……?いや、それよりも逃げねば!)」

 

「逃がさない」

 

その声をジェントルが聞いた時、ジェントルは足に激痛を覚えて転びそうになった。

 

「ッ!?ナイフが……!」 

 

ジェントルの足にはナイフが刺さっており、ジルから投擲された物と判断できた。

 

ジェントルが個性を使おうにもラブラバを抱えている為に使えず、防戦一方、逃げの一手しか打てない中、ジェントルは足を引き摺りながらも懸命に逃げる。

 

「どうする……!どうすれば彼女から逃げきれる……!いや、せめてラブラバだけでも……!!」

 

ジェントルは必死に頭を動かして自分達を付け狙う殺人鬼を撒くか考えていた時、視線の中に病院が目に入る。

 

ジェントルはジルが来る前に急いで病院の方へ行き、中に入った。

 

~side終了~

 

私は逃げたジェントル達を血の跡を辿りながら追い続けていた。

 

でも、道中から血の跡が消えつつあり、このままでは見失う可能性があった。

  

「アーサーならどうしてた?」

 

『そうだな……奴等は怪我をしていた。お前を撒いたと思っているなら近くの病院にいるんじゃないのか?』

 

「それもそうね。あ、いた」

 

私が見つけたのはジェントルが病院から急いで出てくる姿。

 

足は引き摺ってて何かを抱えている様子だけどマントで隠れて見えない。

 

血の跡もあるけど……それがどちらの物か分からないけど。

 

「一先ずは追える」

 

私は追跡を再開、ジェントルを徐々に人気の無い工場跡地に追い込み漁の要領で追い詰めて建物内に入った所で残っていたもう片方の足にナイフを投擲して歩けなくした。

 

それでもジェントルは這いずってでも逃げようとする所を私は踏みつけて止めた。

 

「終わりよジェントル・クリミナル。貴方の相方共々、始末してあげるわ」

 

「くッ……それはどうかな……」

 

「……そのマントの内側を見せなさい」

 

私がそう促すけどジェントルは強く抱き抱えて答えない。

 

私は仕方なくジェントルを蹴りあげてマントを広げるとそこには一塊の布だけだった。

 

「やられた……!」

 

『単純な囮だな。恐らくあの病院に預けてそのまま囮として逃げてたんだろう。完全にやられたな』

 

アーサーに笑われる中、私はジェントルを睨み付けながらナイフを突き付ける。

 

「ラブラバは?」

 

「信頼出来る友人に任せたよ……友人はヒーローだ……もはや君の手は届かない……そして……」

 

ジェントルのその言葉が終わると同時にパトカーのサイレンと声が響いた。

 

「切り裂きジャックはこの辺りにいる筈だ!探せ!!」

 

私はこの時、追い詰められたのはジェントルではなく、私の方だと気付くとジェントルは力無く笑う。

 

「ヒーロー達は君の為にわざわざ対刃用のサポートアイテムを装備して来ているらしい……そして単独ではなく集団で取り囲み、包囲を縮めつつある……もはや私も君も終わりだ……君が今まで翻弄してきたヒーロー達に捕まりたまえ……!!」

 

「自分を釣り餌にするなんてね……度胸は認めるわ。けどね」

 

私は這いずって逃げるジェントルの背中に思いっきりナイフを突き立てた。

 

血が多く流れる中、ジェントルの眼はまだ諦めていない。

 

「そんなに大事なの?ラブラバって人」

 

「私の……初めてのファンだ……会いたいが為に住所を割って来たのは正直、恐怖したが……だが……それでも共に編集と企画を行う中で……孤独な闇の中で私に光を与えてくれた……誰もが私を嘲り、忘れていく中で彼女だけが私を見てくれたのだ……彼女に手を出す事だけは許さん!!狙うなら私を……!」

 

ジェントルは痛みの襲われたのか汗をかいて力をもはや出せないでいる。

 

「……分かった。ラブラバは貴方の想いに免じて見逃してあげる。その代わりに……貴方の命を貰う。それで良い?」

 

「あぁ……彼女に危害を加えないのなら……それで良い……」

 

ジェントルはそう言って目を瞑った所で私はナイフを振り上げた。

 

~別視点side~  

 

ジェントルは目を瞑った所で昔の記憶を思い出していた。

 

「夢はヒーローになって教科書に載るくらいの偉大な男になる事です」

 

そう……ジェントルもかつて目指したヒーロー……歴史に名を残した偉人の様に教科書に載る様な偉大な男になりたいと願ったが……取り返しのつかない過ちで家族にすら見放された。

 

それからフリーターになり、転々とする日々の中、ヒーローとして独立した同級生の竹下を見掛けて躍進する姿に歓喜して声を掛けたが。

 

「誰でしたっ……け?」

 

忘れられていた……自分の事など眼中に無いと言われた気分だった。

 

ジェントルは絶望し、まともに話さないまま竹下から逃げる様に帰宅した。

 

悔しかった……何か別の方法でも良いから名を挙げる為の手段をと手を出したのが自身が企画した動画を投稿する事だった。

 

最初は苦手なハイテクを試行錯誤の中で動画投稿するも伸び悩む中、住所を割ってやって来たラブラバとの出会いで動画は伸び、何処か暗い毎日だった日々が明るい光の日差しのある毎日に変わった。

 

破滅し、人生の奈落に落ち、絶望にいたジェントルをラブラバが引っ張り上げたのだ。

 

「(せめて彼女に礼を言いたい……あと、竹下君とちゃんと話さないと……迷惑を掛けた母さんと父さんに……許されなくてもちゃんと謝罪したい……あぁ……思えば……未練が多いな……)」

 

ジェントルがそう思い、涙を流した時……無慈悲な刃が振り下ろされた。

 

~side終了~

 

私はナイフを引き抜くと血に濡れた刃はポタポタと血の雫を落とした。

 

ジェントルの死体を私は冷たく見つめる中、私の背後から足音が聞こえて振り向き様にナイフを構えた。

 

そこには竹をモチーフにした様な三十代くらいのヒーローがそこにいた。

 

「飛田……!」

 

「知り合い?残念だけど仕事は終わったわ。もう……息なんて無い」

 

「貴様!!」

 

ヒーローは怒りの表情を見せながら私の元に近寄ろうとした所で私は飛び退く様に離れると刃の血糊を払ってからナイフをしまう。

 

「相手にしてる暇は無い。さようなら」

 

「待て!くそ……クソオォォォッ!!!

 

私は悔しがるヒーローを余所にその場を立ち去った。

 

これから私はラブラバとあのヒーローに憎まれる事になる……私はその事実を胸に次の獲物を定める



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逃げて、追い詰められて

私は包囲し、徐々に包囲を縮めながら接近してくるヒーロー達を上手く躱しながら路地に何とか逃げ出した。

 

「逃げ切れた……?」

 

『何とかな。それよりも本当に良かったのか?』

 

「何が?」

 

『ジェントルを殺した事さ。別にそこまでの悪党じゃなかったろ?』

 

「ジェントルは確かに仕留める必要性があるのか分からない悪党よ。でもね、アーサー。彼は雄英の……ましてや一般人も集まる文化祭で侵入しようとした。記者達が侵入したの覚えてるわよね?もし、成功していたらと思えば……寒気がするわ」

 

私はそうアーサーに言うとヒーロー達の足音が鳴り響き、私を追う声が鳴り響く。

 

私を執拗に追う包囲は今までに無く、大抵はヒーローが怯んでその隙を突いて逃げれていたけど今回のヒーロー達は怯みもせずに私を追い掛けてくる。

 

『減り過ぎてまともな奴ばっか残ったんじゃないか?』

 

「それならめでたい話だけど今は傍迷惑ね」

 

私はそう呟いた時、上から気配を感じ取った私は視線を向けるとそこにはシンリンカムイがいた。

 

「先制必縛ウルシ鎖牢!!!」

 

シンリンカムイの得意技である先制必縛ウルシ鎖牢の枝が私に伸び、私はそれを避けてシンリンカムイの一瞬の隙を突いてナイフを投擲した。

 

シンリンカムイはナイフを避けるとすぐに身構えて私と対峙した。

 

「悪のみを裁くとされる殺人鬼、切り裂きジャック(ジャック・ザ・リッパー)……しかし、決して赦されぬ私刑行為を行い社会を混乱の渦に導いた者。まさに厄災よ」

 

「誰が厄災よ。誰が」

 

「貴様の事よジャック。貴様の行いによって法で裁かれるべきヴィランは死に果て、秩序が乱れ失われた。我は決して貴様の行いを容認しないし、赦しはしない!平和を取り戻す為に必ず貴様を捕縛する!!」

 

「平和?ヴィラン連合みたいな連中に好き勝手されてる貴方達がそれをほざくのね!!」

 

私はナイフを手にシンリンカムイを無力化はさせる為に仕掛けようとした時、私の背後に回り込む様に気配を感じて振り替えるとヒーロー、エッジショットがいた。

 

「忍法 千枚通し!!!」

 

「(マズイ!アレだけは貰ってはいけない!!)」

 

私はエッジショットの音速の必殺技を自分の勘と身体能力をフル活用してギリギリの中、避けきるとエッジショットに蹴りを入れて離れさせた。

 

「むぅ……若いとは言え、流石はオールマイトを相手にしてこれただけはある……手強い」

 

「次から次へと……!」

 

私は挟まれてしまったから建物の上を目指して素早く登って行くと今度はMt.レディが両手で挟む様に私を包み込んで捕まえ様と待ち構えていた。

 

私は咄嗟に床を蹴って跳ぶとMt.レディからの拘束から逃れた。

 

「いい加減に観念しなさいよ!!」

 

「嫌よ。私にはまだ仕事が残ってるのよ。今、捕まる訳にはいかないわ」

 

「何が仕事よ!!ただの殺人じゃない!!」

 

Mt.レディはそう言って拳を振り上げてくる姿を見た私は咄嗟に建物の下に逃げ込んで死角の中に入ればシンリンカムイやエッジショットが襲ってくる。

 

「逃げられると思うな!!」

 

「貴様だけは必ず捕らえる!!」

 

「しつこいのよ!!」

 

上に行けばMt.レディからの牽制、下に行けばシンリンカムイとエッジショットの猛襲。

 

かなり連携の取れた行動に私は苦戦を強いられるしかなかった。

 

「貴様は業を背負いすぎた!これ以上……俺は誰の涙も見たくない!悲しみを増やさない為にも退くわけにはいかん!!」

 

シンリンカムイはそう言って無数の枝を伸ばして私を拘束しようとする。

 

「だったら最もヴィランを捕まえたら?信用無くしたのは貴方達の怠慢よ?」

 

私は負けじとナイフで素早く枝を切り払うと後ろからエッジショットが私を狙ってきた。

 

「確かに我々の過失だ……しかし、貴様の行いは社会を混乱に陥れ、治安を悪化させた。お前にも責がある」

 

「だったら貴方達は法から逃れた悪はどうするつもりよ?捨て置くの?」

 

「簡単な事だ。何度でも捕まえてやるだけだ!!必ず罪を暴け出し、償わせるまで何度でもだ!!」

 

エッジショットのその言葉は攻撃を避けながら嬉しくなった。

 

まだヒーローの中には強い信念を持つ人がいる……それだけでも良いものだった。

 

私は正義を成し、殺人鬼なんかに負けない信念のあるヒーローを求めていたのかもしれない……出久にそう求めた様に。

 

「これ以上は絶対に殺させはしない!!切り裂きジャック!!」

 

「此処で捕まれ!!」

 

シンリンカムイとエッジショットの二人が同時に必殺技を使って私を捕縛しようとする。

 

最悪だ……とても逃げきれない……

 

私は覚悟を決めた時……足元に穴が空いた様に私は下に落ちてしまった。

______

____

__

 

私はいきなり落ちてしまった為に反応しきれないまま地面に尻餅をつく様に落ちてしまった。

 

「痛たた……何よ急に……!」

 

「お久しぶりです。ジャク様」

 

私はその声を聞いて視線を向ければそこにはトガヒミコとトゥワイスの二人がいた。

 

ヴィラン連合の二人がいるって事は私を落としたのはワープでその個性を使うのは黒霧。

 

何で私を連れてきたのか知らないけど……

 

「目の前にいる以上は殺されたいの?」

 

「違うぜ!俺達は提案に来たんだ!」

 

「あんた達の提案なんて」

 

「助けて下さい」

 

私はトガヒミコの遮る様に言ったその言葉に唖然としているとトガヒミコの表情がいつもの笑顔ではなく、無表情だった。

 

「緋色ちゃんの友人の貴方にしか頼れません。助けてくれますか?」

 

真剣な表情を見せて助けを求めるトガヒミコに私はどうしてそうなったのか疑問を抱くしかなかった。



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悪達の会合

私は突然、助けを求めてきたトガヒミコとトゥワイスの二人に連れられて何処かの薄暗く少しの光が照らす地下の廊下を歩いていた。

 

ヴィランが助けを求めるなんて尋常じゃない……でも、助ける道理も無い。

 

断るのは簡単だけどヴィランの二人が助けを求める理由が気になる。

 

取り敢えず話だけでもと着いて来たけど……

 

「それで助けって何?」

 

「もう少し行った先で話します」

 

「そこで全員が集まってんだ!」

 

着いてから話すの一点張り。

 

まぁ、この二人がまともに話せるとは思えないけどさ……

 

「此処です此処!着きました!」

 

トガヒミコが笑顔でそう言って一つの部屋に指差すとそのまま扉のドアノブを手にして扉を開けて入った。

 

「連れてきました!!」

 

「マジで連れて来れたのかよ……」

 

部屋にはリーダーの死柄木弔を始め、黒霧、荼毘、Mr.コンプレス、マグネがいた。

 

その近くのソファーには知らない顔がいて、その側に数人固まる様に立っている。

 

「あんた達が呼んだんでしょ?」

 

「まぁな……」

 

「申し訳ありませんが時間がありません。本題に入っても?」

 

黒霧のその言葉に私は視線を向けると黒霧は私を呼び出した理由の本題を話す。

 

「貴方を呼んだのは他でもありません……我々と手を結んで頂きたい」

 

「断る」

 

『即答だな』 

 

「(ヴィラン連合と手を組む訳がないでしょう。どちらかと言うと敵対すべき相手なのに)」

 

私はヴィラン連合の要件に呆れてそのまま帰ろうかと考えた。

 

「グリーン・メイスンによって我々、ヴィラン連合は追い詰められているのです」  

 

「……グリーン・メイスンね」

 

グリーン・メイスンがヴィラン連合を追い詰めているなんて驚いたわね。

 

敵対している素振りは無かったのにどうして追い詰められる事になったのやら……

 

「彼らは我々に対してオールフォーワンが死んだ事を好機と捉えたのか傘下に入れと迫ってきました。当然、我々はその話を蹴りましたが……いかせん数は圧倒的であり、尚且つ何処におり、何処に目と耳があるのか分かりません。武力では我々が上だと自負しておりますが不意を突かれ続け、疲労が貯まるばかりなのです」

 

「そう言う事だよジャック。我々もまたグリーン・メイスンにしてやられた」

 

「誰よあんた?」

 

黒霧の説明の後に話してきたソファーに座る男にそう聞くと軽く微笑んで名乗ってきた。

 

「私はリ・デストロ。異能解放軍の最高指導者をやらせて貰っている。と言っても今は何の力も無い……君はテレビは見るかい?」

 

「たまに……そう言えば見た事あるわね。デトネラット社。主に日用品のサポートアイテムを扱うサポート企業。その代表取締役社長の四ツ橋力也。でも、前に退任させられたってニュースが流れてたわよね?」

 

「そうだ。私はグリーン・メイスンが我々、異能解放軍に紛れ込ませた者達の策略によって会社は乗っ取られ、しかも異能解放軍の構成員の大部分がグリーン・メイスンの者達だった」

 

「……その構成員の数は?」

 

「ざっと10万人だ。私の元にいた純粋な構成員1万人以上はグリーン・メイスンの軍門に下ってしまった。残ったのは此処にいる幹部達だけだ。更に残った忠誠心ある者達は全員、殺された」

 

10万人……明らかに以上な数の構成員だわ。

 

それに残った1万も軍門に下ったとして含めたとしても何れだけの数が占めてるか……

 

「質は勝てても数の不利は覆せません……ですが我々にはまだ勝てる手段があります」

 

「手段?」

 

「奴等の本拠地を叩くのです。そしてその指導者を始末し、指揮系統を崩します」

 

黒霧のその言葉に私はグリーン・メイスンの本拠地を見つけたのかと驚いていると死柄木弔か答える。

 

「奴等の本拠地は俺達は既に掴んでいる。あとは戦力。少数精鋭で行く。グリーン・メイスンが何処まで手を伸ばしてるのか分からない以上は人材は厳選しなきゃいけないからな。だからお前だジル。グリーン・メイスンと最も敵対しているお前を選んだ」

 

「断ったら?」

 

「お前は今までグリーン・メイスンの構成員を嬲り殺しにして吐かせられたか?本拠地は?頭をやってる奴の名前は?いくらお前でも他人の心までは読めない。だからお前はまだグリーン・メイスンの本拠地にすら乗り込む構えを見せない。そうだろ?」

 

私は図星を突かれると死柄木弔は私に手を差し出してきた。

 

「俺達と組め。そうすればお前の欲しい情報を全てやる。俺達には共通の敵が出来た筈だ。ヒーローも奴等の存在を目障りに思っている。別に悪事に加担しろなんて言ってないんだ。奴等を潰すまでお互いに仲良くしよう」

 

前に会った時には子供みたいな奴だったのに……冷静で尚且つ目的の為なら手段も問わない、敵でも組む。

 

死柄木弔……貴方は危険な存在……でも、それでも私は……

 

「本当に持ってるのでしょうね?グリーン・メイスンの情報」

 

「持ってるさ。組むのか?組まないのか?」

 

「……そうね」

 

私はヴィラン連合の面々を見てみれば所々、服や装備がボロボロで傷を治す為に使われたのか包帯もチラホラと見える。

 

リ・デストロイ達と同様で傷ついて疲れ果てた姿。

 

どちらもほぼ、戦意喪失していると言っても過言でもない状態で流石に戦えるとは思えない。

 

「分かったわ」

 

「組むのか?」

 

荼毘は疑っているのか鋭い視線を向けるけど私は組むなんて言ってない。

 

「情報だけ渡しなさい。私が始末を着けて来るわ」

 

「一人で10万いや、どんだけいるか分からねぇ奴を相手に戦う気かよ!?」

 

「幾らなんでも無謀よ!!もし、貴方に何かあったら緋色に顔を合わせられないわ!!」

 

スピナーとマグネがそう言うけど……スピナーは腕が折れてるし、マグネもろくに立てないのか叫んでいても椅子から立ち上がろうとしない。

 

「組む相手を間違えたのでは?」

 

「いや、彼女と組むべきなのさ。しかし……一人でやろうとは驚いたがね」

 

リ・デストロイと話すサングラスを掛けた男……心救党の党首の花畑孔腔じゃない。

 

ニュースだと不正が発覚したとかで辞任させられて逮捕状まで取られたなんて言われてたけど行方不明になっていた筈。

 

まさかこの男まで異能解放軍だったなんて……いや、それよりも。

 

「言えば貴方達が迷惑を掛けられてるグリーン・メイスンを始末して来てあげるわ。戦力も無駄にバラ蒔かずに済むし、何時かは殺しに来る殺人鬼も死ぬ可能性もある。良い事ずくしよ」 

 

「確かにな。だが、どうやるつもりだ?」

 

「これよ」

 

私はそう言って取り出して見せたのはグリーン・メイスンの制服である緑衣と無機質な仮面。

 

それを見たトガヒミコは小さな悲鳴を挙げた……意外ね。

 

「成る程……変装して喉元を行くつもりか」

 

Mr.コンプレスは私の考えを理解してそう言うと死柄木弔は暫くの無言の後、溜め息をついた。

 

「それでしくじったらどうすんだ?」

 

「その時はその時よ。刺し違えてでも殺す」

 

私はそう言って笑って見せれば死柄木弔もまた悪意がありそうな笑って見せた。

 

きっと私の笑みもそうなんだろうなって思いながら結果を待っていれば死柄木弔は両手を挙げた。

 

「分かった。どちらにしても調子づいたグリーン・メイスンの奴等の鼻を明かせれば良い。今から言う事をよく聞いて実行しろよ?」

 

私は死柄木弔から何一つ、聞き漏らさない様に耳を傾けてグリーン・メイスンの本拠地とその指導者の名を聞き出していった。

 



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首領の正体

夜も更けた時間帯に私は忌々しい緑衣と仮面を身に付けてグリーン・メイスンの本拠地のある、深淵(ふかうち)市にある大きな建物……救済支援会の本部にやって来た。

 

真夜中の午前二時とだけに通りは人がいない中、緑衣の者達が数十人集まって建物の中に入ろうとしていた。

 

私はそれに紛れて中に入り込むと中はいたって普通の受付の場で拍子抜けしてたら今度はエレベーターに乗り込んでいく。

 

私も続いて乗り込むとエレベーターは地下に向かっているのか下に進む感覚を覚えた。

 

『成る程な。上はカモフラージュの為の表向きの顔……だが、その下には慈善家達の本部とは思えない奴等の集まる会合場所だったって訳だ』

 

「(確かに死穢八斎會の様に申請しないで地下を造ろうとおもえば幾らでも造れる。隠蔽にはもってこいでしょうね)」

 

私はエレベーターに揺らされながら地下へと降りて来て最初に見た光景は。

 

「(何よ……これ?)」

 

『相変わらず無駄に金を掛けてそうだな』

 

そこには緑を主とした旗と布、ジュータンが部屋に飾られた大理石が満遍なく使われた場所だった。

 

謂わば豪華絢爛と言った具合で、あちこちに投資してるとは聞いたけど儲かるのね秘密結社って。

 

私はそんな贅沢を終わらせてやると思いながら着いていけばまるで謁見の間の様な場所に出た。

 

「(王でも気取ってるの?)」

 

『昔からそうなのさ。自分達は頂点に立ってると勘違いして王を……いや、神を騙るのさ。それよりも出てきたぞ。衣緑 乗美がな』

 

私はアーサーの言った場所に視線を向けるとそこには顔を仮面で隠した緑の分厚い衣装を纏った私と同じ毛色をな一つ結びにした女が現れた。

 

「(あれが……!)」

 

『今は雑魚には構うな!先ずは頭を取れ!!』

 

私はナイフを手にし、飛び出して衣緑に躍り掛かると頸動脈目掛けてナイフを振るった。

 

でも、そのナイフの刃は届かないで激しい金属音と共に衣緑の手にするナイフによって受け止められていた。

 

「嘘……!?」

 

「いきなり切り掛かるとは随分と無粋ですね?」

 

そう言って衣緑はナイフを反らして逆に切り付けてきたのを私は避けたけど変装で使っている衣装が少し切れた。

 

『もう脱いどけ。いらないだろ?』

 

私はアーサーの言われた通り、衣装を脱げ捨てて仮面を外すと周りのグリーン・メイスン達から驚きの声が挙がった。

 

「グリーン・メイスンの首領……衣緑 乗美ね!今まで上手く逃げて来たでしょうけど今日、貴方を殺してやるわ!!覚悟しなさい!!」

 

「ふふふ……ふっははは!!私を殺すですか?まぁ、良いです。此方も貴方の事が目障りだと思っていて探そうと思っていました。探す手間が省けて丁度良い!!しかし……勇気と無謀を履き違えるなどと親には教わらなかったのですか?」

 

「父さんも母さんも貴方達に殺されたわよ!!だから私は貴方達を殺す。人の大切な者を奪ったもの。文句は出ないでしょ?」

 

「小娘が言いますね。なら、それを私が返り討ちして貴方を殺してしまっても文句は出ないと言う事ですねぇ?」

 

私の言う事を簡単に返してくる衣緑に私は苛立ちを覚え、ナイフを構えた。

 

「抜かせぇ!!」

 

私はナイフを振るうとそれに合わせて衣緑もナイフを振るってきた。

 

私の攻撃は……何度も防がれてしまう。

 

まるで全て知っているとばかりに読まれ、防がれ、反撃してくる。

 

対する私は攻撃こそしてるけど押されてしまっている。

 

ナイフだけじゃなく拳や足での格闘も混ぜた読み合いすらも衣緑に優位に立たれてしまう。

 

「その程度ですか?ガッカリさせないでほしいですね!!」

 

「ちッ……!」

 

私が舌打ちした時、腹を思いっきり蹴られて地面を転がると衣緑は余裕の笑みを浮かべてくる。

 

でも……

 

「それはどうかしら?」

 

「……いつの間に」

 

私が咄嗟に振るったナイフは衣緑の仮面に当たり、割れると衣緑は仮面の割れた傷を撫でた。

 

「流石はその若さで切り裂きジャック(ジャック・ザ・リッパー)を名乗るだけはありますね……しかし、これを見て冷静でいられますか?」

 

衣緑はそう言って着込んでいた衣装を脱ぎ去って身軽になると仮面を外した。

 

「嘘……!?」

 

『こいつ!?』

 

私は衣緑の素顔を見て固まってしまった。

 

忘れもしない……とても愛おしく、甘えたくて、過去に戻れるならと何度も願った……また家族で食卓を囲みたいと願い続けたか……

 

その想いを踏みにじる様にそこにある顔に私は動揺が隠せなかった。

 

「母さん……!」

 

その顔は間違いなく……両眼こそ私と同じ赤だけど母さんの顔その物だった。



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屈辱と疑念

私は目の前の光景が信じられずにいた。

 

死んだ筈の母さんが不適な笑みを浮かべている姿に生きていたのか、或いは夢なのか分からない。

 

「あっははは!!そうですよ!貴方のお母様です!!」

 

『違う!!お前の母親は死んだ!!あれは死体を乗っ取りやがったんだ!!』

 

「そんなのあり得ないわよ!!幾ら個性が中心の社会でも死体を乗っ取るなんて無理よ!!」

 

そうだとしてもどうしてグリーン・メイスンなんかに死体が渡ってるのよ!

 

父さんは何も言わなかったと言う事は葬儀は済ませてある筈……なのに何で!!

 

「オールフォーワンには感謝しかありませんね。火葬場で遺体を振り替えて我々の元に送ってくれましたからね」

 

「オールフォーワン……!」

 

奴がグリーン・メイスンと関わっているのは分かってた……まさか母さんの死体を送るなんて!!

 

やっぱり殺してしまって良かったわ……胸糞が悪いにも程がある!!

 

私は母さんの身体を好き勝手に使う衣緑を睨み付けながらナイフを向けるけど衣緑は余裕の笑みを浮かべるばかりだ。

 

「そう言えば……何故、私がこの身体を手に入れて扱えるかお分かりですか?」

 

「そんなの個性か何かでしょ?」

 

「そう……普通ならそう考えるでしょう。しかし、私は無個性!何の変哲も無い単なる人間に過ぎません」

 

「は?何を入ってるのよ……?」

 

「ハッキリと言えば私は他の手段で尚且つ個性に頼らずにこの身体を得ました。そう……我々は過去にも成功例を得ています」

 

『予想はしていたがやはり……!』

 

「(何なの?どんな方法なのよ……?答えてよアーサー!!)」

 

私は何だか嫌な予感を抱く中、衣緑は答えた。

 

「臓器移植は御存知で?それを受けた人間が嗜好や性格が変わる話です。それはまさにオカルトと言うべき分野。しかし!確かに存在する病例であり、不老不死に至る為の手段の一つとして研究も行われていました。過去には我が祖であるグレイグ・ウァジェトは貴方方の初代たる切り裂きジャック(ジャック・ザ・リッパー)の心臓と自身の心臓を入れ換える様に移植し……身体を奪う事に成功しました」

 

私はその話をもう聞きたくなかった……あまりにもおぞましく、本当に人のやる事なのかと疑ってしまう……そんな感情に駆られる中、衣緑は言った。

 

「そう!この身体は貴方の母親と私の心臓を入れ換える事で人格の転移現象を利用して得たものなのです!!ハッキリ言えばこれは応急処置も良い所……心臓を無理矢理に移植した事で私はあまり激しく動けない身になりましたがこの身体は素晴らしい!!流石は先祖に二代目の血を引くだけはあります!!ですが本当は……貴方の身体が欲しかったのですよ?準備さえ整えば私は何のデメリットも無く身体を奪う手段。不老不死への道を切り開く為の方法を確立させていればね!!」

 

衣緑はそう言って高笑いし、私は母さんの身体がこんな奴なんかの為に利用され続ける事に怒りに満ちていき、私は飛び出した。

 

『待て!!』

 

アーサーの制止で無理矢理に身体を止められてしまった。

 

「止めないでよ!!あんな奴に母さんの身体を使わせるなんて真っ平よ!!」

 

『今、殺すのは無理だ!!悔しいが奴の方がお前よりも上だ……此処は一度退け!!』

 

「くッ……!」

 

確かに形はどうあれ衣緑の方が私よりも強い……でも、目の前に元凶がいて母さんの身体を使ってる……此処で止めてやりたい……でも、一度退くべきでもある……私は……!

 

「……分かった。退くわ」

 

落ち着かないと……此処で怒りに任せて突っ込んでも彼奴にやられて今度は私が身体を奪われるなんて言うおぞましい所業を受ける事になる。

 

此処は一度退いて体制を整えないと。

 

「おや?逃げるおつもりですか?情けないですね」

 

「逃げも戦略の一つよ。勝てないなら一度退く事も考えるわ。でも、忘れないで貰うわよ。私は絶対に貴方を殺すから」

 

「ふん。減らず口を」

 

「何とでも……言ってなさい!!」

 

私は話終えると同時にナイフを投擲するけど衣緑はそれを余裕そうに軽く避けると仕返しとばかりにナイフを投擲され、私はそれを咄嗟に避けたけど右の頬に掠めて血を流した。

 

「まぁ、良いです。今回だけは見逃してあげましょう。しかし、その傷を常に見て思い出す事ですね。貴方では……私には勝てないと言う事を!!」

 

衣緑はそう言って高笑いし、私は屈辱に濡れながらその場から去ろうとした。

 

「忘れてました。少し待ちなさい」

 

「何よ……?」

 

「貴方の主治医に私がよろしくと伝えておきなさい。意味は……分かりますか?」

 

衣緑はそう言って不適な笑みを浮かべる姿とその言葉に私はとても嫌な予感がした。

 

私の主治医?

 

まさか……そんな……絶対にあり得ない!

 

「外堂先生に何をしたの……!?」

 

「はて?何もしていませんよ?ですが彼は中々に協力的でした。私の心臓と……貴方の母親の心臓を入れ換える移植手術に手を貸したのは他ならぬ彼ですしね。対価は少し高かったですがね」

 

外堂先生がグリーン・メイスン……?

 

いや、もしかしたら奴の嘘かもしれない……焦っては駄目……

 

「信じられないのなら本人から聞きなさい。ほら……出口は彼方ですよ?」

 

「……言われなくても」

 

私は罠だと信じたいけど……でも、私はどうしても外堂先生の事を疑ってしまう。

 

何で……どうして疑ってるの?

 

私はその疑問と屈辱を抱きながらその場を後にした。



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とある少女の悲劇

私は敢えて生かされた後、私はすぐにでも外堂先生に母さんの事を問い詰める為に診療所へと向かった。

 

右の頬から血が流れるけどそんな事は気にする事なく私は診療所へと来ると扉を叩いた。

 

「こんな夜中に誰なの?あれ……ジルお姉ちゃん……?」

 

「こんばんは智枝美。ごめんなさいね……外堂先生はいる?」

 

「う、うん……診察室にいるけど……どうしたの?その頬?」

 

「少しね……取り敢えず上がらせて貰うわね。貴方は寝てて良いから」

 

私はそう言って智枝美の頭を撫でた後、そのまま外堂先生のいる診察室に踏み込むと驚いた様子の外堂先生がいた。

 

「どうしたんだね?こんな夜更けに?それにその頬は?」

 

「……先生。正直に話して下さい。母さんの件です」

 

「はて?君のお母さんの事かね?」

 

「ある人物に心臓移植をしましたか?母さんの身体を使って?」

 

「何を言い出すんだね?幾らなんでも死体に移植などしないだろ?」

 

「そうですね……私も疑っていました……しかし、現に母さんの身体をその人物が使っていた!そしてその人物は貴方が移植に関わったと聞きました!私も……疑いたくありません。証拠も無いです。だから……否定しても構いません」

 

私は否定してくれる事を期待してそう言った時、外堂先生は突然、笑い出した。

 

「何が可笑しいのですか?やはり間違い」

 

「いや、間違いではないね」

 

私の言葉を遮る様に間違いではないと言い出した外堂先生は不適な笑みを浮かべて私を見据えてくる。

 

「いやはや乗美にも困ったものだね……私は既に用済みか。まぁ、良い。そうだよ。私は君の母君の身体に乗美の心臓を移植する事に関わったよ」

 

「どうして……どうしてなのですか!!何故、グリーン・メイスンに力を貸したのですか!!」

 

私は声を張り上げて言うと外堂先生は暫く無言で見つめてきた後、答えを出した。

 

「智枝美の為だ。君と出会う前は心臓を患っていてね……移植する為の心臓が必要だった。だが、どうしてもドナーが見つからず、智枝美の命が短くなるばかり。どうしようも出来ない中で乗美、グリーン・メイスンに話を持ち掛けられた。君の母親、オリヴィアの身体に乗美の心臓を移植する。意識が移る事に成功すればオリヴィアの心臓は智枝美に譲ってくれるとね。検査した結果、一致した。だから迷わずに話に乗ったのだ」

 

「それってつまり……!」

 

「そうだ。智枝美の身体にあるのだよ。オリヴィアの心臓がね」

 

私はその答えに唖然としていると外堂先生は笑って私を見つめてくる。

 

「意識の混合については問題無い。19世紀に存在した外道医師とされるオルターと言う男が発見した方法を用い、オリヴィアの意識が万が一にでも目覚める事は無い」

 

「貴方って人は……!」

 

静かに聞いていたけど我慢が出来なくなった私は外堂先生にナイフを向けた。

 

「私を殺すのか?はっはは!今更そんな事をしても遅いと言うのにね!」

 

「黙れ!!」

 

「ジル君。私が前に言った事を憶えているかね?優しさを捨て去り、目的の為なら手段を選ばなくなる者は皆……冷酷な怪物となる。君はそうなるつもりだね?」

 

「……そうね。母さんに行った所業を聞けば貴方に対しての優しさも慈悲も無い。だけど……智枝美には手を出さない。それだけは約束する」

 

「憎まれるよ?もしかしたら殺しにくるやもしれない」

 

「覚悟のうえです。本当に……残念です。貴方はとても良い医師だと思っていました」

 

私はそう言って外堂先生の首にナイフの刃を突き刺した。

 

刺された外堂先生は最初こそ刺された痛みによる苦痛で表情を歪めたけど最後には何処か満足そうな笑みを浮かべながら死んでいった。

 

「……これだけは言います。母さんの心臓が智枝美を生かしたと言うのなら……誇りに思います」

 

私はそう呟いて外堂先生の瞼をゆっくりと閉じて眠らせてあげた時、診察室に誰かが入ってきた。

 

「さっきから二人で何を話してるの?……ッ!?お父さん!?」

 

「智枝美……」

 

「やだ!!首から血が流れてる!!助けてお姉ちゃん!!お父さんが死んじゃう!!!」

 

智枝美は外堂先生に掛けよって医者の娘として学んだ物なのかハンカチを使って止血を試みている。

 

でも……外堂先生はもう……

 

「無駄よ。もう死んでる。諦めなさい」

 

「何言ってるの……?どうしちゃったの!?」

 

「そのヤブ医者は私の母さんの安眠をさまたげた挙げ句、身体を犯罪者に引き渡していた。許されない事よ」

 

「お姉ちゃん……?」

 

智枝美の表情には前の様な人懐っこい笑顔は無く、私に怯えていた。

 

でも、これだけは告げないといけない。

 

「貴方のお父さんを殺したのは……」

 

「嫌……止めて……聞きたくない……!!」

 

智枝美が拒絶しても絶対に言う……それが私に出来る罪滅ぼしの一つ。

 

「この私よ。どうかしら?私はヒーローとして悪を裁いたわ」

 

「そんなの……ヒーローじゃない!人殺しよ!!」

 

「何とでも言えば良いわ。今更、引き返すつもりも無いしね。さよなら智枝美。もう会う事と無いわ。貴方が罪さえ負わなければね」

 

私はそう言うと智枝美を置いてそのまま診療所を後にした。

 

暗い夜道はもうすぐ空に登ろうと太陽の日差しに照らされる時間帯となった時、私のスマフォに電話が鳴った。

 

このスマフォに掛けてくる者は既に報告用に伝えたヴィラン連合くらいで私は報告の催促かと電話に出たら。

 

《残念だがヴィラン連合ではないぞ。切り裂きジャック(ジャック・ザ・リッパー)

 

「ッ!?その声はエンデヴァーね?」

 

何でエンデヴァーがヴィラン連合の連絡で電話してきたのか分かってる……ヴィラン連合は既に。

 

《匿名の通報によって死柄木弔及び幹部は全員、捕縛し、タルタロスへと護送した。異能解放軍の面々もまた同じだ。後は貴様だけだ。ジャック!!》

 

「それで?投降しろと?」

 

私がそう言うと電話相手が代わったのか雰囲気が変わった。

 

《霧先少女》

 

「今度はオールマイト?」

 

《久しぶりだね。君の言った通り……投降してくれ。そして君の持つグリーン・メイスンの情報を提供してくれないか?》

 

「何処でその情報を?」

 

《君のお父さんが残した資料からと言えば嘘かな。だが、闇に潜む巨悪がいるなら見過ごす訳にもいかない。それに君のお父さんの無念を晴らさねばならい。どうか此処で手を止めて我々に力を貸して欲しい。必ず我々がグリーン・メイスンを捕まえる》

 

「……駄目よ。ヒーローじゃ奴等は捕まらないし、裁けない」

 

《霧先少女!!》

 

私はオールマイトの説得でもおうじるつもりはなかった。

 

何しろ何年も日本の地下に潜んでた奴等だもの。

 

ヒーローへの対策もしてある筈……それにグリーン・メイスンが手段を選ばない抵抗を始めれば被害は只でさえ少ないヒーローに、民間人に大きな被害を与えかねない。

 

そうなれば今度こそ……平和の終わりよ。

 

「私は必ずグリーン・メイスンを根絶やしにする。必ずよ」

 

《駄目だ!!君の復讐は既に終わった!!レディ・クイックの余罪は既に分かっている!!君のお母さんの仇だとも!!》

 

「遅いのよ!!真相を突き止めるのが!!半年近くも経って真相を知れば私が殺して終わってるって何よ!!ヒーローが復讐よりも後で解決しようなんて意味もないじゃない!!」

 

《そうだね……すまない……本当に……すまなかった……!》

 

「言い訳なんて聞きたくない……逆探知でもしてるのでしょうけど来た所で私は見つからないわよ」

 

私はそう言って電話を切ると道路にスマフォを投げ捨てて何度も踏みつけて壊した。

 

緋色との思い出の品だけどもう必要無い……ごめんなさい緋色。

 

私は衣緑を殺す為に……再度、決意を新たにしなきゃいけない。

 

今度こそ殺す……その為にもアーサーと話さなければいけない。



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永久の別れ

皆さん。

明けましておめでとうございますますm(__)m

今年も一年明けましたねヽ( ̄▽ ̄)ノ

さぁ、今年も元気に!!

