リオンとブレイブ (駿州山県)
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1話

本話は、リオンが王国ではなく帝国に生まれていたらと言う話をアナザーストーリーとして書いています。
三嶋先生を尊敬していますので、なるべくリオンやブレイブの口調は三嶋先生の書くものに倣っているつもりです。
なお、当然のようにネタバレも含まれるので読む際はお気を付けください。


 

「やっと……見つけた」

 

俺はとある洞穴の前にいる。

洞穴と呼んだが、中は全て未知の金属で出来ているので正しくは洞穴ではない。

そこは今の世の中にふさわしくない未知の科学で作られた兵器の工場だ。

俺は今までずっとこの洞穴に来るチャンスを伺っていて、ようやく来ることができた。

昔からここの存在を知っているような言い方をするのは理由がある。

それはこの世界が前世で俺がプレイしていた乙女ゲーの世界であり、この洞穴は俺がそのゲームで購入した課金アイテムが隠されている洞穴だったからだ。

課金アイテムを購入してもすぐには手に入らず、わざわざ取りに行かねばならない仕様だったのは当時はとても面倒臭かったが、こうして転生した今となってはその仕様に助けられている。

 

俺は今から、専用の鎧を手に入れる予定だ。

剣を構えて警戒しつつ兵器工場に入る。俺が入口から入ると、まだ電源は生きていたようで兵器工場内に明かりがついた。

生体感知のシステムだろうか、今の世界には存在しないエネルギーによる明かりのつく機械。

鎧を手に入れることができると言う嬉しさと、未知の遺跡を探索しているようなドキドキとした気持ちに背中を押されながら奥に向かって進む。

兵器工場内には壊れたロボットがところどころに転がっている。足で蹴飛ばして動かないことを確認し、見つけたドアを片っ端から開けていく。

だが会議室や更衣室,その他雑務を行うような部屋ばかりで俺が求めている鎧が見つかる気配が全くない。

本当にあるのか? やはり完全にはあのゲームと一緒ではないのではないか。そういう不安を抱えて、それでもまだ先があると期待を持って奥に向かった。

その後もいくつもドアを開けて確認したが、壊れた機械やもう動かせない船ばかりで俺の求めているものが手に入らなかった。俺は焦りに焦り、気づけば歩く速度が速くなっていることに気づいた。

そして今目の前にあるのは本当の本当に最後のドアだ。兵器工場内のドアは全て開けた。このドアの向こうに鎧がなかったら……不安が頭をよぎる。

ドアに手をかけて思い切って開けた。

 

「やっと来たかよ、人間」

 

瞬間、中から声が聞こえた。俺より先に人がいる?!

もしかして鎧はすでに持ち去られた後か? そんな疑問を持ちながら、声がする方に向かった。

 

「誰だ!」

 

剣の先をその声のする方に向けて、相手を威嚇する。

 

「そんなツンケンするなよ。

 兵器工場に入ってきた時からずっと見てたんだからよ。こっちは敵対する気はねーよ。

 あんた新人類だろ? むしろ味方さ」

 

「味方だと言うなら、俺のものになれ。

 お前は前世でも俺の物だったんだ」

 

「前世? なんだそりゃ。

 まあいいや、じゃあ早速確かめさせてもらうぜ」

 

声がそう言うとそちらの方向から急に黒く大きい球のような物が飛び出してきた。

あまりに速く俺は手で顔をかばうので精一杯だった。黒い球には目のようなものが見えた。

黒く大きい球は、俺に当たる直前に広がって俺の体全体を包み込んだ。

喰われる! すぐさまそう思って、腕や足を無理やり振って暴れたが黒い球が俺の体に密着するのはすぐだった。

終わった。俺はこの黒い球に騙されたのだと思ったが、

 

「おお、お前良いな!

 俺様と相性が抜群だ。お前ならそのうち俺様の能力を完全に引き出すことができるぜ。

 こんなこと初めてだ」

 

好意的な言葉が聞こえた。

俺はそいつに食われたわけじゃなく、むしろそいつを鎧として体に纏っていた。

 

「な……体が軽い?」

 

重騎士のような装いの自分に気づき、体を動かすと普段より体が軽い。重鎧を着ているようなものなのに、むしろ生身でいるより体が軽いなんておかしい。

 

「言ったろ。

 俺様との相性が良いって。

 今日からお前は俺の相棒な! 名前はなんてえんだ?」

 

「リオンだ……」

 

先ほど喰われたと思ったこともあってか今いち味方と言う感に欠けているが、俺は最強の鎧……前世の課金アイテムを手に入れたのに違いがなかった。

だが俺の記憶の中の鎧はもっと禍々しく大きかった気がする。今の鎧は重騎士程度しかないのはおかしい。

 

「言いたいことはわかるぜ。

 今はパーツが欠けていてまだこの程度しか力が出せないけど、欠片を集めてくれれば俺はもっと相棒の役に立つよ!

 俺様の完全体はもっとすごいんだ。

 俺様は鎧になって相棒を助ける。相棒は俺様の欠片を集める。

 両方に得のある話だろ?」

 

「鎧の割に真っ当なこと言うじゃないか。

 だがその提案には賛成だ。

 お前が強くなればそれも俺のためにもなるしな」

 

「そう言うことさ。

 それより! 俺様のことを鎧なんて呼ぶなよ。

 俺様にも名前があるんだ」

 

「名前なんてあるのか? 鎧でいいじゃないか」

 

「ダメだ!

 ブレイブだ、ブレイブって呼んでくれ」

 

「わかった、ブレイブな」

 

「ああ! 今後よろしく頼むぜ、相棒!」

 

こうして、俺とブレイブの奇妙な共同生活が始まった。

 

 




今日はまず五話分投稿します。
その後一定期間ごとに一話ずつ更新します。


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2話

ブレイブ可愛いよブレイブ


 

「相棒! 早く行こうぜ!」

 

朝からブレイブがうるさい。

今日欠片を一緒に集めに行く約束をしていたからか、テンションが高い。

 

「まだ早いって……陽も上ったばかりじゃないか。

 いったい何時に起こすんだよ」

 

陽が昇ったばかりの時間だ。街の人間だってまだ誰も起きちゃいない。

 

「だって今日集めに行くって約束しただろ。

 他の奴に取られたらどうすんだ!」

 

「大丈夫だって……お前の普段の姿、触手みたいなの生えてて気持ち悪いし……おやすみ」

 

「おい! 寝るな相棒! リオン! おいっ。俺様は気持ち悪くないぞ」

 

端から見たらただの漫才に見えるかもしれない。

だが俺は睡眠時間を稼ぐので精一杯だった。

 

「結局昼過ぎちまったじゃねえか。

 相棒は寝坊助すぎるんだよ」

 

あの後結局数時間寝たせいでブレイブが拗ねていた。

ブレイブは俺の肩辺りに浮かんでいる。あの時飛んできた黒く大きい球がブレイブの普段の姿で、球に見えたが実際は細かい触手のような物が生えていて、常にウネウネと動いている。

その見た目のせいで今だに鎧として纏うことにまだあまり慣れられない。

だが見た目とは裏腹にブレイブはすごい。鎧として纏うと剣に盾も自身の体から出してくれる。ブレイブの体はとても硬く、ほとんどのモンスターはブレイブの作った剣で切り裂くことが可能だ。

最初に纏った時から俺の体はブレイブにどんどん馴染んでいて、すでに帝国内の騎士になることができるほど強いと言っても過言ではない。

帝国と言うのはヴォルデノワ神聖魔法帝国の略称だ。

帝国の情報は俺が前世にプレイしていた乙女ゲーに一部しか出ていなかったせいで、この世界が乙女ゲーの世界だと気づいたのが大分遅かった。

前世の記憶を持っているのに、ただの街人として生きて行かざるを得なかった十数年を返して欲しい。

 

「で、今日はどこに行くんだ?

 欠片の場所がわかるんだろ」

 

「ああ。今日は町の外にあるとある場所に行く。

 そこに少し大きめの欠片が放置されてるんだ。

 待機状態で取りに行けない時はもどかしかったぜ!」

 

ブレイブは登録者がいないと最初にいた兵器工場に強制的に戻るようになっているらしい。

そこから勝手に出かけることはできず、毎日毎日欠片の場所をただ覚えて登録者を待つだけの寂しい毎日だったらしい。

街から出たのでブレイブを纏う。

流石に町中で纏うわけにはいかない。リオンがおかしくなっちゃったよなんて噂になるのはお断りだ。

ブレイブを纏うと移動する速度が一気に上がる。俺は滑るようにしてブレイブが指示する場所へ向かった。

 

「ここだ! どうやら俺様の欠片が暴走しちまってるみたいだな」

 

ブレイブが指示した場所はただの山の中だったが、とても荒れていた。

荒れていると言っても自然的に荒れたわけじゃない。明らかに戦いの後があったような、そういう人工的な荒れ方だ。

 

「この辺りの自然のためにも早く欠片を吸収しちまおうぜ」

 

鎧になったブレイブが俺の体を軽く動かそうとして向かう先を指示してくれた。

向かった先には人型の黒い靄がいた。人型の体の周りから触手が生えているので間違いなくブレイブの欠片だとわかる。

 

「なんだあれは……気持ち悪いぞ」

 

「あちゃー。どうやら人間を取り込んだみたいだな。

 可哀そうだがあの人間は殺さないといけないな。つってももう知能はないみたいだし、人間としての存在も危ういから問題ないか」

 

「お前の欠片のしでかしたことだろ?

 責任を持つって考えはないのかよ」

 

「本体から分かれた欠片は、俺様の意志とは全く別に行動するんだよ。

 俺様にはどうしようもできないな」

 

自分は悪くないと言い張るブレイブ。

俺の鎧だがこんな奴に手を貸して大丈夫なのか? と本気で思う時がある。

 

「相棒は俺様を責任ないって言うけど、相棒だって責任って言葉嫌いだろ?」

 

「うるさい。それとこれとは話が別だ」

 

ブレイブの責任と俺の責任を一緒にしないで欲しい。確かに俺は責任って言葉が嫌いだけど。

 

「ふーん。まあいいや。

 相棒、一撃で仕留めるぜ!」

 

ブレイブの体で出来た剣を右手に持ち、力を込めて地面を蹴る。

地面が爆発したかのように爆ぜ、俺はスピードに乗ったまま剣を振るう。

倒した、そう思ったが剣は空しく空を斬ってしまった。

 

「どうやらただの欠片じゃないみたいだ。

 複数の欠片が集まってる」

 

「一気に複数手に入るのはお得だが、倒せるのか?」

 

「さっきは避けられたが、俺様と相棒の敵じゃねーよ」

 

俺はブレイブの補助もあって、高度なフェイントで相手に隙を曝け出させてから今度こそ一撃で倒した。

真っ二つに叩き斬ると、人間としての姿は煙が消えるようにしてなくなった。

そしてその場所にはブレイブの欠片らしき物だけが残った。

 

「♪~」

 

俺の体から分離して元の姿になったブレイブが、包むようにして欠片を取り込む。

自分の体から離れた欠片がまた自分の体に戻ったのでブレイブは嬉しそうだ。

軽い運動をしたような心地よさ。毎日と言うわけにはいかないがたまにはこういうのもいいな、とそう思えた。

 



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3話

きっとフィンとブレイブもこんな感じだったのではないでしょうか


 

「今日はモンスターを倒しに行くぜ、相棒」

 

俺が朝弱いことを前回わかったからか、今日は遅めに起こしてきた。とは言っても前回と同じようにならないように、昼よりは前だ。

 

「欠片は集めなくていいのか?」

 

「正直欠片はすぐにでも集めに行きたい。

 だが相棒の体の強化もしないといけないしな」

 

「どういうことだ?」

 

「前に相棒のことを新人類と言う呼び方したのは覚えてるか?

 新人類っつーのは簡単に言えば、魔素を体に取り込むことのできる人類のことを言うんだぜ。

 今の世界は魔素がものすごく少ない。

 だから相棒は普段は力がそんなに出せてないんだ。

 俺様を鎧として纏ったら体が軽くなるだろ? それは俺様が蓄えた魔素を相棒に分けているからなんだぜ」

 

新人類、ここは人間と言い換えてもいいのだろうか。

人間は魔素を体に取り込むことができるなんて、そんな話は前世のゲームにも出ていないし、この世界で誰も知らないことだった。

 

「魔素のことはわかったけど、それがなぜモンスターと関係するんだ?」

 

「モンスターを倒すと黒い靄が出て消えるだろ? あれが魔素だ。

 モンスターを倒して出た魔素を俺様が吸収して、相棒に分けることで相棒が魔素を取り込むことができるってことだ。

 俺様だけが強くなるんじゃなくて、一緒に強くなってもらわないと困るからな」

 

敵を倒して経験値を得るみたいなそんな感じだろうか。

確かにゲーム内でもモンスターを倒せばレベルが上がってステータスが上昇したけれど、あのふわっとした乙女ゲーに人類が魔素を吸収して……なんて細かい設定なんてあるはずもない。

であれば魔素を吸収してレベルが上がる人類は、全て新人類なのだろうか。あのゲーム内に登場した者が全て?

 

「なあ、俺以外にも新人類っているのか?

 もし仮に俺が新人類じゃなかったらどうなるんだ?」

 

「相棒以外にも新人類はいたぜ。過去の俺様の相棒たちがそうだ。

 一応、常に他の新人類も探してるが今のところは相棒以外見つかってないな。

 ちなみにもし相棒が新人類じゃなかったら、俺様は相棒が来ても目を覚まさなかった」

 

衝撃の事実を言われる。

俺が新人類じゃなかったら課金アイテムを取りに行っても無駄だったじゃないか。

偶然だが自分が新人類であったことに感謝した。

その日、俺はブレイブと共に何十匹とモンスターを倒した。モンスターを倒して出た黒い煙のような魔素はすぐにブレイブが吸収し、ブレイブ経由で俺の体の中にも入ってくる。

ブレイブを纏っていても自分が強くなっていくのを感じる。一匹、また一匹と倒していくとほんの少しずつ自分の動きがよくなっていくのがわかった。

 

「相棒の新人類としての体はまだ目覚めてすぐみたいなもんだ。

 今はまだそこまで違いは感じられないと思うけど、続けていれば違いはわかるようになる。

 こんな感じでモンスター討伐を行っていくぜ」

 

モンスターを倒すと魔素以外にもたまに魔石が出る。

俺はその魔石を集め袋の中にいれて持ち帰った。

魔石は町で売ることができる。魔石は町で魔道具に使われたりする。

俺の貴重な生活費にもなるので、落ちた分はしっかりと集めた。

 

「しかし……お前、ちょっと変わったか?

 最初に着てた鎧の時より、少し大きくなった気がするんだが」

 

「良いところに気づいたな相棒!

 欠片を集めれば、俺様の体は大きくなる。

 それだけじゃないぜ、色々できることも多くなる。

 今は鎧に剣くらいしかなれないが、そのうち鎧に羽も生えて飛べるようになるし、鎧から棘を出して攻撃してきたやつを返り討ちにもできるぜ!」

 

「空を飛べるのか、それは楽しみだな」

 

「じゃあ、明日も欠片を集めに行こうぜ!」

 

「明日は学校があるからダメだ。

 また今度な」

 

「そりゃないぜ相棒。

 な、学校の後! 2時間……いや、1時間で良いからさ!」

 

以前まで一人きりだった俺の生活に、ブレイブと言う仲間が加わったことで俺は楽しく生活をしていた。

 



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4話

オリキャラの登場です。
名前はトマス。


 

俺は普段は学校に通っている。

平日は学校に通い、週末になるとブレイブと一緒に出掛けて欠片を集めたりモンスターを退治したりと言う毎日を送っている。

学校での勉強はとても退屈だ。俺には前世の記憶があり、そのおかげでこの世界の勉強なんて……。

 

「なあ、相棒。その勉強ってやつ、まだ終わらないのか?

 俺様はもう暇で暇で仕方ないんだが」

 

そううまくいくはずもなかった。そりゃそうだろ!

魔法が使えるのが当たり前の世界で学ぶ勉強が、前世と同じ内容であるはずがない。

そもそも前世より発達した空を飛ぶ船があったり、ブレイブがいた兵器工場が過去にあったりするような世の中だ。

もう世界さえ全く違うと思ったほうが正しい。

 

「うるさい! もうちょっと待て、後少しだから……」

 

絶賛宿題中でブレイブの相手をしていないからか、ブレイブが構ってちゃん状態だ。

こいつ週末は欠片だ、モンスターだ、吸収だってうるさいくせに平日で出かけらない時は、家猫みたいに構って構って状態になる。

正直言うともうちょっと静かな鎧が欲しかったところだけど、さすがに文句は言えない。

 

「相棒~さっきもそう言ってたじゃないか。

 魔素を吸収したら相棒の頭もよくなったら良いのに」

 

「おい、聞こえているぞ!」

 

こんなくだらないやりとりも何回しただろう。

ブレイブのせいで勉強に身が入らなくなった俺は、ブレイブと生活が始まってからのことを考えていた。

そんな時だ。

 

「おーい、リオンー」

 

家の外から声がした。この声は隣人のトマスだ。

昔いじめられていたことを助けてから、家族で俺によくしてくれる俺の数少ない友人だ。

 

「そんなに慌てて、どうしたんだ?」

 

「リオン、聞いてよ。

 街の掲示板に、騎士の選抜試験の掲示があったんだ!」

 

騎士の選抜試験、それは俺が望んでいたものだ。

帝国の騎士が殉死,もしくは引退したときに、補充のために帝国内全体から募集される。

現帝国の騎士が試験官となって各地に赴き直接試験をするので、珍しい騎士を直接見る機会にもなって街ではちょっとしたお祭り騒ぎになる。

 

「やっとか!

 待ちわびたぜ」

 

俺の望みはこの選抜試験に合格し騎士になることだ。

この望みはすでに亡くなったこの世界の両親から受け継いだもの。

両親は真面目な兵士で、その真面目さから街の人たちに好かれていた。

そしていつかこの帝国の騎士になって、帝国を支えたいと常々俺に話していた。

俺は両親のように真面目な性格ではないけれど、その夢だけは叶えたいとそう思っていた。

 

「リオン、俺も参加するよ。

 俺はリオンみたいに強くもないし……実力もないけど、一緒に試験を受けるくらいはできるからさ。

 そのほうがリオンも心強いだろ?」

 

自分で心強いだろなんて言っちゃうトマスだけど、俺は嬉しかった。

きっとトマスは落ちるだろう。何しろトマスはいじめられていた過去があるくらい、はっきり言って弱い。

だけどこいつは間違いなく俺のために一緒に試験を受けると言ってくれている。

孤立しがちな俺のために。

 

「そっか、じゃあ一緒に行くか!

 お前は弱いんだから無理だけはするなよ」

 

「はっきり言うなんてリオンはひどいなー。

 選抜試験は午前が受付、午後から試験らしいから、明日朝早くに二人で向かおうか」

 

「わかった、じゃあ明日な!」

 

そう言ってトマスと別れる。

 

「相棒、とうとう来たな。

 まあ俺様の力があれば相棒の合格なんて楽勝だぜ」

 

間違いなくブレイブの力があれば選抜試験は楽勝だろう。

戦闘の実技だけは……。

その他、勉強はなんとかなりそうだけど、問題があるとすれば礼儀作法とかかな……。

まあその時になったらなんとしてでも偽って騎士になろう。

俺は間違いなく自分は騎士になれることを疑っていなかった。

 



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5話

初日の一気投稿はここまでとします。
原作で言うところの、5馬鹿との決闘の前までを書いた感じです。
雰囲気も似せてあります。


 

「リオン、朝だよ。起きて!」

 

隣の家に住む可愛い幼馴染が起こしに来てくれる。

だけど眠い……後ちょっと……。

 

「何やってるのさ! 朝に行こうって言ったじゃないか!」

 

しかし耳から聞こえたその声は可愛い女性のものではなく男性のものだった。

 

「あれ? 可愛い幼馴染は?」

 

「何を寝ぼけてるんだよ。リオンに幼馴染なんていないじゃないか。

 ほら、顔を洗って準備してきなよ」

 

どうやら俺は遠い夢を見ていたらしい。

トマスに言われるがまま洗面所で顔を洗う。

今日は選抜試験の当日だ。午前中は受付、午後から試験となっている。

まだ寝てても問題はないかもしれないけど、試験を受ける人数に限りがあって受付終了と言われては困る。

髪の毛も軽く整えてから寝間着から着替える。一張羅と言うわけじゃないけれど、きりっとした服だ。

 

「トマス、お待たせ」

 

「うん、良かった。これなら間に合いそう」

 

この気の良い隣人がいなかったら俺は受付を寝過ごした可能性がある。感謝しかない。

もしかしたらブレイブも起こしてくれたかもしれないけど、ブレイブは猫みたいに気の向かないことはしないことが多い。

わかりやすく言うと、平日の学校に行く時間には決して起こしてはくれない。

だけど土日の欠片集めやモンスター退治の際は積極的に起こしてくる。そう言う感じだ。

 

俺とトマスは調子はどうとか、試験の内容はどんなだろうかと言う推測を話しながら、受付の場所まで向かう。

受付の場所を知っているのはトマスだけなので、俺はトマスについていった。

 

「受付、あそこだね。

 すごい、もうあんなに並んでるよ……」

 

トマスが指差す方向を見ると、受付をしているらしきテントとそこに並ぶ行列が見えた。

まだ朝だと言うのにそこには数十人が並んでいる。

これからもっと並ぶのだと思うととても億劫だ。

並んでる人たちを見ると、明らかに元兵士と言ったような人からただの街の人までいる。

ほら、あそこにいるのなんて肉屋の店主だ。

この間奥さんと喧嘩したって言う噂を聞いたから、騎士になって見返したいのかもしれない。

まあ肉屋の店主なんかがなれるわけないんだけどね。

俺とトマスは最後列に並んだ。どうやら受付は名前の記載だけで終わるわけではなく、その他にも多少何かをしているらしい。時間にして、一人当たり5分くらいかかっていた。

トマスと会話を続けながら、流石に立ち続けるにも疲れたなと思った頃。ようやく俺たちの番になった。

 

「じゃあリオン。俺先に行くね」

 

「ああ、頑張ってな。って言うほどのことではないけども」

 

トマスは軽く笑うと停止線から出て行った。

受付はテントの中で行われるのでどんな内容が行われているのかは並んでいるこちらからは見えない。

とは言えただの受付だ。大したこともない、午後からが本番だ。

そう思っていた……。

 

「雑魚がっ!」

 

しかし、大声と共にテントの中から人影が飛び出してきた。

よく見れば飛び出してきたなんて言うものじゃない。ただ吹き飛ばされてきただけだ。

じゃあ誰が吹き飛ばされてきたのか……トマスだ。

トマスは顔を黒く腫らして吹き飛ばされていた。

その後テントの中から、結構な背の大男が出て来る。

 

「もう、うんざりだ。お前みたいな冷やかし野郎は!

 記念受験みたいに軽い気持ちで来てんじゃねえよ!

 お前みたいなひょろひょろの人間がなれるほど騎士は甘くねえんだよ」

 

男はトマスの前に立つと、そう言った。

間違いない、トマスを吹き飛ばしたのはこいつだ。

翳している右手にトマスの血がついている。

 

「お前みたいなクソ野郎は下水でクソの攫いでもしとけよ。

 それがお似合いだ。

 わかったら二度と来るなよ」

 

男は口に含んだ唾をトマスに吐きかけて、テントに戻って行った。

 

「トマス、大丈夫か?」

 

すぐにトマスに駆け寄ると、トマスは殴られた頬を黒く腫らしたせいで片目が見えていないようだった。

 

「リオン……。

 はは、僕ダメだったみたい。

 そうだよね。だってリオンに助けてもらえなかったらきっと今もずっといじめれていただろうし。

 そんな僕みたいな人間は、騎士になるどころか試験を受ける資格なんてなかったんだ」

 

まさか受付さえ拒否されるとは思っていなかったトマスは、自虐的だった。

だけどトマスが受付をできなかったのは別にいじめられていたからじゃない。

トマスがダメで肉屋の親父がOKな理由もわからないし。

 

「そんなことはない。

 トマス、お前は俺の友人だ。

 それにあの時とは違う。お前は決していじめられっ子じゃない」

 

「ううん。

 僕はリオンに憧れてるんだ。

 だから、リオンだけはせめて受かってよ」

 

一緒に試験を受けられなかったことはきっと悔しかっただろう。

トマスは開けられる片目の方からだけ、涙を流していた。

ああ、なんでこんな良い人間のトマスが貶められなければならないんだろう。

俺は立ち上がると、テントの方へゆっくりと向かった。

 

「リ……リオン……?

 どうしたの?」

 

俺の雰囲気がおかしかったのだろうか。

なぜかトマスが俺を呼び止めた。

はは、自分でも感情が止められないや。

 

「俺、ああいうやつ嫌いんだよね」

 

 




少しでも原作と似た雰囲気が出ていたらいいなあ


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6話

選抜試験と言う名の決闘


 

「次っ」

 

テントの中からトマスを殴ったやつの声が聞こえる。

俺はその声がする方に向かった。

 

「そこで止まって、名前を言え。

 少しのアピールならしていいぞ」

 

テントの中には先ほどの男、そしてそれ以外に二人ほどいた。

トマスを殴った男は足を組んで、偉そうな態度だ。トマスを殴ったことについて少しも悪いとも思っていないのがわかる態度だった。

 

「リオン、町人だ。

 モンスターの退治もしてる」

 

俺は自己アピールを最低限のもので済ませた。

 

「はぁ……またか。

 全く、困るんだよな。下級のモンスターを倒したくらいで調子に乗ってる奴ばっかりだ。

 おい、もうこういうやつを省いて受付しろよ」

 

「そうは言いましても、閣下からの直接の御言葉を曲げるわけにはいきませんから……」

 

「ちっ。

 なら、もういっそ俺が全員ぶん殴って不合格にしてやるか?

 避けられる奴がいたら合格にしてやってもいいけどな」

 

そんなくだらないことを言いながら男は笑う。テント内にいる他の二人はその男の笑い声を聞いて苦笑するしかない。

 

「ああ、じゃあ俺は合格ですね」

 

そんな中俺の放った言葉でテント内は静まり返った。

先ほどの男は俺の発言に少しびっくりしてこちらを見ているし、残りの二人……おそらく文官なのだろうは、なんてことを言うんだと言わんばかりの顔をしている。

 

「ほぉ、どうやら怖いものを見たいようだな、小僧」

 

やっと俺の言葉が挑発だとわかってくれたらしくて、男が声を出した。

 

「ああ大丈夫。怖いものなんて見ることはないから。

 だって俺あんたより強いし」

 

言うことを言ったついでに、鼻で笑ってやった。

 

「どうやら怖いものが見たいんじゃなくて死にたいようだ。

 良いぜ。お前は徹底的にシメてやる。

 お前は知らないのかもしれないが、選抜試験で死んだやつは毎年後を絶たないんだ」

 

頑張って挑発し返していると言うのがわかりやすい。男の額には血管が浮き出ていて、怒りに腕をわなわなと振るわせている。

そんな挑発耐性がなくてよく騎士になんてなれたなと言ってやりたいくらいだ。

 

「じゃあ、今年は珍しく騎士の死体が出る年になるってことか」

 

「ぶっ殺してやる!」

 

「午後を楽しみにしてますよ」

 

「覚えとけ、お前は覚えたからな。

 もし午後来なかったらお前を街中探してぶっ殺してやるからな!

 家族を探し出して皆殺しにしてやる!」

 

そんなこと言わずとも行くし、もう両親はいないから家族なんていねえよと思ったけど敢えて何も言わずに俺は黙ってテントを出た。

それから数時間が経ち選抜試験の時間になった。

だが、場所に行ってみればあれほど受付時に大勢が並んでいたのに来た人は皆無だった。

 

「相棒があんだけ煽ったからな。

 皆騎士の報復を恐れて逃げ出したんだぜ、きっと」

 

先ほどまでは人が多かったので黙り込んでいたブレイブも、今はほとんど人がいないので俺と会話をする。

 

「俺って正直者だからさ。

 素直な態度しか取れないんだよね。

 いやあ、美徳だなあ」

 

「相棒が正直者なら世界のみんな聖人だぜ……」

 

近くの黒い物体が何か言ってるが俺は気にしない。

俺は他人の意見を受け止める広い器を持っているからな。

で、とうの試験官と言えばどうやら俺が来るのをご丁寧に待っていたらしい。

 

「来たな小僧。

 試験方法は俺との1対1の戦いだ。

 決着はお互いのどちらかが戦闘不能になるまでだ!」

 

決着はどちらかの戦闘不能とはよく言ってくれた。

トマスを殴ったこいつを、俺はたかだかまいったと言う言葉で許す気はなかった。

言うが早いか、男は黒い靄を体に纏った。

そして黒い重装騎士の姿を形作る。

 

「おい、ブレイブ」

 

「相棒、心配すんな。

 あれは俺様の下位の存在だ。

 昔のやつらが俺様たちを解析して作り出した、いわば劣化版だ。

 俺様と相棒が負けるような相手じゃないぜ」

 

そう言ってブレイブが薄い膜のようになって俺の周りに広がり、俺に纏わりつく。

 

「「魔装?!」」

 

俺がブレイブを纏い、黒い騎士になったことに驚いたのは目の前の騎士だけではなかった。文官二人もだ。

どうやら彼らは、ブレイブではないその劣化版の存在のことを魔装と呼んでいるようだ。

 

「なんで騎士でもない一般人ごときが魔装を使えるんだっ!」

 

しかしそのうち目の前の騎士だけが特別驚いている。

どうやら騎士だけが特別に持っているのが魔装だと言うことだ。

だからこいつは俺に対し圧倒的強者の目線から話しかけていた。

俺も同じ魔装持ちであれば目の前の騎士の優位性は薄れる。後は俺と騎士の技術の差だけが問題だが。

数度の軽い打ち合いを得て、ブレイブが相対的な実力差を判断した。

 

「相棒。どうやらこいつ大したことないぜ。

 親の七光りか何かで騎士とやらになったんじゃないか?

