シン・バルタン星人 (ケツアゴ)
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現地民との遭遇記録

 私はバルタン星人、個体名は存在しない。それはそういう文化ではなく、我が一族は全にして一、数十億の同胞は全て同じ意識の持ち主なのだ。

 一体一体がバルタン星人という個体を形成する細胞なのだと思ってくれれば良い。

 ……無論、異常な細胞が存在するように私と数体は個人として独立した意識を持っている者が存在する。

 確かその内の一体は少し狂った感じの科学者だったな。

 

 

 

「困った。これならば皆と共に旅行に行くべきだったな」

 

 私が乗る宇宙船から鳴り響く警告音、宇宙を徘徊する巨大怪獣の尻尾が掠った時に何処か破損したのだろう、制御不能になって近くの惑星の引力に引かれて墜落して行く。

 

 

「通信による救助は望めない。どうすべきか……」

 

 あの星からは私達が苦手とするスペシウムの反応が強い、単独での活動は不可能。

 外観からして生命が生存している可能性は大、光の星の住人に咎められる可能性があるが……。

 

 いや、あの連中ならば理由を話せば母星まで連れ帰るか宇宙船の修理に協力してくれるか?

 

 

 

「現地生命への寄生行為が最善か。出来るのならば燃料及び修理に必要な材料の存在が望ましいが……」

 

 数千年以内に友好関係な異星人……メフィラス星人辺りに保護して貰えるのを願うしかない、少し諦めに似た感情を抱きながらも私は墜落の衝撃に備えるのであった。

 

 

 

 

 

 

 世界の中心であるオラリオ、華々しい夢を持った者が集まり、多くの夢が枯れ果てる場所。

 そのオラリオにのみ存在するダンジョンから古代に進出したモンスターは神の恩恵を持たぬ人々にとっては悪夢であり、滅びの象徴。

 ある程度のステイタスを持っている眷属ならば苦にならずに対応可能な外のルーガルーでさえ恩恵の無い者の村なら簡単に滅ぼされてしまう。

 

 

 

 

「……くない、死に…たくない……」

 

 この日、オラリオに向かって明日出発するはずだった小人族の少女の村が滅ぼされた。

 彼女の名はアーシア、今年で十歳になる彼女は金の髪を持ち、料理人を志す父は自分の店をオラリオに持つのが夢だったのだ。

 だが、夜中に起きたモンスターの襲来、逃げている最中に家族の死体を見つけて固まった所を背中から襲われ、致命傷を追った所で空から落ちて来た火の玉に驚いたモンスターは逃げ去った。

 

 

 そして凄まじい苦痛の中、アーシアは緩やかに死を迎える……筈だった。

 

『生存への欲求を確認。質問。少女よ、何をしても生きたいか?』

 

 生きたいと思いつつも苦痛に耐えきれなくなった時、頭の中に直接声が響き、同時にその存在が姿を見せた。

 

「モン…スター………?」

 

 頭の中に話しかけて来たのは目の前の存在なのだと確信するアーシアだが、相手は蝉とザリガニと人間を融合させたかのような異形の存在。

 当然のつぶやきに対し、相手は顔を左右に振る。

 

『其れは質問と判断。内容、私がモンスターか否か。モンスターとはこの星に住む人類の敵対生物と判断。質問への回答、私はモンスターではない。それで再度の質問。少女よ、生きたいか? 肯定の場合、目的を果たすまでの間、週に六日は君の体を借りる事になる』

 

「助け…てくれる……の?」

 

『肯定。他の同胞や異星人ならば君を獣や虫と同類と扱うだろうが、私は未開の星の蛮族としか扱わない。約束の遂行を保証しよう』

 

 馬鹿にしているように聞こえる発言だが声は真面目そのものであり、アーシアは契約を受け入れることを表すように力の入らない腕を伸ばす。

 

 

 

『不覚。自己紹介を失念していた。私に個体名は無い。故にこう呼んでくれ。バルタン星人、バルタンで構わない』

 

 バルタン星人がアーシアの手にハサミで触れると彼女に吸い込まれるように消え去り、傷が完全に癒えたアーシアはその場で立ち上がって自らの両腕を見つめる。

 

 

「寄生対象の意識の存続を確認。脳内での会話は可能。スペシウムも宿主の肉体で遮断されているのを確認した。宇宙船を隠し、ペットである異星侵略用生物兵器を休眠させた後にオラリオへと向かう。宿主の意思を尊重しよう」

 

 声はアーシアの物だが話し方はバルタン星人の物。

 遥か遠くの星、地球で光の星の住人が交通事故の被害者と融合している頃、偶然にも変わり者のバルタン星人が不時着した星の少女との融合を果たしたのであった。

 

 

 

 

「宿主からの質問を受信。私が男かどうかについて。異性との体の共有への困惑と判断。返答、種族が違いすぎであり、意味の無い悩みである。人と虫の異性と認識するのを推奨。尚、父の夢を継いで店を持つ夢には協力が可能。料理とは科学であり、旅行中に立ち寄った水のない星にて、祖国に見捨てられた男から宇宙船の改造の対価として読み取った記憶にレシピに関する物もあった」

 

 バルタン星人は語る、旅行の醍醐味はその地その地の食べ物を楽しむ事だと。

 彼が言うには立ち寄った惑星で現地民と一時融合し、食を満喫したら次の星に向かうのだそうだ。

 

「警告。敵対意思を持つと思しき集団が接近。私は穏健派故に一時交渉を開始し、決裂後に排除を行う」

 

 遙か遠く……一万メートル先の米粒さえも視認可能なバルタン星人からすれば近い距離から接近してくるのはラキアという軍神アレスに率いられた国。

 侵略を繰り返し、オラリオには惨敗に次ぐ惨敗だが、地上のモンスターを相手にするには十分であり、今も指揮官の独断なのかアレスの命令なのかは定かではないが、モンスターを追い立てて別の村に向かわせていた。

 

 アーシアにその事を聞いたバルタン星人は少し考えた。

 

 

「情報提供を感謝する。推察、宿主……いや、アーシアの村が襲われたのは対象が原因と推察。報復行為を提案。交渉の予定は中止とする」

 

 この時、バルタン星人はアーシアの肉体に寄生した状態で本来のスペックを発揮出来る事に驚きつつ、アーシアに復讐を提案するも、実地テストの為の戦闘行動は拒絶の意思を示された。

 理由は恐怖、大勢の武装集団との戦いを強く拒否する行動に対し、このバルタン星人は暫し思案する。

 

 

「了解。それでは星間侵略用生物兵器の使用を提案。承諾を確認。行け……×××」

 

 その名は偶然にも地球に存在する怪獣と同じ存在、或いはバルタン星人以外の異星人が古代の地球にて遙か昔に採取したサンプルから作り出した存在。

 

 呼び声と共に宇宙船から何か射出され、空中で巨大化……本来の大きさへと戻る。

 突然の出現に混乱する軍に向かって足が振り下ろされ……。

 

 

「対象の殲滅を確認。しかし、神とモンスターの存在と人との関わりは……まさかな」

 

 

 

 この日、ラキアより出撃した軍は全滅、巨大な生物が暴れた痕跡こそ残ってはいたものの、その軍の行動が原因で目撃者は居なかった。

 

 

 

 

 そして、それから四年……。

 

 

 

 



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常連客

明日返信します


 この星に漂流して僅か四年、小人族(パルゥム)という種族にしてはアーシアは背が伸びたのだろう。

 そして分かった事だが、この星の住人は理解が難しいという事だ。

 

 バルタン星人は一体一体の区別は不要、全部合わせてバルタン星人という生命なのだ。

 例えば一体を除きコールドスリープをしていたとしよう。

 目覚めた時、コールドスリープ状態だったバルタン星人も起きていたバルタン星人の得た情報を自己の体験として認識可能だ。

 ……無論、私のように誕生の際に異常が発生して他のバルタン星人の得た情報が得られず、また此方からも送れないのもいるが、それでも私は自らをバルタン星人の一部であり、私の活動の存続はバルタン星人の存続に何一つ影響を及ぼさないと認識している。

 

 

 だが、この星の住人は個として存在を完結していながら複数での共同体を成立させ、バルタン星人でもないのに互いの感情を理解し合えると思っているのだ。

 更に不可解なのが自己犠牲や他者との比較、完全に存在が独立しているならば他の存在の為に自己を危機に晒す必要は感じられない。

 

 

 他人の痛みを知れ、本当に意味が分からない言葉だ。

 痛みなどは自ら以外に与えるべき事、避けるのが存在の継続の為に必要なのでは無いだろうか?

 

 

 

 

「アーシアたーん。ウチ、たこ焼き六個入り一つな。ソース多めで頼むわ」

 

 考察に集中していた脳を切り替え、金銭を稼ぐ為の行動に集中すべし。

 アーシアに寄生して四年……光の国の警備隊ならベテラン扱いに二万年で十分だから一眠りすれば過ぎそうな期間だが、私の目標である宇宙船の修繕費用と寄生の対価としてアーシアに店を与える為にも業務に励むべし。

 

「それとぉ、あーんして欲しいなあ」

 

「要請を拒絶。食品の販売以外の業務内容申請はしていない。契約違反は私が嫌う事の一つである」

 

 尚、全てで一つの存在であるバルタン星人でも多少の違いは存在する。

 穏健派というべき者や過激派、他のバルタン星人の存在が敵対者に排除された際に怒りを抱く者等々、結論から言えば私は目の前の細目で胸部の贅肉が異常に少ない神が……訂正、神全体が好ましくないと思う。

 

『どうして?』

 

 第三者の意見も必要だと、私はバルタン星人を配下にしているメフィラス星人の中でも重要な全権委任大使とやらに教わった。

 尚、食事の席だったが向こうの方が明らかに多く飲み食いしたが支払いは折半、当然経費である。

 

 だからアーシアにも意見を求めたのだが、この星の住人は私の予想が正しいのなら被害者であり、今回の件は被害者だと認めたがらない可能性がある。

 

 

 善神とされる者が不特定多数存在し、一度だけならば力を地上で使えるにも関わらずバベルで蓋をしただけのダンジョン、地上に蔓延るモンスターとて恩恵無しには敵わない存在。

 そして、バベルを建てるに至った神の光臨とて最後の最後での失敗への絶望を感じたタイミング。

 

 神が居なければどうにもならない、その状況が欲しく、善神でさえも力を振るわないのではないか。

 ダンジョン自体が神にとって不都合な何か、例えば神がダンジョンの誕生に関わっている、等だ。

 

「注文の品が完成した。代金を要求する」

 

 無論、正面から問いたださないし、実際にダンジョンについて聞いてもダンジョンはダンジョンだと全知無能の存在を自称する神がちゃんと返答しない辺り、何かしらの関与は有るのだろう。

 

 まあ、私には無関係な話だ。

 

 オラリオに来た私は今も続けている屋台を開始した、内容は日ごとのローテーション。

 最初は子供の遊びと相手にされないも、この星の住人の味覚と嗅覚に最適な物を作り出すなどバルタン星人ならば楽勝である。

 

「フォフォフォフォフォフォフォ。失敬、思い出し笑いだ」

 

「相変わらず変な笑い方やなあ。あと、休みの時と口調違い過ぎへん?」

 

「公私で他人になるのは良い仕事をするコツである」

 

 嘘ではない、実際に休みの日はアーシアに体を返し、料理を教えたり好きに過ごさせている。

 

 

 以上、母星に帰還時に提出すべき考察レポートの一部とする。

 

「そろそろ客が増える時間。私一人では対応が困難と推察。分身が妥当である」

 

 目の前ではちょうど良い焼き加減のたこ焼き、鉄板は前方と左右の三つ。

 昼休みとなる時間、労働者が大量にやって来るので私は調理に専念しないとならないが、注文の受付や配膳、食べ終えた後の後片付け(折り畳み式の机と椅子を用意している)、どんなタイミングで業務が発生しようとも最高の状態で出すにはどうすべきか、其れは簡単だ。

 

 私が左右に動けば元居た場所に残像が取り残され、私が増えて行く。

 計四人、これが現在この肉体での限度である。

 

「私は調理に専念。分身一は接客、二と三は配膳と片づけを担当」

 

「「「了承」」」

 

 さて、今日も金を稼ごう。

 宇宙船の修理には上質なアダマンタイトやオリハルコンから抽出したエネルギーが必要と判断、その必要量は金額にして五兆ヴァリス……先は僅かに長い。

 

 

 

「……神の恩恵に頼らん地上の未知。そりゃ偶には存在するんやけれど、ありゃ異常な部類よなあ……」

 

「神ロキ、アルコールの持ち込みの許可はしていない。持ち帰り拠点での飲食を推奨する」

 

「もう少し神への敬意をやなあ……」

 

「拒否する」

 

 

 

 幸いな事に私の店は神にも人にも好評らしく、作り置きをする余裕がない速度で売れていく。

 特に今日は外から夢を見てやって来たのだろう冒険者志望らしき者の姿が多く見られ、何時もより忙しかった。

 下拵え担当の分身を増やすか……。

 

 

「おいおい、随分と儲かってるじゃねぇか。此処は俺達の縄張りだぜ」

 

 この忙しい時に問題発生、私に関する情報を持たないチンピラが接客担当に絡み金銭を要求している。

 周囲の客は見て見ぬ振り、巻き込まれぬように列から離れる。

 男が腰から下げたナイフに恐れをなした……訳ではない。

 

 

「邪魔だ」

 

「うおっ!?」

 

 その必要が無いからだ。

 決して小柄ではない男を背後の大男が片手で持ち上げ、そのまま路地裏に向かって放り投げる。

 大きな音と共にカエルが潰れる様な悲鳴が聞こえるも、私に何かしらの影響が出る事は無いだろう。

 

「注文を頼む。八個入りを一つと六個入りを二十、持ち帰り用の袋も貰いたい」

 

 これがロキさえも黙って見ていた理由。

 屋台の常連であるオッタル、現オラリオ最強が居たからだ。

 

「了解。迅速に用意する」

 

「其れと女神より伝言だ。出禁を解除して欲しい、と」

 

「要請を拒否する。眷属か店の従業員に頼むのを推奨」

 

 尚、彼の主神である女神フレイヤは居るだけで他の客が注文も出来ず、食べもしないので後から来る客に迷惑だと出禁を言い渡した。

 何やら五月蝿い眷属を数度黙らせれば納得したらしく、偶に魅了を封じた状態で来るのは見逃しているが、可能なのならば女神として来ている時もそうして欲しかった。

 

「……そうか」

 

 この男は基本的に話が通じる、偶に暴走を続ける身内の回収も行うから眷属全員を出禁にはしない。

 無論乗り込んで来た相手は漏れなく出禁にしたが。

 

「店主! 注文の品を持って来てやったぞ」

 

 オッタルより受けた大量の注文(女神の所望と他の仲間への差し入れと判断)を作っている最中、汗臭い眼帯の女が包みを持ってやって来た。

 

「今し方打ち終わってな。ほれ、これで良いな?」

 

「成る程、汗臭さは其れ故か。配達、感謝しよう」

 

 この女は椿・コルブラント。常連の一人であり、最近忙しくなったので増やした分身に持たせる包丁を頼んでいたのだ。

 

「しかし手前に包丁を依頼するとは豪胆な娘だな、お主。おっ、今日はたこ焼きの日だったか。ついでに此処で飲んで行くから八個入りを頼む」

 

「列に並べ。包丁の受け渡しのついでの横入りは拒否する。それと酒の持ち込みは禁止だ」

 

「ぬっ! 仕方無いな、出禁にされても敵わんし……」

 

 この女もLv.5、第一級冒険者だと聞くが、第一級冒険者は我の強い者ばかりなのか?

 フレイヤ・ファミリアの面々も変わり者が多い、逆にオッタルが常識人なのは……。

 

 

 

 

 

「質問。オッタル、周囲から変わり者と呼ばれてはいないか?」

 

「……何故そうなる? 俺が何か妙な事でも言ったのか?」

 

「回答。いや、言ったならこの様な質問はしない」

 

 さて、ペットに深層にて金属の採取を頼んだが、確かロキ・ファミリアが遠征中だったな。

 向こうから敵対しない限りは本格的な戦闘はするなと命じているから大丈夫だろう。

 本来ならば必要量発覚後直ぐに潜らせたかったが、万が一関連を疑われては困る故に放置していた。

 

 きっと上々の成果が期待できるだろう。

 何せ光の国の連中とも戦える強さを持っている自慢の異星間侵略用生物兵器だからな。

 

 

 

 

「……何故其れで俺が変わり者扱いを?」

 

 随分と気にしているな、この男。

 




ダンジョンって人造ダンジョンに囲われてるよね

次回

クノックス、死す


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クノッソス、死す

 人造迷宮クノッソス、それは何代にも渡って受け継がれた狂気と妄執の結晶。

 貴重な金属と磨かれた建築技術と膨大な時間を注ぎ込まれ、内部の罠や特殊なモンスターによってロキ・ファミリアでさえも壊滅的被害を受けかねない悪夢のような存在。

 

 だが、この日は悪夢のような存在がそれ以上の悪夢に出会う日だ。

 

 ダンジョンの外壁に沿うように造られたクノッソス、そのクノッソス外壁にマッハ2の速度で巨大な存在が地中を掘り進めながら激突、衝撃で一部を崩壊させながら侵入した。

 頭部の三日月状の角、太い尻尾、やや前側に傾いた姿勢、そして全長四十メートル体重二万トンの巨体。

 名をゴモラサウルス、ゴモラと呼ばれる事になる怪獣……星間侵略用生物兵器である。

 

 協力関係にある星から得たサンプルから再生、忠実に従う洗脳と潜在能力と凶暴性を引き出したバルタン星人のペットであり、この日はダンジョンに潜って稀少金属であるオリハルコンを集めに来ていた。

 

 クノッソスの不幸は強固な作りにする為にアダマンタイトや魔法耐性を持つドロップアイテムを多く使用した事。

 其れはあくまで冒険者や通常のモンスターへの対策であり、巨大怪獣の存在等は想定されていない。

 そして、予めオリハルコンやアダマンタイトの匂いを教え込まれたゴモラはクノッソスに比べて極端に匂いが薄まるダンジョンの外壁を目当ての場所の端と判断、クノッソスの中を突き進み始めた。

 

「グゥオオオオオオオオオオオオオ!!」

 

 罠もモンスターもクノッソスを拠点にしている闇派閥も光の巨人を一度追い詰め、世界線によっては“怪獣の帝王”とさえ呼ばれるゴモラには通じない。

 敵対行為には敵対行為を許されているが、蚊に刺される事を人が敵対行為とは感じないのと同様にゴモラにとっては鬱陶しいだけ、身を捩って振り払うだけで退けた。

 二万トンもの体重を持つ存在に前後左右に乱暴に掘り進められ、ゴモラの通過した後を中心に崩落が始まり流れ込んだ土砂と瓦礫の撤去だけでも年単位の時間が必要となるだろう。

 

「グォ?」

 

 そして、ゴモラの鼻はオリハルコンの匂いを明確に捉えた。

 其れは通路を遮断する為の門、鍵によって発動し通路を遮断する防壁、当然ながら不壊属性を付与されているが、ゴモラは周囲の壁を抉って門を引き抜いた。

 鼻を動かせば無事な通路を通って漂うオリハルコンの匂い、踏み抜いた床の下の通路からも届き、ゴモラは目的地が相当な深さだと教えられたのを、そして純度の高い物は深い場所に多いのだとを思い出した。

 

 

「グゥオオオオオオオオオオオオオ!!」

 

 クノッソス中、そしてダンジョンの一部にも届く咆哮、気合いを入れたゴモラの口から放たれた炎が 遅れてやって来たモンスター達が進む通路を埋め尽くし、光の巨人でさえまともに食らえば昏倒する威力の尻尾の一撃が壁や天井を破壊しながら振り上げられ、全力で床に叩きつけられた。

 これまでの比ではない衝撃に周囲の床は完全に崩落、落下の衝撃で何階層もぶち抜き、漸く止まったと思えばゴモラは下に向かって掘り進む。

 途中途中で見つけたオリハルコンの門は渡されていた装置によって小型化したのを飲み込み、やがて最下層までたどり着くと今度は弧を描きながらオリハルコンの門を探しつつ上を目指した。

 

 

 

 この日、千年もの狂気の結晶であるクノッソスの八割が壊滅、残った場所も入り口の門を奪われるなど被害は凄まじく、バルタン星人がアーシアに言われて地上への被害を配慮したのでオラリオには僅かに振動が伝わっただけに終わった。

 

 

 

「……」

 

 尚、狂気を受け継いだ男は惨状を把握した瞬間に倒れた。

 流石にショックが大きかったらしい。

 

 

 

 

「フォフォフォフォフォフォフォ!」

 

 そして予想以上の成果を得たバルタン星人は珍しく上機嫌での大笑いであった。

 

 

 

 

 

「うーん! 体を動かすって良いなあ」

 

 どうも、アーシアです。

 今日は屋台がお休みの日、私が自由に体を使える日なの。

 まあ、普段も閉店後にはお料理のお勉強で支配権を戻して貰っているけれど、それ以外はバルタンが使っているんだもの、今日は楽しまなくっちゃ。

 

 最近は全部任せてもらえるチャーシューの仕込みは終わったし、甘いものでも食べて回ろうかな?

 甘い物は別腹、ご飯とは別に食べられちゃうの。

 

『理論を検証。結論、つまり食事を食べすぎた場合、二倍に太る計算となる』

 

 うるさいわよ、バルタン!

 

 頭の中の声に抗議してから人混みを走って抜けていると反対側から神様達がやって来たんだけれど、馬鹿みたいな話の途中で私に気付くなり顔を引き攣らせる。

 

 

「ひっ!?」

 

「げげっ!」

 

「うおっ!?」

 

 うわぁ、私って怖がられてるぅ、全部バルタンのせいね。

 

 私達パルゥムはバルタン達との融合適正が高いらしく、私の肉体の状態でバルタンの能力の一部を発揮出来るんだけれど、屋台の好評さも合わさってスカウトが多かったわ。

 

 ……幾ら強くなってもモンスターと戦うって想像しただけで体が震えるし、馴れ馴れしく近寄って来る神様には生理的嫌悪を感じていたらバルタンが手荒く追い返してくれたんだけれど次から次へとやって来て、余りにしつこい上に手荒な真似をしようとしたアポロン様みたいなのまで出ちゃったから私を連れ去りに来た団長を一撃で叩きのめした後、アポロン様を逆さ吊りにして泣くまでビンタを無表情で続けた後、一晩放置したら勧誘も減ったわ。

 ちょっと怖がられるようになっちゃったけれど。

 

 

 

『大半の冒険者は下級、つまり質の良い魔石を手に入れるのは不可能。結論、多くの神の恩恵は大した存在意味を持たず、天界での職務放棄をしただけである。神からの評価を気に病む必要は皆無』

 

 いや、私が気にしているのは……もう良いや。

 

 

「あっ! アーシアさん、久し振りですね」

 

「フレ……じゃなくってシルさん」

 

 ちょっと思い悩んでいる間に知り合いが働いている場所まで来ちゃったらしく、女神の正体を隠して働いているフレイヤ様ことシルさんに声を掛けられた。

 

 ……正直他の神様よりこの人が苦手、次点はロキ様。

 

「そうだ! 最近顔を見せてくれませんし、今夜辺り食べに来ませんか? 今日は屋台はお休みですし」

 

「あー、確かに此処のご飯は美味しいけれど来るのは久々ですね。……正直、ミアさんが少し怖くって。死んだお祖母ちゃんがあんな感じに厳しい人だったから」

 

 因みに祖父母も父母も結婚も出産も早く、生きていたとしてもミアさんより年下だ。

 ……尚、神様とは別に苦手な相手を挙げるとすれば一度求婚をほのめかして来たけれどお祖父ちゃんと大して変わらない年齢だから断った勇者(ブレイバー)と彼にお熱なアマゾネスのお姉さん、妹さんの方は好ましいと思っている。

 

 

 

 

『あの姉妹についての考察。胸部に著しい肉付きの差が見受けられる。何かしらの異常が成長時に発生したのでは無いだろうか』

 

 少し黙ってて、バルタン!

 

 

 

『アーシアの不機嫌理由を考察。結論、自分も胸部周辺の脂肪が同年代に比べやや少ない事から……』

 

 だから黙ってなさい!

 

 

 

 

 

「じゃあ、今日は予定が決まってるので明日お邪魔しますね。何時も早く売り切れるメニューですし遅くはならないと思いますので」




ゴモラってシリーズ次第で火やビーム、災害すら起こす念力も使うんだってさ


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閑話 とある取材記録

本日二回目!


 これはとある記者M(仮名)による記録、恩恵を持たぬ身でありながら恩恵持ち以上の事を平然とこなす屋台の店主についての調査だ。

 

 インタビューに際し、匿名を条件に取材に応じて貰った。

 

 

 

 取材対象・とある兄弟の長男

 

「元々彼女の屋台の常連だったとか?」

 

 最初の取材対象は上級冒険者を兄弟でやっているGさん(仮名)

 

「ああ、同じ種族だからじゃなく、我が女神がちょっと気にしていたから十歳の子供の屋台を訪れたんだけれど、肉まんやらチマキやら珍しく美味い料理を出していてね。気に入ったから通う事にしたんだ」

 

「トラブルとなったのは彼女の女神様への対応だとか?」

 

「そうだ! あの餓鬼、わざわざ出向いた女神様に無礼な態度を取ったから報いを受けさせようと思い、その場は諫められたから抑えたが、後で出向き……」

 

 途中で怒りを滲ませたGさんだが、最後には言葉を濁す。

 どうやら言いたくない内容らしい。

 

 記者はあえて追求せず、彼が話してくれるのを待った。

 

 

 

「奴の家は人通りの少ない場所……料理の匂いが漏れても大丈夫なようにしているらしいんだが、遠くから観察し、死なない程度に痛めつけようとして……彼奴に囲まれた」

 

「っと言うと分身ですか?」

 

「ああ、少人数になら増えるとは知っていたが、一人当たり十人で囲まれて分断され、全て本人だからか連携だって悔しいが自分達兄弟以上だっただろう。……結果がこの頭だ」

 

 Gさんは少し躊躇した様子で兜を外す、すると奇妙な髪型になっていた。

 

「ジャ……何とかから教わったナミヘーヘアーという奴らしい」

 

「確か貴方達兄弟は……」

 

「ああ、上級冒険者、其れも一度や二度のランクアップじゃない。おっと、そろそろ用事の時間だ」

 

 Gさんは足早に取材の場であった喫茶店を去って行く。

 彼の少女についての謎が深まる内容であった。

 

 

 取材対象・ギルド勤務の女性

 

「彼女についてギルドが調査をしたのは大手ファミリアとのトラブルが原因だったとか?」

 

「ええ、本人が恩恵持ちで無いのはオラリオの検問で調べてはいたけれど、何かしらの不正を行ったのではないかって問い合わせが殺到して、其れで毎日通っていた私が同僚と一緒に調べさせて欲しいと頼みに行きました」

 

「結果、彼女は潔白だったと」

 

 記者の問い掛けにEさん(仮名)は沈痛な面持ちで頷く。

 話に寄れば家族を失っているらしい幼い少女に疑いを掛ける事に躊躇いが有ったのだろう。

 

「前から増えたりタチの悪い冒険者を片手で締め上げたり、恩恵を隠している疑惑はあったけれど常連の神様達が間違い無いって言っていたから調査しませんでしたが……」

 

「幾ら何でもおかしいと? 貴女は疑いましたか?」

 

「……はい。結果は潔白、証言していた神様達もここぞとばかりに信頼関係を疑うのかと抗議が結構来まして……」

 

「あの騒ぎは随分と大きかったですね。彼女に興味を持って屋台を利用した結果、常連となった神も多いと聞きますし。悪ふざけ半分が多かったとは聞いていますが……」

 

 普段は何だかんだでファミリアに依頼や罰則を出しているギルドを責めるチャンスとあって多くの神が乗り気だったらしい。

 

「それで会いに行くのが気まずかったのに“質問を受諾、怒っていないのか。回答、業務の遂行の範囲内。対価は貰った”って言うだけで、その対価について教えては貰えませんでしたし。そんな事があってから暫く経って食事をするついでに改めて謝罪をしたら……」

 

「普通に接して来たと。それにしても彼女の話し方は特徴的ですね」

 

「ええ、それでお仕事が休みの日は普通の口調だし、強いのに冒険者にはならない理由はモンスターが怖いっていう普通の女の子何だなって」

 

「成る程。彼女の意外な一面ですね」

 

 私の言葉にEさんは静かに頷く。

 

 

 

 

「所で気になっている男性は居ますか?」

 

「ちょっと最近担当になった子が心配で……これ以上は秘密です」

 

 流れで答えて貰えると思ったが元々の話題とは無関係な質問は途中で遮られた。

 多くの男性が知りたかっただろうに残念である。

 

 

 取材対象・とある神々

 

 最後のインタビューは趣向を変えてお二方に同時に取材をさせていただきました。

 彼女と少しトラブルになったA様とS様(共に仮名)です。

 

 

「先ずA様ですが、最初は眷属にしようとしたとか?」

 

「……ああ、恩恵も持たずに魔法のような真似が出来るんだ。料理も美味いし、手元に置いて可愛がるべき、そう思ってしまったのさ」

 

「逆にS様は興味が無かったとか?」

 

「趣味以外に時間を費やす気が起きなかったからな。屋台だって一度も利用していない。だから乗り込んで来た時は誰か分からなかった」

 

 インタビューに答えつつA様は頭を抱えて僅かに震え、S様は鼻を片手で抑える仕草を見せた。

 

 

「それでA様は随分と強引な勧誘をしたとか?」

 

「私は自らの愛に忠実なだけさ。其処の趣味に没頭して眷属にさえ無関心な奴とは違うのさ」

 

「神自ら子供達に迷惑を掛ける奴に言われたくないな」

 

 お二方が少し険悪な雰囲気になったので少し宥める。

 

「それでA様ですが、何度も勧誘に行っても断られたとか?」

 

「ああ、ちゃんとした建物に店を出す金を工面してやると言っても自分で稼ぐからと断られてね、最終的にホームで私のファミリアの素晴らしさを教え込もうとしたのだが……」

 

「団長は返り討ちにされ、失礼ですがA様は……」

 

「これ以上は勘弁してくれるかい? あれ以降、パルゥムが少し怖くなった位なんだ。路傍の石でも見る目を向けられたのは忘れられないよ」

 

「どんな神でも地上の人間は神を神として扱うが、この発言からも彼女の特異性が伺えますね。では、続いてS様ですが、眷属の方の暴走行為だとか?」

 

「ああ、金を持ってる子供だと思い、一部の者が狙ったらしい。返り討ちに合い、あの者が乗り込んで来た時に私は酒を造る真っ最中だったのだが、完成間近の酒を窓の外に蹴り飛ばされてしまってな。怒り、神威を解放するも鼻に指を突っ込まれ、ギルドまで引きずられて連れて行かれた」

 

「お二方の一件が広まってから強引に手を出そうとするファミリアが出なくなったとか」

 

「だろうな。あれは“どうせ本当に死ぬのではないから”って平気で神の首を刎ねる奴だ。やっぱり誘うなら気弱そうな子に限るね」

 

「……ギルドに素行の是正を命じられてな。団長に任せたから大丈夫だろうが」

 

「そうですか。今日はありがとうございました」

 

「所で君も私の眷属になる気はないかい?」

 

 私はA様の勧誘を断り、今回の取材を終えた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「やれやれ、匿名のようで匿名になっていない、それに気が付かせない為の軽い催眠が効果的なようで何よりだ。例の星に向かうついでにこの星に立ち寄ったが、まさか私が外星人第一号ではないとは。先に用事を済ませた後で母星に出す資料を読ませて貰いましょうか。……次にこの星に来た時は共に酒と食事でも……」

 

 記者はそう言いながら財布の中のヴァリスを確かめ、静かに懐にしまった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「その時は割り勘で良いか? バルタン星人」



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食べ物は大切に

こっちもお願い
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「これを見ていると冒険者の人って凄いなあ……」

 

 私の手にはドーナツが大量に入った袋、フワッフワの触感が嬉しい私のお気に入り。

 バルタンはモチモチ派らしくフワフワ系のは作ってくれないから屋台で買うしかないんだけれど、どうせだったら自分で作れるようになりたい。

 

 それにしても今の私はバルタンが寄生した影響で体の支配権を返して貰った状態でもバルタンの能力が使えるんだけれど、鉄の棒を握ったら指の跡がくっきりと残る位に力が強いのにドーナツを潰さずに持てている。

 それはバルタンが自動調整してくれているかららしいけれど、これを自力でやっている上級冒険者さんは本当に凄い。

 下手すれば何となく振った手が通行人に当たっただけで挽き肉がぶちまけられる事になりそうなのに、普通にクレープとかの柔らかいお菓子を持てる力の調整をしているんだから。

 

「取り敢えず晩御飯は何にしようかな?」

 

 バルタンが食べ過ぎだって警告をしてくるけれど、成長期なんだからお腹が空くんだもん。

 あっ、凄く動くのにそんなに食べなくても平気だから冒険者って其処も凄い……あれ?

