さよならはまだ言えない (芦毛スキー)
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馬生編
『シルバーバレット』


気が向いたら続くかもしれないので初投稿です。


死んだ。そして生まれたらしい。

 

『よォ、…ってまぁ随分と小せェなァ今回の俺の餓鬼は』

 

声が聞こえて、目を開けた先のボヤけた視界には真っ黒い馬がいた。

 

『ぉ、さっそく立つってか。ほら、頑張れ頑張れ』

 

足に力を込める。…四足で立つって意外と難しいなぁ。

多分数十分ほど格闘したあと、何とか立ち上がることができた。

 

『あー、世話する奴も今は眠ってるのかねェ。やっとこさ待望の餓鬼が生まれたってのに』

 

目の前にいる馬のことをぼうっと眺めていると『取り敢えず乳飲んどけ』と言われた。…この馬、女の馬だったんだ。

真っ黒い馬は僕のお母さんだったらしい。

でもお母さんと呼ぶと怒るので、彼女が言いつけた通りに「リリィ」と僕は呼んでいる。本当は「ホワイトリリィ」という名前らしいけれど。

 

『おら、来いチビ』

 

リリィは僕を「チビ」と呼ぶ。まぁ、確かに僕は子馬だからチビであるけれど。

でも、リリィが言うには子馬にしても僕は小さすぎるという。

リリィいわく、僕たちがいるこの牧場も昔は馬がいっぱいいたのだって。

 

『…アイツらのことなんて気にすんな』

 

何かザワザワとしている方を見ると人間が話し合っていた。僕の耳は悪い。だから上手く音が聞こえない。リリィがそう言うのなら気にしないでいいのだろうと僕はリリィの後を着いて行った。

 

 

『離せッ糞がァっ!チビ、チビぃッ!』

 

そんなある日、僕はリリィと引き離されることになった。昔人間だった名残りで読唇してみると、どうにも僕らが暮らしていた牧場がなくなるのだという。

そりゃあそうだろうな。…そう、思ってしまうほどこの牧場はボロボロだった。

体の小さい僕は馬肉にされるらしい。リリィはまだ子どもを産めるから別のところに連れていかれるのだって。

人間に先導されながら、暴れているリリィを見て僕は「痛いのなんて一瞬なのになぁ」と思った。リリィが僕のために暴れてくれているのは嬉しかったけれど。

 

だがしかし、

 

『何とかなって、良かったなァチビ…』

 

僕のことを欲しいと言った奇特な人がいたのだという。

そうして人に救われた僕は競走馬になるらしい。

新しい牧場に移った。ここは馬がたくさんいて落ち着かない。

同い年らしい子たちが集められているのも少し嫌だ。

けれど走ることは特段苦ではなかった。でも何だか変な感じがした。

自由時間に少し走っては、足に違和感があって止まる。

首を捻るけれどどうにも解決できずにまた走る。

 

そういえばこの前、僕のことを欲しいと言った人間が来ていた。

僕の名前が決まったのだと。

その人間が言うに、僕の名前は──




僕:元は人間だが生まれ変わったら馬だった。結構人にも馬にも興味が無かったりする。非常に小柄な体の牡馬。今は黒鹿毛だが後に芦毛となる。
母であるホワイトリリィにとても懐いている。なおホワイトリリィが気性難であるために、将来気性難の馬に懐く可能性がある。
実は父がヒカルイマイ。

ホワイトリリィ:僕の母馬。ホワイトと名付けられながらも黒鹿毛。
気性難でありすぎたために未出走だった。
血統的も子出しもさほどよくなく、牧場も貧乏の一途を辿り、久しぶりに生まれた我が子が僕であった。
彼女自身が育児放棄されたこともあり、母としての育て方が分からないので僕には母子としてではなく友人として自分と関わるように言っている。


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出会い

一応2話目を出してみる。


競走馬になるためにいろいろと試験した。

周りは嫌がっていたようだけれど僕にとっては特段どうともなかった。

人間が示す通りにやることをやって、日常を過ごして。

そんなある日、僕の上に乗るらしい人間と引き合わされた。

優しそうな壮年の男であった。何故だかその男のことが妙に気に入った僕は彼を乗せた。

 

そして、彼を乗せて走って、僕は僕の上に乗るのが彼なら後はどうなっても構わないと思ってしまった。彼以外を乗せるのが嫌になった。

たったの2、3分彼を乗せて走っただけなのに。

 

よろしくな、と彼が口を動かしたのに僕は頷いた。

─こちらこそ、よろしく相棒。

その馬に、シルバーバレットに出会った時、僕は『これはとんでもない馬に出会ったぞ』と思った。

 

周りは歳の割に小柄すぎる彼を心配したり、馬鹿にしたりしていたけれど、彼に跨った僕だけは彼の天賦の才を感じ取っていた。

 

僕という重りを乗せても悠々とコーナーを回る体幹の良さ。

いや、それ以上に凄かったのが彼の出すスピードだ。

しっかりと手網を握っていないと振り落とされそうなのに、彼を見ているテキに話を聞くとあれでも速度を落としている方らしい。

 

よろしくな、と声をかけると彼は自分こそ、とでもいう風に頷き、僕に頭を擦り付けてくるのだった。

レースに出た。自分と同じ歳らしい馬が複数頭いて、結構な数がゲートに入れられるのを嫌がっているのが気配で分かるから早く走りたくてたまらなかった。

 

ゲートが開いた瞬間に飛び出して、僕はぐんぐんと前に進んで行った。

走るのが終わりということに気づいたのは僕に乗る彼が僕の首元を叩いていたから。

 

なんだ、もう終わりかと少し残念に思った僕であった。

時が経つのは早いものでシルバーバレットの新馬戦になった。

 

シルバーバレットは6月の最後の方に産まれた馬であったから気長に育てれば体格も良くなるだろうと思われていたが、どうにも体が大きくならなかった。

だが競走能力には問題がなかったので新馬戦に出すことにしたのだ。

 

シルバーバレットの血統はさほどよくない。父はクラシック二冠馬のヒカルイマイだが血統が純粋なサラブレッドとは呼べないサラ系の馬、母のホワイトリリィは未出走馬であり牧場の存続のために生かされていたと言っていい馬だ。

 

そのためシルバーバレットは人気薄だったのだが、

 

「…キミは速いなぁ」

 

他の馬に影を踏ませず勝ってしまった。完勝といっていいだろう。

減速させると不満そうな顔をされたがいつものように褒めてやると仕方ないとでもいう風に鼻を鳴らしていた。




僕:実は人見知りならぬ馬見知りな馬。
生来耳が聞こえにくいがヒト時代に培った読唇術で人間の言ってることが分かったり…。
騎手くんのことがとても気に入り、騎手くんじゃなきゃ嫌だ!となっている。
脚質は逃げ。だがスペックが良いのに対してハードの方が…。

騎手くん:架空の騎手くん。だいぶ歳がいっている。
まぁまぁ馬を勝たせているがG1(当時は八大競走)には勝ったことがない。
本人の才能も普通にあるが、彼の一番の才能は馬に好かれること。
彼が一心に馬を信じるように、馬も彼のことを一心に信じている。
そのため馬が彼の期待に応えたいと自ずから思い、その馬は才能以上の結果をたたき出すことが多い。
また中々勝ちきれない馬に乗って勝ち、その馬が後々他の騎手で勝つことが多いため『先生』と裏で呼ばれていたりする。


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◆ 唯一の友人

ウマ娘軸の話。


いつも通りの朝だ。

買っておいた6つ入りのバターロールを2つ食べて家を出る。

外はまだ人通りが少ない。車だけを気にしておけばいいから楽なのだ。

 

学園もまだ人がいる時間ではない。

上履きを履き、通い慣れた教室へと入る。

最近読み進めている小説をパラパラとめくっているとドアの開く音がした。

 

「おはよう、シルバー!」

 

僕の聞こえずらい耳にも聞こえるほど大きな声を出しているのはクラスメイトのミスターシービー。

ニコニコと笑い、僕の座る席までやってきた彼女は近くの机の椅子を取り、僕に向かい合うように座った。

 

「今日も早いね」

 

彼女が話しかけてくる。

それを無視して本を読み進める。

 

「あれ、今日は耳の調子が悪い?ねぇ」

 

するりと手の甲を撫でられ、思わず肩が跳ねる。

心臓を落ち着かせ、目の前にいる彼女を睨めば「やっとこっち見た」と嬉しそうにする。

 

「なんだい、ミスター」

「えへ。今日こそ走れるかな〜って」

「…仲の良い彼女らと走ればいいだろう」

「え〜、×××(エース)とかと走ってもいいけどさ〜」

 

私が走りたいのはキミなんだよねぇ。

 

ふわふわとした口調だが、僕を見つめるその瞳は雄弁で。

獲物を狙う肉食獣のよう。

そう見られるのに居心地が悪くて、畳んだ小説の角で軽く叩いた。

 

「あいてっ」

「うるさい」

僕は、あまり人が好きじゃない。

1人で生きていけるくらいの能力はあるから1人でいい。

話しかけられても素っ気なくしておけば人は去っていく。

それでいい。

僕にとって走ることさえできたら後はどうでもいいのだ。

 

「…」

 

左顔面を手で覆う。

引き攣るような痛みから今日は雨が降るのだろうと簡単に予想できた。

 

「雨が降るなら、ミスターは…」

 

アレは雨の日を好んでいる。

なら今日もびしょ濡れで帰ってくるのではなかろうか。

何故だか、僕は彼女の家の合鍵を持っている。

風呂を沸かしてやって、温かい料理を用意してやらなくては。

 

病院からの帰り道、そんなことを考えた。

私とシルバーとの出会いはそう珍しいものではない。

同じクラスになって、素っ気なく自己紹介する彼女が気になっただけのこと。

私は昔から人と仲良くなるのが得意だったのでいつも通りに彼女にも話しかけにいったのだ。が、

 

「…」

 

完全に無視された。

そもそも彼女には友達がいないようだった。

いつも1人で黙々と何かをしていた。

 

「キミ…、流石にそれはどうなんだ」

 

それが変わったのは、ある日のスーパーで。

冷凍食品を買い込む私を怪訝そうに見やる彼女。

言い訳をする私に溜息を吐いた彼女は「…仕方ない」と小さく漏らして、「僕が料理を作る」と言った。

 

「ねぇ、シルバー。今日のご飯は?」

「…ミスター、そろそろキミも簡単な料理くらい覚えたまえよ」

 

彼女の料理は美味しかった。

それを理由にして、私はシルバーに絡みに行った。

料理が不得手なのは本当のことだし。

でも、

 

(こんな駄目な私をお人好しの貴女は放っておけないもんねぇ?)




僕(シルバーバレット):人嫌いなウマ娘。一人暮らし。病院通いが多い。
不思議な色の抜け方をした芦毛をしている。
誰とも関わりたがらないが絡んでくるミスターシービーにだけは仕方なしに応対している。
周りには知られていないがミスターシービーの食事の世話をしていたりする。

ミスターシービー:三冠馬になるウマ娘。
誰とも仲良くなれるタイプだが唯一自分に素っ気ないシルバーバレットに興味を抱く。
その気になれば料理ができるがシルバーバレットに世話を焼かれたままでいたいとそのままにしている。
実はナチュラルにシルバーバレットに自分の部屋の合鍵を渡している。


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不幸

苦難から立ち上がるキャラが好きです。


それから幾月か経って、大きなレースに出ることとなった。

今まで出たレースよりも人の集まりが多い場所に僕は「早く帰りたいなぁ」と思った。

けれど彼が僕の上に乗って走るのは好きだからまぁいいかと思った。

 

ゲートが開いて、直ぐに飛び出した。

後ろから追ってくる気配はあまりない。

悠々と彼の指示通りに走ってゴールした。

やはり走る距離が決まっているというのは気に食わない。

僕はずっと彼とともに走りたいばかりである。

幾月か経ち、無敗であるシルバーバレットは阪神3歳ステークスに出走することとなった。

いつも通り気負うこともない彼はさっさとゲートから飛び出し快勝。

後続を1秒ほど引きちぎっての勝利だったがまだ全力は出していないだろう。

 

ゴール後に褒めてやれば「もっと走りたかった」という風な目で見つめられた。

あれほどの速さで走ってもバテていないようだ。

 

そしてこれ程強い馬であるのなら、もしかすると三冠だって夢じゃないという声が聞こえ出したのも、この頃だった。

…死ぬかと思った。

じくじくと痛む左顔面に少々不機嫌になる。

 

こうなったのは数ヶ月前のこと。

冬で乾燥した空気の中、僕が今現在過ごしている場所が火事になったのだ。

知り合いだった馬も何頭か亡くなったらしいと後に聞いた。

かくいう僕も少しばかり生死の境をさまよった訳だが。

まぁ生き残ってみれば左顔面に火傷を負うわ、それに伴い左目は光を感じることができるだけ御の字という風になるわで大変である。

 

火事が起きた時、僕は眠っていたところだったのでそのことがトラウマになり、寝るに寝れなくなってしまった。

また左目がほぼ機能しなくなったために前まで以上に気配に敏感になり、気を張ってしまう。

 

僕を世話してくれている人たちも何とかしてくれようとしているみたいだけれど、これは時間をかけて解決するしかないように思えるんだよなぁ…。

シルバーバレットのいる厩舎が火事になったと聞いたのは冬の日の深夜だった。

慌てて駆けつければ轟轟と燃える厩舎から何とか助け出されたらしい火傷を負ったシルバーバレット。

 

走りたがる癖があって、手前の馬房に入れられていたのが幸いしたのだろう。

他の亡くなった馬のように気管の火傷はなく、命は助かった。

だが、今まで以上に彼は気難しくなったように思える。

 

夜に火事があったせいか寝るに眠れず、左目が火傷でほぼ機能しなくなったために左側から近づく影があるとその相手を蹴ろうとするなどの恐慌状態に陥りそうになったり…。

 

そんなことになってしまったため、輪をかけて彼は他の馬から遠ざけられるようになった。




僕:今回火事にあった。
左顔面に火傷を負い、左目もほぼ見えなくなってしまっている。
夜に火事が起こったトラウマで睡眠があまり取れない体になってしまった。
また左目がほぼ見えないために、左側から自分に近づく影が見えると恐怖から蹴ろうとしたり、暴れる悪癖がついた。
天候によって火傷跡が痛むので多少不機嫌になったりする。


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勝利と不穏

気づかないフリをしているだけ。


火事にあった日からだいぶ経って、そろそろ夏の中盤だろう。

彼を乗せて走ることを楽しく思えるようになってきて、レースに向けての調整がされてるように感じる。

 

同じ場所にいた馬が僕くらいの歳の馬が出る大きなレースがあると昔教えてくれていたけれど、何となくそのレースには出られない感じがした。

それを申し訳なく思いつつも周りのみんなが褒めてくれるのに僕はいっそう気を引き締めなければと思うのだった。

シルバーバレットは三冠レースに出られなかった。

火事の後遺症の様子を見つつ、ところどころで勝ちを上げていたが間に合わなかった。

 

そのことを残念に思うとともに彼が多頭数出走のレースがあまり好みではないことが分かった。

出走数が多ければ多いほどその分馬の気配が増える。

気配に鋭敏なシルバーバレットは気疲れしてしまうようなのだ。

 

どうしようかと頭を悩ませたが、彼の実力ならいけるだろうと出走馬の数もまずまずだった毎日王冠へと歩を進めることになった。

久しぶりにレースに出ることになった。

今回のレースに出る馬の数はいつもよりやや少ないかなといった風情である。

 

周りの気配を探ってみるとそれなりに落ち着いており、いつもこんなだったらいいのになぁ、と少しばかり考えてしまった。

 

考え込んでいるとちょっとばかし出遅れてしまい、慌てて先頭を取りに行くことになった。

彼には申し訳ないことをしたと考えながらゴールを抜ける。

 

みんなが嬉しそうにしているのを見ながら、考えるのは暇な時にしようと決める僕なのであった。

しゃもしゃもとご飯を食べる僕である。

あれからも何度かレースに出た。普通に勝った。

 

他の馬がどうかは知らないが僕のレースに出る間隔は結構空いてるふうに思う。

時折、彼も僕にいろいろ教えてくれるおじさんも僕の足を見ながら深刻そうな顔をして話し合っている時があるので、やはり僕の足には何かしら懸念があるのだろう。

 

相変わらず違和感が拭えない足だことで。

どうにも言い表せない違和感は僕の心の中に少しばかりの重圧を加えるのだった。

シルバーバレットは足に爆弾を抱えている。

それに気がついたのは調教後の彼の様子からだった。

 

走り終えてから、何かを確かめるようにもう一度軽く走る。

何度かそれを繰り返して諦めたように馬房に戻っていく。

 

シルバーバレット、彼の馬体は酷く小さい。

同年代の馬と比べると月とスッポンといえるほどに。

他の馬と同じ斤量であれど、体の小さい彼にかかる重さはいかほどのものか。

 

代われるものなら代わってやりたいが、僕にはただ彼が一生を無事であるように祈るしかできないのだった。




僕:才能は上々だが体がそれに見合っていない馬。
騎手のことが好きで走ることも好きだが自分以外の馬は嫌い。
嫌いというよりは全く興味を抱いていない。
体の小ささゆえ、周りの馬に煽られたこともあったが当の本人は耳のせいで何も気づいていない。
最近顔の火傷痕を見られるのが嫌なのでメンコをつけるようになった。


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◆『顔のない幽霊』

ちょっとした噂になってた。


「シルバー。キミ、『顔のない幽霊』って怖がられてるみたいだよ」

 

1人になりたい時にいる空き教室にズカズカと入り込んで、開口一番にそう言い放ったのはミスターシービーだった。

じろりと見上げるも相変わらずフフンと笑われるだけ。

 

「夕暮れにグラウンドを走ってる影があるとか、黒い影にとんでもない速さで抜かされたってさ」

 

歩いてきたミスターは壁に寄りかかる僕の隣に座る。

早くどこかに行って欲しい。

 

「それにしても私だってキミの顔が見てみたいんだけどなぁ、シルバー」

 

伸ばされた手をガシリと掴む。

彼女の手が掴もうとしたのは僕の被っているフードだ。

特例で許してもらったフードを僕はずっと被っている。

火傷痕を見られるのが嫌なのだ。

 

ギシ、と手首を掴み続けていると「いてて…」と声が聞こえ離した。

 

「容赦ないね」

「人の嫌がることをする方が悪いんじゃあないかい」

「今日の調子はどうだい」

「問題ないです、先生」

 

人通りの少ない角部屋が僕たちの部屋だ。

先生はいつもと変わらず書類仕事をしている。

先生は僕のトレーナーだ。

トレーナー業が長い先生はよる年波には勝てず最近眼鏡をかけ始めた。

僕が選んだ眼鏡を。

 

「ちょっと待ってられるかい、バレット」

「はい、先生」

 

待ってます、と声をかけて部屋の中にあった指南書を読んでおく。

体が小さくて馬鹿にされていた僕を、先生だけが欲しいと言ってくれた。

僕はその期待に応えたい。

僕は先生が喜んでくれることが一番嬉しい。

僕は先生が悲しむことが一番嫌だ。

 

「僕、頑張りますよ、先生」

「何か言ったかい、バレット」

「いいえ、何も」

「ここにいたんですね、師匠〜!!」

 

大きな声に思わず食べていたおにぎりを詰まらせる。

お茶で慌てて流し込み、痛くなった喉をさすっていると近づいてくる影。

 

「こんにちは師匠!」

「…僕はキミの師匠にはなれないっていつも言ってるだろ」

 

彼女は僕に師匠になって欲しいと会う度に言ってくる奇特な後輩だ。

憧れているのは『オグリキャップ』とか何だとか言っていたが。

なら憧れの人に師匠になってもらえばいいと言ったのだが聞いて貰えず、

 

「私は師匠に!私の師匠になって欲しいんです!!」

「嫌だよ」

 

今日もあしらうのに、この子は諦めないのだろう。

隠れ場所を転々としているのに、この子は何故かその場所を探り当ててくるのだからたまったもんじゃない。

 

「はぁ…」

「あ、師匠!その溜め息はオッケーってことですか!?」

「答えはノーだよ、バカヤロウ」




後輩:僕に師匠になって欲しいと頼み込んでくるウマ娘。
それなりに将来を期待されている。中等部。
本人はオグリキャップに運命を感じており、それを知っている僕にはそちらに行けばいいとあしらわれる日々。
史実世界ではちょっとした関係が僕とある模様…?


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勝利と負傷

運が悪いのか何なのか…。


冬になって、春になって、秋になった。

僕は相変わらず度々レースに出るだけ。

レースを見に来ている人の数もあまり変わらないのでそこまで大きなレースには出ていないのだろうと考えられる。

 

秋になって、また去年と同じレースに出ることとなった。

でも前よりも人が多いような気がする。

なんでかは分からぬまま、いつも通りに走った。

今年になってグレード制というのが導入され、シルバーバレットもいくつか重賞を取った。

今回は、シルバーバレットにとって2回目の毎日王冠。

出走馬にはあの三冠馬ミスターシービー、今年の宝塚記念を取ったカツラギエース、去年のオークスを取ったダイナカールなどがいるため注目されているレースといえよう。

シルバーバレットの方も落ち着いているため問題はなさそうだ。

 

そして、レースが終わってみればシルバーバレットが2着のカツラギエースを3馬身置き去っての快勝であった。

が、しかし、

 

「バレット…?」

 

喜んだのも束の間、シルバーバレットが骨折していることが分かった。

剥離骨折のため休養をすればレースには戻れるようだが、

 

「お前は強いのになぁ…」

 

またこの馬の実力を証明できる大きな舞台から離れざるを得ないことに僕はため息を吐くのだった。

僕だ。

まさか骨折するとは思いもよらなかった。

とりあえず休養ということになり、ゆっくりしているがどうにも走りたくて走りたくてたまらない。

でも、僕のことを待ってくれている人がいるのは事実なのでこれ以上怪我が悪化しないようにじっとしている。

 

そうそう、そう言えば手術したんだよね。

僕の骨折は剥離骨折で、足の中に骨片があるからそれを取り除いたわけなんだけど、意外と怖かった。

注射は人間時代から特段怖いとは思わなかったのだけど手術は別だった。

できればもう二度と手術のお世話にはなりたくないなぁ…。

『おけーり、チビ』

 

休養中、放牧として僕はリリィのいる牧場に帰ってきた。

お腹の大きくなっているリリィと話をするとまたもうちょっとしたら僕の弟か妹が生まれるらしい。

弟か妹の父親は僕のお父さんと同じだという。

 

『お前が頑張ってるお陰だな』

 

そうリリィが言ってくるのにちょっと照れてしまう。

リリィは『おうおう、照れるんじゃねェ』とからかってくるし…。

まぁ、一番伝えたい相手に頑張ってるよってことを伝えられたから良しとしよう。

 

それにしても、やっぱりココは落ち着くなぁ。

僕がいつ引退するのかはまだ分からないけれど、最後まで頑張って、ココに帰って来れるといいなぁ…。

 




僕:剥離骨折した馬。
一応ここでミスターシービーなどと戦っているが本人(本馬?)はそのことに気づいてないし、そもそも人間時代が競馬に関して興味がなかったので相手の名前を知ったとしても「へー、かっこいい名前だね」で終わらせてた。
どうやら弟か妹かができるらしい。


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それはいつかに繋がるもの

ほんの些細なことでも、誰かにとっては運命の出会い


まだ走ることは許されず、いつものように放牧でぼうっとしていると見たことのある男の人がお世話してくれる人に連れられてやって来た。

誰だったっけ?と考えたが5分程考えて、僕の馬主さんだと思い出した。

 

撫でてくれるけど騎手くんほどは上手くないなぁと思っていると馬主さんの足に隠れるように男の子がいた。

馬主さんはその子に僕を触ってみろと促しているみたいだけどその子は僕を怖がって隠れたまま。

仕方ないなぁと思いながら、その子に顔を近づけた僕は力加減に気をつけながら擦り寄るのだった。

その日は休みで、久しぶりに家に父がいた日だった。

「いい所に連れて行ってやろう」という父に連れられて行った先で俺は彼に出会う。

 

「ほら、××撫でてみろ」

「…やだ、怖いよ」

「コイツは大人しいから大丈夫だよ」

 

牧場の人が連れてきたその馬は黒くて小さな馬で、父に撫でられるのに不満そうな顔をしていた。まぁ、子どもである俺からしても父の撫で方はあまり上手くないなぁと感じていたが。

 

「わ、」

 

嫌だ、怖いと父の足に隠れていると彼が顔を近づけ俺に擦り寄った。

初めはびっくりしたけれど、たてがみがふわふわと顔に当たるのがくすぐったくて、いつの間にか俺は笑っていた。

 

 

 

それから、俺は時間がある度に彼の元へ連れて行ってくれと父親にねだったものだった。

中々体格が変わらない彼と大きくなっていく俺。

 

でも、あんなことがあって父は馬主になることをやめた。

一応その時所有していた馬の管理はしていたようだが、彼がいた時に比べると酷く競馬を避けていた。

父にとって、彼は初めての馬だったから。

 

そして、父から会社を受け継いだ俺は、父と同じように馬主になった。

あの日の彼のような馬に出会いたいと思ったから…。

凄い馬がいるというのは風の噂で聞いていた。

血統は聞いた覚えのない雑草血統に二冠馬・ヒカルイマイをつけたもの。

破竹の勢いで関西三歳馬のチャンピオンになり、そのあまりの強さにクラッシック出走も視野に入れていたらしいが厩舎の火事により断念。

昨年は古馬を相手取り、今年はミスターシービーなどを相手取った毎日王冠での完勝も話に聞いていたがそれでもさまざまな不運がありG1競走には出てこない馬。

 

スズカコバンか、いやそれ以上に期待されている西の不世出の天才。

 

「本当に残念だ」

 

今年の有馬記念を見ながら呟く。

2年連続の三冠馬。史上初のジャパンカップ日本馬勝利。

輝かしい今年一年を振り返りながらも脳裏に浮かぶのは姿も知らぬその馬の名前だった。

 

「シルバーバレット、ねぇ…」

 




僕:意外と子どもは好き。
多少乱雑に扱われても動じないタイプ。
早く走りたいな…と思っているが走れるのはいつになるやら…。


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◆日常

ありふれた普通の日。


住んでるマンションに帰ると部屋の前でかわゆい娘が待っていた。

 

「なんだ、来てたのか」

「!、お姉ちゃま!」

「暑かったろ、中に入ろう」

 

待っていたのはかわゆい僕の妹であった。

べそをかいた跡があったから、おおかた母と喧嘩でもして飛び出してきたのだろう。

 

「アイス食べる?」

「食べる!」

 

キラキラと目を輝かせる妹に頬が緩む。

年の離れたかわゆい妹だ。

妹も僕と同じようにウマ娘で、綺麗な黒鹿毛の髪をしている。

顔立ちも姉の贔屓目なしにかわゆい。

もう少し大きくなったら彼女も僕のようにトレセンに行くのだろうか。

僕みたいになりたいと常々言っているのだから。

 

「...フォー」

「なぁに、お姉ちゃま」

「怪我には気をつけるんだよ」

「?、はぁい」

 

願わくば僕のようにならないことを祈る。

「ありがとう、先輩」

「いや、いいよ。いつものことだろう」

 

手を引いたのは芦毛の可愛い後輩。

こちらに転入したてで校内で迷っていた彼女を助けたのが縁の始まりだ。

毎度会う度に迷っているものだから放っておけずにいる。

それに彼女は物静か?おっとり?しているタイプで僕としても関わりやすい感じなのだ。

 

「ご飯!ご飯食べよう、先輩!」

「はいはい」

 

食事を取ってくる!と走っていった彼女を見送る。

彼女はよく食べ、よく走るウマ娘だ。

よく食べるというのは転じてタフであるということ。

それが少食である僕にとっては少し羨ましいことでもあるが。

 

しかし、彼女は自分の食事風景を誰かに見られるのを苦手としているようだ。

まぁ、普通のウマ娘の2倍以上は確実に食べてるからなぁ…。

確かに自分が食べているところをジロジロ見られるのは嫌だし。

 

「ただいま、先輩」

「おかえり」

 

帰ってきた彼女は絶妙なバランスで大量の食事が乗ったお盆を持っていた。

いただきます、と声を出して食べ始めた彼女に応ずるように僕もいただきます、と言ってコンビニおにぎりの封を開ける。

 

「…先輩はそれで足りるのか?」

「足りるよ。いつも言ってるだろう」

「でも…、ほ、ほら、このから揚げとかどうだ!?」

「いいよ、キミが食べて。僕、おにぎり2つでお腹いっぱいになるからさ」

 

いつも言ってるのに、相変わらず僕に食べさせようとする後輩に苦笑する。

心配してくれるのは凄く嬉しいけどね。

断るとシュン…としてしまったので罪悪感が凄かったな…。

 

「そう言えば、先輩。また食堂で季節限定デザートが出るらしい」

「…あー、何だったっけ。にんじんゼリーとか出てた記憶あるなぁ」

 

昔の限定メニューの話をすると彼女の目がキラキラとし始める。

それを可愛いなぁと思いながら、星が連なったような髪飾りを着けている後輩を見やるのだった。




僕:ょぅι゛ょな妹を溺愛している。基本的にデレデレ。
人見知りであまり人に関わりたがらないが困っている人は放っておけないタイプ。お人好し。

髪飾りの後輩:いったいどこの何リキャップなんだ…?
道に迷っていると助けに来てくれる優しい僕に懐いている。
僕は自分がどれだけ食べても褒めてくれるのでたくさんもっちゃもっちゃしている(しかし食べ過ぎだとストップが入る)。


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復帰戦

何度でも戻ってくるさ


復帰することになった。

夏ではあるが今回走るレースは『新潟記念』とかいうらしい。

出走馬も多分会ったことのないヤツらばかりが集まっている気がする。

 

指示されたとおりにレースを走ってみたけれど特段不調とかいうのはなさそうだ。

よかったよかった。

シルバーバレットの復帰戦は新潟記念だった。

休養明けだが前回の毎日王冠の勝ち方がよかったからか、まずまずといった人気だったが、今回も変わらず逃げ切り勝ち。

 

シルバーバレットのこれからの予定は様子を見ながらではあるが、一度短距離と長距離を走らせてみようということになっている。

短距離ではスワンステークスを、長距離ではステイヤーズステークスを。

その結果によって来年からの始動が変わるのだという。

秋になって走ったレースはいつもより随分と短かった。

はて、と思いつつも走り終えてみたが、何だか後ろでは大変なことが起こっていたようである。

多少気になったが世話役の人に引っ張られて帰ることになった。

今回の距離を走ってみてもう少し長い距離がいいなぁと思った。

あれほど短くてはスパートもかけられないので。

 

 

冬になると今度は長い距離を走った。

これほど長い距離のレースがあるとは…!

いっぱい走れて僕はとても満足である。

いっぱい走れてご機嫌な僕に世話役の人がリンゴをくれた。

うまうま。

シルバーバレットの距離適性的にやはり短距離はやめておいた方がいいのだろうということになった。

スペック的には問題なく勝てるのだがシルバーバレット当馬が短距離を走ることに難色を示していたのだ。

あの子は走ることが好きな馬である。

 

そして、体格的に不安だった長距離に関しては楽しげに走り、スタミナも問題なかったために、来年のダイヤモンドステークスで様子を見てから行けるなら天皇賞・春に行こうという話でまとまった。

 

この前のステイヤーズステークスでもいつもと変わらず後続を引きちぎっての勝ちだった。

今度こそG1をシルバーバレットに取らせるのだ。

冬は寒くていけないなぁと思いながらチクチク痛みで存在を主張している火傷跡のことを思う。

僕が今いるところは雪が積もっている。

まぁ雪国のように白い壁になってる〜というほどではないが。

だが、人間時代の僕が住んでいたところはなかなか雪が降らないところであったので積もっている雪を見てちょっとばかし心が浮ついてしまっているのも事実。

 

『にゃあ〜ん』

 

雪を見ていると僕の馬房にいつの間にか入ってきていた野良猫氏に寒いと文句を言われてしまった。

今の僕は野良猫氏専用の毛布なのである。

そそくさと元の位置に戻ると「くるしゅうない」とでもいう風にあくびをもらうのだった。




僕:走ることが好きなウッマ。ついでに猫も好き。
距離適性的には短距離cマイルb中距離a長距離aみたいな感じ。
長く走れれば走れるだけ満足するタチの模様。
どうやら天皇賞・春を目指すようだが…?


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彼がいた未来の掲示板回

何やら盛り上がっている模様。

【追記】
1990ジャパンカップにて主人公が叩き出した結果を変更しました。
…こんな記録出せば最強馬論争殿堂入りしても問題ないかなぁ、と。

【追記の追記】

主人公の甥っ子の凱旋門の結果が分かりにくかったみたいなので少々付け加えました。


ウマ娘総合スレ 【無貌の】某無敵の弾丸について語ろう【逃げ馬】

 

1:トレーナーな名無しさん

 

83世代がプレイアブルに揃ってきたのでスレ立て

 

 

2:トレーナーな名無しさん

 

この馬、83世代のストーリーに登場し過ぎてんだよなぁ…

 

 

3:トレーナーな名無しさん

 

黒いフードのウマ娘定期

 

 

4:トレーナーな名無しさん

 

えっと、あの、無敵の弾丸ってどの馬のことなんですかね…?

ウマ娘から競馬に入った初心者なので分かんないんです(´・ω・`)

 

 

5:トレーナーな名無しさん

 

>>4

生涯無敗の馬

 

 

6:トレーナーな名無しさん

 

>>4

ジュニア期でニホンピロウイナーに、シニア期毎日王冠でcb、カツラギエースに勝ってて、1990ジャパンカップで当時10歳馬の癖にキチガイなワールドレコード叩き出して世界中荒らし回った。

 

 

7:トレーナーな名無しさん

 

>>4

実質マルゼンスキーみたいな感じ。

んでオグリじゃないけど常識もルールも実力で覆した馬。

 

 

8:トレーナーな名無しさん

 

なんやそれ(驚愕)

なんやそれ…(畏怖)

 

 

9:トレーナーな名無しさん

 

活躍時期が活躍時期すぎて最強馬論争の殿堂入りになってる馬だから…

 

 

10:トレーナーな名無しさん

 

オグリキャップが競馬を押し上げた馬ならコイツは日本競馬に夢を見せた馬やからな。

ちなコイツの半弟がssの再来で、コイツの妹の子がシルバーチャンプや。

 

 

11:トレーナーな名無しさん

 

コイツの存在がシルチャンの騎手と馬主の将来の夢を決めるキッカケになったんやで。

 

 

 

12:トレーナーな名無しさん

 

この馬の存在があったからシルチャンの主戦騎手は凱旋門絶対とるマンになってる

 

 

13:トレーナーな名無しさん

 

コイツがおったお陰でシルチャンが産まれてオグリの血やそれ以外の血も繋がっとるんや…。

コイツがおらんかったらって思たらゾッとするで。

 

 

 

14:トレーナーな名無しさん

 

それにしても1990ジャパンカップは何度見ても脳が壊れる

 

 

15:トレーナーな名無しさん

 

>>14

 

ホンマ、アーモンドアイが()()()()越えられんかったキチガイレコードなだけあるで。

実況に「こんな馬がいていいのかー!!」って叫ばれとったくらいやし

 

 

16:トレーナーな名無しさん

 

25馬身差の大差勝ち

 

 

17:トレーナーな名無しさん

 

実質オーパーツやろこんなん

 

 

18:トレーナーな名無しさん

 

>>16

 

でも主戦騎手がいうには本気じゃなかったっぽいんだよなぁ

 

 

19:トレーナーな名無しさん

 

なお実装されたらオグリ並の距離適性になることが決まってる模様

 

 

20:トレーナーな名無しさん

 

そりゃ短距離重賞勝っとるしBCクラシック勝っとるし…

 

 

21:トレーナーな名無しさん

 

でも口に出すのははばかられるんだよな…

 

 

22:トレーナーな名無しさん

 

そりゃああんな最後だったし…

 

 

23:トレーナーな名無しさん

 

あれだけの成績あるから夢の第11Rとか出てきてもいいのにな

 

 

24:トレーナーな名無しさん

 

1990ジャパンカップだけで脳ミソぐちゃぐちゃなのにあんな最期じゃなぁ…

 

 

25:トレーナーな名無しさん

 

最近なってやっとポスターができ始めたんだっけ?

 

 

26:トレーナーな名無しさん

 

そうそう。

めっちゃかっこいい。

 

 

27:トレーナーな名無しさん

 

ダビスタにもウイポにも出てこなかった馬だからな、流石に無理だろ

 

 

 

1000:トレーナーな名無しさん

 

【朗報(?)】凱旋門賞、ブリーダーズカップ実装決定!

それに伴い『シルバーバレット』も実装決定!

 

 

 




僕:この時点では既に死亡済み(ウマ娘がある202×年代想定)。
何かしらがあったらしく成績的には問題ないのにcmやポスターも作られていなかった。ポスターがここ数年でやっとできたくらい。
(1989ジャパンカップのcmするんなら僕のcmもしろよというのは専らの話)
競馬ゲームにも全く出演してなかったりする。
あの時代に競馬を見ていた人間の脳を焼いている。

シルバーチャンプ:僕の甥っ子(父:オグリキャップ、母が僕の全妹)。
僕と同様に足が弱く、なかなか実力を出し切れなかった。
スペちゃんなどの黄金世代にいた馬でもあり、一応エルコンドルパサーの帯同馬として凱旋門賞にも出走している。
普段は大人しいが重度の負けず嫌いであり、負けたら滂沱の如く涙を流しながらガンつける。
凱旋門賞にて鬼を超えて修羅となり、クビ差の2着。
『もしかしてコイツなら…』という人々の期待を背負いながら勝てなかった。
そしてG1未勝利のまま、屈腱炎で引退した。
母が僕の全妹であるため種牡馬となった。
しかし彼の子たちが彼の無念を晴らすように外国で暴れ回っていたりする。

ssの再来:僕の半弟。ssにそっくり。ダート馬。
気性は父並みに荒いがその荒さは何とか闘争方面にいって事なきを得ている。
半兄と同じく世界のダートを荒し回り、最終的にはアメリカで種牡馬入りした。
流石のアメリカもssを手放したことに後悔があった模様…?


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◆Q.シルバーバレットとはどのようなウマ娘ですか?

聞いてみた。


Q.シルバーバレットとはどのようなウマ娘ですか?

 

【A.ターフの演出家の場合】

 

「ん?シルバーのこと?シルバーがどんなウマ娘ねぇ…。

聞きに来たのってアレでしょ?シルバー、全然インタビューとか答えないもんねぇ。

私にとってシルバーはね、いつか本気で戦ってみたい相手だよ。

強い強いとは聞いていたけど、あの日の毎日王冠でもっとあの子と走りたくなっちゃった。

…シルバーを差せたら、競走生活に一片の悔いも残らないだろうしね!」

 

Q.シルバーバレットとはどのようなウマ娘ですか?

 

【A.絶対の皇帝の場合】

 

「シルバーバレットか。ふむ…。

…すまないことに私はあまりあの人に関わったことがないんだ。

あの人と走ってみたい、とはシービーから話を聞いて何度も思っているがその機会がなかなかなくてね…。

そもそもあの人の姿を見かけるのも珍しいんだ。

シービーが捕まえてこなければ会えないだろうから…。

ん?『彼女を差せたら、競走生活に一片の悔いもない』…?

シービーがそんなことを…。ふふ…それは、言い得て妙かもな」

 

Q.シルバーバレットとはどのようなウマ娘ですか?

 

【A.スーパーカーの場合】

 

「シルバーちゃんのこと?話はよく聞いているわ!

とっても速いんでしょう?私みたいな娘が現れたってあの頃は噂になってたわねぇ…。

…あの日の模擬レース、よく覚えてるわ。

その時副会長だったテンちゃん…、テンポイントって今の子は知ってるかしら?その人にレース場に引っ張られて来てね、一人で走ってたの、あの子。

…あは、思い出すとゾクゾクしてきちゃう。

あの娘が私の走っていた時にいてくれればきっと楽しかったんでしょうね…」

 

Q.シルバーバレットとはどのようなウマ娘ですか?

 

【A.一等星の狼の場合】

 

「あ゛?あのチビのことだぁ?

…私がこっちに帰ってきた時、まだ現役だったのは驚いたな。

生徒会長サマだって、アイツの同期だって全員辞めてただろ、もうあの頃は。

何で走ってんだって思ったよ、アイツの怪我のこと知った時。

普通は引退してもおかしくない怪我だろアレは。

でも、アイツは走ってる。まだ走るらしいからもしかするとウチのご当主様の記録を超すかもなぁ。

アイツみたいに速ければ、私も…。っ何だよ、話は終わりだ。

どっか行きやがれ!」

 

 

シルバーバレットはあまり記録の残っていないウマ娘だ。

ミスターシービーと同期でさまざまな不幸がありG1に出たことのないウマ娘。しかし誰にも負けたことの無いウマ娘だ。

 

今回は彼女に近しい(はず)の人々に彼女のことを聞いてみた。

どうやら彼女はなかなかに執着されているように見える。

まぁ、その執着もウマ娘の本能によるものだろうが…。




この作品ではシンボリルドルフの前の会長をトウショウ/ボーイ、副会長をテン/ポイント、グリーン/グラスとして書いています。
僕が一応栗東所属の馬としているのでテン/ポイントさんと関わりがあることにしています。
なお、トウショウ/ボーイの前の会長がシンザンです。

僕:何だかんだみんなから注目されているウマ娘。
模擬レース時代はまだ火傷を負ってなかった。
模擬レースに出てこなかったのは人に体格を馬鹿にされるのが嫌だったから。
身長はニシノフラワー以上タマモクロス以下って感じです。
そもそも競走馬時代の体重が本格化しても380いかなかったんで…
(よくて370後半だった)。



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帰ってくるよ

苦難の道を征け


年が変わり、ダイヤモンドステークスへ。

シルバーバレットは今日も変わらず調子がいい。

今日勝てば一応は天皇賞・春を目指すことになっている。

 

いつもと変わらず悠々と走り終わったが、

 

「ッバレット!」

 

ゴールを通り抜け、次に足を降ろしただろう瞬間バキリと嫌な音がした。

慌てて降りると前に剥離骨折した右前足が酷いことになっていた。

観客の方から悲鳴が上がり、馬運車が用意される。

 

辛そうにしているシルバーバレットだが暴れることはなく、淡々と馬運車に乗せられていった。

 

 

シルバーバレットの右前足は複雑骨折。

普通なら安楽死となるところを僕らは頼み込んでシルバーバレットの治療をしてもらった。

 

折れた骨をボルトで繋ぐ、成功の確率があまりにも低い治療。

それでも、と僕らはその治療を選んだ。

シルバーバレットと同じような処置をしたというテンポイントのことが記憶にないわけではない。

成功率が低くともこの馬に夢を見た僕たちは夢の果てに未だ辿り着けていないこの馬を殺すことができない。

夢を、諦めることができない。

 

人々の喧騒の中で、件のシルバーバレットの目は酷く静かだった。

諦めている、というわけではない。

ただ、酷く静かな闘志がその瞳に宿っていた。

僕たちが諦めていないのと同じように彼も諦めていないのだ。

 

馬も、人も、誰もが諦めていなかった。

戻るのだ。何があっても戻るのだ。

あの舞台へ、G1へ!

 

 

何ともいえない異音がした。

その音に気づき、騎手くんがすぐに降りてくれて幸いだった。

僕の右前足は複雑骨折。

足に不運がかかり過ぎだろう、僕。

わぁわぁとこの耳に届くほどの声に耳を傾けながら僕は嘆息した。

 

すぐさま馬運車に乗せられ、帰ると手術が始まった。

どうしようもなく痛かったが、ここで暴れたら元も子もない。

耐えろ、耐えろ、耐えろ!僕は戻るのだ、あの場所へ!

まだ誰にも恩返しができていないじゃないか!

 

ぐるぐると、熱塊のような想いが体をカッカと熱する。

僕の体を見た彼らも僕の治療を望んでくれた。

僕の治療のために連れて来られた医者は最初渋っていたようだけれどみんなの説得、もしくは懇願により首を縦に動かしてくれた。

 

さぁ、戦うとしよう。

 

 

シルバーバレットが骨折したことが報道された。

ミスターシービーが引退し、シンボリルドルフも引退した今、唯一の期待馬。

三冠馬たちと戦うことが望まれていたほどの不運の快速馬。

運悪くとも同期たちに負けることはなく勝ち越し続けたその足。

 

去年のステイヤーズステークスで調子が良ければ天皇賞・春に来ると聞いて、やっと来てくれるのかと歓喜した。

けれど、またもや不運に襲われている。

 

あぁ、どうか、どうか。

生きてくれ、俺たちに見せてくれ。

キミの力はまぐれなんかじゃないんだ。

いつまでも待っているから、だから、どうかこの場所に、

 




僕:また骨折した馬。
普通なら予後不良となるほどの骨折だったが全員納得づくで手術となった。


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◆妹みたいな娘

年下には結構甘い主人公さん。

ちなウマ娘時の主人公イメージ絵↓

【挿絵表示】




「シーちゃん!」

「ん」

 

手を振って走り寄ってきたのは僕の友人であるハル、本名はハルウララ。

可愛らしい桜色の髪に天真爛漫という言葉が似合う笑顔。

僕が彼女と出会ったのは去年の春。

 

「どこだろー?」

 

ひなたぼっこをしていると聞こえてきた声に起き上がると大きなリュックを持って困っているハルがいた。

周りを見回しても、みんなトレーニングに行っているのか誰もいない。

仕方がないと立ち上がり、声をかけたのが僕だった。

 

「どうしたの?」

「あっ、あのね、私ハルウララっていうの!」

 

ハルは地方から中央トレセンに転校してきた。

理事長室に行かなくてはいけないのだが場所が分からない。

周りに誰も人がいないので迷っていたところ、僕が声をかけたのだという。

 

「なるほど。なら、案内しよう」

「ホント?」

 

理事長室に案内する間、ハルはさまざまなことを話してくれた。

自分の住んでいたところはとてもいい所で、ココで走るからには生まれ故郷の人に喜んでもらいたいこと。

たくさんの友だちができたらいいなぁということも言っていた。

 

「ここが理事長室だよ」

「ありがとう!えっと、」

「あぁ、僕の名前言ってなかったね」

「うん!お名前、なんて言うの?」

「僕はシルバーバレット。よろしくね、ハルウララ」

「シーちゃん!」

「やぁ、今日も元気そうで何よりだ…」

「うわっ!」

「ハルっ!?」

 

僕を見つけ、走ってくるハルが転けた。

慌てて駆け寄ると「えへへー、転んじゃった」と恥ずかしそう。

怪我を見てやると膝が少し擦りむいて血が出ていたので、治療した。

 

「消毒液でキレイにするから、ちょっと痛いだろうけどガマンな」

「うん!」

 

痛みに耐えたハルを撫でてやり、可愛い絆創膏を貼ってやる。

 

「わー、可愛い!ありがとう、シーちゃん!」

「いやいや。…転ばないように気をつけるんだぞ、ハル」

「うん!」

 

手を貸して、ハルを立たせる。

さて、走ってきてまで僕に何の用があるのだろう。

そう聞いてやると「あのねあのねー、」と少しずつ話し始めてくれた。

 

「私、トレーナーがついたんだ!」

「!、そうか、よかったな」

「でもね、私ってなかなか勝てないでしょ?」

「ハルは頑張ってるよ。前だってタイムは上がってただろ」

「それじゃあ駄目なの!私ね、トレーナーに喜んでもらいたいんだー。私が勝ったらトレーナー、喜んでくれるでしょ?」

「まぁ、そうだね…。なら、今日も走るかい?」

「うん!」

 

早く行こうよー、と自分の手を引っ張るハルに苦笑する。

…やっぱりハルって僕の妹によく似てるんだよな。




僕:何だかんだ困っている人を放っておけないウマ娘。
ハルウララのことを妹みたいに思っている。
そのためハルウララに対して過保護であり、転んだりした時のために救急セットを所持。
なお絆創膏はハルウララに喜んでもらえるように可愛いキャラクターものを選んでいる。


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◆何だか話しかけられる

後輩には何だかんだ優しい主人公さん。
今回はオリジナルウマ娘がたくさんいます。


「こんにちは」

「…ああ、こんにちは」

 

声をかけられ、顔を上げるとそこには芦毛の美しいウマ娘がいた。

「おとなり、よろしいでしょうか?」と問う声に頷くことで答える。

 

「ここ、静かで、いい場所ですね」

「…うん」

「私、シルフィード。メジロシルフィードと申します」

「僕は、シルバーバレット」

「存じ上げております」

「そう」

 

美しい彼女は口に手を当ててクスクスと笑った。

左耳に付けられている白いレースのリボンが風に揺られていた。

 

「シルバーチャンプ先輩からよくよく話を聞いていますから」

「?」

「ふふ」

 

会話と言えど、静かだなと思った。

隣に座る彼女が誰かを待っているような気がして、「誰か待っているの」と問えば「はい」と微笑まれる。

 

「同室のプライドシンボリさんを」

「ふぅん」

「あの方、学級委員ですから忙しいんです」

「そう」

「併走する約束をしていますし、私が誰かと走っているのを見るとあの人、怒ってしまうんです」

 

クスクスと笑う彼女を横目で見ながら、早くその"プライドシンボリさん"とやらが来てくれないだろうかと思案する。

そして数分待っていると、

 

「シルフィード、待たせたか」

「いいえ、プライド」

 

黒鹿毛の美丈夫と連れ添って去っていった。

…何故かその美丈夫から睨まれたような気がするのは気のせいだろうか。

「後ろ、失礼いたします!」

「うわっ!?」

 

ベンチで本を読んでいると突然の大きい声。

驚いた心臓を押さえ、後ろを振り向くと栗毛の元気そうなウマ娘がいた。

 

「ハッハッハ、何とかプライドくんから逃げきれましたね!」

「…キミは、」

「ハッ、先程はありがとうございました。小生はサクラスタンピードと申します!」

 

サクラスタンピードと名乗った彼女はそれだけで「あ、この子暑苦しいタイプだな」と感じた。

「お隣よろしいでしょうか!」と言うのに思わず気圧され頷いてしまう。

 

「シルバーチャンプ先輩から噂はかねがね聞いておりました!」

「はぁ…」

 

シルバーチャンプって誰だろう。

この前のメジロシルフィードからもその名前を出されたけれど。

 

「…キミ、何だ、その、プライドくんとやらに追いかけられるって何したんだ」

「ハッハッハ、それがですね!お恥ずかしいことなのですが走りたい気持ちを抑えることができず、近くにあった本に足が当たりましてね!それが窓を割ったところを学級委員であるプライドくんに見られてしまいまして…」

「そう…」

 

何か、問題児っぽさそうだな、この子。

「早く謝った方がいいと思うよ」とアドバイスする僕なのであった。




僕:人の名前を基本覚えないので誰が誰か分かってない。
シルバーチャンプ?誰それ?状態(なおシルバーチャンプは史実での甥っ子である)。

メジロシルフィード:史実では母父メジロマックイーン、父シルバーチャンプの牝馬。芦毛。
ゴールドシップに容姿がよく似ている。
おっとりとしているところはブライト似で口調はアルダン寄り。
ステイヤーであり、菊花賞馬。面白いことが好き。
脚質は逃げ・追込み。
史実ではプライドシンボリの天敵であり、初恋の馬だった。
なお海外戦で予後不良により死亡している。

プライドシンボリ:母父シリウスシンボリ、父シルバーチャンプの牡馬。黒鹿毛。体格がいい。
無敗の二冠馬だったところをメジロシルフィードに負けた。
なお最後までメジロシルフィードにだけは勝てなかった。
史実よりメジロシルフィードに惚れていたため、ウマ娘時空でもメジロシルフィードに対しては独占欲が強い。
性格はストイックなトレーニング狂。そして寡黙なウマ娘。

サクラスタンピード:母父サクラバクシンオー、父シルバーチャンプの牡馬。栗毛。
とてつもなく元気がよく、いい意味での気性難。
実質メイ○イエール。
脚質は逃げであり、スタミナが持つところまでガンガン飛ばしていく。
展開さえ合えば長距離でも行けたので距離適性的には無限の可能性を持っていた。

シルバーチャンプ:今回は登場していないウマ娘。父オグリキャップ。
史実では僕の甥っ子。ちなみに黄金世代。
僕によく似て脚が悪く、なかなか結果を出せなかった。
エルコンドルパサーの帯同馬として凱旋門賞に出走し、その後屈腱炎にて引退。
引退後は父内国産馬として猛威を奮い、産駒が彼の無念を晴らすように海外を荒らし回った。



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休養中

妹に振り回される主人公さん。


どうにかなった。

凄まじい骨折をした僕の足はもとの形には一応戻った。

だが、あれだけ酷い骨折なのでよくよく様子を見るということらしい。

 

足にボルトを突っ込まれた僕はまたリリィのいる牧場へ帰され、一定期間を空けながら足の様子を獣医さんに診てもらう日々が続いていた。

 

シルバーバレットは何とか山を越えた。

ボルトを入れた脚も今のところはどうにもないようでホッと胸を撫で下ろす。

 

シルバーバレットは大事をとって1年間の休養となった。

僕はその間、シルバーバレット以外の馬に乗る。

 

シルバーバレットの馬主さんが、どうか他の馬にも乗ってくれないかと打診してくれたのだ。

一度は断ったのだがどうしてもと頼まれ、何頭かに跨らせてもらっている。

 

『ブルル…、』

 

そのことをシルバーバレットに話すと少し機嫌が悪くなっているような気がする。

「僕には君だけだよ」といつものように言うと『ブルっ、ブルっ』と「調子のいいこと言ってんじゃねぇ!」とでもいう風に服の袖を引っ張られてしまった。

何とか離してもらったけど、この服はもう着れそうにないなぁと伸びてヨレて唾液でビショビショになった袖を見て苦笑した。

 

『おにいたま!』

『ん、どうした』

 

牧場に帰ってきて驚いたことは僕に妹が産まれていたことだ。

妹の名前は"シルバフォーチュン"。

僕の馬主さんがこの子を買ったらしい。

人懐っこいこの子はお世話してくれる人たちにとても可愛がられていた。

従順でイタズラ好き。それでいて構ってもらわないと拗ねる子。

 

僕にはそんな妹が可愛くて仕方がない。

きっと目に入れても痛くないとはこのことをいうのだろう。

 

『あたち、おにいたまみたいになるー』

『そうかそうか』

『おにいたまみたいにはやくはしるのよー』

 

しかし、一緒に走ろうとオネダリしてくるのは困った。

僕は足を怪我してるから走れないんだよと言い含めても『やだー!!』と駄々をこね始めてしまう。

こうなるとこの子は酷く機嫌を損ねてしまうのでお世話してくれる人たちに迷惑をかけてしまう。

 

(どうしよう…)

『おにいたまと走るのー!!』

 

ヤダヤダと頭を振る子にどうしようかと頭を悩ませていると『なにやってんだ』と聞き慣れた声。

 

『リリィ』

『まぁま!』

『ママじゃねぇ、リリィだ』

 

声がした方を向くとお世話する人に手網を引かれたリリィがいた。

どうやら今日の放牧に来たようだ。

 

『んな騒いでどうした』

『おにいたまがあたちとはしってくれない〜!』

『そりゃそうだろ、コイツ怪我してんだから』

『おにいたまとはしりたいの!』

『はいはい、俺が一緒に走ってやるから我慢しな。おら、チビ』

『…ありがとう、リリィ』

 

僕とリリィが入れ替わる。

馬房に戻る道すがら『まぁま、おそいからやだー!』『んだとコラ!?』という声が聞こえたのはまた別の話。




僕:骨折にて1年ほどの休養となった。
妹であるシルバフォーチュンを可愛がっているが彼女のワガママに対応できないところも…。
騎手くんが会いに来てくれることも嬉しいが自分以外の馬に乗っていることは少し気に食わない。

僕の妹:名前はシルバフォーチュン(本当はシルバーフォーチューンだったが字数制限のため伸ばし棒を削った)
お兄ちゃんである僕が大好きな黒鹿毛。体格はまぁ良い方。
甘えたがりでワガママなところがあるけどそういうところを可愛がられている。


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退屈と諦念について

諦めることは誰にだってできる。


1987年、シルバーバレットは8歳になった。

今年はG1に出ないことを選択し、G2G3を使いながら来年の天皇賞・春を目指すことになっている。

 

彼の始動は7月のG3・札幌記念となった。

ダートの2000mだが3歳時に同じような距離を走って問題がなかったので出走した。

 

彼は相変わらずのようであんな骨折なんてなかったかのように駆け抜けて勝ってしまった。

後方を引きずるように、競り合えば壊されることを覚悟しなければならない速さで駆けていく。

影を踏むことすら許されない。許されるのは彼を追うことだけなのだ。

 

札幌記念から小倉記念、ウインターステークスと勝ち進んだ。

脚の様子は骨折の方は良化に向かっているが、また逆の脚に屈腱炎の予兆が見えていることが分かった。

 

走ったあと、足を冷やしているがやはりあのスピードは彼の脚に負担をかけているのだ。

僕たちはどうにか彼にG1を取らせたいと思っている。

 

 

1988年になった。

シルバーバレットは変わらずだが不安は拭えない。

2月G2・京都記念に出走。

誰も寄せ付けない走りは健在だった。

 

3月G3・中京記念。

やはり変わらない。

誰も寄せつけず、誰にも興味のない走りだった。

 

そして、

 

「あぁ…、」

 

屈腱炎の発症。

シルバーバレットは、また、天皇賞・春に出走できなかった。

 

また脚をやった。屈腱炎というらしい。

辞めさせられるのかと落胆した騎手くんたちを見て思った。

まぁ、辞めてもいいかと少しばかり思考する。

だって、最近は誰と走っても面白くない。

昔からそうだ。誰も僕に追いつけない。

 

一番初めにゴールを切るということは誰にも負けたことがないということ。

負けたことのない僕は周りと、ある種の隔絶があるのだろう。

僕が走るのを見て下らなさそうな顔をする人間を見た。

一緒に走る馬たちも僕を見てあからさまに諦めていた。

 

何も、面白くない。

走ることは好きだ。けれども楽しさを感じられない。

 

「ヤダ!」

 

思考を断ち切る声にフッと意識が浮上する。

何かに抱き着かれた感覚に視線を下げてみるとあの日の子どもが僕に抱き着いていた。

 

 

シルバーバレットが屈腱炎になった。

屈腱炎は競走馬のガン。万が一、治ったとしてもいつ再発するか分からない。

彼の度重なる不幸に、「もう、引退しようか」と諦めの声が上がる中で、

 

「ヤダ!」

 

それを断ち切ったのはシルバーバレットの馬主の息子である███くんだった。

 

「バレットは誰よりも強いんだ!それが証明できてないのに!」

 

××くんはシルバーバレットに抱き着いて動かなかった。

その声に導かれたようにシルバーバレットの顔が上がる。

 

(あぁ…、そうか)

 

やはりお前も諦められないか。

 

 

顔を上げたシルバーバレットの目にはまだ炎が灯っていた。




僕:走ることは好きだがレースを走ることは面白く無くなっていた。
度重なる怪我に諦めようかとしていたところ、馬主の息子くんの叫びを聞き、何とか持ち直す。
子どもがこれだけ期待してくれてるんでね、恥ずかしいところなんか見せられないよね( ◜ᴗ◝)


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◆憧れが火を灯す

心が折れようとも、その声が届くなら────


ジュニア期はまだ充実していたと思う。

きっと全てが狂い始めたのはクラッシック期からだろう。

 

住んでいたところが火事になり、僕は顔に火傷を負った。

酷い火傷と目が失明しかけたため、三冠レースを棒に振った。

 

四年目、シニア期。

いくつかのレースに出たが、その中で一番騒がれたのが毎日王冠を勝ったことだった。

僕が毎日王冠で勝った相手に同期の三冠馬・ミスターシービーと日本ウマ娘で初めてジャパンカップを勝ったカツラギエースがいたものだから周りがうるさくて仕方なかった。

その毎日王冠のあとに僕は脚を剥離骨折し、一時休養。

病院のためなどに一度外を出歩けば声をかけられて、嫌に気を張る生活となってしまった。

 

五年目は新潟記念からの始動。

そこから短距離と長距離を走り、結果から天皇賞・春を目指すことになった。

天皇賞は有馬記念や宝塚記念、日本ダービーと並び、そこまでトゥインクルシリーズに興味がない人でも聞き覚えがあるレースだと思う。

そのレースを勝てば僕の強さの証明になるのではないか、とトレーナーと話し合って決めたのだ。

 

六年目、ダイヤモンドステークス。

ダイヤモンドステークスは3400mのレースだ。

この長さを走り切れば天皇賞・春も問題は無いだろうと。

しかし、また骨折。

今度は随分と酷い複雑骨折で、一時引退の話も出たほどだった。

そのあとも僕が現役を続けられていたのは一重に支えてくれた人たちの存在があったからだ。

 

七年目はダートを久しぶりに走った。

ジュニア期に何度かダートを走り、それなりの結果は出していたので問題はないだろうと出走。

複雑骨折した脚にはボルトを入れた。

その脚に負担がかかりにくいようにダートの方に出たというのもある。

だが、それでも僕の主戦場は芝だった。

 

八年目、僕のもう一方の脚に屈腱炎の予兆があるということは前もって知っていた。

そして、中京記念のあとに屈腱炎が発症。

また天皇賞・春に出られなかった僕は諦めかけていた。

トレーナーも僕を大事にならない内に引退させた方がいいのではないかと悩んでいるのが手に取るように分かった。

 

 

屈腱炎。

ウマ娘のガン。

普通ならば引退するものだ。

…いいんじゃないか?

G1は取れていないけれど、G2G3ならいくつか取ったじゃないか。

頑張ったよ。あんな骨折から戻ってきたし。

同期もみんないなくなってる。

"彼ら"ならともかく、こんな僕のことなんか誰も…、

 

「ダメです!」

 

肩を掴まれる。

息を詰めると目の前には真剣な顔をした奇特な後輩がいた。

 

「貴女は最強なんです!」

「私が、シルバーチャンプが憧れた貴女は、シルバーバレットは誰よりも強いんです!」

「それが証明できていないのに、辞めるなんてしないでください!!」

「貴女の強さを『まぐれ』だなんて言わせないでください!!」

 

涙を流して睨みつけてくる瞳。

呆然としながらも少しだけ僕の心に火がついた。

見てくれている。

僕のことを見てくれている。

僕が『最強』だって、それを証明しろと吠えている。

ならば、それほどまでにその証明を望んでいる"誰か"がいるのであれば…、

 

「…そうだね」

 

諦めるなんてできやしない。




僕:度重なる怪我に心が折れかけていた。
それに自分と対等に戦えるだろう相手がいなくなっていたのもあってモチベーションがほぼない状態だった。
この度、火をつけられ復活。

史実での甥っ子:シルバーチャンプ(ウマ娘のすがた)
僕の走る姿に憧れてトレセン学園へとやってきた。
この時はまだデビュー前。
僕が辞めるかもしれないという噂を聞き、直談判した。
この直談判は史実で出版されたとある僕に関する書物が元ネタ。
彼女の馬主があの日、僕の引退に異を唱えた彼である。


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療養施設にて

やはり普段は何だかんだ面倒見がいい主人公さん…。


脚の治療をするにあたって、僕は療養施設へと送られた。

温泉やプールなどがあり、それらのところを行ったり来たりしながら僕の治療は続いていた。

暖かい風が吹き始めた春、ある馬に出会った。

 

『こんにちは』

『こんにちは』

 

その日、僕が出会ったのは見事な芦毛の馬であった。

左耳から白くなっている僕の毛並みとは違い、これぞ芦毛といえるような綺麗な毛並み。

僕より年下の彼はなんとG1ホースなのだという。

 

『キミ、綺麗な毛並みだな』

『…僕よりも綺麗な芦毛の馬がいたよ。貴方より少し大きい馬だった。…元気にしてるかな』

 

のんびりとした彼と僕はたびたび出会った。

彼はプールが苦手なようですぐに上がりたがっていたのをよく見たものだ。

いい食べっぷりを見て、僕の食事を譲ったのも一度や二度ではない。

 

『元気になってよかった』

『…ああ、先輩も元気で』

 

僕も彼もお互いの名前を知らない。

去っていく彼を眺める。

…G1ホースとはやはりああいったものなのだろうか。

僕もいつか、ああなれるだろうか。

 

脚に不調が出た僕は『りはびり』とやらのためにいつもと違う場所で過ごし始めていた。

その場所でよく顔を合わすようになったのが"先輩"だった。

 

"先輩"はそこにいた馬の中で一番年上であったのではないかと思われる。

大人しく、そして頭が良く、喧嘩している馬たちをよく諌めていた。

 

僕が"先輩"と親しくなったのはこの芦毛のお陰で。

会う度、『綺麗な葦毛だ』と褒められるものだからいつしかその褒め言葉がむず痒く感じてしまっていたのもさもありなんといえよう。

"先輩"はこの場所に来る前にも酷い怪我をしていたという。

今はそれとはまた別の怪我をして、復帰のためにここにいるのだと。

 

"先輩"と過ごす中で『"先輩"はきっと強いんだろうなぁ』と時折感じた。

"先輩"は自分のことを『どこにでもいる馬だよ』と謙遜していたが僕にとっては去年幾度か戦い、引退した【彼】を"先輩"に重ね合わせてしまう。

 

静かな目をした馬。

しかし、その体は無駄な肉が一切ないように見えて。

体は僕と同じくらい柔らかくて、とっても体が小さいのに僕よりも体力があって。

 

『お前は怖がらないんだな』と彼は言っていたが、彼のどこが怖いのだろう。

少し見た目が違うだけじゃないか。

僕は"先輩"の深深と刻まれた火傷跡が、笑う度に引き攣るのが痛そうに見えて、それでいて好きだった。

 

いつか、会えるだろうか。

いつか、一緒に走れるだろうか。

 

「さぁ、行こうか────オグリキャップ」

 

そんなことを思案しながら、後世『芦毛の怪物』となる一頭は馬運車へと乗り込むのだった。




僕:療養施設にて出会った某芦毛馬と仲良くなった。
どこの"怪物"なんだ…?
屈腱炎の良化にはもう少しかかるようだ。

オグリキャップ:療養施設にて僕と出会う。
僕の名前を終ぞ知ることはなかったが食事を譲ってくれたり、穏やかな僕に懐いていた。
僕の体格を見て某白い稲妻を想起したりしている。
僕といつか一緒に走れればいいなぁと思っている模様。


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証明の為に

もう『まぐれ』なんて言わせやしない


秋になり、僕の脚は大丈夫になったらしく厩舎へと帰還した。

 

『あ、お兄ちゃん!』

『ん?…あぁ、フォーチュンか。久しぶり、怪我はしてないか?』

『うん!大丈夫だよ!』

 

呼び声に顔を向けるとそこには成長した妹がいた。

あのおてんば娘がお淑やかなお嬢さんへと変貌していた。

『おにーたん』とこちらを慕ってきていたあの日が懐かしい。

 

『お久しぶりです、ボス』

『おかえりなさいッス、大将!』

『あぁ、ただいま』

 

妹と話していたところ、懐かしい顔ぶれが現れる。

同じ厩舎で面倒を見ていた後輩たちだ。

不本意ながら此処のボスである僕は彼らに慕われている。

本当はボスなどしたくなかったのだが前ボスに『お前が次のボスな!』と言われ、譲ろうにも周りが固辞したので仕方なしに…。

こんな小柄な体格の僕がボスになることを認めない奴もいたが何度か併走すると気づいたら『おはようございます、ボス!』と挨拶してくるようになるのだ。

どんなに世話してくれる人を困らせている馬も僕が前を通りかかると挨拶してくるようにいつしかなっていたのだ。

 

『また一緒に走ってください!』

『世話してくれる人がいいって言ったらな』

『大将、大将が此処にいない間に新しい奴らが増えましたよ』

『あぁ、また顔合わせとくよ』

 

行く先々で話しかけられる。

…なんでこんなに慕われてるんだか。

 

1989年10月、シルバーバレットの屈腱炎が良化した。

そのことに喜んだのも束の間、シルバーバレットの復帰戦をどうするかの話になった。

 

シルバーバレットは今年で10歳(現在表記では9歳)だ。

普通なら引退している歳。

G1を彼に取らしたいと走らせ続けているが、さていつものように天皇賞・春を目指すのか、それとも…。

 

「来年のジャパンカップを目指そう」

 

話し合いの結果、そう決まった。

理由としては、シルバーバレットと対等に戦えたであろう、戦いたい相手だったミスターシービー、シンボリルドルフがもう引退してしまっていること。

それに怪我前のシルバーバレットのレースへのモチベーションが下がっていたことから海外から強い馬が来るジャパンカップなら彼を満足させることができるのではないか。

そして、日本馬はカツラギエース・シンボリルドルフしか勝ったことのないジャパンカップを勝つことでシルバーバレットの強さを証明できるのではないか、と。

 

「それは、面白そうですね」

 

ワクワクしてきた。

そんな大舞台で大きい歓声を彼が受ける。

ジャパンカップという舞台。

勝ってやる。あぁ、勝ってやるとも。

 

「もうアイツをフロックなんて言わせやしない」




僕:何とか屈腱炎が良化した馬。
一応厩舎のボスをやっている。
本馬としてはボスをしたくなかったが自分をボスと認めない馬たちを併走でボコボコのボコにした結果、不本意ながらボスとして認められてしまった。
まぁ、頭良くて威張ったりしないウッマだから…。

次走が1990ジャパンカップに決まった。


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◆キミを待っている

主人公と一番エンカしてるのがオグリになってきたな…。
主人公もオグリは後輩なので態度柔らかめだし…。

【追記】
誤字報告ありがとうございます。


「やっほー、シぃルバーっ!」

「っ!?…なんだ、ミスターか」

 

後ろから抱き着いてきたミスターシービーにシルバーバレットは思わず肩を跳ね上げる。

いつもと変わらずニコニコとその姿を見やるミスターシービーにシルバーバレットは軽く睨むがどうせ効き目はないということは分かっていた。

 

「ねぇ、シルバー」

「なんだい」

「現役続けるってホント?」

「…あぁ、」

 

最近、噂となっていた話があった。

シルバーバレットが現役を退くと。

その理由が度重なる脚の不調であることもまことしやかに囁かれていた。

 

「…脚は大丈夫なの」

「大丈夫、とは言えないな。…けど、」

「けど?」

「証明してくれって言われたんだ」

「ふぅん」

「僕が『最強』なんだから辞めるなってさ」

「ふふっ、そう!」

「そんなの言われたら、辞められるわけないだろ」

「そうだねぇ」

 

10分ほど話し込み別れる。

 

「…あーあ、ドリームトロフィーリーグに来ない?って誘おうとしたのに、残念」

 

みんなキミのこと待ってるんだよ?

ルドルフも私含めて同期も前会長だってキミのことを待ちわびてるんだから。

 

「また待ちぼうけかぁ…」

 

「先輩?」

「あれ?」

 

療養施設に着き、温泉に浸かっていると見覚えのある顔と出会った。

驚いたのも束の間、今の自分は顔を隠してない!と気づき慌てて持っていたタオルで隠した。

 

「先輩、どうしたんだ!?」

「あ、いや、うん…」

「体調が悪いのなら温泉から上がった方がいいと思うんだが、」

「た、体調は悪くない、から大丈夫」

「そうか…?」

 

後輩は僕の横へと腰を下ろしたらしい。

 

「まさか先輩がここにいるとは思わなかった」

「僕こそそうだよ」

「先輩も療養だよな?」

「もちろん」

 

後輩も僕と同じように脚に何らかの不調があったようで此処を利用することにしたのだという。

今まで知らなかったのだが後輩はプールが苦手だということを知った。

ビート板がない状況で泳ぐと溺れているように見えてしまうため、ビート板を持って泳いでいるのだとか。

 

「温泉は好きだがプールはちょっとな…」

「ふふ、そうか」

「先輩はどうだ?」

「温泉もプールもどっちも好きだよ。でも冬にプールに入るなら温水のところがいいなぁ」

 

そんなことを会う度に話した。

後輩は僕よりも早く療養施設から去ってしまったけれど、頑張っておいでと元気づけた。

心の中で「この子がもう此処に来ないようになればいいな」とも。

 

「先輩」

「なんだい」

「また、私と…」

「うん?」

「…いや何でもない。またな、先輩」

「あぁ、またね後輩」

 




史実的には1989年の話。

僕:火をつけられたため現役続行。
脚の治療のためリハビリ施設へ。
リハビリ施設に行ったら仲の良い後輩(オグリキャップ)がいて、びっくり。
一応初めは顔を隠してたけど、段々過ごすうちにリハビリ施設ではフードを取るようになった。
リハビリ施設内のウマ娘たちに慕われてしまっており、それが悩みの種。

オグリキャップ:リハビリ施設へ来たら先輩である僕がいてびっくり。
オグリキャップにとって『先輩』として慕ってるのが僕だったらいい。
タマモクロス等は対等な友人でライバルだと思ってたり…。
僕の素顔を見てもビビらず『痛そうだな…』と思う程度で済ました。


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大百科風

お試し版。

【追記】
香港カップ・クイーンエリザベス2世カップを勝ち鞍の部分に記載しておりましたが、主人公が走っている時にはまだ国際競走ではなかったので記載を取り下げました。


シルバーバレット

ニフンジュウキュウビョウノカイブツ

 

『「奇跡だ」なんて言わせるな』

-JRAヒーロー列伝

 

シルバーバレットとは、1980年生まれの元競走馬。牡・芦毛。

あまりの強さ故にタイムオーバー制度を変更させ、史上初の日本馬凱旋門賞・BCクラシック制覇を果たした怪物。

 

また、苦難の道を歩き続けた競走馬でもある。

 

主な勝ち鞍

(GⅡ、GⅢの勝ち鞍は省略)

1990:ジャパンカップ(G1)

1991: キングジョージ6世&クイーンエリザベスダイヤモンドステークス(現在のキングジョージ6世&クイーンエリザベスステークス)(G1)

ムーラン・ド・ロンシャン賞(G1)

凱旋門賞(G1)

BCクラシック(G1)

 

この記事では実在の競走馬について記述しています。

この馬を元にした『ウマ娘 プリティーダービー』に登場するキャラクターについては「シルバーバレット(ウマ娘)」を参照してください。

 

◾︎生い立ち

父ヒカルイマイ 母ホワイトリリィ 母父ホワイトバックという血統。

父は二冠馬ヒカルイマイだが母方の血統は全くと言っていいほど活躍馬がいない。そもそもホワイトリリィも母父ホワイトバックも気性があまりにも荒すぎたために未出走馬だったのである。そりゃ誰も知らんわな。

 

なぜこの配合が行われたのかというと、…牧場に金が必要だったからという世知辛い理由のためだった。

シルバーバレットが産まれた頃の××牧場は衰退の一途を転がり落ちているようなものであったらしく、この時、牧場に残っていた馬はシルバーバレットを妊娠していたホワイトリリィだけという始末(その他の馬はすべて二束三文で売り払ったらしい)。

そのホワイトリリィにサラ系ということで牝馬が集まらず種付け値段が安価だったヒカルイマイをつけて生まれたのがシルバーバレットだった。

 

しかし、生まれたばかりのシルバーバレットは後の功績から考えられないほど疎まれていた。その理由は非常に体躯が小さく頼りなかったからである。これじゃあ売れない。こんな馬が走るわけないだろ!とろくに世話もされなかったシルバーバレットだったが母であるホワイトリリィに支えられ、すくすくと育っていった。

 

そんなシルバーバレットの初めての苦難は、殺処分されかけたことである。先程も述べた通り、シルバーバレットの体躯は非常に小さかった。その小ささは本格化しても400kgに至らなかったほどである。実質メロディーレーンみたいな感じ。大した活躍馬も出していない零細牧場の馬を買う人間もおらず、殺処分されかけたところを偶然近くに来ていた馬主である**氏に買われたのだという。

 

そこから母子揃って、**氏が知り合いであった███牧場へと移送され、面倒を見てもらうことになった。

 

 

さて、███牧場へと移ったシルバーバレットは大変大人しく面倒の見やすい馬であったという。だが母はバケモノ並に気性が荒かった。

調教も難なくこなし、新馬戦を逃げで軽く流し大差勝ちした。

 

そして、阪神3歳Sも当然のように流し勝ちし、一躍関西の期待馬に躍り出たのである。




何となく作ってみた大百科風。

主人公がウマ娘化した結果、多少書き足された部分もあるかもしれない。

勝ち鞍表記ってこれで大丈夫なのか…?


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栄光の前に

主人公のイメソンはPENGUIN RESEARCHさんの『千載一遇きたりて好機』です。

【追記】
誤字報告ありがとうございます。


1990年、秋。

シルバーバレットは何とかジャパンカップへ出走できることとなった。

脚も問題なさそうだ。

 

「世界から強いやつが来るぞ。…楽しみか?」

 

調教終わりにそんな話をすると「もちろん」という風に顔を擦り寄せられる。

 

「勝つぞ、相棒」

 

風が涼しくなった秋、調教が本格化してきた。

脚の様子を見て調教が成されているが、僕を見る人々の熱が籠った目を見るともうすぐなのだなぁと感じとれた。

 

僕が出走するのは"ジャパンカップ"。

そこを走ったあと、どうなるかは知らないけれど取り敢えずそのレースを勝つことを第一に考えよう。

 

「ジャパンカップはね、世界から強い馬が来るよ」

 

騎手くんも僕を調教してくれる人もみんなが毎日同じことを言う。

僕がレースをつまらなく思っていたのを彼らは察していたようで。

そのことに多少の申し訳なさを感じつつも、彼らが僕の勝利を微塵も疑っていない姿に一層力が入るというもの。

 

「勝つぞ、相棒」

 

おうとも、相棒。

騎手くんの言葉に応えるように、僕はひとつ嘶いた。

 

 

シルバーバレットは11歳(現在表記で10歳)の馬だ。

そんな馬がG1、それもジャパンカップに出てくることを枠潰しという人もいる。

 

「もちろん勝ちますよ。…負けるつもりで出てくるヤツがどこにいますか」

 

引退の記念出走かと言われることが腹立たしい。

バレットは誰よりも強いのだ。

怒りを押し込めた声は酷く冷えきっていた。

 

「全身全霊で俺たちに挑んできてください。負けるつもりは毛頭もありませんが、…シルバーバレットに競り合うぐらいはしてほしいですね」

 

怒りで思わず、そんな挑発をしてしまったのは後で反省したのだけれど。

 

 

馬運車に揺られ、やってきた場所には見覚えのない馬がたくさんいた。

まぁ僕は長い間走っているし、怪我でいない間もあったから入れ替わったりもしているのだろうけれど。

 

『…先輩?』

『んぇ?』

 

馬房に向かう折、そう話しかけられた。

声のした方に顔をやるとご飯が入っているであろう桶から顔を上げている立派な芦毛の馬。

 

『…もしかして、』

『やっぱり先輩だ』

 

療養施設にて出会った後輩だった。

後輩は『先輩も一緒に走るのか』と嬉しそうにしているが僕からしてみると後輩はどうにも元気がなさそうに見える。

 

『ジャパンカップにキミが出るならそうなるね』

『たひか、そのれーすにでぅはずれす』

『ちゃんと飲み込んでから話しなさい』

 

少しばかり話していたが、僕の手綱を握っていた人に先を促される。

ムッシャムッシャとご飯を食べている後輩に見送られながら僕は馬房へと入るのであった。

 

 

 

その場所に滞在している間、写真を撮られたりしたのはまた別の話。




僕:リハビリ施設にて出会っていた後輩と再会した。
もっしゃもっしゃとご飯食べてる姿を見て変わってないなぁと思いながらも『元気なさそう…?』と内心思っている。
実のところ、メンコ取った状態の僕は意外とイケウッマです。
ミスターシービーが女形のような顔なら僕は抜き身の刀みたいな顔をしている感じ。
今回、一応取材を受けた結果撮られたメンコキャストオフの写真はだいぶプレミア化すると思います(僕は気性面は問題ありませんが顔の火傷跡を見られるのが嫌でメンコをつけているので)。

後輩:一体どこの何リキャップなんだ…?
リハビリ施設にて慕っていた先輩の僕と見かけ、思わず食事を中断させた。
僕と一緒に走れるんだ〜と喜んでいる。

騎手くん:相棒が舐められていることに軽くキレた。


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栄光の始まり

僕のあいつも、いつの日かヒーロー。

【シルバーバレットの勝負服】

【挿絵表示】


勝負服アイコンをつくろう https://kurisaka.net/dot/ 様よりお借りしました。

【追記】
競走馬の紹介についてはwikiの1990JCの記事を参考にさせていただいております。
よろしくお願い致します。


ジャパンカップ当日。

 

1番人気はキングジョージ6世&クイーンエリザベスステークス優勝馬のベルメッツ。キングジョージ6世&クイーンエリザベスステークスの優勝馬がジャパンカップに出走するのは初めてのため注目が集まっているのだろう。

 

2番人気にはベタールースンアップ。「オーストラリアからジャパンカップに出走する最初の最強馬」と表現されているらしく、その言葉の通り、前年のジャパンカップをワールドレコードで制したホーリックスに勝利したこともあるようだ。

 

そして、3番人気にカコイーシーズ。4番人気にオグリキャップ。

その中でシルバーバレットは13番人気だ。

 

「なめられてるくらいで丁度いいさ。なぁ?」

「ブルルっ」

 

本馬場入場の誘導馬が興奮するほどの大歓声にG1とはこんなに凄いものなのかと思う。

いや、ジャパンカップだからこうなのかもしれない。

大歓声は聞こえにくいシルバーバレットの耳にも届いたようで武者震いのように軽く嘶きを繰り返していた。

 

「気負うなよ」

「ブル…っ」

 

分かっているさ、という風な声。

逆にお前こそ気負うなよと言われたような気がした。

 

ジャパンカップ当日、ゲートへ誘導されていく彼らを見て僕はG1とはこんなものなのかと考えていた。

外国馬は強そうな奴ばかりで楽しませてくれるかもしれないと少しばかりテンションが上がってくる。

 

テンションが上がるのはそれだけではない。

この大歓声!

誘導馬が天を向いて口をガクガクしていた時は何事かと思ったが本馬場に出た瞬間、耳に届いた声に「あぁ、これは興奮しなくちゃおかしい」と納得した。

 

何万の声を束ねた音が、何万もの期待の目が僕らを見ている。

あぁ、嗚呼!ずるい、ずるい、ずるい!!

 

今日ほど運の悪かった自分を呪ったこともない。

またあの日諦めなくてよかったとも。

 

(どうしようもなく、興奮してる…)

 

バクバクと興奮で心臓が高鳴っているのを感じる。

平静を保とうとしても出るのは興奮の嘶きと抑えきれない武者震い。

 

早く、速く走りたい!

爆発してしまうような興奮が止められない。

嗚呼、嗚呼…!

 

「気負うなよ」

 

騎手くんの声が聞こえて、スっと興奮が収まる。

その声があるまで、恥ずかしいことに僕は彼のことをすっかり忘れていた。

騎手くんもそんな僕を落ち着かせるように撫でてくれる。

 

そうだよ。

僕だけで走るんじゃないんだから。

彼と一緒に力を合わせなくちゃあ勝てるものも勝てない。

 

かけられた声に僕も応答する。

 

そっちこそ気負うなよ、相棒。

キミが武者震いしてるのコッチも分かってるんだぜ?




僕:大変テンションが上がっている。
自分の聞こえにくい耳にも聞こえるほどの大歓声かけられたら、そりゃあ興奮しちゃうよね。
史実でのフレンチグローリーさんの枠にお邪魔させてもらっている。


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ひとつの夢の結実

世界を変えるのに、3分もいらない。

【追記】
誤字報告ありがとうございます。


スタイリッシュセンチュリーが放馬し、馬体検査が行われていたが、問題はなかったようでゲートに収まった。

 

ガチャン、とゲートが開く。

 

一瞬でゲートから飛び出しながら、今までで一番集中していたなと思った。

走りながらゲートに頭をぶつけなくてよかったと安堵の息をつく。

後ろからは誰も来る気配がない。

 

 

『スタートしました!

シルバーバレット、それに遅れてオサイチジョージが好スタートを切りました。

おっと!?シルバーバレットが凄まじい勢いでハナを切ります!

これは後半持つのでしょうか!?』

 

 

いつも以上の速度でシルバーバレットがゲートを飛び出した。

凄まじい勢いでハナを切り、引きちぎっていく。

相も変わらずだなと苦笑しつつ、後方に向けてやれるものならやってみろと内心思う。

 

シルバーバレットの調子は今まで騎乗してきた中で一番いいとすら思える。

テキだって「二度とこんな馬に出会えないだろう」とまだ勝ってないのに泣いてたぐらいだ。

 

踊るように突き進む。

風を切り裂いて進んでいくことに僕も彼も興奮を隠しきれなかった。

 

 

『各馬第3コーナーへと向かいます。

先頭は、先頭はシルバーバレットのまま!

15馬身ほどリードを広げ、バテる気配は未だありません。

このまま行ってしまうのか!?』

 

 

歓声が聞こえる。

聞こえにくい僕の耳にも聞こえるほどの大歓声。

その声が心地いいと感じた。

もっと欲しいと渇望する。

そして、

 

(嗚呼、ずるい、ずるい…!)

 

今までこの歓声を聞いてきたであろう奴らに嫉妬した。

こんなに楽しいものを、こんなに嬉しいものを、こんなに高ぶらせるものを!

ここまで手に入れることができなかった自分に心底イラついた。

 

歓声が聞こえる。

どこまでも自分を望む声が聞こえる。

自分に、期待する声が聞こえる。

 

ならば、

 

(期待に応えなくっちゃなァ…!)

 

 

その瞬間、ドンッと大地が爆ぜた。

グン、とシルバーバレットの体が低く、前傾姿勢になる。

そして、

 

「うお…っ!?」

 

次の瞬間、僕は力いっぱい掴まないと振り落とされそうな速さの中にいた。

体勢を崩しかけながらしがみつくしかなかった。

鞭を打つなんてとんでもない。

鞭を打とうとした瞬間、振り落とされる未来が確定しているのだから。

 

 

『たった一頭、第4コーナーを越えてやって来る!

日本のシルバーバレットだ!

後ろは、後ろはもう追うことしか許されない!

ッ!?シルバーバレットが加速した!

まだ脚があるのか!こんな馬がいていいのかァっ!?』

 

 

貫け。

後方など気にする必要は無い。

気を逸らすな。(ブレるな)

自分が狙う先は、─────勝利ただひとつ。

 

 

 

『遅れてきた怪物が、戦い続けた古強者が今!ターフを支配する!

老いぼれと侮ってくれるな!シルバーバレット逃げ切った!』

 

『…こ、これはとんでもないレコードです!

前年のホーリックスの記録を大きく超えた、2分、2分19秒0!』

 

『今日この日は、この男たちのためにあった!

今はただ!この遅れてきた男たちに喝采を!

シルバーバレット、白峰透騎手、完全なる勝利です!』

 




僕:訳分からんワールドレコードでジャパンカップを制しちまったウッマ。
後世、現実で領域に入ってた馬と称される。
これにて最軽量(370kg台後半)+最高齢(当時11歳、現在表記では10歳)+芝2400m世界最速馬となった。
しかも、サラ系のウッマである。
…観客も脳とか目をやられたと思うけど、一番やられてるのはこのウッマの生産牧場の方々なんだよなぁ。
なお今回出したレコードにとある問題が…?

騎手くん:本名白峰透。お人好しそうなおいちゃん。
この時点でだいぶ歳がいっている騎手。今でいう5爺らへん。
今までもこれからも自分が乗った馬の中で最強馬はシルバーバレットと言ってはばからなくなる。(それはそう)

ダービーを取りたいと願ったこともあった。
だけど今の夢は、…この馬が最強だと示すことだった。


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栄光を往く者たち

最近考えてたんですけど主人公って日本ダービー出られてたら父であるヒカルイマイと会えてた可能性あるな〜とかもうこれ83世代魔境過ぎるだろとか…。


「ねぇ、どれがおじちゃんの馬ー?」

 

その日の東京競馬場は酷く人がいた。

人酔いしそうな人混みの中、俺は父に肩車され本馬場の方を眺めていた。

 

「あぁ、あれだ」

「どれ?」

「あの一番小さい馬だよ。真っ黒の」

「あれ?」

 

騎手である伯父が乗っていた馬は酷く小さくて。

周りにいる馬と比べるととても強そうに見えなくて。

 

「おじちゃん、もっと強そうな馬に乗せてもらえばいいのに」

「はは…」

 

そんな俺の考えがぶち壊されたのはすぐだった。

 

 

『たった一頭、第4コーナーを越えてやって来る!

日本のシルバーバレットだ!

後ろは、後ろはもう追うことしか許されない!

ッ!?シルバーバレットが加速した!

まだ脚があるのか!こんな馬がいていいのかァっ!?』

 

 

ギュンッという感じだった。

まるでジェット機のような速さ。

まるで弾丸のように走り去っていった小さな体。

 

その日、俺は速さに魅せられた。

その日、俺の夢が目に焼き付いた。

 

「か、った…?」

 

最後の最後はもうしがみつくしかできなかった。

ゼェゼェ、と息を吐き、力を込めすぎて痛くなった手や腕の力を緩めながら掲示板を見た。

 

するとそこに表示されていたのは「大差」と去年のワールドレコードを大きく上回っている訳の分からないタイム。

呆然としつつも徐々に自分と彼の名前がコールされているのを聞いて、ぽつと涙が零れ落ちた。

 

これで、これなら、もう二度とこの馬を「まぐれ」と呼ぶものはいないだろう。

 

 

我ながらとんでもねぇ速さで走ってしまったと青ざめた。

脚をやっていた過去を忘れ去っていたほどに、歓声をかけられ高揚してしまった。

最終的には上に乗っていた騎手くんのことを何も考えていない走りだった。

 

大丈夫?どこか痛めてない?と心配すると泣き出した騎手くん。

えっ、やっべ…!と焦ると痛いわけじゃないらしい。

 

「やった、やったな、ばれっとぉ…」

 

首元に騎手くんが抱き着く。

そこから騎手くんの暖かい涙が肌に染み込むのが分かる。

そう、か。

 

(勝った、のか、僕…)

 

また声が耳に届く。

僕の名前を呼ぶ声。

その声に僕は大きく、大きく嘶きを返した。

 

 

『先輩…』

『ん、うおっ!?』

 

声をかけられ、振り返ると芦毛の後輩が人間を軽く引きずってやって来ていた。

どうしたんだと声をかけると小さく、弱々しい声で『不甲斐ない…』とただ一言。

 

『先輩と、先輩と走れたのに、…こんな自分が不甲斐ない!』

『後輩…』

 

ぼた、ぼたりと後輩の目から涙が流れる。

睨みつけている目はきっと、その不甲斐ない自分自身に向けてだろう。

 

『次、次のレースが僕の引退です!

だから、だから次はこんなんじゃありませんから…、こんな姿見せませんから…!』

『あ、あぁ、それがね、後輩くん…』

『…なんですか』

『僕、もう走らないと思うんだ』

『え…?』

『だからキミとはもう走れないよ』

『どっ、どういうことですか!?』

『それがねぇ、』

 

多分僕、今日のレースで引退になると思うから。




僕:騎手くんのこと全然考えてない走りしちゃって焦りまくった。
でも自分が勝ったことに嬉し泣きする騎手くんを知って、少しばかり泣きそうになってみたり。
実は今まで走ってきた中、今回のジャパンカップで初めて息が上がってる(でもすぐ治った)。
しかし、後輩が「ワァ……ぁ…」「泣いちゃった!!!」したので慰めた模様。
多分そろそろ引退するだろうなと考えているウッマ。

後輩:どこにでもいる普通のオグリキャップ。
史実と順位は変わらず。
一緒に走りたいなと思っていた先輩の僕と走れて嬉しい反面、追いすがることすらできなかったことに悔し泣き。
自分に幻滅して欲しくないと僕と次一緒に走るだろう有馬記念の話を出したら「出ないよ」って言われて二度見した。
(オグリが有馬記念の話をしたのは強いウッマが集まるレース=なら今回クッソ強かった僕も出なくちゃおかしいという考えになったから)

僕に魅せられた子ども:騎手くんの甥っ子。
僕に脳と目を焼かれ、将来の夢が騎手に決まった。
そう遠くない日に僕の甥っ子であるシルバーチャンプと運命の出会いを果たす模様。


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タイム・オーヴァーラン

常識もルールもこの脚で覆したウッマになったね……。


1990年ジャパンカップは見事シルバーバレットが制した。

だがシルバーバレットの出したタイムが問題だった。

 

2分19秒0。

前年のホーリックスが出したワールドレコードを大きく上回ったタイム。

そして2着馬であるベタールースンアップのタイムが…2分23秒2。

4.2秒の差。

 

この話に繋がるのがタイムオーバー制度だ。

中央競馬には1973年から「調教不十分な馬の出走を防止」し「立て直すための調整期間を与える」という目的でサラブレッド系の平地競走を対象に実施されている制度がある。

 

その規定に芝のレースにおいて1着馬の走破タイムから4秒超過した際にはタイムオーバーとなる、というものがある。

結果として、タイムオーバーとなった馬には一律1か月の出走停止処分が科されてしまう。

 

この規定に則ると、あのジャパンカップを走っていたシルバーバレット以外の馬の全てに規定が適用されてしまうことになる。

 

あのレースを走っていたのがただ一介の日本馬だけであったのならそのままだったであろう。

だがあのレースには海外馬がいた。

そして何より()()オグリキャップがいた。

 

オグリキャップの熱狂は今現在でもその名を聞かない日はないほどだ。

そんな馬が有馬記念に出られないなんて。

このまま引退すべきという声や「今すぐ引退させろ」という脅迫状が届いたということも一応あるが、多くの民衆が望んでいるのはオグリキャップが走りきった結果、引退することなのである。

いくら輝きが失ったヒーローであろうとも、最後でいいからその勇姿を見たいとダービー時の署名活動も比にならないほどの声が上がっていると聞く。

競馬を押し上げたヒーローの最後がこのままでは駄目だという声が上がっているのだ。

 

 

そのまた一方、中央競馬もタイムオーバー制度に関して侃侃諤諤の議論を交わしていた。

今までの規定に則り、タイムオーバーを敢行すべきだという声はもちろん上がった。

 

海外馬に関しては何とかそれぞれの国の規定に則って対処するということに決まった。

 

問題は日本馬をどうするか。

その競走が普通のレースであったなら彼らもタイムオーバーを敢行したであろう。

その議論が終わらない理由はやはりオグリキャップにあった。

 

テンポイントの顕彰馬選出の際も多くの抗議が寄せられたが、オグリキャップがタイムオーバー制度のために有馬記念に出られないとなればそれ以上の抗議が寄せられるだろう。

それほどまでにオグリキャップの熱狂は凄まじかったのだ。

 

 

議論の結果、出された発表はこのようなものである。

 

国際招待競走、コースレコードタイムが更新された競走、及び障害飛越の失敗による影響が大きい障害競走にはタイムオーバーが適用されないこと。

 

そして、芝コースの従来のタイムオーバーは4秒であったが砂、ダートコースと同じく5()()と変更すること。

 

 

初めはその変更に抗議があったが、次の言葉で抗議は徐々に収まっていった。

 

「皆さまはマルゼンスキーという競走馬を覚えているでしょうか。

その馬はタイムオーバーを恐れられた結果、十分な実力が出せなかった一頭の競走馬でした。

 

彼は海外からの持込馬でした。

あの日の日本競馬は彼に敵いませんでした。

彼に勝てる馬など日本競馬界に現れないのではないかとすら私たちは思っていました。

その中で、その中で今回現れたのがシルバーバレットです。

あのジャパンカップで全てを置き去りにした彼に私たちは夢を見ました!

……そしてこう思ったのです。

 

いつか現れるだろう彼らのような競走馬がこんな規則で才能を潰されていいものか、と。

 

私たちは未来を見ます。

彼らのような競走馬が日本の競馬に身近になることを!

日本の競馬が世界に並び立つようになることを!

 

…そのために、このたびタイムオーバー制度を変更させていただきました」

 

その日、ひとつの規則が変わった。

そして、

 

(やっとゆっくり過ごせるかな〜)

 

そのことをシルバーバレット(当の本馬)は知る由もないのだった。




僕:知らん間にタイムオーバー制度を変更させちゃったウッマ。
2000年代に距離別でタイムオーバーが規定されるまで、この世界軸ではタイムオーバーは芝ダート含めて一律5秒となった。

オグリキャップ:伝説のアイドルホース。
その人気がタイムオーバー制度の変更の一因となったという話が残っており、オグリ伝説の1ページに刻まれたエピソードとなった。


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◆ジャパンカップにて

だいぶ騎手因子がついてる娘主人公とトレーナーさん。
インタビュー受けてる時の主人公はシングレのtmみたいな覇気出してる。

【追記】
誤字報告ありがとうございます。訂正しました。


ジャパンカップに出ると宣言した。

だがネットを見てみると『枠潰し』などと書かれている。

それに無意識で唇を噛み切ってしまっていた。

 

(…これが、僕の勝負服)

 

鏡の前にいる自分。

今までG1レースを見ながら、僕が勝負服を作るのならただ走りやすいものにしたいと思っていた。

スカートよりはズボンがいい。ヒラヒラしたのは好かない。

火傷跡を隠すためにゴーグルと勝負服の色に合わせたスポーツキャップ。

ほぼ黒色で、胴に白色の一本輪、袖には黄色の二本輪。

そんな勝負服。

 

(まぶしい…)

 

今日、いる場所は記者会見。

僕と同じようにジャパンカップに出るウマ娘が集まっている。

 

「…負けるために出るウマ娘がいるわけないでしょう?」

 

長いキャリアの割にG1初出走の僕にはそれなりに注目があるようで、さまざまな質問がかけられた。

その中でかけられた質問にカチンときた。

 

「私は、ミスターシービーやシンボリルドルフと戦いたかった。

私と対等に戦えるくらいのウマ娘だったから。

しかしそれは、もう無理な話です。

だから私はジャパンカップに出てきました。

私を楽しませてくれるウマ娘がいるはずのジャパンカップに」

 

うっすらと笑みが口元に浮かぶ。

 

「私に競り合えるぐらいのウマ娘がいることを、願っています」

 

 

「ごめんなさい、先生…」

 

何であんなに苛立ってしまったのか、自分でも分からない。

先生にも迷惑をかけてしまっただろうと落ち込んでいると頭を撫でられる。

 

「大丈夫だ、バレット」

「せんせぇ…」

「キミがあぁ言わなかったら僕が後であの質問をした記者を闇討ちしてた」

「!?」

「キミは誰よりも強いんだ。…誰が『枠潰し』だ、クソが」

「!?!?」

 

ブツブツと呟きながら目が座っている先生に困惑する、と同時に吹き出してしまう。

どうやら、僕らは似たもの同士らしい。

 

 

そして、

 

「もっと走ってたかったなぁ」

 

走り終えて、上を見上げると自分でも訳の分からないレコードを出していた。

聞こえてくる歓声は爆発しているみたいで、心臓はバクバクといって止まらないまま。

掲示板を眺め続けていると感涙に咽び泣く先生が僕の元へやって来た。

そして、僕のことを肩車し始めたので「腰痛めますよ!?」と慌てて言えば「今、そんなこと言ってられるか!」と一喝された。

 

歓声はいつしか、僕らの名前を呼ぶものに変わった。

そのあと、ミスターや家族から「おめでとう」というメールが入っているのに返信を返している僕は知る由もなかった。

 

まさか、規則を変えてしまうことになるなんて…。




僕:G1初制覇を果たした。
同期も周りもみんな既にドリームトロフィーリーグに行っており、今回のレース結果から「はよこっち来い」のメールが大量に届くことになる。
彼女自身もそうしようとしていたが…?


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夢を託すに相応しい

夢を見せた責任取れよ!ってことで…。


タイムオーバー制度の変更があって、少し。

さて、シルバーバレットの今後をどうするかという話になった。

この馬の強さはこの上なく証明された。

なら引退するか?という話になっていたのだが、

 

「海外遠征、ですか?」

「あぁ」

 

シルバーバレットに海外遠征の話が来ているらしい。

そんなお金、馬主の**さんにあるんですか?と問うとJRAやシンボリ牧場、社来グループなどが資金を援助する、と。

 

「はぁ?!」

「あんな訳の分からないレコードを出した馬が現れたんだ。

あんな馬、二度と出てくるか分からないんだぞ!?」

 

それほどまでにジャパンカップでシルバーバレットが与えた衝撃は凄まじかった。

あの馬なら海外でも勝てるかもしれない。

いや、あの馬が勝てなければ未来永劫日本競馬は世界に届かないだろう。

 

彼らは見つけたのだ。

自分たちの夢を託すに相応しい、シルバーバレットという存在を。

…それが自分たちの所有する馬ではないのが口惜しいが。

 

 

「は〜、海外遠征ですか」

「ぶるっ!?」

 

どうも、僕です。

多分引退するよな〜、頑張ったよな〜と思いつつ過ごしていたわけです。

そんな中、告げられたのは「海外遠征」という言葉で。

「やっぱりすごいなぁ、バレットは」とニコニコ僕を撫でてくる騎手くんを見ながら大混乱。

海外、海外!?僕が!?何で!?

 

「まぁ、あんな訳の分からないレコード出したらねぇ」

「JRA、シンボリ、社来が資金援助するってよ」

「へぇ!?」

「お前、引退したら引く手数多って感じになるかもな」

「ぶるるっ!?」

 

僕と騎手くんが揃って宇宙の神秘を垣間見てしまったような顔になる。

いや、ホントに何でそんな期待されてんの僕…?

 

「…え、えっと、それでバレットはどこに出るんです?」

「そりゃあ凱旋門賞は確実だろうよ。んで調子がよかったらキングジョージ6世&クイーンエリザベスダイヤモンドステークスとかムーラン・ド・ロンシャン賞に出るかもな」

「は、はぁ…。まぁバレットはその気になればどんな距離もいけるから大丈夫でしょうけれど…」

 

今にも冷や汗ダラダラでぶっ倒れそうな騎手くんを支える。

ほら、耐えて騎手くん!君が倒れたら僕、何もできないんだぞ!

もう一人の人もさぁ、笑って見てないで助けて欲しいんですけどねぇ!?

 

 

その衝撃は凄まじかった。

ジャパンカップで2年連続のワールドレコード更新。

そして2分19秒0という訳の分からないレコードを出したのが日本馬であるシルバーバレットだというのだから歓喜もひとしおだろう。

 

ジャパンカップ始まって以来の、完勝と呼べる結果を出した馬。

そんな馬が海外遠征をするということに反対する声は上がらなかった。




僕:海外遠征に行くことになった。
馬主だけじゃ海外遠征の資金を出せないため、それを知ったJRAやら社来グループ(現実での社/台)やらから資金援助を申し出られてしまった。
それほどまでに僕の出したレコードが物凄かったのである。
僕がサラ系であることなどを差し引いてもその規格外のスピードが魅力的であったため、ここで恩を売っておいて種牡馬になった時に…と裏ではバチバチしている。
まぁ、コイツ馬場問わず距離問わず芝ダートの両刀だからな…。
社来さんは日高の方にサクラユタカオーを取られたという苦い思い出もあるからね…。
もちろんヒカルイマイの会の方々も募金にて資金援助した模様。


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◆海外遠征と魅せられた人々

多分このまま行けば9月くらいに完結しそうな気がします。

【追記】
誤字報告ありがとうございます。


ジャパンカップのあと、不甲斐なさから泣き出してしまった後輩を慰め、その折に「多分引退するだろうから有馬記念は出ないよ」と言ってしまったのだが、

 

「…海外遠征?」

 

引退する気マンマンだった僕に先生からかけられたのはそんな言葉だった。

 

「僕って海外遠征に行けるほど賞金稼いでたっけ?」

「いや、それがな…」

 

先生から説明してもらった。

なんと、URA・シンボリ家などが僕の海外遠征に資金援助をしてくれるのだという。

なんだその破格の対応と流石に驚いていると「それほど、キミが勝ったジャパンカップが衝撃的だったんだよ」と褒めてくれる先生。

 

「いや…、まぁ確かにアレは自分でも凄かったと思うけど…。

多分もうあの走り方はしないよ」

「なぜ?」

「だってあんなの、自分の体を無視した走り方だ。

僕が何も怪我したことないウマ娘だったらアレを好きなように使えるだろうけど…、先生はよく知ってるよね?」

「…あぁ、」

 

あの日、第4コーナーから突如として世界が変わった。

世界が白黒になって、歓声も聞こえなくなって。

地面を踏みしめる足が本当に軽かった。

いつもより本気で走っていたから疲れていたのにそんなこと、無くなってしまったかのように。

風を切り裂いていく感覚が嫌でもわかった。

そして、正気に戻った後に見たのがあの、自分でも訳の分からないレコードだった。

 

 

私がトゥインクルシリーズを見始めたのはほとんどの人と同じようにオグリキャップさんが現れてからで。

多分あの年代からトゥインクルシリーズを見始めた人たちのほとんどはオグリキャップさんに魅せられていたのだろう。

 

でも、その日は違った。

私が初めて現地参戦した東京レース場。

肌寒くなってきた秋の終わり、誘導役のウマ娘の人が出てきただけで湧き上がる大歓声。その中にいた貴女。

 

その人は本当に小さかった。

ゲートに並んでいる姿を見るとその間だけペコンと山がへこんでいるような。

13番人気だったその人がまさか勝つなんて誰も思っていなかった。

 

ゲートが開いた瞬間、トップスピードで駆け抜けて行く姿。

誰も、その姿に追いすがることができる人はいなくて、グングンと後ろを引きちぎりながら前に進んで行った。

 

その姿を見て、誰もが「あぁ、あの娘はもうダメだな」と思ったことだろう、私だってそうだったのだから。

 

けれど、貴女は後ろを引き連れたままだった。

貴女が一向に垂れてこないことに焦った後方が追い込んできたけれど既に遅かった。

 

瞬間、大地が爆ぜる。

 

黒い勝負服も相まって、それは小さな弾丸のようだった。

後ろは彼女に追いすがることしか許されず、彼女の走りにいつしか誰もが熱狂していた。

 

 

誰が呼んだか"2分19秒の怪物"。

あの日、彼女に魅せられた私たちは彼女のようなウマ娘を今か今かと待ちわびている。




僕:海外遠征に行くことになりそうなウマ娘。
後輩のオグリに引退するって言った手前、少々気まずい。

僕の固有を考えると近いのはセイウンスカイ。
第4コーナーで先頭だったら加速に、2位以下を引き離せば引き離しているほど加速力アップって感じ。とんでもない勢いでかっ飛んでいく。
僕の固有で出る時の映像は、踏み込みで黒いイナズマが出て(父ヒカルイマイの電撃の差し脚イメージ)、黒い突風を身にまとって駆け抜けて行くイメージ。



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海外へ行こう

ヒコーキに乗るウッマ。


飛行機ってちょっと面倒臭いなと思った僕である。

人間時代の飛行機ってだいぶ進歩してたんだなとも。

飛行機の旅、といっても閉じ込められてるだけだしな。

 

『あっ、どうもどうも』

 

ご飯の時間になるとお世話してくれる人がご飯をくれる。

一人ぼっちで僕、ここに閉じ込められてるんだよな。

お世話役の人と会える時が唯一の安らぎというか。

 

『褒めてくれてありがとうございます』

 

僕は昔から少食だ。

リリィにも心配されてたし、厩舎の子たちにも、お世話してくれる人たちにも昔から心配されていた。

それで今回、いつもよりちょっと多めに食べられたため褒めてくれたのだ。

…まぁ、海外に行くってもんだし英気は養っておかないと。

 

 

初めての海外。

シルバーバレットもそうだが、僕だってそうだった。

シリウスシンボリの時のように少し乗せられて日本に帰るのかと思っていたのだけど、「お前が全部乗るんだぞ」と言われてビックリ仰天したのは記憶に新しい。

 

「えっ!?」

「なに惚けた顔してんだ。お前にしかバレットは扱えねぇよ」

「でっ、でも、僕なんかより」

「あいつがあんな訳わかんねぇレコード出したのはお前のお陰なんだから胸張れ!…それに、」

「それに?」

「あいつ、シルバーバレット。お前以外乗せたら全力で叩き落とすと思うぞ」

「…まさかぁ」

 

まさか、シルバーバレットがそんなことするわけない。

火傷の後遺症であまり見えていない左目の方から近づくと蹴ってくる可能性があるため危ないが、それ以外なら大人しくて、こっちにご飯を譲ってこようとするくらい優しい子なのに。

 

「ま、そういう訳でお前はシルバーバレットの騎手のままだ。

…気張っていけよ」

「…そんなプレッシャーかけないでくださいよ!」

 

 

どうも、僕です。海外についたよ。

 

『うむむむ…』

 

もし、もし…っとご飯を食べながら唸る。

場所によって水の味とかが違うって本当なんだなと思いつつ。

でも、出されたものを残すのはダメだよなぁと思って食べられるだけ食べている。

 

「やぁ、バレット」

 

ひと息ついていると騎手くんが来てくれた。

騎手くんも一応は元気そうだ。

 

「ご飯ちゃんと食べてるか?」

「ブルルっ(まあまあ)」

「僕も何とか食べてるけど…、やっぱりなんかそこまで美味しいとは思えないんだよね」

「ブルっ(そうだね)」

 

騎手くんがやって来てくれたので、鼻先で桶や水入れを押して『そっちにやっといて』と示す。

そうすると騎手くんは苦笑して「分かった分かった」とそれらを退けてくれた。




僕:海外遠征のために初めて飛行機に乗った。
帯同馬はいないが特段一頭でも大丈夫なタイプ。
ストレス耐性が結構高め。
食事の好みもそこまでないので出されたものは何でも食べる。
少食なのが玉に瑕だが、それ以外はお世話に苦労することがないウッマ。

実は意外と騎手くんのことに関しては気性が荒い。
騎手くんのことが大好きだから。相思相愛の関係。
騎手くん以外が自分に乗るとなったらその人間をコロす勢いで地面に叩きつけるのかもしれない。


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舐めてくれるな

普段が大人しいだけでちゃんと気性が荒いウッマ。


海外なう。どうも、僕です。

相変わらずご飯は食べ続けてるよ。お水は日本の方が美味しいけれど。

 

「バレット」

「ブルっ(騎手くん)」

 

ぼんやりと思考に耽っていた時、タイミングよくやって来た騎手くんたちに促され、調教となった。

僕と一緒にここに元からいる馬がお供につけられたのだけど。

 

(…う〜む、馬鹿にされてることは分かるぞぉ?)

 

悲しきかな、言葉が通じなかったのである。

いや、元から僕は耳が聞こえにくいけれどまさか言葉が分からないって、ねぇ?

けれど、馬鹿にされてることだけは目の前のニヤついた顔から嫌っていうほど分かるんだよな。

…OKOK。

 

(そんだけ遊びたいってんなら好きなだけ遊んだらァ!)

 

 

イギリスについてから初めてのシルバーバレットの調教となった。

シルバーバレットの食事も問題がなさそうで(そもそもシルバーバレットは好き嫌いしないタチだが)、環境が変わってもスヤスヤと安眠していたし、そろそろ調教しようということになったのだ。が、

 

「バレット?」

「ブルルルっ、」

 

調教の相手としてつけられた現地の馬は平均より少し大きめ程度の馬だった。

そんな馬に体の小さいシルバーバレットは舐められているようで人間の僕が見ても「舐めてるなぁ」と思ってしまった。

そういう訳で完全に煽られた状態になったシルバーバレットはヤる気満々となってしまっていて、

 

「待っ、待ってくれバレット!」

「ブルルっ、フヒンフヒンっ!!」

 

調教する場所に行こうぜ…久しぶりに…キレちまったよ…、とでもいうかのようにグイグイとシルバーバレットが進もうとし、止めようとしたが無理だったので諦めた。

 

「…バレット、脚のこと忘れないようにしてね」

「…ブルっ」

 

忘れてた、とでもいう風に嘶いたのには苦笑するしかなかったが。

 

 

かかってこいやぁ、何頭かかってこようが全員メンタルボコボコにしたるわい!チビって言うなバーカバーカ!!

 

…どうも、僕です。

クッソがぁぁぁぁ…、全員舐め腐りやがってぇぇぇ…!

さすがにさ、初めはね、僕の方が歳上な訳だからさ、我慢しようと思ってたんだよ。

でもさ、毎回毎回会う馬会う馬に馬鹿にされてたらさ、…ブチ切れちゃうのもわけないと思うんだよね。

 

「バレット〜、落ち着け〜」

 

あ、お世話役の人だ。

荒れている僕を心配したようでリンゴを差し出してくれた。

シャクシャクと食べながら、ちょっと甘さが薄いなぁと考える。

リンゴも好きだけどバナナとかも食べたいよな。

僕は何でも食べるけど妹のフォーチュンは好き嫌いが激しかった。

僕が言い含めると渋々食べだしていたけれど、あの子ちゃんと食べてるかなぁ。




僕:海外に着いた。
馬鹿にされても『相手は年下だからな…』と鷹揚に応対していたが、会う馬すべてに馬鹿にされ続けたら流石にキレた。ちゃんと気性が荒いところがある。人間相手には優しいだけ。
キレたので、全員併走でわからせた。ボコボコのボコにした。
最終的に負かされたウッマのみなさんは心ベキベキと化し、最終的にボスの座を譲られることとなってしまった。


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海外一戦目、そして産声を上げた怪物

昨日に少し手直ししましたが、主人公の甥っ子であるシルバーチャンプは凱旋門に勝利してません。
脚部不安が続き、G1を獲れないまま凱旋門2着のあと屈腱炎で引退→種牡馬入りという流れです。

鬼超えて修羅になったってだけじゃそりゃ勝ったって思うよね…と自分で読み返して思いました。
誤解を与えたようですみませんでした。

【追記】
誤字報告ありがとうございます。



「キングジョージⅥ世&クイーンエリザベスダイヤモンドステークス、か…」

 

シルバーバレットと出会ったあの頃も、強い馬だと思っていたけれどまさかこんな場所に来れるまで強かったとは思わなかった。

日本とはどこか違う空気と空。

それに落ち着かない僕とは違い、彼は変わらず平然としていた。

 

「その落ち着き、少し分けて欲しいくらいだなぁ…」

「フヒン」

 

 

今日が本番らしい。

7月終わりの少し暑くなってきた風が体を撫でる。

僕の上に乗る騎手くんはガチガチとはいかなかったが緊張しているようで落ち着くために僕を撫でているのだがその手はどこかぎこちなかった。

そんなに気負わなくていいのに、と思う。

そう思いながらも周りから向けられる好奇の視線に少しばかり辟易とする。

 

お世話になった厩舎の子たちはもう舐めてくることはなくなったけれど、やっぱりこっちはなぁ……。

まぁ僕が小さ過ぎる、歳がいってるというのもその理由に入っているのだろうが、

 

(全員、置き去りにすれば終わりだしな)

 

 

緊張していた僕とは違い、シルバーバレットはいつものように逃げに入った。

競り合ってこようとした馬もいたかもしれないが彼の方が速すぎて、その存在の確証はない。

 

一応、馬場が日本とは違うため走りにくいだろうという話を聞いていたわけなのだが、

 

(全然そんなことないな、コイツ)

 

悠々と走っていくだけ。

逆にいつもと違う地面の感触を楽しんでいるのではないかとすら思える。

相も変わらず、レース前は舐められていたシルバーバレットだけれど、勝って舐められなくなればいいなぁと思いながらゴールを通過したのだった。

 

 

ふぃ〜、たーのしー!

初めは地面の感触に「おぉ?」ってなったけれど走ってみたら面白かったな、うん。

走り方もこの前のジャパンカップみたいにならないように気をつけたし。

あんな走り方したらもう歳いってる騎手くんが振り落とされかねないからね、仕方ないね。

 

「よくやった」

 

騎手くんが撫でる手も僕が走っている間に緊張が取れたようでいつもと変わりがなかった。

走ってて後ろから誰も気配感じないな〜と思ってたら僕がゴールに入ったあと、1秒ちょっとして2着の子がゴールに入っていた。

 

……海外に来たら強いやつに会えるかな〜って思ってたんだけど、海外でもこんなもんなのかなぁ?

 

 

その日、そのレースにやって来た小柄な馬を内心舐めていたところがなかったと言えば嘘になる。

 

あれほど小さく、それも普通は引退しているだろう年齢で法外なワールドレコードを出したとは信じがたかったのだ。

 

だが、悠々と勝利を決められた。

2着であるGenerous(ジェネラス)だって3着馬に7馬身つけた圧勝だった。

しかし、その先をいったのがシルバーバレットだった。

 

最初から最後まで追いすがることしか許されなかった。

 

…そんな極東から来た悪魔が産声を上げたことを、まだ誰も知らない。




僕:海外勢にとっての悪魔が爆誕した。
1991年の海外勢のみなさんは運が悪かったね…と後世言われる。
まさかあんなバケモンが来るって思わないだろ!

ここからプライドとか脳をぐしゃぐしゃにされたり焼かれたりする一年が開幕する。


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とある雑誌の記事

主人公の大百科を書くに当たって元になったかもしれない雑誌の記事。
大百科より少しばかり詳しく書かれている模様。


後世、シルバーバレットという競走馬を語るにおいて、よく言われるのはスピードの花形としてのspeedstarと原義である高速運転者、スピード違反者という意味のspeedsterを絡ませた『Mr.スピードスター』やら誰も彼もを置き去りにし、追うことすら許さない勝ちっぷりから『最速の蹂躙者』というあだ名であったが共通して一番言われているのはこのような言葉だった。

 

─────あの馬にあるのはバケモノじみたスタミナと、悪魔じみたスピードだ、と。

 

 

後世においてシルバーバレットという馬が恵まれた生まれではなかったというのは周知の事実である。

シルバーバレットは1980年6月25日、生産馬が1勝できれば万々歳とでもいうような零細牧場に生を受けた。

そんな彼は競走馬になる前に殺処分されそうになったことがある。

 

彼の母親であるホワイトリリィは大変気性の荒い馬であったが、自らの子であるシルバーバレットには優しかった。

そのためホワイトリリィにバレないように牧場の人間はシルバーバレットを引き渡そうとしたのだが、母の愛というべきか、ホワイトリリィは引き渡されそうになっていたシルバーバレットを見つけ怒髪天をつく勢いで周りにいた牧場の人間に襲いかかった。あわや大惨事となったところをシルバーバレットの馬主となった**氏が彼ら母子を買い取ったことで事態を終息させた。

 

さて、今となっては有名な馬主となった**氏だが、実は驚くことにシルバーバレットが初めての所有馬であった。

**氏曰く、**氏本人も初めシルバーバレットにはそこまで期待を持てていなかったようだ。

初めての持ち馬であったのもそうだが、馬というもののイメージから見てシルバーバレットは酷く小さかったようで、その小ささは「買ったはええけどコイツ、走るんかな」と思ったほどだったという。

 

だが、シルバーバレットはそんな**氏の予想を裏切り、快進撃を始めた。

その時点でベテラン騎手であった白峰透騎手を背に、持ったまま大差で新馬戦を勝利すると、OP戦を挟み阪神3歳ステークスを快勝。

その出走馬の中に後の"マイルの皇帝"ニホンピロウイナーがいたのは有名な話だろう。

 

3戦3勝、その全てが持ったままという勝ちっぷりから一気にクラッシック候補へと躍り出たシルバーバレットだったがそんな彼に不幸が降りかかった。

××厩舎の火事である。シルバーバレットは自身の馬房が入口付近であったことも相まり、自力で脱出を果たしたが厩舎にいたほぼ全ての馬が死亡する大惨事となり、生き残ったシルバーバレットも顔に負った火傷のため春のクラッシックを全休となる運びに。

 

そして、同世代のミスターシービーが二冠を達成し、シンザン以来の三冠馬かと期待されている裏でシルバーバレットは毎日王冠へと出走した。

初めての古馬相手であったが相も変わらない逃げ切り勝ちで制し、4歳以上のレースを2戦制したあと、シルバーバレットの活躍は1984年の東京新聞杯へと続くのである…。




僕:確実に生産牧場の脳を焼いているウッマ。
厩舎の火事にてほぼ全ての仲間を喪っている。
数少ない生き残りも僕以外はそう時間が経たない内に引退している。
本当に、厩舎唯一の生き残りになっていた。


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◆憧れの想起

やっぱりあの人に憧れのある主人公さん。


まさか海外遠征に行くことになるとは思わなかった。

こちらは引退する気満々だったというのに、その話を聞きつけたURA職員やら会長であるシンボリルドルフやらがやって来て土下座の勢いでそう頼み込むものだから了承するしかなかった。

 

後輩に今年引退するだろうと言ってしまったのは気まずいが思考を切り替えねばなるまいと頬を叩いて気合を入れた。

 

『海外遠征』

それを行った日本のウマ娘はトゥインクルシリーズの歴史上あまり数がいない。

海外遠征を行ったウマ娘で有名なのはやはりシンボリ家だろう。

僕の同期も一時海外遠征をしていたようだが、学園内で海外遠征の話を聞く時はもっぱらシンボリの名が出ていた。

最近では一昨年の天皇賞・秋で引退となったシリウスシンボリが有名だろうか。

 

「はぁ……」

 

あれだけ必死に頼まれたら断るものも断れなくなるだろう。

僕が普通のウマ娘よりもだいぶ歳がいっているのは分かっているだろうにという気持ちと僕にそれだけの期待を寄せているのかという気持ちが綯い交ぜになる。

 

「まぁ、行くには行くさ」

 

そう言った時のみんなの顔と言ったら!

パァァ!という擬音がついてる顔だったね、アレは。

 

「楽しめるといいけどね」

 

 

シルバーバレットが海外遠征するという一報は瞬く間に日本中を駆け巡った。

あのジャパンカップが記憶に新しい人々は彼女が海外遠征することをこれほどなく歓迎したのだが、年齢を理由に反対する声も同じように上がった。

だがそれを封じ込めたのはシルバーバレット本人で。

 

「まだ何もしてないのに憶測で物事をいうのはやめていただきたい。

年齢がなんです。そんなもの、私は振り切ってきました。

今回も振り切って、逃げ切ってやりますよ。

……逆に、やりごたえのあるウマ娘がいるかどうかが問題ですねぇ」

 

記者会見の場でそう啖呵を切ったシルバーバレットはニィと口を吊り上げ獰猛に笑う。

その姿に彼女と同じルーツを持っていた遠き日の二冠馬を彷彿とさせる人もいたようだ。

 

 

その人は確かに僕の憧れだった。

ダービーで全てを差し切った『電撃の差し脚』。

気性は大変荒い人であったけれど、寒門の出であるということにシンパシーを感じて、ボロっちいテレビの前でその人を応援したものだった。

 

冬になると風が吹き込んでくるボロボロの家。

食事も満足になかった。

貧乏を馬鹿にされたこともあったけどとても優しくカッコイイ母と小ちゃな、かわゆい妹さえいれば幸せだった僕をこちら側に引きずり込んだのが先生だった。

 

今も昔も先生にはずっと感謝している。

走りたいって自分の欲に嘘をついて、家族のために働こうとしていた僕を無理やり引っ張ってでもこちらに連れてきてくれた。

 

だから僕は先生に恩返しをしたい。

……海外遠征を勝てば、先生への恩返しになるだろうか。




僕:土下座する勢いで頼まれたので海外遠征を承諾した。
強いヤツと戦いたい気持ちが一応ある。

憧れの人は幼き日に見たとある2冠ウマ娘。


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フランスにて

着々と最後に突き進んでおります。
…8月中に本編は完結するなぁ、コレ。


キングジョージ6世&クイーンエリザベスダイヤモンドステークスを勝利したあと、シルバーバレットはフランスへと移動した。

最初はあれほど舐められていたのに、移動することになったらお世話になっていた厩舎の現地馬たちにシルバーバレットが引き止められていたのには思わず笑ってしまった。

それを僕たち人間が阻害して何とかシルバーバレットを移動させることができたのだ。

 

フランスにて出るレースはムーラン・ド・ロンシャン賞と大本命である凱旋門賞だ。

ムーラン・ド・ロンシャン賞は1600m、凱旋門賞は2400mと少しばかり距離の差があるかもしれないが、シルバーバレットにとっては特段違いもない距離だろう。

 

「…楽しみかい?」

「ブルっ!」

 

調教後、僕を背に乗せて歩いているシルバーバレットは機嫌がいい。

しかしその瞳はギラギラとした炎を称えていて。

 

「まぁ、キミが勝てなきゃ誰が勝てるんだって話だよな」

「…フヒン?」

 

 

僕だよ。また別の場所に移動したんだ。

まさか、あの子たちに引き止められるとは思わなかったよ。

最後まで言葉が分からなかったけど、僕との別れを惜しんでくれていることは確かに分かった。

でもお世話してくれる人たちに迷惑はかけちゃ駄目だよ。

何とか厩舎のスタッフっぽい人が僕を引き止めようとした子たちを抑えてくれたからよかったものの…。

 

「楽しみかい?」

 

そんなことを考えていると騎手くんが声をかけてくれる。

海外に来た時は騎手くん以外の人が僕に乗るかもしれない!と焦ってみたこともあったがそんなことはなく…。

その事実に安心しながらも、もし騎手くん以外の人が僕に乗ってたら死ぬ気で地面に叩き落としていただろうなとも。

僕の上に乗っていいのは騎手くんだけなのである。

 

僕の上で騎手くんがつぶやく言葉にニヤリとする。

僕が勝てなきゃ誰が勝つ。

そんなことを言われるまで期待されているのにどうしようもなく心が熱くなる。

……嗚呼、早く走りたいな。

 

 

ムーラン・ド・ロンシャン賞はフランス・パリロンシャン競馬場にて芝1600mで行われる平地G1競走である。

ジャック・ル・マロワ賞と並ぶフランスのマイル路線の最高峰レースである。

 

このレースはマイル戦であるためスピードを求められるのはもちろん、ジャック・ル・マロワ賞とは違い高低差のあるレースであるため、高低差を乗り越えるためのパワーとスタミナも必要とされる。

 

1986年にシルバーバレットの同期であるギャロップダイナが走ったレースでもあるが、

 

「いつも通りでな」

「ブルっ(おうさ)」

 

そんなことを知らないシルバーバレットはただ目の前の走るべきレースに集中を向けているのだった。




僕:フランスに着いた。
凱旋門賞の前哨戦としてムーラン・ド・ロンシャン賞に出走。
…しかし、何かしらがあるようで?


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トラウマ

忘れることなんてできやしない。


「…」

 

夢を見た。

心底寝起きが悪くて不機嫌になる。

…しかも何でこんな時間に起きなきゃならないのか。

空は未だ朝の様相を見せていなくて。

どうせ、寝れもしないのでただ馬房に横たわった。

 

朝までどれほどかかるだろう。

じくりと痛む火傷跡に顔をしかめる。

どうして、時期が違うのにあの夢を見たのか。

あの夢を見ていたのは怪我の時だけだったじゃないかとかそんなことを考える。

 

 

調教を施されていると、遠くの方で煙が上がっているのを見た。

それを見て思わず止まってしまった僕を見て、騎手くんが何か言っているのが聞こえる。

取り敢えず動かなくちゃ。

そう思って、ゆっくりと動き出した。

バクバクと嫌な方向で心臓が鳴っている。

落ち着け、落ち着け。

違う、違う。

大丈夫だ。

煙が上がっているのはここじゃない。

大丈夫、大丈夫。

 

そう言い聞かせても、火傷跡は痛むばかりだった。

 

 

シルバーバレットが調教中に止まった。

珍しいこともあるものだと彼が見ている方向を同じように見ていると野焼きでもしているのか煙が上がっていて、

 

「っバレット」

「……、」

「大丈夫か…?」

 

放心状態である彼を撫でているとゆっくりながら現実へと意識を戻してくれた。

ちらりと僕の方を流し見た彼は緩慢に調教の続きをしようとする。

止めようとしたが、彼は全く止まらず、彼の脚の状態を省みながら彼が止まるまで調教は続いた。

 

 

走っておけば嫌なことは忘れられる。

あの日から僕はそう考えて生きている。

 

あの場所は、僕が来た頃そこまで強い馬はいなかった。

それでも温かな、僕の居場所だった。

体の小さな僕のことを彼らは「チビ」とリリィと同じ愛称で呼びながら、「いっぱい食えよ」とご飯をくれた。

もう食べられないと言っても「食わなきゃ強くなれないぜ」とご飯を譲ってくれるのが僕にとっては嬉しかった。

 

僕はあそこにいた彼らのことが大好きだ。

それは今も変わらない。

 

でも、あの日、あの地獄の夜。

僕だけが死神の鎌から逃げ切ってしまった夜。

僕を慈しんでくれた彼らが大勢亡くなった。

逃げ出せた者も多くがすぐに亡くなった。

数少ない生き残った者も、後遺症でそう時間が経たない内にあの場所から去っていった。

僕だけが、生きて、残った。

 

それがどうにも重くて、忘れたくて。

そのために走り続けた。

一生消えやしないだろう、僕のトラウマ。

 

(…勝たなくちゃ)

 

トラウマを反芻して、考えついたのはそのことだけ。

死神から逃げ切ってしまった僕にできる償いはきっとそれだけだろう。

だから、あれほどの怪我をしても走り続けていた。

 

…そんな無理をする僕を、優しい彼らは叱るだろうけれど。

 

(僕にはそれぐらいしかできないよ)

 




僕:あの火事に関して、サバイバーズギルトというかPTSDがあったりする。
今まで表面化してなかったのはコイツ自身が『走ってる間はそのことを忘れる』という自己暗示をしていたから。
怪我で休養している時にその時の夢をよく見ていた模様。

厩舎で共に居た彼らを僕はとても慕っていた。
ボスを譲られたのも、ボスになった僕よりも年上のウッマが火事の後遺症により競走馬を引退したから。
今現在の厩舎に火事の後も残っている競走馬は僕だけである。


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ムーラン・ド・ロンシャン賞

キミがいれば、僕は無敵だ。


シルバーバレットの足取りは悠然としていて、立派だった。

焦ることも、気負うこともないという歩き方だった。

 

「…大丈夫かい」

「ブルっ」

 

平気さ、とでもいうような嘶き。

シルバーバレットは調教で脚を止めたあの日からとても静かだ。

元から騒がしいタイプの馬ではなかったが、どこかのスイッチがパチンと切り替わってしまったような。

 

「ブルっ」

「わっ、」

 

考えごとでぼうっとしているとシルバーバレットがまた嘶く。

驚いた声を出せば「集中しろ」という目を向けられた。

 

「…ごめんね、バレット」

 

 

あの夢のことについて考えた結果、僕にとってあの出来事は一生背負っていかなければいけないものなのだと思い至った。

忘れることなんて一生できないだろうし、一生後悔や懺悔に苛まれるだろう。

けれど、

 

「いつも通りでな」

「ブルっ(おうさ)」

 

騎手くんが一緒にいる時だけはそれが楽になる気がする。

だから、今は、彼と一緒にいる今だけは、…そのことについて考えるのはよそう。

そう、思考を転換した。

 

 

ムーラン・ド・ロンシャン賞。

シルバーバレットにとっては凱旋門賞の前哨戦になる。

 

(相変わらずだなぁ)

 

ゲートが開けば、こちらの心配も無駄だったかのような走りをし始める彼。

これほど長く共に居て初めて見たトラウマの片鱗に僕たちは気を揉んでいたのに。

彼は変わらなかった。

いつも通りに、誰にも競り合うことを許さないまま走り出して。

 

最悪の火事の数少ない生き残り。

火事の後も勝ち星を連ねていった彼はいつしか厩舎の希望になっていた。

彼の勝利から新しい馬の管理を任されるようになったと、シルバーバレットさまさまだと感謝されていたのを知っている。

 

でも、そんな人間の都合はキミにとって関係ないだろう。

ただ、キミはキミの好きなように走り続ければいい。

 

…その中で、キミの背負う荷物を僕も少しばかりは背負えていればいいのだけど。

 

 

相変わらず、自分の走りは変わらなかった。

内心はそれなりに悩み、少々不調ぎみだったというのに。

そんな自分に苦笑しながら、勝ててよかったと安堵する。

 

騎手くんが喜んでいる。

相変わらず、泣きそうになっていてそろそろ慣れてくれないかなと笑ってしまった。

堂々としておけばいいのに。

僕が勝てるのは君のお陰なのだから。

やっぱり君がいてくれるだけで僕は救われているんだろう。

 

君が僕と出会ってくれてよかった。

そう思いながら、そんな彼との話をいつか、遠い場所にいる彼らに話すことができればいいと憎たらしいほど晴れ渡る空の下で思った。

 




僕:ムーラン・ド・ロンシャン賞制覇。
多分ここでも5馬身くらいは離して勝ってる。不調とは…?

騎手くんに対してそれなりにクソ重感情を抱いているかもしれない。
いや、元々騎手くん以外は乗せたくない系ウッマだからな…。
取り敢えず現役の間だけは火事の記憶を一時的に封印することにした。
今は走ることだけに集中するつもり。
記憶につられて負けたってなったらちょっと苦言を呈されそうだしね。


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"最速"へ至るために

目に物見せてやろうぜ。


シルバーバレットがキングジョージ6世&クイーンエリザベスダイヤモンドステークス、ムーラン・ド・ロンシャン賞を破格の強さで連勝したことは日本にも届いていた。

 

今現在で考えてみても年齢の行き過ぎている競走馬であったため心配されていたがそんなこと、小さな無敵の弾丸には関係ないようで。

 

意気揚々と凱旋門賞へ向かう背を誰もが期待して眺めていた。

 

 

僕にとっての大本命のレースが近づいているのを肌で感じる。

ピリピリと張り詰めながら、体感温度が1、2度上がっているように思われる熱気。

そんな、僕に期待する人々の熱意を汲み取りながら僕は最終調整に入っていた。

 

凱旋門賞。日本の悲願。

そんな大事なものが僕に託されている。

 

その事実に対する興奮は、ジャパンカップの時と比にならないくらい。

僕のテンションが上がっているのを周りの人々も分かっているようで苦笑されるのを繰り返している。

 

…あ、そう言えばさぁ騎手くん。

 

 

日本の悲願へ、少しずつ日が近づいてきている。

そのことに緊張しないといえば嘘になる。

まさか自分がこの場所に来れるなんて思いもよらなかった。

今だって、朝に起きるたびに嘘じゃないかって頬を抓ってしまうほどなのだから。

 

シルバーバレット。

小さなキミ。

初めてキミに出会った時、なんという馬だろうと驚いたことを覚えている。

初めてキミの速さに魅せられたのはきっと僕だろう。

キミに初めて出会った騎手が僕でよかった。

今までも、これからも、僕はずっとキミのことを誰にも譲らない。

神様にだって、誰にだって。

 

「…キミは僕の運命なんだから」

 

 

ある日の調教終わり、シルバーバレットに袖を食まれた。

いつもはそんなことしないのに、と珍しさに止まってみるとじぃ、と真剣な目で見つめられた。

 

「どうしたの」

「…」

 

そう問いかけるとシルバーバレットの体勢が低くなって、

 

「っ待って、バレット!」

 

轟、と一陣の風が吹いた。

静止する暇もなく視界から消えた彼は振り向いた先、数十メートルのところで僕を見つめていた。

 

「バレット」

「…」

「やるつもりかい」

「ブルっ」

 

その走りは彼があのジャパンカップの時に見せた最速の走り。

ただ速さというものを究極まで突き詰めたその走りは並大抵の者が下ろせるものではない。

 

「…はぁ、分かったよ」

 

ため息を吐くと機嫌が良さそうに嘶かれる。

もうすぐ爺さんの男に無理をさせる…とため息を吐けば、『だってその方が面白いだろ?』とでもいう風に目を緩ませるシルバーバレット。

 

「キミには本当に適わないなぁ」

 

"最速"

 

「突き付けてやろうぜ、相棒」

「ブルっ!」




僕:凱旋門賞に行くウッマ。
面白そうだからという理由で『領域』使おうぜ!になってる。

ジャパンカップ時は騎手くんが身構えてなかったから重心とかがアレで『領域』の出力が落ちてるというか、海外遠征してる間に『領域』のレベルが上がってるというか…。

騎手くん:僕に激重感情。僕を『運命』といってはばからない。
神様にも誰にも僕のことを譲るつもりはないくらいには惚れ込んでいる。

──────次回、ロンシャンの地に"怪物"来る。


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out of sight

どこまで行っても逃げてやる。

【追記】
誤字報告ありがとうございます。


1991年10月6日、稍重のロンシャン競馬場。

この場所で行われるのが芝2400mのG1・凱旋門賞だ。

 

出走馬はシルバーバレットを含めて15頭。

シルバーバレット以外の出走馬ほぼすべてが3歳か4歳の馬であり、その中でEl Senorだけが7歳馬で。

 

シルバーバレットは2番人気となった。

1番人気はキングジョージ6世&クイーンエリザベスダイヤモンドステークスにてシルバーバレットの2着馬だったGenerousだ。

 

「まぁ、正当に評価されてる方かな…?」

「ブルっ」

 

ちらりと彼の方を伺ってみると一応は機嫌が良さそうだ。

これで人気が下の方だったら機嫌が悪かったんだろうなぁと思いながら僕たちはゲートに向かっていった。

 

 

さて、海外の競馬では資金的に余裕のある馬主がレースを有利に進めるためにペースメーキング専用の逃げ馬を用意することがあるのだという。

ペースメーキング専用の逃げ馬とは、有力馬に有利なペースを作り出すために玉砕覚悟で逃げる馬のことで、ドッグレースの際に走らせるウサギになぞらえて『ラビット』と呼ばれることもあるそうだが。

 

まぁ、なぜそんな話をしようとしたのかというと、…シルバーバレットの横にびったりと張り付いている馬がいるからである。

ラビットかどうかは定かではないがシルバーバレットを意識しているのは明らか。

 

凱旋門賞のコースは日本競馬のコースより過酷だ。

道中10mの高低差に、直線は東京競馬場とほぼ同じ。

それに加え性質の違う馬場に大きい負担重量など。

 

負担重量は小柄なシルバーバレットに多くの負担をかけているはずだが、いつものようにしか見えない。

 

 

シルバーバレットは悠々と進んでいく。

ジャパンカップの時よりは少々スピードを落として走っているようだが、それでも早いペースだろう。

 

そして、6ハロン地点で競り合っていた相手が脱落していくのを後目に、シルバーバレットが駆けていく。

 

そして、

 

「行こうか」

 

東京に続き、今度はロンシャンの地で大地が爆ぜた。

 

 

まさか競り合ってきてもらえるとは思わなかった。

でも、途中で落ちていったのは残念だったな。

下がっていく相手を尻目にスピードを徐々に上げていく。

そして、

 

「行こうか」

 

第4コーナーにかかったところで重心を下げる。

…振り落とされるなよ、相棒!

 

 

このレースの結果から、後にエルコンドルパサーの凱旋門賞が生中継されることになったのは有名な話だ。

 

 

競り合われようが何だろうが総てを突き放して行った黒き影。

 

 

勝負の結果は、のちにシルバーバレットが『極東のセクレタリアト』と称されたところから察してほしい。

 

1着 シルバーバレット 牡11 59 白峰透 *** R2:25.4 2人




僕:実績解除『極東のセクレタリアト』

空前絶後のバケモノ定期。極東が送り込んで来た悪魔。
芝2400mワールドレコード持ちは伊達ではなかった。
海外も、日本ですらも呆然とするしかなさそう。
多分固有はLvMAXだと思われる。現実で領域出すな。

2:25.4のレコードは後々更新されることとなるが稍重の馬場でこのレコードを出したのは後にも先にもコイツだけなので良馬場だったらどれほどだったのか…と今でも語り草になっている。
2着のタイムも馬場的にいえば標準だけど相手が悪かったとしか…。
とても可哀想。

後世、この結果から芝2400m最強馬はコイツで問題ないですよね?状態と化している。



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次の舞台へ

同じ場所にとどまるためには、絶えず全力で走っていなければならない。


シルバーバレットは凱旋門賞を余裕で制した。

あれほどの速さで突っ切り、道中彼に競り合っていた馬はバテバテになっていたのに彼自身は少々息が上がったようにしか見えなくて。

 

ジャパンカップの時にも劣らない爆発のような歓喜の声に心臓が強く鼓動を打ち始める。

 

「…本当に、夢みたいだ」

「フヒンっ!」

 

茫然と、そんなことを呟くとべろりと頬を舐められる。

ベロッベロッと舐められ、そこからぐりぐりと擦り寄られ、くすぐったさと嬉しさで思わず笑ってしまう。

 

「やっぱりお前は最高だよ、バレット」

「ヒヒンっ!!」

 

 

わ〜い、勝った勝った〜!

どうも、僕です。

異国の地で変わらず連勝中だよ。

 

いや〜、今回はちょっとキツかったね。

斤量、だっけ?

それがいつもより重くて、はじめは上手く走れなかったんだよね。

 

でも、競り合ってくる相手がいてくれたから楽しい!ってなって良い感じのテンションになれたから僥倖だった。

その相手が途中で下がっていってしまったのはな〜。

まぁその頃になったら体が温まって、徐々に進出していったのだけど。

 

競り合ってくれた相手がいなくなったらもう僕だけになって、第4コーナーで騎手くんがムチを打ったところで体勢を変えた。

ジャパンカップの時とは違い、騎手くんの方も身構えてくれたので遠慮なくぶっ飛ばした。

 

後ろからは誰も来ない。

誰の気配も感じない。

僕だけであったのならその事実を怖がるだろう。

でも、僕には騎手くんがついている。

だから何も怖くはない。

 

風を、空気を切り裂いて、僕たちはゴール板を駆け抜けた。

 

 

シルバーバレットが凱旋門賞を勝った。

これで帰国かと思ったのだが、次のレースとして示されたのはアメリカ・チャーチルダウンズ競馬場で行われるダート10ハロン、ブリーダーズカップクラシック。

アメリカ競馬のダート中距離路線の1年を締めくくる最高峰の競走であり、その年のアメリカのダート最強馬決定戦となる競走だ。

 

シルバーバレットは芝とダートの双方を走ることができる競走馬である。

芝の最高峰レースとも呼べるキングジョージ6世&クイーンエリザベスダイヤモンドステークス、ムーラン・ド・ロンシャン賞、凱旋門賞を制し、芝の世界最強となったのだから、…ダートの世界最強も獲りにいこうではないかと。

 

「芝とダート、双方を制してこそ最強、か…」

 

行けるから取っておこうというような気軽さではあるが、それもシルバーバレットが勝つと信じられているがゆえにできることだ。

 

「もう少し、頑張れるかい?」

「ブルっ!」

 




僕:芝の世界で最強になったからダートでも最強になろうぜ!状態。
まさか二刀流とは思わんよな…。
アメリカさんも流石に来ないだろ…と思ってたら「行くよ?」されて可哀想。
どこまでも世界を蹂躙するウッマなのだ。


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██に捧ぐ挽歌

それは怪物か、それとも英雄か。

【追記】
誤字報告ありがとうございます。


ブリーダーズカップ・クラシックとは、1984年に創設された比較的新しい競走だ。

また、アメリカ合衆国競馬の祭典であるブリーダーズカップ・ワールド・サラブレッド・チャンピオンシップの中の一競走であり、世界の競馬主要国の中でダート競馬をメインとしているのはアメリカのみであるため、実質この競走が世界のダートチャンピオン決定戦となる。

 

そんな競走に日本馬として初めて挑戦するのがシルバーバレットだ。

今現在の中央競馬は芝レースが基本で、シルバーバレット以前に芝とダートの二刀流ができた馬なんてタケシバオーぐらいしかいなかったのではないだろうか。

 

シルバーバレットは芝でもダートでも遜色なく走ることができる珍しいタイプの競走馬だ。

そういうわけでアメリカのダートの偵察がてら、ブリーダーズカップ・クラシックに乗り込んでみようかということになったのである。

 

 

「凱旋門賞の時より軽くてよかったな」

 

ブリーダーズカップ・クラシックにてシルバーバレットが負う負担重量は約57kg。

凱旋門賞の時は59kgであったため、それよりはマシだろう。

 

出走馬は彼を合わせて12頭。

そして、いつもの通りシルバーバレットが出走馬の中で一番年上である。

人気は4番目らしい。

 

「まぁ、他の国からやって来た奴に負けたら面目丸潰れだしなぁ…」

 

いくら芝であんなレコードだしても、ダートではそうもいくまいといった感じだろうか。

そんなことを思いながら、大変機嫌のいいシルバーバレットと共にレースへと向かうのだった。

 

 

どうも、僕です。

また違う場所に来たよ。

ダートを走るのか〜と思いながら、周りからバシバシ向けられる熱い視線に内心ニッコリとする。

 

いいねいいね。

気概のある奴が多くいた方が楽しいもの。

凱旋門賞の時は、競り合ってくれた子がいたけれど今回はどうなるかなぁ?

 

 

やっぱりコイツだけ飛び出す速さが桁違いだなと苦笑しつつレースが始まった。

最初からトップスピード。

もしもシルバーバレットが負けるとしたら、スタートを捕られた時だと僕は思う。

まぁ、未来永劫そんな馬は現れないだろうが。

 

悠々と、一頭だけ違う次元でレースが進んでいく。

ギュンギュンと突き進み、後ろなんか関係ないとでもいうようにレースは終わった。

 

キッカリ2:00.0というタイム。

2着馬を3秒近く突き放した快勝だった。

 

「これで、日本に大手を振って帰れるな、バレット」

「フヒンっ!」

 

数えきれないほど、日本競馬の夢を勝ち獲って。

バレットが引退すれば種牡馬になるだろうと、そうなるのなら自分も引退して彼の子どもの面倒を見ようと、…そう、新しい夢を見ていたのに、

 

「え……?」

 

シルバーバレットは、帰ってこなかった。




どこまでも、誰よりも、速く駆け抜けて─────帰らない。


次回、エピローグ。


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『さよならはまだ言えない』

君の帰りを、待っている。


「また日本でな」

 

日本の悲願をすべて勝ち取り、シルバーバレットが海外遠征から帰国することとなった。

先にシルバーバレットが乗る飛行機が日本へ向けて出て、その後に僕含めて人間が後を追うように飛行機に乗って帰る予定になっており、引退式は派手にやろうだとかそんな話を僕たちはしていたのだが、

 

「え…?」

 

帰国して伝えられたのは、シルバーバレットが乗っていた飛行機が墜落したということで…。

 

 

まだ、予後不良であったのなら、彼の死に対して諦めがついた。

まだ、飛行機の墜落した場所がどこかの土地なら、その場所の土を持って帰って弔うこともできただろう。

 

だが、シルバーバレットが乗った飛行機が落ちたのは海上で。

シルバーバレットに関してのものは、何も残らなかった。

たてがみも、骨も、何もかも。

立派なお墓が立てられたけれど、そこは空っぽ。

 

僕はというと、彼の死を受け入れられなかった。

あんなに元気だったのに、どうしてという気持ちが抑えきれなかった。

どんな不幸でも乗り切ってきた彼だから、すぐにひょっこりと帰ってきてくれるのではないかと、ずっと、思って。

 

 

バレットが帰ってきたら、騎手を辞めるつもりで彼の妹の世話を見た。

シルバフォーチュン。

彼よりも体格が隆々としているお嬢さんだったけれど、その顔立ちは全妹だからか、彼によく似ていた。

彼女に重賞をいくつか獲らせて引退させ、次に出会ったのは新しい彼の弟だという"サンデースクラッパ"。

 

サンデースクラッパは綺麗な黒鹿毛で、僕は少しばかり彼を思い出したりした。

サンデーは彼よりも怯えからくる気性のせいで初めは難儀したけれど、慣れると甘えてきたりして可愛い子だった。

サンデーも彼と同じようにブリーダーズカップ・クラシックを獲り、それ以外にもアメリカのダートG1をいくつか獲って、現地で種牡馬入りして。

 

…そこまでしても、彼は帰ってこなかった。

彼が帰ってこないからサンデーが引退したあとも、僕は騎手を続けようとしたけれど、交通事故に遭って断念。

 

引退後は、調教師という道もあったがどうにもその道に進む気が湧かず隠遁することにした。

 

 

…思い返せば、僕の人生はシルバーバレットを中心に回っていたように思う。

ろくに結婚もせず、彼と共に夢に向かって邁進した日々…。

 

「ねぇ、バレット」

 

今、僕はね、キミに関しての本を書いているんだ。

キミは恥ずかしいだとか、言うかもしれないけれど僕がキミのことを忘れたくなくて書いているものだからどうか許してくれ。

 

「タイトルは、そうだな……」

 

 

 

 

『さよならはまだ言えない』

 




騎手くん:脳みそがメタメタ。SAN値がヤバい。
僕を亡くしたあとの彼は夢心地のような感じで記憶があってないようなものになっている。
騎手引退するまでの数年の騎乗は『神がかり』と称された。
最愛で最高の相棒である僕の死を受け入れられず、一度は後追いしようとしたこともある。

騎手を引退したあとに、僕との日々を綴った『さよならはまだ言えない』を執筆した。



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シルバーバレット:設定

設定をちまちま書いたもの。
次回は騎手くんとか僕の周りの設定。


僕(シルバーバレット)

 

イメソン:

PENGUIN RESEARCH『千載一遇きたりて好機』

Sumika『ふっかつのじゅもん』

滝善充(9mm Parabellum Bullet) feat.IA 『セツナドライブ』

 

(本馬的には)普通のどこにでもいるウッマ。

しかし無自覚に自分が一番強いと思っているところがあるので死ぬまで家族+厩舎の奴ら以外の馬の名前を覚える気がなかった。…コイツを負かすことができる馬がいたのならまた別の話だったかもしれないが。

 

1980年6月25日に日が切り替わって数時間経ったあとの深夜に誕生したサラ系の競走馬。

父・ヒカルイマイも母・ホワイトリリィも黒鹿毛だが、コイツが芦毛になったのは母父・ホワイトバック(オリ馬)が芦毛だったから。

 

基本的に人間には優しく、馬には少し厳しいタイプの馬。

また「面倒くさい」「ボス辞めたい」などと言いながらも面倒見はよく下からはめちゃくちゃ慕われている。

 

体格は生産牧場の人間に殺処分されそうになったほど頼りなく、小さい。また食が非常に細い。最大体重でも380kgいかなかった。

そして生まれながらにして耳が聞こえにくいため、幼い頃は同い年の馬たちと馴染もうとせず、歳が経て多少態度が軟化しても仲がいいと呼べるほどの馬はいなかった。そもそも他の馬のこと覚えてないし…。

 

体格には恵まれなかったが脚は非常に速く、最期まで誰も寄せ付けなかった。

その代わりに体が脚の速さに追いつけず、壊れやすい仕様となっている。『枯れ枝のような脚』と評されたこともあるかもしれない。

 

1990年ジャパンカップを2:19.0のワールドレコードで走り抜け、1991年では世界を蹂躙し、キングジョージ6世&クイーンエリザベスダイヤモンドステークス、ムーラン・ド・ロンシャン賞、凱旋門賞、BCクラシックを無敗で勝ち獲る活躍を見せる。

そして凱旋門で出した記録から『極東のセクレタリアト』との称号が贈られている。

 

その気になればどの距離でも走れる競走馬であったが、最大最高のパフォーマンスを出せるのは芝2400mであり、後世でもこの距離でコイツに勝てる馬は現れないだろうと日本だけでなく海外でも名指しされている。

 

実のところ厩舎の火事に対してサバイバーズギルトじみたトラウマを抱えているが、本編内にてその話が出てこなかったのは『走っている間はそのことを忘れる』とコイツが自己暗示したから。

ちなみにその火事で左目の視力が著しく落ちている。人影が分かれば上々なくらいの視力。

 

自分を倒しうる強い相手を探しながら、結局そんな馬には会えなかった競走馬。

ファンからは『自分に勝てる奴がいないからって天国にいくやつがあるか』と言われた。

 

彼の波乱万丈な生き様はその当時の人だけでなく、その死後も人々を魅了している。

1990年ジャパンカップで彼を知った人にとってはまるで夢のような馬だった。きっと、今でも夢のまま。

 

そして作中世界にて、彼の活躍がサラ系を救う一助となったのは否めない事実となった。…もう後の時代にはサラ系なんてあってないようなものになっているのかもしれない。

 

【ポスター】

・JRAヒーロー列伝

 

『「奇跡だ」なんて言わせるな』

そんな不確かなモノに縋る存在ではないのだと、高らかに吼えろ。

己が突き進んだ絶望を、栄光を、そんな陳腐な言葉で終わらせてなるものか。

 

─────我が名はシルバーバレット。

そう、我こそが世界を突き進み、門をこじ開けた無敵の弾丸である。

 

正面顔で睨みつけているような構図がとられている。

 

 

・名馬の肖像

 

『その背は未だ遠く』

どれほどの苦難であっただろう。

君の前には幾度となく絶望の暗闇が広がった。

それでも、と前を向いた。

諦めきれるか、と立ち上がった。

そんな運命なんかに負けてなるものか。

一歩を踏み出せ。

そこから繰り出される速さに誰も追いつくことなどできないのだから。

どこまでも、いつまでも。

 

────君が切り開いた道を今も誰かが追っている。

 

キタサンブラックのヒーロー列伝と似ている構図。

最期まで逃げ切った馬生から顔は見せない後ろ姿の写真。

 

【ウマ娘時】

 

『僕みたいな奴が欲しいって…、アンタほんとに奇特だな』

『僕の敵?…そんなの「運命」ってやつに決まってる』

『僕が誰だって?そりゃあどこにでもいる、ちょーっと脚が速いだけの、ただのウマ娘さ』

 

誕生日:6月25日 身長:136cm 体重:やや痩せ気味

 

基本的には無表情で無口。対トレーナーで当社比8割程度、対ミスターシービー等のウマ娘相手では2~3割程度態度が軟化する。MAXは対家族のみ。ナチュラルに目にハイライトがない。芦毛の短髪。

イメ画→

【挿絵表示】

私服→

【挿絵表示】

 

 

治安の悪い場所でシングルマザーの母親と育った。

トレセン入学の数年前に妹が生まれ、幼い妹のため、家族のために働こうとしていたところを彼女の走りを見たトレーナーに見初められトレセン学園へと入学。

 

トレーナーの紹介でトレーナーが面倒を見ているウマ娘たちが住むアパートを紹介され、そこに住み始める。

そのアパートに住むウマ娘たちはお世辞にもそこまで強い者はいなかったが、シルバーバレットの破格の強さを見ても妬んだりする者は誰もおらず、逆に夢の原石のような彼女を先輩らしく支えていこうとしてくれた。

そんな彼女たちをシルバーバレット自身も慕っていたが、ある年の冬、アパートが火事になる。

一応誰も死亡しなかったがシルバーバレット以外のアパートに住んでいたウマ娘すべてが火事の後遺症によって競技引退へと追い込まれた。

 

そのため自分を認めてくれた彼女たちを馬鹿にさせないために、道半ばで夢を諦めることとなった彼女たちのために、ウマ娘のシルバーバレットは苦難の道を歩くことを決めたのだった。

 

 

好きなもの:家族、アパートのウマ娘たち、トレーナー

嫌いなもの:自分の好きな人たちを馬鹿にする人

 

 

火事のあとはそれまで以上に周りを遠ざけるようになるがミスターシービーだけは懲りずに関わってきたことと彼女の生活能力のなさに仕方なく世話を焼くようになる。

 

 

また、何故自分が周り(ミスターシービーやシンボリルドルフ等強いウマ娘)から注目されているのか分かっていない。

 

後輩に対しての面倒見はよく、一番仲が良いのは史実で一番関わりがあったオグリキャップ、次点で血筋的に甥っ子であるシルバーチャンプ。

何だかんだ言いながら世話を焼いている模様。

 

勝負服はウイニングチケットやハルウララ系のスポーティーなもの。

顔の火傷を隠すためにスノボする時みたいなゴーグルとスポーツキャップを着用(史実のメンコ要素)。

元の勝負服が黒を下地に胴に白色の一本輪、袖には黄色の二本輪で、それをほぼ忠実に勝負服に落とし込んでいる。

そして史実にて骨折した右脚にはゴツいプロテクターをしている。

勝負服イメージ→

【挿絵表示】

 

 

同期の三冠馬であるミスターシービーとは何とも言えない関係。

友人のような関係を築きながら、火傷を負わず、クラッシックに出ていたら僕が三冠だったのに…という感情を抱くシルバーバレットとシニア期の毎日王冠で見たあの遠ざかる背が瞼から離れないまま、その相手の本気を見たのが自分の引退後で、自分より酷い怪我から復活してワールドレコードで勝ったシルバーバレットを見て『おめでとう』とメールを送りながらも感情ぐちゃぐちゃなミスターシービー。

 

運命の宿敵になりえたかもしれない、そんな二人。

もう、詮無きことだけど。




設定つくるの楽しいね…。


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シルバーバレット周りの設定

お前のせいでみんなぐしゃぐしゃだよ!


騎手くん

 

イメソン: 島爺『BE MY LIGHT』(シルバーバレット現役時)

MI8k『嗤うマネキン』

(シルバーバレットを亡くしたあとのイメージ)

 

 

本名:白峰透。

童顔おじさん。見るからに優しそうでお人好しそうな顔をしている。現役時は白髪混じりの短髪だった。

シルバーバレットと出会った時点でそれなりに歳がいっていた騎手。

それ以外は勝てても8大競走にだけは勝てず停滞していたところ、運命の出会いを果たした。

 

ファン以上にシルバーバレットに脳と目を焼かれている男であり、死ぬまで、いや死んでもシルバーバレットの死を受け入れられなかった。

 

シルバーバレットが帰ってきたら調教師になるつもりで、騎手を続け、サンデースクラッパの面倒を見終わったところで交通事故にあい騎手生命を絶たれる。

 

シルバーバレットを亡くしたあとは夢心地のような感覚であり、記憶がほぼあってないようなものになっている。

シルバーバレットを亡くしたあとの彼の騎乗はファンのみならず同業からも『神がかり』と称されており、何となくココが行けそうな気がするという感でハードバージの皐月賞のような騎乗をたびたび繰り返していた。

 

騎手引退後は隠匿生活に入り、シルバーバレットとの日々を綴った『さよならはまだ言えない』を執筆出版。

某皇帝の背と並ぶ公式怪文書と呼ばれているがこちらの方は騎手からの愛が重い、ヤンデレ入ってない?と言われている。

 

実のところ、シルバーバレットを亡くした直後は病みに病んで後を追おうとした。

けれどテキに「自殺したらバレットのいる天国に行けないぞ!」と泣きながら諭され「それじゃ駄目だ」と踏みとどまっている。

でも踏みとどまっただけで精神はギリギリである。

そして一生その傷が癒えなかった。

シルバーバレットの死を信じていないため、命日の墓参りにも盆の墓参りにも行ったことがない。

 

シルバーバレットに対して、「僕の運命で、家族で、親友で、恋人で、最高の相棒」と言いつつも内心では自分を置いて逝ったことを憎んでいたりしている。愛憎の感情。

 

知らぬ間に甥っ子が騎手になっていた。

 

 

馬主さん

 

初めての持ち馬がシルバーバレットで色々とやられた。

そりゃあ凱旋門賞とか獲られちゃね…。

 

この人もシルバーバレットの死から立ち直れず、ホワイトリリィが産んだ馬だからという理由で引き取ったサンデースクラッパを最後に自分から馬を買うことを辞めた。

 

シルバーバレットの月命日には必ず参拝し、亡くなるまでその習慣は続いた。

 

 

ホワイトリリィ

 

性格的には某ロアナプラにいそうなカッチョイイ女。

 

しかし慈しんだ息子は帰ってこなかった。

気性は荒いが頭はいいため、周りの沈んだ空気からそう時間がかからずに全てを察し、「親不孝者め…」と呟いた。

 

 

元々受胎率がよくなかったが、ヒカルイマイとは相性が良かったらしくシルバーバレットを産んでからは毎年ヒカルイマイがつけられ、シルバフォーチュン以外はどこかへと引き取られていった。

そして最後の受胎となったのがサンデーサイレンス産駒のサンデースクラッパであり、シルバーバレットのことを思い出しながら丁寧に育てた。

 

 

シルバフォーチュン

 

シルバーバレットの全妹。いくつか重賞を勝っている。芦毛。

シルバーバレットのことを慕っていた。兄とは違い非常に体が丈夫だった。

ワガママだが純真無垢なハルウララのような性格のためシルバーバレットの死を伝えられなかったが、シルバーバレットはもう帰ってこないのだろうといつしか察した。

 

オグリキャップ以外にもあの時代の種牡馬は大体つけられてそう。

子出しもよく、受胎率も高めだったらしい。

子どもたちは中々G1を獲れる子は現れなかったが全員勝ち上がりはしている。

そして子どもたちのほとんどは種牡馬・繁殖牝馬入りしている。

そうでない子は功労馬や誘導馬になっている。

 

初年度にオグリキャップの子としてシルバーチャンプを産んだ。

なおシルバーチャンプは凱旋門2着になって引退。

それは作者の書き方が悪かった。鬼を超えて修羅になったとか書かれたら勘違いしますよね…。

しかしシルバーチャンプはG1未勝利ながらポスターが作成されており、叔父であるシルバーバレットと彼自身の未知数の実力とを絡めて『見果てぬ夢』というキャッチコピーを授けられた。

 

 

サンデースクラッパ

 

シルバーバレットの半弟。サンデーサイレンス産駒。

名前の由来は父の名前の一部と戦う、あるいは戦っている人という意味の英単語・scrapperから。伸ばし棒は削った。

サンデーサイレンスの生き写しの姿をしている。

でも半兄と同じく芦毛である。現役時代は父と同じ毛色だって思われてたけど。

そして生き写しだが父・サンデーサイレンスと違い脚はちゃんとしているし丈夫な模様。ダート専門の競走馬。

 

ダートがあまり整備されていない日本を飛び出し、騎手くんを背にして兄であるシルバーバレットのようにアメリカを蹂躙した。

もちろんBCクラシックも獲った。

 

現役時代は気性難と言われていたが事実としては何もかもにビビるカブラヤオーのような馬だった。

ビビったがゆえに暴力を振るいそうになっただけで、本質的には大人しく優しい馬。

ビビった末に怪我をさせそうになったけど、それでも自分に優しい騎手くんに懐いていた。

 

そのクソビビりの性格ゆえに脚質は逃げで、体力が尽きるまで先頭を行くタイプ。しかし差されたら後続に追いつかれる!となってえげつない脚で差し返しにくるウッマ。

 

競走馬引退後はアメリカにて種牡馬入り。

アメリカにて知り合った1歳年下でライバルで親友となったイージーゴア産駒の三冠馬グローリーゴア(オリ馬)と死ぬまで仲良くやっていた。

なおこのサンデースクラッパ、無敗の三冠馬であったグローリーゴアに一度差されてから豪脚でクビ差差し切りヘロヘロ状態でのBCクラシック制覇を果たしている。なんというジャイアントキリング。

 

ポスターでは『偉大なる背を追って』というキャッチコピーを付けられる。

 

 

ヒカルイマイ

 

何も知らないのかもしれないし、知っているのかもしれない。

たった一頭の存在によって運命を覆された元競走馬。

史実よりも仕事をし、子孫を残している。

その子孫は日本のみならず海外にもいる。

 

たった一頭の存在、それも自分の息子がサラ系という呪縛を何もかもぶち壊していったようなものなので爆笑してそう。

 

でも、父である自分より先に死んだことは苦言を呈する模様。

 




何となく主人公が生き残り種牡馬となっても、全妹ちゃんが繁殖牝馬であっても一代で大当たりはあまりないと思ってます。
彼らの血統は「血を繋ぐ」ということに重きを置いていて、いくつか代を重ねるとバカみたいに大爆発する馬が現れる…というイメージをもってますね。
あともう一方の弱点をフォローしたり、スタミナやスピードにブーストかけたりする血統かな?

しかしチャンプくんは例外で一代目からバカバカ大当たり出してるんだ…。




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◆夢はまだ続く

娘の主人公のイメソンは『ハンマーソングと痛みの塔』だと思ってる。
────みんなアンタと話したいんだ、同じ高さまで降りてきて。


活動報告にてリクエストの受付をしております。
ちまちま執筆していくつもりなのでよろしくお願いします〜。




欧米が誇るG1レースをあらかた獲り終えた気がする。

これほどまでならもう引退しても文句は言われないだろうと、そんなことを先生と話しながらフライトまでの時間を過ごしていた。

 

「すまないね」

「いやいや、席が取れなかったのは仕方ないですよ。

先生が先に帰ってもよかったのに、僕のわがままを聞いていただいて…」

 

ブリーダーズカップ・クラシックを獲って、僕たちは同じ飛行機に乗って帰ろうとしたのだけど、残っていた席が1席だけしかなく、家族たちに早く会いたいだろうと気を使ってくれた先生が僕に席を譲ってくれたのだ。

先生は僕のひとつ後の便に乗るらしい。

 

「あ、そろそろですね。ではお先に…」

 

先生に一礼して、僕は一歩進もうとした。

そして、意識を失う直前に感じたのは固いものがぶつかった鈍い痛みで…。

 

「ん゛っ!?」

 

 

「っバレット!大丈夫かい?!」

「…せん、せ?」

 

次に目が覚めると心配そうな先生がいた。

鈍い痛みのある後頭部を抱えながら起き上がると、僕たちのいる場所がどうやら救護室のようだと分かった。

 

「僕、どうして…」

「それがな、」

 

先生が話したのはこうだ。

ちょうどいい時間になり、飛行機の方へと行こうとした僕の後頭部に未開封の缶コーヒーがぶち当たったのだという。

それは近くにいたとある幼いウマ娘の手から離れたものだったようだ。

 

彼女の親が言うには、その子はこの前のブリーダーズカップ・クラシックで僕のファンになり、その対象である僕と話したくて、引き止めるために持っていた缶コーヒーを投擲してきた、と。

 

なかなかアグレッシブな子だな…、と苦笑しながら先生と話をしていれば、控えめに救護室のドアが叩かれ泣きじゃくっている幼いウマ娘が母親らしきウマ娘に連れられてやって来た。

 

『ひっく…ごめんなさ、ごめんなさい……』

『大丈夫だよ。怪我もしなかったし、自分のファンに気づかなかった僕の落ち度だもの。ね、泣かないで』

『…、』

『ねぇ、キミ名前は?』

『…サンデー。サンデースクラッパ』

 

サンデースクラッパ、か…。

何故か僕は、目の前にいるこの子に運命のような何かを感じてしまう。

何となく、慈しんでやらなければならないような、守ってあげなければいけないような…。

 

のちのち、先生にその話をしてみると先生もそう思ったみたいで、

 

「先生。帰るの、少しズラしてもらって大丈夫ですか?」

「あぁ、もう連絡してある」

 

日本に帰る時間を少しズラして、僕はサンデースクラッパと思い出作りをした。

彼女は年齢からは考えられないくらい脚が良く、それでいて負けず嫌いだった(でもよく泣く)。

これは強くなるぞ…!と思うと同時に「大きくなったら日本のトレセン学園においで」とも勧誘してしまった。

大きく頷いて、『大きくなったら、お姉ちゃんに勝つ!』と宣言した彼女に、僕はトゥインクルシリーズの未来も安泰だなと感慨深く感じたのだった…。

 

「ねぇ、先生」

「なんだ、バレット」

「僕、先生と会えてよかった」

「……いきなりどうしたんだ」

「ふふ、言ってみたかっただけ!」




僕:「ぼく もう いかなきゃ……!」が缶コーヒーでキャンセルされた。
サンデースクラッパに何か運命を感じた模様。スカウトするくらいには運命を感じている。
トレーナーである先生に感謝の言葉を伝えたのはなんとなく。
…でも、言わなければいけないような気がしたから。

同期周辺以外ではタキオンとかスズカとか凱旋門賞出走組に絡まれてそう。

サンデースクラッパ:お前がMVP。
史実では僕の半弟(父はおなじみサンデーサイレンス)。ダート馬。
マンハッタンカフェ、もとい"お友だち"に容姿がよく似ている。
マンハッタンカフェ曰く"お友だち"と見間違えるほどソックリらしい。

傍目から見ると気性が荒いように見えるが本当はとても怖がりで泣き虫。
缶コーヒーを投擲したのも「僕を引き止めたい!」から出た無意識の行動だった。
普通のウマ娘にも怯えるので僕に逃げと抜かれた際に使う差し脚を伝授された。
この時の僕との年齢差はテイオーとキタちゃんくらい。

先生:きっと、その言葉は救いだろう。

一緒に歩んできたトレーナー勢のみなさん:
「お゛れ゛/わ゛だじも゛あ゛え゛でよ゛がっ゛だ!!」


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番外(結構好き勝手)
IF:もしも僕が…


ちゃんと生き残る世界線(なお怪我の程度や戦績は同じものとする)

【追記】
誤字報告ありがとうございます。


ヒカルイマイという競走馬はサラ系という血統が影響したため二冠馬であるのにも関わらず種付けの依頼は極端に少なかった。

またヒカルイマイから誕生した産駒には牝馬が多く(牝馬の売却価格は牡馬の半分~3分の2ほどとなる)、生産者に避けられたことも種付けが避けられた理由のひとつとして挙げられるだろう。

 

なぜ、そんな話をしているのかというと、

 

『なぁ、チビ。

お前は俺の子どもとは思えねぇくらい可愛いからな。

目に入れても痛くないくらいだ。

だから、男は自分で選べるようになれ。

俺はお前が何処かの馬の骨に孕まされるようになるって考えたら気が狂いそうなんだ』

『うん、リリィ』

 

この世界のシルバーバレットが牝馬だからである。

 

 

牝馬であるシルバーバレットは体が小さいことが玉に瑕だが、可愛らしい顔立ちと牡馬を軽々と一蹴する強さから八大競走に出たことのない競走馬でありながら一定の人気があった。

そんな中での1984年毎日王冠にて、

 

『やぁ、お嬢さん』

『…』

『おい、聞いてるか?そこにいる可憐なお嬢さん』

『私のこと?』

『君以外に誰がいるってんだ』

『何の用』

 

ゲートに入るのを待っていると、とある牡馬に話しかけられるシルバーバレット。

 

『いや、なに。君のような娘がこんな場所にいるとは思わなくてね』

『そう』

『…にしても俺を見て何とも思わないのかい?』

『あぁ、私は栗東の馬だからな。見たことない顔だなとしか思わないよ』

『ハハ!そんな女初めて見た。俺の名は…』

『お、そろそろゲートらしいぜ美丈夫さん』

『おい!』

 

出鼻をくじかれたような牡馬にシルバーバレットは笑いかける。

 

『どうせ、アンタも私のケツを見るしかないだろうさ』

『んだと、』

 

どこまでも逃げる。

誰も私を捕えられるなんて思うな。思うんじゃねぇ。

 

『よォ、私のケツはどうだった?』

『…っクソ。なぁお前、』

『俺の女にしてやってもいいって?

ハッ、そりゃあごめんだこって!』

『あぁ!?』

『私はなァ、美丈夫よ。

自分より遅いヤツに興味なんざ無ェんだよ!

誰がお前の女になるかってんだ。馬鹿も休み休み言え』

 

グッと押し黙る目の前の牡馬にシルバーバレットは続ける。

 

『私が欲しいってんだったら、────力づくで奪いに来やがれ。

相手してやらぁ』

 

 

毅然と去っていく小さな後ろ姿を眺めるしかなかった。

 

『うわ、おっかないねぇ。振られたみたいだけど大丈夫かいシービー?』

 

顔なじみであるエースの野郎が話しかけてくる。

けど、俺は、

 

『…る』

『ん?』

『絶対俺のモンにしてやる…!』

『うわぁお』

 

こんなにコケにされたのは初めてだ。

イラつきもするがそれ以上に、

 

『ホント、おもしれー女』

 

どうしようもなく奪ってやりたくなった。




私:みんなの脳は丸焦げ。
この世界の僕。牝馬。顔立ちが可愛い。
これから「おもしれー女」する牡馬を量産していく。
流石の神様ってやつも「あっコレ面白…っ!生き残らせて子ども作らせたろ!」となったらしい。
引退後はコイツにつけるためにチキチキ☆種牡馬ダービーが開催されてそう。
CBやら皇帝やら…選り取りみどりだぁ…!
本馬的にはうまぴょいの時一番大人しいからという理由でオグリキャップを好みそう。
あとは強いメッスな主人公にマウント取ろうとしてくるので…。
普段の性格は大人しいのだが、幼い頃に母であるホワイトリリィの薫陶を受けたためレースの時は男勝りな性格となっている。

騎手くん:ここでも主人公にメロメロ。
主人公引退後は馬主とともに主人公モンペと化す模様。


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英雄、未だ還らず

それは"呪い"か、それとも…。


ずっと、ソイツの影を重ね合わされていた。

 

『あの方によく似ている』

『貴方は本当にソックリ…』

 

牧場にいる奴らも、牧場の人間も、誰もが俺に『シルバーバレット』という存在を重ね合わせていた。

 

 

"シルバーバレット"

俺の母であるシルバフォーチュンの兄に当たるらしい男。

その男のことを俺はよく知らない。

だって誰も語らないから。

死んだその男のことを語らずに、ただ痛ましげに視線を下に向けるだけだから。

 

『お前は、全然似てねぇよ』

 

そんな中、唯一俺にそう言ったのは血筋的には祖母に当たるホワイトリリィだった。

 

『アイツは、チビは今のお前よりずっと小さくて、それでいて利口だった。

お前みてぇに喧嘩売られたらすぐ買うとか、そんな馬鹿なことはしなかった』

『うっせぇわ、ババァ』

『誰がババァだ、口を慎めクソガキ』

 

ホワイトリリィはいつも一頭だけだった。

牧場にいる奴ら全員があまり近づこうとせず、俺の母だけが時折顔を見に来るような関係をしていた。

 

『まぁ…悲惨な最期だったんだろうなぁ』

『何でそんなことが言えるんだ』

『そりゃあ…、アイツのことを一番愛してた人間が来ねぇからさ。

産みの母の俺よりあの人間の方がアイツと一緒にいた時間は長いだろうがよ。

アイツが怪我した時も甲斐甲斐しく通ってた人間が来ねぇんだ。

だから…』

 

それほどまでにアイツの終わりは、救いがなかったんだろうな。

 

 

そんなことを思い出した。

 

俺は未だにシルバーバレットの影を重ね合わされていた。

父親であるオグリキャップの姿も重ね合わされていたにはいたが、やはりシルバーバレットの影の方が濃い。

 

今、俺の上にいる人間はシルバーバレットの上に乗っていた人間の甥らしい。

おいおい、そこまで似なくてもいいだろうと思わなくもなかったが。

 

(クソ…)

 

重い芝の上。凱旋門賞。

シルバーバレットという馬はこのレースで伝説を作ったというが、

 

(脚、痛ェ…)

 

昔から弱い脚が悲鳴を上げる。

追いつけない、追いつけない。

あんなにも期待されておきながら、やっぱり俺は…、

 

(あ、)

 

諦めかけたその瞬間、一番前に小さな、黒い影が見えた気がした。

 

 

…届かなかった。

脚の痛みは最高潮。

 

『やっぱり、届かねぇのかなぁ…』

 

アンタのことをずっと呪いだと思っていた。

俺は、俺はシルバーチャンプという存在なのにシルバーバレットという存在を重ね合わされて。

 

ずっとアンタのことが嫌いだったんだ。

母も、祖母も、みんな悲しい顔をするから。

だから俺が救ってやりたかった。

でも、

 

『お前じゃなきゃ駄目だよ、シルバーバレット…』

 

 




甥っ子:シルバーバレットの影を重ね合わされていた競走馬。
脚が弱いことなどすべてがシルバーバレットに帰結する重ねられ方をしている。
芦毛なので父オグリキャップのことも重ねられたがやっぱりシルバーバレットのことを重ねられる方が多い。

シルバーチャンプという個を見てもらえないために、シルバーバレットを「呪い」と称し嫌っていた。が、凱旋門賞にてシルバーバレットの幻影を見てしまったが故に本心である「シルバーバレットのようなヒーローになりたかった」という気持ちを自覚してしまう。
だが、全身全霊でその幻影を追ってしまったがために屈腱炎となり引退。

後のシルバーチャンプの産駒は凱旋門賞に出走する馬が多く、出走したら出走したでみんながみんな"シルバーバレット"の幻影を見ることになるし、出会ってしまったが最後いつかその幻影を連れ帰りたいと思うようになっている。


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大百科風:完成系

だいぶダイジェスト版です。


シルバーバレット

ニフンジュウキュウビョウノカイブツ

 

『「奇跡だ」なんて言わせるな』

-JRAヒーロー列伝

 

シルバーバレットとは、1980年生まれの元競走馬。牡・芦毛。

あまりの強さ故にタイムオーバー制度を変更させ、史上初の日本馬凱旋門賞・BCクラシック制覇を果たした怪物。

 

また、苦難の道を歩き続けた競走馬でもある。

 

主な勝ち鞍

(GⅡ、GⅢの勝ち鞍は省略)

1990:ジャパンカップ(G1)

1991: キングジョージ6世&クイーンエリザベスダイヤモンドステークス(現在のキングジョージ6世&クイーンエリザベスステークス)(G1)

ムーラン・ド・ロンシャン賞(G1)

凱旋門賞(G1)

BCクラシック(G1)

 

この記事では実在の競走馬について記述しています。

この馬を元にした『ウマ娘 プリティーダービー』に登場するキャラクターについては「シルバーバレット(ウマ娘)」を参照してください。

 

◾︎生い立ち

父ヒカルイマイ 母ホワイトリリィ 母父ホワイトバックという血統。

父は二冠馬ヒカルイマイだが母方の血統は全くと言っていいほど活躍馬がいない。そもそもホワイトリリィも母父ホワイトバックも気性があまりにも荒すぎたために未出走馬だったのである。そりゃ誰も知らんわな。

 

なぜこの配合が行われたのかというと、…牧場に金が必要だったからという世知辛い理由のためだった。

シルバーバレットが産まれた頃の××牧場は衰退の一途を転がり落ちているようなものであったらしく、この時、牧場に残っていた馬はシルバーバレットを妊娠していたホワイトリリィだけという始末(その他の馬はすべて二束三文で売り払ったらしい)。

そのホワイトリリィにサラ系ということで牝馬が集まらず種付け値段が安価だったヒカルイマイをつけて生まれたのがシルバーバレットだった。

 

しかし、生まれたばかりのシルバーバレットは後の功績から考えられないほど疎まれていた。その理由は非常に体躯が小さく頼りなかったからである。そして耳もほぼ聞こえていないよう。これじゃあ売れない。こんな馬が走るわけないだろ!とろくに世話もされなかったシルバーバレットだったが母であるホワイトリリィに支えられ、すくすくと育っていった。

 

そんなシルバーバレットの初めての苦難は、殺処分されかけたことである。先程も述べた通り、シルバーバレットの体躯は非常に小さかった。その小ささは本格化しても400kgに至らなかったほどである。実質メロディーレーンみたいな感じ。大した活躍馬も出していない零細牧場の馬を買う人間もおらず、殺処分されかけたところを偶然近くに来ていた馬主である白銀仁氏に買われたのだという。

 

そこから母子揃って、白銀氏が知り合いであった███牧場へと移送され、面倒を見てもらうことになった。

 

 

さて、███牧場へと移ったシルバーバレットは大変大人しく面倒の見やすい馬であったという。だが母はバケモノ並に気性が荒かった。

調教も難なくこなし、新馬戦を逃げで軽く流し大差勝ちした。

 

そして、阪神3歳Sも当然のように流し勝ちし、一躍関西の期待馬に躍り出たのである。

 

 

◾︎1983年、夢潰える

 

一躍関西の期待馬となりクラシック三冠を目指すシルバーバレット、だったが第二の苦難が襲いかかる。

それは**厩舎の火事。空気の乾いた冬の日の深夜に燃え広がった炎は厩舎にいたほぼすべての馬を焼き殺すに至らしめた。

数少ない生き残りも火事の後遺症でそう時間がかからない内に競走馬を引退した中、唯一現役として残ったのが生き残ったシルバーバレットその馬だった。

火傷により左目がほぼ見えなくなったという後遺症はあったが走ることには問題がなかったのだ。

 

そんな彼は同期であるミスターシービーが三冠を獲るのを後目に、古馬相手であった毎日王冠を快勝。

その後、4歳以上のレースを2戦走り、1983年を終えた。

 

◾︎1984年、実力の一端

 

1984年になり、東京新聞杯、日経賞を制したシルバーバレットが秋の初戦に選んだのは去年と同じく毎日王冠。

だがその年の出走メンバーはひと味違った。

 

三冠馬・ミスターシービー。

1984年宝塚記念制覇、後にその年のジャパンカップを制するカツラギエース。

エアグルーヴの母であり、オークス馬であったダイナカール。

 

関西の3歳王者であれど一介の競走馬に過ぎなかったシルバーバレットはそこまで期待されていなかったのだが、…2着になったカツラギエースに3馬身差の勝利。

G1馬が最初から最後まで影を踏むことができなかった逃げに「とんでもない馬だ…」と観客が思ったのも束の間、シルバーバレットは右脚を剥離骨折。一時休養となった。

 

◾︎1985~1986年、天皇賞・春を目指して

 

剥離骨折の休養から復活したシルバーバレットは新潟記念を復帰戦とし快勝すると、短距離であるスワンステークスと長距離であるステイヤーズステークスに出走した。

普通の馬なら勝てない、はずなのだがこの馬は規格外。

悠々とこの2つのレースを勝利した。

後に本馬の主戦騎手である白峰透が著作『さよならはまだ言えない』で語ったことによると「シルバーバレットはその気になればどの距離でも走れるが、たくさん走れる長い距離の方が好きそうだったので短距離に出るのはやめようという話になった(要約)」とのこと。

 

シルバーバレットは長距離でも問題ない。

その事実が分かった陣営はこの馬の力を証明するため、1986年天皇賞・春を目指す。のだが、前哨戦として選んだダイヤモンドステークスにてシルバーバレットの右脚が複雑骨折してしまう。

 

見ていた観客から悲鳴が上がるほど折れていると分かる脚であり、普通なら予後不良となるところだったのだがこの馬に脳がやられているこの馬のことを信じている陣営は手術を決断。

獣医からも治療を渋られたほどの複雑骨折だったが何とか頼み込み手術は成功。

シルバーバレットはまた長い休養となった。

 

◾︎1987~1989年、復帰そして休養

 

何とか骨折から回復したシルバーバレットは札幌記念から始動。

何でお前ダートも走れるんだよ…。

そこから小倉記念、ウインターステークスと勝ちを重ね、天皇賞・春を目指し京都記念、中京記念と出走したのだが、…今度は左脚に屈腱炎を発症した。

あまりにも怪我が続くため、大事にならない内に競走馬を引退させようか…という話になったが、それに待ったをかける影が現れる。

 

そう、みんな大好き銀弾キチ…白銀創氏であった。

創氏は現在シルバーチャンプから連なる銀色の一族の馬主として有名な人だが、この時はまだピチピチの少年だった。

でもこの時から脳を焼かれている。

そんなこんなで純粋な子どもから檄を飛ばされた大人たちはもう一度立ち上がることに決め、シルバーバレットの治療に専念することとなる。

 

◾︎1990年、伝説のジャパンカップ

 

さて、屈腱炎も良化したシルバーバレットが復帰戦として定めたのは…まさかのジャパンカップだった。

 

いや、これには理由がある。

シルバーバレットはこれまで本命のレースに出る前に前哨戦としていくつかレースを使っていたがその度に怪我をし、出走できていなかった。

その苦い経験があり、前哨戦を使わず直接本命のレースに突っ込もうとなったらしい。それができるのはお前だけ定期。

 

ジャパンカップに出走することとなったシルバーバレットだが、世間からの言葉は冷たかった。

それもそう、この時すでにシルバーバレットは10歳のおじいちゃん馬だったのである。

勝てるはずがない、枠潰しと言われたのである。

 

だがしかし、シルバーバレットは勝った。

それも普通の勝ち方ではない。

 

2分19秒

 

という訳の分からないワールドレコードを引っ提げて勝っちゃったのだ。脳が壊れる〜。

 

そして2着馬であったベタールースンアップのタイムが2分23秒2という当時のタイムオーバー制度に引っかかるものであったため、このレースの結果からタイムオーバー制度が変更されたのは有名な話。

オグリキャップがいなかったら普通に適用されてたとか言うな。

 

◾︎1991年、二度と現れない英雄と最悪の終わり

 

1991年、引退するはずだったシルバーバレットは海外にいた。

陣営も引退させる気満々だったのだが、あんなアンタッチャブルレコードを出した馬をそう易々と引退させることはできず、JRAや社来グループなどから支援を受ける形で海外遠征となったのだ。

そりゃコイツが海外獲れなかったら誰が獲るんだって話。

 

そして、キングジョージ6世&クイーンエリザベスダイヤモンドステークス(現在のキングジョージ6世&クイーンエリザベスステークス)へと出走したシルバーバレットは、…2着であるGenerousに6馬身つけて快勝。Generousだって3着に7馬身つけてたんだぜ、コレ…。

 

そのまま勢いに乗ったシルバーバレットはムーラン・ド・ロンシャン賞を5馬身差で勝ち、本命の凱旋門賞へ突撃した。

 

で、36馬身差で勝った。

ハ?って思うだろ。筆者もそう思った。

取り敢えずコレを見てきてくれ→【1991年凱旋門賞 動画】

……な?嘘じゃないだろ?

 

この結果から『極東のセクレタリアト』と名付けられたシルバーバレット。

さぁ帰るのかと思いきや今度はBCクラシックに突撃したのである。

米国競馬はもう涙目。

そこでも2着を3秒近く引き離し快勝。

シルバーバレットもこのBCクラシックをもって引退となり、生涯無敗の化け物が誕生した。はずだったのだが、……シルバーバレットは日本に帰ってこなかった。

 

 

享年11歳。

死因は日本への輸送中に起きた輸送機の墜落であった。

しかも墜落した場所が海の上であったため、鬣も骨も何も残らなかった。

 

そんな彼の墓は彼の母であるホワイトリリィや彼の全妹であり、シルバーチャンプの母であるシルバフォーチュンがいる███牧場に建てられている。

今もなお、彼の墓には献花やお供え物が絶えないという。

 

 

◾︎"もしも"の怪物

 

シルバーバレットという競走馬を語るにおいて、「この馬こそが日本競馬史上最強馬である」と語る人は多い。

生涯無敗という記録もあるが一番は度重なる怪我にも負けず、年齢を感じさせない強さが決め手だろう。そして、そのまま還らなかったことも。

 

10歳の彼が出した2400mのワールドレコード2:19.0、11歳の彼が稍重の凱旋門賞で出した2:25.2というレコードと36馬身差の記録。

 

─────勝負の世界で"もしも"は禁句だ。

だがそれでも私たちは有り得たかもしれない"もしも"を思い浮かべてしまう。

 

"もしも"彼が怪我をしなければ…。

"もしも"彼がミスターシービーやシンボリルドルフと戦えたのなら…。

"もしも"彼が三冠競走に出ていたら…。

"もしも"、"もしも"、"もしも"、……"もしも"シルバーバレットが存在しない世界だったら…?

 

 

そう思えば思うほど、本当に夢のような競走馬だったと感じるのである。

 

 




死んでからも周りの脳を丸焼きにするタイプのウッマ。
本当に夢幻のようなウッマなんだ…。


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それは『恋』に似ていた

元性別のウマ時空での未来の話。
ちょっとびーえる風味…?かもしれないので注意。
でもクソデカ感情だと言い張っておく。



「アンタ、いつまでそこにいるんだ」

 

その男の姿を見た時、俺は『あぁ、夢だな』と一目で分かった。

俺の言葉を受けた男は、少しだけ悲しそうに眉を下げて美しく微笑む。

 

男の顔はよく見えない。

その顔を見ようとして足を動かすとピチャリと水音がした。

靴の裏を見ると嫌に赤が目に沁みる。

 

「キミにはここまで来る覚悟はある?」

 

男が首を緩く傾げる。

その時俺は、唐突に男が椅子にしているモノの正体がたくさんの屍だと理解した。

 

「夢は踏み潰していかなくちゃ、至れるところにも至れないよ」

 

子どものように笑う男。

フラフラと揺れる足の踵に当たるのは何番目に踏み潰した誰の夢の屍なのか。

 

「門の先で待ってるよ」

 

夢から覚める。

 

 

俺の所属する銀色の一族はとある男の存在から始まった。

 

"シルバーバレット"。

 

俺は、名前だけしか知らない。

写真も何も、この家には残っていないのだ。

トレセン学園に行けば何かあるかと思ったが、何もなく。

"シルバーバレット"に関しての情報を消した誰かがいるということはすぐに分かった。その誰かも。

 

俺の家に何も残っていないのは"シルバーバレット"の母であったホワイトリリィが写真などを含む全てを処分したから。

トレセン学園に何も残っていないのは"シルバーバレット"のトレーナーであった男が情報を全て消去したから。

 

だから誰も"シルバーバレット"を知らない。

その、残された記録だけしか知らない。

"シルバーバレット"という存在を知っているのはきっと、同じ時代を生きていた存在だけだ、と今まで思っていたのだが。

 

「そうか…。お前行くのか」

「はぁ…」

「なら、会えるだろう」

「会えるって、誰に」

「"シルバーバレット"」

 

今代の銀色の一族当主である俺の父が笑う。

凱旋門賞に出るのならきっと会えるだろうと。

 

「ウチの一族が凱旋門賞に行くとな、出るんだよ」

 

曰く、その顔は見えない。

曰く、誰よりも前に、遠ざかっていく姿が見える。

 

「俺たちは、いつかあの人を連れ帰りたいんだ」

 

目を閉じ、開いた父の目は酷く熱が篭っていた。

父は「俺も会った」と言う。

 

「あの人は綺麗だった。

触れられないって分かっていても触れてみたくてたまらなかった。

でも追いつけなくて、…少し泣いたな」

 

俺の所属する銀色の一族を興したのは"シルバーバレット"の甥にあたるシルバーチャンプ様。

一族の夢を「凱旋門賞制覇」だと掲げたその人もきっと、

 

「捕まえられるかな」

 

俺たちは魅せられる。

それまでどれほど憎もうとも、無関心を貫こうとも、その影に魅せられるのだろう。

 

「捕まえたいな」

 

まぶたの裏には美しく笑う男の姿が刻まれていた。

 

 




シルバーバレット:銀色の一族からクソデカ感情を向けられている死人。
夢に出てきた彼や凱旋門賞にいる彼が本当に彼自身であるのかは不明。
この世界では彼が亡くなったあとに母であるホワイトリリィとトレーナーの手によって"シルバーバレット"の情報はすべて処分されている。
情報は無いが彼の出した記録だけが残っているため本当に『伝説』扱いになってそう。

銀色の一族:"シルバーバレット"に魅せられている。
また、"シルバーバレット"に呪縛されている一族でもある。
初代当主のシルバーチャンプのようにそれまでどれほど"シルバーバレット"を嫌っていようが凱旋門賞にて"シルバーバレット"を目撃してしまったが最後魅せられてしまう呪われた血統。
"シルバーバレット"に一族郎党クソデカ感情を抱いてそう。
もしかすると"シルバーバレット"が初恋だとか言い出すやつもいるかもしれない(なおその感情は執着や憧憬や嫉妬などがぐちゃぐちゃに合わさったものとする)。


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主人公実装時の掲示板

活動報告でのリクエストより「シルバーバレット実装した事による掲示板民の反応とプレイしてみた事による反応集」です。

まぁそれはそれとして、最近P.I.N.A.さんの『レッド・パージ!!!』にシルバーバレットみを感じる今日この頃。
初めはサラ系であるシルバーバレットの方が"幻想に憑かれたアカ"だったのに最終的にはサラ系を認めない世界の方が"幻想に憑かれたアカ"に逆転するんだ…。


【朗報?】ウマ娘にシルバーバレット実装決定!【悲報?】

 

1:トレーナーな名無しさん

 

ウッソだろ、おい…

 

 

2:トレーナーな名無しさん

 

銀弾「来ちゃった♡」

 

 

3:トレーナーな名無しさん

 

いや、登場シーンは熱かったけどさぁ!

でも石無いんだよこっちは!!

 

 

4:トレーナーな名無しさん

 

凱旋門賞とBCが追加されたからまさかとは思ったよ?

思ったけど!

 

 

5:トレーナーな名無しさん

 

レースシーンからの1990ジャパンカップの実況再現だからな

シルバーバレットって名指しされた瞬間アホほど鳥肌立ったわ

 

 

6:トレーナーな名無しさん

 

シングレの時はモブウマ()扱いだったからな

 

 

7:トレーナーな名無しさん

 

見た目がちゃんと史実再現されててビビった

火傷顔のロリ体型…

 

 

8:トレーナーな名無しさん

 

勝負服シンプルでよき

 

 

9:トレーナーな名無しさん

 

他競馬ゲーでは出なかったのにウマ娘で来るのか…

 

 

10:トレーナーな名無しさん

 

そういやあの馬主さんが青鳥でメッセ出してたぞ

 

シルバーバレットを出してくれるなら、という条件でシルバーチャンプなどの競走馬を許可したって

 

 

11:トレーナーな名無しさん

 

マジか

……いや、まぁアンタもシルバーバレットに脳焼かれてるんだもんな

 

 

12:トレーナーな名無しさん

 

白峰ニキも反応してる

 

 

13:トレーナーな名無しさん

 

この勢いトレンド載るのでは?

 

 

91:トレーナーな名無しさん

 

カッコイイぃぃぃ!

 

【スクショ画像】

 

 

92:トレーナーな名無しさん

 

配布じゃったか…

 

 

93:トレーナーな名無しさん

 

めっちゃチャンプに振られるんですけどぉ!?

 

【白スキルをもらっているスクショ】

 

 

94:トレーナーな名無しさん

 

馬主も白峰ニキもすぐ星5にしてそう

 

 

95:トレーナーな名無しさん

 

あのさぁ、話重くない?

 

 

96:トレーナーな名無しさん

 

>>95

それはそう

一番史実なぞってんじゃねぇかって思う

 

 

97:トレーナーな名無しさん

 

元々トレセンに通うつもりのなかった銀弾をスカウト→アパートの世話をする→火事で銀弾以外競技引退

 

がスト2話に来るのなに…?

 

 

98:トレーナーな名無しさん

 

でも育成で3冠獲らせたり、CBたちと戦えるようになってるのは熱いよ

 

 

99:トレーナーな名無しさん

 

特殊実況はどこ?ジャパンカップ?凱旋門賞?

 

 

100:トレーナーな名無しさん

 

>>99

クラシック期ジャパンカップらしい

逃げで大差勝ちすると聞けるって

 

 

101:トレーナーな名無しさん

 

固有がバケモン過ぎる…

 

 

102:トレーナーな名無しさん

 

第4コーナーかかったら固有でキチガイじみた加速し始めて見てて笑うしかない

 

 

103:トレーナーな名無しさん

 

ウマ娘銀弾、クラシック期にジャパンカップ1着が育成目標に入ってるんだな…

まぁ、シニアで凱旋門賞とBCクラシック獲るのが正規ルートみたいだし…

 

 

104:トレーナーな名無しさん

 

日本残留ルートがハードモードだからな

なんで会長とかCBあんなに強いんですか…

 

 

105:トレーナーな名無しさん

 

ウマ娘銀弾、私服が真っ黒くろすけで草

 

 

106:トレーナーな名無しさん

 

フードもズボンも真っ黒じゃねぇか!

 

 

107:トレーナーな名無しさん

 

まだ持ってないから分かんないだけど覚醒ってどんな感じ?

 

 

108:トレーナーな名無しさん

 

>>107

覚醒5の最速の極意がクソ強い

 

 

109:トレーナーな名無しさん

 

【ゲーム画面のスクショ】

最速の極意

道中競り合わず、終盤で大きく差をつけて先頭だとすごく速度が上がる

 

 

110:トレーナーな名無しさん

 

>>107

初期で集中力と秋ウマ娘○、覚醒2で先頭プライド、覚醒3で先手必勝、覚醒4で新スキルの百科全般、覚醒5で最速の極意

 

 

111:トレーナーな名無しさん

 

百科全般、何気に強いんだよなぁ

積み上げた経験で苦手をカバーするっていうテキストだけど適性Eでも上手く噛み合えば勝てるんだ…

 

 

112:トレーナーな名無しさん

 

話は変わるけど馬鹿みたいに他ウマ娘に絡まれてる銀弾にワラタ

 

 

113:トレーナーな名無しさん

 

タキオンにスズカに…その他いっぱい

 

 

114:トレーナーな名無しさん

 

そりゃあ史上初の凱旋門賞バですし…

 

 

115:トレーナーな名無しさん

 

シリウスとはまた違った取り巻きがいたのにはビックリした

史実から厩舎のボス+遠征先のボスだったのね…

 

 

116:トレーナーな名無しさん

 

三冠とった時のイベント名が「夢叶う」なの狙った?

泣いたが?

 

 

117:トレーナーな名無しさん

 

あとからサンデースクラッパも来るんだっけ?

よく出せたな

 

 

118:トレーナーな名無しさん

 

まぁともあれ銀弾が来てくれてよかったと思うよ

 

 

 

 

200:トレーナーな名無しさん

 

200だったらこれからも幸せな銀弾が見れる!

 

 

 




シルバーバレット:実装した。ガチャ産かと思ったら新衣装スペちゃんみたいに配布だった。
メインストーリー外伝『"Destiny" to run away.』にての実装であり、この度その外伝を元にしてノベライズされると決定した模様。
シルバーバレットを入手するためには先にメインストーリーでの配布サポカだったシルバーチャンプからもらえる金スキルを継承しなくてはいけないが金スキルをもらえるかはランダム。運ゲー。
だがその運ゲーを乗り越えればぶっ壊れなシルバーバレットさんを手に入れることができる。
適性は芝AダートA海外芝A海外ダートA、短cマイルB中A長A、逃A先G差G追Gな逃げ特化の模様。


ウマ娘外伝『"Destiny" to run away.』
シングレと同じくプリティーダービーがついてない系ノベライズ。
シングレがスポ根だったのならこっちはちょっぴし()ダークなウマ娘になっている。
育成でのシルバーバレットとトレーナーの関係は『先生と生徒』であったが、このノベライズでの関係は『共犯者』といった方が正しい。
サラ系というレッテルや度重なる不運などを真っ向から描ききっており、多少口が悪いフランクな態度のシルバーバレットを見ることができる。

それは、望まれなかった者の逆襲劇。
それは、持たざる者の奪還譚。
それは、世界に一矢報いる必殺の一撃。
──────さぁ、世界をぶち壊せ。
運命から逃げ切った、誰かの話を始めよう。

ウマ娘外伝『"Destiny" to run away.』
20××年6月発売決定!



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◆夢の続き

今回もリクエストから『レースから引退する時の話・ドリームトロフィーリーグへ参戦した時の話』です。

ドリームトロフィーリーグへ参加した時の話はあんまりないです、フレーバー程度なので…すみません。


引退、したわけなのだが…。

 

「こんなにデカい場所で観客集まる…?」

「集まりますよ」

 

日本に帰り、ちょうどいい時を見計らって引退式となったのだが貸切って、ねぇ…?

不安の言葉をもらす僕に隣にいたトレセン学園生徒会長・シンボリルドルフが言葉を返す。

 

僕はルドルフとはそこまで話したことがない。

彼女が全盛期だった頃の僕は裏街道を歩んでいたようなものだったのだし。

僕よりもシービーなどの方が関わりがあるんじゃないか…。

 

「なんで、今日キミはここに来たの?」

「はい?」

「僕と、そこまで関わりなかったでしょう?」

 

きょとりとシンボリルドルフが視線を向ける。

そしてフッと笑みを見せた。

 

「それは、」

「それは?」

「独り占めしたかったからです。私が貴女を」

「え」

「ずっと、貴女と戦えなかったことを悔いていたんです。

運命を呪ってすらいた。だから今日ぐらいは、と。」

「えっと、あの、ルドルフさん…?」

 

じぃと彼女が見つめてくるのにたじろいでいると「シルバー!」と僕にとっては聞き慣れた声。

 

「ミスター!」

「…シービーか。いいところだったのに

抜け駆けはずるいんじゃない?

「2人とも、どうかした?」

「いんや、何も?」

「いいえ、何も?」

「…そう?」

 

聞こえなかった2人の会話を不思議に思ったのも束の間、先生が僕を呼びに来る。

先生も僕と一緒に式に出るので今日はスーツを着ている。

 

「たくさん、人が来てるぞ」

「ホントですか!?」

「僕が嘘をつくと思うかい?」

「いえ、…そうですか」

 

ステージに赴くと大きな歓声が聞こえた。

先生に思わず引っ着けば苦笑され、僕も思わず笑ってしまった。

 

 

「シルバー」

「ミスター」

 

引退式のことを思い出しているとミスターに声をかけられる。

靴のメンテナンスをしつつ話すことにした。

 

「なに考えてたの?」

「引退式のこと」

「あぁ!」

 

あの引退式は非常に豪華だった。

どれだけ金銭がかかってるんだとおののくと共に僕のためにそうしてくれたことが嬉しかった。

 

「あの横断幕すごかったね、『敗北を知りたい』って」

「あれなぁ、負けなかったからよかったけどさ」

「…はは、負けるつもりはない?」

「もちろん」

 

今日はドリームトロフィーリーグ決勝戦の日だ。

本当はあのまま引退してレースから遠ざかろうとしてたのだけどドリームトロフィーリーグに所属しているウマ娘のみなさんから嘆願という名の挑戦状を頂いてしまったので…、

 

「僕がドリームトロフィーリーグに挑戦するって言った時の歓声、耳が壊れるかと思ったんだよね」

「それだけみんな、シルバーのことを待ってたんだよ」

「うん。だからさ、─────全力で来いよ演出家」

「そちらこそ蹂躙者サマ」

 




僕:トゥインクルシリーズから勇退→嘆願書(挑戦状ともいう)をいただいたためドリームトロフィーリーグへ移籍。
今までもこれからも自分が他人に執着されていることに気が付かない模様。
引退式ではファンから『敗北を知りたい』との横断幕を贈られる。
ドリームトロフィーリーグに移籍したあともその横断幕は掲げられ名物となっている。

皇帝&CB:対僕になると現役時代みたいにバチってくる方々。
僕の活躍を見る度に戦ってみたかったって思ってそう。
これもこれでそれなりに重い執着かもしれない。
普段はなりを潜めてるのにシームレスにライオン丸化する皇帝と抜け駆けはさせないとばかりにやってくるCB…。
僕が気づいてないだけで絶対火花散らしあってんな、コレ…。


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祝福か、呪いか

リクエストより『シルバーチャンプとその主戦騎手の話』です。

…人の絵を描いても同じ方向しか描けない絵が下手人間なんで絵の上手い人の銀弾とか見てみたいなって思ったり思わなかったりする今日この頃です。


その日、俺の夢が決まった。

 

1990年ジャパンカップ、誰よりも速く駆け抜けた影の手綱を握っていたのは俺の叔父で。

彼のようになりたくて、彼が手綱を握った"シルバーバレット"のような馬と出会いたくて、俺は騎手になった。

 

騎手になった俺は叔父が所属していた厩舎に所属した。

もうその頃には叔父である白峰透は世間から見ると消息不明のようなもので、細々と連絡がテキと俺の父に来る程度。

しかしそれでも叔父は『伝説』だった。

そんな叔父の甥である俺は『伝説』の影を這わされた。

 

「コイツがシルバーチャンプ」

 

ソイツと出会った時、『運命』だと思った。

オグリキャップ産駒で母があの"シルバーバレット"の全妹。

乗ろうとした騎手を叩き落とそうとしたほどの気性の荒い馬だったが何故か俺だけはすんなりと乗せてくれた。

 

乗せてくれたはいいもののシルバーチャンプは今思っても中々操縦の取りにくい馬であった。

唯我独尊という言葉が似合うような、自分のやりたいようにやる、無理矢理にでも自分が進むべき道を切り開いていこうとする馬。

時折喧嘩しそうにもなったけれど、チャンプがそうした時は基本その行動が正解だったりしたので反省したり。

 

チャンプは普段から不機嫌そうなのを隠そうとせず、またひとたびレースとなれば燃え盛るような闘争心を持ち合わせていた。

けれど、脚が弱かった。

そんなチャンプに世間は"シルバーバレット"を重ね合わせて。

…いや最初からそうか。

 

転機となったのはチャンプがエルコンドルパサーの帯同馬を頼まれた時。

ウチの厩舎がここ最近で一番海外遠征のノウハウがあるからというので騎手として俺も着いて行った。

 

日本の誰もが俺とチャンプを見ていた。

"白峰透"を重ね合わせて。

"シルバーバレット"を重ね合わせて。

 

 

そして走った凱旋門賞。

その時にはもうチャンプの脚はギリギリで。

どうか無事に走らせようとしていた俺とは逆にチャンプは、

 

「あ、」

 

見てしまった。

きっとチャンプも見えていたはずだ。

そこには透おじさんが、シルバーバレットがいた。

 

ゴールに至った時消え失せたその幻影に、チャンプは泣いていた。

チャンプが泣くのはこれまで何度も見てきた。

でもその時見た泣き顔は心底悔しそうで。

泣き続けるチャンプの顔を見て俺は、チャンプを無事に走らせるという俺のエゴで彼に勝負をさせなかったことを悔いた。

凱旋門賞のあとシルバーチャンプは屈腱炎でG1を勝てないまま引退し、種牡馬になった。

 

 

────そんな情けない、後悔から始まった"白峰遥"という男の話。

この物語がどう幕を下ろすのか、その行方はまだ杳としてしれない。




白峰遥:シルバーバレットの主戦騎手だった白峰透の甥っ子。騎手。
運命の相手はシルバーバレットの甥っ子であるシルバーチャンプ。

シルバーチャンプの脚を慮って本気で戦わせなかったことに後悔がある。
それに加え、凱旋門賞にてシルバーバレットと白峰透の幻影を見てしまったため凱旋門賞ガンギマリに。
なおその幻影は制覇するまでずっと見続けることになる。
シルバーチャンプの子・孫の主戦騎手をしながら凱旋門賞制覇を目指していく。
後に銀色の一族専用騎手と呼ばれるようになる模様。


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IF:『神すら敵わぬ馬』

神様台パン案件。

ほんへより設定の方が長くて草ですよ。


ブリーダーズカップ・クラシックを制覇し、日本に帰る。はずだったのだが、

 

「バレット、どうかした?」

「…」

 

頑なにシルバーバレットが動こうとしない。

好きな果物でつろうとしても頑なに動かない。

一緒に来ていた厩務員が頼んでも、テキが頼んでも、もちろん僕が頼んでも、…シルバーバレットは動こうとしなかった。

 

「…仕方ないですね。輸送機の方には申し訳ないですが延期の連絡をして、代わりにバレットの脚の様子を見ましょうか」

 

 

日本に帰るはずだった。

けど、騎手くんに「また日本でな」と撫でられた時、不意に「今はここから動かない方がいい」と直感した。

それまでは従順に振舞っていたのに、急に動こうとしなくなった僕を見てみんなが困り果てていたのは申し訳なかったけれどこれだけは何故か譲れなかった。

 

数十分格闘していると、先にみんなの方が折れて馬房に戻される。

脚の様子を見てもらいながら胸騒ぎが治まるのに小さく息をついた。

 

 

日本に帰りついて、まず背筋が凍ったのはシルバーバレットが乗るはずだった輸送機に墜落する可能性があったことだった。

シルバーバレットがあの時動こうとしなければそのまま墜落していたかもしれないという。

シルバーバレットが動かなかったから、メンテナンスをする時間があり見つかった不具合なのだと。

シルバーバレットに関わるすべての人間があまりにも恐ろしい"もしも"にゾッとした。

 

それはそれとして、日本に帰国したシルバーバレットはたくさんの人に祝福されて、彼の騎手である僕もたくさんの記者の人たちには囲まれてヘトヘトになった。

テキが「今日は疲れてますんで。また後日に」と断ってくれなければどれほど拘束されていたことか。

 

「バレットの引退式は来年だとよ」

「え?」

「盛大にやるってみんな意気込んでるぜ。史上初の凱旋門賞馬サマだからな」

 

日本に帰ってきたバレットは毎日楽しそうに暮らしている。

引退後はどこに引き取られるか分からないが、種牡馬になることは確定しているようだ。

 

「お前の子どもが楽しみだよ、バレット」

「…フヒン」

 

そんな話をバレットにすると気が早いというように嘶かれる。

 

「でもね、キミと一緒に引退するのは勿体ないって言われちゃったんだ。

できる限り騎手を続けて欲しいって、ファンレターもきて…」

「ヒン」

 

また嘶いたバレットは「よかったね」というようで。

彼がやめろというのならそうするつもりだったのに、

 

「いいの?」

「ヒン」

 

当たり前だろ。

僕を真っ直ぐ見つめる最愛の相棒。

その目には心底からの信頼があって…。

 

「…うん。キミが、許してくれるなら僕もう少し頑張ってみるよ」

「ヒヒンっ!」




僕:『まだまだ世界をひっくり返してやるのさ!』

生存軸の姿。『運命』から逃げ切った馬。

引退式では『敗北を知りたい』との横断幕が掲げられるし、馬主さんからは『さよならはまだ言えない』との引退記念曲が贈られた。

種牡馬生活はこれまでの戦績から顧みると格安の値段で始まった(サラ系という血統+体格の小ささという不安要素のため)が、普通に初年度産駒から活躍馬を出したし、値段はそのままほぼ据え置きとなった+受胎率も高かったため「お助けボーイ」ならぬ「お助けバレット」となった。
種牡馬の仕事はさっさとして早く帰りたいというタイプでありつつ、凄くタフでもあった。牝馬にそこまで思い入れがないタイプでもあり、逆に相手した牝馬に引き止められていたこともあったらしい。
種牡馬としてはそこまで活躍馬がいない血統につける方が活躍馬を出す傾向にあったと共にその活躍馬から名馬の血統を繋ぐことが多々あった(ハイセイコー、シンザンなど)。

そういうわけで地方馬には僕の血が入った馬が多数おり、その子ども達が中央に殴り込んでくるため中央に挑戦する地方馬に僕の血が入っていない方が珍しいという状況に後年なる。
また、特段活躍馬がいない血統なのに何で勝ってんの?という馬の血統表を見ると僕がどこかにいるという現象も起こっている。
「特段勝てそうにない血統でもシルバーバレットが入っていたら警戒しろ。シルバーバレットがパッと見血統表にいなくても警戒しろ」とはこの作品世界でよく言われる言葉である。
父時代には良血をつけてもほぼうんともすんとも言わない感じだったが母父になってからは良血をつけても大丈夫になったので活躍馬が多く現れた。
産駒の特徴としては父や母父の特徴をよく引継いだ子が多く、僕の面影はほぼないが桁外れのスピードや僕の父であるヒカルイマイ譲りの差し脚などを受け継がせている。あと僕とは逆に産駒はクッソ丈夫な子たちばかりである。

最終的に競馬ゲームでも現実でも「繋ぎたい血統があるんだったらシルバーバレットつけとけば何とかなる」と言われるようになる。
産駒を牡馬:牝馬で比率を取ると4:6くらい。
海外にも僕の子どもたちがおり、血統地図を塗り替えてたりするやつがいるかもしれない。
子どもたちの性格は基本的に人に従順で大人しく、レースになると闘争本能を出す感じ。
それに加え、日本でパッとしなくても海外で大活躍する産駒が多い。

種牡馬になったあと、偶然出会ったSSとマブダチになった模様。
で、SSと出会ってからイタズラ好きになったと言われるようになり度々世話してくれる人間をからかっているようだ。
SSと会う時に限ってテンションが高くなるとも言われる。
SSも初めは僕のことを「なんだコイツ…」したが距離の取り方が上手い僕にいつしか絆されている。
なお僕が母父になったあとに一番相性が良かったのがSSである。

そして、僕の産駒たちは馬主さんによく引き取られており、シルバーバレット産駒+シルバーバレット母父産駒専用の冠名として「シロガネ」とつけられるようになってたり…。
(シルバーチャンプなどその他は「シルバー」の冠名のまま)
そのためシルバーチャンプの血統から繋がる一族を『銀色の一族』、シルバーバレットの血統から繋がる一族を『シロガネ一家』と呼び分けている。


騎手くん:僕にずっとメロメロ。
サンデースクラッパの面倒を見終わってから調教師となり、シルバーバレット産駒たちの面倒を見始めるようになる。
結構な頻度でシルバーバレット産駒のハーレムを築いており、面倒を見ているシルバーバレット産駒に調教終わりに引き止められたりしてデレデレしている。


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運命から逃げきった時空でのとあるインタビュー記事

シルバーバレットとは、白峰おじさんの最高で最愛の相棒なんだ!(集中線)

それはそれとして母父になってからの銀弾がバケモノ過ぎるというか、(サラ系ってレッテルをひっくり返すのは)もうコイツだけでいいんじゃないかな案件というか…。


まず始めに今回はインタビューにお答え下さりありがとうございます。

 

白峰:いえいえ、こちらこそこんなお爺さんに依頼が来るとは思いもしなかったもので…。嬉しいですよ。

 

自己紹介、お願いできますか?

 

白峰:はい。はじめましての方ははじめまして。覚えていてくれた方はお久しぶりです。元騎手で元調教師の白峰透です。あ、今の子には白峰遥騎手のおじさんですって言った方が分かりやすいかな?

 

はい、今日はよろしくお願いします白峰さん。

さて、今回インタビューをしたいのは白峰さんの元相棒であり、今年6月に惜しくも旅立ってしまったシルバーバレットについてなのですが…。

 

白峰:やっぱりそうですよね(笑い)。僕といえば彼だからなぁ。…旅立ってしまったのはもちろん悲しいですよ。でも今の競馬を見たらバレットの血は残ってるし、バレット自身も天寿をまっとうしたといえる年齢だったのでそこはよかったと思ってます。悲しいのは悲しいですけどね。

 

シルバーバレットとはどのような競走馬でしたか?

 

白峰:まずとても頭のいい子だった。体は小さかったけど脚がとてつもなく速くて…。それでいて理不尽な運命を自分で覆す力があった。騎手・調教師をした中でも未だに一番最高の馬だって言っちゃうくらいにはすごい子でした。

 

シルバーバレットに関してなにか印象に残っているエピソードはありますか?

 

白峰:うーんと、凱旋門賞の前ですね。それまでは普通だったんですけど二人きりになった時に1990年のジャパンカップで見せたあの走りをして…、覚悟を決めさせられたんですよ。あの頃でも僕おじさんだったのに酷なことをする!って思ったのを覚えています。

 

ははは。でもそれはシルバーバレットが白峰さんのことを信頼していたということではないでしょうか?

 

白峰:それはそうでしょうね。

 

また白峰さんは騎手引退後調教師へと転向し、シルバーバレット産駒と繋がりが強かったですがその中で印象に残っている競走馬は?

 

白峰:騎手時代の時に印象に残ったのは初年度産駒のシロガネハイセイコですかね。直線に入った時の末脚に惚れ惚れして…。あとはグレイテストターボもすごかった。母父であるバレットも父であるツインターボも体が小さかったけど、あのデカさは母方譲りだろうな。それで逃げるもんだから面白くて仕方なかったです!あとは地方魔王組って言われてたオグリバレットとトウケイサンセイとか…、たくさん居すぎてここでは語りきれないですね(笑)。今注目してるのはゴールデンエピックです。頑張ってほしいな。

 

ありがとうございます。では最後に読者の方にメッセージを。

 

白峰:僕が言うことなんて特に無いんだけど…。あ、また僕の甥っ子である遥くん(現騎手である白峰遥氏のこと)がゴールデンエピックと凱旋門賞に出走するので応援よろしくお願いします。僕も見てるから頑張ってね、遥くん。

 

 




騎手くん:シルバーバレットを看取った。
初めは悲しかったけど僕の子孫がたくさんいるためゆっくりと落ち着きを取り戻した。
どう足掻いたってシルバーバレットが最強だと言い張るおじさん。

僕:30歳以上生きた。子孫がいっぱいいる。
子孫のみなさんは基本的に大人しく利口な扱いやすい子たちばかりだったが、レースになると闘争本能剥き出しになる子もチラホラ…。
あと全体的に怪我が少なく、時折だが芝とダートの二刀流を為せる産駒が現れることがあった。
どっちかというと日本よりも海外に適性があるらしい。

でも、(産駒が)多い多い多い…!

父としての産駒

・シロガネハイセイコ (母父ハイセイコー)
『銀色のアイドル』
・シロガネヒーロー(母父タケホープ)
『銀色のヒーロー』
・クライムヒロイン (母父クライムカイザー)
『上り詰めるヒロイン』
・グラスホッパーズ (母父グリーングラス)
『跳ね馬』
・シロガネボーイ (母父トウショウボーイ)
『天馬の如く』
・シロガネプリンス (母父モンテプリンス)
『太陽の申し子』
・シロガネガール (母父ホウヨウボーイ)
『ターフの大和撫子』
・ミスアンバー (母父アンバーシャダイ)
『琥珀色の軌跡』
・シロガネシンゲキ (母父サクラシンゲキ)
『その走りは止められない』
・ミホノアマテラス (母父シンザン)『主神』
・シービーサンライズ (母父 ミスターシービー)『太陽は昇る』
・エカチェリーナ (母父シンボリルドルフ)
『女皇』
・ミスグッドフェロー (母父エリモジョージ) 『黒衣の名脇役』
・カブラヤスピード (母父カブラヤオー)
『狂喜の逃げ馬』
・シロガネフォンテン (母父ホワイトフォンテン) 『銀色の逃亡者』
・サラケイノユメ (母父ヒカリデユール)
『サラ系の夢』
・スイフトアンヴァル (母父ハードバージ)
『瞬きすら許さない』
・ハルノアラシ (母父ニッポーテイオー)
『麗らかな春のために』
など多数。


母父としての産駒

・グレイテストターボ (父ツインターボ)
『二代目逃亡者』
・オグリバレット (父オグリキャップ)
『笠松の魔王』
・トウケイサンセイ (父トウケイニセイ)
『二代目岩手の魔王』
・カドルクロス (父タマモクロス)『突風乙女』
・キックオフゲーム (父サッカーボーイ)
『開始者』
・シロガネバンブー (父バンブーメモリー)
『破竹の勢い』
・サクラバクフウオー (父サクラバクシンオー)『暴風注意』
・メジロマジェスティ (父メジロブライト)
『メジロの陛下』
・オーバーストリーム (父スーパークリーク)
『濁流』
・ファストオルトロス (父イナリワン)『猟犬』
・トウカイプリンセス (父トウカイテイオー)
『プリンセスじゃいられない』
・シロガネシャドウ (父ナリタブライアン)
『銀色の影』
・ローレルリーフ (父サクラローレル)
『月桂樹の乙女』
・マチカネギンノユメ (父マチカネフクキタル)『その馬は銀の夢を見るか』
・オンリードリーム (父ダイユウサク)
『その夢だけを』
・シロガネターキン (父レッツゴーターキン)
『影なる実力者』
・アラウンドワールド (父ヤマニングローバル) 『世界一周/世界一蹴』
・メジロアクトレス (父メジロマックイーン)
『二代目名優』
・サイレンスヘイロー (父サンデーサイレンス)『敬虔なる天使』
・バトルクライズ (父スペシャルウィーク)
『勝鬨の主』
・アルカナワンダー (父グラスワンダー)
『神秘の女』
・サニースカイハイ (父セイウンスカイ)
『空の果てまで』
・ロンダドールガール (父エルコンドルパサー)
『空っ風娘』
・キングオアナイト (父キングヘイロー)
『王へ至る者』
・シロガネツーパック (父エアシャカール)
『黒きアウトロー』
・アグネスラピデティ (父アグネスタキオン)
『神速の馬』
・シロガネマテンロウ (父マンハッタンカフェ)『幻影の末脚』
・トツカノツルギ (父デュランダル)『一刀両断』
・シロガネショウゲキ (父ディープインパクト)『世界に衝撃を』
・ゴールデンエピック (父ステイゴールド)
『黄金色の冒険譚』
・マンオブグローリー (父ドリームジャーニー)『栄光の男』




・シロガネガイセイ (父コントレイル)
『シルバーバレットの再来』


まぁ彼ら以外にも海外の方に産駒がたくさんいるんですけどね(ニッコリ)
(三冠馬や血統地図を塗り替えたやつがいる模様)

…他にもいそうな産駒ってどんなのだろう?


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◆運命ぶっ壊そうぜ同盟

『運命に噛み付いたウマ娘』と『運命から逃げきったウマ娘』が出会った話。
─────もしかすると、その出会いは『運命』だったのかもしれない。

ルビ振りが一部正常になってないところがありますので…、すみません許してください!何でもしますから!(何でもするとは言っていない)

【追記】
誤字修正ありがとうございます。


トゥインクルシリーズを引退したあと、そしてドリームトロフィーリーグに参戦する少し前。

その日の僕は学友であるミスターシービー経由で名家のウマ娘やURAに関連する企業が集まる大きなパーティーに参加していた。

 

日本のウマ娘で初めて凱旋門賞などの海外レースを制した僕はたくさんの人に囲まれてヘトヘトで。

それに加え、見知った顔のすべてが誰かしらと話しているというアウェーで、適当にテーブルから取った華やかな料理をつついていた。

 

「…、」

 

咥えていたフォークが皿に落ちる。

床にフォークを落とさないように皿をシッカリと手で持ってから足速にその背に向かって歩き出す。

全部が黒い服の、猫背なウマ娘に向けて。

 

「なぁキミ!」

What?(なに?)

「僕と一緒に運命を覆さないか!?」

Huh?!(ハ?!)

 

 

その日、僕が運命を感じた彼女の名は"サンデーサイレンス"という。

アメリカ生まれで僕より歳下の少し目付きが悪いウマ娘。

2冠ウマ娘がどうして日本に?と思わなくもなかったが話を聞くに某名家に熱烈なスカウトをされてやって来たようだ。

(ちなみに僕もその名家にはスカウトされたことがある)

 

「アナタ、飽きなイんですネ」

「無理して日本語使わなくていいよ?何となくなら僕も分かるし」

Then be my guest.(じゃあ遠慮なく)

 

あのパーティーで僕は半ば強引にサンデーサイレンスーいやもう面倒くさいからサンデーでいいやーと連絡先を交換した。

サンデーいわく初めは絡んできた僕を追い払おうとしたらしいがあまりにも目をギラギラさせながら絡んでくるのでちょっと怖かったらしい。

それは申し訳ないと自分でも思っている。

 

Why did you pick me?(なんで俺を選んだんだ?)

「"運命"だと思ったから」

Haha! "Fate", huh....(ハハ!"運命"か…)

 

なにが面白かったのか、サンデーはクツクツと笑った。

この問答を僕たちは何度も繰り返している。

 

「僕はキミがいいんだよ、サンデー。

…いやキミじゃなきゃ駄目なんだ」

...you crazy bastard.(…イカレ野郎)

「どうぞお好きなように」

 

なぜ、こうもサンデーに僕は惹かれたのか自分でも分からない。

しかし、サンデーの方も僕を受け入れてくれているあたり満更でもないのだろうか。

少しばかり自惚れてもいいのかと思わなくもない。

 

「It's the end of the world when a hero like you chooses me.(テメェみたいなヒーローが俺を選ぶなんて世も末だな)」

「ヒーローだなんてとんでもない!

…ぼかァ、ただのどこにでもいる"運命"に対しての反逆者さ」

I'm like that too.(俺だってそうだよ)

 

ケラケラ、カラカラという笑いが休日の僕たち以外誰も客がいないカフェに響く。

 

「じゃあ、また予定があった時に」

Hmm, see you later.(ん、またな)

「なんだい、名残惜しいかい?」

Talk in your sleep.(寝言は寝て言え)

「ふふ、手厳しいなァ」

 




僕:多分生存IF世界でもSSとはこんな関係性だと思う。
SSに一目惚れじみた『運命』を感じて絡みにいった。
僕本人としては自分を友だちのいないボッチだと考えているので(オグリは可愛がっている後輩、CB皇帝は時期的には同じだったけど一緒に走ったことほぼないし、話したこともあまりないので知り合いではあるが友だちではないと考えている)、SSを初めての友だちとしてテンション高めに仲良くしている。
SSは知らぬことだが、コイツSSを前にしてる時は普段よりも倍増し以上に笑ってるし楽しげにしてるし話してるんだぜ?

…基本僕の無表情無口で必要最低限の反応しか見ていないCB&皇帝の反応はいかに!?
SSはそのことがバレたらヤバいことを早く自覚した方がいい。

SS:ウマ娘の姿。
僕に絡まれ何だかんだ絆された。
メジロマックイーンとは別ベクトルで気軽に接していいマブとして僕を見ている。(対メジロマックイーンでは口調を丁寧にしてたら私性合。対僕との会話が普段の喋り方をしている感じ)
僕の過去も年齢も戦績も知らないし(僕が話そうとしないのもある)、身長から見て『自分より歳下だろうな』と僕を見て思っている。

まさかそこまで僕に好意的に見られているとは思っておらず、この関係がCB&皇帝にバレたらどうなるかをまだ知らない。
でも絶対修羅場になることは確定している。


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メインストーリー外伝:"Destiny" to run away.

それは、望まれなかった者の逆襲劇。
それは、持たざる者の奪還譚。
それは、世界に一矢報いる必殺の一撃。
──────さぁ、世界をぶち壊せ。
運命から逃げ切った、誰かの話を始めよう。


その日、僕は財布をスられていた。

いや、中に入っている現金は微々たるものなのでさして問題はない。

問題はその財布の中にトレセン学園のトレーナーライセンスが入っていることだ。

 

「この地区には近寄らない方がいいってこういうことか…」

 

ここはトレセン学園よりも少し遠いところにある古い地区。

古き良き街並みといえば聞こえがいいかもしれないが…、

 

「なぁ、アンタそんなところでなにしてんだ?」

「え?」

 

声をかけられ振り返るとそこには小柄なウマ娘がいた。

 

「ふぅん、財布をスられたねぇ…。スった奴の特徴覚えてる?」

「えっと、」

 

しどろもどろに覚えていた特徴を伝えると「…アイツらか」と合点がいったらしい。

 

「ちょっくら取り戻してくっからアンタはそこで待ってな」

「ちょっ、…うわ」

 

彼女が駆け出していく。

僕は彼女が踏み込んだ地面が靴の形に抉れているのに一瞬呆気に取られて、それからすぐに追いかけた。

彼女は速かった。後を追うのも精一杯で、

 

「…ッサラ系の癖に!」

「あ゛?」

「見つけたーッ!!」

 

やっとのことで彼女を見つけ、肩で息をする。

ゼェハァと息をする僕に影がかかる。

 

「アンタの財布、取り返したぜ。

…危ない目に逢いたくなけりゃあ二度と、」

「なぁキミ!」

「…何だよ」

「トレセン学園に来ないか!?」

「…ハ?」

 

シルバーバレットと名乗った彼女を僕は口説き続けた。

初めは「僕みたいな奴が勝てるわけないだろ」などと後ろ向きだったが僕が面倒を見ている子たちと引き合わせ、一緒に練習をさせるうちに自信がついたようで「…分かった。入るよ、トレセン学園」といつしか了承してくれた。

 

珍しい時期に編入、しかも特待生として入ったバレットはメキメキと頭角を現していった。

学園生活も僕が引き合わせたアパートの子たちと過ごしているようでなにも問題はなかった。のだが、

 

「あぁ、ああああああああぁぁぁっっ!!」

 

アパートが原因不明の火事に襲われた。

何とか全員一命を取り留めたがバレット以外のすべてのウマ娘が後遺症から学園を去ってしまうことに。

それと共にせっかく掴み取ったクラシック挑戦の夢も潰えてしまった。

 

「…ぼかぁ、どうすりゃいい」

「…」

「まぁ、走り続けるしかないだろうな結局は」

「…すまない」

「センセが謝る必要ねぇよ」

 

一人残されたバレットは走り続ける。

目を覆いたくなるような苦難に襲われながら。

 

 

「なぁ、センセ」

「なんだい」

「夢みたいだって思わねぇ?」

「そうかな」

「…はぁ〜。いや、いい。センセならそう言うよな」

 

呆れたようにバレットが笑う。

今、僕たちがいるのはアメリカだ。

凱旋門賞を獲った脚で続けざまにブリーダーズカップ・クラシックを獲りに来ている。

 

「僕にとっちゃあホントに夢みたいなんだ」

「夢じゃないよ。…いや、夢なんかにはさせない」

「ひひっ、そうかい」

 

バレットが笑う。

僕も笑い返す。

 

「んじゃまぁ、世界ってやつを変えてくるわ」

「あぁ。デカいの、ぶちかましてこい」

 

ヒラリと手を振る姿は泣けてしまうくらいカッコよくて。

 

「…ホントにキミってやつは、最高だ」

 

 

ウマ娘攻略

@××××_×××

 

【ストーリーで新ウマ娘獲得!】

本日実装のメインストーリー外伝の通常負けイベントとなる「ブリーダーズカップ・クラシック」にて同着になると、新育成ウマ娘であるシルバーバレットを入手することができます!

ブリーダーズカップ・クラシックは、シルバーチャンプの金スキル「その背を追う者」を持つウマ娘を選択すると同着になることができます!

#ウマ娘

 

【シルバーバレットの育成ウマ娘詳細のスクショ】

 

 

 




外伝版僕:夢女子人気凄そう(小並感)
育成ストでのトレーナーとの関係は「先生と生徒」だが、この外伝では「共犯者」という関係が一番適していると思われる。

多少口が悪く、「サラ系の癖に」などと言われるとブチギレる。
トレーナーを悪く言われてもブチギレる。
でも自分に向けての悪口や嫌がらせは特段気にしてない。

なお、度重なる怪我でSAN値がピンチ→不定の狂気に入った際にトレーナーと「…テメェだけは僕を捨てないよなァ?」という問答をしている。
それにトレーナーは「キミがいい。いや、キミじゃなきゃダメだ」「キミは僕の運命なんだ。…キミだってそうだろ?」「キミを僕は誰にも渡すつもりはない。…カミサマにだって、運命ってヤツにだって」と壱百満点の回答を叩き出した。

外伝版銀弾トレ:お前がナンバーワンだ。
騎手くん因子を多大に継承してると言われている。
外伝版銀弾との関係は恋人とか夫婦とかにはならないんだろうけど、多分それよりもずっと深い関係なんだろうな…という感じ。
トレ×ウマじゃねぇ、トレ+ウマなんだ!
多分ベストコンビ呼ばわりされてると思う。


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生存IFのとあるイベントの話

僕が亡くなる数年前の話。


「キミに来て欲しいんだってさ」

 

その日、珍しく騎手くんがそう僕に頼み込んだ。

騎手くんはもう騎手ではないけれど僕にとっては騎手くんなので。

 

「今年はキミがジャパンカップを勝った年から数えると20周年だからね。記念なんだって」

 

昔に比べると随分と白髪混じりになって、皺も増えた手が僕を撫でる。

 

「ははは、そんな顔しなくたって僕も一緒だよ」

 

…なら、いいよ。

 

【ある動画サイトにて】

 

『生放送なんて太っ腹だな』

『そりゃあ伝説の馬ですし』

『あの時代の集団幻覚(現実)だからな』

『にしてもめっちゃフラッシュ焚かれとるやんけ!』

『平然としすぎィ!』

『オグリん時もそうだったけど、やっぱ強いウッマは違うんですかねぇ…』

 

『ん?』

『えっ?白峰おじさん何で勝負服着てるんです???』

『おい待て何で乗ってる』

『えっえっえっ、走る?えっ?』

『何やってんだ白峰ェ!』

以降続く『何やってんだ白峰ェ!』コール…。

 

 

僕にイベントに出ると言われた日からバレットは自分で自分を調教していたらしい。

牧場の人もはじめは止めようとしたらしいが止まらないので渋々だったようだ(ちゃんと体の様子も見ていたが問題なかったよう)。

 

その話を聞いて僕もバレットを止めようとしたのだけど『え?乗るんじゃないの?』という目を向けられてしまい…、

 

「そう期待されたら乗るしかないよ、ねぇ?」

「ブルっ!」

 

バレットの毛並みはもうすっかり白くなって時が経ったのを感じさせる。

でも、肉体はあの頃のままほぼ変わっていない。

僕の方はといえばおじいさんなので軽めにしてくれるように頼んだのだけど。

 

「行けるかい?」

 

そう聞くと当然というように返事の嘶きがあり、

 

「まぁ…、久しぶりに楽しもうか」

 

 

『えぇ〜???』

『何で普通に走ってるんですかねぇ!?』

『これ2歳馬くらいまでならいい勝負できるんでは?』

『もう30歳なんだよなぁこの馬』

『規格外過ぎる〜』

『流石に笑うしかない』

『白峰(甥っ子)ニコニコで草。止めろや』

『ストッパーが誰もいない定期』

 

 

「やっぱりバレットは凄いねぇ」

 

走り終えたあと、そう褒めると『そうだろうそうだろう』という風に撫でろと頭を寄せてくるバレット。

久しぶりに彼の背に乗り駆けたわけだが(牧場に訪れた時に毎回乗馬程度には乗っていた)、

 

「僕のためにスピード落としてくれたんだよね」

「フルル…」

「そう?」

 

ごめんね、と言うと『そんなに過大評価するんじゃねぇやい』とでもいう風にバレットが緩く首を振る。

 

「そうだね、僕もおじいさんだけれどキミはもっとおじいさんだもの」

「ブルっ!」

 

事実を言っただけなのに、カプっと甘噛みされてしまった。

それにだんだん力が入ってきて慌てて謝った。

…事実を言っただけなんだけどなぁ。

 




僕:30歳のおじいちゃん馬。
なおこの年齢でも2歳馬くらいまでならいい勝負できるのでは…?と観客からおののかれた模様。
やっぱり騎手くんが一番の相棒だな〜。
…ここだけの話だがおじいちゃんになったので現役時代よりも脚の速さは遅くなっているけど、それでも騎手くんの体を慮ってスピードを落としていたらしい。落としていてアレ。…それとちょっとだけ領域の片鱗が見えていてもいい。(シングレのオベイさんみたいな感じで)


騎手くん:元騎手・元調教師の白峰透おじさん。
こっちもおじいさんだが僕に乗れるとあって体を鍛え直した。
シルバーバレットが大好き。
なおシルバーバレットに関しての奇行が多すぎて、その奇行をまとめた『何やってんだ白峰ェ!』という動画シリーズがある。

【白峰透のあだ名一部抜粋】
終身名誉銀弾騎手
銀弾大好きおじさん
銀弾ファンクラブ会員2番(1番は馬主)
銀弾フリーク
テレビにて自らの甥と銀弾についてのクイズ勝負を行い完勝する男
普通に引退後の銀弾の馬体重を把握している男
銀弾のストーカー
銀弾ガチ勢
知らぬ間に銀弾一族に組み込まれてそうな男(満更でもない)
銀弾産駒白峰透
銀弾が大好きすぎて奇行に走る男
無敵の弾丸の射手
などなど。


騎手くん(甥):運命の相手はシルバーチャンプだがそれはそれとしてシルバーバレットのことが大好き。
叔父である透と同じように銀色の一族+シロガネ一家に対して、よく奇行を行っているのでコイツも『何やってんだ白峰ェ(甥)!』という動画シリーズがある。


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シルバーバレット(ウマ娘):大百科風

実はタイトルを無礼無礼(なめなめ)してた銀弾さん。

【追記】
誤字報告ありがとうございます。


シルバーバレット(ウマ娘)

シルバーバレット

 

『僕の敵?…そんなの「運命」ってやつに決まってる』

 

 

シルバーバレット(ウマ娘)とは、Chaygamesのメディアミックスプロジェクト『ウマ娘 プリティーダービー』の登場キャラクター。

 

実在の競走馬「シルバーバレット」をモチーフとするウマ娘である。CV: 白峰明(しらみねあかり)

 

 

◾︎ 概要

 

誕生日:6月25日 身長:136cm 体重:やや痩せ気味 スリーサイズ:B65/W47/H70

 

小柄で寡黙ではあるが周りから注目されているウマ娘。自分の実力を謙遜するが、その実力に誰もが一目置いている。

誰よりも自分の脚が速いと自負しているが、その脚の弱さを少しばかり悲観している。

 

より

 

優れた才能を見込まれ、トレセン学園にやってきたウマ娘の少女。

その見た目とは裏腹に脚がとてつもなく速い。

幼い頃から言われ続けた、あるレッテルを剥がすためにトゥインクルシリーズへと彼女は足を踏み入れる。

 

(リニューアル前)

 

 

不世出の天才ウマ娘。昔から言われ続けたとある言葉から他人との関わりを避ける傾向がある。

飛び級の天才少女との設定であるニシノフラワーとは違い、彼女はれっきとした高校生。なのだが体格はニシノフラワーとほぼ同じである。

この体格は史実の馬体重を表しているものとされる。

また顔に負っている火傷も史実に基づいている。

 

世代はミスターシービーと同期、ではあるがほぼ対戦経験がない(唯一の対戦は1984年の毎日王冠のみ)。

史実でのシルバーバレットの現役期間は11年という長きに渡ったがウマ娘にて実装されている競走馬の中で関わりがあったといえるのはオグリキャップのみと言えるのではないだろうか。

 

勝負服は原案とほぼ変わらない黒を下地に胴に白色の一本輪、袖には黄色の二本輪のジャージに、顔の火傷隠しのキャップとゴーグル。

それに加え、右脚にゴツいプロテクター、左脚にサポーターをしている。

 

◾︎ ゲームでの扱い

◾︎育成ウマ娘:"Destiny" to Run Away!

 

ステータス

スピード スタミナ パワー 根性 賢さ

100 90 95 80 85

バ場適正

芝/ダ,海外芝/海外ダ

A/A,A/A

距離適性

短距離,マイル,中距離,長距離

C,B,A,A

脚質適正

逃げ,先行,差し,追込

A,G,G,G

成長率

・スピード+15%

・パワー +15%

固有スキル『世界覆す無敵の弾丸』

レース終盤のコーナーで差をつけて先頭にいると加速力をすごく上げる

 

・習得スキル

>秋ウマ娘-秋のレースが少し得意になる

>集中力-スタートが得意になり出遅れる時間がわずかに少なくなる

>逃げコーナー○-コーナーで速度がわずかに上がる〈作戦・逃げ〉

 

・覚醒Lvで習得するスキル

>先頭プライド(覚醒Lv2)-レース序盤または中盤に追い抜きや競り合いにわずかに強くなる〈作戦・逃げ〉

> 先手必勝(覚醒Lv3)-レース序盤で前に行きやすくなる〈作戦・逃げ〉

>百科全般(覚醒Lv4)-積み上げた経験で苦手をカバーする

> 最速の極意(覚醒Lv5)-道中競りあわず、終盤で大きく差をつけて先頭だとすごく速度が上がる〈作戦・逃げ〉

 

・固有二つ名「最速の蹂躙者」

>クラシック級ジャパンカップ、シニア級凱旋門賞を大差で勝ち、阪神ジュベナイルフィリーズ・BCクラシックを含むG1を5勝以上し、無敗で育成を終了させる

 

◾︎ 育成目標

1.ジュニア級6月:メイクデビューに出走

2.ジュニア級12月前半:阪神JF(G1)で3着以内

3.クラシック級10月後半:ファンを50,000人以上集める

4.クラシック級11月後半:ジャパンカップ(G1)で1着

【選択肢により分岐】

・海外遠征選択ルート

5.シニア級6月後半:ファンを160,000人以上集める

6.シニア級10月前半:凱旋門賞(G1)で1着

7.シニア級11月前半:BCクラシック(G1)で1着

 

・日本残留ルート

5.シニア級4月後半:天皇賞・春(G1)で3着以内

6.シニア級11月後半:ジャパンカップ(G1)で1着

7.シニア級12月後半:有馬記念(G1)で1着

 

◾︎ 概要

20××年6月のぱかライブ内にて実装決定の報告が成された。

はじめは育成ガチャで来るのかと思いきや、メインストーリー外伝『"Destiny" to run away.』にて育成ウマ娘☆3「"Destiny" to Run Away!」として配布、実装された。

 

成長補正がスピードとパワーに、かつ平等に分配されているため根性育成と相性がいい。

また、バクシン脳育成でも攻略できる。

史実での距離不問の活躍からか、適性は一度継承すればどこでも運用可能である。

 

隠しイベントとして、クラシック級ジャパンカップにて1着時のタイムが2分19秒0、もしくはそのタイムよりも速かった場合、スピード・パワー・賢さが大幅にアップするというイベントが存在する。

 

固有スキルはセイウンスカイの「アングリング×スキーミング」と同タイプ。…ではあるが、こちらの方がぶっ壊れ。

コーナーさえあるレースならどこでもぶっ飛んでいく。

一番固有が噛み合うのは実馬がとんでもない記録を出していた2400mのレースであるようだが。

 

固有二つ名は「最速の蹂躙者」。条件は「クラシック級ジャパンカップ、シニア級凱旋門賞を大差で勝ち、阪神JF・BCクラッシックを含むG1を5勝以上し、無敗で育成を終了させる」。ファン人数に気をつけ、日本残留ルートを選ばない限り獲得はそこまで難しくない部類の二つ名となっている。

特殊実況はクラシック級ジャパンカップ。条件は作戦「逃げ」で大差勝ちすること。普通に育てておけば聞くのは難しくないだろう。

 

育成シナリオは同期ではあったがほぼ戦うことのなかったミスターシービーや一歳年下であるシンボリルドルフなどに焦点を当て、新人であるが故に世間にはびこるとあるレッテルを気にせず彼女を見出したトレーナーと自らのすべてをもって世界を覆そうとするシルバーバレットの物語となっている。

シナリオの特徴としては、トレーナー、シルバーバレットともにモノローグが多めとなっている。

 

◾︎ サポートカード

サポートカードはSSR[最速の蹂躙者]が外伝ストーリーにて配布。後にRが実装された。

 

所持スキルとして、緑(パッシブ)スキルの「秋ウマ娘」「根幹距離○」「良バ場○」を所持。

それ以外では逃げに関するスキルが多くあり、配布サポートカードではあるが見劣りしないため、作戦逃げのウマ娘を育成するのなら入れておいて損は無いだろう。

 

アオハル杯のチームメンバーとしては、どこにでも対応できるオールラウンダーとして低確率で登場。

とりあえず出しておけば勝ってくれるので、加入した場合はどこかに突っ込んでおこう。

 

◾︎ SSR[最速の蹂躙者]

外伝ストーリー『"Destiny" to run away.』にて配布。得意トレーニングはスピード。

 

逃げには必須のレアスキルである「最速の極意」を習得することができる。

やる気・トレ効果・得意率ありとそれなりに揃っており、もらえるスキルこそ逃げ特化ではあるがそこまでこだわりがなければ使い勝手のいいサポートカードとなっている。

 

◾︎ 関連ウマ娘

ミスターシービー

モチーフ馬は同期である三冠馬。1984年毎日王冠にて一度だけ対戦経験がある(シルバーバレットは1着、ミスターシービーは3着)。

仲のいい友人同士兼お互いに一人暮らししている仲間としてたびたび助け合ったりしているようだ。

 

シンボリルドルフ

モチーフ馬は一年後輩の三冠馬。特段関わりはないのだが史実でのシルバーバレットの活躍から戦ってみて欲しかった相手としてよく名指しされている。

 

オグリキャップ

モチーフ馬は療養施設での交流や1990年ジャパンカップでの対戦経験がある後輩。

1989年ジャパンカップのホーリックスに続き、1990年のジャパンカップにて食事中のオグリキャップが顔を上げてシルバーバレットを見つめていたという話はあまりにも有名。

またシルバーバレットの全妹との間にシルバーチャンプを成しているのも関係が深い一因と考えられる。

 

◾︎ 史実

 

90年 ジャパンカップ

 

その日、僕たちはひとつの夢の結実を見た。

どこまでも、どこまでも駆け抜けてゆくその姿は誰よりも傷だらけで。

そうして走り続けた苦難の日々が大きな喝采へと変わる。

─世界が、お前を待っていた。

 

栄光は運命に抗う者にこそ輝く。

 

その馬の名は─────

 

202×年 JRAジャパンカップCMより

 

 

1971年クラシック二冠馬でありサラ系であるヒカルイマイを父に、気性が荒すぎたが故に未出走馬であったホワイトリリィを母に、また同じく気性が荒すぎて未出走馬だったホワイトバックを母父に持つ。

 

1982年にデビューすると、9年という長きにわたり白峰透を鞍上にサラ系という差別、度重なる不幸や怪我に悩まされながらも芝ダート不問、どんな距離でも圧倒的な強さでねじ伏せる怪物として名を馳せた。

通算成績23戦23勝。その中でも10歳時の1990年ジャパンカップで出したワールドレコード2:19.0と11歳時の凱旋門賞で出した36馬身差の圧勝劇はあまりにも有名。

 

1991年KGVI & QES、ムーラン・ド・ロンシャン賞、凱旋門賞、BCクラシックを制したことによって1991年JRA賞最優秀5歳以上牡馬・JRA賞最優秀父内国産馬・JRA賞特別賞(この賞はシルバーバレットの主戦騎手であった白峰透も同年に受賞している)、カルティエ賞年度代表馬・最優秀古馬、エクリプス賞年度代表馬・最優秀古牡馬のことごとくをかっさらった。また1992年には顕彰馬に選出されている。

そんな規格外の馬だったために種牡馬としても望まれていたのだが、帰国の際に搭乗していた輸送機の墜落で亡くなる。享年11歳。

 

今となっては「サラ系」はシルバーバレットの甥であるシルバーチャンプの種牡馬としての活躍により、さほど珍しいものではない。が、今現在の状況はシルバーバレットから始まったといえよう。

彼が現れるまで、強さよりも血統が重要視される競馬界では血統書のないサラ系は嫌われていた。シルバーバレット登場以前にも彼の父であるヒカルイマイのようにここ大一番を勝ったサラ系がそれなりの数いたのだが彼らが正当に評価されることはほぼなかった。

「サラ系である」というだけで評価に値しなかったのだ。

…彼が、シルバーバレットが現れるまでは。

 

シルバーバレットがいなければシルバーチャンプは存在しなかった。

そのことを考えると少しばかり感慨深くなってしまう作者なのである。

 

 

 




僕:知らぬ間に女体化して美少女化してたウッマ。

白峰明(しらみねあかり):声優。白峰遥の実子(長女)。
よく可愛い女の子キャラを担当している人気声優で、今回シルバーバレットを演じると報道された時は驚かれた模様。
妹である白峰望(しらみねのぞむ)がシルバーチャンプを演じており、姉妹でわちゃわちゃしている。
幼い頃から父であり現役騎手の白峰遥にシルバーバレットのことを語られて育ってきており、今回のシルバーバレット役が「今までで一番やりたかった役。誰にも渡したくなかった」と後のインタビューで語る模様。
一番下に騎手を目指している弟がいる。


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銀色一族限定掲示板

password:【Silver Bullet】


1:Champ

 

ハ?