悪ジル「"FROM HELL(フロム ヘル)"!!」

善ジル「違うでしょ!!」


私はオールマイト達からの投降勧告を無視してそのまま私が殺人鬼になる前に住んでいたもう誰もいない家へとやって来た。

 

あれだけ暴れてきた筈だけど荒らされた痕跡が無く、少しずつ朽ち果ててる雰囲気が周りを支配していた。

 

『そりゃそうだ。悪を裁く殺人鬼の実家に手を出してターゲットにされたりしたら嫌だろうしな』

 

「それに現役のヒーローの家だもの。捕まりたくもなかったのでしょう」

 

私は未だに持っていた家の鍵を試しに差し込んで見ると鍵は変えられていなかったらしく、すんなりと開いてしまった。

 

「不用心ね……鍵くらい変えなさいよ」

 

『もう帰るつもりも無かったんだろうよ。オリヴィアもお前もいなくなったんだからな』

 

「……そうね。私でもいたくないと思うわ」

 

私はそう言って扉を開けて家に入ると埃っぽい空間がそこにあった。

 

家具はそのままだけど蜘蛛の巣まで張ってしまっていて人が住んでるとは思えない状態だった。

 

私は家に上がると一つ々の部屋を見て回る。

 

家族で過ごしたリビング、母さんと父さんの寝室、色々な本があってよく読書の場所にしていた書斎、そして私の部屋。

 

何処も思い出のある場所ばかりで私はもう二度戻る事の無い過去に悲しくなってきた。

 

「父さん……母さん……」

 

『悲しいか?悔しいか?そして……憎いか?』

 

「えぇ……とても……」

 

『お前はこれからも悪を裁く殺人鬼として暗躍する。だからお前の母親のオリヴィアの身体を利用する衣緑を赦す訳にはいかない』

 

「私と同じ思いをして欲しくない……なんて言っても私がそうさせてしまってるのだけどね」

 

『だが、誰かがやらなければ裁かれなかったかもしれない』

 

「憎まれてでも私は悪を裁く」

 

私は側にあった全身鏡の所へ行くと過去の優しい私とは違う鋭い目付きをした血の様に赤い瞳を持った殺人鬼の私がそこにいた。

 

確固たる決意を胸にした私はもう迷う事は無い……

 

『お前はこれからも罪を背負い続ける事になる。赦されないまま地獄に墜ちるだろう』

 

「それでも構わない。それで誰かが救われるのなら」

 

『もう俺の手助けはいならないな?』

 

「えぇ……もう大丈夫……だから安心して眠っても良いわよ」

 

『はッ!眠れねぇよ。俺は先に地獄に行く身なんだ。お前が来るまで待たせて貰うだけだ』

 

「そうね。先に行ってて。私も……必ずそこに行くから……ありがとう……アーサー」

 

『……身体には気を付けてくれ。相棒』

 

私が最後に聞いたアーサーの声は何処か優しげな青年の物だった。

 

きっと、殺人鬼になる前のアーサーの声なのだと私には理解出来た。

 

「アーサー……本当にありがとうね……」

 

私は既にアーサーはいなくなった事を嘆き、泣くしかなかった。

 

もう私には何もない……守る者がいない……

 

私は泣きながら誓う。

 

この命をせめて誰かの大切な者が奪われない為に使うと。

 

それがせめて、私が出来る責任の一つとして。

 

~別視点side~

 

出久は寮の自分の部屋で椅子に座りながら項垂れていた。

 

悪を裁く殺人鬼として活動するジルの名は名声、悪名と関係なく集め、社会を崩壊寸前まで追い込んだ事で数多くいた筈のヒーロー達は殆どいなくなってしまった。

 

不安とヒーローへの不信感が市民に伝染し、遂には国会でヒーロー以外の治安維持組織にも個性使用を許可する内容の法案が提出されて議論される事態になっている。

 

それは日常の様に流れるニュースの中の一つでしかないがそこで着けていたラジオから新たなニュースが流れた。

 

《速報です。外堂診療所の医師、外堂命医が昨夜、殺害されていた事が分かりました。容疑者は巷で騒がす殺人鬼、霧先ジル。ヴィラン名は切り裂きジャック(ジャック・ザ・リッパー)とされています。しかし、犯行方法との食い違いから別人の犯行と言う観点も視野に捜査が続いています。次のニュースは》

 

そのニュースはまたジルが犯行を行った可能性がある物で出久はまた行われたかもしれないジルの凶行に気落ちしてしまった。

 

「(僕は何の為にヒーローになりたかったんだろう……?)」

 

出久は深く落ち込む中、突然、扉が開かれた。

 

「良い加減に出てこいやデク!!」

 

「かっちゃん?」

 

入ってきたのは勝己で落ち込んでいた出久の近くまで来るとそのまま襟を掴んで椅子から立ち上がらせた。

 

「拗ねんのも良い加減にしろや!!いつまでもへこんでねぇであの馬鹿を捕まえに行くぞ!!」

 

「行くって……何処に?」

 

「それは私から言わないとね」

 

出久はその声に視線を向けるとそこにはオールマイトがいた。

 

「緑谷少年。彼女の為にも……力を貸して貰えるかい?」

 

オールマイトのその言葉に出久は唖然とするのだった。

 

~side終了~




今年もよろしくお願いしますm(__)m


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最終決戦 ~前編~

~別視点side~

 

グリーン・メイスンの本拠地ではジルによるグリーン・メイスンへの攻撃によって浮き足立っていた雰囲気は解消されつつあった。

 

衣緑がジルを撃退した事により、不安と恐怖が和らぎ、ジルに情報を流して保身を図ろうとした者への徹底的な弾圧もあって組織内には結束力が生まれていた。

 

再びジルが攻めて来ても衣緑が撃退してくれる。

 

その安心感が出ていた時、出入口のエレベーターが降りて来た。

 

「誰かまだ来てなかったのか?」

 

「いや?全員来ていた筈だぞ?」

 

エレベーターの側にいた構成員は首を傾げていた時、エレベーターの扉が開かれた瞬間、顔を青ざめた。

 

「さぁ……来て上げたわよグリーン・メイスン!!」

 

そこにいたのは不適な笑みを浮かべているジルで、その手にはナイフが握られている。

 

グリーン・メイスンの構成員達はジルを目の当たりにして恐怖で包まれていく。

 

~sid終了~

 

私は"一人"、グリーン・メイスンの本拠地に再び踏み込むとそこには怯えている雰囲気を見せているグリーン・メイスンの連中がいた。

 

「衣緑はいる?また私と殺し合いをしたいのだけど……いるかしら?」

 

「く……クソオォォォォォッ!!」

 

「掛かれ掛かれ!!」

 

「銃も持ち出せ!!此処で殺すんだ!!」

 

グリーン・メイスンの連中は大慌てで戦闘態勢に入る姿に私は面倒だと思いつつも歩き出した。

 

「さぁ、行くわよ……アーサー」

 

私はもう側にはいない相棒の名を呟きながら通路を歩けばグリーン・メイスンの連中は個性や銃を使って攻撃してきた。

 

「死ねぇ!!」

 

「退きなさい雑魚」

 

私は向かって来るグリーン・メイスンの連中を相手にナイフを踊る様に振るった。

 

頸動脈、脇腹、胸と確実に急所を切る事を心掛けで攻撃を避けながら反撃しつつ進む中、何人かが小銃を手に立ちはだかる。

 

「どのみち殺すけど死ぬのを先延ばしにしたいのなら退きなさい……雑魚が」

 

「ひ、ヒイィッ!?」

 

「ば、化け物め!!」

 

「貴様達には言われたくない。退かないなら殺す!!」

 

私は地面を蹴って駆け出すと小銃を手にしたグリーン・メイスンの連中は発砲した。

 

激しい弾幕が降り注ぐ中、私はそれを冷静に見極めながら避けて行き、発砲していたグリーン・メイスンの一人の頸動脈を切り裂いた。

 

「小銃だぞ……?な、なんで避けられんだ?」

 

「何なんだよ……何なんだよお前は!!」

 

「私は霧先ジル。お前達が身勝手に弄び、殺した者達の代弁者……切り裂きジャック(ジャック・ザ・リッパー)よ。よく覚えておきなさい!!」

 

私は残ったグリーン・メイスンの連中を切り裂き、殺すとナイフの血糊を払って歩き出す。

 

道中、何度も邪魔しようとしてくるグリーン・メイスンの連中を切り裂いて凪ぎ払いながら突き進み、奥にあった前にも行った謁見の間の様な部屋の扉を開け放つとそこにはちゃんと正装をしている衣緑が玉座に座りながら見下す様に笑っていた。

 

そしてその周りにはグリーン・メイスンの連中がウヨウヨといた。

 

「今回も来ましたか……殺人鬼、ジル」

 

「まぁね。決闘の決着も着けないで捨て置くなんて半分だけとは言え、英国淑女としては恥ずかしいでしょう?だから決着を着けに来たわ」

 

「今回は逃がしてはあげませんよ?よろしいですね?」

 

「勿論。私が死ぬか、貴方が死ぬか……それまで戦うまでよ」

 

私がそう笑いながら言うと衣緑は玉座から立ち上がり、正装で着ていたローブを脱ぎ捨てると余裕の笑みを浮かべながらナイフを手にして私の前へと来た。

 

「自らの蛮行を悔い改めて私に命を差し出すと言うのなら楽に殺して差し上げますよ?」

 

「笑わせないでくれるかしら?貴方は今度こそ死ぬの。グリーン・メイスンと共にね」

 

「私が死ぬ……?面白い冗談ですね」

 

衣緑は笑いながらそう言うけど少し怒った素振りを見せて私は微笑む。

 

「冗談なんて言わないわよ。偽物。切り裂きジャックの真似事は大概にしなさいよね」

 

「……まだ粋がるだけの余裕があるのですね。身の程を弁えなさい。分かりました。今度は絶対に逃がしはしません。何度も刃向かわれるのは目障りです」

 

「一度勝ったからって何度でも勝てる訳じゃないわよ?そんな考えを抱くのは……傲慢としか言いようがないわよ?」

 

「強がりを……!そんなに死にたいのなら今すぐに地獄へ送って差し上げますよ!!」

 

「貴方の身体に刻んであげるわ!"FROM HELL(フロム ヘル)"のサインをね!!」

 

私達にはもう軽口の応酬を続けるつもりもなく、私と衣緑は互いに駆け出してナイフが交差する様に噛み合い、火花を散らした。

 

噛み合ったナイフを打ち払い、互いにナイフと格闘によるシンプルな戦闘が行われた。

 

突き合い、切り合い、殴り合う。

 

二人で舞う様に動き、油断なく戦う。

 

私は衣緑の喉を狙って突けば、衣緑はそれを避けて私の手首を切ろうと振るい、私はそれを咄嗟に避けて蹴り込めば衣緑は咄嗟に後ろに下がって衝撃を逃がす。

 

衣緑が切り込めば私はナイフで弾き返して逆に切り込んで防がれる。

 

~別視点side~

 

その一方、ジルと衣緑の戦いを固唾を飲んで見守るグリーン・メイスンの者達は二人の舞いの様なその戦いに見とれていた。

 

「す、素晴らしい……!」

 

「何て美しい戦いなんだ……!」

 

煌めくのは銀閃、ナイフの輝き。

 

ジルと衣緑の互いのかすり傷から舞い散る飛沫が、銀閃に朱色を加えた。

 

そう……例えるなら切り裂きジャックの円舞、死の舞踏会だった。

 

もしも、迂闊に舞台へと踏み込んだ者がいれば……。

 

踊りを邪魔をする無粋や輩には速やかな死が与えられる事になるだろうと思えた。

 

二人の戦いの腕は一流なだけでなく、どちらも美しい容姿を持った女性だと言う事も視野に入れれば無理らしからぬものだった。

 

~side終了~

 

 



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最終決戦 ~後編~

~別視点side~

 

ジルと衣緑による死闘が繰り広げられている頃、本拠地内ではバタバタと騒がしくグリーン・メイスンの構成員達が動いていた。

 

「奴を絶対にこの場から生かして帰すな!!」

 

「出入口の類いは全て塞げ!!」

 

グリーン・メイスンの構成員達は個性を発動して戦闘準備に入り、戦闘に適していない個性の者達は銃器を手にして待ち構え様としていた。

 

その途中、エレベーターの到着を知らせる音が不意に鳴り、一人が足を止めた。

 

「誰だ?こんな時に?」

 

不思議かる構成員を余所にエレベーターの扉が開かれて行くとグリーン・メイスンの構成員の仮面の下にある顔は青ざめていく。

 

「何故だ……何故此処に……!?」

 

「何故かって?コソコソと悪事を働く貴様らを潰す為に来たヒーローだからさ」

 

その言葉が言い終わるとグリーン・メイスン達はエレベーター付近へと集まった。

 

そしてエレベーターから降りてきたのは……

 

「覚悟しろ!!」

 

「お前達の悪事も此処までだ!!」

 

「まさか地下にこれ程の拠点を構えるとはな……だが、此処までだ」

 

そこにいたのはエンデヴァー、エッジショット、ベストジーニストの三名がそこにいたのだ。

 

「トップヒーローと言えどたった三人だ!!人数では我々が有利だ!!」

 

「ふん。誰が三人だけだと言った?」

 

「は?」

 

エンデヴァーのその言葉に一人が唖然とした時、突然、周りにいた構成員ごと吹き飛ばされた。

 

「此処か!!グリーン・メイスンって奴等のアジトはよ!!」

 

「まるで宮殿の様だ……此処にジルも……!」

 

そこにいるのは出久や勝己を始めとしたA組の面々。

 

月堕蹴(ルナフォール)!!」

 

「やれやれ……相変わらず凄い威力だね……」

 

強力な蹴りの一撃で蹴散らし、その羽根で多くのグリーン・メイスンの構成員を捕えるトップヒーローのミルコ、ホークス。

 

「各、出入口を押さえて下さい!!我々が侵入した場所以外にも隠し通路の類いが存在する可能性もある!!」

 

「了解!!」

 

サー・ナイトアイやシンリンカムイと言ったプロヒーロー達まで別ルートから雪崩れ込み、グリーン・メイスンは大混乱となった。

 

「何故だ!!何故、この場所がヒーロー共に!?」

 

「貴様達が捨て駒にした死柄木弔が話したのさ。せめてのも仕返しだとな」

 

グリーン・メイスンの一人を強烈な拳で吹き飛ばしたのはグラントリノだった。

 

「外に逃げても無駄だ。外にも漏れが出て良い様に他のプロヒーローが包囲している。逃げられるとは思うなよ?」

 

ヴィランの個性を封じながら捕縛布で拘束するイレイザーヘッド。

 

多くのヒーローがグリーン・メイスンの捕縛へと動き出したのだ。

 

~side終了~

 

私と衣緑がナイフでの戦いを繰り広げていた時、少し地面の揺れを感じた。

 

私は何が起きているのかと思っていると衣緑は笑ってはいるけどその眼は怒りに満ちていた。

 

「どうやら他の虫螻まで入り込んだ様ですね……さっさと終わらせて姿を消したいものです」

 

「あら、御愁傷様。だったら逃げきれない位に戦いを長引かせてあげるわよ?」

 

私は衣緑のその言葉に恐らくヒーロー達が来たと予想した。

 

もし、当たっていたら何処でこの場所の事を知ったのか気になるけど情報源はまぁ、明らかとしか言えないわね。

 

「せめて息の根を止めておくべきだったわね?」

 

「言ってくれますね!!」

 

私と衣緑の戦いは更に激しさを増した。

 

互いを浅く切り、ナイフが交差する度に火花を散らし、刃が噛み合えば打ち払って切り着ける。

 

「(それにしても強いわね……!)」

 

中々に隙を見せない衣緑に私は予想以上の備えている事に驚かされた。

 

それが衣緑の純粋な実力なのか……母さんの備えていた身体に刻まれた実力なのか……

 

それがどちらにしても私は絶対に勝つ。

 

私は少し下がってから勢いよく蹴りを入れて衣緑は両手で防いだけど少し押し負けた。

 

私はその一瞬の隙を逃さずに突きを入れたけど惜しい所で衣緑はナイフで防いで再び火花を散らして噛み合った。

 

「疲れたんじゃないの?」

 

「ふん……勝負は此処からですよ」

 

私と衣緑は同時に打ち払って互いにナイフを振るって、防ぐを繰り返す。

 

もはや互いに意地になってしまい、一歩も譲らずに切り合い、殴り合う私達にはヒーローが来ている事なんてどうでも良かった。

 

必ず勝つ。

 

それだけは衣緑とは考えが合っていた。

 

「我々の崇高な使命を理解出来ない小娘がよくもまぁ、此処までやりましたよ!!我々、グリーン・メイスンがこの日本で百年以上掛けて基盤を立て直したと言うのに今まさに崩壊しようとしているのですから!!」

 

「不老不死なんて所詮、まやかしよ!!私のしている事は百年以上も迷信を探して迷走し続けるあんた達よりもマシだと思えるわ!!」

 

「この超常の社会でそれを言いますか!!探せば必ず見つかるでしょう!!不老不死へと至る力を持つ者が!!」

 

「そうはさせない!!本当にその力を持っている人がいるなら!!罪も犯さず平穏に暮らしているなら!!私はあんた達の魔の手は伸ばさせやしない!!」

 

私はそう叫んでナイフを振るうと衣緑の腕を掠めた。

 

「ちッ……!」

 

「何度だって立ちはだかってやる!!何度だって潰してやる!!私は……私達は切り裂きジャック(ジャック・ザ・リッパー)!!あんた達の様な法から逃れる悪を裁く殺人鬼!!私達は決してあんた達を赦しはしない!!」

 

「この小娘がぁッ!!」

 

私の言葉に遂に怒りの表情と声を出して切り掛かって来た衣緑の渾身の突きを私は小さな動作で避けるとそのまま勢いよく衣緑の心臓のある胸に目掛けてナイフを突き立てた。

 

「がはぁッ!?」

 

「終わりよ……衣緑!!」

 

私がそう言うと衣緑は口から血を流しながら私を睨み付けつつ私のナイフを手にする腕を掴む。

 

「小娘が……よくも……私は……不老不死を……永遠の……命を……!」

 

「だから言ってるでしょ?……そんな物はまやかしなのよ。きっと過去にアーサーもそう言ったと思うわよ」

 

私はそう言ってナイフを一度抜いてもう一度、深く胸に突き立ててやると衣緑は徐々に力を失くしていき……そのまま絶命した。

 

「皆……仇は取ったわよ」

 

私はそう言ってナイフの血糊を払うと私は微笑みながら衣緑が死んで動揺と恐怖で震えるグリーン・メイスン達に視線を向けた。

 

「私の勝ちの様ね。残念だったわね。私が死ななくて。まぁ、安心してよ。部屋の外は兎も角……この場にいるあんた達には死んで貰うから。あんた達って地獄には待ち人が多いのでしょ?」

 

私はそう言って嗤った後、部屋に悲鳴が響く中、その場にいたグリーン・メイスンの連中を襲った。

______

____

__

 

私は部屋にいたグリーン・メイスンの連中を皆殺しにし終えるとヒーローが迫ってきている事だし、何処から逃げようかと考えていた時、アーサーの教えを思い出した。

 

『これだけは知っとけ。悪党には万が一の逃走用の逃げ道を作っている事がある。後ろめたい事のある連中には特にな。だから知っておけば事前の逃亡防止になるし、自分の逃げ道になる。覚えとけよ?』

 

その教えを私は思い出した後、私は主を失くしたポツンと置かれている玉座に眼をやると少し動かして見たら。

 

「……教えてくれてありがとうね。アーサー」

 

そこには如何にも秘密の通路と呼べる道があり、私はそこを迷う事なく入った後、発覚を遅らせる為に玉座を戻してから進んだ。

 

残りはヒーローが捕縛と言う名の始末してくれる。

 

私の仕事はもう終わった……少し休養を取ってからまた仕事に励まないとね。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

犯罪の無い誰もが幸せな社会の為に

 



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決意を込めて

死闘を演じてグリーン・メイスンの本拠地から脱出した私は町外れの薄い霧に包まれ、月光を照らす夜道を歩いていた時、後ろに気配を感じて足を止めた。

 

「……来たわね」

 

私はそう呟いて振り向くとそこには息を切らした出久がそこにいた。

 

「ジル……!」

 

「来ると思っていたわ。私達はまだ決着を着けてない。覚悟が出来たなのなら構えなさい」

 

「待ってよ。僕は……!」

 

「出久。貴方は何なの?」

 

私のその問いに出久は何処か思い詰めた表情を見せた……彼もきっと何処か迷いを抱いてるのかもしれない。

 

「貴方はヒーロー?それとも単なる偽善者?」

 

「違う!!僕は……ヒーローだよ。望んでヒーローになろうとしてるんだよ!!」

 

「だったら前の質問に答えなさい。捕まえたヴィランが裁かれずに釈放されたら?」

 

「……また捕まえるよ。何度も罪を犯すなら何度でも」

 

この質問はエッジショットも似た様な事を言ってたわね……なら。

 

「証拠が集まらなくて、逃げられて、捕まらないまま何度も犯罪を犯されたら?」

 

「諦めないで追うよ。エンデヴァーの様に諦めずに最後の最後まで!」

 

あら、オールマイトファンの貴方がエンデヴァーの事を口にするとは思わなかった。

 

でも、確かに彼の行いは綾乃を救う一因になっていたかもしれない……私の手さえ取らなかったら。

 

「なら、この二つが上手くいかなくて泣き寝入りするしかなくなった被害者や遺族に弁明するの?」

 

「何度でも頭を下げる!!それで最後まで諦めないって言い続ける!!僕は……ヒーローになりたい……どんな人達でも助けられるオールマイト……他のヒーロー達の様になりたい!!だから僕は……君を救けたい!!」

 

「……質問に関係の無い事は言わないで」

 

「何度拒絶しても僕は君を闇から引っ張り上げる!!僕はもう……君に血で手を汚させたくない!!優しい君のままでいて欲しいんだ!!だからジル!もう止めよう!!」

 

「関係無い事を言うなって言ったわよ?」

 

私がそう短く威圧的に言うけど喋る事は止めても私と対峙する姿勢と強い意思を持つ瞳の輝きは変わらなかった。

 

出久……貴方は見ない内に強くなったのね。

 

最初に出会った頃は気弱で……情けなくて……いつも勝己に虐められていた中学のあの頃と比べてもその変化は大きい。

 

もう情けない姿は無く……虐められていた気弱な姿も無く……そこにいるのは本当の意味で決意を秘めたヒーローの姿そのものだった。

 

「なら、私の復讐は正当ではないの?身勝手に奪われて……なのに誰も犯人を捕まえてくれなくて……そいつは裁かれないでのうのうとしてたのに」

 

「復讐なんて果たしても誰も喜ばないよ!きっとジャスティスも君のお母さんもそんな事を望んでいない!君の言う悪は殺すんじゃなくて捕まえて正さないと!今じゃなくても……いつかきっと正義は成される!相手が悪人だから殺すのは……間違ってるよ!!」

 

「そうね。悪を殺す事は悪よ。それは間違いじゃないわ。出久……貴方が正しいわ。どんな理由でも人を殺す事は最低な行為よ。相手の生命を奪い、未来を奪い、想いを踏みにじる。そんな事はあってはいけない……あってはならないのよ」

 

私はそう言って拳を握りしめた後、私は自分が貫く決意を込めて出久に言う。

 

「悪は全て裁かれるべきよ。自分の成した罪を償う為に法に裁かれないといけない。だけど、世の中には平気で悪を成す輩がいる。そんな悪人が裁かれず、逃げ隠れして平気な顔で暮らしてるの。法の目を逃れた悪は、誰が裁くの?隠れている悪は、誰が暴くの?警察?ヴィジランテ?それともヒーロー?」

 

「僕達だよ。警察も、ヒーローも。それが駄目なら僕が暴いて、法の裁きに掛ける」

 

出久……貴方も言う様になったわね……でも。

 

「出久……残念だけど違うわ。法の裁きになんて、誰も掛けられないのよ。だけど……法に縛られない無法者(アウトロー)。私ならそれが出来るわ」

 

「それでも!それでも人を殺す事は許されないよ……僕は君は正しい人間だって信じていたのに!!僕が君を此処で止めるよ!殺人犯、霧先ジル!無駄な抵抗は止めて捕まってくれ!!」

 

出久はそう言って身構える姿に私は微笑んだ。

 

とても勇ましく、オールマイトにも負けないその輝きと力強さに私はとても嬉しく思えた。

 

「(アーサー。貴方にも見せたかったわ)」

 

そう……彼はとても真っ直ぐで、眩しくて、素晴らしいのよ!

 

私とは反対の道に進んだ彼のその姿に敬意を称さないといけないわね。

 

私は個性でナイフを生み出して手にすると私も身構えた。

 

「来なさいよ出久!!貴方の正義が、決意が本物なら、私に勝てる筈よ!私を止めて見せなさい!貴方の手で悪を捕まえて見せなさい!悪は正され、正義が成されると証明してよ!!」

 

「言われなくてもそのつもりだよ!!」

 

私達は同時に駆け出すと出久は拳と蹴りを振るい、私はナイフを振るう。

 

何度かの戦闘の最中、私は出久に問う。

 

「出久!貴方の言う正義がこの世にあるなら!どんな悪人でも裁く事が出来る筈よ!だけど現実はどう?母さんも父さんも……緋色も殺された!その元凶、グリーン・メイスンはさっきまで罪に問われなかった!殺すしか無いの!殺して止めるしかないの!!悪人を一人でも生かしておけばこの先、百人が苦しむ事になるのよ!!」

 

私はそう言って一歩引いてから地面を蹴って出久に飛び込んで切り掛かる。

 

悪は殺す!悪人は私が裁く!!。悪を成す人間がいなくなれば世界に残るのは善人だけよ!誰もが幸せで、争いの無い、善なる世界になる筈よ!」

 

私がそう言い終わった時、出久は私のナイフを持つ腕を掴んで力一杯に押さえ付けようとしてくる。

 

「でも、そこに君はいないじゃないか!!」

 

「それでも良い!!」

 

私はそう言って一瞬の隙を突いて出久を蹴り飛ばすと出久はすぐさま体勢を整えて身構える。

 

「そんな事!そんな事って……!間違ってる!!」

 

出久はそう叫んで私の元に飛び込んで来た。

 

誰かが幸せになる為に、誰かが犠牲になるなんて……そんなの間違ってるよ!!

 

体育祭でオールマイトから聞いたシャーロット・ピースレイの言葉だった。

 

きっと……出久はその言葉を覚えていたのね……

 

私は出久の猛突をあしらうと連想で何度もナイフを振るい、出久はそれを躱す。

 

「今じゃない!世界はそう簡単には変わらないよ!だけど、自分が悪である事を認めちゃいけないんだよ!悪を以って悪を制する道を選んじゃいけないんだ!僕達は耐えないといけない。苦しまないといけない!大切な者が奪われるかもしれない!」

 

私が次にナイフを振るうとまたナイフを振るう腕を止められてしまった。

 

「それでも、復讐は次の復讐を生むだけ。復讐の連鎖は、止めないといけないんだ!!」

 

「私は守れなかったのよ!!いつもいつも奪われた……苦しんで、耐えて、それでも奪われた!もう……私には何も残ってない……だからせめて、誰かが奪われない様にこの命を使う」

 

「どうして、君は……そこまで……!」

 

私はまた蹴り飛ばすと出久にナイフの刃先を向けて対峙し、出久も負けじと身構え続ける。

 

次で決まる……

 

その予感は出久にも感じている筈。

 

「出久!!私達の目指す所は同じ筈よ!!」

 

「でも……!手段は全く違う!!」

 

「貴方は私の選ばなかった選択をした!貴方の目指す正義が本物なら、私の様な悪は全て捕まり、裁かれ、正される筈よ!!私は切り裂きジャック(ジャック・ザ・リッパー)!!貴方の正義で私を捕まえて見せなさい!出久!!!」

 

「ジィィルゥゥゥ!!!」

 

私達は同時に飛び出すと私は突き出された拳を避けようとした時、黒い紐の様な何かが私を拘束しようとしてきてそれを咄嗟に避けると出久が必殺技を放とうとしてきていた。

 

DETROIT SMASH(デトロイト スマッシュ)!!!」

 

その必殺技は間違いなくオールマイトの必殺技だった。

 

でも、私が過去に受けたオールマイトの技と比べれば対象出来ない訳ではなかった。

 

私は出久が放つ前に一気に離れて使用と同時に素早く接近し直すと強い蹴りを入れて飛ばした。

 

流石の出久もまともに外したのは予想外だったのかまともに防御も出来ずに受けてしまい、立てずにいる。

 

「出久。残念だわ」

 

「ジル!!」

 

出久は立ち上がろうとするけど全く立ち上がれずにいる。

 

普段ならそんな事にはならないと思うけど恐らく、グリーン・メイスンとの戦闘に続いて私とも戦ったから疲労がピークになったのだと思った。

 

何しろ数だけは多いし、私に追い付くのに何れだけ急いできたのかと考えれば無理も無い。

 

「出久。貴方の負けよ。大人しく引き下がりなさい」

 

「まだだ……僕は……君を止めないといけない!これ以上……悲しみを増やす訳にはいかないから……!此処で止めないと君はまた人を殺してしまうから……!」

 

「あら、そう……なら、早く撃てば?必殺技をね」

 

私はそう言って隙だらけな状態でそう言った。

 

「止めたいなら撃ちなさい。出来るでしょ?ほら……早くしてよ?」

 

「うぅ……出来るよ……絶対に君を……止める……!!」

 

出久はそう言って必殺技を出そうとし、私はそれを阻止もしないで見つめていた。

 

彼にはもう撃つ気力は無い。

 

撃てたとしてもそれがまともな威力で出る事も無い。

 

出久は……既に詰んでるのよ。

 

「うおぉぉぉぉッ!!」

 

出久は必殺技を撃とうとした時、そのまま身体が地面に倒れてしまい、荒い息を吐いた。

 

「はぁ…はぁ……ジル!僕は……それでも!それでも僕は……!」

 

「……そうね。出久。それで良いのよ」

 

私はそう言って倒れた出久の所へ言くと頭を優しく撫でた。

 

「無理なんてしなくても良い。いつかきっと、犯罪も争いも無い世界が、悪人のいない世界がきっと出来る。他の誰かじゃない。私が作るわ。何年、何十年掛かるか分からないけど、悪党どもは残らず殺して回るわ。悪には容赦はしないわ」

 

私はそう言いながら出久に少しだけ過去の私の笑顔を見せてあげた。

 

出久は驚いた表情を見せるのに私はいつもの出久だと思えた。

 

「そうして最後に、この世界に悪が私しかいなくなったら。私を捕まえるのは……出久。貴方かもしれないわね」

 

「ジル……!」

 

「全く……貴方はきっと慌てて来たんでしょ?連絡はしといてあげるからゆっくり寝ていなさい。あと、皆によろしくって伝えておいてね」

 

「待って……!待ってよ……!!」

 

「さよなら……出久」

 

私がそう言い終えると出久は気を失ってしまい、私は出久を抱き抱えると近くにあったベンチに寝かせておいた。

 

「本当に……さようなら……きっとまた会う時は……ヒーローとヴィランの立場よ」

 

私はそう言ってから近くの公衆電話を使って一番信頼出来る雄英に電話した後、闇に紛れる様にその場から早足に去る。

 

これからも私は悪を裁く……それは絶対に覆らない。

 

だから必ず、私の目指す理想を叶えて見せる。

 

そこに出久達、ヒーローが立ちはだかっても必ず。

 

でも、もし……捕まえてくれるのが出久なら……私としては本望かもしれない。



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【第五章】理想を追い求めて【"FROM HELL(フロム ヘル)"】

やっと殺人鬼ルートが完結しますへ(×_×;)へ

皆さん、此処までの応援ありがとうございました\(^-^)/


グリーン・メイスンの壊滅から四年もの月日が流れた。

 

私も二十歳になり、お酒も平然と飲める年頃になってもまだ私が捕まる気配も無く、悪を裁き続ける日々を送っていた。

 

四年と言う月日はこの社会に、この世界に大きな変革をもたらした。

 

法の改正によってヒーロー以外の治安維持組織、つまり警察機構でも個性を使用して対処する事が出来る様になった。

 

今までヒーロー任せだった警察機構はグリーン・メイスンの影響から脱した事でより、強固な組織の体制と連携によって様々な凶悪事件やヴィランの逮捕に繋げていき、前時代よりも遥かに治安が良くなっていた。

 

それと同時にヒーローの人気は失速して行き、今ではなりたい職業ではヒーローがダントツだったのにも関わらず、他の職業が挙げられてしまう様になった。

 

ヒーロー業は未だに許された職業だけど何れは廃止され、過去の遺物として語られるだけの代物になると私は思っている。

 

この改正の影響は日本には留まらずに外国にも及んでいき、アメリカ等の犯罪が多く多発する国々では警察機構に対して個性使用が許される法案が可決される様になった。

 

今ではよく訓練されたヒーローと組織力を武器にした警察が連携して捕縛し逮捕すると言うのが外国のやり方になったけど日本ではヒーローはあまりに信頼されていない。

 

その為、ヒーローよりも警察に頼る様になった。

 

でも……悪い事だけじゃない。

 

今までヒーローが来るからと言い訳して逃げていた人達は困っている人がいれば助けてあげる様になってくれた。

 

ほんの小さな善意が法律を破る悪と言う認識が壊れたからこそなのかもしれない……私はヒーローが廃れる事で変わる善意もあると信じている。

 

私はヒーローと警察に毎日の様に追われてるけど全く驚異とは思っていない。

 

何しろ私を庇う人達の方が多くなって簡単な証言や目撃情報すら偽りの事を言ってくれる様になった。

 

本当は悪人の私を庇って欲しくはないんだけどね……

 

そう言う事で特に問題は無い……と言いたいけど天敵がいる。

 

それは過去に殺したジェントルの相棒、ラブラバが全国の監視カメラをハッキングして私を探し回ってはそれをヒーローや警察に通報して来ると言う嫌がらせをしてくる様になった。

 

あまりに鬱陶しいからラブラバを探し出して抗議したら。

 

「絶対に許さない!!私からジェントルを奪った事を永遠に後悔させてやる!!絶対によ!!」

 

と言われた。

 

私は過去にジェントルにラブラバには手を出さないと約束してて破るのもあれだから帰ったけど嫌がらせは続いてる。

 

それだけならマシだけど彼女は隙あらば私の命を奪おうと画策もしている。

 

その一手として私が殺したヴィランの中にそのヴィランの事を大切に思っていた奴等がいて私を憎んで報復……つまり、復讐しようといき淡々と隙を狙っていたり、実際に殺されたかけた時もあった。

 

そいつらは個人だったりしたけどいつの間にか集まって団体で私に復讐しようとして来る様になってそのまま組織化した。

 

言うなれば……対切り裂きジャック(ジャック・ザ・リッパー)専門のヴィジランテ組織と言った所かしら?

 

ラブラバもそこに属してるのは間違いないのは確かよ。

 

そしてその主導者がまさかの智枝美だった。

 

彼女は高校一年生として過ごしてるけど彼女の個性、"超頭脳"で組織内のブレインとして私を追い詰める指揮を取ってる。

 

診療所でも小学生なのに大人でも理解出来そうにない難しい本をよく読むなと思ってたけど……個性の関係もあったなら納得できるわ。

 

一度、追い詰められた振りをして智枝美に会ったら案の定、恨み言を言われてしまった。

 

「絶対に……許さないんだから……!!」

 

とか言って何処で手に入れたのか拳銃を手にして撃とうとしたから取り押さえて拳銃を奪ってバラして投げ捨てたら泣き出して罵倒された。

 

恨まれるのは覚悟のうえだけど此処まで罵倒されるのは流石に傷つくわよ本当に。

 

私を憎む彼女達やヒーローと警察を他所にして私は懐かしい顔に会った。

 

綾乃だった。

 

私は再開を喜びはしたけどそれよりも綾乃の腕には三歳位の子供が抱かれていた事の方が驚いた。

 

綾乃曰く、足が不自由ながらも今は他のヒーローや個性使用での訓練する警察達の講師をしている天晴との間に出来た子供らしく確かに二人に似た様な容姿をしていた。

 

私は彼女の幸せを願って祈りを捧げた後、綾乃と密かに別れた。

 

本当にもう二度と会う事はない。

 

激動の時代だった四年前が懐かしく思える様な事が多い今の時代。

 

私は定めていた獲物を狙って夜の街の路地を走っていると複数の気配を感じて足を止めた。

 

「……お出ましね」

 

私が微笑みながらそう呟いた時、足音が周りから響いてくる。

 

「いたぞ!!」

 

「囲め!逃がすなよ!!」

 

現れたのは個性訓練を受けた警察達と。

 

「もう逃がさねぇぞジル!!」

 

「大人しく投降して下さい!!」

 

「ジルちゃん!!」

 

そこにいたのはヒーローになって活動し始めた勝己や八百万、梅雨と言ったA組の面々だった。

 

耳郎や切島や上鳴、砂藤、芦戸と言った懐かしい顔ぶれが揃っていた。

 

静かな夜を台無しにする怒号発しながら取り囲み、埋め尽くす彼らを愉快に思いながら笑った。

 

「こんな夜中に御勤めとは御苦労な事ね?時間外手当てはちゃんと貰ってるの?」

 

私がそう言うと人混みの波を分ける様に現れた成長した出久が現れた。

 

「そう思うなら犯罪を起こさないでくれるかい?こんばんは。ジル」

 

楽しげに笑う私とは裏腹に油断なく身構えて私と対峙する出久に私は笑いかけながら挨拶する。

 

「こんばんは。出久。いえ……ヒーロー、デク。相変わらず仕事を熱心にしてるみたいね?」

 

ヒーローのデクと殺人鬼の私が対峙するのはもはや宿命としか言い様がない程にぶつかり合った。

 

何度も何度も互いにこうして夜更けに戦いを繰り広げる事、四年。

 

学生時代から私を追い回す出久達には称賛の拍手を送るわ。

 

「君もだよ。たまには休んだらどうかな?タルタロスで永遠に」

 

「それは難しいわね。この世界には悪が多すぎるのよ。まだまだ悪党が減らないの。しっかりしてよね、ヒーローさん」

 

私はそう言ってナイフを手にすると出久もそれに答える様に身構えた。

 

「この世から悪党が消えれば後は牢獄で悠々自適な隠居生活よ。牢獄に空きがあれば良いのだけどね?」

 

「何度も言ったけど君もその悪だよ?だからこうして多数の警官やヒーローを動員して追っているんだ。さぁ、武器を捨てて投降してくれ」

 

「それは無理ね。私を逮捕?やれるもんならやってみなさいよ。それが出来るならね!!」

 

「大人しく捕まってくれるつもりはないよね!!」

 

そうして私と出久達の開戦の火蓋が上がった。

 

「僕が必ず捕まえる!!ジィィルゥゥ!!!」

 

「来なさい!デク!!私を止めてみせなさい!!!」  

 

悪を殺すして正義を成す私と悪を捕まえて正義を成す出久。

 

相容れない私達がやって来た掛け合いは戦う前の挨拶の様なもの。

 

吠え、対峙する私と出久達。

 

己の信じる正義を貫くと決めた出久達、悪を以って悪を制する事を決断した私。

 

私達は互いの意地と使命をかけ、ぶつかり合う。

 

かつて、暗躍した悪人の所業は明らかになり、巨大な悪はより強大な悪になった私によって裁かれた。

 

でも、その野望を潰す為に出久達と、袂を分かち合った事実は決して消えない。

 

私は自らも悪と認識し、罪から逃れる悪を殺す無法者(アウトロー)として生きていく。

 

追われ続けても尚、悪を殺す為に。

 

 

 

"全ては犯罪も争いも無い、幸せな世界の為に"




殺人鬼ルート御愛読ありがとうございました!

次からはヒーロールートに入ると思います。

これからもよろしくお願いしますm(__)m


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【第二章】ライトヒーロー【ヒーロー ルート】
揺るがぬ信念


私は連続強盗殺人のヴィランを説得し、自首と言う形で何とか事件を解決してからと言うもの、朝になってからはニュースはその話で持ちきりだった。

 

《続けてのニュースです。連続強盗殺人犯として追われていたヴィランが昨日未明、自首をした事が明らかになりました。容疑者の犯行理由は生活の苦しさによる犯行だとし、現在も調査が進んでいます。続けてはNo.1ヒーローのオールマイトが雄英》

 

私は家に帰れば昨日の夜から朝まで母さんのお説教を受けて寝不足なりながら朝食を食べていた。

 

でも、これで良かったんだと思いながら私は人を殺す選択をせずに済んだ事に安心し、いつもの様に珈琲を一口飲んで落ち着いた。

_______

_____

___

 

私は事件は解決したけど折角だからと今回だけ同伴してくれるミッドナイトこと香山先生に送迎して貰った。

 

同じ女同士、色々と弾む話をしてくれて少しでも事件のトラウマを抱えない様にしてくれた香山先生には感謝しかない。

 

まぁ……流石に色々と際どいコスチュームを着てきて送迎に来なかったのは良かったと言うのは内緒だけど。

 

私は雄英に行く前に香山先生に花咲透さんの所へお見舞いに行かせて貰える様に頼むと快く了解してくれて私は透さんが入院している病院に着くとそこへ見知った医師がいた。

 

「おや?ジル君じゃないか」 

 

「外堂先生。お久しぶりです」 

 

私がヘドロ事件の時に運ばれた病院で外堂先生と再会した。

 

前にあったのは別の病院だったけどどうして此処に?

 

「外堂先生。どうしてこの病院に?」

 

「ふむ。実は此処に緊急搬送された患者の手術をたまたま私が請け負ったからだ。私の腕は確かだからね。危なかったが何とか一命を取り留めたよ」

 

「そう……良かった」

 

私はそれを聞いて安堵しているとそこへ力斗と志奈の二人がやって来た。

 

「あ、ジルさん」

 

「……お前かよ」

 

ハッキリ言えばどう顔を合わせれば良いのか分からなかった……でも、二人にはちゃんと謝罪しないといけない。

 

私なりの責任を果たす為にも。

 

「力斗、志奈。その……私のせいで」

 

「もう良い。話しは聞いたさ。お前が昨日、親父を襲ったヴィランの所に行っていたってな」

 

「話しを聞いてたんだ……」

 

「聞きましたよ!何て無茶をするんですか!……ジルさんにまで何かあったら……私……」

 

二人の反応に私はどちらの理由でも申し訳ない思いでいると力斗は頭をかきむしり始める。

 

「だから……もう良いって言ってるだろ!親父だって死んでねぇんだ!これ以上、謝るならぶつぞ!」

 

「お兄ちゃん!此処は病院!それとジルは女の子なのにぶつなんて言わないで!」

 

二人のやり取りに私は少し気が軽くなれた。

 

本来なら私は責められても文句は言えない立場なのに二人は私を責める処か許してくれる。

 

二人に申し訳ない思いと感謝の気持ちを抱いた時、志奈が時計を見た。

 

「大変!お兄ちゃん!ジルさん!遅刻しちゃう!」

 

「え……うぉッ!?マジか!!」

 

「もうこんな時間なの!?」

 

時計を見てみたら今すぐにでも登校しないと間に合わない時間になっていた。

 

二人もそうだけど私の場合は相沢先生が担任だから……

 

「除籍にされる……!」

 

「そうなの!?なら早く行かないと!!」

 

「でも、お見舞いが……」

 

「真面目過ぎるにも程があるだろ!!早く行くぞ!!」

 

「え、ちょっと!?」

 

私は力斗に手を引っ張られて行き、志奈も続いていく。

 

私は咄嗟に香山先生と外堂先生の二人を見てみれば微笑む姿を見たのを最後に私はそのまま雄英へ向かった。

_______

_____

___

 

私は二人と一緒に急いで雄英に来るとそこにはマスコミの群れがいた。

 

「な、何なの……アレ?」

 

『さぁな。どうせ、ろくでもないのを取材してるんだろ?』

 

「うわぁ……マスコミさんが沢山いる……」

 

「ちッ。めんどくせぇな。邪魔なんだよ!」

 

私達は群れるマスコミに唖然としているとマスコミ達が一斉に此方を見てきた。

 

まずい……かなり嫌な予感がする。

 

マスコミの視線に一歩退いてしまった私に対してマスコミ達は個性でも使ってるのかとばかりにかなりの速度で走ってきた。

 

「ヒーロー科と普通科の子ですね!オールマイトが教師として赴任した感想を聞かせてください!」  

 

「おい!俺達が先だぞ!!」

 

「何だと!?俺達が先だ!」

 

「あれ?君ってあのヘドロの……?」

 

「え、あの事件の?」

 

あぁ……まずい。 

 

お願い止めて……黒歴史を掘り返さないで……!

 

もう私は恥ずかしくてそのままそそくさと群れを掻き分けて進むもうとした時。 

 

「まだお話は終わってません!」

 

なんて腕を掴んできた。

 

「邪魔だ」

 

腕を掴まれたのを知ったアーサーが無理矢理に出てくると腕を掴んできたマスコミを睨み、掴んでいた腕をアーサーは外した。

 

「授業に遅れたらどうしてくれる?うちの担任はそういうのには厳しいんだぞ。もし遅刻をして除籍されたら……分かってるな?」

 

アーサーはそう言ってニヤリと笑って見せるとマスコミ達は固まってしまい、アーサーはそのまま校門を抜けると私に主導権を返した。 

 

「(何してんの!?)」 

 

『ふん。マスゴミ共があんまりにしつこいから威嚇しただけだ。庇う必要はないだろ?』

 

「(庇ってないわよ!寧ろ彼奴ら貴方の事を報道したらどうすんの!?それに二人とも私の事をかなり凝視してるわよ!?)」

 

「あの……大丈夫ですか?」

 

「急にどうしたんだよ……お前?」  

 

心配する二人に私は苦笑いをして誤魔化すとアーサーは悪びれもせずに言う。

 

『大丈夫だろ。いくら報道の自由シールドがあっても無敵だと思ってるのは奴等だけだ。一回訴えられたら簡単に勝てるし無駄な抵抗するなら……な?それにこの二人とは長い付き合いになるんだ。何時か知られるなら良いだろ?』 

 

アーサーは愉快そうに笑い、私は呆れて溜め息をつく中、そこへ相澤先生が来た。

 

「霧先。それに花咲兄妹。遅刻するぞ。早く行け」

 

「あ、はい。あ……でも、香山先生が……」 

 

私は同伴してくれていた香山先生を置いて来てしまった事を思い出して校門を見ると、校門がいきなり頑丈そうなゲートが出てきて閉じられた。

 

「ちょっとおぉぉぉぉぉぉッ!?」 

 

閉じられると同時に香山先生の悲痛な叫びが聞こえる中、相澤先生が説明する。

 

「雄英バリアーだよ。俺らはそう呼んでる」

 

『もう少しマシな名前にできなかったのか?』

 

「(かなりの技術なのに名前がダサい……)」 

 

「カッコ悪いな」

 

「お兄ちゃん!」

 

私とアーサーはあまりにダサい名前に呆れ、力斗にまでカッコ悪いと言われる中、相澤先生は説明を続ける。

 

「学生証とかさ通行許可IDを身に付けていないとあんな風に閉じられる。お前ら。学生証を忘れたり無くしたりするなよ?」 

 

「あ、はい……それで香山先生は?」 

 

「そうです!置いてきてしまって!」

 

「俺が中に入れるからお前らは先に行け。遅刻すんなよ」

 

相澤先生はそう言って外に弾き出されっぱなしの香山先生を入れに行ってしまい、私は香山先生に申し訳ない思いで二人と別れて教室に向かった。



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動き出す悪意

ジルの挿し絵を作ってみました!

