チ〇コの悪魔の契約者はマキマさんとしたい (どろどろ)
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第一話:珍と精
十八歳になった年、俺はこの世の真理を知った。
二年間も連れ添った彼女との初夜。それは生命の営みにして、あらゆる命を繋ぐ神聖なる儀式である。
愛情表現の極地とも呼べるその行為に、俺は自分の魂を捧げる覚悟で全霊を尽くした。
華奢で柔い彼女の身体に情欲は最高潮。しかし、彼女にとって今夜を世界一幸せな時間にしてあげたい、俺の中にあった願いはそれだけだった。
火照った身体が触れ合う度に、互いの愛が示されるようで。
その時間は、この世に生まれた全ての意味が集約されていた。
緊張もあっただろう。不安もあっただろう。
しかし、彼女の微笑みを見るとそんな感情も掻き消え、形容しがたい多幸感が身を包む。
そして。
俺は運命の結合を完了し、絶頂に達した。
そののち、彼女は潤んだ唇を開いて、こう言ったのだ。
「……は? ちょ、何勝手に自分だけイッてるし」
「え」
「いや、えじゃなくて。待って、嘘、ホントに? こ、これだけ……?」
「……え、えっ」
「ないわー。マジで人類最小サイズなんじゃない?」
俺の極小の逸物に、彼女は心底絶望した様子で、
「もういい。別れましょ」
「……ふぇっ?」
世界が崩落していく音は、きっと俺にだけ聞こえていた。
その場で別れを切り出した彼女は、もはや俺に一縷の未練もないのだろう。
どこか侮蔑の念すらこもった眼差しで俺を睨みつけて、足早にホテルを出ていった。
俺は何度もデートを重ねて、何十万もかけてプレゼントを誂え、世界で一番大事にすると神に誓ったんだ。あの娘の人生の意味に、俺がなろうと決意したんだ。
あの幸せな時間は確かに存在していた筈だ。その筈なのに、事後には水泡の夢のように霧散して消え、残ったのは虚しさだけ。
「そ、そんな……」
×××
……何だったのだろうか、この二年間は。
降りしきる雨に打たれて、俺は力なく公園のブランコに腰かけた。
確かに俺の息子は小さい。平均的な男性器の大きさはうまい棒くらいだと聞くが、俺のはチュッパチャップスくらいだ。いやほんと、異常なサイズだとは思っているが、そんなことで今までに育んだ男女の関係が無に帰すものなのだろうか?
「チンコが小さいってだけで、俺には女を愛する権利も無いって言うのか……!」
俺は彼女の全てを愛していたというのに。
身長も、体重も、性格も、声も、名前も、彼女に関する事柄の全てを神に感謝して愛していたというのに。
どれだけ熱烈に想おうとも、俺の心は、彼女の“奥”に届かなかった。
そう──俺はこの日、世界の真理を知ったのだ。
この世の男は、顔とチンコが全てなのだと。
「どうしてだ! どうして俺だけこんなに小さいんだ! 玉袋の大きさと、棒のデカさが比例していないのは何故だ!? 神よ、仏よ、答えてくれ!!」
ひやすら絶叫する。
悲嘆にくれ、慟哭し、やがて激怒した。
「許せねぇ……あぁ許せねぇ許せねェ! 俺の逸物が小さいのも、全部俺の親のせいだ! 俺は悪くねぇ! 親が悪い! 遺伝子が悪い!! 俺は悪くねぇ!! 悪くねぇ!! 俺は悪くねぇえええええええ!!」
地獄にすら届かんばかりの蛮声だった。
比喩ではなく、本当に地獄に届いたのかもしれない。
そう、──俺はその時、奴と出会ったのだ。
【ビッグチンコ! ロングチンコ! ラージチンコ! モアチンコ!!】
「はっ!?」
虚空から湧き出るように姿を形成していく、異形の怪物。
形容し難いほど不埒で下品でかつ巨大なその容姿に、俺は恐怖よりただただ圧巻していた。