 とは言え俺様も欠片をまだ集めきってない。

 間違っても負けることはないが、圧倒的実力差で勝つのは無理だな」

 

「ならどうする?

 地道に削っていくか? それで勝てるか?」

 

「それでも楽勝だが、こういう案はどうだ……?」

 

ブレイブが俺だけに聞こえる小さな声で告げる。

 

「ああ、それは面白いな。

 だが俺の身を危なくするなよ? 絶対だぞ!」

 

「わかってる。

 せっかく見つけた相棒だ。

 また百年近く遺跡にい続けるなんてごめんだからな!」

 

二人しかわからない合図で行動を開始する。

 

「お前、親の七光りなんだってな!

 どうりで騎士の割に性格も悪いはずだ。

 知ってるか? 騎士団内では、親の七光りの役立たずってお前のことを呼んでるんだぜ」

 

俺は戦いながら目の前の騎士に向けてそう声を掛けた。

この内容は半分以上は俺は知らないことだ。だが当たらずとも遠からず。

どうやら真実が混じっていたようで相手の騎士は目に見えて怒りを露わにした。

 

「なんでそれをぉ……。

 絶対に許さねえ!」

 

騎士の姿を覆っていた黒い鎧から触手のような物が出る。

来た!

 

「相棒、もっとだ。もっと煽るんだ」

 

「この街も不幸だよね。

 こんな似非騎士が試験官として来るなんてさ。

 そう言えば、せっかく騎士様が来るって言うのにこの街は迎え入れる準備も何もしなかったよね。

 やっぱり騎士じゃないやつなんか迎え入れる準備も必要なかったってことなのかな。

 笑っちゃうよね!」

 

「ヴァァァァァァァッ!」

 

なんと沸点の低いやつだろう。おかげで煽りやすい。

そしてそのおかげで俺とブレイブの立てた作戦がうまくいった。

その作戦と言うのは、騎士の理性を失わせて魔装のコントロールを損なわせることだ。

ブレイブの劣化版はそのコントロールに実力以外にも理性も求められる。

理性的ではない場合、魔装に心を乗っ取られて化け物と化すそうだ。

本能的にしか動かない化け物の魔装になったなら、硬い鎧を維持しているわけでもないので勝負は一瞬。

実際に騎士の鎧から出ていた触手はその動きを激しくさせ、どんどん鎧や剣の形を維持しなくなっていた。

そして人型に触手が下手ような特殊なモンスターの姿をしだした。

 

「相棒、今だっ」

 

チャンスとばかりに俺はブレイブと協力して剣を全力で横薙ぎに払う。

先ほどまでなら鎧を削る程度に収まっていただろうその剣撃は、騎士の鎧を切り裂いた。

 

「次っ」

 

そのまま連続で攻撃を続ける。

切り裂かれた部分は元の姿をとどめることができずに、そのまま霧散していく。

そして何度か切り裂いた後、残ったのは生身の騎士とこいつを黒い騎士たらしめていた魔装のコアだった。

 

「こいつは俺様がもらっていくぜ」

 

俺から離れたブレイブが、触手を魔装のコアに伸ばすとそれを掴んで自身の中に取り込んだ。

 

「大丈夫なのか?

 さっきまで暴走していたやつだぞ」

 

「大丈夫だ相棒。

 こいつも劣化版とは言え俺様の仲間の成れの果てみたいなもんだ。

 俺様が吸収して効率よく使わせてもらう」

 

そして俺たちの対決は終わり、倒れた騎士に文官二人が近寄ってきた。

騎士はどうやら生きてはいるようだが、意識はないようだ。

 

「魔装が暴走したら心まで持っていかれるからな、多分こいつ廃人だろうぜ。

 気にすることはないぜ相棒、こいつが未熟過ぎただけだ。

 理性的な実力者が魔装を使っていれば、あんなことで魔装が暴走することなんてなかっただろうからな」

 

どんなに悪いやつでも人を廃人にしてしまった。

確かにこの作戦を言い始めたのはブレイブだけど、それを実行に移すことを決めたのは俺だし、実際にトマスをやられた時は殺意も沸いていた。

気にしないと言う方が少し無理がある。殺人にならなかっただけマシなのかもしれないけど。

 

「いったい、何があったんだ?

 私達はどう上に報告したらいいんだ」

 

しかしそんな俺たちを置いて文官二人が困っていた。

彼らの上司に当たるだろう騎士がこんな有様なのだ。

まんま報告するなら、試験中に魔装が暴走して試験相手に魔装を破壊された。

これでは意味が通じない。

 

「その騎士は実力的にも人間的にも未熟だったんだ。

 だから、理性的になれなかったことで魔装に心を乗っ取られて暴走した。

 魔装が暴走するともう魔装を壊す以外に人間に戻す方法がない。

 だから俺が魔装を壊したってわけだ」

 

ほとんどがブレイブから聞いたことをそのまま伝えただけなんだが、文官二人は俺のことを聞いて少しだけ納得したようだった。

 

「だが、激しい罵倒があったように思えるが……」

 

と、そのまま丸め込まれてくれたらよかったのだけど、俺が騎士を散々罵倒をしたことは忘れてくれないようだ。

 

「い、いや……。あれは、ただ相手の心を乱して冷静にさせないようにしただけだし。

 本物の騎士だったら、あれくらいで心を乱したりしないし」

 

ほとんど言い訳なわけだけど、そう言うとそれもそうかと文官二人は納得してくれた。

 

「本来の試験であれば、貴殿は合格だろう。

 が、今回のことは……追って結果を連絡する」

 

どんなに騎士の性格が悪かったとしても、試験官に対してのこのような仕打ちをしては合格とはとても言い難かったのだろう。

俺だってそう思う。このようなことをする人間を騎士にしていいはずがない。

従って結果は不合格だろう。

後日連絡をくれるとあるが、俺はもう不合格で決定だと認識してその場を去ることにした。

 

「ま、そうしょげんなよ。

 また次があるさ」

 

一度人間性を知られては次回があるとも限らない。

ただ今だけは明るく慰めてくれるブレイブが有難かった。

 

 




原作同様のリオンを表現したつもりです


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7話

リオン朝寝坊オチ


「リオン、ごめんよ。僕のせいで……」

 

試験が終わった後、俺はトマスを見舞いに行った。

トマスは家のベッドで寝ていて、顔はまだ腫らしたままだ。

医者に診てもらったところ、幸運にもひどく腫らしているのに骨などには異常はないと言うことだ。

トマスは性格も良いし俺とは違って日ごろの行いも良いから、大したことにならなかったんだろう。

 

「気にしなくていいよ。

 それにさ、あいつむかついたじゃん?

 トマスがあんな目に合わなくてもどの道ああいうことになってたって。

 ほら、昔トマスをいじめてきたやつらも似たような目に合わせただろ?」

 

そう、俺がトマスをいじめたやつらにした仕打ちを思い出して話す。

俺はトマスをいじめたやつらを一人一人闇討ちして、全員を素っ裸にして街中に吊るしてやったことを思い出しながら話した。

 

「おい相棒。俺様だってそんなことは流石にしないぞ?」

 

俺が笑って話したと言うのにブレイブがドン引きだ。

 

「良いんだよ。トマスみたいな人格者をいじめるやつらに人権はない」

 

「あの時のリオンはやりすぎだって!

 でも……正直スカっとしたんだ。ありがとね」

 

トマスの感謝はきっと前の時のことではなく、今回のことについてだろう。

仕返しをしてくれたことに感謝してくれたのだ。

ぶっちゃけ騎士になれなかったとしても、トマスの風習ができただけで俺は満足出来た気がする。

騎士になる夢は両親には諦めてもらおう。明日は両親に墓に酒でも持っていこうかな、そんなことを考えていた。

トマスはまだ重症であるのは間違いないので、俺は見舞いの時間を少しにして退室することにした。

 

「相棒の昔の話が聴けて楽しかったな!」

 

一時期ドン引きしていたブレイブだが、俺の昔の話を色々聞いて途中からは爆笑していた。

最初はブレイブの姿にびっくりしていたトマスも、ブレイブの明るさのおかげで最後には普通に笑い合うことができた。

 

「しかし……騎士はやっぱり諦めないといけないかな」

 

先ほどは簡単にあきらめると思ったけど、やはり両親の夢であったからそうぽんと捨てれるわけではなかった。

もし可能であるなら今からでも騎士になりたい。そういう気持があった。

 

「意外と平気じゃないか?

 明日になったら、ぽんと普通に合格の連絡が来たりしてな!」

 

ブレイブは明るい。おかげで俺は暗くなる暇がない。

間違いなく不合格になると思うけど、万が一合格だったら……そう思って俺は出来もしないことを言ってしまった。

 

「じゃあ、もしそうなったら今度の休みは一日ブレイブに付き合うよ。

 朝だって早くに起きてやるぜ」

 

「ほんとか?

 じゃあ朝から夜まで、欠片集めにモンスター退治と付き合ってもらうからな!」

 

そのせいかブレイブは上機嫌だった。

翌日学校に行くと、俺は授業が全て終わった後に学校側に呼び出された。

何だろうか、心当たりはあの選抜試験のことだけだが……。そのことで責められるのだろうか。

いくらあの騎士がひどかったと言っても騎士は騎士だ。騎士をやっつける生徒がいると言うのは学校側として許せないと言われても仕方ない気させする。

学校長の部屋に向かい中に入ると、そこにいたのは学校長だけではなかった。

 

「リオン、来たか。

 先日の選抜試験、お前は参加していたんだったな?

 その時の試験に同行していた方たちからお前を呼び出してもらえるよう通達があったんだ」

 

あの時の文官二人がそこにはいた。

不合格を通達するだけなのに、なぜ手紙で済まさずにわざわざ学校まで?

そう思ったが文官二人はとても真面目な顔をしている……むしろ緊張していると言っても過言ではない。

今回の事は特殊な事例だったし、やはり俺にお咎めがあるとかそういうことか?

急に不安に駆られて心臓が締め付けられる。

 

「リオン殿、帝国は貴殿の選抜試験は合格と判断した。

 来月から騎士団に出頭されたし!」

 

文官の片方が鞄から取り出した丸められた紙を広げ、書いてある文章を読みだしていた。

広げる時に、封を切っていたことを考えるとこれは正式な通達で間違いない……とそう思えたが。

 

「え?」

 

当たり前のように不合格になると思っていた俺は、選抜試験は合格と聞いてびっくりしてしまった。

 

「どうして? 合格?」

 

文官二人は顔を見合わせると、どちらが結末を伝えるのか悩んだ挙句先ほどとは違うもう一人が、

 

「そう聞かれるだろうと、皇帝陛下から今回のことについて直接のお達しがある、心して聞くように。

 ……今回、試験官として選ばれた騎士には問題が多々あった。帝国としてもそのことにまことに苦しい思いをしていたのだ。

 だが一度騎士して選んだ者を罷免すると言うのは帝国としてもバツが悪い。

 そこで今回の話だ。騎士でありながら、試験管として正しく振る舞うどころか一町民に対し決闘を起こすような行いをした上、一方的に負けたとあっては騎士の名折れ。

 これを機会にその騎士を無事罷免することができた。

 そしてリオン。貴殿は騎士と言う上位の存在を相手にしても正義を放置をしないその姿、それこそがまさに帝国騎士としてあるべき姿である。

 是非今後は騎士団にてその姿を披露してもらいたい」

 

帝国皇帝が言ったと思わせるような、威厳を持った話し方を終えると文官が一息つく。

 

「……と言うことだ。疑問は色々あると思うが、これが帝国が下した結論である。

 必要な荷物をまとめ、来月より騎士団に出頭されたし」

 

そう俺に告げると、皇帝陛下からの直接の文を丸めて学校長の部屋から出て行った。

俺はただトマスの仇をうっただけだったのに、必要以上に褒められたことがムズ痒かった。

 

「リオン、おめでとう。

 我が学校から騎士が排出されるなんてすばらしい事だよ!」

 

このことに学校長は大喜びしていたが、俺としてはまだ納得がいかなかった。

絶対におかしい。さては騎士団に行ったら調子に乗りすぎた者として、先輩騎士から訓練と称して毎日ボコボコにされたり、部屋の物が常に壊され続けたりするのかもしれない。

素直に喜べない俺は学校長に事前に渡されていたらしい、騎士団入団の案内状を受け取ると部屋から去った。

 

「相棒、合格しちまったな。

 俺様はこうなると思ってたぜ。

 何せ相棒は俺様の相棒だからな!」

 

ブレイブが何を言ってるかわからない。

 

「だが怪しすぎないか?

 お咎めの1つや2つあってもいいはずだ。

 だがそれがない。

 帝国皇帝とは断定しないけど、今回の結果を捻じ曲げようとした誰かがいるはずだ」

 

「そうかもなー。

 そんなことより相棒、覚えてるか?

 もし合格だったら……」

 

俺が深く考えすぎなのだろうか。ブレイブの気楽さを見ると考えすぎてる自分が少しだけ馬鹿らしくなる。

そんなことよりブレイブと約束したんだった。

あの時は合格するなんて思っていなかったから適当なことを言ってたなと思い出した。

 

「ああ、覚えてるよ……。

 確かブレイブの良いあだ名を考えてやるって言う話だったよな。

 今日にでもすぐ考えよう」

 

「違うだろ! とぼけた振りしても無駄だからな!

 明日! 明日は朝から俺様と一緒に欠片集めとモンスター退治だ!

 騎士団は昨日みたいなやつがたくさんいるかもしれないだろ? 俺だけじゃなく相棒だって強くならないと騎士団で見下されることになるんだぜ」

 

騎士団に入るまでに俺とブレイブが強くなっておけば、騎士団内でボコボコにされるかもしれないと言う未来の1つは回避できる。

そう思えば明日、いや騎士団に入るまでずっとでもいいかもしれない。欠片集めとモンスター退治に精を出すのは良いことに違いない。

 

「わかった!

 ブレイブ、明日だけとは言わない。

 騎士団に入るまで俺たちは強くなるために、欠片集めとモンスター退治をしよう!」

 

「さすがだぜ相棒!

 じゃあ数日家に帰らないつもりで今日のうちに準備してくれよな!」

 

「わかった!

 だから……明日の朝だけは勘弁してくれないかな」

 

「お……おう。相棒、せっかくの気合が今ので台無しだぜ」

 

頑張りたいけど朝は弱い自分が恨めしい。朝は勘弁してと言った俺はブレイブからしたら情けなかったことだろう。

 




リオンとルクシオンのやり取りも好きなんですけど、リオンとブレイブのやり取りも好きなんですよね。
原作(書籍)の1シーンで、
『偶然で狙ったように主人公と敵役の二人と婚約するのか?
 実は狙っただろ? 俺にだけ教えてくれよ。な、いいだろ?』
「お前は思ったより楽しい奴だな」
と言うやりとりがあります。
そんな雰囲気を醸し出したつもりです。


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8話

とうとうリオンが騎士になります。
次の回は皇帝閣下への謁見です。


 

翌日から俺とブレイブは欠片を集めまくった。

日帰りで集めることができない欠片は今まで後回しにしていたのだけど、そういうものを中心に近くにあるものを全て集めた。

モンスターもかなりの量を退治した。おかげで俺のレベルもかなり上がったし、ブレイブの姿も重装の騎士と言った風体から悪魔が鎧を形どったんじゃないかと思うほど凶悪な姿に変わった。

俺が前世で手に入れたブレイブの姿そのままだった。

翼も生えたことで空も飛べるし、魔素を大量に取り込んだことで魔法も多少使えるようになった。

ただそれでもまだ完成形ではないらしいと言うことだから、本当にチート染みているなと思う。ブレイブ曰く俺もまだまだ成長できるとのこと。

朝早く起きることは辛いけど、成長できる余地があるならもう少しくらいは頑張ろうと思える。

そしてそのまま同じことを続けて、入団の前日。

帝都に向かう飛行船の出発1時間前に俺はトマスと会っていた。

トマスの顔は元に戻っていた。本当に良かったと思う。

 

「とうとうリオンが行っちゃうのかあ。

 はは、寂しいね」

 

トマスが感情を正直に伝えてくる。

もしトマスが強がったら、俺はそれをからかってから出航しようとしていたのに台無しだ。

 

「俺も寂しいさ。

 だけどこの街で俺の友達はお前だけだった。

 俺が帝都に行ってもずっと友達だよ。手紙も書くからさ、そうしょげるなよ」

 

俺が泣きそうなトマスをあやしていると、横にいたブレイブが調子に乗って話しかけてきた。

 

「何言ってんだ相棒。

 相棒だって昨日トマスと離れることをあれだけ悲しがってたじゃねえか。

 トマスー! 離れたくないよーって」

 

「な、なに言ってんだ……そんなわけあるわけないだろ! 誇張だ誇張!

 お前だって新しく欠片を手に入れたら、新しい服を手に入れた女みたいに浮かれやがって!

 デートにどの服を着ているか迷っている貴族令嬢にしか見えなかったぞ!」

 

「相棒こそ何言ってんだ!

 俺様がそ、そんな……ことあるわけないだろう……?」

 

「あはははは! あははは!」

 

俺とブレイブのやり取りを見て、トマスが笑った。笑うも笑う、大爆笑だ。

 

「トマス?」

 

「おい、どうした? あの騎士に殴られて頭でも壊れたか?」

 

「はぁ……違うよ。単に二人のやりとりがおかしくて笑っただけだよ。

 リオンのことを心配してたんだけど、ブレイブがいるならリオンはきっと平気だね。

 ブレイブ、リオンのこと頼むね」

 

「おう、安心しとけ。

 相棒は俺が何があっても守ってやるぜ!」

 

「いやいや、ブレイブは楽観的すぎるからな。

 それこそ俺と一緒にいるほうが安心するだろ」

 

「そうだね、リオンとブレイブはすごい気が合ってるよ。

 二人とも、お互いを大事にしてね。

 後手紙も絶対に書いてよ?」

 

「ああ、一か月に一回は絶対に書く。

 トマスも元気でな」

 

そんなやりとりをして別れを告げた。

飛行船の窓から外を見ると、トマスは飛行船が見えなくなるまでこちらに手を振ってくれていた。

果たして外から飛行船内の俺の姿が見えたかはわからないけど。

飛行船の速度はとても速い。あっという間に街の姿が見えなくなったので、俺は窓から離れ自身に当てがわれた部屋のベッドに座って、先日届いた案内状に改めて目を通す。

案内状に書いてあるのは、騎士団へ入る流れだ。

まず今日、騎士団に到着次第寮へと案内される。

翌日、騎士団にあてがわれた儀礼用の服を着て皇帝陛下への謁見。

そこで皇帝陛下から騎士として任命される。帝国の騎士はナンバリングされているらしく、俺は一番下のナンバー100とのことだ。

ナンバリングは1~10が上級騎士と呼ばれ、上級貴族同等の位らしい。

続いて11~40は中級騎士と呼ばれて貴族同等、41~100は下級騎士で基本的に貴族とは扱われないらしい。騎士にも色々あるもんだ。

 

「ふぅん……相棒はナンバー100なのか」

 

俺と一緒に案内状を読んでいたブレイブは、俺が最下位のナンバリングだったことに不満そうだった。

 

「騎士に成りたてだしな。

 どうやって序列を上げて行くのかはわからないが、俺とブレイブなら上級騎士になるのもそう先の話でもないんじゃないか」

 

「もちろんだぜ相棒。

 だが前にも言った通り俺様はまだ完全体じゃないんだ。

 騎士として働きつつ俺様の欠片集めやモンスター退治も行ってもらうぜ」

 

「そうだな。ブレイブが完全体になる頃には、帝国も俺とお前をナンバリング一位として認めざるを得ないようにしてやろう」

 

二人しかいない部屋の中、俺とブレイブは野望を共有するように未来の話をした。

 




またまた三日後更新です。
やる気アップしような感想待ってます!


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9話

三日置きの更新ですよろしくーっ


 

飛行船が帝都の港に到着すると、俺はすぐさま騎士団の寮へと送られた。

荷物を搬送するように、こっち、こっちだと指示されて瞬く間に寮だ。

寮に着くと今度は寮長の騎士OBが迎えてくれた。騒がしいことこの上ない。

 

「お前がやらかしたって言う噂のやつか!

 話は聞いてるよ、笑わせてもらったぜ」

 

俺の選抜試験の話はすでに騎士達に広まっているようだ。

笑わせてもらったってことは、あの騎士は相当騎士団内で疎まれていたに違いない。

騎士団内で今度は俺が疎まれるようなことにならなくて良かった。

 

「まあその話はおいといて、まずはこれだ。騎士服と儀礼用の服だ。

 二着ずつある。自分で洗わないなら使用する二日前までに洗濯物として出してくれ。

 メイドが洗ってお前の部屋に届けておくようにするから。

 訓練用の服については基本的に好きなもので良いことになっているが一応渡しておくぞ。

 お前さんは平民らしいから大丈夫だと思うが、訓練に良い服を着て行こうだなんて思うなよ?

 騎士連中に言いようにからかわれて、最終的に泥だらけにされるのがオチだからな」

 

過去に幾度となく良い服を着て訓練場に行こうとした輩がいたのだろう。

良い服を着てきたやつを率先して泥だらけにするなんて、騎士達もなかなか御茶目だ。俺もやってみたい。

受け取った騎士服を広げて見ると、カッコ良い……厨二心がくすぐられる。

そして儀礼用の服。普段の服を一層品良くしたような服。

真っ先に俺には似合わないなと思うのだけど、イベント事に儀礼服を着ないといけないのはどうやらルールっぽい。

今日はすることがないので、俺にあてがわれた部屋の中で両方とも着てみたのだけど。

 

「馬子にも衣装なんて言葉は、相棒の辞書には存在しないんだな!」

 

俺の姿を見たブレイブに爆笑された。こういうのはイケメンが着るから様になるんだ。俺のようなやつが着てもよくて背景にしかならないと改めて思った。

翌朝ブレイブに起こされて儀礼用の服に着替える。

部屋に設置された大きめの鏡を見ながら、着こなしを確認してから部屋を出るとそこにはメイドがいた。

 

「本日の騎士任命の儀のために、案内させて頂きます」

 

メイドは所作がとてもキレイだ。下級騎士、つまりまだ貴族とも認められない俺に対してのふるまいを考えても、とても訓練されたメイドであることはわかる。

メイドの後について向かった先は控室のようだった。

そこにはすでに俺の他に数人の騎士がいた。どうやら彼らも今回騎士に任命されるらしく、皆揃って儀礼用の服を着て緊張な面持ちだ。

面識もないため互いに話すことは一切なく、そのまま控室で待っていると声がかかる。

 

「騎士になる皆さま、こちらへお越しください。

 騎士に任命される際、任命状を代表して一人がいただけます。

 その役はリオン様。あなたと仰せつかっておりますので、呼ばれたら1歩前に出て受け取ってください」

 

騎士に任命される者が数人いると言うことは、俺以外の者は間違いなく俺よりナンバリング上位の者だ。

もしかして99位と98位と……と言うことかもしれないが、それでも俺より上位なのは間違いない。

なのに最下位である俺がその役を受けるのはどうして……?

そう思ったが、俺たちに説明をしてくれる執事は無駄なことを一切伝えようとして来ない。

 

「では時間です。

 入場してください」

 

俺たちが疑問について聞き返す暇もなく、ドアが大きく開かれ入場することになってしまった。

部屋にいた他の騎士の後ろに並んで、皇帝陛下がいる間に入る。

そこには玉座に座る皇帝陛下、そして政治を行う貴族たち、俺たち以外の騎士が勢ぞろいしていた。

当然こちらを見て来る。何人かは薄笑いしていたような気もするが、基本的に皆真面目な顔をしている。

 

「ブレイブ、明らかに俺を馬鹿にしてるような笑みを浮かべてるやつは覚えとけよ」

 

「もちろんだ相棒。

 そういうやつらには是非俺たちの実力を思い知ってもらわないとな!」

 

俺ははっきり言って心が狭い。だから、俺を笑ってくれたやつらには絶対に笑い返してやらないと気が済まない。

幸いにもブレイブも俺と同じ気持ちらしく、率先して俺を笑った騎士を覚えようとしてくれてるみたいだ。

俺たちは皇帝陛下の午前に辿り着くと姿勢を正した。

長い長い前振りの挨拶があり、帝国の繁栄についての話があり、やっとのことで俺たちの騎士の任命の儀に移った。

 

「騎士リオン、前へ」

 

俺の名前が呼ばれ、1歩前に出るとなぜか任命状を持った皇帝陛下が俺の数歩前の場所に来た。

俺の顔を正面から見ると、ニヤリと笑い。俺だけにかろうじて聞こえる声で、

 

「課金アイテム」

 

そう言った。

この世界には課金アイテムなんて言葉は存在しない。その言葉が存在するのは前世の世界だけだ。

つまり、皇帝陛下は俺と同じ前世からの転生者? さらに課金アイテムとはブレイブのことを指すに違いない。

そのことに驚いた俺はショックのあまりその時あったことはあまり覚えていなかった。

気づいた時には任命の儀が終わり、部屋に戻った後だった。

 

「相棒、平気か?

 隠れて見ていたが、途中からおかしかったぞ?

 特にあの帝国皇帝と言うやつが相棒に近づいたときだ。

 何かされたのか?」

 

ブレイブからは表情は読み取れないが、声質からして俺のことを心配してくれていることはわかる。

 

「任命状を渡されるとき、課金アイテムと言われたんだ」

 

俺としては大事なことを言ったつもりだったのだけど、ブレイブには全く重要さが伝わっていないようだった。

 

「ん? それだけなのか。

 ところで課金アイテムってなんだ?」

 

ああ、そうか。ブレイブには前世の話しかしたことがなかった。

 

「前に前世の話をしたことがあっただろう?」

 

「ああ、初めて会った時になんか言ってたな」

 

「そうだ。

 ブレイブ、お前は俺が前世でやっていたゲームに出てきた最強の鎧だったんだ。

 俺はゲームの中でお前を手に入れていた。だから俺はお前が存在する場所を知っていたんだ」

 

「俺様がいた兵器工場に訪れる者は基本的に偶然迷い込んできたって感じだったけど、確かに相棒は違ったもんな」

 

「相性があるとは思ってもいなかったけど、お前を手に入れることができるって知ってたからな。

 ゲームの中でお前は課金アイテムと呼ばれていたんだ。

 おそらく帝国皇帝も前世でそのゲームをやっていたに違いない、だからこの言葉を知っているんだ」

 

「うーん……相棒が嘘ついてるようには思えないんだよなあ。

 相棒は今までの新人類と比べても、特殊っぽいし言われてみればわかる気もするけどよ。

 でその皇帝からその後他には言われたりしたのか?」

 

「いや、何もない。

 だから悩んでるんだ」

 




次は三日後の8月1日で!


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10話

本編では表記されなかったことを、自分の妄想で書き加えながら3作目のストーリーに向かっていきます。
なお、事情によりオリヴィアはハーレムルートを選んでいることになっていますw
共和国については、この後話には出さないつもりなので無難な形で終わらせました。


 

ブレイブと静かな声で前世と皇帝について話をしていると、俺の部屋のドアをノックする音が聞こえた。

 

「誰だ? 鍵は掛けてない、空いているぞ」

 

「失礼します」

 

ノックをしていたのは、今朝案内をしてくれたメイドだった。

 

「皇帝陛下からの直接の言伝です。

 一刻後に、任命の儀の際の控室に一人で来るようにとのことです」

 

それだけ言い終えると、ではと俺の話を聞かずにメイドは去ってしまう。

言伝の相手は皇帝陛下だ。俺の返事を聞く必要はない言われているのかもしれないがせめて軽い質問くらいには答えて欲しかった。

 

「相棒、来いってさ……行くつもりか?」

 

「ああ、そのつもりだ。

 罠かもしれないが、このタイミングで俺をハメるくらいなら皇帝の権力を使って俺を騎士殺しの大罪人に仕立てることだってできたはずだろ?

 それがないってことは罠じゃないってことさ。

 本当は罠なのかもしれないけど、いざって時のためにお前は控室に入らず待機しておいてくれよ」

 

「わかったぜ。

 何かあったらすぐ助けに行くからな。

 相棒も危険を感じる前に俺様を呼べよな」

 

わざわざ一人でと釘を刺してくるくらいだから、俺一人で来ることを望んでいるのだろう。

もしかしたらブレイブを感知する方法があるのかもしれない。

下手にブレイブを伴って行って、翻意の気ありと判断されても困る。

よって俺は一人で行くことにした。と言っても、控室のドアの前にはブレイブが隠れているから、実質一人じゃないんだけどね。

控室の前についた俺はドアをコンコンとノックする。

 

「入りたまえ」

 

すると中から声がした。あの時の声と同じだ。

声に従って中に入ると騎士任命の儀の時にいた皇帝がいた。

服装はあの時の儀礼用の物とは違っていたけれど間違いなく本人だ。

 

「皇帝陛下に置かれましては……」

 

俺はかろうじて覚えた拙い言葉を使おうとしたが、

 

「ああ、そういうのはいい。

 と言うより、もうわかっているんだろう?」

 

そう遮られた。

 

「じゃあ、口調を崩させてもらう。

 あんたは俺と同じ前世の記憶を持つ者。

 それであってるか?」

 

「ああ、その通りだ。

 まさかわしと同じ転生者が存在するとは思わなかった。

 ブレイブを手に入れていたから、もしやと思ったのだ。

 正解だったようだな」

 

テーブルの上に置かれた紅茶を飲みながら、皇帝陛下……いや、この場では皇帝でいいだろう。は笑っている。

 

「改めて聞くが何の用だ?

 ただ転生者同士、転生前の世界の話に華でも咲かせようってわけじゃないんだろう?」

 

「もちろんだ。

 まあ、仲良くしたいと思っているのは事実だが。

 今回お前を呼んだことには理由がある。

 お前は前世のゲーム、アルトリーベを当然知っているよな?」

 

ブレイブは皇帝の言ったアルトリーベでの課金アイテムだった。

当然課金アイテムと言う言葉に反応してここまで来ることになったのだから、知っているに決まっているのだが。

 

「ああ。妹にやらされたからな……あんなゲームやりたくなかったが‥…」

 

俺は前世で妹に無理やりやらされたゲームの事を思い出した。

妹はクリアできずに困っていたゲームを俺に押し付けて旅行に出かけてしまった。俺はとある事情によりそのゲームをクリアせざるを得ず、貴重な休みを使ってクリアし……そして過労の結果死んでしまった。

細かい部分は省くが、このゲームに対して全く良いイメージはなかった。

 

「ふむ。

 アルトリーベは複数作あるのだが、どこまで攻略した?」

 

「は? そんなに出てるのか?