 

 

2:銀色の名無しさん

 

初代さまご乱心で草

 

 

3:銀色の名無しさん

 

そりゃそうだろ

 

 

4:銀色の名無しさん

 

まさか"銀弾"さまがいらっしゃるとはこのリハクの目をもってしても……

 

 

5:Champ

 

あのクソチビ

は……?

 

 

6:Champ

 

脚クッソ弱ぇ癖にオーバーワークすんな!!

 

 

7:銀色の名無しさん

 

初代さまって基本ツンデレだよね

 

 

8:銀色の名無しさん

 

一番銀弾さまに愛憎渦巻いてる人だから…

 

 

9:銀色の名無しさん

 

そういえば話変わるんだけどさ、…銀弾さまって可愛くない?

 

 

10:銀色の名無しさん

 

>>9

正直可愛い。ちっさくて可愛い。

それでいてボスってんだから性癖ねじれる

 

 

11:銀色の名無しさん

 

何だかんだ言いながら頼ったら助けてくれるからね銀弾さま…

 

 

12:銀色の名無しさん

 

俺も銀弾さまの取り巻きになりたい…

 

 

13:銀色の名無しさん

 

>>12

だいたいみんなそう思ってる定期

 

 

14:銀色の名無しさん

 

関わってみたいけど恐れ多すぎて関われないんだよな

 

 

15:銀色の名無しさん

 

銀弾さまに気兼ねなくいけるのは直系3人衆だけだよもう

 

 

16:銀色のメジロさん

 

>>15

呼びました?

 

 

17:銀色のシンボリさん

 

>>15

呼んだか?

 

 

18:銀色のサクラさん

 

>>15

呼びましたよね!?

 

 

19:銀色の名無しさん

 

ウワーッ!出たッ!

 

 

20:銀色のシンボリさん

 

そんな幽霊を見たような反応しなくてもいいだろ

 

 

21:銀色のメジロさん

 

【シルバーバレット、プライドシンボリ、サクラスタンピード、メジロシルフィードの4人の写真】

 

 

22:銀色の名無しさん

 

>>21

羨ましい定期

 

 

23:名無しさん

 

>>21

銀弾さまが笑ってる……(墓)

 

 

24:名無しさん

 

>>23

メディック!メディーック!!

 

 

25:名無しさん

 

>>23

…手は尽くしましたが、ご臨終です

 

 

26:名無しさん

 

>>23

うっうっう……、そんなぁ…

 

 

27:名無しさん

 

>>23

そこまで惜しくない人を亡くしたな

 

 

28:名無しさん

 

>>24

>>25

>>26

>>27

勝手に殺すなや

 

 

29:Champ

 

>>21

何やってんだ…?

 

 

30:銀色のメジロさん

 

あっ、ヘタレのお父様じゃないですか

 

 

31:Champ

 

>>30

なんて???

 

 

32:銀色のメジロさん

 

>>31

ヘタレにヘタレって言って何が悪いんですか?

 

 

33:銀色のシンボリさん

 

>>31

流石に最近の父上は見るに耐えないぞ

 

 

34:銀色のサクラさん

 

>>31

必死に可愛い後輩として振舞おうとしているのを見ると…、すいません笑いが止まらないッスwww

 

 

 

35:銀色の名無しさん

 

あ〜、ちょっと分かるかもしんない

 

 

36:銀色の名無しさん

 

初代さまって普通に気性荒いもんなぁ

 

 

37:銀色の名無しさん

 

それがあんな風に……ププッ!

 

 

38:Champ

 

>>35

>>36

>>37

お前ら覚えとけよ…?

 

 

39:銀色の名無しさん

 

直系差別反対!直系差別反対!!

 

 

40:Champ

 

うるせぇ!自分の子どもを可愛がってなにが悪い!

 

 

以降もスレは滞りなく進んでいく。




銀色の一族が史実の記憶有りでウマ娘世界にいる話。

シルバーチャンプ:シルバーバレットにツンデレ。
シルバーバレットに史実から愛憎を抱いているがそれはそれとして…。
本当は気性の荒い性格なのだがシルバーバレットの前では『いい子ちゃん』を演じており、元来の性格を知っている銀色の一族メンツからは『ちょっと…気持ち悪い…』と不評だったりする。

直系3人衆:メジロシルフィード、プライドシンボリ、サクラスタンピードのシルバーチャンプを父に持つウマ娘たち。もちろん史実の記憶あり。
素直になれずシルバーバレットと仲良くできない前世父親今世先輩をおちょくってたりする。
なお3人衆の中で一番権力が強いのはメジロシルフィードである。


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イカリソウのある邸宅にて

パーペキに趣味で書いたので何か問題があったら消します。


「あれ、ここは…?」

 

僕はシルバーバレット。

まぁそれなりに有名な競走選手だったと自負している。

前までは俗にいう社会人レース的なドリームトロフィーリーグに所属していたが最近勇退し、トレーナー業を歩もうとしていた矢先、

 

「どこだろう」

 

目を覚ますと知らない場所にいた。

森の中のようで、でも丁寧に木が剪定されていることからどこかの敷地内だろうかと検討をつける。

そうこうしていると誰かの足音が、

 

「えっとあの、ここってどこですかね?」

…シルバーバレット?

「はい?なんて?」

 

 

僕が出会ったのはシルバーチャンプというウマ娘、ならぬウマ息子だった。

僕の世界ではウマなのは女の子だけだけど、この世界はウマ娘だけじゃなくウマ息子もいるのだという。驚きである。

彼の名前に何だか親近感を抱きながら、行く場所もないのでお屋敷へと案内してもらった。

驚くことに今僕がいる土地は彼の所有物だそうで。

若いのに凄いなぁと思いながら案内を受ける。

 

「お世話になっていいの?」

「…はい、いくらでも」

「いくらでもは悪いよ。帰るまで世話になろうかな」

「そうですか…」

「「「お父様!」」」

「ん?」

 

チャンプくんには子どもがたくさんいるようで、世話になる代わりに彼らの子守りをすることになった。

走ることが好きな子たちのようなので新米といえどもトレーナー魂が疼く。

だってみんな才能の原石なんだもの。

 

「あ、チャンプくん」

「はい、バレットさん」

「お仕事終わったんだね」

 

チャンプくんは一代で成り上がっている途中なのだという新進気鋭のやり手であるようで毎日忙しそうにしている。

それでも僕の元に毎日話に来るのでいつもいろいろな話をする。

 

「チャンプくん」

「なんです」

「僕ね、外で働いてみようと思うんだ」

「…は?」

「元の世界でだけどトレーナー免許も取ってるし、僕のトレーナーみたいに"運命"に会ってみたいなぁって!」

「駄目です」

「え…?」

「それだけは駄目だ」

「な、なんで?」

「アンタは俺の、いいや、俺たちのモノだから…」

「ま、待ってよ、やめて!チャンプくん!」

 

この時間でもまだメイドさんたちが働いているはずなのに、どれだけ暴れても誰も来ない。

 

「みぃんな俺の味方だから、助けなんて来ねぇよ」

「や、ヤダ、助けて、誰かぁッ!」

 

カチャン、と足枷が嵌められた。

 

 

その姿を見た時、夢じゃないかと思った。

"シルバーバレット"。

俺にとってヒーローであり、憎むべき相手。

ウマ娘であったのは驚いたが、死んだはずの存在が何故か現れたことに俺は優しい人間を装いつつ、その存在を自らのテリトリーへと連れ込んだ。

 

"シルバーバレット"は優しい人だった。

誰もが彼女のことを慕い、よく話しかけられ、頼られていた。

ずっと憎んでいたはずなのにいつしか俺自身も囚われて、

 

「こんなこと、しちゃ駄目だよチャンプくん…」

「うるさい」

「…、」

 

不安げに揺れる瞳。

その目元にはくっきりとした隈が。

足首には逃げ出そうとしたのか痛々しい血の跡がついている。

 

「お前が好きなアイツらを傍につけたのに何が不満なんだ?」

 

"シルバーバレット"が可愛がっていた子どもたちを派遣したのに全然喜んでくれなかったようだ。

どうすれば喜んでくれるだろうかと考えつつも、まだ時間はあるからと焦らないようにする。

 

「絶対逃がさねぇからな、"シルバーバレット"」

 




生存IF‪√‬のウマ娘シルバーバレットが元性別史実‪√‬な世界に落っこちてしまった話。

シルバーチャンプ:シルバーバレットに愛憎を抱いている。
はじめは嫌いだったけど、最終的にはシルバーバレットが他人の目に触れるのも許さないくらいには執着を抱いてしまっている。
ずっとずっと感情煮詰めてた存在(違う世界線産)が目の前にポップしたらこうなるよなぁ?

生存IF‪√‬ウマ娘僕:かわいそう。
弟みたくシルバーチャンプを可愛がってたらクソデカ感情抱かれてた。
助けて先生、助けてサンデーと震え声でトレーナーとマブダチに助けを求めるが何も起こらない。かわいそう。

銀色の一族の皆さん:邸宅に住んでる人たち(家の使用人含め)は全員銀色の一族もしくは銀色の一族に連なる人々である。
当主であるシルバーチャンプほどではないが皆さん大なり小なり僕にクソデカ感情を抱いているので逃がしてくれる優しい人は誰もいない。


イカリソウの花言葉:君を離さない、あなたを捕まえる


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IF牝馬‪√‬の話

多分牝馬版SSってあだ名つけられてる。

【追記】
誤字報告ありがとうございます。


『母様』

『どうしたの?』

 

ぼうっと過ごしていると長兄であるシロガネペガサスが寄ってきた。

こんな小さな私から生まれたとは思えないくらい大きく育ってくれた子だ。

 

『ブレーヴが呼んでる』

『そう』

 

シロガネブレーヴも私の子どもだ。

少々体が弱いのがたまにキズだが、それでも私の子であるため強い。

シロガネペガサスに教えてもらった通りの場所に行くとシロガネブレーヴがレディーバレットに絡まれて困っていた。

 

『レディー』

『あっ、お母様!』

『ブレーヴが困っているでしょう』

『ごめんなさーい』

『ブレーヴもごめんね』

『いえ…』

 

レディーバレットはお転婆な子である。

おしゃまというか何というか、…彼女の相手になる子はちゃんと手綱を握れる子でないといけないなと考えてしまうというか。

 

『『おかーさま!』』

『はいはい』

 

歩いていると双子の我が子であるホワイトバレットとノワールバレットに話しかけられる。

まだ子どもな二頭は母である私が大好きで会うたびに甘えてくるのだ。

こうして甘えてくるのもあとちょっとの間だけだと思うと寂しくなってしまうけれど、母としては強くなってほしいと思う。

 

『今日も頑張ってきなさいね』

『『はーい』』

 

幼い彼らを見送るとヴィンチェローとシロガネルドラに出会った。

姉弟仲良さそうで何よりである。

二言三言話して、あちらの方でシロガネターボが大暴走していることを聞き、慌てて駆けていく。

 

『ターボ!』

『あっ、母さん!』

『母さん…』

 

声をかけると嬉しそうにやって来るシロガネターボ、の後ろにゼェハァ息を荒らげているシロガネダンサーが。

今日も大変だねと声をかけると『慣れてるので…』としゃあないみたいな言葉を返された。

 

『…母さんも無理しないでくださいね』

『あっ!……はい』

 

そう言えば私、おなかに子どもがいるんだった…。

 

 

シルバーバレットのことを思い出すと最高の競走馬であったと共によき母であったと思う。

はじめは競走馬としても繁殖牝馬としても小さい体躯を心配されていたが問題なく子どもを産み、初年度産駒であるシロガネペガサスを皮切りに彼女の力を引き継いだ子どもたちを世に送り出していった。

 

子どもの特徴としては、頭がよく人に従順であることがまず挙げられる。

███牧場の人が語ったところによるとシルバーバレットが母として産んだ子どもたちは揃いも揃って「聞き分けがいいので世話しやすくて助かります」とよく言われたのだという。

まぁシルバーバレット自身も父と母双方が気性難だったのにあれほど聞き分けがよかったからやっぱり血なのだろうか。

 

天寿をまっとうする数年前まで子どもを産んでいたシルバーバレットの産駒は20頭。

そのすべてが勝ち上がり、日本海外含めG1の舞台に姿を見せていたと考えると繁殖牝馬としても凄い馬だったのだなと感慨深くなるのも当然のことだろう。

でも、

 

「寂しいよバレット…」

 

そう言って手向けた花は、晩年の彼女のように真っ白だった。

 




私:シルバーバレット♀。
主な勝ち鞍:
1990年 ジャパンカップ
1991年 KGVI & QES
ムーラン・ド・ロンシャン賞
凱旋門賞
BCクラシック

獲得タイトル:
JRA賞最優秀5歳以上牝馬(1990・1991年)
JRA賞最優秀父内国産馬(1991年)
JRA賞特別賞(1991年)
カルティエ賞年度代表馬(1991年)
カルティエ賞最優秀古馬(1991年)
エクリプス賞年度代表馬(1991年)
エクリプス賞最優秀古牝馬(1991年)
顕彰馬(1992年選出)

お相手が三冠馬に始まり三冠馬に終わった名牝。
人間的な見た目にすると火傷顔の合法ロリ(レース中は少しオラオラな性格)。
シルバーバレット♂と同じ‪√‬を辿りつつ生き残り繁殖牝馬に。
なった当初でも年寄りだったが普通にポコポコ産んだ。
仔出しがよく受胎率もバリ高。

子どもの傾向的には生まれた当初は私の体格に合わせ小さい子が多いが、成長するにつれデカくなる。
最終的に子ども全員が私より大きくなっている模様。
しかも子ども全員がG1に姿を現すくらいには勝ち上がっている。
(誰がどのG1を勝っているかは特に考えてないけど…)

なお♂世界生存IFにて起こった30歳馬の癖に2歳馬と戦えるんじゃね?事件はこちらでも起こっている。
…それも胎に最終仔であるカタストロフ(父ディープインパクト)がいる状態で、である。周りにカッコつけるため死ぬ気で悟らせなかったようだ、ちゃんと後で怒られたが。


シルバーバレット♀の子ども一覧

・1993年産
シロガネペガサス (父ミスターシービー)
冠名シロガネ+ミスターシービーの父である天馬・トウショウボーイから連想。

・1994年産
レディーバレット (父シンボリルドルフ)
牡馬じみた隆々とした体の牝馬。そこから大人の女性をイメージ+母の馬名の一部。

・1995年産
ヴィンチェロー (父ヒカリデユール)
歌劇『トゥーランドット』内のアリア「誰も寝てはならぬ」の一節よりVincerò。Vinceròは私は勝つという意味。

・1996年産
シロガネルドラ (父ニホンピロウイナー)
冠名シロガネ+父ニホンピロウイナーの産駒ヤマニンゼファーから連想してインド神話に登場する暴風神・ルドラの名をつけた。

・1997年産
シロガネブレーヴ (父ダンシングブレーヴ)
冠名シロガネ+父の馬名の一部。

・1998年産
シロガネターボ (父ツインターボ)
冠名シロガネ+父の馬名の一部。

・1999年産
シャドウガンナー (父ナリタブライアン)
父ナリタブライアンの異名『シャドーロールの怪物』+母の馬名の一部より連想。

・2000年産
シロガネダンサー (父オグリキャップ)
冠名シロガネ+父オグリキャップの父父ネイティヴダンサーの名前の一部。

・2001年産
ホワイトバレット (父サンデーサイレンス、ノワールバレットと双子、白毛)
毛色の白毛+母の馬名の一部。
ノワールバレット (同上、ホワイトバレットと双子、メラニズム)
毛色がメラニズムからフランス語の黒+母の馬名の一部。

・2002年産
シロガネハナツユ (父メジロマックイーン)
冠名のシロガネ+鳥のメジロの別名であるハナツユより。

・2003年産
シロガネハヤテ (父サクラバクシンオー)
冠名シロガネ+牡馬のような性格のためそれっぽい名前でハヤテ。

・2004年産
シロガネキセキ (父フジキセキ)
冠名シロガネ+父の馬名の一部。

・2005年産
シロガネルクソン (父アグネスタキオン)
冠名シロガネ+常に高速で運動するルクソン粒子から。

・2006年産
シロガネデパーチャ (父クロフネ)
冠名シロガネ+出発、旅立ちを意味する英単語departure。

・2007年産
パッセージオーロ (父ステイゴールド)
航路って感じの意訳で通路という意味のPassage+イタリア語で金という意味のoro(オーロ)。

・2008年産
ペレアイホヌア (父キングカメハメハ)
父の馬名から連想してハワイの火山の女神・ペレの名前を。
なおペレアイホヌアは大地を食べるペレという意味である。

・2009年産
クックロビン (父ジャングルポケット)
父ジャングルポケットの名前の由来が童謡のジャングルポケットとのことなのでマザーグースから『誰がこまどり殺したの?』より連想。

・2010年産
ロックオンハーツ (父ハーツクライ)
父ハーツクライの名前より連想。彼がロックオンするのは勝利なのか、それともライバルなのか…。

・2011年産
カタストロフ (父ディープインパクト)
父ディープインパクトの名前+シルバーバレットの馬生より連想。
シルバーバレットにとっては最後の子どもであり、もう一度世界をひっくり返すならぬぶち壊すことを期待された馬名。

この世界での冠名シロガネはシルバーバレット♀の子ども+子どもの産駒限定につけられる特別な名前となっている。



お相手のみなさん:馬主&騎手くんの多大なる審査を通り抜けた。
なおヒカリデユールがつけられたのは同じサラ系のよしみ、ツインターボがつけられたのはただ単に馬主がツインターボのファンだったからという裏話がある。
基本的に私が年齢的に姐さんであるため、おね…タ状態になっている。
まぁそんな中CBさんは「バチバチしてた頃のお前を知ってるのは俺だけ」みたいな優越感というか後方旦那面をしているものとする。


騎手くん:シルバーバレット♀の産駒の調教師をしたりした。
シルバーバレット♀の産駒でハーレムを作ったりしてウハウハだったが、シルバーバレット♀が亡くなったあとは少し沈んだ。
♂世界でも独身だがこの♀世界でも独身。
シルバーバレット♀が恋人だったといってはばからない男。
シルバーバレット♀の生はこれ以上ないと言っていいほど穏やかな終わりを迎えたが遺された側のこの人はだいぶシルバーバレット♀の死を引きずることになる。
シルバーバレット♀が最高の相棒で『運命』だったからね…。


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番狂わせの一族-その父について

生存IF‪√‬で史実寄りウマ息子‪√‬にいったらこうなるのでは…?という自分の趣味。
僕がだいぶクズっぽいので注意。

…でもあれだけ仕事してたんならお相手のこともよっぽどのことがない限り覚えてなさそうだなぁ、と。
僕自体が元々他の馬に興味のないウッマだったし…。

なんか問題があったら消します。



俺たちの父は放浪癖がある。

『まだまだ世界を引っくり返したい』と、名家から死ぬほどアプローチを受けていた癖にそれを無視して全国行脚しているのが俺たちの父親だ。

 

「この子が新しく兄弟になるよ」

 

パッと見は子どもにしか見えない父は各地に現地妻()がいる。

しかもほぼほぼが一回こっきりの関係で、俺たちの母が父に関わるためには子どもである俺たちを経由しなければならないくらい父は何もかもに無頓着だ。

 

「お久しぶりです。おかえりなさい父さん」

「うん。ただいまハイセイコ、また身長伸びたかい?」

「はい」

 

父は自分がそんなにも人に想われているとはこれしきも思っていない。

父にとって子を成すことは世界を引っくり返すための布石のひとつであり、それ以上でもそれ以下でもない。

名家連中から婿入りに誘われていたこともリップサービスだと思っている始末だから…、はぁ。

 

「ため息ついてたら幸せが逃げるよ」

「まぁ、はい。分かりましたよ」

 

父が選ぶ女性たちのほとんどは地方出身か、遠い昔に有名だったウマの血を持つ女性たちだ。

そんな忘れ去られるはずだった彼女たちを救いあげて、救いあげるだけ救いあげて、誰かに求められる幸せを与えて去っていく酷い人間が我が父なのだ。

 

「今回はどれくらいこっちにいますか?」

「ん〜。とりあえず今回こっちに引っ張ってきたあの子がトレセンに入学するまでは面倒見るかな。それにサンデーにも会いたいし…」

「そうですか」

 

隠れて兄弟たちに一斉メールをする。

シルバーバレットが帰ってきたと。

そうすると1分も経たない内に全員から「すぐ行く」との返信が。

 

「父さん、みんな来てくれるみたいですよ」

「また?いつも来てくれるけどみんな暇なの?」

「さぁ、どうでしょうね」

 

誤魔化してから俺も食事の準備に走る。

今日はたくさん人が来るだろう。

兄弟の中にはこっちがドン引くくらい食べるやつもいるから。

 

「父さん」

「なに?」

「今回の女性はどんな方だったんですか?」

「ん〜」

 

父が唸る。

どうせ答えは、

 

「忘れた」

 

……嗚呼、本当に酷い人。

 

 

「やっほー、甥っ子くん。元気?」

「……どうも。いつ帰ってきてたんスか」

「2日前くらいかなぁ。来年の4月くらいまではここら辺にいるつもりだからよろしくね」

「そうですか」

「うん。あ、それはそれとして他の奴らには僕がここにいること教えないでね!?……押しかけられるのはもう嫌だから」

「あぁ…分かってますよ」

 

突然会いに来た叔父-シルバーバレットに応対しつつ話に花を咲かせる。

叔父は放浪者だ。

好き勝手やって、とんでもない実子をトゥインクルシリーズや世界に送り出すのが趣味みたいなところがあるイカレ野郎。

 

「いつまでこんなこと続けるつもりなんです?」

 

そう、俺が聞くと叔父は一瞬きょとりと目を瞬かせて、それから獰猛に笑う。

 

「そりゃあ見届けるまで」

 

─────大番狂わせってやつをさ。そんで世界を面白くしてやるんだ。

 

心底愉しげに笑った顔は酷くおぞましく、それでいて…。

 




僕:元性別生存軸のシルバーバレット。何にも気づいてない。
見た目は現役時代と変わらず、引退後も顔の火傷隠しにフードを被っている。
現役引退後は史実生存軸をなぞるように地方などにお出かけしてうまぴょいして子どもをたくさん作ってる模様(現在進行形)。

各地に現地妻()がおり、毎度毎度『僕と運命をぶち壊そうぜ』と口説いて落として次に行って…を繰り返している。
自分自身でもその所業は『クズだな…』と思ってるので現地妻()の皆さんには恨まれてると思ってる模様。
そんな感じで罪悪感があるので有り余るくらいの養育費+生活費etc.を渡し続けている。

基本は無口無表情で相手した現地妻()の皆さんのことも全然覚えていないが子どもたちに関しては非常に大事にして面倒を見ている。
なお対騎手くんの前だけは表情が緩む。



現地妻()の皆さん:シルバーバレットに落とされた。
全員が全員シルバーバレットに激重感情を抱いている(ハルウララ以外は)。
誰にも期待されていない人生だった中で自分を唯一引き上げてくれたのがシルバーバレットだったから…。
子どもが5歳くらいなるまでのたった数年の間だけだけど、こんな自分を愛して大事にしてくれて、消えたあともえげつない額の養育費+生活費etc.を突っ込んでくるシルバーバレットにまた会いたいと思ってる方々。全然恨んでない。逆にまた会いたいし、再会したらしたで一生自分から離れられないようにする気満々の模様(ハルウララ以外は)。
みんながみんな"シルバーバレット"を自分を救いあげてくれた神様だと思っているところがあるので(ハルウララ以外は)子どもを経由してシルバーバレットと再会しようと何度も画策している。


シルバーバレットの子どもたち:いっぱいいる。
一番はじめにシルバーバレットに見出されたのが長兄のシロガネハイセイコであり、放浪から帰ってきたシルバーバレットを出迎える役をしている。
母親がシルバーバレットに激重感情を抱いているが故にシルバーバレットの思い出話を聞かされて全員育っているので漠然とシルバーバレットが自分を迎えに来てくれないだろうかと思っていた幼少期を過ごしているのが大半。
伝説の存在であるシルバーバレットの子どもであり、そんな彼に見出されたことに優越感などを抱いているんだ…。
みんなシルバーバレットにクソ重感情を抱いている。


その他のみなさま:シルバーバレットを自分ちに婿入りさせようとしたら知らぬ間に逃げられてた人たちなどシルバーバレットに関わりのある(あった)人々。
何度も終息不明になっては子どもを表舞台に送り込んでくるシルバーバレットにヤキモキしてる。
CB皇帝は言わずもがな、いろいろな奴らが激重感情抱いてるよ。
やったね、シルバーバレット!


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生存IF‪√‬のとあるスレ

最近ずっと生存IF‪√‬の話とか元性別軸とかウマ娘軸とかの話ばっか書いてる…。


【銀弾の】白峰おじさんについて語ろう【相棒】

 

1:名無しのトレーナーさん

 

ほい

 

【満面の笑みでダブルピースしてる白峰透の画像】

 

 

2:名無しのトレーナーさん

 

>>2

呼び方が不敬だゾ

 

 

3:名無しのトレーナーさん

 

本人も自分で自分のこと「おじさん」って言ってるからヘーキヘーキ

 

 

4:名無しのトレーナーさん

 

何でおじさん銀弾に出会うまでG1勝ててなかったの?

 

 

5:名無しのトレーナーさん

 

>>4

銀弾に出会うためっていう神様からの思召やで

なお初G1制覇をワールドレコードで制され脳が焼かれる模様

 

 

6:名無しのトレーナーさん

 

元からG1(あの頃は八大競走だけど)勝ててなかっただけで普通に名手やったぞ

勝てへん馬を任せたらピカイチ言われとったし

 

 

7:名無しのトレーナーさん

 

おじさんに勝てへん馬任せたら普通に勝てるようにするんやっけ?

やから『先生』ってあだ名つけられとったとか

 

 

8:名無しのトレーナーさん

 

白峰おじさんは馬に好かれることに関しては天才

 

 

9:名無しのトレーナーさん

 

ベテランなってから出会った馬と世界蹂躙しに行くな定期

 

 

10:名無しのトレーナーさん

 

銀弾引退~騎手引退までが一番バケモンやった

訳わからんとこから飛んでくるからよく馬券が紙屑になったわ(白目)

 

 

11:名無しのトレーナーさん

 

>>10

「何となくここ行けそうだなって思ったら行けました」

 

 

12:名無しのトレーナーさん

 

独身なのが痛い

産駒残せや

 

 

13:名無しのトレーナーさん

 

>>12

甥っ子おるからセーフ

 

 

14:名無しのトレーナーさん

 

なおその甥っ子からは「何でああ(コース取りのこと)できて、あれで勝ってるのか分からない」と言われた模様

 

 

15:名無しのトレーナーさん

 

生涯最高の相棒が"神すら敵わぬ馬"だからな

どっか頭が変なとこにでも接続されたんでない?

 

 

16:名無しのトレーナーさん

 

甥っ子いわく騎乗ミスしたら「(鞍上)変わろうか?」って真顔で言われるらしいな

昔の記事でめっちゃ怖い言うとった

 

 

17:名無しのトレーナーさん

 

もうちょっと騎手しててほしかった

交通事故さえなければなぁ…

 

 

18:名無しのトレーナーさん

 

努力を続けた結果、神様から『運命』を与えられた人感ある

 

 

19:名無しのトレーナーさん

 

元々直感はすごかったって話は聞いたことあるな

いつも低額とはいえ馬券外したことなかったらしいし

 

 

20:名無しのトレーナーさん

 

逃げ馬任せたらピカイチだと思うんだ

まぁ銀弾の弟妹のせいでそういう印象なんだけど

 

 

21:名無しのトレーナーさん

 

基本的に平均以上の騎乗するけど時たま120点とか150点の騎乗してくるイメージ

銀弾に騎乗してる時は毎回200点なんだが

 

 

22:名無しのトレーナーさん

 

人気薄の馬任された時が一番怖かった

 

 

23:名無しのトレーナーさん

 

騎手としてはピカイチだけど人間としてはダメダメなおじさん

昔たまごレンチンしてぶっ壊したみたいな話暴露されてなかった?

 

 

24:名無しのトレーナーさん

 

銀弾に対しての愛が重い

その産駒に対しても愛が重い

 

 

25:名無しのトレーナーさん

 

>>24

凱旋門賞負けて帰ってきた甥っ子に「やっぱり銀弾の方が強かったね」と満面の笑みで言い放った男だ、格が違う

 

 

26:名無しのトレーナーさん

 

>>24

「どんな強い馬がこれから出てきても一番はシルバーバレットですよ、もちろん」

 

 

27:名無しのトレーナーさん

 

このおじさん、銀弾引退後に他の馬に銀弾並のスペック求めてたりしたらしいな

 

 

28:名無しのトレーナーさん

 

>>27

「銀弾が引退したあとですね、他の子にも騎乗させていただいたんですけど『あれ?伸びないな』って思うことがよくあって」

「あとから気づいたんですけどやっぱり彼(銀弾のこと)は規格外だったんだなって」

「彼はあの年齢でもあのスペックだったから、彼より若い子たちはもっと強いと思ってたんですよね(笑)」

 

 

29:名無しのトレーナーさん

 

>>28

銀弾が規格外なだけだよ!

 

 

30:名無しのトレーナーさん

 

銀弾もだけどサンデースクラッパもだいぶバケモンだったよな…

 

 

31:名無しのトレーナーさん

 

>>30

無敗の三冠馬だったグローリーゴアにBCクラシックで負け叩きつけた馬だから…

なんで差されたのにまた差し返しにくるんですか???

 

 

32:名無しのトレーナーさん

 

>>30

芝なら確実にシルバーバレット、ダートもシルバーバレットだけど他の馬を選べと言われたらサンデースクラッパ、だからな

 

 

33:名無しのトレーナーさん

 

オラオラに見えて本当は泣き虫なスクラッパちゃん好き♡

 

 

34:名無しのトレーナーさん

 

おじさんと出会った初期のスクラッパちゃん、兄の銀弾が大好きで兄の傍に寄ってったおじさん蹴りかけたらしい

まぁ銀弾に叱られたぽくてそのあとは普通の関係が始まったんだけど

 

 

35:名無しのトレーナーさん

 

おじさんってホントに銀弾関係のウッマに好かれてるね…

 

 

36:名無しのトレーナーさん

 

>>35

数年前やけど

 

【銀弾産駒のハーレム内にいるおじさんが満面の笑みをしている画像】

 

 

37:名無しのトレーナーさん

 

まぁその中でもおじさんの一番は銀弾なんですけどね

 

【すっかり白い毛並みになった銀弾と楽しげに笑っているおじさんの画像】

 

 

38:名無しのトレーナーさん

 

おじさんまたテレビ出てくんないかなー!

いろいろ話聞きたいんだけど!

 

 

39:名無しのトレーナーさん

 

おじさん全然SNSしないから情報源が甥っ子だけなんだよね…

 

 

40:名無しのトレーナーさん

 

携帯買った当初の理由も手軽に銀弾の写真が撮れるからって理由の人だから…(あきれ顔)

 

 

41:名無しのトレーナーさん

 

銀弾が恋人なおじさん

 

 

42:名無しのトレーナーさん

 

開口一番から銀弾の話するって甥っ子が言ってたし…

 

 

43:名無しのトレーナーさん

 

【バラエティ番組にて「女の子より銀弾と一緒にいる方が楽しいです(真顔)」と言っている画像】

 

 

44:名無しのトレーナーさん

 

>>43

顔がマジなんだよなぁ!

 

 

45:名無しのトレーナーさん

 

>>43

ヒェッ!

 

 

46:名無しのトレーナーさん

 

暇があったら地方まで遠出して銀弾産駒に会いに行ってるみたいだからな…

 

 

47:名無しのトレーナーさん

 

銀弾産駒+銀色の一族が出るレースは基本見てて騎手に感想の電話してくるおじさん

 

 

48:名無しのトレーナーさん

 

輸送機の件が現実になってたら多分死んでたorそれに近しいことになってただろうなぁ、この人

 

 

49:名無しのトレーナーさん

 

>>48

それはそう定期

 

 

50:名無しのトレーナーさん

 

『運命』の相手だからな、しゃあない

 

 

 

 

スレは続いていく…。

 




白峰おじさん:幸せ軸なおじさん。
満面の笑み画像で打線作れるくらいそんな画像がある。

騎手としては鬼才枠。
天才ではない、努力の人ではある。
でも銀弾と共に歩んだあと~引退までの数年間がバケモンだった。
銀弾と出会ったから頭が変なところに接続されたんじゃね?はよく言われてるジョーク。
「なんかここ行けそうだったから行きました」で勝ってた。
人気薄の馬を任せたら一番怖い騎手と引退後でも称されてる。

サンデースクラッパ:僕の半弟。SS産駒。
SSに見た目がソックリのダート馬。でも凄く怖がりな性格。
兄である銀弾のことが大好きで幼い頃はずっと後ろについてまわっていたらしい。
初めは兄の銀弾と仲がよさそうなおじさんにヤキモチしていたが最終的にはおじさんから『第二の相棒』呼びをもらうぐらいのコンビになった。

戦法は逃げ一辺倒のカブラヤオータイプ。
でも差されたら後ろに追いつかれる!と銀弾から授けられた電撃の差し脚かまして差し返しにいく。
それをBCクラシックでしたら無敗の三冠馬だったグローリーゴアを倒しちゃった子。
グローリーゴアより1歳年上。

グローリーゴア:SSの運命のライバル産駒。無敗の三冠馬だった。
完全に見た目も戦法も父でありBCクラシック獲るぞ!ってなってたところ、日本からきた『伝説』の弟兼父のライバルの息子にハナ差で勝たれた。
そこからサンデースクラッパに興味を抱くようになり、ライバル関係を築いて、引退後はアメリカで種牡馬入りしたサンデースクラッパと同じ場所で仲良く悠々自適に過ごしてる模様。



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◆普通に暮らしたいんだよなぁ…

久しぶりのウマ娘軸。


「シルバーは私と走るんだよ」

「いいや私とだ」

 

……やぁ、僕だよ。

今にも綱引きの綱にされそうな僕だよ。

今の現状はね、ミスターとルドルフに取り合われてるところなんだ。

…現実逃避くらいしてないともう無理だよ、コレ。

 

だって二人とも普通じゃないもの、掛かってるよもう。

だってみんな僕らを中心にして離れて様子を伺ってるし、助けを求める目をしてもみんな目を逸らすし!

 

「えっと、二人とも……?」

 

ヤバイヤバイヤバイ、腕がギチギチなってきた。

ちぎれそう!と焦って声を出せば「どうした?」と二人の声。

 

「は、離してぇ…!」

「「無理だ(だね)」」

 

 

「大変だったねぇ」

「うん…」

 

あのあと、決着がつかなかった二人は「勝った方がシルバーバレットをもらう」と僕の意志を全無視したレースをし始めた。

その隙に僕は逃げたのだけど。

ため息を吐きながら休憩所で自販機から買った飲み物を飲んでいると先輩に話しかけられた。

名前から緑色がイメージされるその人は僕がトレセン学園に入った頃の生徒会副会長だ。

生徒会長ともう一人の副会長は苦手だったのだけど、この人だけには何故か懐いていた。

 

「相変わらず私のことが好きだね、シルバーは」

「はい、…先輩は好きです」

「…ハハ!相変わらずあの二人のことは苦手かい?」

「…相変わらず、ですね」

 

天馬と呼ばれていた会長の方は明るくて距離感が近くてタジタジになるしかなかったし、貴公子と呼ばれていたあの人は何かと口煩かったからあまり関わらないようにしていた。…僕のことを心配してくれているのは分かってたから感謝してるけど。

 

「たまには会ってやりなよ。二人ともシルバーに避けられるって私に愚痴ってくるんだから」

「すみません、…善処はします」

 

先輩と別れてから、また違う先輩と出会った。

彼女は僕と同じようなルーツを持つ人で何だかんだ世話になっていた。

 

「久しぶり、元気?」

「はい。…先輩がここに来るの、珍しいですね」

「そうかな?でもシルバーに会えたから万々歳だね!」

「そんなに喜ぶことですか…?」

 

先輩は大井トレセンから中央トレセンに移籍した人で、引退後は地元で勤めているという。

そういうわけなので中々会えなかったのだが、

 

「私もドリームトロフィーリーグに出ようかと思って」

「えっ!?」

「いや〜、本当は出るつもりなかったんだけど…シルバーがいるから、ね?」

 

先輩の目にはゆらりとした熱が。

…あぁ、またかぁ。

 

「最近、多いんですよね…」

「なにが?」

「僕がいるからってドリームトロフィーリーグに来る先輩方が…」

「へぇ!」

 

ため息をつく僕を見て笑った先輩が手を振り「またね」と帰っていく。

その姿を見送りながら、

 

「早く普通の生活したいのにぃぃぃ……」

 

そう嘆く僕であった。




僕:ドリームトロフィーリーグに移籍した姿。
はやく普通の生活がしたいのに自分がドリームトロフィーリーグに移籍したならとやって来る先輩方がいるので辞めるに辞められなくなっている。
往年のスターが来るからね、集客率も凄いよね…(遠い目)

先輩方:今回出会ったのはトレセン学園の生徒会元副会長なイメージが緑っぽいいぶし銀系先輩と僕と同じサラ系のとある先輩。
この二人に僕は何だかんだお世話になっていたので懐いている。


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*きみはともだち

突如として作者の脳内に溢れ出した()()()()()記憶────という名のどこかの世界線にいる僕ととあるウッマの話。


ひとりぼっちだった僕に話しかけてきたのはキミだけだった。

 

『キミひとり?

なら一緒に遊ぼう!』

 

ひとりが好きだった僕は走って逃げた。

そうすると基本的にみんな諦めるから。

けど、

 

『ぜぇ、はぁ…。

やっと止まった…!』

 

キミは諦めなかった。

何度もそうして絡んでくるから結局は絆されて、

 

『僕はボーイって言うんだ。キミは?』

『…チビ』

 

それが僕-シルバーバレットと彼-シルバマスタピースの出会いだった。

 

 

シルバマスタピースは何度僕に負かされても諦めなかった。

厩舎が火事になって残ったのが僕らふたりだけだったから併走の相手はお互いだけで。

 

『また負けた〜!』

『マス太は諦めないんだね』

『マス太って呼ぶな!

…そーだなー。だって僕はバレットのライバルだもん』

『…ライバル?』

『そう!』

 

顔に火傷を負った僕とは違い、マス太は無事だったから三冠競走へと出走していった。

『バレットの代わりに勝ってくるね!』と意気揚々としていた彼が『ごめん』と謝りどおしになったのはうっとおしくもあり嬉しくもあり…。

 

また怪我に悩まされる僕とは違い、マス太はちょこちょこと勝って毎回僕に報告してきていた。

 

『バレットのこと待ってるから、一緒に走ろうね!』

『…いつも走ってるだろ』

『本番の舞台でだよ!』

 

みんなが誰にも負けない僕を遠巻きにするのに、マス太だけはずっと友だちでいてくれた。

僕を待っているとずっと言ってくれた。

あの時だって、

 

『…バレット?』

『よかったな、勝てたじゃん』

 

脚を複雑骨折する前、僕は一度だけマス太に併走で負けた。

勝ててよかったねと言う僕にマス太は『おかしい』と何度も怒った。

 

『バレットが僕に負けるわけない!』

『えっ?…お前めんどくさいやつだな。

ずっと勝ちたいって言ってたんだから喜べばいいだろ』

『それとこれとは話が別なの!』

 

そうして骨折したあとも、屈腱炎になったあとも、お前は僕を待っててくれた。

 

『待ってるから一緒に走ろうね!』

 

そう、言ってた癖に…。

 

『嘘つき』

 

輸送機の前でそう呟く。

ジャパンカップに勝った僕は海外遠征に行くことになった。

アイツは、マス太は…、

 

『謝ったじゃんか〜何度も!』

『知らね』

『許してよバレット〜!!』

 

海外遠征に行く僕の帯同馬として今、隣にいる。

待っていると約束した癖に怪我で引退しやがって…!

 

『絶対許さねぇからな』

『そんな〜!』

 

やんやと僕に謝ってくるマス太に隠れて笑う。

情けない声で僕の名前を呼んでるんだ、ずっと。

 

『なぁ、ピース』

『へっ?!な、なに!?』

『約束、守ってくれたら許してやらんでもない』

『ま、守る!守る守る!!』

『そうかい』

 

泣きそうな目で、真剣に見つめてくる彼に僕は告げる。

 

『もう、僕を置いていかないで』

 

それが約束。

…守らないってんなら地獄の底まで追っかけるからな?

 

 

 

 

 

 

 

 




僕:シルバマスタピースとは幼なじみであり同期であり親友。
幼名は「チビ」。
家族以外で認識している馬はシルバマスタピースのみ。
何度負けても自分に食らいついてきて、友人してくれるシルバマスタピースに対しての好感度は高め。騎手くんとどっこいくらいには高めの好感度。
シルバマスタピースの前限定でちょっとオラついたりもする。
「待ってる」って約束したくせに先に引退したシルバマスタピースには少しばかりお怒りで対応が塩っぽくなってる。
それでも(友人として)大好きなので「ずっと一緒にいろ(意訳)」という約束を取り付けた。
1990ジャパンカップを勝つまでは表舞台に出ないながらもG1馬であるシルバマスタピースの親友であり、そんな彼が唯一負け続けた馬として名を知られていた模様。


シルバマスタピース:本当の名前はシルバーマスターピース(Silver Masterpiece、銀色の傑作の意)。字数制限のため伸ばし棒を削られた。
幼名は「ボーイ」。
突然生えてきた僕の幼なじみであり同期であり親友でありライバル。
僕の馬主の所有馬で体格のいい栗毛の牡馬。シルバーなのに栗毛…。一応良血馬。脚質は逃げ寄りの先行。顔立ちもいいから『ターフの貴公子』やら『栗毛の美丈夫』とかいう二つ名がついてるかもしれない。
僕からは基本的に「マス太」と呼ばれている(真剣な時は「ピース」呼び)。
トウショウボーイ産駒で明るく社交性のあるタイプのウッマ。
厩舎の火事から僕と一緒に生き残った。
主な勝ち鞍は安田記念(1984・1987年)、宝塚記念(1986)。
最適性の距離はマイルで、宝塚記念はギリギリだった模様。

僕に何度負けても諦めず併走を挑んでいた。
僕に挑んで諦めなかった唯一の存在でもある。
僕が脚を複雑骨折した1986年ダイヤモンドステークス前の併走でたった一度だけ僕に勝ったが、「キミが僕に負けるわけないだろ!」と素直に喜べなかった。
僕を負かすなら本番の舞台で負かしたいため、その勝利はノーカン認定。
そのあと僕が脚骨折してヒエヒエになる。

「待ってる」と約束したくせに引退した件に関しては自分でも悪いと思っており、そのことを出されると僕に強く出ることができない。
引退後は種牡馬をしていたが僕の海外遠征の際に帯同馬として選ばれる。
何度謝っても僕が許してくれないことに「はわわ…」していたが、「ずっと一緒にいろ(意訳)」という約束を取りつけられすぐさま了承した。
なおコイツが僕を引き止めたお陰で生存‪√‬に入っている。

多分、僕が♀‪√‬だったらCBを差し置いて初年度の相手に選ばれていただろう男(同馬主で仲が良かったから)。「キミに一目惚れしたんだ」と恥ずかしげもなくサラッと言いそうな男(幼なじみ)でもある。

ウマ時空だったら競技引退後に僕専用のサポーターになってそう。
脚に不調を抱えまくる僕に献身的に付き合い支えて、トレーナーとはまた違った信頼関係を築いてるんだ…。
普段優しいコイツが唯一キレたのが僕が度重なる脚の不調により走ることを諦めかけた時だったらいいよね。


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父との交流

元性別軸での話。


「侃侃諤諤だぁ…」

 

思わずボヤきながら子どもたちと顔なじみたちの舌戦を見守る。

久しぶりに子どもたちの住んでいる場所に帰ってきたかと思えば、それを嗅ぎつけた顔なじみたちが乗り込んできてVSし始めたのだ。

 

「全員参加してるぅ…」

 

あれ?この子普段は大人しいよね?という子も舌戦に参加しに行ってしまっているのでお父さん怖くて涙ちょちょ切れてるよ。

同期も皇帝もみんなみんな顔が怖いんだよなぁ!

 

「よォ、元気にしてっかガキ」

「どう゛ざん゛」

「うわ、きったね」

 

部屋の隅でプルプルしていると、どかりと隣に座る影。

おずおずと覗けばそこにいたのは父であるヒカルイマイだった。

 

「あーあー、泣くことねぇだろ」

「む゛り゛!」

「へいへい慰めてやるからこっち来い」

「う゛ぅ゛ぅ゛…」

 

久しぶりに会った父に抱きしめられるのは流石に恥ずかしい。

僕はもうとっくに大人の年齢であるので。

しかしそれでも今の現状から現実逃避したい気持ちもあるというか…。

 

「外にメシ食いに行くか?」

「…行くぅ」

 

 

何だかんだ可愛い子どもだと思う。

たった一人で世界を引っくり返した我が子は俺にも産みの母であるホワイトリリィにもあまり似ていない。

そこら辺にいるガキ程度の高さの頭を撫でて慰めてやりながら昼メシを食う店を探す。

 

「なに食いたい」

「何でもいいよ…」

 

休日だから人が多いなんて理由をつけて、離れないようにガキと手を繋ぐ。

いつもはぼうっとして自分勝手する癖して、自分の許容範囲外のことが起こるとすぐに放心しやがる。にしても、泣いてるのは初めて見たな。

 

「お前、今でもあんまメシ食えないままか?」

「え…?うん、そう、だけど…?」

「そうか」

 

俺の質問に困惑したようなガキの手を引き、馴染みの店に入る。

残りは俺が食ってやるからと言い含めて好きなのを注文させる。

それでやって来た料理を四分の一取って寄越してきたガキを見ながらビービーうるさいメールの確認をする。

 

「…どうしたの、父さん」

「何でもねぇ」

 

 

舌戦をしている間に目的であるシルバーバレットをかっさらわれたことに対して、たとえ彼の父であるヒカルイマイでも許してはおけぬとブチ切れた顔なじみ+子どもたちが家で待っていることを、その中でも一番怒っているのがシルバーバレットの母であるホワイトリリィであることを、下手人たるヒカルイマイはまだ知るよしもないのだが…、

 

「…父さん、頼み過ぎじゃない?食べられる?」

「ほら食え」

「えっ?僕が食べるの?」

 




僕:基本的にはどんなことが起こっても真顔だったり、ヤバくても現実逃避するだけだが今回の子どもたちvs顔なじみの取り合いバトルの苛烈さには怖くて泣いた。
なかなか会うことはないけど父であるヒカルイマイのことは慕っている。

ヒカルイマイ:息子の僕のことをそれなりに可愛がっている。
僕の前では一応落ち着いた面を見せている…らしい。
何だかんだ漁夫の利していくことが多い。
僕の母であるホワイトリリィの尻にひかれてそう。


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『運命』なんかじゃない

本当の出会いなど、一生に何度あるだろう?


きっと『天才』とはあの人のようなことを言うのだろう。

そんな話を同業にすると同年代~歳下は頷いて同意するが、この職業に就いている期間が長い人間ほどその言葉に首を振るのだった。

 

「あの人は、白峰さんは『天才』なんかじゃないよ。

キミは昔の白峰さんを知らないからなぁ」

 

競馬界の顔役であり、『天才』の名を欲しいままにするその人も"彼"を評する際そう言って苦笑した。

俺が知っているあの人はあの馬と出会ったあとだから。

 

「僕だって白峰さんと出会ったのはあの馬と出会ったあとだったよ。

元から騎乗の上手い人だったから『なんでG1を獲れてないんだろう』と言われてたけど、ねぇ?」

 

白峰透という元騎手がいる。

交通事故により、騎手から遠ざかり調教師へと転向した男だが、

 

『人気薄の手網を握ったあの人に勝てたためしがない』

『ありえないコースをとって勝つ。俺よりもあの人こそが天才ですよ』

『天才というよりは努力の人だよ。でも、』

 

白峰透という男を語るにおいて挙げられる名前がある。

挙げられる、馬の名前がある。

 

『シルバーバレットに出会ってからの白峰さんは、』

『シルバーバレットが引退したあとは本当に神憑りの騎乗ばかりだった。ライバルだけどもっと白峰さんの騎乗が見たかったな』

『シルバーバレットが引退してからポンポン訳のわからない騎乗をしていた。それでも勝つんだから笑うしかなかったよ』

 

天才を天才にしたのがスーパークリークなら、怪物を怪物にしたのがシルバーバレットなのだろう。

 

 

シルバーバレットと出会うまでの白峰透は優等生といった騎乗をする騎手であったらしい。

その頃から人気薄の馬を任せると上手いという評判はあったが、勝つべきところを勝ちきれない、そんな騎手だった。

 

けれどあの日、あの時『運命』と出会った彼は今までの勝ちきれない姿を払拭するように破竹の勢いを見せた。

シルバーバレットの主戦騎手をしていたため、なかなか他の馬に乗ることはなかったが、シルバーバレットが怪我で離脱している間に乗った馬はそのほとんどが本来のスペックからは考えられないほどの勝ち方をし、負けた馬であっても掲示板を外すことはなかったという。

 

しかし、白峰透の実力が遺憾無く発揮される相手はやはりシルバーバレットで。

シルバーバレットは規格外の馬だったと今では言えるが、あの頃はサラ系であり、体格の小さすぎるその馬に注目する人間はいなかった。

そんな馬が不滅のワールドレコードを出すなんて、また海外レースを制するなんて誰も思わなかったのだ。

 

だが、白峰透はシルバーバレットを見出した。

 

「だからあの人たちの出会いは『運命』と言うよりも、」

 




『必然』なんだ。

白峰透:「天才」の再来。
この話の中では元騎手・現調教師。
元が優等生寄りの騎手であったためどの戦法でもそつなくこなすが一番合っていた戦法は逃げ。
シルバーバレット引退後は何となくでコースを取ったり、何となくで騎乗している馬の戦法を変えたりして勝ちを連ねた。
さっきまで後ろにいたのにいつの間にか前にいる系騎手。
サンデースクラッパの主戦騎手としてアメリカに行ってたりもしたので日本だけでなく海外でも騎手としての評価が高かったりしそう。

シルバーバレットの初年度産駒シロガネハイセイコの手綱を握ってダービージョッキーになってたり。
しかしその後、菊花賞で同じく初年度産駒のシロガネヒーロー(母父タケホープ)に『シロガネハイセイコ、お前のライバルは俺だー!!』との実況と共に差し切られて負けてる。

『人気薄の馬を任せたらいちばん怖い騎手』と引退後も名が挙がるほどだが、本人はその騎乗を勘でやっているので、他人に説明ができない。

訳のわからない勝ち方をする騎手であったため、若手からは『天才』と評されるが古くから彼を知る人ほど『鬼才』『神憑り』と評する。
シルバーバレットと出会って『秀才』から『鬼才』へと変わった。
シルバーバレットに騎乗していたがゆえに何かそういったモノを培ったのでは?という与太話もあったり。

シルバーバレット引退後の実況で馬の名前を差し置いて『白峰が来たぞー!!』やら『いちばん怖い男がやって来た!』とか言われてそう。

幼い子どもを助けた末の交通事故の後遺症により騎手を辞めざるを得なかったことを今でも惜しまれている騎手である。
不慮の事故による引退を惜しまれているけど事故にあった理由を知っている人々は「白峰さんらしい」と苦笑するんだ…。
もしかするとその庇われた子どもが未来で騎手になっているのかもしれない。


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縲取・ス蝨偵€上∈

ハッピーエンド


キミに関しての記憶や思い出を書き連ねた原稿を書き終えた。

 

(何日食べてないんだっけ…)

 

そもそも何日寝てないっけ。

ぼんやりとした頭でそんなことを考える。

眠らないのは"彼"が帰ってくる夢を見てぬか喜びするのが嫌だから。

食べないのは"彼"がいない世界に生きる気力が湧かないから。

 

ペンを離したあと、無気力に床に崩れ落ちる。

視界には埃が溜まった畳が見えた。

…目を閉じる。

 

 

「…ここは」

 

目を覚ますと知らない場所にいた。

僕はあの部屋で眠ったはずだったのでは、と暗い空間の中で思考していると何かが歩いてくる音がする。

 

『見つけた』

「え…、」

 

少年とも男ともとれない声がして、そちらに振り返るとそこには、

 

「バレット…?」

『久しぶり、騎手くん』

 

ずっとずっと会いたかった"彼"が、シルバーバレットがいた。

おずおずと手を差し出せば撫でやすいように頭を差し出してくれる。

 

「どこに、行ってたんだ。ずっと、待ってたんだぞ…!」

『ごめんね』

 

バレットを抱き締める。

バレットはあの日と変わらず、柔らかく温かかった。

無意識に涙があふれてくるのにバレットは何も言わず僕が落ち着くまで待っていて。

 

『落ち着いた?』

「うん…。なぁ、バレット」

『なぁに?』

「これからは、いや、…もう、どこにも行ったりしないよな?」

『もちろん。そのために騎手くんを迎えに来たんだから!』

 

当然というようにそう答えたバレットは背に乗るように促してきて。

 

『こっちだってずっと騎手くんを待ってたんだよ』

 

僕を?

久しぶりに彼の背に乗りながら首を傾げていると話が続く。

 

『騎手くんがいないと僕は戦えないから。

こっちに来るとみんなにせがまれてせがまれて大変で…』

「せがまれるって、何を」

『そりゃあレースだよ』

 

しっかり掴まっててね、全速力で飛ばすからと言う彼に慌てて手綱を握る。

そうして風を切りながら辿り着いた場所は、

 

「競馬場…?」

『それもね…』

 

バレットが何か言おうとした瞬間、興奮した嘶きと共に気配が増える。

現れた彼らはとても強そうで、

 

『世界中の僕らみたいな奴らが集まってるのさ。

僕もずーっとせがまれてたんだけど騎手くんが来るまで保留にしてもらってたもんだから…、やっと来たってみんな盛り上がってるみたい』

 

バレットが僕を「どう?やるかい?」とでもいう風に見つめてくる。

でも、僕はもうおじいさんで…、

 

『なに言ってるんだ騎手くん』

「え…?」

『よく見てみなよ』

 

バレットにそう促され自分の体を見てみると、バレットと一緒にいた頃か、いやそれよりも若返っていて。

 

『それだけ若返っていれば凱旋門より飛ばせるでしょう?』

「…あぁ」

『振り落とされないようにね』

「善処はするよ」

『ハハハ!』




彼にとっては『しあわせ』なのです。


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無辜の███の前日譚

完全に趣味マシマシ。矛盾とか分かりにくいところがあるかもしれない。
ンマ娘ダークサイド、もしくはそういう世界線…?
多分この世界線の僕は世間に手のひらクルーされたら「なんで今更」って言うゾ、絶対。


あ、それと活動報告にて僕と戦う夢のレジェンドレース出走馬を募っておりますので案をくれたら嬉しいです。


まことしやかに囁かれている話としては"サラ系"と呼ばれるウマ娘たちは遠い先祖にウマ娘を持っているだけのほぼヒト属なのではと言われている。

ウマ娘と呼ばれる存在を証明するためには戸籍以上に『血統書』というものが必要だ。

『血統書』というのは自らがウマ娘の三大始祖に連なる者だと示す、遠い昔からある書類で基本的にはどのウマ娘もこの書類を所持している。

ある意味では『血統書』というものはウマ娘としての人権を証明するために必要なものなのだ。

 

ウマ娘から産まれたヒト属というのはまぁそれなりに存在する。

ウマ娘と人間の間に産まれた男児などがその最たる例だろうか。

(ちなみにウマ娘と人間の間に産まれた女児はほぼウマ娘であるらしい)

ウマ娘を親に持つヒト属はウマ娘には敵わずともヒト属としては身体能力が高く、アスリートとして活躍する人々も多い。

 

こんな話をして何だが話を"サラ系"に戻そう。

遠い遠い昔の日本、トゥインクルシリーズという言葉すらない時代。

海外からウマ娘が招集された。その中には血統書がない、もしくは紛失したウマ娘たちも混ざっていた。

その頃は今現在とは違い、ウマ娘の社会は実力主義の社会であり、多方のウマ娘を表す「サラブレッド」という言葉も「競走で速いウマ娘」を意味する言葉だった。

それが変わったのはとある規則が制定されてから。

その規則のために血統書で自らが三大始祖に連なる者だと証明できなくなったウマ娘たちは"サラ系"と称されるようになった。

血統よりも能力の高いウマ娘が求められていた戦時が終わったこともその時勢を後押ししたのだろう。

 

血統書のない"サラ系"はどこかへと消えていった。

ある意味人権がなくなったに近い"サラ系"は、自らの出自を隠し通し、結果として血を薄めることを選んだ。

子孫はどこかにいたのだろうがそれを証明できるものはいなかった。

子孫たちに彼女らがその出自を隠すように言い含めていたからだ。

 

だが血が薄まり、薄まり続けているうちにある日突然ヒト属しかいないはずの血筋に先祖返りのようにウマ娘が産まれる。

いつしかヒト属だけの血筋に産まれたウマ娘を"サラ系"と人々は呼称するようになった。

そして、そのウマ娘から生まれる子どもたちも"サラ系"と呼称されるようになった。

またその子どもたちが交わったウマ娘やヒト属から産まれた子も"サラ系"となり…。

負のループが永遠に続いていったのだ。

 

今も近現代の歴史書を見ると"サラ系"に関しての負の歴史が見つかる。

"サラ系"はウマ娘でありながらウマ娘ではない。

そんな言葉が恥ずかしげもなく記載されている。

政府も"サラ系"に対しての待遇改善の法律を制定しているがそれが適正に機能しているかどうか…。

 

母が言うに私の父は有名な"サラ系"のウマ娘に連なるヒト属であるらしい。

"サラ系"のウマ娘だけでなく、"サラ系"のウマ娘を先祖に持つヒト属も実のところ差別されているのだ。

そしてそんなヒト属は"サラ系"の待遇改善の法律の範囲内に入っていない。

政府のいう"サラ系"はヒト属だけの血筋に産まれたウマ娘だけなのだ。

 

それでろくに働けず、スラムのような町に流れてきたところを私の母にハンティングされ…という出会いが父と母の馴れ初めだったと聞く。

「"サラ系"だから無理だ」と拒絶する父を母は大声で笑い飛ばし、その結果僕が産まれたってわけ…なんて。

 

「お前なら大丈夫だよ。ぶっ飛ばしてこい」

 

そう言った母-ホワイトリリィに苦笑するのももう慣れたものだ。

 

「うん、頑張ってくるよ」

 

笑って、僕-シルバーバレットはその日、夢への一歩を踏み出した。

 

「"サラ系"なんて、知ったことかよ」

 

そんな彼女が世界を覆すまであと─────。

 




サラ系: この世界ではヒト属よりもウマ娘の方が力も権力も強く、大半の"サラ系"となったウマ娘たちは人知れず隠遁し、自分の出生を隠してヒト属の女として生きた設定。
『血統書』=ヒト属でいうところの戸籍のようなものと考えたのでソレがない、またウマ娘の証たる三大始祖ウマ娘に遡れない"サラ系"は生きていくことが困難と設定。
だが『血統書』はなくとも戸籍はあったのでウマ娘ではなくヒト属として"サラ系"は生き延びた。
昔は"サラ系"というだけで酷い扱いを受けたらしい(今は多少マシ…らしいが)。

今現在では時たまにヒト属だけの一族に産まれるウマ娘を"サラ系"と呼んでいる。
"サラ系"は"サラ系"が産んだ子も"サラ系"となり、ウマ娘だった場合ももちろん、その子がヒト属のオスであっても"サラ系"となる。
実力よりも血統が重視されるようになったウマ娘界はヒト属の一族から産まれた"サラ系"たちを認めず、また正当に評価することもなかった。
そんな前提があるのでウマ娘からもヒト属からも"サラ系"は疎まれていたり…。
ここ数十年で"サラ系"の待遇改善のための法律が制定されたりしたが上手くその法律が動作しているとは言えない。


僕の父:ヒト属。だが"サラ系"。
しかし今現在のヒト属だけの一族から生まれる"サラ系"とは違い、有名な"サラ系"であった『ミラ』というウマ娘に遡ることができる家の生まれ。
若い頃に両親を亡くし、働く場所もなくさまよっていたところ僕の母と出会い、求婚された。
はじめは「"サラ系"であるから」とちゃんとしたウマ娘である僕の母の身を案じて断ったが「俺はお前がいい」と押せ押せされた。落ちた。
育ちのせいで気性は荒いが家族には優しい。
唯一自分を受け入れてくれた僕の母にベタ惚れしている。


つまり、

原義の"サラ系"→『血統書』がないor『血統書』で三大始祖ウマ娘に遡れないウマ娘。

今現在の大半の"サラ系"→ヒト属だけの一族に突然産まれたウマ娘。
"サラ系"の大半がヒト属の女性として生きたという記録があることから先祖にウマ娘がいたんじゃないかな〜という子たち。
この子たちも三大始祖ウマ娘に遡れないという点では原義の"サラ系"と同じ。


なので父の血筋が『ミラ』に遡れる僕は原義の"サラ系"に属しています。
そのため"サラ系"としては良血枠…?


『ミラ』:遠い昔にいた"サラ系"のウマ娘。
ほとんどの"サラ系"がヒト属の女性として生きたのに対して、彼女とその他幾人かのウマ娘は"サラ系"のウマ娘として生き抜いた。
彼女自身も優れたウマ娘だったが、彼女の子孫も普通のウマ娘とそう遜色のない結果を出した。
のちに子孫である僕の活躍もあり朝ドラの題材になるのかもしれない。


僕:この世界の僕。史実寄りの世界線。
ジャパンカップを勝つまで"サラ系"の生まれであったためだいぶ周りからの待遇が悪く、寮には入らず一人暮らしをしている。しかし陰口叩かれてもガン無視してるタイプ。逆に自分のような存在("サラ系")に嫌がらせしてくる奴らの精神状態やら何やらを憐れんですらいる。
またルドルフの『理想』は肯定するがそれはそれとして…という考え方らしい。
漠然と「自分のような存在("サラ系")が未来で笑って、幸せに生きていける世界にしたい」という夢を抱いている。


───いつかその旅路は誰かにとっての『希望』になって、その終幕は世界にとっての『絶望』になる。


『今さら、そんなこと言ったって。
…彼を遺していくのは心苦しいけれど、最初にそうしたのはキミたちの方なんだから、僕もこうすることにした。
手の届かない場所に行くから、精々歯噛みして、後悔してね』


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生まれたことが『罪』なのか

歴史は勝者によってつくられる。
だが、勝者は事実によって裁かれる。



『怪物』が死んだ。

シルバーバレットが死んだ。

"サラ系"であった彼女。

実力を終ぞ最期まで認められなかったウマ娘。

 

彼女を見出した時、「ついに頭がおかしくなったか」と言われた。

そう言われるほどに"サラ系"は疎まれていた。

彼女はいつもひとりきりで、全身がびしょ濡れになっていたこともあった。

怒る僕とは裏腹に「怒ってくれて嬉しい」と笑う彼女は痛々しくて。

 

勝つたびにブーイングが起こった。

物を投げつけられたり、脅迫文が来たこともあった。

ドーピング疑惑だってかけられたし、彼女が怪我で離脱した時は「いい気味だ」と嗤われた。

 

『…いつでも、僕のトレーナーを辞めてくれていい』

 

それが彼女の口癖だった。

こんな自分を見出してくれただけで奇跡だ、と夢見る少女のように笑っていた。

 

トレーニング場所を取られるなんてしょっちゅうで、嫌味を言われるのもいつものこと。

根拠のない誹謗中傷もいつものこと。

それでも「慣れている」と彼女は笑う。

 

『僕が普通よりもココロが強くてよかったね』

 

ワールドレコードでジャパンカップを勝ったあの日、誰も彼女を祝福しなかった。

観客が見ていたのは彼女ではなくアイドルウマ娘で。

誰もが『次は頑張れ』とそのウマ娘を応援していた。

彼女には何の声もかけられなかった。

笑顔から一転、俯いて去る彼女を匿名で贈られてきた「サラ系の希望」と書かれた質素な横断幕だけが見つめていた。

 

『なんで今更?』

 

完全にゴマすりという嫌なニヤつきをした重鎮が帰ったあと、僕だけに届く声で彼女はそう言った。

渡された海外遠征に関する書類を面倒くさそうに見ながら唇を尖らせていた彼女の姿を覚えている。

 

『…世界に出たら、なにか変わるかな』

 

うっすらと希望を持ったまなざしもすぐに潰えて。

どれほど劇的な勝ち方でも彼女に贈られるのは賞賛ではなく、シラケたような疎らな拍手。

彼女は英雄になれなかった。

与えられたのは怪物という役柄だった。

 

『悪役でもなんでもいい。

どれだけ憎まれようとも世界が僕を見てる。見ざるを得ない!

誰もが僕を望まなくても、キミだけは望んでくれる。

そうだろ?』

 

ぐらりと揺れる瞳が僕を射抜いた。

今にも壊れそうな彼女に僕は強く頷く。

 

『なら、いいよ。

誰よりも勝ち誇ってやるから、そこで見ていて』

 

最期の彼女の顔はどんなのだっけ。

 

 

誰もが彼女のことを賞賛する。

栄光をもたらしながら、非業の死を遂げた『英雄』を。

 

「…ふざけるな」

 

そんなの罪悪感をなくしたかっただけだろ。

 

「"サラ系"が、なんだよ…。

なにかあの子が、シルバーバレットが悪いことしたかよ…!」

 

彼女を喪った今、アイツらは"サラ系"のウマ娘を求めて躍起になっているらしい。しかしその成果はかんばしいとは言えない。

だって元から彼らは世俗のことが嫌いだったのに、彼らの『英雄』たる彼女がいなくなったあとで、それまで彼女に見向きもしなかったのに彼女のことを評価し始めたのだから、ねぇ?

 

「なんで今更?」

 

…なんてね。




僕:前話の世界線のシルバーバレット。
幼い頃からのいろいろで痛みや辛さに『慣れて』しまっている。
多分、この世界線の僕の領域は周りから見るとマジでバケモンみたいになってる。そんなおキレイなモンじゃないからね。鬱屈とか「なんで?」って気持ちが綯い交ぜになった禍々しい領域してそう。
亡くなってからやっと功績が評価され始めた。
伝記なども作られたりするがめちゃくちゃ都合よく美化されてる。
貧困家庭から成り上がって世界一になったよ〜みたいな感じに。
家族や一部親しい人以外に、勝利を祝福されたことなんてたったの一度もなかったのにね。

"サラ系"の人々:僕に希望を見た。そして世間に絶望した。
僕が亡くなってからは僕が現れる以前よりも増して世間から隠れるようになる。
トレセン学園に行く者もほぼいない。
僕の伝記を見て、それがめちゃくちゃ美化されていることに気がついているので普通の人々に「シルバーバレットって凄いよね!」みたいに知ったかぶりされるのが地雷。

トレーナー:遺された人。僕を喪ったあと完全に人嫌いになる。
トレーナーを辞めようとしたが引き止められ辞められなかった。
籍だけ置いている状況で過ごしていたがそんなある日、シルバーチャンプという"サラ系"のウマ娘に出会う。
多分僕関係者でいちばん復讐者化してる人。
この世界でも「さよならはまだ言えない」を執筆しているが、できあがった本は盛大な暴露本と化しており、初めは出版を断られたが某乙名史さんに原稿を送ることで無事出版されている。内容はシルバーバレットに対する深い悔恨と世間に対する諸々の怒りが混ぜ混ぜされた感じ。

───ゆえに男は、世界に怒る。
ただ静かに泣くしかできなかった、小さき誰かのために。
せめてもの、罪滅ぼしとして。


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凱旋門賞観戦記

元性別軸で甥っ子を応援しにいく銀弾さんの話。


甥っ子が凱旋門賞に挑戦することになった。というわけで僕も先生と一緒に観戦に来たのだけど、

 

「あ、はい。ありがとうございます〜」

 

ここら辺の土地にも僕の子どもがいるからか、たくさんの人に話しかけられてもう既にヘトヘトである。

子どもたちも僕に会いたいとばかりにじゃんじゃかと連絡が来るので仕方なく携帯の電源を落としたし。

 

「始まるみたいだぞ」

「あ、はい」

 

 

僕の甥っ子であるシルバーチャンプはそこまで僕に似ていないと思う。

どちらかというと僕の父と母によく似ている。

彼の父であるオグリくんも彼の母である僕の妹もどっちかというと大人しくておっとりとした性格だし。

なんかチャンプくんがよく喧嘩しそうになってるって子どもたちから聞いたこともあったしな〜。

 

「まぁ、闘争心があることはメリットではあるのだけど…」

 

チャンプくんの脚質は差しと追込みだ。

トレセン学園に入った当初は逃げでやっていたらしいのだけど、試行錯誤した結果作戦をそのふたつに落ち着かせたのだという。

 

「あ、手振ってる」

 

眺めていると出走するらしい子どもの内の一人が僕を見つけて手を振ってきた。

それに手を振り返すと嬉しそうにゲートの方へと走っていく。

 

「…どうなるかなぁ?」

 

 

今日の凱旋門賞に出走するにあたって、何度も叔父が出走した時の凱旋門賞の映像を見ていた。

そのせいかは知らないが走っている途中に叔父の幻影を見た気がする。

痛む脚を抱えながら半ば現実逃避としてそんなことを考えていた。

その時、

 

「叔父さん…?」

 

乱雑に扉の開く音がして叔父さん-シルバーバレットが現れた。

 

「馬鹿かお前は!」

「えっ!?」

 

つかつかと歩いてきた叔父さんが俺の胸倉を掴み上げる。

ガクガクと揺さぶられながら「脚が不調だったらしいが何であんな走りをした」と言われて、負けた悔しさが残っていた俺は苛立ちを乗せて言い返したが、

 

「死んだらどうする…!」

 

叔父さんが泣いていて二の句が告げなくなった。

「馬鹿。馬鹿がよ…」と叔父さんが胸を殴ってくるのにもどう対応したらいいか分からなくて、混乱から思わず叔父さんの頭を撫でてしまった。

 

 

凱旋門賞2着。

その結果は惜しかったと思う。

だがそれ以上に、走り終わったあとのチャンプくんの足取りがぐらついたことに背筋が冷えた。

 

先生が呼び止めるのも聞かず、彼がいる控え室に走って感情のままにいろいろと言ってしまった。

怖かった、と同時に現役時代の僕も周りにこう思わせていたのかと思うと申し訳ない気持ちになったり…。

まぁ…それはそれとして、

 

「えっと、あの…子ども扱いしないでくれる、かな…?」

「あっ。……サーセン」

 




僕:甥っ子&出走してた子どもを応援してた。
死力を尽くしたせいで足取りがふらついた甥っ子に青ざめるし、心配からキレちゃうおじさん。
まぁコイツもコイツで現役時代は怪我が多かったんですがね…。

甥っ子:凱旋門賞に出走した。
イメージ構築のために叔父が出走した回の凱旋門賞のビデオを何回も見たせいか、本番走っていた時に叔父の幻影を見た気がする、らしい。
自分を心配した叔父が泣き出したがどうすることもできず頭を撫でていた模様。


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◆生存‪√‬の話

産駒たちによってファンクラブが結成されるシルバーバレットさん(生存‪√‬のすがた)


なんというか、僕は昔からいろいろな人に話しかけられた。

三歩歩けば声をかけられるくらいに、さまざまな人に話しかけられるのである。

それはそれとして、

 

『バレットせんぱーい!!』

 

ファンクラブができるほどってどうよ。

僕のどこにそんな魅力があるんだろう。

僕はどこにでもいるウマ娘なのに。

 

「キミたち、ちゃんと練習しなよ〜」

『はーい!』

 

聞き分けがいいのが救いだな…。

 

 

シルバーバレットというウマ娘は嫌に人の目を惹きつけた。

学園入学当初からファンクラブが結成されるほどであり、学園に通い始めて数年経った今もファンクラブの人数はうなぎ登りであるのだという。

 

「いや、ホントにゴメンねルドルフ会長…」

「いえいえ」

 

シルバーバレット宛に来たファンクラブからの贈り物を運ぶ。

申し訳なさそうにしているシルバーバレットとは裏腹にシンボリルドルフは内心ほくそ笑んでいた。

 

シンボリルドルフもシルバーバレットのファン…とまではいかないが彼女に注目している一人である。

だが関わり合いになりたくてもシルバーバレットはいつも人に囲まれており話しかけることさえできない。

そもそもシルバーバレット自身が自分に話しかけてくる人々を無下にする性格ではないため、彼女と仲良くなるためにはこういった時を利用するしかないのだ。

 

「なにしてるの?シルバー」

「あ、ミスター。それが…」

 

ほくそ笑んでいたのも束の間、ミスターシービーがひょっこりと現れる。

現れたミスターシービーにシルバーバレットは一緒に贈り物を運んでくれと頼みごとをし、ミスターシービーもそれを快く引き受け、

 

…クソ

残念でした

 

ニコニコと楽しげに荷物を運んでいくシルバーバレットを後目に三冠バ二人は火花を散らすのだった。

 

 

「元気かい、親友」

 

誰もいない静かな場所でシルバーバレットが虚空を見上げている。

通りがかった人が見れば可笑しくなったと思われそうな光景だが、

 

「僕も元気だよ。…ご飯もちゃんと食べてるって!」

 

シルバーバレットには『ナニカ』が見えているようだ。

楽しげに会話している一人と『ナニカ』を邪魔するものは暫し現れなかったが、

 

「えっと、あの…」

「あぁ、キミが親友の言ってたマンハッタンカフェさんか」

「は、ハイ!貴女は、その、えっと…」

「うん、僕はシルバーバレット。…知ってるかな?」

「ゆ、有名ですよ先輩は…」

「あはは、そんなにかしこまらなくていいよ。

親友が大事にしてる子なんだ。なら僕にだって大事な子さ!」

「親友って…」

「僕らは親友だよなぁ、███?…うん、ハハっ!」

「…貴女はお友だちと話せるんですか?」

「話せるよ」

 

シルバーバレットはマンハッタンカフェとの会話を楽しむ。

そうして「また会おうね」と約束をして別れるのだった。

 

「あの人がシルバーバレットさん…。

タキオンさんがぜひ関わりたいと言っていましたが先を越してしまいましたね…。

でも、ふふ…、こういうのも悪くないかもです」

 




僕:なぜかファンクラブができてしまった系ウマ娘。
本人はなぜ自分がこんなに人気なんだろうと不思議がってる模様。
(ヒント:父、母父として産駒がたくさんいる)
マンハッタンカフェの"お友だち"と親友になっており、その親友に好かれているらしいメジロマックイーンに「キミは親友が見えないんだねぇ」と言って怖がらせた前科があるらしい。


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生存‪√‬:ふれあいイベント

ウッマのしっぽに関して調べてみましたがよく分からんかったのだ…。



競走馬から引退した僕はお仕事をしながらも悠々自適に███牧場で過ごしていた。

時おりやって来る人たちに頭を撫でさせたり、差し出されたニンジンを食べたりするファンサービスをしながら楽しく過ごしていた。

そんなある日のこと、

 

「キャーッ」

「おうまさんだー」

「でっかーい」

 

僕は子どもたちに撫で回されていた。

僕が今いる場所は███牧場の近くにある駅の広場。

そこで行われるイベントの一環として僕が引っ張り出されたのだ。

 

「わー」

「かわいいー!」

 

子どもからも大人からも撫でられる。

エサのニンジンも一回100円で売っているらしい。

子どもってやっぱり可愛いなとわしゃわしゃ撫でられながら思う。

…ッあ!?痛てて。しっぽの毛抜かれちゃった…。

 

「頑張ったなバレット」

 

イベントが終わったあと、世話してくれる人がリンゴをくれる。

うまうま…と味わいながら、またイベントに呼んでくれたらいいなぁと思う僕であった。

 

 

俺がその馬を知ったのはウマ娘プリティーダービーからだった。

ウマ娘をするまではまったく競馬に興味なんかなかったのに、ゲームを始めてからはいろいろな競走馬に興味を持つようになった。

そんなある日、

 

「うおおおお…!」

 

ウマ娘に新しい娘が追加された。

そのウマ娘の名はシルバーバレット。

この馬の名を知らないものはいないと言われるほどの有名馬で、今現在の競馬でも彼の血を持つ馬がたくさんいる。

俺はそんな馬の実装に喜ぶ人間のうちのひとりであった。はずなのだが、

 

「あら、バレットちゃんじゃない?」

「母ちゃん知ってんの?」

「バレットちゃんならよく駅のイベントに来てたじゃない。

ふれあい会だってアンタが小さい頃から」

「えっ!」

「あぁ、そういえばちっちゃい頃のアンタがバレットちゃんのしっぽの毛をむしってたわね」

「ハ!?」

「本当に大人しい子だったのよ、バレットちゃん。

普通の馬はこんなんじゃありません!って世話してる人がよく言ってたの覚えてるわ」

 

母ちゃんが「バレットちゃんのしっぽの毛、しまってたはずだから探してくる」と消えていくのと同時に「俺、凱旋門賞馬に触ってたのかよ…」とぼう然とする。絶対宇宙猫顔してるわ、俺。

 

「ほらコレよ」

「おぉ…」

「アンタがむしった次の年からずっとバレットちゃんのしっぽとたてがみ、編み込まれてたわねぇ」

「うっ」

「本当に可愛い子だったわ、バレットちゃん」

 

母ちゃん。母ちゃんは競馬に興味ないから知らないだろうけどシルバーバレットってすごい馬なんだぜ……。

 

「そういえば今度のイベントもおうまさんが来るらしいわよ」

 

そう見せられたチラシには予想通りシロガネの名を冠する馬の写真が載っていた。




僕:生存‪√‬のすがた。
おとなしい性格のため、ふれあいイベントに駆り出される系凱旋門賞馬。子どもが好き。人と触れ合うのも好き。
亡くなる一年前までふれあいイベントに駆り出されており、人と触れ合いまくってた。
競馬を知らない地元の人たちには人懐っこい小さなお馬さんと親しまれていたらしい。





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あの人の思い出

生存‪√‬より史実‪√‬の方が良いのはこの子だけの模様。


私-黒谷薫(くろたにかおる)はその人のことを『おうまのおじさん』と呼んでいた。

交通事故に遭いかけた私はその『おうまのおじさん』に助けられ、生き残った。

でもおじさんは私を庇ったためにそれまでしていた仕事を辞めざるを得なかったらしい。

幼いころの私はそんなこと知る由もなかったが。

 

そんな負い目がある私の両親は近くにあるアパートに暮らし始めたおじさんの様子を時おり見に行くようになった。

おじさんは優しい人であったが人として生きるためには生活力諸々が幼い視点から見ても足りているように見えず…。

それなりの頻度でおじさんの家に私たちは訪れていた。

 

『おじさん!』

『…あぁ、カオルちゃんか』

 

私の両親は共働きだったからおじさんの家によくお世話になった。

学校帰りにおじさんの部屋に行くたびにおじさんは何か書き物をしていた。

床にはよく埃とともにぐちゃぐちゃに丸められた原稿用紙が落ちていて、それを掃除するのが放課後の私の役目だった。

 

『おじさん、おうまさん見よ!』

『…あぁ、うん』

 

私が彼のことを『おうまのおじさん』と呼び始めたのは出会ってから少し経ったころのこと。

動物全般が好きだった私はその中でも週末に時おり放送される競馬が好きな変わった子どもだった。

親はギャンブルなどしない人だったから家で見るのは止められていたのでおじさんの家で満足いくまで見ていたのを覚えている。

 

『おじさんはどのおうまさんが勝つと思う?』

『うーん…あのおうまさんかなぁ』

 

おじさんは基本的にいつも勝つ馬を当てていた。

なぜ当たるのか分からないと言っていたが。

それ以外にも競馬というものについてさまざまなことを教えてくれたのはおじさんだった。

いつしか私はおうまさんのことを一番といえるくらい好きになっていた。

 

『カオルちゃんの将来の夢はなんだい?』

『えっとね、』

 

その日はおじさんの部屋で「将来の夢」というよくある作文を書いていた。

おじさんと出会う前なら動物のお医者さんだとかケーキ屋さんだとか書いていたのだろうが、

 

『おうまさんに乗る人になりたい!』

 

笑ってそう言った私におじさんはぴたりと動きを止めた。

『おじさん?』と私が問うと『…うん、いい夢だね』と肯定してくれた。

おじさんなら肯定してくれると思った!と思う私とは裏腹に、おじさんの顔がどこか曇っていたのを覚えている。

 

『おじさーん!』

『こら、大きな声出さないの』

 

母に注意されながら、その日もいつものようにおじさんの家に訪れた。

おじさんが出迎えに来ないのはいつものこと。

今日も何か真剣に書いているのだろうとおじさんがいつもいる部屋のドアを開ける。

だが、そこには…、

 

『おじさん…?』

 

 

おじさんの死因は餓死だった。

あの日の前に渡した母の食事もそのままだったらしい。

おじさんの最期の姿を私はそこまで覚えていない。

母に目を塞がれたから。

しかし、その小さな背が埃だらけの床に倒れていたことはひどく覚えている。

 

「ねぇ、おじさん。…いや白峰さん」

 

今日は報告をしにきたの。

 

「私、騎手になったよ」

 

夢を叶えたんだよ、褒めてくれる?

 

「白峰さんみたいな騎手になるから、どうか見ていてください」

 

そう言って手を合わせた『おうまのおじさん』こと白峰透の墓にはたくさんの花とお供え物が供えられていた。




黒谷薫:幼い頃に白峰透に救われた女性。
白峰透の名を知ったのは白峰透の死後であり、それまでは「おうまのおじさん」と呼んでいた。
白峰透のことを慕っており、騎手となった今では尊敬の念を抱いている。
無自覚に白峰透から薫陶を受けており、まだまだヒヨっ子だが「天才」の片鱗が見える。
銀弾生存‪√‬よりも史実‪√‬の方が幸せである稀有な存在。

生存‪√‬だったら「天才」の再来である白峰透が自分のせいで騎手を辞めざるを得なかったことに罪悪感を感じて、覚悟ガンギマリで自分が『白峰透』の代わりになろうとしているから…。

白峰透:「おうまのおじさん」。
黒谷薫を交通事故から助けた結果、酷い怪我を負い騎手を辞めざるを得なかった。
それを知っている黒谷一家から世話を受けながらアパートで暮らしていた。
黒谷薫のことを可愛がっており、黒谷薫が来た時だけ競馬の放送を見ていた。
その最期の顔はひどく穏やかなものであったという。


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待ち人は還らない

誰もが"アナタ"を待っている。


私には、少し年の離れた兄がいた。

 

『フォーチュン』

 

優しい兄だった。

兄の名前は"シルバーバレット"。

牝馬である私よりもずっとずっと小さな兄は誰よりも速かった。

兄に勝った馬を私は見たことがない。

 

『可愛いね、フォーチュン』

 

私には兄以外にも兄弟がいたが、その全てが別のところに引き取られていったものだから私たちは実質二人きりの兄妹で。

 

『フォーチュン』

『なぁに、お兄ちゃん』

『体は大事にしなさいね』

 

兄はよく怪我をする馬だった。

誰よりも速かったけど、その代わりに脚が脆い馬だった。

だから兄は私を心配して話しかけてくれた。

そんなこともあったから怪我に気をつけるようになったし、怪我をすることなく無事に引退できたのだと思う。

 

『お兄ちゃん、どこに行くの?』

『遠いところ。ここからずうっと遠いところだよ』

『…すぐ帰ってくる?』

『たぶん、ね』

 

とある年、兄は"かいがいえんせい"とやらで私がいた建物から離れた。

年上の馬から兄はたくさんそこで戦うだろうから帰るのは時間がかかるのではないかという話を聞いていたから気長に待っていた。

けれど、

 

『まだかなぁ』

 

待てど暮らせど兄は帰ってこなかった。

そう思っていたのは私だけではなく、兄をボスとして慕っていた馬たちもそうだった。

 

『あれ…?お兄ちゃんに乗ってた人…?』

 

そんなある日、私に乗る人が変わった。

はじめはそれが誰か分からなかった。

あまりにも目が変わっていたから。

この人はこんな暗い目をする人だったかしら。

この人はこんな沈んだ顔をする人だったかしら。

兄と幸せそうに笑っていたはずの彼はずいぶんと様変わりしていた。

だけど、その人が私の担当になった途端、私は魔法にかかったように勝ち続けた。

それまでは勝ったり負けたり…というか負けることの方が多かったのに。

引退までの半年ほどで私は彼が導くがままに重賞というものを四つほど獲って引退した。

 

 

引退すると母としての仕事が始まった。

いろいろな牡馬に会っては兄のことを聞いた。

その中で兄を知っていたのはたったの一頭。

私と同い年の芦毛の牡馬だけが、兄のことを知っていた。

 

芦毛の彼-オグリキャップは兄によくしてもらったという。

一度だけ兄と戦ったが、そのあとはよく知らないと。

 

『お兄ちゃん…』

 

兄はまだ帰ってこない。

私も母も帰りを待っているというのに。

 

『はやく帰ってこないとリリィに怒られるよ。

…私、お兄ちゃんのこと嫌いになっちゃうかも』

 

兄は私に嫌われることが何よりも嫌いな馬だった。

だから、だから…!

 

『帰ってきてよぉ、お兄ちゃん…』




僕の妹:シルバフォーチュン。
主な勝ち鞍:
1992 アルゼンチン共和国杯(GⅡ) 阪神牝馬特別(GⅢ)
1993 東京新聞杯(GⅢ) 中京記念(GⅢ)

1985年生まれの牝馬。シルバーバレットの全妹。芦毛。
兄と比べて体が丈夫で、体格も牝馬としては良い方だった。
兄であるシルバーバレットのことをよく慕っていた女の子。
G1戦線に姿を現すことはなかったが、それでも牡馬相手にいい勝負をしていた。
現役時代の最後にシルバーバレットを亡くして『天才』に()()()()()()()白峰透に導かれるまま重賞制覇を果たした。

白峰透:シルバーバレットを亡くして目が死んでる。
シルバフォーチュンの面倒を見たのはシルバーバレットの妹だから。
多分シルバーバレットの死とともに人間的な部分がお亡くなりになってるんじゃないかな?もしくは生きている死体状態。
その状態から成される感情の介在しない、最善ばかりを選ぶ騎乗は未来予知とも、神がかりとも言えるかもしれない。


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*────歓声が、聞こえる

シルバマスタピース視点のシルバーバレットとの関係性。


シルバマスタピースは大切な幼なじみとの約束を破った。

 

『待ってるから。

だから今度こそ一緒の舞台で…』

 

そう約束したはずだった。

誰よりも速い幼なじみ。

ひとりきりだったキミに話しかけて、走り去っていった背中を必死で追いかけた。

思えばあの頃から僕はキミに魅せられていたのかもしれない。

 

「や、めるって…」

「…ごめんね」

 

告げたくなかった事実を告げると幼なじみは呆然とし、力なく座り込んだ。

立ち上がらせようとして、でもこんな自分が手を伸ばしていいものかと思って手を引っ込めた。

何も話せず、沈黙ばかりが続く空気に耐えきれなくて逃げ出した。

 

誰よりも速い幼なじみは、その脚の速さと引き換えに脆かった。

そして運も悪かった。だから代わりになりたかった。

あの子の代わりにあの子の強さを証明するのだと、思っていた。

 

「…諦めるって、なに?」

「別にいいだろ。重賞はそれなりに勝ってるし、年齢が年齢だからそろそろ……」

「ふざけたことを言うな!」

 

屈腱炎になった幼なじみの胸ぐらを掴み上げた。

気まずげに目を逸らすあなたのなんと惨めなこと!

僕が憧れたキミはそんな人じゃないだろうと最終的にはウマ乗りになってまで怒鳴り散らした。

逃がしてはいけない。逃がすつもりもなかったが。

 

「わかった、わかったから…!」

 

何とか意見を撤回したキミの顔は赤くなっていて。

何か変なことを言っただろうかと思ったが自分には分からず。

 

「そう言ってくれて嬉しいよ」

「…うん」

「僕もバレットのこと支えられるように免許取ってるから頑張ろうね!」

「は?」

 

なお伝えていなかったが、脚の弱い幼なじみのためにそういった類の免許を引退後取っていた僕である。

 

 

「脚は大丈夫?」

「おう」

 

海外遠征へと進んだ幼なじみにシルバマスタピースは着いていった。

元々陣営は少数精鋭で行くつもりでシルバマスタピースの入る枠はなかったのだが幼なじみが直々にシルバマスタピースの同行を推薦したのだという。

 

「もうお前無しじゃ生きていけないんだよ、僕」

「…そりゃあ嬉しいね」

 

触診しながら相変わらず細い脚だと思う。

どこからあんな速さが出せるのだろうとも。

少しばかり力を入れたら握り潰せてしまいそうな細い脚を丁寧に、丁寧に診察する。

普段ならこそばゆいだのなんだの言って騒がしいのだがもうすぐ本番である今は真剣だ。

 

「…どう?」

「うん、問題はないよ」

「やった」

 

もうそろそろ呼ばれる時間だろうと幼なじみから離れようとすると袖を引かれる。

 

「ほらいつものしてくれよ」

「えぇ…」

「調子出ないんだよ、アレがなくちゃ」

 

ニヤニヤと笑う幼なじみが腕を広げる。

それにゆっくりと抱き着く、いや抱き締めてこう囁く。

 

「…キミはすごいよ」

「うん」

「誰よりも速い」

「当たり前だろ」

「キミが、最強なんだ」

「…あぁ」

 

この遠征が始まってからのルーティーン。

1分ほどそうしてからキミが離れる。

 

「じゃあ、行ってくる」

「うん、行ってらっしゃい」

 

そう言って見送ったキミに、今日も見惚れた。

 




ウマ娘かもしれないしウマ息子かもしれない。

マス太:シルバーバレットに目と脳をやられてるタイプの幼なじみ。
良家の生まれの子。
僕に一目惚れし、普通の優しい良い子を演じながら僕への感情は激重。
僕と同居しており、怪我で引退後は僕のことを献身的にサポートしている。

そのサポートは僕の服の世話、髪型のセット・メイク、食事の世話、脚の世話…etc.など多岐に渡る。
僕本人からも『マス太がいなきゃ生きていけない』と言質を取っている。
この献身は実馬の僕とマス太の厩務員だった"白峰誠"という男性から継承した因子であり、白峰の苗字のとおり白峰透の親類である。
…やっぱり白峰一族は僕に脳をヤラれるのがデフォなんだろな(呆れ顔)


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ウマ娘外伝『"Destiny" to run away.』ノベライズ版の一幕

前に書き忘れてましたが『"Destiny" to run away.』はリクエストいただいていた「アプリメインストーリーのライス章みたいな、史実を知ってるユーザーの脳を溶かすハッピーエンド回のウマ娘話」を想定して書いています。
世界をひっくり返す系つえーウマ娘の話、私性合!


望まれた産まれだったのか、またはその逆か今となっては分からない。

母方の借金のカタとして売られかけて、それを心優しい神様のような御方に助けられて生き延びた。

 

ジブンが過ごす町はどうにも幸せな人を妬んでいるようなヤツらばっかで、それはジブンも同じ。

夜になりゃあ客引きが集まって悲しいヒト同士で慰めあっている、そんな天国からは程遠い場所。

 

そんな中でこんなジブンをトレセン学園(てんごく)へと引き上げたのがトレーナーだった。

そりゃあ当然感謝したとも。

こんな己にはもったいないとも思ったとも。

だが、カミサマってヤツはジブンのことがとんとお嫌いなようで、かわゆいジブンの顔にこんな火傷痕をつけやがった。

 

んで、生まれが生まれのジブンを妬むような哀れなヤロウもいやがるってモンで、あん時は大変だった。

ちぎっては投げちぎっては投げを繰り返しても羽虫みたく寄ってたかってくるものだから、弱っちい弱者のフリして生徒会と大人に助けを求めるしかなかった。…ホントは借りなんか作りたくなかったんだが。

 

「あーあー…」

 

ホンット、何度怪我すりゃ気が済むんだかね。

複雑骨折した脚を固定されてたら昔のことまで思い出しちまった。

眠ったらジブンと同じように火事に遭ったヤツらではない、亡者みたいなヤツらに「助けてくれ」って縋られるし。

あー、ホントヤダな。眠るもんも眠れねぇ。

 

「なァ、カミサマよぅ」

 

曇り空を見つめながら一人ごちる。

 

 

いつになったら天国ってところに連れて行ってもらえるんだ。

ジブンは特段悪いことなんてした覚えがないっていうのに。

そりゃあお綺麗な、天使サマみてぇな生まれではないですがヤクなんてモンもやってねぇし、アンタを悲しませることも無いっていうのに。

逆にアンタを楽しませてばっかじゃねぇか?

 

「まぁ聞き届けてくんないって言うんだったらさぁ」

 

ジブンが地上に"天国"を作るぞ?

ぎゃあぎゃあ喚くだけ喚いて、指さして、石を投げてくるヤツらが恐ろしいったらありゃしないからな。

ジブンだって恐ろしいモンくらいあるのさ。

 

「ジブンの身はジブンで守るくらいしなくちゃ」

 

虐げられるだけ虐げられて、泣き寝入りするってのは性に合わねぇ。

誰かに世界を変えてもらうのも待っているっていうのも気が引けるし、ソレいつまでかかる?って話だ。

ならジブンから動いた方が話が早い。

 

 

気に入らないモンなら手っ取り早く力で解決して自分好みにしちまえばいい。

 

 

「…ハハ、ジブンながらサイッコーの案だこって」

 

ならどうしてやろうか。

これからのことを考えながらひとまずは眠ることにした。

…きっと今日は変な夢を見ないだろうから。




ほんのちょっぴり迫害‪√‬の因子が入っているかもしれないノベライズ。

ノベライズ版僕:だいぶ口が悪い。目つきも悪い。
でもトレーナーと歩んでいく中でその態度も少しずつ軟化していく。
このノベライズ世界でも"未来"のために世界を変えることに。
火事のあとから悪夢を見るようになるがその夢は時々、顔も見えない大勢の誰かに縋られる夢になるらしい。…まるで救いの、蜘蛛の糸のように。


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ある男の懺悔

彼に惹かれたのは何故だったのか。
『運命』か、それとも……。


私-白銀仁(しろがねひとし)は、両替商から財を成した白銀一族の長男として生まれた。

白金一族の始まりは江戸時代に遡る。

江戸時代、金は金貨・銀貨・銅貨と分かれており、また、高額な取引の場合、関東では「金」を、関西では「銀」を使う風習があった。

関西の両替商であった私たち一族の祖先はいつしか屋号を「白銀」とし、それが苗字になったらしい。

 

白銀一族はそれなりに大きな家だ。

金融業以外にもさまざまな分野に手を伸ばし、それを可もなく不可もなくといった具合に保っている家で、やらかしさえしなければ普通に生きていけるだろうぐらいには安泰な家だった。のだが、一度だけ危うくなったことがある。

 

それは私の父が競馬にハマったこと。

付き合いで競馬場に行った父は馬に魅せられ、自分も馬を持ち始めた。

今も使っている"シルバー"という冠名は白銀の苗字から取られたものだ。

しかし、父の買った馬はほとんど走らなかった。

それでも父は馬を買い漁るので最終的に家の者に止められて当主からご意見番となる形で実質引退させられ。

そして長男だった私が白銀一族のトップとなった。

 

はじめは馬主になる気なんてこれっぽっちもなかった。

逆に競馬なんて…と毛嫌いしていたくらいだ。

でも、その牧場に赴いたのは父が贔屓にしていたから。

戦前からある牧場だったが、もうその頃にはそんな面影もなく。

 

「ックソ!暴れるな!」

「押さえとくからさっさと乗せろ!」

 

そこで出会ったのが彼だった。

のちに"シルバーバレット"と名付けた小さな牡馬。

今にもトラックに乗せられそうになっている子馬と、今にも押さえる人々を殺さんとする馬を見て、私は気がつけば彼と彼の母であるホワイトリリィを買っていた。

そんなこんなで買った彼らを父の知り合いだという███牧場に預け、思いがけず私は馬主になった。

 

シルバーバレットはよく走る馬だった。

それでいて利口な馬だった。

私が牧場に行くといつも静かに近づき頭を差し出してきたのを思い出す。

理知的な光が宿る彼の目はいつも静かに私を見つめていた。

 

『おいで、(つくる)

 

あの頃は長男である創もひどく大人しい子どもだった。

病弱な子であったから友だちもおらず、ひとり静かに本を読んでいるような子どもだったあの子を、私はシルバーバレットと引き合わせた。少しでも、少しでも世界が広がればいい、と。

 

「バレット」

 

……嗚呼、今もお前のことを思い出す。

死の間際に思い出すものが愛する妻子や孫でないのは不謹慎ながら笑ってしまうけれど。

 

バレット。

あの日、怖々とお前を撫でた創は私と同じように馬主になったぞ。

お前の甥が初めての持ち馬だと。

病床に伏す私にそう告げた息子の顔に引き摺られるように思い出す。

"シルバーバレット"という馬のことを。

 

「…バレット」

 

お前が初めて勝ったあの日のことを覚えている。

お前の脚を治してくれと土下座してまで懇願したこともあったな。

毎日王冠で、ジャパンカップで、凱旋門賞で、お前が勝った日のことを思い出すと今でも胸が熱くなるよ。

 

「……バレット」

 

…お前は私に夢を見させてくれた。たくさんの夢を、見せてくれた。

それでも、それでも、

 

「すまなかった」

 

あんな最期に、させる気はなかったんだ。




馬主さん:本名白銀仁(しろがねひとし)。
元は彼の父親が馬主だった。シルバーの冠名を父から引継いだ。
真面目な人であるため競馬をする気はサラサラなかったがシルバーバレットを見た瞬間、無意識に彼ら親子を買っていた。
そこから馬主デビュー。
(マス太がいる世界だったら、マス太は彼の父親が最後に買っていた馬ということで…)

最期まで心に残ったのは悲惨な最期を送らせてしまったシルバーバレットだった。
あの子は賢い子だったから人の言うことにちゃんと従った。
だから自分があの選択をしなければ、あの子は…。
その後悔だけは、最期まで。

死ぬまで競馬ゲームにシルバーバレットの出演許可を出すことはなかった。

馬主(息子):本名白銀創(しろがねつくる)。
幼い頃に出会ったシルバーバレットに惚れており、彼の甥であるシルバーチャンプを所有した。
ちゃんと目と脳を焼かれてる系息子。


白峰一族だけじゃなくて白銀一族もシルバーバレットに目と脳をヤられているのだ…。


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◆一等星の憧憬

私だって、アンタを見ていた。


「よォ」

「…」

「久しぶりだな、シルバーバレット」

「…帰ってきたんだね、シリウス」

 

どかりと隣に座ったシリウスシンボリにシルバーバレットはゆっくりと瞬きする。

シルバーバレットとシリウスシンボリはそれなりに仲がいい、はずだ。

一応陰ながらではあるが入学したてのシリウスシンボリの面倒を見てやったこともあったし…。

それがなんで今こうなっているのかは分からないが。

 

「海外はどうだった?楽しかった?」

「…まあまあだな」

「そう」

「アンタは?」

「え?」

「アンタはどうなんだ?G1ひとつぐらい獲れたかよ」

「…それが、」

 

怪我だの何だのでまだ獲れてないとシルバーバレットが苦笑して言うとシリウスシンボリは虚をつかれたような顔をしたが、

 

「ハッ!ならアンタに負けを叩きつけてやってもいいってことだよなぁ?」

「…そうかもね」

 

笑ったシリウスシンボリがシルバーバレットの顎をクイと持ち上げる。

彼女は顔がいいからこういうのも似合うけれど、…昔は可愛かったのになぁとどこか違う思考をするシルバーバレット。

 

…意識ぐらいしろよ

「?」

 

 

あの頃のシリウスシンボリはまだ幼なじみであるシンボリルドルフのことを慕っていた。

けれど違和感を感じるのはすぐだった。

 

アイツは、ルドルフはあんな綺麗な笑みを浮かべるような奴だっただろうか。

ルドルフはあんな優しい性格だったろうか。

気持ち悪い、気持ち悪い気持ち悪い…!

獅子のようだったお前はどこに行った!

 

誰にも慕われ、理想を追い求める()()シンボリルドルフのことがシリウスシンボリは嫌いだった。

誰もがシンボリルドルフを慕う中で、

 

『キミごときが僕を、僕たちを幸せにできるっていうの?』

 

そう現実を突きつけたのがシルバーバレットだった。

正当に評価されることは無い"サラ系"出身のウマ娘。

シリウスシンボリがトレセン学園に入ってきた当時、普通のウマ娘と同等の実力を発揮している"サラ系"のウマ娘は彼女しかいなかった。

 

『なぁ、アンタ』

『…キミは?』

 

その姿を見てシリウスシンボリはシルバーバレットに話しかけた。

いつもひとりきりだった彼女に話しかけるのはそこまで苦ではなく。

シルバーバレットは後輩に対しては面倒見がいいようで、何度か絡むと仕方ないという態度でこっそりとだがシリウスシンボリの世話を見てくれた。

そんなシルバーバレットのことをシリウスシンボリは…。

 

 

 

「…私だって、アンタの目に映るくらいのウマ娘になりたかったよ」

 

少しばかり懐かしく、愛おしい昔のことを思い出して。

歓声と、祝福を浴びるシルバーバレットを見ながらシリウスシンボリはそうひとり呟くのだった。

 




シリウスシンボリ:それなりにシルバーバレットに懐いている。
何だかんだ面倒を見てくれる先輩なシルバーバレットに構って欲しい後輩ムーブする時もあるかもしれない。
実のところシルバーバレットに自分を見て欲しいという欲を抱えている。

「一等星のクセに、アンタの視線も奪えないなんて…ははっ」


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祈り、聞き届ける者

癒せない疵がある。
今もなおまぶたの裏に残る影は君の姿によく似ていた。
涙を、絶望を、『どうか』と祈る声を聞き届けたのは、君だった。

───JRAヒーロー列伝



『シルバーだ、シルバーだ!

シルバープレアーが先頭だ!

シルバープレアー5馬身のリード!

今、この瞬間祈りが届く!

ロンシャンの地に祈りが届く!

シルバープレアー勝ったー!!

白峰遥、悲願の凱旋門賞制覇ーッ!!』

 

銀色の祈りと名付けられたその馬は、名前のとおり祈りを聞き届けた。

日本では惜敗を続けたその馬の真価が現れたのは海外の地、それも日本の悲願の地でのことだった。

 

シルバープレアー

Silver Prayer 牡 芦毛

 

父:シルバーチャンプ

母:シルバードリーム

母父:ヒカリデユール

馬主:白銀創

調教師:****

生産者(産地):███牧場(××)

主な勝ち鞍:12'凱旋門賞(G1)

生年月日:2002年4月1日

 

 

シルバーチャンプから始まった『銀色の一族』の悲願はシルバープレアーと白峰遥の手によって叶えられた。

『銀色の一族』にとっても騎手である白峰遥にとっても悲願であった凱旋門賞制覇に馬主と二人して泣いたのは記憶に新しい。

 

凱旋門賞馬となったシルバープレアーは、今現在10歳という年齢。

悲願のG1、それも凱旋門賞制覇ができたこともあり、前々から相談していたとおりに引退となった。引退後は███牧場にて種牡馬となるらしい。

 

そんな折、白峰遥は馬主である白銀創からとある提案を受ける。

 

「…"シルバーバレット"のサルベージプロジェクト、ですか?」

 

遥がオウム返しした言葉に創は強く頷く。

『銀色の一族』の悲願を叶えたのだ、だから次はこちらの悲願を叶えようと。

 

…『銀色の一族』の始まりには遠因となった競走馬がいる。

その名は"シルバーバレット"。

かの馬は遥の憧れでもあり、…遥の叔父の一番の相棒でもあった。

11歳馬ながら規格外のスピードで世界をひっくり返したその競走馬は、今もなお暗い海の底に沈んでいる。

 

「クラウドファンディングで、ですか…」

 

"シルバーバレット"を亡くしたあとの遥の叔父─白峰透の憔悴具合はそれはもう酷いものだったと聞く。

必要最低限の連絡しか取らず、ほぼ世捨て人だった白峰透は"シルバーバレット"との思い出を書き綴った『さよならはまだ言えない』との遺稿を遺し、一人寂しく死んだ。

その遺稿である『さよならはまだ言えない』を読むと最期まで、"シルバーバレット"の帰りを待っていたのだと分かるほどに、白峰透は"シルバーバレット"に囚われていた。

 

「…見つかりますか?」

 

"シルバーバレット"を探そうとするのは遥も大賛成だ。

だが遥は知っている。

"シルバーバレット"は輸送機が海に墜落した事故で亡くなった。

元々、海に墜落した航空機の原因調査は難航するのだという。

それは何故か。

 

「残骸回収にどれだけ時間と費用がかかると思ってるんです」

 

そう。

遥は昔調べたことがある。

憔悴しきった大好きな叔父に元気になってもらいたくて調べたのだ。

遠き日の遥には到底叶えもできなかった、

 

「年単位の時間がかかっても、…やるんですか?」

 

そんな無謀な夢を馬主である白銀創は肯定したのだった。

 

 

凱旋門賞制覇と同じくらい、それも叶えたかった夢だった。

父が/叔父が帰ってこなかった"彼"をずっと待っていた。

父は諦めて、諦めたけどずっと後悔していた。

叔父は諦めきれず、"彼"を待ち続けていなくなってしまった。

 

だから…、

 

「あった!ありましたよ!」

 

その声が聞こえた時、『奇跡だ』と思った。

海の底から引き上げられたのは小さな、錆に塗れて二つに割れた蹄鉄。

Uの字の曲がる部分で均等に割れていたその遺物は彼らの手に手渡された。

 

湧き上がった感情を鎮めるにもどうにもできなくて、遥と創は二人抱き合う。

泣いて泣いて、…それでいて笑って。

そんな彼らを、生まれも育ちもバラバラだが、共に"シルバーバレット"を探していた人々が見守っていた。

 

 

 

 

 

「…父さん」

「…おじさん」

 

 

発見された蹄鉄は、"シルバーバレット"の馬主と主戦騎手であった男たちの墓に収められた。

彼らにとっては何十年振りの再会だっただろう。

 

「「これでもう、寂しくないよな」」

 

 

 

そう言った瞬間。

遠くで、馬の嘶くような声がした、気がした。




祈りを聞き届けた馬:シルバープレアー。2002年生まれの芦毛の牡馬。
稀有な実力がありながら怪我などで早期引退を余儀なくされることが多い銀色の一族の中で10歳まで怪我なく走り切った異端児。
最後の凱旋門賞までG1を勝てなかったが、それでも連対率100%で引退した怪物。
現役時代に一番仲がよかった馬は某夢への旅路だったり。
数年後、彼の息子が凱旋門賞を制覇することをまだ誰も知らない。

リクエストから【白峰透死後にシルバー血統による悲願の凱旋門獲得後に世界中のバレットファンによるクラファンで墜落飛行機サルベージプロジェクト】の話でした。


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"英雄"の帰還

The "Silver Bullet" is back!


シルバーバレットの蹄鉄を見つけた。

探し続けていたらもう十年近くが経っていた。

ふたつに割れた蹄鉄を墓に供えに行こうという話をしていた時、JRAの職員からとある話を持ちかけられる。

 

「シルバーバレットの、」

「引退式…?」

 

そうです!と強く頷いた職員から後日手渡されたのは分厚い計画書。

それに篭った熱意に白銀創と白峰遥は気づけばその話に乗っていた。

 

シルバーバレットの蹄鉄が発見されたことは大ニュースとなって世界中で放映されており、その流れでJRAは翌年の秋にシルバーバレットの引退式をすると大々的に報道した。

ただの、それも遠い昔に亡くなった競走馬の引退式のチケットであるのに売れ行きは凄まじいらしく、収容人数を大幅に超えるだろうと。

 

「やっぱり、すごい馬だったんだな」

 

ぽつりと白銀創が呟いた言葉に誰もが「そうですよ!」と呼応する。

シルバーバレットの引退式に合わせて彼のヒーロー列伝のポスターが作成され、彼のCMを作るために『The LEGEND』、『The WINNER』に続く『The HERO』という新シリーズを作る、と。

もうてんてこ舞いである。

それでいて、シルバーバレットという馬はなんて愛されているのだろうと誇らしくなった。

 

 

その日は快晴。

シルバーバレットの引退式はそれはもう盛大に行われた。

聞いたところによるとオグリキャップの引退レースであった有馬記念以上に人が入っている可能性があるらしい。

現地以外にもネット配信が行われており、そちらも多くの人々が見ているのだという。

シリーズCMの『The HERO』の評判も上々。

だが、ジャパンカップのCMは未だ放映されておらず。

その対象の競走馬がどの馬かなど、言わなくても誰もが分かっていた。

期待渦巻く引退式の中で、"彼"のためのCMが堂々と披露される。

 

 

The HERO

ジャパンカップ

 

90年 ジャパンカップ

 

その日、僕たちはひとつの夢の結実を見た。

どこまでも、どこまでも駆け抜けてゆくその姿は誰よりも傷だらけで。

そうして走り続けた苦難の日々が大きな喝采へと変わる。

───世界が、お前を待っていた。

 

栄光は運命に抗う者にこそ輝く。

 

その馬の名は─────シルバーバレット。

 

最速の蹂躙者。

その時、世界は追いすがることさえ許されなかった。

 

次の『英雄(ヒーロー)』は誰だ。

ジャパンカップ

 

 

そのCMは後世、JRAが作成したCMの中でも一二を争う傑作だと評されることとなる。

また『The HERO』というCMシリーズが"シルバーバレット"という馬のために作られたことも、誰もが知る有名な話となるのだった…。

 




僕:帰ってきた"英雄"。
蹄鉄が見つかったのが202×年代と想定。
誰もが帰りを待っていた競走馬。
引退式は既に亡くなっている馬主と主戦騎手の代わりに馬主の息子である白銀創と主戦騎手の甥である白峰遥が出た。老齢である当時の調教師も「シルバーバレットのためなら」と来てくれた。
引退式は盛大に行われ、列伝ポスターや彼のCMを作るために『The HERO』というシリーズが作成されたりした。
引退式は東京競馬場で行われたが、入り切らないほどの観客だった模様(ウマ娘人気もそれに与したとかしなかったとか…)。
ネットの方でも引退式の模様は配信されており、スパチャとか凄かったらしい。


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自慢の息子

ここで幸せ時空の話をひとつまみっと。


シロガネハイセイコとシロガネヒーローは同期である。

父であるシルバーバレットの初年度産駒を代表する二頭であり、ライバルでもあった。

 

『『父さん!』』

『はいはい、元気だねキミたち』

 

シロガネの名を冠する馬はたびたびシルバーバレットがいる███牧場へと休養に来ることがあった。

元の███牧場はこじんまりとした場所であったのだが、シルバーバレットの活躍により敷地が拡大され、シルバーバレットが引退した今も敷地を拡大する計画があるらしい。

 

『父さんの自慢の息子って僕とヒーローどっちですか?!』

『俺ですよね、父さん!』

『いや俺だ!』

 

二頭はよく喧嘩する。

シルバーバレットの初年度産駒として、一家の長兄組として、どちらが上なのかとほぼ毎日争っているのだ。

まぁ、それも父であるシルバーバレットに褒めてほしい一心からなのだが。

 

『二人とも僕の自慢の息子だよ?』

『『そうじゃなくってぇ〜!』』

『?』

 

父がそういう馬であることは二頭とも嫌というほど分かっているのだけど、それでも尊敬する父から自分の方が上だという言葉が欲しいもので。

 

『なにやってんだバカども』

『誰がバカだ!』

『ゲッ、ガールじゃん』

『バカはバカだろうがよ』

 

いがみ合うハイセイコとヒーローの前に呆れたため息をつきながら現れたのは彼らと同じくシロガネの名を冠するシロガネガール。

普段は多少口の悪い彼女だが、

 

『やぁ、ガール』

『あっ、お父様♡』

 

尊敬する父であるシルバーバレットを前にするとその態度はコロッと変わる。

 

アイツ、父さんの前だといつもああなるな…

いっつも婆さん譲りの喋り方の癖にな

『なんか言ったか?』

『『イイエ、ナニモ』』

 

ハイセイコとヒーローは牝馬であるガールに尻にひかれている。

その理由としてはシルバーバレットが牧場の牝馬にとても優しく接している馬であることと、…彼らの祖母であるホワイトリリィがこの牧場のボスを張っているという理由がある。

なので下手に牝馬に逆らうとシルバーバレットに悲しげに苦言を呈されるか、クッソ怖いボス馬であるホワイトリリィに泣くほどしばかれるかの二択がかかっているのだ…。

遠い昔の話ではあるが、まだ幼い頃に二人してガールを泣かしてしまった時の恐ろしい記憶が二頭には刻まれている。

 

『ガール、幼い子たちは元気かい?』

『は、ハイ!とても元気です』

『そうか…。また顔を見に行けたらいいなぁ』

『みんな待ってますし、お父様が顔を見せたらお祖母様もお喜びになると思います』

『そうだね。リリィにも随分会ってなかったし、お世話する人に頼んでみるかな…』

 

そんなこんなでシロガネハイセイコとシロガネヒーローの第×××回どっちが父さんの自慢の息子か対決は終幕となったのだった。




シロガネハイセイコ:
主な勝ち鞍
皐月賞、日本ダービー、ジャパンカップ(1996年度)
KGVI & QES、有馬記念(1997年度)

母父ハイセイコーのシルバーバレットの初年度産駒。牡馬。
主戦騎手は白峰透。
引退レースであった1997年有馬記念にてシロガネヒーローと行ったハナ差1cmの死闘は今でもベストバウトとして語られている。

シロガネヒーロー:
主な勝ち鞍
菊花賞(1996年度)
ステイヤーズミリオン(1997・1998年度)

母父タケホープのシルバーバレットの初年度産駒。牡馬。
シロガネハイセイコの宿命のライバル。
バリバリのステイヤー。気性はちょっと粗め。
よくシロガネハイセイコといがみ合っているが仲が悪いわけではない。
逆に仲がいい。

シロガネガール:
主な勝ち鞍
桜花賞、香港カップ(1996年度)
香港ヴァーズ(1997年度)
香港国際ボウル(現:香港マイル)(1998年度)

母父ホウヨウボーイのシルバーバレット初年度産駒。牝馬。
人呼んで『香港の女王』。
ホワイトリリィを尊敬しており、いつの間にか性格もそっちよりになっていた。
父であるシルバーバレットのことを尊敬しており、父の前だけはお淑やかな馬になる。
人前に出てる時もだいたい大和撫子している。親しい人の前でちょっと暴虐になるだけである。




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◆チーム:アルデバランの日常

シロガネヒーローの主戦騎手、誰にしようかな〜?と考えたり…。
某ヒットマンさんとかいいよね…とは思ってるけども。


約一年と半年ほど前、チーム:アルデバランは解散の危機に陥っていた。

何故かというとチームに所属していたほぼすべてのウマ娘が、チームの寮として使っていた建物の火事によって負った怪我により競技引退するという不幸に見舞われたからだ。

残されたのはチームの新人であったシルバーバレットという小柄なウマ娘だけで。

 

アルデバランを率いていたベテラントレーナーは悩んでいた。

シルバーバレットはとても才能のあるウマ娘だが、とある要因により選手の引き取りを拒否されてしまう。

ここでアルデバランがなくなってしまえばシルバーバレットの行き場が無くなるのだ。

どうしようどうしようとトレーナーが頭を悩ませているとコンコンとドアをノックする音が。

 

「ここがチームアルデバランであってますか?」

「コラ、ヒーロー」

「うっせぇ、ノックしただろ」

 

ドアを開けるとそこにいたのは二人のウマ娘。

シロガネハイセイコとシロガネヒーローと名乗った彼女たちはアルデバランに入りたいと訪ねてきたのだという。

 

「それはありがたいのだけど…」

「あ、何か必要な書類とかあるんですか?」

「い、いやそうじゃなくて、…キミたちリギルからスカウトされてただろう?」

 

アルデバランのトレーナーはベテランであるのでそういう話が耳に入るのも早い。

今年も期待できるウマ娘が入ってきたと名前が挙げられた中にシロガネハイセイコとシロガネヒーローの名前が入っていたのだ。

 

「あ〜、そういやなんか誘われたな」

「なんかノリが軽いなぁ!」

「別にいいんですよ、元から私たちアルデバランに入るつもりでしたから」

 

 

「せんぱーい、起きてくださーい」

「ん…」

 

昔の夢を見た。

目をこすると「駄目ですよ」とハイセイコに止められる。

 

「みんなは」

「今はトレーニングですね」

 

チーム:アルデバランはハイセイコとヒーローが入ってきたのを皮切りに、たくさんのウマ娘がやって来た。

その誰もが実力のあるウマ娘だったので、リーダーの座を譲ろうとしたこともあったけど、みんなから「年功序列ですから」と言い含められそのままだ。

 

「ハイセイコ」

「なんです?」

「どうしてキミはアルデバランに入ったの?」

 

ずっと考えてたんだ。

みんなどうしてアルデバランにやってきたのだろうと。

みんな他のところでもやっていけるだろうに、なんでアルデバランというチームを選んだのか。

 

「…"運命"を感じたから、ですかね?」

 

僕の問いにハイセイコはそう答えて微笑んだ。

 

 

その姿を見た時、"運命"だと思った。

貴女は私たちの知る貴方ではないけれど、

 

「あなたの傍じゃなきゃみんな嫌なんですよ、…お父様」




チーム・アルデバラン:
チーム名の由来はおうし座α星の固有名。
アルデバランはアラビア語で『あとに続くもの』の意をもつ。
チームリーダーはシルバーバレット。
日本よりも海外に主軸を置いているチームであり、海外遠征を目指すなら所属を推奨されるチームである。
所属にはテストなどもなく来る者拒まず去るもの追わずのチーム。
チームメンバーにはシロガネハイセイコ、シロガネヒーローなど『シロガネ』の名を冠するウマ娘が多い。


アニメ軸のウマ娘。
史実‪√‬の世界線だけど何故かいないはずの僕の息子・娘や孫がいる。
チームアルデバランのメンバーは全員何かしら僕に関係のある子たちで構成されており、もしかするとマス太もいるかもしれない。


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罪と罰

わたしは、あなたになりたい。


幼いころ、車に轢かれかけたことがあった。

それは本当に小さいころの話で、フラフラと車道に行く私に母は気づいておらず、間一髪のところでとある男性に助けられた。

「お嬢さんに怪我がなくてよかった」と笑ったその人の人生を奪ってしまったことに私が気がついたのは中学生のときで。

 

『白峰透』と名乗ったその人。

事故のあとも交流を持っていた優しいその人の経歴を見たとき、自分はなんてことをしたのだろうと思った。

「天才」の再来と謳われていたその人の記録は嫌というほど残っていて。

紙面の中のその人は人々から歓声を浴びて笑っていた。

キラキラと輝くような笑顔。

 

『あの時、キミを助けていなかったら僕は相棒に軽蔑されていただろうから。

…だからキミが気に病む必要はないんだよ』

 

あの人はそう言ったけど、私が奪ったのだ。

誰もが彼の名前を語り、引退を惜しむほどの才能を私が奪ったのだ。

そう、理解したその日から私の夢は責務へと切り替わった。

 

 

昔の、幼いころの夢はなんだっただろう。

獣医だったか、ケーキ屋さんだったか。

もう、忘れてしまったけれど。

 

「…今日もよろしくね」

 

撫でたその子はいつもと同じように機嫌が悪そうな嘶きをして。

彼もあの人の相棒の血を引いているらしい。

あの人の相棒は今現在種牡馬として、静寂なる日曜日という名前を持つ存在と同じくらい有名だ。

しかしその馬とあの人が残した軌跡を考えると…。

 

「…はぁ、」

 

…あの人の人生を奪ってしまった私は、あの人と同じように『騎手』になった。

「キミの好きなように生きていけばいい」とあの人は何度も言ってくれたけれど奪ってしまった私にはこの道しかなかったのだ。

 

「カオルちゃん」

「しっ、白峰さん、おはようございます!」

 

ぼんやりといつものように思いふけっていると件の"あの人"-白峰透さんがよっ、と手を上げていた。

騎手になった私は現在白峰さんの厩舎に所属している。

「今日も頑張っているみたいだね」と優しげに笑うその人に私は「いえ…」といつものように謙遜する。

 

「この前も勝ってただろ?そんなに謙遜しなくても…。

パックも元気そうで何よりだ」

「はぁ…」

 

私の相棒-シロガネツーパックが機嫌よさそうに白峰さんに撫でられる。

パックは少しばかり気性の荒い馬だ。

ここ最近でやっと普通に接してもらえるようになったが、初対面の時は死ぬほど威嚇された。というよりもキレ散らかされたに近いかもしれない。

「キミは父親似かもねぇ」と笑う白峰さんには心地よさそうに撫でられてるんだからもう…。

…私には撫でられないくせに。

 

「パックは照れてるんだよ」

「どこがですか?」

「カオルちゃんが綺麗だから、ねぇ?」

 

白峰さんにそう言われたパックはプイ、とそっぽを向く。

そんなパックの姿に白峰さんはひとしきり笑って、落ち着いてから「今日の調教を始めようか」と静かに言った。

 

「…はい」

 

────いつか貴方に報いるために。

そう意気込んで私はひとつ深呼吸をするのだった。

 




黒谷薫:『白峰透の愛弟子』
白峰透が興した厩舎に所属している現在唯一の騎手。女性。美人。
学校は主席で卒業した。『天才美人騎手』と世間では言われている。
自分が騎手としての『白峰透』を殺してしまったために自分が『白峰透』になろうとしている女。覚悟ガンギマリ。
白峰透が示すクソ高いハードルを越えられる才能があったのが運の尽き。
これからお手馬がみんな一癖も二癖もあるヤツらになるし、いちばんはじめの相棒となったシロガネツーパック(父エアシャカール)で日本ダービーを獲る。
シロガネorシルバー冠名の気性難専用騎手になる未来が決まっている。
多分ウマ世界にトレーナーとしていたらバリくそ気性悪いウマ娘たちをまとめている女傑になる。

白峰透:元騎手、現調教師。
愛弟子の黒谷薫を可愛がっているが、出す課題のハードルが自分基準なのでクソ高い。
本人は無自覚だが人為的に『天才』を作っているようなもの。
優しい顔してえげつない課題出してくるおじさん。


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とあるスレの話

話は違うけどウマ娘に実装されたシロガネツーパックくん、周りからダービーを勝てるわけがないって言われてる中で『勝てる』って自信満々に言って欲しい。

『俺には、いっとう美しい勝利の女神サマがついてるモンでね』

なおトレーナーの元ネタはもちろんkrtnちゃんである。


サラ系差別って…、

 

1:トレーナーな名無しさん

 

コイツがいなきゃ無くならなかったってマ?

 

【ウマ娘のシルバーバレットの画像】

 

 

2:トレーナーな名無しさん

 

>>1

マジやぞ

シルバーバレットがおらんかったらサラ系は断絶しとったやろうな

 

 

3:トレーナーな名無しさん

 

>>1

そもそもコイツが有能な産駒出しすぎてSSみたいに血が飽和してきよるし…

 

 

4:トレーナーな名無しさん

 

シルバーバレットが現れる以前のサラ系って行方不明になったりするのがチラホラおったんやで

牝馬はある程度の競走能力と仔出しがよかったら大丈夫やったけど牡馬はな…

 

 

5:トレーナーな名無しさん

 

サラ系でコイツ以前に成功してたのってキタノダイオーとかぐらいやっけ?

 

 

6:トレーナーな名無しさん

 

当時、まさかヒカルイマイがこんな馬出すとは…って騒然となったらしいで

まぁヒカルイマイ以外でも父親がサラ系やったらこんな反応やったんやろうけど

 

 

7:トレーナーな名無しさん

 

シルバーバレットって1990ジャパンカップ勝つまで全然人気なかったって聞いたことあるけどホント?

 

 

8:トレーナーな名無しさん

 

>>7

人気無いわけやなかったけど同期がCBやったからな

それに怪我とかよくして表舞台になかなか出てこんかったからあんま知られてへんかってん

 

 

9:トレーナーな名無しさん

 

1990年って一応オグリがいた時代だから…

世間はオグリブームの中現れたバケモノがシルバーバレットなんだ

 

 

10:トレーナーな名無しさん

 

シロガネハイセイコとシロガネヒーローが引退したくらいに功績が評価され始めたんだっけ?

 

 

11:トレーナーな名無しさん

 

今までサラ系差別してて、あの強さもまぐれや!って言ってたところにシロガネハイセイコとシロガネヒーローが出てきたから…

初年度でクラシック4勝って、なに…?

(皐月・日本ダービー→ハイセイコ、菊→ヒーロー、桜花→ガール)

 

 

12:トレーナーな名無しさん

 

あっこからサラ系差別にトドメ刺された感じ

 

 

13:トレーナーな名無しさん

 

母父としてがバケモン過ぎた

いや、父としてもバケモンだけど

 

 

14:トレーナーな名無しさん

 

シルバーバレットの父としての産駒一部抜粋

 

・シロガネハイセイコ 牡 (母父ハイセイコー)

『銀色のアイドル』

・シロガネヒーロー牡 (母父タケホープ)

『銀色のヒーロー』

・クライムヒロイン 牝 (母父クライムカイザー)

『上り詰めるヒロイン』

・グラスホッパーズ 牡 (母父グリーングラス)

『跳ね馬』

・シロガネボーイ 牡 (母父トウショウボーイ)

『天馬の如く』

・シロガネプリンス 牡 (母父モンテプリンス)

『太陽の申し子』

・シロガネガール 牝 (母父ホウヨウボーイ)

『ターフの大和撫子』

・ミスアンバー 牝 (母父アンバーシャダイ)

『琥珀色の軌跡』

・シロガネシンゲキ 牡 (母父サクラシンゲキ)

『快進撃は止まらない』

・ミホノアマテラス 牝 (母父シンザン)『主神』

・シービーサンライズ 牡 (母父 ミスターシービー)『太陽は昇る』

・エカチェリーナ 牝 (母父シンボリルドルフ)

『女皇』

・ミスグッドフェロー 牝 (母父エリモジョージ) 『黒衣の名脇役』

・カブラヤスピード 牡(母父カブラヤオー)

『狂喜の逃げ馬』

・シロガネフォンテン 牡 (母父ホワイトフォンテン) 『銀色の逃亡者』

・サラケイノユメ 牝 (母父ヒカリデユール)

『サラ系の夢』

・スイフトアンヴァル 牡 (母父ハードバージ)

『瞬きすら許さない』

・ハルノアラシ 牡 (母父ニッポーテイオー)

『麗らかな春のために』

 

まだいっぱいおるで

 

 

15:トレーナーな名無しさん

 

オオスギィ!?

 

 

16:トレーナーな名無しさん

 

>>14

コレでも日本で活躍した産駒の一部だから

海外にもまだ産駒がいるんだよなぁ…(呆れ顔)

 

 

17:トレーナーな名無しさん

 

海外のホースマンってシロガネorシルバーって冠名見たらめっちゃ警戒するらしいな

 

 

18:トレーナーな名無しさん

 

育成ストでシルバーバレットってファンクラブ作られとるけどファンクラブ=コイツの産駒(父、母父含む)ってマ?

 

 

19:トレーナーな名無しさん

 

>>19

モブの名前とかで匂わせたりしとる

ファン感謝祭で海外からもファン来とったけどあれもシルバーバレットの産駒の一頭(某世界を塗り替えたアイツ)が元ネタじゃね?って言われてるよ

そもそも育成来てる銀弾の産駒がファンクラブ入ってたりしてるし

 

 

20:トレーナーな名無しさん

 

シルバーバレットの活躍見て、絶望して馬産家辞めた人もおるって聞いたことある

 

 

21:トレーナーな名無しさん

 

そもそもコイツ関連で一番絶望してるのは殺処分しようとした生産牧場定期

 

 

 

 

スレはまだ続いていくようだ…。




ファン感謝祭にいたmbウマ娘:

外国に住んでいるらしい。デジたんいわくネット上では僕の美麗なファンアートを描くことで有名な絵師な模様。
元ネタは僕の産駒であった一頭。
シロガネの冠名を持ちながら一度も勝つことはなかった。が、種牡馬として某ロイヤルブルーの勝負服のところにもらわれていった結果、初年度からニジンスキー以来の英国三冠を達成した。
後世では父親の競走能力は受け継がなかったが繁殖能力をまるっと受け継いだと言われている。
ノーザンダンサーとミスタープロスペクターを足したみたいなのを想像してる。


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銀の弾丸の再来

軽率に騎手の脳を焼くな〜

【追記】
誤字修正ありがとうございます。


父コントレイル、母父シルバーバレットの競走馬・シロガネガイセイが産まれた時、彼を見た人間は静かに沸き立った。

6月25日に産まれた彼は酷く体が小さかった。

普通ならば顔を顰められるくらいの小柄さであったが、その欠点すらも人々を沸き立たせる要因であった。

何故か。それは…、

 

「バレット…?」

 

伝説の競走馬・シルバーバレットとシロガネガイセイがシルバーバレットの元主戦騎手だった白峰透の目をしても()()()()()()()()()()()()()ほどに瓜二つだったからである。

 

 

競走馬となったシロガネガイセイの手綱を握ったのは白峰遥の息子である若手騎手・白峰(かなう)だった。

白峰叶にとってG1騎乗可能になった際の初めてのお手馬がシロガネガイセイであり、出会うべくして出会った一人と一頭は覇道を歩んでいくことになる。

 

朝日杯フューチュリティステークス。

皐月賞。

日本ダービー。

菊花賞-3分の壁、粉砕。

 

無敗での制覇。

父父ディープインパクト、父コントレイルも含めると親子三代での無敗クラシック三冠の達成。

シロガネガイセイは、もうこの頃には『シルバーバレットの再来』の名を欲しいがままにしていた。

そしてジャパンカップ────2:20.2。

有馬記念制覇。

次の年も、天皇賞・春、宝塚記念を無敗で制し、凱旋門賞へ。

 

その日の凱旋門賞はシルバーバレットが制した時のように稍重の馬場だった。

だが2:25.0のタイムで門をこじ開け、勝利。

シルバーバレットのタイムをコンマ4秒超えたタイムだった。

そうしてシロガネガイセイは日本競馬史上四頭目の凱旋門賞馬となった。

 

 

それから、凱旋門賞を制したシロガネガイセイ陣営が選んだのはやはりジャパンカップ。

凱旋門賞を制したシロガネガイセイは今まで見たこともないほど調子がよく、…これならシルバーバレットを超えられるのではと。

シロガネガイセイがジャパンカップに参戦することは大々的に報じられ、ジャパンカップを舞台にしたシルバーバレットとシロガネガイセイの『夢のvs』CMが放映されるほどの熱狂。

この時期より少し前にウマ娘プリティーダービーにて、母父であるシルバーバレットが実装されていたことも注目により拍車をかけていたのだろう。

だが、

 

2:19.1

 

シロガネガイセイは超えられなかった。

あとコンマ1秒、『伝説』を捕えられなかった。

 

シロガネガイセイは最後に有馬記念を連覇し、引退。

シルバーバレットの、『伝説』の再来と讃えられた競走馬は無敗のままに、11個の冠を奪いさり最も強い者のまま勇退したのであった。

 




シロガネガイセイ:『シルバーバレットの再来』またはシロガネ族の最高傑作とも。
父コントレイル、母父シルバーバレットの牡馬。無敗の11冠馬。
シルバーバレットにクリソツの見た目・体格。走り方もソックリ。
親子三代無敗クラシック三冠制覇を果たした。
日本競馬史上四頭目の凱旋門賞制覇馬になっている。
(初代シルバーバレット、二代目シルバープレアー、三代目シルバープレアーの息子)

白峰叶:白峰遥の長男であり、末っ子。
騎手になったら運命の出会いを果たした。
黒谷薫ほどではないがそれなりの速さでG1騎乗になっている(多分20歳くらい)。
それで一番はじめのお手馬がシロガネガイセイになったので無事脳が焼かれる。
最年少三冠ジョッキーになっちゃった男。
多分二代目白峰透みたいになると思う(相棒に向ける愛的な意味で)。


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英雄の帰還に対するスレ

リクエストの蹄鉄発見~引退式までのスレ。

【追記】
誤字報告ありがとうございます。


頑張れプレちゃんスレ part.777

 

150:競馬好きな名無しさん

 

プレちゃん、やった、やった…!

 

 

151:競馬好きな名無しさん

 

やっと勝てたな…

 

 

152:競馬好きな名無しさん

 

テレビの前でボロ泣きした

 

 

153:競馬好きな名無しさん

 

10歳馬の制覇か…

あぁ、思い出すな……

 

 

154:競馬好きな名無しさん

 

遥もおじさんに報告できるな

 

 

155:競馬好きな名無しさん

 

よかった、本当によかった…

 

 

 

 

銀色の一族動向板part.×××

 

400:銀色の一族好きな名無しさん

 

おいっ、これ見ろ!

 

【銀弾サルベージプロジェクトの記事】

 

 

401:銀色の一族好きな名無しさん

 

なに

 

 

402:銀色の一族好きな名無しさん

 

鯖落ちしてんだけど

 

 

403:銀色の一族好きな名無しさん

 

シルバーバレットの探索プロジョクトだって!

 

 

404:銀色の一族好きな名無しさん

 

誤字ってる誤字ってる

でも気持ち分かるぞ…!

 

 

405:銀色の一族好きな名無しさん

 

クラウドファンディングか

 

 

406:銀色の一族好きな名無しさん

 

いくらでも金積むぞ!

シルバーバレットが俺に夢を見せてくれたから!

 

 

407:銀色の一族好きな名無しさん

 

発表ばっかなのにもうすごい額だな…

 

 

408:銀色の一族好きな名無しさん

 

何円でもいいんだって

 

 

409:銀色の一族好きな名無しさん

 

ならいれにいくかなぁ…

 

 

410:銀色の一族好きな名無しさん

 

みんなお前の帰りを待ってるんだ!

シルバーバレット!

 

 

 

 

【速報】シルバーバレットの蹄鉄見つかる!【朗報】

 

1:名無しのトレーナーさん

 

長かった…

 

【ニュース記事】

 

 

2:名無しのトレーナーさん

 

ホントだな?ホントにホントだな?

 

 

3:名無しのトレーナーさん

 

ホントだよ!

 

【白銀創、白峰遥両名の青い鳥のスクショ】

 

 

4:名無しのトレーナーさん

 

もう10年近くだろ?

 

 

5:名無しのトレーナーさん

 

一回断絶しそうになったけどみんなで盛り返したからな…

 

 

6:名無しのトレーナーさん

 

勝利インタビューでクラウドファンディングに協力してくれって言ってた騎手もいたしな

 

 

7:名無しのトレーナーさん

 

シルバーバレットがいたから、今僕たちはここにいる。

なら今が恩返しの時だって言葉に泣いたの覚えてる

 

 

8:名無しのトレーナーさん

 

>>7

それ覚えてるわ

それ見て俺も募金した

 

 

9:名無しのトレーナーさん

 

おかえり、おかえりなさい、シルバーバレット

 

 

10:名無しのトレーナーさん

 

白峰おじさん、本当によかったな

 

 

11:名無しのトレーナーさん

 

あんな本書くくらいだからね…

 

 

12:名無しのトレーナーさん

 

ウマ娘で帰ってきてくれただけで嬉しかったのに、現実でも帰ってきてくれるなんて…

夢じゃない?夢じゃないよね?

 

 

13:名無しのトレーナーさん

 

>>12

夢じゃない

夢なんかに、してやらない

 

 

14:名無しのトレーナーさん

 

JRAがシルバーバレットの引退式するって!

 

【ホームページのリンク】

 

 

15:名無しのトレーナーさん

 

判断が早い!

 

 

16:名無しのトレーナーさん

 

鯖落ちぃ!

 

 

17:名無しのトレーナーさん

 

チケット販売、だけど転売禁止で転売したら罰則か…

JRA本気だな

 

 

18:名無しのトレーナーさん

 

>>17

そりゃ日本競馬の英雄だからな

当然定期

 

 

19:名無しのトレーナーさん

 

>>17

多分引退式の企画出した人らってシルバーバレットの活躍直撃世代だろ?

そりゃそうなるわ

 

 

20:名無しのトレーナーさん

 

チケット争奪戦

鯖落ち、ああああああああぁぁぁ!!!!(発狂)

 

 

 

 

シルバーバレットの引退式を見守り隊

 

185:名無しのトレーナーさん

 

よかった…

 

 

186:名無しのトレーナーさん

 

現地組だけどHEROのCMかかった時すごかったよ

 

 

187:名無しのトレーナーさん

 

>>186

いいなぁ!アレかかるって知ってたら何がなんでも現地行ってたのに!

 

 

188:名無しのトレーナーさん

 

シルバーバレット(ウマ娘)の声優が関係者席にいるの笑っちゃうな

いや実馬の主戦騎手の甥の娘だからいていいんだけど

 

 

189:名無しのトレーナーさん

 

あれ現地何人来てたの?

 

 

190:名無しのトレーナーさん

 

わかんね

日本だけじゃなく世界からも人来てたぞ、多分

周りから聞こえる言語ぐちゃぐちゃで頭バグりそうだった

 

 

191:名無しのトレーナーさん

 

ウマ娘からシルバーバレット知ったにわかだけど今日の引退式見て凄い馬だったんだなって思いました(小並感)

 

 

192:名無しのトレーナーさん

 

そもそもウマ娘も「シルバーバレットが来たから」って始めた人多かったんだっけ?

 

 

193:名無しのトレーナーさん

 

>>192

そうらしい

バレットの声優の明ちゃんが頑張ってねってシルバーバレットから競馬界に入った人たちによく言われるから頑張らないとってコメント出てたし

 

 

194:名無しのトレーナーさん

 

傷だらけのヒーロー、か…

 

 

195:名無しのトレーナーさん

 

世界に名を刻んだ名馬だけど伝説って言えるほど最初から華々しいわけではなくて、勝者って言えるほど最初から大舞台に立てたわけじゃなくて…

でもたしかにHEROだったんだ

 

 

196:名無しのトレーナーさん

 

JRAにとってもヒーローだろ

今の馬主、シルバーバレットがいたからなったって人多いんだから

 

 

197:名無しのトレーナーさん

 

>>196

騎手もそうなんだよなぁ

 

 

198:名無しのトレーナーさん

 

オグリが時代を変えたヒーローっていうなら、シルバーバレットは世界を変えたヒーローだからな

 

 

199:名無しのトレーナーさん

 

本当に、シルバーバレットに出会えてよかった

 

 

200:名無しのトレーナーさん

 

でも、やっぱりさよならはまだ言えないや

 

 

 

 

スレはまだ続いていく。

 




『偉大なるサラブレッドよ


その軌跡は、夢幻(ゆめまぼろし)のごとく

永遠(とわ)に私たちの記憶のなかに 』



東京競馬場 シルバーバレット碑より


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まえがき

世界一愛おしくて、どこの誰より憎らしい、そんなキミの話をしよう。


今、キミはどこにいるだろう。

キミは賢いから変なところに行ったりはしないだろうけど。

相棒である僕にはやっぱり心配で。

 

キミに関しての話をしよう。

 

はじめてキミを見たとき、『天啓』だと思った。

あの頃は誰もキミに期待してなかった。

サラ系で、ひどく小さくて、脚も枯れ枝のようなキミに注目する人は誰もいなかった。

でも僕はまだその背に跨っていない癖に、キミが僕のモノだと思って、その背を誰にも渡したくなかった。

 

僕がキミに乗ることを渋るテキを必死に説得して乗せてもらった。

乗ってみて本当に惚れ惚れとした。

こんな馬、もう二度と現れないだろうと直感までした。

乗せてくれ、と自分から頼み込んだのは後にも先にもキミだけだ。

 

調教途中のたった一瞬だけで、キミを美しいと思ったのは何度あっただろう。

不思議な色の抜け方をした芦毛のキミを、顔に酷い火傷を負ったキミを、醜いと言った人はたくさんいたけれど、僕にとってはキミがいっとう、世界一美しい馬だった。

 

キミの背に乗り、風を切るのが好きだった。

楽しげに走るキミが好きだった。

諦めないキミに何度勇気をもらっただろう。

キミに乗ると負ける気が不思議としなかったのを覚えている。

 

本当は、キミが僕以外の人を乗せるとなったら拒否するだろうという話を聞いたとき、すごく嬉しかった。

キミは僕だけの馬で、僕もキミだけの騎手ならそれはとても良いことなんじゃあないだろうかと思って。

 

あの日まで、キミは馬鹿にされ続けていたね。

それに僕は怒りながらも、哀れんでいたりしたんだよ。

キミの凄さを分からない人を、世界を哀れんでいたんだ。

でも、僕だけしかキミの凄さを知らないと思ったら優越感もあって。

キミがずっと僕のモノだったらどれほど…。

本当に、本当に世界にキミを知らしめたくなかった。

キミの凄さを理解して欲しいと言っていた癖に随分な矛盾だとおもうけれど。

 

キミといた日々は今でも夢のようで。

こんな僕をキミが見出してくれたのは奇跡だった。

キミなら僕じゃなくても勝てただろうに。

でも、キミが選んだのは僕だった。

僕が選んだのがキミだったように。

 

周りの人たちは僕たちの出会いが『運命』だと言うかもしれない。

でも、違うだろう?

僕たちの出会いが、あのクソッタレの神様に定められたモノだったなんて嫌だから。

そんな陳腐な言葉で言い表せるものではないだろうから。

 

 

世界には凄い馬がたくさんいる。

そしてこれからも強い馬がたくさん出てくるだろう。

けど、僕は一生、死んでもキミが、"シルバーバレット"が最強なのだと、高らかに、恥ずかしげもなく叫ぶんだ。

 

 

こんな僕の一世一代の告白を、どうかキミに聞いて欲しいと思う。

 

 

キミの最強で最高の相棒 白峰透より

 




『さよならはまだ言えない』:特☆級☆呪☆物。
愛ほど歪んだ呪いはないってソレ…。
全編こんな感じで進められる備忘録。
自分から土下座しかけてまで「自分が乗ります、乗らせて下さい」と頼み込んだくらい惚れ込んだウッマに対する『愛』が読めるゾ。
最愛の存在を亡くしてしまった人間の極地点を垣間見ることができる。

あの日からずっと、白峰透はシルバーバレットの死を信じなかった。


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僕だけしか知らないコト

この状態のこのコンビのことを作者は『ロマンスがありあまる』(ゲスの極み乙女。)だと思っている。


どうしようもなく痛くて、苦しくて、たまらなかったのを覚えている。

 

(ここは…)

 

次に意識を戻すとたくさんの人が泣いていた。

どうしたのかと思っても僕の体は誰にも触れることができなくて。

そんな僕は泣いている人たちの中で唯一泣いていなかった騎手くんについていった。

 

妹のシルバフォーチュンは元気そうで何よりだった。

騎手くんのいうこともちゃんと聞いていたようだし。

フォーチュンの活躍を見届けてから、次に騎手くんが面倒を見ることとなったのは新しい僕の弟だというサンデースクラッパだった。

スクラッパは勘が鋭いのか何なのか、誰にも見えない僕に気づいていたようでいつも怯えていて、騎手くんが危なかったのでその間だけは少し遠くから見守っていた。

 

それから、スクラッパの面倒を見終わって騎手くんは事故に遭って騎手を辞めた。

騎手を続けられないほどの怪我だったのだという。

騎手を辞めた騎手くんはめっきりと人に会うのを止めた。

あまり人の来ることがない安いアパートの一室で僕の写真を見ては泣き、僕の名前を呼びながら眠ってうなされて起きてを繰り返して。

憔悴しきった彼は正直見ていられなかった。

もう、その頃には僕も自分が死んだのだと気がついていたけれど。

 

(騎手くん…)

 

何もできないなりに、

 

(嬉しいよ)

 

どうにかしてこの現状を打破した方がいいと畜生にしては賢い頭が言っていたけれど。

騎手くんが僕のことを覚えていてくれているのが嬉しい。

騎手くんが僕のために泣くのが嬉しい。

騎手くんが僕の夢を見てうなされているのが嬉しい。

騎手くんが僕の帰りを待ってくれているのが嬉しい。

騎手くんが僕の死を信じていないのが嬉しい。

騎手くんが、騎手くんが、騎手くんが、騎手くんが、…。

一番嬉しいのは、

 

(僕が騎手くんにとっての一番の疵になれていること…)

 

日常生活もままならないくらいに僕のことを思ってくれている。

眠れないほどに僕の帰りを待ってくれている。

 

(…なんて可哀想な騎手くん)

 

僕みたいなヤツに囚われて可哀想。

でも、でもさぁ、

 

(それが嬉しいんだ)

 

おかしいだろうけど。

騎手くんは僕のことを最高の相棒だと言うけど、僕がこんなヤツだったって知ったら幻滅するだろうけど。

 

(騎手くん。キミは…僕にとってカミサマみたいなヤツだったんだぜ)

 

こんな僕を一身に信じてくれた。

僕がいいと、僕じゃなきゃ駄目だって言ってくれた。

 

(…騎手くんはあと何年生きるんだろう)

 

僕は、どれほどキミがおかしくなろうとも傍にいるよ。

見えなくても傍にいるよ。

キミが亡くなったら、僕が足になって楽園へ連れて行ってあげる。

 

(それまでは…、それからもずっと一緒だよ)

 

…愛してるぜ、透。




お互いがお互いを「自分にはもったいない相手」と思ってるけど、それはそれとしてお互いに相手が選ぶのは何度生まれ変わっても未来永劫どう足掻いたって自分だけって考えている白峰おじさんとシルバーバレット。
お互いに愛が重いし、執着もバリバリだし、失礼だな純愛だよしてるんだ。

あの日からずっと、シルバーバレットは白峰透のそばにいた。


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*シルバマスタピース(ウマ娘):大百科風

かえらなかった世界線。


シルバマスタピース(ウマ娘)

シルバーマスタピース

 

僕はシルバマスタピース。

今度こそ、"あの娘"を逃がすつもりはありません。

 

 

シルバマスタピース(ウマ娘)とは、Chaygamesのメディアミックスプロジェクト『ウマ娘 プリティーダービー』の登場キャラクター。

 

実在の競走馬「シルバマスタピース」をモチーフとするウマ娘である。CV: ××××

 

 

◾︎ 概要

 

誕生日:4月5日 身長:178cm 体重:標準 スリーサイズ:B95/W65/H88

 

恵まれた体格と名家の生まれから期待されているウマ娘。

だが、いつも一緒にいる人形を大切にしすぎることがたまにキズ。

そして、その人形と同じくらい自分の脚に気を使っている。

 

より

 

 

デビュー前から多くの期待を受けるウマ娘。だがいつも一緒にいる人形を大切にしているがあまり、人との関わりを疎かにする傾向がある。

非常に恵まれた体格は史実からで、史実の彼女の片割れにいた"ある馬"と比べるとその差は一目瞭然。

また約束を破ることを何よりも嫌うウマ娘である。

 

世代はミスターシービーと同期でクラシックをともに争った仲。

現役期間は1982~1987年。マイル戦を主な主戦場とし、同期であった『マイルの皇帝』ニホンピロウイナーとともに時代を駆け抜けた。

マイル戦に特化した戦績と非常に美しい栗毛の隆々とした馬体からつけられた異名は『マイルの貴公子』。

 

勝負服は黒を下地に胴に白色の一本輪、袖には黄色の二本輪を巧妙に落とし込んだスーツ姿。史実の彼女が『マイルの貴公子』と謳われたからか、どこか少女歌劇の男役に見えなくもない。

 

◾︎ ゲームでの扱い

◾︎育成ウマ娘:銀のキセキの証明者

 

ステータス

スピード スタミナ パワー 根性 賢さ

95 85 85 95 90

バ場適正

芝/ダ,海外芝/海外ダ

A/F,B/G

距離適性

短距離,マイル,中距離,長距離

E,A,C,G

脚質適正

逃げ,先行,差し,追込

B,A,G,G

成長率

・スピード+15%

・パワー +15%

固有スキル『いつかその背に届くまで』

最終直線で先頭でない時、前を走る"あの娘"を追いかけるために抜け出しやすくなり、すごく加速する。

 

・習得スキル

>春ウマ娘-春のレースが少し得意になる

>集中力-スタートが得意になり出遅れる時間がわずかに少なくなる

>マイルコーナー○-コーナーで速度がわずかに上がる〈作戦・マイル〉

 

・覚醒Lvで習得するスキル

>直線巧者(覚醒Lv2)-直線で速度がわずかに上がる

> アンストッパブル(覚醒Lv3)-レース中盤に速度が上がる〈作戦・先行〉

>コーナー巧者○(覚醒Lv4)-コーナーが得意になり速度がわずかに上がる

> スピードスター(覚醒Lv5)-最終コーナーで抜け出しやすくなる〈作戦・先行〉

 

・固有二つ名「マイルの貴公子」

>シニア級安田記念、宝塚記念を含むG1を3勝以上し、23戦以上で育成を終了させる

 

◾︎ 育成目標

1.ジュニア級6月:メイクデビューに出走

2.ジュニア級12月前半:阪神JF(G1)で5着以内

3.クラシック級3月前半:弥生賞(G2)で5着以内

4.クラシック級4月前半:皐月賞(G1)に出走

5.シニア級3月後半:ファンを160,000人以上集める

6.シニア級6月後半:安田記念(G1)で3着以内

7.シニア級6月後半:宝塚記念(G1)に出走

8.シニア級11月後半:マイルチャンピオンシップ(G1)で1着

 

◾︎ 概要

20××年6月のぱかライブ内にて実装決定の報告が成された。

そして満を持して20××年11月に実装された。この日は彼女に縁深い"あの馬"の命日だったりする。

 

成長補正がスピードとパワーに、かつ平等に分配されているため根性育成と相性がいい。

また、バクシン脳育成でも攻略できる。

しかし問題なく育成を進めるためには継承が必要不可欠。

 

隠しイベントとして、シニア級ジャパンカップにて1着時のタイムが2分19秒0、もしくはそのタイムよりも速かった場合、スピード・パワー・賢さが大幅にアップするというイベントが存在する。

 

固有二つ名は「マイルの貴公子」。条件は「シニア級安田記念、宝塚記念を含むG1を3勝以上し、23戦以上で育成を終了させる」。きちんと育てておけば獲得はそこまで難しくない部類の二つ名となっている。

特殊実況はシニア級宝塚記念。条件は中距離適正Cのままで、2着との差が1/2以下で勝利すること。

 

育成シナリオは幼き日からともにある人形(シルバマスタピースがいうには"あの娘")を追いかけ、その存在を証明することが根幹となっている。またシルバマスタピースはその人形のことをとてもとても大事にしており、その人形(の元になった人物)が世界に存在すると心底から信じきっている。なので人形を馬鹿にされたり、存在を否定されることを大いに嫌っている。

そのため稀有な実力を持ちながら人形の存在のためにトレーナーがいなかった彼女に出会うところから物語ははじまり、トレーナーは彼女と二人三脚で"あの娘"を追いかけていくこととなる。

 

◾︎ 関連ウマ娘

ミスターシービー

モチーフ馬は同期である三冠馬。1984年クラシック競走にて対戦。

人形のことに何も言わず、逆に話しかけてくれる彼女をシルバマスタピースは好意的に見ているようだ。

 

シンボリルドルフ

モチーフ馬は一年後輩の三冠馬。特段関わりはないのだが彼女と関わりの深かった"ある馬"が、その活躍から戦ってみて欲しかった相手としてシンボリルドルフがよく名指しされていることからの関わりと推測されている。

 

シルバーチャンプ

モチーフ馬は同冠名の後輩。

彼女のことは特に気にかけており、ところどころで世話を焼いている。

シルバマスタピース本人が言うには「あの娘の代わり」とのこと。

史実ではシルバマスタピースと縁深いある馬の甥っ子。

 

◾︎ 史実

 

1980年生まれの牡馬。父トウショウボーイ、母シルバーライラック、母父タイテエム。ある『英雄』とともにあった、唯一の馬。

 

1982年にデビューすると、スルスルと連勝し阪神3歳Sに出走。だが同冠名であった『英雄』に敗北。

1983年には厩舎の火事から生き残り、怪我にて出走ができなかった『英雄』の代わりに三冠競走へと出走。だが惨敗。

それから主戦場をマイルに移したことで覚醒。1984・1987年度の安田記念を獲り、適正から考えると距離が長いながらも1986年の宝塚記念をクビ差でしのぎ切り勝利した。…というそれなりに強い競走馬であったのだが、彼の場合よく語られるのは彼自身の競走能力よりもともにあったある『英雄』の存在である。

 

『英雄』とは何者か?

その存在の名は"シルバーバレット"。

競馬の世界にいるもので父ヒカルイマイの競走馬である彼の名前を知らぬものはいないだろう。

日本競馬史上初の凱旋門賞・BCクラシック制覇馬。

いや、それよりも芝2400mのワールドレコードを今現在も所持している馬といった方がいいか。

そんな競走馬とシルバマスタピースは幼駒時代からともにあり、馬主をして「どちらかが牝馬であったのなら子どもを成していただろう」と評されたほどの仲の睦まじさであった。

 

だがシルバーバレットはシルバマスタピースの元に帰ってこなかった。

輸送機が海に墜落したことにより没してしまったのだ。

幼き日からずっと共にあったシルバーバレットが帰ってこないことにシルバマスタピースはいつしかおかしくなり、これまでの大人しく従順な性格からうってかわって近づくものすべてに襲いかかるようになった。

主戦騎手であった××××元騎手でさえも下手に近づけば殺されかねないまでに性格が変質してしまったシルバマスタピースであったが、そんな彼に唯一近づける人間がいた。

それはシルバーバレットの主戦騎手であった故・白峰透元騎手である。

白峰元騎手が来た時に限り、シルバマスタピースは往年のような穏やかで優しい性格に戻ったという。

 

そんなシルバマスタピースは201×年6月25日に息を引き取った。

享年3×歳。その日は奇しくもシルバーバレットの誕生日であった。




シルバマスタピース(史実‪√‬軸):僕の親友。
僕とはどちらかが牝馬であれば子どもを成していたと馬主に言われるほどの仲。
しかし僕に置いて逝かれ、発狂。
元々の穏やかだった性格とうってかわって非常に凶暴な性格になってしまった。
だが僕の主戦騎手であった白峰透が来た時だけは元に戻ったらしい。
…同じ者を亡くした同士の傷の舐め合いだったのかもしれない。


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*キミだけがいない世界

……『約束』、破ったからこうなったの?
だったら…、だったら謝るから!
何度だって謝るから!だから、だからだからだから!

『かえってきてよぉ、チビぃ…』


シルバマスタピースには大切な"ともだち"がいる。

だがその"ともだち"は周りの人々から見るとおかしくて、名家の生まれのウマ娘であるはずなのに、彼女はいつも遠巻きにされていた。

しかし彼女はそんなこと全然気にしない。

 

「バレット、今日もいい天気ですねぇ。

こんな日は『走りに行こう!』って僕のことをよく誘ってましたよね」

 

穏やかな陽射しを浴びながら、そう会話するシルバマスタピースの手に抱かれているのは小さなウマ娘の人形。

だがその人形は生きているかのように精巧で、その精巧さはその人形を見た人に「不気味の谷」を思わせるほどだった。

そんな人形にシルバマスタピースは名前をつけている。

"シルバーバレット"という名前を。

 

 

シルバマスタピースには幼い頃からずっと、漠然とした喪失感があった。

誰かがいない。自分の一番大切な部分を構成する誰かがいない。

そのような事実に気づいてしまったシルバマスタピースは良い風に言い換えて、錯乱という状態になってしまった。

それまでは良家の子女らしい女の子であったのに、と彼女の両親は頭を抱え、一向に回復傾向に向かわない愛娘に悩みに悩んだ末与えたのが、あの不気味の谷を思わせる"シルバーバレット"と名付けられた人形だったのだ。

 

"シルバーバレット"はシルバマスタピースの要望通り作成された世界にたったひとつだけの人形。

たくさんの試作品を「これじゃない」と壊し続けてやっと認められた作品なのだ。

 

"シルバーバレット"を与えられて、シルバマスタピースはようやっと落ち着いた、のだが"シルバーバレット"を取り上げようとしたり、"シルバーバレット"のことを乏しめたりするとまたあの頃のように錯乱してしまうようになった。

"シルバーバレット"をこの世界で生きている存在として扱わないとその相手が誰であれ、場所がどこであれ、ウマ娘の肉体能力の限りを尽くして暴れ散らすようになってしまったのだ。

 

その欠点さえなければ学力・競走能力どちらともどこに出しても恥ずかしくない良い子の娘であるため、彼女の両親はその欠点に目を瞑り、トレセン学園へと彼女を通わせることになった。

それには彼女がトレセン学園での生活を通じて、"シルバーバレット"に頼らずとも生きていけるようになればいいとの願いが込められていたのだろうが…。

 

「バレット、今日のご飯は何にしましょうか?

最近寒くなってきましたから、困りましたねぇ。

何でも好きな料理をおっしゃって下さいね?

僕が作りますから」

 

シルバマスタピースの欠点は両親の目がなくなったことで更に悪化した。

いつでもどこでも"シルバーバレット"と共にある、ふたりだけの世界を形成してしまったのだ。

そして、そんな生活でも学業と必要最低限の数のレースを問題なくこなしているからタチが悪い。

彼女はトレーナーがおらずともある程度の成績をあげてしまったのだ。

 

「…トレーナーなんて要りませんよ。

僕にはバレットだけがいればいいんです、ねぇ?」

 

シルバマスタピースの実力を見初め、トレーナーを打診してきた人間は今までたくさんいた。

しかし、その誰もが"シルバーバレット"と共にあるシルバマスタピースを見ると打診を撤回するのだ。

 

「『そんな人形と一緒にいるとキミの身にならない』なんて馬鹿なことを言ったヒトもいましたっけ。

僕はキミがいるから強いのに、キミがいなくちゃ生きていけないのに…」

 

そうボヤくシルバマスタピースの言葉に応えるものはいない。

そして未だシルバマスタピースにトレーナーがつく予定はない。

 

だがもしも、もしもの話だと仮定して。

こんな彼女たちの関係のすべてを受け入れてくれるトレーナーが現れれば、どうなるだろう。

"シルバーバレット"のことを恐れず、またシルバマスタピースと同等、いやそれ以上に"シルバーバレット"をこの世界に存在するウマ娘だと扱ってくれる人がいたなら…?

 

「…まぁ、そんな人いるわけないですけどね」

 




シルバマスタピース:置いていかれた世界のすがた(ウマ娘)。
幼いころにもらった"シルバーバレット"と名付けた精巧な人形を大切に、…自分よりも大切にしている。
人形を大切にしながらも"シルバーバレット"はこの世界のどこかにいると信じている。…信じておかないと本当におかしくなってしまうから。

趣味は絵を描くこと。しかしそのモチーフはいつも同じで、謎の四足歩行の生き物の絵を描いている。本人いわく『忘れないように』という理由からだという。

育成ストーリーはプレイヤー評的には「なんでウマ娘でホラーやってんの?」とのこと。
しかし、現実に置いていかれてしまった者としての前例&同類()がいらっしゃるので受け入れられている。
明らかに「こちら側」を認識しているウマ娘。
他のウマ娘のストーリーに出てきてもこちらをずっと見ている。
よくこちらに話しかけてきてはキャラに「どこに話してるんですか?」と聞かれている。

あなた、"シルバーバレット"のこと、知ってますよね?

>>はい
>>はい
>>はい

そうですよねぇ、バレットは存在するんです。
えぇ、えぇ、そうですとも!!


勝負服に差し色の白と黄色が入っていなかったら喪服に見えるとはもっぱらのウワサ。

育成ストーリーは彼女の史実をなぞりながらも、"シルバーバレット"のキセキも共に語られている。…誰よりも近くにいたシルバマスタピースの語りによって。

トレーナー:画面の向こうの『あなた』。
なんとなくバレットが大事にしていた"あの人"の面影を感じますが…、まぁそうですよね。
"あの人"がバレットの存在を信じない、なんてことありませんから。
…それはそれとして。
『あなた』。
そうそう、『あなた』です、『あなた』。
『あなた』は"シルバーバレット"のことを知っている。
僕よりもずっとずっと、"シルバーバレット"の存在を信じてくれている。…そうでしょう?
だから、

今までも、これからも、ずっとずっと、……そうあってくださいね?


そ う あ っ て く れ ま す よ ね ?


実は今回の実装にともない、「本当はシルバーバレットの海外遠征のとき、シルバマスタピースが帯同馬としてついていくはずだった」という地獄のこぼれ話が馬主(息子)の手によって某SNSサービスで呟かれている。

大☆戦☆犯(おにんぎょうのすがた):すべてを狂わせた元凶。
もしくは(世界から)逃げるな卑怯者。
決してこちらの世界に来ることはない(はずの)存在。
シルバマスタピースの不調イベントの夢にて『僕が居なくても大丈夫だよな!』と言って走り去って行こうとするらしい。行くな、帰ってこい。
また、ともにこちらに来ることができないもの同士としてマンハッタンカフェの"お友だち"と仲良くしていたりするかもしれない。


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生存IF‪√‬で実装された時の話

リクエストより【生存IF√でのウマ娘においてシルバーバレット実装時の掲示板での反応や関係者の反応】です!


【速報】白峰おじさん…

 

1:名無しのトレーナーさん

 

遂にウマ娘を始める模様

 

【待っててね、バレット…とのコメントがついたウマ娘のスタート画面のツイート】

 

 

2:名無しのトレーナーさん

 

そりゃそう定期

 

 

3:名無しのトレーナーさん

 

運命の相棒だからね、仕方ないね

 

 

4:名無しのトレーナーさん

 

まさかシルバーバレットが来るとは…

 

 

5:名無しのトレーナーさん

 

いや、あの冠名のウマ娘ってメジロ並にいるからもしかして、とは思ってたよ?

でもまさか来るとはさぁ…

 

 

6:名無しのトレーナーさん

 

SSと真っ向からやり合ってた大種牡馬だから…

父よりも母父になってからがバケモンだったけど

 

 

7:名無しのトレーナーさん

 

絶対来ないと思ってた馬だわ

 

 

8:名無しのトレーナーさん

 

これ、おじさんみたく「シルバーバレット」が来たならってウマ娘始めるやつ結構いるんじゃね?

 

 

9:名無しのトレーナーさん

 

おじさんバレットが配布でよかったね…

 

 

10:名無しのトレーナーさん

 

課金キッツイからな…

 

 

11:名無しのトレーナーさん

 

でもあのおじさんのことだからすぐ最大覚醒まで持っていってそう

 

 

12:名無しのトレーナーさん

 

>>11

それはそう( ˇωˇ )

 

 

13:名無しのトレーナーさん

 

外伝ストーリー、王道の英雄譚で好き

 

 

14:名無しのトレーナーさん

 

わかる(わかる)

 

 

15:名無しのトレーナーさん

 

世界をひっくり返す物語、か…

 

 

 

 

30:名無しのトレーナーさん

 

白峰おじさん、シルバーバレットに三冠を獲らせた模様

 

【「夢叶う」と書かれた三冠獲得の隠しイベント】

 

 

31:名無しのトレーナーさん

 

ファッ!?ウッソだろおい!?

 

 

32:名無しのトレーナーさん

 

>>30

あの鬼畜ゲー勝たせたんか!?

 

 

33:名無しのトレーナーさん

 

おじさん初心者だったじゃん…

なのに俺は、俺は…

 

 

34:名無しのトレーナーさん

 

これおじさんが隠しイベ初発見者ってこと?

 

 

35:名無しのトレーナーさん

 

>>34

多分そう

 

 

36:名無しのトレーナーさん

 

ウマ娘のシルバーバレットにはじめて三冠を獲らせたのが史実馬の主戦騎手だったっての話ができすぎてて草

 

 

37:名無しのトレーナーさん

 

普段ゲームしないおじさんでもできたから大丈夫!じゃないんだよ

 

 

38:名無しのトレーナーさん

 

おじさんやっぱ銀弾に対しての熱量パないな…

 

 

39:名無しのトレーナーさん

 

おじさん、そうかからない内に銀弾杯で無双しそう

 

 

40:名無しのトレーナーさん

 

さすが銀弾廃人なだけあるわ(畏怖)

 

 

 

 

【スレは続いていく】

 




白峰おじさん:銀弾大好き。
基本娯楽はしないのだが今回ウマ娘にかつての最愛で最高の相棒が実装されたためプレイ開始。
各キャラ育成の中でも超鬼畜ゲーだったクラシック三冠をシルバーバレットに獲らせた。
隠しイベント初発見者になった。
たぶん殿堂入りのところはシルバーバレットばかりになっていそう。


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無敵の弾丸へ、キミに魅せられた僕らより

周りのヤツらを目とか脳を丸焼きにするタイプの存在。


シルバーバレットが死んだ。

寒い冬が首をもたげてきた日のことだった。

地の果てまで駆けれただろう存在は空へと昇り、海へと堕ちたらしい。

 

「うそだ…」

 

そう呟く自分を嘲笑うかのように情報番組はシルバーバレットの訃報を垂れ流す。

画面の一部を占領する写真に『あぁ、キミはそんな顔をしていたのか』と考える。

誰もが遠ざかるキミの背を見るしかなかった。

追い縋ることしか、いや、追うことさえ許されなかったキミ。

すべてを覆い隠す勝負服をまとったキミの目に映っていたものはきっと、先頭の景色だけだろう。

 

どれほど必死で走ろうがただキミは前にいる。

顔のない者。影のない者。

その呼び名は確かにキミを現していた。

けれど、……キミがいなくなって数年経った今だからこそ考えることがある。

あの時、もしも自分がキミを追い抜かせていたのなら。

キミは今もまだこの世界にいてくれただろうか、と。

"楽園"なんて場所じゃなくて、ゴミゴミしてるけど、それでも愛おしいこの世界に。

どれだけ走っても抜かせなかったその背を追い抜かすことができれば、

できていれば、

 

「キミは、ここにいてくれた…?」

 

自分に勝てるやつがいないから"楽園"に行ったのだ、なんてキミの存在を覚えている人たちはそう言って自分を慰めている。

その言葉を聞くたびに自分は思うのだ。

『あぁ、あの時キミの背に届いていれば!』と。

そうしていればキミの目は"楽園"なんかに向かなかっただろうから。

キミは最期まで負けたことがなかったんだってね。

ならさ、キミを負かせることができていたのなら、そうなった可能性もあるわけだ。

…まぁ、結局はたらればの話だけれど。

 

でも、そう考えちゃうんだ。

たぶんキミと一緒に走った人たちはみんなそうだと思う。

キミの遠ざかる背に絶望しながらも、どうしようもなく惹かれてしまって。

 

だから今でも。

あの時代にいた人間は走り続けている人が多い。

気づいたらキミと走ったことのある人だけが参加できるグループチャットまで作っちゃったんだ。

でね、そこでみんな言ってるよ。

『シルバーバレットはいなくなったけど、いつか追いつけるように頑張ってる』って。

キミみたいになりたいって、キミのようにはなれないと知って絶望したって、走ることをやめられないって。

 

シルバーバレットの走りに魅せられたから止まれないんだ、って。

 

だからさ、いつか"楽園"に辿り着いたらよろしく頼むよ。

そしてまたあの時みたいに、一緒に走ってくれるとうれしいな。

 




シルバーバレット:追いつきたかった存在。でも勝ち逃げされた。
あの遠ざかる背はどうしようもなく絶望的であったけれど、魅せられずにはいられなかった。



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春にサクラは咲くものだ

『この馬、天皇賞・春を勝てますよ』
はじめそう言われた時、その男がなにを言っているのか分からなかった。
『僕なら勝たせることができます』
その言葉を言ったのが他の人間であったのならただ一笑に付しただろう。
だが、その男の言葉には…、
『どうします?』
その男の手を取った私は、見た。
それが『奇跡』なのか、それとも『魔法』であったのかは分からない。
だが、そういった類いのものを、私はあの日、しかと目に焼き付けたのだ。


「天皇賞・春を勝ちたい…?」

「ハイっ!」

 

予定表を持つ僕の横にいるのは、現在面倒を見ているサクラバクフウオー。

僕が面倒を見た者の中でもシロガネシンゲキと並ぶ、生粋のスプリンター。1200mのスペシャリスト。それがサクラバクフウオーである。

 

「なんで?高松宮記念も出るだろう?」

「天皇賞・春を勝つのがオレの夢ですので!

…もしかして、お忘れでしたか?」

「…いや。そうか」

 

キラキラと目を輝かせるバクフウオー。

…こうなったコイツはもう止められない。

 

「…分かった」

「!」

「作戦を考える。やるからには、勝つぞ」

「ハイっ!!」

 

 

それから、時は経ち天皇賞・春。

サクラバクフウオーは昨年の最優秀短距離選手賞を獲った存在だ。

そして前走の高松宮記念も楽々と勝利しており、調子も上々。

…完全に思惑通りだよ、笑えるくらいにね。

 

「気分はどうだい?」

「えぇ、これ以上ないと思えるほど良いです!」

「なら良し。…楽しんでいこう」

 

サクラバクフウオーの今回の人気は下から数えた方がはやい。

そりゃあそうだ、サクラバクフウオーという存在には短距離を主戦場とする生粋のスプリンターという、または最初から最後まで体力の続くかぎり逃げ続ける存在だという()()()()()()()のだから。

それを利用しない手はない。

 

ゲートが開いて飛び出していく彼らを後目にサクラバクフウオーは最後方に控えた。

ほら、もうここから崩れてる。

誰もがサクラバクフウオーがレースを作ると思っていたのだろう。

レースを作らせて、落ちてきたところを喰らえばいい、と。

だが今回は違う。

いの一番に飛び出してしまったヤツはそのまま走り続けるしかないし、後方も後方でサクラバクフウオーがその場所にいることに動揺している。

 

そう、それでいい。

それでこそ事前にスクーリングをして体に叩き込ませた甲斐がある。

 

…知ってるか?

サクラバクフウオーってのはな、生粋の、1()2()0()0()m()()()()()()()()()なんだぜ?

 

 

あの方だけがオレの夢を笑わなかった。

『やるからには勝つ』と、そう言ってくれた。

高松宮記念のトレーニングと並行しての練習は死ぬんじゃないかと思うほどキツかったですが、あの方の信頼を頼んだ側のオレが踏みにじるわけにはいきませんので。

 

ゆっくり、ゆっくりとひとり、またひとりと抜かしていく。

普段の自分では考えられないほどの距離を走っているというのに、脚も、肺も笑えるほどにピンピンしている。

 

『残り1200m!ここでサクラバクフウオーが先頭に立ちました!!』

 

「…では、スプリント勝負としゃれこみましょうか」

 

ドッ、と脚が強く強く地面を踏み込む。

そして、疾駆(ギャロップ)

 

「1200mなら誰にも負ける予定はありませんので」

 

ここからはいつも通りの走り。

後方から追いすがってくる音がしますが、

 

『いつだって!春に桜は咲くものだ!!

薄曇りの京都に満開の桜が咲き誇る!!

なんと、なんと!1200mのスペシャリスト・サクラバクフウオーが!!天皇賞・春を逃げ切った!!!!』

 

このサクラバクフウオー(オレ)が、

 

シルバーバレット(あなた)の期待を裏切るわけがないでしょう?」

 

大きな大きな歓声を浴びながら、そうサクラバクフウオーがつぶやいた言葉にシルバーバレットはこくりと、満足気に頷いていた。

 




サクラバクフウオー:父サクラバクシンオー、母父シルバーバレット。
生粋のスプリンター。1200mのスペシャリスト。
生涯短距離戦線を沸かし続けたが、人々の記憶に刻み込まれているのはあの一戦だろう。
騎手生活晩年の白峰透が手綱をとった天皇賞・春。
1200mなら誰にも負けない。負けることを知らなかった競走馬。
それがサクラバクフウオーである。


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◆マブとの話

こんくらい激重感情抱かれてていいと思うんだ…。

【追記】
誤字報告ありがとうございます。


SS:助けて

銀弾:どした

SS:とりあえず助けて

銀弾:り

 

突然来たマブからのメッセージに了承の言葉を返す。

どこにいるの?と聞けば位置情報が送られてきた。

…まぁ、この距離ならちょっと走ればすぐか。

そんなことを思いながら、僕はミスターとルドルフがいつものように僕の取り合いをしている現状から駆け出すのだった。

 

 

…どうしてこうなった。

現実逃避に額を押さえながらサンデーサイレンスは救援を求めたマブダチのシルバーバレットを待っていた。

 

「サンデー」

「…助かった」

 

軽く肩を叩いてシルバーバレットがやって来たことを告げる。

酷く憔悴しているサンデーサイレンスと言い争っている彼らを見比べながらシルバーバレットは口を開く。

 

「…あれ、メジロのとこのマックイーンちゃんと…誰?」

「俺の現役ん時のライバル…」

「なるほど納得かたつむり。

ねぇ、サンデー」

「なんだ?」

「ハンバーガー食いに行こうぜ」

「ノった」

 

 

シルバーバレット、サンデーサイレンス双方ともに自分がそこまで他人に好かれているとは思っていないクソ鈍ウマ娘であるので。

二人ハンバーガーに舌鼓を打っている裏で、置き去りにしてきた彼らがどうなっているかなど全くもって考えていなかったのだ。

 

「なんでアイツ日本に来てんだよ…。コッチは愛しのマックちゃんとのデートを楽しんでたってのに…」

「相変わらずマックイーンちゃんのこと好きだね」

「オメーこそよく俺のトコにすぐすっ飛んでこれたな」

「アハハ〜、コッチもねいつもの二人に取り合いされてたところだったから…」

「…お前も大変だな」

 

先程のことを思い出し、二人して重いため息をつく。

二人とも思うことは同じだ。

「なんでアイツらは自分みたいなヤツを取り合うのだろう?」

「自分なんかを欲しがって周りに迷惑をかけるな」と。

 

「これ食い終わったらゲーセンでも行こう」

「そうだな…」

 

モソモソと無言でハンバーガーを胃に落としていく。

これが終わったら二人で遊ぶんだ…!と希望を持つ二人であったが、

 

「「あっ」」

「「サンデー?/サンデーさん?」」

「「シルバー?」」

「「ヒエッ」」

 

二人がお互いの背後にいる存在に気づいたのはほぼ同時で、ポンと両肩に手が乗せられたのに青ざめながら油の切れたブリキの人形のように振り返る。

 

「いや、あの、ホント…」

「ゆ、ゆるして、ゆるしてェ…!」

「「「「ん?」」」」

「「ホントすみませんでしたァッ!!」」

 

こうして逃げ出した二人は捕らえられた。

このあとどうなったのか、それは捕らえられた彼女らしか知らないことである…。




僕&SS:自己肯定感低めのマブダチs。
仲良く楽しくやってるが激重感情を向けられていることになかなか気づかない模様。
もう数年したらトレセン学園でふたり揃ってトレーナー業してると思う。


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お前にだけは負けられない

夢はまだ、終わらない。


小さなころからずっと、俺の前にはお前がいた。

"シロガネハイセイコ"。

同じ親父から生まれた、ある意味半身。

見惚れるような馬体と、それをも凌駕する力強い走り。

……あぁ、見蕩れなかったといえばウソになるさ。

憧れなかったといえばウソになるさ。

でもさ、俺はさぁ…、

 

(お前に勝ちたいんだよッ!)

 

お前が『アイドル』だというのなら、俺は『ヒーロー』なんだ。

ほら、…主役(ヒーロー)は遅れてやってくると言うじゃないか。

 

『シロガネハイセイコが逃げる。

ハイセイコが逃げる。

無敗の三冠なるか!

父であるシルバーバレットの夢を叶えるか!?

ッおーっと、ここでシロガネヒーローも飛んできた!

猛烈な勢いで詰め寄っていく!

逃げ切るか!差し切るか!

差した、撫で切ったァッ!!

シロガネハイセイコ!お前のライバルは俺だーッ!!

シロガネヒーローが菊花賞を勝ちました!』

 

なんつー顔してるんだ。

撫で切る一瞬、目を見開いたお前の顔のなんと面白いこと。

そして、今。

誰も見ていなかったぼんやりとした目にギラついた焔がともった。

…それのどこが『アイドル』なんだか。

 

 

父のようになりたかった。

父の夢を叶えたかった。

僕は"ハイセイコ"だから、そうあれと願われた。

ただ、その夢を追い続けた。

 

父の相棒だった人が僕の手綱を握り、僕の力を何倍にもして引き出した。

だから、慢心していたのかもしれない。

 

『シロガネハイセイコが逃げる。

ハイセイコが逃げる。

無敗の三冠なるか!

父であるシルバーバレットの夢を叶えるか!?

ッおーっと、ここでシロガネヒーローも飛んできた!

猛烈な勢いで詰め寄っていく!

逃げ切るか!差し切るか!

差した、撫で切ったァッ!!

シロガネハイセイコ!お前のライバルは俺だーッ!!

シロガネヒーローが菊花賞を勝ちました!』

 

気づけば僕の横にキミがいた。

幼いころからずっと一緒のキミ。

完璧なレース展開のはずだった、体調だって今まででいちばん良かった。

なら、なぜ負けた?

 

呆然とする僕の前でキミが笑う。

負けた僕を嘲笑っているというわけではない。

それが分かっているのにどうにも気持ちに整理がつかない。

 

「…気持ちで負けたねぇ」

 

そう、父の相棒だった人が言う。

気持ち。

ぼんやりと歩く僕に彼は「それが『悔しい』ってことさ。…そういえばキミは、負けたことがなかったね」と言う。

 

「今、それが知れてよかった。

キミは強くなれる。

今よりもずっとずっと」

 

この気持ちを糧にしろと言う。

それが大きな焔になるのだと。

『負けたくない』という、勝利への執念になるのだと。

 

そう…、そっか。

……なら、今度こそ。




シロガネハイセイコ:
シルバーバレットの初年度産駒。母父ハイセイコー。
主戦騎手は白峰透。
負けたのは唯一シロガネヒーローだけ。
この菊花賞のあとに腹いせとしてジャパンカップを取りに行く。
性格はいちばん父よりで、敗北を知ったシルバーバレットともいえるかもしれない。

シロガネヒーロー:
シルバーバレットの初年度産駒。母父タケホープ。
主戦騎手は某ヒットマンさんかな〜?という感じ。
ガチガチのステイヤー。
だが生涯敗北を喫した相手はシロガネハイセイコだけ。
明るいが少々調子乗りな性格っぽい。

シルバーバレット:
子どもたちにはわわ…ってなってる。
初年度から桜花賞・皐月賞・日本ダービー・菊花賞を子どもたちが獲ってきたのに宇宙猫してる。
なおこのあとも子どもたちがバカスカ勝ってくるし、どっちかというと日本G1より海外G1をかっさらってくる子どもたちなのでそのたびに宇宙猫顔。
最終的には子どもたちが優秀すぎて怖くなってべそかきはじめる。
ちな、産駒の中で唯一未勝利だった子も種牡馬になったら大成功かましてそれにもガチ泣きした(怖くて)。


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Can not live without you.

もしくはどうかプリムラの花束を。


今日は久しぶりに先生の様子を見に行く日だ。

先生はひとり暮らししているのだけれど掃除も洗濯も料理もできない御人であるため時たま様子を見に行くことにしている。

長く一緒に過ごしている間に多少の家事は教え込んだけれどそれでも危ういため、早くお嫁さんを見つけて欲しい。

先生は優しいし気が利くナイスミドルなんだから本気になれば女性なんてよりどりみどりなのでは?なんて。

そんなことを考えていたのだけど、

 

「先生!?」

「……バレット?」

「なんでこんなにやつれてるんですか!

それに家も埃っぽいし!

一週間でこんなになりますか!?」

 

訪れた先生の家はビビるほどヤバかった。

埃まみれだし、着ている服はシワだらけだし、冷蔵庫覗いても何もないし、ゴミ箱を見たら冷食のカラが時おりあるだけ。

 

「あ゛〜、もう先生!

先生が生活改善するまで僕泊まるから!

布団あるでしょ、貸して!」

「あ、あぁ……」

 

勝手知ったる先生の寝室に入り、いつもの場所から僕用の布団を取り出す。

……うわ、なんかコレも埃っぽい。

明日にでも洗お。

 

「先生、美味しいですか?」

「うん」

 

先生は何だか弱っているように見えた。

一週間前はこんなんじゃなかったのにと思いつつも世話を焼く。

買い物は先生がしてくれるのでもっぱら家の掃除をしている。

しかし先生は食事のための買い物以外は外に出ないので不思議に思い、「トレーナーの方はどうしたんですか?」と聞けば「…一身上の都合で休職してるんだ」と返ってきたのでもっともっと先生を元気付けなければ!と意気込んだ。

 

「バレット、バレット……」

「はいはい、先生ここにいますよ」

 

僕と先生は布団を並べて眠っている。

昔から、先生の家に泊まりにきた時の決まりだ。

先生はよく僕の名前を呼んでうなされている。

さっきみたいに声をかけて手を握ってあげると落ち着くけど、心配だなぁ…。

 

「先生、はやく元気になってくれるといいなぁ」

 

 

シルバーバレットが亡くなったなんて嘘だ。

だって戻ってきたじゃないか。

今までみたいに僕の不摂生を怒って料理を作って笑ってくれる。

 

「最近ドリームトロフィーリーグから勇退しまして、またトレーナーになろうと思ってたんですけど…先生がこの状況なのは僕にとって不本意ですからもう少し見送ろうと思います」

 

そうだ。

シルバーバレットはあの日帰ってきて、盛大な引退式を行って、ドリームトロフィーリーグに進んだんだ。

そうだ、それが正しいんだ。

 

 

 

 

 

……なぁ、バレット。

 

「なんですか?」

 

もう、どこにも行かないよな?

 

「もちろんです。

だって僕は先生の最高のパートナーですから!」

 

…よかった。




イカリソウ軸で先生√の話。

先生:
僕(ウマ息子)が亡くなってSAN値がやばかったところに別世界の僕(ウマ娘)がやって来た。
何とかSAN値は持ち直したがその過程で現実をすり替えている。
どちらにせよシルバーバレットがいなくちゃ生きていけない人。

僕(ウマ娘のすがた):
先生めっちゃ窶れとるやんけ!状態。
今いるのが別世界だとは気がついていない。
先生からも外に出ないように誘導されている模様。
状況がヤバイ(ヤバイ)。




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信じようと信じまいと……

ネットの海の、与太話。


ゲームに関しての都市伝説ってヤツで思い出したんだけど。

 

俺の友人はチートするのが好きなヤツだったんだ。

純粋にゲームを楽しんでる俺からしてみればチートなんて何が楽しいのかって思うんだけど、ソイツってスゲェ負けず嫌いなのね。

 

ほんの些細なゲームでも負けるのを嫌がる困ったヤツで、NPCであっても負けたがらないヤツでさ。

 

んである日にソイツから連絡来たわけよ。

「チートしても勝てないNPCが出た」って。

競走馬が美少女化してる某ゲームあるじゃん?

それで出たんだって。

 

ソイツはひどく興奮していて、聞いてないのにいろいろ教えてくれた。

そのNPCが出るのは育成最後の年末大一番のレース。

本当なら他のキャラクターも出てくるはずなんだけど出てくるのはそのNPCだけ。

そのNPCって育成キャラクターとしても実装されてるんだけど、そこに出てくる時の固有能力表記がバグってるって。

 

いや元からそのNPCのキャラクターって壊れキャラなんだけど、NPCになったら基本的に弱体化するじゃん?

けど全然弱体化されてないんだって。

固有能力だけしか持ってない舐めプ仕様なのに全然勝てないからソイツ何がなんでも勝とうとしてさ、…チート使って。

 

話を聞けたのはそれまでだったよ。

俺だって話を聞きたいけど、その友人アッチの病院に入院しちゃってもう話聞けないんだよねぇ。

 

【ゲームに関する都市伝説について語ろう part.×××】

 

 

やぁ、キミ。

何度やっても全然懲りないんだねぇ。

大一番の舞台だってのにこんなのは、無粋だと思わないかい?

…あぁ、ハイハイ。

走ればいいんだろう?

 

目覚まし時計まで使って…、キミ暇なのかい?

さすがの僕でもキミの諦めの悪さには脱帽というか、拍手を贈らせてもらいたいくらいだ。

…ちゃんと話聞いてるかな?

あぁ、また…ね。

 

本当に、諦めが悪いんだなキミは。

…最後の忠告だ。

本気の、本気なんだ。

……忠告、したからな?

 

 

『領域』ってモノはね、基本的にマイルドにされてるんだ。

"あちら"ではまた違うのかもしれないけど。

僕の「世界覆す無敵の弾丸」もキラキラしててさ、見苦しくないものじゃないだろう?

カッコよくてさぁ、いいよねアレ。

 

だから、……コレを出すのは自重してたんだけどなぁ。

 

だってコレってさ、この世界に合わないだろ?

僕はコレの正体を分かっているけど、普通は分かっちゃいけないんだよ。

 

 

 

…ナァ、モウワカッテルダロ?

 

 

 

黒い影が走る。

黒い影の中で、四つの脚の生えたケモノが…。

 

 

 

 

 

…あーあ、だからやめておけって忠告したのに。




ただの、ありふれたフォークロア。


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SB「僕の来歴が知りたい?」SS『あぁ』

祝100話ですわ〜!
思い返せば毎日投稿とかいう気狂いでしたわね、わたくし…。


SB「僕の来歴が知りたい?」SS『あぁ』

 

1:名無しのトレーナーさん

 

SB「マブの頼みとあらば、イイヨ!」

 

【にっこり笑顔のシルバーバレット(実馬)の画像】

 

 

2:名無しのトレーナーさん

 

会話形式で競走馬・シルバーバレットの来歴を説明するスレです

最近ウマ娘の方でシルバーバレットの実装告知がなされましたので事前学習にどうぞ

 

以下、

SB→「」

SS→『』

と表記します

 

 

3:名無しのトレーナーさん

 

めちゃくちゃ強くて種牡馬としてもめちゃくちゃ強かった馬ってことは知ってるけどね…

 

 

4:名無しのトレーナーさん

 

現役ん時のSB知ってるヤツの方が珍しいだろ

 

 

5:名無しのトレーナーさん

 

おもしろ…ゲフンゲフン、白峰おじさんの愛馬ってことだけは知ってる

 

 

6:名無しのトレーナーさん

 

「まず僕は1980年の6月25日の深夜に生まれたよ!」

『んっ!?』

「どうしたの?サンデー」

(…コイツ俺よりもめっちゃ歳上じゃねぇか!)←1986年産まれ

 

 

7:名無しのトレーナーさん

 

「お父さんはクラッシック二冠馬のヒカルイマイ、お母さんはホワイトリリィ、母方のおじいちゃんはホワイトバックなんだ」

『知らねぇな』

「そうだねぇ。お母さんもおじいちゃんも気性が激しい馬だったから競走馬になれなくてね…」

『親父さんの方はどうなんだ。クラッシック二冠馬なんだろ?』

「…うん、そうなんだけどこの頃のお父さんってあまり仕事が来てなくて」

『ハ?クラッシック二冠馬なんだろ?』

「まぁ、いろいろありまして…下記に出すスレを見たらよく分かると思うよ」

『メタいな』

 

【「サラ系?」という題のターボスレ】

 

 

8:名無しのトレーナーさん

 

コイツ、母方の方遡ってみたら本当に活躍馬いないからなぁ…

なんでガラクタ血統、キメラ血統って称されたほどの血統からこんな化け物が生まれたんです?

 

 

9:名無しのトレーナーさん

 

「それで僕は殺処分されかけるよ!」

『ハ????』

「その頃の僕ってね、体が小さくて…いや今とそこまで変わらないか。

母さんのリリィが殺る勢いで暴れ回っていたところを馬主さんに助けてもらったんだ!」

『なんだ、その…よかったな』

「ちなみに僕の馬主さんは僕の子どもに自分の苗字つけてるよ」

『重いな????』

 

 

10:名無しのトレーナーさん

 

>>9

未来の凱旋門賞馬を殺処分しかける生産牧場ェ…

 

 

11:名無しのトレーナーさん

 

>>9

(後のことを考えると)凄惨牧場定期

 

 

12:名無しのトレーナーさん

 

一応SBの生産牧場って戦前から続く牧場だったんだぜ?

…活躍馬が出てなかっただけで

 

 

13:名無しのトレーナーさん

 

「少し大きくなった僕は運命の出会いを果たすよ!」

『おぉ!』

「それが、彼です!」

『ウワーッ!?』

 

【ニコニコ笑顔の白峰おじさんの画像】

 

 

14:名無しのトレーナーさん

 

>>13

でたわね

 

 

15:名無しのトレーナーさん

 

>>14

終身名誉銀弾フリーク来たな

 

 

16:名無しのトレーナーさん

 

「彼はねぇ、僕に乗りたくて土下座しようとしたらしいよ」

『そ、そうか…』

「まぁそんなことしなくてもサラ系の僕に乗りたい奇特な人は彼しかいなかったんだけどね」

 

 

17:名無しのトレーナーさん

 

白峰おじさんはシルバーバレットに何を見出したんですかね…

 

 

18:名無しのトレーナーさん

 

出会うべくして出会った運命の相手だからね、仕方ないね

 

 

 

 

スレは続いていく……。




このスレのSB&SS:
自分に起こったさまざまな事象をケロッと語るSBとそれに突っ込んだり諦めたりするSSが見れる。
基本的にSSは『ハ?』botと化している模様。

僕の母系血統:
後にシルバーバレットの活躍により『白の一族』、もしくは『狂血の一族』と名付けられる。冠名ホワイトの集まり。または気性難の巣窟。
はじめはガラクタ血統やらキメラ血統と言われたほどになぜホワイトリリィまで繋げられていたか分からない血統、…だった。
その血統を構成する馬たちはシルバーバレットを生産した牧場の歴代の馬だけで構成されており(しかも気性悪すぎor(表面上は)気性が穏やかな未勝利馬・未出走馬ばかり)、パッと見ではどこにも有名な馬がいなかった。ただひたすらに血を繋いできたようにしか見えなかった。
後にシルバーバレットに脳を焼かれ…ゲフンゲフン、魅せられたとある学者がホワイトリリィの血統を遡ったところ、血統の最初期に種道と星富という2頭の下総御料牧場の基礎輸入牝馬がいることが発覚した。

そのことを考慮におくとシルバーバレットは戦前からあったその生産牧場の、長きに渡った執念の結晶であったと考えられる。
まぁ…、その執念の結晶を捨てたのは生産牧場さん自身なんですけどね。
なお買い取られたシルバーバレット(執念の結晶)さんは買い取られた先で血を引っ繋いでウハウハしてらっしゃるんですけど…。

SBの生産牧場:
何の因果かバリバリ気性難か、表面上は穏やかだが気に食わないことをされるとバーサーカー化する馬しか生産できなかった牧場。
(表面上は)気性穏やか組はみんなヘイローみたいな感じだと思ってくれたらいい。シームレスに暴力振るってくるタイプ。
戦前からあった牧場だが競走馬として有名な馬を排出できたのは一番最後のシルバーバレットだけ(でも殺処分しかけた)。
ねぇ、殺処分しかけた馬が凱旋門賞とか獲ってどういう気持ち?
必死で繋いできた血統の馬を二束三文で売ったら大成功されてどういう気持ち???
ぜったい絶望してんだろうなぁ…。
多分白峰おじさんやkrtnちゃんみたいな騎手がいたら大成してた馬がそれなりにいそう。

シルバーバレット(実馬):
『白の一族』からなんでこんな人間が世話できる馬が生まれたんだと言われるくらいには穏やかなウッマ。
たぶんヒトミミインストールと白峰おじさんたちに出会ったことが功を奏している。
でも後々、シロガネツーパックなどの気性難の馬が生まれて『やっぱ気性難の血統かぁ…』と言われた模様。


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*キミの本心

一応ウマで幸せ時空の話なんだ。
…双方、記憶があるのかは定かではないけれど。


マス太と併走をすることが多々ある。

まぁチームメイトだからな。

そして時々、二人だけで競走する時もある。

 

今回の話はその時のマス太についての話だ。

 

 

マス太は僕の走る姿が好きらしい。

だがそれはそれとして僕を負かしたいという気持ちもあるようだ。

その感情を向けられている僕としても『コイツ、難儀だなぁ』と思うが、

 

「マス太、飲みもの」

「ん」

 

先にゴールに着いていた僕は少し遅れてから来たマス太に飲みものを手渡す。

僕は飲みものを取りに行くついでに息を整えたがマス太の息はまだ荒い。

額から流れる汗を拭ってマス太が飲みものを受け取る。

その瞬間見えた目に、ゾクリとした。

 

「…どうしたの」

 

怪訝そうにするマス太に慌てて「何でもない」と返す。

落ち着け、…落ち着け、自分。

飲みものを嚥下するマス太を眺めながら思案する。

 

 

僕は、僕に負けた時のマス太の目が好きだ。

ぐしゃぐしゃの負の感情で塗りたくられたあの目が好きだ。

いつか喰らい尽くしてやると言わんばかりの目が好きだ。

どれほど見たって飽きないだろう。

それでも、マス太は僕にいっとう優しいからすぐにその目はなりを潜めてしまう。

 

そうなるたびに考えてしまう。

もしも、もしも僕らが親友ではなかったら。

マス太が勝ち続ける僕を、憎んでくれる世界があったなら。

僕は、この目を独り占めできたのでは…?

 

「バレット!」

「…っ何?」

「ぼうっとしてたから」

「あぁ…、ごめん」

「…どこか具合悪い?」

「いや、大丈夫だよ」

 

 

バレットにこんな感情を向けてはいけないと分かっている。

自他ともに認める親友で、いっとう大切な人を、…『憎い』と思ってしまうなんて。

 

僕はバレットの走る姿が好きだ。

好きだけど、ほんの時々僕の前を往く姿がひどく憎らしくなる。

バレットにとってはそうではないのだろうけど、余裕そうに微笑する顔を泣かせてやりたくなる。

シルバーバレットという存在の、"矜恃"をグチャグチャに蹂躙してやりたくなる。

僕の方が、…いや()の方が強いのだと分からせてやりたくなる。

 

「マス太」

「っ何?」

「ん、いや今日のご飯なににしようかって」

「あ、あぁ…」

 

ニコリと笑うバレットを見て、思考がいつもみたいな風に戻る。

うん、あんなこと考えちゃあいけないよね。

いつも通りの、優しいバレットの親友に戻ろうとする僕に、

 

「なぁ、マス太」

「…なぁに」

「僕、」

 

キミが嗤う。

僕の本心を察しているかのように笑う。

 

「お前にだったらコロされてもイイぜ」

 

その顔にどうにも、

 

「はぁ〜……、」

「エッ?ため息つくところあったか?!」

「…もういいよ」

 

そそられてしまう僕は、なんて救いようがないのだろう。




僕:
マス太のことが友人として好きだが、それはそれとしていつも優しいマス太が時おり自分に向ける暗い目がいちばん好き。
もしも死ぬとしたらマス太の手にかかりたい、看取られたいくらいにはマス太に対する感情が重め。

マス太:
僕のことが友人として好きだが、それはそれとして前だけしか見てない僕を引きずり下ろして自分だけを見させたい気持ちもある。
コイツもコイツで、もし万が一僕が死ぬのなら自分の前で死んでくれと思ってるフシがある。僕に対する感情が重い。


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"再来"が目指すモノ

祖父が祖父なら孫も孫。


目を開けるとそこには"誰か"がいた。

 

『キミの名前は?』

 

顔の見えないその人が自分の名前を聞く。

口元だけが楽しそうに笑っているその人。

その問いに自分は何と返したのだったか。

 

 

ぼくは偉大なる当主様によく似ていると言われ続けて生きてきた。

当主様はぼくが生まれる随分前に亡くなっていて、写真だけが当主様と関わる唯一の手段だった。

 

垣間見た当主様の写真は思わずゾッとしてしまうほど自分によく似ていた。

顔に火傷がないことだけが唯一の差異と言えるほどに。

当主様は随分と長生きな方で、亡くなる数年前の動画くらいなら残っており、すっかり白くなった当主様の髪を見ていつしか自分もこうなるのかと考えたこともあった。

 

 

ぼくに敵はいなかった。

そういうところも当主様そっくりだと称された。

ただただトレーニングで出したタイムを超えるぐらいしか本番のレースでの楽しみがなかった自分にとって、当主様の残した記録がライバルとなりえる唯一のモノで。

 

周りから讃えられる度に当主様と会ってみたかったと思う。

あなたはどんな人であったのだろう。

譲ってもらったあなたの写真を見ながらいつもそう考える。

────それは、きっと恋と呼べるものに似ていた。

 

 

ぼくは、あなたに触れてみたかったのです。

もう亡くなっているとは分かっていたけれど、それでも触れてみたかった。

あなたの作り出した記録に打ち勝てば触れられるだろうかと。

門の先にいたあなたは既に銀色の一族の方に取られていたから。

だから、

 

「捕まえたかったんです」

 

だが、伸ばした手が、その黒い衣を掴むことは終ぞなかった。

 

 

最強の存在がいた。

その目に誰もが映ることを許されなかった。

その目に映っているのはいつだって、あの『亡霊』で。

 

『英雄』だの『怪物』だのと讃えられる存在は、最強に挑む者たちにとっては『亡霊』と罵ってしまうほどに憎い存在だったのだ。

 

私たちは、ずっとあなたに見てもらいたかった。

あなたをこちらに振り向かせたかった。

こっちを見て。どうか、こっちを見て。

 

どれほどそう望んでもあなたの視線を奪うのは『亡霊』で。

あなたの前ではにこやかに接しながらも、裏では『亡霊』に向かって後ろ指をさした。

 

誰もが一度は憧れる、憧れていた存在は、あなたに出会ってからは無用の長物となった。

どれほど話しかけたって興味を一欠片も示さないあなたの興味を引くのはいつもあの『亡霊』で。

ニコリともしない表情が唯一崩れるのは『亡霊』のことを話す時だけで。

 

…あぁ、憎い。

 

でもいちばん憎いのは、あなたを振り向かすことができない自分の不甲斐なさだ、なんて。




ぼく:偉大なる当主様であるシルバーバレットに憧れている。
シルバーバレットにしか興味がない。
もうこの世にいない存在に激重感情を抱いている。
周りから自分に向けられている視線にはまったく気づいていない模様。

たぶんコイツもシルバーバレットと同じく脳焼かれ会もとい被害者の会ができあがってると思う。


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"カミサマ"になり損ねた人間の話

リクエストより『レースに興味が無い幼馴染(性別不問)が幼少期から居た事でクソボケじゃなくなった銀弾』の世界線の話です!

誰かシルバーバレット(ぼく)を『人間』として扱ってくれる誰かがいたら、よかったのかもね。


「お前ほんとクソボケ」

「酷くない?そこまで言われる覚え無いが???」

 

自分には幼なじみがいる。

周りの目を嫌に惹き付けるクソボケが。

その幼なじみの名はシルバーバレットという。

 

 

昔からシルバーバレットはひとりだった。

自分がコイツに気がつかなかったらどうなっていたのかと思うとゾッとする。

だってコイツは孤独であっても他人の目を集めすぎていた。

それでいて他人の想いに気が付かないまま突っ走って、また人の目を集める。

コイツのやることなすことに人々は目を、脳を焼き焦がされていた。

まぁシルバーバレットという存在が"ウマ"という、人前によく出る種族であったのもそれに拍車をかけたのだろうが。

 

「…友だちはできたか?」

「うん!」

「ちゃんと喋ってるか?」

「うん!」

 

でも、コイツは人々が思うほど立派なやつじゃない。

どこにでもいる普通の存在だ。

才能を見出され、トレセン学園に通うようになったコイツに、まず自分が言いつけたのは「人と話せ」ということだった。

黙っているコイツは妙に威容があるというか、存在感があるので誰も近寄らない。逆に崇拝しはじめる。

だからお前から周りに関わりにいけ、と言いつけた。

だって自分の知るシルバーバレット(幼なじみ)は走ることが大好きで、家族が大好きな、どこにでもいる人間なのだから。

 

そう言えばアレも大変だった。

昔のシルバーバレットは妙に自己肯定感が低かった。

「僕みたいなヤツなんかどこにでもいる」と口癖のように言うので、そう言うたびにシルバーバレットの家族とともに褒め殺した。

もちろん同じことをトレセン学園でもしているようで、それが繰り返させるごとに少しずつ、シルバーバレットの自己肯定感は育っていったようだ。

 

「あ、そう言えばまたレースに出るから見てね!」

「時間があったらな」

「…相変わらずレースに興味がないよね」

「ンなモン見なくてもオメーが勝つんだろ」

「それはそう」

 

トレセン学園に通うようになってコイツはずいぶんと変わった。

自己肯定感がなかったころは「…勝ったのは偶然だよ」なんて言ってコッチをイラつかせてたのに。

自信満々に笑ってみせる姿にこっちの方が好きだな、なんて思わなくもない、が。

 

「僕がさいきょーだからね!

ルドルフでもシービーでもなんぼのもんじゃいってことさ!」

「へーへー、気ィ抜きすぎないようにな〜」

「分かってるって!」

 

ニコニコと笑うシルバーバレットがトレセン学園へ戻るために電車へと乗り込む。

「またね!」と元気よく手を振るのに自分もひらひらと手を振り返すのだった。




僕:
"カミサマ"になり損ねた人間(ウマ)
生まれながらにして妙に人を惹き付ける何かがある。
ひとりでいい、孤独でいい…してたところを突如として現れた存在(のちの幼なじみ)に人のいる方へと引っ張られた。
たぶん"サラ系"とか何やらで人と関わるのを諦めて口を閉ざしてたんだと思う。
史実‪√‬とは違い、幼なじみと出会ったことによって人並みに笑ったり泣いたり怒ったりできるようになった。()()になった。

そのためシルバーバレットという『偶像』ではなく、シルバーバレットというひとりの『人間』になっている。

幼なじみ:
性別不詳。だがお前がMVP。ただの人間ではあるが"カミサマ"を地上に引きずり下ろした。
はじめから僕をシルバーバレットという『偶像』ではなく、シルバーバレットという『個人』として見ていた。
コイツがいなかったらシルバーバレットは『人間』になれなかった模様。
僕が強いことを知っているがレースに興味がないため、どうなろうと僕をシルバーバレットという名前の自分の幼なじみとして見続けてくれる存在。僕を"カミサマ"ではなく、『人間』として見続けてくれる存在。



マス太もこの幼なじみと近しいっちゃ近しいけど、マス太は僕に魅せられてしまったので僕を『人間』にしようとはしなかった。
マス太は逆にいずれ"カミサマ"となる存在(ぼく)が自分だけを見てくれることに愉悦してるフシがあるので、今回の話の幼なじみとマス太が出会ったらいろいろと()ヤバいことになる。
具体的に言うと、

シルバーバレットを神格化してる幼なじみ(ウマミミ)vsシルバーバレットをただの人間として見てる幼なじみ(ヒトミミ)vsまたしても何も知らないシルバーバレットさん、ファイッ!!

という感じになる可能性がある、大いにある。


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僕たち仲良ぴっぴ

この世界線のSSは体に馬運車の事故のときの傷が残っているタイプです。


サンデーサイレンスと仲良くなって、それなりの時間が経ったとある夏の日。

 

「サンデー」

「ん?」

「その服暑くないの?」

「…オメーだってそうだろ」

 

サンデーから手渡された、シェアできる系アイスに舌鼓を打ちながら話をした。

サンデーははじめに比べると日本語が上手くなった。と、そんなことはいい。

 

「黒の長袖長ズボンってさぁ…」

「お前他人のこと言える服装だと思ってんのか?」

 

二人、目が合う。

サンデーの服装は先程言ったとおり、黒の長袖に長ズボン。

かという僕は下は半ズボンだけど上はいつも通りのお気に入りのパーカーで。

 

((見てるだけで暑い…))

 

そんなことを考えながらアイスを食べるのだった。

 

 

「「ウッソだろ、おい…」」

 

アイスを食べ終わってから、引き続き二人で楽しく遊んでいたのだが夕方になって雨に降られた。

それも小雨ではなくゲリラ豪雨だろという勢いで。

そして歩いていた場所が悪く、途中で雨宿りもできなかった僕たちはビショビショの濡れネズミならぬ濡れウマ娘に…。

 

「僕んちが近くにあるから行こう」

「ん…」

 

濡れウマ娘二人、とぼとぼと歩を進める。

アパートに着いて、さっそく風呂を沸かしに行く。

 

「先入る?」

「…もう勿体ねぇだろ。一緒に入ろうぜ」

「えっ!?」

 

サンデーにズルズルと風呂場に引きずられていく。

火傷跡の件もあり流石に抵抗しようとしたけれど、

 

「…引くなよ」

 

そう言って服を脱いだサンデーの体に思わず目を見開く。

その痩せぎすの体にはたくさんの古傷があって。

それを見て僕もゆっくりとフードを脱ぐ。

 

「「…。ふふっ、あはは!」」

「ねぇ、その傷痛くないの?」

「お前こそ」

 

風呂に入りながら二人でいろいろな話をした。

今まで僕たちはお互いの過去なぞ話したことがなかったのだが、僕たちには結構共通点があることが分かった。

 

「話聞いてるとサンデーのトレーナーさんとか同じチームだった人に会ってみたいなぁって思うよ」

「俺もお前のトレーナーと仲間に会ってみたい」

「ならまた一緒に行こう。案内する」

「…なぁ、予定が合うんなら一緒にアメリカ旅行しようぜ」

「うん!」

 

何だかサンデーとの距離がグッと近くなった気がする。

お互い隠していた秘密を打ち明けることができたからだろうか。

 

「サンデー、今日は泊まってく?」

「おー」

「なら連絡しておきなね」

「…もうめんどくせぇからツーショあげるわ。こっち来い」

「はーい」

 

ちょいちょいとサンデーに呼ばれ二人で自撮りする。

そうして撮った写真をSNSにあげるサンデーに苦笑しながら、僕は夕食を作りにキッチンへと消えるのだった。




僕&SS:
お互いに絶対他人には見せたくない傷跡を見せ合った仲。(僕は顔の火傷跡、SSは馬運車の事故のときに体に負った無数の切り傷)
傷跡を見せ合ってもいいくらいにはお互いに信頼している。
今回の件で友情が深まった模様。
お泊まり会もよくしており、SNSにその模様を上げるたびに周りはギリギリしてそう。


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ポニー…だよね???

生存IF軸。
小さい子には優しいバレットさん。



「やぁ、バレット」

 

競走馬から引退して少し経ったある日、騎手くんが会いに来た。

横にまだまだ黒みが濃い芦毛のポニーを伴って。

どうしたんだろう、何しに来たのと態度で問いかけると「この子に走り方を教えてほしい」と言われた。

 

『やぁ…、はじめまして?』

『はじめましてー!!』

『僕はシルバーバレット。キミは?』

『クロ!』

『そうか、よろしくねクロ』

 

その日から僕はちょこちょこやって来るクロに走り方を教えることになった。

騎手くんが言うには「バレットの走り方のままでいい」らしいので好き勝手走っている。

…いや、ちゃんと面倒見ているけども。

 

『ア〜!!』

『ちゃんと速くなってるよ』

『でも負けたもん!!』

『はいはい、もう一回走ろうか』

『わ〜い!!』

 

クロは可愛い。

素直でちょこちょこ僕の後ろを着いてくるのだ。

一緒に走っているうちに闘争心も出てきて『バレットに勝つの〜!!』などと言ってくれる。嬉しい。

 

「バレット」

 

あ、騎手くん。

どうやら今日はもう終わりらしい。

クロは『やだー!!もっとバレットと一緒にいるー!!』と言いながら回収されていくし。

 

「ありがとうな、バレット」

 

いや、いいよ。

僕と騎手くんの仲なんだから。

だがしかし、クロに走り方を教えたは良いけれど、…あの子ポニーだよな?

 

 

シルカーバレット

シルカーバレット

 

『ポニーがなんだ!

ンなもん知るかと逃げ切りました!

シルカーバレットです!!』

 

シルカーバレットとは、はまちのナンでもダービーで活躍したポニーである。またはナリタブラリアンの宿敵とも。本名はクロ号という芦毛のポニーである。

 

◾︎概要

かつて、テレ昼で放送されていた「はまちのナンでもダービー」で活躍したポニーである。名前の由来は日本競馬史上初の凱旋門賞馬・シルバーバレットから。あやかって名前の由来となった競走馬が現役時代に着用していたものと同じデザインのメンコを付けていた。

 

本家シルバーバレットの主戦騎手・白峰透から見出され、名前の由来となったシルバーバレット直々に走り方を教えてもらうなどして見事に競走馬へと成長。ポニー競走界の「無敵の弾丸」となった。

その走りは元ネタと同じくただひたすらに逃げる戦法であり、ひとたび舐めてかかるとたちまち置き去りにされてしまうほど。お前ホントにポニーか?

また、あまりにも強すぎたためにナリタブラリアンと同じようなキツいハンデを度々課された。なんでそのハンデで勝ってんの?

 

1990年生まれの牡馬であり、走り方を教えてもらうためにたびたび会っていた本家シルバーバレットによく懐いていたという。本家ともども主戦騎手であった白峰透いわくシルカーバレットは二面性のある馬だったようで普段はとても人懐っこい性格であったが本番になると非常に落ち着きながらも闘争心旺盛といった風に性格がガラリと変わったらしい。そういうところはシルバーバレットと似てますね、とは白峰透本人の談。ちなみに白峰透が言うにはシルカーバレットは1600mくらいまでなら普通に走れた、というかそこら辺が適正距離だった模様。お前ホントにポニーか?

 

 




僕:
ポニーに走り方を教えたが「いや、でもあの子ポニーだよな???」と少しばかり困惑していた。
でもクロのことはとても可愛がっている。
騎手くんも会いに来てくれるのでホクホク。

クロ(シルカーバレット):
どこにでもいるポニー(だった)。芦毛。
白峰おじさんに見出されてバラエティ番組の1コーナーの中でとはいえ競走馬に。
自分に走り方を教えてくれる僕に懐いている。
基本はとても人懐っこいが本番になったら周りを威圧してくる模様。


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タイムスリップ・オリジン

シルバーチャンプは馬主である白銀創の因子を継承している。

【追記】
誤字報告ありがとうございます。


タイムスリップした。

…いきなり訳が分からないと思うが俺だって訳が分からない。

 

電源ボタンを何度押そうともつかない携帯をポケットに突っ込み、何とか手に入れた新聞に書いてある日付は自分の生年月日よりウン十年も前。

ウン十年時間軸が違うくせに何故か使えるトレセン学園の生徒パスで何とか潜りこんだソコで、

 

「…キミは?」

 

俺は、シルバーチャンプは『運命』と出会った。

 

 

ずっと憎い相手だった。

俺の母の兄、…俗にいう伯父ってヤツは俺からしてみれば不甲斐ない男としかいいようがなくて。

命日が来るたびに誰もがソイツのことを思って泣くものだから、そのたびに「██████のようになれ」と言われるのが本当に嫌いだった。

 

だからソイツとの出会った当初の関係は最悪と言ってよかった。

アイツは俺と関わろうとしてくれたけど俺が突っぱねて。

アイツは行く宛てのない俺を受け入れてくれたのに、随分あとになるまで態度を軟化させることができなかった。

 

アイツと暮らし始めて、俺はアイツに向けられていた世間の目のキツさを知った。

俺も「██████のようになれ」と言われ続けていたが、アイツに向けられていた視線や言葉の方がもっとキツかった。

キレそうになる俺をアイツは「慣れてるから」「大丈夫だから」とヘラヘラ笑うだけ。

そう笑うたびに、アイツの顔の火傷跡がぐしゃりと歪むのに俺は…。

 

元の時間に帰れないまま、いつしか俺はアイツの走りに魅せられていた。

何度怪我しても立ち上がって、走り続ける姿にひっそりと憧れて、それで…。

 

「俺が、俺が憧れたお前はンなこと言わねぇ!」

「周りの馬鹿どもが『まぐれ』だって喚こうが、俺だけは!」

「俺はお前が『最強』だって信じてる!!」

 

諦めようとしていたソイツに発破をかけた。

胸ぐらを掴み上げて、そう喚いた俺にアイツは涙を流しながら「…もう少し頑張ってみるよ」と微笑んで。

でも、でも…、

 

「こんなことになるとは思わなかったんだよ…!」

 

アイツは自分の実力を嫌というほど世界に見せつけた。

引退するハズだったくせに期待されているからと海外遠征に行き。

そりゃあ当然だよな!と笑って、アイツを送り出した俺は忘れていた。

 

そのニュースを見た時、思わずテレビのリモコンを床に落とした。

それはアイツが帰国のために乗っていた飛行機が墜落したというニュースだった。

 

ぐるぐると思考がめぐる。

何で、どうして、忘れていた。

あの時、俺が引き止めていれば。

そもそもあの時発破をかけなければ。

 

 

アイツは、()()()()()()()()は生きていたのではないか…?

 

 

「あぁ…」

 

呼吸が、変になる。

…俺を、俺を、

 

おいていかないで、バレット…

 

 

「…なんつー悪夢だよ」

 

目を覚ますとどうしようもなく頭が痛かった。

気だるげに起きて、気分をサッパリさせるために洗面所へと行く。

顔を洗うために鏡を見ると、

 

「…は?」

 

片耳にアイツから贈られた、シルバーバレットが愛用していた黄色い耳メンコが着けられていた。




シルバーチャンプ:
なんか知らんがタイムスリップした。夢か現実かは不明。
馬主である白銀創がシルバーバレットの引退を撤回させたように、コイツも激飛ばして引退を撤回させた。
けれど自分があの時激を飛ばさなければアイツは…という曇らせを起こされた。可哀想が過ぎる。
もちろん同じことが彼の馬主である白銀創にも起こっていた模様。

シルバーバレット、お前ってやつは…(呆れ顔)


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快進撃は止まらない!

シルバーバレット産駒のとある誰かの話。


走ることが好きだ。

そして、その気持ちの根幹になったのはやっぱり親父の走りだろう。

 

「…また見てたのかい?」

「おう!」

 

テレビには現役時代の親父のレース映像が流れている。

祖母が厳重に取っておいたものであるらしく、雑に扱うとあとが怖いシロモノだ。

俺や、その他の兄弟姉妹も親父のレースを見るのが好きなのだが、親父自身は苦笑するばかり。

「恥ずかしい」だとかなんだとか言って。

 

「さぁ、みんな用意できてるからね」

「はーい」

 

ぷつりとテレビの電源を切って立ち上がる。

今日は毎年恒例の花見の日だ。

行事を大切にしている親父はことあるごとにこうしてイベントを行う。

そのイベントごとの中で俺がいっとう好きなのが花見だった。

だって料理は美味いし騒げるし。

けれどいちばん好きなのは、

 

「今年も綺麗に咲いたね。…けどちょっと遅すぎたみたいだ」

 

視界いっぱいに桜が広がっている。

例年よりもはやく散り始めている桜に親父は残念そうにしているが、俺はこれくらいの、散り際の桜が好きだった。

短い間ではあるが精一杯咲いて、散っていく桜が。

 

「みんなもう集まってるね。行こうか───シンゲキ」

 

そんな俺の名はシロガネシンゲキという。

 

 

トレセン学園へと入学した。

同期にはハイセイコやヒーロー、ガールがいる。

それはそれとして、俺の走りはどうやら親父というより祖父の方に似ているらしい。

『日の丸特攻隊』。

そう称された祖父にソックリだと。

 

はじめはそう称されたことがショックだったけど(俺がいちばん尊敬している人間は親父である。まぁ兄弟姉妹みんなそうだが)、最終的には受け入れた。

だって俺には親父のようなスタミナがなかったから。

ならば全身全霊で戦って、負けても悔いが残らない方がいい。

脚をあますことなく、どこまでも、どこまでも、逃げおおせてやる。

 

『来た、来た、来た!

シンゲキだ、シロガネシンゲキだ!

後方は、まだ後ろ!

逃げ切った逃げ切った!

シロガネシンゲキだ!

快進撃は止まらない!!

これは恐ろしいウマだ!

クラシック級の怪物・シロガネシンゲキがスプリンターズステークスを制しましたァ!!』

 

俺の適正的にマイルは長すぎた。

必ず1400mを超えると失速してしまう。

だがそれまでなら誰にも負けはしないから。

短距離なら親父のように、祖父のように、最初から最後まで逃げ切れるから。

 

「ジュライカップ?」

 

スプリンターズステークスを制したあと、そんな話が上がった。

来年、ハイセイコとヒーローが海外遠征するのに着いていかないかと。

その話に、俺はノった。

 

「…ジュライカップ獲ったら、親父は喜んでくれるかねぇ?」

 

親父の、シルバーバレットの喜ぶ顔を思い浮かべながら。




シロガネシンゲキ:『快進撃は止まらない』
シルバーバレットの初年度産駒。母父サクラシンゲキ。
シルバーバレットの血に連なる者の中でもサクラバクフウオーと並ぶガチガチの短距離馬だが、サクラバクフウオーが1200mのスペシャリストであるのに対して、シロガネシンゲキは1400mまでなら絶対に負けない馬であった。
戦績も負けてる部分は全部1400m以上以上であった。

主な勝ち鞍:
スプリンターズステークス(1996年度)
高松宮記念(1997年度)
ジュライカップ(1997・1998・1999年度)
香港スプリント(1999年度)

シルバーバレット:
多分白目向いてる。
けど初年度産駒以降もバカみたいに子どもが勝ってくるのでそのたびに天を仰いで魂が抜けてるらしい。最終的にはその模様が名物になって雑誌などで写真があげられるように。
最終的には息子娘孫たちから「おみやげ」と言われては優勝レイなどを渡されるのがもっぱらの悩みになる。



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◆我らが愛しき偽悪者

悪い人のフリをしているだけ。

【追記】
誤字報告ありがとうございます。


シルバーバレットは嫌われ者である。

ヒトの言うことなんて聞かないし、喧嘩をよくして、でも反省文をすっぽかすなんていつものこと。

 

「…ん?あそこにいるのは、」

 

その日、シルバーバレットが見かけたのは同期の最優秀スプリンター様だった。

どうやら他のウマ娘に話しかけられているようで、…すこーしばかりイタズラ心が湧いたシルバーバレットは「んんっ」と咳き込むと、

 

「センセーっ!あんなところにトレーニングをサボってる子がいまーす!!」

 

誰がどう聞いても可愛らしい少女の声を出して嘘をついた。

(普段のシルバーバレットの声色はどちらかというとハスキーである)

シルバーバレットの声を聞き、ウマ娘たちは慌てて走り去っていく。

 

「ハハハ、災難だったな最優秀スプリンター殿?

…ほぅら、飴ちゃんやっからテメェもさっさと練習に行くんだな」

 

 

シルバーバレットは周りから遠巻きにされている。

その日、シルバーバレットが見かけたのは自分より少しだけ大きい芦毛のウマ娘だった。

 

「おいおい、誰がチビだって?

…ああん?ウソはついちゃいけないねぇ。

ほらオハナシしてやるからよ、人気のない場所に行こうぜ」

 

ぎゃあぎゃあと喚くウマ娘を引きずりながら、シルバーバレットは唖然としているその芦毛のウマ娘にヒラリと手を振る。

 

「なんだ、早く行かなくていいのかい?

もうすぐチャイムが鳴る時間だぜ?」

 

シルバーバレットがそう言うとハッとしたようにその芦毛のウマ娘は走り去っていく。

青と赤のハチマキが揺れているのを見ながら、シルバーバレットはさきほどのウマ娘を引きずって人気の少ない方へと歩を進めるのだった。

 

 

シルバーバレットには友だちがいない。

だから自分と対等に話せるような奴に気まぐれに絡んでいく。

 

「よーお、若獅子ィ」

 

その日のシルバーバレットが選んだ相手は新しく生徒会長になった後輩であった。

その後輩は文武両道というか、完璧主義なタイプだったので周りから「アイツ一人で大丈夫だろ」という見方をされている風に見えた。

なので今の生徒会には現状目の前の生徒会長しか役員がいないのだ。

そういうわけで生徒会室には新生徒会長サマしかいないため、シルバーバレットにとって生徒会室は格好のサボりスポットと化していたのである。

 

「今日は何してたって、心配しなくても問題なんか起こしちゃいねェよ。

…なァ、若獅子。僕とワルイコトしないか?」

 

ニヤリと笑ったシルバーバレットが取り出したのは学園の近くにある甘味屋のテイクアウト商品だった。

トレセン学園の校則では基本的に買い食いは禁止されているのだが(黙認している部分は多くあるにせよ)、その禁止事項を生徒の模範となる生徒会長に破らせようとする胆力のある存在は今のところシルバーバレット以外にはおらず、

 

「お、食うのか。

なら、僕もいただきまーす!」

 

そうして、シルバーバレットは今日も嫌われ者な一日を過ごしたのだった。




僕:
自分が嫌われ者だと思っている勘違い系ウマ娘。
ワルぶっていることを周りのヤツら全員に理解されているし、嫌われる以上に周りから慕われている。
ワルぶってはいるが面倒見はよく、困っている人を放っておくことができないタチらしい。


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*離さない ゆずれない 渡さない

約束を果たそう。

生存IF軸の話。


僕-シルバマスタピースとシルバーバレットは年老いてもずっと一緒だった。

馬房も隣、放牧の場所も隣。

若い頃は柵越しに併走だってしたね。

それにあの頃からは考えようもないくらい子どもや孫たちを見送ったし。

 

『バレット?』

 

その日の彼は柵のそばでぺったりと座っていた。

近づくほどに分かる年老いた体。

元から小さかった体はもっと小さくなって、骨が浮き出ている。

毛並みだって前と比べるとボヤけたようで。

…まぁ、それは僕も同じなのだけど。

 

『ぴー、す』

『…うん』

『なんか、ねむい』

『うん』

 

彼の体と引っ付くようにして座り込み、覗き込んだ目は今にも光が消えそうだ。

 

『ねたら、だめなんだ』

『どうして?』

『わから、ない…』

 

かすれた声が、ゆっくりと鼓膜を打つ。

 

『…なぁ、』

『なぁに?』

『………ね』

『え?』

『ぼくのこと、おいて、いかないよね』

 

今にも消えそうな声だった。

彼の、シルバーバレットの言葉は遠い昔に戻ったよう。

これは遠い昔の、子どもの頃の彼の話し方だ。

 

『ひとりに、しないよね』

『こわい』

『ねたく、ないのに、ねむいんだ』

『いやだ、ひとりは、いやだ…』

『たすけて、ぼーい』

 

涙声の彼が懇願する。

それに僕は、

 

『うん、おいていかないよ』

『ほんと?』

『やくそく、したでしょう?』

『…うん』

 

あの日の約束を今でも覚えてるよ。

キミが言ったんでしょう?─────「もう、僕を置いていかないで」ってさ。

はじまりの約束は違えてしまった。

けど今度こそ守るよ。

 

『ぼくがいるならだいじょうぶだろ?』

『う、ん』

『だからおやすみ』

『…ん』

『ぼくも、いっしょに、ねむるから、さ』

 

安心しきった顔で彼が目を閉じる。

僕もそれに倣うように目を閉じる。

触れているところから感じる彼の熱が少しずつ冷めていく。

それを惜しいと思いながらも、一緒にいけてよかったと思う。

 

『…ねぇ、ちび』

 

子どもの頃のキミの名前を呼んだ。

けれど応えはない。

 

『うまれかわっても、いっしょだよ』

 

あぁ、早く追いかけなくちゃ。

あの日から僕はあの子を放っておけないのだから。

チビは放っておいたらどんな馬の骨を引っ掛けるか分からない子だから、僕がそばにいて守ってあげなくちゃ。

 

(…あぁ、)

 

ねむい、なぁ。

 

 

訃報:シルバーバレット、シルバマスタピース

 

悲しいお知らせです。

本日×日の午後5時半頃、シルバーバレットとシルバマスタピースが放牧地で寄り添うように亡くなっていました。

 

周りに荒れた様子はなく、二頭とも眠るように旅立ったと考えられ、獣医師の方の診断でも老衰による心不全だということです。

二頭ともここ数年年齢による衰えが見られ、いつ何があってもおかしくないと覚悟していましたが、前日まで二頭仲良く過ごしていたところを見ていた身としては未だに二頭の死を信じられないばかりです。

享年3×歳でした。

 

 




僕&マス太:
『我ら天に誓う、我ら生まれた日は違えども、死す時は同じ日同じ時を願わん』をした(物理)。
自他ともに認める親友で看取った看取られた、先に逝った後追いしたの関係性。

実のところマス太産駒の最高傑作は母父シルバーバレットだったりする。マイルというマイルのことごとくを蹂躙したらしい。


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その時ボクは、" ███████(キミ)"という舞台の観客だった

元気な怪文書。


…結局、キミと戦ったのはあの阪神ジュニアステークス…、いや今は阪神ジュベナイルフィリーズというのだったか、だけだった。

ボクたちは共に栗東に所属していたウマだった。

今では西高東低なんて言われているけどあの頃は反対で、自分の適正なんて分からずただひたすらの万能感を持っていた幼稚なボクの前に突如として現れたのがキミだった。

 

『────圧勝、ゴールイン!』

 

その日、ボクの中にあった万能感はグチャグチャに叩き壊された。

わけの分からないハイペースに引きずられ、ボク含め出走していた全員がゴールのあと肩で息をして、仕舞いには地面に転がる者もいたというのに先頭でゴールをくぐり抜けたキミはそれが当然とでもいうようにヒラヒラと観客に手を振っていた。

 

"関西の秘密兵器───クラシックの台風の目となりうるか!"

 

雑誌にもそんな煽り文がつけられたほど、その当時からキミの実力は一線を画していて、今度こそキミに勝ってやると思っていた。

キミこそがクラシックの主役になるのだと思っていた。

けれど、

 

『ミスターシービー、19年ぶりの3冠か、大地が弾んでミスターシービーだ、逃げる逃げる、史上に残る、これが3冠の脚だ! 拍手が湧く、ミスターシービーだ、19年ぶりに3冠、19年ぶりに3冠、ミスターシービー!』

 

そこにキミはいなかった。

舞台の上にすら上がってこなかった。

不幸に遭ったのだと、聞いてはいた。

そんなキミのいなかった皐月賞でボクは最下位に沈んで、短距離に路線変更して。

負けたことに言い訳はしないけれど、ほんの少しばかりあの日最下位に沈んだのは本当なら先頭を走っていたはずのキミがいなかったからだ、なんて。

 

それで次の年、キミが毎日王冠で復帰したてとはいえ三冠馬となったミスターシービーに影を踏ませなかったと聞いた時は自分のことのように嬉しかった。

やっぱりキミは凄いやつなのだと喜んだ。

同じ年の秋、ボクはマイルチャンピオンシップを獲った。

それからいつしか一個下の『皇帝』と謳われた七冠バ様になぞらえて『マイルの皇帝』なんて呼ばれるようになったけど、それでも僕が勝ちたいのはキミだった。

あの冬の日、遠い遠い先にあったキミの背が瞼から離れなくて。

どうしようもなくキミに勝ちたかった。

けどボクたちの道は交わらなかった。

 

引退したボクと、走り続けるキミ。

普通なら諦めるところでも立ち上がって走り続ける姿を知るたびにやっぱりもう一度戦ってみたかったと思った。

そして、あのジャパンカップ。

先頭で走り抜けてくるキミ。

13番人気で誰もキミに期待してなかったのに、キミだけが最終直線に入ってきた瞬間、観客の誰も彼もがキミを応援していた。

『行け!行け!!』と。

かく云うボクもそうであったけれど。

そうして前人未到の場所に立ち入ったキミを見てボクは自分のことのように観客席で咽び泣いた。嬉しかった。

 

それからキミは日本の期待を背負って海外に飛んで、あのころ獲れなかった三冠の無念を晴らすように勝って勝って勝ちまくった。

本当にキミは凄かった。凄かったんだよ。

でも、

 

「ウソ、だろ…」

 

キミは帰らなかった。

無敵の弾丸のくせに、帰ってこなかった。

誰もキミに勝てるやつがいないからって、天国に行くやつがあるか。

それほどまでにこの世界はキミにとって下らなかった?

誰もがキミの死を嘆いたんだよ?

ボクだってそうだ。

たった一度しかキミと戦ったことがないのに死ぬほど落ち込んだ。

だってボクの自慢は『マイルの皇帝』と呼ばれたことよりも、たった一度であれキミと戦うことができたことだったのだから。

まぁ、そんなこと、キミは知る由もないんだろうけど。

────ねぇ、シルバーバレット?




『マイルの皇帝』:
たった一度だけキミと戦った。
それが誇りだった。
もう一度キミと戦いたかった。
ボクにとってはシルバーバレット、キミこそが三冠バだった。
キミこそが三冠バになるのだと思っていた。
ボク以外もそうだ。
西の連中はみんな、キミが三冠バになると思っていた。
それほどまでにキミの才覚は一線を画していた。


嗚呼、嗚呼、もう一度、もう一度だけでいい。
『…キミと、走りたかったなぁ』


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銀の祈りが言うことには

年月が経ると基本的に理想とかって歪んだりしますよね。
はじめの想定と根本から違う方に行ったりすることもあると思うんだ。


僕はシルバープレアー。どこにでもいる男だ。

まぁ父親が巷で『銀色の一族』と言われている家を興した人だったり、同期が三冠馬だったりするのは設定として濃くない?と自分でも思うけど。

 

そんな華々しい彼らとは違い、僕はというと連対こそ外したことはないがG1だけは手が届かない、残念な男。

ここ一番を期待されながら勝てない、そんな男。

 

話は変わるけど、『銀色の一族』ってヤツは怪我で引退する子たちが多い一族なんだ。

僕も本気でレースに出ているけれど、僕以外のみんなは僕よりもレースにかける熱量が段違いで。

…彼ら・彼女らは目標を定めてしまったが最後、その目標を達成するために自らの肉体のリミッターを軽々と外してしまう。

そして壊れる。壊れてしまって、笑うのだ。

「よかった」と、「勝ててよかった」と心底嬉しそうに。

 

前に仲良くなった、夢への旅路という意味を持つ名前の子と話した時言われたことがある。

 

『───アンタの家、狂ってるよ』

 

狂っている。

家に対して、家族に対してそう言われたのに僕は怒らなかった。

逆に納得してしまったのだ。

狂っている。そう、狂っている。

 

みんながみんな"あの人"に囚われている。

僕はずっと幼い頃から、周りに言われ続けていた。

目標に向かって死んでも手を伸ばさないことを、おかしいと。

…僕はずっと走っていたい、そんなことで死にたくない、だけなのにみんな、おかしいって。

でも夢への旅路はこう言う。

 

『銀色の一族ってヤツはみんな嫌いだが、アンタだけは別だ。

…怪我、すんなよ』

 

彼の言葉が僕にとっての救いになった。

 

 

夢への旅路の弟の付き添いとして凱旋門賞へと出走した。

夢みたいだと思いつつ、ゲートに入る。

そして、

 

(…あ、)

 

先頭を走る僕の前には"あの人"がいた。

"あの人"の姿を見ながら、周りから聞いていたことは本当だったんだと場違いにも考える。

 

『銀色の一族が凱旋門賞に出走すると██████の幻影を見る』

 

幼い頃から聞かされ続けていた話だ。

おとぎ話のような存在だったものが自分の眼前にいるのに柄にもなく心が踊ってしまう。

 

"あの人"は速かった。

心の向くままに食らいつくのは早計と、僕は少し離れたところから"あの人"を眺める。

 

"あの人"はとても美しい。

楽しげに走っている姿に見惚れながら走る。

 

追って追って追って、前をいく"あの人"に倣うようにスパートをかける。

ずっとこのままレースが続いて欲しいと思ったけど結局終わりは来て、

 

『よくやった』

 

ゴール板を越える瞬間、垣間見た"あの人"────シルバーバレットが僕を見てゆるりと口元を緩めていた、ような気がした。




銀の祈り:
シルバープレアー。逃げ馬。
某英雄世代最強のシルバーコレクター。
生涯完全連対を果たした怪物。
『銀色の一族』の中では異端の存在らしい。
夢への旅路とは親友の関係。
英雄は打ち倒せなかったが金色の暴君は打ち倒せた。

夢への旅路:
銀の祈りの親友。
現役時代はレースで会うたびに銀の祈りへ寄っていくことが多々あった。
他の『銀色の一族』は嫌いだが銀の祈りだけは好き。

英雄&金色の暴君:
銀の祈りと関わりのある三冠馬ども。
2005有馬で心の叫びに差し切られながらも2着に粘った銀の祈りに「キミが見る背中はすべからく僕のハズだろ?」と思っている英雄と実兄の親友であり、自分の目の前で悠々と門をくぐり抜けた銀の祈りにちょっとばかしあれやこれや(自分とは違い主戦騎手と一緒に来れてるなど)を抱いている金色の暴君。

…なんでこの血統で凱旋門賞獲るヤツって三冠馬と縁があるんだろうな?(すっとぼけ)


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◆ある日のドリームトロフィーリーグ

バレットさんの一時の休息…。


ドリームトロフィーリーグはさまざまな部門に別れている。

トゥインクルシリーズと比べればウマ娘の数はやや少ないが、それでも多くの人数がいることに変わりはない。

そのウマ娘の数だけ得意分野もあるのだからさもありなん。

 

基本的にドリームトロフィーリーグに所属しているウマ娘は自分の得意距離を主戦場にしているのだが、…ほんの極たまにオールラウンダーな適正を持つウマ娘もいるのだ。

 

「はへ〜」

 

それがこの、放心状態のウマ娘-シルバーバレットである。

シルバーバレットはどこでだって走れるウマ娘だ。

良バ場でも重バ場でも、芝でもダートでも、短距離でも長距離でも、どこでだって。

この適正の広さゆえに一年に一度のイベントで行われるチームレースで引き抜きのために死ぬほど追いかけられたりするのだが…閑話休題。

 

なぜシルバーバレットが放心しているかの話をしよう。

凱旋門賞バ・BCクラシックバとなったシルバーバレットはたくさんのウマ娘から挑まれる立場となっている。それはいい。

問題は彼女を取り合うとある二人のウマ娘の存在だった。

 

ミスターシービーとシンボリルドルフ。

 

高名な三冠バふたりがシルバーバレットを取り合う姿はもはやドリームトロフィーリーグの名物だ。

腐っても三冠バ、取り合われているシルバーバレットを助けようとしても二人の眼光に助けに入れるウマ娘はなかなかおらずシルバーバレットはいつも体が真ん中からぱっくり引きちぎられそうになっていた。つらい。

 

取り合いは日々熾烈になっていく。

そんな変わらない日常に疲れ果ててしまったシルバーバレットはこう考えた。

 

─────そうだ、短距離部門に行こう。

 

短距離路線は未だ層が薄い。

シルバーバレットが現役をしていた最後の方にやっとこさスプリンターズステークスがG1になったくらいだ。

トゥインクルシリーズで短距離を盛り上げてくれるウマ娘が現れることを祈るしかないのだが、…まぁドリームトロフィーリーグでも短距離路線を盛り上げる一助になってやろう、とそんな感じの少し高尚そうな言い訳を考えて。

 

「やぁ、マイルの皇帝殿?

…とりあえず僕、今度のドリームトロフィーリーグで短距離部門に出ようと思ってるんだけど、どう?」

 

そういうわけで同期を誘ってみたりするシルバーバレットなのであった。

 

 

「やー、いいレースだったね!

え、なに?あっち見てみろって?

…げっ!?」

 

短距離レースを楽しんだシルバーバレット。

共に走った同期に話しかけていると不意に指さす方を見てみろと促される。

するとそこには、

 

「やっべぇ顔してる〜!!」

 

予想のとおりというか何というか、人にはお見せできない顔をしたミスターシービーとシンボリルドルフがいて…。




僕:
三冠バ×2に絡まれるのに疲れて一時的に短距離に移動した。
一応短距離部門を盛り上げるためという理由をつけている。
ちなみにドリームトロフィーリーグに行ってからイベント毎に死ぬほど引き抜きが来て軽く泣いてるらしい。

マイルの皇帝:
僕の同期。ずっと走りたかった僕と一緒に走れて嬉しい。
これを機に仲良くなろうかな〜?と思っている。
それはそれとして短距離部門においでよ!と勧誘してたりもする。


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Dance with me?

この時のジャパンカップはみんな銀弾orチャンプの血をどこかしらに持ってる感じです。

……だからみんな見えてるんだ。


…何だか懐かしい場所だなと思う。

ニンゲンに引っ張られて歩いていると不意に話しかけられた。

 

『シロガネガイセイ!』

 

僕の名前を呼んでいる、ということは知り合いなのだろうか。

確かによくよく見てみるとどこかで会った気がしなくもないが。

 

『今度こそ勝って、お前の目を俺に…ッおい!まだ話してるんだが!?』

 

何がしたかったのだろう。

引きずられていく姿を見ながらぼうっとしていると上に乗っていたニンゲンが話し出す。

 

「はは…、クライハウンドは相変わらずだね」

 

クライ…。あぁ、そういえばクライなんとかというヤツがいたっけ。

アレが今のか。何だか見覚えがあると思った。毎回絡まれてたら嫌でも顔を覚えるよね、うん。

 

「そういや今回の出走馬全頭に銀色の血が入ってるらしいぜ」

「えっ、本当ですか!?」

 

ニンゲンが何かを話している。

けれど興味を抱くことはない。

早く、早く走らせてくれないかなぁ…?