イラストは下手なのでサイトを利用してます。

ジル(通常)
【挿絵表示】


ジル(アーサー)
【挿絵表示】


ジル(殺人鬼)
【挿絵表示】



取り敢えずマスコミ達からの一件から暫くしてチャイムが鳴ると相澤先生が何事も無かったかのように教室に入ってきた。

 

「昨日の戦闘訓練お疲れ。Vと成績を見させて貰った。爆豪。お前はガキみてえなマネすんな。能力あるんだから」

 

「分かってる……」

 

相澤先生の厳しい言葉に流石の勝己も反省してるのか元気無く返事を返すと相澤先生は今度は出久君に視線を向けた。

 

無論、お怒りで。

 

「で、緑谷はまた腕ブッ壊して一件落着か」

 

相澤先生のその言葉に出久君は身体を震わすと、相澤先生が不機嫌モードになった。

 

「個性の制御……いつまでも出来ないから仕方ないじゃ通させねぇぞ。俺は同じ事を言うのが嫌いだ。それさえクリアすればやれる事は多い。焦れよ緑谷」

 

「っはい!」

 

相澤先生の言葉に出久君が大きな声で返事をする姿に頼もしさを覚える。

 

「それと霧先。お前は優秀だな。無駄な動きが少なく連携した作戦も立案する能力がある」 

 

挨拶先生はそう言うと鋭い視線を私に向けた。

 

「だが、勇気と無謀を履き違えるな。前みたいな事になりたくないなら次からは物事をよく考えてから行動しろ。特に昨日の夜の無謀な行いは褒められた事じゃない」

 

「はい。ご迷惑をお掛けしました……」

 

私はそう言ってあの時の事を思い出してしまい少し落ち込む中、相澤先生は話を切り替えた。

 

「さてHRの本題だ……急で悪いが今日は君らに……」

 

「(またテストかしら?)」

 

『そんなにテストするもんなのか?』

 

私とアーサーは疑問に思う中、相澤先生は本題を切り出した。

 

「学級委員長を決めて貰う」 

 

「「「学校っぽいの来たあぁぁぁぁッ!!!」」」

 

相澤先生からの学級委員長を決める話に皆が食い付くと一斉に手を上げて行く。

 

私も迷わずに挙手をし、やる気を見せた。

 

『やる気満々だな』

 

「(当然よ。ヒーロー科に取っては学級委員長は集団を導くトップヒーローの素地を鍛えられる役だからね。やっておいて損は無いから)」

 

『普通なら雑務のイメージなんだがな。ヒーロー科と言うのは細かい所にも育成の為の何かが仕込まれているとは気が抜けやしないな』

 

アーサーの言葉に私は少し苦笑いした後、ワイワイと騒ぐ皆を制するのはやはりこの人。

 

「静粛にしたまえ!!」

 

飯田君だった。

 

「多を牽引する責任重大な仕事だぞ……!やりたい者がやれるものではないだろう!!周囲からの信頼あってこそ勤まる聖務……!民主主義に則り真のリーダーを皆で決めると言うのなら……これは投票で決めるべき議論!!」

 

「飯田君は本当に真面目ね……なら、その腕は何かしら?」

 

「そびえ立ってんじゃねーか!!何故、発案した!!!」

 

私の言葉を皮切りに上鳴君が何故か投票を発案しておいてやりたいとばかりに手を挙げている飯田君にツッコミを入れた。

 

「日浅いのに信頼もクソもないわ飯田ちゃん」

 

「そんなん皆、自分に入れりらぁ!」

 

「そうね……日が浅い内は難しいわね。でも、入れるとしたら飯田君かな」

 

「「え?」」

 

「だって日こそ浅いけどクソがこびりつくどころか強力接着剤で何回も塗りまくった位に超真面目な飯田君なら信頼出来そうだし」 

 

「それ……誉めてるのか?」 

 

梅雨ちゃんと上鳴君は意外だと見られ、砂藤君には何故か引かれた視線を向けられた……何で?

 

「と、とにかく!だからこそ此処で複数票を獲った者こそが真に相応しい人間と言う事にならないか!?あと票をありがとう!」

 

入れる決まった訳じゃないのに律儀ね……でも、彼は適任だと思えるし今回は譲ってあげましょう。

 

取り敢えず始まった学級委員長選挙は皆は結局、自分に入れたりする中、此処で予想外な事が起きた。 

 

出久が三票、八百万さんが二票、そして私も二票。

 

誰よ私に二票も入れたの?

 

『まぁ、お前もそれなりに真面目だしな。同列の主席と言うのも大きい。しかももう片方の主席とは違って筆記もトップで更に性格は良いとくれば信用する奴は多いだろ』 

 

「(忘れてたわ……勝己と一緒の結果だったの)」

 

私は入試の成績を思い出すと取り敢えず、委員長は出久君になり、副委員長はジャンケンで決める事になった。

 

「(ジャンケンね……)」

 

私はそう思いながら八百万さんと普通に最初はグーとした後、ジャンケンポンとチョキを出した。

 

八百万さんは……グーだ。

 

私はチョキを出して負けた以上は今回は見送りだった。 

 

「勝ったのは八百万か」 

 

「うーん……霧先さんも良い方だと思うけど……」

 

「ジャンケンだからな。だけど、八百万は講評の時のがカッコよかったし!」

 

「緑谷もなんだかんだ熱いしな!」

 

「おいらとしてはどっちでも役得」

 

皆が感想を各々言った後、委員長の出久君と副委員長の八百万さんが前に立った。

 

それにしても項垂れてる飯田君は他に入れちゃったのね……流石に何してるのよ。

 

『本当、真面目な奴だよな』

 

「(そうね……)」

 

まぁ、それが飯田君の良い所だと思って良しとしましょう。

_______

_____

___

 

私は大食堂へ昼食を出久君と麗日さん、飯田君とで取りに足を運ぶと私を見るなり生徒の皆は一斉に駆け出した。

 

「ヒーロー科の霧先が来たぞぉッ!!」 

 

「急げぇッ!!また飲み物なんかで時間を掛けられるぞ!!」

 

「もう!何でこんな時に限って終わるのが遅くなるのよ!!」

 

もう修羅場だ。

 

私が最初に珈琲か紅茶かでアーサーと揉めたりしたせいでこんな現象が起きてしまう様になったのだ。

 

「わぁ……凄い事になってる……」 

 

「霧先さんってそんなに有名なの?」 

 

「……少し、注文が遅くなりやすくて。私は珈琲でアーサーは紅茶。好みの問題なのよ」

 

「聞いた事がある……!君は飲み物の注文の際に険しい顔をして時間を掛けるという噂があるが……そういう問題が」

 

「それ以上は言わないで!!」

 

私の恥ずかしい噂を解説しそうになる飯田君を止めた後、私達が注文する為に並ぶと後から来た人は膝をついたり、悔しがったりする者で溢れた。

 

「あぁ……急ぎの用がある人がいるなら先に注文して良いですからそれ、止めて下さい」

 

「ジルが順番を譲りだしちゃった」

 

「人格が二つあるって大変なんだ」

 

「うむ……やはり、彼女の為にも何かしてあげられないのだろうか……よし!此処は先生方に!!」 

 

「いや、大丈夫だから飯田君。これ以上、黒歴史を増やさせないで」 

 

私はそう言いながら取り敢えずフィッシュアンドチップスとサンドイッチのセットを注文した。

 

雄英には私の様なハーフの人達の為に外国の料理も作ってくれるそうでたまに食べたいもう一つの故郷であるイギリス料理を食べられるのはとても良い。

 

飲み物は……前の騒動から懲りてアーサーに文句を言われたけど頼まない様にしてる。

 

だけど、ランチラッシュが気を遣ってくれたのか紅茶も付けてくれたりするけど多分、イギリス人のハーフだから等のイメージなのか紅茶を付けてくれるのだ。

 

いや、紅茶は嫌いじゃないけど珈琲が良かったな~なんて思ったのは内緒。

 

無論、この予想外のサービスにアーサーは喜び、ランチラッシュへの株が大きく上がったらしい。

 

「それにしても人が相変わらず多いわね」

 

「ヒーロー科の他にサポート科や経営科の生徒も一堂に会するからな」

 

「いざ委員長をやるとなると勤まるか不安だよ……」 

 

「ツトマル」 

 

「大丈夫さ」

 

「二人の言う通り大丈夫よ。何かあれば助けるし」

 

三人と他愛ない話をしながら私はサンドイッチを頬張る中、視線に昼食を持って席を探す緋色を見つけた私は声を掛けた。

 

「緋色!」

 

「うん?やぁ、ジル。君も昼食かい?」

 

私の呼び声を聞いた緋色は笑顔でやって来ると笑顔を見せ、私も笑顔になった。

 

「霧先さん。その方は?」

 

「普通科の緋色よ。最近、仲良くなって」

 

「神速緋色だ。普通科だがよろしく」

 

「緑谷出久です」 

 

「私は麗日お茶子!よろしく!」

 

「飯田天哉だ。此方こそよろしく」

 

各々、挨拶を済ます中、周りの席は相手おらず私は緋色を誘ってみる事にした。

 

「緋色。他に席が空いてなかったら一緒にどうかな?」 

 

「それは助かるよ!見た所、他に相手なくて困っていたんだ。だが、三人は私が混ざっても良いのかい?」

 

「良いよ!ジルの友達だし!」

 

「私も!」

 

「僕も構わない。他の科の生徒と交流する事も大事な事だ」

 

三人が緋色が一緒に席に座る事を許してくれると私達は楽しく食事をしながら会話する。 

 

「へぇ、委員長ね……雑務をこなすイメージだけど集団を導く素地を鍛えられる役でもあるのか。だからヒーロー科から落ちてきた者達はやる気を出していたのか」 

 

「普通科なのにやる気があるの?」

 

「あれ?知らないのかい?雄英体育祭はリザルト次第では編入してくれる可能性があるんだ。だから、落ちて他の科に入ってもヒーロー科を諦めない者も多い。そして逆もあるらしい。つまり除籍だ。体育祭で油断して蹴落とされたなんて無いようにしておいた方が良いぞ?」 

 

「へぇ……」

 

「そ、そうなんだ……」

 

緋色から聞かされた雄英体育祭のその仕組みに私は油断なく取り組まないといけないと思うなか、出久君は不安そうだ。 

 

確かに出久君の個性はかなり扱いにくい。

 

見た限り強力だけだ使う度に身体を壊すと言うのは長期戦では不利しかないからね。

 

「それにしても飯田君も委員長やりたかったんじゃないの?眼鏡だし!」

 

「麗日さん……眼鏡は違うと思うわ」 

 

「ツッコム所はそこではないだろ」

 

緋色はそう言って呆れた表情を浮かべるけど私は何で呆れられたのか分からず首を傾げると飯田君が答えた。

 

「やりたいと相応しいか否かは別の話……僕は僕の正しいと思う判断をしたまでだ」 

 

「相変わらず真面目ね。それより一人称が僕になってるわよ?」

 

「僕……!!」 

 

「ちょっと思ってたんだけど飯田君って坊っちゃん!?」

 

「坊!!!」

 

坊っちゃん呼ばれた飯田君はカレーを食べながら答える。

 

「……そう言われるのが嫌で一人称を変えていたんだが……俺の家は代々、ヒーロー一家なんだ。俺はその次男だよ」 

 

「ええーー凄ーー!!!」

 

「飯田君の家庭ってヒーローの家族なんだ」

 

「ターボヒーロー、インゲニウムは知ってるかい?」 

 

「勿論だよ!!東京の事務所に65人ものサイドキックを雇ってる大人気ヒーローじゃないか!!まさか……!」

 

「詳しい……」 

 

「だてにヒーローオタクしてないからね。出久君は」 

 

ヒーローの話になるといつも目を輝かせて話す出久君に私は楽しく聞いていたりしていた事があり、たまに長過ぎて眠くなりそうになった事もある程なのだ。

 

「それが俺の兄さ」

 

「あからさま!!!凄いや!!!」

 

「規律を重んじ人を導く愛すべきヒーロー!!俺はそんな兄に憧れヒーローを志した。人を導く立場はまだ俺には早いのだと思う。上手の緑谷君が就任するのが正しい」

 

『へぇ……真面目過ぎるがそれ故に規律を重んじ正しいと思う事は自分が損しても相手に譲る姿勢。俺は好きだね』

 

「(貴方に誉められるのは嫌だと思うけど……その考えは同感ね)」

 

私は入試以来の飯田君は真面目過ぎると思っていたけど彼自身の人柄は周りを引き付けるものがある。

 

私は投票でなくても飯田君が委員長になれたらと思う中、私は紅茶を飲もうとした時、警報が鳴り響いたのだ。

 

「警報!?」  

 

私達は突然の警報に驚く中、アナウンスが鳴り響いた。

 

《セキュリティ3が突破されました。生徒の皆さんは速やかに屋外へ避難してください》

 

「セキュリティ3?」

 

「セキュリティ3とは何ですか?」

 

「校舎内に誰かが侵入してきたって事だよ!三年間でこんなの初めてだ!!君らも早く!!」

 

「……どうやら冗談ではないらしい。僕達も行こう!」

 

緋色のその言葉に私達は避難をしようと動くが大食堂に集まった生徒だけでもかなりの大人数の為か押し合いが起こる中、私は体勢を崩して転けない様にしながら歩く中、緋色が体勢崩した。

 

「危ない!!」

 

私はそう叫んだ時、アーサーが咄嗟に入れ替わって緋色の腕を掴んで転けない様に引き寄せた。

 

「大丈夫か?」

 

「あ、あぁ……こんな時にアレだが君も口調を変えてたのかい?」 

 

「そんな事より気を付けろ。転べば痛いじゃ済まないぞ」

 

『アーサー!!窓の外に人が!!』 

 

私はアーサーに窓の外を見る様に促すとそこには窓の外に群がるマスコミがいたのだ。

 

「ちッ……!マスゴミ共の仕業か!!」

 

「じ、ジル?」

 

『アーサー!緋色がいるの忘れないでよ!!』

 

「そんなの気にしてる場合じゃねぇだろ!!」

 

「本当に大丈夫かジル!?」

 

もう大混乱。

 

アーサーはマスコミ達が起こした騒ぎのせいで怒り狂い、緋色はそんなアーサーこと私を見て不安そうな表情を見せ、私はそんな姿を見られた事を気にする。

 

もう私達でも対象できない中、何かが宙を飛んで出入り口の上にへばり着いた。

 

『飯田君!?』

 

それは飯田君だった。

 

飯田君は非常口のマークみたいな掴まりかたをすると叫んだ。

 

 「皆さん大丈ー夫!!ただのマスコミです!何もパニックになる事はありません!大丈ー夫!!此処は雄英!!最高峰の人間に相応しい行動を取りましょう!!」

 

その叫びに生徒の混乱は収まり、立ち止まっていく。

 

「はぁ……彼奴らは常識すら破るのか?」

 

「ジル?」

 

アーサーはその声に反応して緋色に視線を向けると緋色は不安と疑問の両方を抱いた表情をしており、恐る々に話しかけてきた。

 

「君は本当に……ジルなのか?」

 

『アーサー!!』

 

「……違うな。俺は単に混乱のせいで出てきただけだ。じゃあな」

 

アーサーはそれだけを言うと私は主導権を返された……

 

「えーと……大丈夫だった緋色?」

 

「……取り敢えず。一から説明してくれるかな?」

 

緋色からそう言われた私は今回ばかりはアーサーを深く恨んだ。

 

もしかしたら友達として仲良くなれそうな緋色がアーサーのせいで離れるんじゃないかと思えたから……殺人鬼だし。

 

私は説明責任を果たす為に取り敢えず状況が落ち着いた話そうと言う約束を交わす事になった。

 

「(それにしても単なるマスコミがアレを破壊なんて出来るのかな?)」  

 

確かに存在する疑問を抱きながら。

 

~別視点side~

 

マスコミ侵入騒動が起こる中、対応に追われてもぬけの殻になった職員室に二人の侵入者がいた。

 

「これがカリキュラムか黒霧?」

 

「そのようです。雄英のUSJで救助訓練をするそうでその際にオールマイトが来るようですね」

 

侵入者の片割れである黒霧と呼ばれた男はそれを確認するとカリキュラムをしまう。

 

「手に入れたならさっさと帰るぞ。無駄に此処にいて見つかるのは面倒だ」

 

「分かっています……死柄木弔」

 

黒霧はそう言うと自身の身体である黒い霧を広げるともう一人の片割れである死柄木弔は迷う事もなく入った後、黒霧も消えてしまい残ったのは静かな職員室のみだった。




ルート分岐とは言え、殆ど内容が変わらな過ぎる様な気がする(・_・)


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USJ襲撃事件 ~前編~

此処が終わればヒーロールートの本番(未開拓)に入れます!




マスコミ侵入騒動から数日が過ぎた頃、ヒーロー基礎学はオールマイトは授業の準備なのかおらず、相澤先生が取り仕切っている。

 

「今日のヒーロー基礎学だが……俺とオールマイトそしてもう一人の三人体制で見る事になった」

 

「(……どう思う?)」

 

『あり得る話だろう。何せどうやったのかマスコミの連中が警備システムを破って中に押し寄せたんだ。念の為に警備は厚くするのは当たり前だ。お前だってもうあの時みたいな修羅場は御免だろ?』

 

「(……そうね。もう嫌よあんな修羅場は)」

 

数日前マスコミ騒動によって避難しようとした生徒達だったが幸いにも踏まれて圧迫死した死人こそ出る事は無かったけど怪我人は多かった。

 

私を含めた動ける生徒で保健室に送ったり、後で緋色から人格の変化について説明を求められたりして大変で……思い出しただけでも嫌になる。

 

でも、緋色は私の人格には殺人鬼のアーサーがいると聞いても笑ってそうかと言っただけだった。

 

理由を聞いたら。

 

「確かに殺人鬼なんて物騒な人格は怖いさ。だけどそのアーサーが私を危ない所を助けてくれたのは事実だし、何より君が危険な人間ではないと知ってる。それに何だか君がほっとけなくてね。私はそんな理由だけじゃ絶縁なんてしないさ」

 

緋色の理由を聞いた私は安心して腰が抜けてしまい暫く動けなくて緋色を困らせたな……と言うのが前の結果だった。

 

「はーい!何するんですか!?」

 

「災害水害なんでもござれ。人命救助(レスキュー)訓練だ!!」

 

相澤先生はそう言ってレスキューのプレートを取り出して見せた。

 

「レスキュー……今回も大変そうだな」

 

「ねー!」

 

「バカおめーこれこそヒーローの本分だぜ!?鳴るぜ!!腕が!!」

 

「水難なら私の独壇場ケロケロ」

 

「おい、まだ途中」

 

レスキュー訓練と聞いた皆が騒ぐのを睨みながら注意した相澤先生はコスチュームの棚を動かす。

 

「今回コスチュームの着用は各自の判断で構わない。中には活動を限定するコスチュームもあるだろうからな。訓練場は少し離れた場所にあるからバスに乗っていく。以上、準備開始」

 

「さて……着替えないと」

 

『待て。コスチュームを着るんだろ?』

 

「(え?いや、あの服装はあまり救助向けじゃないから体操服に着替えるのよ)」

 

『おいおい、せっかくのコスチュームだろ?救助向けとかそんなのを決めるのは一度やってみてから決めろよ』

 

「(それって貴方が着たいからでしょうに……分かったわよ。確かに正論ではあるしね)」

 

私は諦めて棚から自分のコスチュームを手に取ると他の女子メンバー達と更衣室に向かって歩いていく。

______

____

_____

 

コスチュームに着替えた私達は集合場所であるバスの所まで来ると出久君があの時の訓練でコスチュームがボロボロになった為に体操服だったり、飯田君が委員長としてやる気をフルスロットルに出して張り切ったりする中、私は自分の手を見た。

 

別に何も無い手だけどこの手を血で汚さずに事件を解決する。

 

私は……人を救うヒーローに相応しいのか分からない……でも、それでも私はヒーローを目指して歩き続けたい。

 

自分の信じる正義を貫く為に、誰かの大切なものを守り通せるヒーローに。

 

私は手を強く握り締めた後、私は飯田君の指示の元でバスに乗り込んだ……けど。

 

「こう言うタイプだった!くそう!!!」

 

「意味なかったなー」

 

飯田君は予想を外した席の形であった事に悔しそうに落ち込むけど私としてはやる気があって指導力のある飯田君はとても良いと思う。

 

「私思った事を何でも言っちゃうの緑谷ちゃん」

 

「あ!?ハイ!?蛙吹さん!!」

 

「梅雨ちゃんと呼んで。貴方の個性、オールマイトに似てる」

 

バスに揺られる中、梅雨ちゃんの発言にあからさまに出久君が驚いて慌てる姿に私は首を傾げる中、皆は話を進めていく。

 

「そそそそ、そうかな!?いやでも僕はそのえ」

 

「待てよ梅雨ちゃん。オールマイトは怪我しねぇぞ。似て非なるアレだぜ。しかし増強型のシンプルな個性はいいな!派手で出来る事が多い!俺の硬化は対人じゃ強えけどいかせん地味なんだよなー」

 

「僕は凄くカッコいいと思うよ。プロにも十分通用する個性だよ」

 

「プロなー!しかしやっぱヒーローも人気商売みてぇなとこもあるぜ!?」

 

『人気商売ね……気に入らねぇな。悪を裁く為の正義って言うのはそんな安っぽい理由の為にあるんじゃねぇぞ』

 

アーサーは人気商売と言う言葉に批判的な態度を見せた。

 

確かにヒーローは人々を守る為に国から認められた存在であり、悪を捕まえて法の裁きを掛けさせ、時には災害から人々を助け出す。

 

それこそヒーローたる者達が求められる理由であり、芸能人の様に人気さえあれば成立する仕事ではない。

 

「僕のネビルレーザーは派手さも強さもプロ並み」

 

「でもお腹を壊しちゃうのは良くないね!」

 

青山君に芦戸さんがそう言うと青山君の表情は何処か暗くなった。

 

話題は尽きず、今度は勝己と轟君や私に向けられた。

 

「派手で強えっつったら轟と爆豪だな」

 

「派手さこそ無いけど霧先さんも強いし優しいよね。きっと人気が出るよ」

 

二人だけじゃなくて私まで誉められるのは少し照れ臭い……私は只、最善の一手を考えて動いただけ。

 

でも、私は前の私の事を考えるとその言葉を嬉しく思えて仕方ない。

 

バスの中は話で盛り上がる中、私は皆の会話を笑顔で聞きながら、或いは喋りながら到着するのを待った。

_______

_____

___

 

目的地に着いた私達が見たのは遊園地を連想させる様な演習場で土砂崩れや火災、水害と言った災害が再現され、そこにあった。

 

『おいおい。どんだけ広いんだよ。金かけすぎだろ?』

 

「(無駄にはしてないんだから良いじゃないの。まぁ、本当に大きすぎるけど)」

 

「スッゲーーー!!USJかよ!!?」

 

凄すぎて確かにUSJみたいな感じに見える施設を見ているとそこへ宇宙服みたいなコスチュームを着たヒーローが着た。

 

「水難事故、土砂災害、火事、etc……あらゆる事故や災害を想定し僕が作った演習場です。その名も……嘘の災害や事故ルーム!!略してUSJ!!」

 

「(USJだった!?)」

 

『大丈夫なのか!?あの有名な遊園地に怒られないのかそれ!?』

 

私だけでなくアーサーまでもツッコマずにはいられないパクりの極みみたいな名前に驚愕するいや、するしか選択肢が無さすぎる。

 

「スペースヒーロー、13号だ!災害救助で目覚ましく活躍している紳士的なヒーロー!」

 

「私、好きなの13号!」

 

ヒーローオタクの出久君と好きなヒーローであった為にはしゃいでいる麗日さんは興奮する中、相澤先生と13号先生は何かを話した後、そのまま授業を始める姿勢に入った。

 

オールマイトは……まだ来てない?

 

『何だ?No.1ヒーローとあろうものが遅刻か?』

 

「(オールマイトが遅刻したとしても誰かを助けていたからじゃないからかしら?教師とは言え皆のヒーローであるオールマイトが悪事を見過ごすとは思えないし)」

 

『案外、ヘマをして出てこれないからだったりしてな』

 

アーサーは面白おかしく言うけどオールマイトがそんな間抜けな事をする筈がないと信じて私は授業に集中する。

 

「えー始める前にお小言を一つ二つ……三つ……四つ……」

 

「(増えた……)」

 

13号先生のお小言が増える現象に私は唖然とすると13号先生はお小言を言い始めた。

 

「皆さんご存知だとは思いますが僕の個性はブラックホール。どんな物でも吸い込んでチリにしてしまいます」

 

「その個性でどんな災害からも人を救い上げるんですね」

 

「えぇ……しかし、人を簡単に殺せる力です。皆の中にもそう言う個性がいるでしょう」

 

私はそれを聞いて自分の個性の事を思い返す。

 

私の個性はナイフを無尽蔵に出せるだけ……強いて言うなら、幾らでも凶器を出せると言う事。

 

私が持つ、個性の危険性は私自身も把握している。

 

刺す、切る場所によっては確実に人を殺す事が出来ると。

 

「超人社会は個性の使用を資格制にし、厳しく規制する事で一見成り立っている様に見えます。しかし、一歩間違えれば容易に人を殺せる行き過ぎた個性を個々が持っている事を忘れないで下さい。相澤さんの体力テストで自身の力が秘めてる可能性を知り、オールマイトの対人戦闘でそれを人に向ける危うさを体験したかと思います。この授業では……心機一転!人命の為に個性をどう活用するかを学んでいきましょう。君達の力は人を傷付ける為にあるのではない。助ける為にあると心得て帰って下さいな」

 

私はその言葉を聞き、絶対に人を殺す為には使わない……そう改めて誓った。

 

誰かの命を奪う為の力じゃない。

 

誰かの命を守る為の力なのだと。

 

「以上!ご静聴ありがとうございました」

 

「(良い先生ね。アーサー)」

 

『まぁな」

 

アーサーはそう短く返答する様子に私は苦笑いする中、噴水の方に黒い靄の様な物が見えた。

 

「(何かしら?)」

 

『……ジル。身構えろ』

 

「(え?)」

 

「一塊になって動くな!13号!!生徒を守れ!!」

 

相澤先生から想像できない大声で指示が飛び、13号先生は私達を庇う様に身構えた。

 

「何が起きてるの……?」

 

『分からないか?俺達は今度は訓練での実戦じゃなく、本気の実戦をするのさ』

 

アーサーのその言葉を聞いた私はその意味を知った時、相澤先生が叫ぶ。

 

「ヴィランだ!!!」

 

相澤先生がそう叫ぶ中、ヴィラン達は靄を抜けて出てくる。

 

その数は20人近く……何でこんな所にヴィランが現れたのか知らないけど私達は今、訓練ではない命のやり取りをすると言う事が嫌でも理解できた。



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USJ襲撃事件 ~中編~

突如として現れたヴィラン達に私達は混乱していた。

 

仮にも此処はヒーロー育成を目的とする雄英でまだ有精卵とは言え、ヒーローを志す生徒と現役ヒーローが教鞭を取る様な学校なのだ。

 

なのに奴等は堂々と侵入し、襲撃してきたのだ。

 

「13号に……イレイザーヘッドですか……先日に頂いた教師側のカリキュラムではオールマイトが此処にいる筈ですか……」

 

「やはり先日のはクソ共の仕業だったか」

 

先日のあのマスコミ達を扇動したのはヴィラン達だと私は聞くと拳を強く握り締めた。

 

何がしたいのか知らないけど緋色達の様なヒーロー関連の学科に無関係な人達もいる中で騒動を起こして怪我人まで出した奴等に私は許せずにいた。

 

でも、だからと言って殺したい程ではない。

 

絶対に法の下に必ず裁かせてやると私はまだヒーローですらないのにそう思ってしまう。

 

「何処だよ……せっかくこんなに大衆を引き連れてきたのにさ……オールマイト……平和の象徴……いないなんて……子供を殺せば来るのかな?」

 

手の様なマスクやあちこち手を取り付けてる不気味なヴィランはそう言うと私は恐怖を抱いた……でも、それよりも怒りを抱いた。

 

まるで人の命なんて何とも思っていない様な発言……恐らくは何人も殺している。

 

平気で人の命を奪うなんて言う奴は罪の意識なんて無いに等しい。

 

だから私はあの手のヴィランを許す訳にはいかなかった。

 

「(アーサー。分かってるわよね?)」

 

『分かっている。万が一でも殺しはしないだろ?だが、手加減なんて悠長な事を彼奴ら許すと思うか?』

 

アーサーの言葉に私は項垂れた。

 

ヴィランの数は増えてる……経験や数で勝る相手に手加減なんて出来るのか私には分からないけどもし、戦わざるえないならやるしかない。

 

「先生!侵入者用のセンサーは!」

 

「勿論ありますが……!」

 

「現れたのは此処だけか学校全体か……何にせよセンサーが反応しねぇなら向こうにそういう事が出来る個性がいるって事だな。校舎と離れた隔離空間。そこに少人数が入る時間割……バカだがアホじゃねぇこれは何らかの目的があって用意周到に画策された奇襲だ」

 

轟君の予測は恐らく正しい。

 

確かにこの個性社会において電子機器に影響を与える個性を持つ者もいる。

 

最初からいないなんて予想をする方がおかしい。

 

そして時間割の情報流失……こいつらのせいで何れだけの生徒が恐怖に怯え、怪我を負ったか。

 

「13号避難開始!学校に電話試せ!センサーの対策も頭にあるヴィランだ。電波系の奴が妨害している可能性もある。上鳴、お前も個性で連絡試せ」

 

「ッス!」

 

相澤先生はそう指示を出すと一人、ヴィラン達の所へ行こうとしている。

 

まさか一人で戦うつもりなの?

 

「先生は一人で戦うのですか!?あの数じゃ幾ら個性を消すっていっても!!イレイザーヘッドの戦闘スタイルはヴィランの個性を消してからの捕縛だ!正面戦闘は……」

 

「一芸だけじゃヒーローは務まらん。13号!任せたぞ」

 

出久君の制止を他所に相澤先生はそれだけを言うと捕縛布を手にヴィラン達に向かっていく。

 

『あの先生……良い事を言うな。覚えとけよジル。ヒーローもヴィランも一芸だけじゃ務まらない。それを見ておけ』

 

アーサーに言われて私は相澤先生の戦いを見守る。

 

ヴィラン達は個性で相澤先生を迎撃しようと狙うけど相澤先生に個性を消されて撃てず、そのまま捕縛布で拘束し、ヴィランの二人をぶつける。

 

相澤先生の初手が終われば今度は異形系の個性を持つ岩の様な身体のヴィランが現れたけど顔を殴られて瞬殺すると同時に捕縛布で足を絡ませ、後ろから来たヴィランの攻撃を躱し、そのまま捕縛布を引っ張れば足を絡ませておいた異形系のヴィランが飛んできてそのまま後ろから攻撃したヴィランにぶつかった。

 

凄い……何れも隙が無く、洗練された技の数々……私は相澤先生と戦っても勝てる自信が無いくらいに実力差を見せつけられた。

 

『良いか?これが経験を持つ奴の動きと戦いだ。無駄な動きは最小限に。攻撃は隙をなるべく無くし。そして相手に確実にダウンさせる攻撃を行う。戦う事を専門とする奴には必要な要素だ。彼奴はそれを合理的な動きで行っていて模範としては良い。見ていて損は無い』

 

「(そうね……残念だけど避難しないといけないけどね)」

 

『本当にそうか?絶対に逃がしちゃくれないぞ?何せ、此処まで計画的なんだ。増援を呼ばせない為に俺達を始末したがるだろうな』

 

アーサーの言葉に私は出入り口の方へ振り返って出久君達と避難しようとするとそこへ靄を広げていた黒い霧の様なヴィランが現れた。

 

「させませんよ」

 

「ッ!?しまった!!」

 

奴の後ろは出入り口であり、つまり私達は退路を完全に断たれてしまった。

 

「初めまして。我々はヴィラン連合。せんえつながら……この度、ヒーローの巣窟。雄英高校に入らせて頂いたのは……平和の象徴。オールマイトに息絶えて頂きたいと思っての事でして」

 

「オールマイトを……!?」

 

『コイツら……』

 

ヴィランの目的がまさかオールマイトの殺害だなんて……無謀な事でしかない考えとしか思えないけど殺害計画が立てられたのなら可能性があると言う事になる。

 

「本来ならば此処にオールマイトがいらっしゃる筈……ですが何か変更あったのでしょうか?まぁ……それとは関係なく……」

 

ヴィランの個性は恐らく場所をワープ出来る個性で自分や周りの人達を他の場所にワープ出来ると思える……つまり、私達も例外は無く。

 

「全員そいつから離れて!!」

 

「遅いです。私の役目はこれ」

 

身体を揺らして私達を何処かに飛ばそうとするヴィランに私は咄嗟に叫ぶけど皆が上手く反応しない。

 

私はナイフを投げて少しでも皆が離れる時間を稼ごうとしたけどそこで二人の影が飛び出てヴィランを攻撃した。

 

攻撃したのは勝己と切島君だ。

 

「その前に俺達にやられる事は考えてなかったのか!?」

 

「この馬鹿二人!!13号先生の邪魔よ!!」

 

『あーあ……何してんだよ。こいつら』

 

私は二人が行った愚策に慌てて退くように促すけど土煙と共にヴィランが無傷で現れたのだ。

 

「危ない危ない……そう……生徒と言えど、優秀な金の卵」

 

「駄目だ退きなさい二人共!」

 

「退くのよ!退け!!」

 

私は必死にそう叫ぶけど既に遅く、ヴィランの個性が発動してしまった。

 

黒い靄が覆い、私達を何処かに散らそうとする中、私はアーサーに主導権を取られ、その場から飛び退いた。

 

私の視線には13号先生、麗日さん、芦戸さん、飯田君と言った面々は無事だったが出久君等を含めた一部の皆がいない事に気づいた。

 

『そんな……!』

 

「今は気にするな。彼奴らなら必ず状況を打開して戻ってくる。知ってるだろ?彼奴らは……強い」

 

アーサーの言葉に私は我に帰って気を取り直すとアーサーはニヤリと笑ってヴィランを睨む。

 

「おや?そこのお嬢さんはかなりやる気がある様ですね?」

 

「駄目です!ヴィランから離れて!!」

 

「まぁ、ジルなら応じるだろうな。だが、安心しな先生。あくまでも自衛での戦闘で止めてやるよ」

 

アーサーはそう言って地面を蹴り、ナイフを手にするとヴィランに向かって躍り出た。

 

『アーサー!!』

 

あのヴィランは物理的な攻撃は通用しない。

 

なのにアーサーは何をするつもりなのか分からないまま、アーサーはそのまま。

 

 

 

ナイフでヴィランを叩き切った。

 

 

 

え?叩き切った?

 

物理的な攻撃が効かなかったヴィラン相手に?ナイフにはたしかに血らしき何かが付いてる……と言うよりも殺してないわよね!?

 

「ぐうッ!?貴様!!」

 

「はッ!思った通りだ!お前、本体があるな?」

 

『本体?』

 

「個性を持つ奴は……大概は人間だ。それは異形系だろうが関係無くな。だったらこいつは?個性が発現してから身体は?だったら試すのさ。中身があるのかなてな!」

 

アーサーはあの状況でヴィランの特性を観察し、そしてあの黒い靄が本体では無く、中身に本体がある事を突き止めた。

 

でも、もう少し他に方法は無かったの?

 

「だが、それでもナイフの感触が浅かった。あの黒い靄は確かに物理は無効に出来る。だが、全てでは無い」

 

アーサーはそう言ってニヤリと笑ってナイフの刃をちらつかせる中、ヴィランは苛つきながらもあくまでも冷静にアーサーを見つめる。

 

「……貴方は何者なんですか?」

 

「俺か?俺はなぁ……お前達が虐げてきた弱者。そして亡者さ」

 

アーサーはそう言って両手を広げて、笑う。

 

その左手には鈍く光るナイフ。

 

「亡者……ですか?」

 

「あぁ、そうだ!亡者が地獄から、お前達を殺しに来たぜ!……と言っても先生方の前では殺りはしないし、ジルの望みじゃないからな。まぁ……痛い目に合う事には代わりはないぜ」

 

アーサーはそう名乗り終えるとヴィランの姿勢は戦闘態勢であり、その姿には油断が無い。

 

13号先生達はアーサーの滲み出る殺気や威圧で身体が固まっている。

 

お願いだからアーサー……やり過ぎないで。

 

「この個性社会。亡者の様な方もいてもおかしくありませんね……貴方はどうやら相手にするのはかなり面倒な方の様です」

 

「なら、とっとと捕まれ。さもないと……殺すぞ」

 

『殺さないでよ!アーサー!!』

 

「ちッ……分かってるよ。たく……」

 

「霧先さん!!離れて下さい!!」

 

アーサーから発せられた殺すと言う言葉に反応してか13号先生がそう言うとアーサーはこれからなのにとばかりに不機嫌になりながら油断無くヴィランに視線を向け続けながら言う。

 

「テメェは他の生徒を守れ。こいつは俺がやる」

 

「許可しません!今の貴方は……危険です」

 

「危険?」

 

「貴方の行動力と洞察力は評価します。ですが忘れたのですか。個性は」

 

「人を殺す事が出来る。分かってるさ。ジルも殺しを望んでいないから安心しな」

 

「なら!」

 

「こいつはお前とは相性が最悪だ。お前の個性であるブラックホールの隙を突いてワープでカウンター……はい、終わりだ。テメェはテメェの個性で死ぬかもしれないな?」

 

アーサーの予想に13号は何も言えず黙る中、アーサーは叫ぶ。

 

「テメェの役目は生徒を避難させる事だろ!!だが、今は無理だ……飯田を突破させろ!!理由は分かってるな!!」

 

「貴方も生徒じゃないですか……!しかし今は……委員長!」

 

「は…は!!」

 

「君に託します。学校まで駆けてこの事を伝えて下さい。警報鳴らず。そして電話も圏外になっていました。警報器は赤外線式……先輩……イレイザーヘッドが下で個性を消し回っているにも拘わらず無作動なのは……恐らくそれらを妨害可能な個性がいて……即座に隠したのでしょう。とするとそれを見つけ出すより君が駆けた方が早い!」

 

13号先生の言う事が最もだと私も思えた。

 

アーサーもその可能性に辿り着いていて飯田君を走らせて知らせた方が速いと考えたから飯田君を突破させる様に言ったのだ。

 

「しかし!クラスを置いて行くなど委員長の風上にも…」

 

「行けって非常口!!」

 

「外に出れば警報がある!だからこいつらはこん中だけで事をおこしてんだろ!?」

 

「外にさえ出られりぁ追ってはこれねぇよ!!お前のその足で靄を振り切れ!!」

 

「救う為に個性を使って下さい!!霧先さんの為にも!!」

 

「食堂の時みたく……サポートなら私超出来るから!する!!から!!お願いね委員長!!」

 

「テメェが一番の足を持っているんだ!!守りたい者があるなら自分の行動で守れ!!」

 

周りにいる皆やアーサーの声に押され、飯田君は駆け出した。

 

ヴィランは飯田君を阻止しようとするけどアーサーのナイフの投擲が邪魔をした。

 

『分かってると思うけど……手加減してね。殺しなんて洒落にならないし、色々と聞き出さないといけない』

 

「ふん。分かってる。さて……始めるとするか。黒靄野郎!」

 

「貴方は13号よりも危険ですね……此処で必ず芽を摘み取らせて頂きましょう」

 

初めての実戦……私自身がやる訳じゃないアーサーが主導権を握る戦闘。

 

ハッキリ言えばアーサーが戦ってくれているけど怖い……もしかしたら死ぬかもしれない。

 

「死なねぇよ。何たって俺が戦ってやるんだ。しっかり、俺の動きを見ておけ。お前が使っていくもしれない殺人鬼の技をな」

 

『殺しは絶対にしないからね。でも……この個性を上手く使う為にも学ばせて貰うからね』

 

……必ず、皆を守る。

 

私は……ヒーローになりたいのだから。



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USJ襲撃事件 ~後編~

これでUSJ編は終わりです


後は……ほぼ未開拓になる筈です


私は目の前にいるヴィランだけは倒すと決め、あのヴィランも飯田君を諦めたのか私に集中し、全力で殺そうと狙っている。

 

「良いのか?飯田が逃げちまうぞ?」

 

「確かに厄介ですね……ですが……貴方は私が阻止しようとしたらそれを阻止しようと動く……そうでしょう?」

 

「当たり前だ。増援を呼んでくれた方がこいつらの為になる」

 

アーサーは周りにいる皆の事を指して言うとヴィランは身構えた。

 

「貴方は非常に危険です。計画を台無しにされるだけではない……我々の存続にも影響しかねないと判断しました。つまり……此処で殺します」

 

「やれるもんならやってみろ!」

 

アーサーはそう言って地面を蹴り、ナイフでヴィランに飛び掛かるとヴィランはナイフの刃先が突き出される位置に小さなゲートを展開して背後から自分で刺せようと目論むがアーサーはそれを読み、咄嗟にナイフを引くと強烈な蹴りをヴィランの顔に目掛けて当てる。

 

個性の特性によってダメージは小さいがアーサーはそれに構わず追撃にナイフで右肩から左脇まで切り裂く様に振るう。

 

ナイフには血が付いている……だけど明らかに軽傷であり、油断も無く防御に徹していたとしか思えない。

 

「流石の私もナイフの刃までは防ぎきれませんね。貴方は本当にヒーロー志望ですか?中々、鋭い切り込みです。そう……まるで殺し屋です」

 

「誰が殺し屋だ。亡者だって言ったろ。テメェは殺さずに捕縛しなきゃならねぇんだ。大怪我を負いたくなければ降参しな。テメェじゃ、勝てねえよ」

 

アーサーはそう言ってナイフを今度は頸動脈のある箇所に正確に振るうもヴィランは霧になってアーサーからの攻撃を避けると今度はアーサーの真下にゲートを展開し、落とし穴の要領で飲み込もうとするもアーサーはそれを飛び退いて避けるとアーサーとヴィランは再び身構えて対峙する。

 

「……確かに。少し戦っただけでも分かる。貴方は素人ではありませんね。熟達した何か……と予想します。殺すと言いましたが今、私が倒れる訳にはいきません。あの眼鏡を逃がした以上はそろそろ合流させて頂きますね」

 

「あぁ?逃げんのか!」

 

「撤退も戦略です。今は勝てないと分かれば引くのも手ですよ。では、これで」

 

「待て!!」

 

アーサーは逃げるのを止めようとしたがヴィランの方が早く、ゲートを展開されてそのまま逃げられてしまった。

 

これはまずい……あのヴィランは侵入と逃走の手段。

 

奴だけは逃がしてはいけないのに逃がしてしまった。

 

「ちッ……!追うぞ!奴は相澤の所だ!!」

 

「待ちなさい!」

 

「またお前か!今度もまた」

 

「無茶はしないで下さい」

 

アーサーと私は13号先生からまた止められるのだと思っていたけど私も含めて拍子抜けして13号を見る。

 

「僕にはもう貴方達を止める事が出来ません……する資格もありません。ヒーローとして教師として私がヴィランと戦うべきでした。ですが……私は生徒をバラバラに移動させられただけでなく、貴方に怖気ついて只、止めるしかしませんでした……先輩の所に行くなら"貴方達"の方が適任です。だから……必ず無事に戻って来て下さい」

 

「……ふん。そんな事は分かってるさ。あんたは自分を過小評価しているが……あんたは戦闘にあまり慣れていないだけで人を災害から助ける良いヒーローだ。辞めるなよ」

 

アーサーはそれだけを言うと相澤先生が戦う広場へと駆け出して行く。

 

他の皆が呼び止めようとする声も聞かず私達は只、ひたすら駆け出してヴィランの群れで戦う相澤先生の元へと急いだ。

________

_____

___

 

私はアーサーが操るままに身体を任せて相澤先生がいる広場へと来るとそこには相澤先生が脳が剥き出しの巨体なヴィランに右腕を握り潰されて取り押さえられていた。

 

右腕だけじゃない……左腕も……頭も……

 

やめてよ……やめろ……やめろ……!

 

「やめろ!!!」

 

私はいつの間にかアーサーから主導権を取り返していた。

 

声は響き、ヴィラン達や水辺にいる出久君や梅雨ちゃんに峰田君もいる。

 

でも、今はそれを気にする訳にはいかない……自分の身は自分で守って欲しい。

 

私は今……とても熱い……まるで血そのものが燃えてる様な気がする……

 

私はゆっくりと歩き、ヴィラン達の前にやって来ると私は睨み付けた。

 

「相澤先生を……離せ。屑共」

 

「……誰だコイツ?こんな奴、俺達に着いてきてたか?」

 

「いえ、違いますよ。死柄木弔。奴は雄英の生徒です。……かなりの手練れですよ。しかし……瞳が二つとも真っ赤に……何が……?」

 

そこには逃がしたヴィランがいて死柄木弔と言う手だらけお化けのヴィランに報告している……奴が親玉?

