メスガキシーフを分からせる話 (これ書いてるの知られたら終わるナリ)
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メスガキシーフを分からせる話

「あのぉ、お兄さんってソロ冒険者ですかぁ?」

 

 依頼を終え、ギルド併設の酒場で晩酌をしていると、甘ったるい声で少女が絡んできた。

 

「……」

 

 まな板でほとんど寸胴な身体だが、体格からして俺と同じか少し下くらいか。

 

 姿勢はビシッと胸を張っているが、体格のせいで威圧感もなければ扇情的でもない。というか、ほとんど下着みたいな服装だが、寒くないんだろうか。

 

「ですよねぇ? さっきから見てたけどずっと一人で居ますし、暗くてじめっとした見た目で――」

 

 ビキニのひもをつまんで引っ張ってみる。想像以上にあっけなくズレた。

 

「ぎゃああああああああああ!! 何するんですかこの変態!!!」

「すまん、引っ張れそうだったから」

「引っ張れそうだったらマンドラゴラとかも引っこ抜くんですか!!?」

 

 引っ張れそうだったら耳栓付けて引っ張るが。と言おうと思ったが、余計拗れそうなので黙っておいた。

 

「……そ、それでぇ、寂しそうなお兄さんの為に、凄腕のスカウトであるワタシが組んであげようかなぁって」

「……」

 

 スカウトといえば、罠を解除したり斥候したり、鍵開けしたりするのに特化した人間が名乗るクラスだ。少し前まで盗賊とかシーフとかそういう名前だったが、ギルド側がイメージ悪いっていう理由で名前を変えたらしい。

 

「いらない」

 

 少しの逡巡もなく、俺はそう答える。俺自身のクラスは剣士だが、ソロで行動できるように罠の対応や、鍵開けのスキルもある程度は学んでいる。人数を増やして上位の依頼を受けられるならまだしも、ちょっと安全にダンジョン攻略できる程度なら、取り分が減るだけなのだ。

 

「ええぇー、もしかしてお兄さん、女の人と碌に話したことないんじゃない? そりゃそうだよねぇ、だって陰キャ――」

 

 もう一度ビキニのひもを摘まんで引っ張る。簡単にズレた。

 

「ぎゃああああああ!!! 何で引っ張るんですか!!?」

「すまん、うるさかったから」

「ワタシの事逆マンドラゴラか何かだと思ってません!!!?」

 

 引っ張ると叫ぶあたり普通のマンドラゴラだな。と言おうと思ったが、余計拗れそうなので黙っておいた。

 

「とにかく、俺はソロでも十分やっていけるんだ。戦闘補助にもならない相手と組んでもしょうが無いだろ」

 

 ポケットからピッキングツールを取り出してマンドラゴラ女に見せてやる。剣はこれ見よがしに差しているので、これでスカウトは必要ない事が伝わるだろう。

 

「で、でもぉ、専門家が居たほうがいいじゃないですかぁ、難易度の高い宝箱とか扉とか」

「直近でダンジョンハックの予定は無いな」

「身のこなし軽いんで撹乱もできますよ?」

「変に撹乱されても敵の動きが予想できなくなって邪魔だ」

 

「え……えーっと、そうだ! ちょっと恥ずかしいですけど夜のお供も――」

 

 ビキニのひもを摘まんで引っ張る。やっぱり簡単にズレた。

 

「ぎゃああああああああああ!!!!!! さっきから何なんですか!!!!?」

「いや、全くそそられないなと」

「散々セクハラしといて言う事はそれですか!!?」

 

 夜の相手ならそこは大事だろうが。と言おうと思ったが、余計拗れそうなので黙っておいた。

 

 

――

 

 

 剣を横薙ぎに振り抜いて、小鬼を一刀両断する。周囲に転がる小鬼の死骸は、かなりの量に達していた。

 

「……」

 

 今俺がしている依頼の内容としては、小鬼たちの討伐だ。

 