 

 

 ギルドの近くの屋台で買い込んだドーナツを食べ歩きしていると赤い液体を周囲に飛び散らせながら向かってくる全身真っ赤な人が見えた。

 死にかけなのかと家族の姿が頭に浮かんで身が竦み、だから私は動けず、ドーナツに臭い液体が掛かるのを防げない。

 

 

 

「エイナさ~ん!」

 

 私が我に返った時、彼は元気そうな明るい声でギルドの中に飛び込んでいて、その後頭部に向かって汚れてしまったドーナツを全力投球、見事命中!

 

 柔らかいドーナツは彼の後頭部で大爆散! 見事に前に吹っ飛んだ!

 

 

「ちょっとベル君!?」

 

 ギルド内から聞こえて来たのはエイナさんの声、ちょっと冷静になった。

 

 

 

「……やばっ」

 

 まあ、良いや。街中に振り撒いているみたいだし、自業自得って事で知~らない!

 

 

 

「やあ! アーシア君じゃないか。久し振りだね」

 

 ギルド内に飛び散ったドーナツの処理から逃げ出して町中を歩いているとじゃが丸くんの屋台で働く駄女神様と遭遇しちゃった。

 

「お久しぶりですね、ヘスティア様。売り上げの方はどうですか?」

 

「いやー、それが最近は君の屋台のメニューによっては売り上げがさっぱりでさ。タケが任されてた屋台なんて畳むことが決まっちゃったよ」

 

「え? 馬鹿みたいなミスをして時給をもの凄く減らされたヘスティア様じゃない方がクビにされたんですか?」

 

「ぐぬぬぬぬっ! 君、ちょっと神への敬意が足りてないんじゃないのかい?」

 

「ガネーシャ様とかには払っていますよ? 変な神様ですが立派な事をなさっていますし。……バイト初日からお客さんと大喧嘩するみたいな真似はしないでしょうし」

 

「そ、それを言わないでおくれよ。僕だって反省しているんだ。大体、あれはロキが悪いんだし……」

 

 このヘスティアというロリ巨乳の女神様、眷属を見つけるまでと言って友達のホームに居候するもだらけた生活で怒りを買って追い出されたって情けない方なのよ。

 丸一日食べずに町を彷徨った挙げ句、分身が居るから必要無いのに雇ってくれって泣きついて、私が同情して賄い付きのバイトとして雇ったら、常連のロキ様と喧嘩を始めちゃって……。

 

 

 前日にフィンさんに求婚を仄めかされて、聞きつけたティオネさんに乗り込まれて少し限界だったから即座にクビ、ロキ・ファミリア全員を暫く出禁にしたのがこの前……。

 

 

「聞いてくれよ。僕にもついに眷属が出来たんだぜ!」

 

「え? あの廃墟同然のホームを見られて逃げられていたヘスティア様がですか? どうやって騙したんですか?」

 

「君、酷いなっ!?」

 

「私の中でヘスティア様の印象が酷いので……」

 

 まあ、半分は冗談、打てば響くこの神様は苦手でも嫌いでもない。

 ついでに言うならロキ様やフレイヤ様だって苦手なだけで嫌いじゃないの。

 

 

 ……ソーマ様とアポロン様は嫌いだけれど。

 

 

 

 

 

 

「あっ! アーシアだ! ねぇ、今日は屋台はお休みなの?」

 

 ヘスティア様と少し話をしていて気が付いたら夕暮れ時、そろそろ家に帰って夕ご飯でも作ろうかと思っていた私に駆け寄って来るのはティオナさん。

 この人も屋台の常連で、何時も明るいので話していて楽しい人。

 ……お姉さんの方はちょっと苦手なんだけれど。

 

 

「今日はお休みですけれど、明日はハンバーガーとフライドポテトの日なので来て下さいね」

 

「わわっ! そっか、明日はハンバーガーの日なんだね! 楽しみー!」

 

「ティオナさん、明日はドロップアイテムの換金とか忙しい日ですけれど……」

 

「えー? 大丈夫だって。ちょっと食べるくらい。レフィーヤだってアーシアの屋台の料理は好きでしょ?」

 

「そうですけれど……」

 

「アイズも行くよね?」

 

「……うん」

 

 あれ? アイズさん、少し元気が無いような……。

 

 ティオナさんに連れられて屋台に顔を出す人達の一人のアイズさんだけれど何処か落ち込んで見える。

 何かあったのかな?

 

「わっ!?」

 

 そんな風に思ってたらティオナさんがお尻を蹴られてビックリしちゃっている。

 蹴ったのは悪人っぽい顔のお兄さんだ。

 

 

 

「おい、何をチンタラしてやがる。さっさと行くぞ、ノロマ」

 

 ……あっ、ベートさんだ、バルタンが言うには酷い言葉を口にする時、瞳や表情筋の変化から実は相手に“このままじゃ死ぬぞ。辞めるか強くなるかしろ”って言いたいらしい。

 

 

『伝達の表現に問題有り。悔しさからの奮起には効果が見受けられるが、組織の一員としては問題が生じる』

 

 とか言っていたし、ロキ様に何となく言ってみたんだけれど、見抜いた事に驚かれたけれど、周りがその内ちゃんと分かってくれるからって第三者の私には黙っていて欲しいんだって。

 

 

「……何ジロジロ見てやがる」

 

「ベートさんって面倒臭い人だなって。ロキ様がツンデレ? とか変な呼び方してたよ。じゃあね!」

 

 ベートさんが怒り出す前に私はその場から素早く逃げ去る。

 そのまま家の方に真っ直ぐ向かい、玄関が見えた時、バルタンの声が頭の中に響いた、

 

 

 

 

 

『警告。侵入者の痕跡が鍵穴周辺に有り』

 

「ええっ!?」

 

 思い出すのは押し込み強盗に入ろうとしたソーマ・ファミリアの団員。

 仕込んでいた途中のスープを台無しにされたし、掃除した所を泥だらけの靴で汚されちゃったし、思わずホームに乗り込んでソーマ様に鼻フックしながらギルドに連行したんだっけ。

 

 

 

 

「……取り敢えず中に入って様子を確かめようか」

 

『提案に賛成。非常時は破壊光線の使用を推奨』

 

「いやいや、冷凍光線にしとこうよ、バルタン」

 

 家の中をできるだけ壊したくないと思いながら中に入ったら不法侵入者は玄関にわざわざ椅子を用意して待っていた。

 

 

 

 

「黙って入った事をお詫びするよ。俺はヘルメス。こうやって名乗るのは、はじっ!?」

 

 相手が話している最中、バルタンが勝手に体を動かしてトマトを顔面に投げつけた。

 一瞬で潰れて周囲に飛び散ったトマト、そして仰向けに倒れ込んだ侵入者のヘルメス様、これでも一応神だ。

 

 

 

 

「バルタン?」

 

『メフィラスと同様に信用の必要性が無い相手と判断。簀巻きにして川に捨てるのを推奨』

 

 そのメフィラスって人、前にも聞いたけれど本当に嫌いなんだなあ……。

 

 

 

 

 

 

 

「流石に川は不味いし、簀巻きにして路地裏に転がす程度で良いと思うよ?」

 

 




前回までの感想はあしたかえします

https://syosetu.org/novel/247677


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理解不能

感想前回までの後で一気に

当初は吸血植物ケロニアがリリを殺して成り代わる予定でした


 宇宙船の修理を続けながら思考する、この星で知った“生命”や“個人”といった概念について。

 結論、種族としての存在の仕方がバルタン星人とは大きく違う、故に理解不能。

 思考に費やすエネルギーの無駄である。

 

「……むっ?」

 

 ゴモラの齎した成果は予想以上であり、同時に聞いていたダンジョンの様子とは些か違う点が見られ、何かしらオラリオや冒険者から一般人に対する情報に秘匿される物が多く存在すると推察。

 結論、アーシアのモンスターへの心理的外傷を考慮してダンジョンに向かわない私には無関係。

 また、千年以上続けられている秘匿故にアーシアにも影響が無いとして騒ぎ立てる事ではなく、様子見が推奨される。

 

 

 問題が有るとすれば……。

 

 

『どうしたの? バルタン』

 

「超小型生命体の宇宙船への侵入と脱出の痕跡を発見。データからして地球人の宇宙船の改造中に私に付着したものと推測。知的生命体の可能性は皆無として放置する」

 

 微小な反応故に気が付かなかったが、脱出は数ヶ月前に宇宙船をオラリオに持ち込んだ際と推測、現在の居場所は不明。

 

『虫でも一緒に来ちゃったのね。じゃあ安心かな? それよりも例の計画はあの神様で良いの?』

 

「質問を肯定。面談時の心理分析、周囲の反応から適正を判断。尚、取り扱う商品の下拵えはアーシアに委任する」

 

『本当に!? 私、頑張る!』

 

「仕事への努力は当然求められる物であり、宣言の必要性に疑問。歩行開始時に右足を動かすと毎回宣言するだろうか?」

 

『バルタンったら……』

 

 私への呆れを観測……理解不能。

 

 

 

 

 

「……神ヘルメスが縛られ顔の右半分の毛を全て剃られた状態で発見されたそうだ。“女の子の家に不法侵入した変態です”と書いた紙を背中に張られていたらしい」

 

「成る程。チーズバーガー完成、持ち帰りの商品は五分で完了する」

 

 本日は週の中でも最も早く売り切れるハンバーガーとフライドポテトの日、本日もオッタルはその場で食べつつ街の情報を渡して来る。

 忙しい身とすれば噂話に割く労力の節約に役立っているので助かるが、威圧感から近付くのを避ける客も出るので出禁を検討中。

 

「……それと夜中も屋台をすると聞いたが」

 

「肯定。この身は成長期故に睡眠が必要として行っていなかったが、濃縮したスープと麺と具を急速冷凍、湯煎によってラーメンを完成させる技術を考案。アルバイトの雇い入れを決めた」

 

「そうか、それは楽しみだが……イシュタルには注意しろ。ガリバー兄弟撃破の噂からお前に注目していたが、最近はどうも荒れているという情報が入った」

 

「了承。元よりこの身は歓楽街に向かう必要は皆無。忠告は聞き入れ、留意しよう。注文の品、完成した」

 

 ポテトの側に置いて匂いを移した事で通行人への宣伝効果を持つ紙袋に持ち帰りの商品を入れて渡す。

 

 

『荒れてる人にねらわれているのかぁ。ちょっと不安かな? ほら、雇ったのって……』

 

 タケミカヅチ、眷属を持つ神だが、イシュタル・ファミリアとは戦力差が大きく抗争の可能性は低いだろう。

 また、弱小故に壊滅時のオラリオへの影響の評価は極小、問題は無い。

 

『いや、そうじゃなくって……』

 

 言いよどむ理由が推察不可能、文化の違いを実感。

 

 

 

 

 この夜、他のメニューよりも早く売り切れになった屋台の後片付けを終えた私は豊穣の女主人へと向かっていた。

 他の店に比べ高額な値段が気になるが、アーシアが望むのなら肉体を間借りしている身としては従うしかない。

 バルタン星人の名を汚す事なかれ、存続の危機に瀕する等の場合を除いてバルタン星人は一方的な関係を望まないのだ。

 

 

「姿の隠匿を看破。逃走を推奨する。報復だろうか、ヘルメス・ファミリア団長アスフィ・アンドロメダ」

 

 その途中、近道として路地裏を通っていた私は足を止め、宙を舞うゴミが空気の流れが変わり不自然な動きをし、誰かが踏みしめている動きの地面の辺りに視線を送る。

 魔力の反応は無し、何らかのアイテムを使っていると考えた場合、思い浮かぶのはヘルメス・ファミリアの団長が数多くのアイテムを作れるという事。

 

 

「まさか見抜かれるとは。……お待ち下さい、敵対の意思は有りません。あの馬鹿……ヘルメス様に貴女を調べるように言われたのと、勝手に家に入り込んだ事へのお詫びをお持ちしました」

 

「了解。次に此方を影から調査している場合、眷属がダンジョンに潜ったタイミングで可能な限り惨たらしい方法で天界に送還するとの伝達を希望。これは口先の脅しではない。繰り返す、これは口先の脅しではない」

 

 そっと差し出された袋を受け取ると中には金貨や宝石、まさか見抜かれるとは思っていなかったのだろう、動揺した様子で袋を受け渡した後は再び姿を消して去って行った。

 

 

 

『ちょっと脅し過ぎじゃない?』

 

 三度目、あれは脅しではない。

 神とはあくまで商売上の付き合いのみに留めておくべきである。

 バルタン星人とこの星の住人の考え方が違うのと同様、人と神の思考回路には根本的な相違点が存在。

 共感も相互理解も不可能と判断、神にとって人は娯楽のための駒であり、それをどれだけ大切にするかの違いでしかない。

 根拠として神の力で解決される問題がされずにいる現状、特に何かをなす事無く地上にて行動する神の存在を提示しよう。

 

『うん、そうだよね。私の村を滅ぼしたラキアはアレスって神様……神の支配する国だし……。それに、オラリオの神様がアレスを送還していれば私の家族は生きていたかも知れないのに』

 

 理解が得られ結構である。

 

 

 

 

 

 

 路地裏を歩いていると目当ての場所である豊穣の女主人の裏手へと出る。

 相変わらずアルコールを摂取した状態の者達の声は騒がしいが、特に今日はロキ・ファミリアの宴の日らしく聞き慣れた声が耳に届いた。

 

 

『相変わらず騒がしいなあ。別の日にすれば良かったかも。でも、舌がミアさんの料理を求めてるし、フレイヤ様にも約束しちゃったし……』

 

 正式な契約ではなく、正確な模倣が可能な以上は手間賃を払ってまでこの店で食べる必要は無いと提案するが、この店で食べるという行為に意味があるとの返答だ。

 場の雰囲気が食事中の気分に作用するのはメフィラス星人との会食で覚えがあり、これ以上口を挟むことなく表口から入ろうとした時、駆け足で飛び出して来る者が居た。

 

『あっ! 血塗れの……』

 

 そう、アーシアのドーナツに血を飛ばして台無しにした白髪頭の少年である。

 泣きながらダンジョンの方に走って行くのを見届けた後、これ以上注意を払う意味も無いと判断、店に入ろうとした所でアイズと出会した。

 

「あっ……」

 

「道を開ける事を要求。その場所に立たれていた場合、通行の妨げとなる」

 

 何か焦った様子で立っていた彼女を退かせ、私はカウンター席に立つ。

 ベートが何やら縛られていたがファミリア内の揉め事に興味は無い。

 

「店長、本日は……」

 

『お魚とパスタが食べたい! 飲み物はオレンジジュース!』

 

「魚料理と本日のパスタ、オレンジジュースを所望する」

 

「あいよ!」

 

 何やら店員が殺気立っていて、フレイヤが宥めているが無関係だ。

 食い逃げだのと聞こえるが、あの少年が水に浮かんでいても店と彼の問題である。

 

 

「おーい。アーシアたんもこっちに混ざらん? ベートのアホを転がしておくから席空いてるで?」

 

「申し出を拒否。この身は騒がしい食事が苦手である」

 

 ロキが誘って来るもアーシアは大人数での食事を好まない。

 故に顔も向けずに断った後は料理が来るのを待っていたのだが、聞き捨てならない話が聞こえて来た。

 

 

 

「質問、ミノタウロスを逃がし、其方のアイズ・ヴァレンシュタインが白髪頭の少年を血塗れにしたというのは間違いだろうか?」

 

「いや、間違ってへんで。まあ、ポカやな。……ん? その手は何なんや?」

 

「その少年が血塗れの状態で街中を走り、食べていたドーナツを台無しにした。先程も店から飛び出して走っていた少年には報復した故に半額を其方に請求する。百ヴァリスだ」

 

「……マジかぁ」

 

 む? 何故頭を抱えている? 百ヴァリス程度が払えぬ身でもあるまいに。

 いや、納得した。

 

 

 

「あの装備からして弱小ファミリアであり、大手ファミリアの其方と積極的に揉めようとはしないと考察。ダンジョンに入る以上、死亡は自己責任である」

 

 ……何故かこの後、宴の席は少々気まずそうであったが何故だろうか?

 

 

「いや、理解した。店主、私が来る前にベート・ローガを中心とした男女間のいざこざが起きたな?」

 

 あの男がアイズを口説き、それにショックを受ける殆どの女性陣に男性陣がショックを受ける。

 男女関係のもつれは怖いと聞くが、これがそうなのだろう。

 

 

 

「アンタ、偶にばかになるねぇ。もう少し人の心を理解しな」

 

「解せぬ。他人の心を真の意味で理解するのは不可能だと反論」

 

 やはりバルタン星人とこの星の住人の精神構造は全くの別物だ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




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神の宴

表紙絵があるとすればバルタンを背景にアーシアの絵とかでしょうか?


 神にも個体差が見られ、私とアーシアの意見が一致した結果、嫌いな神の一位にヘルメスが輝いた。

 共同体を失う要因となったアレスに関しては既に嫌いという段階ではないらしいが、同時にアーシアが好ましいと思っている神も存在する。

 

「俺がガネーシャである!」

 

「名乗りに関しての返答。目の前の神が何者か知っていなければ依頼は引き受けなかった。何度も名乗りを上げるのは自己顕示欲が過剰な現れと察せれ、普段の行動もそれ故との印象を与えかねない」

 

「そうか! 気を付けよう! そして俺がガネーシャである!」

 

 それが民衆の味方を自称する象の仮面の男、ガネーシャである。

 善か悪であるかを問えば善であり、アーシアが幼いからと何かと気を使い便宜を図って貰った事は認めるので今回の依頼、神の宴での調理作業を引き受けたのだ。

 

 尚、私のガネーシャへの印象は自己顕示欲が高い馬鹿である。

 

 

「それでこの料理は何だ?」

 

「ナチョスとトルティーヤ、コーンをすり潰して作ったチップスと生地に野菜や肉を巻いた物だ」

 

 巨大な象の姿をしたホーム(眷属に無断で改築したらしい。やはり自己顕示欲が過剰である)で開かれた宴の会場、場所的には直腸や肛門の辺りだと思いながら分身と併せて五カ所にそれぞれ別メニュー、今後屋台で出す予定のメニューの宣伝も兼ねて出している。

 しかし知識と記憶から調理法を推察、この様に再現したが他国の料理に詳しかった例の地球人の食い道楽は凄まじいな。

 

 

 他にはチーズタッカルビ、ライスバーガー、汁無し担々麺、飲茶各種、何処にも大勢並んでいるし、屋台出店の新規申請をするに値する結果だろう。

 

 

「あら、そっちも美味しそうね。屋台は出入り禁止だけれど、此処は別に良いわよね?」

 

「神フレイヤに対する出禁は普段の屋台のみかどうかへの返答、許可する。ナチョスはチーズソースとサルサソースの二種類を選択可能である」

 

 今は他の客が使い物にならなくて困る訳でもなく、男神共が勝手に順番を譲ったのだから咎めつつ揚げ立てを差し出す。

 フレイヤは少し迷った後で結局ソースを両方皿の端に乗せていた。

 

「ねぇ、貴女って結構情報を仕入れているわよね? 何か面白い話とか聞いていないかしら?」

 

「取り終わった後は横に避けるのを要求。他が取るのに邪魔になる」

 

「つれないわね、其処が可愛いのだけれど」

 

 色々と面倒な女神であるが、要求を受け入れてくれる辺りは助かる。

 初対面で魂の色が二つだの片方は全く知らない色だの意味が不明な事を言われたのでアーシア同様に面倒な神ランキングでは上位ではあるが。

 

「闇派閥の疑いがある集団がダイダロス通りで目撃、ゲドという素行の悪い下級冒険者が大量の血を失った状態で発見、但し死因は首の骨の骨折」

 

「あらあら、物騒ね。オッタル達が知ったら出歩くのに制限されそう」

 

 敵対している、正確には敵視されているイシュタルが最近荒れているのはオッタルからの情報であり、その時点で制限するのが正解だと思うが、女神の自由を制限する気など無いのだろう。

 ……常連の一人であるアレンは愚痴を吐いていたが。

 

 

 

「ヘファイストス! 会いたかったよ!」

 

 

 少し離れた場所から聞こえた声の方に視線を向ければ料理を持ち帰る準備をしつつ多く食べていた駄目な女神がヘファイストスに何やら話している。

 ああ、これも話しておくか。

 

 

 

「神ヘスティアから聞いた情報、あの白髪の冒険者は彼女の眷属らしい」

 

「へぇ、そうなの。じゃあ、お代わりを貰えるかしら? これ、気に入っちゃったもの」

 

「列に並び直せ。横入りは厳禁である」

 

 並んでいた神々は直ぐに列を彼女に譲る。

 まあ、彼女に列を譲った程度で宣伝行為の効率は落ちないだろう。

 

 

 しかし、フレイヤに関する噂を考慮した場合、忠告すべきか。

 

 

 

 

「これは独り言。街中で何か起きたとして、客がひっきりなしに注文を続けた場合は私は動けない。尚、持ち帰りの品を持って席に居座るのは厳禁とする」

 

「あら、大丈夫よ。私、沢山食べる子は可愛いと思うもの。じゃあ、私の眷属達が大食い大会をする時には宜しく頼むわ」

 

 あの少年にフレイヤが何をしようと私には無関係だ。

 商売の邪魔なら手を出すが、商売の真っ最中に動く必要も無い。

 

 

「そうそう、怪物祭は見に行くのかしら?」

 

「いや、()()の際に見ている。改めて見学する事に意味を見いだせない」

 

 モンスターを調教する様子を見せる怪物祭だが、二年前から少しだけ趣向が変わっている。

 世間話に巻き込まれた際、怪物祭への意見を求められたので、私が例の地球人から得たショーの知識を少しだけ話した結果、顧問料を貰う代わりに練習の様子を見て意見を口にしている。

 私には楽しさが分からないが、アーシアが楽しんでいるのだから受け入れているだけ。

 

「祭りの最中は稼ぎ時だ。今後始める予定の夜間の移動式屋台の宣伝も必要であり、雇った神に指示を送る必要もある」

 

 神は全知無能、全てを知っているという割にはヘスティアは情けない点が見られるが、数度の練習と指摘だけでタケミカヅチは冷凍ラーメンの調理を習得した。

 

 

 

「しかし、眷属が過保護なのは何処も同じなのだろうか?」

 

 “歓楽街には私が行きます”と眷属が言っていたが、雇ってもいない相手に仕事に参加させる気もなく、そもそも眷属が満足に稼げば主神がアルバイトをする必要が無いと指摘しておいた。

 

 

「そうね。ちょっと一人で出歩いただけで大騒ぎなのだもの、息苦しいわ。今度、ちょっと連れ出してくれないかしら?」

 

「要請への返答。断固拒否」

 

 もうこの場でも出禁にすべきか迷う私であった。

 

 

 

 

「捌く時間は鍋に麺を付けると同時に砂時計が動く。水は水晶の予備を用意しているので出が悪くなれば報告を。売上によって追加給金、ツケや洗い物時の容器の破損、その他契約違反行為にはペナルティを課す」

 

「うむ。任せておけ。折角雇って貰えたのだ。期待に添えるように頑張ろう」

 

 神であろうと雇い主には敬語を使うのが妥当と思った私であるが、アーシアの意見により黙っておく事にした。

 無論、ペナルティの発生時には一切容赦せず、搾り取れるだけ搾り取る気だ。

 

 

 

 

 

「これをどの様にすれば理解が可能というのだろうか。やはり共感等は勘違いの類である」

 

 此方は分身五号、受け持つ屋台はケバブサンド。

 巨大な肉を焼き、見た目と匂いで客を引き寄せた上で目の前で肉を削ぎ、新鮮な野菜と辛めのソースと共にピタパンに挟み、手が汚れないように紙で包んで渡す、屋台の中でも人気の高いメニューであるが、そのケバブサンドを山積みに盛って食べ進める馬鹿二人の姿があった。

 

「はっ! もう辛そうじゃねぇか」

 

「ぬかせ。トロ臭く食べてる癖によ」

 

 馬鹿の名はベートとアレン、事の発端は先にベートが三個注文し、後ろに居たアレンが小食だの何だのと挑発し、大食い対決に発展したのだ。

 鬼気迫る様子に他の客は遠巻きに眺め、とても注文する空気ではない、勝負の邪魔だと言われるのを恐れているのだろう。

 呆れている間に闘技場の方でショーの開催時間が迫っているからか人気がなくなって来た頃、私は決めた。

 

 

 

「あの時はああ言ったが、迷惑を被るのなら話は別だ。二人揃って一ヶ月は出禁だな」

 

 今の勝負が終わったら即座に言い渡そうとした時、物陰から次々と白装束の不審者達が現れた。

 

 

 

 

「上級冒険者達を見つけたぞ! 我等が愛の為、奴らの命を神に捧げろ!」

 

 勝てないだろうに何が目的だ?