 

「はぁ?どう見てもヴィランだろうが。見ろよあの殺気。他の奴らはビビって声も出してねぇぞ」

 

誰がヴィランよあの手だらけお化けめ。

 

私は確かに怒ってるけどね……お前達とは違う。

 

いえ、一度落ち着かないと……怒りに身を任せては駄目。

 

私は静かにゆっくりと深呼吸して怒りを落ち着かせた。

 

「もう一度言うわ。相澤先生を離して。怪我はさせたくないの」

 

「瞳が青に……本当に何が……?」

 

「んな事はどうでも良いんだよ。面倒くせぇ……脳無。殺れ」

 

脳無って呼ばれた脳味噌お化けがとんでもない速さで向かってきた。

 

でも、なぜ視認しきれない訳でもない。

 

寧ろ、コイツを今なら確実にやれる……弱点みたいな所は自分から出してる。

 

でも、流石に脳をナイフで切りつけるのは良くない。

 

私は右に逸れてみると脳無の拳は私のいた位置の地面を砕き、そこから右に逸れた私を攻撃しようとしてきたから私は思いっきり、脳に蹴りをいれた。

 

下手したら死ぬかもしれないと私は不安になったけど、脳無はガタガタと震えて動かなかった。

 

「は?どうした?」

 

「……恐らく脳を蹴られたからでしょう。脳は生きる全ての生き物にとって非常に重要な器官。いくら超再生を持ってしても直接、脳を蹴られ、強い振動を与えられれば身体の動きの正確性を失い、誤作動を引き起こしたのでしょう」

 

「ちッ!いくら強くても弱点剥き出しじゃ意味ねぇじゃねぇか!!」

 

死柄木弔は怒り狂いながら叫ぶけど私には関係無い。

 

私は死柄木弔の元へゆっくりと歩き出せば他のヴィランが怯えたり、逃げ腰になったり、私に攻撃しようと身構える者で溢れる。

 

「逃げて!!ジル!!」

 

「止せよ!!あのクソ強いヴィランを倒しても相澤先生がボロボロなのにこの数を相手にすんのは無理だよ!!」

 

「霧先ちゃん……」

 

三人は不安の中にいる。

 

私は少しでも落ち着いて欲しいから笑顔で三人を見る。

 

「大丈夫。絶対に皆を助けるから」

 

私はそれだけを言うと身構えていたヴィランは恐怖に負けたのか一斉に掛かってきた。

 

「怪我をしても知らないわよ!!」

 

私は殺さない様にナイフをヴィラン達に向けて切り、刺し、抉り、蹴り、殴り、また切り、刺す。

 

切れば切る程に返り血が飛び散り、私に降り掛かる。

 

血の匂いが酷い……!

 

あくまでも正当防衛だとは言え、殺してはいないとは言え、これが人を切る感触……

 

『そうさ。それが人を傷付けると言う行為だ』

 

「(アーサー……)」

 

『しっかりしろ。相手をよく見ろ。殺意を読め、躱せ。動きを読め、防げ。そうすればお前は自然と戦える』

 

私はアーサーの指導を受けながらヴィラン達との戦闘を繰り広げた末に返り血で真っ赤になってしまったけど、何とか殺さずに無力化する事が出来た。

 

私は血糊を払って一息整えてから主犯格のヴィランの所へ行く。

 

「何なんだよコイツは!!」

 

「死柄木弔!脳無は今は動けません!離れて下さい!!」

 

「うるせぇ!!俺がこんな奴にビビって退いたなんて出来るか!!」

 

死柄木弔は怒り狂いながら私に殺気を向け、私は構わず彼の所へ来ると対峙した。

 

「……帰って頂戴。この騒ぎに気付かない程、雄英は間抜けじゃない。オールマイトがいなくても他の先生達はすぐに来る。無駄に痛い目に合いたくなかったら……帰って」

 

「……仕方ない。オールマイトが来ないうえに何十人ものプロ相手じゃ敵わない。ゲームオーバーだ。あーあー……今回はゲームオーバーだ……帰ろっか」

 

死柄木弔は帰ると言う発言。

 

本当に信用が足るのか?

 

今回はと言う事は次もオールマイトを狙う陰謀を企てて来るのか別の陰謀を練るのかは知らないけど……今は退いて欲しい。

 

このままじゃ相澤先生が死んでしまう……何とか退かせて相澤先生を助けないと。

 

私はそう考えていた矢先死柄木弔は動いた。

 

「けどもその前に平和の象徴の矜持を少しでもへし折って帰ろう!」

 

死柄木弔は目にも止まらない速さで遠くにいた三人に向かって行き、何かの個性を使うつもりなのか梅雨ちゃんに触れようとしている。

 

「ッ!?彼女から離れて!!」

 

私はナイフを投擲しようとするけど此処で脳無が持ち直したのか私に攻撃を仕掛け、私はそれを避けるしかなかった。

 

私は脳無からの攻撃を避けながら隙を突いて梅雨ちゃんを見ると何もされていない……いや、相澤先生がギリギリで個性を使ってくれたのだ。

 

「手ッ……離せぇッ!!」

 

「脳無」

 

今度は出久君が仕掛けた時、死柄木弔の言葉を聞いた脳無は私から離れて死柄木弔を守る形で盾になると出久君の強烈なパンチが脳無を襲った。

 

「SMASH!!!」

 

出久君のその叫びと共に攻撃は行われると土煙が広がる。

 

「………終わってない」

 

私はそう呟いた時、そこには無傷の脳無が出久君を見下ろす形で見ていた。

 

「良い動きするなぁ……スマッシュってオールマイトのフォロワーかい?まぁ、良いや君」

 

「出久!!!梅雨ちゃん!!!」

 

私は脳無に掴まれた出久君と死柄木弔に再び襲われる梅雨ちゃんを助けようと動くと今度はあの靄ヴィランが私の邪魔をする。

 

「貴方の相手は私が暫く勤めましょう」

 

「邪魔よ退きなさい!!!」

 

私は何としてでも駆けつけるつもりでヴィランを突破しようとした時、出入り口の扉が破壊された。

 

私やヴィラン達も動きを止めて注視する中、そこから現れたのは。

 

「もう大丈夫。私が来た」

 

「……オールマイト」

 

「オールマイトーーー!!」

 

やっと……来てくれた……遅すぎるわよ平和の象徴なのに……でも……

 

「笑ってないわね……」

 

私がそう呟いた時、オールマイトは一瞬の内にヴィランを蹴散らし、相澤先生を助け出すと今度は私をそして、出久達を助け出した。

 

私は徐々に意識が朦朧とする中、私はオールマイトに何て言い訳しようか考えているとオールマイトは私の肩に手を置いた。

 

「良くやった。後は私に任せて休みたまえ。……負担を掛けさせて済まなかった」

 

オールマイトのその言葉に私は意識を失って誰かに抱えられる様に倒れた。

 

何か前と同じね……

 

~周辺side~

 

ジルが気を失うとオールマイトは彼女の頭を優しく撫でた。

 

「……私がもっと早く来ていれば彼女に血を浴びせさせるまねはさせなかった……済まない……霧先少女……」

 

「オールマイト……」

 

「彼女を頼むよ。私は私の役目を果たすとしよう」

 

オールマイトはそう言ってジルを出久達に託すとオールマイトはその無茶に答えるべく、ヒーローとして平和の象徴として動き出す。

 

誰かの為に血を浴び、その姿を友に見られ、恐れられながらも仲間の為に戦ったたった一人の少女の為に。



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暗雲

私はまた夢を見ているのか何処か古い様式の家……と言うより、事務所の様な所にいた。

 

私は辺りを見回す……必要もなく、近くにアーサーに似た人と古い警官の制服を着た何処か母さんによく似ている婦警、シャーロットがいた。

 

だとするとアーサーに似た人はアーサー本人なのかもしれないと思っていると二人は何か話している様で私は会話を聞く。

 

「警察の仕事って、それは少し違うんじゃないですか?そもそもロンドン市警の成り立ちは自警団が元になっている筈です。悪を捕まえると言うより、市民の生活と安全を守る為の組織のだった筈でしょう?」

 

話しの途中だったから何でそんな事を聞いてるのか分からないけどアーサーの言う通り、ロンドン市警は自警団が元になって設立された組織。

 

そう……ヒーローと同じ自警団から始まった。

 

現代のロンドン市警とヒーローは同じ成り立ちだから特に仲が悪い訳ではなく、寧ろ積極的に協力し合ってる所がある。

 

警察の組織力と訓練されたヒーロー。

 

組み合わさればより、治安維持に力を入られた事で世界各国ではそれに合わせた法案が検討されていると聞いた事もある。

 

「それは……すみません。言い方が悪かったですね。仰る通り、ロンドン市警の役目は市民を守る為です」

 

シャーロットはそう言って殊勝な顔でアーサーを見据えた。

 

あの真面目な姿勢……シャーロットって意外と飯田君と似てる様な気がする。

 

「だから私達は拳銃を携帯しません。市民を守る為の組織として、威嚇や殺傷の道具や、過剰な武力は持たない。と言う考えであるからです。私はその責務に誇りを持っています。なので……先程語った心構えは、そんな自分の信条なんです」

 

「何だってそこまで警察の仕事に入れ込むんですか?僕だって曲がりなにりも警察官を目指した身の上です。市警の責務や誇りについては理解しているつもりですよ」

 

アーサーって警察官を志していたんだ。

 

でも、それなら何で探偵なんてやってるのか?

 

アーサーとは長い付き合いだけどやはり、謎が多すぎる自称、ご先祖様だ。

 

「ですが、意気込みだけでそこまでやるのは難しい。こう言ってはなんですが、貴方を突き動かすのは、別の原動力がある気がするんです」

 

「それは……探偵としての疑問でしょうか?」

 

「前に貴方も僕の母について尋ねたでしょう?あれと似た様なものです」

 

アーサーのその言葉にシャーロットは何を語れば良いのかと言う様な表情を見せる。

 

「そうですね……原動力と呼べるものかは分かりませんが……」

 

シャーロットはそう言いながら軽く服の袖を掴り、逡巡する。

 

暫くしてからシャーロットは真剣な眼差しで語り始めた。

 

「私には、両親の記憶がありません。物心ついた時には既に孤児院にいました。孤児院にいた私達は、幼い頃、自分達にはどうして両親がいないのかずっと不思議に思っていました。それである日、育ててくれた院長先生に疑問をぶつけてみたのです。先生は仰いました。皆、希望を求め深い闇の中を漂っているのです。貴方達の両親は、漂い、疲れ、貴方達を一時此処に預けているのですと」

 

私はシャーロットが孤児だとは知らなかった。

 

何せ、当時の子供にすら重労働を課す様な厳しい時代で警官になるなど何れ程の苦労を伴うか……想像がつかない。

 

それに漂い、疲れ、貴方達を一時預けている……その言葉の意味は捨てられた、両親は死んだのどちらとも取れる遠回しの言葉なのだと察してしまった。

 

「それを聞いて、私、誓ったんです。私が"その闇を照らす光になろう"って」

 

闇を照らす光。

 

私はシャーロットのその言葉を聞いた私は何処か彼女が眩しく思えた。

 

闇であるアーサーとは対の光であるシャーロット。

 

何時かは対立する二人だけど、どちらにも譲れない正義があると言うのは心の葛藤の中に私には分かる。

 

私は……自分の信じるものを貫けるのかしら……

________

______

____

 

私は次に目を覚ますとそこは知らない天井……と言うより一度は知ってる天井だった。

 

「気がついたか?」

 

私はその声を聞いて視線を向けるとそこには。

 

「父さん……?」

 

出張で暫くは帰らない筈の父さんがそこにいた。

 

「たく……オリヴィアから事件に巻き込まれたなんて連絡があって急いで帰ってみれば雄英のUSJが襲撃された挙げ句、お前が気を失ったなんて聞いてそこからまた大急ぎで来たんだぞ?しかも血塗れだった……後で返り血だって聞かされて安堵もした。心配したんだぞ?あと、次いでだがイレイザーヘッドは重症だが命には別状は無し、他の生徒も一人、除けば大した怪我は無い」

 

私はそれを聞いてとても安心した。

 

何しろ腕や目を潰される姿を見せられたら不安と恐怖を覚えたりする。

 

一人除けば大した怪我は無い。

 

その意味はやはり……出久君の事でしょうね。

 

私は安心すると同時に今度は父さんを心配させた事の罪悪感が沸き上がってきた。

 

「ごめんなさい……本当にごッ!?」

 

私が謝ろうとした時、父さんが私の両方の頬をつねってきた。

 

「本当に反省してんのか?どうだ?この口は嘘ついてねぇか?」

 

いひゃい!!いひゃいからやへて!!(痛い!!痛いから止めて!!)

 

頬をつねられて上手く話せず涙目で父さんに懇願するけど父さん……貴方、絶対に面白がってるわよね?

 

顔が笑ってるもの。

 

後で母さんに言ってやると決めた私は父さんのからかいに付き合わされる中、そこへ今度は緋色が来た。

 

「失礼しま……す。うん。どうやら僕はお邪魔な様だね」

 

いふからたふけてよ!!(良いから助けてよ!!)

 

何を思ったのか緋色が何処か行こうとしているのを私は何とか食い止めるとやっと、父さんが止めてくれてそのまま緋色が同席する形になった。

 

「いやぁ、悪いな。緋色ちゃんだっけ?ジルと仲良くしてくれてありがとうな」

 

「いえ、此方こそ。僕の方こそ騒ぎの時に助けられましたので」

 

「確かUSJ襲撃の前にマスコミが入り込んだ事件だったな?たく……いくら報道の自由だとか何とか振りかざしていても不法侵入、しかも警備の厳しい雄英に侵入したらどうなるのか分かってるだろうにな。全く……!」

 

父さんはカンカンになりながらそう言ってもし、何かあったら殴り込みを仕掛けてそうだなと私は呑気に考えていた。

 

「保健室で騒ぐんじゃないよ!その子はまだ病み上がりなんだ!あんまり無理させるんじゃないよ!全く……何時まで経っても騒がしい男だねぇ……真は」

 

「おいおい、此方も不安だったんだぜ?リカバリーの婆さん」

 

会話に割って入る様にやって来たのは雄英の看護教論であるリカバリーガールだった。

 

雄英の看護教論だけでなく、各病院への慰問も行うから顔が広いヒーローでもあるけど父さんも父さんで顔が広いわね。

 

「それとこれとは別だよ。さて、ジル」

 

「あ、はい!」

 

「普通に話せて体調が悪くなさそうだね。それだけ元気なら大丈夫だよ。暫く此処で休んだら帰って家でゆっくり休みなさい」

 

「はい。ありがとうございます」

 

「本当にありがとうな。リカバリーの婆さん」

 

「良いよ。それより真。仕事も良いけどちゃんと家族の事も見るんだね。さもないと」

 

「分かってる!分かってるよ……たく」

 

父さんはリカバリーガールからのお説教は聞きたくないとばかりにそう言うとリカバリーガールは溜め息を吐いた。

 

「俺だって家族サービスくらいはしたいさ。ただ……まぁ、忙しくてな。だが、暫くは家族一緒だ」

 

「え?それって暫くは出張は無いの?」

 

「あぁ、そうだ。この辺りで暫く仕事だ。わざわざ遠くに行かなくて済むぞぉ!」

 

父さんはそう言って高笑いしてリカバリーガールに煩いと頭をどつかれる姿を見ながら暫くは久しぶりの家族団欒が出来ると思うと嬉しく思えた。

 

「君のお父さんは毎回の様に出張に行くのかい?」

 

「うん。何の仕事か分からないけどヒーロー関連なのは確かなのよ。だから殆ど父さんと過ごした事はないわ。でも、父さんは私にとっては誇りなの。誰かの為に戦う父さんの背中を……み、見てないけど……それでも私には憧れの様なものなの」

 

私はそう緋色に言うと襲撃された時の不安は消えていて父さんと母さんと三人で暫く過ごせると思うと胸が高まった。

______

____

___

 

私はリカバリーガールにお礼を言った後、緋色とも別れて父さんと一緒に帰宅した。

 

一緒に電車に乗って、歩いたりして家の近くまでやって来た。

 

「オリヴィアも晩飯を用意してくれてるし早く帰ろうぜ」

 

「父さん。慌てなくても家も母さんも消えないわよ」

 

私は父さんと軽い会話をしながら家の玄関まで来ると父さんが鍵を差し込んだ時、笑顔から険しい顔になった。

 

「どうしたの父さん?」

 

「……空いてやがる」

 

「え?」

 

父さんのその一言を私はすぐに理解出来ないでいると父さんはそのまま玄関を開けて入って行き、私も続くと普段なら絶対にしない筈の匂い……それは襲撃の時に私が戦って浴びたものだ。

 

「血の……匂い……!?」

 

強烈な鉄臭い匂いが奥から漂う中、父さんは靴を履いたまま家の中に駆け込んだ。

 

「オリヴィア!しっかりしろオリヴィア!!」

 

「母さん……!母さん!!」

 

私は父さんのその声にまさかと思いながら父さんを追って中に入り、リビングへ行くとそこには。

 

「母……さん……?」

 

そこには……血塗れで銃で撃たれた様な傷を負って倒れている母さんを父さんが必死に呼び掛ける姿だった。

 

「嘘……嘘よ……嫌……!」

 

これが現実な訳がない!

 

きっと……きっとまだ夢を見ているのよ……そうよ!

 

きっと夢から覚めれば母さんがいて、笑っていてくれてる筈なのよ……その筈なのよ……!

 

『ジル。酷な事だがな……もう死んでいる。オリヴィアは……お前の母さんは……』

 

「お願い……言わないで……!」

 

私が心の底から懇願する中、アーサーは非情な現実を私に突きつけた。

 

『死んだんだよ。もう……現実を見ろ。』

 

その言葉を聞いた時、私は悲鳴を挙げて泣き叫んだ。



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闇に漂い

私は根津校長先生から休みを貰って殺されてしまった母さんの葬儀に参列した。

 

葬儀はキリスト教式で行われ、参列者には父さんと私、ジャッジにレディ・クイックと集まり、雄英からは忙しい筈なのに代表で根津校長先生が来てくれて、他にも母さんが日本で知り合った人達や遠いイギリスのロンドンから来てくれた人達もいた。

 

葬儀が進む中、父さんは泣いていないけど悲しみに暮れていて、葬儀が行われる前の昨日の夜もビールやウィスキーを出してきては泣きながら飲んでいた。

 

私も私で夜通し泣いてたせいで寝不足になった。

 

でも……それよりも母さんが殺された事の方がショックで寝不足なんて気にする事はなかった。

 

「霧先少女」

 

「はい……?」

 

私は葬儀を終えて後は火葬場に行って、火葬して貰うと言った段階で名前を呼ばれ、私は振り替えるとそこにはかなり痩せ細った骸骨の様な見た目の男性がそこにいた。

 

変ね……呼び方からしてオールマイトだと思った……いや、流石に幾ら教師でもNo.1ヒーローが参列だなんてしたら世間は大騒ぎになるわね。

 

「何か……?」

 

「大丈夫かい?辛いなら周りの大人。いや、友達でも良い。話してみれば気は楽になるよ」

 

「ありがとうございます……父さんのお知り合いですか?見ない顔ですが……?」

 

「そ、それはですね……!」

 

「あぁ、八木さん。参列してくれたのか」

 

父さんの知り合いかと尋ねたら何故か困った表情をして口ごもった八木さん?に父さんがフォローを入れる様に来た。

 

私はその不自然な行動に首を傾げた。

 

「紹介しておく。この人は八木俊典さんだ。オールマイト付きの補佐をしているんだ」

 

「は、はい!八木です。オールマイトの代理として来ました。本当は本人が行きたかったそうですが行くとなると……それは兎も角、この度はご冥福をお祈りします……オールマイトもご冥福を祈っているそうです。そして、私が必ず犯人は捕まえてみせると貴方に伝えて欲しいと言われて来ました」

 

「オールマイト……わざわざ代理まで立てて頂いてすみません。オールマイトにもそう伝えて貰っても良いですか?」

 

「えぇ、勿論です」

 

私は八木さんの返事を聞いてお辞儀した後、私はそのまま火葬場に行く準備をしに行った。

 

~別視点side~

 

ジルが去った後、ジャスティスはそれを見送って周りに誰もいないのか入念に確かめた後、呆れた顔をした。

 

「オールマイト……流石にいつもの呼び方はマズイだろう?ジルはオリヴィアに似て勘が良いんだぞ?」

 

「す、すまない。いつもの癖でつい……」

 

八木ことオールマイトはそう言うとジャスティスは溜め息をついた。

 

「それにしても君の奥さんを殺害したヴィランの件……君が追っているものとは関わりがあるのかい?」

 

「……分からねぇと言わせてくれ。だが、可能性はある。暫くは彼奴も立ち直れねぇ。暫くは学校は休ませねぇと……続けるにしろ、辞めるにしろ……本人の気構え次第だ。続けるのなら彼奴は雄英の寮へ入れるつもりだ」

 

「寮に?」

 

「確かにそれが良いかもしれないね」

 

ジャスティスとオールマイトの会話の間に入る様に現れたのは根津だった。

 

「今、彼女から目を離すのは得策ではないのさ。人格にしろ、身の安全を守るにしろね。君がヒーローである以上は常に危険があって、更に常に側にいてあげられる訳でもないからね」

 

「そうだ。まだ俺かジルを狙っているのなら安全を確保しなきゃいけねぇし、彼奴が悲しみから怒りに変えて復讐なんて事に突っ走ったりしたら取り返しがつかねぇ。何しろ彼奴には経験豊富なヴィランの先生がいやがる。ジル本人は素人でもその先生……アーサーがヴィランとしての生き方なんて教え込んだりしたらな」

 

ジャスティスはジルがアーサーによって鍛えられ、悪を殺す殺人鬼として活動なんてしたらと言う嫌な想像をする。

 

「(大丈夫だオリヴィア。絶対にジルに罪を背負わせないし、守り通してみせるさ。それに……彼奴はそこまで堕ちる程、弱くはないさ)」

 

ジャスティスはそう亡き、妻へと伝えたのだった。

 

~side終了~

 

葬儀を終え、火葬も済んで近くの墓地に埋葬を終えた私は家で落ち込んでいた。

 

何も手がつけられず、家は殺される前では忙しく家事をこなす母さんの姿と音が鳴っていたけどそれももう二度と聞く事はない。

 

雄英だって何時までも休む訳にはいかないから出席しようかと相澤先生に電話したら。

 

「待っててやるから完全に立ち直ってから来い」

 

と、その一言で電話が切れた。

 

『何時まで落ち込んでるんだ?飯だって全然、食べてないだろ?ほら、』

 

アーサーにそう言われてもそんな元気は無い。

 

今はアーサーに好きに身体を使わせてしまうくらいだもの……私にとって、母さんの死は重すぎた。

 

『だんまりか……たく、仕方ねぇな』

 

アーサーはそう言って私の身体の主導権を握るとそのまま歩き出して家の外に出た。

 

『何処へ行くつもりなの……?』

 

「たまには外に出て歩くんだよ。あんな暗い雰囲気の家にいても気が滅入って余計に立ち直れないからな」

 

アーサーはそう言って宛すら無さそうに私の身体を使って適当に歩いて行った。



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不安定な心

私はアーサーに連れ出されるままに外を歩いていた。

 

そのまま身を委ねていればいつの間にか住宅街から色々なお店や人が行き交うが街中に出ていた。

 

『何時まで歩くつもりなのよ……?』

 

「(俺が気が済むまでだな)」

 

『だったら早く、気が済んでよね。私は……』

 

「(家で引き込もっていても始まらねぇんだよ。前に行こうが、後ろに下がろうがその場から動かないで出来る訳じゃねぇ。それともアレか?お前は母親一人、殺されてヒーローになる処か復讐する事すら臆しているのか?)」

 

『アーサー……!言って良い事と悪い事があるわよ!』

 

「(怒るくらいなら先ずはその怒りを誰にぶつけるべきか考えな。もう分かっているだろ?)」

 

私はアーサーのその問いで思い返したのは母さんを殺したヴィランの事だった。

 

母さんを殺したヴィランは今だに捕まる気配もない……そいつはのうのうと生きている。

 

私は力一杯に拳を握っ……いつの間にかアーサーが身体の主導権を返していたわ。

 

『さて、どうする?ヒーローなんか辞めて殺人鬼にでも転職するか?』

 

「……冗談じゃないわ。言ったでしょ?私は私のやり方で事件を解決するってね」

 

『そうかよ……たく、頑固だなお前は』

 

頑固で結構よ。

 

何だかアーサーと話してたら少しだけど……元気が出てきた。

 

そうよ……母さんの仇はまだ塀の外にいる。

 

捕まらないなら私が捕まえる……絶対に見つけ出して暗い牢屋の奥深くにぶち込んでやる!

 

それが母さんへの弔い……ヒーローになれると信じてくれた人達の為に、私はどんな事があっても殺人は犯さない。

 

私はやるべき事を見つけ出した時、視界に人が大勢集まっているのを見た。

 

老若男女と問わない群衆に私は何かあるのかと見る中、その中心には天使と間違えそうな程に綺麗な人が修道服を着た二人の男を連れていた。

 

「皆様。私達、アズエル教会そして私、フォールン・救火は社会的弱者の救済に主に力を注ぎ、活動しております。個性社会と呼ばれる現代では異質な個性であるから、異形の個性であるから、無個性であるからと差別が繰り返され、苦しむ人々が沢山います。我々はそんな社会的弱者を救済し、普通の生活を送れる日々を勝ち取る為にそんな彼らを助け、教会に招き、互いに力を合わせて共に活動しております。どうか我々、アズエル教会にご協力を。差別無き社会の為に戦いましょう。全ての人々に救済を」

 

綺麗な人ことフォールン・救火が演説を終えると周りの人々は大きな歓声と拍手で迎えた。

 

よく見ると異形系の個性持ちもいる事から差別に苦しむ経緯を持っていると推測した。

 

『何だ?この現代社会で新興宗教立ち上げしてるのか?』

 

「(さぁ?私にも分からないわ。けど、良いんじゃない。人助けみたいな事を言ってるみたいだし。それに憲法では信教の自由があるから余程の事が無ければ新興宗教でも問題無いわよ。)」

 

『それが認められて様が宗教と言うのは胡散臭いんだよ。一回調べてみようぜ』

 

「(宗教とか医者とか貴方って疑り深いわね。それに調べるって私は仮免許すら無い学生なのよ?変に首を突っ込まない方が良いわよ)」

 

『へぇ、逃げるのか?ヒーロー希望者の癖に』

 

私はアーサーの言葉に少し苛立ち覚えた。

 

『いや、しょうがないよな。学生を盾にして目の前にいるあの団体がヴィランだとしても暴かずに放置しようとするのは間違いじゃない。だが、これだとお前の母親の仇は見つからないだろうなぁ?』

 

「言わせておけば……!」

 

私はアーサーの挑発的な言葉に怒りを見せてつい、声に出してしまうけどアーサーはまるで子猫の威嚇を見ている感覚なのかヘラヘラと笑っているだけだった。

 

『悔しいか?だが、逃げるんだろ?ほら、さっさと無視して行っちまえよ。そうすれば何も見なかった事になる』

 

「……分かったわよ。行ってやるわよ。これで何もなかったら一ヶ月は紅茶は飲ませないからね」

 

『あぁ、良いぜ。その賭け、乗ってやる』

 

何だかアーサーに上手く言いくるめられた様な気がする。

 

でも、教会ね……母さんも私も勿論、父さんも信仰になんて興味はなかったら行った事はなかったわね。

 

個性差別を受ける者達への救済と撲滅を掲げる宗教団体……一見、良さそうだけどアーサーの勘通りならどんな悪事を働いているのかしらね。

 

 



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教会への調査

私はフォールン・救火の率いるアズエル教会を調査する為に人目を避けつつ教団員を追い、その教会があるとされる位置まで来るとそこには何の変哲も無さそうな大きめな礼拝堂が一つだけあった。

 

「(此処がアズエル教会?)」 

 

『そうらしいな。どうする?一度入ってみるか?』

 

「(大丈夫なの?私はヒーローじゃない。下手な事をしたら雄英や父さん達に迷惑を掛けるわ)」

 

『制服着てねぇんだから大丈夫だ。それにさっき入っていった信者らしい奴がいたが奴等の服装を見た限り、どんなご身分でも歓迎らしい。別に悪さをするつもりも無いんだ。だったら堂々と入らせて貰おうぜ』

 

「(本当に大丈夫なのかしら……?)」

 

私はアーサーの言葉に不安を抱きつつも、教会へ近づくとドアノブに手を伸ばして扉を開けた。

 

中には信者らしき人々がおり、静かに座って何かを待っている素振りだ。 

 

私は取り敢えず席を探して歩いていると視線に笑顔で手招きしている丸眼鏡の少し質素な服装をした女性がいた。

 

隣が空いているのが分かり、綺麗な人なのにもう少し着飾らないのかな、なんて思いながら私は遠慮なく座らせて貰った。

 

「ありがとうございます。助かりました」

 

「良いのよ。貴方、若いわね。学校は良いのかしら?」 

 

「はい。少しの間だけ……休んでいるんです」

 

「……訳ありなのね」

 

女性は悲しげな表情を見せるけど私は不安にさせまいと無理矢理に笑顔を作ってみせた。

 

私の胸にポッカリと穴が空いた様な感覚……もう二度と会えない母さんの事を思うと悲しくなる。

 

「えぇ……そんな感じです。貴方は?この時間です。仕事をしていてもおかしくなさそうですが?」

 

「私は今は働いていないの……肺を患っていてね。薬が無かったら咳も止まらないし、呼吸もまともに出来ないの。それに……この前、私の夫が捕まったの。私の為にヴィランになってお金を奪ってくるなんて事をしていたの。……どうしようもない人だった。でも、良い所もあるのよ。私の為に辛い気持ちを隠して私を励ましてくれるの。それに捕まったと言ったけどあの人は自首をしたそうなの。自分からじゃなかったけど最後に狙った雄英の子に救けられたんだって話してたわ」

 

「(それって……)」

 

『おいおい、なんて偶然だ。あのヴィランの妻かよ』  

 

本当に驚かせる偶然だった。

 

偶然、入ったこの教会で偶然、あの時のヴィランの奥さんに会う。

 

世間は思っている程、狭いのだと認識させられるわね。

 

「夫がヴィランだからと周りから冷たい視線や嫌がらせはあるけど夫が勇気を出して自首をしたのに私が逃げる訳にはいかない。私は……この教会で祈りながら帰ってくるのを待ってるつもりよ」

 

「そうですか……」

 

彼女は顛末を言い終えたのを私は確認すると私もお返しにと何故、休んでいるのかを答える事にした。

 

「私は……母さんが殺されたんです。父さんと帰ってきた時には……死んでいました。葬儀や火葬で暫く、休む事になりまして……引き込もっていました。ですがやはり、気分を変えて前に進む為に一度、外に出て此処に行き着きました。入ったのは……興味です」

 

嘘は言っていない。

 

言いたくない所は省いて説明しただけ、私が自首を促したその雄英生と思わせず、そしてアーサーの事も隠す為に所々を抜いた。

 

彼女は疑わなかったらしく悲しげな表情を見せた。

 

「辛かったわよね……貴方のお母さんが殺されてしまうなんて」

 

「……母さんが殺されてから私は分からなくなってしまったんです。この悲しみを、怒りはどう向けるべきか。私は母さんを殺したヴィランが許せない。でも、だからと言って殺したい程なんて思ってもいない。私は……」

 

「怒っても良いの。悲しんで良いの。貴方は憎しみに囚われず、自分が正しいと思える判断が出来るのならきっと、大丈夫」

 

私はその言葉に心の何処か引っ掛かりを感じていた何かが取れた様な気がした。

 

「貴方は強い人ですね……」

 

「そんな事はないわ。現に私は此処に来たから」

 

「それってどういう意味で?」

 

私はその言葉に疑問を持ち、聞いたが奥からフォールン・救火が現れ、女性は人差し指を立てて静かにと言う仕草を取った。

 

「皆様。お待たせしました。これより祈りの時間とさせて頂きます」 

 

「(祈りの時間?……意外と普通なのね)」

 

私は宗教でもよくある様な事に首を傾げているとフォールン・救火は続ける。

 

「この祈りの時間によって今回の救済される方が決まり、その方は現世の枷から解放され、神聖な炎によって救われるでしょう」

 

「(救済される方?現世の枷?それに神聖な炎?……何だろう……急に胡散臭くなってきたわね)」

 

『新興宗教なんてそんなものだ。具体的に何されるか言ってないな……奴等の言う救済とは何か……気になるよな?』

 

アーサーの言葉に私は軽く頷くと聖歌が流れ、信者達は一斉に下を向いて目を閉じ、両手を合わせると祈りを捧げ始めた。

 

私もそれに習いつつ薄目を開けて周りの様子を伺うと聖歌はフォールンが聖歌を歌っており、その声は天にも届きそうな程の歌声だ。

 

だが、周りの教団員達は祈っていない。

 

寧ろ、何か……選別してる様子だ。

 

うつ向きながらで尚且つ薄目で見てるからよく見えないけど教団員は祈りを捧げていた男の人に話し掛けると連れて行き、奥にある重厚な扉を開けてそのまま中に入ってしまうと再び閉じられてしまった。 

 

『怪しい扉だなジル。何でこの状況で連れていったのやら』

 

「(分からない。けど……この教団はおかしい)」

 

私はアズエル教会が何かおかしいと確信した時、聖歌は終わり、信徒達は祈りを止めて頭を上げ始めており、私もそれに合わせる。 

 

「皆様。今回の救済すべき方が決まりました。かの方は救済の炎に当てられ、浄化され、天に召されるでしょう。選ばれなかった方々は気を落とさないで下さい。貴方方も必ず……救われますから」

 

フォールン・救火はそう言って天使の様に微笑むと他の信者達はありがたい物でも見た様に歓喜している。 

 

隣にいる女性も同じで笑顔で祈る手を止めない……言わば狂信者とでも言うべき姿だった。

 

「(取り敢えず内部事情は知れた。次はどうするの?)」

 

『決まってる。あの扉の奥に何があるかだ。まぁ、今は踏み込むつもりはないがな。しかし……まさか、麻薬を扱ってないだろうな?』

 

「(嘘よね?此処は神の家なのよ?)」

 

『神の家だからって犯罪が無い訳ではないからな。ほら、気を見て此処から出るぞ』

 

私はアーサーの助言に従い信徒達が礼拝堂から立ち去り始めたのを見計らって私も外に出ようとしたけど誰かに肩を掴まれた。

 

「お待ち下さい。綺麗な青い瞳の方」

 

私はその言葉を聞いて緊張が走った。

 

『落ち着け、万が一の時は俺が助けてやる』

 

アーサーのその言葉を聞いて私は一呼吸すると意を決して反転して笑顔でそこにいるであろうフォールン・救火の方へ振り向いた。

 

「何でしょうか?」

 

「貴方は……初めての方ですね?」

 

「そうですが分かるのですか?」

 

「はい。信徒の方々のお顔を私は覚えているので貴方を見た時に初めての方だとお見受けしました」 

 

フォールン・救火は笑顔でそう言ってくるけど私は内心、ヒヤッとした。 

 

流石に初めて来た人なんて言ってもすぐに分かる者ではないと思う。 

 

「あの……それでご用件は?」

 

「……貴方は……此処へ何をしに参られましたか?」

 

「……参られましたかと言われても此処に興味があったので」

 

「それは随分昔に聞かせて貰った言い訳ですね。……アーサー・ヒューイットさん」 

 

「ッ!?。……誰の事を言ってますか?」 

 

まさかアーサーの名前を言ってくるなんて……でも、何でアーサーの事を知ってるの?

 

『……ジル。少し身体を貸せ』

 

「(どうするの?)」

 

『俺の予想通りなら……知り合いだ』

 

私はどうせ言っても聞かないと分かっているので素直にアーサーに身体を貸すとアーサーはニヤリと笑って見せ、フォールン・救火を見つめる。

 

「まさか……お前とまた会う事になるとはな……ザフカ・エル・ビナー」

 

「やはり貴方でしたか。大変お久し振りですね。だいたい……100年程ですか?」

 

「そんなもんだろうな」 

 

嘘……アーサーは19世紀の殺人鬼。

 

当然、アーサーの知り合いなんて尽く死んでる筈……なのに此処にいるフォールン・救火もといザフカ・エル・ビナーはアーサーの知り合いとして此処にいる。

 

「今度は何をするつもりだ?麻薬か?遺体強奪か?」 

 

「いいえ……そんな物では人は救えないともう分かっています。人を救う方法……それは私の手で救済する事です」

 

「……テメェ……あの時に言っていた救いとやらをやるつもりか……!!」 

 

『救い?』 

 

「(過去にこいつは医療用麻薬を使って洗脳し、金を巻き上げる広告塔の様な奴だった。俺はその裏で操っていた奴は殺したが証拠隠滅のつもりなのか火事を起こされて……麻薬に犯された信徒達は自ら炎に飛び込んで死んだ。その時にこいつは狂って自らの手で救いを与える……つまり、殺せば良かったと言ったんだ)」

 

『……それは……とても深い考えね……悪い意味で』

 

私は目の前の天使と思えた人物が悪魔の様な考えを持っている事に寒気を感じるとフォールン・救火の笑顔はまるで悪魔の様な物だった。

 

「人には寿命があります。いずれ来る死には抗えない。そこに貴賤はありません。ならば……社会の差別に苦しみ、治せない病で苦しみ、居場所を失って孤独に、全てに絶望した方々に救済し、痛みも病も差別すら無い楽園へと導くのです」

 

「あの時の男は?どうするつもりだ?救済の炎……まさか」

 

「救済の炎。それは火で身体を焼いて……楽園に導くのです」

 

フォールン・救火のその言葉に私はアーサーから無理矢理に主導権を奪うと睨み付けた。。

 

「そんな非道な事は許されない!どんな理由でも人殺しをする事は間違っているわ!!」

 

「おや?……成る程。ふふ、まるで人格が二つある様に思えますね?アーサーさん」

 

フォールン・救火は笑っている……私とアーサー、二人の人格がある事に確信を突く言葉に私は冷や汗をかいてしまう。

 

「もう一人の貴方さん。捕まえるつもりなら無駄ですよ。そして周りをよく確認しましたか?此処はヒーロー事務所が建ち並ぶ中心地……騒ぎを起こしたりすれば捕まるのは貴方方。私を訴えてもこの地域のヒーロー達とは良い関係を得させて頂いています。そう……例え証拠はあっても私は捕まえられません」

 

フォールン・救火はそう言ってのけ、私はその言葉に怒りを抱いた。

 

状況が悪いなら仕方ない……怒られるのは目に見えてるけど、父さん達に相談しよう。

 

でも……ヒーローと癒着しているなんて思わなかった。

 

人殺しを容認する新興宗教と腐敗したヒーロー達……最悪で卑劣な関係を持つこいつらはとても許せない!

 

『冷静になれよジル』

 

「(でも!!)」 

 

『俺は諦めたなんて言ってないぞ?策を練り直せば良い……そうだろ?ほら、変われ』

 

アーサーはそう言って私からまた主導権を取るとまた笑みを浮かべた。 

 

「アーサーさん。私は昔も今も変わりませんよ。死がもたらすのは……救いだと言う事を」

 

「……なら、俺が否定してやるよ。それが俺の役目だ。待っていろよザフカ……今回はジルの案件だ。必ずお前を牢屋にぶち込んでやるつもりだぞ?」 

 

「ジルさんと言うのですね。楽しみですね。またのご来訪を……お待ちしておりますよ。お二人さん」

 

フォールン・救火はそう言って出口は彼方だとばかりに手を礼拝堂の扉に向け、アーサーは扉に向かって真っ直ぐと歩いていく。

 

その時のアーサーの表情はとても……悲しげだった。

 

それにしても……あの人は待ってるならどうして此処に来たのか……死ぬつもりで来たのではないと良いけど……



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親愛なる者達の支え

アズエル教会とフォールン・救火の正体を掴んだ私は現状では彼等を裁く事が出来ない為に退いたけど……待っていても事態は変わらないし、被害者も増えてしまう。

 

私は教会から出て、アズエル教会の裏の顔の事を、フォールン・救火の本性を訴え、相談する為に早足で歩き出した。

 

アズエル教会の、フォールン・救火の歪んだ救済(蛮行)を絶対に許す訳にはいかないと歩く中、突然、目の前に人影が現れ、私は止まるとそこには。

 

「こんな所にいたのね。ジル」

 

「レディ・クイック……さん」

 

「速撃 打美よ。今はヒーローとして来た訳じゃない。理由は分かるでしょ?」

 

レディ・クイックこと速撃さんは少し怒った顔をして私を見ている事からいなくなった私を父さん達が心配して探していたのが嫌でも察した。

 

「……すみません」

 

「……良いのよ。お母さんが殺されて辛かったのね。でも、外出するなら一言ぐらい言いなさい。まだお母さんを殺したヴィランは捕まっていないのだから」

 

打美さんの言う事はもっともとしか言えない。

 

母さんを殺したヴィランは捕まったとは聞いていない……金品を取られた様子も無かったらしいからもしかしたら私怨か別の理由があって殺されたと考えれば私もターゲットにされていてもおかしくない。

 

「私が迂闊でした……本当にすみませんでした」

 

「良いって言ってるの。これからは気をつけなさい。さぁ、家まで送るわ。行きましょう」

 

打美さんは微笑みながはそう言って歩き出し、私もそれに着いて行く。

 

打美さんはその道中、歩きながら父さんへ連絡をしていた。

 

「ジルは見つかりました。はい。今、連れて帰る所です。場所ですか?……丁度、例の教会の近くです。はい……分かっています。帰ったらそこを深く聞けば良いです。様子を見ている限りでは私の話を聞いて表情を変えている事からもしかしたら……」

 

スマフォでのやり取りを聞いていた私の耳に例の教会と言った所からもしかしたら私は父さんの調査対象の所に行ってしまっていた可能性を考えた。

 

下手したら調査に支障を来すかもしれない……私はやっぱり止めておくべきだったと思っていた時、打美さんは電話を終えた。

 

「……ねぇ、ジル。もしかしてあの教会……アズエル教会に関わっちゃった?」

 

「はい……中にも入ってしまいました」

 

「そう。無事なら良かったけど……あの教会はおかしな噂や信者が行方不明になる事が多いの。フォールン・救火とその教団員の身元調査をやってる途中でね。周りに事務所を構えているヒーロー達にも協力とか仰いだりしてるけど何かと断られたりするの。……嫌な予感がするわ」

 

打美さんの予感は的中している。

 

恐らく、そのヒーロー達はアズエル教会、フォールン・救火に癒着している腐敗ヒーロー達の事だ。

 

協力を断るのも癒着している事の原因なのだと分かる。

 

「ジル。中で何か怪しげな物は見なかった?」

 

「……強いて言うなら奥に扉がありました」

 

「扉?」

 

「祈りの時間と呼ばれる中で私が薄目を開けて様子を伺っていたら信者の一人がその扉に……あと、救済される者、現世の枷から解き放たれ、浄化の火と怪しげな単語も言っていました」

 

「……まさかね。いえ、独り言よ。ありがとう、ジル。詳しい話は家で聞かせて貰うから今は帰る事に集中しておきましょう」

 

打美さんはそう言って微笑みながら私の頭を撫でてくれるとそのまま帰宅した。

______

____

__

 

私は打美さんに送られて家に着いて玄関を開けて入った時、玄関は靴で溢れていた。

 

シューズや革靴……しかも雄英の物となるとやっぱり。

 

私は家に上がってリビングに来るとそこには。

 

「よぉ、ジル。やっと帰ってきたのか」

 

「ジル!」

 

「びっくりしたよ!急にいなくなったって騒ぎがあって!」

 

「全く!君はとても真面目だと思っていたが予想以上の行動派だ!」

 

そこにいたのは出久君や麗日さん、飯田君がいた。

 

三人だけでなく、そこには。

 

「確かに気が滅入る時に何時までも引き込もっていても元気にはなりませんが……」

 

「一言言ってから出ないと駄目だろ!まだ狙われていないって保証はないんだぜ!あ、これは土産に。手ぶらなのはアレだったからな」

 

八百万さんやケーキの箱を持った砂藤君も来ていて更に切島君、芦戸さんや上鳴君、耳郎さんも来ていた。

 

「何で皆、此処に?」

 

「ジルの様子を見に来たんだ。本当は私は切島と来るつもりだったんだけど」

 

「此処にいる全員、個別で来て、偶然会ってそのまま来たんだ。あ、因みに他の奴らは用事とかあるからでこれなかったみたいぜ」

 

「この大所帯で来たら流石に迷惑じゃないかと思ったんだけど……」

 

「また偶然!俺と会って招いたんだぜ!」

 

そこで父さんがサムズアップして良い笑顔を見せてくる。

 

「いやぁ、ジル。いつの間にかこんなに友達が出来たんだな……うん。父さん、泣いちまったんだぞ」

 

「父さん。恥ずかしいから止めてよ」

 

「止めねぇよ!ジル!友達は大切にしろよ!」

 

そう言って父さんは泣きながら抱きついてくるけど私は引き剥がそうと力を込める。

 

まぁ、父さんが泣くのも無理はない……だって、小学生時代では虐めがあって、中学生時代ではほぼ孤立していたもの。

 

父さんが心配しないのも無理はないけど……

 

「恥ずかしいから止めろって言ってるの!」

 

私はやっとの思いで引き剥がすと父さんは不貞腐れた表情で私を見てくる。

 

「何だよ……たく……少しくらい良いだろ?」

 

「せめて皆がいない時にしてよ……もう」 

 

私が文句を言い終えるとパンッと手の平を叩く音が響いた。

 

「はいはい。そこまでよ。親子でじゃれてないでお客さん達を持て成してあげましょう」

 

「あ、そういえばお茶の一つも出してねぇな」

 

「何やってるのよ……私が入れるから座ってて」

 

「いやいや、俺が」

 

「父さんはまだ慣れてないでしょ?皆は珈琲?それとも紅茶?」

 

「すまない。本当はすぐ帰るつもりだったんだが」

 

「良いのよ。ゆっくりして言って。……ありがとう、皆。私の為に来てくれて」

 

全員を代表して遠慮した飯田君に私は笑顔でそう答えた時、インターホンが鳴り、私はインタンホーンの所へ行こうとした所で打美さんが声も出さずに制して父さんも鋭い目付きでいつでも動ける姿勢を取っている。

 

やっぱり、安心できる日までは遠いのかもしれない……私がそう思っている中、打美さんが代わりにインタンホーンに出た。

 

「はい。誰ですか?」

 

《雄英の爆豪勝己だ。……じ、ジルの……様子を見に来た》

 

「「「「「「えッ!?」」」」」」

 

父さん、打美さんを除いた私を含めた全員がその一言で驚きの声を挙げた。

 

「あ、あの爆豪がか……!?」

 

「嘘……!?行かないって声を大にして言うてたのに……!?」

 

「こ、これは僕でも予想外だよ……!?長い付き合いだけど他人を心配して直接来るようなタイプじゃないよかっちゃんは……!?」

 

「わ、私も信じられないわ……」

 

切島君や麗日さん、出久君、そして私にすら信じられないとばかりに言う中、父さんはそのまま何も言わずに玄関に行くと。

 

「よく来たなぁ!上がりな!」

 

「な、何だ!?何で引っ張るんだよ!?」

 

私はいきなりの父さんの奇妙な行動に唖然としていると父さんは勝己を連れてくれば勝己は周りの状況を察したららしく声を張り上げた。

 

「な、何でテメェらがいるんだよ!?」

 

「いや、ジルの様子を見にきたんだけど……?」

 

「だとしても一時間もいるか普通!?」

 

「一時間!?貴方達、そんなにいたの!?」

 

「本当ならご迷惑を掛ける前に帰るつもりでしたが貴方がいなくなったと聞いて心配になりまして……」

 

「探しに行こうとしたけど親父さんに止められて厄介になってたって所だ」

 

申し訳なさそうにする八百万さんと苦笑いする切島君に私はかなり迷惑と時間を無駄にさせてしまった事に申し訳なくなる中、父さんはニッコリとして勝己に。

 

「なぁ、お前。お前は……ジルの彼氏か何かか?」

 

「は、はぁッ!?」

 

「父さん!?」

 

何故か突然、父さんが勝己にとんでもない事を聞き出した。

 

何で勝己が私の彼氏扱いになるのか全く理解出来ないんだけど!?