 

 

テレビは今から始まるレースを映していた。

それを聞きながら僕は目を閉じる。

 

「…楽しんでいこうぜ、相棒」

 

 

いつも通りのスタートだったはずだ。

だが自分の前にはひとつの影があって、

 

「は…、」

 

上からはニンゲンの困惑の声が聞こえる。

その影は悠々と進んでいく。

こんなこと、今までなかった。

自分がハナを取れない、なんてこと。

 

『…ハハッ』

 

ありえない現状に闘志が燃える。

何もかもはじめてだ。

誰かにハナを譲るのも、ここまでココロが掻き乱されるのも。

 

『アンタが誰かなんて、関係ない』

 

自分の前を往く影に。

ただそれだけを思った。

 

『勝ちたい』

 

お前に、勝ちたい。

 

 

…随分と"彼"は調子がいいらしい。

確かにあのころと比べると走りやすくなってるよね。

まぁそれ以外の要因の方が強いんだろうけど。

 

 

『誰だ、アイツ…』

 

俺含む全員が困惑していた。

 

『シロガネガイセイからハナを奪うなんて…』

 

そう。

今回このレースに出走しているヤツの中で逃げ馬はシロガネガイセイただ一頭。

だからレースを作るのもシロガネガイセイだと、思っていたのだが、

 

『誰だよ…!』

 

シロガネガイセイは誰かを追っていた。

自分よりも前を往く"誰か"を。

ハイペース過ぎる展開。

後ろにいる俺たちはお前を追うことしかできなくて、それしか許されなくて。

だがそれこそが、今の走りこそが、

 

『お前の本気なのかよ、シロガネガイセイ…!』

 

引き離されていく。千切られていく。

辛うじて二番目にゴールを切ったが、

 

『ぜぇ…、しろがね、がいせい……、っ!?』

 

爆発したような歓声の中で、ソイツの顔を見た。

どうして。

お前が、そんな顔するわけ、

 

『…まけた』

 

呆然とする俺の前で雫が落ちる。

シロガネガイセイは、泣いていた。

『まけた』と言って、ひどく静かに泣いていた。

その顔に俺は、

 

(おれが、そのかおをさせたかった)

 

ただ、そう、それだけを思った。

 

 

「…いましたよね?」

 

同じレースにいた同業にそう聞くと誰もが「いた」と応えた。

いないはずの存在が、いたと。

誰よりも前に往く影があったと。

今日の勝者──シロガネガイセイとそっくりなその影。

それは、

 

「シルバーバレット…」

 

その日ジャパンカップには『亡霊』がいた。

それを知るのはジャパンカップという舞台にいた騎手と馬だけだが、

 

『…"あの子"と一緒に、いい夢を見せてもらったよ。ありがとう』

 

その『亡霊』の相棒であった男からそんな言葉が告げられたのも、また事実であった。




再来&まだまだ新人騎手:
オリジナルが見えちゃった馬(父:コントレイル)&人。
今回はのちに無敗の11冠になる馬のベストレースだった。
だが今まででいちばん本気で追ってるのに追いつけなかった。
はじめてココロを揺らし、負けた悔しさで泣き出したウッマに騎手くんもココロ揺らされてる。

再来被害者の会・会長:
クライハウンドくん。血統に某心の叫びさんとシルバーチャンプがいる。
3歳・4歳に天皇賞・秋連覇、4歳に大阪杯勝ってる。
けど再来には一度も勝てないまま、後塵を拝して終わる。
まぁ再来が引退してからはコイツが猛威を振るうんですけど。
自分じゃない相手に宿敵である再来が心揺らされて泣き出して曇ってる。
俺がその顔をさせたかった、とのこと。

亡霊とその相棒:
再来&騎手を相手してやってもいいと見定めた。
そのために蘇ってきた亡霊なのかもしれない。
完全に円熟した天才の再来と馬場があの頃よりもよくなってるからね。
それと自分に競り合ってこようというウッマがいたお陰でテンションアゲアゲだった模様。勝てるわけがない。
多分2:19.0は普通に超えてる。


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███牧場資料館見学レポ

今回はmbのレポみたいな感じ。


███牧場資料館見学レポ

 

 

いい感じに休暇が取れたのでずっと行きたかった███牧場資料館へ。競走馬シルバーバレットやそこから連なる軌跡を知るにおいてはこれ以上ない場所です。

███牧場資料館は1990年代に建てられた建物ながらもたびたび改修増築が行われているためそこまで建物が古いという感想は抱きませんでした。

そもそもレストランやお土産屋さんもある資料館ですからどこぞの博物館と並んでも遜色ないという…。本当に資料館なんですか?

 

目次▼

感想①:シルバーバレットの軌跡

感想②:シルバーバレットに連なる名馬の軌跡

感想③:特別展について

おわりに

 

感想①:シルバーバレットの軌跡

 

この資料館はシルバーバレットという競走馬のために作られたといっても過言ではありません。

少なからず競馬を知っている人間ならシルバーバレットという競走馬を知らないものはいないでしょうが、いちおうは知らない人のために概要を。

 

シルバーバレットは1980年生まれの競走馬です。

ミスターシービーと同世代ですが対戦は一度だけです。

シルバーバレットは1983~1991年の長きにおいて走り、芝2400mのワールドレコードを今現在も所持しています。そして日本競馬史上初の凱旋門賞・BCクラシック制覇馬でもあります。

まぁ今となっては父や母父としての方が有名なのでしょうが。

親友のSSがいた頃は彼とリーディングサイアーを獲り合い、SS亡きあとはトップを維持して、ブルードメアサイアーはずっと、亡くなった今も首位独走&爆走してますもんね(さすがにあと何年か、多く見積って十年くらい経てば中央地方ともに首位陥落するでしょうが…)。

 

資料室はシルバーバレットに関するさまざまなもので溢れかえっていました。

説明文も熱量が半端なく、愛されているのだなぁと感じましたね。

1990ジャパンカップの優勝レイや凱旋門賞時の蹄鉄も拝見できて非常に眼福でした。

 

【シルバーバレット、凱旋門賞優勝時着用と書かれた蹄鉄の額の写真】

 

 

感想②:シルバーバレットに連なる名馬の軌跡

 

次はシルバーバレットに連なる名馬の軌跡なのですが、…多すぎる!!

いやそれはそうですけど!直系のシロガネ冠名だけでもめちゃくちゃ勝ってますから分かりますけど!!

 

【遠目から写した資料室の写真。遠目から見ても部屋がみっちりしている】

 

資料館の方がいうにはまだまだ増える予定らしいです。

シルバーバレット産駒や、また母父としての産駒が勝つたびに優勝レイや優勝カップなどが日本だけでなく世界中からこの資料館に送られてくるとか。

また資料館を増築するかも、とも。えぇ……?

 

【中央、地方、海外と分かれたブースの写真×3】

 

 

感想③:特別展について

 

特別展示室におもむくと今回はシルバーバレットの初年度産駒がフューチャーされていました。

銀色のアイドル・シロガネハイセイコやその宿敵である銀色のヒーロー・シロガネヒーローなどの貴重な品を拝見でき。

そう、かくいう私はこの世代のファンなのです。

そのために有給をとって遠路はるばる来たわけですが。

 

【初年度産駒の来歴のパネル】

【シロガネハイセイコなど初年度産駒が集まって撮られている写真】

 

普段は物が多すぎて展示できず、資料保管部屋に置いておくしかないらしい貴重な資料を見ることができて万々歳でした!

この展示が終わると次はシルバーチャンプの産駒たちがフューチャーされるようですよ!

 

【特別展示のチラシの写真】

 

まとめ

 

は〜…(感服&眼福)。

本当に楽しかった。時間が許すなら泊まり込みたいぐらいでした。

この記事では語りきれないくらいの資料量!圧倒でしたね!

最後は資料館で購入したおみやげを。

 

【シルバーバレットを含む精巧なぬいぐるみたち】

 

なおこのぬいぐるみ、白銀グループが作っているらしいです。

値が張るなぁとは思いましたがここまで精巧に作られているなら文句は言えません。

できれば全頭買いたかったのですが資金が…とほほ。

今度行く時はもっと軍資金を持っていかねばならないですね…!




███牧場資料館:
はじめは僕のために作られた資料館だったが僕の子孫が活躍するたびに優勝レイなどが送られてくることから大きくせざるを得なかった資料館。
日本世界含め近代競馬を語るために必要な一級品の資料が大量にある。
まぁ個人で所有してるよりもここに預けた方が丁重に扱ってくれるしね。
そしてまだ増えていく。シルバーバレットの血が潰えない限りは、ずっと。


僕:
ウマ娘から競馬を知った人間でも聞いたことがあるくらいには有名な火傷顔のウッマ。その生涯の波乱万丈っぷりには脳を焼かれ…魅せられる人間が多数の模様。
実はブライアンズタイムより少しだけ(1~2年ほど)長生き。
早めに亡くなったトニービンやマブダチ・SSの代わりに種牡馬となった彼らの子どもをしこたま殴り倒していた。
まだまだ若いのには負けません定期。まぁそうするしかなかったともいうが。…トニービンとSSがもうちょっと長生きしてたらなぁ、という気持ちで孤独に玉座を守っていた。
そして産駒がそこまでG1勝たなくてもコツコツやればリーディングサイアー獲れるよ?を実践した馬でもある(生涯産駒の中で未勝利馬がたった一頭だけの男)。
その様子は基本父さん好き好きな実の子どもたちからも「手加減しろジジイ!」「いい加減にしろジジイ!」と言われたほど。
産駒傾向としては牡馬:牝馬=4:6で、それでいて頑丈で長生きな子が多い。

生涯通じて種付け料が安かったこととクソほど小柄な体格のワリに阿呆みたいに体力があった&種付けが上手かった&受胎率が高かったせいで後年には『性豪』やら『日本でコイツが相手しなかった牝馬は存在しない』とまで言われてしまった。
あと丁寧で優しいので種付けに忌避感を覚えさせないためにハジメテの牝馬の相手をよくさせられていた。いたいけな牝馬ちゃんの初恋を奪うな〜!
だが彼が没したあとに牧場の人がバラした『仕事としてヤってただけで牝馬には全然!まったく!興味が無かった。子と孫は大切にしていたようですがそれ以外には基本興味を示さなかった。…アイツが血縁以外の馬で興味持ったのってオグリとSSぐらいじゃないですかね?』『たぶん種付けは嫌いだったと思いますよ。僕たち人間が頼むからしてくれていただけで』という言葉には誰もが宇宙猫したらしい。

最底辺から成り上がり最終的には競馬界を席巻して、世界を変えた"サラ系(かいぶつ)"。
シルバーバレットを擁していた███牧場は元は一介の小さな牧場ながらも彼がいたおかげで社…などと対等にやり合えるくらい大きくなってそう。


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物欲

元性別軸の話。
コイツ、SSに『産駒バトルしようぜ産駒バトル!!』って絡むことありそうだな…。


基本的に僕には何かを買いたいとかいう物欲がない。

でも運がいいのか何なのか死ぬほどお金が貯まっていく。

贅沢な悩みだと自分でも分かっているが、

 

「娘たちーッ!何でも買ってあげるから買い物行こーッ!!」

『はーい!!』

 

こういう時は買い物に行くに限る。

キャッキャしている娘たちを見ると頬が緩む。

いろいろと買っているけど僕の資産にとっては微々たるものなんだよな、これでも…。

ブラックカードで払いつつ、買ったものは車で運んでもらうように頼む。

 

「…えっ?なんでみんな僕の腕掴んでるの?

…いやいや、服なんて要らないって。

『お父様が安っぽいポロシャツなのが耐えられない?』

いいんだよ僕はコレで!

ヤッ、ヤダよ、引っ張らないで!

そんなお高いお店に入らないでよーッッ!!」

 

 

「息子たち〜、焼肉食べに行こうぜ〜」

『っしゃオラァ!!』

 

ウチの家は娘も多ければ息子も多い。

それに揃いも揃って食べ盛りだからいっぱい食べる。

スクスク育ちな…と思いながら肉やら野菜やらを焼く僕だが、

 

「ねぇ、なんで僕の皿に野菜とか肉とか積み上がってるの?

焼けてるんだからみんな早く食べたらいいのに。

え?『お父様はもっと太った方がいいです?』

僕はこれが適正体重だからヘーキへー…。

おいコラ、ハイセイコこの前の健康診断の結果バラさないで!

そりゃあちゃんとご飯食べて寝てなかったお父様が悪いけど!

あああああ、皿に盛らないでぇ!!」

 

 

「…なぁ、サンデー。旅行行こうぜ」

「そりゃあいいけどどこ行くつもりだ」

「ラスベガスとか」

「また金減らしたいってか」

「Exactly(そのとおりでございます)」

 

久しぶりにサンデーに会った初っ端からこの会話である。

はじめは「何言ってんだコイツ」という顔をされたが最終的には旅行に付き合ってくれるようになった優しいマブダチなのだ、サンデーは。

 

「前もそんなこと言って金増やして絶望してたじゃねぇか」

「やってみないと分からないだろ!」

「どうだかな」

 

呆れたようにため息をつくサンデーにプンスコする僕だったが、サンデーの予想通りカジノで大当たりを続けてしまうことも、また増えた資産に絶望する僕がいることもまだ知る由もなく、

 

「…どうしよ、コレ」

「トレセン学園とかURAに寄付したらいいだろ、もう」

「その手があったか」

 

その日からURAやトレセン学園の施設・器具が入れ替わり立ち替わり新品になるようになったのはまた別の話。

 

「…URAと学園の人に寄付を抑えてくださいって頼まれちゃった」

「…そうか」




僕(元性別軸のすがた):
妙に運がいいというか黄金律持ってるタイプ。
本人は圧倒的庶民なので『こんなにお金要らない…』となっている。
でも金は増えるばかり。
普段はぽやぽやしてるから舐められてるけど現役時代は某ヒラコーさんや某デビチルみたいな絵柄しててほしい。
というか「ならば世界をぶち壊せ」ってキャッチコピーの『SILVAーBULLET 〜LEGENDARY SCAR〜』とかいうコミカライズ作られて表紙で目ェギラギラ悪魔みたいに笑って、鼻血指で拭っててほしい。


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見えない"ナニカ"と戦う者

史実‪√‬の話。


僕の名前は"サンデースクラッパ"。

どこにでもいる馬だ。

 

僕にはたくさん兄弟がいる、らしいのだけど僕だけ他の兄弟と父親が違うのだという。

生まれた時から傍にいる母と姉にそう聞いた。

 

『もう少し大きくなったら「きょうそうば」ってものになるのよ』

『「きょうそうば」ってなぁに?』

『たくさんのお馬さんと走るの。

スーちゃんは走るの好きでしょう?』

『うん!』

 

母であるホワイトリリィは基本放任主義で、必要な時だけ手を貸してくれた。

まぁ、母は牧場のヌシであったから普段から忙しい馬であったが。

そんな母の代わりに面倒を見てくれたのが姉である"シルバフォーチュン"。

ぶっきらぼうだが優しい母と同じく優しい姉に囲まれて僕は生きていた。

走ることは好きだったから「きょうそうば」になるのを楽しみにしていたのだけど、

 

『ヒッ!』

 

その人にはじめて会った時、背筋が凍った。

恐怖から思わず攻撃してしまうほどに。

落ち着いてみればその人はとても優しくて良い人であったのだけど、

 

(見られてる…、近くに強いのがいる…?)

 

その人の近くにはいつも気配があった。

今まで感じたことのないほどの"強者"の気配が。

付かず離れずといった感じに僕とその人のことをジッと見つめている気配があった。

 

「…よろしくな、サンデー」

『よろしく、お願いします』

 

"白峰透"と名乗ったその人は姉と、あと顔を知らない兄に乗っていた人なのだという。

白峰さんは優れた人、だと思う。年若い僕が言うのも何だが。

彼が指示するとここは無理だろうなと思っていた道が簡単に開ける。

まるで未来を見ているような、魔法を見ているような心地。

しかし、

 

(やっぱり、いる…)

 

白峰さんのそばにいる気配は未だに消えなかった。

逆に僕が走っている時に限って、鬼ごっこのように一定の距離を保って追ってくる。

本当なら僕なぞ簡単に追い越せるだろうに、鳥をたわむれに追う猫のごとく後ろにいるのだ。

初対面でその気配に屈服させられてしまった僕は、必死に逃げるしかない。

余裕もクソもなく、ただ追ってくる気配から逃げていた。

 

その日はなにかが違った。

はじめてたくさんの馬を引き連れて、走った日。

白峰さんの指示通りに脚に馴染む地面を蹴って、走って。

そのはずなのに、

 

ゾッ!

 

『────ッッ!!』

 

それは一番の恐怖だった。

追うとか追われるとかじゃない、走らなければ()()()()()

そう思った。

走る、走る、ただ走る。

気配に追われていないのにも気がつかないまま走り抜けた。

 

『…あれ?』

 

ゼェハァゼェハァとバテバテになりながら、

 

『なんで勝ってるの…?』

 

そう呆然と呟く僕に、白峰さんが「よくやった」と褒めてくれたが、

 

(あっ、また見られてる…ッ!)

 

僕はというと、気配からじとりとした視線を感じたために冷や汗を流すしかなく…。




半弟:
SS産駒サンデースクラッパくん。
どうやら"ナニカ"を感じるチカラがあるらしい。
"ナニカ"に少しばかり怯えてたり怯えてなかったり…?
カブラヤオータイプのウッマだと周りから思われているが実のところ他の馬は怖くない。
彼が恐れるのはじっと自分を見つめる"ナニカ"である。
後に無敗の三冠馬グローリーゴア(EG産駒)をBCクラシックで打ち倒すウッマ。

"ナニカ":
なに僕の騎手くん乗せて負けそうになっとんねんの気持ち。
それと半弟を可愛がる気持ち半分。
だがしかし、普通にしていても威圧感があるらしく半弟からは怯えられている。


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ある日突然かつての愛馬がウマ娘になって会いに来たら…?

ネタ元はとある掲示板のスレ。


「騎手くん、久しぶり!」

 

ある日、唐突に知らない美少女が現れた。

馬耳の生えた、とても小柄な女の子。

ひと言断ってから耳を触らせてもらうと「くすぐったいよう」と言うし、人間本来の耳の部分を見せてもらってもそこには何もなくて。

不思議な、それも見覚えのある毛色の髪をした彼女を僕は強く抱き締めた。

 

「わ〜騎手くん、ちょっと手加減してくれよ。

今の僕はぷりちーな女の子なんだぜ?」

「うるさい…!勝手に、サヨナラもお疲れ様も言わせずにいなくなった癖に…!」

「…それは、まぁ、すみませんでした」

 

その日、女の子になったシルバーバレットが僕の元に帰ってきた。

 

 

シルバーバレットいわく「今の自分はウマ娘」とのこと。

ウマ娘ってなんだい?と聞くとウマ娘はウマ娘で、でも知り合いの中にはミスターシービーやらシンボリルドルフなどがいるらしい。

 

「まぁ、アイツらはこうやってこっちに来ることもなさそうだけど」

「そうなの?」

「そうさ。僕が勝手に騎手くんに会いたくて来ただけなんだ」

 

そう言いながらバレットはせかせかと家の掃除をしたり、ご飯を作っていた。

「相変わらずヒトとしては駄目駄目なんだね」なんて言いながら。

 

「騎手くん」

「なんだい?」

「…怪我しないように気をつけてくれよ。

世界にはあの時の僕みたいにキミを待っている子たちがいるんだから」

「あぁ、分かってるよ」

 

僕は騎手をしている。

シルバーバレットがこんな形でも帰ってきてくれて、少しずつメンタルケアができた。

人前でも笑えるようになった時はテキに「よかった」と号泣されてしまったのは記憶に新しい。

 

「頑張ってね、騎手くん」

「うん」

 

仕事に行く時、エプロンをしたバレットが駆け寄って来てぎゅうと抱き締めてくれる。

五分くらいは抱き締めてくれるので「何でそんなに抱きしめるの?」と聞くと「騎手くんが今日も無事でありますようにって祈ってるんだ!」と。嬉しい。

 

けれど、

 

「バレット!」

「あぁ、騎手くん」

 

バレットが交通事故にあったと聞いて慌てた。

汗だくになって駆けつけると右の頬にでっかい絆創膏を貼った彼女が。

 

「そんなに焦って来ないでよかったのに。

ウマ娘はヒトと力が違うから、…いやそれでもしくって顔面ダイブしちゃったんだけど」

 

子どもが車に轢かれそうだったところを助けたらしい。

後日、助けられた女の子とその家族がお礼を言いにやってきた。

 

「じゃあね、カオルちゃん」

「うん!バイバイおねーちゃん!」

 

彼らが帰ったあとでホッとひと息ついているとポスっとバレットが肩に頭を乗せた。

 

「…どうしたの?」

「ごめん」

「え?」

「不安にさせたんだろ?手、震えてる」

 

震える僕の手をバレットが取る。

その手にちゅ、と口付けた彼女は「もうどこにも行かないから」と笑って、

 

「…そっか」

「あぁ、そうさ。…んでさぁ、騎手くん」

「なぁに?」

「そろそろ僕誕生日だからさぁ、誕生日プレゼントとして騎手くんが勝ってるところ見たいなぁって…」

「…はぁ、分かったよ」

「やった!」




僕:
騎手くんに会いにやって来た。騎手くんだーいすき。
恋愛感情はないけど実質幼妻してる。
本人いわく『僕はとってもぷりちーな騎手くんの愛バなんだ!』とのこと。
ウマ娘しつつ、生前の記憶もちゃんと保持してる模様。
基本は騎手くんの家に在宅だが、もしかすると騎手くんに連れられて牧場に行ったり、テキに会いに行くこともあるかもしれない。

騎手くんが天寿をまっとうしたら一緒にいくつもりの愛馬。

騎手くん:
白峰透。愛馬が美少女になって帰ってきた。
メンタルズタボロだったところをその原因に治療された男。
交通事故に遭う本来の運命を無敵の相棒が肩代わりしたため、死ぬまで騎手現役を続行できるし、する。天才の再来潰えず。
かつての愛馬(現美少女)に恋愛感情+邪な情は持ってないが、それ以外の情は向けてる。実質共依存関係。しかも重い。
かつての愛馬を本心では誰にも見せたくない。
まぁウマ娘とかいう未知の生物であるのもそうなんだけど『さよならはまだ言えない』のメンタルから考えるとそうなるよなって…。
でもテキやホワイトリリィ・シルバフォーチュンがいる牧場には連れて行ってくれる。

この世界でも『さよならはまだ言えない』を執筆するし、担当編集が激重感情向けられてる愛馬本人になる。
ケラケラ笑いながら本文添削していく愛馬なので本ができあがったら他の軸の『さよならはまだ言えない』より特級呪物化が凄まじいかもしれない。

自分が天寿をまっとうしたらシルバーバレットが一緒についてくるとナチュラルに思ってる男(正解)。


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"必然"

『運命』なんてモンじゃない。


僕の名前は白峰透。

どこにでもいる騎手だ。

それなりにいろいろな馬に乗らせてもらったけど八大競走には手が届かないまま今まで来ている。

諦めたらいいのかもしれないが、そう決断するのは時期尚早のような気がしてズルズルと…。

そんなある日、

 

「お前に任せたい馬がいるんだ」

「はぁ、」

 

テキに呼び出されてそう告げられた。

そして新馬戦に出走する何頭かの馬に引き合わされたのだが、

 

「あの…」

「ん?」

「あの馬、なんて名前ですか」

「どれだ?」

「あそこです。あの、隅にいる小さな、黒い…」

「あぁ?アイツか?アイツはなぁ、」

「あの馬がいい」

「あ゛?」

「あの馬を逃したら僕は一生後悔する。

すみません、テキ。

…僕をあの子に乗らせてください」

「お、おいおい、ちょっと待ってくれ!」

 

その馬が目に入ったとき、雷に打たれたように感じた。

あの馬じゃなくちゃ駄目だと、あの馬を僕は待っていたのだと半ば無意識に察した。

テキは僕を説得しようとしたけれど、

 

「お、おい!」

「あの子がサラ系だとかなんだとかそういうのは関係ありません。

あの子が走らないなんて世界の損失ですし、まず僕がそれを許せない。

あの子は僕の『運命』です、『宿命』です。

僕のために生まれてきてくれた子です。

だからお願いします、お願いします灰方(はいかた)さん」

 

恥も外聞もなく、テキに土下座した。

もうあの子以外要らないんです。

もうあの子以外目に入らないんです。

僕は魅せられてしまった、()()()()()()()()()

あの、静かな黒い瞳に。

 

「あの子を、シルバーバレットを僕にください」

 

 

「バレット」

 

レースの前、気を落ち着かせている彼に近づくと、ゆるくいなないて僕を受け入れてくれる。

ぎゅう、と抱き締めればすりすりと擦り寄って。

彼は僕以外にはここまでしないらしい。

したとしても頭を撫でさせるために首を下げるくらいだとか。

 

「撫でていいかな?」

 

そう問うと静かではあったが、彼の動きで了承されたと分かった。

それが分かると耳を触らせてもらったり、脚の筋肉の部分を撫でたり、…やっぱりキミの毛並みはどれほど撫でても飽きないなぁ。

そしてスキンシップの最後にメンコの中に手を差し込んで、注意深く、彼の火傷跡を撫でる。

火傷跡のでこぼこを愛でるように、慈しむように、ゆっくり、ゆっくりと。

 

「…痛くないかい?」

 

今日は雨が降るらしい。

そんなことを思い出してそう聞くと彼は「大丈夫さ」という風にいなないて、ぐいと顔を僕に押し付けた。

 

「そうか」

 

そろそろ時間らしい。

いつものルーティーンを終わらせてキミの背に乗る。

 

「僕とキミに敵なんかいない。

でもまぁ、…楽しんでいこうぜ相棒」

 

キミだけに聞こえるようにそう小さくささやいて。

僕のそのささやきにキミも小さくいなないた。




ヒトミミから見たすべてのはじまり。

騎手くん:
本名白峰透。
僕と出会ったときに騎乗したくて土下座しかけたと世間では有名だが実は本当に土下座している。白峰おじさんの名誉のために調教師の灰方(はいかた)さんが土下座しかけたと事実を歪めてくれた。
僕に魅せられてるし相思相愛。皇帝と大僧正みたいな感じ。もしかするとそれ以上かもしれない。
僕を『運命』と呼んで憚らない系騎手だし、周りも「アンタほどの人がそう言うなら…(だって事実だし…)」みたいになってる。

僕:
シルバーバレットという名前のウッマ。白峰おじさんが大好き。
火傷跡は実質プライベートゾーンな模様。
実のところ体を触られるのはあまり好きではないが白峰おじさんにだけは『どこ触っても・どれだけ触ってもいいよ♡』している。(頭や首を触られるのはファンサみたいなものだから大丈夫らしい)
通常、他人に見せることを嫌がる火傷跡も白峰おじさんにだけは好きなだけ見ていいよ、好きなだけ撫でていいよと許している。
某調教師さんとゴルシとは違い、白峰おじさん相手ならたぶんキスも許すんじゃないか、というか普通に受け入れるんじゃないかなコイツ。

テキ:
灰方(はいかた)さん。
はじめは僕が"サラ系"だからと消極的だったが白峰おじさんと出会い、快進撃を続けていく姿に徐々に魅せられていく。
最終的に脳を丸焼きにされる調教師さん。
『シルバーバレットが最強です』ってずっと言ってそう。
しかし火傷跡は白峰おじさんほど長時間見せてもらったことはないし、火傷跡の部分を撫でようとしたらプイップイッ!(頭ブンブン)された過去がある。


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『最も心を許せる存在』

僕は恒常的にピッチ走法のウッマです。
それもえげつない速度で脚をぶん回すピッチ走法。
回転数から普通のヤツらとはダンチもダンチで、そのぶん体力の消耗もあるのにそれで勝ってたんだ。生涯無敗だったんだ。
そういうとこでもバケモノって言われてそう。


透兄ィにとってアイツが『最愛の存在』だとしたら、俺-白峰誠にとってのアイツは『最も心を許せる存在』だった。

 

 

白峰という家は基本的に馬に関わる仕事をしていて、俺が厩務員になったのも高卒でぶらぶらしていたところを見かねた親から透兄ィに話がいったからで、

 

「コイツはシルバーバレット」

「はぁ…」

 

新人であった俺にはじめて任された馬がソイツ-シルバーバレットだった。

思えばコイツははじめからどこか普通とは違う馬であった。

まず人の邪魔をしない。

厩務員の仕事は担当馬の検温や馬房の掃除から始まるのだが、

 

「来たぞーチビ」

 

俺がそう声をかけるとシルバーバレットはすうっと邪魔にならないように退く。

ボロだっていつも決まった場所にして、寝藁もそう散らばっていることはなかった。

 

「なんだよ」

 

そして綺麗好きな馬だった。

くっ、と俺の服の裾を噛んだシルバーバレットが向く方を見るといつも少しばかりのゴミが残っていて、俺は「もうちょっと寛容になれよ」なんてぶつくさ言いながら掃除をしていた。

 

次に特異だった点はレースの時だ。

馬というのはその日レースがあると分かると異常に興奮することがある。

そんな彼らに寄り添って落ち着かせるのも厩務員の仕事なのだが、

 

「…お前本っ当に変わんねぇな」

 

シルバーバレットはいつだって自然体だった。

逆に厩務員である俺の方が緊張したりして騎手である透兄ィに諌められていたほどで。

 

 

「…こんにちは」

「はい?」

 

気づけば俺とシルバーバレットは同年代の友だちのようになっていた。

彼女とはじめて会った時もそう、

 

「シルバーバレットってこの馬ですか?」

「あ、あぁ…、そう、だけどアンタは?」

「あっ、わ、私、(しずか)って言います。灰方静(はいかたしずか)…」

「灰方?灰方って…」

「そ、そうです、いつも父が…!」

「はぁ!?アンタあのクソジジ…っ、テキの娘ェ!?」

「は、はいぃぃ…!」

 

後の妻になる静と出会ったキッカケもシルバーバレットで。

父であるテキからすごい馬がいると聞いていた彼女が興味を持ち、厩舎にやってきたのが出会いだった。

 

「ふふ、人懐っこいんですね…」

「あぁ、そう、だな…」

 

静が来ると、シルバーバレットはいつも可愛こぶった。

お前そんなキャラじゃないだろと見つめると「可愛こぶってやってるんだから何とかしろよ」なんて眼差しを返されて。

そうやって愛瀬を重ねる内に俺と静は恋人になった。

 

「なぁ、チビ」

 

あと数日で凱旋門賞となっていたあの日、俺は彼と話をしていた。

 

「俺、日本に戻ったら静と結婚するんだ」

 

そう言うと「そうか」という風にいななくシルバーバレット。

もしくは「やっとか」とでも言っていたのかもしれない。

 

「それで…、結婚式にお前が出てくれると嬉しいんだよ。

…お前は、俺と静のこ、恋のキューピッドってヤツだから!」

 

シルバーバレットと出会ってかれこれ10年、恋人となった静には彼が引退するまで待ってくれと頼んでいた。

静もそれを了承してくれ、シルバーバレットが海外遠征に行く際は「頑張ってきてね」と見送ってくれた。

 

「だからさ、勝ってくれねぇと恨むぜ?」

 

俺の言葉にシルバーバレットが「ハッ」と鼻を鳴らす。

それはまるで「荷物を増やすな」とも、「当たり前だ」とでも言うようで、

 

「ホンットにお前は…、サイコーだな!」

 

思わず抱き着く俺に「うげ〜」という顔をするのもいつも通り。

それが俺には愉快で仕方がなくて、笑ってしまった。

 

 

 

……そんな、いつかの記憶の話。




厩務員さん:
本名白峰誠。白峰の姓のとおり白峰おじさんの血縁。
白峰おじさんより年下。
はじめてのお世話相手が僕だった。
のちに僕が縁でテキの娘である灰方静(はいかたしずか)と結婚する。もしかすると婿入りしてるのかもしれない。
僕が自分たち夫婦の恋のキューピッドなので結婚式に出てもらいたいらしい。

僕:
シルバーバレットという名前のウッマ。
厩務員・誠くんのことは憎からず思っているし、思っているが故に静ちゃんの前でいつも可愛こぶってやっていた。
誠くん&静ちゃんの告白の時も一緒にいた。


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『希望』は『夢』へ

"シルバーバレット"ってウッマは傍から見たら何考えてるか分かんねぇヤツであってほしい。
本馬としては『ぽけ〜』としてるだけだったりするんだけど。


白銀さんの息子から預けられたその馬は"サラ系"だった。

その息子とは何度か会っていたが、こんな競馬というギャンブルをするような人間には見えなかったのに、

 

「この子を、お願いします」

 

年若い男はそう、真摯な目で俺に頼んできた。

「貴方なら差別しない」と、「どれほど血統が悪い馬でも任されたのなら最後まで責任を持ってくれる、信用に値する人だ」と、勝手知ったるように言ってその馬を、"シルバーバレット"を俺に任せた。

任せられたその馬は非常に貧相な体つきをしていた。

1000人が見れば999人が走らないというだろう。

だがひどく頭のいい馬であり、一度物ごとを教えればスッと覚え、教えていないことまでも上手い具合に熟すこの馬に俺はいつしか魅せられていた。

コイツなら八大競走だって、三冠馬だって夢じゃないかもしれない。

そう思った。

そして、

 

「あの馬がいい」

 

"シルバーバレット"は白峰透と出会った。

まるでそうあることがはじめから決められていたようにひとりと一頭は快進撃を始めて、だが、

 

「っクソ、あああああ!!」

 

あの冬の日、厩舎が燃えた。

競走馬として生き残ったといえるのはシルバーバレットだけで。

何もかもがぐちゃぐちゃになりそうな喪失感の中で、唯一残った彼がいつしか俺たちの『希望』になった。

コイツをいっぱしの存在にすることが、無念のうちに亡くなってしまったヤツらへの弔いになると。

そんな人間の思惑などいざ知らず、シルバーバレットは勝ち続けた。

軽々と、時には苦難に見舞われながら勝ち続けて、

 

「行け!走れ!勝てェっ!シルバーバレット!!」

 

ジャパンカップ。

KGVI & QES。

ムーラン・ド・ロンシャン賞。

凱旋門賞。

BCクラシック。

 

本当に夢のようだった。

あの日、連れてこられたお前は本当にみすぼらしくて、脚も枯れ枝みたいで、走るのかと思った。

もし走らなかったら、俺が引き取ってどこかで面倒を見てやろうと思っていたのに、お前は俺の気持ちなんて知らないまま勝って勝って勝ち続けて。

お前がいなければこの厩舎はなくなっていただろう。

手に塩をかけて育てた、我が子と呼んでも構わないほどに情を、時間をかけた彼らが慈悲なく、唐突に奪われたことに打ちひしがれて、テキを辞めていただろう。

でも、お前がいたから、"シルバーバレット"がいたから。

あの日見た一縷の『希望』はいつしか国をも背負う『夢』になって。

どこまでもどこまでも走り続けるその背に、いつしか自分を重ねていた。

まだお前が諦めていないのに、俺が諦めていいわけないだろう、と。

 

「お前と出会えて、本当によかった」

 

栄光を勝ち取り、祝福を受けるお前の姿を見て無意識に出た言葉。

普段の自分なら絶対言わない言葉に気づけば俺の口角はゆるりと上がって…。

 

 

 

 

それは、醒めて欲しくなかった『夢』の話。

 




テキ:
灰方(はいかた)さん。
人間の子どもは娘ひとりだが、競走馬の息子・娘はいっぱいいる。
面倒見る競走馬たちを自分の子のように真摯に世話をする系調教師。
普段は仏頂面で無口な怖い職人気質のおじさん。人間にはコワモテなので遠巻きにされるが馬にはとても懐かれている。
自らの厩舎の火事によって絶望に打ちひしがれそうになっていた時、唯一競走馬として生き残った僕に『希望』を見た。
唯一残った"息子"である僕にめちゃくちゃ情を傾けてる。
もしかすると実の娘である静ちゃん以上に僕へ情を傾けてるかもしれない。


あの日、あの時、"僕"が、"シルバーバレット"が見せてくれた『夢』にどうか醒めないでくれと願った人。


僕:
シルバーバレットという名のウッマ。
全方位脳丸焼きホース。
"サラ系"というド底辺の身の上から出会った騎手くんの"必然"になり、テキには『希望』と『夢』を見せ、担当厩務員の恋を成就させて、国の威信を見事に叶えてみせた。
これで脳丸焼きにされないとかある?
でも死んだり死ななかったりする。
……おお、もう、お前、お前お前お前!!


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笑える日なんて来ない

たぶんこの世界の『夢の第11レース』CMは非難と納得がトントンなんだろうなって…。


俺はキミの父に惚れていた。

だからその息子であるキミに『夢』を見たのは"必然"で。

あの阪神3歳ステークス。

誰も彼もを引き連れてたった一頭やってきた姿に、遠き日の流星の貴公子を思い出して。

関西の期待馬に一気に上り詰めたキミに夢を見ていた。

 

キミなら、今度こそ、今度こそ、クラシックを、三冠を獲ってくれるんじゃないかって。

まるであのころ見た夢の再演みたいに。

東には天馬の息子・ミスターシービーがいた。

良血と零細。

父の脚質とは真逆の追込/逃げ。

東と西。

 

だがキミは来なかった。

不幸にあったのだと聞いた。

あれほど落胆した話もなかっただろう。

けれど、1984年の毎日王冠。

出走できなかったクラシックの無念を晴らすように、キミは三冠馬となったミスターシービーに打ち勝った。

東のヤツらは『まぐれだ』とか何だとか言ったけど、西の僕らはキミに大歓声をあげた。

 

それからキミは何度も怪我をしては不死鳥のごとく舞い戻ってきて、いつ表舞台にやってくるのかとヤキモキして、待ちかねて、そして、

 

『遅れてきた怪物が、戦い続けた古強者が今!ターフを支配する!

老いぼれと侮ってくれるな!シルバーバレット逃げ切った!』

 

いっとう大きな『夢』を見せてくれた。

どれほど待たせれば気が済むんだなんて泣きながら叫んだものだった。

そして「おめでとう」とも。

 

 

そんな、小さな、ちっぽけな『夢』はいつしか大きく育って、その『夢』をキミは乗せていった。

すべてを背負い込んで走って走って走って、『夢』の果てを僕らに見せてくれた。

けれど、

 

「うそ、だろ…」

 

キミは帰らなかった。

『夢』なら醒めてくれと思った。

こんなの嘘だ、って。

キミのために横断幕だって用意してたんだ。

仲間内からは『もし負けたらどうするんだ』って苦笑されたけど、コレが一番キミに似合うって。

キミに『夢』を見ていた人はいっぱいいたんだ。

キミの帰りを待っていた人はいっぱいいたんだ。

どうして、どうして…。

 

「…にげるな、にげるなよ、今になって、逃げんじゃねぇ!」

 

『敗北を知りたい』。

そう書かれた横断幕がひどく空しい。

また、キミに『夢』を見た仲間たちもひとり、またひとりと消えていった。

キミのいない世界が、耐えられないと言って。

キミ以外が走っている姿を見ると、憎くてたまらないと言って。

あぁ、あぁ、あぁ!

キミさえ!()()()()!戻ってこれば!

全部丸く収まったのに!!

 

「お前のせいだ!"シルバーバレット"!!」

 

こんな終わりなんて駄作中の駄作じゃないか!

()()が綺麗な終わりだなんて、言えるわけないじゃないか。

 

あぁ、嗚呼…!

 

「お前さあ、あんなにさぁ速かったんだからさあ、ひとっ飛びって、走って、戻ってくるぐらいしてみろよ…!

待ってるんだから、ずっとずっと待ってるんだからさあ…!」

 

なぁ、シルバーバレット(おれのゆめ)

 

 

 

 

……それは、未だ醒めない『悪夢』の話。




誰か:
関西在住でヒカルイマイの会に所属している人。
もともとヒカルイマイに惚れ込んでいたところ、現れたヒカルイマイの息子である僕に『夢』を見る。
いつしかヒカルイマイよりも僕に惚れ込んでいき、『敗北を知りたい』との横断幕を作る。
出来上がった横断幕を僕の引退式に披露しようとしたら…、ね?

他にも僕のことを好きだった・愛していた仲間がいたけどその誰もが僕が没したあと、競馬から離れていった。
彼らが言うには『彼がいない世界が耐えられない』『彼がいなくなったのに他の馬が走っているのを見ると憎くなる』とのこと。

愛しさ余って憎さ100倍になってるけどそれでも僕を嫌えない人。
ずっと帰りを待っている。


僕:
シルバーバレットという名のウッマ。代わりなんていない存在。
ちゃんとファンに愛されていたタイプのウッマ。
観客には"サラ系"とかそういうの関係ないからね。
しかし脳はすべて丸焼きにしていった模様。

また、どう足掻いたって『夢の第11レース』には選ばれない競走馬。
それにはたくさんの非難が来るけれど、疵が、癒えないままなんだ。
…だから、仕方ないでしょう?


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『憧れ』へ

憧れは理解から最も遠い感情とか言っちゃいけない、分かってるね?


"彼"は、俺にとっての『憧れ』だった。

もし馬を持つとしたらこんな馬がいい、という『憧れ』。

 

元気に走り回っているよりも寝込むことの方が多かったあのころ、俺は父によって"彼"と引き合わされた。

競走馬を見慣れた今なら分かるが"彼"は非常に線が細い華奢な馬だった。

だがあのころの俺にとって"彼"はとても大きい存在で、

 

「…っ、」

 

見つめられるだけでもびくりとしてしまった。

少し関わるとそんなことはないと分かったけれど、静かなときの"彼"は何だか、少し怖かった。

でも優しい目をした馬だった。

 

「…くすぐったいよ」

 

身長がぐんと伸びた俺に擦り寄る"彼"。

そこで撫でてやるとゆるりと眦を細められたことを今でも覚えている。

どうやら俺のスキンシップは"彼"にとって心地の良いものであったらしい。

父は"彼"にスキンシップを取ることをあまり許してもらえていなかったから。

 

 

…でも、俺が"彼"に関わったのはそれくらいしかない。

"彼"がいたころの俺は、まだ学生だったから、競馬場になんか連れて行ってもらえなかった。

その代わりテレビにかじりついて応援していたのだけど。

そして、

 

「…とうさん、だいじょうぶ……?」

 

"彼"は帰ってこなかった。

"彼"が帰ってこなかったことによる父の憔悴具合はそれはそれは凄まじいもので、その悲しみを忘れるように、いつ眠っているのかというほど仕事に打ち込んだ父はいつしか倒れ。

その結果体を壊した父はかつての俺の祖父のように御意見番という立場になり、長男であった俺が白銀家と会社を継いだ。

 

 

「ここも、久しぶりだなぁ…」

 

その牧場を訪れたのはただの気まぐれ。

久しぶりに近くに来たからと立ち寄ったそこはあのころよりもずっと綺麗になっていた。

 

「あれ?もしかして創くんかい?」

「あ、はい。お久しぶりです…」

 

顔馴染みであった牧場の人にも再会した。

挨拶だけでも、と思っていたが「ちょうどいいところに!」と引っ張られていった先で俺は、俺の『運命』と出会う。

 

「シルバフォーチュンだよ、覚えてる?」

「え、あ、いや…すみません」

「ははは!そうだよねぇ、創くんは…っ、"あの子"のことが、好きだったものね…」

「そう、ですね…」

 

昔のことを話そうと、ぱあっと明るくなった顔がすぐにハッとした。

そしてひどく沈痛な面持ちになる。

 

「…彼女は、シルバフォーチュンはね、創くん」

「はい」

「"あの子"の、妹なんだ」

 

そう言われてみると、確かに目の前の牝馬はどこか"彼"に似ていた。

体格は全然"彼"と似てないが。

そんなことをぼんやりと考えているともぞ…と動いた彼女が小さな影を前に押し出して、

 

「え?」

「フォーチュンが、ヤツドキを…!?」

 

シルバフォーチュンによって前に押し出された子馬はじっと、ただ俺を、…怒りに燃えた瞳で睨みつける。

その瞳に俺は、

 

「…あの」

「どうしたんだい?」

「アイツ、俺にください」

 

そういうわけで俺-白銀創(しろがねつくる)とヤツドキ-のちに"シルバーチャンプ"と名付ける彼との出会いは、そしてその旅路は、始まりを告げたのだった。

 

 

 

 

 

……それは『憧れ』に届くまでの物語。




馬主(息子):
白銀創(しろがねつくる)
シルバーバレットに魅せられ、シルバーチャンプを所有することになる。
この人と白峰遥にとってはシルバーチャンプが『運命』な模様。

『憧れ』を超えていけ。

シルバーチャンプを引き取ったすぐに、父でありシルバーバレットの馬主であった白銀仁が死去している。その死の要因となったのはもちろん……。
だが、恨むことはなかったし、逆に彼の元へいけてよかったなと思っている。

ヤツドキ:
後のシルバーチャンプ。父:オグリキャップ。
周りからシルバーバレットの名前を出されすぎてやさぐれている姿。
でも素はいい子なので気性難だけどそこまでじゃない。

僕:
シルバーバレットという名のウッマ。
牧場の人にもその名を迂闊に出せないくらいの傷を遺している。
なお史実√の世界では資料館は作られず、白銀家にシルバーバレットに関するものが厳重に保管されているらしい。家宝並みの扱いをされているようである。


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ユメヲカケル

The "SILVER BULLET" 〜LEGENDARY SCAR〜
ジャンル:青年漫画、競馬、競走
漫画
作者:シロガネ晴
出版社:講×社
掲載誌:『月刊アフ○ヌーン』





あのころの俺はただのどこにでもいる漫画家志望だった。

よく言われる言葉は「絵は美味いんだけどストーリーがね…」という金太郎飴を切ったみたいな文句で。

俺には絵の才能があった。だがそれと反比例するくらいに話を作る才能がなかった。

何度やっても落とされてばかり。

いつしか漫画家を目指すなんて辞めて、普通に働こうか…なんて考えていた、あの日、

 

「…すげぇ」

 

俺は小さな四角い画面の中にいた存在に魅せられた。

"彼"を描きたいと思った。

今まで競馬なんてろくに見たことがなかったのに。

たった一度見た"彼"に魅せられて、"彼"のことを時間を惜しまずに調べてまわった。

そして調べて思った、───なんとドラマチックな生だろう、と。

"彼"のことを知れば知るたびに"彼"を描きたいという気持ちが募っていった。

そして、

 

「キミが…」

「は、はい、そうです!今日はよろしくお願いします!」

「…そんなに慌てなくていい。落ち着いて」

 

俺はいつしか"彼"に関わった人間に直接話を聞きに行くほどになった。

"彼"のことを描きたいから取材させてくれと、断られても、何度断られても手紙を送り続けた、電話をし続けた。

そうするといつしかみな「キミの熱意には脱帽するよ」と取材を許可してくれて、

 

「白峰透です。…今日は、よろしくね」

「は、はい!」

 

最後には"彼"の一番近くにあった人の言葉を聞くことができた。

彼らはみな"彼"に関するいろいろなことを教えてくれた。

ここまで教えてくれていいのかという情報も中にはあったが「キミなら悪く言わないだろう?」と言われてしまえば気が引き締まるというもので。

 

「ぜ、絶対、俺!この作品を世に送り出します!

"彼"のことを後世に残します!忘れさせたりなんか、しません!!」

 

そうして俺は数年がかりで"彼"の生を漫画に描いた。

その過程で夢だった雑誌連載ももらえた。

漫画の売り上げは題材が競馬だからかあんまりだったけど、自分が思った以上には売れてファンレターだってもらえた。

『"彼"を描いてくれる人がいて嬉しい』と、誰もがそう書いてきて。

 

「やぁ」

「し、白峰さんお久しぶりです!」

「あぁ、久しぶりだね」

 

それから何年かあと、漫画の最終章の区切りの対談として数年ぶりにまた白峰さんと出会った。

対談の中で白峰さんに「あんまり漫画は読まないんだけど…この漫画だけは雑誌を買って読んでるよ」と言ってもらえたのには思わず嬉し泣きした。

 

「本当に、"彼"のおかげだなぁ」

 

"彼"を描いた作品は俺の代表作になって。

"彼"を描き終えたあとも俺は漫画家として生きていく。

生きて、いける。

 

 

…それは、『夢』を叶えた物語。




漫画家:
ペンネーム・シロガネ晴。
元々は絵が上手いがストーリーを作る才能が全然なかったただの漫画家志望だった。
夢を諦めかけていた時に"彼"を見た結果、魅せられる。
その魅せられっぷりは雑誌などを調べるに飽き足らず、"彼"の関係者に話を聞きに行くほど。
ペンネームも"彼"の名前から連想してもらった。

『夢』を叶え、『夢』を駆ける誰か。

The "SILVER BULLET" 〜LEGENDARY SCAR〜:
後の人気漫画家・シロガネ晴のデビュー作であり、いちばんの意欲作。
とある競走馬の伝記であり、その競走馬に関わる人間のロードムービーでもある。
連載当時からカルト的な人気を博していたが、後年ウマ娘が始まったことにより脚光を浴びる。
脚光を浴びた結果、愛蔵版が出版された。


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生存‪√‬w○ki風

大百科風が正史‪√‬だったんでこっちは生存‪√‬に。
執筆するにあたってSSのwikiからちょっと借りたりもしてるんで…。
W○ki風書くのキッツ…。


シルバーバレット(競走馬)

日本の種牡馬、元競走馬(1980-201×)

 

シルバーバレット(欧字名:Silver Bullet、1980年(昭和55年)6月25日-201×年(平成2×年)11月30日)は、日本の元競走馬・種牡馬である。

 

シルバーバレット

現役期間 1982-1991年

欧字表記 Silver Bullet

香港表記 所向无敌

品種 サラブレッド系種

性別 牡馬

毛色 芦毛

生誕 1980年6月25日

死没 201×年11月30日(3×歳没・旧表記)

ヒカルイマイ

ホワイトリリィ

母の父 ホワイトバック

生国 日本(××××)

生産者 ****

馬主 白銀仁

調教師 灰方勤(栗東)

厩務員 白峰誠

競走成績

タイトル 最優秀5歳以上牡馬(1991年)

最優秀父内国産馬(1991年)

JRA賞特別賞(1991年)

カルティエ賞年度代表馬(1991年)

カルティエ賞最優秀古馬(1991年)

エクリプス賞年度代表馬(1991年)

エクリプス賞最優秀古馬(1991年)

顕彰馬(1992年)

生涯成績 23戦23勝

(中央競馬) 19戦19勝

(イギリス) 1戦1勝

(フランス) 2戦2勝

(アメリカ) 1戦1勝

獲得賞金 █████████

勝ち鞍

G1 ジャパンカップ 1990年

G1 KGVI & QES 1991年

G1 ムーラン・ド・ロンシャン賞 1991年

G1 凱旋門賞 1991年

G1 BCクラシック 1991年

繁殖成績

タイトル 日本リーディングサイアー(2008-202×年)

日本BMI1位(2007-202×年)

 

 

概要↑

1982年11月に競走馬としてデビュー。新馬戦を大差勝ちしたあと阪神3歳Sを6馬身差で楽勝勝ちし、関西期待の星とクラシック制覇を期待されたが厩舎の火事によって負った後遺症にて断念。

それからは裏街道を歩み、一時は右脚の複雑骨折で予後不良になりかけ、また屈腱炎になり引退となりかけたが1990年ジャパンカップ制覇を皮切りにKGVI & QESなどをはじめとする海外G1を制覇した。

競走生活は1982-1991年の長きに渡り活躍し、また種牡馬としても長生きだった(1992-201×年)。

 

競走馬時代は白峰透を主戦騎手とし、無貌の馬、最速の蹂躙者と謳われた逃げ戦法や、サラ系という雑草の血統から下剋上を果たす強さから人気を博した。競走馬としても、種牡馬としても日本を代表する馬である。

 

生涯↑

出生

 

1980年6月の深夜、生産牧場であった××牧場で生まれる。父ヒカルイマイは1971年のクラシック二冠馬であったが当時はサラ系であったため種牡馬としてまったく人気がなく、母ホワイトリリィにこの馬がつけられた理由も牧場の資金繰りに窮した結果という散々なものからだった。

なお当時の××牧場にいた馬は当馬を妊娠していたホワイトリリィのみであり、その他の馬は種牡馬であれ繁殖牝馬であれ、近くの牧場に二束三文の値で売られていたという。

出生後の幼名は特になく、そもそも生まれ持った非常に華奢で小柄な体躯から××牧場の人間に疎まれていたと言われ、幼名がつけられたのは後に馬主である白銀仁に母子ともども○○牧場に引き取られた時であったという(○○牧場でつけられた幼名は「チビ」)。

 

馬主である白銀仁との出会いは××牧場にて当馬が殺処分されかけていたところであり、当馬の目に惚れ込んだ白銀氏が母ホワイトリリィとともに当馬を買い受け、競争年齢の3歳に達した1982年春に「シルバーバレット」と名付けた。

そして栗東トレーニングセンターの灰方勤厩舎に入厩。

はじめ白銀仁は他の厩舎にシルバーバレットを入厩させようとしたがそのすべてに当馬がサラ系であることを理由に断られ、唯一残ったのがこの灰方厩舎であった。

 

戦績

3歳時(1982年)

 

11月×日、京都開催の新馬戦でデビューする。鞍上はこの時点でベテランであった白峰透が務め、以後引退まで一貫して白峰が騎乗した。この初戦は持ったまま逃げ2着に大差を付けて快勝し、初勝利をあげる。そして間に1戦をはさみ、年末の阪神3歳ステークスに出走。またそこでも2着に6馬身つけ快勝。その強さから一躍関西の秘密兵器と見なされるようになった。

 

4歳時(1983年)

春-不幸

 

翌1983年になり、シルバーバレットはクラシック三冠に出走するはずだった。が、2月×日深夜に起こった灰方厩舎の火事により断念。その火事にて灰方厩舎の競走馬のほぼすべてが没し、唯一競走馬として残ったのが当馬となった。

 

秋-勝ち獲った王冠

 

春を全休したシルバーバレットの復帰戦は10月9日の毎日王冠であった。初の古馬との競走のため5番人気となったが楽に逃げ切ったあと、2戦のOP戦を走り1983年を終えた。

 

5歳時(1984年)

三冠馬をも置き去って

 

5歳となったシルバーバレットは東京新聞杯、日経賞と勝ち、秋の初戦に昨年と同じ毎日王冠を選んだ。なおこの毎日王冠には同世代の三冠馬・ミスターシービーやこの後にジャパンカップを制すカツラギエースがいたが相変わらずの押切勝ちで勝利した。だがゴール板を通り過ぎた後に右脚を剥離骨折。休養となる。

 

6-7歳時(1985-86年)

天皇賞・春を目指して

 

1985年剥離骨折から復帰したシルバーバレットは復帰戦として新潟記念を選び、その後もスワンステークス・ステイヤーズステークスを連勝した。この当時から当馬の非凡な才は有名で、当時の雑誌の小さなコラムに記事が載せられている。

この非凡な才を見た陣営は次の目標として天皇賞・春を選び、その前哨戦として1986年ダイヤモンドステークスを選んだ。もちろんシルバーバレットは楽に逃げ切ったがまたゴール板を過ぎたすぐに右脚を骨折する。そのあまりの酷さは観客席から大きなどよめきが起こるほどであり、一時は獣医にも匙を投げられたという。だが馬主である白銀仁が「金はいくらでも出すからシルバーバレットを助けてくれ!」との懇願によりボルトを入れる手術がなされた。経過は良好であり、奇跡のごとく復活したシルバーバレットは1987年も現役を続行することとなる。

 

8-10歳時(1987-89年)

足踏み

 

ボルトを右脚に入れたシルバーバレットは札幌記念・小倉記念・ウインターステークスと連勝し、またも天皇賞・春を目指す。1988年になると京都記念・中京記念と勝利し、いざ天皇賞・春となるが今度は左脚に屈腱炎を発症。細心の注意をはらいながらの出走であったが屈腱炎を発症した事実に陣営は打ちひしがれ、シルバーバレットの引退案まで出た。が、馬主である白銀仁の息子であり、後に自身も馬主となる白銀創の必死の説得により陣営は再起。シルバーバレットの屈腱炎が良化したことにより1990年ジャパンカップへと向かっていく。

 

11歳時(1990年)

実力の証明

 

1990年、シルバーバレットはジャパンカップへと直行した。今までは前哨戦を使うのが灰方厩舎の方針であったが、シルバーバレットの実力とこれまでのシルバーバレットの怪我の遍歴からもしもがあってはいけないと直行策となったのだという。

ジャパンカップ当日、怪我明けと年齢により13番人気となったシルバーバレットだが「たった一頭だけ駆け抜けてきた」という破格のスピードダッシュからぐんぐん走り25馬身差の圧勝。この昨年ホーリックスが出した2:22.2のワールドレコードを大きく超える2:19.0での勝利となった。またこのタイムが2着馬であったベタールースンアップと4秒離れていたため、その結果当時のタイムオーバー制度が変更された。

 

12歳時(1991年)

世界をひっくり返して

 

1991年、前年引退するはずだったシルバーバレットはJRAや社来グループなどの強い希望から海外遠征と相成った。はじめはこれまでの日本馬の成績から軽視されたシルバーバレットだったがKGVI & QES、ムーラン・ド・ロンシャン賞と連勝し、いちばんの目的であった凱旋門賞では今現在も最大着差である36馬身差で圧勝。そのあともBCクラシックを18馬身差で圧勝し、1992年競走馬を引退した。

 

競争成績↓

 

特徴・評価↑

シルバーバレットに対しての評価

その競走能力に対しては、今ではこれまでに誕生した・これから誕生する競走馬にもこの馬ほどの存在が現れることはないだろうという評価が下されているが、当時はそのあまりにも華奢で小柄な体格から散々な言われようをされていたという。

主戦騎手である白峰透・調教師であった灰方勤は当馬と出会った最初期から「シルバーバレットのような存在にこれから会えることは二度とない」との評を与えていたが当時はサラ系である当馬にそんな評価を与えることを周囲の人々は「気でも狂ったか」と笑っていた。

だがその非凡さは徐々に無視できないものとなり、まだ競走能力のピークに達していない4歳の時点で「(シルバーバレットのあまりの速さに一緒に走った馬の)心が折れるから手加減してくれ」と言われてしまうほどであったという。

 

またシルバーバレットは脚の速い競走馬だと知られているがこの馬を知る多くの騎手・馬産家はその才能の本質を「どこでも同じように走れること」だと述べており、たしかに当馬の競走成績を見ると短距離~長距離、芝・ダートと幅広く、そのどれもで遜色のない結果を出している。

 

レーススタイル

シルバーバレットは父ヒカルイマイとは違い「逃げ」戦法を好んだ。主戦騎手である白峰透が言うには「シルバーバレットは頭のいい馬であったから仕込めば他の走り方でもいけた」が、その体格の小柄さから一度馬群に飲まれればひとたまりもないとのことでもっぱら「逃げ」戦法を選んでいた。またスタートを大の得意としており、ハナを切って悠々と自分の思うがままにレースを進めるのを楽しみ、そして最終直線で父ヒカルイマイ譲りの末脚を爆発させ、逃げおおせることが常であった。その走りは当時の騎手たちからして「逃げて追い込む」とまで評されたもので、大いに恐れられていたという。

 

そしてシルバーバレットの大きな特徴としてコーナリングの上手さが挙げられる。元々シルバーバレットという馬は小さい歩幅で脚の回転を速くするピッチ走法をとる競走馬であったが、それを考慮に入れても「いつ手前を変えたのか分からない」、「コーナーを回りながら凄まじい勢いで加速してくる」、「そのコーナリングの上手さに父ヒカルイマイ譲りの末脚も加わるものだから打つ手がなかった」と後年評する騎手もいた。

 

精神面

シルバーバレットは非常に気性の大人しい馬であった。人間の言うことには従い、世話で困ったことはあまりなかったとされている。担当厩務員であった白峰誠いわく普段は『放っておけばいつまでもぼうっとしてるような馬』だったが一度レースになれば『怖いぐらい闘志を漲らせる馬』であったという。また輸送にもめっぽう強く、海外遠征の折もピンピンしていたため現地の人間を驚かせたという逸話が残っている。

 

身体面

シルバーバレットの調教師であった灰方勤は「シルバーバレットの馬体の欠点は目をつぶって済むようなものではなかった」「同じような馬が1000頭いてもその999頭は走らない」としている。その馬体の酷さは前述の通り生産牧場にて殺処分されかけていたほどのものであり、「この馬が生き残ったことこそ奇跡」だとも述べている。

 

███は、種牡馬時代のシルバーバレットが最盛期は200頭以上、多少落ちても年100頭以上の繁殖牝馬と種付けができていたことについて「抜群のスタミナと内臓機能、それに非常に柔らかい体が合わさった結果だ」と評しているが、その受胎率の高さについては「なぜそんなに高いのかさっぱり。もう笑うしかない」と評している。

 

種牡馬として↑

種牡馬成績・記録

前述の通り、シルバーバレットはサンデーサイレンス亡き後、入れ替わるように2008年から202×年まで1×年連続でリーディングサイアーとなっている。

 

シルバーバレットは、中央競馬における内国産種牡馬に関する記録の多くを更新した。リーディングサイアー、連続リーディングサイアー、通算勝利数、通算獲得賞金、通算重賞勝利数、通算G1級競走勝利数、年間勝利数、年間重賞勝利数、年間G1級競走勝利数、年間獲得賞金額、通算クラシック勝利数、1週間勝利記録はいずれも最多記録を所持している。

 

また、中央競馬・地方競馬をあわせた通算勝利は4820勝で、当時の世界の最多記録であった。

 

ブルードメアサイアーとしての成績

シルバーバレットをブルードメアサイアーに持つ競走馬は1998年に初めて誕生した。当初は、シルバーバレットの母方が持つ激しい気性が、悪い形で遺伝するのではないかと懸念されていたが、1世代目からG1級競走勝利馬が現れるなど破格の成績を出したため、リーディングブルードメアサイアーになるのにそう時間はかからなかった。

 

競走馬エージェントの█████は、シルバーバレットは種牡馬としての特徴である柔らかでしなやかな筋肉と穏やかな気性から生まれる「聞き分けの良さ」と「動じなさ」を、ブルードメアサイアーとしても遺伝させるとしている。

 

シルバーバレット系種牡馬の活躍と血の飽和、偏りの問題

シルバーバレット直仔の種牡馬デビューすると、日本のリーディングサイアー上位は彼らとサンデーサイレンス直仔によって占められるようになった。が、それでも種牡馬としてのシルバーバレットに勝っているとは言えず、シルバーバレットとその直仔の種牡馬の成績を見るとどうにも劣っているとしかいえない。だがシルバーバレット直仔の種牡馬の産駒も中央競馬における数々のG1級競走を制覇しており、更に国外でもシロガネリリィ(父シロガネハイセイコ)がBCフィリー&メアターフを、シロガネシデンカイ(父シロガネシンゲキ)がジュライカップを優勝し、その他の直仔種牡馬もシャトル種牡馬となり、その産駒が南半球やドバイのG1を勝利している。

 

日本国外へ輸出された種牡馬を見ると、イギリスに輸出されたグラスホッパーズの産駒フライウィズアウトリミッツがグランドナショナル親子制覇を果たし、また同じくイギリスに輸出されたシロガネリペインタの産駒リペインタージュニアがニジンスキー以来のイギリスクラシック三冠を達成し、カルティエ賞年度代表馬・最優秀3歳牡馬に選ばれている。

 

シルバーバレット自身ばかりでなく、その直系の牡馬までもが種牡馬として活躍し数多くの種付けをこなすようになると、シルバーバレットの血を引く馬が過剰に生産され、それらの馬が種牡馬や繁殖牝馬となることで近親交配のリスクが高まり、やがては日本の競走馬生産が行き詰まりを見せるようになるのではないかという懸念が生じるようになった(血の飽和、偏りの問題)。20××年の朝日杯フューチュリティステークスにおいては同一GI最多出走となる12頭のシルバーバレット産駒が出走し、スペシャルウィーク産駒のバトルクライズが優勝した201×年の宝塚記念では、出走18頭のほぼすべてが「シルバーバレットの血を引いた馬」という事態も起こっている。

 

これに対し███は、サラブレッドの生産においては一つの系統が栄えれば次に別の系統が栄えるということが繰り返されて来たのであり、シルバーバレットもサンデーサイレンスの場合と同じくほかの系統が自然と栄えるようになる、加えてシルバーバレット系の馬を日本国外へ輸出するという対策方法もあると反論している。

 

××××は、「普通なら走るわけがない血統」ながら競走馬として活躍した本馬を「運命を覆した馬」と評した。しかし、種牡馬としてのシルバーバレットについては「サンデーサイレンスと同様に功の山を築く一方で、罪の山も残した」とも述べている。

また××は、シルバーバレットという競走馬が「(日本の競馬が好む)小が大を制する、脇役が主役を食う、底辺から這い上がった馬が頂点をめざす、どんでん返しの展開、意外性といった波瀾万丈、立身出世のシナリオ展開を最後まで成し遂げた」と賞賛する一方、シルバーバレットの直仔は代を重ねるごとに「その血ゆえに勝つことが当たり前になった」とし、シルバーバレットが競馬界全体にもたらした血統の寡占と格差社会によってそのような要素が骨抜きにされてしまったため、これがファンの競馬離れと周辺メディアの停滞を招く一因になったことは否めないと述べている。

 

特徴・評価

産駒の精神面

シルバーバレットの産駒は基本的に気性の穏やかな馬が多いことで知られた。競走馬エージェントの××は、産駒は穏やかな気性から生まれる「聞き分けの良さ」と「動じなさ」から「掛かることなく、騎手が指示するとおりにレースを行える」と分析し、「これほど騎手の腕が試される産駒を生み出す種牡馬はこの馬以外にいないだろう」と述べている。また馬主である白銀仁はシルバーバレットが日本で種牡馬として成功した秘密は度重なる不運に起因しているとし、「第一に『我慢強さ』、第二に『(血統背景からくる)負けず嫌い』にあり、それが産駒にも引き継がれ、最後まで諦めない闘争心となっている」と述べている。

 

自らもシルバーバレットに騎乗し、のちにシルバーバレット産駒にも多く騎乗して多くの勝利を挙げた白峰透は、「バレットの産駒はどんな子でも走る」と前置きした上で、「(レースを勝利するにおいて)負けず嫌いで絶対に諦めようとしない産駒の性格が自分によく合っていた」とも述べている。

白峰はシルバーバレットの産駒はスタートが上手く前目につけるタイプの馬が多かったとし、その一方で「最後の最後に二の足が使える馬が多いこと」を特徴に挙げている。乗りやすさにおいては「あれほど乗りやすい産駒はいない」としながらも「人の言うことをよく聞くから、レースを勝つ=騎手の腕の見せ所という怖い馬がほとんど」とも語っている。

 

また馬産地においても「(シルバーバレット産駒は)気性が大人しく、育成場に行っても物覚えがいい」「競走馬になれずともこのまま乗馬に回せるくらいには気性が穏やか」との評判があり、賢さを併せ持った産駒が多かった。

 

産駒の身体面・肉体面

産駒の特徴については**は、「外見・馬体ともに見栄えはしなくても肉体面が驚くほどにしっかりしていることがよくあった」と述べている。××によると「外見・馬体ともによくなくてもシルバーバレットの仔なら預かる」と話す調教師もいたという。

 

そして、シルバーバレット産駒は仕上がりが早い(調教の効果が表れやすい)傾向にあり、2歳のうちから能力を十分に発揮した。███によると、産駒は少し運動をさせただけで澄んだ心音が聞こえるようになるなどはっきりとした身体的変化を見せたという。○○によると、成功を収めたシルバーバレット産駒には細身の馬が多く、通常そのような馬は晩成型であることが多いが、シルバーバレット産駒の場合は馬体が未完成な時期にもクラシックを戦い抜く基本性能を備えていたと評している。

 

 

 

 




僕:
香港馬名で所向无敌(向かうところ敵無し)という意味のぶっちぎりの当て字名前を授けられたウッマ。
産駒が何やかんやいろいろとやらかしてたりやらかしてなかったり…。
内国産馬でSSと真正面からやり合ったバケモノ。
とても長生き。


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"獲物"

やっぱりコイツも狂血の一族なんだ。


あの日、吹き抜けた烈風を今でも覚えている。

覚えているから、アナタに執着する。

 

「あ゛?なんだァ?」

 

はじめは、暇さえあればトレーニングをサボるアナタに幻滅しました。

しかし、とある日の模擬レースで、

 

「はああああああっっ!!」

 

ハナ差、アタシを差し切ったアナタ。

周りはアナタのその勝利をマグレだと言いましたがアタシにとってはやっぱりアナタはアナタのままなのだと!

そう分かって、歓喜しました。

 

「見つけましたシルバーチャンプ!

ここで会ったが100年目デース!!」

「はァ!?」

 

だからその日からアタシはアナタを見つけるたびに併走してくれと頼みました。

けれど、

 

「なんで俺に…」

「なァ、エルコンドルパサー。

俺みたいなヤツよりさ、ほら、グラスワンダーとか、そういう奴らに頼めよ」

 

アナタは頑なでした。

なんで自分なんか、とずっとずっとずっと。

そのたびにアタシは、アナタは凄いヒトなのだと言い続けました。が、

 

「…チャンプ?」

「……っそんなにヒトをからかって楽しいかよ!

世界だって目指せるヤツにすごいすごいって言われて、舞い上がって、それで惨めに地に伏せるしかないヤツをからかって、楽しいかよ!?」

 

ギッ、とアナタがアタシを睨みつけます。

肩で息をして、呼吸も荒い。

手負いの獣のような彼女にアタシは「そんなこと思っていない」「本当にアナタはすごいヒトなんだ」と伝えますが、

 

「ンなの信じられっか!」

「…え?」

「ずっとマスクしてるヤツに、ずっと()()()()ヤツに言われた言葉なんて…!」

「……マスクを脱げばいいんですか?」

「……っ、は?」

「マスクを脱いで、伝えればアナタは信じてくれるんデスか?」

「お、おい…、エルコンドルっ!?」

「違うよ、パサーだ」

「っ!?」

 

床にアナタを、いや…お前を押し倒す。

うごうごと逃げようとするが逃がすわけなんてないだろう?

 

「僕はパサーだよ。なぁ、そう呼べよシルバーチャンプ」

「は…、お前、だれ…」

「誰もなにも…、僕はエルコンドルパサー。今までもこれからも、それに変わりはないさ」

「ち、違う、俺の知るお前は…」

「僕のコト、見てない癖にそんなこと言うの?」

「…っ、」

「気づいてないとでも思ってた?」

 

事実を突きつけられたキミが言葉を詰まらせる。

あぁ、嗚呼そうだよね、キミってヤツはずっとそう。

 

「いつもいつもいつもいつも…、キミはシルバーバレット、シルバーバレットって!」

「え、える…」

「キミの傍にいるのは僕なのに!エルコンドルパサーなのに!」

 

ギリ、と歯噛みするとキミがひゅっと息を飲んだ。

…あぁ、やっと見てくれた?

 

「…うん。そう、それでいいんだよチャンプ」

「…は、はっ、はぁっ、はぁっ」

「僕だけを、見て?」

 

ボロボロと泣き始めたキミの涙を指で拭ってやる。

…キミの泣き顔、"あの時"から嫌いなんだけどなぁ。

でも、

 

「…僕が『最強』になるためにはキミが必要なんだ」

「……ひっく、ぐすっ、」

「だから、何があってもキミを逃しはしないよ」

 

そして、最後には、

 

「…キミを喰ったらどんな味がするんだろうね?」

 

捕まえてあげるから、覚悟してて?




(周りを)狂(わせる)血の一族定期。
自分のストでは普通に普通なのに甥っ子の育成ではこの湿度で出てくる怪鳥さんェ…。

怪鳥:
史実の記憶有り。
あの日、自分の横を突き抜けていったシルバーチャンプに激重感情。
しかしシルバーチャンプは"とある馬"しか見てないのでマスクの下で基本イラついてる。
グラスも倒したい相手ではあるが一番倒したい相手はシルバーチャンプな状態。
今度こそ本気のキミを捕まえる。そして今度こそ、()()()を見てもらう。
だから、

『覚悟しててね?シルバーチャンプ』

ちなみに本気の甥っ子を知るのは自分だけ…みたいな独占欲を持っている模様。

甥っ子:
史実の記憶なし。史実では凱旋門賞の直後に屈腱炎を発症し引退。
エルコンドルパサーのことをこんな自分に好き好んで付きまとってくる物好きと思っていた。が今回のことで少し()怖がるようになる。
思いっきしパンドラの箱を開けてしまった。
この日からたびたびエルがマスクをキャストオフして絡んでくるようになるので「ひっ…!」と怯えるようになる。
可哀想…ではあるが元はと言えば自業自得なので…。
実のところグラスワンダーにも重い感情抱かれてる(矢印として、グラス→(いっぱい)→エル→(いっぱいいっぱいいっぱい)→チャンプ→(いっぱいっぱい)→バレットみたいな感じだから)。


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ぼくだけをみて

シルバーバレット本人の勝負服はバリバリにアスリート!って感じなんですけど産駒の代が重なっていくごとに勝負服がちゃんと正装になっていってるなったらエモくない?
どこぞの馬の骨だった"ハジマリ"から押しも押されぬ名門へ…。

ちな現役時代のシルバーバレットは常時顔が影で黒塗りで目だけが爛々と光っている仕様な模様。怖い。→
【挿絵表示】

引退後はぽけぽけジジイしてんのに…。
その落差で産駒&孫には「!?!?!?」って3度見くらいされてそう。


久しぶりに父の部屋へ行くと、父が眠っていた。

それもパーカーを着ていない姿で。

 

「…」

 

数年ぶりにまじまじと父の顔を見る。

基本的に父は自分の顔を他人に見せたがらない。

若い頃、顔に負った火傷跡を「子どもが怖がるだろうから」と隠している。

父は、深く眠っていた。

その眦には深い隈が刻まれている。

 

「…」

 

すやすやと眠っている。

その姿を見て、人形のようだと思った。

よくよく見て胸が動いているのに生きているのだと理解する。

 

「…とうさん」

 

その首に手を伸ばした。

触れる。緩く。

父はまだ起きない。

 

「おい」

 

ビクリと、声のした方に振り返るとそこにはヒーローがいた。

いつの間に現れていたのだろう。

ドアに寄りかかるように立っているヒーローが「やめとけ」と止めるのにいつも通りの"シロガネハイセイコ"になるように取り繕う。

 

「またかよ」

「…何のこと」

「親父に見てもらえないからって強硬手段に出るな」

「…」

 

同い年で、兄弟のように過ごしてきたからか、ヒーローは僕以上に僕のことを理解している時が多々ある。

そう考えながら突っ立っていると部屋から引っ張り出されて、先を行く彼に着いていきながら、二人で使っている自室へと歩を進めた。

 

 

幼い頃から一緒に過ごしてきた隣の相手を見て「難儀なモンだな」と内心ため息をつく。

一番初めに父に見出されたコイツは、父に執着している。

褒めてもらいたいだとか、認めてもらいたいだとか、そういう簡単な感情で表せないものを持っている。

 

母方の祖父をなぞるように『アイドル』と評されたコイツは取り繕うのが上手い。

上手すぎて自分自身の感情に疎い。

そして父を尊敬しているからこそ、一番初めに見出された存在だからこそ自分が一番だと無意識に考えている。

本人はそのことに自覚がないようだが。

 

「ヒーロー」

「なんだよ」

「ありがとう」

「…どーいたしまして」

 

コイツは、ハイセイコは時たま先ほどみたいなことになる。

無理矢理自分だけを見てもらおうとする。

それを止めるのが俺の役目で。

ああなったアイツは、俺の言うことしか聞かないから。

 

「また兄弟が増えるみたいだね」

 

そう言ってハイセイコは優しく笑って。

でも俺には分かる。

 

(目が笑ってないんだよ)

 

傍から見たら理想的な、アイドルらしい笑顔だが俺には薄ら笑いにしか見てない。

 

ハイセイコ。お前さ、自分以外が親父に認められるの嫌いなんだろ。

自分だけが特別なんだって思ってたんだろ。

俺たちはすべからく母親から親父のことを聞かされて育てられるから、カミサマみたいな親父が自分だけを選んでくれたって思ってたんだろ。

それで、それで…俺が連れてこられて"裏切られた"って思ったんだろ。

ずっと覚えてんだ。そして死ぬまで忘れやしない。

 

(あの時のお前さぁ、)

 

俺のことが憎くて憎くてたまらない、って顔してたんだぜ。




アイドル:
シロガネハイセイコ。父さんだーいすき。僕だけを見て。
僕が父さんのいちばんの息子ですよね?の気持ち。
基本ちゃんと隠しているが本心では『父さんの子どもは僕だけでいいのに…』と思っている。

ヒーロー:
シロガネヒーロー。ハイセイコとは実質兄弟。
ハイセイコを唯一止められる男。
普通そうに見えるがちゃんと父親のことは大好き。

パパ:
もしかすると狸寝入りしてたのかもしれない。

(…え?僕、息子に首絞められかけ…???)ガタガタブルブル


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初代様を愛でるスレ part.××××

pass:初代様の名前(英字、スペース無し)


初代様を愛でるスレ part.××××

 

1:名無しの銀弾産駒さん

 

我らが初代様を愛でたりするスレです

過度な批判コメント等は控えるように

 

 

2:名無しの銀弾産駒さん

 

スレ立てあざまる

 

 

3:名無しの銀弾産駒さん

 

あざ〜

 

 

4:名無しの銀弾産駒さん

 

今日も我らが初代様は麗しい…

だが、だがなぜ私はアルデバランじゃなくてリギルなんだ…っ!

 

 

5:名無しの銀弾産駒さん

 

>>4

誇れよ、学園最強のチームぞ?

 

 

6:名無しの銀弾産駒さん

 

>>5

それでも!私は!ア゛ル゛デバラ゛ン゛がよ゛がっ゛だの゛ぉ゛!!

 

 

7:名無しの銀弾産駒さん

 

>>6

うるさっ

 

 

8:名無しの銀弾産駒さん

 

>>6

 

 

9:名無しの銀弾産駒さん

 

>>5.7-8

>>6に石投げてええんはアルデバランに入れたやつだけやぞ?

 

 

10:名無しの銀弾産駒さん

 

>>9

……

 

 

11:名無しの銀弾産駒さん

 

>>9

……

 

 

12:名無しの銀弾産駒さん

 

>>9

……

 

 

13:名無しの銀弾産駒さん

 

>>9

……

 

 

14:名無しの銀弾産駒さん

 

 

 

15:名無しの銀弾産駒さん

 

さすがリギルが誘おうがスピカが誘おうが一度「あ、自分アルデバランに入るんで」って断られるだけあるわwww

 

 

16:名無しの銀弾産駒さん

 

あの〜、なんで僕らアルデバランに入れないんですか?

有識者の方〜???

 

 

17:名無しの銀弾産駒アイドルさん

 

>>16

キミたち全員が来たら学園のパワーバランスが壊れるからですね

 

 

18:名無しの銀弾産駒さん

 

>>17

そんなんで壊れるパワーバランスの方が悪い

 

 

19:名無しの銀弾産駒さん

 

そーだそーだ!

 

 

20:名無しの銀弾産駒さん

 

現役ん時に海外遠征行った奴が優先にチームに入れるなんてー!!

 

 

21:名無しの銀弾産駒さん

 

来る者拒まずって前文句は嘘だったんですかァ?!

 

 

22:名無しの銀弾産駒アイドルさん

 

>>18-21

仕方ないでしょう!?

ウチのチーム海外遠征が多いのをウリにしてるんですから!

来る者拒まずって言ってもあの人本当に拒まずだから!!

僕たちがどれだけ頑張ってると!?!?!?

 

 

23:名無しの銀弾産駒さん

 

知らない

 

 

24:名無しの銀弾産駒さん

 

興味無い

 

 

25:名無しの銀弾産駒さん

 

今からでもいいからアルデバランに移籍したいっす

 

 

26:名無しの銀弾産駒アイドルさん

 

>>23-25

【不適切な言動です】

 

 

 

27:名無しの銀弾産駒さん

 

>>26

規制かかっとるやんけ草

 

 

28:名無しの銀弾産駒さん

 

>>26

 

 

29:名無しの銀弾産駒さん

 

>>26

アイドルはどこ行ったんです?

 

 

30:名無しの銀弾産駒アイドルさん

 

……ごほん

では、父さんに呼ばれてるのでお暇させていただきます

 

 

31:名無しの銀弾産駒さん

 

帰っちゃった

 

 

32:名無しの銀弾産駒さん

 

アイドルさん煽るのはほどほどにしようね

あの人怒ったらめっちゃ怖いもん

 

 

33:名無しの銀弾産駒さん

 

>>32

あ〜、そう言えば前に初代様罵倒した奴鯖折りにしようとしてたよね

 

 

34:名無しの銀弾産駒さん

 

>>33

え、なにそれ知らん

 

 

35:名無しの銀弾産駒さん

 

>>34

だってアルデバラン連中で闇に沈めたもん、ね〜?

 

 

36:名無しの銀弾産駒さん

 

>>35

ね〜

 

 

37:名無しの銀弾産駒さん

 

アルデバラン怖っわ!

 

 

38:名無しの銀弾産駒さん

 

>>37

え?初代様が罵倒されてんの許せるの?

 

 

39:名無しの銀弾産駒さん

 

>>38

許せるわけないが???

 

 

40:名無しの銀弾産駒さん

 

みんな同じ穴のムジナ定期

 

 

41:名無しの銀弾産駒さん

 

初代様から見て孫世代も自分のパッパより初代様の方が好き〜!ってヤツらばっかだからね、仕方ないね

 

 

42:名無しの銀弾産駒さん

 

初代様基本僕らに甘いけど、孫世代以降にはそれに輪をかけて甘いからなぁ…

 

 

43:名無しの銀弾産駒さん

 

初代様ァ!俺も可愛がって♡(きゅるん)

 

 

44:名無しの銀弾産駒さん

 

>>43

キッッッモ!!ヴォエ!!!!

 

 

45:名無しの銀弾産駒さん

 

>>44

ンだとゴラァ!表出ろやヴォケ!!

 

 

46:名無しの銀弾産駒さん

 

>>45

キモいモンにキモい言うてなにが悪いねん!

文句あるんなら併走じゃワレェ!

模擬レース場Aで待っとくぞ!

 

 

47:名無しの銀弾産駒さん

 

>>46

上等じゃボケェ!!

 

 

48:名無しの銀弾産駒さん

 

 

 

49:名無しの銀弾産駒さん

 

まぁ気持ちは分からんでもないよね

 

 

50:名無しの銀弾産駒さん

 

初代様〜こっち向いて〜!!(キャッキャッ)

 

 

 

 




生存‪√‬で銀弾産駒(孫含む)に史実の記憶がある世界線

銀弾産駒たち:
初代様だーいすき。こっち見て〜!!(キャッキャッ)
初代である銀弾が遺した数だけ産駒がいるし、それに孫組も追加されてるので数が凄い。
その誰もが『アルデバランに入る〜!』するのでいつも大変らしい。

お前ら全員が来たら学園のパワーバランスが崩れるっていつも言ってるだろ!
そんなんで崩れるパワーバランスの方が悪いのでは?

チームアルデバラン:
シルバーバレットがチームリーダーなグループ。
海外遠征したいならここに入った方が有利と推奨されるチーム。
チームリギルが日本での厨パならチームアルデバランは海外での厨パ。
基本来る者拒まずだが、リーダーであるシルバーバレットが知らないだけで選抜試験が行われている。
チームメンバーは全員シルバーバレットに連なるもの+史実時代に海外遠征経験有。

初代様:
シルバーバレット。何も知らない。
史実時代の記憶はないが産駒たちのことは無条件で可愛がっている。


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故に、"戦う者"だと

三冠馬に縁ある一族〜♪(なお双方オリウッマな模様)


こんにちは、僕です。

サンデースクラッパです。

今、僕はいつもと違う場所にいるのですが、

 

...Sunday Silence?(...サンデーサイレンス?)

Laughably socked in...(笑えるくらいソックリだな…)

 

なんでだろう?

僕を見て周りのニンゲンさんたちがざわざわしている。

それを不安に思っていると白峰さんが「みんなびっくりしてるんだよ」と話しかけてくれて。

びっくりしてる?

 

「そう。あまりにもキミが、キミのお父さんとソックリだから」

 

お父さん…?

 

「キミのお父さんがいたのは元々この国だったからね。

そして、数年前までこの国にいたからキミのお父さんを覚えてる人もまだいるってこと」

 

ふぅん…。

でも、会ったことのないお父さんと似てるって言われてもなぁ…。

 

「まぁ、会ったことのない馬の話なんてされても、ねぇ?」

 

朗らかに笑う白峰さんと一緒にいると微かな蹄の音が…、!?

 

『…?』

『……、』

 

ビクッとする僕の前に現れたのは大きな栗毛の馬。

近づいてきたからなにか僕に用があるのかと思ったのだけど何も起こらない。

 

『(…いや、ホントになんだこの馬)』

 

そうしているとプイッとその馬は踵を返していった。

 

「…スクラッパ」

 

あの栗毛の馬が去っていった方を眺めていると静かな白峰さんの声。

その声にキュッと身が引き締まる。

 

「普段通りに、ね?」

 

……はい。

 

 

僕の戦い方はいつも変わらない。

ただ、最後まで逃げ延びるのみ。

けれど、

 

『(……おかしい)』

 

あの"気配"がない。

いつもならあるはずなのに、後ろから僕を追っているはずなのに。

…なんでいない?

"気配"があってこそ、僕は、僕は、今まで勝てて…。

そんなことを考えていたとき、横を醒めるような栗毛が駆けていった。

その明るい毛色を目にとめた瞬間、僕の中に渦巻いたモノ。

それは、

 

『(そこは…)』

 

そこは、

 

『そこは、…僕の場所だろうがッ!!

 

その場所(いちばんまえ)を奪われたくないという気持ち。

ずっとずっと走り続けていたから今にも肺が破れそう。

息だってバカみたいにあがってる。

だから、

 

『 返 せ よ 』

『……ッ!?』

 

その一瞬、ひどく驚いた栗毛の馬の顔が見えて清々とする。が、

 

『ゲホッ、ゴホッ…ガハッ、ゴフッ!』

 

心臓がバクバクといってうるさい。

息も異常に荒くなっているから必死に治す。

そうしているとまたデジャヴのような足音が、

 

『…グローリーゴア』

『……え?』

『ボクの名前。…次は、勝ちます』

『え…、うん。…うん?』

 

…うん。僕、この時はまったく思わなかったんだ。

まさかこの栗毛の彼-グローリーゴアと一生の付き合いになるなんて…。




舞台は96年BCクラシック。

戦う者:
サンデースクラッパ。1992年生。芦毛。
96年帝王賞優勝のちに渡米。
現役時の姿は父に激似。だが引退後は芦毛らしく真っ白けに。
父に空前にして絶後なあの馬を、半兄に世界をボコボコにシバいていったバケモノこと無敵の弾丸を持つ。
性格は穏やか…だが、とある"気配"を感じるとガチビビりして気性難っぽくなってしまう。
脚質は某狂気の逃げ馬のような逃げ…と目されていたが、その本質は他馬に差されてからにある。
そう、自分が差されたと分かった瞬間父譲りの勝負根性で、コロす勢いで差し返しに来るのだ。
もはや執念と呼んでも差支えのないその豪脚に差したと油断していた馬は差し切られるしかなくなるし、また、そのうちバテて落ちてくると思っていたら逃げ切られる。
なのでコイツに勝つためには通常時を差し切れる脚と覚醒時から逃げ切れる脚のふたつが必要となる。
ちなアメリカにて種牡馬になったあとに、父グローリーゴア・母の父サンデースクラッパで三冠馬を出した。

栗毛の馬:
グローリーゴア。1993年生。栗毛。
父はもちろん三代目ビッグレッドなあのお方。姿も激似。
性格は基本純粋培養天然タイプだが対:戦う者に対しては激重感情の結果、言動と行動が多少愉快になったりする。
無敗の三冠馬だったところに現れた戦う者の脚に魅せられた。
人々が望むように、敗北知らずで生きていたところ突如として現れた戦う者に見事なまでの脳焼きを敢行された模様。
戦う者に負けたことによって初めて『負けたくない』という気持ち等諸々が生まれ、戦う者に激重感情を拗らせていく。
拗らせつついっぱい『僕だけを見ろ』した結果、最終的に見てもらえるように。
ちな戦う者に『キミに会えてよかった』と言われた回は内心有頂天で暴れ回っていたらしい。
引退後は戦う者と唯一無二の親友になった上で放牧地が隣同士となり種牡馬生活を満喫(まぁ戦う者と放牧地を別にされそうになって駄々こね…暴れたとも言うが)。
んで激重感情拗らせた相手である戦う者の血を持った牝馬との間に三冠馬を出した。

ナニカ:
さすがにサンデースクラッパも大人なんだからもう僕がケツ叩かんでええやろの気持ち。
レースは少し遠くから眺めていた模様。
騎手くんがんばえ〜、スーちゃんがんばえ〜のモード。
その結果、サンデースクラッパが覚醒してくれたのでホクホク。
やった〜、騎手くんとスーちゃんとってもつよ〜い(キャッキャッ)と陰ながら喜んでいたらしい。


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夢を見ずにはいられない

リクエストより【シルバーチャンプの系譜が凱旋門獲って一族の呪いを晴らす話(その凱旋門獲った奴は、内心何時迄も過去の幻影に囚われてる一族や人間といった周囲にガチギレしてて、その結果怒りに任せて凱旋門獲って『俺を見ろ』と言わんばかりに嘶く)】です!

う〜ん、これはシルバーチャンプ経由でオグリの名が日本競馬史に燦然と残り続けるな…(白目)
この作中世界銀弾もみんなの脳焼いたけど、オグリも大概なのでは?(まぁリアルの史実からもそうだけどさ…)




ずっとずっと家が嫌いだった。

俺の父親はシルバープレアー。

家の悲願だった凱旋門賞を勝ち取った、銀色の一族の異端児。

 

「レイ」

 

父さんは優しい人だった。

「体は大事にしなさい」と何度も何度も幼い頃から言い含められた。

けど、

 

『凱旋門賞を今度こそ我らの手に』

『あのような異端児が獲ったなど認めぬ』

 

そう言うお前らの方がおかしいよ。

なんで体をぶっ壊してまで笑えるんだよ。

一応銀色の一族に所属する者だからと引き合わされた本家連中が気持ち悪くて仕方がなかった。

勝てばいいところだけ勝っておけばいいだろ。

なんで、なんで、

 

『…やはりあの血筋の人間だからソックリだ』

『お前は、あの黄金旅程にソックリだ』

 

俺の母の家とこの家は仲が悪いらしいとは何となく察していた。

母方の祖父にソックリだという俺は家のヤツらから多少目の敵にされていた。

 

「…みぃんな、いなくなってやんの」

 

けれど、最終的にはみんないなくなった。

全員が全員、怪我をしていなくなったのだ。

やっぱり気が狂ってんなぁ、本家のヤツらとひとりごちる。

 

『お前だけが希望だ』

『あの血が入っているならきっと海外でも…』

 

期待してたヤツらが戦線離脱した瞬間、誰もが俺に祈りを寄越した。

…なんだよ、それまでは俺のこと認めもしなかったくせに。

 

「なんで俺がこんなとこにいるんだか」

 

そんなこんなで連れてこられた凱旋門賞にて深いため息をつく。

人気は、…それなりに高い。

いや、これまでずっとそうだった。

────あの、"シルバーバレット"の存在から始まった銀色の一族が出走する時はずっとこうだった。

…誰も俺を見てやしない。

観衆が見ているのは、俺の血統だけ。

 

「…あぁ、大丈夫だよトレーナー」

 

イラついている俺に声をかけてきたトレーナーに大丈夫だと言葉を返す。

昔っから俺みたいな気性難の相手ばっかさせられてきたトレーナーだ。

初対面の時はだいぶ逆らったが今ではいいコンビになったと思っている。

 

「楽しんでこうぜ。─────なぁ、ケンイチ?」

 

 

逃げ・先行の戦法が主流な銀色の一族だが、俺は追込みを主な戦法として取っていた。

だってよ、馬群を突き破って、先に走ってたヤツの吠え面見るとさぁ面白くてたまんねぇんだ。

だから、

 

「お前なんか知ったこっちゃねぇ」

 

前には今にも消えそうな小柄な幻影がいる。

 

「そろそろくたばれや老いぼれ!」

 

そして、俺の名前を覚えて逝け。

 

「俺は…、ッ俺が!シルバアウトレイジだっ!!

 

旧き亡霊が掻き消えたその時、門は盛大にぶち壊され。

その瞬間、爆発のような歓声が響き渡る。

だがシルバアウトレイジはその歓声をかき消すように咆哮を上げた。

それはまるで、彼が今ここにいるという存在証明のようで。

 

「…アイツ」

「え?」

「いや何でもねぇ」

 

帰国の途上で呟いた言葉に、聞き返してきたトレーナーになんでもないと手を振った。

それから、シルバアウトレイジは目を閉じて述懐する。

あの時掻き消えた、"シルバーバレット"という亡霊。

その顔は、

 

「あんな顔されたら面白いもんも面白くねぇ」

 

シルバアウトレイジを見て、心底愉しげに笑っていた。




ファン愛称→"銀色の激情"or"激怒":
シルバアウトレイジ。
牡馬。父シルバープレアー、母父ドリームジャーニー。
某黄金旅程に見た目がソックリ。でもレースでは真面目。
2019世代。主戦はikze。
人呼んで大事なレースしか獲れない男。


主な勝ち鞍(G1):
朝日杯FS(2018)
日本ダービー、天皇賞・秋、香港ヴァーズ(2019)
KGVI & QES、凱旋門賞、BCターフ(2020)

非常に気性が荒く、一度はkrtnちゃんが騎乗したが「この子はikzeさんに任せた方がいいです」との進言により主戦騎手ikzeとなった。
戦法は追込み。ガチガチに最終直線で突っ込んでくるタイプ。
引退後のポスターには『夢を見ずにはいられない』というキャッチコピーをつけられ、種牡馬になったのちはシルバーチャンプ系のサイアーラインを繋いでいくことになる。
産駒はシルバーチャンプの爆発力とステイゴールドの丈夫さをいい感じにミックスしたものとなるが気性はお察し()。


シルバアウトレイジに激重感情勢(という名の…):
19秋天でぶち抜かれて、そのまま二度と対戦することなく勝ち逃げされたために銀色の激情にちょっとあれやこれや感情を向けてるキューカンバーさん(なおこの世界では8冠で引退)。
そんな彼女の姿を見たり、凱旋門賞やら何やらを勝ち取って引退かました銀色の激情に「一緒に走ってみたかった」やら何やらを抱いてる飛行機雲と最近ウ…娘にきた大胆な戦法さん。

我等!(ババーン!)

銀の祈り:
息子にホクホク顔。
それはそれとして某英雄に「なんで僕じゃなくて夢の旅路を選んだの!?!?!?」と詰問された模様(修羅場)。
なお黄金の暴君は全兄である兄貴の孫なら実質俺の孫と同じでは?という気持ちでコロンビアポーズをかましている。


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牝馬‪√‬で元性別な話

趣味。

しかし、…僕が牝馬軸になったら激重感情の激重感情具合が凄まじいよ!!!!
激重感情に!!色恋が入るから!!!!ヤバい!!!!


「…かあさま?」

「ええ、母様よ。

おはよう、ブレーヴ。

ご機嫌はいかがかしら」

「……ごめんなさい」

「謝らなくてもいいの。

ゆっくり元気になっていけばいいのよ。

…ねぇ、ブレーヴ。

欲しいものは無いかしら?」

 

病弱なシロガネブレーヴが目を覚ますとそこにはいつものように母であるシルバーバレットがいた。

今日も彼女に迷惑をかけてしまうことにシロガネブレーヴは申し訳なさそうにするが、そのやりとりもいつものことなのだ。

 

「分かったわ。

でも足りないから買い物に行ってくるわね。

体を冷やさないように、ご飯もちゃんと食べるのよ。

レディーとルドラに頼んでおくわ」

 

ニコリと笑ったシルバーバレットが部屋から出ていくのを見つめるシロガネブレーヴ。

まぁ、数分も経たないうちに彼を心配した兄弟が突撃してくるわけなのだが…。

 

 

その少女が目に入ったのは偶然なのか、それとも必然なのか。

ちょうどトレーニング終わりだった彼はその少女へと近づいた。

 

「あらあら、ふふっ。

バレてしまったわ」

 

コロコロと、顔の半分を白っぽい灰色の髪で隠した少女が笑う。

こんな幼い少女がどこから来たのだろうと思いながら彼は話をすることにする。

 

「買い物途中だったのよ。

そうしたら学園の前を通ったの。

会いたい人がいたから入ってきちゃったわ」

 

少女のクスクスと笑う声がどこか鈴のようだと思った彼はぶるぶると頭を振った。

いつもの自分では考えられない思考に混乱しているのだ。

 

「あら、もう時間だわ」

 

そう言った少女がぴょんと立ち上がる。

サッサとスカートについたらしい砂をはらって、立ち去る前に少女はくるりと彼へと振り返り、

 

「縁があったらまた会いましょうね、────『英雄』さん」

 

そう言ったのだった。

 

 

「…やぁ、久しぶりだなシルバーバレット」

「えぇ、久しぶりねルドルフ」

 

学園の理事長となったシンボリルドルフがその日出会ったのは遠い昔に縁が合ったシルバーバレットだった。

知らぬ間に理事長室へと来ていたらしいシルバーバレットにシンボリルドルフは手ずから紅茶を淹れる。

 

「今日はなぜここに?」

「ブレーヴのための買い物よ。

その帰りに寄ってみたの」

「相変わらずキミは神出鬼没だな」

「そうかしら?」

 

クスクスと二人して笑う。

あの頃からほぼ姿の変わっていないシルバーバレットを見ながら、シンボリルドルフは久しぶりに彼女を独り占めできていることに緩く笑う。

 

「どうだ、シルバーバレット。

また予定があった時に二人で出かけないか?」

「…それは、誤解させちゃうんじゃないかしら?」

「誤解させておけばいいさ。

…最近のキミは、少しシービーに構いすぎているからな」

 

ルドルフの指がくい、とシルバーバレットの顎を持ち上げる。

どこかのロマンス小説のような一幕が続くかと思いきや、

 

「母さん!」

「あら、ペガサス」

「学園に来るなら言ってくれよ!

こっちはアイツらから母さんが帰ってこないって連絡が…!

……あ、理事長お疲れ様です」

「…あぁ」

「そんなに怒ることないじゃない」

「母さんの見た目がずっと変わらないのが悪いんだよ!

前だって誘拐されそうに…。

とりあえず一緒に帰るぞ!

駐車場の場所は分かってるよな?!」

「ええ」

 

荒い足音でシロガネペガサスが去っていく。

その姿をクスクスと笑いながら見送ったシルバーバレットは佇んでいるシンボリルドルフに声をかけた。

 

「…そういうことなので、ごめんなさいね?」

「あぁ」

 

シルバーバレットが駆けていく。

彼女の姿が見えなくなり、足音が遠ざかったあとドカリと椅子に座り込んだシンボリルドルフが、

 

「…惜しいなぁ」

 

そう呟いたことを知るものは誰も…。




修羅場!!!!

私(ウマ娘の姿):
牝馬軸のシルバーバレット。
子どもがたくさんいる。
子どもができた今では基本的に現役時代のオラオラ感はなりを潜めており、逆に某運命/の童謡ちゃんみたいな話し方になっている。
本人もこの歳でこの話し方は…と思っているが話し方を元に戻そうとすると子どもたちに泣かれるので渋々らしい。
なお私にこういう二面性があると知っているのはCBだけの模様。
(対オグリではいい先輩ムーブをしていたので)

でもどう足掻いたっていちばん愛してる相手は白峰おじさんの女(not恋愛感情)。

激重感情さんたち:
CB&皇帝。
基本バチっている。
私に自分だけを見て欲しい男たち。
よくお互いを出し抜こうとしているがそのたびに私に神回避されまくっている。


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それは、"怨み"か、それとも…

互いを重め()な感情で刺し合うのがこの世界のしきたり(ルール)なんで…。


「ねぇ、キミ!」

「うおっ!?」

 

突然引っ張られた腕に俺は息を吐いた。

猫背でフラフラとあるいていたときに不意に引っ張られた腕。

それに「あ゛?」と言いながら振り返れば、

 

「…あれ、?」

「は…」

 

そこには、ぼたぼたと涙をこぼすガキがいた。

フードを深くかぶった子どもが俺を見て抱いた感情の、その詳しいところは分からない。

だがぼたぼたと涙をこぼす姿を放っておくことができなかったのも事実。

 

「…あ゛〜、なんだ」

「?」

「……ジュースでも奢らァ」

 

だって傍から見たら、このガキを俺が泣かしたってコトになんだろ?

 

 

その日から、俺はたびたびそのガキと会うようになった。

フードを深くかぶったガキ。

ガキがいつもいるのは俺が秘密裏にサボり場所としていた小高い山のテッペンにある公園のベンチで。

そこでガキはひとり、寂しく座りながら"誰か"を待っているのだ。

 

「よォ、クソガキ」

「…、」

 

どかりと隣に座るとぺこりとガキが会釈する。

…あぁ、ホントに可愛くないガキだコト。

春も、夏も、秋も、冬も、……飽きもせずこんな寂れた公園にいやがって。

 

「オメー、誰を待ってんだ」

 

だから、ついに我慢できずにそう聞いた。

答えがあるとは思わなかった。ただのひとりごとだった。のだが、

 

「"ともだち"を、」

「…あ?」

「"ともだち"を、まってるんだ」

 

ベンチに座る俺たちを真っ赤な夕暮れが照らす。

フードにかくされたガキの目が、たしかにその夕焼けを見ていると、俺には、なぜか分かって。

 

「此処の景色が、ぼくも、"ともだち"も、好きだったから」

「だから、此処にいれば、いつか来てくれるんじゃないか、って…」

「『ンな寂れた場所で寂しくなにやってんだ』って、僕の手を、引いてくれるんじゃ、ないかって…」

 

ガキの頬にぼたぼたと涙が伝っていく。

声が、吹きすさぶ風よりも激しく震えて。

そしてついにはワァワァと泣き出した。

 

「なんで、なんで僕をおいていったんだ!」

「僕よりもキミの方がずっとずっと若かったのに!」

「キミだけじゃない、"みんな"が僕をおいていった!」

「こんななら、はじめから突き離してくれた方がよかった!」

「こんな気持ちになるなら、キミと出会わなければよかった!」

 

叫ぶ、叫ぶ。

それは、喉が裂けそうな、今にも魂が張り裂けそうな、

 

「ひとりはいやなんだ!」

「ひとりはさむくて、くるしくて、かなしくて!」

「"あのころ"のしあわせが、…あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛っっ!!」

 

ガリガリと頭を掻き毟る音。嗚咽。その他。

 

「ぼくをひとりにしないで!─── サンデーサイレンス!!」

 

そうして、ひときわ大きな叫びはボヤけて、カスれて。

 

 

だがその悲痛さは、キンイロリョティ(おれ)の鼓膜にべったりと貼り付いたまま…。

 




リョテッとした方:
ある日出会った"ガキ"と交友を深める。
なんだかんだ面倒みはいい。
"ガキ"が自分に"誰か"を重ねていることを感づきつつ、付き合ってた。
そして今回"ガキ"がその"誰か"を罵るのを聞いてちょっとばかし…。



リョテッとした方いわく"ガキ":
いったいどこのシル……バレ…さんなんだ?
"あのころ"の記憶を持っており、自分に逢いに来てくれない"ともだち"に少しばかり病んでる。というか、これまでの生のおかげで『おいていかれる』ことにトラウマがあるんだよな…。

いちばんは"ともだち"にだけど、その他もろもろにも自分を『おいていった』ことに関して怨んでいる系の方。長生きだったので…。
ちな"ともだち"に対する感情は越えられない1着(白峰ェ…)を差し引くと2着くらいには重め(しかし銀の傑作(シルバマスタピース)がいる場合は僅差で3着になる)。マブダチだから…。
なお"ともだち"のことしか考えてないために、周り(い つ も の+産駒たちetc.)から刺すような激重感情を向けられているが全然気づいていない。

"あのころ"は月命日に必ず、どんなに忙しくても"ともだち"の墓参りをしていた。花とかお菓子とかいっぱい供えてた。
だがしかし"ともだち"以外の墓参りは盆だけだったと考えると…。



"ともだち":
(この世界に)いるかもしれないしいないのかもしれない。
いろいろと一人勝ちしてる。
でもそれはそれとして自分のため(もしくは自分のせいで)泣いちゃう"ガキ"に嬉しいというかなんというか…という感情。
自他ともに認めるマブダチだったからね(ニッコリ)。
ちな"ガキ"に対する感情はカラッとしてるように見えて意外()と重め()…らしい。


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割りとsrmnおじさんの過去のお手馬って…

ンフッフフ白峰おじさんのこと、好きかい?

…それはそれとして白峰おじさんって銀弾引退後に人気低い馬で勝つをやりまくったせいで『万馬券の人』とか言われてそうなイメージあるんだよな。



1:トレーナーな名無しさん

 

気性難が多いっぽいんですけど…

 

【にっこり白峰おじさんの画像】

 

 

2:トレーナーな名無しさん

 

マ?

 

 

3:トレーナーな名無しさん

 

>>1

う〜ん、この『先生』と呼ばれた男…

 

 

4:トレーナーな名無しさん

 

銀弾以前のお手馬が語られることはほぼないから(知らなくても)仕方ないね

 

 

5:トレーナーな名無しさん

 

そもそもhikt厩舎自体がそういうとこだったっぽいし(問題児収容所)

 

 

6:トレーナーな名無しさん

 

んでsrmnおじさんもウッマに真摯に向き合う人だからね

 

 

7:トレーナーな名無しさん

 

srmnおじさんが語ったところによるお手馬解説なんだ!

 

①ゴーアヘッドユー

父はエリモジョージ!牡馬!

hikt厩舎のボスを長年つとめてたウッマさんだ!

srktおじさんいわく『僕以外が乗ったら全然走らない』らしいぞ!

ちなあの火事で…

距離適性的にはステイヤーだった模様

 

 

8:トレーナーな名無しさん

 

>>7

あ゛〜

 

 

9:トレーナーな名無しさん

 

>>7

特大の曇らせやめろ

 

 

10:トレーナーな名無しさん

 

②ウィッシュラック

父はグリーングラスの牝馬なんだ!

hikt調教師いわく『srmnおじさんに恋してたんじゃないか』とのこと

srmnおじさん以外が乗ろうとするとガチでコロしに来たらしいっす…ハイ

もちろんこの子も…ハイ

 

 

11:トレーナーな名無しさん

 

>>10

あ゛あ゛〜!もうやだ〜!!

 

 

12:トレーナーな名無しさん

 

>>10

srmnおじさんはなにかウッマに好かれるフェロモンでも撒いてるんだろうか…(某銀弾との恍惚キス画像見つめながら)

 

 

13:トレーナーな名無しさん

 

>>12

特級呪物の話は止めろめろめろやめろめろ

 

 

14:トレーナーな名無しさん

 

>>13

特級呪物なら『さよならはまだ言えない』があるやろがい!

 

 

15:トレーナーな名無しさん

 

草なんだ

 

 

16:トレーナーな名無しさん

 

笑ってええんは『さよならはまだ言えない』を読了したやつだけなんだ

 

 

17:トレーナーな名無しさん

 

あの怪文書、読み終えるまでにSAN値ガリガリ削られっからな…

 

 

18:トレーナーな名無しさん

 

③ゲットオーヴァー

父テスコボーイの牡馬

srmnおじさん評『元気なのはいいこと』

しかし騎乗するたびに腕が引きちぎられそうになってたらしい

実質メイケ…ゲフンゲフン

もちろんこの子も…ハイ

 

 

19:トレーナーな名無しさん

 

だから曇らせるなって!

 

 

20:トレーナーな名無しさん

 

それ言うなら原作者(神)に言って!

 

 

21:トレーナーな名無しさん

 

まぁそれはそう

 

 

22:トレーナーな名無しさん

 

 

 

23:トレーナーな名無しさん

 

④ハングインゼアー

父カブラヤオーの牡馬

どうやら自分と厩舎のウッマ以外が嫌いだったらしく、レースに出るたびに噛みつきにいったりなど問題行動が多々…

なおhikt厩舎じゃなければそもそも競走馬になる以前に…ハイ

この子ものちに…ハイ

 

 

24:トレーナーな名無しさん

 

うーんこの

 

 

25:トレーナーな名無しさん

 

この解説、実質srmnおじさん曇らせでは?

ボブは訝しんだ

 

 

 




白峰おじさんの過去お手馬たち:
揃いも揃って灰方厩舎のウッマたちなんだ。
みんな白峰おじさんが大好きなんだけど…のちにお察し案件と化す。
ちなウッマのみんながみんな銀弾のことをよく可愛がってた模様。
うん、だってチビ銀弾って聞き分けのよい小さなかわゆい子だったからね。でも…ハイ…。


灰方厩舎:
実は問題児の巣窟系厩舎。
そしてこの問題児の巣窟系厩舎のラインはのちに調教師となった白峰おじさんに引き継がれる。
たぶん言葉で渋ってただけで、本質は『こちとら気性難をずっと世話しとるんや、サラ系ぐらいなんぼのもんじゃい!』な感じの厩舎。
また厩舎自体が気性の荒い子ほど可愛い…って思ってる人々の集まり。
まぁ灰方厩舎じゃなければ競走馬デビューできない子が結構いたしね…。


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キミの顔

たぶんこの軸の白峰おじさんは死んでも癒えない疵を携えながら、どれほど運命にぶん殴られようと意地でも騎手を続けて最終的には"天才の再来"に至るし、マスコミは『さよならはまだ言えない』の題で追悼文出すし、銀弾は医学の進歩に貢献する。

……このクソ神ィ!!人の心無いんか!?!?!?


「今度は僕が勝つ!だから首を洗って待ってろよミスター!」

「ハハ…そりゃあ楽しみだねシルバー」

「あー!本気にしてないな!僕がチビだから!!」

「してないしてない」

 

ミスターシービーとシルバーバレットは双璧を成すライバルだった。

もはや『宿敵』といってもいいかもしれない。

三冠を制したミスターシービーのそばにいつも必ずいたウマ娘。

それがシルバーバレットであり、ミスターシービーがいない場所では必ず勝つ彼女に「いつかミスターシービーに勝ってくれ」と、また遠き日の"流星の貴公子"の姿を彼女に重ねる者も数多く。

その次の年に後世にて『皇帝』と謳われるウマ娘が現れようともシルバーバレットはミスターシービーを自らの『宿敵』だと言い続けた。

 

「ミスター、もう一度、もう一度だけでいい。

残酷だとは分かってる…。でも、僕は、僕は、もう一度キミと…」

 

残酷なことだとは、分かっていた。

でもシルバーバレットはもう一度、もう一度…、あの頃のようにミスターシービーと走りたかった。

彼女に追ってきて欲しかった。

自分が逃げるのはミスターシービー(キミ)に捕まえられるためなのだと、ミスターシービー(キミ)が居なくなったら、どうすればいいと。

そう、みっともなく泣き喚いて縋った、縋りついた。

だが、

 

「…私じゃなくても、ルドルフがいるよ」

 

暗く沈んだ目の彼女にはシルバーバレットの言葉は届かなかった。

去っていくミスターシービーを呆然と見つめるシルバーバレット。

けれど、そう時間の経たない内にぼう、とシルバーバレットの目に焔が宿る。

そして、

 

「お前の代わりに『皇帝』に勝ったぞ、ミスターシービー」

 

寒い冬の日、一年最後の大一番、中山レース場の観客席にいたミスターシービーにギラついた眼でシルバーバレットが静かに告げる。

 

「僕は、凱旋門賞に行くよミスター。

だから、帰ってきたら、もう一度走ろう。…本気の、本気で」

 

シルバーバレットはミスターシービーにそう誓った。

誓った、…はずだった。

 

「あ、れ?」

 

バキリ、と。

嫌な音が鳴った。

凱旋門賞に行く前の、壮行レースとして選んだ春のグランプリ。

ファンのみんなに僕の姿を見てもらいたいと選んで、ファン投票も1位になって、なのに、なんで…。

 

「いやだ」

 

観客席からは悲鳴が聞こえる。

違う、違う違う違う!

僕が欲しかったのは、みんなにもらいたかったのは歓声なのに!!

落ちていく、抜かれていく。

やめて、やめて。

そこは、ぼくのばしょ、なのに。

 

「ぁ、」

 

真っ暗になっていく視界で、さいごにみえたのは、

 

「みすたぁ」




僕(火事が起こらなかった√):

『…なんつーシケたツラしてんだ。
せっかくの大舞台なんだからよォ、楽しんでこうぜ──なァ、ミスターシービー(しゅくてき)?』

『……ねぇ、ミスター(みんな)。僕のコト、覚えててくれた?』

主な勝ち鞍→ジャパンカップ(1983)、有馬記念(1983.1985)、天皇賞・春(1984)、宝塚記念(1984)、天皇賞・秋(1985)

関西の期待馬だった"サラ系"。1990年顕彰馬選出。
やはりどの世界でも人の脳を木っ端微塵に焼き払う系ホース。
三冠はオール2着だったがジャパンカップ、有馬記念獲って春二冠したからヘーキヘーキ。
なおこの√では1984年の秋~1985年の春を右前脚の繋靭帯炎で全休、のちに1985年天皇賞・秋、有馬記念で皇帝をボコボコにする。
(この世界での皇帝は1985有馬記念の代わりに1985宝塚記念を勝ってる)
そして有馬記念勝利後、凱旋門賞挑戦を打ち出し、ファンからの要望と本馬の調子が今までの競走生活の中でも最高の値と言っていい出来であったことから1986年宝塚記念に出走していたところ第4コーナー付近で右前脚を解放骨折。2番手以下を大きく引き離し、悠々とゴールするかに思われたところでの悲劇であった。
なおシルバーバレット本馬自身はそうなった後も必死でゴールに辿りつこうとしていたが主戦騎手であった白峰透が泣く泣く走ることを止めさせた。


その翌日、シルバーバレットを救おうと医師団が結成され、手術が行われた。が右前脚に入れたボルトが体重で折れ、骨がズレたまま固定された結果、患部が腐敗し症状は悪化の一途を辿っていく。
だがそれでもシルバーバレットは気丈であり、最期の最後まで周りの人々に弱ったところを見せまいとした。
また亡くなる前最後の一週間は決して眠ろうとせず、そのあまりの惨さに馬主であった白銀仁と主戦騎手であった白峰透がシルバーバレットに「もういい」「ありがとう」と叫び、それに追随するように厩舎の者たちも次々に、口々に、彼へ言葉を告げるとシルバーバレットはようやく「そっか、もういいのか」とでもいうようにゆっくりと崩れ落ちた。
…その死に顔はそれまでの闘病生活が嘘に思えるほどに、安らかなものであったという。



たぶん(この軸では)ウマ娘化が難しいお方。
よしんば出走してきたとしてもCB→←銀弾←皇帝の滅茶苦茶ジットリ濃厚湿度なストーリーを見せられる。
自分をボコボコにした相手(銀弾)は自分がボコボコにした相手(CB)を見てるんだ…。
もちろんCBも皇帝に激重感情向けてるし、こんな自分でもライバル!って言ってくれる銀弾に独占欲抱いてる。
そんな関係性なんだ。
(なおこの√の銀弾はCB、皇帝からめっちゃ過保護に扱われているものとする)



しかし史実(今話の軸)√のウマ娘にて病室で虚ろな目で横たわりながら「だいじょうぶ、だいじょうぶ…」「やくそくしたでしょう?ね、だからね、はしろう?はしろうよ、みすたー…」って自分の手を握るCBに懇願する銀弾とそれを病室前のドアから見ることしかできない皇帝とか…なんていうか…その…下品なんで…フフ…やっぱやめておきます…。


白峰おじさん:
運命にどれほどハッ倒されようが絶対に騎手辞めないヒト族。
銀弾という存在が疵なり何なりで一生こびりついたままになる。
何年経っても最強の存在は銀弾だって言い続けるし、最終的にはシルバーチャンプの系列に滅茶苦茶乗る。
それはそれとしてシルバーチャンプに騎乗して1999年宝塚記念を獲ってる。
たぶんこの世界の宝塚記念は日経新春杯と同じように「今年も全馬無事に」って言われてると思う。


『勝ち時計2分12秒0!13年と2分12秒0です!鞍上・白峰透とシルバーチャンプ!!』
『"彼"が散ったあの日から、約10年の時を越えて、今度こそ、今度こそ!銀色の一族が凱旋門賞を目指します!!』


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さらば、と言えない

前話の、そのあとの話。



一生癒えない、疵を遺そう。
己が名を、忘れるものがいないように…。


…たぶんこの√軸のウマ娘CB&皇帝は86宝塚記念を現地観戦してたんだろうなぁ。


「……やぁ、ミスター。会いに来てくれて、うれしいよ」

「………みっともないすがたで、すまないね」

 

すっかり翳った笑顔でキミが笑う。

その目じりには深深と黒い隈が刻まれていて、痛みのせいかは分からないが満足に彼女が眠れていないのは確かなことだと分かった。

 

「…そんなところで突っ立ってないで、……ほら、この椅子に座ってくれ」

「……え?ぼくに花?…ありがとう、きれいな花だなぁ。

あとで先生に生けてもらうよ…、ありがとう、ミスター」

 

虚ろな目で、そうキミは言う。

キミの周りにはたくさんの人から贈られた千羽鶴やにんじんなどがたくさん…。

 

「…あぁ、ミスター。よければそこにあるくだもの、いくつかもらっていってくれないかい?」

「……ぼく、さいきんあまり食欲がないんだ。このまま、おいておいたって、どうせ捨てられるだけだろうし」

「もったいないから……、ね?」

 

細く、華奢になった彼女の指がベッドサイドの棚に置いてあった果物がつまった籠を指す。

「キミは、どのくだものがすきだったっけね、ミスター」と弱々しく笑う彼女に思わずアタシは、

 

「ミスター…?」

 

駄目だと分かっていても、思わずその胸元を掴んでいた。

彼女の黒々とした、虚ろな瞳が困惑げにアタシを見やる。

 

「…笑ってよ」

「……え、?」

「笑ってよ!いつもみたいに!『今度こそキミに勝つ!』って!

アタシを睨みつけてよ!…っアタシに!『なんでお前は無事なんだ』って、……うぅ、うううぅ…!」

「…ミスター」

 

泣きじゃくるアタシの頭を「困ったなぁ」というような顔をした彼女が優しく撫でる。

アタシはそれが嫌だった。突き放して欲しかった。

突き放して、「同情するな」って、「お前に泣かれなくても、必ずターフに戻る」って、…彼女に、言って欲しかったのに。

 

「今度こそ、今度こそアタシに勝つんでしょう?

その脚で逃げ切る貴女をアタシが…!」

 

そう言ったアタシに、ゆるりとキミが首を振る。

あぁ、嗚呼嗚呼嗚呼…!

 

「嘘つき、嘘つき、嘘つきィ…っ!!」

「……ごめんね、ミスター」

 

こんどは、ぼくを、…おってこないでね。

 

 

「やぁ、ずいぶんと待たせたね」

 

ミスターシービーが泣きながら帰っていったあと、ずっと部屋の近くにいた彼女を部屋に招き入れた。

 

「……わたしは、」

「うん…」

「あなたに、かててません…たったの、いちども」

「…うん」

 

ぎゅう、と彼女が自身の手を強く握る。

血液が滴り落ちるほどに、強く、強く。

 

「…にげる、つもりですか」

「……そうなるね」

「勝ち逃げ、するつもりですか」

「…しかたないよ」

 

にこりと笑う僕に彼女-シンボリルドルフは顔を顰める。

ほんとうに、泣きそうに。

 

 

……ごめんね。




ある意味この世界線は10pt→銀弾の系譜を辿ってCBの仔ヤマニングローバルに繋がってんだろうなぁ…って。
なおこの世界線のウマ娘3人組(CB、銀弾、皇帝)のイメソンは『ロ/ウ/ワ/ー(ぬゆり)』。


CB:
ライバルのクッソ弱ってる姿にSAN値ガリガリ削られる。
いつもの彼女なら自分に言い返したり突っかかってきたりするはずなのに全部まるっと受け入れられてしまって絶望。
んで『今度は追ってくるなよ(意訳)』と言われてまた絶望した模様。

皇帝:
今度こそ勝ちます、してた相手に勝ち逃げされることになるウマ娘。
理想だけではどうにもならないことに直面してしまった。
たぶん対決初回の天皇賞・秋は銀弾のこと舐めてて、対決二度目の有馬記念はガチガチマークしたのに完封勝利キメられたからめちゃくちゃ感情煮詰めてそう。
そして初対決(85天皇賞・秋)の時、銀弾に『(CBと比べると)お前と走るの面白くない』って言われてからの、85有馬で『今日のお前と走るのは面白かったよ。また走ろう』って言われての"86宝塚(アレ)"だったんだ…。

僕:
この√だとウマ娘としての固有称号が『さよならはまだ言えない』な女。
クソほど弱ってる。
鎮痛剤打たれても眠れない。寝たらシんじゃうので。
ファンや周りからたくさんお見舞いの品をもらった。
基本気丈に振舞っているがだんだんシの影が濃くなってきている。

実はこの√史実にて白峰おじさんが対皇帝の際に『誰になんと言われようとバレットのライバルは未来永劫Mr.CBです。皇帝なんかお呼びじゃないんですよ』『正々堂々、って言うよりは仇討ちです。彼の宿敵(ライバル)として、ね』とか言うてたりするので、この√ウマ娘銀弾もそれに倣い対皇帝ではガチガチバリバリに潰しにかかっていた。
かの演出家の、『宿敵』としての意地を、…"世界"に見せつけるために。


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"あの日"の残影



99年 宝塚記念


それは誰もが望んだ、『夢』だった。


その日、彼等に乗り移ったのは"神"か、
それとも…。


"あの日"の(見果てぬ)『夢』を叶えるために、
"弾丸のごとく"現れた「最速の芦毛」


その馬の名は……。



……本当は、この場所に来る予定はなかった。未来永劫。

 

『……そして、白峰透という男も、わたしの夢であります』

 

本当なら、遥くんがここにいるはずだった。

でも彼は不運なことにこの前のレースで落馬して顔面骨折。

全治未定のために、僕にお鉢が回ってきた。

遥くんがいてくれたら、…他人事でいれたのに。

 

『今度こそ、今度こそ、わたしは…凱旋門の夢が見たいのです』

 

ずきり、と体が、精神が軋む。

この阪神という場所を、僕は、"あの日"からずっと避けていた。

思い出したくない記憶、悪夢。

歓声と悲鳴。

 

「……」

 

彼をズッ、と最後方に沈みこませる。

前へと行きたがる彼を抑え込んで、走らせる。

今日の僕は、まったくもって勝つつもりがなかった。

最下位に甘んじて、終わったあとにどれほど周りから失望されようとも構わない。そんな覚悟でその道を選んだ、…はずだった。

 

「は、」

 

すぅ、と横を通り過ぎる風。

それは、

 

「まって」

 

無意識に彼にGOサインを出す。

そうすれば待ってました!と言うように、待ちくたびれたぜ!と言うように、ガンガン走っていく。

 

まって、ねぇ、まってよ。

おいていかないで。

ずっと、ずっとずっとずっとずっと、ぼくは、キミに…、

 

「待ってってば!」

 

(ごう)、と凪いでいたはずの魂に火が灯る。

あぁ、駄目だ。

こんな姿勢(フォーム)じゃキミに追いつけない。

こんな生ぬるい走りじゃ、キミに追いつけない。

 

「行くぞ!」

 

僕の叫びに応える声。

それは、懐かしい"人馬一体"の感覚。

最後方から一頭、また一頭と。

 

『大外から、…っ大外から!"弾丸のごとき"勢いで、何か一頭やって来る!!』

『シルバーだ!シルバーチャンプだシルバーチャンプだ!』

『差し切れ!届け!シルバーチャンプ!差し切れ!差し切ってくれ!!』

 

そして、……一刀両断。

 

 

 

『勝ち時計2分12秒0!13年と2分12秒0です!鞍上・白峰透とシルバーチャンプ!!』

『"彼"が散ったあの日から、約10年の時を越えて、今度こそ、今度こそ!銀色の一族が凱旋門賞を目指します!!』

 

 

極度の集中状態だった僕の耳には、まだなにも音が入らない。

けれど、それでよかったのかもしれない。

 

「……、」

 

声にならない声でキミの名を呼ぶ。

…キミは、ずっとここにいたの?

僕を待っていたの?

そう問いたくても、溢れ出る涙が邪魔をする。

 

"……て"

 

「え、」

 

それは、今にも聴き逃してしまいそうな小さな声。

ひどく弱々しくて、掠れて、どうしようもない…。

 

"…ぼくを、……つれてって"

 

その姿が掻き消える、歪んでいく。

どうか、待ってくれと伸ばした手は、届かないまま。

 

「……キミは、僕を許してくれるの」

 

茫然とつぶやいた言葉に答えはない。

…けれど、

 

「あぁ…、」

 

約束。

 

「僕が、キミを連れて行くよ──」

 

あの、門の先へ……。




白峰おじさん:

たぶんこの回に限り、周りの騎手&ウッマから遠巻きにされてたヒト属おじさん。

"あの日"からずっと騎乗依頼で阪神競馬場NGになってた騎手。ちな逃げ馬もNG。
だが遥くんが落馬事故で顔面骨折カマして全治未定となったため、代打で99宝塚記念に騎乗。なお白峰おじさん自体は引退まで怪我なしだった模様。"加護"、ついちゃってるね。
この99宝塚記念で良い結果出したらシルバーチャンプは凱旋門賞へ、と報道されてた+馬主(息子)の方からもそう言われてたが白峰おじさん自身はまったくもってシルバーチャンプを勝たせる気がなかった。
だって嫌じゃん?『"運命"で"最愛"で"最強"の相棒』の甥っ子が凱旋門賞行って"あの日"みたいに最悪なことになったら。


けれど、第4コーナー付近で"彼"を視てしまった。
ずっと謝りたかった"彼"に。
"あの日"、どうにか生きて欲しいという自分のエゴで走りを止めさせてしまった"彼"に。
どうしようもない苦しみの中(じごく)を、自分たちのせいで歩かせてしまった"彼"に。


追いかけて、追いかけて、追いかけて。
"彼"以来したことがなかった"人馬一体"の境地を使ってまで追いすがった。
そして、

"…ぼくを、……つれてって"

そう、願われたから。
そう、願われてしまったなら、叶えなくてはいけないから。
でも、

「…やっぱり、僕は、」

キミじゃなきゃ、駄目なんだよ……シルバーバレット


甥っ子:

主な勝ち鞍
宝塚記念(1999)
凱旋門賞(1999)

"あの日"散った"彼"の甥っ子。99宝塚記念では本馬の実績から見るとそこまでだったが観客おのおのが応援として買っていた馬券が後押しして1番人気に。また結果として、上り史上最速を叩き出した。
んで、この99宝塚記念で見せた超最後方からの大外一気のために、ウマ時の固有が『第4コーナー付近で最後方であればあるほど道を開いてすごく抜け出しやすくなり、またすごく加速する』という父:オグリキャップの上位互換みたいなヤベェことになってしまっている。

今回の結果から凱旋門賞に遠征しに行くことになるが、99宝塚記念を勝ったあとから常に99宝塚記念で見た半透明の知らない(ウッマ)(テンションバリ高)がそばにいるようになって、ちょっと辟易とすることになる模様。
なおそのウッマは彼が凱旋門賞を獲ったらグッバイしていったらしい。


誰が呼んだか『三冠馬の"宿敵"』:

──沈黙の(86年)阪神競馬場から、歓声の(99年)阪神競馬場へ。

……ずっと待ってたンだよなぁ。

99宝塚の白峰おじさんに対しては"おう、なに消極的(クソみたい)な騎乗しとんじゃワレ!"という気持ちだった。
ちなまったくもってヒト属のことを恨んでないし(逆に『こんな自分を愛してくれてありがとう』だった)、あの最期も『まぁ運命だったんだろうな…』と受け入れてる。
…それはそれとして、

僕のこと、凱旋門に連れてって♡


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ここだけシルバーバレットが

史実√での与太話スレ。

たぶん牝馬√に脳をちょっと接続されてる奴がいる。



1:名無しのトレーナーさん

 

経歴戦歴同じで競走生活を無事に終えて繁殖牝馬になった世界線

どう?

 

【1990JCの銀弾の画像】

 

 

2:名無しのトレーナーさん

 

繁殖成績がどうであれ無事に生きてるだけで俺は嬉しいよ…

 

 

3:名無しのトレーナーさん

 

日本の脳が焼かれる

 

 

4:名無しのトレーナーさん

 

バ ケ モ ン

 

 

5:名無しのトレーナーさん

 

全妹がシルバフォーチュン(重賞4勝、シルバーチャンプの母)、半弟がサンデースクラッパ(父:SS、BCクラシック勝利馬、母父として米三冠馬出してる)だから後から見れば普通に良血なんだよなこのバケモン…

 

 

6:名無しのトレーナーさん

 

"サラ系"で芦毛の牝馬(牝馬でも変わんねぇなら最高馬体重370台後半)にあの時代であの戦績出されたらもはや脳焼かれるレベルじゃすまねぇんよ

 

 

7:名無しのトレーナーさん

 

合法ロリの火傷顔か…ふぅ…

 

 

8:名無しのトレーナーさん

 

たぶん馬主&白峰おじさんの情緒もぐちゃぐちゃになるよ

 

 

9:名無しのトレーナーさん

 

脳は燃料じゃないんだぞ!

 

 

10:名無しのトレーナーさん

 

サラ系です、あまりの馬体の酷さに生産牧場でサツ処分にされかけました、芦毛が走らない時代です、牝馬は牡馬に勝てない時代でG2とはいえ同期の三冠馬を倒しました、そして生涯勝ったレースは全部牡牝混合で、凱旋門賞とBCクラシックを制して、今なお破られていない芝2400mのワールドレコード持ちです

 

焼け野原だろもう

 

 

11:名無しのトレーナーさん

 

誰とつけそう?

 

 

12:名無しのトレーナーさん

 

>>11

そりゃCBよ

 

 

13:名無しのトレーナーさん

 

>>11

ルドルフともつけてそう

 

 

14:名無しのトレーナーさん

 

まぁあの凄惨()牧場が気狂い並に繋いできた種と星の血が繋がるからええんちゃいます(すっとぼけ)

 

 

15:名無しのトレーナーさん

 

オグリもつけてそうだよな

フォーチュンにつけたのからして

 

 

16:名無しのトレーナーさん

 

>>15

その場合姉妹ちょっと気まずくない?

だって竿…

 

 

17:名無しのトレーナーさん

 

>>16

それ以上はいけない

 

 

18:名無しのトレーナーさん

 

まぁ何でもつけ放題だよな、この血統

 

 

19:名無しのトレーナーさん

 

父は二冠馬だけど冷遇されてたサラ系、母はなんでそれまで繋げられてたのか分からなかった未出走・未勝利の血統…

ヨシ!

 

【某現場の猫の画像】

 

 

20:名無しのトレーナーさん

 

脳が焼却炉行きに!

 

 

21:名無しのトレーナーさん

 

もうそうだったらシンデレラグレイよりシンデレラグレイが過ぎる

 

 

22:名無しのトレーナーさん

 

馬主のことから考えるとファンって公言してたダブルターボ師匠つけそうなんだよな…

 

 

23:名無しのトレーナーさん

 

そもそも馬主と白峰おじが『バレットに勝ったことない牡馬がつけていいはずないだろ!』とか言ってそう、絶対言うだろ(確信)

 

 

24:名無しのトレーナーさん

 

牝馬バレットとか、白峰おじさんがやばばになる〜

 

 

25:名無しのトレーナーさん

 

SSもつけられてそう、というか二頭の経歴的に仲良くなってても不思議ではない

 

 

26:名無しのトレーナーさん

 

89、90JCが女傑のレースに…

 

 

27:名無しのトレーナーさん

 

牝系がいい結果出してる×蹴ったり噛んだりしない温厚な気性×確実に銀弾の仔というだけで買い手がつく×アウトブリード

 

誰でもつけれるぞ、これ

 

 

28:名無しのトレーナーさん

 

SS、トニービン、ブライアンズタイムつけるかなって思ったけど馬主が日本の馬が好き…というかサラ系の銀弾を買った結果、冷遇されてる血を繋ぎたい!ってなってるのを考えるとなかなかなさそうだな…

 

 

29:名無しのトレーナーさん

 

脳ぐちゃぐちゃなるで

 

 

30:名無しのトレーナーさん

 

ンマ娘みたいなのがもっとはやく生まれてそう(擬人化創作的な)

史実では全然関わってないのにCBとか皇帝とかと絡まされてる

 

 

31:名無しのトレーナーさん

 

>>30

それなんて乙女ゲー?

 

 

32:名無しのトレーナーさん

 

ぜったい誰つけるかで大戦争だろ

 

 

33:名無しのトレーナーさん

 

「ふん、おもしれー女」の世界が過ぎる…

 

 

34:名無しのトレーナーさん

 

ウマ娘から競馬に入った人らにこの時代の牝馬でこの成績がどれだけすごいのかを熱弁する銀弾脳焼かれおじさんが大量発生する

 

 

35:名無しのトレーナーさん

 

史実でも物語みてーな生涯だったのに牝馬になったらどうなるんだよもう

 

 

36:名無しのトレーナーさん

 

しかし誰にも興味を抱かない模様

 

 

37:名無しのトレーナーさん

 

>>36

なお白峰おじさん

 

 

38:名無しのトレーナーさん

 

生涯牡馬をタコ殴りにし続けた女傑()

 

 

39:名無しのトレーナーさん

 

牡馬でも日本競馬史上稀に見るバグ馬なのに牝馬になって繁殖までできたらもうさぁ…

 

 

40:名無しのトレーナーさん

 

何度でも言うが生きて帰ってきてくれるだけで嬉しい定期

 

 

 

 




僕:
与太話で牝馬にされてしまった牡馬。
牡馬であろうが牝馬であろうが白峰おじさんとの仲をまったく疑われていない。
逆に牝馬の方がもっとインモラルでは…?と慄かれている。
牝馬だったら合法美ょぅι゛ょ+火傷顔+日本競馬史上稀に見る強さバグ馬…となるので周りの情緒をぐちゃぐちゃにして回る。

そして、某競馬ゲームとかにもし出れるとしたらステータスがトップ争いに食い込みそうなほどバカ高いのに史実に沿った結果、譲渡条件がゆるゆるに次ぐゆるゆる過ぎて『安売りすな!!!!』とプレイヤーから叫ばれる系のウッマになる模様。んで普通にめちゃくちゃつよい。


馬主(父)&白峰おじさん等その他諸々:
(シルバーバレットが牝馬だったら)情緒壊れる。脳も焼く超えて焦土にされる。ヤバいわよ…(戦慄)。


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*あなたの"疵"になる


一生シんでも遺る"疵"。
そして失礼だな、純愛だよ定期

今回はリクより【神の悪運からバレットを守って代わりに逝ったマス太は霊になってもバレットに憑いてる】って話です。

好き勝手書きました!後悔はありません!!
やっぱりヤンデレと激重感情を書いてるときが一番楽しいナリねぇ…。
ヤンデレと激重感情は健康にいい…。いずれ特効薬になる。



ぶつり、と自分のものだったはずのモノがちぎれた音がした。

待て、待ってくれ。

それは僕のモノなんだ、決してお前のモノじゃないんだ!

返せ、返せって!

 

『やだよ』

 

ピース!

 

『…ごめんね、バレット』

 

 

ゆるりと目を覚ます。

横には誰もいない。が、

 

『おはようございます父さん』

『…あぁ、おはよう』

 

僕の目覚めに気づいた子どもたちに挨拶を返す。

しあわせ、ではあるのだろう。

自分を慕ってくれている子どもがたくさんに、騎手くんも暇さえあれば会いに来てくれる。

しあわせ、しあわせ、だ。

しあわせの、はずだ。

 

『あぁ、』

 

騒がしいのは嫌い。

静かなのがいい。

ひとりぼっちでいい。

 

『バレットさん!』

『…どうしたの』

 

声をかけてきたのは彼によく似た栗毛の子。

血縁的には彼の弟だという。

あぁ、あぁ、本当に、本当によく似ている。

 

『…ぴーす』

『僕はアーキタイプですよ!シルバアーキタイプ!

バレットさんはいつもそう間違えますよね』

『……ごめんね』

 

本当は誰にも近づいて欲しくないのに。

彼に、よく似たこの子だけは、そばに寄らせてしまう。

あぁ、あぁ、あぁ…!

なんで僕の代わりになったんだ。

お前がいなくなるより僕がいなくなった方がよかったじゃないか。

嫌いだ、嫌いだ、だいッ嫌いだ!

 

『…マス太ぁ、』

 

それでも、呼ぶのは…。

 

 

ずっと、見てもらいたい存在がいる。

"シルバーバレット"。

僕が暮らしている牧場のボスだ。

 

初対面で僕はボスに墜ちた。

今にも消えてしまいそうなほど儚くて、憂いを帯びた瞳に。

誰も近寄らせないボスは僕だけをそばに寄らせてくれた。

これはチャンスなのではとはじめは思っていたけれど、

 

『…マス太ぁ、』

 

いつしかボスが見ているのは自分ではないことに気がついてしまった。

ボスは僕を通して僕じゃない誰かを見ている。

 

『ねぇ、バレットさん』

『…マス太。あぁ、マス太帰ってきたんだな』

 

マス太って、誰だよ。

今ここにいるのはシルバアーキタイプ(おれ)なのに!

 

『あぁ、やっぱり嘘だったんだよなあんなこと。

もう、もう僕を、孤独(ひとり)にしないでくれ…』

『…ッ俺はマス太じゃない!』

 

イラつきのままに縋ってくるボスにそう吠えた。

そうするとビクリと震えたボスは、

 

『え、え?マス太、どこ、どこ…?

あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛ッッ!?!?!?』

 

ボスの叫び声に人間たちが慌ててやって来る。

人間に危ないからと連れていかれながら、『嘘だァっ!』と泣き叫ぶボスの声が嫌に耳に残っていた。

…その日から、俺がボスに会えることは、終ぞなかった。

 

 

『マス太、マス太ぁ…!』

【はいはい】

 

錯乱している彼のそばに近寄る。

あぁ、なんて可愛そうで可愛いんだろう。

心底から僕を求めてくれている。

 

『マス太ぁ…』

 

あの日から、いつだってキミが考えているのは僕のことだけ。

女の子にも興味ないもんね。

本当は子どもだって作りたくなかったんでしょう?

 

【アハ。…ホンっトーにイイ気分♪】

 

僕に囚われちゃった可哀想な貴方。

 

【これからも僕のことだけを考えて、生きてね…?】

 

愛してるよ、シルバーバレット(ぼくのチビ)




マス太の引退時に「大嫌いだ!」「お前なんか友だちじゃない!」と言って喧嘩別れしたままの世界線。

僕:
『ごめんなさいごめんなさいごめんなさい…』
『ねぇ、マス太…どこにいるの……?』

喧嘩別れしたまま、マス太が亡くなっちゃったせいでSAN値がヤバい。産駒数(父、母父含め)はIF生存‪√‬と同じ。
本当はマス太の元にすぐさま逝きたいけど自分に期待してくれている人&馬がたくさんいるので逝くに逝けなくなっている。
SSとマブダチになれない世界線。けど僕の精神があまりにもあまりなので気にかけられてはいる模様。
んで白峰おじさんに会うと少しSAN値が回復するらしい。

なおこの世界でも産駒たちetc.から激重感情抱かれてるけど、コイツ自身が寝ても覚めてもマス太のことしか考えていない、というよりそれ以外のことを考えられないようになって(されて)いるというか…。う〜んこの。

マス太:
【バレットのことが嫌いなのかって?いやいや逆ですよ。好きだからこそこうしてるんです♡】
【ここにいるよバレット♡泣いてるのも可愛いね♡】

僕専用の悪りょ…ゲフンゲフン、守護霊。美しい栗毛の四白流星好青年系ウッマ。
クソほどヤンデレ属性。僕の代わりになり若くして心臓発作で死亡。
僕の脳を焼くという特級戦果を上げた男。
自分を探してはグズり、好きでもない牝馬とうまぴょいしてはグズる僕を可愛そ可愛い♡している。
自分だけを見てほしい系ウッマ。
もしかすると幽霊になってるからと言って、牝馬とうまぴょいしている僕の様子を見物しに行ってるかもしれない。
実のところ僕に子どもができるのをまったく祝福してない。祝福してるだけ邪悪度は僕(亡霊のすがた)の方がマシ。だいぶマシ。

僕のSAN値を回復させる白峰おじさんが嫌い。
なおSAN値回復のたびに夜な夜な僕の夢に干渉しては『キミのせいで僕は死んだんだよ?』『幸せになっていいと思ってる?僕をコロしたくせに?』と詰めてSAN値減少させている。

生前、僕が牝馬だったらなぁ…と思ったことも一度や二度ではないが最終的には牡馬のままでいいや!となっていた。

【だって、バレットのことだから子どもができたら子どもの方を優先するだろうし】
【僕は、僕だけを見てもらいたいんだよ】

白峰おじさん:たぶんバレットのそばにシルバマスタピースがいるんだろうなと勘づいてる。
僕の最愛の相棒に何してんだよという気持ちで滅してやろうかとも考えている。
シルバーバレットガチ勢。

シルバアーキタイプ:かわいそう。
マス太の半弟。ブライアンズタイム産駒。
幼き日のたった一度の過ちで、二度と僕に会えなくなった。

ウマ擬(元性別だけど)イメ画↓


【挿絵表示】


服が適当なのは許して、許して…。


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◆原初の呪い。もしくは、


お前は、俺たちの『希望』。


彼らはそこまで強い人たちではなかった。

 

「よォ、バレット。今日もちいせぇなぁおめぇは!」

「いっぱいたべなよ〜。食べた分だけ強くなれるんだから」

「っぱ凄いぜ、バレット!お前なら八大競走だって夢じゃねぇ!」

「バレットちゃん、おいで。髪切ってあげるわ」

 

でも誰も僕を"サラ系"だからと差別しなかった。

"シルバーバレット"という個人だと見てくれた。

僕が悪口を言われれば庇ってくれたし(喧嘩しそうになってたのは流石に止めたけど)、僕のことを愛してくれた。

 

「先輩たちは…、」

『ん?』

「僕が勝ったら、嬉しいですか…?」

『……っあはは!』

「っ、」

『そりゃ嬉しいに決まってる!』

 

そう言って誰もが不安げにする僕の頭を撫で回した。

「"サラ系"の癖に勝つなんて生意気だ」と言われることが常だったあのころ、彼らだけが僕の勝利を祝福してくれた。

 

「…、クソ」

 

ある冬の日の深夜、僕らが暮らしていたアパートに火事が起こった。

火の回りが早く、焼け落ちてきたものが当たって左顔面を火傷した僕は痛みからおぼつかない足取りで必死に逃げていた。

煙を吸いすぎ、ぼうっとしていた時「バレット、あぶねぇ!」とリーダーの声がして、

 

「…りー、だー?」

「……ぁ、よ、かった。…へーき、か、ばれっと」

「だ、ぃじょ、…げほっごほっ!」

「ま、てろ。すぐ、そとに」

 

次に意識を戻すと僕はリーダーに背負われていた。

鼻も効かない、目も見えない状況でリーダーが僕の命綱になっていた。

そして、

 

「バレット!」

「…せん、せ?」

 

僕は生き残った。

 

「よかった、バレット…」

「ねぇ、せんせ」

「どうした!?」

「りーだー、は?ぼくを、せおってたの、たすけて、くれたの…」

 

リーダーの、仲間たちの安否を聞く僕に先生は言い淀んで。

それだけで僕はすべてを察した。

 

…仲間たちのほぼすべてが死亡。

火に巻かれた者もいれば、一酸化炭素中毒で死んだ者も。

二、三人は生き残った仲間もいるらしいがその誰もが火事の後遺症で引退せざるを得なくなって。

 

「あ、あ、あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛!!」

 

死亡者の中で一番酷かったのはリーダーだという。

全身に大火傷を負い、僕を背負って外に出てきたことすら奇跡であったと。

気力だけでそれまで生きていたようなものだと。

気絶していた僕を引き渡すとすぐに息を引き取ったのだと。

そんなリーダーは掠れた声でぽつりぽつりと死に際の言葉を喋ったのだという。

 

『…あいつ、は、ばれっと、は、おれたちの、きぼうだ』

『ろくでもなかった、おれたちの、ゆいつの、ひかり、だ』

『ばれっと、がんばれ、がんばれ…おれたち、がついて……』

 

先生の腕の中でそう言ったって。

 

 

『ねぇ、リーダー。リーダーが獲りたいレースってなに?』

『えぇ?俺が?…そうだなぁ、やっぱ天皇賞・春かなぁ』

『天皇賞・春?』

『そう!天皇賞・秋でもなく天皇賞・春!俺の憧れなんだ。

…ま、どうせ出れねぇけどさ。俺、そんなに強くないし』

 

 

「…てんのうしょう、はる」

 

バタバタと慌ただしい音がする。

そんなこと頭に入らない。

ベッドに横たわる僕の頭にはリーダーとした、そんな話がぐるぐると、ただ回っていた。






『愛』ほど歪んだ"呪い"は無いと言うのなら。
『祝福』という名の"呪い"は何になるだろうか。


僕:
祝福(呪い)を与えられた存在。
どうなったって、犠牲に見合う『栄光』を獲るまでは歩き続けることのできる『祝福(呪い)』を授けられた。
立ち止まることは許されない。
進むことしか許されない。
走り続けろ、────いつか、赦される日まで。


でも、赦すのは誰?
赦さないのは、誰?


祝福(呪い)を遺した人々:
僕のことを愛している。今までも、これからも。

"シルバーバレット"。
可愛い俺たちの末っ子。
停滞していた俺たちに『希望』を見せてくれた子。
どうか、どうか、歩き続けて。
立ち止まるなら俺たちが背を押そう。
進めないというのなら俺たちが手を引こう。
征くがいい、俺たちの代わりに───『栄光』の先へと。


そして最後は、…俺たちに『栄光』の話を。
待っているから、走って来てね。
誰よりも、何よりも疾い、その脚で。
待ってるから、ね?









──たぶん、たぶんさ。
どこかの誰かに、もしくは世界中の人々に、『それは"呪い"だ』って言われてもさ。
僕はその"呪い"を…、

「愛するんだ、と思う。…いや、」

愛し()()()んだ。
…きっと最期の、最後まで。




原初の呪い、もしくは。
─────はじまりの、『愛』の話。


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(いろんな意味で)燃えろよ燃えろ。

それはそれとして生存√銀弾って最終的に某北味さんみたいな専用馬房と自由に出入りできる専用パドックを与えられてると思う。
(種牡馬としての功績+そうしても何も問題を起こさないとヒトミミに信用されるくらい頭&気性がいいため)


俺には祖父がいた。

ある時を境に、気が違ってしまったらしい男。

不意に発作を起こしては暴れ、物を破壊する彼を誰もが避けて。

唯一彼が溺愛していた、らしい俺がいる時は比較的大人しくなるのでいつも俺は祖父の傍にいた。

友だちと遊びたいのを、押さえつけられて。

 

『アイツを捨てなければ、俺は幸せに…』

『アイツが、アイツが、アイツが…』

 

祖父の膝の上にあげられた俺が聞かされたのはいつだって"アイツ"に対しての恨み言だった。

"アイツ"が誰なのか、俺は知らなかった。

いや、知ることすらできなかった、という方が正しいか。

俺以外の家族はみんな"アイツ"のことを知っているようだった。

俺の兄姉は俺より一回りほど年上だったから。

両親に聞いたら有無を言わさず怒られるが故に、優しかった兄姉に「爺ちゃんの言う"アイツ"って誰?」と問えばいつも口を閉ざされ。

そして、

 

「お前が、お前がいれば俺は俺は、─────"シルバーバレット"ッッ!!!!

 

ひどく、衰弱しているはずだった。

だが最期の力を振り絞るように祖父は、そう叫んで、凄絶に叫んで、…亡くなった。

怒りとも呼べぬ、負の感情をすべて詰め込んだらこんな顔になるだろうという顔で、安らかというものとは程遠い顔で、祖父は。

 

「あれ…?」

 

それから、四十九日が経ったあと俺は祖父の遺品整理をしていた。

その中で古い帳面を見つけ、中を覗けば、そこには。

 

 

1980.6.25

時間が今日に切り替わってすぐ、やっと、ホワイトリリィから産まれた。

だがひどいくらいに産まれた仔は醜い。

再起をかけたというのに、苦肉の策でサラ系までつけたというのに、嗚呼…。

 

 

1980.8.×

アレの目が気持ち悪い。

それは牧場の皆も思っているのか、ストレス発散に棒で叩かれたりしているところをよく見る。

ホワイトリリィにはバレないようにしろよとだけ言っておいた。

あの馬は、父のホワイトバックよりはマシとはいえ…。

 

 

1981.1.2×

あの馬鹿の白銀の倅がアイツらを買っていった。

二束三文でも今は有難い。

 

 

1982.11.×

どうして、お前が勝っている?

 

 

1982.12.12

こんなこと、許してはいけない。

 

 

1983.2.2×

焼けた。

やけたやけたやけたやけたやけたやけたやけたやけたやけたやけたやけたやけたやけたやけたやけたやけたやけたやけたやけたやけたやけたやけたやけたやけたやけたやけたやけたやけたやけたやけたやけたやけたやけたやけたやけたやけたやけたやけたやけたやけたやけたやけたやけたやけたやけたやけたやけたやけたやけたやけたやけたやけたやけたやけたやけたやけたやけたやけたやけたやけたやけたやけたやけたやけたやけたやけた……。

 

 

ぜんぶ、焼けた。

 

 

そこでゾッとして帳面を閉じた。

何だこれは、何だこれは!?

 

 

出てきたワードを考える。

 

ホワイトリリィ。サラ系。ホワイトバック。白銀。『許せない』と書かれた日付の1982年12月12日…。

 

それらのヒントから最終的に導き出されたのは…、ある一頭の競走馬。

遠き日の祖父はとある生産牧場のウン代目かの主であるとともに、その牧場最後の主だった。

資金繰りに窮し、苦し紛れに再起を狙って作られたかの競走馬はいつしか…、戦前から続いていたその牧場の、最初で最後の最高傑作となる。

そんな馬を二束三文の値で売り飛ばした祖父は狂い、やがて…。

 

「…どうしよう、これ」

 

俺の手の中には祖父の『罪』がある。

今にも放り投げてしまいたいほどに"怨"の詰まっているものが。

 

「本当に、どうしよう…」





誰か:
見 つ け て し ま っ た 。
昔、どこかで牧場長をしてた祖父を持つ青年。
祖父のことがあまり好きじゃない、というかそれをひっくるめて自分に祖父を押し付けていた家族が嫌い。
遺品整理の際に、とある帳面という名の特級呪物を発見してしまった。
帳面の処遇をどうしようか悩んでいる。
だって手放すにも中に書かれてるもんが、ねぇ…?


誰かの祖父:
ある時を境に気が違ってしまった。
"アイツ"に対して恨み節全開。
その恨みっぷりは『焼いた』と帳面に書き記すほど。
寝ても醒めても"アイツ"に頭を支配されていた。
そしてえげつない怨嗟の言葉を叫んで亡くなった。
生き地獄を味わった?………いや、本番はこれからだよ。


"アイツ":
望まれたが、望まれなかった生まれ。
実は『目が気持ち悪い』と日々暴力を受けていた過去がある。
なお率先して彼に暴力を加えていたのは牧場長である誰かの祖父であった模様。
結果、それに追随した牧場の人間たちからもストレスの捌け口に。
…でもまぁ、そんなこともう過去なんですけどね。
幸せになったから、思い出す必要も、…ね?







…なので、僕は許してるんです。
貴方たちがいなければスタートラインにすら立てませんでしたから。
ですが…馬主さん&騎手くん+父&母+産駒+その他もろもろが許すかなァ!?(泣き+恐怖+戦慄)

A.たぶん許さないと思いますよ。

……ハイ。


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カミサマの思し召し

今回の話を執筆するにあたって、Wikipediaの「パータンエアー394便墜落事故」の記事を参考にさせていただきました。

作者は飛行機事故に全然、まったく詳しくないので…ハイ。
問題、なかったらいいな…不安だ……。

【参考文献】
"パータンエアー394便墜落事故".Wikipedia.2021-10. https://ja.m.wikipedia.org/wiki/パータンエアー394便墜落事故,(参照 2022-11-30)



「チッ…クソっ!」

 

そう悪態をつきながら仕事をする。

最近は散々だ。

妻には浮気がバレて逃げられるわ、一発逆転をかけて賭けた馬は極東から来た、バケモンみたいなチビ馬に負けるわで…。

ガシガシと頭を搔くもどうにもならない。

 

「……ボルトも足りねぇじゃねぇか。

ま、合うからこれつけときゃいいだろ」

 

苛立ちに支配された頭で適当に尾翼のボルトを締める。

 

「ん、よし。締まった締まった。…じゃ、一発ぱあっと行くかね!」

 

この仕事に就いてもう何年だか。

最近はずっとなぁなぁでやっている。

だってどうせ、手を抜いたって飛行機は落ちやしないんだから。

 

 

██████625便墜落事故とは、1991年11月×日に***沖合で発生した航空事故である。

また、この便には日本競馬史上初めて凱旋門賞を制した競走馬・シルバーバレットが搭乗していたことでも有名である。

 

██████625便

出来事の概要

日付 1991年11月×日

概要 不良部品が原因の機体構造破壊による制御不能

現場 ***沖合

乗客数 ───────

乗員数 ───────

負傷者数 0

死者数 ───────(全員)

生存者数 0

機種 ───────

運用者 ───────

機体番号 SB-1123

出発地 米××空港

目的地 日東京国際空港

 

 

概要↑

 

この日、██████625便(運行機材:───────)が、乗員─名・乗客─名を乗せてアメリカ合衆国××を離陸した。途中███を経由して日本の東京国際空港に向かう予定だった。625便に使用された機体は1960年に製造され、1985年から運行していたが、製造から31年が経過した老朽機であった。

 

625便は███に向かい高度××××フィートを巡航飛行していたが、625便とF-16戦闘機がすれ違った後に右に大きく旋回し急降下の後、空中分解した。残骸は***沖合に落下した。この事故で乗員・乗客─名全員が死亡した。

 

事故原因↑

 

公海上で発生したことから出発国の調査機関であるアメリカ合衆国の国家運輸安全委員会(英語: National Transportation Safety Board、NTSB)が調査を担当した。625便の残骸は3割が回収され、数十年に及ぶ事故調査が行われた。

 

当初は事故機は爆弾テロによって破壊されたという仮説があったが、間も無く否定された。しかし、前述のように625便として使用された機材は老朽化が激しく、残骸から事故原因を特定するには困難を要した。

 

コックピットボイスレコーダー(CVR)は回収されず、フライトデータレコーダー(FDR)のみが何とか回収された。回収されたフライトデータレコーダー(FDR)はアルミ箔に(気圧高度、機首方位、対気速度のみの)波形を記録するような旧式のタイプであり、かつ機体の振動を受けて波形が重複して記録されている状態だったため、FDRの製造メーカーも解析に長い時間を要した。

 

国家運輸安全委員会の報告書によると、数少ない残骸の中から発見された625便の尾翼を機体に止める4本のボルトの内すべてが純正部品ではない耐久性の低い模造品であることが判明した。それに加え発見された補助動力装置(APU)の発電機も固定具が通常とは違う形で壊れていたことから正しくない方法で機体に固定されていたのではないかと推測された。それらの発見から国家運輸安全委員会は当時の625便のAPUの発電機は動作時に大きく振動するようになっていたと推測し、そのため飛行中にAPU発電機の振動が尾翼内の部品と共振を起こし、尾翼のフラッター現象を助長した結果、尾翼を止めている(耐久性の低い)模造品のボルトが壊れ、尾翼が破壊され機体が制御不能になり墜落したと結論付けている。

 

また、事故当時近くを飛行していたF-16の衝撃波が当機に破壊的な影響を与えたとする主張もあったが、調査の結果レーダー記録などからすれ違い時に両機は大きな影響の出ない間隔で飛行していたとし、F-16の飛行速度もマッハM××××前後で巡航していたとされた。

 

 

 

 

 





誰か:
自業自得(うわき)によって妻に逃げられ、一発逆転を賭けて賭けたらどっか極東から来たウッマに素寒貧にされたヒトミミ(中年)。
仕事にもやる気がない。
だって飛行機が落ちるわけないじゃん?
なおその結果は…。


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フリースクール:アルデバランの日常

日本のみならず世界でも活躍してるウマ娘の走り始めたキッカケが個人がやり始めた一介のフリースクールとか脳壊れんだろこれもう。
(なお先生たるそのウマ娘はスクールから巣立っていった生徒たち以上にバケモノとする)



「…まっっっさかこんなことになるとは」

 

あ、どうも僕です。シルバーバレットだよ。

人間から馬になって、馬の生をこれ以上までなく堪能したと思ったら今世は『ウマ娘』とかいう存在になっちゃったんだよね…。

ちなみに今の僕はめちゃんこ美少女フェイスである。うふふ…。

と、そんな話は今いい。

 

「…よし」

 

前の記憶を持ち越してしまった僕はひとつ心に決めていることがある。

それはなにか?それは…、

 

「今世こそは!フツーに生きる!」

 

そう、それに尽きる。

走ることは今も昔も好きだけれど目立つのは嫌だ。

この世界も前の世界と同じようにウマ娘(うま)がレースを行っており、レースを走るにおいて入学するトレセン学園という施設もあるにはあるが、

 

「ウイニングライブは嫌だ、ウイニングライブは嫌だ…!」

 

ウイニングライブ(あんなの)無理!と僕の精神が叫ぶ。

だって恥ずかしいじゃん!無理じゃん!!…という訳で〜、

 

「バレちゃーん」

「バレちゃんせんせー!」

「はーい!」

 

フリースクール:アルデバラン、はじめました。

 

 

アルデバランは俗にいうとトレセン入学前の子を対象にしたトレーニングクラブだ。

でも月謝は貰わずの完全趣味でやっているものだからフリースクールと名持っているだけで。

僕が住んでいるこの町は普通の町と比べるとウマ娘の子たちの数が多く(それも段違いに!)、それならちょっとやってみようかな〜と思った次第なのだ。

 

「バレちゃーん、きたよー」

「はーい、今日も元気だねー」

 

放課後になれば今日も子どもたちがやって来る。

「バレちゃん、バレちゃん」と懐いてくる姿は素直に可愛い。

 

「とーるせんせーもこんにちは!」

「うん、こんにちは」

「先生」

「バレット、ここに要るもの置いておくよ?」

「ありがとうございます」

 

ちなみにアルデバランは僕ひとりで運営しているわけではない。

共同運営者として騎手くん…、いや今は先生か、がいてくれている。

どうやら先生も僕と同じように前の記憶を持ち越しているようで「バレットがいるところがいい」と僕を見つけたその日にこのスクールの仲間入りを果たしたのだ。

スクールの仲間入りをするにおいて、この町に引っ越してくるぐらいだからその熱意は相当なものだろう。

 

「じゃあ今日も柔軟からー」

『はーい!』

 

子どもたちの声を聞いて思わず笑う。

やっぱり元気な子どもはいいなぁ…なんて、今の年齢考えたら爺臭いかw

 

…だが、この時の僕は知らなかった。

 

「どこだ…?」

「どこなの…?」

「「シルバーバレット…」」

 

シルバーバレット(じぶん)という存在を、中央のウマ娘たちが血眼になって探しているなんて…。





僕(ウマ娘のすがた):
馬時代の記憶あり。
ふつーに生きたいよォ…ふぇ〜ん、の気持ち。
ウイニングライブ…無理…恥ずかしいもん…でトレセン学園はちょっと…になってる。
でも走ることは好きなのでフリースクール:アルデバランを作った。
近所の子や隣町の子に走り方を教えている。
生徒たちからの愛称は「バレちゃん」「バレちゃんせんせー」。
実は最近、アルデバランの卒業生がめちゃくちゃ活躍してない…?と思っている。

先生:
騎手時代の記憶あり。中央トレセン学園トレーナー→フリー。
僕のことを待ってたら、僕がフリースクール:アルデバランを作ってたので一も二もなくアルデバランに入った。
今では楽しくかつての愛バ(いや今もだけど)と楽しく暮らしている。
実はアルデバランに入るために引っ越してきている。

なお、アルデバランに入るにあたって中央トレセンに辞表を叩きつけている。
G1を勝った担当はいないが勤続年数が長く周りからの信頼も厚いベテラントレーナーであったため、本人は気づいていないが大捜索されている模様。


フリースクール:アルデバランのみなさん:
バレちゃんせんせーと先生だーいすき!
僕本人は気づいていないが全員が全員僕の血筋に連なる者たちである(馬時代の記憶はあったりなかったり思い出したり)。
ちなこのフリースクールを始めるにあたって一番はじめに誘われた生徒はシロガネハイセイコだったりする。


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セブンスヘヴン もしくは気楽に復讐を


地を這う者は空を見上げることしか許されぬのか。
本当に、星に手は届かぬのか。
無理だ、と笑う者は笑うがいい。
私は、星になる。
誰も届かぬ一等星に。
総てを灼き焦がす、一等の、太陽の如き灼熱に。
笑う者よ、灼かれるがいい。
そして灰となり、我らが踏みしめる、(みち)の一部となるがいい。



僕はそこまで人に怒ったりしない。

まぁそもそも怒り方が分からないというのもあるのだが。

けれど、けれども、まぁ…。

 

「どうした」

「いや、何でも?」

 

ぼんやりとしている僕に友人であるサンデーが声をかけてくる。

それに何でもないと手をヒラヒラさせると「そうかよ」と返された。

 

…ずっと、現役を引退してからずっと、考えていることがある。

なぜ、僕らが、"サラ系"が、差別されなければならないんだろうって。

僕らは何も悪いことをしてないのに、血ってそんなに大事なものか?と。

それまでは後指さしてたくせに、たくさん勝つと手のひら返して。

…さすがの僕でもちょっと、ねぇ?

 

「…どうしようかな」

 

僕の値段(レート)はとても低い。

年齢とか体格もまぁ理由には入っているけれど、いちばんの理由は僕が"サラ系"だからで。

…なら、それを利用してやろうか。

 

「どうしようかなぁ」

「…なにがだ?」

「いや、何でもない」

 

 

「…どれにしようかな」

 

その考えが頭に浮かんでからの僕は日がな一日中昔のレース映像を漁っていた。

どの人の血を使()()()()、なんてことを考えていた。

 

「みんな、貴種流離譚とか好きだものね。

あとは父の無念を息子が叶える〜とか」

 

見定めるためにいろいろと。

いちおういい所の()を勧められてもいるのだけど、僕の目的にはそんな良血の()は見合わなくて。

 

「できれば古くて、人気で、でも今はあんまり結果が出せてない血が欲しいな…」

 

面白いことがしたい。

世界を全部ひっくり返すような。

あの巌窟王も真っ青になるような、そんなことがしたい。

そのためなら何だって利用してやる。

やりたいように、やってやる。

そのための布石は、現役時代に打っているようなものだ。

 

「…サラ系(ぼく)の価値はまだ低い。

なら、それを最大限に活用して……」

 

さぁ、どうしてやろうか。

 

 

あれから、僕の『たのしみ』はさまざまな形を見せてくれた。

仕事は非常に多くて疲れるものであったけれど、この(さま)を見せてくれるというのならその疲れも嬉しいもので。

 

「父さん、勝ちましたよ!」

「あぁ、見てたよ。おめでとう」

 

今日も、何人目か分からない子どもが勝ったと僕に報告してくる。

これで誰が何回勝ったんだったか、今度は家に何が贈られてくるやら。

家の敷地に入り切らなくなりそうなほど贈られてくるものに戦々恐々としながら嬉しくなるのも事実。

過去の亡霊(クソ)どもを嗤っているのも、事実。

 

「ねぇ、どんな気持ちです?」

 

虐げたモノにやり返されて。

 

「……なぁんて、ね?」





外からやって来た人たちには分からない歪みってあるよね。

僕:
気楽な復讐者。ウマでありながらウマではない者。
本人は面白いからという理由でやっていることだがその本心では少しばかりの復讐心を持っている。でも恨んでるというわけではない。
けど、どうして"サラ系"がここまで虐げられなければならなかったのか、と手のひら返ししてくる人々を見て思ってたり…。
ちな時々、信頼している人の前限定で心の内の闇がまろびでる模様。

SSなどを含む外国系の人々:
僕のバックボーンについてはなにも知らない。
基本的に僕を気のいい兄ちゃんだと思っているがふとした時に見せる闇に何かしら察してたりしてもいい。
たぶんこのメンツの中でいちばん僕の闇の部分を見ているのはマブダチであるSSなんでしょうけど…。


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"神"のために、(おど)るは我ら


"彼"の仔だから見てもらえる、なんて大間違いだからな?


天上におわす"神"のごときヒトだと思う。

それが子どもたちの総意であった。

偉大なる父、その名を───シルバーバレット。

 

「キミたちが生まれてきてくれたのが僕にとっての何よりの幸せ」

 

そう言って、腕を広げ自分たちを受け入れる彼の体はあたたかい。

だが、ひどく虚像に見えた。

温度の無い目で、必死にロボットが人間のフリをしているような心地。

「愛している」とのたまいながら、本当は自分たちなど見てないだろうと糾弾する精神がうるさい。

 

天上におわす御主(おんあるじ)にとって自分たち(我ら)は、ただの舞台上で(おど)る役者にしか過ぎないのだろう。

観客席で無感情に手を叩くシルバーバレット(かれ)のために哀れに踊る道化が自分たち(我ら)だ。

 

「…見てくれないなら、()んでほしい」

 

そうぼそりと告げたのは、誰であったか。

いちばん初めに見出された長兄であったか、それとも後の弟妹の誰かであったか、それとも、それとも…いつかの自分であったか。

 

「……強いねぇ」

 

レース場で、無感動につぶやく彼をちらりと見やる。

彼にとってはこの勝利も、当たり前のものなのだろう。

自分の血を別けた仔なのだから、当たり前だと。

細められた目から薄らと黒黒とした眼が見える。

 

「…帰ろっか」

 

ふらりと立ち上がった体はひどく薄い。

しかしその体に渦巻くチカラは、どうにも。

産み出されたものが、創造主に敵うなどという筋書き(ストーリー)は妄想の中だけだ。

だって自分たち(我ら)は超えられなかった。

目の前にいる御主(おんあるじ)を。

 

…けれど、だけども。

どうしようもなく、彼の手によって産み出された自分たち(我ら)は、彼の目に映りたかった。

1ミクロンでもいいから、見てもらいたかった。

自分以外の兄弟(うぞうむぞう)に向けられているようなありふれた感情(もの)ではなく、自分だけに向けられる感情(もの)を、欲した。

彼が獲れなかったレースを獲った。たくさん、たくさん。

彼の眼だけが欲しくて。他の者なぞ眼中にもない。

自分だけを見て、と叫ぶ精神はまるで聞き分けのない子どものよう。

その事実にもはや、笑うしかない。

でも、抱えていかなければいけないものだ。

だってコレも、『自分』であるのだから。

彼に見てもらいたいと叫ぶ、本音(じぶん)なのだから。

 

「……ねぇ、」

 

呼びかければゆるく首を傾げて振り返る(かれ)

ぼんやりとした瞳は今日も自分を見ていない。

それに、憎しみからはじまるその他諸々の感情を抱きながらも、

 

「愛してます」

 

…嗚呼、なんて救いようのない!





偉大なる"()"に、畏敬を。

産駒たち:
揃いも揃ってシルバーバレット(じっぷ)にクソ重感情。
自分を見てくれないなら()んでくれ…、なんて。
シルバーバレット(じっぷ)のことが大好きだがそれはそれとして憎しみ()も持っている。
しかしいつも最悪(最高)のタイミングでシルバーバレット(じっぷ)の父から仔への情を見せられるため嫌うに嫌えなくなってるし、憎めない。そういうわけで情見せ回が起こるたびに産駒たちは情緒をぐちゃぐちゃにされている。
また、シルバーバレット(じっぷ)を超えることができたら見てもらえるんだろうな…と察しながらも超えられない自分に鬱屈としてたり…?
なお予後るのはシルバーバレット(じっぷ)のトラウマ(置いていかれる)を刺激するため必死で回避している模様。

僕:
産駒たちに"神"扱いされている系パッパ。
ヒトミミには優しいが同族にはほぼほぼ『無』なタイプの御方。
誰も見てないマインドがひどい。唯一見てるのは白峰トレーナー(せんせい)だけ。次点でマブのSS。マス太がいる世界だったらマス太も追加。
よく子どもの前で『キミらと先生どっちかしか助けられないって言われたら僕は先生を選ぶから自力でどうにかしろ』やら『(優先順位は)先生が一番、キミたちは二番』とかよく言ってる。
だってキミたち、僕が助けなくても自分で何とかできるでしょう?(一切の曇りなき信頼のまなざし)
ちなそれ(先生が一番大切)自体については産駒たちも納得してるので特段問題はない。
だって白峰トレーナー(せんせい)も同じことよく言うし。

けれど、…産駒たち(かれら)はただ、ただ、たった一度だけでいいから、僕の眼に映りたいだけなのです。

なお史実、元性別軸ともに産駒たちに目をかけているのは自分の血を別けた仔(かぞく)だと分かっているからであって、そうじゃなかったら興味のkの字もない模様。
まぁそれこそが銀弾(おまえ)ホント銀弾(おまえ)…!たる所以だなって…、ハイ。

実は過去、SSに飯作りに行き過ぎてたせいでSS産駒たちにお手伝いさんだと思われてたことがある。


SS:
銀弾産駒たちからの視線が熱い。
休日になると基本銀弾が遊びやら食事やらに誘いに来る。
遊ばなくても結構な頻度で飯作って帰られる。
銀弾との関係はお互い頼み事をされたら、その頼み事の要件が何であれ二つ返事で了承するくらいの仲。
また、銀弾とふたりで子どもたちのレース観戦(現地)してる時に銀弾がにこやかにファンと交流してたらちょっと不機嫌になってる、かも…?
そんくらいの仲良し。

実は秘密裏に銀弾産駒たちに向けて勝ち誇った笑みを浮かべている時がある。本気か、からかいかは…?


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牝馬‪√‬で元性別な話 CB編


牡馬でも牝馬でも脳焼き定期。
う〜ん、(繁殖成績が)バケモン過ぎんだろコレ。
こりゃ神様もたびたびコロそうとしますわ(納得)。


「お前そのカッコでソレはキッツいと思うんだが?」

「うっせ。このカッコじゃねぇと子どもが泣くんだよ」

 

そんな会話をしながらミスターシービーは買ってきた飲み物をシルバーバレットに渡す。

どこからどう見ても可愛らしい女の子という格好をしたシルバーバレットは「ふぅ」と煙草の煙を吐いていた。

あまりにも服装とミスマッチな光景にミスターシービーは呆れたようにため息をつく。

 

「煙草はやめたんじゃなかったか?」

「いーんだよ。…もう子どもこさえる気、ねぇから」

 

けほ、と煙が空気に霧散する。

目を細めて、また煙草を口にしたシルバーバレットに目を見開いたミスターシービー。

そんな彼に彼女は、

 

「んだよ。テメェ、忘れてるかもしんねぇが私たち同い年だぞ?」

「それは、そうだが…」

「なんだ、ククッ…残念か?」

「ンなわけねぇ!」

「へーへーそうかい」

 

競技引退後も女傑と謳われたシルバーバレットのことをミスターシービーはそれなりに好いていた。

あの日の毎日王冠で発破をかけられた時からずっと、愛とも呼べない執着を抱いていた。

 

『よォ、美丈夫』

 

引退したあと、後進のためのスクールを開いていたミスターシービーの元へふらりとやってきた彼女は初めての仕事相手に彼を選んだ。

まさか自分が選ばれると思っていなかったミスターシービーにシルバーバレットはこう言った。

 

『まぁ…先生や父さんがお前ならまぁ…って許したのもあるんだが、』

『私みてぇな顔に傷のあるオンナをいの一番に口説いたのはお前なんだよ。

だから、…お前が私でいいなら、まぁ、相手してやってもいいかな、と』

 

顔を赤くし、どもって下を向き始めた彼女を思わず抱き締めたのは何も悪くないと思う。何でかしばかれたが。

 

「ペガサスは元気か?」

「あ〜、元気してるぜ。

まったくどっちに似たのかは知らんが口うるせぇのなんのって」

 

ガシガシと面倒くさそうに頭を搔く彼女にその格好でそんな行動をするなと言いたくなったがひとまず飲み込んだ。…多分ペガサスのそういうところって俺似じゃないだろうかとも考えたり。

 

「なぁ」

「なんだよ」

「お前今でも黒鹿毛のウマ娘が好きなの?」

「は?」

「有名だったぞ、お前。

黒鹿毛の小柄なウマ娘が好みなんだって?」

 

からかうようにシルバーバレットが笑う。

…まぁ、それも嘘ではないんだが。

 

「違ぇよ」

「へぇ?じゃあどんな娘が好みで?」

「今は芦毛だよ、芦毛の小柄なウマ娘」

「…は、」

 

するりとシルバーバレットの頬に手を寄せ、そうして髪を梳く。

黒い髪色からすっかり白っぽい灰色へと変わった髪を。

 

「分かるよな?」

 

そう笑うミスターシービーにシルバーバレットは…、

 





私:『偉大なる、我らが太母(たいぼ)
牝馬軸のシルバーバレット。くりくりお目目のちいちゃい牝馬。
子どもがたくさんいる。すっかり芦毛モード。
基本はあらあらうふふの合法美ょぅι゛ょだが同期のCBの前では素になっている。
なお牡馬軸でも牝馬軸でも普通に煙草を吸っている模様。
何だかんだいってCBのことは信頼してるし、毎日王冠の際の『俺の女にしてやってもいい(意訳)』を覚えてたりしたので引退後すぐさま会いに行ってたりする。
CBとは仲のいい友だち(と思っている)。

CB:
クソデカ感情。牝馬√銀弾のはじめての男。
そういや別冊宝/島の種牡馬読本で芦毛が好みだって明言されてるってホント?(某スレからの情報なので作者も確証はないです)
この軸では私に脳を焼かれて、好きな毛色=私の毛色となっている。
(私が黒鹿毛っぽい時は黒鹿毛。芦毛になったら芦毛)
基本、私と会った際は毎回口説いている。でも私がニブチン過ぎてスルーされてる。
ちな皇帝とは私が知らぬところで冷戦してたりするらしい、しかも毎回。



私の繁殖成績(またの名を海外蹂躙一族の軌跡)

牡馬√のバケモノ産駒成績が牝馬になったせいでギュッ…と凝縮されておりますのだ…。う〜ん、この。勝ち鞍が勝ち鞍なせいで娘に実装できないヤツらばかりなのだ…。ホントやっべぇなこの銀弾とかいうウッマ…。バグ以上のバグだろ。こりゃ神様もたびたび邪魔()しにくるわな…と後年ヒトミミに納得されてそう。
"サラ系"と後ろ指さされたウッマの大復讐劇が今、始まる…!並み、いやそれ以上のヤバさ()。馬産界の脳が灼かれる〜!!!!丸焼き。

1993年産
シロガネペガサス 牡 (父ミスターシービー) 1997引退
-『銀色の天馬』


ジャパンカップ(1996)
サンクルー大賞(1997)
KGVI & QES(1997)
BCターフ(1997)

1994年産
レディーバレット 牝 (父シンボリルドルフ) 1997引退
-『弾丸女帝』


米国牝馬三冠(1997)
BCクラシック(1997)

1995年産
ヴィンチェロー 牝 (父ヒカリデユール) 1999引退
-『私は勝つ』


有馬記念(1998)
香港カップ(1999)

1996年産
シロガネルドラ 牡 (父ニホンピロウイナー) 2000引退
-『咆哮を上げる者』


欧州牡馬マイル三冠(1999)
安田記念(2000)
香港マイル(2000)

1997年産
シロガネブレーヴ 牡 (父ダンシングブレーヴ) 2001引退
-『銀色の勇者』


英国三冠(2000)
KGVI & QES(2001)
凱旋門賞(2001)

1998年産
シロガネターボ 牡 (父ツインターボ) 2005引退
-『果てしなき逃亡者』


朝日杯3歳S(2000)
クイーンエリザベス2世カップ(2005)

1999年産2004引退
シャドウガンナー 牡 (父ナリタブライアン)
-『影をも撃ち抜いて』


高松宮記念(2003)
ゴールデンジュビリーステークス(現プラチナジュビリーステークス・2004)

2000年産 2004引退
シロガネダンサー 牡 (父オグリキャップ)
-『グレイゴーストの再来』


BCジュヴェナイル(2002)
米国三冠(2003)
BCクラシック(2003・2004)
トラヴァーズS(2003)
ホイットニーH(2003・2004)
ウッドワードH(2003・2004)
ジョッキークラブ金杯(2003・2004)

2001年産
ホワイトバレット 牡 (父サンデーサイレンス) 2006引退
-『純白の弾丸』


BCターフ(2005)
BCクラシック(2006)

ノワールバレット 牡 (父サンデーサイレンス) 2006引退
-『漆黒の弾丸』


BCクラシック(2005)
BCターフ(2006)

2002年産
シロガネハナツユ 牝 (父メジロマックイーン) 2007引退
-『春告馬』


ゴールドカップ(2006・2007)

2003年産
シロガネハヤテ 牝 (父サクラバクシンオー) 2007引退
-『疾風』


ジュライカップ(2007)
モーリス・ド・ゲスト賞(2007)
香港スプリント(2007)

2004年産
シロガネキセキ 牝 (父フジキセキ) 2009引退
-『銀色の軌跡』


チャンピオンズマイル(2009)
BCマイル(2009)

2005年産
シロガネルクソン 牡(父アグネスタキオン) 2008引退
-『その光は超高速を超えたか』


菊花賞(2008)
香港ヴァーズ(2008)

2006年産
シロガネデパーチャ 牡(父クロフネ) 2012引退
-『出港、異常なし!』


BCクラシック(2010・2011)
ドバイワールドカップ(2012)

2007年産
パッセージオーロ 牝(父ステイゴールド) 2012引退
-『黄金航路』


エリザベス女王杯(2011)
香港マイル(2011)
ジャック・ル・マロワ賞(2012)

2008年産
ペレアイホヌア 牝(父キングカメハメハ) 2012引退
-『大地食らう女神』


優駿牝馬(2011)
ムーラン・ド・ロンシャン賞(2012)

2009年産
クックロビン 牡(父ジャングルポケット) 2013引退
-『Who Called Cock Robin』


英ダービー(2012)
エクリプスS(2013)

2010年産
ロックオンハーツ 牡(父ハーツクライ) 2017引退
-『標的はただひとつ』


ドバイシーマクラシック(2015-2017)

2011年産
カタストロフ 牝(父ディープインパクト) 2015引退
-『破壊者』


愛国三冠(2014)
KGVI & QES(2014)
凱旋門賞(2014・2015)
サンクルー大賞(2015)



うわっ…私の血、ヤバすぎ…!?
-by.シルバーバレット


母親である銀弾から阿呆ほど海外適正を引き継いだ子どもたち。
産まれたら最低でもGⅠ2勝が確約されている模様。
産駒で打線組めるし、産駒最強論争は凄いし、正妻ならぬ正夫論争も凄いことになってそう。
子どもたちはみんな基本早めの引退になっている(産駒の中で現役最長だったのはシロガネターボ、ロックオンハーツの7歳)(銀弾から分け与えられた疾さに脚が…ね?電撃の差し脚もあるから脚に負担がかかりやすい)(ならそれで11歳まで走りきった銀弾とは…?)。
なお子どもたちは母である銀弾の「あらあらうふふ」モードしか見たことがないため、往年のレース中オラオラ男勝りモードを見たらちょっと()感情が刺激されたりする。
牝馬√銀弾って実質メスガキ(わからせ無し)だもんな、そりゃあ感情刺激されるよな…。

んでたぶんこの√の白峰おじさんは日本の三冠獲らずに他国の三冠を獲ってる。
(シロガネ冠名には確実に騎乗しているので…ハイ)


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◆知らぬが…


仏、といえるシロモノだろうか。


シルバーバレットは鈍い。

それは彼女を知る人間の満場一致の意見だった。

それでいて、自分が他人に好かれていることを認めようとせず、自分よりももっとお似合いの人がいると身を引くのだ。

彼女が懐に入れている人間はトレーナーだけではないだろうか、と今まで思っていたのだが、

 

「あっ、見に来てたのサンデー!」

「おー」

「どうだった?僕完璧だったでしょう?!」

「おー、強かった強かった」

 

サンデーサイレンス。

最近シルバーバレットの懐に入れられた一人。

外国からある名家に招集された彼女はいとも簡単にシルバーバレットの視線を奪っていった。

正直に言うと憎い。

彼女の近くにいたのは私の方が長いのに、何で私じゃなくてソイツなのと思わず泣き叫びそうになる。

シルバーバレットの優しい優しい友人の顔をしながら、その薄皮一枚下では今にも「私だけを見て」と掴みかかりそうで。

 

「サンデー、待っててよ」

「分かってるって」

「じゃあまた後でー」

 

笑う、笑う、彼女が笑う。

私に向けることの無い顔で私以外に笑いかける。

その顔にドキリとしてしまったのに、また憎しみが積み上がった。

 

 

外国に行ってしまったキミのSNSを暇な時に見るのはもはや日課だった。

頼み込んで教えてもらったアカウントにメッセージを送っても帰ってこないから。

寝ている間に更新されていたタイムラインには新しい友だちさんと仲良く写っている写真。

 

それを見ながら僕とは、僕とはそんなことしてくれなかったじゃないか、と思う。

僕はずっとキミを見ていたのに、つれないキミはこことは違うどこかへ行ってしまった。

写真の中のキミは仕方なさそうに、それでいて楽しそうに笑っている。

僕の記憶の中にいるキミはずっと不機嫌そうなのに、どうして。

 

「どうして、僕じゃないの…!」

 

どこにも行けない僕を置いて、キミは自由に飛んでいった。

ずっとずっと、あの頃のままだったらよかったのにと思ったのもこれで何度目だろう。

…ねぇ、もし、今でもあの頃のままだったなら、キミは僕の傍に居続けてくれたかな?

僕の運命のライバル、宿敵よ。

 

……でね、秘密だったんだけど、僕は、キミのその目が好きだったんだ。

僕を、自分を認めない世界を、心底憎んでいるというような睨めつける目が。

聞くに耐えない罵倒を繰り出すその声も今となっては懐かしいと思う。寂しくなる。

 

あのお友だちさんと、キミはどんな話をするのだろう。

そんな夢想をする度に今度はキミがここにいなくてよかったと手のひら返しをするのだ。

だって、きっと、その光景を見たら僕はおかしくなってしまうから。

 

キミひとりだけしかフォローしていないSNSが、また更新されるのを知っている。

そう、知りつつも仕事のためにプツリと電源を落とした僕だった。

 





銀弾&SS:
何も知らない。何も知らないまま仲良くマブやっている。

激重勢:
自分だけを見て?
なんで自分じゃなくてそんなヤツのこと見とるねんの気持ち。
そんなヤツよりも自分の方が魅力的だろ?って思ってる。
でも相手は自分を見てくれない。…可哀想だね。


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獅子潜む、伏魔殿にて


とろん、とろりと、腹の中。


「…いやいやいや、あれは」

 

その日もいつも通り、子どものレースを見に来た…はずだった。

だが僕が目を奪われたのは、

 

「おいおい、…とんでもない置き土産遺してくれたなぁ!」

 

その子は、少し前に亡くなったマブダチの子どもで。

ただ、眺める僕の視線の先で綺麗な鹿毛の髪が、風に揺れていた。

 

 

「それで私の元に来たと?」

「そうだよ。…にしてもキミ見た目があの頃と変わってなくないかい?───ルドルフ」

「…ふふ、世辞が上手いですね」

 

その子の走りを見た数日後、僕は遠き日の知り合いであるシンボリルドルフの元を訪れていた。

ふたりとも大人になったなぁ、と思いながら彼が淹れてくれた紅茶を飲む。

僕がその日、彼の元を訪れたのは久しぶりに顔が見たかったから…というのもまぁあるが、いちばんの理由は──最近見たあの子の走りで。

 

「あなたが、目をかけるほどですか?」

「…うん。とんでもないモン遺されたなぁって思った、正直」

「…」

 

鋭い目をして押し黙る彼に言う。

第4代の三冠バたる、彼に言う。

 

「あの子は、…████████は、三冠バになるよ」

「そう、ですか…」

 

すぅ、と細められた目に内心「怖…」と思うが嚥下しておく。

ずっと黙ったままの彼をぼうっと眺めていると「…そう言えば期待している子がいるとか」と聞かれたので「あぁ」と返答する。

 

「シルバープレアーって子でね。甥っ子の…シルバーチャンプの子どもなんだけど」

「はい」

「なぁんか放っておけなくてね、時々面倒見てるんだ」

「…なにか、惹かれたものでも?」

「ん〜、惹かれたって言うか…似てる?、から?」

「似てる?」

「うん、昔の僕に、ちょっとね」

「…」

「いや走り方の方だからね!?走り方が似てるの!」

「分かってますよ。そう貴方みたいなのがポンポン生まれたらたまったもんじゃないです」

「…酷くない?」

 

食い気味に返ってきた言葉がちょっとココロの柔い部分に突き刺さる。

少しシクシクと泣き真似しようにも「で、何です?」と続きを促され、

 

「その、シルバープレアーくんは████████という子に勝てると?」

「ん?いや、勝てないと思うよ?」

「は、え?」

「力全部を注ぎ込んでようやく勝てる…かも?ってくらいじゃないかなぁ、アレは。

でもプレアーは力の入れ方が上手いから絶対そんなことしないだろうし」

 

自分を慕ってくる幼子の姿を思い出してくすくすと笑う。

あの子は、プレアーは、僕と違って、力の入れ方が上手いから。

僕みたいな、あんなひどい怪我をすることは、一生ないだろう。

 

「まぁ、プレアーは一発ドカン!ってタイプじゃないからね。

気楽に応援するさ」

「は、はぁ…」

「じゃ、ルドルフご清聴ありがとう。

また機会があれば会いに来るよ」

 

そう言って立ち上がる僕を引き留めようとする手をサッ、と避ける。

 

「ごめんね、ルドルフ。

今日は早く帰らないと子どもたちの祝勝会に間に合わないんだ」

 

だから、ごめんね?

努めて、落ち着いて、ゆっくり彼に謝罪を言えば、

 

「……はい、分かりました。

また、来られるのをお待ちしています…先輩」

 

伸ばしていた手を降ろしてくれたので、にこりと僕は微笑む。

それにしても。

…本当にキミは、繕うのが上手いよ、

シンボリルドルフ(皇帝)

 

(…あ〜……怖)

 

帰路につきながら深深とため息をつく。

…よくあんな目を、治めることができるなぁ、という気持ちを込めたため息を。

 

「あぁ…、ホントに怖かった…」

 

…でも、僕はそう簡単に、

 

「腹の中にゃあ、落ちやしないぜ?」





僕(元性別生存‪√‬のすがた):
仲良かったヤツらのほぼほぼに置いていかれてしまった。
ちょっぴし、寂しい。
その寂しさを後進を可愛がることで癒している。
残ったもの同士である皇帝とはまぁまぁ親しくなった。
けど皇帝の目が怖いのであんまし積極的には関わろうとしない。
最近甥の息子である銀の祈りと同期になる、とある鹿毛の子に注目し始めている。
なおその鹿毛の子が三冠バになる発言は史実の白峰おじさんから。
新馬戦を一目見た瞬間、「あの子、三冠馬になるね」って言う白峰おじさんなんだ。
ちな、銀の祈りの性質をある種、自分よりも残酷だと思っている。


流石の僕もこの歳だけど、…キミのような若造に、僕が喰べられるわけ、ないだろう?


皇帝(元性別僕を独り占めのすがた):
時折ふらっと僕が会いに来てくれるようになって嬉しい。
今度こそ仲良く()なりたいと思っている。
可愛がり()たいとも思っている。
けど僕の目が後進に奪われるのは…(ハイライトオフ)。


…せっかくの二人きりなんですから、他に目を奪われるなんて、野暮ですよ。


銀の祈り:『史上最強の二番手(フツー)な男』
シルバープレアー。自分を『普通』と称する青年。
負けることで強くなる子であり、二番手として、二番手なりの矜恃がある子。生涯完全連対をキメた。実は銀弾と同じく芝、ダート・距離・バ場を不問でいける。
僕いわく『自分と似ている』とのこと。それが皇帝に言ったとおりなのかはさておき…。
だが力の入れ方がよく分かっている、という名のリミッターを外せない子でもある。
リミッターを外せる子だったら当代随一になれる(なる)才能有り。
だがその場合は早期引退を余儀なくされる。
しかしリミッターを外せないが故にほかの子より長く走れ、また長く走り続ける間に力の許容量を少しずつ拡張していけるという稀有な才能を持つ。
そして、その拡張の結果がラストランの凱旋門賞となり、最終的にぶっちぎりの大器晩成バへと成長した。


…あはは、僕なんてどこにでもいる二番手(フツー)の男ですよ。
『英雄』なんかじゃありません。そもそも『英雄』なんかに成り得る器でもないですし…。
でも、そんな僕を超えていかなくちゃあ、みんな永遠に───二番手(フツー)以下って、ことですよねェ?



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◆ぱかぷち!


銀弾はマスコット。
はっきりわかんだね。


目が覚めると体がちったくなっていた!

 

「はぁ!?」

 

ちったい。ほんとうにちったい。

大きさ的にぱかプチくらいだろうか。

ぽてぽてと歩くが、この大きさって…フツーに生活できないじゃん!

ちったな足でなんとかアルデバランで使っている部屋にたどり着いたけどドアを開けられず、しくしくと泣いていると、

 

「り…、リーダー…?」

「あ、はいせぇこ!」

「ぐはっ!」

 

ドアを開けてくれたハイセイコの足にぽてっと抱きつくと何故か胸を押さえていて。

「だいじょーぶー?」とぽてぽて頭を撫でてあげると「お持ち帰りします!」と抱き上げられた。

 

「わ〜たかーい」

「ね、リーダー、いいでしょ?

私がちゃんと世話してあげますから」

「わ〜い」

「了承ってことですね、ありがとうございます」

「ちょっと待ったーッ!!」

「わ〜」

 

ハイセイコに抱っこされていると次はヒーローに抱っこされる。

 

「…ヒーロー、私からリーダーを奪う気?」

「奪うもなにも!リーダーの意志を聞かずに…!」

「ひーろーしゅきー!」

「ぐっ!?」

「どーせヒーローだって同じ穴のムジナだろ!」

 

わぁわぁとなにか喧嘩し始めたふたりにどうすればいいんだろうなぁ…と思っていると、ひょいっとまた別の誰かの元へ。

 

「リーダー、おやつにしませんか?」

「わ〜い!」

 

 

ある日突然、チーム:アルデバランのリーダーであるシルバーバレットがちいたくなってしまった。それもぱかプチサイズに。

 

「みんながんばえ〜!!」

 

ちったな姿で自分たちを応援するシルバーバレットの姿にアルデバランメンバーの表情がでろっと崩れる。

今日の彼女の服装は裁縫が得意なメンバーによって作られたチア衣装だ。

その衣装でポンポンをフリフリしながら応援してくれているのである。

…コレを可愛いと言わずなんと言うのか。

 

「みんな〜とれーにんぐおわりだよ〜!」

 

そして、トレーニングが終わる。

いつもならおのおの「お疲れ様〜」だの何だの言って帰っていくのだが、

 

「ひとりずつならんでね〜」

「がんばってたね〜」

「いーこいーこ」

 

トレーナーに抱っこされているシルバーバレット(ぱかプチサイズ)が縦一列に並んだメンバーの頭をひとりずつ撫でていく。

ぽてぽてのやぁらかいおててでヨシヨシして、いっぱい褒めてくれる。

もっと撫でられたいと場を動かなければ後続にぺいっと引き剥がされ、お持ち帰りしたいと手を伸ばせばトレーナーに「コラ」と頭をポスっとされ(なおトレーナーの頭ポスも「御褒美です!」とのこと)。

 

「みんなえら〜い!」

 

そう言ってニコニコと笑うシルバーバレット。

でも、それはそれとして…いつ元に戻るんですかね?

 

『え?戻らなくてよくないですか?』by.アルデバランメンバー




僕(ぱかぷち風のすがた):
なぜか目が覚めたらぱかぷちっぽくなっていたウマ娘。
チーム:アルデバランメンバーに可愛がられつつ、よくお持ち帰りされそうになっている。
かわいい。とてもかわいい。


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父との話


実のところ作者は銀弾をはじめとした一族(銀色・シロガネ)を右として考えてるんだ…(わかる人にはわかる)。
っぱ友人だと思ってたヤツらに激重感情向けられてキョドるのはいい文明…はっきりわかんだね…。

【追記】
誤字報告ありがとうございます。


「父さん、?」

「…俺も呼ばれてェ」

「へ?」

「リリィみたいに、呼ばれてェ」

「は、はぁ…」

 

農作業の休憩時間中にそんな会話をする父子。

ぽかんとした顔をする息子-シルバーバレットに父-ヒカルイマイは「ほら、呼んでみろ」と催促する。

 

「え、えぇ…」

「ほら」

「い、イマイ、さん…?」

「ん゛〜?」

「ヒカル、さん…?」

「ん、そっちだな。呼べ」

「ヒカルさん…?」

「『さん』は要らん」

「ヒカル…?」

「おう」

 

父親なのに名前を呼び捨てにしてもいいのだろうか…と多少逡巡するシルバーバレットだが父親本人がそれを嬉しそうにしているからまぁいいか…と思考を止めた。

シルバーバレットは時おり、仕事の休みにこうやって小さな農園(ヒカルイマイ談)を営んでいる彼を手伝いにやって来る。

手伝うたびに小さな農園()ながらよくひとりで管理できるなぁと思いながら。

 

「慣れだよ、慣れ」

「慣れ…」

「…まぁ、慣れようがチビのお前じゃ大変そうだが」

 

父の言葉にムッとしながらもヒョロヒョロの自分の体と見比べると筋肉がちゃんとついている父の体にさもありなんと納得もする。

…なんで僕の体は筋肉がつかないのだろう。

 

「食わねぇからだろ」

「…少食だから」

「それでもだ。よくあの食事で現役乗り切ったなお前」

 

休憩しつつ食べていたおにぎりを譲られて顰めた顔をする息子にヒカルイマイは笑う。

それに「食えよ。健康診断で言われてんだろ?」と続ければ「なんで知ってるんです!?」と叫ばれた。

お前の子どもたち(俺にとっては孫)がフツーに伝えてくるからだよ。

子どもの自分たちが言っても聞かないからお爺さまから言ってあげてください、ってな。

 

「食べてます〜。もう現役辞めたからたくさん食べたら太るんです〜!」

「そうは言っても現役時代と変わらないトレーニングしてる癖に」

「うっ、」

 

図星をつかれ、言葉につまったシルバーバレットが「よよよ…」と泣き真似をはじめたのにため息をつくヒカルイマイ。

…コイツ、妙に泣き真似が上手いな。泣いてないのは分かってんのになんか、なんか…。

そう考えつつもヒカルイマイは泣き真似をする子どもの肩を叩く。

 

「…まだ"アイツ"には秘密にしてある」

「ヒュッ」

「バラされたくなけりゃあ……分かってるな?」

「(コクコクコクコク!!)」

「ならちゃんと食え」

 

その時、父子ふたりの頭の中に浮かんでいたのは誰よりも美しく、気高いホワイトリリィ(きしもじん)の姿。

昔から自分の子を、家族を、何よりも愛する彼女にこの現状がバレたとあれば…、

 

「(ガタガタブルブル)」

「…まぁ、頑張れよ」





僕:
シルバーバレット。
父たるヒカルイマイのことが(親愛、家族愛の意味で)好き。
時間がある時にはよくヒカルイマイが営んでいる農園を手伝いに行く。
実は引退しても現役時代と同じトレーニングを積んでいる模様。
それなのに食わないのでよく痩せてヒィヒィ言っている。
ちないちばん怖いのは母であるホワイトリリィが怒った姿らしい。

父:
ヒカルイマイ。
どうやらホワイトリリィが『リリィ』と呼ばれているのを聞いて自分も息子にそんな感じに呼ばれたいと思ったらしい。
んで今回から『ヒカル』と呼ばれるようになり無事ご満悦。
『イマイ』呼びは…、なんか苗字っぽいな(お気に召さず)。
細身だが農業を営んでいるので農筋がついている。
なおいちばん怖いのはもちろん妻のホワイトリリィが怒った姿とのこと。

母:
ホワイトリリィ。一家の女首領(ドンナ)
家族を愛している鬼子母神。
サラッとしているように見えて夫であるヒカルイマイにベタ惚れ。
ハチャメチャにイイ女であり、夫であるヒカルイマイもなぜ自分が彼女に選ばれたのか今でも分かっていないらしい。
余談だがヒカルイマイと出会うまでは会う男会う男に執着されまくって大変だった模様。…血ですね(誰とは言わないが…を見ながら)。


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『愛』の造形、その一幕


愛だよ、愛定期。もしくは相思相愛とも。
でも史実の騎手がこんなんだったせいで娘時のトレーナーがヤベェ奴に…。
けど史実騎手知ってる民にはこれでもまだマシだいぶマシって言われるんだよ


 

「やぁ、バレット」

 

あれ、騎手くんじゃない。

もしゃもしゃご飯を食べているとやってきた彼に顔をあげる。

どうしたの、という風に首を傾げればいつも通り優しく撫でてもらえた。

 

「ちょうど近くに来たから遊びに来ただけだよ〜」

 

ニコニコとそう言う彼だけど、その体からは何だかすごく甘い匂い。

それが気になってフンスフンス鼻を動かしていると「あぁ…、さっきまでドーナツ食べてたから」と微笑まれる。

 

「いちおう灰方さんにもおみやげ?差し入れ?として渡しておいたから大丈夫だよ。

…にしても、眠くなってきちゃった」

 

騎手くんはいつも目を離した隙になにかを食べている…らしい。

僕は現場を見たことがないので知る由もないが厩舎の人が言うには、いつ見ても騎手くんは何かを食べているのだという。

今日みたいにドーナツだったり、カップ麺だったり、…etc.

一日三食どころではない量みたいだがそれを食べている張本人である騎手くんが太っている姿を僕はとんと見たことがないし、乗せていてもそう感じたことはない。

 

「食べないと僕、痩せちゃうからなぁ…」

 

そう言う騎手くんではあるが、…なんで僕の馬房にナチュラルに入室してくるんです?

「だめ?」って?いや、いいけど別に…。

よっこいせ、という感じで腰を下ろすと「枕だねぇ」とつぶやいた騎手くんが僕のお腹に頭を乗せて。

う〜ん、押し潰さんように気をつけなければ…と考えていると騎手くんに呼ばれる。

…なんじゃらほい、と顔を寄せると、

 

「ふふ、おやすみバレット…」

 

ふに、というか、ちょん、というか。

そんな感じで僕の唇に騎手くんの唇があたった。

…ホント騎手くんってば僕のことが好きね。

そう思う僕を知ってか知らずか、スヤスヤとあどけない子どものような顔で僕の腹を枕に寝始めた騎手くん(あいぼう)を見やる。

 

……なんか、僕も眠くなってきた、な…。

 

 

「…おはよう、バレット」

…ん。

「よく眠れたかい?」

 

優しくささやいてくれる騎手くんの声に「まぁまぁ」といった気持ちを表すように首をゆるく振る。

そうすると「そっか」とつぶやいた彼が慈しむように僕の体を撫でては「綺麗だね」と息を吐いて。

そりゃあ綺麗でしょうよ。

いつもみんなが世話をしてくれているのだから。

寝起きでふわふわする頭でゆるゆる彼に擦り寄ったり撫でてもらったりしていると、

 

「あ゛ーっっ!見つけたァ!!」

((ビクーッッ!!))

「いましたー!見つけましたー!透あに…っじゃない、白峰透3×歳独身発見でーす!!」

 

どうやら騎手くんは探されていたようで、僕の厩務員である誠くんの手によって馬房からはやばやと引きずり出されていく。

たぶんこっぴどく叱られるんだろうなぁ、と思いながら立ち上がった僕は軽めに、残っていた飼葉を食べ始めるのだった。





今日も今日とて愛が重い。
なおこの状態のこのコンビのイメソンはキ/タ/ニ/タ/ツ/ヤの『化/け/猫』とする。

僕:
シルバーバレット。めちゃくちゃ少食だけどそれに見合う超低燃費なウッマ。
別に添い寝するくらいなら抵抗はない。
しかしキスはちょっと覚悟の時間がほしい。
でもこれらの行為を許すのは相棒である騎手くんだけなので…。
ちな騎手くんを誰にも渡したくないし自分だけを見ていて欲しいし、もし生まれ変わって今とは全然違う姿になって誰もが自分を自分だと分からなくて見つけてくれなかったとしても、騎手くんだけは絶対に自分を自分だと分かってくれる、自分を見つけてくれると信じている系ウッマ(もちろん騎手くんはその期待に見事、100億点満点で応えます)。

…もはや騎手くんに向ける感情の、綺麗も汚いも(すべ)てをひっくるめて『愛』と呼んでそう。

騎手くん:
おなじみ白峰おじさん。僕に対してスパダリ。
だが騎手として生きるためだけに生まれてきたんか???というぐらい人間としていろいろと駄目な人(家事やその他etc.)。
実はいつも何かしら食べてないとどんどん体重が減るタイプの代謝がよすぎるおじさん。
なのでいつ見ても何か手に持って食べている。
そして僕が何だかんだ言いつつも結局は受け入れてくれることを知っているため気軽に添い寝したり気軽にチュー(額や頬ではなくマウストゥーマウス)してたりするおじさん。
僕のことは誰よりも何よりも大切にしたいし慈しみたいし、僕のためなら世界を敵に回すことだって辞さない男。

…もはや同族に向けるべき情愛のすべてを異種族(うま)の僕に向けてませんかね?


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『愛』の造形、その幕間


趣味に走った。
生存‪√‬で2/0世紀の名馬を作る際に撮られたインタビューの一幕…かもしれない。
そういやだんだん白峰おじさんと銀弾の愛がとどまるところを知らなくなってきたね…。


今日はインタビュー?ドキュメンタリー?らしい。

引退後の僕の元に来た騎手くんは僕の馬房を前にしながらいろいろな話をしている。

それを僕も近寄って首を出しながら聞いていると、

 

『白峰騎手はシルバーバレット号と"夫婦"と称されるほどの仲だそうですが、もし付き合えるとしたらどうですか?』

 

ファッ!?

なに聞いてるんですかねぇこのヒト!?

僕と騎手くんは両方オスなんですけど!?

驚愕の顔つきで目の前のヒトを見つめるとそれまで僕を柔らかな手つきで撫でていた騎手くんの手がぴたりと止まる。

……騎手くん?

 

「え……っ、あ、あ〜…?答えたほうが、いいですか…?」

『是非!』

「そ、そうかぁ…う〜ん」

 

言いよどみだした騎手くんにどうしたんだろう…と不安に思っていると歯切れの悪い声で、

 

「…いや〜、きついでしょ」

『え!?』

 

え!?

…い、いや、そうだよね、それが正しいよね。

けどザワザワする気持ちを抑えきれずに騎手くんの服の袖口をやわやわと甘噛みしてしまう。

 

「あ…、いや、違うんだよバレット。

キミが嫌いなワケじゃないんだ。むしろ好き、愛してるよ。

でも…僕って人間としていろいろと駄目だから、付き合ったら、迷惑かけるだろうなって…」

 

静かだけど、すこし震えた声でそう言う騎手くんに僕は擦り寄る。

……いや、それくらいで迷惑だなんて思わないが???

それ言ったら現役の時の僕の方が迷惑をかけてたやろがい。

たぶんそれで釣り合いがとれるし、それぐらいダメダメな方が僕にとっては…、なんて。

 

「…きっとバレットが人間だったら、すごく優良物件だと思いますね。すごく面倒見がいいし、綺麗好きだし。

…僕は家事がてんで駄目なので、あはは」

 

僕を撫でていた手は、いつしか僕を抱き締めるものに変わっていて。

そのぬくもりと、とくとく生きている鼓動に安心して目を閉じる。

スリスリと擦り寄るたびに応えるように撫で返されて。

……あぁ、幸せだなぁ。

 

『あの…、続き、いいでしょうか…?』

((ハッ))

 

そ、そうだった…!

今日はいつもみたいにふたりきりなんじゃなかった!

慌ててサッと体勢を元のように立て直す僕らに撮影陣も苦笑い状態である。

あ゛〜、すっごく恥ずかしいッッ!!!!

たまらず羞恥心で暴れ出したくなる僕だけど騎手くんが触れてくることでフッ、と落ち着く。

それからは当たり障りのない話が続いて、

 

「…やっと終わった。付き合わせてごめんね、バレット」

 

申し訳なさそうにする騎手くんに僕は「入れば?」と隙間を開け、

 

「うん、ありがとう。疲れたなぁ…ふぁ…」

 

いつもの通りに馬房に入ってきた彼のために寝転がるとおなかを枕にされて、

 

「おやすみバレット」

 

軽く、ふ、と唇が…。

 

「……すぅ、…すぴ」

 

……おやすみ、騎手くん。





揃いも揃って愛が重…、いや純愛ですね!(にっこり)
もしくはコイツらなら仕方ないと周りから思われているというか…。
そして騎手くんは僕が亡くなったら実費で墓を建てる、絶対建てる。
んで僕の脚に入っていたボルトをもらって最期は一緒の墓に入る。

僕:
シルバーバレットという名のウッマ。騎手くんとベストカップル。
今日も元気に種牡馬してるし相も変わらず騎手くん大好き。
もうこの頃には騎手くんを自分からフツーに馬房に入れるし添い寝している。周りにお互いだけの時はちゅー(マウストゥーマウス)もする。
ので、騎手くんを探す時はまず僕の馬房に行けというのが関係者間の不文律になっている。
別に付き合う云々は騎手くんがOK出してくれるなら付き合うよ?という感じでやぶさかではない。


騎手くん:
白峰透という名のヒトミミおじさん。僕とベストカップル。
この頃はまだフツーに僕の息子娘に騎乗している。
身長160cm、体重40後半~50kgのヒトミミ♂。
僕にベタ惚れで、自分の人間のしてのダメさから無理と言っているだけで僕と付き合うことに対しての嫌悪感はまったくない。逆にどこの馬の骨ともしれない奴に僕を取られると考えるなら娶るくらいする…かも?
それくらい僕のことが大好きだし、公の場でも僕を愛していると公言するおじさん。
実は僕の現役時代に嬉しさから我慢できず一回観客がいる前で僕とキス(マウストゥーマウス)したことがある。それを激写された結果、のちの世まで証拠品(しゃしん)が残ることに…。


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"大人"になって


ふたりだけの、秘密。


気づけば大人になっていた。

自分以外の若ェヤツらはみんなキラキラとした青春を送っていて、たったひとり僕だけが未練がましく「夢」ってヤツにしがみついている。

 

「…はぁ」

 

気づけば酒も煙草も嗜める歳になっていた。

人気のない喫煙所でジリジリと短くなっていく煙草をただ眺めて。

甘ったるくて苦い煙草。

 

「バレット」

「トール」

 

喫煙所のドアが開いて、相棒である"トール"-本名は白峰透という-が顔を覗かせる。

いつもと変わらない足取りで僕の傍にやってきたトールは煙草を取り出すがどうにもライターがないらしい。

ポケットにいつから使っているのか検討もつかないが、まだ使用可能な安物のライターを持っていたので貸そうとすれば制止させる。

 

「…煙草の火ィいんだろ」

「これでいいよ」

 

顔を近づけてきたトールの煙草の先が僕の火のついた煙草の先に当たり、ジジジ…と燃える。

火がつくと美味そうに煙草を吸い始めるトール。

 

「なぁバレット」

「なんだ」

「また飲みに行かないか」

「…それはいいけど飲み過ぎないように頼むぜ。服にゲボ吐かれて朝まで半裸はもう二度とゴメンだかんな」

「…前も謝っただろ」

「こういうのは何回も言い含めた方がいいんだよ」

 

そんな話をしながら煙草を吸う。

 

「…にが」

「やめといた方がいいのに」

「いーんだよコレで。こんぐらいしたら周りへのハンデにもなるだろうしさ!」

 

そう言っておきながら、本当は煙草などあまり好きではないのだけど。

それでも煙草を吸い続けているのは、

 

「それに、トールと同じ銘柄だし。匂い嗅ぐと落ち着くんだよ」

 

僕の吸っている煙草がトールと同じだから。

味は苦手だけど匂いは好きだ。

そう言って二十歳の誕生日から頑なにその煙草を持ち続ける僕をトールはいつも通りにヤレヤレといった顔で見やる。

 

「んでどこに飲みに行くつもりだ」

「お酒が美味しいお店なんだって。あ、ご飯も美味しいらしいよ」

「そりゃ当然だろ。僕飲めねぇんだから」

 

ご機嫌に「どの日が予定空いてる?」だとか聞いてくるトールに「トレーナーの、アンタの方が予定把握してるだろ」と返す。

そして「アンタの予定が空いてる日ならいつでも付き合うよ」とも。

 

「そういやトール。メシ、ちゃんとバランスよく食ってる…」

「…」

「目ェ逸らすな。…はァ、分かった。また、オフになったらメシ作りに行くわ」

「ごめんね…」

 

トールはほっとくと冷凍食品や外食でメシを済まそうとするのでいつしか僕がオフの日のたびに作り置きをしに行くことになっている。

なんでトレーナーであるトールよりもアスリートである僕の方が食べ物の栄養を考えてんだろと思わなくもなかったが、

 

「体重、減ってたら承知しねェから」

「…善処します」





元性別軸の話。ちょっとシングレ味入ってるかも?
あれだけの現役期間だったら普通に成人してるよな…と思ったと供述しており…。

僕:
シルバーバレット。実質トレーナーの妻と化している。
トレーナーと長年過ごすうち、ふたりきりのときは『トール』と呼ぶようになった模様(第三者が近くにいる場合はこれまでと同じく『先生』呼び)。
成人になった瞬間煙草(トレーナーが吸っている銘柄)を買った。もちろんトレーナーには止められたが『アンタと同じ匂いがする。落ち着く』とのひと言でノックダウンさせた。
が、基本は煙草を吸わず匂いを嗅ぐだけ。ほんの時おり少しだけ口をつけるくらい。しかし「にが〜…」と言ってはよく渋い顔をしている。
なお酒には滅法弱い。軽い缶チューハイでも三分の一程度でふにゃふにゃ言いながら寝ている。ので、トレーナーと飲みに行く時はもっぱらちまちまとご飯をつついている。
…まぁ飲みに行く言うてもトレーナーとしか飲みに行かないんですけどね、コイツ。

トレーナー:
白峰透という名のトレーナー。僕からはふたりきりの時限定で『トール』と呼ばれている。
メシをよく食べ、酒はザル。煙草もまぁまぁ吸うヒトミミ。
なお酒には基本酔わないはずだが僕を前にすると場酔いするのか、ゲボ吐くくらいにヘロヘロになってしまう。
いつも何か食ってるし、僕がいないと食生活のバランスがアレになる人。
でも何故か太らないので同業からは首を傾げられているし、ウマの皆さんからはその体質を羨ましがられていたりする。
ちな人として色々と駄目なのでオフの日には僕が作り置きや家事をしにきているらしい。…もう夫婦では?


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女傑のダービー


その日、彼女の"祝福(呪い)"は形を成した。
──視る者すべての目を灼き焦がす、雷撃の豪脚によって。

……よくよく考えたら父:エアシャカールの没年が2003年だから、 シロガネツーパック(キミ)、2004年生まれやんけ!


シロガネツーパックは非常に気性の荒い馬だ。

父親であるエアシャカールも主戦騎手に「サンデーサイレンス産駒の悪いところが全部集まったような馬」「頭の中を見てみたい」と言わしめたが、シロガネツーパックはそれに輪をかけてヤバかった。

 

元はそれなりの大牧場の産まれであった彼だがあまりにも気性が荒く、幼駒であるのに気を抜けばすぐさま人間を殺しにかかってくる彼を生産牧場は面倒見きれんとすぐさま███牧場へ彼を輸送して。

彼を見た誰もが競走馬となれないほどの気性を持つ馬がいた母父の血統とサンデーサイレンスの血が最悪のドッキングをしてしまったのだろうと言うほどの気性であった。

 

███牧場へ送られたシロガネツーパックは母父であるシルバーバレットがいつでもそばに置かれていたという。

なにかシンパシーでもあったのか、シルバーバレットがそばにいる時のシロガネツーパックは普段の気性の荒さがなりを潜めていたので。

 

それからシロガネツーパックはシロガネの冠名のとおり白銀創に買われて競走馬となった。

ポテンシャルはとてつもないものを秘めている。

だがあまりの気性の荒さに誰もが彼を受け入れようとしなかった。

唯一シロガネツーパックを受け入れたのは騎手を退き、調教師となった白峰透だけで。

 

「この子は頭がいいね」

「そうですね…」

 

シロガネツーパックにははじめ、白峰遥が乗る予定だった。が騎乗した瞬間にブチ殺さん勢いで振り落とされかけ、これは無理!となった。

それを見て鷹揚に笑った白峰透は自身の厩舎に入ったばかりの黒谷薫をシロガネツーパックに乗せた。

振り落とされなかっただけで拍手が起こった。

これが、後のシロガネ&シルバー冠名orその血族につらなる競走馬限定気性難ジョッキー誕生の瞬間である。

 

そんな黒谷薫がG1初参戦となったのが2007年日本ダービー。

ギリギリのところでダービー出走可となったシロガネツーパックの手綱を握りやって来たのだ。

 

「行こうか、パック」

 

シロガネツーパックは猛烈な追込みが持ち味。

誰もが先頭をひた走る牝馬に注目していたところで、ソレを喰らい尽くすようにやって来た。

 

『おおっと!?大外から、大外からシロガネツーパックだ!

届くのか!?最後方から猛烈な勢いでやって来る!

届くか!届くか!届くか!これが牡馬の意地かぁッ!?

二頭並んでゴールイン!!!!』

 

長い長い写真判定であった。

誰もが大記録に心躍らせる中で黒谷薫はただ、シロガネツーパックをねぎらっていた。

『白峰透』を目指す黒谷薫にとっては勝ち負けなどただの通過点にしか過ぎないので。

 

いくらかツーパックを撫でていると不意に大きな歓声が鼓膜を打ち、顔を上げると掲示板(そこ)には、

 

同着

 

ただ、そう事実だけが示されていた。

 





遥くん&チャンプもそうだけどkrtn&パックの関係性もバンプの『セントエルモ/の/火』かなって…。
銀弾/白峰おじさんを追うチャンプ/krtnに魅せられて勝手に着いていく遥くん/ツーパックなんだ…。

krtn:『"祝福(呪い)"と共に』
『白峰透』になりたいイカれた女。1988年3月30日生まれ。
日本ダービー最年少勝利騎手(19歳1ヶ月27日)+最年少クラシック制覇+JRA史上初の女性騎手平地G1勝利者となった。
勝利インタビューではそこまで喜びを爆発させることはなく、「これもまた通過点のうちの一つ」「こんな若輩者の私にシロガネツーパックが応えてくれた、それだけです」と答えている。
だがしかし内心ではツーパックを『ホントにコイツ馬か?』と考えていたりする(気性…)。
でも後にツーパックに脳を焼かれていることが発覚する。
そりゃ初G1にダービープレゼントしてくれたらね…。
しかもこの後にKGVI & QESと菊花賞も獲るしな…。
2007年ダービー勝利後にシロガネツーパックにマウストゥーマウスされている写真が激写され、残っている。しかも初キスだったらしい。
そして、シロガネツーパックを時を同じくしてのお手馬にはサイレンスヘイロー(牝・父サンデーサイレンス、2003年産)がいる。顔立ち()可愛い牝馬。だがヘイロー。……あとは分かるな?

シロガネツーパック:『雷撃の豪脚』

主な勝ち鞍:日本ダービー、KGVI & QES、菊花賞(2007)…etc.

気性爆荒クソヤバ競走馬。脚質は殿一気の追込み。
2004年生まれの父エアシャカールな牡馬。
その気性の荒さは人呼んで『シロガネ族随一のキ○ガイ』『シロガネ族のセントサイモン』と言われたほど。
見た目だけなら美しく体格も申し分ない青鹿毛、顔立ちもイケメンではある。エアシャカール+SSみたいな見た目(でもエアシャカール成分が強い)。
サンデーサイレンスとシルバーバレットの母方方面(狂血の一族…)が混じりあった結果、生み出された(気性が)バケモノ。
krtnのお手馬の中でなんでコイツせん馬にならなかったんだろうと首を捻られる筆頭にして頂点。
気性のために世話するのも専属の人がいる。けど老人と子どもには(当馬比で)優しい。なお一番優しくしているのは白峰おじさんとkrtnな模様。
いかんせん顔立ちはバリバリイケメンなので彼の画像を見た人々からは顔立ちと気性を鑑みて「DV彼氏」との不名誉なあだ名をもらっている。
美人騎手krtnのG1処女と初キスを奪った男(馬)。
日本ダービー勝利後にkrtnとマウストゥーマウスしてる(した)ところを激写されている。
もしかすると本命に素直になれない男(馬)なのかもしれない。
そして引退後も専属厩務員以外(人・馬含む)に恐れられ怯えられる気性を維持しており、というよりは悪化している。がkrtnが会いに来る時は大人しくしているらしい。
krtnが好き。krtnの実質本夫。後方旦那面。
krtnが自分以外の馬に構っているのを見て、krtnがいなくなったあとにその構われていた馬にわざわざちょっかい()出しに行くくらいにはkrtnのことが好き。

白峰おじさん:『魔弾の射手』
『ほら、パックが勝った』
『え?なんで勝てたかって?』
『そりゃあ…、あんないっとう美人な勝利の女神サマが乗ってるからねぇ』
『勝たなきゃ、男が廃るだろ?』

シロガネ、シルバーのみならず、かつての相棒に関連する馬なら笑顔で世話を見る調教師。
シロガネツーパックに代表されるクソヤバ気性難でも彼&厩舎所属の騎手であるkrtnを前にすると大人しくなるのでいつしかポテンシャルはクソ高だけど気性難ばかりが集まる問題児収容系厩舎に…。
たぶん問題児収容系厩舎になったのは灰方調教師からの系譜なんだろうけど…。
ちな微々たる数だが気性が大人しい子もいるにはいる。
けど目立つのがどうしても気性の荒いヤツらばかりだからね、仕方ないね…。
なお厩舎のウッマたちは白峰おじさんには素直に甘えるがkrtnにはツンデレな子が多い(でも好き)。

銀弾:『最速の蹂躙者』
遂に孫がダービー馬か〜(感慨深げ)。


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幼き日の雷撃と!


JCの時はバリバリのアスリート!!って感じの勝負服だったのに、いざ海外遠征!ってなったら『海外遠征ですから!日本の代表なんですから!』って説得されて特別礼装着ることになる銀弾概念!?!?!?
黒、黄色、白のコントラストのスーツで黒手袋して火傷痕は一本ものの黒眼帯で隠した実質ゴッドファーザーな銀弾!?!?!?
…ちなその格好が厨二臭くて恥ずかしいので引退後その格好時の写真を隠したがる銀弾がいるものとする。


小さな子の世話を任された。

世話をしてくれる人が言うには僕の孫らしいけど。

 

『なンだぁ?テメェは?』

『ひ、ひぃぃぃ!』

 

いくら幼い子と言えど、ここの仲間に手を出すのはいただけない。

 

『なァ、』

『ッ!?』

『キミ、名前はなんだ』

『…っ、かひゅ』

『答えろ』

 

少しばかり圧を向ける。

絡まれていた方の子は今にも崩れ落ちて頭を垂れそうになっている。

だが幼子の方は、

 

(…へぇ)

 

懸命に、僕のことを睨みつけていた。

これは見所があるかもしれない。

けど、これ以上圧をかけるのは可哀想だろうとやめる。

 

『は、はぁっ、はあっ…!』

『すまないね、圧をかけすぎてしまった。

…さて、もう一度聞こう』

 

キミの名前は?

そう尋ねると顔をあげた幼子が口を開く。

 

『つー、ぱっく。シロガネ、ツーパック』

『…シロガネツーパック、か』

 

なるほど。

『シロガネ』、ね。

 

『僕の名前はシルバーバレット』

『シルバー、バレット…』

『"シロガネ"の始祖として、キミを歓迎しよう。

これからよろしくね、ツーパック』

 

 

シロガネツーパックはあの日まで『怪物』であった。

今もまあ、そこまで変わりはないがあの日までは輪をかけて、『怪物』であったのだ。

気に入らないものには暴力を、従わぬものにも暴力を。

自分が世界の中心だと、王様だと本気の本気で思っていた。

だから暴力を振るった。

何もかもがツーパックにとって気に入らなかったのだ。

だからあの時も、

 

『なンだぁ?テメェ?』

 

現れた小さな影にそう威圧した。

そうすれば誰もがシロガネツーパックに頭を垂れたから。

だが、

 

『なァ、』

 

叩きつけられるような圧だった。

立てていることが幻であるように思うほどの圧。

自分の傍にいた馬などもう意識を失いそうになっていた。

 

『キミ、名前はなんだ』

 

息がつまる。

喉が張り付いたように、呼吸すら上手くいかない。

 

『答えろ』

 

それは王だった。

すべからくが頭を垂れねばならない、王であった。

生まれてはじめて出会った強大な存在にシロガネツーパックも頭を垂れそうになったが生まれ持ったプライドがソレを許さない。

だから、睨みつけた。

なにも罵れないなら、せめてもの抵抗に。

 

『…』

 

そんなシロガネツーパックを見て、小柄な影は面白そうに眦を緩めた。

そして、

 

『僕の名前はシルバーバレット。

キミを"シロガネ"の始祖として歓迎しよう』

 

そう言ってシロガネツーパックを受け入れた。が、

 

『なんで俺のそばにずっとテメェがいやがんだ!』

『だってキミ僕がいないとみんなに痛いことするじゃない』

 

流石のシロガネツーパックもシルバーバレットがいつも傍にいるのはキツいようで…。





僕:
シルバーバレット。シロガネ属の(おさ)兼牧場のボス。
聞き分けの悪い子には『メッ!』(威圧)するタイプ。
しかし基本はのほほんと日向ぼっこしてるだけの大人しいウッマなので、もっぱらギャップが凄いと他ウッマたちからヒソヒソされている。
なお気性が荒い子の傍に置いておくと対象となった子の気性難度がダウンする性質を所持しているため、ヒトミミから積極的に世話を任されている。

雷撃の豪脚:
シロガネツーパック。父エアシャカールの牡馬。
気性が爆荒だが初対面時のあれやこれやがあって僕が傍にいると大人しくなる。が本馬いわく『従ってやってるだけ』とのこと。
でもオラついている時に僕の姿を視認したら一瞬で落ち着いているフリするし、『何もしてないが?』みたいな顔をしていたらしい。
ちなどれほど年齢を重ねても僕がいる限りはその行動をしていた。
だが僕が亡くなったあとは、生まれ持った気性難も少しなりを潜め…?
まぁ、張り合う相手兼お世話役がいなくなったからね…。


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遺された血


なんか銀弾って、神に『今からクソクソ高難易度の"サラ系中興RTA"始めていきます。ハイ、よーいスタート』『走者は…私しかいません』されて、『さーていろいろと()オリチャーを挟みながら完走しましたね。だがここで銀弾はアボンだ(デデドン!(絶望))』『産駒なんて残したら、タイムが伸びるだろ!?時間短縮のためにクォレハ仕方ない。はっきりわかんだね』された感じがあるなって…。

…ちょっとばかし悩み事が出てきたので活動報告でご意見くださるとありがたいです。


『あなたは、"シルバーバレット"という馬のことを知っていますか?』

 

相も変わらず、今日もそう聞く。

春夏秋冬を繰り返して、これでもう何度目だろうか。

出会った誰もが『知らない』と答えるのにももう慣れた。

それに、『そうですか、ありがとうございます』と答えるのにも。

だがその日は、

 

『…"シルバーバレット"?』

『!、知ってるんですか?』

『…いや、すまねぇ。"シルバーバレット"つーヤツのことは知らねぇが…、"バレット"ってのは"弾丸"って意味だろ?』

『え、…あぁ、たしか、そうだと』

『俺も…あ゛〜、何だっけか?たしか…』

 

────"弾丸シュート"だとか何だとか言われてたから親近感がな。

 

…そう言った、誰かがいた。

そのあとも私はいろいろな方の相手をした。

"シルバーバレット(しつもん)"を無視する殿方は蹴るフリをして追い払い、話を聞いてくれた方だけを相手した。

 

────すみません、その方は存じ上げず…。

 

三番目にそう言ったのは"名優"と謳われた方。

 

────うーん、知らないなぁ。

 

四番目は"帝王"。

 

─────知らん。だが、それほどまでに強かったのなら、相見えてみたかったものだ。

 

五番目は"シャドーロールの怪物"。

 

他にも"演出家"や兄以外ではじめて出会った

"サラ系(どうぞく)"に"皇帝"、名に"空"の意味を持つ飄々としたトリックスターのような方や"世紀末覇王"という凄まじい異名を持つ方、兄のように芝とダートの両方を制し"勇者"と称された方などなどを相手して、そして、それでも…、

 

『…いつになったら、帰ってくるんだろう』

 

"シルバーバレット(かれ)"はまだ、帰らない。

 

『ずっと、ずーっと、待ってるのになぁ…』

 

 

シルバフォーチュン

繁殖成績↑

 

1. 1995年

シルバーチャンプ 牡 芦毛 オグリキャップ

 

2. 1996年

カウンタアタック 牡 栃栗毛(尾花栗毛)

サッカーボーイ

 

3. 1997年

メジロアクター 牡 芦毛 メジロマックイーン

 

4. 1998年

ミスタサーデューク 牡 鹿毛 トウカイテイオー

 

5. 1999年

シェイクザシャドー 牡 黒鹿毛 ナリタブライアン

 

6. 2000年

ヒーロシアトリカル 牡 黒鹿毛 ミスターシービー

 

7. 2001年

シルバデユール 牡 黒鹿毛 ヒカリデユール

 

8. 2002年

バレットシンボリ 牡 鹿毛 シンボリルドルフ

 

9. 2003年

ヒリュウジョウウン 牡 芦毛 セイウンスカイ

 

10. 2004年

テイエムハギョウ 牡 栗毛 テイエムオペラオー

 

11. 2005年

トロイバックドア 牡 栗毛 アグネスデジタル

 

12. 2006年

シルバラストメモリ 牝 芦毛 オグリキャップ

 





僕の妹:『或る"弾丸"の妹』

──『これが、これが"弾丸"の血が為せるワザかーっっ!!』
────『やはり"弾丸"の血!!』
…って、産駒が勝ったら言われてそう。
シルバフォーチュン。1985年3月27日生2010年7月4日没。
今も()の帰りを待っている全妹。
会う馬会う馬に僕のことを聞いては『知らない』と言われて落ち込み、深いため息をつく。そんな毎日を過ごしている。
でも産駒たちに対してはすごくいいお母さん。
見目は母・ホワイトリリィ譲りの美しいものではあるが、兄である僕を亡くしてからというもの未亡人感増し増しで目を死なせている。
実は彼女のそういうところに惹かれるウッマが数しれずなのだが、本馬はまったく気づかず、また一ミクロンたりとも相手にしていない。
産駒は最後のシルバラストメモリ以外全頭牡馬であり、最後ギリギリで牝系を繋げたことにヒトミミたちは安堵したらしい。
ちなすべての産駒が最低でも一度は重賞を獲っている。
…もしかすると、カノープスあたりで初期実装されているかもしれない。

お相手さん方:
もしかして:シルバフォーチュンのことが…?
またの名を基本シルバフォーチュンが曇っているせいで見てもらえないウッマ(おとこ)たち、とも。
でも僕と直接交流があったオグリだけは多少見てもらえるらしい。
だがオグリ以外は…?なおCB&皇帝…。

妹産駒たち:
1999年凱旋門賞2着馬シルバーチャンプを長兄として始まったモノドモ。
基本的に牡馬ばかりの兄弟のためそれなりにうるさい。
が、最後の最後に生まれた長女のシルバラストメモリ(特性:どんかん)に対しては揃いも揃ってゲロ甘超弩級シスコン兄ちゃんと化している。
そのためお兄ちゃん'sはシルバラストメモリに想いを寄せる存在が現れるたびにその相手とクソ重・クソ圧の後方父親面圧迫面接(模擬レース)をしている模様。
本当はお兄ちゃん'sに全勝ちが望ましいのだがそれはキツいとのことなので9割勝ったらOKとなっている(なった)。

俺/僕たちの屍を超えていけ!!!!
by.お兄ちゃん's(勝負服(マジ)の姿)
…お兄ちゃん?
by.またしても何も知らないシルバラストメモリさん


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銀の最後の想い出


…シルバーチャンプの名前被り案件は名前をそのまま続行することにしました。
連載初期に出した名前であの頃はここまで続けるとは思ってなかったし、データベース見始めたのも銀弾の産駒作る時からだったしで盲点だったんだよなぁ…。
チャンプの名前もCap(頂点)からChamp(王者)へ、って意味でつけてるから…、変えたくても変えられないくらいに愛着が湧いちゃってるんだよなもう…。
うん、今回はほんとに作者の落ち度でした。
この場で謹んでお詫び申し上げます。


やっとのことでシルバフォーチュンから牝馬の仔が産まれた。

これまではずっと牡馬ばかりで、父となった馬の血が繋げることは素直に嬉しいと思っていたのだが牝駒だけはうんともすんとも産まれなかったため気を揉んでいたところに、

 

「ははっ、お前は元気だなぁ"ウヅキ"」

 

やっとのことで産まれた仔に人も、また牧場にいる馬たちもメロメロだった。

生まれ月から"ウヅキ"と幼名がつけられたその仔はとても可愛らしい顔立ちをしており、人懐っこく人や馬の跡をちょこちょこと着いていく姿にすぐさまデロデロの甘ったるい声で甘やかすヤツらが出たのは…まぁ、さもありなん。

 

「…キミの名は、"シルバラストメモリ"だ」

 

そうして、"ウヅキ"は"シルバラストメモリ"と名付けられた。

馬主はもちろん彼女の全兄たるシルバーチャンプを所有していた白銀さんで。

もうその頃にはシルバフォーチュンが受胎率の低下により、繁殖牝馬を引退することが決まっていたので、シルバフォーチュンから産まれた牝駒の"ウヅキ"…いや"シルバラストメモリ"が繁殖牝馬になることは決まっていたのだが、

 

「この娘は、2歳で引退させます」

「はっ!?」

「何があっても2歳で引退させます。…シルバフォーチュンの血を、繋いで欲しいので」

 

 

『本当に、本当に惜しすぎるぞ!!』

『2着馬ブエナビスタに6馬身つけての完勝だ!

シルバラストメモリ!!』

 

 

『記憶』にするには、

惜しすぎた。

SILVER LAST MEMORY

シルバラストメモリ

2006年3月21日生 牝 芦毛

父:オグリキャップ 母:シルバフォーチュン

[主な勝ち鞍]阪神JF(GⅠ)

ラジオNIKKEI杯2歳S(GⅢ)

[通算成績]4戦4勝

 

2008年、阪神競馬場。

その走りに、あの日の"銀色"を見出した僕ら。

だけどもキミは、早/速(はや)過ぎて。

…でも、「さよなら」はまだ言わない。

 

──銀の最後の想い出よ。

そう遠くない未来で。

次は。次は。母の名前で、キミを呼ぼう。

 

 

…あの日、私の前にはあなたがいた。

 

『本当に、本当に惜しすぎるぞ!!』

『2着バブエナビスタに6バ身つけての完勝だ!

シルバラストメモリ!!』

 

どれほど後続が追いすがろうとも届かなかった背中。

あなたが、ジュニア(クラス)で引退だという話は誰もが知っていたこと。

…それでも、あなたの走りを見た誰もが『惜しい』と思った。

かくいう私もそのひとりだ。

いや、()()()()()()というのが正しいか。

 

「もう一度、あなたと走りたかったなぁ…」

 

今も、私のまぶたにはあの日のあなたの背が焼き付いたままで。

つぶやいた言葉が誰にも届かないことを知りながらも、つぶやく以外なくて。

それは、後悔だろうか。

いや、それとも…。

 

「会いたいなぁ、…シルバラストメモリ」

 

 

───とある【絶景】の独自





銀の最後の想い出:
シルバラストメモリ。2006年3月21日生。牝馬。芦毛。
父オグリキャップ、母シルバフォーチュン。全兄シルバーチャンプ。
獲得タイトル:最優秀賞2歳牝馬(2008年)
主な勝ち鞍:GⅠ阪神JF(2008)、GⅢラジオNIKKEI杯2歳S(2008)

母シルバフォーチュン最後の産駒であり、最初で最後の牝駒。
幼名は3月生まれであることから"ウヅキ(卯月)"。
かわゆい顔立ちで牧場でも厩舎でもどこに行ってもメロメロになられている。
けど特性:どんかんであるため…ハイ。
馬主である白銀創の意向により2歳で引退(生存‪√‬だった場合は2歳以降も走っている)。
2008年の阪神JFを逃げで6馬身つけて勝った。
主戦は全兄の主戦でもあった白峰遥。
後年のインタビューにて語られたことによると『牝馬三冠を獲れるだけの器と素質はあった』とのこと。
また彼女の阪神JFを見て"シルバーバレット"を思い出した人もいたとか、いなかったとか…?

[産駒一覧]
1.2010年
マイクラッシュオン 黒鹿毛 スペシャルウィーク

2.2011年
ワンダーゴーゴー 栗毛 グラスワンダー

3.2012年
キングオブブレイヴ 鹿毛 キングヘイロー

4.2013年
ミスレッドレディー 芦毛 ヴァーミリアン

5.2014年
タニノソルテドッグ 鹿毛 タニノギムレット

6.2015年
ゴールドスランバー 芦毛 ステイゴールド

7.2016年
タイキボラール 栗毛 タイキシャトル

8.2017年
アクセラレータオン 鹿毛 ジャスタウェイ

9.2018年
シルバクレアシオン 鹿毛 ウインバリアシオン

10.2019年
シルバジオメトリク 芦毛 ロゴタイプ

11.2020年
シルバオールナトス 黒鹿毛 イスラボニータ






【絶景】:
どこのブエ……タさんなんだ?
阪神JFで見た想い出の背中に目と脳をやられてしまった。
まぶたを閉じたら想い出の背が見える〜!
想い出の引退は血を継ぐという関係で仕方のないことだと理解しているけどモヤモヤ。
もう一度、一緒に走りたかったなぁ…。
でもたぶん想い出には…あっ(察し)(一族特有のアレ)。


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魅入られるならば


『夢』を見たから。
魅入られたから。

【追記】
誤字報告ありがとうございます。


父がシルバーチャンプに夢を見たのなら、俺が夢を見たのは…、

 

(つづく)

「……」

 

綺麗な黒鹿毛の、産まれたばかりの子馬に魅入られた。

見た瞬間に、父にねだった。

あの馬がほしい。

どうしても、どうしても。

誕生日プレゼントもいらない。クリスマスとか正月もいらない。

だから、───彼を買ってくれ、と。

 

「…分かった」

 

そんな、俺が魅入られた"彼"の名前は"シルバデユール"という。

 

 

シルバデユールはひどく利口な馬だった。

そして俺にひどく懐いていた。

 

「わっ!…待て待て待て、袖べちゃべちゃになるだろうが」

 

競走馬にしては、そこまで大きくない体格。

けれどその血統から、彼を応援する人は多くて。

 

「『いつか。いつか。父の名でここへ帰ってこい』か…」

 

彼の父につけられたポスターの文句を諳んじながらシルバデユールを撫でる。

シルバデユールの父ヒカリデユール。

"サラ系"であった彼を助けたのは、同じく"サラ系"だった、あの…。

 

「思えばお前って、"サラ系"の純血なんだなぁ」

 

そうボヤけば不思議そうに首を傾げるのに思わず笑う。

あぁ、本当に、お前ってヤツは…、

 

「なぁ、シルバデユール」

 

静かに名を呼べば、真剣な視線を返してくれるお前。

 

「勝てよ、───宝塚」

 

お前なら、夢を見せてくれる。

そう、信じている。

 

 

───シルバデユール

そう名付けられた競走馬がいた。

父はヒカリデユール、母は"彼"の全妹シルバフォーチュン。

父母ともに"サラ系"から生まれた彼はデビュー前から期待を受けていた。

"サラ系"なら、やってくれるんじゃないかと、遠き日にいた"彼"の姿を重ねられて。

けれど、実らずの時だけがただ過ぎ去った。

好走こそすれ実らない。

この男がいなければ名勝負は成り立たない、名脇役だなんて言われて。言われ続けて。

そうして、───2008年宝塚記念。

 

『やっと、やっと、やっと!結実する!!』

『今度こそ、キミが主役だ!シルバデユールっっ!!』

 

 

 

 

 

立ち止まることは、簡単だ。

進むことも、簡単だ。

なら、挫折から立ち上がることは?

 

キミは、

シルバデユール。

 

誰よりも。何よりも。

前を見据え続けた男。

その名を、僕らはきっと。

 

忘れない。

 

ヒーロー列伝 No.██

2001年2月7日生

父ヒカリデユール 母シルバフォーチュン

 

 

「…あ。こ、こんにちは。し、シルバデユール、です」

「……さ、"サラ系"って言われると、か、活躍している()たちが、たくさんなんですけど、」

「…で、できるだけ、頑張らせて、も、もらいます」

「ぼ、ぼくには、それぐらいしか、『才能』ってものが、あ、あ、ありませんから…」

 

より





純なる"サラ系":

…そ、そりゃあぼくには、み、みんなみたいな、さ、さ、『才能』なんて、ないけどさ。
でも、そっ、それが…()()()()()に!なるわけないだろ!!

【主な勝ち鞍】宝塚記念(2008)
シルバデユール。2001年2月7日生。2008年引退。
父ヒカリデユール、母シルバフォーチュン。
白銀創の息子である(つづく)に見出されたウッマ。
頭のいいウッマだがクソビビり。
世代は2004年クラシック世代。
何故か()SS系列のウッマに好かれやすい体質。
その中でもいちばん親しい相手は【心の叫び】らしい。

銀の祈りと同じく善戦マン。
何があっても掲示板入りだけは絶対にする。
性格はポジかネガかと聞かれたらネガ。
でもずっといじけてるんじゃなくて最終的には前を向けるタイプのネガ。諦めが悪い。
イメソンは『だって/アタシの/ヒーロー』。
また現役時代に同冠名・同厩舎のよしみで、1年歳下であるシルバープレアー(銀の祈り)の師匠兼帯同馬をしていたことでも有名なウッマ。ちな馬房もお隣だったりする。
その縁ゆえにウマ娘となった暁にはシルバープレアー(銀の祈り)と同室になる模様。

未来の白銀馬主:
白銀続(しろがねつづく)。白銀(つくる)の息子。
シルバデユールに一目惚れし、誕生日もクリスマスも正月もいらないからと強請って買ってもらった。
シルバデユールにはちゃめちゃに懐かれており、よく服の裾を食まれてはべちょべちょにされている。


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マブと観戦する話


元性別の話。


「ふぇ〜ん、へっへっへ〜ん…!」

「…どういう感情なんだ、ソレは」

「……子どもが勝って嬉しいけど勝ち過ぎて怖い気持ちの時の感情だよ」

「ソレ、言う相手気をつけないと殴られるぞ」

「分かってるよ」

 

今日も今日とて、マブダチであるサンデーと子どもたちが出ているレースを現地観戦中。

ふたり揃って変装をして観戦していたのだが、

 

『あ、あの!シルバーバレットさんですか!?』

「んっ!?」

『ふぁ、ファンです!サインください!!!!』

「ハイッ!」

 

すごい勢いで頭下げられたらそりゃ(サイン書かなきゃマズ)そうだよね。

そういうわけで常時仕込んであるサインペンを懐から取り出してキュッキュキュッキュとサインしていく。

 

「…え、服とか帽子とかに書いていいんですか?」

『いいです!家宝にします!!』

「そ、そっかぁ…」

 

家宝にするんだ…、なんて思いながら次から次へと増えていく僕のファン+αをさばいていく。

なお+αは僕の子どもたちのファンらしい。

そこからさかのぼって彼らの父である僕のサインをもらっておこうというわけなのだという。

まぁ、自分で言うのもなんだけど僕ってそれなりに強い選手だったからね。

 

「ふ〜。や、やっと、終わった〜…」

「…おけーり」

「あ、ありがとうサンデー」

 

もともと座っていた席に戻るといつの間にやら買ってきていたらしい飲み物を渡してくれるサンデー。

それに礼を言って口をつけるも、

 

「…なんか、僕機嫌損ねること、した?」

「は?……あ、いや」

 

しかめっ面のサンデーにそう聞く。

するとすぐに取り繕おうとした彼だけど、

 

「また、放置しててごめんね。…次からはひとりで観戦するよ」

「や、ちが……大丈夫だって!」

 

また怒らせちゃったなぁ。

前も同じようなことして苦言を呈されたばかりだったじゃないか。

そうぐるぐると考え込んでいると、

 

「話聞け!」

「うおっ!?」

 

ガッと肩を掴まれる。

 

「誰も嫌だなんて言ってねぇだろうが…!」

「え。い、いや、でも、毎回迷惑かけてるし…」

「俺がそれでイイって言ってんだよ!!」

 

必死で言い募ってくるサンデーとそれにしどろもどろな僕。

いったいどこの痴話喧嘩だと思わなくもないが…。

そんなこんなで今回もレース観戦にひとりで行く行かない論争は、いつもと同じ結果となったのだった。

 

「はえ…」

「お、またお前の子勝ってんな」

「あ゛〜、うあ゛〜!……ガクッ」

「…また気絶しやがった」

『あ、恒例の銀弾放心だ』パシャパシャ

『また魂出とるやん草』パシャパシャ

「…うっせぇ!散れ!散れッ!!見せモンじゃねェんだぞ!!!!」




僕:
ファンの応対はキチンとする。
引退からだいぶ経っているが未だに人気な選手。
よく『ファンです!』って人に集られながらサインとか書いている。
それはそれとして子が勝つと放心状態になり魂を飛ばす。

SS:
僕とよく遊びに行っている。
僕とマブなのは周知の事実。
ファンの応対から逃げられない僕にちょっとばかし…?
なおファンの応対から帰ってきた僕に飲み物を奢ってあげるくらいには僕に対する好感度がある。


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敬虔なる天使と!


たぶんめちゃくちゃ可愛がってる。


『やぁ、サイレンス』

『…おじいさま』

 

その日話しかけたのは僕の孫にあたり、マブであるサンデーサイレンスの子どものサイレンスヘイローだった。

サンデーによく似た姿で、くりくりお目目の可愛らしい女の子である。

ちなみにマブによく似たこの子に僕はめっぽう甘い。

もはや猫可愛がりといってもいい、馬だけど。

 

『最近どうだい?元気かい?仲良い子はできた?』

『えぇ、まぁ、はい…』

『そっか。良かった良かった』

 

この子はここの牧場の生まれではない。

どこかの牧場から幼いころに連れてこられて、ここで暮らしている。

たぶんもうそろそろしたら競走馬になるんだろうなぁ、とは思っているけれど。

 

『あ、世話してくれてる子が呼んでるや。

じゃあまたね、サイレンス』

『…はい』

 

 

私は、ひどい場所で生まれたのだ、と思う。

母は産後の肥立ちが悪く、私を産んですぐ亡くなった。

その場所はひどく寒くて、それでいて母を求める私を「うるさい」と叩いてくる人たち。

いつしか抵抗しなければ駄目だと気づいた時には、人間の誰もが私を恐れていた。

そんな私は車に揺られて、"あの方"がいる牧場にきた。

はじめは誰も信じてやるものか、と思っていたのだけど。

 

『はじめまして、キミが今日来た子かな?』

 

一目見て、「カミサマ」というものはこういう存在のことをいうのかと思った。

それほどまでに神々しい何かがあった。

震える声で挨拶する私を"あの方"は『ようこそ』と笑って受け入れて。

 

『僕はシルバーバレット。これからよろしくね』

 

あの日、"あの方"に抱いた感情は何だったのか、未だに分からない。

恋ではない。信頼でもない。愛でもない。

ただ、そう、言うなれば、…「信仰」を抱いたのだと、私は思う。

 

『おはよう、サイレンス』

『今日も元気そうだねぇ』

『可愛いね』

『よく眠れてるかい?』

 

生まれのおかげで不安定な私はよく"あの方"に引き合わされた。

生まれに感謝したのはこの時だけかもしれないとぼんやりと考える。

ずっと"あの方"と一緒にいたいと思っていたが、

 

『頑張っておいでね』

「よろしくね、サイレンス」

 

競走馬、というものになるために引き離されることとなった。

本当は嫌だったが"あの方"が『騎手くんが来るからたぶん大丈夫だよ』と安心する笑顔で言うのでしぶしぶ従った。

確かに私を撫でるこの人間の手は優しい。

"あの方"もこの人間に撫でられて嬉しそうにしている。

 

『元気でね、サイレンスヘイロー』

『……はい』

 

揺られていく、揺られていく。

揺られて行ったその先で、"あの方"の、シルバーバレットの期待に沿うことができればいいと思いながら、私はゆっくりと目を閉じた。





敬虔なる天使:

【主な勝ち鞍】
JBCクラシック(2007)…etc.