フィンの目的に関しては今回かけなかった


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ショーと契約

オリジナルよろしく
漫画載せてます


 ガネーシャ・ファミリア主催の怪物祭(モンスター・フィリア)は大勢の目の前でモンスターを調教する催しであり、近年開かれるようになってから大盛り上がりをしている。

 

 だが、二年前、屋台に訪れたガネーシャがバルタン星人と交わした世間話を切っ掛けに更に人気を高め、一部の店の協賛で遠隔視が可能な鏡を使っての大催し、オラリオ内外から客が集まっていた。

 

「さて、今年はどんなのを見せてくれるのやら。去年は曲芸みたいなのを見せて貰ったけれど」

 

 そんな大人気であり、観覧席は争奪戦。前売り券は完売御礼で当日券は長蛇の列の中、数日前から並ぶ程に忠実な眷属を使って当日券を手に入れた神がポップコーン(バルタン星人からレシピの有料提供)とジュースを買って悠々と開始を待っていた。

 

「ガネーシャ・ファミリアなら騒ぎになっても不安にさせない為に続けるだろうし、楽しみだな」

 

 やがて開始が告げられると共に始まったのは前座、これにはバルタン星人の放ったとある言葉が関わっている。

 

 

『従えて終わりなのに疑問を呈する。例を提示、飼い犬は従えてから芸を仕込む』

 

 それから始まったのは今からモンスターを従えるのではなく、従えたモンスターによる芸の披露。

 去年は障害物コースを用意し、騎乗した冒険者と共に二匹のモンスターが競争をし、一回目となる一昨年は手品に協力させた。

 手品の方は冒険者の練習不足かグダグダな部分も見受けられたものの忠実に従うモンスターの姿には好評が集まり、グダグダな手品を披露した冒険者はランクアップをした時に変な二つ名を貰ったのだが別の話だ。

 

 

「……成る程、今年は演奏か」

 

 最初に運ばれて来たのは台車に乗った巨大な水槽であり、中心の岩の上に設置されたハープを人魚が奏で始める。

 続いてはリザードマンとフォモールによるハンドベル、これらは上手な演奏というよりは子供の発表会程度の腕前ではあったものの、今まで従えて終わりであったモンスターに芸を仕込んだ事から今回も大いに盛り上がっている。

 尚、最後にアラクネによる琵琶の演奏だけは才能を感じるものであったとされ、それに合わせて歌う団員には少し残念な二つ名が送られる事が決定した。

 

「うーん、これは帰るのをちょっと早まったかな? でも、彼奴達が面倒だから解き放っちゃったし、どっちみち来年は観に来られないか」

 

 ポップコーン(キャラメル味)をパクパクと食べながら呟く神は本日天界に帰る予定で最後に見せ物を楽しみに来ていたのだ。

 

 彼の名はタナトス、死者の魂の管理を行う神であり、人生によって汚れた魂が転生時に綺麗になる事から大勢の死を望み、眷属には愛していた者が生まれ変わった先の近くに転生させると約束して従えていた。

 その望みの為にクノッソスに関わるファミリアとも手を結ぶも先日起きたゴモラの強襲による人造ダンジョンの破壊を機に手を引いた。

 

 秘密の入り口からの瓦礫の撤去や物資の一からの搬入はオラリオが発展し冒険者のレベルも上がって来た昨今では最早再建は不可能とし、建築に妄執を捧げる男の弟も外で悪事を働くべく主神や仲間と共にオラリオを去った。

 

「あれは外から来て、明確な意思の下で門を集めていた。作り直しても再び来たら二の舞だし……あんなのが地面を掘って自由に動くなら見たい物は沢山見れそうだしね。イシュタルもスポンサーを降りたし、残りは例の連中とエニュオの一派だけか」

 

 ポップコーンで乾いた喉をジュースで潤しているとメインである調教が始まる。

 彼の予想通りに観客の混乱を避ける為か中止になる様子が無い中、タナトスにも予想外の事態も外では起きていた。

 

 

 

 

「謎の白装束だけでなくモンスターの脱走。……関連が有りそうだな。よし! ガネーシャ・ファミリアの名に懸けて解決しろ。そして、俺が、ガネーシャだ!」

 

 

 

 

 

 場面は移り、分身五号の屋台の側、ケバブサンドの大食いで競い合っていたベートとアレンに向かって突撃する白装束達が居た。

 

 

「「邪魔だ」」

 

 勝負の真っ最中だとばかりに瞬殺、仕込んでいた爆発物のスイッチさえ入れる暇すらなく、それどころかケバブサンド片手に立ち上がる事もせずに殴打によって意識を奪われ地面に転がっている。

 

「……おい、テメェの所のイザコザか? 妙なのに巻き込みやがって」

 

「あっ? テメェ達ロキ・ファミリアこそ妙な連中に恨まれているんじゃねぇのかよ。……物騒なモンを仕込んでるな」

 

 うつ伏せに転がっている白装束の一人を足先でひっくり返したアレンは爪先で腹部を踏みつける。

 仕込んでいた爆発物を無造作に取り上げて他の白装束を調べれば同じ物を持っていた。

 

 

 

「死兵かよ。ちっ! こんな連中、俺なら兎も角雑魚には荷が重い。周りを巻き込んだらロキ・ファミリアの汚名だ。おい、勝負は次の機会に持ち越しだ!」

 

 手に持っていた食いかけのを飲み物で胃に流し込んだベートはアレンの返事も待たず、白装束達が持っていた爆発物と同じ匂いを頼りに飛び出して行き、それを見送ったバルタン星人は問い掛ける。

 

「質問。アレン、あの言動は心配なのを素直に表明出来ず、嫌われてでも言い訳をして助けようとしているのだろうか。神が言うツンデレとやらの可能性が高い」

 

「知るか」

 

「そうか」

 

「……仕方無ぇ。俺もさっさと行くから注文したのは残しとけ。……あっ?」

 

 アレンも他の場所で襲撃が起きている可能性を考えたのか立ち上がろうとして動きを止める。

 視線の先にはオッタルと共に近付いて来るフレイヤ・ファミリアの幹部の姿があった。

 

 

「おい、女神の呼び出しか? 何処に行けば良い?」

 

「いや、此処であっている」

 

 そう言うなりオッタル達はアレンの近くの席に腰を下ろし、同時に告げた。

 

「店主、ありったけ作り続けてくれ。女神の提案で幹部揃っての大食い大会の開催が決定した。多数決によりケバブサンドに決まったから手早く頼む」

 

 先日の宴でフレイヤと言外に交わした約束をバルタン星人は思い出し、白装束達もフレイヤの手の者と納得した。

 

「了解。白装束達による上級冒険者への襲撃及びモンスターの脱走によって他の屋台周辺から客が引いた。本体及び他の分身にも救援を要請しよう」

 

「そうか。割り増しで料金は払うので……」

 

 頼む、オッタルがそう言いきる前に空の上から本体を含んだ五人が現れた。

 

 

 

「……飛べたのか」

 

「質問、飛行が可能だったか。解答、この身でも音速の二倍での飛行が可能」

 

「……そうか」

 

「フォフォフォフォフォフォフォフォフォフォ」

 

 割増し料金で騒ぎによる赤字は免れそうだとバルタン星人が笑う中、フレイヤ・ファミリアの幹部達は考えるのを止めた。




やる気は感想しだい


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悪意は無い

感想多いので後で 今はコンビニのWi-Fi使って帰宅途中に投稿


 恩恵を受けた現星住民に関する考察のレポートより抜粋。

 

 その能力に関する経験を積むことで効率良く能力の向上を望める恩恵であるが、特筆すべきは向上した身体能力に比例して上昇する筈の基礎代謝や消費カロリーが食事量に見合わない事である。

 おおよそ体格から想定される食事量しか摂取しない者が多く、恩恵によってカロリーからの発生エネルギー効率が上昇していると見られ、恩恵を失うと上昇した力は元に戻る事から取り付け型の装備と同様と思われる。

 

 

 また、物理的力には抵抗力が上昇するも食事時間の感覚の変化が無い事から消化器官の能力には変化が無いのだろう。

 正に戦う為の力、現星住民に神と称される上位存在、普段は天界という異空間にて活動する者達による現星住民の兵器化の為の力と推察。

 

 神を排除せんとする侵略者が用意した異星間条約締結前の兵器、もしくは神に侵略にあって滅びた高度知的生命体の防衛兵器の可能性が考えられる。

 

 “光の星”所属の警戒対象に察知された場合、天体制圧用最終兵器の使用が危惧される。

 神の恩恵が現星住民以外にも付与可能か調査する必要があるが、私以外の外星人の痕跡は見られず、慎重に調査する必要があると思われる。

 

 

 

 根拠となる証拠が不足しているが、ダンジョンに神が入る事で異変が起きるとの情報からダンジョンには神の敵対者、

 

 

 

 

 

 

「想定された範囲の結果である」

 

 胃袋が強靭になった影響か必要量とは別に押し込める量は増えたのだろう、細身や小柄な者達、エルフ及びダークエルフ、パルゥムの四兄弟は脱落した。

 

 

「うっぷ! 不覚・・・・・・」

 

「全てを溶かす我が胃袋が敗北するとは・・・・・・」

 

「「「「黙ってろ、胃に響く」」」」

 

 残ったのはアレンとオッタル、先にベートと争っていた分をカウントしているがアレンには余裕が無くなって来ている。

 体格の差からオッタルの勝利が確定であろう。

 

 

 

 

「地下より襲撃有り。対処する」

 

 オッタルとアレンが向かい合って挟む簡易式の折りたたみテーブルを引っ張れば僅かに遅れて姿を見せた花型のモンスター、資料には無く名称不明。

 ゴモラに付けたカメラで確認した存在であり、生息地の変化によって地上に進出した可能性を考察。

 

 

「邪魔だ」

 

「死ねっ!」

 

 想定の範囲内、瞬殺。

 但し打撃耐性の影響かアレンの攻撃による損壊は微小。

 それは分かっているのか不機嫌な様子で席に座った彼の前にテーブルを戻せば黙ってケバブサンドに手を伸ばし、少し躊躇いながら手を伸ばした所で街の数カ所の上空で爆発が起きる。

 

 目を向ければ白装束達が爆炎の中から地上へと落ちて行き、視線を地上に戻せばダウンしたばかりのガリバー兄弟が花のモンスターを調べていた。

 

 

「推定Lv.3から4って所か」

 

「打撃には随分と強いみたいだけれど」

 

「脳筋の攻撃で弾け飛んだのがこの程度とか面倒な奴だ」

 

「魔石は上顎の奥で……極彩色だ」

 

 長男が手を入れて魔石を抜き取ると花のモンスターは灰になり、突然の風がオッタルとアレンの方に強く吹く。

 

 

「あっ……」

 

「「「よくやった!」」」

 

「待て。悪意は無い!」

 

 灰まみれになる二人とケバブサンド、二人は無言で立ち上がって長男を見ている。

 

 

 

「材料が切れた。今のスコアならアレンの勝利。……料金は後日回収する」

 

 他の分身により騒ぎの沈静化を確認、脱走したモンスター及び白装束達、別場所で現れた花のモンスターはロキ・ファミリア及びガネーシャ・ファミリアと調教したモンスターにより鎮圧。

 

 調教されたモンスターの知能の高さ及び言語能力を確認、特異個体と推察……要観察対象とする。

 

 

 

 

 

 

 モンスターの脱走、新種のモンスターの出現、そして白装束の死兵達による上級冒険者に対する襲撃、当日中に解決したそれだが、ショーの最後の方で少し騒ぎとなった。

 

 

「やあやあ、少し失礼するよ。此処なら鏡を通して見ている子達も多いだろうし謝るには丁度良い。騒ぎを起こして迷惑を懸けたね。じゃあ、そういう事で」

 

 最後の調教が終わるなり中央に入って来た神……タナトスは止めようとするガネーシャ・ファミリアの団員を神威で止め、それだけ言うと神の力を解放して天界にへと送還された。

 白装束達も多少の死傷者が本人達にのみ出たが捕まり、動機である愛する者と同じ場所に生まれ変わるという約束を話したという。

 

 結果、主犯が責任を取ったという事もあってかガネーシャ・ファミリアへの批判の声は騒ぎに比べ少なく、脱走を知らなかったのかモンスターを放った罪までタナトスに背負わせたフレイヤは得をしたという事だ。

 

 

 さて、それは重要ではない、重要なのは……。

 

『ええっ!? お魚、これだけなの!? バルタン、今日のメニュー変更する? 折角ソースが美味しく作れたのに……』

 

 本日のメニューは串揚げ、多種多様な具材を注文と同時に揚げ、特性ソース(二度付け禁止・ふざけて繰り返した神は出禁にした)を付けて食べるのだが、朝市に仕入れに行けばエビもドドバスも普段より少ない。

 以前、モンスターの影響で漁獲量が減少した港町メレンだが、此処最近は回復傾向にあった筈だが……。

 

 

「メニュー変更を検討、下拵えした他の食材及びソースの鮮度の問題から……メレンへの調査を決定」

 

 本日のソースはアーシアによる店に出すのに相応しいレベルの品、廃棄とする選択肢は存在しない。

 その場で飛び上がり、ふと地上を見ればロキ・ファミリアのホームの数名が此方を見ており、同時にバベルの最上階からも視線を感じたが、アーシアとの融合時の最高速度であるマッハ2でメレンへと向かって行き……。

 

 

『バルタン、都市を出る時は手続きをしないと』

 

 失念、不覚、反省。

 

 引き返し、門の前で順番を待つ、長い。

 

 

 目が無い所でテレポートを使用しての脱出、再びテレポートで内部に戻る選択肢は存在した……。

 

 

 

 

 

 

「わざわざ来てくれたのに悪いが、今は水辺に近寄らない方が良い。何処から来たのかは分からないが、厄介なモンスターが住み着いたからな」

 

 メレン到着後、寂れた様子の町並みを通り過ぎ港まで向かった私が出会ったのは神ニョルズ。

 瞳孔、表情筋、声のトーン、視線、これらの要素から発言の虚偽を断定。

 

『この神様があのモンスターを連れて来たって事?』

 

 肯定、何らかの繋がりを推測する。

 

 見れば例の花型のモンスターが水中から姿を見せ、拘束したモンスターを乗せた小舟を襲った所で周囲から推定Lv.1が多く、2が僅かに混ざっている者達に攻撃を仕掛けられている。

 小舟に仕込んだ火薬が火矢で爆発、続いて放たれた矢が魔石に命中したらしくモンスターは灰になった。

 

 

 モンスターを襲う習性を確認、このモンスターを水中に放ちモンスターを襲わせていたが、漁船まで襲われ始めたのだと破壊された船の残骸から推察。

 

 

「結論……周辺に生息する花型を駆逐する」

 

「お、おいっ!?」

 

 制止の声に従う義務は存在しない。

 私は迷わず水に飛び込んだ。

 

 

 

 

 

 

『ちょっとバルタン! 今日はお気に入りの服なのに!』

 

 不覚、失態、謝罪。

 



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勧誘

フィン好きな人、最後にアンチ有るよ


感想うれしい励みになってるよ!


 水中にて開眼、視界への問題は皆無。

 恩恵、もしくは装備品によって水中活動に補助が入る場合が存在、バルタン星人のスペックであればそれらは不要である。

 だが、もし現星住民に付与可能な強化である恩恵が外星人にも付与可能、叉は原理を解明し技術再現が可能であれば戦力の大幅増強に繋がる。

 

 

 この星の住民を騙す為に上位存在として崇められていた概念上の存在に扮した外星人の実験場の可能性が浮上。

 メフィラス星人が関与しているのならば接触が有りそうだが、それすら実験の可能性も有るが、無関係の可能性も考慮して行動せねば。

 

 

「キシャァア!?」

 

 破壊光線、破壊光線、破壊光線、破壊光線……効率がわるい。

 

 アーシアと融合しても数十キロ単位で米粒レベルの物を目視可能である故に更に大きい……っが、白色破壊光線の射程はそれ程ではなく、卵を纏めて吹き飛ばすのは良いが一匹単位で始末する事に効率の悪さを感じてしまう。

 

「方針変更、破壊光線ではなく殴打での撃破とする」

 

 この状態で可能な飛行速度はマッハ2、それは水中では落ちるし基準が違うが破壊光線の推進力になり、バタ足を加えれば空中でのマッハ3相当にまで可能。

 このままマッハ3(空中での基準)で水中を移動し、港周辺に生息するモンスターを始末する。

 

 通常、その場所を縄張りにしている生物が居た場合、それを天敵とする生物が寄りつかず、駆除した途端に住み着くが、モンスターは完全に別種の個体であるにも関わらず突発的な異常事態か特殊な個体以外は闘争が起きない。

 メフィラス星人がバルタン星人及び他の外星人を支配しており、それぞれが星ごとに同じ目的で敵対せずに集団行動する物と判断した。

 

 花型だけは打撃での効率が悪く破壊光線で始末、水中での音速以上の移動は周辺に影響を与えるが大型のモンスターが複数匹生息する現状よりはマシだろう。

 

 

 

 

「周辺一帯のモンスターを駆除した」

 

 あれだけのモンスターを始末したのだ、漁業権等知らないとばかりに必要としていた魚介類を採った状態で海から出ればニョルズは真実だと伝わるからか唖然としている。

 去る際、勧誘を受けはしたがアーシアの夢はオラリオで店舗を持つ事であり、この港でモンスター退治をする事ではない。

 ……事実、途中から視界の共有を停止したが宿主の恐怖からか体に震えを感じる、モンスター退治など神の恩恵を得た者がやっていれば良いのだ。

 

 

 

 

『ごめんね、バルタン。私の都合に付き合わせちゃって。バルタンの力ならダンジョンだって楽に潜れるのに』

 

「契約は絶対だ。この星での活動に宿主への寄生が必要な以上、肉体知能文明の全てに著しい差がある未開の星の住民であろうとバルタン星人は誠意を持って関わる。これはバルタン星人の存続に関わる事態ではないのだ」

 

 既に契約は締結し、アーシアの種族の寿命からすれば短くはない四年の期間が経過しているというのに気にする理由が分からない。

 この星の住人も地球の彼もバルタン星人と精神構造に相違点が多過ぎる。

 

 個として独立した存在でありながら群としての存在を望む、矛盾した生態だ。

 

 

 

 

 

 

「わあっ! 今日は串揚げの日だったんだ。全種類……」

 

「ちょっとティオナ! 今はダンジョンに潜る準備の最中でしょ! 団長と合流するんだから買い食いしてるんじゃないわよ!」

 

「え~! ちょっとだけだって。持ち帰りにしてダンジョンに持ち込むから全種類ちょうだい」

 

「了解。揚げた後、持ち帰り用の袋に入れて待っている。忘れた場合、ロキ・ファミリアのホームに届けるので構わないか?」

 

「忘れないって。じゃあ、宜しくね!」

 

「待て。料金を忘れずに払って行け」

 

 油断も隙もないとはこの事だろう、悪意を持っていまいといようと料金を払わずに立ち去ろうとしたのは同じ、私にはどちらかなど無関係だ。

 直ぐに追い付き回り込めば慌てて財布を取りだした。

 

「ごめんごめん。忘れちゃってた」

 

「次に同じ事をすれば暫く出禁だと警告」

 

「ええっ!? それはちょっと困るってっ!」

 

「料金の回収の手間を生じさせられる此方の方が困る」

 

 そもそもロキ・ファミリアは主神によるセクハラ行為に警告を発したばかりであり、団長であるフィンの求婚まがいの発言も業務に支障を来した。

 

 

 

 あれはガリバー兄弟を叩きのめした頃、少し良いかと呼び出しを受けた。

 

「否定。只今屋台の業務中である。途中で放置した場合、客からの信頼を失い今後の集客に支障を来す恐れが発生する」

 

「確かに迂闊だったね。じゃあ、暇な時間を教えて欲しいな。仕事が終わった後なんてどうだい?」

 

「私には同行する事への利点が……いや、受けよう」

 

 あの男は異性からの人気が高く、このまま何度も誘われれば嫉妬から不用意な行為に出る者の存在が考慮される。

 そしてアーシアも祖父と歳の変わらない同族からの誘いを断り辛かったらしく、肯定の意を私に示した。

 故に業務後に食事の席に付いたのだが、そこで受けたのは一種の勧誘、己の理想を叶える同士が欲しいとの事。

 

 千年前、神が降臨した際に信仰していた対象が妄想の産物でしかなかった事により意気消沈したパルゥムが落ちぶれて行ったのを自らが新たな光となって立ち直らせたい、私も……アーシアもその光になれる可能性がある存在だと、その様に見定めたのだろという。

 

 

「未だ君は幼いから分からないだろうけれど、次の世代の為の伴侶の候補としても……」

 

「成る程、小児性愛障害の類だったか。……むっ」

 

「団長ー!」

 

 その理想に賛同する気は無いのだと伝えるよりも前に現れたアマゾネストーカー(造語)ティオネ、今回の事で私をライバル視する事になった面倒な相手である。

 結局彼女に迫られているフィンに背中を見せて立ち去ったが、二度と勧誘はされない事を望むのは私とアーシアの総意であった。

 

 

 

 

 

 

『パルゥムを立ち直らせたいって言っているけれど、それって大勢をダンジョンに向かわせる切っ掛けになるって事だよね?』

 

「あの男の口振りは有名な冒険者にパルゥムが少ない事を嘆いていた。その通りだろう。実に不可解である」

 

 千年、バルタン星人であれば長くはない期間であるがパルゥムの平均寿命を考慮した場合、一体どれ程に代を重ねられるのだろうか。

 希望の象徴であった対象の存在が虚偽であった事への落胆はその時代を生きた者、その二世代後までなら語り継がれ引き継ぐのだろうが、それが千年にも及ぶ事へ疑念が生じる。

 

 

 

 

 

 

『……そんなのは切っ掛けだけじゃないかな? きっとパルゥムは体だけじゃなくって心も弱いのが特性なんだと思う。アマゾネスがあんなののみたいにさ。だからあの人に奮い立たせて貰っても特別な才能が無かったら死んじゃうだけだよ。パルゥムは体が小さいから他の種族より沢山死ぬと思うな』

 

 少しはフィンへの憧れがあったらしいアーシアだが、この日を境にその憧れは消え去ったと語っている。

 

 

 

 

 

 そしてこの日の夜、私はガネーシャ・ファミリアのホームに呼び出されていた。

 

 

 

「俺が、ガネーシャだ! 今日は来てくれて助かった。怪物祭の時、お前が見た者達について説明がしたい。迂闊に話される前にこうして来て貰ったのだ」

 

 別に何でも黙っているから帰らせて欲しいのだが……。

 

 




次回、新たなウルトラ怪獣の影が  分かってる人、今の時点のプラグで分かってもコメントは勘弁  ヒント・宇宙人ではないです


オリジナルも! オリジナルもマジでお願いします メインが全体のモチベーションに関わるので



次回、ゴモラ出るかも


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無駄

 どうしてこうなってしまったのでしょうか?

 

 その問い掛けは人生にであり、今の状況にであり、私の体に対する物。

 

「ま、待て! 俺達仲間じゃねぇか! そうだ、次に褒美を貰った時は俺の分を……」

 

 何時も私からお金を奪っていた男が壁際に這いながら手を突きだして接近を拒絶して命乞いをして来る。

 何時も何時も笑いながら暴力を振るって、私が頼んでも絶対に止めなかった癖に勝手な話だ。

 

「……」

 

 足下から聞こえる水音に視線を向ければ転がっている男から流れ出した血を踏んでしまっていた。

 不愉快さと同時に感じるのは飢餓、お腹が鳴って思わず唾を飲み込んだ。

 

 ああ、幼い頃はパン一つ食べるにも苦労したな。

 

 

 少し昔を思い出して止まった私に対して隙だと見たんだろう、目の前の男が剣を抜いて襲い掛かって来る。

 私では反応出来ずに斬り殺されるだけ……ちょっと前の私だったらの話。

 

「このっ、サポーター如きがぁああああああああああっ!! ……あぐっ!?」

 

 懐に潜り込んで首を掴み、これ以上なにか言われる前に首の骨をへし折った。

 放り投げれば痙攣してもう直ぐ死ぬ男の姿。

 そのまま首に口を近付け、歯を突き立てる。

 

 血の味が口の中に広がり、そのまま飲み込む。

 

「……脂っぽい」

 

 不摂生な生活の為か少ししつこい味がしたけれど、頭を支配するのはソーマを飲んだ時以上の幸福感。

 お腹が一杯になるまで血を啜り、遠くから聞こえる足音に反応してその場から離れていった。

 

 

 

「……私の方が強くなったから言っておきますけれど、そっちだって冒険者としては下の方ですよね」

 

 私の所属するファミリアは主神ソーマの趣味の為に存在している。

 酒造り以外に興味がないソーマの作る酒目当てにノルマをこなそうと必死になって、それでも力が足りないのなら更に力が無い私みたいな存在から奪うだけ。

 

 まあ、そのノルマだって数日前に急に引き上げられちゃったらしく、私から稼いだお金を奪うだけでなく持っている物全てを奪おうと此処で待ち伏せしていたんですよね。

 お陰で目立たずに食事が出来ましたけれど。

 

 

「おや、やはりガネーシャ・ファミリアの方々でしたか。治安維持の為のパトロールがご苦労な事ですよ」

 

 遠くから現場に到着した人達の会話が耳に届く。

 急に発達した五感に困らせられる事もありますが、捕まれば不味い事をしている身からすれば本当に助かります。

 

「花屋に放火したりお金のことでトラブルを起こす酒の亡者達をどうにも出来ない癖に。私が困って苦しい時に助けてくれなかった癖に」

 

 正義とか民衆の味方を自称する連中への嫌悪感を口に出した時、食欲をそそる香りが鼻孔を擽った。

 見れば極東の服装をした神が屋台を引いている。

 

 ああ、確かソーマに大変愉快な事をしてくれたパルゥムが夜の営業を雇った相手に任せる事になったと思い出す。

 血は沢山飲んだけれど懐も暖かい事だし人間らしい物も食べるとしよう。

 

 

「神様神様。トッピング全乗せをお願いします。ライスも大盛りで。……あっ、ニンニクは抜いて下さいね」

 

 ああ、それにしても私は……リリは本当にどうしてしまったのでしょうか?