 俺は一作しか攻略してないぞ?」

 

「そうか。わしは都合により、3作目までクリアしている。

 今回お前を呼んだのはその3作目の話をするためだ。

 アルトリーベはクリアできないとどうなるかわかるか?」

 

アルトリーベはクリアできなかったとき、バットエンドになる。

バットエンドはそのほぼ全てが世界の破滅に繋がっている。

つまり、放っておけば世界破滅の可能性があるということだ。

 

「ああ……。

 せっかくの二回目の命だ。無駄にはしたくない。

 世界崩壊だけは回避したいね」

 

「その話が聴けて良かった。もちろんわしも同じ考えだ。

 つまり、わしたちはバッドエンドを回避して世界破滅を回避することに力を注ぐ仲間と言うわけだ。

 では改めておさらいだが……」

 

帝国皇帝はそう言うと、皇帝がまとめた1作目,2作目の資料を基におさらいを始めた。

1作目はこの世界の王国が舞台。

後に聖女として覚醒する少女、平民のオリヴィアが特待生として貴族の学校に通うところから話が始まる。

オリヴィアは5人いる攻略対象と恋愛し、共に王国に攻めてきたファンオース公国と戦うと言うストーリーだ。

アルトリーベと言うゲームとに関しての話については全く同じ認識だった。しかし……、

 

「この世界のオリヴィアは、攻略対象の5人全員と婚約を結んだ。

 どうやらハーレムルートを選んだようだ」

 

皇帝は深くため息をついた。

オリヴィアを操作することになるプレイヤーが望めば、確かにそういうルートを通ることはできる。

攻略対象の好意度が上がるイベントを、針の穴を通すような正確さで全てこなし、それでやっと達成できるのがハーレムル―トだ。

そんな現実的ではないルートをなぜ通ることができるのか。それはオリヴィアも転生者かもしれない、そういう事実を示していると思ったのだが。

 

「言いたいことはわかる。だがオリヴィアは転生者ではない。

 本当に偶然なのだがなぜかハーレムルートを選び、攻略できてしまったんだ」

 

「どうしてそんなことがわかる?」

 

「世界が破滅しては困るからな。

 帝国からスパイを複数侵入させ、オリヴィアの情報を掴んでいる」

 

皇帝陛下もなかなか苦労が絶えない性格らしい。

確かに世界破滅の可能性を知っている身……しかも帝国皇帝と言う、それを止めることもできる地位にいるなら、俺も同じことをしたかもしれない。

 

「その話を聞く限り、もう過去のことなんだよな?」

 

「ああ。今話しているのは彼らが学園の一年生の時の話だ。

 今はそこから二年が経っている」

 

つまるところ、1作目の破滅の未来は無事回避されたと言うことだ。

俺はホッっとするも、あの時ゲームで散々苦労させられた攻略対象5人の無謀な行動や、何度もゲームオーバーにさせられた黒騎士のことを思い出した。

ちょっとのミスですぐゲームオーバーになってしまう、アンバランスなあのゲームが現実の世界となったなら……間違いなく、どこかうまくいくことがなかったのではないか?

 

「うむ……本当に不思議なのだが……。

 オリヴィアは攻略対象5人の力を上手く引き出していた。

 逆に考えれば、ハーレムルートを通り5人の力を合わせなければ世界は破滅していたのではないかと思うよ」

 

結果として良かっただけのことかもしれないが、ひとまずほっとすることにした。

まだ話は1作目の段階だ。今の時点で疲れていてはこの先には進めない。

2作目、3作目の話が控えている。

 

「では続けるぞ。

 2作目は、王国の隣にある共和国の話だ。

 お前は1作目しかクリアしていないと言う話だったな」

 

共和国編では6つの大きな家があり、その家の者たちが共和国を実質支配していると言う。

6つの家は元は7つあって、主人公はその中の滅んでしまった家の末裔だと。

2作目の流れとしては主人公が攻略対象たちと愛を育み、共和国の象徴たる聖樹が暴走したところを倒すと言うことらしい。

 

「細かい話は後にして結論だけ言うが、主人公は無事攻略者の一人と愛を育み、聖樹を倒したよ。

 共和国は協力して聖樹に立ち向かったが、かなりを力を使い弱体化している。

 今は新しい聖樹を植えて安定してるようだ。ただ……今の聖樹には元の聖樹ほどの力はない。

 世界破滅は回避されたものの、力を落とした共和国は他国からプレッシャーをかけられている状態だ」

 

どうやらまたも世界破滅の未来を回避できているらしく、ほっとする。

しかし世界破滅が回避されたにも関わらず国力が低下したことで周りの国々から、攻められようとされているとは悲しい話だ。

そしてこんなにポンポン世界の破滅が訪れる世界ってどうなんだと思うが、一番苦労しているのがきっとこの皇帝だろう。

労ってやりたいと思った。

 

「あんたも大変なんだな……」

 

「まあ、な……。

 で、2作目も終わって今度は3作目なわけだ」

 

ここでいっそう皇帝の顔が真面目になる。

3作目の舞台はまた王国に戻るらしい。

主人公はなんと帝国からの留学生とのことだ。

この留学生、平民なわけだが……実は今目の前にいる皇帝の血を引いた者らしい。

しかも皇帝の血を色濃く受け継いだ唯一の人物だと言う。

皇帝の血を継いだ者は他にもいるが、どうしても他の貴族の血を濃く継いでしまったことで跡取りとしてふさわしくないとされている。

 

「お前には是非3作目の主人公と一緒に王国に留学し、世界の破滅を回避して欲しいんだ」

 

「は?! なんて俺がそんなこと!」

 

「頼む! こんなことお前にしか言えないんだ。

 誰が前世のゲームのことなんて話して信じてくれるだろうか」

 

確かに皇帝の言う通りだ。

俺だって誰にも信じてもらえないと思って誰にも話してないし、唯一伝えたブレイブにだって今だ半信半疑に思われている。

それに何より世界の破滅を運に任せたくない。そういう思いもあった。

 

「もしかしてそのために俺を騎士にしたのか?」

 

「お前を騎士にしたのは間違いなくわしがお前を転生者だと思ったからだと言うのはある。

 だがお前の実力が本物だった、わしが手を下さなくても騎士になれた可能性は高かった。

 ところが城の中にはお前を騎士にすることに反対の者も多かった。

 しかし、だ。わしは半ば無理やりお前を騎士にした。

 わしがそれほどまでにお前にわしの代わりに頑張ってもらいたいと思っていることをわかって欲しい」

 

「それはわかった。

 正直な気持ち、騎士にしてもらえたことはありがたいと思ってるよ」

 

「うむ。しかし、王国に行くには今のままではダメだ。

 お前自身が留学するのではなく、我が娘の護衛騎士と言う形でなければならん。

 中級騎士以上の騎士に限り護衛騎士と言う専属の騎士になることができるのだが、お前には周りを説き伏せるため中級騎士ではなく上級騎士になってもらう」

 

「護衛騎士になるのに条件があるのがわかった。

 しかし……無理に騎士に任命した結果、周りを説き伏せる材料が必要とはな」

 

「それについてはこちらの力が足りなかったと謝っておこう。

 ただわしは心配してはおらんぞ。何せお前はすでにブレイブを持っているからな。

 上級騎士に上れるような場はこちらで整える。

 だからお前はしっかりと力をつけて、上級騎士にふさわしい実力をつけてくれ!」

 

俺と皇帝の話はこの後も一時間以上続いた。

そして俺は皇帝からの頼みを了承せざるを得なかった。

 




毎回三日後の19時更新と言う形にしていますが、それを楽しみにしてくれてる人がいたらいいなーと思います。


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11話

ちょっと忙しくて書き溜めが出てきていない状態です。焦り焦り。


 

「相棒の話って本当だったんだなー」

 

隣にいるブレイブが間の抜けたような声を発した。

世界破滅の危機の話だったと言うのに、どうしたらこんな気の抜けた声でそんなことが言えるんだろうと思う。

 

「俺のことを相棒って言う割に、俺の言うことを信用しなさすぎだろ」

 

「だってよー。相棒は癖が強いからなー。

 トマスが相棒だったなら間違いなく信じてたって」

 

俺はブレイブの持ち主だと言うのにひどいものだ。まあトマスと比べれば俺の性格がねじ曲がっているのは仕方ないと思う。

俺はブレイブを無視して皇帝と話したことを思いだした。

皇帝は俺が上級騎士になれるように配慮をすると言っていた。その配慮とは一体……。

 

翌日から俺は騎士としての訓練に参加した。

騎士と言っても常に仕事があるわけではない。騎士として仕事があてがわれるのは中級騎士以上であり、その中級騎士の中でも約10人ほどが一週間交代で仕事をするそうだ。

もっと大勢の騎士が呼ばれることもあるらしいが、そういうことは儀式であったり皇族の移動だったりとめったにないので、ほとんどの騎士は基本的に訓練をしている。

俺も大勢の騎士の一人として訓練をしているのだけど、はっきりいって上級騎士以外は騎士としてのレベルはそれほど高いとは思えなかった。

その理由については大きく分けて2つあった。

1つは鎧としてのブレイブの実力にある。騎士とは鎧を着て戦うものだ。この世界で言う鎧と言うのは、別の国であればロボットのような物であったりするのだが、帝国ではロストアイテムの改良品のことを言う。

ブレイブに言わせれば、俺様の劣化品と言うことである。

ブレイブのように意志を持つわけではなく、ただ単に騎士に着られるだけの鎧を帝国は研究の末作り出した。

騎士となった者達はその鎧を与えられている。

つまりブレイブを持っている俺とブレイブの劣化品を持っている他の騎士とでは持っている鎧の強さで圧倒的に差があった。

もう一つは魔力の容量だ。

ブレイブ曰く、俺は新人類の遺伝子を継いでいると言う。

新人類と言うのはこの世界の人類のうち魔素に適応した人類の事を言うらしい。

つまりモンスターを退治して発生した魔素を自身の力として吸収することで成長することができる。

モンスターを退治すれば退治するほど強くなれるのだ。

実際には魔素は一旦ブレイブが吸収しを纏った俺に分け与えると言う形をとっているわけだが、それでも新人類であることには違いないらしい。

よって成長の仕方にもかなりの差があると言う話をブレイブは言っていた。

 

俺は自身の強さを示し、訓練を行う度に下級騎士の中でも頭角を示していった。

だが、

 

「おべっか使いが」

 

ある時横を通り過ぎた名も知らぬ騎士から言われた。

おべっか使いと言うのは、皇帝と仲良くしていることを揶揄した言葉らしい。

たまに貴族だと言うだけで騎士になった者がいるそうだが、昔はそういう者がそこそこの数いて、そいつらのことをおべっか使いと揶揄したそうだ。

実際に実力のある俺とは比べなれない話なわけだが、日が経つに連れてどんどん俺を馬鹿にする者たちが増えて行った。

明らかにおかしい。帝国の騎士とは立派な者が多いと言う話ではなかったのか。

 

「相棒の陰口を叩いているやつらは、どうやら下級騎士ばかりのようだ。

 帝国では下級騎士は騎士に非ず、なんて言葉もあるらしいなー」

 

相棒の俺が陰口を言われていると言うのに、楽しそうで何よりである。

だがブレイブの言う言葉は下級騎士になってから嫌と言うほど聞くことになった。

実際に下級騎士と中級騎士では、人間的に比べることができないほどの差があった。

ここ一週間ほど訓練した際に、俺はもう下級騎士の中では相手になる者がいないと言う実力を見せたのだが、その結果俺に嫉妬したのだと言う結論に達した。

そしてその嫉妬はある日、問題となった。

 

「おい、口だけ野郎。

 いつまでも調子に乗ってんじゃねえよ」

 

模擬戦で俺に負けた何人かが、わざわざご丁寧に俺の近くに集まって来ていた。

1対1では勝てないとわかって、わざわざ複数人で言いに来るとはご苦労だと思う。

 

「調子に乗ってるわけじゃない、俺は実際に強く、その実力を示しているだけだ」

 

俺はわざわざ丁寧に教えてやる。彼らは俺に実力があるのをわかっていないようだからな。

 

「なんだと!」

 

「大人しくして言えば付け上がりやがって!」

 

「貴様は最初から気にくわなかったんだ!」

 

自分たちから絡んできておいて……と思わざるを得ない。確かに模擬戦の時に態度が悪いやつにはちょっと煽ったりしたこともあったが、そこまでのことではないはずだきっと。

煽ってきたやつを俺が煽り返した結果、そいつらが逆上した。まさに一色触発、そんな状態になった時、

 

「待て! 騎士同士の私闘は禁じられていることを知らないのか!」

 

中級騎士の一人が仲介に入るべく俺たちの前にやってきた。

実際ことあるごとに俺は他の下級騎士に絡まれていたので、いつかは私闘に発展すると思われていたのかもしれない。

 

「いや! しかしこの者は実力がないのに上に口で取り入ろうとしていたのです!

 騎士としての風上におけない!」

 

「そうです。帝国騎士としての誇りさえない人間に、帝国騎士としての正しい姿を見せてやろうとしていただけです!」

 

言い訳を述べさせたら右に立つ者はいなさそうだな。そんな風に思って、中級騎士と俺に絡んできた下級騎士達のやりとりを見ていたのだけど、

 

「ふむ……そこまら言うなら、私闘ではなく決闘ではどうだ?

 決闘は帝国では正式に認められている。騎士リオン、君も騎士ならちゃんとした場で決着をつけたいだろう。

 君の噂は私も聞いている、模擬戦での評価は中級騎士以上と言う話だったな。

 もし君たちのその大層な言い分の通り、決闘で実力を見せることが出来た時は私が君たちを中級騎士に推薦しよう。それくらいの実力があると言うことだからね。

 で、だ。君たち5人と彼の決闘でいいのかね?」

 

この中級騎士の話はきな臭い。

一対一でなく、一対五の決闘を堂々と薦めてくるのはなぜだ。

俺はこの中級騎士を怪しんだが、下級騎士たちは中級騎士に推薦されると聞いて大喜びだ。

もはや俺に勝った気でいると思えるくらいだった。

 




一応次も三日後の予定です。
次は8月7日(日)の19時更新です!
本音:土日挟めて良かったー


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12話

帝国で生まれてもリオンはリオン。


 

決闘のルールが決まった。

決闘は5対1で行う。武器は模擬戦にて使用可能な物を使用。下級騎士はまだ鎧を与えられていないため、俺に限ってブレイブの使用は不可能だ。

勝ち負けの判定については、俺と相手側で異なる。

俺側の場合は、気絶,骨折などによる戦闘続行不可,負けの宣言により即座に負けが決定する。

勝利条件は相手5人全員を敗退に追いこむことである。

相手方の場合は、気絶,骨折などによる戦闘続行不可,負けの宣言,により敗退したとされる人物は即座に決闘の場から離れること。

5人全員が上記の状態になった場合、負けが決定。

勝利条件は、俺一人を負けに追い込むことである。

 

「おい、相棒。

 随分こっちに不利な条件をつきつけられたが大丈夫なのか?

 俺様だって手伝えないんだぞ」

 

誰に判断させても俺に不利な条件であるが、俺には負ける気はないし負ける要素もゼロだった。

 

「ブレイブはまだまだわかってないな。

 良いか、戦いって言うのは戦闘が始まる前から始まってんだよ。

 そして勝ち負けと言うのも戦闘が始まる前から決まってるんだ」

 

「何言ってんだ?

 戦闘が始まる前から勝ち負けが決まっているわけないだろ。

 そりゃ、俺様が相棒に力を貸せば万が一にも負けるなんてことないけどな!」

 

「頭が固すぎんだよ。

 今回の決闘で、お前にそういう戦い方を見せてやるよ」

 

「ま、俺様と一緒に鍛えた相棒が負けることは思ってないけどな!」

 

ブレイブは最強の鎧だ。間違いなく纏って戦えば、敵となる相手はいないだろう。

だがそれ故なのか、戦略,戦術と言うものに極端に疎い気がする。

今回のことはちょうどいい、最強の鎧を纏っていても負けることがあると言う危機感を覚えてもらおうと思う。

 

決闘の時間になる。

今回の決闘については、騎士と一部の人間のみが観戦できると言うことで、騎士同士の戦いをあまり見ることもできないこともあり、貴族や一部の皇族らしき人物も観戦していた。

ただしブレイブが存在を感知しているだけで、俺からは見ることはできない。そういう特殊な部屋から観戦しているようだった。

 

「両者、使用する武器はすでに検閲済である。

 決闘で死ぬことはほとんどないが、死に至る事故になることも稀にある。

 危ないと思った時点ですぐに負けを宣言するように」

 

今回の審判役を務める騎士三人の内の一人がそう告げる。

模擬戦用の武器と言っても、打ち所が悪ければ当然骨折するし頭部などに受ければ死に至ることだって多い。

よって、無理はしないように……もっと言うと悪意を持って相手を殺さないようにと言っているわけだ。

俺は相手を殺すつもりなんてないから問題ない。

ただ……こいつら、可能性的に他の貴族から指示を与えられている可能性もある。

例えば、騎士になる試験で俺のエリアの担当だった元騎士の実家からだとか。

よって警戒するに越したことはない。最悪、ルールを破って襲ってくることだってありえるわけだ。

 

審判役の騎士からの話が終わり、俺と相手方は離れる。

俺の武器は鞘に収まった特殊な大剣だ。今日のために特別に作ってもらった。

ちゃんと武器は検閲されているので、使用しても問題ないと言う帝国からの御墨付きである。

相手方は全員同じ片手剣の武器を使うようだ。

 

「では、始め!」

 

開始の合図により決闘と言う名の戦闘が開始される。

俺は大剣を肩に担いだまま動かないが、相手方5人は広がるように移動しながら俺一人に向かって突っ込んで来る。生身の速度ではないので、全員身体能力を向上させる何かを使っているのに間違いない。

だが俺は慌てない。予想の範囲内の出来事であるからだ。そのままの姿勢で相手が近づいてくるのを待つ。

そして後3メートルほどの距離になったところで、俺は大剣を鞘に入れたまま右脇に抱え、先端を左手で添えて正面の相手に向ける。

突如、正面の相手が吹き飛んだ。

まだ3メートルの距離があり、打ち合いをしているわけでもないのにかかわらずだ。

当然残りの4人はその事実に気づき驚くが、そう簡単に止まれないし止まるわけにもいかない。

俺は一人目を倒した後、すぐにバックステップで距離を取り、次の敵に向けて鞘の先端を向ける。

鞘の先端からは模擬弾が発射され、避ける間もなく相手に当たりまた吹き飛ぶ。

流石にこいつらも気づいただろう。俺が使っているのは大剣ではなく、そのような形をした模擬戦用の銃だ。

当然弾は殺傷の要素がない模擬弾であるが、ゴムで出来ている割にかなりの威力があり相当の痛さである。

銃を持っている相手に真っすぐ突撃をするということは悪手中の悪手であることは誰でもわかることだ。

騎士ならなおのことで、こいつらは今になってやっと自分たちがその悪手をしていることに気づいたらしい。

しかし気づくのが遅い。俺は三人目を同様の方法で吹き飛ばす。

決闘の開始足らずで戦闘継続可能な人間が残り2人になってしまった。

しかも俺はその間バックステップを繰り返し、相手との距離を3メートルから詰めさせようとしない。

残り二人になったところで、相手が左右にステップを踏みながら近づこうとして来る。

ジグザグに進むことで狙いを定めさせないとつもりなのだろうが、無論それも想定している。

俺は弾を単発式のものから散弾式のものに変える。

一球の威力が下がるが広範囲に当たるため、命中率が上がる。また、複数の弾が一度に当たればダメージもそれなりである。

俺はそれを相手が移動する真ん中あたりを狙って撃つ。

全ての弾が当たることはないが、半数に満たないほどの弾が当たり相手は地面に倒れ込んだ。

足にでも当たれば、このようなことになる。そして後一人だ。

俺は最後の一人に銃を向けると、相手は駆けるのをやめていた。

 

「貴様、卑怯だぞ!

 騎士なら騎士らしく剣で戦え!」

 

どうやら舌戦をお好みのようだ。

 

「騎士らしく? 何を言ってるなお前は。

 戦争で同じように負けた時も同じことを言うつもりか?

 良いか。負けは死と同一なんだよ。

 それに卑怯って言うならお前らのほうが卑怯だろ」

 

俺はそう言いながら、俺の銃によって倒された奴の一人を撃った。

 

「い、いてぇーっ」

 

隙だらけのところを模擬弾で打たれたのだからさぞ痛かろう。

俺の行動を見て観戦していた貴族,そして騎士たちが驚いていた。

 

「なんだあれは……」

 

「負けた相手に追い打ちをするなど騎士として不道徳ではないのか?」

 

「いや、むしろ負けた相手を攻撃するなどルールを破っているだろう。

 審判! あれはどういうことなんだ!」

 

俺を責める声が聞こえる。それで自分が有利になったのだとでも思ったのだろう。

残った一人の相手がニヤと笑顔を浮かべた。

 

「審判! 負けを認めたのは何人だ?

 現在、戦闘続行可能な人数は?」

 

俺は辺りの声を打ち消すかのような大きな声でそう審判役の騎士に聞く。

 

「現在負けを認めたのは0人。

 全員戦闘続行可能と判断!」

 

審判役の騎士は俺に負けず劣らず大きな声でそう叫んだ。

つまり、この倒れたやつらは倒れただけで負けと判断されていないわけだ。

それにも関わらず倒れたことで、負けたと思わせている。最悪近づけば不意打ちをくらわしてくるだろう。

 

「わかったか! そう言うことだよ。

 こいつらはまだ負けちゃいねーんだ。俺が近づいたり隙を見せたら不意打ちをくらわすつもりだったんだろうよ。

 ほらほらほらほら、早く負けを認めねえよ続けるぞ!」

 

俺のことを卑怯と言いつつ自分たちのことは正当かしようとするこいつらの行動を暴露しつつ、俺はまだ負けを認めていない戦闘続行可能な一人に銃を撃ちまくった。

 

「いっ、痛いっ! わかった! わかったから!」

 

ただし俺は撃つのをやめていない。俺が撃つのをやめるときは、こいつが負けだと認められた時だ。

 

「やめてくれ! 頼む! 負けだから、俺の負けだから!」

 

ようやく負けを認めたので、そいつのことはこれ以上撃つのをやめてやる。

何しろ俺は心が広いからな。例え俺をだまそうとしてきた相手だとしても、負けを認めたなら許してやれる心の持ち主だ。

そして銃を次のやつに向ける!

 

「許してくれ! 負け、負けだ!」

 

最初に俺に撃たれまくったやつを見ていたからか、俺に銃を向けられたやつらが次々と負けを認めていく。

結果的に残ったのは、俺に銃を撃たれていない最後に残った奴一人となった。

 

「で? あんたはどうするんだ。

 早く負けを認めた方が得策だぜ」

 

俺がトリガーに指をかけた状態で、相手を威嚇する。

 

「クソ野郎……俺はてめえになんて負けを認めねえ!」

 

しかし相手も、きっと背負っているものがあるのだろう。

俺に片手剣を向けると、その刀身部分……模擬用のはずだったが、それが飛び出た。

それは銀色をしていて間違っても模擬戦用の武器ではなかった。

武器は全て帝国で検閲済みだったはずだ。見抜けなかったか、もしくは貴族の横やりが入ってそれを見逃したか……。

俺は飛んできた刀身をとったのことで銃で受けた。我が身を守ることはできたが、おかげで銃は使えなくなってしまった。

 

「勝機!」

 

銃が使えなくなったことでそれをチャンスと思ったのだろう。

残りの一人が素手で俺に向かって来る。刀身のなくなった武器はすでに捨てているようだ。

 

「バカか。

 お前らなんて1対1なら最初からわけなんてねーんだよっ」

 

しかし侮ってもらっては困る。

俺はブレイブと一緒に何十、何百と言うモンスターを倒し、魔素を吸収してきたのだ。

1対1でただの下級騎士に負けるなんてことはありえない。

勢いよく突っ込んできたこいつを横身になりながら躱し、背中に肘を打ち下ろす。

 

「ぐがっ」

 

肘が強く当たり、肺の中の空気が吐き出される。

地面に這いつくばるように倒れ込み、俺はその背中に向けて足を置いた。

 

「負けを認めねーんじゃしょうがないよな。

 俺も別に痛めつけるのが趣味なわけじゃないけど、負けを認めないんじゃしょうがないよなー」

 

足に力を入れながら、笑顔でそう言ってやった。

 

「負けだ! 俺の負けだ! 助けてくれ! 頼む!」

 

先ほどまでの勢いは、まだ策があったからのことだったのか。

もう策もなくなった相手は素直に負けを認めた。

 

「この決闘、騎士リオンの勝利!」

 

負けの声を聴いた審判役の騎士が片手をあげ、辺り全体に伝わるような大声で勝利の行く末を告げた。

 

 




次は三日後、8月10日(水)の19時に更新ですー。
この話は大体30話くらいまで続く予定です。
後数カ月続くことになりますので、お付き合いよろしくお願いします。


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13話

今回は少し内容が薄いかも。



 

「リオン様。

 先日の決闘にて下級騎士の中でも上位の者を複数同時に相手にした戦いが見事だと、観戦なされていた皇帝陛下より中級騎士への昇格が指示なされました。

 本日中に中級騎士の中で事務を請け負うものより褒美などを含め話があります、是非時間を空けておいてください」

 

いつものメイドさんがノックをして部屋に入ってくるなり事務的な口調で話し出す。

ことは先日の決闘騒ぎに対する褒美だった。

俺はてっきりあの騒ぎをほぼ私闘とみられて降格だと思ったのだけれど、皇帝陛下がやってくれたらしい。

皇帝陛下は言っていた、上級騎士に上れる場はこちらで整える、と。

もしかすると下級騎士複数を俺に炊きつけたのも、皇帝陛下の差し金だったのかもしれない。

ぶっちゃけ相手の性格が悪かったこともあってたたきのめしてスカっとしているので、問題ないと言えば問題ないわけだが。

 

「騎士リオン、昨日の戦いは私も見させてもらっていたよ。

 銃を使うとは思い切ったことをしたね」

 

先ほどメイドが言っていた、事務を請け負っている中級騎士の元に呼ばれて行くと、とても気の良いおっさんがいた。

騎士と言うより、事務方の人間にしか見えず戦いも行っていないのではないかと思える。

 

「君が思っている通り、私は騎士としては異例の人間でね。

 物資の調達や補給、書類仕事を主に担当しているんだ。

 騎士が書類仕事だなんて不思議だと思うかい?

 まあ、他の国にだって騎士の中には私のようなものがいるものさ。

 おかげで実力がないのに中級騎士にさせてもらっているからありがたいね」

 

確かに騎士が何かすれば当然金がかかる。

訓練用の装備や、設備の整備だってそうだ。

壊れた者には修復が必要だし、遠征に出ようとすれば遠征費用だって必要になる。食料の見積もりからその他持っていくアイテムを揃えたりなど、やることは多いはずだ。

それを全て一手に引き受けている。例え騎士として二流,三流であろうとも彼が騎士として必要であるのは間違いなかった。

 

「で、だ。

 中級騎士になると得られるものが2つある。

 1つは鎧だ。

 帝国が持つ最強の鎧の1つを本来なら君にも与えることになってるんだけど、陛下から聞いているよ。

 君はすでに持っているそうだからこちらは不要だね」

 

ブレイブはあるけどもう1つ欲しい! と思うが、流石にそうはいかないのだろう。

騎士の中でも中級騎士以上にしか渡せないと言うことは、帝国でも数多く……有り余るほどは残ってはいないのだ。

仕方ない、諦めるしかない。

 

「もう1つは名前だ。

 中級騎士は正式な騎士として扱われ、ルタと言うミドルネームが与えられるんだけど……。

 君は平民の出身だったね? 陛下より、今はなき武の名門へリング家の名前を与えるように言われているよ。

 今日から君はリオン・ルタ・ヘリングを名乗りなさい。

 そして貴族同等の権力と地位を得たことをここに告げよう」

 

「はっ。謹んでお受けいたします」

 

現代人の俺からすると、ミドルネームをもらっても何の足しにもならない。

一応、ははーありがたき幸せ、みたいなそこまで大げさじゃないけど喜んでおくけれど、名前をもらっても腹の足しにもならない。

まあ褒美は実質ないけど、もしかしたら何か意味があるかもしれないし、もらっておくことにしよう。

事務のおっさんとはそれだけ話すと、最後に騎士のナンバリングについて話をした。

中級騎士はナンバー11から40までのことを言う。

俺は当然中級騎士成りたてなので、ナンバー40だと言うことだ。

最下位かよと思うけれど、さっきまでが下級騎士の最下位だったことを考えれば異例な出世であることは間違いなかった。

部屋に戻ってベッドに寝転ぶと、すぐさまブレイブが話しかけてきた。

 

「相棒がまさかあんな卑怯な手を使って勝つとはなー。

 何かやりそうだと思ってたけど、まさか銃を使うなんて俺様も思わなかったぜ」

 

「剣で戦ったってきっと勝っただろうけどな。

 だがあんなやつらとの戦いで無茶をする必要なんてないし、銃で戦ったほうが楽だろ?

 別に銃を使っちゃいけないなんてルールもないし」

 

「そうだけどよー。

 やっぱ騎士ってのは、剣を使ってこそだろ?