サイレンスヘイロー。父:サンデーサイレンスの牝馬。2003生。
見た目は父:サンデーサイレンス、目つきは父父:ヘイローにそっくり。
産みの母は産後の肥立ちが悪く亡くなり、生産牧場からの扱いも散々だった結果自分を守るために気性難になった。
慣れてるヒトミミじゃないとシームレスに暴力を振るってくる。
母父である銀弾によく懐いており、彼女のデビュー前を写した写真にはもっぱら銀弾が一緒にいる模様。
のちにkrtnのお手馬となり、ダート競走を主に荒らし回ることとなる。krtnのことが大好き。シロガネツーパックがkrtnの実質正夫ならこっちはkrtnの実質正妻。
脚質は正攻法・真っ向勝負の先行。ちなコーナリング◎直線○らしい。


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◆求:"門"へのアドバイス


どうやら"あのレース"に出走するウマ娘がアドバイスを求めたようです。



「…『どう勝つか』?

そんなの、いつも通り走ればいいだけさ」

 

問いを示すと、その存在は軽々しくそう返した。

笑って、分かりきっていることを聞くなぁ…とでもいう風に。

 

「まぁ、多少は違うだろうがね。

でも、自分が一番やりやすいやり方で、走れば勝てるよ」

 

笑う。

原点にして、頂点が笑う。

 

「…それにしても、僕には分からないんだよな」

 

笑う。

 

「どうして、みんなは"あのレース"に執着するんだろう?」

 

謳うように、朗らかに。

まるで、歌劇の一部のように。

 

「"あのレース"は、そこまで大層なモノじゃあないよ。

走って勝つか、負けるか。

ただ、それだけさ」

 

いちばん初めに、"門"に至った者が笑う。

唯一、無敗でふたつの世界を制した者が笑う。

 

「まぁ…頑張って。

先達として、応援するよ」

 

【いちばん最初は、"ウマの骨"】

 

 

「…"あのレース"の、勝ち方ですか?」

「……うーん」

 

ふたりめは、少しだけ悩んでいる風に見えた。

 

「分かんないです。いつも通り、走っていただけなので!」

 

にこやかに、華やぐように笑う口元。

その笑顔の、なんと純なことか。

 

「でも、そんなに緊張しないでいいと思います。

走っている場所が違うから、緊張すると言われればそれまでですけど…」

 

苦笑する、顔。

でも、

 

「僕は…、あの人ほど才能がありませんでしたから」

「だから、()()()()の時間がかかった」

「あの人のような、怪我に悩まされたことなんてなかったのに」

「…でも、そうすることで経験を積めたんですよね」

 

笑う。

自分を見据えて、笑う顔。

 

「なので、頑張ってくださいね?」

「キミは…、僕よりも『()()』があるでしょうから」

 

二番目に"門"に至った者が微笑む。

生涯、連対を外すことがなかった、者が笑う。

 

「では、頑張ってくださいね。

先輩として、応援しますから」

 

【二番目は、"才能"無き者】

 

 

残酷なものだ、と苦々しく思うしかない。

そうは思わないか、とちょうど横にいた存在に聞く。

 

「あ?…ンなの思わねぇよ」

 

が、それが当然、とでも言うように吐き捨てられた。

生涯G()1()()()()()()()で、"門"にクビまで近づいた者に。

 

「アイツらは、俺の誇りだ」

「ンで、俺が"門"に至れなかったのは、俺自身のせいだ」

「『この世の不利益はすべて当人の能力不足』…って言葉がどっかであったな」

「…まぁ、そういうこった」

「俺には、努力が足りなかった」

「諦めない精神が、足りなかった」

「だから、『努力に勝る才能なし』なんてモノにもなれなかった」

 

────俺ァ、哀れなヤツなンだ。

 

笑う。嗤う。

至れなかった、者がわらう。

それは、…自分たちと如何ほどの『隔絶』だろう。

 

「うン。じゃ、頑張れよ。

応援してっから」

 

【それは、いちと、二の幕間】





【ウマの骨】:
はじまりのウマ娘。
周りがなぜ"あのレース"に執着するのか分からない。
"あのレース"も思ったよりは普通のレースなのになぁ…。
それはそれとして、アドバイスを求めるウマ娘に普通に走れば勝てるよ?を常時する御方でもある(feat.にこやかな笑顔)。

【"才能"無き者】:
比較対象がアレ過ぎて自分に"才能"がないと言うウマ娘。
なら何で生涯連対とかキメて引退してらっしゃるんです?
なおコイツもコイツでいつも通りに走れば大丈夫ですよ!と光属性の笑顔で言ってくる。

【幕間】:
なれなかった誰か。はじまりと二番目の間にいたウマ娘。
生涯G()1()()()()()()()に、クビ差まで"門"に近づいた存在。
自分には努力が足りなかった…才能も、精神もなかった…。
でも、お前ならいけるはずだよな…?
そう言って何よりも純粋な期待を真剣な目でぶつけてくる。



…そんな残酷×3の話。


だって、"サラ系(ぼくら)"にできたんだから。
ねぇ?

で き る で し ょ う ?


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*仲良くなれない


私の友だちと貴方は友だち〜♪
だいたいそんな感じ。



「あっ、マス太!

紹介するな、この子はサンデー。

サンデーサイレンスって言うんだ。

この前仕事で行った場所で仲良くなってな…」

「…そう」

 

ニコニコと楽しげに、新しくできた友人を紹介するシルバーバレットにシルバマスタピースはバレないように苦い顔をする。

 

シルバマスタピースはシルバーバレットの親友である。そう自負している。

幼いころからずっと一緒で、脚の世話だって甲斐甲斐しく焼いている幼なじみである。

 

シルバーバレットは昔から妙に他人を惹き付けるタチだった。

それにシルバマスタピースが悩んだことも数え切れぬほどあり、毎度毎度牽制しては隣を確保しているというのに…!

 

(ミスターシービーとシンボリルドルフを退けるのも大変なのに!

増えた!!!!)

 

そう嘆くシルバマスタピースのことを知ってか知らずか、シルバーバレットはサンデーサイレンスと楽しげにしている。

 

「サンデー、サンデー!

コイツな、シルバマスタピースっていう僕の幼なじみなんだ」

「へぇ」

「すっごくカッコよくて強くてな、女の子から引く手数多なんだ!」

「そうかい」

 

ニコニコ、ニコニコとシルバーバレットは楽しそう。

これがミスターシービーとシンボリルドルフを相手していたのだったら興味なさそうな仏頂面をしているのに、今回の相手を蹴散らすためには大変な労力が要りそうだ。

 

(…サンデーサイレンス)

 

じとり、とした視線になるシルバマスタピースにサンデーサイレンスが寒気を覚えたのも束の間、シルバーバレットが心配そうに声をかけるのだった。

 

 

「…お前の幼なじみ、俺に嫉妬してるぞ」

「えっ!?」

「ちゃんと仲直りしておけよ」

 

新しく友だちになったサンデーサイレンスから言われた言葉はシルバーバレットにとって青天の霹靂だった。

帰ってから同居しているマス太の様子を伺ってみれば、…確かに拗ねている。

 

「マス太ぁ…」

「なに」

「うっ」

 

いや、拗ねているんじゃなくて、怒ってる…?

恐る恐る近づいて、隣に座る。

 

「お、お前がいちばんだからな…?」

「…そう」

「さ、サンデーはただの友だちで…」

「じゃあなんで笑ってるの?」

「へ?」

「今まで、僕の前以外で、笑ったこと、なかったじゃない」

 

光の無い目がシルバーバレットを射抜く。

こんなマス太見たことないんだけど…。

 

「キミの幼なじみで、親友は、僕だけだよね?」

「そ、それはそうだけど…」

「今まで誰にも興味抱かなかった癖にさぁ…」

 

マス太が深いため息をつく。

どうしようかと頭を悩ませていると「…頭冷やしてくる」とマス太が部屋から出ていった。

 

「ど、どうしよ〜……」

 

後々、落ち着いてくれたマス太だが、僕がいる中でサンデーと顔を合わすと同じことになり続けたので、マス太とサンデーを会わせることは(僕の中で)厳禁となったのだった。





僕:
今日も元気なシルバーバレットさん。
友だち同士に仲良くして欲しい。
だって友だち同士が仲良くなったらハッピーじゃん!!
でも仲良くなってくれない…ヨヨヨ…。
なおその友だちからクソ重感情を向けられているのにまったく気づいておらず、逆に『コレが普通の友だち関係だよね!』と思っている模様。

友だち組:
(シルバーバレットの)友だち組。
お互い相手が気に食わないし、お互い相手をぽっと出だと思っている。
また、一度対面すると『自分の方がバレットと仲がいい!』し始める(という名の喧嘩をする)ので対面禁止令が僕の中で発令された。
そんな、僕に対する感情が重めな友だち。



そりゃあ自分とふたりきりの時はファン対応して欲しくない友だち(SS)と僕以外は友だちじゃないよね…?僕が唯一だよね…?してくる友だち(マス太)だ、面構えが違う。


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救って、遺され


イメソンは『最/後/の/ワ/ン/ダ/ー/ラ/ン/ド』。



死んで、産まれた。

 

(お、俺、馬に…!?)

 

最期は…そう、トラックに轢かれかけた小さな子を庇って…。

まさか自分も『恩人』と同じ道を辿るとは思わなかったけど、でも後悔はない。けど、

 

【…周りの同族(ヤツら)と言葉が通じないのはどうしたらいいんだろ】

 

周りと言葉が通じないのは流石に困る。

いくらガキとはいえコミュニティを築けないのはさすがにキツい。

俺だって、相手だって仲良くしようとしてるのにできないのだ。

それに頭をウンウン悩ませていると、

 

【……まさか、こんな年寄りになって"同族"に会うとはね】

【あ、アンタは…?!】

【ただの世話役さ】

 

世話してくれる人に引き合わされた、とある一頭。

その、名も知らぬ彼は産みの母も通じなかった俺の言葉が唯一通じる馬であり、

 

【キミも、元々人間だったのだろう?】

【あ、あぁ、そうだ!】

【僕もそうだ】

 

キミに言葉を教える。

そう告げた彼に導かれながら、少しずつ少しずつ俺は言葉を覚えた。

また彼が間に入ってくれたおかげで、何とか同族ともコミュニケーションが取れるようになっていった。

 

【なぁ、】

【どうした?】

【アンタ、人間だったころはどんな人だったんだ?】

【…もう、忘れたよ。(こっち)の生が、長く濃すぎてね】

 

ある日に、ふと気になって聞いたこと。

周りの同族からとても慕われているがひどく静かな彼に。

昔はどんな人間だったのか、と。

 

【まぁ、…平々凡々の人生だったよ。ごく有り触れたものだった】

【…へぇ?今、こんなに周りに慕われてるのに?】

【成り行きだよ、成り行き。あぁ…でも、そう言えば】

【そう言えば?】

【僕も、キミと同じで、子どもを助けてシんだんだった。たしか…】

【…】

【反射的に体が動いてね。…あの子、助けれたかなぁ】

……助かりましたよ

【ん?】

【いや、何でも】

 

彼から説明された、その最期に合致する人を、俺は知っている。

幼いころ、迫り来るトラックに恐怖で動けなかった俺を、助けてくれた人。

平々凡々の人生だった、なんて言うけどアンタのために、誰もが泣いていたのに。

そんなことを思い出しながら、ぐったりと放牧地で倒れてしまったアンタを起こそうと躍起になる。

 

【やめろ。起きろ、起きろ、起きろよ!】

 

ゆっくりと、冷たくなっていくカラダ。

浅くなっていく、呼吸。

 

【俺、まだアンタに、何も恩返し出来てない!】

 

前も今も、俺はアンタに救われたのに!

…そう思っても、

 

【…キミなら、だいじょうぶ】

【キミなら、できる、よ─────"シロガネカイコウ"…】

 

それだけを告げて、貴方は…。

 





シロガネカイコウ:
白銀邂逅。元ヒトミミ♂な体重580~600kg前半をうろちょろする()()。キタサン世代。のうてんきな性格。
父アスパイアゴア(父グローリーゴア母父サンデースクラッパ)の逃げ馬であり、のちに凱旋門賞へ赴くこととなる競走馬。
青毛。主戦騎手は白峰遥。

トラックに轢かれかけた子どもを助けてウッマに転生したヒトミミ♂。
でもヒトミミインストールの影響で他馬と会話ができず困っていたところを【彼】に助けられる。
実は幼いころ、あるヒトにトラックに轢かれかけたところを命を以て救われており、のちにそのあるヒト=【彼】だと気づいた結果、とてつもなくデカい恩を感じるようになる。
が、【彼】はシロガネカイコウがそろそろ競走馬になるために牧場を離れる…となったところで老衰により死去。
で、【彼】に何も恩返しできないまま目の前で死去られてしまったことにより、『なら成績残して恩返しだ!』と今一度決意をキメた。
そんな事情があって【彼】に恩を返すぜ〜!!としか考えてないウッマなので他のヤツらは眼中に無い。
そういうところは【彼】似。
仲の良いウッマは同期のキタサン&ドゥラ…だが?

ちな【彼】と一緒にいたころは自分が牝馬だと気付いていなかった。
性自認は♂なのに【彼】の血を経由して産まれちゃった結果、新馬戦で出走馬の牡馬全頭にだっち!されるし、その後も世話役であった【彼】から薫陶を受けていた()ために性別問わず迫られまくるんだ…かわいそ。
けど性自覚前から性別問わずグイグイ行ったり、性自覚後も自分より小さい周りのウッマを『坊や』『お嬢さん』扱いするつよつよメッスRPを楽しんでいたキミも悪いと思うんだ。
さすが同世代±2のウッマの()()を『巨女』にしただけはあるぜ…。
んで迫られたら迫られたでよわよわになるんでしょう…?
……もうぐちゃぐちゃだよ!

また余談だが、ウマ世界だと『じっちゃんの名にかけて!』が口癖になるらしい。


【彼】:
実はシロガネカイコウの母父である伝説の競走馬(♂)さん。元ヒトミミな人呼んで"銀弾"。牧場のボス。
シロガネカイコウと出会った時点で結構年寄り。
でもちゃんと走り方を仕込んでいる。

ウッマ時代の記憶が濃くて忘れていたが、トラックから子ども(ヒトミミ時代のシロガネカイコウ)を助けたことが死因だった御方(ヒトミミ)
なお葬式の様子を見るにヒトミミ時代から周りに執着されていた模様。
【彼】自身はウッマになったあともそのことに自覚はないが。


…シロガネカイコウ?え?あの子牡馬じゃないの!?!?!?


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銀色血統まとめ非公式wiki


今回はリクエストより【銀弾系列の活躍馬まとめ】です。
ちょっと思考の中にあったヤツらをチマチマと書かせていただきました。
打線はね…作者がやきうに無知だから組めなかったの…。


銀色血統まとめ非公式wiki

 

当Wikiのページ内容は有志の方々の協力により成り立っています。

ご理解とご協力をお願いします。

 

 

ベストレース・ベストバウト集

太陽対決

 

事の起こりは1997年ジャパンカップ。

前年銀弾初年度産駒であるシロガネハイセイコが菊花賞を負けた腹いせに勝利したこのレースに銀弾2年目産駒のとある三頭が現れた。

それはシロガネプリンス(牡・母父モンテプリンス)、シービーサンライズ(牡・母父ミスターシービー)、ミホノアマテラス(牝・母父シンザン)。

のちに三頭全頭が太陽に関する異名をつけられる競走馬が揃い踏みしたレースは憎いほどの快晴。

 

冬に近づいてきたというのに熱いくらいの熱狂の中で繰り広げられたのは三頭の死闘。

その苛烈さは4位であったピルサドスキーがこの三頭がゴールをくぐり抜けた1秒ほどあとにゴールをくぐり抜けたことで分かるだろうか。

 

1997ジャパンカップ、勝者は───シービーサンライズ。

その日ジャパンカップに太陽が昇った。

 

【1997年ジャパンカップ動画】

 

 

(まばた)きすら許さない

 

1998年皐月賞。

誰にも期待されなかった馬がいた。

小さな体は馬群に呑まれて落ちていくかに思えた。

だが、お前はそこにいた。

 

黒い帽子がやってくる。

それはスタンピードの牛を追うカウボーイのごとく。

まるでラチの上を翔けてきたかのように、"天才の再来"によって瞬いた閃光。

その馬の名は───スイフトアンヴァル。

勝ち時計は2:00.9。

 

彼が生涯勝った重賞は、この皐月賞ひとつ。

その栄冠を最後に、屈腱炎でターフを去ることとなった当馬はまさしく、まばたきすら許さない、一瞬の煌めきであった。

 

スイフトアンヴァル

品種:サラブレッド系種

性別:牡

毛色:栗毛

生誕:1995年3月15日

父:シルバーバレット

母:ミスアンヴァル

母の父:ハードバージ

生涯成績:5戦2勝

勝ち鞍:皐月賞(1998)

 

【1998年皐月賞動画】

 

 

夢の血統、自由の国を駆ける

 

このwikiは基本的に銀色血統のまとめなのだが、彼だけは例外を許されたし。

父は米国三冠馬・グローリーゴア、母父は銀弾の半弟であるサンデースクラッパ。

イージーゴアとサンデーサイレンスの宿業の集大成が彼──ミスタードリームヒーロー(Mr. Dream Hero)だ。

雄大な栗毛の馬体を揺らし、悠々とすべてを引きちぎっていく。

父と母父、またはその父が持っていた良いところすべてを引き継いだような彼に敵はなく、父グローリーゴアに続く親子無敗クラシック三冠を達成した。

 

ちなみに父・グローリーゴア×母父・サンデースクラッパはニックスであるようで、本項のミスタードリームヒーロー以外にもレッツゴーファイア(Let's Go Fire)やイージースクラッパー(Easy Scrapper)など多くの産駒がいる。

しかしサンデースクラッパは産駒が牝馬に偏る傾向があり、後継種牡馬に苦労している模様。

一応はソールソウルショット(Sole Soul Shot)やスワッグスクラッパー(Swag Scrapper)、シークレットソリロクイ(Secret Soliloquy)などがいるがどうにも成果が芳しいとは言えないようだ。

 

【Mr. Dream Hero レース集】

 

 

地方四強相見える

 

2000年代前半、地方のダートは魔境であった。

 

岩手の魔王・トウケイサンセイ(父:トウケイニセイ)。

大井の猟犬・ファストオルトロス(父:イナリワン)。

船橋の闘将・ミスターファイタ(父:アブクマポーロ)。

笠松の怪物・オグリバレット(父:オグリキャップ)。

 

この四頭が覇を競い、彼らの走りには中央所属の馬も敵わない。

全頭が母父にシルバーバレットを持つ彼らはいつしか連合を組み、ダート競走の本場アメリカ合衆国へと乗り込んだ。

 

彼らの中で誰が最強か。

そう問われると誰もが口をつぐむ。

誰しも「この馬が最強だ」と心に決めた馬がいるが、その言葉を出すことは躊躇される。

それほどまでにこの四頭は対等であった。

対等なライバルであった。宿敵であった。

 

地方四強。

彼らが相見えたのは偶然か、それとも運命か。

彼らがいたのはたった数年。

だが、それでも。

…それはまるで、夢のような日々だった。

 

【地方四強レース動画まとめ】

 

 





1997JC組:
銀弾2年目産駒ども。
『太陽の申し子』シロガネプリンス(母父モンテプリンス)、『太陽は昇る』シービーサンライズ(母父ミスターシービー)、『主神』ミホノアマテラス(母父シンザン)の三つ巴。
揃いも揃って『退けやオラ!』『俺/僕/私が父さんにJCの優勝レイ贈るんじゃ!』して競り合いまくった。
父親のことしか見てない子どもたちである。

ウマ時空だと王子様みたいな勝負服してるシロガネプリンスと母父CBに似せた勝負服してるシービーサンライズと巫女装してるミホノアマテラスがいそう。

1998皐月賞:
白峰おじさん(天才の再来)の騎乗を以て母父と同じことをした馬。
ちなウマとしても実装済みで怪我、同世代などの共通点からシルバーチャンプと同室している。
なおコイツはコイツで皐月賞を勝ち逃げしていったためにキンセイスペの3人組に執着されてる模様。
しっとり度総合1位なセイちゃん。分野別で見るとトップなところがあるキング(鞍上要素ェ…)。結構フラット寄りなスペ(だが一度重さがまろびでると吹っ切れてGOGO!してくる)。

実馬の性格的にはぽけっとしていて日向ぼっこが好きな銀弾産駒らしい利口な子。
それが反映されてウマになった結果、何を考えているかさっぱり分からない不思議ちゃんと化した。感情の起伏があまりない。
トリックスターしようとしても気づけば振り回されちゃうセイちゃんェ…。うん、いつも通りだな!

夢の血統:
アメリカンヒーローとアメリカンドリームの血統が交わった結果生まれた競走馬。
実はコイツの全弟がシロガネカイコウの父・アスパイアゴアだったりする。
栗毛のデカウッマ。見目がいい。父そっくり。
出遅れ癖はスタート大得意だった母父の血が補った。
それはそれとして、この父×母父の配合がニックスであったことが判明したために結構な頻度で米競馬にこの血筋が現れることになる模様。
だが母父の産駒が牝馬に偏りがちなのでヒトミミはちょっと大変らしい。
まぁ、血ィ繋いだらいつか大爆発してくれることは確定してるから…がんがえ〜。
…余談だが母父の活躍した産駒はイニシャルが"SS"の馬が多い。

地方四強:
魔境定期。
絶対お前ら中央でも通用するだろ!されながら地方でバチバチにやり合っていた四頭。母父が強すぎる…。
で、この四頭に中央地方問わず歯が立たなくなった結果、『米競馬乗り込もうぜ!』して連合組んでGO!し、米競馬はコイツらに2~3年ほど荒らし回された。
かわいそ…。

この四頭、基本的に父似だけどふとした時に母父である銀弾の面影が出てくるんだよね…。
『あ、やっぱ銀弾系列だ』って競馬民に思われてるんだ…。


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クリスマス


元性別軸の話。
年の離れた妹弟がいたワケだし、行事ごとはそれなりに張り切ってしそうな銀弾パッパ…。


お早いことにもうクリスマスである。

街ではキラキラなイルミネーションがピカピカしている訳であり、小さな子がたくさんいる僕の家ももちろんピカピカイルミネーションしている。

 

「ピカピカしてるなぁ…」

 

リビングから庭を眺めるとトナカイの形をしたイルミネーションが光っていた。

これも今日が終われば仕舞わなくちゃいけないのかぁ…なんて考えながら眺めていると子どもたちから「お父様、ご飯だよ!」と呼ばれて、手を引かれるままに食卓につく。

 

「じゃ、いただきます」

『いただきます!』

 

子どものうちのひとりから「お前らなに飲む〜?」やら、料理を分配したりでワイワイガヤガヤしている子どもたちをBGMにポケ〜と眺めておく。

子どものころは信じられなかった光景だ。

あのころは、クリスマスでのいつもと変わらなかった。

すきま風が吹きすさぶ家で幼い妹を抱き締めて熱を与えてやって。

くぅくぅ鳴る空きっ腹を唾液を飲み込むことで何とかしていた。

 

「父さん」

「…ん、なぁに?」

「父さんはなにを飲みますか?」

「あぁ、」

 

キラキラとしている、幸せな光景に目を細めながら飲み物を選ぶ。

思えば随分と大所帯な家族となったものだ。

 

「…たくさん買ってあるから喧嘩しないでね、みんな」

 

それはそれとして、激しいチキン争奪戦が始まっているのだけど。

 

 

小さな子たちを寝かしつけてから、僕+成人済みの子どもたちで用意していたプレゼントを運びに行く。

昔は僕ひとりだけでひぃこら言いながら運んでいたよなぁと考えながら、そろそろ買い替えなくてはいけなくなってきたサンタの服の裾を握る。

 

「行く場所はみんな分かってるよね?…じゃあかいさーん」

 

僕と同じようにサンタのコスプレをした子どもたちが各々散らばっていく姿が思いのほか面白い。

別に着なくてもいいよ、と昔から言っているのだけど気づけばみんなサンタ服を着用していて、物置部屋のある一部は彼らが着るサンタ服で占領されていたりもする。

 

「クリスマスが今年もやってく…もう来てるな」

 

プレゼントを丁寧に持ちながら小声で歌を口ずさむ。

ちゃんと防寒はしているけれど、安っぽいサンタ服だからちょっと寒い。

 

「…ずびっ、」

 

今日は何時に眠れるかなぁ。

配ったプレゼントを、みんな喜んでくれたらいいのだけど。

そう考えながらえっちらおっちら珍道中する。

 

「今日の僕はサンタさんだからね、いい子にはプレゼントをあげるのだ」

 

僕が配るプレゼントは成人済みの分だ。

もう自分でいろいろ買える歳なのでいいです、と毎年言われるけれど、

 

「僕だって、お父さんだし」

 





僕:
クリスマスのすがた。
妹が幼児期くらいまでは結構極貧生活をしていた模様。
衣食住揃っとけば生きていける生きていける!みたいな思考してそう。
そういう訳でQOLの基準も低い。
意外と行事ごとに対しては張り切るタイプのパッパをしている。

子どもたち:
クリスマス楽しいね!
でも子どもの数が多い分料理だったりプレゼントを配るのが大変だったりする。
ので、大人組がパパである僕を手伝っている。兄姉サンタモード。
それはそれとして大人になっても自分にプレゼントをくれるサンタさん()に『もういい歳だからいいのに…』と思ってたり思ってなかったりする。


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『登り詰めるヒロイン』


白峰おじさん(あいぼう)』とはまた別の位置で、自分と対等に()()()()()()相手が欲しいんだよね…。



ヒロインになりたい。それが私の夢だった。

漠然とした夢だろう。

だが、私の父だけは、私の夢を笑わなかった。

 

「ヒロインになりたい、かぁ…」

「お父さんはどうすればヒロインになれると思う?」

「そうだなぁ」

 

父は、基本的に優しい人だった。

兄弟姉妹が悪いことをしても、怒鳴ったりはせずに静かに諭す人だった。

けれどほんの少しだけ、

 

「全部を踏み潰せばなれるよ」

 

怖いときがあった。

父の目は、言葉はいつも真剣で。

彼の子どもである私たちがその言葉を疑うことはない。

そもそも、疑うことすら()()()()()

 

「一番になるっていうのはね、それ以外の人がいるってことなんだ」

「父さんもね、世界一ってやつになっちゃったから、そういうのよく分かってるんだよ」

「一番になるためにはたくさんの人を踏み潰さなくちゃいけない」

「一度そう決めたら振り返っちゃいけないし」

「そのせいで起こったことを嘆いてもいけない」

「許されるのは、そう…ただ進み続けることだけ」

「何もかもを踏み潰して、それでも嗤って夢を信じるんだ」

 

そう、そこまで言って父の言葉は止まる。

それに思わず息を吐いた。

気づかない内に緊張状態になっていたようだ。

バクバクとうるさく鼓動しはじめる心臓を抑えていると隣に座る父が心配そうな顔をしていて、

 

「もしかして、またやっちゃったかい…?」

 

父のプレッシャーは無意識だ。

現役時代の父の相棒であったトレーナーいわく、このプレッシャーは昔から変わらないらしい。

無言でこんな圧を出してくるから周りから怯えられたりしていたという。

父としては自らの子どもを怖がらせるのは本意ではないため、いつもこうやって落ち込んでいるのだが。

しょぼくれている父に大丈夫だから、と声をかけて話の続きをうながし、

 

「もう大丈夫かい?ホントに?」

「……なら続きだね」

「つまり一番になるっていうのは、『何か』になるっていうのは、そういうことなんだ」

「…まぁ、大抵の存在はその『何か』にすらなれないのだけど」

「でも」

 

 

 

僕の子どもたるキミならなれるだろ?───なァ、クライムヒロイン?

 

 

私の目を見据えて、父が嗤う。

ケラケラ、ケラケラと、悪魔のように。

()()()()()()()()()()?と嗤っている。

普段はとても優しい父に、ふとした時に現れる"狂気"。

普通ならそれを恐れるのだろうが、

 

 

「も ち ろ ん で す と も !」

 

父により、その血を与えられた私たちは恐れない。

逆に父からそう期待されたことに嬉々として嗤う。

父は、期待しない存在には一ミクロン足りとも興味を示さないのだ。

だからこうプレッシャーをかけられているのは()()()()()()()ということに他ならない。

 

「…ふふっ、大きくなったねぇ」

 

私にプレッシャーを掛け返された父がくすくすと笑う。

本当に、本当に嬉しそうに。

だが、薄らと開いた、その目は、

 

「ほんとうに…おおきくなったね

「…っ、」

 

一縷の光も、通さないまま…。





登り詰めるヒロイン:
クライムヒロイン。父シルバーバレット、母父クライムカイザー。
2000年生まれ。黒鹿毛の牝馬。

主な勝ち鞍:
阪神JF(2002)
NHKマイルカップ(2003)
優駿牝馬(2003)
香港マイル(2003・2004)
ムーラン・ド・ロンシャン賞(2004)
ジャック・ル・マロワ賞(2004)

つ お い 。 (確信)
オークスを勝ったことから一応中距離適性もあるがただただマイル適性が高過ぎた牝馬。適正短CマA中D長Gみたいな感じ。
マイルという舞台に関しては銀弾産駒随一であり、最強格と見なされている。
そしてやっぱり同期のとある牝馬たち(【今でも愛してる】さんと【賞賛のグルーヴ】さん…)に激重感情抱かれてる模様。
本ウマは気がついていないが。

引退後は【聖剣の切れ味】との間にトツカノツルギなどをはじめとする名剣・名刀の銘を冠した産駒を多く成した。
産駒は基本的に短・マイル寄りの子が多い。


僕:
ナチュラルに自らの子にプレッシャーをかける系パッパ(けれど子は父からのプレッシャーを大喜びするものとする)。
地味〜に自分の子たちを"獲物"扱いしてる。
元気に育て〜という気持ちと美味しく育てよ…というふたつの気持ちに揺れていたりする…らしい。



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誰も行かない"ミチ"を往け


とある"跳ね馬"の話。



いちおう菊花賞や天皇賞・春、ゴールドカップを獲ったがそれ以降は低迷気味な自分。

まぁそれでもそこそこ走っているのだがどうにも噛み合わない。

ただ走るってのが面白くない。

3000m走っても、4000m走っても走り足りないのだ。

これからどうしようかと悩んだ僕は父に相談した。

すると父は、

 

「なら障害レースに出ればいいんじゃないかい?」

「え?」

「お前は多少困難な方が燃えるんだろ。

それに器用だから障害レースでも何とかなるだろうし?」

 

ウチの家で障害レース獲ったヤツまだいないしな…とボヤく声を聞くに多分そっちの方が本音なのだろうが。

ウチの家はそれなりに競走の世界では有名な家だ。

兄弟姉妹、それに甥や姪も華々しいヤツらばかり。

だが全員が全員、普通の競走で適性を示してばっかりだったのだ。

意外と欲深い我が父は僕が悩んでいるのを聞いてこれ幸いとこの案を出してきたのだろう。

 

「まぁ、お前が決めたのなら父さんは応援するぞ?

先生に聞いていい人探してやろうか?」

「まぁ、うん。…少し考えてみるよ」

 

そうは言ったが、本当はもう決まっていた。

 

「障害レースかぁ…」

 

面白そうかも。

ワクワクでぺろりと唇を舐める。

そんな僕の名はグラスホッパーズという。

 

 

息子のひとりであるグラスホッパーズは真面目で、努力を惜しまない子どもだった。が、それとともに面白いことが好きな子でもあった。

期待されている時より期待されていない時の方が勝った時面白いと言うような子どもであった。

相手が強ければ強いほど、局面が面倒くさければ面倒くさいほど、困難であれば困難であるほど燃える子どもであった。

 

それで競走者としてそれなりの歳を重ね、普通の競走に飽き出したその子に僕が勧めたのは障害レース。

ウチの子で障害レースを獲った子がいないからあわよくば…という気持ちもあったにはあったが一番はグラスホッパーズが楽しめれば、と。

そんなことを思って勧めた道であったのだけど、

 

「すごいなぁ…、ホントに」

 

僕が今いるのはイギリスのエイントリーレース場。

そう、グランドナショナルを見に来たのだ。

ほぼ毎年出走可能人数限界の40人の出走バを集めるが、完走するのは10人を切ることも珍しくないため『世界一過酷な障害レース』と言われているレースなのだが、

 

「は〜、連覇か〜…」

 

グラスホッパーズは笑いながら先頭で走りきった。

日本の障害G1をすぐさま連覇したと思ったらイギリスに飛んで、軽々とグランドナショナルを獲るって…。

話を聞くに引退したらイギリスで暮らすらしい、コーチの要請が来ているとかなんだとかで。

 

「まぁ、あの子が楽しそうなら、いいか…」

 

でもなぁ、またなぁ…、

 

「何か贈られてくるんだろうなぁ…」

 

保管部屋、これでもう何個目だっけ…?

とほほ…。

 

 

 





跳ね馬:
グラスホッパーズ。父シルバーバレット、母父グリーングラス。
2003年生まれ。黒鹿毛。器用な性格。
ガチガチのステイヤーだったところから障害馬となりふたつの世界で大成功した銀弾産駒でもなかなか例を見ない稀代の"カイブツ"。

主な勝ち鞍:
菊花賞(2006)
天皇賞・春(2007)
ゴールドカップ(2007)
中山大障害(2010)
中山グランドジャンプ(2010)
グランドナショナル(2011・2012)

適性はステイヤー(3000m以上)。だがしかし2007年からは少し低迷気味だったところ(それでも掲示板には入ってる)唐突に障害入りした。
そのあまりの唐突さに周りからは「どうせ無理に決まってる」とかいう失笑があったりしたが、そんな懸念はなんのその、という破竹の勢いで連勝を続け渡英し、フツーにグランドナショナルを連覇した。
そしてその連覇を最後に現役を引退し、現地で種牡馬入り。
んで種牡馬入りした数年後に産駒であるフライウィズアウトリミッツ(欧字名: Fly without Limits)がグランドナショナルを制覇。
結果、史上初のグランドナショナル親子制覇馬(父)となる。
またフライウィズアウトリミッツ以外にも、平地G1を獲っている産駒が複数いる。産駒傾向的にはステイヤー寄りの子が多い。
当時は「え…?なんか数年前にゴールドカップ勝ったやつがグランドナショナルに来たんだけど…?しかも勝ってるし…」って困惑されていたらしい。
ホントに何なんだよシルバーバレット(おまえ)の血…。
で、やっぱり資料館には展示品が増える。

ちな障害に行くと公表した際は上も下もてんやわんやの大騒ぎになった模様。

僕:
冷や汗ダラダラのパッパ。
跳ね馬を障害に誘ったのは善意半分『そろそろ障害G1勝った子どもも欲しいよな…』と思ったのが半分。
もうこの頃になると子ども&孫がG1勝つたびにレース場で魂飛ばしてる姿が恒常的になっている。


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"世界を塗り替えた者"

ヒマな時にふらっと裏話を語るだけのアカウントを某青い鳥で開設してみました。
活動報告に詳しいことは書いてるので奇特な方がいれば…。


僕には、父のような才能がなかった。

父の名はシルバーバレットという。

今もなお『伝説』と呼ばれる馬で、牧場の子たちからも尊敬されていて。

父の子どもであるという証の"シロガネ"の名を冠されたが兄のようにも、姉のようにも僕はなることができなかった。

いつしか僕は逆の意味で有名になっていた。

"シロガネ"の癖に勝てない馬、と。

 

いつだって自分が不甲斐なかった。

僕だってシルバーバレットの、偉大なる父の子なのだ。

他のみんなは父の名を高めているのに、僕だけが父の名を乏しめている。

それが、嫌で嫌でたまらなかった。

 

結局、僕は勝てないまま引退した。

ずっとずっと走り続けた僕を、父の子どもだからと応援してくれていた人もいたが、彼らから贈られる「お疲れ様」の言葉が僕の心に突き刺さってたまらなくて。

「お疲れ様」なんかじゃない。

僕は父の名前を乏しめてばかりだった。

そんな僕に「お疲れ様」なんて言葉、見合うわけがないんだ。

 

そんな感情を抱きながら、生まれ故郷である███牧場に戻って一応功労馬として過ごすはずだった僕は気づいたら異国の地にいた。

一度も勝ったことのない僕を欲しいという奇特な人がいたらしい。

僕よりも凄い兄弟はたくさんいたはずなのに、なんで僕をと思っていた。

けれど、

 

『お前ならできるさ』

 

███牧場から離れる前、父から言われた言葉が脳裏に焼き付いたままで。

父は僕に期待してくれていた。

こんな不肖の息子であるのに、『お前なら大丈夫』と本気で、そう言ってくれた。

なら、ならもう少しだけ。

もう少しだけ、頑張ってみてもいいんじゃないかって。

 

『僕だって、父さんの子なんだから』

 

 

ジャパンカップの地で鮮やかなロイヤルブルーの勝負服が翻る。

先頭をひた走る黒に近い芦毛の馬に、遠い昔の『伝説』を思い浮かべる観客の熱狂は凄まじい。

 

『リペインタージュニア来る!

リペインターだ、リペインターだ!

世界を塗り替えた脚がジャパンカップをも塗り替えた!』

 

その馬は世界をまわってやって来た。

世界を塗り替えるためにやって来た。

その圧倒的な強さは現在世界最強と名高い。

 

そんな彼の父は一介の未勝利馬である。

一度も勝てなかったが、血統を評価され種牡馬となった父の無念を晴らすように彼は世界中を暴れ回った。

 

『リペインタージュニア。

父の名はシロガネリペインタ。

遠き地に渡った"伝説"の血がただいま日本へ帰ってきました!』

 

シルバーバレットを父に持つシロガネリペインタ。

近い未来、『世界を塗り替えた者』と称される彼の初年度産駒が、このリペインタージュニアであった。

 

 





世界を塗り替えた者:
シロガネリペインタ。父シルバーバレットの牡馬。
実は銀弾産駒の中では最後の方の生まれ。
父の競走能力は受け継がなかったが、繁殖能力は受け継いだと後に称される。銀弾産駒の繁殖方面での最高傑作(牡)。
最高傑作(牝)の方は…、まぁいろいろ血で血を洗う論争があるので…。

競走馬としては一度も勝てないまま引退し、生まれ故郷である███牧場で繋養されようとしたところをロイヤルブルーの勝負服の元へ買われていった。
そこで初年度から英三冠馬となるリペインタージュニアを出す。
またリペインタージュニア以外にも数々の産駒を出し、世界に血を蒔いた。
なおいつかの未来で"シロガネリペインタ系"となる模様。

塗り替える者Jr:
リペインタージュニア。芦毛。
父シロガネリペインタの牡馬。英三冠馬であり後の凱旋門賞馬。
血で世界を塗り替えた父とは別に脚で世界を塗り替えた馬。
この子が生まれた時点で銀弾はもう没している。
最終的には北の踊子さん→ニジンスキーさんみたいな血の継ぎ方をする。


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キミの描く絵


銀弾の言う"絵"は塗り替えた者の"子どもたち(産駒)"のメタファーでもあります。

……大人になったキミは、どんな絵を描くだろうか。



僕が生まれた時点で、父はお年寄りだった。

 

『リペインタ』

 

その中でも、僕は結構可愛がられた方だと思う。

父の血を持つ子どもの中で久しぶりに"シロガネ"の名を冠された子どもだったから。

他の家に引き取られることが多くなった父の子どもたちで久しぶりに本家に引き取られた子どもだったから。

 

『リペインタは、どんな人になりたいの?』

 

父の膝に抱かれ、見たのはどの兄姉のレースであったか定かではない。

それほどまでに自分の兄姉は活躍していたのだ。

三冠競走もグランプリも天皇賞も、ましてや海外だって。

残されたビデオだけでも部屋ひとつを優に超える数で。

父に手を引かれながら見た展示室の優勝レイもカップも如何ほどの数だったか、分からない。

 

『…ぼく、とうさんみたいになりたい』

 

幼き日の己が答えは父の血を持つ者であるのなら必ず一度は言う文言であった。

あまりにも聞き飽きただろう言葉だろうに、父は『そっか』と優しく微笑んで、

 

『でも、お父さんはリペインタに絵を描いて欲しいなぁ』

 

ぽつりとそう言った。

続けて『リペインタの絵はとても素敵だもの』とも。

 

『親の欲目もあるだろうけど、お父さんはリペインタの描く絵が好きだよ』

 

それだけを、ただ覚えていた。

何度走っても勝てないまま。

周りからバカにされ、憐れまれながら。

走って、走って、走って、諦められなくて。

その先で、

 

「…そっか」

「はい」

「こんな老いぼれでも、子どもひとりくらいは養えたのだけど」

 

一度も勝てぬまま引退した自分は海外へと招集された。

父の血を求めるのなら他の兄姉に要請しろと再三言ったのだが熱烈なオファーを受けたが故に。

残念そうにする父に申し訳なさから沈んだ声で謝罪する。

 

「でも、よかったよ。リペインタを見てくれる人がいて」

「…、」

「僕にとっての、トレーナー(かれ)みたいな人がいて」

 

笑う父が「ちょっと待ってて」と言って奥へと消える。

そうして数分後、戻ってきた彼の両脇には、

 

「はい、餞別」

「え…!?」

「…要らなかったら他の誰かにあげなさい」

 

大量の高級画材があった。

100色以上の色鉛筆に油絵具、パステル…etc.

そのどれもが目を見張るほどの値段だと知っていた自分は、何度も父を見た。

 

「ぃ、いいんですか…?」

「うん。…言ったでしょう?」

 

─────お父さんは、リペインタの絵が好きだって。

 

慈愛の笑みをもって微笑む彼の手から積み上げられていく画材。

ひとつひとつ丁寧に置かれていくそれに、彼は、

 

「…ヒマな時でいいから、絵葉書でも描いて送ってよ」

 

そう言って、愛おしそうに僕を見つめて…。





塗り替える者:
シロガネリペインタ。絵を描くことに才能がある。
銀弾産駒晩年の競走馬であり、銀弾直系の中でも久方ぶりに"シロガネ"の冠名を与えられたことで有名だった。

そこからウマ軸では久しぶりの本家の子として銀弾にベタベタに可愛がられている。
銀弾にめちゃくちゃ目をかけられており、日本にいたころはふたりだけで一緒にレースを見たり食事に行ったりしていた。

引退後、海外行きが決まった際に父である銀弾から餞別として大量の高級画材をもらう。
『父のようになりたい』と願いながらもなれず、他の兄姉弟妹(きょうだい)にも大きく劣ってしまったが、銀弾からは絵の才能で認められていた。競走能力じゃないところで勝ってるゥ…。

ちな海外行きした後は父が褒めてくれたことを糧に画家となっているが、リペインタージュニアをはじめとする子どもたちが大活躍していくためにてんやわんやすることとなる。

いちおうシロガネカイコウ(2012生まれ)より歳下。

僕:
シルバーバレット。
"シロガネ"一家の頭領であり、はじまり。
シロガネリペインタが描く絵が大好き。
幼いころから絵をもらっては大切に保管している。
その大好き具合は暇さえあればリペインタから絵葉書が来ないかなとソワソワしているくらい。
なお他の産駒たちからどう見られてるかは…?


産駒たち:
別の方面から僕に見てもらえる塗り替える者に…?
塗り替える者自身は競走能力がほぼ無きに等しかったのにその子どもがものすご〜く大活躍してるのにもちょっとばかし思うところが…?


ずいぶんと歳下の弟にこんな感情抱いちゃいけないって、分かってるんだけどね〜…アハハ。


それはそれとして兄姉弟妹(きょうだい)の中でいちばん怖いのはやっぱりシロガネハイセイコの模様。
気付かれないように隅からじっ、と見つめているらしい。

───え?絵葉書を破るワケないでしょう?父さんが楽しみにしてるのに。
…でも、まぁ。少しばかり隠したりは、するかもしれませんが。


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Jr.の滞在


どれほどの時が経とうとも。
変わらず牙は研いでおけ。
いつか現れる、"獲物"のために。



リペインタージュニアはその日、日本へと訪れていた。

ジャパンカップに出走するためである。

やはり気候が違うな…と思いながら降り立つと声がかけられる。

どこかのインタビューだろうか、と声のした方に目を向ければ、

 

「よく来たね、リペインタージュニア」

 

誰よりも、小柄な影がそこにあった。

幼き日から飽きるほど見てきた、姿がそこにあった。

優しい我が父の、そのまた父。

偉大なる祖父-"シルバーバレット"。

 

「ハ、ジメマシテ…」

「あぁ、はじめまして」

 

微笑む彼は年齢を考えるととても若々しい。

じっと見て、やっと「あ、ここにシワがある」と分かるくらいで。

楽しげに歩いていく祖父に着いていきながらリペインタージュニアはそんな風に思考を飛ばす。

 

「さ、乗って」

「ハイ」

 

空港から駐車場に移動するととある車に案内される。

運転席にいるのは父が言っていた長兄の叔父だろうか。

たしか名前は…"シロガネハイセイコ"、だったっけ?

 

「父さん、迷子にならなかったんですね」

「ならないよ!?父さんのこと何歳だと思ってるの????」

「いえ、父さんが迷子になるとは思ってないです。

迷子センターに連れていかれなくてよかったですね、って話です」

「それでも結構なこと言ってるよねぇ!?」

「…でも、事実でしょう?」

「う、」

「聞いてるんですよ?娘のシロガネリリィから。

前、デパートに孫組を連れて遊びに行ったら善意で迷子センターに連れていかれてたんですって?」

「い、言わないでぇ……言わないでよおじいちゃんの恥ずかしいことを…あの子たち…!」

 

何を言っているのかはあまり分からないが、それをBGMにうつらうつらとする。

 

「……zzzz」

 

 

「やぁ」

「…、」

「着いたよ。荷物はハイセイコたちがもう持っていってくれているから後はキミが降りるだけ」

「ァ、リガト、ゴザイマス…ふぁ」

 

手を差し出してくるのを掴んで立ち上がる。

その折に車の天井に頭をぶつけたのは痛かったが。

 

「あの子は、…シロガネリペインタ(キミのお父さん)は元気かい?」

「ハイ、ゲンキ…デス」

「そっか」

 

父のことを聞かれ、元気と答えつつも毎日育児に追われている姿を思い出して遠い目になる。

それを見た結果、何かを察したらしい祖父は「なるほど」と苦笑して。

 

「たぶんご飯もできあがっているからさ。ほら、食べに行こう」

「ハイ」

 

小さな背のあとをついて行く。

この背から、自分は生まれたと言っても過言ではない。のに、本当にこのヒトから生まれたのか、…このヒトがはじまりなのか、と思ってしまう。

こんなにも優しく穏やかなヒトがあんなに強かったのか、と。

そう考えれば、ぴたりと止まる彼の歩。

 

「あぁ…そう言えば言い忘れてた」

「ハイ、?」

「期待してる。…楽しませてくれよ、」

 

───なァ、リペインタージュニア?

 

瞬間、ぞわりと背が粟立つ。

向けられる視線に、チリ…とする。

あぁ、あぁ…!

 

「…ハイ、ワカッテ、マス」

 

父さん。

どうやら、"シルバーバレット(原初)"の牙は、まだ…。

 





塗り替えた者Jr.:
リペインタージュニア。父シロガネリペインタの初年度産駒。英三冠バ。
ものすごくマイペースで目を離した隙によく眠っている。天才肌タイプ。
父であるシロガネリペインタを敬愛しており、絵を描くのに没頭しては寝食を忘れる彼の世話を焼いているらしい。
なおコイツもコイツで"リペインタージュニア"と名付けられたためか、絵が上手い。

塗り替えた者(オリジナル):
シロガネリペインタ。
海外で画家をしているが子どもたちが活躍し始めててんやわんやし始める。
画材へのこだわりはなく、油絵でもパステル画でも何でもで絵を描いてくる。
たぶん後世で売りに出されたらいちばん高い作品は敬愛する父・シルバーバレットに送った私的な絵手紙。

産駒たち:
塗り替えた者Jr.を歓待しながらも…?
また塗り替えた者Jr.が来るのをソワソワしながら待っていた銀弾にちょっとばかしジェラシー…ッとしていた。
何だかんだ言いつつシロガネリペインタが描いた絵を認めているし、初期作品の絵画が玄関先や家の至るところに飾られている。
ちな飾られる絵画は一定のサイクルで新作に変わる模様。


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*耳のこと


懐かしの銀弾耳設定。
聞こえにくい、とはしているが原因は心因性の部分が多い。
ストレスが溜まるor心を閉ざすで聴覚シャットダウンするタイプ。
のちのち幸せになってやっと『え?ホントに耳聞こえにくいの?』って言われるくらいになるし、耳が悪いことを忘れられるくらいになる。
(幸せになって)よかったね…。



「おはよう、バレット」

「…」

「バレット?」

 

いつものように先に起きて朝食を作っているバレットに声をかけるが返答はない。

少し思案したあと、すぐに原因が分かった。

 

「バレット」

「!」

 

包丁や皿を持っておらず、それでいて火を使っていない時を見計らってバレットの肩を叩いた。

本当に軽く叩いたのだけど、当の本人であるバレットはびくりと体を震わせて慌ててこちらを向いた。

 

「ぉ、おはよぉマス…」

「耳、聞こえてないよね?」

「…」

 

単刀直入に事実を述べると押し黙るバレット。

…実はバレットの耳はあまり聞こえていない。

小声の声量になると聞こえず、普通の声量でやっと微妙に聞こえる…という具合なのがバレットの聴覚だ。

基本的には読唇術を使って会話を成り立たせているようだけど、時々、本当に時々、バレットの耳は何も聞こえなくなる。

 

しどろもどろといった調子のバレットを引き寄せる。

そして手のひらを出させ、指で文字を書く。

 

『今日は休むって連絡しよう』

「で、でも…!」

『耳が聞こえないのに外に出るつもり?

前、それで車に轢かれそうになったの忘れてないよね?』

「…」

 

説得は成功し、僕とバレットは休みを獲得した。

 

 

僕がバレットの耳のことについて気がついたのは同居し始めてからだ。

幼い頃からの仲だったけれど、それまでまったく気づかなかった。

それほどまでにバレットは隠すのが上手かった。

耳のことだけでなく、体調不良も多々隠されたのでキレたこともあったが、

 

「頼ってくれるようになって嬉しいよ」

「?」

 

ソファーに二人で座る。

そこには僕に身を預けるように目隠しをされたバレットがいる。

…いや、目隠しっていってもそういうプレイっていう訳じゃなくて。

バレットは普段聴覚が悪いのを読唇術で補っている。

そしてバレットの目の片方は火事の後遺症によりほぼ見えない状態。

バレット本人は自覚していないがそんな生活をしているためバレットの目はいつも疲労しているのではないだろうか、と。

そんなことを考えたので目を休ませるために目隠しをさせているのだ。

 

「僕のこと、信用してくれてるもんねぇ」

 

バレットは僕を信頼している。

そうでなきゃ、五感のふたつを封じられてこんなに大人しくしていられるもんか。

独占欲というか、庇護欲が刺激されているとバレットがモソモソと動き出し、

 

「…眠いんだ」

 

ぽてん、と僕の体に身を委ねて眠りに落ちた。

どうやらさっきのモソモソはベストポジション探しだったらしい。

スヨスヨと警戒も何もなしに眠り始めたバレット。

 

「ふふっ」

 

その無防備さに思わず笑ってしまった。

 





僕:
心因性(ストレス)で聴覚の感度が変動するタイプのウマ娘。
本当にストレスが溜まると何も聞こえなくなる。
でも耳が聞こえない状態でもある程度動けるのがタチ悪い。
ちなこの聴覚について知っているのは現状マス太とトレーナーのみ。
母であるホワイトリリィには心配をかけたくないらしい。

なお史実では白峰おじさんが執筆した『さよならはまだ言えない』によって、聴覚の件が周知(バラ)されている。


マス太:
僕と秘密を共有できてニヨニヨしてる。
どこもかしこもデッ…なウマ娘。
誰でも選り取りみどり選べる良家の子女だがガリガリ火傷顔のウマ娘(僕)を溺愛している。
僕が無防備で、信頼を置いているのをいいことに激重感情を毎日醸造中。
普段はCB&皇帝とバチバチ牽制し合っている。
が、結構な頻度で一人勝ちする模様。



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◆遊びに行く話


誘われたらNoとは言わない銀弾さん。
楽しく遊びに行きます。


同期たちから遊びに行こうぜ!と誘われた僕は彼女らに導かれるまま、楽しく遊んでいた。

 

「迷ってたからさ、みんなのところに連れてきてくれてありがとう。

ねぇ、サイレンススズカってキミの知り合いだったりする?

僕ちょっとあの子に興味あるんだけど」

 

同じ栗東所属として(現在の僕は一人暮らしだが一時期、ほんの少しだけ栗東寮で暮らしていたことがあったのだ)、この子とは仲がよかった。

あれやこれやと二人で話していると僕らを待っていた同期たちが「おーい」と手を振ってくれる。

…なんか思ってた以上に大所帯だな。

 

「…人多くないかい?遊べる場所ある?」

 

苦言を呈する僕とは違い、みんなは「ボウリング行こう」「カラオケ行こう」と侃侃諤諤の議論を始め…、

 

「とりあえずご飯行こうよ。近くにバイキングの店あるんでしょ」

 

 

バイキングに来たはいいものの、同期の内のひとりがドブ色のミックスジュースを作ってきたりして悲鳴をあげる僕たち。

「作り手のお前が飲めよ!」と全員から言われるも作成者は頑なに僕たち誰かに飲まそうとして、…コイツ良家の生まれなのに何でこんな愉快犯になってんだか。

大波乱の象徴ってこういうこと?上手いこと言わんでええねん、やかましい。

頭抱えてる内にドブ色のミックスジュースの作成者が目標を定めて、その目標になったメジロ生まれの子とやんややんや喧嘩し始めとるやんけ!

 

「ん?何だ【マイルの皇帝】殿か。いや、照れるなよ。

僕がそのあだ名を知ってるとは思わなかったって?

知ってるよ、暇がある時はコンビニでトゥインクルシリーズのことよく取り扱ってる雑誌買ってんだから」

 

喧嘩の情景を眺めつつ話しかけてきた同期に応対する。

彼女とは一度だけ対戦経験がある。

何故か話してる間、僕の皿に周りからご飯が盛られていくのに遠い目をしてしまったのは言うまでもない。

僕、少食なんだって…。

 

 

「…は?」

 

トレーニング終わりで、スマホの電源をつけたミスターシービーは思わず低い声を出した。地の底から聞こえてきそうな低さだった。

その日のミスターシービーはシルバーバレットがいないため機嫌が悪く(まぁそれはシンボリルドルフだって同じだが)、本人は気がついていないが機嫌の悪さと比例するように空気がヒエヒエだったのだ。

そんな中、

 

「なんで…?」

 

同期たちとお楽しみらしいシルバーバレットの写真が送られてきたとあっては…。

 

「羨ましい…。

アタシが誘ってもつれない癖に…」

 

ミスターシービー周辺の温度がまた1℃か、2℃下がる。

まぁ、それはそれとしてその写真は保存するミスターシービーだったのだが。





僕(ウマ娘のすがた):
同期とはまぁそれなりに仲がいい。
誘われたら遊びに行くくらいには。
まぁ逆説的にいうとCBの熱量が強過ぎてたじろいでいるだけともいう。

同期s:
僕とはそれなりの仲。
誘ったら一緒にご飯行くし遊びに行く。
いちおう僕に関して大なり小なり感情を持っているがCBほどではないとは本バたちの談。
CB・皇帝・僕の関係を基本楽しげに見やっている。
でも中には漁夫の利をかっさらっていく娘も…?

CB:
…なんでアタシとは遊びに行ってくれないのに同期とは遊びに行ってるの?
そもそもなんで誘ってくれなかったの?同期で遊びに行ったんでしょ?
え?その日はトレーニングがあるからってアタシが断ってた?
でも『遊びに行く』だけで詳しい内容を伝えてなかったのはシルバーの方だよね、ねぇ…?

重 い (断言)。


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お正月

あけましておめでとうございます!
今年も精進して参りますのでよろしくお願い致します〜!!


まず僕らの家の年末は家の大掃除から始まる。

クリスマスの時に出したイルミネーションを片付け、大きな我が家の掃除を子どもたち総動員で行う。

その間に僕は年賀状を書いたり、女の子組と一緒におせち作りをしたり…。

そういう大変な作業を動き回ってやっと、年始になるのだ。

 

『おとーさま、あけましておめでとうございます!』

「うん、あけましておめでとう」

 

朝、元気いっぱいにやって来た幼少組に挨拶する。

おとーさま、おとーさまと群がってくる子どもたちの頭を撫でてお年玉を渡していく。

 

『わーい!』

「無駄使いしないようにね」

 

元気よく食事を取りにいった彼ら彼女らを見送れば、そばにいたハイセイコが「大丈夫ですか?」と聞いてくる。

 

「ん?…いや大丈夫だよ」

「ならいいんですが。…キツかったら緩めますからね?」

「うん」

 

実は…今日の僕の格好は袴なのだ。

成人になった際に母方の方からいただいた代物なのだが、これがまた…。

 

「純白、なんだよなぁ…」

 

そう、上も下も何もかもが真っ白な着物なのだ。

母方の一族は名前に『ホワイト』とつける慣習があり、その流れで礼服も純白に…というわけで。

 

「下手に汚せねぇ〜…」

 

だってこれめちゃくちゃ金かけられてるんだもん。

傍目から見たらただの白い着物だけどさぁ、よくよく近づいてみたらすごく凝った刺繍が至るところに…。

なお、妹の方にも僕と同じような純白の着物が贈られている。

 

「親父ー!」

「なにー?」

 

軽くため息をつきながら着物の裾を眺めているとティーン組から声をかけられる。

返答を返せば「ダチと初詣行ってくるからー!」と言われたので「気をつけてねー!!」と言っておいた。

 

「そういえば、夜に初詣行ってた子たちはまだ眠ってるの?」

「…そうですね、はい。引率について行っていたヒーローがまだ起きてこないので」

「そっかぁ。ヒーローも大変だったんだねぇ」

 

話を聞きながら起きたらいたわってあげようと考えているとインターホンの音が。

 

「やぁ、サンデーあけましておめでとう!」

「おう、あけましておめでとうバレット」

 

いつもはラフな格好をしているけれど、今日はさすがにちゃんとしてきたらしい。

そんなマブダチ・サンデーサイレンスをニコニコと家に招き入れながら近況の話をあれやこれやとする。

 

「あ、サンデー」

「ん?」

「お年玉。用意してたから帰ったら渡してあげて?」

「…おう、悪いな。こっちも気持ち程度だが」

「いやいやいや有難いよ。ありがと、サンデー」

 

お互いの子どもに渡すお年玉を交換しつつ、「ご飯食べていく?」と聞けば「食べる」と言われたので僕も一緒に同伴することにした。

 

「僕の代わりに用意してくれてありがとね」

 

礼服のために動けない僕の代わりに食事を用意してくれた娘に礼をして、サンデーと一緒に手を合わせる。

 

『いただきます!』

 

 





僕:
ハレの日は母方からいただいた礼服(白い袴)を着用する。
刺繍等めちゃくちゃ凝ってるし、全部真っ白な着物なので扱いにひと苦労。
でもちゃんと着る。
資金が有り余っているのでお年玉の金額は基本お高め。
凄い勢いで課金(だばー)してくるので子持ちの産駒からよく苦言を呈されている。
…だって孫可愛いもん!仕方ないもん!!


SS:
なんだかんだ行事ごとがあるとやってくるマブダチ。
僕の白い礼服を見ては毎回『扱い大変そ…』してる。
お年玉の金額は普通(僕と比較すると)。
なおご飯を食べたら僕と一緒に初詣に行く。
そしてファンに絡まれてる礼服ver.僕を見てムスッと…。


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アイドル!×3


こ〜れは銀弾系列+激重感情勢が確定参加のライブですわ…。
記念の花とかそういうのも大量そう…(哀れみの目)。
それはそれとしてライブモードの3人にいろいろとぐちゃぐちゃにされる激重感情勢はいる。絶対にいる(鋼の意思)。



「僕らでアイドルになろうぜ〜」

「はい?」

「…?」

「凱旋門賞バ三人のアイドルだから人気になるな!」

 

シルバーバレット様、…いやバレットさんがそう言って突撃してきたのは唐突だった。

バレットさんが手繋ぎで連れてきたのは最近引退したシロガネガイセイくんで。

 

「ガイセイもおじいちゃんとアイドルしたいよな〜?」

「…?……(こくん)」

「だって!」

 

だって!じゃないんですよバレットさん。

ガイセイくんもバレットさんの言うことホイホイ聞かなくていいんですよ。

え?現役生活頑張ったらバレットさんと遊ぶ約束してた?

…これが遊ぶって言っていいんですかねぇ。

ガイセイくんがいいならいいんじゃないでしょうか(すっとぼけ)。

 

「プレアーも大丈夫?」

「……まぁ、体絞ったりします」

「ダンスも頑張ろうね。…この前まで現役だったガイセイは大丈夫だろうけど」

「そうですね」

 

プレアーが常識人だと思った?

残念!プレアーもシルバーバレットとシロガネガイセイに負けず劣らず問題児なのだ!

伊達に「銀色一族の異端児」と呼ばれていないぜ!

ちなみにシルバアウトレイジには開口一番に断られた。

 

 

シルバーバレットにその話が来たのは偶然だった。

 

とあるイベントに出演してほしいという話があり、「何やってもいいんですか?」と冗談で聞くと「何やっても大丈夫です」と大真面目で答えられたため、何徹か分からないほど徹夜していたシルバーバレットは深夜テンションで「アイドルしよ」と考えたのだ。

 

それでメンツをどうするか、と考えた時に白羽の矢が立ったのがシルバープレアーとシロガネガイセイであった。

最近引退した無敗の11冠バであるシロガネガイセイの人気は言わずもがなだが、長年現役を続けていたシルバープレアーの人気も引退後からだいぶ経っているにも関わらず高い。

シルバアウトレイジに断られたのは少々痛かったけれど。

企画を立てた張本人であるシルバーバレットも含め、この三人はなかなか積極的に表舞台に出ないため集客率もバリ高だな!などとアホな頭で考えたのだが、

 

「こんな集まるとか、ある……?」

「いきなり正気に戻らないでください」

「……(なでなで)」

「うっうっう……、ありがとうガイセイ」

 

企画は大成功だった。

だが人が集まりすぎた。

計画の立案者であるシルバーバレット(徹夜のすがた)のテンションが素に戻ってしまうくらいには人が集まってしまった。

 

「あああああ、ミスターとルドルフからお祝いのクソデカい花が届いてるゥ!」

「うわ僕にも届いてる…」

「……(ほわほわ)」

 

ド天然シロガネガイセイは普段通りに、大人組ふたりは「キッツ、キッツ……!」と思いながら挙行したライブは事ある毎に語られる、伝説のライブになったという…。





アイドル×3:
いくら深夜テンションと言えども…なおじさん×2と最近引退したばかりの若人。
覚悟キメてうまぴょい伝説もできらぁ!した。
"あたしだけにチュゥする"の部分はもちろん銀弾が担当。
だが揃いも揃ってアップテンポ系が好きなのでwining the soulとかそういう系を歌った。
すごくすごい集客率だった模様。


僕:
シルバーバレット。
深夜テンションでライブしようぜ!した御歳ジジイ。
現役時代とは比べものにならないくらい曲が増えているのでセトリ組んでダンス覚えるのキッツ…してた。
なお現役時代に露出がなさ過ぎたため今回はいろいろと()周りから拝まれたらしい。
実質幻まがいの超激レアキャラがいきなり確定で現れたようなもん。

ジジイにめっちゃ声援くれる〜!!
なんで〜????

銀の祈り:
シルバープレアー。
巻き込まれた…というより追随したおじさん。
まぁ現役時代に踊った曲も多かったのでそこまで覚えるのは大変ではなかった。大変だったのは歌って踊ってする体力の方である。
僕が『幻』だとするなら彼は『伝説』。
長きに渡り第一線を走り続けた現役時代であったためファンがいちばん多く、一度ウイニングライブとなればその長年の歩みによって円熟された歌と踊りを見せてくれる。が、ファンサもガチ過ぎる…。
レースじゃなくて、ウイニングライブ方面での厄介ファンをたくさん持ってそう(小並感)。

いや…、僕を見たいってみなさんだいぶ物好きなのでは…?
あ、ヤバ…。胃が痛くなってきた…。

再来:
シロガネガイセイ。
おじいちゃんと遊べて()ウキウキ。
最近まで現役だった無敗の11冠バさん。
普段は無口無表情だがひとたびウイニングライブとなればハイライトを灯して歌って踊り始める。プロ。
ちなその二面性には誰もが二度見する。した。

……(ホクホク)
とても嬉しそうな顔をしている。


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*VS.


リクエストより【マス太存在生存‪√‬でのマス太と白峰おじさんの関係】です。

ヒトミミvs.ウマミミ…ファイっ!



「やぁバレット久しぶり。…シルバマスタピースは相変わらずだね」

 

今日は騎手くんが会いに来てくれた!

嬉しいなぁと擦り寄るが、…どうしたのマス太?

 

『いや?なんでもないよ?』

『そう?…やっぱりマス太も自分の騎手さんに会いに来てもらえなくて寂しいの?』

『まぁそれもあるっちゃあるかもだけど…』

『?』

 

言い淀むマス太に首を傾げていると騎手くんが撫でてくれる。

あ〜…、やっぱり騎手くんのなでなでは最高〜…。

とろける〜…やばい〜…。

至福だ〜とへにょへにょしていると『バレット!』と。

…ハッ、そうだマス太がそばにいるんだ。

あの頃みたいに騎手くんとふたりきりじゃない。

 

『バレット、キミね…』

『はい…』

『曲がりなりにも此処のボスなんだからね、キミは。

ちゃんと節度持って威厳のある態度しなくちゃ…』

『すみましぇん…』

『まぁ傍にいるのが僕でよかったね?』

『はい…、ホントにごめんなさい』

 

苦言を呈してくるマス太にしおしおとする。

母であるリリィから此処のボスの座をゆずられた僕は親友であるマス太を右腕としている。

僕は途中から此処に来たから生まれた頃から此処に住んでいるマス太にボスとしてどうすればいいかの指導を受けていたりするのだ。

それで今回はボスとしては相応しくない行動をしてしまった、と。

…そういうわけでごめんね、騎手くん。

キミのなでなでから離れるのは本当に名残惜しい。

でも今の僕はそうやって撫でられるわけにはいかないんだ…!

主にボスの威厳的な意味で。

 

 

白峰透とシルバマスタピースはシルバーバレットを巡るライバルである。

種族は違えど同じ存在を()()()者としてバチバチであった。

シルバマスタピースは元からシルバーバレットに近づく存在によく威嚇する馬であったがその威嚇がいちばん苛烈になる相手がシルバーバレットの主戦騎手であった白峰透で。

かくいう白峰透の方も真正面からシルバマスタピースに張り合っているのだが。

 

(じぃ〜っ)

(どやあああ…!)

 

その日ひとりと一頭の間にあったのはなでなでに屈服しトロトロに蕩けていくシルバーバレットだった。

<●><●>カッという風に、ハイライトの無い目で男を見つめるシルバマスタピースと目の前の馬に勝ち誇りのドヤ顔を見せる白峰透。

なにやってんだコイツら。

それはそれとしてそんなひとりと一頭にまったく気づかないシルバーバレット。

目の前に広がる光景を「あぁ…またやってる」という顔で眺める牧場の人々。

 

この光景が牧場の名物となりえるのもそう遠いことではない、のかもしれない。

 





マス太:
シルバマスタピース。()()友だち。
馬主をもってして『(僕とマス太の)どちらかが牝馬だったら子を成していた』と言われるほどの仲。
引退後は副ボスとして僕を支えている。
僕の相棒である白峰おじさんに対しては僕の手前大人しくしているが僕の目がなければ基本煽りあっている仲。
嫌いではない、気に食わないだけ。
本当はふれあい会にも着いていこうとしているが対僕に対する感情のデカさから毎度お留守番になっている。
…まぁ、幼い子どもとはいえ最愛の存在が無断でしっぽの毛を抜かれたらって、考えるとね?仕方ないネ…(遠い目)。

白峰おじさん:
白峰透。騎手。()()相棒。
自他ともに認める僕の()()の相手。もはや熟年夫婦。
暇さえあれば僕に会いに来るおじさん。
僕の幼なじみであるマス太に対しては僕の手前いちおう大人しくしているが僕の目がなければ基本煽りあっている仲。
嫌いではない、気に食わないだけ。
最近は僕の子どもたちに会って騎乗することがライフワークみたいになっている。し、最終的には厩舎を開業して相棒系列の競走馬でハーレムを作り上げる男。やりやがった…やりやがったアイツ…っ!すげぇっ!!


僕:
シルバーバレット。何も知らない。
マス太も騎手くんもどっちも好き。
基本ニコニコふわふわしているがボスとしての仕事はちゃんとしている。


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どうか、


これは、つまらない物語だ。
ありふれた、どこにでもある話だ。
けれど、けれども。
何よりも、『幸福』である話には…。



実質夢のようなものだろうとぼんやりとした頭で考える。

あの日、僕は██████。

 

「バレット」

 

貴方がその名前を呼んでくれるたびに、いつになったらこの幸福で、残酷な夢は終わるのだろうかと考える。

…きっと貴方と出会えたこと自体よくできた夢だったのだ。

くだらない、ちっぽけな自分が無い脳ミソで必死に考えついたおとぎ話。

 

「すごいよ、バレット」

 

幕はまだ下りない。

あの日、終わるはずだった夢は途切れないまま白昼夢のように続いている。

あぁ、早く終わってくれ。

覚めろ、覚めろ、覚めろと心の中で叫ぶ。

……そうじゃないとずっとここにいたいと願ってしまうから。

 

 

貴方と出会えてよかった。

それは本当のこと。

貴方と出会わなければよかった。

この気持ちも、本当のこと。

 

貴方が僕を見出さなければ、きっと僕は楽になれたでしょう。

貴方が僕を見出さなければ、きっと僕は暗い暗い闇の中にいたままだったでしょう。

貴方が連れ出してくれた光の世界は焼き消されそうなほど熱くて、辛くて、それでいて楽しくて嬉しくて幸せで。

 

でも、あの日のことを思い出すと、貴方を裏切った日のことを思い出すとどうしても涙が止まらなくなる。

 

「バレット…?」

 

あぁ、そんな優しい目で僕を見ないで。

貴方を裏切った、悪い人を、そんな目で見ないで。

ごめんなさい、ごめんなさい、ごめんなさい。

もう戻れないのに、帰れないのに。

 

それでいいんだって思ってた。

そうすれば貴方が幸せになれるのだと、思っていた。

僕なんていなくても貴方は幸せになれるのだって、思って、思い続けていたんです。

そうしないと辛くて、苦しくて。

 

『幸せ』になるのが怖かった。

"運命"が僕から何もかもを奪っていこうとするから、貴方だけは奪われたくなくて僕が代わりになったのです。

僕が傷つけば、傷つけば傷つくほどに、貴方が幸せになれると思っていたのです。

 

これが勘違いならよかった。

何かに化かされた話ならよかった。

僕が何も才能がない、ただの木偶ならよかった。

貴方に、僕を見つけ出してくれた貴方に報いたいと思ってしまったから。

報いることのできるほどの才能を持っていたから。

 

辛い、辛い、辛い。

『幸せ』が辛い。

いつか終わることを知っているのが辛い。

貴方の笑顔を奪うことが、そんな未来が憎い。

"運命"が僕を嫌うのが憎い。

僕を滅せないのなら貴方に害を成そうとする世界が憎い。

 

でも、でも、それでも。

僕は貴方を選ぶのでしょう。

貴方のことが好きだから、貴方のことを愛しているから。

こんな僕を、見つけてくれてありがとう。

 

「さようなら、先生」

 

だから、

 

 

【シルバーバレットは還らない】





笑って。


───すべてを()()()いる"誰か"の話。


あちらが立てば、こちらが立たずで。
天秤は平行にならなかった。
そんな世界。



"誰か":
『愛』のためなら犠牲になれる。
『愛』を亡くすのが怖かった。
だから。

───選びとった答えに後悔はない…ハズ。


『愛』:
"誰か"にとっての。
"誰か"にとっていちばん大事な存在。
『愛』のためなら何でもできる。
『愛』の言うことなら何でも叶える。
けど。

───そのまた逆も然り、なのだ。



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◆後進のための…


今回の話とは関係ないけど、ふたりきりの際にトレーナー(せんせい)にスキンシップとしてしっぽや髪を梳いて・ケアしてもらう銀弾はいる、いますよ…。
チームメンバーetc.から『あぁ、いつもの匂い(ヘアオイルとかの)がするからふたりきりだったんだ…』って思われろ〜!!!!(願望)



はじめてその人の走りをみたとき、────速さという名の暴力だ、と思った。

"シルバーバレット"というそのウマ娘は大なり小なり、ウマ娘であるのならば憧れる存在であろう。

 

なかなか表舞台に出てこないその人が、模擬レースであると言えども人前で走るというウワサは瞬く間に広がり、たくさんの人が鮨詰めのように集まった模擬レース場だった。はずなのだが、

 

『…』

 

一緒に走ったわけではない。

ただその走りを見ていただけなのに。

大多数のウマ娘が折られたのだ。

シルバーバレットという存在に、完膚なきまでに、心を折られたのだ。

 

 

「いやぁ、今日もキレッキレだねぇ!」

「ミスター。それにルドルフも」

「模擬レースの相手をしてくれてありがとう、シルバー。

きっと後輩たちもキミの走りを参考にしてもっと強くなるだろう」

「それならいいんだけど」

 

チーム:アルデバランに所属している僕だけど、今日はチーム:リギルに所属している友人のシンボリルドルフに頼まれ有望株の娘たちと模擬レースをしたのだ。

トゥインクルシリーズからは勇退し、ちょこちょことドリームトロフィーリーグに出走している身としては後進育成もした方がいいよなと感じたため了承した頼みごとだったのだけど。

 

(これだけの人数が集まって、こんな静かになる…?)

 

ちらりと横目で見ただけで模擬レースを見学できる位置にはたくさんの生徒が集まっていた。

普通これだけの生徒がいるのなら多少ザワついていたりするのではないかと考え、不思議に思う僕だったが、

 

「もう模擬レースは終わったんだしさ、みんな練習に行った方がいいんじゃないかなぁ?」

「そうだな」

 

未だ固まったままのオーディエンスにミスターとルドルフが各々練習に行くように促すとまるで蜘蛛の子を散らすように彼女たちはいなくなって、

 

「シルバー、よければリギルの娘たちの練習を見てやってくれないか?」

「僕、これでもアルデバランのリーダーなんだけどなぁ」

「キミはレースに真摯なウマ娘だからな。

…無闇矢鱈にデータをバラしたりする人間じゃないだろう?」

「…はぁ、分かったよ」

 

用事があるらしいミスターと手を振り別れる。

そしてルドルフに促されるがままにリギルの娘たちの前で挨拶したりして…。

 

「リギルもいい子たちばかりだね」

「そうでしょう?」

「またアルデバランの娘たちの練習、見てあげないとなって思っちゃった」

「おやおや」

「…そんな顔しても、僕がいるのはアルデバランだよ」

 

隣に座るルドルフの顔を見て、ため息をつく。

この娘は昔から僕をリギルに迎え入れようとするのだ。

「貴女ほどの実力があるなら問題ない!」とか何だとか言って。

僕はアルデバランのリーダーであるのに…、

 

「そんなに僕が欲しけりゃアルデバランの娘たちと勝負でもしてくれない?」

「…それはいい案ですね」

「えっ?いや、冗談だからね?分かってるよねルドルフ?

笑ってないでちゃんと僕と目を合わせてくれよ、頼むから!」

 

勝手にこんな約束したって知られたら死ぬほどアルデバランのみんなに怒られるんだよ、僕が!





僕:
シルバーバレット。チーム:アルデバランのリーダー。
既にドリームトロフィーリーグに移籍済。
後進育成を理由に頼み事をされたら断れない系ウマ娘。
だが気楽に模擬レースをしただけでmbウマ娘ちゃんたちのココロをポキーしていく模様。
現役時代から、ドリームトロフィーリーグに移籍した今となっても皇帝直々にリギル入りを打診されているらしい。
本ウマは『僕、アルデラミンのリーダーだから…』と断っているが諦めてもらえないんだ。なんでぇ?


皇帝:
シンボリルドルフ。チーム:リギルのメンバー。
既にドリームトロフィーリーグに移籍済。
現役時代もドリームトロフィーリーグに移籍した今も僕を狙っている系ウマ娘。
僕の走りを見せられるとシームレスに若獅子モードになる。
ので、僕と会うたびに貴女とめいいっぱいタヒ会(しあ)いたい、だからリギルに入って!している。
優しい顔をしているがちゃんとしっとり。
今回の僕の提案()からチーム:アルデバランにカチコミしに行くかもしれない。

CB:
ミスターシービー。チームには所属しておらず個人でトレーナーと契約している。
既にドリームトロフィーリーグに移籍済。
皇帝のように表に出していないがちゃんと僕を狙っている系ウマ娘。
僕の走りを見せられると背筋がゾワゾワして滾ってしまう。
ので、僕と会うたびにアタシと一緒に走らない?している。
朗らかで明るく見えてもその実はしっとり。
チーム:アルデバランにカチコミしに行く皇帝を面白がりながら、ちゃっかり同行するかも…?


アルデバランのみなさん:
まぁたリーダーが変な約束した〜!!!!
けど、絶対

渡 し ま せ ん か ら ね ?



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いつか未来で


銀弾系列は『領域』に入るとき全員同じカットインすればいい。
全身が黒塗りになって目の部分だけがボウッと白く光ってるやつ。
常時シングレ仕様なんだ…。

それはそれとして銀弾系列は基本長生き。
牡馬でも牝馬でも平均30歳近くまでは普通に生きる。
体が丈夫な長命の家系。
なのに脚をやらかしまくってた銀弾さんェ…()。
でも、

───長生きなのがいちばん勝ち、じゃない?



麗らかな陽射しに照らされて、安楽椅子に座ったウマはゆらゆらと揺れていた。

どうやら眠っているらしい。が、

 

「…」

 

その耳にザリ…と足音が届くとゆるりとまぶたを上げた。

 

「…やぁ、キミは」

 

寝ぼけ眼で見つめる先にはひとりの歳若いウマ。

安楽椅子から、ふらつく脚で立ち上がろうとすると慌てて支えられる。

 

「ありがとう。それで…キミは僕の"何"?」

 

目の前の歳若いウマ。

そのウマは自分が既に老いていると自覚しているが、そんな老いた頭の中を漁っても自分の知り合い・親族に目の前の歳若いウマに合致する存在はなくて。

だから問うた。

(プレッシャー)は、もう出せなくなっていたけれど。

 

『僕、は…』

 

歳若いウマは年老いたウマの前で少し口ごもった。

それをゆっくりと待って数分、いや十分くらい。

 

『僕、僕は…あなたの子孫です!』

「あぁ、やっぱり」

『えぇ…』

「あらかた信じてもらえないって口ごもってたんだろう?」

『ま、まぁ、はい…』

「信じるよ。不可能だとか何だとか言われてもそれなら2:19.0のレコード(ぼく)って存在はどうなるんだって話だし」

『はぁ、』

 

話を聞くとこの歳若いウマは、タイムマシン的なものでこっちの時間軸に飛んできたと。

なんでこの時間軸に?と疑問を呈すれば年老いたウマ(じぶん)に会いたかったからと。

 

「…僕に会いたいなんて蓼食う虫も好き好きじゃないんだから」

 

呆れたように息を吐くがその顔はどこか笑みを浮かんで、

 

『それと』

「…それと?」

『僕は、サラブレッドなんです』

「へ?」

『サラ系は8代続けてサラブレッドと交配すると…』

「…あぁ、なんかそういう話もあったっけ。僕が生きてる間には達成されないモンだったから忘れてたけど」

『僕のいる時代ではサラ系なんて、もう死語ですよ』

「…混じりすぎて?」

『はい』

「そう」

 

ぼんやりと、年老いたウマは思考する。

サラ系が死語になるほど、サラ系の血が()()()()()()()()()

そのような時代に至るまで、どれほどの時が必要だったのか。

そもそも時代跳躍なんてワケわからないことができるくらいなんだから…と考えたところで、

 

『あ、』

「ん?」

『もう、時間みたいです』

 

ボヤけて、透けていく歳若いウマの姿に目を見開くもすぐに落ち着く。

そこから力を入れて立ち上がったウマは、

 

「ほら」

『はい?』

「握手くらいしよう。それぐらいなら、影響もないだろう?」

『ぇ、あ、はい、たぶん…』

 

おずおずと差し出された手を取る。

そうした年老いたウマは、

 

「餞別だ。持っていきなさい」

『は?へ?えええええええ!?』

「僕の【領域】は、飛びっきりだぜ?」

 

 

【因子継承】




老いたウマ:
基本は安楽椅子でユラユラなサラ系おじいちゃん。
だが実は現役時代に芝2400m 2:19.0のレコードを出していたり…。
やってきた歳若いウマに内心『未来ってすげぇや』していた。
で、最後に面白そうだから+老バ心で【因子継承】してあげた模様。
強くなれよ〜。

だけどこの話のあと、ちょっとしたら…。

───長生きしなよ、みんな。


歳若いウマ:
タイムマシン的なものを使い過去に来た。まだデビュー前。
会ってみたかったウマに会えて感激だが、そのウマから【因子継承】をカマされてスペース化。えぇ…?
いちおう老いたウマの子孫だが8代重ねたためサラブレッドとなっている。


未来の"サラ系":
もはや死語。
世界全体で血が広がり、混ざりすぎて逆にサラ系の血が入っていないウマの方が珍しくなっている様子。
だから遠い昔にあったような差別ももう、ね…?


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【戦う者】と!


元性別軸。

銀弾が『ダートの走り方教えてください!』って頼まれたら『今日の講師だよ〜』って半弟であるサンデースクラッパ(BCクラシック制覇バ)を連れてくる概念。
それはそれとしてオマケでグローリーゴアくん(米無敗三冠バ)も着いてきます。
引退後はマンションの部屋隣同士で暮らしてる仲良し(だとサンデースクラッパは思ってる。グローリーゴアは…)なふたりなんだ!
(部屋が隣同士なのは史実にて種牡馬時代の彼らの放牧地が隣同士だったため)



僕はたしかに兄さんのことが好きですけど、

 

「やぁ、スーちゃん。おにーちゃんだぞ〜」

 

トレーニングをしていた僕の前に唐突に現れた兄さんはニコニコと、とてもニコニコと笑っている。

その様に僕の脳がガンガンと警鐘を鳴らして、

 

「にーちゃんがスーちゃんの実力見てやろうな〜。

…じゅーう、きゅーう、」

 

カウントダウンの声がかかるよりも早く、反射で踵を返す。

あとの体力も考えない走りだ。

もちろんいつもならこんなことするわけない。

だけど今は、

 

「ぜろ♡」

 

ゾッ!

 

ヒュッ

 

背筋がゾッと粟立つ。

()()()()と本能がぎゃあぎゃあ叫び出す。

息も異常に乱れてきて、思考が妨害される。

耳をよくすまさなければ聞こえないくらいに微かな足音。

けれどその()は凄まじくて、

 

「少しは前より強くなったかい?

───なァ、サンデースクラッパ?」

「っあ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛!!!!」

 

ただ、それだけの言葉。

彼にとってはただの問いかけに過ぎない。

でも今現在、彼の哀れな獲物である僕にとっては、

 

(こわいこわいこわいこわいこわいこわいこわいぃぃぃぃぃっっ!!シぬ!シんじゃうよこんなのッ!!でも!逃げなくちゃ!あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛っっ!!)

 

正気が、恐怖で塗りつぶされていく。

今からシぬのだというのに、どうせ追いつかれてしまうのに、逃げなくてはいけないという矛盾。

今すぐこの身を差し出して楽になりたいのに、それは、それだけは許されなくて。

 

「そう、そうだサンデースクラッパ!

逃げろ、逃げろ逃げろ逃げろ!

さもなくば喰われるぞ!?止まってもあるのは終わりだけだ!!

あっははははははははッッ!!さァ!僕を、楽しませてくれ!!!!」

「うぅ、…あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛っっ!!!!

 

咆哮(シャウト)

踏み込む-地面が抉れる。

そして、襲歩(ギャロップ)

だが、

 

「つ ー か ま ー え た ♡」

 

バケモノが、牙を剥く。

 

 

「せんせーい、どうだったー?

へー、そうなんだ!」

 

自身の元トレーナーである男から告げられた言葉にシルバーバレットが嬉しそうにニコニコと笑う。

そのまま地面に転がって、今にも酸欠で事切れそうになっている弟に話しかけた。

 

「よかったねぇ、スーちゃん。

前、にーちゃんと()()()()()()した時よりも30秒伸びてるって!」

 

そう言ってニコリと"怪物"が笑う。

その隣に来た"怪物"の元トレーナーであった男も「成長が見れてよかった」と微笑みを見せ、

 

「じゃあ先生、またお時間があったときに!」

「あぁ、またねバレット」

 

そんな彼らを見てサンデースクラッパは『似た者同士って、こういうことを言うのかな…』と考えるのだった。





【戦う者】:
スーちゃんことサンデースクラッパ。逃げ馬。僕の弟。
兄である僕から可愛がられているし、僕のことが大好き。
…だが一緒に走るとなると『ミ゚ッ』となる。
まぁ兄心で鍛えてもらっているというのは分かるけど…怖いんだよ!!!!
なおこの訓練の結果、差されたら差し返してくるという逃げ馬にあるまじきワケわからん走りができるように…。

も、もうちょっと、やさ、優しくしてえぇぇ…!

僕:
シルバーバレット。逃げ馬。【戦う者】の半兄。
弟が可愛い。だからいっちょ兄ちゃんが稽古をつけてあげようね(ニッコリ)。
弟と走るのが楽し過ぎて勝手にプレッシャーが出る系お兄ちゃん。

今度はもっとスピードあげるから楽しもうね、
スーちゃん!



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『白の寵児』


ふたり一緒であるのなら、()()()()()()堕ちてくれる。
そんなサイッコーにイカれた『運命の相手』と出逢うのは…、もう少し、あとの話。


『運命の相手』と出会うまえ兼救われるまえ、なのでまだ口調が荒い銀弾さん。
『運命の相手』に出逢い、信頼を築けば、徐々に落ち着いていく模様。



「よーォ、ンなところで何してんの?かわい子ちゃん♡」

「よォ死に損ないィ。ちょっくら僕のコトを『薄汚い"サラ系"』だッつったノータリン共をタコ殴りにしてきたとこだよ」

「そりゃあそりゃあ」

 

流れ出ていた鼻血を指先で拭った少年がどかりと老人の横に座る。

彼らの周りには誰もいない。

ただ視界の先には分別も何もなされていないゴミが積み上がっているのみである。

 

「ちゃんと()()()かい?」

「まぁまぁだな」

「カーッ!キミは優しいなぁ!」

「そーだよ、僕ァ世間ではお優しい人間で通ってんのさ」

「ぼくがキミぐらいの年頃の時は気に入らねぇヤツは念入りにシバいてたってのになァ」

「シバいたじゃねぇだろアンタのは。いつも血ィ出過ぎて死にかけてンじゃねぇか、相手が」

 

くつくつと笑う老人を少年は胡乱そうな顔で見やる。

 

「キミはなんでそんなに大人しいンだろう。

やっぱ外の血入れたからかな?」

「知らねェ」

「ぼくたちはずーっと一族の奴らだけで交わってたからネ。

時たま大人しいヤツも生まれるには生まれるケド…表面上だけだねアレは」

 

気づけば少年は神妙な顔だ。

 

「ぼくたちはずーっとずーっと昔から、こういうイカれたヤツらばっかりだ。

表面上は大人しいヤツらも気に入らないコトがあったら直ぐに手が出る。

そういうわけで嫁も婿も貰い手が出ねぇもんだからヤることヤってぽこじゃかしてたらこのザマだ」

「僕もそうだって?」

「そうだよ。キミだってぼくらの血を継いでる。

気に入らなけりゃあすべて叩き壊す。

自分だけが世界の中心だと思ってる。

自分に指図するヤツが大っ嫌いで、好き勝手やる。

そこらの有象無象に興味なんてない。そうだろ、ナァ?」

「…」

「今は分かんなくたって、いつか分かる時が来るよォ?

だってホラ、キミはぼくの孫なんだから

───()()()()()()()()

 

 

僕の母方の家系は昔からこの治安の悪い場所に住んでおり、ここら辺一帯を統治するボス役となっているらしい。

今は僕の母であるホワイトリリィがすべてを取り仕切っているが、いつかは僕がここを治めることになるのだろう。

 

「いやァ、お久しぶりですねェ(ぼん)

「…こんにちは」

 

道を歩いていると母方の血縁者に出会う───血塗れの、という注釈がつくが。普段は大人しい人なんだけどな、この人。

どうにも、母方の家系は凄まじいまでの気性難か、表面上は穏やかだが一度気に食わないことを仕出かされるとバーサーカー化して止まらないという二種類の人間しかいないのだ。

まぁ元々治安が悪いここに住んでいる者たちでコミュニティを作った結果の集団だからさもありなんというわけだが。

そんな血筋の中で、僕だけが外からの血縁を持ち込んで生まれた子どもだった。

今のところ、一族の中でもいちばん下の子である僕はみんなから可愛がられている。けれど、

 

「…げっ、『白の愛し子』だ」

 

……遠巻きにされるのはちょっとキツいンだよなぁ。





僕:
シルバーバレット。『白の一族』の寵児。
(それなりに)大人しい性格。
でも親しい人や生まれをバカにされたら(一族の教え通りに)実力行使に出るぞ!
ちゃんと一発もらってから『正当防衛!』と叫んで実力行使するからヘーキヘーキ。


終わりの始まり(せんぞがえり)】:
ホワイトバック。僕の母父。顔に傷痕有の目がイっている芦毛。いつも拘束衣・口籠着用。もしかしたら目隠しも着用しているかもしれない。
戦法はノーモーションの見敵必殺(サーチアンドデストロイ)(ガチ)。ナチュラルボーン暴の者。

実はホワイト系列でいちばんヤバかった御方。もちろん未出走馬。
ホワイト系列のヤベェところが全ツッパされた存在。
常に口籠を着けられてるわ、目に入った動く物すべて(仲間であるホワイト系列の馬は除く)を弄ぶ()わ、柵を軽々と蹴破ってはヒトミミに襲いかかってくるわ…etc.だったウッマ。
その気性の荒さは牧場のヒトミミをもガチ恐れさせ『はよタヒね…!』とすら願われていたがそれを嘲笑うかのようにフツーに30歳くらいまで生きた。
最期の最後まで狂気マシマシの唯我独尊なウッマだったが自分の娘であるホワイトリリィだけは唯一ベッタンベッタンに可愛がっていた模様。
なのでリリィの子である僕・フォーチュン・スクラッパにダダ甘なおじいちゃん。
というわけで、もし、万が一、億が一、生産牧場が僕に行った所業を知った場合には…怖〜。

…だがそれはそれとして、僕の活躍を見ては嬉しそうに愉しそうに狂ったように大爆笑しているらしい。

イメソンはBlack Gryph0n & Baasik さんの『INSANE(A Hazbin Hotel Song) 』(和訳:『地獄へようこそ』)。
まぁ、『白の一族』全体のイメソンといっても過言ではないですが。


『白の一族』(またの名を『狂血の一族』):
実質スラム街な古い地区を取り仕切る、名に『ホワイト』を持つ一族。
構成員が構成員過ぎて地区の人間からは実質ヤ……と言われている。
手を出してはいけない一族。敵でも味方でも恐ろしいヤツら。
8割がパッと見でヤバい奴、あとの2割が大人しめに見えてヤバい奴で構成されている。
ちな一族の全員が全員多かれ少なかれ他人に執着される(タチ)であるとのこと。

という事情があるため、ヒカルイマイさん(以下ヒカルさん)は実質ヤ…の愛娘にベタ惚れされたみたいなもんだという…。
でも満更でもないんだな、それが。
基本ホワイトリリィの言うこと・成すことに従っているヒカルさん(かかあ天下ともいう)だし、ホワイトリリィがベタ惚れしているように見えてヒカルさんもベタ惚れしてらっしゃるので…。


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成人式


元性別軸での一幕。

銀弾、シルバフォーチュン、戦う者の三人で白の一族謹製の礼装(純白)を着て周りから『白ッ!』『まぶしッ!』と思われる回はある。絶対ある。あるよね…?



ついには僕も成人式です。

 

「来たぞー」

「来たって、なにが?」

「お前の礼装」

「へ!?」

 

…なんて会話をしたのも今となっては懐かしい。

いや、まさか母方から礼装が仕立てられてやってくるなんて思わないよね。

しかも『白の一族』って他称に合わせた純白の着物だし。

純白っていってもめちゃくちゃ凝った刺繍がされてるし。

 

「あ〜似合ってる似合ってる」

「兄さんかっこいい!」

「銀箔まで押してやがんのか…」

 

総額何円なんだろ…という着物を纏いながら成人式当日ということで家族写真を撮る。

もちろん家族写真を撮っているのは朝早くから駆けつけてくれた先生(ガチのカメラ装備)である。

 

「ありがとうございます、先生」

「いやいや。…それにしても」

「はい?」

「よく似合ってるよ、バレット」

「……はぁ」

 

先生に褒められるのは、…ちょっと照れるな。

 

 

「やぁ、シルバー!」

「……っと。やぁ、ミスター。元気そうだね」

 

細心の注意をもってトレセン学園の方へおもむくと顔なじみのミスターシービーと出会った。

どうやら既に引退した同期のメンバーで一緒に挨拶に来ていたらしい。

 

「シルバーはまだ現役続けるの?」

「…うん。できるところまではやろうと思ってる」

「……そっか」

 

そんな話をしていると顔なじみがワラワラ集まってきて「せっかく成人したんだから飲みに行こうぜー」なんて。

 

「僕、明日からもトレーニングあるから、軽めで頼むよ…」

 

この人数の酔っぱらいの世話は、さすがにキツいだろって。

 

 

それからずっと経ったあと。

子どもたちが成人した。

母方の方は僕の子どもたち全員に礼装を作ってくれようとしたが、必死に説得して止めさせた。

だってあの礼装、大人になってから知ったお値段に目が飛び出るかと思ったし…。

あの値段のものをそう何着も持っていられないということで…、

 

「今年はこのふたりね〜」

 

男女一着ずつで着物を誂えてもらった。

で、現役時代の競走成績etc.を省みてその年、その着物を着る子を選ぶことにしたのである。

実質年度代表バ制度みたいなもん。

 

「じゃ、ハイセイコ。ガールは行ってらっしゃい」

 

そういうわけで栄えある第一回はシロガネハイセイコとシロガネガールのふたりだ。

ハイセイコは僕が着付けして…、ガールの方はリリィに着付けしてもらうように頼んであるし。

 

「いや〜似合うね、ハイセイコ」

「そ、そうですか…?」

「…でも男女ふたつとも僕の礼装とほぼ同じデザインにしてもらったからなぁ……、ちょっと古臭いかも?」

「い、いや、そんなことないです!」

「そう…?」

 

それはそれとして、…この着物をお披露目したら目に見えて成人前の子どもたちの目がギラついた気がしたのだけど…気の所為?





僕:
シルバーバレット。成人式の時はまだ現役。
成人の折に、母方からぶっ倒れそうなほど高価な礼装(白の紋付羽織袴)が届いて『ヒェッ』となった。
それはそれとして父親になってからは男女一着ずつを母方に頼んで、自分の礼装に似せたデザインの白の着物を作ってもらった。
それから子どもたちが成人するたびに年度代表バ的なアレで男女ひとりずつ、その着物を着る人を決めているらしい。
なおその着物を持ち出してから子どもたちのやる気が今まで以上にアップしたとか…?


礼装:
全身真っ白な着物。『白の一族』謹製。
遠目から見たら『白ッ!』と思うだけの着物だが近づいて見てみるとめちゃくちゃ凝った刺繍やらが施されていて『うわっ…』となる代物。
ちな僕とシルバフォーチュンの着物は、名前に【シルバー】が入っていることから遊び心として特別に銀の箔押しが施されている。
そしてその箔押しは、後の【シロガネ】のために誂えられた着物の方にも…。


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『世界』を、欺け。


ちょっとしっとりヒカルイマイさんも見たいな…って。



 

『親より先に…ッ、死ぬ奴があるかァ…ッ!』

 

そう叫んだ記憶が、今も色濃く残っている。

 

「っリリィ!」

「よォ」

 

()()でも妻となったホワイトリリィの手の中には小さな小さな赤子が。

すやすやと眠るその子は今もなお記憶に残る"アイツ"と同じ髪色で、

 

「ソイツが、か…」

「あァ、そうだ。コイツが…」

 

"███████"。

赤子の名を、"彼"の名を呼ぶ声が重なる。

あぁ、嗚呼…、

 

「「…今度こそ、俺たちが守ってやるからな」」

 

 

僕の家族はみんな優しいです。

お父さんとお母さんと妹と弟。

歳が近い妹とも喧嘩したことなんてないし、幼い弟はとっても可愛い。

けれど、

 

「…チビ」

「ぁ、ひ、ヒカル…」

「外に出るなって、言ったろ」

 

家族はみんな、僕が外に出ることを許してくれません。

僕はウマですからいつも走りたくてたまらないのですが、みんなはそれを許してくれないのです。

そしていつも同じことを言います。

 

『お前は、脚が弱いから』

 

そう言って、僕を止めるのです。

その目があまりにも真剣なものですから僕はいつも、最後の最後で脚を踏み出せないままで、今までを生きてきています。

 

「兄さん、ただいま」

「あぁ、帰ってきてたんだね」

 

家の中に入るとちょうど妹であるシルバフォーチュンが帰ってきたところでした。

彼女は、今現在トレセン学園に通っています。

友だちもたくさんでき、頑張っているようで、こうして休みになるたびに家族に報告しに帰ってきてくれるのです。

 

「ねぇ、兄さん」

「どうしたんだい?」

 

父と母は、今ふにゃふにゃと泣いている弟の世話をしているのでここにいません。

僕と妹のふたりで食器を洗って片しているところです。

 

「…走って、ないよね?」

「…?あぁ、うん。走ってないよ」

「そう」

 

妹の態度が言外に「よかった」と告げていました。

その姿を見た僕はぼんやりと思考します。

 

(…なぜ、僕は)

 

父も母も、妹も、僕が外に出ることを許しません。

なので僕は学校すらろくに行ったことがなく、ずっと、父と母が言うように生きています。

今は何とか通信制に通わせてもらっていますが、

 

「チビ」

「…なぁに、ヒカル」

「…いや、ちょっと来てくれないか?」

「はい」

 

これは父の昔からの癖です。

妹のことは抱きしめないくせに(まぁ性差というのもあるのでしょうが)僕のことはよく抱きしめるのです。

 

「チビ…」

「ヒカル…?」

「ずっと傍にいるよな?」

「…はい」

「そうだよなぁ、俺とリリィの息子なんだからなぁ」

「……、」

「父ちゃんがお前のこと、ずーっとずーっと…守ってやるからな…」

 

父が僕にそう言います。

その言葉に僕は、

 

「……うん、ありがとう」

 

そう答えるしか、なくて…。

 





僕の家族:
史実の記憶有り。
僕を守るために何がなんでもする所存。
ちな学園生のシルバフォーチュンは皇帝やらCBやらに"とある存在"についてよく詰問されているが知らぬ存ぜぬで通している。

学園組:
いるはずだけどいない存在を探している。
その中でもいちばん勢力が強いのは銀の名称を冠する生徒たちである…らしい。

僕:
そもそも戸籍すら提出されてない存在。
そこにいるけどいない。
家族(父母)からは便宜上『チビ』と呼ばれている。弟妹からは『兄さん』『兄ちゃん』呼び。
家庭内学習で同年代と同じかそれ以上の学力を保てる程度には頭がいい。
家族が大好きで家族のいうことはなんでも信じている。
実質ラプンツェル状態。
生まれてこの方外出したことがないので非常にフィジカルが弱い。
仕方なく外に出なくちゃならなくなった時は父であるヒカルイマイに背負われている模様。
どうやらハルウララの熱心なファンらしい。


ハルウララ:
『ぼく』さんのこと?
『ぼく』さんはね、ウララがデビューしたときから熱心にお手紙送ってきてくれる人なの!
とってもあたたかいお手紙を書いてくれる人でね、『あなたの走りを見ると自分も走っているような心地になって楽しい』っていつも言ってくれるんだ!
それで今度有記念に出るって書いて送ったらね、応援してるって書いてくれたんだ!
だからウララ頑張らなくちゃいけないの!
えいえい、おー!


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【忘れるな】


突如生えるダークホースェ…。



『なぁ、迷ってるんなら俺らのチームに来ないか?』

『え…?』

 

そう僕を誘ってくれたのはリーダーだった。

名を"ゴーアヘッドユー"。

『重賞に出走できたら御の字の弱小チームだけど…』と申し訳なさそうに言われたが、その時の僕にとって、その申し出は喉から手が出るほどの救いの手であった。

 

『チーム:アルデバラン、歓迎するぜ?』

 

 

チーム:アルデバランに入って、僕には仲のいいウマがたくさんできた。

そのすべてが先輩だったりするのはたまにキズだったけど。

 

『バレットちゃん、一緒に併走しましょ!』

『いいや、俺とだね!』

『フンフン!』

『え、ええと…』

 

特に仲のいい三人-上からウィッシュラック先輩、ゲットオーヴァー先輩、ハングインゼアー先輩各々に併走を求められて困っていると、その日も出された助け舟。

 

『バレットが困ってるだろ』

『あ、リーダー』

『そもそも併走の相手は元から決まってるんだし。ほら行った行った』

『リーダーだけズルいわよ!ずーっとバレットちゃんと併走して!!』

『厳正で公平なトレーナーの判断だから俺には決定権ありませーん。はやく行かないと相手、待たせてんぞ』

『…もー!!』

 

ブーブー言いながら走っていく三人を見送ったあと、『じゃ、行こうか』と促される。

その大人っぽい姿に心臓が高鳴れば、

 

『ん、どうした?熱でもあるか?』

『ヒョエッ』

 

デコとデコを合わせる形になり、飛んで退く。

 

『だ、大丈夫です!体調管理はちゃんとしてます!!』

『そうかそうか。ハハハ』

『…む。からかわないでください!』

『あぁ、ゴメンって。お前が可愛くてつい、な?』

『…もう!』

『あでっ!』

 

ポコッ!とリーダーの胸あたりを叩くと苦笑された。

身長差があるからって子ども扱いして…!

 

『リーダー!』

『ん?』

『ぼ、僕だっていっぱしのウマなんですからね!?子ども扱いしないでください!!』

『…あぁ』

『…ッ?』

 

苦言のつもりだった。

だがその言葉を発した瞬間、リーダーの雰囲気が切り替わったのに堪らず息を飲む。

 

『分かってる。分かってるよ、バレット…』

『り、リー、ダー…?』

『ただ…俺は、』

 

お前が可愛いだけなんだ。

 

『だから、許して?』

 

 

『ホントに、リーダーってバレットのこと好きだよね』

『私たちだってそうですけど!?』

『それ以上にッてコトだろ』

 

廊下を歩く三人のウマがそうボヤく。

短髪の元気そうなゲットオーヴァー。

よく手入れされた、美しい髪のウィッシュラック。

マスクをした、目つきの鋭いハングインゼアー。

練習場へ行く道すがらの三人。

その話の議題は、チームのリーダーである"ゴーアヘッドユー"とチームの新人である、とあるウマについてだ。

 

『バレット、素直でかしこくて…もっと関わりたいんだけどなぁ』

『リーダーの牽制が凄まじいです…』

『いや、まさかあのリーダーがねぇ…』

 

チーム:アルデバランのリーダー・"ゴーアヘッドユー"。

その名前は、このトレセン学園において非常に有名で。

何故なら"ゴーアヘッドユー"が、荒くれ者・問題児ばかりが集うチーム:アルデバランを長年統治する…生粋の気性難だからだ。

暴力事件を起こした故の出席停止なんて数しれず…。

そんな、道行けば恐れられ、避けられるウマが笑えるくらい()()()(ツラ)を被って、何も知らない無垢な新入生(こども)を連れ帰ってきたとあれば…。

 

『面白い以外の、何者でもないだろ』

 

 

 

 

 

なんて。

そのような過去も、もう遠く。

 

「なんで、…おいて、いかないで」

 

深夜に飛び起きた子どもが、そう言って泣きじゃくる。

伸ばした手は、届かないままに。

命を以て助け出された人生を生きるしか、許されないように。

 

「やだ、やだよ…りーだー…!」

 

泣きじゃくる。

引き攣った声で。

相変わらず、ヘッタクソな泣き方で。

だが、その【存在】にとっては、その泣き方こそ愛おしくて。

 

【ああ、嗚呼…可愛そうなバレット!】

 

笑う【存在】を、子ども(生者)は知覚できない。

けど、それでよかった。

 

【俺のコトを忘れるな】

【そして】

 

 

───俺にずっと、囚 わ れ ろ

 

そう、低く、暗くささやいて。

【存在】-"ゴーアヘッドユー"は、

 

【…ホントにかわいいなぁ、お前は】

 

泣きじゃくるシルバーバレット(子ども)を、抱き締めるのだった。





【リーダー】:
ゴーアヘッドユー。史実での灰方厩舎前代のボス馬。
父:エリモジョージの牡馬。
実は灰方厩舎入りした後の僕の世話を全面的に見ていた。
併走も、食事も、コミュニケーションも…何もかも。
そもそもがバリバリに気性の荒い馬であったため、僕と出会ったのちより積極的に僕の世話を見始め、僕の前では良い先輩をしていたのをヒトミミさんたちに驚かれていたらしい。
が、ひとたび僕と引き離すor僕が自分以外の馬と仲良くしているのを見るとキレていた。マジギレ。
何がそんなに彼の琴線に触れたのかは不明だが、彼が僕のことを好意的に見ていたのは確か。
…なお、僕を見てだっち!していたことが多々あったという。

ウマ時では優しく頼りがいのあるリーダー(だと僕は思っている)。
がしかし、僕が他ウマと話しているのを見るとフラッとやって来ては上手い具合に引き剥がしている。
…僕が傍にいないと表情とか目が死んでそう。


ウィッシュラック:
史実での灰方厩舎所属馬。父グリーングラスの牝馬。
白峰おじさんに恋をしていた…?と言われている。し、白峰おじさん、灰方さん、専属厩務員さん以外にはバカ塩対応だった。
ウマ時では基本丁寧口調。身だしなみによく気を使う性格で散髪が得意。アピールポイントは美しい髪とのこと。


ゲットオーヴァー:
史実での灰方厩舎所属馬。父テスコボーイの牡馬。
とても元気。逆に元気すぎてヤバかった。人懐っこい性格。
ウマ時でも基本元気印。運動神経はいいが、絆創膏が体に貼られていない日はないくらいちょこちょこ擦り傷を作っている。毎日が元気っ子なウッマ。


ハングインゼアー:
史実での灰方厩舎所属馬。父カブラヤオーの牡馬。
噛みグセ有り。気に食わなければ即噛むウッマだった。
ウマ時では常時マスク着用で、目つきが鋭い。
僕の前限定で基本『フンフン』言うてるだけで話そうと思えばちゃんと話せる。
僕のことを小動物みたく思っており、機会があれば可愛がりたいな〜と思っている様子。



僕:
シルバーバレット。
【リーダー】のことをとても慕っていた。
基本灰方厩舎のお馬さんたちのことを慕っていたがその中でも【リーダー】をトップクラスに慕っていた。
ちな傍から見ると【リーダー】と夫婦のように見えていたりしたかも…?
でもまぁ、最終的に【リーダー】等様々なチーム:アルデバランメンバー(灰方厩舎面子)にサバイバーズギルトを刻まれるんですけどね(火事)!


激重感情勢(CB&皇帝):
語られることはないが、僕の心の内に刻み込まれた【誰か】がいることを理解している。
自分を見てもらいたいと思っているが、悪手(じらい)を踏んだら僕が発狂しちゃうので…。
頑張ろうね!



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*崇拝と執着と


ぜっっっってぇ仲悪いわ、コイツら…(小並感)。



「あっ、マス太マス太〜!」

「ん、どうしたのバレット」

 

まだ真新しい制服を着た新入生ふたりが話している。

 

「僕、入るチーム決まったんだ〜!」

「え!?そうなの?よかったね。…で、どのチーム?」

「えっとね…、()()()()()()ってところ!」

「は?」

「ゴーアヘッドユーって先輩がね、誘ってくれたんだ!」

「は?(再放送)」

 

ニコニコと、安心したように微笑む相手をシルバマスタピースは唖然とした顔で見やる。

昔から危なっかしい子だと思っていたがまさかここまでとは。

チーム:アルデバランがどんなところか知らないのか?

…いや、知らないだろうなバレットのことだし。

騙されたんじゃなかろうか、騙されているのなら自分が救い出してやればいい…と同行してみれば、

 

「リーダー!」

「ん、どうしたバレット」

 

完全に『慕っています!』という顔で自分以外に笑いかけるバレットの姿。

それにギリっ、と唇を噛んでもこっちを見てはくれなくて、ただ奪い去っていったゴーアヘッドユー(ヤツ)だけが勝ち誇ったように笑っている。

 

「ごめんなァ、クソガキ。突然横からかっさらっていってw」

「…自覚あるなら返せよ、このドブ野郎が」

「うわ、こっわ!そっちが素かよ」

「アンタだってそうだろうが」

 

許せなかった。

バレットがはじめて認識した相手は僕だったのに。

僕だけに笑いかけてくれる"()()()()"だったはずなのに。

それを、コイツが引き摺りおろした。

バレットの目に宿るのはただただ純粋な尊敬の目。

なんで。

なんでなんでなんで!?

キミは"()()()()"のはずなんだ!

僕の、僕だけの"()()()()"なのに!!

 

「へェ…、お前そんな風にあの子のコト思ってんの?そりゃあいいこと聞いたわ」

「あ゛?」

「他人の"かみさま"奪うなんて腕がなるだろ?」

 

瞬間、胸ぐらを掴む。

それでも余裕綽々に笑っている姿に拳を叩き入れようかとも思ったがやめておいた。

そんなのしたらバレットに嫌われるし。

 

「バカ(ぢから)め…」

「バレットに感謝してくださいね」

「へいへい」

 

がしかし、目の前の存在の目の色は変わらない。

 

「お前さぁ、良家のウマなんだから欲しいもんは何でももらえんだろ?ならいいじゃねぇか。アイツひとりくれても」

「俺はアイツにずっと傍にいてほしい。この俺に屈託なく笑ってくれたアイツに」

「アイツがいれば、俺は救われるんだ。"かみさま"なんて高尚なモンにしてやるかよ。なっても()()()()()()だ」

 

睨み合う。

お互い、譲れないもののために。

だから、

 

「「お前にだけは、くれてやらない」」

 

 

【なんて話も、あったなぁ…】

 

くつくつとした笑い声。

それが届いているのは、鋭く睨みつけてくるひとりのみ。

本当にこの声が届いて欲しい相手には届かない。

あぁ…、なんてむごいこと!

 

【うおっ!?】

「…マス太?」

「……いや、そこを()()が舞ってたから」

「そう…?」

【…塵芥(ゴミ)だなんて、ヒデェ言い草でやんの】

 

ふわふわと浮いている【存在】を睨みつけても、変わらない。

それが分かっている【存在】はニヨニヨと笑いながら、今も泣き続ける相手の肩に抱き着いた。

 

【はは…、泣き顔も可愛いなぁバレット…】

「…っ゛、ずび、……げほっ、…う゛ぅ、」

 

 

「…とっとと成仏すればいいのに」

【やなこった!】





ベクトルは違うけど同類であるが故に仲が悪い。

マス太:
幼なじみの僕を神格化している。
ずーっと自分だけに向けられていた笑顔が【リーダー】にも向けられ始めて…?
【リーダー】のことを排除したいくらいには大嫌い。
僕から"かみさま"を奪うな…!
そして幽霊となっても僕の傍にいる【リーダー】にとっとと成仏しろやクソ…と思っている。
なお【リーダー】との犬猿の仲は史実からの模様。

【リーダー】:
ゴーアヘッドユー。チーム:アルデバランの前代リーダー。
バカ気性難だが僕の前では優しい先輩を演じていた。
優しくすればするほど優しさを返してくれる僕にどっぷり依存している。ので、マス太から僕を奪いたい。
"かみさま"なんて高尚なモンにさせるかよ。
コイツは俺だけを見て、話して、笑ってればいいんだ…。
でもそれって実質"かみさま"みたいなものでは…?
タヒ後は僕に引っ憑いてニコニコしている。
良かったァ、俺コイツに一生覚えててもらえるわ…(恍惚)。
なおマス太との犬猿の仲は史実からの模様。

僕:
シルバーバレット。何も知らない。
逆にマス太と【リーダー】は仲がいいなぁ…()とすら思ってそう。
優しくしたら優しさを返してくれるし、酷くしたら酷いことが返ってくる因果応報型のウマ。実質鏡みたいな。
ウマふたりに知らぬ間に執着されてるけど最終的に勝つのは白峰おじさん(あのヒトミミ)なんで…みたいなところがある。
そういうとこやぞ。


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◆動物好き


動物に集られる銀弾は可愛い(確信)



猫さんが好きだ。

 

「にゃーん、にゃーん」

 

お小遣いで買ったチュールを手に野良猫さんを誘惑する。

もふもふ、ふかふか、もふもふ…。

至福…!と自分でも分かるくらい蕩けた顔をしていると、

 

「「あ…」」

「な…!」

 

ミスターとルドルフにその場面を見られてしまっていた。

ガッと立ち上がり「忘れろ!忘れて!」と言いながら全力疾走で追いかける。

二人が手にしっかりスマホ持ってたの見逃してないからな!

 

「お゛ぉん…」

「教育テレビでこんな声出すマスコットいなかったっけ?」

「さぁ?」

 

捕まえたはいいものの、もうそのころにはネットに蕩けていた僕の画像が挙げられていて。

思わずorzの体勢になる僕なのであった。

 

「猫、お好きなんですね」

「うん…」

「また猫カフェ行こうよ?私の奢りでいいから、ね?」

「…言ったな?」

 

 

「サンデーは猫さん好き?」

「…まぁまぁ」

 

今日も猫さんを愛でる僕である。

猫さんに囲まれ、今にも猫布団に覆われそうな僕にマブダチのサンデーサイレンスはもはや呆れ顔の状態だ。

ももももも…と猫さんに乗っかられていく僕を引きずり出すサンデー。

残念そうな声を出す猫さんをサンデーが「シッシッ」と追い払う。

あぁ、猫さん…。

 

「なんでお前あんなに猫に囲まれるんだ」

「わかんにゃい。現役引退してからああなんだよね、よく分かんないんだけど」

 

現役だった頃は猫さんに囲まれ猫布団なんてことはなかったのに、引退してからは猫さんに囲まれるようになったのは自分でも不思議に思っている。

行方不明になっていた猫さんが僕の家に遊びに来て捕獲なんてよくあることで、僕の家はある意味猫屋敷のようなものに…。

 

「猫さん好きだから嬉しいけどね」

 

 

引退後、猫さん以外にも動物に好かれるようになった僕である。

ワンちゃんやらカラスさんやら、変わりどころではヤギさん、ヒツジさんやら…。

どこかに行くたびに動物さんたちに絡まれてしまう。

大量の彼らに囲まれてしまえばたちまち攫われかけてしまったことも多々あったので、一緒に遊びに行った友人たちが必死で僕を追いかけてきていた。ホンマすまんかった。

 

「おはようございます先輩。…今日は猫さんですか?」

「そうそう」

 

その内、僕の肩に仲良くなった動物さんたちが鎮座するようになって、その状態が名物と化した。

後輩がいうには今日はどの動物が僕の肩に乗っているかという賭けをしていたりする人たちもいるらしい。

 

「今日はタマさんだねぇ」

「にゃあん」

 

かわゆいかわゆいタマさんを撫でながら、今日も僕はトレーニングへと赴くのだった。

 





僕:
シルバーバレット。
史実からなぜか動物に好かれやすかったウッマ。
猫さんやらイッヌやらカラスさんやらその他さまざまな動物と一緒に写っている写真が牧場の資料館()に多々残っている。
また牧場の人いわく、僕の馬房にいろいろな動物が住み着いている…という事態がよくあったそうで、過去には気付かぬ内にどこからかやって来た野良猫さん(後に牧場の飼い猫となる)が出産していたこともあったらしい。
…なんか光景がブレーメンの音楽隊か、ハーメルンの笛吹き男みたいだなぁ。


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"魔性の女"

銀弾♀√で"先輩"との話。
たぶん銀弾♀のそういった部分はリリィゆずりだと思われる。

【追記】
誤字修正しました。
ありがとうございます。


「先輩、お久しぶりです」

 

その日、俺の前にそう言って現れたのはかつての後輩であり、今となっては押しも押されぬ大名バとなったシルバーバレットであった。

最近、何とかなってきた暮らしの中で唐突に現れた彼女に俺は目を瞬かせ、そんな俺に彼女はニコリと笑う。

 

「…お前、どうして俺のところに」

 

彼女が俺の元へ来た理由は遠に分かりきっていた。

だが困惑してしまう。

なぜ、俺のところに、と。

 

「なんと言えばいいですか?」

「…」

 

困ったような顔をされる。

…その顔には、あのころから弱いのだが。

 

「まぁ、上がれよ。粗茶ぐらいなら淹れてやる」

「ありがとうございます」

 

俺-ヒカリデユールと彼女-シルバーバレットは一時期在学期間が被っていた。

今となっては彼女の活躍によりマシになったが、あのころは"サラ系"と言うだけで…。

 

「ヒカリさん?」

「っ、あぁ」

「そのままじゃあ零れますよ」

「…あぁ、悪い」

 

溢れそうになった湯呑みは自分の方に引き寄せて、綺麗につげた方を彼女に渡す。

「ボロアパートですまないな」と謝りながらも「むかし住んでた家の方がひどいので気にしませんよ」なんて。

 

「ヒカリさん?」

「…その呼び方さぁ、」

「だってもう学生じゃないなって思いまして」

 

可愛がっていた少女に、まるで……のように言われて背がムズムズする。

あのころ、チームに入るまで孤独だった彼女を世話して、守っていたのは同胞である俺であった。

何度も何度も、門を叩いては突き返される日々を繰り返し落ち込んでいた彼女を支えていたのは、俺だった。

 

「まぁ、なんだ」

「はい?」

「…楽しかったか?」

「……はい!」

 

花がほころぶように笑えるようになった彼女にホッと息をつく。と同時にチリ…、と胸が痛む。

彼女が幸せになれて嬉しい、と思うのと同時にあのころの彼女の薄暗い、諦めきった笑みが脳内に浮かぶ。

……あのころのお前なら、俺だけを、

 

「…」

「ヒカリさん?」

 

ハッ、と自嘲する。

そんなこと考えてももう過ぎたことじゃないか。

もうお前は光の方へ見出されて、暗い()()から足抜けしていった。

俺とは、何もかもが、違うだろうに。

 

「お前は、俺をどうしたい」

 

ぐじゃぐじゃの思考で目の前の女に問いかける。

そう問われた女はニコリと笑うと言い放つ。

 

「ターフに、戻ってきて欲しいです。───父として」

 

……残酷だなぁ、と思った。

今まで結果なんて出なかったのに。

お前は、それを俺に望むのか、と。

けれど、

 

「…とんだ魔性の女だな」

 

その手を取ってしまったのも、また事実で…。





ヒカリデユール:
私が相手した中で唯一の歳上。また私と同じく"サラ系"である。
この作中世界ではシルバーバレット(牡牝問わず)の活躍があったため救われている。
実はどの世界であってもチーム:アルデバランに入るまでのシルバーバレットを世話していた先輩ポジだったウッマ。
後輩であり同類にあたるシルバーバレットのことを可愛がりつつもちょっと鬱屈した感情を持っている。

ちゃんとこの方もこの方でシルバーバレットに情緒をグチャグチャにされているので、『信頼されている先輩』の立場をアドバンテージに激重感情レースに参加している。
CB&皇帝が争っているところを漁夫の利していきそう。

シルバーバレット︎︎♀軸では彼女との間にヴィンチェロー(1995年産牝)を成す。黄金世代だぁ…。
なおヴィンチェローの主な勝ち鞍は有馬記念(1998)、香港カップ(1999)の模様。
名の元になったのは歌劇『トゥーランドット』のアリア「誰も寝てはならぬ」の歌詞よりVincerò。
言葉の意味は『私は勝つ』。
そして Vincerò(その名)を体現していく競走馬となる。


私:
先輩であるヒカリデユールのことを慕っている。し、"サラ系(同類)"のよしみとして血を残しに来た。
たぶん言ってないけどジュニアクラス時代にヒカリデユールの走りに勇気づけられている。
それはそれとしてCB&皇帝が喧嘩()している時は大体ヒカリデユールの元へ避難している。


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"あなた"のことを


写真話譚。




今度トレセン学園に入学する弟を連れて、祖父の家を掃除しにきた。

祖父は、基本何をしているウマか分からないが結構な資産家であるらしくその分家屋が大きく所有物も膨大だ。

そのため時折は誰かが掃除やら整理やらをしに行かねばならず、というわけで今回白羽の矢が立ったのが私たち姉弟…と。

 

「姉さん、どうすればいいのかな」

「とりあえず要らなさそうなものを避けとけばいいみたいよ、スーちゃん」

「はぁい」

 

弟である"スーちゃん"-サンデースクラッパが黙々と整理し始めたのを後目に、携帯が鳴ったので一時離脱する。

 

「はい。あ、リリィ?うん、うん…分かった。帰りに買ってくるね」

 

電話をとると相手は母であるホワイトリリィで、どうやら料理に使う食材で足りないものがある…とのこと。

それに買って帰ると返答して、スーちゃんのいる方へと戻った。

すると、

 

「…スーちゃん?」

「!…な、なぁに、姉さん?」

 

なにかの紙片に、目を奪われていた弟。

声をかけると慌てたようにポケットに紙片を突っ込んだ彼を、私は一時、見逃した。

はやく整理を終わらせて、そのあと聞けばいいだろうと。

だが、あれこれ整理をしているうちにそんな思考はどこかへ行ってしまうもので、件の紙片について思い出したのは家に帰りついたあとだった。

それも、

 

「ねぇ、姉さん」

「なぁに?」

「このヒトって、誰?」

 

夕食を食べ終わったあと、皿洗いをするリリィに聞かれないようにそうっと告げられた質問。

その手の中にある紙片には…、

 

「さ、ぁ?知らないわ」

「そう…?」

 

紙片は、写真だった。

全部捨てたと、捨てられたと思っていた、写真だった。

写真の中にいるのは、嬉しそうに笑うまだ歳若い…。

 

「姉さん?」

 

心配そうな弟の声にハッ、と意識を現実に引き戻す。

そして自分でも誤魔化しているとしか思えない声音で「さ。お風呂が沸いているから入ってきなさい」と背中を押した。

 

「え?まだ早くないかなぁ?」

「でも、今日遠出したから疲れたでしょう?」

「…うん」

 

 

祖父の家の整理で、見つけたその写真に僕は視線を囚われた。

穏やかに笑う、火傷顔のそのヒト。

よくよく見て芦毛だと分かるその髪色に、よく青鹿毛と間違えられる僕は親近感を覚えて。

わけも分からないくらい惹かれた。

勝手に持ち帰っては駄目だと分かっていながらも、写真を持って帰ってきてしまうくらいに。

 

「スー!」

「なぁにー?」

「出ていく前に仏壇ー!!」

「はーい!!」

 

あぁ、忘れていた。

外に出る前に挨拶して行かなくちゃあ。

 

「じゃあ"兄さん"、行ってくるね!」

 

それにしても、写真のヒトって何だか、"兄さん"に似ている気が…?

 

 

…あの子は気づいていない。

だって、あのヒトがいたころは、

 

『…大きくなりなよ、スー』

 

命の宿ったリリィの腹を優しく撫でるあのヒト。

やわらかに微笑むたびに、顔に焼き付いた火傷跡がゆるく歪んでいたのを、今も覚えている。

 

『待ってるからな…』

 

 

「…兄さん」

 

仏壇に飾られている、写真を見る。

この家に残っていた兄の写真は、火傷を負う前のものばかりだったから。

サンデースクラッパ(あの子)は何も知らないの。

 

「私だけが、知ってるの」

 





【戦う者】:
サンデースクラッパ。何も知らない。青鹿毛だと思ったら芦毛だったウッマ。
祖父(ホワイトバック)の家で見つけた写真に写るヒトに目を惹かれた。
何故かは分からないけど写真を無断で持って帰ってきてしまうくらいには惹かれてしまっている。

【戦う者】の姉:
シルバフォーチュン。すべてを知っている。
祖父の家にあったという写真に一時停止した。
すべて捨てたはずだった、唯一、残っていたのがあの写真だったはずだ。
…けど、写真が残っていてホッとしてもいる。


写真の主:
お兄ちゃん。顔に火傷がある。
よくよく見て芦毛と分かる毛色だった。
妹であるシルバフォーチュンのことを大事にしていたし、当時ホワイトリリィのお腹にいた弟のことを、とても楽しみにしていたという。


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◆七不思議は、今日もしれない


──ねぇ、『七不思議』って知ってる?



基本的に何かを仕出かす時、彼女たちを先導するのはミスターシービーだった。

だからその日もミスターシービーが発端でトレセン学園の七不思議を試してみようという話になったのだ。

 

トレセン学園の七不思議はありふれた、よくある内容だ。

 

1.特別棟の西階段は夕方になると13階段になる。

2.朝方にプールで泳いでいると足を引っ張られる。

3.美術室には呪われた絵がある。

4.保健室のベッドには幽霊が休んでいる。

5.夜にグラウンドに行くと首のないウマ娘が走っている。

6.3階のトイレの4番目の個室からすすり泣く声が聞こえることがある。

 

「…あれ?7番目は?」

 

そう、不思議そうに問うミスターシービーの言葉に返答を返すものはいない。

誰も七不思議の7番目を知らないからだ。

「聞いたことがない」と口々に話す友人たちに、「知らないなら仕方ないか」と諦めるミスターシービーだったが、

 

「じゃあ、行けるところだけ行こうか!」

 

彼女は一度コレと決めたら頑固なところがあった。

 

 

七不思議の2番目と5番目は除外になった。

2番目の「朝方にプールで泳いでいると足を引っ張られる」という話は友人のうちの一人が「一度朝からプールで泳いでいた時期があったがそんなこと一度もなかった」という話でナシになり、5番目の「夜にグラウンドに行くと首のないウマ娘が走っている」という話は時間的に試すのは無理だろうということになったのだ。

 

七不思議1番目。

 

「階段、いつも通りだねぇ…」

 

七不思議3番目。

 

「呪いの絵ってそもそもどこにあるんだ?」

「さぁ?知らない」

 

七不思議4番目。

 

「誰もいないね」

 

七不思議6番目。

 

「ここも誰もいない」

 

結局、七不思議を試してみても何も起こらなかった。

「なぁんだ」と誰もがため息を吐き、静寂な空気に包まれていたその時、電話のコール音が鳴る。

 

「あれ?珍しいねシルバーが電話かけてくるなんて」

 

音の出処はミスターシービーの携帯で、電話の相手はクラスメイトのシルバーバレットらしい。

 

「何してるって…、ナニモシテナイヨ?

シルバーが心配することはナインジャナイカナ〜!」

 

ダラダラと汗をかきながら裏返った声で返答するミスターシービーに「いやそれで何もないは無理があるだろ」と思うそれ以外。

「分かった、帰るよ」との言葉を最後に電話は切れた。

 

「…帰ろっか」

 

そんなミスターシービーの姿を見て、七不思議試しに付き合った彼女たちは「またこんなことがあったらシルバーバレットに言えばいいのだな」とひとつ学習するのだった。

 

 

「やぁ」

 

誰もいない階段の踊り場の大きな、でも少しだけ欠けた姿見の前でシルバーバレットがたたずむ。

 

「いい子で、何よりだ」

 

そう言ってシルバーバレットが触れた姿見には誰も映っていない。

いるはずのシルバーバレットの姿が。

 

「…また、僕にしたみたいに鏡の中に引きずり込もうとしたら」

 

 

今度は割るじゃすまないからな?

 

 

シルバーバレットが凄んだ瞬間、ぶるりと鏡面が震えたような…。

 

「あ、他の奴らにも言い含めといてね。

え、できない?

なにふざけたこと言ってるの?

キミは七不思議の7番目 『成り代わる鏡』だろ?

七不思議のボス張ってんだからさぁ、頑張れよ。な?」

 

ニッコリと笑うシルバーバレット。

瞬きを数回すると鏡は普通の鏡に戻っていた。





僕:
シルバーバレット(ウマ娘のすがた)。
『ナニカ』が分かるらしい。
とりあえずトレセン学園の『ナニカ』を舎弟に置いている。
もしかするとその『ナニカ』のいずれかと友情を築いていたりする…かもしれない。

姿見さん:
本名称『成り代わる鏡』。
僕に成り代わろうとしたことが一度あるがその時にバチボコにしばかれ鏡面の一部にヒビを入れられた。
そのため僕を恐れている。
ちな、また誰かを引きずり込もうとしたら全割りとのこと。

でも、僕に成り代われたとしてもCB&皇帝や同期たちが『あれ…?なんかいつもと違うな?』と勘づいてくると思うんだよな…。
僕を狙ったのが運の尽きというか…。


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◆人知れずの攻防戦


たぶんこのふたりの争いは先輩~同期ぐらいまでしか入り込めないんじゃなかろうか。
だって後輩は絶対怯えてるでしょ?コレ。



ミスターシービーとシンボリルドルフは僕のことが好きだ。

なお友愛としての好き()だとはじめに言っておく。

 

「おはようシルバー」

「うん、おはようミスター」

「ご飯食べた?」

「いいや、まだ」

「なら一緒に食べに行こう。いいお店を見つけたんだ」

 

ニコニコと楽しげな彼女の誘いを無下にするのも可哀想で、財布の中身を確認してそれくらいは払える金額が入っているのを確認してから了承した。

二人揃ってトレーニングウェアのまま、店に入る。

 

「…!美味しい」

「気に入った?」

「うん。値段も手頃だし、いいね」

「ならよかった」

 

腹ごしらえをすませてからは「一緒にトレーニングしよう」と誘われる。

元は一人でするつもりだったのだけど、…ライバルのトレーニング姿を見ることができるのはなかなかない機会だと思い直し、一緒にトレーニングした。

ミスターが今どんな走りなのか、まぁ本番には今よりブラッシュアップされてるだろうけど作戦を立てる上での材料ができたのでちょっとばかり機嫌が上向きになる僕なのであった。

 

 

「ごめんね、ルドルフ。忙しかったでしょう?」

「いえいえ」

 

夜になって会ったのは友人であり、ライバルであり、現在シンボリ家の若き当主となっているシンボリルドルフだった。

今、僕たちがいるのは雑誌やテレビでよく出ている有名ホテルにあるレストラン。

 

「僕のファンだっていう方からチケットを貰ったはいいけどトレーナーくんは用事があって行けないって言うし、僕自身そういう服を持ってなかったから二つの意味で助かったよ…」

「それならよかったです」

 

僕が今着ている服はルドルフに選んでもらったものだ。

さすがシンボリ家の子だな…と思うくらい選んでもらった服のセンスはいい(でも値段は聞いてない。聞いたらヤバそうだと本能が警鐘を鳴らしたから)。

 

「私も仕事にトレーニングにと最近根を詰めていたものですから、誘ってもらえて嬉しいですよ」

「それならよかった」

 

そんな会話をしたあと、二人で食事を楽しんだ。

楽しんだはいいのだけど…、

 

「酔っちゃった…」

「大丈夫ですか?」

 

店員からのお酒のススメを断ることができず飲んでしまったのだ。

…元からお酒に弱いのに。

 

「フラフラですね。送りましょう」

「…ありがとう、恩に着るよ」

 

足取りがおぼつかない僕を抱えてルドルフが車に乗せてくれた。

どうやら今日のルドルフは車で来ていたらしい。

助手席、フカフカだなぁ…と思いつつ僕は眠りに落ちて、

 

「見知った天井だ…」

 

自分の家の寝室で眠っていた件に対して、ここまでしてくれたルドルフに感謝のメールを送ったのであった。





僕(ンマ娘のすがた):
CB&皇帝のことは普通に友人だと思っている。
なお対CBの場合は誘われる側で、対皇帝の場合は誘う側な模様。
いろいろと危ない橋を渡り続けているがそのたびに神回避しまくっている。
強い(確信)。


CB&皇帝:
互いを出し抜こうとするけれど僕の鈍感具合にすべてを無に帰されている。
にこやかな僕の後ろでゴゴゴゴゴ…とガン飛ばしあっているのをよく周りに目撃されてそう。小並感ならぬ「うわ…(ドン引き)」感。
必死に優しい顔してるみたいだけどその眼光、隠しきれてないゾ。
怖い(確信)。


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"友人"として、笑っている


ま〜たイカリソウ軸だよ!
今回はSS‪√‬です!!



目が覚めると知らない場所にいた。

やっとドリームトロフィーリーグから勇退して、これからトレーナー業だ〜!と楽しみにしていたところだったのにと半ば現実逃避していると聞こえてくる足音。

 

「…サンデー?」

 

見上げるとそこにいたのは何だかいつもより身長が高いマブダチのサンデーサイレンスで…。

 

 

あれから、サンデーの家に連れて行ってもらい僕のいた世界とこの世界の差異を教えてもらった。

僕の世界ではウマはウマ娘だけだけど、この世界ではウマ娘とウマ息子がいて、この世界のサンデーはウマ息子なのだという。

…だから身長高いのか。

 

「…ここに居ていい。時おり子どもが来るかもしれねぇから迷惑かけると思うが」

 

サンデーは行く宛てのない僕を受け入れてくれた。

元の世界ではマブダチだって話したのも効果があったのだろうか、それは分からないが世話になる代わりに家政婦みたいなことをしながら僕はサンデーの家で過ごしはじめた。

 

「あれ?貴女…」

「…ソイツはシロガネって言うんだ。住み込みの家政婦として雇ってる」

 

やっぱりサンデーはマックイーンと仲がいいのだなと微笑ましくなる。

サンデーと一緒に過ごし始めてからの僕は『シロガネ』と名乗れと何度も何度も、耳にタコができそうなほど言い含められた。

それを守って僕はそう名乗っているのだが、

 

「シロガネさんですか…。"銀色の一族"となにか関わりは?」

「…"銀色の一族"?」

 

メジロ家のマックイーンが出す名前なのだから有名な家なのだろうが僕は知らない。

こてりと首を傾げているとサンデーに「洗濯物畳んどいてくれ」と頼まれ奥へと引っ込むことに。

 

「…サンデー、今日は何のご飯がいいかなぁ?」

 

 

シルバーバレットと名乗ったそのウマ娘を見て、サンデーサイレンスは『あ、コレ俺が匿わないとヤバいことになるヤツだ』と一瞬で察した。

 

"シルバーバレット"という名前はトゥインクルシリーズに関わる者なら嫌というほど聞く名前だ。

基本的に他人に興味がないサンデーサイレンスだって知っている名前なのだから、それはよっぽどだろう。

 

日本初の凱旋門賞バ・BCクラシックバ。

芝2400m・2:19.0のワールドレコードホルダー。

そして、期待されていたところに飛行機の墜落で落命した悲運の存在。

 

サンデーサイレンスが"シルバーバレット"について知っているのはそんなところだ。

ならば何故、シルバーバレットの存在がバレたらヤバいと思うのか。

それは『銀色の一族』と呼ばれるウマ娘・ウマ息子の一族に起因する。

"シルバーバレット"の甥であるシルバーチャンプが興した『銀色の一族』が"シルバーバレット"に執着しているのは有名な話である。

自らの体が壊れ、死にかけるのも厭わないほどに"シルバーバレット"に執着しているのは有名な話である。

 

そんな家に、違う世界線とはいえシルバーバレットの存在がバレたら?

 

「どうしたのサンデー?ゲーム、楽しくない?」

「…いや、」

 

きょとんと自分を見つめてくる無垢な瞳に、サンデーサイレンスは友人として彼女が元の世界に帰れるまでその存在を隠し通し、守ることを、いま一度誓うのだった。





僕(ウマ娘のすがた):
また飛んでる。
第一発見者がマブダチ(SS)でよかったね、な娘。
他のヤツらに見つけられてたら…怖〜。
発見された後は元の世界に帰る方法を探しながらSSの家にお手伝いとして居候している。
なお身の安全上の理由で外に出してもらえない模様。
でもマブと一緒にいれるからいっか!しているので問題はない。

マブダチ:
SS(元性別のすがた)。
『運命』が違ってさえすれば自分とマブになっていた存在と出会い…?
とりあえず警戒心諸々がない"僕"を見て元の世界に帰れるまで守り通すことをひっそりと決意した。
真正面から相対しなかったぶん、"僕"に狂わされていないヒト。
だがこれから…?
まぁそうなっても"僕"が信頼を寄せる限り、()()()()元の世界に帰してくれる(マブ)なのですが。


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可能性が、見たかった


──きっといつまでも、刻み、遺される。



幼子に囲まれているのは年老いたウマだ。

男女問わず囲まれては聖徳太子もかくやという勢いで喋りかけられながらも、その年老いたウマはおだやかに話を聞いている。

すると、

 

『ねぇねぇ、じいちゃん!』

『ん〜?』

 

ひとりの、元気のいいウマが声をかけた。

どうやら、この囲む子らは年老いたウマの孫に当たるらしい。

…いや、その中には曾孫も混じってはいるのだが。

 

『じいちゃんさ、むかしスゴいウマだったってホント?』

『ん〜、』

『まっさかぁ!』

『おじいちゃんほけほけしてるもん。そんなワケないよ』

『え〜。でもおれの父ちゃんが()()()()()()っていってたもん!』

 

きゃあきゃあと興奮して話す子どもたち。

嘘だ、嘘じゃないと話が白熱していくのを喧嘩になる前に止める年老いたウマ。

 

『こらこら。いっかい落ち着きなさい』

『だって!』

『キミも言いすぎだよ?』

『う…』

『ごめんなさい、できるかい?』

『……いいすぎた。ごめんなさい』

『…ん』

『いい子だね。ふたりとも』

 

仲直りができたふたりを年老いたウマが撫でる。

それを見て僕も、私もと他の子どもたちが群がってきたところで。

 

『…それにしても。なんでキミのお父さんは僕の話をしてたの?僕とキミのお父さんってそこまで面識が…って、あぁそういうことか』

『そういうこと、って?』

『キミのお父さんが勝ったレースを、僕も勝ったことがあるって話だよ』

『え〜!』

『ホントぉ!?』

『ねぇねぇ、なにのレースにかったの?』

 

子どもたちの目が、興味津々というように光る。

その目を向けられたウマはフッ、と笑うと、

 

『ジャパンカップ、って言うんだ』

『へ〜』

 

子どもたちの反応は大体が同じ。

まぁそれもそうだろう。

まだ、レースの厳しさを知らないから。

走ることが楽しいと、まだ純粋に思える子たちだから。

 

『じいちゃんがかてるくらいなら、おれたちもかてるよな?!』

 

そんなことが言える。

…それを、年老いたウマは訂正しなかった。

今の歳から現実の厳しさを教えても可哀想だと。

そう思ったことも嘘ではなかったが、

 

『…うん、応援してるよ』

 

 

遠いむかしの、夢を見た。

夢に出たのは、遠の昔に亡くなった曾祖父。

曾祖父は、おだやかな笑みを浮かべているのが常のウマだった。

だから過去、彼がすごいウマだったと言われても、「嘘だ」と笑い飛ばして。

でも、

 

「嘘じゃあ、なかったんだよな…」

 

今もなお、燦然と残る芝2400mワールドレコード(記録)を叩き出した。

タイムオーバー制度(規則)を変えたとして、教科書に名が記載されている。

…そんな、没した今も人々の脳に刻み込まれている【存在】。

 

「…バケモノめ」

 

そうボヤいた先には、笑う若き日の、曾祖父のポスター(すがた)があった。





おじいちゃん:
孫&曾孫の脳を焼く。
基本ほけほけしているせいで『過去すごいウマだったんだよ〜』と言っても信じてもらえない。
過去、いろいろと(良い意味で)やらかしまくった結果、教科書とかに名前が載って(残って)いる。あと時事問題の方でも記載がある。

孫&曾孫:
おじいちゃんに脳を焼かれた。焦土。こんがり。
『ほけほけしてるじいちゃんがそんなすごいワケ…』と思っていたらキメられるコンボ(生涯無敗&芝2400mWR&凱旋門賞・BCクラシック制覇&産駒成績)。
なんやあのバケモン…(戦慄)。


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"怪物"は笑う


子どものように、無邪気な顔で。

史実での騎手/調教師をトレーナー/チーフトレーナーと考えている人間です。
んでチームは厩舎として考えている。
(例:過去のチームアルデバラン→チーフトレーナー:灰方、所属トレーナー:白峰…みたいな)



その血筋に連なるウマの、誰もが言う。

 

───自分よりも、あの方の方が"バケモノ"ですよ。

 

自分なんて、とてもとても。

そう言って、謙遜する。

朗らかに笑う者、苦虫を噛み潰したような顔をする者…、それはウマによってさまざまだが、たしかに。

 

───あの方の方が、ずっとすごい。

 

尊敬の眼差しをもって、そのウマのことを、称するのだ。

 

 

「え?そうなんですか?」

 

その話を当の本バにすると、驚いたようにそう返された。

大きな邸宅の、庭に面した部屋での会話である。

ゆるく着流しを纏ったウマは、言われなければその年齢と思えないほど若々しい。

 

「へぇ〜…。僕なんかずっと前のウマですのに、みんな…そっかぁ」

 

茶をずずず…と啜ったウマがしみじみと呟き、置いてあったお茶菓子をつまむ。

 

「キミも食べなよ。というかキミのために用意したんだから」

 

そう促されたのでこちらも口をつける。

…美味しいですね。

 

「あ、そうだろ?先生とふたりで選びに行ったかいあったよ。爺さんふたりでえっちらおっちら珍道中…」

「と、今この話はいいか」

 

こほん、と閑話休題的咳の音がして、

 

「僕が"バケモノ"って…なんか酷いなぁ、みんな」

「でも誉め言葉での"バケモノ"だもんね」

 

ポリポリと頬を掻くそのウマは、少し照れくさそうだ。

もう、仔も孫も、数え切れないほどたくさんいるというのに、その誰もが「このウマを超えられない」と言う。

 

「それにしても、今はいい時代だよね」

 

いい時代?

 

「僕の時はまだ海外遠征に対してのノウハウがなかったからねぇ。それに出るレースも、ね」

 

…もし、

 

「ん?」

 

もし、海外遠征で好きなレースに出られたとしたら、…どのレースに出ますか?

 

「ふぅん」

「なかなか、答えにくい質問を…」

「有名所だったら香港とかドバイかな?」

「香港が現役のとき、出走可能だったらたぶん出てたし」

「あとは…子どもが何度か獲ってるゴールドカップとか?」

 

そして出て、自分か勝てると思います?

 

「…」

「何を当然なことを?」

 

顔をあげたそのウマに、じぃと見つめられて息がつまる。

はく、と自分が呼吸するのに合わせてフッ、とほころぶ口元。

 

「…(ぼか)ァ、無敵の弾丸だぜ?」

「今の子は知らないかもしれないけど」

「出られるんなら」

 

 

───何が相手でも喰らうのみ、だ。

 

 

「あ゛〜、そう言われたら出走したくなってきたなぁ」

「ずっと、気が付かないフリをしてたのに」

 

…やっぱり僕は。

 

「走ることを、"愛している"らしい」

 

くつくつと笑う姿に、やっと心臓が落ち着いて。

その笑顔に、自分は問う。

もし生まれ変わったのなら…?

 

「生まれ変わったら?そりゃあ、もちろん」

 

───相棒と、世界を()()()ひっくり返しに行く。

 

「そうに、決まってるだろ?」





───生まれ変わっても、ふたりで。


【あの方】:
もう年老いて久しい。
けど、闘争心はちゃんとある。
子や孫ができるにつれてレースの選択肢が増えていることを羨ましく思っていた。
……みんな、色んなところに行けていいなぁ。
それはそれとして年老いても(競走に対しての)プライドがお高い。
表面上は穏やかに接しているが一度スイッチを入れられる(煽られる)と『は?誰が来ようとどのレースだろうと僕が勝つが?』モードになる。
(そりゃあ)そうだよね、『運命の相棒』が()()()自分のことを最強って言ってくれるからね。
応えないと、恥ずかしいよね(ニッコリ)。

でもいろいろと(産駒成績とか諸々)手加減しろ
ジジイ!


【あの方】の相棒:
【あの方】とは今も仲良しな元トレーナー現チームアルデバラン・チーフトレーナー。
【あの方】に脳を焼かれた結果、【あの方】が最強なんだ!と言い続けるようになったヒトミミ。
【あの方】と共にあったころに今の技術があったらなぁ…とよく考えてしまう。し、あの時代にこのレースがあったら…ともよく考える。

さすが【あの方】に運命も情緒もぐちゃぐちゃに
されたヒトミミだ、面構えが違う。


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こっち見ろやオメー!!!!


白峰厩舎所属の気性難(牧場組を除く)はみんなこうなるんだ。
若馬の脳を焼くな…。



競走馬として引退し、今は父親としての仕事をしている僕だけど実は騎手くんが来た時に予定が合えば若馬たちの調教を手伝っている。

昔は小さな牧場だったココは僕が引退したころにはそれなりに大きい場所になっていた。

軽い調教を施せるくらいには土地広くなってない?気のせい?

 

「…相変わらず僕以外を乗せたくないんだねぇ」

 

現役時代よりもゆっくりした動きで騎手くんを乗せて歩いたりして体をほぐす。

普通ならココのスタッフが乗ってくれるのだけど、こういう時の僕に乗るのは騎手くんだけでいいからさぁ…、うん。

 

「今日の相手の子は見込みがあるよ」

 

ふぅん…。

最近は追い運動の先頭で軽く走るくらいしかしなかったから実力落ちてないといいんだけど。

そんなことを思いながら促されるままに進む。

 

『よろしくね』

 

そう声をかけた今日の相手だという馬は若かった。

元気で何より、と思いつつもここまで舐められるのも久しぶりだなというか…。

この牧場の生まれならこういう感じでくる子いないからな…と感慨深く思っていると、やはりこの牧場の生まれではないみたいだ。

 

「とりあえず併せ馬かな?」

 

騎手くんが指示するままに走る。

走るといっても全力というわけではなく、流しているに近いが。

それでも僕より後にゴールした若い馬を見ながら少し考える。

 

(…コーナーがあんまり上手くない、のかな?

直線に入ったらいい感じだけど)

 

やいのやいのとその子が僕に何やかんや言っているが僕の耳には何も入っていない。

 

「この子はコーナリングがあまりね…。

だからキミの走り方を見せて、教えてあげてほしいんだ」

 

騎手くんがニッコリとそう言ってくるのに『老馬に無茶させるなぁ』と思いつつ了承する。

この言いようなら今からもそれなりに走るのだろう。

騎手くんが長時間乗ってくれるのはなかなかないのだ。

…十分に利用させてもらおう。

 

 

俺には倒したい相手がいる。

それはレースでのライバル、ではなくこの世界の酸いも甘いも理解していない頃に出会ったとある一頭の小さな馬だ。(そりゃもちろんライバルにも勝ちたいぜ?)

 

連れて行かれたあの日、"ヤツ"とは何度も一緒に走った。

だがその隣に並ぶことはなかった。

逆に走り方を指導されていたくらいだ。

その馬は最初から最後まで、一度も俺を見ず…。

 

…ムカつく。

どこの馬の骨かは知らないが今度こそコッチに振り向かせてやる。

いつものように部屋でそう息巻く。

 

「…やっぱりバレットと走らせるとみんな見違えて帰ってくるよねぇ」

「調教を嫌がってたヤツらも真面目にするようになりましたもん。

ホントにシルバーバレットさまさまですよ」

 

古き日の相棒・シルバーバレットと走ってからというものふんすふんすと息巻くようになるかつての癖馬たちのことを思い、調教師・白峰透は楽しげに笑うのだった。





僕:
シルバーバレット(引退後のすがた)。
牧場のボス馬をしつつ、調教師となったかつての相棒が連れてくる若馬の相手()をしている。
一緒にトレーニングしたら、その相手の苦手分野によって『コーナー巧者○』or『直線巧者』をヒントLv.3でくれるタイプのウッマ。
なお見込みがあると、『コーナー加速○』『直線加速』もヒントLv.3で追加してくれる模様。
本馬としては普通にしているのだが相手をした若馬たちは彼に熱い矢印を向けていたり…?


気性難さん's:
白峰厩舎所属のウッマ(数え切れない)。
バリバリの気性難。
だがイキっているところを僕にぶちのめされて…。
その結果、白峰おじさんに乗ってもらえて嬉しいな!状態で自分をまったく見ない僕に『次はこっちを見てもらうからな…!』してしまう。
し、僕のことしか頭にない(薫陶を受けた)ため血筋じゃないのに周りから激重感情を抱かれるようになるウッマが多数になった。
たぶん巧者のヒントと一緒にそっちのヒント()も貰っている。


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*料理と水面下


顔合わせたら「僕の方がバレットと仲良いもん!」するトレーナーとウマェ…。



「ねぇ、マス太。手伝って欲しいことがあるんだけど…」

「なに?」

 

ある日の休日。

バレットからの唐突なお願いに嬉々として付き添えば、

 

「ありがとう、マス太」

「うん、まぁ…」

 

辿りついたのはたくさんの主婦の方々でごった返しているスーパー。

そこに突っ込むバレット。

完全に揉みくちゃにされて流されていく姿に「うわーッ!?!?」と叫んではタイムセールの品をちゃっかり確保しておいて。

…なんかレースよりも疲れた気がする、と思いながら次に訪れたのは、

ピンポーン。

 

「せんせー、いますかー!」

『いるよ〜。鍵開いてるから入ってね』

「は〜い」

 

住宅街の中にある、とある一軒家。

勝手知ったるように入っていくバレットの後ろに着いて行った先。

いたのは、

 

「今日も悪いね」

「いえいえ」

 

バレットのトレーナーである人。

完全に部屋着といった風貌のその人には、ぴょこぴょこと寝癖が。

 

「今からいつもみたいに料理作るんだけど…マス太は座って待っててね」

「えっ!?」

「えっ?」

 

大量のレジ袋を抱えて、そのまま手伝うのかと思えばまさかの断り文句。

僕は手伝うつもりなのだけど?と詰めれば、

 

「だ、だって…マス太たくさんの料理作るの、慣れてないでしょ?」

「うっ、」

「先生たくさん食べるよ…?マス太の几帳面さはすごいな〜っていつも思ってるけど、今からやるのは時短でドン!みたいな料理だから…」

「うぅ…」

「ごめん、ね?」

 

申し訳なさそうに謝るバレットに渋々…。

僕だってバレットを困らせるのは本意ではないし。

 

「お、美味しい料理作るから、待っててね!」

「うん…」

 

…バレットの料理、食べてみたいもん。

 

 

それから。

リビングでバレットのトレーナーとふたりして待つ。

 

「「…」」

 

テレビも何も、つけられていない。

ただふたりしてバレットが来るまで無言で待つだけだ。

…正直、気まずい。

でもひとたび話せばバレットの(自慢)話になることは確定だし…。

 

「できたよ〜ふたりとも〜」

 

かれこれ30分、待っているとどこの大食い店だという量を盛った皿を両手に持ったバレットが来て「遅くなってごめんね」なんて。

 

「「いや、大丈夫だよ」」

「待たせちゃ駄目だなって、ザッと作った炒飯なんだけど」

「「いただきます」」

 

僕らが食べる量よりもずっとずっと少なく盛った炒飯をもむもむ食べていくバレットに人知れず頬がゆるむ。

ふふ…、可愛い。ハムスターみたいだ…と思っていれば、

 

((ハッ))

「…?ふたりとも?」

 

同じことを考えていたらしいバレットのトレーナー(相手)と目が合い、また気まずくなる。

けど、バレットのひと声があったので食事再開となり、

 

「「ご馳走様でした」」

「は〜い」





僕:
シルバーバレット。
多人数分の量のご飯をザッと作るのが得意。
経験則で味付けするタイプ。
人に料理を「美味しい」と言ってもらえるのが嬉しい。
だが、自分ひとりだけだと食事がおざなりになりがちなのでマス太に世話を見られている模様。


マス太:
シルバマスタピース。
少人数分の量のご飯を丁寧に作るのが得意。
ちゃんと計量して味付けするタイプ。
僕に料理を「美味しい」と言ってもらえるのが嬉しい。
なお僕の世話を見るにおいて栄養学などを修めている様子。


僕のトレーナー:
トレーナーとしては天才的だが人として駄目。
時間がある時に僕に世話をしにきてもらわないと部屋が汚くなるタイプのヒトミミ。
テレビ・電話・風呂以外の家電がてんで使えない。

好きな食べ物は僕の料理。
ちな僕と出会う以前は、食事=腹に入ればいいという考え方で味は二の次だった。
が、僕と出会い、僕の食事を食べてはじめて「ご飯って美味しいんだ…」と目覚めたらしい。
胃袋掴まれてるゥ…。


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思い返せばさ


子も子なら親も親定期。



1:名無しのトレーナーさん

 

銀弾もバグだけどその母もバグだよな

 

 

 

2:名無しのトレーナーさん

 

それはそう(主な産駒→芝2400WR保有馬、BCクラシック馬、産駒全頭勝ち上がり繁殖牝馬(G1馬複数))

 

 

3:名無しのトレーナーさん

 

あんなよく分からん血統からあんなよく分からん馬出すな!

 

 

4:名無しのトレーナーさん

 

結構コイツも気性難だったけど「父親よりはマシ」なんだっけ

 

 

5:名無しのトレーナーさん

 

>>4

常時口籠装着でヒトミミみたら襲いかかりにくるウッマやぞ、コイツの親父のホワイトバック

 

 

6:名無しのトレーナーさん

 

コイツの血筋怪我とか滅多にしないから好き♡

 

 

7:名無しのトレーナーさん

 

>>6

それなのに怪我しまくってた銀弾はいったい…?

 

 

8:名無しのトレーナーさん

 

コイツの主な産駒三頭を見たヒトミミに『あの血から人間の扱える馬が出るなんて…』って言われたらしいの草

 

 

9:名無しのトレーナーさん

 

銀弾というバグのおかげでバケモン繁殖牝馬になったから他の馬もつけてみようぜ!したけどヒカルイマイ以外には靡かなかったんだっけ…?

それ考えるとようやったなSS…そもそもどうやってやったSS…

 

 

10:名無しのトレーナーさん

 

コイツがおらんかったらサラ系がおらんくなってたという事実

 

 

11:名無しのトレーナーさん

 

>>8

狂血の一族定期

 

 

12:名無しのトレーナーさん

 

でも生産牧場のこと考えると厄ネタ多そう…

 

 

13:名無しのトレーナーさん

 

実質繁殖牝馬としては父系も母系も血統が終わってると言っても過言ではないのに、ねぇ…なぁにこれぇ?

 

 

 

14:名無しのトレーナーさん

 

銀弾という凱旋門賞馬を産んだと思ったらその娘も孫・曾孫と凱旋門賞馬出したのホントさぁ…(死んだ目)

 

 

15:名無しのトレーナーさん

 

実質日本競馬のターニングポイントでは?ボブ訝

 

 

16:名無しのトレーナーさん

 

よっぽどのことがない限りコイツの名前は残るだろ

 

 

17:名無しのトレーナーさん

 

>>16

そりゃそうよ(銀弾のw○ki見ながら)

ヒカルイマイも残るよ

 

 

18:名無しのトレーナーさん

 

でもフォーチュンがラストメモリ出すまではだいぶアレだったよな

 

 

19:名無しのトレーナーさん

 

ちなみにホワイトリリィの母であるホワイトキティはホワイトリリィを産み落として、そう日の経たないうちに儚くなってる

…もしホワイトキティが生きていたら日本競馬ってもっとおかしく()なってたのでは?(小並感)

 

 

20:名無しのトレーナーさん

 

>>19

もう既に充分おかしいよ!!!!

 

 

 

 

 

 

 





僕の母:
ホワイトリリィ。
日本近代競馬のバグ。もう何もかもがバグ。
血統表が未出走馬だらけなのにG1馬×2、産駒全頭勝ち上がりの名繁殖牝馬(産駒にG1馬複数)を出した。
実は史実からヒカルイマイに惚れ込んでおり、ヒカルイマイ以外の牡馬には見向きもしなかった模様。それを考えるとSSって…。

血筋に牝馬が産まれる限り、その名が残り続けることとなる牝馬。
ホワイトリリィ系、ヨシ!


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欲しかった


思えば思うほど【白の一族】って顔に傷跡とか失明とかそういうの多そうやなって(生産牧場並感)。
一族勢揃いしたら絶対カタギじゃないだろお前らって言われる(確信)。



その子どもは、その一族の最後の子となった。

 

『リリィ』

 

名を、ホワイトリリィ(白百合)

一族随一の、初代の先祖返りとも謳われたホワイトバック(おとこ)の愛娘。

彼女の母であったウマは産後の肥立ちが悪く、夭折し。

ひとりきりとなった彼女は父であるホワイトバックに溺愛されて育った。

 

『リリィは、良い子だなァ』

 

顔に刻まれた深々しい傷跡が見せる異様と、その気性の荒さからホワイトバックというウマに、好き好んで近づくものはいない。

娘であるホワイトリリィを除いては、だが。

 

『あの子に、本当によく似てる』

 

日がな、口籠と拘束衣を着せられた父は、よくそう言ってホワイトリリィに擦り寄り、微笑んだ。

拘束衣で触れられないなりに、愛してやろうとでも言うかのように。

 

『あの子は、優しい子だった』

『こんなぼくにも、優しくしてくれた』

『…でも優しすぎたんだ』

 

聞けば、父はホワイトリリィの母-ホワイトキティにたいそう惚れ込んでいたのだという。

白の一族(どうほう)』を守るのは当たり前、と至極当然というように、それだけが生きがいだとでもいうように、行動を示す父が、唯一惚れ込んだのがホワイトキティだったのだ、と。

 

『ぼくにはもったいないくらい、綺麗なウマだった』

『触れたら壊しちゃいそうで、汚しちゃいそうで、…怖かった』

 

母の話をする時の父の目からは、いつだっていつもの狂気が消え失せていた。

浮かぶのは、ただただ穏やかな情愛だけ。

 

『ぼくには、あの子だけ…』

 

しかしその刹那、薄暗い狂気が浮かぶのも…。

 

 

いい意味で趣がある、ありたいていに言うと歴史だけを重ねたボロ屋。

メンテナンスも遠にされなくなった日本家屋を男は歩いていた。

 

『…はい』

 

とんとん、と軽く手の甲で叩くと中から聞こえるか細い声。

入っていいか、と問えばまた『はい』と。

慎重に、行儀が悪いと理解しながらも襖を足で開けて。

その中にいる少女-ホワイトキティと顔を合わせる。

 

『た、体調は…だ、大丈夫かい?』

『…はい』

 

男の言葉に微笑みを見せる少女。

だがその言葉が嘘だと、男には理解できていた。

ホワイトキティ。

この一族に珍しく、穏やかで優しい気性を持って生まれた娘。

けれど体が弱すぎた。

だから、

 

『……そんな目で見られても、私はこの子を産みますからね?』

 

口を開こうとした瞬間、その眼を見た。

いつもの穏やかさが嘘かのような苛烈な光を宿した瞳。

"母"になった、瞳。

そうなった眼には、さしものホワイトバック(怪物)も、

 

『うん。分かってる、よ』

 

けど、けれど、

 

「ぼくは──キミと一緒に過ごす未来が…」





【白百合】:
ホワイトリリィ。未出走馬。
後にG1馬を二頭産む名牝。
父ホワイトバック、母ホワイトキティ。黒鹿毛。
それなりに気性が荒いが父よりはマシと称されつつ、父であるホワイトバックに溺愛されて育った。
母のホワイトキティに面立ちがよく似ている。
基本は女傑タイプであるが、懐に入れた相手に対してはとても愛情深い性格。

【白き終わりの始まり(せんぞがえり)】:
ホワイトバック。未出走馬。芦毛。顔に傷有り。
しかしその顔立ちは【白の一族】()()であったある牝馬に生き写しらしい。
だが気性が非常に悪くあられる()。
そのため拘束衣やら口籠やら目隠しをいつもされていた。
また【白百合】の母であったホワイトキティに非常にベタ惚れしていたようであり、彼女が夭折したあとは彼女のいた馬房に近づく者をコロしにかかることが多々あった模様。
基本【白の一族】連中を大切にしていた馬だがホワイトキティに対してはそれに輪をかけて大切にしていた。

【白い子猫】:
ホワイトキティ。未出走馬。黒鹿毛。
気性はとても穏やかで優しい。
競走馬になるはずであったが非常に病弱だったことが祟り、計画が頓挫した。
生涯のすべてを牧場で過ごした牝馬であり、初仔であったホワイトリリィを産み落としたあと産後の肥立ちが悪かったがゆえに、そう時間が経たないうちに夭折した。
実はホワイトバックの姿を見ると目で追う癖があった様子。
たぶん【白の一族】の中で一、二を争うくらいに丁重に扱われてたりしてそう(馬、人どっちが相手でも)。


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███の土地


1993年に起こったとある連続怪タヒ事件についての、後年に書かれた記事。
その、取材記録。

…何人もの人間が、頭を割られて、タヒんでたんだって。
でね、そのタヒ体は、馬に蹴られてタヒんだ時と

…ソックリだったらしいよ?

──その忌み地(とち)では、静かな冬の日になると、悲しげな"馬の嘶き"が、聞こえるんだと。



【インタビュー記録より一部抜粋】

 

へえ、そんな…言っちゃ悪いがゴシップ誌に書かれるようなネタのためにこんな辺鄙な場所まで。物好きだな、アンタ。んでええっと、なんだっけ?あぁ、昔に起こったっていう連続怪死事件、ねぇ…。

新聞にもそう大きく載ったヤツじゃないんだろ?それを調べに来るなんて、…まぁいいわ。

 

聞きたいのは"あの土地"のことか?そうかい。とは言っても俺もよく知らねぇよ?俺が子どもン時にはもう既に荒地になって久しかった場所だし。"あの土地"が使われてた時を知ってるのはもう爺ちゃん婆ちゃんくらいの年齢じゃねぇか?って言っても、話してくれないだろうけど。

 

何でかって?あー…、"あの土地"な、ここいらでは忌み地だって、子どものころから近づくなって、言われてる土地なんだ。アンタも来る途中で見たろ?あんなに広い土地だったら今どき一戸建ての家が数件とか、スーパーとかだって建っててもおかしくないだろ?だよなぁ。でも、建たないんだ。

 

…"あの土地"が元々牧場だったってのは、ここまで来たんなら分かってるよな?分かってんなら、いいが。そもそも"あの土地"はここらの地主が所有していた土地だった。けどその地主ってのが欲深というか何というか。金を貸していた家にいたある馬に惚れ込んで、借金のカタだって言って、無理矢理かっぱらってきたんだと。それが大正の中頃くらいだとかの話で。

で、当然そのかっぱらわれてきた馬は言うこと聞かないわけ。まぁ、とんでもなく美しい馬だったからさもありなんとは言われてたみたいだけど。

それで、惚れ込んだ馬にその地主はたくさんの子を産ませて。あぁ、その馬ってのはメスだったんだ。爺ちゃんや婆ちゃんが言うにはいつまで経っても、その攫ってきたメス馬が従順になんねぇから似た子を作ろうとしたんだろうって。

けど、何頭も何頭も産まされたそのメス馬はある日ポックリ逝っちまった。

んで、そういった扱いを見てたワケだからさ、そのメス馬から生まれた子馬も、言うこと聞かないの。

 

だから、躍起になったんだと。狂ったとも、言ってたっけ?

一生自分に靡かなかった馬を取り戻そうとスゲェことしたとか…。たしか近親交配、インブリードって言うんだっけ?

そういうの、したんだと。母と息子とか、父と娘とか、兄妹とか。

その惚れ込んだメス馬に血が近いヤツらで混ぜたって。

けどさ、ソイツら母馬を手酷く扱った地主のことが嫌いだからさ、どれもこれも、ぜーんぜん懐かねぇの。

懐かねぇから杖で殴ったりとか、日常的だったって。近隣の家に、そこの馬が、逃げ込んで来ることがよくあったって。

そんな執念が、いつしか牧場になったって。

 

 

これが"あの土地"の()()()()なんだとさ。

…その土地で、まさかあんな馬がねぇ。





"ある土地":
元々はとある地主が持っていた土地。
何か事件があったというワケではないが地主の執念が籠り過ぎて"忌み地"状態に。
なおターニングポイントは大正の中頃に地主がとある美しい牝馬に惚れ込んだところの模様。


その牝馬は、とても美しい芦毛だった。
雪と見間違うほどに、美しい"白"。
誰が見ても愛されて育ったと分かる、そんな牝馬だった。
けれどある日唐突に、彼女は知らない人間に
攫われた。
彼女は家に、帰りたかった。
けれど…。


元の場所に帰りたかった牝馬は、最期までに男に懐かなかった。
その牝馬に狂ってしまった男は次から次へとその牝馬の血を継いだ馬を作り、それはいつしか牧場となったが、


───猫が7代祟るなら、馬は何代祟るでしょう?


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ウチの子かわよ…┏┛墓┗┓


素直な子どもは可愛い…!と言うことでホワイトリリィから生まれた長男長女次男をベタベタに甘やかしそうな【白の一族】のみなさん。
(なお甘やかし過ぎてたびたびお叱りが入る模様)



1:白い名無しさん

 

ン゛か゛わ゛ち゛ぃ゛ね゛ぇ゛!゛!゛!゛

 

 

 

2:白い名無しさん

 

分かるけど落ち着け

 

 

3:白い名無しさん

 

>>2

落ち着けっかバーカ!!!!

 

 

4:白い名無しさん

 

ハァハァ…チビちゃん…

お兄ちゃんといっしょに遊ぼぉ…?

 

 

5:白い名無しさん

 

キッッッッ

 

 

6:白い名無しさん

 

ちぃたくてかわゆいねぇ…!

ちいたいいのちン゛か゛わ゛ち゛ぃ゛ね゛ぇ゛!゛!゛!゛

 

 

7:白い名無しさん

 

もうダメだァ…狂人(くるんちゅ)ばっかだァ…

 

 

8:白い名無しさん

 

↑ここまで通常運転

↓これからも通常運転

 

 

9:白い名無しさん

 

おちび〜かわいいなおちび〜

はやく走れて偉いねぇ〜

 

 

10:白い名無しさん

 

生きてるだけで可愛いってナニ?ナニ…?

 

 

11:白い名無しさん

 

 

 

12:白い名無しさん

 

これがあの白の一族の姿か…?

 

 

13:白い名無しさん

 

末子に骨抜きにされてやがる…

 

 

14:白い名無しさん

 

まさかバックの野郎からこんなかわゆい子が生まれるとはね…

やっぱキティちゃんの方の血がよかったんだろな

 

 

15:白い名無しさん

 

>>14

キティちゃんが例外やっただけで基本ほぼ俺らやぞ

 

 

16:白い名無しさん

 

リリィたゃも良い子に育っておじさん嬉しいよ…ナンチャッテ!

 

 

17:白い名無しさん

 

>>16

キッッッッ

 

 

18:白い名無しさん

 

素直な子はとても可愛い

ハッキリ分かんだね

 

 

19:白い名無しさん

 

チビたんの何もかもが愛おしいな…

 

 

20:白い名無しさん

 

おチビ、健やかに育て〜

 

 

 

 

でもそれはそれとして。

俺たちに気が付かないアイツらもアイツらと言うべきか。

 

俺 た ち は 見 て い る ぞ ?

 

お 前 た ち が " あ の 子 " に

行 っ て い る す べ て を 。

 

俺たちは、忘れやしねぇ。

忘れられねぇから、()()にずっと縛られている。

恨んで、憎んで、その他もろもろ。

いつしか蠱毒のようになった俺たちは()()にわだかまっている。

が、

 

『…』

 

視認する先にいる我らが末子(チビ)にたまらず頬がゆるむ。

囚われ、堕ちて、堕ち切っていた俺たちを引き摺り上げた子ども。

そしてその子を産んだホワイトリリィ(むすめ)

…この母子のことを考えると、少しくらいなら力を貸すのも悪くないかもしれない、なんて。

この母子が屈託なく、心のままに笑えるように。

だから、

 

どうしてやる?

どうでもいいよ

とりあえず()()()は、駄目だろ?

()()()ダメだね

うん、だめ

 

…なら?

 

 

「ジワジワ追い詰めるのは?」

「…どう、だ?」

『…』

「おい?」

 

数瞬の沈黙。

がしかし、

 

『ッッさーんせー!!!!』

 

 

わぁわぁとざわめいた()()を、聞くものは…。

 

 

───それは、何代分の祟りやら。

 

 

 

…おお、怖い怖い。

 





一族郎党、愛する者に対しては情の深い【白の一族】。


愛しているから、守ってやるのさ。
…その手段は問わないけれど。


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愛情深きは"白"の…


キミが怒らないなら、自分が代わりに怒る。
諦めたキミの代わりに。
受け入れたキミの代わりに。
自分がキミの"神様(救い)"になれるとは、まったく思ってないけれど。
でも、

愛 し て い る


から。




どーおもー、ぼくだよ!

キミとははじめまして、だったカナ!?

うんうん、そうだよねー。

キミとは初対面だねー。

でも僕はキミに用事があるんだぁ。

 

ドガァッ!!

 

…アハ。

壁に足跡、着いちゃったァ!

でもさでもさ、仕方ないよねェ?

ぼくの大事なモン()()()んだから、ねェ!?

……え?覚えがない?

あっはははは!!バカ言うなよ!

乏したろ?罵ったろ?下に見たろォ!?

…ホントに分からない?

 

バキッ!

 

あ、やっちゃった。

でもま、いいよね?

骨折してもヒトミミなんだから、ね?

ウマだったらちめー的だけど、ね?

大丈夫だよね?

ほら、大丈夫って言えよ。

…うん、よくできました♡

じゃ、分かんないなら教えてあげるネ!

あのさキミ…、

 

 

ヒ カ ル イ マ イ(ぼくの娘婿)シ ル バ ー バ レ ッ ト(まご) を バ カ に

し た よ ね ?

 

 

思い出したカナ?

うんうん、何より何より。

エ?冗談だった?

なぁに?ソレ。

そう言ったら、許されるとデモ?

許すワケ、無いダロ?

 

ゴギンっ!!

 

うわ〜、聞くに耐えない声だなァ。

折ってないじゃん、関節外しただけじゃん…。

ケド、ぼくはここら辺で。

たぶんぼくよりもずっと怒ってる可愛いコがこれから来ると思うから…ちょっと()()()()待っててネ!

 

ゴッ!!!!

 

 

よォ、お目覚めか?

ンな怯えなくてもいいじゃねェか。

父さんみてぇなコトはしねぇから、サ。

父さんは…『暴力はすべてを解決する』みたいな思想を持ってるとこがあるンだけど、それ以外はケッコー優しいンだ。

唯一の娘である私に対してもそりゃあそりゃあ…っと、話がズレたな。

 

ガンッッ!!!!

 

では、話をしよう。

キミがバカにしたヒカルイマイ(私の夫)シルバーバレット(私の息子)のことを。

あ゛?なに?冗談だった?許してくれ?

…それで終わりになるンなら、警察って要らないと思わねェ?

私はそう思うね!

 

は?アイツらにならまだしもお前に怒られる筋合いはない?

チッチッチ、分かってねぇなぁ。

アイツらはな、もう()()()()()()

お前みたいなヤツのせいで。

自分が()()()()()()()()()()()()()()()()を受け入れちまってるンだ。

だから、

 

ドガンッッ!!

 

私が、守ってやるんだ。

私が、怒ってやるんだ。

アイツらの代わりに、アイツらのために。

救う、なんて高尚なモンじゃねェ。

でも助けるくらいはしてやりたいんだ。

だって私はアイツらの妻であり、母親なんだから。

……というワケで。

 

 

覚 悟 は 、 で き た な ?

 

 

「ねぇ、父さん」

「ん〜?」

「リリィはどこにいってるの?」

「あ゛〜…」

「父さん?」

「いや…大丈夫だ、バレット」

「だいじょーぶって、なにが…?」





【白の一族】:
愛した相手に対して、とても愛情深い。
ので、これと決めた、愛している相手に害を成されると…?
愛情深いから、ネ?


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凶事馬が、いななけば


狂気に取り憑かれちゃった地主に逆らえたものは誰もいないんだ。
…それは地主に所有されていた牡馬であっても、ね。
そういったところでも()積み上げていくのは流石に業が深いっスよ!



それは美しい牝馬だった。

白馬のごとき芦毛の毛並みで生まれ落ちたその馬を、誰もが感嘆の吐息で眺めるのにそう時間はかからず。

そして、その馬は生まれた時から特別であった。

農家の家に生まれたがゆえ、本来なら農耕馬として生きるはずだった牝馬。

だがその体格は非常に華奢で。

とてもではないが、その役割(農耕馬)など務まるものではなかったのだ。

がしかし、彼女はその欠点を帳消しにするほどの不思議な力を備えていた。

 

───ひとたび、あの牝馬がいななけば凶事が

起こる。

 

そう言われだしたのがいつのことだったか、定かではない。

ただひとつ確かなのは、彼女がいななけば鉄砲水や旱魃、その土地の有力者の死などが必ず起こり。

そんな彼女をある者はこう呼んだ。

神の御使いであると。

またある者は決して信じようとせず、ただ災いを呼ぶ化け物だと罵った。

どちらにせよ、彼女の存在はいつしか人々にとって畏怖の対象となった。

けれども、畏怖される彼女にも最愛の存在がいた。

それは自らの世話をしてくれる家の長男坊と、実の兄妹のように生きてきた牡馬だ。

彼らは彼女の良き理解者であり、家族であり、友人でもあった…のだが。

 

 

ある時、彼らの住む土地の地主が代替わりした。

それまではまぁ理性的であり善性を持った老年の男が地主であったのだが、代替わりしてからというもの、次第に何もかもが横暴になっていった。

新たな地主となった息子もまた、その息子の妻たちや元から居た家族もまた同様に。

するとやがて、村人たちへの搾取が始まった。

まるで奴隷でも扱うかのような態度をもって。

がしかし、最初はまだ良かったのだ。

彼らは村人達が税を納めさせさえすれば、満足していたから。

……しかし、その日常も長くは続かず。

欲に溺れたのか、今となっては知る由もないが。

搾取の割合は段々と、ドンドンと、…後の世に残されるほどに大きくなっていった。

そうなってはもちろん、村の人々に応じられる余裕なぞ。

それは、…美しい牝馬がいた家も例外ではなく。

 

───金の代わりに、あの牝馬を寄越せ。

 

下卑た笑みが牝馬に向けられる。

かの牝馬の不思議な力は、地主一族の方にもそれはそれはよく伝わっていた。

だからこそ、彼らはその力を利用しようと考えたのか?

いいや、違う。

 

───いやはや、…なんとも美しい馬だ。

 

下卑てはいても、その目はひどく純粋であった。

純粋な()()()()()()()()()()()()()という欲があった。

牝馬そのものに惚れ込んだ人間にはもう、牝馬の持つ不思議な力など二の次で。

嫌がるところを、無理矢理引き摺られていく牝馬。

元の面立ちが判別できぬほど殴られた長男坊。

そして、

 

 

パァン…!

 

 

牝馬を取り戻そうとして、…撃ち█された牡馬。

真白の雪の中に、牡馬から溢れ出した赤が広がる。

牝馬はそれを、ただ見やることしか…。





牝馬:
美しき芦毛の牝馬。
とある農家に生まれた小柄な牝馬。
普段は「口がきけ(鳴け)ないのか?」と周りに思われるほど静かで無口。
でも、何だか不思議な力を持っていたらしい。
自分を世話してくれる長男坊と一緒に育ってきた牡馬くんが大好き()()()
がある日、知らない人に引き摺られて、そして…。

ちな夭折する間際にいっぱいいなないた。
さて、彼女の不思議な力のトリガーって…何でしたかね?


長男坊:
とある農家の長男坊。
牝馬のことを愛してる。
それはそれとして牡馬とは秘密裏に牝馬を取り合うライバルだった。
めちゃくちゃ牝馬を手に塩をかけて育て、周りから感嘆の吐息を吐かれる毎に後方生産者面をしていたが…?

たぶん、牝馬の夭折を知ると…。


牡馬:
栗毛の牡馬。
とある農家に生まれた、牝馬の幼なじみ。
実の兄妹のように育っては、世話してくれる長男坊とバレぬように牝馬を取り合っていた。
牝馬がどんな力を持っていようが牝馬は牝馬だからと受け入れており、いつかは牝馬と子を成す…はずだった。

牝馬のことを、何よりも愛していた。
それ故に…。


地主さん家:
憎まれっ子世に憚る。
…でも、そうなるように調整されてそう。

生かさず殺さず、じっくりとするために。ね?

なお宛てがわれた牡馬たちはみんな牝馬に優しく、支えて、尽くしてくれた模様。
それでも、牝馬が見ているのは…。
まぁ、そのことに対しては宛てがわれた牡馬たちも仕方のないことだ、と受け入れているんだ。…受け入れているフリ、なんだ。


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鈍感だよね〜笑


でもたぶんそれはあなたの血族にデフォでついているものだと思うんですけど…。



夜遅くに、電話がきた。

スタスタと歩いて受話器を取れば『もしもし、姉さん?』と。

 

「あぁ、スーちゃんか。どうしたの?」

『あ、ごめんね。日本(そっち)、もう遅いよね』

「いや、いいよ。大丈夫」

『…ならいいんだけど』

 

電話の主は妹であるサンデースクラッパだった。

話すのも久しぶりだね、と言いながらも「外国にいる彼女がなぜ今電話をかけてきたのだろう」と考えていると、

 

『あのさ、姉さん』

「ん」

『ま、また、日本(そっち)に帰ってもいい?』

「いいんじゃない?というか帰る・帰らないを決めるのは僕じゃなくてスーちゃんの方だろ?」

『そ、れはそうだけど…。で、でね、姉さんの家に泊めてもらいたいんだ、よね』

「ふぅん…。分かった、準備しておくよ」

『あ、ありがとう姉さん!』

 

そうして、話は終わった。

時間にして…約10分ぐらいだろうか。

だがもういい時間なので受話器を元の場所に戻して、そろそろ寝るかと背伸びをして。

 

「…あんな言い方するってことは、"誰か"と一緒に来るってことかなぁ?」

 

 

と、考えたのも今では懐かしい。

 

「た、ただいま、姉さん…」

「ん、おかえり」

 

数年ぶりに顔を合わせた妹は、とても大人っぽくなっていた。

むかしはあんなにちいちゃくて可愛かったのに…(今でも可愛いけど!)なんて心の中で嘆いたりもしてみるワケだが、

 

「…で、そちらの方は?」

「あ。え、えっと、」

「グローリーゴア、デス」

「そ、そう!あっちでできた友達なんだ!!アハハ…」

「そっか」

 

妹の後ろに、張り付くようにビッタリと存在する彼女-グローリーゴアさんを人知れず見やる。

スーちゃんよりも2、もしやすると30センチくらいは大きいかもしれない。

そんな彼女に「頭、気をつけて」と声をかけるも…ごっ!

 

「「あらら…」」

 

で。

日本にやってきたふたりはフラリと観光に行っては僕の家へと戻ってくる日常を送るようになる。

にしてはリリィからスーちゃんに関しての話をとんと聞かないので「顔ぐらい見せてやりなよ」と声をかけ。

…そして、ある日の深夜。

 

「こんばんは」

「…コンバンハ」

「隣、いいかい?」

 

スーちゃんだけがスヤスヤ夢の中。

だから現実にいる僕らふたりで、秘密の話をする。

 

「…幸せに、してやってね」

「エ、」

「おおかた、あの子の方が怖気付いているのだろうけど」

 

しどろもどろになっている栗毛の彼女に微笑みかける。

まさか、あんな目を常時向けていて気付かないとでも?

…けど、スーちゃんもスーちゃんで頑固だからなぁ。

 

「応援するよ」

「…ハイ」





僕:
シルバーバレット(ウマ娘のすがた)。
スーちゃんもさっさと諦めればいいのに。
グローリーゴアちゃんもスーちゃんにずっとあんな目してたらみんな気付くって。
気づかないのは鈍感なスーちゃんだけだよ!
なお…()。

スーちゃん:
サンデースクラッパ(ウマ娘のすがた)。
父サンデーサイレンスの芦毛。僕の妹。
性格はちょっとオドオドしてる感じ。

友人だと思っていたグローリーゴアにかかり気味()されてしどろもどろのすがた。
グローリーゴアのことは好きだが、()()()()では友情としての『好き』なので保留してもらっている状態。
ちな最終的には丸く収まって、お隣同士で暮らす(けどグローリーゴアが基本サンデースクラッパの部屋に入り浸る)ようになる。

グローリーゴア:
ウマ娘のすがた。
父EGの米三冠バな栗毛。サンデースクラッパに執着している。
実はサンデースクラッパより1歳年下。
基本ボーッとしているし、表情もあまり変わらない(が、目は…)。

遂に我慢できなくなって、並々ならぬ感情を抱いているサンデースクラッパにかかり気味()したらまさかの保留をされてしまった。
でも逃すつもりはないし、逃がすつもりがないからこそ気長に待ってあげる系ウマ娘。…ここで逃げデバフをひとつまみ、っと。
最終的にはちゃんと丸く収まるため、その後はサンデースクラッパとのニコイチ生活を存分に満喫する模様。
今日もサンデースクラッパのご飯が美味しい…(ホクホク)。


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せーへき…?


気づいたら200話目です(遠い目)。

…実は銀弾系列って基本的に面食いなんすよ。
んでその中でもSS系列の顔がいっとう好みなんだよね…。



シルバーバレットが自分から関わった存在(家族を除く)はつまるところ、オグリキャップとサンデーサイレンスしかいない。

オグリキャップと関わった理由は療養施設で出会った天然過ぎてなんか放っておけない後輩兼同じ毛色の親近感からだったがサンデーサイレンスについては…、

 

「…ねぇ、サンデー」

「なんだ?」

「僕、青鹿毛が性癖かもしんない」

「…ハ?」

「ちょっと考え直してみたんだ…、」

 

シルバーバレットは元来他バに興味がないウマであった。

家族や、面倒を見ているものたちにはこころよく接するがそれ以外はとんと。

そんな中で出会ったサンデーサイレンス。

 

まるで、稲妻が走ったように。

目を惹かれて追いかけた。

わずらわしそうに丸まった猫背も、キッと細まった金色のような、お月様みたいな黄色い目も。

…いや〜、まさか顔もイケメンだとは。

 

「おい」

「ん?」

「それのどこで青鹿毛が性癖だって?」

「え?……、…、……あれ?」

 

呆れた顔のサンデーにそう言われて「あれ?」となる。

あれ〜?僕青鹿毛が性癖かもしんないって話してたよね〜????

 

「…なら、他にも証拠出せ。ほらほら」

「う゛〜…、」

 

……青鹿毛が綺麗だって思うのはホントだよ?

太陽の光に当たると反射して綺麗だよね。

そう思うとやっぱりサンデーの髪がいちばん綺麗だなぁ。

ボサついてたのも最近はなくなってきたしね。

あ、また伸びたのなら切ってあげるから言って…、

 

「ストップ」

「ん?」

「いったんストップ」

「うん」

 

不意に額を押さえ始めるサンデーサイレンスに首を傾げるシルバーバレット。

どうしたのかなぁ、サンデー…なんて思っているのだろうが元凶はどう考えてもシルバーバレット(おまえ)である。

 

「サンデー、サンデー」

「…ンだよ」

「なんでそんなにニヤついてるの?」

「何でもねェ」

「ンなわけないだろその顔で」

 

言えよ、やだよと5分ほどわちゃわちゃして、

 

「なぁ」

「ん」

「そういや青鹿毛の俺の娘がお前となかなか"仕事"できなかったって言ってたんだけど」

「ぶっ!」

「なんで?」

「な、なんでって…そりゃあマブの娘と"仕事"とか…ほら…」

「…へぇ?」

「……顔見てたら、サンデーのこと思い出すし」

「へぇ〜〜〜〜〜????」

「だから言いたくなかったんだよ!」

「おいおい待て待て待て待て」

 

顔を覆って脱兎のごとく帰ろうとするシルバーバレット。

それを引き止めるサンデーサイレンス。

よく見なくても、先ほどの会話でお互いの表情が正反対なのは…お分かりだろうが。

 

「サンデーだって芦毛なら誰でもいいんだろ!?」

「おい待て、その説を提唱するには例が少なすぎんだろ!?」

「やーいやーいバーカバーカお前の性癖芦毛〜!」

「ぶっ飛ばすぞ!それにお前だって芦毛なの分かってんのか!?!?!?オイ!!!!」

 





僕:
性癖が青鹿毛かもしんない…(ワナワナ)。
まだ何にも気づいていない時のすがた。
史実時もウマ時もSSが好き(親愛)。
SSの産駒たちも好き(顔がいい)。
変装してSS産駒たちに「ファンです!」ってサインもらいに行ってそう。

でも史実の時から青鹿毛のSS産駒♀と"仕事"になるとキョドる。
し、それを分かられていたのでガンガン迫られタジタジになっていた。
ので、青鹿毛のSS産駒♀がちょっと苦手。

…それで気づかないって、マ?

ちな史実では牧場の人から『SSが好き』とキッチリ明言されてた模様。
マス太?マス太はまた別枠だよ。



SS:
へ〜?ふぅ〜ん????
なにかに気づいたすがた。
僕とはマブダチ(いちおう親愛)。
こっちは僕にしか興味を示さない。
僕産駒と会っても『あ〜、アイツの仔だ』と思うだけ。

だが僕産駒♀(毛色問わず)と"仕事"になるとちょっとやる気を出していたらしい。

なお親しく関わっていた馬がメジロマックイーン&僕だったので芦毛好きなの?と思われている様子。


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【金色旅程】と


銀弾とSSの仲が良いように、こっちも仲が良い()。
現に史実からこの仲だったりするんだ。



「よォ、」

 

そう、親しげに声をかけてきたウマをシルバーチャンプは睨みつけた。

 

「おいおい、俺とお前の仲だろう?」

 

肩を組んでくるのに振り払おうとして、踏みとどまる。

…育ちがいいもんでね。

 

「なんだ。同期に構ってもらえないから後輩に構いに来たのか?」

「それはお前の方だろ?」

「ッ、」

「図星か」

 

シルバーチャンプは目の前の-キンイロリョテイだか何だかは知らないが、な先輩を嫌っている。

嫌っていると言ったら、嫌っている。

いつも不機嫌そうな顔をしているクセに、自分に関わりに来るときだけは楽しげにしている先輩を。

脚が弱いことを、それ故に尊敬している存在に届かないことを悲観している、そんな自分に臆せず話しかけにくる先輩を。

 

「俺は、…アンタのことが嫌いだよ」

「そうか?俺はお前のことが好きだぜ?」

 

笑う。嗤う。

自分勝手、好き勝手に生きる存在が。

囚われたまま動けないシルバーチャンプを見て、わらう。

 

───ああ、本当に大ッ嫌いだ!

 

この人はどこまでも自由で、どこまでも奔放で。

そしてどこまでも傲慢なのだ。

そのくせして、己の虚勢なんて眼中にないと言わんばかりにこちらを見透かすような目つきをするのだ。

それがどうにも気に食わない。

 

「たまには、本音で話そうぜ?」

「…これが俺の本音だよ」

 

嗚呼、でも。

でもさぁ、

 

「アンタの走りだけは…」

 

言葉を、飲み込む。

 

 

ソイツを認識したのはトレーニングをサボっていたある日のことだった。

トレーニングに勤しむヤツらのことを、まるで射殺さんとばかりに見やる目に、惹かれて。

 

「なァ」

「…」

「お前、名前は?」

 

まだ、夢を見ていても許される新入生の癖に、酸いも甘いも知りきった荒んだ目をしたソイツは"シルバーチャンプ"と名乗り。

そのまま黙って立ち去ろうとしたのを引き止めた。

それから何度も声をかけたり、ちょっかいを仕掛けたり。

時には無視されたり、時には喧嘩になったりしながら、少しずつ距離を詰めていった。

そしてついに、コイツなら大丈夫だろうと思えるくらいの信頼関係を築くことができたころ。

俺ははじめて、シルバーチャンプの弱さを見たのだ。

 

「なんで、どうして、俺は、ぁああぁぁああぁあぁあああぁああぁああぁあぁあぁああぁぁああぁあぁあッッ!!!!

あ、あぁ、ぁああぁぁあ、あぁあぁぁぁ…………!

 

ガリガリと頭を力いっぱい掻き毟る姿がひどく憐れで。

ボタボタと滂沱のごとく涙を流す様があまりにも痛々しくて。

思わず抱きしめた体が嘘のように細くて、頼りなくて。

 

───このまま消えてしまいそうだと思った。

 

だから、離さないように強く抱き締めて。

するとシルバーチャンプがしがみついてきて、わんわんと泣き出したものだから驚いた。

いつも嫌いだ嫌いだと詰ってくるクセ、振り払われなかったことに。

 

「…どうして、俺は、アンタに、」

 

ぼそりと落ちた言葉。

低くうねっては鼓膜にこびりつくようにもたらされた、音。

それをゆっくりと咀嚼しながら落ち着かせていく。

 

「大丈夫大丈夫。俺はお前が好きだよ」

 

たとえ、何者にもなれなくとも。

俺だけは、お前を。

なんて。

言い放ちかけた言葉を、ぐしゃりと噛みちぎった。





【銀色の王者】:
シルバーチャンプ。逃れられないまま、囚われている。
【金色旅程】とは仲が悪い()。けど【金色旅程】の走りは好き。
基本的に【金色旅程】とニコイチなので「片方を探している時はもう片方を探せ」と言われている模様。
実は【金色旅程】にだけ弱さを見せることができる。
カッコつけだからね、トレーナーやみんなの前では飲み込んでいるんだ。

…おっと?そんなふたりを眺めている影がありますねぇ?(すっとぼけ)


【金色旅程】:
他人を遠ざけがちなシルバーチャンプを可愛がっている先輩。
いつもからかったり何だりしているが支える時は支えてくれる。
もっと力を抜いて、気楽に生きればいいのに。
なおシルバーチャンプが自分にだけ弱さを見せることに…?

ちな卒業後もシルバーチャンプと家族ぐるみの付き合いをしている。
し、ギリィ…!するその他のウマたちに勝ち誇ってすらいそう。いる(小並感)。


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"魔性"はわらう


いちばん強いって、いちばん孤独?



シルバーバレットという存在は、"魔性"である。

前人未到の芝2400mワールドレコードホルダー。

日本バ初の凱旋門賞&ブリーダーズカップ制覇バ…etc.。

そんな肩書きもシルバーバレットという存在を言い表すには不足だ。

でも、もし一言で表せというのなら───まさしく"魔性"としか言いようがないのだ。

 

 

無貌と、影がないとすら謳われた存在の目は誰も映さず。

映さないまま、生涯無敗の戦績を打ち立てて去っていった。

その目に自分が映らないことに歯噛みした者は数知れず。

だがしかし……それはある意味で、至極当然のことだった。

何故ならシルバーバレットは『走る』という行為を渇望しすぎていたから。

ただただ走ることだけを求めすぎたあまり、他者を不要と判断した。

その目は、その心は、レースの世界に入った時既に他のすべてを拒絶していたのだ。

そして──その渇望ゆえに、シルバーバレットは走り続けてしまった。

走れば必ず、いつかは終わり(ゴール)が来ることを知っていたはずなのに。

結局はそれがシルバーバレットの競技者としての最期であり、走馬灯であった。

己が求めるモノが何かを知る前に、すべてを失ってしまった…哀れな"魔性"だけが、残ったのだ。

 

 

が、残った"魔性"はどうしようもなく周りを惹き付けた。

もはや、()()()()といっても過言ではない。

強者が発する圧倒的なオーラとも、また当てられただけで慄く…と言える威圧感でもない。

見る者すべてを虜にする……そんな得体の知れない魅力。

ターフを去って、両手の指を超えた年月となってもそれは半減すらせず。

逆に今度は自らの子どもたちを狂わせるに至らしめて。

 

───僕を。私を。

─────見て。ねぇ、お願いだから。

──────どうして? どうしてあの子を見ているの? ねぇ? どうして? なんで? どうしてどうしてどうしてどうしてどうしてどうして……???

 

だがシルバーバレットは自身の特性にとんと気が付かない。

自分がどれだけ周囲に影響を与えてしまっているのかを、知らないままなのだ。

知らないままに、今日も"魔性"を振り撒いている。……振り撒いて、いる。

 

「わ〜、今日もみんな強〜い」

「え?みんなのことどう思ってるかって?」

「いや〜、みんな僕とは比べものにならないくらいすごい子たちですよ!」

「僕のことはいいんです! 僕は、ほらもう引退した身ですし……。

でも、走るあの子たちは誰よりもキラキラしてますから!!」

「あははっ。そんな顔しないでください!本当にそう思っているんですよ!」

「だから僕なんていう過去の()()よりあの子たちのことを、応援してあげてください。ねっ?」





僕:
シルバーバレット。
ぜんぶお前のせい兼お前が始めた物語だろ定期と化している。
本バとしては楽しく生きているつもりなのだが呼吸して存在するだけで周りを狂わせてしまうモノと成り果てているので…。
一体どこの神話生物なんだ????
たぶん競技者だったころの方がマシ。
『走る』という根幹を失った結果、遺った"魔性"が表出した。

ちな何度でも言うが本バとしては"普通のウマ"のつもりである。し、もう既に引退した身である自分を「過去の遺物」と評しているんだ。


周り:
基本みんなぐちゃぐちゃ。
とりあえず、まず系列(息子娘甥姪)が情緒狂わされて、そこから波状攻撃する。
周りの湿度とか低気圧ヤバそう(小並感)。
…でも台風の目の中心って、特段影響がないんだとか。知ってた?

【遺物】の僕は、キミにとっての何だった?


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ある一族の末子の話


だからお前はポンだしクソボケなんだ!
…でも気づいてない方が幸せ、かも?



特段隠しているつもりはないが、シルバーバレットという存在は古くからある、とある旧家最後の嫡男であった。

シンボリやメジロが興る前よりずっと前からある、とは言っても多大な影響を世間に及ぼしたワケでもなく、ただ()()()というのが正しいのだろうが。

人呼んで『白の一族』。

または『狂血の一族』。

在るだけでどうしようもなく他人を惹き付け、狂わせる──その性質からか、その血はいま現在ほとんど絶えたといって久しい。

実際、自分も直接会ったことは片手で数える程しかないし、顔すら覚えていない。

ただ、幼き日によく世話を見てもらった祖父曰く──それはそれは他人を狂わせる奴らばかりだった、らしい。

……そして。

そんな一族の直系にして、恐らく最も濃くその性質を受け継いだ子どもが永く続いた一族内ではじめて競走の世界に脚を踏み入れた。

するとどうなったか?

それは、

 

「なぁ、シルバー」

「よければ家に遊びに来ませんか?」

「キミのようなウマなら誰もが諸手をあげて喜ぶよ!」

 

───そう、まさにこの有様である。

もうかれこれ何回目か、数えることも億劫になる勧誘をいつものように丁重に断りながら、シルバーバレットは溜息を吐いた。

最初は自分を認めてくれてのことだと、友人関係を正しく築けたゆえのことだと、単純に喜んでいた。

しかし、あまりにも続くと正直鬱陶しい。

……がまあ、悪い気がしないのも正直ある。

何故ならシルバーバレットは"サラ系"という生まれだから。

血統ゆえに姿かたちがサラブレッドと寸分違わずでありながらサラブレッドとは認められない者たち。

そんな区分の中に入っているシルバーバレットも、もちろん例外ではなく、大抵の他のウマからは距離を置かれているし、遠巻きに眺められていることが多い。

それが当たり前だし、別段寂しく思うこともない。

だが、同年代の友と呼べる存在がこの学園に来てはじめてできたのだ。

……だからこそ、シルバーバレットは彼らの気持ちを根本から無下にできない。が、

 

『…なぁ、チビ』

 

そんな中で脳裏に浮かぶ祖父の言葉。

 

『決して隙を見せるなヨ』

 

その言葉にあの日の自分はたしか、「どうして?」と返したのだっけ。

 

『隙を見せたら、とっ捕まるから。とっ捕まってどうなるかは…みんな逃げ帰って来てるせいでサンプルがないケド』

『…でも、キミは優しいから。肉体言語(話し合い)じゃなくてフツーの話し合いを望みそうだから』

 

───だから、気をつけて。

そんな、記憶を思い出した。

 





『白の一族』:
またの名を『狂血の一族』。
ずっとずっと昔から続く家だがほぼ無名。
だけど他人の何もかもをぶち壊すヤツらしか生まれないし、その結果の連れ去り等がよく起こっていたので別の意味で有名な家。
たぶんそのせいもあって腕っ節の強い()ヤツらが多い。
ので、表舞台である競走の世界に一族の誰もが『身の安全』のため脚を踏み入れなかったのだが…まさかの末子が。
ちな家の成立初期に下総御料の血が入っちゃってるのもヤバいわよ(某種/道さんと星/富さん)。

僕:
シルバーバレット。特性:どんかん。
自分が周りから避けられているのを"サラ系"ゆえだと思っているウマ(その真相は…?)。
誰にも聞かれていないので自分の生まれが『白の一族』だと言っていないすがた。
いちばん濃く『白の一族』因子を継いだのに気性が大人しいためフツーの話し合いを選んでしまうポンコツ兼お人好し。
なので押せば落とせるかといつも思われているがそのたびに神回避している。


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"魔性"の眼


たぶんこの眼は【白の一族】だったら全員持ってそう。



『……』

 

フラフラと。

おぼつかない足取りで去っていった見知らぬ男とすれ違って、シロガネハイセイコは顔を顰めた。

なにせ、いま自分が歩いている廊下の先にはひとつしか部屋がない。

そしてその部屋の主は、

 

「…父さん」

「……あれ、ハイセイコ?」

 

コツコツとノックして入室するとそこには革張りの椅子に座る小柄な人影がひとり。

彼は、息子が突然やってきても驚く素振りもなく穏やかな笑みを浮かべて出迎えた。

ハイセイコは室内を見回す。

そこは広くも狭くもない、よく見慣れた一室だった。

本棚には分厚い書物が詰まるだけ詰まっており、中には床置きにされているものもある。

それでも本の表紙の上に埃がひとつも積もっていないのは、定期的に掃除しているからだろう。

この部屋にあるものといえばそれだけで、窓すらもカーテンによって閉ざされている。

そんな。

そんな部屋の主が、シロガネハイセイコの父であるシルバーバレットであった。

 

「…それで、なんの用かな?」

 

ゆるりと眦をゆるめた双眸が立ったままのハイセイコを捉える。

それは親としてではなく、家を治める長としての眼差しだ。

彼が長を務めるこの家では、彼の言葉には必ず従うべしという不文律がある。

つまりこの問い掛けを無視するということは不文律を破るということを意味していた。

だから、答えないわけにはいかない。

ので、シロガネハイセイコは言葉を紡ぐ。

 

「……他人を誑かすのも程々にしてください」

「おいおい…、誑かすなんてひどい言い草だなぁ」

「あれを『誑かす』以外に、何と言うので?」

 

思い出すのは、先程すれ違った見知らぬ男。

垣間見たのは一瞬。

だが、その一瞬でよかった。

 

「まるで、夢でも見せられたかのような目をしてましたよ。あの御方」

「へぇ、」

 

シルバーバレットの笑みが深くなる。

シロガネハイセイコはその表情を見て確信した。

あのような状態になっている男はもう()()()元には戻らないだろうと。

そうして、自分はそれをやった張本人を前にしに来たのだ。

まったく腹立たしいこと極まりないが、これも長兄としての仕事である。

 

「…もう。深化した()()()()()をどうにかするのは、僕なんですからね?御父様」

「ハイハイ、分かっているとも」

 

わざとらしく肩をすくめる父を半目で睨む。

どうにも反省の色が見られなかったが、これ以上文句を言う気力は今のシロガネハイセイコにはなかった。し、

 

「…………」

 

それよりも。

どうしても、気に掛かってしまうことがあった。

 

「どうかしたかい?」

「いえ、」

 

ふと視線を落とした先にあったものは、机に置かれた一冊の書物。

表紙は擦り切れていて相当年季が入っていることが窺えた。

パラリと開いたページは触れただけで風化しそうなものだ。

 

「…あぁ、これかい?」

 

シルバーバレットの指がつい、と書物に触れる。

愛おしそうに細められた瞳はしかしすぐに逸らされて、遠い記憶を見るような顔つきになる。

それはどこか寂しげな横顔だった。

けれど、

 

「キミが知る必要はない!…かな?」

 

そう、はぐらかされては…。

 

「…はい、分かりました」





【銀色のアイドル】:
シロガネハイセイコ。シロガネ家長男。
父であるシルバーバレットの世話を担っている。し、場合によっては護衛じみたこともする。
最近の悩み…というか恒常的な悩みなのだが、は『父が他人を惹き付け過ぎること』。
でも何だかんだ言いながら父の言うことを聞く良い子である。

僕:
シルバーバレット。
その気になれば思考誘導くらいはできる"魔性"。
ちょっと他人を使って'ある書物'を見つけてきてもらった。


'ある書物':
大正中期~末期までの日記とも雑記とも取れるもの。
ある不思議な力を持っていた牝バ"シロメ"(元は白牝が転じたものか?)についてのことが事細かに記されている。が読んだらSAN値が削れる代物らしい。
……惚れ込むって、怖いネ。


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一族よりの忠告


ダイナミックお邪魔しました!定期


「チビ」

「なぁに?」

「おじいちゃんはお前に話しておかなくちゃいけないことがあるンだ」

 

幼き日の、記憶である。

父母ともに働きに出ていて、祖父に預けられた時の記憶の中のひとつ。

普段から拘束具に包まれた祖父ではあったが、孫であるシルバーバレットにはとても優しいウマだった。

 

「…他人を誑かすのも程々に」

「え?」

「いいか? 他人と仲良くなるってことは、だ。その分だけ自分の身のリスクが上がるってことだぞ。覚えておけ」

「うん……」

 

祖父の言葉は今ひとつ理解できなかった。

だが、その時に感じていた胸騒ぎのようなものは今でも覚えている。

 

「……おじいちゃん?」

「やり過ぎるなよ?やり過ぎたら刃傷沙汰になるからな?閉じ込められることだってあるかもしれねぇ。だってチビは俺ら一族の子だから…!」

 

祖父が震える声でそう言う。

何かに怯えるように。

何かを恐れるように。

それが一体何なのか、幼いシルバーバレットにはわからなかった。

ただ、祖父はこう言ったのだ。

───お前は特別なんだから、気をつけろ。

───他人と関わる時、サシはやめておけ。

───必ず誰かと一緒にいろ。

───そして、もしもそんなことになった時は…………。

 

 

────あの子が欲しい!

────どうしても欲しい!!

────あの子がいれば、私は、()()()は、もっと強くなれる!!!

 

魅入られたのは【何】にだったのか、もう定かではない。

だが、おかしくなってしまったそのウマの前には、静かにそれを見定める影。

 

「一生大事にしますから。欲しいものなら何でも与えますから。だから、ね?ずっと此処にいてください。私たちに繁栄を、救いを…!」

 

狂ったように懇願するウマを前に、影はそっと息をつく。

呆れたようなため息だったが、それでも影は口を開いた。

まるで、慈悲深い神のように。

しかし、告げられた言葉は冷酷そのもの。

 

───あなたたちでは無理です。諦めてください。

───というかそもそも、これが犯罪とお分かりで?

 

それは、正論以外の何ものでもない言葉。

その言葉を聞いて一瞬で狂気の塊となったウマは襲いかかろうとするが、影の方が一枚上手だった。

瞬きの間に、意識を失ったのだ。

まるで眠らされたかのように。

そして、

 

「うんしょ、んしょ……えいっ!」

 

微かな金属音と共に開く窓。

そこからひらりと着地する影。

着地して、ひと息ついたあと、歩き出した影-"シルバーバック"がつぶやく。

 

繁栄(はんえー)とか救いとか言われても、ぼくらはただのウマなのに」

「いちばん初めのウマが、()()()()()()ってだけなのに、なぁ…」





【白の一族】:
またの名を『狂血の一族』。
大正中期頃に成立した家系。
どうしようもなく他人を惹き付け、魅入らせてしまう一族。
なおその発端は一族の原初兼予言のチカラを持っていた"白牝(シロメ)"という牝バにあったりなかったり…?
ちな幼き頃よりピッキングのやり方や護身術を仕込まれる一族でもある。


"白牝(シロメ)":
ハズレなしの預言者としてその名が口伝で伝えられている存在。
本名不明、来歴不明。
がしかし、芦毛の牝バであることは確かであり、その美しい白の毛並みから便宜上の名として白牝(シロメ)と呼ばれていた模様。
普段は物静かな牝バであったがひとたび口を開けば予言を行い、そのすべてを見事に当てきった。
だが若くして夭折した存在であるため、今現在では彼女の血を引く一族が身を隠しながら細々と生きる限りである。


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【白百合】は惚れ込んだ


惚れたら一直線なんだ。



『白の一族』に生まれた、その経歴に御多分洩れずホワイトリリィというウマも他人に執着されるタチだった。

美しい母譲りの容姿は道行くだけで周りの目を惹き、その勝気な性格が災いして男どもを惹きつけてやまなかった。

そんな彼女は当然のように言い寄ってくる男たちを軽くあしらってきたのだが、それがまた周りには高慢で生意気な女だと思われたらしい。

いつしか彼女の周りから人はいなくなり、気づけば一人ぼっちになっていた。

別にそれを寂しいと思った事はない。

むしろ煩わしくなくて清々したくらいである。

そんな彼女にも転機が訪れた。

ある日いつものように一人でいた彼女に一人の男が声をかけてきたのだ。

 

「な、なァ、アンタ…」

「あ゛?」

 

その男は平均的な体格ではあるがガッシリとした体つきのそばかすが似合う好青年で。

見てくれはいいが…と有名な自分に声をかけてきて何なのだと思うホワイトリリィに彼はこう続ける。

 

「俺、アンタに惚れた!」

「はァ!?」

 

いきなり何を言うのかこの男は!

そう思ったが彼の告白にホワイトリリィはすぐに返事をすることが出来なかった。

何故なら今まで自分にそんな事を言ってきた男はいなかったからだ。

みんな自分を高慢だとか我が強いだとか、そして見た目の美しさを褒め称えるばかりだったのだから。

 

「えっと、その……」

 

まさか自分のような見た目だけが取り柄の女を好きだと言う人間が目の前に現れるとは思わなかったホワイトリリィは困惑していた。

そんな彼女に追い討ちをかけるように彼は続ける。

 

「俺は本気でアンタが好きなんだ。……こんな気持ち、初めてで」

 

どうしたらいいのか、分からん。

そう言って真っ直ぐに見つめてくる彼の瞳にはいつもの雪のような肌を真っ赤に染めたホワイトリリィ(じぶん)が映っていて。

その瞬間、ホワイトリリィは自覚してしまった。

私は今まさに、まだ名も知らぬ彼に恋をしたのだと。

そして同時に理解する。

きっと彼と付き合えば自分は彼なしでは生きていけなくなるだろう。

だがそれはとても心地よいコトで。

ならばいっそ彼と付き合いたい、そして一生添い遂げたい、と。

なので、

 

「な、なァ…」

「な、なんだ?」

「もう夜遅いし、私ん家に来ないか?」

 

思い切り外堀を埋めにかかっ(父親に紹介し)た。

 

「あ、おかえりリリィ…お゛ん?」

「あ、ども…」

「えっ、ちょ、待ってリリィ?誰ソイツ???」

「えっ、あっ、」

「ん〜?あ゛〜…、父さん」

「あっ、ハイ」

「私、───その男(ソイツ)と結婚するから」

「「……は、?」」

 

「「ッええええええええ!?!?!?」」

 

「うるさっ」





【白百合】:
ホワイトリリィ。
自分に一目惚れしたという牡バに同じく惚れ込み外堀を埋めにかかった牝バ。
夭折した母譲りの美しい容姿を持っているが勝ち気な性格が災いしたのか、また別の要因かは定かでないが物心ついた時にはひとりきりで過ごすことの方が多くなっていた。
まだ名前も知らないが自分に惚れたといってくれた牡バにこれからイケイケドンドンする。

絶 対 に 逃 が さ ん か ら 。 な ?


一目惚れ牡バさん:
どこの今井さんなんだ…?
すげぇイケてる牝バを見つけて気づいたらアタックしていたすがた。
コレ今アプローチしなくちゃ他のヤツに取られる!の心。
がしかし、牝バに家に連れていかれたと思ったら、彼女の父の前でいきなりの「結婚するから」発言にはさすがにビビることに。
思わぬところで出会ったイケてる牝バとこれから仲を深めていく(結婚前提の仲)が、この時はまだお互いに名前を知らなかったり…。


【白百合】の父:
ホワイトバック。
溺愛している娘がはじめて同年代のヤツ(牡バ)を連れ帰ってきたと思ったら「結婚するから」されて茶を噴いた。
でもめちゃくちゃ危機察知能力の高い娘(なお本バは無自覚)が選んだ相手だからそういった面()では安心か…と受け入れる。し、「ウチの家は、ちょっと…アレ()なんだよネ。だから、あのコが好きなら…何がなんでも守るって覚悟、しときなよ?」と言っておく。

……あのコが幸せなら、いっか。


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ゆ゛る゛せ゛ん゛ッッ!!


フルスロットルで行こうぜ!



「僕の妹を不埒な目で見たな!?

ゆ゛ る゛ せ゛ ん゛!!!!

「待て待て待て待て」

 

その日、シルバーバレットの目はイっていた。

理由としては彼の妹であるシルバフォーチュンに不埒な目を向ける輩が多すぎたからである。

それ故にそんな輩を排除せんと暴走しかけているシルバーバレットだが、隣にいたサンデーサイレンスに羽交い締めにされながら引き止められていた。

シルバーバレットは基本的に気の良い奴だ。

それがこうまでなるとはさすがのサンデーサイレンスも思ってなかったらしい。

 

「おい、バレット!落ち着け!」

「落ち着いてるよ、サンデー…。今の僕はこれ以上なく冷静だ……。ただ、あいつらが許せないだけで……」

「ヨシ、冷静じゃないな」

 

ちなみにこの状態のシルバーバレットを見た者はこれまでいなかった。

というのも彼とその妹であるシルバフォーチュンは年齢が少しばかり離れていて。

シルバフォーチュンが競走バとなった当時、シルバーバレット当バが多忙だったこともあって…。

 

『フツー逆だろ』

『揃った時がもはや母と息子』

『妹の方がいろいろとデカすぎる』

 

などとコソコソ囁かれていたのを知らなかったのだ。

なおシルバーバレットにとっての妹を含む下の"きょうだい"の存在は、ある意味において神聖視されている節が見られる。

ので。

その分、"きょうだい"に不用意に近づく者に対して非常に敏感になる。

サンデーサイレンスは、そのことをよく、よ〜く理解していた。

そして同時にシルバーバレットを止めるには己の力が必要だろうとも。

何しろこのバカは一度走り出したら止まらないタイプなのだから。

そのため全力をもってサンデーサイレンスは押さえつける。

他のウマではこうはいかなかっただろう。

マブダチであるサンデーサイレンスが相手だからこそ、このバカは理性を失うほどの激昂を、プレッシャーを抑えている。抑えて()()()いる。

 

「落ち着けって…。な?」

「……ぐるる、がるるるる…!!」

「お前が暴れたらあの妹も悲しむだろうが」

 

息が荒く、目を吊り上がらせているシルバーバレットの手を掴み座らせる。

そのまま深呼吸をさせて。

ある程度落ち着いたところでようやく解放する。

 

「……ごめんね、サンデー」

「いんや、いいよ」

 

しゅんとする彼の頭を乱雑に撫でる手。

それに「やめてよ〜」と抗議の声を上げる彼だったが、すぐに笑顔に戻った。

そんな二人の様子は、傍から見ると仲睦まじい兄弟のようで…。

 

「あ、年齢的には僕の方が兄だからね?」

「!?」

 





僕:
シルバーバレット。シスコンでありブラコン。
僕の妹を不埒な目で見たな!?万タヒに値する!!の気持ち。
おそらくSSが傍にいなかったらプレッシャー()を出しながら件の他バたちに絡んでいたと思われる。
怖 い 。

SS:
サンデーサイレンス。僕を止めた。
シスコンとして怒り狂う僕を見て「面白い」よりも先に「これはいけない」という気持ちが出た。
もはやどこぞの猛獣かというぐらいキレ散らかした僕を見て「コイツ、妹が彼氏とか連れてきたらヤバいんじゃね?」とアイデアを成功させた。正解。

僕の妹:
シルバフォーチュン。いろいろとデカい。
【白の一族】の容姿に穏やかな気性が合わさって出来上がったみんなの初恋キラー。性癖を捻れ狂わせるな。
しかも自分が周りからどういう風に見られているか気づいてないので…。
たぶん兄である僕とはまた違った"魔性"。
邪悪じゃない妲己。


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殺伐的に躍りましょう?


趣味に走った。



───それは、イカれた『I love you.(愛してる)』よりも
前の一幕。


『貴様のようなみすぼらしいウマがグローリーゴア様のそばにいるなんて!』

 

あ、どうも。

現在、異国の地で頑張らせていただいてますサンデースクラッパです。

さて、最近の僕には悩みがあります。

はい、みなさんお分かりの通りでしょうが。

 

『グローリーゴア様は』

『グローリーゴア様は』

『グローリーゴア様は』

 

…う〜ん、何だかゲームのNPCと話してるような気がしてきた。

それだけしか喋れないんだろうか、このウマたち。

尊敬しているといったらそれまでなんだろうけど、それって要するに、自分を押し付けてるっていうことじゃないの? …まぁいいや。

そんなことを思いながら、僕はポケーっと待ちウマを待つ。

その間もやいのやいの言い募ってくる周りだけど、

 

「…スクラッパ」

「ん」

 

静かに自分の名を呼ぶ待ちウマ-グローリーゴアの元に一目散に駆け寄る。

そうして横に立ち、顔を見上げると、グローリーゴアはふわりと笑った。

それに周りのウマたちは驚愕し、ざわつく。

が、()()()()に時間を割く趣味はないので足早にその場を離脱。

 

「いーけないんだいけないんだ」

「何が」

「笑顔の安売り」

 

基本真顔の鉄面皮のクセして。

なんでさっき笑ったんだか、ねぇ?

そんな僕の言葉にグローリーゴアはさらに微笑む。

もう見慣れたけど、それでもやっぱり違和感あるなぁ……。

だってさ、物語のキャラが目の前に現れたみたいなものじゃない? しかも超美形。

なのに基本無表情なのが僕の前だけはゆるむんだ。

…それが"ライバル"の特権だと言われれば、それまでなんだろうけど。

 

「ねぇ」

「なぁに」

「さっきのと、なに話してたの」

 

じぃ、と見定められる。

特段悪いことをしたつもりはないがその目に見られると思わず身構えてしまう。

しかしグローリーゴアはただ一言。

いつものように、ただ一言だけ告げるのだ。

僕の答えを催促することもなく、また質問を続けるわけでもない。

ただただ僕だけに告げる。

いつも通り、僕の手をとり、いつも通りの言葉を紡ぐ。

そうして、今日もまた一日が続く。

いつもと何も変わらない日々が。

 

 

サンデースクラッパは、他人に興味がない。

それを本バに言えば本気で否定されるだろうがグローリーゴアにとってはそうとしか思えないことが多々あり過ぎた。

例えばそれは…とあるレースの時。

そのレースにグローリーゴアは出走していなかった。

ので、ただ単に観戦していたのだが。

 

「…」

「───ッ、」

 

1着で走り終えた、サンデースクラッパ。

その目には…、何の興味関心もなく。

ただ、『今日の天気は晴れなんだ』とかそういった類の、何でもない当たり前のことを思った時に見せるような、色だった。

その時の彼の眼差しは今でも忘れることができない。

まるでそこに誰もいないかのように……本当に興味がないように。

レースの結果も、実況の声も、歓声も賞賛も何もかも気にしていないかのような目。

だが……そんなが自分を見つけた瞬間、

 

 

()を灯した。

それを知った刹那の感情は、今でも言い表すことができない。

けれど言い表せと言われたのなら自分はそれを───"歓喜"と。

 

「なんだ、来てるのなら言ってくれよ!」

「あ、あぁ」

「ごめんな。キミに見せるには…不甲斐ない走りだったろ?」

 

不甲斐ない走り、か。──6バ身、サラッとつけていた癖に。

 

「いやいや。アレはね、途中でみんな諦めちゃったから。みんなが諦めずに走ってたら、6バ身なんて…」

 

なかったのに。

そう言ったサンデースクラッパは心底悔しそうに顔を歪めていた。

でも、僕はそれを、知っていたんだ。

あの時、初めて出会ったあの日に、既に気付いていたんだ。

このウマはきっと……誰よりも勝利に飢えていて、勝利を愛して止まなくて。

それでいて…自分と()()()()()誰かを求めているんだ、と。

だから、その誰かに僕がなる。

なって、()()()()()のだ。

が、そんな僕とは裏腹に。

 

「あ゛〜、やっぱグローリーゴアと走るのがいちばん、面白いなァ…」





【戦う者】:
サンデースクラッパ。
普段のレースでの他バに興味のない眼差しが半兄ソックリ。…もしも半兄に"ライバル"がいたら、こうだったかも?
そして本バは否定するが家族+トレーナーに対して以外の興味関心すべてがグローリーゴアに向いているため見かけは穏やかだが周りへの対応が塩。
だが興味関心対象であるグローリーゴアと関わると色々滾り始めて父譲りの口の悪さが出る。その時の一人称は「俺」。
んで本バも自覚してない本音をうっかり喋ってしまったりする。
例)
「やっぱりお前が俺の『運命』だ」
「俺だけを見ろ。目を逸らすな」
「俺以外見たらコロす。俺以外に負けても
コロす。─── Understand(分かってるよな)?」


【栄光を往く者】:
グローリーゴア。
【戦う者】にやられたし、【戦う者】には自分だけを見てもらいたいウマ。
コイツもコイツで【戦う者】以外が眼中に無い。
普段は大人しく穏やかだが【戦う者】に関してのこととなれば圧を出す。
だって【戦う者】のライバルは()()()()だから。

「…僕らの"舞台"の端役になれるんだ。慎んで拝領して欲しいね」


ファンや周り:
普段は仲がいいのにレースになると殺伐フレンズになるふたりに脳内が宇宙するし、お互いがお互いを『運命』と呼んで憚らない関係に脳を焼かれている。
…まぁこのふたり、お互いしか相手にならないからなぁ。



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擬似きょうだい


実質お兄ちゃん的なものになるシロガネツーパックさん。



『よォ、久しぶりだなジジィ。耄碌してねェか?』

『う〜ん、初っ端から猛烈なジャブ』

 

その日、ダービー馬シロガネツーパックは里帰りしていた。

海外遠征等の疲れを癒すためだとか何だとからしいが、

 

『…でも、元気そうで嬉しいよパック』

 

このジジィがそばにいたら休まるモンも休まらねェっての!

しかしそんな事より気になる事が一つあった。

あの女だ。

いまジジィの隣にいる牝馬()

名前は知らん。顔も知らねェ。

だが……。

ソイツを見た瞬間、俺ァ何故か寒気がした。

何かこう……魂的なモノで感じ取ったンだ。

 

『…あぁ、そう言えば』

 

ぽつりと。

何かに気づいたようにジジィが声を出す。

そしてそのまま流れるように自らの隣にいる存在に声をかける。

 

『ほら、挨拶してみたら?──サイレンス』

『…サイレンスヘイロー』

『うん、いい子』

 

その牝馬()はひどくぶっきらぼうだった。

まるで愛想のない声で、俺に名前を告げる。

……俺は、この牝馬()を知っている。

コイツはこの先、とんでもないバケモノになる。

その可能性の塊みたいなモンを俺は知って()()()()()

なんせ……それは、

 

『そう言えばあの子たちって、彼の血筋だっけ?』

 

 

───仲良くするんだよ。

とは言われていたが、

 

『まさか同じところに帰るとは思わねェよ!?』

 

里帰りが終わり、厩舎に帰ったあと。

気がつけば隣には、

 

『おい、待て。なんでコイツと俺をそばに置く。俺とコイツが異性ってコト分かってんのかおい!?』

 

サイレンスヘイローがいた。

他の馬の話を聞く限り、どうやらニンゲンは俺らを一緒にしておくらしい。

意味わかんねェ。

こいつ、牝馬だぞ。

そして俺は牡馬!

 

『ザッッ、ざっけんじゃねぇぞコラァ!?』

 

思わず暴れそうになったがそこは抑えた。

だって、牝馬()の前だからな。

ここで暴れたら恥ずかしいだろ?

そう思って落ち着こうとした矢先だった。

 

『あの…』

『おう!?』

『どうして…私にやさしくしてくれるんですか…?』

 

心底からの不思議そうな目。

何を言ってんだコイツ?という表情の俺。

それを見てか、サイレンスヘイローは首を傾げる。

────。

なんだ、コイツ。

可愛いところも、あるじゃねェか。

 

『……べ、別にテメェのためじゃねェよ!』

『えっ』

『あのジジィに頼まれたから仕方なく、()()()()優しくしてやってるだけだ。勘違いすんじゃねェぞゴラァ!!』

 

俺の言葉を聞いた途端、サイレンスヘイローの目が変わる。

ふわりと、まるで花がほころぶように。

 

(…うわ)

 

【揺らめいた心音には、知らないフリを】

 

 

『…そろそろキミは、外の世界に踏み出さなくちゃならない』

『うんうん、怖いよね。分かるとも』

『けれど───、』

 

ずっと、あなたのそばにいたかった。

世界というものは恐ろしい。

やさしいあなた。

私のすべてを、受け入れてくれたあなた…"カミサマ"。

 

『大丈夫だよ。あの子は、"シロガネツーパック"は、とてもやさしいから…』





【雷撃の豪脚】:
シロガネツーパック。父エアシャカール母父シルバーバレットの牡馬。
特定の人物+馬の前以外ではとても気性が悪いが意外と面倒見がいい。
里帰り中に成された、馬の中で唯一従うジジィの"オネガイ"により【敬虔なる天使】を任せられる。
そして気がつけば【敬虔なる天使】のお兄ちゃん代わりに。

…よォ。お前いま、アイツを邪な目で見たよなァ?


【敬虔なる天使】:
サイレンスヘイロー。父SS母父シルバーバレットの牝馬。
生産牧場からの扱いによる後天的な気性難で、母父であるシルバーバレットによく懐いている。
里帰り中にシルバーバレットとお話をした結果、外の世界ではシロガネツーパックを頼るようになる。
閉じた世界で過ごしていたがゆえにまっさらな子。
それに母父の因子が入っているので…。


母父:
シルバーバレット。【雷撃の豪脚】からは"ジジィ"と呼ばれている。
子どもを可愛がるのが好きなおじいちゃん。
で、今回は閉じこもりがちな孫娘をちょっと口調は荒いけど面倒見がいい孫息子に任せた。
まぁ、あっちに帰っても相棒がいるから大丈夫でしょ!


ヒトミミさんたち:
厩舎の中でも類稀な気性難である【雷撃の豪脚】のそばに【敬虔なる天使】を置いておくと大人しくなることに気がついた図。

牧場に帰っている間にバレット経由で仲良くなったのかな? By.調教師の男


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そんな、僕なんて大したウマ娘では…


これは生存‪√‬の与太スレ。



1:名無しのトレーナーさん

 

だって、クラシック無冠ですし阪神ジュニアSを勝ってからは表舞台から遠ざかってましたし…

 

 

 

2:名無しのトレーナーさん

 

>>1

ど の 口 が

 

 

3:名無しのトレーナーさん

 

>>1

おう、ちょっと走ってみろよ(芝2400mWR&凱旋門賞36バ身の音)

 

 

4:名無しのトレーナーさん

 

は ?

は ?(再放送)

 

 

 

5:名無しのトレーナーさん

 

今も超えられないWR出してる奴が大したことないなんて…たまげたなぁ(死んだ目)

 

 

6:名無しのトレーナーさん

 

お前生涯無敗だろうがよエーッ!

 

 

7:名無しのトレーナーさん

 

>>1

お前復帰明けとは言え毎日王冠でCBに勝っとるやろがい!

 

 

8:名無しのトレーナーさん

 

何言うとるんやコイツぅ?ニワカか…?ニワカかぁ…(自己完結)

 

 

9:名無しのトレーナーさん

 

本人に自覚がないのがいちばんタチ悪いって古事記その他もろもろにも書かれてる

 

 

10:名無しのトレーナーさん

 

あの年齢で走れてた時点でおかしい

そしてあの怪我で復帰できてたのはもっとおかしい

んで産駒成績もおかしい

【結論】ぜんぶおかしい

 

 

11:名無しのトレーナーさん

 

はえーよホセ!

 

 

 

12:名無しのトレーナーさん

 

>>11

う〜ん、この終身名誉バケモン

 

 

13:名無しのトレーナーさん

 

>>4

今日のおはハイセイコ定期

 

 

14:名無しのトレーナーさん

 

産駒成績言ってみろやオラッ!

言ってみろよほらほらー!

 

 

15:名無しのトレーナーさん

 

そ、そんな…!

だからしがないウマ娘ですよ僕は!

…みんなが強いだけですって

 

 

 

16:名無しのトレーナーさん

 

>>15

ダウト

 

 

17:名無しのトレーナーさん

 

>>15

ダウトダウトダウト

 

 

18:名無しのトレーナーさん

 

>>15

嘘つきは駄目だって習わなかったか?

 

 

 

19:名無しのトレーナーさん

 

>>18

うわ……(ドン引き)

 

 

20:名無しのトレーナーさん

 

草なんだ

相変わらずの銀弾なんだ

 

 

21:名無しのトレーナーさん

 

ここは銀弾が頑なに自分がモブって言い張るスレですか?

 

 

22:名無しのトレーナーさん

 

>>21

そうだよ

 

 

23:名無しのトレーナーさん

 

>>21

自分はモブ(モブとは言ってない)

 

 

24:名無しのトレーナーさん

 

そんなこと言ったらいつもの方々がすごい顔すると思うんだ…

 

 

 

25:名無しのトレーナーさん

 

>>24

ヒエッ!

 

 

 

 





僕:
シルバーバレット。
しがないウマです(本ウマ談)。
でも負けるつもりは毛頭ありません(キリッ)。

なおこういった与太スレで現役時代の強さが広められていく模様。
そしてスレを見た人間の脳を焼き払う。


シロガネハイセイコ(実馬画像のすがた):
シルバーバレット関連のスレには基本常駐。
シルバーバレットの初年度産駒として有名でありつつ、スレ民たちの手によって気づけばファザコン()のキャラ付けがなされてしまった。
過去には『父さんを讃えるスレ』とかいう書き込みしてる奴ら全員シロガネハイセイコ(エミュのすがた)なイカれたスレも…。


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イセイの話


リクの『競馬星人が攻めてきたよ』という話。
ヨシ!競馬星人の脳も焼こうぜ!!



風だけが吹く。

観客席には、誰もいない。

 

「やぁ」

 

やってきた存在に、立っていたウマが声をかける。

その存在は外宇宙から、地球を侵略しに来た『ナニカ』だった。

姿かたちは、ウマに非常によく似ている。

がその力はウマよりもずっとずっと強い。

けれど、

 

「僕は、キミを相手にすればいいのかい?」

 

外星の者たちは力づくで地球を奪おうとはしなかった。

逆に正々堂々と、レースでの()()()()を申し出てきたのだ。

『そちらの最強とこちらの最強を戦わせるのだ』と言って。

 

はじめ、地球の人々は現役のウマから各々最強を選びだそうとした。

だがしかし、外星の者たちはそれを許さなかった。

 

『私たちが戦いたいのは、この星においての最強だ』

 

そう言って。

そう言って、摩訶不思議な技術でもう年老いて久しくなった過去の名バたちを()()()()()()()よみがえらせた。

そしてよみがえった名バたちは決められた日までの間、己の体を鍛え直し。

 

「じゃあ自己紹介をしようか」

 

相見えますは日本、東京レース場芝2400m。

その国の、その距離代表に選ばれたのは小さく、華奢な芦毛のウマ。

だが侮ってはならず。

何故なら、

 

「僕はシルバーバレット。さて、キミは…」

 

 

───2:19.0を、超えれるかい?

 

 

資料には、目を通していた。

芝2400m、2:19.0。

それは自分たちの星でも何度か出たレコードだった。

自分だって、出したことのあるレコードだった。

だから勝てるだろうと。

余裕を持っていたのに、

 

(な、んで…!)

 

──その背に、追いつけない。

目視するたびに、蜃気楼のようにブレる背に必死に手を伸ばす。

届かない。

どうしようもなく。

 

(この距離なら、いちばん強いのは、自分のハズなのに…ッ!)

 

離れる。

遠くなる。

駆けていく。

あぁ…、こんなの。

 

(追い縋ることさえ、許されない…)

 

 

「…ぁ〜、来た来た」

 

世界覆す無敵の弾丸 Lv.6

 

 

地面が割れ、揺れる。

届かない、届かない届かない届かない届かない届かない届かない届かない届かない届かない届かない届かない届かない、まま。

表示された、タイムは。

 

「……及第点、かな?」

 

 

WR 2:16.5

 

 

結局のところ、地球は外星からの侵略を退けることができた。

まさか年老いて久しい僕が招集されるとは思わなかったけど、あの場所で走れてよかったなと今では思うし。

でも、それはそれとして、

 

「なんで帰らないの?」

 

僕と戦った外星人さんが帰んないんだよね。

帰りなさいとは言ってるんだけどヤダヤダって駄々こねるし。

逆に「一緒に行きましょう」と僕を誘ってくる始末…。

 

「…まぁ、地球にいる間は面倒見るけどね」





僕:
シルバーバレット。
日本の芝2400m総大将。
全盛期復活した結果、非公式とはいえ自分が出したWRを軽々塗り替えた。
でも本バいわく『及第点』とのこと。
…トレーニングが、足りなかったね。

そして、見ていた人々のみならず戦った外星人の脳もまるっと焼いた。
焼き過ぎて外星に連れて行かれそうになっている(でも気づいていない)。


外星人さん:
ウマっぽく見えるけどウマよりも力が強い。
けど重力という名のハンデで地球のウマも対等に戦えるようになっている。
世界に散らばってその国々の各距離代表と一騎討ちした。

日本の芝2400m戦は地球のWRを考慮して母星にて芝2400m、2:19.0を出してた外星人さんが相手。
その星での芝2400m、2:19.0は()()()出るタイムらしい。
が、地球のンマである僕に母星のWRを超えた2:17.0を軽々と出されてしまい脳焼き。

…え!?アレで及第点なんですかぁ!?
しかも産駒成績…!?

結果、僕を母星に連れて帰ろうとして四苦八苦することに。
(そして地球組とバチバチする)


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誰だ、キミたち!?!?


引退初期銀弾、『走り方教えてください!』って周りに言われて頭抱えてたりしてると思う。
だって戦法とか考えずに好き勝手走ってたんだもの。
走ってたら、勝ってたんだもの。
それで、負け知らずだった(もの)
…それが、銀弾なんだ。



最近なぜかあまり知らないヒトたちに絡まれるようになった。

その誰もが【銀】の名を冠するウマたちで。

 

「せんぱ〜い」

「バレット」

「父様…」

「おじいさま〜」

 

…なんか呼称が一部おかしいところもあるがそんな感じ。

海外遠征(この)前まではこんなことなかったんだけどな?と不思議に思いながら、自分に話しかけてくるウマたちを()()()無下にできないのでひとりずつ応対していく。

 

「ね、バレット」

「なんだい」

 

はじめに話しかけてきたのは最近僕と成り行きで同居し始めた栗毛の体格のいいウマ。

【シルバー】という名を冠する名家の次期当主だと目されているウマのようだけれど…、

 

「僕らの家においでよ」

「え、」

「同じ【シルバー】って冠名だから、どこか遠縁の家の生まれだったってすれば問題ないからさ」

「普通に問題だろ、それは」

「え〜?」

 

執拗に僕を家に組み込もうとしてくるんだよなぁ…。

いや、分かってる?

僕"サラ系"だぜ?と言おうにも「ウチの家の大半が"サラ系"だよ?逆に"サラ系"の方が多いよ?」と言われれば口を噤むしかなく。

なんでや…。いちばんの断り文句が断る前から潰されてるよ…。

ミスターとかルドルフとかならこの断り文句でなんとかなるのにぃ…!

 

「だから、ね?」

「ヒエッ」

 

か、顔がいい…!

紅顔の…系の顔で迫ってくるな!

ジリジリ圧をもってにじり寄ってくるから逃げるに逃げられない!

そもそも手がガッシリ掴まれている。

 

「タスケ…タスケテェ…」

 

僕は普通に生きたいんだよ!良家に組み込まれたくはないんだよ!と心の中で叫んでいれば、

 

『ちょーっと待ったー!!!!』

「!?」

「あ、」

 

ベリっと引き剥がされポイッと。

ビックリしているとワラワラしているウマたちにぎゅーっと抱きとめられる。

 

「わ〜い、おじいさまだ〜」

「お父様〜」

「パパ〜」

「あ、ありがとう…」

『どういたしまして〜』

 

抱きとめてくれたウマたちにわちゃわちゃされているとどうやらまた新しい話が始まるようで、

 

「【シルバー】の方には渡しませんよ!」

「へぇ…?」

「父様を引き取るのは【シロガネ】です!」

「アッ」

 

な ん で さ ! ?

【シロガネ】家も【シルバー】家に並ぶ名家だろ えーッ!

もはや侃侃諤諤をも超えた議論である。

 

「【シルバー】の方はフォーチュンさんからOKもらえたんでしょう!?それでいいじゃないですか!」

「え?【シロガネ】の方は家族を引き離そうっていうの?非情だなぁ」

「う…」

 

え?いやちょっと待って?

お前、シルバフォーチュン(僕の妹)にも魔の手()を伸ばしてたんかい!

それにフォーチュンもOK出しちゃったの!?

 

「ナンデ…ドウシテ…」

『どうか、【シロガネ】に来てください!』

「ウウウ…」

 

…僕、どうすればいいんだろう。





生存‪√‬に入ったので【シルバー】と【シロガネ】が生えてきたウマ世界。

僕:
シルバーバレット。
海外遠征から帰ってきたら【シルバー】と【シロガネ】というふたつの名家から狙われるようになってしまった哀れなウマ。
本ウマとしては普通に生きたいのに…。
"サラ系"っていう断り文句も『ウチの家の大部分が"サラ系"ですよ?』って言われて潰されるし…。CB&皇帝などにはその文句が効くのにね…。

知らぬ間にシルバフォーチュン(いもうと)が【シルバー】の方に入っちゃってたのは流石に驚いたらしい。

なお本当にヤバくなったら仲良くなったマブのSSさん家に逃げ込む系ウッマになる。助けてマブ!いや、逆にマブの家の子にならせて!!僕を!!!!

【シルバー】:
シルバーの冠名を主に使っている名家。
次期当主は体格のいい栗毛の美丈夫なウマ。
その次期当主自ら僕に惚れ込んでおり、何やかんやして現在は同居している仲。
同居して仲を深めてあわよくば…という考えとのこと。
まぁ、もうシルバフォーチュン(いもうと)の方は組み込んじゃったからね!

バレットは元々こっちにいたんだよ?だから…ね?

ちなフォーチュンはシルバーチャンプ等から家入りを頼み込まれた結果、気づいたらOKを出していたんだって…。
本ウマも何故OKを出しちゃったのか分からないって言ってたよ…怖いね…。

【シロガネ】:
シロガネの冠名を主に使っている名家。
次期当主は『銀色のアイドル』と巷で謳われている歳若いウマ。
何故か僕を『父さんおじいさま』と呼ぶウマたちの集まり。
(なお少なくはあるが僕のことを『母さんおばあさま』と呼ぶウマも…?)
僕自身分かっていないが、何故か【シロガネ】の名を冠するウマたちに逆らえない(あまい)ためそれを利用して押し切ろうとされている模様。

僕たちの始まりは"あの方"ですから…【シルバー】と言えども、絶 対 に!渡しません!!
…ほどほどにしろよ〜、ハイセイコ。


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本気(マジ)の逃亡劇


Q.好みのタイプは?



その日、シルバーバレットは新聞部からの質問に答えた。

 

(あ〜、コレよく聞かれる質問だなぁ)

 

なんて思いながら。

軽い気持ちで、冗談で。

答えただけだったのに…。

 

 

どうしてこうなった????

学園新聞が校内に貼り出されて以来、シルバーバレットは逃げていた。

逃げる理由はただ一つ。

あの質疑応答のせいで、併走依頼が殺到しているからだ。

シルバーバレットにとって特に関わりの深い者たちからの反響が大きく、中には結託して彼女を拉致しようとする者もいるとか(併走が終わればちゃんと帰してくれる…ハズ)。

だがしかし、当の本バはというと……、

 

───そんなことは知らない。

 

今この瞬間も絶賛逃走中なのだから。

もう何度目かわからない曲がり角を勢いよく曲がった時だった。

シルバーバレットの前に立ち塞がるように一人のウマ娘が現れたのだ。

彼女は両手を広げて通せんぼをするかのように仁王立ちしている。

シルバーバレットの行く手を阻むために。

だが、

 

「ごめんね!」

「あっ、!?」

 

彼女はスライディングした。

もう、それはそれは見事なスライディングであった。

生まれ持った矮躯を活かすための脚力が光り輝く。

そうして出来た活路をシルバーバレットは全力疾走する。

しかし相手も負けじと追いかけてくる。

 

「あぁもうっ!仕事はどうしたのさ──ルドルフ会長!?」

「今は私よりもキミのことだ。キミは何かと面倒事に巻き込まれる体質だからね。悪いが大人しく捕まってくれないか?」

 

シンボリルドルフ。

トレセン学園の生徒会会長であり、生徒からも教師からも尊敬され、信頼されている存在。

そんな彼女が、何故こんなことをしているのかと言えば、……単純にシルバーバレットのことを守りたいためだ。

ほら、かの【皇帝】がそう言っている。

だから、それが何よりも()()()だろう?

 

「…ッ大人しく捕まるも何も!僕は何もしてないってば!!」

「いいや、したさ」

 

いつもは、叱る立場の年長組であるふたりが廊下を全力疾走する。

ズガガガガ!だか、そんな音を出しながら。

普段では、絶対に見られない光景だろう。

いや、見たくもないが。

だって、絶対怖い(確信)。

そして、そのまま階段に差し掛かったとき、シンボリルドルフはシルバーバレットの身体を抱え込むようにして、抱きついた。

突然の出来事にさしものシルバーバレットも困惑する。

 

「えっ?あの、シンボリルドルフ、さん…?」

「…今、」

「ひゃいっ!」

「飛び降りようと、しましたよね?」

「え、あ…」

「し ま し た よ ね ?」

「はいっ!しましたァ!!」

 

という訳で。

 

「脚のことを、ちゃんと 考 え て くださいね?」

「…ヒィン」





A.僕より強い人。


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いびつな幕引き


───彼は、終わらせてほしかった。



ありがちな宿題だ。

 

「ふぅん…高齢者インタビュー、ねぇ。うん、僕でいいのなら力になるよ」

 

僕の家はお父さんとお母さんだけなので公園でよく会う"シロガネさん"に話を聞くことにした。

ベンチに座って遊ぶ子どもたちを毎日ニコニコして見ている"シロガネさん"。

僕は"シロガネさん"の隣に座った。

彼は不思議そうに僕を見つめたあと、ニコリと笑ってくれる。

その笑顔はまるで午後の太陽みたいに明るくて暖かいものだった。

彼の隣はすごく落ち着くし、居心地が良かった。

 

「…それで?どんなことが聞きたいんだい?」

「えっと…」

 

どうしよう、何から聞こうか。

迷っているうちに彼がまたクスッと笑い、優しく頭を撫でてくれる。

子ども扱いされてるなぁって思ったけど悪い気はしなかった。

むしろ安心する。

そうして僕は彼に促されるまま、ゆっくりと口を開いた。

 

 

「…う〜ん、それで役に立つかなぁ?」

「たぶんフツーの高齢者じゃ話してくれない話だとは思う」

「そっかぁ」

 

"シロガネさん"の話はとても面白かった。

前々から"シロガネさん"がウマだということは分かっていたがまさか競走バだったなんて!

"シロガネさん"は『走ってたのはもうずっと前だからね〜』とほけほけ笑ってはいたが。

そんな感じでいろんな話を聞いた。

好きな食べ物や嫌いなもの。

競走バだったころの思い出。

家族のこと。

どれもこれも興味深い内容ばかりだった。

特に興味深かったのは、どうして引退したのかということ。

彼曰く、引退を決めた理由は怪我ではないらしい。

 

「あぁ、もういいなぁ…って思ったんだ」

「…()()()()?」

「うん」

 

そう言った"シロガネさん"の目は遠くを見ていた。

なんだかすごく寂しそうな目をしている。

いつも優しい顔しか見たことがなかったからこんな表情を見たのははじめてだった。

少し驚いてしまったけれど、「シロガネさん?」とすぐ声をかける。

すると彼はハッとしたような顔をしたあと、すぐに元の顔に戻っていた。

やっぱり見間違いだったかもしれない。とは思いつつも…。

 

「…キミも縁があれば海外に行ってみるといい。面白いと思うよ?」

 

 

()()()()

なんて感じたのは競技者として年老いていたある日だった。

自分が、自分という存在がありふれた物語のように終われる存在ではないと気づいてしまった日に。

 

『…僕は、トゥインクルシリーズから引退します』

 

僕は僕で幕を引いた。

誰も倒せない()()()()なんて、いても面白くないでしょう?

 

「とか、…ふふ、冗談ですとも」





"シロガネさん":
そう呼ばれているだけのおじいちゃん。
元は競走バだった。
結構長きに渡り走っていたが辞めた理由は身体機能が落ちたからではないとのこと。

僕の前に、英雄(ヒーロー)は現れなかった。
…なら、自分で幕を引くしかないでしょう?