 散々こき使われて稼いだ端金も奪われて、空腹と暴行のダメージから雑草が茂っている場所で気絶した日の後からこうなっていましたが、頭から突っ込んだ花の香りが甘かったことしか覚えていないんですよね。

 

 

 ……血は飲みたい、だけれど飲むのは今までターゲットにしていた連中……冒険者だけ。

 そろそろ若い血も試してみたいですね。

 

 

「先ずは呼び出しに応じてくれて礼を言おう。そして、俺が、ガネ……」

 

「屋台の営業時間が終わっても帳簿等が残っている。即座に本題に入る事を要求」

 

「そうか……」

 

 自己顕示欲が強いのは勝手だが、何度も無意味な名乗りを上げられるのは時間の浪費でしかない。

 要件は一部を伝えられ、これからの展開も予想可能である。

 

「これから入って来る相手に驚かないで欲しい」

 

「呼び出しの案件から推察、喋るモンスター。尻尾が床で擦れる音が聞こえたのでリザードマンであると思われる」

 

「う、うむ。おい、入ってくれ、リド」

 

 ガネーシャの合図と共に遠慮がちなノックが響き、団員と共にハーピーが入って来る。

 目には知性や理性を、少し戸惑っている様子からは豊富な感情を感じられた。

 

 アーシアも戸惑っているのだろう、モンスターの存在に恐怖は有るが通常の個体程では無い。

 

「あー、俺っちはリドだ。えっと、よろしくな?」

 

「この身の名はアーシアである。して、神ガネーシャ。この者達の存在の黙秘が要件で良いのだろうか? ならば了承しよう」

 

「そうか。話が早くて助かる。……俺は此奴達人語を話すモンスターが何時か人間と手を取り合って生きていけると……」

 

「これ以上の会話の遅延は迷惑だと主張。会話が可能なモンスターとの共存については無関係を主張させて貰う」

 

 何があっても巻き込むな、頼るな、関わって来るな、それを伝えた私は室内を通って玄関に向かう事すら時間の無駄だと窓から飛び出し、そのままバベルの頂上に降り立って街並みを見下ろす。

 夜の闇を照らす魔石灯の明かり、世界に普及し、今は生活に欠かせない必要不可欠の品。

 

 

「無駄な時間を過ごした」

 

 十中八九が喋るモンスターの事だと分かっていたが、簡単に引き下がりはしないだろうと呼び出しに応じた。

 治安維持を担い市民からの信頼も厚い故に顔を立てたが、あれならば玄関先で喋らない事を約束すれば済んだ話だ。

 

「非常に無駄だった」

 

 体に感じる震え、アーシアの物だ。

 恐ろしいものだと幼い頃から警告と共に教えられ、実際にその被害にあって活動停止寸前にまで追い込まれた故の恐怖。

 会話が通じるからと拭える物ではない。

 

「無駄でしか無かったな」

 

 時間を無駄にし、アーシアを無駄に怯えさせ、九分九厘無駄に終わる理想を聞かされた。

 

 私には無関係だ、興味も湧かない、何の影響も及ぼしはしない。

 只、少しだけ妙な感情が渦巻く中、バベルを……正確にはフレイヤの部屋の辺りを睨む少し精神的余裕が不足していそうな女神に気が付き、確か名前はイシュタルであり、タケミカヅチに任せた屋台が向かう先の一つである歓楽街の支配者であったと思い出す。

 

 

「……即日解雇を決定する」

 

 そのタケミカヅチだが、探してみれば即座に発見出来た。

 指定の場所まで車輪付きの屋台を引き、チャルメラなる楽器で人の気を引いているまでは良かったが、職務放棄をして店に入って行く。

 注文の為に呼ばれた風ではなく、遊びの為と推察。

 

 

 

『真面目そうな神様だったのに……』

 

 これ以上はアーシアが見たくないらしい光景(繁殖の為の行為を金銭や一時の快楽の為に行うというバルタン星人では有り得ない行為故に学術的興味はそそられるが)から目を逸らし、家に戻って帳簿と仕込みを行おうと思った時だ、残った金属の回収の為に第二のダンジョンに向かわせていたゴモラから壁を突き破った先で戦闘が始まったとの電波が届く。

 通常なら相手をせずに退く事を命じただろうが……。

 

 

 

 

「人ではないものだけ排除。人の方は適当にあしらえ」

 

 今宵の私は少しだけ不機嫌だが、危険を承知でダンジョンに向かう以上はイレギュラーは受け入れて欲しい。



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暴虐

 ダンジョン十八階層リヴィラの街、その一角の酒場にて苛立った様子の女が山盛りの食事を貪り食らっていた。

 

「……糞がっ! あの役立たず共めっ!」

 

 赤い髪に鋭い目、そして整った容姿、お世辞にも上品とは言えない、寧ろ下劣な男が多いこの町では余計な注目を集めるが、ジロジロと無遠慮に眺めていた男達は殺気を含んだ一睨みで退散、今は遠巻きに恐る恐る眺めるのみである。

 

「彼奴だ、あの化け物さえ現れなければ……」

 

 彼女の名はレヴィス、遙か太古にダンジョン奥深くにてモンスターに敗れた精霊によって人ではなくなった存在であり、“彼女゛の空を見たいという願いを叶える為に行動していたのだが……計画の為に必要としていたクノッソスがゴモラによって壊滅、互いに利用していただけの相手ではあるが協力者の多くが手を引き、今は彼女ともう一人(此方も彼女は信用も信頼もしていないが)と共に邪魔なオラリオを崩壊させるべく動いていた。

 

「……先ずはこの場所から潰すとしよう。その後、様子を見に来た連中を始末する」

 

 少し早く回収したが目標達成の為に必要な物は下層より持ち出しており、少し見て回った限りではそれ程強い者は居ないのだ、そしてこの町の重要性からして放置はされないとも。

 

「後はあの化け物だけだが……」

 

 クノッソス壊滅の様子はレヴィスも見ていて、彼女を通してゴモラの姿を見た"彼女゛は告げた。

 

 "あれは精霊でもモンスターでもない別の何か。怖い怖い゛、と。

 

 

「あの様な存在に邪魔をされてなるものか……」

 

 レヴィスは静かに口笛を吹き鳴らし、町を取り囲む様に花型のモンスターが出現する。

 

 

 

「……さて、食事の続きとするか」

 

 彼女の体は燃費が悪い。

 山盛りにされたポテトフライに向き直ると町の騒ぎなど知った事かとばかりに食事に戻る彼女だが、心労も凄まじいのだろう、振動と喧噪に紛れて袋の中身が動き出し、町の方に向かって行くのに気が付かなかった……。

 

 

 

 

 

「あーもー! 一体何処から湧いて来たのよ!」

 

 一方、レヴィスが見回った後から第一級冒険者の集団であるロキ・ファミリアの幹部一行がやって来て、次々に花型のモンスターを薙ぎ倒して行く。

 だが、数が多いし守らなければならない足手纏いも多い。

 

 倒しても倒しても現れる大群にティオナが不満の声を上げる中、風を纏いながら戦うアイズに忍び寄る存在が居た。

 不気味な赤子のような姿の異形、それは地上へと降り立ったアイズの背後から飛びかかり……。

 

 

 

「アイズ!」

 

 それに気が付いたのは周囲を気にしながら戦っていたフィンの声、顔に向かって手を伸ばしながら間近に迫った赤子をアイズは避け、そのまま花型のモンスターにぶつかると同時に寄生、周囲のモンスターを取り込みながら巨大化して行く。

 

 

 

「アレは……」

 

 その姿は花型から大きく変化し、女性のような姿の下半身に花型のモンスターを根っ子のように生やした異形。

 それはロキ・ファミリアが前回の遠征で遭遇した新種のモンスターの姿に似ている。

 その姿を見上げたロキ・ファミリアの一同が固まらずに動こうとした瞬間、ダンジョンの外壁が外側から吹き飛んで更に未知の存在が現れた。

 

 

 

「ギャオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオッ!」

 

「何…だ、アレは……」

 

 此処はモンスターが生まれない筈の十八階層、だがフィンが固まってしまったのはその存在が壁から生まれたのではないと長年の冒険者としての勘が告げたからだ。

 

「な、何なんですか、あのモンスターはっ!?」

 

 いや、それはレフィーヤでさえも同じであった。

 一番経験が浅くレベルが低い彼女でさえも一目で確信したのだ、あの巨大なモンスターは今まで戦ったモンスター、階層主を含めても一番強いのだと。

 

 三日月状の角に太く長い尻尾、二足歩行で動く強靭そうな四肢。

 オラリオから姿を消したゼウスやヘラのファミリアの残した記録を含めて一切知識に無い存在、それにアイズでさえも直ぐに行動に移れない中、真っ先に動いたのは女性型のモンスター。

 

 

「アアアアアアアアッッッ!」

 

 辛うじて声なのだと分かる叫びと共に進路上の建物も人も一切気にせず直進する姿は敵意や凶暴さからではなく、恐怖からの焦燥や衝動的な物からに見える。

 

 

「逃げろっ!」

 

「押し潰されるぞ!」

 

 悲鳴を上げつつ逃げ惑う冒険者達に対し、冷静さを取り戻したフィン達はその大きな隙を見逃しはしない。

 背後からの攻撃を防ごうとする花型のモンスターを切り飛ばして本体へと攻撃を仕掛ける中、前方の巨大モンスター……ゴモラが出て来た壁が大きく崩れて向こう側が見えた。

 

 それはゴモラの前回の侵入で壊滅し、二度目で死体蹴りをされたクノッソスの内部、瓦礫の山を無理に突き進んだ結果だ。

 

「何あれ、未発見のフロア!?」

 

「いや、違う。あれは……人工的な物だ!」

 

 フィンが叫ぶ中、本体らしき女性の部分にアイズの一撃が入るも致命傷には至らない。

 ならば更に追撃を、そう思い剣を振り被った瞬間、女性型モンスターが宙に浮いた。

 

 

「ギィ!?」

 

 本人の意思では無いのだろう、もがこうとする様子があるが逃れられず天井近くまで浮いて行き、その余波はリヴィラの町にさえも襲い掛かる。

 

 

「うわっ!?」

 

「何なのっ!?」

 

 巨体を持ち上げ拘束する程の念力、それは周囲の空気の流れにすら影響を与えて大規模な乱気流を生み出した。

 流石のロキ・ファミリアの面々も耐える事しか出来ない中、ゴモラの口の中が赤く染まり、吐き出された炎が女性型モンスターを包み込んで灰に変え、天井を貫いて突き進む。

 吐き出された角度が幸いしたのか上層には影響を与えずクノッソスを更に破壊して岩盤部分を削って漸く止まった。

 

 

「……フゥ」

 

 スッキリしたのかゴモラは息を吐き出すと侵入して来た道を通って壁の向こうに消えて行った。

 高熱の炎が起こした熱波はリヴィラの街に真上から襲い掛かって壊滅状態まで陥らせ、地上のヘルメス・ファミリアのホームに小火騒ぎを起こして終わったのだが……。

 

 

 

「あの風は……彼奴がアリアか。まさかこの様な所で発見出来るとは運が良い」

 

 瓦礫の中から姿を見せたレヴィスはゴモラの後を追おうとしてフィン達に止められているアイズの姿を見つめ……背後から襲い掛かった。

 

 

 

 

 

 この後はバルタン星人が現れなかった世界線とほぼ同じ、故に記載すべき事は特に無い。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「待ってくれ! あれには事情があったんだ!」

 

「却下。解雇は確定。従業員の不始末としてイシュタル・ファミリアに請求された代金の支払いも要求する。職務を放棄して無銭で娼婦を指名とは呆れ果てた」

 

 翌日、大きな問題が起きた方が重要である。

 

 

 屋台の前で土下座を決行するタケミカヅチと眷属達、バルタン星人にとっては謝罪には何の価値も無く、アーシアも仕事中に娼婦に会わせろと店に飛び込んだタケミカヅチにゴミを見る目を内部で送っていた。

 

 




さて、どんな解決法をすべきか  ギャグかなあ? シリアスかなあ?
バルタンは分身可能だから人手は足りている 歓楽街や夜営業が嫌だっただけで


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激オコ

「鬱陶しい。警告、これ以上はギルドに営業妨害の通達を行う」

 

 タケミカヅチとその眷属が屋台の前で土下座をしている、そう、土下座である。

 この連中の出身地では謝罪のポーズらしいのだが、アーシアにとっては意味不明なポーズであり、あの地球人が知っている国の文化も似ており、土下座も存在するのだから偶然とは驚く。

 

 あの顛末を簡単に説明すると、良家の娘と友達になり、その娘が娼婦になっていたのでタケミカヅチが慌てて話を聞きに行けば客だと思われ通され、料金を請求されたとの事、

 

 そうか、無関係である。

 

 イッスンボウシという話に似た状況で家を追い出され、人買いからイシュタル・ファミリアに購入されたらしいが、間男の娘だったとか後妻と上手く行かなさそうだから追い出したとか有るだろうが、良家の娘だったのなら実家にでも連絡すれば良いだろう。

 

『不幸だとは思うけれど……』

 

 アーシアの反応もこの程度、オラリオの外では普通に起きる不幸であり、生きているのだから良いじゃないかと死にかけた彼女が言っている。

 つまりは別段何もする必要は無いのだろう、目の前の連中も結局は他人だろうに。

 

 

 結局の所、他の者の境遇に同情を覚えてもそれまでなのが一般的な反応であり、知人が心配だからと職務放棄をする理由にはならない。

 

 お陰で雇用主としての責任をイシュタルから問われ、出禁にしているフレイヤへの当てつけなのかイシュタル・ファミリアで開く宴の料理の依頼を引き受けさせられた、料金は払うので特に問題は無い。

 

「無駄な時間を過ごすならダンジョンで稼ぐのを推奨」

 

 それで借金を返済しつつ身受けの金でも稼げば良い。

 今は一刻も早く邪魔な連中を追い払いたい私であった。

 

 

 

 

「未発見のモンスターに地下建造物の発見、か。それを私に聞く理由を何か情報が入っていないかとと質問する為だと推察」

 

「う、うん、そうなの。ほら、アーシアちゃんの所には町中の噂が集まるでしょ?」

 

 お昼時、世間話の体で行われるエイナからの聞き取り調査、地下建造物については存在を確認しただけであり、ゴモラはモンスターではなく星間侵略用生物兵器であるが故に虚偽ではない。

 私を呼び出す訳にも行かないから客として来たついでに話をしている彼女だが、随分とギルドは騒ぎになっているらしいな。

 

「最近は血を抜かれた死体がまた見つかったし、アーシアちゃんが強いのは知っているけれど本当に注意して。命は一つしかないんだから」

 

「了解、留意しよう」

 

 光の国の連中は命を製造可能であり、バルタン星人は数十億が集まってバルタン星人を形成している、即ち命が一つでは無いのだが、今はその様な話をしていないのだろう。

 

 

「所でヘルメス・ファミリアで小火騒ぎが起きたと聞いた」

 

「うん、ヘルメス様のタバコが原因だろうって。本人は床から火が噴きだしたって否定するけれどね」

 

「床が火を噴く訳は無いだろう。地下から炎のブレスを持つモンスターに襲われたとでも?」

 

 噂では眷属に怒られて修理費を全額払う事になったとか、暫くお小遣いをなくされたとか面白おかしく情報が流れて来る。

 

 だが、どうでも良い。

 侵入行為への報復をした以上、奴は私にとって何の価値も存在しない相手なのだから。

 

 

「もしもし、店長さん、注文をお願いしますね」

 

 会話を中断、仕事をしなくては。

 客はソーマ・ファミリアのホームで見掛けたパルゥム、滅多に利用しないので常連ではないが、サポーターの様なので金がないのだろう。

 格好からして本日は仕事の予定だったのだろうが現在は正午過ぎ、雇い主が見つからなかったのだと判断。

 

「了解した。焼き加減は?」

 

 本日のメニューはステーキ丼、米に合うソースの他、米には練り梅を混ぜ込んで肉の脂っこさを抑えているが、酸っぱいのが嫌いな客の為に普通のを、ガッツリ食べたい客の為にガーリックライスも用意している。

 

「レアでお願いします。血が滴るようなのが良いですね。お米の方はガーリックライスでなければどちらでも」

 

「了解した。直ぐそこのテーブルが空いている」

 

「いえ、ガーリックライスの匂いが強いので彼方の方で待たせて頂きますよ。……それにしても盛況っぷりが羨ましいです。リリなんて同じファミリアの冒険者様達の問題行動が多発しているからって警戒されて雇って貰えないのですよ。誰かお人好しな新米冒険者……様に伝手とか有りませんか?」

 

「質問、新米冒険者との伝手の有無。返答、無い」

 

 他にも客が居る、移動するならさっさとするのを希望。

 

「……はぁ。もう改宗しかないんでしょうか? 元々両親が団員だったせいで選択肢が無かっただけですし」

 

 

 移動するのを希望。

 

 

 

 

 

 

「これはアダマンタイトか? これだけの建築物を造るだけでどれだけの手間と資金をつぎ込んだのか想像も出来ないな」

 

 リヴィラの町の壊滅から数日後、アイズには悪いけれど僕はロキ・ファミリアの団長としてダンジョンの外壁にそって造られた建築物の調査に参加していた。

 あの女性型モンスターや花型モンスター、それに関わっているだろう赤髪の女がアイズの風を見て”アリア”だと判断した事。

 それらは気になるけれど、僕が一番警戒しているのは新種の巨大モンスターについてだ。

 

 

「リヴェリア、例の話は確かなんだね? あのモンスターが行った戦闘行動の全てで……」

 

「ああ、魔力は一切感じなかった。通常のモンスターでさえ炎を吐くなどには魔力を使用するのだがな」

 

 つまりは未知のモンスターが未知の力を使うという事、それに外壁を掘って去って行ったが、掘った痕跡からして向かったのは上方面、下手をすれば地上に姿を見せているかも知れない。

 

 

「二つクリアした三大クエストが一つ増えたという事か……」

 

 外に進出したモンスターの中でも圧倒的に強い怪物達。

 ベヒモスとリヴァイアサンは既に倒され、残りは黒龍だけだと思っていたのに……。

 

 

「僕達冒険者と同じくダンジョンも成長しているのか? それにしても……」

 

 あの花型はこの建築物を通って地上に運び出されたのだろうが、犯人は天界に帰った神タナトスだという意見が多い、つまりは崩落している以上は解決済みであり、あの巨大モンスターのみを警戒すべきだと。

 

 でも、あの女が残党程度とは思えないし、親指が疼く。

 他にも仲間が居たという事か?

 

 

 捕縛された白装束達も詳しくは言わないし、前に進めない状況だ。

 

「これは退屈もしないし引退も暫くは出来ないね、リヴェリア」

 

「何だ、引退を考えていたのか?」

 

「いや、少なくても悲願を達成するまでは……うっ!?」

 

 今、結婚を匂わせたら変態を見る目を向けられたトラウマが……。

 

 

 

 

 

「待ちやがれ! 何やってるんだ、泥棒!」

 

 おや、何かトラブルらしい。



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ロマン

オリジナルや他の二次も感想下さい!こっちも沢山来て!

承認欲求を!


「最近物騒だなあ……」

 

 今日は私が体を使える日、バルタンの厳しいチェックを乗り越えて合格を貰えたソースをたぁっぷり掛けたお肉で豪華な朝ご飯を食べながら新聞を開くんだけれど、また血を大量に抜かれた死体が見付かったらしい。

 周りに血溜まりが無いのに死体の血液が明らかに減っているし、ガネーシャ・ファミリアの団員の皆さんが警邏をしているらしいけれど手掛かりは見付からないとか。

 

『被害者は素行の悪い下級冒険者、オラリオの主産業である魔石製品の製造には影響が無いと思われる』

 

「確かにそうなんだろうけれど、死人が出ているっていうのは。ほら、家族だっているだろうし」

 

『元より命懸けの仕事、モンスターか正体不明の犯人かどうかだ』

 

「そっか。変な新種のモンスターが街に出たばかりだし、同じ様に新種とかの可能性もあったんだ。それにタナトス様の仲間の残党だって可能性もあったよね」

 

 お父さん、お父さんが憧れていたオラリオは華やかなだけの所じゃなかったよ。

 私はバルタンが居てくれるから大丈夫、だから皆は安心して良いよ。

 

 お肉の最後の一切れを口に運んでナプキンで口元を拭う。

 

「……」

 

 パンも食べちゃったけれどソースは残っているし、ちょっと舐めちゃって良いかなあ?

 

 

『却下。行儀が悪い」

 

「何で分かったの!?」

 

『四年もの……いや、四年しか、か。価値観の変動を自覚、困惑。尚、この事は後で私が思考する。四年の付き合いによってアーシアの行動は理解している』

 

 ううっ、もうバルタンがお父さんみたいだよ……。

 

 

 ……それにしてもバルタンも変わったなあ。

 バルタンの年齢からして四年なんて私にとっての1ヶ月にも満たないのに。

 

 

 満たない、よね?

 

 

「バルタン、バルタンの年齢からして四年って私にとってどの位?」

 

『数学の課題の制作を決定。アーシアには必須と判断』

 

 しまった、藪蛇だ!

 

 

 こうして私の自由時間はお勉強で長時間潰れる事になった。

 

 

 

 

「バルタン、お父さんだけじゃなくってお母さんも兼ねてるよ」

 

『私に性別は無い。どちらかに偏る方が不自然だと主張する』

 

 

 

 

 

「よし! もう今日はゴロゴロしよう!」

 

『勉強を忘れない様に』

 

 バルタンが頭の中に声を響かせるけれど聞~こ~え~な~い~!

 

 お皿を洗ったらベッドに直行、本棚から適当に本を取ると寝転がって本を広げる。

 バルタンがジャミ……何とかさんから得た記憶を元に本にしてくれた物、私は本が好きだけれど貧乏な村だったから滅多に新しい本が手に入らなかったけれど、こうやって誰も知らないような物語を読むのは楽しい。

 

「海賊の残した宝かぁ。……ねぇ、バルタン。この家って実は隠し部屋とか無いの? 古い家だし……まあ、無いか」

 

 この家はオラリオに来て直ぐに借りた所で、儲けたお金を使って購入したけれど古い、本当に古い。

 だから安く手に入ったんだけれど、バルタンの謎の技術力で一階と二階部分は改装して貰ったけれど、百年前なのは間違い無いとか。

 

 私が今読んでいるのは宝の地図を手に入れた少年が冒険をするって話、ダンジョンに潜ったりモンスターを倒したりするお話が英雄譚としては人気なんだけれど、私はこっちの方が好きかな。

 

 ……だってバルタンのお陰で強くなったけれどモンスターは怖いもん。

 

 

 

『隠し部屋ならば賃貸契約初日に発見済みである』

 

「有るのっ!?」

 

『肯定。改築時、一階と二階部分のみで構わないと決めたのはアーシアである』

 

 そうだけど! 確かにそうだけれど!

 

 

「……ちょっと調べに行っちゃおうか」

 

『内部は空気の滞留が考えられる。開ける際には注意』

 

 

 まあ、私はそんなに期待している訳じゃなかった。

 隠し部屋とかロマンは感じるんだけれど、お話みたいに宝の地図が手に入るとは思っていなかったんだけれど……。

 

 

 

「……あった」

 

 石壁に仕込まれた隠し扉を通って階段を下った先にあったのはワインが沢山納められた石室、少しヒンヤリとしていて夏場にダラダラ過ごすのに向いてそうだし、掃除をちゃんとしたら寝室に良いかな?

 そんな部屋の奥、埃を被った金細工の小箱を開ければ紙が二枚。

 一つは……読めないけれど文字がビッシリ。

 

 

『古代ドワーフ文字である』

 

「バルタン、読めるの? だったらこっちの海図も……」

 

『この様な場合、結果よりも過程が大切だと考察。私なら解読し、マッハ2で向かい半日以内に宝の隠し場所を発見出来るだろう。既に宝が発見されている場合は除く』

 

「そっか。うん、確かにそれじゃあロマンが台無しだもん」

 

『その理論は理解した。納得は出来ていない』

 

 バルタン、相変わらずだなぁ。

 

 

 所で古代ドワーフ文字か、ワインの処分もどうにかしたい所だし、休日をあんまり無駄に潰したくないからあっちこっち行くのは嫌だから……。

 

 

 

 

 

 

「それでウチに来たって訳かい。ふーん、こりゃ上質なワインだ。年代物だし、全部買い取らせてくれるならそれなりの値を払おうじゃないか」

 

 ドワーフとワイン、この二つで思いついたのは豊穣の女主人。

 ミアさんは私が持参したワイン(運搬方法には少し叱られた。ドタドタ走って揺らしたら駄目だとか)を眺めていて、宝の地図と詳しい事が書いている方の紙は従業員のお姉さん達が覗き込んでいた。

 

 

「お宝……カジノで擦った分は取り戻せるかニャ?」

 

「そんなのよりミア母さんへの借金返済でしょ」

 

「そもそも一緒に行くと決まった訳では無いでしょうに。それでシル、宝については何と?」

 

「結局全員お宝に興味津々だニャ」

 

 何とシルさん(フレイヤ様)が古代ドワーフ文字を読めるらしく、今は解読している最中。

 最初ミアさんに"ミアさん位のお年なら読めますよね?”って聞いたら怒られちゃった。

 

 

「空より落ちてきた……えっと、赤と青の石? それを全財産と共に二つに分けてかく……隠した。財宝を欲するなら探し出せ。だが、決して……此処から先は文字が滲んでいて読めません。残念ですね」

 

 

「そっか。海図も古いし、ニョルズ様に見て貰ったら分かりそうだけれど、其処まで船を出して貰うわけにも……」

 

 

 よくよく考えたら船の調達を忘れちゃっていたし、バルタンが言っていた通りにビュンッて飛んでバッと帰ろうかと思った時、入り口の方から声が響いた。

 

 

「話は全て聞かせて貰ったぜ。その話、俺達ヘルメス・ファミリアも一枚噛ませてくれ! なぁに、先日の詫びの一環だ。俺の誠意だと思ってくれれば良い」

 

 

 

 

 

 

 

「胡散臭いので嫌です」

 

 だって凄く怪しいもの。

 

 

 



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胃痛

感想返し、前回までの帰宅後に頑張る


 俺は今、忠誠を誓った女神の命令により船に乗っている。

 本来であればお側に仕えて居たいのだが、先日の外出の件もあり、酒場での給仕の仕事にこれ以上穴を開けるのはミアが許さないからと宝探しの同行を申し出る様に命じられた。

 

 

「急に大食い大会に巻き込んだお詫びにただ働きをして来なさい。土産話を楽しみにしているわ」

 

 あの大会は女神のご意志で……いや、何も言うまい。

 忠誠を誓うあの御方の命令とあらば……。

 

 

「……だが、少し判断を誤ったかも知れん」

 

 表向きは先日の詫び、裏ではミアやフレイヤ様が手を貸したのだからと同行を頼み込み、今こうして乗っている船が進んでいるのだが、帆に風は受けず、誰もオールを手にしていない。

 ならば誰かの魔力を吸い上げて走るタイプなのかというとそれも違う、魔力を供給する役割の者が居ないのはこの船の持ち主から聞いている。

 

 

 目の前の窓の外を見れば神秘的な光景が広がっており、俺でも眺めていたいと思う程。

 俺は今……海底を進む船に乗っていた。

 

 事の発端はアレンを通じて呼び出された俺が同行を申し出た時、”なんかしつこそうなので”と主神に代わって同行を許されたヘルメス・ファミリア団長のアスフィ・アンドロメダと団員のルルネとやらと海まで向かった時だ。

 

「あれ? 船なんて無いじゃないか」

 

「ヘルメス様は同行を許していませんよね? どうして居るんですか?」

 

「君、相変わらず辛辣だな。まあ、せめて見送りだけでもさせてくれ。しかし、本当に船を用意しなくて良かったのかい?」

 

 フレイヤ様も先日とある冒険者に試練をお与えになられたが、この軽薄な神も興味を引かれた少女……恩恵も無しに第一級冒険者に匹敵し、更には分身やら音よりも速く飛行するらしいアーシアにちょっかいを出し、今まで同じ様な事をした神同様に手痛い目に遭った。

 それに懲りずに辺りをウロチョロするらしいが、フレイヤ様も放置を言い渡しているので俺は介入しない。

 どうせ自分で何とかするからな。

 

 

「あの子って興味深いのよね、謎の能力を無しにしても神相手に遠慮が無いと思ったら普通にモンスターが怖かったり、魂の色を二つ持っていて、片方は私が例えすら出来ない未知の色だったり……」

 

 そんな少女は迷惑そうな顔を神ヘルメスに向けた後、少し迷った様子で小さなボタンの付いた手の平サイズの何かを取り出し、押すと同時に海中から巨大な鯨……いや、鯨に似せた巨大な金属製の船が現れた。

 

「まさかこれを使うだなんて……。じゃあ、乗り込みましょう。この潜水艦に」

 

「潜水艦? まさか海中を進む船なのかい!? 凄い! こんなの何処で手に入れたんだい!? って言うか乗りたい! 早く乗ろう!」

 

「オッタルさん、お願いします」

 

 ダンジョン奥深くまで進んでいる俺でさえ唖然とする乗り物、暇潰しに地上に降り立ち人間が生み出す物に関心を持つ神が歓喜しない訳も無い。

 故に一番乗りに乗り込もうとしたその襟首を掴んで持ち上げた。

 

 

「見た物の詮索もせず、俺はフレイヤ様以外には、其方は同行者以外の誰にも見聞きした物を話さず、主神が船に乗るのは禁じる。それが同行の条件であり、無理に乗り込むのは俺が止める約束になっている」

 

「た、確かにそうだったけれど、こんな面白い物を……うっ!?」

 

 往生際が悪いのでフレイヤ様から預かった伝言”あまり我が儘が過ぎるならお仕置き”を告げる。

 どの口が……いや、忘れよう。

 

 動きを止めた神ヘルメスを帰りの護衛役の団員に渡し、俺は船に乗り込んで実際に海中へと進むのを確認して驚いたのだが……土産話を聞いたフレイヤ様の反応が心配だ。

 

 

「へぇ、そんな面白い体験をオッタルだけでしたのね。ふーん」

 

 理不尽? 神とは理不尽な存在だろう、何を今更に……。

 

 だが、暫く拗ねた様子を見せるであろう事は悩ましい。

 頼んでフレイヤ様を乗せて貰うのは……この船を隠しておく気だった様子から難しいだろうな。

 

 

 

 

 

「そろそろご飯が出来ますよ~」

 

「そうか。配膳を手伝おう」

 

 テーブルの上を見れば数多くの料理が並べられ、これを全員分皿に移すとなると一人では……いや、数人になれるのだったな、この少女は。

 主食も主菜も副菜もスープも揃っているが随分と豪華だな……。

 

「大丈夫ですよ。今回はビュッフェ形式ですから」

 

「ビュッフェか……」

 

 四人揃って嫌いな野菜が被るガリバー兄弟なら同じ物ばかりを食べそうだし、屋台では出さない料理が多いのでフレイヤ様には何とか誤魔化したいが誤魔化すなど不敬である。

 拗ねるか? ……絶対に拗ねるな。

 

 

「あの二人は潜水艦の探索に行っちゃっているから分身が連れて来ますね」

 

「ああ……」

 

 絶対に不機嫌になってしまう女神の姿を思い浮かべて溜め息を吐き出しそうになった……。

 

 うん、食事を楽しもう、この少女の料理は本当に美味い。

 この時点で胃がキリキリと痛むが……うん。

 

 

 女神の命令で動くのは誇らしい事なのだが、今回ばかりは他の者に任せて欲しいのだと思った。

 

 

 

 

 

「いやいや、凄いね、この中。誰が作ったの?」

 

「ルルネ! 詮索はしないという約束でしょう」

 

 更に料理を大量に盛ったルルネは口の中一杯に料理を詰め込みながら喋るが、皿の上でソースが混ざってしまうしマナーが悪いな。

 俺が注意するまでもなく団長に叱られていたが、アーシアは溜め息と共に自分自身を指差し……本当に何者だっ!?