 俺を纏う時は銃じゃなくて剣で戦ってくれよな!」

 

「いや、お前を纏う時は魔法だって使えるから別に銃は必要ないぞ」

 

ブレイブの魔法はまだ完全ではないと言う本人の話だが、それにしても十分なほど強力なものだ。

当然今日使った銃なんて比べものにならないほど強力なので、銃を使う必要がない。

そのことを教えてやると、なんだよそれー! と黒い球のくせに器用に怒っていた。

騎士としてまだ一か月も経っていないが、すでに色んなことがあった。

トマスへの手紙にはすべてを書くことはできない。

俺は彼には前世のことは話してないし、今回皇帝陛下と話したことは当然誰にも話さない。

それでもトマスに話したいことはたくさんあり、大部分が騎士に対する愚痴なのだけれど手紙は枚数を重ね、なんと書いてるうちに10枚にもなってしまった。

 



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14話

実はギリギリの予約投稿だったりする
今回は新キャラ登場です。


 

中級騎士になって1週間ほど経ち、モンスター討伐の初任務に参加することになった。

モンスターの討伐任務は基本的に複数の騎士が団体となって参加するのだけど、参加できるのは中級騎士以上と決まっている。

そして隊を率いるのは上級騎士だ。上級騎士一人に中級騎士数人の隊で討伐に赴くことになる。

 

「今回の討伐任務に関して、お前らのことは全て騎士トレヴァーに一任している。

 お前らは騎士トレヴァーの言うことを全て聞いておけ、そうすれば間違いない。

 間違っても勝手な真似はすんなよ」

 

集められた討伐隊に向けて隊長である上級騎士がそう告げた。

どうも帝国の騎士は脳筋の傾向が強い気がする。個として強ければ隊として強くても当たり前を地で行っているようだ。

結果、中級騎士で序列上位のトレヴァーさんに作戦から何からすべてまかせっきりのようだった。

実際それだけ言うと上級騎士は準備が終わるまで何もするつもりはないらしく、宿舎に帰ってしまった。

仕方ないので俺やその他の中級騎士はトレヴァーさんの言うことに従う。

特に俺はこの中では間違いなく一番下っ端なので、率先して動かないといけないだろう。

 

「騎士トレヴァー。

 討伐任務の準備手伝います。

 と言いましても自分は初任務で何をすればいいのかわかりません。

 ご指示をいただきたく」

 

「騎士リオン、それほどかしこまらないでも大丈夫です。

 とりあえずあなたは私の作ったメモに従って、皆が集めてきた準備道具を数えてください。

 移動は戦艦になりますが、数日分の荷物になります。決して間違わないようにしてください」

 

トレヴァーさんは俺にそう言うと、他の中級騎士に向けてどんどん指示をしていく。

騎士としての実力うんぬんより、こういう統率力の方が大事なのではないか。俺はそう思い、ここまで細かいことができる騎士トレヴァーがなぜ今だに中級騎士であるのかが疑問だった。

時が経つにつれ、荷物がどんどん集積されていく。

約10人の荷物の内容だが、最低限必要な服装に魔道具の類。

一週間ほど分の食料……と思って中を見ると酒瓶も1つや2つ入っていた。

酒が完全に悪いとは言わないが、間違いなく不要なものである。トレヴァーさんのメモにも当然書かれていない。

俺はトレヴァーさんに、メモに書かれていない内容の物について確認しにいくと、

 

「大量であったならば持って行かないが、今回は少量だ。見逃そう。

 これくらいのことに文句をつけていては隊として成り立たないこともある」

 

余りの即断即決に、キャリアウーマンのようなトレヴァーさんカッコイイ! って思えた。

もし実際に問題になりそうだったら……うん、どうしようかな。

一応自分も見逃した仲間であるので、二日酔いで動けないやつらいると言う話なら、自分が他のやつらの分も補って頑張ることにする。

準備が全て整ったので、トレヴァーさんが上級騎士を呼びに行く。

上級騎士はどうやら寝ていたようで、俺たち中級騎士の元にあくびをしながらやってきた。

いくらなんでも帝国騎士の風紀が乱れすぎじゃないかと思う。

 

「おう、お前ら全員揃っているようだな。

 じゃあ行くぞ」

 

上級騎士を先頭に準備されていた戦艦に乗り込む。

今回の任務は古代都市に住み着いたモンスターの討伐と言うことで、戦艦は移動に使う。

艦隊戦になるから乗っていくと言うわけでは、決してない。

 

戦艦の中での生活は普段と何ら変わらないものだった。

朝食前に軽い運動があり、その後朝食。朝食が終わるとさらに訓練が始まる。

なお、訓練の中には自由度があるものとないものがある。

自由度がないものは、例えば全員参加必須の模擬戦だ。

あるものは魔法や作戦,戦術の勉強などである。

後半の、魔法や作戦,戦術の勉強をする騎士は非常に少ない。ほとんどの騎士はその時間は休憩や、脳筋の者は追加で剣術の訓練を行ったりする。

俺はブレイブを用いての魔法戦も考えているため、魔法の勉強をしているが基本的に似たような勉強をしている他の騎士なんて見たことがなかった。

 

「騎士リオン、勉強家だな。

 卿は帝国の騎士に染まるなよ」

 

俺が魔法の勉強をやっているところにトレヴァーさんがやってきて、それだけ言うと数席離れた席に座りトレヴァーさんも別の勉強を始めていた。

今この場は座学用の部屋なのだが、この部屋にいるのは俺とトレヴァーさんの二人だけだった。

残り9人の騎士は先ほど話したような行動をしているのだろう。

 

数日経ち目的の場所についた。今回の任務の場所である古代都市跡地だ。

数百年前にあったとされる都市の跡地で、ここを再度都市として利用するには金がかかりすぎるらしく放置されているのだが、モンスターが集まりすぎると厄介なため適度に討伐しているらしいとのことだ。

 

「都市跡地にいるモンスターの討伐が今回の任務だ。

 全てを倒す必要はない。

 作戦は全て騎士トレヴァーに任せてある」

 

「では僭越ながら作戦を説明させて頂きます」

 

トレヴァーさんが指示され作戦の説明に入った。と言っても、間違いなく作戦を立てたのはトレヴァーさんだろうけど。

古代都市の形はとても大きな円になっている。正面から大通りを抜けて、まずは一直線に敵を倒しつつ通り抜ける。

その後各自展開し、今度は逆に来た道に向けて戻りながら敵を倒すとのことだ。

大物のモんスターなど、一人では危険を感じた場合はすぐに照明弾を放てと言う話だ。

説明が全て終わり、作戦に対する疑問などについての時間が設けられていたが特に誰も疑問はない。

 

「では行くぞ、お前ら鎧を纏え!」

 

上級騎士の指示で皆が鎧を纏う。

上級騎士の鎧だけ一際禍々しく見えることから、鎧自体の性能が違うと思った。

その他中級騎士の者は全て同じだ。

しかし俺の目から見てもわかる。間違いなくブレイブの劣化品だ。上級騎士のそれでさえもそうなのだ。

 

「(ブレイブ)」

 

「(おうよ、相棒)」

 

俺もブレイブを纏うべく念話を送る。

この念話は中級騎士になる手前くらいにできるようになった。

実際にはモンスターを大量に討伐して、ブレイブ経由で魔素を吸収していた時にはできていてもおかしくなかったらしいのだが、念話の練習よりその時は討伐を優先したため、できるようになったのが最近になった。

ブレイブが俺の周りに纏わりつくようにして接触するとどんどん黒い鎧になっていく。

そして俺の騎士としての姿は、上級騎士のものよりさらに禍々しいものになった。

悪魔のような俺の姿を見て他の中級騎士は驚いて唾を飲み込んでいる。

上級騎士でさえも俺の姿に圧倒されているように見えた。しかしすぐに我に返ると舌打ちをしていた。

間違いなく俺の方が存在感があることをわかっているのだろう。

 

「では先頭を務めさせていただきます」

 

トレヴァーさんの声を合図に、皆で都市の中に入り込んでいく。

俺は序列が一番下と言うことで一番最後だ。都市の中には結構な数のモンスターがいるのだけど、一直線に進んでいる今では俺が通る頃にはモンスターは全て倒されていた。

 

「(退屈だなー。倒すべきモンスターなんていねえでやんの)」

 

「(一番奥までつけばその後は個々に戦うことになる。

  その時までの休憩だと思うことにしようぜ)」

 

「(そうだな。こんだけいるんだ、後でたくさん戦えるもんな!

  なんなら他のやつの分まで魔素を吸収してやろうぜ)」

 

正直俺も退屈なのだが、その退屈な時間は軽くブレイブと話すことで潰した。

約1時間ほど経ち、都市を突っ切ることができた。

その間俺が戦ったのは皆無ではないが数えるほどだけだった。

一番戦っていたのは、トレヴァーさんの後ろを行く上級騎士であり戦っている姿は狂戦士と言っても過言ではなかった。

俺もあまり人の事は言えないかもしれないけど、騎士とは一体……と思ってしまう。

使っている武器はポールアックスのような長得物の先端に大きな刃のついたものだ。

それを力任せに振り回し、威力任せでモンスターを倒していた。

一番奥に着いた後は個々の戦いに変更になる。

すぐ様俺たちはバラバラの道から元の入口を目指し、モンスターと戦っていく。

すぐに別の道から戦いの音が聞こえてきたので、他の騎士もすでにモンスターと遭遇して戦っているのがわかった。

 

「やっと出番だぜ!

 相棒、退屈した分だけ派手に暴れてやろう!」

 

「待たせたな。

 こっからは視界に入ったモンスターは全て俺たちの獲物だ。

 何なら倒しすぎたって誰にも文句は言われない。

 行くぜブレイブ」

 

俺はブレイブが自身の体から作り出した大剣を持つと、敵がいる方向に向けて跳んだ。

先ほど他の騎士たちの戦いを見ていたからわかるが、この都市に巣食うモンスターは特段強いわけではない。

ただたまに少し強いモンスターがいると言ったくらいだ。

俺は大剣を振るい、一撃でモンスターを魔素とさせて消滅させる。

黒い靄となったモンスターの魔素はブレイブがすぐに吸収する。

視界に入ったモンスターはすべて俺の獲物。俺はその言葉をそのまま表現し、出て来るモンスターをどんどん倒していく。

時々10匹ほど固まって見つかる時があるが、そんな時はブレイブに魔法を放たせる。

1発ではなく、5発6発と連続で発射される魔法によりモンスターの塊は一気に消滅し、その近くにいたモンスターもバラけていく。

そしてバラけたモンスターを大剣で倒していった。

 

かれこれ2時間くらい戦った時だろうか。

俺は他の騎士に比べてかなり突出していることがわかった。

それもそのはずで俺は、俺とブレイブの二人で攻撃しているようなものだ。

しかし突出していることがわかっても、俺は他の騎士に構わずどんどん先に進んだ。

当然他の場所にいるモンスターも一番突出している俺のほうに向かって来るため、さらに多くのモンスターを倒すことになるのだが、俺やブレイブにとってはそのことは嬉しい以外のなにものでもない。

集まってくるモンスターをひたすら倒していると、遠目に特段大きなモンスターが見えた。

 

「相棒、あのモンスターは異質だ。

 間違ってもあいつだけは他の騎士には譲らないで俺様たちで倒すぞ!」

 

「異質? 何かあるのか?」

 

「あのモンスターの魔素は特別だ。

 吸収すればさらに強くなれること間違いない!」

 

「経験値がいっぱいってことだな」

 

「なんだそれ?

 まあいいや、行くぜ」

 

ブレイブは炸裂するような魔法や散弾のように散らばる魔法を撃ち、雑魚モンスターを始末し、俺は少し大き目なモンスターを倒す。

進んでいくとその大きなモンスターのところについた。

こんな大きなモンスターは、騎士になる前に戦っていた時には見たことがない。

古代都市のようなモンスターが集まれる場所があってこそ、こういうモンスターが発生? 成長? するのかもしれない。

初手でブレイブが魔法を数発放つが、少しは堪えているらしいもののそれだけでは倒すことはできないと言った感じだった。

俺も大剣で攻撃するが、モンスターが大きすぎるため大剣で斬ったくらいでは致命傷とはならなかった。

 

「相棒、飛ぶぞ。

 スピードを一段上げる」

 

ブレイブの言葉で、鎧が翼を大きく広げて空を飛ぶことが可能になった。

俺は地面を蹴って空高く跳びあがると、そこから地面と水平に高速度で移動をする。

地面を滑走していた時より速いスピードに大きなモンスターはついてこれていなかった。

俺は大剣で大型のモンスターをメッタ斬りにし、ブレイブは合間合間に魔法をひたすら撃ちまくる。

大きかったモンスターは俺たちの攻撃を受けてところどころから体液をまき散らし、その姿を小さくしていった。

 

「これで止めだ!」

 

ブレイブに魔素を圧縮させ、それでビームのように収束させた攻撃を放つ。

ビームはモンスターに大きな風穴をあけ、それでモンスターもこれ以上動けなくなったようで地面に倒れ込んだ。

体を激しく地面にぶつけたモンスターは端の方から黒い靄になっていった。

結構な時間がかかったが俺たちは無事大きなモンスターを討伐できたことがわかった。

大きなモンスターが倒されると、先ほどまでこちらに向かってきたモンスターたちの動きが変わった。

あの大型モンスターがここのモンスターの統治をおこなったいた存在なのかもしれない。

それからはただの殲滅戦となり俺とブレイブは大型モンスターから魔素を吸収し終えた後は、シューティングゲームと化したようにモンスター殲滅戦を終えた。

 

全てが終わり都市の中央に集まる。

しかしモンスター討伐を終えたと言うのに上級騎士は不機嫌そうだった。

トレヴァーさんが討伐を終えたことを上級騎士に告げに行くと、上級騎士はトレヴァーさんに食って掛かった。

 

「おいトレヴァー。

 俺は言ったよな? 古代都市で一番強いモンスターは俺にやらせろと。

 なのにこれはなんだ? 俺はずっと弱いモンスターと戦わされてたんだぞ!」

 

一体どういう理由だよと言いたい。

俺より強いやつに会いに行くみたいな、武者修行しているやつと同じ考えなのだろうか。

戦闘狂っぽい姿を見ていたので、あながち間違いではないとも思える。

 

「それに関してですが、いつもであったなら間違いなくそうなっている予定でした」

 

「あん? どういうことだてめえ」

 

「一番の強者で、モンスターを多く倒した者が、最初に大型モンスターの元に辿り着く予定だったのです。

 それが上級騎士殿の予定でした」

 

「はっ! じゃあなんで俺がその大型モンスターと戦えなかったんだよ!」

 

トレヴァーさんは割とわかりやすく言っていると思うのだが、それさえもわからないと言うことなのだろうか。

それとも、自身がこの中で一番強いのではないと言うことを認めたくないのだろうか。

 

「簡単な話です。

 上級騎士殿がこの隊の中で一番強い存在ではなかったと言うことです」

 

「なんだ……と……」

 

遠回しに言っていたのを少しずつ内側に寄せていたのだが、上級騎士がそれでも理解できなかったのでとうとうトレヴァーさんがはっきり言ってしまった。

言われた上級騎士は最初はショックだったようだが、時間が経つと怒りに変わっていったのか顔を赤くしていった。

 

「俺が中級騎士より……弱いって言うのか?」

 

もう戦いはないと言うのに上級騎士の腕は震えていて、少しずつ黒い靄を纏っていっている。

雰囲気が怪しくなってきたと思い、俺はブレイブに念話を送り万が一があった時のフォローに入れるようにした。

 

「……そんなことを言う口はどれだ……。

 引き裂いてやる!」

 

急激に黒い靄が具現化し、鎧とポールアックスの形となって上級騎士がトレヴァーさんに向かって振るった。

トレヴァーさんも流石に身構えていたが、上級騎士が鎧を具現化する速度が速く流石においつけていなかった。

振るわれたポールアックスに無残にも……となる寸前で俺がブレイブを纏って間に入る。

大剣で刃部分を受け止めると、金属同士を打ち合ったような音が響いた。

 

「中級騎士の分際で上級騎士様の邪魔をするのか!」

 

俺が上級騎士の攻撃を受け止めたことで、上級騎士の狙いはトレヴァーさんから俺に変わったようだ。

 

「騎士トレヴァー、本国に連絡を。

 他の中級騎士の避難をお願いします」

 

「それでは騎士リオン、貴方はどうするのですか?!」

 

俺の実力ならば間違いなく上級騎士を抑えることができる。

だが、どうやらトレヴァーさんは俺が上級騎士を抑えられるとは思っていないようだ。

素直に俺の心配をしてくれている。

 

「はは、なんとかしますよ」

 

「……感謝します。

 皆! 騎士リオンがひとまず上級騎士殿を受け持ってくれます。

 今のうちに避難を!」

 

上級騎士の攻撃を何度か受けつつ、トレヴァーさんたちが避難を終えるのを見守る。

全員が視界からいなくなったことを確認した上で、俺はブレイブと念話をする。

 

「ブレイブ、どうやらこいつ狂ってるみたいだが……」

 

「ああ、俺様と相棒なら何の問題もない。

 それにあいつの持っている鎧も取り込めるしな。良いことだらけだぜ」

 

上級騎士は何度も攻撃を俺に受け止められたことに、感情を爆発させていたようだった。

 

「うがあぁぁぁぁぁぁ」

 

途中から攻撃は短絡的なものになっている。

野生の動物が首筋を噛むために真っすぐ突き進んで来る、そんな感じだ。

よって避けるのも簡単だし、そこに攻撃を差し込むのも問題ない。

俺は大剣を鎧に力強く当てると先ほど武器同士を打ち合わせたような金属音がするが、俺の武器を当てた部分の鎧は黒い靄となって消えていく。

力任せに振るわれたポールアックスは躱し、隙だらけに鎧に大剣を打ち付ける。

作業的にそれを続け、少しずつ鎧が歯抜けになってきた辺りで上級騎士が獣のような声で喋った。

 

「ナゼダ、ナゼカテナイィィ」

 

まだ多少の自我はあるみたいだが理性はもうないだろう。

こいつも前の騎士同様、鎧に則られている……そう思った。

そうであるなら、後は俺がさらに戦いやすくなるようにしてやるだけだ。

 

「あんたは勘違いをしているようだから教えてやるよ。

 確かに強い者こそが上級騎士になる、これは間違いない。

 だけどさ、あんた……俺に勝てないじゃん?

 俺に勝てないやつが上級騎士にいることがおかしいのさ。

 親の権力でも使ったのかな? 貴族のボンボンさん」

 

「コロス! コロス! シネェエ!」

 

煽りはどうやら功を制したようで、上級騎士の理性はさらに崩壊していった。

 

「ブレイブ、魔装の回収は可能か?」

 

「もちろんだ相棒!」

 

真っすぐ向かってきた上級騎士の攻撃を、今度は避けずに真正面から大剣で打ち返す。

だが今回は打ち合いとはならず、相手のポールアックスが消滅することとなった。

相手の魔装を大分消滅させてやったので、かなり弱っていたから出来た芸当だ。

 

「俺様の養分になりな!」

 

最後にブレイブが攻撃すると、魔装は上級騎士から剥がれて黒い球となる。

その黒い球に触手を伸ばすとブレイブはそれを飲み込んだ。

 

「ップゥー。

 欠片ほどじゃないけど、これも良いもんだな。

 完成対になるのが近づいたぜ」

 

本来ならば魔装として吸収するのはブレイブの欠片が一番なのだろうけど、前回の騎士の時同様に魔装であっても間違いなくいいものであるようだ。

ブレイブは魔装を吸収できたことを満足そうにしていた。

 




連休に突入しました。
従来の三日おきになるか、ならないかはわからなくなっています。


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15話

すいません、事情により遅れました。


 

「騎士リオン、助かった」

 

全てが終わった後、トレヴァーさんが俺をわざわざ訪ねてきてくれた。

中級騎士の中では俺よりナンバリングが上位だと言うのに頭を下げてくれる。

とても出来た人だ。

 

「いえ、騎士トレヴァー。

 俺は帝国の騎士として、あなたのような才能ある騎士を失いたくなかっただけです」

 

「ふふ、さすが皇帝陛下が価値を認めた者だ。

 とは言っても私自身は、騎士リオンが上級騎士を抑えられるとは思っていなかったよ」

 

「何しろ俺は将来帝国騎士の序列一位になる者ですからね。

 たかだか上級騎士相手に負けていたら一位になることなんてできないじゃないですか。

 そんなことより騎士トレヴァーも中級騎士になんて留まらないでください。

 あなたほどの騎士が中級騎士止まりでいるのは他の帝国騎士が困りますし、帝国としての損失だ」

 

「私より若く、まだ新米に騎士にそんなことを言われるとは思ってもみなかったな。

 ではそう思うなら、騎士リオンが序列一位になったら私を推薦してくれ。

 私はその時をずっと待っていることにするよ」

 

「わかりました。

 楽しみにしておいてください」

 

騎士トレヴァーとの話し合いはそれで終わった。騎士トレヴァーは帝国騎士の模範たるべき騎士だと思う。

前回の上級騎士と言い、選抜試験の時の騎士と言いやはり帝国騎士のレベルが落ちてきているのではないかと思う。

そのようなことをベッドの上で考えていた。

その日の夜、俺の部屋にあのメイドが訪れた。ドアがノックされたので入室を許可すると

 

「皇帝陛下からの言伝があります。

 今回の討伐は見事だった。暴走していたとは言え上級騎士と言う上位の者との戦いを制したのも見事である。

 すぐには昇進させられないが、君のことを何人かに紹介したいので茶会の招待状を送る。決して断らないように。

 とのことです」

 

「こちらから質問することは可能ですか?」

 

「私が話せることならば」

 

「なら聴きますが、帝国の上級騎士は理性的ではない人間でもなれるのですか?

 とてもじゃないですが騎士として尊敬されるような人物ではありませんでしたが」

 

「……はっきり言うとわかりません。

 ですが、皇帝陛下と言えど全てのことが決められるできるわけではありません。

 軍部には軍部の思惑があります。

 陛下があなたを騎士にしたのは、陛下が騎士の素行問題について嘆いたからではないかと、私は思っています。

 あなたの肩には陛下だけではなく多くの者の期待が乗っていることだけは忘れないでください」

 

もうこれ以上のことを話すつもりがないことを体現するかのように、それ以上メイドは何も言わずに俺の部屋を去った。

翌日、朝食のタイミングで俺に手紙が届く。皇帝の印がついているので、皇族から……間違いなく皇帝陛下からの手紙だとわかる。

それだけで騎士の周りの者はざわつく。それもそうだ。騎士一人のためにわざわざ皇帝が手紙を書くなど普通はあってはならない。

内容は茶会の話だった。

騎士に茶会ってどうなんだと思うが……先日メイドとの話の中でもあったように、どうやら皇帝陛下は軍部とは仲がよろしくない様子。

もしかすると俺を騎士として上に昇りつめさせるのは、軍部の掌握の話もあってのことなのかもしれない。

俺には娘の留学に付き合う守護騎士になれと言っておきながら、それ以外にも2手3手も他の手を打っていようとは、なかなか侮れないやつだと思った。

 

俺はいつものメイドに案内され、儀礼用の服で茶会に足を運ぶ。

茶会の場所は、帝都の王城にあるテラスだった。

今回は何かあったときのためにブレイブにも隠れてついてきてもらっているのだが、早速ブレイブから念話が届く。

 

「ちっ。どいつもこいつも相棒を睨んでいやがる……。

 この間俺様たちが倒した上級騎士の逆恨みか?」

 

皇帝が直属茶会を開いているのだから、そのボディガードとして当然上級騎士が駆り出される。

今回護衛に回っている上級騎士は3名だが、その3名全員が顔は正面を向いてまま明らかに俺の方を見て来ていた。

俺もそれに気づいていたが、皇帝陛下の御前で何かすることなんてできないのをわかっていたので、敢えてスルーしている。

だがブレイブはそれにイライラしているようだ。どうもブレイブのイラつく原因としては、魔装の自身との優劣関係にある気がしている。

ブレイブを伴っている俺がまだ上級騎士ではないと言うことが、ブレイブ自身の価値も下げてみられていると受け取っているようだ。

それに関してははやく上級騎士になってやりたいところだが、そう簡単にチャンスなんて本来まわってくるものではない。

皇帝陛下がわざと機会を作ってくれているのだが、それでも怪しい行動をとれば即座に逮捕に至ってしまいかねない。

俺はそのことについては一旦さしおいて、今回の茶会に臨むことにした。

本日の朝食後、俺はいつものメイドから茶会のマナーについて付け焼刃をほどこされていた。

中級騎士は貴族と見られるので、茶会の最低限のマナーは必要となるそうだ。

逆にそのマナーがなってなければ、上級騎士としてやっていけないのではないかと言うクレームを受けることもあるそう。

面倒すぎてたまらないがこればっかりは仕方ない。

 

鬼教官のようになったメイドから数時間に渡りマナーを仕込まれ、ようやく最低レベルの及第点をもらえたところで茶会と相成ったわけだ。

あんな厳しい目に遭うのなら訓練をしていた方がましだと思った。多くの騎士もきっとそうであろうと思う。

 

「来たか騎士リオン。

 今回は御前に紹介しておきたい者達がいてな。

 お前を更なる上の騎士に推薦したいと言う、宮廷貴族の者達だ。

 主に政務を司っておる」

 

まず皇帝陛下よりそう話があり、紹介してもらった数名と名詞代わりに挨拶を交わす。

 

「1つ騎士リオンに聞きたいことがあるのですが良いですかな?」

 

挨拶が全て終わると、そのうちの一人。髪の毛の多くが白髪になった男性の宮廷貴族が言った。

 

「構わん。好きに話すとよい」

 

皇帝の御前であるのだから、皇帝を無視して勝手に会話を広げるわけにはいかないのだろう。

面倒な所作だと思いつつ、皇帝が許可をしたのでその宮廷貴族は俺のほうに向きなおる。

 

「先日、騎士リオンは上級騎士と戦って倒したと言う話が帝都では広まっています。

 その上級騎士は自らの欲求に抗えず、魔装と一体化し暴走したとのことで、騎士リオンは味方殺しの罪からは無事逃れられていますね。

 私が聞きたいのは、正直騎士リオンは上級騎士と相対したとき勝てる実力があるのか、を本人にお聞きたしたく」

 

どうやら今の茶会にいる宮廷貴族ほぼ全員が、俺を上級騎士とすることで軍務の弱体化……自分たちの派閥への取り込みを行いたいと思っているのだろう。

実際の上級騎士がいる場で敢えて聞き、たきつける意味もあるのだと思う。

その上で俺は話す。

 

「正直に申し上げます。

 今現在は暴走した上級騎士であれば、二人を同時に相手にしたとしても全く問題ありません。

 将来的な話で言えば、私は冷静な上級騎士を2名、いや……3名までであれば同時に相手にしても勝てると申し上げましょう」

 

これは先日ブレイブと話をした内容に基づいた内容だ。

実際にはブレイブは6から7人の上級騎士を相手にしても勝てると言ったのだが、あまりに強すぎる味方と言うのは一部の人間にとっては枷でしかない場合があり、蹴落とされる可能性もある。

よって俺は敢えて実力を下げて話す。

まあそれでも十分すぎる程の影響を宮廷貴族、そして上級騎士に与えることはできたと思う。

 

「なんだと……そんなことが可能だと言うのか。

 仮にも帝国臣民から選抜された優秀な上級騎士だぞ?」

 

しかし、味方側であるはずの貴族の一人がうろたえる。

先ほど言ったことにもある、強すぎる味方は枷になる可能性があると思われているのかもしれない。

 

「とは言う物の、結局私がどれだけ言ってもそれは事実には成りえません。

 もし上級騎士だけの選抜模擬戦があるとすれば、そこで初めて事実となります。

 しかしそんなことはできるのでしょうか」

 

ここでわざとチラと皇帝陛下を見る。

自分で言った言葉を自分で否定することで、一旦俺はそこまで恐ろしい存在ではないと言うことを宮廷貴族に伝えつつ、上級騎士に対しては試合の場があれば証明できるんだぞと言うあおりを加える。

 

「それは面白い提案だ。

 帝国国民には上級騎士の強さを改めて知ってもらい、その強さによりこれからも無事帝国が守られることを証明できるだろう。

 そして上級騎士たちには悪いが最大の娯楽にもなりえるであろう。

 本来ならば戦うことのない上級騎士たちが、最強の存在を決めるために戦うのだ。

 どうだ、興味はあるか?」

 

皇帝陛下が自身の後ろに護衛についている上級騎士の一人に声をかける。

 

「私にはなんとも」

 

だが上級騎士はなんとも受け取れない言葉で濁した。

本来の返し方はこれで正しいのだろう。皇帝陛下に自身の言をわざわざ伝えるなどというのは失礼以外のなんでもない。

だが、それにより軍部派閥が煽られても何も返さなかったと言う結果になるのは間違いない。

間違いなく皇帝陛下もそれを狙ってやってそうな気がするが、軍部派閥がどう出るかが楽しみになってきた。

とはいうものの、面倒なので暗殺と言う手段だけは取らないで欲しいなと思った。

 




ちょっと旅行に行くので、19日更新ができるかどうかはわかりませんが、旅行から帰ってきたらまたしっかり更新しますゆえに。


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16話

3日おきにできなくてさーせん。
とりあえず仕事も始まりましたし、土日の趣味のカフェでのかきかきもはかどりそうなんで、これからはできるだけまた3日毎に戻していきたいと思います。


 

皇帝陛下がリオンの提案を面白いと言った、このことは帝国丈夫ではかなりの噂になったが、結果的に上級騎士だけの選抜模擬戦の話は一旦ストップとなった。

いくら皇帝陛下が興味を持ったとしても、皇帝陛下にたかだか一騎士が出過ぎた真似をと言う声が大きかったのも言うまでもない。

軍務派閥ではない者は、上級騎士だけの選抜模擬戦をやることで軍部は忙しくなるし、さらに上級騎士が総動員されるためその間は彼らが動けなくなるので是非やってやれと盛り上がっていたと言う。けれどさすがに対立意見も多くお蔵入りとなった。

俺は提案した身だけどどうせ案が通るとは思っていなかったし、軍務派閥と敵対することを示すために言っただけのことであるため、気にもしていない。

そんなことより事件が起きた。

皇帝との茶会も終わり、週に一度しかない休息を城下町を歩くことで堪能していた時だ。

 

「討伐失敗だ! 討伐が失敗したぞ!」

 

そう騒ぎ立てる人間の一人を見た。

どうも悪い噂を流そうとしているのではなく、本心から慌ててみんなに触れ回っているだけのようだ。

 

「昨日上級騎士が中級騎士を伴って討伐に出ていたけど。

 騎士が負けるようなモンスターなんていたか?」

 

「もしかすると俺様の欠片かもしれないな。

 欠片同士が集まって大きくなり、それが他の魔装やモンスターの魔素を食って成長したら……」

 

ブレイブはおそらく考えうる最悪の案を話してくれたんだと思う。だが大いにありえる話だ。

何しろ今もブレイブの欠片は集まりきっていないのだ。その欠片が悪用されているとすればこのようなことにもなりかねない。

だからと言って今からブレイブと駆けつけようにも、どこで起きた問題かわからない。

どうせ明日になればわかる。無理に今日焦ることはないとブレイブを納得させ、俺は今日と言う休日を楽しんだ。

 

翌日朝食を終えて訓練場に集まると、案の定騎士全員に呼び出しがかかった。

いつもであればこのような呼び出しは下級騎士と中級騎士に限られるわけだが、今回に限っては上級騎士も多分に漏れず全員が集まっていた。

呼び出したのは騎士ではなく軍部の人物あった。

軍部の人物の隣にはボロボロの上級騎士に中級騎士が数人だけいた。

討伐隊を組むなら最低でも中級騎士は10人いるはずだが……モンスターに倒されてしまったのか。

もしそうだとするとブレイブの欠片が取り込んだモンスターは、魔装も複数取り込んでいることになる。

 

「1つや2つならともかく、相棒これは本気で取り掛からないと不味いかもだぜ」

 

もし今後も討伐隊の魔装が取り込まれることがあるとすれば、もっと強くなる。

ブレイブの言う通り、間違いなく相当不味い問題だった。

 

「もう知っている者も多いと思うが、先日編成した討伐隊がモンスターの討伐に失敗した。

 だが間違わないで欲しい。彼らは彼らの実力がないせいで失敗したのではない。

 敵が想定より強すぎたためだ。

 なので、次の討伐隊を編成する前に騎士の皆は彼らの話を真摯に聞いて欲しい」

 

軍部の者はそう言うと下がる。

皇帝陛下と敵対派閥と言うから、てっきり自分たちの非を一切認めないのかと思ったがそうではないらしい。

今回のことはしっかりと、騎士のせいではないと言っている。つまり、想定を間違えた軍部のせいだと暗に言っているようなものだ。

それからは、ボロボロの騎士達が戦いの様子を話し出した。

 

「最初はただのモンスターの群れだった。

 だが倒しても倒しても数が減らない。おかしい……そう思った時には中級騎士がすでに一人いなくなっていた!