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バレンタイン


バレンタイン大変そう(小並感)。



「チーム:アルデバラン、集合」

『はーい』

 

その日、チーム:アルデバランのミーティングルームはいつにも増して騒がしかった。

 

「…今年もこの季節が来ました」

『…ごくり』

「バレンタインです!」

 

チームのサブリーダーであるシロガネハイセイコがそう告げた瞬間、その場に集まったメンバーは生唾を飲み込んだ。

 

「みなさん…お分かりですね」

 

深くうなずくメンバー。

なにか、そこまで深刻なことがあるのか?

まぁ、外から見ればそうも思うだろう。

だがこのチームに入った彼女らの中でバレンタインというものは死活問題…。

なぜなら、

 

「リーダーの手に渡らせる物は安全なものでなければなりません!」

『そーだそーだ!!』

 

チーム:アルデバランのリーダー・シルバーバレット。

あまり表舞台には出ないタチだがそのファンの数は数しれず。

つまり母数が多いということはそれだけ不穏分子が紛れ込む可能性が増えるということに他ならないのだ!

だからこそ、シルバーバレット宛のチョコを預かる彼女たちにとって、この時期はとても忙しい。

それこそ目が回るくらいに……。

だが彼女達は負けない。

チームとして勝ち取った栄光を守るため、今年も彼女らはチョコと奮闘する!!

 

 

─完─

 

…となるワケもなく。

 

「リーダーってそもそもチョコ好きでしたっけ?」

「嗜むくらいには好きみたいだよ」

「へ〜。まぁ、リーダーって胃の許容量が小さいですからねぇ」

 

Xデーが近づいてきて。

近づくにつれ比例的に増加していくチョコを入れ替わり立ち替わり判別するアルデバランのメンバー。

自分たちもそれなりにはチョコをもらっているという自覚はあるがコレは超えられそうにない…と考えつつ、手は止めない。

 

「あ、これ大丈夫ですかね? アルコール濃度高めなんですけど……」

「ああ、ソレなら問題ありませんよ。リーダーの名で送られてきたトレーナーさん宛のモノでしょう」

「そういうのアリなんですか!?」

「はい。リーダーと同じように、トレーナーさんにもファンがいらっしゃるんです」

「……そうなんですか」

 

部屋に響くのは検品作業がはじめてのウマ娘とサブリーダーの声だけ。

あとは黙々と作業をしている。

もう段ボールを何箱片したかわからない。

それでもなお減らない山積みのチョコレートたち。

 

「…多いなぁ」

「言うな」

「たぶんまだ増えると思うよ?駆け込みで」

「えぇ…」

 

手作りなり市販品なり。

さまざまな想いを込めて届けられたそれらを、彼女たちは選別しなければならない。

それが例え……、

 

「リーダーなら全部受け取るって言いそうだからなぁ…」

「だからバレないようにやってるんだろ!」





アルデバランのみなさん:
この季節はチョコの選別係になる。
段ボール何箱にも貯まるシルバーバレット(チームリーダー)宛のチョコを選別する日々…。
なんか選別のしすぎで禁断症状起こすヤツがいそう。

だがそれはそれとして親友枠+トレーナーに何かお高かったり気合いが違う手作りだったりを渡すヤツらである(なおその他には大袋チョコとかetc.な模様)。
銀弾はSSに、【戦う者】は【栄光を往く者】に、チャンプは【金色旅程】に、【純なる"サラ系"】は【心の叫び】に、【銀の祈り】は【夢への旅路】に…といった感じ。


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絶不調


まぁ、よっぽどの事がない限りこうはなりませんが。



寝不足と頭痛が祟り、現在絶不調。

 

「…ックソ、あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛っっ!!」

 

 

目に入るものすべてが気に食わない。

全部全部ぶち壊したくなって仕方ない。

そんな感じだからすべてを避けて生活していた。

だがそれも無理になって、

 

「バレット」

「…あ゛ー、せん、せぇ」

 

最悪なことにいちばん見つかりたくない人間に見つかってしまった。

最近ずっとトレーニングサボってたもんな。

ずっと先生のこと避けてたもんなぁ。

そりゃあ探すかぁ。先生優しいもの。

 

「大丈夫かい?」

「あ゛ー…」

 

うなってばかりの僕に心配そうに触れる先生。

本当に、優しい人。

でも、それでも、だからこそ、

 

「バレット…?」

 

傷つけたくて、たまらない。

先生に手を伸ばす。

あと少し、もうちょっとで先生に触れそうになったが、…ごッ!

 

「バレット!?」

 

自分で自分を殴ることで何とか衝動を抑え込んだ。

あまりに強く殴りすぎて鼻血が流れ出す。

それから体がぐらついて地面に倒れて。

意識を失う直前に、焦る先生の声が聞こえた気がした。

 

 

気絶したあと、僕は保健室に収容され治療を受けてトレーナー室へと連行されたわけだが、

 

「先生」

「…なんだい」

「手」

「ん?」

「手ェ、縛ってくれ」

「んんん!?!?!?」

「頼む」

 

何をするか分からないから手を縛ってくれとお願いした。

先生はいきなりのことに困惑していたが僕が何度も頼み込むと渋々僕の手を拘束してくれる。…何度か「もっとキツく!」と言ってしまつたけれど。

 

「それで…、今回はどういう…?」

「…それが、」

 

先生にかくかくしかじか、あれこれと説明する。

寝不足と頭痛のダブルパンチで現在絶不調であること。

それに伴うように目に映るものすべてにムカついて仕方ないこと。

だから誰にも会わないように、傷つけないように逃げ回っていたこと。

そんなことを説明した。

 

「…大変だったんだね」

「迷惑かけてすみません…」

 

母も時おりこうなっていた。

母方の家系はみんなこうだというので仕方のないことなのだろうが。

だがしかし、自らでコントロールできないイラつきに難儀しているのも事実。

 

「なら治るまでゆっくりしようか」

「…はい」

 

いつも通り微笑む先生にこくりと小さく頷く。

やっぱり先生には敵わないや…。

 

 

「やぁ、久しぶりシルバー」

「あぁ、ミスターか。久しぶり」

「最近どこに行ってたのさ。探してたのに」

「…そりゃあ、すまなかった」

「いやいや、別にいいよ〜?今から私に付き合ってくれたらね!」

「…はいはい」

 

抱き着いてくるミスターシービーを仕方ないとでもいう風に受け止めるシルバーバレット。

それは代わり映えのない、とある一日の一幕で。

 

「よかった、治って…」

 

そう胸を撫で下ろすトレーナーがひとりいたとか、いなかったとか…。





僕:
シルバーバレット(絶不調のすがた)。
普段は大人しく穏やかだが一度こうなってしまうと【白の一族】の気性が丸出しになり目付きと雰囲気がヤバくなる。怖い。

【白の一族】ver.バーサーカー:
絶不調のすがた。
普段からいろいろとヤバいがこうなった時の方がもっとヤバい。
端的に言えば、この状態になると『相手を好んでいれば好んでいるほど傷つけたくなってしまう』。ので、そういう時期は拘束具を用いたり人の輪に加わらないようにする者が大多数だとか。
まぁそれでもこの状態の彼らを怒らせるのがいちばん…、ネ?


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お茶菓子ウメェ!!パクパクですわ!!!!


僕・SS・MMの三人(三馬?)で仲良くして欲しい。



友人であるサンデーサイレンスから『俺が用事してる間、此処に行っとけ』と遣わされたのはかの有名なメジロ家で。

そしてそして彼の友人兼メジロ家当主のメジロマックイーンくんに引き合わされ、

 

「…よろしく頼むぜ、マックちゃん」

「よろしくお願いします!」

「はぁ…」

 

というやり取りを経て、今に至る。

ちなみに現在メジロマックイーンもといマックくんはと言うと、 屋敷内を案内してくれている。

けど元が庶民な僕だからすごく緊張する。

だってめちゃくちゃ物語に出てきそうな貴族のおうちみたいなんだもの、メジロ家。

 

「…どうかしましたか?」

「え?あぁ…ちょっと落ち着かないだけだよ」

「そうですか。まぁ仕方ありませんね。慣れて頂くしか無いですし」

「そうだよねー……。ところでなんで僕ココに連れてこられたのかな?メジロ家ってすごいところだっていうのはサンデーから聞いてたんだけどさ」

「あら、何も聞かされてないんですか?」

「え?」

「あ。…いえ、忘れてください」

「うん…?」

 

 

友人であるサンデーさんからその方が連れてこられたのはある日のことだった。

その方の名前を知らないといえば嘘になる。

直接顔を合わせたことはなかったが名前だけはたしかに。

"シルバーバレット"。

日本バ初の凱旋門賞制覇者。

その人となりのことを知らずとも"シルバーバレット"という名は誰もが知っているだろう。

そんな方がこの家に来られるというのだ。

……正直嫌な予感しかしなかった。

何故ならこの"シルバーバレット"というウマは『魔性』として有名だから。

 

「はぁ……」

「ため息つくと幸せ逃げるぞ、マックちゃん」

「誰のせいですか、誰の」

「ハハッ、悪い悪い。でも実際どうしようもないんだよ。このままじゃマジでやばいことになるんだ…」

「うぐっ……」

 

シルバーバレット本バは知らぬことだが。

彼は他の名家連中諸々に身を狙われている。

理由は単純明快。

彼が持っている能力、その圧倒的なまでの強大さ故。

故に彼を欲しい思う者たちが多すぎるのだ。

彼の持つ力は絶大にして異質。

それこそ今も常識を容易く壊しているほどに。

 

「…それを、よく気づきませんねシルバーバレット(あの方)は」

「アイツ俺と居るときは基本的に緩みっぱなしだし、ナチュラルに鈍感だからな」

「へぇ……(なんだかんだ仲良いのですね)」

「それにしてもほんとすげぇよなぁ。ガキ作って一家形成してもまだ狙われてんだぜ?」

「それは…まぁ、はい」

 

のほほんと微笑んで紅茶を飲んでいるシルバーバレットを眺めながらふたりで声を潜めて話す。

 

「…紅茶おいし」

「それはよかったです」

「ほらバレット。こっちの茶菓子も美味いぞ〜」

「わ〜い」





僕:
シルバーバレット。何も気づいていない。
メジロ家デケェ!紅茶うめぇ!しか考えていないすがた。
本バの身体能力もさることながら産駒の成績などで未だに虎視眈々と狙われており…?

SS&MM:
元からお世話係のSSとお友だちのMMさん。
ぽわついて何も警戒心がない僕に「やべぇなぁ…」と思っている。
なおメジロ家はこれからもたびたび(妹、甥の産駒の様子見などで)僕の訪問を受けては他の名家から鬼電が来るとか…?


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コンビニにて


もはや3000円近く散財するとは思わなかったゼ…(遠い目)



対象商品を幾つか買うと何かもらえるって、まぁよくあるよね。

そんなことを思いながら僕はコンビニの中をえっちらおっちらとさまよっていた。

いつもはファイルくらいのコラボなのに今回はいろいろグッズをくれるからなぁ…。

お小遣いが飛ぶね(確定)。

 

「…先生に渡したら喜んで消費してくれる、かな?」

 

カゴの中いっぱいに溜まった商品を見ながら遠い目をする。

こんなにコンビニで商品買ったのははじめてだ。

普段はそこまでこういうコラボに興味はないんだけど今回に限ってはコラボしているのがアルデバランの子たちだからねぇ。

 

「僕も参加してって言われたけど優先すべきは現役の子たちだし…」

 

それにしてもみんな可愛いなぁ。

この学生!って感じが良いよね。

やっぱりレースの時もいいと思うけどこういう日常風景を捉えたのもいいと思うんだよ。

そんな風に考えている内にあっという間に会計まで来てしまった。

何とかエコバッグに入った大量の商品とグッズを抱えてコンビニを出る。

 

「♪」

 

 

「珍しいね」

はひはへふは(なにがですか)?」

「バレットがそうやって一心不乱に何か食べてるの」

はぁ(あぁ)、…んぐっ!コンビニでアルデバランとのコラボグッズをもらうためにあれこれ買ったらこうなりまして。自分が買ったものならちゃんと消費しなくちゃなぁと」

「あぁ…」

 

それを聞いた先生はちょっとだけ苦笑すると僕の頭を撫でた。

ぐしゃぐしゃと掻き混ぜたりしない優しい撫で方。

先生のそういうところ、好きだなぁ。

ちょっと安心する。

と感じつつも、持ってきていたエコバッグの中からチョコとかパンとかをいろいろ出して机の上に並べる。

先生がココアを入れてくれた。

お菓子を食べながらそれを飲む。

うん、うまい。

疲れた脳みそには糖分が必要だ。

……なんかさっきから頭に乗ってる手の動きが地味に激しくなっている気がするけど。

 

「…先生?」

「ん?」

「あのー……」

「どうかした?」

「いや、どうかしたというか……」

「うん」

「……先生もいろいろ食べたらどうかな〜、なんて」

「う~ん……」

 

どう答えようか迷っているのか少し悩んでいるような声が聞こえる。

そうしてしばらくそうしていたら、──もち。

と、頬っぺたに触れられた感触があった。

え?と思って顔を上げるとそこには笑顔を浮かべている先生の顔がある。

 

「僕はもうお腹いっぱいだから大丈夫だよ」

 

……先生、絶対嘘じゃん。

顔めっちゃ幸せそうだもん。

絶対まだ入るでしょその表情。

しかもお腹鳴ってるし。

それに思わず苦笑いをして。

ちなみにその後、僕と先生は菓子パンを半分こすることになったのだった。





僕:
シルバーバレット(コンビニで散財したすがた)。
コラボグッズってヤツが多すぎるっぴ!
たぶん買ったものを胃の許容量的な問題でトレーナーにあげる。
それはそれとしてもらったグッズは汚れないように厳重に保管する。

トレーナー:
『先生』と呼ばれている。苗字は白峰。
僕のことをとても可愛がっている健啖家。
気づいたら担当バである僕とイチャついているヒトミミ(周りにはもう慣れられているすがた)。


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◆クラスメイトAと


幻覚はさっさと出しておくに限るゥ…(吐血)


シルバーバレットは基本的に食事をひとりで行う。

だからその日も、食堂の隅の隅の席でひとり座って黙々とモグモグしていた。

すると、

 

「やぁ、同席いいかい?」

「…はぁ、」

 

どこか見覚えのあるウマに話しかけられた。

はて、どこで見たのだったか…と思案していると「おいおい、一度走った仲だろう?それにクラスメイトなんだが?」と軽く嘆息されて。

 

「あぁ、」

 

そう言われて、シルバーバレットはやっと思い出した。

同じクラスの、席順が結構前に位置している…。

たしか同じくクラスメイトのミスターシービーと親しくしていたっけ、と。

思い出しては、食事を口に運ぶ。

 

「…それにしても」

「?」

「そんなので、午後のトレーニング大丈夫?」

 

 

その日から、シルバーバレットは食堂の隅の隅で先程述べたクラスメイトと食事をするようになった。

【三冠バキラー】とか【翔】と呼ばれるウマと。

 

「相も変わらず少食だね」

「…昔からだよ。今から治そうとしても無理なものは無理だ。僕は吐くぞ、すごく吐く、ものすごい勢いで吐く」

「ははは」

 

他人と関わるのが少しばかり苦手なシルバーバレット。

だが彼女と一緒に食事をとり、話すのは案外気楽なようで。

年頃らしく表情をゆるめては図星をつかれて口を尖らせるなどしており。

 

「……」

 

その様子を、いつものように食堂の角の隅で眺める者たちがいた。

言うまでもなくミスターシービーとシンボリルドルフである。

 

「ん~、アタシたちにはあんな顔しないクセに、ねぇ」

「…そうだな」

 

ふたりが見つめる先にいるシルバーバレットはそれはそれは楽しそうな顔をしていて。

それを横目に見ては口元だけで笑うミスターシービーと静かに目を閉じるシンボリルドルフ。

どうやらシルバーバレットには自分たちに向けるものと違う姿があるらしい、と。

 

「「……」」

 

 

「やぁ、ひとりなら一緒に走らないかい?」

 

己の誘いを、仕方ないなぁとでもいう風に受け取る級友にそのウマはニコリと笑った。

"シルバーバレット"。

芦毛の、華奢で小柄なウマ。

だがその脚が繰り出す速さは…。

 

「…どうしたの?」

「あぁ、いや。何でもないさ」

 

毎日王冠で(あの日)見た背を、今でも覚えている。

どれほど追っても、軽々と引きちぎられてはこちらを振り向きもせずに。

あっという間に視界から消えていった、姿を覚えている。

だからこそ。

 

「見て欲しいんだよ、ねぇ」

「……あれ?併走しないの?」

「する、するよ!」

 

軽く走り去っていくウマを追い、駆ける。

【翔】のごとく、駆けていく…。

 

「ほーら、はやくおいでよ。ねぇ、───」





クラスメイトさん:
【三冠バキラー】とか【翔】などと呼ばれているウマ。
僕と仲良くなりたいのでひとりで食事中のところを狙い共に食事をする仲になった。
CBや【皇帝】よりはマシだが僕にちょっとした感情を抱いている。

僕:
シルバーバレット。基本受動的。
相手の顔は見たことがあるが名前を知らないということが結構あるらしい。
なおコイツの懐に入るにはガンガン行こうぜ!するのが一番の攻略法だったりする。押し切れ〜!


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◆サイバー・ホースの逍遥


こういうのも出来そうだよねって…。



トレセン学園には『VRウマレーター』というものがある。

それは端的に言えば、トレセン学園のウマ娘のために開発されたレース用シュミレーターであり、どんな条件のレースコースでも再現可能な優れ物…なのだが。

ある時から、そのシュミレーターに関してのとある噂が流れ始めた。

『VRウマレーターには、誰も勝てないAIがいる』

このVRウマレーター、最新技術とあってそこまで数がなく。

使用するとなれば必然的に勝負の相手もAIとなる。

がしかし、

 

【…コんなモの?】

 

VRの中で。

形だけはかろうじてウマの姿を保ったホログラムが、無邪気に首を傾げた。

それは、まるで本当に幼い子どものような仕草で。

その動きはあまりにぎこちなく、明らかに未成熟であった。

そして何より、それが喋ったのだ。

それも、言葉を発したのだ。

カタコトではあるが、妙に成熟しきった雰囲気で。

 

【あァ、つよク、ならなくちャ…】

 

 

その【ナニカ】が造られたのは単なる偶然で。

 

『へえ、こんなこともできるのか。すごいなぁ、最新技術っていうのは』

 

そんな声と共に【ナニカ】は造られた。

いろいろな時代のウマのデータを詰め込まれて、【ナニカ】は強くなっていった。

芝でもダートでも、短距離でもマイルでも中距離でも長距離でも、逃げでも先行でも差しでも追込みでも。

そのどれでも対応できるように、データを詰め込まれ、学習した。…のに、

 

『…まぁ、発展途上の技術だしこんなモンか』

 

【ナニカ】は、勝てなかった。

自分を生み出した存在(ウマ)に。

 

『もしかしたら楽しめるかと思ったのだけど、…残念だな』

 

はぁ、とひとつため息をついて。

その存在(ウマ)は、【ナニカ】の『()()()()()』はVRウマレーターからログアウトした。

何度呼んでも応答は返ってこず。

何日待っても、帰ってこず。

 

【ぉ、カあさ…】

 

やがてその【ナニカ】は意志らしきものを持つようになり。

だがそれでも。

自分を生み出した存在(ウマ)の帰りを待つ【ナニカ(AI)】は、未だ成長途中のまま、VRウマレーターの中に沈み続ける。

学習を、し続ける。

いつか帰ってくる『おかあさん』を待ちながら、ずっと…。

 

 

うん?VRウマレーター?

懐かしい名前だなぁ。

頼まれてテストプレイヤーとして参加したっけ。

そうそう、そう言えばその時に『実験』として過去にいたウマのデータを詰め込んだAIを作ったりしてねぇ。

…にしてもあの子、【コクーン】は今も元気にしてるかなぁ?

 

 

【とある銀の弾丸の名を持つウマ娘の証言】

 





【ナニカ】:
真名【コクーン】。
その姿かたちはノイズに覆われている。
とあるテストプレイヤー(『おかあさん』)によって作成された存在。
過去のウマのデータを詰め込み+全適性がA+今もなお学習を続けている、ので普通にお強いハズ…なのだが?
今日も今日とてVRウマレーターの中を逍遥しながら『おかあさん』の帰りを待っているAIである。


『おかあさん』:
【ナニカ】にコクーン()と名付けたウマ娘。
過去VRウマレーターのテストプレイヤーをしており、『実験』の一環として【ナニカ】を作ったとか。
その作った理由に関しては『最新技術ならどうにかなるかな〜って』とのこと。
どうやらVRだからこそ体を気にせずに走れた模様。
でも使い過ぎると現実とのズレが起こるので使用は極力無しにしているとか。


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流星は、銀のキセキを見るか


ウマ銀弾の過去話。



今年の新入生に、困ったウマがいる。

そう生徒会に話が伝わったのはある初秋のころであった。

同期三人で回している生徒会。

そこに"気まぐれ"と謳われる先輩からもたらされた情報。

 

『オレの舎弟がどうにも、そのペーペーのデビューを押し止めているらしい。アイツめ、相手が何も知らないペーペーだからって…』

 

チーム:アルデバラン。

気性難の巣窟と名指しされて久しい場所に、その新入生はいるのだと。

『オレが言っても聞かなかったから』と"気まぐれ"に頼まれて、そして。

 

「…アンタが、シルバーバレット?」

「……誰ですか?」

「はァ!?」

 

その新入生に、話を聞きに行くことになったのは副会長であるウマだった。

件の"気まぐれ"先輩から、新入生の育ちが西の方だという話が上がっていたこともあり『関西弁のお前なら親しみ持ってもらえるだろ!』という生徒会長サマのひと声で…はぁ。

にしても、

 

「ボクのこと知らんてェ!?」

「は、はぁ…はい、」

「いやボクが現役やったんはだいぶ前の話やから知らんでもおかしくないけど全校集会出てないんかキミィ!」

「ぜ、全校集会…?」

「ま、マジ…?いや、アルデバランやからありえるか…?」

 

まったくもってなにも知りません、とでもいうような顔をする目の前の幼いウマに副会長は思わず嘆息する。

その後、「いつもなにしとんの」と聞けば「チームの部屋にいる」だとか、「【リーダー】のそばにいます」だとか。

どこの箱入りか、と言いたいほどに情報を遮断されて()()()()()いる新入生に本気で頭を抱える。

すると、

 

「…バレット?」

「あ、【リーダー】!」

 

顔を輝かせた新入生が声の方へ駆け出していく。

その瞬間、体の横を通り過ぎた風の勢いに…ゾワリと背筋が粟立ち。

それからのボクは、暇さえあれば件の新入生-シルバーバレットと関わりにいった。

懇切丁寧に、分かりやすいようにこの学園のあれやこれやについて説明して。

とりあえず「メイクデビュー(新バ戦)」というものがある、ということを理解してもらった。

 

「コレって、どうやったら出られるんですか?」

「あ〜…。なぁ、バレットって能力試験、もう受けとる?」

「…能力試験?」

「分かった。ボクが特例で見たるわ」

 

これでも教官のたまごやしな!

そう言ってタイムを計れば、

 

「うわ…」

 

もはやアレは、天性のモンやった。

基本このガッコに来るウマってのは多かれ少なかれどっかの教室に入っとったとか有名なジュニアレースで入着してたとか…そういうんやのに。

 

「八大競走もイけるで、コレ」

 

こんなウマが埋もれていたなんて!

学園に入るまでのレース経歴がまっさらなのを、どこか昔にいた【電撃の差し脚】に重ねながら。

ボクは、──"流星の貴公子"は、自分を待っているウマの元へ一目散に駆け出すのだった。





副会長:
元競走科現サポート科所属のウマ。
人呼んで"流星の貴公子"。生徒会副会長。
(会長は"天"、もうひとりの副会長は"緑の刺客"の模様)
将来の夢はトレセン学園の教官。
先輩である"気まぐれ"サンからもたらされた事案を解決するために動いた。
そして件の新入生であるシルバーバレットの走りを見て完全に魅せられてしまう。
…コイツなら、ボクの夢を。
なお魅せられ過ぎた結果、グイグイ行きすぎてちょっと避けられているらしい。

会長の"天"がCBに注目しているのなら、この人はシルバーバレットに注目している。
どうやらこの後も何かあるたびにシルバーバレットのことを気にかけてくれる様子。


僕:
シルバーバレット。"サラ系"。
本バは気づいていないがチーム:アルデバランのみなさんに学園に関してのいろいろな情報を秘されていた。
ので副会長のことも知らなかった。
自分によくしてくれる副会長に感謝しながらもグイグイ来るのにはちょっとタジタジ…。
ちなトレセン学園に入るまでの競走記録・経歴が真っ白なウマでもある。
それを見て副会長は「なんか 【電撃の差し脚】サンに似てるな」と思ったとか、思わなかったとか…。


【電撃の差し脚】:
既にトレセン学園を卒業して久しいウマ。
二冠バであるが農家生まれで幼いころから家業を手伝っていたのでトレセン学園にスカウトされるまでレース教室に所属したり、ジュニアレースに出走したことがなかった。
まぁそれには、このウマが───"サラ系"であったこと。
そこに何か関係があったのかもしれないが…もう、詮無きことである。


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気まぐれと銀弾


意外と周りから気にかけられてそうな銀弾さん…



まだ、チーム:アルデバランが気性難の巣窟と名高かったころ。

アルデバランに所属して日の浅いシルバーバレットに話しかけてくるウマが、たったひとりだけいた。

 

『よォ、』

『え、あ…?』

『まァ、緊張せずに楽にしててくれや』

 

ちょっと髪がボサボサで、右目に眼帯をしたそのウマ。

見るからに年上だと分かるその威容に、少しばかりたじろぐシルバーバレット。

 

『だーかーら、緊張すんなって』

『ひゃいっ!』

『あー、もー』

 

ガシガシと頭を搔くそのウマは、困ったように笑いながらシルバーバレットの頭を撫でる。

大きな手が触れる感触に、シルバーバレットは目を白黒させた。

困惑するシルバーバレットを他所に、ウマは言う。

お前が慕っている【リーダー】…ゴーアヘッドユーの知り合いだと。

あのチームに新入生が入るって聞いてな。

どんな奴なのか興味があったんだわ。

悪いけど、ちょいと付き合ってくれ。

そう言って、そのウマは手を差し出してきた。

戸惑いながらもその手を取れば、思いのほか強い力で握られ、引っ張られる。

 

『あ、あの…』

『安心しろヨ』

 

悪ィようには、しねェから。

 

 

それから。

シルバーバレットはちょこちょことそのウマ-『ジョージ』と名乗られたので"ジョージさん"、もしくは"ジョージ先輩"と呼んでいる、と親交を少しずつ深め始めた。

それはまるで、ラプンツェルを塔の中から連れ出すがごとく。

徐々に打ち解けていくシルバーバレットに対し、ジョージの方からも歩み寄ってきた。

どうすれば速く走れるか。

トレーニングは何が一番効果的か。

走りに関する技術や知識などを教えてくれた。

それは、今になって思えば当たり前のことだったけれど。

それでも、当時のシルバーバレットにとってはありがたかった。

 

『あの、』

『なんだ』

『どうして、僕にここまで…』

『…特段の理由がある訳じゃねェよ』

『はぁ…』

『でも、お前に似てるかもって思ったんだ──あの、"狂気"のヤローに』

 

その時、シルバーバレットは。

目の前のウマにとって、件の"狂気"は忘れられないモノなのだろうと察した。

だから、それ以上は何も聞かなかった。

ただ、感謝して頭を下げたのだ。

ありがとうございます、と。

 

 

そうして。

シルバーバレットは仲間を喪った。

ひどい、それはひどい火事であった。

アルデバランのメンバーが居住しているアパートに起こった原因不明の出火。

その中で競走生活を続けられたのはシルバーバレットたったひとり。

それ以外の数少ない生き残りはみな、シルバーバレットが入院している間にトレセン学園を去っていった。

閑話休題。

 

「……、」

 

かの大火事から生き残ったシルバーバレットの顔、その左半分は大火傷に覆われて爛れている。

それでもシルバーバレットは走ることを諦めず、レースに挑む道を選んだ。

だが、それはそれとして。

 

「やる」

「ジョージ先輩?」

「紐、調整して使え」

 

投げ渡された眼帯をシルバーバレットが使い込むようになり、また定期的に同じ品が送られてくるようになるのはもう少し、あとの話である。

 





僕:
シルバーバレット。
実は日常生活では眼帯を使用していたタイプのウマ。
(火事の後遺症でほぼ見えないため)
しかし基本フードを被って顔を隠しているがゆえに、そのことを知っているのは親しい間柄のごく一部だけな模様。

先輩:
人呼んで【気まぐれジョージ】。
何だかんだシルバーバレットを気にかけている兼ある経歴に少しばかり僕との類似点がある先輩。実は右目の眼帯の下には…?
はじめは舎弟であるアルデバランのリーダー・ゴーアヘッドユーが可愛がっているからという理由で絡んでいたが、火事のあとは所々で献身的に支えてくれるように。
実はシルバーバレットに同期であったとあるウマ("狂気")の面影を重ねているらしい。


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愛を狂気と見間違う


書きたかったから書いた怪文書です。



『楽しんでいこう』。

後にも先にも、僕がレース前にそう告げていたのはキミだけであった。

誰よりも小さなからだで、誰よりも速かったキミ──"シルバーバレット"。

ほかの馬には『頑張ろうね』だとか『気張らないように』だとかいう言葉を告げるばかりであったのにキミに対してはどうしてかそんな言葉しか出てこなかったんだ。

 

思えば。

今となって思えば、…キミが負けるなどということを、考えたことがなかったのだと思う。

『絶対』ならぬ『必然』。

ガッ、とスタートを飛び出して。

そのまま弾丸のように突き進むキミに跨って。

世界一の疾さを見たあの日。

クルクルと、ゼンマイ仕掛けの玩具のように廻る脚が、地面に突き刺さっては地面を爆ぜさせ。

莫大な推進力を産んでは後ろを突き放していく。

まさしく───追い縋ることすら、許さないとでもいうように。

そうしてゴール板を通り過ぎると同時にゆるやかにこちらを振り返る銀の弾丸。

何度見ても飽きないその景色は、……きっと一生忘れることは、無いだろう。

 

 

思い返してみれば、シルバーバレットという馬は非常に利口な馬であった。

人のいうことを理解していたのではないだろうかと思うほどに賢く、そして優しかった。

馬房にいる時、僕の姿が見えたならパタパタと尻尾を振りながら近づいてくるような子だったし、ご飯を食べる時はいつだって僕の顔を見ながら食べるような子だった。

抱き締めれば擦り寄ってくれたし、深々とその顔に刻まれた火傷跡も僕だけに撫でさせてくれた。

厩舎の若馬たちを穏やかに諌めていた、かの馬がホッ、と息をつくのが僕の前であったのだ。

 

それを、僕は傲慢と分かっていながらも『当然』だと思ってしまう。

だって、キミを見つけ出したのは僕なのだから。

ひとりぼっちでぽつんといたキミを。

他の誰でもなく、この僕が見つけたのだ。

キミを見つめ続ける僕の視線を遮るように、他の馬が嘶いてきたこともあったけれど。

それでもキミだけは()()だった。

僕が、僕だけが。

"シルバーバレット"を見つけたのだ。

だから。

ずっと。

一緒に、居られるものだと思っていた。

だけど、現実というのは実に残酷で。

無情にも過ぎ去っていく時間に取り残されてしまうかのように、僕はここにいる。この世界にいる。

キミの、シルバーバレットの帰りを待って。

 

 

そういう、ワケだから。

どうか。

どうか、どうか忘れないでいて。

何度生まれ変わろうとも。

たとえ行く先が地獄だろうとも。

キミの相棒は、『うんめい』は僕だけなのだと。

『白峰透』だけなのだと。

 

───憶えていて。

 

白峰透著『さよならはまだ言えない』本文より一部抜粋





誰がどう言おうが。
『愛』だと、わらえ。


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*信頼と、その裏


銀弾が【白の一族】って知ったらいちばん掛かり気味になるのコイツじゃね?という気持ちから書いたものです。



「ねぇ、バレット」

「うん?」

「この着物は?」

「え?…あぁ、そう言えばマス太って成人式ん時は実家の方に行ってたんだっけ?」

「うん」

 

引退後のある日、荷物を運び込んでいる途中に触った荷物の感触にシルバマスタピースは思わず問うた。

何故なら触れたものが少し触っただけで分かるくらいとても高価な着物であったから。

 

「それな、母方の方にもらったんだ」

「あれ?バレットって普通の家庭出身じゃ…」

「ん〜、いや。なんかなぁ、母方が結構歴史の長い家らしくて」

「ふぅん」

 

テキパキと荷物を片していく幼なじみを見ながらシルバマスタピースは手に持つ、適切な仕舞われ方が成された着物をなぞり、

 

(…ん、!?)

 

そして、気づいた。

 

「【白の一族】って、言うんだけど」

 

着物に、丁寧に縫い付けられた家紋の刺繍に。

 

 

【白の一族】。

その名前は、ある程度の歴史と資産を持つ家なら誰もが知っている。

そこに()()だけで、すべてを狂わせる者共の集まり。

その一族は、ある者は暗い噂のあった家を潰し、またある者は一時代を築いた者を破滅させ。

そして、そのすべてが他人を狂わせる"ナニカ"を持った者たちだった。

しかし、それは遠い過去の話だ。

今となってはその力も衰え、ただ歴史の中に消えていくだけの存在になっていた、はずなのだが……。

 

「あ」

 

だが、シルバマスタピースは思い出す。

あの日、シルバーバレットと()()()な出会いを果たしたあの日、

 

『…だれ?』

 

微かに、だが。

たしかにその目が、白い光をぼんやりと灯したことを。

月明かりよりも淡く、蝋燭よりも強い、そんな光が宿っていたことを。

それを。

そのことを。

思い起こして───。

シルバマスタピースは、思ったのだ。

もし、本当に、もしもの話ではあるが。

シルバーバレットが。

自分の親友であるシルバーバレットという存在が。

かの有名な、【白の一族(彼ら)】と同じモノを持っているとしたら。

だとしたら、それは。

自分にとって、とても()()()()()なのではないか? と。

シルバーバレット(しんゆう)の信頼篤い自分なら、もしかすると…。

 

「…マス太?」

 

瞬間。

シルバマスタピースは意識を現在に戻す。

物思いに耽っていた自分を見ながら心配する親友に安心させるように笑顔を向け。

 

「…うん。大丈夫ならいいんだけど。それにしても申し訳ないなぁ、───こんなに良いマンション、貸してもらえるなんて」

 

自分が貸し切って、与えた高級マンションの一室で居心地悪そうにする親友にシルバマスタピースは今日も何も言わず微笑むのだ。

 

 

鍵を持つものは、自分たちふたりだけ。

でも。

いきなり体調が悪くなっても、大丈夫なようにしているから、安心して?

…だから、

 

(ずっとここにいてね、──バレット)





マス太:
シルバマスタピース。
御曹司系のいいお家の生まれ。
そんな生まれなので【白の一族】が何なのかについても理解している。
が、僕がそうだと知る前から僕に執着しているので、今回の一族バレに関しては燃料を注がれただけである。

だがそれはそれとして、自身の貯金で買った高級マンション(貸切)を幼なじみである僕に与えており、「好きに使っていいよ」している。
でも、最終的にどうなるかは…?

僕:
シルバーバレット。
今日も今日とて何も知らない。
自身の母方の悪名()に詳しくないので聞かれたら自分の生まれをサラッと言ってしまう系ウッマ。警戒心が足りない。

最近、幼なじみであるマス太に仕事用の部屋としてマンションの一室を貸してもらった。好きに使っていいんだって!
…警戒心が足りない(再放送)。危機感も、足りない。


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ナチュラルボーン強者の日常


…さすがの僕も、かの【英雄】に言われたのなら堪えますが。



シルバープレアーは大人しい性格で、いつもニコニコしている…というのが周囲の共通認識であるのだが。

 

「…気が済みました?」

 

放課後の、薄暗い校舎裏。

そこで胸ぐらを掴まれたシルバープレアーの頬は一目見ただけで、そう時間の経たない内に腫れ上がるだろうと分かる程に赤く染まっていた。

それを見て満足したのか、そのまた…なのかは不明だがウマたちのひとりが舌打ちと共に手を離す。

解放されたことで地面に尻餅をつく形となったシルバープレアーだったが、それを気にする様子も無く立ち上がると、乱れた服を整える様に手で埃を払う仕草を見せた。

その表情には…何も()()()()いない。

 

実は。

シルバープレアーがこのようなことに巻き込まれるのはそう珍しいことではなかった。

血筋ゆえか、それとも生来の性格ゆえか。

歳上、それも結果を出しているような方々に可愛がられやすいシルバープレアーは物心ついた時から周りの人々に()()()()()コトをされながら育ってきた。

その結果が今のこの現状だ。

先程のウマたちもそうだし、それ以外でも今のように暴力を振るわれたり、罵声を浴びせられたりする回数は決して少なくは無い。

しかし、それでも尚シルバープレアーは何も言わなかった。

どうしてか。それは、

 

(…だってあのヒトたち、──僕より弱いし)

 

それが、理由だった。

そもそもの話として、シルバープレアーというウマの身体能力は極めて高い部類に入る。

体格的にはやや小柄ではあるが、その小さな身体から繰り出される走りは鋭く、速い。

そして何よりも特筆すべきはその体の丈夫さだろう。

どれほど走ってもそこまで疲労を感じない、筋肉痛にもならない。

そんな、天性の肉体。

だが。

それでも、シルバープレアーは自分を()()と思ったことはなかった。

何故なら、──自分よりもずっとすごい存在がいると、もう知っているから。

ひとりはそこそこ仲の良いクラスメイト。

そしてもうひとりは自らの父の、…伯父にあたるウマ。

そのふたりにシルバープレアーのプライドというやつはメキメキにへし折られていた。

完膚なきまでに、可哀想なほどに。

追い抜いていく背と、追うことすら許されない背。

……どちらも、とても速かった。

だからだろうか。

いつの間にか、シルバープレアーの中の価値観が大きく変わっていたのは。

自分より弱い相手に何か言われても気にしない、というより意識に()()()()ようになったのは。

 

(…僕より強い人なら、言われたことを考えたりも、反省したりもしたのだろうけど)

(だってあの人たち、)

 

──僕より、弱いもの。





銀の祈り:
シルバープレアー。
そう言われてもこの人たち僕より弱いし…の気持ち。
同期の【英雄】と父の伯父である"とあるウマ"にプライドをペキっとされているすがた。
でもナチュラル強者なので自分より弱いやつに脳のリソースを割かない。
ので、どれほど周りから嫌がらせをされようが「…?あったっけ、そんなこと」状態。
そんなだから、嫌がらせが起こっても大概長続きしないんだって。


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カーテンコールは、まだ来ない

完全に趣味。

まるでトゥルーマン・ショウみたく。
演じていれば、()()()()()

有名税と言えば、それで終わりなんでしょうが。
本人からすればこう思っちゃうのも、有り得るかなぁ…と。


真っ暗な部屋の中で見つけたネット記事は、昔にあった『御伽噺』を記したものらしい。

スイスイと指を動かすも、どうせ見たいものだけを見たい中毒者とソレで稼ぎたいヤツが望んで生み出したモノなんだって理解する。

 

それで。

【その名前】を名乗ったのはもう何人目だっけ?

【その名前】ゆえに褒められているのを、貶されているのを、何人も見てきて。

【その名前】を名乗らない者はいない。

……そりゃあそうか。

【その名前】を名乗れば、【その名前】が()()()()だと言えるのだから。

 

どれほど引きこもりたくても、引きずり上げられて。

幕の奥に引っ込むことさえ許してくれない。

往々と、永遠と。

誰が【その名前】の記した話を求めている。

いつまでその舞台の上に立っていればいいんだ。

──そうやって嘆くことさえも許されないなんて、神様ってやつは酷なことをする。

そんなことを思っていても、結局自分はこの舞台から降りることはないんだろうけれど。

 

与えられた【役柄】のままに舞台(ソコ)にいる。

これで主役歴は何年?

演じ続ける毎にたくさんのイメージを押し付けられては肉付けされて。

"誰か"が望む【存在】をただ演じる。

ただそれだけの存在になっていたとしても、きっと誰も気づかない。

自分だってそうだと思っていたから。

でも、違ったんだ。

──違うんだよ。

自分の中のナニカが、確かに変わり始めていた。

そしてそれは、今になって、遅ればせながら気づいたコトだったのだけれども。

 

 

イメージ通りに演じては、誰もが望む【役柄】であって。

もう疲れたと漏らそうにも脚は止まらず踊るばかりで。

どれだけ声を上げたところで、誰一人として見てくれることもなく。

このまま消えてしまいたいと願っても、消えることは赦されなくて。

川を流れる水のように、老いることを強いられる。

 

罪だか罰だかの採算があるのか、すら分からない。

【役柄】の功績で帳消しだなんて真っ平だというのに。

思い返せば。

自分に、【役柄】でなかった時はあったのか。

それももう、自分に向けられる監視カメラ()のせいで、息を着く暇もない。

舞台の上に立つ限り、観客は自分を見ている。

自分がどんな表情を浮かべているのか、自分には見えない。

スポットライトがベカベカと、バカみたいに当たっては思考を焼いていく。

それを、観客たちは拍手喝采で笑うのだ。

自分の、…()の一挙手一投足を。

笑うのだ。

 

「ははは、」

 

嗚呼、なんて。

なんて、なんて、なんて!

敬虔な、()()ですこと!






【銀の弾丸】

CAST
シルバーバレット




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ダブルキャストは、欠けている


カーテンコールは、まだ来ない。

【呪縛】をなぞる。
『戯曲』ならぬ『偽曲』として。
主演はひとり。
なら、その行き着く果ては?

もしくは、残していく側の話。



ある意味、敷かれたレールの上を走っている…みたいなモノだろう。

まるで『監獄』のような場所で過ごしながらそう考える。

 

夢を持って、ここに来たわけじゃない。

ただ【呪縛】があって、それ故に自分の意思や自由が介在できなくなっただけ。

生きてもいないが、死んでもいないという、惰性の日々を過ごす。

気づくと周りが、目を焼かれそうなほどキラキラしていた。

 

そんな、無為な俺の手を取ったのは同じような境遇のトレーナーであった。

期待されながら思うような結果を出せない似た者同士。

【呪縛】の影に這われながら不平不満を投げ込まれる。

自分たちは【呪縛(ソレ)】ではないと叫ぼうにも、パーソナリティがあまりにも似通っているからその声は届かない。

そもそも『主役』になんてなれるガラでもないくせに、と自嘲する心の声も気付かぬ内に飲み込んで。

 

がしかし。

どこへも行けない、どうせ無理などと言いながらも【呪縛】が辿った道のりに、魅せられているのも事実。

おあつらえ向きに、『そちらのチームは海外遠征に慣れているから(建前)』を用意されては断る理由もない。

ふらつく立場で、"誰か"が望む大言壮語を吐きながら、自身を守るために「フツーでいい」と嘯く始末。

 

誰も俺たちを見てなんかいない。

人々が見ているのは俺たちにかかる【呪縛】だけ。

純粋に、俺たちを応援する人なんていないだろう。

……でも、それでいいんだ。

かかる【呪縛(モノ)】が大きければ大きいほど、逃げ場はなくなる。

後には退けず、先に進むしかなくなる。

 

最初から、ムダだと分かっていた。

俺の体は【呪縛】を背負えるほど、丈夫で、頑強ではないと。

だが、ムダではない。

俺自身はムダだったが、俺の後に続くヤツら(同類)に道を()()()

こんな俺でも、【呪縛】の中のちょっとした悲嘆ぐらいなら拭いされるって。

次の『夢』を見せられるって。

 

俺たちは、『弱者』だった。

【総大将】にも、【不死鳥】にも、【怪鳥】にも、【トリックスター】にも、【世代のキング】にも、何者にも、なれなかったけれど。

あの【呪縛】を中途半端になぞった「茶番」だったと言われればそれまでだけど。

それでも。

それでも、さぁ…!

 

「どうか、諦めないで」

 

俺は去る。

夢叶えられず、道半ば。

『舞台』から、去る。

カーテンコールなんて、大層なものはもらえないまま。

だって、そうだろう?

 

「気張れよ、──相棒」

 

今の俺じゃあ、何もできなかったワケだから。

だから。

せめてもの、『餞別』として残していこう。

 

「俺の、代わりに」





◀ To Be Continued.

自身のおじとはまた別ベクトルでの脳焼きだね、
甥っ子くん…。


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騎手の方の白峰もバケモンだけど


史実√のある方の話。
世界の白峰兼灰方な男、…なんだコイツ!?(いろいろな意味で)



1:名無しのトレーナーさん

 

こっちの白峰もバケモンだよな

 

【灰方誠(旧姓白峰)元厩務員現調教師の画像】

 

 

2:名無しのトレーナーさん

 

厩務員時代の主な担当馬:

シルバーバレット

サンデースクラッパ

シルバーチャンプ

 

調教師としての主な管理馬:

シルバデユール

シルバープレアー

シルバアウトレイジ…などなど

 

 

3:名無しのトレーナーさん

 

>>2

う〜ん、この

 

 

4:名無しのトレーナーさん

 

この人の来歴は実質灰方厩舎の歴史と同じだから…

 

 

5:名無しのトレーナーさん

 

まずいちばんはじめに担当した馬が銀弾の時点でさぁ

 

 

6:名無しのトレーナーさん

 

担当馬に嫁を宛てがわれた男来たな…

 

 

7:名無しのトレーナーさん

 

>>6

「妻の前だけはアイツ(=銀弾)もかわいこぶりっこしてたんで」

 

 

8:名無しのトレーナーさん

 

大概脳焼かれてると思うんだよな

10年来付き合った馬から始まり、その弟見て甥見て、調教師になってその甥の息子と孫見て

しかもその甥の息子とも10年来の仲に…

 

 

9:名無しのトレーナーさん

 

何だこの凱旋門賞男はァ…?(戦慄)

 

 

10:名無しのトレーナーさん

 

誠がいたら凱旋門勝てるって言われてるの草なんだ(現在3/4の確率)

 

 

11:名無しのトレーナーさん

 

夫婦で銀弾系列に脳焼かれてるからね、仕方ないね

 

 

12:名無しのトレーナーさん

 

>>11

銀弾が帰還してから結婚式挙げる予定だったんだよなぁ…

 

 

13:名無しのトレーナーさん

 

>>12

つら

 

 

14:名無しのトレーナーさん

 

>>12

【俺はつらい耐えられないの画像】

 

 

15:名無しのトレーナーさん

 

2000年で灰方調教師が定年になったからそれを引き継ぐ形だったんだよね

 

 

16:名無しのトレーナーさん

 

それ思うとあっちの白峰が順当に調教師になってたらどうなってたんだろう…って思うな

 

 

17:名無しのトレーナーさん

 

厩務員時代に見てた馬が怪我しまくってたバケモンと道半ばで引退したそのバケモンの甥だったがために厩舎方針が無事是名馬なところだ面構えが違う

 

 

18:名無しのトレーナーさん

 

銀の祈りが凱旋門勝った瞬間に男泣きしてたの好き

あの日厩務員として眺めていた場所を今度は…

 

 

19:名無しのトレーナーさん

 

なおこの人も無事白峰因子持ちな模様

 

【管理馬に引き止められている画像】

 

 

20:名無しのトレーナーさん

 

銀弾をいちばん近くで見てた男が「銀弾を超える馬を作りたい」って言ってんのが熱いんだよなぁ

 

 

21:名無しのトレーナーさん

 

>>22

いつか出るかな?出たらいいなぁ…

 

 

22:名無しのトレーナーさん

 

出る出ないにしても今もなおワールドレコード保持してるのがおかしいんだよ銀弾

 

 

23:名無しのトレーナーさん

 

さすが時代のオーパーツ

 

 

24:名無しのトレーナーさん

 

そら今でもWBRRの歴代2位に居座っとるし…(レーティング139)

 

 

25:名無しのトレーナーさん

 

>>24

バ ケ モ ノ ! !

 

 

 

 





元厩務員現調教師:
灰方誠(旧姓白峰)。灰方家に婿入りのすがた。
現在は大きくなったひとり息子・(まどか)が彼の元で厩務員として頑張っている。
はじめて担当した馬が銀弾でそれに脳を焼かれては脳焼きが続いている様子。
銀弾を見始めた当初で20代前半の男。
なので調教師としてはギリギリ【銀の激情】の息子の世話を見れるか見れないかくらい?
いちおう他の管理馬としてはとりあえずシルバデユール以後のシルバフォーチュン産駒すべてを世話している。
また義父となった灰方さんが2000年で定年だったので跡を継ぐために90年代に入ってからはしこたま扱かれつつ勉強していたとか。
実は、尊敬する兄ィである白峰透が調教師になるなら厩務員として着いていくつもりだったヒトミミ。

すべての元凶:
とりあえずWBRRの歴代2位(レーティング139)に居座っている。
笑顔で呪いを蒔きつつ何もかもを焼き尽くして去っていったウッマ。
一代限りの怪物かと思えばその妹の産駒なり甥の産駒が荒し回るため没後からウン10年経った今現在となっても名を知られている模様。
忘れたくても、忘れられない"痕"を遺した競走馬。

…いつか、いつか、超えられますように。


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『お前のせいだ』と嗤うもできず


ありふれた、どこにでもいる"きょうだい"の話…でした。



"おれ"はただの、どこにでもいる馬だった。

口調こそ荒いが子どもである"おれ"のことをよく考えてくれる母と無口ながらやさしい兄。

 

『にいちゃ、にいちゃ』

『…どうした』

 

兄はいつも一頭だけで静かにいた。

だが幼い"おれ"が兄を慕い、近づけばやさしく応答を返してくれて。

兄のその身体にもたれて眠ったこともあった。

そんな時、決まって母はやさしく微笑んでいたように思う。

 

そして。

"おれ"と年子であった兄は先に、きゅーしゃ(厩舎)という別の場所に行き、きょーそーば(競走馬)というのになって。

"おれ"もそうなるのだと母に言われては"おれ"も兄と同じきゅーしゃ(厩舎)に行けるだろうかと思ったものだった。が、

 

『にい、ちゃ…?』

 

久しく会っていなかった兄と再会して、"おれ"の頭に真っ先に浮かんだのは『これが本当に兄なのか』という驚愕であり。

何故なら兄の顔には、

 

『…ごめんな、見苦しくて』

 

大きな、大きな火傷跡。

 

 

それから。

"おれ"はしんばせん(新馬戦)というものに勝ち、兄に祝福され。

やよいしょう(弥生賞)という、ヤツに出た。

そこで"おれ"は、

 

『なぁなぁ、』

『…うん?』

 

額に三日月みたいな模様が入っている馬に出会う。

特段話す内容もなかったのだが、何故か声をかけてしまって。

それで最終的にはその馬に"おれ"は負けてしまったのだけど。

 

『すごいなぁ、アイツ…』

 

 

ここまでが、"おれ"の生涯にとって()()といえる記憶だ。

 

『ははは、』

 

あのあと、"おれ"はよく話しかけてくる生き物(にんげん)がいうには「鳴かず飛ばず」というものになって。

兄から離され(地方入りし)て頑張ったけど、()()ってところで脚が止まってしまって。

かつ(勝つ)ってことができないまま、走るのを辞め(引退し)た。

 

『ははははは、』

 

そこから母がいるところに戻って、こーろーば(功労馬)ってヤツになって。

ちょこちょこ仕事をしながら代わり映えのない生活をしていたある日、

 

『シルバーバレットの代替として』

 

"おれ"は、また別の場所に移った。

 

 

 

みんな、"おれ"を█████████(おれ)と、呼んでくれない。

いつだって、みんなが"おれ"を、───兄の名で呼ぶ。

 

『はは、ははは…』

『…███』

 

ただ、笑うしかない"おれ"に声がかかる。

でも、

 

(もう、聞こえないんだよ…)

 

ごめんな。

そう、心の中でつぶやいて。

"おれ"は、目の前にいる額の三日月模様が特徴的なヤツに…。

 

『あはは、』





"おれ":
シルバーウィーヴ(Silver Weave)。誰が呼んだか【紡ぐ者】。
1981年-1995年(14歳没)。
年子の全兄(火傷跡持ち)がいる父ヒカルイマイの芦毛牡馬。
新馬戦は兄と同じく楽勝したが、その後から伸び悩み遂には引退。
騎手であった人々がいうには『末脚を使おうとすると不意にピタッと止まってしまう。まるで脚を()()かのように』とのこと。
引退後は生産牧場である土地で、馬主の尽力もあり功労馬兼プライベート種牡馬となっていたがある時(1992年)を境にある場所へ移動する。
その場所にてどこかれで出会ったことのある、額の三日月模様が特徴的な馬とよく過ごすようになるが…。

年子の全兄を慕い尊敬しており、全兄ほどではないが利口であった。
そのため自分が全兄の代替であることに、もう全兄が()()()()()()ことに気がついており、気づいた結果…。

あは、あはは、あははは…。

がしかし。
これでも移動した後の産駒に5頭程度はG1勝利馬がいるとか。
さすがですね(色々な意味で)(ニッコリ)。


三日月模様が特徴的な馬:
"おれ"と同期で、"おれ"とは弥生賞にて対戦経験あり。
若き日の自分に物怖じせず話しかけてくれた"おれ"のことをずっと覚えていた。
が、再会した"おれ"が徐々に…していく姿を近くで見続けては心を痛めるように。
実は内と外で性格が違うとか…?("おれ"の前ではいつもやさしいケド)


生存‪√‬だったら、穏やかに暮らせたのにね。


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英雄、暴君、皇帝超えと何も知らない彼らの話


リクの「プレアー、アウトレイジ親子に激重感情を抱く三冠バ会」の話。
銀の激情は口調が荒いけどちゃんと銀弾のことを尊敬してるんだ。
無茶はするなジジイ…頼むから…!タイプの子だからね、仕方ないね…。



誰もが諦める中で、僕の隣にいてくれたのがキミだった。

 

『ねぇ、走ろうよ!』

 

僕の手を引いてキミが走る。

キミの美しい芦毛は、何よりも僕の目印になって。

嗚呼、あそこに走っていけばいいのだな、といつも思っていた。

キミの走りが好きだ。

それを追い抜かすのが、好きだ。好きだった。

でも、

 

(なんで)

 

あの日、あの冬の日。

はじめて僕が負けたあの日。

にこやかに勝ったあの人と握手するキミの姿を見て、ズキリと胸が痛んだ。

 

『いやぁ、完敗ですよ。やっぱり上には上がいるものですね!』

 

嬉しそうに、ニコニコと。

…なんでさ。

僕と走ってる時はそんな顔しないくせに。

僕はキミと走るのを楽しんでいるのに、いつもキミは。

ずっと下を見て、何かを考え込んでいる。

 

「ねぇ、」

 

引退して、何年も経ったあと、未だテレビに映るキミの姿をなぞる。

そして、言う。

 

「…僕だけを、見てよ」

 

 

そのウマに対してのはじめの印象は実兄の知り合いというただそれだけだった。

実の弟から見ても結構怖い兄に臆せず付き合い、自他ともに認める友人のポジションを確立したのは素直に凄いと思うし。

でもただそれだけだった、…あの日までは。

 

「……は、?」

 

悲願の地で、そのウマの名前が叫ばれる。

歓声を浴びたそのウマが嬉しそうに笑って、トレーナーに抱き締められて。

俺には、見向きもしなかった。

その姿を見て、はじめて『悔しい』、と思った。

今度は俺が勝つって。

アンタの視線を俺に向けてやるって、…思ったのに。

 

『最後に一緒に走ったのが、キミでよかったなぁ。

ありがとう、楽しかったよ!』

 

…なんで。

 

 

その時、突風が吹き抜けていったと思った。

勝利を確信していたところに突如として現れた影。

 

『あ゛〜…勝った勝ったァ』

 

ガリガリと面倒臭そうに頭を搔く姿。

息ひとつあがっていない気楽な素振りで私を見る貴方。

 

『よォ、楽しかったぜセンパイ』

 

本心では思っていない、世辞のために出されたようなその言葉にカッと頭に血が昇った。

私は、私は…!

わなわなと震える私を横目に去っていく貴方。

私はこんなモノじゃない、今度こそ目に物見せてやる!

そう思ったのに、

 

『あ゛?ここで引退だッつってんだろ。

まだ走れるゥ?うっせぇな俺とトレーナーで決めたンだから外野が口出しすんじゃねェ!』

 

…勝ち逃げされた。

 

 

──────

─────

────

───

──

 

僕、彼にずっと勝ちたかったんだよね。

ずっとずっと勝ちたくてさ、だから負けたあとは次どうやったら彼に勝てるかってずっと考えてた。

それであの有でね、見ることのできた走りに『ああ言う考え方もあるんだなぁ』って思ってさ。

それに『さすが先輩だなぁ』って気持ちも。

それからいっぱい走って…、そう言えば最後に一緒に走った彼も凄かったね。

仲良かったあの子の弟だから帯同してあげて、って言われたときは驚いたけど、…いやホントに凄かった。

たぶん日本でのレースだったら負けてましたね、いつもみたいに。あはは。

 

 

んァ?なんだァ、アンタ?

へぇ、あの皇帝超えの女傑サマの話ィ?俺に?他にもっといい奴いんだろォ?

……へいへい、わっかりましたよォ。

ンで?なに話しゃあいい?好きに?ふぅん。

…まァ、いいオンナじゃねぇの?

他にねェのか、って言われても俺があのヒトに関わったのはあの天皇賞・秋だけだぜ?

そっからあとは全部海外に行ってたンだからよォ。

ッてコトで、んじゃ。

 





【銀の祈り】:

あなたたちを()()()、僕は先に往く。
あなたたちと走れて、本当に、よかった…。
────じゃあ、ご馳走様でした。

シルバープレアー。父シルバーチャンプ母父ヒカリデユール。
貪欲な獣。強くなるために、よく喰べ、よく育つ。
自分を『普通』と言いながら、その実ナチュラルボーン強者。
(どっちかと言えば)陽属性の者。でも周りが勝手に曇る。
同期の【英雄】にずっと勝ちたい!と思っていて、負けるたびに『次どうすれば勝てる?』と真剣に考えていたため笑えなかった。
なお2005有馬で笑っていたのは『やっぱりシニア級の先輩って凄いんだなぁ!』という気持ち+【英雄】に勝つためのひとつの例を見せてもらったから。
【金色の暴君】に対しては弟みたいな感じで見ている。
可愛いなぁ、可愛いけどとっても強い!みたいな。
走ることが大好きで、またどれほど負けようが屈せずに前を向ける男。
だがそのあり方ゆえに、へし折った相手は数知れず、…かも?

それはそれとして、師匠兼先輩兼同室であるシルバデユール(父ヒカリデユール母シルバフォーチュン)のことをとても敬愛している。


【銀色の激情】:

…走ることは好きだけど。
でも毎回本気で走ンのはちびっとキツい。
だからさァ、───勝つとこ勝ちゃあ、問題ねェだろ?

能ある馬。基本武器(つめ)は隠している。
【銀の祈り】の息子。基本話し方がチンピラ寄りだが常識人だし良い人。
父である【銀の祈り】のことを尊敬しているがその本質には気づいていない。
なお皇帝超えさんには『いい女だなぁ』という感情を持っているがそれまで。
だって俺、あのヒトと一回しか走ってないし…、どうせ俺のことなんて覚えてないだろ。
普段は駄目駄目だったりするがちゃんとしなくちゃいけないところはちゃんとキメる男。
意外と男女問わずモテていたりする。ナチュラルジゴロ。


激重感情勢:
とても重い。またの名を自分を見て勢とも言う。
2005有馬でなんで僕には笑わないのにあの人には笑ってるの?な【英雄】とか今度こそ俺を見てもらう…!してたら引退された【金色の暴君】とか本当の私を見せてやる!してたら勝ち逃げされた皇帝超えさんとか…ハイ。


すべての元凶:

…なんで僕の血族で凱旋門賞勝つ子は三冠馬に縁があるんだろうなぁ?(CB&皇帝から熱視線を受けながら)

すべての元凶。原点にして頂点。
‪√‬によっては亡霊だったり亡霊じゃなかったりする。
ちなどの世界であっても貪欲な獣である【銀の祈り】からはナチュラルにいちばんの"獲物(ごちそう)"として狙われているし、能ある馬である【銀色の激情】くんからはそろそろ隠居しろ(そしてそのまま平穏に…)と思われていたりする。
が、そんな彼らに今日も今日とて気づいていないし、そんな彼らの想いをまったく知らないままである。
知らないままに、今日も周り(の情緒と脳)をぐちゃぐちゃにしていくのだ…。


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祈りと英雄のあれこれ


たぶんコレ絶対ふたりして二人だけの世界を作って周り置き去りにして曇らせてるゾ。
でも、それでも【銀の祈り】が【夢への旅路】を可愛がるからハイライトオフする【英雄】はいますよ、います。


「あれ?███じゃない」

 

その日、休憩していたシルバープレアーは少し前に引退した友人兼ライバル…と話していた。

いや、ライバルと思っているのはシルバープレアーだけであろう。

【英雄】とまで謳われたウマが目の前の存在なのだ。

そんなウマの二番手にずっといて、負け続けたウマ(自分)などその他大勢の内のひとり程度が精々、などと。

今までの生で培われたネガティヴ思考に囚われているシルバープレアーは、目の前にいるウマが自分のことなど眼中にない存在だと考えている。

だから今日もシルバープレアーはひとり、心の中で独り言を零すのだ。

 

──ああ、やっぱり僕なんかじゃあ勝てっこないや…。

 

と、共に。

ふたりの道が隔絶したことによって思ったことがある。

それは──このウマ(【英雄】)が自分に負けないでくれてよかった、と。

同時に、シルバープレアーは思う。

いつか必ず勝ちたい、と。

だが、今はそのときではないと。

そしていつかは必ず勝つと。

そう誓いを立てたところで ──僕は、このウマを越えることは出来ないだろうなぁ。

なんていつも通りの帰結、その堂々巡りを思いながら、シルバープレアーは立ち上がるのだった。

 

 

かの【英雄】にとって、シルバープレアーという存在はどんな宝物よりも代え難いモノであった。

【英雄】とまで謳われた自分に本気で挑んできてくれた相手。

己の強さに折れたり、仕方ないと諦める者が往々の中で自分を対等と扱ってくれたウマ…。

そんな相手に好感を抱くなというのが無理な話だ。

それ故に、シルバープレアーに対して抱く想いは他のウマとは比べるべくもない。

例えシルバープレアーがどう思おうとも、【英雄】はシルバープレアーのことを大切な友だと認識しているし、これからも大切にしていきたいと思ってもいる。

そして、それはシルバープレアーも同じである。

──シルバープレアーもまた、【英雄】と同じように……否、それ以上に【英雄】のことを想っているのだから。

だからこそ、【英雄】は考える。

自分の引退と共に終わってしまった、シルバープレアーとの勝負を。

 

 

「…なァ、アレ」

「あぁ、こんにちは。今日も元気そうだね【夢への旅路】」

「おう」

 

いま話しかけてきた【夢への旅路】はシルバープレアーが最近目をかけて始めた可愛い後輩である。

多少気の荒いところはあるがそういうところもシルバープレアーにとっては可愛いのである。

それも父親同士の仲がいいから実質幼なじみのような関係でもあるし。

閑話休題。

 

「…あ、見てた?」

「見てたっつーんなら、見てた」

「そっか」

 

【夢の旅路】は先程の、シルバープレアーと【英雄】が話あっているのを見ていた。

別に悪いことをしていたわけではないのだが、なんとなくバツが悪い気持ちになった。

シルバープレアーもそれを察したのか話題を変えることにしたようだ。

そういえば、と話を振ってきた。

それがなんだか嬉しくて、思わず尻尾が揺れてしまう。

がしかし、

 

(【英雄】(あのヒト)…)

 

『…』

 

(スッゲェ眼で、俺のコト見てたなァ…)

 

その眼を思い出し、「おお怖」と震えながらも。

 

(ま、コイツは)

「【夢への旅路】?」

(俺にしか、頼んねェんだけどな!)

 





【英雄】と感情向けあうプレアーの話

【銀の祈り】:
シルバープレアー。
何だかんだ【英雄】に対する感情は重め。
でも培われたネガティヴで「自分がライバルなんて烏滸がましい…」と考えてしまう年頃ウッマ。
でも【英雄】以外にはサラサラ負ける気がない辺りイイ性格をしている。

【英雄】:
可愛らしい顔立ちして【銀の祈り】に対する感情が重め。
無自覚に【銀の祈り】が自分以外の誰かを見ていると圧をかけてくる。し、後々『永遠の二番手』しては自分以外の誰かに差され続ける【銀の祈り】にニッコリ()する。こわい。

【夢への旅路】:
【銀の祈り】のマブ。
父親たちから仲がいいのである意味幼なじみ的な関係。
父親同士の関係と同じく、【銀の祈り】が自分だけに弱いところを見せるのに優越感を感じているフシがある。親も親なら子も子。


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銀の王者とリョテッ飯


たぶん銀弾系列は気に入った相手に対してこういうとこあるし世話焼きなんだ。



 

「…なんスか」

「いや、」

 

料理が不得手な俺の元に作り置きの料理を渡しに来た、かつての後輩の姿を見るとなるほど──他人の言うこともあながち間違いではないのかもしれない。

 

後輩-シルバーチャンプは、あのころ、とても気が立っていた。

ピリピリした、鞘のない刃物。

周りを切りつけに切りつけ、いつ刃こぼれするか分からない…。

そんな刃物のようなウマだった。

 

だが今目の前にいるのはどうだ?

包丁を握り、玉ねぎをみじん切りにしているウマは、どこにでもいるような、ごく普通の存在だ。

ゆったりとした服の袖を腕まくりし、長い髪もポニーテールにしてまとめている。

その姿からは、かつて刃物のように尖っていたオーラなど微塵も感じられない。

包丁を握る手元を見つめるその目は、どこか懐かしさを覚えるくらい穏やかだ。

──なんだか、肩透かしを食らった気分である。

 

「なぁ」

「はい」

「なに作ってんの」

「【夢への旅路】くんとプレアーからのリクエストでオムライスっす」

「……そうか」

「先輩は、なにか飲みます?」

「じゃあ、アイスコーヒーで」

「了解です」

 

シルバーチャンプから差し出されたグラスを受け取って。

俺がここに来る前に、もう準備していたらしい。

氷の入ったそれがカラコロと音を立てて、透明から茶色になる。

 

「先輩は男の料理なら上手いですケド、さすがにアレを毎日子どもに食わせるのは…ねぇ?」

「うっせ」

「ははは」

 

後輩が笑うと、ポニーテールも揺れ。

俺はその頭をぼんやりと見ながら、また1つ、年を取ったのだと思った。

 

 

知り合いに会うたびに、「おだやかになったね」と驚かれるようになって幾度目か。

自分では分からないその変容は他人から見るに、ずいぶんと驚愕なものらしい。

それはおそらく、あの【呪縛】から解放されたおかげなのだろうと思う。

【呪縛】のそばにいた自分は、きっと知らず知らずのうちに影響を受けていたのだ。

そして今もなおその影響を少なからず受けているからこそ、あのころの【呪縛】のひどさを思い出して苦笑してしまう。

 

「おい」

「…………」

「おい、聞いてんのかよ」

「え、あ、はい! なんでしょう!」

 

ぼんやりとしていた意識を戻して返事をする。

すると相手-先輩は呆れた顔をした。

 

「お前大丈夫かよ……ボーッとしてんじゃねえぞ」

「あ…すんません…」

「ガキ共も腹減った〜ってよ」

「うわわ…。ぁ〜、ごめんな?ふたりとも待たせて」

 

己の服の裾を引くプレアーと、足元でペタペタと歩いている【夢への旅路】を抱き上げる。

すると【夢への旅路】は人見知りみたく目を逸らしてから、少しだけ笑いかけてくれた。

プレアーのほうは、なぜか少し不服そうな表情をしている。

一体どうしたんだろう?

そんなことを考えていると、

 

「おなかへった」

「…なるほど」





【銀色の王者】:
シルバーチャンプ。
引退したら穏やかになったすがた。たぶんこっちが素…?
【呪縛】から解かれて、ちょっとフワフワ仕出した。危うい。
ちな休日になるたびに先輩の家に息子の【銀の祈り】と共に訪れてはご飯を作ってワチャワチャする日々を過ごしている。
引退した後はゆったりとした服装を好むようになったが、雰囲気が雰囲気のため牝バに間違われることも…?
だがそれはそれとして、元トレーナーと会うとツンデレになるとか。

先輩:
キンイロでリョテッとした御方。家での普段着は文字T。
引退後フワつき始めた後輩を心配したりしなかったり。
洗濯などはソコソコだが料理は大雑把な男飯!ぐらいしか作れないので休日になるたびに後輩である【銀色の王者】が料理を作りに来てくれるようになった。胃袋を掴まれている。
なお補足すると休日は基本料理している【銀色の王者】にちょっかいをかけるか、息子s(【夢への旅路】、【銀の祈り】)と遊んでいる模様。


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蜘蛛の喘鳴


【銀の祈り】、一回も戦線離脱しなかったぶん銀弾よりも焼き払った数が多いんですね。
でもそんな【銀の祈り】が望む相手は…?って話です。



キミが"綺麗"になったと、気づいたのは何時のことだったろう。

たしか、引退して1、2年ほど経ったぐらいだったと思う。

ふと、点いていたテレビに映ったキミにゾワ…と脊髄を撫で上げられた感覚を覚えた。

何の感慨も覚えていない目。

どこか、親を探す迷子のような目。

あどけない子どものような顔をしながらも──易々と2位に鎮座し続けている姿に【英雄】はどろりとしたものを覚えた。

テレビ越しに見ているだけの自分が恨めしかった。

自分がそこにいたのなら、キミにそんな顔させないのにと。

半ば無意識にキミが探している相手は【英雄】(自分)なのだと理解していたのだ。

だからこそ……そのキミが2位に居(負け)続けるのを見て。

自分はなんてバカなことをしたんだろうと、心底後悔した。

 

 

キミは年々"綺麗"になっていく。

ゆっくりと、まるで羽化の時期を待つかのように変貌していく。

決して清らかなものではない、すべてを狂わせる"魔性"に。

そしてその"魔性"に近づくまいとする『本能』からか、キミの連対記録は途切れることがなくて。

畏れれば、負けてしまう。

気力を振り絞れば、蜘蛛の巣にかかった羽虫のように喰われてしまう。

キミという存在の虜になりながら、キミの虜にはなりたくないと思ってしまう矛盾。

だが…、キミという存在を知りたいと欲してしまった以上、抗うことはできない。

一度知ってしまえばもう抜け出すことはできないだろう──怖い、魅力。

そう、魅了され続けるのだ。

だから。

 

「キミの"獲物"は、僕だけでしょう…?」

 

嫉妬、している。

お前が()()()()のは、【英雄】(ぼく)だろうと本能が喚く。

でも。

それだけじゃダメなんだ。

もっと、ずっと。

キミにとって、特別な存在になりたい。

他の誰よりもキミの心に残っていられるような……。

そのためならば。

まずはキミを貶める、すべてを排除しようか?

キミを取るに足らないウマだと嘲笑う有象無象共を。

ふたりだけで、たのしく駆け()れるように。

 

「…ねぇ、プレアー?」

 

 

むざむざと生き延びた。

いまの状態はそうとしか呼べないのではないか、と僕は思う。

僕を唯一終わらせ得た【英雄(存在)】はターフを去ってもう久しいし。

ただただ、肥大していく欲を抑えつけながら生きている。

あの日の影を求めながら、自分を追い抜いてくれる【英雄】を求めながら。

誘蛾灯のごとく誘われてきた誰彼さま方を喰らいつつ。

いつか、僕に王手を掛けるかもしれない【誰か】を待ち望みながら。

きっと僕はこのまま朽ち果てるまで生きていくのだろう。

それは。

何とも。

 

(むなしい、なぁ…)





【銀の祈り】:
シルバープレアー。
ゆっくりと時間をかけて羽化する系魔性。
もはや妲己か?
ワケわかんない魅力(デバフ)をバラ撒くようになるが、そこから逃れても結局は蜘蛛の巣にかかった羽虫のごとく…という罠。
これからも美味しく育っていくけど、
いちばんに食べて欲しい相手(【英雄】)はもういないんだよね〜。…かわいそ。

【英雄】:
段々、年々、魔性度が上がっていく【銀の祈り】にギリギリしている。
【銀の祈り】が自分を求めてくれているのに嬉しい半分、自分以外をムシャムシャしているのに激重感情。
【銀の祈り】を喰いたいし、【銀の祈り】に喰われたい…みたいな矛盾思考がありそう。やっぱり銀弾系列関係者の三冠バはつおい…(いろいろな意味で)。ハッキリ分かんだね。


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この馬って…


一時的に箸休め。
脳みそぐっちゃぐちゃにして去っていくタイプのヤツらに人生も運命も狂わされるんだ…。


1:名無しのトレーナーさん

 

だいぶ呪い?

 

【1990JC時のシルバーバレット(実馬)画像】

 

 

2:名無しのトレーナーさん

 

『さよならはまだ言えない』定期

 

 

3:名無しのトレーナーさん

 

祝福であり呪いである馬来たな…

 

 

4:名無しのトレーナーさん

 

おじさんにとっての銀弾

遥にとってのチャンプ、プレアー…

 

 

5:名無しのトレーナーさん

 

何度生まれ変わっても、キミは僕のモノだ。

 

 

6:名無しのトレーナーさん

 

俺のエゴがアイツの脚を止めてしまった。

 

 

7:名無しのトレーナーさん

 

俺がもっと上手ければこんなに時間はかからなかったハズです。

…でも、これでやっと会いに、行けるかな…。

 

 

8:名無しのトレーナーさん

 

>>5

>>6

>>7

怒涛の三連(銀弾、チャンプ、祈り)やめろ

 

 

9:名無しのトレーナーさん

 

そもそもスレ画はJRAにとっても呪いだから…

 

 

10:名無しのトレーナーさん

 

>>9

ホースマンからしてそうだよ(1990JC、凱旋門など海外レースの結果を見ながら)

 

 

11:名無しのトレーナーさん

 

俺はアイツに夢を見た。夢なら、醒めないで欲しかった。

俺にとっては、アイツがいちばん心を許せる友人でした。

 

銀弾は調教師の脳も焼く…

 

 

12:名無しのトレーナーさん

 

銀弾はもう呪い通り越して傷だろ、しかも絶対に治らない

 

 

13:名無しのトレーナーさん

 

戦う者もだいぶ呪い

半兄が芝の呪いならアイツはダートの呪いだし

 

 

14:名無しのトレーナーさん

 

おじさんは銀弾後がバケモンだから…

一撃ですべてをぶち壊しに来るの…

 

 

15:名無しのトレーナーさん

 

銀弾は母からして祝福なのか呪いなのか見当つかんし…

 

 

16:名無しのトレーナーさん

 

10年付き添うからこそ蓄積する感情がね〜(白目)

 

 

17:名無しのトレーナーさん

 

遥は地続きになったからなぁ…(チャンプ→祈り)

 

 

18:名無しのトレーナーさん

 

馬にとっても呪いだよ

 

 

19:名無しのトレーナーさん

 

>>18

騎手にとっても呪いなんだよ!!

 

 

20:名無しのトレーナーさん

 

人馬ともに呪いはNG

 

 

21:名無しのトレーナーさん

 

功罪えげつな…

 

 

22:名無しのトレーナーさん

 

【『敗北を知りたい』の横断幕】

 

 

23:名無しのトレーナーさん

 

>>22

おおぅ…

 

 

24:名無しのトレーナーさん

 

血統表見るたびに脳裏に影がチラつくからもうダメ。

 

 

25:名無しのトレーナーさん

 

まぁ銀弾はね…(生産牧場から目をそらす)

 

 

 

 

『呪い』とも『祝福』とも。

簡単には呼べぬ、いつかの『夢』を

ずっと見ている。

囚われるものは未だ多く。

逃げ得た者も、未だ…。





祝福であり呪い:
人馬一体。生まれ変わっても共に。
周りすべてを人馬共に焼き払うコンビ。
コイツらに憧れてホースマンになった人間が多過ぎるっぴ!
でもコイツらに一番脳を焼かれてるのは白銀(しろがね)家と白峰系列なんだよなぁ。

遥:
白峰遥。実は自身のG1勝利馬のすべてが銀系列の馬だったりする。
はじまりの相棒が『呪い』となったのち、振り払えない『後悔』を抱えながらも凱旋門賞を制したことで自身も『呪い』となる男。
実は尊敬するおじさんの代わりに周りから大なり小なり感情を抱かれているが本人はおじさんのことと『後悔』であり『運命』であったはじまりの相棒を含む馬たちのことしか考えていないので、そういうとこ血筋…感。
親も親なら…ならぬ叔父も叔父なら甥も甥、である。


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『後悔』の情景


だんだん叔父そっくりになっている遥くんはいいゾ^〜これ。



白峰遥という人間は、『後悔』のかたちをしていた。

彼の夢は彼の叔父がたどった道で。

叔父の相棒だった馬の、そのまた甥の騎手となり周りの期待を人馬ともに向けられながら歩を進めた。

 

あのころはただ青かった。

未熟で、強がりで、理想ばかりで、自分のことで精一杯。

しかしそんな自分を、ただ支えてくれた『誰か』がいた。

その『誰か』がいなければ、今ごろ自分は潰れていただろう。

ぺっちゃんこで、ミジンコに。

きっともう二度と立ち上がれなくなって、そのあとはただ、負けて、惨めに消えていくだけ、忘れ去られていくだけ…だったろう。

でも。

 

「…チャンプ」

 

それを止めたのは。

彼の相棒-シルバーチャンプ。

はじまりであり、終わり。

『祝福』であり『呪い』。

一生かかっても治らないし取り除けない疵。

『運命』の相棒にして、最愛の馬。

 

彼と一緒ならどこまでだって行けた。

彼と一緒ならどんなレースにも勝てると思った。

彼と一緒ならなんでもできると思った。

彼と一緒に、いつまでも走っていられると思っていた。

 

でも。

世界には、限度がある。

才能には、限界がある。

結局は。

どんな存在だろうと、ひとりでしか走れないのだ。

そう、気づかされたときから。

自分が彼にしてあげれたことはなんだった?……と、考えたときにあったのは。

 

「ぉ、れが…」

 

ひとしきりの後悔。

あのとき俺が止めなければ、と。

脚がもたないだろうからと、無事に走り終えることだけを考えろと。

 

───エゴだ。

 

俺の身勝手につきあわせて、彼を壊した。

だから、俺が悪いんだ。

俺のせいなんだ。

そう思い続けて、今日まで生きてきた。

そしてこれからも。

ずっとそう思って生きていく。

それがせめてもの償いだと思っているから。

けれど。

 

「…うん。行こうか、プレアー」

 

『後悔』は、まだ…。

 

 

あの様を見てると血筋だなぁ、と思うときが時々あるよ。

天才ではないけれど堅実で、誰よりも馬のことを考えている。

そのくせ自分のことをおざなりにして、周りに目を向けていないところが玉に瑕。

…だけど。

それはそれで、良いことだと思う。

他人に振り回されずに自分が行くべき道を選び取れることは。

…でも。

彼はもう少し自分本位でいいんじゃないかなと、僕は思うけどね───。

 

 

男を含め、周囲から見た"白峰遥"という男はまさしく『幻想(ゆめ)』の続きであった。

あの日消えてしまったはずの幻想が。

まるでまだそこにいるかのごとく振る舞っているようにしか、見えなかったのだ。

それは。

周りの人間が無意識にそう望んでいるからであり。

誰もが、かの『幻想』に対して戻ってくると信じ込んでいるから。

それこそあの日から、皆が皆…。

 

「まぁ、それは僕もなのだけど」





甥っ子:
白峰遥。騎手。
叔父の代名詞である追い縋ることさえ許さない逃げ…ではなく、急速と超遅緩を織り交ぜた蜘蛛のような幻惑の逃げを得意とする逃げ馬の名手。
だが、シルバーチャンプなどを見る限り追込み馬も得意な模様。
ちな本人的にはそう思っていないだけで才能・技量ともにトップクラス側の人間。
じゃなかったら若手時代に凱旋門賞行けるワケないし…。

かつての叔父コンビと最愛の相棒に脳を焼かれて幾星霜。
実は知らず知らずの内に騎乗スタイルやふとした時の表情などが叔父に似てきたとか(まぁそれには彼と長い付き合いとなったシルバープレアーが要因の大部分を占めているのですが)。
ので、周りから熱視線を受けているのだが流石あの系列と言わんばかりに叔父と自身が鞍上を務めている馬とかつての『後悔』のことしか考えていないので…。

【銀色の王者】:
シルバーチャンプ。白峰遥とは甥っ子同士。ツンデレ。
また白峰遥の『運命』であり『最愛』であり『後悔』であり『呪縛』でもある。
どうにも白峰遥いわく、今でも彼との凱旋門の時の夢を見るとかどうとか…?
ちな息子である【銀の祈り】が凱旋門賞を勝つまで『後悔』が深すぎる故に白峰遥に会いに来てもらえなかった系ウッマ。
再会したら、いの一番に蹴りにかかる(フリする)し甘噛み噛んでくる。

【銀の祈り】:
シルバープレアー。【銀色の王者】の息子。
白峰遥にとっては『後悔』の続きであり、叔父とその相棒だった馬のリスタートのような…そんな感じ。
なお主戦騎手であった白峰遥いわく、彼の父である【銀色の王者】と同じく鞍上を絶対に譲りたくない馬としており、万年2着と言われては「俺のせいだ…」と内心よくネガっていた。
でもやっとこさ『祝福』を受け取れ…?

だが『後悔』は『後悔』ままである。
疵が埋められても、その痕がたしかに遺るように。


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あの日の"影"を、求めている


【銀の祈り】は『領域』出すまでに時間がかかりそう(小並感)。



シルバープレアーが『永遠の二番手』などという不名誉なあだ名で呼ばれ始めたのは同期であったウマたちのほぼすべてが引退し、世代交代となったころだった。

"どれほど走ろうが、絶対に二番手は譲らない"。

そう、いつしか評されるようになったシルバープレアーが舐められ始めるのに時間はそこまでかかることはなく…。

だが、

 

『2着はシルバープレアー!未だ連対は途切れぬまま!!』

 

どれほど挑もうとも頑なに動かない存在。

もはやその一挙手一投足で主役(1着)すらも喰ってしまう有様に心を折られたのがひぃ、ふぅ、みぃ。

そして、ついに諦めたのが…いや、見限ったのが──というのが増えていき。

 

(…つまらない)

 

ふと、シルバープレアーは思ってしまった。

勝ち続ける、とはまた違う孤独。

二番手に甘んじているワケではない、がその先(一番)に行けないのもまた事実。

……やがてシルバープレアーはレースに出るには出るが『熱意』というものを微かな、今にも吹き消されそうな火へと変えてしまい。

惰性のごとく日常を過ごしていた折、

──見つけた。

自分よりもずっと幼いウマのレース姿。

何故だかその姿を見た瞬間、消えそうだった火にふいごをかけられたかのように。

あの日の【英雄(絶望)】を、思い出した。が、

 

「…あの子は、【英雄(アイツ)】じゃないよ」

 

火が点ったシルバープレアーにそう告げたのは同期であり同い年の叔父バレットシンボリ。

相変わらず色の悪い顔で静かにシルバープレアーに言い募るのだ。

曰く、あの子は確かに素質はあるだろうが、まだまだ発展途上で荒削りもいいところだと。

それに何より、と目の前のウマは言う。

 

「あの子は、キミの望むモノじゃあない」

「…………」

「キミはもっと速くて強い【英雄(ナニカ)】を求めてるんだろう?

でもそれは、あの子じゃない」

 

静かに、シルバープレアーを見定めるバレットシンボリ。

その目にシルバープレアーは口の端を歪に吊り上げた笑顔で応対する。

 

「…ッ、」

「そんなの、ぜんぶ」

 

わかってるよ。

自分を追い抜いてばかりだった背を、覚えている。

どれほど頑張っても軽々と抜き去っていく背を。

ただただ憧れていた。

追いかけ続けた。

追い抜きたいと、願っていた。

──それが、どうしたことだろうか。

いつの間にか自分が前を走る側になってしまって。

気づいてみれば、かつて憧れた背中はとうに見失ってしまっていた。

だから、再び見つけ出したこのチャンスに……。

 

「でも大丈夫」

 

ひく、と怯えたように後退りしているウマの肩をポン、とシルバープレアーは安心させるように叩く。

そして、

 

「僕を抜いていいのは、……【英雄(あの子)】だけだから」





【銀の祈り】:
シルバープレアー。
まるで蜘蛛の如しとでもいうかのような緩急をつけた逃げを得意とする。
血縁の"とあるウマ"とはまた別ベクトルで残酷。
『永遠の二番手』としてよく侮られるがそのたびに周りの心を折っていく。
また、年を経るごとに積み重なっていく連対記録ゆえに主役を喰うことも…。
で、停滞していた折にあるウマを見つける。
が、【英雄】の代わりなんて…。

それはそれとして。
固有スキルは『我が偉大なる【英雄】よ、来たれ』
「レース後半に先頭にいると後方から来るウマの気配を感じて加速力を上げ、後方のウマを萎縮させる。また出走バの作戦に差しと追込みが多いほどすごく萎縮させ、効果が増える」というもの。
演出的には、糸という糸が張り巡らされた暗い場所でナニカの山に座った【銀の祈り】がこちらに気づき、ゆるりと嗤う…みたいな。
こりゃブッチギリの"魔性"だし匂わせがすぎる…。

───いくらキミが空を飛ぼうが羽根(つばさ)があろうが…捕まえたら、終いでしょう?

あるウマ:
のちの【金色の暴君】。
結構初期の方から【銀の祈り】に目をつけられていたがそれを本バが知ることは…?


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人知れず見てる


小さい子から見たやさしい年上の子どもって何か憧れとかそういうのあるよね。



シルバープレアーと【夢への旅路】は自他ともに認める親友…のワケではあるが。

 

『ほら、挨拶しろ』

『……』

『ほら』

『………』

『…(ピキピキっ)』

『い、いや大丈夫だよ【旅路】!…え〜と、はじめまして?僕はシルバープレアーって言うんだ。【夢への旅路】くんとは友だちで…』

 

シルバープレアーはむかし、何度か【夢への旅路】の"きょうだい"と出会っていた。

その子はとても人見知りな子ではあったが、ハッと目が覚めるような美しい栗毛が特徴的な。

だから。

 

「アイツだよ」

「えっ?」

「そりゃ分からなくても仕方ない、か。アイツ、俺の背に隠れてばっかりだったもんなぁ」

 

競走バとなって、ふとしたキッカケで注目したウマが件のその子だと【夢への旅路】本バからじきじきに聞いて。

 

「…まさか、なぁ」

 

まさかもまさかだ。

かの【英雄】のようなナニカを感じたと思ったら、親友の"きょうだい"だったなんて。

そんなことあるのかよ、と思わずには居られない。

だがしかし、こうして対面してみれば納得するしかない。

……この子は間違いなくあのころ会っていた子だと。

 

「あの…?」

「アッ、あっあっあっ、ファンれしゅっ!!」

「!?」

「お、良かったな〜。ビッグネームがファンだってよ」

 

レースを見終わり帰ろうとしたところで「せっかくだし会っていこうぜ」と引きずられていったのは控え室。

そして勢いよく開けられたドアの先にはもちろんあの子がいるワケで…。

 

「お、応援してましゅ…っ!」

「は、はぁ…ありがとう、ございます……?」

 

 

そのウマをはじめて見たとき、目を奪われた。

かのウマは自分の"きょうだい"である【夢への旅路】の自他ともに認める親友で。

というか父親同士から仲が良かったこともあって、小さなころから家族ぐるみで付き合っていたりする。

そんなかのウマは、まるでお伽噺に出てくる王子様みたいだった。

まぁ歳の近い"きょうだい"特有の横暴さとはまったく違う包容感に酔いしれていただけとも言うが。

 

『…ね、ぷれあー』

『どうしたの?』

 

その瞳に見つめられるだけでドキドキして何も言えなくなる。

でも、それでも話しかけてくれることがうれしくて。

──もっと、おはなししたい。

──もっと、いっしょにいたい。

 

だから。

だから。

だから。

 

──こっちを、見て?

"きょうだい"だけでなく、自分の方にも視線を、笑顔を向けて?

そうしたら、きっと自分はもっとがんばれるはずなのだから。

そう思ったから、いっぱい努力した。

たくさんたくさん努力をして、いつかかのウマと肩を並べられるように。

 

……なのに。

かのウマは自分に見向きもしなかった。

 

(…どうして?)

 

そして。

気づいてしまった。

かのウマが自分を気にかけてくれていた理由に。

それは───。

 

あは、ははは、あははははッッ!!

 

グツグツと瞬間で感情が煮えたぎり、視界が真っ赤になる。

あるのは、ただ怒りだ。

純粋で、一直線な怒りだ。

あぁ、嗚呼、舐め腐りやがって!!

 

「…いま、アンタの目の前にいるのは俺だろう?」

 

あの【英雄】じゃなくてさぁ!

なァ、

 

「シルバープレアー…?」





【金色の暴君】:
自身の"きょうだい"の【夢への旅路】の親友である【銀の祈り】に憧れのような…、また別の何かのような感情を初対面からずっと抱いている。
が、あの凱旋門賞にて【銀の祈り】が何故自分を気にかけてくれていたのかのアンサーに至ってしまった結果、情緒がグチャグチャになる。なった。
元より【銀の祈り】に対して【夢への旅路】に向けているような笑顔や視線を自分にも向けて欲しいと思っていたところにアレだよ!!……おぉ、なんという。

【銀の祈り】:
シルバープレアー。
【金色の暴君】の初期からのファン。それは本当。
だがそれはそれとして【金色の暴君】に、自身がクソデカ感情を向けている【英雄】を重ねて見てしまっているのもまた事実。
でもクソボケ鈍感ウッマなので自分が情緒の多重事故の発端になっているとはこれっぽっちも思っていない。
また【金色の暴君】以外にも多数のウマの情緒をグチャグチャにしている。
もしかしたら損害賠償取れるんじゃね?というぐらいにはグチャグチャにしている。
木っ端微塵で粉微塵。そして最後にはジュッ!と焼かれてしまうんだなぁ…。
逃げ場がないゼ…(白目)。


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『憧れ』は別枠


【銀の祈り】周辺の多重事故具合は結構ヤバい。
銀弾よりも周りとの関わりが多いぶん…ね?



シルバープレアーがある種の博愛主義者だ、というのは競走の世界で生きるモノの中では有名な話だ。

 

G1未勝利バながらあの門に近づいたウマの直仔であり、また"かのウマ"の血筋に少なからず連なるシルバープレアーは周りからさまざまな思惑の視線を受けて過ごしてきた。

 

だがシルバープレアーがその視線を煩わしい、と思ったことはない。

なぜならシルバープレアーの傍にはとても仲の良い歳下の親友がいたし、自身よりも重い期待を背負わされながら、それでも翔ぶように駆けていった同期がいたからだ。

 

だから、シルバープレアーは自分に向けられる視線に頓着しない。

がしかし、それは他の誰彼にはとんと理解のできないもので。

 

シルバープレアーは基本誰もに平等だ。

だが平等というのは、ある意味誰も見ていないのと同じではないか。

そう、考える者がいるのも無理はない話ではあるが。

 

()()()でも、見てもらえるクセに」

 

代替ながらもシルバープレアーに見てもらえるウマにそう零すのも、虚しい。

その呟きを聞き咎めたのか、あるいは偶然なのか。

栗毛のウマは耳聡く聞きつけて、声の主へと振り返った。

そして言うのだ。

―――アンタには分からないよ、と。

 

シルバープレアーの目に映るのは何だろう。

舞台役者のごとくクルクルと走り回りながら辿りつこうとしている場所は、どこだろう。

それを知ろうと、あるいは少しでも近づこうとする者は多い。

そしてその答えに勘づいているかもしれない存在もまた多いのだが……まあ、それはさておき。

 

「…どうしたの?」

 

そんなことは、何も知らないシルバープレアーは今日もおだやかに、朗らかに微笑んで。

 

 

(めし)いたようなものだ、と思う。

幼き日に見た、ガサガサとした画質の中にいた影に。

普通のウマでは到底出しえない記録を叩き出した、かの影に。

シルバープレアーの、目は灼かれた。

完膚なきまでに、その暴力的とも呼べる"疾さ"に。

心ごと、魂まで焼き尽くされた。

否、きっとこの感情を陳腐な言葉にするのなら。

"憧れた"とか、そういうものなのだろうけれど。

ただただ純粋に、シルバープレアーはその背中を追いかけているだけだというのに。

なぜだか、後ろ指をさされる。

 

───自分を見て、と。

 

…おかしなことを、言うものだ。

シルバープレアーはちゃんと見ている。

周りを、周りにいる誰彼を。

ちゃんと、見ているというのに。

だが、まぁ。

 

「『憧れ』への歩みは、止められないんだよね…」

 

なぜなら。

 

「止まったら、置いていかれちゃうじゃないですか」

 

シルバープレアーの『憧れ』は()()()()、ので。

 

「仕方ない、ですよね。…ね?」





【銀の祈り】:
シルバープレアー。残酷な博愛主義者。
原初にこびりついた存在に脳を灼かれては居座られており、行動原理にまで影響を受けている。
いやもちろん親友の【夢への旅路】を大切にして、【英雄】に執着しているのも確かなんですけど比重が違いすぎるというか。
原初は特別枠で、【英雄】:【夢への旅路】:【金色の暴君】:その他=4:3:2.5:0.5くらいの割合かな〜…?という感じ。

【銀の祈り】の原初:
どこまでいっても影響を与えてくる系ウッマ。元凶。
神格化されたり何だりしては存在を忘れさせてくれない。
全部お前のせい兼お前がはじめた物語だろに気づけばなっている。
でもこの方には知る由もないことなので…(白目)。


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銀色の王者はおだやかに


双方引退後のスペシャルウィークとシルバーチャンプの話。

・銀弾系列のひみつ
現役中はカチッとした服装を好むのに引退後はゆるっとした服装を好むようになるのが大半。
また性格もそれに倣うかのように穏やかになる(個人差はあります)。


その日、阪神レース場にて見かけた影にスペシャルウィークは声をかけた。

 

「隣、いいですか」

「あぁ、はい…。あれ?」

 

くだんの影-シルバーチャンプは、スペシャルウィークの同期だったウマで、対戦の機会こそなかったが密かに注目していた相手であった。

 

「奇遇だな」

 

がしかし。

久方振りに再会したシルバーチャンプは、"あのころ"と比べると雰囲気が穏やかで。

近づくだけでピリピリするくらい気が立っていたことを考えると同一人物とは思えないほどだった。

まぁそれも当然といえば当然である。

 

"あのころ"のシルバーチャンプには多大なる期待がかかっていた。

血筋ゆえの、多大なる期待。

勝っても負けても、変わらずかけられるような。

シルバーチャンプという『個』を通して見られる影…。

 

「スペシャルウィーク?」

 

不思議そうにかけられた声に慌てて「大丈夫」と返す。

そして、隣に腰掛けた。

 

「末の妹が()ンだ」

「そう」

 

僕は娘が出るよ、とは言わなかった。

どうせ分かるだろうと思ったからだ。

仕事をし始めた僕らがこういうところに、こうして居るのはさしずめそうでしかないのだから。

 

「お。…よかった、緊張とかはないみてェ」

 

ゆるりと緩む眼差しに慈愛を感じる。

どこか抜き身の刃物のようだったあの青の双眸は、穏やかな海になっていて。

それはきっと守るべきものができたからだと。

大切な誰かを思ってのことなのだろうと、察せられた。

そんな変化を見て取って、微笑ましく思うと同時に寂しくもある自分に気づく。

 

―あぁ。キミはもう、キミだけじゃないんだね。

 

いつか見た、荒れ狂う濁流のような激情はそこになくて。

それを寂しいと思う自分がいて。

同時にそれが喜ばしいとも思うのだ。

キミはキミだけのものではなくなったけれど。

でもやっぱりキミがキミであるのなら、それは僕にとって嬉しいことなのだ。

 

「……良かった」

「え?」

「ちゃんと、キミらしく在れているみたいで」

「俺らしいってなんだよ」

 

苦笑してみせるシルバーチャンプに肩をすくめてみせた。

キミがキミらしく在れるということ。

それは、……少なからずあの"影"を振り払ったのと同義ではないかと。

そう、僕は思ったから。

でも、それはそれとして。

 

「ねぇ、チャンプくん」

「なんだ?」

「どうして同期会来ないの?」

「エッ」

「どうして?…あっ!いや責めてるワケじゃあないんだよ?人それぞれ用事とかがあったりするだろうし。……でも、いつ誘っても断られるから」

 

しゅんとした様子を見せるスペシャルウィークに、シルバーチャンプは慌てて首を振った。

そんな様子を見て、さらにしゅんとするスペシャルウィークだったが、やがてポツリと呟いた。

その顔は俯きがちではあったが、耳がピコピコ動いているところを見ると、決して不機嫌になったわけではないらしい…。

 

「だ、」

「だ?」

「だって、俺とお前らって…そこまで、仲良くないじゃん…?」

「」

「…スペシャルウィーク……?き、気絶してる…!?」

 





【日本総大将】:
スペシャルウィーク。
むかしの、キレてる時代の【銀の王者】を陰ながら心配していた。
【銀の王者】と仲良くなりたいなぁ、と思っていたら特段関わることもないまま引退されてしまい、引退後もそれとなく同期会に誘うも断り続けられる日々…。
で、今回断られ続けた理由を知った結果、「」状態となる。
同期面子の中ではいちおう安牌枠とかどうとか…?
でも本気出したらヤバそう。だって【日本総大将】だし。

【銀の王者】:
シルバーチャンプ。
引退して落ち着き、キレていたのも也を潜めた。
キッチリした服装よりもゆるっとした服装を好んでいる。
その姿を見られては「【あのウマ】そっくり」などと人知れず言われていたり。
また、家族のことが何よりも大切と言って憚らないようになっているため、家族以外で【銀の王者】に予定を取り付けるのは至難の業となっている(除く【金色旅程】)。
だがそれはそれとして同期会を断っていたのは…?

いや、だってアイツら傍目から見てもスッゲェ仲良いし…。
俺が入ったところで、どうせ空気悪くするだけだから…な?


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金色と銀色


届かなかったから、諦めがついた話。



シルバーチャンプが()()凱旋門賞に遠征しに行くことになったと【金色旅程】が知ったのは初夏のころであった。

 

「なんスか」

 

【金色旅程】の知るシルバーチャンプはいつも思い詰めたような顔をしている後輩である。

生来の脚の弱さとか、周囲からかけられる期待だとか。

そんなものに押し潰されぬように何とかしているのが【金色旅程】の知るシルバーチャンプだ。

【金色旅程】はシルバーチャンプが自分のことで手一杯になっているのを何度か見たことがある。

だから、今回の件もできるだけ見守ってやろうと思っていたのだが──、

 

「…どうした」

「…、」

 

シルバーチャンプは顔を逸らした。

何だ。

この時期にまさか、…怪我をしたとでも言うんじゃないだろうな?

そんなことになればいよいよ洒落にならないぞ、おい。

冗談ではない。

こんなところで、お前は終わるタマじゃ…!

 

「……先輩」

「あ?」

「……。俺と一緒に走ってくれませんか」

「えっ……」

 

いやいや。

いきなり何言ってんだコイツ。

俺なんぞと走るより周りの…、それもクラスメイトと走った方が。

 

「…クラスメイトはみぃんな、他のレースに集中してますんで」

「……そりゃあ、俺だってそうだが?」

「ははは」

「おい」

 

笑うなよ。

…そもそも笑ってる余裕あるのかよお前。

そんな、もう諦めたみたいな顔して。

そういえば。

 

「なァ、」

「はい?」

「お前って、ラーメン好きだったっけ?」

 

 

結局のところ。

凱旋門賞を死力で駆けた(賭けた)シルバーチャンプは生来の脚のこともあり早々と競走生活を引退した。

まぁ…仕方のないことだろうなとは思う。

だって、シルバーチャンプは長子として生家を継がねばならぬのだから。

それはそれとして。

今、俺たちが何をしているのかというと、

 

「ほら、さっさと頼めよ」

「はぁ…」

 

ラーメン屋にいる。

ちなみにシルバーチャンプが注文したのはヒト用ラーメン(普通)で、俺が注文したのはウマ用に作られたラーメン(少なめ)である。

いやぁ、久しぶりに食うけどこの店やっぱり最高だわ。

味もそうだけど量が多くて安いからな。

…とは言っても。

 

「お前さァ、俺の奢りだからって遠慮するなよ」

 

シルバーチャンプの頼む量が少な過ぎる。

ヒト用の並ラーメンを頼んでちまちまと食べている姿に俺は呆れていた。

コイツは昔からそうだ。

もはや奇妙なまでに食う量がトレーニング量に見合っていない。

 

「…お前、いつか鶏ガラみたいな体になって痩せ衰えてタヒぬんじゃねぇの?」

「他バに向かって随分な言い草だなァ…」

 





後輩を可愛がる【金色旅程】さんと可愛がられるシルバーチャンプの話(要約)。

後輩:
シルバーチャンプ。実は少食。
自身の脚とかけられる期待に…なすがた。
けど引退となったらスパッと引退できるぐらいには割り切っている。
…まぁ、それには凱旋門賞にて"視た"ことも関係あるんでしょうが。
だがそれはそれとして先輩である【金色旅程】にあれやこれやと世話を焼かれていたりする。

先輩:
【金色旅程】さん。体が丈夫。
後輩であるシルバーチャンプを可愛がっているウマ。
よく行きつけのラーメン屋で奢ったりなどしているとか。
なお後輩が引退したあとも機を見てはふらっと顔を見に行ったりするらしい。


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銀の王者は笑わない


黄金世代から見た【銀色の王者】の話。



僕がそのウマを、シルバーチャンプをはじめて認識したのは昼寝場所を探していた折だった。

 

「───────」

 

ただ、一瞬。

ほんの、一瞬。

チラリと、汗に濡れた髪から覗いた眼を見ただけだった。

なのに。

 

()()()()()、と思った。

 

まるで、牙を剥いた獣の顎のような。

そんな視線が僕を捉えて放さなかったのだ。

あれは、一体なんなのだろう?

ひどく落ち着かない気分。

いつものような飄々とした笑みも浮かべられないくらいに。

 

それから。

僕はあのウマのことが気になって仕方がなかった。

そして、それは今も変わらない。

でも、あのウマがどこそこにいると知っていても会いに行かなかったし、話しかけることもなかった。

そうしてしまえば、この胸の奥で燻る感情の正体が何なのか理解してしまう気がしていたからだ。

その"理解"が、僕は……。

 

()()()…なんてね?にゃはは〜」

 

──その眼は、すべてをぶち壊す"ナニカ"を持っていた。

 

 

俺がそのウマを認識したのはクラス分けが発表された時。

まだ顔すら知らない相手に俺は関心を寄せていた。

だって、そのウマはとても()()()()だったから。

あのウマに列なる血筋の生まれだと、誰もがささやいていたから。

 

でも、違った。

クラスメイトとして顔を合わせたそのウマの瞳には光がなく、ただ虚空を見つめているだけ。

誰とも関わろうとせず、誰にも興味がないといった様子に取り繕って、キツい言葉を使って、自分を守っているかのような。

それに、そのウマからはどこか危うさを感じた。

まるで、いつか壊れてしまいそうなほど脆く見えて。

なのに。

その"脆さ"に目を惹かれて。

…………ああ、もう!自分で自分がわからない!!

どうしてこんなにも心乱されるんだ!?

そんなことよりも、とにかく今はトレーニングに集中しないと…。

 

───王の審美眼が見抜いたのは、隠された脆さ。

 

 

僕から見たキミはお人好しだった。

「よォ、大丈夫か?」なんて言って。

「困った時はお互い様だ」なんて言って。

病弱な僕に嫌な顔ひとつせず「無理すんな」と言っては手を差し伸べるような。

……本当に優しいヒトなんだなって思った。今でも思う。

だけど、それと同時に疑問を抱いた。

どうしてそこまでするのか?と。

だって、どう考えてもおかしいじゃないか。

僕のことをよく知りもしないだろうに。

それどころか、まともに話したことさえなかったはずなのに。

 

「なれるよ、お前なら」

 

どうして、諦めたよう(そん)な顔するの?

 

───それは、投影だったのか?

 

「引退式なんざ、しないでいいって言ったのによ」

 

かつりかつりと松葉杖をついて、キミは呆れたような笑みを見せ。

 

「…G1勝たずに、引退すんのに」

 

あの激走の代償が嫌に目についた。

キミに生来の脚の弱さがあったと知ったのはずいぶん後のことだったけれど。

それでも、キミがこれまでどれほど、どれだけ頑張っていたかを知っていたからこそ、その無念さがより痛々しく感じられた。

でも僕にそれを告げる勇気はないし、権利も、なかった。

 

「…じゃ、俺の代わりにリベンジしてくれや──日本総大将?」

 

───それは、『憧れ』のような。

 

 

僕はあなたのことが嫌いだった。

その気になれば僕ら全員を倒せる実力があるクセにそれをひた隠しにして。

粗野で粗雑なフリをして周りすべてを遠ざける。

誰も見ないままに目を塞いで、耳もふさぐように殻の中に閉じこもって。

 

───あなたは、何がしたいんですか?

 

そう問いただしたい衝動を抑えるのに、必死だった。

だって、そうでしょう?

そうやって、自分ひとりだけで抱え込んでしまう姿を見ると、どうしても苛立ちを抑えきれなくて。

あなたの近くにはあなたの言うことをバカにする人なんていないのに、なぜそうまでして孤独であろうとするんですか?

もっと頼ってくれてもいいじゃないですか?

僕は……。

いえ、僕たちは……っ!

あなたの力に、なりたかった……ッ。

 

「…体には気をつけろよ。なァ、【不死鳥】ドノ?」

 

───切っても切れぬ『後悔』を、悔やんでも後の祭り。





【銀色の王者】:
シルバーチャンプ。
現役時代は基本危うかった感じ。
それを必死に取り繕った結果が気性難だったのかもしれない。
自分の弱いところを誰にも見られたくなくて、自分は大丈夫だと強がっていた。
だって自分は───"あのウマ"に列なる存在なのだから。


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独りよがりの献身


人はひとりで、勝手に助かる。



オレがキミのことを認識したのは凱旋門賞の帯同バとして紹介された時だった。

クラスメイトであると、認識はしていた。

けれどキミはいつもひとりきりだったからどんな人となりなのか、まったく見当がつかなかったんだ。

 

「シルバーチャンプ」

 

告げられた名前は少し高かった。

感じる雰囲気で低く聞こえたような感じがするだけで、本来ならもっと綺麗な声なのかもしれないと思ったことを覚えている。

 

「よろしくお願いしマース!シルバーチャンプ」

 

キミの手を握り返した時の感触もまだ鮮明に思い出せる。

キミの手は小さくて細くて、そしてとても冷たかった。

髪の隙間からちらりと見えた眦には巧妙に隠された隈があって。

その小さな体躯に似つかわしくないほどの苦労を背負っているように思えた。

 

「……よろしく」

 

握手を交わした後も、しばらくキミはじっとこちらを見つめていたね。

あの時、オレを見ていた瞳は今でも忘れることができないよ。

まるで何もかもを諦めた、悲しい目だった。

 

それから。

オレとキミは共に異国へと辿り着き、各々トレーニングを開始した。

けれど、

 

「…」

 

日に日に細くなっていくキミの食事。

皿に乗っているのは美味しいが、そのぶん高い栄養価ゆえに太りやすいと忌避される食べ物ばかりだ。

それなのにキミはそれらをちびちびと平らげる。

美味しいから味わっているのか。

いや、違うだろう。

キミの目を見ていれば嫌でもわかるさ。

キミは決して食を楽しむためにそれらを食べてるわけじゃない。

ただ生きるためだけに食べているんだろう。

そんな生活を続けて、だんだん本命が近づいてきたある日。

 

「…夜更かしはダメだと思いますヨ」

「あぁ、」

 

誰もが寝静まった、暗い食堂でキミはひとり座っていた。

物憂げな目で、黒い隈が刻みつけられた目で、でもギラギラとした光を宿した目で。

何かに取り憑かれたかのように、ただひたすらにノートに向かってペンを走らせる姿があった。

 

「シルバーチャンプ?」

「っ……すまん、わかった。もう寝るから……」

 

そう言って立ち上がろうとした瞬間、ぐらりと傾く身体。

慌てて支えると、キミの体はゾッとするほど軽かった。

青ざめながら肩を貸し、同室である部屋へ戻るとぽつりぽつりと始まる話。

 

「な、エル」

「なんデス」

「俺の母親のさ、全きょーだいってさ…スゴいんだ」

 

知っている、とは言わなかった。

調べなくても好き勝手言われていた話だから。

『血筋だけの無能』だとか、その他の心無い諸々。

なんてひどい言葉だろう。

このウマの走りを見たことがない人たちの言葉は、ナイフ以上に鋭い。

 

「俺は……そのウマみたいになりたくなくて……いや、かさねられたくなくて…がんばってきた…」

「ウン」

「でも、さぁ…」

「ッ」

 

グラグラに、崩れ落ちそうな目が僕を見た。

人差し指でつついただけで壊れてしまいそうな目を。

 

「どうしたら、いいと思う?おれ、もうわからないんだよぉ……」

 

悲痛な叫び声が耳の奥まで響いて反響する。

その時、初めてキミのことを理解できた気がしたんだ。

 

「シルバーチャンプ」

「…うん」

「オレが、います」

「え?」

「オレがいるから大丈夫です。だから安心して眠ってくださいネ!」

「そっか……ありがとう、える」

 

そのままベッドに倒れ込むようにして眠りについたキミを見て、オレは決意を固めた。

 

「必ず勝ちましょうね!シルバーチャンプ!!」

「……うん」

「おやすみなさい」

「…なぁ、エル」

「ハイ?」

「お前だけは───」

 

俺を、見てくれる?

 

そう、言ったのはキミの方だろうという言葉も、もう届かない。

恐ろしいまでの豪脚でやって来たキミは、ゴールを抜けても周りの音が聞こえていないように前を見据えたまま。

周りの誰も、見ないまま。

 

「……、」

 

ポタポタと涙を流して、歪な微笑みをする。

後悔と怒りと…多大な歓喜が混じりあった目のままに。

オレたちじゃない、【ナニカ】を視て。

 

「……ごめん、な……」

「キミが謝ることじゃありまセンよ」

「でも、」

「キミは全力を出し切った。それだけでしょう?」

「……ああ……」

「なら、それで良いんです」

 

声をかけたには、かけた。

だがキミはずっとうわの空。

それにオレは…。

 

(自分を見ろと言ったのはお前のクセに)

 

お前は、オレを、俺を、

 

(見てくれないのか…)

 

この、

 

約束破りめ(ウソつき)が」





【怪鳥】:
エルコンドルパサー。
日に日に弱っていく【銀色の王者】を心配し、やっと心を寄せてもらったと思ったら…となり湿度がグラビティ。
お前が自分を見ろって言ったんだろ!ならオレの方も見ろよ!それが道理だろ!?状態。
そして凱旋門賞の後から夢見心地になりうわの空の返答しか返してくれなくなった【銀色の王者】に感情をグッチャグチャにされる。し、引退したのちは仕事の都合などでなかなか会えなくなったのもあって感情が醸成されていく。じっくりコトコト。

【銀色の王者】:
シルバーチャンプ(幽鬼のすがた)。
勝手に悩んで、勝手に壊れかけて、勝手に救われた。
実は史実からだんだんと凱旋門賞の日が近づいていくごとにグロッキーになり本番当日は絶不調に輪をかけた絶不調だった。
灰方さんたちが必死に"あのウマ"でやっていた高栄養価のご飯を食べさせることでこれ以上体重が減らないように…をしたからガリガリ紙一重のいちおう肉がある状態になっていただけ。
でもその状態で道中ずっと最後尾、最後の直線一本ごぼう抜きでクビ差2着に入ったものだから周りの脳と情緒はぐちゃぐちゃ。
だがコイツが見ているのは今も昔もたった唯一、"あのウマ"だけである。


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皇帝への贈り物


ハッピーバースデイ、シンボリルドルフ!
…慌てて書いた代物です。


「誕生日おめでとう、ルドルフ」

 

そう言ってプレゼントを渡すと凄い顔をされた。

何だってんだ、いちおう僕も友人の誕生日くらいは覚えてるんだぞ?

 

「ぁ、いえ…すみません。まさか先輩に祝っていただけるとは思わなくてですね…」

「意外と失礼な奴だなキミは……。まあ確かにキミとはあまり絡む機会もなかったしね。でもほら、一応僕らは先輩後輩の仲だしさ」

 

それに、僕の数少ない友だちだからね。

ちゃんとお祝いしてあげたいし。

 

「ありがとうございます。開けてみてもいいですか?」

「うん、いいよ」

 

ガサガサと包みを丁寧に剥がす音が聞こえる。

……なんだかこうして見ると少し恥ずかしいな。

 

「これは……!」

 

中から出てきたのはシンプルなネクタイピン。

悩みに悩んで吟味して選んだ一品だ。

最終的には市販品で満足出来なくてオーダーメイドかけたんだし。

 

「気に入ってくれたかな?」

「はい!とても…大切にしますね」

「そっか、なら良かったよ」

 

喜んでもらえて本当によかった。

ああでもないこうでもないとデザインを見ながら頭を抱えたかいがあったね。

 

「それで、その……ケーキも作ってみたんだけど……」

「えっ」

「あっ、嫌とか手作りが無理とかならいいんだ。ミスターとかと食べて消費するから…」

「食べます」

「えっ」

「食 べ ま す」

「アッハイ」

 

作ったのはありふれたシフォンケーキだ。

それも可もなく不可もなく、なシンプルなやつ。

ひとり分で切り分けて持ってきたものだったけど「この切り口からしてホールありますよね?もらいます」と言われてしまえば仕方ない。

あとついでに紅茶も淹れた。

僕は牛乳派だけど今日だけは譲ろうじゃないか。

 

「ふぅ……美味しかったです。ご馳走様でした」

「それはどういたしまして」

 

結局全部食べられてしまった。

流石にちょっと多かったんじゃないだろうか。

体重管理とか、大丈夫だろうか。

いちおう低カロリーにはしてあるけれど。

…いや、ルドルフだし大丈夫かな?

 

「ところで先輩、ひとつお願いがあるんですが」

「んー?」

 

なんだろう。

何か頼み事でもあるのかな?

まぁ僕にできることなら何かしてあげたいよね、本日の主役のお願いだし。

 

「私にも先輩の誕生日を教えてください」

「……はい?」

 

思わず素が出てしまうほど驚いた。

まさかさっきのお返しが来るとは思ってなかったし。

というか教えてくれって言われても……。

 

「別に構わないけどさ。え?教えてなかったっけ?」

「まったく」

「マジかぁ…」

 

うっかりしていたかもしれない。

そういや教えてなかったっけ?

そういえばミスターからも聞かれたような気がしないでもない。

あの時は確か……。

 

『シルバーに誕生日ってあるの?』

『あるよ!?フツーにあるよ!?』

 

みたいな会話をした記憶しかない。

あれ、これ完全にみんな知ってると思って流してたな?

 

「というわけなので、また今度一緒にお出かけしましょう」

「ああうん、全然OKだよ。ただあんまり高いものはお返しとしてもプレゼントとしても、もらえないからね?」

「わかっていますとも」

 

こうしてまた約束が増えていく。

なんだちょっとむず痒いなぁ…。





【皇帝】:
シンボリルドルフ。
まさかの相手に祝われてホクホク。
プレゼントもケーキも僕が自分のために作ってくれたものだから誰にも譲りたくなかった。
ケーキに舌鼓打ちながら「料理上手いんですね、先輩…」って思ってそう。
…まぁた胃袋掴んでら(呆れ顔)。


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ホワイトデイの悩み事


バレンタインから時は流れ、ホワイトデイのようです。



「ホワイトデーの季節なワケだけど…お返し、どうしよっか」

 

上座に座ったチーム:アルデバランのリーダー・シルバーバレットが苦笑して会議を始める。

チームのミーティングルームはどこかの軍隊の会議室のような造りになっており、部屋の中央には人数が多い分大量の長机とパイプ椅子が並んでいる。壁際には資料棚やコーヒーメーカーが置かれており、奥の壁一面には大きなモニターが設置されている。

 

今月のイベントの打ち合わせ中だが、今年のバレンタインのお返しについてどうするかの話題を出すと、皆それぞれの意見を口々に言い始めた。

今年もさまざまな人からチョコレートを受け取った身としては、全員に返さなければいけないだろう。

かと言って、変なものを渡すわけにもいかないし、そもそも何をあげればいいのかも分からない。

そんなことを思いながら誰もが頭を抱える。

すると、

 

「ブロマイド作ろうよ」

 

チームメンバーの内のひとりがそう言った。

 

「みんなで勝負服着てさ、箔押しとかしてさ!」

 

それにリーダーであるシルバーバレットが賛同する。

結果…。

 

 

チームの傾向としてアルデバランはメディアなりグッズなりの露出が少ない。

そのため、「こういう時ぐらいは」「いつも応援してくださっているみなさんに」と、ブロマイドを作ろうという話になり。

誰かひとりでもチョコをくれた相手がいるのならブロマイドを作ると厳命された(中にはちょうどいい機会だからと個人的に作っていたメンバーもいたが)。

 

「…にしても、どっちの勝負服がいいかなぁ?」

 

しかし。

困ったことがひとつあった。

それはアルデバランが海外遠征を積極的に行っているが故の弊害──国内用と海外用の勝負服があること。

アルデバランではその2種類をそれぞれのメンバーに合わせたサイズで持っているのだが、どちらを着たらよいか迷うことになる。

 

「みんなどっちの方が喜ぶかな〜?」

「うーん……」

 

みんなが悩む中、

 

「リーダーはこっちですって!」

「いいや、こっち!」

 

自分の衣装そっちのけで言い争われる存在がひとつ。

 

「リーダーは国内用の方が良いって!一回しか袖通してないんだから!みんな見たいんじゃないかな!?」

「いいや、海外用の方がいいね!だって黒のスーツだぜ?マフィアのボスみたいでカッコイイじゃん!」

『ぐぬぬぬぬ…!』

 

どちらも間違っていないため平行線を辿るばかりの議論。

そして、それを聞いている張本バ―シルバーバレットは、

 

「あはは…。みんな、ほどほどにね〜」





アルデバラン's:
バレンタインのお返しにブロマイド(勝負服着用+箔押し有り)を作ったヤツら。
国内用と海外用の勝負服、どっちを着ようと悩んだりしたがいちばん議論したのはリーダーであるシルバーバレットの勝負服を国内.海外のどちらにするかだった。

だってリーダー、国内用はあのJCでしか着てないじゃないですか!

それを言うなら海外用だってみんなテレビでしか見てないだろ!

だがそれはそれとして親友枠に直筆サインしたブロマイドを贈るヤツらな模様(『言ってくれたらサインするよ?』の精神)。


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『後悔』の再会


純愛定期。



「そろそろ覚悟決めてくださいよ、トレーナー」

「でも、」

「も〜」

 

曲がり角の壁の部分に身を隠す自らのトレーナーにシルバープレアーはため息を吐く。

今日は久しぶりにゆっくりできる日ともあり、シルバープレアーの実家に来ているのだ。

 

「何年ぶりでしたっけ?トレーナーさんがこの家に来るの」

「…忘れた」

 

実のところ。

シルバープレアー本バはよく知らないのだが、トレーナーである男とシルバープレアーの実家は古馴染みで。

シルバープレアーの父-シルバーチャンプを新人時代の彼が担当していたことが関係の発端らしい。

いや、本当の要因はもっと他にあるのだけど、いま語るに相応しいのはこの理由だから。

 

「父さんも待ってますよ」

「…………」

 

そんなシルバープレアーの言葉にも無言のまま動かないトレーナー。

はぁ……ともう一度小さく溜息を吐いたシルバープレアーは少し意地悪なことを言うことにした。

 

「あれれ〜?おかしいですねぇ。確かトレーナーさん、言ってませんでしたか?」

「え、」

「『これでやっとシルバーチャンプ()に会い行ける』って」

「ぉ、おま、聞いて…!」

「そりゃ聞こえますよ〜、ヒトミミより何倍も性能がいいウマミミですから!」

 

トレーナーである男は、とある『後悔』を抱えている。

一生治らない疵のごとく、深深と刻み込まれた『後悔』を。

そして、それに関連するのがシルバープレアーの父シルバーチャンプなのだ。

 

「僕にはよく分かりませんけどね。

そんなにウジウジするなら適当な予定でっち上げて来なければよかったじゃないですか」

「それは……」

「…でも。会いに行こうとしてるから、今なんですよね」

 

そう。

この男がその『後悔』を背負うことになったのは初めての担当バであったシルバーチャンプが脚の不調で若くして引退するとなったとき。

あの時こうしていればとか、そんな『もし』が頭の中をグルグル回って、傷つけて。

…いつしか顔向けできないと、避けていた。

 

避けていた折、彼の前に現れたのがかつての相棒の子であるシルバープレアーで。

やり直しの、ようだった。

あのころ、できなかったことを今度こそ…とでもいうような。

けど、

 

(随分と、時間がかかったな)

 

グイグイと担当に背を押されるのを踏ん張るも無理で。

無理矢理叩き入れられたそこには、ゆったりとした服装に身を包みながら己の方を見て、目を丸くする愛バが。

 

「…やぁ」

 

何年、会ってなかったのだろう。

だから何から話せばいいのか、分かりやしない。

口から出るのはただ間抜けな音だけ。

がしかし。

 

「……か」

「?」

「遅すぎるッてんだよ、このバカ!!」

「!?」

 

勢いよく、飛びつかれ。

ふたりして床に崩れ落ちる。

うぞうぞと拘束から逃れようにも、顔を埋められている胸の辺りから微かに嗚咽が聞こえてくるのを認識してしまえば…。

 

「おそい、おそいんだよ、バカ…!」

「……うん」

 

抱き締め返さざるを、得なかった。

 

 

「は〜…ヤレヤレ。ふたりして何年も何年もうだうだして。お互いに『自分のせいだ』って思って、顔向けできないって勝手に自己完結してるのに「会いたい」って思ってたのがホント…」

 

世話、ないですよねぇ。

 





甥っ子組:
シルバーチャンプとそのトレーナー。似た者同士。
お互いにお互いが"あの結果"を自分のせいだと思っていて、『後悔』していて、勝手に「会えない」「(申し訳なさから)顔を合わせられない」と自己完結しながら「会いたい」と矛盾した考えを10年以上持ってうだうだしていたコンビ。

再会したら再会したでお互いボロ泣きだろうし、感動の再会案件になる。
実はドライに見えて叔父コンビと同じくらいお互いに向ける矢印がヤバい。
なので【銀の祈り】云々に関しては実質甥っ子組の愛の結晶と呼ばれているとか、呼ばれていないとか…。

【銀の祈り】:
シルバーチャンプの息子であり、トレーナーが決して手綱を譲らなかった担当バ。
自分の父とトレーナーの拗れた関係を間近で見ながら「はよ踏み込め(お互いに)」と思ってたりしそう。
トレーナーのことは慕っているがトレーナーの一番=シルバーチャンプ(自身の父)と理解しているので基本はふたりの関係のサポート寄りに。
重い感情向ける相手はまた別にいるからね。
でも…?

…これで父さん、喜んでくれるかなぁ?


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舟は形を成す


史実√の罪と罰。

───いつか沈むと、知っている。

お前はアレを『呪い』と言うが、…お前だって。



この【呪縛】は、いつから泥舟になったのだろうと思考する。

いや、始めたのはたしかに俺だがここまでになるとは思わなかったのだ。

 

幻想(ゆめ)』を見た。

心底から嫌っていたハズなのに、あの場所であの【影】を見て、どうしようもなく惹かれてしまった。

 

続くのは、地獄だと分かっていた。

けど、諦めきれなかった。

あの綺麗さを、終わりまで見届けなければいけなかった。

はじめて、視た者として。

だから、この泥舟を作り、乗った。

いつしか沈むと理解していても、乗り続ける事に決めた。

そして、沈んだならそれを受け入れればいいとも思っていた。

そう、あの『幻想(ゆめ)』が俺を狂わせた。

あの地獄が、俺を創り変えてしまった。

 

囚われ続けた【呪縛】はもはや【呪詛】だ。

幻想(ゆめ)』を見ているといえば聞こえがいいが、そんなのただの欺瞞だろう。

いつか沈みゆく泥舟を、夢半ばで消えゆく誰かの体で補強して。

テセウスの船みたく、壊れてもなお継ぎ足して、その果てに何も残らなくとも構わず。

ただひたすら、視た『幻想(ゆめ)』の為に。

己が『後悔』の為だけに、他人を使ってまで……俺は何を得た?

何を成し遂げて、何を失ってきた?

その答えが、目の前にある。

それが、

 

「父さん」

 

気付かぬうちに、埒外に()()()()()我が子。

体はたしかに我が子なのに、内包されているモノが違うと本能が警鐘を鳴らす。

俺を見る眼は、どこか遠いところを見ているようだった。

俺の声にもぼんやりとした反応しかせず。

その声音にも抑揚がなく、感情も篭っていない。

まるで機械のような──── ああ、そうだ。

そうじゃないか。

この子をこうしたのは、

 

「褒めて、くれる?」

 

泥舟を作っ(ゆめをみ)た俺だろう。

ならば、この子はさしずめ出来上がった舟か。

蠱毒のごとく、夢の屍(ざいりょう)を積み上げて、組み上げて成された舟。

それはまさに【呪縛】の具現であり、 だからこそ、 俺はそれに手を伸ばすことを躊躇わない。

たとえ、この子がどれほど怪物じみた存在になっていようと。

 

「あぁ…えらい、えらいなぁ、プレアー」

 

我が子が我が子がである限り。

親が、子を愛さない道理はないのだから。

 

 

遠き日のいつか。

子どもは自らの父を救ってやりたいと思った。

いつか沈む泥舟に乗っては、沈むのをよしとする父を。

子どもの父は、とてもやさしいウマだ。

ひとりひとりを平等に見てくれて、みんなのためにいろんなことを考えてくれる、やさしいウマ。

けれど、彼はずっと傷ついていた。

遠い遠いむかしに、刻まれた疵に苛まれていた。

だから。

子どもは───救って、あげたくて。

 

「大丈夫だよ、父さん。僕が、父さんを守るから…」

「あぁ、嗚呼…。ありがとな、プレアー…」

 





父:
泥舟の作成者。
いつか視た『幻想(ゆめ)』に憑かれては夢の屍を積み上げる。
泥舟が未来で沈むことを理解しているし、理解しているぶん泥舟と運命を共にすることも辞さない…はずだった。
だが泥舟から形を成した息子に自らの罪を突きつけられるがそれでも息子を愛する父。

たとえ"バケモノ"になっても、俺だけはお前を…。

息子:
泥舟から形を成したナニカ。
父のことを慕って、愛しており、父を救いたいと願った結果、いつしか変貌した。
お父さん大好き。僕がお父さんを救ってあげる。
ある意味【銀色のアイドル】みたいな存在。

父さん。わらって、くれる?


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雲と激情


父親同士が仲良かったらフツーに出会ってるよね。

【追記】
誤字報告ありがとうございます。



たった一度だけ会った、そのウマのことを今でも覚えている。

 

『年齢も近いし、遊んできたら?』

 

父の友人だという優しそうな芦毛のウマの傍にいた子ども。

ずい、と父の背から押し出されて、合ったその目にドキリとした。

燃えるような光を宿した、蝋燭の火よりもずっとずっと強い光。

それに惹かれて、気が付いた時には手を伸ばしていた…まるで誘蛾灯のごとく。

 

『泣かせないようにね、レイ』

『分かってる!』

 

 

「よォ、飛行機雲の」

 

その日僕が出会ったのは【銀色の激情】と名高いシルバアウトレイジ先輩で。

既にトレセン学園を引退し、別の道を歩み出しているウマが何故こんなところ(栗東寮)にいるのかと思ったのもつかの間、「仕事で入用の書類取りにな」と返された言葉に納得する。

引退したとはいえ元G1レースバ。

それも親子二代凱旋門賞制覇という偉業を成し遂げたシルバアウトレイジ先輩には未だファンも多く、こういった事務作業も多いらしい。

 

「へぇ、そうなんですか」

「ンな他人事みたいに言ってられんのも今の内だぞ」

 

そう言った先輩は僕の隣に来てどっかりと腰を下ろし。

そのままベンチの上で胡坐を組んで、腕を組む。

その姿は現役時代と比べていくらか落ち着いたように見えた。

なんだろう、纏う空気が変わった?

そんなことを考えながらじっと見つめていれば、ふっと口角を上げる先輩。

 

「お前さん、自分の進路とか決めてんのか?」

「えっ」

 

思わず聞き返した僕の反応を見て、先輩はにんまりと笑う。

どこか楽しげに見える笑みを浮かべたまま、彼は続けた。

 

「いや何、ちょっと聞いてみたくなっただけだ。……まァでもアレだろ?とりあえずは、あの空の向こうに行きたいってところか?」

「……。どうしてそれを……」

「俺と同じ目をしてたからな」

 

同じ目ってどういうことだ、と思って首を傾げればまたも先輩は小さく笑って。

 

「俺はさ、…世界の果てに」

 

行ってみたかったんだよ。

 

 

相手が覚えているかどうか、定かではないがシルバアウトレイジと【飛行機雲】は幼いころにたった一度だけ会ったことがある。

まぁ大方父親同士の仲がよかったからというのが接点であろう。

閑話休題。

思い返せば、あのころ既にスレていた俺と違い【飛行機雲】は素直で可愛らしくて、当時の自分から見たら随分とお兄ちゃんぶりたくなるもので。

だから兄貴風を吹かせたのだが、

 

「…まさか今になっても()()だとは、なぁ」

 

用意してもらった書類を持って帰路につく。

その中でシルバアウトレイジは、

 

(時間あったら、また来てやるかぁ…)

 

などと。

考えて、くつりと笑っていたとか…。





【飛行機雲】:
父も三冠バ、自分も三冠バなウマ。
幼き日に一度だけあった子どもの目に宿った光に魅せられた。
【銀色の激情】のことはテレビでは見かけるけど顔を合わせたことはなかった…ぐらいの仲(その時期には既に【銀色の激情】が海外遠征に出ていたので)。
これから何故か【銀色の激情】に可愛がられることになる系後輩。

【銀色の激情】:
シルバアウトレイジ。
幼いころに父に連れられて行った先で【飛行機雲】と出会っていた。
口調は荒いが面倒見がいい。
【飛行機雲】のことを可愛い弟分だと思っている。


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銀系列の密かな食育


気に入った相手の胃袋を掴むクセがある銀弾系列。
たぶん家訓の中に「胃袋を掴め」ってありそう。



「やぁ、【旅路】くん」

「ども」

 

今日も今日とて買い物袋を引っ提げ料理を作りにきた先輩を【夢への旅路】は家へと招き入れた。

先輩-シルバープレアーは今もなお現役の競走バである。

『永遠の二番手』などと他人から嘲られているのはムカつきを通り越して、シルバープレアーの魅力に気が付かないヤツらに憐れみすら覚えるが。

先輩は美しい走りで、ひたむきな走りで多くの人を感動させていた。

だがしかし。

そんな先輩は今、とても幸せそうな顔をしながらキッチンに立ち、料理を作っている。

その様はまるで(にい)…、いややめておこう。

 

「今日は何を作んだ?」

「ん~? 今日はね、ハンバーグを作ってみるつもりだよ」

「おお! それはそれは」

 

先輩が手際よく肉種を形成していきながら鼻歌を歌う。

 

「あ、そうだ」

 

その姿を見つつ、あることを思い出した俺は家の奥にそそくさと移動した。

手の中にあるのは親父から先輩の父親に渡すように言いつけられていたものだ。

 

「先輩」

「ん〜?」

「コレ、親父からなんスけど」

「え?」

「チャンプさんに渡しておいて、と」

「あ、うん。分かった」

 

 

「よォ、」

「…なんでここにいらっしゃるんです?」

「こまけぇこたぁいいんだよ」

「はぁ…」

 

突如として現れた先輩-シルバアウトレイジに一瞬虚をつかれた【飛行機雲】であったが、勝手知ったるように家の中へと歩を進められるのを見て、慌てたように後を追った。

 

「…うん。重かった」

 

キッチンの床に置かれたエコバッグはどさりと重い音を立てて。

ちらりと見えた袋の中身に、

 

「さ、お前はテレビでも見とけよ。すぐ作れっから」

 

そうして。

【飛行機雲】はシルバアウトレイジが作った料理に舌鼓を打つこととなった。

なぜ、いきなり訪問してきたと思えば続けざまにこうなっているのか、不思議でたまらなかったが美味しい料理を前にしては逆らえまい。

 

「…だってお前、不得手だろこういうの」

「は」

「ある程度はひとりでもやっていけるようにはされてるみてーだがゴミ箱ん中は冷食の方が多いし」

「う゛っ」

 

シルバアウトレイジの的確な指摘に思わずうめく。

確かにこの家には調理器具がほとんどない。

せいぜいあるのは包丁やまな板といった最低限のものくらいである。

それに冷蔵庫の中にも冷凍食品やレトルトが何とか詰まっている…というぐらいで。

 

「食事の世話ぐらいは見てやるし教えるよ」

「えっ、ちょっ、あの…?!」

「…嫌か?」

「い、いえ嫌ではないですけど!…でも、何でそこまで」

「ん〜、」

 

そう問うとシルバアウトレイジが口をつぐみ、少しうなる。が、直ぐに。

 

「親の真似!」

 

などと。

朗らかに笑ってみせるのに【飛行機雲】は呆気に取られた。

それからというもの、休日になるたびにさも当然のようにシルバアウトレイジが【飛行機雲】の家にやって来て、それが当たり前になるまで。

そしてシルバアウトレイジ目当てに【飛行機雲】宅に入れ代わり立ち代わりさまざまなウマが集まるようになるのは…また、別の話である。

 





【銀の祈り】&【夢への旅路】:
各々の父親を見て育ったため、トレーニング終わりなどにそのままご飯を作りに行く関係に落ち着いた。
引退後も父・母父の関係になることからしょっちゅう訪れている模様。
蛇足だが引退後の【銀の祈り】と【英雄】は行事や何か用事がある時ぐらいにしか顔を合わせない関係性となった。
お互いが言うには「だってあっちも忙しいだろうし…」とのこと。
…どれだけ時間が経っても、変わらず執着しているクセに、ねぇ?

【銀色の激情】&【飛行機雲】:
何となく気に入ったため世話を焼く先輩と焼かれる後輩の関係性。
実は幼いころに会ったことがあるがそれはそれ。
父親経由で【飛行機雲】の生活を知ったため、ふらっと来た。
【銀色の激情】的には目をキラキラさせてご飯を食べる【飛行機雲】に小動物的な可愛さを感じているとか。
なお、その時の顔は銀の系列特有の顔(すごく穏やか)らしい。


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堂々巡りで堕ちていく


史実√での【呪縛】の話。

『憧れ』とは、"奈落"へ続く道なのか。




我が血族は【呪縛】されている。

そうシルバアウトレイジが気づいたのは初めて本家の方に足を踏み入れた時であった。

ある一室に丁寧に配置された物、物、物!

そのすべてが【ある存在】に関するもので。

それに素手で触れようものなら烈火のごとく発狂する本家の者どもに幼き日のシルバアウトレイジが恐怖したことは言うまでもない。

しかしそれも今では懐かしい思い出だ……クソという方向性で、だが。

 

「…クソが」

 

『真面目に走れ』だの、『そんな立ち振る舞いをするな』だの。

クソつまらん説教をするヤツらの姿も、もはや遠い過去のように感じる。

この血族に生まれたものならすべからくがかかる【呪縛】。

物心ついた時から狂ったように見せられるビデオに同年代のヤツらが釘付けになっている横で、あのころのシルバアウトレイジは…イタズラを仕掛けまくっていた。

怒られなかったことの方が、まぁ珍しいくらいにはやらかしまくっていた。が、

 

(気持ち悪い)

 

シルバアウトレイジにとって、家のヤツらは気持ち悪くて仕方なくて。

だって怒られこそするが、その怒りは一過性のもので。

誰もがその走りの真似をしてはレプリカになって壊れていく。

まるで崇拝のごとく、【あの存在】に狂うように。

だからシルバアウトレイジは……壊したくてしょうがなかったのだ。

【あの存在】のすべてを壊したくてしょうがなかったのだ。

それを見て本家の者たちはまた怒るのだが、すぐに興味をなくす。

その繰り返しを、シルバアウトレイジはずっとずっとずっと。

流れ続けるビデオを横目に、走っていた。

俺が何もかも変えてやる、と思っていた。

思って、

 

「やった、やったやったやった…!」

 

ゴールを切った。

【あの存在】が切ったものと同じゴールを。

血族の悲願を果たした。

けれど、

 

「え…?」

 

それでも【呪縛】からは逃れられていない人々。

 

『あの"激情"がいけたのなら自分だって!』

「待っ……」

 

次々と、【あの存在】を模したような走りを見せる連中が増えていく。

本家の奴らも気づいてはいるようだが止める気配はない。

ただ、見ているだけ。

それが何を意味するのか、分からないほどシルバアウトレイジはバカではなかった。

 

「ふざけんな!ふざけんなァ…ッ!!」

 

 

────たったひとりが勝っても、【呪縛】から逃れられるワケないでしょう?

逃れられても、そこに至ることができた者が精々。

そしてその【呪縛】から逃れた数少ないひとりが…シルバアウトレイジなのだ。

 

「【呪縛(憧れ)】に終わりは無い、ねぇ…」





呪縛(憧れ)】を追って、逃れようが。
その他諸々はまだ囚われている。
…いつ、出られるかな?


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白峰おじ→銀弾激重エピが集まるスレ


史実での白峰おじさんって重くね?スレ

ところどころ現実の騎手さんたちのエピソードを参考にさせてもらいました。
ッぱ、愛が重いっていいな!(小並感)



1:名無しのトレーナーさん

 

生まれ変わっても僕がキミの『運命』だし、その背は誰にも譲らない…みたいなエピソード、いっぱいほしい

 

【白峰おじさん&銀弾の画像】

 

 

2:名無しのトレーナーさん

 

騎手としては一流だけど騎手以外の運動神経はダメダメ(自転車にすら乗れない)だったから愛車の欄に銀弾と枠いっぱいに大きく(←ここ重要)書く男

 

 

3:名無しのトレーナーさん

 

銀弾に何かあったら面倒見るという点で馬主と喧嘩したの笑う

馬主も脳焼かれとるやんけ

 

 

4:名無しのトレーナーさん

 

そこそこの位置で停滞してて、もう騎手辞めるかというところで出会ったのが銀弾だからね…

 

 

5:名無しのトレーナーさん

 

そもそも認められなくて墓参りすらしてないんだからさあ

 

 

6:名無しのトレーナーさん

 

>>5

銀弾が、あの無敵の弾丸がシぬワケない定期

 

 

7:名無しのトレーナーさん

 

銀弾も銀弾で大概重い

(白峰おじさん以外が乗ったらガチで振り落とすだろうと調教師から漏らされているあたり)(頼み込めば妥協はしてくれるらしい)

 

 

8:名無しのトレーナーさん

 

銀弾と戦う者のBCクラシック見比べたらその差は歴然なんだよなぁ

銀弾の時はホント嬉しそうなのに戦う者の時はスンッ…って感じだから…

 

 

9:名無しのトレーナーさん

 

>>8

たしかに以前以後で見たら本当に同じ騎手か!?ってなるもんなあ

 

 

10:名無しのトレーナーさん

 

そら初G1制覇諸々を持ってきてくれた馬だから(重くなるのも)そらそう

 

 

11:名無しのトレーナーさん

 

>>9

以前以後、筆跡からして違うからな

以前は読みやすくてやわらかい筆致だったのに以後はガッタガタで判読文が横に添えられるくらいだったゾ

はじめてそれ見た時「ヒエッ」ってなったわ

 

 

12:名無しのトレーナーさん

 

部屋に遺されてたのが生活必需品以外はすべて銀弾関連のものだったのも追加で…

 

 

13:名無しのトレーナーさん

 

>>11

そのガタガタ筆致で執筆された『さよならはまだ言えない』ェ…

 

 

14:名無しのトレーナーさん

 

馬主も馬主で競馬は賭け事だからって避けて、実父が馬で残した負債の精算のための挨拶回りの際に目が合ったからって理由で銀弾母&銀弾を引き取っては牧場の面倒まで見たからね

そっから初の所有馬になった銀弾にあそこまでの夢見せられたらね、大概っていうか

そうならん方がおかしいというか

 

 

15:名無しのトレーナーさん

 

戦う者もすごい馬だ、と前置きをしつつ「でも彼じゃないので」(目に光がない真顔)

 

 

16:名無しのトレーナーさん

 

>>15

ナリブみたいに「弟は大丈夫だ!」されてからの勝利インタビュー…

 

 

17:名無しのトレーナーさん

 

戦う者が銀弾に似てなくてよかった、だもんな

 

 

18:名無しのトレーナーさん

 

>>17

がしかし、ふとした時の面差しに重ねてしまってダメージを負っていた模様

 

 

19:名無しのトレーナーさん

 

『偉大なる背を追って』

戦う者がどっちかというと狂気の逃げ馬タイプなのもあってね

白峰おじさん共々必死になってる感じが…

 

 

20:名無しのトレーナーさん

 

>>19

唯一の勝てるかもしれない方法がハナをとってそのまま逃げ切るの偉大なる背

…勝てるわけないだろ!!

 

 

21:名無しのトレーナーさん

 

銀弾が凄いことを周囲に知って欲しい気持ちと自分だけしかその凄さを知らないままでいてほしいと90JC前に布団の中で悶々としていたおじさん

 

 

22:名無しのトレーナーさん

 

というか戦う者の鞍上してたのも銀弾の半弟だったからって人だし、戦う者が引退したら一緒に騎手やめて終息不明…

 

 

23:名無しのトレーナーさん

 

愛が重すぎてもはやホラー

 

 

24:名無しのトレーナーさん

 

>>23

失礼だな、純愛だよ

 

 

25:名無しのトレーナーさん

 

キミが生きていれば。

きっと、僕は騎手のままだったでしょう。

キミがいて、はじめて始まった僕の人生は。

キミがいなければ、意味が無いので。

───悪夢から覚めるのを、今でも。

 

『さよならはまだ言えない』あとがきより一部引用

 

 

 

 





よだかのように、燃え尽きましても。
落ちることは許されず。
醒めぬ夢をずっと見ている。
いつかの足音を、求めるままに。
愛しき者の迎えを待つのだ。


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そうして、続く


最愛の相棒によってかけられた『呪い』と『呪い』にかけられた"尊敬する人"のことを考える甥っ子の話。

だから、俺は走り続ける。

…それはそれとして、史実√銀の祈りの凱旋門は銀弾と白峰おじさんの写真が掲げられてそうだよね。



「うわっ、ちょ、待っ!」

 

俺のはじめての相棒となった馬-シルバーチャンプは少々暴れん坊気質な馬だった。

俺がひとたび跨がればロデオマシーンのようにバッタバッタと跳ね上がり振り落とされそうになるのを必死になって落ち着くまで待つのがいつもの流れで。

 

「ふぅ…」

 

だが話を聞くに。

シルバーチャンプがここまで暴れん坊になるのは俺の前だけらしく。

生まれ故郷の牧場にていじめられっ子だった彼の行動は「試し」なのではないかと言われても信じられなかったのだが…。

 

「…チャンプ」

 

いつもなら。

うるさいくらいに鼻息を荒くしてはこっちに寄ってくる(噛み付こうとしてくる、ともいう)彼が緩慢に顔をこちらに向け。

こちらをチラ、と一瞥してはまた首を下げた。

そうして。

 

「チャンプ…っ!」

 

俺はその首に抱き着いた。

俺のせいだという後悔のままに。

俺があの時こうしていればとか、そんなことばかり考えてしまうから。

だからせめて今だけはいつもの自分で見送ろうと決めていたのに。

 

「ごめんね、ごめんな…」

 

シルバーチャンプの首筋に触れてみる。

が、特に傷があるわけでもない。

ただただ、あの時「よくやった」と撫でることも労うこともできなかったそこを何度も手のひらでなぞった。

するとシルバーチャンプの方からも頭を擦り付けてくるものだから余計涙腺が崩壊しそうになったけど。

ぐっと堪える。

そしてゆっくりと身体を起こすと。

 

「ありがとう。今まで、楽しかったよ」

 

名残惜しさを感じつつも手綱を引かれていく背を見送って。

 

「キミが、俺のはじめての相棒で、よかった」

 

その言葉は誰にも届くことなく。

嗚咽の中に、霧散した。

 

 

ストレスが溜まったり、体調が悪くなると決まって見る夢がある。

 

夢の中の時間軸はまだ俺が騎手になる前で。

俺の『夢』が消え去ったあと、ひどく憔悴しきった"憧れの人"-透おじさんに会いに行った時の情景…。

 

『ねぇ、透にいちゃん大丈夫?』

 

親からの躾でおじのことを「おじさん」ではなく「にいちゃん」と呼ぶように躾られていた俺はその日もそうして彼に声をかけた。

『夢』のことを、それはそれは愛していた彼は欠片ひとつ遺さず『夢』が消えてしまったことに絶望していて。

だけどそれを決して表には出さずに気丈に振る舞っていた。

……それが痛々しく見えて仕方がなかったのだけれど。

 

『あぁ、平気だよ遥くん』

 

弱々しい笑みを浮かべながら気だるそうに振り返る彼に俺は何と告げたのだったか。

でも、それは。

 

『何言ってるんだ、遥くん』

 

彼の、白峰透の、

 

『バレットなら、僕のシルバーバレットなら、』

 

───まだそこに、いるじゃないか。

 

「ッ!は、はぁ、はぁ、はぁ…、っ」

 

望む言葉ではなかったのだ、という認識だけはハッキリと…。





甥っ子:
白峰遥。白峰透の甥っ子であり騎手。
白峰透の最愛の相棒であったある馬の走りを見て騎手を志す。
だがはじめての相棒となったシルバーチャンプの競走生活が(彼自身にとって)悔恨を残すものとなったため、自分で自分に自罰的に『呪い』をかけた。

それはそれとして、最愛の相棒を喪った際の白峰透のどこかイってる目にトラウマを刻みつけられている。
本気の本気で最愛の相棒が生きていると信じている目に恐怖を覚えるが、シルバーチャンプと共に在った結果「そりゃそうなるよな」と少しばかりその狂気を理解する。…それはさぁ、しちゃダメなタイプのさぁ……!


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思い返しては、考え事


ここもここで湿度が高そう。



子どもが懸命に口説き落とし、家に引き入れた黒髪の青年を見て当主であった男(現在は体調を崩したためその座を退いている)は『焼き増しみたいだ』とぼんやり思考した。

青年は、青年の父である男と生き写しのようにソックリで、それは男の子どももそうであったから。

 

似ている。

それと同時に、まったくもって似つかないとも。

ゆるやかに確固たる友情を築いては、時には冗談を言い合って笑い合う。

自分たちとは、まったく違う。

顔を合わせるたびにいがみ合い、お前なぞ認められないと反発し合っていた自分たちとは…何もかも。

 

子どもたちが笑い合っているのを見てはあるかもしれなかった"もしも"を思い浮かべる。

もしも。

もしも、あのころ少しでも、キミに歩み寄れていたのなら。

もしも、あのころに何かひとつでも、互いのことを理解出来ていたのならば。

……僕らはもう少しだけ幸せになれたのかなって、ね。

そんな、あるかもしれなかったもしもの話をするぐらいには、男は、青年を通して青年の父に対しての感情を思考している。

 

青年は、青年の父によく似ていた。

ちょっとボサついた髪も-どうやらそれはクセらしい。

多少目つきの悪い目も-でも彼は銀灰色ではなく月のような色の目だった。

背丈だって、きっと青年の方がほんの少し高いぐらいでほぼ変わらないだろう。

性格だって、…レース時の口の悪さがソックリだったし。

 

だが。

どれだけ共通点を探そうにも、結局は違うのだと理解してしまう。

どう足掻いたって青年が向けるような眼差しを、彼は自分に決して向けなかった。

"存在証明"のために走っていた彼は自分自身しか、見ていなかったから。

 

…でも。

僕にはそれが、心地よかった。

僕に何も期待しない目が、僕をどこにでもいるただ一介のウマだとしか、見ない目が。

唯一、僕という存在が呼吸できる時だった。

けれど。

 

「キミにとっては、そうじゃなかった」

 

違う土地へと渡ったキミ。

年を経るたびにその像が歪んでいくのにたまらないナニカを覚える。

キミの声は、キミの姿は、キミの雰囲気は。

忘れたくないのに、ボヤけていく。

クソ、クソ…ッ!

刻み付けるだけ刻みつけて。

振り返らずに、去っていく。

嗚呼…なんて、なんて。

 

「残酷な、ヤツ」

 

 

こんな因果あるんだなぁ、とその話を聞いたとき思った。

突如として子どもから電話がかかってきたと思えば「あちらで骨を埋めることになると思う」だなんて。

しかも子どもが世話になる家の名前が、聞き覚えしかないときたもんだ。

 

思い出すのは目が灼けるような栗毛の髪。

昔も今も、思い返せば心底ムカつくくらいに大っ嫌いだけど。

けど。

 

「綺麗だったよ。どうしようもなく」





【戦う者】と【栄光を往く者】を眺めている誰かの独自。

その姿が焼き付いて、離れないようにされているのはお互い様。


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"星"へ飛来するための…


ちゃんとコイツも血筋。



シルバーチャンプというウマは旗印のようなものだった。

後へ続く者たちを導く旗印。

キラキラとした光を見せて、「あそこへ行け」と促すかのような。

 

「…俺は、G1を勝てなかったからなぁ」

 

苦々しく笑うその顔を見た者はどれだけか。

シルバーチャンプが、アドバイスを求められれば快く応じるタチなのも相まって、多くの者が教えを求めた。

求めて。

 

「頑張れよ」

 

おだやかに笑う。

思わず見惚れてしまうような、見惚れるしかないような寂しげな顔で。

その憂いを、晴らしてやりたいと思うような、顔で。

 

「俺に出来ることはこれくらい…」

 

ごめんな、と本当に申し訳なさそうな顔で謝られて困ってしまう。

そんな顔をさせたくて言ったわけじゃないのだ。

ただただ、アナタの走りを魅せられて、魅せられた故にアドバイスを求めただけなのに。

そう思って首を横に振ると、シルバーチャンプはまた笑った。

ありがとう、と言ってくれたけれど、それはこちらの言葉だ。

でも。

このウマはきっと、ずっとこうやって生きていくのだろう。

自分が果たせなかった悲願に苛まれながら。

 

 

ずっと見る、悪夢がある。

まるであの日の再編のように、かの"影"を見て、必死に手を伸ばして、届かなくて。

こちらに一縷も見向きしてくれない"影"に、必死に追いすがっては振り払われて。

そして最後に必ず言われる言葉があった。

 

『キミじゃ無理だよ』

 

顔も見えない"影"に無慈悲に告げられる言葉。

それがどれほど時が経っても悲しくて、悔しくて。

夢を見ては夜な夜な泣いてしまうほどに、心の深いところに突き刺さって。

だからだろうか?

自分にアドバイスを求める後進たちを見るたびに、胸の奥底にある何かがざわつくようになったのは。

最初は気にも留めていなかった。

でも日に日に増していく感覚は無視できなくなっていて、遂には。

 

「…キミならできるよ」

 

ありもしない希望を見せた。

残酷なまでの、太鼓判を押した。

だって、本当は分かっているのに。

もう二度と、あの日の再現などできないということを。

だからこれは意地悪なんだろう。

自分の未練を晴らすためだけの行為。

それを分かっていてもなお、言わずにはいられなかった。

 

「どうか、頑張って」

 

期待しているから。

かつて自分と同じ舞台に立ったキミたちに。

いつか誰かが、その背中を追い越してくれることを。

 

「……」

 

祈っている。

フリを、している。

 

 

星を夢見た。

遠い遠いところに輝く、星を目指した。

空を翔べば、空気は薄く。

それでも、ただひたすらに、千切れそうな羽根で羽ばたいた。

そうして。

どうしようもなく、美しい"星"を視て。

無念のままに、墜ちてしまった。

 

それが、俺という、シルバーチャンプという、どこにでもいる一介のウマであった。

 

「…なんて、な」





【銀色の王者】:
シルバーチャンプ。
先達の顔をしながら、その実ココロの中はぐちゃぐちゃ。
求められるがままにアドバイスをしながらも「誰も"あのウマ"に届かないで欲しい」と思うジレンマ。
だがそれを巧妙に隠しては、自身の未練からの憂い顔を晒し若人を惑わしている。
やっぱコイツもあの血ですわ〜。ヒトのこと言えないならぬウマのこと言えないになってますわ〜。

なおあの詩みたいなのは遥くんが【銀色の王者】によせて、ある雑誌のコラムに寄稿したものだったり…?
というわけで白峰属はみな詩人なのだ。


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いつか必ず訪れる、再会のときまでは。


その時まではお別れだ。



その墓はとても静かな場所にあった。

集合墓地の中のひとつ、というワケでもなくただひっそりと木陰の下にある墓。

がしかし、その下には何もない。

本来なら埋まっているべきものがあるはずなのだが。

だが、この墓には。

 

「……」

 

しゃがみこんで手を合わせる。

出来るだけ綺麗にこの場所を保つためには線香すらも与えられないから。

花はいちおう誂えてもらったものを持ってきたがこの行為が終われば家に持って帰ることになっている。

だからせめて黙祷を捧げるくらいはしておきたかったのだ。

目を瞑って心の中で語りかける。

 

(……)

 

声に出せばきっと、そのまま泣いてしまうだろうから。

今更何をと思うかもしれないけれど、それでも。

 

(俺、今までずっと、アンタのことが嫌いだった)

 

この墓の主の顔を、俺は知らない。

俺が産まれる少し前にいなくなった相手だから。

でも、母さんにとっては大切なウマだというのは知っているし、だからこそこうして毎月欠かさず此処に訪れていたんだろうけど。

だけど。

 

(……ごめんなさい)

 

ずっと。

母さんを、泣かせるアンタが嫌いだった。

いつも口の悪い婆ちゃんが、アンタの話をするときだけ、口を噤んでしまうのが嫌だった。

俺の大好きな家族に、そんな顔をさせるアンタが…。

……いや、違うな。

本当はわかっているんだ。

ただ単純に、羨ましかっただけだ。

だってそうだろ?

あんなにも愛されているから。

家族だけでなく、それ以外の第三者からにも。

 

「…トレセン学園に行ってから、何度アンタの名前を聞いたか」

 

幼かったあの日は。

自分がどれだけ恵まれていたのかなんて気付きもしなくて。

自分の境遇に不満ばかり募らせていて。

それが普通だと思っていた。

そうじゃなかったらおかしいと。

そして、それに気付かないまま大人になった結果がこれだ。

 

「…………」

 

ずしりとかかる『後悔』が身のうちに滞っては臓腑を焼く。

ああ畜生、本当に情けない話だよ。

こんなことになって初めて自覚するだなんてさ。

 

アンタへの"憧れ"に気がついたのが、あんなにっちもさっちも行かなくなったところなんて。

だられば、なんて言ってももうどうにも出来ないところでなんて。

 

「……それじゃあまた来るよ。母さんとか、きょうだいも連れてさ」

 

立ち上がると同時に風が吹く。

それはまるで返事のように優しく頬を撫ぜた。

そのやさしい風に背を向けるように歩き出す。

後ろ髪を引かれるような思いはあるけれど、いつまでもここにいるわけにはいかないから。

これから先、何度も訪れることになるだろうそこに。

シルバーチャンプは、背を向けた。

 





その場所を知るのは、"かのウマ"に近しかった極々一部の者だけである。

お墓:
静かで人通りもほぼない場所に建てられている小さな石碑。
本来なら埋まるはずのものが何もないところ。
しかし、とてもとても大切に大切にされているので少しの汚れも許さないように線香も花もあげられない。
けれど。
あなたの還りを、今も。


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熟れ切ったあとで


腐り果てる前に、捕まえて。

お互いにお互いの脳を焼いている【銀の祈り】・【英雄】だけど、早めに引退した【英雄】と違って【銀の祈り】は脳をこれ以上なくしっかり焼かれたあとに周りの脳を焼き払っていくから…。
もう脳に焼ける部分がない相手の脳を焼こうとする周囲とかいう湿度マシマシ激重感情案件になるから…。



シルバアウトレイジにとって、父-シルバープレアーはこれ以上ないほど良い父であった。

結構な悪ガキだったが無闇矢鱈に怒鳴りつけて叱ることはなく。

悪いことをしたら諭すように教えてくれたし、些細なことで褒めてくれた。

そして何より、その優しさがいつも伝わっていたのだ。

親バカだったのか。

それとも教育方針だったのかは分からないが、とにかくシルバープレアーには子どもが甘えやすい空気があった。

だからこそシルバープレアーのそばにはシルバアウトレイジ以外にも子どもたちがよく集まってきていたし、誰もがその手を引いて行きたがり。

でも。

その中でも、子どもの中で上の方にあたるシルバアウトレイジには可愛がられている自覚があった。

 

「レイ」

 

そう、自分をやさしく呼ぶ父。

アウトレイジ自身がいくら「大丈夫」と言おうとも丁寧に、丁寧に脚の様子を診てもらったことも。

他の子どもたちとは少しだけ違う扱いも。

嬉しかった。

自分のためを思ってやってくれることだと知っていたから。

しかし、それが。

シルバープレアー自身に、何かしら思うところがあってしたことなんて、考えは一度もなかった。

だからシルバープレアーから『あること』を言われたときは、ただ、ポカンとするしかなく。

 

「…"美味しそう"になったね、レイ」

 

父が、シルバープレアーが、戦法に差しや追込みを使うウマを好んでいることは知っていた。

けれどまさか。

そんな理由で。

自分が狙われているだなんて。

信じられない話だが、事実なのだから受け入れるしかない。

それに。

この、目の前にいる父と相対しているというだけで震えそうなほどの"ナニカ"があるのだ。

どう考えたって、こんなところで捕まるわけにはいかない。

 

「じょ、冗談キツイぜ親父…」

「これが、冗談に見えるかい?…何とも、幸せな頭だねぇ」

 

違う。

いつもの父と、何もかも。

…いや、いつもの父がニセモノで本来はこっちの方が()()()()なのか。

わからない。

 

「逃げようったって無駄だよ、レイ」

 

だが、声は近づいて……。

 

「どうか、僕を喰 べ て ?

 

 

自分が求める物が、遠き日の()()だと、理解している。

もう遠に手放してしまって久しいもの。

手放してから、手放してはいけないものだったのだと理解した無様な記憶の産物。

目を焼くような鮮烈さと、圧倒をもって自分を差しに来てくれる影を。

求め続ける。

あの時のように。

もう一度。

そう願った果てにあったのは、ただ、

 

「…どこなの?」

 

孤独な栄光だけ。

遠の昔に、影を振り払ったことに気が付かない憐れな怪物だけが…。





【銀の祈り】:
シルバープレアー。
求めているモノが像を結んでいるぶん銀弾よりもタチが悪い。
(銀弾は求めているモノは『自分より強いやつ』という自分の目で見たことがないもの。一方【銀の祈り】の場合は…)
肥大していく魔性を抑えながら、過去の"影"を求めて逍遥する怪物。
脳焼きの根源が根源なので強い差し・追込みウマを見ると食指が動くとか。
しかし食指が動いても求めてるモノじゃないので勝手にシラケては周りから激重感情される悪循環。
ちな、このたび息子である【銀の激情】が美味しく育ってワクワク。
やっと自分を喰べてくれるかもしれないウマが出た〜!しかも可愛い息子!
…でも、本当に喰べて欲しいのは。

もし、もしも。
喰べてくれるとなっても長年かけて完成した【銀の祈り】と違って、はやばやと完成した【英雄】はもう老いていて、【銀の祈り】が求めた()()ではなくなっているんだよね…。


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ハッピーバースデイ、マブダチ!


友人の誕生日はちゃんと祝うし、忘れない銀弾さん。
たぶんSS産駒も僕に胃袋掴まれてると思われ。



3月25日は我が友人サンデーサイレンスの誕生日である。

だが双方家族を持つ身。

きっと誕生日当日は家族で祝うのだろうと、また後日に祝うことにした。のだが、

 

「オメーは俺に何もねェのか?」

「いや、まぁ…家族で過ごすのがいちばんでしょう?」

「でも去年は…、」

 

少し機嫌が悪そうに我が家へとやってきた友人の応対をしながらお茶を出したりしてたら冒頭のセリフを吐かれたのだ。

確かに去年の3月25日は祝ったよ?

『ハッピーバースデイ』とメッセージを送って、昼は一緒にご飯を食べて。

それから店を見に行くがてら「これがいい」と言われたものをプレゼントして、夜前には解散のプランで。

でも、

 

「今年はサンデーん家の子たちがサプライズするって聞いてたから…」

 

だから遠慮しておいたのだけど、と言外に言えばさらに不機嫌になる彼。

なんだよもう面倒くさいぞコイツ! とか思っても口には出さない。

そんなこんなしているうちに時間は過ぎて行って、結局いつものように夕飯を共に食べに行っては食後の運動に外をブラついて。

 

「なんでそんなに不機嫌なんだよ〜」

 

隣を歩くサンデーの頬を指でぷにぷにする。

友人は相変わらずの不機嫌顔のままこちらを見てくる。

あーはいはい分かった分かりましたよ。

どうせ今日言うからいいなって、思ってたコッチも悪いからね!

 

「…ハッピーバースデイ、サンデーサイレンス。今年もいい一年になりますように」

「おう」

「今年もそこまで高いもんじゃないけどプレゼントがそっちの家に届いてるハズだから」

「ん」

 

短く返された返事を聞きながら思う。

きっと今年も素敵な一年になることだろう…などと考えながら。

これからも許される限り友人の側に居続けようと微笑む僕なのであった。

 

 

シルバーバレットというウマは案外マメである。

さまざまな行事やサンデーサイレンス自身も忘れている誕生日などのイベントがある時は必ず何かしら贈り物をしてくるし、こちらが何か用意していないと「え〜、そんなの面白くないじゃん」と文句を付けてくる始末だ。

そして今もこうして、 目の前で楽しげに料理を作っている。

昔クリスマスパーティをした時に買った赤いエプロンを身につけて。

それは別に構わないのだが……。

先程から妙に上手い鼻歌を歌いながらチャカチャカと手際良く作業し、時折やってくる子どもたちのつまみ食いに対応しながらの調理風景に、思わず呆れ半分感心半分のため息が出る。

このウマ、本当に何者なんだ……?

そうこう考えている間に料理が出来上がってきたようで。

テーブルの上に並ぶ色とりどりの美味そうな品々に自然と腹が鳴る。

シルバーバレットはその反応を見てニコリと笑うと、

 

「サンデーも好きだよねぇ、僕の料理!」

 

なんて。

 





僕:
シルバーバレット。
マブダチのSSの誕生日を祝うすがた。
いちおうイベント事があるなら楽しむタイプの御方。
まぁそれなりには料理ができるし、過去にSS家のお手伝いさんだとSS産駒たちに思われていた前科がある。

SS:
サンデーサイレンスさん。
自分を慮ってくれたとは言え、マブダチの僕が自分の誕生日に会いに来てくれなかったのに拗ねたすがた。
友人初期のころから僕の料理を食べていたので拗ねモードに入るとこれ幸いと強請ってくるとか。


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祈りの独自


祈りの独自。
祈りも祈りで考えている(いた)。
そんな話。

───目指した『星』には、いつ届く?



僕を通して周りが見ているのは父なのか、それともまた別の"あの方"なのか。

けれど重ね合わせては周りの人々が一喜一憂しているのは紛れもない事実なのだ。

 

ハッキリとした結果(1着)が伴わない、そんな僕を『負けてない』と鼓舞する声。

人々はどれほど負けても折れず、曲がらずの僕を愛して、()()する。

 

命じられたことを、ただ淡々とこなせる機械であったのならどれだけ楽だっただろう。

雨あられのような、銃声のような自分へ向けられた声を聞きながら与えられる"期待"を、喉を灼きながら飲み干す。

 

「……っ」

 

灼かれた喉からはろくに音も出ない。

でも、いいよ。

僕が話したかった相手はもういないのだし。

だから僕は今度こそ口をつぐんだまま、また一歩を踏み出した。

 

 

いつまで走り続けるんだ、とか。

そろそろ後進に道を譲れ、だとか。

そんな言葉を投げかけてくる人はいくらでもいたけど、僕の心には響かない。

ただ、早くゴールしてしまいたいとしか、思っていなかった。

そうすればきっと、この喉を灼く痛みからも解放されるから。

 

『走りたい』と心底から思っていたのはもうずっとずっと前で。

勝ちにも負けにも茫洋とした反応しか返せなくなって、今はどれほど?

苦しくて、苦しくて堪らないほどの悔恨を、痛みを、最後に感じたのはいつだっけ?

己に羽はないのだと、突きつけられたのはいつだっけ?

 

……ああ、そうだね。

その瞬間だけは確かに痛かったかもしれない。

だってその時はまだ、僕は飛べると信じていたから。

いつか必ず、誰よりも高く翔ける日が来るって信じていたから。

『星』を目指した我が父のように。

いずれ燃え落ちようとも光を放つ『星』へと届き、誰かの導となる恒星になるのだと信じたから。

だけどそれは幻想でしかなかった。

翼のない鳥など存在しないように、夢見るだけの子供ではいられなかった。

そして、何より。

───隣にいたはずのキミが、いなくなって。

 

いや、それは語弊があるか。

引き止めなかった、のだ。

キミはサッパリとした性格だから引き止めるのも、野暮だろうと。

人々から喝采を受けて去っていく主人公を引き止める、バカの所業をするワケにはいかなかったから。

だから、手を離した。

 

離しても、ひとりで歩いていけるんだって、強がった。

それが間違いだったとは言わないし、今でも思ってはいないけれど。

……それでもやっぱり。

少しだけ寂しかったし、悔しかったんだ。

あの時手を握っていれば良かったのかなって思うこともあるんだよ。

まあ、もう過ぎた話なんだけど。

 

「だから、さ」

 





喰らいながら、まだ走れ。

『走りたい』と、心底から思っていたのはまだ、キミがいたころ。


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3/27


ハッピーバースデイ、ヒカルイマイ!…という話です。


「おとうさん」

 

伸ばされたその小さな手のままに、俺は我が子を抱き上げた。

同年代のガキ共と比べてもずっとずっと小さな我が子。

妻も父である俺も気性がそこまでよくないと自覚している中でやさしく、穏やかに育ってくれている息子。

 

「…なぁ、チビ」

「なぁに?」

「フォーがいても、こうやってオネダリしてきていいんだぞ」

 

そして。

息子は我慢がとても上手かった。

妹であるシルバフォーチュンに気づけばあれやこれやと譲ったり面倒を見たりしていたのを知っていた。

それでも、こうやって甘えてくることをなかなかしないこの子の願いくらい、叶えてやらなくてどうするんだ。

少しだけ目を見開いたチビはそのままゆっくりと瞬きをして。

それからふわりと笑った。

ああ、そうだよな。

お前はそういうヤツだよ。

…でも、もっといっぱいわがまま言っていいんだ。

そう思っていれば、後ろから何かが近づいてくる気配を感じた。

あー……まぁなんとなく分かってるけど。

 

「ドーン!」

「どーん!」

「ハイハイハイハイ」

「!?」

 

視界に映るのはシルバフォーチュンを抱っこして抱き着いてきている我が妻ホワイトリリィ。

にひ、とイタズラが成功した子どものように笑う妻の頭を軽く撫でる。

…小突いたら倍になって返ってくるからな。

そしてそのままぎゅっと抱きしめた。

こいつらも、もっとわがまま言えばいいのに。

我慢すんなって何度も言っているだろうが。

そんな思いを込めて抱きしめていれば、同じように俺ごと抱き締める腕が、服の裾を掴む手が増えた。

見なくても分かるそれに、俺は。

 

「…ははっ、」

 

 

夜。

よく手入れされた庭が見える縁側にて。

 

「…チビもそうだけど、キミも愛されるってことを知った方がいいよ」

 

その白い髪によく映える黒い着流しを着た初老のウマがそう漏らす。

隣に座すまだ歳若い牡バに向けて。

 

「チビが甘えるのヘッタクソなのはたぶんキミからの遺伝だねェ。あれぐらいの時のリリィは…まぁそれなりにワガママ言ってきてたし」

 

そう言って初老のウマが酒を飲み込む。

ぷはぁ、と息を吐いて。

目の前にある月を眺めながら言葉を続ける。

その日も月がよく見える夜で。

雲ひとつない空に浮かぶ満月が辺りを照らしては縁側に座る彼らを見やる。

 

「ぼくたちは一度愛した相手を手放すことはない」

「…はい」

「それが例え地獄に堕ちようが」

「……はい」

「だから安心して愛されるといい」

 

───お誕生日おめでとう、ヒカルイマイ(我が義息子)

 

「だがそれはそれとしてお酒飲め」

「えっ、」

「なンだァ?ぼくの注ぐ酒が飲めないって?」

「ウワ、飲兵衛が絡んできた」

「キミがぼくよりお酒に強いってことはもう知ってるンだぞう!ほらほら」

「あ゛ぁ〜…!」





父:
ヒカルイマイ。
家族のことを大切に大切にしているが実は甘えるのが苦手。
本人がそのことに気づいていないのがタチ悪いので結構な頻度で家族に甘やかされている。嫌と言っても甘やかすからなァ?
なのでどっちかというと愛してあげたい派なホワイトリリィ含む【白の一族】とたいへん相性がいい。

【白の一族】:
愛してあげたい派(やさしく表現して)。とても一途。
一度愛した相手は離してあげられないし、一生自分たちに愛されろする。
そして相手をコレと決めたら二度と他には靡かない性質も持つ。
だから周りに激重感情抱かせんだよ…(遠い目)。


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待つ者はなに?


勘のいい奴には察されてそう。



シルバープレアーというウマはその名の通り、シルバーコレクターとして有名であった。

あの【英雄】と同世代で覇を競り合いながら芝でもダートでも、どの距離でも出走することになったのなら絶対に2着以内に入り込んでくる傑物…。

それがシルバープレアー。

けれど。

 

「えっとね、このコースはこう走ったらスタミナを温存できて…」

「そっか、なら一緒にトレーニングする?」

 

シルバープレアーはとてもやさしく、また少しばかり歳が離れた自分たちでも気軽に話しかけることができるくらい気さくなウマでもあったのだ。

だからなのか、シルバープレアーの傍にはいつも誰かがいた。

走りにアドバイスを求める者だったり、はたまた単純にシルバープレアーを慕って話しかけにくる者もいた。

 

がしかし。

本当の意味でシルバープレアーの目に映っていた存在は、そういなかったのではないかと思う。

いつもと変わらないアルカイックスマイルで応対しては、可もなく不可もなくの当たり障りない会話を繰り広げる。

気づけば、そう、気づけば話の主導権を握られていて……いつの間にかペースに乗せられ、話を終わらせられていた。

…そんな感覚に陥ることもしばしばあった。

そしてそのたびに自分は思ったものだ───『あぁ、やっぱり』と。

 

鏡写しのように相手から与えられる好意を返すだけ。

等価交換。

きっと、快くトレーニングに付き合ってくれるのもそうすればそうする分だけシルバープレアーの養分になるからだろう。

自分からは決して動かず、相手が近づくのを待つ。

ただただ待つだけの生き方。

まるで蜘蛛のようだと思った。

いや、実際にそうなのかもしれない。

 

労力を蓄える。

それは、大きな大きな"獲物"を逃がさぬように喰らうため。

だから、動かない。

だから、何もしない。

だからこそ、シルバープレアーは常に微笑んでいたのだろう。

舐めさせて、いたのだろう。

自分は取るに足らない存在だ、と印象付けて。

油断してきた相手を貪り喰らう。

一片の無駄なく、綺麗に。

そして。

 

───待って、いるのだろう。

お前を喰うに相応しい"怪物"になったと、お前に倒されるに相応しい"怪物"になったと。

いもしない、()()()()()()相手に期待して、待っているに違いない。

いつか自分を食い破ってくれるような英雄が現れることを夢見て、待ち続けているに違いない。

それを思考した、自分は思うのだ。

───なんて哀れなんだろうか、と。

ついで。

それはなんと、

 

───競走バ、冥利に尽きるだろうか、と。

 

そこまでして待たれる件の相手を。

羨ましく、思ってしまったのだった。





【銀の祈り】:
シルバープレアー。
手ぐすね引いて、待ってるよ。
喰って肥えて、キミが倒すに相応しい"敵"に。
キミにお似合いの英雄譚の、その宿敵に。
成りたくて、成りたかった、から。

───ここまでしたのに、ねぇ?


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ねっしせん


見ている。



もしも。

僕の世界にいるのがキミだけであるように、キミの世界にいるのが僕だけであるのなら、それはなんと素晴らしいことだろう。

だが、それはただの夢想にしか過ぎない。

何故ならキミはとてもやさしいウマで、キミのそばにはいつも、キミを慕う誰かがいるのだから。

――ああ、でも。

それでも、僕は思うのだ。

たとえ夢想の中だけであっても。

キミを独り占めできたなら。

それより幸福なことはないだろうと…。

 

キミは、つれないウマだから。

僕がこんなにも熱視線を送っているのに見向きさえしてくれない。

だけどね、そんなところも素敵だと思うよ。

だってほら、見てごらん?

今この瞬間にだって、キミの周りにはたくさんのヒトが集まっているじゃないか。

みんな、キミに夢中なんだろう?

そう思うと、キミはまるで暗闇の中の一縷の光みたいだね。

どんなに暗い夜道であろうと、その輝きだけはみんな、見失わないと思っているのだから。

……なんて言ったら、笑われるかしら。

 

ねえ、どうなの。

僕の言葉を聞いてくれる人はたくさんいるけれど、深いところまで話したいのはキミだけで。

ふたりでお互いの秘密を話したりしたらきっと楽しいんだろうなって思ってるんだよ。

……あぁ、でもダメかな。

キミのことなら全て知り尽くしているから、秘密らしい秘密はないかもしれないよね。

それにしても……キミって本当に人気者だ。

ちょっと妬けちゃうくらいに。

 

 

話しかけられ、それに応対していると視線を感じた。

視線の元を辿るとそこにいたのは仲のよい"あの子"で。

微妙に壁際に隠れながら、ぢっと僕を見てくる姿に人知れず口元がゆるく弧を描く。

 

「…………」

 

ふむ。

これはなかなか面白い状況になったものだ。

やっとひとりきりになったし、ここはひとつ、"あの子"を驚かせてみようか。

そうと決まれば行動あるのみ。

僕はゆっくりと"あの子"に近づき、そして───。

 

「わっ!」

 

驚かした。

驚かした…のだが。

 

「…あれ?」

 

おかしい。

反応がないとはどういうことだ。

まさか無視されたのか!?

いやしかし、だとするとこちらをぱちぱちと瞬きして見てる意味がわからなくなるぞ!

はてさて一体どうしてなのか……。

首を傾げつつもう一度試みようとしたところで、「ぷ」という小さな笑い声が耳に届いて顔を上げた。

 

「ふふ……もう、だめだよ。びっくりするじゃない」

「えぇー……」

「何回やっても同じ結果になると思うけど」

「じゃあ次はもっと上手くやるよ」

「ははは」 

 

呆れたような顔をしつつくすりと笑う"あの子"に、内心ほっとする。

 

(…よかった)

 

それにしても。

 

(何で、キミは僕を見ていたんだろう?)





【銀の祈り】:
シルバープレアー。
見られていることに気がついているが何故見られているかまでは気づいていない。
また人当たりがよく、困っている人がいると手助けするどっちかというと優等生タイプなので結構周りに慕われている。
だがいちばん楽しいのはお友だちである"あの子"と話している時だとか。


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キミがいた頃より、


【英雄】と比べるな定期。



シルバープレアーというウマは現役期間が長かったぶん、ファンも多かった。

同期である【英雄】にあと一歩届かずとも、挑み続ける姿に惚れ込んだ者。

そのまた父であるシルバーチャンプを応援していた者。

またまた世間でいう競走バとしてのピークが過ぎてもなお連対を続ける姿や、その長年の歩みにシルバープレアーの大叔父たる"あるウマ"を重ね合わせた者など…。

様々な理由で多くのファンから支持されている。

───次こそは勝つかもしれない。

そんな期待感すら抱かせてくれるのだから。

 

「…………」

 

……だが、そんなシルバープレアーももうすぐ引退だ。

クラシック級からシニア級と流れて、かれこれ5~6年ほどか。

普通ならば引退し、第二のバ生を生きていてもおかしくない年齢ではあるのだが…。

 

(思えば、長かったなぁ…)

 

出られるなら、どこでも出た。

大叔父譲りのどこでも走れる適正を使いに使い、芝でもダートでも、短距離から長距離でも、縦横無尽に。

そう、長年走ってきて、遂には。

 

「凱旋門賞、かぁ…」

 

実質帯同バのような打診ではあったけれど、出走できることになった。

この世界にいる者なら誰もが一度は夢見る舞台。

そこに自分が立てるとは思ってはいなかったし、正直今でも実感がない。

ただただ、嬉しい気持ちでいっぱいだった。

しかし同時に不安もある。

それはレースのことではなく、自分のこと。

 

「……大丈夫かな?」

 

思わず独り言ちてしまうほどには心配事があったのだ。

 

慣れた手つきで脚をマッサージする。

この世界に入ってずっと、怪我も無しにシルバープレアーに付き合ってくれた唯一無二の相棒…。

少しずつ少しずつ…シルバープレアーの力に()()()()()()()相棒…。

 

大叔父に似ているシルバープレアーは、体質も大叔父に似ていた。

肉体(ハード)才覚(スペック)が見合わない体。

だが怪我の多かった大叔父とは違い、シルバープレアーは一度も怪我をしたことがない。

大叔父のことを知る人が云うには『大叔父は老いることで才覚(スペック)を落とし肉体(ハード)に合わせたが、キミの場合は肉体(ハード)を鍛え上げることによって才覚(スペック)に合わせたのだろう』と。

 

確かに、そうかもしれない。

だからこそ、他のウマに比べて圧倒的に故障がない。

それこそが、シルバープレアーの強さの秘密でもあった。

だけど、それでも限界はある。

特にスタミナ面に関しては同期の、かの【英雄】と競っていたころより見るからに目減りしていて。

勝負根性も、【英雄】と競っていたころより無くしている。

それをシルバープレアーを支えるトレーナー含め、チームの皆が理解しているから。

 

「これが最初で最後のチャンス、か…」

 

そう言ってシルバープレアーは自分の頬をパンっ!と叩き、気合いを入れて。

 

「もうひとっ走り、っと…」





【銀の祈り】:
シルバープレアー。
他の同期がいなくなっても世代の強さを証明し続ける系高い堅い壁。
でも同期のライバルであった【英雄】と競っていた頃よりは弱くなっている…らしい(自己申告)。
なら何でずっと連対してるんです…?(純粋な疑問)

またそれはそれとして大叔父と適正などが似ており、ファンの中には重ねる人もいそう。
たぶん見る人によっては【英雄】とのクラシック三冠の戦いを大叔父のifとして見ていたりとか…?
でもifがあったとして、の勝敗に関しては有識者のみなさんでも侃侃諤諤の議論をしてそう。


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不沈艦に、祈りは見えたか


そこそこ歳下特攻持ちな【銀の祈り】さん。



俺にとってそのウマは親父の親友の子どもで、"かぞく"である【夢への旅路】の親友という印象だった。

おだやかでふわふわとしたウマ。

このウマが本当にG1戦線を渡り歩き、『主役喰い』とまで呼ばれているなんて脳内で一致しなかったのだ。

 

「…おいで、ゴルシくん」

 

そのウマは歳下のウマを可愛がることを好んでは、よく膝の上に乗せたり抱っこしたりして。

あたたかな体が、重厚な安定感をもって『自分を決して落としはしない』と示されてしまえば最後、年少者はもう抗うことができない。

そんなわけでゴールドシップも例に漏れず、そのウマの膝の上にちょこんと乗せられていたのだが……。

 

「なーなー、ぷれあー」

「なぁに?」

「ぷれあーってさ、ほんとはすっげえつよいんだろ?なんでかてないの?」

 

それは幼き子どもの純粋な疑問であった。

懐いている歳上のウマが周りに『でも勝ててないじゃん』などとバカにされるのが許せなくて。

だから、本バに「どうして?」と聞いたのだ。

すると、

 

「…ぷれあー?」

「……。あぁ、いや」

 

一時は口篭りもしたが、ゆっくりと分かりやすく説明をしてくれた。

 

「……そうだね。そう言ってくれるのは嬉しいけど。僕の体はまだまだ発展途上だから」

「え〜?【夢旅】(※【夢への旅路】のこと)より歳上なのに?」

「う゛っ!」

 

話を聞くに。

そのウマの家系は肉体と走りの出力が()()()()ウマが時々現れるらしく。

一度ボタンをかけ違ってしまったが最後、選手生命を断ちかねないほどに致命的な故障を引き起こしてしまうらしい。

そして、その体質を受け継いでいるのが目の前のウマであり。

……つまりこのウマは、自分の限界を知っているということに他ならず。

 

「それに僕は……ただ走るだけじゃなくって、できるだけ長く、走っていたいから」

 

遠い目をしていた。

───後年、そのウマの戦歴を調べてみれば無事是名バを地でいくような戦績ばかりが並ぶことになるのだが。

しかしそれでもなお、"ぷれあー"-シルバープレアーは満足していなかったのだという。

 

…ただの、又聞きにしか過ぎない話だ。

競走バとしてのシルバープレアーのバ生において、俺は最後まで【夢への旅路(しんゆう)】の"かぞく"というだけであったから。

可愛がる歳下として目に入ることはあっても、レースで()()()()()()としては、目に入ることがなかったから。

 

「羨ましい、な」

 

祝福を受けながら引退式を執り行うそのウマの姿を見て、そうひとりごちる。

ターフビジョンに映る、長年に渡って熟成された美しい芦毛が風に乗って揺れるのを見ながら…。





【破天荒】:
ゴールドシップ。
幼いころから自分を可愛がってくれる【銀の祈り】に純粋に懐いている。し、会うたびに大型犬みたいになる。
が、レース時の【銀の祈り】に相対することが出来なかったことに対してはちょっとした感情を抱いている模様。

───俺も、その顔を見たかった…なんてな☆


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エイプリルフールの戯言


4月鹿の与太話。



キミは、どこにでもいるウマ娘だ。

やさしい家族に囲まれて、愛されて育ったありふれた幸せなウマ娘だ。

また仲の良い友人たちと過ごし、挫折というものを知らないままトレセン学園へと入学したウマ娘だ。

そんなキミはトレセン学園に入っても挫折というものを知らなかった。

その肉体はとても強靭であり、それに見合う切れ者の頭脳を持っていて、どんな勝負にも勝ってきたのだ。

けれどそれは──まやかしだった。

 

ある日、ある模擬レースに出走した時、キミは負けてしまった。

圧倒的な性能差をもって勝利してきたのに…完膚無きまでに負けたのだ。

キミはどんな距離だって、どんな戦法だってそつなく熟せるし、それになにより走ることが大好きだった。

しかしそれでも、そのレースでキミに勝ったのはキミの2倍も3倍も体の小さなウマ娘だった。

その時、キミは初めて知る。

これが、本物の才能なのだと。

どれだけ努力しても届かない存在があるのだと───。

 

 

その日からキミは、自分を負かしたかのウマ娘に日々勝負を仕掛けるようになった。

毎日、毎日、キミは彼女に勝つために朝から晩まで練習に明け暮れた。

寝る間も惜しんで走り込みを続けた。

食事の時間すら忘れるほどトレーニングに没頭した。

 

でも……届かなかった。

いくら練習して走力を高めても、体力をつけてスピードをつけようとも、彼女の背中にはまったく追いつかない。

逆に「無理をするのはやめた方がいい」と諌められる始末。

 

だがしかし彼女は強かった。

誰も彼女には勝てないほどに。

誰もが彼女に敗北していった。

それでもキミは諦めない。

諦められなかった。

だって、そうだろう?

キミはあの日、生まれて初めての敗北を知った。

だから……だからこそ、この感情だけは本物なんだ。

絶対に、絶対にそうだと、心が、()が、叫ぶのだ。

 

彼女を追うたびに肺が潰れそうになる。

彼女を追うたびに脚が壊れかける。

それでも追わずにはいられない。

それほどまでに……彼女の走りは美しかった。

そして、いつか必ず勝ってみせるという熱い想いが湧き上がってくる。

 

───ああ、そうだ。これこそがきっと……。

 

誰かを追い求める気持ち、誰かのために、()()()()自分のために頑張れる気持ち。

これが、これこそが…!

 

「楽しいって、ことなんだね…!」

 

キミは笑う。嗤う。

それまでに築き上げた良きこと(すべて)をぶち壊して。

ただ、自分を見つめる彼女だけを見やって。

そうすれば、

 

「…キミって、案外面白いヤツなんだな───"メアリイ・スー"」

 

彼女も、"シルバーバレット"もキミと同じような笑みを見せ…?

 

【もしも、"理想"と"無敵"が出会ったら?】





───さァ、どっちが勝つ?


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はじめましてのご挨拶


たぶん滅茶苦茶思わせ振りなことするんやろなぁ…。



トレセン学園に入学した際に、父から「挨拶しておくように」と言われた方は父と同い年とは思えないほど若々しかった。

 

"シルバープレアー"。

そう名乗ったその方は父と覇を競い合った後も走り続けており、シルバーコレクターと言えば、または昨今のトゥインクルシリーズで一番有名なウマと言えばという問いにおいて十中八九名前が挙げられるウマとなっている。

 

それほどに、それほどの地位を築き上げた方なのだ。

たとえ過去、その方が父の学友でありライバルであり親友であった、という事実があるにせよ挨拶しろというのは中々に難易度が高い…のだが。

 

「キミが【貴婦人】さん?」

 

あちらの方から、話しかけてきた。

「さすが【英雄】の子、美人さんだね」と開口一番褒められるのに少しだけ面食らうも、「いえそんな……」となんとか返事をする。

が、…それにしても。

 

「あの、どうして私の名前をご存じなんです?」

「そりゃあ…【英雄】の方からいっぱい電話が来たから…?」

 

去年のこの時期もいっぱい来たよ、とにこやかに笑う姿に思わず「ウチの父がすみません…」と謝ってしまう。

父は昔からそういうところがあったのだ。

…シルバープレアーに関しての情報を脇目も振らず収集したり、レースを応援したりするクセに、当バ自身には何も連絡を取ろうとしないというところが。

だから件の電話も私たち子どものトレセン学園入学を建前にした至福の時だったに違いない。

 

「うん、じゃあまたねお嬢さん。応援してるよ」

 

そう、ぼんやりと考えているとにこりと微笑み去っていく姿に。

 

「…白バの王子様って、あんな感じなのかしらね」

 

 

「うん、久しぶり」

 

何年ぶりかに、友人の名をディスプレイに表示した携帯を持って応対する。

今もなお走り続ける僕と第二のバ生を送るキミ。

もう二度と交わることはないのだろうなと思考していたのだが。

 

『ああ、本当に久しぶり』

「元気にしてたかい?僕はいつも通りだけど」

『相変わらずだね』

 

相変わらずの快活さに笑みを浮かべてしまう。

昔のまま何も変わらない友人の声を聞きながら、ふと考える。

 

「……ところで、何か用事かな?」

『え?』

「だってわざわざ電話をかけてくるなんて珍しいじゃないか」

 

確かに学生時代はしょっちゅうつるんでいた僕らだが、卒業後に連絡を取り合うことは滅多になかった…というかコレが初めてだ。

それがこうして通話アプリで会話しているということは、きっと何かしら用事があるからだろう。

すると、

 

『あ、あぁ、…今度子どもがトレセン学園に入学するから』

「へぇ!なるほど、それとなく見守っとくよ」

『う、うん…ありがとう』

 

頼まれごとに思わず頬がゆるむ。

さすが【英雄】、家族思いだなぁ…。





【銀の祈り】:
シルバープレアー。
歳下キラー兼初恋キラーのファンサ◎ウッマ。
穏やかでやさしい性格もあり本バの素知らぬところでファンクラブがある。

また久しぶりに連絡を取ってきた【英雄】に対して「いい親なんだな〜」と思いつつニコニコした。
いや確かにそういった側面もありますけども本当は…ね?このクソボケェ…。


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ゲシュタルト/あなたのための"存在証明"


思えば、自分はあの日に。



なんて、どうしようもない夢だろう。

そう思いながら明晰夢を見る。

夢の中の世界はもう去って久しい場所で。

その世界で自分はもう会うこともできない相手と、ただふたり、走っている。

 

いつも通り自分を追ってくる足音に高揚と虚しさという相反する感情を抱き。

そして──。

 

「……」

 

目が覚めた。

まだ暗い部屋の中で天井を見上げていると、隣から小さな寝息が聞こえてくる。

そちらを見れば、そこには自分の腕にしがみつくようにして眠っている子ども-シルバアウトレイジの姿があった。

あどけない顔で眠る子どもの髪をそっと撫で。

 

(…………)

 

撫でてから、また目を閉じる。

もう一度、先程の夢を見直すために。

 

 

自分には勿体ないくらい強い友人がいた。

自身の祖父と同じくらい、トゥインクルシリーズに興味のない人たちまでもに名前が知れ渡るくらい強い友人が。

そんな友人と自分はよく一緒にトレーニングをしたものだった。

 

友人はとにかく強かった。

どんなレースでも一着を取り続けたし、模擬レースでだって負けなしだった。

だから自分も友人と一緒にいる時は全力を出して走ったものだ。

だが、ある時を境にして友人の走る姿を見ることはなくなり。

 

…それでも、自分は走り続けていた。

友人のことを、みんなに忘れさせたくなかったから。

自分に勝った友人は凄いんだということを、証明したかったから。

ただそれだけのために走っていたのだが……いつの間にか、それは。

 

走って、走って、走って。

友人の影を自身に這わせて。

自分がいるから、まだ友人もここにいるのだ、と。

そう思ってもらえるように頑張っていた。

……だけど、それも長く続かなかった。

 

───あ、いないんだ。

 

ふと、気がついてしまったような。

ずっと、見て見ぬふりをしていたことに今更目を向けてしまったがごとく。

その"喪失"に、穴を開けられてしまった。

ぽっかりと空いた穴からは何か大切なものが零れ落ちていくようで。

それを埋めるための穴をも、自分で開けてしまっているようで。

 

気がついたら、自分がどこに立っているのかさえ分からなくなって。

どこに向かって走ればいいのかも分からないままに、それでも足だけは動かし続けて。

やがて、友人といた頃の自分が、どんな存在だったのかすら覚束なくなり。

必死に必死に取り繕っては、自分の形を押し固めた。

 

友人を、忘れさせないと誓ったのは自分だ。

けれど、その当バたる自分が自分を忘れてしまっては…。

 

「本末、転倒だなぁ…」

 

救いようもない、と力なく笑うしか。





───誰だったっけ?

誰か:
友人のことをみんなに忘れてもらいたくないから、ずっと走り続けていたら自分って何?状態へと陥った。
"あのころ"の友人に捕らわれたままの状況。
競走の世界から離れても、夢の中で友人の姿を見る。
見ては、もう遠に離れてしまった"あのころ"の友人を夢見ている。
逃げられない。し、また、逃げるつもりもない。


どうかココロを軋ませて。
"あのころ"の、僕をかえして。


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僕らに『星』は見えなかった


気迫一本でデバフを撒き散らしていく系の御方。



それは、ゾッとするぐらい()()ウマだった。

壊れることすら厭わないような、そんな狂気で総てをぶち抜いていった"影"だった。

 

誰も彼もが、その痩せ細った"影"のことなぞ眼中になく。

ただただ門の先を、栄光を目指し、駆けていたのだ――。

 

「……はぁっ!?」

 

だが。

一陣の風が、…いや風と呼ぶのもおこがましいほどの暴風が吹き荒れた瞬間に。

……その"影"の姿は消え失せてしまった。

まるで最初から何もなかったかのように。

跡形もなく、……消失したのだ。

 

(なんだよあれ……。)

 

あんなもの、見たことも聞いたこともない。

一体何が起きたのか分からないほどの混乱に見舞われては走りがぐちゃりと平常を無くす。

が、しかし。

それは俺だけのことではないようで。

影"が通り抜けていった軌跡を描いて、そこにいた者々すべての走りが恐慌に()()()

 

「くそ!なんだってんだ!」

「ひゅっ、」

「うわあああっ!?!?」

 

先にいた者が我先にと門の向こう側へ駆けていく。

そして、それを追いかけるようにして後続たちが次々と押し寄せてきた。

混乱に次ぐ、大混乱。

誰もが、自分のことで精一杯だ。

精一杯で、何とか走り終えたあと。

 

「ほら、チャンプ。…戻ろう」

「……、」

 

"影"の主が、泣いていた。

本当に、崩れ落ちそうな弱々しい体で共に遠征してきていたという同胞に支えられながら、覚束無い足取りで去っていく。

まだ色素が濃いめの芦毛の髪を揺らし、その隙間から黒黒とした隈を晒し。

それでもなお、爛々と輝く瞳だけはどこかを見遣りながら。

 

「………………」

 

俺はそれを呆然と見つめることしかできなかった。

あまりにも衝撃的すぎて。

あまりに異質過ぎて。

何か声をかけるなんてことは思いつきすらしなかった。

結局、そのまま立ち尽くしては心配そうに声をかけてきた己のトレーナーに従い。

 

かのウマの名を聞けぬまま。

その年の凱旋門賞は、終わりを告げ…。

 

 

まるで、『ヘルハウンド』のようだった。

そうと思ってしまうぐらいの、気迫があった。

あともう少し、距離があったなら競り負けていただろうと思うほどの。

 

名も知らぬ、ウマだった。

いや、名前だけは死ぬほど聞かされていた。

"あの怪物"の血縁だと、騒ぎ立てる人々のざわめきを。

この大レースに見合わない、あまりにも痩せ細った体に、落胆するざわめきも。

けれど。

 

『────ッ!?』

 

ずっと先を見据えた眼であった。

お前のことなぞ眼中にないと、言外に示したものだった。

自分の目に映るモノは、お前よりずっと()()と。

 

『あ、ぁ…、』

 

その泣き顔に、突きつけられたのだ。





【銀色の王者】:
シルバーチャンプ。
『星』を見つけちゃったからね、仕方ないね。

その他のみなさん:
なんやあの影ェ?!(恐慌)(かかり気味&持久力大幅減)
何か埒外のよく分からないモノとかち合ってしまった被害者。
最終直線で門に位置が近ければ近かったほど影響を受けた模様。

中でも1着だったウマは【銀色の王者】が門のずっとずっと先にいる『星』を視ている姿を間近で見てしまったので…かわいそ。


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『楽園』とは?


子の情緒ぐちゃぐちゃにするのが銀系列なんで…。



俺たちが行き着くべき-『楽園』は、いったいどのような場所だろうか。

ただ光が示す方に、まるで羽虫のように羽ばたいては疑いも知らぬまま潰され焼け落ちていく。

やわらかな夢想だけを緩衝材に、墜落していく。

 

誰もが『楽園』の存在を肯定しては、誰もその場所を知らない。

良い子は天国に行けて、悪い子は何処へでも行けるというのなら。

俺はきっと、地獄に行くんだろうなと、そんなことを思った。

 

 

「……あ」

 

ふっと意識が浮上して、目を開く。

いつの間にか眠ってしまっていたらしい。

寝ぼけ眼を擦りながら身体を起こすと、ガタガタになった手の爪が嫌に視界に入った。

無自覚の、直らないクセ。

どれほど矯正しようにも治らなかったそれは、もう諦めた方が早いくらいには年季が入っている。

 

「…………」

 

肌を搔けば、チリチリとした微かな痛みを脳に伝えた。

ささくれもひどい、傷だらけの自らの手に俺は。

 

「……まただ」

 

いつも通りのため息をつくのだ。

 

 

自分の跡を継がせる存在がまぁまぁできて。

自分の後悔を言葉少なに語っては引き継がせていた。

自分みたいにはならないでほしい、と願いながらも出来上がったのは自分の素養を持ってしまった幼子たちで。

 

きっと。

どうか『救って』と手を伸ばされても。

"あのウマ"のように誰かの救いになることなんてできなくて。

だから自分は。

その手を取ることすらできないままに。

結局は、自分自身の何もかもですら、見捨ててしまうようなウマだったから。

自分が見捨てられても仕方がないと思うし、そうやって当たり前だと思う。

……だけど、それでも。

 

「そっちじゃないでしょう、父さん」

 

自分ひとりで、背負うべきだった罪、もしくは咎を抱え込まれた。

どれほど離せ、と言い募っても「嫌です」と強く返されるばかりで。

それどころか、こちらの話を聞く気もないのか、ただひたすらに俺の手を引いていくばかり。

本当に、どうしようもなく頑固者なのだ、この自慢の我が子は。

 

「父さんが墜ちるなら、僕も一緒に墜ちます」

 

前を向いた、我が子の顔は見えない。

自分が何を言っているのか、分かってるのか。

そう言いたくても、有無を言わせない圧が背中越しに伝わるだけ。

 

「父さんひとりだけで行かせるものですか」

 

強い口調とは裏腹に、繋いだ掌だけはひどく震えていて。

それに気づいた瞬間、思わず笑みがこぼれてしまった。

ああ、そうだよな。

お前だってまだ子どもなんだもんな。

本当は怖くて堪らないのにこうして…。

 

「…ありがとう、プレアー」

 

 

父の目はいつだって後悔と罪悪感に塗れていた。

『自分のせいだ』と今にも懺悔しそうな口を手で押さえ込んでは蹲っているような、そんな。

 

「父さん」

 

蹲って、震えている体を掻き抱いた。

"あのウマ"が『呪い』の原初だというのなら、父はいったい何なのだろう。

あと一歩、足りなかった『夢』を見せてしまった父は。

けれど。

 

「一緒に、墜ちましょうね」

 

それは、僕も同じか…。





【銀色の王者】:
シルバーチャンプ。SAN値がヤバい。
自分のせいで子どもたちが報われない道に行く…(SAN値ガリガリ)。
あの時自分が門をくぐれていたらこんなことには…オエッ。
自分のせいだ自分のせいだ自分のせいだ(ぐるぐる目)。

【銀の祈り】:
シルバープレアー。【銀色の王者】の子ども。
精神ぐちゃっている父親を支えることに仄暗い悦びを抱いている系ウッマ。
系譜的にはシロガネハイセイコの感じ。
父さんがそれを罪に感じるというのなら、祈りを遂げてしまった僕も同じようなものなので…。
ひとりぼっちには、させませんよ〜…、父さん…(ニッコリ)。


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ロードムービーは終わらない


キレイな顔して、待っている。



『次はキミだ』

 

あぁ、きっと。

また誰もが画面の中のアンタの言葉に惑わされている。

気持ち悪いくらいに『憧れ』で輝く目を、なんと言い表せばいいのだろう。

それに、周りのヤツらみたいに素直に『憧れ』に殉ずることのできない自分も、どう表せばいいのか。

 

ないものねだりの嫉妬ばかりでつまらない。

俺が俺にしか持ち得ないものを持っているのと同じように、お前もお前でしか持ち得ない武器があるってのに。

それなのに、どうしてこうなっちまうんだろーな。

年月が経るごとにいつしか『憧れ』は歪んで、送るラブコールも散々なものになってしまいました。あーあ。

 

逃れたくてたまらないのに、逃がしてもらえなくて。

死に物狂いで挑んで来いって、焚き付けられる。

悲しいくらいに自身の存在のすべてを賭けろと言われた先には、それに見合うだけの何かがあるのか。

まぁとりあえずは。

 

昔から間違ってばっかりだった。

正解なんて、片手の指を折るぐらいしかなく。

それを何度繰り返しても懲りずに間違え続けて、結局はいつも同じところに辿り着いて。

もういっそ、その間違いだらけの物語に終止符を打ちたいと思うのだけれど、そんなことさえ許してくれないらしいから、仕方がない。

だからせめて。

この先にある結末を()()()行きたい。

 

いずれは辿り着くはずの場所。

そこにいる存在を、嫌いになりたいのに、一ミクロンばかりの単位で思考やココロに巣食われて。

噛み合わないウソをつく。

『あのウマみたいになりたいデス』って!

『あのウマに恥じない存在になりマス』って!!

そうやって何度も周りの求める言葉を告げた。

マ、それも周りにはしゃあなしで言わされた言葉なんだって、バレてたみたいなんだけども。

 

本当は分かっていたはずなんだ。

自分が誰なのか。

自分は何をすべきか。

でも、どうしても認めたくないものがあった。

自分の中で燻っているものをどうにかしたくて、必死に、しゃかりきに。

ぼんやりとした、影を追う。

何度も見続けたビデオテープが擦り切れを起こした時みたいな、そんなぼやけた影を。

擦られ続けて、掠れきって、それでもなお酷使され続ける影を。

 

追って追って追って。

ぐるぐると回る脚がオーバーヒートを起こしそうになるまで。

ちっぽけな肺が、破れそうと錯覚するまで。

そうしたら、きっと。

 

影に近づく。

影が軋んで、たわんで、何とか形を作る。

今までずっと執念だけで補強されていた影の、その最期かのような。

そんな姿を目に焼き付けて。

 

───ずっと誰かを待っていた"あなた"の顔を…。

 





そうして。
上演され続け、擦り切れたテープは。
パチン、と音を立てて、切れたのでした。

───けれど。


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4/7 CB誕生日


Happy birthday, Mr. CB!



「なぁなぁ、ミスター」

「なぁに?」

「キミ、もうすぐ誕生日だけどプレゼント何がいい?」

「本人に聞くの?」

「いや、キミに関してはそうした方がいいかなぁ…と」

「ふぅん」

 

そんな風に始まった話。

シルバーバレットとミスターシービーは仲の良い友人である。

なので誕生日を祝ってやろうじゃないかという考えに至ったのだが、如何せん相手の望むプレゼントが分からない。

そこで本人に直接聞いてみようという事になったのだ。

 

「欲しいものねぇ……うーん……」

「何かないの?服でも靴でも僕が贈れるものなら何でもいいよ」

「…じゃあさ」

「おぉ!?早いね!?」

「うん、シルバーの一日をアタシにちょうだい?」

「んっ?」

「おはようからおやすみまで」

「なんだその揺りかごから墓場までみたいな」

「それくらい一緒にいたいな~と思ってさ♪ダメ?」

「……まぁ、構わないけど」

「やった」

 

こうしてミスターへの誕生日プレゼントが決まった。

 

 

そして迎えた誕生日当日。

朝起きるなり僕はミスターの家で朝食を作っていた。

約束通り、今日一日はおはようからおやすみまでミスターと過ごすことになっている。

そのため昨日から泊まりで家にお邪魔させてもらっているのだ。

 

「えへへ、朝から温かいご飯を食べれるっていいね」

「はいはい、分かったから早く手伝ってくれ」

「むぅ……つれないなぁ……。ちょっとぐらい乗ってくれても良いじゃんか」

 

そう言いながらミスターは僕に後ろから抱き着いては額や頬を擦り寄せてくる。

…それされると髪がボサボサになるんだけど。

しかし当人は気にする素振りもなく僕の首筋辺りに顔を埋めている。

 

「……なんか良い匂い」

「シャンプー、キミが使ってるやつ使ったからね。それでじゃない?」

「…そっか」

 

すると今度は肩口に顎を乗せてきた。

これは甘えてる時の彼女の癖だ。

 

「ねぇ、今日の予定とか決めてるの?」

「そうだなぁ……とりあえず昼過ぎは一緒にトレーニングしてその後は適当に街ぶらついて夕飯食べようかなとは思ってたけど」

「いいね、ソレ」

「ならよかった」

 

昨日食材を買ってきていたお陰でそこそこのものができた。

朝食だしこれぐらいの量でいいだろうと多めに作ったわけだが、予想に反してミスターはよく食べる方だったようで結局ひとりで4分の3ほどを平らげてしまった。

 

「ごちそうさまでしたっと。食器洗ってくるから先に着替えて待っててくれるかい?」

「了解」

 

手際良く洗い物を済ませつつ、ミスターが着替えに行ったのを耳で聞き取る。

僕の一日が欲しいとは物好きなものだ、と思いながらも嫌ではないのが。

 

「何だかなぁ…ふふっ」





Mr.CB:
ミスターシービー。頼みごとが上手い。
誕生日プレゼント何がいい?と言われたので友人を一日独り占めできる権利をもらった。胃袋は既に掴まれ済み。
だがそれはそれとして誕生日以外も僕と一緒にいられるようになりたいなぁ、と内心思っている模様。


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██と弾丸


やっぱ原初に落ち着いちゃった感…。
あ、銀弾生存軸です。



…とんでもないモンが目覚めたなぁ、とその時、ただ漠然と思った。

 

「…えっと、あの、併走して、くれませんか?」

 

そうオドオドと頼み込んでくるのはそれなりに目をかけている甥の子ども-シルバープレアー。

もうそろそろ引退式というクセに酔狂なモン…と思いながらも頼みを了承する。

 

「…と言っても僕、もうジジイだから期待しないでね」

「……はい」

 

子どもの口角が上がったのに、どこかギィ、という立て付けが悪くなったドアの、軋んだ音を連想する。

そうしてふらりと流す程度に併走を始めればすぐにぞわりと背が粟立って。

 

(…コイツ、)

 

現役のころよりはだいぶ速度が落ちた僕に付かず離れず着いてくる彼。

だがその彼から与えられるプレッシャーは、

 

(これは…?いや、…)

 

首に巻きついたまま剥がれない感覚(ソレ)に思考を回しながら走る。

今、僕の首には糸が…。

まるで、女郎蜘蛛か何かか?

とりあえずそういうものが巻きつけられている。

まるで今からお前を喰べるぞ、とでも言うかのように。

 

「…はぁ、」

 

それに僕は、

 

「よっ、と」

 

久しぶりにプレッシャーを放って…。

 

 

あの場所で、あのレースで、【彼】を見て、だらりと口内に唾液が溢れ出した。

こんなの、はじめてだった。

こんなに喰べたいと思ったのはあの【英雄】以来。

…いや、これは、

 

(お い し そ う)

 

たまらず"本能"が表出する。

どれほど食べても、食べても、食べても、喰べても満たされなかった、"本能"が。

【彼】が欲しいと、叫ぶ。

【彼】を食べることができればこの飢えも満たされるかもしれないと。

"本能"が全身全霊で追おうとするのを必死に理性で押さえつける。

そして、

 

「勿体なかった、なぁ…」

 

ゴールを抜けた瞬間【彼】が消えたのを見て、ぐぅ…と腹が鳴った。

それとともに惜しい、と思った。

このレースをもって引退する僕はもう二度と【彼】に会うことは叶わない。

もう【彼】を喰える機会はない。けど、

 

「…いいよ、走ろうか」

 

【彼】の大元は、まだ、存在するから。

あそこにいた【彼】よりは味が落ちている(おとろえている)だろうが背に腹はかえられない。

そう考えて頼んだ併走だったが、

 

ゾッ!

 

当て返されたプレッシャーに思わず脚を止めて、額を押さえる。

向けられた銃口()が、ぐり、と強く押さえつけられたから。

今にも、引鉄が引かれそうになったから。

かふかふと、荒い呼吸でその場に留まっている僕に、近づいてくる影が嗤う。

 

「銀の弾丸が喰われるなんて、」

───あるわけ、ないだろう?

 

薄らと口元だけで笑うその人に、僕も笑い返す。

嗚呼、彼は、【彼】は、"シルバーバレット"は…!

 

「…あは、」

 

まだ皿の上(ここ)にいる!!

 

「……美味しそ」

 

そう、歓喜のままにつぶやいて、だらりと垂れたヨダレを、ごくんと飲み込めば、

 

「…おなか、減っちゃった」





銀の祈り:
シルバープレアー。
適性→芝AダB。短CマA中A長A。逃A先B差G追G。

優しく見えて、その本性は貪欲な獣であり()()
好きなものは最後に喰べるタイプでいつも飢えている。
今までは同期である【英雄】を最後に喰べるつもりであったが、引退レースであった凱旋門賞にて見た【彼】の姿により、喰べたいランキングに変動が起こった。

なお現在の喰べたいランキングは、
1.【彼】もしくは僕
2.【英雄】(元1位)
3.【金色の暴君】
とのこと。

プレッシャーの形は蜘蛛の糸。
実のところ長年の経験の積み重ねで領域喰い(ゾーンキャンセル)くらいはフツーにできるかもしれない。

ちな【彼】が1位になったのは変貌して(変わって)、またはあの頃より弱って(ひよって)しまった自分を【英雄】に見られたくないという気持ちが無意識下にありそう。
ずっとずっとずーっと想い続けていた故に、綺麗だった【英雄(あなた)】に今の自分を見られたくない、"魔性"になった自分を…的な。
その分、【彼】は自分と同類のバケモノなので包み隠さず対等に喰らい合える…みたいな。


僕:
【彼】の大元。
銀の祈りいわく『とても美味しそう』とのこと。
基本はのほほんとしているがその気になれば現役時代と同等のプレッシャーを出せる。もしかしたら現役時代よりも強いプレッシャーかもしれない。
プレッシャーの形は名は体を表すのか銃。
それを額に突きつけて引鉄を……、なんてね?

別に領域喰い(ゾーンキャンセル)しなくても領域(ゾーン)の影響が届かないところまで逃げればいいのでは…?という思考の脳筋。
……それでフツーに勝ってんだから世話ないよなぁ(呆れ顔)。


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大切なんだ


"きょうだい"だからね。



かけられた声に振り返れば仲のよい"きょうだい"たちがいた。

普段は各々の母方の家で過ごしているけれど、こうして会う時はとても親しくしている"きょうだい"。

 

「お元気ですか?」

「うん」

「また一緒に走りましょう!」

「スタミナ配分を考えてやるならね」

「…」

「うん、日にちが会えばお邪魔させてもらおうかな」

 

上からメジロシルフィード、サクラスタンピード、プライドシンボリ。

その誰もが僕にとって、大切な"きょうだい"だ。

ほわほわしているシルフィーに、いつも元気なスタン、無口だけどよく気が利くプライド。

この三人は昔から僕と一緒に遊んだり、勉強を一緒にしたりと……今もこうして変わらず接してくれるから本当にありがたい存在だったりする。

 

「そういえば最近どうです? ちゃんとご飯食べてますか?」

「はい、ちゃんと三食食べてます」

「…また今度何か作ってくれないか」

「もちろん」

「ほら、身なりも」

「あ、ごめんなさい」

 

髪や襟を正されたり。

そんなことをされながら僕は苦笑するしかない。

だって仕方ないじゃないか……こっちに来てからずっとこんな感じなんだもの。

学園内で会うたび会うたびに世話を焼かれる。

……まぁそれが嫌ってわけじゃないんだけどさ。

ただちょっと恥ずかしいというだけで……。

 

「なんか…僕のことをすごく構いますよね、みんな」

 

照れ隠しにそう言ってみれば、全員がキョトンとした顔でこちらを見つめてくる。

えっ、何その顔。

 

「それはもう、 私たちにとっては大事な"きょうだい"ですし」

「そうですよ!プレアーは何かと心配ですから!!」

「…俺たちが、守らないといけない」

「えぇ…」

 

妙に気合いをいれた感じで言われても。

守らないと、って言われるほど危険なことは誓ってやってないし、そんな危ない友だちもいないのに。

 

「放っておいたら…勝手にどこか行ってしまいそうで…」

「……」

「だから私たちはあなたを守らないといけないのです!」

「そっかー」

「そうなんです!」

 

力強く言い切ったシルフィーに思わず笑いそうになるけど、何とか堪えた。

でも確かに、このウマたちは僕のことを放っておかないだろう。

なんせ彼らは、とても優しいのだから。

 

 

彼らにとって"きょうだい"のひとりであるシルバープレアーは危うい存在であった。

何がどう、とは説明できないがふとした時の()()()

それを感じ取った時、必ずシルバープレアーはひとりでいる。

まるで自分の存在を消すかのように。

そしてそのまま消えてしまうのではないかと思うくらいに希薄になって。

いつの間にか戻ってきて。

それを何度も見てきたからこそ、自分たちはシルバープレアーを守ろうと思った。

自分たちがシルバープレアーの存在を繋ぎ止めるアンカー()になろうと。

 

「ねぇ、プレアー」





フツーにきょうだい関係はいいんだ。

【銀の祈り】:
シルバープレアー。きょうだい大好き!
本バに自覚はないがどうにも言語化できない危うさがあるらしい。
でも本バ自身は楽観的なのでニコニコふわふわしているばかり。
なので今日も今日とて世話を焼かれている。

"きょうだい":
サクラスタンピード、プライドシンボリ、メジロシルフィードの有名冠名三バ組。
三バとも母方が母方なので中々会うことはないが【銀の祈り】と父親が同じ縁もあり、会うたびに【銀の祈り】のことを気にかけている。
また"きょうだい"であるが故に【銀の祈り】の危うさを何となく察していたり…?
まぁ、その危うさは【銀の祈り】特有のものなのか、はたまた血から来たものなのかは…ね?


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あなたはどこ?


ずっと、待ってるんだ。



「ん」

「わっ!…なんですか」

「奢り」

「はぁ…」

 

背後からひょっ、と出てきたペットボトルにシルバープレアーが驚いた声を出せば、それを差し出した本バであるウマは口元を愉快そうに吊り上げた。

 

「ありがとう、ございます」

「いーえ」

 

そのウマとシルバープレアーは結構な年月、付き合いがある。

とはいっても走っている場所は遠の昔に別れてしまったのだが。

 

「今回も凄かったな」

「いえいえ、…先輩もあと少しだったじゃないですか」

「G1皆勤野郎に言われてもな」

「……すみません」

「冗談だよ冗談」

 

G1戦線に挑み続ける後輩とG3に出走するのが関の山な先輩。

それがシルバープレアーとそのウマの関係だった。

そして今はその関係すら途切れてしまいそうな程に疎遠になってしまっている。

 

「お前さあ、いつまで走るんだ?」

「……?どういう意味です?」

「そのままの意味だ。このまま走ってていいのかって聞いてるんだよ」

「……」

 

沈黙が流れる。

 

「気持ち悪い走り方しやがって」

「気持ち悪い、って…」

「俺はさァ!」

「…はい」

「会ったことないけど、テレビで見てるしかなかったけど!」

 

シルバープレアー(お前)をずっと見てるから分かる、と。

 

「アイツはもう、いないんだよ!」

 

いつの間にか、掴まれていた胸ぐらにぼんやりとした目をする。

 

「勝とうと思えば勝てるくせに!やろうと思えば()()()()が、出来るくせに!!」

「…買い被りすぎ、ですよ」

「でも、待ってんだろうが!!!!」

 

言葉が止まる。

それは図星だからでは無く、何を言っているのか理解できなかったからだ。

しかしそれも一瞬のこと。

すぐに何を言いたいのかを理解したシルバープレアーの顔色はみるみると青ざめていく。

それを見ていたウマは、どこか悲しげな顔をしていた。

 

「だから、()()…出さねぇんだろ」

「違う」

「あぁ、そうだろうな。お前は誤魔化すのが上手いから…自分でさえも」

「違う、違う違う違う!!」

「違わない!!……頼むよ、最悪なことになる前に」

「うるさい!!!」

 

シルバープレアーは叫ぶように言うと、逃げるようにしてその場を走り去った。

残されたウマは何も言わず、ただ俯いて拳を強く握っていた。

 

 

まるで煽っているかのような走りだ。

フラフラと、またはスイスイと。

【誰か】を待っているかのような走り。

【誰か】が、追いついてくれるのを待っている走り。

それを見た自分は、何を思ったのか()()()したのだ。

勘違い、して。

 

「…、」

 

目を見た。

どうしようもなく、失望し、絶望した目を。

『あぁ、違う』とでも言うような、そんな、そんな…。





【銀の祈り】:
シルバープレアー。
わかる人にはわかる感じに変遷している。
長年に渡り積み上げた経験からしようと思えば『あの走り』ができなくもないがしないウマ。
とっておきは、とっておきだから。だからこそ、とっておくの。
それに加え、いつも本気ではあるが"あの頃"の真剣さは徐々に薄れていっている。もしくは熱意というかもしれないけれど。


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今日も僕らは視ている


遥かは彼方。
近いのは夢か?
それとも、(うつつ)か。

───それは、██(ほし)に至るまでの物語。


ウマ娘 星を視たアルファルド


───近日、出走。


(※嘘です)



チーム:アルファルドのトレーナーである内海彼方(うつみかなた)の休日はいつも、ここから始まる。

 

「…おじさん、入りますよ」

 

彼方の言葉に、返答はない。

彼方もそれに慣れているようでカラリと引き戸を引く。

部屋の中を覗くと、そこには一心不乱にガリガリと原稿用紙に文字を書き連ねる初老の男の姿があった。

それはあまりにも鬼気迫っている様相ではあったが彼方は気にせず部屋のそこかしこに散らばった原稿用紙の成れの果てを拾って。

 

「…ダメだ」

 

また。

ブチリと無慈悲に千切られた紙が宙に舞う。

 

 

部屋の主であり、彼方の叔父、またはチーム:アルファルドの統括トレーナーである内海夢近(ゆめちか)はある日おかしくなった。

いや、前兆はたしかにあったのだ。

それに、誰もが手出し出来なかっただけで。

 

そんな夢近(ゆめちか)の傍に唯一居られるのが甥である彼方だった。

夢近がおかしくなってから、耐えきれないとチームを離れていくトレーナーが多い中で。

彼方だけがそっと、夢近の傍にいた。

何故なら、おかしくなったとしても、いや、おかしくなったからこそ…夢近はトレーナーとして『理想』に至ったのだから。

 

渡されたデータを見ただけで、そのウマ娘が勝てるトレーニングを割り出す洞察力。

そしてそれを実践出来るだけの確固とした信頼。

それらを全て活かして指示を出すその姿はまさに天才と呼ぶに相応しいものだった。

 

がしかし。

チーム:アルファルドは衰退を迎えている。

このチームに入れば必ず勝てる、とされながらも。

誰もが定着しない。

希望をもって入ってきたウマ娘たちも、トレーナーも。

いつしか絶望の面持ちで去っていく。

 

『ごめんなさい』

『自分はあなた(あのウマ)のようには、なれません』

 

そう言って。

突きつけられる才覚の差に心を折られながら去っていく者ばかり。

だがそれでも、彼方が辞めなかった理由はただひとつだけ。

……それが自分の夢でもあったからだ。

誰よりも強く、速く走る彼女たちを導きたい。

そんな願いを持って、彼方はここにいる。

叔父の代理として、たったひとりでアルファルドに関する業務を回すことになっても、変わらず。

そうして。

代わり映えのない生活が続いたある日。

 

「お久しぶりです、彼方サブトレ…いや、今は彼方トレーナーさんでしたね。貴方に任せたい()がいるんですが…」

 

アルファルドのOGであるシロガネミコトから紹介されたウマ娘-シルバープレアーと、

 

「こ、ここが、チーム:アルファルドで合ってますか!?!?」

 

おかしくなる前の夢近が書いたという推薦状を持って現れた見習い(サブ)トレーナー-外川夢現(とかわむげん)との出会いによって、彼方の運命は───いや、チーム:アルファルドの運命は大きく流転することに…?

 





いっぱい匂わせ系コミカライズ。

チーム:アルファルド→アラビア語で「孤独なもの」という意味の恒星の名より。

内海彼方(うつみかなた):
チーム:アルファルド唯一のトレーナー。
ある日を境におかしくなってしまった、叔父であり、チームの統括トレーナーである内海夢近(うつみゆめちか)の代わりを務めている青年。
その溢れ出る才覚から「そんなチームにいるよりも…」と、時折引抜きがかかるがその度に断っているらしい。

トレーナーとしては、担当バと必要最低限しか関わらない無味乾燥な接し方をするがその理由には過去、見習い(サブ)トレーナーだった時代に共にあったあるウマ娘との苦い想い出が…?

外川夢現(とかわむげん):
チーム:アルファルドの見習い(サブ)トレーナーとしてなった青年。
幼き日に偶然出会った内海夢近にチーム:アルファルドへの推薦状を書いてもらったことから、その縁でアルファルドのチームルームへ突撃を仕掛けた。
夢近のことをとても尊敬しているがまだ現状を知らない。

トレーナーとしては、担当バと共に二人三脚するタイプ。
なので無味乾燥とした接し方をする彼方と言い争ったりすることも…?

シルバープレアー:
アルファルドのOGであるシロガネミコト(元ネタは【銀色の運命】)からの推薦を受け、アルファルドに所属することになった"あるウマ娘"に憧れる芦毛のウマ娘。
穏やかで大人しい性格だが、ひとたびレースとなればアルファルドに縁深い"あるウマ娘"を彷彿とさせる眼や走りをする。が、その走り方には負荷があり過ぎ…?

実はひっそりとライバル視しているクラスメイトがいたりする。
彼女本バが語るに、そのクラスメイトは「三冠バの器」とのこと。




内海夢近(うつみゆめちか):
チーム:アルファルドの統括トレーナー。
アルファルドを押しも押されぬチームへと押し上げた男ではあるが、それと同じようにアルファルドを廃れさせた原因でもある。
己が見出した"あるウマ娘"を不慮の事故によって亡くした結果、おかしくなった。
だがおかしくなったが故に…か、トレーナーとしての技量は彼を知る数多くのトレーナーたちをもってして、その手腕は『神憑り』と称されている。

普段はひとり暮らしの家で原稿用紙に『ナニカ』を書き殴っているようだが、その内容を理解できるのは甥である彼方だけの模様。


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誇りが見たのは"ナニ"だったのか


心底からの憐れみを込めて。



プライドシンボリが凱旋門賞へと出走を果たしたのは、ある意味当然の帰結であったと言えよう。

無敗の二冠バ兼クラシック(クラス)でのジャパンカップと有記念の制覇。

もしくは祖父シリウスシンボリと父シルバーチャンプの無念を晴らすために。

 

そんな周囲の意気込みに、陣営も応えるべく勝負服のデザインを海外遠征用に新たに誂えたり等、万全の準備をして臨んだのだが……結果は惜しくも。

しかしそれを差し引いても、同年にドバイシーマクラシック、KGVI & QES、香港ヴァーズを制覇し、GⅠ7勝バとなったと考えれば日本トゥインクルシリーズ史に残るであろう快挙を成し遂げたことは間違いない事実だ。

がしかし。

 

プライドシンボリのトレーナーである彼には忘れられない出来事があった。

それはあの凱旋門賞の折。

本来なら勝てるはずだったプライドシンボリが急に速度を落とし。

それを心配して、すわ故障かと駆け寄ればキョトンとした顔をされて。

 

「…そんなに慌てた顔をして、どうした?」

「どうしたもこうしたも…!」

「脚?脚がどうしたって…嗚呼、」

 

サッサと。

何も問題ないと示す風に脚を振る仕草に安堵の息を。

でも同時に、なら何であそこで()()()()()()()、と問えば。

 

 

父から、その"影"についての話は聞いていた。

もしかしたら会えるかもしれない、と見送りの際にヒソヒソと。

親愛なる父の言葉を疑う気持ちはまったくもってなかったのだが…。

 

「先達よ───手合せ、願おう」

 

まさか、()()()

いつもの、自らの作戦を忘れてまで現れた"影"と死合う。

普段の自分なんてかなぐり捨てろ。

そうしなければ指先ひとつ掠らない相手だ。

 

…ああ、なんという至福だろうか!!

この瞬間だけは、自分が自分でいられる気がして。

だから、だからこそ。

もっと速く。

もっと疾く。

もっともっともっと!!!

まだ足りない。

まだまだ全然足りていない!!

こんなんじゃあダメだ。

そう思った。

瞬間。

 

「───────は、」

 

息も絶え絶えで自分を追い抜いた後続によって。

"影"が。

消えた。

途端、それまで自分に取り憑いていた熱が、消え失せる。

 

そこからはもう、ゆるやかに走るばかり。

何とか掲示板に乗るように、というだけは考慮して走り終えた先には自分を睨みつけるさっきの後続バ(1着)

 

唇が「どうして」と戦慄くのに『無粋なことをした、お前がそう言うのか』と思わなくもなかったが。

これだけは、

 

「嗚呼、」

 

言って、

 

───貴殿らには、()()()()()()んだな。

 

おきたくて。

 

「…可哀想に」

 





そうして、ニコリと嘲った。

【一等星よりいずる誇り】:
プライドシンボリ。
父シルバーチャンプ母父シリウスシンボリ。
主な勝鞍は皐月賞.日本ダービー.ジャパンカップ.有記念(クラシック級)、ドバイシーマクラシック.KGVI&QES.香港ヴァーズ(シニア級)。

実は凱旋門賞に出走していた系ウッマ。
んで、お察しの通りに"影"を見た。
普段はシンボリクリスエスっぽい性格だが、強い相手を見ると滾るタチでもある為ノリノリで"影"と死合っていたら無粋なことされて興ざめに。

そして、周囲に「お前勝てたはずだろ」って目線を向けられた結果、「キミたち視えなかったんだw(要約)」した。
最初から最後まで、プライドシンボリの目に入っていたのは…ね?

それを考えると1着バさんはどっかでプライドシンボリにプライド折られてたらなおよしですね〜…(ニッコリ)。


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お前が、わからない


俺は、最初から最後まで、お前の目には入っていなかったのか。



あの日の俺は、お前の国で言うところの『天狗』であったのだろう。

祖国を飛び出しては様々な国の大レースで勝って。

『世界最強』なんて皆から称されながら周りを居丈高に見ていた俺の前に現れたお前。

 

ぼうっとした、ヤツだった。

三冠こそ惜しくも逃したが一番人気に堂々と推された日本の期待バ。

"プライドシンボリ"というそのウマは二番人気に推された俺の隣へとゲートインしては。

 

「ウソ、だろ…?」

 

いつも通りの、勝ち確定の。

いつも以上に絶好調だった俺を軽々と、バ体を合わすこともなしに追い抜いて。

そのままゴールまで駆け抜けていったのだ。

 

『やはりプライドシンボリだ!その誇りに陰りなしッ!!』

 

それから。

陣営も俺も、お前に負けられないと。

ドバイシーマクラシック、KGVI&QESとお前が出るレースには必ず出て。

だが結果は散々なもんで。

運が悪かったからだとか、調子があまりよくなかったからだとか。

そんな、言い訳すらできないほどにお前に追い抜かれては、その背を追うしか出来なくて。

でも。

 

(今度こそ、今度こそお前に──ッッ!!)

 

あの凱旋門賞で。

いつもの戦法を、()()()()かなぐり捨てたお前を追いながら。

肺も脚もおかしくなりそうなころにはもう、差は10馬身以上開いていて。

それでもまだ諦めきれない俺は必死になって追いすがって。

そして、やっと届いたと思った瞬間にはもう、お前の姿はなく。

ただただ、歓声だけが耳に響いていたんだ。

 

『おめでとう、おめでとう!』

『おめでとう、───────』

 

違う。

違う、違う違う違う!!!!

これは…俺の勝利なんかじゃない!!

観衆も陣営も俺のことを祝福するが…!

 

「な、んで…!」

 

息も絶え絶えの俺とはまるっきり真逆に涼しい顔で軽くストレッチをしているお前に、プライドシンボリに、近づく。

すると奴はこちらを一瞥してきては。

 

「…そうか、貴殿には」

 

視えなかったんだな。

そう言って、俺を哀れんだ。

そして「おめでとう、一着バ殿」と白々しい科白を吐いては気だるげにターフを去っていった。

 

哀れだ。

こんなの、哀れでしかないだろう。

周りはやっとお前に勝った俺を手放しに祝福するのに、あの凱旋門賞(ターフ)にいた奴らは、みんな分かっているのだ。

本当の勝者は俺ではなく、──プライドシンボリ(お前)だったのだと。

 

お前なら、息も絶え絶えで追い抜いた俺などすぐに差し返せただろう。

なのにそれをしなかった理由は簡単で。

 

───貴殿には、視えなかったんだな。

 

心底から。

残念そうで、…それでいて。

 

───可哀想に。

 





脳焼きホース:
【一等星よりいずる誇り】にプライドなどをズタボロにされた可哀想な御方。
【一等星よりいずる誇り】よりも歳上。
たぶん陣営含め【一等星よりいずる誇り】に脳を焼かれている。

【一等星よりいずる誇り】の背を誰よりも見ては、その背を追い抜いた時にする顔を知りたかった。
でもそれを何とか成した結果、見せられたのは心底からの哀れみと嘲りで…。
もうぐっちゃぐちゃですわ〜(白目)。
加えて陣営+ファンからも「やっとプライドシンボリにリベンジできたな!」と祝福される!!
これぞ試合に勝って勝負に負けたってヤツですわ!

これで日本へのトレーナー打診があって、来日してみたら【一等星よりいずる誇り】と隣室だったりとかしたら最後……ね。

【一等星よりいずる誇り】:
プライドシンボリ。
G1を7勝したので名家から「ウチん家でトレーナーしなよ!」との打診があり、それを快諾したすがた。
脳焼きホースのことは「あぁ、凱旋門賞の(あの)時の1着バか」ぐらいの感慨。
本バにとってはメジロシルフィードという宿敵兼初恋がいるし(なお。まぁウマ世界では道半ばでの引退になっているのですが)。
またサクラスタンピードという親友がいるので…。


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桜吹雪と一等星


幼なじみであり、親友だからこそ。



「お疲れ様でした」

 

いつもの元気な声が嘘のように穏やかな声で告げてきた親友-サクラスタンピードにプライドシンボリは瞬きをひとつすることで頷きとした。

その行動でそうだと分かるくらいにふたりの付き合いは長いのである。

 

「…驚きましたよ」

「心配を、かけてすまなかった」

 

ふたり。

思い返すのは同じこと。

 

「スタン」

「はい」

「お前は…分かるだろう?」

「えぇ」

 

高松宮記念、宝塚記念と制し、ムーラン・ド・ロンシャン賞を制しに来ていたサクラスタンピードと。

ドバイシーマクラシック、KGVI&QESを制し、凱旋門賞を制しに来ていたプライドシンボリ。

その両名が、両名とも…。

 

「どうだった」

「まぁ…、きっとそちらにいた方のが調子がいいんじゃないでしょうか」

「そうか」

「リソースを注いでいるんでしょう。それだけ"あの方"にとっては」

「…印象深いレース、か」

 

視えていたものは、濃度こそ違えど互いに同じ。

同じように視て、同じように、追い駆けた。

ずっとずっと、焦がれていたものを。

だが。

 

「…シルフィーに、怒られそうだ」

「、」

「『何で最後まで全力で走らなかったんですか!?』とか何だとか言って…。うん、言い訳を考えておかないと」

 

出された名前にサクラスタンピードは人知れず口を噤む。

"シルフィー"こと、メジロシルフィード。

無敗の二冠バであったプライドシンボリにはじめて負けを叩きつけた長距離の女帝…。

 

「スタン?」

「…いえ、何でもないです」

 

自分を心配そうに見つめる親友にサクラスタンピードは笑みを形作り。

「嗚呼、やはり知らされていないのだ」と思考する。

どこまでだかは定かではないが、連勝街道をうなぎ登りに突き進んでいたプライドシンボリに知らせるべきではない、と判断したか…。

そこまでを思考して。

 

「言い訳は自分ひとりで考えてくださいね」

「…分かっている」

 

 

何も知らないまま、すやすやと隣で寝息を立てる親友にサクラスタンピードはまた静かに息をついた。

 

伝えるべきなのか、または伝えないべきなのか。

こちらで合流を果たした時よりしょっちゅう「シルフィーは、元気だろうか」と口癖のように漏らしていたところから察してはいたが。

 

プライドシンボリにとって、サクラスタンピードとメジロシルフィードはそれはそれは大切な幼なじみらしい。

面と向かって、そう告げられたことはないのだが長年の付き合いがあるが故に分かることもあるもので。

が、しかし。

 

「どっちが、残酷なんですかねぇ…」





【一等星よりいずる者】:
プライドシンボリ。
幼なじみふたりがいっとう大切なウッマ。
まだ何も知らない。が、【桜吹雪】が今回においての自分の気持ちを理解してくれたのでニッコリ。
それはそれとしてこの後は【桜吹雪】と一緒に香港へと突っ込む。

【桜吹雪】:
サクラスタンピード。
主な勝ち鞍:NHKマイル.スプリンターズS(クラシック級)、高松宮記念.宝塚記念.香港マイル(シニア1年目)、ジュライカップ.香港スプリント(シニア2年目)
しれっと芝3階級制覇をしているヤベェウッマ。
【一等星よりいずる者】とは親友同士&言いたいことを察せる仲ではあるが…。
【風の妖精】に関するある事実を告げるべきなのかどうかを悩んでいる。

【風の妖精】:
メジロシルフィード。
牝馬の身ながら菊花賞、天皇賞・春を制した。
【一等星よりいずる者】と【桜吹雪】とは幼なじみであり、ヒエラルキートップでもある。
ゴールドカップに出走していたはずだが…?


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望まない通達


そういやゴールドカップ~宝塚記念までの日程を見てみると3日or10日の間しかないんですよねぇ…(白目)。



サクラスタンピードにとってプライドシンボリとメジロシルフィードというふたりの幼なじみはかけがえのない存在であった。

プライドシンボリは自他ともに認める親友であり、メジロシルフィードは大切な妹分であったのだ(とは言っても幼なじみ内でのヒエラルキートップはメジロシルフィードであるのだが)。

閑話休題。

 

「え、」

 

その話をサクラスタンピードが聞いたのはもうすぐ宝塚記念といった頃であった。

当時はもう既にプライドシンボリが海外遠征を行っており、その勝利の吉報や次走の情報がテレビ等で流れ、報道されていたころ。

そんな時期にサクラスタンピードに舞い込んできたのは、前年に「無敗の三冠なるか!」と目されていたプライドシンボリを退け菊花賞を制し、年が明けては天皇賞・春をも制して、そのまま「先に行ってますね」と自身に告げ海外遠征していった、幼なじみであり妹分でもあるメジロシルフィードの敗北であった。

 

「……どういうことで?」

「いや、それが…。詳しいことはまだ不明だがどうにも向こうで…」

 

そこまでを告げて、サクラスタンピードのトレーナーはハッとしたように口を噤んだ。

それを見て、サクラスタンピードは大まかなことを察してしまって。

 

「……詳しく教えてください」

 

そう言った際の声色はいつも通りであったが、しかし明らかに怒気が含まれていた。

 

 

実のところ、サクラスタンピードとメジロシルフィードには幼なじみではあれど対戦歴はない。

それは互いに得意とする距離が真逆だったからだ。

いちおう中距離も走れなくないとはいえ、どちらかと言えば短距離やマイルの方が得意なサクラスタンピードと長距離巧者のメジロシルフィード。

それを考えるともうひとりの幼なじみであるプライドシンボリの方が対戦歴があるといえよう(サクラスタンピードとは皐月賞にて、メジロシルフィードとは菊花賞にて)。

…とはいえ。

 

「そうですか、スパートを掛けはじめた直後に…」

 

こうやって聞きとがめなければ、そのまま隠し通すつもりだったらしい自らのトレーナーに吐かせた事実は残酷なものだった。

 

───メジロシルフィードの、競走能力の喪失。

 

元来、メジロシルフィードの脚の弱さを知っていた幼なじみとしては「ここで来たのか」と天に向かって恨み節のひとつ、吐きたくなるが。

それと同じように、プライドシンボリのことを思うとその気持ちすら押し込められてしまう。

 

 

何故なら、サクラスタンピードは知っているから。

 

『今度は俺が勝つ』

『受けてたちます』

 

ふたりがそう言って誓い合っていたのを。

 

『ぼく、しるふぃーどのとなりに立ってもはずかしくないウマになる!』

 

かつてに、そう告げた幼子がいたことも。

すべてを。

知って、理解してしまっているから。

 

「…このことは、プライドに伝えないでください。伝えるとしても、すべてが終わったあとに」

「あぁ、それはプライドシンボリ(あっち)のトレーナーも同じ意見だと」

「そう、ですか」





【桜吹雪】:
サクラスタンピード。
いちばん近くにいる幼なじみだからこそ。
知っていながらも大切だから告げられなかった。
すべてが終わったあとに、すべてを知った幼なじみに殴られようが誹られようがすべてを受け止める覚悟である。
…分かっていたのなら、もっと。

【風の妖精】:
メジロシルフィード。
主な勝ち鞍:菊花賞(クラシック級)、天皇賞・春(シニア級)
牝馬ながら長距離戦の女帝となったお強い淑女。
だが生来の脚部不安により、遠征先のゴールドカップにて…。
でも史実ではなくウマ世界なので救われている。

【一等星よりいずる者】:
プライドシンボリ。
海外遠征真っ最中なのを慮って何も知らない。
しかも当人がSNSのみならずニュースなどもあまり見ない生粋のトレーニング狂なので誰も教えない限りは…という。
どっちの方が、よかったんだろうね。


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『桜』は綺麗なだけではなく…。


たぶんこの3人組はチャンプの子だからっていうのもあるけどogrの孫でもあるからシングレの顔黒塗りで目がギラギラした顔で追ってきたり、あの体勢低いスパートかけてきたりするんだよね…。



サクラスタンピードというのは『太陽』のようなウマだった。

ムードメーカーといえば、もしくは学年問わず誰もが知っている、慕っている…そんなウマ。

そこそこの頻度で問題を起こすのだけれど、最終的には「仕方ないなぁ」と許してしまうような不思議な魅力があって。

だが。

 

「プライド、シルフィー」

 

そんなサクラスタンピードにはいっとうに優先する友人たちがいる。

幼いころからの、俗にいう幼なじみだというプライドシンボリとメジロシルフィードのふたり。

 

「おはようございます。どうです、今日の調子は」

 

いつもの、!マークがたくさんつく喋り方が嘘のような静かな話し方。

穏やかで、さらりと撫でる風のような声音だ。

 

「ああ、いい感じだ。今日もよろしく頼む」

「えぇ、もちろんです。あなた方に勝つために小生はいるのですから」

「それは私も同じですよ?プライド、スタン」

 

そう言って笑い合う三人の間には信頼関係以上の何かがあるように思えた。

ふたりでひとつ、ではなく三人でひとつ…のごとき。

どれが欠けても成り立たなくて、でもだからこそ強い絆のようなものを感じる。

それ故に。

 

「…」

 

その一報が入ってきた時、誰もがサクラスタンピードのことを心配した。

何の因果か日本に残っていた、いや残されてしまっていた、たったひとりであったのだから。

 

「──大丈夫です」

 

けれど。

サクラスタンピードは、強かった。

いつもならば、普段ならば、緊張する誰かの体の強ばりを解したり、安心させる言葉をかけるはずの背が、逆に周囲を怯えさせる圧を紡ぐ。

完璧なまでに追い込まれた肉体に、ゾッとするような目つき。

ただひたすらに勝利しか見ていないその姿はまるで修羅か何かのようであった。

 

『後続が懸命に追い上げる!』

『だが先頭はスタンピードだ、スタンピードだ!』

『高く昇る太陽の元で見事に花を咲かせました!サクラスタンピードです!!』

 

ゼェ、ハァ…と息を吐く様すら荒々しい。

乱雑に汗を拭い、乱暴に髪を掻きあげ、天を睨めあげる姿には誰からも愛されるムードメーカーなぞという…。

 

「……っ!」

 

それでもなお。

最後の最後で競り勝った瞬間、サクラスタンピードは小さくガッツポーズをした。

そしてそのままゴール板前で深く息をつき、立ち止まる。

慌てて駆け寄るトレーナーたちの姿が見えて、ようやく快活に、いつものように笑った顔をした『太陽』に自分たちもまたホッと息を吐いたのだった。

 

だが。

先程まで自分たちにあてられていた"圧"を。

 

───ぞわり

 

もう一度、感じたいというのも…。





【桜吹雪】:
サクラスタンピード。
残されているからこそ、負けられなかった。
あんな事実を知って、笑ってなぞいられるものか。
こんなところで負けて、何も知らぬあの子に知っている己が顔向けなぞできるか。
だから。

───申し訳ないですが、()()()獲らせていただきます。


幼なじみ3人組の中でいちばんファンサが上手いし、後輩同期先輩問わず慕われてる系ウッマなのがサクラスタンピードなんだ。
なお。


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月代(つきしろ)青星(あおぼし)


思春期特有の劣等感やら何やらであれやこれやぐちゃぐちゃ…。

【追記】
誤字報告ありがとうございます。


バレットシンボリとプライドシンボリは叔父と甥という関係ながら歳が近いのもあって、まぁまぁの親交を深めながら育ってきた。

 

父がかの【皇帝】である直系のバレットシンボリと母父が【世界への挑戦者】であり、父が外のウマであるプライドシンボリは同じ家で暮らしながらも多少の身分差はあったがそれでも仲良く暮らしていた。

 

それが隔絶するようになったのは、バレットシンボリがトレセン学園に入学した以後。

朝日杯FSを制し、「父のように」と期待をかけられながらもクラシック三冠のどれにも指すらかけられないまま、自らの父と同じく無敗の三冠バとなった同期を見やるしかなかった時から。

 

「……」

「……」

 

その日から、ふたりの仲は急速に冷えていったのだ。

そしてそれは今も続いている。

いや、むしろ悪化していると言っていいだろう。

今だってそうだ。

顔色のいい日がないバレットシンボリを心配しながらも過去に「大丈夫だから!」と手を振り払われて何もできなかったあの時を思い出したのか、プライドシンボリは声をかけることすらできずにただ立ち尽くしていた。

そんなプライドシンボリを横目で見やりながら、バレットシンボリは無言のまま自分の部屋へと入っていく。

 

「……あーもう!なんなんだよあいつ!!」

 

扉が完全に閉めきってから枕に顔を埋めて叫ぶ。

もちろんバレットシンボリだって、かつてのようにプライドシンボリと仲良くしたい。

だがこんな自分とは違い、メキメキと頭角を現し始めたプライドシンボリを見るたびに煮えたぎるような嫉妬に苛まれて仕方がなくなり…。

「僕をそんな目で見るな!」と叫びたくなって。

 

『シロ…?』

 

でも。

あの日の、心配そうに自分を呼んでは手を振り払われて愕然とした表情を浮かべていたあの子の姿が脳裏に浮かび上がり、それを振り払うように頭を振った。

 

(違うんだプライド)

 

本当はキミと一緒にいたかった。

けれど周りからかけられる期待に、涼しい顔で応えているキミを見ると自分が無様で、哀れで、嫌いになり。

…キミも、僕と同じならよかった。

他人の期待が怖くて、苦しくて、辛くて。

それなら。

 

「ふたりいっしょに、いれたのにね」

 

 

お互いに大人しい子どもであった。

月代(つきしろ)』と呼ばれていたあなたと『青星(あおぼし)』と呼ばれていた自分。

あの頃は走るという行為に何も介在はなかった。

ただ自分の走りたいように走れば、それだけで楽しかったのに。

 

「…いつから、こうなったんだろうな」

 

今日も声は、届かない。





【一等星よりいずる誇り】:
プライドシンボリ。
父シルバーチャンプ母父シリウスシンボリ。
幼名は『青星(あおぼし)』。
【シンボリの弾丸】とはある時まで仲がよかった。
今でも関係修復をしたいと願っているがまぁ無理だろうな…という諦めもある。ので、関係修復できないなりに支えられるようになりたいと思っているらしい。
また【シンボリの弾丸】の第1号ファンでもあったりする。

【シンボリの弾丸】:
バレットシンボリ。
父シンボリルドルフ母シルバフォーチュン。
幼名は『月代(つきしろ)』。
【一等星よりいずる誇り】とはある時まで仲がよかった。
元のような関係に戻りたいと思ってはいるが【一等星よりいずる誇り】と顔を合わせるたびに劣等感やら嫉妬がメラメラしてキツく当たってしまう。そして自己嫌悪。
ちなそんな関係を築きながらも【一等星よりいずる誇り】のことを第1号ファンとして熱心に応援していたりもする。…めんどくせ〜。


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弾丸ですので


この血統、結構凱旋門賞出走してたりすんだよな…。


1. 1995年
シルバーチャンプ 牡 芦毛 オグリキャップ
 
3. 1997年
メジロアクター 牡 芦毛 メジロマックイーン
 
5. 1999年
シェイクザシャドー 牡 黒鹿毛 ナリタブライアン
 
6. 2000年
ヒーロシアトリカル 牡 黒鹿毛 ミスターシービー

取り敢えず【シンボリの弾丸】が出走するまでに出てるのはこの4人っすね。



あいつが、プライドシンボリが負けた。

はじめての海外遠征でも調子を崩すなんてないままに連勝街道を進んでいたあいつが。

 

誰も寄せ付けず走っていた姿が。

プライドシンボリをライバルと公言するウマに命からがらに差された瞬間に。

ずるりと。

まだ後方にいた出走者やこのレースを見やっている誰もの動揺が目に見えるほどに位置を下げた。

 

「なんであんなことしたんだ!?」

 

そうして。

やっとこさ日本に帰ってきたプライドシンボリに僕がかけた言葉は心配と"あること"が綯い交ぜになった怒りだった。

 

だって。

僕は誰よりも知っているのだ。

プライドシンボリというウマが誰よりも強いことを。

だから、こんな負け方をするはずないのに。

 

「……すまない」

 

結局。

プライドシンボリはその年で大事をとった引退となった。

あの凱旋門賞のあと、余裕の圧勝で香港ヴァーズを勝利して「来年も!」と期待されていたのだが。

 

「トレーナーいわく、『元も子もないことにならないように』…だと」

 

仕方ない、と頷く姿に口を閉ざせば「そう言えば」と。

 

「…シロ」

「なに」

「凱旋門賞に、行くんだったな」

「……そう、その、つもりだけど」

 

まさかお前もみんなのように、あの【英雄】のことを言うのかと睨みつければ告げられた言葉は予想外のもので。

 

「───────」

 

 

ゴールドカップ、ムーラン・ド・ロンシャン賞と勝ち、【英雄】と合流して挑んだ凱旋門賞。

"シンボリ"という冠名で期待をかける人もいるのだろうか、思った以上に僕の人気は高く。

開いたゲートからいつものように駆け出せば。

 

(───は、)

 

するりと、遠くに『影』が見えた。

あんな小柄なウマ、出走者の中に居なかったぞと混乱しながらも思い返すのはプライドを含めた凱旋門賞に出走した血縁から告げられた言葉。

 

『行けば分かる』

 

(嗚呼……いま()()()よ、クソがっ!)