 

 

 もう彼女に関しては考えない方が良いだろう、分かっていた事だ。

 

 

 

「……むっ」

 

 食事の最中、窓の外の景色の向こうから近付いて来るモンスターの群れ、俺が船から飛び出すべきかと思ったら船から光のような物が飛び出してあっという間にモンスターを貫く。

 

 

「”全自動迎撃式れーざーびぃむ”です」

 

「全自動迎撃式れーざーびぃむ……」

 

 考え……ない。

 

 

 

「これをどうやって説明すべきなのか……」

 

 神は人の嘘を見抜くが、見抜けなかった場合は説明がどれだけ大変だっただろうか……。

 

「……はぁ」

 

 溜め息が聞こえて見てみればアスフィが俺がしているであろう疲れた顔を浮かべている、視線が重なって言葉を口にせずとも通じた。

 

 

「お互い大変ですね」

 

「……だな」

 

 団長とは此処まで苦労すべき立場なのかと自由そうなルルネとフレイヤ・ファミリアの幹部の姿を思い浮かべて胃がキリキリ痛んだ。



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役目

間違って消したが自動保存したばかりで助かった


 水中での光学兵器の使用において懸念される威力及び命中精度の減退、共に問題無し。

 事前の計算及びテストの結果との誤差、共に許容範囲内、僅か0・000005%、水温及び海流の影響と推察。

 

 推定威力、下級冒険者の魔力突出者による単文詠唱程度、驚きこそあれ、危険視からの排除行動の可能性は極小と判断、ダンジョン外の弱体化モンスター相手ならば他の高威力兵器の使用の必要性は見当たらない。

 対島級巨大生物用ミサイル、対空クラスター弾、小型ブラックホール発生装置、極小範囲式核ミサイル、超広範囲用小型疑似太陽は緊急事態に備え発射の準備のみをしていよう。

 

 

 

「美味っ!? これも、これも、これも美味っ! 全部見たことが無い料理だけれど全部美味っ!」

 

「えへへ。誉めて貰えて嬉しいです」

 

「……ルルネ、がっつき過ぎですよ。貴女には洞窟内部でちゃんと働いて貰わないといけないのですから」

 

 ややマナーの悪いルルネとやらが手当たり次第に取り皿に盛ってはガツガツと食べているが、アーシアが誉められて嬉しいのならば特に罰則は与えない。

 味わって食べる、それが料理人に対する礼儀ではあるが、ヘルメス・ファミリアには当初より礼儀は期待していない。

 

 今回のバイキングの料理、全てアーシアが食材の買い出しや料理の選定、調理作業まで全て一人で行った物。

 比喩ではなく文字通り普段の私の調理を誰よりも近くで眺め、身体で覚えて来たからこその上達。

 私の計算によって仕上がった最適な調理行程による物に比べれば些か未熟さが見受けられるが、普段店では出さない料理や食材である事から合格点を与えよう。

 

 

「いや~、最初は急に呼ばれたから何かなって思ったけれど、こんなに豪華な飯をタダで食えるんだから夢中になっちゃってさ」

 

 

「……む? タダ飯?」

 

 フカヒレの餡掛けチャーハンをよそっていたオッタルが疑問符を浮かべる、どうやら情報伝達に些か問題があったらしい。

 

「え? アスフィ、どういう事?」

 

「今回、以前迷惑を掛けたお詫びとしてフレイア・ファミリアは都市最強である団長を、私達は私と貴女……そして経費の全てを持つ事になっています」

 

「はい! お陰で普段は屋台の料金じゃ赤字確実な高級食材を沢山使わせて貰いました」

 

 尚、調理費、出張料金、休日料金を食材の価格から推定される値段に上乗せする予定であり、それを初めて聞かされたルルネの動きが止まった。

 

 

「……マジ?」

 

「マジ、です。当然ですが宝の所有権は全てアーシアさんに有りますのでポケットに隠し持ったりしないように。彼はそれ用の見張りでもありますので」

 

 恐る恐る自分を見つめるルルネにオッタルが静かに頷いた時、最初の宝の隠し場所である海底洞窟の入口が見えて来た。

 

 

 

 

 しかし、最近はメレンでの海中戦や喋るモンスターとの会合など、アーシアの心の負担となる出来事が多くあった。

 少しは安らぎになればと睡眠中に分身が五感共有を切って作った潜水艦だが、判断は間違っていなかったと判断。

 

 これを見られた事による問題だが、フレイアの性質から情報の拡散の可能性は低いと推察。

 

 ヘルメスに関しては常時ミクロ化した分身を見張りに付け、話そうとした場合は即座に天界に帰還させるだけである。

 よって分身の存在から不要な筈の助っ人を受け入れた事による危険性は微小、アーシアの料理の試食会を開いただけと同じである。

 

 

 結論、アーシアが楽しいのだから問題無し。

 

 

 

 

「ルルネさん、次の分かれ道はどっちに?」

 

「ちょいと待って! この地図と実際との齟齬を修正してるから」

 

 今回、私は乗り物を用意しただけで後はアーシアに任せてある。

 暗号文をアスフィが解読、その答えを元に文章から地図を作製、センサーによって既に全容も最短ルートも分かっている洞窟内部を無駄な苦労をしながら進んでいるが、結果よりも行程を楽しむという遊びが存在するのは理解可能、共感は永久に不能、合理性に欠ける。

 

 

「あっ! 今、ライトに照らされて青く光った!」

 

「赤い石と青い石が二つの場所に分けて隠されてあるとなっていましたが、先ずは一つ入手ですね。他にも財宝を納めていると思しき宝箱がチラホラと……」

 

「地上からの入り口がモンスターによって完全に埋まったと知った時はどうなるかと思ったが、まさか水中を進む船に乗るとはな。フレイア様への土産話には丁度良い。……良すぎる気もするが」

 

「アスフィさん、ちゃんとヘルメス様を押さえていて下さいね。所でアスフィさんとルルネさんは残すのは前後左右のどれが良いですか?」

 

「え? まさか前後左右の選んでない場所は……」

 

「はい、剃り落として生えないようにします」

 

 尚、ナミヘーヘアーなる髪型にした四兄弟は室内でも帽子を被ったままらしいが、この二人はカツラを被るのだろうか?

 

 

「じゃあマジックハンドを操作して回収しますけれど……オッタルさん、やってみます? このレバーで腕を動かして、スイッチを押したら掴むんですが」

 

「……了解した」

 

 あの女神の事だ、体験した土産話は豊富な方が良いだろう。

 今後の利益にも繋がりそうである。

 

 

 

 

 さて、順調に行くかに見えた宝探し、オッタルが少々苦戦しながらも宝は全て回収し、アスフィが宝箱の中の古代のマジックアイテムを鑑定して卒倒しそうになりながらも次の目的地である島を目指すべく海上に出たのだが……。

 

 

 

「あっちゃ~。流石にこっちは他の連中でも来れるもんな」

 

「残念ですけれど仕方無いですよね」

 

 赤い石と共に隠された宝の山だが、此方は既に回収の痕跡が僅かに残っている状態だ。

 人が隠した物故に人に発見できぬ道理は無い、バルタン星人が隠した物では無いのだ。

 

 

「では、一応取り残しが無いかだけ確認して帰ると……いえ、そうは行かないらしいですね。何者かが近付いて来ます。それも武装した集団らしいですが……」

 

「確かこの周辺はテルスキュラの領地が近かった筈。……誰か彼の国の言葉を話せるか?」

 

「無理です」

 

「出来ないよ」

 

「残念ですが……」

 

「……そうか。あの国は独自の試練によって第一級冒険者に匹敵する戦士も居るという。俺があしらうから隙を見計らって船で出るぞ。……お前なら不要だろうが、これは俺の役目だ。でなくば同行した意味がない」

 

「分かりました。じゃあ、お気をつけて。……アマゾネスの本能的な意味で」

 

 拳を握るオッタルは真剣な顔で足音の方に向かい、アーシアの言葉で僅かにげんなりして見えた……。

 

 

 




ドラクエ11始めたんですよ

デスコピオン、カミュの二刀流短剣で圧勝 五ターン程度かな?
毒にして六倍ダメージ見たかった


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船旅

感想、今までのは明日一気に




 波に揺られて船は行く。

 青空の下、私は甲板に上がって日光浴をしながらゆっくりと過ごし、オッタルさんは椅子に座って景色を眺め、アスフィさんはルルネさんと一緒にお宝の鑑定中。

 

 本当なら既に戻っている時間なんだけれど、どうしてゆっくりと進んでいるかというと、結局アマゾネスのお姉さん達を叩きのめすしかなかったオッタルさんが船に戻って来た時に頼まれたんだけれど……。

 

「帰りはゆっくりと戻りたい? 私は構いませんけれど、フレイヤ様の所に早く帰らなくて良いんですか?」

 

「無論一刻も早く女神の元に戻りたいのだが……今回の事をどう話すべきか整理がしたい」

 

「分かりました。じゃあ、帰りは海上に上がってゆっくりと進みますね」

 

「あの、私からもお願いが。見つけた財宝ですか幾つかを買い取らせては頂けませんか? 無論割増料金をお支払しますし、神に適正価格かの証人になっていただいても構いません」

 

『了承。但し個別販売は不許可』

 

「分かりました。全部買い取りで構わないのなら良いですよ」

 

「え? 全部……」

 

「無理ならギルドにお願いしますけれど……」

 

「……その場合、暇な神が欲しがるのだろうな。ファミリアの資金に手を着ける神は居るだろうし、フレイヤ様とて財宝として隠されていたアイテムには興味を示すだろう」

 

「……分かりました。では、帰りの時間を利用して鑑定させて貰います」

 

 オッタルさんの援護もあってアスフィさんは一括買い取りを了承してくれたし、これでバルタンが故郷に帰る日が近付いたかな?

 

 居なくなるのは寂しいけれど、故郷に帰れないのは可哀想だしお世話になっているもの。

 もっと力になれたら嬉しいんだけれど……。

 

 

『予想ではアーシアの寿命が尽きても目標金額とそれで購入する金属の必要量は揃わない。何代も宿主を変えて漸く到達可能だろう』

 

 そっか。ずっと一緒に居てくれるんだね。

 

 

 

 

「……あっ。イシュタル・ファミリアの宴のお仕事が明後日だった。何を作るのか決めておかないと」

 

『感想。あの駄神の愚行の責任を負わされるのは不条理である』

 

 ああ、嫌になっちゃうな。

 元々活動していた所に帰れば良いのに。

 

 

 

『尚、現在集まっているエネルギーだけでもこの次元から逃げ出すにはギリギリ足りるので、光の星の連中が動き出せば即座に離脱する』

 

 あっ、もう家族も居ないんだし、私も一緒に連れて行って欲しいな。

 その光の国って所のヤバーイ人の行動に巻き込まれたくないし。

 

 

 

 

 

 

 月明かりが差し込む部屋の中、歓楽街の支配者であるイシュタルは忌々しそうにバベルの最上階に存在するフレイヤの部屋を睨み付けていた。

 

「待っていろ。絶対にお前を其処から引きずり下ろしてやる。私の方が美しいのだと証明してやるからな」

 

 同じ美の女神であるにも関わらず賞賛の声が多く聞こえるのはフレイヤばかり、それがイシュタルには気に食わない。

 

 

「行くか。彼奴達も待っているだろうしな」

 

 今日はイシュタル主催の宴、眷属だけでなく歓楽街で働く大勢の者達や常連客を集めての大宴会であり、イシュタルはそれを大々的に喧伝し、オラリオに広まるようにしたのだ。

 

 特にフレイヤを出禁にしたアーシアを調理係として雇えたという事や……その切っ掛けとなったタケミカヅチが無銭で娼婦に会いに行った事もだ。

 

 

 フレイヤへの当て付けも有るのだろう、プライドからか屋台に食べに行った事のないイシュタルは特に期待もせずに会場へと向かって行く。

 

 

 部屋の中、莫大な財源を元にかき集めた調度品が月明かりを反射して光る中、一際強い光を放つのは棚の上に飾られた石であった。

 

 

「……噂には聞いていたがとんでもないな。おい、フリュネ。あの餓鬼は本当に恩恵を受けてないんだな?」

 

「んあっ? アタイも月に何度か彼奴の屋台に通っちゃいるが、どうも本当だって話だよ、イシュタル様」

 

 口の中にケバブを目一杯詰め込んだ状態で返事をする眷属の話を聞きながらイシュタルは唖然としていた。

 数百人もの大所帯となった今回の宴、下っ端の団員に給仕を任せているとはいえ、その提供される料理はたった一人の手で……正確には十人以上に増えた一人によって作られていた。

 

 

 それも途中からは煩わしいとばかりに増やした分身が宙を飛び、イシュタルの目では捉えられない動きで人の間を滑るように動き空いた皿と大盛りの皿を入れ替え、更にはソースの一滴もこぼしていない。

 身軽さが売りの第二級以上の冒険者でも同じ事が出来るかと問えばイシュタルは否と答えるだろう。

 

「所詮噂、面白おかしく誇張されていると思ってたんだがな」

 

 

 ガネーシャ主催である宴には前回は参加しておらず、今初めてアーシアの料理を口にしたイシュタルが気付けば皿の上の料理は八割が姿を消している。

 自分が夢中になって食べていたのだと理解するのに十秒以上を要する中、彼女の頭にギルドからオラリオ全体に放たれたお知らせが浮かぶ。

 

「あの餓鬼を強引に勧誘した場合、行われる報復についてギルドは一切関知しない、だったか」

 

 団員が泥棒に入ったソーマは鼻フックでホームからギルドまで連行され、強引な勧誘に走ったアポロンはボコボコにされて吊され、勝手に忍び込んだヘルメスは毛を半分剃り落とされた。

 

「……あの連中が役立たずな今、余計な火種は入れずにおくか」

 

「そうそう。さっき聞いたんだが、海賊が隠した財宝を見つけたらしいんだけれど、空から降ってきたって伝わる青い石だってさ。全部ヘルメス・ファミリアが買い取ったらしいよ」

 

「……へぇ。私が持ってる石の対になるって奴じゃないかい。……ヘルメスか」

 

 イシュタルの瞳が妖しく光り……この時点で彼女の運命は決定した、同じく歓楽街の壊滅も。

 

 結論から言うならばイシュタルはフレイヤの住む場所よりも高い場所に行く事になる。

 その場所にいられるのは僅かな時間だけ、後は落ちるところまで落ちるだけであるが、バルタン星人が居ない世界線のイシュタルよりは些かマシな終わり方……なのだろうか?

 

 

 

「って、今度は何をおっ始めてるんだ、彼奴。余興を一つ提供しろって契約だったが……演奏と歌を一人でやるのか」

 

 イシュタルが壇上に目を向ければ何処かの店からピアノを運んで来たアーシアによる歌と演奏が始まる。

 

 それはバルタン星人が地球人の宇宙飛行士から得た情報で知った偉大なる音楽家シューベルトの作品、物語形式で描かれるそれをアーシア(本物)が気に入った事もあって披露された。

 

 

 

 

「……選曲のセンスは皆無だな、彼奴。宴の席で披露する歌じゃないだろう。歌も演奏も上手なのが逆に酷い」

 

 尚、それは父の腕に抱かれた息子が最終的に息絶える物であり、魔王が彼を誘惑する様が描かれている。

 宴の席でどうなのか、それはアーシアもバルタン星人に後で意見したが理解されなかった。

 

 

『長い間歌い継がれた名曲なのだろう?』




出来ればオリジナルも読んで欲しいなぁ


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再会

 会の翌日、私は昼休憩中にやって来たフレイヤと向かい合って茶を飲んでいた。

 屋台は出禁であるが、休憩中に良い茶葉を分けてくれるというのだから話をする程度は別に良いだろう。

 

『お砂糖とミルクをたぁっぷり入れてね?』

 

 拒否、文明の未発達著しいこの星において私が感心したのは紅茶の存在であり、バルタン星に帰還する時には苗を持ち帰り、環境を適合させたプラントにて栽培する計画を立てている。

 故に紅茶の風味を台無しにするアーシアの申し出は却下、契約外の事項として受け入れない。

 

 不服の声が頭に響くが無視である。

 

「紅茶を淹れるのも上手なのね。本当に私の所で料理人にならない?」

 

 尚、この紅茶は私が淹れた。

 お供のエルフが煎れようとするも拘りがあるから拒否、完璧な温度と湯の温度と煎れる時間と待ち時間、味と香りを整える最適解を実行した物を淹れ、飲ましてやったら引き下がったのは拒否しよう。

 

 

「拒否。この身の夢は自らの腕で店を持つ事であり、今は修行中である。固定客を増やす為にも屋台の仕事は止められない」

 

 

「あらあら、そんな失敗をしちゃったのね」

 

 周りは私の分身が囲んでいるので(フレイヤ・ファミリアの団員では威嚇になって休憩後に客が来なくなるので)魅了されて立ち尽くす者はおらず、こうして話をするに見合うだけの茶葉であるので文句は無い。

 

「肯定。そして不可解。死をテーマにした悲劇は古来より好まれて来た筈。私の演奏も歌声も一切のミスが無く、腕前は認められていた。それは他の演奏でも同じ筈」

 

「他にはどんな歌を?」

 

「市場に売られていく子牛の歌を次に歌った。娼婦の中には意図せぬ形でなった者も居ると聞くからだ。最後は死んだ団員も多いだろうから……」

 

「まさかレクイエムだなんて言わないわよね?」

 

「否定。レクイエムである。何故か文句を言われた」

 

「言うわよ。普通、言うわよ?」

 

 ……度し難い。

 私は宴の席に参加した者達に適した選曲をしたというのにこの評価は如何な物なのだろうか。

 

 

「それにしても演奏も出来るし面白い物も持っているし……話を聞いていたら凄く羨ましくなったわ、オッタルが。神でもした事がない経験よ」

 

「考慮感謝する」

 

 この会話においてオッタルが経験した事に関して具体的な事は含まれてはいない。

 どこぞの胡散臭さが服を着て歩いているような信用に値しないヘルメスとは違う。

 

 

「本当にオッタルばかり狡いわね。ご飯だって普段は店で出さない物ばっかりだったんでしょう?」

 

 頬を膨らませ拗ねた様子のフレイヤに、邪魔にならない程に遠くから観察中のナミヘーヘアー四兄弟は顔を赤らめるが、肉体の年齢や実際の年齢からして不釣り合いな行為だろうに普通は呆れるのでは無いだろうか?

 

 

「今、失礼な事を考えなかったかしら?」

 

「否定」

 

「……本当みたいね」

 

 当然である、私は真実を思考しただけであり、礼儀を失ったと非難される謂われは無いのだから。

 さて、そろそろ午後の営業の時間が迫る、フレイヤには退席願おうと思った時だ、何やら胡散臭い男が手を振りながら近寄って来た。

 

 

「おーい! フレイヤ様ー! アーシアちゃー、んっ!?」

 

 すってんころりん、見事に滑って転んで空を仰ぐ。

 

 はてさて、分身の指先から一瞬だけ赤い光が迸ってヘルメスの足元が凍ったが、何用で近寄って来たのやら。

 おや、護衛連中が何時の間にか取り囲んでいるな。

 

「おおっとっ!? ちょっとイシュタル様の所に商談に行くついでに見かけたから挨拶しようとしただけさ。そんな怖い顔をしないでくれ」

 

「……そう。もう声は掛けたわね? じゃあ行きなさい。私も時間が残り少ないし、邪魔をされたくはないの」

 

「そうかい。じゃあ、俺は失礼させて貰うよ。何せアスフィの希望で大金を使ったからね。少しでも埋め合わせをしないと」

 

 相変わらず不真面目な態度のままヘルメスは去って行き、フレイヤは私に空のカップを差し出した。

 

 

「最後に一杯頂けるかしら?」

 

「もう時間が来る。飲んだら帰宅を要求する」

 

 

 最近は血を抜かれた死体の話でオラリオ住民が怯えているらしく、夜近くに来る客の数が減っている。

 豊穣の女主人も普段より客が少ない様子であったし、稼げる時間帯に稼いでおかねば。

 

 

 

 しかし、あの宇宙飛行士の知識にあった”吸血鬼”のようだな。

 興味深い。是非捕らえて実験を……いや、吸血鬼など空想上の存在か。

 

 

 

 

 

 

「じゃあ、私は帰るけれど、もし最近話題になってる事件の真相が耳に入ったら教えてちょうだいね。ガネーシャの所の子供達が警戒にあたっているからか街中じゃ起きていないけれど……」

 

「被害者は冒険者、特に素行が悪く他の団員との交流が活発でない連中だ。モンスターの餌にでもすればダンジョン内部で死体が見付かる事も無いと推察」

 

「じゃあ、起きるとしたら次はダンジョンの中……或いは既に起きているのかしらね?」

 

 フレイヤは何やら含みを持たせる笑い方をして去ろうとするが、私は少し気になっていた事を尋ねる事にした。

 

 

 

 

「神イシュタルは何故彼処まで余裕が無いのか知っているだろうか? 余裕に振る舞っていても張り詰め、周囲を威嚇するのが伝わって来る」

 

「あら、簡単よ。品がないから私に勝てないって気が付かないだけ、それだけよ」

 

 成る程、納得した。

 服の露出度は似たような気がするが、この星の文化的な面があるのだろう。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「……む? 其処の冒険者、客ならば注文を先にする事を要求する」

 

 冒険者のダンジョン直後の姿は土と血と汗で汚らしい、それはテーブルを掃除すれば良いのだが、フラフラと頼りない動きで現れ椅子に倒れるように座り込んだ白髪の少年は注文をするでなく起き上がろうともしない。

 正直言って迷惑である。

 客でなければ叩き出す所だ。

 

 

 

「す、すいません。持ち帰りを注文するので少し休ませて下さい」

 

「客ならば了承しよう。酷く疲れているようだが貧血と診断」

 

 見れば僅かだが顔が青白い、血が不足している様子だ。

 血を大量に流した様子は見受けられず、体調管理も出来ないのだと推測。

 

 

 

「今日のメニューはステーキ丼である。付け合わせのオススメはほうれん草のナムルだ」

 

「じゃ、じゃあ、それを二人分、焼き方はしっかりとお願いしま…す……」

 

 困った、気絶してしまうとは……。

 

 

 

 

『あっ! ドーナツの人!』

 

 そうか。相変わらず迷惑な男である。




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閑話 吸血少女

今回バルタン星人の出番無し!


 私が思っていた以上にファミリアの財政は不味いらしい。

 お酒の販売は好調だった筈が上納金は増えて、集金日も増えました。

 一度に入れるヴァリスは減っても、毎回設定金額に届いていないとステイタスの更新もソーマの配布も無し、当然ながら追い詰められる連中も居るわけで、先日は十八階層で見付かったという人工ダンジョンの瓦礫撤去の人員に募集した団員が貴重な金属を持ち逃げしようとしたらしいし、うちのファミリアの信用は低下するばかり。

 

「久し振りだなあ、アーデ」

 

「痛い目見たくなけりゃ有り金寄越しな。どうせサポーター風情が設定金額に届いちゃいないだろ?」

 

 まあ、カヌゥ達程じゃなかった連中だってこうなりますよね。

 ホームの裏口に呼び出した私に手を伸ばし、不足分を手に入れようだなんて、これで上手く行ったら、今後もするのでしょう?

 どうも今日が酒が貰える日なのに少し足りないらしいですね。

 

「・・・・・・」

 

 私は黙って差し出された手に財布を近付け、相手の愚劣な笑みを眺める。

 此方が心配になる程のお人好しなベル様の笑顔とは全く違う、血だって比べ物にならない位に不味そうなのが臭いで分かるし、触るのさえ不愉快な気分ですよ

 

「そうそう。素直に従っていれば俺達だって優しくして……あっ?」

 

 こんな事があるだろうと分かっていたので用意した空の財布だからだろう、怪訝そうな顔が直ぐに怒りに染め上げられ、それが苦悶のひょうじょうになった。

 

「ぎゃあああああああああああああっ!?」

 

 財布を受け取ろうとした手を財布と一緒に握り、文字通り骨が砕ける力で握る。

 骨が折れて、砕けて、肉に突き刺さり皮膚を突き破って一部が見える状態になった手を更に握りしめれば暴れるんですが私は離さない。

 

「お、おい……」

 

 もう一人も何が起きているのか分からないのか立ち尽くすだけ……あーあ。

 鼻に届いた尿臭、見れば手の骨を砕かれた男は股間を濡らして気絶してしまい、私が手を離すと派手に倒れ込む。

 

「おい、おいっ! ……テメェ!」

 

「こんな風になってから状況を理解するだなんてサポーター風情とは違う冒険者様はお凄いんですね。尊敬してしまいます」

 

「この! 殺す!」

 

 男はナイフを持ち、切っ先を私の顔面に向かって振り下ろした。

 

 

「なっ!?」

 

「あれれ? どうなさったんですか? まさか役立たずのサポーターに止められる筈が無いですよね? 本気でやって良いんですよ?」

 

 私は指でナイフを挟み込んで止め、必死に押し込もうとするのを笑いながら眺める。

 ……成る程、あの連中が私を虐げた理由が少しだけ分かった気がします。

 楽しいんですね、こういうのって……。

 

 

「じゃあ、もう時間ですし私は行きますね」

 

 男をナイフと一緒に引き寄せ、顔面に拳を叩き込む。

 拳がめり込み、骨が砕けるのが伝わって来る。

 鼻と眼下の辺りに小さな拳の跡が深々と刻まれて、目を覚まして治療してもちゃんと目が見えるのかはわかりませんが……無関係ですね。

 

 

「……おや? ソーマ様、どうかなさいましたか?」

 

 ふと上を向けば音が気になったのか窓から此方を見ているソーマ様と目があった。

 面倒ですね、馬鹿みたいになる酒をばらまく役立たずの癖に。

 

 

「この二人が上納金を奪おうとして、最後にはナイフで殺されそうになっただけですよ。二人の有り金はちゃんと全部入れますし、リリはお咎め無しで構いませんよね?」

 

「……ああ、悪いのはその二人だろう」

 

 興味無さそうに言うと窓を閉める姿を眺め、気絶した二人の財布を抜き取るとホームに入っていた。

 

 

 

 

「更新が終わった。飲んだら出て行くように」

 

 私は別に酒に溺れている訳じゃないし、上納金だって入れずに脱退金の貯金に当てたかったのですが、ちょっと問題が生じてしまいました。

 ……血って恩恵を受けていない人のは凄く不味そうなんですよね。

 余所者は目立ちますし、オラリオは何かと都合が良い。

 

 まあ、大勢いる所は無理でしょうし、厄介そうなので大勢が所属しているファミリアは避けた方が良いですし、ソーマ・ファミリアは論外。

 別の零細ファミリアにでも所属して細々とやって行くかと思いながらステイタスが大して変わらないのを見ているとスキルの欄に新しいのが増えていました。

 急に強くなったのも血が飲みたいのも更新で得た力じゃないから反映されないんですね。

 

 

 吸血女帝(カーミラ)

 ・血液接種で一時的に能力向上

 ・対象との相性で効果に影響

 

 

「……ふーん」

 

 このスキルのせいで嫌疑を掛けられる可能性はありますが、発現したのは今日ですし、血を直接吸っている所を見られなければスキルの為だと誤魔化せますし……。

 

 お酒は嫌いですが、一度飲んだ時の幸福感は忘れられない。

 だから差し出されたお酒を一口飲んで……吐き気がする味だった。

 

 

「おぇっ! ソーマ様、このお酒痛んでませんか? 酷い味ですよ」

 

 口の中に残ったのをペッペッと吐き出し、うがいがしたいのでさっさと出て行きますが、ソーマ様が唖然としていたのは少し笑えますね。

 あー、それにしても酷い味でした。

 

 

 

 

「……痛んでなどいないが。あの者は何故酒の影響も出ていないのだ……?」

 

 

 

 

 

 

「ベル様ベル様! 今日も頑張りましょうね!」

 

「うん! 今日は何処まで進む?」

 

 今まで碌でもない冒険者に会って来ましたが、今の雇い主は善人なので気に入っています。

 ええ、今は兎も角、その内にサポーターにちゃんとした分け前を与えるのが馬鹿に思えて来るんでしょうが……。

 

 

「あれ? リリ、今日は新しい武器を持って来たんだ」

 

「ええ、丁度引退する方がうちのファミリアに居まして、ちょっとご相談して二束三文(お手頃価格)で譲って頂きまして。スキルの影響で重い物を持てるのでリリでも使えるのです」

 

 今日、私は指の骨が完全に砕けて使い物にならなくなった方から平和的なお話をして飴玉一個程度の値段で譲って貰った両手持ちの斧を持ち込んでいます。

 元の設定金額なら私から奪わなくて良かった方の武器ですし、まあ、それなりのお値段はしたのでお得な買い物ですよね。

 

 

 

 

「じゃあ、ベル様。今日も少し休みましょうか。何時も通りリリが先に見張っていますので」

 

 ダンジョンの一角の小部屋、壁を破壊してモンスターの出現を防いだ私はベル様を眠らせる。

 今の実力じゃ少し大変な所に来ているので素直に寝てくださいますし……本当に都合が良い。

 まあ、目を合わせるだけで眠気を誘えるようになったのも有りますけれど。

 

「……では、ご馳走になります」

 

 モンスターに負わされた傷に口を付け、寝起きの立ち眩みに混ざる程度しか影響が出ない量の血を飲む。

 不味い血は大量に飲まないといけませんが、ベル様の血は美味しいし少しでお腹が一杯になるので本当に出会えて良かったです。

 

 

 ……ナイフ?