 気づけばモンスターたちが集まり出して、種別も全く異なるモンスターだったのに、合体と言うより、もう見境なく溶け込みあって……。

 俺たちの目の前にいたのは超大型のモンスターだったんだ!

 ただでかいだけならと、皆で攻撃を開始したのだが……無限にも思える程多くの触手が生えてきて……。

 それでほとんどの騎士が捉えられてしまった。

 捉えられた騎士達は、そのまま触手に掴まれたままモンスターの内部に取り込まれて……。

 なんとか助けれないかと無理やり突撃をしたのだが、触手での攻撃はあれはやばい! 俺たちの魔装を軽く壊してくる!

 いや、あれは壊してくると言うより……溶かしてくるんだ!

 それでこの様さ。

 負けておいてすまないが……是非俺たちの仇を取ってくれ!」

 

すでにボロボロだった上級騎士は話し終えると泣き崩れてしまった。

話を聞く限り、どうやら魔装を取り込むためにわざとおびき出されたのではないかと感じる。

 

「ブレイブ、どう思う?」

 

「間違いなく俺様の欠片だ。

 多少は知能が芽生えてやがるようだ。

 早く吸収しないとまずいことになりそうだ」

 

「ああ、俺もそう思う。

 だが新規に編成される討伐隊に呼ばれるか……呼ばれなかったら、訓練さぼってでも取りに行くか?」

 

「だが話を聞く限りかなり強いぜ。

 できれば多くの的……味方がいたほうが良いと思うぜ相棒」

 

的から味方と言い換えたことで、ブレイブが俺以外の他の騎士をどう持っているかがわかる。

まあでも、的か餌だろうなとは思っていたのであまり気にしないことにした。

とりあえず……きっと皇帝陛下が俺を今回の討伐隊にねじ込んでくれるだろう。

ボロボロの上級騎士と中級騎士が下げられる。

彼らは今後騎士としての活動さえ難しいだろう。とりあえず今日のところは入院と言ったところだろうか……。

下がった彼らと反対に先ほどの軍部の者が前に出て来る。

 

「先ほどの話を聞いてわかっただろうが、上級騎士と言えども一人では倒すことは敵わない。

 ここは上級騎士を5名一気に編成する。

 中級騎士も20名を予定している。

 多くの騎士が帝都からいなくなってしまうわけだが、それほど重要な討伐だと言うことをわかってほしい。

 では、これから呼ぶ者はこの後の討伐隊に編成される者だ。

 呼ばれたらこちらにきて、各上級騎士から話を聞いてくれ」

 

軍部の者は一人ずつ名前を読み上げていく。

俺は仲間の中級騎士のことははっきり言ってほとんど覚えていない。だから名前を読み上げられても誰だかわからなかった。

唯一覚えているのはトレヴァーさんだが、どうやら彼女は今回の討伐隊には編成されていないようだ。

だがその方が良い。今回の討伐隊では、間違いなく一人も死なないと言うことはありえない。

万が一でもその中には入らないほうがいいと思った。

そして俺は名前を呼ばれた。きっと皇帝陛下が無理やりねじこんだのだろう、とそう思ったのだが向かった先にいたのはトレヴァーさんだった。

 

「騎士トレヴァー? なんでここに……もしかして上級騎士に?」

 

「やあ騎士リオン。

 どうやら上級騎士不足の事態により、臨時の上級騎士になることになったよ。

 今回の討伐隊は、各上級騎士が中級騎士を選んで編成しているようでね。

 それで私は君を編成することに決めたってわけさ。

 もしかして皇帝陛下が推薦してくれたかと思ったかな?」

 

とても大人びた顔をしているくせに子供っぽい真似をする。

だけど俺はそんなふざけた顔も好きだった。

 




当初の予定より遅れているので時間を待たずに投稿します。
次の投稿は三日待たずにできるだけ早くする予定です。


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17話

ほんと申し訳ない。
けれど今回は5000文字越え! ってことで勘弁。


 

「いえ、騎士トレヴァーに呼ばれたなら本望ですよ。

 もし今回の討伐に呼ばれなかったら、どうやってついていこうかと考えていましたから」

 

騎士トレヴァーの悪戯っぽい話に、こちらも冗談混じりで返した。

まあ冗談は1割もなくて9割以上が本気の話なんだけどね。相手からしたら冗談混じりにしか聞こえないから問題ないか。

 

「本当に君は上昇志向が強い人間だね。

 ほとんどの騎士は貴族の派閥に入ってないと、なかなかあがれないと言うのにな」

 

騎士がどれだけ強いと言っても、一個人の話である。

上級騎士が上級貴族相当の権力を持っていると言っても、結局一人しかいないのであればできることは少ない。

結果的に貴族の派閥に加わらないと何もできないし、何かあった時に助けてももらえないと言うわけだ。

俺のようにブレイブがいて、最悪すべてをなげうってでも生きていける人間でない限りは普通は貴族の枠組みに入ることになるだろうことは想像できる。

 

「騎士トレヴァーもそうなんですか?」

 

そこで、普通なら答えてもくれないことを敢えて聞いてみる。

 

「気になるかな?

 まあ私は貴族出身でもないし、個人で動いているだけの人間だよ。

 まさか臨時にでも上級騎士になんてあがれると思ってはいなかったから、今までは派閥に属さなくても放っておかれたみたいだけどね。

 きっとこの討伐が終わった時には、めでたく勧誘争いに巻き込まれるかな」

 

騎士トレヴァーは派閥争いに巻き込まれることをなんとも言えない顔で話していた。

中級騎士であれば最悪派閥に入らなくてもなんとかなるのかもしれない。

けれど臨時とは言え現在は上級騎士だ。つまり討伐が終わった時、戦功をあげていれば上級騎士の第一候補になるのは間違いない。

彼女は貴族ではないと言ったが別に上級騎士が貴族である必要なんてはずだ。もしそうだとするのであれば、経歴ロンダリングをすればなんとでもなる。

それより、これほど優秀な人物を皇帝陛下とは違う派閥に入れたくない。

もし可能なら俺と一緒に第三の派閥……第二軍閥とでも言おうか、を立ち上げて欲しいくらいだ。

とは言っても彼女は俺の上司であるし、部下が上司を派閥に誘うのもおかしな話で、そうポンと進むわけもない。

俺が話を聞いて難しい顔をしていたからだろうか、騎士トレヴァーはこちらの様子を心配してくれていた。

 

「いきなりこんな話をして悪かったね。そんなに心配しなくても、一足飛びに何もかもが変わるわけじゃないよ。

 とりあえず君を我が隊に編成したのは、討伐に置いて上級騎士より優秀だってことを認めてるからだよ。

 討伐の時には頼りにしてるから」

 

そう言って一度離れて行った。

ともかく、俺は騎士トレヴァーの隊として討伐に参加することができた。

これでブレイブの欠片を入手しにいくことができる名目を得ることができた。騎士トレヴァーはそんなことを知らないとは思うけど、ありがたい限りだ。

その後俺たちは隊としての簡単な連携訓練を1日だけこなしてから出発することになった。

俺以外の中級騎士は3人いるが、どの人物も当然俺は知らない。

訓練がてら自己紹介をしたのだけど、誰もが貴族から嫌われそうな性格の人間ばかりだった。

 

「騎士リオンも我々も、貴族様には好かれなさそうな性格をしているな!

 まあ上級騎士に上れることもないだろうから、これからもよろしく頼むよ」

 

うち一人の爽やかな性格の騎士がそう言う。

実力は訓練で推し量ったが決して低くない。その上人格的にも優れているやつだった。

こういう、上に上るべき人間が上れないと言うのは間違いなく帝国としての損失であると思う。

他二人も同様だった。全員が全員平民からの出身だと言うからお察しである。

出発の日、騎士トレヴァーの号令で他の騎士達と共に討伐に旅立つ。

どうやら俺たちは編成されたものの、決して戦功をあげれないようにと一番後ろに配置された。

今回上級騎士が4人も配備されているので、もしかすると俺たちの出番はなく欠片も回収できずに終わるのではないかと思ったのだが、

 

「大丈夫だぜ相棒。あれだけ欠片が集まってるんだ。

 間違いなく向こうも俺様の存在を把握するはず。

 いくら他の騎士も魔装を持っているからと言っても俺様とは大違いだ。

 だから……俺様を狙って来るはず。

 何もしなくても向こうから訪ねてきてくれるぜ」

 

ブレイブが言うなら間違いないと思う。

おそらく軍務派閥のやつらがわざと俺たちを最後尾に配置したのだろうが、それも徒労に終わるのだと思えばざまあみろだ。

逆に自分たちは最後尾で安全だと思っている隊のメンバーからしたらとても最悪な事実かもしれないけど。

 

「なあブレイブ、お前分裂とかできないか?」

 

「できるわけないだろ相棒。

 そんなこと出来たらさっさとやってるし、旧人類との戦争だってそれで片がついてたぞ。

 相棒のやりたいことはわかる。多少なら俺様の欠片を与えることならできるぜ」

 

俺がやりたかったことは、ブレイブと同じとまでいかなくても隊のメンバーの魔装を強化できないかを知りたかった。

ブレイブは味方を的と思っているくらい俺以外の人間には興味がなさそうだけど、これくらいのことを考えるくらいには俺のことは理解してくれているらしい。

 

「それは、どれくらいだ?」

 

「モンスターの攻撃が俺様に掠って、体が多少削られる分くらいだな。

 俺の被害としてはごくわずかになるけど、当然他のやつらの魔装の強化分もわずかだな。

 魔素で回復が可能なくらいの小ささだ。

 その分け与えた分を回復するのに魔素だって必要になるぜ。

 相棒には魔素集めを手伝ってもらうからな!」

 

途中で隊を抜け出す罰くらい喜んで受けてでもそれくらいはやろうと思えた。

将来自分の仲間になるかもしれないやつらを、こんなことで殺したくはないし。

そして俺たちは団体行動をしつつ、途中途中こっそりと隊を抜け出してはモンスターを討伐し魔素を集めた。

ついでに隊のメンバーの魔装を少しずつ強化した。きっとこいつらはそんなことにも気づいていないだろう。

数日してやっとのことでモンスターがいるとされる場所に辿り着いた。

そこは俺が騎士となる前に大きめの欠片を持っているモンスターを討伐した場所より、はるかに大きな荒れ地となっていた

 

「これはひどいなんてもんじゃない。災害レベルだ……」

 

荒れ地を目の前にした騎士の一人がそう言う。

辺り一面土が露出した茶色の景色だ。そこに元はあっただろう木々や緑色の草、水のようなものさえ全く見当たらなかった。

改めてブレイブが暴走したときの恐ろしさを知る。

ブレイブにはちゃんとした知性があり、理性もあるが何かの理由で失くなってしまった場合、これよりもっとひどいことを起こすと思うと少しだけ背中がぞっとした。

 

「各隊ごとに巡回するように指示があった。

 どうやら討伐目標は大きく動き回っているようだ。

 我らが指示された場所はこの方角だ。

 行くぞ」

 

騎士トレヴァーの合図で、目標とされた方角に向かう。

 

「ブレイブ、欠片はこっちの方角にあるのか?」

 

「いや、ないな。

 けれど俺様の欠片がそう簡単に倒されるわけないし、大丈夫だろうぜ」

 

それに頷いて、隊としての行動に移る。

しかしその約一時間後に、騎士トレヴァーに通信が入った。

 

「討伐目標を補足した隊がいるようだ。

 我々も急いでそちらに向かうぞ!」

 

ブレイブの言う通り、欠片はこちらにはなかった。

だが発見した隊はすぐに通信で呼びかけたようだ。

そこから一時間ほどして向かった先には、ほぼ俺たち以外の全隊が揃っていた。

すでに攻撃を開始しているようで、俺たちには待機もしくは負傷した騎士の確保と半壊した隊の予備とすると言う指示が与えられた。

だが……。

 

「討伐目標、急に行動が変化。

 こちらに向かって突撃してきます!」

 

俺たちが戦いの場についてすぐに、欠片が吸収したモンスターの行動が変わった。

ブレイブが言っていた通り、ブレイブの姿を把握したためにこっちに向かってきていると思われる。

 

「当初の戦術は破棄!

 一旦戦場からの離脱を謀るぞ」

 

騎士トレヴァーの指示で俺たちは隊でその場を離れる。

騎士トレヴァーはそれでも待機と、負傷した騎士の確保を優先しようとするのだが……。

 

「目標、こちらを追ってきます!」

 

隊のメンバーのうちの一人がそう告げる。

ブレイブを追ってきているのだから当たり前だ。

 

「他の上級騎士に問い合わせても意味ないか……。

 我らの隊はこれから討伐目標に相対する!

 皆離脱をやめ、騎士リオンを先頭に戦闘隊形を組め!

 いいか、討伐目標の攻撃は決して食らうなよ」

 

事前に展開されていた、モンスターの攻撃は魔装を溶かすと言う情報から、決してモンスターの攻撃を受けてはならないと騎士トレヴァーが伝える。

ブレイブなら問題ないらしいが、一応俺も攻撃を受けないようにしようと思う。

すぐに隊形は変更され、俺を先頭にしてモンスターが来るのを待ち受ける。

モンスターの後ろからは他の隊も追って来ていて攻撃を加えている上級騎士の攻撃だ、間違いなくモンスターの損害もそこそこのものだと思うが、それを無視してでもブレイブに向かってこなければならないと言うのは、相当ブレイブを脅威と感じているに違いない。

それとも、元は同じ存在だったことに対する執着のようなものなのか。

 

「ブレイブ!」

 

ブレイブの名前を呼ぶとすぐに、ブレイブは現在使える最大の魔法を放つ。

俺の前に複数の魔法陣が出現し、そこから出現した炎の魔法が全てモンスターに向かう。

巨大なモンスターだったゆえに全ての魔法は命中したが、消滅した部分は黒い靄となってもそれほどのダメージを与えたとは思えなかった。

 

「騎士リオン? なぜそんな複数の魔法を……」

 

ブレイブを纏った俺の実力……と言ってもほとんどはブレイブの実力なのだけど、それを見て隊の仲間が驚いている。

一人だけ気にもしていないのは騎士トレヴァーだ。彼女は前回の討伐の時に一緒だったし、俺の実力も知っているしな。

ダメージも気にせずこちらに向かって来るモンスターに対し、ブレイブが取り出した大剣を持って俺も向かう。

巨大な鎌のような前足をこちらに向かって振り下ろして来るが、それを最大スピードで前進して躱す。

本当にブレイブしか見えていないのではないかと思うような攻撃だ。

俺は避けた後に大剣で通り過ぎざまにモンスターを切り裂く。決して少なくない大きさが消滅し、魔素をまき散らしていくがそれでもモンスターの勢いは衰えない。

 

「相棒、こいつ再生していやがる。

 一定量の攻撃を当て続けるかしないと倒せないぜ」

 

「じゃあ他の騎士様にも頑張ってもらわないとだなっ」

 

俺が与えたダメージだけでは倒せないとなるなら、後は他の騎士達に頑張ってもらうしかない。

この場には実質的な上級騎士も4人もいるのだからせいぜい俺のために頑張ってもらいたいと思う。

通り過ぎた俺にすぐに振り向いて攻撃を続けて来るモンスター。

他の騎士達にも攻撃されているが、他の騎士には細い触手を向けて攻撃している。

だが多くの騎士は近づかないため遠距離攻撃で触手を確実に消していっている。

近接で戦っているのは俺と上級騎士くらいだった。

 

「そこの中級騎士! 下がれ!」

 

俺が近接で戦っていることを快く思わない上級騎士の一人がそう言う。

だがモンスターは俺を狙ってきているので、下がることなんてできないのはわかることだろうに。

俺は上級騎士を無視して戦いを続行する。

 

「この方法はとりたくなかったけどな。

 相棒、近接攻撃に集中するぜ」

 

モンスターはずっと俺に集中して攻撃してくるため、俺は離れても離れても遠距離攻撃をする暇がなかった。

そのためブレイブの提案で近接攻撃だけをすることにした。

ブレイブの体でできた大剣が、魔素の消費によってオーラをまとったように一段階大きくなる。

 

「魔素を消耗するから、出来るだけ早く片付けてくれよ」

 

今まで蓄えた魔素を消費してでも攻撃力をあげる。

その大剣でもって、俺はモンスターの体を引き裂き続ける。

すると、先ほど攻撃したときよりモンスターの修復が遅くなった。魔素を消費しての攻撃は間違いなく有用のようだ。

周りの中級騎士達は引き続き遠距離攻撃を続け、上級騎士達も隙を突いて攻撃を繰り出し、2時間ほどそれを続けた結果、モンスターはようやく弱り出してきていた。

 

「相棒、チャンスだ!

 良いか……あのモンスターの腹部分を狙うんだ。

 そこに俺様の欠片が集まってる。

 そこに穴をあけてくれれば俺様が欠片を吸収する。それで終わりだぜ」

 

ブレイブの提案に俺は頷き、ブレイブと共にもっと多く魔素を大剣に集める。

もうボロボロになってきている鎌を大きく避けて、相手の懐に潜り込むと大剣に込められた大量の魔素を使って大規模な魔法を繰り出した。

 

「食らえ!」

 

巨大な炎のビームのような魔法は、大剣からモンスターの腹に打ち出され大きな爆発となった。

爆発は俺たちも巻き込んでいるが、ブレイブがシールドを張ってくれてなんとかこちらは助かっている状態だ。

爆発の煙で何も見えない状態だがブレイブが感知した欠片を取りに向かうことができた。

 

「よし、掴んだ!」

 

ブレイブが触手を伸ばして掴んだ欠片を引っこ抜くようにして引くと、それを合図としてモンスターが苦しみだす。

俺たちが欠片を吸収している姿は煙のおかげで見えない。

しかし苦しんでいるモンスターの姿だけは周りにも見えていて、チャンスとばかりに上級騎士達が合図を出してモンスターに最後の攻撃を加えるべく向かって行った。

欠片がなくなった今、モンスターはその大きな体を万全に動かすことはできず、騎士達の攻撃でどんどんと消滅させられていった。

そして最後は欠片を吸収しきって完全体となったブレイブと、俺の攻撃により消滅させられた。

 




遅れ更新していることは把握しているので、今日,明日書き溜め予定。
後二回分くらいは元の予定通りの更新にしたいと思います。


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18話

遅れた分書きます!
頑張ってるアピール!


 

「騎士トレヴァーの隊が戦功第一位か」

 

皇帝が軽く笑いながら発したその言葉に、軍務派閥の者達が一斉に声をあげる。

 

「騎士トレヴァーは臨時で上級騎士をしているとは言え、実際は中級騎士。実力では上級騎士に遠く及びますまい。

 他の上級騎士の隙をついて、良いところだけ持って行ったと言うところででしょう」

 

「中級騎士が上級騎士の実力を越えることなんてできません。

 そのためのランキング付けですからな。

 一体どんな手をつかったのやら……」

 

「上級騎士の手柄を横取りしたのではありませんかな?」

 

誰が聞いても苦し紛れにしかなっていない軍務派閥の意見に皇帝はこう告げる。

 

「ふむ。

 では上級騎士と言うのは4人もいても、中級騎士に後れを取るものだと言うことか。

 騎士の制度を根本から考え直さねばならない案件だな。

 それとも今の上級騎士は、本当は上級騎士に足る実力はないのではないか?

 貴殿らの話を聞いているとそう思えてならないのだが……」

 

「ぐっ……」

 

「いや、それは……」

 

「……」

 

軍務派閥の者たちは皇帝の言葉に何も返すことができず無言となっていた。

 

「まあよい。

 余は今回の討伐で上級騎士たちが実力でトレヴァー隊に劣っていたと思っているわけではないのだ。

 むしろ帝国に甚大な被害をもたらす前によく協力して倒してくれたと思っている」

 

「その通りでございます」

 

「流石陛下。

 そうです。今回で一番大事なのは、騎士達が協力して強力なモンスターを討伐したということ。

 決して1つの隊が優れていたことを示しているわけではありません。

 活躍する隊がいてもその裏にはそれ以上のサポートをしている隊だってあるのです」

 

「騎士トレヴァーの隊が活躍したのは見事でしょう。

 しかしその他の上級騎士の活躍があったことも忘れてはいけませんな」

 

軍務派閥ではない者たちは皇帝のこの言い分、そして軍務派閥の意見に対して間違いなく不服があるはずだ、なのに何も言わない。

それもそのはず。皇帝はこの後の話をメインでしようとしていたからだ。

 

「うむ。皆も余と同じように思っていれてくれてるようで嬉しい。

 だがな……市井の者はどうだろうか?

 今回の討伐で一番活躍したのは騎士トレヴァーの隊だとすでに衆知されている。

 しかし今回の討伐は騎士全体の活躍であってのことで、一番活躍したとされるトレヴァー隊に特別な恩賞がないと言うのは。

 トレヴァー隊に恩賞を出さない理由を疑われないか? 本当に他の上級騎士は強いのかと噂をしないだろうか」

 

「そんな市井の者の意見など気にしてはなりません!

 臣民が皇帝陛下の言葉に異を唱えるなどあってはならないのです!」

 

皇帝陛下の誘い言葉に、軍務の者の一人が席から立ち上がり力強く反論した。

これはまさに餌に魚がかかったと言うべきだろう。

 

「よく言ってくれた、わしもその通りだと思う。

 だが余としてもわかりやすい形で今まで帝国のために戦ってくれた上級騎士達に報いたいのだ。

 臣民がそのように上級騎士達の実力を疑うことは余の思うところではない。

 ならば前に話のあった、騎士達の選抜模擬戦を実現させてみるのはどうだ。

 この選抜模擬戦で上級騎士達を活躍させることで、今回戦功一位とならなかった他の上級騎士の溜飲が下がると思うのだ」

 

皇帝が明らかに軍務派閥に有利な発言をしたにも関わらず、勢いづいたのは軍務派閥意外の者達だった。

 

「実力で優りながら、戦功を逃した他の騎士への素晴らしい配慮になりますな」

 

「今まで隠れていた騎士たちも実力を示す場となることでしょうな。

 実力があるものはその実力を示すことで一層評価され、また今まで正当な評価を受けていなかった者はここで評価を受け昇進もできる。

 素晴らしお考えです」

 

軍務派閥の者達はここまで言われて初めてしてやられたと思った。

しかしこれを拒否したとあっては、では他の上級騎士たちは実力がないから参加できないのかと言われることになる。

今の上級騎士達は彼ら軍務派閥の者達が選んだのだ。それを否定されると言うことは、彼らの能力を否定されるも同然だった。

 

「皇帝陛下の良きように」

 

軍務派閥の一人がそう言ったのを皮切りに、一気に皇帝が会議を終わらせる。

 

「では一か月後だ、選抜模擬戦を開くぞ!

 どうせだ。市井の者達にも上級騎士の強さと言うものを目の当たりにしてもらおう」

 

こうして上級騎士,中級騎士を巻き込んだ選抜模擬戦が決まった。

 

 

 

「と言う話が会議にて決まりました」

 

いつものメイドさんが俺の部屋でそう教えてくれた。

このメイドさんは気づけばいつも俺の部屋の前にいる。

何かあればすぐ報告してくれるのは嬉しいのだが、俺が部屋にいるタイミングを狙ってそこにいるのは監視されているのではないかと思えて怖い。

 

「で、陛下から何か俺に言伝が?」

 

「場は整えたぞ、とのお言葉です」

 

前に言っていた、俺が上級騎士……それも序列一位に上がるための場を準備したと言うことであることは間違いない。

もし今回の選抜模擬戦で俺が圧倒的強さで優勝をすれば、なぜこれほど強い人物を上級騎士にしないのかと言う話があがるに違いない。

この話を軍務でもみ消そうものなら市井の民たちは軍務の者に疑いをかけるに違いないのだ。そのための選抜模擬戦であり、市井の民の観戦だ。

メイドが必要なことを告げ終わり、部屋を去るとブレイブが出現して俺に話しかけてきた。

 

「相棒、俺様はもちろん問題ないぜ。

 完全体となった俺様の強さを知らしめるチャンスだ」

 

念話でそう伝えてくるブレイブはやる気まんまんだ。

と言うよりせっかく完全体となったのに力を発揮する場がないために、力を余しているようだ。

 

「やりすぎて、上級騎士にあがるどころか翻意を疑われるようなことはしてくれるなよ?」

 

「俺様が悪いんじゃない。

 弱いやつらが悪いんだ。俺様が強すぎても問題ように相棒がしてくれたらいいんだぜ」

 

ブレイブが言っていることは、ブレイブが強すぎてもそれは上級騎士序列一位だから当然だ。と言う風潮にしてほしいと言うことだと思う。

実際、皇帝陛下もきっとそれを望んでいるだろう。

騎士と言う両親の夢だが、とうとうここまできた。後少し……手を伸ばせばその序列一位が手の届くところにある。

俺はその夢を現実のものとするため、ブレイブと更なる魔素の収集を行った。

そして選抜模擬戦の当日になった。 

 

一カ月の間、俺とブレイブは休みの日にひたすらモンスターの討伐を行った。

おかげで完全体となったブレイブの動きにバッチリついていけるようになったし、能力の把握も済んでいる。

はっきり言って誰にも負ける気はしないと思えるほどだった。

しかし今回の選抜模擬戦だが、あの後軍務派閥の者達に多少の変更を加えられていた。

ブレイブの欠片の討伐前に負傷した騎士達も復帰した今でも、選抜模擬戦に出ることのできる上級騎士,中級騎士は全部で本来の50名には満たない。

その上全ての試合を市井に観戦させるように準備するのはとても大変で金がかかることであったため、予戦と本戦に分けられることになった。

本戦に出場することができるのは16名で、そのため予戦は約4人一組で行われる。

予戦を勝ち抜いた者が本戦に出場できるというものだ。

軍務派閥のやることだ、当然今の上級騎士や彼らが懇意にしている貴族の息子たち……その中級騎士は、バラバラの組にされている。

その反面、軍務派閥に反対する権力者たちの息子たちは、皆揃って同じ組にされている。

そして俺がいる組にも、先日一緒の隊になった騎士トレヴァーがいた。

 

「騎士リオン。

 どうやら同じ組になってしまったようだね」

 

俺と同じ組になると言うことは騎士トレヴァーは本戦に出ることができないと言うことだ。

 

「そんな顔をしないでくれ。

 今回君に会いに来たのは、戦う前に親交を深めに来たとかではないんだよ」

 

「ではなぜ?」

 

「辞退しようと思ってね。

 ほらそんな顔をしないでくれ。

 私自身はそれほど戦闘力が高いわけじゃないんだ。

 それは君もわかっているだろう?

 だから頑張っても本戦には出れないだろうと最初から思っていたんだ」

 

騎士トレヴァーの言い分は正しいだろう。

だがブレイブによって他の魔装より多少強化された彼女の魔装であれば、俺や他の上級騎士と当たらなければ本戦に出られたかもしれないのだ。

 

「本当にそれでいいんですか?」

 

「もちろんだよ。

 それに、君はもう忘れてしまったのかい?