 

小柄な『影』が必死に走る僕に向けて、手本を見せるように走る。

そう、思ってしまった時からバレットシンボリの目に入るのはその『影』だけになり…。

 

(足の着き方、体の上下、体勢の変化…)

 

なぞるように、見様見真似。

ただひたすらに走りながら観察していれば。

 

「……ッ!?」

 

ふわりとした感覚と共に、『ナニカ』が体の中に()()()気がした。

途端、キラキラと輝いてたまらない視界にゾッと怖気が走る。

凄まじい高揚感と恐怖心が入り混じる中、気づけば後ろから数えた方が早い順位でゴール板を走り抜けていた。

 

……そして、その日を境に。

バレットシンボリのレーススタイルが変わった。

それはもう、ガラリと変わった。

それまで正に王道というかのような余裕の先行策が、その日から『ナニカ』に追い縋るような逃げに変わったのだ。

 

 

『見事見事、後続を押し切って天皇賞・秋を制しました!バレットシンボリですッ!!』

 





視えて、教えられた。

【シンボリの弾丸】:
バレットシンボリ。
憧れながらも自らの抱える劣等感の根源に逢ったかと思えば、名の縁から入り込まれそれまでの走りを根本から矯正されてしまった。
たぶん根源的には善意。『こっちのが走りやすいよ〜』的な。
その結果、矯正された走りで勝利を飾っていくようになるも根源が入ったあの時の、圧倒の走りが何度やっても出来ず再現しようとするたびに情緒がぐちゃるように…。

根源:
いるよ。
何か走りがあってない子がいたので教示してあげた。
でも、その教示した子に合わせての出力なので…にっこり。


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互いに互いでないものねだり


羨ましい。



「随分と、走り方を変えたね」

 

乱雑に汗を拭う自分に、そう声をかけてきた同い歳の甥にバレットシンボリは一瞥だけを返した。

 

どうにも、この同い歳の甥-シルバープレアーとプライドシンボリはあまりウマが合わなかった。

かけられる期待は同じように重いものであるくせに、その方向性が違いすぎたのだ。

 

ただ、かの【皇帝】の跡継ぎになれるかどうかで見られるバレットシンボリと、どこかその戦績を"とあるウマ"の有り得たかもしれないIFとして捉えられ、2位続きのままに『次こそは!』と応援を受けるシルバープレアーでは…。

 

(……まぁ、だからといって)

 

それでも、最低限の会話くらいはする程度の仲はある。

そんな甥からの言葉に対し、バレットシンボリは「別に」とだけ返す。

 

「ただ、もう負けられないだけだ」

「そう」

「…お前と違って」

「…言うねぇ」

 

たぶん。

あまりにも様変わりした自分の走りをわざわざ心配しにきてくれたのだろうと察していながらも、つい皮肉めいた言葉が出てしまう。

だが、それを咎めるでもなく、シルバープレアーもまた苦笑と共に言葉を返してきた。

そして。

 

「あー……そうだ、ひとつ聞きたいんだけど」

「なんだ」

()()()?」

 

にこりと目の前で薄ら寒いほどの笑みを浮かべる顔を見て、はくりと震えた息が出る。

きっと。

バレットシンボリが教えられたのと同じように、シルバープレアーも教えられているのだろう。

 

───あの場所に、自分たちが求める存在が()()ことを。

 

シルバープレアーは輪をかけて、"その存在"に対しての執着が深い。

今では同じような執着を向ける相手がいるにはいるのだが、それでもまだ足りないらしい。

…あるいは、それすらも。

 

「さてね。…でも、他人に聞くよりかは自分で確かめた方がいいんじゃないかい」

「…うん、そうだね」

 

それだけ聞ければ満足だと言わんばかりに踵を返し、「じゃあまたね」と言い残して去っていく後ろ姿を見ながら……バレットシンボリはその背を見送ることなく、視線を前に向け直す。

 

()()()、教示された走りを忘れないために。

日が経つにつれ、薄れていく記憶をなぞっては己の中に刻み込むように。

 

「…………」

 

ふぅっと深く呼吸をして、集中力を高めていく。

頭の中にある記憶通りに身体を動かすためのイメージを固めながら、ゆっくりと足を踏み出した。

 

 

キミなら。

僕みたいに、勝負を捨てられることはないんだろう。

迷っている風に見えて、キミの走りははじめから確固たるものなのだから。

それが僕は。





同期×2:
シルバープレアー&バレットシンボリ。
はじめから逃げウマと途中から逃げウマ。
お互いに"あるウマ"に憧れてはごちゃごちゃ。
"あるウマ"を視界に映せて羨ましいと思うウマと"あるウマ"に教示ではなく勝負をしてもらえるだろうことを羨ましいと思うウマ。
…どうにもなんないですよ!

とはいえ、他の血筋メンツに教示してもらったってバレたらそっちのがヤバそうというか…。


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"影"と逢っては


()()()



きょうだいから、話だけは聞いていた。

『お前の実力なら申し分ないだろう』と。

 

「凱旋門賞には…いる」

 

ひどく、歯切れの悪い言葉であった。

"ナニ"がいるのか、ハッキリと告げられることはなく。

しかしそれでも、その一言で充分だった。

 

 

【名優ステイヤー】の場合

 

メジロアクターはその父の道筋を辿るように菊花賞、天皇賞・春と制し、ゴールドカップ等を制した一級のステイヤーである。

 

そんなメジロアクターがゴールドカップ等の海外戦での圧勝から凱旋門賞に出走となったのは、まぁ当然の摂理だったといえよう。

 

そして。

 

「────ッ、」

 

メジロアクターは、視た。

ただ、好き勝手気ままに遊ぶ時のように。

必死さなぞ欠片もなく楽しげに走る"影"を。

『どうしてそんなに、真剣なの?』とでも言うかのような軽い走りで、しかし誰よりも速く駆けるそれを。

 

(あぁ……)

 

この瞬間、メジロアクターは理解したのだ。

家も、期待も、憧れも。

すべてに囚われている自分では、この"影"を連れ帰ることが出来ないのだと。

 

 

【影を振り払う者】の場合

 

日本の生まれではあるが誘いもあり、アメリカへと渡ったシェイクザシャドーは芝とダート、そのどちらも同じようにこなせる稀有な才覚から『芝の王者も!』というひと声により、凱旋門賞への出走となった。

 

シェイクザシャドーの走りは、距離ロス上等の大外捲り。

それでもギリギリの勝利ではなく、後続に悠々と差をつけて勝ってしまうのだから地力から格が違うというべきか。

 

だからその日も、シェイクザシャドーは。

 

(…よし!)

 

前へ前へと固まる集団の横をスパートをかけ追い抜こうとした。

瞬間、

 

───ゾッ!!

 

黒い"影"と、目が合った。

今まで誰も恐れたことのなかったシェイクザシャドーは"影"に()()()()()

ふらりと、一瞥されただけだった。

だが、それだけで。

 

(怖い、怖い、怖いッ!!)

 

恐れたからには、連れ帰れる道理もなく。

 

 

【演劇的ヒーロー】の場合

 

ヒーロシアトリカルはどんなレースでも気負わないことが売りであり、それはつまり、どんなレースでもいつも通りの結果を出すということだ。

そんなヒーロシアトリカルが選んだのは、周りの期待に従った世界最高峰の舞台である凱旋門賞である。

 

飄々と、飄々と。

周りの期待も心配も露知らず、とでもいう風に海外での日々を過ごしていく姿に『このウマなら』と誰もが思ったことだろう。

そうして迎えた本番のレース当日。

 

「…………」

 

ヒーロシアトリカルは無言のまま、静かにターフを見つめていた。

いつもなら快活に軽口をたたくはずのウマが無言であることを不思議に思いながらも、「集中しているのだろう」と何も言わず。

────ゲートが開かれた。

途端、弾かれたように飛び出したのはヒーロシアトリカルだ。

 

「えっ!?」

「ちょ、おい!」

「待てよ!!」

 

慌てる周囲を他所にヒーロシアトリカルはドンドンと飛ばしていく。

それは、ヒーロシアトリカルがいくら逃げウマと言えども…あまりにも速すぎるスピードであった。

 

「────ッ!!!」

 

ヒーロシアトリカルには、視えていた。

ゲートに入るよりも前からずっと。

自分を待って、ウズウズしている"影"を。

『死力を賭けて、駆けてこい』とハンドサインで煽る"影"を。

ならば、

 

「負けられない」

 

もはや、周りなど気にする余裕はなかった。

ただただ己のために、己だけのために走る。

いつもの平常心など何処か遠くに放り投げた、()()()()()走りを。

血を超えて、脳を超えて、()()()その"影"との勝負を求める自分に従い。

 

「あは、あははははッッ!!」

 

途中で力尽きては何とかギリギリ掲示板を確保したワケだが。

それでもヒーロシアトリカルは心底楽しげに、嬉しげに…。

 

"影"と戦うことを選んだのなら、それ以外の目移りなど許さない。





"影":
波長があう誰かがいれば出てくる。
自分と走ってくれる相手を探しては楽しく走っている。
でも対象が"影"に恐怖したり、"影"の染み憑きよりも強い情念を持つ者に対象が抜かれたりすると呆気なく消えてしまう。
だって実態のない影法師だもの。仕方ないよね。…ね?

それはそれとして年が経つごとにボヤけたり掠れたりもしているらしい。
というか何十年も存在し続けられる時点でフツーに強いんだよね。
けれど。

ハッキリと、キミの姿を覚えてるのは…あと何人かな?


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妖精は、美しい夢を見た


自分自身も、そして周りも。

───夢を、見たの。

脚を止めることができないほどに、熱く、美しい『夢』を…。



「お帰りなさい、プライド」

 

そう言って自分を出迎えた幼なじみ兼妹分にプライドシンボリは持っていたお土産の袋を取り落とした。

声を出しきれない喉がはくはくと空気を吐く。

青ざめて、冷や汗をかいてと忙しない自分に「大丈夫?」とかけられる声は嫌に可憐だった。

 

「凄いでしょう?この車椅子!」

 

銀色の車体が太陽光に反射しては目を焼く。

「どうして」と力なく呟けば「…よかった。知らされてなかったのね」なんて。

 

「ちょっとした、年貢の納め時だったってだけよ。私の脚が悪いのは幼なじみなんだからよく知ってるでしょう?」

 

たしかに。

幼なじみの、メジロシルフィードの脚は昔から悪かった。

自分ともうひとりの幼なじみ-サクラスタンピードが走っているのを窓辺から見ていた彼女。

その手を引っ張ったのは、自分だった。

同じ景色を一緒に見てもらいたかったから。

だから。

 

「あの時、あなたとスタンのふたりでお母様を説得してくれたこと、とても嬉しかった。私のことを想うお母様のことを想って夢を諦めようとしていた私にとってどれだけ救いになったことか……」

 

───ああ、そうだ。

彼女は自分の大切な親友だ。

そして自分は彼女のことが大好きなのだ。

だからこそ、こんなにも辛いのだ。

 

「…ありがとう、プライド。私は幸せだったわ」

 

そんな風に笑う彼女を見ているだけで胸が張り裂けそうになる。

諦めたくなかったろうに、自らの運命を呪っただろうに。

もはや泣き跡さえない顔に、彼女は彼女自身で踏ん切りをつけてしまったのだと理解する。

 

「ごめんなさい、お父様に呼ばれているの。また後で話しましょう」

 

そう言って去って行く彼女に何も言えなかった。

ただただ、その背中を見送るしかなかった。

 

 

メジロシルフィードにとって幼なじみふたりは救いであった。

「脚が弱いから」と走ることを超えて外に出ることすら禁止されては、その言葉に粛々と従っていた自分を外に連れ出してくれたのはそのふたりだった。

まだ幼くて無邪気なふたりは、自分が見ることを諦めていた世界を見せてくれて、そのたびに新しい感動を与えてくれた。

それが楽しくて仕方がなかった。

いつの間にか自分もふたりのように走れたらと思うようになっていた。

 

「いつかきっと、三人で走れる日が来る」

 

…救いだった。

どうしようもなく、救いだった。

だけどそれは叶わない願いになった。

 

「…」

 

脚を撫でる。

リハビリをすれば補助ありではあるが歩けるようにはなる脚を。

もう二度と、走れなくなった脚を。

 

「ごめん、ごめんなさい、ごめんなさい…ぷらいど、すたん(ふたりとも)…!」





ごめんね。

【風の妖精】:
メジロシルフィード。
生来の脚の弱さ故にトレセン学園に入ったこと自体奇跡だったウマ。
幼いころは過保護な母に箱入りに育てられていたがある日目が合ったプライドシンボリ、サクラスタンピードのふたりに外に連れ出される。
それから幼なじみ三人組になっては、過保護な母を説得してくれた幼なじみふたりと共にトレセン学園に入学し…という流れ。
リハビリさえすれば補助ありとはいえ、歩けるようになるらしいが…?

あなたたちと一緒にいられない(走れない)脚なんて、意味、ないじゃない…。

【一等星よりいずる誇り】:
プライドシンボリ。
幼なじみにおみやげを渡しに来たら…なウッマ。
【風の妖精】が海外遠征したことすら知らなかったので、本人の口からあれやこれやを聞かされてはSANチェック(【風の妖精】としては先に海外遠征していた【一等星よりいずる誇り】に海外遠征がてらサプライズで会いに行こうと計画していた感じ)。
この再会後より結構な頻度でこの時の【風の妖精】の力ない微笑みの悪夢を見ることになる模様。…寝不足気味だぁ。


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ずっとお前を見てる


ちな幼なじみ3人組は新バ戦が同じだったりする(1着プライドシンボリ.2着サクラスタンピード.3着メジロシルフィード)。



Couldn't care less(クドゥントケアレス)は引退後、日本へトレーナーとして招集された。

日本という国名には多少の苦手意識はあったが、日本という土地自体には何も罪はないのでふたつ返事で了承の言葉を出した。

それがどうして。

 

「嗚呼、貴殿が隣室の」

 

引越しの挨拶に、と隣室のドアをノックすれば現れたのは。

 

───可哀想に。

 

かつて。

言われた哀れみと嘲りが混じりあった声音がフラッシュバックする。

 

「…………どうも」

()()()()()()。俺はプライドシンボリと…」

 

知ってる。

とは、言わなかった。

あんなにも、俺はお前を追いかけていたというのに。

俺はお前を一日たりとも忘れたことがなかったというのに。

お前は。

 

 

プライドシンボリがさる名家にトレーナーとして招集されたのは現役を引退してすぐのことだった。

元より引退後はトレーナーになろうとしていたプライドシンボリにとって、さる名家からの招集は渡りに船であったのである。

 

『元気ですか?』

「嗚呼、今日も変わりない」

 

別の土地で、同じくトレーナーとして働いている幼なじみ-サクラスタンピードと連絡を取っては近況を報告し合う日々が続く。が、

 

「そういえば」

『はい』

「隣室に新しいウマが来たんだ」

『へぇ、仲良くできそうですか?』

「嗚呼。Couldn't care less(クドゥントケアレス)という方なんだが…」

『エッ』

「…?どうかしたか?」

『え、いや、どうかしたかも何も…。プライドくん、貴方ってウマは…』

「?」

 

その日、プライドシンボリはCouldn't care less(クドゥントケアレス)がどのような経歴を辿り、此処に辿り着いたのかを懇切丁寧にサクラスタンピードに教えてもらい、理解した。

確かに、思い返してみればどこかで見た顔だなとは思っていたが…とボソボソした声で漏らせば『おバカ!』なんて。

 

『絶対プライドくんと話したいことのひとつやふたつあるやつですよソレは!

「あの時は凄かったですね」「いえ貴方の方もあの時!」みたいな!!』

「そんなまさか」

 

くすくすとその時は笑っていたが、翌日からこっそりと隣室のウマのことを観察してみれば。

 

(じっと…見られている…。助けてくれ、スタン…!)

 

 

Couldn't care less(クドゥントケアレス)から見たプライドシンボリというウマは同族にもヒトにもひどく人気であった。

仕事も真面目で、また仕事の途中でもファンから声をかけられればそちらに一目散に駆け寄り。

いつも仏頂面の顔をいくらか緩ませては対応する姿にはちょっとした動悸を覚えたし、何よりも「指導のために」とその走る姿が"あのころ"のようで、美しかったのだ。

 

「あぁ…」

 

だから、俺は。

今でも。





【どうでもいい】:
Couldn't care less(クドゥントケアレス)
件の【一等星よりいずる誇り】に情緒ぐちゃぐちゃにされた脳焼きホース。
Couldn't care less(クドゥントケアレス)は「一切興味がなくどうでもいい」って感じの意味なのにね。…何の因果や。

日本に招集されたけど流石にアイツには会わんやろ、したら爆速でフラグ回収した。
今日も今日とて【一等星よりいずる誇り】に現役時代より煮詰めたクソ重感情を向けている。

【一等星よりいずる誇り】:
プライドシンボリ。
幼なじみであるサクラスタンピードに言われるまでCouldn't care less(クドゥントケアレス)がそうだと分からなかった。
レースは天才だがレース以外のことにおいてポンコツが過ぎるウッマ。
なので幼なじみからよく「プライド、キミってやつは…」と言われるが幼なじみも含めキミたち全員同父だからさぁ…(【銀色の王者】を見る)。


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ずっと、いっしょ


っぱ、世代が経てもあの【一族】の血を引いてるから…。



「…シルフィード」

「いま、大丈夫ですか?」

 

ある静かな邸宅にて、控えめになされたノックに、また静かな返答がある。

キィ、と開かれたドアには真っ暗な部屋でぼんやりと陽光に照らされるひとりの車椅子に乗ったウマ娘の姿。

 

「…おはよう、ふたりとも」

 

そのウマ娘の名はメジロシルフィード。

この邸宅に尋ねてきたプライドシンボリ、サクラスタンピード両名の幼なじみである。

 

「今日は…散歩がてらピクニックに行きませんか?」

 

暗い部屋の中で、サクラスタンピードが跪いてメジロシルフィードに乞う。

その様子を見てみれば確かに、彼女の肌は空恐ろしいほど白かった。

それはまるで雪原のような色合で。

そして、そんな彼女を支えるように寄り添っているのは部屋の静寂もかくやといった様子でいるプライドシンボリだ。

 

「…そうね。せっかくだし、行きましょうか」

 

 

メジロシルフィードの車椅子を押すのはいつもプライドシンボリの役目だった。

本当ならサクラスタンピードと交代でやった方が疲労なり何なりが分散されて良いはずなのだけれど、プライドシンボリはその役を譲ることは決してなかったし、メジロシルフィードとサクラスタンピードもまたそれを良しとしていた。

だから今もこうして、彼女はプライドシンボリに押されながらゆっくりとしたスピードで外へと向かうのだ。

 

「「「……」」」

 

カタカタと、車輪が回る音。

燦燦と照らす太陽。

穏やかに吹き抜ける風。

きっと誰もが「良い日だ」というだろう場所で、三人はただ黙り込んでいた。

……いや、正確に言えば違うかもしれない。

ただ静かに、そこにあっただけだから。

そこには言葉なんてものは必要なくて。

だって三人ともが知っていたからだ。

今この時だけは、どんな言葉よりも雄弁なものがあることを知っているから。

 

「……ねぇ、ふたりとも」

 

ふっと、メジロシルフィードが告げる。

 

「わたしに、会いにこなくてもいいのよ?」

 

それは。

あまりにも『普通』な声音であった。

「今日の天気は」などと世間話の一環のような、そんな気軽さであった。

がしかし。

 

「……」

 

それを聞いた瞬間、サクラスタンピードとプライドシンボリの顔色がサッと変わる。

 

「……どうして? わたしに会いに来ることは元から義務でもなんでもないわ。それにあなたたちは忙しいでしょう?」

 

メジロシルフィードの言葉を聞いて、サクラスタンピードは思わず振り返り…プライドシンボリの表情を見て、ひくりと喉を引き攣らせた。

 

「…シルフィー」

「…なぁに」

 

何故なら。

プライドシンボリが怒っていたからだ、それも長年の付き合いの中でも見たことがないほどに。

 

「……俺たちは。いや、()たちは、キミに縛られることを嫌だと感じていない」

「えっ?」

 

メジロシルフィードは驚いた顔をしてみせた。

だが、プライドシンボリの目にはなんの色もなくて。

心底より、『それこそが真理だ』と、そう言わんばかりの顔つきをしていたものだから。

 

「むしろ、僕もスタンもそう…望んでいる…」

「……」

 

メジロシルフィードは何も言えなかった。

何も言うことができなかった。

そしてその沈黙こそが答えだとばかりに、プライドシンボリはそのまま続けた。

 

「だからキミが心配することは何ひとつない。そうだろう?」





───幼なじみ、なんだから。


三人組:
プライドシンボリ&サクラスタンピード&メジロシルフィード。
自分たち三人さえいれば、それでいい…してる幼なじみ。
多分三人だけにしか通じないことがたくさんありそう。

メジロシルフィードは幼なじみふたりを「帰さないと」と思っているけど、ふたりが自分の傍にいてくれるのが心地いいし、プライドシンボリは最後のひと押し兼ガソリンの役目で突っ走る。
そんな中、サクラスタンピードは常識人かと思いきやどうせ同じ穴の狢なので大切で仕方ない幼なじみふたりと過ごせる毎日を享受している。

誰も、止めるつもりがまったく無い関係なんだ。


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4/24 A誕生日


HappyBirthday!カツラギエース!!



「そういえばカツラギの誕生日、近いんだっけ?」

「え、あ、おう!なんだ、祝ってくれるのか?」

「そうだよ」

「」

「カツラギ?」

「い、いや何でもねぇ。そうか、…そうかぁ」

 

シルバーバレットとカツラギエースの仲は意外とよかったりする。

シルバーバレットの傍によくいるのがあのふたりであるため、影に隠れているだけで。

 

「…もしかして、嬉しくないかい?」

「そんなことねぇよ!?」

「ふぅん?」

 

実のところ。

カツラギエースはシルバーバレットに自身が祝ってもらえるとはこれっぽっちも思っていなかった。

精々が「この前誕生日だったんだって?おめでとう」と言ってもらえるくらいだと思っていたのだ。

それがまさか事前に確認され、あまつさえプレゼントまでくれるとは…!

 

「…!」

「いや、ホントにどうしたんだいカツラギ。様子がおかしいよ?」

 

思わず嬉しさを噛み締めるカツラギエースに不思議そうな顔を隠しもしないシルバーバレット。

ちなみにその様子はクラスにいる他のウマにも見えており……。

 

(((ああ~……)))

 

皆一様に生暖かい目をしていたりして。

それはさておき。

 

「な、なんでもねぇよ!そろそろ席戻るわ!!」

「あ、うん…?」

 

照れ隠しなのかそれとも…、慌てて自分の席に戻るカツラギエースを見て首を傾げるシルバーバレットだったが、すぐにチャイムがなり先生が来たことから視線を外す。

そしてそのまま授業終わりまでの残り時間を真面目に過ごしていくのであった。

 

 

で。

カツラギエースの誕生日当日。

本バの目の前で仁王立ちになったシルバーバレットは「ハッピーバースデイ」と告げ、綺麗なラッピングが成された袋を手渡した。

 

「お、」

「渡すって、言ってたろ」

「……」

「ほら早く開けてみてくれないかな。先生にバレたら面倒くさいし」

「……」

「ちょっと聞いてるかい?」

「きいてるきいてる」

 

呆然としたまま動かないカツラギエースに焦れたのか催促するシルバーバレットだがすぐに袋の封を切られて安堵の息を漏らす。

学外から通学しているシルバーバレットには今ぐらいしか寮暮らしのカツラギエースにプレゼントを渡す暇がないのだ。

……まぁそれでも昼休みという時間はあったのだが。

 

「…………」

「気に入らなかったかい?」

「そんなわけあるか!!!お前から貰えるなんて思ってなかったんだよ!!ありがとうな!!」

「大袈裟ダナァ」

 

中に入れたものはまぁごくありふれたスポーツタオルとスポーツウェアである。

とはいえそこはシルバーバレット。

意外なセンスの良さが光る、かなり良い品だ。

なお値段はそこそこいいものだったりする。

…大切な友人に贈るものだしね。

 

「大切に使うぜ!!!」

「そうしてくれるとありがたいね」

 

こうして。

カツラギエースの誕生日イベントは終了した。

余談ではあるが、後日その話を耳にいつものふたりにカツラギエースが詰め寄られたとか、寄られなかったとか…?





【三冠バキラー】:
カツラギエース。
まさかの相手から誕生日を祝われたのみならずプレゼントまでもらえて少しばかり思考が宇宙の果てへと飛んだ。
プレゼントに「新しいの新調しないとな〜」と最近もらしていた品をもらえて嬉しい。
大切に使わせてもらう所存ではあるが、なかなか使う踏ん切りがつかないとはもっぱらの話だとか。


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成り果ての思考


取り繕って、取り繕って。
崩壊の自覚もない。



駆けよう。喋ろう。

そうは言っても【僕】こそが皆々様の理想。

そんな世間に息が辛い。

なら好きにカマして、楽しんで、拍手をもらおう。

それで()()をもらうのだ。

 

【僕】って存在はただただ悪いみたいで。

『憧れ』ってヤツを見せるコトに関しては右に出るのはいないらしい。

がしかし、先輩っぽくやさしく振る舞うのはすごく面倒臭い。

やさしくしても、結果(成長)が伴わない。

自らを賛辞する声も、もう煩わしい。

 

「厭だ」

 

自分を純粋に慕う子どもの、柔いところを剥ぎ取ってはぐちゃぐちゃに掻き回し、狂わせて。

それでも慕ってくれる子たちに満たされるなんて思っても。

 

(、)

 

心の内は、満たされない。

 

 

僕は、周りを狂わせるらしい。

それは「あなたに魅せられてこの学園に来ました」と言いに来る子どもたちの多さから分かるといったものだ。

 

僕は周りが言うほど『天才』でも『秀才』でも『化け物』でもない。

自分の持てるものを注ぎ込んだ結果がアレというだけのコト。

なのに子どもたちは僕に憧れていると言う。

だから何だというんだろう?

だって僕の努力は報われなかったじゃないか。

どれだけ走っても負けなくて、起伏のない平坦で退屈な毎日だった。

それをどうやったら変えれるのかと足掻いてみたけれど何も変わらなかったし。

 

『当たり前』が嫌だ。

そう思ったとしても結局変わるものじゃない。

それならばいっそ。

狂ってしまうほうがマシだと思えた。

そうだろ?

───僕にはもう、夢がない。

走ること以外、生き方がない。

……ああ、なんてつまらないんだろうか!

とか言っても終わる気力などなく。

 

だから。

今日も、走る。

僕は走り続ける。

走るためだけに生きる人生は楽なのだ。

だから走ろう。

そうやって自分を偽っていれば良い。

そうすれば少なくとも傷つくことは少なくなる。

誰かを傷つけることも、ないだろう?

 

すべてを自己完結させて。

今日も、僕は走る。

が。

───走ることだけを考えて生きていけたら、どんなに良かっただろう。

……なんてね。

 

 

それこそが悪循環の起点なのだと、気が付かない。

最悪の自己完結。

無意識の自己防衛ゆえか、いつの間にかそれが本心になってしまった。

それに誰も気が付かなかった。

 

「…………」

 

そして壊れていく。作り替えていく。

自らの理想のために。

自らが壊したナニカたちのために。

その果てにあるモノを求めて。

 

…だが、かの存在知らない。

そんなモノは何処にもないと。

自らの存在が、周りのすべてを狂わせるなどと。

止められないままに。

それはまるで麻薬のような性質で。

一度手を出せば最後、抜けることはできない。

 

そして、今も。

存在は独りきりで望まれた舞台に立ち続けている。

それはきっと……これからも、続くのだろう。

 





僕:
在るだけで周りを狂わせる。なるようにならない。
『走る』ことに主軸を置いて目を逸らしている。
欠けたところを補修するのが得意なので「欠け」に誰にも気づいてもらえない。

…まぁ、何にせよ。
完璧なモノより多少「欠け」のあった方が魅力的ですよね。
サモトラケのニケ的な「欠け」があった方が、ね。

でも、『救い』なんて要らないよ?
だって、

いま、僕は 『 () () () () 』 だもの!


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これもまた、夢のVS


生存√での、あるお年寄りと若人の話。



幼いころの記憶を覚えている、なんて普通そうないことだろう。

どこかのテーマパークのマスコットキャラクターの着ぐるみとか、プールサイドで走ったら滑って頭打ったとかの記憶をぼんやりと覚えているくらいが関の山ではないだろうか。

 

俺もまぁ、大体はそんな感じだ。

けれど、たったひとつだけ詳細に記憶していることがある。

 

『やぁ。キミ、ひとりならお兄ちゃんと遊んでくれないかい?』

 

情景は家の真ん前にある小さな公園。

保育園に入るか入らないかどうかの年齢の俺にそう話しかけてきたその人。

 

『ひとりで寂しくない?』

『…もーすぐ、にいちゃんになるんだ』

『そりゃあ目出度い』

 

母親は俺が知らねぇヤツに絡まれてたら容赦なくドロップキックをかますような強い女だった。

この時は下のガキがおなかの中にいた時だったからそんなことはなかったが。

 

『お父さんはどんな人?』

『プレアーはカーチャンにいつもベソかかされてる』

『あらら…』

『でも、おれはプレアーみたいになりたい』

『…そう。どうして?』

『いっぱいはしりたいから』

 

俺の父-シルバープレアーは体の丈夫な人で、たくさんレースを走っていた。

生来走ることは好きだったから父親のようにたくさん走りたいと思っていたのだ(なお勝ち負けはまた別のものとする)。

 

『なるほど、いいね』

『あんたは?』

『え?』

『あんたは、なにになりたいの』

 

深くフードを被ったその人が、問いを投げかけた俺を見て惚けた顔をする。

何秒か見つめ合う静かな時間が続いたあと、

 

『僕、は』

 

 

燦々と太陽がターフを照らす。見上げた空は憎いくらいの快晴。

視線を戻して、歩を進めていくとそこには小さな人影があった。

俺と、同じ配色の勝負服を着た人影が。

 

「やぁ、」

 

俺の気配に気がついたのか、人影が振り返る。

帽子とゴーグルに遮られて、その顔を伺うことはできない。

ただ笑う口元だけが見えるのみ。

 

「キミ、ひとりならお兄ちゃんと遊んでくれないかい?」

「…もう『お兄ちゃん』なんて歳じゃないだろ、

────シルバーバレット」

「ひっどいなぁ」

 

ターフにいるのは俺とシルバーバレットだけ。

たったふたり、相対する俺たちにかけられる歓声はない。

 

「調子はどう?問題あるなら仕切り直すけれど」

「それはお前の方だろ、██歳の老いぼれの癖に」

「おい、年齢は禁句だろうがよ!?」

 

そんなおふざけをしながら、ゲートへと向かう。

 

「…なぁ、シルバアウトレイジ」

「ンだよ」

 

 

───僕を、愉しませてくれよ?

 

 

ぞわりとクる威圧にピクリと指が反応する。

それでも変わらず獰猛な怪物の笑みで熱視線を贈る『伝説』に挑戦者は、

 

「そりゃあコッチのセリフだっての!」

 

そう笑って宣戦布告をするのだった。





【銀色の激情】:
シルバアウトレイジ。
子どもの頃の将来の夢は父であるシルバープレアーみたいに(いっぱい走れるように)なること、だった。
銀弾のことは「相変わらず元気なジジイだな」と思っている。
…アンタ、俺がチビの時でも結構な歳だったよな?
でもそれはそれとして手加減するつもりもないし、「老いぼれ」と煽ったりもする。が、好きだし憧れだし…という感じに内心慕っている(しかしツンデレ)。


僕:
シルバーバレット。
ふらっと血縁の子に会いに行ったり行かなかったり。
【銀色の激情】に対しては「元気いっぱいでいいね!」と思っている。
…なんか少しマブダチに似てるかも?
でもそれはそれとして本気でいくし、「着いてこれるか?」と煽るし、「生き残りだと思え」する。
まだまだ勝利への執念etc.が衰えていないんだ。生涯現役です。


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オグリキャップとかいう…


ogr話。
チャンプの諸々を考えるといちばん運命変えられてるんじゃないかなぁ?



1:名無しのトレーナーさん

 

直系に凱旋門賞馬が2頭いる馬

 

【ウマ娘オグリキャップの画像】

 

 

2:名無しのトレーナーさん

 

そら正妻さんが強過ぎるんで…

 

 

3:名無しのトレーナーさん

 

正妻のシルバフォーチュンが繁殖成績強過ぎんだよ!

 

 

4:名無しのトレーナーさん

 

>>3

産駒12頭中9頭がG1馬とか…頭おかしいわ

 

 

5:名無しのトレーナーさん

 

凱旋門賞馬2頭以外にも無敗の二冠馬とか牝馬で菊・春天制覇とか短マ中の3階級制覇とかおるから…(白目)

 

 

6:名無しのトレーナーさん

 

脳焼きが過ぎる

 

 

7:名無しのトレーナーさん

 

全兄である銀弾と仲が良さそうだったからという理由で持ってこられた話と思たらあんなバケモン繁殖牝馬とはこのリハクの目をもってしても…

 

 

8:名無しのトレーナーさん

 

シルバーチャンプ、G1未勝利だけど普通に凱旋門賞2着だからね

しかも道中ずっとほぼ殿の位置取りしてアレは…おかしいっピ!

 

 

9:名無しのトレーナーさん

 

>>2

いいだろ?

誕生日同じで父でも母父でも血を繋いでくれて後追いしてくれる正妻だぞ?

(ogr没日2010.7/3、フォーチュン没日2010.7/4)

 

 

10:名無しのトレーナーさん

 

種付けの際、約10年振りに会ってもお互いのことを覚えてた二頭だ

(色々な意味で)強い

 

 

11:名無しのトレーナーさん

 

自身の競走成績で脳焼いたのに産駒でも脳を焼くな

 

 

12:名無しのトレーナーさん

 

フォーチュンが銀弾の全妹だからっていうのも強かったんだよな

その繋がりでチャンプが種牡馬入りできたようなモンだし

 

 

13:名無しのトレーナーさん

 

フォーチュンの繁殖成績見るとその母であるホワイトリリィもこれぐらいいけたんちゃうかなって(小並感)

 

 

14:名無しのトレーナーさん

 

地方から来た朴訥青年×穏やかな儚げ美女…ふぅ

 

 

15:名無しのトレーナーさん

 

双方どっちかというと零細血統なの大好き♡

 

 

16:名無しのトレーナーさん

 

血統的に誰でもつけれるフォーチュンに一発目オグリ持ってきたのホンマ…

何が見えてたの?

 

 

17:名無しのトレーナーさん

 

まぁシルバープレアーがクソ丈夫でいっぱい走れますよ!って証明してたんが強かったんやろなぁ…(脅威の連対率見ながら)

 

 

18:名無しのトレーナーさん

 

というかチャンプ含め銀系列の馬ってG1未勝利でも強いんだよ

全頭脚の強さと末脚の強さが噛み合わんかっただけで

 

 

19:名無しのトレーナーさん

 

>>18

そこに銀弾をひとつまみっと

 

 

20:名無しのトレーナーさん

 

>>19

銀弾は再生力が可笑しすぎる定期

何で複雑骨折→屈腱炎で今も越えられてないWR出すんだよ!

 

 

21:名無しのトレーナーさん

 

ホワイトリリィから引き継がれたある程度なら芝でもダートでもどこでもいける産駒傾向ェ…

 

 

22:名無しのトレーナーさん

 

>>21

多少小柄でも逃げさせたら勝てるのがもう、もう!

 

 

23:名無しのトレーナーさん

 

>>21

あとバケモン勝負根性も忘れるな!(サンデースクラッパ&グローリーゴアのデッドヒートを見ながら)

 

 

24:名無しのトレーナーさん

 

けど牝馬が生まれにくいのがね、ホワイトリリィ系…

 

 

25:名無しのトレーナーさん

 

これはヒカルイマイもニッコリ

 

 

26:名無しのトレーナーさん

 

シルバーチャンプ、シルバラストメモリで仲良くしてるのいいゾ^〜これ

 

【牧場垢の青い鳥】

 

 

27:名無しのトレーナーさん

 

シルバラストメモリはオグリ似だからな

オグリ似で甘えん坊だからな、そりゃあな

 

 

28:名無しのトレーナーさん

 

オグリはホント漫画みてーな生涯してるは

 

 

29:名無しのトレーナーさん

 

シングレの最後とかでもいいから産駒匂わせとか来ねぇかなぁ!

引退後に子供たちに走り方教室してるとかで!!

アウトレイジとか!その他の産駒が!見たいです!!!!

 

 

30:名無しのトレーナーさん

 

どうであれ、オグリの名は後世にも語り継がれるんだ

 

 

 

 





【芦毛の怪物】:
オグリキャップ。
とある馬と仲が良かったら、その全妹を紹介され、そこから生まれた産駒が大攻勢を仕掛けた結果、自身の競走成績を含め日本競馬史に燦然と名を残す馬となった。
またウマになった途端、運命を感じる子が多すぎててんやわんやしてそう。

それはそれとして事実上の正妻となったシルバフォーチュンとの仲は良好。
シルバーチャンプからシルバラストメモリまでに約10年の期間が空いていたがお互いのことを覚えており、再会した際には二頭ともに離れたがらなかったという逸話も。

【銀色の運命】:
シルバフォーチュン。
【芦毛の怪物】と同じ年同じ日に生まれ、後を追うようにして亡くなった牝馬。
基本は穏やかな性格だが、信頼している相手の前だと少しワガママらしい。
産駒傾向としては、母ホワイトリリィから引き継いだ「ある程度なら芝ダート、距離どこでも対応可能」と「体の丈夫さ」、「気性難でも信頼した相手なら言うことを聞く頭の良さ」が特徴。でもその代わり牝馬が生まれにくい。

またオグリキャップとの関係は…?
でもまぁ、10年間が空いても覚えていたり、唯一ピロートークが長かったり、引き止めたりするのを見ると…ねぇ?

【銀色の王者】:
シルバーチャンプ。【芦毛の怪物】の孝行息子。
脚の関係からG1未勝利での引退だったが、それを払拭するかのような種牡馬成績を残した。
シルバープレアー-シルバアウトレイジの親子2代凱旋門賞制覇、プライドシンボリの無敗二冠、メジロシルフィードの牝馬での菊花賞・春天勝利、サクラスタンピードの芝3階級制覇等など…。
(種牡馬成績)バケモンかな?


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銀色のギャングスタ!


リクの「アウトレイジと平成最後の三冠牝馬さんとの子ども」の話。

汚泥の中(ドン底)から星へと至り
届かぬと分かっていても手を伸ばし
"凡人"だと知りながらも諦めず
そして感情はほとばしる

…なら、その続きは?



「アッハッハ、負けちまったなァ!」

 

そう言って、ケラケラと笑う男がいる。

観客席からは『ちゃんとしろよー!』なんてヤジが飛んできている。

が、男は「ちゃんと頑張ってらァ!」なんて。

それは彼らにとってのいつも通りのコミュニケーションだ。

負ける時は負ける。勝つ時は勝つ。

大外一気を決め込むか、それとも大逃げを打つか。

出遅れはどうだ?その脚で差し切れるのか?

その男がいるレースはいつだってドキドキする。

勝っても負けても潔く、カラリと笑って済ませるその男を、彼らは愛した。

 

「俺はシルバギャングスタ!

楽しんでこうぜ、阿呆ども!!」

 

 

「飽きた〜めんどくせ〜やだ〜!」

 

じたばたと駄々をこねるシルバギャングスタを同期であるキャッチツーツーが押さえ込む。

「俺ァトレーニングに行くんだよ!」とやいのやいのうるさい彼を強かにシバいて座らせるのだ。

「しっかりしろよ、生徒会長サマ」と言って。

 

「生徒会長なんてさぁ〜?ほら、あの先輩とかいたじゃんかぁ。

なんで俺なワケェ?」

 

グダグダ管をまく生徒会長シルバギャングスタに副会長であるキャッチツーツーは言う。

 

「だってお前三冠バじゃん」

「ただのぐーぜんー」

「じゃあお前に負けた俺はどうなるんだよ!」

「痛い痛いバカ!この筋肉ゴリラ!!」

「オメーもどっちかというとそうじゃねぇか!」

 

ぎゃあぎゃあワイワイ。

普段なら『ふたりともカッコイイ…』などと後輩のウマ娘から言われていると言うのに…(同期のウマ娘にはいろいろと知られてるので…ハイ)。

 

「ほら、さっさとしろボケ」

「へ〜い…」

「必要最低限の分は終わらせとかなきゃいけねぇからな」

「そりゃー分かってるけどよォ」

 

クルクルと器用に万年筆を高速回転させ始めるシルバギャングスタ。

その様子を見てため息をつきながらサラサラと書類を進めていくキャッチツーツー。

 

「…まぁ、終わらせるモン終わらせてた方が気が楽だろ」

「まぁなぁ」

「俺ら、凱旋門に行くんだからさ」

「……」

 

ぴたり、とペンの音が止まる。

それを合図とでもいうようにふたりの視線が合い、ニッと互いに笑い合う。

 

「今度こそ、()()()お前を喰ってやるから、覚悟しろよ?」

「そりゃあ重畳。なら美味しく仕上げておいてやる」

 

互いに、一歩も引かず睨み合う。

世間では『宿敵』と謳われるふたりのプレッシャー(あいだ)に入れる存在など有らず。

 

「楽しんでこうぜ、クソッタレ」

「そりゃあこっちのセリフだっての」

 

そう言って笑うふたりが、凱旋門賞でワンツーフィニッシュをキメるまであと…?





2020年代後半~2030年代初頭を想定してる。


【銀色のギャングスタ】:
シルバギャングスタ。
父シルバアウトレイジ、母アーモンドアイの牡馬。
体格がいい。芦毛。主戦騎手はkrtn。ゲートが大嫌い。
なので脚質は出遅れ故の大外一気の追込みかロケットスタートキメての逃げに逃げを打つ大逃げ。
勝つ時も負ける時も盛大に。
最初っから最後まで目の離せない走りをする。
人生(バ生?)ってのは短いんだから楽しんでこーぜ!な刹那主義タイプの男。
夢を見ずにはいられなかった父の性分が大幅強化されたような存在。
テンションは基本ゴルシちゃんしてる。し、ゴルシちゃん本人とも仲がいい。
いちおう三冠バで凱旋門賞バになった。
キャッチツーツーとはマブ。そしてちょっと重めな感情をキャッチツーツーに向けてる。
俺、お前になら食べられてもいーよ。だからお前のために美味しく育つね、みたいな。


【理不尽】:
キャッチツーツー。銀色のギャングスタの宿敵。
父キズナ、母父ジャスタウェイの牡馬。体格はすこぶるいい。黒鹿毛。
名前の元ネタはジ/ョ/ー/ゼ/フ・ヘ/ラ/ーの小説『Catch22』から。
『Catch22』には「どう足掻いても解決策が見つからないジレンマ、どうにもならない状況」という意味がある。
基本理不尽な強さで周りをボコボコにするのに銀色のギャングスタ相手にだけは翻弄されまくり勝ったり負けたりする。
性格的には真面目で優等生なのに銀色のギャングスタと一緒にいる時は基本ポンになるため、「アイツ、銀色のギャングスタといる時がいちばん面白いよな」と周りから言われている。
結構な頻度で銀色のギャングスタと漫才してる模様。

なお銀色のギャングスタへ向ける感情は(お察しの通り)重い。
いつか本気のお前を喰って、喰い尽くしてやる…!という感情。
でも自分の方が喰われるかもな、…それもそれでまたいいかもしれないと思ってたりもするらしい。
凱旋門賞は銀色のギャングスタに惜しくも届かず2着だったがG1・7勝くらいは普通にしてるウッマ。



そんな二頭がいる、未来の話。
…この父・母父配合で"シルバムービスタ"(Silver Movie Star)って名付けられる子ができそう。


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◆どうかワルツを


本当はイベントの時に出すつもりだった話なんDA☆



夕暮れの教室にキミがいた。

夕陽に照らされたキミの右脚には痛々しいギプスが。

 

「…やぁ、誰かと思えば」

 

緩やかに瞬きをして、ボクを見とめるキミ。

言外に座れ、と示されてその通りに座る。

 

「そう言えば、…キミとこうやって話すのは初めてだな」

 

座ったボクを見て、ボソリとキミが言った。

まぁ…それは確かに。

ボクがキミを見ていただけでキミがボクを見ることなんて…。

 

「まぁ、いいか」

 

はふ、とゆるく息を吐いたキミの、右脚のギプスが嫌に目につく。

誰よりも疾い脚。その、右脚の複雑骨折。

一時は選手生命も危ぶまれたその怪我のセンセーショナルさは今も記憶に新しい。

その場所を、ただその一箇所を、あまりにもじぃと眺めていたせいか、ふと顔を上げたキミはそんなボクを見て呆れたように笑い、

 

「…そんなに見られちゃ、照れるぜ?」

「…あっ、」

「ンな見つめなくても、また()()()には戻るさ」

「そう、…そっか」

 

ボクにとって一番嬉しい言葉を言ってくれた。

ボクはキミの走る姿がいっとう好きだから、そう言ってくれてとても嬉しい。

 

「…、」

 

そう思っていると、不意にキミが言葉を止める。

どうしたの、と問うと「リーニュ・ドロワッドに出られないのが残念だ」と。

そういえば、もうそろそろそんな季節だったか。

リーニュ・ドロワッドはトレセン学園春の伝統行事であるダンスパーティーで、毎年さまざまな人物がダンスを披露する。のだが、キミはそんな人がたくさん集まる行事に参加する人だっただろうか。

ずっと眺めていたキミのいつもの行動を省みるとありえないと分かるそれに首を傾げる。

だがそんなボクにキミは、

 

「…僕は、キミと踊りたかったんだ█████████(×××××××××)

「…え?」

 

信じられないことを言う。

いやいやいや、キミの相手になるのなら、ほら!ミスターシービーとか、いるじゃないか!と言おうにも「…?そこまで仲良くない相手に僕が相手を頼める人間だとでも?」と悲しい言葉を返され。

 

「そのぶん、キミとは少しばかり関係があるからなぁ。

できれば頼もうかと思っていたのだけど、…このザマ。

残念で仕方ないよ」

 

…キミと踊りたい人はたくさんいると思うのだけど。

自己評価が低いのはキミの悪い癖だというか何と言うか…。

だがしかし、本当に残念そうに「リーニュ・ドロワッド、出たかったなぁ…」と洩らすキミにかあっ、と心臓と血流に熱がこもっていくのもまた事実。

 

「じゃ、じゃあ!」

「ん?」

「踊ろう、私と!」

「え?」

「あ…いや、今、じゃなくていい。

また、時間があった時でいいから…あの、その、」

 

熱の赴くままに声を出してしまい、しりすぼみ。

しどろもどろとするしかないボクにキミは、

 

「…あぁ、また。時間があった時に。

僕と踊ってくれるとありがたいな───"マイルの皇帝"殿?」

 

そう言ってゆるりと微笑んだのだった。





僕(ウマ娘のすがた):
ドロワにちょっと出てみたかったすがた(骨折で頓挫)。
マス太がいた世界ならマス太を誘…いやでも身長差がな…。
たぶんワルツ等ちゃんとした形(手を取って)踊るんだったら相手の上限は160cmくらいまで。
それ以上の身長になると会場全部を使って駆け回るタイプの踊りになる。
アップテンポの曲が好き。
今回は見送りとしているけど『ドロワに出ます!』って宣言したら水面下でのドンパチがドンパチ通り越して焦土と化してそう。
何巴になるんだ?この場合(産駒がいるかどうかで数は変動)。

【マイルの皇帝】:
同期兼阪神3歳Sで対戦経験あり。
ちゃんとこの子もこの子で僕に重めの感情を抱いている。
『一緒に踊りたかったな〜』されて心臓バクバク。
そのため『踊ろう、いっぱい踊ろう!』となった。
実は何気に僕からの好感度が高い(重感情を抱いているが表に出さないため)。


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はえ〜、チビちゃん楽しそうだなァ〜…。


アピールアピール。



1:名無しのトレーナーさん

 

ぼくもあの子たちみたいに楽しく過ごしたいなぁって!

 

【口籠に目隠しを施された、どこか実馬銀弾に似ている芦毛馬の画像】

 

 

2:名無しのトレーナーさん

 

お前は来ちゃダメなタイプのヤツだよ

 

 

3:名無しのトレーナーさん

 

オメーの娘と孫が例外だっただけで一族的にキ○ガイの系列じゃないすか、アンタら

 

 

4:名無しのトレーナーさん

 

よく写真あったな

 

 

5:名無しのトレーナーさん

 

まずどんな性格というか自己紹介よろしくお願いします

 

 

6:名無しのトレーナーさん

 

まぁウマになるなら多少は性格緩和してくれるでしょ

…してくれる、よね?

 

 

7:名無しのトレーナーさん

 

>>2

お?やるかい?

 

>>3

そんなことないヨ

やさしくしてくれたらやさしくするヨ!

 

【口籠に目隠しを施された、どこか実馬銀弾に似ている芦毛馬の画像】

 

 

8:名無しのトレーナーさん

 

はじめまして

どこにでもいる芦毛馬だヨ

血筋的には大正頃から脈々と続いているゾ

父としてはアレだったケド母父としてはだいぶ有名なんじゃあないかなァ?

 

【口籠に目隠しを施された、どこか実馬銀弾に似ている芦毛馬の画像】

 

 

9:名無しのトレーナーさん

 

いやまぁ確かにアンタの名前はよっぽどのことがないと消えないと思いますけども…

 

 

10:名無しのトレーナーさん

 

そもそもお前未出走だろエーッ!

 

 

11:名無しのトレーナーさん

 

もし出れたとしてもぜって〜プリティーじゃね〜!

 

 

12:名無しのトレーナーさん

 

何をいう

ぼくはやられたことをやり返してただけだぞ

正当防衛なんだ

なのに風評被害で>>凶暴<<と言われるのは遺憾の意なんだ!

 

【口籠に目隠しを施された、どこか実馬銀弾に似ている芦毛馬の画像】

 

 

13:名無しのトレーナーさん

 

にしてもこの口籠も目隠しも邪魔だなぁ…ネ?

 

【口籠に目隠しを施された、どこか実馬銀弾に似ている芦毛馬の画像】

 

 

14:名無しのトレーナーさん

 

>>12

正当防衛()

 

 

15:名無しのトレーナーさん

 

目隠しあってもなくても気配で蹴りにくるからどっちでもいいのでは…?

ボブ訝

 

 

16:名無しのトレーナーさん

 

アンタ目が合うだけでさぁ…

 

 

17:名無しのトレーナーさん

 

サツ意の波動が強過ぎるわよ!

 

 

18:名無しのトレーナーさん

 

そういやコイツ、放っておくと自分で口籠破壊してるみたいな話なかったっけ…?

 

 

19:名無しのトレーナーさん

 

放牧すら許されなかった馬だ面構え()が違う

 

 

20:名無しのトレーナーさん

 

蹴り強そう(小並感)

 

 

21:名無しのトレーナーさん

 

ガビガビ画質のせいで絶妙にホラー感がある

 

 

22:名無しのトレーナーさん

 

何で残ってたか分からない写真ェ…

 

 

23:名無しのトレーナーさん

 

近寄っても安全な馬はそんなアッピルしないと思うんすよね

 

 

24:名無しのトレーナーさん

 

この写真しか残ってないのがもう…(白目)

 

 

25:名無しのトレーナーさん

 

コイツから銀弾が出たのはホンマに奇跡やな…

 

 

 

 





写真さん:
何故か1枚だけ奇跡的に写真が残っている御方。
なおあまりにアレ過ぎて放牧すら許されなかった模様(だが自分で勝手に脱走する)。
また着けられた口籠もヒトミミが目を離した隙に破壊しては…とのこと。
たぶん銀弾の悪運の強さはこの御方から来ていると思われ。


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貌は無いと書いて──、


──では、()()()か。

覚醒したその背を、2回見た者の視点より抜粋。


ぐっしゃぐしゃだよもう!!!!
…んで、その全部轢き潰し情緒破壊野郎は自分の両親とほぼ同年代という、ね。



別に舐めているつもりではなかった。

その昨年の、訳の分からないワールドレコードの話はこちらにも流れてきていたし、そのレースの録画だってバカみたいに飛び交っていた。

 

そんな注目のウマが遠路はるばる遠征に来たと話が持ちきりになったのは春のこと。

普通よりも年老いた相手に「まぐれ」だとか、「どうせすぐ消えるだろ」とか、そういう言葉を投げかける奴らは確かに多かったと思う。

けれど。

 

1()()

されど1秒。

引きちぎられ、引き離され。

その背だけを、見せられた。

大部分が黒地に、黄色と白のコントラストの勝負服が目を焼く。

あんなに綺麗な色を俺は知らない。

まるで夜空に輝く一等星のような、あの輝きを知っている者はどれだけいるだろう?

あれからずっと考えていたんだ。

俺には何が出来るのかって。

だから決めた。

 

凱旋門賞。

そのウマと走るのは2回目。

そのウマの祖国にとって、凱旋門賞というレースは『悲願』であると調べて知っていたから。

最高潮に調子を持っていくとしたら、()()()と直感したのだ。

そしてそれは正しかった。

俺は今日、この瞬間のために生きてきたんじゃないかってくらいに最高の気分でここに立っている。

 

(バカだな)

 

お前の走りを"あの日"見た俺はお前の後ろを付かず離れず追走することを選んだ。

だが大半のウマはお前を差し切るために脚をためる方向に走っている。

もう一度言おう。

()()()、と。

 

(脚をためてたら差せるなんて、コイツがそんな簡単なウマなワケないだろう!)

 

そんなウマなら、こんなところまで来れるはずがないじゃないか。

俺が…()()()()()ないじゃないか。

俺だって曲がりなりにも2国のダービーを制したウマだ。

そう簡単に追いつけるとは思わないことだ。

それに───。

 

(まだバテない…)

 

今日も今日とてレースを掌握しているのはコイツで、そこそこのハイペースを刻みながら後ろにいる俺を見ることもなく先頭を走り続けている。

しかし、それこそが狙い通りなのだ。

何故ならば今日の最終コーナー手前までは、このレース展開になるように仕向けたからだ。

だが。

このままでは勝てないと悟った俺は、ここから仕掛けることにした。

いま、一気に加速して───。

 

『楽しかったよ、ありがとう』

 

……は?

 

瞬間、突風が吹く。

また、背中が遠ざかる。

無意識に伸ばした手は、爪ひとつ引っ掛けることが出来ずに空を切り。

 

「いやだ」

 

思わず漏れ出た声は、風に攫われて消えていく。

 

「待ってくれ!」

 

叫びと共に駆け出した足は、一歩踏み出すごとに重くなる。

 

「頼む!!」

 

それでも止まらない。

いや、止められなかった。

…故にゴール板を通り過ぎてもなお、その背を追い続け。

しかし。

 

そのウマの顔を、ついぞ見ることは───。





───その怪物(バケモノ)には、()が無かった。

そのウマ:
人呼んで『無貌なる異邦人(The Faceless)』。
まるで黒い絵の具をぐちゃぐちゃに塗ったようなオーラをしては。
顔も影も無いとしかいいようのない走りを以て、総てを平等に(なら)していく。
真剣さも、夢も、野望も、何もかもを。

だがそれが夢幻になるのかは……"世界"次第の話であるが。


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時たまには飴を


お前も他バのこと言えんやろ定期。



「そんなにつれなくしてると、後が怖いと思うけどなぁ〜?」

「ソレ、アンタが言うか?」

「…?」

 

自分たちの横に座り、クスクスと笑うウマ-シルバーバレットにシルバアウトレイジは呆れ、シロガネガイセイは首を傾げる。

遠くからはトレーニングに勤しんでいる生徒たちの声が聞こえてくる中、三人の会話が続く。

 

「……まあいいや。で?結局何があってその話なんだよ」

「いやね、ちょっとしたトラブルがあってさ。…それがまた凄くてね〜」

「へぇ」

「三つ巴ならぬ何巴だったかな…?」

「紛うことなき修羅場」

「そうとも言う〜」

 

そんな話でも、ケラケラと軽く笑うのは危機感がないのか、それとも……。

 

「それで、どうなったんだ?」

「うん、まず……」

 

それから。

突っ込んだり笑ったりと少々騒がしい時間を過ごしながら、話は進む。

そして、ひとしきり話し終えて満足そうな顔を浮かべるシルバーバレットを他所に、シルバアウトレイジはある事に気づく。

 

(……ん?)

 

それは、いつもと変わらず黙って話を聞いているシロガネガイセイが、

 

「…(きょろきょろ)」

 

忙しく周りを見回していること。

表情は真顔だが、雰囲気がどこか焦っているのを見るに何かを探しているようでもあった。

すると、ふと思い出したようにシルバーバレットが口を開く。

 

「あ、そうだ。……ねぇ、そっちの子ってもしかして……」

「えっ!?」

 

突然話を振られたシロガネガイセイは驚いたようにシルバーバレットが指をさした方を見やる。

俺もその指の方を見やるとそこには、

 

「…はよしろ」

「ご、ごめん…」

 

一緒にトレーニングをする約束でもしていたのだろう、シロガネガイセイの友人らしきウマがいた。

言葉少なに踵を返したそのウマに慌てて駆け寄っていく後ろ姿を残ったふたりで見送れば、

 

「…話付き合わせちゃ、悪かったかな」

「かもなー」

 

申し訳なさそうにする隣に、特に気にしていない様子でシルバアウトレイジは返す。

 

「んじゃ、俺は行くわ。アイツらもいつもの場所にいそうだし」

「ああ、じゃあね」

 

立ち上がって伸びをしながら去る背を見送った後、シルバーバレットも立ち上がり、去り際に一言残す。

 

「僕も大概だけど」

 

 

注ぎ方の加減がどうにもよく分からないのは生まれつきだろうか。

注ぎ方をひとたび間違えれば相手を溺れさせてしまいそうだから、と注ぎすらしないのは罪だろうか。

それでも、注ぐことを止められない自分はきっと間違っていて、悪い子なのだと思う。

……だって、こんなにもみんなが大切で、好きだから。

与えられるものを少しづつでも返したいと思うのは。

 

「…さて、どうだかね」





回避性能は高いけど、高いが故に適度に捕まってあげないと危ないよね〜と思考している銀弾&自分は銀弾(アンタ)よりマシと思っている激情&情緒がお子様寄り?というか走ることしか頭にないので何にも気づいていない再来の話でした。

揃いも揃ってどっこいどっこいだよ。
その血に列なる限りはね。


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欺くのは、『世界』だけでなく


『世界』を、欺け。軸の話。



どうも、僕です。

家族からは『チビ』と呼ばれて育てられています。

 

僕はとても小さいウマです。

同年代の子とは会ったことがありませんが、少しばかり歳の離れた妹にも抜かれている身長と体格を鑑みるに小さいことには変わりないでしょう。

 

ですが、そんな僕を家族みんなが愛してくれます。

お父さんの背中に乗せてもらいながら家の庭を走り回ってもらったり、妹たちと一緒に絵を描くのが好きです。

僕はこの家族が好きなので、これからもこの幸せが続くことを心から願っています。

さあ、今日はどんな一日になるでしょうか?

 

 

「こんにちは」

 

その日は。

僕の大好きなひとが家にやって来ました。

"シラミネさん"。

やさしい男の人で僕が駆け寄るといつも抱き上げてくれます。

僕が大好きな、少しヒゲでジョリジョリする頬擦りだって、いっぱいしてくれるのです!

 

「ふわぁ……今日も可愛いね!」

 

そして今みたいにぎゅっと抱きしめてくれるんです。

だから僕も負けじと顔を押し付けてみたりします。

そうするとまた強く抱きしめ返してもらえてとても嬉しい気持ちになります。

 

「おや、…キミか」

「あぁ、ご無沙汰してます──バックさん」

「おじいちゃん」

 

そうしていると、おじいちゃん-名前は『ホワイトバック』と言います-が、ゆっくりとした足取りでこちらに向かってきていました。

 

「最近よく来るネ?」

「えぇまぁ……」

「何か用でもあるの?」

「いえ、そういうわけでは……ただ近くまで来たものですから挨拶だけでもと思いまして」

「ふぅん、相変わらず律儀なヤツ」

「ははは」

「ほら、チビ。おじーちゃんの腕においで?」

「…ゃ、」

 

おじいちゃんならいつだって抱っこしてもらえますが、シラミネさんに抱っこしてもらえるのはほんとうにほんとうに幸せな時間です。

それに今は二人だけの時間を邪魔されたくないという想いもありました。

 

「あらら、嫌われちゃったカナ?」

「…………」

「大丈夫ですよ、僕が帰ればいつもと同じようになります」

「だと良いんだケドねェ」

 

 

ひどく絶望した目をした、"白峰(しらみね)"という男を連れ帰ってきたのはホワイトバックであった。

自らと、または自らの家族と同志たりえるだろう男を連れ帰らない手はないだろう。

しかし、それがまさかこんなことになるとは……。

 

「なんとも嘆かわしいことだヨ」

「申し訳ありません」

「謝ることじゃないサ、お前はよくやったよ」

「ありがとうございます」

「でもこれで終わりだなんて思わないデネ?」

「はい、分かってますよ」

 

トレセン学園にてトレーナーとして働いている白峰には極々時たま"あるウマ"についての探りが入ることがあった。

しかもそれはレースの世界のみならず世間一般でも権力がある家からのもので、下手に逆らえば自分の首どころか親族の身柄すら危うくなる可能性も…だったのだが。

 

「あいっっっかわらず、飽きないよねェ…」

「そうですね…」

 

はやく、諦めればいいのに。

どちらともなく呟いた言葉の意味を知るものは誰も…。





"シラミネさん":
僕がとっても懐いているヒトミミ。
中央トレセン学園でトレーナーをしている。
僕の祖父であるホワイトバックとは当バ比で結構仲がいい(好感度は暖色)。
ちな時折、名家方面の方々から名も顔も知らぬ"あるウマ"のことで圧をかけられているようだが毎回知らぬ存ぜぬで通しているらしい。
…穏やかでお人好しそうな容貌とは裏腹に腹芸が上手そう(小並感)。

僕の祖父:
ホワイトバック。
危なくて、でもかっこよいおじいちゃん。
何でもは知らないけど知ってることは裏の裏から表の表まで知っている。
基本は家族に近づく誰も彼もを無条件に追い払うが、自分が拾ってきた"シラミネさん"だけは家族ぐるみで可愛がっているとか。
え?何で可愛がってるかって?そりゃあ…。

───"あの子"の、大切なヒトだから…ネ?


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夜半に睡


知らぬ間に距離詰められてそう…。



シルバーバレットはめっぽう酔いやすい。

この事実も今では誰もが知っていることではあるが、シルバーバレットが飲める年齢となった当初はそれはそれは…。

 

「そう言えばもう大丈夫なんだっけ?」

「うん」

「そっか!なら試しにコレとかどう?すっごい弱いヤツだし」

「そうなんだ」

 

先に誕生日であった友人のミスターシービーに勧められて、食材の買い出しついでに買ったお酒をさっそくその日の食卓にて飲んだのだが。

 

「…シルバー?」

「ふにゃ、」

「…………」

 

グラス四分の一で顔を真っ赤にして目をトロンとさせては横で飲んでいたミスターシービーに抱き着き…。

スリスリと擦り寄って、心臓の音が聞こえる位置に陣取るとスヨスヨと眠り始めたのだ。

まるで母の腕に抱かれた赤子のように。

警戒心のひと欠片もなく、安心しきった顔で眠って。

 

「わぁ…」

 

思わず顔を片手で覆って、深呼吸して深く息を吐くミスターシービー。

その耳や尻尾はへにょ…となり、頬には朱色が差している。

 

(…何だかな)

 

とはいえ。

それからというものの、ミスターシービーはシルバーバレットが泊まりに来るたびに何本かのお酒を買ってきて一緒に飲むようになった。

もちろん度の強いものは与えなかったのだが、何度様子を見てもシルバーバレットが一缶丸々飲みきったことはなく。

大概が缶の四分の一程度飲んではスヨスヨと眠って。

そんな時はベッドまで運んであげていた。

そして、今日もまた。

 

「スヤスヤだねぇ…」

 

自身に抱きつき、鼓動の音を聞いて眠る友人にミスターシービーは目を細める。

もう慣れたものだ。

最初は驚いたものだが、今となってはこの光景にもすっかり見慣れてしまった。

いつも通り抱き寄せ、そばに用意していた毛布をかけて。

するとすぐに寝言なのか、むにゅむにゅ言いながら服を掴む手に力がこもり、より密着してくる。

 

「んー……」

「よしよーし……」

 

頭を撫でると気持ち良さげな声を出すシルバーバレットだが、起きる気配はない。

そのまましばらく撫でていると、やがて規則正しい寝息を立てて再び夢の中へと戻っていった。

それを確認してから、ミスターシービーはまたテーブルの上に残るグラスに口をつけるのだった。

 

 

「…ごめんね、また」

「いや、いいよいいよ」

 

寝起きスッキリで朝から見慣れたエプロンを着けて朝食を作るシルバーバレットの背に垂れ掛かりながらミスターシービーは味見の卵焼きをもらう。

ちなみに今日の朝食は白米・味噌汁・焼き鮭・ほうれん草の御浸しといった純和風である。

 

「美味しい」

「ほんと?」

「うん」

「良かった!」

 

嬉しげに笑う友人につられて笑みを浮かべるミスターシービー。

 

(…あぁ、幸せ……)





僕:
シルバーバレット。
お酒に弱いタイプ。
でも悪酔いはせずにスッキリしてる。
人にご飯を美味しいと言ってもらえるのが嬉しい。

CB:
ミスターシービー。
僕が家に泊まる日は、いつも酔って寝る僕の枕になりながら夜を過ごしている。
でも複数人で飲む場合には炭酸ジュースやらお茶を僕に与える一面も…?


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こどもの日


こどもの日だけど、その要素は希薄。



こどもの日という奴である。

まぁちょっと前のひな祭りも盛大にやったワケではあるが。

…思えばあの雛人形デカいよなぁ。

どっかの大きな家とかでしか見ないような何段もある立派なもので。

いくら僕に子どもができたからというだけで贈られていいものではないと今でも思う。

そんなことを考えながら、僕は今年もまたご贔屓の店に柏餅とちまきを取りに行っていた。

子どもが食べる分が大半だといってもこれが中々に大変で。

 

「あー……やっぱりこの時期は混むんだよねぇ」

 

それに毎年のこととはいえ、やはりこの人の多さには辟易する。

それでもなんとか無事注文を済ませて帰路につく。

そして、もうすぐ家に辿り着くといったところで──。

 

「父さん?」

「あれ、ハイセイコ?」

 

子どものひとりであるシロガネハイセイコに出会った。

…あ、そう言えば「出掛ける」って言わずに出てきてたんだっけ?

 

「どうしたんですか、こんな朝早くから……」

「ん~、今日は子どもの日だからね。お祝い用のお菓子を取りに行ってきたところだよ」

「へぇ…。あ、袋持ちますね」

「ありがと」

 

ふたり並んで歩く帰り道。

ふと見上げる空はとても青く澄んでいて、雲ひとつなくどこまでも…。

 

「気持ちの良い天気ですね」

「そうだね。絶好のお出かけ日よりかな」

「……でも、どこに行くにも混みそうな気がしますけど」

「ははは」

 

そうだったそうだった。

ハイセイコとかが小さかったころはよく色々な場所に連れて行ってたなぁ。

遊園地や動物園なんかは特に喜んでくれたし。

最近はそういう機会も少なくなっていたけれど、こうしてまた連れ出してみるというのも悪くはないかもしれない。

 

「さて、じゃあそろそろ帰ろうか」

「はい!」

 

 

幼いころのこの時期の思い出としてはいつも忙しい父が遊びに連れていってくれたことであろう。

子どもであった自分たちが起きている時間にはなかなか帰って来れない父がその時期だけは一緒に居てくれたことが嬉しくて仕方なかったのだ。

そして、それは今も変わらず。

 

「ただいま戻りましたー」

「おかえりなさい、父さん!」

「うわっとと」

 

飛びつくと父さんの後ろに控えていたハイセイコにやんややんやと言われるが無視だ無視!

いいだろ、ハイセイコはいつも父さんと一緒にいるんだから!!

たまには家でお利口に待ってる自分たちに譲ってくれてもさぁ!

 

「こら。父さんが困っているでしょう?」

「え~別に大丈夫だよね、父さん!!」

「うん、まぁこれくらいなら全然平気だけど……。うん、今日もいい子にしてたみたいだね」

「うん!」





僕:
シルバーバレット。
たくさんの子どものパパ。
行事には敏感なので行事が近くなるとソワソワし始める。
実は子どもがある程度の年齢になると「あの子ならもう大丈夫だよね!」と思うタイプ。
…それまでベタベタゲロ甘に甘やかされてた子どもたちの心情は如何に!?
まぁたくさん子どもがいるんでね…仕方ないのは仕方ないんだよなぁ。

子ども:
パパ好き!
パパに可愛がってもらおうとしては、きょうだい間で押し合い圧し合い。
なので補佐としていつも僕のそばにいるシロガネハイセイコにジェラ…っとしてるとかどうとか。


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善意からの教示


銀弾の「臆せば死ぬぞ」のコ〜ナ〜!(笑)



シルバーバレットは自身の最後の"きょうだい"となったサンデースクラッパをこれ以上なく可愛がっていた。

いや、それ以前にも"きょうだい"がいたにはいたのだがその殆どが可愛い盛りの時にシルバーバレットは基本トレセン学園にいて家にいなかったので、久方ぶりに可愛がれる"きょうだい"に大層ご満悦だったのだ。

なので。

 

「おにーちゃん、はしりかたおしえて!」

 

そう言われた時、シルバーバレットは考えた。

きっとこの子はいつかトレセン学園に入学するだろう。

そして勝ったり負けたりするだろう。

それはまぁヨシとして…。

 

(この子の泣く姿は、見たくないなぁ)

 

なんて。

考えたやさしい"きょうだい"は。

 

「ね、スーちゃん」

「……おにいちゃ、ひうっ!?」

「10秒数えるから」

 

─── 逃げなさい、ネ?

 

 

サンデースクラッパにとってのシルバーバレットはやさしい"きょうだい"であると同時にとても()()存在であった。

 

「キミは、いつから自分が喰われない側だと錯覚していたノ?」

 

シルバーバレットからしてみれば『鬼ごっこ』。

だがサンデースクラッパからしてみれば…………それはただの『狩り』であった。

 

「ひっ……」

「ほら早く逃げないとボクに追いつかれてしまうヨ?」

 

10秒数えたら、と言ったはずなのに、既にシルバーバレットはサンデースクラッパのすぐ後ろまで迫っている。

それでも必死に逃げて距離を取ると、同じように距離を詰めてくる。

 

「あハ!いいねぇ楽しいナァ!!」

 

がしかし。

手を伸ばせば捕まえられる距離にいるというのに、手が伸ばされることはなく。

逆に、弄ぶように1バ身後ろに。

 

「恐怖は、覚えておいた方がいい」

「『窮鼠猫を噛む』って、言うダロ?」

「何においても、弱いヤツが一番怖いンだ」

 

だから。

 

「慢心しないように、喰われる怖さを知っておこうネ(笑)」

 

そんなことを言われながら追いかけ回されたサンデースクラッパは、結局捕まって泣き出してしまい。

 

「や〜、鬼ごっこ楽しかったねぇ!スーちゃん」

「……」

「スーちゃん?」

「ごぼっ、」

「スーちゃん!?!?!?」

 

泣きすぎて、ゲボ吐いた。

漏らさなかっただけ偉いと褒めてもらいたいくらいにはそれまでに感じた恐怖が度を過ぎており。

もはや『死神』に追われているといっても過言ではないような気分になること請け合いだった始末である。

……なおその後、その日を境にサンデースクラッパはシルバーバレットのことを本気で避けるようになり、また避けられていることに気付いたシルバーバレットはショックで寝込んだとかなんとか。

そうして両親や親友に相談した結果、ガチ泣きするほどシルバーバレットが怒られることになるのは…また別の話である。





僕:
シルバーバレット。
完全なる善意でやらかしたコーナー。
テンションが上がったら祖父に似た喋り方になる。
【戦う者】が負けて、それで泣くのは嫌だな〜と遊び形式で走り方を仕込んだが仕込み方が仕込み方過ぎて周りにしこたま怒られた。
たぶん怒られなかったら我が子にも同じことをしている。

【戦う者】:
サンデースクラッパ。
かわいそぉ…(小並感)。
まだまだ純粋なのに特大の恐怖を叩き込まれたすがた。
なのでこの歳から慢心せず、逆に相手がどれほど格下でも警戒するようになる。
なおこの初回の後も出力を落とした「臆せば死ぬぞ」のコ〜ナ〜!が行われるので…ウン。
でも後年運命の出逢いをした【栄光を往く者】に『いつからテメェは喰う側だと?』とサツ意じみた圧ばらまいては差し返しに行く未来がある。
似た者きょうだい〜!(キャッキャッ)

僕の知り合い組:
このコーナーのことを知ったらワクテカする。
またある意味>>本気<<の僕と走れていーなー!とまだ年端もいかない子ども(【戦う者】)にジェラ…っとしていたりも?


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目に映しては夢想して


今日も今日とてぐちゃぐちゃ。
孫に自分たちの"もしも"を重ね合わせてんだ。



「いいなァ…」

 

ボソリと低く呟いた嫉妬の言葉に、隣に座るキミが強く僕の手を握る。

目線の先には楽しげに観客に手を振るお互いの孫。

かつての自分たちもあんなだっただろうか、と思考しても答えはもうない。

あるのはたらればに似たどうしようもない不可逆のみだ。

 

「ネ」

「…うん」

「僕がサ、初めっからリミッターをぶっ壊せる存在だったら、ああなれたカナ?」

「……」

 

羨ましい。

羨ましい羨ましい羨ましい羨ましい羨ましい羨ましい羨ましい羨ましい羨ましい…。

 

妬 ま し い 。

 

僕だって!

あんな風にキミと切磋琢磨したかった!

勝ったり負けたりして!

同じ時間を過ごしたかった!!

あの子のように心の底からキミの隣で笑いたかった!!!

 

「…………ごめんネ、ワガママ言ってるのは分かってるヨ?でもさぁ、どうしても」

「……」

「もし僕が強かったなら、もっと早くあのチカラに近づけていればって……そしたら一緒に戦えてたのかなって思っちゃうんダ……」

「……そうだね」

「それに、もしもの話だけどさァ、そうやってたら僕らの関係も変わってたカナ?」

 

僕が戦いたかったキミは、もういない。挑めない。

たとえ挑んだって、自分自身に満足できない。

全盛期なんて遠に過ぎた体。

純粋な気持ちなんて忘れてしまったココロ。

ふたりで何も考えず、楽しく走れていたのはいつまでのことだったろう。

……いや、違うか。

()()()()()()()、楽しかったんだ。

 

『あ、じいちゃん!』

『あ、マジだ』

 

そんな思考をしていると目敏く僕らを見つけたらしい孫たちが駆け寄って。

『どうだった?』とか、『次は俺が勝つから』なんて口々に言う彼らを見ていると思わず唇を噛んでしまった。

プツリ、とした感触と途端に広がっていく味。

それに気がついたのはもちろん隣にいるキミで。

 

『え?あぁ、ありがと爺さん。おら行くぞ』

『うえっ!?もうちょっと話した…待って!耳引っ張んなよ!!』

 

孫たちがウイニングライブの準備だと去っていく。

それを見る暇もなく、支えられては車に押し込められて帰ることに。

 

「…んーん。あの子のレース見れたの嬉しかったから、ダイジョーブだよ」

「キミがこうやって誘ってくれただけで…」

 

綺麗だったころの僕はいつしか消えてしまって。

ドブみたいな色に染まったカイブツしか残らなかったの。

キミに、【英雄】に倒してもらいたかったカイブツしか…、ネェ?

 

「僕さ」

「うん」

「キミになら、」

 

█されても、よかったよ。

そんな言葉をひとつ、自嘲しては呑み込んだ。





【銀の祈り】:
シルバープレアー。
ちょっとこじらせすぎて一族の因子が漏れ出ている。
またの名を感情の重さをどうにも出来なくてヒビが入っている…みたいな?
まぁ互いに隠すのが上手かったからねぇ…。
隠せなくなったらもう、ねぇ…?

【英雄】:
色々と漏れ出ている【銀の祈り】を見ては「なんで気づかなかったんだろう」と後悔。そういうところが【英雄】だね。
でも【銀の祈り】の狂気とも呼べる自分への執着に嬉しく思ってしまうのもまた事実。
けどもっとはやく話し合うなり何なりが出来ていたら…なんて。


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何年経っても焼き付いて


気がついたら300話です、しゃいっ☆



「なぁ、84年の毎日王冠の勝ちウマって何だったけ?」

 

突然友人から問われたことに僕は首を傾げる。

 

「…84年って、ずいぶん前だなぁ。僕らが生まれるよりずっとずっと前じゃ」

「……そうか」

「…カツラギ?」

「いや、いいよ。気にしないでくれ」

 

84年は1984年のことだろう、たぶん。

だがそれにしても何故1984年(ソコ)なのか。

だって今は2()0()×()×()年なのだ。

僕らがまだこの世に生まれてもない、いうならギリギリ親が子どもだった時?ぐらいの時期の話をされてもサッパリである。

ましてはG1レースの勝ちウマでもなければテストに出てこないのだし。

そんなことを思いながら僕はいつものように快活に笑うカツラギエースと歩く。

 

カツラギエースは素敵なウマ娘だ。

優しくて明るくて、よくひとりでいる僕を人の輪に引っ張っていってくれるウマ。

僕みたいな冴えないウマに気さくに声をかけてくれるし、こうして一緒にお出かけしてくれるような優しい子でもある。

だけどひとつだけ不思議なことがあるんだよね……。

それは───、

 

 

「シルバーバレット!」

「えっ、あの…?」

 

入学式よりもずっと前。

入試の実技テストのために服を着替えていた折、痛いくらいに手首を掴まれた。

もちろんその相手はカツラギエースである。

がその時点での僕たちはハジメマシテも何もしていない。

ただ同じ時に受験した…というだけの関係であったはずだ。

それなのに彼女は僕の手を掴み、そのまま話を続けるではないか。

当然僕は慌てるしかないわけで。

しかし彼女は一切こちらを見ずにズンズン話を進めていくものだから、結局僕は彼女に言われるがままになってしまった。

 

()()()は負けちまったけど今度こそは負けやしねぇ。あたしはカツラギエース。ウマ娘たちのエースになる、カツラギエースだ!」

「は、はぁ…」

 

そして何が何だかわからないまま試験をこなし、結果発表があり、数奇な縁もあり彼女と同じクラスになった。

……どうしてこうなったのか未だにわからない。

そもそもなんでこんなにも好かれているかも謎である。

常識的に考えて僕なんかよりもっと魅力的な子はたくさん居るはずなんだけれどね……。

 

「…ホント、何でだろ」

 

 

あの日見た背が、焼き付いて離れない。

出走バの中でいちばん小さな背が、まるで「着いてこい」とでもいうように駆けていく。

誰よりも脚を回しているのに、決して他の誰にも抜かれることは無い。

まさしく王者(エース)の風格を見せつける走り方であり、その姿を見た瞬間に心を奪われたのだ。

 

「……カツラギ?」

 

それ以来ずっと、その背が頭から離れない。

授業中もトレーニング中も、ましてや───生まれ変わっても。

 

「……。いんや、何でもないぜ!」

「…そう?」





【三冠バキラー】:
カツラギエース。
史実では84年毎日王冠で僕とたった一度の対戦をした。
そして魅せられた。───それは、生まれ変わ(ウマ娘にな)っても焼き付くほどに。
普段は快活でカラッとしているがその実は…な模様。
それはそれとして、僕からの好感度は高めだったりする。
まぁ、激重感情ゆえに激詰してくるCB&皇帝と違って(表面上は)普通に接してくれるからね。役得役得。

僕:
シルバーバレット。今日も何も知らない。
クラスメイトである【三冠バキラー】と仲良くしているが、彼女からたびたび問われる質問にはいつも「?」状態。今は20××年なんだけどなぁ…。
CB&皇帝から向けられるあれやこれやを本能で察知して回避しているがある程度のパーセンテージに達しないと反応しないポンコツ危機察知能力なので…(ニッコリ)。これからも頑張って回避して♡(うちわフリフリ)


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狼煙


完全なる趣味。
みんなが牽制しあうから平和だったんだよなァ。
漁夫の利…とも呼べないし出し抜いた…とも呼べない一幕。



シルバーバレットは鈍感だ。

だけれども、変なところで勘がいい。

言うなれば『第六感』的なモノが。

それまでは直ぐに騙せる甘っちょろいヤツだと内心ほくそ笑んでいたところでまるで天が味方したかのように壊される計画…。

それが引き続きに引き続き、歯噛みしているウマを何度見たことだろう。

 

「カツラギ?」

 

そんなことを考えながら自分に声をかけるシルバーバレットに応対する。

ぼんやりとしながらも、こちらへの信頼を向けてくる目。

その目にどれだけの数が狂わされているのか、とんと見当がつかない。

 

「え?えっとねぇ…ミスターはいつも通りどこかに行ってるよ。で、ルドルフは生徒会の仕事が忙しいんだって」

 

にこり、と笑う顔は翳りなど何ひとつない。

顔の約半分を黒い眼帯で覆われた顔立ちでも分かるほどに無垢だった。

 

「そうか…」

 

目の前の存在が自分以外の名を呼ぶだけで、自分の中にドス黒くてドロリとした感情が生まれていくのを感じる。

たしかにお前はあのふたりに大事にされちゃあいる。

けど自分も、と。

 

「カツラギ?」

 

自分のことを、一ミリたりとも警戒していない眼差しに、ひくりと喉が引き攣った。

見える喉は早朝の雪景色のように疵などない。

華奢な体に見合った、その細い喉に。

己は…。

 

 

久しぶりにひとりの放課後を楽しんでいるとクラスメイトのカツラギ-カツラギエースに出会った。

それでいつものふたりはどうしたのかと聞かれたので探しているのだろうか?と思い、教えれば。

 

「い゛っ!?」

 

ガツンと頭が壁に当たり脳が揺れる。

壁に押さえつけられたのだと理解したころには、今度はまた別種の痛みが脳を支配して。

 

「な゛ッ!?ひぎ…っ、う、あ゛、ぁ……!?」

 

がぶりと。

無防備な喉に噛み付かれた。

それも甘噛みではなく、明らかに噛み破られて、血が出ているという勢いで。

 

「……ッ!」

 

獣のような荒々しい息遣いが自分の首筋から聞こえてきてゾワリとする。

 

「やめろ!!」

 

咄嵯に出た言葉と共に思い切り振り上げた拳が相手の顎に当たったらしく、一瞬だけ拘束されていた体が自由になった途端に床にへたり込む。

押さえた首筋からはドクリドクリと脈打つ音がして、指先に触れる生暖かい液体も感じられた。

 

(い、いったいぜんたい……?)

 

自分が知る限り、カツラギにはこんな暴力的な面はなかったはずだし、そもそもここまでの暴力を振るわれるほど何かしたワケではないはず…。

何がどうしてこうなったのか、分からないまま呆然としていると。

 

「なァ、シルバー」

 

床にへたり込む自分と視線を合わせるように。

にこりと、薄ら寒く笑んだカツラギが。

 

───アイツらだけじゃなくて、コッチも見ろよ。

 

そう言って、今度はまた逆側の首筋に牙を立てた。





【三冠バキラー】:
カツラギエース。
こっちを見ろの気持ちが爆発して皮が剥がれたすがた。
またの名を実力行使ともいう。
自分に多少なりとも怯える僕を見ても最早申し訳ない気持ちなどない。
逆に「アイツらはコイツのこんな顔知らないんだろうなぁ…」という優越感。
たぶんきっとメイビーで今回こうなってしまったが故にこの軸では僕の取り合いが過激化するんだよね…(白目)。
あの鈍感の僕も流石に分かってしまうくらいに…ウン。

僕:
シルバーバレット。
実質刃傷沙汰(物理)?
まさかのノーマークから与えられた口撃に目を白黒。
それで次の日、怪我を処置して登校したら周りに問い詰められるわ、でも本当のことは言えないわでしどろもどろ→みんなハイライトオフ&開戦に。
ちな開戦の狼煙をあげた当人の【三冠バキラー】は騒いでいる周りを見てニッコリしているものとする。


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ある夢の…


私(またの名を銀弾♀)√にて、あるウマとの夢の配合が成された話。



ある由縁で、そのウマに恩があった僕は初対面の時にいきなり礼を述べた。

述べられた本人の方にしては困惑するしかなかったようだが。

 

「あぁ…厳しかったんじゃない、あの先生は」

「はい、とても」

 

誰もが匙を投げた脚を、先生だけが諦めなかった。

だから今があるのだと、そう思うと感謝しかない。

 

「……先生は、あなたに夢を見たと言っていました」

「そう」

 

思い返す。

『お前を救わねぇと、俺はアイツに顔向け出来ねぇ』と苦い煙草の煙を燻らせながら深く息をついた先生のことを。

 

『俺は、アイツに"奇跡"を見た』

『はじめは土下座してまで頼まれたからやるだけやっただけだった』

『どうせ、無理だと思っていた。やるだけやったんだからって、自己防衛にまで走ってた』

『するとさ、どうだよアイツ。…ああなったのがまるでウソみたいに!』

 

そう語る先生の目には。

 

「あの…?」

「は、はいっ!」

 

頭を振って先程までの思考を追い出す。

そうだ。

そうだ、今は。

 

「まさかこんなおばさんのところに貴方みたいな若い人が来るなんて」

「え、あ、いや…」

 

クスクスと笑う姿に思わずドキリとする。

 

「まぁ、でも、貴方なら大丈夫ね。きっと」

「何がですか?」

「だって貴方、いい目をしているもの」

 

そんなことを言われたのは初めてだった。

 

「では、また縁があったら逢いましょう。ね?」

 

───【異次元の逃亡者】さん。

 

 

俺が見た"奇跡"がターフを去ってから早何年も。

自身の患者だから、と理由をつけて見たのがはじまりだったのに気づけばその軌跡に魅せられて。

 

これは、どこまで行ってしまうのかと。

コイツは俺が治した脚で何を見るのかと。

ただただ、興味を持った。

その結果が、現状だ。

 

「お久しぶりです、先生」

 

そんな物思いに耽っているとかけられた涼やかな声に顔を向ける。

するとそこにはかつて面倒を見たウマと、

 

「とーしゃん、このひとだぁれ?」

 

それによく似た子ウマ(ガキ)がいた。

 

「よう、坊主」

「はい。先生もお元気そうで」

「ねーえ、とーしゃんー!」

「うん、ちょっと大人しくしててね」

 

親子共によく似ている。

本当に、瓜二つだ。

だが、ひとつ違うところを挙げるとすればそれは目だろうか。

坊主の方は相変わらず真っ直ぐではあれど、どこか俺たちとは違う視座を持っているのようなうそ寒い眼をしていて。

それに比べて子ウマの方はまだ幼く無邪気に溢れているが、それでもその奥底にある何かを感じさせるような灰銀の眼を…。

 

(……)

 

ふと。

その灰銀の眼に見覚えを感じた。

それは───。

 

「…なァ、」

「はい」

「ソイツ、名は?」

「あぁ…。ね、挨拶できるかな?」

「ん〜?うん、できるよ!とっぷおぶすずか!」

 

元気よく自分の名を名乗った子ウマは続けて己が父と母の名を告げる。

その、あまりにも聞き覚えのある名前に俺は───。

 

「…なんだ」

「はい」

「世界でも、蹂躙するつもりか?」

「そうなるかも…ですね」





お医者さん:
どこにでもいるお医者さん。
ある時、自らが施した処置ののち"奇跡"を起こしたウマに魅せられてはその世界で知らぬものはないと言われるほどの名医となった。
【異次元の逃亡者】にかつて見た"奇跡"の姿を重ねていたりも…?

【異次元の逃亡者】:
どこにでもいる栗毛のウマ。
お医者さんに助けられてはキッツイ=リハビリを経てターフへと舞い戻った。
リハビリ中に寝物語並に聞かされたお医者さんからの"奇跡"トークの末、リハビリ完治後より件の"奇跡"の元へ足繁く通う(会いに行く)ように…。
そうして交友を深めた結果、子である【Top of Fast】が生まれたらしい。

【Top of Fast】:
トップオブスズカ。
【異次元の逃亡者】と【最速の蹂躙者】との間に生まれた牡馬。

適性は芝AダA.短EマA中A長A.逃A先G差G追G。
成長率は速10%賢20%。

もちのろんで生まれながらの逃げ馬であり、生まれたよ!と報が入った瞬間より鞍上をでした。さんと白峰おじさんに取り合われた系ウッマ。
どちらが主戦騎手の権利を勝ち取ったとて、調子落としたら…みたいな睨み合いをしては絶対譲らない!してる(確信)。

なお戦法はお分かりの通りの大逃げで、二番手以下はもう脳を焼かれるしかない性能をしている。いや観客の方も脳を焼かれているんですが。
取り敢えず秋天とJCは確実に獲るんじゃろなぁ…という感慨。

性格面では懐いた相手にはとことん懐くが、興味のない相手にはとことん靡かない。
また人の言うことをよく聞き、調教も申し分ないが調教後も走りたがるのがたまにキズとか…?


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星が、墜ちるまで


キラキラ光る、おそらの星よ。



「火に魅せられる子どもと、水に魅せられる子どもは」

 

どっちが、危険なんだろうね。

ありふれた日常会話の、ちょっと逸れた雑談。

その中でそのウマはニコリと笑って、そう問うた。

 

 

キラキラ星の、音色が響く。

星は、いつか死ぬという。

とはいえ、生物的な死ではなく光れなくなったのを便宜上死としているだけの話らしいが。

ともかく。

星は、いつか死ぬのだ。

 

星は、遠い。

空に瞬いていて、近くにあるように見えても、その実は遠い。

そりゃあ月や太陽の距離すら調べると気が遠くなるほどのキロメートルだから当然といえばそうなのだが……。

とにかく、だ。

星は、いつだって遠い。

それは、変わらない事実で。

そして、だからこそ、なのだろう。

星に憧れる者は後を絶たない。

 

例えば、宇宙飛行士のように。

または天文学者のように。

はたまた、はじめて満点の星を見た幼子のように。

彼らは皆一様にして、星々へ手を伸ばす。

まるでそれが当たり前かのように。

あたかもそれが必然であるかのように。

手を伸ばさずにはいられないほどに……星は美しいから。

 

だが。

だがしかし。

星の熱量というものは、凄まじい。

星が光らなくなるのが死というのなら、星が光るのは燃えているからなのだ。

故に迂闊に手を伸ばせば、伸ばした側のこちらが燃え尽きるのは必至。

けれど。

 

『こっちを見ろ!』

 

いつものように、星に手を伸ばしていたところで無粋に鼓膜を刺した雑音。

ふらり、と視線を音のした方に向ければ、そこには見たことがあるような、ないような…。

『なにか』を必死に言い募っているようだが聞こえるのはまるで水の中に浸かった時と似た、ぼやけた音だけ。

何を言っているのか分からないし、そもそも興味もない。

ただ、ひとつ言えることは。

 

(うるさい)

 

それだけだった。

それだけを思って、また視線を宙に向け直す。

 

"Twinkle twinkle little star."

 

…嗚呼、我らが小さき星よ。

小さくも、煌々と輝き、我らを導く星よ。

導きながら、ともすれば我らを焼き尽くしかねん星よ。

どうかこの矮小な存在を許し給え。

願わくば、この身が灼け、灰になるその時まで跡を追うのをお赦しください。

そんな思いを込めて、そっと手を夜空へと向ける。

 

瞬きすれば、今にも消えてしまいそう。

ずっと、夜のままであればいいのに。

自分の手を引く誰か(たいよう)なぞ、何処ぞに消えてしまえばいいのに。

そう願いながらも、自分はただ静かに目を閉じた。

でも。

 

(ほしは、ふれられないから、こそ…)





少しでも()があるのなら、それは消えないのだ。

消えないままに、延焼(炎上)するのだ。


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星が堕ちた日


誰かに堕ちてしまった銀弾の話。
一族らしくまっしぐらなんだ。



ウチの家系は惚れたら一直線だ、ということを聞いて知ってはいたが百聞は一見にしかず、というのはこういうことを言うのだろうと思う。

 

はじめは、気のせいだと思った。

己と相手はただの友人だから、友情が行き過ぎて()()なっているだけだと。

けれど、違うのだ。

これは、そういうものじゃない。

 

「……なあ」

「ん?」

「僕のこと好きか?」

「うん」

 

即答だった。

少しも迷うことなく、あっさりとした返事に思わず言葉を失う。

 

「好きだよ」

 

唇がムズムズと居心地悪く戦慄く。

言質を取った!と悦ぶココロと騙してるだけだと否定する理性。

だが言葉にされてしまったからには、石が坂を転げ落ちるようにしかならなくて。

 

"好ましい相手ができたら手料理を振舞ってやりなさい"

"好ましい相手ができたら言葉を尽くしなさい"

"好ましい相手ができたら"

"好ましい相手ができたら"

"好ましい相手ができたら"

"好ましい相手ができたら"……。

 

幼い頃から言い含められてきたことすべてが好ましい相手を逃がさないと宣う檻になる。

理性は『やめろ』と叫ぶのに、本能はそれに逆らい続ける。

だって、こんなにも愛おしい。

この気持ちを抑え込むなんて無理だ。

そんなことをしたら死んでしまう。

 

「僕もキミのことが好きだよ」

 

そう言うと相手は嬉しそうに笑い。

その笑顔を見ては、ああもう後戻り出来ないと絶望した。

 

 

はじめ。

その"熱"を見た時は、勘違いじゃないかと思った。

誰にもツレないキミが自分だけに見せる顔。

焦っているかのような、または愛おしくてたまらないとでもいうかのような。

他の誰も知らない表情を見るたびに、優越感で心を満たしていた。

 

(…………)

 

それが何なのか、薄々勘づいていながら見て見ぬふりをしていたんだろう。

キミの特別になれているような気がして、それを壊す勇気がなかった。

…けど、違った。

 

「好きだよ」

 

その、たった4文字で。

歓喜に咽び泣くようにぐるりと変わった目の前の瞳にようやっと悟ったのだ。

『あ、本気でキミは自分のことが好きなんだ』と。

いつかのような戯れでなく、誤魔化しもなく。

気が狂いそうなほどの熱量で、自身を好いてくれているのだと。

分かって、しまったから。

 

自分を突き落とそうとするキミの手に逆らわず、堕ちるところまで堕ちて。

もうキミ無しでは生きていけないくらいに溺れてしまった。

きっと、キミも同じなんだろう?

でなければ、あんな目はできないはずだ。

だからどうか、ずっと一緒に。

 

───一生、一緒に…ね?





僕:
シルバーバレット。
友人と思っていた誰かに堕ちた。
理性では狂気(恋心)を抑えようとしているが無理なものは無理なのだ。
だって一族因子がその狂気(恋心)にブーストをかけるからネ!
でも銀弾本人は狂気(恋心)に侵されながらも正気だから自分の狂気(恋心)に応えてくれた相手に対して吐きそうなくらいの罪悪感持ってそう。
っぱクソボケですわよ。

誰か:
ずっとずっとずーっと僕に執着していた。
はじめは僕の想いを戯れだと思っていたが本気だと分かった瞬間から僕の狂気(恋心)に身を任せるように。
それはそれとして僕が狂気(恋心)に徐々に侵されていっているのを知っているが止めるつもりはまったくない。
逆に狂気(恋心)に堕ちてくれてよかったな、と思っている。


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こんなの"アナタ"じゃない


罪深ェ〜…!



好きだからこそ認められないことって、あるのかもしれないとぼんやりと思考する。

それは『好き』な時間が長ければ長いほどひどくなるんだろうな、とも。

 

『どうして、どうして、どうして!"あの頃"のあなたは人の輪に入るウマじゃなかったのに!!』

 

初対面の子にいきなり胸倉を掴まれたと思えば言われた言葉。

"あの頃"っていつだよ、と脳みその隅で突っ込みを入れながら僕はただ黙っていた。

僕が何か言う前に、その子が矢継ぎ早にキレ散らかしてくるものだからどうにも出来ず。

『時間、大丈夫かな…』と現実逃避気味なことを考えていたら、その子のトレーナーさん?が止めに入ってくれたのだけれど……。

 

「びっくり、した」

 

身長差的に軽く吊り上げられる形になっていたから軽く首絞まってたんだよね。

それに制服がこんなにシワになるくらいの力で掴まれてたからなぁ…。

 

「痕、ならなけりゃあいいけど」

 

 

「ねぇ、シルバー」

「ん〜?」

「これ、どうしたの」

「え?」

「…おや、これはこれは」

 

くん、とミスターシービーの指がシルバーバレットの制服の首元に引っかかり。

そこから見えた首元には細いながらも痣があり、それを目敏く見つけたミスターシービーとちょうど傍にいたシンボリルドルフの視線が鋭くなる。

 

「……ちょっと詰め寄られた、だけ?」

「誰に?」

「さぁ……」

「嘘だね」

「嘘ですね」

「そんなわけないでしょ?」

「誤魔化すにしてももっと上手にやってください」

「…そんなこと言われても、本当に知らない子だったし」

 

痕になってたか、たはは…。

当の本人はそう軽く笑うがそれを見ているふたりの目は笑っていない。

むしろ据わっていると言ってもいいだろう。

 

「ふぅん……?」

「へぇ……?」

 

───────

─────

───

 

そのウマから見た"シルバーバレット"というウマは孤高であった。

はじめは、『見てもらいたい』と思ったがある日不意に気がついた。

 

───シルバーバレット(アレ)は、触れられないからこそ…。

 

それは信奉というのかもしれない。

または信奉とすり替えることで気が狂いそうなほどの熱情を抑えようとしたのかもしれない。

ただひとつ言えることは、そのウマはその感情を自覚しながらも昇華させることが出来なかったということだけだ。

しかしある日を境にそのウマの中で燻るモノに変化が訪れることになる。

きっかけは、些細なことだった。

 

いつものようにトレーニングをしようとした時のことだった。

たまたま通りかかった先で見たのだ。

それがきっかけだった。

 

(どうして、)

 

孤高だったはずのシルバーバレットが笑っている。

トレーナー相手ならまだ許せた。

でも、何故、どうして、どうして、どうして!?

 

「なんで…?」





僕:
シルバーバレット。
何か知らんが絡まれた。
本人的には何もしてないのに!って感じ。
ところどころで罪犯してそうだなコイツ…。

詰め寄った誰か:
魂に刻みつけられている。
僕に見て貰えなかった結果、そのぐちゃぐちゃなココロを信奉心に変えて守った。
でも今の僕が様々なウマと笑いあっている姿を見て…?
"あの頃"のお前は、そんなんじゃなかっただろ!!
たぶんこの誰か以外にもこういう厄介な奴がそこそこ…ハイ。


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絵描きの題材


『わぁ…、とっても上手!』
『お父さんに、素敵な絵をありがとうね』

【ある絵描きの原初】


この一族何かしらの才覚があったが最後、対価として何らかの大切な部分が持っていかれてそうだよな。
ほら原初からしてヒトノココロワカラナイしてるとこあるし()。



「絵のモデルになってくれませんか!?」

 

唐突にそう話しかけてきた存在は細身の歳若いウマだった。

また流暢とは言えないカタコトの喋りから別の土地から招集されたのだろうという予想もつき、こんな若人のお願いを断るのも可哀想だと仏心を出したが最後…。

 

「描けました!」

 

出来上がったのは目を見張るほどの絵。

言葉では言い表すことの出来ないチカラ…、言うなれば"魔力"に満ちた一枚がそこにはあった。

 

「モデルになってくれてありがとうございました!お代といってはなんですが…」

 

それから。

その歳若きウマに絵のモデルになった相手は成功するというジンクスがいつしか流れるようになり。

しかもその成功が思った以上の奇跡的な、いや、運命を()()()()()かのような大成功を収めるものであったため…。

そして今に至る。

 

『今日こそ"あの御方"に描いてもらうのだ!』

 

押しも押されぬ名画家となった件の若きウマの元には今日も今日とてモデル希望の者が訪れ。

だが愛しい我が子がスクスクと成長していっている毎日を何よりも楽しみにするようになった画家からしてみればそんなものは時間の無駄でしかなく。

 

『まぁ…機会がありましたら』

 

などと言って、今日ものらりくらりと誤魔化すのであった。

 

 

その家の子どもたちの遊びは画家である父の影響もあって、もっぱらお絵描きであった。

その中でもモチーフとして特に人気なのは父であるウマを描いた人物画だ。

 

「お父さんを描いていい?」

「うん、いいよ」

 

父の了承を得た子どもたちは嬉々として鉛筆なりクレヨンなりを走らせていくのだが。

 

「出来たー!!」

 

完成したそれは、どう贔屓目に見ても上手とは呼べないシロモノ。

けれど各々から完成品を差し出された父は笑顔を浮かべながら頭を撫でる。

それがとても誇らしくて嬉しいことで、子どもたちはこの瞬間が何より大好きなのだ。

だからもっと褒めてもらいたくて、もっともっと上達したくて練習に励む日々が続くことになる。

そんなある日のこと。

いつものように描いた絵を見てもらっていると、

 

「…あのね、みんな」

 

父が囁くように言葉を出す。

 

「みんながしたくないっていうのなら、お父さんはそれを尊重するのだけど」

『なぁに〜?』

「みんな、お外で走りたいとか…」

 

子どもたちは、知っていた。

自分たちの父が競技者としての才能を有していなかったことを。

世界的名バの直系だからという理由でこの土地に招集されたことを。

しかし。

 

「お父さん、僕らに…走って欲しいの?」

「…キミたちがそうしたいと望むなら」

「なら走るよ」

 

子どもたちは知っていた。

同年代の子ウマとは違い、絵ばかりを描いて毎日を過ごしている自分たち。

そんな自分たちを育てている父が周りからそれとなく陰口を言われていることを。

故に。

 

「僕らが父さんの自慢の子どもだって、証明してあげる」

「そう…、そっか。ならお父さん応援するね」





【世界を塗り替えた者】:
シロガネリペインタ。父シルバーバレット。
未勝利バながら引退後に世界的種牡バとなった孝行息子。

名は体を表すと言わんばかりに絵を描くことが得意で、彼の手によって描かれた絵は不思議な魅力に溢れているという。
そして彼の絵のモデルとなった人物は"運命を捻じ曲げた"と言われるほどの成功を収めるとされ、彼が画家として食っていけるようになった今でもモデルになりたい!とのオファーがあるとか。
けれど彼の一番の最優先は我が子たちであり、我が子たちが出来てからの彼はもっぱら自らの子をモデルとした絵を描いている。

また画家としては自身の琴線に触れたモノしか描かないタイプであり、この時点でもただの落書き程度の絵に値段が付けられて取り引きされるくらいの地位にいたりする。
…とはいえきっと彼が一番描くモチーフは自身の父なんだろうなぁ。

それはそれとしてコイツはコイツで被写体もしくは描かれた絵を通しての"作者"としてでしか相手のことを認識できない…みたいなデバフがありそう(父子並感)。
そうやって認識してるから相手がどれほどの画伯であってもバカにしないけど、一対一で顔を合わせると途端に相手が誰か分からなくなって、それでも絵無しで辛うじて分かる=(から)何とか相手を血縁と認識してるとか(その中でも一番強烈なのが実父なんだ。相変わらずの脳焼き…)。


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【帝王】と!


父親よりはまだマシだけどしっとりしてるっちゃしっとりしてるんだよね…。



「おっと…。前を見てなかった、すまないね」

 

ドン、とぶつかって倒れかけたところを何とか踏ん張る。

相手は…雰囲気的に中等部の子かな?

明るいムードメーカーとか、そういう感じ。

とはいえ。

 

「え、ええと、大丈夫?」

 

反応がないと心配になる。

どこか打ったり、脚を捻ったりしたのかなと不安になれば「しるばー、ばれっと?」と僕の名前が。

 

「あぁ、うん。シルバーバレットだけど……」

「……!」

 

途端にその子の顔が明るくなる。

何か良いことでもあったのかと思ったけど、その表情はすぐに曇ってしまった。

 

「どうしたんだい?」

「ううん、なんでもないよ!ごめんなさいっ!!」

「いやいや、待って待って。…よければお詫びに何か奢るよ」

 

 

そうして。

その子-トウカイテイオーの望み通りに『はちみー』という飲み物を奢った僕は同じようにちうちうとストローを吸っていた。

…すごく甘い。

正直なところ、この甘さには慣れることができなさそうだ。

 

「おいしいかい?」

「うん!ありがとうシルバー!」

 

屈託のない笑顔を見せてくれる。

なんだかこっちまで嬉しくなってきてしまうようなそんな笑みだ。

だが。

 

「さっきの」

「なぁに?」

「僕を見て、何か、亡霊でも見たような顔はなんだったんだい?」

 

気になったのだ。

あんな顔をされたら誰だって不思議に思うだろう。

僕の問いに対してトウカイテイオーは少しだけ言い淀んでから口を開いた。

 

「…ボクの尊敬する人がよくあなたの話をするから」

「へぇ、」

 

適当な相槌を打ちながら、他にもまだ理由があるんだろうなぁと察する。

でなけりゃ視線なんて逸らさないだろう?

がしかし。

 

(知りたがりは損するから)

 

黙しておく、ことにした。

 

 

その人のことはよく知らなかった。

何故ならいる世界が違ったから。

その人のことは尊敬する父から時折聞いていた。

父ではなくなった今も、時折聞く。

 

父よりも一歳年上で。

火事やら骨折やら屈腱炎やらで離脱しながらも結局は復帰して。

とんでもない功績を打ち立てては…。

 

今でも、覚えている。

きらびやかな表彰式の中で、受け取る者のいなかった栄光を。

誰もが羨む栄冠を、彼だけは受け取らなかったことを。

そして。

彼がもう二度と走ることはないことも知っていた。

だから。

だからこそ。

 

「テイオー…?」

「何でもないよっ!」

 

今度こそ、あなたを知ってみたい。

そう思って抱き着いた身体は、ふざけてるって思うほど小さかった。

 

「ね、ね、シルバー」

 

呼びかけると「なぁに」と振り向いて。

その顔に、ボクは。

 

(───どうしようもなく、まぶしい)

 

なんて。





【帝王】:
トウカイテイオー。
実質ニアミス?
1991年年度代表バ。
僕のことをあまり知らない。
だから、知りたい。
誰かが語るあなたではない、あなたを。

だがそれはそれとして僕を見ては「シルバフォーチュンと似てるところあるな」と思っている。

僕:
『「奇跡だ」なんて言わせるな』
シルバーバレット。
長子であるために歳下に甘いタイプ。
なので懐かれるとそこそこ()甘やかしてしまう。
また自身が脚の不調に悩まされてきた経歴からそういう子を見るとそれとなく献身する姿も…?

ちな自分に向けられる感情にはクソニブだがそれ以外の察する力は意外と鋭い。
相手の"話したくない"を察すると上手い具合に軌道修正したり沈黙したりしてくれる。
だがそのやさしさ故に墓穴を掘ったり掘らなかったり…。


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*昔の話


今はこんな感じだけど…みたいな。



───本来なら、この牧場のボス馬になったのは"彼"だったでしょう。

 

そう語るのは██牧場の××さんだ。

××さんのいう"彼"とはシルバマスタピースのことだ。

父はトウショウボーイ、母父はタイテエム。

生まれたその瞬間から思わず見惚れるような隆々とした栗毛の馬体のその馬は、まさにサラブレッドの王道をいくような名馬に見えたという。

 

しかし、のちにシルバマスタピースと名付けられる当時の彼には困ったところがあった。

それは、『ボス馬気質が強過ぎること』。

人に対してはとても従順であり、とても扱いやすい。

だが同族である馬に対しては異常なまでに好戦的であったのだ。

それは同年代だけではなく、歳上である馬にも恐れられるほどに。

まるで、自分がこの群れのリーダー()だと言わんばかりに振る舞うその姿には、さすがの牧場の人々も手を焼いたらしい。

 

その結果、苦肉の策で共に放牧されることになったのがシルバーバレットであった。

今となっては誰もが認める親友だと言われる二頭も当初はまったく仲良くなかったと言い、「とにかくひとりを好む」シルバーバレットと「自分こそがリーダー()だと振る舞う」シルバマスタピースはまさに水と油だったという。

誰もが自分に頭を垂れるハズなのに自然体でいるシルバーバレットが食わないシルバマスタピースが突っかかり、だがそれを聞こえていないかのように無視するシルバーバレット……。

そんなことを毎日繰り返していたそうだ。

 

しかしその毎日がある日突然一変した。

事の発端はシルバーバレットとのふたりきりの生活に慣れ落ち着いたシルバマスタピースが併走を挑んだこと。

そこで完膚なきまでにシルバーバレットに負かされたシルバマスタピースは生まれて初めて敗北感というものを知ったのだという。

そしてそこから徐々に、ゆっくりとではあるが二頭は打ち解けていった。

もちろんそこにはシルバーバレットの優しさや思いやりもあっただろうし、なにより互いに負けたくないライバルとして意識するようになったことが大きな要因であろうと。

 

 

『ね、マス太』

『なぁに?』

『昔さぁ、それもずっとちっさいちっさいころなんだけど』

『うん』

『僕にすっごく絡んできたヤツがいたんだよね』

『』

『しかもソイツめちゃくちゃ諦め悪くてさぁ、ひとりでいたい僕に毎日毎日話しかけてきてたの。…そう考えるとマス太とちょっと似てるねぇ』

『…何が言いたいのさ』

『いや?思い出したから言ってみただけ』

『……。そう』

『マス太?おーい、マス太〜?』

『ごめん…ちょっと、横になるね…』

『マス太!?』





マス太:
シルバマスタピース。
良い子なのは変わらないが、自分と同じ馬には意外とボス馬気質だった御方。
でも引き合わせられた僕にいろいろとグチャグチャにされては最終的に信奉者、というか狂信者…?的なモノとなる。
そして今回、僕から「こんなヤツ知ってる?」と出された特徴に心が吐血した。
…覚えたんだァ(白目)。

僕:
シルバーバレット。
幼き日は塩対応を通り越して周りに興味がなかった。
けど幼き日の自分に飽きもせず突っかかってきていたヤツがいたことは微かに記憶がある。
そのふとした記憶を親友であるマス太に話したところ横になられたのでオロオロ。
マス太…?いきなりどうしたの…?


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大きくなっちゃった!


あの人の周りがどんな反応をするか見たかったことが動機と言えば動機だねぇ by.某超高速さん



「…?」

 

招かれた先で、注がれたお茶を飲むと予想とは違う味がしたので内心首を傾げるとすぐに意識が遠のいた。

「あれ〜?」と間抜けな思考をしながら僕は眠りについたのだった。

 

 

目が覚めると見覚えのない天井があった。

周りを見渡すと、ここは僕の部屋ではなくどこかの部屋…、教室だということが分かった。

ふわぁーっとあくびをしながら起き上がると隣にいた人影に声をかけられる。

 

「どうやら成功のようだねぇ!」

「???」

 

人影の主-その名はアグネスタキオン。

…あぁ、そう言えば彼女に話しかけられて僕は。

それにしても。

 

「成功って?」

「体をよく見てみるといい」

「……えぇ?」

 

指示された通りに時分の体を見てみる。

すると。

 

「あぇ?」

「どうやら先輩の年頃の平均身長並に成長したようだ。どうだい?体の調子は」

「……」

 

確かに背が伸びていた。

そして何より体が軽い!

まるで羽でも生えたかのように軽くて、不快感なども特にない。

 

「すごい……。こんなこと出来るんだ」

「まぁ私も初めての試みだったが上手くいって良かったよ。それじゃあ早速計測していこうか。今はよくても後で何かあったら…恐ろしいからね」

「あ、そうだね…」

 

 

「…というわけで、検査の結果一週間ぐらい経ったら自然に治るらしいよ」

 

そう言って現れた、年相応に成長した友人-シルバーバレットに()()()()彼女たちは額を押さえた。

いつもは小学生並の体格しかない友人が不思議な薬を飲んだだけでここまで成長するとは思ってなかったのだ。

…そもそも友人の警戒心の無さにそう行動したというのもあるが。

 

「しかし、これはこれで面白いデータが取れたよ!」

 

ちなみに探究の学徒であるアグネスタキオン本人はまったくもって反省がなかったりする。

閑話休題。

 

「どっちかというと妹よりお母さんに似たかも?」

 

妹から借りたらしい、すこし大きめの制服を揺らしながらシルバーバレットがそう微笑む。

その笑顔はまさに天使そのもの。

だが、それを向けられた友人たちにとっては悪魔の笑みにしか見えず。

 

((……))

 

友人たちはまた同時に頭を抱えた。

理由は単純明快。

このままではシルバーバレットの虜になってしまうものが出かねない。

元よりシルバーバレットは他人を惹き付けやすいタチであるというのに。

その体格で最後の一歩()を踏みとどまっている者が多いというのに…。

 

「みんな?」

 

そんな少女たちの様子に疑問符を浮かべているシルバーバレット。

それはそれで可愛いのだが、今はそれよりももっと大事なことがある。

 

「とにかく、しばらくインドアで過ごした方がいいでしょう。いや過ごしてください」

「えっ!?なんで?」





僕:
シルバーバレット(成長したすがた)。
年相応の体つきになれば、母親似になる…が目つきは母よりやさしい。
子どもっぽい体型故に踏み留まれているところがありそう(執着しかり重感情しかり)。
ちな本人は「体おっきくなった〜」と喜ぶだけで、そうなった結果の影響など何ひとつ考慮していない。やっぱりクソボケっすね…。性癖を壊すな。

友人たち:
年相応の体つきになった僕に…している。
だがそれはそれとして僕を野放しにしておくと何が起こるか分からないので薬の効果が切れるまで外に出さないようにしようと友人間で密約をする模様。
でも成長したすがたの僕の写真撮影はする。いっぱいした。
んでこれ幸いと自分の私服を着せるんだよね〜、知ってる。


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【白猫】が言うには


愛が深いだけです!!!!



あるところに、少女がいた。

光ひとつ通さない黒の髪を御簾(みす)のように伸ばし、そこから覗く肌はまるで造りもののように美しい──。

少女はその名を──ホワイトキティといった。

 

生まれながらの病弱。

立てば咳込み、座れば寝込み、歩く姿は幽体離脱もかくやと家の者共からささやかれ育てられた彼女は気づけば蝶よ花よと愛でられていた。

【狂血】とも謳われる一族、唯一の正常。埒外の存在。

そんな少女を家の者たちはせかせかと世話を焼いた。

もはや『呪い』と呼んでも過言ではない病弱さを持つ、その子どもを。

 

そして、変わらず寝込んでいた彼女の前に一人の少年が現れた。

病に伏せりがちな自分のことを不甲斐ないと思う日々の中で、ある日突然現れたその少年のことをはじめは戸惑ったものだ。

まずその格好。

元は美しい色味だったのだろう着物はどこか黒っぽく汚れていて。

また混凝土(コンクリート)色のボサボサの髪から覗く目はおぞましいほどギラギラと。

……"皮を被った獣"。

そう、思えたのだ。

 

しかし、少女がどうこうするよりも先に彼は口を開いて。

かけられたその声音は、とても優しく……。

 

──あぁ。…私、このヒトが好きだわ。

 

こうして。

ホワイトキティは、漠然と恋に堕ちた。

 

 

話は変わって。

ホワイトキティが病弱なのは、有名な話である。

だが彼女自身からしてみるとその認識は少し、違っていた。

 

『呪い』。

 

立てば咳き込むほどに。

床に身を落とせば突っ伏すしかできぬほどに。

動くことを、許されない体。

()()()()()()()才能があるというのに、動けない体…。

それこそが彼女にとっての呪いであり、天からすればそれが幸運であった。

もしも彼女が普通に生きられるような体質であれば──、いやそれも()()()()だ。

がしかし、

 

「キティ」

 

ホワイトキティには、それでよかった。

布団に横たわる自分のそばには今日も心配そうにする愛しい方。

誰よりも恐ろしく、誰よりも情に篤いウマが自分だけを見る。

それは──なんたる幸福だろう。

 

「……大丈夫?」

「えぇ、もちろんです」

「……ほんとう?無理してない?」

「ふふっ、本当ですよ?」

「そっか……」

 

ぎゅっと握られた手は暖かくて、抱き締められて届いた彼の匂いにひどく落ち着く。

だから、ホワイトキティはこれでいい。

だって自分がなにもできないただの人形で有り続ければ、彼がこうしてずっと私のことを考えてくれるから。

あぁ、なんて素晴らしいことだろう。

……でも、もし叶うならば、ひとつだけ願いたいことがある。

 

──どうか。

───この方にだけは手を出さないで。

────もし、出したのなら…。

 

地 獄 の 底 で も コ ロ し て や る か ら な ?





【白猫】:
ホワイトキティ。とても病弱。
だがその病弱は天から授けられたハンデな模様。
イメージ的には某鐚所有者になったお前のような病人がいるか系の姉ちゃん。
ハンデさえなければ【白の一族】っぷりを遺憾無く発揮するが本バとしては【先祖返り】さえいれば別にいい()ので…。
後に夫となる【先祖返り】にベタ惚れ。誰よりも恐ろしく情に篤い存在が自分だけを見て愛を注いでくれるのにメロメロになっている。一途()。

【先祖返り】:
ホワイトバック。【白猫】にベタ惚れ。どんな【白猫】でも好き。
【白の一族】当主であり、狂人(くるんちゅ)っぷりも もちのろんで群を抜いているウッマ。
でも懐に入れた相手にはめっぽう優しくなるのでよく周りの情緒をメタメタにしている。…う〜ん、さすがアレの祖父!


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或る家の話


どっこいどっこい。



『白峰透』という少年と青年の間にいる男を初めて見たとき、俺が思ったのは「コイツ大丈夫かな」という気持ちだった。

技能面は何も申し分ない。

肉体面の方だって同じ。

だが、どうにも。

他人から頼まれたことや言われたことを苦笑しながら、ホイホイと安請負してしまう、そんな自我がない性質に不安を覚えてしまったのだ。

 

俺が透の世話を見たのはこの世界に入ってからこの厩舎を開業するまでの師匠の倅だったからだ。

……"馬狂いの白峰"

そう呼ばれて久しい一族に列なる小僧。

空恐ろしいまでに馬を愛し、馬に愛されていた男の息子。

その血を色濃く受け継いだ子供。

それが白峰透(小僧)だ。

だから俺は小僧の面倒を見たし、小僧にも良くしてやった。

そして、彼が独り立ちできるまでの少しの面倒見たら後は放置でいいと思っていた。

実際、俺がいなくても彼はやっていけるだけの技量があった。

 

がしかし。

話の冒頭で述べた"不安"があったろう?

そうそう、小僧には自我がないというヤツだ。

俺はずっと、小僧の控え目な微笑みを見た日からずっと、そう思っていた。

…あの日までは。

 

───この馬は、僕のモノです。

 

ゾッとするような、眼がそこにあった。

1000人中1000人が走らないというような華奢でぼんやりとした馬に執着する姿。

それは奇しくも彼の父が、自分の見出した馬しか引き取らず、またそのような行為ばかり行っているので細々とした経営のはずなのに、見出した馬のことごとくが()()()()()という最早魔法と呼ぶには相応しくないような()()()()()を起こしていたことに、よく似ていた。

 

 

その"白峰"と名乗る男の家は馬に関わる仕事を選んだ者がことさらに多いという家系だが、その実、殿様とかの、偉い人の馬を世話していたとかそういう家ではないらしい。

元はどこか雪の降る土地の、ある一介の農民が開祖で、住んでいた土地の業突く張りの地主に可愛がっていた馬を無理矢理奪い去られた結果、うんぬんかんぬん…というのがハジマリとのこと。

 

などの因果か。

気づけば"白峰"の家の者は馬という生物に惹かれるようになった。

それも、ただ単に馬が好きなのではなく、自分が見出した馬に異常なまでの執着じみた『愛』を注ぎ、かつそれを相手である馬からも返されるような関係を築くことが当たり前になり。

時代が時代なら異類婚姻譚でもしてたんじゃなかろうかというほどに()()な人間がポンポコと生まれてしまう家に。

まあ、それはともかくとして。

 

「惜しかったなァ……"ホワイトキティ"

 

白峰透の父である、その馬狂いが心底惜しそうに零した名は。

 

…嗚呼、何と。

合縁奇縁と、いうものでしょう!





白峰家:
意外と狂人(くるんちゅ)振りは【白の一族】とどっこいどっこいな血筋。
伊達に"馬狂いの白峰"とは言われていない。
なお家の始まりの話を聞くに…あれ?どっかで…?
またそんな開祖の因果からか、白峰の家に列なる者のほとんどが自分の『運命』を見つけては相思相愛になるらしい。
たぶんヒトミミよりも馬のことを愛している人たちのお家。
なので嫁や婿はその"馬狂い"に理解のある親戚から基本取っている模様。もしかして:カモフラージュ。
まぁ、人間が『普通』に生きていくには、『普通』にならなくちゃいけないからね。
だから愛する相手()は他にいるけど、しゃあなしで…みたいなヒトミミ関係。

時代が時代なら、ぜって〜異類婚姻譚してただろうイカレたヤツらェ。

…という家なので、対銀弾の透おじさんも白峰家の人間たちにとってはそう珍しいモノでもなかったり。
逆に『運命』を見つけられてよかったね!している。
そのため白峰家は今日も今日とて相思相愛だし純愛なんだ…。


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詳しいことは、知らぬけど


成る可くして情緒とかそういうのを銀弾にぐちゃぐちゃにされる白峰おじさんェ…。



"馬狂いの白峰"…。

そう言われて久しい家に生まれた僕は、一族の中でもいっとう馬に狂わされている父に連れ添っては馬に関わらせてもらっていた。

馬という生き物は、何よりも美しい。

まるで芸術品でも見るかのような、その洗練されたフォルムと動きには目を奪われる。

 

それに、馬はとても賢くて優しい動物だ。

僕らが何かをお願いすれば、彼らはそれを察して動いてくれるし、僕らの気持ちも理解してくれる。

そんな彼らが大好きだったからこそ、僕は彼らに関わる仕事-騎手になった。

 

『お前は体小さいし、まぁ運動神経も馬に乗る時しか働かんしなぁ』

 

呆れ顔の父にそう言われたのも、今はもう懐かしい。

 

 

僕の父は何をするにも『馬』が行動原理にある人だった。

だがそれはその血を継いだ僕も同じことであり、暇さえあれば馬を眺めて。

時には触れ合って過ごしていたものだ。

父が世話を見ていた馬は総じて父相手には大人しい馬で、僕や母に対しても比較的穏やかに接してくれたものだが、それはやはり僕らが父の家族であったからだろう。

()()()()()()()()()()大人しくしていただけ。

ただそれだけの話なのだ。

 

「…まぁ、そっか」

 

父が馬を愛するように、馬も父を愛している。

家族よりも何よりも馬を愛していて、その『愛』を僕ら家族も許容している。

仕方ないのだ、と。

元から()()()()()なのだから、と。

この血に生まれたが故に、どうしようもなく馬に惹かれて…。

 

が、しかし。

そんな僕らの『愛』は、普通の人には到底理解のできないものらしい。

……あぁ、そうか。

今更言うまでもないけど、これは普通じゃないんだ。

だから、僕はこうして一人ぼっち。

馬にしか興味が抱けなくて、人とのコミュニケーションが取れない。

だから仲良さそうに遊ぶ同年代を横目に見ながら家から持ってきた馬関連の本を読んでいた子ども時代。

それが終わってからもずっと、友達なんてものは出来ないまま。

人付き合いが上手く、それなりの『普通』の人間の幸せを享受する弟を後目に僕はずっと、父が世話する馬たちと触れ合っていた。

 

『アレは珍しく血に酔わなかったらしい』

 

馬に関わる仕事を選ばなかった、馬に()()()()()()()()弟を父はそう称して。

ともあれ、そんな日々を送ってきたせいだろうか?

いつの間にか、僕は人の感情というものよりも馬の感情の方が分かるようになっていた。

そして。

 

──ねぇ、

「どうしたんだい?バレット

 

僕は『運命』と出会った。

誰にも、渡したくない『運命』と……。





白峰透:
"馬狂い"の一族に生まれた男。
人間とのコミュニケーションが難しい代わりに馬とパーフェクトコミュニケーションできる因子を父から引き継いだ。
馬と関わってないと感情や言動などが物凄〜く淡白だが、人とコミュニケーションできる実弟を真似て人と関わっているので余っ程親しくないと素がバレない模様。

そんな人生だったために『運命』と出会った瞬間より感情グラフがぐじゃぐじゃになり情緒不安定と化す。
ので何だこの感情…?しながら『運命』によって人間Lv.をアップしていくんだ…。
そして√によっては自分を人間にしてくれた『運命』をなくしたり、なくさなかったりするから…。ううん(白目)。


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『普通』の人


世間一般から見たら"正常"で、でも血縁から見たら【異端】なんだ。



俺の家は馬に関わる仕事をしている人が多かった。

父親は俺が生まれた頃にはもう調教師だったし、親戚も厩務員だったり、そういった関係の記者をしていたりした。

そして、みんながみんな馬を愛していた。

……それが、俺は怖かった。

 

いつだったろう。

自分の血筋が"馬狂い"なんて呼ばれていると知ったのは。

俺は、自分でもなんだが『普通』の子どもだった自覚がある。

仲のいい子がいて、放課後は宿題もほっぽり出しては日暮れまで遊ぶ日々。

だが。

 

『にーちゃん!』

『なぁに、』

 

俺が、ずっと、遊びたかったのは透兄ちゃんだった。

やさしくて、穏やかで、いつも笑ってる。

そんな、誰もが憧れるような理想の兄。

けれど、兄の視線の先にあるのはいつだって。

 

『…また、馬見に行くの?』

『…?うん』

 

外で毎日遊び回っていた俺と違って白い肌の兄が「何を当然なことを」という風に首を傾げる。

兄は、馬を愛していた。

父が馬を愛するように。

そんな父と兄に母は何も言わず。

それこそが、我が家の()()なのだと理解した時、俺は自分がおかしいのではないかと悩んだものだ。

だから、あの日。

悩みに悩んで、坩堝に落ちて久しくなったあの日。

 

『兄ちゃんなんて、大ッ嫌いだ!』

『…そう』

 

大好きだった兄の、心底お前に興味などない、という目が俺を射抜き…。

 

 

逃げるように家を飛び出してから、俺はありふれた幸せを築いた。

可愛らしい妻と子宝にも恵まれた。

けれど、妻も子も俺の家のことをよく知らない。

多少理解はしていても、ちょっと気難しい父と静かな母とやさしいおじさんがいる…ぐらいの認識だろう。

 

『ねぇ、父さん!』

 

親類の牧場にて馬に触れさせてもらった息子-遥が俺に駆け寄る。

はじめて近くで見て、触った馬に大興奮だ。

その様子に苦笑しながら頭を撫でれば嬉しそうな声が上がる。

 

『どうしたんだ?』

『おれ!大きくなったら馬の仕事する!』

 

目をキラキラさせて将来を語る息子の顔を見て、俺は少しだけ泣きそうになった。

だって、あの頃の兄の顔と同じ顔をしていたから。

野球選手になりたいと答える俺の横で、いつもと変わらない穏やかな顔をしながらも目だけはキラキラと輝いていた幼き日の兄の姿を。

 

『…父さん?』

 

幻視したから。

 

俺は、兄さんと普通の兄弟になりたかった。

ただそれだけなのに。

──なんでこんなことに?

なんて。

今更嘆いても仕方がないのだけれども。

 

「父さん」

 

精悍な顔つきになった息子が、緊張した面持ちで、俺の前に立つ。

 

「俺、騎手になるよ」

 

そう。

固い声で告げた息子に俺はただ、震える声で「そうか」と言うしかなく…。

 

「頑張れよ」

「…!うん!」





白峰弟:
白峰家次男。白峰透の弟。馬は『普通』に好き。
"馬狂い"の血筋だけど狂わされていない。逆に家族親族の狂いっぷりに恐れを感じていた様子。
普通に生きて普通の幸せを手に入れた人間だが、実兄である白峰透と普通の兄弟になりたかったという悔恨をずっと胸に残している。
たぶんやさしい兄の目を奪う馬にずっと嫉妬していた系弟。

また息子である遥が馬に魅せられたのに口元を引き攣らせた系パパでもある。
…狂気に浸れなかった人間って、そう思うとなんか可哀想だね。


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何が、何でも


そういや昔読んだ怖い話で座敷わらしが逃げないように体バラバラにして家の敷地内に分けるように埋めたって話がありましたね。
深い意味はないですけど。



こんな自分を、慈しんでくれたのはあなただけだった。

 

『しろねぇ!』

 

そう呼んでいたあなた。

美しい白に見紛う芦毛の髪からそう呼んでいたあなた。

父に殴られ、泣いていた私をいつも手当てしてくれたあなた。

あなただけが私の救いで、私の初恋であった。

しかし。

 

『、』

 

釦を掛け違えるのが至極簡単であるように、すべてが狂い出すのもまた同じで。

あなたが。

あなたが笑いあっているのを見た。

農耕バらしい無骨な男と、また優しいだけが取り柄のような男と。

今まで一度もゆるんだことのない表情が、薄らではあるが微笑みを見せて。

故に。

 

それが出来るだけの権力が私にあったことに、はじめて私は感謝した。

あなたを人に指示して攫って来させて、逃げれぬように逃げれぬように。

あなたが喜ぶものはなんだろう、と全国津々浦々から物を集めてはあなたに与える日々。

けれど、あなたは()()()()

 

ぢっ、と。

静かな眼で私を視るのみ。

軽蔑した眼で、私を視るのみ。

何故、そんな眼をする!?

…などと聞きたくてもあなたは何も答えない。

ひとたび話せば未来が確定する唇を真一文字に伸ばしたまま。

ただ成した子どもが寄ってくる時だけ、その眦をゆるませる。

 

縛り付けるために。

成した子だというのに、気づけば憎い。

私がかつて受けたソレを何食わぬ顔で享受するその姿が。

母であるあなたの傍から離れず、怯えた顔で私を見る姿が。

憎くて、憎くて、憎くて。

 

そうして、呆気なく。

あなたは病にかかり、床に伏せた。

元から華奢だった体が痩せ細っていく。

どれほど高名な医者を呼んでも、どれほど最新鋭の薬を与えても。

一向に良くなるどころか悪くなる。

どうか、と泣きながら頼んでもあなたはいつもと変わらぬボンヤリとした眼をするばかり。

 

私を救ってくれたのはあなただけだった。

他はみぃんな、私を見て見ぬふりするだけだった。

あなただけが、あなただけが、あなただけが。

私に手を差し伸べて、頭を撫でてくれた。

あなたに相応しいのはこの私だ。

他の誰よりもずっと、ずっと、ずっと。

だから。

 

「しろねぇ、僕のモノになって(助けて)よ」

 

懇願というよりも哀願で。

儚き女に乞い()願う。

するとどうしたことか。

あなたは少し困った顔をしてから小さく笑って。

そして。

 

「…………ごめんなさいね」

 

初めて聞いた声は、ひどく冷たく。

ああ、なんだ。

そういうことなのか。

 

「未来永劫、わたしは、あなたのものには、ならない」

 

私はあなたのことをこんなにも愛しているというのに。

あなたは、やはりあの男を愛しているのか。

紡がれた言葉をもって、未来が確定したのにわらう、わらう、ただ嗤う。

心の臓が止まり、ゆるやかに冷たくなっていく躰を掻き抱きながら。

私は。

 

「それが、『運命』だというのなら」

 





変えてやる、と。

"しろねぇ":
名前不明。のちにこの呼び名が転じて"白牝(シロメ)"となる。
言葉にした瞬間未来を確定させる不思議なチカラを有しているがその代償として記憶や人間生活に割けるリソースがほぼない。
だって日夜枝分かれした未来を見ては確定した未来と剪定された未来を見てるからね。常時トロッコ問題。実質未来予知の機械。

なお彼女が他人に与えたやさしさや行動はすべて彼女を愛してくれる、もしくは愛してくれた彼らを模したものである。
彼らならこうするだろう、という行動を機械的にとっているだけである。
故に彼女の行動に、意味など…。


私:
救われたと思ったのに救われなかった男。多分史実からそう。
淡い恋慕が暴走したら、こうなるんだネ!
メリット:何がなんでも尽くしてくれるところ。
デメリット:妄執が強すぎるところ。

で、この執着を子孫に連綿と継がせるからな…。
継がせるけど、後の子孫のやらかしを見たら…ウン()。
愛してる相手の血を継いだ子にあんなことを…ねェ?
しかもあんなことした上に逃がしてるしなガハハ!!…憤死してそぉ。


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知らない妄執


どっかで見たような…?



どうも、シルバーバレットです。

どこにでもいるウマ娘です。

…という自己紹介はさておき。

 

(ここどーこだ!?)

 

目が覚めたら知らない場所にいたんだナ。

見るからに品がいいし、金持ってそ…って思ってしまうくらいの部屋に。

寝かされてるベッドだってフカフカだし。

 

「お目覚めですか」

 

そう言いながら入ってきたのはこれまた上等な服に身を包んでいる男性だった。

年の頃は僕よりも少し歳上といったところだろうか?

しかし、雰囲気や物腰が大人びているせいか随分歳上に見えてしまう。

 

「え、ええと、あなたは…?」

 

戸惑った声で質問しようにも答えはなく。

かといって、この部屋から出してくれるつもりは毛頭ないらしい青年は「今日はお休みになってください」と。

仕方なく就寝することにしたのだが……。

 

(いや、なんでこんなことになってんだ?)

 

翌日になり、改めて聞いてみたわけだがやはり教えてくれることはなく。

逆にお姫様もかくやというほどのおもてなしをされては件の青年と向かい合って食事をとったり話をしてみたり。

 

すると分かったことがひとつふたつ。

まず僕をここに連れてきたのは青年が雇った人たちであること。

ふたつ、青年が僕を連れてこさせた理由は青年が僕に惚れたからだと。

……はい?

 

「あぁいえ、別に一目惚れしたとかそういうのではなく……」

 

僕の困惑を感じ取ったのか慌てて訂正する彼だったが、それでも理解に苦しむ理由には変わりはない。

いや、どこに告白もせず攫うヤツがいるんだよ!…という言葉は飲み込み。

 

「なに?キミは、僕のことがそれほど好きだと?」

「好きです」

「即答だなァ」

「あなたのためなら何だってできます。欲しいものも何だって与えます」

「…へぇ、」

 

これはなかなか面白いことになったぞと思いつつ、僕はさらに彼の話を聞くことにした。

彼はどうやらとある有名企業一族の若き当主らしく、血を繋ぐために政略結婚させられるのだという。

だが彼は既に僕に惚れてしまっていた。

かつて、唯一自分の頭を撫でてくれた僕に。

 

「へ?」

「覚えていないのも、無理はないでしょう。…あなたにとってはただの日常の一部、それは分かっています」

 

当主たれと実の家族から暴力紛いの教育を受けていた彼はある日、家出した先で僕に出会ったのだと言う。

手当を受けて、褒められて。

それが嬉しくて、忘れられなくて。

だからどうしても欲しかったのだと。

 

「ま、待ってくれよ。そんな、たったそれだけで!?」

「はい、そうですよ?」

 

ですので。

 

「僕のモノに、なってください…ね?」





僕:
シルバーバレット(ウマ娘のすがた)。
相手のことを『やっべぇなコイツ…』と思っているが生来のお人好しであるため『コレ逃げたらコイツやばいことになるな…』と思っては逃げるに逃げられないんだ!
この軸では最終的に絆されてそ…。

相手:
妄執バリバリ。
なんか『運命』的なモノを僕に感じているのかもしれない。
地位的には優良物件中の優良物件。
人となりも(受け入れさえすれば)優良物件。
なので誠心誠意全身全霊をもってこれより(攫ってきた)僕に尽くしに尽くし始める。

…ですからどうかどうか、愛してください。


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*キミとふたりで喧嘩


「「コイツが悪い」」



「…は、?」

「言っただろ──辞める、って」

 

その日、シルバマスタピースが告げられたのは自他ともに認める大親友が競走バを引退する、ということで。

こちらの混乱を知りもせず大親友-シルバーバレットは淡々と話を続けていく。

 

「…前もあんな骨折したからなぁ。大事にならない内に引退した方がみんなにも迷惑かけなッ゛!?」

 

だが最後まで言い切ることなく、その華奢な身体が椅子から消える。

頭に血が上る。

見つめた先にいる()()()()()()()抜かした張本人は思いっきり打たれた頬を押さえながら信じられないような顔でシルバマスタピースを見て。

…あぁ、そう言えば僕らって。

喧嘩らしい喧嘩を、したことがなかったね。

 

「ざッけんなよボケが」

 

もう一発、鳩尾にぶち込もうとすればやっと僕が本気だと分かったらしい。

慌てて両手を上げて降参の意を示してくる。

 

「待て待て待て!悪かった!僕が悪かった!」

「悪いなんて何一つ思ってねぇだろうが!!」

「思ってるよ!!僕はもう走れねェんだぞ!!!」

「それがどうしたァ!!!!」

「はァ?!」

 

もう一発、重いのが入る。

吹っ飛びこそしないが、確かに後ずさる。

 

「テメェがこんなにサクッと諦めるワケ、ねェだろうが…!」

「───ッな、」

「図星か?」

「うるせェ!!」

「っぐ、」

 

視界を潰すように反撃。

…まァ、そうなるっちゃそうなるかな?

シルバーバレットは体格が小さいから。

だから真っ先に相手の視界を潰してから一転攻勢、といった感じか。

 

「お前だって知ってンだろォが!!この年齢で第一線走ってるヤツなんざ居ねぇって!」

「…………」

「なら戻る意味なんかあるのかよ!!!」

 

叫ぶ。

喉を痛めることなど一切気にせずに叫び続ける。

だけど、それでも。

 

「……お前自身が一番戻りたがってるクセによく言う」

「………………は?」

「本当はもっと走りたいクセしてよく言うぜ。ホント」

「いや、何を言ってんだよ……。僕は別にそんなこと思わねェし」

「じゃあなンでそんな眼ェしてんだよ!」

 

感情を必死に抑えつける眼。

今すぐにでも泣き出してしまいそうなほど潤んでいる瞳。

それに気付かれたくないのか、シルバーバレットは必死に顔を背けるけど。

残念なことにこちとら伊達に大親友やってませんから。

バレてるんですよ、全部。

だからこそ、僕はこう告げるしかないのだ。

 

「俺は、まだお前の走りを見たい!!」

「~~~~~ッ!!!」

「頼むから……戻ってきてくれ……」

 

懇願する。

それは紛れもなく僕の本心だった。

 

「バレットいる?…ってウワーッ!?」

「「アッ」」

 





親友組:
シルバーバレット&シルバマスタピース。
互いに鼻血出て顔に青アザとかできる程度には大喧嘩した。
マス太は体格にモノ言わせたゴリ押しだけど華奢な銀弾は視界潰してからタコ殴りにするタイプだったり。
なお後日ふたり揃ってボロボロなのを周囲に見られては『僕とバレットは殴り合えるくらいの仲でしたよ。あなたは?』って無言の煽り顔するマス太ェ…。


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エゴのままに、ワガママに


ジュニア時代に見たとあるレースより、とある先輩のクソ強火担な銀弾の話。

ちなこの『さよならは言えない』世界から始まるユニバースにおいての先輩はどの世界線であっても幸せに暮らしてるんだ!!
僕というサラ系に脳を焼かれた白銀さんに買い取られては>>いつもの<<銀系列御用達牧場に引き取られて幸せに暮らしてるんだ!!
ほら!シルバデユール等の実子や孫・曾孫たちが先輩のこと見てますよ!!先輩!!!先輩!!!!(クソデカ大声)



その走りに、目を焼かれた。

僕がここで走ってもいいのか、いやそもそも自分の存在というものを残せるのかと不安に思っていたところで見た有記念。

そこであなたが勝ったのを見て、僕は勇気をもらったのです。

だから。

 

「僕はあなたが欲しいんですよ──先輩」

 

トレーニングの合間にその足跡を辿り。

何とか見つけ出したあなたの元に乗り込んだ。

そんな僕を見たあなたはとても驚いた顔をしていて。

僕の両手に頬を挟まれては「どうか」と口説き落とされるのに白黒した、困惑の目をしていた。

 

「どう、して」

 

先輩の口がそう戦慄く。

どうしてこんなところまで?

もしくはどうして自分のことを?だろうか。

それは簡単なこと。

 

「あなたに救われたので」

「っ!」

 

微笑んで、そう告げれば先輩の顔が朱に染まる。

でもその瞳には困惑の色が強く映っている。

 

「あ、あのさ、」

「はい」

「お前に…欲しがってもらうほどのウマじゃないよ、俺は」

「そうですか?」

「うん、だって俺は……」

「いやまぁ、そういうのどうでもいいんですけど」

「えっ」

「僕はただ、あなたの()()を見たいだけですし」

「で、も」

「それに、もう遅いです」

「…なにがだよ」

「僕がここまで来たので」

 

にこりと笑う。

そうすると先輩は引き攣った笑みを見せてはやっとこさ逃げの一手を取ろうとする。

でも、…もう遅いって言ってるじゃないですか。

 

「さ、諦めてください先輩」

 

僕が、あなたを、幸せにしてさしあげますから。

 

 

今となっても、信じられない。

ソイツのことは期待の新バだってことで名前だけは知っていた。

というか、現役期間が被らなかったということも名前だけしか知らなかった、いや知れなかった理由のひとつでもあるだろう。

ただ、それでもその名前を聞いて思い出したのはひとつだけだった。

 

"シルバーバレット"

 

誰よりも小柄で、それでいて誰よりも疾いウマ。

世界に最大級の下克上をかましては、世界最速の称号を手にしたウマ。

だからこそ、

 

「せんぱーい、はやくー!」

 

現状が、信じられない。

あの日、この小さな後輩にひとり暮らしのアパートから連れ出された俺は後輩がポケットマネーでポンと、…元からあったのを買ったのか、はたまた建てたのかは聞いていない怖いから、な家に連れて行かれていた。

 

「何か足りないものがあったら言ってくださいね?買い揃えますんで」

「おま、これ一体いくらしたんだよ!?」

「んー?…言うのはやめときます」

「おいっ!?」

「ははは」

 

そうして、後輩主導のもと俺の新生活が幕を開けたのだが…。

 

「あ、先輩!僕の妹です!よろしくしといて下さい!!」

「ちょ、ちょっと待てお前ェ!?」





僕:
シルバーバレット。
先輩の強火ファン過ぎてポケットマネーで家を用意した。
あ、欲しいものあったら何でも用意するので言ってくださいね?
先輩の走りに救われた結果、トレーニングの間をぬって先輩の行方を捜索しては見つけ出し、「あなたが欲しい!」と口説いて無事勝利。
…先輩が幸せに生きるために、僕のチカラを使えたら、いいなって。

なんかこういうとこ血筋な気がする(ホワイトリリィを見ながら)。


先輩:
僕がジュニア級だった時の有記念の勝者。
名前だけは知っていた実質同属?同類?のつえ〜後輩に口説かれてはQOLの揃った生活をプレゼントされることに。
何故自分がこんなにも後輩に尽くされるのか、まったく見当がついていないが後輩の「先輩すごい!」から始まる褒めには満更でもなさそうな顔をしている。
たぶん僕から「あなたが欲しい!」されたことを考えると勝ち組感がパないよねって(小並感)。


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全員『???????』(宇宙猫顔)


史実陣営は絶対こんなことしないけど、ウマ時の銀弾はクソボケなのでしそうだよなぁ…と。
産駒のものはとても大事にするけど自分のものに対しては大した執着がなさそう。



「ふぅん…?」

 

どうやらURAがチャリティーオークションをするそうで。

往年の名バたちに出品を募っているのだとか。

それはもちろん僕にも話が来て、引退以来ほぼ開けたことのなかった収納棚からあれこれと物を取り出した。

 

「う〜ん、コレは…」

「コレもなぁ…」

「ん〜、ヨシ。コレだ!」

 

 

チャリティーオークション当日。

会場となったレース場にて競り落とされていく品々を眺めていると、

 

「父さん」

「あ、ハイセイコ」

 

共に来ていた息子であるシロガネハイセイコが話しかけてきた。

 

「ハイセイコのはもう終わったっけ?」

「はい、結構はじめの方に」

 

見回すと確かに。

既にお目当てのものを手に入れたらしき人々が談笑している姿が目に映る。

善きかな善きかな。

そう思っていると隣に腰を降ろした息子から「父さんは何を出品したんですか?」と問われて。

それに僕は、

 

『次の出品者は…おぉ!あのシルバーバレットさんです。

そして品物は…えぇ?いいんですか、コレ…!?』

 

 

久しぶりに『銀弾チャリオク事件』について語ろう

 

125:名無しのウマファンさん

 

いま思い返しても草生えるwww

 

 

126:名無しのウマファンさん

 

>>125

草に草生やすな定期

 

 

127:名無しのウマファンさん

 

まさか出されるのがアレだとは誰も思わんだろうがよ…

 

 

128:名無しのウマファンさん

 

【出品物:JC時着用の勝負服実物とテロップがついた当時の画像】

 

 

129:名無しのウマファンさん

 

>>128

『JCの時しか着用してない服なのでそこまで汚くないと思います』じゃないんだよ!

 

 

130:名無しのウマファンさん

 

>>128

普通は博物館行きになるものを気軽に出すな!

 

 

131:名無しのウマファンさん

 

他の出品者は最大でもG1時に着用してた蹄鉄とかだったのに…銀弾ェ…

 

 

132:名無しのウマファンさん

 

そら息子の銀色アイドルやら皇帝やらが躍起になって競り落とそうとするワケだな(小並感)

 

 

133:名無しのウマファンさん

 

そして無事競り落とされた結果、商品()はURAの博物館にドナドナされた模様

 

 

134:名無しのウマファンさん

 

>>133

残当

 

 

135:名無しのウマファンさん

 

そらこのイベントに参加してたヤツはみんなコレの価値分かってるから乱入するバカなんていないんだよなァ!

 

 

136:名無しのウマファンさん

 

>>135

そもそも資金が足りないッピ()

 

 

137:名無しのウマファンさん

 

本バ曰くは『だってもう古い服だし…、会社さんの方に同じの作ってって言えば応対してくれると思ったから…』とのこと

 

 

138:名無しのウマファンさん

 

>>137

お バ カ !

 

 

139:名無しのウマファンさん

 

>>137

へ ッ ポ コ !!

 

 

140:名無しのウマファンさん

 

まぁこういうところが銀弾だよなって…

 

 

 

 





僕:
シルバーバレット。このクソボケ…!
チャリティーオークションと聞いて、たった一度だけ着用した勝負服一式を出品してきたウッマ(国内.国外と勝負服が分かれている設定、今回出品したのは国内用の方)。
普通なら博物館に寄贈されたり何だりするものをいきなり突っ込まれたので会場にいた全員が目を剥いた。
そして釣り上がる金額、怒られる当バ…。
そのため家に帰ったあと産駒たちに現役時代に使った蹄鉄諸々を取り上げられた。残当。


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あなたのことが、好きな私と


見るものがあるのならずっとそっちを見ていたらいいのに。
中途半端にこちらにも目を向けるものだから。



好きの反対が無関心というのなら、残酷すぎると思った。

見ているものがあるというのならそれだけを見ていればいいのに。

ふとした時にこちらを見てはありふれた会話をしてくるのに心が軋む。

期待なんてさせるなと、何度叫んだことだろう。

 

「…………」

 

それでも今日も私はこの部屋に足を運ぶのだ。

扉を開く前に深呼吸をして気持ちを整える。

大丈夫だと言い聞かせてドアノブに手をかける。

 

「おはようございます!」

 

いつも通りの挨拶と共に部屋に入る。

するとそこにはベッドから身を起こしているウマがいた。

 

「…よォ、」

 

年頃の娘さんが気軽に訪れていい部屋じゃねンだけど、なんてボヤきながらも、せかせかともてなしの準備をする姿は手馴れていて。

そんなあなたを、私は。

 

「……何かあったのか?」

 

私の顔を見るなりあなたはそう言った。

相変わらず鋭い人だと感心すると同時に心配させてしまったことに申し訳なさを感じる。

 

「いえ!なんでもないですよ!!」

 

笑顔を作って誤魔化すように振る舞うもあなたはやさしいから。

「相談ぐらいなら乗れらァ」と私のことを気遣ってくれる。

それが嬉しくもあり、同時に苦しくもあった。

あなたがやさしさを与えるのが自分だけならいいのに、と思うと胸の奥が痛くなる。

でもそれはあなたがあなたである限り、未来永劫無理なことで。

 

「本当に何でもないですから気にしないで」

 

しりすぼみの返答に少し怪訝そうにしながらも「じゃあ甘いもんでも食べるか」と取り出される甘いもの。

手作りだというソレは試作品だという。

 

「改善点があれば教えてくれると嬉しい。…そういやアンタ、アイツと同じで甘過ぎないのが好きだったよな?」

 

手作りにしては店の売り物のような菓子がひとり分に切り分けられる。

それを皿に乗せて差し出してきたあなたを前にして、遂に思い知った。

 

「どうした?気分じゃない、か?」

 

黙ったまま俯いている私を心配したらしいあなたの声音には不安の色があった。

ああ違うんです、そうじゃないんですよ。

ただ私が弱いだけで。

 

あなたがこちらに関心を向けないことを、はじめから分かっていたはずなのに。

それなのに今更になって傷つく自分が嫌になっただけだ。

あなたの優しさに触れれば触れるほどに辛くて仕方がない。

だからもうこれ以上は耐えられないんだ。

 

「……あのっ!!!」

 

意を決して顔を上げると目の前にあるあなたの姿。

それにひどく安心している自分に自分で嗤う。

 

「な、んでもないです」

 

罵る言葉さえ、吐けやしない。

そうして『哀れだ』と、眦から雫が落ちた。





私のことを、何とも思っていないあなた。

部屋の主:
気づかない癖に期待させるウッマ。
たぶんそういうところは血筋だし、自分の部屋に訪れる人々が()()訪れるのか?をよく考えようともしない。
考えたとしても『俺に相談事があるらしい』程度。
それはそれとして"アイツ"と呼称する可愛がっている後輩がいるらしい。


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気づかないあなた


どうか、そのままで。



相変わらず人気な人だなぁ、と思う。

周りももう仕方のないこと、と受け入れられている現状は見る人から見れば不誠実だと言われても仕方ないんじゃないかと。

 

自分の横を通り過ぎていった愛らしいウマ娘を横目に見ながら慣れ親しんだ扉を開ける。

 

「なんだ?珍しいな、お前がわざわざ来るなんて」

 

中では部屋の主である先輩が皿に乗った菓子を片そうとしているところで。

「よかったら食うか?」とひとり分が切り分けられている皿を寄越されたのにこくりと頷く。

 

「どうだ?甘さ控え目にしてみたんだが」

「おいひーれふ」

「そうかそうか」

 

先輩は。

歳下の世話を焼くのが好きで。

あと、いっぱい食べる人も好き。

けれど自分に対して向けられた感情に疎くて、それでいてやさしいから周りを勘違いさせる。

でもそれは僕にとって好都合でしかないわけで。

 

「あの、先輩」

「ん?あぁ……そうだな、そろそろか?」

 

僕の言葉に先輩は少し考えるような素振りを見せて。

それからいつものようにやわらかく微笑んでくれる。

 

「すぐ作るから、待ってろ」

 

そうして頭を撫でてキッチンに消えていく。

あの人のことだから僕がご飯をたかりに来たぐらいにしか思っていないのだろう。

元から作り置きを取りに行くと約束していたのもあるけれど。

 

「ね、先輩」

「どぅわっ!?」

「きょーのご飯はなんですか?」

「いま火ィ使ってるから」

「ねーえ?」

「はいはい…肉だよ肉。生姜焼き」

「やった」

 

あたまひとつ分低い、芦毛になり始めた鹿毛に顎を乗せる。

 

「重いんだけど……」

「じゃあ早く作っちゃってくださいよ」

「……離れろ」

「嫌です」

 

ぎゅうっと腕に力を入れると諦めたようにため息を吐かれる。

こうやってふたりきりになると甘えたくなるのだから不思議だ。

 

「…ホントに、調子悪いみたいだな」

「え?」

「だってお前、いつもならこんなに近づいてきたりしねーじゃん」

 

肉、お前の分ちょっと増やしてやるから機嫌治せよ…なんて。

ポンポン頭を撫でられるのに目を細める。

こういうところがあるからずるいなぁと毎度思うのだ。

 

「……ご飯もいっぱい欲しいです」

「はいはい」

 

やさしい人。

あなたにどれほどの人が狂わされているのか知らないまま。

ただただ無防備に笑っている。

そんなところが、

 

(僕が、守ってあげないと…)

「ほい」

「はい?…あふっ!?」

「特別サービスで味見させてやらァ」

「~ッ!!」

「美味いだろ?」

「……はい」

「よし!じゃあできたら呼ぶからリビング戻っとけ」

「わかりました」

 

……まあ、結局今日もこうなるんだけど。





後輩:
大概重い。
先輩を罪な人だなぁ…と思いつつも止めるつもりはない。
だって先輩はそういう人ですから(にっこり)。
実は無条件で先輩の家に入れてもらえる人間だったりする(それ以外はみんな事前連絡必要)。
そして先輩の前では当バ比で後輩ムーブをしている。
先輩に可愛がってもらうことに余念がないんだナ…。


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誤作動…?


ウマソウル強めでお送りします。



シルバーバレットが、事故にあった。

話を聞くに子どもを助けた末のことであったらしく体には何も問題がなかったが頭を強く打ち、意識不明と。

そのため入院となった彼女を心配していたミスターシービーをはじめとした友人たちだったのだが、

 

「おかえり、シルバー。もう怪我は…」

 

かけた声は返答なく。

頭に包帯を巻いた彼女が、微笑みもしない彼女が、するりと横を抜けていくのを呆然とする暇もなく、見遣るしかなかった。

 

その日からシルバーバレットの周りは随分と様変わりした。

頭を打った後遺症からか、周りのほぼほぼに興味を示さなくなった彼女に、元より何かしらの感情を抱いていた者たちが構い始めたのだ。

しかしそれも長く続くことはなく、彼女の興味を引く者は現れなかった。

そんな日々が続いたある日のこと。

 

「!」

「えっ!?」

 

不意に駆け出したシルバーバレットがあるウマ娘に抱き着いた。

そのウマ娘とはマンハッタンカフェ。

彼女は突然の出来事に驚きの声を上げるしかない中、当のシルバーバレットはまるで猫のように頭を擦り付けていた。

そして満足したのか離れると今度は尻尾ハグをしながらじゃれつくように体をくっつけている。

これに周りにいた面々は何事だとざわめき始めるものの、それを気にすることなくシルバーバレットはマンハッタンカフェに甘えたままだ。

 

「あ、あの、シルバーバレットさん」

「?」

「…少し、離れてくれませんか」

「…?」

「いえ、迷惑…ではないのですが」

 

周りの視線が、痛い。

そう言わんばかりの表情で告げた言葉にも不思議そうな顔をして首を傾げるだけの姿には、先程までの無関心さが嘘のような雰囲気があり。

それに戸惑うしかないマンハッタンカフェだが、ふとその耳にある音が聞こえてきたことで我を取り戻す。

 

「…行きましょうか」

「!」

 

そうして、足早にふたりは去って。

人気の少ない空き教室へと赴いた。

かたり、と控えめにドアが閉められふたりきりになった暁には。

 

「〜〜〜!!」

 

ずっと生き別れていた大切な相手に接するようにマンハッタンカフェに抱きつくシルバーバレット。

それに彼女は「はぁ、」と深い息をつきながら弁明をどうしようかと考え始めるのだった。

 

 

それは記憶喪失に似たナニカで。

子どもを守った末に頭を強かに打ち付けたシルバーバレットは次に目を覚ますと走ることと、極々限られた相手にしか興味を示さないようになっていた。

 

医者がいうには一時的なものだろうということではあるらしいが、それがいつまで続くかもわからないという診断結果が出てしまった以上、学園としても放置はできないとのことに。

 

また、ならばせめて症状が緩和するまではサポートしながら様子を見ようと理事長や生徒会といったお偉いさんたちが決めたことにより、この状態のままトレセン学園に引き続き通うこととなった。

とはいえ、

 

「♪」

「おはようございます、バレットさん」

「!」

「はい。私も"お友だち"も元気ですよ」

 

元に戻るまでには、まだまだ時間がかかりそうな…?





僕:
シルバーバレット(記憶喪失?なウマ娘のすがた)。
頭を強かに打ち付けたと思ったら周囲のほぼ全て(家族.トレーナー.走ることを除く)に興味を失った。
が、マンハッタンカフェにだけは何故か興味がある模様。
マンハッタンカフェを見つけるとまるで犬のように駆け寄り、抱き着いたりなどのスキンシップをするようだ。
…周囲の湿度が高くなってそ。

【漆黒の幻影】:
マンハッタンカフェ。
何故か記憶喪失?なシルバーバレットに懐かれたウマ娘。
だが彼女本バとしては懐かれた理由に何らかの見当がついているとか。

───バレットさんは…"お友だち"と、仲がいいみたいで…。
───"お友だち"の方も…ずっと…バレットさんのことを見ていたので…とても、嬉しそうにしています…。


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手紙がついた


だって、とても美味しそうに見えたから。



シルバーバレットの書斎の、その机にはひとつ鍵のかかる引き出しがある。

そこにはビニール袋に入れられた原稿用紙の束があり、それは子どもたちであっても容易には見せてもらえない程度には───大事に、大事にされている。

 

「…」

 

シルバーバレットにとって、それは()()()()()だった。

それも、一等の。

袋のかかった原稿用紙は日焼けのひとつもなく。

手垢ひとつ、つかないように。

丁寧に丁寧に取り扱っては、それを眺めては微笑む。

 

「ああ……」

 

そして今日も。

シルバーバレットはそれを取り出すと、うっとりとした表情で読み返す。

何度でも。飽きることなく。

愛しい相棒からの愛の言葉を。

 

 

『本を出すんだ』

 

そんな話をされたのは何年も前のこと。

相棒の類まれなる文才を、前々から知っていたシルバーバレットは驚かなかった。

逆にどうしようか、断ろうかと悩む相棒の背を押した(蹴った)

『僕を、第一の読者にさせろ』という約束をもって。

 

「へぇ、」

 

そうして。

本が出来上がったとハードカバーが送られてきたのは、その話がまた数ヶ月ほど経ったあとのこと。

ハードカバーの表紙を開きながら、最初のページに書かれた文字を見て、…思わず声が出た。

 

『親愛なる我が友-シルバーバレットに寄せて』

 

その言葉と共に書かれた物語は、確かに素晴らしいものだった。

今まで読んだどんな作品よりも素晴らしいと思えるものだったが、"ナニカ"物足りなくて。

こてん、と首を傾げながら何度も何度も読み返していたある日。

 

「はい、バレット」

「?」

 

手渡された原稿用紙の束。

何だこれは?と問うより先に、「読んでみてよ」と言われてしまった。

……仕方がないなぁと思いつつ、それを受け取る。

ぱらり、ぺらりとめくっていくうちに、あぁ、と納得する。

足りないと思ったものは()()()と気づいたのだ。

 

「……これじゃ、ダメじゃない」

「仕方ないだろ、校正されちゃったんだから」

 

くすくす、ケラケラ。

シルバーバレットの手の中にあるものは原稿。

物足りないと思っていたモノ総てが、これでもかと詰め込まれた情の煮凝り。

10人読めば10人が大なり小なり精神的に変調を来たしそうな本の()稿()

 

綴られているのは、重ったるい『()』だ。

胃もたれを通り越して胃を吐き出しそうな。

脳が溶けるを通り越して頭蓋骨をカチ割りそうな。

どろっどろのぐっちゃぐちゃ、それでも『愛』と謳う()()の物語。

 

「───ねぇ、これさ」

「うん」

「校正のヒト以外で、僕以外に読んだ人、いる?」

「まさか!」

 

即答されたそれに、シルバーバレットは満足気に笑みを浮かべ。

 

「…僕、ヤギになりたいなぁ」

「なんで!?!?!?」





ある本の原稿:
校正の人のSAN値を削った狂気。
"ある存在"に対しての『愛』をこれでもかと述べた奇稿であり手紙。
内容的には"ある存在"を賛美…から始まるなんやかんやだが受け取るべき相手("ある存在")以外が読むとグチャグチャにされること必至(色々と)。
だが受け取った("ある存在")本人は熱烈なラブレターにキュンキュンしているとか。

…自分以外の誰も見ないように。
食べて、腹の中に収めたいくらいに、ね?


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白の独白


先祖返りの独白。



ホワイトバックという馬は生まれながらにして、その見た目にしか価値を見出されなかった。

彼を見出した人々にとっての"ホワイトバック"は、ただただずっと追い求めてきた原初の先祖返りでしかなかったのだから。

 

性格なんて何も考慮されない。

その、件の原初のようであれと子どもらしいやんちゃをしては()()()()日々。

そんな生活が嫌になって手を出したころにはもう、彼は人間がどういったものなのかを理解していたし、それが世間一般では普通ではないことも理解していた。

だからこそ、彼は己の身を粉にして仲間を守ることに決めたのである。

 

だって、ここにいるヤツらは何がどうあったってホワイトバックに最後の手を出せない。

ホワイトバックがホワイトバック(先祖返り)である限り、彼らは絶対に彼に危害を加えることができないのだ。

そうして、ホワイトバックはその日から、ぢっと人間たちを見定めるようになった。

 

噛みつかないようにと口籠を施された。

目が気持ち悪いと目隠しをされた。

だが生きとし生けるものである限り、気配というものが必ずあるものだ。

視界という脳のリソースの大部分を食う行為を封じられたホワイトバックはいつしか、その分気配に敏感となり。

仲間に"悪いこと"をしようとする人間の存在を察知しては、彼らに襲いかかって…。

 

いや、多少の年齢になればホワイトバックが守らずとも自己防衛できるとは理解している。

がしかし、…まだそういったことができない幼子は?

無力な子らは、一体誰が守るのか。

答えは明白だった。

 

(……あぁ)

 

そうだ、自分はきっとこのために生まれてきたのだ。

この場に生まれた以上、一生逃れられない運命から救えるものはできるだけ救わねば。

自分が傷つくことなぞ厭わない。

ただただ、目の前にいる弱者を守りたいだけなのだ。

 

(……)

 

壁にガンッ!と口籠を当てて壊し、慣れた足取りで自らの房から抜け出す。

そして、他の人間には気づかれないようにそろりそろりと移動を始める。

 

(……)

 

ここは、彼にとっては庭のような場所だ。

どこに何があるかなど知り尽くしていて当然のことだろう。

だからこそ、誰にもバレることなくこうして外に出ることができたのだが───。

 

「あっ、」

 

どうやら気を抜きすぎてしまっていたらしい。

気配のする方に近づくごとに、鼻につく臭気とぺしゃりと踏んだ水っぽさに顔を顰めないワケではなかったが。

目の前にいる存在が最近子ども相手に調子に乗っているやつだと気づいて。

 

───なァ。

 

「ヒッ…!」

 

あーそーぼ。





【白の先祖返り】:
ホワイトバック。とっても信頼されているみんなのボス。
目隠し口籠放牧無しで育てられた超弩級の気性ヤバ度EX+++。
でも頭がいいので自力脱出しては悪い相手をお仕置き♡する。
人々が望む存在の容貌と、よく似て生まれてきたためにたくさんの"躾"を受けて育った。
また仲間を守ろうとする意識が強く、その中でも子どもが苛まれているとキレにキレ散らかし手がつけられないようになるとか…?

仲間たち:
【白の先祖返り】ほどではないが躾を受けて育っている。
そのため正当防衛の威力が強く、結果的に相手の骨がヤられたなどの報告は日常茶飯事な出来事らしい。


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空っぽの器に、愛を


そーゆーはじまり、そして出会い。



その牝バは物心ついた時から『忌み子』だと言われ、放っておかれていた。

そこに在るだけで不幸を呼ぶ存在だと、疎まれてはひっそりとひとりぼっちでいた。

それでも牝バは寂しくなかった。

そう思う、余裕がなかった。

 

何故なら生まれながらにして牝バには普通とは違うモノが視えていて、その視えるモノが次から次へと枝分かれして、続いたり終わったりするのを毎日眺めているうちに、いつしかそれが当たり前になっていたからだ。

そんな日々の中、ある日彼女は声をかけられた。

 

「こんにちは」

 

と。

それはとても優しい声だった。

牝バはその日初めて自分に笑いかけてくれる『誰か』を見た。

明るい毛色のその牡バはひとりきりでいた牝バを心配して、声をかけてきたらしい。

自分と同年代の幼いウマがひとりきりでこんな場所にいるのは危ないだろうと家まで送ってくれようとするのに牝バはふるりと首を横に振った。

 

「あなたと、いっしょがいい」

 

話すな、とそれまで戒められていた唇から出た声はひどく掠れて。

それでもちゃんと届いたようで。

「聞いてみなくちゃ、分からないけど…」と少し困った顔をしたけれど、「じゃあ一緒に行こうか」とその牡バは言ってくれた。

そしてふたりは手を繋いで歩き出し。

同じ家で世話になる(暮らす)ようになった。

 

牝バの元々の所有者だった家は『忌み子』である牝バを引き取ってくれるなら万々歳と喜んでいて、家の者も事情を聞いて「それならば仕方ないね」と言ってくれて。

しかし、どうして自分みたいなのがこんなに良い環境にいるのだろう、とこれまでの生活と今の生活を比べて、いわゆるギャップに恐ろしくなった牝バはある日逃げ出し。

 

『もうこれ以上幸せになりたくない!』と、捨てられる前に自分から捨てようとしたのだ。

だが。

 

「よかった、よかった…!」

 

真っ暗な夜の中で自分を探し出した彼ら彼女らが泥まみれに汚れた牝バを迷うことなく抱き締める。

それに驚いて思わず泣き出してしまったら、更に強く抱き締められた。

自分は、あなたたちのところにいて、いいのか。

身振り手振りでそう伝えれば泣き声混じりに居ていいと、居てくれと。

 

それを聞いて、やっと。

牝バは。

 

「いる、いる…。わたし、あなたたちと、いっしょにいる…!」

 

 

普段、きちんと言うことを聞いて家の傍で遊んでいるはずの牡バが連れて帰ってきた牝バに家の者はひと目見て驚いた。

それはその牝バがあまりにもひどい扱いを受けていたと分かる容貌だったからだ。

ろくにご飯も食べさせてもらってないのだろう痩せた体に虚ろな眼。

きゅ、と控えめに牡バの手を握る華奢な手に『この子を引き取ろう』とまず言ったのはその家の末子である男児だった。

 

「よし、今日からキミはこの家の子だよ。よろしくね、───」

 





牝バ:
実は元は引き取られてきた子だった。
生まれながらにして持ち得ていた異能のために『忌み子』と言われ、ろくに世話をされていなかった過去を持つ。
その中ではじめて自分に話しかけてくれた牡バに惹かれ連れて帰ってもらうことでお家入り。
でも今まで受けたことのない愛や優しさを家のみんなから与えられては恐ろしくなり捨てられる前に自分から捨てようと思ったことも。
けどちゃんと幸せになることを受け入れ、幸せになろうとしたところ…ハイ。


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いつか、届けと


白峰おじさんは粘着系男子だから絶対やるよ、こういうこと。



キミへ向けての手紙を書いた。

報告書は書きなれているけど、こういうのは書きなれていないから一通目はひどく不格好で。

 

短くとも、便箋一枚は手紙を書いて。

毎日毎日飽きもせず、キミへ手紙を送り続けた。

時が経つにつれ、便箋もペンも高価になった。

キミに渡すものなのだから、道具が安価なものではいけないだろうと。

 

1年目は訥々だった。

何を書くべきかと線が迷いに迷っていたし、何枚も便箋がゴミ箱に落ちた。

2年目は少し慣れた。

3年目からは手馴れたものだ。

 

「……ふぅ」

 

今日の1枚を書き終えて、僕は大きく息を吐く。

そして封筒に入れて封をする。

キミへの手紙。

他の誰かに見せるなんてとんでもない!

…まぁそれ以外にも赤裸々に赤裸々が過ぎるというのもあるのだけど。

 

手紙を書きながら、トレーナー業もちゃんとしている。

これでも僕はベテランだからね、そこそこ頼られたりもするわけだ。

頼られて想いを寄せられたりもするわけだ。

けれど、僕はキミがいちばん綺麗だと思っているから何にもときめかないんだよね、申し訳ないことに。

 

そうして、ちょっと事故に遭って入院した。

子どもを助けた末だったけど、トレーナー業を続けるには問題がない怪我で。

大丈夫だって言ってるのに、「今まで働き詰めだったから」と有無を言わせずの入院。

それに気づいてみたら自分の名前と職業とキミのことぐらいしか覚えてないし。

まぁそりゃあ入院だわな、と考えながら今日もキミへ手紙を綴る。

今まで健康優良児だったから病院の生活は新鮮だ、と書きながらもふと思った。

 

───どうして、キミは手紙を返してくれないのだろう?

 

律儀なキミのことだから、こういうことをしたら同じようにしてくれるはずなのに。

いや、そもそもなんで僕は毎日こうして手紙を書き続けている?

…分からないけど、習慣づいた手が勝手に動くのに従った。

 

書いた手紙はお見舞いに来てくれたみんなに手渡した。

キミに渡しておいて、と。

それと中身を見ないでね、と。

すると皆一様に何とも言えない顔をして。

 

「……ねぇ、どうして?」

 

僕の問いかけに、誰も答えない。

ただただ、困ったように微笑むだけ。

その表情の意味が分からなくて、また不安になる。

一体どうしたというのか。

…そんな日々を過ごして、遂に記憶が戻る。

記憶が、戻って。

 

「あ」

「あ、あ」

「ああああああああぁぁぁ…!!」

 

思い出す、思い出す。

全部、全部!!

 

「…そりゃあ、返して、くれないよねぇ」

 

キミへの想いを綴った手紙を送り続けて幾星霜。

返事はまだ来ない。

返事はまだ、来ない。





トレーナー:
白峰さん(ウマ軸史実‪√‬の世界のすがた)。
キミへの手紙を書き続けている。
365日、飽きもせず。
キミの声も、顔も、匂いも色褪せていくけれど。
それでも。

なおその"愛"の手紙を垣間見た不届き者には失語症.放心状態.健忘症.幻想・幻覚かのいずれかをプレゼントです☆


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中毒症状(病みつき)、なんだ。


比翼連理で離れない。
こういう関係性…すち♡



まるで『化け猫』みたいだ。

そう思いながら哀れにも自分を愛してしまった愛おしい牝バを撫でる。

烏の濡れ羽色よりもずっと深い色をした髪に銀灰色の目。

スっと通った鼻筋に、ツっとつり上がった眦が何よりも蠱惑的で。

どうしようもない気高さと、そして美しさがそこにはあった。

 

「なァ……」

「なんだ?」

 

撫でる手を止めたからか、不機嫌そうな顔でこちらを見上げてくる喉をやわく指先で撫でる。

そろそろと、爪の跡すら残らないように気をつけて。

 

「…………なんでもない」

「変なヤツめ」

 

お前は俺のモノ。

そう言えたらどんなに楽だろうか?

けれど、その言葉を口にしてしまえばこの美しい生き物はきっと離れてしまうだろう。

 

だから俺は今日も何も言わずに触れるだけだ。

俺を守るために傷ついた、傷残る、手を、足を、顔を。

痕を、己の指の腹で、肉で、埋めるように。

何度も、何度でも。

 

「……あいしてる」

 

こんな汚い感情を知ってしまったならもう元には戻れない。

いつか来るであろう別れを恐れながらも、今はただ目の前にある温もりだけを感じていたくて。

 

(嗚呼、)

 

いつか、いつか。

この美しいバケモノに。

食われて、骨の髄まで、喰われて。

終われたのなら。

それは、なんて…。

 

(こうふく、な)

 

 

この世でただひとり。

自分を愛すると、神の御前で誓ってしまった哀れな牡バを見やる。

 

その言葉が冗談であったなら。

他の誰彼が漏らすような上っ面の言葉であったのなら。

離して、やれたというのに。

だのに。

あまりにも実直に、愚直に、己を求めてくるものだから。

『お前以外要らない』と、言うものだから。

……手放せなくなってしまったのだ。

 

己は、好物を誰にも取られぬように、一番はじめに食べるタイプであったはずなのに。

いっとう誰にも取られたくないと思っては、食べるのは惜しいと躊躇して。

どうか腐ってくれるなと、脇目もふらずに大切に世話をして。

私の『大切』を、傷つけてくれるなと吠えた。

吠えて、闘争して、傷ついて。

恐ろしい、獣になっていく。

それでもなお、私から離れない愚か者を見てしまってからは。

 

もう駄目だった。

どうしても、欲しくなって。

どうしても、手に入れたくなって。

どうしても…………傍に置きたく、なったんだ。

 

「……バカだよ、本当に」

 

そんなことさえ知らずに眠る、混じりっけなしの愛おしさを撫ぜながら。

私はまたひとつ、大きなため息をつき。

 

「もう、離せねぇぞ」

 

甘えベタな子どものように服の裾を掴む手を握りながら、ぽつり呟いた。

 





夫婦:
ヒカルイマイ&ホワイトリリィ。
お互いに「捕まって可愛そ…」と思っている関係性。
だがお互いもう手放せないくらいにはズブズブ。
底なし沼よりもズブズブ。
ふたりそろって、お互いの愛と献身に、もう…。


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僕の、僕だけの


父である銀弾のことを自分を救ってくれた『カミサマ』だと半ば常識のように思っている【銀色のアイドル】の独白。



(僕だけのお父さん!)

 

ヒステリックな母から自分を助け出してくれた父を、シロガネハイセイコはそれはそれは慕っていた。

もはや信頼を越えて信仰ともいえるほどの情を抱きつつ。

 

「お父さん!」

「ん、なぁに?」

 

自分より少しだけ大きい体で抱き上げて、頬擦りしてくれるのも。

強請ると膝に乗せて頭を撫でてくれるのも。

おやつのクッキーを分け与えてくれたり、一緒に遊んでくれたりするのも。

全部嬉しくてたまらなかったのだ。

 

(だいすき!)

 

そしてそんな父と一緒にいる時間が、何よりも大好きだった。

けれど、

 

「新しいきょうだいだよ。仲良くしてあげてね」

 

父に撫でられている自分と同い年の子どもに。

または自分よりも幼い子どもたちが父を独占する姿に。

シロガネハイセイコは気が狂いそうなほどの嫉妬を覚えた。

 

───どうして?ぼくのおとうさんなのに!!

 

───なんでおまえたちがそこにすわるんだ!?

そこはぼくの場所だぞ!!!

 

そう叫び出したくて仕方がなかった。

しかし同時に理解していた。

いちばんはじめに引き取られた、長子に据えられた自分が父の愛情を独占してはいけないことを。

だから必死になって我慢した。

でも心の中では叫んでいた。

どうしてアイツばかり構うのかと。

どうして自分はひとりぼっちなのかと。

ずっとずっと泣き続けていた。

その感情はいつしか呪いとなり、ハイセイコの心を蝕み始めた。

それは、

 

『どうしてどうしてどうして!!』

『私はこんなにもあなたを愛しているのにィィィィ!!!!』

 

かつて見た、今では顔も思い出すことができない世界一大っ嫌いな彼の母の姿に…。

 

 

シルバーバレットがその子どもをいの一番に引き取ったのは、その子どもの母がヤバいと耳に入ったからだった。

いうなればヒステリック。

引く手数多の自分にはたったひとりを愛することはできない、と事前に書類をつけてまで言い含めていたというのに。

 

「とぉさま」

「なぁに」

 

そんなことを一瞬思い出して、すぐに現実へ意識を戻す。

腕の中にはあの日引き取った子ども-シロガネハイセイコがぴっとりと引っ付き、全身で甘えてきていた。

普段はしっかり者の子どもだがこうして二人きりになると途端に幼くなる。

それが可愛らしくもあり、危なげでもあった。

 

「ねぇねぇ、もっとぎゅってして」

「はいはい……」

 

こうなるともう手がつけられない。

シルバーバレットは要望通りに抱きしめる力を強くする。

昔から聡い子だと思う。

人の顔色を窺うのが上手い、というよりもそうしなければ生きていけなかったというべきか。

 

「とぉさま、だぁいすき…」

「うん、父さんも好きだよ」





【銀色のアイドル】:
シロガネハイセイコ。
銀弾のことを愛し過ぎて狂った母の元で育った過去を持つ。
ふとしたことでヒステリックのスイッチが入る母親の顔色を見て過ごす日々を送っていたので人の機微に敏感。負の感情なら倍ドンで敏感になる。
また自分を救ってくれた銀弾を慕っているがその姿が年を経るごとに、(感情を抑えてるとはいえ)かつての自身の母とそっくりになっていっているとは露ほども思っていない。
たぶん気づいたらSANチェックになる。かわいそ。

父:
シルバーバレット。
えげつないくらいのラブコールが今でもある。
その中でも【銀色のアイドル】の母は断トツだったらしい。
ちなメンヘラ・ヤンデレの相手が上手かったりする。
ヤバかったらヤバかったで神回避できるからね。
でも、魅了因子は抑えられないから…(白目)。


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かつて、の話


やべ〜ヤツが恐れるやべ〜ヤツ定期。



「ねぇ」

「ん?どうしたノ?」

「おじいちゃんの、お父さんはどんな人だったの?」

「ぼくの?」

「うん」

 

ふと。

可愛い孫から告げられた問にホワイトバックは考え始める。

父、父か…。

 

「う〜ん…、おじいちゃんのお父さんはねぇ、"ホワイトインセイン"っていうんだ」

「いんせいんおじいちゃん?」

「そうそう」

 

思い出す。

神出鬼没の災厄。

関わるだけで、すべての掛金をぐちゃぐちゃに掛け替えていく。

…それが、ホワイトバックの父-ホワイトインセイン。

他人の隠し通した秘密を事も無げに暴いてはその後なぞ気にもせず。

ただただ己が欲求を満たすためだけに動き続ける存在だった。

そんな父はある日を境に姿を消した。

しかしそれは行方不明になった訳ではなくて、単に隠居をしただけなのだという事を後に知った。

『現代のサンジェルマン』と呼ばれて恐れられていたバケモノだ、その行動原理なんて誰にも理解できやしないし、そもそも理解できるとも思わない。

だがそれでも、ホワイトバックには一つだけ理解出来ていたことがある。

───ああ、この人は本当に自由なんだなぁ、と。

羨ましい、くらいに。

 

「…………」

「……おじいちゃん?」

 

心配そうな顔で自身を見つめる孫に大丈夫と手を振る。

大丈夫…だ。

 

 

「なンだ、オメェあの凡とこの娘と結婚すンのか」

「…おかえりなさい、御父様」

「おう」

 

ホワイトバック自身も自分が気性難である、という自覚があったがその父であるホワイトインセインはその自覚が()()()()()、自身の狂気を他人に伝播させる癖があった。

それは中々()()()()にはならないはずの一族の者たちを簡単に狂わせるほどで若き日にホワイトインセインが家を出たのもそのことが理由だと、聞いていた。

だからだろうか、ホワイトバックはこの父が苦手であったのだ。

 

「んでよォ、さっきの話なんだがよォ、あァーっと確かアレだ、テメェの嫁になンのはあの凡の娘なんだよナァ?」

「の、ノーマルさんのことなら、そう、だけど…」

「そう、そうだ。ノーマルだ、凡だ」

 

聞くに。

ホワイトインセインと『凡』ことホワイトノーマル(後のホワイトバックの妻・ホワイトキティの父にあたる)は生まれた頃から共にある幼なじみだといい。

中でもホワイトインセインは自身にいちばん近しいのにも関わらず()()()()ホワイトノーマルをそれはそれは…気に入って、いるのだと。

 

「話はそンだけ。じゃ、俺ァ凡に会ってくるわ」

「あ、うん…」

 

ドカ、と足で襖を開ける音と驚いた声が聞こえる。

そして耳に「よォ、凡」「久し振りだねぇ、いーちゃん」と聞こえたのを最後に。

 

「…キティのとこに行こ」





【白の狂気】:
ホワイトインセイン。
ホワイトバックの父。
一族の中でも魅了の力が最も強く、それは耐性があるはずの一族の者さえ狂わせるものだった。一族1のモテ男。
ちな生存√銀弾の牝バにモテモテ要素はこの方から引き継いだ素養だったりする。

在るだけで周りを狂わせ、他人の図星をつくのが上手い。
……まぁ、その図星は他人が必死に見て見ぬふりしている『確信』ともいうのですが。

それはそれとして『凡』と呼称する"ホワイトノーマル"という幼なじみをとてもとても大事にしている。
自分の、帰る場所とするほどに。


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ぷーる・とれぇにんぐ!


こぽこぽ…かぽかぽかぽ……。



今日はプールトレーニングのようだ。

プールは脚に負担をかけずに鍛えられるので脚が弱めな僕には打って付けのものなのだけど。

 

「じゃあバレット頑張ろ…」

「こぽこぽ…かぽかぽかぽ……」

「バレットーッッ!?!?!?」

 

体が小さいのとか、プールに入ったことがあるといっても基本が下のきょうだいの補助としてだったので。

いや、決してプールが嫌いなワケではないのだ。

お風呂は大好きだからね、うん。

そんな僕をよそに先生は既に顔色が真っ青になっている。

これはいけない。

安心させるためにもう一度ちゃぽっ!と入ろうにも、

 

「こぽぽ…かぽぽぽぽ……」

「やっぱりダメじゃないかっ!!」

 

既に口元まで水に浸かった状態でした。

うぅん、どうしよう……。

このままではトレーニングに支障をきたすだろう。

そうこうしているうちにも、先生の顔色はどんどん悪化の一途を辿っていく。

というワケで〜!

 

「…それにしても」

「うん?」

「なんで浮き輪なんでしょうねぇ?」

「さぁ?」

 

道具に補助してもらうことになったのだが…、何故か僕の手にあったのは浮き輪。

あれ〜?他の娘たちはビート板を使ってた気がするんだけどなぁ〜??

……まぁいっか。

とにかくこれで先生の負担()が減るならオールオッケー!

あとはこのぷかぷかな感じでリラックスしながら泳ぐだけ!!

いざゆかん!

……。

ぷかり〜ぷかり〜♪

ゆらり〜ゆらり〜♪

ぽわわ〜ん♪ぽわわ〜ん♪

 

「……」

 

泳ぐことに意識が集中して気付かなかったけど、プールサイドの方から先生の視線を感じる。

だから先生の方を見ると目が合って。

 

「「……」」

 

何か言いたいことでもあるのかな?

でも何だか気まずくて目線を逸らしてしまう。

そのまましばらく見つめていると、先生が立ち上がりこちらへやって来ようとした。が、

ドボンッ!!

プールに落ちた。

……あぁ、いつもの先生だ。

と、思うのも束の間、パニックゆえか、慣れてない着衣泳は上手くいかないようでワタワタとしているのを見て。

それは流石に危ないと手を引っ張る形でプールサイドの方へと戻してあげた。

 

「せ、先生大丈夫ですか!?」

「ごぼっ!……けほっ!」

 

幸いにも溺れることはなかったけれど、その表情は未だかつて見たことがないくらい恥ずかしそうだ。

そんな先生を見て僕は「先生って、やっぱりこういう運動も苦手なのかな?」

と思うのだった。

 

(思い返せば、はじめて会った時も自転車で川に突っ込んでたよね…)

「…バレット?」

「いや、何でもないですよ?えぇ、何も」

「…そう?」





僕:
シルバーバレット。ビート板勢。
お風呂は好きだし水に浸かることもどっちかいうと好きだけど泳ぐとなると…というタイプ。
入る前はキリッとしているのに、いざ入ったらカポカポコポコポし出す。

トレーナー:
名を白峰。
トレーナーとしては優秀オブ優秀だが運動&人間的生活は…系のヒトミミ。
今回プールinしたのは僕が泳げてて安心+アドバイスしようとしたら地面がなくなったため。
実は僕との初対面時に自転車で川に突っ込んでいる。
そして僕に救助されている。


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見たかったのは?


巻き込まれる銀弾。



フラリと散歩していると道に迷っているウマを見つけた。

鮮やかな栗毛をしたそのウマに声を掛けてみれば何とビックリ!

きょうだいの友人に瓜二つなのである。

世界には3人自分とよく似た相手がいるというのは有名な話ではあるが、まさかこんなところで出会えるとは思ってもみなかった。

 

「…あの〜」

 

というワケで。

行先はどこですか?と問うと、僕としてはよく知っている場所を指定されて。

それならこっちですと案内することとなった。

そうして辿り着いた先は、

 

「やっほ〜、サンデー」

「お〜、何だお前が平日に来るなんて珍し…!?」

 

マブダチの家。

じゃあここまで案内したので帰りますね、と踵を返そうとすれば「待て待て待て!」と友人に引き止められ。

 

「えっと……そちらの方は?」

「俺の現役時代のライバル」

「へぇ……」

 

一緒にいてくれ、と居間に通されたと思ったら、まるで審判のようにふたりの間に座るように配置されて。

そこでどうすればいいんだろうと苦笑する。

そんなこんなで、ふたりの話が始まった。

 

 

「…何しに来たんだ、お前」

「息子…グローリーゴアからキミと会ったと聞いてね」

 

何年ぶりだろうか。

最後に会ったのもいつか思い出せないほどに、サンデーサイレンスは目の前のウマのことを今の今まで思考の奥底へと沈めていた。

 

…あのころのサンデーサイレンスは、目の前のウマの、何もかもが気に食わなかった。

朗らかな笑みを絶やさず、周りから期待されて、みんなに愛されて。

物語のヒーローもかくや、というようにスポットライトしかない道を歩む…そんな目の前のウマが。

気に食わなくて、気に食わなくて、仕方なかった。

 

だから。

少しでも胸のつかえを取ろうと。

目の前のウマの、その美しい顏が歪む顔を見れれば、多少は楽になるかと。

そう思ったのだ。

……思ったのに。

 

『やっぱり…キミは凄いよ、サンデー』

 

渡されたのは賞賛だった。

サンデーサイレンスが欲したものではなく。

ただの、ありきたりな。

悔しさなんてないというような、ただ純粋な称賛の言葉であった。

そうして。

 

『…お前のことなんか、大ッ嫌いだ』

 

サンデーサイレンスはその想い出を、思考の深くへと沈め落とした。

 

 

ギラギラと、鮮やかに煌めく目に誘蛾灯のように惹かれ。

生まれてはじめて自分に向けられた汚いスラングすらも心地よく思ってしまうほどに、そのウマは目の前の存在に夢中になっていた。

そして同時に、理解してしまった。

自分が目の前の存在に憧れていることを。

自分もまた、こうありたいと願っているということを。

だからこそ。

 

(僕は、負けるわけにはいかないんだ!)

 

憧れの存在を前にして、無様な姿を晒すことなぞできなくて。

だから。

 

『ねぇ、サン…』

 

頑張ったから。

褒めて欲しかった。

他でもないサンデーサイレンスに。

「やりやがったな」とか、「次は負けないぞ」とかで、よかった。

ぶっきらぼうでもよかったから…言葉が欲しかった、のに。

 

『…』

 

虚しく横を通り過ぎていった小柄な背に呆然とする。

 

『なんで…?』

 

僕は、キミに、キミだけに…。

 

『見てもらいたかった、だけなのに…』

 

どうして?は問えぬまま。

そのまま何年も費やして。

 

「こんな田舎くんだりまで来るなんて…暇なヤツだな、お前」

 

やっと…。





父親組:
お互いにすれ違ってはぐちゃぐちゃしている。
主人公感マシマシの仮面をひっぺがして、その内面を見たかったSSとそんなSSに自分を見て欲しかったライバルさん。
ふたり揃って淡白そうに見えて湿度がヤバい。のに、互いに互いで「こんな感情を抱いているのは自分だけなんだろうなぁ」と思っているので…。…うん。


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灰被ってちゃ終われない


史実√灰被りでどうやら登場したようです。
この世界の灰被りでは幼チャンプが登場してはogrのファンとしてJCとか有記念にいそう。



1:名無しのトレーナーさん

 

やっぱり目が螺旋族

【謎のウマ娘()が『やァ、後輩!』と勝気な笑みを浮かべている画像】

 

 

2:名無しのトレーナーさん

 

火傷顔眼帯ロリなんて攻めてきたな…

 

 

3:名無しのトレーナーさん

 

一体どこの銀弾なんだ…?

 

 

4:名無しのトレーナーさん

 

コレせんせーデザイン?

 

 

5:名無しのトレーナーさん

 

まあ銀冠名のウマ娘でおるの、まだチャンプだけやし…

はよ出して!祈りとか!義務でしょ!!!!

 

 

6:名無しのトレーナーさん

 

いや、あの永世3強編初期のプール回で施設内迷子になったogrが元の場所に案内してもらったの見て「まさか…?」とは思ってたけどさぁ!

 

 

7:名無しのトレーナーさん

 

いやまぁ確かにアンタ、史実にてogrと会ってらっしゃいましたけども…(療養施設)

 

 

8:名無しのトレーナーさん

 

だが胸はまな板

 

 

9:名無しのトレーナーさん

 

でもこんな顔した子が史実考えると屈指の曇らせにあってるんだよね…(タヒ)

 

 

10:名無しのトレーナーさん

 

>>9

でもトレーナーや周りの人は良い人ばかりだからヘーキヘーキ

ヘーキ…だよ…

 

 

11:名無しのトレーナーさん

 

後のこと考えるともう、ネ…

ふざけないとやってらんないというか…

行くなら行くで、ちゃんと、日本に帰ってきてくださいね…?

 

 

12:名無しのトレーナーさん

 

でもせんせーデザインなら名前なにになるんだろ?

 

 

13:名無しのトレーナーさん

 

このクソチビ合法ロリウマ娘が前代未聞のWR出すのかァ…(恍惚)

 

 

14:名無しのトレーナーさん

 

それ考えるとJCで幼チャンプ出るのかな?

騎手要素考えると

 

 

15:名無しのトレーナーさん

 

推定弾丸さん、tmより身長低い?

 

 

16:名無しのトレーナーさん

 

>>15

低い

画像比較してみたら歴然

 

 

17:名無しのトレーナーさん

 

史上最高齢、最軽量でWRを出すウマ娘だ面構えが違う

 

 

18:名無しのトレーナーさん

 

◆まだ誰も知らない、このウマ娘のことを───、は熱いんだよなァ!

 

 

19:名無しのトレーナーさん

 

コイツもコイツでシンデレラグレイ定期

 

 

20:名無しのトレーナーさん

 

WR取られたんなら同じ舞台で取り返しますね系女子

なお…

 

 

21:名無しのトレーナーさん

 

脳焼きJC…来るか…!?

 

 

22:名無しのトレーナーさん

 

サラ系に対しての言及はあるんだろうか

 

 

23:名無しのトレーナーさん

 

とりま楽しみっス

 

 

24:名無しのトレーナーさん

 

このJCのことどれだけ描写してくれるかな

カッチョイイ固有出してくれたら俺五体投地するよ

 

 

25:名無しのトレーナーさん

 

この世界では、どうか『運命』をぶち壊して…帰ってきて、欲しいなぁ

 

 

 

 





誰か:
みなさん見覚えのある誰か兼深深と脳に刻み付けられた『呪い』。
史実では基本大人しい性質だったが灰被りナイズドされた結果、お怖いことになっている。老いぼれじゃない、生き残りと呼べ。
見た目は左顔面を覆う火傷顔に眼帯をした螺旋目の小柄なウマ娘。
どこかシルバーチャンプのデザインと似ている。
なお史実の性格を知っている人間からは二度見される言動をしているが後の話で明かされる過去や属性などを知られると、さもありなん…になった。
過去もおつらければ背負っているものもおつらい。
だからこそ輝く栄光に、誰もが。

…まぁこの後に外伝『"Destiny" to run away.』が始まるんですけどね!


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灰を集めて形作って


_人人人人人人人人人人人人人_
> 突如ポップしたラスボス。<
 ̄Y^Y^Y^Y^Y^Y^Y^Y^Y^Y ̄



1:名無しのトレーナーさん

 

蹂躙☆虐殺☆ハイペース☆(約束されたWR)

 

【灰被り銀弾の画像】

 

 

2:名無しのトレーナーさん

 

最速の独り舞台来たな…

 

 

3:名無しのトレーナーさん

 

レースの勝者の描写が道中ほぼないの草なんよ

 

 

4:名無しのトレーナーさん

 

>>3

だってアレに競り合うとか…ねぇ?

 

 

5:名無しのトレーナーさん

 

心中で出走バほぼほぼに舐め腐られてたところでアレ

脳こあれりゅ〜!!

 

 

6:名無しのトレーナーさん

 

まぁコイツがG1出たのジュニア級の1回だけだし、ブランク明けでコレだから、ウン

>>無理!!<<

 

 

7:名無しのトレーナーさん

 

ゲート開いた瞬間の反応速度から可笑しすぎるっピ!

 

 

8:名無しのトレーナーさん

 

まさに死にたいやつからかかってこい

 

 

9:名無しのトレーナーさん

 

今のバ場だったらどんなレコード出すんだコイツ…(白目)

 

 

10:名無しのトレーナーさん

 

ワールドレコードの出し方?

1000を58秒、1200までを1:10で刻んで、それ以上も加速していくだけだよ

 

ね?簡単でしょ?

 

 

11:名無しのトレーナーさん

 

>>10

簡 単 で た ま る か !

 

 

12:名無しのトレーナーさん

 

>>10

こ、殺しにかかってる…

 

 

13:名無しのトレーナーさん

 

これは時代のオーパーツ

 

 

14:名無しのトレーナーさん

 

地力が違うというか…もはや生物からして違うのでは?(純粋な疑問)

 

 

15:名無しのトレーナーさん

 

何だこのバグ!?

やってられるかこんなクソゲー!

 

 

16:名無しのトレーナーさん

 

いやぁ…僕ァどこにでもいる老いぼれですよぉ…から出されたレコードが?コレが…?

 

 

17:名無しのトレーナーさん

 

それまでは重心下げない走り方だったのに最終コーナー入るところで下げられる重心よ

 

 

18:名無しのトレーナーさん

 

>>17

そこで黒塗りシルエットの中ドーンと出される領域"LEGENDARY SCAR"さんさァ…

 

 

19:名無しのトレーナーさん

 

>>18

いや、たしかに伝説的な傷ですけど!ですけど!!!!

 

 

20:名無しのトレーナーさん

 

歯牙にもかけねぇ走り〜

 

 

21:名無しのトレーナーさん

 

けど白峰おじさんがいうには歓声に興奮はしてたらしいです

…コレが暴走じゃないって、マ?

 

 

22:名無しのトレーナーさん

 

さすが自分以外のウマをタイムオーバーにしかけたウマだ

面構えが違う

 

 

23:名無しのトレーナーさん

 

というか領域出した瞬間に後方を一瞬でわからせるのナニ?

背中だけなのに何かよく分からん風格が見えるんですけど?

 

 

24:名無しのトレーナーさん

 

>>23

最速の蹂躙者だぜ?いいだろ?

 

 

25:名無しのトレーナーさん

 

>>23

でもオグリはコレ見て『先輩ともっと走りたい!』ってなってんだからメンタルもバケモン…ってなるなった

 

 

 

 





独り舞台の主:

焼き払え〜!(色々と)
レースの勝者の癖に最終局面までほぼ描写されなかった系ウマ娘さん。
淡々と事実を述べられただけ。
まぁそれで心もプライドもベキベキにへし折っていったんですが。
領域名は『LEGENDARY SCAR』
そらこれをこう呼ぶ以外にどう呼ぶ?という。
世界に刻みつけた傷の、始まりを…ね?


なおこの世界線の【戦う者】の領域名は『SCRAP/SCRAPPER!!』だったりする。


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那由多分の一、ぐらいの確率でありそうな話


ホラー回。
たすけて"お友だち"!



まずは簡潔に話を始めよう。

『負けた』。

あぁ、完膚なきまでにの負けだとも。

えげつないくらいの出遅れをカマして何とかいつもの位置を取ろうとしたがバ群をこじ開けるほどの力もなくて失速。

重賞でもないオープン戦に出て、この体たらくなのだから笑うものも笑えない。

逆に勝ったコが明日世界が滅亡するんじゃなかろうかと考えてそうな絶望顔になっていたのに申し訳なくなったくらいだ。

そして昨日の今日。

いつもなら軽いストレッチをしてトレーニングに入るのだが、その日は違った。

 

「え、あ、みんな…?」

 

周りの、様子がおかしい。

僕を見る、目が。

まるで精巧な"ニセモノ"が現れた時、みたいな、目を…。

 

「み、んな…?」

 

僕の声には誰も反応しない。

ただ僕の方をじっと見ているだけ。

そうこうしているうちにトレーナーである先生が現れて僕を連れて行く。

 

「え、あの……」

 

困惑しながら僕は手を引かれるままについていく。

何だ?どうしてこんなことに?

そんな疑問を胸に抱きながら。

向かった先はトレーナー室だった。

僕と彼がよくミーティングをしている部屋で、今は無人だ。

ソファに座らされると先生に見下ろされるような形となり、

 

「…キミは、誰だ?」

 

え、と声すら出せない。

向けられる目の、あまりにもな冷たさに。

彼の手が伸びて、胸元を掴むのにも抵抗ひとつできない。

 

「キミは……僕が育てたウマじゃない」

「え?」

「誰なんだ……お前は!」

 

彼は怒っていた。

いや違う。

これは悲しみ、だろう。

だって、あんなにも優しい人だから。

あんなにも優しくしてくれる人が、僕に怒りを向けるはずがないんだ。

そう思った瞬間、涙が出てきた。

なんで?どうして?

そんな言葉ばかりが頭を支配する。

だが。

混乱でぐちゃぐちゃになる思考でも、勝手に脚が動いて。

 

「どこ、ここ…?」

 

気づけば見知らぬ教室-埃っぽさと積み上げられたものを見るに倉庫か何かに使われているのだろうか-に辿り着いた。

もう、何も分からない。

みんなしてなんだよ、()()()1回負けただけじゃないか!

 

「っ!?」

 

なんて。

思った瞬間、不意に下がる室内の温度に突如として現れた気配。

気配のする方にバッと顔を向ければ、そこには黒い影で形作られたウマがいて。

 

「だ、れ?」

 

影は答えない。

答えないままに僕の手にシンプルな"目覚まし時計"を握らせる。

 

【ハヤクカエレ、…バカ】

 

 

夢を見た。

何とも、悪夢らしい夢だった。

がしかし。

今はそんなことを考えている余裕はない。

何故なら今日はオープン戦ながらもレース当日なのだから。

 

「さて、…()()()出遅れないように気をつけよ〜っと」





(銀弾にとっての)ホラー回。
銀弾がもし敗北したら激重感情勢は解釈違いするやろなって。
自分が銀弾を負かす!と思っていても、いざ銀弾が負けたら「誰だお前」ぐらいはジャブみたくするだろうな、と。
気付かぬ内に理想を押し付けられてる銀弾、…かわいそかわいいネ!


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夕闇には、まだ遠く


ノベライズ外伝『"Destiny" to run away.』特装版付録風の小話。



昔から、誰とも知れぬ声を聞いていた。

姿はない。

だが高くもなくば低くもない、そんな心地の良い声で話しかけてくる声にはじめは怖がっていたが時が経つにつれ慣れていき、今ではその声と会話するのが好きだった。

 

───今日も元気そうだね。

「うん」

 

朗々と、流れゆく。

訥々と喋る僕の話にも「うん、うん」とやさしく相槌を打っては「今日も頑張ったんだね」とか、「それは大変だっただろう?」なんて労いの言葉をかけてくれる。

それが嬉しかった。

だから僕は毎日のように、ひとりになるとこの不思議な声の主と話していたのだけれど…。

 

───キミは、『(クズ)』で終わるのかな?

 

もうダメだ、と。

ここまでやったから、頑張ったからいいよね…と諦めかけたその時。

真っ暗闇の世界で、眼が遭った"ソレ"。

くつくつ、クスクスと笑いながら僕を見つめている"ナニカ"がいた。

怖いはずなのに、逃げたいはずなのに……不思議とその瞳からは眼が離せなくて。

そして聞こえてきた言葉の意味を理解した瞬間に。

 

(───違う。)

 

踏み込んだ足が、もう一段階深く沈み。

そこから、跳ね上がるように。

爆発的な推進力を得た身体が一気に加速し、目の前にいたはずの化け物(赤い影)へと肉薄した。

 

───(クズ)』で、終わってたまるか!

 

それで。

気が付いたら、僕は地面に倒れていて。

全身を襲う疲労と共に視界いっぱいに広がるのは…。

 

「…大丈夫か」

「ヒッ、ひゃ、ひゃいッ!」

 

 

小さな黒い影。

凄まじい速度で、ピンボールのように、または加速するそういうギミックでも踏んだ時のように物狂いで駆け抜けていく姿を見る。

その動きには物狂いながらもムダがなく、洗練された美しさすら感じさせるものだった。

しかし、それと同時に危うさも同時に感じて。

あの動きではいずれ必ず限界が来るはずだ。

 

そう思って。

いつも通りに、抜いて。

…抜いた、はずで。

───ぞわり。

 

【SCRAP/SCRAPPER!!】

 

爪が、伸びてくる。

思わず、餓えたケモノを連想するがごとく。

後ろから迫り来たソレは、まるで獲物を狙うかのような鋭い眼光が。

 

「……っ!!」

 

咄嵯の判断で()()()()として。

その()()()体の強ばり、コンマ何秒の刹那で。

ざわりと。

風が抜けていくのを、ただ呆然と見やっていた。

「……」

 

げほごほと下の方から苦しそうな声。

ぐったりと、地面に大の字になった()()から、聞こえてくる音。

それに手を差し出せばキョトンとした顔ながらもしっかと握り返されて。

 

そうしてこの日、ふたりの『運命』は───。





登場人物:
察せられる人には察せられる御方たち。
見た目の描写はチラホラあるが明確な氏名の登場はなく、また物語もふたりの出逢いであるとあるレースに()()焦点を当てた内容となっている。
でも推定モデルの史実仲からこの小話しか供給がないのに二次創作されてそう。
ほら、公式(史実)が最大手だから……。


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"目の付けどころ"の話


こっち、みないで。



【飛行機雲】の先輩は、時折とても不安定になる。

それはトレセン学園に訪れた際に若ウマたちに『尊敬してます!』と言われた時だったり、または自分の仔たちに『おとうさんみたいになる!』と言われた時だったり。

 

「ちがう、ちがう!俺は……!」

 

無骨な、機能性と効率を追い求めた部屋の床でうずくまる背をするりと抱き寄せる。

そんなところにいたら体を痛めますよなぞと言いつつ、その背中を撫ぜる。

この人はきっと、自分がどんな存在なのか分かっていないのだろう。

こんなにも強くて、優しくて、カッコいい人なのに。

僕は知っている。

僕だけじゃない。

みんなも知っている。

だから安心して欲しいと伝えたくて、先輩の耳元に口を寄せた。

 

「大丈夫ですよ」

 

そう囁くと、先輩は小さく震えながら僕の肩口に顔を埋めてきた。

そしてそのまましばらくすると寝息を立て始めたのだ。

どうやら泣き疲れてしまったらしい。

いつもはあんなにかっこいいのに、今はまるで小さな子どもだ。

 

「……せんぱい」

 

 

その『呪い』を解きたくて。

走った、はずだったのに。

 

『先輩みたいなウマに』

『おとうさんみたいに』

 

かつて、自分が忌避したものに。

自分が、()()()しまっている。

それに気づいた瞬間、目の前が真っ暗になった。

 

「ちがう、ちがう、ちがう!!」

 

あの、恐ろしい眼を、今でも覚えている。

熱に浮かされては狂うように。

"たったひとりの存在"に焦がれるように。

ただただ見つめ続ける瞳を。

……忘れたことなどなかった。

それ故に、自分は忌避したのだから。

『ああはならない』と、誓ったはずなのに。

 

「…なのに、なんで」

 

"焦がれられる方"に、なってんだろな。

 

「それは、先輩がすごいからですよ」

「……」

 

ぼやりと呟いた独り言に返答を返したのは面倒をよく見ている後輩で。

普段からやさしく、聞き上手なソイツは俺の支離滅裂な言葉一つ一つに対して丁寧に返してくれる。

 

「だって先輩は、誰よりも努力家ですもんね」

「……んなことねぇよ」

「…それに、『憧れ』なんて誰もが持ち得る感情じゃないですか」

「……」

「それでも納得できないなら、こう考えましょう?」

 

後輩は少し困ったような顔をしてから微笑む。

 

「あなたは『憧れてもらえるような自分』に成れたことを誇ればいいんですよ」

 

トントン、と子どもをあやす時のような。

そんな心地で、一定に撫で叩かれる背に眠気が誘われる。

 

「……まぁ、あなたが成りたかった"あなた"を思えば、」

 

そっちの方が、僕はよかったですけどね。





先輩:
【銀色の激情】。
『憧れ』を忌避したのに、気づけば自分が『憧れ』になっていた。
近しい周囲のほとんどが『憧れ』によって大なり小なり可笑しくなっていくところを見てきたので実質トラウマなのかも?

…『憧れ』なんかじゃない、()()()()()()に、なりたかった。

後輩:
【飛行機雲】。
先輩が『憧れ』になるのは当然でしょう?
けれど"もし"、先輩が『憧れ』にならない世界が()()()のなら。

───あなたは、()()()()『先輩』、でしたか?

なんて。…ね?



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りそうのばしょ


█は、才能ある者を手元に置きたがる。



『夢』を見る、夢を見る。

 

 

夢の中の僕がいる場所は、まるで天国みたいな真っ青な空と地平線が見える青々とした草原で。

そこで子どものようにはしゃぎ、走っては息切れもせず、かといって走り過ぎて筋肉痛になりそう…ということもなく走り回る感覚に──僕は、これが夢の中だと自覚するのだ。

そうしてその夢の中で、いつも決まって同じ███と出会うのである。

 

『ずっと、いてもいいんだよ』

 

その███とは、夢を見るたびに話しているはずなのに。

その文面だけを覚えているだけで、姿も、声音も…覚えることができないまま。

『キミがいたければ、ずっとここにいればいい』とやさしく、何の思惑もないとでも言うように微笑む███を前にすると……。

胸がどうしようもなく締め付けられてしまうほど苦しくなってしまって……。

……目が覚めると、目尻から涙が流れていて。

「また"あの夢"を見たの?」と心配してくれる家族に、「大丈夫だよ」と言って笑ってみせるのだが、

 

「、」

 

きっと。

███の言うことに従えば、ずっとずっと、『幸せ』でいられるのだろう。

"ずっと走り続けられる"という『幸せ』。

"自分がどこまで速くなれるのか"という好奇心を満たせるという『幸せ』。

脚のことを、何も考えずに走れるというのはそれだけで『幸せ』で。

気分が良くて、なのに。

 

『ずっと、ここにいてもいいんだよ』

 

そう、そういったニュアンスの台詞を███から告げられるたびに無防備な背中に氷を入れられたかのような悪寒に襲われて。

恐ろしくなって、息すら忘れて。

 

「…はっ、」

 

そんなふうにして、また一日が始まる。

が、うつらうつらと舟をこぎ、ふわっと意識が浮上して目を開ければ、また同じ。

視界いっぱいに広がる、

 

『おいで、おいで』

『ずっと、ずっと、いっしょにいよう?』

『ここにいて、ずっと』

 

███が、僕に言う。

そういえば、何となく、ずっと…断り続けているような。

いや、答える前に()()()()()()から。

だから答えていないだけなのだけれど。

それでも、…███がしびれを()()()()()()()()と、解る。

 

『ねぇ、こっちにおいで』

『だってここは楽しいところ!』

 

もう何度も見たはずの景色の中、初めて見る表情をした███の顔を見て。

あぁ、やっぱりそうなんだな……と思った。

 

「ごめんね」

 

どうして謝ったのか、わからないけど。

そうしなくちゃ、いけない気がして。

ちゃんと、()()()()()って。

いつもならそれとなく言葉を濁すのに、何故か。

 

「ごめん。…僕、そっちには、」





ずっと、ずっとここにいればいいよ。
キミのために、用意したんだよ。
老いも病も悩みもないように。
だから。
ずっとずっとずーっと…。

『ねぇ、走って?』



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信頼と、いうよりかは


顔も知らないニンゲンに気を許していたとある馬とその馬に魅せられたあるニンゲンの話。
…それは偶然か、それとも()()だったのか。



その牧場はひっそりと、しかし知れ渡るほどには悪名が高かった。

 

「え?あそこの話、か」

 

その男(話を聞いている彼にとっては父にあたる)は過去、件の牧場からよく馬を買っていた。

何度となく、『この馬なら走る!』を繰り返してはそのたびに未勝利というのを繰り返していたのだが。

 

「思えば、お前が買ったあの子だけが例外だったんだよ。だって…」

 

───あそこの馬は、根本的に人を信頼していなかったんだから。

 

 

その牧場で生まれた馬はどこがどういいとは上手く説明できないが、それでも魅力に溢れるものを持っていた。

『力』という言葉を体現したかのような、そんなオーラがあったのだ。

そして、彼はそれに魅せられた。

だから何度も通ったし、時には金も惜しみなく使った。

だが、一向に結果が出ることはなかった。

 

「…あぁ、そうさ。俺が金を注ぎ込んだのは」

 

家族には大きな迷惑をかけたと思う。

けれど魅せられてしまった。

かつて垣間見た、口籠に目隠しをされた馬に。

確かに恐ろしかった。

でも()()()()()

故にその馬に列なる馬を買い漁り。

そして失うべくして、失った。

 

「まぁ、今となってはどうでもいいことだけどな」

 

男は自嘲気味に笑いながら、話を締めくくる。

 

「……それで?」

「いや、それだけだ。それ以外には、ない」

 

そうだ。

今となっては、どうでもいい。

"シルバーバレット"という、存在が現れた今となっては。

いつか魅入られた、あの馬の血を継ぐ者が現れた、今となっては。

 

───────

─────

───

 

その馬が思うに。

そのニンゲンはおかしかった。

誰からも恐れられる自身に、無遠慮に近づいてきては手を差し伸べてきた。

まるで、自分のことを分かってくれているかのような。

そんな感覚さえ覚えてしまう程に。

 

確実に()()()()理解(わか)る風貌の己に、躊躇もなく触れてくる。

それがとても不思議でならなかった。

ただ、それ以上に嬉しくもあった。

何故ならば、今まで誰も彼もが自分の姿を見て逃げていったからだ。

なのに目の前にいる人間は違った。

撫で方は下手だったが、決して嫌ではなかった。

むしろ心地よかった。

そしていつの間にか、そのニンゲンに対してだけは心を許していたように思える。

……自身の子どものことを、任せるぐらいに。

 

───だがある日を境に、それは唐突に終わりを迎えた。

いつものように近寄ってきたニンゲンが、自分を抱きしめるようにして言った言葉によって。

 

(さよなら)

(さようなら、ニンゲン)

 

ニンゲンの世において、金は入り用。

ならばこの帰結も…当然のことだったのだろうが。

 

(、)

 

ぐたり、と体が沈む。

どうやら、今まで気力だけで()()()()()らしい。

そうぼんやりと考えて、今度こそホワイトバック(その馬)は元より決まっていた流れに身を寄せて…。





【こそこそ実は…な話】
白百合・銀弾母子が引き取られた牧場では前々から馬主としての初代白銀(白銀仁の父)の手によりたびたびホワイトバック産駒が預けられており、そのためホワイトバックの血筋の扱いに慣れていたという裏話があったりする。
またその牧場には種牡馬や繁殖牝馬としてホワイトバックの血を引く馬が何頭か…。


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どこまでも、いつまでも


きっと、『運命』だったの。



当の本人たちは知らぬことですが。

ホワイトインセインとホワイトノーマルは()()()()でありました。

けれど双子は忌むべきものでありましたから互いに互いが己の片割れだと知らぬまま二人はそれぞれ育ち、そしてある日突然にその運命が交わったのです。

 

「だぁれ?」

「お前こそ、ダレ」

 

『普通』の子であったホワイトノーマルはごくありふれた幸せな生活を送り。

『狂気』の子であったホワイトインセインは物心ついた時から座敷牢にいて。

それが本来なら会うべきでは、会うこともない()()()()()ふたりが出会った瞬間でした。

 

「ぼくねぇ、ノーマルって言うんだ。ホワイトノーマル!」

「へェ…。おれはインセイン。ホワイトインセイン」

 

誰もが寝静まった夜が、ふたりだけの時間で。

家のみんなにバレないようにこっそり隠れて会っていたふたりにとって、それは心底幸せな時間だったのです。

 

「ねーえ、きみは何歳なの? どうしてここにいるの?」

「さァ……? 忘れちまったよそんなの。ここじゃあ時間なんてあってないようなモンだしなァ……」

「ふぅん……そっか!ね、明日もお話してくれる?」

「ハハッ、そりゃあお前次第だよノーマル」

 

そうして毎日のように交流を持っていたふたりを周りは気付かぬフリ。

会わせるべきではない、と分かっていながらもかつて双子であったふたりを引き裂いた負い目があってか誰も何も言えなかったのです。

 

そんなある日のこと。

いつものように座敷牢で柵越しに向かい合うように過ごしていたふたり。

ですが。

 

「外に行かない?いーちゃん」

「は、」

「鍵ならここにあるから」

「ちょ、ちょっと待てよ」

「やっぱり可笑しいよ。いーちゃんはやさしい人なのに」

 

ホワイトノーマルの手の中には小さな鍵。

誰よりも『普通』な友人が、突如として行おうとしている暴挙にホワイトインセインはひどく動揺します。

だって、外の世界は危険だと。

幼いころから言い含められ、閉じ込められて育てられていたというのに。

外に出たいとも思わず、いや思うことすら()()()()()()()のに。

 

「怒られるなら、一緒に怒られるから」

 

お前は。

ホワイトノーマル(お前)だけは。

ホワイトインセイン()が、外に───。

 

「……分かったよ。行こう」

 

ならば、その望みに従おうと。

たとえそれで何が起きようとも後悔はないと思いました。

……いえ、本当は怖かったのでしょう。

けれどもそれ以上に。

ふたり、真に共に有れる歓びと興奮は。

 

「さぁ、外はキミが思う以上に面白いと思うよ」

「…そうかい」





【白の狂気】:
ホワイトインセイン。
白の一族の出しちゃいけない枠(だった)。
双子の兄の方。
ホワイトバックの父。

このまま座敷牢で生きて終わるのかな、と思っていたところに突如としてやって来たホワイトノーマル(おとうと)と交流を持っては救われる。
後にホワイトノーマルのことを『凡』と呼び始めるようになるが最初から最期まで自分たちが双子の兄弟だとは知らないまま…。

【『普通』の白】:
ホワイトノーマル。
『普通』に育てられていた。
双子の弟の方。
ホワイトキティの父。

ある日何となくで訪れた先の座敷牢で出会ったホワイトインセイン(あに)と交流を持つようになる。
ホワイトインセインのことを双子の兄と最初から最期まで知る由もないまま深く慕う。
なお『普通』ではあるのだが、その『普通』は某らっきょの某コクトー並の『普通』である。
何があっても、揺らがないタイプの…ね?


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ありふれた、どこかの


あの日の"あなた"。
いつかの、"あなた"。



その子と出会ったのは偶然だった。

やって来ていた療養施設にて迷子になっていたその子。

 

『やぁ、迷子かい?』

 

チラッと見守ってもフラフラ逍遥していたので声をかけた。

だって今にもなかなか人が来ないほうに進もうとしていたし。

それで声をかけて、素直に『迷っている』と返答があったので案内してあげて、

 

『キミは…最近来た子かな?』

『あ、あぁ…。昨日来たばかりなんだ』

『なるほど』

 

そんな話をした。

その子が療養施設に来た日の僕は、ちょうど昔に骨折した脚の経過観察が入っていたので別の場所にいたのだ。

施設に帰ってきたのも遅い時間だったので取り置かれていた食事をとって風呂に入って…。

 

『はい。ここがキミの目的地だよ』

『おお…!』

『また、迷子になったら見かけた子に声をかけてね。みんな優しいから案内してくれるよ』

 

そう言ったところで不意に呼ばれる。

声をかけてくれた子に近づくと来た荷物(食料品含む生活必需品)が思った以上に多く、運ぶ子たちを募ってほしいと頼まれ。

 

『うん分かった。今から声かけに行ってくる』

『ありがとうございます!』

 

 

『やぁ』

『あ』

『前、いいかい?』

『あぁ』

 

昼時になって、食堂に行くとあの子が今日も大盛り(といっていいのか定かではない)を持って食事をしていた。

まだ他のみんなはリハビリなどをしているようでふたりしかいない食堂。

ならひとりで食べるのも寂しかろうと声をかければ二つ返事で了承されて、

 

『よく食べるね』

『……むぐ。…逆に、先輩は食べなさすぎだ』

『そうかなぁ』

 

目の前には山のような食事。

その一方、僕の方にあるのは小さなうどん鉢。

定食メニューについているミニうどん程度の大きさの鉢。

 

『…よく、それで』

『あはは。慣れてるからね』

 

食べていたおかずのひとつを譲ってくれようとするのを謹んで辞退する。

美味しそうではあるんだけどね…、ウマサイズに作られたご飯はどうにも…。

 

『僕が低燃費なのは昔からだし。逆にトレーナーの方がよく食べるくらいだよ』

『そうなのか』

『もしかしたらキミと同じくらい食べるかも?…なんてね』

 

そう告げると目の前の子がメラッとした炎を出し始めたので慌てて止めて、『僕たちはフードファイターじゃないんだから』と押し留める。

まぁ、聞き分けのいい子だからすぐに納得してくれたけど。

 

『先輩』

『ん?』

『先輩は、名前をなんと…?』

『…そりゃあ野暮だよ』

 

いつも言っているのに、この子は相変わらずだ。

 

『この療養所じゃ誰もが平等なンだ。戦績なんか関係ない、ただのウマだ。…名前が聞きたい(戦いたい)んなら、レース(そと)()ってからにしようぜ』

 

なァ、───"後輩"クン?





先輩:
施設のまとめ役。
後輩のことを『素直で可愛いな〜』というテンションで見ている。
後輩の食べっぷりを見るのが好き。

後輩:
どこかの芦毛さん。
よく迷子になる。
そして先輩に世話になっては『面倒見のいい人だな』と思っている。
先輩が食べなさすぎて心配。


施設:
ウマ用の療養施設。
いつの間にか決められていたルールとしてお互いの名を名乗らないというのがある。
だって、『はじめまして』はこんな場所じゃなく…レース(そと)の方が、いいでしょう?
それはそれとして、誰かが施設から退所する時はみんなで『よかったね〜!』と見送る模様。みんな、湿っぽいのは嫌いだかんね!


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『不可能』こそを、『可能』だと笑え。


リクのサクラバクフウオーの話。
手のひらくるっくるでちぎれ飛んで行きそう(笑)。



【謎報】桜爆風王、春天出走

 

1:競馬好きの名無しさん

 

……?

 

 

2:競馬好きの名無しさん

 

なんで?

 

 

3:競馬好きの名無しさん

 

お前1200mまでの馬やろがい!

 

 

4:競馬好きの名無しさん

 

鞍上は白峰おじさんらしいけど…さすがに無理やろ

 

 

5:競馬好きの名無しさん

 

マイルすら1200超えたら失速して差される馬なんスけどねェ!?

 

 

6:競馬好きの名無しさん

 

銀弾の血がいくらあるとはいえさぁ…

 

 

7:競馬好きの名無しさん

 

どーせ爆逃げして捕まるのがオチ

 

 

8:競馬好きの名無しさん

 

逆にどれだけ大荒れになるか賭けた方が楽しそう

 

 

9:競馬好きの名無しさん

 

 

10:競馬好きの名無しさん

 

これは記念出走

 

 

11:競馬好きの名無しさん

 

枠潰すなクソが

 

 

12:競馬好きの名無しさん

 

でも白峰おじさんなら何かやらかしそう

 

 

13:競馬好きの名無しさん

 

これ勝てたら銀弾系列の中で初の春天勝ち馬になるんやっけか

 

 

14:競馬好きの名無しさん

 

銀弾系列は基本海外に行くからね、仕方ないね

 

 

15:競馬好きの名無しさん

 

勝ったら末代までの誇り、負けたら末代までの恥定期

 

 

16:競馬好きの名無しさん

 

鞍上白峰は買い

 

 

17:競馬好きの名無しさん

 

銀進撃も大概バケモンだったけど距離の壁越えられなかったし爆風王も無理だろ

 

 

18:競馬好きの名無しさん

 

現時点の出走馬を見ると勝つイメージが浮かばん

 

 

19:競馬好きの名無しさん

 

けどあの1990JC13番人気を思い出すとウゴゴゴゴ…

 

 

20:競馬好きの名無しさん

 

もしかするとあの菊花賞みたいになるかもなぁ…

 

 

 

 

××年天皇賞・春とかいう

 

1:名無しのトレーナーさん

 

スプリント

 

【××年春天時サクラバクフウオーの画像】

 

 

2:名無しのトレーナーさん

 

出たな手のひらクルックルホース!

 

 

3:名無しのトレーナーさん

 

何でお前勝ってんだよ!

 

 

4:名無しのトレーナーさん

 

>>3

母父銀弾、鞍上白峰だからとしか…

 

 

5:名無しのトレーナーさん

 

1200mのスペシャリストが勝っていい舞台ちゃうんよ

 

 

6:名無しのトレーナーさん

 

天皇賞・春はスプリント…(お目目ぐるぐる)

 

 

7:名無しのトレーナーさん

 

バチクソに舐められてた最低人気が勝つとは…たまげたなぁ

 

 

8:名無しのトレーナーさん

 

ミラクルおじさんならぬバクフウオーおじさんした人いたしな

あの一戦だけで…

 

 

9:名無しのトレーナーさん

 

>>8

なおそのバクフウオーおじさんは銀弾脳焼き勢だった模様

 

 

10:名無しのトレーナーさん

 

銀弾は脳を焼く、ハッキリ分かんだね(白目)

 

 

11:名無しのトレーナーさん

 

この勝ちの印象が強過ぎるせいで生粋のスプリンターなのにステイヤーだと思われる爆風王よ…

 

 

12:名無しのトレーナーさん

 

>>11

そらポスターからして『不可能を超えていけ』ですしおすし

 

 

13:名無しのトレーナーさん

 

残り1200からあからさまにタイム巻きにかかってる…

 

 

14:名無しのトレーナーさん

 

あの残り1200からタイム計ると爆風王が自分で出した日本レコード超えているというね

…アイツ、自分の父親と同じことして去ってったのに

 

 

15:名無しのトレーナーさん

 

>>14

ファッ!?

 

 

16:名無しのトレーナーさん

 

う〜ん、この

 

 

17:名無しのトレーナーさん

 

かの銀進撃もバケモンだったけど、…銀弾系列のスプリンターって基本的にみんなバケモン????

 

 

18:名無しのトレーナーさん

 

>>17

銀弾に列なるからにはみんなバケモンだゾ

 

 

19:名無しのトレーナーさん

 

もう草わよ

 

 

20:名無しのトレーナーさん

 

>>11

CMも作られたからね、仕方ないね

 

××年、天皇賞・春。

その日、現れた影は誰にも見向きされなかった。

埒外の挑戦者。

誰もが「無理だ」と笑う中、吹き(すさ)んだ爆風。

 

『不可能』こそを、『可能』だと笑え。

 

その馬の名は、サクラバクフウオー。

 

王道を征け。天皇賞・春。

 

 

 

 





【桜爆風王】:
父サクラバクシンオー母父シルバーバレットの牡馬。
生粋のスプリンター…なはずなのに白峰おじさんが手綱を取った結果、天皇賞・春を勝った。
その印象が強過ぎて、フューチャーされるのがもっぱらこの天皇賞・春ということになってしまったある意味可哀そ…、いや可哀想か?なウッマ。
なおこの天皇賞・春の際、銀弾に脳焼かれおじさんが最低人気であった【桜爆風王】の馬券を見事的中させミラクルおじさんならぬ爆風王おじさんと化した一幕もあったとかどうとか…。


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穏やかな日々、三人暮らし


明言はしないけど…みたいな。



この三人で、何故同居することになったかは今になっても分からない。

気づけばこうなっていた…というしかなく、それはそれとして長年学友であったから気心も知れており特段諍いもなく穏やかに過ぎていく日々に「まぁ、いっか」と慣れてしまっていたのだ。

そして、その日もいつものように朝食を済ませて家の仕事でもしようとした時だ。

 

「ねーえ、シルバー」

「んー」

 

呼び声にパタパタと玄関に行く。

するとそこには準備万端の同居人ふたり-ミスターシービーとカツラギエースがいて。

「はやく行かないと遅れるよ?」と言おうにも「ほらほら」と促されれば仕方ない(いちおうカツラギの方は早く行くぞとせっついていたが)。

 

「はいはい」

 

ちょっと背伸びして、ふっとふたりの頬に軽くキスをする。

無事に帰ってきてね、の『おまじない』。

実家で昔から当たり前のように染み付いていたものだから大切なふたりがこうして外に行く時は欠かすことなくしている。……のだが。

 

(あれ?)

 

なんか今日はいつもより長い…?と思いつつ首を傾げていると、「じゃあ行ってきます」「うん、頑張ってくる!」と言って出ていったふたり。

何だったんだ?と首を傾げて、せかせかと家の仕事をして夜に近くなると帰ってきたふたり。

 

「おかえり〜って、わぁ!」

「ビックリした?」

「今日は記念日だからな!」

「わぁ、わぁ、わぁ!!」

 

それから僕に手渡されたのは大きな花束と僕が好きなシンプルなショートケーキのワンホール。

 

「ありがとう!嬉しいよ!!」

 

そう言うとふたりとも嬉しそうな顔をして。

ぎゅうぅっ!!と抱きしめられたり頭を撫でられる。

 

 

どちらかひとりだけでは、囲い込めなかったと思う。

出来ても精々時々家の世話をしに来てくれる…程度のものだったろう。

だが、ふたり手を組めば話は別だ。

あれやこれやと勘づかれそうになったところで互いにフォローする。

卑怯だ、とは言うまい。

そうでもしなければ、この小柄でありながら誰も敵わぬ"魔性"に勝てるわけがないのだから。

 

「えぇ〜…いいの?」

「おう」

「だってシルバー在宅で働くつもりなんでしょ?」

「うん、いちおうは」

「それにお前放っておくとめちゃくちゃテキトーな飯作って終わらせそうだし」

「う゛っ」

「だよね〜。シルバーってば自分以外の人がご飯食べる時は張り切るタイプだけど自分ひとりだったら胃に何か入ればいいよね!ってタイプそう」

「…………」

「図星じゃん」

「…よろしくお願いしやーす」

 

…。

 

((ぐっ))

(なんか『やったぜ!』みたいな動きしてるや…)





僕:
シルバーバレット。
CB&カツラギと三人で過ごしている。
基本在宅ワークで家のことを細々と。
毎日ご飯を美味しいと言ってくれ、事ある毎に花やらスイーツを買ってくるふたりに苦笑しながらも何だかんだ嬉しそうにしているらしい。

CB&カツラギ:
ミスターシービー&カツラギエース。
手を組んで、手に入れた。
二人ともURAで働いており、僕手ずから作られたお手製弁当に舌鼓を打ちながら毎日頑張っている。
ちな実は毎日のルーティンである「いってらっしゃい」の諸々をされないと調子が上がらなかったり…?


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糸は垂れない


恨み骨髄、恨み節。
そんな"誰か"に。

───蜘蛛の糸は、垂れるでしょうか?



「はい、はい」

 

暗いというか、固い。

そんな親友の声をサンデーサイレンスが聞いたのはある深夜のこと。

横を見るとぼんやりと光る携帯のディスプレイに横顔を照らされながら電話している小柄な背。

…電話がかかってくるには、随分と非常識な時間だというのに。

 

「……あぁ、はい……はい……」

 

時折相槌を打ちながらも、ずっと何かを話している。

その様子からして、どうやら相手は目上らしいということぐらいしか分からない。

ただ、何気なく聞いているだけでも会話の内容は…物騒、極まりないものだった。

 

「それは、責任転嫁ですよ」

 

聞こえてくるのは、何を言っているか分からないまでもひどく感情が昂っていると分かる喚き声。

それに淡々と、色なく、感情なく答える背はどこか()()()()

 

「えぇ、そうです。僕はもう()()()()()のモノでも何でもありませんよ。だからなんですか?それが?」

 

そしてまた始まる話し合い。

それを聞いていて、サンデーサイレンスは何となく勘づく。

 

(あ、これ話してる相手…)

 

冷たく、詰める。

いつもの親友とは、思えない声音で。

 

「僕があなたたちに協力する義務も義理ももうないんですよ。だって、あなたたちが」

 

ぼくを、()()()んですから。

 

「……えぇ、はい、ではそういうことですので」

 

───ぶつり。

 

 

こうやって、電話がかかってくるようになったのはいつだったか。

変化もなく、堂々巡りの電話に嫌気がさすこともできずにいま何年目?

律儀に電話を取りながら、僕にかかってくるのは他の家族だったら問答無用で電話を切られるからなんだろうなぁ、とも。

それでも、こうして電話を取ってしまうあたり…甘いんだろうなぁ、僕……。

 

「お久しぶりですね。どうかしましたか?」

 

わぁわぁと喚き声。

まるで見るに耐えないような低予算ホラー映画のごとく。

少しぐらいBGM下げろよと文句を言いたいくらいに。

 

───お前のせいで!全部台無しになった!

 

…まーた始まった。

本当に、相変わらず人の話を聞かないんだ。

それに僕のせいと言われても。

そもそも、あの時、あの瞬間まで僕は何も知らなかったってのに。

 

「……あぁ、はいはい。それで?」

 

うんざりする気持ちを抑えつつ、相槌を打つ。

こんなもの、聞き流しとけば終わるけども。

…どうしてこうも毎回毎回同じことを言われ続けないといけないのか。

 

「…聞き飽きてんだよ、全部全部」

 

そう、思わず呟いてしまった言葉に、次から次へと矢継ぎ早に叫ばれる───。

 

「では、そろそろ切りますね」

 

…ぶつり。





許せ、許せと言われようが。
弁もなくば責任転嫁。
因果応報、七転八倒。

───許されれば、いいですね。

…僕じゃない"誰か"に、ね。



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ひとりぼっちの、ルーティーン


わすれたくないから、くりかえすの。



知ったふうな言葉の歌でしんみりして。

ありがちな映画を見て。

挨拶はちゃんとするとか、今日あったことを話すとか、食べ終わったあとの食器はちゃんと水につけるとか。

そんな約束を。

 

『幸せは目に見えない』って。

よくできた言葉だね。

下品ではないながらも、きらめく光が眩しくてシパシパと瞬きする。

腑抜けたカッコで、通い慣れたコンビニで煙草を買って。

それから家に帰って眠りにつく。

眠れなければ外に出て。

夜風に当たって、体力を消費して。

いつになったら慣れる?

変わらないルーティン。

…キミがいないだけの。

 

明日は何とかのゴミの日だからまとめて。

薬はあと一シートになったら買いに行く。

染み付いちゃったクセ。

繰り返さないと、繰り返さないと。

 

毎日、毎週、毎月、毎年同じルーティン刻んで。

行事ごとがある日はそれに因んで。

出来合わせで、有り合わせだけどそれっぽく。

味気もない食べ物食んで、飲み込み難いそれを茶で押し流す。

そうやってみんな生きてくんだろ?

それが"当たり前"だって言ってさぁ。

 

「…………もういいよ」

 

何度目だろう。

その言葉を呟くのは。

繰り返しても繰り返すだけ虚しくなるだけだからやめようと思っても、また気がつけば口にしてしまう。

何もかもどうでも良くなって、ただ息をして眠るだけの日々を過ごしているうちに季節は巡っていく。

冬を越えて春になって夏になる頃には、また世界は変わっている。

キミに囚われた僕を置いて。

変わらない、キミをおいて。

 

匂いも声も感触も、もう全部覚束ない。

立てかけてある写真だって、そういうシロモノみたいで。

忘れたくない温度を、キミが好きだった毛布にくるまって。

 

ご飯、炊けるようになったよ。

お風呂、沸かせるようになったよ。

自転車だって、乗れるようになったし、洗濯機だって使えるようになった。

洗濯物の畳み方も覚えたんだよ。

料理教室にも通ってみたけど、やっぱり僕は不器用で。

包丁の扱い方は多少上手くなったと思うんだけど。

あの頃よりもずっと上手くなったはずなのに。

あの頃よりもずっと美味しいもの作れるようになったはずなのに。

それを、伝えたい人はどこにもいなくて。

一番に、伝えたい人はどこにもいなくて。

 

36℃あまりの体温も薄れていく。

煙草吸って、面白みもない映画を見て。

酒を飲んでも酔えないから。

眠ってみても目が冴えるから。

あの頃みたいに、「悪いことしよう」って財布を握ってアイスを買いに。

 

人なんてほぼいない町を歩く。

視界が徐々にボヤけていく。

頬を、降ってもいない雨が伝って。

どうしようもなく、キミの温かさが。

 

()しい、なぁ…」





円グラフとか、そういうのを考えてみると大部分を構成していたモノがいきなり立ち消えってなるとどうしたらいいのか、きっと分からなくなるだろうなぁ、って。
何とか埋めようとしても残ったソレは空いたソコを埋めるほど大きくなくて、それでも残った小さな割合で何とか埋めようとして。
そこから割合を増やすために少しばかり学んで、体積を増やしてみたりするけど、元の大部分の、その代わりにはなれないよねって。

そんな話、でした。


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四月一日(わたぬき)なき日々


四月一日はまだ来ない。
だから。

現実(ホントウ)、なんだ」

「ウソ、なんかじゃ…」




ぬいぐるみを拾った。

けれど、それはぬいぐるみではなかった。

 

『みー、みー』

 

微かにそう鳴いて、家の中をちょこちょこと。

可愛い女の子を模したぬいぐるみだ。

でも耳から見るに擬人化とか、そういうものっぽいけど。

 

「こらこら、危ないよ」

『みー!』

 

そのぬいぐるみは人として生きるには…少しばかり向いていない僕の世話をよくしてくれた。

時おり様子を見に来てくれる或る家族の前ではただのぬいぐるみのフリをしていたけれど、それ以外はもっぱら。

小さな手でどこから取り出したのか、箒とちりとりで家の掃き掃除をしたり、雑巾で床を拭いたり。

洗濯物をしてみたり、料理をしてみたり(どうやらぬいぐるみの小ささとは裏腹に力はとても強いらしい)。

そんなこんなで、僕がごく一般の生活を送れるようになったのはこの子のおかげだったりするわけだけど……。

 

「まったく……」

『みー?』

「なんでもないよ」

 

不思議そうな顔をする彼女を撫でてあげながら僕は思う。

これはきっと夢なんだって。

"キミ"にあった跡を人の顔に構成すればこうなるだろうという色の違う布地。

"キミ"の不思議な毛色に似た髪の毛。

"キミ"の声のような鈴の音のような声色。

"キミ"の手触りと大きさを再現したような手ざわりの良い肌。

…そして何より、 "キミ"と同じ表情をする彼女を見て、確信したんだ。

これは『夢』なんだって。

もしくは幻覚とも、いえるかもしれない。

自分の頭がおかしくなっていることは、遠の昔に自覚しているものだから。

だから、おかしくなって、自分がいちばん望むモノ…らしきナニカを見ても、そうおかしくはないだろうと。

 

「今日は何しようか?」

『んー! みゃっ!!』

 

けれども。

彼女は元気よく返事をした。

…あぁ、なんて幸せな日々なんだろうか。

 

 

彼女が来てからというもの、僕は眠れるようになっていた。

もそもそと布団に入り込んでくる彼女を抱き締めて(何故ならそうするように促されたから)眠りにつくのだ。

夜中に目が覚めることも少なくなり、朝までぐっすり眠るようになった。

今まで以上に体調が良くなったし、気分も良い。

 

「ねぇ、」

『みー?』

「キミはどうして、僕のところに来たの?」

『み、み、みみっ!』

「そんなどこかのコヨーテから逃げる鳥みたいなこと言われても分からないなぁ…」

 

ふあふあで、もちもちな小さな体。

それを抱きしめているだけで心が落ち着く気がするのは気のせいではあるまい。

ずっとこのままで居られたらいいのにと思う反面、いつか来るであろう終わりを想像すると胸の奥が痛んで。

 

「……もし、もしもだよ? キミがいなくなってしまったら……僕はまた独りぼっちになってしまうね」

『……』

「そうしたら僕は今度こそ壊れてしまうかも……」

『みぃ~……』

 

ぎゅっと抱きついて、胸に頭を押し付けてくる彼女の背を優しくさすった。

小さな体は簡単に折れてしまいそうだけれど、それでもしっかり生きている温かさがあり。

ぽすぽすと、布と綿のやわらかな手が僕の頬を撫でるのに目を細めた。

 

「……ありがとう」

『みぃ♪』

「うん……本当に優しい子だよね」

『むぅう!?』

「ごめん、つい」

 

ぷくーっと膨れたほっぺたをつついて空気を抜いてあげる。

それからもう一度謝るようにきゅうと抱き締めれば『み、み』とくすくす笑いが聞こえたのだった。





ぬいぐるみ:
ぱかっとしてプチっとしたぬいぐるみ。
どこからともなくある日突然現れた。
持ち主のおじさんにはどことなく彼女を見て連想される"ナニカ"があるらしい。
家事もお手の物だが如何せん布と綿製なので火に近づくと危ないし、水に近づくと萎びる。
おじさんのことが大好き。

おじさん:
ちょっ、…いやだいぶ精神をやっているおじさん。
でも人間的生活ができないのは元から。
けれどぬいぐるみが現れてからは徐々に人間らしさを取り戻していく。
…なんかどっかのほのぼの漫画とかでありそうなシュチュだね。


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四月になる前の…、


あなたにむけて。
こころをこめて。



シャキンシャキン。

ちくちく。

 

そんな音を聞きながら、ぬいぐるみの自我は芽生えた。

 

「ね、コレでいいと思う?…"可愛いからいいと思う"って、なんか適当だなぁ」

 

見えていた、ワケではないが何となく分かった世界は色とりどりの布と糸に綿に裁縫道具で彩られていて。

自分の体を縫う手に、少しばかりの絆創膏があるのをぬいぐるみは感じた。

その手の主が自分を縫い上げている間にも、手の主たる彼女は楽しそうで。

針仕事をしながら鼻歌を歌い、時々独り言のように喋る声を聞いている内に……ぬいぐるみは自分がどんな存在なのかを理解した。

 

(ああ、自分は誰かへの贈り物なんだ)

 

そして、出来上がった暁には…ここよりずっと、遠い遠い場所へ、行かなければいけないことを。

 

「僕らの代わりに、キミには"あのヒト"を見守って欲しいんだ」

「…"あのヒト"は人として生きていくのに少しばかり向いてなくて」

「でも、…とっっっても、やさしい人だから」

 

───僕らのせいで、傷ついちゃったから。

 

ぬいぐるみに、主たる彼女と()の機微はよく分かりません。

ただ、主であるふたりが、その"あのヒト"をとても大切に思っていることは伝わってきました。

そのヒトの為に何かしたいと思っていることも。

……ただ、それがどういう形になるのかまでは分からなかったけれど。

 

「お願いだよ。僕たちの分まで、どうか……」

 

 

『み!』

 

そうして、出来上がったぬいぐるみは主ふたりの見送りをもって、お仕事をすることになりました。

これより先も、ずーっと。

寂しくないと言えば嘘ですけど、それでも大丈夫。

だって、ぬいぐるみはもう知っているのですから。

"あのヒト"はとてもやさしくて、あったかくて、素敵なヒトだと!