 

「間違いねぇ……時間をずらして全員が帰ったと思ってやって来る男なんざそんなもんだ……俺は……俺はまだジルを嫁には出さねぇぞ!!」

 

「だから彼氏じゃないって言ってるでしょうが!!それにどう言う偏見よそれ!?」

 

私はそう言って父さんの頭を思いっきり、ぶん殴ると父さんは痛そうにしながら私を見てくる。

 

「ジル!俺は全く親らしい事は出来てねぇんだ!でもな!それでも可愛い娘のお前がすぐに嫁に行くなんて耐えられねぇ!」

 

「嫁に行かないわよ!と言うか高校一年で嫁に行くって幾らなんでも速すぎるでしょ!?それと彼氏じゃないからね!?」

 

父さんの狂言に私はツッコミずにはいられない中、父さんと私の言い合いは続く。

 

やれ、不良彼氏は嫌だの、嫁に行くなやのお願いだから出久君達の前でそれ言うのは恥ずかしいから止めて欲しい。

 

「もう良い!帰る!!」

 

「かっちゃん!?」

 

「顔真っ赤にしてんだけどそのまま帰んのか!?」

 

「うるせぇッ!!」

 

勝己はそう怒鳴ってヅカヅカと帰ってしまい、全員が唖然とする中、父さんは……

 

「おのれ……!あれは絶対に好意とかあるよな!打美!」

 

「は、はぁ……好意ですか……?」

 

父さんのその言葉に打美さんは困惑し、私も呆れてしまった。

 

「そんな訳ないでしょ。あの馬鹿は父さんの勢いに負けて帰っただけよ」

 

「本当にそうなのかな?」

 

「え?」

 

芦戸さんのその言葉に私は唖然とすると周りも続いていく。

 

「確かにかっちゃんらしくない……あんな顔、僕も初めてだ」

 

「え?そうなん?」

 

「案外、爆豪の好みは気の強い性格だったりしてな!」

 

「考えてみれば……有り得ますわね」

 

「確かに……」

 

「性格的に有り得そうだ」

 

出久君、麗日さん、切島君、八百万さん、飯田君、砂藤君と続いていき、何だか納得していってる雰囲気になってる。

 

『お前も鈍いな』

 

「(何が鈍いのよ?)」

 

『考えてみろよ。彼奴、中学での女子との関わる中で大抵は怯えられるか、媚を売ってるタイプしかいなかったろ?』

 

「(まぁ、あれでもモテてた様な気がするけど……それが?)」

 

『はぁ……良いか?つまり、お前は彼奴にとって新鮮な感じだったんだよ。怯えず、媚らずに向かってくる女なんてお前だけだったんだろうよ。今まで接した事の無いタイプとして長い付き合いになった。それがいつの間にか好意になってたなんて有り得なくはない』

 

「(そうなの?まぁ、そうだとしても私は勝己は御免よ。絶対に)」

 

『そうかよ。まぁ、人生長いんだ。せいぜい、慎重に相手を選ぶんだな』

 

アーサーはそう言ってヘラヘラと笑う中、周りを見渡せば父さんや打美さん、出久君達が笑い合って話す光景に私は知らない内にとても多くの人達に支えられていたのだと改めて思った。

 

「(何時までもクヨクヨしていられないわね)」

 

私は今度こそ復学を決めた……けど、その前にアズエル教会の事を父さん達に話して解決しないといけない。

 

あのカルト教団もそうだけど……教会で会ったあの人の事も気になるから……

 

~別視点side~

 

爆豪勝己は苛立ちと何処かモヤモヤした気持ちに支配されていた。

 

「(何なんだよチクショウ!)」

 

勝己の脳内にはあの生意気で気が強く、過去に両方の頬をビンタした挙げ句、金的蹴りを食らわせてきたジルの事が頭から離れられなくなっていた。

 

今まで自分に怯えるか、無駄に媚を売る様な笑顔ではなく、勝己自身には興味すらなく、寧ろ敵意満々の顔。

 

出久にしか見せない優しげで綺麗な笑顔。

 

戦闘訓練の際に気に掛けに来た時のジルの心配そうな顔。

 

フラッシュバックする様に出てくるジルに勝己は頭をかきむしって誤魔化す。

 

「だあぁッ!!俺は彼奴なんか好きじゃねぇんだよ!!」

 

ジルの親父ことジャスティスから彼氏疑惑を掛けられたせいで自覚していなかったのに自覚してしまったが故に勝己は己の制御を完全に外してしまい、公の場で叫んでしまったとさ。

 

~side終了~




※因みに緋色はヒーロールートでは好意こそ見せるけども親友的な関係で留まります。


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最初の一手

出久君達の来訪後、夕飯を済ませてから私はリビングのテーブルに向かい合う形で父さんと打美さん、そして後から来たジャッジに教会での出来事を出来る限り話していた。

 

「成る程な……自殺幇助を目的とした教会で近くのヒーローと癒着しているのか……」

 

「どうりで……!くッ、あの悪党共……!協力に応えない訳だわ……!」

 

「癒着している連中は考えられる中でも三人だ。レッサーヒーロー、レッサーパンダ。マネーヒーロー、ゴール・D・マネー。ソードヒーロー、ブロードマンだ。こいつらは一番先よりで、俺達の協力を何度も拒んできた。それだけじゃ断定は出来ねぇが……捜査の協力要請を有耶無耶にして断る奴らだ。ろくな奴等じゃねぇ……それに見たんだよ。奴等には悪意が見えた」

 

「そうなると……強固な外堀から何とかしないと本丸は落とせないな。それよりも驚いたぞ。フォールン・救火が過去のアーサーの知り合いなんて話だ」

 

父さんは信じられないと言わんばかりの顔をするけど私だって信じられない。

 

『代われ。俺が話す』

 

私はそう言われてアーサーに代わると事の成り行きを話す。

 

「今はフォールン・救火。過去の名はザフカ・エル・ビナー。サルーフ福音教会なんてカルト教団の御使いなんて勤めていた奴だ。癒しの奇跡だとか抜かして集まった病で苦しむ信者を歌声を聞かせつつ麻薬漬けにしていき、麻薬を染み込ませた浄罪符なんて紙を渡す為に喜捨と言う形で金を巻き上げる……そんなやり口をしていた一人だ。主犯各は議員だったなんて落ちでそいつを俺は殺したが……ザフカは証拠隠滅で放たれた炎に自ら進んで死んだ。その前に聞かされた事が……最初から信者を殺して救えば良かっただったよ」

 

「ちッ……胸糞悪いな……!て言うかアーサー!またジルの身体を使っているのか!」

 

「許可は得たんだ。別に構わないだろ?」

 

「ジル!聞こえてるな!むやみやたらに身体を貸すな!この馬鹿娘!」

 

『うッ……これは言い返せない……』

 

私は流石にアーサーに気を許しすぎてるかもしらないと思いながら反省するとアーサーはまだ返さないつもりなのか徐に立ち上がると紅茶を入れる準備を始めた。

 

「いやいやいや!何勝手に茶を入れようとしてんだアーサー!」

 

「喉が乾いたからな。お前らもどうだ?」

 

「じゃあ、私はミルクティーで」

 

「俺は珈琲派だから良い」

 

「お前らな!」

 

打美さんとジャッジのノリの良い返事に父さんがツッコむ中、アーサーは慣れた手つきで自分の分の紅茶と打美さんのミルクティーを入れて持って行くと打美さんにミルクティーを渡して元の位置に座り直すと紅茶を一口飲む。

 

アーサーの味覚は勿論、私にも伝わるから紅茶の味を二人で味わう事になる。

 

うん……相変わらずとても美味しいのよね……私は珈琲派なのに。

 

「たく……だが、取り敢えず分かった事は多い。フォールン・救火とアズエル教会の悪事、名が挙げられた三人のヒーローの不正、そして……フォールン・救火はアーサーの知り合いと言う線。此処から少しずつ削り落として奴等を追い詰めるぞ。ジル。色々と褒められる事じゃないが良くやった。後は俺達に任せろ」

 

「父さん。私も」

 

「駄目に決まってんだろ!……お前はまだろくに学んでもいない子供だ。万が一にでも戦闘になる可能性だってある。オリヴィアも殺されたって言うのにお前にまで何かあったら……オリヴィアにどう言い訳すれば良いんだよ」

 

「父さん……」

 

私は父さんの思っている事が分からない訳じゃない。

 

確かに私は学んでる最中の子供よ……母さんが死んでからもしかしたら父さんも殺されてしまうんじゃないかって不安もある。

 

でも、あの人がもしかしたら自殺する為にあの教会に行っていたなんて思うと……

 

「ジル。私達を信じて。必ず事件は解決させるわ」

 

「でも……!」

 

「素人の出番じゃねぇんだよ。寧ろ、お前が出てきてなんになる?戦闘になる可能性もあるのに出てきて死んだら?もしかしたら場合によっては人質にされる可能性もある。足手纏いになりたくないなら大人しく寮へ入る準備でもしとけ」

 

「寮……?」

 

「ん?ジャスティス……言ってなかったのか?」

 

「あ、すまん……忘れてた。ジル。お前は復学するんだな?」

 

「うん。何時までもクヨクヨしていられないから」

 

「良し。なら、お前は次からは雄英に通っている間は寮で生活するんだ。校長にも担任達にも通している。俺も常に家にいる訳じゃない。お前が一人でいる間に……なんて事にならない為の対策だ」

 

雄英の寮……住み慣れた家から離れて事実上の一人暮らし。

 

他の寮生もいると思うけど私一人で生徒なんて出来るのか。

 

「良いか?事件の事は忘れて寮に入る準備をしとけ。荷物を纏めたら重いもんは俺達で運んでやるが持てるもんは自分で持っていけ。良いか?絶対に事件に首を突っ込むなよ?絶対にだぞ?」

 

父さんが念入りに私に言う中、アーサーはそんな父さんを嘲笑う様に笑っていた。

 

『なぁ、ジル。此処まで言われると突っ込みたくなるよな?こっそり関わろうぜ?』

 

「(でも、父さん達は……)」

 

『あの奥さんが気になるんだろ?それに俺も気になっていてな。お前が拒否しても俺が勝手にやるだけだぞ?』

 

アーサー……貴方って人は……でも、こっそりと行ってバレる前に帰る。

 

そう、あの人の説得くらいは出来る筈。

 

もし、自殺なんて考えていたら……残される罪を償っている最中の旦那さんはどうするつもりなのか。

 

私は迷った後、私は父さんに結論を言った。

 

「分かった……大人しくしてる」

 

「そうか!良かった……お前は頑固な所があるからな。もし、それでも行くなんて言ってたらジャッジを見張りに立てなきゃならなかったぜ」

 

「何で俺なんですか?」

 

「お前なら安心だからだ。そうだろ?」

 

父さんはそう言ってニヤニヤした表情を見せるとジャッジは不貞腐れて顔を横に向けて視線をずらすと打美さんは照れくさそうにしている。

 

何でしら?

 

「よし!そうと決まれば行動を開始するぞ!ジル。ありがとうな。もう休んで良いぜ」

 

「うん。父さん達もあんまり遅くならないでね」

 

私はそれだけを言うと自分の部屋へ戻る前にアーサーに視線を向けた。

 

「(アーサー。私は出来る限りの事をしたい。あの人の事を説得出来るのかな……?)」

 

『そんなもんは分からねぇ。だが、もし頑なに死にたいなんて抜かしたら無理矢理にでも引っ張り出すしかねぇよ』

 

「(そんな手荒な真似は極力避けたいのだけど……万が一の時は止む終えないかもしれないわね)」

 

私は力強くで押さえる事にならない事を祈りつつ、私の最初の一手は決まった。

 

教会で会ったあの人を説得して教会から離すこと。

 

成功するのか分からないけどもしかしたら彼女から有益な情報だって手に入るかもしれない。

 

無理は承知の上……深入りしない様にしつつ説得しよう。



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説得

私は父さん達が不正をするヒーロー達に対して調査、捕縛を試みるべく現地の近くにいるヒーロー達に協力を要請して了承を得るとすぐに動いた。

 

「良いか?絶対に関わるなよ?知らねぇ奴が来たら出るな、宅配でも居留守使っとけ。それと」

 

「父さん……私もそこまで子供じゃないわよ。ほら、集合に遅れるわよ?」

 

「ジャスティス。ジルもしっかりした子よ。それにもうすぐミッドナイトも来るじゃない」

 

「そうですよ。警戒に越した事はないのは分かりますが」

 

打美さんとジャッジはそう呆れながら言うと父さんも観念したのか家を出ると鍵を掛けて出かけていった。

 

『さて……そろそろ行くか』

 

「そうね。わざわざ来てくれるミッドナイトには悪いけど」

 

私はそう言ってすぐに出る準備をすると家を出てから鍵を閉めてその場から早足で出ていった。

 

~別視点side~

 

一方、その姿を隠れながら遠目で見ていたジャスティスはやっぱりかとばかりに頭を抱えた。

 

「やっぱり行きやがったか!あの、馬鹿!」

 

「全くの予想通りでしたね」

 

「どうしますか?」

 

ジャッジはジャスティスに指示を仰ぐと、ジャスティスは暫く考えた末に結論を言った。

 

「ジャッジ。ジルに着いてやれ」

 

「良いのか?」

 

「あれだけ反対していたのに行かせるのですか?」

 

「……ジルだって深入りまではしないと信じてるからだ。と言っても危なっかしい所はある。だから、ジャッジ。お前が着いていって万が一にでも深入りしそうから止めろ。本来なら行かせない事が正解だ。だが……ヒーローになるなら事件と言うのは避けられない。事件を経験させる為の一種の社会見学さ。親としてはかなり間違っているがな……彼奴には自分の身を守れる様にさせなくちゃならない。その為には遅れた学習を補わなきゃならない。彼奴の側に俺が何時までもいれる訳じゃないからな」

 

ジャスティスはそう言って笑うがその眼には不安が広がっていた。

 

本当に万が一にでもジルに何かあれば自分は親失格なんてものでは済まないなとジャスティスは思う中、ジャッジは溜め息をついた。

 

「分かりました。ですが安全は保証出来ませんよ?」

 

「分かってるさ。頼むぞ」

 

ジャスティスの命令を受けたジャッジは気付かれない様にジルを追い掛けて行った。

 

~side終了~

 

私は取り敢えず教会近くまで来るとあの人が何処か歩いていないのか探す。

 

あの時の時間帯を考えれば教会へはまだ行っていないと思うけど……はっきり言えば勘でしかない。

 

このままでは見つからない。

 

私はそう思った時。

 

「ジル?」

 

「え……?」

 

後ろから声を掛けられて振り返るとそこにいたのは緋色だった。

 

でも、緋色の格好は男物のスーツをまるでマフィアの様に着こなした格好で、それに巨漢の男を一人、同伴していた。

 

「やっぱりジルか!久しぶりだね!緑谷達から聞いていたけど少しは元気になったらしいね」

 

「うん。心配させてごめんね。……それよりも緋色。貴方のその格好……何でスーツ?それにその人は?」

 

「あぁ……これは……そう!僕は家の家業を手伝ってるんだ!それでスーツとか着てないとならないんだよ!」

 

「家業?……どんな?」

 

「それは……そ、それよりも!こんな所で何をしているんだ?」

 

何だかはぐらかされた様な感じだけど……緋色も困ってたし、これ以上の追及はしない様にしよう。

 

「私はちょっと会いたい人がいるんだけど……少し知り合っただけで面識は全く無いんだけどね」

 

「それってどんな人だ?」

 

「確かに……地味目な服だけど綺麗な人で丸眼鏡をしている人かな?」

 

「ん?……それって」

 

緋色は何か覚えがあるのか何かを言い掛けた時、そこへ誰かがやって来る気配を感じた私は視線を向けると。

 

「あら?貴方はあの時の」

 

「道春先生!」

 

「貴方もいたのね緋色」

 

道春と呼ばれたそのあの人は親しげな雰囲気で緋色に微笑み、緋色も慕っていると分かる程に笑顔を見せている。

 

「ジル。紹介するよ。私の中学の時の担任だった人なんだ」

 

「道春 花子よ。改めてよろしくね。ジル」

 

「あ、はい。霧先ジルです。此方こそ」

 

私と道春さんで軽く挨拶すると緋色は確信した様な表情を見せた。

 

「やっぱり知り合いだったんだね。話を聞いた時はまさかとは思っていたけど」

 

「話?私の事で?」

 

「はい。道春さん。実は貴方にお話があって」

 

「私に?」

 

私は用件を伝えようと思ったけど緋色達が近くにいる。

 

彼女が事件に巻き込まれている……もしかしたら自殺なんて考えているなんて緋色が聞いたらきっと不安になる筈。

 

私は出来ればそれを避けたいと思った時、道春さんはそれを察してくれたのか緋色達に伝える。

 

「ジルは今は貴方達に離れていて欲しいそうよ。少しの間だけお願い出来るかしら?」

 

「分かったよ。ジル。僕達はあっちにいるから終わったら声を掛けてくれ」

 

緋色はそう言ってその場から離れて行くと私は一息ついてから道春さんの説得を始めた。

 

「道春さん。アズエル教会から離れて下さい」

 

「……どうして?」

 

「アズエル教会は自殺幇助を推奨する教団です。ですが、死ぬ事が正しいなんておかしいですか!確かに辛い事はありますが……貴方にはまだ旦那さんが残っているじゃないですか。もし、死ぬ事を望んでいるならお願いですから思い止まって下さい」

 

私は彼女にそう言ってみると道春さんは困った様な微笑みを見せていて失敗したのかと私は不安になる。

 

「そうね……確かにあの教会はそう言う教えの元、誰かを殺しているわ。信者の皆は色々な理由で彼処を訪れてはフォールン・救火様のお救いを受けている。確かに自殺は駄目だし、それを助ける行為は許されない事よ。でもね、ジル。人は誰しもヒーローや貴方の様に強い訳じゃない。酷く辛い時、誰にも頼れない、そんな中でも生きなきゃいけないと思えば……」 

 

「道春さん……」

 

道春さんは最後まで言わなかったけど……間違いなく死にたいと口にしようとしていたのかもしれない。

 

酷く辛い時、誰にも頼れない中で生きなければならない……それは彼女がヴィランの妻である以上はもしかしたら嫌がらせの類いを受けている可能性もある。

 

何れだけ気丈に振る舞っても目の見えない心の奥底では彼女は弱り果てているのかもしれない。

 

でも、だからと言って。

 

「死んでは駄目です。旦那さんは貴方の為にも罪を犯し、償っています。それに緋色だって貴方の死なんて望んでいない。まだ貴方の事を思う人達がいるなら……お願いですから思いとどまって」

 

私は最後の頼みとばかりに深く頭を下げる。

 

無言の静粛の中、道春さんは私の頭を上げさせた。

 

「……暫く考えさせて頂戴。すぐには判断は出来ないわ」

 

道春さんはそう言って緋色にも顔を合わせる事もなく、その場から立ち去ってしまった。

 

私は彼女がこれでアズエル教会から離れてくれたらと思う反面、離れなかったらと不安に思う中、私は自分の不甲斐なさを悔やんでしまう。

 

「どう言う事だいジル?」

 

私はその声に振り返るとそこには不安な表情を浮かべる緋色がそこにいた。

 

「何が……?」

 

「惚けないでくれ。すまないけど僕は君に嘘をついた。面識が無い筈の先生と君が話すなんて考えたら嫌な予感がしてね。近くで話を聞いていたんだ。そしたら先生が自殺を考えているなんて聞いたんだぞ。それもあのカルト教団の連中に唆されているとも」

 

私は緋色に聞かれた事でもう隠せないと思い、私は全てを打ち明ける事にした。

 

道春先生とは偶然、アズエル教会の礼拝堂で会い、アズエル教会が何をしているのか知ってからまさかと思い会ってみてその気がありそうなら説得する為に来た事を。

 

「まさか……先生がそこまで思い詰めていたなんて……」

 

「ごめんなさい……最善は尽くすつもりだけど私は父さんから関わるなって言われてるから……」

 

「分かってるさ。事情は分かったよ。僕からも道春先生にお願いするよ。それに追い詰められてしまったのなら僕も彼女に出来る限り助けたい。特に先生に嫌がらせをする輩を見つけたら……八つ裂きにしてやる……!」

 

「ひ、緋色……?」

 

『へぇ……もしかしたら猫を被っていたのかもな。緋色の奴は』

 

私は急な緋色の変化に驚く中、緋色は私がいる事を思い出す様に元の雰囲気に戻ると軽く咳払いしてから苦笑いを浮かべる。

 

「ま、まぁ、先生の事は僕達に任せてくれ。死なせるつもりはないし、先生にはアズエル教会には近づかせない様にもする。暫くは僕達と一緒に暮らした方が落ち着くかもしれないかな……うん……言ってみるか……」

 

「緋色?」

 

「すまないな。お嬢は考え込むといつもこうなんだ」

 

緋色の代わりに緋色のお供の巨漢の男がそう言うと緋色は考えるのを止めて私を見ていた。

 

「すまない。紹介が遅れたね。彼は諢。僕のしゃ……付き添いだ」

 

「いつもお嬢がお世話になっています」

 

「いえ、此方こそ」

 

私は丁寧にお辞儀してくれた諢にそう返してお辞儀すると緋色は腕時計を見ていた。

 

「すまない。家業の仕事がまだ残っているんだ。今度会う時は復学した時だよ」

 

「えぇ、そうね。またね緋色」

 

「此方もねジル。健闘を祈るよ」

 

緋色はそう言って諢を連れてその場から立ち去った。

 

私もそろそろ帰らないといけない……そう思うとすぐにその場から立ち去った。



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出会い

私は出来る限りの説得をして家に帰る道中、怒られる前に家に一刻も早く帰ってしまおうと早足で歩いているとその途中、誰かが私にぶつかってきた。

 

私は強い衝撃を受けたけど倒れる程ではなく、寧ろぶつかった相手が尻餅をつく様に倒れてしまった。

 

「ごめんなさい!大丈夫?」

 

「う、うん……此方もごめんなさい」

 

私にぶつかってしまって倒れたのは小学生くらいの少女で大きなツインテールをリボンで結んでいる子だった。

 

私は立たせてあげると落ち着かない様子で辺りをキョロキョロと見渡して何かを探していた。

 

私は屈んでこの子の不安が出ない様に話しかけてみた。

 

「どうしたの?何か探してるみたいだけど?」

 

「……お父さんとはぐれちゃって。私、初めて外に外出したから道も分からなくて」

 

そう言って今にも泣きそうな顔をしてしまい、私は迷子と言うなら交番に行くべきかと思っていた時、手を軽く掴んできた。

 

「お願い!一緒にお父さんを探して!」

 

「一緒に……?(困ったわね……父さん達が何時、帰ってくるか分からないのに……アーサー?)」

 

私は困ってしまいアーサーの方を見てみた時、アーサーは彼女を見て固まっていた。

 

『ソフィー……お前もか』

 

「(アーサー?)」

 

『ん?いや、何でもない。まぁ、助けてやれよ。別に間違った事じゃないだろ?』

 

アーサーにそう素っ気なく言われ、私はこうなったらとことん付き合うつもりで笑顔で答えた。

 

「分かったわ。だから泣かないで」

 

「本当……?」

 

「うん、本当よ。貴方の名前は?」

 

「……智枝美。外堂 智枝美」

 

「うん?外堂……?(外堂先生と同姓かしら?)」

 

私は智枝美の名字に引っ掛かりを覚えた時、そこへ駆けてくる人が現れた。

 

「智枝美!」

 

「お父さん!」

 

「良かった……あちこちを探さないといけないかと……外堂先生?」

 

そこへ現れたのは外堂先生で智枝美は笑顔で外堂先生の所へ駆け出すと抱きつき、外堂先生もそれに答える様に抱き締めた。

 

「外が珍しいのは分かるが一人で行っては駄目じゃないか……おや?ジル君じゃないか?もう大丈夫なのかい?」

 

「はい。おかげさまで」

 

外堂先生にも母さんの事は伝わっているのか心配してくれた事に感謝しながら答える。

 

「お父さん!このお姉ちゃんが助けてくれたんだよ」

 

「そうなのかい?」

 

「いえ、助けたと言う程の事まではしていません」

 

私は特に何もしていないのに助けたなどと言えないから否定するけど外堂先生は笑って首を横に振った。

 

「いや、そうだとしても智枝美が世話になったのは間違いない。ありがとう、ジル。君が来てくれなかったら外に慣れていない歩き回る智枝美と再会するのは難しいかったかもしれない」

 

「ありがとう!お姉ちゃん!」

 

私は二人からの感謝に嬉しく思えた。

 

本当なら外出は控えないといけないけど……この外出が二人を助けたのならそれで良いと思った。

 

いや、良くないけど。

 

「どうだね?折角だし、私の診療所に遊びに来ないかね?」

 

「すみません。私は今は家に帰ってないと……」

 

「ふむ……成る程。訳ありの外出か。それなら仕方ない。遊びに来て貰うのはまた今度にしよう」

 

「お姉ちゃん!遊びに来てね。きっとだよ!」

 

「うん。その時は喜んで遊びに行くわね」

 

私は二人と別れると外堂先生は一礼して、智枝美は私に手を振りながら行ってしまい、私もそれに応える様に軽く手を振って見送る。

 

「そろそろ帰らないと……」

 

私はそろそろ帰らないと本当に父さんから拳骨の一発でも貰いそうだと思い、急ぎ足でその場から去った。

 

~別視点side~

 

一方、不正の疑いが掛けられたレッサーヒーローのレッサーパンダの事務所では大荒れの状態になっていた。

 

今日も何事もなく終わるのだと高を括っていた所を突如、ジャスティスが急襲、レッサーパンダを始め、サイドキック達もジャスティスの前に無力化され、拘束された。

 

「な、何故だ!何故、我々が拘束されたのだ!答えろ!!」

 

「白々しいぞレッサーパンダ。色々と調べさせて貰ったが……随分とやってくれてるみたいじゃねぇか。特定のヴィランの見逃し、名声稼ぎに他のヴィランと手を組み、挙げ句の果てに賄賂も貰ってやがるじゃねぇか。おまけにサイドキックまで汚職まみれなんて公安連中は頭を抱えるだろうな」

 

ジャスティスは拘束し、放置したままのレッサーパンダを余所に金庫を解錠しようと奮闘していた。

 

「たぁ~!金庫を開けんのも大変なんだぞ!いい加減に答えを教えろ!」

 

「ふん!誰が教えるか!だいたい」

 

「よし、開いた」

 

「話を聞けよ!?」

 

そんなツッコミを余所にジャスティスは金庫を物色すると書類が出てきた。

 

「これは……個性届?」

 

ジャスティスは個性届を読んだ行くと顔をしかめていく。

 

「成る程な……教会の、フォールン・救火の信者心酔のトリックを掴んだぜ」

 

ジャスティスがそう言ってニヤリと笑った時、スマフォの電話が鳴り、ジャスティスはすぐに出た。

 

「おう、俺だ」

 

《ジャスティス。ゴール・D・マネーが自供したわ。不正に加担して多額の賄賂を獲ていたみたい》

 

「そうか。これで残ったのはブロードマンか……確かあっちには彼奴が行っていたな?」

 

《えぇ、鬼の形相で向かって行きましたからね。ブロードマンも哀れとしか言いようがありませんね。何しろあの、エンデヴァーなのですから》

 

打美のその言葉にジャスティスは苦笑いし、哀れなブロードマンに少し同情した。

 

「まぁ、何はともあれ。あのカルト教団を叩く大義名分は出来つつある。後は令状があれば完璧だ」

 

《今、手配している所です。大規模な不正です。すぐにでも司法省から令状は取れると思いますが……ジルの事が不安です》

 

「まぁな……彼奴も余程の事じゃなきゃ無闇に突っ込まないと思うが……念の為に早めに送り出した方が良いか。頼むぞ、ジャッジ」

 

ジャスティスはそう言いながらジルの予想外の行動力に頭を悩ませる事になったのだった。

 

~side終了~



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協力要請

家に帰ってから暫くして待ち受けていたのは父さんと私の話し合いだった……

 

ジャッジと打美さんは別の部屋に行って、私と父さんの二人でリビングで向かい合う様に座っている中、父さんが切り出した。

 

「ジル。言わなきゃいけない事があるだろ?」

 

「……何の事?」

 

「残念だが惚けても無駄だ。ジャッジにお前を着けさせた。報告によると別に買い物目的でも何でもなく、一人の女と会っていた。あと、次いでに緋色にも会ってたな。それと前にお前を見てくれたなんて言う医者とその娘ともな」

 

これは明らかにバレてる……下手に言い訳や誤魔化しなんてしてもすぐにバレる。

 

「……ごめんなさい」

 

「たく……本当に無茶は止めてくれ。いや、無茶と言う様な事じゃないが……まだ危険が消え去った訳じゃない。さて、本題だけどな。もう目的も済んだろ?少し早いがお前の荷物を寮へ運ぶぞ」

 

「……分かった」

 

確かに私の説得は終わった。

 

もうこれ以上の迷惑は掛けられない……私は父さんの言う通りに寮へ行く準備をする事を決めた時、そこへ打美さんが来た。

 

「ジャスティス。今回の捜査……彼女にも協力をお願い出来ませんか?」

 

「はぁッ!?何言ってんだお前!?」

 

打美さんの予想外のその言葉に私も訳が分からなくなる。

 

「話を聞く限り、ジルは既に事件の根の奥深くまで入り込んでいます。それにあの不正を起こしたヒーロー達の存在を暴いた……

と言うよりも口を滑らせた内容を聞いたジルがいたからこそ私達は早くに気付く事が出来ました。それに礼拝堂の中を覗けたのもジルだけ。内部構造はジルの方が詳しいです。それに……言ったではありませんか。"事件を経験させる為の一種の社会見学"だと」

 

「うぐッ!?そ、そうだかな……」

 

「貴方が言い出した事ですよ?それとも嘘を?」

 

「……お前は師匠から嫌な所も受け継いだんだな」

 

「褒め言葉として受け取らせて貰います。結論から言いますとジルに協力を求めます。無論、責任は私が負います。どうか、ご了承を」

 

打美さんがそう言って頭を下げると父さんは考え込んでいる。

 

確かに私の方が現状を理解してるけど、とても承諾するとは思えないと思った時、父さんが溜め息をついた。

 

「……分かった。分かったよ!OKすれば良いんだろ!」

 

「良いの父さん?」

 

「その代わり、絶対に危険な事をするな。戦闘とか禁止だ。免許も無くそんな事したら犯罪だしな。打美。責任を持って見てろよ?」

 

「はい。了解しました」

 

父さんはそう言ってそのままリビングを後にしてしまい、私は打美さんの方を見るとウィンクしてジャスティスを追い掛けて行った。

 

つまり、打美さんは私の心情を知って助けてくれた事になる。

 

「打美さん……」

 

『こりゃ、とんだ伏兵だったな。何はともあれ、これで堂々と事件に加われるな』

 

「(その代わりに戦闘禁止だから勝手に動くのは止めてよ?)」

 

『分かってるさ』

 

アーサーはそう言うけど悪い笑みを浮かべてる……途轍もなく不安でしかない。

 

~別視点side~

 

ジルの捜査協力を受諾してしまったジャスティスは自分の書斎で不貞腐れているとノックが響いた。

 

「入れ」

 

ジャスティスは短くそう言うと入ってきたのは打美だった。

 

「何の様だ?まさかと思うが今さら協力要請を止めるのか?」

 

「いいえ。そうではありません。只、私は……」

 

「分かっているさ。彼奴をお前と重ねたんだろ?助けたくても助けられない。追及したくても出来ない。無念の中、ヒーローを続ける自分と」

 

「……レディ・ナガンは確かに罪を犯しました。殺人の罪でタルタロスに……しかし、たった一人を殺しただけでタルタロスに送られたんですよ!しかも殺したのは前公安会長の男だった筈なのに同僚のヒーローを言い合いの末に殺した事にもされた!公安が事実を隠蔽した事は明らかなのに追及もさせてくれない……レディ・ナガンはタルタロスの中……どうしろと言うのですか……?」

 

「……残念だが現状では助けてやれない。それに俺には一部の公安野郎から目を付けられている。下手な事は出来ない。ヒーローなんて大層な名前が付けられた職業だが結局、公安と言う組織の歯車にされている以上、付き合い続けるしかない」

 

ジャスティスのその言葉に打美は睨み付ける様にジャスティスを視線を向け、ジャスティスは平然とした様子で打美を見つめる。

 

「流石に国家権力を相手に単身で戦うのは無謀だ。有りとあらゆる手段で潰されるぞ。社会的にも、暗殺でもな」

 

「分かっていますよ……それくらい……!私は家宅捜査の用意があるので失礼します」

 

打美はそう言って書斎を出ていくとジャスティスは深い溜め息をつきながら書斎の机にある写真立てを見るとそこには一枚の写真があった。

 

笑顔で写っているのは若い頃のジャスティス、オリヴィア、現役時代のレディ・ナガン、まだ幼さを残す打美。

 

まだジャスティスと何度かチームを組んでいたり、交流していた時の物でジャスティスは懐かしくも悲しい気分だった。

 

「オリヴィアは死んで、お前はタルタロスか……何とかしてやりたいんだがな……公安のババァにすら余程の事じゃないと出せないって断られたしな……」

 

ジャスティスはどうしようもない状況に歯痒い思いをしながら家宅捜査の為の下準備の確認を再開した。

 

~side終了~



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礼拝堂への突入

父さん達が裁判所から家宅捜査の令状を受け取り、警察とエンデヴァー事務所の合同でアズエル教会を捜査する事になったのだけど……

 

「どういう事だジャスティス!この小娘が来る事は聞いていないぞ!!」

 

「いや、うん……マジですまん……後に引けなくなってな……」

 

「捜査の邪魔だ!帰らせろ!」

 

「すまねぇがコイツしか内部情報を知らねぇんだよ。我慢してくれ」

 

「だったら聞けば良い!」

 

「聞いても細かい所が分からねぇだろうが」

 

父さんとエンデヴァーの二人が私の事で口論を始めてしまい、私は本当に此処に来てよかったのかと疑問を感じていた時、私の肩に手が置かれた。

 

「ほっとけば良いさ。あの二人の口論はいつもの事さ」

 

「貴方はあの時の刑事さん?」

 

私の肩に手を置いた人は道春さんの旦那さんの事件で事情聴取の際に警察署まで行った時に会った何処か軽い刑事さんだった。

 

「俺は大門 義治。刑事をさせて貰っているよ。よろしくな」

 

「はい。改めて、私は霧先ジルと言います。すみません。ご迷惑な筈なのですが……」

 

「構わんさ。情報を一番持ってる君が来てくれるのは助かる。だが、君は仮免も無い学生だ。戦闘は無論、正当防衛でもなければ禁止させて貰う。それだけは覚えておいてくれ。まぁ、どのみち後ろに下げておくがな」

 

大門刑事はそう言って笑うと私は父さんとエンデヴァーの関係を聞いた。

 

「あの、父さんとエンデヴァーの事を知っているのですか?」

 

「人間関係の事か?まぁ、知ってるとも。仕事を何度か一緒にやったりしたよ。ジャスティスもエンデヴァーも凄くてな。頼りにしていたりしたんだ。だが……全盛期真っ盛りのジャスティスはある事件で失脚してな。トップヒーローだったのにランキングは大きく転落、黒い疑惑を掛けられたりもした。白い目で見られる視線が嫌になったのかロンドンに飛んだと思ったら嫁さん連れて帰ってきたりと忙しい奴だよ。彼奴は」

 

聞いた事がある。

 

父さんは過去にトップヒーローにまで登り詰めたって父さんが酔ってた時に少し聞いたんだけど……父さん、ある汚職疑惑を追ってて疑惑が掛けられた相手に嵌められて失脚しまって。

 

疑惑の相手は教えてくれなかったけどロンドンから日本に帰って以来、ランキングに拘らなくなったっとも。

 

「エンデヴァーは見た通り、キツイ性格だろ?そんなエンデヴァーを唯一からかえるのがジャスティスでよく、エンデヴァーを怒らせては追い駆けっこの毎日だったな。だが、ジャスティスとエンデヴァー。この二人はいざとなれば互いに背中を預けれる様な信頼関係はあった。馴れ合いは好かないエンデヴァーが唯一、背中を任せるヒーロー、それがジャスティスだ」

 

「その話は聞いた事が無い」

 

『あのおっさんはあまり詳しくは話さないからな。分からない事もあるだろう』

 

アーサーの言う通り、父さんは昔の事はあまり話さない。

 

聞いてみても父さんにはぐらかされたり、酔ってる隙を突いて聞いてみないと言わないなんて事がよくあった。

 

勿論、酔ってる時に試しに父さんの関わっていた事件の詳細を聞いたら普通に少し怒られたからそこまで隙を出さないのだと思う。

 

母さんにも聞いたんだけど……母さんも母さんで父さんの昔の事はあまり知らないと言われたから父さんは結局、家族でも謎が多い人だって言うのが私の結論になっている。

 

「ジャスティスがヒーロー活動をしてからオールマイト同様にエンデヴァーに追い抜かせない様なヒーローだった。事件解決に積極的で少し無愛想だったがファンが求めてきたら応えて、トップになっても小さな事件でも動く。その姿勢が認められ続けた結果、エンデヴァーに思いっきり疎まれていた。まぁ、本人は全く気にしないでからかったりしてな。それで毎回、喧嘩はするわ、追い駆けっこするわで周りを呆れさせたりもしたが……周囲には分からない二人の信頼関係はあったんだろうな。いつの間にか背中を預けて」

 

「おーい。長話すんな。そろそろ行くぞ」

 

「いつまでもグダグダしていられるか!早く来い!」 

 

大門刑事の長話の最中に父さんがトコトコとジャッジと打美さんを連れて出ていき、エンデヴァーもドスドスと他のサイドキック達を連れて出て行った。

 

「まぁ、昔は凄かったって事だ。着いてくるんだろ?俺達も行こう」

 

大門刑事はそう言ってぞろぞろと出て行く警官達と共に行ってしまい、私もそれに続いていった。

 

~別視点side~

 

その頃、ジルに説得されていた道春は重い足取りでいつもの様に礼拝堂へと向かっていた。

 

両親の反対を押しきって結婚して勘当され、移植手術が必要な程の重い病気になり、入院したくてもお金は無く、夫は治療費を手に入れる為に罪を犯して自首をした。

 

もう、何も残されていない……いっそう死んでしまいたいと思っていた矢先、ジルの言葉を思い出した。

 

「貴方にはまだ旦那さんが残っているじゃないですか」

 

道春はその言葉を思い返すと立ち止まり、迷いを見せていた時、目の前に人影を見つけ、視線を向けるとそこには仕事服のスーツを着た緋色が悲しげな表情を見せて立っていた。

 

「先生……何処に行くつもりですか?」

 

「何処へって……それは」

 

「あのカルト教団の所ですか?……駄目です先生。思い直して下さい。ジルから聞きました。貴方が自殺を考えているのではと」

 

緋色のその言葉に道春はうつ向くと緋色は道春の近くへ行き、その両手を包み込む様に両手で取った。

 

「貴方の事が大切だから僕は言っているんです。貴方はまだ一人じゃない。一緒に旦那さんを待っていよう。それまで僕達、"獅子皇会"が支えるからさ」

 

緋色はそう言って絶対に放さないとばかりに包む両手に軽く力を込める。

 

「ねぇ、緋色……私、本当に生きて良いのかしらね……?」

 

「良いんだよ。私や、ジルが言うんだ。生きていて良いんだよ。だから、馬鹿な事は言わないでくれ。先生……!」

 

緋色のその言葉に道春は泣き始め、緋色は万が一の憂いが消えたと判断した。

 

「(次は君が解決する番だ。ジル、終わらせてくれよ?)」

 

緋色は事件解決に動いたジルの事を思いながら道春を連れてその場を去った。

 

~side終了~

______

____

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私達は父さん達に続くように現場に来るとそこには静かに建つ礼拝堂だけがそこにあった。

 

「(何でかしら……礼拝堂なのにとても不気味に見える……)」

 

『そりゃそうだろう。神の家を騙って自殺幇助をしていた教団のアジトだぞ?不気味にも見えるさ』

 

私とアーサーが会話している時、大門刑事が令状を手に、礼拝堂の前に出て読み上げ様とした時、父さんが突然、飛び出す様に前に出ると扉を蹴りでぶち破った。

 

「えッ!?」

 

『派手にやったな……あのおっさん』

 

「何やってんだ!?ジャスティス!?」

 

「いや、読み上げてる最中に証拠とか隠されるのが嫌だからな。……つい」

 

「何がついだよ!馬鹿!」

 

大門刑事がそう怒鳴ったけど父さんは気にせずに礼拝堂に入ると中では混乱していた。

 

「だ、誰だ!?」

 

「警察にヒーロー!?」

 

「何故だ!この礼拝堂には疚しい事など無いぞ!」

 

信者達は混乱しながらもフォールン・救火の元へ行き、フォールン・救火もそれに応える様に自身の後ろに匿うと教団員達もフォールン・救火を守る様にぞろぞろと固まった。

 

「何者……と言いたいですが何用ですか?此処は救済されるべき人々の家。警察やヒーロー達の疑いが掛けられる謂れの無い場所ですよ?」

 

「残念だがな教祖のお嬢様」

 

「私は男ですが?」

 

「え?……いや、失礼した」

 

フォールン・救火って……男なの!?