 君が序列一位になったら、私を引き上げてくれるんだろう?」

 

「はは……負けられない理由がもう1つ出来ちゃいましたね」

 

「1つ目の理由を聞きたいところだけど、そういうことで私は辞退するよ。

 君の試合、他の仲間と共に応援させてもらうから。

 頑張ってくれ」

 

俺の組は騎士トレヴァー意外にも、あの時のトレヴァー隊にいた者達が組み込まれていた。

トレヴァー隊のせいで今回のことになったのだから、わかりやすすぎる嫌がらせと言うことだろう。

しかし騎士トレヴァーだけではなく他の騎士たちも戦いを辞退した。

 

「俺は割と中級騎士ってのが性に合っててさ。

 本戦は騎士リオンに譲るよ」

 

「俺は騎士リオンが他の上級騎士達をバッタバッタを倒すのが何よりの楽しみなんだ。

 酒を持って応援しに行くから、美味い酒にしてくれよ? 頼むぜ」

 

変な冗談だがそれでも応援してくれてるのは本心だとわかる。

俺は彼らの思いを背負って戦うことを決めた。

 




当初のスケジュールに対し遅れているので、巻きで更新していきます。


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19話

帝国の剣聖、リーンハルトが話にインしました。


 

他の全ての予戦が終わりようやく本戦だ。

軍務派閥の思い通り上級騎士たちは全て勝ち進み、また本戦出場の16人に残った他の者たちも軍務派閥の息がかかった者達だということだった。

俺を抜かすほとんどが軍務派閥であるのに対し、一人だけ知らない者がいた。

 

「あれは、帝国の剣聖の一族の者ですね」

 

本戦出場前にいつものメイドが俺に話しかけてきた。

 

「剣聖の一族? 今の騎士の中にはその一族の者はいないのか?

 剣聖と呼ばれるほど強そうなやつは見なかったけど」

 

「残念ながら今の騎士の中に剣聖の一族の者はいません。

 剣聖の一族となれば、いつでも帝国に口を利いて子息を騎士に入れられますから何の問題もなかったのでしょう。

 彼の実力ですが……はっきり言って上級騎士レベルでしょうね」

 

なぜ今になって剣聖の一族が選抜模擬戦に入り込んできたのか全くわからない。今の騎士の中にもいないんだろ?

だが1つだけ言えることは、全く情報のないこいつが俺の一番の強敵に成りえると言うことだった。

ブレイブを纏った俺に勝つほどの強さはないだろうが、苦戦をさせられるようなことだけは避けたいと思った。

そいつのことを睨みつけるようにして見ていると、こちらに気づいたそいつがなぜかこちらに手を振りながらやってくる。

 

「何の用だ」

 

「嫌だなあ。ただの挨拶ですよ。リオン先輩」

 

こちらが睨みつけていると言うのに、ヘラヘラとしたやつだ。

他の騎士と違って表情が読めないのもあって、余計に嫌な気持ちだ。

 

「僕、リオン先輩と同じ歳なんですけど騎士になったのって今日なんですよね。

 ほら僕の実家って剣聖の一族じゃないですか。あ、知ってました?

 今の騎士の中にとても強い人物がいるって言うんで、実家に頼んで急遽騎士にしてもらったんですよね。

 今までは強いと思える奴なんていなかったから騎士になんて興味なかったんですけど」

 

どうやらこいつの目的は俺のようだった。

強い人物がいるからきたって、ストリートファイトの主人公みたいなことを言わないで欲しい。

これが美少女で強いリオンさんに会いに来ました! って言うなら大歓迎なのだけど。

 

「まあ、俺に当たるまで負けないことだな」

 

「大丈夫ですよ~。

 あんな雑魚共に負けたりしないですって。

 それに……もしかしてこっちは知りませんでしたかね?

 僕、当代の剣聖なんですよね~」

 

この若さで当代の剣聖であると言うことに驚く。

剣聖なんて言う者は、何十年と技術の研鑽を積んだ者がなるものだと思う。

それをこの若い……と言っても俺と同じ歳らしいのだけど、こいつが今の剣聖だと言う。

だとすれば恐ろしいほどの才能だと思った。アルトリーベの中にも剣聖の息子はいたけれど、あいつなんかとは比べ物にならない。

いつかはあのトラウマ級の黒騎士くらい強くなるのではないか、とそう思えた。

 

「じゃ、先輩こそ負けないでくださいよね~」

 

最初から最後まで緩い感じのやつだった。その実力はともかく、何を考えているのか見抜けないところがある。

だがようやくいなくなったと思ったのになぜか急ぎ足で戻ってくる。

 

「言い忘れました!

 僕、リーンハルト・ルタ・キルヒナーって言います。

 もしリオン先輩が勝ったらリーンって呼んで良いですよ」

 

それだけ言い直すとリーンハルトは去って行った。

だが彼は軍務派閥の人間でもないらしく、軍務派閥の人間達がいるところとは別のところへと向かって行った。

 

 

 

「第一戦、開始!」

 

いよいよ本戦が開始となった。

本戦はトーナメント方式で、第一戦で戦うのはあのリーンハルトだ。

俺はリーンハルトとは全く反対のブロックになったので、戦うことがあるとすれば決勝戦だ。

そして一回戦も8戦目まであるので、俺が戦う6戦目までまだ時間があって観戦にきていた。

ちょうど観戦に来ていた騎士トレヴァーたちと一緒にリーンハルトを見ていたのだが……。

 

「今まで騎士に興味がなかったキルヒナー家が一族の者を出してくるなんて……」

 

騎士トレヴァーはとても驚いていた。

ぶっちゃけ俺は帝国の剣聖のことなんて知らなかった。

なので騎士トレヴァーからできるだけ多くの情報を聞く。

剣聖と言う称号は各国ごとに存在するようで、そのため戦争が起こった時には基本的に剣聖同士の戦いとなるそうだ。

当然剣聖同士の戦いを制した方の指揮が上るため、国の中で最も強い人物が剣聖として扱われるし、剣聖は一族を強く育てようとしているとのこと。

帝国の剣聖は周辺国の中でもかなり強い部類らしく、ほぼ負けなしと言っても過言ではないほどだった。

剣聖の一族は、どの代でも子供を騎士として排出してきていたが……今代に限って出さなかったらしい。

その理由は、すでに帝国の剣聖は代替わりを果たしていて当代の剣聖は13歳の時になったそうだ。つまり、リーンハルトは2年も前にすでに剣聖になっていたと言うことになる。

一度騎士を見に来たのだが、弱いと一言だけ言って帰って行ったと言うのはもっぱら有名だそうだ。

軍務派閥が怒りそうな人物だと思えた。

 

そんな才能の塊でしかないやつが俺と戦うためにわざわざ騎士になりにきたと言うことだ。

しかし、

 

「まあ、俺様の敵じゃないな。

 相棒もそう硬くなるなよ。剣聖の一族ったって、所詮使うのが魔装じゃあな」

 

ブレイブはいつものように楽観視している。

俺はやけに嫌な気持ちになって、それ以上に何かあると感じていた。

突然、観客たちが大声を上げ始めた。それでリーンハルトの試合が始まったのを知った。

リーンハルトの試合は一瞬だった。相手が上級騎士ではなく中級騎士であったこともあっただろうが、勝負は最初の一振りでついた。

 

「弱いなあ」

 

試合を一瞬で終わらせたリーンハルトはそれだけ言うと、審判の判断も聞かずに戦いの場から去って行った。

観客はリーンハルトの強さを見て大喜びだ。

娯楽に飢えていたと言うのもあると思うが、強すぎる存在は英雄と言う形で彼らの夢,憧れになる。

今、リーンハルトがまさにそれなのだろうと思えた。

次々に試合が終わって行って、ようやく俺の出番だ。

すでに互いに戦う準備は万端で、審判の合図で戦いを開始する。

黒い剣を持った相手は、ブレイブの中にいる俺めがけて剣を突き込んできた。

こいつらくらいの攻撃ならブレイブの装甲を突き破ることなんてできないのは知っているけれど、敢えて避けてやる。

 

「トレヴァー隊のやつらは逃げ足ばかり早くて困るな。

 お前らのせいで俺たちは軍務からひどいことを言われたんだ。

 大人しく俺の攻撃を受けてくれないと困るじゃないか」

 

実力で劣っているからトレヴァー隊に負けたのに、その事実を認められないらしい。

そりゃ軍務の人間に怒られもするわな。と呆れかえった。

そしてまた突撃してきたところを避け、こちらは剣を使わずに後ろ回し蹴りを見舞う。

魔装を纏った人間は、動きがロボットのようになってしまう。だがブレイブを纏った俺の動きは滑らかだ。

ブレイブの質量が込められた俺の回し蹴りは、見事に相手の腹の部分に入って相手を大きく吹き飛ばす。

まあこれで終わりとはならないだろう。

俺はここでようやく大剣を取り出した。

 

「手ごたえがねえな。

 相棒、こんなやつ早く倒しちゃおうぜ」

 

相手は仮にも上級騎士であるが、俺と完全体になったブレイブの前ではこの程度だ。

今回の試合では、リーンハルトのようにただ一撃で倒すだけで良い訳じゃない。

俺が強者であることを、市井の目に焼き付けなければならない。

よって俺は武器を持っていなくても、上級騎士より強いと言う一面を見せつける必要があった。

事実俺が上級騎士を蹴り飛ばした時、観客たちは大盛り上がりだった。

相手は再度起き上がって向かってきたが、先ほどのような安直な突撃ではなかった。

最初は油断していたのだろう。自分たち上級騎士のほうが本当は強いと思っていたのもあると思う。

だけど俺を本当の強者だと感じ警戒して向かってきたのだが、無駄だ。

俺は大剣で相手の魔装を破壊した。

布を剣で斬るように相手の魔装は破壊され、俺の勝ちが宣言された。

観客席の方から、騎士トレヴァーたちが手を振っているのが見えた。

 

こうして一回戦は全て終わった。

すぐに二回戦が始まるわけだが、二回戦の初戦は俺の連戦だった。

これまた軍務の奴らが暗躍しているのだろうと思うが、この程度の嫌がらせなら大したことはない。

俺は一回戦同様、最初は武器を使わずに相手をいなし、倒す。

起き上がってきたところを大剣で倒すと言う方法で問題なく倒した。

これで俺はベスト4になった。他の試合を、今度は観客席ではなく控室で見るが……リーンハルトだけが圧倒的だった。

しかも、まだ本気を見せていないような不気味さがある。

準決勝の試合が始まった。先にリーンハルトの方だ。どうやら俺は決勝戦を連戦にさせられるらしい。

軍務の者は俺が勝つくらいならリーンハルトに勝たせないらしい。

 

流石に準決勝まできたのもあり、リーンハルトの試合は今度は簡単には終わらなかった。

だがリーンハルトはどこかふざけているようであり、焦っている相手の上級騎士とは正反対だった。

上級騎士はリーンハルトの斬撃でどんどん削られ、とうとう魔装が解けて負けてしまった。

相手の魔装が解けると、リーンハルトはおもちゃに興味をなくしたように場を去っていく。

もしかするとこの上級騎士もそこそこの実力があったのかもしれないが形なしだ。

次は俺の試合……だったが、どうやらリーンハルトが派手に場を壊したらしく、先に修復が入るとのことだった。

時間は一時間もかからなかった。

 

「相棒。地面に魔素の反応があるぜ」

 

どうやら、先ほどの修復と言うのは嘘のようだ。

本命は爆発の魔法をしかけ、俺を巻き込むことだろう。

試合が始まり、相手は俺をそこに誘導するかのように動く。

 

「小僧。先ほどのように俺を倒してみろよ」

 

きっと俺が爆発の魔法に気づいていないと思っているのだろう。

見え見えの挑発だが、敢えて俺は乗ってやることにする。

 

「ブレイブ、防御頼んだぞ」

 

「任せろ相棒。あれくらいの魔法、屁でもないぜ」

 

ブレイブが屁に理解があったとはなんて、無駄なことを考えつつ俺はわざと爆発の場所へ向かう。

すると相手は魔法を放ち、俺は真下にあった爆発の魔法に巻き込まれた。

想像していたより強力な魔法に巻き込まれ、煙で辺りが見えなくなる。

 

「ざまあみろ!」

 

きっと勝ったと思い込んだのだろう。

だが終わったと判断ができていないのにそれははやいと思う。

俺はまだ煙で見えない間に相手に接近し、ブレイブの作り出した大剣を鎧に差し込む。

他に聞こえない声で、

 

「残念だったな」

 

そう言ってやると、

 

「なぜお前……まだ生きて……魔装も壊す魔法だぞ」

 

どうやら軍務はなりふり構わなくなってきているということを知った。

魔装を壊せるような魔法を仕込んだら、流石にわざとであることはまぬがれない。

それをしてでも俺を排除したかったのだとわかって、軍務は間違いない潰すべきだと思えた。

 

煙がやみ、こちらからも観客席が見えるようになると……まだ残っている俺の姿を見て観客たちが沸いた。

立っているのは俺だけだ。俺に相対した上級騎士は魔装を剥がされ、地面に横たわっていた。

審判により俺に軍配が上がり、その場を去る。

残すは決勝戦のみだ。

相手は現剣聖、リーンハルト。強いやつと戦うためだけに選抜模擬戦に参加した、根っからの戦闘狂だ。

だからと言って俺は油断はしないし、負けることも許されない。

約半刻の休憩の後、すぐに決勝戦が行われる。

前戦が激戦であったなら、たった半刻しかないのかと思っただろうが俺は疲労もしてないしブレイブも調子は良い。

リーンハルトと戦うのに何の問題もなかった。

 

「騎士リオン、決勝戦です」

 

控室でそう言われ、俺はブレイブを纏って戦いの場に向かう。

リーンハルトは魔装を纏った状態で、俺が来るのを待っていたようだ。

 

「やっぱりリオン先輩はすごいな。

 さ、早く戦いましょう。みんなもそれを待ってる」

 

娯楽に飢えた市井の民たちが、俺とリーンハルトの戦いを待っている。

リーンハルトは俺との戦いを待っている。俺も、リーンハルトに勝って優勝するためにこの戦いをずっと待っていた。

向きあい、開始の合図がされるとまずはリーンハルトがこっちにまっすぐ向かって来る。

はっきり言って、リーンハルトと他の上級騎士の戦いは何の参考にもならなかった。

リーンハルトは本気を出していなかったのだ。その証拠に、今現時点でのこの突撃は今までのどの戦いのときより速かった。

 

「相棒、こいつなかなかやるぞ」

 

「そりゃあそうだろう。剣聖らしいからな。

 剣聖なんて大層な名前をもらってんだから、弱かったら困るだろ?」

 

「それもそうだな」

 

けれど俺とブレイブにはそんなくだらない会話をする余裕がある。

リーンハルトはロングソードほどの長さの片手剣を、突進のスピードでそのまま突き込んで来る。

他の騎士ならギリギリ反応できるかどうかと言う速さだ。

だが、

 

「この程度の攻撃ならまだ楽勝だな」

 

思ったほどの強さではなかったことで、ブレイブが俺だけに聞こえるように声を漏らす。

そう、間違いなく上級騎士より強いのだが俺とブレイブと比べたらそこまでは強くなかった。

数度の攻撃を難なくかわし、リーンハルトも俺も一旦離れて元の位置に戻る。

 

「うーん……? おかしいなあ。当たらない」

 

リーンハルトからすれば驚きだろう。今まで圧倒的強さを誇ってきた自分の攻撃が当たらないのだ。

しかも、先ほど上級騎士たちと戦っていた時のように手を抜ているわけじゃない。

本気を出しても当たらないのだ。

 

「その年で剣聖って言うからどれだけだと思えば……まあそんなもんか」

 

これが俺の正直な感想だった。

ならすぐに倒してしまおうか、そう思ったところでリーンハルトの表情が一変する。

 

「はぁ? そんなもんって何さ。

 剣聖の僕が負けるわけないだろぉ」

 

俺の心ない一言でプライドが傷ついたらしい。

先ほどの技術がさえわたったような斬撃から一変して、ただ力任せに叩きつけるような攻撃を繰り返してきた。

感情に任せた攻撃なだけに、呼び動作がわかりやすく避けるのは一層たやすくなる。

しかしブレイブも力を使えなくて暇そうにしていたので、途中で隙を見つけて今度はこちらから攻撃をする。

ブレイブの出した大剣をいとも軽そうに操りリーンハルトの片手剣を跳ね返すと、連続でこちらから攻撃をする。

斬り降ろし、横薙ぎ、突き。余裕そうに……と言うわけではないが、リーンハルトはなんとか俺の攻撃を躱した。

ここだけ見ると、さすが剣聖と言うべきか。

俺の攻撃は彼から見ればまだまだ未熟なものだろう。だから実力差があっても避けられてしまう。

ならば、

 

「ブレイブ、魔法だ」

 

「わかったぜ、相棒」

 

小,中織り交ぜた魔法を10程ブレイブが放つ。

いくら魔装があるからと言っても直撃すればかなりダメージがある攻撃だ。

リーンハルトはそれを力任せに斬り、いくつかは消し去ったものの2・3は魔装に当ててしまっていた。

都度小規模の爆発が起き、戦いが俺優勢に傾いてることを知らせる。

剣で戦えば避けられてしまうので、ちょうどいいとばかりにそのままブレイブに連続して魔法を放たせる。

 

「ちくしょう! なんだよ! 卑怯だろうが!

 お前は騎士だ! 剣で勝負して来いよ!」

 

全く考えが子供だ。

いくら剣聖になった、実力があると言っても考えが子供であっては意味がない。

 

「実際の戦争で、お前相手に剣だけで戦ってくれるやつがいると思うか?

 俺と同じ歳だって言うが、ただのガキじゃねーか」

 

「くっ」

 

先ほどはこちらを卑怯と言ったものの、ブレイブの魔法にどんどん押され無駄な話ができなくなっていった。

そしてとある一撃を正面から受け、吹き飛ばされていた。

その攻撃が致命な一撃となり、この勝負は俺の勝ちで終わる。

魔法はブレイブの力であるが、圧倒的強さで俺が二位のリーンハルトを下したのはこれで周知の事実となった。

今までのような、上級騎士は皆同じくらいの強さと言う話じゃない。

俺だけが、騎士の中で圧倒的に強い。その事実により、俺は間違いなく序列一位に行けるはずだ。

戦いが終わり、観客たちの俺を称える声を聞いて俺は少し高揚していた。

 




思えば19話はすでに書き終わってたのに更新が今になってしまった・・・。
ごめんよ


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20話

三日毎の更新が厳しくなってきた・・・
おそらく今後は一週間毎になると思います。


 

あの選抜模擬戦から、約3カ月が過ぎた。

俺は圧倒的強さで優勝し上級騎士序列一位となった。たった一度の優勝で序列一位になれたのは強さこそが全てとしていた騎士団のルールのおかげであった。

今までは上級騎士による具体的な強さの順位付けはされておらず、そのため上級騎士に序列はあっても皆権威は横一列と言う考えだったが、俺と言う圧倒的強者が存在したことでその考えが変わり、新たに騎士団長と言う役職が設定されることとなり、俺は初代帝国騎士団長としてその役を背負うことになった。

確かに俺には前世の知識もあるし勉強は一応真面目にやってきたから書類仕事もできるけど、15歳に騎士団長をやらせるってどうなんだと思う。

だが個人的にも腐りきった騎士団は改革したかったので、仕方なくやっている。

 

「騎士団長、書類仕事があまり進んでいませんよ。もっと働いてください」

 

俺の執務机の向かいに副騎士団長の執務机がある。そこで俺の何倍もの書類仕事をこなしている騎士トレヴァーからお叱りの声が飛んできた。

俺が騎士団長になって最初にやったことは、騎士団の悪しき風習を改正することだった。

騎士団員の序列は強さだけで決まることではない。書類仕事や騎士の統率を行える者が必要だったので、正直騎士トレヴァーを上級騎士にあげるためにこの改正を行った。

結果、騎士トレヴァーは上級騎士の序列3位になった。他にも下級騎士でくすぶっていたものや中級騎士で序列が下位だった者の中にも、書類仕事に特化していた騎士もいたようで、これにより少しずつ順位をあげて騎士団としての業務が滞りなく行えるようになった。

序列2位は現剣聖のリーンハルトだ。こいつ、完全に戦う実力しかないと思っていたのだけど思っていたより書類仕事などもできた。

訓練と称して普段はこうして書類仕事をさぼっているのだけど、やるときはやるみたいな感じで役に立つのが無性に癪にさわる。

次にやったことは汚職をしていたやつらの一掃だ。

間違いなくあると思っていたし、騎士トレヴァーもいくつかを知っていたらしいので、見つけるのはしごく簡単だった。

上級騎士のほとんどは自分たちで実務を行わず、軍務派閥の貴族が出してきた文官に書類仕事をなどをやらせていたようだ。

その文官……実際は軍務派閥の貴族たちだが、騎士団に回される軍費を横領していた。

それが何十年分とあり、その整理をしていくとどうも騎士団とは分けられていた軍費の方にも手を出していることがわかり騎士トレヴァーの指示の元、軍務派閥の貴族の取り締まりを行った。

当然皇帝にはあのメイドを経由して全て連絡済であり、騎士団員全員を動員する帝国始まって以来とも言える大規模な取り締まりだ。

騎士団員だけでは人数が足りないため、皇帝直属の兵士を出したり、兵士の中でも親皇帝派が確定しているものたちをも動員した結果、軍務派閥は政務に意見を通すことさえできないくらい数を、力を失った。

そして今はそれらの問題の書類仕事を片付けていると言うことである。

騎士団は今回の問題の一番根付いている部分と言う扱いだったので、書類の量が多いのだ。

俺に来ている分は、他の文官肌の騎士に比べたら量は少ないがそれでも毎日机に向かわないといけないほどだった。

 

「なあ相棒。

 そろそろ魔素集めに行こうぜ。こんなんつまらなくて仕方ないぞ」

 

俺だけに伝わる念話でブレイブが文句を言うが、俺だって好きで書類仕事ばかりやっているわけではない。

たまには体を動かしたい!

 

「どうも騎士団長は集中が続かないようですね」

 

俺の机に積まれた書類がさほど減ってないのを確認して、騎士トレヴァーが深くため息をついた。

 

「それは仕方ないって言うものだろう?

 この書類の多さは俺のせいじゃない。軍務派閥の貴族や、前の上級騎士のせいなんだから」

 

「まあそれはそうなんですが、だからと言って騎士団長が見ないといけない書類は、私たちが見るわけにはいきませんからね」

 

「……よし、皇帝に直訴しよう」

 

「はっ?! 何を急に言ってるんですか? そんなことができるわけ……」

 

「おい、いるんだろ?」

 

俺は執務部屋のドアを開けると、すぐ廊下にいつものメイドを見つけた。

 

「よくわかりましたね」

 

「俺としてはいてくれないほうが良いんだけどね……」

 

「そんなつれない言葉を」

 

「そんなことより、皇帝陛下に言伝を頼んだよ。

 今は騎士団員もかなり人数が不足しているから、文官肌のやつをよこしてって。

 騎士団を今の内に反軍務派閥で占有するチャンスだって」

 

「わかりました。

 早ければ明日にも対応の話が来ると思います」

 

いつものメイドは美しい所作でおじぎをすると、これまら美しい所作で去って行った。

 

「これで、近々書類仕事が楽になるはずだな」

 

「はあ……本当に騎士団長は仕方ないですね。

 では、今日頑張りすぎても意味はないでしょう。今日の執務はこれくらいにして、今日はこの後は自由時間にしましょう。

 私も、他の手伝ってくれている中級騎士たちも、そろそろ休みが必要ですし」

 

「それがいいな、じゃあ今日は早いが騎士としての仕事は終わり」

 

俺はそう言うと、動かしたかった体を動かすためブレイブとモンスター退治に出かけた。

 




今回は文字数少なくて申し訳ない。


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21話

ここでミア初登場!


 

あの後半年がたち、俺は騎士団長としての実績を積み重ねていった。

はっきり言って実績のほとんどは騎士トレヴァーのおかげであることは間違いない。

基本的に俺はふんぞり返っているだけであり、たまに出て来る強力なモンスターを倒すことだけが俺の役目だと思えるくらいだった。

俺いらなくね……?

その頃になると軍務派閥の者達はもう息をしておらず、今まで軍務派閥の者がいた役職は皇帝派の貴族にとって代わられていた。

帝国の中は皇帝派が幅を利かせるようになり、地が盤石となったからなのか皇帝から連絡がきた。

 

「近々、リオン様を守護騎士に任命するとのことです」

 

いつものメイドが訪ねてきて皇帝からの言伝を教えてくれる。

忘れもしない一年前の皇帝の話を思い出す。

皇帝の娘……今はその事実を明かされていないが、その娘と一緒に王国に転入して世界を救って欲しいと言う話だ。

 

「ただし、守護騎士と言うのは本来騎士から名乗り出る者です。

 それも誰の守護騎士になりたいと明確に名乗り出る必要があります。

 つきましては、リオン様にはこれから一か月の間守護騎士となるミア様の周辺護衛の仕事に就いて頂きます」

 

「つまり、仲良くなって守護騎士に名乗り出る名目を作れってことか。

 それはわかった。

 だが今そのミアは皇帝の娘と言う扱いになってないんだろ?

 じゃあ俺はどういう名目でその娘に近づけばいいんだ?」

 

「それを考えるのがあなたの仕事ではないんですか?」

 

仲良くなれ! ただし方法は任せる。そんな馬鹿な……。

食パンでも加えながら廊下を走ってぶつかれと言うのだろうか。

ちなみに廊下で走ってぶつかるのはおすすめしない。相対速度も相まってお互い大ダメージを食らうからだ。

なんならその後仲良くなるどころか、相手の顔にケガをさせて遺恨を残す可能性も高い。

 

「いやいや、せめて何かこう……とっかかりみたいなものだけでもなんとかならないのか?

 いきなり騎士団長が平民と仲良くなろうとし始めたらおかしいだろ」

 

「騎士団長ともあろうものがそれくらいのこともできないなんて……。

 仕方ありません。では、よくいそうな場所とかはこちらで調べておきます。

 それと宮廷画家に書かせた似顔絵を渡しておきますので、しっかり覚えてください」

 

そう言って一枚の絵を渡された。

そこに描かれていたのは笑顔の少女だった。

そう長くはない髪の毛をサイドでまとめている。まだ大人になりきってない少女としての可愛さがあり、体つきはまだ子供と言ってもおかしくないほどだった。

将来美人になるのかもしれないが、今はまだ可愛らしい少女。その範疇を出ない、そんな姿。

こんな妹がいたら、兄としては楽しかったのかもな……と前世の妹を少しだけ思い出すがやめた。

あれは妹ではなかった、そう思うことにした。

これが、ミリアリス・ルクス・エルツベルガー……今はまだ平民だからミアか。

俺がやったのは1作目だけだけど、こんな少女が世界破滅を防ぐために行動しないといけないなんてと思うと、とても不憫に感じられた。

 

それから一か月後、俺はとある平民の学校に向かっていた。

どうやらミアは今その平民の学校で勉強をしているらしい。

俺は市井を見回ると言う体で、その学校に一か月の間勤務することになった。

本当の目的はそこでミアと出会い仲良くなり、ミアの守護騎士となることだ。

俺が学校に辿り着くとすぐそこにいる生徒全員が集められ、学園長によって俺を紹介される。

 

「顔を見たらわかる者も多いと思うが、こちらのお方は15歳と言う若さで帝国の初代騎士団長になったリオン・ルタ・ヘリング様だ。

 これから一か月の間、この学校付近で騎士としての任務をされる。

 皆リオン様の邪魔をしないように」

 

「今紹介されたリオン・ルタ・ヘリングだ。

 俺は実際には貴族ではないし、平民に対して差別意識などもない。

 だから学園内で会った時は気軽にリオンと声を掛けてくれ」

 

出来るだけクールに、そして最後に軽く微笑んで大人っぽさを出したつもりだが……。

俺には似合ってない。昨日の夜もちょっとだけ鏡の前で練習をしてみたが、ブレイブに爆笑されただけだった。

なのであまり長くは続けずにそれだけ言って下がった。

先日見たミアと同じくらいの年の娘達がキャーキャー言ってくれていたことだけは少し嬉しかったけれど、俺の精神年齢は実際には実年齢の二倍以上ある。

よってこの年頃の娘さんたちにキャーキャー言われても……まあ少しだけ嬉しいのは違いないな。

その後、いつものメイドにあってミアがよくいる場所の統計結果を渡された。

統計結果と言うことは何日も何日もストーカーしていたと言うことに違いない。

たまにこのメイドが怖くなる。

 

「どうやらミア様は主に屋内にいるみたいですね。

 元気そうな見た目とは逆に、あまり体調がよくないそうです。

 ほとんどが保健室と言う名の彼女専用に近い勉強室に、図書室だそうです。

 ベッドで寝ている時に、たまに外で遊んでいる他の子供たちを見てはとても悲しい顔をしています。

 また、たまに母親が恋しくなるらしくお母さんと言って泣いて」

 

「暗いわ! 話が暗い!」

 

メイドがどれだけのことを調べたのかがよくわかるけれど、だんだん統計結果ではなくただ彼女の辛い状況を説明するだけになっていった。

 

「まあそう言うことです。

 なので、出会うのであれば保健室か図書室ですね。

 後はお任せ致します」

 

保健室に図書室か……俺とは縁が遠い場所にしか思えないがこれも世界のためだ。

漫画の一冊でもあれば喜んで通うのだけどな。

メイドから書類を受け取った後、早速図書館に向かってみた。

いきなり今日出会えるかはわからないが、場所くらい覚えておいても損はない。

そう思って図書室のほうへ向かう。

図書室は学園の中でも一番端のほうにあるらしく、保健室からは結構遠い位置にある。

体調が悪いのに保健室と図書室を行き来するなんて大変だ。

そんなことを考えながら図書室のドアに手を掛けようとしたときだった。

 

「ゲホッ、ゴホッ」

 

中から、ただの咳でない音をさせている人がいるのに気づいた。

とても苦しそうですでに床に倒れている。

 

「大丈夫かっ」

 

近寄って声を掛けると、ミアはうつろな目でこちらを見た。意識はしっかりとあるようだ。

 

「騎士様……大丈夫とは言えません。

 騎士様のような方にこのようなお願いをするのは申し訳ないのですが……保健室まで……連れて行って……ゲホッ」

 

「わかった。喋らなくていい」

 

俺はすぐにミアを抱きかかえると、あまり揺らさないようにして保健室まで運んだ。

 




ミアとフィンとの出会いは細かく書かれていませんでした。
フィンは前世にミアに似た妹がいて、ミアをどうしても助けたいと言う気持からミアに接触しましたがリオンはどうするでしょうね。前世の妹が違いすぎますのでw


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22話

1週間ぶりの更新~
今後この調子で更新します。
3日毎にならなくてごめんね。


 

「騎士様、ありがとうございます」

 

不健康そうな顔色のミアがこちらを気遣ってそう言う。

話を聞くとミアの年は俺の1つした。現在14歳のようだ。

しっかり食べているのだろうかと思えるほど体は細く、成長期であったはずなのにそれほど身長も伸びていない。

 

「気にしなくていいよ。国を、民を守るのが騎士。

 これも仕事のうちさ」

 

騎士トレヴァーが言いそうなセリフで、俺が言うと全く似合わない。

隠れてブレイブがくすくす笑っているのでそれがよくわかる。けれど、そんな俺の似合わない騎士としての言葉にもミアは真面目に聞いてくれた。

 

「えと……騎士様方は怖い方が伺ってましたので……。

 騎士様は親しみやすそうでびっくりしてます」

 

俺が騎士団長になってからもう半年経っている。

その間に傲慢な態度をとり続けていた上級騎士は中級騎士へと、中級騎士は下級騎士へと降格させたのにも関わらずミアのような平民として過ごしている者にもこういう風に思われていると言うことは、今までの騎士がどれだけ酷かったかがわかる。

そしてそれが平民の間にどれだけ根付いているかと言うのを理解した。

 

「安心しろ。俺が騎士団長になってから、騎士団は変わった。

 今の騎士はみんな俺より優しいよ。むしろ俺が一番優しくないくらいかな」

 

「騎士団長さんだったんですか?!