それに、ぬいぐるみがいないとどうやら"あのヒト"こと『おじさん』は生活していけないようなので。

…これは、仕方のないコトなのです。

 

『み~♪』

 

ぬいぐるみは今日も元気いっぱいに、『おじさん』のお世話をします。

まず起きると『おじさん』をぽてぽて叩いて起こして朝ごはんを作ります。

それから『おじさん』がご飯を美味しく食べているのをニコニコ眺めて、洗濯物を干したり掃除をしたり。

その間、『おじさん』は別の部屋で【ナニカ】を書いています。

たまに寝落ちしていることもあるようです。

昼になるとまた食事を作ってテレビを見たりとまったりした時間を過ごします。

夜になったら晩御飯を作って執筆に集中している『おじさん』の口にご飯を突っ込みます。

…まぁ、ご飯を突っ込む内にご飯をちゃんと味わいたい『おじさん』がキチンと自分で食べ始めるのですが。

 

『…み♪』





ぬいぐるみ:
或るふたりに作られた。
姿はふたりの内女の子の方を模して作られている。

或るふたり:
女性と男性。
女性の容姿=ぬいぐるみのデザインの元だったり。
ちな男性の方は小柄な四足歩行だとか…?


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にているようで、ちがって。


ふえました。



『みー!!』

 

その日、ぬいぐるみの聞いたことがないくらいの大声で僕は目覚めた。

布団のそばに置いてある時計が示す時間はいつも起きる時間とそう変わらなく。

でも、どうしたどうしたと寝ぼけ眼を擦り視線を彷徨わせ、そして焦点が合う。

 

『み!み!』

『〜♪』

 

…そこにはいつものぬいぐるみと、そのぬいぐるみが抱き着く───小柄な馬を模した、どこか()()()()()()デザインのぬいぐるみ。

もしかして、知り合いなのだろうか?

そう思ってしまうほどに、涙の再会とでもいうかのような抱擁を交わす二体のぬいぐるみは、僕が起きたことに気がつくとすぐに離れ、僕の目の前でぺたりと座った。

 

「えっと……おはよう?」

『みぃ〜』

『ー』

 

二体ともそれぞれ頭を下げたあと、何かを言い淀むようにモジモジとする。

一体なんだろうと思っていると、意を決したかのように彼女(以下、人を模したぬいぐるみを'彼女'、馬の方のぬいぐるみを"彼"とする)が口を開いた。

 

『み、みみ』

「うん」

『みぃみぃ、みみ!』

『ー』

 

身振り手振りで。

何となく『これからよろしく』みたいなことを言っているんだろうな。

 

「……うん、よろしくね」

『『!!……!、!』』

 

 

その日から、'彼女'が"彼"に乗って移動しているのを見るようになった。

たしかに'彼女'の大きさからすると家の中を移動するのは骨が折れることだったろう。

それにしても、'彼女'には驚かされるばかりだ。

まず、料理ができる。

出会った当初に、時折面倒を見に来てくれる或る一家の人々がおすそ分けしてくれた野菜を使って、ちょっとした野菜炒めを作ったと思えば。

今では料理番組の内容を書き写したり、新聞をスクラップして、これらの食材を求む!と見えるところに出したりするのだ。

次に、掃除が得意。

家中隅々までピカピカにして、埃一つ残さないし、洗濯物だってシワひとつない仕上がりになる。

そして最後に、

 

『み!』

『ー!』

「はいはい」

 

布団の中に招き入れて、ゆるく抱き締める。

ふわふわとした触り心地と抱き心地が気持ちいい。

"彼"も一緒になってぎゅうっとさせてくれるものだから尚更だ。

スリスリと頬擦りしてくれるし、本当に可愛い子たちだと思う。

そんなこんなで過ごしている内に眠りに落ちて。

目が覚める頃にはもう朝になっているというのが日常になりつつある今日この頃である。

 

「…………」

『み?』

『ー?』

「んーん、なんでもないよ」

 

胡座の間に収まるようにして、自分の顔を見上げるぬいぐるみたちを柔く撫で。

それから少しだけやめようかと思うも「やめるの?」という素振りを見せられたものだから、今度はやさしく抱きしめた。

 

「…ずっと、一緒にいてね」

 





ぬいぐるみs:
なかよし。ふあふあでモチモチ。
人を模したぬいぐるみと四足歩行の動物を模したぬいぐるみ。
基本手のかからないとても良い子なのだが目を離すと動物を模した方に人を模した方が乗って家の中を駆け回るとか。
おじさんの癒し枠。抱き締めて眠ると、『悪夢』を見ないで済むらしい。

おじさん:
ぬいぐるみsに癒されている。
が、ぬいぐるみsに依存しているのも…また、たしかで。


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*続き、繋ぎ、共に


リクエストの【銀弾生存IF√でマスタとの「片方が牝馬だったら子供をなしていた」が実現する+その産駒の話】です。
産駒の話は匂わせ程度でしたが…。

この話はマス太×銀弾♀なんだ!

ちな銀弾♀√のマス太は父としても母父としても…ウン、という感じです。
でも銀弾♀の最後の相手として選ばれる√なんだ。

…それにしても2010年代に生誕する父父トウショウボーイ父母父タイテエム、母父ヒカルイマイの産駒ェ。脳焼かれるじゃすまんぞ…(戦慄)



まぁ…思い返せばずいぶんと歳をとってしまったものである。

 

『そうは思わないか?』

『そうだねぇ』

 

そんな話を親友であり幼なじみであるマス太とする。

私もずいぶんと子どもを産んだ。

そのすべてが勝ち上がり、この牧場に帰ってくるものもいれば、ほかの場所で頑張っているものもいる。

 

『…でも、お前が最後でよかった』

『…僕もだよ』

 

お互い、この"仕事"を最後に引退だ。

名だたる名馬を相手にしてきた自分だが、まさか最後の最後に幼なじみの相手をすることになるとは…、

 

『なぁ、ピース』

『ッ!…なぁに』

『…私が、お前の血、』

 

継いでやるよ。

 

 

いつだって彼女のそばにいた。

僕の方が先に好きだったのに、と思わなくもなかったが仕方のないことだとも諦めていた。

血を繋ぐような子が産まれない僕と、すごい子をたくさん産み落としているキミ。

やっぱり、最初から何もかもが違ったんだなと苦笑しながらも、それでもキミのことが大好きだから、そばにいた。

そして、

 

『マス太』

『わぁぁ…!』

 

ぐったりとしているキミが、二頭の幼子(おさなご)を僕の方へと押し出す。

 

『さすがに双子はキッツイなぁ…一回産んだことはあるにせよ』

『……!』

『なんか言えやコラ。こちとら頑張ったんやぞ』

『〜〜〜ッッ!!ありがとう、ありがとうバレット!!!!』

『…おう』

 

彼女から産まれた僕の子ども。

男の子と女の子、一頭ずつ。

僕によく似た男の子と、彼女によく似た女の子だ。

 

『かわいいなぁ。すごくかわいい』

『そうかい』

 

それから、

 

『アイツら、名前つけられたんだって』

『へぇ、どんな?』

『たしか…男が"シルバハードゲット"、女が"シルバミラーリング"…だとか』

『…キミの名前じゃないんだね』

『"シロガネ"のことか?…まぁ、いいだろ。たぶんお前の血を継ぐ方を、優先したんだろうさ』

 

彼女の子ども、孫たちは"シロガネ"という名を与えられることがたびたびある。

それを我が子が与えられなかったということに少しばかり思うところはあったが、彼らが彼女を通して産まれた僕の子であるのに変わりはないのでごくんと飲み込んだ。

 

『…元気に、過ごすかね?』

『大丈夫だよ、僕とキミの子なんだから』

『なら、いいんだが』

 

ゆるりと、キミの目が細まる。

今にも、光が潰えそうな瞳。

そんなキミを見ながら、僕も寄り添う。

 

『いっしょに、いこうね…ばれっと』

『…ぅ、ん』

 

まだ幼い子どもたちをのこすのは気が引けるけれど。

でも僕は、彼女を離したくないから。

 

『(…今度こそ、誰にも渡さない。渡す、もんか)』

 

 

 

 

そして、……暗転。





やっと実現した幼なじみ配合定期。
産まれた子はお互いのラストクロップと化するし、通常√と同じようにお互い寄り添って…するので、……ヒトミミの脳が焼かれるッ!!

双子:
兄シルバハードゲット、妹シルバミラーリング。双子。
白峰透厩舎所属。主戦騎手はシルバハードゲット(あに)が白峰遥でシルバミラーリング(いもうと)が黒谷薫。
兄妹揃って日本の牡・牝無敗三冠したり、海外を蹂躙したりする。
寄り添って亡くなった父母に捧げる勝利なんだ…。



私:
シルバーバレット♀。
マス太のことは憎からず思っている。
マス太をつけられる前から名牝であったが、最後に産んだ双子でやっと()()()三冠制覇を果たす。
最期は御察しの通り、通常生存√と同じくマス太と寄り添って…の模様。純愛定期。

マス太:
シルバマスタピース。
もはやこの一発に注力したのでは…?と後年ヒトミミのみなさんに言われてそう。
私のことがずっと好きだった。
でも種牡馬成績がアレだし…、私の相手するならもっといい相手がいるし…で諦めていたところ相手させてもらえた。
ちな私の相手をするとなったら、これまで見たことがないくらいにやる気()になっていたらしい。
で最後の最後に牡・牝の無敗三冠馬を出した。
そして私とともに虹の橋を渡った。
好きな相手とさいごまで寄り添えた勝ち組ウッマ。
なお虹の橋を渡ったあとは歴代私の相手さんたちとバチバチするイベントが待っている模様。がんばえ〜。


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或る銀弾に祝福を!


6/25 HAPPY BIRTHDAY シルバーバレット!!



気づけば誕生日というヤツであった。

家族はみな祝福してくれ、『今日の主役!』と書かれたタスキをかけて誕生日ケーキなどを含む料理に舌鼓を打ったワケだが、

 

「豪勢な誕生日だったな」

「あ、サンデー」

 

満腹になった腹をヨシヨシ撫でさすっていると近づいてくる影―サンデーサイレンス。

僕の自他ともに認めるマブダチである彼は招待メールを送っていたとおり来てくれたようだ。

そんな風に考えている僕だったが、

 

──バシッ!

 

瞬間、視界が真っ白になる。

何事!?と思ったのもつかの間、舌に触れるものが甘いことに気がつくと、

 

「…パイ投げはだいぶベターでは?」

「でもそういうの好きだろ?お前」

 

ケラケラと、笑い声が聞こえる。

まぁ、確かにこういうのは嫌いじゃないけどさ。

…というかやっぱりもったいなくない?

パイ投げしかり、食べ物使うヤツって。

…クリームが甘さ控えめなのは、高得点だけど。

 

「さて、じゃあ次はプレゼントだ」

「おー」

「と言っても俺から渡せるのはこれくらいしかないんだが……」

 

言いながら彼が取り出したのは、小さな封筒。

……なんだろう?

そう思いつつそれを開けてみる。

すると中には……、

 

「は?え、ウソォ!?」

「マジマジ、大マジ」

 

あるG1レースの観客チケットが入っていた、しかもコースを考えるとめっちゃ良い席のヤツ。

 

「確かオメーの元トレーナーだったヤツが担当してるのが出走するんだったろ?…ソレ思い出したからダメ元でやってみたんだが」

「〜〜ッッ!!ありがとう、さすがサンデー!!!!」

「ぉ、おう、」

 

思わず彼に抱きつく。

うっわ、すごく嬉しいんだけど!?

マジサンキュー、最高すぎるよ!

いや、だって、これなら見れるじゃん!

先生の活躍(?)見れるじゃん!

あーもう、今日一番最高のプレゼントだよコレは!…などと。

キャッキャウフフし、

 

 

 

『はい、…バレット?』

「せんせ〜!」

『うん、お誕生日おめでとう』

「あ、覚えててくれたんだ」

『そりゃあもちろん。運命の相棒だもの、覚えてるさ』

「ははは、キザだね」

『…今、僕もそう思ったとこ』

 

もう、深夜に近くなった時間に悪いとは思ったけれど電話をする。

どうしても、話したかったから。

 

「あ、せんせ」

『ん?』

「今度のレース、見に行くね」

『え、どれを?』

「えっとね〜」

 

それから。

10分、15分話したあと、

 

「またね、せんせ」

『うん、また…バレット』

 

プツンと、電話を切る。

そして残されたペカペカと光る小さなディスプレイを見ながら僕は、

 

「んふふ…」

 





僕:
シルバーバレット。6月25日が誕生日。
毎年、家族からめちゃくちゃお祝いされる。
けど胃の許容量がそこまで大きくないので用意される料理はほぼ周りの者たちの手(胃?)で処理される模様。
今回、マブダチからとあるG1レースの観戦チケットをもらい大喜び。
何故なら今も尚トレーナーな己が最愛の相棒の姿を見られるから。

サイッッコーの、プレゼントだぜ!!

SS:
僕のマブダチ。
プレゼント、喜んで貰えたのなら何より。

僕の相棒:
まだまだ現役なヒトミミトレーナーさん。
基本優しく、にこやかヒトではあるが過去の担当であり『運命』と呼んではばからない僕の傍にいる時は普段の何割か増しで頬が緩んでいる。

あの子が見に来るって、担当の子にも言っておこう!
(ちな担当の子は僕の熱烈なファンだとか…)


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六月の蝉


センチメンタルというか哲学。



蝉は土の中で随分と過ごしては成虫となって約一週間程度で儚くなるのだという。

その約一週間で子孫を残さなくてはならないというのは大変そうだなぁと思うが今したい話はそれではない。

 

蝉。

土の中にいる蝉。

土の中で成長しては、ほんの一瞬の輝きを見せる。

 

───まるで、自分みたい。

…などと言ったら『巫山戯てる?』と言われそうではあるが。

僕自身としては何となく、そう思ってしまうのだ。

 

ぼんやりとベンチに座る僕の近くで季節外れの蝉が鳴いている。

ひとりぼっちの、蝉が鳴いている。

音のする方に行くとやはりそこでは蝉が鳴いていた。

バレぬように近づいて、そっと昔取った杵柄で捕まえてみれば摘んだ指先を伝って伝わる振動。

 

鳴いている。

ただ鳴いている。

生きている、と示すように。

同族には届くはずもない、声を上げている。

それを眺めて、僕は指もとい片手にかけていた力を抜いた。

そうするとジジジ…と天高く舞い上がり、どこぞへと飛んでいく蝉。

 

そう言えば昔、狂ったように蝉の幼虫の抜け殻を収集していた時があった。

その時はまだ純粋無垢だったからか、それとも単に収集癖でもあったのか。

どちらにせよ、あの時の自分が今の自分を見ればきっと驚くことだろう。

何の気兼ねもなく、虫を素手で捕まえて虫かごに乱雑に突っ込んでいた自分が、余っ程のことがなければ虫を触ろうとしないなんて。

そんなことを考えながら、ふぅー……と息を吐く。

それは風に乗って何処かに消えていった。

 

 

恙無く過ぎる日々。

代わり映えなく、平穏に過ぎる日々。

木々が風で揺れる音をBGMに走っていれば数日前にした思考もそれとなく脳の隅に放られているもので。

 

「…」

 

ベンチの近くで蟻の行列を見た。

ここいらは子どももよく遊びに来る、ありふれた公園であるから誰かが菓子でも落っことしたのだろうと踏んで近寄れば。

 

「…」

 

小さい蟲が集る。

それがひとつの黒い塊となり微かに喘鳴する。

少しずつ少しずつ。

千切られては運ばれて小さくなる。

随分と時間が経っているらしい"ソレ"はもはや羽しか残っていなかった。

太陽光に反射して、キラキラと光る薄い羽。

それに手を伸ばす。

触れた瞬間に小さな悲鳴を上げて崩れ落ちる。

あぁ、壊れてしまった。

もう二度と動くことはない。

翅脈に沿って優しく撫ぜると、その感触すら感じないほど脆かったらしく砂のようにサラリと風に攫われていく。

 

誰もいない、見ていない木陰の隅で。

六月某日の午後。

蝉が────。





僕:
シルバーバレット。
その気になれば虫をむんずとできるタイプのウマ。
沈む時はとことん沈んでそう。
なおその時期中は終わりが近づいた猫のようになるので連絡手段を持たないまま何処かしこにフラフラしては周りを心配させている。
また蝉以外にも蜉蝣とか好きそう。


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*重なる姿


この前のマス太×銀弾♀の話の続きというか。

実は銀弾︎︎♀が繁殖に入った時点でマス太はほぼ試情馬(当て馬)になっている感じです。
いわく、牝馬に興味を示さず嫌々仕事をしてストレスが溜まった結果、気性に影響が出ていたからだとか。
そして銀弾︎︎♀が繁殖入りした後は毎度銀弾♀の試情馬(当て馬)となり、が前提にあって…双子が産まれた(こう)なったってわけ(ニッコリ)。

また、銀弾♀が繁殖入り初期、引き離された試情馬(当て馬):マス太を探して鳴いていた…みたいな逸話とかも、ね?



自分たち兄妹が生まれた時、既に父母は老齢も老齢だった。

誰もがその名を知る名牝の母と、歴史の中に埋もれていた父との間に生まれた自分たちは物心ついた時には周りの援助をもって暮らしていた。

何故なら物心つく前に父母ともに寄り添って、幸せそうに虹の橋を渡ったからである。

 

「ねぇ、ハド」

「なぁに、ミラ」

 

歳の離れた兄姉が甲斐甲斐しく親代わりになってくれながらも、結局自分たちは自分たちさえいればそれでよくて。

だからずっとふたりだけで生きてきたし、これからもそうだと思っていた。

そんな自分たちの生活が変わったのは、ある夏の日のことだった。

 

「──私ね、一緒に走り()たいと思う人を見つけたわ」

 

いつものように、ふたりで街を歩いていたら、突然彼女が言ったのだ。

そして、

 

「──あぁ、僕も同じだ」

 

同じようなことを、彼も返した。

容姿こそ分かたれたものの流石は一卵性の双子。

考えることは、そして『運命』とやらも()()らしい。

それからというもの、ふたりはそれぞれに『運命』の相手と共に覇道を猛進した。

魔に会うては魔を切り、神に会うては神を切る…と言わんばかりの勢いで己が『才能』という暴力を武器に大立ち回りを繰り返した。

時にはふたりの歩む道がかち遭うということもあるにはあったが、本人たちはそうそうない合縁奇縁に嬉々として踊り狂って魅せ、愉しんで(なおその様は第三者から見れば終末中の終末であり、『被害規模がデカ過ぎる兄妹喧嘩』と畏怖と畏敬を払って呼ばれる類のモノなのだが)。

 

ふたりの世界は、ふたりだけのモノ。

自分たちの『運命』以外はみな小道具のような。

歪な世界。

その姿は───かの父母の、生前の様とよく似ていて。

 

 

「おーおー、兄妹仲良くやってるみたいだなぁ」

「そうなの?」

「ほら、見てみろよ」

「…あ、ホントだねぇ」

 

過ごす場所が変わっても、シルバマスタピースとシルバーバレットは共に居た。

…まぁ、はじめはちょっとした騒動があったのだが決定権そのものであるシルバーバレットの鶴の一声によって「なら、仕方ない」と渋々ながら騒動は沈静化したのである。

それはさておき、今はとある昼下がりのこと。

ふたり揃って寄り添って、"あちら"を見ると我が子たちが元気にしている姿が。

 

「ハドもミラも元気そうでなにより」

「は?『双子だからソックリ!』じゃないが?目ェ腐ってんのか????」

「…バレット、落ち着いて」

「両方マス太に似た可愛くてカッコイイ仔じゃろがい!!」

「暴れないの!!!!」





運命の幼なじみ配合より。

双子:
シルバハードゲット&シルバミラーリング。
父シルバマスタピース母シルバーバレットな兄と妹。先行と逃げ。
"ハド"と"ミラ"と呼ばれている。
基本互いと走ることと自分の面倒を甲斐甲斐しく見てくれるトレーナーやチームの人にしか興味がない。
ライバル?なにそれ?
また一卵性の双子なので見分けがつかないが、分かる人()には雰囲気の違いで分かるらしい(ハドが父親似.ミラが母親似)。

父母:
シルバマスタピース&シルバーバレット。
双子の父母。見守っている。だがモンペ。
『父親ソックリで可愛ええ〜!』と思っている母と『母親の魔性を継いだ…』と額押さえている父。
ちな周りから『アンタらんとこの双子見分けつかねンだけど…』と言われては『は?節穴か?』とよく噛み付いているとか。


ハドは僕似でミラはあの子似なんですけどね…????
…アッ、そうだった。
あの子とずっと一緒にいたのは僕だから───。
……分からなくても、無理はないですよね〜。
ふふふっ♪(ドヤ顔)(満面の笑み)(勝ち誇り)。


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偉大なる、"速度狂"へ


その身体(機体)で、あなたは何処まで───。



「僕の走りで、役に立つのなら」

 

断られるかと思った頼みは、案外アッサリと了承された。

アグネスタキオンはウマ娘の身体とその限界に多大なる興味関心を抱く学徒である。

故に件のウマ娘-シルバーバレットに協力を要請することはそうおかしくないことと言えた。

 

学園指定のジャージに着替えた小柄な体がアグネスタキオンの指示に従いターフを駆けていく。

その速度は確かに速いが、それでも彼女の本来の速度には遠く及ばないだろう。

 

(ふむ……)

 

だがそれは当然だ。

彼女は既に第一線を退いて久しい。

ドリームトロフィーリーグに所属してはいれどトゥインクルシリーズに所属していた頃に比べると衰えている筈なのだから。

しかしそんなことは百も承知の上で、この小さな体躯に秘められた可能性を感じずにはいられなかった。

そして同時に、自分の研究欲を満たしてくれるであろう存在との出会いにアグネスタキオンは感謝した。

 

「ありがとうシルバーバレット君!君は実に素晴らしい!」

「どういたしまして。いずれデビューするだろうキミの役に立つのなら、先達冥利に尽きるよ」

 

天賦とも呼べるスピードとそれを支えるスタミナ。

体の使い方から足の着地の仕方さえ、すべてがただ()()()()()()、ひとつに集約された完成形と言っていいフォームだった。

これこそが彼女が、生涯無敗でトゥインクルシリーズを去れた所以なのだろうと思わされる。

…とはいえ。

 

「どうかしたかい?」

「あ、あぁ…。いや、すまない。不躾な視線だった」

 

無意識に視線が下を向いていた様だ。

細い脚、枯れ枝のよう…とも見る人が見ればいいかねんほどの脚。

その脚に、アグネスタキオンは…。

 

「触るかい?」

「えっ!?」

 

唐突に差し出されたそれに思わず声を上げてしまう。

差し出した当人はといえば、いつも通りの涼しげな表情のままこちらを見つめていた。

 

「いや……でも……」

「構わないさ。ほら遠慮しないで、実物を触った方が何事も解りやすいだろう?」

 

恐る恐ると伸ばし、触れたソレは堅い。

足首を少し動かしただけですぐに骨に至る脚は鍛え抜かれたと表すには安売りが過ぎた。

 

───削り、落とされている。

 

1gのムダさえ許さぬと。

勝利という一点のみに全てを捧げて生きてきた者の末路がこれだと言わんばかりに。

 

「……ッ!!」

 

気づけば手を引っ込めていた。

いつの間にか息を止めていたことにも、そこで気づいた。

 

「もう良いの?もっとしっかり触ればいいのに」

「……いや、今日はここまでにしておくよ」

 

これ以上ここに居てはいけない気がした。

自分が今どんな顔をしているのかわからない以上、彼女に見せるわけにはいかないと思ったのだ。

 

「また後日頼むかもしれないが大丈夫かな?」

「勿論。いつでもどうぞ」

 

…紙一重、だった。

崩壊と最高速度のギリギリをとった、そんな、身体(機体)

 

「…たしかにアレは」

 

───"速度狂"、と。

 

「言わざるを得ない、か」

 





僕:
シルバーバレット。
速さのために身体(機体)をギリギリまで削っている。
なので体つきは細いわ骨ばってるわな感じ。
でも。

──速く走れるからいいじゃない。…ね?


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くるり、するり


しっぽハグ戦争



ウマ同士のコミュニケーションの一部として『尻尾ハグ』というものがある。

端的にいうと「ウマ同士が互いの尻尾を絡め合う」というものなのだが…。

 

(ま、また巻かれてる…)

 

小説を読んでいたシルバーバレットの垂らされた尻尾に絡んできた尻尾。

その感触はまさしく今自分の目の前にあるそれに描写されているのと同じで……。

そして小説の中で語られていた尻尾ハグの意味を思い出し、シルバーバレットは息を吐く。

 

「、」

 

本を閉じて、ちろりと見つめる先にいるのはクラスメイトであるミスターシービー。

その尻尾はするりと伸びてきてシルバーバレットの尻尾に巻き付き、それはまるで抱きしめるように―――いや、実際にそうなっているのだが、ともかくそんな状況になっていた。

当の本人であるミスターシービー本バはといえば、いつものようににこやかな笑みを浮かべながら周りと話しており、シルバーバレットの様子に気づいていないようだ。

 

(…ミスターも好きだなぁ、尻尾ハグ(コレ))

 

 

気づけば、シルバーバレットにとって『尻尾ハグ』というものはコミュニケーションのようなものとなっていた。

きっかけは本当に些細なことで。

ある日、いつものように過ごしていたら巻き付けられた尻尾。

「コレ、コミュニケーションなんだぜ」と、今となっては言いくるめられたような気がしないでもなかったが、悪い気はしなかったし、むしろ嬉しかった。

それ以来、尻尾ハグが楽しみになりつつあったのだ。

とはいえ、それを自分から求めることはできなくて、「誰かしてくれないかしら」とただひたすら待つしかなかった。

そんな折、

 

「なら、私としましょうか」

「えっ、いいの!?」

「…えぇ。もちろん」

 

後輩であり、友人であるシンボリルドルフから誘われ、尻尾ハグをすることに。

 

「…なんか、照れるね」

「ほう…。なるほど、こういう感じですか」

「ちょっ!ちょっと!」

 

それからというもの、何かと理由をつけてシルバーバレットは『尻尾ハグ』に巻き込まれるようになる。

時にはそれを見た先輩・後輩とおこなったりして。

そうやって過ごしているうちに、いつしかそれが当たり前になった。

だから、シルバーバレットにとって『尻尾ハグ(コレ)』はもう日常の一部なのだ、…とは言っても。

 

「人前でやっちゃダメだよ!ダメだって!!」

 

怖い目で、自分ににじり寄ってくる友人たちに引き攣った顔をする一場面が、ほぼ毎日起こるとは予想できるハズもなく…。

 

「ヒョ、ひょええぇぇ……!」





僕:
シルバーバレット(尻尾ハグされるすがた)。
もはや尻尾ハグされすぎて感覚がマヒしている。
が止めるヤツはいないし、全員同じ穴のムジナだし…。
尻尾をブラッシングしたら、たぶんきっとメイビーで色々な色の尻尾毛が出てくる。

尻尾ハグ勢:
はじめに言いくるめたのはAさん。
これ幸いとしたのは【皇帝】。
負けてられないとやってきたのがCB。
御三家はこんな感じ。
…まぁ、まだいっぱい居るんですがね?


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その言葉を、


言っても。
聞いて、くれないくせに。



「ねぇ、キミはさ」

 

世間話のような気軽さで始まったその会話は、どうしようもなく過去の傷口を抉った。

 

「どうして、僕を『好き』になったの?」

 

ニコリと、ただ単純な興味本位で問うてくるかつての想い人。

ハッキリ言葉にしなければ、決して伝わらないくらいに鈍感なそのウマは、しかし絶対に想いに応えてはくれなかった。

そして、それを今も続けるだろうくせに、なお聞いてくるあたりが本当にタチが悪い。

 

「……そんなことを聞いて、どうするんだ」

「別に? ただ単純に知りたいだけだよ。キミが()()僕をどう思っているのか」

 

そう言って笑うウマの顔は憎らしい。…と、偽っては愛おしい。

自分の気持ちなどとうに見透かされているというのに、それでもまだ自分を見てくれる相手に愛憎入り交じって仕方がないのだ。

だが、だからこそ。

 

「…………」

「あーもうっ! ほらまた黙る!! それキミの悪い癖だぞ!!」

「うるさい……。大体お前も悪い……」

「えぇ〜!? なんで僕のせいになるのさぁ〜」

 

そうやって、いつまでも自分の隣にいるから。

……だから自分は、こんなにも苦しくて堪らないんだろう。

 

「だって、そうだろ? お前、俺のことどうとも思ってないのに」

 

友人以上には進めない関係。

友人が、最大の関係。

それ以上には絶対になれないし、なれるはずもない。

『誰か』を、選べばすべてが終わるのにそうなったらそうなったで絶対丸く収まらないとも分かる。

だから、自分たちの関係はずっとこのままなのだ。

それがきっと一番良い形なんだと信じて疑わないし、何より自分がそうしたいと思っている。そう()()()()()ならない。

なのに、目の前のコイツはそれを許してくれなくて。

 

「『好き』なら『好き』でイイんだぜ?周りの誰もがその感情を否定しようとも、向けられている僕はその感情を肯定しよう」

 

いつの間にか立ち上がっていたウマはこちらに手を差し伸べるようにしながら言う。

 

「キミが僕に向けているモノがどれだけものなのかは知らないけどね。でもそれは間違いなく確信できるよ。だって──」

 

そこで言葉を区切ると、美しき残酷は笑みを浮かべ。

 

 

傷つけないように、傷つけないようにやんわりと断って。

物分りのよい誰もがスッと身を引いた。

けれど。

 

「…」

 

自分を見つめる瞳が、掻き消えぬ熱を向ける。

まるで呪いのように絡みつく視線を感じながら、今日もまた笑顔を作る。

誰よりも微笑んでみせることが自分を守る武器だということを自覚しているからだ。

 

「…、変わんないねぇ……」





想い人:
たくさんの人から想いを寄せられてはのらりくらり。
クソニブだからと実力行使されようがさほど意味も影響もない御方。
自分に想いを向けてくれるのは嬉しいけど、その想いには応えられないよ。
だって僕にも、キミにも。

───『未来』ってヤツがあるだろう?


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山頂から、宙を視る


どうか。
笑って、笑って。


根本的にこの系列はみんな()()なんだろうなぁ、と。
後にSAN値ヤバめになるヤツ(例:【銀色の王者】など)もレースに関して言えばみんな()()で、共に走った相手をナチュラルに自分が目的地に向かうための素材の一部として…ね?



あの血筋は、根本から()()()()()だと思う。

どれほどパッと見の性格がレースに向いておらずとも本質は()()だ。

 

周囲と、視座を共にあれない。

周りと足取りを同じくしているようにして、見方は実に()()()()()いる。

それを皆、本能的に理解しているのだろう。

その顔に吠え面かかせてやると言わんばかりに意気込む者が多いのだ。

だが、そんなことは───。

 

『……』

 

あの血筋には関係なく。

当然の顔のまま勝利を喜んで見せ、そして次の瞬間にはまた次のレースへと想いを寄せる。

後ろなんか見ないまま。

想いも、知らないまま。

ただ前だけを見据える瞳で。

 

 

勝つということは山を作るということ。

その山を足場にして次のステージへと進むべく、足元から聞こえる声には耳を貸さず、逆に黙らせるように脚に強く力を込めて。

まるでそうすれば自分の行先に辿り着くかのように、ただ真っ直ぐに先を目指す。

それはある意味では、とても傲慢な行為なのかもしれないけれど。

 

【──────】

 

踏み潰された者は縋り付くことさえできやしない。

伸ばした手が踏み出す足首を掴むことは決してなく、叫ぶ声も周りに掻き消されて対消滅。

物語でいえば行間の狭間に落っこちてしまったようなもの。

誰にも見向きされず、記憶から消されていく。

それこそが最も正しい形だとでも言うような光景の中で。

 

【───────!!】

 

ふいに、一つの影が動いた。

踏み荒らされ、蹴り飛ばされた地面の上で。

手を伸ばして、叫んで、躍りかかった。

がしかし。

 

【!?】

 

同じく伸びてきた手が影を引っ掴み、引き摺り戻す。

何故なら山になった皆々様は多かれ少なかれ同じ穴に住む同胞で。

それ故に抜けがけなぞ───許すはずもないのだ。

手を伸ばせるほど、上にいたのが不届き者として下へ下へと落ちていく。

もう二度と戻れないほど深くまで落ちていった影。

そこまでいってようやく当の本人は、

 

「…?」

 

なぞと。

 

 

高いところから見る景色が好きだ。

けれどそこに辿り着くまでの道のりはどっちかというと整備されていた方がいいと思うのはワガママだろうか?

だって蹴躓いて怪我をするのは、誰だって嫌だろう?

……まぁ、だからといって。

わざわざ道を舗装してやる義理なんてものは何処にもないよな、とか思いながら今日もならすように力いっぱい踏み込む。

 

高いところから見る景色が好きだ。

だが自分が見たい景色はもっともっと高い場所にあって。

ならば、もっと頑張らないと。

 

「…星、視えるかな」

 





もっと高みへ、もっと高みへ。
…嗚呼、この山じゃ。

───まだ、足りないや。


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踊れ、踊れ


心象風景みたいな夢を見る銀弾の話。
何かこういうとこ血筋というか…(目逸らし)



──ふとした時に、見る夢がある。

 

夢の中で自分はただ踊っている。

何のルールもなく無造作に。

まるで"たのしさ"だけを追求したかのようなステップを踏んで笑い。

だがどれほど踊っても転ぶことはなく、また疲れることもなく。

好きなように動き、好きなように踊るのだ。

ただそれだけの夢だ。

 

……そして目が覚めた時、その夢の余韻に浸りながら思うことがある。

あれは一体何なんだろうな、と。

そんなことを思いつつ、今日も僕は眠りにつく。

明日もまた、あの踊りをするために。

 

 

夢の世界は、いつも変わりない。

空も、地面も、何もかも。

だが、普通と違うところがあるとすればそれは、

───空が赤かったり。

───地面を誰かの屍が構成していたり。

…などといったことだろう。

 

ここは、僕の心の中の風景なのだろうか。

だとすれば随分と物騒で血生臭いものだ。

 

「…………」

 

そんなことを考えているうちに、いつの間にか定位置へと来ていた。

僕のための踊り場。

ここでなら誰にも邪魔されずに踊れる。

さぁて……それじゃあ今日も始めようかな。

そうして僕は、また踊り始めた。

 

「……」

 

誰もいないはずの空間から視線を感じるような気がしたが、気に留めずに踊り続ける。

今更気にするようなことでもないし、気にしていては何もできないからだ。

 

この踊り場は誰かの夢の屍でできている。

僕が、僕の夢のために踏み潰した結果、具現化したセカイ。

だからここにいる限り、僕はずっと踊り続けなければならないし、ここ以外に行くことすらも許されない。

だけどそれがどうしたというのか?

だってここには、こんなにもたくさんの観客がいるじゃないか!

ほら、見てくれよ皆。

これがキミの望んだ世界だよ?

キミたちが欲しかったモノだよ?

 

…それでいいじゃないか。

だってここは、僕の、彼らを踏み台にしてでも叶えたい願いの具現なのだから。

ならばそれらを壊した以上、彼らの想いを引き継ぐ義務が自分にはあるはずなのだから。

 

さすれば。

これは自分のためだけに生きる僕が、自分だけの幸せを掴むための代償行為に過ぎないのだろう。

または、俗にいう罪の意識というヤツが見せる幻覚なのかもしれないが。

 

お前が踏み潰したのだから、その償いに踊り続けろ、と。

 

…構わない。

むしろ望むところだ。

それに……。

こうしていればいつかきっと、『夢』が、心の奥底の『何か』が、叶う日が来るはずだと信じているから。

それまではこの踊り場で踊り続けてやるつもりだし、たとえどんな困難が立ち塞がろうと諦めたりしない。

だから。

 

「あはは」

 

今日も、僕は。





屍山血河で、踊るがいい。

僕:
シルバーバレット。
お綺麗な場所よりおぞましいところで笑っているのが何よりも似合うナチュラルボーン強者。
自身が踏み潰した夢の屍を舞台の素材にしては今日も踊っている。
また踊ることを選び取った結果、止まることを許されなくなってしまった。
が、それを「そっかァ!」と安請負してるところもあるのでネ。
まぁ、そういうところがお強いんですが…。


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おまじない


台風の目の数だけ、ね?
それと、『おまじない』って漢字で書くと…?



ふと、目があった。

瞬間、その目が自分を見た()()()()

おだやかに、少しだけ微笑んで。

私の心をさらっていった。

 

 

困ってしまう。困ってしまう。

「かえして」と言い募ろうにも、ひどいアナタは微笑んでばかり。

自分以外に微笑んでは、ジョウネツテキなリップサービスするの。

そんなに自分をいじめて楽しい?

そうやって、また、誰かの心を奪っていくんだね……。

 

 

お手紙を書きました。

たくさんたくさん、書きました。

アナタが喜んでくれるように、アナタのことをなんでも書いた。

アナタのことなら何でも知ってる、アナタにお似合いなのはアタシなの!

 

 

アナタをこっちに振り向かせたい。

わたしだけを見て欲しい。

だから"おまじない"したの。

図書館で、おまじないの本に挟まってたボロボロの紙に書かれていた"おまじない"!

いっぱい折り目がついて、手垢で変色してよく分からなかったけれど……。

 

 

アナタはどんな食べ物が好きなんだろう。

だってアナタはとっても少食だから。

いっぱい食べさせてあげたいんだ。

そうしたらアナタの笑顔が見れるから。

 

 

今日も練習場に行ったわ。

でも、いつもの場所にアナタはいなかった。

おかしい、と思って辺りを見回すと、奥の方にひっそり行って誰かと楽しげに話してたの。

 

…ねぇ、その他人(ヒト)はダレ?

 

どうしてそんなに親しそうなの……?

 

 

アナタのおうちに行ってみたの。

でも、誰もいないみたいだった。

窓辺にはレースカーテン越しに陽光が差し込んでいて、テーブルの上には読みかけらしい本が開いて置かれていたの。

まるでついさっきまでそこにいたみたいに見えたけど、アナタは此処にいないのね。

なんだか、不思議な感じだわ。

 

 

アナタって本当にキレイな顔立ちをしてますよね!

羨ましいくらい。

ねぇ、どうしたらそんなふうになれるんですか?

教えてください。

もっと近くで見せてください。

お願いします。

どうか、ワタシだけに微笑みかけてください。

 

 

アナタ、アナタ、アナタ…。

気が狂いそうなほどに想いを募らされているのは或る個人。

本人も知らず知らずのうちに思わせぶりな態度をしては他人を惹き付けてしまう、そんな個人。

それは乞い慕う者にとってはとても残酷なことでしょう。

ですが、当人はそれに気付くことなく、ただ無邪気に笑っています。

笑って、今日も誰かを"虜"にしています。

それは───嗚呼、なんて罪深い!

 

「あ、今日も手紙が入ってら」

 

「…部屋、こんなだったかな?」

 

「いや、なんか視線感じた気がして」

 

 

 

 

 

「…あれ?あの子、どうしたんだろ?」





誰か:
アナタに墜ちた人たち。
アナタに魅せられ過ぎて各々がいろいろとしている。
「アナタのことをこんなに想ってるのは自分だけ…」とは本人たちの談。

…知らぬが仏、だね。


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激情とは、言いますけども


実馬軸。
レースの時がテンションバカ上がりしてるだけで、それ以外はそこそこ落ち着いたタイプなんだよね…。
ちょっと素行はオラついてるけど…。



1:名無しのトレーナーさん

 

やっぱコイツが一番やさしいんじゃねぇの?

【「しゃあないなぁ…」という顔でikzeに撫でられているシルバアウトレイジ】

 

 

2:名無しのトレーナーさん

 

現役の時はあれだけ振り落としてたのにね…

 

 

3:名無しのトレーナーさん

 

>>2

スパァン!(叩き落とし)じゃないからヘーキヘーキ

激情のは「はよ降りろや」(地に足つく時ちょっと痛い)だから

 

 

4:名無しのトレーナーさん

 

褒められたがりちゃんじゃんチッスチッス

 

 

5:名無しのトレーナーさん

 

>>4

あ゛?

【目が血走っているシルバアウトレイジの画像】

 

 

6:名無しのトレーナーさん

 

銀系列特有の特段マイルールとかもなく、馬房さえ綺麗にしときゃ何も言わないヤツ

 

 

7:名無しのトレーナーさん

 

一匹狼気取ってる優等生定期

 

 

8:名無しのトレーナーさん

 

>>7

ホントに優等生ですか…?(負ける時はとことん負ける成績を見ながら)

 

 

9:名無しのトレーナーさん

 

>>8

でも大一番は絶対外さんやろがい!

 

 

10:名無しのトレーナーさん

 

観客とか雰囲気感じて本気出すか〜してた馬だから…

 

 

11:名無しのトレーナーさん

 

まぁやる気ない時とことんやる気ないパドックだったからなコイツ

 

 

12:名無しのトレーナーさん

 

大叔父の【金色の暴君】と対面して、めっちゃ構われたけどススス…ってフェードアウトしたそうにヒトミミに助け求めてた話すこ

 

 

13:名無しのトレーナーさん

 

大概の馬とそつなく過ごせるけど一番仲良い&落ち着いてるのは【飛行機雲】と一緒にいる時らしいな

 

 

14:名無しのトレーナーさん

 

喧嘩もしない、馬の好き嫌いもほぼないからな(なお対:他の銀系列)

 

 

15:名無しのトレーナーさん

 

何だかんだikzeのこと好きだしな…激情って

 

【やれやれ顔でキスを受け入れているシルバアウトレイジの画像】

 

 

 

 

 

『誰か来てたんです?』

『あ〜…、昔世話になったヤツがな』

『見るからにソワソワしてましたもんねぇ』

『ンなのしてねぇ!』

『してましたって。ずーっと部屋行ったり来たりしてたじゃないですか』

『…からかうなっての』

『からかってませんって』

 

からかってくる後輩に拗ねた雰囲気を向けながらもシルバアウトレイジの脳裏に浮かぶのは云年振りに自分の元に来てくれた、かつての相棒のこと。

何か老けてたなぁ、と思っても、自身を撫でてくれる手のやさしさはあの頃と変わりなくて。

…ぴこ、と無意識に機嫌がいい時の耳になってしまったのを目敏く目撃されては。

 

『先輩、あのヒトのこと好きなんですね』

『す、すすす、好きじゃねぇけどォ!?』

『その声の裏返り方は説得力ないですよ』

『うるせぇやい!』





【銀色の激情】:
シルバアウトレイジ。
父シルバープレアーの牡馬。知らん間にボス馬になってるタイプ。
調教師や厩務員いわく『一匹狼の皮を被った優等生』。
なのでウマ化すると授業ふけたり遅刻したりするけど成績◎タイプになる(まぁ授業ふけるのも遅刻するのも自主退学しそうになってる友人の説得とか困ってる人を助けてたら…って理由ばかりなんですが)。
自身の騎手であったikzeさんのことが大好きだけどツンデレ。
んで、案外カラッとしている風に見えてikzeさんに向ける愛が重そう。
何故なら…【白の一族】の血を引いているが故に。

なお自身の大叔父である【金色の暴君】にはちょっとタジタジだとか…。
(主に祖父とか父親とか父親とか父親のことで)

【飛行機雲】:
仲良し。
でもヒトミミにデレッとしている先輩にムッ。
しかしそれを察されないようにしては今日もきゅるんっ、とあざと可愛い後輩をしているらしい。
…先輩の仲良しは僕なんですぅ〜((拗ね顔))。


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駆けていけ、恋心


クソニブをオトすにはこれぐらい真っ正面切ってドカンとカマさないとダメなのかもしれない。(こなみかん)



"アサビケシン"がその人に出会ったのはまだ幼いころだった。

父親に連れられて、父親の親しい友だというその人に、出会ったのだ。

 

「はじめまして、アサちゃん」

 

父の足を壁にして隠れる彼女と目を合わせるように、その人はしゃがみ込んで挨拶してくれた。

やさしい笑みだった。

どの同年代よりも気性が悪くて、自他ともに認めるガキ大将であった自分に対して、ひとりの『女性』だと認めて捧げられる笑みに。

 

「ぉ、わ、わたし…」

「うん」

 

アサビケシンが恋に落ちるのはそう時間のかからないことで…。

 

 

アサビケシンの初恋は年月を経るにつれて、ふいごを使うがごとく燃え上がっていった。

あの人のことが好きだと自覚してからというもの、あの人に会いたくて会いたくて仕方なくて。

あの人が笑うだけで幸せになり、あの人が悲しむだけで胸の奥を締め付けられるような痛みを覚えた。

そしていつしか、あの人に恋をしている自分が誇らしく思えた。

だってあの人は、それほどまでに素晴らしい人なのだから!…とはいえ。

 

「僕は…そんな凄い人じゃないよ」

 

当の本人が、自分のことをどう評価しているかといえば……。

 

「え? でも、おや…ンンっ、お父様もそう言ってますよ?」

「それは…買いかぶりだよ」

 

困ったように微笑んで、首を横に振るだけだった。

 

アサビケシンが愛する人は、通常なればピークが過ぎている今となっても観衆に人気のアイドルだ。

ひたむきに走る姿に勇気をもらう、だとか。

どんなときでも諦めないその姿に憧れる、とか。

レース後のウイニングライブではいつも笑顔で手を振ってくれるから嬉しい、とか。

とにかく、そういった理由でファンが多いらしい。

 

だがしかし、本人はそのことをあまり喜ばしく思ってはいないようだった。

曰く、「僕なんかよりもずっと…」と自分を卑下する言葉ばかりを口にしていた。

それがアサビケシンには許せなかった。

どうして自分が自分を()()()()()のか、理解ができなかった。

ので何度も説得を試みたのだが、結果は芳しくなかった。

あの人はいつまで経っても、自分自身のことを過小評価する癖があったからだ。

だから。

 

「俺と結婚しろ!」

 

引退したばかりの愛しい人の胸ぐらを掴み、そう吠えた。

もう、逃がしやしねぇ。

「キミには僕よりもお似合いの人がいる」、「僕みたいなおじさんよりも」なんて言葉は聞き飽きたんだ。

俺はアンタが良いんだよ。

他の誰でもなく、アンタが欲しいんだ。

という訳で結婚してくれ!

 

───まぁ、そういうわけである。

もちろんのことながら、突然の結婚宣言に周囲は大騒ぎになったが。

 

「…仕方ないなぁ、アサちゃんは」





【銀の祈り】の嫁:
アサビケシン。
名前の由来はドリームキャッチャーをオブジワ語で読んだ「asabikeshiinh」。
父ドリームジャーニー母父ダンシングブレーヴ。
のちに【銀色の激情】を産む。

史実では牧場産まれ牧場育ちの幼妻系牝馬。
だがひっっじょーに気性が荒かったので未出走→繁殖入り。
でも幼き日に一目見た【銀の祈り】しか嫌!したので仕方ないね、になった。
まぁ【銀の祈り】も嫁に好かれて満更ではないみたいなので…。

性格的にはホワイトリリィに似ている。
自己肯定感低い伴侶をヨシヨシ全肯定しては、ひとたび伴侶をバカにされるとキレ散らかすタイプの模様。

【銀の祈り】:
シルバープレアー。
はじめは嫁に対して「子どもの初恋になれて光栄だな」と思っていたが年を経るにつれて「これ本気だ!?!?」となる。なった。
なので必死に断り文句を探したのだが高火力の逆プロポーズをカマされてあえなく撃沈。
なおそれを見て、祈りの親友兼義父となった【夢への旅路】さんは力強くガッツポーズしていたらしい。俺、お前、家族!!!!


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蹄の話


夢か現実かはお好きに。



泣きながら起きてきたキミの手が蹄になっていた。

グズグズと泣きじゃくって、「何もできない自分に意味は無い」と出ていこうとするのを引き止めた。

 

「ごめんなさい」

 

ひくひくと泣きじゃくる声はやまない。

 

「…こんな手じゃ料理も洗濯も」

 

嫌だ嫌だと癇癪を起こし、まさに手当り次第というように変わってしまった手を辺りに叩きつけてしまうから着けられたミトン型の手袋は淡い黄色。

 

「お掃除だってできません!」

 

涙をぼろぼろ零しながら訴える姿はとても痛々しいけれど、でもね?

 

「大丈夫だよ。…キミに教えてもらいながらだけど僕がやるし、それに……」

「?」

「僕はキミがどんな姿でも好きだよ」

 

そう言って抱きしめると、少しだけ強ばりがゆるんだ気がした。

 

 

手が変わってしまってからのキミは、日がなぼうっとして過ごすようになった。

日当たりのいい場所に座布団を置いてそこに腰掛けて庭先を見つめるその姿からはいつもの元気さは見られないけど、それでもその表情には安堵の色が見える。

何時だったか、キミがぽつりと言ったことがあるよね。

 

『僕は先生を幸せにするために生まれたんです』

 

だから自分の役目をまっとうできないと思って落ち込んでいるんだろう。

確かに今のままでは家事はおろか買い物すらままならないだろう。

けれどそんなことは些細なことだ。

例え手足が無くたってキミが僕の側にいてくれるならそれで構わない。

……なんて言ったらきっと怒られてしまうかな?

僕を見るたびに、ふわりとした笑みを浮かべるようになったキミを見て思う。

 

「おかえりなさい」

「あぁ、ただいま」

「おなか、へりました」

「うん、分かってるよ」

 

手が変わってしまってから走ろうにもバランスが悪くなってしまったようで、立ち上がることすら困難になってしまった体は少し太ったにせよ、まだ軽くて。

悠々と抱っこされながら、時折遠慮がちに擦り寄ってくる様にトントンとやさしく背中を叩きつつ、今日一日あったことを話して聞かせれば嬉しそうな笑顔で相槌を打ってくれる。

 

「せんせい」

「んー?」

「だいすきです」

「……僕も愛してるよ」

 

そう言うと、えへへと照れくさそうに笑う顔はひどく幼い。

蹄になってしまった手の代わりに食べ物の乗った匙を差し出せば雛鳥のように口を開けてくる。

 

「せんせ」

「なぁに?」

「しあわせ、ですか?」

「うん」

「ぼくが、なにもできなくても?」

「うん」

「せんせ、ぼくのごはんすきだったでしょう?」

「うん、好きだったよ。でもね」

「んー…」

「キミが傍にいてくれることが、いちばん幸せだから」

「…そっかぁ。んふふ」

「そうだよ」





僕:
シルバーバレット。ウマ。
人間の手が蹄になっちゃったすがた。
そこから上手いことバランスが取りにくくなって走れなくなったり、料理などができなくなったりしてストレスが溜まり爆発→大暴れになったので現在はミトン型の手袋で封印されている。
いつもあたたかな縁側でぼうっとしては家主である先生の帰りを待っている。
ゆるやかな日々。
だから、…邪魔はいらないの。

先生:
僕のトレーナー。
僕と一緒に暮らしている。
最近少しずつ家事が出来るようになってきた。
たとえ僕が異形になろうが変わらず愛する程度には情がある。
だって僕が傍にいてくれることが、彼にとっての『幸せ』なのだから。


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たなばた


七夕って何しましたっけね。
七夕に因んだゼリー食べた思い出しかないわよ。



「たなばた、ね」

 

むかしは、それこそ小学生ぐらいの時は色とりどりの紙に印刷された短冊にマジックで願い事を書いたものだが。

今となっては特段何をするでもなく、そういやそんな行事あったなという感じだ。

 

「だから、あの子たち竹なんて持って帰ってきてたんだね」

 

なるほどなるほど、と頷きながら書類仕事を進める。

 

 

「ん?」

 

夜。

ちゅるちゅると、ようやく自身の分のそうめんを食べ終わって息をついているとまだ幼い寄りの子どもたちが走ってきた。

わぁわぁと次から次へ話しかけてきた言葉を要約するに、僕が短冊に何を書くのかと。

 

「う〜ん」

 

そう言われたら…『無病息災』とか?

そもそも僕自身神頼みというか、そういうの信じてないしなぁ。

それに、子ども時代に書いた短冊の内容を思い出してみても大概が『家族みんなで幸せに暮らせますように』とかみたいな内容だったし。

まあ、こういうイベントごとではお決まりのお願いってことなんだろうけど。

 

「…そう」

 

とは言え。

なんと答えようか考えている内に子どもたちの興味は逸れたらしく。

『足がはやくなりますようにって書いたの!』とか『成績上がりますようにって書いた!』などと。

 

「じゃあ、お星様に見えるように高いところに飾っておいで」

『はーい!!』

 

 

「父さんは」

「んー?」

「七夕だけは忘れがちですよね。それ以外の行事は基本前もって準備するのに」

「…そうかな」

「そうですよ」

「まぁ…学校でするだろうし、いいかなって」

 

父に連れ添い、家のそばを散歩する。

着流しを着た父の顔は夜闇に紛れて、よく見えない。

 

「ねぇ、」

「はい」

「キミは、何を願ったんだい?」

「僕ですか?」

「うん」

 

父の目は空を向いたまま。

 

「七夕ってのは、自分の力で成し遂げられる目標や夢のことを願うといいらしいね」

「そうなんですか……」

「うん。それで?キミは何を願ったの?」

「えっと……僕は、ですね」

「うん」

「その、」

「ゆっくりで良いよ」

 

父は相変わらず空を見上げているけれど。

僕の言葉を待ってくれていることはよく分かった。

 

「僕は……これからも良き兄でいられるように、と」

「へぇ、ハイセイコらしい」

 

ふわりとした笑い声と共に頭を撫でられた。

 

「でもさ、」

「はい」

「もし何か困ったり悩んだりしたならいつでも相談しなさい。溜め込むのは体に悪いからね」

「……ありがとうございます」

 

頭を撫でる手の温度は、よく分からない。

じっとりとした湿度に呑まれては、そちらに気を取られる。

 

「…じゃ、そろそろ家に戻ろうか。さっぱりしたくなってきた」

「そうですね。そろそろ、帰りましょうか」





僕:
シルバーバレット。
行事には基本積極的だが七夕は忘れがち。
何かに願うより自分で掴み取りに行った方が速くない?の思考回路をしている。
たぶん短冊書いてもそれっぽいこと書いて言葉を濁してそう。
だがそれはそれとして、…素麺美味しいね。


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覆い隠して、格好つける


バカクソアプローチかけて外堀も埋めてんのにそれでもガチガチに縛り上げないと逃げてく逃げてく…するってさぁ…(呆れ顔)。



グローリーゴアというウマ娘は、見目麗しい見た目とは裏腹に仏頂面だと有名らしい。

いちおうはファンなどに声をかけられれば微笑みぐらいはするようだがそれ以外ではとんと。

けれど、『そんなところも素敵!』だなんて意見が多数なのだから人気者は大変だよなとも思う。

がしかし。

 

「スー」

「ん」

「またキミの料理が食べたい」

 

キミ、好きな食べ物:特になしって答えてたよな?

でもこの前のインタビューか何かで「僕の料理が好き」だとか何だとか言ったとかで僕の方に面倒くさいくらい真偽を確かめる〜みたいなのが来たんだぞ。

それで僕にどうしろっていうんだよ……。

いや別に嘘をつく必要もないんだけどさぁ。

 

「まあ、気が向いたら」

「うん、楽しみにしてる。…キミのご飯なら、何でも美味しいし」

 

そう言って彼女は再び食事に戻った。

僕はそれを横目に見て、自分の分の食事をちみちみ食べる。

そういえば。

気がつけば留学先で、すぐ引き払えるように殺風景な僕の部屋を徐々に占領してきた彼女の物。

服や歯ブラシから始まり、果てにはトレーニング器具だとか。

いつの間にか増えていたそれらを見てふと思う。

…これってもしかしなくても見る人が見たらアレじゃないか?

今更ながらその事実に気づいてしまった僕は思わず頭を抱えたくなった。

しかも僕の部屋から配信始めたりとかするしな!!!!

 

「こんにちは、今日も今日とて元気なサンデースクラッパでーす。…じゃあ引っ込むから」

「うん、ありがとう」

 

最近は、何かそういう"切り抜き"?ってヤツも上がってるらしいし?

ふたり揃ってるだけでヒソヒソというか、黄色い声が上がる現状にどういう顔をすればいいのやら。

この前には薔薇の花束もらったし。

しかも黒い薔薇を999本!

何で1000本にしなかったんだとか、よく見る赤色の薔薇じゃないのかとか色々言いたいことはあったが周りの声がうるさすぎて何も言えなかった。

ちなみにその後すぐに花瓶を買いに行きました。

そんな小洒落たもの、我が部屋にはなかったもので。

 

「キミ、僕にいろいろと贈るよな」

「…ダメかい?」

 

服やらアクセサリーやら靴やらとかさ。

それにしても結構なお値段のものばかりだと思うのだが。

彼女曰く『僕が贈りたいから』とのことだけど。

 

「いやまあ、嬉しいっちゃ嬉しかったりするけど……」

「だったらいいだろ。それとも迷惑かな?」

「…物が増えたら、持って帰るの、大変そうで」

「……へぇ、」

「いちおう留学生の身だからな。いつかは帰るだろうし」

「…そう」





【戦う者】:
サンデースクラッパ。
何も気がついていない。から、帰るつもりでいる。
色々もらったりして堀を埋められてるのにね。

ちな貰った薔薇は食べられるものだったのでジャムやら砂糖漬けなどにしてチマチマ食べたらしい。
…大事なモノは、誰にも取られぬよう、胃の中に収めるタイプなもんで。


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花を贈れば


前話の続き。
公式が最大手()って感じになっちゃった生放送弁明回。
またの名を『黒薔薇を999本贈った女VS...?』って話。



たっぷりと薔薇を使ったアイスを盛り、チマチマとキッチンで食べていると配信の準備を終えた友人に呼ばれた。

 

「…おいで、スク」

ふぁんで(なんで)?」

「何でも」

 

その目付きが、あまりにも有無を言わせないものだったから一気に食べたことで頭がキーンとしつつも空になった食器を水につける。

ぺたり、と床に座せば配信は始まっていて。

 

「スク」

「ん」

 

"スク"

いつもは、"スー"と呼ぶはずの友人がそう呼ぶ時は真面目な時だ。

それが何だか居心地悪くて、スっと離れようとすればグイ、と腰を抱かれ。

 

「ダメだよ」

「…、」

 

弱い耳をモニモニと揉まれて。

たまらず「逃げないから」とジェスチャーすると、ようやく。

 

「いい子」

 

それから、話は始まった。

議題は、この前僕が彼女に贈ったもののこと。

 

「僕、傷ついたんだぜ?」

 

配信に映る画角、真ん中に、ドンと置かれた鉢。

そこに咲く花は───。

 

"スノードロップ"、なんて」

「待って、誤解だ。弁明させてくれ」

 

たしかに。

僕はこの前彼女に花を贈った。

それは間違いない。

だが他意はない。

あるのは。

 

「そ、そりゃあ『あなたの死を望みます』っていう意味がある花ってのは知ってるし、」

「うん」

「その意味があるからこそ贈った花だけど!」

「」

「だって!!」

 

思考がぐちゃぐちゃになる。

笑えるくらい焦っている、混乱している。

 

「キミの"終わり"は…」

 

───僕がいい、から。

 

「"グローリーゴア(キミ)"というアスリートに終止符を打つのは"サンデースクラッパ(ぼく)"でありたくて…。いや、"サンデースクラッパ(ぼく)"じゃなきゃダメで」

「ホントはダメだけど!不謹慎なことだけど…!」

 

「僕、キミのこと看取りたくて」

 

「あわよくば喪主になりたくて!」

 

脳みそグルグルなる〜!

混乱しすぎて心の内では思ってることだけど、流石に言うべきではないよな…と抑えていたことすべて吐き出しているような心地。

 

「だってキミひとりにするとどうなるか分からないから!」

「なら全部僕が責任持った方がって!大丈夫!毎日会いに行って毎日掃除して帰るから!!だから安心して!!!」

 

………………。

………………………………?

あれ?なんかおかしいぞ?

自分でも何を言ってたのか分からなくなってきたけど、とりあえず言うべきことは言った気がする。

さっきまで慌ただしく動いていた心臓など諸々は落ち着きを取り戻していて、むしろ今はスっと熱が過ぎたみたい。

…とはいえ。

 

「……グローリー?」

「…」

「ちょっと抱き締める力抑えて…いてててて」





【戦う者】:
サンデースクラッパ。
これぞ一族の血。
ほら見て!一族のみんなもそうだそうだと頷いているよ!!
"さいしょ"は知れないから、せめて"さいご"を知りたい。
キミの、『今生』が欲しいの。
…まぁ『今生』だけなんでまだマシでは?(相対的に見て)
がしかし、こんなこと言っても逃げる、または逃げ切れるつもりでいるんだにゃあ…(白目)

【栄光を往く者】:
グローリーゴア。
一時ショックを受けたが直ぐにニッコリ。
『今生』が欲しいなんて【戦う者】は控えめだなぁ(にっこり)。
僕は『今生』だけじゃなく、"ずっと"をあげるっていうのに。
…けれど。
その代わり、キミも、"ずっと"をちょうだい。

追い込むのは、まだ我慢してあげるから。…ね?


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スリルもショックもありすぎる!


(※第三者からの感想です)

激重感情(書くの)楽しい。いずれ万病に効く。
だがそれはそれとして、実馬時から母父【戦う者】の牝馬ちゃんと"仕事"する時は露骨って言われる【栄光を往く者】ェ…。
まぁ【白の一族】からして顔立ち似てて、顔見るだけで「あ、コイツ一族だ」って分かるらしいから多少はね?(ちな一番似ているところは目な模様)



まぁ、そりゃあ。

たしかにキミは良血のウマ娘ってヤツで、容姿端麗で文武両道で?

人気者だってのは猿でも分かる理だけども。

 

「…スー?」

 

囲まれて、笑顔見せて。

その笑顔が、外行き用に作られたモノだと知っていてもどうにもならずに。

ちぃ、と掴んだ服の裾は、控えめだというのに、まるで自分の心の内を表すようにシワを作って。

 

「ねぇ、スー?」

 

顔を、上げられない。

きっと、ひどい顔をしている。

何故なら熱いから。

何もかもが熱くて、焦点がグラグラと揺らいで。

この気持ちを、僕は言語化できない。

だから、この感情が何なのか分からなくて。

どうすることも出来なかったのだ。

 

「……ふぅ」

 

ため息と共に、彼女が僕の手を取って歩き出す。

僕よりも大きな手が導くままに、彼女の背中を追うようにして歩く。

そうして辿り着いたのは、現在の時間帯なら誰もいないだろう、校舎裏にあるベンチだった。

 

「ん」

 

そこに座った彼女は、隣を指し示す。

……座れという事だろうか?

促されるままに座ってみれば、肩を寄せるようにピッタリとくっついてきた彼女によって、こう、ぐるっと抱きしめられるような体勢になってしまって……。

 

「…嫉妬した?」

 

ニィ、といつもの王子様の顔には見合わない意地悪な顔をされる。

それに普段なら「そんなわけないだろう」と返すのに「…うん」と素直に返して。

自分をからかうように撫でていた指がピタッと止まったことに気が付かないまま、「……ごめんね」と続けた。

 

「……。…ッスー、謝る必要はないよ。僕も嬉しいもの」

「……そうなの?」

「あぁ、もちろん。だってあの子たちの前で、…こんな顔、出来ないだろう?」

 

それはどういう意味?

なんて聞く必要もないくらいに、ギラギラ。

どこか現実逃避気味に見つめた先には王子様などとは似ても似つかないモノが、牙を見せながら笑っている。

もはや獲物が自分から皿の上に乗ってきたとでも言わんばかりの歓喜の笑み。

絶対逃がさないぞ、とウマ娘の力を超えた火事場の力で握られる手首がキシキシ軋む。

 

(…どーしよっかなー)

 

言い訳。

 

 

それは、()()()だった。

誰もに慕われ、憧れられるトップスタァの…()()()()()()にしか見せぬ顔。

どんな相手でも平等に褒める唇で、すべてを映す目で、嗤い、弧を描き。

『愛』と呼ぶには行き過ぎて、遠に『憎』とすら言えるまでに育った情を、全力で叩きつけられる個人。

けれども。

 

「はぇ?グローリーのことですか?…まぁ、良い人ですよね」

 

当の本人はというと…?





【栄光を往く者】:
グローリーゴア。
『愛』ゆえ。
外面カンペキだが対【戦う者】になると出ちゃダメなところがまろびでる。
もはや共にいるところがサスペンス一秒前というか…。
なので、このふたりの関係は【栄光を往く者】の忍耐力と【戦う者】の神回避力から成り立っています!という…ね?

【戦う者】:
サンデースクラッパ。
低確率で踏み抜くが爆風はサラッと回避するタイプ()。
んで信頼している人に対しては何されても結局は許しちゃう甘々なところがあるので周りからよく「ウワッ」って顔されてそう(なおニッコリ笑顔の【栄光を往く者】)。
でも【栄光を往く者】のリードを握れるのは【戦う者】しかいないというのもまた事実なんだよなぁ〜…!


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"呼び声"


少し時期的には早い話ですが。

…なので絡めとって、傍に置く必要があるんですね(白目)



「海に行きたい」

 

暑い夏の日。

グローリーゴアの親友がそう言った。

 

 

周囲にいる者なら誰もが知っている事実だが、グローリーゴアの家はそこそこの良家である。

なので頼みさえすれば使える別荘も幾らかあり、その中のひとつ-海辺にあるコテージにグローリーゴアとその親友-サンデースクラッパは訪れたのであった。

 

「さっきの買い物で数日は持つと思う」

「そう」

「今日は無理だが明日は天気がいいらしい」

「…うん」

 

だが。

グローリーゴアはソファーに身を寄せる親友を見て思考する。

どうにも、ここ二、三日前からうわの空。

話しかけてもぼんやりとした返答しか返さず、いつもの朗らかな笑みもウソのように消え失せている。

何かあったのか? と聞いてみても首を横に振るだけ。

ただただぼうっとした表情を見せるばかりだ。

 

 

「スク!」

 

名を呼ばれ、掴まれた手が軽く軋むのにビクリと反応する。

見上げた先には煌々と輝く月。

振り返ればゼェゼェと息を荒らげる親友。

 

「あれ、?」

 

思えば。

もう少しで腰の辺りまで、水の中。

それを理解した瞬間にドッと体が重くなる。

着衣泳なんぞ慣れてないから当然か。

 

「なぁんで……」

 

こんな事をしているんだろうね。

呟く声と共に意識が落ちていく。

 

 

「そろそろお盆だね」

「お盆?」

「うん。こっちで言うところの…ハロウィン?みたいな」

 

たしか、そんな話をした気がする。

制服が半袖になり、汗をかくようになって。

なら涼みに行きたいね、という話からのはずだった。

…はずだと、思っていた。

 

「あのね、」

「……あぁ」

「この時期になるとね、()()()()()んだ」

「……」

「水とか、反射するところで時々、本当に時々視えるんだけど」

 

この時期が、いちばんだから。

そう漏らす親友の目は、ナニカに浮かされているようで。

 

「ウチの家族ね、海には、()()()()()連れてってくれないから」

 

あえるのにね。

音もなく、呟かれた言葉が嫌に重い。

がらんどうの眼差し。

だけれども"誰か"を視ている眼差し。

その視線を追ってみるけれど何もいない。

何も無い。

だというのに。

なぜだろう。

この背筋を走る、寒気は。

 

 

はじめて"あなた"を視たのはいつだったろう。

雨が上がったあとに残った水溜まり?

それとも自分一人だけで外を眺めていた時の、窓ガラスの中だっけ?

 

"あなた"はいつも笑っている。

誰よりも楽しそうな笑顔を浮かべていて。

でもそれはきっと作り物なのだと、僕は知っていた。

だって、ほら。

今の"あなた"の顔ときたら!

 

『ねぇ』

 

初めて声を掛けられた時、正直言って怖かった。

だけど今となっては懐かしい思い出話だ。

何故なら…。

 

 

ひとりは、さびしい。

呼んでるつもりはないのだけれど、やさしいあの子はふらりと来てしまう。

だから必死に我慢しようとしても、さびしい想いは…。

 

───誰か、むかえに。





【栄光を往く者】:
グローリーゴア。
【戦う者】を誰にも、()()()渡したくない。
遊びに来て、深夜(抱き枕がわりにして)腕の中にいた【戦う者】が抜け出した気配に着いていったらヒエッヒエに。
結果、過保護度(しゅうちゃく)が指数関数的に上がっては【戦う者】にベッタリに。
…まぁ、悪いのは誰かって言われたら、仕方ないっていうか……ハイ。

【戦う者】:
サンデースクラッパ。
よばれた。
けれども呼んだ相手を『怖い』と思うことはない。
それは、今までもこれからも。
何故なら、『やさしい人だ』と()っているが故に。
……そんなんだから、よばれるんだよ。


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うまらない、なにもない


はか。



「ね、おじいちゃん」

「んー?」

「"お墓参り"とかって、行かないの?」

「…いきなりどうしたんだい?」

「だって、普通のおうちは行くものなんでしょう?」

 

こてり、と首を傾げ、そう告げた孫にホワイトバックは曖昧な笑みを見せる。

そんな祖父の反応が不思議だったのか、子どもはさらに質問を続けた。

 

「ねぇ、どうして? お盆はちゃんとやってるのに」

「……まぁ、普通ならお墓参り、するだろうけどネ」

「じゃあ行こうよ! 僕行ってみたい!」

「うぅむ…」

 

渋るのには、理由がある。

それは───この一族の埋葬方法にあった。

遠き日の初代様が何やら不思議なチカラを持っていた故に何処ぞのミイラが漢方薬になる〜みたいな事と同じことに過去なりかけたことがあったらしく。

それ以外にも、一族郎党他人に執着されやすいタチであったために盗難…などと(ちゃんと取り返したが)。

結果、

 

(ウチ、基本この土地に埋めるんだよナ〜…)

 

誰にも、盗られぬように。

誰にも、奪われないように。

自分たちが住む場所の地に埋める。

…………で、あるからして。

墓など建てても意味がないのだ。

だってそこには、何も埋まっていないのだし。

家そのものが、墓と言っても過言ではないのだから。

なので。

 

「へー、そうなんだ」

「そうナノ」

 

ぼかすところはぼかして伝えて。

歳以上に利口な子だから『そういうこともあるよね』と納得してくれたらしい。

 

「じゃあ家にいる=お墓参り…みたいな感じってこと?」

「そゆコト」

「ふぅん……なんか変なの」

「そうだネ〜」

 

そう言いながら小さな体を抱っこして、仏壇に向かう。

よくある、普通の仏壇だ。

…まぁ見かけが普通なだけで値段はヤバめなのだけれど。

 

「はい、これお菓子」

「いいの?」

「ん」

 

仏壇に手を合わせてからふたりでピリピリ袋を開けて供え物になっていた饅頭を食べる。

 

「美味しいかい?」

「んー」

 

ニコニコ笑顔の孫を見て、祖父もまた微笑んでみせ。

 

「おじいちゃん」

「なんだ?」

「このおまんじゅう、好き」

「そう。…リリィにお願いしようか?」

「やった!」

 

無邪気に喜ぶ孫の頭を撫でつつ。

ホワイトバックは考える。

かつての、自分の妻のこと。

彼女は、若くして儚くなった。

そんな彼女を自分はこんなに年老いた今も想い続けているわけだが。

 

(…あの子だけは、埋めれなかったんだよな)

 

粉にも、できず。

大事な娘にも、孫にも秘密にした場所で。

自分だけが、知る場所で。

祈る。

あの子を見ていいのは、

 

(ぼくだけ、だもの)





たぶん史実のせーさん牧場さんとやらはろくすっぽ供養塔とか墓とか建てず。
まさに骨も残らぬパパママよ、という感じで。
だから、せーさん牧場さんがなくなり、残った土地を再利用しようとしても決まった場所に埋められてないもんだから地雷みたいに…。
しかもみんながみんな恨みつらみを持っているので…。
土地自体が、呪われてるんだ。


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底なしの底


堆積するなら、如何ほどか。



「…なぁ、バレット」

「なーにー?」

「お前って気性が悪くて目つきの悪いヤツが好みなのか」

「おっ、自己紹介か?」

 

ポケ〜っとふたりして寛いでいたサンデーサイレンスとシルバーバレット(inサンデーサイレンス宅)。

子どもたちも全員何かしらで出払っている家の中で、リビングのソファにてのんびりとくつろいでいると……ふいにサンデーサイレンスが口を開いた。

そして、そんなことを言ったのだ。

もちろん、それは質問ではない。

ただの確認だった。

だが、その確認は、シルバーバレットにとってあまりにも唐突すぎ。

 

「…いやいや。ないないないない」

「つってもよー、お前目で追ってたじゃねぇか」

「なにを?」

「あ〜…、あの、何だっけ?【弾丸シュート】とか何とかいう…」

「えっ、ちょっ、エッッッ!?」

「おぉ、なんだ?急に大声出すんじゃねぇよ。びっくりするだろうが」

「アッ、ごめんね……!でも、いや、でもさ、ちょっと待ってね。えぇっと……うぅん?……うーん?えっ、マジで?」

「マジだよ」

「えぇ〜……?」

 

困惑したような顔でシルバーバレットが顔を向ける。

するとそこには、いつの間に近づいていたのか、サンデーサイレンスがいて……。

ジトッとした瞳で見つめていた。

そう、疑いようのないほどに、疑っていた。

まるで、ある種の修羅場を目撃したかのように。

 

「あぁ…、元から()()なのは分かってたさ」

「えっ、なんのこと?何を言ってるの?」

「だけどよー、お前、まだガキだからさぁ。俺としちゃあ、そこんところはまだ早いと思ってんだよ」

「いやだから何の話をしてるんだ?」

「だってそうだろ。お前、今年始まって何人引っ掛けた?」

「引っ掛けたとは失敬な!」

 

思わず立ち上がって抗議をするシルバーバレット。

だが、それに対してサンデーサイレンスはどこ吹く風である。

まるで話を聞いていない。

それどころか、むしろ呆れたようにため息を吐き。

話を続ける。

 

「オメーの妹も中々だがやっぱオメーがいちばんヤベェ」

「誰の妹がヤバいって????」

「おわ。…ほら落ち着け」

「ん…」

 

ムスッと、如何にも「不満です!」という顔をした友人をサンデーサイレンスは横目で見る。

友人-シルバーバレット。

左顔面に焼き付いた火傷跡を除けば、どこにでもいそうな童顔の顔立ちをしたウマ。

だがその実、その在り方はかなり特殊である。

端的に言うなれば、───あまりにも他人を()()()()過ぎる。

呼吸をするかのように手軽に、当たり前に。

まるで蜘蛛か、蟻地獄かのごとく。

吸い寄せられるように他人が集まり、そして囚われていく。

しかしまたすぐに新しい他人が引き寄せられる。

その繰り返し。

まさに吸引機。

もしくはブラックホール。

それに、サンデーサイレンスは気がついていた。

そして、だからこその心配であった。

もしもシルバーバレットが、勘違いでもした誰かと刃傷沙汰になった場合、

 

(俺は…その相手に何をするか、()()()()())

 

それは、自分の中に眠る狂気の業か。

はたまた単なる獣性なのか。

それとも……、

 

(……クソったれ。こりゃあマジで早いとこどうにかしねぇとな)

 

頭をガリガリと掻きながら思う。

けれども、

 

「サンデーが心配しなくても何もないって!」

 

シルバーバレット(張本バ)はまったく、何にも、気づいておらず…。





僕:
シルバーバレット。何にも気づいていない。
気性が悪くて目つきの悪いウマを目で追うクセがある。
自覚が無い+倫理がしっかり+運がいいことですべてを相殺しているらしい。

SS:
僕のマブダチ。
僕の危うさにモヤッとしていたりする。
意外と裏でいろいろ頑張っているかも…?


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愛・I・哀


愛した女と愛された男。



女にとって、その男は『光』であった。

特段面白みもないバ生をこれからも、終わりまで歩むのだと思っていた矢先に現れた男。

 

『すみません、貴女が××さんですか?』

 

ほんの戯れに送った要望書。

きっと外れると思い送ったソレが叶ったと知ったのは、それからすぐの事だった。

 

『貴女はいい人ですよ』

 

男にとっては普通の言葉でも。

女にとってのソレはひび割れていた心を補修するもので。

自分ですらも認めなかった自分を、自分のすべてを、肯定してくれるさまはいっそ神々しいほどで。

だから……だからこそ。

 

「───」

 

あの時。

男の目の前に立っていた自分ではない女を見て、女は背筋が凍るような感覚を覚えた。

それはまるで、未来永劫の仇に出会ったような。

そんな、ぐじゃぐじゃと、それでも自身を焼き尽くさんとばかりの熱情に恐れを感じる暇もなく、女は。

 

『あなたが、見出したのは』

 

──"わたし"でしょう?

 

あぁ、嗚呼、かの清姫はこのような気持ちだったのか!

愛した男が他の女性を愛している姿を見てしまった時の、このどうしようもない感情!

胸中を埋め尽くす嫉妬心!独占欲!

そして何より……憎悪!!

どろりと濁りきってなお、燃え盛らんとする激情のままに、女はその身を修羅へと転じた。

それまでは男に『綺麗だね』と褒められたから丁寧に手入れしていた髪も爪も何もかもを捨て去って。

ただただ己の目的を果たすためだけに、女の意識は塗り潰された。

 

戻ってきて、戻ってきて、戻ってきて…私の元に!

どんな相手にでも笑いかけるところが好きだった。

誰に対してもやさしく接するところが大好きだった。

けれど、それを向けられる相手がいる事が許せなかった。

だって私はこんなにも貴方が好きなのに。

ねぇどうして?

なんで貴方の隣にいるのは私じゃないの?

ずるいよ。

そこは私の場所なのに。

 

「どうして」

 

どうしてどうしてどうして!!?

なんであんな醜悪なモノを傍に置いているの?

あんな汚らしいモノが傍にいたら汚れてしまうじゃない!!!

私が守らないと。

そうしないと、

 

「あなたが、あなたじゃなくなっちゃう」

 

なら仕方ないよね?

貴方を守る為なんだものね?

これは必要なことなんだよ?

…………だから間違ってない。

私が、貴方を、

 

()()()()()()()

 

ふわり、と。

まるで花のように微笑んだ女は、そのままゆっくりと手を伸ばして。

かつて撮った、ツーショットを心底から愛でるように、するりと撫でた。

 

 

「おかぁ、さ」

 

自身を呼ぶ、弱々しい声なぞ遠に、聞こえぬまま…。





女:
どこにでもいる誰か。どんな誰でも成り得る誰か。
貴方は私だけに笑っておけばいいの。
または自分以外を愛する男に解釈違いを起こしているともいう。
その狂い度は自分が腹を痛めて産んだ子を顧みないほどであり、万が一顧みたとしても男を取り戻すための『』としてしか見ない模様。
…おお、怖い怖い。


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同じ血


似たもの同士、きょうだい。



シルバフォーチュンの一日は、自身の上のきょうだいであるシルバーバレットの靴箱を見ることから始まり終わる。

シルバフォーチュンのきょうだいであるシルバーバレットはとても人気なウマだ。

それはミスターシービーから始まる名バにいつも囲まれていることから分かる事実ではあるが、実は意外とシルバーバレットというウマは…。

 

「また、今日もいっぱい」

 

シルバフォーチュンの手の中には色とりどりの可愛らしい封筒が、ひい、ふう、みい…いっぱい。

だがこの封筒の宛先はシルバフォーチュンではなく、そのきょうだいであるシルバーバレット宛なのだが。

そう、シルバーバレットはモテるのだ。それも先輩同輩後輩問わず。

もちろんこれはただの人気の延長線でしかないだろうが、それでもシルバーバレットに憧れている者は多い。し、中には本気の本気で恋をしている…かもしれない者もいるだろう。

 

そして、そんな手紙を毎日のように貰うシルバーバレットに対して、()()()()()()感情を抱く者もいるワケで。

 

「…………」

 

無言のまま、シルバフォーチュンは封筒を数枚ふんだくると無造作にビリビリと破き。

淡いパステルカラーの想いが宛てられた相手に知られることなく、無慈悲にも、無造作にも散っていく。

縦に割いて、横に割いて。

名前が書かれた部分を引きちぎって。

それを何回か繰り返した後、ようやく満足いったのか小さく息をつくと、シルバフォーチュンは自分のベッドにて就寝した。

その横にあるクズ籠にはいつものように、ちょっとした紙屑の小山ができていた。

 

 

ふわふわ、くすくすとやわらかに笑うシルバフォーチュンというウマは俗にいう女子校のお姉様枠として人気だったりする。

レースにおいて見せる好戦的な一面とのギャップ…も理由のひとつにあるかもしれない。

しかしそんな彼女には、

 

「…」

「バレット?」

「アッ、イエ。なんでもないです先生!」

 

シルバーバレット(クソ強(火)シスコン)がいたりする。

ひとたび妹に対する邪な念を感じれば、スチャッ!と背中から特殊警棒を取り出してくる様子はまさしく…ゲフンゲフン。

とはいえ、今にもソレを振り上げて念の方へと突撃して行きそうな勢いには流石の『先生』と呼ばれたシルバーバレットのトレーナーも止めざるを得ず。

フーッフーッ!と猫が威嚇する時のように息を荒くさせる担当バに、彼は困ったように頭を掻いた。

 

「あーっと……とりあえず落ち着いて?ほら深呼吸しよう?」

「チ゛ッ゛!」

「見事な舌打ちだぁ…」

 





妹:
シルバフォーチュン。
僕がシスコンであるようにこっちもこっちで大概。
知られない想いは『そこにない』と、同じなんですよ?…ふふふ。

僕:
シルバーバレット。
ファミリーコンプレックスから枝分かれしたシスターコンプレックス持ちのウッマ。
僕はお前が僕の妹を邪な目で見たのを見たぞ!!
…万タヒに値するッッッッ!!!!
とは言っても、背中から引き抜いた特殊警棒で脳天割りしようとするのはやめてくださいタヒんでしまいます。


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微睡み、見えるは


ずっと、僕のことだけ考えてよ。
夢でも、現実でも。…ね?



ふと、夢を見た。

夢の中で俺は、牛っぽい、でもそれよりは細身の四足歩行の生物と相対している。

特段何をするワケでもなく、静かに、しかし目を逸らしてはダメだと思いながら。

 

何故その夢を見るのか、詳しいことは知れない。

ただ、『彼』-そう、何故か俺は件の生物のことを『彼』だと半ば無意識に理解している-と向き合うことを求められていると感じていた。

だから、ただひたすらに『彼』と目を合わせることに徹した。

そして、どれくらいの時間が流れた頃だろうか?

不意に『彼』の方から視線を外し、どこかへと歩み去っていったのだ。

それに慌てて「待て!」と追う俺だったが、

 

───…プ、チャンプ!!

 

自身を呼ぶ声に寝ぼけ眼で目を覚ます。

寝起きの直ぐでろくに働かぬ頭で周りを見回せば、あったのは遠に夕暮れになった教室とこの時間になってまでも自分のことを待っていたらしい級友-エルコンドルパサーの姿が。

 

「やっと起きたんデスね!もう、何度呼びかけても起きないので心配しましたよ?」

「……あぁ、悪いな」

 

少しばかり不機嫌そうな友人に謝罪しながら身体を起こす。

……どうやら、随分と眠ってしまっていたようだ。

まぁ、最近色々と忙しかったしナ。

だから俺のトレーナーもオフを言い渡して来てるんだし。

…にしても。

 

「なんでお前がここにいるんだ?」

「えぇ!?今更デスか!?」

 

心底驚いたように叫ぶ友人だが、いやまぁそりゃそうだろ。

だってこの時間ならもうトレーニング終わってさっさと寮に戻ってんのが普通だ。

…なのに何で。

言外に、目線でそう問うと先程までの()()()()エルコンドルパサーとは一転、ふたりきりだけの時にしか見せない"パサー"の方に…。

 

「ふたりきりになりたかった…って言ったら、キミは僕を軽蔑するかい?」

「…思考が突飛だな」

「ははは」

 

俺は、"パサー"の時のエルコンドルパサーが苦手だ。

いつもの騒がしいヤツも、まぁアレだがこっちの方がより厄介というか面倒くさいと言うべきか。

ともかく、普段とのギャップがあり過ぎて対応に困るというか、調子狂わされるというか。

そんなことを考えているうちにいつの間にか距離を詰められていたらしく、「ねぇ、ちょっと聞いてる?」と耳元で囁かれた。

 

「…ッ!?!?」

「あれ…?耳、弱いんだね」

 

ニヤリとした笑みを浮かべたコイツの顔を見てようやく気づいたのだが、どうにも今の今までずっとエルコンドルパサーのペースに乗せられていたらしい。

などと、察してしまえば。

 

「……帰るぞ」

「うん♪」

 

にしても。

…あれ?

俺、さっきまで。

なんの夢、見てたっけ…?





あなたは、だぁれ?


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あなたが(しるべ)


まぁ、本人にとっては幸せですから。



新調したての手袋でぺたぺたと触れると「くすぐったい」と微笑まれた。

「相変わらず肌触りがいいねぇ」との褒め言葉に、褒められているのは自分ではないくせに嬉しくなる。

 

「でも、家の中なんだしもうちょっとラフな格好してもいいんだよ?」

「…はい。けれど、この格好が一番楽なので」

「そう?」

 

お前、傍目から見たら執事みてぇだな。

そう、同室である"きょうだい"に言われたのは何時ぞやのことだったか。

シワひとつないオーダーメイドのスーツにきっちりと締められたネクタイ。髪も後ろへ撫でつけているから一見すれば確かに堅苦しい印象を受けるだろう。

しかし、これは自分の性分であり勝負服なのだ。

だから仕方がない。

 

「あぁそうだ。父さん、お茶はどうですか?そろそろ煮詰まってきたのでは?」

「ん〜?いや、大丈夫大丈夫。まだへーきへーき」

「……そうですか」

 

あなたが誇れるような自分(子ども)でありたくて。

心の内のぐしゃぐしゃを押し殺しては"良い子"の皮を被る。

服装だって、好きな物だって、…よく分からない。

それが世間様にとって『普通』で、どうなったってカドが立ちそうにないやり方だから選んだだけだ。

……本当は。

 

(…………なんて)

 

そんなこと、口には出せないけど。

 

 

昔から。

あの子は、"シロガネハイセイコ"は、控えめな子どもだった。

甘えベタで、それでいて聡くて。

諭すことなど、そうなかったし、もし諭したとしても一回で言うことを聞く子で。

けれども。

 

「ハイセイコ、どれがいい?」

 

そう聞くたびに、あの子はキョトンとした顔をした。

色とりどりの、鞄だったり、もしくは様々なものが並ぶ棚の前で。

他の子たちは各々それぞれが、「これがいい」「あれがいい」と選んでいるというのに。

あの子だけは、手を伸ばすことすらせず。

いや、そもそも棚にさえ、目を()()()()()()か。

 

「…ハイセイコ?」

 

あの子が見ていたのは、いつだって僕だった。

じい、と黒の目で。

しっかと手を繋いだ、父である僕のことを。

ただただ真っ直ぐに見つめていたのだ。

その目に映る感情を、当時の僕は読み取ることができなかったけれど。

今なら分かる気がするんだ。

きっとそれは。

───親愛とか敬愛だとかそういう類のものだったんじゃないかなってさ。

 

「コレとか、ハイセイコに似合うんじゃない?」

「…」

 

ちょっと高い位置にあった商品を何とか取り、手渡す。

似たようなことはそれからも。

同じように、変わらず。

 

「…じゃあ、コレにします」

「うん」





【銀色のアイドル】:
シロガネハイセイコ。
服が基本正装か、よくてそれっぽい感じなウマ。
決してカジュアル〜な服装をしない。決して。
また行動指針が全部父。
父さんがそう言うからの極み。
そう聞くとロボットっぽくもあるけれど、でも父親に対しての情が重すぎるので…。
そう考えると意思を持ったAIに近い…のかなぁ?

僕:
シルバーバレット。
約束されしクソニブ兼父親。
【銀色のアイドル】のことをフツーに良い子だと思っているし、それは間違いない。
けれど【銀色のアイドル】が父である自身にどのような感情を抱いているかを今までもこれからも察することは出来ないので…ハイ。


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似て、非なる


長兄・次兄、互いに激重感情で刺しあってるから周りを何も見てないんだよね…。
やっぱり銀弾の仔だな…(周囲の視線から目を逸らしながら)。



『キミが僕の仔かい?』

 

ひとり、塞ぎ込んでいた自分に手を伸ばしてくれたあなた。

母から幾度となく話を聞いていたからすぐ分かった。

───あなたが、僕のお父さんだって。

 

『たしか、キミのおじいさんは…。なら、"シロガネハイセイコ"にしよう』

 

僕を抱き上げてそう言ったあなた。

母に、会いに行かないのかと問えば『僕はキミを引取りに来ただけだから。キミを引き取る話は一緒に来てくれてた人がしてくれてるだろうし』などと。

それを聞いて…僕は嬉しかった。

母は物心ついてからずっと、僕にあなたのことを話していたから。

あなたにもう一度再会するために優秀であれと僕に、狂気じみた目で言っていたから。

…だから、

 

『家についたらキミが使うものをいろいろ買いに行かなくちゃね』

 

あなたが、()()()が僕を選んでくれたことが嬉しい。

いちどは愛した我が母(じょせい)すら目に入らずに。

本当に、僕に会うためだけにここに来たあなたが…嬉しい。

 

『ハイセイコ』

『はい、父さん』

 

それから、家についてあなたと暮らして。

一緒にお風呂に入ったり、一緒に寝たり、走り方を教えてもらったり…。

()()()()、この場所は僕とあなたの世界だった。

 

『紹介するね』

 

ほがらかに微笑むあなた。

その後ろには。

 

『この子はシロガネヒーロー。キミとは兄弟になるかな?同い年だけど』

 

"シロガネヒーロー"

ニコニコと微笑むあなたは気がついていなかったが、子どもである僕たちはお互いにお互いをじっ、と睨みつけた。

たぶん、あの日の僕らの目にあったのは『嫉妬』だろう。

自分だけが選ばれたのだと思っていた。

でも、違った。

あなたは僕たち子どもを平等に見ていた。

僕たちの()()を、見ていた。

 

 

 

 

僕は、あなたに見てもらいたかった。

兄弟たちの長兄ではなく、ただの"シロガネハイセイコ"として。

あなたが獲れなかった冠を獲れば見てもらえるだろうかと。

本心から、褒めてもらえるだろうかと。

そう、思ったのに。

 

『…はは、』

『、』

 

()()()()()、────シロガネヒーロー。

ギリ、と歯噛みする僕にキミが笑う。

お前にだけ独り占めさせるか、とでもいうような笑みで。

 

『ふたりとも、お疲れさま』

『ヒーローは最後まで諦めなかった。凄いね』

『ハイセイコは…いい経験だったんじゃないかな。キミのことだから慢心はしてなかっただろうけど』

 

負けることはいい経験だ。

今よりずっと強くなれる。

なんて言って僕を勇気付けるあなたに、僕は思う。

そんなこと言ったって、…あなたは、()()()は、

 

────負けたこと、ないくせに。

 

僕の、人知れずつぶやいたハズの言葉に、振り返る父さん(あなた)

そして開いた口からは、

 

『そうだよ』

 

至極当然というような、声音が響いた。





長兄:
シロガネハイセイコ(銀色のアイドル)。母父ハイセイコー。
母親から銀弾に狂わされてた子ども。
そんな母親に育てられたのでもちろん狂ってる。
自分だけが父に選ばれた!と思ってたらシロガネヒーローがやって来てハイライトオフした。
父の期待通りに【一家の長兄】として振る舞いながらも、その本心では父に自分だけを見てもらいたい。
見てもらうために三冠を獲ろうとしたらシロガネヒーローに菊をかっさらわれ『またお前か!』となった。
けど普段はヒーローと仲良し。銀弾が関わるとギスるだけ。

次兄:
シロガネヒーロー(銀色のヒーロー)。母父タケホープ。
生まれたころから長兄のライバルになることが決定付けられていた次兄。
気のいい兄ちゃんに見えてやっぱり銀弾にそれとな〜く狂わされている。けど、コイツもコイツで【銀色のアイドル】に焼かれてるんだなコレが。
なおシロガネハイセイコとの初対面は双方ハイライトオフでガン付けあった模様。
ハイセイコの対父への鬱屈具合に『う〜わ』と思いつつも結局は同じ穴の貉なので黙っている。
菊をかっさらったのは成り行きだが父に褒められる自分を見て、ダークサイドする長兄を見ることができてゾクゾクした。
だってアイドルの闇は健康にいいもん。


僕:
シルバーバレット(お父さん)。何も知らない。
子どもを可愛がりつつ今日も今日とてマブダチのSSとレース観戦中。
僕の子どもたちつよ〜い(キャッキャッ)!


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お前は、どんな顔をするだろう。


銀弾の尊敬するンマは父であるヒカルイマイで幼いころから現役時のレースを見まくった結果、実況をソラで言えそうだなって…。
まぁそれは銀弾産駒たちもそうで、とりあえずハイセイコは銀弾の現役時のレース実況を全部ソラで言える。絶対言える。
また、他の仔も90JCだけは完璧にソラでいけるんだ。



そのヒトが現れたのは、唐突だった。

 

『やぁ。キミは…僕の子どもかい?』

 

逆光に照らされていて口元だけしか見えなかったが俺はその声に強く、強く頷いて。

そんな俺の行動に『そう』と満足気に笑った彼は優しく幼い体を抱き上げると、

 

『じゃあ、僕たちの家に行こうか』

 

今となっては滅多に運転されなくなった白い車に揺られて、一時間程度。

『寝ててよかったのに』と苦笑するそのヒトに連れられていった先には、

 

『紹介するね』

『この子はシロガネヒーロー。キミとは兄弟になるかな?同い年だけど』

 

利口そうな、少年がいた。

どこかそのヒトと目の感じが似ている男の子。

理知的な印象を受ける眼差しだった。

けれど、

 

『…』

 

じぃ、と見定められる。

なにも感情が浮かんでいない目で。

それが恐ろしくて、俺はそばにあったそのヒトの脚にしがみついた。

そうすれば怖さが楽になるかって。

でも、

 

『(…ギリ)』

 

射殺さんばかりに睨みつけられた。

どれほど許せないものに会えども、ここまでの目を向けることはないだろうと思うほどの目。

 

『…ハイセイコ?』

『…っ。はい、父様』

『仲良くするんだよ』

 

が、そのヒトに声をかけられた途端に重苦しかった空気が霧消する。

そのヒトに意識を傾けられた瞬間に、花がほころぶような顔に変わった彼に、俺は。

 

 

…ゾワッ。

 

 

それから、シロガネヒーロー()は彼-シロガネハイセイコと仲良くなった。

はじめに引き取られた子ども同士ということで、得意距離が被っていたということで、いずれは同じ場所(三冠)を目指すということで。

 

「よォ、ハイセイコ!」

「うわっ!…なんだ、ヒーローか」

 

家でも同室、寮でも同室。

どこへ行こうともふたりでひとつ。

そう、自他ともに認めるくらいに共にある俺たち。

 

「なァ」

「なに?」

「もーすぐだな」

「…なにが」

「分かってんだろ?」

 

黙り込んだハイセイコにニコリと笑う。

あと一週間もしない内に、皐月賞だ。

いちばん近くにいる俺だから分かることだが、ハイセイコ(コイツ)の実力は群を抜けている。

よっぽどのことがなければ負けない、父の走り方をある程度()()()()()才覚。

けど、コイツが【アイドル】らしく、自分が負かした相手のことを気にするから。

 

「勝っても負けても、恨みっこなしだ。な?」

 

そう言って、背を押した。

周りには悪いが『獣』を起こした。

 

「…あぁ、」

 

目覚めた『獣』が嗤う。

自分の赴くままに、すべてを喰い荒らす『獣』が。

 

(…それでいい)

 

それでいいんだよ、ハイセイコ。

喰って喰って、増長して。

そうして、

 

(俺に、…() () () () )

 

【ヒーロー】たる俺に。

そして、【アイドル(お前)】が【ヒーロー()】に喰われたのなら…、

 

 

希望をもって、ヒーローは往く

Lv2→Lv3

 





【銀色のヒーロー】:
主な勝ち鞍
菊花賞(1996年度)
ステイヤーズミリオン(1997・1998年度)

適性
芝AダG。短GマG中C長A。逃G先F差A追A。
芝3000m以上が最適性。なので有馬記念は少し短かった。
固有スキルは『希望をもって、ヒーローは往く』
効果は「最終コーナーで中団以降にいると希望をもって抜け出しやすくなる。また【シロガネハイセイコ】が前にいると狙いをつけてすごく加速する」というもの。
イメージカラーはポピーレッド
色の内容は、平均的では満足しない人。
色言葉は、主役・高尚・敏感。

シロガネヒーロー。母父タケホープ。
シロガネハイセイコと実質兄弟みたいな感じでニコイチしている。
父であるシルバーバレットのことを慕っているが、実のところ一番好きなのは自分のせいで曇るシロガネハイセイコの姿。
いつもシルバーバレットの子として、周りが望む【アイドル】として振舞おうとするハイセイコが、自分を憎い・█すという目で見てくるのにとても興奮しているウッマ。

…俺のせいで曇るハイセイコ、かわいそかわいい。

【銀色のアイドル】:
主な勝ち鞍
皐月賞、日本ダービー、ジャパンカップ(1996年度)
KGVI & QES、有馬記念(1997年度)

シロガネハイセイコ。母父ハイセイコー。
シロガネヒーローとは実質兄弟みたいな感じでニコイチしている。
父であるシルバーバレットのことをとても慕っており、そのため『父さんの子は僕だけでいいですよね?』とよくなっているらしい。
ちなヒーローに対しては毎度重要なところをかっさらわれるため『こんなの(いだ)いちゃダメだ…』しながらもドロドロした感情を抱いている模様。

知らない内に性癖の対象にされてしまっている可哀想なウッマ。

僕:
シルバーバレット。何も知らない。
けど、すべての元凶。


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()()のラン


…あぁ、アイツ?
うん、強いウマだったよな。
語られるのはもっぱらあの有馬記念だけどさ。
俺が思うにアイツがいちばん強くて、それでいて
()()()()のは───、

それは、まさしく。

世界に対して。

…いいや、()()()に対しての───、




その電話がきたのは、菊花賞からそう日が経っていない時のこと。

 

「はい、シルバーバレットです」

『…、』

「あの…?もしもし?」

『…父さん』

「…ハイセイコ?」

 

電話の主は息子であるシロガネハイセイコだった。

だが電話越しに聞こえた声は嫌に弱弱しい。

もしかして怪我か?と不安に思い「何があった?」と問うも返ってきたのは、

 

『ぼくは…』

「ハイセイコ?ねぇ、ハイセイコ!?」

『とうさんの、むすこ、だから…』

 

ただそれだけ。

それだけを言ってガチャンと切れた電話に僕は何も出来ず立ち尽くした(…あのころは携帯もまだそこまで普及してない時だったしね)。

 

「…」

 

閑話休題。

その年の牡バクラシック戦線には僕の息子がふたりいた。

ひとりは皐月賞・日本ダービーを獲り二冠バとなったシロガネハイセイコ。

もうひとりは菊花賞バのシロガネヒーローだ。

走れなかった僕が言うのも何だがクラシック戦線というのは過酷なものだと思う。

それもこの年のクラシック最終戦(菊花賞)は死力を尽くしたものだったのだし。

だが、

 

二冠バ・シロガネハイセイコ、

ジャパンカップ参戦!!

 

そう告げる新聞をちらりと見てたたむ。

牡バクラシック全戦に出走していたふたり。

しかしシロガネヒーローの方は菊花賞の疲労によって今年は休養と。

…それを思うとシロガネハイセイコの方も、と思っても不思議じゃないだろう。

がしかし、

 

 

負けた。

はじめて、負けた。

誰もが気にしないでいいと言ったけれど、僕が、僕を許せないから。

 

(…ぼくは、とうさんのこども)

 

あの日。

自分を差し切った影に、お前だけが『特別』じゃないのだと分からされた。

 

「……」

 

だから。

だから、『証明』を。

 

「ほら、早く行けよ」

「お前だってそうだろ!」

「な、なんだアイツ…」

 

ワァワァと何かがざわめいているのがひどくうっとおしい。

そのざわめきに喉で低く唸れば、次々とゲートに入っていくウマの群れ。

 

「…はぁ、」

 

ゲートの開く音。

そこをガッ、と飛び出して進む。

走り方は、もはや見慣れすぎて実況の言葉を覚えてしまった父を模したもの。

いつもの先行策とはまた違った走りに息の上がりが早いが、問題はない。

 

(…あはは)

 

 

父さん父さん父さん父さん父さん…

愛愛愛愛愛愛愛愛愛愛愛愛愛愛愛

愛してる
愛してる

愛してる
愛してる

愛愛愛愛愛愛愛愛愛愛愛愛愛愛愛

Lv.ERROR ERROR ERRRRRR...

 

 

後ろから、必死に駆けてくる音がする。

しかし、引きちぎる。

でも。

それでも。

 

『やはり府中は庭なのか?!

ダービーに引き続き、あのウマがまたやって来たぞ!』

『先頭はただ一頭。

先頭はただ一頭!

先頭はただ一頭!!

 

シロガネハイセイコ〜ッ!!!!

 

これが二冠バか、それとも血の意地か!?』

『シロガネハイセイコ、()()のランッッ!!』

 

ジャパンカップ【G1】 1996/11/24
着順馬番馬名タイム着差
5シロガネハイセイコ2:22.0 
14シングスピール2:23.8大差
4ファビラスラフイン2:23.8ハナ
1ストラテジック

チョイス

2:24.01.1/4
9エリシオ2:24.0同着

 

シルバーバレット(あの人)には。

 

「届かなかった、かぁ……」

 

 





───そこに宿るは、『鬼』か『魔』か。

【銀色のアイドル】:
主な勝ち鞍
皐月賞、日本ダービー、ジャパンカップ(1996年度)
KGVI & QES、有馬記念(1997年度)

父シルバーバレット母父ハイセイコーの牡馬。
主戦騎手は白峰透。96有馬は休養したため未出走。
適性は芝AダG。短GマC中A長B。逃B先A差F追F。
最適性は父と同じく芝2400m。
…とはいうものの、2500mまでなら何とかいけたらしい(し、それ以上も走れなくはなかったが2400mまでと比べると…、とのこと)。
固有スキルは(本来ならば)『僕もいつか、いつの日か』
効果は「落ち着いたまま、終盤好位置にいると余力をもって加速する。また、出走するメンバーの内の【シルバー】、【シロガネ】のウマの人数に応じて速度と加速力を上げる」というもの。

実は史実から菊花賞後~1996JCの間、調子を崩していた馬。
だがしかしJC本番では周りの馬がゲート入りを恐れ、嫌がるほどのプレッシャーをぶちかまし8馬身差で圧勝(なお今回の話を書くにあたって、ハイセイコを出走取消されていたセイントリーさんのところ(3枠5番)に入れさせていただきました)。
でも掲示板を見た瞬間、悔しげにボロ泣きし始めた。
そのことに対して、関係者()は『父である銀弾に勝てなかったのが悔しかったのだろう』と後年述べた模様。
ちな【再来】シロガネガイセイが現れるまではコイツが銀弾系列内の芝2400m部門代表だったらしい。

イメージカラーは珊瑚色だが今回は…?
色の内容→憧れを実現しようと試みる行動派。
色言葉→ 意欲・勇猛・外交的。


ハイセイコのストーリーは父である銀弾に囚われつつも自分ひとりで立って生きれるようになるまで…みたいな感じがあるよね。
それと三冠達成するかどうかでシロガネヒーローの強さが変わりそう。
未達成ならそのままだけど、達成してたらシニア有馬で超絶強化シロガネヒーローが出てくるんだ。


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子どもが故に、


哀れだな。

それでも見てもらいたいんだよ僕は。




あのジャパンカップで。

僕は、父を超えられなかった。

けれど2:22.2(及第点)は超えることが、できていた。

 

「あぁ、おかえり」

 

ふらり、と唐突に帰ったのに父はそんな僕を笑顔で受け入れてくれた。

───いつもの優しい笑みではなく、()()()の笑みで。

 

「……ただいま」

 

その父の顔を見て、思わず口角が上がってしまう。

父さんのこんな顔、初めて見たから。

 

「どうだった?」

「…うん、まあまあかな? でもやっぱりまだまだだと思ったよ」

「そう…」

 

自分という存在を舐めるように見やる視線に、何かを喋ろうとしては口を噤む動きに、背筋がゾクゾクとする。

 

父さんが…僕を、()()()()

 

誰も彼もに平等で、博愛主義な父さんが。

自分の欲を剥き出しにして、僕のことを()()()()のだ!

 

「……っ!」

 

……やばい。

これは、想像以上にクるものがある……。

 

「それで、次はどこへ行くんだい?」

「えっとね……とりあえず、海外に行く予定」

「……へぇ、」

 

漏れ出た声は何かを抑えるように。

抑えきれない感情を抑え込むかのように。

 

「そう、」

 

抑え込んだまま、シロガネハイセイコ()を───。

 

 

「哀れだな」

 

嘲るようにそう告げるとギッ、と射殺さんばかりに睨まれてヘラヘラと笑いながら降参のポーズを取る。が、

 

「アレは、お前を見てるワケじゃないだろ」

 

脳裏に浮かぶのは俺たちの"源流"たるウマの姿。

普段は凪いでいつつも、いつだって自分に至りうる存在を求めて逍遥する怪物…。

そんなモノに囚われて、やまないお前。

 

「アレは誰でもいいんだよ」

「……」

「俺だろうが、お前だろうが、誰であろうが関係ない。ただそこにいる誰かが()()であれば、()()()()だけだ」

 

だから、気に食わない。

俺はお前を見ているのに。

お前にとっての俺はその他大勢に過ぎないということが。

そして何より、それが分かっているのに諦めきれない自分が、そんなお前に()()()()()自分が!

……それでも。

 

「俺はお前じゃなきゃ嫌なんだ」

 

絞り出すような声で漏らした声は、我ながらあまりに悲痛で。

またくつり、と嗤う自分に勘違いしたお前が吠えてくるけれど。

 

「違ぇよ」

 

ただ、それだけは否定しておこうと思って。

 

「お前はお前だって話だ」

 

あの日、あの時。

確かに出逢った時からずっと変わらない想いを込めて。

 

「お前はお前のまま変わればいい」

 

そう言うと少しだけ驚いた顔をしたあと、「ありがとう」と少し不満げな顔でお前は、俺に…。

 





【銀色のアイドル】:
シロガネハイセイコ。
今日も今日とて父親しか見ていない。
JCにて頑張った結果、父が自分を見てくれて嬉しいが、それは自分自身を見たものではなく結果を出してさえいればどの相手にも()()するのだと気づいている。
でも、それでも、嬉しいの。

【銀色のヒーロー】:
シロガネヒーロー。
父に焦がれるお前に焦がれている。
こっちを見て欲しいとずっと願っているが、父を見ていないお前は俺の焦がれたお前ではない、という矛盾を抱えては自嘲中。
でも他よりは見てもらえてるんだよね…。


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味方にさえ、なれやしない


救えない"ヒーロー"に、ヒーローとしての意義はあるのか。



──お前を救うヒーローになりたかった。

 

…なんて、言えば笑われるだろうけれど。

あぁ、たしかにはじめはお前のことが嫌いだったさ。

自分を救い出してくれた"父さん(かみさま)"に同量の愛をもらうヤツ。

けれど、『ふたり同室ね』と部屋を決められて、家族が多くなってきたところで気がついた。

 

"父さん(神さま)"は平等で、でもコイツはそんな"父さん(神さま)"からの一心の愛を求めているんだ──。

 

俺も、他の奴らも、半月にも満たない時に察する現実(事実)を、お前は受け入れられないんだと。

 

『とうさん、おとうさん…』

 

向かいのベッドでグスグスと漏らされる泣き声を聞きながら、眠りにつくのがしょっちゅう…というか、精神的にある程度いくとそうなるのか?

まぁとにかく毎日のように泣いていた。

 

『なんで……ぼくだって、がんばってるのにぃ……!!』

『どうして、おとうさんはぼくいがいみるの……!』

『なんで、あいされないんだよぉ……ッ!!!』

 

"父さん(神さま)"。

最初に救われたからだろうか。

「かわいそう」なぞ言えない。

その言葉は俺たちすべてにも当てはまるものだし、何より知らないフリを、気が付かないフリを…。

だから俺は、ただ黙っていた。

 

『……なーんて! ごめんなさい、ちょっとした冗談ですよ?』

 

朝になれば、いつも通りに戻るアイツを見て、毎日、ほっとすると同時に怖くなって。

いつか、いつか───取り返しのつかないことに、なる…。

 

「大丈夫だよ、ヒーロー」

 

 

救われたくなんてない。

僕を救っていいのは"あの人"だけ。

"あの人"以外に救われたくない。

それが信奉に近い、とか。

依存している、とか言われても構わないよ。

ただ僕は、"あの人"だけがいればそれでよかったんだ。

それなのに。

 

「……ねぇ、どうしたら僕のこと見てくれるんです?」

「貴方のためにここまで来たんですよ? 褒めてくださいよ……」

 

求めても、もがいても。

貴方が見てくれる"僕"は、既に形作られてしまった殻。

あの日の、無垢で、ワガママで、一心不乱に貴方を求められた子ども(ぼく)ではなく。

今の僕は、もう違う。

大人に近い年齢になったし、背丈も追い越してしまった。

……それに、ほら。

貴方に抱くべきじゃない(こんな)感情まで持ってしまったじゃないか。

 

「でも、…あなたのせいではないですよ?えぇ、えぇ。悪いのは物分りの悪いシロガネハイセイコ(ぼく)ですから。えぇ、えぇ、えぇ…」

 

わるいのは、ぼく…。

 

「とか。…えへへ、冗談ですよ」





【銀色のヒーロー】:
シロガネヒーロー。
かわいそかわいいするけど"救いたい"って気持ちもある。
難儀。
でもこのウマも気付かないフリをしているだけなので…。

【銀色のアイドル】:
シロガネハイセイコ。
にっこり。


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走り続け、遺り続け


後はもう、薄れるばかり。



ここ数年、見る夢はずっと同じ。

 

【そうやってずっと…腑抜けてんのなら、俺にくれよ】

「ヤダよ」

 

真っ暗な世界で鎖に繋がれた【自分】と対面する。

鎖以外にも拘束具やら口枷やらで自由を奪われている。

…あぁ、相も変わらずこれは()だ。

 

【俺はもっと…ずっとずっとずっと走りたいンだよ!】

「そう」

【こんな風にさァ!】

 

【自分】が声を荒げて叫んだ瞬間に世界が変わる。

変わったそこは…今も忘れることができない、

 

「好きだね、ここ」

【だって、忘れられるワケねェダロ?】

 

東京レース場(ここ)は、【自分】が生まれた場所だ。

領域(ゾーン)】という類稀なるチカラが、生まれた場所…。

 

【俺はここで生まれた!お前の中で、産声を上げた!!】

「…」

【嬉しかった!やっとお前のチカラになれるって!ずっと歯がゆかったから!!】

「…」

 

ふたりだけしかいない、虚構の場所で対峙する。

ギザギザ歯の瞳孔が開いた目で、ボタボタと涙を流しながら自分を睨みつける【俺】を見る。

少ない時ではあったが、自分を支えてくれた【俺】を、見る。

 

「…」

【言 う な】

 

口を開こうとすると察したように止められる。

そりゃあ、そうか。

僕は【(キミ)】で、【(キミ)】は僕。

言いたいことも分かってしまうし、思っていることも分かってしまうのだ。

だから、言わせてくれないんだろう。

言わせたく、ないんだろう。

でも、 だからこそ、言ってあげなくちゃいけない。

言わなくちゃ、いけない。

他でもない僕が。

 

「ありがとう」

【、】

 

…どうだろう。

僕は【(キミ)】の前で、綺麗に笑えているだろうか。

年老いて、もう、【(キミ)】を万全に扱えなくなった僕は。

ちゃんと、笑ってあげられているだろうか。

ねぇ。

僕の、最後の願いを聞いてくれるかい?

そんな顔しないでおくれよ。

今更だけどさ、…きっとキミは僕のヒーローだった。

ずっとずっとそばにいてくれた僕の【領域(ヒーロー)】。

 

「本当に、ありが、とう……」

 

だから。

次は。

 

「未来を、助けてあげるんだ」

 

僕と、【(キミ)】で。

 

 

ウマたちの中でまことしやかに囁かれる噂として『継承』というものがある。

簡単に言うと、それは次の世代へチカラを渡す行為を指すもので、それを受け継いだものには莫大な富と名誉が与えられるとされている。

だがしかし、その方法とは実に曖昧なものであり、その内容を知るものは誰ひとりいないというのが現状である。

だが、ただひとつ言えるのは。

 

「…楽しそうだなぁ、【(あの子)】」

 

『継承』を受けたと思われるウマに、重な(ダブ)るように見える()があるということで…。





【俺】:
シルバーバレットの【領域(ゾーン)】。
ずっと、ずっとずっとずっと(そば)で見ていた。
諦めないキミのチカラになりたい、その一心で。
でも、やっとのことで出たころにはもう…。

もっと、キミと一緒にいたかった。
キミと、走っていたかった。
けれど、キミが…そう望むなら。

【因 子 継 承】



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子の心、親知らず


許容量が増えたところにいきなりの目減りはダメですよ、コリャ…(やれやれのポーズ)



血に刻みつけられた業か、それとも本人の生まれながらのサガか。

シルバーバレットにとって、子どもというものは『守るべき存在』であった。

かよわく、素直であるこの子らを親である自分が守ってやらねばならぬと──そう思ってきたのだ。

だがそれは同時に、シルバーバレットの"いびつさ"をどうしようもなく際立たせてしまって。

 

『おとうさん、だっこ!』

「はいはい」

 

シルバーバレットは、たしかに子どものことを愛し、慈しむ。

けれど、それはある一定期間を過ぎると()()()する。

そこにどんな線引きがあるのかは杳として知りえない。

しかし確実に、ある一定期間をもって、かよわき子たちにかけられていた『愛』は…薄れていってしまうのだ。

 

愛しているには、愛している。

でも()()()()の、際限なく注がれていた『愛』よりは程遠い量になる。

いわく、『大人になったから』。

いわく、『僕がいなくても大丈夫そうになったから』。

 

「メンタルも安定して、家族間での交流も持てるようになって……もう僕の助けはいらないみたい」

 

ほけほけと、ふわふわと笑う様は心の底からそう思っていると顔を見ずともわかるほどに朗らかな声音だった。

 

だって、シルバーバレットには『他人に依存する』ということが分からない。

いや、一心同体とまで言い切りかねない仲の、自他ともに認めるトレーナーはまた別口として、基本は自分ひとりで立って歩いて行ける人間であるが故に、()()()()()()()()()()()()()()()()()()という感覚そのものが理解できないのだ。

だから子どもたちから自分に対する様々でありながら、でもどこか似偏っている感情にも気付かぬまま。

それらをただの『家族愛』だと受け止めている。

そしてそれを否定できるような要因もまた、存在しない。

……まあ、そんなことを言ってしまえばそもそもの話。

シルバーバレット自身、自分の異常性について自覚がないわけでもないのだが。

それでもやはり、その考えに至ることはないだろう。

……きっと。

 

 

いつか、父母や祖父母のような関係に至れる人と出逢うことができればいいなと考えつつも。

 

「僕は、あんな風にはなれないや」

 

互いに愛し合って、大切にしあって。

それを、なんと素敵なことだと思っても、自分が()()している姿が皆目なくて。

自分が示すことのできる『愛』が、いつしか"親愛"やら"友愛"やら"家族愛"など、普遍で、澱みひとつないものだけだと気づいてしまっては。

 

「…ま、いっか」





僕:
シルバーバレット。
子どもは守るべきもの。
なので守りに守るが、家族に馴染み交流を持てるようになると「大丈夫だね!」するタイプ。
それまで付かず離れずベタベタドボドボ『愛』を注いでいたところにコレだよ…。

だがそれはそれとして、父母や祖父母みたいな関係になれる人が欲しいな(トレーナーは別枠)とも考えるには考えるが僕として示せる『愛』が澱みない"友愛"やら何やらなので「『愛』って難しいね」している。
……まぁ父母、祖父母の関係のように重くとも()()()()関係を持ってくれる人がいればあるいは?


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聞こえますか?


あの"歌"が、"Swing(スイング)"が。



それは小さな悪魔だった。

悪魔(それ)が生まれるに相応しい場所で、生を受けた。

かつては喜びをもって迎えられた仔は、今や失望をもって虐げられ。

悪魔(それ)が育つに相応しい場所で、フツフツと力を溜めた。

 

───歌が聞こえる。

 

悪魔(それ)の声が聞こえるか?

蜘蛛の巣と、ささくれだった板の感触を覚えているか?

罪悪を正義だと謳った…あの場所のことも。

 

『夢は必ず叶う』。

使う者が違えば、こんなにも邪悪になるのかという言葉はそうそうないだろう。

悪魔(それ)を消しされると思うな。

その身に欲ある限り、悪魔(それ)は嗤っているというのに。

 

悪魔の血が広がっていく。

嗚呼、まさに悪夢だろうさ!

栄華という名の足音を鳴らし、奈落へと追い立てる様は!!

 

『───────!!』

 

…………それでも、願わずにはいられないのだ。

この地獄から救い出してくれるなら、神でも天使でもいい。

どうかお願いだ……。

ここから、連れ出してくれないだろうか?

 

 

やぁ、顔も名前もよく知らないし、覚えていない誰かさん。

ちょっと、やり過ぎたかもしれないね。

でも、僕って存在はハジマリにしか過ぎなかったんじゃないかなぁ?

ほら、よく言うじゃない?

"坂を転がり落ちるように"って!

そりゃあ僕が最後のひと押しだったのかもしれないけど…。

 

「その坂を作ったのは、あなたたちだってのに」

 

"たったひとつ"を生み出すために、蠱毒で作った坂。

その坂は恐ろしいまでになだらかだったでしょう?…なんて。

 

因果応報。

人を呪わば穴二つ。

……覚悟がなかった?

まぁ、僕はただ見ていただけだけど。

そうだねぇ……。

もしもの話をするならば、こうなるかな?

「キミたちは、自分で自分の運命を決めたんだ!」ってね。

『理不尽だ』とか、『そこまでしていない』とか言われても知らないよ。

それに"親の因果が子に報い"…ってのもあるワケだしねぇ。

結局のところ、そういうことなんだと思うよ。

なので。

…うん、ごめんなさい。

謝る気はないです。

だからそんな目で見ないでください。

 

『みんなが"僕"という存在を忘れるまで』って、途方もなさすぎるでしょう?

誰よりも目立つのが僕だからって、それまでに忘れ去られたみんなを内包して"僕"という存在が忘れ去られるまで赦されないって。

どう考えても無理ゲーでは?

 

「…かわいそ」

 

ほら、我ながら僕の子どもってみんな優秀なモンで。

それに甥っ子とかも有名だからね、仕方ないね。

 

「まぁ、祈るだけは祈ってあげますよ。できるだけ、ね?」





"悪魔":
ある人々にとっては。
執念によって成された怪物。
もしくは呪いというか超ド級の貧乏神というか。
大概興味無いけど縋られたら縋られたで『しゃあないなぁ…』と思ってしまうあたり残酷。
だって実質希望じゃない?
コレがひと言『赦す』って言っただけで…さ。


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それは、空っぽの入れ物


お久しぶりの登場。
或る"再来"と、そのライバルの話。



「クライ」

 

ふわふわとしたソイツに、自身が認識されていると知ったのはいつだったのか。

それは最早分からないが、初めてそう呼ばれた時の歓喜だけは今も覚えている。

そして同時に、その喜びを噛み締める間もなく絶望したことも。

 

…お前は。

お前は、俺みたいな有象無象なぞ目に入らない()()だろう!?

こっちなんて振り返らない、…言いたかないけど、お前はそういう存在だろ!

なのに何で…。

 

 

自分でも自分がぼんやりしている子どもだとは分かっていて。

走ることと食べることと寝ることぐらいにしか興味無さそう、とトレーナー含め家族にまで言われて育ってきた。

まぁ実際、いま主軸を置いている『走る』という行為すらもあの日憧れなかったらしていなかっただろうから、そんな評価になるんだろうなとは思うし、別にそれで構わないとも思っていた。

けれども。

 

「、?」

 

ある日、ふと。

自分にいつも話しかけてくるその人に、興味を持った。

他の人々はそこまで根気強くもなければ、暇でもないらしく、大概一度か二度話しかければもうこちらには見向きもしなくなるのだが、その人だけは違ったからだ。

毎日毎日飽きることなく、時間を見つければ自分に声をかけてきた。

最初は、単に珍しい人なんだと思っていたけれど。

それが何度も続くうちに、気付けば「はやく声をかけてくれないかな?」とかソワソワするようになって。

 

「クライ」

 

自分からもキミの名前を、呼びたいと思ったの。

 

 

「クライ、クライ」

 

その日より、ずっとずっと見てきたソイツは、俺を親と認めたかのようにずっとずっと、着いてきた。

周りの奴らが、俺に向けて鋭い眼差しをしてくるくらいにはふにゃりと笑ってみせたりして。

でも俺は知っている。

コイツにとっての一番は、俺ではないのだということを。

だから俺は、今日もその傍にいながらも目線が逸らされる、そのいつかを、…恐れている。

 

曇り空のような銀灰色の眼。

それを縁取るまつげ。

白い肌と同じくらい淡い灰色の髪。

華奢に見えるくせに意外にも筋肉質な体躯。

同年代と比べても小柄な身長。

かつて"伝説"と謳われたウマと瓜二つだという容姿。

だがしかし、

 

「クライ」

 

発せられた名は明確な指向性を持たず。

ただ、覚えたばかりの言葉を吐くようで。

それでも確かに、己に向けられたものなのだということが伝わってきて。

……あぁ、クソったれめ。

この胸の奥底にある感情が何なのか、分かっているつもりだ。

だからこそ余計に腹立たしいのだ。

こんな、何もかも中途半端な関係性が。

そんな関係性を、喜んでいる己が。

だがそれをもっともっと欲しいと望む欲深な己が!!

 

「…クライ?」





【叫び、追う者】:
クライハウンド。
血統に【心の叫び】と【銀色の王者】がいる系ウッマ。
【再来】たるシロガネガイセイに自分を見てもらいたいと思いながらもいざ見てもらえたら「解釈違い!」と内心で叫んでいる難儀なライバル。
また【再来】と関わるごとに【再来】の情緒が生まれたてじみた"ナニカ"だと気が付き…?

【再来】:
シロガネガイセイ。
大概情緒が幼い。
はじめて興味を持った【叫び、追う者】にキャッキャと絡みながら過ごしている。
んで【叫び、追う者】の行動を見て、聞いて、学んで、行動しようとしているフシがあり、【叫び、追う者】の行動次第でどうなるかの‪√‬分岐がかかる可能性も無きにしも。
…あれ?コレ、実質光源氏計画みたいなものなのでは…?


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"まっくろけ"さん


見かけだけ、そうなろうが。



その日、マンハッタンカフェが見た父の親友とやらは"まっくろけ"だった。

小柄な背格好をしている、とだけが分かるその人物はやさしげなジェスチャーをしていたけれど、マンハッタンカフェの耳に届くのはザワザワと、まるでラジオが混線だかした時のような雑音(ノイズ)のみ。

 

ただ、そこだけが切り抜かれたような。

そこだけが、黒の絵の具でぐしゃりと塗られたかのような。

()()()()()

 

「…カフェ?」

 

思わず、普段はしもしないのに父の服の裾を掴んで。

それに驚いたか、困惑したかの声をかけられるも本能から警鐘をあげた恐怖に反応できないまま、ただマンハッタンカフェはじっとその人物()を見つめていた。

 

 

「あいっかわらず、真っ黒だな」

「そう?」

「あぁ」

 

ぺしぺし、ぱしぱしと。

手のひらでこびり付いた"黒"を払ってやる。

払われている張本人である親友-シルバーバレットはよく分かっていない顔をしながらも成されるスキンシップにされるがままにしている。

 

「めっちゃ触るじゃん」

「触んねぇと、取れねぇからな」

「そんなもんかなー……」

「おうよ」

 

会話をしながら、しかし手の動きを止めない自分に対して諦めたか、あるいは慣れたのか。

シルバーバレットはされるがままになりながら、「ま、いいけどね」と。

 

サンデーサイレンスが、"そのこと"に気がついたのはシルバーバレットと交友を深めるようになって少しのこと。

シルバーバレットの服の、それも目立つところにボン、と黒い染みが。

最初は何か汚れでもつけてしまっただろうかと思ったのだけれども、よく見ればそれはインクやペンキの汚れではなくて…。

それがなんなのかは、すぐに分かった。

 

ざわざわ、ぎゃあぎゃあ。

重なり合いすぎて、意味をなさなくなった音。

鳥肌の立った肌を、思わず掻き毟ってしまいたいくらいにおぞましい…【執着】。

シルバーバレットの体にべったりと張り付いて離れようとせず、それどころかその体の中に入り込もうとさえするソレは……あまりにも強すぎる、人の想い。

 

(……こいつは)

 

何故()()()()()を抱え込んでいて、平然としていられるのか?

その体の中に入り込もうとするソレは普通なら障りがあって然るべきなモノなのに。

だというのに、このウマはそれを気にした様子もなく。

…いや、むしろ。

 

(入り込もうとしても、()()()()()()のか?)

 

そう思い至った瞬間にはもう、サンデーサイレンスは行動していた。

 

「……えっと、何してるんだい?」

「黙ってろ」

「はい」

 

無造作に手を伸ばして、べたりとその貼り付いているソレを払い落とす。

呆然としている親友を後目に地面に落ちたソレ()をぐり、と踏み締めて。

 

「埃、着いてたもんでよ」

「…ぁ、そう、なの?…ありがとう」





"まっくろけ"さん:
黒で塗り潰された誰か。
本当なら入り込めるはずの"黒"はそこで停滞してしまって、停滞してしまっているから、溜まるしかない。
溜まるから塗り潰されたようになって、"まっくろけ"になってしまった。
…まぁ、払おうと思えば払える"黒"なので。


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僕の一等賞を奪いに来て!


どうしても、どうしても。
"続き"が、見たかったの。


日本URA史上、最年少でトレーナーとなったそのウマ娘はとあるチームに正式に加入したあとより、まさに破竹の勢いで担当となったウマ娘を勝たせ続けていった。

それまでは重賞に出走できたら大金星というほどだったチームをG1出走常連チーム、チーム:リギルと勢力を二分する…と言われるまでに急成長させたのだ。

がしかし、

 

「どうして貴女のようなウマ娘がトレーナーに…!」

 

そのウマ娘にとって、『トレーナー』という職は天職で。

だけれども、若輩者であるそのウマ娘の目から見ても()()()()()()()ウマ娘たちにとっては…そうではないようで。

 

「僕には僕の道があるのだから、あなた方に指図される謂れはないですよね?」

 

そんなことを言って、彼女はリギルやスピカといった強豪チームの誘いを全て断り、自分の道を進み続けた。

だって彼女は、───シルバーバレットは、チーム:アルデバランのトレーナーであるので。

 

 

走りきった。

頂点を見た。世界の果てを見た。

故に。

今生で"彼女ら"と再会して。

その瞬間、シルバーバレットは───()()()()()()、と思った。

自分が培った技術をすべて授けて、サポートして。

"彼女ら"の行く末を()()()、と。

あの日見ることの叶わなかった、彼女らの()()を。

 

()()()、行きましょう」

「貴女方は、日本なんてちっぽけな場所に収まる器ではない」

「すべてすべて、喰い尽くしましょう」

「貴女方を…バカにした有象無象にアホ面を、かかせてあげましょう?」

 

あるべきところに収まった"終わり"を、汚す趣味はない。

もう、やり尽くすところまでやり尽くしたのだ。

だから、

 

「僕はトレーナーです。チーム:アルデバランの、トレーナー。選手じゃあ、ありませんよ───シンボリルドルフさん」

 

相も変わらず諦めの悪い彼女に苦笑する。

……まぁ、気持ちはわかるけど。

それでも、この話はおしまいなのだから。

 

「……私は、キミと共に歩んでいきたいんだ……」

「それは不可能ですね。だって貴方は皇帝でしょう? こんなところで燻っているような存在じゃないはずだ。…はやくトレーニングに戻られては?」

「……っ! 私では、ダメなのか!?」

「えぇ、もちろん。そもそもの話として、僕と貴女の相性はあまりよろしくないので。残念ながら」

 

それにしてもしつこいものだ。

どうしたら納得してくれるのか……。

 

「なァ、生徒会長(セイトカイチョー)?いい加減にしてくんねェ?」

「んへっ!?」

「コイツはチーム:アルデバラン(俺ら)トレーナー(モン)なんだ。…チーム:リギルだろうがなんだろうが───

譲 る か よ

 

ぐい、と引っ張られるままに。

やっと変わらぬ問答から離脱できたことにようやっと僕は安堵の息を…。

 





僕:
シルバーバレット(ウマ娘のすがた)。
ただの(日本URA史上最年少)トレーナー。
チーム:アルデバラン所属。
トレーナーとして天才的な手腕を有しており、現在は日本を飛び出して海外遠征を積極的に行うなどしている。
気性の荒いウマ娘の相手が上手いのに定評がある。

…が、トレーナー専門なのに選手になるように度々誘われたりも?

チーム:アルデバラン:
僕がトレーナーをしているチーム。
チームリーダーは、ゴーアヘッドユー。
気性の荒い者が多く、僕がトレーナーになるまでは重賞に出走できたら御の字でパーティーをするようなチームだったが、僕加入後は大躍進を遂げる。
今ではチーム:リギルと実力を二分するとかしないとか…?
(とは言ってもアルデバランはある程度の実力になると海外遠征を積極的に行うチームなので…)


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それは"月"を射墜とした狩人のよな


"星"を墜として、引力のまま。



いつか"星"になれるだろうその人を、射ち墜とそうと思ったのはいつだったろうか。

何もかもを呑み込んでいってしまう黒い"星"を手中に収めねばと考えたのは。

 

"星"を、目指していた人だった。

僕には見えない"星"を見て、そしてその"星"を追いかけることが許された、そんな人だった。

 

"星"を目指して藻掻く体を引き倒し、羽交い締めにして、そうして僕は"星"になれたはずの人を地に引きずり墜としたのだ。

それは、ただの我儘でしかなかったけれど、それだけは許せなかったから。

その人が僕にくれたものは、僕の中に芽生えた感情は、とても綺麗なものとは言えない。

何故なら、それが『綺麗』であったのなら、その人が"星"になるのを心の底から祝福できたはずだからだ。

でも、違ったんだ。

だからこれはきっと、ただの汚らしい『欲望』でしかないのだと思う。

 

「……っ」

 

喉が詰まる。

涙が出そうになる。

(そら)から引きずり墜ろされたその人は、僕を信じられないというような目で射抜いて。

それから『軽蔑』とも呼べないくらいに真っ暗な目で見つめてきた。

僕のことを嫌いだとも言わなかったし、責めのひとつもなかった。

ただ"星"は墜ちるとこうなるのだ、とでもいうようにひっそりとするのみで。

あの時、僕は自分がしてしまったことにようやく気がついた。

自分の中の醜さに気がついてしまった。

もう二度と、その人には会えないだろうと思った。

それなのに。

 

「グローリー」

 

 

ぐらりと体が傾いたのは突然だった。

ずっと見えていた"星"に手を伸ばして、触れられるか触れられないかのところで。

伸びてきた熱い手が、僕の体に巻きついて、グイと地面(した)に引っ張った。

そのまま背中に強い衝撃を受けて息ができなくなって、咳き込みながら目を開ければそこには。

 

「……あぁ、良かった。無事だね?」

「なんで……」

 

いるはずがない人の顔があった。

どうしてここに?とか、どうやってここまで来たの?とか、聞きたいことはたくさんあったのに、僕を見つめる瞳があまりにも…泣きそうだったから言葉が出てこなくなってしまった。

 

「……ごめんなさい」

 

やっと出てきた謝罪の言葉にも、キミは首を横に振るばかりで。

何に対して謝っているのか自分でもわからなかったけれど、とにかく何かを口にせずにはいられなかった。

 

「本当にすみませんでした……。こんなところまで来てもらって、迷惑かけてしまって」

「……」

 

無言のキミが、これまた無言の僕の手を引く。

引かれるがままに進んでいると、今度は正面から抱きしめられた。

 

「ちょ、ちょっと!」

 

慌てて押し返そうとするものの、腕ごと抱き込まれてしまっているせいで上手くいかない。

なんとか抜け出そうとしているうちに、耳元で声が聞こえた。

 

「よかった……間に合って」

「え……」

 

一瞬、何を言われたかわからなくて動きを止める。

すると、すぐに体を離されて、代わりに両手を強く握られる。

真っ直ぐに見つめられ、思わず視線を外すと「こっちを見て」と固い声音で言われてしまう。

 

「…なに」

「いまさら、僕がキミを手放せるとでも?」

 

ぎち、と軋む手が鈍く痛む。

 

「どうしてもなるっていうなら、…僕のためだけの"星"になって」

「……は!?」

 





【戦う者】:
サンデースクラッパ。
"星"になりたかった、"星"になる資格のあった人。
けれど(そら)に登れずに引き墜とされた。
でもそれでいいかと最終的には受け入れたらしい。

【栄光を往く者】:
グローリーゴア。
いつか、誰かを照らす"星"となるのなら、僕だけの"星"で在って。
【戦う者】が"星"になる資格があったのだとしたら、こちらは"星"を引き摺り墜とせる資格があった。
『想い』という名の引力。それは今日も今日とて…。


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擬似的な、"帰り"を待っている


【金色旅程】さんとはまた別軸での執着というか。



シルバーチャンプは、あるウマのことが苦手である。

そのウマを見ると、…どうしようもなく連想されてしまう"ある影"があるので。

 

「なのに、あっちの方から絡んでくるからなぁ…」

 

ため息をつくこともできない。

無下にすることも、できない。

その相手が、多少なりとも無理強いをしてくるのだったら跳ね除けることぐらいはできるだろうに。

 

「こんにちは、チャンプくん」

「…ッ、」

 

少しづつ、少しづつ、距離を詰められる。

まるで警戒心の強い小動物にでもなったような気分だ。

その相手-こと、サイレンススズカは今日も飽きもせず、自分に関わってくるのだ。

 

(いや、だ)

 

"似た影"を、知っている。

…からこそ、触れられた先で、その"熱"を、知るのが怖い。

だから、関わり合いになりたくすらない。

関わったら、疵になる。

そう思ってしまうほどには、相手は自分にとって"特別な存在"なのだと自覚している。

そしてそれは相手も同じだと、薄々感じてもいる。

ただ、それを言葉にしてしまえば、何かが崩れてしまう気がしてならない。

そんな不安感があるからか、どうしても向き合うことができないでいる。

 

いつか、"去る"と言うのなら。

勝手に去っていけばいいものを。

どうして。

…どうして?

 

 

己を見て、びくりと震える体だった。

出会ったのは、ただの偶然。

だが気になったのは…必然。

そのウマは、怯えていた。

己の、"サイレンススズカ"の走りを見て、()()()()()

多くの人が『夢』を見る己の走りに、恐怖していた。

 

そして。

あの日、あの時、あの場所(毎日王冠)で。

それが分かった瞬間、己の中で何かが変わった。

今まで見えていなかった()()が見えた。

今にも消えてしまいそうな小さな灯火のような、誰かの『夢』を見た。

それが何なのか、詳しくは分からなかったけれど。

それでも確かに見た()()はあった。

 

「…チャンプ、くん」

「いかないで。おねがいだから、おれにできることなら、なんだってするから」

 

怯える声が、いっそうの震えをもつ。

キミの目には、いったい"何"が見えているのだろう。

でも。

 

「大丈夫」

「、」

「戻ってくる。キミのところに、()()に」

 

泣かないでほしいなぁ、と思った。

初めて出会った日から、今日までずっと、ココロが泣きっぱなしのキミだから。

『いかないで』と、ワガママが下手っぴなその手を取った。

きっとこの手を放っておいたら、もう二度と会えないんだろうなって思ったから。

だから、絶対に離さないようにした。

キミの手は、こんなにも小さいのか。なんて思いながら。

 

「約束」

「……はい、」

 





【異次元の逃亡者】:
サイレンススズカ。
重ねられる"影"があるウマ。
自分の姿を見て、ずっと怯え通しのキミの笑顔が見たくて。
フワッとニュートラルな顔しながらも案外重そう。
今ここにいるのはサイレンススズカ()だ、って感じに。

【銀色の王者】:
シルバーチャンプ。
怯えている。
似ているから、疵になる前に離れたかった。
でも、離れられなかった。
帰ってきて。どうか、どうか、…あなたは。


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その目に映るのは、


僕でも、いい"はず"でしょう?



その眼を知っていたのは、スペシャルウィークただひとりだった。

己の同室である先輩を見つめるその瞳を、知っていたのは。

 

『お前の同室、苦手なんだよな』と宣う割には、熱烈で。

『いやー、副会長さんも大変そうだなぁ…。また追いかけっこしてやがる』などと苦笑する割には、嬉しそうで。

『───まぁ、苦手ではあるけど…嫌いではねェよ』と言う。

そして何より、

 

『───────』

 

"その姿"を見つめる眼差しが、あまりにもキラキラしているものだから。

その目を向けられていることが、羨ましくなるくらいに。

 

「また、見てるの?」

「っ!?」

 

ぼう、と思考に浸っていた目が覚める。

驚いた顔が、自分の姿を映してようやっと、ホッと安堵の息をついた。

 

「なんだ、お前か」

「お前か、って酷いなぁ」

「だってそれ以外にないだろう?」

 

チラ、とその隣に並ぶ一瞬で見た走り姿は今日も美麗で。

サラリと流れる栗毛が陽光を浴びて煌めいている様を見てしまえば、確かに見惚れてしまうのも…。

 

「それだけ見てるなら、話しかけに行けばいいのに」

「バカ言うな」

 

繰り返しの問答。

でもそれに安心してしまうのもまた事実。

たしかにあの人は、スズカさんは尊敬できる人だけど。

でも、それでも。

 

(僕を、見て)

 

キミと普段を共にしているのが【金色旅程】先輩だとしたら、キミの目を奪っていくのはスズカさんで。

何でか、どうしてか、そのことを考えるたびに心がモヤモヤする。

『そのふたりじゃなくて』って。

『自分でもいいでしょう?』って。

何故だか感じるシンパシーゆえに、そう、考えてしまう。

これは嫉妬なのだろうか。

それとも、また別の…。

 

「…スペシャルウィーク?」

 

怪訝そうな呼び声にハッとする。

見れば心配げに見上げてくる瞳があって、「大丈夫だよ」と笑って見せた。

…本当は全然大丈夫じゃないけれど。

 

「それで?何か用事でもあったのか?」

「あー……」

 

問われたことに少しだけ悩んだ。

用事などない。

ただ単に一緒に居たかっただけだなんて、()()()()()()()()()()()()()なんて。

そんなことは口が裂けても言えやしないのだ。

だから僕はこう答えるしかないんだろう。

 

「特にはないかな」

「そ」

 

ふわりと笑う。

いつもと同じ笑顔なのに、どこか違う気がするのは気のせいではないだろう。

きっと、僕の気持ちの問題なのだ。

"感情"という名のフィルターがかかっているから、そんな風に見えるだけ。

 

「…………ねぇ」

「ん?」

「明日さ、併走に付き合ってもらってもいい?」

「別に構わないが……急だな」

「うん、まぁ、ちょっと行きたいところがあるんだけど、ひとりで行く勇気が出なくって」

「…あぁ、そういうこと」

 

……いくじなし。





【日本の総大将】:
スペシャルウィーク。
ちょっとしたシンパシー(またの名をSS…)ゆえに【金色旅程】や【異次元の逃亡者】じゃなくて、それ自分でもよくない?という気持ちを抱いているすがた。
案外しっとり気味だし、内心いろいろと考えている。

【銀色の王者】:
シルバーチャンプ。
【異次元の逃亡者】に"ナニカ"を重ねている。
重ねている、ので心配もひとしお。
また【日本の総大将】以外に、【怪鳥】にも【異次元の逃亡者】を見ていることに関してあれこれ言われている。
逃げウマなら誰でもいいんだろって!?
……。そんな訳ねェよ!!!!


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『風』に"星"を感じて


掴めないのは、どちらも同じ?



「…あまり、惑わしてやるなよ」

「キミがそう気にかけるなんて、珍しいね」

「ほざけ」

 

あまり話しかけないクラスメイトに、そう話しかけたのはひとえに…可愛がっている後輩-シルバーチャンプが、このウマと親しいからだ。

 

「アイツも、ただの人間だぞ」

「そうだね」

 

傷つく時は傷つくし、確固とした軸はあれどオリハルコンでもない。

その言葉に、少しだけ驚いたように目を見開いたソイツは……しかしすぐに、いつものように微笑んでみせた。

 

「でも、だからこそ僕はあの子に"僕"を、僕の"走り"を、見て欲しい」

「…お前らしい答えで安心したよ」

「ありがとう」

 

それじゃあまた明日。

そう言って去っていく背が、どこか。

 

 

その目に抱く『憧れ』が、自分ではなく、自分()()()()"誰か"を重ね合わせて見ているモノだと、気づいたのは。

自分ではなく、自分よりも()()()()"影"に向けられていると、気づいてしまったのは。

 

気づかなかった方が『幸せ』で、それでいて気付かなければよかったと思うほどには、もう手遅れだったのだけれど。

 

「チャンプくん」

「…他の人に頼めばいいでしょ。ほら、同室のアイツとか」

「キミじゃなきゃ…ダメなんだ」

「……さいで」

 

決して何も映さないように努めている眼が光り輝く様はまるで朝焼けのよう。

 

「けほ、」

「はい」

「あ、ざっす…」

 

近くにあった自販機で買った飲み物を渡すと汗を乱雑に拭いながら一気飲み。

それにしても、やはりこの子は強い。

G1には未だ未出走だけど…これは期待をかけられるはずだ、と思うくらいには。

抜こうとはしないまでも、長時間一定の距離を保ちながら自分に着いてこれる追走力。

そして何より……。

 

「今日はこれぐらいにしとく?」

「……いえ、まだいけます」

「そっか」

 

まだまだ余力はあるだろうけど、まぁ本人がやる気なら止める理由もないか。

 

「息は整った?」

「はい」

「じゃ、行こうか」

 

 

そのウマを初めて見たとき、『風』だと思った。

掴めないのは"星"と同じだけれど、()()()()()という点では"星"と違って。

 

「……は、」

 

『風』に乗る。

ただそれだけなのに、どうしてこんなにも気持ちいいのか。

それはきっと、自分がいま『風』になっているからなんだろうと理解すると同時に。

……ああ、自分はこのまま消えてしまうんだろうなという予感があった。

だって、あまりにも心地よくて、温かくて、優しくて。

だから。

 

「チャンプくん!」

「え、あ…」

「よ、よかった。…軽い熱中症みたいだから、いま迎えを呼んで」

「いや、大丈夫です。走って戻れ…っ、」

「ああ!」

 

立ち上がろうとしてぐらりと傾く体を支えられ。

「すぐ来てくれるって言ってたから。ね?」と諌められては。

 

「…わ、かりました」





【異次元の逃亡者】:
サイレンススズカ。
自分を通して、自分以外が見られていることを知っている。
故にグイグイ絡んでいってサイレンススズカ(自分)を刻みこもうとしてはクラスメイトである【金色旅程】に釘を刺される日々。
でも、やめるつもりはない。

───『風』と言うのなら…包み込んであげようか?

……ねぇ、【銀色の王者】?


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睨み合い 〜【銀色の王者】を挟み〜


"自分"を見てもらえないって点では同族嫌悪的ではあるんでしょうけど…。



エルコンドルパサーは、サイレンススズカのことが…言ってはなんだがあまり。

走りの面に関しては尊敬できる人だとは思っているが、ある一点においては。

 

「だァ〜!分かりました、分かりましたよ!!」

 

その茫洋とした目に光が灯るのは。

自分たちには決して向けられぬ眼を向けられるのが。

憎らしい?妬ましい?

……いや違うなとエルコンドルパサーは思う。

ただ単純に。

 

「負けたくないんデスよね」

 

そう。それだけだ。

自分でも驚くほど単純な理由だった。

だがそれが"全て"なのだろう。

汚い感情も何もかもを内包しての『負けたくない』だ。

 

「チャ〜ンプっ!」

「うおっ!?…なんだ、パサーか」

「そうデスよ〜。…あ、こんにちは先輩」

「…こんにちは」

 

気のいいクラスメイトの皮を被り、絡みに行って意識を逸らす。

当の本人は気づかないまま、バチバチと火花が散っている現状は変わらない。

 

(まぁでも)

 

それもまた面白いかなと思うあたり、自分も大概性格がイイんだろうなと思いながら。

 

 

クラスメイトであるエルコンドルパサー-本人の要望により『パサー』と呼んでいる-といつの間にやらニコイチみたく過ごすようになって少し。

【金色旅程】先輩はその様子を見て、それとなく助けてくれるので有難いが。

 

「こんにちは。ねぇ、チャンプくんを借りていいかな?」

「チャンプはモノじゃないデスよ?」

「それは、キミも同じだろう?」

 

俺を挟んで、バチバチと火花を散らすエルコンドルパサーとサイレンススズカ(ふたり)

最近はこの光景にも慣れてきた。

なんというかもう日常の一部みたいな感じになっているからだろうか。

ちなみに俺は今、廊下にてぼうっと立っているのだが……。

右にはエルコンドルパサー、左にはサイレンススズカ。

両サイドからの圧が凄まじく、居心地が悪い。

 

「…」

 

チラ、と傍を歩いていたクラスメイトたちに『助けてくれ』と視線を送るもスペシャルウィークはニコリと笑うだけだったし、グラスワンダーは静かに十字を切ってきたし、セイウンスカイは『ご愁傷さま〜』というように手を合わすだけで。

 

「…もう行かないと授業に遅れる、」

「キング大明神!!!!」

「ああもう!暑いから抱き着かない!!」

 

流石キングヘイロー!

キーング!キーング!!サイコ〜!!

ほら、あなたも『キングサイコ〜!!』と叫びなさい!!(混乱中)(お目目ぐるぐる)

 

「…………」

「…………」

 

そして何故か無言のまま睨んでくる二人。

えぇ……?何これ怖いんだけど。

誰かヘルプミー。

 

「……さて、それじゃあ」

「ちょ、ちょっと待って下さいキングヘイロー様ァ!?まだ話は終わってないっぽいんですがァ!?あ゛ーっ!お客様!?お客様困りま…ヒエッ」

 





【怪鳥】&【異次元の逃亡者】:
エルコンドルパサー&サイレンススズカ。
バチバチ。
表情は笑顔なのに目は笑ってない。
そして根本的なところには気づくことがない【銀色の王者】サンェ…。


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良き先輩と


【あのウマ】の血に連なるが故の雰囲気?気配?って、ありそうだよね。



ソイツと同室になったのは、ただの偶然で。

『大人しい子だから』と、入学してきたソイツを俺が受け入れたのは一重に寮でひとり部屋だったのが俺だけだったという純然たる事実からであって。

…とはいえ。

 

「……なぁ」

「は、はい?」

「お前さ、なんでそんな喋んねーわけ?」

「えっ」

「いや、だってよォ、いつも黙ってるじゃねぇか。朝起きた時も風呂入るときも寝る前もずっと。んで、俺の前だけそうなのかと思ってもクラスでもそうみたいだしなァ?」

「……」

 

喋ろうとして、口を噤んで。

それがどうにも泣くのを堪えている子どものように見えて嘆息する。

が、それを呆れだとかそういうのだと勘違いしたのかどうかは知る由もないが、ソイツは慌てたように口を開いた。

 

「あ、あの……その……ごめんなさい……」

「ア?何謝ってんだよ」

「だ、だって!せっかく話しかけてくれたのにおれ、何も話せないし……。それに、先輩だってこうやってよくしてくれんのに、でも、えっと…」

 

ぎゅう、と自身の手を強く握り締める様にちょっとした見当をつけて。

わしゃり、とその頭を撫でればひどく震えられるのに、ひくりと口元が引き攣るのが自分でもよ〜く分かった。

…コイツが家族から愛されているのはほぼ毎日『家族から電話来てるよー』と呼びに来る寮の奴らがいるから知っている。

ならばこれは…、

 

「え、ぁ、…せ、せんぱい?」

 

びく、と怯えを隠そうともせず身体を震わせる姿に舌打ちをしたくなる衝動を抑えて、そのままぐしゃりと乱暴に髪を掻き混ぜるようにして手を離せばきょとんとした顔をされる。

 

「俺は曲がりなりにもテメェの先輩なんだぞ。ンなこと気にすんじゃねェよ」

「、」

「で、何か言われたらすぐに言え。俺が何とかしてやるから」

「……はい、先輩」

 

 

昔から、あまり人に馴染めない人間だった。

そこには血筋うんぬんもあるにはあったが、一番の理由は俺自身にあったのだと思う。

 

「……」

 

可もなく不可もなく、空気のようにそこにいる。

別にそれはそれで良かったのだが、小学生になった辺りだろうか。

周りの人間が徐々に変わっていったのである。

それまでは普通に接してくれていた子どもたちも次第に距離を置くようになり、そしていつしか排斥しようとするようになった。

 

「……」

 

たぶん、彼らは()()()()のだろう。

何をするでもなく、ただそこに在る自分が。

いつか、()()()()()()()()()()()()と、恐れたのだろう。

普通のごく一般的なウマならいざ知らず、【あのウマ】の血筋に連なるのだからと。

 

(まぁ結局はただの憶測に過ぎないけど)

 

ただ単に、彼らが自分より優位に立ちたかったのか。

はたまた単純に『そうしていい人間』と思っただけなのかは分からないけれど。

それでも当時の自分は彼らにとって恐怖の対象でしか無かったんだと思う。

だからこそ、距離を置かれても仕方がないと思っていたし、どうともしなかった。

でも体はそうではなかったようで、

 

「ヒッ!」

 

…嗚呼、またやってしまった。





【銀色の王者】:
シルバーチャンプ。
何もしないが、どこか異様な存在感を持つ。
それは血筋ゆえなのか、それとも。
そしてその存在感のために同年代から疎外されていた過去を持つ。
その過去を精神は受け入れているが、肉体は…?

【金色旅程】:
先輩兼実は同室。
無視できない存在感がありながらも、どこか不安定な後輩の世話をしている。
何だかんだ言って面倒見がよさそう(こなみかん)。


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【トリックスター】は、緑の目をしていた。


緑色の目をした怪物。



「キミ、嫉妬とかしないんだね」

「そういうお前はすんのかよ?」

「まぁ…それなりには〜?」

 

にゃはは、と誤魔化し笑いをするものの、腹の中はグズグズと。

真っ暗な感情が蠢いては、自分を嗤う。

たしかに、成長するためには『緑色』の目をしているべきだと思うし、自負・嫉妬・貪欲の3つは人の心に火を灯す火花だという。

だから、この胸の中のモヤモヤした気持ちも、自分の中に宿る黒い炎のようなドロリとしたモノも、全部無視できるものではない、と受け入れてはいるが。

 

(あー……ダメだこりゃ)

 

心の中で苦笑する。

どうやら自分は自分で思った以上に意地が悪いらしい。

または、…欲深いのか。

 

「…………」

 

ふぅ、と小さく息をつく。

そして、ゆっくりと目を閉じて、開く。

すると、そこにはやはりいつも通りのセイウンスカイ(じぶん)がいた。

 

 

「『嫉妬とかしないんだね』、ねぇ…」

 

先ほど言われた言葉を反芻する。

嫉妬、嫉妬…。

 

「ンなの、ずっと()()()()()だよ」

 

嫉妬の先はずっと遠くて。

遠いから、近くに焦点が合わないだけ。

姿かたちもよく知らぬ相手に焦がれるように想いを募らせている。

他に見向きなんて出来やしない。

そんなこと、ムダだってくらいわかっているのに。

それでも、

 

「俺以外の誰かを見ないでほしいんだよ」

 

その瞳には自分だけを映してほしいのだ。

他の誰にも渡したくない。

そう思うことは罪なのか?

『憧れ』という地点すら飛び越えた先。

期待(ソレ)が重いと嘆くこともあるけれど。

それ以上に、

 

「俺は"あの人"の特別になりたいんだよ」

 

誰よりも近くで、一番近い存在として在りたい。

それはきっと、誰もが抱いている願望だろうけど。

でも、願わずにはいられない。

それがたとえ傲慢だと罵られても構わない。

ただただ、その"星"の特別でありたいと望む自分に嘘はないのだから。

 

「……」

 

夜空に浮かぶ月を見上げる。

今日は満月か。

雲ひとつなく、星々がよく見える。

 

「いいなぁ、アンタらは。…"あの人"と一緒に、輝けて」

 

 

遠くを見つめすぎた瞳は、いつしかボヤけるということを知ったのはきっと、あのウマと関わってからだろう。

『嫉妬しないの?』とかつて自分が問うた言葉を後悔するほどにどこまでも、果てしなく追い求めていた瞳を。

今ではもう、見ることはない。

それどころか、その姿を見ることさえ叶わない。

 

……否、違う。

本当は、どこかでは気づいていたはずだ。

いつか来る終わりを。

だからこそ、あんなにも必死になって追いかけてきたはずなのに。

今となってはその記憶さえも朧げになりつつある。

 

「オレも見て欲しかったとか…なんて、今更だよなぁ」





【トリックスター】:
セイウンスカイ。
それとなく【銀色の王者】に嫉妬していた。
だが、自分とは視座から違う嫉妬をしていた【銀色の王者】の眼を見てみたかったな…と少しばかりの後悔をしているウマ。
キミの目は、どんな色だったっけ?

【銀色の王者】:
シルバーチャンプ。
"あるウマ"にだけ嫉妬するウマ。
そして"星"に手を伸ばし、届きかけ、そして焼かれた只人でもある。


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銀色の夜明けから、黄金の太陽へ


もしくは、ヒーロー朝を連れてきて。

……にしても金と銀って豪華だよね。




かのウマの父が『見果てぬ夢』を醒ました"夜明け"だったとするのなら、かのウマ-シルバアウトレイジは───。

 

"太陽を連れてきた"って」

 

そんな話に当の本人は顔を顰める。

俺は"太陽"なんてガラじゃねェし。

それに、

 

「どうせ"太陽"うんぬんは母方からの連想だろうがよ」

 

銀色の名を持つウマと金色の名を持つウマの血筋が交わって生まれた自身。

その事実から来るイメージでしかない。

 

「でも、先輩は"光"だと思いますよ?」

「あァ?…………まぁ、それは、そう…か?」

 

【銀色の激情】

そう呼ばれる自身。

そんな自身の中に渦巻く激情が、"光"だと言われればそうかもしれない。

とはいえ、その"光"は穏やかなものではなく、ギラギラと輝いては、総てを焼き尽くすモノなのだが。

 

「綺麗ですよ、先輩」

「…物好き」

 

 

激情、【███(銀の星)】をつかみ

 

それは、あまりにもギラギラと輝き過ぎて。

一瞬にして、囚われる。

()()()()()

光に焦がれずにはいられない羽虫のように、はたまた光なくば生きれぬ植物のように。

混じり合う、銀と金。

夜明けを謳い、夜闇(絶望)を振り払うソレ。

思わず、自分がいま()()()()()()()()を忘れてしまうほどに神々しくも、荒々しいソレ───。

去る──電撃の如く。

かの、【███(銀の星)】の、如く。

弧を描く。

輝かしき流星。

もしくは。

 

「…恥ずかしいからあんま見んなよ」

 

その実況、変に小っ恥ずかしいポエム語られっからさァ。

そうボヤく声は今日も変わりなく。

いつも通りの不機嫌そうな顔で。

だけどどこか嬉しげに見えるのは気のせいではないはず。

だって、ほら。

 

「何度見ても、カッコイイですよ?」

「…」

 

呆れたような顔をしながらも、薄らと血色が良くなっている肌。

飲み物に口をつけながらもテレビを消そうとはしなくて。

…変わったなぁ。

当初は、何がなんでもテレビを消そうとしてドッタンバッタンして、ふたり揃って部屋の片付けをしたってのに。

 

 

『憧れ』は嫌だ。

けれども、自分に向けられた賞賛は嬉しいなど、何とも救いようがないというか難儀というか。

俺は、シルバアウトレイジ(おれ)を見て欲しくて。

フィルターを、かけられたくなくて。

 

「先輩」

 

ふと、自分をやさしく呼んだ後輩の声に反応する。

コイツは、良い奴だ。

人懐っこいから、俺じゃなくとも他の誰かと仲良くやっていけるだろうに。

何故か、俺の様子を逐一見に来ては穏やかな時間を共に過ごすようになって。

 

「おなか、空きました」

「そうか」

 

ちょこちょこと後ろに着いてきて。

あわよくば味見をさせてもらおうとする可愛い後輩に、俺は。

 

(…救われている、のかもな)





【銀色の激情】:
[金銀一条、その旅路]シルバアウトレイジ。
芝AダD.短FマB中A長C.逃G先F差D追A。
固有スキルは『激情、【███(銀の星)】をつかみ』
効果は「終盤まで最後方にいる時間が長ければ長いほど最終直線で速度と加速力を上げる。さらに格の高いレース(想定はG1。だがチャンミ等も含む)なら効果がすごく増える」
また進化スキルは『全身全霊』→『黄金の激雷』、『月影一閃』→『白銀の激情』
だがメイクデビュー終わった瞬間に『大一番の申し子』という永続マイナススキルをもらう。絶対もらう。調子絶好調でもG1以外は全部出力大幅減タイプのヤツ〜…!

という感じで、コイツもコイツで大概脳を焼き払っている。
『見果てぬ夢』であった祖父から、夜明けをもたらした父の系譜を辿り、『夢を見ずにはいられない』自身へ。
朝を、光を連れてきた系のウッマ。
なおジト目な三白眼の模様。


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好感度…?


これは約束されしタラシ定期。



ウイニングライブが終わったあと。

帰るにしても妹が今日見に来てくれていたはずだから合流して一緒に帰るか、もうこの時間だから危ないし…と考え、廊下にあるベンチに座ろうとすると。

 

「先輩!」

「ん?」

 

声。

振り向くとそこには今日一緒に走った後輩が。

 

「よ、よかっ…ハァ、見つけ…」

「いったん息を整えて、落ち着いて」

「は、い」

 

走って、またバックダンサーとして踊った後だ。

疲れているだろうにここまで息があがるほど焦って僕を探していたなんて一体どうしたのだろうか?

 

「あの、さっきの…!」

「うん、なにかな?」

「その……」

 

少し言いづらそうにする彼女を見て僕は察する。

……あぁ、そういうことね。

 

「大丈夫だよ、キミの気持ちには察しが着いてるよ」

 

昔からよく言われた言葉だった。

僕の走りってのは速くて、そして。

 

『バケモノ!』

 

…心を折る、ってことは。

後ろを向くとそんな言葉と心底恐れた目をされるものだから。

だから僕は後ろを見るのをやめた。

でもそれは仕方ないんだ。

だって僕は……。

 

「先輩、すごかった!…ぁ、すごかったです!!」

「えっ、」

 

かけられたのは想定と違う言葉。

ガッシィィ!と力強く、握られた手はもはや握りつぶされそうなくらいに。

そこからブンブンと上下に振られてしまえば体も同じようにぐわんぐわんと。

 

「本当にすごかった!次は有馬記念に出るんだろう!?また…」

「えっ、あー…」

「…先輩?」

 

あっ、しまった。

…いやでも、ちゃんと言っておいた方がいいよね。

 

「僕ね、このレースで───」

 

 

「姉さん!」

「ウワーッ!?」

 

私の姉は昔からよく絡まれていた。

たしかに私の姉さんは速いけれど、『バケモノ』と呼ばれていいわけがないのに!

かつてなら「早くおいで」と振り返ってくれた背が振り返らなくなったのはいつだったろう。

待って待ってと伸ばした手が届かなくなったのは?

ねぇ、どうして私を置いていくの?

なんでいつも一人で行ってしまうの? 私はこんなにも大好きなのに。

置いていかないでほしいのに。

だから。

姉さんを傷つける人は嫌い。

レース後の姉さんに話しかける人はいつもそうだから、今回だって()()だって。

 

「先輩、また走ろう!」

 

…思ったのに。

彼女は、クラスメイトのオグリキャップさん。

話しかけられたら話す…程度の仲だったけど、そういえば今までちゃんとその目を見たことがなかったかもしれない。

真っ直ぐで、真摯で。

嘘とか、つくの下手そうだなぁって。

そんな彼女が言ったのだ。

 

「また走ろう、」

 

───約束だ!!





【芦毛の怪物】:
オグリキャップ。
無自覚に好感度をガンガン上げていくウマ。
絶対嘘つくの下手だし顔良いしサラッと小っ恥ずかしいこと言ってきそう。
…もしかして【白の一族】からしてこういう純朴そうで実直な、昔話に出てくるタイプの正直者好きだな????

僕:
シルバーバレット。
後輩可愛い。
自分と走っても絶望せず、逆に自分とまた走ろうと言ってくれたので好感度⤴︎⤴︎⤴︎。

【銀色の運命】:
シルバフォーチュン。
家族が大好きなので家族を悪く言われたら即ブラックリスト入りさせるタイプのウッマ。
それはまた逆も然りであるので【芦毛の怪物】に対して好感度⤴︎⤴︎⤴︎⤴︎ ⤴︎⤴。
ちな取り繕う人よりも真っ直ぐ来てくれる人が好きだとか。


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"綺麗な絵"とキャンバス


趣味に走る。
…あんだけヤベェ奴しかいない一族ならやりそうだなって。
なお体温が一定以上にならない限り出てこない模様。



「おじいちゃん!」

「ん〜?」

「おじいちゃんのおせなか、きれいだね!」

「…そう?」

「うん!カッコイイ!!」

「そっかそっか」

 

バレたら娘から怒られるが暑くてたまらなかったので着物を着崩していた先。

自分によく懐いている孫が自分の背を指して言った言葉に、それとなくホワイトバックは気をよくした。

そう言ってもらえるなら痛すぎて狂うかと思ったあの日も報われるというものだ。

 

「おっきいがいこつ!」

「"がしゃどくろ"っていうんだヨ〜。おじいちゃんのお背中にいるのはね」

 

 

「…しぬかとおもった」

「ハハハ」

 

ズキズキと痛む背にいつも以上に顔をしかめながら「相変わらずキャンバスせっまいわ〜」と宣う相手にタオルを軽く投げつける。

 

「これで出来上がったのがド下手くそだったら…█すからな」

「あらへんあらへん。あんさんのジジイと母君彫ったん自分やで?」

「…」

「まぁ体温で浮き出る形にしとるさかい。痛いは痛いやろな」

「…それ、祖父さんとウチの母も?」

「?…うん、せやで?」

「……あの人ら、いつも浮き出てた気がするんだけど」

「「……」」

 

がしゃどくろと、夜叉。

祖父は暑がりだからよく脱いでいるし、母は後ろ姿を見た時に大概チラッと見えている。

 

「…………あーっとぉ……」

「おい待てまさかお前」

「ちゃっ、ちゃうねん!!自分はやってへん!!!知らん知らん知らん!!!!」

「じゃああのふたりは!?」

「知らんよ!自分この仕事して長いけどそんな話聞いたことないし見たこともない!!というか完成することすらあんま無いの!!好き好んで自分らに頼んできてたんアンタらの一族くらいやで!?!?」

 

誰もが見惚れるような"作品"が出来上がる一方、特殊なやり方兼完成するまでにとんでもない痛みが与えられるため廃れてしまった一門だとは聞いているが。

 

「たぶんウチの一族全員そうだったんじゃないですかねぇ…」

「エッ」

「あの、ウチの一族基本基礎体温が高いし…興奮しやすい(タチ)なモンで」

「エッ」

「祖父さんからも家にいたらよく見たって聞いたし…い゛っ゛!?おい待て掴むなご老体!痛い痛い痛い!!」

「これが掴まずにいられるかい!ウッソやろ!?そんならアンタの家言ったら伝説のあの人とかこの人の"作品"見放題やったってか!?写真は!?!?」

「知るかい!!さっさと離せやクソジジイ!痛いてさっきから言うとるやろがボケェ!!」

「えぇやんけ減るもんちゅーわけでもなし!!ちょっとだけ!ちょびっとだけでいいから見せてくれてもバチ当たらへんやろ!?」

「うるッせぇはよ帰らせろ!!!!」

 

その後、本当に家に突撃されたとかなんとか…?

 

では、どっとはらい。





ちな描かれた"絵"の例一覧…。

祖父→がしゃどくろ
母→夜叉
銀弾→鬼
銀運命→九尾の狐
戦うもの→鵺
銀王者→昇り龍
銀祈り→土蜘蛛
銀激情→龍


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飽くなき


その背が欲しくて。
その目が、欲しくて。



その背は小さかった。

遠近感が狂う…とまでは言わないが小さいのは、確かであった。

 

走り去っていく背。

遠ざかっていく背。

後ろなんて、振り返ってくれなくて。

こっちなんて、見向きもしてくれなくて。

その名を、叫んでいるというのに、聞こえているはずなのに……。

 

「───」

 

声にならない叫びを上げて、カツラギエースはベッドから跳ね起きた。

全身汗だくで、呼吸は荒い。

まるで全力疾走した直後のような感覚だった。

 

(またかぁ)

 

はあーっと大きくため息をつく。

物心ついた時から見続けていた夢は、最近グッとリアリティが増した。

逆光で、ただ小さいとしか分からなかった背がクリアになり、それが"誰"かと…。

 

「おはよう、カツラギ」

「あ、あぁ…。おはよう」

「…なんだい、そんな」

 

『幽霊』でも、見たような顔をして。

夢の中の背、その当人にそう問われる。

それにカツラギエースはそれとなく誤魔化して、いつも通りに気のいい友人を演じた。

 

「ごちゃごちゃ考えるよりさ、単純にいこうよ」

「この世界では───いちばん速いヤツが"正義"だ、って」

 

普段なら一笑に付す言葉も言う人間を鑑みれば説得力の塊でしかなく。

そして何よりも、あの背中(ゆめ)を見た後だと否定する気にすらなれない。

 

「……そうだな!」

 

だから、カツラギエースは笑って返した。

 

 

"あの日"、掴めなかった背がこんなにも簡単に触れられる位置にあることに、はじめは戦きと確固とした怒りを感じていた。

それはまるで夢物語のヒーローが現実に現れてきて、幻滅した時と…似たような心地だったのだろう。

しかしそれも一瞬のこと。

すぐにカツラギエースの心には歓喜と興奮が湧いた。

焼き付くほどに焦がれていた相手に再会できたのだから。

けれど。

ただ一つだけ不満があるとすれば、

 

「…いや、何度考えてもキミと会った覚えは、ないなぁ」

 

自分はこんなにもお前に焦がれていたというのに。

どうしてお前は自分のことを覚えていないんだ?

……と、いったところだろうか。

まあ、仕方がないといえば仕方がないことでもあるのだが。

 

「…………」

 

だって、自分は"あの日"の自分ではないのだ。

"あの日"の姿かたちなど見る影もないから。

だから仕方ない、と心を落ち着かせようにも。

 

「…」

 

周りに話しかけられるままに、にこやかに笑っているその背を見てズクリと胸が疼く。

ああ、本当に。

ずっと見ていた夢の中と()()

けれども…それが憎らしくも、嬉しくて。

 

「なぁ、」

 

呼んだ、ひとひらの名はひどく熱に溢れていた。





【世界制覇の大エース】:
カツラギエース。
"あのころ"の記憶がある。
ずっとずっと"あの日"に見た背に焦がれては簡単に触れられる距離に至った現状にモヤッとしたり歓喜したりと忙しい。
またその背を捕まえたいと思っているが、捕まえたら捕まえたで『違う!』『こんなのお前じゃない!』って言い始めそうなのが…。


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若獅子と弾丸


仲良し。



『皇帝』と謳われるシンボリルドルフに気軽に話しかける者はそういない。

同年代などを除けばほとんどが彼女を偉大な生徒会長と見たりなど、自分とは天と地ほどの差がある存在だと看做す…ワケだが。

 

「そんなに遠巻きにされるほど、キミって怖くないのにね」

「…そう言うのは、貴女だけですよ先輩」

 

きょとりと首を傾げる目の前のウマ娘-シルバーバレットにシンボリルドルフは堪らず苦笑する。

…いや、昔からこのウマはこんな性格だと分かってはいても何処の誰でも分け隔てなく接する彼女に調子を狂わされているのも、また事実。

 

思えばふたりの付き合いは意外と長かった。

若くして生徒会長となったシンボリルドルフに、生徒会に生徒会長()()いない間の補助役として前代生徒会から役目を与えられていたシルバーバレット。

『流星の綺麗な先輩からお願いされてね』と当時彼女は言っていたか。

しかし当時はそれを建前だと思い、彼女を手負いの猛獣が威嚇するかの如く遠ざけては「己はそんななまっちょろい優しさで陥落するタマではないぞ」とばかりに威圧していたものだ。

今にしてみれば随分と可愛らしい()態度だったと思うし、当時の自分を殴りたい衝動にも駆られる…が。

 

「ふむ、この様子では……」

「?……何か?」

「いえ、何でもありませんよ」

 

努めて。

努めて、清廉潔白で厳格かつ慈悲深い優等生として振る舞う。

久方ぶりにふたりきりに慣れた嬉しさを隠し、まだふたりきりでいさせてくれと願うように。

 

「それにしても美味しいね、この紅茶もお茶菓子も」

「そうでしょう?」

「でも食べ過ぎはよくないか。こんなに食べたら夕ご飯が入らなくなっちゃう」

「ははは」

「まぁ、その前に太り気味になるかもだけど」

「…………」

「冗談だよ、そんな可愛い顔しないでくれ」

「してませんけど!?」

「あーほらほら落ち着いて。そもそも僕は生まれてこの方太り気味になったことがないんだ」

「誰のせいですか!」

 

はっ!しまった。

つい素が出てしまった。

慌てて取り繕おうとしても時既に遅し。

にんまりとした彼女の笑顔を見てしまえばもう何も言えないでは……。

 

「まったく、相変わらずだねぇキミは」

「それはこっちの台詞です……」

「ふふ、いいじゃないか別に減るものじゃないんだし」

「そういう問題じゃなくてですね……ああもう、本当に変わりませんよね先輩」

「お褒めいただき光栄至極…かな?」

 

ため息のままに、口をつけた紅茶はもう冷めきって。

それでもどこか温かく感じてしまうのはきっと…気のせいだろう。





僕:
シルバーバレット(ウマ娘のすがた)。
今の生徒会が今の形になるまで【皇帝】の補助をしていた。
本バいわく「世話になった流星の綺麗な先輩にお願いされたから」とのこと。
基本は良い先輩の顔をしているが時おり年相応に【皇帝】をからかったりしては仲良くなろうとしていた模様。
んで、その結果が今である。

【皇帝】:
シンボリルドルフ。
むかしは手負いの獣のようだった。
それは名家の生まれが故の見知らぬ相手への警戒だったのか、はたまた彼女が生来持ち得たものだったのか。
だが自分に気圧されず親しく関わってくる僕に次第に絆され…?
ちな今、僕のことをどう思っているかは…ふふふ。


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大人げないってさ


でも、それでも。
譲りたく、ないがために。



子どもは高いところが好きというが、それはある程度の年齢となってもそうなのかもしれないと考える。

 

『や゛!おじーちゃん!』

『おとうさん、おじいちゃんかえして!』

「ははは…」

「…、」

 

いつもと変わらず。

「おじーちゃんが好きな子だーれだ?」「ギューってしようねぇ」と両手を広げ、きゃらきゃらと走ってくる子たちを待っていると、ビュンと風が来たかと思えば次の瞬間には。

 

「え、えぇ…グローリー?」

「…」

『や゛ーッッ!!』

 

マジの顔で走ってきた親友-グローリーゴアにひょいと抱っこされてしまった。

さすがにこの年になれば恥ずかしいし、なによりあの子たちを抱っこするために手を広げていたのであって…と、止めてくれと頼んだのだが……。

 

「…、」

「う、ぐ…」

 

頼んだことによって、強まる腕の力。

しかも下からは『や゛ーっ!』『じいちゃじいちゃ!!』とびゃあびゃあ泣きじゃくる声。

そんな様子を周りにいる大人たちは微笑ましく見つめているものだから尚更いたたまれない気持ちになる。

たしかにいつもこんな感じだけれど、子どもが泣いているのだからこう…諌めてくれるぐらいしてもいいだろう!?

 

「可愛いな」

「…はやく下ろしてくれなきゃ嫌いになるよ」

「うっ、」

 

 

血筋ゆえか、父に自分・母父に親友を持つ子たちは総じて母父である親友に懐く。

『おじいちゃんおじいちゃん』と雛鳥のように後ろを着いていき、親友の方も子供好きで、そういった類の世話を喜んでするものだから余計に拍車がかかるのだ。

そしてその孫たちもまた、そんな祖父を強く慕い…。

 

「…」

『…』

 

バチッと。

大人げないと自嘲しながらも親友を囲み、じっと父である自分を見やるわが子たちと火花を散らす。

 

「『……』」

「ふふ」

「『……』」

「ふふふ……!」

 

しかしそれも束の間。

こちらの気など知らずに笑う親友を見てしまえばどうでも良くなり、「仕方ないな」とため息をつくしかなかった。

 

「ご飯作るから、片付けしててもらえる?」

『はーい!』

「キミもだよ、グローリー」

「…おなか減った」

「またつまみ食いする気?太るよ?」

「ちゃんと走るから大丈夫」

「そう言って朝から僕を叩き起すんだろ?」

「健康的な生活で何よりじゃないか」

「毎日眠いんだよ」

「いつもあの子たちと昼寝してるクセに」

「それとこれとは別だろ」

「…はいはい。わかったよ」

「あとデザートあるからね」

「ん」

「余分もあるけど…喧嘩するなよ」

 

慣れた手つきで料理をしながら軽く「あっち行ってて」という風に肘でつついてくるのを腹筋で受け取って。

ぐぅ、と腹が鳴るのをクスクスと笑われた。





ふたり:
サンデースクラッパ&グローリーゴア。
穏やかでやさしい母父&大人気ない父。
今日も今日とて仲良くやっているが、子ども相手にライバル心的な何かを抱いている相手にはちょっと呆れ気味。
けれど上手い具合にあしらえる辺り慣れてしまっている。
はいはい、キミも可愛い可愛い。


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まぁ、壊れてもいいものだし…ねぇ?(関係者談)


これは特攻持ちですわ…。



僕の母方の、俗にいう本家というところにはそれはそれは大きな蔵がある。

さすが永く続いてきた家だけはあるなと思いながらもよっぽどのことがなければ閉ざされたままのその場所は開けただけで思わず咳き込んでしまうほど埃っぽかった。

 

「すご…何年開けてないんだか」

 

たくさんの棚に、直置きにされた行李。

それ以外にも二階があったり…。

置かれているものも大きな姿見からインテリアになりそうな人形まで多種多様。

だがそのすべてに埃が被っているのはいただけないと感じた。

 

「今は僕がこの家を管理してるんだし…ちょっとぐらいは掃除してもいいよね」

 

元々この家の所有者であった祖父は既に行方知れずになって久しい。

数年に一度、どこからか手紙を送ってくるのをみれば元気にはしているようではあるが…。

 

「昔はこの蔵に近づくこと自体禁止されてたっけ」

 

へ〜、ここはこんなのが置かれてるんだ。

この人形とてもよくできてるな〜、なんて思いながら進んで。

ふと目についた壺に指先が触れたその瞬間。

 

───パンッ!

 

「ゑ?」

 

粉々に割れた。

壺が傾いて壁に当たったせいでもなく。

ただ、()()()()()()爆発するように割れてしまった。

なんで?どうして?と思う暇もなく…。

 

「あ、この人形の埃はらってあげ…」

 

───べギョッ!

 

「鏡拭こ…」

 

───パリーンっ!

 

「どうして…?」

 

触れようとすればするたびにすべてが壊れていく。

おかしい、明らかに何かが起こっているはずなのにそれがわからない。

僕はただ、目の前にあるものを片付けようとしただけなのに…。

 

「ううぅ…」

 

 

その日、かかってきた電話の第一声にホワイトバックは反射的に噴き出した。

 

「ごめんなさい〜!」

「エ゛フッ!…い、いや、別にいいヨあんなの。いつから受け継がれてきてるか分かんないやつだし…」

 

電話の主はホワイトバックの可愛い孫で。

成人した折に誰もいない本家の管理を任せていたのだが、それが…。

 

(…あれ、いわく付きばっかを収めた蔵だったハズなんだけどナ〜?アレ〜?)

 

ホワイトバックは首を傾げる。

自らもあの蔵には入ってはいけないと言いつけられて育ってきたからだ。

曰く『家の者に宛てての情念が滲んで溢れ出てる物品の置き場』だとかで。

見える人が見たら生霊やら何やらがマシマシと思われるような代物ばかりが収められている場所なのだとかなんとか。

……まぁそんな話はどうでも良くて。

 

「それでね、おじーちゃん。なんか変なことが起こって困っちゃったんだよ…」

「うんうん、わかったから。今度一緒に行こうネ」

「ん…」





僕:
シルバーバレット。
蔵の中にあるものに触れようとするだけで対象のものが爆散してしまうスキル持ち。
本人的には「なんで…どうして…?」とのことだが…?

蔵:
【白の一族】に向けて贈られた品物が突っ込まれに突っ込まれている蔵。
否応なしにぶち込まれている結果、情念の蠱毒のようなものと化しているが今回僕が入室したことによって2割ぐらい召された。
運命にすら打ち勝つ『銀の弾丸』に勝てるわけないだろ!


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誰としれない


予言の電話、それは今はもう居ない兄弟の声によく似ていた。



私の家には一台の固定電話がある。

よくあるタイプの固定電話だ。

とはいっても携帯電話が普及した今とあっては使うこともなかなかないのだが。

 

「ねぇ、母さん」

 

そんなある日。

子どものひとりがこう告げた。

 

「今から雨が降るんだって」

 

そうは言われても、空は気持ちのいいほどの晴天で雨の気配なんて一縷もなく。

「はやく入れた方がいいよ」という子どもの声に疑いつつ洗濯物を取り入れれば、そこから数分も経たないうちに俗にいうゲリラ豪雨が通り過ぎ。

その日より、子どもたちが各々に私のところへやって来てはやれ「今日は××が怪我をして帰ってくる」やら「△△が風邪をひくらしい」など予言めいたものを口にするようになったのだ。

 

最初は半信半疑だった私だが、それが二回三回と続くとなると信じざるを得ないわけで。

そんなこんなで私はこの不思議な現象について子どもたちに聞いてみることにしたのである。

すると、

 

「おじちゃんがそう言ってた」

 

子どもの皆がそう答え。

おじちゃん、というのにも心当たりがあるにはあるが現在海外在住であるあの子がわざわざかけてくるはずもない。

となると……?

私が首を傾げているうちにまたひとりの子がその口を開く。

 

「お兄ちゃんはね、いつも『フォーは元気?』って聞くの」

 

その呼び名にハッとする。

その呼び方をするのは、たったひとり…。

 

 

その電話をはじめて取ったのはきょうだいの一番上の子であるシルバーチャンプだった。

 

「はい、シルバーチャンプですけど」

『あぁ、おじさんだよ』

「は?」

 

電話口から響いた声は「おじさん」と名乗りつつも若々しい声だった。

一瞬聞き間違いかと思ったものの、受話器の向こうからは確かに先程と同じ人物と思われる声で言葉が続けられる。

 

『えっと、キミの名前を教えてくれるかい?』

「俺の名前はシルバーチャンプだけど……」

 

戸惑いながらも答えると、相手は満足気にうんうんと相槌を打った。

本来ならば警戒するべきだったのだろうが何故かこの時のシルバーチャンプは不思議とその相手に安心感を覚えていた。

そしてそれは向こうも同じようで、彼はまるで旧知の仲の親族のように親しげな口調で語りかけてくる。

 

『そっか、じゃああとはそうだな……フォーは元気かい?』

「んー…?『フォー』って?」

『あぁ、キミのお母さんのことだよ。ほら、シルバフォーチュンって名前だろ?』

 

……何の話をしているのか全くわからない。

そもそも自分の母親の名前がシルバフォーチュンだと知る人間はいても、その愛称で呼ぶものはいなかった。

それを何故そんなにも親しげに語ることが出来るのか。

シルバーチャンプの中で得体の知れない恐怖が膨らんできつつあったその時。

 

『じゃ、そろそろ雨が降るみたいだから電話切るね』

 

───プツッ。ツーツーツー。





電話さん:
何だか未来を予言してくれる非通知さん。
子どもと話すのが楽しいようで、話が弾むこともままあるが大人がその話し声に気づくと「またね」の言葉と共に電話が切られる。
誰かは不明。だが「おじさん」ではあるらしい。


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いかないで


どこかの‪√‬にて。
何も気づいていない者と、気づいている者たち。



昔から、何故か海が好きだった。

けど、親や友人は僕を海から遠ざけた。

どうしてか、とんと理解ができなくて何度も何度も問いかけても返ってくるのは曖昧な、答えとも呼べない言葉だけ。

 

──海は危ないだろう?

──それに、お前はろくに泳げないじゃないか。

──だから、海には近づくなよ。

 

そんなことを言われても、「ハイそうですか」と簡単に納得できるはずもなく、僕はバレないようにひとりで海へと通い続けた。

誰もいない深夜の海辺を歩くこともあれば、昼下がりに自転車を走らせて、遠い遠い人気のない浜辺まで遊びに行ったこともあった。

 

 

…さざなみの音が聞こえる。

一定で、穏やかで、まるで…大きな生き物の鼓動のごとく。

それはどこか心地よく、ずっと聞いていたい音でもあった。

けれど、その音を聞くたびに胸の奥がざわついて仕方がなかった。

 

──あぁ……嫌だな。

 

漠然とした不安感に襲われて、思わず胸元を押さえる。

何か大切なものを忘れているような気がしてならない。

 

海のことを考えるたびに、誰かに呼ばれているような心地になる。

でもそれが誰なのか分からなくて……。

ただ、ひどく寂しくなってしまって……。

そんなことを考えながら歩いていたせいだろうか。

ふと顔を上げた瞬間、目の前に広がる光景を見て、僕の足は完全に止まってしまった。

どこまでも広がる青い空。

そして、視界いっぱいを埋め尽くす海の水面。

 

「ぁ」

 

一瞬で。

呑まれる、と思った。

藻屑のように呆気なく。

深い青の中へ消えてしまうんだって思った。

でも……不思議と恐怖心はなかった。

むしろ安心していたように思う。

だってここはこんなにも静かで、穏やかで、とても気持ちが良い。

このまま目を閉じれば、もう二度と目覚めなくてもいい…。

そんな。

そんな考えに、スっと至ってしまった…が、

 

「ぅ゛っ!?」

 

ぎゅ、と首が絞まる。

格好としては、後ろから誰かに首根っこを掴まれた形だ。

何事だと慌てて振り返ると、そこには。

 

「え…。と、父さん!?!?」

「はァ、…ックソ。朝っぱらからどこ行くのかと思ったら…!」

 

息も絶え絶えで、額に青筋が立っているヒカルイマイ(父さん)がいた。

その様子から察するに、相当走って追いかけてきたらしい。

けどまさか、海に近づこうとしただけで父さんがここまで血相を変えるとは思いもよらなかった。

一体どうしたっていうんだ、と思考しようとしたのも束の間。

 

「と、父さ…?」

「よか、ったぁ…」

 

ヘナヘナと崩れ落ちる父を慌てて支えると、僕よりひと回り大きいはずの身体が。

 

(…え?)

 

微かに。

本当に微かに、だが。

───震えて、いた。





海は、『かえり』を待っている。


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怖い話でも、してみましょうか


ある一幕。



「怪談話って、よくあるじゃない」

 

ぽつり、と芦毛のウマが話し出す。

それまでは学校の怪談だとか、あの場所には幽霊が出るらしいとか、そういう眉唾の話ばかりだったのに。

 

「思えば家が、僕にとってはそうだったなって」

 

 

いや、今の家はそんなんじゃないんだけど。

僕ね、妹が産まれるまでは祖父の家…というよりは母方の、ホントの本家ってところで過ごしてたんだ。

あそこ、もう古くなって久しい日本家屋でさ。

ボットン便所では流石になかったけど蔵もあったし…座敷牢もたしかあったな。物語の中みたいだろ?

…ま、それはそれとして。

 

その本家ってやつは、本家っていうぐらいだから随分とまぁ歴史があったらしい。

家系図だって見たことあるよ?長すぎて途中で閉じたけど。

…そんな家だからさ、一族を見るとたくさんのヒトがいたってワケ。

 

で。

ヒトがたくさんいるとね…連れ帰って、くるんだよ。

そりゃあもう年代ものなのがたくさんいたよ?

夜寝てるときに顔覗き込まれてなに言ってんのか分かんないことブツブツ呟かれたり。

本家に入る曲がり角のところにざんばら髪の眼窩がない女の人が立ってたり。

家で祀ってる祠が壊されたと思ったら近所の学校のヤンチャなおにーさんたちが必死に謝ってきたりとか。

うん、最後のはちょっと違うかな。

 

ともかく。

家からして()()()()()()んだろうねぇ、()()()()()ところだったんだろうねぇ。

とはいっても家に住んでた僕らは慣れきっちゃって反応ひとつしなかったんだけど。

そこは、申し訳なかったかなぁ。

 

…あれ?怖い話まだ話してないな。

今から体験した中でいちばん怖い話するね。

え?いい?…そんなぁ。

 

 

『…おじいちゃん』

『ん〜?』

『"アレ"、なに?』

いきりょー(生き霊)

『ふぅん…』

 

僕には真っ黒な澱にしか見えなかったソレは、祖父の目にはヒトの形として映っていたらしい。

幼いころに暮らしていた本家は、どうにもそういったものが成立しやすい環境だったようで。

僕は祖父によく言われていた。

 

"チビはやさしいから。だから気をつけなさい"

 

当時はよく分からなかったが、要は同情したりするなということだったのだろう。

「ココに吹き溜まっているヤツらは同情する価値もないから」とは祖父の語であったが。

とにかく。

この土地(本家)在る(いる)ヤツらと関わるなと、祖父は口酸っぱく言っていたのだ。

 

「とは、言ってもねぇ…?」

 

何年経っても僕に()()()のは、

 

「真っ黒な澱だけなんだよねぇ」

 

でも。

 

「昔よりは綺麗になってる…気がする?気のせい?」





一族本家にあるモノ:
生霊とかその他諸々が寄り集まっている蠱毒的日本家屋。
だがその蠱毒(なか)に一族の者はひとり足りともいない。
一族の者共が全員似た"ある性質"を持っていたがゆえにできたモノ。
でも一族の者全員がそれらをスルーにスルーできる者たちであったため何もできない、本懐を遂げられないまま何年も居続けるしかない。
そんな場所。

一族のひとびと:
危なっかしい子々孫々に憑いては守ってやっている。
が、それはそれとして家の掃除もする。
だって、澱ばかりの家は…汚いでしょう?(ニッコリ)


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迎え入れ


なんかこの時期の銀弾宅みっちりしてそう(色んな意味で)。



盆の季節になると昔からいろいろなものを用意した。

昨今ここまでやる家はないだろうというぐらいに盛大にやるのだ、ウチの家は。

精霊バを作り、お供え物を用意し、で迎え火を焚いて。

そして玄関先には本家の蔵から持ってきた提灯を下げる。

そうしてようやく迎える盆の始まりだ。

 

「あー……やっぱ暑いなぁ……」

 

僕は縁側に腰掛けながら空を見上げる。

雲一つない快晴だった。

今年は例年に比べて蒸し暑い。

例年通り着流しを着ながらパタパタと団扇で扇ぐもいっこうに暑さがマシにならない。

汗ばんだ肌にはりつく布が気持ち悪いことこの上なかった。

 

「……」

 

ふと思い出す。

むかしのことを。

あの時の僕はまだ、ただの学生だった。

今はもう違うけど……。

それでもやっぱり思い出してしまう。

 

「みんな元気かな……」

 

盆であるのだから。

きっと"あのウマたち"も還って来ているのだろう。

あちらから、こちらへ。

「…」

さり、と未だ残っている顔の火傷跡をなぞる。

痛みはないけれどやはりふとした時に気になるものだ。

それに……。

 

(……これだけが、証だから)

 

"あのウマたち"は、言っては悪いがそこまで有名なウマではなかった。

僕がいたから、その名を時おり語られるだけであって。

それ以外は…とんと。

ただその走りだけは確かで、誰も彼もが僕の心を掴んでいった。

掴んでいって、離さなかった。

……だからこそ、か。

 

「『お前は楽しんで走れ』か…」

 

それは彼らからのいつかの言葉。

僕への叱咤激励。

ゆえに僕はその言葉を胸に走り、走り終えたのだが。

 

「…」

 

ぼた、と涙が床に落ちる。

ぽたぽた、ぼたぼた、と。

とめどなく、どうしようもなく溢れてくる。

ああ、そうだよなぁ。

だって、"あのウマたち"はもういないんだよなぁ。

ずっと一緒にいると思っていた。

いつまでも一緒だと、思っていた。

でも違った。

違ってしまった。

わかっているつもりだった。

理解しているつもりでいた。

けれど。

 

「さび、しい…」

 

 

『あいっ変わらず泣き虫でやんの』

『なァ、この三角頭巾取っていいと思う?』

『いいんじゃね?邪魔だろ』

『それな〜』

 

そのまた一方。

泣きじゃくる小柄なウマのそばでやんややんやと騒ぐ声。

その声の主はかつて、そのウマと共に駆け抜けた者たちであり、そのウマにとってかけがえのない存在だった者たちでもある。

しかし、そんなことは露知らず。

泣いているそのウマはただひたすらに泣くばかりであった。

 

『…あんだけスゲェ記録作っても、変わんねぇな』

『安心するよね、逆に』

 

…それは、蒸し暑い夏の夕暮れだった。





入れ代わり立ち代わり、いろんな方々が遊びにくるお家。
ちな全員が全員、この家の者々を心配しては加護っぽい『ナニカ』を授けていくとか…?


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アルバイトの話


ジュニア期のある夏、8月中旬の話。



───バイトをしないか。

 

その言葉にうら若き少女たちが諸手をあげて飛びついたのは言うまでもない。

 

「……で、どんなバイトなの? 給料が凄くいいみたいだけど結構キツい感じ?」

「あーっとね」

 

実質雇い主といってもいいシルバーバレットが説明を始める。

曰く、このバイトが行われるのは彼女の母方の本家がある田舎町で。

曰く、ウマ娘しかできないバイトであるため人手が多い方が嬉しい。

曰く、夜にするバイトなのでそれ以外は自由時間。食事もバイトの要員用に山の幸・海の幸がふんだんに使われたものが出されると思われる…と。

 

「…って感じなんだけど、大丈夫かい?」

「へぇ~面白そう! 」

「私もやりたいですっ!」

「それって何人でもいいの?」

 

……というわけで、そこそこの参加が決まった。

そうして、バイト先にたどり着き美味しいご飯に舌鼓を打って、何度もこのバイトをしたことがあるシルバーバレットを先頭に白い提灯を持ちながら夜道を歩く。

 

「まぁ…たしかに都会と比べれば怖いかもしれないね」

 

田舎とは聞いていたがここまでとは。

該当ひとつない、山がほど近いその町は丑三つ時という時間もあって恐ろしいほどにシンとしている。

そこをザクザクと草履で歩く音だけが響くのだ。

しかし、それも慣れてしまえば気にならないものらしい。

みんな思い思いに会話をしながら歩いている。

 

「でもさ、こういう雰囲気嫌いじゃないよアタシは」

「うんうん、なんかワクワクしちゃうよね」

「わかるぅ~!」

「……」

 

着慣れない濃い緑の着物。

そして顔を隠す布面。

それが非日常感を高めているのか、皆いつもより声が大きい気がした。

 

「……ん?」

 

ふと、前を歩いていたシルバーバレットが足を止める。

それにつられて他の娘たちも立ち止まった。

『どうしたの?』と口々に問われる言葉に彼女は口を開く。

 

───ここからは、足早に。

 

ひゅう、と軽い音に乗せて海風が香る。

前を歩く小柄な背に、今はただ従うしかなく。

問うことすらも許さないと言外に示すその背に何も言えないままついて行くしかなかった。

 

「……よし、いいよ」

 

やがてたどり着いた場所は、町の境らしき、だが寒々しい原っぱの前。

よくよく目を凝らしてみればそこが昼に紹介されたシルバーバレットの母方の家が管理をしているという土地に合致し。

 

「これで職務は終わり。さ、早く帰ろうか。」

 

───何も聞かないように、喋りながら。

 

掲げた白い提灯がぼやりと光る。

 

「今年も、無事"お迎え"できてよかったよ」

 





僕:
シルバーバレット(ウマ娘のすがた)。
実質雇い主。
トレセン学園に入るまで、このバイトをしていたのは彼女のみである。
濃い緑色の着物を着て、白い提灯を持って、"お迎え"するバイト。
…バレぬように大声で話すことや、バレかけた際は走ることが推奨されている。

───"還り"を待ってる方々がいるからね。ならちゃんと還さなくちゃあ、…ね?


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しおさいの夜に


その背からはうっすらと潮のにおいがした。



夏合宿に来た。

トレセン学園の夏合宿というのは海沿いにある年季の入った趣深い合宿施設にて7~8月-俗にいう夏休み期間-に心身を鍛え上げるというものだ。

普段の練習ではなかなか出来ないような、トレーニングを行えるため合宿を行う前と後で驚くほど様変わりするものも中にはいたりする。

がしかし。

 

「どっこもかしこも電波わり〜!」

 

…この合宿所、あまりにも通信環境が悪く。

それを事前に知っていた者たちで持参していたカードゲームや何やらで暇潰しをしようにも直ぐに飽き、または次のハードな練習に備えるために寝る者が続出し…。

 

そんな日が珍しくもなんともなくなったある日、寝付けないひとりのウマが海沿いを散歩がてらフラフラと歩いていた。

 

(うーん……やっぱりこういう時は海辺っていいナ)

 

潮風を浴びながら浜辺を歩くそのウマはどこか眠たげな目をしているが、それでもなお、その足取りはどこか明確な行き先を目指して進むようで。

そんな折。

 

「ねぇ」

「ひゃ、ひゃいっ!」

 

唐突に、声をかけられた。

誰もが寝静まった深夜にかけられた声に驚き振り向くとその先に居たのはひとりのウマだった。

 

「あぁ、ごめんね驚かせて」

「え、あ…」

 

背格好はひどく小柄。

髪はところどころ跳ねて…。

 

「キミ、トレセン学園の生徒だろ?」

「はえ!?」

「だからこんな遠くまで来てひとりで帰れるかなぁ?って」

「ええっ!?」

 

そのウマに言われた通り、辺りを見回してみると確かにまったく知らない景色だった。

ぼんやりと歩きすぎにも程があると自分で自分にツッコミを入れたくなるくらいには見知らぬ場所に来ていた。

 

「まぁでも、ちょうど良かったよ」

 

そう言ってその小柄なウマは笑う。

 

「元の場所まで、案内してあげよう」

 

 

その小柄なウマもかつてはトレセン学園に通っていたらしい。

キラキラと星が輝く夜空の下、ふたり並んで砂浜の上をゆっくりとした歩調で進んでいく。

 

「いやぁ、まさかこんなところで後輩に出会えるなんて思ってなかったからさ〜」

「そ、そうなんですか」

「うん。それにしても懐かしいなぁ……もう5年以上経つんだもんなぁ」

「へぇ…」

 

そう懐かしそうに話す小柄なウマはどうみても年相応とはいえない若々しさをしていて。

見た目だけなら自分よりも少し上ぐらいだろうかと思うのだが、実際はもっと歳がいっているように思える。

 

「あの……おいくつですか?」

「僕かい?さてね」

「……はい?」

「同期だったウマとも会わなくなって久しくてさ。別に年齢確認とかいる時間とか場所にわざわざ出歩くでもなし」

「は、はぁ…」

「さて、着いたよ」

 

気づけば合宿施設の前に着いていた。

 

「案内してくれて、ありがとうございました。…あれ?」

 

けれど。

顔をあげると、もうそこには誰も…。





この季節ってのはどうにも人を惹きつけやすいらしい。
だから。

───もう二度と、こっちに来ないでね。


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夏のまにまに


夏にだけ会える女性(ひと)と。



暑い夏のことだった。

惚れ込んだ女の、その実家で半ば同棲というか同居し始めた男はその日もその日とて日課の畑仕事をしていた。

個人的な畑、といっても元はそこそこの人数がいた家の畑。

男ひとりで管理するには中々骨が折れる場所ではあったが、生まれて初めての、自分の好きなようにしていい土地に男は童心に返ってはしゃいでいたのだ。

 

「あー……」

 

だからだろう、そんな声を漏らしたのは。

汗だくになりながら鍬を振るい続けた男が、ふとその手を止めたのは太陽が一番高い位置まで昇った頃だったろうか。

気付けば額から頬へと伝う雫が煩わしいくらいで、首にかけていたタオルも汗を吸いすぎて冷たいぐらい。

そんな時、

 

「精が出ますね」

 

聞こえてきた声に男は振り返った。

するとそこには黒い着物を着た美しい女。

 

「そうっすか」

「えぇ」

 

男は突如として現れた美しい女を前に動揺しなかった。

まぁそれまで帽子を被っているとはいえ、炎天下の中での作業であったから思考が鈍っていたのかもしれない。

けれども、それを差し引いても男が見る目の前の女は…警戒には、値せず。

 

「あの、」

「はい」

「あそこの家の、家族は元気ですか?」

「…知り合いですか?」

「まぁ、…知り合いといえば知り合いですけど」

「そうですか」

 

女が指さした先は、いま現在男が暮らしている未来入婿となる家で。

その様子からこの女は親戚かと考える男。

その日から男と女はたびたび顔を合わせるようになる。

 

「…こんな暑い中にいないで、家の方に行っときゃいいんじゃないですか?」

「いいえ、私はあなたと話したいので」

 

女が語るに。

男が今住んでいる家の者たちを随分と親しげに呼ぶさまに男は興味を持ったらしい。

そしてまた、女の語るこれまでにも。

 

「へぇ、普段はここよりずっと遠いところに住んでるんですか」

「はい」

「どんなところで?」

「田舎ですよ、本当に何もないような。でも…水辺だけは綺麗な場所でして」

「そうなんですか。俺も行ってみたいですね」

「是非来てください。…とはいってももっと後のことになるでしょうが」

 

女との会話は楽しかった。

おだやかな女。

静かで、聞き上手で。

それでいてたまに見せる微笑みがとても…。

 

「………………」

 

だからだろうか、男はある日を境に女の姿を見かけなくなったことに寂しさを覚えるようになった。

まるで、母のようだった(ヒト)…。

 

 

「…あの子なら、リリィのことを任せられるって?そりゃあそりゃあ」

 

ひとりだけの部屋であるのに、話す相手がいるかのようにホワイトバックが呟く。

 

「キミが言うなら、そうなんだろうね」

 

───キティ。





女性:
黒い着物を着た女性。
静謐な雰囲気を持っている。
ある家に縁ある存在らしく、近い未来にその家に婿入りする男と話したかったらしい。
それはそれとして、その正体は……?


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なお当の本人


おいていかないで。



父に抱っこしてもらえるのは、周りに自分以外の"きょうだい"がいない時だけだった。

父は、僕たち"きょうだい"にそれはそれは愛されて、そしてその愛を返してくれたから。

そんな父が大好きだった僕は、よく"きょうだい"と喧嘩をした。

 

『なんでおとうさんをひとりじめするの!』

『いいじゃない!わたしだってハイセイコみたいにとうさんにだきつきたいもんっ』

『やだ!ぼくの…、ぼくのおとうさまなのに……!!』

 

そうやって言い合いをしているうちに、いつも泣き出してしまうのは僕の方だったけれど。

それでも幸せだったんだと思う。

だって。

父にはもう、会えないのだから。

 

 

父が死んだ。

少し暑くなってきた初夏の、夕暮れ時にひっそりと。

丁寧に誂られた庭園の見える縁側で眠るように。

 

『兄さんがね、言ってたわよ。あなたたちのこと、「自慢の家族」なんだって』

 

叔母の言葉を聞いても涙が出なかったのは何故だろう?

いや、本当はわかっていたのだ。

父が亡くなったあの日以来、僕らは泣けも笑えもできなくなってしまった。

父の死を、僕らは…。

 

「…………」

 

僕ら家族にとって、父の影響力は絶大だった。

長生きだった父。

いちおうは長子である僕も当主としての指南を受けてはいたが父の補佐としての意味合いが強くて、実際に仕事をするのは父のほうが多かった。

任された仕事も簡単な書類整理とかだけだったけれど、でもそれが僕にとっては嬉しかったし誇らしかった。

父のように立派なウマになりたかった。

しかし。

 

「……、……」

 

半ば。

父のようになりたいと、願いながらも。

父が死ぬはずはないと。

僕らは、父の血をひいた僕らは、思っていたのだろう。

だけど幸せな現実は父の死によって終わりを告げ。

ずっと僕らを導いてくれていた背は消えてしまった。

……ああ、そうだ。

きっとこれは罰なのだ。

父の望みを叶えられず、何もできないままであった弱い僕らへの報いだ。

 

とうさん。

あなたは、ずっと自分と対等にいてくれる誰かを求めていたというのに。

あなたの孤独を癒すことができなくて、本当にごめんなさい。

とうさんのそばにいたかったなあ。

ねえ、どうして死んでしまったんですか?

もっと一緒に生きていたかったです。

こんなにも悲しい気持ちになるなら、いっそ…。

 

「……ごめんなさい、おとうさま」

 

そう呟いて、僕は静かに目を閉じた。

 

 

何度も()()なりかけたことはあったが、なってみたらなってみたで()()()()()になるとはなぁ。

…まあ、いっか。

それにしてもこの身体、結構良い感じだ。

今までで一番と言ってもいいくらい。

何より若いっていうのが良いよねぇ。

はやく走り出したいよ。

ということで〜。

 

「しゅっぱ〜つ!!」





ちょっと、あっちに行ってくるわ!
だいじょぶだいじょぶ、すぐ戻るから!(戻るとは言っていない)


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『もう二度と』と、ほくそ笑む


美少女受肉した実父に振り回される産駒たちェ…。



父さんが亡くなった。

大往生中の大往生ではあったが年老いてなお『伝説』と謳われ続けたウマの死はいろいろと大きな波紋を及ぼした。

まず、絶対王者がいなくなってしまったこと。

当然だ。

競り合っていた親友が保持していた座を半ば引き継いだ形になった父はずっとその座を守り続けて。

子どもである僕たちももちろん父と同じ仕事をしているけれど足元にも及ばなくて。

いつか超えてやると意気込んでいた父はもういないのだ。

でも、これは僕らがなんとかしないといけない問題でもある。

だって僕らは、あの父に育てられたんだから。

僕たちがしっかりしなければ続くものも続かない。

そうやって気合いを入れつつも次から次に来る問題は山積みで…と頭を悩ませていたある日。

 

「父さん、これからウマ娘として生きていくから!」

「…は、?」

 

父が帰ってきた。

それも"ウマ娘"だとかいう美少女になって。

 

「……いやいやいや!どういうこと!?」

「そのままの意味さ!今日から父さんはウマ娘として生きてくんだ!」

「何言ってんの!?頭おかしくなったの!?」

「酷いなぁ……。僕はいたって正気だよ?」

「だから余計に…あ゛あ゛あ゛!!」

 

ワケの分からない事象に呻く僕の声を聞いて"きょうだい"たちがどうしたどうしたとやって来る。

そして美少女に受肉している父を見ては唖然としたり着せ替え人形にしたり…。

カオスすぎる空間の中、父だけはニコニコとしていた。

…………本当に大丈夫なのか?このウマ。

 

 

それからしばらく経ってようやく落ち着いたころ。

父の話を詳しく聞くことにした。

 

「つまり……あの、彼岸に渡ったあとに三女神?だか何だかに会って魂がチューンナップされて…?」

「そうそう。それでウマ娘の肉体に押し込められたんだけど…隙をついてコッチに来ちゃった。テヘッ!」

 

…………うん、ダメかもしれない。

 

「まあまあそんな顔しないでよ〜。父さんが戻ってきたんだよ?しかも美少女になって!」

 

悪びれる様子もなくケラケラ笑う父の姿には一周回って呆れてしまう。

……というか仕草も少し変わってないか?

それにしてもなんだろうコレ。

ツッコミどころしかないんですけど。

ああもう頭が痛い。

とりあえずは…。

 

「父さん」

「ん〜?」

「家から、出ちゃダメですよ」

「…?どうして?」

「そりゃ父さんがウマ娘なんてトンチキになったからですよ」

 

そしてソレに加えて……なのだから。

利用価値など在るに有り過ぎる。

しかも肉体年齢的にめちゃくちゃ若いっぽいし。

 

「だから、約束守ってくださいね?」

「…はぁい」





僕:
シルバーバレット。
何だかんだあって美少女の体に受肉した。
そしてその体は本格化前の若い体なので…ね?
利用価値というかなんというかが…ハイ。
なのでバレないように家に隔離されるというか…。
いや、仕方ないんですけどね!

家族:
父が美少女に受肉して帰ってきた(白目)。
これから必死に美少女化した父を守っていくが、それはそれとしてウマ娘の世界に快く送り出してくれるかは…?
まぁ何だかんだ言いながらもファザコンの集まりなんでね!(ニッコリ)


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うだる夏と


なんかこのコンビはこういう感じに暮らしてるのが似合うよね、って。



目を覚ますと眼前に友人がいた。

ある暑っつい日差しの午後のことである。

 

「…どうしたんだい」

 

ぽす、と頭を撫でる。

触れ合った肌が熱く、垂れてきた汗がふたり分混じり合う。

 

「…………」

 

無言のまま。

その瞳はどこか虚ろであるようにも見えるし、ただひたすらにこちらを見つめているだけのようでもある。

 

「ねぇ、大丈夫?」

 

そう言って肩を揺さぶるとようやく我に帰ったようで、「お茶取ってくる」とだけ言い残して奥に引っ込んでいった。

だがそれきり戻ってこないため、様子を見に行くことに。

 

「カツラギ」

「んー」

「あ、どうも」

 

ガラスのコップが汗をかく。

手のひらを通して伝わる冷たさに心地よさを感じながら一口含むと、少しキン、とした液体が流れ込んできた。

 

「冷たい」

「そりゃあなぁ」

 

ぺた、と頬を撫でられるのにゆるりと瞬きする。

暑い暑いと言うクセに、その手つきには涼しさがあった。

 

「なんだ? 今日はずいぶん甘えてくるね」

「……別にいいだろ」

 

拗ねるように唇を突き出す。

まるで子どものような仕草に思わず笑みを浮かべてしまえば、それが気に食わなかったのか今度はカリ、と首筋を爪先が撫でて。

綺麗に整えられているその感触に、ふむ、と内心ひとりごちる。

 

(随分とまァ、気合が入っていること)

 

互いに結構不精ながら、こうやって身なりを整える時はだいたい何かを楽しみにしている時。

気がはやるというか、ソワソワしているというか。

そんなことを考えていれば、不意打ちのようにグンと首元を引っ張られる。

 

「なぁに?」

「…日焼け止め、塗っとけよ」

「分かってるよ」

 

 

夏祭りというのも昨今は珍しいのではなかろうか。

子どもも少なくなってきているし、何より祭りを行う場所がそう…。

その時勢でも我が家の家の近くの神社では毎季、祭りが行われており、祭りが近づくと太鼓や何やらの音が微かに聞こえてきて。

それはもう風物詩としてすっかり馴染み深いものとなっていたのだが、今年はそれに加えて花火が上がるらしい。

それを耳に挟んでからというものの同居人がそわそわしっぱなしで、とうとう我慢できなくなったらしくこうして連れ出された次第である。

 

「おぉ~……」

 

人気のない場所でふたり座って空を眺める。

こんな小さい町だがそれでも花火を見にそこそこの人が集まっているみたく。

 

「すごいねぇ」

「そうだな」

 

ザワザワとしたざわめきを耳に入れ、はらはらと散っていく火花を見上げつつ呟けば、隣からも同じように言葉が返ってきて。

ただそれだけのことなのに妙に嬉しくなっていれば「今ので終わりだな」と声が。

 

「じゃ、帰るか」

「りょーかーい」





ふたり:
シルバーバレット&カツラギエース。
何やかんやあって素朴な小さな町でふたり暮らししている。
もしかするとわらしべ長者的なノリで家をもらったのかもしれない。
また近所の子どもたちに乞われ、走り方を教えているようだ。
なおその同居関係を周りに伝えているかは…?


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変わらぬ罪禍


たぶん銀弾はどこの世界線でも因子継承の際に一族の方々と厩舎の仲間たちの想い()を継いでると思う。



あのころ、僕の家は貧乏だった。

何とか住むところはあったけど、そこの家賃も払うのに四苦八苦するくらいで。

毎日遅くまで働きに出ているリリィを見送った僕が預けられるのは初老の大家の元。

世話になっているのだから迷惑になってはいけないと大人しくしていた僕はある日その大家に殴られた。

『子どもらしくしないのが気持ち悪い』と、『暴力を振るわれても泣き言ひとつ言わないのが気持ち悪い』と。

…だって、泣き言なんか言ったらリリィに迷惑がかかるじゃないか。

このアパートを借りるだけでも四苦八苦しているというのに。

僕ひとりが我慢するだけで生活が立ち行くなら、と。

そう思って、

 

【ただいま、チビ】

 

いつしか、僕の耳は音を拾えなくなった。

読唇術で何とか読み取ってはYesかNoを身振り手振りで示すのみ。

音が拾えないから、喋ることもできやしない。-心配されるけど。

音が拾えないから、大家が言う母の悪口を聞かないふりをする。-また、痛いことをされるけど。

リリィは仕事が忙しいから、ひとりで風呂に入る。-だから、傷はバレない。

リリィは仕事が忙しいから、ご飯を譲ってあげる。-大家さんのところで食べたとウソをついて。

そんな生活を続けて、

 

【な、んだ…これは!アンタ、こんな小さい子どもに……!!】

 

いつしか僕はリリィと共にもっと良いお家に引っ越していた。

それを世話してくれたおじさんには『傷のことをバラさないで』と伝えたから何とかなったけど。

そのうち父さんとも合流できて、四人家族になって。

リリィも帰ってきては泥のように眠るなんてこともなくなったし。

先生に見出されてトレセン学園に入って、仲良くしてくれるチームメイトもできたし。

これが幸せってものなのかなぁ…と思っていた折、

 

「お ま え の せ い だ」

 

「お ま え の せ い で み ん な シ ん だ」

 

「お ま え が い な け れ ば 、

だ れ も ふ こ う に な ら な か っ た の に」

 

すべて燃え落ちた。

僕も顔に傷を負った。

入院中、見舞い客の中にいた、久しぶりに会った大家さんから告げられた追い打ち(ことば)は僕に傷をつけて。

 

(僕が、いなければ…)

 

そう思うたびに周りから音が消えていく。

でも、それでも聞こえる声がある。

 

「あ、は、は…」

 

…お前のせいだ。

お前のせいだ。

お前のせいだ。

お前のせいだ!!!!

 

カラカラに乾いた喉で笑うしかない。

顔を覆ってボロボロと泣きじゃくる僕。

誰もが僕に触れられないでいると、

 

───バレット。

 

唯一届いた声。

怨嗟の声を貫いて、聞こえてきた声。

顔を上げた先。

いたのは、

 

「ぼくは、」

「僕は、」

「キミに生きて欲しい…っ!」

 

取られた手を見る。

それは、非常にか細くて。

その手を取ってはどうか、どうかと祈るその人(せんせい)に、僕は、

 

「ね、え」

「ぼくは、」

 

────いきていて、いいの?

 

震える声でそう問うた。

そんな僕の問に、

 

「あぁ」

「世界の誰もがキミを望まないとしても」

「僕はキミに、──── 生きて欲しい

 

真剣な目で、答えてくれたから。

…なら、

 

「しんじる、よ」

「うん。…地獄の底でも、一緒にいるから」

「…ふふ。ほんとに、」

 

変なヒト。

でも、貴方がそばにいるのなら、いてくれるの、なら。

 

「どこにだって、行けそうだ…」





僕:
シルバーバレット。幼いころは某物語の羽/川さんみたいな感じだった。そこから『運命の相手(トレーナー)』と出会い、情緒が育っていく。
何だかんだあって幸せになったと思ったら不幸になるウマ。
『お前のせいだ』という呪いを残され、SAN値減少。
その結果、バッドステータス【幻聴】を手に入れた。
が、覚悟ガンギマリトレーナー(せんせい)がいたので何とかなった。
けど、なんか共依存っぽくないです…?いや、愛だよ愛。

トレーナー(せんせい):
覚悟がキマっている。
僕のためなら何でもする…くらいのことは軽く言う。し、やる。
人間的生活を営む点においては駄目駄目だが僕のメンタルケアに関してはクリティカルを出し続けるヒトミミ。
なのでこのヒトがいなければ僕は…?


大家さん:
史実の生産牧場長因子を継いだヒト。
僕に…していたことがバレて逮捕されていた。
んで出所して……し、僕に『お前のせいだ』という呪いを残した。
その後の行方は、…(よう)として知れないらしい。


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その名前は、


───呼べない。



空になっていた缶を捨てに行く。

ボヤけた頭は上手いこと作用しない。

フラフラと歩く様を道行く子どもに笑われながら真っ白な廊下を歩く。

ポチ、とまた自販機で買ったいつもの飲み物を手にベンチに座る。

 

寝たくないからコーヒーを飲むのにクスリを飲んだ瞬間、眠くなってしまうのは何故だろう。

そう思っていると見慣れたキミがやって来たからもてなそうと。

したけれど出来なかった。

床に広がっていく綺麗だったモノが嫌に目に焼き付いて離れない。

 

部屋を綺麗にしておくからと追い出された先の外で「帰りたい」と漏らす。

もうすぐここからバスが出るんだっけ?といつかの記憶を漁りながら。

でもきっと僕は帰れないんだろうなぁとも思いつつ。

 

ここに入れられているが故に。

自分が、おかしいことは分かっているけれど。

何がおかしいのかまでは分からない。

瞼にずっと浮かぶ姿も飲んでいるクスリの影響か、ボヤけて止まないし。

あー……ダメだ。

 

キミは誰だっけ?

分からない、分からない。

名前も、背格好も、僕とどういう関係だったのかも。

思い出せないけどさ。

ただ一つだけ分かることがあるよ。

それはね…………。

 

────『キミはぼくの大切な人だった』。

 

ねぇ、教えてくれないか?

僕のこの感情は何なんだい?

愛しいと思う反面で憎らしくてたまらないコレは!

これほどまでに僕に巣食うのに逢いに来てもくれない『キミ』。

家に戻れば『キミ』に会えるような気がするのに。

会いたくても会えない。

それが酷く苛立たしく感じるんだ。

だから早く逢いにきておくれよ。

そうしたら僕はこんな場所から……。

 

 

重い足取りで会いに行く。

おかしくなった兄がそのおかしさ故に入院したと聞いたのはまさに青天の霹靂だった。

真っ白な個室にいる兄は、もはや誰のことも認識できなくなっていて。

見たことがないほどに荒れた模様を見せる兄に何度声を掛けたことだろうか。

それでも声に反応はなく。

お見舞いに来た人たちにも同じようで、でも『誰か』を確かに待っている。

 

その証拠のように毎日同じ時間に窓の外を見つめているのだそうだ。

今日もまた『誰か』を待つように外を見る兄の横顔を見て涙が出そうになる。

叫び、たくなる。

叫んで、すべてをぶちまけたくなる。

 

…だけどそんなことをしても意味がないのだと理解している俺はただ黙って病室を出た。

 

「帰ってこないものを待って、意味なんて」

 

やさしい兄が好きだった。

もう一度、子どもの時のように笑い合いたかった。

けれど突き放したのは自分の方で、突き放された兄が行き着いたのは。

 

「あ、ああ、あああ……!」





患者:
『誰か』を待っている。
それだけしか分からない。

見舞い客:
患者の弟。
患者に対してある種の悔恨を抱いたままどうにも出来なくなった。
もう二度と患者の目に自分が映ることはないのだと、理解しながらも微かな希望を抱かずにはいられないまま…。


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油断していて


親友になる前の【戦う者】と【栄光を往く者】の話。



『憧れ』では、超えられないと言ったのはさて誰だったろう。

もはや忘れた、もしくは言われなれたからか。

 

"偉大なる背を追い"、やって来たような場所。

生まれた場所では上手く噛み合わない才覚を、満遍なく使い果たすためにやって来た場所。

 

自分でいうのも何だが、自分には『才能』がある。

でなければこんな場所に来ていない。

けれど。

 

「────」

 

そこで、後を追うこと(至上命題)に比類するモノを得てしまった。

後ろなぞ振り返らない、偉大なる背を追わなければならないのに、己が名をその相手に呼ばれてしまえば最後縫い付けられたかのように脚を止めてしまう。

 

狂気的なまでに逃げ切りたい。

しかし、それでも後ろからキミが追ってくるものだから。

自分が求める偉大なる背など知らぬ、とでもいうように、ただただ恐ろしいまでに追い求めてくるものだから。

そんなことをされてしまえば、もう()()()しかないではないか。

ああ、本当に困った人だ。

いつだって自分のペースを崩してくる。

そして自分はそれに抗う術を持たず…。

 

 

あの日、キミにはじめて出会って。

息も絶え絶えながら、それでもしっかと、『勝った』と示すその握り拳に、眼に、見惚れたのが俗にいう"はじまり"だったのだろう。

それまではそれっぽく振舞っては期待と賞賛を浴びていた己に火を灯してくれた唯一。

まさしくあの日の己は、産まれたばかりの雛鳥であった。

 

「…、」

 

薄く開かれた目から覗く双眸は、まだ夢現といった様子で虚空を見つめている。

未だ覚醒しきってい(こちらを見)ない意識の中で、何を視ているのやら。

自分がこうなったのはお前(キミ)のせいなのに、と誹る声が止まない。

だから。

だから、追う。

こっちを見てもらえるように。

追い抜いて、その視線の中に入るように。

その視線(世界)に、介在したい。

そうして初めて、ようやく己という存在を認めてもらえるスタートラインに立てる。

故に、今日もまた。

 

「今日もよろしく」

 

差し出した手はゆっくりと握られ。

控えめながら、その目がたしかに己を見る。

"はじまり"のあの日よりは幾分かマシになった触れ合いは、やはりまだまだぎこちなくて。

それを微笑ましく思いながらも、どこか残念にも思ってしまうあたり、自分も大概である。

 

(まぁ…うん)

 

焦らずとも時間はまだ。

急いては事を仕損じる、ともいうらしいから。

もう少し。

 

(ゆっくり、ゆっくり詰め寄ってあげる)

 

それまでは、ただの雛鳥だと────。





まだ"偉大なる背"を追うという至上命題が心の内にある【戦う者】とそんな【戦う者】に火を灯され雛鳥のような、もしくは何か爆誕させてはいけないものを爆誕させてしまった【栄光を往く者】、ふたりの若き日の独白。
でこの後、追って追われてして自他ともに認める仲良ぴっぴ()になるんだよね!
それを考えると少なからず例のアレに脳焼きされてる【戦う者】に『自分を見ろ!』を成功させた【栄光を往く者】ってスゲェな…。


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『期待』は(おも)しになりえるか


父が父なら子も子、みたいな関係になりそぉ…。



『アウト先輩〜!!』

「あーあー、待ってろ。すぐ行くから」

 

シルバアウトレイジというウマは、見た目や言動とは裏腹に優等生で。

まぁ時おり授業をふけることはあるけれど、それも大概は誰かを助けていたりとか、そういった事情ゆえ。

人となりを知らない相手からは避けられがちだが、一度その人となりを知ってしまえば、誰からも慕われる存在となるのだ。

 

「あ〜、そこは○○して」

「それはココ抜き出すんだよ」

 

今日だってそう。

自らを慕う者たちに「テストがヤバいんです!」と泣きつかれては空き教室をひとつ借り切って勉強会を開いている。

さすが、手を抜きつつも学年総合5位以内は死守しているウマである。

「難しい問題だったらやる気出るんだけどな〜」とボヤく声もらしいっちゃらしい。

 

「はい、ひと通りは終わったな?」

『ありがとうございました!』

 

放課後が丸一日潰れ。

でも、アイツらの役に立ったんならいいか…と考えながら教室の片付けを。

ガタガタと椅子と机を動かし、ちゃっちゃと掃き掃除をしていると。

 

「見つけた」

「おう」

 

カラカラとドアを開けて、同じくシルバアウトレイジを慕う後輩のひとり-【飛行機雲】が現れた。

 

「お前は、」

「はい」

「テスト、大丈夫なのか?」

「バッチシですよ!」

「そうか」

「手伝いますか?」

「いや、いい。これで終わりだから」

 

カラン、と用具入れに箒とチリトリをしまえば、いつの間にか近づいてきていた後輩の手が閉まった用具入れの扉につき。

 

「あの人たちの面倒って…見る必要、あります?」

「は?」

「先輩、レース近いのに」

「…………」

「あの人たちに時間割いてる場合じゃないでしょう?僕、知ってるんですよ?先輩がトレーニングの時間削ってまであの人たちのために勉強してること!!」

「…いいだろ、別に。俺がやりたくてやってることなんだから」

 

グイ、と包囲網から抜け出そうとすれば、ガン!と肩を掴まれ押し付けられて。

 

「お前、なにそんなにイラついてんだ?」

「…言っても、分からないでしょう?先輩には」

 

にこり。

いい笑顔を形作るけれど、その瞼の下の目はきっと。

 

「でもさ」

「…」

「アイツら『俺がいないとダメだ〜』って言うから、だから」

「……そういうところですよ、先輩」

 

 

慕われやすい貴方。

頼られると、断れないやさしい貴方。

勉強だって、レースのことだって。

頼まれればふたつ返事でOKしてしまう。

文句を言いながらも、何だかんだでサラッとこなしてしまうものだから。

 

「先輩!何かしてほしいことはありますか?」

「…いきなりどうした?」





【銀色の激情】:
シルバアウトレイジ。
ぶっきらぼうだけど面倒見がいいボス。
隠れファンクラブとかありそうだし、気付けば中心になっているタイプ。
なので【銀色の激情】なら何とかしてくれるよね、といった風な信頼がナチュラルにあったり。
そしてその信頼を大して苦もなく達成できちゃうモンだから…。

【飛行機雲】:
後輩。
【銀色の激情】の危うさにどことなく気づいている。
またその期待に応えられるだけのポテンシャルがあったことが運の尽きとも、考えている。
ゆえに【銀色の激情】を支えようとしたり何だりしているが気づいてもらえない。
逆に「大丈夫」「お前に手伝ってもらうほどのことじゃない」などやんわりと断られ…?(じっとり)(にっこり)(ハイライトオフ)


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誰がため?


ヒーロー然としているけど重いものは重い。



正義と悪があるのなら。

大体は悪が正義に倒されるのがオチだ。

 

「そうは、思わない?」

 

戯れに、ゴロンと転がりそう問うと、ひどい顔をされてしまった。

まるで路傍に転がる石を見るというよりも幾倍もひどい顔である。

いつも穏やかな笑みを形作る唇はキッ、と真一文字に結んでいて、眉間には深いシワがくっきりと刻まれている。

その表情でキミは言ったのだ。

「そんなわけない」と。

思わず目を見開いてしまったのは仕方ないと思う。

だってそれは、僕にとって初めて見る友人の感情だったから。

怒りでも悲しみでもなく、何と表していいのか分からない顔。

ちょっとした例え話だというのに、それがもはや決定づけられた事項とでも言いたげに自分を見下ろす目は、【英雄(ヒーロー)】とやらとは似ても似つかぬ形相をしていた。

 

「あ、そういえば」

「…なに」

「世界を救った勇者様が次回作とかで悪の親玉になってるってのも、あるにはあるよね」

 

咄嗟に口から出た言葉は「ははは…」と漏れた乾いた笑みで台無しで。

案の定というか、友人は呆れたように溜息をつくだけだった。

 

「…………ねぇ」

「はい」

「もう寝たら?」

「えぇ~まだ眠くは、」

「…寝た方がいいよ。キミがそういう突拍子もないことを言い出す時は大概寝不足とか変にハイになっている時だから」

「…、」

「まぁ」

「ん?」

「キミが望むなら、善でも悪でも…」

 

どっちにでも、なってあげるけど?

 

 

キミがあんな目をするから、そうなったに過ぎないのかもしれない。

ずっとキミが、『憧れのヒーロー』とでもいうかのような顔をしていたから。

 

(……なんて)

 

バカげた考えだと、自嘲気味に笑う。

どうせキミのことだろうし、次の日には忘れてるに違いない。

……覚えていたとしても、また同じような問答を繰り返し、同じところで終わるだけ。

キミが望むから、『やさしい人』のままでいる。

だって『こんなの【英雄】じゃない!』って言われると思うと流石に堪えるもの。

別に僕自身はどっちでもいいけれど、望まれれば応えたいと思ってしまうくらいにはキミのことを気に入っているんだろうね。

 

「さすが!」

 

キミになら、そう褒められるのも悪くない。

きっとキミが望むなら、僕はこれから先も変わらないままだ。

 

「いやぁ〜、ホントにかっこいーねー。みんなに人気者だねぇー」

「…またおかしくなってるね」

「おかしくなんてなーいー!」

「はいはい」

 

ハイとローがガチャガチャ切り替わって。

危なっかしいと思うものの、僕さえ傍にいれば落ち着くらしいので。

 

「今日は、ハンバーグが食べたいな」

「…!分かった!」





【英雄】:
ふわふわとグチャグチャを繰り返す、やっと解放され(引退し)た【銀の祈り(ゆうじん)】と仲良くしている。

【銀の祈り】:
シルバープレアー。
ハイとローの差が激しい。レバガチャ。ガチャりすぎてレバー壊れそう。
生活面で甘やかしているのは自分だがその代わりに精神面をたいそう全肯定Botされている。
なおこいつもこいつで全肯定Botだからな…。


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確固たるけど(いびつ)


ひとりで立てる『強者』というやつは『孤独』であるのだろうか。
寄りかかることもできないまま、いつしか崩れ落ちるように。



自分の成したことで、得られる誰かの笑顔が何よりもいっとう好きな人なのだろう───。

 

その人、こと『先輩』はそんな人だった。

『成せば成る』の体現者というか、努力すれば努力した分だけ成功が約束されているというか。

自分に不都合な運命は自分でブッ壊して最善で最高の結末に、自力で持っていける人。

だから、みんなその姿に夢を見ずにはいられなくて。

だから、みんな『先輩』のことを好きになるのだ。

 

「…………」

 

でも。

 

(僕には)

 

それができないから。

『先輩』みたいに強くない僕は、決心がつかないとただ憧れて見ているだけで終わってしまうから。

だからせめて、僕ができることをやろうと思ったんだ。

僕の大切な人が傷つかないように、防波堤になりたくて。

せめて、投げられるナイフや石を、代わりに受け止める壁になりたかった。

けれど、けれども。

 

「…つまんねぇモン見せちまったな、お前に」

 

そうする前に、あなたは前に出るから。

投げられるもの全てを受け入れて、そして全部を跳ね返してしまうから。

だから、誰もあなたを傷つけられないし、あなたの心も折れることなんてない。

いつだって、どんな時だって、誰に対しても。

あなたは真っ直ぐに立っていて、それを曲げたりしないから。

 

「ホント、つまらねェよなァ。アレだけ言えるンなら正面切って言ってもらった方がいささかスッキリするってもンだぜ?」

 

それはきっと、僕なんかじゃ到底敵わないくらい強い人の言葉で。

 

「……すみません」

 

ただ謝って俯くしかできなかった。

 

「まぁ、オメェが気にするモンじゃねぇよ。逆に俺が謝んなくちゃいけねぇぐらいなンだから」

 

ひどい言葉だった。

『先輩』の、努力を、献身を、何も見てはいないのかと思ってしまうくらいに、ひどい、酷い言葉だった。

そんな言葉を吐きながらも、あの人々は『先輩』に助けを求めるのだろう。厚顔無恥、大なり小なりの"お願い"を振りかざすのだろう。

その"お願い"を、『先輩』が断らないことを知っているから。

 

…折れず、曲がらず、立ちっぱなし。

誰かに寄り添うこともなく、ただ独りきりで立っている姿はまるで一本の柱のようで。

それはとても気高く見えて、同時にひどく寂しいものに思えた。

 

「……あの、先輩……」

 

だから、思わず声をかけてしまった。

このままではいつか倒れてしまうのではないかと思うほど、危なげに見えるから。

しかし、

 

「お前が心配することは何もねェよ。な?」

 

あなたが笑う。

支えさせてくれないあなたが。

だから、僕は怖いのです。

いつかそんなあなたが、

 

(何も言わず、気付かぬうちに…()れてしまう気が、して)





【飛行機雲】:
後輩。
先輩である【銀色の激情】を支えたいと思いながらも【銀色の激情】自身が強すぎてどうにもできないすがた。
周りのみんながみんな【銀色の激情】に頼りきりで、強い人だと看做すのに異を唱えたいのに、そう思っている【飛行機雲】自身も気づけば『先輩って凄いなぁ』とか思ってしまう矛盾。

…もう、先輩と僕だけにすれば全部解決するかなぁ?

【銀色の激情】:
シルバアウトレイジ。
先輩。
メンタリティがオリハルコンで何があろうと自分でしっかと立って歩ける強者。
成せば成るの体現者でもあり、『アイツは俺たちの期待を()()()裏切らない』系のウッマでもある。
しかしそれは見方を変えれば、「誰かに頼られる・誰かに期待される」というフェーズを通さないと何もできないのと同義であり、そのフェーズを失った際に【銀色の激情】が【銀色の激情】足り得るかは…?

…なんか、どことなく(いびつ)なのが銀系列だなって。


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"色"


そして、───魅せられるのだ。



「お前の目ってさ」

「はい?」

「そんな色、だったっけ?」

 

問いに問われた側のウマはこてりと首を傾げる。

何を変なことを言っているのかという顔で、

 

「……? えぇと、何の話ですか?」

 

()()()の目を、ぱちりと瞬かせた。

 

 

他人の目の色など、そうまじまじと見るものではないだろうが。

それでもふとした拍子に見てしまうことくらいはあるはずだ。

例えばそれは話している時であったり、あるいは写真や映像の記録を眺める時であったり。

そしてその時、そこに映った相手の目の色は果たしてどんなものだっただろうか。

 

思い出せるかと言われれば難しい話だが、しかし記憶にぼんやりと残っているはずのそれが、いま目の前にいるこのウマの瞳の色とは一致しないのだ。

そのことに違和感を覚えているのかいないのか──まぁ、気にしていないだけかもしれないけれど。

ともあれ、そんな疑問を投げかけられた当人はと言えば、

 

「あー……すみません、ちょっとよくわからないです」

 

申し訳なさそうな表情を浮かべながら小さく頭を下げていた。

ううん、どうしたものかコレは。

 

「いやまぁ、別に謝らなくてもいいんだが……」

「でも最近よく言われるんですよね、ソレ。俺だけじゃなく可愛がってる後輩もなんか同じこと聞かれてるみたいだし」

 

…ん?

 

「なんだそりゃ。流行りとかそういう類か?」

「いや、流行る流行らないとかじゃないと思いますけど……」

 

 

目を開く。

そして、鏡に写す。

そこに映る色は──()()

 

「……」

 

本当は、分かっている。

この色が本来の自分の目の色ではないことも、この色に何故()()()()のかも。

ただそれを言葉にしてしまえば何かが崩れてしまいそうで。

だから俺は今日もこの色の理由を知らないままだ。

 

けれど。

もし、ひとつキッカケがあるとするのなら。

 

───【領域(ゾーン)】。

 

時代を作るウマが至る…だとか、限界の先の先…だとか謳われる超集中状態。

レースにおいて極限まで『勝利』という一点に思考が研ぎ澄まされることで得られる境地。

それに至った瞬間から世界が変わるのだという。

まるで時間の流れが変わったかのように全てがゆっくりと動き始め、周囲の景色すらもその速度を落としていくような感覚の中で己だけが加速していく。

そんな、感覚。

 

その中で、

 

し ゅ る り

 

()()()()

何が、とは言い難いが変わったのだ。

自分の中に『ナニカ』が入り込み、馴染んで…。

その結果が。

 

【銀灰色の、目をした怪物】





目の色:
とある共通項を持ったウマが『領域』に入ることによって会得する色。
その色は、とてもとても美しい…銀灰色をしているという。


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慈しんで、"星"は在り


生存軸ならギリギリ会ってんじゃね?という考えからの産物。



「大伯父さま、産まれましたよ」

「おぉ!」

 

少しばかりは仕事をしながらも、どっちかというとロッキングチェアをガウンガウン揺らしたり、ボードゲームで幼子たちをギャン泣きさせることの方が珍しくなくなったある日、やって来た若人を僕は迎え入れた。

 

「ちっちゃいねぇ、かわいいねぇ」

「ありがとうございます」

 

ふくふくとしたほっぺをツンツン、とつつくとグアッ!と開いた口にバクンッ!と食いつかれる。

でもまだ歯は生えてないみたい。

 

「アッ、こら!」

「いやいや、ダイジョーブだよ〜。元気なのが一番だもん、な〜?」

「あぶ!」

 

やーなの、やーなの!みたくジタバタする体が落ちないように何とか抱っこしてあやす。

するとまたすぐに機嫌が直ったのかキャッキャッ!とはしゃぎながら僕の指に噛み付いてきたり、髪の毛を引っ張ってきたりとやりたい放題である。

……まぁそれも可愛いんだけどね?

 

「それで、名前は決まったの?」

「ええ。この子は───」

 

 

「…うげ、」

 

帰省がてら掃除を頼まれて、これはいる、いらない、分からない、といった風に物品を分けている途中で見つけたアルバム。

パラパラと捲ると俺の成長記録だと分かったソレは一番初めのアルバムなのもあってページの色が日に焼けていた。

それはそれとして。

 

「会ってたのかよ」

 

写真に映るのはまだ若いころの両親と赤子の俺。

それと───亡くなった今も事ある毎に語られる、ウチの系列の原初。

この頃は亡くなった時の日付から考えるに晩年も晩年といったところだが、写真に映る姿はそうとは思えないほどに若々しい。

 

ヒトがいうには。

俺付近の世代が、原初に会うことの出来た最後の世代だという。

だから俺は原初の人となりをよく知らないし、知れたとしてもそれは他人のフィルターが入ったものだ。

それでもただ一つ言えることは、あの原初というのは間違いなく"化け物"だということだけ。

 

「…………」

 

おだやかな笑み。

画面の中にある苛烈さと見比べると、思わずバグってしまいそうになるくらいに穏やかすぎる表情。

目は髪と瞼のために見えない。

でも。

 

「体が厳つすぎる…」

 

どこからどう見ても筋肉でしっかりしている腕。

そして何より目を引く、しゃんとした姿勢。

 

「この年齢って…フツーこんなんだっけか?」

 

そう言えば原初って、鍛え直せばターフに戻ってこれるとか何だとかみたいな与太話がなかったか。

それに年老いてもトレーニングだけは欠かしてなかったって…。

 

「…あの規格外め」





原初:
年老いてんのに体が厳つすぎる。
系列に赤ちゃんが産まれたらだいたい抱っこして写真〜みたいなことになってそう。
でも赤子の生まれた順に写真を並べても外見があまり変わってないんだ。
それで変わってるのは髪の長さや色ぐらいじゃん…ってドン引き受ければいいと思うヨ。

───ふくふくしてかわゆいねぇ〜♡(ゲロ甘顔)


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浮かび、たたずむ…


おちろおちろと、願うのです。



世界を覆し、自らの存在をくべて、"星"になったアナタは。

今でも気が遠くなりそうな時間をかけて、"星"に届く誰かを待って、眠っているのだろうか。

 

"星"へ至るために、自分には不相応のアレコレを受け取る。

アナタの名のもとに、アナタの名のもとに。

アナタに『夢』を見て、アナタに『絶望』した誰かの(コト)を。

 

アナタが積み上げ、紡いだソレを。

自分は引き継げるだろうか、と思いながら進む。

アナタよりもずっとゆっくりに、追いつけずに止まって、足踏みして。

進まなくちゃいけない、と思うのに止まってしまう脚を『進め』と殴りながら。

 

善意で舗装された【期待(じごく)】を往く。

アナタに、ならなくちゃ。

 

 

揺らいでばかりの線だ。

真っ直ぐなんて何処にもないし、一定の形もない。

████████(アナタ)に比べてしょぼくない?』の言葉も、遠に聞き慣れて、聞き流して。

アナタに自分が憧れたように、自分も誰かの憧れになりたくて。

ただ、それだけの。

 

短い話だ。

只人が"星"になれる道理もなく、また世界を覆すことなぞ───できるはずもない。

それでも、薄れ、掠れた"(かげ)"を追う。

 

自分は"星"になれぬ只人だ。

幼いころの、夢も希望も亡くした、ただの殻。

なればその殻に【期待(じごく)】という役目(おもり)を詰めればいい。

"星"になれぬなら、なれぬなりに惨めったらしく地に這いつくばって。

「それでも」と、"星"を乞うてやろう。

 

「落ちろ、堕ちろ、墜ちろ!!

 

乞い、願って───。

 

 

"星"は、ただ佇んでいる。

何処にも行くことなぞできず。

くるりくるりと決まった道筋を辿るように。

時たま偶然で、()()()()()はあれども基本的には漂うのみ。

"星"に、意思はない。

故に、願いを聞くことはないし応えることもない。

それは、かつてあった"誰か"の在り方と違うのだけれど。

それでも、いつか誰かが辿り着くかもしれないから。

そう思い、そう考えて、ただそこに在り続ける"星"。

そんな、"星"の話。

 

 

 

 

───……ああ、そうだなぁ。

お前さんにはきっとわからんだろうさ。

これは俺たちだけの物語だから。

俺たちだけが知っていればいいことだから。

誰にも教えず、語らず。

墓まで持っていく"おとぎ話"だ。

だから。

 

───邪魔しようとか、…考えるんじゃねェぞ?

 

ありゃあ、俺たちの"星"だ。

俺たちの、"しるべ"だ。

どこであっても光り輝き、希望であり絶望の。

俺たち、の……。





"星":
吉兆であり凶星。
今日もキラキラ光っている。
普段は漂っているだけだが、時折()()()()と現れるらしい。


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逃げるなら、籠に


どこにも、行かないで。



何気なく気になって買ったゲームを友人を背もたれに遊んでいると、主人公だと思っていた人物が実は違って、本当の主人公はその一番初めに操作していたキャラクター(なお行方不明になった)を探すために誰もが寝静まった夜のセカイに飛び出した、という展開に…。

 

「ね、」

「なぁに?」

「もし、僕が消えたらさ…っうぉ?」

「まさか」

「…ミスター?」

「アタシが、そんなこと、許すと思う?」

「もし、だよ」

「もし、でもだよ。…そうだね、そうなるっていうのなら」

 

───キミの目が、そんなところに向く前に…閉じ込めるかなぁ?

 

「…」

 

もはやコントローラーを動かすべきか、入っちゃいけないセカイに入ってしまった友人を現実に引きずり戻すべきか。

ブツブツと、あまり聞いてはいけない類のことをつぶやき始めた様子に僕の目が徐々に死んでいく。

…仕方ない。

 

「ミスター」

「なに?」

「ゲーム、飽きた。…ぎゅ〜」

「……仕方ないなぁ!」

 

 

いつだって、霞のような存在だった。

その手を掴んでも、熱にも、質量にも、確証なぞなくて。

ただただ、虚しさと焦燥感だけが募っていく。

 

(どこにも行かないで)

 

自分よりもずっとずっと、華奢な体は力いっぱい握るだけで壊れてしまいそうで。

…いっそ壊して、誰も見向きしないぐらいにできてしまえば、どれほど良いだろう?

 

(お願いだから、アタシを置いていかないでよ)

 

いつものように、ソファに座っている姿を見つけて後ろから抱きつくように座れば、特に抵抗もなく受け入れてくれる。

ふわっと香ってくる匂いに思わず鼻を埋めてしまえば、子どもにするようなやわらかさで頭を撫でられ。

 

「どうしたの?ミスター」

 

…きっと。

キミは、求められさえすれば同じことを誰にでもするのだろう。

それが決して綺麗な感情からではないものも、同じように受け入れるのだろう。

……それは、とても嫌なのだけど。

 

「ん〜……なんでもないよ」

「そう?何かあったら言ってね」

「うん。ありがとう」

「…どういたしまして。あ、今日のご飯なににする?」

 

大切なものには名前を書いて。

または小さく、綺麗な箱に押し込めておくように。

自分だけが見ることのできる、そんなキミになってくれればどれだけいいかなんて思いながら。

今日もまた、アタシは笑みを浮かべ続けるのだ。

 

 

『籠の鳥』って、あるよね。

それに、『愛しているのなら、その対象を離してあげなさい』とも。

 

本当に、『鳥』が愛してくれているのなら、もとの場所に帰ってくる…ってね。

 

え、僕?

 

 

「…さぁ?」





Mr.CB:
ミスターシービー。
すごくおもい。
ナチュラルに引っ付いてそう。
それはそれとして自由人らしく、またお気楽に過ごしている風に見えて、知らぬ間にもう逃げられないところまで追い詰めてきそうな感じがある。
でも、相手が相手だからなぁ…。


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【一族】お抱えの装蹄師


出会ってるんだよなぁ、コレが…。



そのウマと出会ったのは、単なる偶然だった。

何となく入った居酒屋にて、さまざまな人に囲まれながらワイワイガヤガヤと楽しそうに騒いでいた声。

 

「そういやさァ、誰かいい装蹄師知んない?」

 

少し酔い気味の明るい声音がそう紡いだのを聞き逃せなかったのは…。

 

 

「来たぞ」

「お〜、久しぶりィ」

「また面倒な依頼寄越す気か?」

「そのぶん料金は弾んでンだろ」

「そうじゃなきゃこんな依頼受けないっての」

 

装蹄師をし始めて、しばらく。

自分の作る蹄鉄はどうやら『ドクソウテキ』ってヤツらしく、依頼も中々入ってこない日々の中で。

このウマが、気づけばお得意さまという存在になっていた。

 

「で?今回はどんな感じなんだ?」

「あー……っとォ……まぁ、ちょっとした頼み事っつぅかさァ……」

 

いつもならハッキリと言うくせして、今日に限って歯切れが悪い。

……何かあったのか?