 依頼元の集落が遠方にあるため、受ける人間が居なかったのを、わざわざ受けて処理をしている。

 

 今は小鬼たちのリーダーを倒したので、残党狩りという所だろうか。あくびが出そうな依頼だが、困っている人がいることは確かなので、気は抜かずに頑張っていこう。

 

 後ろから迫る小鬼の気配を感じ、振り向きざまに切りつけようとして、手が止まる。俺が手を出す必要もなかったな。

 

「くふふ……敵に背中を見せちゃダメですよぉ、お兄さんって、すっごくドジで今までどうやって一人で仕事してたのか不思議ですねぇ」

 

 マンドラゴラ女は急所を切り裂いてしたり顔をしている。その言葉を無視して俺は剣を振り上げ、一歩踏み出す。

 

「え――」

「グギャッ!?」

 

 死体に隠れて機を窺っていた最後の一匹を、脳天に剣を突き立てることで処理をする。返り血が盛大に飛び散り、女の頬に掛かった。

 

「終わったな」

「え、あ、はい……」

 

 結局、しつこくつきまとってくるこいつに押し切られて、俺たちは二人で依頼をこなしている。自分で凄腕というだけあって悪くない腕だが、この依頼の収支はだいたいプラマイゼロなのを忘れてはいけない。

 

 俺は剣に付いた血糊を裾で拭き取ると、鞘にしまって歩き始める。腐臭漂う小鬼の巣には、あんまり長居したくなかった。

 

「お兄さん。どうでしたぁ? ワタシの実力。役に立つでしょ? 可愛いのにこんな有能なスカウトが組んであげるって言ってるんですよぉ?」

「……」

 

 村にまで戻り、報酬を受け取る。

 

「ん」

「? これなんですかぁ?」

 

 経費を差し引き、金額で等分して女に片方を渡す。銀貨二、三枚、一日分の食費くらいか?

 

「今日の取り分だ。その金額を見てわかると思うが、薄利も良いところだ。別をあたってくれ」

「……」

 

 俺の判断を伝えると、女は言葉を理解できないようで、完全に固まってしまった。

 

「あ、え、えっと……」

 

 しかし、徐々に言葉の意味が理解できてきたようで、徐々に顔が赤くなり始め、唇がふるふると震えはじめる。

 

「さ、最低……」

 

 顔が伏せられる。その声は微かに震えており、肩が震えていた。

 

「お兄さんは最低です!!」

 

 

――

 

 

「……」

 

 あの後、女と別れて宿まで戻り、明かりをつけることなく、俺はベッドに身を投げ出していた。

 

 できそうな依頼は無くなったし、明日からは別の街へ行くか。そんな事を考えていると部屋の外から微かに物音が聞こえてきた。

 

「ふぅ……」

 

 物音は扉から近く、小さな軋み程度だ。そう言う事であればと、俺は溜息をついて、気配を殺して剣を取った。

 

 部屋の外で物音が聞こえた程度でやりすぎだと考えるのは、初心者がすることだ。問題は微かに聞こえてきたことで、少なくともその様子からは、俺に気付かれたくないという意思を、くみ取ることができる。

 

 女中や他の利用客であれば、気配を殺すようなことはしない。もっと雑な、不用心であれば盛大に壁に身体をぶつけたり、弱っている床板を踏んで軋ませたりするだろう。

 

「……」

 

 明かりは消してあるので、中の様子はうかがえないはずだ。俺は来るべき襲撃者に備えて、剣の鞘を抜けないように縛ると、柄を両手で持った。

 

 呼吸を整える。確実に来る。気を張っておかなければならない。

 

「おらぁっ!!」

 

 扉が勢いよく蹴破られ、数人の男がなだれ込んでくる。既にドアの脇で待機していた俺は、突入してきた男たちに相手に剣を振り上げる。

 

「はっ……!」

 

「がぁっ!?」

「ぎゃっ――!」

「ぐっ……」

 