【今ならたったの寿命半分でペニスパワーがアップアップアップ!! 効果実感率ゥ! なんと脅威の100%!! 持久力ムゲン! 硬さダイヤモーンド!! お買い得ぅ! お買い得ゥゥ!! 気になるあの子もこれでイチコロ! ブチパコ!!】
「なっ、何だお前!?」
【オレの名前知りたい? よろしい! お前、無様で惨めで気に入ったから名乗ってやる!!】
そしてソレは、天に向かい巨塔のように聳え立つ総身を、荒々しくいきり立たせて叫んだ。
【我が名はチンコの悪魔!!】
「うげっ、悪魔かよ! しかもチンコってお前……」
【引くな引くな! お前マジで終わってる!! チンコのサイズが人類史上一番小さい!!】
「……マジで?」
おいおい、泣くわ。つーか死ぬわ。
【だからペニスパワー上げてやる! 対価は寿命半分! さすればお前はこの世で最も屈強なちんちんを手に入れるであろう!!】
「マジでッッ!?」
後々考えると、寿命半分でチンコを大きくするくらいだったら、いっそ去勢して性欲とおさらばする人生の方が良かった気もする。
けれどその時、その悪魔の申し出は、傷心しきった俺にとって神の啓示に等しかった。
何を差し出しても、もう悔いはない。
その一心で、福音に手を伸ばす。
【ニンゲン、俺と契約を結ぶか?】
「結びます! 超結んじゃう!!」
──目の前の陰茎が、にやりと笑った気がした。
【ならば叫びなさい! 魔法の呪文です! おチンコどチンコかチンコチーン!】
「チンコ! チンコ! ドッカ―ン!!」
【素晴らしい! 今日からお前のチンコはギネス新記録です!!】
×××
ビビったよ。マジで。
契約を結んでからというもの、亀頭が日に日にすんげぇ肥大化して、最終的には五十センチくらいにまで伸びたんだけど。
いやさぁ、チンコの悪魔お前さぁ、いくら何でもコレは奇形すぎだろ! ネットで調べてみたら世界記録余裕で越えてたんだが!?
どう考えても人間の性器のサイズじゃねぇ……。こんなモンで行為に及ぼうものなら、相手の上半身が張り裂けるわ! ふざけんなクーリングオフだクーリングオフ!! オイ悪魔! 出てこい!!
【だってお前が大きくしたいって望んだんじゃん】
「知るかコラ! もう何枚パンツ破けたと思ってんだおぉん!? 契約解除! 寿命返せや!!」
【何言ってるか分からないみょ~ん】
「この……チンコ野郎が……」
不平不満をどれだけ溢そうとも、悪魔は話をはぐらかして取り付く島もない。
俺が契約の際に差し出したのは残りの寿命の半分だ。詐欺ってレベルじゃねぇぞこれ。
ムカついたので何度か悪魔の野郎とマジ喧嘩したのだが、チンコなどという超弱そうな名前を冠している分際でこの野郎クソ強いのである。
言論は意味を成さず、暴力でも勝てず、俺は泣く泣く異常サイズの巨チンと人生を心中することを決意した。
そして最近、俺に更なる悲劇がもう二件ほど降りかかった。
一件目は俺の妹にまつわることだ。
「ふへへへ……ねぇお兄ちゃん。一緒にお風呂入らない?」
「ふぁい!?」
第二次性徴期に差し掛かろうという二つ年下の妹が、俺に対して性的に発情するようになったのだ。
無論、理性的なジェントルメンである俺にそんな趣味はない。というか気持ち悪いまである。兄弟同士でそういう関係になるのは生物として破綻している気がするし。
「何だかね、最近のお兄ちゃんってすっごく色っぽいよね。私、そろそろ我慢できないかも……」
「やめなさいってば! ちょ、コラ! どこ触ってんの!!」
夜這いをされることもしばしばである。
普通にキショいしキメェからこういう展開やめて欲しいんですがね。
原因を悪魔に問い詰めた所、どうやらこれはチンコの悪魔の能力の一つらしい。
俺はチンコの性質が全身に転移しているらしく、俺の素肌を見た女性は無条件に性的興奮を覚えてしまうのだと。チンコの性質とは何ぞやと思ったそこの君、大丈夫だ俺も全く分かってない。