 すいません、若い人だったのでつい一般の騎士様だとばっかり」

 

そう言えば、俺の紹介のため生徒が集められていた時にミアの姿はなかった。あの時は保健室で休んでいたのかもしれない。

騎士の恰好をしていて15歳となれば、知らなければ騎士団長と思われてなくても当然だ。

 

「ああ、気にしなくていいよ。

 これでも騎士団長っぽくないのはわかってるから。

 それと……俺のことはリオンでいいよ。呼びずらそうだしな」

 

笑顔で言うと、ミアはほっとしていた。

その後他愛のないことを少し話してから、保健室から出ようとすると。

 

「あの……リオン様。

 良かったら明日も保健室に来ていただけませんか?」

 

うるうるとした目でそのようなことを言われては無下に断ることなんてできない。

そして俺はミアに近づくのが目的だったので、むしろ誘われると言うことは良いことだ。

 

「わかった。巡回の合間に来ることにするよ。

 だから元気になるまでは大人しく保健室で寝てるんだぞ?」

 

図書館でミアが倒れた時に持っていた本を、手渡す。

するとミアはその本を胸に抱きしめた。

 

「わかりました!

 大人しく待ってます」

 

手を振って保健室を出た。

皇帝はミアと親しくなれと言ったが、仮に親しくなってもこれほど元気がないのにどうやってミアを留学させようとするのだろうか。

そんなことを考えながら、今日のところは自分の部屋へと帰った。

騎士として着させられている軽めの鎧を脱いで、ハンガーラックの様な物に掛ける。

するとここまで姿をずっと隠していたブレイブが姿を現した。

 

「騎士として振る舞ってる相棒の姿は面白かったな!

 これが後一か月も続くなんて楽しくて仕方ないぜ。

 それより……相棒、あのミアって女。

 新人類だぜ」

 

ブレイブの言う新人類と言う言葉を聞いて驚いた。

確か前に聞いた時はこう教えてくれた。

新人類とは魔素を体に取り込むことができる人間だと。今の世界は魔素が極端に少ないせいで、俺は新人類の血を継いでいるのに思う存分力が出せていなかったと。

 

「もしかしてミアが不健康なのはそれが理由なのか?

 しかし俺はあそこまで不健康じゃなかったぞ。

 前にブレイブも言ってただろ。力が出せないだけって」

 

「ミアのほうが血が濃いってだけだぜ。

 相棒は新人類の血が約50%。だけどミアはほぼ100%が新人類の血だ。

 もし相棒の血がもっと濃かったらミアみたいになってたと思うぜ」

 

ミアみたいに外出することもできないくらい体が弱いと言うのは正直ぞっとする。

それでも腐らずあれほど素直な人間に育ったミアは心から素晴らしい人間だと思えた。

そしてそんなミアを思って、自分に何かできないものかと思う。

 

「俺がブレイブを纏っている時のように、ミアに魔素を分け与えることはできないのか?」

 

「俺様を纏えるのは俺様と契約した奴だけだ。

 つまり相棒以外は纏えないんだぜ」

 

「じゃあブレイブと同じ魔装のコアを探して……」

 

「前にも言ったと思うが、俺様の仲間はもういないぜ。

 ミアは俺様を纏えないが、1つだけ方法がある。

 薬の様な形で口から摂取することだ」

 

「ほんとか!」

 

俺はブレイブの薬と言う申し出が嬉しくて、つい立ち上がってブレイブに迫ってしまった。

 

「相棒、落ち着けって!

 けど、俺様は魔装でしかないからな! 俺様が造る薬ってのも当然ちゃんとした薬じゃない。

 常用はできないし、いざってときに服用する分だけだからな!」

 

ミアに対して親愛の態度を向けたようになってしまったブレイブは急に恥ずかしくなったのか俺から顔を背けた。

背けたって言うより、目がぐるんと後ろに回っただけだけどな。

 

「ブレイブ、良いところあるよな。

 俺なんかよりよっぽどいい人間やってるぜ」

 

「やめろよ相棒!

 俺様はそういうの苦手なんだよ!」

 

照れてるブレイブを追い打ちしてやると、本格的に照れが収まらなくなったのか逃げていってしまった。

翌日、俺は巡回と称して学園をいろいろ歩き回った後に保健室に向かった。

もちろん目的はミアに会うためだ。

保健室のドアを手の甲でコンコンとノックをすると、ミアのはーいと言う声が聞こえた。

どうやら今日は元気らしい。

俺はドアを開けて中に入ると、俺の顔を見たミアの顔が途端に笑顔に変わる。

 

「わぁっ! 騎士様、本当に来てくださったんですね!」

 

花が咲いたような笑顔と言うのはこういうことを言うのだと思う。

ミアの周りに幻想の花が見えるほど眩しい。

 

「新しい騎士団は嘘つきだなんて言われたくないからね」

 

冗談を言いつつ、近くにあった椅子を引き寄せて座る。

ミアはどうやら俺が来るまで昨日の本を読んでいたらしく、栞を挟んで咄嗟に閉じていた。

その後昨日と同じように一時間ほどお喋りをした。

話しのほとんどはミアが俺に騎士の話をねだり、俺がそれを話すと言った感じだ。

結局俺は1時間ずっと話をさせられることになり、喉が渇いてしまった。

 

「じゃあ、今日のところはこれで帰るよ。

 ミアの体調も少しよくなったみたいだし、もう少ししたらまた歩き回れるな」

 

良かれと思い、体調が良くなったことを伝えたのだけどそれに対してミアは顔を俯かせた。

 

「そうだと良いんですけど……。

 よくなったと思っても、またすぐ悪くなるんです。

 あ、騎士様がせっかく元気になったことを言ってくれたのにすいません」

 

14年もの間、ずっとこの体調に付き合ってきたミアだからこそわかることであるのだろう。

確かに何度も何度も繰り返していれば、今の元気が一時的なものであることも知っているに違いない。

 

「安心しろ。俺がミアの体調をよくしてやる。

 いつか一緒に外出もしよう。その時は俺が護ってやる」

 

「ほ、本当ですか……?」

 

「ああ。

 さっきも言っただろう? 新しい騎士団は嘘つきだなんて言われたくないって。

 とりあえず俺は今のところミアには嘘をついていないだろ?

 だから俺がいつか嘘をつくまでは俺は嘘をつかないって信じてみてくれ」

 

「わかりました、騎士様を信じます!」

 

その日はそれで保健室を出た。

 

「相棒、知らないぞ。

 あんなこと言って良いのか」

 

つい言ってしまったが、ブレイブの薬を使えばミアの突然の不調にも対応することができる。

体調が少しよくなれば外出もできるし体力がつけば王国へ留学もできる。

そう思っていたが……ミアの不調はなんと次の日に訪れた。

一度不調になってから二日と経たないうちにまた不調になる。これではまともな生活などできるはずがない。

ミアの不調を聞いた俺は、すぐさま保健室に駆け付けた。

 

「大丈夫か、ミアっ」

 

ドアを開けてすぐ声を掛けると、ミアは苦しそうにしながらこちらを見て笑顔になっていた。

汗を多くかいていて、とても大丈夫そうには思えなかった。

 

「いつもの……ことです……うっ」

 

笑顔が急に曇り、胸を押さえるようにしていた。

俺は今すぐにでも助けてやりたい、そんな気持ちになりすぐにブレイブに声をかける。

 

「ブレイブっ!」

 

「わかったぜ相棒。これを飲ませろ」

 

隠れていたブレイブが出現し、触手で俺にカプセルの薬を渡して来る。

それを手に持って、水を入れたカップと一緒にミアに近づいた。

 

「ミア。これは今のミアの苦しい状態を抑える薬だ。だが直す薬じゃない。

 正式に医者の処方された薬ではない。

 だがもし俺を少しでも信用してくれる気持ちがあるなら……飲んでくれないか」

 

俺はできるだけミアに不安を持たせないように言った……つもりだ。

新人類に詳しいブレイブが言う薬だ。間違いないと思う。

 

「騎士様が言うなら……信じます……」

 

ミアは今にも死にそうな辛そうな顔をしながらそう言った。

会ってたった数日の俺を信用してくれる、そのことに応えたいと思った。

俺はブレイブが渡してきた薬を手ずからミアの口に入れ、そしてカップに入った水を注ぐ。

ミアの喉がゴクリとなり、薬が飲みこまれた音を聞いた。

そしてすぐにミアが瞼を閉じる。

 

「相棒、大丈夫だぜ。

 苦しいのがなくなって、気が緩んで寝ただけだ」

 

スゥスゥと言う寝息も聞こえ、ホッとする。

 

「俺様の薬もしっかりと効いてるようだ。

 いきなり運動は厳しいだろうけど、この分なら明日には動き回れるぜ」

 

「ああ、よかった。また明日来ることにしよう」

 

女の子の寝顔を見続けると言うのはきっとよくないことだ。

ミアだって男性に起きるまで寝顔を見続けられたと聞いたら恥ずかしいだろう。

俺はすぐに退散した。

翌日、例のメイドからミアが元気になったと聞いてほっとした。

 




原作ではミアとフィンがどのようにして仲良くなっていったかは書かれていませんでしたよね。
ですけど、ミアはブレイブが用意した薬でよくなっていたこと。そしてフィンが実の妹と重ねてみていたことで仲良くなった。と言うことから推測して今回の話を書きました。
三嶋先生がこの作品見て感想してくれたらうれしいなーなんて思うけど、まあ無理だろなw


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23話

一週間毎であれば問題なく更新できそうです。
と言うことでお待ちいただいてた皆さま、23話更新です!
え? 待ってないって?


 

いつもより早く巡回を止めて保健室を訪れると、ミアが本を読んでいた。

昨日の苦しみはもうないようで安心して中に入る。

 

「リオン様っ」

 

俺が入ってきたことに気づいたミアが呼んでいた本をパタンと閉じた。

 

「元気になったみたいだな」

 

「はいっ。

 今までこんなに元気になれたことありません。

 騎士様がくれた薬のおかげなんですよね?」

 

「ああ、そうだな。

 ただあの薬は常用できるような類の物じゃ、ないんだ。

 本当に困った時はあげられるが、普段から準備できる物でもなくてな……」

 

昨日のブレイブと話したことを思い直しながら、1つ1つ言葉を選んで伝える。

 

「ですよね……。

 大丈夫です! 今までもっと苦しい思いをしてきたんです。

 あの薬のおかげで体調が一時的によくなっただけでも嬉しいんですよ。

 だからそんなに悲しそうな顔をしないでください」

 

逆にミアに慰められてしまった。前向きに考えることができているし、本当に強い子だと思う。

 

「それと……昨日見たあの黒い球の……」

 

急いで薬を渡そうとしたことでブレイブの存在を見られてしまっていたようだ。

失敗したと思った。しかも意識を失う前に幻覚を見たんじゃないかと言いくるめれる気がしない。

それにミアは賢い子だ。もしそんな言い回しをしたら自分には伝えることができないことなんだと理解して、追及してこなくなってしまうだろう。

せっかく少し仲良くなれたのに溝を作ってしまいかねない。

ブレイブ、と念和で伝えると隠れていたブレイブが出現する。

 

「あ~あ、バレちまったな」

 

出現したブレイブはいつもの黒い球が触手を纏っているような姿をしていた。

少し不気味だが、どうやらミアはブレイブに対して特に不気味だとは思ってもいないようだ。

 

「ありがとうございます! あなたにもお礼が言いたくて。

 お名前を伺っても?」

 

「俺様か? 俺様はブレイブってんだ」

 

「じゃあ、ブーくんですね。

 お薬ありがとうございました。

 これからもよろしくね、ブーくん!」

 

「なんで俺様だけブーくんなんだよっ。

 なんとかしてくれよ相棒」

 

ブレイブから助けを求められたが、俺はブレイブとミアのやりとりが面白くてただ笑うだけだった。

その後数日経ちミアの体調は完全によくなり、外出もできるくらいに体力が戻った。

俺はミアと約束した通り外出に連れて行った。街に連れていくと、そこで会った多くの者から騎士団長様と囲まれることになった。

以前の騎士団はひどかったが、騎士の名誉を回復した立役者の俺への態度はとても良いものだ。

 

「騎士様はみんなから慕われてるんですねっ」

 

ミアは俺のことを自分のことのように喜んでくれる。それが俺としても嬉しかった。

それから数日後、ミアはまた苦しみ出した。しかも外出中にだ。

俺はすぐにブレイブに薬を出してもらい、ミアに投与する。

薬を飲ませるとすぐにミアの苦しみは止まったが、苦しみは相当のものだったようで以前の時のように寝てしまった。

苦痛に歪んだ顔が今で安らかな寝顔だ。しかし結構な汗をかいていて、それがどれだけ苦しかったのかを俺にも理解させる。

その日の夜、俺は例のメイドに言伝を頼んだ。内容はもちろんミアの守護騎士になる件だ。

本来であればもっと仲良くなってから守護騎士になろうと思っていた。

だが俺がいない状態でミアがまたあの苦しみに苛まれるかと思うと胸が苦しくてたまらなかった。

俺が守護騎士として近くにいれば、なるべく苦しい思いをさせてやらずにすむ、そう考えてのことだ。

 

「相棒の気持ちはわかる、まあ仕方ないよな。

 俺様もミアのことは心配だ」

 

ブーくん呼びも慣れたのか、ブレイブもミアのことを親身に心配しているようだった。

そしてさらに翌日の夜、メイドを経由して皇帝からの返事がきた。

 

「皇帝陛下からの言伝を伝えます。

 騎士リオンがミリアリス様、もといミア様の守護騎士になることを了承するとのことです。

 一ヵ月以内に留学の旨連絡をするので、留学させる理由についての口裏合わせを行います。

 騎士リオンは明日の夜、いつもの場所に来るようにと」

 

俺が守護騎士になったことで、以前に皇帝から頼まれたミアと一緒に留学に行くことがようやくできるようになった。

だが問題は、なぜミアが留学に行く必要があるかだ。

そもそも今まで体調が悪く、外出がろくにできないような人間を留学に行かせる理由がない。

そんなことを伝えられれば本人も間違いなく疑問に思うだろうし、留学に行くべき人間が行ったほうが良いと言うだろう。

そのための口裏合わせが必要になる。

俺は翌日の夜、いつもの応接室へと向かった。

そこにいたのは皇帝といつものメイドのみだ。

 

「やあ。どうも上手くいってるようで何よりだ」

 

「こっちとしてもミアを放っておけないんでな。

 それよりどうするつもりだ?」

 

俺は早々に本題に入ろうとした。

口裏合わせが必要とメイドが言ったのだから、おそらく皇帝にはすでに何かしらの考えがあると思ったからだ。

 

「随分と急いでいるな、まあ良いだろう。

 わしはお前……リオンを理由に使わせてもらおうと思っている」

 

「俺を理由? どういうことだ?」

 

「お前もわかっているだろうが、留学するのはミアだと言うのは無理がある。

 本当に留学するのはリオンであることの方が納得させやすいのだ。

 リオンは王国を調査すると言う目的で留学することにする。ミアはそのついでだ」

 

俺はまだ若い。実際に俺と同じ年齢で学園に通っているものは数多くいる。

ミアが留学するよりは俺が留学するということのほうが何の問題もない。

 

「そういう体でミアを留学させるのはわかった。

 だけど今度は逆に対外的にはミアを留学させるついでに俺が一緒に行くと言うことにするわけだな?」

 

「そう言うことだ。

 さっきの話はあくまで帝国国内でのこと。

 王国相手には、ミアを留学させるついでにお前が守護騎士としてついていくことにする。

 守護騎士は帝国の風習だしな。仕方ないと納得させるのはたやすいだろう。

 王国としても今は帝国と争っている場合ではないからな、お前が騎士だとしても受け入れることで関係を良好させられると思えば喜んで受け入れるだろう」

 

「わかった。

 ミアからは俺から伝える必要があるな」

 

「ああ、そうだ。

 ミアにはお前から伝えて欲しい。

 メイドからの報告でも、どうやらミアはお前を慕っているみたいだからな。

 そうそう、1つだけ言っておくがミアに手を出すなよ?

 そんなことしたら帝国皇帝の全権利を使ってお前を地の果てまで追い込んでやるからな」

 

いきなり皇帝が恐ろしいことを言う。

そもそもこいつがミアと親しくなれと言ったのだ。俺にそのような気持ちがないにしても、そんなことを言われる筋合いはない。

 

「怖いことを言うなよ!

 って言うか、公私混同させるな!」

 

「私は皇帝だ。

 皇帝の言うことなら、たとえそれが私事であっても公事にもなる」

 

「わかったわかった。

 安心しろ。俺にその気はねーよ。

 って言うか、何かを頼む相手に何を言い出すんだまったく……」

 

俺はもうこれ以上会話するのはごめんだと思い、席を立って応接室を出る。

 

「よろしく頼んだぞ、守護騎士」

 

帰り際にそう言われて俺は応接室を去った。

全くおそろしいじじいだ。

翌日、俺はいつものようにミアに会いに行った時に守護騎士になることを告げた。

 

「守護騎士?」

 

「守護騎士って言うのは、帝国の上級騎士だけが持つ権利だ。

 一人を選んでその人の事を守り続けることを約束する。

 つまり選んだ相手に付き添うということだな。

 ミア、俺はお前の守護騎士になることを誓おう」

 

「え? 私の……守護騎士……?

 えっ、えっ。リオン様が私の守護騎士ーっ?!」

 

ミアは驚いていたが、俺が見る限り嫌と言う感じてはなくてうれしそうな感じだった。

 

「その、本当に私なんかで良いんですか?

 騎士様ならもっとふさわしい貴族令嬢とかが……」

 

「前にも言ったと思うが俺は元平民だ。

 確かに今は騎士団長と言う立場だが、貴族は血筋を尊ぶ人種だからな。

 俺なんかの守護を喜ぶようなやつはいないだろうよ」

 

「若くして帝国最強の騎士団長が人気ないわけないじゃないですかっ。

 この学園内でだって、リオン様の姿を見るだけでキャーキャー言ってる女性がたくさんいるんですよ?

 気づいてないかもしれませんが、学園の外にたまに貴族令嬢が乗ってる乗り物が来てますからねっ」

 

「そう言えば、たまに騒いでいる集団がいるなと……」

 

「ミア、相棒はそういうの鈍感だから何言っても駄目だぜ」

 

ひどい言われようだ。そもそも騎士になるまでモテたことなんてなかったんだから仕方ないだろと言いたい。

 

「でも、嬉しいですっ。

 これからもよろしくお願いしますね」

 

ミアには守護騎士のことを了承してもらえた。

その翌日から、俺はミアの守護騎士として動くことになった。

とは言ってもやることは変わっておらず、ミアを外出に連れて行くだけだ。

外出に連れていくこと=街の警邏のような形になっていて、ミアもそれに同行できてうれしそうだった。

そして守護騎士になることを了承してもらった日からきっちり一週間後。

軍部経由で皇帝から手紙が届いた。内容は帝国への留学の件だ。

俺はそれをミアに伝える。

 

「つまり本当の目的はリオン様の留学なんですけど、それをカモフラージュするために私の留学に騎士様がついてくることにするって言うことですか?」

 

「ああ、そう言うことだ。

 王国相手には、俺は守護騎士としてミアについて留学すると言うことになる。

 帝国の風習だから仕方ないという形だ」

 

「えっと……私なんかが騎士様のお役に立てるのであれば、喜んで受け入れます!」

 

今まで体調がずっと悪かったせいで、誰かの役に立てたことなんてなかったんだろう。

役に立てることが嬉しいかのように、ミアは受け入れてくれた。

しかし俺はミアを騙すことが心苦しかった。

だけどこれはミアのためでもあるんだ。決してミアの人生を悪くするわけじゃない。

そう思うことにして、ミアに留学してもらうことを納得してもらった。

 




原作との間をようやくカバーできました。
次からは原作と同様、ミアが留学する話になります。
簡潔よ停の30話まで後7話!


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24話

1週間開いちゃってすいません……。
忙しいところに研修が重なって時間がとれませんでした。
なので、できるなら今日2話更新しちゃおうかと思います!


 

帝国から王国に出ている定期便の船に乗り込んだ俺たちは、ホルファート王国の地を踏んだ。

ここがあのホルファート王国かと思うと、なんとも微妙な気持ちしか出てこない。

何せ俺はこの国を基にしたゲームのせいで死んだも同然だ。

いい思いを抱いているはずなどない。しかも今後アルトリーベ一作目に出て来るやつらと顔を合わせるかと思うと一層嫌な気持ちになるのだ。

だって考えても見て欲しい。どうして男の俺が好き好んで自分よりイケメンの男共に顔を赤めさせられながら愛を囁かれないといけないんだ?

そんなことを思っていたら、同じように船から降りたミアから声を掛けられた。

 

「騎士様っ。王国ですよ王国っ。

 私、あの町から出たことさえなかったのに、他の国に来ているなんて今だに不思議な気分です」

 

ミアはあの後、定期的にブレイブの出す薬を飲んでいることもあって健康的になった。

運動もできるようになり、本来の性格だろうお転婆が見え隠れするようになって嬉しい。

 

「(ブレイブ)」

 

隠れているブレイブに念話で声を掛けると、ブレイブが辺りを探知してくれる。

 

「(大丈夫だぜ相棒。どうやら敵意を持ったやつどころか隠れてるやつさえいない)」

 

ブレイブから大丈夫と言う言葉が聞けてホッとした。

その場で待っていると、王国から俺たちを迎えに来たらしい者に声をかけられる。

 

「帝国からの留学生、ミア様と騎士のリオン・ルタ・ヘリング様ですね?」

 

「ああ。俺がリオン・ルタ・ヘリングだ。

 貴殿は?」

 

「若くして帝国の騎士団長となられた騎士殿に敢えて光栄です。

 私は学園長のルーカスと申します」

 

美しい所作で礼をした男性は、なんと学園長だった。

アルトリーベ1作目には学園長なんて、学園長と言う言葉でしか登場しなかったのでどんな人物かは知らなかったのだが……。

若い頃はさぞモテただろうと言う

 

「学園長自らの出迎えとは……感謝いたします」

 

「ありがとうございますっ」

 

俺が挨拶をしているのを見て、ミアも急いで近寄ってきて学園長に挨拶した。

皇帝から聞いているがこのルーカスと言う学園長。実は現王の兄らしい。

弟より優秀であるのに、王位を継がなかった変わり者だという話だ。

当然能力は高いらしく侮ることはできない相手だ。

 

「いえいえ、これから私の学園の生徒となるお二人を迎えるのですから当然のことです。

 まあ本当は我が国も人出が少ないからこうして私が出向くことになったのですがね。

 まあせっかくですから話は馬車の中でしましょうか」

 

どうやら学園に向かう馬車の中で話をすることになりそうだ。

空を飛ぶ船で国家間を移動しながら、王都の中は馬車で移動するなんてまた変な話だ。

だが所詮ゲームの世界の話なのだからでたらめなのは仕方ない。そう思ってミアに手を貸して馬車への搭乗を補佐する。

 

「ありがとうございます、騎士様」

 

ミアが照れながらそう告げた。

 

「ミスタリオンはとても紳士ですね。

 帝国の騎士と言うのは皆が皆ミスタリオンのようなのでしょうか」

 

席についた俺にルーカス学園長がそう言う。

 

「そう言うわけではないですね。

 帝国の騎士と言えどピンキリです。

 今は改革がされて皆が皆紳士になるようにしていますけどね」

 

騎士トレヴァー主導の元、という言葉を敢えて言わずに告げる。

目の前のルーカス学園長は笑顔でうんうんと頷いている。

 

「ところで王国はここ数年で戦争があったとか。

 情報としては聞いていますが、今はもう安定しているのでしょうか」

 

「ファンオース公国とのことですかな。

 他の国にも知られていることですから、隠しても仕方ないですな。

 あの戦争は、我が国の聖女と若き英雄たちによって無事解決されましたよ。

 まだ若いあの者達が今後国の中核を担うことになれば、王国は安泰でしょうな」

 

聖女とは間違いなくオリヴィアのことだろう。

ゲームの中でもオリヴィアは聖女と呼ばれていた。聖女専用の装備をすることで魔法の能力は各段にアップし、そして何より聖女の力をもってすれば間違いなく1作目のボスは倒せるはずだったし。

 

「聖女ですか……。

 相当な力を持っていそうですね。一度お会いしてみたいものです」

 

「それならば学園に行けば会うことができましょう。

 聖女は平民の出ですからな。

 学園でのあなたたちの補佐役を頼んであります。

 他の者では、あなたたちを虐げかねませんのでね」

 

聖女オリヴィア。ゲームとこの世界とでどれだけの違いがあるかはこの目で確認しなければならないと思う。

さすがにあまり王国のことに突っ込んでは怪し前れてしまうと思い、残りはミアに質問はあるかと聞いたり、学園内のルールの様な物を聞いたりして過ごした。

そして、ようやく学園についた。

馬車を降りて学園を見ると……そこには豪華絢爛な建物があった。

ゲームで見たアルトリーベそのままだ。

帝国の学園は必要最小限の衣装しか凝らしていないのに対し、こちらは王城かと思えるほど衣装の凝った造りが多くされていた。

 

 

「わぁ……ここに通うことになるんですね」

 

学園を見たミアが感動に目を潤ませている。

ミアは体が弱かったし、学園ではまともに友人を作れていないようだった。

こうして王国の学園に留学できるようになったのは、ミアに新しく友人を作って欲しいということにも違いないと思う。

ミアは性根の良い子だ。所属する国が違ってもきっといい友人ができることを祈りたい。

 

「あなたたちが学園に留学する方々ですか?」

 

馬車を降りて学園を見ていると声を掛けられる。

そこには……アルトリーベ1作目のヒロインがいた。

ゲームの中ではお花畑満載だったが、こう見るとそうは思えない。

ただの可愛い女性と言った感じだ。ただし胸はでかい。

 

「帝国騎士で、こちらのミアの守護騎士であるリオン・ルタ・ヘリングです。

 貴方は?」

 

すでに知っていると言うのはおかしいので、敢えて名前を聞く。

 

「私はユリウス・ラファ・ホルファートだ。

 お前が帝国の騎士か、一体何しに来た」

 

「殿下っ」

 

しかし返事をしてきたのはオリヴィアと俺の間に割り込んできた、王国の第一王子であるユリウス・ラファ・ホルファートだった。

しかも威嚇までしてくると言うおまけつきだ。

王国の王子がオリヴィアについてくると言うことは、オリヴィアはユリウスルートを通ったのだろう。

 

「(相棒、近くに4人隠れてるぜ。襲って来るつもりはないようだが、気を付けておけよ)」

 

4人と言うのはおそらく1作目の他の攻略キャラたちのことなのだろう。

俺がプレイした1作目には帝国からの留学生なんて話はなかったからわからないけれど、ユリウスの護衛できたのか?

それとも……。

 

「わざわざ帝国から来られたのに威嚇するような真似をしてすいません。

 ユリウスは聖女と呼ばれている私が害されないか心配してくれているだけなんです。

 悪気はないので……どうか許してもらえたら嬉しいです」

 

「大丈夫です。ユリウス王子の言葉でわかりました。

 あなたが有名な聖女様なのでしょうから、心配が過剰になるのも当然でしょう。

 しかし私は今武器も持っていませんし、私が守護するミアを危険に晒すようなことは致しませんよ」

 

近くにいるミアは、王国王子と聖女の組みあわせに緊張していてどうも話には入って来れないようだ。

 

「良かったです……。

 それにしても、殿下も威嚇したらダメって言ったじゃないですか」

 

「オリヴィア、ユリウスと呼んでほしいと言っているではないか。

 私はオリヴァアの思ってのことをだな……」

 

「ダメです。メッですよっ」

 

「悪かった。謝るから許してくれ、オリヴィア」

 

俺は何を見させられているのだろうかと思う。

急に威嚇してきたと思ったら今度はいちゃらぶを見せつけられている。

隣のミアだって急に雰囲気が変わったのでまた余計に緊張してしまっている。

 

「そ、そのだな……。

 オリヴィア……殿は学園を案内してくれるために来たのだろう?

 ルーカス学園長からそう聞いたのだが」

 

「そうでした!