 入ってきた男たちは三人。そのうち二人は不意打ちで昏倒させ、残る一人を床に引き倒して関節を極める。

 

「……目的は?」

「ぐっ、はっ、離、せっ……――っ!!」

 

 一段階強く締め付ける。どちらが優位か分からないらしい。

 

「目的は?」

「っ……お前、あのガキと一緒に居ただろ。あいつから話を聞いてるんだぞ……!」

「――」

 

 なるほど、詳しく聞く必要がありそうだな。

 

 

――

 

 

「ふぅ」

 

 格下とはいえ、この人数を殺さずに処理するのは骨が折れた。

 

「お兄さん! 助けに来てくれたんですね!」

 

 周囲で倒れこんでいる男たちを避けて、元凶である女に歩み寄る。彼女は両手を縛られており、身動きができないようだった。

 

「……」

「あ、あれ、お兄――あいたたたたたっ!」

 

 左手でアイアンクローをする。

 

「一応お前の口から聞いてやる……なんで俺がお前の仲間だって事になってんだ?」

「いやそのっ! こないだ盗みに入ったとこからいっぱい用心棒さんが来ましてっ、不覚にも捕まってしまい、その結果モノ返せば命だけは助けてやるーって言われたので『あの人が盗んだもの全部持ってますよ』ってあいたたたたたっ!!」

 

 目一杯左手に力を入れて懲らしめてやる。

 

「あああっ! ごめんなさいごめんなさいっ! 頭割れるぅ!!」

「……はぁ」

 

 謝ったので左手を離す。ため息をつきつつ、縄をほどいてやった。

 

「うっ、うっ……」

「ったく、いい加減にしろよな」

 

 涙目になっている女に呆れつつ、肩に担いでやる。

 

「えっ、ちょっ――」

「ここに長居するわけにもいかないだろ。今晩くらいは宿を貸してやる」

「……はい」

 

 

――

 

 

「お兄さん、次はどんな依頼受けるんですかぁ?」

「……」

 

 ビキニのひもを摘まんで引っ張る。意外なことにパッドが糊付けされていてズレなかった。

 

「ぎゃああああああああああ!!!!!! いきなり何するんですか!!!?」

「いや、鬱陶しかったから」

「鬱陶しいからって、美少女のおっぱい世間様に開陳していい理由は無いでしょ!!」

 

 見えてないから問題ないだろ。と言おうと思ったが、余計拗れそうなので黙っておいた。

 

 時刻は朝、昨日こいつを助けたついでに、一晩俺の取っている宿で泊めてやったのだが、どうやらそれで懐かれたらしい。

 

「そもそもパーティ組んだ覚えはないが」

「あれ? もしかしてお兄さん恥ずかしがってます? そうですよねえ、こんな美少女――」

 

 ビキニのひもを摘まんで引っ張る。ベリッという音と共にズレた。

 

「ぎゃああああああ!!! なんでそんなに引っ張るんですか!!?」

「いや、恥ずかしがってる訳じゃないっていう証明になるかと思って」

「それは十分わかりましたけど!!」

 

 それはそうと痛そうな音したな。と言おうと思ったが、余計拗れそうなので黙っておいた。

 

「……」

 

 多分、こいつは何言ってもついてくるんだろうな。女の顔を見ると、涙目になりつつもこっちを見ている。完全にロックオンされたらしい。

 

「ま、凄腕で超絶美少女のワタシと組めることをありがたく――」

 

 ビキニのひもをつまんで引っ張る。粘着力が無くなって簡単にズレた。

 

「ぎゃああああああああああ!!!!!! いきなり何なんですか!!!?」

「いや、凄腕の癖にこういう隙はいっぱいあるんだなと」

「隙があるからって、やっていい事と悪いことあるでしょ!!!」

 

 それに昨日捕まってたし、実力そこまで高くないだろ。と言おうと思ったが、余計拗れそうなので黙っておいた。




連載版を書いてみてます。雰囲気結構変わってますがよければ


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