原理は不明だが、例えるなら今の俺は、女性で言う所のおっぱいを常時曝け出している感じらしいのだ。
そして二つ目の悲劇。
「おいお前ぇ! 不愉快だ! 消え失せろバケモノめ!!」
「と、父さん……」
「よく分からんがな、お前を見てると気色悪くてイライラするんだ! ぶっ殺して良いか!?」
「ひ、ひぇぇ……」
俺は実の父から異常なまでの殺意を向けられるようになってしまった。
全身にチンコの性質が広がっている、と言ったよな。
つまりだ、俺の身体のありとあらゆる肌を視認した男は、疑似的にチンコを見せられている感覚に陥ってしまうというわけだ。想像してみてほしい。路上でちんちんを丸出しにしている男を。しかも普通のちんちんではなく、陰毛は生え放題でチンカスは溜まり放題、汚らしい液をそこらじゅうにまき散らしている、野生のチンコの帝王みたいな怪物を。
そりゃ殺意の一つも覚えるさ。
──そんなこんなで、俺は素肌を晒して人前に出ることが出来なくなってしまったというわけだ。
妹とも一緒に暮らせないし、劣等遺伝子野郎たるクソ親父とも難しいだろう。
母さんが他界していたことが不幸中の幸いだった。
俺がいなくなって悲しむ人間は、一人でも少ない方が良い。
「お兄ちゃん! お兄ちゃん!」
「泣くな娘よ! 我が家に息子はいなかったんだ……!」
「そんなの嫌だよ! お兄ちゃん!! 行かないで! 行くなら私を抱いてからにして!!」
父に制止されながらも、必死で俺を呼び止める妹。
俺は振り返ることなく家を出た。
【お前の妹、頭おかしいんじゃね?】
「殺すぞテメェ!! 誰のせいだよ、誰の!!」
中卒、十八歳。
宛なし学なし職なし金なしの絶望スタートラインから、俺は故郷の街を去り、第二の人生を歩み始めた。
誰にも迷惑をかけないよう、誰にも関わらないよう、ひっそりと孤独に些細な幸せをかみしめる、そんな人生を。
×××
数か月間、俺はスラム街で暮らしていた。
物乞いとしての生活は思った以上に不足はなく、唯一の不満と言えば、俺の買い溜めた食料やら生活品を狙って隣人たちが命を狙ってくることくらいだ。
そういう輩を蹴散らして、冷めた肉を貪り、今日も今日とて悪魔と一緒に指スマで遊んでいる。
……しかし、何だろうな。この虚無感は。
少し前まで、俺は普通に高校生をしていたというのに。
今では他人を殴ることに全く躊躇を持たなくなったし、人間らしい道義心というものが消えて行っている気がする。
食欲も睡眠欲も極端に減り、有り余る性欲を一人で発散させる日々。
犬に対して勃起してしまった日は、とうとう人間として終了してしまったのだと分からされた。
「なぁ、悪魔……」
【ん? 何だ、またUNOか? いいぞ、あの遊び面白いから好きだ!!】
「いや違うけど……俺、このままで本当に良いのかなって」
【良いと思います。知らんけど】
このクソ悪魔に相談することがどれだけ無意味かなんて分かっている。
でも、他に話し相手もいない。
「俺が持ってる力をもっと人間らしいことに使えないかな……」
【ん~、じゃAV男優とかはどうだ!? 自家発電だけじゃなくもっと使って行こうぜ!! 凄いぞ強いぞペニスパワー!!】
「……まぁ、そうだよな」
本当にそのくらいしか使い道がない。
ゴミみたいな能力だ。というかチンコみたいな能力だ。
全く、軽率に契約なんてするんじゃなかったぜ……。
──と、今までの俺はそう思っていた。
その日、深夜。
欲情し、襲い掛かってきた暴漢を、俺は全力でぶん殴った。
自分への戒めを込めてオナ禁をしていたため、ムシャクシャしていた。だから、それはもう全力で殴ったのだ。
そうしたらどうなったと思う?