 話がそれてしまってすいません。

 それと、オリヴィアで構いませんよ」

 

「大丈夫だ。

 では、俺がオリヴィアを襲わないと言うのも少しは理解してもらえたと思う。

 だからそこで隠れている4人に自己紹介を要求してもいいかな」

 

先ほどブレイブに言われた、隠れている4人の方向を見る。

イチャラブを始めたユリウス王子とは違い、ブレイブからは今だ4人は警戒を解いていないと聞かされていたので俺はそれを指摘する。

 

「えっ」

 

しかし当のオリヴィアはどうやら4人が隠れていることを本気で知らないようだ。

よって俺が隠れているやつらを睨みつけてやると、バレたので仕方ないと言った感じで草むらから出てきた。

 

「いやいや、まさかバレてしまうとは……」

 

緑色のやつだ。遠距離攻撃が得意で、もし俺を隠れて攻撃してくるならこいつだと思っていた。

確かユリウス王子の乳呑兄弟だった。

 

「帝国の騎士もなかなかやるな。そのうち手合わせ願いたいもんだぜ」

 

次は赤色。隠れていたことがバレていたというのに手合わせをしたいとは本当に脳筋だと思う。

なぜか抜身の槍を持っている。それ常に持ち歩いてるのか?

 

「……」

 

青色。メガネをかけた、沈黙の剣聖。

ファンオース公国戦ではかなりの活躍をして、若くして王国の剣聖になったはずだ。

 

「草むらなんかに隠れていたせいで髪の毛に葉がついてしまったよ。

 僕の美貌が台無しだ」

 

紫色。ただのナルシスト……なわけがない。ナルシストには違いないが、こいつは魔法が得意だ。

ゲームでは撃たれ弱かったがなめてかかるわけにはいかない。

 

その4人が近づいてくる。隠れることはやめたが俺を警戒するのはやめていないらしい。

まさか、いきなり攻撃してくる気か? そう思って身構えた時だった。

 

「みんな! 謝って!

 留学生を多数で脅かすとかどういうつもりなの?」

 

聖女オリヴィアは自分が知らされてなかったことに怒ったのか、それとも俺たち留学生を脅かしたことに怒ったのかはわからないが。5人に対して怒っていた。

 

「いや、これもオリヴィアのことを思ってだな……」

 

ユリウス王子が真っ先に弁解する。気持ちはわかる。帝国でも同じようなことがあれば、きっと俺がユリウス王子の役を買って出ることになっただろう。

 

「殿下の言う通りです。

 ジャンケンで負けてしまい、隠れて警戒する役に回ってしまいましたが、あなたを心配していたのですよ?」

 

「そうだぜ。まあ俺がいればどんな相手でも平気だったけどな」

 

「あなたを傷つける輩など私が魔法で片づけていましたよ」

 

「みんな、謝って! 留学生の二人に謝って!」

 

どうやら5人はオリヴィアが本気で怒っていたことを見抜けなかったようだ。

再度オリヴィアに本気で怒られた5人はさすがにまずいと思ったのか、俺とミアに素直に頭を下げて謝った。

しかし……5人がオリヴィアの言うことを素直に聞くと言うことは、これってもしかしてユリウスルートじゃなくてハーレムルート?

こいつ、清楚な感じを出しながらハーレムルートを通ったのか?!

俺は今日一番驚いていた。

ちなみにミアは何が起きているかわからずただ茫然としていた。

 



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25話

謝罪の良い日2度更新!

10月16日に2話更新しています。
先にこの話を読み始めた人は、1つ前の24話も更新してありますのでそちらをお読みください。


 

まずは俺たちが今だに荷物を持っている状態をなんとかするため、寮に案内された。

ミアはオリヴィアに案内されて女子寮に連れていかれ、俺は5人に連れられて男子寮に来ている。

歩きながら自己紹介をしてくれたので、アルトリーベ1作目の攻略対象である5人なのが間違いないとわかった。

第一王子のユリウス・ラファ・ホルファート。

ユリウスの乳呑兄弟であるジルク・フィア・マーモリア。

公国との国境を守っているフィールド家の嫡男。ブラッド・フォウ・フィールド。

現剣聖、クリス・フィア・アークライト。

五人の中では総合的な戦闘力はナンバーワンのグレッグ・フォウ・セバークだ。

 

「なあリオン、今度手合わせしないか。

 お前って帝国で騎士団長なんだろ?

 学園内で相手になるのがクリスくらいでさ、飽きてきたんだよな」

 

「私も手合わせをしてみたいものだ。

 帝国の騎士と言えば他国に知れ渡る強者と言う話だ」

 

「僕は接近戦は得意じゃないから、そういうのは二人に任せるよ」

 

「なら私も手合わせしてみたいな」

 

「殿下はダメですよ? 王妃様の許可も取れてませんよね」

 

「なぜ私だけダメなんだっ」

 

前回の茶番劇以来なぜか五人の俺に対する態度が緩和された……だけじゃなく、むしろ馴れ馴れしくさえある。

赤と青は元々戦闘マニアだから俺に対するこういう間の詰め方はわかるとして、残りの三人の態度はなんなのだろうと思う。

 

「ユリウス王子たち、さっきと態度が違いすぎないか?」

 

俺の前だったり横だったりを歩いている五人をに問うと、

 

「オリヴィアはあの調子だろ?

 どんな相手にもああやって優しくするもんだから心配で仕方なかったんだ。

 だからどんなやつかわかるまではああして警戒しようって話になった。

 悪く思わないでくれよな」

 

真っ先に赤色が返事をくれた。

ごくごく普通の返答なのだけど、何か調子が狂う。

赤色ってこんな性格だったっけ。

 

「俺も調子を崩されたしな。

 その気持ちはわかる」

 

あの性格で行動されては護衛する側はさぞ大変だろうなと思う。

 

「ここです、リオン・ルタ・ヘリング。

 ここがあなたの部屋です」

 

皆の足が止まったので俺も足を止めるとどうやら俺に当てがわれる部屋についたらしい。

中に入るとどうも違和感しか覚えないほど豪華な部屋だ。

王国の権威とやらを示すために他国からの留学生にはこうして良い部屋を与えている可能性があるが、華美すぎる気しかしない。

 

「随分と良い部屋だな」

 

部屋を見渡しながら言うと、

 

「その部屋は上級貴族用の部屋だからね。

 帝国騎士団長なら、帝国の上級貴族と同等なんだろう?

 そういう部屋を与えるように王家から指示が出ているのさ」

 

なるほどな、と思う。

 

「(相棒、盗聴器が仕掛けられているぜ)」

 

すぐさま部屋を調べたブレイブから念話が入った。

 

「王国は留学生の部屋に盗聴器を仕掛けるしきたりでもあるのか?」

 

そう五人に告げると、張本人以外の4人からそいつに叱責が飛んだ。

 

「「「「ジルクッ、お前!」」」」

 

俺もわかっていたが、どうやら4人も誰が犯人かすでにわかったのだろう。

 

「いやぁ、バレてしまいましたか」

 

そう良いながら、部屋の装飾品ごと仕掛けた盗聴器を回収していく。

ツボ、サイドテーブル、絵画。割とありがちなところに仕掛けたやつを持って部屋を出ていこうとするので再度声を掛ける。

 

「おい、1つ忘れてるぞ」

 

そう言いながら、親指で後ろのカーテンを指さす。

その瞬間、ジルク以外の4人が硬直した。

 

「あ、忘れてました」

 

あくまでトボけようとするジルクに対し、4人が仲間とは思えない容赦ない言葉を浴びせていく。

 

「このことはオリヴィアに入れておこう、もちろん母上やルーカス学園長にもだ」

 

「ジルク、本当に屑ですね……。

 僕だってそこまでしませんよ」

 

「いくらなんでも陰険すぎだろ。実力で示せばいいんだって」

 

「騎士の精神に反する行動だな、屑」

 

それも仕方ないと思う。

そして俺はわかった。この中で一番警戒しないといけない相手は緑のジルクであると。

その後心配になってミアの部屋に行き、盗聴器を探してみるがミアの部屋には1つもなかった。

最初どうしてそんなことを気にするのかと驚いていたオリヴィアに、ジルクが俺の部屋に盗聴器を仕掛けていたことを告げたところ、5人は後ほどオリヴィアに呼び出され2時間近く説教をされたらしい。

どうしてジルク一人ではなく五人全員かと言うと、いつも何かしらやらかすので連帯責任だそうだ。

そして何も心配することがなくなった部屋で休んで、翌日学園の授業が始まった。

最初の授業で俺とミアの紹介がされた。

 

「帝国からの留学生のミアくんと、リオン・ルタ・ヘリングくんだ」

 

簡単に紹介され、席につく。

教室を見回し一人の要注意人物を見た。

名前はエリカ・ラファ・ホルファート。ユリウスの妹で王国の第一王女だ。

一年ほど前まで病弱気味で外に出て来ることはほとんどなかったと言う話だが、皇帝の話によるとこいつが3作目の悪役令嬢だと言う。

1作目でオリヴィアがユリウスルートを辿ると悪役令嬢のアンジェリカにいじめられるように、3作目ではミアはこのエリカにいじめられるらしい。

俺がいる間は可能な限り守ろうと思う。

最初の授業が終わると、エリカは早速ミアの前にやってきた。

 

「あなたが留学生ね」

 

きつい性格をそのまま表現したような顔だ。

 

「は、はい。王国は不慣れで、皆様にご迷惑をおかけすると思いますが……」

 

「そうね、とっても迷惑だわっ」

 

ミアの言うことを途中で遮って迷惑と言って来る。

すぐに俺はミアとエリカの間に入りかばう。

 

「エリカ王女。私はリオン・ルタ・ヘリング。

 帝国騎士団長にしてミアの守護騎士です」

 

あたかも何もなかったかのように挨拶をすると、俺をチラとみてエリカ王女がきつく言ってくる。

 

「ふん、知ってるわ。

 あなたたち、帝国から来たからって王国に迷惑をかけないことね。

 大人しくしてるなら何も言わないわ、それだけよっ」

 

そしてこちらの反応も待たずに教室を出ていった。

 

「はぁ……驚いた。

 王家の方に声を掛けられるなんてびっくりです」

 

実際は帝国皇女なのだけど、自身を平民だと思っているミアにはさぞ驚きだろう。

俺もここまでエリカがひどいとは思わなかった。

もし俺がかばわなかったら何を言われていたのかと思う。

ただエリカの取り巻きは割とまともらしく、エリカの後を追いつつ頭を下げていたのが印象的だった。

 

「ミア、部屋に誰かが訪れてもドアを開けたりするなよ。

 オリヴィアは平気そうだが、王国の子女全員がオリヴィアのようだとは限らないからな。

 元々体調があまりよくないことは王国側にすでに告げてあるんだ。

 何かあったら体調が悪いので俺を呼んでほしいと言うんだ」

 

「わ、わかりました。

 騎士様にご迷惑おかけしてすいません」

 

「気にするな」

 

頭を撫でながらそう言ってやると、ミアは顔を赤くして喜んでいた。

前世の妹がこれほど可愛かったらもうちょっと俺も違ったのにな……と遥か昔を思い出していた。

 

 

 

「なあリオン。武器屋に行かないか?

 俺がよく通ってるとこがあるんだ」

 

「そこならアークライト家もよく使っている。

 私も剣の整備をお願いしたいので行こうじゃないか」

 

「良いですね。私もちょっと欲しい銃があるので一緒に行きましょう」

 

「僕も行って良いかい?

 その近くに確か魔道具屋があったはずだよ。

 王国の魔道具も面白いんだよ」

 

「お前たち、私を置いていくな!」

 

その日、学校が終わると5人に絡まれた。

グレッグはすでに俺のことを友達と思っているのか、気兼ねなく誘って来る。そうすると、青やら緑やら紫やらが群がってきて、なぜか団体ですでに行くことが決まっている。

最後になぜか扱いの悪いユリウス王子が、追いかけて来ると言った感じだった。

 

「お前たち、俺はミアの守護騎士だぞ?

 守護騎士が守護対象を置いて出かけるなんて話があってたまるか!」

 

ど正論をぶつけてやる。

 

「それもそうだな。

 そしたら、ミアだっけか。も一緒に呼んでいこうぜ。

 ミアが来るならオリヴィアも一緒に来るだろうしな」

 

「それが良いな。

 ジルク、オリヴィアとミアを呼んできてくれ」

 

「わかりました。

 しかし殿下。呼ぶのはミアがメインで、オリヴィアがついてくるのはついでですよ。

 その言い方だとオリヴィアを呼ぶのがメインになっていますが」

 

「殿下はオリヴィアを前にするとポンコツになるからね、全く仕方ないよ」

 

5人はハハハと笑う。

ゲームとの違い、五人の人間っぽさになんだか呆れてしまう。

もっとダメなやつらだと思っていたのにと思うが、ゲームではこいつらのせいで攻略が困難だったのだ。

それをしっかりとクリアしているのだから、かなり成長しているに違いないとも思う。

すこしするとジルクがミアとオリヴィアを連れてきた。

 

「騎士様、お待たせしました」

 

「ああ、ミアすまないな。

 俺が学園を離れることになったせいで連れていくことになって」

 

「いえいえ。私も王都を見て回って見たかったので嬉しいですっ」

 

ミアは俺の役に立てて嬉しいと言った感じだ。

王都を見回れて嬉しいと言うのはついでのように見える。

 

「リオンさん、すいません。

 五人が無茶言ったみたいで……」

 

「いや、構わない。

 俺も騎士として王国の武器には興味があったしな」

 

一応俺も騎士として王国内の調査を行う身である。

よって武器屋に連れていってもらえるなら大喜びだ。

しかもクリスの話だと、親子で剣聖だったアークライト家御用達と言う話だ。

おそらく王国で最も良い武器を揃えている可能性もあるのだ。

 

そして俺たちは学園を出て武器屋へ向かった。

五人は学園で相当な人気らしく、行く先々で女性がキャーキャーと叫ぶ。

アルトリーベは俺が妹にやらされたゲームであるが、女性人気は相当のものだったし確か売れ行きもかなりのものだったと聞いていた。

現代でもこの世界でもこの5人はかなりの人気なのだなと思っていると、

 

「リオンくんはモテますね。

 エリカ王女からミアさんを守ったと言う話はやはり華がありましたね」

 

ジルクがそんなことを言ってくる。

 

「は? 俺がモテるわけないだろ?」

 

「本気で言ってるのか?

 王国には守護騎士なんて制度はないからな。騎士様に守られたいって言う女子で学園はいっぱいだぞ?」

 

「私も平民の学園生から何度かリオンさんのことを聞かれましたよ。

 やっぱり守護騎士って言うのは女性との憧れみたいです」

 

「なんだい? オリヴィアもリオンにお熱なのですか?」

 

「いえ、私には皆さんがいますから……」

 

ブラッドに言われて赤くなるオリヴィアを見て、なんなんだこいつらはと思う。

オリヴィアの純粋さに心を打たれて……と言えば良い物だが、実際はどうなのかわからない。

だってハーレムルートを辿るようなやつだよ?! ろくなやつじゃないに違いない……と思うんだけどなあ。

俺も正直オリヴィアがよくわからなくなってきていた。

 

「騎士様、オリヴィアさんは私のことをすごくよくしてくれるんですよ。

 ご飯を食べる時に誘ってくれたりしますし、友人を紹介してくれたりするんです。

 おかげで授業が終わった後もみんなでお話ししたりして楽しくさせてもらってるんです」

 

ミアにそう言われてはこれ以上オリヴィアを疑うこともできない。

 

「そうか、ありがとう」

 

オリヴィアに頭を下げると、オリヴィアは焦ったようにだ、大丈夫ですよっ。と言っていた。

五人はそんな態度のオリヴィアを微笑ましそうに見ていた。

少し歩いて武器屋につくと、思い思いに皆で武器屋を見回る。

だが……俺の両隣には常にグレッグとクリスがついていて離れることがない。

 

「お、良い物を見つけたな。

 この槍は俺もよく使うぜ。お勧めだ。使い方教えてやろうか?」

 

「何を言っているんだグレッグ。

 騎士ならば剣に決まっているだろう。

 リオン、これがアークライト家でも使っている形の剣だ。

 刃部分の幅や柄の大きさ、形を変えたいのであれば私が店主に言ってやろう」

 

ものすごく、現代のアパレルショップの店員さんを思い出す。

一人でじっくり見たいのに、どうしても声を掛けて来るので居心地が悪い。

実際俺はブレイブが武器を出してくれるので武器を買う必要なんてないので武器屋へは本当に見に来ただけだと言うのに。

と言うかお前らは自分の武器を見てもらえよ! 特にクリス、お前は武器の整備に来たんじゃねえのか!と声を大にして言いたい。

かたやミアはと言うと、王国の学園生はダンジョンに潜ることもあると言うので五人でミアに合う武器屋防具を見ていた。

ミアは体も小さく、体力もそこまで多くないのであまり大きい武器は持つことはできない。

そのこともわかってか、ブラッドとジルクが真剣に話しているのが有難かった。

オリヴィアもちゃんと間に入って会話に参加してくれてる。

ミアに友達ができるか不安だったが、まさかこいつらが一番の友人になってくれるとはな……と言う気分だ。

 

「ところで、この武器屋にはもっと高級な武器とかはないのか?

 例えば希少金属のやつとか」

 

「ああ、希少金属の武器は王国に申請を出さないと作れないからな。

 普通には売ってないぞ。なんだ、希少金属の武器が欲しかったのか?」

 

「希少金属はダンジョンでもなかなか手に入らない。

 仮に手に入っても、リオンは帝国からの留学生。

 申請は通らないだろう」

 

なるほど、と思うついでにそうだろうなとも思う。

こうして俺たちは武器屋を適度に楽しんだ。

 




5馬鹿完全登場!

敢えて会話に誰が話していると書いてないのですがわかりますかね?
わかりにくければ次から変えていこうと思います。


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26話

今回少し短いです。
原作に近づいていく話になっているので、もう一度原作を見直させてもらわないとなー!って思ってますね


 

「今日の授業はダンジョンに行きます。

 皆さんは初めてのダンジョンになりますが安心してください。

 上級生がサポートしてくれますので」

 

今日は俗に言うダンジョンの日。朝一番で教師からそう伝えられた。

ダンジョンの日には丸一日かけてダンジョンに潜ることになるので他の授業は一切行われない。

そしてダンジョンに入る最初の数回は、上級生がサポートのため一緒に潜ってくれるらしい。

 

「ってお前らかよ……」

 

「俺たちでは不満か?」

 

俺とミアの前に並ぶのは例の五人とオリヴィアだ。

俺たち留学生には殿下たちがサポートとしてつくらしい。エリカ王女にも多くのサポートがついている。

 

「4人はともかく、殿下がこんなところで怪我したら問題になるだろうが」

 

そうなのだ。4人は……と言ってもこいつらも有力貴族だから怪我なんてされたら困るのだろうけど、殿下はこの国の次期王候補だ。

そんな人に怪我なんてさせたら俺たちまで問題に巻き込まれかねない。

 

「その通りなんだけどね。殿下は実力もあるからこういう時来たがるんだよ」

 

さも当たり前のように言うけど、それを止めるのがお前らの役割だろ紫!

 

「まあ安心しろよ。俺とクリスがサポートしてやるからよ。

 とは言うが、お前たちが余裕なうちは俺たちは何もしないからな」

 

「少しでも怪我をしたら言ってくださいね、私が治します」

 

何と言う完全サポート体制だろう。

しかしこいつらの実力を見たかったと言うのに、逆に俺だけが実力を見られると言う状況になってしまった。

まあ、ただのモンスター程度なら手を抜いてでも勝てるだろうと、俺はこの国に来て購入しておいた剣を取り出す。

ブレイブに武器を出させるわけにはいかない。

ミアも昨日選んでもらったショートソードを取り出して、俺の斜め後ろに来た。

 

「ミア、サポートしてくれるからと言って無理しなくてもいいからな」

 

「ありがとうございます、騎士様。

 もしもの時はよろしくお願いしますっ」

 

二人で一階層を進むが、一階層には武器を持っていれば勝てる程度の弱さのモンスターしか出ない。

剣技と呼べるようなものを振るう必要もなく、二人で飛んできた虫を振り払うかのようにして先に進む。

普段まともに運動ができなかったミアが、ダンジョンであれば戦うことができると言うのが驚きだ。

適度に休憩を挟みつつ、二人で進むと二階層への入口に差し掛かった。

 

「ここからはモンスターが少し強くなるぜ。

 正面以外のモンスターは俺たちが相手をするから、正面だけを注意してくれ」

 

正直助かる。

俺一人であれば問題ないが、ミアに注意を配りながら戦うのはなかなかに大変だ。

いくらオリヴィアが怪我を治せるからと言っても、怪我なんて負わないに越したことはない。

なるべく多くのモンスターが俺に向かって来るように立ち位置を変えて戦う。

ミアもそれに気づいているようで、決して俺の邪魔にならないように立ちまわる。

 

左右と後ろを5人がカバーしてくれることもあって、俺たちは難なく正面に来る敵を倒していく。

そして最初は不慣れだったミアもどんどん慣れていって、しまいには一匹位であればモンスターを任せられるようになっていた。

 

「騎士様、私戦えてます……。

 こんな風に動けるようになるなんて」

 

ミア自身も驚いているようだ。

今まではモンスターは全て俺が倒していたが、ミアがモンスターを倒すとモンスターが消える時に発生する魔力はミアが吸収できるようになるのだろうか。

それともこのダンジョンが単純にミアと相性が良いのだろうか。

皇帝もああ言ってたし後者かもしれないが。

そして俺たちは二階層を無事突破し、三階層に突入した。

だが三階層を進んでいくと先ほどまで調子のよかったミアが今度は体調が悪くなった。

 

「き、騎士様……すいません、ちょっと休んでも……」

 

顔が若干赤くなっていて息も粗い。

額に手を当てるとかなりの熱を出していることがわかった。

 

「(相棒。ミアのやつ、魔力過症にかかってるぞ)」

 

「(なんだそれは?)」

 

「(旧人類がたまにかかっていた病気だな。

  ミアは今まであまり魔力を取り込むことができてなかっただろ?

  急に魔力を取り入れることができるようになったせいで、体がそれに過剰反応してるんだ。

  少し休めば治るが、今日のダンジョン攻略はこれ以上は無理だな)」

 

「オリヴィア、ミアが熱を出しているみたいなんだ。

 視てもらえないか?」

 

俺はミアの本当の症状を隠して、実際に体温が上昇していることもあり熱と言ってオリヴィアに任せる。

オリヴィアなら魔法で癒すこともできるだろう。

 

「結構熱が出てますね。

 今日はこれ以上は無理です。戻ってミアさんには休んでもらいましょう」

 

オリヴィアの話に全員が頷き、俺がミアを背負ってダンジョンから脱出した。

そしてミアを保健室へと運び、俺自身はミアが目覚めるのを待った。

 

「騎士様……?」

 

ベッドの横で本でも読んで時間をつぶしていると、どうやらミアが目覚めたようだった。

ただまだ顔は若干赤く、熱はさほど収まっていないように見える。

 

「ミアか。

 ダンジョンのことは覚えてるか?」

 

「はい。私モンスターを倒したら体の調子がよくなって、どんどん倒したらもっとよくなるかもって思ったんです。

 そしたら急に体が熱くなってきて……。

 ごめんなさい、また迷惑かけちゃいました」

 

「気にするな。

 それより熱がまだ下がってないみたいだからな。

 もう少し寝ておけ」

 

「わかりました。

 あの……お願いがあるんですけど」

 

「なんだ?」

 

「手……握っててもらっていいですか?」

 

そう伝えて来るミアの目は涙をためているようだった。

 

「わかった。握っててやるからゆっくり眠るんだぞ」

 

「ありがとうございます」

 

ミアの手を握ってやると、その手は俺より熱を帯びていた。

そして俺と年が近いと言うのに、まだ小さすぎる手は妹と言う存在を大きく感じさせた。

 




前回から大分時間が空いちゃいましたね・・・


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27話

さあ、とうとう原作で言うところのミアを覚醒させるためのダンジョン本気突入です。


 

「頼みがある」

 

「聞こう」

 

翌日、俺は殿下たち5人に声をかけた。

理由は王国のダンジョンを攻略するためだ。

ミアがずっと前からミアが体調不良であることを告げ、ダンジョンで戦ううちにミアの体調がよくなっていったことを伝えた。

 

「ミアの体調に影響をする何かがあのダンジョンにあるのではないかと踏んでいる。

 もっと奥……ダンジョンの最下層には何かあるのではないかと」

 

「ダンジョンでモンスターを倒すと体調がよくなる?

 そんな話聞いたことありませんね」

 

「リオンは嘘をついてるようには見えない。

 リオンは信用に値するやつだ」

 

「そうだな! リオンは悪いやつではないぜ」

 

「僕もそう思うよ。

 モンスターを倒すと体調がよくなることは聞いたことがないけれど、実際に僕たちも目にしていたからね。

 ミアの調子がよくなっていくのは感じていたよ」

 

「そうだな。

 あのダンジョンはオリヴィアの聖女のアイテムがあったダンジョンだ。

 もしかすると他にも何かあるのかもしれない」

 

俺たちが潜っているダンジョンはゲーム内で聖女のアイテムが見つかるダンジョンでもある。

ファンオース公国を無事退けていると言うことは間違いなく聖女のアイテムは回収されたはずなので、こいつらもオリヴィアと一緒に入手したのだろう。

王国としてはある意味神聖なダンジョンなわけで、であれば不思議な効果の1つや2つあってもおかしくないと思ってもおかしくない。

皇帝から聞いた話はゲームの攻略情報であるから間違いはない。

 

「じゃあ、協力してもらえるのか?

 どこまで潜ることになるのかわからないが……」

 

「聖女のアイテムを手に入れた階層よりは深く潜る必要がありそうだね」

 

「ちょうどいいぜ。最近体がなまって仕方なかったんだ」

 

「良い機会だ、俺たちの実力を見せてやろう」

 

「そうだな。事前に母上に了承も取り付けておこう」

 

「では殿下私は先に動いておきますね」

 

「ああ、頼む」

 

ゲームではあまり役に立たないと思っていたのに、これほど頼りになるとは。

あのゲームはそもそも鬼畜設定であったし、子供の頃から英才教育を受けているだろうことを考えればこいつらが優秀なのは当然なのかもしれない。

その後、俺たち6人はダンジョン攻略についての打ち合わせを始めた。

殿下たち6人は聖女のアイテムを回収したところでダンジョン攻略を止めていたようだ。

ダンジョンの攻略は学園の卒業に必須なのだけど、聖女のアイテムはその攻略階層より先にあったのでそれ以上は不要と感じていたようだ。

だがその先に行くのであれば、それまでの階層は難なくクリアするくらいでなければならない。

しかも、今回はそれほど強くないミアを守りながらと言うことになる。

よってそおに辿り着くまでにあったほうが良い魔道具や補助アイテムなんかをあげていった。

 

「結構な量だな……頼んでいるのは俺だ。

 何かあったらこちらで用意する」

 

「何言ってんだリオン!

 水臭えな。俺たちにも頼れよ」

 

「そうですよ。

 殿下なんてリオンくんたちと一緒にいない時でも、彼らは学園で困っていることはないだろうかと心配しているんですから」

 

「おいジルク、そういうことはこういう時に言うものじゃないだろ!」

 

「殿下ってはほんと照れ屋さんだよね。

 

「そう言うことだ。

 それに使わなければ武器ももったいない。

 せっかく黒騎士から奪った武器を改良して作ったのだからな」

 

「お前ら……ありがとな」

 

嬉しくなって下を向いてしまったら、すぐさまグレッグが俺に腕にかけてきた。

 

「良いってことよ!

 俺たちがお前を気に入った。理由はそれだけで十分だ!」

 

 

 

数日かけてきっちり準備をして、ようやく次のダンジョンの日が訪れた。

もうすでに初日に説明を終えているため、この日は各パーティごとに自由行動が許されている。

数時間だけ潜るものもいれば、丸一日ダンジョンに挑む者もいる。

そして俺たちは朝早くから出発して完全攻略を目標にしていた。

 

「良いか、俺たちが考えた作戦はこうだ。

 いくら俺たちが強いと言っても何度も何度も雑魚を倒していてはさすがに疲れる。

 よって、男性6人……主に2人ずつでコンビを組んで代わる代わる敵に当たる。

 疲労回復はポーションとオリヴィアの魔法頼りだ。

 ミア、君には申し訳ないがみんなの補助を頼む」

 

「皆さん、疲れたらいつでも言ってくださいね!」

 

「わかりました! 皆さん私のためにありがとうございます。

 お役に立てるよう頑張ります!」

 

合計8人のパーティでダンジョンへのアタックを開始した。

ダンジョンにアタックするときは当然一番大変なのは先頭の二人だ。

他の四人は基本的に休憩をメインにして、軽く索敵をする形になる。

もしどうしても危うい時があれば、俺はブレイブを使うつもりでいた。

ブレイブの存在が殿下たちにバレても仕方ない。奥の手を隠していたとでも言うしかないだろう。

最優先はミアの体調回復なのだから。

最初に先頭に立ったのはグレッグとブラッドだ。

接近戦に強いグレッグに、後方支援に優れたブラッド。二人の連携はなかなかのもので、互いに邪魔にならないように動いている。

グレッグはダンジョン用に専用の槍を準備していたようでいつも持っている槍とは別のものだった。

ブラッドの魔法の操作もとても上手く、グレッグに当てることなく敵を殲滅していく。

おかげで最初の数階は簡単に進むことができた。

 

「次は私達だな」

 

その次から先頭に立つのはクリスとジルクだ。

クリスの洗練された剣技はとても学生の者とは思えない。さすがゲームであれほど苦労した黒騎士を倒したと言うだけだる。

クリス一人で倒したわけではないと思うが、他の4人が自分たちの功を言おうとしてないのをみればわかる通り一番活躍したのはクリスなのだろう。

剣技の片手間、時折片手で扱う銃を使っては難なく敵を倒していく。

ジルクはクリスに向かう敵がなるべく一匹ずつになるように中距離用の単発銃で敵を倒していく。

時折魔道具を使って敵の邪魔をしたりと、敵に回したらおそろしいことばかりしていて正直味方で良かったと思えた。

多少の怪我はあったものの、特に問題と言う問題もなく階数を増やしていった。

 




最初の方の5馬鹿+リオンの会話ですが、どれが誰のセリフかわかるでしょうか。
一応わかるように区別をつけたつもりですが・・。


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