 

いや、見た目が……その……

 

『男だって言うのは正しいぞ。カストラートって言ってな。男のアレを去勢した男性聖歌手だ。まぁ、本人の声とあの見た目じゃ間違えるよな』

 

アーサーのその説明に私は納得……いや、納得せざるえないと思う反面、何処かで男に負けたと思ってしまう程に綺麗な顔立ちだったから。

 

「兎に角!残念だがな教祖殿」

 

「私は御使い(みつかい)と呼ばれてますが?」

 

「……あぁ!もう良い!!兎に角だ!俺達はヒーローそして、警察だ!家宅捜査させて貰うぞ!言っておくが令状もバッチリあるからな!」

 

父さんが何度も言い返されて自棄糞になって言うと大門刑事が溜め息をつきながら令状を読み上げた。

 

「アズエル教会のきょ……御使いのフォールン・救火だな!お前達が自殺教唆及び三人のヒーロー及びサイドキックに対する賄賂罪、犯人蔵匿及び証拠隠滅の罪の疑いがある!よって、この礼拝堂の全てを調べさせて貰う!抵抗する場合は取り押さえる事になっているので抵抗しないように!」

 

「成る程……あの時に言われた事が現実になりました」

 

フォールン・救火は微笑みながら私に視線を向けてきた。

 

あの顔……天使の様だったのにまるで……!

 

「悪魔……!」

 

私はそう呟いた時、後方にいた教団員の一人がこっそり何処かへ行こうとしているのが見えた時。

 

「動くな!!」

 

エンデヴァーの怒鳴り声が礼拝堂に響き、信者達が怯えてしまった。

 

「エンデヴァー……もう少し、穏便にな」

 

「そうだぞ。仮にも民間人もいるんだからさ」

 

信者達を怯えさせたエンデヴァーに対して父さんと大門刑事はジト目で見る中、その視線が気に触ったのか、はたまた気にしたのか誤魔化す様に前に行こうと足が動いた。

 

「えぇい!御託は良い!とっとと調べるぞ!」

 

「ま、待て!何の根拠があっての事だ!」

 

エンデヴァーが進もうとした所で信者の一人が騒いだ。

 

「そ、そうだぞ!疑われる事なんてしてねぇぞ!」

 

信者の一人がそう言い出すと信者達はフォールン・救火を庇う様に騒ぎ出し、私をふくめて周りを唖然させる中、父さんが切り出した。

 

「救済の炎……と、言ったな。具体的には何をするんだ?」

 

「……秘密です」

 

「秘密ね……しらばくれるな!焼身自殺を綺麗事で並べただけの胡散臭い儀式の事だろ!証言もある。街中なのに焦げ臭い臭いを……特に礼拝堂から嗅いだとな。確かにおかしい。街中なのに焦げ臭いとはまずあり得ない。周りは住宅地ですらないしな。料理の失敗と言う線もあったが、飲食店も周りに無い。つまり、最初の証言であった礼拝堂しか発生していない。それにあの怪しげな扉。確かに調べれば何かありそうだ。被害者が入った所を家の娘が見たって言ったからな」

 

「ジルさんの事ですね」

 

「……おい、ジル」

 

「ごめん。アーサーが先走った」

 

『俺のせいかよ!』

 

名前を知られていた事に父さんの批判的な視線を向けられたからアーサーが口を滑らせたと言うと父さんはなんか納得した様にまたフォールン・救火に視線を向けた。

 

「という事だ。まだ足りないか?」

 

「た……足りない!足りないぞ!」

 

「そうだとしても俺達は望んで此処に来たんだ!」

 

「ほっといてよ!」

 

信者達は庇う姿勢を見せる中、父さんは一枚の書類を出した。

 

「これが決め手だ。読んでやるよ」

 

父さんはそう言って書類を読み始めた。

 

「本名は……まぁ、省略。言ってもフォールン・救火だと分からんだろうし。生年月日も省略。だが、これは省略出来ない。個性……魅了の歌声。歌声によって人々を魅力し、洗脳していく個性。効果は小さなものだが、何日も聞き続ければもはや疑う事を知らない人形に成り果てる。欠点としてはそれは真実が知られないまでの間だけ……てな」

 

父さんの読み上げたものって……?

 

「個性届け?」

 

「彼奴……本当にどっから証拠を見つけてくんだろうな」

 

大門刑事がやれやれと首を横に振るうと信者達は明らかに動揺していた。

 

「さーて、答え合わせだ!お前達にはある疑惑がある」 

 

「や、やめてくれ……!」

 

「聞きたくない……!」

 

「駄目だ、聞け。……その疑惑と言うのはお前達がフォールン・救火の洗脳を受けている可能性だ。最初は微々たるもんだったろう。だが、奴の個性を受けていく内に"自分は死にたい"なんて思う様になった」

 

「嫌……!」

 

「頼むから止めてくれ……!」

 

「つまり……お前達は……フォールン・救火に騙されたんだ。個性を上手く使われてな。残酷な事だが」

 

父さんの言ったその答えに信者達はショックを受けたのか泣いたり、喚いたりしていた。

 

父さんも心苦しいのか、顔をしかめつつもフォールン・救火を睨み付ける。

 

「お前は誰かを救済する為にこの教団を始めた。なのに洗脳で信者達を騙して、死に追いやった。それでもまだ、救済だって言うのか?」

 

「死こそが救済なのです。病による苦しみ、差別による苦しみ、孤独による悲しみ……その全てから解放される!その死によって!」

 

「馬鹿野郎が!!死んで救われるなんざな!本当にどうしようもない奴が選ぶ道なんだよ!どんなに辛くても生きてさえいればどうにでもなる!俺だって死んでやろうかなんて考えた事はあるがな……生きていたから、家族が出来て、幸せにも思えたんだ。それを救いだとかで死ななくても良い奴を誘いやがって!簡単に死を救いだなんて騙るんじゃねぇよ!!」

 

父さんのその怒鳴り声は礼拝堂だけでなく人の心にも刺さるものだった。

 

父さんは嵌められて失脚して地位と名誉も何もかも無くしてロンドンへ行ったって大門刑事も言っていた。

 

確かに全てを失ったなら一度くらいは自殺を考えてしまってもおかしくない。

 

だからなのか、父さんはいつも以上に怒っている。

 

自分の過去と同じ境遇に近しい人達を死に追いやろうとするフォールン・救火に対して特に。

 

「テメェの戯れ言にはウンザリだ。捜査の後、身柄を拘束して警察に引き渡す。それが俺の……俺達、ヒーローと警察の出来る範囲での裁きだ。その後は法がお前とその下で働いていた連中を裁く」

 

「ふ……ふふ……ふふふ……ふっははは!裁きですか!神にすら見放された人々を救済しようとした私が貴方方にさばかれると言うのですか!」

 

「何がおかしい!頭のイカれた邪教党の集まりが!捕まらない事こそ間違いだ!貴様達は終わりだ!」

 

エンデヴァーがそう言った時、何処か焦げ臭い臭いが立ち込めてきた。

 

その臭いは……あの扉からだ!

 

その臭いは勢いを増して強くなり、やがて扉から火まで見えてしまった時、礼拝堂が勢いよく燃えていった。

 

「この野郎!証拠ごとこの礼拝堂を燃やす気か!!」

 

「ちッ!これは油だ!全員、すぐに退避!!礼拝堂から離れろ!!消防と近隣にいる水を扱える個性持ちのヒーローを呼び出せ!!」

 

父さんが突然の火災にたじろぎ、エンデヴァーがすぐに退避命令を下していると大門刑事が叫ぶ。

 

「民間人の信者がまだ動かねぇぞ!!」

 

その叫び声に父さんは退避する足を止めて

 

「ちくしょう……!足と力に自信のある奴は信者達を引っ張りだせ!!勿論、容疑者連中もだ!!時間がねぇぞ!!」

 

父さんがそう指示を出すと言われた通り、他のサイドキック達が急いで信者達や容疑者である教団員達を連れ出す中、私は唖然としているとジャッジが私の肩に手を強く置いてきた。

 

「良いか!此処にいてろよ!間違ってもお前は行くんじゃねぇぞ!」

 

「ジャッジの言う事は聞きなさいね!私も行ってくるから!」

 

打美さんの言葉を最後に二人は火災が起こっている礼拝堂に入り、信者達や教団員の確保を始めた。

 

「(私……何も出来ていない……)」

 

私は自分の理想と目の前の現実の狭間で何も出来ない事と言う事実に打ちのめされいた時、出される人々の中にフォールン・救火がいない事に気が付いた。

 

私は辺りを見渡すと礼拝堂の奥にフォールン・救火が一人、取り残されながら祈りを捧げていた。

 

「あの狂人野郎!のんびり祈りなんて捧げやがって!」

 

「火の勢いが強すぎて近づけない!」

 

「おい!水を扱える個性持ちはまだか!消防でも良い!とにかく、早くしないと重要参考人が死ぬぞ!!」

 

サイドキック達は火の勢いに負けて近づけず、父さんも限界だと考えたのか救出に入っていたサイドキック達に出る様に促す姿が見えた。

 

私は……どうするのか……

 

『おい、ヒーロー志望だろ?やらないとか?』

 

「(駄目よ……私は……)」

 

『彼奴……死ぬ気だぞ?前もそうだった。焼かれて死ぬ事に恐怖なんてない奴だ。あっさりと死ぬ。それでも良いのか?』

 

「(私は……!)」

 

『……仕方ねぇな。今回だけだぞ!』

 

「え……?」

 

困惑する私を他所にアーサーは私の身体の主導権を握るとそのまま火災の中へと飛び込んだ。

 

「ッ!?馬鹿野郎!もう限界だってわからねぇのか!!」

 

「何処のサイドキックだ!?」

 

「いや、あれは……!?」

 

「一般人の!?それもジャスティスの娘さんだぞ!?」

 

他のサイドキック達を他所にアーサーは素早い動きで走る中、瓦礫が落ちてくれば横に軽く避け、通り道が無ければ瓦礫を利用して飛び越え、スライディングをして隙間を通り抜けた。

 

アーサーがやってる事とは言え……これは……生きてる心地がしない。

 

『ちょっとアーサー!?』

 

「はっははは!楽しめよ、ジル!!」

 

アーサーはそう言って簡単なアトラクションだとばかりに突破して行くとそのままフォールン・救火の元へと辿り着き、祈りを捧げる手の内、片手を取るとフォールン・救火が視線を向けてきた。

 

「お迎えだぜ。堕天使さんよ?」

 

「おや?……アーサーさんですか。何を今さら。焼かれたくなければ彼処にいれば宜しかったでしょうに」

 

「そうはいかねぇさ。ジルは言ったんだ。お前は牢屋にぶち込むってな。悪いが神に召されるのはもう少し先だ」

 

「……断っても貴方が無理矢理にでも連れ出すでしょう。何とも奇妙なものですね。貴方は犯罪を止める為に殺人をしていた筈なのに、ジルさんは犯罪を止める為に捕まえる……目指すべき道が違う二つの意思を持つと言うのも大変なのですね」

 

「はッ!確かに俺は悪を裁く悪だ。だがな、ザフカ。この身体はジルの物だ。だから、ジルに道を決めさせる。まだ決した訳じゃない。こいつの選ぶ道が善か、悪かなんてな。こいつが自分で道を選ぶ限り、俺は少ししか手を貸しやしないさ」

 

『アーサー……』

 

アーサーのその言葉を聞いた私は少しだけアーサーと言う人物は単なる殺人鬼ではないと思えた時、アーサーはフォールン・救火を抱き抱えるとまた器用に火や瓦礫を避けたり、飛んだりして避けて行き、そのまま礼拝堂から脱出したと同時に中は完全に火に包まれてしまった。

 

「ふぅ……危なかったぜ」

 

「おい、こら!アーサー!!」

 

「あ、やべ……後は任せたジル」

 

『えッ!?』

 

私は急にアーサーに主導権を返されると危うくフォールン・救火を落としそうになり、何とか地面に下ろした所で父さんに両肩を捕まれた。

 

「この殺人鬼野郎!うちの娘に危険な真似をさせやがって!」

 

「父さん!私よ!私!」

 

「え?アーサー!アーサーは!」

 

「……沈黙。完全に逃げに徹してる」

 

「くうぅ……!これはアーサーに怒るべきなのか……?それともジルにか……?助けてくれオリヴィア……!」

 

父さんは頭を抱え込んでしまい、私はアーサーを止められなかった事を申し訳なく思う中、エンデヴァーが視線を向けているのに気付いた。

 

怒られる……!

 

これは怒られても仕方ない事をしたけどアーサーがした事なのに私が怒られるなんて嫌だなと思っていたけどエンデヴァーは何も言わずに指示を出しに戻った。

 

フォールン・救火は幸いにも軽症だった事で駆けつけた警官に身柄を拘束されると手当ても予てパトカーで直接、病院に行き、手当てした後、正式に逮捕される事になった。

 

フォールン・救火は連行されつつ歩こうとしていたけど、不意に足を止めた。

 

「ジルさん」

 

「……何でしょうか?」

 

「貴方には良き、師がいます。例え悪の道に進んでいたお方だとしてもその正義は高潔です。貴方が自分の心を強く持つ事が出来るのなら……その師の教えを生かせた貴方はきっと、素晴らしいヒーローになれますよ」

 

フォールン・救火はそう言い残すと再び歩き出し、パトカーに乗せられるとそのまま行ってしまった。

 

 



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【第二章】誓い【END】

火事が発生してから収まるまでに3時間後、消火に駆けつけたヒーローと消防の活躍もあって何とか周辺に広がる前に鎮火したしたがアズエル教会の礼拝堂は見る影もなく、焦げ付き、何が礼拝堂にあったのかすら分からなくなっていた。

 

あの扉の先と勿論、火事で崩れてしまい、真相は闇の中へと消えてしまった。

 

「(終わってしまったわね……)」

 

『そうだな。後はジャスティスのおっさん達の仕事だ。所でジル。何をポケットにしまっている?』

 

「え?」

 

『さっきまで入ってなかったろ?探ってみろ』

 

アーサーに言われて私はポケットを軽く叩きながら調べると確かに入れた覚えが無い何かの感触があった。

 

私はポケットに手を入れて取り出してみるとそれはポケットに入る様に上手く畳まれた書類らしき物だった。

 

「これって……?」

 

『分からないがフォールン・救火……ザフカの奴が入れたんだろう。お前に何をして欲しいのか知らないが取り敢えず隠して持っとけ』

 

アーサーに言われて私は良いのかと疑問に思いつつも書類を隠すと父さんとエンデヴァー、大門刑事は中で険しい表情で火災の発生源であるあの扉を見ていた。

 

「(燃えちゃったから証拠どころか何があったのか分からないでしょうね……)」

 

『だが、フォールン・救火達は汚職の件で逮捕は免れないだろう。それに生き残った信者達。彼奴らは徐々に正気を取り戻して証言をするとなると間違いなく牢獄行きだ』

 

「(もっと他に方法はあったのかな……そう……例えば……)」

 

彼らを殺して止めるとか……

 

「(私は何を考えてるの……!?)」

 

私は一瞬だけとは言え、殺人を考えた事に寒気を覚えて誤魔化す様に首を横に振った。

 

『結局、後悔か?』

 

「(違うわよ……私は考えを変えるつもりはない。何があってもよ)」

 

『ふん、頑固者め。まぁ、良い。好きに進めば良いさ。同じ身体のよしみだ。付き合うぜ』

 

アーサーはそう言う中、私は自分の選択は間違っていない……そう強く思いながら私は決して、殺人と言う手段で止める行為はしないと強く誓った。

 

~別視点side~

 

礼拝堂火災事件から一日が経ち、警察署では大門刑事を中心とした警察によってフォールン・救火の取り調べが行われていた。

 

アズエル教会の悪行の事はフォールン・救火が一つ々丁寧な説明のうえで自供され、全貌は明らかになりつつあったが……

 

「後ろ楯はいたのか?いたとしたらどんな奴だ?個人ではなく、組織なのか?」

 

「黙秘いたします」

 

「黙秘は結構だ。だが、単なるカルト教団が単身でヒーロー達を懐柔し、今まで犯行を長く明らかにさせなかったのは後ろ楯がいるからだ。そうなんだろう?楽になる為にも話した方が懸命だと思うがね」

 

「黙秘いたします。お話は致しません」

 

フォールン・救火は後ろ楯がいた可能性のある話になると頑なに黙秘を貫いてしまっていた。

 

その行動は後ろ楯がいた事を示唆するものだが、決定的な証拠は無く、他の団員も黙秘してしまい、まともな証言も得られない事で取り調べは難航してしまった。

 

その様子をマジックミラー越しに見ていたジャスティスとエンデヴァーそして、警部の塚内がいた。

 

「お話した通り、フォールン・救火はあの様に黙秘を続けています。どうですか?あの礼拝堂で何か掴んだとかは?」

 

「いや……残念だが全部燃えちまった。奴等が彼処で何かしていたのは間違いないが全部、燃やされちまったら何にも出来ない」

 

「ふん、最初からさっさと捜査していれば良かったものを。そうすれば証拠の一つくらいは挙げられていた筈だ」

 

「……いや、無駄だ。彼処まで黙秘をしていると言う事は証拠事態、既に揉み消している可能性がある。相当に用心深い……が、予想外の事が起きた」

 

「例の個性届けですか?」

 

塚内がそう言うとジャスティスは頷いた。

 

「おかしいだろ?何で一個人でしかないヒーローが役所管理の個性届けを持ってんだ?脅しの為か或いは……」

 

「仕組まれた物と言うのか?」

 

「いずれにしてもフォールン・救火は終わりだ。だが、黙秘されてる内は深く食い込めない。新しい情報を待つしかない」

 

ジャスティスは国によって守られた権利の厄介せいに頭を悩ませながら頭をかくとジャスティスは過去の出来事を思い出した。

 

「貴様の敗けだ。ジャスティス!」

 

その言葉と共に高笑いが響く。

 

ジャスティスを失脚に追い込み、今も尚、のうのうと生きているヴィランに繋がるかもしれない唯一の容疑者。

 

だが、何故か話す事は無かった。

 

「時間は無駄に出来ない。俺は別方向から攻めてみる」

 

ジャスティスはそう言って部屋から出て行こうとすると、塚内に呼び止められた。

 

「ジャスティス。……今度は焦るな。必ず、間に合う」

 

「分かってるよ。焦ってまた、罠に掛からない様にするさ」

 

ジャスティスはそれだけを言うと今度こそ出ていった。

 

長年の因縁を終わらせる為にもジャスティスは今度こそ勝つと誓い、フォールン・救火以外の手掛かりを求めて街へと繰り出した。

 

~side終了~

 

アズエル教会の事件は終息してから二日後、私は寮へ必要な私物を持ち込んで整理を済ませ終えていた。

 

「やっと終わったわね……」

 

『随分と時間が掛かったな。もう夕方だぞ?』

 

私が整えた部屋は少しアンティークにしたごく普通の学生の部屋と言った感じかしら?

 

勉強机に大きめの壁掛けボード、ベッド、本棚、チェスト。

 

あっても不思議じゃない物を用意している。

 

「仕方ないじゃない。この寮で生活するんだから日用品も入れておかないと。それに……これもね」

 

私は徐に壁掛けボードを裏返すと発砲や射殺事件に関する新聞の切り抜きやその周辺の地図を張っていた。

 

「私は……諦めないから」

 

『それにしても多いな……この日本は銃刀法なんてものがある筈だろ?』

 

「うん。超常黎明期なんてなってから法が形骸化してしまって治安が大きく悪化してから銃や違法な薬物が出回ってしまったせいよ。対策はされ直してるけど……個性の影響とあって、どうしても通られる事がよくあるそうよ」

 

『過度な力、手に余る様な力なんて持つもんじゃないな。それなら俺のいた時代のロンドンの法がマシだな』

 

アーサーにそう言われると今の時代のおかしな所に私は項垂れるしかなかった。

 

ヒーローが活躍するのは良い。

 

皆の希望であり、人としての模範となるのなら尚更。

 

でも、アズエル教会に癒着していたヒーローの様に名声や富なんかの為に罪を犯す恥さらしのヒーローもいる。

 

いや、法を犯さないだけで今のヒーローは名声、富を求めるヒーローの方が多い様な気がする。

 

それだけじゃない。

 

個性があるか無いかで虐げられるか決められ、個性があっても弱い、強すぎる、あまりに変化しすぎた異形と言った様な条件があればそれも差別の対象。

 

どの条件に当てはまらなくても個性がヴィランみたいであっても白い目で見られてしまう。

 

「本当に個性なんて必要だったの……?」

 

個性を使用しての犯罪、個性の有方で決まる立場と未来、嘆いていても、訴えても変わらない社会。

 

個性至上主義とも取れるこの醜い現実に私は本当にヒーローとして自分の正義を貫けるのか不安だった。

 

『おいおい今更、殺人鬼になりたいのか?』

 

「違うわよ。……不安なだけ。でも、やれるだけやってみる。誰も虐げられない、誰かを助けられるヒーローになりたいから」

 

私は改めて心から殺人と言う非道な手段に頼らない誰かを必ず助けるヒーローになり、母さんの仇のヴィランを追い詰めて必ず法の報いを受けさせると強く誓った。



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【第三章】闇に蠢く者達【ヒーロー ルート】
復学


朝になって、私は寮の自分の部屋で身支度をしていた。

 

寝癖の目立つ髪を直して、制服を着て、乱れていないかを確認して、髪をいつものリボンでいつもの髪型にすると最後の確認として等身鏡で全体を見た後、私は机に置かれている母さんの写真を見た。

 

「行ってきます。母さん」

 

私はそう心から言うと鞄を持って部屋から出ると鍵をしっかり、掛けたか確認してから登校する。

 

私が寮を歩いているとそこへ久しぶりに見る顔が二人いた。

 

「力斗君に志奈さん?」

 

「え?ジルさん!?」

 

「もう登校して良いのかよ?それに何でお前がいんだ?家から通ってたんだろ?」

 

そこにいたのは力斗君と志奈さんの兄妹二人で、これから私と同じ様に登校するのか制服と鞄を持っている。

 

「うん。事件の事があって、ヴィランがまだ捕まっていないのなら寮に通うように言われて。貴方達は寮だったの?」

 

「雄英は寮費は無料だからわざわざ、交通費を出してまで遠くから通わなくても良いし、安全だからだって。私達、二人で寮にいるの」

 

「まぁ、ケチれる所はケチリたいと言う本音が見え隠れしてるけどな。安全だって言うのは確かだろうぜ。何せ、雄英の中に造られてんだからな」

 

力斗の補足的な説明に私は苦笑いしてしまう。

 

まぁ、寮費が無料ならわざわざ交通費出してまで電車はバス登校なんてさせようかなんて家の事情次第でしょうね。

 

「まぁ、ケチろうが俺が頑張れば良い!雄英体育祭で俺はヒーロー科に今度こそ入る!」

 

「もう、お兄ちゃんたら」

 

「雄英体育祭?」

 

「あ、そう言えばお前。暫く休んでたよな」

 

「もうすぐ、体育祭が始まるんだよ。ジルさんは大丈夫?暫く休んでたから不利なんじゃ……」

 

私はそう言われると緋色が前に言っていた体育祭の結果次第で決まる編入と除籍の話を思い出してしまった。

 

「ど、どうしよう……」

 

『仕方ないだろ。諦めてある内の日数で訓練するしかない。まぁ、除籍くらってヒーローへの道が閉ざされたのなら探偵にでもなっとけ』

 

「(他人事だと思って……!)」

 

アーサーの他人事だと言わんばかりの態度に私は苛つくけど、二人の前では怒れない。

 

私は何とか作り笑いで誤魔化して取り敢えず頷く。

 

「ま、まぁ……何とかするわ。絶対に」

 

「お、おぅ……まぁ、頑張れや。手加減しねぇけど」

 

「頑張って下さいジルさん!お兄ちゃんなんかコテンパンにしてください!」

 

「何で俺がコテンパンにされる前提なんだよ!?」

 

突然、始まった兄妹漫才に私は笑ってしまいながら三人で登校していった。

______

____

__

 

私は二人と別れてA組の教室に来ると私は一息ついてから教室の戸を開けると皆は私の方を一斉に見ると一斉に来た。

 

「霧先さん!」

 

「もうよろしいのですの?」

 

「辛かったよね?まだ辛いなら相談に乗るから!」

 

「俺、今クッキー持ってんだけど食べるか?」

 

皆が一斉に群がって一斉に喋るから誰が喋ってるのか分からない。

 

「落ち着いて皆。私は聖徳太子じゃないのよ」

 

「あ、すみません」

 

私の一言で流石に群がり過ぎたと気付いたのか会話は止まり、全員を代表して八百万さんが謝った。

 

「ジル!」

 

「霧先さん!元気になったん?」

 

「久しぶりだな!今日、復帰すんだ。あまり、無理はしないでくれ」 

 

「うん。もう大丈夫よ。ありがとう」

 

今度は出久君、麗日さん、飯田君が来てくれて私は嬉しく思っていると私の後ろを通る勝己が見えた。

 

「勝己」

 

「な、何だよ……俺は何も言わねぇぞ」

 

「前に家に来てくれたじゃない。ありがとう。それだけは言っておこうと思って」

 

私は勝己にそう言った時、勝己は顔を真っ赤にして口をパクパクし始めた。

 

「勝己……?」

 

「だあぁッ!別に礼を言われたい訳で行ったんじゃねぇよ!お、お前の弱り顔を拝みに行っただけだ!勘違いすんなよ!」

 

「は、はぁッ!?何よ!折角、お礼を言ったのに!」

 

「うるせぇ!!お前ん家に行ったら彼氏だとか聞かれて恥かいたんだぞ俺は!」

 

「そ、そんな事を私に言ってもしょうがないじゃない!この馬勝己(ばかつき)!!」

 

「会わせ技すんじゃねぇよ!!」

 

私は折角、お礼を言ったのに暴言を吐いてきた勝己に心底苛立ってると周りからは何だか温かい目で見てきた。

 

「恋だね」

 

「恋ですわね」

 

「何時になったら付き合うのかな?」

 

「え、何それ?うち、聞いてないけど?」

 

「何それ!私も聞きたい!」

 

野次馬から何か聞き捨てならない話が聞こえてきたんだけど!?

 

特に女子メンバーから!

 

「付き合うって何が!?」

 

「霧先さんと爆豪君が」

 

「いやいやいや!何でコイツと!?」

 

「そ、そそそ、そうだぞ!何でここここ、コイツなんかと!!」

 

私はもう必死にあり得ないって言っても麗日さん達はもう大はしゃぎで尚且つ、目をキラキラさせている。

 

勝己は……男子に特に、峰田君からエグい視線を貰ってる。

 

「お前ら。そろそろホームルーム始めるぞ」

 

相澤先生が入ってきてようやく騒ぎが収まると私は一気に疲れが出て、グッタリしてしまう。

 

『お疲れか?』

 

「とてもね……」

 

私はつい、声に出して言ってしまうけどホームルームは始まった。

 

「さて、出席を取る前にだ。知っていると思うが今日から霧先は復学だ。とは言え、かなり間が空いた。霧先、着いていけるな?」

 

「はい。家でも自主は欠かしませんでした」

 

そうでもしないと悲しみに押し潰されそうだったから。

 

「勉強は良い。だが、訓練となれば話は別だ。他の面々と比べればかなりの差が開いてしまった筈だ。お前がこれからやる事は他の奴らと同じ所に登り直して登り続ける事だ。ハッキリ言ってかなり苦労するからな?」

 

「分かっています。必ず遅れを取り戻します」

 

私はそうハッキリと言って見せると相澤先生は少し微笑んだ後、出席を確認していこうとした時、また手が止まった。

 

「言い忘れたが霧先。雄英体育祭まで時間が無い。休んでいる暇は無いと思えよ?」

 

「あ、はい……」

 

どうしよう……取り戻しますとは言ったけど雄英体育祭までに取り戻せるのか分からない……

 

私はこれからも続きそうな苦労に溜め息しか吐けなかった。

 



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ヒーローを憎む女

私は学校が終わってから寮の自分の部屋に戻ると鞄を適当に放り投げてベッドに上向きに寝っ転がる。

 

「はぁ……雄英体育祭か……」

 

『どうした?自信がないのか?』

 

「当たり前よ。他の科目なら何とかなるけど、まともにヒーロー基礎学の授業を受けていない私は圧倒的に不利よ」

 

『果たしてそうかな?』

 

アーサーのその言葉に私は首を傾げると私の意識を保ったまま、身体を動かし始めた。

 

『お前の戦い方は俺の戦い方だ。お前には俺の動きが身体に刻まれている筈だ。それを上手く出して戦えば良い』

 

アーサーはそう言って今度は活用個性でナイフを出して握った。

 

「ちょっと!」

 

『良いか?しっかり、馴染ませる様に覚えていけ。前に試験の為に教えた様なもんじゃない。先ず、しっかりと握って』

 

「声を張り上げてどう……した?」

 

私が無理矢理、アーサーの一方的なイメージトレーニングを受けさせられている時に緋色が私の部屋の扉を開けてきた。

 

そう言えば扉の鍵を掛けてなかったわね……

 

「何してるんだ?」

 

「そ、それは……少し、イメージトレーニングしてた」

 

「ふーん。やるならちゃんと外でやるべきだぞ。他の部屋の皆に迷惑を掛けるからね」

 

私は緋色に注意されて恥ずかしさで少し落ち込むとそこに更に力斗君と志奈さんがやって来た。

 

「どうした?ジルが何かしてんのか?」

 

「お兄ちゃん!女の子の部屋を勝手に覗いちゃ駄目よ!」

 

「そうだそ。デリカシーが無さすぎるにも程があるね」

 

「心配しただけなのに何で俺、こんなに責めなれなきゃいけないんだ……?」

 

哀れ、力斗君……心配してくれたのに私の部屋を覗いただけで二人に滅茶苦茶、怒られてる。

 

『当たり前だ。お前が着替えとか、見られたくない物があったらどうする?そんな時に覗かれるのは嫌だろ?』

 

「(別に構わないわよ)」

 

『おいおい、もう少し男に警戒心を持てよ。お前は整った顔立ちなんだからな』

 

そう言われても私の顔なんてハーフだと言う以外では普通だと思うのだけど……そんな事を考えても始まらない。

 

取り敢えず、緋色達が私の部屋に来た理由を聞かないと。

 

「それで……今日は?」

 

「そうだった。うっかり目的を忘れそうになったよ。君が寮に入ったって二人から聞いたから一度、顔を合わせておこうと思ってね。……大変だったね」

 

「うん。心配掛けてごめんね」

 

「いや、僕も寧ろ押し掛ける様に来てすまないと思ってる。あと……道春先生の事はもう心配しなくても大丈夫だ……僕の家族と暫く暮らす事になったからね……」

 

小声で発せられた緋色のその言葉を聞いて私は道春さんが無事だと分かって安堵していると二人が首を傾げて見ているのに気付いて軽く咳払いして誤魔化した。

 

「皆、ありがとう。あ、そうだ。良かったら珈琲か紅茶を飲んで行く?」

 

「あぁ……すまない。僕は少し顔を出しに来たけでね。迎えを待たせてしまっているんだ」

 

「迎え?」

 

「うん。僕の家族の迎えさ」

 

迎えね……そう言えば緋色ってどんな交通手段で通っているのか聞いた事が無かったわね。

 

「俺達も駄目だ。体育祭に向けて練習するって約束しちまってな」

 

「うん。何だか皆、燃えてるみたいだから」

 

「燃えてる?」

 

「お前が休んでいる間にA組の奴等の所に行ってな。俺達も含めて集まったんだが……クソ、思い出しただけで苛つく!」

 

「え?……何で?」

 

「爆豪って人にザコとかモブとか言われて……」

 

あぁ……彼奴か……力斗君が怒ったり、志奈さんが落ち込むのも分かるわ。

 

「ごめんなさい。最初からあんな奴だから……今度会ったら頭をどついてやるわ」

 

「い、いえ!そこまでしなくても!」

 

「おう!思いっきりやれ!」

 

「お兄ちゃん!」

 

私は勝己の所業に怒りを抱きながら二人と他の科の人達に申し訳なく思ってしまう。

 

彼らだって、もしかしたら少し結果が違えば私達と同じクラスになっていた筈だから……馬鹿にするのは間違ってる。

 

でも……少し前に会った勝己は少し、変わったと思ったけど……やっぱり気のせいだったみたいね。

 

『気のせいかどうかはお前の解釈しだいだがな』

 

「(解釈ね……)」

 

確かにその場にいなかった私が勝己が一方的に悪いとは思わない……とは、言えないけど今の彼は何処か大人しい。

 

判断が着かないのに一方的に怒るのも間違ってるの思えば一度、勝己にその事で問い質してからどついても遅くない。

 

「それじゃまた、明日会おうジル」

 

「俺達もそろそろ行くぞ」

 

「またね。ジルさん」

 

「えぇ。またね」

 

私は軽く手を振りながら見送ると私はウカウカしていられないと思い部屋に戻ると雄英指定とは別の自前のジャージを手にした。

 

『やる気か?』

 

「うん。負けてられないわ。付き合って貰うからね。アーサー」

 

『良いぜ。俺の技をヒーローの技に変えられるのなら変えてみせな』

 

私はそれを聞き、自前のジャージに着替えると部屋の扉をしっかりと鍵を掛けたのを確認した後、外に訓練に向かった。

________

______

___

 

私は今、郊外でアーサー主導の訓練を行っていた。

 

本当なら校内が良かったんだけだ……部活をやっている人もいるから邪魔にならない様にする為にも外に出るしかなかった。

 

一様、門限まで自由に出て良い様になっているけど門限に遅れたらしこたま怒られるのは目に見えるから時間も気にしないと。

 

私は軽いジョギングをして身体を慣らしておこうとしていたら目の前に人が現れた。

 

ジャケットに、キャスケット帽をかぶりショルダーバッグをかけたジャーナリスト然とした出で立ち。

 

そう言った格好の女性が前で止まっていて私は単なる通行人にしてはおかしいと感じて止まって警戒する。

 

「(アーサー)」

 

『怪しいよな。お前を見つめて立ってやがる。まだ明るいとはいえ一様、夕方だ。それに雄英の辺りは見た所、一通りも少ない。気を付けろよ』

 

私は警戒を更に強めた時、女性から切り出してきた。

 

「すみません。警戒されているみたいですが私は怪しい者ではありません」

 

「……だったら何者なの?」

 

「はい。私、こう言う者です」

 

女性はそう言って私に近づくと名刺を取り出してわたしてきた。

 

何の個性を持っているのか分からない以上は迂闊に触りたくないけど私は警戒しつつ受け取る。

 

「社会報書新聞社、広瀬綾乃?」

 

「はい。私はその名刺の通り、新聞記者をしています。要件は他でもありません。是非、取材がしたいのです」

 

この記者さん、綾乃さんは私に取材の為に現れたみたいだけど……

 

「どうしてこんな時間に?それも人通りと無いこの場所で?」

 

「取材許可の申請は出したのですが断られましてね。仕方なく雄英体育祭もありますし、校内もクラブ活動をしている以上は外に出るだろうと待っていました。後は偶然ですね。雄英付近はヒーロー事務所はありますが巡回もそうありません。何しろヒーローの巣窟が山の天辺辺りにありますからね」

 

綾乃さんはそう言ってクスクスと笑う中、それでも私としてはまだ警戒が解けない。

 

何しろ。

 

「私でないと駄目なのですか?他の皆がいた筈です。体育祭の事なら皆の方が分かっている筈です」

 

「それはそうですよね。貴方は暫くの間、不幸な事件に巻き込まれてしまい、休んでいた。あれは大きなニュースにもなりましたよ。何しろこの御時世で銃を使った殺人でしかも住宅街だったのですから。それなのに犯人たるヴィランを"誰も見ていない"……おかしな事件ですよね」

 

綾乃さんは何が言いたいのか分からないけど……その話は私の怒りに触れるって分かって言っているなら怒っても良いかしら。

 

私は殴りたいと言う衝動を抑えながら冷静を装う。

 

「何が言いたいのですか?」

 

「……そうですね。その時の事件。話して貰っても?」

 

言いたい事は分かった。

 

つまり、こいつは一大イベントである雄英体育祭なんて興味はない。

 

私の……思い出すだけでも悲しくて、怒りが汲み上げてきそうなあの事件を喋らせたいだけだと。

 

「話すつもりはありません。私はトレーニングがありますので」

 

「悔しくないんですか?ヒーロー達が怠慢のせいで、貴方の母親の仇がのうのうと塀の外で生きているのに」

 

「ヒーロー達はちゃんと捜査してくれています」

 

「捕まる所か証拠一つ、挙げられていないのに?貴方もお人好しですね。……無能共をわざわざ庇うなんて馬鹿みたいです」

 

綾乃さんはそう言うと営業スマイルを崩して無表情で私を見てくる。

 

その表情に私はこれが彼女の本性なのだと思った。

 

「サッサとヒーロー達のヘマを喋れば同情してくれそうか人達なんて沢山いるでしょうに」

 

「同情なんて欲しくない。貴方はさっきから何なのですか?ヒーローを嫌っているみたいですが?」

 

「えぇ、大嫌いですよ。……綺麗事しか並べないヒーローなんて全員、溝に棄てられて消え失せれば良いのに」

 

綾乃さんはそう吐き捨てる姿に単なるアンチヒーローを掲げる人じゃないと思えた。

 

これは単に嫌いではなく、何処か……憎しみを抱いている……そんな気がする。

 

『お前も気付いたか。あの綾乃って言う女。ヒーローをにくんでいるな』

 

「(そうね。私を挑発してヒーローの失態話を聞き出そうとしてくる辺り、手段は選ばないタイプなんでしょうね。厄介だわ)」

 

私は綾乃さんは厄介な記者だと決めると綾乃さんは腕時計を見て、溜め息をついた。

 

「時間切れです。あまり長時間、話し込んでいると私、不審者だと思われてしまいますから帰りますね」

 

「御勝手にどうぞ。離れられて精々します」

 

「よく言う小娘ですね。まぁ、別に構いません。貴方に体する評価としては……よく出来たヒーローの卵ですかね?あのカルト教団での活躍は聞き及んでいますよ。収賄を聞き出した事とか」

 

「ッ!?待ちなさい!その話は公安から極秘として扱う様に言われた事件の筈よ!幾ら目立っていたとしても何でそれを!」

 

あの事件は後日、公安の職員からヒーローの汚職事件としては大きすぎるとして極秘として扱う様にと言われた筈。

 

目立っていたとは言え、理由は明確じゃないのにどうしてそれを知っているのかと問い詰めると綾乃さんはクスクスと笑うだけだった。

 

「それは企業秘密です。まぁ、記事には出来ませんね。命が幾つあっても足りなくなりますから。それではまた……体育祭でお会いしましょう。ジルさん」

 

綾乃さんはそう言って立ち去ってしまい、残された私は異様な雰囲気を纏う彼女に不気味さを感じてしまい、今回は早めに寮へ帰った。

 

~別視点side~

 

フレイムヒーロー、エンデヴァーは自身の事務所の窓の外を見つめていた。

 

夜の空から降る冷たい雨。

 

その光景にエンデヴァーは過去に起きた出来事を思い出していた。

 

「助けてよ……何で……誰も助けてくれないのよ……こんな社会なんか……ヒーローなんか……消えれば良い……!!」

 

過去に夜の雨の中で出会った一人の高校生の少女。

 

彼女は……泣いていた。

 

社会への……ヒーローへの……自身を苦しめる全てに呪詛を唱える様に叫びながら泣き続けていた。

 

エンデヴァーはこの時、非番でヒーローのコスチュームではなく、私服であり、偶然立ち寄った道に崩れ落ちる様に座り込んでいた彼女を見つけたのだ。

 

悲しみ、失望、怒り、憎しみと各々を宿したあの時に見せた瞳は今でもエンデヴァーを忘れさせないのだ。

 

"忘れるな"と常に付きまとっている。

 

自分の家庭でもバラバラであるのに心の中で少女のあの瞳の色が消えない日々にエンデヴァーははっきり言えば参っていた。

 

少女と出会ってから身元の特定やそして関わった事件を詳しく調べあげ、そして強盗のヴィランとグルだった挙げ句、少女を拉致し、少女の尊厳を奪う様な乱暴を働いた腐敗したヒーローを見つけ出し、証拠を手に問い詰めた。

 

そのヒーローは平和過ぎる社会への鬱憤を晴らす為にヴィランの犯罪に目を瞑り、少女が好みだったから共に襲い、そして訴えられても良い様に根回しや証拠の隠滅をしていたとエンデヴァーに怯えながらベラベラと吐いた。

 

主犯のヴィランは何ヵ月も経った後の事件の為に既に逃亡して行方を眩ましてしまい探し出せず、エンデヴァーはこんな奴が同じヒーローをしていると思うと怒りを抱き、過剰に攻撃してしまうも捕縛し、事件は主犯は行方知らずと言う納得のいかない形で幕を下ろした。

 

エンデヴァーは自分らしくもないが少女の元に謝罪しに行く。

 

その少女はあの時の夜に会ったのがエンデヴァーとは気付いておらず、エンデヴァーを見るや憎悪の表情を見せ、構わず謝罪するも少女の瞳から憎しみの炎は消える事はなかった。

 

エンデヴァーは夜の雨を見るとあの時の少女と事件を思い出し、ヒーローとは、No.1とは何かと問われている感覚を覚えるのだ。

 

本来、今いるNo.2はある意味ではジャスティスに譲られた地位でもあった。

 

ジャスティスは結婚もしていない若い頃から悪を断罪する事を常としたヒーローで悪を許さず、汚い手段を使ってでも捕縛すると言う強い意思を見せ、市民からの信頼が厚いヒーローだったが数年前に議員の汚職を暴こうとして逆に嵌められ、ヒーローとしての信頼を無くし、トップヒーローから転落し、忘れ去られたのだ。

 

失意の内に一時期、日本から去り、遠いイギリスのロンドンへ旅立ち、エンデヴァーは繰り上げのランクアップと勢いあってNo.2へと上りつめたがもし、議員の不正をジャスティスが暴ききっていたらエンデヴァーはNo.3に留まっていたかもしれない。

 

「……ふん。くだらん」

 

エンデヴァーは考えるのは止めだとばかりにそう吐き捨てると仕事へと戻った。

 

調査報告書や警察に提出する書類などが机にあるがその中に強盗を起こしたヴィランとグルであったヒーローが起こした事件の捜査資料も置かれていた。

 

エンデヴァーは未だに諦めていなかった。

 

その事件の片割れのヴィランには"時効"までまだ数日の猶予があり、それまでエンデヴァーは諦めるつもりはないのだから。

 

~side終了~



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各々の思惑

~別視点side~

 

広瀬綾乃は行き付けのBARで注文したカクテルを飲みながら取材と称して接触した霧先ジルについて考えていた。

 

霧先ジルは"事前の情報"通りに真面目であり、曲がった事が嫌いであり、そして……とても大人びた子供だった。

 

今時の子供は全くとは言わないが警戒の色は薄く、事件が目の前で起こるか、巻き込まれでもしないと危機をなかなか悟らない様な時代になっている。

 

現にジル以外の生徒に綾乃が近付いてもヴィランとまで行かなくても道端で立って、見つめてくる女を不審者とは認識もせずに無警戒に近付く様な愚か者が割りと多い。

 

そんな子供の中でジルは大人びた対応をしている……いや、大人び過ぎていた。

 

母親を殺された事もあるとは言え、"名刺"にまで警戒を見せていたジルの警戒心の高さは異常にも見えた。

 

「……とても興味のある子ですね。報告して見ましょうか?」

 

綾乃は"自分の師"に連絡して勧誘するのは少々、骨が折れるが価値があると伝えるべきか迷う中、綾乃は軽く笑った後、カクテルを飲み干した。

 

 

一方、とある街の一角にある洋と和を足した様な大きな屋敷、現代に生きる極道の一つ、獅子皇会の本拠の一室では緋色はベッドに寝転がりながはジルの事を考えていた。

 

「……ジル。君がもう少し、此方側に近付いてくれたら僕も気兼ねなく触れられるのに」

 

緋色はジルに対して友人としての感情もあるが一種の"恋心"を抱いていた。

 

どんな男にも目もくれなかったのにジルを一目見た時に心の底から沸き上がる様な高揚感に浸り、その後から会う度に冷静を装うのが大変だった。

 

あと、ほんの少しでも条件が揃っていたら迷う事もなく手を出していたと確信できた。

 

「僕は君を愛してるんだ……でも、僕は裏社会の人間だ……とても光の中を歩こうとする君を引き留める様な事はしたくない……」

 

欲しければ奪え。

 

裏社会の暗黙のルールと言えるこの言葉は緋色の頭に何度も過ったが実行なんてすればジルは間違いなく悲しむ事になる。

 

それは緋色の望む事ではない。

 

緋色は自分の心の苦しみを抱きながらその日を過ごした。

 

 

その頃、ある警察署では……

 

「待て!」

 

「探せ!まだこの近くにいる筈だ!」

 

警官達が大挙として集まり、捜索しており、その原因となった男、ジャスティスは路地の暗闇の中である物を確認していた。

 

「やっと尻尾を掴んだぜ……もう逃がしやしねぇ。必ず捕まえてやるからな。欲強!」

 

ジャスティスの手にする物は写真で、ある時、事務所に"ある事件の証拠品"があると言う話があり、半信半疑ながらも罠を警戒しながら探ると情報通りの証拠品が出てきたのだ。

 

過去に受けた屈辱と悔しさ……それを全てぶつける為にその場を立ち去る。

 

 

そして、雄英の寮では。

 

夜はまだ更けきれていないがジルは身体を動かした事で疲れがあり、少し早めに就寝していた。

 

ジルが寝息を発てて眠る中、アーサーはその姿を静かに見ていた。

 

「シャーロット……」

 

数百年の時を越えた時代、当然、アーサーの知り合いなど全員、墓の中に眠っている。

 

母も、父も、友人達も、ハリーも、ローリィも、シャーロットも。

 

気が付けば一人だった。

 

だが、そんな事は覚悟のうえだった。

 

殺人鬼になる報いが孤独と言うのなら甘んじて受けるのが切り裂きジャック(ジャック・ザ・リッパー)のケジメであり、アーサーの相棒であった初代もまた、孤独だったのかもしれない。

 

だが一つ、アーサーは残してしまった。

 

殺人鬼の血を。

 

アーサーは捕まえる前から既に詰みを迎えていた。

 

ある物と人物がいなければアーサーは短命となり、死刑を待たずして死ぬ身になってしまった。

 

アーサーは罪もろくに償わずに路上で死ぬのはしょうに合わないと考え、ある人物を呼び出し、捕まるつもりだった。

 

だが、いつの間にかアーサーとその人物は禁句を犯した。

 

"異性"同士だったとは言え、前まで追う、追われるの関係だったのにも関わらずアーサーが根負けする形で交わってしまった。

 

その結果、自分の知らない所でジルまで自分の血筋が残ってしまった。

 

「ふん……つくづく彼奴と似過ぎてるもんだな……お前ら母娘は……」

 

アーサーはそう言いながらジルに向かって優しげに微笑みながら彼女を試し続ける。

 

彼女が自分の道を貫き通せるのかを。

 

~side終了~




作品話数が100話を突破しました!\(^-^)/ 
  
本当にありがとうございますm(__)m

此処まで来れるとは思いませんでした(*´∀`*)

これからも応援よろしくお願いいたしますm(__)m

あと、そろそろヒロアカ関連で別の作品を投稿したいと思っていますが……どちらが良いですか?