 

 いやいや、あんな神聖文字が刻まれたナイフなんて盗んだら足が着きやすいから血が美味しいベル様とお別れする必要があるじゃないですか。

 

 

「それにしても本当に不味いお酒でしたね。……変化が起きてから味覚が変わったんでしょうか?」

 

 さて、そんな事よりも食後の運動をしませんと。

 

 斧を手に小部屋の前の通路を進む。

 向こうにモンスターが行かないように注意しながら、私は現れたモンスターの頭を叩き割った。

 

 

 

「モンスターは……味が論外な気がします」

 



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ギャンブル

 地球の神話と現在滞在中の星(名称不明)の神の類似性に関する考察。

 

 ※ この考察は宿主の精神への影響を考慮して伝達をしないものとする。

 

 注目したのは地球出身の宇宙飛行士から得た神話の知識である。

 各地域の文化等々に関する事で妄想・政治都合での創作をされた神話であるが、登場人物である神の名前と役職がこの星の神と共通しており、その適合率からして偶然の可能性は低いだろう。

 この星が別バースの地球なら兎も角として、可能性としてはバルタン星人の情報共有能力に酷似した力を限定的に所有する者がこの星の神(を名乗る存在)を受信、自らの発想と思ったと思われる。

 

 

 ……この考察は現在の星の存在が先である事が前提であるが、地球の創作が先のパターンも存在する。

 

 科学者担当の狂った個体が以前作って危険だと宇宙空間に廃棄した”思考を受信、形状性質を変化する物質”に酷似した物質(以降・仮称ギャンゴ)が天然に存在、もしくは何処かの外星人による精製の可能性である。

 

 ギャンゴの性質が思考及び記憶を現実化・物質として精製する、等だとした場合、地球上の創作の種族や神、調理方法と名称が同じ料理の存在が考えられる。

 

 この星の核がギャンゴだとした場合、光の星の危険人物が天体制圧用最終兵器を使用した場合、宿主を避難させてもギャンゴの消失に合わせて消える可能性もある。

 また、危険物質故にギャンゴの実在を確認しても回収する事は危険だと判断。

 

 

 

 もしくは神を名乗る者達は過去に地球に訪れており、その時の行動が脚色や情報操作によって神話として残った可能性も存在する。

 

 

 ……裏ルートでは神の血も流通しているという。

 入手、解析の必要性が今回の解析で増した。

 

 

 

 尚、現在は宇宙飛行士との接触時に宇宙船に侵入、この星に解き放たれた超極小生物の細胞片の解析を優先する。

 この星の影響を加味し、細胞増殖を行って行うが少々日数が掛かると思われる。

 

 

 以上、地球の神話と現在滞在中の星(名称不明)の神の類似性に関する考察。

 

 

 

 

「ま、待ってくれへん?」

 

「要請、別の手を打ってチェックメイトを遅らせる。返答、却下。チェックメイト」

 

 黄昏の館にて私はロキとチェスを行っている……訂正、行っていた。

 既にチェックメイトを掛けた、私の勝利である。

 私は黒、ロキは白でありチェス盤の上の駒の八割は黒、圧勝であった。

 

 冷や汗を流しながら勝負の延長を懇願するが、賭博が絡んでいる以上は私が頼みを聞く必要性が存在しない。

 

 後ろでは額に手を当てて空を仰ぐ、私の背後にはロキが集めた調度品や秘蔵の酒が積み重ねられていた。

 

 

 

 

 

「チェスか。随分と盛り上がっている」

 

 本日の売り上げは好調、夕方前には食材を使い切った私は早めに屋台を片付け、アーシアに肉体の支配権を早めに渡しても良いかと考慮していた時だ、街の一角に机と椅子を置いてチェスをしている者達が居て、ギャラリーも盛り上がっている。

 チェス盤の横には魔石やヴァリスを詰めた袋、挑戦者は指定された金額を支払い、勝てば机の上の物を総取り……ふむ。

 

 

『あの運営側の人、凄いね』

 

「あれは神だ。神の気配を消しているが間違い無いだろう」

 

『どうして分かる……バルタンだからね』

 

 神と人の違い、それを語ってもアーシアには理解不能だろうが、納得して貰い幸いだ。

 向こうは神の挑戦を禁止しており、狡猾ではあるが……。

 

 全知無能、神の力を封じてはいても知能は現星住民とは比較にならず、だからこその神の挑戦の禁止ではあるが、周囲の神も分かっていながら黙っているのは性格上の問題が見受けられる。

 

 

『分かりきっていた事じゃない? 神様の性格が悪いのって』

 

 肯定、万能(自己申告)故の退屈が精神に悪影響を与えると考察。

 尚、現在屋台の合間の会話から考察する限り、外星人やマルチバースに関する知識は無いらしく、あくまでこの恒星内での万能であり上位存在である。

 

 

 退屈が精神に影響を及ばさない種族など私が認識しているだけでもそれなりに存在する。

 精神的脆弱性は突くべき弱点では無いだろうか。

 

 

「挑戦を宣言。金はある」

 

 さて、ゲーム上での神の知性を調査する良い機会である。

 

 

 

 結果? 先程のロキとの遣り取りから推察可能である。

 

 神に勝ち、面白がって挑戦を申し出たので向こう側の支払額のみを大幅に払う事で了承していたのだが、そこに現れたのがロキである。

 

 

「ウチはそんなセコい連中よりも金出せるで。ホーム来て勝負せえへん? ウチが勝ったら一日中メイド服でホームにおるって事で」

 

『良いよ、バルタン。ちょっと痛い目見せちゃって』

 

 了解、徹底的に搾り取ろう。

 

 

 

「さて、飾られていた個人所有の調度品は手に入れた。ファミリアの共有資産に手を出せないと推察。もう帰っても良いだろうか?」

 

「ま、待てや! ……服とかどうや?」

 

「古着は不要。神ロキが着ていた物という情報も、それが必要な呪詛の使い手以外には不要である」

 

「ロキ、もうその辺で……」

 

 中古の家具屋に売れそうな椅子や机は既に入手し、残りはベッドと服が入ったタンスのみ、酷くさっぱりした室内である。

 

 

 

「とても最大勢力の一角の主神の部屋とは思えない」

 

「誰のせいやっ!」

 

「ムキになって負けに負けた神ロキの責任と主張」

 

「ロキ、反論出来ません」

 

「ぐぬぬぬ……」

 

 中々座り心地の良いソファーに体重を預け、部屋の何処に設置すべきか考察する。

 アーシアは元が貧しい村の出身だからか家具には拘らないが、良いソファーがあった方が良いだろう。

 

 勝負に勝った事への優越感……は存在しない。

 勝って当然の勝負であり、バルタン星人の知性ならば当然の結果であった。

 

 

 

 

「ったく、戦闘能力やらでも異常なのに知能までとか悩み事が無いやろ」

 

「否定。タケミカヅチの代わりとなる従業員が見付からない」

 

 当初は的確だと思ったのだが、性欲とは厄介な感情である。

 バルタン星人には理解不能だ。

 

 

 歓楽街の方に視線を向ける。

 稼ぎ場所としては良さそうだと思ったのだが……。

 

 

 

 

 

 

 

 一方その頃、歓楽街の支配者であるイシュタルは自室のベッドの上で寝転がって手を伸ばす。

 枕元に置いているのはオッタルと共にアーシアが発見したものと、既に誰かが発見してイシュタルの手に入った赤と青の石。

 調べさせた所、その正体は不明とのこと。

 

 

「……ふん。まあ、あの女が手に入れられなかった物と思えば……」

 

 

 

 この時、イシュタルは何となく二つの石をくっつけた……。

 

 



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来たり……

これまでの感想は明日一気に


「げっげっげっげっげっ! アタイみたいな絶世の美女に抱いて貰えるんだ。幸せ者だねぇ」

 

 イシュタル・ファミリアの団長であるフリュネは醜悪だ。

 それはヒキガエルの親戚のような、毎度モンスターの彫像らしき物が描かれる場所に彫像が描かれるような、宇宙の帝王で背の低さを気にしている有る意味理想の上司の側近の先に死んだ方の同族のような容姿だけでなく、内面がだ。

 自らを美の女神すら叶わない程の美女と驕り高ぶるのは別に良いだろう、何せ彼女はLv.5のアマゾネス。

 強い男に惹かれるという本能、つまり力こそ何よりの魅力だという根本的思想の持ち主である種族の彼女ならば同族の格下を多く持つ環境下にいればその様に思う可能性は高い。 

 ……異様な性欲に隠れているだけで本人も知らないが同性愛の部分があり、それが強い自分は美しいと思い込んでいる可能性もあるが。

 

 

 だが、美しいのだから何をしても良いのだと傲慢に振る舞い、格下を虐げ、攫った男を薬を使って(毎度使っている時点で自分の魅力の無さに気が付きそうな物だが)無理に一部分を元気にして廃人になるまで犯す。

 

 

 その様な醜悪で悪辣な行為を今もしている真っ最中だ。

 今回の獲物は前回使い物にならなくなるのは免れたが心を折られ掛けているLv.2。

 ダンジョンが存在しても全体を見れば下級冒険者が多いオラリオでは充分に強い彼も第一級には到底敵わず、今日を持って廃人になってしまう運命……の筈だった。

 

 

「……ん?」

 

 突然の轟音と振動、そしてフリュネが男を押さえる力が弱まった時、彼は全力で目の前の怪物を突き飛ばす。

 前回は無駄な抵抗に終わったそれは今回は相手を大きくはね飛ばせた。

 

 

「何をするんだい!」

 

 怒り、痛めつけようと横に置いてあった超重量の武器を片手で持ち上げようとし、持ち上がらない。

 

「な、何でだっ!? まさか恩恵が、ぎゃっ!?」

 

 恩恵が消えた、その言葉を彼女が言い終わるよりも前、男は先程まで自分を拘束し、犯す為に外された鎖を掴んで束ねるとフリュネの頭に向かって上級冒険者の力で振り下ろしていた。

 対し、今の彼女は恩恵が封じられた状態、ダンジョン外のモンスターにさえ勝てるか分からない多少鍛えているだけの耐久力だ。

 即死しなかったのは男が心身共に弱まっていたからであり、それは幸運ではない。

 

「……」

 

「お、おい、何だその目……ぎゃっ! 痛っ! 止めっ! 誰か助け……」

 

 死ぬほど痛いが死ねはしない。

 邪魔が入らない為の隠れ家に男を連れ込んだフリュネに助けは入らず、何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も鎖が叩き付けられ、動かなくなり、頭が変形し、目玉が飛び散っても鎖は振るわれ続ける。

 

「はあ……はあ……」

 

 何が起きたのか、未だ上から続く轟音と振動の正体も何も彼には分からない。

 只、助かったのを理解し、同時に望郷の念が強く押し寄せる。

 

 

 

「帰ろう、帰るんだ。土産を買って帰るんだ。もう、俺は冒険者を辞める……」

 

 完全に心が折れた男が思い出すのは出稼ぎの為と言って夢を追ってオラリオに向かう為に田舎に置いて来た妻と生まれたばかりの娘の顔。

 涙を流し、笑みを浮かべる彼は天井を見上げ……。

 

 

 

 

「……え?」

 

 そのまま崩れてきた天井に押し潰される。

 最後に彼が見たのは頭をグチャグチャに潰されたフリュネの顔であった。

 

 

 

 

 

 

 

「何でしょうか、あれは……」

 

 この日、イシュタル・ファミリアに所属する春姫は窓からホームの方を眺めていた。

 突如最上階から放たれる光に驚き、手で顔を隠していると響き渡った衝撃音、そして崩れて行くホーム。

 

 

 それはフジツボ、もしくはイソギンチャク、或いは心臓。

 それらを連想させる形状をしており、火山のような突起が無数に生えた直径六十メートル程の巨岩……らしき物体。

 

 最上階の室内から壁を破って現れたそれの六万トン近い重量に耐えきれずホームが押し潰されて行く、内部に残っていた者達と共に。

 

 

「……え? ア、アイシャ様!」

 

「呼んだかい? ったく、なんだありゃ……」

 

「アイシャ様!?」

 

 思わず呼んだのは普段から世話になっているアマゾネスの名前、すると本人が後ろで扉を開けて立っていた。

 

「五月蠅いよ、馬鹿。さて、リヴィラの街に出たって新種のモンスターの同類かい、あれは……不味い事になったね」

 

 崩れたホームの瓦礫と謎の物体の下から天に向かって登る光、神の送還の光景だとアイシャは記憶している。

 それが誰なのか、恩恵が失われる感覚が無くても直ぐに理解した彼女は春姫の手を取った。

 

 

「逃げるよ、春姫。……アレは生きてやがる」

 

 アイシャの言葉に呼応したかのようにその物体は……光の国の住民や地球人に”ブルトン”と呼ばれる怪獣が動き出した。

 ブヨブヨとした動きで転がり、ボウリングのように周囲の建物を破壊して行く。

 渦巻きの中心からゆっくりと外側を目指すかのような動きで、されど巨体故に逃げ遅れた者達を押しつぶしながらだ。

 

 地面は陥没し、建物は次々と瓦礫になって行く。

 時間は夕方頃、歓楽街が開く時間。

 

 武器を持たない冒険者や遊びに来た神々が大勢居る時間帯だ。

 

 

「に、逃げろ!」

 

「た、助けて……」

 

「馬鹿、離せ!」

 

 互いに押し合い自分が助かろうとし、次々に踏み潰されて行く。

 

 この時、誰も気が付いてなかったが、ブルトンの体から伸びる繊毛は地球にて観測された個体に比べて些かボロボロであった。

 長い時の経過によって石自体が経年劣化していたのか、星の環境がバルタン星人同様にブルトンに悪影響を及ぼしたのか、それは定かでは無いが……。

 

 

 

 

「おらっ!」

 

 此処で一人の男がブルトンに戦いを挑む。

 その速度は都市最速、フレイヤの指示で歓楽街の調査をしていたフレイヤ・ファミリア副団長のアレンだ。

 その実力はLv.6、世界でも上から数えた方が早い実力者であり、素手でも深層のモンスターを蹂躙可能な彼は既に魔法を使っていた。

 これに槍が加われば都市最強でさえ魔法無しには危うい程の力。

 

 

 

 

 ……だが、それだけだ。

 

 

「ちっ!」

 

 真横からの一撃、それだけでアレンは離れる。

 微塵も効いていないのだと彼だからこそ理解した。

 

 

「イシュタルが神の力で変なもんでも拵えたのか? ……面倒だぜ」

 

 思わず悪態を付いた時だ、遠くから無数の雷の矢がブルトンに降り注ぎ、アレンに向かって槍が投げつけられる。

 

 

「遅ぇぞ。……我等が女神は?」

 

「脳筋が護衛中だ」

 

「バベルから勝利を信じて動くってさ」

 

「ロキ・ファミリアの幹部は何をやっているんだ?」

 

「殆どがダンジョンの中だろう。役立たずめ」

 

 槍をキャッチしたアレンの背後に現れたガリバー兄弟、更に後方にはフレイヤ・ファミリアの団員達が集まっている。

 

「おい、駄猫。女神は残ると言って脳筋が護衛に残ったが、さっさと脳筋と交代して来い」

 

「速さが自慢だろう、駄猫」

 

「もしもの時はフレイヤ様を連れて逃げるのが役目だろう」

 

「さっさと行け」

 

 この時、ガリバー兄弟もまたブルトンの強さを理解していた。

 

 

 

 そして、その頃バルタン星人は……。

 

 

 

 

「……ふむ」

 

 ゴモラを出すべきか、メリットデメリットを天秤に掛け、ふと歓楽街の入り口の方に視線を向ければ逃亡防止の首輪の力で苦しむ春姫と、それを何とか壊そうとするも力が足りないアイシャの姿が見え……。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 空の彼方から謎の超巨大飛翔物体が現れ、地面に降り立った瞬間に地面が激しく揺れる。

 

 

「何…だと……」

 

 バルタンの口から漏れる驚愕の声、落下する姿をその目はしっかりと捉えていたのだ。

 

 

「何や!? 新手かいな!?」

 

 舞い上がった土煙の中で光る3つの光、土埃が晴れた時、その正体が月光に照らされて現れた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「デュワッ!!」

 

 それは肉体が赤と銀であり、額と両目が輝く……何処か半死半生に見える巨人であった。




ちょっと巨人描写変更


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被害総額55億(適当)

 何度も命の危機に晒される様な激闘に次ぐ激闘、エネルギー補給もままならない過酷な環境下、お供の三匹も倒される事もあり、時には敵にこそ正当性がある戦いすら行う中、ダメージの蓄積やエネルギー消費の連続によって自らの命が潰えようとしているのは分かっていた。

 

 

 僕はあくまでも観測員、故郷とは異なる次元の宇宙に存在する恒星に調査に来ただけで、戦いは本来の任務では無い。

 

 だけどあの星の美しさを知った時、守りたくなった。

 仮の姿で仮の名を借りて接する仲間が好きになって、彼女に恋をした。

 本来の姿に与えてくれた名前に誇りさえ持ったんだ。

 

 最後、もう遥かな星である故郷に帰らなくては死んでしまう程に衰弱した僕は彼女に正体を明かし、受け入れて貰った僕は最後の決戦に挑み、そして第二の故郷とさえ感じていた星から旅立った。

 

 

 

 

「……あの星は」

 

 重傷と言っても過言ではない程の体に鞭を打って本来の次元の宇宙に戻った僕が故郷であるM78星雲の光の国に戻る途中、遠くで暴れる宇宙怪獣が起こした流星群を避ける為に遠回りした時、あの星を発見した。

 

 

「綺麗だ……」

 

 人の営みを表す灯りは存在するけれど、第二の故郷に比べて文明が発達しておらず自然が多く残っている。

 移動時間が伸びたから休憩の為、そんな風に言い訳しながらも本心では美しい光景を目にし、仲間との思い出に浸りたかっただけだろうね。

 

 

 そして安全に着地できる場所を探そうとし、取り敢えず避けるべきと思った大都市を見て、この星の存在とは違う異質な力の反応を二つ察知して、その片方が暴れていると分かった時、僕は迷わず其奴の前に降り立った。

 

 

 

 例え受け入れて貰えなくても。

 

 例え同じ怪獣だと思われても。

 

 此処で知らない振りをするのはあの仲間達との日々に背く事で、何よりも目の前で傷付く人達を見捨てる事が出来なかったんだ。

 

 

 

 

 三百四十号、それが僕の任務上の名前、そして仲間が付けてくれ、僕の誇りとなっている名前は……。

 

 

 

 

 

 

 

 ウルトラセブン

 

 

 

 

 

 

 

「デュワッ!」

 

 空から降り立った光の国の住人だが、着地の時に速度を落とそうとしていたが、直前に体が硬直したのか勢いを殺せず周囲一体が揺れ動く。

 あの巨大生物……そうだな、仮称を……アーシア、何かあるだろうか?

 

 

『ブヨブヨした動きだから…ブヨ…ブル? ブルトン?』

 

 承認、あの巨大生物をブルトンと呼ぶ事に決定。

 

 

 光の国の巨人……以後、光の巨人の出現にフレイヤ・ファミリアの幹部達も平静な状態では無い模様、ブルトンの出現はイシュタル・ファミリアのホームから出現(テレポート能力だろうか?)したが、空の彼方よりの出現だ。

 確認されていない超大型モンスターが古代に進出し、今まで隠れ住んでいたのだろうと思われるのだろう。

 

 

「ええい! さっきから何やねん、アレは! あんなモンスター、ウチ達だって知らへん! あれだけデカいのが今まで何処に居たんや!?」

 

 矢張り他の恒星に生命体が、それも恒星間移動が可能だとは思わないか。

 ロキが叫ぶ中、ブルトンが光の巨人に向かって転がり始める。

 

 

 テレポート能力は持っていないのか?

 それとも何らかの理由で使えない?

 

 現在の情報では判断材料が圧倒的に不足する中、ブルトンを正面から受け止めた光の巨人は苦しみ、膝を折る。

 そのまま横に逃げれば良いものをブルトンを掴み、押しつぶされそうにながらも堪えているのは……。

 

 

 

「成る程な」

 

「何か分かったみたいやな。あのデカいのは何をやってるんや?」

 

「背後の者達を庇っている。見てみろ、背後を向いて逃げろと頭の動作で伝えようとしている」

 

「あの巨人……理性が有るんか?」

 

「でなくば出来まい。……同時に随分な負傷や衰弱も存在するみたいだ。さて、このままではオラリオが滅びるな」

 

 動きを止めた今を好機と見たらしく、横合いから光の巨人ごとブルトンに攻撃が加えられるがブルトンには殆ど効果が無く、繊毛に当たった際に稀に反応を行う。

 反対に巨人の方は多少なりとも効いて……おや?

 

 

 

「何をやっている! 少なくとも巨人が押さえていなければ先程から暴れている者が好きに暴れるだけ。逃がすべき者達を逃がす時間も稼げぬぞ!」

 

 フレイヤ・ファミリアのエルフの叱責が飛ぶ所を見れば一時的だとしても敵ではないと思ったのだろうが……さて、動くか。

 

 

 最悪、オラリオが壊滅した後はアーシアへの情報伝達を切り(一切の情報が入らないので精神的負担から普段は就寝時のみ)ダンジョンに潜る事を考えていたが、光の国の連中が来たのならばオラリオ以外に商売の拠点を移さずとも良さそうである。

 

 そう判断するなり私は窓から飛び出し、ある程度の高さを飛ぶ事で音速飛行の余波を気にせずにブルトンへと迫った。

 

 

 

『バルタン、ロキ・ファミリアのホームのガラスがスタートの余波で割れちゃってる!』

 

 大丈夫だ、揺れた時に既に割れ始めていた。

 問題があるのは未発達な文明による稚拙なガラス精巧技術であり、移動中に割れたのも先述の理由に音速飛行を視認可能な者が限られる事で解決となる。

 

 市民からの不満?

 

 主力が緊急時に不在だったロキ・ファミリアやブルトン出現地域のイシュタル・ファミリア、現場に居合わせたのに倒せていないフレイヤ・ファミリア、それらを管理するギルドに向かうだろう。

 

 

 そして……。

 

 

「私は大々的に活躍する」

 

「!?」

 

 光の巨人が押し切られそうになった瞬間、私が至近距離から繊毛に白色破壊光線を浴びせた事でブルトンの動きが弱まり、何とか押し返した巨人の肩に私は降り立った。

 

「説明開始、不時着した外星人。寄生した肉体の持ち主とは共生関係。隙を作るので、得意技で倒せ」

 

 この一族は耳が良い、後ろの連中には届かない小声でもこれだけ近ければ五月蝿い程だろう。

 返事は聞く必要が無い、衰弱状態の此奴はそれしか選べず、あの国の住人に危ない相手を見捨てるという選択肢は恐らく存在しない……理解不能である、利が有るなら兎も角。

 

 

 だから別次元のほぼ同一存在である光の星の連中と混合されるのだと光の国の住人の異常さを再認識しつつ私は赤色冷凍光線をブルトンの下部に発射、地面と体の一部を凍結させて動きを止めるが、この程度の氷ならば止められて数秒。

 

 

「デュワッ!」

 

 だが、それで十分だ。

 距離を開けようとしたのか後ろに飛んで、そのまま足をもつれさせて倒れそうになりながらも頭部の刃を投擲、フラフラの動きながらも念力で動かし繊毛を切断すればブルトンの動きが完全に止まり、後は私と分身による破壊光線の集中砲火だ。

 

 

 ブルトンは爆発四散、欠片を検査用に回収したが内部がボロボロになっており、本来のスペックが発揮出来なかったと推察。

 

 

 結果、ゴモラの使用をせずに済んで良かったとしよう。

 

 

「デュワッ!」

 

 ……飛び去ったか。

 だが、アレでは宇宙までは到底いけないだろう。

 

 

 近くの森に小型化して潜伏すると予想、分身を向かわせるとして……。

 

 

 

「この身の立場は一般人である。事後処理は対応に当たったファミリアとギルドの責任と主張。さらば」

 

 明日も早い、今日は帰宅だ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「……ふふ、ふふふふふ。良いわ、凄く良い。アーシアが異質、ベルが純粋なら、あの巨人は献身と博愛。凄く気高くって優しい色をしているわね」

 

 

 

 

 

 

 

 そして夜遅く、分身が巨人……が擬態した人間に接触をした。

 

 

 

「随分とボロボロだな、光の国の者よ。この星に存在する便利な薬を持って来た」

 

「わざわざ助かるが……何故僕を助けるんだ? バルタン星人」

 

 少々驚き、私の種族を当てるとは。

 

 

「取り敢えず名乗らせて貰おう。この姿の僕はモロボシ・ダン、本来の姿の名は……ウルトラセブン。地球の仲間が付けてくれた名だ。助力には感謝するが、君の目的が分からない」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「屋台をする人手が欲しい」

 

「……ん? もう一度言ってくれ」

 

 聞こえなかったとは驚き。

 耳が良いのでは無かったのか?



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間違ってはいない

「成る程、その様な経緯があったのか」

 

 あの後、怪我の影響で頭が働かないらしいウルトラセブンに私とアーシアの身に起きた事を説明したのだが、他の次元のバルタン星人が何やら色々したらしく手間取った。

 

 まったく、この星で例えるならばアマゾネスに家族を殺されたからとアマゾネス全体を敵と見なすのと同じ……いや、アーシアもラキアのアレスを恨んでいる事から一般的な事なのだろうか?

 実に非合理的な話である。

 

 

「その状態からしてモロボシ・ダン、この星の文化ならダン・モロボシとしての日常生活ならば兎も角、ウルトラセブンとしての恒星間移動は不可能であると推察。尚、先程の薬の料金はこの星での通貨による支払いを要求し、星を出た後で改めての支払いは認めない」

 

「宿主の子との関係性とか優しい奴だと思ったが、ちゃっかりしているな、君は」

 

「優しい? 理解不能。互いに利が有ったからこその融合であり、契約違反及び宿主を省みない行為はバルタン星人の誇りに反する。それだけである」

 

「いや、優しいよ、君は」

 

 ……理解不能である。

 

 

 

 

「さて、この星に存在する厄介なネタが存在する」

 

「まさかゾフィ……じゃなくって、ゾーフィ関連か!?」

 

「それも存在する。あの連中が動く可能性がある事だ」

 

 矢張り光の国の住人にとっても光の星はその様な認識なのだろう。

 私としては神について話す予定だったのだが……。

 

 

 

 

 

「ああ、住居は心配しなくて良い。心当たりが存在する」

 

「何から何まですまない。感謝する」

 

「気にするな」

 

 

 先程の薬の代金+手間賃を始めとし、紹介料や住むにあたって私が負う事になる金銭的損害は全て請求させて貰う予定である。

 月々の給料から差し引かせて貰おう。

 

 

 

「所で心当たりとは?」

 

「仕事の最中に金も無いのに女を抱きに行く無責任な男だが、育てた孤児と共に出稼ぎに来ている自称上位存在だ」

 

 

 

 

 ブルトンの出した被害は凄まじく、死者負傷者天界送還者行方不明者を合わせて不明、大勢が犠牲になったのだけは間違い無いのだろう。

 瓦礫になった歓楽街、復興の人手が必要であり、人手が多いのなら屋台の客が増える……と予想していたのだが。

 

 

 

「僕、最初はラーメンの屋台をすると思っていたんだけれどね」

 

「本来ダンジョンからしか強力なモンスターは出て来ない筈が歓楽街を破壊した謎の超巨大モンスターと空から舞い降りた巨人の出現、主神や構成員を失ったファミリアも存在する。……出歩く者が減る訳だ」

 

 そう、復興作業の為の人手が集まらない所か通行人でさえ少なくなり私の屋台の客も減ってしまった。

 精々が他の店の私の屋台が開かれる前の繁盛していた頃の売上、私の目標額を稼ぐにはまだまだ遠く、復興後に増えるであろう需要を一刻でも早く手に入れる為に復興の人手として働いていた。

 

 尚、ウルトラセブンも一緒である。

 

 

「療養の為に一日一本のハイ・ポーション、居候を受け入れさせる為に減額したタケミカヅチ・ファミリアへの借金、神に関する情報料、宇宙船での定期検診料。財布に痛いな、日雇い労働者」

 

「……所で僕をどの様な男なのか紹介した内容が酷かったのは何故だい?」

 

「どうせ光の国の住人だ。評価は改善する。ならば初期の印象が悪い方が反動で更に上がるだろう。それと虚偽はないと主張する」

 

「……うっ。確かに本当と言えば本当だけれど……」

 

 ウルトラセブンが落ち込んでブツブツ言っている間にも私と分身達は瓦礫を集め、破壊光線で消し去って行く。

 

 

 ウルトラセブンの人物紹介は本人から得た情報をそのまま伝えただけ、悪意は限り

 

 

 

「光の国の変わり者だな、お前は。変わり者と言えば……奴も変わり者だぞ」

 

「君に変わり者と言われるんだ。余程の奴なんだな」

 

 私が指で示した先には黙々と復興作業に無償で従事するフレイヤ・ファミリアの姿。

 ガネーシャ・ファミリアも参加しているが、現地に居ながらもブルトン相手に役の立たなかったのを理由としているが、十中八九がウルトラセブンことダンの監視が目的であろう。

 何せ最初は資金援助だけだった筈が、ウルトラセブンが復興作業の人員(当然夜間は宣伝目的で屋台を引かせている)として参加しているのが理由だろう。

 

 

 

「あの女神ならばお前に目を付けると思っていた。これで私へのちょっかいが減るだろう。人助けご苦労、光の国出身」

 

「……優しいって言うのを撤回したくなったよ」

 

「元より誤認である」

 

 さて、あの主神を含めて変わり者の集まりの中で唯一常識人に近い男であるオッタル、エルフはエルフで真面目に見えてイかれている男である。

 あの中で常識人なのだ、逆に途轍もない変人の可能性が高いのではないかというのが私とアーシアの意見であると伝えれば、ウルトラセブンも地球で変わった相手を知っているのか黙り込んだ。

 

 

 

「……不服な評価を受けた気がする」

 

「おい、サボっていないで働け脳筋」

 

「力仕事が得意なのだけが取り柄だろう脳筋」

 

「「「「そうだぞ、脳筋」」」」

 

「の、脳筋……」

 

 

 

 

 

 

 

 

「何か揉めていないか?」

 

「そうだな。口と同時に手も動かせ、脳筋」

 

 

 

 さて、ギルドの予想では瓦礫の山に変わった歓楽街の復興には多大なる時間と費用が掛かるとされていたのだが、当然ながら私が参加したのだ。

 瓦礫を分身で集める、破壊光線。

 フレイヤ・ファミリアが瓦礫を集める、破壊光線。

 ガネーシャ・ファミリアが……破壊光線

 ヘルメス……破壊光線

 

 

 結果、一週間で瓦礫の撤去を済まし、人海戦術で荒れた地面を整地して綺麗に終わった。

 

 

 

 

「祭り? 確か予定していた物は暫く先であったと記憶」

 

 復興作業の多くが終え、ブルトンへの恐怖が薄れたのか客足が戻って来た日、ラーメン屋台の売り上げを持って来たウルトラセブンが歓楽街跡で祭りが開かれるのを伝えて来たのだが、それを此奴に伝えたのが……。

 

 

 

「ヘルメスの事はメフィラスと思えと伝えたと認識。頭部に外傷を受けた影響が出ているのかと疑問を呈する」

 

「い、いや、確かに言われたけれど……」

 

 尚、この会話の時系列は不明としておく。

 

 

 

「儲ける絶好の機会……いや、その日はアーシアに譲るとしよう」

 

「矢張り優しいな、君は」

 

「器に欠けを発見。契約により今回の給料から引いておく」

 

 

 

 

 

 

 

 地球の美しさに惹かれ(任務先で景色が気に入ったから)単身守る事にした(職務放棄)モロボシ・ダンとして(身分を偽って)ウルトラ警備隊として平和を守り(無許可で副業に就き)、現地民と恋に落ちるが息子が居る事は話さず、現在借金持ち。

 

 成る程、確かに改めて考えれば……。

 

 

 何度も何度も何度も死にかける程に自己犠牲が過ぎるお人好しとも付け足しておこう

 




前回までの感想は後ほど返信!