「な、何じゃこりゃ……」
たった一発の拳で、周囲百メートルほどが完全に焦土と化していた。
暴漢は木っ端微塵に砕け散り、その欠片は光の速さで宇宙へと消えていった。
男性器は生命の象徴である。
全ての命の起源とも呼べる器官であり、それなりに強力な力が伴うのだ。
──俺は、己の精力を身体的エネルギーとして放出する力を得ていた。
その後、色々と試して分かったことがある。
寿命半分という代金は決してぼったくりなどではなく、むしり破格の価格だったのだろう。契約のおかげで、俺はほぼノーリスクで悪魔の力を発動できる。
発情能力もそうだが、戦闘能力においても無類の強さを発揮するのだ。
性的エネルギーを身体的エネルギーに変換すると、元の力が何十倍にも膨れ上がり、とんでもない威力になるのである。簡単に言うと、素手でビルを木っ端微塵にしたり、一蹴りで山を吹き飛ばしたりといった具合に。エネルギー保存の法則? そんなものは知らん。
禁欲すればするほど。
俺の肉体は強度を増し。
やがては最強の物理へと到着する。
──それを理解した瞬間、俺は閃いた。
「こっ、これで世界は俺のもんじゃあああああああああ!!」
【ペニスパワー! 最強! 最高!!】
×××
銀行。現金輸送車。コンビニやスーパーのレジ。自動販売機。子供お年玉や、老人のタンス貯金まで。ありとあらゆる金銭を狙う伝説の守銭奴、強盗王!
全身を包帯で包んだその特異な姿から、彼はパペットマンと呼ばれ、恐れられた!
何を隠そう俺のことである。
「ふふふ。お金持ちお金持ち……」
高層マンションの最上階を貸し切り、札束のプールでバタフライしながら諭吉の紙の匂いに絶頂する。
俺がしていることは至極単純だ。金を持ってそうな奴らと片っ端に「ぶっ飛ばされなくなきゃ金を出せ」と交渉し続けているだけ。俺の力を示したら、向こうもちゃんと納得してお金を払ってくれる。
俺は儲かり、奴らは命拾いする! ウィンウィンだな!
これでやがては一国すらお買い上げ。俺はその国の王として君臨し、そして世界征服へと駒を進めるのだ……。
「ぬははははっ! 支配してやるぞゴミめらが! 笑いが止まらんわ!! がははっ!!」
全裸になって見下ろす地上に愚民どもが実に滑稽に映る。
【なぁなぁ~、たまにはオセロでもしようぜ~。強盗ばっかで最近退屈だ~】
「悪魔の分際で俺の野望に口を挟むな。第一、なんでお前はずっと俺に憑いてるんだよ。別にそんな必要ないはずだろ」
もうコイツと一緒に生活して一年近くになろうとしているが、コイツの行動原理は未だに不明のままだ。
俺に友情でも感じているのなら話は早いのだが、悪魔にそんな感情があるとは思えないし。
上手く俺以外の人間の前では姿を隠してくれているが、その内妙な輩に目を付けられないとも限らない。出来ればあまり一緒に居たくはないのだが。
【えぇ~……? 何でって、そりゃあ…………あっ】
「ん?」
【ダリィのが来たな……隠れとこっと】
「え」
何かの気配を察知したのか、悪魔の姿が消える。
入れ替わるように、屋根が吹き飛んだ。
嵐のような衝撃が吹き荒れる。
俺は驚くこともなく、屋上から飛び降りて来た人物を睨む。空の光が逆行になってよく分からないが、女性、か……?
「──驚いた。パペットマンの正体がこんな少年だなんて」
「誰だお前」
チンコの悪魔が咄嗟に引っ込んだということは、やはり悪魔関連の何かなのだろうか。
「普通じゃない力を行使する犯罪者がいると聞き及んだ。本来ならうちの管轄ではないんだけど、それが悪魔の力なら放っておくわけにもいかなくてね」
「やっぱそういう感じか」
拳に力を籠める。
殺しはしない。逃げるためにちょっと痛めつけて気絶させるだけだ。
「ただし日本最強とも言われるその力、逃すには少し惜しい」
「はぁ?」
女性の姿が明らかになる。
「……ッ!」
小麦色に輝く髪を靡かせながら、美麗な風姿をした女が凛烈と微笑んでいる。
俺はその光景に、月から降りて来た天女の美貌を幻想した。
「近い未来、日本で戦争のようなものが起きる。だからこの訪問は君の討伐でもあり、勧誘でもあるんだ」
「……あなた、は」
俺の封印されし邪龍がうずき出す。
……あぁ、分かっている。この時、俺は彼女の罠に嵌ってしまったのだ。
「初めまして、
──甘い恋という、魅惑の罠に。
でいかいしずみ→泥甲斐鎮弧→でかいちんこ
主人公はちゃんと無自覚頭がおかしい系です。本人は自分をマトモだと思ってます。
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