一様、最初はと言う感じで。

勿論、この作品と平行して書いていくつもりです。


・ぬらりひょんの孫(主人公をリクオの子供にする予定。つまり、四代目)

・ステラリス(自由に文明と国家を決めて発展させるゲーム。自由度は高く、独裁制でも民主主義でも可能。無論、戦争も可能)

この2つの何れかを書きたいと思っていますが無論、止めとけなら止めときます。


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雄英体育祭 ~開幕~

~別視点side~

 

明かりを点けていない暗い部屋。

 

そこでは綾乃が床に座りながら狂気的な笑みや営業スマイルも無い無表情か顔で置かれている写真を見ていた。

 

綾乃の父とそして母。

 

理不尽な理由で殺された二人、そして自分の身体を好き勝手にしたヴィランは捕まらず時効を迎えつつある事に怒りを覚えつつも不適に笑った。

 

「もうすぐだからね……お父さん……お母さん……もうすぐで彼奴を地獄に落とせる……ふふ……きっと世間様はさぞ、驚くでしょうね……」

 

綾乃はそう言って立ち上がると衣服をしまっているタンスの引き出しの一つを開け、服の間に無造作に手を突っ込むとそこからある物を取り出した。

 

そのある物とは……拳銃だった。

 

ヒーロー社会の今でもヒーローでもない一般人が銃を持つ事は違法行為であり、昔よりも手に入れやすい環境とは言え見つかれば逮捕は免れない代物だった。

 

「私が……仇を取るからね……この手で」

 

綾乃はそう言って冷たい憎しみを宿しながら笑っていた。

 

~side終了~ 

 

雄英体育祭、当日。

 

私は結局、あまり練習すら出来ずに当日を迎えてしまい、結果を残せなかったらどうしようなんて思いながら指定のジャージに着替えて控室で不安がるしかなかった。

 

「だ、大丈夫……?」

 

「すっごく顔、暗いよ?」

 

そんな私に見かねてか麗日さんと芦戸さんが話し掛けてくれた。

 

「うん……もしかしたら私、除籍になるんじゃないかな~……なんて思ちゃって……」

 

「何で!?」

 

「幾らなんでも本番前にネガティブ過ぎるよ!?」

 

「私、休み過ぎてあまり訓練出来てないから遅れを取るんじゃないかなって……本当にどうしよう……」

 

私はもう悩まし過ぎて頭を抱え込んで視線を変えた時、轟君が出久君に話し掛けていた。

 

耳を傾けて聞いてみると……

 

「客観的に見ても実力は俺の方が上だと思う」

 

「へ!?うっうん……

 

「(轟君は急に何を言い出すの?)」

 

『へぇ……面白い事になりそうだな。ジル』

 

アーサー……貴方の面白い事になりそうと言う言葉は私にとっては嫌な予感なのよ……

 

私は不安になりながら二人を見て、聞いていると轟君の雰囲気に何処か闇を感じた。

 

「お前、オールマイトに目ぇ掛けられてるよな?別にそこを詮索するつもりはねぇが……お前には勝つぞ」

 

轟君の突然の出久君に対する宣戦布告に私は驚きを感じていると回りもこの宣戦布告に驚いている感じだった。

 

「おぉ!?クラス最強が宣戦布告!!?」

 

「急に喧嘩腰でどうした!?直前に止めろって……」

 

上鳴君が驚きながら言い、切島君が止めに入ったのを見た私も止めに行こうとした時、身体が上手く動かなかった。

 

こう言う時の原因は……

 

「(アーサー!)」

 

『落ち着けよ。あれは二人の問題だ。あの轟って奴の急な宣戦布告に何の意味があるのか……それは出久が受け取るべき事だ。俺達は俺達でクラスメイトを含めたライバルを蹴落すべく戦う。いらん事に首を突っ込んでモチベーションを崩すな』

 

確かにアーサーの言う事は最もだけど……私はそれでも止めに行こうとすればアーサーに止められて終わってしまう。

 

私はどうしようもない中、二人を見守るしかなかった。

 

「轟君が何を思って僕に勝つって言ってんのか……は分からないけど……そりゃ君の方が上だよ……実力なんて大半の人に敵わないと思う……客観的に見ても……」

 

「緑谷もそーゆーネガティブな事、言わねぇ方が……」

 

「でも……!!皆……他の科の人も本気でトップを狙ってるんだ。僕だって遅れを取るわけにはいかないんだ。僕も本気で獲りに行く!」

 

出久君のその言葉に前までの弱気な姿はなく、私は唖然としているとアーサーは笑っていた。

 

『言ったろ?今の彼奴なら臆する事はない。彼奴への過保護を卒業するんだな』

 

アーサーにそう言われた私は少し、出久君への過保護が過ぎていたと思った。

 

もうあの頃の人見知りで怯えている様な出久君はいない。

 

今は少しだけ元の性格は出てるけど前よりも勇気のある人になっている。

 

私も、臆していられないわね。

 

「(……私達も負けられないわよ。アーサー)」

 

『はッ!俺の出番なんて来るのかやら。だが、俺を出させる奴がいたとするなら……あの三人か』

 

アーサーはそう言って視線の先には出久君や轟君、勝己の姿があった。

 

『最も油断がならない三人だ。気を引き締めろよ』

 

「(言われなくても)」

 

私はそう言って遂に開会式が始まる時間になり、私達は胸を張って会場へと歩いて行く。

_______

____

__

 

私達が会場の出入口までやって来ると山田先生の放送が鳴り響いた。

 

《一年ステージ!生徒の入場だ!!雄英体育祭!!ヒーローの卵達が我こそはとシノギを削る年に一度の大バトル!!どうせてめーらアレだろこいつらだろ!!?ヴィランの襲撃を受けたのにも関わらず、鋼の精神で乗り越えた奇跡の新星!!!》

 

その声と共に会場の外へと出ようとしている……緊張で少し汗が流れるけど私は胸を張りながら堂々と外へと踏み出した。

 

《ヒーロー科!!一年!!!A組だろぉぉ!!?》

 

何とも大々的な山田先生の紹介で大きな歓声が上がり、私の中のプレッシャーが高くなる中、他の組や科の人達の紹介が始まったけど……

 

《B組に続いて普通科C・D・E組……!!サポート科F・G・H組も来たぞー!そして経営科……》

 

『何だこの紹介?まるで俺達の引き立て役みたいな紹介だな?なぁ、ジ……おい?顔、怖いぞ?』

 

「(だって幾らなんでも酷いじゃないの!B組も体育祭の主役の筈だし!他の科の人達だって千載一遇の機会なのよ!それなのにやる気を削ぐような事をして……!)」

 

『落ち着け。こんな事でやる気を落として負けたんならその程度の連中だったってだけさ。勝負は本番から始まる。あの、バカ声先生を見返す奴等は多く出るだろうよ』

 

アーサーのその言葉で私は怒りを納めると所定の位置に並ぶと、香山先生が開催宣言を行う様だ。

 

「選手宣誓!!」

 

「18禁なのに高校にいても良いものか」

 

「良い」

 

「静かにしなさい!!選手代表!!男子代表1-A、爆豪勝己!!」

 

余計な一言がある中、その力強い言葉で進行が続いた。

 

勝己は確かに主席だったわね……て、男子代表?

 

確か、男女関係なく代表宣言は一人だったわよね?

 

「今年は男女別で同列で主席が二人いるわ!特例として男女別に代表宣言するわよ!」

 

「えッ!?それって……」

 

『休んでた時、何かお知らせ的な何か貰っていなかったのか?』

 

「(……送られた様な気がする。でも、落ち込んでて見てなかった様な)」

 

私はまさかと思いながら聞いていると予感は的中した。

 

「女子代表1-A組、霧先ジル!!」

 

あぁ……やっぱり……こうなったわね。

 

どうしよう……A組の皆は兎も角、他の人達(B組や他科)からの視線が痛い。

 

私は観念して勝己と香山先生の前に出てくると先に勝己から切り出した。

 

「せんせー……俺が一位になる

 

「絶対やると思った!!」

 

勝己の宣誓にA組の皆までブーイングに参加して批判しており、私はもう頭を抱えながら全員が静かになった後、周りからの視線が痛い中で宣誓をする……つもりだけど全く、考えてない。

 

「(ど、どうしよう……)」

 

『おいおい、俺達に相応しい宣誓があるだろ?』

 

「(相応しい宣誓?)」

 

『分かるだろ?どのみち、何時かは知られるんだ。だったら開き直ってぶちまけてしまえ』

 

私はアーサーが何を言いたいのか何となく悟ったんだけど……確かに何時かは知られるのならいっそ、開き直ってぶちまけてしまいましょう。

 

「宣誓する前に伝えておきます……私は嘘をつくのが苦手です。だから、この雄英体育祭で私のもう一つの顔を見せます」

 

その言葉に周りがざわつく中、私は片手を挙げて宣誓する。

 

「宣誓!私達は!!」

 

私がそう言った時、それを合図にアーサーが私と入れ替わった。

 

「俺達は!正々堂々!!全力を挙げて勝たせて貰うぜ!!」

 

私とアーサーの宣誓に周りのざわつく声が大きくなる中、そこで鞭の音が鳴り響くとざわつく声が止んだ。

 

「静かになさいったら!!全く……それで良いのね?」

 

「はい。これで良いです。どのみち、何時かは知られるののでくから」

 

私はアーサーと代わってそう伝えると勝己と元の場所へと戻ると出久君達が不安そうに見てきた。

 

「良かったの?下手をしたら今後のアピールに支障が……」

 

「良いのよ。ありのままの私を受け入れてくれないなら……それだけだったって話だから」

 

私はそう告げると最初の種目を告げられるのを待った。



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雄英体育祭 ~障害物競争~

投票の結果、今は止めとけが多数を取った為、他作品の投稿は延期したいと思いますm(__)m

ご協力ありがとうございました。


宣誓を終えた私達は香山先生から出される最初の種目を待つ中、遂に発表された。

 

「さーて!それじゃあ早速、第一種目行きましょう!!所謂、予選よ!毎年此処で多くの者が涙を飲むわ(ティアドリンク)!!さて運命の第一種目!!今年は……これ!!!」

 

香山先生が言うと同時に画面に出されたのは障害物競争と書かれた文字だった。

 

「計11クラスでの総当たりレースよ!コースはこのスタジアム外周約4㎞!我が高は自由が売り文句!ウフフフ……コースさえ守れば何をしたって構わないわ!」

 

『つまりは妨害もアリって事だな。これは初手から楽しい事になるぞ』

 

「(何でもね……轟君は初手から必ず仕掛けて来るでしょうね)」

 

『ふん。確かに彼奴の個性ならいきなり初手から使った方が素人連中を出し抜けれる。数を減らして確実に勝ちに来るのは当然だろう』

 

ルール内容に何でアリと言う意味はとても大きい。

 

無論、犯罪行為は御法度だとしても道を塞いでしまう様な妨害は見過ごされると言う事も同義。

 

私は轟君の訓練で見せたあの氷の個性での初手からの妨害に警戒し、何時でも突破する腹積もりで身構える。

 

「さぁさぁ位置に着きまくりなさい……」

 

ミッドナイトのその言葉に皆はスタートの位置に着けど……何だかゲートは小さい……。

 

この大人数で通るとなると出来る限り、早く通ってしまわないとすぐに下位に落とされてしまう。

 

つまり、やる事は一つ!

 

「スターーーーーート!!」

 

その合図と共に私は周りにいる人達を押し退けて一気に先頭に飛び出した。

 

私が飛び出した所で後方ではやっぱり、ゲートにつっかえたり、轟君の氷の個性が地面を凍らせて後方にいる人達を大きく足止めした。

 

「やっぱり仕掛けてきたわね!」

 

『形振り構うなよ!すぐに来るぞ!』

 

私は全力で駆け抜ける中、轟君が悔しげな表情で私を見てくる。

 

《さーて実況していくぜ!解説アーユーレディ!?ミイラマン!!》

 

《無理矢理呼んだんだろが》

 

実況席にイレイザーヘッドもいるのか低い声が響く中、A組の皆は轟君の妨害を各々の個性と身体能力で回避し、突破してきた。

 

やっぱり、皆は侮れないわね……B組や他の科の人達も多く突破してるわ。

 

《最初に飛び出したのは我らがヒーロー科A組のハーフ系美少女!霧先ジル!!初っぱなから飛び出して妨害を回避!そして独走だぁ!!》

 

《彼奴は個性に大きなハンデがあるが鋭い洞察力と直感の持ち主だ。そして何より、個性に頼らない高い身体能力。それが轟や他の奴等に先手を取れた理由だろう》

 

とてもご丁寧な実況と解説に私は顔を赤くする中、前から何かが飛び出して来たのを察知し、飛んで回避してから確認すると。

 

「あれって……?」

 

『あの試験の時の雑魚ロボットか!?』

 

私達は驚いていると山田先生からの実況があった。

 

《さぁ、いきなり障害物だ!!まず手始め……第一関門!ロボ・インフェルノ!!》

 

山田先生がそう説明し終えると山の様に大きなロボットが複数現れた。

 

私は残念ながらトラブルがあって出てこなかったけどあれが0P仮想ヴィランと言うロボットね。

 

『おいおい、ヒーロー科なら兎も角、他の科の連中を殺す気か?』

 

「つべこべ言ってないで行くわよ!」

 

私はそのまま駆け出すと他の小型の仮想ヴィランが襲って来るけど私は避けたり、蹴りあげたりして突破するとトロくさい0P仮想ヴィランの集団の隙を突いて空いていた隙間を素早く通り抜けた。

 

《おぉ!?1-A霧先!かなり不利な状況の中で突破だぜ!!》

 

《普通に滅茶苦茶だな彼奴。だが、霧先だけが主役じゃない》

 

相澤先生がそう言った時、後ろから強い冷気を浴びた私は振り替えるとあの0Pの仮想ヴィランを一瞬で凍らせて突破するだじゃなく、妨害もこなしてきた轟君が追い掛けてきていた。

 

《1-A 轟!!攻略と妨害を一度に!!こいつぁシヴィー!!!》

 

山田先生が興奮する傍ら、私は背筋が文字通りゾッとする中、兎に角、轟君から全力を挙げて逃げ続ける。

 

『彼奴……化物か?』

 

「アーサーには言われたくないと思うわよ?」

 

『それよりも逃げ続けろ!追い付かれたら間違いなく彼奴の氷の餌食だ!ナイフ以外の他に対抗手段の無い俺達にはキツい相手だからな!』

 

私はアーサーにそう急かされつつ、轟君から逃げ続けるけどやっぱり、クラス最強は伊達じゃない。

 

此方は全力を挙げて走っているのに全く、突き放しきれない。

 

他の皆もどんどん突破してくる姿と見えて私はペースを上げて行く。

 

~別視点side~

 

ジルがリードを取る中、追い掛ける者達はジルの異常な行動力に驚かされていく。

 

「あ、彼奴!個性なんて使ってねぇぞ!?」

 

「身体能力を高める個性だろ!クソ!」

 

何も知らない者からすればジルの個性がまさかナイフを出すだけとは思いもよらず、身体能力を向上させる個性だと推測する中、出久達、ジルを知る者からは知っていても唖然としていた。

 

「霧先って本当にスゲェよな……」

 

「どんな鍛え方したらあんなに動けるんだ?」

 

上鳴と砂藤はスタート初っぱなから轟の行動を見抜いて先手を打ち、自身の身体能力だけで仮想ヴィランの群れを突破してしまったジルにどんな鍛え方したんだと疑問を浮かべる。

 

「クソ……!」

 

轟は轟でジルに先手を打たれ、先頭を奪われ続け、足の速いジルになかなか追い付けずに苛立ちを覚えるが冷静にジルの僅かな隙を狙い続ける。

 

「ちくしょうが!これ以上、先に行かせるかよ!!」

 

勝己は仮想ヴィランの頭上から爆破の爆風を利用して突破する中、ジルの真剣な表情に汗が流れる顔を見てしまった。

 

その顔を見た勝己は思わず、綺麗だと思ってしまった。

 

「……ッ!!?クソがぁッ!!考えるんじゃねぇッ!!」

 

勝己は誤魔化す様にそう叫びながら全力で二人を追い掛けていく。

 

~別視点side~

 

ジルは先頭を走る中、目の前に所々しか無い地面と深い谷底が見える場所が見えてきた。

 

所々しか無い地面の間にはロープがあり、ジルはそれが何を意味するのか瞬時に判断すると戸惑いなくロープに足を着け、勢いを落とさない様に突っ走る。

 

《オイオイ!第一関門チョロいってよ!!んじゃ第二はどうさ!?落ちればアウト!!それが嫌なら這いずりな!!ザ・フォーーーール!!!て言うか!紹介する前から霧先が平気そうに渡って行ってやがるぞ!おい!!?》

 

《見ただけですぐに何をするべきなのか判断する力。これはプロにも求められる要素の一つだ。だが、彼奴は甘過ぎる所がある》

 

《甘過ぎる?》

 

《全く妨害を仕掛けていない。見てみろ》

 

私はその放送を聞いて振り返った時、氷が私に迫っている光景を見て私は堪らずに避けるとその隙を突いた轟君が一気に突破してきた。

 

《こいつはスゲェ!!此所で轟が逆転したぜぇッ!!!》

 

《彼奴の個性ならロープを切る事も造作もなかった。だが、しなかった事で遠回りをする事がなかった轟に優位を渡しただけじゃない。他の奴等の道筋を残した事で次々に渡っている。この種目は蹴落としも兼ねている以上、これは霧先の失策だ》

 

私は相澤先生からの指摘に悔しさを抱くけど気にしている場合じゃない。

 

私は轟君に食らい付く様に追い掛ける。

 

~別視点side~

 

一方、障害物競争の戦況を見守る観客席に座る人々は興奮の最中にあった。

 

「やるじゃないか!あの霧先って子は!」

 

「ふむ……緑谷同様に個性をまだ見せていないようだが……」

 

「個性を使わずにあれだけの動きと観察力と判断力があるのか!?」

 

「その霧先から一位を奪い取った奴も凄いぞ!」

 

「個性の強さもあるがそれ以上に霧先と同様に素の身体能力と判断力がズバ抜けている」

 

「そりゃそうだろう。あの子、エンデヴァーの息子さんだよ」

 

「あぁ……道理で!オールマイトに次ぐ、トップ2の血か」

 

「霧先の親は誰だ?ヒーローか?」

 

「親はあのジャスティスだそうだ」

 

「えッ!?あの冤罪事件を起こして失脚した元トップヒーローの!?」

 

「失脚したとは言え、元はトップヒーロー。受け継ぐ血は伊達じゃないな」

 

「これは親の過去の事は兎も角、二人を巡ってサイドキック争奪戦だなー!!」

 

観客達はヒーローの父を持つ二人の才能に欲しがるヒーロー達が現れ始める中、種目突破を狙う者の中に不審な動きを見せる者がいた。

 

「クソ……!これ以上は無理か!だったらせめて一人でも良い!個性をぶつけてやる!!」

 

その人物はそう言ってがむしゃらに個性を発動、その個性は紫に光る光線の様に飛んで行くと、偶然にも勝己に当たった。

 

当てられた勝己は一瞬、辺りを見渡すも"何も無かった"ので無視して突き進む。

 

がむしゃらに個性を発動した者の名は本音 嘉太郎(ほんね かたろう)

 

彼の個性がどの様な物か……まだ誰も知らない。

 

~side終了~

 

私は妨害を受けながらも轟君を追い掛けていく中、恐らく最後の障害物と思う場所に出た。

 

《先頭が一足抜けて下は団子状態!上位何名が通過するのか公表してねぇから安心せず突き進め!!そして早くも最終関門!!かくしてその実態は~一面地雷原!!!怒りのアフガンだ!!地雷の位置はよく見りゃ分かる仕様になってんぞ!!目と足、酷使しろ!!》

 

「冗談でしょ!?」

 

私は地面が地雷原だと聞いて一度立ち止まると確かに何かが埋められた跡が幾つかある。

 

轟君は迷わず進むけど地雷を気にしないといけない為に動きが鈍い。

 

『何してやがる!お前もとっとと行け!』

 

「分かってるけど流石に全部は避けられないわよ!」

 

『ごちゃごちゃ言うな!後方の他科の連中がお前を追い越して続々と罠に掛かってやがるがAとBの連中なら罠に掛からずに突破するぞ!えぇい!代われ!!』

 

「ちょっと!?」

 

私はアーサーに急に主導権を取られると身体の主導権を握ったアーサーは地雷など御構いなしに突き進んでいく。

 

他の人達が罠に掛かったりする中、アーサーは地雷が簡単に見えてるかの様に避けつつ素早く進んで行き、そのまま轟に並ぼうとしていた。

 

「ッ!?霧先か!いや、お前は霧先の中の奴か……!」

 

「そうさ!待たせたな轟!俺が相手になってやるよ!」

 

アーサーはそう言って走りながら器用に轟君の足を引っ掛け様と蹴りを仕掛けたけど、轟君はそれを飛んで避けるとアーサーに氷の個性をぶつけ様としたけどアーサーが先にナイフを出して轟君に投げ付けて牽制した。

 

《うおぉと!!?此所で霧先が初めて個性をしようした!!個性で生み出されたナイフの投擲して牽制!!》

 

《牽制とは言え、普段の霧先の行動とは思えない過激な牽制だな。これは彼奴が表に出たと言う事だろう。気を引き締めないとすぐに蹴落とされるぞ》

 

放送での解説が鳴り響く中、轟君はナイフを避ける為にバランスを崩しながら地面を転がってしまった。

 

けど、すぐに体勢を立て直してアーサーと並んだ瞬間、そこで後ろから誰がもうスピードで迫る気配を私とアーサーは感じると後ろには。

 

「はっはぁッ!俺は関係ねぇッ!!!」

 

現れたのは爆風を利用して飛んできた勝己で、轟君とアーサーにすぐに追い付いて抜いてしまうと私達に視線を向けた。

 

「てめぇ宣戦布告する相手を間違えてんじゃねぇよ!霧先!俺はてめぇなんかに負けるかよ!!」

 

《激しいトップ争い中、此所で先頭が変わったぁッ!!喜べマスメディア!!お前ら好みの展開だあぁッ!!》

 

「ちッ!やるじゃねぇか!」

 

アーサーはそう言って楽しげに笑う中、勝己の隙を突いて轟君が勝己の腕を掴むと氷せて爆破を封じて飛べなくした。

 

二又から三又の争いになり轟君、勝己、アーサーの三人はラストスパートを仕掛けようとした時、後方から勝己の爆破とは比較にならない大きな爆発音が鳴り響き、上空に猛スピードで飛んでくる出久君が現れた。

 

『何してるの!?』

 

「成る程な……地雷を利用したか……!」

 

『地雷って……この地面の!?』

 

「何処からあんな鉄板を調達したのか何となく分かるが此所まで持ってくるとは大したもんだな。だが、終わりだ」

 

アーサーはそう言って一気に抜かれたけど体勢を立て直すのが困難な状態で落ちていく出久君を抜く為に更に駆け出し、轟君も後続に道を作ってしまうのも躊躇わずに地面を凍らせてスピードを上げ、勝己は勝己で片腕だけでも爆破で飛んでいく。

 

一度落ちれば追い越しは二度と出来ず、出久君に勝ち目は無い。

 

そう思った時、出久君は結んであった紐で鉄板を勢いよく地面に叩き付けると地面の地雷を爆破させてきた。

 

『アーサー!』

 

「ちッ!やるじゃねぇか……!この種目は俺の負けだ!」

 

アーサーがそう言ってまた楽しげに笑うと負けを認めてラストスパートを掛けた。

 

~別視点side~

 

会場は障害物競争の激しい攻防戦に盛り上がる中、遂に一着に着く者が現れた。

 

《さぁさぁ!序盤の展開から誰が予想出来た!?今一番にスタジアムへ還ってきたその男……緑谷出久の存在を!!

 

会場の観客達は大歓声で出久を迎える中、二着には轟、三着には勝己、そして四着にはアーサーもといジルがゴールした。

 

「負けたぜ……!」

 

『健闘した方だと思うわよ。アーサー』

 

「だが、もう少しだったがな。地雷原で足をすくませやがって」

 

『ごめん。私ももう少し、戸惑いなく行ければ』

 

「今は気にしても仕方ないだろう。今は次だ」

 

アーサーはそう言ってジルに身体を返した。

 

一方、観客席ではジルの地雷原での性格の変化と個性に戸惑いを抱く者が多かった。

 

「な、なぁ……あの霧先って子。また性格が変わったよな?」

 

「今度は確かに確認した。あれは何なんだ?二重人格と言う奴か?」

 

「それよりもナイフを出す個性か。別に刃物の個性を使うヒーローの前例が無いわけではないがな……」

 

「性格の変化も踏まえれば扱いはかなり難しいだろうな」

 

観戦していたスカウト目的のヒーロー達はジルに戸惑いを抱き始めるのだった。

 

~side終了~



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雄英体育祭 ~騎馬戦・前編~

雄英体育祭のタイトルの一部を変更しましたm(__)m

書いてたらかなり長くなりそうだったので仕方なく(*´∀`*)

それと……仕事が忙しくなり、投稿がかなり遅れそうです。

続きを楽しみにしていただいている方に大変申し訳なく思います。m(__)m


第一種目を終えた私は汗を腕で拭いながら一息ついていると他の皆もゴールしてきた。

 

その中には前から気合いを入れていた力斗と何故か緋色も突破を果たしていた。

 

「うおぉぉぉぉッ!ゴールだあぁぁぁぁッ!!」

 

「力斗、うるさいぞ」

 

興奮気味に雄叫びを挙げている力斗を横目に緋色はちょっと注意した所で私は二人の所に行く。

 

「お疲れ様。二人共」

 

「ジル!四着だなんて凄いじゃないな!やっぱりヒーロー科は伊達じゃないね」

 

「お、俺だってあの野郎の妨害が無かったらもっと行けたさ!」

 

「強がらなくても良いよ。あの轟って言う奴はとんだ化物だって分かるよ。力量が周りと比べると桁違いだ。ジル。轟ともし、戦う事になるならかなり厳しいものになるよ」

 

「分かってる。それにしても緋色ってヒーローを目指してないのにどうして速めにゴールしたの?」

 

「……うん。実はちょっとした手違いでかな……あはは」

 

緋色はそう言って苦笑いし、私は首を傾げているとヨタヨタとお腹を抑えながらゴールする青山君を見つけた。

 

「お、お腹が痛くなければ抜かれなかったのに……!」

 

「個性を使い過ぎちゃったのね……」

 

『気にするな。彼奴の力量不足さ。失態の責任は彼奴自身にあるのさ』

 

アーサーはそう言うと緋色が何かを誤魔化す様に視線を青山君がいない方に向けている。

 

「(本当に彼の責任?緋色がちょっと怪しいけど?)」

 

『前言撤回だ。緋色の奴、何かしたな』

 

私とアーサーは緋色に向かってジト目で見つめ、緋色は気まずいのか更に視線を反らそうとすると此所で香山先生からの結果発表が行われてた。

 

私は四着だから当然、四位で予選通過は四十二位まで。

 

私を含めて42人が予選通過と言う形で一種目を突破した事になる。

 

「予選通過は上位42名!!!残念ながら落ちちゃった人も安心しなさい!まだ見せ場は用意されてるわ!!そして次からいよいよ本番よ!!此所からは取材陣も白熱してくるよ!気張りなさい!!!」

 

そう言えばマスコミも見てるのよね……テレビに写ってるって何だか恥ずかしい。

 

「さーて!!第二種目よ!!私はもう知ってるけど~~~何かしら!!?言ってる側からコレよ!!!」

 

香山先生が発表した種目は体育祭の定番である騎馬戦だった。

 

騎馬戦は定番中の定番だけど仮にもヒーローの育成校である雄英の騎馬戦。

 

絶対に普通じゃない。

 

「参加者は二~四人のチームを自由に組んで騎馬を作って貰うわ!基本は普通の騎馬戦と同じルールだけど一つ違うのが各自、順位に従い各自にP(ポイント)が割り当てられてること!」

 

「入試みたいなP稼ぎ方式か。分かりやすいぜ」

 

「つまり組み合わせによって、Pが違ってくると!」

 

「あんたら私が喋ってんのにすぐ言うね!!!」

 

皆が香山先生よりも早く言うもんだから先生が少し怒ってしまった事に私は苦笑いする中、香山先生は開き直る様にルールの解説を続ける。

 

「えぇそうよ!そして与えられるPは下から5ずつ!42位から5P。41位が10P……と言った具合よ。そして……1位に与えられるPは1000万!!!

 

えッ……1000万!!?

 

私はそれを聞いて出久君の方を見ると皆とシンクロする様に出久君(1000万)に視線を向けた。

 

『あらま~……こりゃ、1位は取らなくて正解だったかもな』

 

「(出久君……ドンマイ)」

 

私は心の中で密かに出久君に合掌する中、香山先生は告げる。

 

「上に行く者には更なる受難を。雄英に在籍する以上、何度でも聞かされるよ。これぞ"Plus Ultra"!予選通過1位の緑谷出久君!!持ちP1000万!!」

 

あぁ……出久君へのプレッシャーが半端ない程に大きい。

 

でも、そのプレッシャーに臆さないで立ち向かおうとする眼でいる出久君は……かなり手強いわね。

 

『戦略としてはどうだ?1000万を取りに行くか?』

 

「(……止めておきましょう。周りを見て。特にあのすかした顔の子)」

 

私が注目したのは何処にでもいそうだけど、すかした顔でA組の皆を見てる。

 

私とも目があったりもした。

 

それだけじゃない。

 

一部のB組も何だか雰囲気が何処か怪しい。

 

明らかに何か仕掛けてこようとしてるのかもしれない。

 

『成る程な……1000万を罠にした作戦か?』

 

「(だから不用意に近付けない。周りには気を付けないとね……特にB組には。だから私は便乗して周りを狙う方が特だと思うわ)」

 

『お前も悪くなったもんだな』

 

アーサーにそう言われつつ私は皆が熱くなる中、冷静さを失わない様に周りの様子や動きを観察する中、香山先生のルール解説の声が耳に入り、聞き逃さない様に香山先生に視線を向けた。

 

「制限時間は15分。割り当てられたPの合計が騎馬のPとなり、騎手は騎手はそのP数が表示されたハチマキを装着!終了までにハチマキを奪い合い保持Pを競いあうのよ。取ったハチマキは首から上に巻くこと。取りまくれば取りまくる程、管理が大変になるわよ!そして重要なのはハチマキを取られてもアウトにはならないところ!」

 

「(これは……)」

 

『所謂、チーム乱闘だな。面白くなるぞ~。なぁ、ジル』

 

「(……かなり疲れそうね)」

 

この大人数のチーム戦に苦労を感じそうね……誰と組むべきかしらね。

 

「個性発動アリの残虐ファイト!でも……あくまで騎馬戦!!悪質な崩し目的での攻撃などはレッドカード!一発退場とします!それじゃこれより15分!チーム決めの交渉タイムスタートよ!」

 

時間は15分……うかうかしてられない。

 

相澤先生みたく時間は有限、無駄に消費して不利な状況になる前に誰と組むか決めないとね。

 

~別視点side~

 

一方、観客席では盛り上がる観客達の席で座りながら焼き蕎麦を頬張るジャスティスとたこ焼きを一口ずつ静かに食べるレディ・クイックそして、競技内容について考えるジャッジがいた。

 

「編成を間違えたら即、遅れを取る競技だな。一種目の蹴落とし合いとは違って今度は協力し合って勝たなきゃならない」

 

「まぁな。一種目は俺の価値観だが治安維持に蹴落とし合いなんて下らない事はして欲しくはないが……協力は必要不可欠だ。んめぇな焼き蕎麦」

 

「個性は基本的に個人に一つ。効果によっては有利、不利が決まりますからね。人と人の組み合わせ、個性と個性の組み合わせ。どちらか、或いは両方を得てこそヒーローのチームは成り立ちますからね。……あつ」

 

「と言うより喋るか食うかどちらかにしてくれ」

 

「お前も焼き蕎麦食うか?」

 

「秋人。ほら、たこ焼き」

 

上司のジャスティスと同僚のレディ・クイックの呑気な観戦に有能な人材を把握しつつ唾を着けておきたいと言うジャッジの考えを他所にする二人にジャッジは溜め息をつくとジャスティスは焼き蕎麦を飲み込むと真剣な表情を見せる。  

 

「まぁ、スカウトも熱心だがな……本当の目的を忘れるなよ?」

 

「分かっていますよ。貴方の因縁を此所で終わらせてやります」

 

「この事件が片付けば次はヴィラン連合ですね。今は火種は小さいですが組織化されつつあるなら潰さないと大変な事になります」

 

「慌てるなクイック。今は目の前の仕事をやるぞ。それにしてもエンデヴァーの奴、何処に行った?折角、腹拵えの焼き蕎麦とかたこ焼きを買ってきてやったのによ」

 

ジャスティスは来る筈だったエンデヴァーがいない事に不満を抱き、探す為に立ち上がった。

 

その頃、エンデヴァーはある人物と対峙していた。

 

「ッ!?お前は……!」

 

「……お久しぶりです。エンデヴァーさん」

 

エンデヴァーが対峙したその人物……それは記者の広瀬綾乃だった。

 

~side終了~

 

私はとても困惑した状況になっていた。

 

とても空が青いぁ~……なんて考えながら空を見る中、私の前にいる。

 

「ジルは俺と組むんだよ!このクソ生意気女!!」

 

「いいや!ジルと組むのは僕が相応しい!黙っててくれないかな口悪爆発男君!!」

 

勝己と緋色の二人が私を巡って大喧嘩してるなんて私、知ーらない。

 

『おい!良い加減、現実見て止めろよ!早くチームを決めねぇと失格だと言われてもおかしくないぞ!』

 

「(でもこの二人の喧嘩……)」

 

「俺だぁッ!!」

 

「僕だよ!!」

 

途轍もなく怖い……  

 

お願いだから止めてよ……何で私の為にそこまで熱くなるのよ。

 

と言うか緋色は兎も角、何で勝己が張り合ってるのよ?

 

私の事が"嫌い"なんでしょ?

 

『……クソ鈍感め』

 

「(え?何で?)」

 

私は何でアーサーに悪態をつかれたのか分からずにいると流石に香山先生が間に入ってきた。

 

「ストープ!!!良い加減なさい!!全く……決められないのなら一つよ。そう……ジャンケンよ!!」

 

香山先生……そう言う事じゃない。

 

喧嘩を止めて欲しいのに喧嘩のルールを作ってどうするのよ。

 

「ふん!そう言う事なら白黒ハッキリさせてあげるよ。ジャンケンでね」

 

「ジャンケンだと!?ふざけんな!俺が最初に」

 

「ふーん。怖いんだぁ~。僕に負けちゃうのが嫌だから逃げるんだぁ~。あんなに威勢よく選手宣誓したのになさけないねぇ~サッサと退場すればぁ~?」

 

「んだとぉッ!!やってやるよゴラァッ!!」

 

「あの……私の意思は?」

 

もはや私の意思関係なく二人の熱いジャンケンが始まる中、香山先生も熱くなってジャンケンを見守ってしまい、私は溜め息をつきつつ離れると目の前に写る人物を見て私は閃いた。

______

____

__

 

15分が経過し、私は自分のチームを作る事が出来た。

 

「さぁ、行くわよ。峰田君!」

 

「うへ、うへへへへ!まさか誘われるとは思わなかったぜ!」

 

チームメンバーは私と峰田君……のみ。

 

ルールには最低二人までが騎馬だと認識されるから問題無い。

 

「ジルさん!本当によろしいのですか!?」

 

「何でよりによって峰田!?」

 

「しかも二人だし!?」

 

A組女子一同に何故か驚きの声が挙がるけどこれには理由がある。

 

私の個性はナイフを出すだけで使っても下手すると相手を傷つけてしまう。

 

素手での格闘は騎馬戦で騎手でも馬役でもやるのは難しい……けど、峰田君の身長なら背中に背負えるし、それに峯田君の個性は足止めに非常に有用。

 

性格は変だけど組んでも損はない良い人材だと思うんだけど……?

 

『こいつの日頃の行いを見てないのか?生粋の変態だぞ?』

 

「(思春期なんだからそれくらい良いでしょ?)」

 

『度が過ぎてんだよ。隙あらば胸とか触ってくるとか蛙吹が言っていたぞ』

 

「(胸くらいどうって事はないわ)」

 

『おい。仮にも女なんだからそれは気にしろよ』

 

アーサーは口煩いけど既にチーム決めの時間は終わってる。

 

後は開始を待つだけなのよ。

 

「峰田君。全力で私に捕まっててよ。振り落とすかもしれないから」

 

「うへへ……え?」

 

「前提条件として私は全速力で移動して各チームを迎撃しつつハチマキを奪うわ。峯田君は私の指示があればモギモギを出して。ナイフに装着させれば私でも投げれるかもしれないわね……ぶっつけ本番でやるわよ」

 

「え?え……マジで?」

 

何を戸惑ってるのか知らないけど峰田君には頑張って貰わないと私も本領を発揮し辛くなる。

 

《よぉーし組終わったな!!?準備は良いかなんて聞かねぇぞ!!いくぜ!!残虐バトルロイヤルカウントダウン!!》  

 

山田先生のカウントダウンが始まる中、私は深呼吸して精神を落ち着かせると……"最初の獲物"を見定めた。

 

《START!》

 

「行くわよ!!」

 

『気張って行けよジル!!』

 

私は合図と一緒に駆け出して行く中、殆どのチームは出久君の1000万に向かって行くのを確認しつつ、私は1000万を取りに行くフリをしつつ他のチームからハチマキを奪う隙を伺う。

 

「うおぉぉぉぉッ!?」

 

『うるせぇぞ峰田!!』

 

峰田君は峰田君で興奮してるのか凄い声を出しながら私に懸命に掴んでくれてる。

 

私は目の前にいる何か荒々しい人が騎手を努めてるチームが争奪に夢中になってる隙にハチマキを横盗った。

 

「あぁッ!?テメェは!!」

 

「ごめんなさいね」

 

私はそう言ってから全速力で戦線離脱して峰田君にハチマキを渡して巻かせてから次を狙う。

 

~別視点side~

 

ジルが他チーム狩りを始める中、その姿を見た他のチームは後方から隙を突いて攻め立ててくるジルを厄介に思っていた。

 

「クソ!どさくさに紛れてハチマキを取りやがった!」

 

「1000万は後だ!ハチマキを取り返しに行くぞ鉄哲!」

 

ジルに序盤からハチマキを奪われた鉄哲チームは今は1000万のハチマキを諦めてジルから自分達のハチマキを奪回するべく狙いを定めた。

 

一方、その様子を見ていたB組の物間は他のA組とは違う動きを見せたジルに驚きを見せつつ誤差の範囲だと考えていた。

 

「1000万を狙いに行ったA組からハチマキを奪おうと思っていたんだけどなぁ~。まさか一人だけ別行動を取るなんて思わなかったよ」

 

「なぁ、物間。もしかしたら彼奴に作戦を見抜かれてたんじゃないのか?」

 

「まさか。そこまで鋭くないだろ。誤差の範囲だよ」

 

物間はそう言ってまだ余裕があると考えていた。

 

だが、その余裕はすぐに崩された。

 

「誤差ではないわ」

 

「……は?」

 

物間は気づいた時にはハチマキを奪われており、その近くにはジルがハチマキを奪いつつ横に立っていた。

 

「何を考えてるのか知らないけどね。下手な作戦なんて考えてる暇があるなら……サッサと掛かってきなさいよ。何時でも相手になるから」

 

「待てや!クソ!一人おぶってやがるのになんて足をしてやがるんだ!!」

 

ジルにそう煽られ、立ち去られる中、鉄哲チームがジルを追い掛けていくのを見るとすぐに思考を戻すと。

 

「……やってやるよ」 

 

「物間……?」

 

「追え!彼奴を!僕は人を煽るが人から煽られるのは我慢できない!何としても鼻を明かしてやるんだ!!」

 

ジルから煽りとも取れる言葉によって物間は怒りに任せて指示すると鉄哲同様にジルの追跡を始めた。

 

~side終了~

 

私は追い掛けてくる二チームを他所に駆け続けた。

 

個人ならいざ知らず、チームを組んで尚且つ騎馬の状態なら速度では私の敵じゃない。

 

私はポイントを稼ぎつつ逃げる中、私を狙ってくるB組やA組の皆からの妨害や奪取を避ける為に飛んだり、躱したり、騎馬の下の間をスライディングして通り抜けたりした。

 

「ひえぇぇぇぇぇッ!!?」

 

峰田君の悲鳴が響くけどやっぱり、私が此所まで行動するのは怖いのかな?