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営業妨害=敵対行動

バルタン星人とウルトラセブン、人気投票二位ですって ゴモラは三位


感想、今回のも含めて明日一気に


「やあやあ! アーシアちゃんにダン君だったよね。君達もこれに挑戦してくれたら嬉しいな」

 

 歓楽街の復興に目処が付いた記念(殆ど私の手柄)として開かれた祭り(どの時期だったかは何故か記憶から欠落している。外星人による攻撃かと検査するが不明。パ・ラレル・ジークウ星人? とは何ぞや?)、私とウルトラセブンも屋台を引いて指定の場所を目指していたが、ヘルメスが水晶に刺さった槍を乗せた簡易ステージの上から声を掛けて来た。

 

 

 

「縁が有れば向かうのを検討。具体例を挙げるならば一切客が来ない等」

 

「メフィラ……神ヘルメス、僕も商売が忙しいので」

 

 この神はこの星のメフィラス星人だと言い聞かしていたからか、ヘルメスの胡散臭さを感じ取ったのか二人して立ち去ろうとしたら慌てて追い掛けて来た。

 

「待った待った! それって来ないって事だよね」

 

「肯定」

 

「えっと……そうです」

 

「待った待った! 賞品だって豪華なんだぜ? なんと世界観光旅行にご招待だ! 条件はこの槍を水晶から抜くだけ。大勢に挑戦して欲しいし、アーシアちゃんも来てくれよ」

 

「雇用者命令、代わりに挑戦しろ、ダン」

 

「……えぇ。この神が一切信用出来ないから可能な限り関わるなって言っていたじゃないか」

 

 ウルトラセブンも神の概念は地球にて学んでいたらしいが、所詮は外星人。

 更には私が(有料で)与えた考察によって神に関する敬意は無い。

 

 故に本来ならば言うべきで無い言葉を口にしてしまうが相手はヘルメスだ、問題は無い。

 早く仕事に入りたいとばかりに渋々といった様子で槍を握り、あっさりと水晶から抜き取った。

 

 

「あー。戻しておきますね」

 

「これで生じた損害は雇用主の私が建て替えよう。法に触れぬ程度の利子は貰うが」

 

 尚、私は外星人、法によって守られぬが法を守る義務も無い。

 

 

「それでは仕事の時間である。それと世界観光旅行であるが、雇い始めたばかりで長期の休暇は認められない」

 

「分かっているさ。ヘルメス様、そういう事だから僕は賞品を誰かに譲るよ。あっ! でも買い取りだったら嬉しいかな。結構な借金を返済中なんだ」

 

 ヘルメスの眷属からして水晶に刺さった槍は何かしらの仕掛け……抜かせたい相手に抜かせるのが可能だと推察。

 世界観光旅行とやらも何かの思惑が有るのだろう、それはウルトラセブンも同意見なのか詳細を聞く事も無しに私と一緒に立ち去って行く。

 

 

 流石はヘルメス、安定の信頼の無さである。

 

 

 

「いやはや、驚いたな。まさか最初の一人が引き抜くなんて。スポンサー殿に連絡しておかないと」

 

 

 

 

 

 

「串焼き肉を塩で三つ!」

 

「了解」

 

「酒は扱って無いのか?」

 

「質問、酒の取り扱いの有無について。返答、無い」

 

 吸血鬼騒動やブルトンの出現、夜間どころか出歩く事すら避ける者が増えていた昨今であるが祭りの影響か随分と客が増えている。

 他の屋台に買い物をしに向かった者達も私の屋台には立ち寄り、早くも材料が切れそうなので分身に買い出しを任せたのだが、見過ごせぬ情報が入った。

 

 

 

 

 

 

 

「はい…はい……。では、療養後に帰還します」

 

 お祭りより少し前、バルタン星人のテレポートによって向かった彼の宇宙船の通信装置を使って上司に連絡を取っていたけれど何とか納得して貰う事が出来た。

 違う次元宇宙の僕達である光の星の連中が動く可能性を意図的に言い忘れつつ、バルタン星人がテレパシーが通じない相手とも関わりが有るのが幸いしたと思いつつ、光の星の住人とは別の厄介な話には冷や汗が流れそうだ。

 

 

「他のバルタン星人が全滅か……」

 

 彼が他のバルタン星人との情報同期能力に難を持っている故に知らない情報、これを知ればどの様に動くのか分からない。

 

 アーシアという少女とのたった数年、万年単位を生きる僕達や彼からすれば僅かな時間なのに僕が知るバルタン星人とは大きく違い、それを伝えて協力者にするのを何とか上司を納得させたけれど、この次元宇宙の地球にて起きた事は伝えるなと命じられた。

 

 

「……さて、仕事の時間だ」

 

 今の僕は生活と療養に必要な費用の為に働く日々が待っている。

 ……結構辛いなあ、バルタン星人もアーシアも辛辣なんだよなあ……。

 

 

「ラーメン大盛りトッピング全乗せで」

 

「俺はメンマ追加で」

 

「はい。少しお待ち下さい」

 

 この星に存在するモンスターや神と地球の伝承の共通性を考えると彼の予想が当たっている可能性も高く、光の星の連中が来た際には何とか立ち向かわなければならない。

 と思うが、今は借金を返さなければならない!

 

 医療費やタケミカヅチ・ファミリアに居候が決まった時に背負った彼等のバルタン星人への負債、情報料等々、凄い額になるんだよな……。

 

 少し……いや、かなり悪意が感じられるけれど真実である紹介のせいで最初は余所余所しい態度だった彼等とも打ち解けたし、最近入ったらしい春姫って子には地球で知った物語を話してあげれば喜ばれた。

 

 正直、地球に比べれば治安が悪い地域も多いけれど、あの第二の故郷と同様に居心地が良い星だ。

 働けど働けど我が暮らし楽にならず、医療費と借金の返済で給料の殆どが消えて行くけれど、僕の生活は充実していた。

 

 

 

「オリオン! 君が私のオリオンだな!」

 

「え? 違うけれど?」

 

 何か急に横から知らない女神に話しかけられたけれど、オリオンって確かギリシャ神話で小熊座になった狩人だったっけ?

 確か恋人の女神の名前は……。

 

 

「アルテミス? ……ええっ!?」

 

「私のことを知っているんだな、君は。これが眷属が言っていた運命の相手という奴か」

 

 拝啓、故郷の息子。

 僕は今、初対面の相手に運命の相手だと言われて抱きつかれています。

 

 はい、浮気じゃないですよ、アンヌ。

 君と別れて半月も経っていないのに新しい恋人とか作らないから……この状況を誰か説明して下さい!

 

 

 

「「……」」

 

 雇用主と目が合い、互いに無言になる。

 あの瞳は職務放棄して女の子と遊ぶ駄目な男に向ける物だった。

 

 

 

 ちゃんと誤解を解かないと減給だよなあ……。

 

 

「えっと、これは……」

 

「状況整理は後ほど行う。この私は買い出しの途中であるが、今は絶賛営業妨害中の女神を連れて行こう。商売の邪魔だ、推定三人目の女」

 

 

「うん? 三人目とは私の……」

 

 アルテミスが声に反応して振り返った瞬間、足元スレスレを冷凍光線が通り過ぎて地面を凍らせる。

 もうオラリオの住民は慣れてしまったらしいが、彼女は絶句して固まっていたよ、そうだよな。

 

 

 

 

 

「最終警告、調理作業中のその男から離れ、私に同行を要請。従わない場合、悪質な営業妨害による敵対行動と見なし……取り敢えず髪の毛を全て剃り落とす」

 

 神ではなく、心を読んでもいない僕でも、そして周囲の見物人も理解した。

 

 絶対に本気で実行する気であると……。

 

 

 

 

 

 

 



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ヘルメス1/3

間違えてオリジナル入れてた


「要求、今回の観光旅行とは名ばかりの旅についての説明」

 

 世界観光旅行と銘打っての出し物の内容だが、ヘルメスが信用に値しないのでアスフィに説明を求めた結果、宿泊施設は未定、観光施設や名所も決まっていない、との事。

 

 これが歓楽街跡の復興を祝っての祭りで行われた出し物の賞品、しかもギルドの許可を得て冒険者にも与えられるという事からギルドも予定が杜撰なのを理解しているという事か。

 あの健康状態に著しい不安を感じさせるエルフが着服でもしたのかとの疑念が残る。

 

 ヘルメスとアルテミスを正座させ、両手に光線を発射させる準備をしながら二人の頭に近付け、表情から感情を消し去る。

 

 

『神様って本当にろくでもないよね。人間なんてお人形遊びの人形程度に思ってるんだよ、絶対』

 

 だろうな。

 

 

「うーん、これは隠しておくのは無理だね。正直に話そう」

 

 降参だとばかりに両手を挙げるヘルメスだが表情は相変わらず、信用するに値しない印象を受ける。

 そも、他者の虚偽が見抜けぬのだからどの様な表情であれヘルメスは疑って掛かるべきだ。

 

 故に再びの警告

 

「忠告、一度虚偽の説明をした者の言葉は信用され辛い。警告、虚偽だと判明した場合、指を一本切り落とす」

 

「それって極東の方の責任の取り方だよね?」

 

「肯定、極道がこの様な事をすると教わっている」

 

 包丁は使わない、食材を切る為の物だからだ。

 それは飲食店を営む者としての誇りに反する。

 

 取り出したのは二束三文で買い求めた物である古びていて刃がガタガタのナイフ、これで切られたら相当痛いだろう

 

 ……しかし理解不能である。

 他者に何かを要求したい場合、力関係やメリットデメリットを提示してしまうのが一番だが、どうして虚偽を使って動かそうとするのか。

 

『人形遊びのつもりなんじゃない? もしくはお芝居の監督』

 

 成る程、アーシアの意見に賛同を提示。

 結果、私にはその能力が欠如していた為に装置を使っていたが、全てを共有し全部を共有した生命体であるバルタン星人こそが生物として優れているのを再確認した。

 

 

「実はアルテミスが拠点としている地域にモンスターが出現してね。それがオラリオ外の冒険者では手に余る相手なんだ」

 

「そうか。ならばギルドに正式に依頼を……いや、ギルドも絡んでいたか」

 

「つまりは非公式の依頼って事かい? でも、僕達は冒険者じゃないんだけれどなあ」

 

「それは理解したさ、オリオン。だが、そのモンスターは君が抜いた槍でないと倒せない相手なんだ」

 

 思考の途中、ウルトラセブンとアルテミスの会話が耳に入り、私は二つの推論を行った。

 

 一つ、アルテミスの口にするオリオンだが、宇宙飛行士から得た記憶と合わせればM78星雲、つまりは光の国と同じ辺りに存在し、矢張り地球の神話とこの星の神は深い関係を持っている。

 それこそギャンゴ関連の説が有力になって来た。

 

 この星は地球人の思考の影響を受け、現星住民等の生命体を作り出した、という物。

 とすればダンジョンに関して神が誤魔化すのはそれらを知っており、何かしら……それこそ核がダンジョンである?

 モンスターが人を本能的に襲うのは物語における悪役だからであり、言葉を発する個体は人に屈服した、もしくは友好的な怪物の話が影響……いや、根拠となる事柄が不足している、これは此処までだ。

 

 だが、正解だとした場合、目の前の神を名乗る男は自らの存在が妄想の産物の具現化だと知ってか知らずか人間として作られた相手を使っての人形芝居をしているのか。

 

 

 そしてもう一つ、槍と討伐対象についてだが槍でしか倒せない、という点に疑問が浮かぶ。

 何らかの特性なのか、もしくは……神の遊びで作り出された存在であり、流石にそれを公表出来ぬ故に少数で済ませる気なのか。

 

 決定的な攻撃とならずとも槍の使い手を守る為に大勢を雇うという選択肢にならぬ理由もこれで説明可能だが……。

 

 

「質問、アルテミス・ファミリアは金欠か?」

 

 関係性や娯楽の為にヘルメスが協力したとして、大金を貸さぬ程でないともこれで分かる。

 

 つまりは……。

 

 

「生憎、その男も借金持ちだ。日々利子が膨れ上がる中で冒険者でもないのにクエストを強制される謂われは……」

 

「いえいえ、其れがあるのですよ。彼なら……いえ、彼等なら見過ごせない理由がね」

 

 借金するなり、それこそ天界に戻って本来の仕事をこなすのを覚悟で神の力を行使すれば良い、地上で遊びたいからと巻き込むな、そんな意志を乗せた言葉は横合いから放たれた訳知り声で止められた。

 

 この声自体は初耳だが、声の持ち主が誰かを私は知っている。

 

「おっと、神々への挨拶が先ですね。なにせこの地上における人間の上位存在、礼儀は払わなくては」

 

 その黒髪でスーツ姿の男は急に現れた事に驚いているヘルメス達に近付き、膝を地に突けて深々と頭を下げると名刺を差し出す。

 

 

「神ヘルメス、女神アルテミス、急な来訪、深くお詫びいたします。私、こう言うものですのでお見知り置きを」

 

「”全権委任大使メフィラス”? 所でこの名前が書いた紙、便利だね。俺も真似して良いかい?」

 

 そう、私と同じ外星人であり、一応バルタン星人とは上下関係にあったメフィラス星人である。

 

 今となってはそれは無関係……いや、条約を結んだ以上、一方的に破棄するのはバルタン星人の名を汚す行為となってしまう。

 私一人の判断とはいえ、それは避けたい。

 

 名誉で腹は膨れぬと言う輩もいるし、理解も示そう。

 高度な文明と優れた文化を有するバルタン星人には当てはまらない、それだけの事だ。

 

 

「ええ、私が考案した訳でもないのでご自由に」

 

 ヘルメスと話すヘルメスの次に信用ならない男、それが目の前のメフィラスだ。

 随分と丁寧な態度であり、内心ではどの様に利用する気なのを考えているようだが、ヘルメスは私の関係者らしいのに丁重な態度だからと驚いた様子。

 

 ふむ、ヘルメスがどうなろうと気にはしないが、此方に火の粉が飛ぶのは避けたいな。

 

「ダン、目の前の男は立場が上であり食事に誘った身でありながら自分が多く飲食した席の代金を割り勘にする男だ。信用するな」

 

「……あっ、うん」

 

「ヘルメスの信用出来なさを三とした場合、大凡一だと思え」

 

 一応だがメフィラスは騙し討ちはしない、同族ではなく目の前の存在に限るが。

 他のは知らない。

 

 

「聞こえていますよ、アーシアさん」

 

「聞こえないようにする意図は存在しない」

 

 確かに星間条約は結んでいるが遜る必要と義務は存在しない。

 下に着けども屈服はせず、命令は受けても範囲内で自由にさせて貰う。

 

 外星人への対応などそれで十分だ。

 

「そうですか。それはそうとして、私の調査した結果、アンタレス……今回のモンスターを倒さねばオラリオに影響が出ます」

 

「「!」」

 

 おや、二人が反応した所を見ると本当か、そしてそれならばオラリオ一丸になって行動しない所を見るとアンタレスとやらか槍か……下手をすれば神と人の関係に影響する内容なのだろう。

 

 

「……君は本当に何者なのかな? どうしてそこまで知っているんだい?」

 

「少しばかり情報収集が得意であり、ヘルメス様が想像するよりも多くの事が出来る、それだけです。まあ、今もお二人を正座させている彼女と似た感じだと思って頂ければ……」

 

「ああ……。うん、アーシアちゃんの同類なら」

 

「では、向こうで私の方から説明いたしますので旅のご準備をお願い致します。私はヘルメス様の三倍信用されていますので話が通りやすいでしょう」

 

「アーシアちゃんの同類だね、本当に」

 

「あの子、そんなに変わっているのか?」

 

「旅の途中で分かるけれど、考えない方が楽だぜ、アルテミス」

 

 ……ふん。

 まあ、聞くだけ聞くとしよう。

 

 

 

 

 

 

「さて、アンタレスについてですが、その前に彼、ダン・モロボシもしくはウルトラセブンについてですが、あの説明は良くない」

 

「そうだよな。分かってくれて助かるよ」

 

 神二人から離れ、ターゲットに関する説明の前に切り出された話だが……何か間違った事を言っただろうか?

 

 

 

 

「見た目より十二歳(一周り)以上年上で、二十四歳(二周り)以上離れた相手と年齢を隠して恋愛をしていた、これも重要です」

 

「お前達、僕に何か恨みでもあるのか!? 嘘じゃないけれど、確かにそうだけれど、そもそも僕とアンヌは種族が違う訳だし……」

 

 

 

 

 

 

「あえて言うなら光の星関係の八つ当たりでしょうか。それと此方の地球で同族が光の国と揉めたので」

 

「強いて言うなら光の星関連の八つ当たりだ。他は似たような物である」

 

 元より友好的な星ではない、こんな扱いで十分だ。

 

 

 

 

 

「まあ、それは兎も角、ウルトラセブンがすべき事は地球と変わりません。自己犠牲でどうにもならない場合、大の為に小を切り捨てる。今回も貴方の力では貴方だけを小の代わりには出来ない、それだけですよ。慣れた事でしょう?」



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筒抜け

「……これは素晴らしい。大変興味深い考察ですね。前から思っていましたが、他のバルタン星人とは違う唯一無二の存在ですね」

 

 アンタレスとやらの情報を纏めた書類と私がこの世界についての考察を纏めた物を交換して読んでいたのだが、顎に手を当てながら何やら呟いているメフィラス。

 感情の発露、鬱陶しい。

 

「……神殺しの槍か」

 

 鬱陶しいと言えばウルトラセブンもだ。

 槍を眺めて何やら俯いて考え事をしており、何を悩んでいるのかは丸分かりなのではあるが。

 

 

「どうした? ウルトラセブン。地球を守る為に数多くの侵略者を殺して来たはずだろう? 現地の怪獣も倒して来たんだ、今回も神一人とモンスターを殺して終わりだ」

 

「侵略者か被害者かの違いではあるが、諸共始末せねばこの星の住民が滅ぶ……いや、モンスターも原生生物なのを考えれば星の住民が滅ぶというのは誤った解釈か。言葉を話す個体も確認している事だ」

 

「おや、それならこの星の住民達による闘争ですね。害獣から知的生命体を保護するなら兎も角、現地での戦争にまでは関わるのは……おっと、その様に睨まないで貰いたいですね」

 

 言葉が気になったのか睨んで来るウルトラセブンだが、メフィラスはわざとらしく肩を竦めて見せるだけ。

 だが、間違った事は言ってはいない。

 だからこそメフィラスに何も言えていないのだが。

 

 

 しかしアンタレス…精霊という神の配下が封印するしか出来ず、今は神を取り込んで神造兵器という神を殺せる兵器を発動可能、時間の猶予はそれ程存在せず、あの槍が唯一アンタレスを神ごと始末可能だというのだが……。

 

 

「興味深いですね。この星の神……特殊な方法でない限り不老不死、但し関係者の認識の範囲内での認識ですが……」

 

「……メフィラス、何を企んでいる? この星に何をする気だ?」

 

「ご心配なく。星間条約に反する行為も、無為に住民を傷つける気も有りません。私を上位存在として扱えと言うのも……この星では難しいでしょうし、文化は気に入っていますので」

 

 しれっと言っているが、本当の事はどうなのやら。

 此奴はメフィラスだ、十の内0.5を半信半疑で充分だと私は認識している。

 

 

「本当に助けられないのか? 確かに僕は地球人を守る為に多くの外星人の命を奪って来た。だが、彼女とは個人として関わった。助けられるのなら助けたい」

 

「随分と甘いな。疑問、神一人とこの星の人間全員、天秤に掛けるまでもない。その様子ではこの次元のバルタン星人が私以外絶滅したであろう事を黙っているのも保身の為では無いのだろう」

 

「なっ!?」

 

「おや? 気が付いていたのですか?」

 

「肯定、恐らくはこの次元を担当する警備隊員の手による物とも推察。質問を予想し、解答。通信後、同情及び警戒の視線。全滅までとは行かなくても大勢が死亡したと推察」

 

 警戒と同情を判断材料にし、同情されるかつ私を警戒する理由にバルタン星人の大量死亡を推察、全滅はカマを掛けたが正解だったか。

 

 ウルトラセブンは見抜かれるとは思っていなかった様子、メフィラスは意外でもないが驚いた演技をしているだけ、無意味で無価値である。

 

「先に言っておく。私自身に被害の記憶が無い以上、復讐という行為には身も理も存在しない。スペシウムを身から放つ者相手に戦いを挑む気も、他の侵略者に狙われる地を支配する切迫感も無いのだから」

 

 さてと、そろそろ遠くから姿を消して近付いて来る者、ベルビウスの発明品を使っている者が声が聞こえる場所に来る頃だ。

 

 

「死ね」

 

 殺意は無いが有るように振る舞って石を投擲、周囲の気の揺れ方から空気の流れを推察し、地面の様子と合わせて盗み聞きしている不届き者の頬を掠めて背後の木にめり込ませる。

 

 

 

 

「……本当にとんでもない子だな、君は」

 

 姿を消す兜を脱いで姿を見せたのはアルテミス(中身だけ本物)。

 ヘルメスめ、自分が行かなければ大丈夫だと思ったのだろう、メフィラスも利を取るタイプであるからと油断しているのだろう。

 

 

 

「指の代わりにどれだけむしり取るべきか意見を要求」

 

「ヘルメス・ファミリアのホームの建物と土地を二束三文で買い取り、相場より高い家賃を取るのは如何ですか? 当然、売却は可能としてで」

 

「君達は本当に……はあ。まあ、復讐は無いと今は信じているよ」

 

 私達の会話を唖然とした表情で聞いているアルテミス、所詮は自分達の価値観を絶対と信じて疑わない者達だ。

 

 

 ……それはウルトラセブンも同じであるが。

 

 

 バルタン星人とは全が一である優れた種族、どれだけ欠落が起きようとも何ら問題は存在しない。

 私という一が存在するのならバルタン星人という種族には何一つ揺らぎは起きないのである。

 

 今回の場合、恐らくは何らかの理由から侵略行為を行い、反撃にあった上で性質上殲滅させられたのだろう

 計画が杜撰であり、警戒の度合いから天敵と呼べる相手に挑んでしまった結果ならば少々の欠損は仕方の無い事だ。

 怒るとすれば……その程度の事……体験の同一化能力に欠ける故の感覚であるが、それで警戒される事が腹立たしかった。

 

 

 

 

「メフィラス、何か真実かつ風評被害になる言葉は無いか?」

 

「面白そうですし、食事でもしながら考えましょう、割り勘で」

 

「ヘルメスに払わせるべきと提案。本来旅行に掛かったであろう額を支払わせるならば豊穣の女主人が推奨される。店主が随分と高価な酒を秘蔵しているらしい」

 

 

 

 

 

 

「……なあ、オリオン。あの二人って何時もあんな感じなのかい?」

 

「ノーコメントをお願い出来るかい?」

 

 

 

 

 

 この日、豊穣の女主人はかつて無い程の大盛況、ファミリアの垣根を越え、一般人も混じっての大宴会であった。

 

「し、死ぬ。この忙しさは死んじまうニャ……」

 

「大丈夫。上級冒険者はそう簡単には死ねません」

 

「しなない、じゃなくって、死ねない、なのが凄く嫌ね」

 

 反面、店員からすれば店全体でロキ・ファミリアの宴会のような事が行われているのだから阿鼻叫喚、シルなど既に魂が半分ほど抜けた顔で必死に皿洗いを行い、調理場には臨時で雇われた他店の店員の姿さえ見られる。

 

 

 

「は、ははは、一体支払いが幾らになるのやら……。ねぇ、ロイマン。支払いの割合、もう少しギルドの負担に……」

 

「なりませんな。……あっ、今ソーマの追加注文が入りましたな」

 

 そして悲壮な顔を見せているのがヘルメスとロイマン、今回の支払いを任されたヘルメス・ファミリアとギルドの長だ。

 ギルドがヘルメス・ファミリアと組んで非公式のクエストを押し付けようとしたという醜聞を盾に出されたのが今晩一晩開かれる宴の代金を支払うという事、ロイマンは当然文句を言おうとしたが頬を掠めた破壊光線に従うしかなく、ヘルメス・ファミリアとギルドで3:7の割合で支払いが確定したのだ。

 

「足りない分はあのメフィラスという男が貸すと言っていたでしょう。此処最近、カジノで大勝ちして幾つかの店を手に入れたらしいですし、利子も無いそうですが?」

 

「利子の代わりに相場の三割の報酬でクエストを受けるって契約付きだけれどね。勝手に色々やったせいでアスフィが酒に逃げちゃってるし……」

 

「所で当のアルテミス様は?」

 

「裏で野菜の皮むきとか皿洗いとかをやってるってさ……」

 

 少しでも値段を抑えようと一番安い酒をチビチビと二人が飲む中、今晩一晩は無料で飲み食い出来るとあって店内には高価な酒や料理を頼む声が響き続けていた……。

 

 

 

 

 

 

 

「ヘルメス様の馬鹿野郎ー! 毎度毎度好き勝手して、いい加減にして下さいよー! 店員さん、ソーマもう一杯……いえ、一瓶持って来て下さい!」

 

 

 

 

 

 

「それにしても妙な子が増えたなあ。ダン君の方は只の女の敵っぽいけれど、メフィラス君の方はアーシアちゃんとは違う厄介さがあるよ」

 



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思惑

明日には纏めて返信するので感想待ってます


 オラリオから遠く離れた大陸の果て、大樹海を越えた先に存在するエルソスの遺跡こそがアンタレスが封印されていた場所。

 

「ガネーシャの所に用意して貰った飛竜に乗って目指す……予定だったんだけど」

 

 ヘルメスとしては新たな英雄の姿を見たいが故にアルテミスに協力したのだ。

 アンタレスがアルテミスを取り込んだ事で神造兵器が使える故にオラリオが壊滅しかねないという事もあるが。

 

「置いていかれましたね」

 

「いやあ、まさか一瞬で消えるなんて」

 

 道案内も兼ねて同行を申し出る筈だったのだが、飛竜を前にしてメフィラスが言ったのだ。

 

「いえ、私達はもっと効率の良い方法で向かいますので」

 

 そして消えた、パッと消えた。勿論ヘルメスとアスフィを置き去りにして。

 

 

「帰ろうか。……支払いでファミリアの運営資金がカツカツだし、資金繰りをどうにか考えないと」

 

「ファミリアの財産殆どを抵当に入れてしまいましたからね。このままではホームまで……」

 

「こうなったらカジノで一発逆転を目指すぜ!」

 

「それで明日の夜には夜逃げですか? ……しかし、本当にどうなる事やら」

 

 何せ相手は恩恵を受けてすらいない一般人と、正体不明の力を振るう二人。

 空を見上げながらアスフィが呟く中、その頭にヘルメスの帽子が乗せられた。

 

 

「信じるしかないさ。ダン・モロボシが英雄に足る存在である事をさ」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「でも、女の敵ですよ?」

 

「ま、まあ、どうにかなる! ……と良いなあ」

 

 

 

 

 

 

 

 

 メフィラスのテレポートによって目の前に見える場所にあるエルソスの遺跡、只今の時刻は午前十時。

 アンタレスとやらは今の所自由に動ける状態ではないらしいが、力を封じた状態とはいえ神の力を取り込むには時間が掛かるのだろう。

 

 

「さて、アンタレスが本格的に動けるまで数日の猶予がある事ですし、最初に事態の説明をしておきましょうか」

 

「質問、虚偽は何割だ?」

 

「これは心外な。この星の文化が本能で暴れる怪物に滅ぼされるのは耐えられません。ちゃんと本当の事を話しますよ」

 

 何処からかホワイトボードを取り出してウルトラセブンに説明を始めるメフィラスだが、星間侵略用生体兵器を未発達の星にバラまいてから親切顔で近付いている全権委任大使が何を言うのやら。

 嘘は言わない、但し大切な事は黙っている、そんな者が……。

 

「先ず其処のアルテミス様は槍に残った力の残滓であり、眷属は全員アンタレスに殺されています」

 

「……」

 

「ああ、それと神が死んでも記憶や精神を引き継いだ状態で復活しますので死ぬといっても昏睡状態から目覚めるのと変わりませんね。小型のアンタレスを生み出して周囲を守らせていますが、それが何時遺跡から出て来て人々を襲う可能性だって有りますし……天秤に掛けるまでもありませんよね?」

 

 黙り込むウルトラセブンの肩にメフィラスの手がそっと置かれる。

 ふむ、確かに槍を使ってアルテミスを殺害し、一万年後に復活して貰うしかないが、光の国の住人の寿命からすれば短くはないものの大勢の命の危機と比べる程ではない。

 

「……何故彼がその様な事を知っているのかは知らないが本当の事だ。神にとって死は死ではない。一万年後にまた会えると良いさ」

 

 実際、光の国の住民ならば会いに来られるしな、職務放棄やら行動からして無事に会いに来られるかどうかは別として……。

 

 

 

 

「感想、ダンに可能な方法はそれだけである」

 

 メフィラスに視線を送ればウルトラセブンに見えない角度で人差し指を口に当て、続いて私を……アーシアを指差す。

 

 

 

 

 

『ねぇ、バルタン。……バルタンかメフィラス……さ…ん、なら何とか出来るの?』

 

 四年間の付き合いからか、アーシアは確信を持って答え、私は心の中で肯定を示す。

 ウルトラセブンには確かにアルテミスを殺害する以外の方法は無いが、私ならば可能である。

 ……メフィラスも何らかの方法が取れる可能性が有り、少なくとも私に可能な事は分かっているかこその先程の仕草だ。

 

『その方法を取る……訳には行かないんだよね? 恩は売れるだろうけれど……』

 

 質問、私がアルテミスを救わない理由。

 回答、私の存在が発覚する可能性が存在する。

 

 既にアルテミスの周囲の人間は死亡しており、これから出会う相手が一万年後に出会う相手に変わるだけであり、出会いによるメリットの比較は現在は不可能。

 

 また、ウルトラセブンは別次元の宇宙の地球にて多くの侵略者を殺害して原星住民を守って来た。

 故にアルテミス殺害による心の痛みという私には理解不可能な物は受け入れるべきと判断。

 

 

『そっか。そうだよね……』

 

 詳細は話さずともアーシアは私を信じ、理路整然と話せば納得したらしい。

 

 ……そう、このままアルテミスをウルトラセブンがアンタレス諸共殺害する事こそが最善である。

 

 

 

 光の国ならば命を製造可能だが、それでも飴玉のように気軽に配れる物でもない。

 

 

 

 

「さて、覚悟は決まりましたか? 今まで何度も行って来た事と同じくアルテミス様をアンタレスと共に抹殺し、そのまま日常に戻りましょう」

 

 

『あの言い方だとダンさんが大量殺人鬼っぽく聞こえない?』

 

 肯定、さてはメフィラスめ、光の星の連中と直近に何かあったな。

 

 

 

 尚、メフィラスに無理にさん付けをする必要は皆無である

 

 何せヘルメスの同類なのだから……。

 

 

 

 

 

 

 

 

「祝勝会は割り勘で良いですか?」

 

 しかし……改めて接してみると腹が立つ。

 

『カジノのオーナーになったって言ってたよね、このワリカン星人』

 

 

 

 

 

 破壊光線を連発、既に産み出されていたアンタレスの分身を吹き飛ばし、徐々に強くなっていても吹き飛ばし、遺跡の奥にまで来るとアルテミスを取り込んだ水晶を背中に生やしたアンタレスに出会い頭に破壊光線を放ち、後退させたが……。

 

 

「効いてはいるが、神の力で即座に復活か。……冷凍光線」

 

 壁に突っ込んだ後も即座に動き出したアンタレス、事前情報の通りに槍を使わねば倒せぬ相手か。

 神の力をこの機会に研究するのも悪くは無いが、今はさっさと終わらせる事が重要だとアンタレスを凍らせて動きを止める。

 

 

「……すまない、アルテミス!」

 

 流石に覚悟を決めたのかウルトラセブンは槍を構えてアンタレスへと走り出し……。

 

 

 

 

 

 

 

 

『バルタン、やっちゃって!』

 

「了解した」

 

 その身がアンタレスへと到達するよりも先にアーシアと分離した私が追い越し、アンタレスと同化……アーシアと違いその身を完全に乗っ取るとアルテミスを排出した。

 

 

 少し強く出した為か頭から地面にぶつかって目を回しているが、まあ良いだろう。

 

 私はアンタレスの体から脱出、私の行動に理解が追い付かぬ様子のウルトラセブンの手から槍を確保し、ハサミを突き刺して内部から破壊光線で吹き飛ばした。

 

 

 

 

「妙な勘違いをするな、アーシアが気に病む事とメフィラスの思い通りに事が進むのが気に入らなかった、それだけだ」

 

 

 

 さて、最後の仕上げをするかとアーシアの肉体に戻る前にアルテミスへと近寄った。

 

 

 

「この姿で会うのは初めてだな、神アルテミス。私はバルタン星人、遙か遠い星、バルタン星からの来訪者だ」



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末路

 アンタレスの討伐後、私はオラリオに戻って来ていた。

 

「アーシアたん、エッグイ物手に入れたなあ」

 

 普段の業務、普段の屋台、違うのは屋台の飾り、今までは特に装飾などはしていなかったのであるが、今は目を引く飾りが一つ。

 神殺しの槍である。

 

 流石に神の客は減ると思ったのであるが、自分だけは大丈夫であると勝手に思うのが心理という物、バルタン星人には理解出来ぬ物であるが収入の減少が手痛いレベルでないのは幸いだ。

 

「正当な報酬である。オラリオの神に使う予定は今の所存在しない。それに神ロキの眷属であれば大勢を抹殺可能な魔法を使用可能である。エグいのは冒険者全員……いや、一部は多少強いだけか」

 

「今は、やろ。ウチはマジで勘弁してやー」

 

「敵対の意思が無ければ可能性は低い」

 

「てか、よくそんなもん貰えたたな、おい」

 

「交渉の末の結果である」

 

 この槍であるが、神の客が減るどころか他の客も増えている。

 逆に珍しい物を見たくて普段は利用しなかった客まで増えていて、問題は無駄に長居する客と何とか手に入れようと交渉して来る商人や、盗もうとする者さえ居たのだから面倒だった。

 

「まっ、ウチに使わんなら別に良いわ」

 

 この位の方が私にとっては都合が良いと思いつつ遠くから此方を監視するギルドの連中を横目で眺め、直ぐに視線を外す。

 

 この槍を手に入れた経緯、それは大した事ではなかったのだが……。

 

 

 

 

「成る程、他の星にも住人が居たとはな。全知の存在を名乗っていながら恥ずかしい事だ」

 

 アーシアの今後の精神状態とメフィラスの思惑を邪魔する為に正体を見せた私だが、アルテミスは勝手に感謝でもしたのか話を大人しく聞いていた。

 話が通じぬのならば首を切り落として天界に送還する……天界にて地上に降りる予定の神に話されれば面倒であり、催眠による記憶操作も天界に戻り神の力を取り戻せばどうなるか不明。

 

 つまりは私の事を知ったままで地上に居て貰わなければ……。

 

 

「バルタン星人の技術力であればこの槍を使用可能に改造可能である。監視の目を置き……もし私について話す事が有ればウラノスを殺す」

 

 神は相手の虚偽を見抜く力を持つ、故に私の言葉が真実であるか理解したのだろう。

 神妙な面持ちで静かに頷くアルテミスに気付かれぬようにミクロサイズの分身を寄生させる。

 メフィラスとウルトラセブンは気が付いている様だが何も言わなかった。

 

 

「私は其方を助ける為、アーシアの平穏を危機に晒した。恩を仇で返すのならば大勢を巻き添えにする予定である」

 

 どちらにせよ平穏が崩れるのなら、ギルドの最高責任者として責任を取って貰う、それだけである。

 

 

 

 

 

「じゃあウチは飯も食ったから酒買いに行かんとな。……ソーマのどアホめ。お陰でソーマが手に入らなくなってしまうやんけ。出回ってるのもオークションで馬鹿みたいに高価になっとるし」

 

 そう、ソーマ・ファミリアは主神ソーマが送還された事によって解散する事となった。

 それが起きたのはブルトンが歓楽街に現れた日の事、ホームの窓から落ちて送還されたらしい。

 

 

 ……尚、ブルトンの出現に少し遅れてから気が付き、驚いて窓から身を乗り出した瞬間にウルトラセブンの墜落による振動でバランスを崩して落ちたとか。

 

 この次元の地球に逃亡した怪獣を追いかけて人身事故を起こした光の国の警備隊もそうだが、傍迷惑な話である。

 別次元の同系統の存在なのだ、光の星の連中もやらかしていそうだ。

 

 

 

 

 

「しかし屋台も今日で終わりか」

 

『うーん、長かったような短かったような……バルタンはどう?』

 

「別に何も」

 

『バルタンらしいなあ……』

 

 さて、明日はウルトラセブンの定期検診の日である、面倒だ。

 他にやるべき事があるというのに……。

 

 

 

「それと例の分析結果が出る頃か」

 

 少しだけ気になっていたが、今はやるべき事が出来た。

 正直言って些事である。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「それではヘスティア様。今後とも宜しくお願いしますね」

 

「ああ、ベル君を頼むぜ、リリ君。しかーし、ベル君と仲良くし過ぎるのは禁止だからな!」

 

「はて? 同じファミリアの団員ならば仲良くするのは当然では?」

 

 ああ、何と運が良いのでしょう、今までの人生は凄く糞ですが、凄く凄く糞みたいですが。

 

 ソーマ・ファミリアの壊滅後、あの巨大モンスターによって大勢の神様が送還された影響で街に溢れた恩恵封印状態の冒険者達によって増える新規加入枠の需要、当然全員分の枠なんて有りませんし、リリもこの機会に堅気の仕事でも探そうって思っていたんですがね。

 

 ……ベル様の味が忘れられなくって、数日行く先を探し続けて困り果てた状態で(まあ、人員に余裕のある場所ばかりに向かったのですが)ベル様と再会、誘って頂きました。

 

 ソーマ様、本当に感謝していますよ? 貴方が部屋から人を遠ざけていた上にドアを閉め忘れていたお陰で偶然近くにいた私が気絶させて窓から捨てる事が出来たのですから。

 あの巨大なモンスター達にも感謝を送っておきますかね。

 

 

 

 

 

 

 

「さあさあ。行きましょうか、ベル様。幾つかホームが空いていますし、購入の頭金を稼ぎませんと」

 

「ねぇ、リリ。同じファミリアの仲間なんだし様付けをしなくても良いんじゃないのかい?」

 

「うーん、確かにそうなのでしょうが、長い間この話し方をして来ましたしお気になさらずにお願いします。別に壁を作ってる訳じゃないですよ?」

 

 眷属にさえ興味が無かったソーマ様と違って他の神様じゃ例のスキルと血を抜かれた死体の件を結び付けそうですが、ベル様の主神であるヘスティアもお人好しで助かりました。

 まあ、明らかにベル様へ恋愛感情を向けているのは困りものでしたけれど。

 そして多分通じていなくって……見ていて笑えるんですよね。

 

 

「それにしても本当に減ったよね。ホームが安く売り出されるのは助かるけれど、人の不幸に付け込むみたいで気が咎めるよ」

 

 ダンジョンへ向かう為の長い螺旋階段、普段は長い列が出来ていたのに今は人の姿も疎ら。

 あの巨大モンスターに潰されて送還された神のファミリアとか、第一級冒険者でさえ手こずるようなのが出ましたし、オラリオから出て行くのも仕方無いんですよね。

 

 中にはサポーターを見下していたのも居ると思うと……。

 

「いえいえ、中には外に逃げ出した方々も居ますし、運も実力の内ですよ、ベル様!」

 

 お人好しの仲間と主神、ベル様の血は美味しいですし、私も力が強くなって来たから足を引っ張る事も無く戦えるのが楽しくって、この高揚感はサポーターを見下していた連中の気持ちも少しは理解してやりましょう。

 

 見下していると言えば金の亡者の団長、酒を持ち逃げしようとしたのを今まで散々こき使っていた下級冒険者に囲まれて、互いに恩恵が無い以上は……ふふふ。

 

 

 

「うん! そうだね、頑張ろうか!」

 

「ええ、頑張りましょう!」

 

 さてと、今日はどの位血を貰いましょうか。

 お金を稼ぐなら血を貰いすぎても困りますし、夜中に一口だけ……スキルについては教えていますのでそれを口実にしても……。

 

 

「あっ……」

 

 今、ちょっとお腹が鳴っちゃいました。

 ベル様には聞かれてませんよね?

 

 

 

 

「えっと、シルさんに貰ったお弁当食べる?」

 

「いえ、自分の携帯食が有りますので。それと今のは聞かなかった振りをすべきですよ?」

 

 だからそのお弁当は絶対に、本当の本当に要りませんので!



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憎悪

「オラリオを攻め落とすならば今が好機だ! 謎のモンスターと巨人による被害と混乱、それが収まる前に進軍せよ!」

 

「いや、戦争はもう少し後の予定でしたし、物資はどうするんです?」

 

 オラリオから離れた場所に存在する国ラキア、戦神アレスを頂点とした国家系ファミリアであり、オラリオを我が物にせんと幾度も戦争を仕掛けて連戦連敗、オラリオの住民など気にせず日常生活を送っている程。

 

 

 だが、多くの村を、森を焼いて領土を広げて来た事には変わりない。王子などはオラリオに行きたがっているが、エルフには間違いなく狙われる事だろう。

 

 

 今年も戦争を仕掛け、最終的に恩恵を捨てて戻って来る事になるだろうと多勢に無勢が通じないのを理解する王族は今回はどうやって馬鹿の無茶ぶりを聞きつつ被害を抑えるかを考えていた。

 

「物資など後から運べば良い! 直ぐに用意出来るだけ用意して混乱の隙をつくのだ!」

 

「言わせて貰おう! アンタはど阿呆だと!」

 

「何だと! まあ、良い。実は既に命じてあるからな」

 

「何やってるんだ、アンタは! 地方の方で黒竜が村を滅ぼしたばかりだし、少しは考えろ!」

 

 そう、実はラキアの端の端、ギリギリ領地に入る村が黒竜に襲われたばかりなのだ。

 

 ……実はその村の近くの空間に穴が一瞬だけ開き、異なる場所と時代と繋がり、強い力を秘めたメダルが一枚だけ落ちて来て、それを幼い少年が拾い、更に落としたのを家畜が食べてしまっていたが、メダルは特に反応していない。

 

 

 その後、家畜は何かに惹かれるように現れた黒竜が村を滅ぼした際に丸呑みにされており……。

 

 

 

 

「もう命じちゃったもんは仕方が無いだろう! ああ、それと噂では恩恵も得ていないのに上級冒険者に匹敵する力の持ち主が居るらしくてな、密偵を先に送ったし、本当だったならば引き込んで内と外からの同時攻撃だ」

 

「そんな噂あてになりませんし、本当でも上手く行きますかね? アレス様の作戦ですよ?」

 

「私の作戦だから上手く行くんだよ! 見ていろ。上手く行ったら絶対に謝らせるからな!」

 

 この様にアレスは王族とは何だかんだで仲が良く、国民にも慕われていた。

 

 

 その行動が今までどれだけの悲劇を生んでいたとしても……。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 復讐するは我にあり、バルタンが出会ったうちゅーひこうし? のジャミ何とかさんの信仰していた神様の信仰に関係する言葉で要するに悪い事をすれば神様が罰を与えるから復讐なんて止めなさい、って解釈をジャミ何とかさんはしていたらしい。

 

 結局、自分で復讐をしようとした結果、殺されたらしいけれど、ダンさんが言ってた。

 

「そっか、ちゃーんと神様が罰を与えてくれるんだ。ふーん、へー、嘘吐き……」

 

 じゃあ、神様がやった悪い事は誰が罰してくれるの?

 確かにオラリオで悪さをしていた神様って倒されて来たけれど、戦争を続けるアレスは何度負けても送還されてないよね?

 オラリオ、何をやっているのかな?

 

「私の村を襲った連中はバルタンが殺してくれたし、ラキアを率いているアレスは普通に地上に居る」

 

 彼奴、オラリオには負けているけれど他の土地には侵略を続けているし、王族も国民も彼奴を信仰して追い出すとか諫めるとかしていないんだよね。

 

 壁に飾った槍を見る、神殺しの力を持つ槍を見る、量産化と事前の準備さえすれば誰でも使える槍を見る。

 

 

 

『今回ウルトラセブンは口出しをしない事になっている。ラキアは侵略戦争を繰り返しており、奴は数多くの侵略者を始末して来た。そして君は被害者側である』

 

 元々口出しされても私は止まる気は存在しない。

 

「憎しみは消えない、復讐は繰り返す、こんな感じの事を本か何かで目にした事があるけれど……本当にそうだよね」

 

 最初に遭遇した連中はゴモラが潰してくれたけれど、そんなんじゃ私の復讐心は消えない。

 モンスターに大切な物を奪われた人がモンスター全てに憎しみを抱くのと同じ様に私はラキアを、何よりもわざわざ天界から降りて来て戦火を振りまくアレスを許さない。

 

 

 

 

 

「……してやる。絶対に殺してやる」

 

 歓楽街の壊滅の一件で多くの神様が送還されたりオラリオから逃げ出したりで弱体化……とかはしていないっぽい。

 逃げ出したのは心が折れた人達位だし、強い所の神様は自分の立場を理解しているっぽいし減ったのは下級冒険者が殆ど、魔石だって最初の頃は騒ぎになったけれど、結局は質の悪い物ばっかりで……だけど馬鹿は釣れる。

 

 

『アレスの抹殺は構わないが、王族皆殺しは辞めておくのを推奨。代わりに兵士の何千人かに留めておくべき』

 

「……そーだね。ちゃんと王国を維持する為の人達は必要だよ」

 

『主神が居なくなり支配地から反旗を翻らせた場合、敵意を受ける役は必要である。公開処刑は革命の仕上げに丁度良い』

 

「うん! 良いね、それ!」

 

 ふふふふふ。

 

 

 平穏? 楽しい日常? 家族の仇がのうのうと生きているのに心の底から楽しめないよ。

 

 

 

「成る程、寄生型の生物、地球で怪獣の名称で呼ばれる類の生物か」

 

 ウルトラセブンの定期検診の最中、宇宙船内に残った細胞の分析結果からどの様な生物かの詳細なデータを得たが、惑星間侵略用生物兵器でもないのにこの様な生物が数多く生息する地球にて意識の統一化も出来ず非力で知能も低い人類が発展出来た事に疑念が残る。

 

「おや、私が何かしたとでも? 確かに文明を発展させる手助けをしてから支配するのは私が好む事ですが、この次元の地球は私の管轄では有りませんよ」

 

 私からの認識を理解しているのだろう、メフィラスは資料を眺めつつも私の視線から疑念を感じ取ったらしい。

 

「ふむ。それにしても……こんな星をよく侵略しようと思いますね。するにしても手間は最低限、面倒なら即撤退が正解でしょう」

 

「星間侵略用生物兵器に匹敵する生物が自生しており、他の侵略者への対策も必須である。緊急性が無い場合、関わるべきでない星だ」

 

「君達散々言い捨てるな……」

 

 ウルトラセブンも機器から分析終了の音が聞こえてカプセルの蓋が開いたからか起き上がって資料に目を通す。

 呆れているように見えるが、同時に共感もしているらしい。

 

 

 光の星に目を付けられる星とは別の理由で面倒である。

 

 

 

 

 

 

「所で今回の支払いについて値上げを要求する。理由、メフィラスが目障り」

 

「酷いな。別に構わないが」

 

「支払うのは僕なので構うんだが!? ……って、この怪獣、僕は知ってるぞ! 間違い無い、ダリーだ!」

 

 



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勧誘

 お父さんから引き継いだ夢の第一歩、オラリオでの料理屋が漸くの開店、此処からが私の頑張り次第。

 バルタンと同じ料理を作れるし、分身だって出来るんだから広いお店だって一人で回せる。

 

 お店の名前は『バルタン』、神造兵器は帳簿を付ける部屋に飾っているけれど、全三階建てのお店の中に嫌な気配が漂ってはいるとお客さんとして通う神様が言っていたわ。

 

 えっと、ふーどこーと? って業態を参考にして日替わりでやっていた料理を全てやっているわ。

 

 

「アーシアたーん! お酒飲ませてや。どうせだったらお酌してくれんか~?」

 

「介錯だったら……はやり過ぎだし、ステイタスの更新に必要な指一本だけ残して切り落としますね」

 

 ステイタスの更新って確か指一本残せば可能な筈だし、両足と指九本が無くても神様の役割は果たせるわよね?

 

「怖いな、自分っ!?」

 

 ロキ様ったら、本気では言っているけれど、此処で止めれば本当にはしないのに怖がっちゃって。

 

 こんな風に今までは出していなかったお酒も夜限定で出しているんだけれど、昼間なのにこうやってロキ様とかが昼間でも飲もうとするのよね。

 

 

「……はあ」

 

 あー、やだやだ、疲れるなあ。

 肉体的には平気なんだけれど、精神的には本当に大変ね。

 

 屋台の時よりも分身の数が必要だし、いっそ叩き出そうかしら?

 でも、お客さんを選ぶのもどうかなのよね。

 

 但し無銭飲食しようって連中は話が別、私から本当に逃げ出せると思っていたのかしら?

 

 冒険者や神様の場合はホームに殴り込んで割増料金を貰っている訳だけれど、マナーの悪い酔っぱらいには神様が多い気がするのよね。

 

 神様の入店拒否やお酒の提供は控えようかとも思ったけれど、善良なお客さんの事を考えれば難しいわね。

 

「それに今は他の心配事も有るし……」

 

 バルタン達が話をしていたダリーって虫、それに寄生された人が最近起きている事件の犯人だって話だったけれど……。

 

 

 

 

 

 

「妙だな。僕が地球で戦ったダリーは女の子に血を求めさせていたし、その子は衰弱していったけれど、今回の事件は少し違わないか?」

 

「成る程。ウルトラセブンが(超小型の敵を倒す為に)女児の体に(ミクロ化して)入り込んだ一件を聞く限り、今回の様に高ランクの冒険者から逃げ続けている点を考えれば相違が存在。予想、次元の違い、もしくは……」

 

「現地の女性と恋愛関係に有ったウルトラセブンが女児(の鼻の中)に入り込んで戦ったダリーとの違いとしては、この星の住民に寄生した事でしょうか? 神や神から恩恵を受けた人の血を吸った事による変化でしょう」

 

「同意。ウルトラセブンが無断でその身に受け入れさせた女児の血と今回の寄生先との比較が希望だが、不可能。推察の域は出ないが可能性の高さを提示」

 

「君達、隙有らば僕を罵倒するな!?」

 

 職務放棄の浮気者、ついでにバルタン星人の多くを消し飛ばした者の母方の従兄弟だとも知った相手である。

 私が存在するのであればバルタン星人の滅亡はないが、それはそれ、これはこれである。

 

 ああ、それと以前も言ったが……。

 

 

「「光の星が鬱陶しいから八つ当たりである(ですよ)」」

 

「理不尽!? 相変わらず理不尽だな、光の星が関わると!」

 

 天体制圧用最終兵器(ゼットン)が悪いのである、大体。

 

 

 

 

 

 

「取り敢えず残った細胞データを使って追跡装置をコンピューターに作らせる、其処までは持ち込んだ責任だと自覚」

 

「じゃあ、場所が判明すれば僕が倒しに行くか? 今の体調なら……まあ、賢い所もあったが強さ事態は其処までもない相手だったしな」

 

「驚愕。変質しているという説明をウルトラセブンは理解不能。調査員の採用基準とは一体……」

 

「仕方有りませんよ、バルタン星人。職務放棄の浮気者ですし」

 

「本当にいい加減にしてくれないかな……」

 

 

 

 

 

 

 

「思ったのだけど、地球って怖い所ね。ゴモラみたいに普通に大きくて強い子みたいなのが沢山住んでいるんでしょ? 恩恵なんて持っていなくても立ち向かう為の武器も多いらしいけれど」

 

「それと各地に点在する黒竜の鱗だが、無人地域の物を回収して分析に掛けた結果、神の力を弾く能力を持っている事が判明。つまり分析結果を元に複製、加工すれば神殺しの武具防具の増産が可能」

 

「ふーん。神様も善良なのまで地上での娯楽優先で放置していた訳じゃないのね。あれ? じゃあ、そんなのを生んだダンジョンって神様の天敵?」

 

「当初はメフィラスのやり方と同類と想定、ダンジョンは神が故意に作り出した、と。現在、何かしらの強大な力を持つ存在を神が封印した、もしくは想定外の事項により当初の計画に支障を来した可能性が高いと思われる」

 

 その答えは神様なら知っていそうだけれど、無理に聞き出そうとした場合に力を解放しての反撃が怖いからと取れない。

 洗脳とかも神という存在の特異性から危険度を高く設定したって。

 

 

「あーあ、どうせならアレスを拷問して欲しかったのにな」

 

 でも、バルタンに任せても、私自身の手で行うべきだって言われそうだし、多分適当な闇派閥の主神を捕まえて行えば良いよね、無駄が……あれ?

 

 考え事に意識を割いていたんだけれど、裏口から誰かが忍び込もうとしているのに気が付いた私は足音を消すために浮かんでゆっくりと侵入者の方に向かう。

 ゴブニュ・ファミリアに頼んだから扉を開けてもキィキィ軋む音なんてしないのは実家のドアを思い起こして少し懐かしく思えて、ラキアへの憎悪が増す中、正面から現れた私に侵入者は少し驚いた様子を見せた後で何か紙を取り出して私の顔と見比べていたわ。

 

 

「アーシア様ですね。お噂は予々聞き及んでおります。早速ですがラキアに協力致しませんか? アレス様は戦功次第では貴族の地位を約束……」

 

 そこまで喋った時点で侵入してきたラキアの使者は驚いた顔で言葉を止める。

 だって視線が急に下がったから、前金なのか金貨が詰まった袋を取り出そうとした手が動かないから。

 

 何が起きたのか分からないって顔で固まるラキアの使者に何も言わずに教えてあげる。

 

 ラキアとアレスの名前を出した時点で腕と足を凍らせて砕いたって。

 

 

「あ、あれ? 私の腕が、私の足が……」

 

「ねぇ、知ってる? 人間って死んじゃったら動けないし喋れないの。朝になってもお母さんが起こしてもくれないし、家の手伝いをした事をお父さんが褒めてくれる事もないのよ。だから……」

 

 膝と肘から先が砕け根元まで凍った手足で這って逃げようとした彼女の頭を掴んで持ち上げて、舌を噛んで死なない様に歯だけを冷凍光線で凍らせて砕く。

 

 

 

「散々戦争をして大勢を殺してる国の使者が手足奪われた程度でピーピー喚くんじゃないわよ」

 

 さて、このまま死んだら任務に殉じる事になっちゃうし、ギルドに連れて行きましょうか。

 

 気を失った彼女の髪を掴んで引き摺りながら私は鼻歌混じりに店を出る。

 ラキアが攻めて来るなら戦争だもん。

 

 

 

「アレスも王族も殺してあげるわ」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 



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