 

『だからうるせぇ!ジル!この変態を黙らせろ!』

 

「無茶言わないでよ……」

 

私の一人の行動に付き合ってくれてるんだから我慢して欲しいって思いつつ峰田君に指示する。

 

「峰田君!モギモギを出して!」

 

「え?お、おう!」

 

峰田君がモギモギを手にするのを確認した私はナイフを出してモギモギに突き刺せるか分からないまま試して見ると意外にも出来てしまった。

 

次の実験はそのモギモギナイフを投げつけて引っ付くかどうかね。

 

私はモギモギナイフを後方から追ってくるすかした顔の彼奴のチームの足元に投げつけると……

 

実験は成功した。

 

モギモギの効力は残ってあり、チームの騎馬の一人が足を取られてスッコロンでしまうと騎馬全体が崩れてそのまま、すかした顔の彼奴は顔面から地面に叩き付けられた。

 

《おォと!!?霧先チーム!此所で連携技で物間チームを崩したぁッ!!》

 

《峰田の個性、モギモギの粘着力に霧先の投擲力。これが合わさればかなり厄介なチームだな。霧先の機動力を重視したチーム編成で他のチームの騎馬は追い付けない中で強力な足止め。霧先を追い掛けて追い詰めるのは至難の技だろう。だが、それはあくまでも霧先が攻勢に転じなければの話だがな》

 

相澤先生の解説を他所に私は逃走、妨害を繰り返して隙を狙う中、私の視線に出久君達の姿を捉えた。

 

出久君達のチームが対峙しているのは轟君のチームと勝己のチームで、激しい攻防戦が繰り広げられている。

 

『ジル。お前は参加しないのか?』

 

「1000万争奪戦に?」

 

『そうだ。上を目指すならあえて困難な道を進めば良いさ。出来るだろ?』

 

「……ふふ、そうね。掴まって峰田君!」

 

「えッ!?ま、まさかあの中にいくのかよ!?」

 

アーサーのその言葉に私は笑ってしまうと激戦を繰り広げる出久君達の所へ突っ込んだ。

 

 



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雄英体育祭 ~騎馬戦・後編~

私は激戦を繰り広げる出久君、轟君、勝己の三チームに向かって行くと私に気付いた轟君が氷の壁を作って妨害を仕掛けてきた。

 

確かに壁を作ってしまえば迂回させる時間が出来るけど。

 

「舐めないで貰えるかしらね!」

 

私はナイフを手にすると氷の壁に投げつけて突き刺すと、そのナイフを足場にして一気に飛んで見せるとそのまま地面に着地した。

 

「ジル!?」

 

「ちッ……やっぱりあの程度じゃ止まらねぇよな」

 

「……化物か」

 

出久君は驚いて、勝己は止められない事を予想して舌打ち、轟君には化物扱いされた。

 

後でお話しようね轟君。

 

私だって女の子だから傷つくのよ。

 

「ナイフしか使えない女だけどね。貴方達には負けないわよ?」

 

「はッ!寝言は寝てから言えや!」

 

「手加減はしねぇぞ!」

 

各々、言い合うと私と勝己、轟君で妨害しつつ1000万を奪いあう戦いが此所に始まった。

 

~別視点side~

 

一方、三人もとい三チームの乱戦が確定し、巻き込まれた出久チームは全力で逃げの一手を打ち続ける。

 

「勝っちゃんや轟君だけじゃなくてジルまで来るなんて!」

 

「霧先さん逃げ切れば突破確定してるのに!」

 

「霧先にも向上意欲があるのだろう。それが本人の意思か、中にいる者の囁きか、両方か」

 

「ヒーロー科って大変ですね!私のベイビー達が壊れない事を祈りますよ!」

 

出久達は三人の猛者達の猛攻の中、何としてでも逃げ切ってやるとばかりに気合いを入れていく。

 

その頃、その様子をカメラで何度も修める綾乃の姿があった。

 

ヒーローを目指す為に競いあうその姿に綾乃は微笑みながら。

 

「……下らない」

 

そう静かに罵倒した。

 

綾乃にとってヒーローが何故、競い合うのか理解しがたいものだった。

 

確かにヒーローの活躍はある意味では奪い合いであり、活躍は収益に繋がる以上は協力はするが基本的には手柄の奪い合いだ。

 

ヒーローは人を助けるべき存在である筈なのに競う事を促すこの体育祭や教育に綾乃は気分を害するばかりだった。

 

綾乃は適当に写真を撮る中、スマフォが鳴り、観客席から離れて人通りの無い場所へと来るとスマフォの電話に出た。

 

「はい。広瀬ですが?」

 

《広瀬さん。すみません、天晴です》

 

「天晴さん?どうしました?」

 

《実は一緒に体育祭を観戦しようと言う話なんですが……仕事が長引きそうで今回は見送るしかないみたいで……すみません。せっかくのお誘いの筈ですが》

 

「……いいえ。分かりました。気にしませんよ。また、来年見ましょう。弟の活躍を一緒に」

 

《はい。すみませんでした。それではまた》

 

その言葉を最後に天晴からの電話が切れると綾乃は電話の切れたスマフォを見つめながら涙を流した。

 

「馬鹿な人ですね……」

 

仕事よりも、自分を選んで欲しかった。

 

その本心が見え隠れする中、綾乃は観戦に戻って行った。

 

~side終了~

 

爆破、氷の二つの力が入り乱れる戦場と化した会場を出久君達は上手く立ち回り、私もそれを避けて出久君を追い掛ける。

 

「ひょえぇぇぇぇぇッ!!?む、むむむ無茶苦茶だぞ!き、ききききり、き霧先!!?」  

 

「良いからしっかり掴まってハチマキを守りなさい!!」

 

情けない声を挙げる峰田君を他所に私は出久君に飛び掛かろうとするとそこで勝己からの妨害があった。

 

「抜け駆けはさせねぇぞ!」

 

「邪魔なのよ!この馬勝己!」

 

私は妨害を仕掛けてくる勝己にそう言ってやると今度は氷が勢いよく迫ってきてそのまま通り過ぎると道を塞ぐ様に展開された。

 

「これ以上は進ませない」

 

「……本当、強力な個性が羨ましくなるわね」

 

『んなもん。羨ましがる事はない。お前にはお前なりのやり方と力があるだろ?』

 

「(そうね)」  

 

私はナイフを手にすると勝己と轟君に向かっていく。

 

邪魔をするなら先に倒すまで。

 

私は牽制にナイフを投擲して勝己達に飛び掛かろうとしたけど片足が上がらなかった。

 

私は足元を見ると片足がテープの様な何かに引っ付いてしまっていた。

 

「へへッ!俺達がいるのを忘れるなよ!」

 

テープの様な個性……瀬呂君の個性ね!

 

私は自分の迂闊さについ、舌打ちをしてしまうと靴を脱ぎ捨てて脱出した。

 

騎馬だったからこそ成せる行為……騎手だったら靴なんて履いてないから大変だったわ。

 

「予想はしてたが行動早いな!?」

 

「たっりまえだ!彼奴は頭の回転だけ速ぇんだよ!一度意表を突いたからって油断してっと逆に足元すくわれんぞ!」

 

「爆豪!前!前!!」

 

ありがとう勝己。

 

貴方が一瞬でも余所見をしてくれたから私は貴方の爆破の反撃を許さない距離まで迫れた。  

 

私は一気に距離を詰めて勝己に飛び掛かってハチマキ奪おうとするけだ勝己はそれを避けた。

 

私は地面に着地してもう一度と思った時、体勢を崩したのか切島君、芦戸さん、瀬呂君の三人が必死に落ちそうになる勝己を支える姿と私の方にそのまま倒れてくる勝己がいて……

 

崩れなかったけど、そのまま勝己の顔が私の胸に収まった。

 

「ッ!!!?!?」

 

私は声にならない悲鳴を挙げた後、勝己は勢いよく体を起こしたのを私は見ると私は怒りに任せて飛び上がって。

 

「この変態!!!」

 

「ぶふぉッ!!?」

 

力一杯に勝己にビンタしてやった。  

 

「わぁ……痛そう……」

 

『合掌だな』

 

峰田君とアーサーは勝己に同情的だけど事故とは言え、私の胸に顔を埋めるってどういうつもりなのかと思えば一発くらい許してほしいわ。

 

私は勝己に怒りを見せつつ、勝己達も臨戦態勢に入った時、会場が盛り上がった。

 

私は出久君達を見るとハチマキが轟君に取られていた。 

 

それを見た私は駆け出すと勝己達も続いていく。

 

「「抜け駆けするなぁッ!!」」

 

私達が轟君に迫る中、出久君達も取り戻す為に轟君為に迫る。

 

時間がもう無い中、私は必死に轟君に向かうけど先に行ったのは近くにいた出久君で個性を応用したのか轟君の防御を崩してハチマキを取り返した。

 

『いや、まだだ!あれはダミーだ!1000万はまだ轟が持ってやがるぞ!』

 

「抜かり無しって事ね……!」

 

私は最後の最後まで追い付けないまま……

 

《TIMES UP!》

 

制限時間が来てしまった。

 

《早速、上位五チームを見てみよか!!一位轟チーム!!二位爆豪チーム!!三位霧先チーム!!四位心操チーム!!》

 

「結局、出久君達は……」

 

1000万を取り返せずに終わり、出久君の反応を見る限り、ポイントも通過する程ではないのか悔しそうにしている。

 

勝負とは言え、いたたまれない気持ちになる私を他所にアーサーは出久君達を見ていると思えば笑った。

 

『ジル。彼奴の選んだ人選は間違いじゃなかったらしいぜ』

 

「え?」

 

私はそれを聞いた時、出久君のチームの一人の常闇君がいつの間にかハチマキを手にしていて、それに書かれていたポイントは1000万に比べれば安いものだけどそれでも通過は充分な物だった。

 

《五位緑谷チーム!!以上が最終種目へ……進出だあぁーーーーー!!》

 

私はそれを聞いて少し安心すると同時に出久君が昔の様な弱気な人じゃない事に考えさせられる気分だった。

 

彼はもう侮れる様な相手じゃない。

 

次にぶつかる可能性があるなら私は手加減はしたりしない。

 

「も、もう……懲り々だぜ……ガクッ」

 

「あ、忘れてた……ちょっと峰田君。こんな所で寝ないで」

 

『やれやれだな。全く』

 

峰田君が騎馬戦の疲れなのか寝てしまい、私が困る姿を見てくるアーサーに呆れられてしまったけど……私、何かした?



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雄英体育祭 ~レクリエーション~

騎馬戦を終えた私は一時間の昼休憩に入る為に皆と移動していた。

 

「悔しいわ。三奈ちゃんおめでとう」

 

「爆豪。轟の氷対策で私を入れてくれてただけで実力に見合ってんのか分かんないよ」

 

「飯田君。あんな超必持ってたのズルイや!」 

 

「ズルとは何だ!!あれは只の誤った使用法だ!」

 

「そう言えば霧先のアレってスゲェを通り越してホラーだったよな~。急に出てくるわ。飛び込んでくるわで」

 

「何よホラーって。私は自分の戦いやすいチームを考えて選んだだけよ」 

 

「オイラは流石にもうごめんだぜ……」

 

皆で各々の騎馬戦での立ち回りや活躍を話し合いながら食堂へと向かっていた時、前から嫌な奴の顔が見えた。

 

「彼奴は……!」

 

「どうしたん?」

 

「え?あれ誰?」

 

「広瀬さん!」

 

皆が興味津々な中、先に切り出したのは飯田君だった。

 

「あら、久しぶりね天哉君」

 

「いいえ!兄がいつもお世話になっております!」

 

飯田君の反応からすると綾乃さんとは知り合いなのか親しげに話す中、綾乃さんは私に視線を向けた様な気がした。

 

『やれやれ。また胡散臭い彼奴と会っちまったな』 

 

「(予想はしていたわ。何しろ記者だもの。体育祭の取材に来ていてもおかしくない。それにしても飯田君と知り合いだったなんてね……それも親しげな感じで)」

 

私は綾乃さんが何を企んでいるのか分からない中、綾乃さんはカメラを取り出して見せた。

 

「私は広瀬綾乃です。記者をしているのですが将来性のあるヒーローの卵達のお写真を一枚欲しくて許可貰って来ちゃいました。そう言う事で一枚良いですか?」

 

「き、記者さん!?」

 

「おぉ、スゲェ!俺達、記事に載るのか!?」

 

皆が大興奮の中、私は綾乃さんに警戒の色を見せる中、私はいつの間にか話しが進んで皆に引っ張られる形で並ぶと綾乃さんは難色を示した様な顔を見せた。

 

「皆さん。全員、お揃いではありませんね?」

 

「あ、そう言えば緑谷君と轟君がいない」

 

「爆豪さんもですわ」

 

皆が三人がいない事に話し始めると綾乃さんは残念そうにカメラをしまった。

 

「それは残念です。皆さんの揃った写真が欲しかったので残念ですがお見送りさせて頂きます」

 

「えぇ!?」

 

「そんな~!」

 

芦戸さんと葉隠さんは不満げに言い、それに続く様に皆も残念そうにしていた。

 

「ですが。もし、体育祭が終わって皆さんがそろそろいたらお写真を取らせて頂きます。それなら如何ですか?」

 

「うーん……それなら良いかな」

 

「まぁ、揃っていたらの話しだけど」

 

「今度は欠けさせねぇぜ!あの三人にはキツく言っておくから待っていてくれ!」

 

「ふふ、待ってますよ。それではまた」

 

皆がそれで納得し終えると綾乃さんは軽く手を振ってその場から去ってしまい、私は彼女が何をしたかったのかよく分からなかった。

 

「(何をしに来たのかしら?)」

 

『そりゃ、唾を付けに来たんだろう。ヒーロー嫌いの彼奴も記者なら将来、指折りのヒーローになる可能性のあるこいつらと関係を構築しておこうと来たんだろう。三人が欠けた状態で集合写真を撮らなかったのも不満を出させない為だし、何より注目のある三人を省くなんてしたくなかったんだろうぜ』  

 

「(つまりは仕事で近づいただけって事で良いのよね?)」

 

『それで良いだろう。別にお前に何かしようとするメリットも無いしな。ほら、早く飯を食いに行け。俺も腹を共有してんだ。一緒に腹ペコなんてゴメンだ』

 

「(はいはい。分かってるわよ)」

 

私はアーサーに促される様に私は昼食を取る為に皆と食堂へと再び歩いて行った。

_______

____

__

 

昼食を終え、私は憂鬱な気分になりながら会場へと出ようとしている。

 

『お、おい……大丈夫か?いや、駄目だ。笑っちまう……ぶっははは!』

 

「うぅッ……!ほ、本当なのよね……この服装で応援合戦って……!」

 

「あ、あのお二人の事ですからね……しかし、相澤先生が言っていたと言うのが本当なら……」

 

八百万さんの言葉に私は深い溜め息を吐きながら覚悟を決めて会場の外に出ると。

 

《最終種目発表の前に予選落ちの皆へ朗報だ!あくまで体育祭!ちゃんと全員参加のレクリエーション種目も用意してんのさ!本場アメリカからチアリーダーも呼んで一層盛り上げ……どうしたA組!!?

 

案の定、服装についてツッコまれた。

 

今の服装はジャージではなく、おへそやら太股やら露出したチアリーダーの格好をしている。

 

それはA組女子だけで他の組は普通にジャージである事かは峰田君と上鳴君に騙されたのは間違いなかった。

 

「峰田さん上鳴さん!!騙しましたわね!?」

 

八百万が手にしているポンポンを振りながら怒る中、私は恥ずかしくて押さえの無い胸を右腕で隠して短いスカートを左腕で押さえながら二人を信じた事を事を後悔する。

 

「うぅ……恥ずかしい……!」

 

「ジルちゃん。それじゃあ余計に目立っちゃうわよ」

 

梅雨ちゃんに指摘されるけど流石に堂々と立っていられない。

 

私は恥ずかしい気持ちを怒りに変えて叫ぶ。

 

「相澤先生!峰田君と上鳴君に騙されました!!」

 

「「ちょッ!?」」

 

《峰田、上鳴。後で俺の所まで来るように》

 

「霧先さん。ナイス」

 

私の告発に耳郎さんはサムズアップしてくれると私は気持ちが落ち着いて諦めてチアをする覚悟を決めた。

 

~別視点side~

 

ジルがチアをする覚悟を決めたその頃、ジルのチアリーダーの姿をガン見する者がいた。

 

「ち、チア……リーダー……!?」

 

この男、勝己である。

 

この男も腐っても思春期の男子である以上、好意を寄せている女子のチアリーダーの衣装を着ていたりしていたらどうなるのか?

 

答えは簡単。

 

とてつもなく赤面して固まる。

 

「爆豪の奴、ジル見て固まってるぞ」

 

「そっとしといてやれ。男なら誰でも固まるさ」

 

砂藤が勝己が固まっている事に気付くも瀬呂が気を遣ってそっとしとく様に言ったと言う。

 

因みにもう一人挙げると緋色がジルのチアリーダー姿を見た瞬間、目に止まらない速さでスマフォを取り出すと写真を連写する形で勢いよく撮っていた。

 

「し、神速?」

 

「うん?何だい力斗?」

 

「いや、確かに珍しいけどよ……そんなに撮ってやらなくても……」

 

「永久保存しておきたいんだ。ジルに黙っておいてくれるかい?」

 

緋色の黒い笑みに力斗は堪らず何回も首を縦に振ると、緋色は満足げにジルの恥ずかしそうにするチアリーダー姿の写真を一枚ずつ眺めていく。

 

~side終了~

 

チアリーダー騒動の後、私達はレクリエーションの大玉転がしや借り物競争を楽しく行った。

 

大玉転がしで派手に転んだ人達や借り物競争で変な物を借りなきゃいけなくなった不運な人達がいたりしたけど競いあいを一時忘れて皆で楽しく遊んだ。

 

因みに私はチアリーダーとして騙された皆と一緒にチアリーダーの真似事をしながら応援してた。

 

……とても恥ずかしい。

 

『普通に上手いなお前。本当に初心者か?』

 

「(う、うるさい!無駄に体の動きが良いだけよ!)」

 

私は自分の身体能力が高いせいで何て言うか……本物のチアリーダーみたいな動きが出来てしまい、芦戸さんと葉隠さんの三人でチアリーダーの大技まで決めてしまう始末だった。

 

パンツ見えなかったわよね?

 

《スゲェッ!!?霧先、芦戸、葉隠の三人は本当に素人なのか!?本場から来たチアリーダー達をさし終えて大技もご丁寧に披露してるじゃねぇか!!?》

 

《まぁ、仮にもヒーロー科だからな。鍛えてる分、すんなり動けるんだろう》

 

レクリエーションの途中で私達の実況や解説まで流れてる……お願い、これ以上は注目しないで。

 

「ほらほらジル!次の技だよ!」

 

「もっと楽しもうよ!」  

 

ノリノリな二人に私は根負けし続ける中、私はレクリエーションを行う前の事を思い返した。

 

尾白君とB組の庄田君そして、緋色が突然の辞退を申し出たのだ。

 

緋色は理由としてはヒーローになるつもりがないのに勝ち上がり過ぎてしまい本気でヒーローを目指している人達に失礼だからと言う理由で譲る形でだけど尾白君と庄田君は奇妙な理由だった。

 

"記憶が曖昧で訳が分からない"からと"何もしていない"からととても奇妙な物で、その原因があるかもしれないと言う人物は普通科の心操君と指していた。

 

とても奇妙な二人の棄権理由によって鉄哲、塩崎そして拳藤が上がってきた。

 

力斗は残念だけど勝ち越しじゃなかった。

 

順位的にも繰り上がりは無いに等しい所だったし、悔しがってたけど今は心操君を全力で応援してる。

 

「行くよジル!」

 

「はいはい……とことん付き合ってあげるわよ」

 

まぁ、考える前に取り敢えずチアに専念しましょう……恥ずかしい。



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雄英体育祭 ~トーナメント 前編~

レクリエーションも終わって体育祭はいよいよ終盤。

 

一対一のガチバトルつまり、模擬戦と言う事になる。

 

この種目は訓練を受けているヒーロー科の皆が圧倒的に有利だけどね心操君って人は大丈夫なのかな?

 

相手は出久君。

 

デメリットがかなり大きい個性だけどまともに攻撃されたら確実に場外に追い出されるのは目に見えている。

 

『相手の心配よりも自分の心配をしな。お前の相手は確か……』

 

「(芦戸さんよ。酸の個性はかなり厄介だわ)」

 

「よろしくねジル。手加減はしないよ」 

 

「うん。此方こそよろしく。芦戸さん」

 

芦戸さんと軽いやり取りをすると観戦が響くと同時に私はステージを見れば初戦の試合の組み合わせである出久君と心操君の対決を見る。

 

《色々やってきましたが!!結局これだぜガチンコ勝負!!頼れるのは己のみ!ヒーローでなくともそんな場面ばっかりだ!わかるよな!!心・技・体に知恵知識!!総動員して駆け上がれ!!》

 

山田先生のその言葉に歓声は更に大きく響く中、ステージが完成すると出久君と心操君の二人が入場した。

 

「大丈夫かな……?」

 

「だ、大丈夫だよ!デク君ならきっと勝つよ!」

 

「確かに心操君がどうやって勝ち上がったのか分からないが実力と言うなら緑谷君が上回っている筈だ」

 

「いや、そうじゃなくて。聞いちゃったから……」

 

「「え?」」

 

麗日さんと飯田君が言いたい事は分かるけど……私は緋色から昼休みの時にこっそり呼び出されて聞いてしまった。

 

「心操の個性は洗脳。自らの問いかけに反応した奴を操る個性だ。対策は簡単だ。単に返答しなければ彼は無力だ。口を閉じておく事だ」

 

「洗脳……!?いや、駄目じゃない緋色!今は体育祭の真っ最中なのよ!他人の弱点を教えるなんて!」

 

「彼に勝たれるのは僕には……僕達には都合が悪いんだ……勝手で悪いんだけど心操には負けて欲しいんだ。心配しなくても彼の評価は落ちやしないさ。ただ……これ以上に評価が上がってヒーローになる可能性を少しでも潰しておきたいんだ」

 

「緋色……?」

 

あの時、私が見た緋色は何処か怖かった。

 

同じ学校に通う友人の雰囲気ではなく、まるで暗い闇に蔓延る存在……そう、まるで。

 

ヴィランだった

 

出久君も緋色から個性を教えられたのかな……もしかしてこの種目に出る全員に?

 

私は拭えない不安を余所に進んでいく。

 

《一回戦!!成績の割に何だその顔!ヒーロー科、緑谷出久!!対、ごめんまだ目立つ活躍無し!普通科、心操人使!!》

 

周りからの歓声が響く中、私は不安な面持ちで二人を見守る中、山田先生がルール説明を一通りした後。

 

《レディィィィィイSTART!!》

 

山田先生からの開始の合図が叫ばれた。

 

試合が始まってから二人の状況は……。

 

「出久君……!」

 

『やられたか』

 

《オイオイどうした!大事な初戦だ盛り上げてくれよ!?緑谷開始早々、機能停止!?》

 

出久君は心操君に何を言われたのか動かなくなってしまい、このままだと緋色の言っていた通り、操られて場外負けにされてしまう。

 

『成る程な。これは怖い。とんでもない初見殺しだな。俺でも知らないで迂闊に答えたりしたら負けるな』

 

「(出久君……貴方が簡単に負けるとは思えないけどこれは流石に)」

 

私は心操君の個性によって操られてしまった出久君はそのまま後ろの場外へ歩き出した。

 

『成す術無しか……彼奴にしたらよく頑張ったと言った所だったな』

 

「(彼は負けないわよ。そうよね出久君)」  

 

『だけどあれをどうすんだよ?他人の手を借りないと目が覚めない筈だ。だが、これは個人戦。チーム戦でないなら心操の方が一歩勝っただけだ』

 

アーサーから既に負け判定を貰ってしまっている出久君だけど彼なら必ず戦況を打開する。

 

私はそう信じながら見守る中、突然、出久君の周りに強烈な風圧が起きた。

 

「……やった!」

 

『おい、あの土壇場でか?』

 

《これは……緑谷!!止まったああ!!?》

 

目覚めて良かったけど……何て無茶をするの全く!

 

それしかなくても指を負傷させるなんて……もう。

 

『何て奴だ……これはお前がナイフを突き立てる気を出して負傷させても止まりやしないぞ。神経死んでるのか?』

 

「(少なくとも神経は死んでなさそうよ。痛そうにしてるから)」

 

指を負傷させる無茶で状況は打開した出久君はそのまま心操君に向かって行き、心操君も口を開かせる為に何度も挑発してるのか何度も喋っている。

 

『形勢逆転か。こうなったら能力で勝る出久に心操が勝てる見込みはない。しっかし、心操と心操だ。心の底から本気でヒーローになりたいのなら一辺倒で戦うんじゃねぇよ』  

 

「(無茶よアーサー。出久君はあれでも体術は得意なのよ。投げ飛ばされて終わりよ)」

 

『それでもだ。自分の力が通じないなら最後の最後まで力を出しきって自分の出せる別の手を使うべきだ。ヒーローは一芸だけじゃ勤まらないって教えられただろ?』

 

アーサーのその言葉に私は納得して視線を戻した時、出久君が心操君を掴んで殴られても、逆に押し出されそうになっても、諦めずに勢いよく投げ飛ばして場外を取った。

 

「心操君、場外!!緑谷君、二回戦進出!!」

 

香山先生からのそう判定の結果を受け、観客達からの歓声が嵐の様に沸き上がった。

 

「(出久君が勝てたのは良かったけど……心操君の事を思うと残念に思うわね)」

 

『そうだな。俺にすら背筋を凍らせた様な個性だ。ヴィランになっても不自由しなさそうだがそれでもヒーローを目指した彼奴の事を考えれば勿体ないな。まぁ、その言葉を言いたいのは俺達だけでもなさそうだがな』

 

アーサーのその言葉に私はヒーロー達のいる観客席を見てみれば心操君の事を称賛するヒーロー達でいっぱいでヒーロー科でない事を惜しまれていた。

 

『彼奴は必ず登ってくる。追い付かれても追い抜かれるなよ?』

 

「(言われなくても)」

 

私はそう言って頷くと二人の健闘を称えながら徐々に迫る自分の戦いをどう切り抜けるのか考えないとならなくなった。 

 

誰も侮れないし、負けるかもしれない。

 

でも、誰にも譲れない。

 

私だって、ヒーローになりたいから。



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雄英体育祭 ~トーナメント 中編~

出久君対心操君の試合が出久君の勝利で終わってからB組の塩崎さんと上鳴君の試合だけど……

 

《瞬殺!!あえてもう一度言おう!瞬・殺!!!》

 

それはもう綺麗な瞬殺だった。

 

あえて言うなら上鳴君が技を使い過ぎて阿保になるとそのまま塩崎さんの茨の拘束を受けてしまった。

 

「(これは……なんて言えば……?)」

 

『言ってやるな。言ってやらない事も優しさだぞ』

 

「(そうね。と言うか出久君。観察するのは良いけどブツブツうるさいから止めてくれないかな?)」

 

『いや、それは口に出せよ』

 

あまりの早い決着に私は唖然としてからの出久君の悪癖に呆れつつ二人の退場を見守り終えると次の試合、飯田君とサポート科で出久君と同じチームだった発目さんの対決だった。

 

発明さんはサポートアイテムをフル装備しているのは当然だけど飯田君……貴方までフル装備なのはなんで!?

 

暫くして結局の所、飯田君は発目さんから切り出された対等な勝負と言う言葉に言いくるめられたみたい。

 

だって……

 

「もう言うなら残す事はありません!!」

 

「騙したなあぁぁぁッ!!!」

 

試合は発目さんが適当に飯田君から逃げつつ自分の作品のサポートアイテムを紹介してから場外負け、もはやコントとしか思えない二人のやり取りを始めたらのを見たらそうとしか思えないもの。

 

「飯田君の真面目だからね……」

 

『やれやれ。真面目なのは良いが少しは人を疑う事も覚えろと言ってやりたいな。良い様に宣伝の手伝いをさせやれやがって』

 

アーサーは飯田君に厳しく言いつつも何処か懐かしそうな笑みを浮かべる姿に私は首を傾げているとアーサーは私を見た。

 

『ジル。お前もだ。真面目なのは結構。人を疑わず、信じるのも結構。だが、時に人を疑う事を忘れるんじゃないぞ?飯田のは良い方だったが……騙された挙げ句に最悪、守るべき誰かを死なせてしまうかもしれないからな』

 

アーサーはそう言って一瞬だけ悲しげな表情を見せた後、また会場の方へ視線を向け直した。

 

もしかしてアーサーは過去に。

 

「霧先さん。次は霧先さんと芦戸さんの出番だと思うけど?」

 

「え?あ、本当だ……考え事をしてて気付かなかった……私、もう行くね」

 

「頑張ってね!」

 

私は麗日さんと出久君に見送られながら控え室に急いで走る中、アーサーが呆れた表情をしてきた。

 

『おいおい、しっかりしろよ。芦戸は控え室に行ってたぞ』

 

「(それ早く言ってよ!言ってくれたら早く行ったのに!)」

 

『言った……筈だ』

 

「(言ってないに等しい言葉よそれ!?)」

 

私はアーサーに文句とツッコミを入れながら何とか控え室に着いた……と言っても誰かさんのせいで殆どゆっくり出来ないけどね。

_______

_____

___

 

控え室についてすぐに出番の時間になり、私は会場の出入口へと来た。

 

『芦戸への対策はあるのか?』

 

「ハッキリ言えば無い。無いけど……身体能力は此方が上。後は力と技術の勝負になるかな」

 

『芦戸はどちらかと言えば力でのパワープレイなんてしないだろう。だとすればトリッキーな技の使い手になるだろうな』

 

「そうよね。彼女の酸は強い。此方はナイフを無限に出せると言っても過言じゃないけど何度も溶かされて防がれるのはね」

 

アーサーと一通り話した私は芦戸さんの厄介な個性に溜め息をつきながら外へと歩み出してステージに上がると歓声が私と向こうから来た芦戸さんを出迎えた。

 

《華麗な瞬殺劇の次を飾る対決だ!!美しい姿に写るは鋭い刃!?霧先ジル!対するは元気ハツラツなピンクガール!芦戸三奈!!》

 

山田先生からの紹介が行われると更に大きな歓声が響く。

 

「負けないよ!霧先さん!!」

 

気合い十分とばかりに芦戸さんが身構えている中、私はアーサーに一つ釘を刺しておかないといけない。

 

「手を出さないでよ。アーサー」

 

『勿論。こんな所で出る俺じゃない』

 

《レディィィィィイSTART!!》

 

釘を刺し終えると同時に山田先生からの開始の合図が響くと芦戸さんが先手必勝とばかりに私の周りを酸である程度の足場が残りつつ囲む形で展開した。

 

《先に動いたのは芦戸!いきなり霧先の周りを酸で囲んだぞ!?》

 

「成る程ね。賢い戦法だわ」

 

芦戸さんの個性は酸。

 

酸は調整でき、自分自身へのダメージもほぼ皆無だからこそ出来る戦術。

 

この周囲に酸を展開した目的は私の行動を制限する為の物であるのは間違いない。

 

私が酸で手をこまねく中で芦戸さんはダメージが微小と言う点を上手く活用して攻めるつもりね。

 

「でも、私のナイフは飛び道具でもあるのよ!」

 

私がナイフを出して芦戸さんに投擲すると芦戸さんは酸を出して盾の様に展開してナイフを防いで溶かしてしまった。

 

「霧先さんの戦い方はもう知ってるからね!近寄らせず、投げつけてくるナイフに気を付けて戦えば良いんだって気付いたんだ!」

 

「……これは」

 

『打つ手なしか?』

 

「(まぁ、一見すれば……)」

 

私は芦戸さんが気付いてしまった攻略法に頭を悩ませてしまう中、山田先生の実況は響き続ける。

 

《うおぉと!霧先!芦戸の酸に手も足も出ないのか!ナイフを一本投げただけで止まってるぞ!?》

 

私が動かくなった事に山田先生は指摘してくるけど今はそれ所じゃない。

 

足場は完全に無くなった訳じゃない。

 

いくら個性でも液体を正確にバラ撒くと言うのは難しい。

 

それが幸いしたけど足場を使ってその後の事を考えるとなると……

 

「どうかな?これなら幾ら霧先さんでも動けないよね?」

 

「そうね。でも、足場があるわよ?」

 

「そうだけどバランスを崩したら大変だよ?弱く調整してるけど酸だから火傷しちゃうよ?」

 

「バランスを崩さなきゃ問題にならないわよ」

 

私はそう言って近くの足場に飛んで見せると芦戸さんが軽く震えた様に見えた。

 

「(彼女もしかして?)」

 

『ビビってるのはあっちかもな。お前が転けて酸で火傷しないか不安なんだろう。自分の扱っている個性が何れだけ危険なのか分かってないとしない反応だ。ハッキリ言えば相手に酸を当てる覚悟が出来てないんだろう。誰かを傷付ける行為。これはヴィランだけの事じゃない。ヒーローにだって戦いと言う概念があるなら怪我させる事は避けられない事だって教えてやりな』

 

「(分かったわよ)」

 

アーサーの推測を聞いた私は足場を軽く飛び越えながら芦戸さんに近づいていく。

 

「え、ちょっと!?」

 

「芦戸さん。これじゃあ私は止められないわよ?貴方の自慢の個性を使いなさい」

 

「いや、それじゃ溶けちゃうよ!」

 

芦戸さんが戸惑う中、私はナイフを芦戸さんに向けた。

 

「覚悟を決めなさい。ヒーローだって相手を傷つけないと止めれない時だってある。確かに相手によっては怪我なんてさせたくない人だっているかもしれない。でも、ヒーローになりたいなら相手を傷つける覚悟を持ちなさい。私は覚悟をとうの昔に決めたわ。貴方も決めなさい」

 

私はそう言って芦戸さんにナイフを向け続けるけど、芦戸さんはまだ何処か吹っ切れていない。

 

私は痺れを切らして酸の水溜まりにそのまま踏み込んだ。

 

「熱ッ!?」  

 

「ちょっと何してるの!?」

 

芦戸さんが慌てて私を酸の水溜まりから引っ張り出そうとした所で私は芦戸さんの腕を掴んで押さえ込んだ。

 

「戦闘中よ芦戸さん。心配してくれるのは良いけどね」

 

「い、いや!それよりも霧先さん!」

 

「こうなった以上は私は最後まで戦うわよ?……すっごく熱いから行動は早めにね」

 

私は足が焼ける感覚を覚える中、芦戸さんは暫く迷いを見せた後、大きく叫んだ。

 

「あぁ、もう!私の敗けだよ!!降参!!」

 

「芦戸さん!降参!!霧先さん二回戦進出!!」

 

私はそれを聞くとすぐにステージから飛び出ると転がる。

 

「熱い熱い!やっぱりやるんじゃなかった!」

 

「き、霧先さん!?」

 

「ちょっと!?大丈夫!?」

 

足が酸に焼けて熱くて転がる私を心配して近寄る芦戸さんと香山先生に私は冷や汗と涙を流しながら視線を向けた。

 

「ご、ごめんなさい……少し痩せ我慢してた……」

 

「痩せ我慢!?我慢するくらいならやっちゃ駄目じゃん!?」

 

「と、取り敢えずリカバリーガールの所へ運ぶわよ!」

 

私はそう言われて担架型のロボットに運ばれる形で退場を余儀なくされてしまった。

 

因みに足の火傷は後遺症も無い所か痕すら残らずに済み、リカバリーガールから軽い火傷だった良かったんだとたっぷりとお説教を貰ってしまい。

 

「次、あんな無茶をしたら知らないよ」

 

と最後に釘を刺される形で取り敢えずお説教は終わった。

 

 



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雄英体育祭 ~トーナメント 後半~

すまない許してくれヽ(´Д`;≡;´Д`)丿

忙しさと内容の都合上、多くの試合を飛ばしますm(__)m




芦戸さんとの試合に勝って、リカバリーガールからの足に後遺症が無いか見る為の経過観察込みの治療と試合に支障をきたさない様に考慮された長いお説教のオマケを受けた私は精神的にクタクタになりながら戻れば殆どの試合が終わってしまっていた。

 

八百万さんと常闇君、切島君と鉄哲君そして、麗日さんと勝己。

 

三試合全てを見逃すなんて言う事態に私は少しリカバリーガールを恨みながらも支障も無い状態で送り直してくれた事に感謝して席に戻ったると。

 

「ジ~ル~!!」

 

「え?どうしたの芦戸さん?」

 

戻って来ると芦戸さんが涙目になりながら私に抱きついて来るのに驚いていると砂藤君が呆れた表情を見せてきた。

 

「お前が酸の中を歩くなんて無茶するからだぞ」

 

「お前に支障をきたしたらどうしよう。なんて芦戸が騒いで大変だったしね」

 

砂藤君に続いて耳郎さんにも呆れられると他の皆も一斉に頷くもんだから申し訳が立たない。

 

「足は大丈夫だよね!?歩けてたから大丈夫だよね!?」

 

「落ち着いてよ芦戸さん。ご覧の通りで足は大丈夫よ。だから……鼻水をかんでから抱きついて貰えるかしら!?」

 

私は涙と鼻水を両方流して私に抱きつく芦戸さんに涙は兎も角、鼻水は止めて欲しいから付かない様に離れさせようとするけど意外と力が強くてなかなか離れない。

 

その様子を皆が笑ってくるけど一人くらい止めに来てくれないかな。

 

~別視点side~

 

その頃、麗日と話した後、試合に出る為に歩いていた出久は予想外の"二人"と鉢合わせした。

 

「ん?」

 

「どうした?あれ、お前はジルの?」

 

「エン……!?そ、そそれにジャス……!?」

 

「いや、落ち着け坊主。エンデヴァーは兎も角、俺とは面識あるだろ?」

 

鉢合わせしたのはエンデヴァーとジャスティスの二人で何でこんな所を彷徨いているのかと出久は混乱していた。

 

「なぁ、エンデヴァー。こいつスゲェだろ?指名したらどうだ?」

 

「確かに見せて貰った。だが、生憎、もう一人を受け入れるつもりはない。それを言うならお前はどうするつもりだ?」

 

「俺は……年中、治安維持活動しかしてねぇし、芸能活動的な話なんて来た事もねぇしな。つまらねぇだろうから止めとくわ。悪いな」

 

ジャスティスはそう言って苦笑いしながら出久に謝るとそのまま立ち去ろうとした時。

 

「ま、待って下さい!」

 

「ん?何だ?」

 

「貴方は……平気なんですか?ジルが傷付く姿を見て?」

 

「ヒーローは何度も怪我をする。市民を助ける為、ヴィランを止める為にな。ある意味、当たり前だろ?……ヒーローって言うのは馬鹿共を止める為、助ける為の存在だ。だから」

 

「違う!そうじゃないんです……確かにヒーローは戦う中で怪我をしますし、殉職してしまう時がある。でも、僕は試合をしている時のジルがまるで死んでも構わないって言う様な雰囲気で芦戸さんに向かって行くのを見て……それで」

 

「不安になっちまったのか?」

 

ジャスティスのその言葉に出久は重く頷いた。

 

出久もかなりの無茶をしてきたつもりだが、ジルのあの無茶な勝利を見てから大きな不安を抱えていた。

 

あの時のジルは足元が溶けて煙まで立っていたのに対して平然として芦戸に迫って見せた光景にまるで"自分の事など眼中に無い"様に見えたのだ。

 

出久も個性を使う度に負傷すると言うハンデを知りながら無茶をしてきたがあくまでも怪我前提で使っている過ぎず、命まで失っても構わないとは思ってはいない。

 

だが、ジルは自分の身が傷付き、溶かされかねないと分かっていながら酸の溜まりに足を入れて進んだ。

 

対抗手段があるのかと思いきやそのまま足元を酸に焼かれてしまい、対戦相手の芦戸にもかなり心配をさせていた。

 

「ジルの人格の問題なのですか?幾らなんでもアレは」

 

「いや、アーサーはあくまでも見守る立場に立ってやがる。……たまに身体を使ってやがるがな。彼奴の無茶はな……オリヴィア、つまり母親譲りでな。命の事まで考えないで動きやがるんだよ。何度もキツく言っても二人は馬鹿みたいに頑固でやると決めたら止まらない。オリヴィアも"無個性"だって言うのに複数のヴィランを相手に取り残された子供を助けたりしてな」

 

「え?貴方の奥さんは"無個性"?」

 

話の中、出久はジャスティスから信じられない事を聞いた。

 

母のオリヴィアが無個性、ジャスティスは霧の個性。

 

だったら、ジルは何故、切り裂き魔と呼ばれるナイフ無限出しの個性となったのか?

 

やはりもう一人の人格、アーサーに関係があるのかと思う中、ジャスティスは笑ってみせた。

 

「まぁ、気にするな。お前はお前で目の前の事に集中しな」

 

「え?不安じゃないんですか!?」

 

出久のその一言にエンデヴァーと一緒に立ち去ろうとしたジャスティスは止まると笑顔ではなく、何処か睨み付ける表情になっていた。

 

「不安にきまってんだろ?沢山、子供を愛してる親が心配しないなんてあるのか?彼奴の足が溶けそうになったのを見て飛び出しそうになっちまった。だが、踏み止まる事を選んだ。何でか分かるか?」

 

ジャスティスのその言葉に出久は静かに見つめる中、ジャスティスは睨み付ける表情から一転して笑顔になった。

 

「信じてるからさ。まぁ、彼奴も流石に要領は弁えてる筈だし、リカバリーガールもいると思えたからこそギリッギリで踏み止まったんだがな。なぁに、心配するな。体育祭が終わったら拳骨一発と説教をかましてやるさ。あまり親や友達を心配させんなってな。だからな緑谷。先ずは勝つ事を意識しろ。コイツのガキは手強いぞ~」

 

ジャスティスはそう言って高らかに笑いながら今度こそ立ち去って行く様に歩いていき、エンデヴァーは暫く出久を見た後、ジャスティスに着いていった。

 

出久はそんな二人の背中を見つめた後、自身の試合に望み、進む。

 

同級生であり、クラス最強であり、エンデヴァーの息子である轟焦凍が待ち構えるステージへと。

 

~side終了~



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