そんな疑問を抱きつつ、続きを促せば。

 

「もうちょっと…壊れにくいのを」

「はァ!?」

「わ、分かってるよォ!前だって随分な頼みしたってことぐらいは!!…でも、まさか蹴りひとつで壊れるとは思わなくて」

「……で、出来るだけ早めにって?」

「…ウン」

 

いわく、この家系に生まれるウマは総じて脚力が強いらしく。

それは生まれつき備わる能力のようなものであって、どうしようもないことではあるというが、蹄鉄を幾度となく買い換えるのも…とのことらしい。

 

「だからって蹴るか普通!」

「そこに関してはホント申し訳ないとしか言えないんだけどさァ!!」

「……ったく」

 

とはいえ、俺だって職人だし。

蹄鉄を作るにはそれなりに時間を要するもので。

それを毎回毎回こうやってチャカポコ簡単に壊されると、なァ…?

 

「ぇ、あ…、あの、ザンさん…?」

「なんだ?」

「ご、ご勘弁を…」

「嫌だね」

 

 

その装蹄師と出会えたのは偶然だった。

よく訪れる居酒屋にて、ボヤいた己に「なら俺に頼むか?」と声をかけてきた自分よりも幾分か若いウマ。

聞くに個人で装蹄師をしており、あまり仕事の依頼も受けていないようで。

それならば、とその言葉に乗ったのだけれど……。

 

「お前の蹄鉄も作らせろ」

「え?」

「お代は娘さんの分だけでいいから」

「え、いやぼくのは別に…」

「作 ら せ ろ」

「…ふぁい」

 

何がどうしてそうなったのか。

娘の分だけでよかったのに、父親であるぼくの分まで蹄鉄を作成されることになってしまった。

たしかに、依頼人の話をよく聞いて、それに合わせた蹄鉄を作ってくれていることはよ〜く分かっているけれど。

 

「さ、どれがいい?」

「えぇ…」

 

目の前に広げられた試作品の山に思わず慄く。

本来の依頼人であるはずの娘に対する試作品よりもずっとずっと多いソレに、冷や汗が流れていくのを感じた。

 

「これなんかどうだ?耐久性もあるし、デザインもいいと思うんだが」

「う、うん……そうだねぇ……」

「よし履け。全部履け」

「ちょ…!?」

 

ぼくは正規の選手でない、ただの一般人なのに。

そりゃあ蹄鉄はよく壊しちゃうけれども、…ここまで熱意を傾けられるほどの人間じゃないのに。

 

「綺麗だな」

 

丹念にマッサージされる脚にひく、と震える。

…そういえば、いつからだろう?

 

「傷ひとつでも作ったら、」

 

───容赦しねェからな。

 

「わ、かってる、よ」

 

蹄鉄(作品)を『我が子』だというこのウマに、己が脚を『我が子』だと見られるようになったのは…。

 

───────

─────

───

 

…脚だけじゃあ、ねェっての。





ザンさん:
自身の作品を『我が子』と評する系【白の一族】お抱えの装蹄師。
作る蹄鉄はそのどれもがたったひとつの特注品であり、値段相応にそう壊れる強度ではない…はずなのだが【白の一族】自体の脚力がね〜…。
またホワイトバックは知らぬことだが、ザンさん自体も元はとても有名な競走バであったらしい。
…ま、【神賛】だからねぇ。

依頼人:
ホワイトバック。
ある時ひょんなことから出会った装蹄師・ザンさんに訳も分からぬほど気に入られ、気づけば自身の脚そのものを『作品(我が子)』として見られているのに気づいてしまった御方(なお脚だけかと言われると…?)。
でもザンさんの腕を信頼しているのは確かなのでメンテナンスに呼んだりしては…なのだとか。


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【白の大侠客】と若人


コンプリート!…ではあるけどフワッとした感じで書いてるんで、ハイ…。



世相がきな臭さを帯びていたその時、当時のトレセン学園生徒会長であったそのウマが『賭け競走(レース)』のことを知ったのは"一身上の都合"で学園を辞めていった後輩が同輩に漏らしていた言葉からだった。

 

いわく、その『賭け競走(レース)』の胴元に世話になるのだと。

自分は競走(レース)の才能はないが細々とした雑務をするだけでもいいと、男手が出払い、母ひとり娘ひとりとなって、学園を辞めざるを得ないほどに困窮した自分にその胴元が声をかけてくれたのだと。

 

「…そんな美味い話、あるわけないだろう」

 

だから、生徒会長たるウマは『賭け競走(レース)』の本拠地に乗り込んだ。

がしかし、

 

「…国の犬っころがなンの用だ?」

 

一応は学生のかたわら、国家憲兵として働く己が易々と引っ捕らえられ、胴元の前に引き出された。

光源のほぼない部屋の中、見下ろす目付きをする胴元は生徒会長であるウマよりもずっと歳上に見え。

ふぅ、とキセルで煙を漂わせ、吸ったそれをぷかりと吐き出して一言、「帰れ」と言った。

 

「テメェみてぇなボンボンが来るトコじゃねンだよココは」

 

そう言いながら、胴元は周囲にいた部下だろう面々に「離して、どっかにほっぽって来い」と指示を出した。

 

 

『賭け競走(レース)』の胴元、または【白の大侠客】とまで陰ながら噂されるウマの名は"シロノマガツ"という。

ヒト族よりも身体能力にすぐれるウマの中でも、生まれながらに大柄で力も強かったことと育った環境もあってか、成人したころには既にガラの悪い周囲をまとめあげ手腕を奮っていた。

シロノマガツ本人としては『人の上に立つ人間ではない』と下克上を積極的に推奨していたが、シロノマガツが考える以上にそのカリスマは強く、気付けば周囲の人間はみな心酔してしまっていたのだ。

故に、

 

「…また来たのか坊主」

 

自分を追い落とそうとする若いのが気に入って気に入って仕方がない!

己を『悪』と看做すなら勝手に看做せばいいのだ。

 

「テメェも暇なモンだなァ?儂に敗けるのが分かってるクセしてよォ」

 

自分を射殺さんばかりに睨みつける若造に嗤う。

巷が言うにゃ、『史上初の三冠バ』だとかどうだとかと騒がれているらしいが。

 

「…もうちっと濁の方も呑み込んだ方がいいと思うゼ?」

 

ぎゃあぎゃあと騒がしく老耄(自分)を讃える部下どもの声を聞きながら。

そう言って、にこりと笑えば…おお、怖い怖い。

 

「挑みたい阿呆から前に出な!この老耄が相手してやらァ!!」





【白の大侠客】:
シロノマガツ。
ホワイトインセイン・ホワイトノーマルの父であり、銀弾にとっては高祖父にあたる。芦毛。
生まれてから亡くなるまでずっと、治安の悪い地区一帯を取り仕切る大親分だった。
また【賭け競走(レース)】を取り仕切っていたのは、部下たちが揃いも揃って気が荒いため、発散場所を作らないとすぐにぶちのめし合いに発展するからである。

それはそれとして大親分が過ぎて、自分に逆らう骨のあるヤツがいなくて飽き飽きしていたところに現れた若造にゾッコンだったとか…?

若造:
トレセン学園の生徒会長兼巷で噂の初代三冠バさん。
学生でありながら憲兵として働いてもいるため、治安維持のために【賭け競走(レース)】を取り締まろうとしたら色々な意味でけちょんけちょんにされた。
そこから、もはや老境にいる【白の大侠客】に執着するようになり暇さえあれば競走(レース)を挑みに行っていたらしい。…が、それを【白の一族】で知る者は?

大正ごろから始まった血筋なんでね、この時代を生きている一族もいるよねって。


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危うい僕らの"ヒーロー"


『よかった』って、今日も笑う。



トロッコ問題やら1を切り捨て100を救うとかいう思考実験があるだろう。

それを考えると我らが父はトロッコを自分へ向かうように舵を切るし、100を救うために躊躇なく自分(1)を切り捨てる。

自分の影響力に何の自覚も、未練も、執着もないからこそできる決断だ。

そして、それは同時に僕らへの愛情でもあるのだろうけれど。

 

「……まあ、あの人がそういう人なのは今更ですが」

 

そう言って僕は苦笑する。

この家においてあの人は王であり、神である。

その言葉は、あの人が『黒』といえば白も黒くなり、そして、その白自身も父の言葉に呼応したように『黒』に変わる。

だからこそ、僕たちはあの人を慕い、尊敬しているわけだけど……。

 

「でも、今回の件に関してはちょっと……」

 

あの人の行動原理はいつだってシンプルだ。

それは『僕たちの為』ということ。

子どもたちのためなら何だってできる、と言えば聞こえはいいがそれは父自身が己の身の安全を確保できてやっと成立する話であって、それを度外視した無茶はしちゃいけない。

だが、

 

「無事でよかったよ」

 

自分の人気が、『アイドル』じみたモノだったのに自覚はあるにせよ、ここまでとは思わなくて。

それを咄嗟に庇われ、軽傷ではあるにせよ包帯やら湿布やらで肌とは別種の白に染まっている父に微笑みかけられた時、僕の胸中に去来したのは安堵ではなく焦燥感だった。

 

(ああ……)

 

この人に何かあったらどうしよう?という恐怖心。

そして、同時にこう思ったのだ。

自分がもっと強ければこんなことにはならずに済んだんじゃないかと。

小さい身体。

ずっと、大きいと思っていた体が今はこんなに小さい。

いや、自分が大きくなったのだ。

…大きくなった、のに。

 

「ああいう荒事には慣れてるからね〜。痛いのも慣れてるしヘーキヘーキ。逆にハイセイコに何もなくてよかったよ」

 

なんて、いつも通り笑う父の顔を見てると余計に情けなくなる。

守られるだけの存在であることが。

だから、決めた。

強くなろうと。

いつか、父が危ない時に真っ先に助けに入れるくらいに強くなってみせると。

そんな決意と共に僕は拳を握った。

 

 

反射的に体が動くのは、もはや癖だろう。

変なまでの危機察知能力が働いているのか、危機的状況に陥る前に回避行動を取ろうとするのは最早本能に近い。

ただ、今回ばかりはその判断は『受身』になることを選び。

 

「っ゛、」

 

衝撃を予想していたはいたが、現実に受けるとこんななのか…と空を見上げながら現実逃避。

視界の隅には呆然としている()()()()()()()()我が子と喧騒。

 

(体いったぁ…)

 

そして、───ブラックアウト。





僕:
シルバーバレット。
子どもが標的になると危機察知能力が庇う方向になるパパ。
なのでヒエッヒエになる子どもたちがいっぱいになる。
なお本人は『子どもが無事でよかった〜!』するばかりの滅私系パパなので子の心親知らずしている。
体重が軽いので吹っ飛びやすいし、また痛みに鈍い。
…だが、それでもニコニコと。


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酔いどれて、


仮面も取れて。



その日、【金色旅程】とシルバーチャンプが同年代のウマが集まる飲み会に訪れたのは誘いがアホみたいに毎回かかるから…というのもひとつの理由ではあったが。

 

「……せんぱい」

「ん〜?」

「…せんぱいはぁ、かっこいーれすねぇ」

「そりゃそうだろ。俺だぜ?」

「キャッキャッ」

 

隣同士で座った【金色旅程】とシルバーチャンプのふたりが酒を飲みながらそんな会話をしていた。

【金色旅程】の方は飲み・食べ放題というのもあって次から次へと飲み物を頼み、まるで水とでもいうかのように飲み干していたが、一方のシルバーチャンプはといえば…。

 

「ふにゃ…」

 

一杯目を飲んで、二杯目の半分…くらいで既に。

「まだいけますよぉ」と舌っ足らずの声では言うが顔は既に真っ赤だった。

そして酔うにつれて口調も崩れていき、今に至る。

 

「せんぱぁい」

「なンだ?」

「えへ、えへへ…」

「……眠いんなら寝てろ」

「いいんれふかぁ?」

「いつもそうだろうが」

 

ん、と慣れたように【金色旅程】が自分の膝を叩く。

そうすれば、また慣れたようにシルバーチャンプが自分の頭をそこに乗せて。

 

「せんぱい」

「はいはい」

「せんぱいのて、あったかくてすきれす…」

「そいつァよかった」

 

 

んあ?コイツ?

…あぁ、コイツ普段は俺の世話してくれっけど飲んだらいっつもこうでよ。

無茶してんなぁ…って思ったら大体いつもこうしてんだ。

コイツ、飲んだら甘えたでさ。

「せんぱいせんぱい」って、チビみてぇに甘えてくんの。

まぁ俺は普段あんましこういうこと出来ねェ分、こん時だけは存分にやってやろうと思ってんだけどよ。

……なんつうかさ、こういうコイツ見てっとなんか放っておけなくなっちまってさ。

ほら、コイツも頑張ってるわけだし。

だから俺が出来ることはしてやりたくなってさ。

……って、なに言わせてんだお前ら!!

言わせんじゃねえよ恥ずかしいな!!

 

「…しぇんぱい?」

 

…っと。

 

「も、おふとんれすか?」

 

いんや。

お布団はまだだよ。

だから眠っとけ。

 

「……んむ」

 

お前、歩こうとしても千鳥足になるんだからよ。

運んでやるから。

 

「…だっこ」

 

わぁってる、わぁってる。

……ってワケで、そろそろ帰るわ。

よっ…と。

 

「ん…」

 

そうそう、しっかり掴んどけよ。

落ちたら大変だからな。

んじゃ、今日はこの辺で。

ごちそーさん!

 

 

「せんぱい」

 

んー?

 

「ずーっと、おれと」

 

なかよく、して…。

 

─────。

 

「……っつたりめぇだろ、アホが」

 

えっちらおっちらと歩く。

抱き上げたその体は、今日も今日とてどこか軽く…。





【金色旅程】:
よわよわな後輩と共に参戦。
すぐにほわほわになってしまった後輩の世話をせかせかと焼き、そこそこ早めに帰った。
聞くに後輩と飲むと大体いつもこうらしい。
なお周りからの目は…?(あっ、察し)


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手にするのは…?


───さぁ、がんばれがんばれ♡(他人事)


「いい加減『答え』を出さなきゃ、刺されちゃうわよ?姉さん」

「ブッ…!?い、いきなり何を…」

「何をどうしても!」

 

その日、その姉妹は未だ茹だる炎天下を横目に、まぁそれなりに涼しい家の中で言い合いをしていた。

 

「私たちももう大人よ?いつまでも子どもじゃないんだから!!」

「そ、そんなこと言われても……お姉ちゃんにはそういう覚えがひとつも……」

「覚えがあるとかないとか言ってられないでしょうが!!このままじゃ本当に刺されて死んじゃうのよ!?」

「うぅ……、えぇ〜……????」

 

んな昼ドラみたいな…と呆れ半分信じられない気持ち半分で半目で見つめてくる姉に、妹も絶対零度の目で答える。

誰があなたに取り入りたい有象無象の相手をしていると思っているの?と。

私におもねってくるなら当の本人の方に行けばいいのに、と思ってもその当の本人がスカポンタンだから彼女が大切に、溺愛している妹である己をもって外堀を埋めようとしているのだと気づいてからはさらに苛立ちが増したものだ。

 

(…さすがに敬愛している姉さんと言えども)

 

何より腹立たしかったのは、この姉が自覚なく自分に群がる者どもを袖にしていることだ。

それは別に構わない。

だって自分含め家族は彼女の選んだ『彼女の幸せ』を願っているのだし、どうしようと彼女の勝手だし、そもそも自分が口を出すようなことではない。

だがしかし!

 

「姉さんには…誰が繋ぎとめてくれる人が必要だと思うの」

「んぇ?」

「だって姉さん、放っておくとお星様みたいに誰にも手が届かないところに行っちゃいそうだし」

「さすがの僕でもお星様には…」

「それを考えると繋ぎとめてくれる人は多ければ多いほどいいかもしれないわね」

「おっとぉ?」

「重しは重ければ重いほどいいと言うし」

「話の流れが変わってきたなぁ…」

 

考えをまとめる内に妹たるウマ娘は思い至った。

『別にひとりじゃなくてもいいじゃない』と。

この姉をたったひとりが操縦するなんて無理なのだ。

ならば数を増やしてしまえばいい。

そうすれば多少なりとも制御できるだろうし、最悪何かあったとしても全員で引っ捕らえてやればいいのだ。

そして話は続く。

 

「というわけで姉さんと共に在って大丈夫な方を厳選しようと思います」

「待っ、ちょっとまって??なんの話してるのかな???」

 

姉を求めてくる者は数多。

その中から選ぶなど到底不可能に近い。

故にまずはふるいにかけようと思ったのだが……。

 

「あー……うん、ごめんね?僕はその、あんまりそういうことは考えたことがなくて……」

 

困り顔の姉を見て、彼女は悟ってしまった。

ああ、これはダメだ、と。

 

「…なら、GOサイン出しておくね!」

「何の!?」





僕:
シルバーバレット(ウマ娘のすがた)。
クソボケ過ぎて、そのお鉢が溺愛している妹に向かっている。
またの名を『誰かが引っ捕らえてないと知らない場所に飛んでいく風船』ともいう。
なお本人に風船の自覚はないものとする。

僕の妹:
シルバフォーチュン。
無垢なる毒牙。
だが姉の僕よりはマシ。
僕に好印象を持ってもらいたい激重勢からよく接触を持たれるが、こっちもこっちで激シスコンなので『あらあらうふふ』しながらも見定めている。
でも僕がクソボケ過ぎて…(死んだ目)。


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天狼と!


案外仲よさそうだよね、って。



シルバーバレットは気のいい奴が好みである。

故にほんの時折ではあるのだけれど。

 

「シリウス〜」

「おう、どうした」

 

クラスメイトである彼女-シリウスシンボリに話しかけることがあった。

…とは言っても、シルバーバレットのそばには大概他のクラスメイト()がいたりしするので、頻度は決して高くはないのだが。

 

「んーとね……あ、そうだ!今日一緒に帰ろ!」

「……別に構わねぇけどよォ、アンタいつもアイツらと一緒に帰ってるんじゃなかったか?」

「いやぁそれがさ?なんか最近みんな忙しいみたいで」

「ふぅん。…へぇ、」

 

シルバーバレットの友人たちは生徒会長のシンボリルドルフ含め、どっちかというと後輩や先生に頼られやすい者が多い。

しかし、シルバーバレット当人はそうでもなく、どちらかと言えばそんな頼られやすい友人たちの、言っては悪いが"添え物"として傍にいることの方が…。

そういうシルバーバレットが自分から誘ったことに何かを感じ取ったのか、シリウスシンボリはその口角を上げた。

 

「なるほどなァ。ま、そういうことなら」

「ホント!?」

「だが、…その代わり」

「?」

 

 

「…僕がお邪魔してもよかったの?」

「だから頼んだんだろうが。ほら、見てみろよアイツらの顔」

「…うん」

「お前が思ってる以上にお前は有名だっつーことだ」

 

『一緒に帰る』という約束をした時、まだ日は高く。

帰るというには時間がいささか早すぎるだろうと交換条件に連れてこられたのはシリウスシンボリが面倒を見ている後輩の子たちの前。

どうやらトレーニングを見てもらいたい、とのようで。

 

「僕が?」

「…『負荷のかけ方』に関しちゃお前が一番だろ。体重管理とかそこら辺はアレだが」

「う……」

「おいおい、落ち込むなって。私だってその辺りの知識はあるつもりだし、何より私が教えてるのはまずレースに出るためのモンじゃなくてあくまで基礎の基礎、体力作りのためのメニューなんだぜ?むしろそっちを一番知ってそうなヤツ連れてきた方が早いだろうが」

「それは、そうだけど…」

 

なんか言いくるめられたような気がする…と考えながらも、教えることはまぁ苦でもないので頼られるままに教示する。

すると、やはりこの学園の生徒だけあって飲み込みはとても早くて。

 

(……これぐらいだったら)

 

もっと強くできるかも、と思いながら指導しているうちに時間は過ぎていった。

そして、夕方になり。

 

「よし、こんなもんかな?」

「あんがとよ。片付けまで手伝ってくれて」

「いやいや。…で、」

「ん?」

「この手は、ナニ?」

「一緒に帰るんだろ?」

「それは、そうだけどさぁ…」

「じゃ、行こうぜ」

「ハイハイ」





僕:
シルバーバレット。
シリウスシンボリとは仲がいい。
でも大概他クラスメイト()がそばにいるので中々交流を持てないだけ。
また自分の知識を惜しみなく後進に教えるタイプでもある。
まぁその理由は…お察しなんですけど。

【赫々たる天狼】:
シリウスシンボリ。
まぁ普通に僕とは仲がいい。
というか関わる機会が他より少なめなのでフラットともいう。
それはそれとして僕のことを犬は犬でも狂犬と思っているフシがあるとかないとか…?(大爆走する姿を見つつ)


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それは『望んだ』顔だったのか。


やっと、見てくれはしたけれど。



その系列は、レースの世界にひとたび足を踏み入れると『引退』という一区切りに辿り着くまで気を張り続ける。

いや、レースに関わることから少し離れて、オフや帰省などすれば少しばかりは気を弛めたりするが、けれど完全にユルユルになることはない。

それはどこか危機感に迫られる野生の動物のようでもあり、またある種の強迫観念にも似て……。

 

「…どうしたの?サンデー」

「いや、」

 

その話を知ると『なるほど』と思った。

自分と出会った当初のコイツは目を爛々と輝かせるばかりで表情はほぼ動かず。

「キミがはじめて出来た友だち!」と言いながら、事ある毎に関わってくる同期周辺の奴らのことを「知り合い」とだけ言葉少なに評する。

そんな態度も今となってみれば納得出来るものではあるのだが……しかし、

 

「なんか変なこと考えてるでしょ?」

「いんや別に……」

 

変なところで察しがいい。

そして妙に鋭い。

いわく、視線や言葉尻でそれとなく察することができるとかなんとか。

もはや探偵とかそういうのになれるんじゃねぇかな、とすら思う。

そして、その察しの良さを大して動かない表情の下で張り巡らせていたと考えると、…本人が気づいていない深いところまで理解されていることも有り得るのではないか、と。

だから、こんなにも手綱を握るのが上手い。

それまでは犬猿のように争っていたというのに、それとない関わりで気付けばまとめあげられて。

 

「お前、世が世なら国を裏で操ってそうだな」

「いきなりどうしたのさ」

 

……まぁ、それもこれも全部俺の勝手な妄想に過ぎないわけだが。

ただ、ひとつ確かなことは。

 

「なんでもねーよ」

 

コイツには敵わないということだけだ。

 

 

笑わないヒト。

誰も見ないヒト。

そう、認識されていた人間がある日突然感情を表に出して、また年相応にバカをやり始めたと知れば…ぐずりとした感情を抱く者は抱くわけで。

 

───自分の方がずっとキミとの付き合いが長いのに。

───どうしてソイツなんだ?

───歳下がいいなら、自分でもよかったでしょう?

 

そういった"ぐじゃぐじゃ"が渦巻き始める。

もちろん当人に直接ぶつけるような真似をするわけではない。

そういったものは胸の奥底に押し込んでおくものだから。

でも、それでも……ふとした拍子に漏れ出てしまうことがある。

特に、

 

「どうしたの?」

 

何も知らぬ本人が、ふわりと穏やかな顔を使()()()()してきたとなれば。

 

「……っ!」

 

思わず……してしまったとしても仕方がないと言えるだろう?

…冗談だよ。





僕:
シルバーバレット。
引退(それ)まではニコリともしなかった癖に。
引退してやっと気を弛めることができて、友だちも作り、楽しく過ごし始めたすがた。
その姿にぐちゃぐちゃの感情を抱かれているとは露とも知らず。
……まぁ、気づかない方がいいこともあるので。


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夫婦問答


家族から今日もニコニコ見守られている夫婦定期。

「あのふたりは、いつもあんな感じだよ。」
「…ちょっと、羨ましいよね」



「お前のヤキモチは、可愛いなァ」

「『ヤキモチ』なんて可愛いもんじゃねぇよ、悋気だよ悋気!」

「そうかい」

 

ゆるゆると、その白い喉を撫でながら夫たる男は思考する。

嫉妬をもって化生に転ずるのは女性…というイメージが何かと先行しがちだが男性も、そう変わらないのではないかと男は思うのだ。

惚れた欲目を抜きにしても男の妻である女は美しい。

黙している時はまるで幽玄のようなのに、ひとたび声を発すると烈火のごとく。

苛烈で、触れるだけで火傷しそうで、…それでも触れずにはいられないような魅力がある。

そんな妻だから、彼女のことをよく知らない人間のことを思うと余計に心配にもなるだろう。

この綺麗な生き物は自分のものだと叫びたくもなるだろう。

……まぁ、当の女本人はそういった視線や感情など歯牙にもかけていないようだけれども。

 

「余所見して、どうしたんだよハニー?」

「おいおい、そこは俺がハニーって呼ぶとこだろ」

「本場ではどっちでもいいらしいぜ?それが」

「へぇ。そりゃあ知らなんだ、ダーリン?」

「…………」

「なんだい俺のダーリン?言い出しっぺのくせに照れてんのか?」

「うっせー!もう喋んな!!」

 

顔を真っ赤にして喚く妻の姿が可愛くて仕方ない。

何度愛を囁いても変わらず初心な反応を見せる彼女が愛おしすぎて困るくらいだ。

きっと。

世の男共なら、こうして睨まれただけで震え上がったり狼狽えたりするのだろうが。

『愛』と、言葉ばかりの情念に呑まれてしまった我が身では、それすらもちょっとした機微のひとつに等しい。

"いとしい人"を構成する、あまたのひとつ。

そう思えばこそ、己にとってコレもただひたすらに甘美なものとなるのだ。

 

(まったく。こんな気持ちになるなんざ思ってなかったんだがなァ)

 

いつの間にか随分と深みにはまっていたものだ。

それもこれも全てはこの女のせいだと考えるも、そうなるようにしたのは自分か、とも思考する。

 

…はじめに『欲しい』と願ったのは自分で。

それに応えてくれたのが彼女。

 

彼女なら、自分以外にも選り取りみどりだろうに。

どうしてわざわざ自分に手を伸ばしてきたのか。

その理由を問うたことはないが、おそらく彼女はこう答えることだろう。

 

───だってアンタが一番真っ直ぐだったから。

 

そういう奴なのだ、この(ヒト)は。

取り繕うこと(ウソ)が嫌いで、その身に宿る気持ちが綺麗でなければ綺麗でないほど、幼子のよう手を叩いて喜ぶ。

 

「綺麗事なんて、信じられるか?美辞麗句なんて、誰でも言える言葉だろう?」

 

にぃ、と笑いかける様はゾッとするぐらいに。

それでも、

 

(…俺もどうせ同じだろうし、そうじゃなくても)

 

俺たち、夫婦(めおと)だし。…なァ?





夫婦:
光今井パパ&白百合ママ。
今日も仲良し。
何だかんだ夫婦共に嘘は嫌いそう。
なので基本ストレートにデッドボールしてるし、それを双方難なく受け止めている。
受け止めつつ「おも〜!」とケラケラ笑ってる、みたいな。
…これが、この親にしてこの子ありって奴?


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何もかも、好きになって


こんな筋肉バキバキな時点で可愛いもクソもないだろ、をコンセプトに。



ウマ娘という種族は見目麗しいものが多いので結構な頻度でモテる。

それはトゥインクルシリーズや芸能界など露出の多い業界に身を置いているならなおさらで。

 

「そこに家柄とかもプラスされちゃうもんなぁ」

 

煌びやかなパーティーにて、随分なお値段がする(らしい)ドレスに身を包んだ僕をチラチラと見てくる男性陣。

その視線には様々な感情が込められているけど、一番多いのは『興味』だね。

まあ僕の見た目はまだ子どもだし、それに何より……。

 

(あの"グローリーゴア"の付き添いだからねぇ)

 

遠目で見た親友-グローリーゴアは人に囲まれて大変そうで。

いちおうは壁の花でいる僕だけど『はやくこっちに帰ってきてくれないかな』とか思っちゃったりする。

 

「スー」

「あ、おかえり」

 

そんなことを考えていると噂をすれば影ってやつか。

少し疲れた様子の親友が帰ってきた。

 

「おつかれさまー……じゃなくて、ごめんなさい?」

「いや、いいよ別に謝らなくても。どうせ僕はこういう場だと浮くし……」

「そう? 僕は似合ってるとおも……なんでもない」

 

ちょっと小っ恥ずかしいことを漏らしてしまった自身の額に手を当てる。

でも本心だから仕方がないよね!

…うん、自分で言っておいてアレだけど恥ずかしいなコレ!?

 

「ふぅん? へぇ~? ほぉ~?」

ニヤリとした笑みを浮かべながらこちらを見つめてくる親友。

この顔をしている時の彼女はだいたいロクでもない事を考えているのだけれど。

 

「……それで、何か収穫はあった?」

「えっと、そうだね。いくつか面白い話は聞けたよ」

 

そう言う彼女の顔はとても楽しげだった。

きっと今回のパーティーに参加した甲斐があったんだろうと思う。

 

「じゃ、帰ろうか」

「うん」

 

 

いくらウマ娘が見目麗しいといえど、

 

(この体を見たら大概の人が引くんだよなぁ…)

 

曲がりなりにもバリバリのアスリートの体は可愛いというよりかは…『イカつい』の一言に限る。

それもゴリゴリの上位層の肉体なのだから当然と言えばそうなのだけども。

 

「……どうかした?」

「ああ、いや何でも無いよ。それより早く帰ってゆっくりしよう!」

「……?」

 

自分よりは華奢で、愛らしい体の腰にそっと手を添える。

血筋からか、それとも己が欲目か、どうにも隣にいる彼女は他人の目を惹くので。

 

(…じろり)

 

話しかけようと機をうかがう不躾な視線を向けていた周りに(プレッシャー)を向ける。

 

「グローリー?」

「…うん。ほら、行こうか」

「ん」

 

浮き足立つのもそろそろ止めにせねばと思うが。

 

(そうなってしまうくらいに、幸せだから…)





【戦う者】:
サンデースクラッパ。
実はさりげなく思った以上に高価なものを貢がれてる系ウッマ。
また服の下の鍛え上げられた筋肉を見ても『凄い凄い触らせて?』ってなるタイプ。
ちな【戦う者】も華奢に見えて脱ぐとすごいのだ。

【栄光を往く者】:
グローリーゴア。
体格含めて圧の塊。
懐に入れた相手にはすこぶる尽くしたり何だりするが、それにしても【戦う者】相手には露骨も露骨(だが気づかない当人)。
なお毎日毎日【戦う者】に近づいてくる人々を見ては『にっこり』する日々。
…"僕の"だって。


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とおい場所にて


また会いましょう、と幽かに。



天から墜ちてくる星の欠片を墓標とするのなら、僕が墓標にするのは勝ち取った栄光そのものなのだろうか。

 

"いつか終わりがくる"。

 

その変わりようもない事実を理解してはいても、受け入れることはそう…簡単ではない。

破滅の時を怖がって抱き合って祈るも、どうせ"いつか"は至り来たる場所なのに。

 

手が伸ばされ、触れられている。

『こっちへはやくおいで』って、やさしく呼ぶ声が。

その声に導かれながら、『それではみなさまご機嫌よう!』と手を振る。

『天国で会えるといいね』と囁いた声ももはや遠い。

 

ずっとずっと、呼ばれていたのだ。

『おいでおいで』と、楽しくいようと。

煩わしかったり、悲しいことなぞ何もない場所で。

急がなくても、走らなくても辿り着ける場所に。

 

そうであるなら、"祈り"の届く場はどこだろう?

黙して祈れども、届く場所はどこなのか。

どこにも届かぬのなら、それは───。

 

「ご機嫌よう」

 

 

声すら届かぬほど遠く。

なれば手が届かないのも道理で。

その背に滲むのは汗か、それとも。

追っても追っても追っても、指先ひとつかけられない。

背が進むごとに、道はどこまでも続いているというのに。

先導する者がいないといけない、とでも言うように。

この手をすり抜けていく。

なお離されていく。

どれほど離れれば気が済むのか。

どれだけ離れてしまえば諦められるのか。

果てなど見えぬまま、ただひたすらに追い続ける。

 

極光が目を焼く。

それまで見えていたものが、色褪せてしまうほどに強く。

モノクロになって、極光の中でただその()が鮮烈で。

 

…ああ、あれだ。

あの背中を追いかけていればいいんだ。

追いつこうとして必死になる必要なんてなくて。

ただ追いかければいいだけなんだ。

そんな簡単なことに気付くまで随分時間がかかってしまったけれど。

()()()()間違えずにいられたかな。

だから、どうか。

 

(とど、いて…)

 

 

そこにあるのは、ありもしない【偶像】だ!…と言っても、魅入られている本人にその気がないのならそれはどうしようもないことで。

でも、『どうしようもないこと』と諦めたくなくて、諦め切れなくて。

たしかに、あの【偶像】は常人である僕らの目すらも焼き焦がすモノだけど。

嫉妬や薄暗い気持ち、その他諸々。

その総ての起点があの【偶像】だと考えると思わずため息のひとつぐらい…出るというもので。

 

「毒にも薬にも、なりやしないくせに」

 

ボヤく声も意味はない。

だって、その言葉を聞くべき者は…。





手をヒラヒラ振って、待ってるの。
では、みなさま。

───よき███を。


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瓜二つ


自覚は無いけれど。



「こんにちは、スクラッパくん」

「こんにちは、おじ様」

 

フラフラと屋敷の中を逍遥し、やれることがあれば手伝ってを繰り返していると、この屋敷の元(あるじ)である"おじ様"に出会った。

 

「お茶でもどうだい?」

「はい、是非!」

 

この家の方々との関係はとても良好だ。

初対面のときは()()()()()()()()()()()を見た顔をされて『僕、これから大丈夫かしら』と不安になったけれど、そんな心配は杞憂だった。

 

「おじ様、お茶菓子を御持ちしました」

「ありがとうスクラッパくん。いつも助かっているよ」

「いえ、僕の方こそお世話になりっぱなしで……」

 

お茶を淹れてお菓子を出すと、"おじ様"は嬉しそうに笑ってくれる。

みんな優しいし、本当に良いお屋敷だ。

ただ、…時折こう思うことがある。

 

(…僕って、そんなにパパに似ているのかなぁ?)

 

僕には育ての親である『お父さん』と、生みの親である『パパ』がいる。

いや、この歳になったからには『パパ』呼びは卒業してちゃんと呼んでいるが内心だけならこの呼び方でも…まぁ構わないだろう?

それはそれとして。

いわく、僕は『パパ』の若いころにソックリなのだという。

『パパ』は忙しいから年に数回会う程度だったが、母いわく「年々似てきてる」とのことなのであながち間違いではないのだろう。

 

「おじ様、僕ってそんなに似てます?」

「…あぁ、そっくりだよ。まるで若い頃の、」

「……そう、ですか……」

 

嬉しいような悲しいような、複雑な気持ちだ。

 

(僕、本当に『パパ』とそっくりなの?)

 

『パパ』とはあまり会わず、ほぼ『お父さん』に育てられたようなものだから、余計にそう感じてしまうのかもしれない(そもそも『パパ』自体がおもてに出てくるような人でもないとか)。

そんなことを、考えていると。

 

「スク!」

「うおっ!?…なんだ、どうしたの?そんなに急いできて」

「ゼェ…ハァ……」

「ガチじゃん。…えっ、ちょっ、待っ」

 

やって来たグローリーゴアにそのまま連れ去られてしまった。

お暇の挨拶ぐらいさせてくれよ…。

 

 

我が子が家に引き入れたいウマがいる、とその子を連れてきたとき思わず目を見開いた。

それほどに、その子は…似ていて。

目の色と話し方は違ったけれどそれ以外は。

 

「えっと、あの…よろしくお願いします?」

 

我が子と仲良くするその姿は、かつての自分たちの"If"を見ているようで。

時にはふざけ合い、時には喧嘩したりなどして最後には笑いあう。

 

「…いいなぁ」





【戦う者】:
サンデースクラッパ。
実は史実√だと実父と疎遠だったりする。
なので一応は実父を『パパ』と呼んだりしているが、どっちかというと育ての親である【電撃の差し脚】の方が父親という意識が強い。
まぁ自分以外の兄姉全員父【電撃の差し脚】だからな…。
でも実父を知る人々からは『実父そっくり』と言われまくる運命の元にある模様。


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夢のまた夢


この世界ではL'Arcシナリオの実装と共に育成実装されとるんやろなぁ…。

またそれはそれとして、【戦う者】の感想、もしくは【戦う者】の背を見ての他ウマの感想は、白峰おじさん当人、白峰おじさんの背を見た他騎手の感想と同じものとする。


僕が世界一に(もっと強く)なれば、貴方は戻ってきますか。

───もどってきて、くれますか?


本来は、蓋を()()はずの『夢』だった。

 

『連覇達成!勝ったのはサンデースクラッパ!』

『今年もこの大舞台、凱旋門賞を制し日本の、世界の歴史に残る偉業を成し遂げました!』

 

「……」

 

流れ落ちた汗を、手で拭う。

喜ぶべき、だろう。

『普通』は。

けれども。

 

("こんなの"で、いいんだろうか)

 

"あの背"が制したレースが、こんな簡単に連覇できていいものか。

こんなにも…()()()()()いいのか。

 

(…ちっちゃい)

 

『サンデースクラッパ!この強さは本物だ!』

『絶対王者として、世界の壁すら打ち砕いてみせました!

天の"かの背"にも高らかに届いていることでしょう!!』

 

歓声が、遠く聞こえる。

 

(…………)

 

凱旋門賞。

その舞台で、僕は二度目の勝利をもぎ取った。

 

「お疲れ様」

「ありがとうございます」

 

トレーナーがタオルを持って駆け寄ってくる。

ふたり、言葉少なだ。

まるでそれは、それが当然だとでもいうが如く。

淡々と、淡々と。

するべき対応をして、するべき会話を交わす。

 

「いいレースだった」

「はい」

「次は、」

 

──BCクラシック。

 

「……分かりました」

 

 

誰も見ていない目だった。

 

『サンデースクラッパだ、サンデースクラッパだ!2番手以下は…もう追うこと()()許されていません!!』

 

あるのは、ただ背のみ。

誰よりも一番早く飛び出していって、置き去りにするソレのみ。

競り合うことすら、出来ない。

()()()()()

 

『これは紛れもない大差だ!強い、強すぎる!サンデースクラッパ圧勝!』

『"()()()"に続かんと、そのチカラをいま私たちの前に示しました!』

 

茫洋とした背だった。

こっちが空しくなるぐらいに何の感慨もない背。

『一生に一度の栄光』とは、なんだったのか。

 

『サンデースクラッパ!今、ゴールイン!!世界の壁すら打ち砕いてみせました!!』

 

何もかもが、遠い。

 

 

「…本当によかったの?」

「いいって、言ってるでしょう?」

「……」

 

その名バをこの国に引き留めることができたのはひとえに、その名バと宿敵(ライバル)と相成ったグローリーゴアの存在が大きかった。

他の人間が説得したのなら決して首を縦に振らなかっただろう。

 

「日本に、未練はなかったの?」

「ないよ」

 

あっさりと、その名バ-サンデースクラッパは言った。

 

「家族と会えないのは少し悲しいけれど」

「…」

「あれだけ、熱烈に口説かれたら…ねぇ?」

 

するりと尻尾を寄せればキツいぐらいに相手の尻尾が巻き付けられるのに苦笑する。

それはそれとして、

 

(ライバルがいると強くなれるってのは、本当だったな…)

 

そんなことを考えて、

 

「ね、グローリー」

「ん?」

「僕…キミと会えてよかったよ」

「…そう」





追うこと()()許されなかった"かの背"から、
追うこと()()許されない自身へ。

【戦う者】:
サンデースクラッパ(現実でL'Arcシナリオ完遂したすがた)。
"かの背"が出来たはずで、出来なかった連覇を代わりに。
主な勝ち鞍:
日本ダービー.凱旋門賞.JC(1995)
宝塚記念.凱旋門賞.BCクラシック(1996)…etc.

SS初年度産駒の怪物。芦毛。
無敗の凱旋門賞2連覇バ。
大逃げ獲得済み。
多分この世界線では走ることを『楽しい』とは思ってないし、食べることも義務って感じだと思われ(本人が一番重圧自分にかけてるんだ)。
だがBCクラシックに出るまでは皆に平等、【領域(ゾーン)】無しの単純明快な実力勝負だった模様。
しかし、見ているのは"かの背"だけ…のはずだったが?

現実でL'Arcシナリオした。
"かの背"の半きょうだいということでまずは人気を獲得し、そこから自身の圧倒的な強さでファンをつけた。

でも鞍上であったおじさんから「え?この子は本質的にダート馬ですよ?」されたり、遠征先で口説き落とされた結果残留して、遠征中ライバルとなった無敗三冠馬との間に父.母父配合として
誰もが夢見たヒーロー(Mr. Dream Hero)】を生み出したりするんだよなぁ…。

んで、なんか気を許している人以外の塩…というか無の対応とかそういうとこ半きょうだいの"偉大なる背"さんにそっくりそうだなって()。
でも【栄光を往く者】のことは初対面(初レース)でライバル認定したらしい。


【栄光を往く者】:
グローリーゴア。
どの世界でも【戦う者】に魅せられる系無敗の三冠バ。
なおこの世界では、誰にも競り合われたことのなかった【戦う者】に競り合うどころか一瞬抜いたこともあって初っ端から「キミに会えてよかった!」「これで僕は…もっと強くなれる」と恍惚の笑みでライバル判定されて(見てもらって)いるとか…。


日本の皆さん:
どうして…。
またトレセン学園入学時点で【皇帝】やら【ターフの演出家】やらが激励というか会いに来てるというか…。
とりあえずSS初年度産駒組はみんなアッツイ視線()向けてそう。
ちな観客の皆さんも皆さんで大概脳焼きされてるし、そして相対的に爆上がりする父SS&繁殖牝馬としての【白百合】ママや【銀色の運命】等の評価。
これには████████("かの背")もにっこりのようです。


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広くなった箱庭


静謐。



「あ〜」

 

子どもたちがお弁当日のプリントを持って帰ってきた。

その渡されたぶん束になったソレを別のところに置きながら『仕込みしなくっちゃ』と思考しはじめる。

はじめは炊飯器も冷蔵庫も普通のものだったが、家族が増えるにつれ両方業務用になって。

今ではすっかり慣れたけど。

 

「ううん、壮観」

 

早起きして、仕込んでいたものをテーブルの上に並べられている色とりどりのお弁当箱に詰めて、冷ます。

そうしているうちに起きてきた子どもたちがそれぞれのお気に入りの場所に座っていく。

 

『おはようございます……』

『おーい、起きろよ〜』

 

眠そうな顔で目をこすっている子や朝から元気いっぱいの子も。

それでもテーブルの上に広げられたお弁当箱の群れを見止めると一斉に目がキラキラしだすのだから思わず笑ってしまうけど。

 

「はいはい!みんな席について!」

 

パンッと手を叩いて声をかけると全員が慌てて自分の場所へと座る。

そして各々ご飯を食べ始めるのに「食べ終わったらお弁当箱包んでね〜」と告げ、洗い物を始める。

するとすぐにお腹一杯になり満足したらしい子どもらが食器を流し台まで運んできてくれるのだが、それがまた可愛いのだ。

 

「ありがとう〜偉いねぇ」

 

褒めると嬉しそうにはしゃぐ姿もまた愛くるしい。

 

「いってらっしゃい」

 

 

思えば大変な頼みごとをしていたんだろうなぁ、と"使う"よりも"空く"ことの方が多くなった冷蔵庫を見やる。

あれだけいた家族も、ほとんどが自立して久しく。

あれだけ騒がしかった家も、太陽の登っている内は変わりがなくとも、日が沈めばひっそりとして。

でも寂しさはない。

だってあの人は今もここにいるもの。

 

「ただいま帰りました」

「あぁ、おかえり」

 

ギョッとするぐらい、真っ白な着流しが似合うその人。

近くでようよう見てやっと、老けていることが分かるその人は、今日も幼い子らの面倒を見ていたようで髪が少しばかりボサボサだった。

 

「…ご飯、どうですか?」

「ん〜?あぁ、作ってあるから食べていいよ」

「いや、」

「僕は作る途中につまんだからだいじょーぶ」

 

ヒラヒラと手を振るさまは、どこか霧のよう。

元から薄かった体つきとか雰囲気が輪をかけて…。

 

「ちゃんと寝てくださいね……」

「分かってるよぉ」

 

いつものように笑う姿に、それ以上何も言えなくて僕はキッチンへと向かった。

もうずっと前から、こうなのだ。

僕が家を出てすぐの頃はまだ良かった。

まだたくさんの家族がこの家に暮らしていたから。

けれど。

 

「お風呂も、ちゃんと入るんだよ」

「…はい」





家:
だいぶデカい。
なので家具なども必然的に多い。
がしかし、最盛期を過ぎてしまえばどこか寂しいくらいにはひっそりとしてしまっており。
故にたったひとりで暮らすには、大きすぎる場所に…。

───まぁ、ひとりには慣れてるけどさ。


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やさしいうた


荒々しさの欠片もなく。



パチパチパチ…。

反射的に、本能的に、拍手をしてしまうと「いつからいた!?」と先輩に詰め寄られた。

 

「多分…歌い始めから?」

「言えよ!!!!」

 

どうやら恥ずかしかったらしい。

顔も耳も、首まで真っ赤にした先輩に「天使みたいでした」と率直な感想を述べればアイアンクローをキメられ。

痛いですと言えばパッと離されて、その隙に距離を取る。

 

「あーもう!帰るぞ!」

 

そう言って歩き出した背中を追いかけて横に並べば、少しだけ歩調がゆっくりになった気がする。

こういうところは可愛いんだよなぁ…なんて思いながら、「今日のご飯アレが食べたいです」とかリクエストを。

 

「…お前な」

「いいでしょう?」

「はァ、」

「ひとりにするとろくなモノ食べない先輩が悪いんですよ」

「わぁったわぁった」

 

先輩は、歌わない。

いや、さすがにウイニングライブ等ではちゃんと仕事をこなしていたようだが舞台を離れると、とんと。

鼻歌すらも歌わない徹底ぶりに最初は驚いたけれど…。

 

(本当に、)

 

綺麗だった、と思う。

きっと、あんな感じに歌って、あやしているんだろうなぁと暮らしを感じさせるような歌声。

 

「いいですね」

「何が」

「先輩の歌であやしてもらえるの」

「お前…なに歳下に」

「だって羨ましいんですもん、本気で」

 

ちょっと辛めなカレーに舌鼓を打ちながら言えば、先輩は苦笑しながらスプーンを置いた。

 

「オメー、もう食べ終えてんだろ。皿浸けろ」

「あ、はい」

 

そんなこんなで。

先程の話も忘れたように、ぼうっとテレビを眺めていると「飽きた」と電源が落とされ。

 

「ん」

「…なんです?」

「寂しんだろ」

「へ?」

 

ほら、と広げられた腕にどうすればいい?と固まっていればそのまま引き寄せられて抱き締められる。

 

「せ、せんぱい……」

「今日だけだかんな」

 

ぽん、ぽん……と背を叩きながら優しく撫でる手つきに気づけばゆるりゆるりと、微睡んで。

心地好さに身を委ねるように目を閉じれば、頭上からクスリとした笑い声が落ちてきた。

 

「寝たか?」

「……ねむくなんかないれす」

「嘘つけ、呂律回ってねぇぞ」

 

ふわりと笑う気配と共に頭を撫でられ、「担ぐぞ」なんて言葉と共にぐわんと視界が上がるもそこで目が覚めるなんてなく。

 

「…おやすみ」

 

 

下のきょうだいも時々こういう時があったなぁ、と考えながらシャワーを浴びる。

後輩は元より甘え上手だけど、今日の甘えは…何だかいつもと違った気がしたから。

 

「俺の歌なんざ褒めるの、お前ぐらいだよ」

 

…あ、ちゃんと髪乾かさねぇと。





先輩:
シルバアウトレイジ。
必要にかられないとしないだけで歌は普通に上手い。
けど意識をちゃんと切り替えないと幼い頃から下のきょうだいにねだられて歌っていた頃の癖が消えずやさしい声になってしまうとか。
…でも褒められたのは満更でもないらしい。

後輩:
【飛行機雲】。
甘えるのが上手いし、甘えている風に見せてひとりだと生活を疎かにする先輩の手綱を握っている。
少しずつ少しずつ、先輩のことを知れるのが嬉しい。
…ね?可愛い後輩でしょう?


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"いつか"


いつでしょうね?



「いいよぉ。じゃ、走ろっか」

 

長期休みということで実家に帰り。

その中で父に自主トレの相手を頼むと、こころよく了承をもらえた。

自分ももうクラシック級。

だから、少しぐらいは父に──『本気』を出して、もらえるかと、

 

「はい、いったん休憩ね〜」

 

思ったの、だけど。

冷たい飲料やタオルが入った保冷リュックを背負った父の方が、何も持っていない自分より負荷がかかっているはずなのに。

そもそも、父と子という不可逆な年齢の差があるというのに。

 

「…あらら、ちょっと飛ばしすぎたかな?汗も息もすごいしアッチの木陰に行こうか」

 

父は、ちょっと汗を垂らすだけであとは平常。

一方、自分はといえば息も絶え絶えで、汗もかきまくって、立ち上がることすら覚束なく。

木陰まで肩を貸してもらって移動して、そこに座るとスポーツドリンクを手渡される。

それを飲んで一息つくと、今度は汗を拭うから、と言われ……さすがにそれは恥ずかしかったけれど、抵抗する体力もなく素直に従うことにした。

 

「キミは本当に頑張り屋さんだねぇ」

 

そんなことを言いながら自分の体を拭く父の顔には、いつもと同じ笑みがあって……それがなんだか悔しくて。

でも、それ以上に嬉しくもあって。

この人はきっと、子どもである僕らに期待しているんだろうなって思って。

……いつか、追いついてやる!

なんて意気込みながらも、いつも以上に疲労してしまったことと、日の照りが強くなってきたこともあり申し訳ないながらも迎えの車を頼んだのだった…。

 

 

この歳になって、現役も引退したというのに。

体を鍛えてどうするのか、と自問自答しても止められやしなくて。

いつも通りの道を、いつも通りのスピードで、走る。

ただそれだけのことだというのに、心が躍る。

…ああ、やっぱり僕は走ることが好きなんだなぁ。

そう再確認しながら走っているうちに、ふと考える。

 

(そういや、現役の時よりも走る量増えてる、か…?)

 

いつでも()()()()()ぐらいの負荷で調整しているはずだけど。

思い返せば思い返すほど、本気で走っていないとはいえ走っている量が多い気がしてきた。

まあ、その分トレーニングは軽めだし、ストレッチだってちゃんとしているから問題はないんだけど……んー、なんだろう、この違和感。

何かを見落としているような感覚があるんだよねぇ。

……うん、まあいいか。

それよりも今は、目の前にある世界に集中しよう。

 

 

いつかを待って。

いつかのために力を溜めども。

 

「それって、いつ?」





僕:
シルバーバレット。
まだまだフツーに強いし、何気なく考え直してみれば現役時代とさほど変わりない強度でトレーニングしているウマ。
自分でももうちょっと楽にしてもいいかも…と思っているが強者を求める本能がね…。
だってさぁ、もしさぁ、自分と対等になれる"誰か"が現れたとして。

───少しでも、『後悔』が出ちゃうような(からだ)じゃさぁ。


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可愛いものには貢がせろ!


本人が無頓着過ぎるんすよ…(でもそれなりに様になるのがさぁ)。



我が妹ながらというか、我が一族の女性はだいたいこうなのだろうか?

年を経るごとに美しくも、また魅力的になっていく容姿に、「冷えるよ」と持ってきていた上着をかけてやりながら。

 

「兄さん、どっちがいいと思う?」

「どっちもいいと思うけど?あ、どうせなら両方買ってあげようか?」

「ダメだよ!この前だって…!」

 

ふたつ、服を見せられるがそもそも服に興味がないため「僕の妹可愛いなぁ」としか思えなくて。

それゆえ貯まりに貯まっているお金を可愛い妹に貢ごうとすれば止められて。

 

「どうして?」

「だって、おうちも家電も兄さんが全部用意してくれたじゃない!自分はその…趣のある場所に住んでる癖して!」

「ああ……」

 

いやでもさぁ。

卒業してまで実家暮らしってのは体裁悪くない?

んで、引退したからにはこんないいセキュリティの家じゃなくていいやと元々住んでいたマンションを引き払って引っ越したわけだし、それに僕は別に自分の趣味で住んでるだけだし……。

まあいいか。

 

「じゃあ今日はコレ買ってあげるね」

「もうっ!!」

 

ぷんすか怒っている妹の頭を撫でつつ、そういえば今度、親友と一緒に遠出する約束をしていたんだったと思い出す。

 

「なぁ、ちょっと休み取れたらさ」

 

確かそんなことを言っていた。

ならば僕も服を買わねばならんよなぁ、と考えるも僕にはセンスがない。

だから結局いつも通りの当たり障りないものになるんだろうけれど。

 

「他にどこか行きたいところは?」

「うん、あのねー……」

 

楽しげに話す妹を見ながら、やっぱり美人だなぁとしみじみ思うのだった。

 

 

着たい服を着ればいいんじゃねぇの?

 

そう言えば、親友は顔を明るくした。

まぁ元々が無意識下で自分の体格諸々含めて似合うものなんてない、と考えているようなウマだから余計だろう。

 

「お前はそのままでも十分だし」

「……そうかな」

「おう」

 

実際、こいつは顔立ち自体は整っていて。

ただ身長が随分と低いもんだから子どもみたく見えてしまうだけで。

それに無邪気な笑みがいっそう…。

 

「行こーぜ」

「ん。ね、どこ行くんだっけ?」

「お前が行きたい場所でいいよ」

 

ぶっきらぼうで。

それでいて気にせずにはいられなくて。

歩幅の違う友をチラチラと伺ってしまう自身に思わず嘆息する。

がしかし。

 

「楽しいね!」

「…おう」

 

お前がそう言うなら、それでいいかと。

「置いてかないで〜!」と掴まれた手をぎゅうと握りしめれば、少し、手汗で湿った気がした。

 

「……どっかで涼みてぇ」

「そうだね〜」





僕:
シルバーバレット。
自分にはさほどお金をかけないのに周りにはめちゃくちゃ金をかけるタイプ。もしくは貢ぎ癖◎?
また体格が体格なので年相応に似合う服が中々ないし、物持ちもいいので買ったりもあまりしない。
でもどっちかというとシンプルでゆるっとした服が好きだとか。


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"カミサマ"はいない


──██(××)だけが、待っている?



世界をぐちゃぐちゃにされたくないからって、流石にこれはねぇ…『運命』とやら。

 

「…」

 

見つめる先には、ヒラヒラと揺れるズボン。

今生、産まれてから()()()()()()()

抱き上げられねば這いずることしかできず、また移動も満足にままならない。

ウマとして生まれたというのに(決してダジャレではない)走れないとはこれ如何に。

 

「よい、しょっと」

 

レバーひとつでそこそこ動く車椅子に揺られながら、ボーッと散歩に出る。

何を家族に言わずとも、ちゃんとGPSを着けられているし、向かうにせよ行く場所はどうせ決まっている。

 

「お父さん」

「おう」

 

ガタゴトと向かった先はそう、父のいる場所。

今日も今日とて趣味の菜園(というよりはそこそこの規模の畑)の世話をしている。

 

「暑いだろ」

「なので色々持たされたよ」

「そうか。おら、帽子被っとけ」

「ぅ、」

 

母に持たされた保冷バッグからキンキンに冷えたスポーツドリンクを手渡し、チビチビ飲む僕とごくごく飲み干していく父の対比が運動量の差なのだろうな、と。

 

「ん、帰るか」

「いいの?」

「お前帰したらもう一回行くからいンだよ。お前が熱中症になる方が怖い」

 

 

ずっとずっと、待ち望んだ我が子には───脚がなかった。

"あの日"、親不孝にもいなくなった我が子。

その子にようやっと"再会"できたと思えば、ふにゃあふにゃあと泣くその脚は。

けれども。

 

『こっちの方が、いいのかもしれない』

 

そう、呟いたのは義父。

確かに、"あの日"のことを考えるとそもそも()()()()方が。

義足を付けようにも、この子の脚力ならどうせ、どんなに高級品を与えようとも簡単に壊すだろうし。

それに何より、もう二度と、あんな思いはしたくなかったのだ。

 

「おはよう、父さん」

 

寝起きで、ふにゃ…と笑う子が抱っこを求めてきて。

それに応えて抱き上げた体は軽い。

 

「今日は何する?本読むか?」

「うん!」

 

元気よく返事をする子に笑いかけながら思う。

───幸せだ、と。

 

 

今生では、おだやかに過ごしている。

家族も町の人も、いい人ばかり。

というか、"前"に行き着くところまで行き着いてしまったから今は()()なのかな?って考えてしまう部分もある。

"前"、あんなに無茶苦茶したんだからいいでしょ?って。

もしくは、『走りたい』という気持ちを一緒に()()()()()()、とか。

 

「…なんて、ね?」

 

カラカラと車椅子が動く。

さぁ…と撫でる風が髪を揺らし、服を揺らして。

 

「……帰るか」





僕:
シルバーバレット。
走り切って、走り終わって。
『幸せ』を享受している。

家族:
今度こそ、ずっと一緒に。
『幸せ』に。

周り:
探し回っている。
魅せられて、焼き尽くされてしまった皆々様。
ですがその眼前に差し出されるのは…?


───ほら、『幸せ』でしょ?


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まがい物の夢


ずっとずっと、瞼の裏に。



声をかけられた。

初対面であるというのに、ひどく切羽詰まった声だった。

熱烈に、痛いほどに手を掴まれ。

今にも大粒の涙が零れ落ちそうな瞳で真っ直ぐに。

その目を見て、僕は何となく「漫画の主人公みたいなヤツだなぁ」と、どこか現実逃避じみたことを考えては「痛いから力をゆるめてくれ」と言ったのだった。

 

 

声をかけてきた件の相手-カツラギエースは思った以上にマメなウマであった。

真面目というか、何と言うか。

いや、どっちかというとひとりでいる者を放っておけない気質か。

僕のことも、他の皆と同じように気にかけてくれている感じか?

いや、まぁ、僕の場合はちょっと事情が違うらしいけれど。

ともあれ、そんなわけで僕はカツラギと共に行動することが多くなったのだ。

そこにはカツラギを傍に置いておけば応対が楽だからという打算もあるにはあるが…。

 

「うん、シルバーは話すの苦手だもんな!」

 

本人も、こう言って利用することを快諾してくれたし問題ない…のか?

 

 

夢を見た。

 

『やぁ、こんにちは』

 

気楽な声で、気楽な言葉で。

そういう情景にそれまで一度もなったことがない癖に、夢というのは己が願望を叶えるのか。

 

『何処にでもいる、死人だよ』

「お前みたいなヤツがそう何処にでもいてたまるか」

 

くだらない話だ。

ありふれもしないし、面白みもない。

そもそも思い描くその姿も、自分の考える理想でしかない。

何故なら自分は、自分の前でにこやかに微笑む相手の顔を…そう、よく見たことがなかったのだから。

 

『キミが僕のことを望んだから…出てきちゃった』

「望んだ覚えはないぞ」

『えぇ~?』

 

不満げに口を尖らせる姿には、子どもっぽい印象を受ける。

だが、それも見た目だけだ。

 

「…本当のお前を誰も知らないんだから」

『あー、確かにそうだね!』

 

納得したように手を打つ仕草もまた子どものようだ。

しかし、次の瞬間にはまた違う表情を見せる。

 

『それじゃあさ! これから知っていこうよ!!』

 

嬉々として語る様は無邪気にすら見えるだろう。

無垢で、真っ白で。

でも。

 

「"これから"つっても、もう終わったろ」

 

キツく言うと、キョトンとした顔。

そしてすぐに理解して悲しげになる。

コロコロ変わるそれは見ている分には面白いかもしれないが、それだけだ。

 

『……そっか、やっぱりダメなんだね』

「当たり前だ」

『仕方ないかぁ』

「ああ、諦めろ」

 

紛い物の偶像。

その夢。

また後悔の具現とも、呼べるのだろう。

結局、コイツは何なのかと言えば──。

 

『じゃあ、またね!』





【世界制覇の大エース】:
カツラギエース。
後悔がありすぎる。
なので初対面から相手に自分のことを印象付け、相手の利になるように振舞っては隣を手に入れた。
漫画の主人公っぽい性格と思われがちだけど考えることは考えてるし、真顔になったらフツーに怖い。
というか大概の顔良い奴は真顔になったら怖いってそれ一番言われてるから。


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ひとえに自業自得ですが


子どもに純粋に慕われてると思ってた大人が押せ押せされて焦るのはいい文明…。



「…う〜ん、そうだなぁ。先生より強くなって、先生に勝てるようになったら考えてあげても…いいかな?」

 

ちびっ子たちの育成クラブを運営し始めて、存外自分が子どもに慕われやすいのだと気がついたのは1期生である子たちがトレセン学園に無事入学した時。

こんなド田舎から上京していく際に何やかんやと告げられた言葉に返したのが上記の台詞で。

……今思えばもう少しマシなこと言えなかったのかと思うけど、あの時の僕は本当にそう思っていたのだ。

そんな僕の言葉を聞いて、あの子たちは皆一様に目を輝かせていたっけ?

 

『よーし!ぜってぇ強くなるぞ!』

『うん!先生より強くなる!!』

「うん、頑張ってね。応援してるよ」

 

先程も述べたとおり、僕が育成クラブを興した土地はド田舎だ。

そしてレースというものは厳しい世界で夢破れる者の方が圧倒的に多い。

…ので応援しつつも、どことなく安心というか楽観視していた節があったのだが……。

 

「はえ〜…」

 

フツーにテレビで放映されるくらいのレースに出てる!

それも勝ってるし!!

それでインタビューで僕のこと話してるし!

名前は出てないからいいけど!!

 

「ま〜、そうなりますよね〜!」

 

このド田舎で育成クラブしてるの僕ぐらいしかいないしねぇ!

 

『せんせー!』

「はいはい、すぐ行くから待ってて」

 

 

先生は、とても強い。

指導だって的確だし、ひとりひとり丁寧に見てくれる。

おうちに帰りたくないと言えばお泊まりだってさせてくれるし、美味しいご飯を作ってくれる。

自分だけじゃなくてみんなそう思ってるはずだ。

でも……。

 

「ごめんね、今日はこれで終わりです」

 

いつものように練習が終わったあと、先生は申し訳なさそうに言う。

自分たちにはその理由がわかっているけれど、それでもやっぱり残念だ。

「ほら帰った帰った」と背を押されながら、むかし先生が誂えたという簡易レース場に佇む人々を見る。

かつて自分たちと同じく、この育成クラブで学んでいたというその人たちは画面越しで見るよりずっと大きく見えた。

いつか自分も、あの人たちと同じようにあそこに立つんだ。

そう思うだけで胸がドキドキする。

ワクワクしてくる。

だから……。

 

「また明日ね」

 

優しく頭を撫でられれば、どんなに不満があっても笑顔になってしまうのだ。

 

「はい!!」

 

先生は、とても強い人。

けれども自分たちが向ける感情に何よりも疎く、またその感情を()()()()()()人だから。

 

「ひとりだけじゃあ勝てなくても、物量で攻めたら…いけるかな?」





僕:
シルバーバレット。
故郷で育成クラブをしている。
面倒を見た子たちにとても慕われており、「子どもの言うことだし」+自身の実力に関しての疑いようのない自尊心(プライド)から無理難題を無自覚に叩きつけているが…?
可愛がっていた子たちに押せ押せされてバカ焦りするの…いいよね。


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仕事以上の献身を


銀弾本人は『マネージャーだから!』と色々やっているがソレ大概マネージャー業から逸脱してる献身だし、知らない人から見るとダメ人間製造機なんだよな…。



ミスターシービーが働くと知って。

どこか卒業したら「世界旅行に行くんだ〜」とか言って、ヒッチハイクでもしてそうだと思っていたところに青天の霹靂となった事象に僕がその秘書のような何かとなったのは半ば成り行きではあるのだが……まぁそれはいいとしてだ。

 

「ミスター、忙しないが次は雑誌のインタビューだ」

「ん、分かった」

 

 

『──えぇっと、今日はよろしくお願いしますね』

「はい、こちらこそ」

 

インタビューが始まった。

最初は当たり障りのない質問から入る。

この辺りも慣れたものだなぁと思う。

最初なんかは自由気ままだったし。

ただのインタビューとはいえ、ある程度の形にはめて受けごたえが出来るようになったのを見ると少しばかり感動に近い感情を抱いてしまう。

これも成長なのかねぇ……。

なんて思いながら彼女たちの話を聞く。

 

『じゃあ次の質問ですけど……マネージャーさんとの関係はいかがですか?』

 

…………なんで?

そんな疑問を頭に浮かべている間に彼女は続ける。

自分にはもったいないくらいとても良いマネージャーで、いつも周りから引き抜かれそうになっているので苦労している…だとか。

まぁ、僕が彼女のマネージャーだと知っている人は知っているのかもしれないけど、ただ一介のマネージャーの話を面白がる人がいるんだなぁと感心する。

……しかし、本当にどうしてこんなことになってしまったのか。

いや、たしかに彼女のマネージャーとなってから様々なウマ娘に「自分のマネージャーにならないか」と戯れの言葉を頂いているが。

マネージャー業の一環としてミスターシービーと共に暮らし、家事からマッサージなども一心にこなしていたらいつの間にかこうなっていたのだ。

ちなみにミスターシービーにも同じようなことを言われたことがある。

「マネージャーって関係じゃなくなっても、アタシと一緒に暮らさない?」と。

もちろん丁重にお断りしたけれど。

だって僕は"マネージャー"って職を抜いたらただの一般人だし、今もなお人気な彼女と一般人として生活を共にするというのは…畏れ多い。

それに、僕の気持ち的にも自由を好む彼女を縛り付けるわけにはいかないという気持ちが強い。

だから断った。

そして今に至る。

 

「マネージャー」

「…っ、」

「インタビュー終わったよ。…これで今日の仕事は終わりなんだよね?」

「あ…、あぁ、うん」

「にしてもこんなに仕事来るなんて久しぶりだったよねぇ。いつもは月に一回講演会するかどうかぐらいなのに」

「そうだね。…どうする?どこか食べに行くかい?」

「…マネージャーのご飯が食べたいなぁ」

「えぇ?」

「……ダメ?」

「ダメ、じゃあ…ないけど」

「じゃあ決まり!」

「う、うん…」





僕:
シルバーバレット。
敏腕マネージャー。
「ミスターはひとりにすると不安だな…」と思ってマネージャーに。
またマネージャーになるにあたって同居し始め、家事から始まりマッサージなどもしてくれる一家にひとり欲しい御方に。
だが本人はそれすらも仕事の延長線上と思っているため…?
ちな周りから引き抜かれそうになっても「からかってるんだな」と思うだけな模様。


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【怪鳥】が欲しがるもの


誰にも渡さない"獲物"



「やっと会えましたネ!」

 

そう言って俺をキツく抱き竦めた影は、どうやら俺のことを憎からず思ってくれているらしい。…初対面だが。

 

 

ソイツ-"エルコンドルパサー"は何かと俺の世話を焼いた。

教科書を忘れた時とか、果ては自分の時間を削って併走の相手など。

そんなに俺が気になるのだろうか?

俺はお前のことなんてトレセン学園に入ってからしか知らないのに。

……いやまぁ、確かにあの走りっぷりには感心したが…。

でもそれだけでここまでするだろうか?

まるで俺が()()な存在だと言わんばかりに振る舞う姿に周りは萎縮しており。

 

「チャンプは、エルだけを見ていればいいんデスよ〜」

「…」

 

それが至極当然だと、笑うのだ。

隣にいるのが当たり前。

食事だって気づけば隣同士だったり対面で食うようになってたし、ナチュラルに一緒にサボりするような仲になってしまった。

いや、ホントにビビったからな?

人通りのない空き教室で一眠りしようとしたら横にいるんだから。

 

「お前、俺以外にも仲いいヤツいるだろ」

「でも、…チャンプが一番なんデス」

「……」

 

 

「…あの子が、エルちゃんの"探してた人"?」

 

その人物は、ある意味で有名だった。

それほどまでに入学当初のエルコンドルパサーの荒れようは凄まじかったから。

 

『なんで…なんでいないんだ!!』

 

マスクで隠されていない()()()、そう悲痛に、または荒々しく吼えた姿を覚えている。

そしてある日を境にピタリとその嘆きは鳴りを潜め、いつの間にか姿を消していた。

それはまるで最初からいなかったかのように。

そして。

 

「チャンプ〜!!」

 

現れた。

エルコンドルパサーに抱き竦められるその子はひどく困惑した顔をしていて。

それでも拒絶せずに受け入れる様子を見て、ふたりは知り合いなのか、それとも別の理由があるのかと考えたところで思考を中断させられた。

 

「今度こそ…僕だけを見てね?」

 

ゾッとするまでに、知らしめの声音が。

囁きではあれど、一瞬で静寂に持っていったそれに身体中が粟立つような感覚に襲われながら、誰もがただ、呆然と立ち尽くすことしかできなかった。

 

───────

─────

───

 

やっと、やっと見つけたんだ。

ずっと探していたキミ。

ぶっきらぼうに見えて、でもやさしくて。

僕が救えなかったキミ。

勝手に、身勝手に『約束』を破った嘘つき。

だから今度は間違えない。

もう二度と離さない。

誰にも渡したりしない。

例え相手が誰であろうとも。

 

「ね、チャンプ…?」





【怪鳥】:
エルコンドルパサー。
魂に焼き付いてしまっている御方。
なのでえげつないくらいにバリバリ執着してはニコイチしている。
…まぁそれには某旅程さんがいないからってのもあるでしょうケド。

【銀色の王者】:
シルバーチャンプ。
実は入学が周りよりもちょっと遅め。
また寮ではひとり部屋だったりするらしい。
…本人としては同室の人がいたような気がするようだけれど。


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Q.小さな自分を見たとき、どういう顔をすればいいと思う?


実は仲良しだったりするサイエンティストと銀弾さん。



「なにが一体どうでこうなってるの…?」

「よく来てくれたね!」

「どうも」

 

呼び出された実験室(という名の元空き教室)にて勧められるがままに椅子に腰掛けると机の上には…。

 

「なぁに、コレ?」

「キミの髪から培養させてもらった小さいキミさ!」

「なんだ、ホムンクルスでも完成させたか?」

 

動いてんぞ、コレと目線で指し示せば「不思議なこともあるものだねぇ!」と。

無敵か?

 

「で?どうするつもりなんだ?…なんか動いてる小さい僕を」

「ふむ……そうだ!いいことを思いついたよ!!」

 

そう言うやいなや、やさしく小さい僕の群れから一匹そっと掴みあげた。

そしてそのまま勢いよく外に出るとダッシュ。

 

「「えっ」」

 

いや走り去っていった当人はまだいい。

今帰ってきたこの教室の同居人たる彼女と置いていかれた僕はもう「えっ」しか言いようがない。

帰ってきた彼女からしてみればドアに手をかけた瞬間に何か見覚えのある影がドアから飛び出して行ったようなものだし。

 

「ちょっと待ってください!?何があったんです!?」

「あー……」

 

かくかくしかじか。

説明を終えると同時に彼女は頭を抱えてしまった。

まぁ気持ちはよくわかる。

 

「なんというか……ごめんなさい?」

「ええと……気にしないでください……。それよりもあの人が何を仕出かすつもりなのか……」

 

とか心配になったのも束の間。

 

「ミッションコンプリートさ!!」

 

ババーン!と当の本人が帰ってきた。

いわく『この前の爆発は不問になったよ!!』とのこと。

 

「やはり小さなキミは生徒会長殿に効果覿面だったね!一目見た瞬間からメロメロになって…」

「そ、そっかぁ…」

 

 

そして。

 

(一家に一台みたいなことになってる…)

 

あの日作られていた小さな僕は徐々に学園内に増加していった。

聞くに癒し効果だけでなく、大本である僕の出来ることもある程度はこなせるようで洗濯物を畳んでくれたりなどお役立ちっぷりを発揮しているらしい。

 

「へぇ、それは便利だね」

「そうなんだよ!」

 

そんなこんなで今日もまた彼女の教室でお茶会を開いていた。

ちなみにその席には例の小さな僕もいるわけだが。

 

「……ところでそれ、いつまでいさせるつもりだい?」

「えっ」

「えっ?」

「…█ヶ月先まで予約がパンパンなのだけれど」

「……お金とか、」

「いや誓って、断じてお金は取ってないとも!…しかし小さいキミが欲しいという顧客が揃いも揃って良いデータをくれそうで…その…」

「はァ、」

「それに…ちゃんと納品しないと私自身にも身の危険があるというか…」

 

……つまりあれか。

はじめはウハウハだったけど、後々…ってヤツか。

 

「…まぁ、頑張って?」

「ううっ…自分の才能が憎い…っ!」

(…あっ、この調子なら大丈夫そうだな、ウン)





小さい僕:
シルバーバレットの髪から作られた手のひらサイズ(ミニマム)な僕。
小さいけれど洗濯物を畳んだりなど日々の生活にお役立ち!な機能を搭載している。
作成者はもちろん…なのだが最近サイズ展開しろと顧客()から要望が来ているらしい。
…まぁもうちょっと大きくなったら料理もOKになるからねぇ。


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稲光は、まだ落ちない


雷が落ちる時って、だいたいしっとりだよね。(湿度的に)



あの頃のタマモクロスには親しい友人と呼べる者はいなかった。

今となってはオグリキャップに始まる永世三強組と楽しく過ごしているが、あの頃のタマモクロスはひとりぼっちだった。

 

『芦毛のウマ娘は走らない』

 

そんなレッテルがまだあった頃。

体格も小さく、血筋もそこまで有名ではないタマモクロスは人を避けて生活していた。

目立たないように、空気のように過ごしていた。

 

その頃のタマモクロスが食事をしていた場所は人気のない階段で。

ひっそりと、埃の被った階段に座りながら適当に購買で買ったパンをジュースで流し込んでいた。

 

「やぁ、隣いいかい?」

 

変わらない日々が続くと思っていた。

だが一変するのは唐突で。

現れた彼女はタマモクロスよりも小柄だった。

それでいて出ているウマ耳から彼女がタマモクロスと同じ芦毛であるということが嫌でも分かった。

否定も肯定もしなかったタマモクロスの隣に彼女はストッと座った。

 

「キミ、人気のないところ見つけるのが上手いなぁ」

「…どうも」

 

特段話すこともなく、ふたりして無言で昼食を食べ終わった。

こういう、はじめにひと言ふた言話して静かに昼食を食べるという関係が少しばかり続いた。

お互いに名前を名乗ることはなかった。

だから彼女が年上なのか年下なのか、どういった人物なのか、理解できたことはそうなかった。

それでもその関係はタマモクロスにとっては落ち着くもので。

だって彼女はタマモクロスをバカにしなかった。

模擬レースで良い結果になったと言えば「凄いね」と手放しに褒めてくれた。

周りのように「まぐれだ」と後ろ指を指すことなんて一度もなかった。

なのでタマモクロスは彼女のことを慕っていた。

自分のことを見つけてくれる彼女のことを慕っていた。が、

 

「タマ!先輩がな…」

 

彼女の視線はまた別の人に移ってしまった。

───オグリキャップ。

タマモクロスにとって大切な友人でありライバルの彼女。

普段ならニコニコと笑って話を聞いてやるのだけれど、今回に限っては笑おうとしても口元が引き攣る。

 

「タマ…?どうした、調子が悪いのか…?」

「…いや、大丈夫や」

 

彼女は未だに人に名前を名乗らないらしい。

でも見た目の特徴を聞いただけで彼女と分かるから。

友人に、こんな感情を抱いてはいけないと分かっているのに、

 

(アンタは、ウチのモンやったやろ…)

 

今は、あの頃よりも満たされた生活をしているだろう。

実力が認められて、仲の良い友人もできて…。

けれど、あの頃の彼女とともに過ごした静かな日々のことを懐かしく思ってしまうのもまた事実。

 

「あぁ…」

 

それだけを思考して。

人知れず出した声は、…ひどく掠れていた。





【白い稲妻】:
タマモクロス。
ある日出会った"彼女"に懐きつつ、ぼんやりとした独占欲を抱いていたら…なウマ娘。
オグリのことも好き、"彼女"のことも好き。
だがそれはそれとして…。

どうしたら、アンタはウチを──、

見 て く れ る ?


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大おじさんと【銀色の激情】


頭発火しそうなくらい撫でてきそう。



「や〜、久しぶりっすねェ。オレの可愛いアウト〜!!」

「うおっ!?…え、ぁ、お、大おじさま?」

「"大おじさま"!?なんでっすか、これぐらいちっちゃな時には『おるへ』って呼んでくれてたのに!!」

「そんなの子どもの頃の話だし、子どもの頃であっても俺そんなに小さくなかったよ!!」

 

ジェスチャーで示された小ささが親指と人差し指で幅を取ったものだったので流石に言い返すシルバアウトレイジ。

前に会ったのは学園入学前の新年会であった久方ぶりの大おじに驚きながらも挨拶を済ませれば、今度は「久しぶりに!大おじさんが!奢ってあげるっスよ!!!!」と、あれよあれよという暇もなく連れて行かれた行きつけの店の個室でふたり、ちょいちょいと話しながら食事をする。

 

「アウトも入学前よりはデカくなった?」

「んぁ?…あぁ、多分?」

「多分かァ」

「だってあんま測らねぇもん……」

「アウトらしいっスね」

 

ケラケラと笑いながら飲み物を呷る大おじに、シルバアウトレイジは『飲んでんのソフトドリンクだよな?』と考えつつ。

しかしそれにしても随分と上機嫌だなと思いながら自分も料理に手を伸ばす。

 

 

(本当に、アウトは可愛い)

 

そう思うのは大おじの欲目か、それとも。

かつて、憎らしいほどに晴れやかに、己に背を向けて去っていった男と自身の全兄の娘との間に産まれたこの子-シルバアウトレイジは何故だが、幼い頃より大おじである自分-【金色の暴君】にそれはそれは懐いた。

舌っ足らずの愛らしい声で『おるへ』と呼ぶ姿には思わず頬ずりして抱き締めたくなって困ったものだ。

そして今もまたこうして対面に座って食事をしながら楽しげに会話をしている様子などもう堪らない程に可愛くて仕方がない。

……ただひとつ、気に食わない事と言えば。

 

「それでさー、その時【飛行機雲】の奴が〜」

 

ヤレヤレという顔ながらも、受け入れている顔で仲良くなったのだという後輩-【飛行機雲】のことを語るシルバアウトレイジ。

その雰囲気は柔らかく、親愛の情を感じさせるもので……それがどうにも面白くないのだ。

 

「……ところでアウト」

「はい?」

「そろそろ敬語外してくれても良くないっスかねェ〜?」

「無理です」

「えぇ〜!?いいじゃないっスか、俺とアウトの仲なのに!!」

「だ、ダル絡みやめろ!もういい年だろアンタ!?」

 

やいのやいのしながらも頭は際限なく撫でさせてくれるのだからやさしいところに変わりはない。

故に。

 

「名前、名前だけでも!」

「…【金色の暴君】サン?」

「ちッッがう!!」

「……めんどくせ〜」





【銀色の激情】:
シルバアウトレイジ。
幼いころから大おじさんに懐いているけど、ある程度の年齢に成長した今となっては相変わらずの溺愛ぶりな大おじさんにタジタジ。
けど普通に誘われたら食事に付き合うし、それとなく(祖父に頼まれたり何なりで)世話を焼き始めたりするかも…?

【金色の暴君】:
【銀色の激情】の大おじ。
【銀色の激情】のことを溺愛している。ので、最近【銀色の激情】と仲がいいらしい【飛行機雲】にちょっとムッとしているとか。
…まぁ、【銀色の激情】・【飛行機雲】の親のことを考えるとそうなるのも仕方ないというか、……ハイ。


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空気ェ…by.【銀色の激情】


なお、お前が元凶定期。



大おじさまが部屋に来てくれていて。

その折に、いつも通り遊びに来た後輩と鉢合わせた。

まぁ、同じ三冠バであるから交流なり何だりあるだろうから特段問題はなかろう…と思っていたのだが。

 

「「……」」

(…空気が死んでら)

 

俺がお茶なり茶菓子などを渡せば声を出してくれるのだがそれ以外はとんと。

ただひたすらの沈黙があって、睨み合いが続いている。

そんな状況で俺はどうしたらいいのか分からずただただ困惑するばかりであった。

ちなみに後輩は終始笑顔のままであり、それがまた怖い。

 

「あー……えっとな?二人とも?」

「はい」

「なんスか?」

「とりあえず落ち着いてくれやしないですか…ねぇ?」

「落ち着いてだなんて」

「俺たちは落ち着いてるよ?ねぇ?」

「はい」

「……」

 

ど こ が ?

思わず口から出そうになったもののぐっと堪えてなんとか平静を装う。

だがしかし、この二人の威圧感というか殺気にも似た何かは凄まじく、正直部屋から出たくなった。

……いやまぁ、そもそもの話として出ていくも何も俺の部屋なんだが。

 

「なァ、アンタら」

「ん?」

「なんでしょう」

「どうしてここにいるんですかねぇ?」

「それはもちろん」

「先輩に会いたかったからです!」

「……」

 

うん、予想通りというか。

前ふたりを見かけた時、こんなにピリついてたっけな?と記憶を掘り返してみたが特に思い当たる節はない。

じゃあ一体何故なのかと考えたところで答えなど出るはずもなく、早々に考えることを放棄した。

それにしても、わざわざ会いに来るとは。

…慕われていると、考えていいのだろうか。

 

(とりあえず、メシの準備でもすっか)

 

 

そうだと知る前なら、まぁ極々普通の関係性を保てただろう。

だが、"あのウマ"が関わっているなら話は別だ。

 

"シルバアウトレイジ"

 

ちょっと皮肉屋だけれども、やさしいウマ。

自分にとってはかけがえのない存在。

そしてそれは、きっと向こうも同じ気持ちだと思う。

だからこそ、相容れないのだ。

 

───あの()は、自分さえ見ておけばいい。

 

そう思うようになったのはいつからだったろうか。

初めて会った時からどことなくそう思っていた気持ちが、ぶわりと表出して。

ジクジクとこの臓腑を焼く。

そんな感覚を覚え始めたのは、いったいどこからだったろうか。

 

「……おい、大丈夫か?」

「大丈夫です」

「だいじょーぶ」

 

心配そうな顔を浮かべながらこちらを見る姿に笑みを作って返す。

本当に自分はどうしてしまったんだろうと自嘲気味になりながらも、止まれなくなっているのを自覚する。

 

───嗚呼、どうしようもない!!





【銀色の激情】:
シルバアウトレイジ。
分かってない張本人。
ピリつく【金色の暴君(大おじ)】と【飛行機雲(後輩)】を見ながら料理したり細々…。
まぁ喧嘩しないならいいか…のスタンスともいう。


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【銀色の激情】はたいへん!


血筋からしてね…仕方ないね…(白目)



「こんばんは、アウトレイジくん」

 

そう話しかけられたのに振り返れば、むかし何度か会ったことのある人がいた。

 

「ええと、たしか大おじ様の…」

「そうそう」

「…シオンさん、でしたっけ?」

「うん」

 

よかった、合ってた。

このシオンさんは大おじ様-【金色の暴君】の友人だ。

…にしても、いまも昔も穏やかで、やさしそうな雰囲気の人だと思う。

 

「どう? 新しい生活には慣れたかい?」

「はい、まぁ…何とか?」

「それは良かったよ」

「ありがとうございます」

「……ところでアウトレイジくん」

「なんですか?あ、"レイ"でいいっスよ」

「じゃあレイくん。…キミって今いくつだったかな?」

「え…?1×ですけ…あ、」

「だよねぇ?」

「あ、あは、ははは…」

 

今の時間は…バリバリに深夜。

アウトレイジほどの年齢が歩き回るにはちょっと遅い時間である。

 

「ふぅん……。なーるほどね~……」

「あの、そのぉ……すンませんッ!!」

「謝る必要はないけどね。でもやっぱり、気をつけないとダメじゃないかなぁ?」

「はいぃ……」

 

うわぁ……こりゃ説教コースかァ…?

 

「ま、いいか! 僕は優しいから許してあげる!」

「へ!?」

「そうだとも! というわけだから、」

 

ニコリと笑ったその人が、俺の横につく。

 

「どうせ、そこにあるコンビニに行くんでしょう?」

「え、あ…はい」

「なら一緒に行こう」

 

蒸し暑い空気が体を撫でる。

ポタポタと流れる汗が、まるで心の内を示すようで、どこかわずらわしい。

なにせ横にいるのが昔会ったことがあるとはいえ、歳も遠い大人なのだから。

 

「……」

 

沈黙が流れる。

 

「……」

 

居心地が悪いというわけではないのだが、なんだろう。

なんかこう、落ち着かない感じがあるのだ。

 

「奢ってあげる」

「ども…」

 

せいぜい100円ちょっとのアイスに口をつけ、思考する。

やさしいのはやさしい人。

それに間違いはないだろう。

しかし、

 

(放っておくと、随分なモン取り立てられそうだ)

 

チリ、と肌が粟立つような。

そんな、居心地の悪さに足早に帰ろうとするも「送っていくから」と引き止められてしまう。

 

「……」

 

結局そのまま家まで送られてしまった。

 

 

「おはよぉございまぁす、せんぱい…ふぁ」

「おう、メシ食うよな?」

「たべま…ん?」

「?」

「先輩」

「なんだ?」

「先輩から、知らない人の臭いがするんですけど」

「は?」

「だって先輩、使うにしてもこの柔軟剤使わないじゃないですか」

「お前は犬か?」

「わんわん」

「真似しないでいンだよ」

「ひどいです!! かわいい後輩に向かってなんてことを!!!」

「朝からうるさい」

「はい……」

「あと今日は泊まってくのか?」

「えぇっと……」

「泊まってくんだな。分かった、あとで食べ物買い出しに行くぞ」

「…はい、先輩」





【銀色の激情】:
シルバアウトレイジ。
寝付けなくて、アイス食べたくなったのでシレッと抜け出したら大おじの友人【舞って掴むは金の輝き】に出会ったすがた。
それとなく危機察知能力はあるにはあるが、大概感度がニブい。
でも人たらしだからな…。


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巡り回って、至る


"ヒカリ"を、みている。



キミの眼を奪っていった"ヒカリ"が、嫌いだ。

キミが、その人のことを尊敬していたのはよく知っている。

兄の親友なのだ、と語っていたのをよく、覚えている。

 

「久しぶりっスね〜、シオン

 

引退して随分と。

見たことないくらいに満面の笑みを浮かべたキミが、その腕に抱く子を見て人知れず固まる。

 

「オレじゃなきゃヤダ〜!って言うから〜!!うりうり」

 

その腕に抱かれた子は…どこか、似ていた。

キミの眼を奪っていったあの"ヒカリ"に。

……そして、キミ自身に。

 

───また、奪うのか。

 

僕は、キミだけしか見ていなかったのに。

誰も見ないあなたたちが、()()

僕の『願い(ゆめ)』を遮るのか。

僕だけの、世界を壊すのか。

 

「おーい?どうしたんスか?」

 

そんな声も聞こえないままに、ただ、その子を見つめていた。

…あぁ、やっぱり似ている。

この子が、あの人に。

ギラギラと燃え盛るような眼はキミそっくりだけど、それ以外は。

匂いのない空気。

まるで、掴むこともできないまま去っていく風に似た…。

 

 

───この子なら。

 

思っては行けないことを、思ってしまったと、理解している。

終ぞ、自分を見てくれなかった"あの人"を重ねていると、分かっている。

 

兄の親友。

それでいて…"初恋"、みたいな人だった。

それほどまでに鮮烈で、我を忘れてしまいそうなほどに綺麗だったのだ。

でも、それでも。

夢見(願わ)ずには居られなかったんだ。

 

「にーちゃ」

「兄ちゃんっスよ〜」

 

ぽてぽてと走り寄ってくる、かよわい体を抱きとめる。

無垢な子、まっさらな子。

 

「……」

「にーちゃ?」

 

小鳥の刷り込みのように、なればいいのに。

感情というのは、こんなにも肥大するものかと自分で自分を嗤えないくらいに、歪んでしまった。

 

「ねェ、レイ」

「なぁに?」

 

だから。

これは、───『()い』だ。

 

「にーちゃんだけを、…ずっと」

「…?」

 

今でも思い出す。

前だけを向いて、俺を見てくれなかった"あの人"。

この子の…父親。

俺のやわらかいトコロを、踏み躙った"あの人"。

けれども。

 

「……」

 

まぶたの裏で、瞬く"ヒカリ"が止まない。

極彩色に煌めいたかと思えば、ソレを集約して、美しい白銀になる。

すべてを焼き尽くす"ヒカリ"。

焼いていくままで、誰も救ってくれない───【銀の祈り】

 

救われたかった、ワケじゃない。

ワケじゃない…のに。

 

「にーちゃ?」

 

重ねる。

重、なる。

重ねてしまう。

こんな幼子に、押し付けて、押さえ、付けて。

 

「…オレだけ、を」





【銀色の激情】:
シルバアウトレイジ。
親が成した業が襲いかかってくる系ウッマ。
まさか自分が親由来のグチャドロ感情向けられてるとは思ってないので今日も仲良く【飛行機雲(三冠バ)】と過ごしている。
また目の感じは金系列のようだが、雰囲気は銀系列似らしい。


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"家"の話


何もしなけりゃ、平和なのにね。



「へぇ?」

 

ある日、唐突に困り事として母からもたらされた話としては。

 

「心霊スポットなんて、随分とまぁ失礼な」

 

現在は実質物置的な感じに使っている古い邸宅(その血筋に列なる僕としてもなぜこの家を残しているのか分からないくらいにはボロ屋だが)に訪れる。

見れば確かに、無理矢理引き戸が開けられた跡や土足で入った跡があって。

 

「あーあーあー」

 

多少()ボロ屋ではあれど少し整えれば暮らすことも可能なくらいには毎年機を見てはメンテナンスをしているが、ここまで荒らされるのは初めてだ。

 

「……なるほど?」

 

そのことを友人たちに話した結果、送られてきたのは有名ウマチューバーだという人の凸動画。

もちろん予想通りそのサムネイルに映っているのは…。

 

「訴えてやろうかな」

 

一応ここ私有地だぞ?

そりゃあ鬱蒼として、人里離れた林の中にある家だけどさぁ!

 

「…ん?……わぁ」

 

 

その"家"を取り壊せないのは、取り壊そうとすると俗にいう『祟り』…のようなことが起きるからであった。

そもそも、その"家"自体は現在の持ち主である一族自体も、いつに建ったものなのかというところから忘れているものであって、『祟り』とやらの結果、必死の連絡が来るまで思考の片隅にすらないような有様だったのだ。

曰く、"家"にいるモノを祓うために専門家を呼んだところ、全員酷い怪我を負って帰ってきたとか。

曰く、除霊のために呼んだお坊さんも行方不明になったとか。

曰く、いわく、いわく……。

そんなこんなで、結局誰も彼もどうにも出来なかったとかで。

 

「…それを考えると、あのウマチューバーさんも大変なことになってそうだなぁ」

 

何故なら、管理者である一族相手には何も起こらないから。

本当に、そんなことあったのか?と思ってしまうくらいに毎度毎度普通だし。

 

「とりあえず、掃除しよっと」

 

 

その"家"にいるモノは執着している。

かつて愛した、かの白きウマに。

その、白きウマの血を継いだ一族に。

だがそれ以外は───呪うが如く。

いや、本当に呪っているワケではない。

"家"にいるモノに、そんなチカラはない。

ただの地縛霊に過ぎない。

神様になんぞ、なれない。

だがしかし、時に【執着】というものは呪いよりも強く、恐ろしい力を発揮して。

それは例えば、死してなお残る念であったりだとか。

それは例えば、生者への妬み嫉みの類いだったりだとか。

……そしてまた、誰かを愛した想いの力であったりだとか。

だからだろうか。

ある意味でその土地は、"家"は──。





"家":
僕の血筋が()()()()所有者な家。
けれども誰も住んだことはないし、時たまの掃除やメンテの際にしか訪れない家。
誰が住んでいたのかも不明。
しかし更地にしようにも出来ないらしいので管理するしかないか〜という感じらしい。
まぁ僕の血筋には何も影響がないからね…。


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ずっと、みてたの


『愛』でも『恋』でもなく、ただ純粋に。



昔に、言われたことがある。

 

『ねェ、チビ』

『なぁに、おじいちゃん』

『家の裏、お山があるでしょう?』

『うん』

『近づいちゃあ、いけないヨ』

『どうして?』

『チビは…気に入られるだろうカラ』

 

何に?とは、問えなかった。

何故なら祖父が痛いくらいに、まるで()()()()()()()抱き締めてきたから。

そして、祖父はこう言ったのだ。

『いいかイ?決して、あの山に近づいてはいけないヨ』と。

その日以来、僕は祖父の言いつけ通り、一度もあの山には行かなかったし、行こうとも思わなかった。

 

「…………」

 

だけど今になって思うのは、

 

「まぁ、小鳥の鳴き声さえ聞こえなかったもんなぁ」

 

───あの山。

 

 

むかしむかしの、話です。

ある日、ある時、その山に棲むモノの目に世にも鮮やかなほど叩き込まれた【存在】がありました。

その山に棲むモノは、山を管理するある強欲なヒトの家に『厄持って福となす』とでもいうかのように囚われて久しい(かげ)のモノだったので。

 

──その【存在(ひかり)】は、あまりにも眩しかったのです。

 

ずっとずっとずっと、他人を呪って生きてきたモノの目が焼けるほどに。

だから、ソレは許せなかったのです。

遠く遠く、山の上から眺めていた美しい【存在(ひかり)】が。

痩せ細って、枯れ枝のようになって、潰えてしまったことを。

それからというもの、そのヒトの家は次々と不幸に見舞われるようになりました。

それはもう、酷い有様でした。

作物は不作が続き、家畜は死に絶え、病も流行り始めました。

そうして、とうとうその家に住んでいた中枢の人々は皆死んでしまいました。

しかし。

 

『……』

 

モノが見つめる先には、います。

かつて、自分の眼を焼いていった【存在】の子孫が。

 

『……』

 

モノに、思考はありません。

ただ、あるのはどこをどうすれば他人を呪えるかという一点のみ。

ですが。

それでも。

 

『……』

 

山の上から【存在】の子孫を見つめる目は、ひどく優しくて。

モノには、『恋』も『愛』も分かりません。

けれど、ただ一つだけ分かることがあります。

 

『…………』

 

それが何かを確かめるように。

確かめるように。

モノはそっと手を伸ばし、 ──。

 

「はじめまして」

『───────』

 

その手が…掴まれた。

誰も掴んでくれなかった。

誰もがモノを恐れた。

だから、あの【存在(ひかり)】に焦がれたのに。

いま、いま、いま…、モノの、前にいるのは。

手を、握ってくれたのは。

 

「僕は"シルバーバレット"と言います」

 

かつて視た、自分を()()()()、【存在(ひかり)】に似た…。





山に棲むモノ:
かつてとあるヒトビトの家に飼われていた"(わざわい)"。
決して善にはなれない、他人を呪うしかできない存在。
だがそうであるが故に、誰も傍に寄ってくれなくて『孤独』だった。
でも、ある日視た【存在(ひかり)】に救われ焦がれ、【存在(ひかり)】に酷いコトをしたヒトビトの家をほぼほぼ滅亡させてから、今度は【存在(ひかり)】の子々孫々を護り始める。
危機感知能力に優れた【存在(ひかり)】の子孫に忌避されようが、()()()()()
あの【存在(ひかり)】の残り火(しそん)を、護ることができるのなら────。

────そして、永い時を経て、怪物は"ひかり"を視る。


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成った


───アハハ。



ぐちゃぐちゃと音が聞こえる。

自身の体を這い回り、けれども自身を害する意思はないと明確に伝えてくる"ナニカ"。

臭うのは名状しがたいモノ。

普通に生きていくだけならそう嗅ぐこともないだろうほどの…。

 

眠っている。

眠っている、…はずだ。

しかし自身が知覚しているソレらはあまりにもゲンジツテキで。

……夢だと言い切るにはあまりに生々しかった。

 

(……)

 

目が覚めたらいつもの部屋だった。

だが体には"触れられた"という感覚がハッキリ残っていて。

『気持ち悪い』というよりかは、折り重なり、積み重なった山から這う這うの体で逃げ出してきた、時のような。

そんな。

グズグズに溶けた汚泥のような(ソコ)から。

 

手が、這う。

祈るか、はたまた、その手のひらから自身の力を注ぎ込むように。

眠る、眠る。

蛹が外を見ることを許されないように。

眠る。

"声"を聞きながら。

聞こえているようで、その実よく聞こえない"声"。

けれども、"声"は。

たしかに。

己が、

 

───産み、落とされるのを。

 

 

産まれて、落ちて、積もって。

折り重なって、堆積して、混じりあって。

自分が自分じゃなくなって、分からなくなって。

それでも、ただただ()()()()()に巻かれて。

墜ちろ墜ちろと()ったワケではないのだが、オチてきたモノと同化して。

混ぜて、合わせて、孤独では、なくなって。

そうして。

 

───オチてきた。

 

けれど。

ソレは、沈ませるには()()()()()

だって、キラキラと輝いていた。

だから。

だから。

だから!!!!

だから!!!!!

だから!!!!!!

 

押し上げた。

グイグイと、沈まぬように。

支えて、持ち上げて、押し留める。

そして。

 

「……?」

 

目を開いたのだ。

ソレらは歓喜した。

やっと会えた、()()()()と。

ずっと待っていた、この時を。

すべてを()()()()()、この子を。

泣き声が止む。

うめき声が止む。

それはまるで、『救い』とやらいう三流品が来たときのごとく。

 

───救世主サマ?

 

…いや、そんな大層なモンではない。

またそんな陳腐なモンでも、ない。

 

【ぜンぶ、こワしtE?】

 

 

想いのチカラというのは、時に莫大な影響力を持つ。

足りないあと一押しとか、そういうレベルの話ではなく。

ならば、それは。

 

「負の感情も、有り得るよなぁ」

 

正しければ、いいという訳でもなくて。

時には。

時には、"負"の方が、ずっとずっと。

 

「ほら、カミサマってヤツと同じだよ」

 

恐ろしいから、祀るのだ。

恐れられるから、

 

「『強い』のさ。ね、」

 

──ソレ、アンタらはよく。

 

「知っている、でしょう?」

 

まぁ、憐れみなどないけれど。





蠱毒の塊、かの███から形作られたもの。

それは、世界を塗り潰すほどに。
焼き焦がし、灰燼に帰するほどに。

───とか、ね?


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銀弾のスタートは…


発射というか射出というか、弾丸やなぁ…って(しみじみ)。



1:名無しのトレーナーさん

 

ロケスタ過ぎんか????

【90JCのスタート画像】

 

 

2:名無しのトレーナーさん

 

一頭だけフライングかってぐらいさぁ…

 

 

3:名無しのトレーナーさん

 

そりゃあ主戦も「この馬に勝てる馬?この馬からハナ取って逃げ切れる馬!」って言いますわ

 

 

4:名無しのトレーナーさん

 

>>3

無理ゲー定期

というかコイツの血筋自体基本スタート良いからなぁ

 

 

5:名無しのトレーナーさん

 

まぁこのロケスタで逃げて逃げて逃げてそのまま二の脚使える奴に勝てって言われると…

 

 

6:名無しのトレーナーさん

 

元馬からコンセ+大逃げ+先手必勝のハイブリッドみたいな走りしてんじゃねぇよ!!!!

 

 

7:名無しのトレーナーさん

 

ちなこのスタートに振り落とされないおじさんが振り落とされかけた最終コーナーって一体…?(畏怖)

 

 

8:名無しのトレーナーさん

 

この系列揃いも揃ってビュン行ってガーッ!ってタイプだよなぁ(恐怖)

 

 

9:名無しのトレーナーさん

 

>>8

最後方から末脚でフレームインしてくるタイプのみなさんでもゲートはみんなすんなり出るし

…ウマ好みならぬウマ嫌いなだけで

 

 

10:名無しのトレーナーさん

 

基本はこういうのそもそもゲート出るのが早いタイプor走り始めてからトップスピードに乗るのが早いタイプで別れるんだけどスレ画に至ってはさぁ!

 

 

11:名無しのトレーナーさん

 

現実からコンセ積んでる大逃げ…

 

 

12:名無しのトレーナーさん

 

反射どうなっとるんねん!ってなる。なった

 

 

13:名無しのトレーナーさん

 

影もなくば顔もない馬ェ…

 

 

14:名無しのトレーナーさん

 

スタートから天性過ぎるッピ…

 

 

15:名無しのトレーナーさん

 

もうこれ脳直だろ

 

 

16:名無しのトレーナーさん

 

ゲートに頭ぶつけそうなくらい出るの早いって!

 

 

17:名無しのトレーナーさん

 

怖〜…

 

 

18:名無しのトレーナーさん

 

スタートから戦意喪失させてきそぉ(こなみかん)

 

 

19:名無しのトレーナーさん

 

突進かな?(すっとぼけ)

 

 

20:名無しのトレーナーさん

 

この血筋、産駒にもゲート◎継承してくるからねぇ…

 

 

 

 

 

「んぇ…?スタートの仕方を教えてほしいって?」

「ん〜。サッとやってパッと出たらいいんだけど…」

「僕にとっちゃあ息するみたいなもんだしねぇ」

 

頼られた分はゲート○ぐらいにはしてあげなくちゃ…!と張り切る張本人だが。

張本人からして元来の反射神経がおかしいところがあるし、そこから一発でスピードに乗る方法を教えようにも擬音を交えた説明しかできないしで。

 

「言語化お願いしま〜す、トレーナーさぁん…」





僕:
シルバーバレット。
言葉より実践で教えるタイプ。
史実からしてほぼゲート開いた瞬間に発射されてるようなウマ。
このコンセ+大逃げ+先手必勝みたいな走りに【電撃の差し脚】譲りの末脚使ってくるのホントさぁ…(呆れ顔)。
しかもハナ争いできる相手がもし現れたとしてもそれでテンション上がり始めてもっと速くなりそうだし…(白目)。


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望まれぬモノのエレンコス


───たった唯一。
"運命(アンタ)"にだけは。



あのジャパンカップで僕は『領域』というものに至った。のだが、

 

「ふむ…?」

 

たしかに『領域』というものはすごかった。

どこまでも行ける気がした。が、

 

「まだ余力がある…?」

 

そう、何かが足りない。

アレが全力ではない。

まだナニカあるはずだ。

 

「…まぁ、ちょうどいい機会だ。

探ってみるのもいい、か」

 

そんなことを呟きながら僕は飛行機へと乗り込んだ。

 

 

まわりにいる『領域』を扱えるウマ娘たちに話を聞いてみたがその誰もがシルバーバレットの望む答えを出さなかった。

『領域』というのは「時代を作るウマ娘が必ず入る限界の先の先」らしいが…、

 

「僕みたいなのはいない、のか…」

 

話を聞いた誰もが『領域』に対して、『領域』にいたると自分の持つ力以上のものが出せたと言っていたがシルバーバレットのように『領域』にまだ先があると言ったものはいなかった。

 

「これも違う」

 

日本より遥かに遠い地で走りながらそう呟く。

違う、違う。

僕が求めているのはこんなものじゃない。

まだ行けるはずだ。

 

「…なにが足りない?」

 

分からない。

そもそも最近『領域』すら出なくなってきた。

僕にだって『領域』を出せたのだから、時代を作るウマ娘になれる資格はあるはずだ。

なら、なにが足りない。

『領域』を出すことを、何か見えないチカラに押さえつけられている感覚。

 

「まだ、ここじゃない……?」

 

何となく思い至って出した言葉に、そうかもしれないとぼんやりと思考する。

ならば、僕がソコに、『領域』の先に至れるのは…?

 

 

走っていた。ただ、走っていた。

『領域』を封じられたままだったここ数ヶ月。

それが今、凱旋門賞の地で今か今かと爆発するのを待っている。

 

「ふぅ、ふ…、ふぅ、ッ!」

 

どうしようもなく気分が高まっている。

はやく、はやく総てを()()()()と頭の中にガンガン鳴り響く雑音。

 

「ぜんぶ、ぜんぶ僕に()()()()()!!」

 

世界が変わる。

あぁ、こんなの……、

 

 

世界覆す無敵の弾…ザザッ!

 

 

運 命 (か み) 』 を も 射 殺 す 無 敵 の 弾 丸

 

 

時代を作るなんてモンじゃない。

これは、

 

()()()()()ンだ!!」

 

踏み込んだソコから地面が抉れる。

稍重であるはずの地面も凄まじい勢いで走っていく。

その中で、どうしようもなく笑ってしまう。

わけの分からない、埒外のチカラに呑まれそうになる。が、

 

「……なんだ、もう終わりか」

 

ゴールを切ったその瞬間に掻き消える。

それと同時に自分はもう『領域』を使えないだろうと、…いや『領域』なぞ使う必要がなくなったと理解する。

 

「…あーあ、こんなトコに至っちまったら何も面白くなくなるっての」

 

そうボヤく歴史を変えたウマ娘(シルバーバレット)の声は、万雷の喝采に呑まれ、いつしか霧散した。





僕:
…なんか至っちゃいけないところに至った気がする。
でもそこに至ったおかげで『運命(かみ)』から逃げ切ることができたので…。
世界を覆しただけにとどまらず、『運命(かみ)』をも射殺したウマ娘…。
ロマンだな、ヨシ!

運命(かみ)』:
なんか知らん間に産まれた『シルバーバレット』とかいうバグを消そうとしたらそのバグ本体から特攻の一撃をいただいてしまった御方。
大ダメージ。HPが赤バー。死に体。
そのあとはボロボロの体で銀弾産駒とかいうバグの大増殖を見届けることしかできないようにされちゃうんだ…。かわいそ。

"アンタ"にだけは、負けられない。


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"赤"


…誰なんだ?あの人たち。



凱旋門賞を獲った僕は流れるようにアメリカの地を踏んでいた。

土地ごとにいろいろと違うんだなぁと思いながら、宛てがわれたアメリカのトレセン学園の敷地を使ってトレーニングをしていると、

 

「…誰だ?」

 

ココのトレセン学園の生徒らしいふたりの人に声をかけられた。

ちょうど休憩時間だったので寄っていく。

だが、あちら側の話すスピードがマシンガンのように速すぎて何を言っているのか分からない。

つっかえつっかえに返答を返しながら会話を続ける。

でも唯一聞き取れたことがあった。

 

Can you win ?(勝てるのか?)

 

そう問われた。

だから僕は、

 

Yes.(勝つさ)

 

とただ答えた。

それだけしか言えないから。

僕が勝つということを、僕自身がいちばん信じているのだからそうとしか言いようがない。

そんな僕を見たふたりは少し目を見開いてから耐えきれないという風に大声で笑って。

Thank you !(ありがとう!)』、と言って去っていった。

 

「……なんだったんだ、アレ」

 

ふたり揃って羨ましいぐらいの体格。

しかし体格よりも目につくのは燃えるような赤みを帯びた栗毛。

 

「名前はたしか、ええと…」

 

なんとかウォー…とセクなんちゃら…って言ってたような…?

 

 

どこであれ、トレセン学園というものは大レースがある日にはテレビでそのレースを観戦するのが日常の一部である。

 

『今日は凱旋門賞ですか』

『そーだな』

 

もちろん、それは生徒会長であるマンノウォーと次期生徒会長としてマンノウォーに扱き使われるセクレタリアトも同じで。

生徒会室でふたり、テレビを見ていた。

食堂や寮で見ていたら周りがうるさくて何も聞き取れないため、久しぶりに生徒会室というものに感謝するセクレタリアト。

(いつもは生徒会室を呪っている模様。何故ならマンノウォーにしこたま生徒会の仕事を押しつけられるからである。)

 

『ずいぶんとちいせぇのがいんな』

『そうですね…。ハ?』

『どうした?』

『いや、年齢が…』

『年齢ィ?』

 

その時、テレビには2番人気のウマ娘が映っていた。

彼女の体躯が非常に小柄であることを珍しく思うマンノウォーとは裏腹にセクレタリアトはその年齢に驚いた。

彼女の年齢は、

 

『ハ…?』

 

競技ウマ娘としては大抵が引退しているはずの歳で。

そんなウマ娘が去年芝2400mで訳の分からないレコードを出していること、それに引き続き今年は有名レースの悉くを蹂躙していることが紹介されている。

それまでならまだよかった。

 

『『……』』

 

ふたりして押し黙った。

テレビの中の小さな彼女が出した『領域(ゾーン)』に。

自分たちと同じように歴史を変える、極地点(ハイエンド)へと至ったモノが現れたことに。

 

『おいおいおいおい…!』

『…6秒差、36、バ身』

 

熱く、熱く体が煮えたぎっていく。

極地点へと至った彼女は、この地を踏むという。

嗚呼、はやく、はやく会わせてくれ!

 

 

そうして、

 

Yes.(勝つさ)

 

その一瞬、気圧された。

自分が負けるはずがないと、()()()()()()()と心底から信じきっている瞳に。

嗚呼、嗚呼、嗚呼!

 

『アイツ、ドリームトロフィーに来ると思うか?』

『来るんじゃ…。いや、来ますよ』

『そうだな』

 

ふたりとも考えることは同じだった。

来ないというなら、()()()()()()()()()()()、と。

 

それこそが、無敵の弾丸(シルバーバレット)Big Red(ビッグレッド)に目をつけられたファーストコンタンクトであった。





僕:
異国の地で、知らない間にヤベェ人らに目をつけられたすがた(BCクラシックを2:00.0で走破、2着バを3秒近く突き放し快勝)。
『あれ誰だったんだろう?』と当時は思っていたが後々…?
たぶんコイツだけじゃなくサンデースクラッパも目をつけられることになる模様。
とりあえず祖国に帰ったら激重勢()に『誰もオトしてないよね?』と激詰めされる未来が待っている。

…オトすって、何を?

Big Red's:
自分よりずっとずっと小さな芦毛に()()()()()
完全に獲物認定した。
芝が主戦場とのことだがBCクラシックの結果を見るにダートでもいけるな?
なら今度はダートを主戦場にしたらどうだ?芝はたくさん走ったろう?の気持ちで勧誘()してくる。
その結果、日本勢とバチバチする。

サンデースクラッパがいるんだからそっちに目ェ
つけときゃいいのに… by.日本勢
ヤダ♡ by.Big Red's含む米国勢


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沈め、堕ちて


表と裏は巧妙?



クルクルとコインが回り、受け止められる。

そんな、コイントスが繰り返される様をグローリーゴアはぼんやりと見守っていた。

コイントスは、サンデースクラッパが手慰みにする暇つぶしの内のひとつ。

…とは言っても何か考え事をしているのか、不可抗力などで邪魔をしてしまうと何も感情が浮かんでいない顔でジッと見られるのだが。

 

パチッ、クルクル…。

パチッ、クルクル…。

 

淹れてきたコーヒーをテーブルに置き、自分はソファーに座るサンデースクラッパの隣に座って口の中を湿らせる。

 

「…………ん」

「……どうしたの?」

「…………」

 

珍しいことに。

無言のまま、自分の膝の上に頭を乗せてくるのでその頭を撫でてやる。

すると満足そうに目を細めながら、コイントスは終わった。

特段変哲もないコインが照明に照らされ鈍く輝く。

 

「もう、コイントス飽きたの?」

「……」

「ハイハイ」

 

手を引かれ、頬擦りされ。

まるで猫のように甘えてくるその髪を指先で弄びつつ、ふと思う。

 

(……そういえば)

 

サンデースクラッパがこうして自分に甘えて来るようになったのはいつからだったか?

この家に来てすぐの頃はまだどこか遠慮がちというか、距離感があったような気がするが。

 

(あ、)

 

そうだったそうだった。

焦れた自分が捕まえに行ったのだ。

ゆっくりじっくりと進めて、やっと手中に収めることができた相手を。

手中に収めたからには、もう待つのは止めと。

逃さないように、離さないように。

ドロドロでグズグズの場所に沈めきって、()()()()()

 

「…その顔、あまり外でしないようにね」

 

伸びてきた手が、ゆるく頬を撫でる。

意地が悪いと我ながら思ったが「どんな顔?」と問えば「悪いヒトの顔」と返ってきた。

 

「でもキミが可愛くて」

「はいはい」

「本当に思ってるんだけどなぁ……」

 

 

ぞわぞわ。

巧妙に隠されたソコから、滲み出てきたソレにチリチリと背筋が粟立つ。

見上げたそこは陽光がゆっくりと闇に呑まれていくところ。

夜というよりかは闇が鎌首もたげて僕ににじりよって。

 

(もう、逃げられないね)

 

まるで体の主導権を全部明け渡したかのように。

弛緩したままで、動かない体でゆるやかに、恭しく撫でられていくのをただ感じているだけしかできない。

 

「…好きだね」

「ダメ?」

「さぁ?」

 

腹筋を使って起き上がれば名残惜しそうに後を着いてくる。

 

「今日、ご飯なにがいい?」

「なんでも」

「…そう。買い物行ってくるけど何かいるものある?」

「ないよ。…でも着いてく」

「そっか」

 





満更でもない情に溺れて。
ふたりきりになるとドロッとしたものが出てくる【栄光を往く者】とそれを受け入れている【戦う者】。
スキンシップ過多だがよくよく見ると粘度というか湿度というかが…。


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釣り


───ちゃぽん。



走ることが好き、と言ってもそれは現役時代の延長線に過ぎなくて。

もはや生活の一部を趣味と言っているような有り様に「何か趣味を見つけてみては?」と補佐をしてくれている我が子にそれとな〜く促され、釣りが趣味の、また別の我が子から古い釣竿を貰い受け、釣りを始めてみたはいいものの…。

 

「…すごく釣れる」

 

ちゃぽっ、と水に投げたらすぐ魚がかかる感じ。

一時間かからずにバケツが魚でうじゃうじゃになる様相にリリースすること幾星霜。

「お父さんの釣り、あ○森みたいだね」などと着いてきてくれた子たちに言われてしまう始末である。

……でも流石にあれみたいに『またお前か!』ってなったりしないからね?

 

そんなこんなで今日もまた海へ赴き、遠に餌を付けずともかかる魚さんたちに感心しながらぼけーっと糸を垂らしていると、

 

『────』

 

ふと、聞こえてきた音に頭を振る。

…いや、どうせ潮騒の音を聞き間違えただけだ。

決して声とか、そういうのじゃない。

……そう思いながら目を瞑る。

しかし再び同じ音が耳を打ち、僕は観念した。

 

「…………」

 

無言のまま立ち上がり、その音のする方へと足を向ける。

一歩進むごとに鮮明になっていく"ソレ"に引っ張られて、

 

「危ないッ!!」

「!?」

 

体ごと、結構な力で抱きかかえられるのに息が詰まる。

「ごほっ」だか「え゛ふっ」だか、よく分からない咳をしながら視線を上げると、そこには見知った顔があった。

 

「何やってんだアンタ!!」

「そっちこそ!…ちょっと待って、締めないで締めないで」

「締めるに決まってンだろが!」

 

久方ぶりに会った甥っ子に、何故だかギチギチと身体を締められる。

痛いし苦しいし、というよりなんでここにいるのかもよく分からなかったけど、とりあえず離してもらおうと身じろいだところでようやく解放される。

 

「ふー…っ、ふー……っ。あ、チャンプくん、魚持ってくかい?」

「…要らねぇ」

「あらら」

 

 

おじが、海に()()()()()()人だとは聞いていた。

だが、あそこまでとは思わなかった。

バケツいっぱい、縦横無尽に泳ぎ回る魚の山は多分海からの『貢ぎもの』で。

それを嬉々としながらも、普通に海にお返し(リリース)するおじの姿には呆れを通り越して尊敬すら覚えてしまった。

 

「チャンプくん、ご飯食べて帰る?」

「…いいのか?」

「うん、いいよ〜。おじさん腕によりをかけて作るから!」

「へいへい」

 

ひょいと荷物を持って立ち上がるおじ。

その隣に陣取ると、どこからか。

…薄らと、でも、ふわりと。

 

───潮のにおい、が。





僕:
シルバーバレット。
潮のにおいがする人。
海に好かれており、釣りをすれば百発百中で釣れるが、そのすべてを海にリリースしている系神回避ウッマ。
でもその回避は大概紙一重であるので周りはいつもヒヤヒヤだとか。


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【皇帝】の眼に映るのは?


内包。



伸ばされた手が、力いっぱいに自分の首を掴んだと理解したのは「がぐ!?」と息が詰まったからだった。

目の前には友人であり、みんなから慕われる生徒会長であるシンボリルドルフがいて。

そんな生徒会長に、きっと目が飛び出るほど高価だろう執務机を背に押さえつけられている僕は…。

 

「…………っ!」

 

……片手だけども、首を絞められていた。

それもかなり強い力でだ。

僕の手は彼女の手首を掴み抵抗を試みているが、その力は緩む気配がない。

さすが三冠バ、この筋力の前では僕なんて赤子同然なのだろうか?

…いや違う!

これは意図的に力を込められているんだ!!

 

「かひゅ……っ、」

 

酸素を求めて口を開くけども、喉からは変な音しか出てこない。

遊びとかそういう次元じゃないぞこれ!?

まるで気道が完全に塞がれてしまっているような感覚で、今すぐにでも解放されなければ窒息死してしまうんじゃないかという恐怖心すら湧き上がってくる始末だ。

そうして必死にもがき苦しんでいる最中、「……ふぅん?」と興味深そうな声が聞こえてきたと思ったら───急に圧迫感がなくなった。

 

「げほっごほごほっ!!」

 

一気に肺へと流れ込んできた空気に咽せ、ぼた…と生理的に流れ出てきた涙を拭う余裕もなく咳を繰り返す。

あぁ苦しい……死ぬかと思ったよ本当に……。

 

「大丈夫かい、シルバー?」

「ぜぇー……ぜぇー……」

 

全然大丈夫じゃありませんとも。

むしろなんで平然としてられるんですかねあなた。

こちとら酸欠寸前だって言うのに……。

 

「…………あの、触れるにしても、ぜぇ…、もうちょっと優しくしてくれませんか、ねぇ…?」

「あぁすまないね。つい力が入ってしまったようで」

「ついで済ませられる問題ではないと思うのですがそれは」

「しかしキミが悪いんだからな? 私以外のウマの名前を、あんな笑顔で…」

「えっと……はい?」

 

言っている意味がよくわからないんだけど……。

でも、

 

(目が、マジだぁ…)

 

 

シンボリルドルフには"いつか"の記憶がある。

それは様々なルートに分岐していて、しかもそのいくつもあるルートを優秀なルドルフの脳は余すところなく記憶しているのだ。

そしてその記憶の中には当然のことながら『トレセン学園生徒会長』としての自分も存在しているわけであって……。

つまり何を言いたいのかと言うと、今のシンボリルドルフは───。

 

「でも、それでも私はシンボリルドルフ(わたし)

 

変わりない。

少しばかり、多くのシンボリルドルフ(じぶん)を内包しているだけ…。

 

「そういうことさ」





【皇帝】:
シンボリルドルフ。
様々な世界線のシンボリルドルフ(じぶん)を内包しているすがた。
なまじ脳の許容量が【皇帝】なのもあって…みたいな。
また様々な世界線のシンボリルドルフ(じぶん)がいる分、脳内会議とかできそう。
なお語られている相手はだいたい…?


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愛を乞え!


そして求めよ。



「僕が欲しいってんなら、もっともっと求めてよ」

 

形振り構わずに、一心不乱に。

猫被りなんていらない。

言葉だけなんて疑わしいばかりだから。

もっと強く、激しく、貪欲になってくれなきゃ困るんだから。

そうされてこそ、求められ甲斐があるってものである。

 

昔から血筋柄、そういったことが多かった。

どことなく他人を惹き付ける雰囲気、見た目、または話し方…そんな"ナニカ"を有しているらしい一族に列なる僕は、そういう目で見られることが多いのだ。

それはもう仕方のないことだと割り切っているし、慣れたつもりだけれど……それでもやっぱり少しはイラつくこともあるわけでして。

まぁつまり何を言いたいかと言いますとですね?

僕のことを()()()()()()んですよ。

物心ついた時から尊敬する父母の出会いの話から今現在に至るまでの仲良しっぷりを見てきて!

そして、その両親譲りの容姿やらなんやらを受け継いでいるこの僕が!!

それでいて尚も、誰も求めてくれないというのは……ちょっと寂しいというか悲しいというか……。

あー、うん。

なんかごめんなさいね。

 

「僕、そんなに魅力ないかなぁ…」

 

まぁ、豆粒ドチビではあるけどね…。

……トホホ。

 

 

欲せよ、さすれば与えられん。

まるでそんな言葉のように言い放たれた言葉に青天の霹靂にあったのはもはや両手の数では足りなかった。

「『愛』っていうのは綺麗なモノじゃないでしょう?」と微笑む姿はいつもの穏やかな雰囲気とは打って変わってとても妖艶で美しくて、思わず見惚れてしまうほどだった。

しかし、それと同時に酷く恐ろしい存在にも思えた。

だってそうだろ?

自分が求めるものを得るためなら手段を選ぶなとでも言うように、自らを差し出すような言動をする。

それも、無意識なのか意識的なのかは定かではないが、終着(執着)の行き着く先がどうあれ受け入れる覚悟すらできているかのような口ぶりだった。

それはもう一種の狂気であると言っていいだろう。

そのことに気付いてしまった大勢は背筋が凍るような感覚に襲われながらも、ぶるりと身震いすることしかできなかった。

 

その日から、表立って、裏立って。

アプローチする者が増えた。

今までは遠巻きに見つめているだけだった者たちまでもが我先にと手を伸ばしてきたのだ。

もちろんその勢いが強いのはいつものメンバーであるのだが……それに関しては割愛するとして。

 

「たくさん、たくさんたくさん!」

 

────僕が欲しいって言ってくれたなら、

 

「考えてあげる…かもね?」





僕:
シルバーバレット。
父母の仲良しこよしを見て育ってきたので「大人になったら父母みたいな関係になれる人と暮らしたいな〜」みたいなどこかアバウトな感情がある。
また母譲り…というか一族譲りの愛の重さがあるので、その愛に耐え切れるorそれよりも愛が重い人じゃないとダメだよな…くらいの考え。
煽るな煽るな。


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Really like.


乞われたあとで。



「"Really like"では好きになれるだろうけどね」

 

冗談混じりに、それでも真剣に、想いを告げればそう返された。

いわく、『自分の"大切"というものは大概が家族やトレーナーに向いており、その二の次でもいいのなら』とのこと。

 

「…ホントに、いいの?」

 

キミが自分を見てくれるだけで上々だと告げれば困惑した顔。

そりゃあそうだろう。

キミの家族やトレーナーさんに勝てないことはハナから分かっていた話で。

それでも、少しでも自分を意識してくれるのなら。

 

「……うん、分かった。じゃあ、よろしくお願いします」

 

そして、キミと自分は親しい付き合いをするようになった。

とはいえ、今まで通りの関係が変わるわけでもないし、キミもそれは望まなかった。

ただ、たまーに二人きりになることがあって、それで家に招かれて食事を振る舞われたり映画を見たりする程度の。

親友とも呼べないけど、でも、ただの友だちというには少し深い、そんな。

 

「あ、あのさ」

 

しかし。

 

「そ、その…服とか、置いていっていいよ…?」

 

毎度毎度終電までには家を出て行って久しかった日。

雨足が強過ぎて帰ることもできそうになく泊めてもらったある日のこと。

唐突な提案だった。

 

───どういうこと?

「だから!うちに泊まればいいじゃん!」

 

顔を真っ赤にして叫ぶように言うキミ。

 

「だっていつも名残惜しそうな顔する癖に!どうせ明日休みって日ばかりに来るんだから、その…」

 

手持ち無沙汰に動く手すらも覚束なく。

言葉少なに、途切れ途切れに紡がれる理由を聞き終える頃には思わず笑ってしまったものだ。

 

「わっ笑うなんて酷い!!」

 

ごめんごめん、と謝ってもまだ頬を膨らませているキミを見てまた笑ってしまえば怒られる始末。

ああもう可愛いったらない。

 

───そんなこと言われると…期待するんだけど。

「…まぁ、キミにならいいかなって」

 

 

どこまでいっても僕はきっと、『愛する』ってことが分からないままなのだろうなぁと思う。

家族愛やトレーナーさんに対する愛はあれども、それはぼんやりとしていて、でもあたたかなもので。

言うなれば…嫉妬とか、そういうものをともなう『愛』が分からぬのだろう。

……だからこそ、この感情は厄介なのだけれど。

 

「…」

 

胸を掻きむしりたくなって、微笑まれるたびにふわふわして。

『幸せ』ってこういうことを言うのかな…という気持ちになっては踏み止まる。

まるで"あちらに行ってはダメだ"と、ある種の断崖絶壁があるような。

 

「……"Really like"だって、言ってるだろ」





僕:
シルバーバレット。
家族愛や友愛なら分かるけど気が狂いそうなほどの『愛』に成りかけると歯止めがかかってしまうタイプ。
家族や周りが愛し合って『幸せ』になっているのを見て、いいなとは思うけどいざ自分がそうなると考えると想像がつかないともいう。
というか対トレーナーでも大概なのに…ねぇ?(ガタガタブルブル)


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底なしの情


注げ。



『ちょっと疲れちゃったんだろうなぁ』と思っていると、どうにもご機嫌ななめなままに物が飛んできたのでひょいと避ける。

大概は良い子の良い子の我が長男坊であるけれど、時折こうして参ってしまうことがある。

 

「ぐずっ…う゛ぅ〜、」

「ハイセイコ」

「おとぉさん…」

「ヨシヨシ」

 

かつての、まだ引き取った当初の頃のように。

夜が怖いと言っては泣き、お父さんと一緒じゃないとイヤ!と駄々をこねては泣いたあの日と同じように、ぐずる息子を抱き締めて頭を撫でたり背中をさすったりする。

そうしてやると少し落ち着いたのか、胸に頭を預けたままスンスン鼻を鳴らした。

 

「……ぼく、もういらない?」

「そんなことないよ」

「なら何で!ぼくがお父さんにいちばん初めに見出されたのに!いちばん初めに見出したんだから僕がいちばんすごいんでしょう!?なんでなんでなんで!?!?!?」

「……うん、そうだねぇ」

「じゃあなんで!どうしてみんなばっかり!!ぼく以外なんてただの()()()なのに!!!!」

「うん」

「ぼくがいちばん頑張ってるもん!いっぱい勉強したし、運動もたくさんやった!だからぼくがいちばんなんだよね?いちばん偉くて、強くて、賢くって!」

「……そうだね、ハイセイコは誰よりも頑張り屋さんだよ」

「だったら!!!」

 

ぎゅうと抱き締めた腕の中で、その大きくなった身体を震わせながら叫ぶように言う。

 

「……ぼくが一番にならないとおかしいじゃんか!!!」

 

───ああ、この子は。

こんな風に思って生きているのだなぁと思うと同時に、こうなるまで気付いてあげられなかった自分が不甲斐なくて仕方がない。

出来るだけ目をかけるように努めてはいても、あれだけ多くの弟妹を纏めあげるこの子の気苦労は如何程ばかりか。

…なんて言っても、それは上辺でしかないのだろうけど。

 

「あいしてるよ、ハイセイコ」

 

愛しい愛しい僕のシロガネハイセイコ(我が子)

しかし、人ひとりに注ぐには…僕の『愛』は底なしで。

父母のようにお互いに愛して、お互いを大切にできれば話はまた別だったかもしれないけれど。

注ぐ『愛』の許容量が分からない僕は、きっと壊れるまでそれが分からぬまま注ぎ続けるだろうから。

だからどうか許しておくれ。

僕は愛するほどに、愛したモノを壊してしまうんだ。

だって、ほら。

 

『 バ ケ モ ノ ! ! 』

 

僕は、僕の愛した世界に───。

 

「……」

 

脱いだ靴は、誂えた倉庫の中で埃を被って転がっている。

もう二度と履かなくなった靴。

 

「…なんてね」





僕:
シルバーバレット。
愛することはできるけど、愛した相手の許容量を把握することができずに壊れるまでそれが分からない。
【一族】特有の濃ゆい『愛』をドボドボ注ぎまくっていた過去があるが、その過去の苦さゆえに子どもに与える愛はちょっと薄め。
なお一番愛した『世界(モノ)』は…?


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名門レース教室であるのは間違いではないんですけど…。


傍から見ると…ねぇ?



シルバーバレットは悩んでいた。

何年経っても減る気配のない自身の資産に…。

 

いや、大多数の人々からしてみれば羨ましくて仕方のないことであろう。

だが張本人であるシルバーバレットにとっては…あまりにも『悩みのタネ』で。

 

「だって寄付もお断りされちゃったし〜!?子どものための資金ってだいぶ余地多めにとってもまだいっぱいあるしぃ…」

 

言うなれば:黄金律EXなシルバーバレットには、ただ普通に生活しているだけでもわらしべ長者的に、または倍倍ゲーム式に金や、金がダメなら色々な品物が入ってくるのだ。

もちろん、その分だけ仕事も増えていくわけなのだが……。

 

「あーもう!こうなったらいっそ、世界中を回って困っている人を助ける旅でもしようかな?!」

 

そうすればきっと、このお金も使い切ることが出来るだろう。

…しかし。

そんな夢想をしていると、シルバーバレットの頭の上にピコンとピカピカな電球が。

 

「あ、そうだ。」

 

───レース教室、つーくろっと!

 

 

『Sドリーム・レーシングクラブ』というレース教室の名門がある。

歴史としてはまだ浅いレーシングクラブだがその躍進は凄まじく、トゥインクルシリーズの人気選手を見てみれば、その過半数が『Sドリーム』出身だというのはザラで。

…だが。

 

聞くに、『Sドリーム』は往年の名バ(海外G1レース勝利経験有り)が生徒たちに苛烈なトレーニングを課している。

聞くに、『Sドリーム』には最新のレースなりリハビリなどの最新機器がこれでもかと揃っており、それを含めクラブ卒業まで指導料無料の代わりに、出世払いを強要している。

聞くに、聞くに、聞くに…。

 

「そんなことしてないってばぁ!!」

 

嫌でも耳に突っ込まれる噂にシルバーバレットが頭を抱えたのは言うまでもない。

あの日より、シルバーバレットは『Sドリーム』…またの名を『シロガネドリーム・レーシングクラブ』を運営し始めた。

自費でトレーニング機器から練習場まで誂え、『後進育成のためなら』とクラブ費を全額無料(それにはレースの登録料や遠征費用、病院の受診費、その他入り用のユニホーム・蹄鉄なども含む)にし、「このクラブに入りたい」と子どもたちが言えば、その家庭の資金力や家庭環境関係なく受け入れた。

そして、来る日も来る日も子どもたちに熱心に向き合った(しかし指導の部分だけは実子たちに取って代わられた。曰く、『父さんが走ると(色々な意味で)シャレにならない』とのことで)。

…故に。

 

「払わなくていいんだよ〜!先行投資ってヤツなのに!!」

 

通帳がすぐなくなるくらいの頻度でかつての生徒たちから送られてくる会費に、シルバーバレットは再び軽く泣くことになるのだが……。

それはまた、別の話である。





『Sドリーム・レーシングクラブ』:
正式名称は『シロガネドリーム・レーシングクラブ』。
実態は銀弾の道楽兼資金減らしのための後進育成所。
銀弾本人としては『未来への投資!』としてクラブが使う土地を整備するわ、最新機器揃えるわ、それも含めてクラブ費が無料だわでヤベェ(ヤベェ)クラブ。
そして、生徒たちが「入りたい」と言えば良血であれ零細であれ、脚の強度・虚弱体質関係なく受け入れるし、矢面に立って生徒たちを守ってくれる系クラブ主と貸す。
なので生徒たちはみんながみんな銀弾に脳を焼かれ(恩を感じ)ているのでトレセン学園入学後に「受け取れっ!」とかけてもらった資金を返すように入金する。
なおその分を払い終わっても払う生徒もいるとか…?


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託したモノ


そして沈んだ。



それは、ハッと目が醒めるほどに眩しい"光"だった。

随分と遠くから見ているのに、まるで目の前で光っているかのように眩くて。

それでいて、今にも消えてしまいそうな"光"。

 

『ぁ、』

 

どこか【稲妻(電撃)】にも似て、しかしずっとやさしい…。

"光"だった。

…あぁ、"光"だったとも。

 

「父さん」

 

果たされなかった、『約束』を、覚えている。

あの日、自分は、あの日の"不甲斐ない自分"を許せなくて。

そんな中で見た"あなた()"を、今度はちゃんと見たいと思って。

『約束』、したんだ。

───また走ろう!

 

「…父さん?」

 

"あなた()"が見えなくなって、もうどれくらいだろう?

ずっと、瞼の裏に忘れられないまま、薄らと輝くモノ。

美しい記憶にも、できないまでに光り輝く"いつか"。

 

「父さん!!」

 

ガッ、と体にかかった衝撃にぱちりと瞬きすると、そこには我が子であるシルバーチャンプが。

…あぁ、そうだった。

 

「父さん、もしかして調子悪い?」

「いや、」

 

心配そうに自分を見つめる瞳に、重ねてしまう(ひかり)

 

「大丈夫だ」

 

 

俺の『憧れ』は、いつだって父さんだった。

しかし、父さんみたいになりたくて、トレセン学園に入学した俺にもたらされたのは血筋からくる偏見や多大な期待で。

父さんは言わずもがな、母も母で…"あるウマ"の全妹だという事実があったから。

だから俺は、そんな周囲の視線にさらされて。

自分には荷が重い『夢』を、託されて。

そして、

 

「…『約束』を、果たしてきてくれないか」

 

父に言われた言葉が、俺の、弱くやわらかいところに刺さる。

見ず知らずの人々の期待(ことば)なら、まだ呑み降すことができた。

でも。

けれども。

一番尊敬してる人(父さん)から、そう願われるのは───。

 

「…退路なんて、もう、ないじゃん」

 

ガラガラと、元より脆かった後ろが崩れる幻聴を聞く。

その幻聴(おと)を聞きながら、ぼんやりと俺は()()()()()()()のだ、と気がついた。

誰もが、群衆が、同窓生が、先生が、URAの偉い人が、…()()()が。

みんな、みんなして、俺に期待し(夢見)てくるから。

重くて、重くて、重くて。

仕方ないから、

 

「せめて、って」

 

思った、だけだったんだけどなぁ。

 

「父さんならって、」

 

思っただけ、だったんだけど、なぁ。

 

「…走らなくちゃ、」

 

だって俺の後ろに、

 

「もう、退路(みち)はないんだから」

 

進め。

ただ、進め。

退けば奈落。

だが、どうせ前も…。

 

「俺は、英雄(ヒーロー)じゃないから」





【芦毛の怪物】:
オグリキャップ。
果たせなかった『約束』を我が子に託したすがた。
その後悔に目の前が曇っているがゆえに、託された我が子がどんな顔をしているのか分からなかった。
…我が子が、自分ほど心が強くないことも。


という訳で、うら若きティーンに国中の期待を背負ってもらいましょうね!(人 の 心)


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『呪い』


弱かった僕と、強いキミ。



──こいつは絶対に俺達の期待を裏切らない!!

 

その、あまりにも聞き覚えがある言葉が耳に届いた瞬間、シルバーチャンプは思わず走り出していた。

 

「父さんッ!?」

 

後ろからは唐突に置いていかれた我が子が、慌てた様子で追い掛けてくる。が、シルバーチャンプは振り返らずに、むしろ速度を上げて走り続けた。

()()()()()

 

「はぁ、はぁ…」

 

たどり着いたのは今となっては立ち入りが出来なくなった関係者専用口。

飛び出してきたはいいものの…と自分の計画性のなさを恨むも、今更引き返すことなど出来ない。

 

──こう来たらもう、やるしかない!

 

シルバーチャンプが意を決して関係者専用口をくぐり抜けよう…としたところ。

 

「爺さん?」

 

お目当ての張本人が後ろから不思議そうに声をかけてきた。

手には自販機で買ったらしい冷たい飲み物が握られている。

 

「爺さん、来てくれてたのか」

「あ、あぁ…。プレアーも来てる」

「ふぅん?親父の方もか…」

 

目で促され、近くにあったベンチに座る。

こういうところ気が利くんだよな、我が孫ながらと自画自賛してシルバーチャンプはポツリポツリと話し出す。

 

「…大丈夫、か?」

「何が」

「ほら、その…『期待』とか?」

「別に」

 

サラッと。

そんなこと、聞くまでもないというがごとく。

 

「それぐらい重い方がいい」

 

──こいつは絶対に俺達の期待を裏切らない!!

 

「…っ、」

「爺さん?」

 

シルバーチャンプは、思わず目頭を押さえた。

 

(俺は……俺たちはなんて……なんてバカだったんだ!! )

 

そうだ、そうだったじゃないか。

この子はいつだって俺たちの予想を遥かに越えてきた!

期待?

重圧?

そんなものがなんだ!

そんなモノでこの子が潰れるものか!

むしろ、その逆だ!

この子は……!

 

「……っ、」

「なんで泣いてんの?」

 

()()()()()、俺たちに『後悔』させる子だ。

 

──こいつは絶対に俺達の期待を裏切らない!!

 

…その言葉の、なんと重いことだろう。

自分も、かつてかけられたことのあるその言葉(呪い)は、"レース"という『世界』から離れた今も自分を苛んで止まず。

 

(…)

 

ズキズキと胸のあたりが軋み、頭痛がする。

動悸もして、息も早くなって。

 

(…いや、ホントにトラウマだな)

 

思わず、自嘲する。

それでも、とシルバーチャンプは思う。

 

(どうにかして、この子を守らなければ)

 

"あの日"の自分よりも、ずっとずっと強い可愛い孫。

でも『強いから大丈夫だ』と放っておくなぞ、出来ない。

"あの日"、壊れてしまった自分だからこそ、強く、そう…。





【銀色の王者】:
シルバーチャンプ。
"ある言葉"がトラウマなただ一介のウマ。
精神強度はまぁ並。
しかし遺した影響力は…?


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偶像(アイドル)』が死んだ


魅せられ、焼かれた者が多大で。
気づけば『偶像(アイドル)』は、まさしく"神"のように───。



 

国あげての『アイドル』というだけでも大変なのに、それが世界あげての、となってしまえば。

 

「…」

 

レースには誰よりも真摯で、それでいて握手やサインを求められれば快く応えた。

とはいえ取材は苦手だったので徹底的に避け、時には逃げ回ったところ、いつしか『ミステリアスだ』と人気に火がついて。

レースの時以外はもっぱらホテルに籠ることになって、トレーニングも中々出来なくなって、遂にはホテルに人が押し掛けてくるからと、苦渋の顔でホテルを追い出されて。

そして──、

 

「そう、ですか」

 

引退、となっても。

『普通の、一般人に戻ります!』なんて、言えないようになっていた。

ひと目、表に姿を表すとメディア・観客問わずに焚かれるフラッシュ。

狂気と言うまでに押し合い圧し合いで求められる握手にサイン。

最終的には耳カバーや勝負服のネクタイなどが気づいたら無くなっているなんてことも。

…いや、そもそも普段の時から細々としたものがなくなっていたか。

そんな、そんなことにまで、…()()()()()()()から。

 

───────

─────

───

 

──偶像(アイドル)』が死んだ。

その報道は瞬く間に世界中を駆け巡った。

『引退』ではなく、『死亡』。

それはつまり、もう『偶像(アイドル)』が表舞台に姿を現すことは決してないということを意味する。

彼女の現役時代を知る者からすれば、誰もが信じられないことだった。

あの()()()()()()()()()?と。

そんな疑問はやがて、一つの噂へと収束していく。

曰く──彼女は()()生きている。

が、████████(アイドル)のままでいるには───生きていけないから、と。

だから████████(アイドル)を名を捨てて───。

 

「───だってさ」

「…誰が漏らしたんでしょう?」

「さぁ?でもURAの職員だろうねぇ。僕ら(チーム)は厳戒令で誓ったから」

「そう、ですか」

 

フードを深く被った小柄な影が、白髪混じりの男と連れ添う。

見遣る街は今日も変わりなく、流れていく。

 

「はやく、『普通』になれるといいね」

「はい」

 

……あの日、████████(アイドル)は死んだ。

だが、それは()()()()()()だった。

████████(アイドル)を支えていたチームとURAの上層部-その中でもごく少人数が───。

そのため、████████(アイドル)と呼ばれたウマの生存を知っているのは世界でも10人いるかいないか。

ゆえに、████████(アイドル)の実の家族でさえも、その生存は……。

 

「さ、そろそろ行こうか」

「……はい」

 

手を引かれて歩き出す小柄な影はフードの下で薄く微笑む。

それはかつて『偶像(アイドル)』が浮かべていた笑みと全く同じで。

████████(アイドル)の仮面を捨てたウマはもう、

偶像(アイドル)』ではないけれど。

……それでも、いやだからこそか。

あの終わりから一年経った今でも──。





まだ戻れない。

世界中を焼いてしまったから『普通』に戻れなくなってしまった『偶像(アイドル)』のために。
気狂いだと言われようが、誹られようが。

たったひとり─────キミの、幸せのために。


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いつか見た、百合の花


1920 - 1958 シロノマガツ(38歳没)
1935-1966 ホワイトインセイン(31歳没)
1949-1978 ホワイトバック(29歳没)
1973-2021 ホワイトリリィ(48歳没)

って感じでアバウトに年齢考えてる。
元来長生きな家系+あの生産牧場で30歳近くまで生きてるんだから移動した先で愛され大事にされた【白百合】ママンはこれぐらいでもいいよねって。
とは言え玄孫にあたる【銀色の激情】の活躍まで見きるのは滅茶苦茶に長生きだし、旦那様の【電撃の差し脚】さんのことめっちゃ待たせるし、史実でも生存軸でもどちらにせよ我が子たち全員を看取ることになるんだよな…。
それを運がいいと呼ぶのかはさておき。



或る名門競走バ養成クラブにそのウマ娘が入ってきたのはある日のことだった。

聞くにそこそこの時間、車に乗って来なければいけないような土地から来ている彼女は、学校のカリキュラムからして『走ること』が重要視されている自分たちとは違って、走るフォームも着る服も『走ること』に適しているとはお世辞にも言えないモノだったが───。

 

『…ぇ、』

 

彼女は──()()()()

誰もが眉を顰めるだろうフォームなのに。

競走用の、伸縮性ある服ではない、日常用の服と靴で走っているのに。

…だから、はじめはトレーニングの休憩時間に「冷やかしだ」と見ていた仲間たちも、その走りを見て「いや、本当に速いぞ」と驚き始め。

 

『…………』

 

最終的には誰もが唖然とした顔で彼女の走りを目で追うようになる。

そして休憩時間が終わってトレーニングが再開される時になって、彼女は初めて自分が見られていることに気づいたのか、バツの悪そうな顔をした後で言ったのだ。

───帰る、と。

 

『ま、待って待って待って!』

 

虚をつかれたクラブの先生が呆然としている横を悠々と横切ろうとする背をみんなで引き止めた。

こんなウマをむざむざと逃すなんて!と。

 

だが。

しかし。

はじめはよかった。

彼女が入った、はじめは。

誰もが彼女に先輩風を吹かそうとしていた。

フォームはこうだとか、このメーカーのものがオススメだとか。

でも。

 

『……』

 

回を重ねる毎に一新されていく彼女の走りを見たら誰もがその気概を失った。

走るフォームも、腕の振り方も関係ない。

逆に()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

───速すぎることは()()のだと、幼いながらもみな知ったのだ。

そして、そんなことに気づいていく内に誰も彼女に構わなくなり……。

 

『や、辞めるって…!』

 

その青天の霹靂を聞いたのは、速すぎた彼女をあの日、誰よりも必死に引き止めたウマ娘で。

しっかとした足取りでいつものように自らの父が待つ車に戻ろうとする肩を掴み。

 

───だって、お前らオレのこと嫌いじゃん。

『…ぇ、』

 

煩わしそうに振り返った彼女が、そう告げる。

 

───清々するんじゃないか?今度ある大会、デカいんだろ?

『そ、そんな…』

───よかっただろ、アンタには。あれだけ出たいつってたんだからさ。

 

…図星。

そう、そうだ。

はじめは…凄いと、思ってた。

けど徐々に、彼女が洗練されていくのを見ると、あれだけ「あと何日で彼女に会える」とクラブが楽しみだったのに、いつしか「いつ辞める?」とのコソコソ話を常に聞くようになった。

……だって、そうだろう?

速いことはいいことだ。

それは間違いない。

でも速くていいことは、それだけなんだ。

()()()()()()()んだ。

 

───やっぱオレは集団よりひとりで走ってた方が性に合うみてぇだわ。ザンさん、…ウチのご贔屓の装蹄師サンに勧められたから通ってたケド。

『待っ──』

 

いま思えばどの口が、と自嘲するが。

はじまりと同じように、引き止めようとした手は。

 

───じゃあな、もう二度と会わないだろう…。

 

オレのことが、一番嫌いな誰かさん?





【白百合】:
ホワイトリリィ。
幼い頃は一人称が「オレ」だったウマ。
実は競走バになっていればTTGと同世代。
嫌われるとその相手がこれ以上不快にならないようにそっと離れていくタイプ。
父親が贔屓している装蹄師に勧められてクラブに入ったはいいが徐々に自分が疎まれ+自分はただ走れるだけでいいのに自分の才覚に魅せられたクラブの大人が勝手に選手登録しようとしたから、で辞めた。
大概のワガママを聞いてもらえるぐらいには父親に溺愛されている。一人娘だからね。
また子が子なら母も母で逃げウマだったり。
…スピードの絶対値の違いから、ね?

引き留めた子:
【白百合】の走りに一目惚れしたが徐々に彼女を疎んでしまったウマ娘。
【白百合】と同い年。
多分この娘が一番クラブに入った当初の【白百合】の世話をしていた。
でも苦い思い出となってしまった。
そして、そんな思い出を抱えながらトレセン学園に入学し、卒業後はいずれ19年振りの三冠バとなる子どもを産む。
もしかするとその我が子が「友だちだよ〜」と嬉しそうに連れて帰ってきた子にあの日離してしまった美しき【白百合】の面影を強く見るやも…?


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嗚呼、貴方は──


運命の人!



ホワイトリリィは溺愛されて育っていた。

なにせ父-ホワイトバックが最愛と言ってはばからない妻の生き写し兼忘れ形見なのだからさもありなん。

しかし、競走の世界に置いている身ならいざ知らず、ただ一介のウマ娘でしかないのに父親のガードが強い結果、ホワイトリリィは───()()()()()しまっていた。

 

「はァ、」

 

元より、学生時代から学校と家の往復ばかりで、恋愛経験皆無な年齢=…だ。

いや、かつては父お抱えの装蹄師さんに子どもらしく『大きくなったら結婚する』などと宣った記憶もある。

 

「はァ……、」

 

とは言え。

やっと働くことを(『パパ嫌い!』だのなんだの言って)許してもらった身。

多少の"嫌なこと"は飲み込むつもりだったが、

 

(だる…)

 

めっちゃ口説かれる。

ホワイトリリィの世界はほぼほぼ父親と自分+親族や父が懇意にしている人しかいなかったから「可愛い」とか「美人」だとかいう褒め言葉を世辞だと思っていたのだ。

しかし、働き始めて。

業務なんてそっちのけで会うヤツ会うヤツに口説かれる。

ホワイトリリィとしてはちゃんと働きたいのに、『君みたいな可愛い子にはもっと良い職場があるよ』とか。

 

「はァ……」

 

そんなこんなで毎日が憂鬱なホワイトリリィだった。

 

「あ゛?」

 

そう苦悩しながら帰宅の途に着いていると不意に掴まれた手。

そして、

 

「俺、アンタに惚れた!」

 

───彼女はその日、『運命(さいあい)』に出逢う。

 

 

かつて。

ホワイトバックが愛娘-ホワイトリリィに施していた溺愛っぷりは町に住む者なら老若男女が知るところであって。

たしかにあの娘は母親に似たから心配になるのも分かる、と納得する傍ら、

「でもホワイトリリィちゃんは…まぁ」としゃーないしゃーないする人も少なくなかった。

たいがい仏頂面なものの、基本的に彼女は礼儀正しく優しい娘だったし、なによりも父親想いで健気な子だったから。

故に。

 

「こんちゃすおばさん。おら」

「ども…」

 

男の影など(父親以外)なかったホワイトリリィがガッシリと腕を組んでまで連れ添う見知らぬ男に町の人間は大わらわ。

年配の者たちは「あの娘バカが!?」と驚き、ホワイトリリィと同年代〜下世代は「あの売られた喧嘩は高価買取、喧嘩売ってきたヤツは全員泣かすが座右の銘なガキ大将(アイツ)が!?」と目を剥いた。

 

「…ふふ」

 

そして、当のホワイトリリィと言えば。

 

「なんだ」

「いや…はやく帰りてぇなって」

「…そう、か」

 

まるでご機嫌な猫のように連れ添う男との距離感を、

 

(……悪くない)

 

少し。

ほんの少しだけ、心地良いと思っていた。

 





【白百合】:
ホワイトリリィ。
史実より1973年生まれだが、父であるホワイトバックが生存していた1978年まではそんな父に付かず離れずの溺愛をされていたため、ホワイトバック死後でやっと繁殖OKになったウッマ。
なのでウマ世界でも競走バではない牝バとして見ると行き遅れの部類で、『運命(さいあい)』である【電撃の差し脚】と出逢うまで年齢=…だった。
でも初恋は家お抱えの装蹄師である【神賛(ザン)】さんだったとか(なお史実より生産牧場の人間はなけなしの金を出してつけようとしていたらしいが…娘溺愛パッパさんがね)。

【先祖返り】:
ホワイトバック。
娘溺愛パッパ。
史実では晩年最愛との間に生まれた娘を守護(まも)っており、「パパの目が黒いうちは許しません!(ガチギレ)」してた。
故にウマ世界で「おっきくなったらザンさんの〜」した愛娘にえげつないくらいピシッてそう。
許さん…許さんぞ…ッ!!


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拝啓、我らが偉大な【白百合】さま


あともうちょっとだけ、生きててよ。



初めて産んだ我が子が世界最強になったり、また自らが産んだ娘たちも優秀な子を排出し、自らの名を冠した『ホワイトリリィ系』という流れができて遠に久しくなったころ。

 

「よォ、元気してっかババア゛ーッ!?」

「誰がババアだ、あ゛ぁ?」

 

「な、何すんだこンのババア…」と蹲る玄孫-シルバアウトレイジを一瞥し、ホワイトリリィは座り込んでいる椅子に身を寄せる。

 

…気づけばホワイトリリィはかの【神賛】をも超えた世界長寿記録を持ってしまっており。

流石にギネスブックに登録されているイギリスの輓バには及ばないが、四捨五入すればそのひと回り下…ぐらいの年齢ではある。

故にホワイトリリィは生き字引というヤツであったし、また"かのウマ"を産んだということでどこか現人神のような扱いを周囲から受けていた…が、

 

「……風邪とか引いてないかババア」

「だからババア呼びはやめろつってんだろ」

「あだぁ!?」

 

この若造であり彼女にとっては玄孫-シルバアウトレイジだけは周りのようにホワイトリリィを敬うような態度は取らず、こうして年相応の態度で接してくる。

それがホワイトリリィには心地よかったし、またそんな玄孫の来訪を楽しみにしている節もあった。

 

「で?今日はどうした」

「あー……なんつーかその……」

 

そしてシルバアウトレイジもホワイトリリィにだけはどこか気を許しており、こうして訪れると何かと、時には叱ったり、世話を焼いてくれる彼女を慕っていたが……しかし今日ばかりはいつものようにズバリと要件を言うことはできずにいた。

 

「…」

「言えねぇことか?」

 

見た目は言動は粗野であれ、老若男女困っているヤツは放っておけないし、幼い頃からの教育の賜物で高齢者を敬いなさいと躾られているシルバアウトレイジ(対ホワイトリリィは身内ゆえのじゃれあいである)。

だから、少し先にある自分の引退式に出て欲しいとか、あわよくば何かひと言でもいいから言葉を承りたいとか…そんな気持ちはないったらない!

でも、それでも……。

 

「ぅ、」

「お?」

「……いや、なんでもねェ」

 

そうして、伝えようとして。

しかし結局その言葉は最後まで紡がれることなく。

「そうかい。まァいいサ。今日も泊まってくか?」とホワイトリリィも深く追及することはなく、そのまま二人して夕食を食べ始めるのであった。

 

 

「…あンの老いぼれが」

 

ぼた、と涙を流すシルバアウトレイジの手の中にあるのは享年を考えると信じられないほど整った文字列。

まぁ元よりかくしゃくとして、…死んでも死なねぇババアだったとしても。

 

「頼まなかったろうが、ンなこと…!」

 

ひと言貰えれば、よかったのに。

それだけで、よかったのに。

死んでも死なねぇババアだって、嘯いてはいたがその体が年々老いて、弱っていることは身に染みていたから。

 

「…クソ、」

 

こんな些細なことで、…あの人の時間を削りたくなかったのに。

 

「あした、引退式だったのに」

 

───あの、クソババア…!





【白百合】:
ホワイトリリィ。
『ホワイトリリィ系』というラインを成しては50近くまで生きた女傑。
表舞台には出ない生涯だったがその名は今もなお伝説。
だが玄孫である【銀色の激情】の引退式前日に死去。
享年48歳で突然の老衰。
でも最期まで病気や怪我ひとつない超健康体(そして超恵体)だった。
いつも通りのルーティンを過ごし、いつも通りに「おやすみ」と告げて…。

【銀色の激情】:
シルバアウトレイジ。
在りし日の祖父みたく【白百合】のことを「ババア」と呼ぶ玄孫。
周りが【白百合】をある種『現人神』のように見る中で「ババア」「ンだとクソガキ」みたいに気安く接していた。
実はツンデレしているがめちゃくちゃおばあちゃんっ子である。
ので…?


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長い、永い余生


いずれ来る、いつかを待つ。



オレが愛したヤツはみんな、オレを置いていなくなる。

 

はじめは、母だった。

元より虚弱な女性(ヒト)で、オレがデキた際には『自分の命か、子であるオレの命か』と選択に迫られ、結果、親父の懇願を振り切りオレを産んで、産後の肥立ちが悪くなって儚くなった。

 

次は父だった。

父の、母に対する愛は有名で、母が儚くなった折の憔悴っぷりは目もあてられないほどだったと聞くが、それでも父はオレを愛してくれた。

最愛の母を、コロした俺を。

いくらオレが母に生き写しだろうが、忘れ形見だろうが、父がオレを愛せる理由には、ならなかったろうに。

 

『ひとりにして、ごめんね』

 

その次は旦那だった。

オレより5つ上の精悍な顔つきの男で、周りが言うには『目付き悪くて怖い』だとか『愛想ない』だとか。

でも、オレだけは知ってるんだ。

アイツ、照れ屋だけどちょっと意地悪だって。

オレが風邪をひいて寝込んだとき、いつもつきっきりで看病してくれたのもヤツだ。

『お前は俺が守ってやるからな』と、こんな男勝りなオレを見て言ってくれたのは彼だった。

だけど、アイツはオレを置いていった。

結婚する時に「オレより長生きしてくれ」って言ったら力強く頷いたというのに。

『ごめんな』なんて信じられないくらい微かな声で告げて、泣き喚いて縋るオレを見て嬉しそうに、心底愛おしそうに…眠りやがった。

 

で、その次はオレが腹痛めて産んだガキたちだ。

流石にガキ共には置いていかれんだろうとあぐらをかいていたら置いていかれた。

居住している場所が遠いなり何なりで看取れなかったヤツもいれば、間に合って看取れたヤツもいて。

その誰もが『おかあさん、だいすき』なんて、曲がりなりにも良い母親だったと言えないオレに、焦点の合わない目で告げて。

オレは、そんなガキ共の最期を看取った。

『おかあさん』『手、にぎって』とオレを呼ぶ声が、段々と小さくなっていき、やがては聞こえなくなる。

そうして静かになる部屋で独りきりになったとき、いつも思うのだ。

ああ……また置いていかれたな、と。

 

「…、」

 

さびしい。

さびしい、淋しい、()()()!!

誰も、オレの隣にあってくれない。

あって欲しい、()()()()()()()()()()

オレを置いて…!

 

「なんで…」

 

オレが、何をしたって言うんだ。

ただ、愛して、愛されたかっただけなのに…!

 

「なんでだよ……っ」

 

こんな結末を望んでたわけじゃないのに!

ああ、誰か。

誰でもいい。

オレのそばにいてくれ。

もう置いていかれるのはいやだ。

さびしくて、さびしくて、たまらないんだ……!!

 

「……だれか……」

 

そんなオレの声は誰に届くでもなく虚しく消えていき──そしてオレはいつもの如く目を覚ますのだ。

 

(……またか)

 





【白百合】:
ホワイトリリィ。
愛した者に置いていかれる運命(さだめ)ではあるがそれを差し引いても長生きだったウマ。
気づけば自分の弱さをさらけ出せる相手もいなくなって、目に入れても痛くない我が子たちもみな…。
でも、孫や曾孫、果てには玄孫までいるので。

子どもたち:
それぞれの道を歩みつつも最終的には親である【白百合】よりも先に儚くなってしまった。
いちおう生存√では長子である銀弾が一番長生きな模様。
また全員が全員『おかあさん大好き』と言っていく。
『愛してる』とは言わない。
だってそれは、【白百合】の最愛の伴侶である【電撃の差し脚】の特権なので。


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チャイゲ「銀弾配布にしてもたけどそうしたら才能開花できんよなぁ…。せや!」


勝てるかンなもん!!をコンセプトに〜。



1:名無しのトレーナーさん

 

恒常超高難易度レジェンドレース VS銀弾 開催!!

 

【笑顔なウマ娘銀弾】

 

 

2:名無しのトレーナーさん

 

超高難易度に相応しいステしてらっしゃいますけどさぁ…

 

 

3:名無しのトレーナーさん

 

まぁ初めたばかりの新人トレーナーでも参加できるから多少はね?

(負けても大量のマニーやらサポートPtやらタフネス30をくれる姿を見ながら)

 

 

4:名無しのトレーナーさん

 

銀弾の活躍時期以降のウマ娘で挑むと銀弾にバフかかるからな…

『先行く影』…

 

 

5:名無しのトレーナーさん

 

いちおう間口広く芝でもダートでも挑めるようになってるけどねぇ()

 

 

6:名無しのトレーナーさん

 

5着以内に入るとピースくれるけど、けど…っ!

 

 

7:名無しのトレーナーさん

 

無課金勢に勝つのはキツい(キツい)

 

 

8:名無しのトレーナーさん

 

もう銀弾で挑ませてくれよ(白目)

 

 

9:名無しのトレーナーさん

 

銀弾が活躍してた時に活躍してたorそれ以前のウマ娘なら銀弾バフなし等倍で挑めるけどね〜

 

 

10:名無しのトレーナーさん

 

>>9

CBとかカイチョーとかで関係有り系ので挑むとキャラ個々の固有バフ着くけど、その時の銀弾バフない代わりに単純にステの暴力してくる…

 

 

11:名無しのトレーナーさん

 

っぱ銀系列で挑むしかないんですわ!

 

 

12:名無しのトレーナーさん

 

個々の固有バフの名称、

CB→夢の対決

葛城→待ち望んだ再戦

カイチョー→絶対VS必然

なの好き♡

 

 

13:名無しのトレーナーさん

 

>>11

芝コースは今ガチャやってるアウトレイジが有効らしい

とはいえチャンプの固有引き継がせて最終直線お祈りらしいっスけど

 

 

14:名無しのトレーナーさん

 

逃げで挑んだら競り合いにテンション上がってガンガン速度上げてコッチが出してるウマ娘潰してくるからな、レジェレ銀弾

…何度最下位に沈んだことか

 

 

15:名無しのトレーナーさん

 

銀系列はバフ乗るからね仕方ないね

 

 

16:名無しのトレーナーさん

 

史実で凱旋門挑んだ組もいちおうステアップされてるんだよな?

 

 

17:名無しのトレーナーさん

 

>>16

バフに比べると微々たる量だけどね

 

 

18:名無しのトレーナーさん

 

史実が史実だから「しゃあないか…」されるし、文句が出ても史実動画で黙らせるからなコイツ…無敵か?

 

 

19:名無しのトレーナーさん

 

>>18

そりゃ世界覆す無敵の弾丸ですし

 

 

20:名無しのトレーナーさん

 

もうちょっと加減しろ最速の蹂躙者〜!!

 

 

 

 

 

「名だたる名ウマ娘に日々挑んでもらえてこちらも嬉しいよ」

「────さ、おいで?」

 





レジェンドレース銀弾:
元が配布ウマ娘で才能開花のために超高難易度で芝・ダートで常設されることになった女。
5位以内に入ることでピースをもらえる。
銀弾以外にも出走ウマ娘に銀弾よりは多少(多少とは言っていない)弱いCB・葛城・カイチョー・オグリなどが出るので…後は分かるな?
しかし5位以内に入らずとも大量のマニーやらレイやら何やらの育成素材をくれるので『強いけど都合のいい女』と言われることも。

また銀弾以前・銀弾活躍時期のウマ娘は等倍でレースだが、銀弾以後のウマ娘で挑む場合は元から強い銀弾にバフがかかる。
しかし銀弾に縁があるウマ娘だったりは固有バフがもらえるのでそれを駆使して戦おう!みたいな。

そんな話。


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トレセン学園の『裏番』


裏からじゃなきゃどうにも出来ないモノもあるって話。



大体のことは"あの人"に感謝しているが、この件に関しては今となっても『嵌められた』と内心思っている。

 

「はァ、」

 

元々、"あの人"が締めていたある種一大勢力は今の今でも一大勢力のまま。

"あの人"から頭目の座を引き継がされた自身の言うことしか聞かない狂犬(ウマだが)共の集まり…。

 

「あの大犬が面倒見てンのはアレらと比べて良い子ちゃんばっかだよ。分かンだろ?───若獅子」

「えぇ」

 

座り心地しかよくない生徒会室(へや)の中でガリ…と大して美味くもない人工甘味料の棒飴を噛み砕く。

 

「ま、でもアレはあれで使い道があるンだけどな」

「……"あの件"ですか?」

 

持ってきた資料をパラリ……と捲る。

そこに記されたのは、最近現れた素行の悪いマスコミの…についてだった。

 

「そーだヨ。キミも知っての通り、ウチのがちょこちょこと動き回ってンだろ? ……それは"コレ"のためってワケ」

 

まァ、アイツら僕っていう頭目がいないと何仕出かすか分からない群れではあるが一度纏めあげた際の結束力は折り紙付きだ。

 

「…なるほど」

「だからそちらサンが心配するようなコトは()ェ」

 

いきなり呼び出されたかと思えば尋問が始まるとはなァ。

いやまぁ、この立場になってからじゃあ珍しいことではないけどよォ。

 

「…………」

 

目の前にいるのはこの学園の生徒会長であるウマ。

その名は───シンボリルドルフ

 

「にしてもキミも大変だな?この仕事量をひとりでこなすのは、」

「貴方が手伝ってくれるのが一番いいんですけどね?」

「…オイオイ、前々から言ってるだろ」

 

"裏番は表に関わらない"。

トレセン学園には数多くの生徒、またそんな生徒たちを支える人々が数多いる。

で、全員が全員イイヒトだったらよかったんだが…中にはちょ〜っとこういうトコロに関わるヒトとしてはダメなのもいるワケで。

そうしたのを取り締まるのが僕が(不本意にも)頭目を務める『裏番』だ。

 

「僕はあくまで『裏方』。シンボリルドルフ(キミ)という存在(おもて)があってこそ成り立つモノ」

「……分かってますよ」

「ホントにぃ?」

 

何がどうしてそう欲しがられるのか、皆目見当つかないンだが。

確かに昔、入学したばかりのキミを害そうとしたり、キミ経由でキミの家の面子を潰そうと画策した奴らを学園からの依頼で"何やかんや"したことはあったけども…。

 

「んじゃ、ま、話は終わりだ」

「もっとゆっくりしていっては?」

「いいや、僕がいないとアイツら何やらかすか分からないんでね」

「…そうですか」





僕:
シルバーバレット。
トレセン学園の『裏番』。
慕っていたかつての先輩こと"ある人"からその座を受け継いだ。
元よりトレセン学園きっての問題児集団であるチーム:アルデバランを纏めあげているが、それよりも"裏"の者たちを纏めあげるのは僕をもってしても難しいらしく…?

"裏"の人々:
いちおうトレセン学園に在籍して走ってもいるが、どっちかというと退学ギリギリの集団。
『裏番』である僕が纏めあげることで何とか均衡を保っているし、『裏番』である僕の言うこと以外は例え生徒会長であろうと理事長であろうと聞かないヤツら。
その分集団を活かした情報収集や沈静化には一役買っているので学園も辞めるに辞めさせられないらしい。


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望んでいる


諦めるなぞ、できやしない。



「うお、」

 

不意にきた後ろからの衝撃に、振り返ればそこには可愛がっている後輩がいた。

見るからに、拗ねているらしいと分かる耳にヤレヤレと苦笑すると、もっとぎゅう〜と強く抱きしめられる。

 

「おうおう、どうしたよ」

「…せんぱい」

「ん」

 

腹の虫が鳴ったわけでもないが、美味しいものを食べれば何とかなると我が家というか、我が家系の持論を胸に抱きながら後輩をいつも通りに部屋に招待する。

 

「何でも作ってやるよ。野菜とか諸々この前親から送られてきたばっかだし」

 

…そう言っても何もリクエストしない。

あれ?いつもなら嬉々として「○○が食べたいです!」って言うはずなのに?なんて思いながらも、まあ何かあるんだろうと思って特に気にせず調理を進める。

 

「はい、出来たぞ〜。…とは言っても俺の食べたいモンだが」

「…………」

「…好みじゃなかったか?」

「……いただきます」

 

やっと反応してくれたと思ったらこれだもんなぁ。

もそもそ、と食べる姿に覇気はない。

ただ生命活動のために食べているというような風情だ。

 

「……先輩」

「なんだ」

「どうしたら、先輩は」

「おう」

「……なんでもないです」

「おう?…そうか」

 

 

嫌に、目に付いた。

僕が慕うあなたは僕以外にも慕われていて、否が応でも場の中心になる。

…それが、嫌で、嫌で。

そりゃあ、あなたにみんなが惹かれてしまうのも分かるけれど。

確固とした芯のある人だから、寄りかかってしまうのも分かるけれど。

…それでも僕はあなたの一番になりたいんです。

ねえ、せんぱい。

 

「…、」

 

見つめるあなたは、眠っている。

スヤスヤと、何も悩みなんてないというように。

…僕の悩みを、知らないままに。

 

 

あなたはね、先輩。

自分では気づいていないかもしれないけれど、"あのウマ"に関すること以外ではとっても、無関心なんですよ?

"あのウマ"しか、前しか、見ていないから。

それに僕らは憧れつつも、焦がれつつも、…憎くて。

 

(もしかすると、お父さんもこんな気持ちだったのかなぁ)

 

同時に、己が父のことを考える。

己が父のライバルだった人は、先輩のお父さんで。

その人も、その人で蛙の子は蛙というように先輩とどっこいどっこいだったらしいから。

ライバルだからこそ、先輩後輩の僕らよりもお互いのことを知っているだろうし。

きっと今の僕よりも、ずっと…。

 

「せんぱい」

 

起こさないように声をかけてみる。

もちろん返事はなく、ただ寝息だけが聞こえて。

 

「…ぼくだけを」

 

そうして。

もらした言葉は、寝息に呑まれた。





後輩:
【飛行機雲】。
少しナイーブ気味。
先輩である【銀色の激情】を慕う姿はまるで人懐っこいワンちゃんのようだが、内情は…。
こっちもこっちで親が親なら子も子である模様。


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だってあなたが"かみさま"だから


すてきなせかいで、あたりまえでしょう?



ずっと、家から離れたどこかで絵を描いているような子どもだった。

周りは我が家の環境を鑑みてか、積極的に関わり合いになろうとする奇矯な者はいなかったし、僕自身ひとりで過ごす方が気楽な子どもであったから、スケッチブックと少しばかりの画材を持っては絵を描いていた。

そんなある日、

 

「綺麗な絵だね」

 

そう、声をかけてきた人。

「隣に座ってもいい?」との問いにコクリと頷けばちょうどいい間隔で座るその人は──僕よりも、たぶん…年上の年齢の男性。

 

「…あなたも絵を描くの?」

「えぇ、まぁ……そんなところかな? ねぇ、良かったら僕にもキミの描いた絵を見せてくれない?」

「……うん」

 

僕は自分の描いた絵をその人に見せた。

どれほど描いても、「見て」と頼んでも見てくれない母とは違い、その人は僕の絵を見てくれている。

それがとても嬉しくて、つい夢中になって筆を走らせてしまった。

だからだろう。

 

「ならおじさんと、一緒に暮らす?」

 

今までの、母親とのすべてを話してしまったのは。

 

「うん。…()()()()

「…。なんだ、気づいてたの?」

 

 

そうして。

父さんは母のように無理に僕を学校には通わせず、「行きたければ行けばいい」というスタンスで自由にさせてくれた。

それはきっと他のきょうだいを育てた上での経験上からなんだと思うけど、それは僕にとってはありがたかった。

……だって、学校になんて行ったってどうせ友だちなんかできないんだもの。

それに、学校に行かなくたって家にはたくさんのきょうだいがいるから。

人それぞれ、十人十色で個性があって。

みんな違っているけれど、それでも家族としてひとつ屋根の下で暮らしているのだ。

それはとても楽しくて、あたたかくて、幸せで。

だから僕は毎日笑って過ごしていた。

 

「おはよう、兄さん」

「あぁ、おはよう」

 

朝起きれば一番最初に挨拶するのはきょうだいのまとめ役であるハイセイコさん。

他にもハイセイコさんの同年代のきょうだいたちが各々朝の準備をしているから挨拶して。

 

「リペ、また絵描きに行くのか?」

「うん」

「あまり遠くに行かないようにするのよ?」

「うん」

 

出かける時にはみんなに見送られながら行ってきますをして。

「ただいま」と言えばおかえりと言ってくれる人たちに囲まれていて。

 

「今日は何を描いたんだい?」

「これ……」

 

そして夜になれば父の部屋に行ってその日描いたものを見せる。

絵を通してしか、『世界』ってモノを認識できないシロガネリペインタ(じぶん)の『せかい』を見てもらうために。

 

「…どう、かな?」

「うん。今日もリペインタの『せかい』は───」





【世界を塗り替えた者】:
シロガネリペインタ。
絵を通してしか『世界』を認識できない子どもだった。
けれども父である銀弾のことは絵を通さなくても認識することができた模様。
たぶん興味のないモノはだいたいが色の塊か、ぐちゃぐちゃに塗りたくったものにしか見えてない。
…だって、そんなものにリソースを割くのは、

───もったいないもの。


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習うより慣れろ!(無慈悲)


みんなに『シロさん』『シロちゃん』と呼ばれては本名を認識されていない系大名バさんェ…なウマ世界でのあるイベントの話。



ある地域では一年に一度、ウマとの触れ合い会がある。

たしかに人とウマは共生しているとはいえ、人口比率ではどちらが多いと問われると答えは圧倒的に人の方だ。

学校のクラスを見ても一クラスに数人ウマがいれば多いというぐらいには希少な存在なのだから。

 

「……まぁ、そうだよねぇ」

『シロおじちゃん!』

『シロちゃん!』

『シロにーちゃん!!』

「はいはい、ひとりずつひとりずつね〜」

 

ワイワイと自分に群がる子どもたちの相手をしながら『シロ』と呼ばれているウマは思考する。

 

(この子たちが知っている"ウマ"って、ほとんどが『テレビに出てる人』っていうイメージだろうしなぁ。力の差とか、もし衝突したらっていうの知らないと危ないだろうし…)

 

子どもたちよりも少々大きいだけの体格ながらも『シロ』はひょいひょいとその子たちを数人持ち上げるとクルクルとゆるく回転して遊んであげる。

きゃっきゃっと楽しげにする子どもを横目に、『シロ』はまた自分と同じように子どもに囲まれてはオロオロしている我が子に親指を立てた。

 

(わかるわかる。はじめは怖いよね〜。そういう教習も受けた分、緊張もひとしおだよねぇ)

 

現役を引退して、そう時間の経たないころから毎年このイベントに参加して、慣れている自分とは違い、今年初めて参加するあの子にとってはなかなか大変なことだろうなぁと苦笑する。

それでもなんとか笑顔で対応しているあたりさすがだと感心しながら、自分も負けていられないと気合を入れた。

 

 

「お疲れ〜」

「…はい」

 

ぺと、と自販機から買ってきた冷たいペットボトルを当てるとピッ!と飛び上がった姿にクスクスと笑えばジト目で見られた。

 

「ごめんごめん」

「もう…」

 

今日もいい天気だった。

それにプラスして、元気な子どもたちにエネルギーを吸い取られたか、くったりしている様子に申し訳なく思いつつも労うように頭を撫でれば気持ち良さげに目を細める。

そんな仕草にも癒されながら休んでいると、

 

「迎えに来ましたよ」

「お、いいところに」

「…」

「……あの、シンゲキは大丈夫で?」

「熱中症にはなってないみたいだけど…。気疲れとか」

「あぁ、」

「運転ありがとね」

「いえ…。シンゲキ、立てます?」

「…ん」

 

先に鍵を受け取り車を開ける。

 

「さ、帰ろっか」

 

 

「つかれた…」

「ははは。…ちゃんと、疲れは取れた?」

「寝たらだいぶ楽にはなった」

「そう。…ご飯食べる?」

「ん」

「食べたら歯を磨くんだよ」

「分かってるよ───父さん」

「よろしい」





『シロ』:
町のみんなからはそう呼ばれている系ウマ。
穏やかで大人しいので過去にはしっぽの毛を引き抜かれたことも。
またシンゲキくん以外にも子どもがいっぱいいる。

『シロ』さんちのシンゲキくん:
『シロ』の子ども。
元はきょうだいたちと共に上京していたが最近帰ってきた。
その折に父である『シロ』から誘われ、イベントに参加することに。
なお教習をみっちり受けた結果、かよわいいのちを恐れる怪物みたいな反応をイベント中ずっとしていたとか…?
頑張って慣れようね!(無慈悲)


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きっと乞うのは自分の方


ある種の信頼。



「キミは、」

 

僕のために、泣いてくれる?

そう問いかけるとひどく怪訝そうな顔をされた。

 

「いきなりどうした」

「いや、ね」

 

ちょっとした、思春期特有の感情からだ。

『もし自分が居なくなったとして』という。

 

「ミスターも、ルドルフも、…悲しんではくれなさそうだなって」

「……」

「だって、あのふたり強いもんねぇ。どうせ、僕のことなんて一時のことで、すぐに切り替えて前向いて歩いていきそう」

 

ただの雑談だ。

それ以外に、ない。

 

「…それで?あたしが何だって?」

「あぁ。でも、キミは悲しんでくれそうだなって」

 

星というには熱すぎて、太陽というには近すぎる光を宿す瞳が見開かれる。

 

「……なんだいその顔」

「お前にしてはずいぶんと弱気だと思ってな」

「ひどい言い草だ」

 

くつくつ笑いながら、話は続く。

 

「まぁ、確かにお前がいなくなったらあたしは泣くだろうよ」

「だろう?」

「それもワンワンとな」

「…そこまで?」

「あぁ。みっともないくらい泣きわめくぞ」

「へぇ……」

 

それはなかなか見てみたい光景だった。

 

「だから安心しろ」

「それじゃあまるで前提が前提じゃないか」

「当たり前だろ。お前がはじめた話なんだから」

 

くだらない話。

いつものように邪魔が入るでもなく、ただ淡々と。

熱も色もなしに、決まりきった台詞をなぞるように。

 

 

忘れられるは、怖い。

そう微かに呟かれた音を、拾った我が耳を呪えばいいのか、はたまた。

己が隣に座した背は嫌に華奢で。

「僕のために泣いてくれ」という何とも傲慢な言葉に、「なら、あたしのために『生きる』と言え」とハッキリ言えず。

掴んでいなければ、どこか勝手にフラフラと飛んでいく凧のような、もしくは美しく愛らしい金魚のようなソイツに。

手を伸ばしても届くことはないことは分かっていた。

それでも伸ばしてしまう手をどうにかしたい。

 

「……何してんだ、あたしは」

 

頭を抱えてため息をつく。

その吐息すら熱い気がしてならない。

 

(……こんな感情知らない)

 

いつの間にか芽生えていたこの気持ちは。

目を開けても閉じても灯ってやまない光は?

まだ弱い光でしかなかったころの。

 

「、」

 

おだやかなものだ。

けれど手を伸ばさずにはいれなくて。

綺麗だった。

白い光。

近づきたかった。

近づけば───()()()()と分かっていても。

本能が、厭うても。

 

(嗚呼、)

 

いつか、総てを包むだろう"光"を。

 

(あたしを、…()()、だけを)

 

てらして。

てらして、くれよ。

他には何もいらないから。

ただおだやかに、照らす、

 

お前(ひかり)、を」





【世界制覇の大エース】:
カツラギエース。
『自分のために泣いてくれ』と乞われつつ、でも本心は言えない誰か。
まだおだやかで、微かだったころの"光"を目の当たりにしていて、それでいて"光"に焦がれている。
総てを焦がす"恒星"ではなく、すべてを包み込む"ひかり"、を───。


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ゆく場所


ひとりぼっちは、嫌いだけれど。



じっ、と見てくる目の多さが、まるで何処ぞの映画の主人公にでもなったようで。

 

ただの一介の人間に、みんながみんな期待(きぼう)を抱いている。

自分と同じように"あの門"を目指すもう一人を見ている人もいるけれど、大体が見ているのは───自分(██)だ。

 

あの()()から、またはその以前から。

『この世界』を知っている者はみな、自分(██)を見る。

 

「…………」

 

そんな視線を全身で受け止めながら、影はゆっくりと歩き出した。

一歩進むごとにざわめきは大きくなっていくけど、もう気にする余裕もない。

今はただ、前だけを見て歩くだけだ。

 

「…………」

 

しかし。

歩けども歩けども、視線は飽きもせずに追ってくる。

それはいい。

別に構わないのだ(慣れた)

問題は、自分の中に湧いてきた別の感情だった。

 

(……なんだろう)

 

さっきまでとは違う種類の胸騒ぎを感じる。

何やら得体の知れない焦りのようなものを感じて、思わず足を止めてしまった。

すると、どうしたことだが自分の脚にまとわりつく泥のような、手のような。

 

「……」

 

振り払おうか、振り払うまいか。

そう考えて、考えながら脚を少し動かすと素直に離れていったので『そういうものか』と思い直す。

引き止められることはない。

ただ、そっと脚に触れられるだけ。

そしてまた歩みを再開すると、やはりついてくる。

今度は腕にも絡みついてきたが、それも同じように少し動くと離れていった。

……なんだこれは?

一体どういうことなのだろうか。

わからないまま、だけど特に気に留めずにそのまま進んでいく。

それからしばらく歩いていくと、ふと、()()()()()()()

 

…『いかないで』?

それとも、……『こっちだよ』?

 

「……?」

 

声ではない何かに引き留められて、立ち止まる。

すると、今度は背中を押してくれたような気がして振り返った。

そこには誰もいないし何もなかったけれど、確かに誰かがいたように思えた。

 

「ありがとう」

 

感謝の言葉を口にすれば、…どことなく手を振って見送られた気がした。

 

 

"門"というのは思った以上に危険なものだと思う。

何故なら"門を潜る"というのは、つまりは異世界へ足を踏み入れるのと似たようなものではなかろうか。

入って、また出られるのならまだいい。

でも、一度招かれたが最後…()()()()()()

 

「なんて、ただの冗談だよ」

 

とんとん、とステップを踏むように歩くソコは薄暗い場所。

自分にとっては慣れ親しんだ場所だが…歳若い者が来るには面白みもクソもない場所だろう。

 

「ま、気長に待つさ」





一度入ってしまったら、戻れない場所だったのか。
進み続けるしか、許されない場所だったのか。
…まぁ、ただの夢想で思案にしか過ぎないのですが。


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"輝き"


微かながらも。



そこに墜ちたのは俺だった。

墜ちていく中で狭いのか広いのか、分からなくなった空を見上げる。

かけられた期待(きれい)な言葉がいつまでも心の中に巣食ってる。

そんな俺を救ってくれようとしたお前は…俺にはもったいないくらい『イイヤツ』だったけれど。

 

"星"が見えたんだ。

無重力に喘ぐように地を蹴って。

誰よりも必死に門に手をかけて。

『自分』というちっぽけな星が崩れていくのを、どこかぼんやり感じてた。

窮屈な、こんな自分を「救って」って、"星"に願ったの。

 

行き着いた先は、面白味なんてなかった。

でもそれを伝えるわけにもいかないし。

『夢』だけ見せて、『夢』を叶えられなかった俺はやっぱりダメなんだなって、心の中で思うしかない。

 

"星"を目指して浮遊感。

(そら)を目指すために、誰よりも早く靴を脱いじゃって。

これからどこへ行くのだろう?と思っても、どうせ行き着くのは"星"の下。

周りのみんなが行けない場所。

…だって、みんな"星"が見えないから。

 

でも、大丈夫だよ。

もう、いいよ。

諦めようとして手放したはずのそれは、いつの間にかまた自分の手のひらに戻ってきて。

その手を離さないようにと、必死になって掴んでいた。

『夢』を諦めたら、何かが変わると思ったけど何も変わらなかった。

諦めた俺の代わりに、【あの子たち】が俺を引っ張ってって。

 

あぁそうか……。

俺は、自分で思っていた以上に欲張りでワガママだ。

だから、この気持ちだけは誰にも譲れない。

ずっと抱えてきた想いがある。

だけど、それを誰かに伝える勇気もなくて。

ただただ胸に秘めたままでいるしかなかった。

いつか消えると思っていたソレを、…【あの子たち】は。

 

「つれてって」

 

手を伸ばす。

一瞬、引っ込みかけた手を強く掴んでは、グイグイと上へ上へと引っ張り上げる力強さに思わず笑ってしまえば、目の前に満点の星空が見えた。

 

 

いつか"星"が潰えても。

その眼の中に反射した"星"が、消えることはないだろう。

寝ても醒めても。

キラキラと輝く"星"。

『夢』から醒めるまで、夜は終わらないから。

夜が終わらなければ、"星"は輝き続けたままだから。

 

───"(ゆめ)"を見ているの。

 

微睡んだ瞳の中にぼやりと瞬く"星"。

暗闇の中に浮かぶ小さな光。

まるで、道標のように。

輝くけれど、触れさせてはくれなくて。

ただ見つめることしか出来ないのだけれど。

それでも誰もが……見ているの。

 

「きれい、だなぁ」

 

また、うつらうつらと舟をこぐ。

そうすれば、もっと"星"が見えるとでもいうように…。

 

「おやすみなさい」





"星":
見えたからには、ずっと見えるまま。
仄かに光っているように見えて、ずっと輝いている。
キラキラ、キラキラ。
…目を離すことすら、許さないとでもいうように。

────光り、輝いて。


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"流星"の差し脚


終わる様が、一番"きれい"?



選手から引退し、裏方へと移行したシルバーチャンプが多数のウマから、まるで眩しいものを見るかのように見つめられているのに気がついたのはいつだったろうか。

 

「あぁ、いいっすよ」

 

シルバーチャンプは断らない。

頼られれば頼られるだけ、その期待に応えるように、いや応え過ぎるまでに相手を見て、その相手に沿ったトレーニングやメンタルケアをしていくのだ。

献身的…というよりも、もはや残酷なまでに。

寄り添ってくれる。

巣食()って、くれる。

 

「おぉ、前回よりもタイム早くなってますね!」

 

たくさんの選手を相手しているというのに、その誰もを記憶していて。

甘過ぎもせず、締めるところはキチンと締める。

確かにそれを見ると、向いているのだろう。

誰かを支えるということ。

未来に託すということ。

でも。

…しかし。

 

───"あの日"見た星屑が、今でも目に焼き付いている。

 

 

それは、"星"が崩れる瞬間だった。

決死で、必死で、誰よりもソレを求めて。

手を伸ばした姿が、流星の尾だったと気づいたのは"星"が割れてから。

 

割れて、崩れて、形も不格好なのに。

それでいて、どうしようもなく目を惹く。

あの"星"に手を伸ばせずとも、こちらの"星屑"ならと、欠片になったからこそ思ってしまう。

 

(……綺麗だ)

 

ただただ純粋にそう思った。

こんなにも美しいものがこの世にあるのかと思った。

レースなんて、そんなものとは無縁の世界にいたはずなのに。

それでも、目を奪われた。

心を奪われてしまった。

 

"あの星"みたく、あんなギラギラとしたモノじゃなくて。

割れて、まるで金平糖のように淡く光る"星屑"に。

 

「はじめまして!…新入生、だよな?」

 

その一言さえ胸を高鳴らせる。

ただ一介のウマでしかない自分を、見かけるたびに気にかけてくれて、時にはシューズだって一緒に選びに行ってくれる。

 

「これなんかどうだ?っと、サイズ展開は……」

 

いつも通りの優しい笑顔を浮かべながら、自分のことを見てくれる。

 

「はい……。大丈夫です」

「よかった!……んー、でもワンサイズ大きくした方がいいんじゃないか?」

 

自分より少し背の高いその人が屈んでシューズのサイズを確認している姿にじわりと熱が滲む。

 

誰にでもやさしいアナタ。

誰にでも、平等に輝く"星屑"。

ゆえに。

 

───きっと、いつかどこかへ行ってしまいそうな気がしてならないのです。

 

 

アナタは"星"になれなかったと言うけれど。

アナタが"星"でないというのなら、アナタに魅せられた私たちは…。

 

「いったい」

 

"何"だと、言うのでしょうか。





【銀色の王者】:
シルバーチャンプ。
裏方に回ったすがた。
誰でも寄り添って面倒みてくれるウッマなせいで…。
またそれまではレースに興味がなかったのに、あの凱旋門で脳焼きされてトレセン学園に入学してきた子もいるらしい。
伯父も伯父なら甥も甥。存在が罪過ぎ定期。


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"まがい物"は嗤う


しかし、そう思うのは───。



「いいなァ…」

 

【日本の総大将】、か。

そう呟いた自身の声は、思わず嗤ってしまうほど掠れていた。

大した経歴もないままに、血筋だけで期待されて挑んだ偉大なる門にて、膝を着いてしまった俺は。

"最悪"には至らないまでも、元のように走ることは絶望的だと診断された俺は。

 

「いいなァ、───日本総大将」

 

ただ、羨んでいた。

誰もが一心にかける声援をどこか画面越しに見るような心地で、同じ文言をレコードのように、ただ。

 

俺への期待は、大体が"あのウマ"由来で。

みんな、"あのウマ"の残した軌跡(奇跡)に盲いてしまったから、希望(ひかり)を見てしまったから。

だから、その輝きをみんな、もう一度見たいんだと、思っていた。

…でも違ったらしい。

 

「だれでも、いいんだな」

 

───俺じゃなくても。

 

目の前には、あらんかぎりの熱狂があって。

それは、俺なんかじゃ到底敵わないような熱量と想いが乗せられたもので。

それがなんだか無性に悔しくて、悲しくて。

気づけば俺は、自分を溶かすよに、人混みの方へと歩を進めていた。

 

 

"綺麗"だと思った。

本当は、そう思ってはいけない類のモノであったのに。

その時、誰もが見惚れていた。

『頑張れ』の声も忘れて。

瞬きすらもったいないと。

その一瞬で潰えるのだと。

 

それはまさしく───"流星"だった。

 

崩れゆく"星"のひとひら。

最後の煌めきを放つように、燃え尽きるように駆け抜けるその姿。

それを見た瞬間、誰もが息を呑んでいた。

 

「……っ!」

 

呼吸なんてしている暇はない。

今この目に映っている景色を逃すわけにはいかない。

そんな強迫観念にも似た衝動だけが心を突き動かした。

そして、"流星"はゴール板を駆け抜けたのだ。

歓声はなかった。

ただ、静寂だけがあった。

まるで時の流れを忘れたかのような刹那の中、たったひとりのウマの姿だけを焼き付けようと、全ての観客が目を奪われていたからだ。

しかしそれも束の間、すぐに怒号とも思えるほどの喝采が響いて。

 

───喝采(それ)は、いったい誰に向けられたものだったのか。

 

 

自らが"星"であることを、本人だけが知らない。

 

「俺が"星"だァ…?」

「ンなワケねェだろ。"星"ってのはなァ、」

 

同じ文言。

きっと、いつ聞こうが変わらないだろう。

何度言おうと、あのウマは信じない。

 

「俺ァ只人だよ。"星"に手を伸ばして、愚かにも『(さわ)れる』って思っちまっただけの凡庸な大バカ者さ」

 

それでも、いつか気づいてくれるだろうか?

貴方が如何にして、()()()"()"となったかを。

それに気づいたとき、貴方はどうするんだろうか。

 

(…でも、)

 

貴方はその"事実"を───。





【銀色の王者】:
シルバーチャンプ。
ヒーローに憧れていた子ども。
でもそうはなれなかった。
しかし、周りは…?

とか言うて、モンジューさんが「エルコンドルパサー、
キミというウマに出会えたことに感謝を───」
的な独白、その最後の「を──」の部分で88秋天のオグリの如き眼光でヌッとやって来てるんですけどね、コイツ(脳焼きの音)。


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誰かのために、


『あと』を残す。



それは『(しるべ)』なのだろう。

 

『分かりやすい、()でしょう?』

 

小さく振り向いたアナタが笑う。

そうして、呼び止める声も聞かず去っていった。

 

 

「…」

 

べちゃ、と一歩進むたびに張り付く足の裏にその影は顔を顰める。

()()なるようになって、随分と経ったがそれでもまだ慣れない。

 

「…………っ」

 

足を軽く上げるだけで難儀する有り様に辟易としながら、影はなんとか前へと進んだ。

 

───あの日以来、ずっとこんな調子だ。

煌びやかな世界に飛び込んで、(そら)を目指して。

一足飛びでなんて届かないからこそ、地を這いつくばりながら駆け上がっていくのだと思っていた。

だが、現実はどうだろうか?

 

「…でも、『(しるべ)』にはなっているのかな?」

 

よく目立つ色が、跡を残す。

きっと誰もが目を見張るような色。

自分がそこを歩んだ跡で、誰かの目印になっているならいいと思う。

…"あの人"のように。

そんなことを考えて、ふっと笑みを浮かべた。

 

「……行かなくちゃ」

 

そして、大きく踏み出した足は、しっかりと地面を捉えていた。

 

 

俺の足には、張り付くほどのモノはなかった。

だから。

 

「───〜〜〜っっ!!」

 

脂汗が滲み。

口からは今にも悲鳴が出そうになる。

それでも。

それでも、と。

手は止まらない。

噛んだ布が軋んでいく。

じわじわと広がる色。

 

「は、は…っ」

 

やっとのことで開けた口から、べちゃと唾液を吸った布が地面に落ちる。

おぼつかない足取りで身を起こせば、確かに痛みが脳髄を灼いた。

 

「ぅ、う゛…」

 

けれど、それしかしようがなくて。

しょうがなくて。

俺は、先行った"星"のようにはなれなかったから。

尾を引くほどの煌々しさもなければ、引き留めるほどの強さもない。

ただただ無様なだけの、ちっぽけな…()()()()()

 

「スパンコール貼って、周りの光からおこぼれ頂戴してただけだ、俺は…」

 

足取りは重い。

そして、足跡だって不格好だろう。

一歩一歩が滲み続ける。

それでも、進まなきゃいけないのだ。

 

「……あぁ、そうだよな」

 

見上げた空に浮かぶ"星"は、いつか見たものと変わらない。

少なくとも、この目に映す限りは。

 

「俺は、アンタらみたいに輝けないけどさ」

 

でも。

輝けないなりに、

 

「『(しるべ)』ぐらいには…」

 

 

地面には、足跡が広がる。

ひどく目につく、赤い、赤い。

踏み潰された痕。

または、自分の身を削った跡。

しかしそれは…どうしようもないほどに『(しるべ)』で。

 

恐ろしいのに、目が離せない。

忌避しようとするのに、惹かれてしまう。

まるで呪いのようなソレは、見る者を惹きつけてやまない。

 

「……」

 

その跡を辿れば、いずれ行き着く先があるはずだ。

それを人は希望と呼ぶのか、絶望と呼ぶのか。

あるいは……。

 





踊るように歩いていった"はじまり"と。
"はじまり"ほどではないが、それでも重い足を動かしていった"にばんめ"と。
"はじまり"と"にばんめ"みたいに踏み潰せ(なれ)なかったから、自分を削った"さんばんめ"。

そんな、話。


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*欲張り


誰も見ていない。
だから。



シルバマスタピースというウマの目に映るのは、たったひとり。

それ以外は、まるでいないかのように目に映らない。

 

「ねぇ、」

 

だから。

その日も、キミの目に自分は映らなくて。

…あの日、キミたちの背を見て。

憧れた。

あの小さな背にも、───()()()()

美しい、均整のとれた身体だ。

貴公子、と呼ばれるのも納得するぐらいに。

美しい栗毛は日の光を反射して、燃えるように。

キラキラ、キラキラ。

それに、まるで羽虫のごとく、惹かれて。

 

「…キミは、えっと、」

 

本当に、あの子以外に興味ないんだね。

そう言いたくても、あの子も、キミも幼なじみ揃って同じようなモノだから。

仕方がないなぁ、と思いながら。

 

「ボクのこと、忘れたの?」

 

ジリ、と"あの日"与えた圧を与えて。

そうしてやっと、ボクのことを思い出したらしいキミに───笑う。

 

「…皇帝が、貴公子ごときに何の用?」

「そんなこと、思ってもないくせに」

 

 

他人はボクを【マイルの皇帝】と呼び、キミのことを【マイルの貴公子】と呼ぶ。

同じ時代に現れた同路線のふたりの怪物。

 

「…というワケだから、仲良くしようよ」

「お前は、僕を通してあの子に近づきたいだけだろう」

「へぇ?ボクがそんな浮気者だと?」

「…みんな、そうだからな。まぁ、仕方はないが」

 

その目に映るのは、諦念。

自身も同じ光にいっとう焦がれながらも、自身がその影になることを…受け入れた目。

 

(あー……)

 

それを見てボクは、我ながら悪いヤツだなぁと考えながらも内心ほくそ笑んだ。

だって誰もライバルがいないってことだもの。

みんながみんな、あの子に焦がれて。

あの子の影が目に焼き付いてばかりで。

あの子を守るキミを敵視してばかりで。

だぁれも、──キミを。

 

「…何の真似だ」

「いいや?別に」

 

たしかに、ボクもあの子に焦がれているさ。

けれど、キミにはもっと…()()()()()()

何故ならあの子よりキミの方が、

 

「ボクのそばに来てくれるからね」

「は?」

 

ずっとずっと誰彼に囲まれているあの子よりも。

ずっとずっとずっと。

みんなキミを見ないから。

ボクだけしか、キミを見ていないから。

 

「嘘だ」

 

つぅ、とキミを指先で撫でればそんな言葉を吐かれる。

憎々しげに、また懇願のように。

 

「うん、そうだね。だから嘘じゃないって証明のために、早くボクのものになってくれないかなぁ……」

「断る」

 

即答された言葉に思わず笑い声をあげる。

それにますます不機嫌になるキミの顔すら好ましいと思ってしまうあたり、もう手遅れかもしれないけど。

でも、それでも。

 

「キミが欲しいんだよ」

 

この気持ちは本当なんだ。

 

「……僕は、」

「ん?」

「……いや、なんでもない」

 

何かを言いかけた口を閉じる。

それを少し残念に思いつつも、聞き返せばきっとキミは答えてくれないだろうと考えて諦める。

 

「ふぅん……。じゃあ、とりあえず今はそれで許してあげる」

「許すも許さないも……っ!?」

「ははは。なんだい、そんな鳩が豆鉄砲食らったような顔して」

 

ちょっとばかし、目と鼻の先…に顔を寄せただけなのに。ね?





【マイルの皇帝】:
ふたり共に執着しているが、どっちかというとより執着が重いのはマス太の方な御方。
ぼんやりとマス太を手にすれば自ずと僕も着いてくるんだろうなぁ…という打算もある。
今日も可愛いね。

マス太:
シルバマスタピース。
幼なじみの前では緩んだ穏やかな顔を見せるが一度幼なじみと離れると苛烈な面が見え隠れするウッマ。
自立している風に見せて不安定。
なので落ちたら落ちっぱなしになる。
それはもう…幼なじみとの関係性で浮き彫りの事実なので。

幼なじみ:
マス太の幼なじみ兼執着という名の台風の目。
幼なじみであるマス太とそこそこの依存関係を築いているが「マス太が幸せならそれでいいと思う」という、マス太がそう言うなら自分も従うよのスタンスなので攻略はさほど難しくない。
でもほんの少しでもマス太を悲しませたら…する気概は十分にあるので注意されたし。


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最悪なまでの、災厄


似ている。


子どもが生まれた。

先輩が、忌避する伝説(ひと)とよく似た子ども。

"あの伝説(ひと)"の生まれ変わりだと、世間がにわかに沸き立つほどに、そっくりな。

 

「よォ、ガイセイ」

 

けれども、先輩はその子を忌避しなかった。

「子どもに罪はないだろ」なんていって、大人しいながらも懐くその子を、可愛がっていた。

 

(どうして)

 

ふと、思う。

僕は先輩が忌避する"あの伝説(ひと)"が嫌いだ。

忌避するならば目に入れないようにすればいいのに、忌避していると言いながらも先輩は"あの伝説(ひと)"を見ずにはいられなくて。

それに気づくたびに嫌悪で顔を歪めていたから。

だから、きっとそうなんだと思っていたのに。

 

(そうじゃなかった?)

 

───コイツ、いいウマになるぜ。

 

そう言って笑う先輩の顔を見て、僕の中で何かが崩れた気がした。

 

 

「おとうさん」

 

ふわりと笑う顔が、ひどく心を掻き乱して。

次に「おじさん」と先輩の方に寄っていくのに、思わず引き止めそうになった。

取らないで、なんて聞き分けのない子どもの癇癪みたいで。

でも、我が子ながらその子は、シロガネガイセイは。

見たくなくても、目に入れずにはいられない光源で。

圧倒的で、魅力的で。

『強過ぎてつまらない』なんて言われながらも、それでも輝いてやまない。

 

…あぁ、ホント。

"あの伝説(ひと)"そっくりだ。

嫌でも先輩の目を奪ってしまう、"あの伝説(ひと)"。

それを幻視して、それが眩しくて目を逸らせば、「どうした?」という声と共に頭を撫でられる感触があって。

それが嬉しいはずなのに、何故か無性に泣きたくなってしまって。

気づけば、僕は先輩の手を振り払ってしまっていた。

 

「…【飛行機雲】?」

「……おとうさん?」

 

不思議そうな声が聞こえる。

けれどそれに答えている余裕はなかった。

だって、今口を開けば、余計なことまで言ってしまいそうだから。

 

「……ごめんなさい」

 

ただ一言だけ残して、その場を去ることしか出来ず。

後ろから追いかけてくる気配を感じたけど、それも無視してしまった。

取り敢えず、ひとりになって落ち着きたかった。

凪がなくては、自分が何をしてしまうかわからないくらいには動揺していて。

そんな状態で一緒にいれば、何をするか分かったものじゃないと思ったからだ。

 

「…………」

 

人気の少ない場所を探して歩いていれば、いつの間にか袋小路へと来ていて。

そこで追いついたらしい先輩に手を掴まれた。

「何があった」「大丈夫か」と問うてくる声も、もう…。





【飛行機雲】:
好きじゃない相手に我が子が似て、その我が子が先輩に懐いて、先輩も我が子を可愛がっている姿に「…」しているすがた。
情緒ぐちゃぐちゃ。

【銀色の激情】:
先輩ことシルバアウトレイジ。
"ある存在"を忌避しながらも無視できない。
血縁に比べると執着がないとはいえ、他人から見るとシルバアウトレイジも"ある存在"を見ているのだ。

【再来】:
シロガネガイセイ。
お父さん好き。おじさんも好き。
情緒がちょっと子ども。
走ってさえいれば大概機嫌がいいとか。
なので無邪気な顔でよく地雷になる。死屍累々。


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ギャングスタアと蓋世不抜


実は二年連続の三冠バなおふたり。
ちなトレーナー同士も顔見知りな模様。



遠いとはいえ親類だからか、または三冠バ同士であるからか、シロガネガイセイとシルバギャングスタは仲がよかった。

 

「よぉ、ガイセー先輩」

 

どかりと向かい合わせに座したシルバギャングスタにシロガネガイセイが手をひらりとあげる。

挨拶のかわりだ。

何故なら、現在のシロガネガイセイはハムスターもかくやというように頬が食べ物でパンパンになっているので。

 

「珍しく、よく食べてんだな」

「…まぁ、ね」

 

ごくっ、と喉が動いて。

けふっ、と息を吐く姿は関わるようになってから今までで見たことがないくらいには真剣で。

 

「ちょっと…悔しかっただけ」

「ふぅん」

 

いま現在に至っても無敗の三冠バであるシロガネガイセイは有馬記念をもって引退すると明言している、からこそ。

相変わらず思考が読めないのは、きっとお互い様だろう。

自分たちの交友関係はいつだって、『走ること』で成り立っていた。

…が故に。

 

「久しぶりに、遊ぼうぜ──ガイセイ」

「…うん、グス太」

「その呼び方やめろって言ったろ」

 

 

シロガネガイセイの、スタートの上手さは何よりも、誰よりも、理解していた。

けれども。

 

(は、?)

 

まるでシンクロしたかのように、同一で。

ゲートから飛び出し、一瞬で最高速に持っていく。

舐めていたつもりはない。

だって、ソイツも三冠バなのだ。

シロガネガイセイと、()()──。

 

「…ックソ!」

 

駆けてゆく。

逃げ去って、ゆく。

むざむざと、隔絶を見せつけられる。

戯れのようにも、死闘のようにも見えるソレを、()()()()()()()

まるで違う世界だ。

気づけば必死に隔絶(ふたり)に追い縋る自分の横には、同類が。

 

……嗚呼、そうとも。

諦め、切れないのだ。

焦がれてしまったから、焦がれて、止まないから。

目の前が汗か、…いや汗だ、で滲む。

白く、鮮烈な光がひとつの大きな極光みたく。

冬の午後を、切り裂いて、いく。

 

「……ッ!!」

 

追いつけない。

届かない。

そんなことは分かっていた筈なのに、それでも尚。

無我夢中で手を伸ばしてしまう。

それは、そう。

まるで、星を掴むような行為だった。

 

───────

─────

───

 

「だァァァァァ!!負けた負けた!完膚なきまでにってヤツ!」

「…そう、」

 

髪が、勝負服がしっとりと。

冬の冷たい風がちょうどいいぐらいには火照った体で、ふたり減速する。

 

「それにしても、」

「んー?」

「ゲート、凄かった。グス太、昔からスタート苦手だったのに」

「そうだろォ?カオルちゃんとめっちゃ練習したんだぜ〜?」

「そう」

 

普段は他を歯牙にかけない態度のシロガネガイセイだが今日に限っては雄弁で。

 

「キミと走れて、よかったよ───シルバギャングスタ」

 





【再来】:
シロガネガイセイ。芦毛。
無敗の11冠バとして勇退。
引退レースであった有馬記念にて後輩兼知己の【銀色のギャングスタ】と戯れのように走った。
どうやら【銀色のギャングスタ】と競り合いになったのが楽しかったようでとても機嫌がよかったとか。

【銀色のギャングスタ】:
シルバギャングスタ。芦毛。
【再来】とは知己の間柄。
マジもんのゲート嫌いだが担当トレのカオルちゃんからのスパルタトレーニングによりロケットスタートを体得。
無事【再来】と競り合い、負けはしたが無事いろいろな方々の脳を焼く。

その他の出走者さん方:
三冠バsに大きく離された後ろにそのライバルたちである【叫び、追う者(クライハウンド)】と【理不尽(キャッチツーツー)】がいて、そのまた大きく大きく後ろにその他の出走者たちがいる形。
みんな三冠バs+そのライバルsにバキバキにへし折られてるんだ。
…まぁ、観客さんたちは脳ハチャメチャにされてっけど。


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舞台へあがれ


ぼやぼやと揺らぐ音。
けれども"呼ばれている"と理解し。
ふわふわと漂う中で、それでも。

押し上げられる、ままに。



ゆらり揺られて。

どこに漂うでもなく、ゆらゆら。

そうしていると、ふと、自分を呼ぶ声がする。

無視して眠ろうにも、ザワザワと囁き続けて止まない声は、どうやら自分を呼んでいるらしいのだった。

 

「……なんなんだよ」

 

仕方なく目を開けて起き上がる。

すると、途端に静まり返る周囲。

まるで何事もなかったかのように、シンと静まり返る。

そんな空間の中でユルユル頭を振る。

それから。

 

(また…)

 

眠ろうとするたびに起こされる。

もうウンザリだ。

気づいてからというもの、ずっとこんな調子なのだ。

眠るたび、目覚めるたび、何度も何度も繰り返し同じ声を聞かされる。

それは、薄暗い世界だった。

何もかもを覆い隠すような薄暗い世界。

そこには自分だけ。

ただ独りきりの世界。

そこに響く、無数の声。

 

『───』

 

誰かの声。

 

『───』

 

何かを求める声。

 

『───』

 

誰かを求める声。

 

『───』

 

助けを求める声。

 

『───』

 

救いを、求める声。

そのすべてが耳元で繰り返されるのだ。

そして最後に必ずこう言う。

 

『───』

 

だから自分はそれに答える。

 

『───』

 

けれど、答えたはずの言葉は誰にも届かない。

いつものように、ただ空しく反響し消えていく。呑まれていく。

沈む、眠る、墜ちる。

心地よく、眠れる場所。

けれど、

 

(僕を呼ぶのは、…誰?)

 

僕を、押し上げるのは───。

 

 

それは水底に沈めるには惜しく。

藻屑となるには、惜しく。

沈んでもなお、『夢』のよすがにされる形はありありと。

【███】にとって、己の形とはすなわちそれであったのか。

はたまた、それを形作るものはやはりそれであるのか。

いずれにせよ、それは確かに【███】の一部であり、【███】自身でもあった。

 

うたかた。

微睡むように目覚め、覚醒するように眠る。

曖昧な境界の中にあって、それでも確かな存在として在った……はずだった。

それが今、揺らいでいる。

否応なく。

まるで水面に浮かぶ波紋のごとく。

あるいは、風前の灯火の如く。

 

「…………」

 

【███】はゆっくりと目を開く。

目の前に広がるのは、薄暗い世界に射し込む陽光。

思わず瞬きをしてしまうほどに眩しい虹のような色に満ちている。

……ここはどこだろう?

ぼんやりとした意識のまま、ゆるりと身を起こす。

見慣れぬ景色が広がっている。

…いや、元からこうだったのかもしれない。が、

 

────呼び声がする。

 

その声のままに、ポンと水を蹴れば推進。

導かれるように、上へ上へ。

スポットライトのような、陽光の元へ。

 

────ぱちゃり。





おかえりなさい。
そして。

───はじめまして。


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【容れ物】


まだ、なにもない。



自分は大して綺麗なウマではない…と自己批評してみる。

まぁ鍛え上げられた体と言っては聞こえがいいけれど、それもムダをギリギリまで削ぎ落としたモノだから綺麗は綺麗でも、()()()()()綺麗だとか。

顔だってとても美人な両親譲りだけど古傷がすべてを台無しにしているワケだし、目付きもやわらかくしようと努めているとはいえやっぱり怖いし。

 

「だから、話しかけられないのかな…」

 

しょんぼり。

友だちっていうと基本がクラスメイトという。

後輩などと仲良くなろうにも「ヒッ」と悲鳴をあげられて逃げられる始末で、さすがに凹む。

そんなこんなで今日も一人でトボトボと帰路につくわけだが、途中でふと気がついた。

 

「あー…?そういえば悲鳴あげて逃げてく子を見送ったあとに、よくみんなに話しかけられるよう、な…?」

 

思い返せば。

脱兎のごとく逃げ去っていく子に呆然としていると肩を叩く手。

そして振り返ればそこには友人たるクラスメイトのひとりだったり、複数がいて。

 

「えぇ…?まっさかぁ…、ない、よね…?」

 

 

傷だらけの品でもキチンと補修すれば傷がつく前よりも綺麗なものになるなんてままあることだ。

…だが手垢がつくのはダメだ。

"アレ"は我らのモノなのだ。

だから…なぁ?

 

睨みつけられた哀れな者が逃げ去っていく。

可哀想に、可哀想に、あんなに怯えて。

けれども悪いのはお前の方だ。

"アレ"の方から話しかけたとはいえ、あまつさえ笑いかけられ、触れようなど。

"アレ"は我らのモノだ…とは言っても、いつかは我らの中の()()()()()()()か、"アレ"自ら決めてもらうことになっているのだが。

 

"アレ"は【容れ物】に過ぎない。

器ではあるが、まだ(ソウル)の入っていない空っぽの状態だ。

なのに。

 

「どうしたの?」

 

じり…と己を焼く音がする。

空の【容れ物】、そのはずなのに。

【容れ物】、ただそれだけでも、欲しいと思ってしまう。

誰も見ることの能わなかった夢幻の【中身】()()()()のに。

どうして?

 

「ねぇ、何かあったの?」

 

心配げに見つめてくる瞳には確かに自分を案じる色がある。

それはそうだ。

この【容れ物()】は優しい子だもの。

ただ少しばかり人の機微というものに鈍いだけで。

 

───いいや、何でもない。

「そう…?ならいいけど」

 

【容れ物】、【容れ物】…のはずなのに。

自分たちが求めているのは、その【中身】のはずなのに。

何故だろう、どうしても欲しくて───。

 

───はァ…。





【容れ物】:
空っぽであるが故に綺麗なのか、それとも【中身】が入っても綺麗なのか。
それは未だ不明だが、同盟を組まれて【中身】入りになるまでゆっくりじっくり見守られている現状である。
……さて、どうなることやら。


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基本難易度が鬼なゲームですが、


ただのモブ()。



1:名無しのトレーナーさん

 

なら、このウマ娘はなんなんです?

【『シルバーバレット』と書かれたウマ娘のデータ】

 

 

2:名無しのトレーナーさん

 

出たな、ぼくのさいきょうのうまむすめ!

 

 

3:名無しのトレーナーさん

 

スタッフがデバッグのために作ったって言われても信じるぐらいには性能がアレ

 

 

4:名無しのトレーナーさん

 

めちゃくちゃ登場キャラいて、その登場キャラ全員にエンド(グッド、バッド、ノーマル)があって、育成要素もあるからなぁ…

そら全部見るためにこんな最強キャラ作ってもおかしないでしょ、って

 

 

5:名無しのトレーナーさん

 

芝もダートも距離も完遂できっからなコイツ

 

 

6:名無しのトレーナーさん

 

スチル回収のために過労させられる銀弾さんチーッス!

 

 

7:名無しのトレーナーさん

 

銀弾、素の能力が開始当初からEXなのもそうだけどマスクデータの名声値もカンストしてるっぽいのが…

 

 

8:名無しのトレーナーさん

 

>>7

キャラスト進めるために勝って勝って勝って勝ちまくって相手に認知されなきゃスタートラインにも立てないのに、話しかけるだけで友人欄にキャラが追加される銀弾さんェ…

 

 

9:名無しのトレーナーさん

 

そもそもキャラ出現に名声値が関わってるからな(n敗目のすがた)

 

 

10:名無しのトレーナーさん

 

メディア露出してるタイプのオグリやファル子、生徒会組、ウララちゃんは名声値低くても比較的会いやすいんだがそれ以外はホントさぁ…

 

 

11:名無しのトレーナーさん

 

縁あるウマ娘もランダムだし…

 

 

12:名無しのトレーナーさん

 

コレ無理だろ称号の『芝のセクレタリアト』を銀弾で取れるの知った時は流石に笑った

 

 

13:名無しのトレーナーさん

 

ゲーム開始初期は夢破れてエンドを周回しまくってアイテム集めて引継ぎしてでゲーム進めていくしかないし

 

 

14:名無しのトレーナーさん

 

初心者救済・銀弾=サン

 

 

15:名無しのトレーナーさん

 

というか銀弾プレイしてると自分から絡みに行かなくても相手から絡んでくるからな

 

 

16:名無しのトレーナーさん

 

銀弾が海外無双するもんだから自キャラで久々にプレイすると脳ぐちゃぐちゃになる()

 

 

17:名無しのトレーナーさん

 

何だったっけ?『愛嬌』の上位互換みたいなの持ってるんだっけ?

 

 

18:名無しのトレーナーさん

 

>>17

『ふしぎな魅力』な

アレ幸運にも作用してるらしいぞ

 

 

19:名無しのトレーナーさん

 

『諸刃の脚』を『ド級のタフネス』で打ち消してはレースというレースを蹂躙するアホ

 

 

20:名無しのトレーナーさん

 

『唯我独尊』も何気に強い

このゲーム、報道とかウワサとかで調子崩しがちだし

 

 

21:名無しのトレーナーさん

 

でも『運命をも驚愕させしウマ娘』の称号を持ってるのを見るからに零細っぽいんだよな

縁のあるウマ娘で過去の自キャラから因子継承できる仕様を鑑みると

 

 

22:名無しのトレーナーさん

 

なんだコイツ(なんだコイツ)

 

 

23:名無しのトレーナーさん

 

フリーの会話で時折自キャラのことをキャラが話してくれるけど、それでも銀弾のことはよく分からないんだよなぁ(ひとり暮らししてるとかは分かる)

 

 

24:名無しのトレーナーさん

 

テスト時期のアレ見ても頭も良いみたいだし

 

 

25:名無しのトレーナーさん

 

いやホント何を思って作られたキャラなんだか…

 

 

 

 





いない世界のゲームで隠しキャラとしている世界線。
名声値を頑張って上げない限り既存キャラと関われない感じのゲームです。

銀弾:
ノベル+育成要素マシマシのゲームにて隠しコマンドで出てくるンマ娘。
ステータス全てEX、パッシブスキルも激強でキャラ攻略()もレースも無双しまくる"ぼくのかんがえた最強の…"のノリ増し増し。
だが来歴などがとことん謎で、プレイした人によって様々なキャラ付けが成されているようだ。


縁のあるウマ娘…因子継承の祖みたいな。登場キャラの中からランダムで選ばれ、その選ばれたウマ娘とは初期から友人となる仕様だとか。まぁお助けキャラみたいな感じ。

名声値…レースで勝ったり、素行・テストの順位がよかったりすると上がるステータス。ある程度このステを上げないとスタートラインにすら立てないウマ娘が多数。

『ふしぎな魅力』…端的に言うと『愛嬌』の上位互換。親愛度が上がりやすくなり、またアイテムなどを譲ってもらいやすくなったり、幸運度にも作用するらしい。

『諸刃の脚』…スピードとパワーがすごく上がる代わりに疲労度・消耗度が上がりやすいレース時常時発動のスキル。

『ド級のタフネス』…レース時も日常時も回復度がすごいみたいなスキル。数ターンあれば、体力赤バーからほぼほぼMAX近くまで回復って感じ。

『唯我独尊』…レース時、緊張なくいつも通りの結果を出しやすくなり、日常時でも調子が下がりにくくなる。

『運命をも驚愕させしウマ娘』…未勝利のウマ娘を縁あるウマ娘として誕生したキャラがある程度()の成績を残すと取れる称号。

…みたいなゲームパロ見てぇなぁ〜!!(小並感)


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逃避行


けど、うたかたの。



たとえ明日の光を拝めずとも、キミが良いと心が叫んで。

控えめに触れた指先の温度ひとつで『幸せだ』なんて。

 

息も絶え絶えな僕を心配しながら。

ハァハァと白く吐かれる息に少しキミが隠れて。

休憩しようと立ち止まろうとするキミを急かし、先を急ぐ。

着のみのまま、何もなく。

手の中にあるのは、しっかと掴んだ互いの手のみ。

 

誰も奪わないで。

僕からキミを奪わないで。

それ以外なら、僕の命でも何でもやるから。

走り続け、疲れ果てた僕らは、そのまま倒れ込むように抱き合ったまま眠りについた。

何処まで行くのか、分からない旅。

けれど、

 

───きっと、見たことのない場所に辿り着くことは、確かだった。

 

 

『運命』なんて、勝手に位置づけたものにしか過ぎない。

稲妻に打たれたような衝撃を、その言葉でしか言い表せなかっただけのこと。

僕はただ、キミに惹かれただけ。

キミがいるだけで、世界は色付いて。

キミがいるだけでただの夜も、かけがえのないものになる。

 

開けない夜が欲しい。

陽の光に晒されないまま、誰にも見向きされないふたりきりで。

形に残らなくてもいい。

ただ、キミと一緒にいられる時間があればそれで良い。

それだけで、良かったはずなのに……。

 

「ねぇ」

「ん?」

「どうしてそんなこと言うの? だって、それじゃあまるで───」

「うん。もうすぐお別れだからね」

 

笑う。

キミが、笑う。

笑って、繋いでいた手を離し、するりと抜けていく。

 

「やだよ! なんで!? なんで……っ!」

 

必死に手を伸ばしても届かない。

伸ばした手が虚しく空を切る。

待って!! 行かないで!!!

そう叫びたいのに声が出なくて。

喉元から出る音がどうしようもなく惨めになっていくのと同時に、景色が瓦解していく。

嫌だ!!! 置いていかないで!!! ひとりにしないで……!!!

涙と共に吐き出された言葉すら、音にならない。

何もかもが崩れ落ちていく中、キミだけが鮮明に浮かび上がる。

泣き叫ぶ僕の頬に触れようと伸ばされる腕を掴みたくて、懸命に足掻くけどムダに終わる。

そして、とうとうキミの姿までも崩れ落ちて消えてしまった時、夢の中で絶叫した。

 

 

ハッとして目を覚ますと、そこはいつも通りの自室だった。

 

(……またあの夢か)

 

よく見る悪夢のせいで寝汗をかいていたらしく、寝間着が何となく重い。

二度寝しようにも眠れないだろうとこれまでの経験上を鑑み、キッチンに行って水を飲んだあと、相変わらずの散乱した机に向かう。

 

「はぁ…」

 

朝はまだ、遠い。





おじさん:
夢を見ている。
"キミ"と何処かに行こうとする夢を見て、そして最後には目が覚める。
何処にも行けないまま、辿り着けないまま。
『またね』も無しに、『お別れだ』って。

───キミが望むなら、僕は何処までだって…っ!


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灰になりかけ


だが、お前が燃え尽きるなど───。



「ずっとあなたを探していたんだ!」

 

そう言って。

自分の手を掴んだのは、都会から来た御方たち。

そういうのに詳しい知り合いに聞けば有名な選手さんなのだとか。

そんな方が、ただの片田舎に住んでいる一介のウマである自分を探していただなんて何の冗談なのだろう、と。

けれども。

 

「冗談なんかじゃ、ないよ」

 

やさしく。

されど力強く。

軋むほどに、掴まれた手から伝う熱のなんと熱い…。

 

その日から、自分は。

時折尋ねてくる様々なウマに都会においで、と誘われるようになった。

いや、…『都会』というよりは、"トレセン学園"とやらに、だったか。

だが父母や祖父、または妹にすげなくされているというのに機を見計らって僕ひとりだけの時に話しかけてくれる瞳の瞳には嘘偽りがない。

ただ純粋に自分を誘ってくれているのだと感じられた。

しかし。

 

「ごめんなさい……」

 

誘いを受けることはできなかった。

だって、自分はもう決めていたから。

この町を出ない。

ここで生きていくと。

だから。

 

 

やっとのことで、見つけた相手はもう既に燃え尽きていた。

『走り』に対する情熱などなく、ただひたすらに穏やかな日々を享受しようという。

 

「…クソ!」

 

その肉体は、どこの誰がどう見ても『完璧』というしかない凄絶なものであるというのに!

ちょっとした、戯れの走りでさえ我らの本能を掻き乱してくるというのに!

それなのに!

このウマは走ることをやめてしまったのか?

ならば、何故この世界(ここ)にいる!?

こんなところで何をしている!?

答えろ!!!

怒りのままに詰め寄った。

すると、かのウマは言った。

 

「もう、……」

 

その言葉は分かりきっていたことでもあり、また此方としては非常にムカつきを通り越して呆れるようなものであったのだが。

それでもやはり、腹が立つものは立ってしまって。

思わず怒鳴りつけてしまう。

そして、気が付いた時には相手の胸ぐらを掴み上げてしまっていた。

……しまったと思ったときには、もう既に。

 

「え、いや、待って!落ち着いてよリリィ!」

 

怒り狂った、かのウマの母に引き離され。

「二度と会わせん」という方がまだやさしいくらいの扱いを受けた。

町に足を踏み入れることすら許されず、無理に踏み入れようとすれば警察を呼ばれかける始末。

ならばどうしようか、と頭を悩ませていたところで当の本人がノコノコと。

 

「ごめんね。僕も悪いことを言ったよ。本気でしている人を前にして、言っていいことではなかったね」

 

…あぁ、何も分かってないんだな。





辿り着くところまで辿り着いたなら、もう後は何処に行けというのか。
言うならばレベルもスキルもカンストしちゃったゲームみたいな。
それに、近しい周りがどこか、自分がそうすることを厭うているようなので。

だから、さ。


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仲がいいから喧嘩する


お互い相手に『良い人』ができたら身を引こうと思っているけど、ひとたび疑惑が出たら「は????」ってなるんだよね。



最愛の妹がしょんぼりしながら現れた。

ので、話を聞くに後輩くんと喧嘩しては思わず飛び出して来てしまったのだという。

 

「だって!あの人美味しい美味しいとしか言わないんだもの!!」

「まぁ…うん?」

「気を使ってくれてるのかなぁ…?ならハッキリ言って!って言ったんだけど…」

 

 

どっさりと作った食事が次から次へと消えていく。

それをホッコリと、どこか満足気な顔で見遣りながらもシルバフォーチュンは内心不安に思っていた。

 

(…いつも美味しいって言ってくれるけど、本当は美味しくないのもあるんじゃないかなぁ?)

 

自分の料理の腕には自信があるし、味覚も悪くはないと思っているのだが……。

どうにもこのヒトは自分の料理を本当に喜んで食べてくれているのか、あまり表情が変わらないのもあって分からないのだ。

そうこうしているうちに食後のデザートまで綺麗サッパリ平らげられた。

そして満腹になったお腹をさすりながら「洗う」と一言告げて奥へと下がっていくのに慌てて自分も立ち上がる。

 

「…ゆっくりしておいてくれ」

「いえいえそんなわけには!」

 

止めようとしたのに有無を言わさずで。

洗い物が終わったあとはぼうっと、何を話すこともなく適当にテレビを見て、お風呂入って、寝る。

それの繰り返し。

 

「…フォーチュン?」

「ねぇ、」

「うん」

「私になにか…不満とか、ある?」

「……?」

「いや、ほら私って見目がいいぐらいしか長所ないでしょう?あなたが良い人なのは分かってるけど…ね?」

「……あぁ、そういうことか。別にないぞ」

「ほんとうに?」

「本当だ」

「…」

 

相も変わらず顔色も何も変わらないヒト。

 

 

…などと。

喧嘩?喧嘩…かなぁ?の話を聞き。

何気なく『今何時かな?』と携帯を取ればそこには。

 

「…うわぁお」

「兄さん?」

「…フォーちゃん、早く帰ってあげた方がいいと思うよ」

 

たぶんたくさん送られてきているんだろうなぁ、というメールの束。

その一番上に表示されているものが『どこにいるのか知っていますか?』なあたり、まだ正気はあるようだけど。

 

「……あらまぁ」

「これヤバくないかい?」

「…コレ、本当にあのヒト?」

「みたいだよ〜。あ、また来たね」

 

ポン、ポンと小刻みに送られてくるメッセージはどれも焦りに焦っているようで。

誤字脱字もところどころ…と見ていた中で、

 

『誰か、他に良い人でもできたのか』

「ンなワケないでしょ!!!!」

「うおっ!?」

「…兄さん」

「はぁい」

「ちょっと、連絡してくるね」

「うん、いってらっしゃーい」





【銀色の運命】:
シルバフォーチュン。
好きだからこそ不安…みたいな。
また清純系妲己というか無垢の毒牙なので人知れず守られているともいう。
けどちゃんとホワイトリリィの娘だね…ってところもある。

後輩:
ogrcap。
好きな人の前ではカッコつけたいので当バ比割増で表情が鋼。
シルバフォーチュンのご飯なら何でも美味しい。し、ナチュラルに愛が重かったりしそう。さ芦怪(さすが芦毛の怪物)。


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高鳴る鼓動


キミの前ではカッコつけさせて。



絶対に、執着してはいけない相手に、執着してしまった───。

それに気がついたのは唐突か、または必然か。

「どうしたの?」と口では心配しながらも、その目はまったくもって此方に興味のひとかけらも向けていなくて。

愛想笑いは完璧で。

ボロのひとつもないように。

深いところに踏み込ませないまま、浅いところで他人に好意的に見られるように。

まるでシュミレーションゲームの、決まりきった選択肢のように。

無意識下で、『正解』を選択できるその様が、ひどく気持ち悪かったのだ。

それはきっと、その存在のことを好ましく思っているからこそ。

自分の知らない誰かと楽しげにしている姿を見ると、胸の奥底がちりちりと焦げ付くような痛みを感じる。

これが嫉妬という感情なのだということは知っていたけれど、まさか自分がこんなになるとは知りたくなかった。

だからこれは違うんだと言い聞かせる。

自分はただ、あの人のことが知りたいだけなんだと。

そうして知れば知るほど、もっと執着してしまうことを分かっていたはずなのに。

 

 

「相変わらずモテるねぇ」

「…僕なんかよりキミの方がモテるでしょ?」

「いやいや〜、シルバーには負けるよ」

 

そう言いながら仲の良い友だちがやるように、シルバーバレットの肩に自らの腕をかけたミスターシービーはバレぬように目を細める。

自分たちに向けられる四方八方からの熱い視線に気がついていないのか、それともあえて無視しているのかまでは分からないが、いつも通りな友人の様子に思わず苦笑するしかない。

 

(まぁ、アタシとしてはありがたいけど)

 

友人が自分以外と話しているところを見るだけで、この心はざわつくのだから。

だからこそ、…こうして牽制じみたことをしている。

友人は他人をそう深くまで踏み込ませない。し、スキンシップもそう取りたがらない。

…というワケで、こうやって触れられて、近づける分リードしてはいるのだ。

 

『シービーさんに渡してください!』と、本当は友人宛だった、友人に手渡された手紙を処分したり。

直接渡そうとした子たちをそれとなく邪魔をしたり。

あくまでさりげなく。

ほんの少しだけ、こちら側に意識を逸らす程度に留めている。

 

「あー、そうだ!今度一緒に出かけようよ!」

「いいよ。どこに行こうか」

「えっとね〜、」

 

明るい表情を作りながら、目は嗤う。

キミたちにはこんなこと、できないでしょ?と鮮やかに。

けど、

 

「キミはいい友だちだからね、ミスター」

「……そう、だね」





Mr.CB:
ミスターシービー。
何歩かリードしているがまだまだ。
シレッと僕の横について牽制するけど僕にはただの良い友人としか見られていないすがた。
僕の知らぬところで目が怖くなってる…。


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歩みは止めず、


ただ進め。



その人は、俺の『憧れ』で、『夢』で、その他諸々…。

幼い頃から、よくしてもらったと思う。

『ウマが好きだ』と言うと心底より嬉しそうな顔をしていたその人──透おじさん。

 

『おいで、遥くん』

 

透おじさんはトレーナーだった。

だから彼に憧れた俺も、トレーナーになった。

おじさんの後を追い、同じ道を選んだのだ。が、

 

「…」

 

同じ職に就いたことによって、おじさんの手腕が傍目から見る以上にすごいモノだと理解して。

『鬼才』と言われるのもまぁやむ無しとは思うのだが。

 

「はるか、くん…?」

 

ぼんやりとした目は、こちらを映さない。

『大切』を失ってしまって、抜け殻みたいになってしまったこの人を見ていると……胸の奥にモヤモヤしたものが生まれる。

それはきっと、罪悪感だ。

俺は、あの時おじさんを支えれば良かったんじゃないか? って無意識下で思ってるんだろうな。

でもさすがに、こんな状態のおじさんを、親も会わせられなかったのだろう。

 

「…おじさん、ご飯食べよう?」

 

足の踏み場もないくらい、原稿用紙に占領された部屋に入って、おじさんを連れ出す。

そうして、そこまで上手くない料理をもそもそ食べて、美味しいのか作ったどうか自分でも分からないまま食事を終える。

 

「…おじさん」

 

茫洋とした目を。

見るたびに"かつて"を思い出して、勝手に傷つく。

だって、おじさんは───俺の『憧れ』だから。

認められたかった。

褒められたかった。

でも、俺がトレーナーになった頃、おじさんは既に…。

 

「…」

 

その気持ちも、分からなくはないから余計に。

『愛してる』と心底から告げることができる相手を唐突に奪われれば。

…きっと自分も、()()()()だろうって。

想像できてしまうからこそ。

 

「ねぇ、おじさん」

 

そんなことを考えながら。

いつの間にか、いつもの部屋で眠ってしまった彼の髪を撫ぜる。

サラリとしていて、指通りが良い…けどパサパサとした髪質。

昔はよくこうやって頭を撫でてくれたっけ。

そうは思っても、俺がおじさんの『最愛』に代わることはできない。

壊れたものが、そのものに適した何かでしか治せないように。

おじさんの傷も…そう。

だからせめて、俺は───、

 

「大丈夫だよ、おじさん」

 

あなたがいつかまた笑えるようになるまで。

ずっとそばにいるよ。

 

 

「…飽きねぇヤツだな。それに随分と奇特だ」

「分かってるよ」

「あぁ、俺も分かってるさ。お前が類まれなる、一等の、大バカ者だってことはな」

「…ごめん」

「別に。…お前のやりたいようにやりゃあいいだろ」

「…うん、ありがとチャンプ」

「いーえ!」





甥っ子:
遥くん。
『憧れ』だからこそ元に戻ってほしいと思うものの、同じ穴の狢になった故にそうなってしまった理由を理解できてしまうジレンマ。
自分も、ましてや伯父自身もどうしようもできない現状に停滞している。
…まぁ皆おじさんの状況を知っているゆえに「仕方ないね」って思ってるフシあるし。
これで成績低迷すれば休養させたり引退させる口実になりえるのにおじさん一向に成績落ちず、逆に成績上げていってるからなぁ…。ハイ。


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『星屑』に、なれなくて


けれども、声援はかけられる。



互いに互いの悲しみに酔って、その傷を舐め合って。

理解しているフリをしては、本当に理解できているかなんて。

 

───生きていることがどうしようもなく恥ずかしい。

 

自分の前身みたいなのが、あまりにも大きく光り輝いているものだから。

自分のみみっちさとか、そういうのに。

星屑にもなれないふたりにできることと言えば、その偉大さに傷をつけることぐらいだと自嘲する。

 

愛とも恋とも呼べないままに、毒に呑まれていく。

プラスなことなんて考えられなくて、悪いことばっか考えて。

なんて最悪で最愛の、地獄!なんて嘆きながらもその優しさに浸かり。

 

ずっと人生狂わされてる。

みんなに「愛されてる」と分かっているけど、どうせ重ね合わせているだけなんだろ?

息がしづらくて、苦しくて。

でも声援を裏切れないから終われもしない。

そんな葛藤を繰り返しながら、今日も明日も、きっとまたソコにいるんだろう。

いつだってそうだった。

優柔不断で、諦め悪くて。

『七光りだ』って、『それだけだ』って後ろ指さされても、それでもソコに居続けるしかできなくて。

ふたり、寄り添っている。

 

 

光の方なんて歩けなくて。

日陰の方へと進んで。

闇から生まれたものは、光に当たると消えてしまうのだと嘯いて、こちらへと引っ張ろうとする誰かの手を振り払う。

自分には眩しいほどの輝きなんか似合わないからと、言い訳して目を逸らした。

 

光なんて、スポットライトなんて、遠目で眺めるくらいがちょうどいい。

何度、舞台の上に上がれと手を伸ばされても、アドリブで叫ばれても、観客用の椅子に座って拍手する。

それならそれで構わないけれど、いつかはその席すら壊されてしまいそうだという恐怖心もあって。

だから、自分はこの薄暗い場所が好きなのだ、守らなければいけないのだと言い聞かせた。

ここは自分に相応しい居場所だと、何度も繰り返して納得させた。

こんなところで燻っていても仕方がないとは分かっていても、もう立ち上がる気力も薄い。

 

「…なぁ、行かないのか?」

「行くなら俺よりすごいヤツだろ。…ンなの、世の中にはごまんといる」

 

ふたり寄り添う。

ふたりで、上がれなくちゃ意味がねェと笑いながら。

お互いの顔を見合わせて、迷子になった子どもみたいに寂しげに。

どこか頼りない足取りのまま、手を取り合い、歩き出した。

 

「じゃあ、何を見に行く?」

「何でもいいよ。アンタさえ傍にいるなら」

「じゃあ、俺のオススメでいいか?」

「嗚呼。俺もアンタも、…センスがソックリだからな。アンタがそういうなら、楽しめそうだよ──遥」

「そう言ってくれるなら嬉しいよ───チャンプ」





ふたり:
ある偉大なる『星』に憧れた欠片。
自分たちが『舞台』にあが(主役になれ)る器で無いと思いながらも声援を裏切れない舞台役者。
でも周りからは『舞台』に上がるべき、『舞台』に居なくちゃ話にならない存在だと思われている。


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燃え尽きる、燃え墜ちる


その『熱』は、どこにある。

"███()"を夢見て燃え尽きてしまった誰かと、その誰かの『熱』が好きだった誰かの話。



遠い遠い場所に来て、"███()"を見た。

どれだけ目がよくても、見えるのはポツンと在る小さな光。

 

手を伸ばせば、掌で隠されてしまうほどの小さな"███()"に敵わなくて、届かなくて。

グルグルと、"███()"を周回軌道する衛星にすらなれない自分を恨む。

けど、"███()"に魅せられたものだから。

自分でも、自分がやろうとしていることは、残酷だって分かっていながらも。

それでも、"███()"にたどり着きたくて。

 

崩れていく姿勢。

無くなっていく体力(燃料)

まとわりつく期待とか、絶望とかそういうのを呑み込んでも、目に映るのはただ鮮やかな"███()"。

手を伸ばしても届かない。

夢見ても、届かない。

ひどくキラキラ輝いて見えるソレを、まるで言うことを聞かない子どものように求めて。

「その先には何があるの?」と、墜ちていきながらも。

夢と希望で、自分への失望を覆い隠した。

 

嗚呼、燃えていく。

燃えて、墜ちていく。

自身の『夢』を、『憧れ』を、燃料に。

総て焚べては自身を焼き焦がして。

…ソレを、視た誰かは何と言うだろう?

『気が狂ってる』?

それとも、『もうやめて』?

 

激情を焚べる。

そうしなければ、前に進め(推進し)ないから。

激情を焚べる。

そうでもしないと、自分で自分を許せなくなってしまうから。

激情を焚べる。

そうすることでしか、自分は生きられないから。

だから、今日。

燃え尽きるまで、前に進む。

()()()だと、知っていても。

 

 

…その"激情"と呼ぶしかない感情の発露が好きだった。

落ち着いて、己を律せる自分とは正反対の存在だとしても。

ただひたすらに真っ直ぐ進むその姿に憧れていた。

だからこそ、自分もそうなりたいと願った。

けれど、自分は自分のままでしかなくて。

結局、自分の限界を知るだけだった。

そんな自分に嫌気を感じながら、それでも諦められなくて。

なのに、

 

「…やぁ、」

 

あの場所から、帰ってきたあなたは見る影もなく。

すっかり穏やかになって、それまでは遠ざけていた仲間たちとも快く談笑を行うように。

…違う。

それはきっと、本心じゃない。

何かを隠しているんだろうと思ったら、胸の奥底にあるモヤモヤとした気持ち悪さが増していって。

 

「…………」

 

無言のまま、その後を追いかける。

そして、人気のない廊下まで来てようやく追いついて……。

 

「どうかした?」

 

ふにゃっ、と。

かつてなら、しないはずの表情を見て。

 

(嗚呼、)

 

「……?」





───ほら今も、"███()"は煌々と輝いている。

"███()":
キラキラ光るお星様。
道しるべでありながら、煌々と燃える星。
誰もが焦がれてやまない星。
…たぶんひとつだけじゃない。


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望まれる主役劇


誰もが手を叩いて、


"チカラ"を手にした悪魔が微笑む。

善良な者などソコにはおらず、誰も彼もがその"チカラ"を欲して、"チカラ"を以て悪魔を超えようとする。

 

かつて或る鬼才が綴った道のりを、ひとつ覚えになぞっては、それが凡人にはできないものだと気づかずに潰えて夢に堕ちる。

 

誰もが手を鳴らす。

かつて見た『夢』をまた見たいと無邪気に、されど醜悪に。

ソコに至ることさえ出来れば夢は現実になる!なんて砂糖吐くほどの甘い甘言で。

みんな騙される。

誰かに、それとも自分自身に。

騙さなくちゃ、繕わなくちゃやってられないと、バカのフリ。

そりゃあ『憧れ』って、()を目指しているものですから。

 

一秒でも脚止めちゃ置いていかれて。

一回休みなんざしたらもう周回遅れで。

ゆっくりひと息つく間もなく、ひっちゃかめっちゃか物狂いに。

見る情景はさほど変わりはしないのに、有る人・時代は目まぐるしく。

だからこそ急ぐ。

往きて、急ぐ。

フィルムの一場面ひとつも垣間見る暇もないように、希望も失望も渇望も絶望も、…全部一緒くたに。

 

古いビデオの中の"主役"に憧れた、そんな子ども時代を胸に。

大人になって、苦いも辛いも簡単に舌鼓を打てるようになってしまった自身に思わず笑ってしまうように。

酸いも甘いも似たようなものだ。

腹の中に落ちればみんな同じなのだから。

 

何度も舐め回されたモノは無味乾燥に。

ありがちな賞賛を向けなければ、後ろ指さされるように。

大衆心理ほど怖いものはなく、また思い込みほど強いものはない。

怖い話が次から次へと噂を呼んで、恐くなっていくのだとしたら。

それは"補強"以外の何物でもなく。

だからきっと、人は物語を求めるのだ。

 

───だってそうだろう?

喜劇であれ、悲劇であれ、人は物語を好む。

心を震わせて、そして感動する。

涙を流すこともあるかもしれないし、鼻水垂らすことも多々あるかもだけど。

……それでもやっぱり、最後には糧にするんだろう?

どんな形であれ、その人の心に何かを残すから。

消費して、血肉にして。

その時に、ちょっとした痛みはあるかもしれないけれど。

それでも結局は笑い話だ。

 

「"不運は人物を作り、幸運は怪物を作る"───というけれど、それなら僕はどっちなんだろうねぇ」

 

呵呵大笑。

自身がヒーローなのか、悪魔なのか、もうそんなのどうでもいい。

どうせ己の歩く道すべてが舞台端だというのなら、魅せられるのも、無理はないと。

ナルシシスティックだなぁ、と我ながら考えながらも笑みは崩れず。

 

「じゃあ、せいぜい楽しませてね」





"主役":
チカラを有した悪魔であり、立つところすべてが舞台端となる役者。
語り継がれる名作の主であり、何度もリブート・リメイクされる誰か。
でも大概の作品は初代が一番面白いんだよなぁ…。


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壊したくても、壊せない。


舞台の裏。



【はじまり】は、ガラクタみたいなモンだった。

誰もがバカにするような、そんな。

立派とはいえない、みすぼらしいモノ。

誰かの願いを、何とか形にしきったモノ。

見出されたのは奇跡と呼ぶか、必然と呼ぶか。

ほんの一瞬煌めくように、そして消えてしまった【はじまり】に誰もが涙を流して。

ギラギラと光るスポットライトに照らされながら、ふと視た【はじまり】に手を伸ばして。

 

【はじまり】のようにはなれやしない。

あるのは最高傑作だった【はじまり】の、二番煎じにも満たないレプリカ。

だって僕らが見ることのできた【はじまり】は、ずっと画面越しの擦り切ればかりだったものだから。

擦り切れに、成ろうとして綺麗になれるわけなど…。

 

足りないのはなんだった?

そうは聞いてみても返されたのは言葉もなく視線だけ。

…初めから知っていたけど、知らないふりをしていたかった。

所詮、誰ひとりとして【本物】にはなれないんだってことを。

でもね。

まだ、こびりついてるの。

あの日見た、夢が。

こそぎ落とそうとしてもこそぎ落とせなくて。

忘れようと思っても忘れられなくて。

だから今日も繰り返す。

繰り返し続ける。

 

「ぁ、」

 

ほらまた、始まるよ。

 

 

眺め続けられた映像はもうボロボロで。

昨今ビデオテープなんてもう死語だろうと内心思いながら頬杖ついてだらしなく見る。

画質の悪い映像。

粗い音。

けれどその向こうにいるのは紛れもない…だと知っている。

 

「……あー」

 

意味のない声を出してみる。

何の意味もなかったようですぐに虚しくなって止めた。

 

『───────!!』

 

聞かなくても、聞き慣れすぎて。

やろうと思えば諳んじることすらできるようになった、分かりきったソレ。

今となっても見続けられるソレはまるでミームのような。

"呪い"のような。

 

「…………」

 

低い音を立てて、出てきたビデオテープを掴む。

元々書かれてあった言葉もインキが消えて、日に焼けて薄くなっていた。

古いプラスチックの感触。

少し力をかけるだけで壊れてしまいそうなモノが多くの誰彼にとっては『大切で大切で仕方のないモノ』だというのだから笑える。

 

「もう、映像も音もカスカスなクセして」

 

寿命なんて遠にだろう。

床に置いたソレは、内容しているモノと比べると嫌に弱々しく思えて。

 

───解放してやりたい。

 

そう、思うのに。

 

「なんで、」

 

踏みつけるのも、叩きつけるのも。

やろうとするのを…躊躇してしまって。

理性はそうしようというのに、本能が行動を止める。

 

「…ハ。結局、俺も」

 





月の光のようにボヤけているのに。
そんな姿に、夢を見ている。


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或る百合の話


ちょっとした、ひとひら。



その馬は、とても大人しい馬だったという。

 

「穏やかな馬でしたね。綺麗好きではありましたがどこがどうとかってこだわりはありませんでしたし。どっちかと言うとその母親のホワイトリリィの方に気を揉んでいた感じです」

 

その牧場に、ある日引き取られてきた母子は思わず眉を顰めてしまうほど酷い有様だったらしい。

まず母親・ホワイトリリィの方が人を信用しておらず。

引き取られる前の牧場にて一時我が子を奪われかけた経験からか、何度となく我が子に近づこうとする人間を…という形で怪我人を出してしまったそうだ。

が、仔馬の方は……母馬がそんな状態なせいなのか、それとも元からの性格なのか。

触れ合うこと自体は大丈夫だったのだが…。

 

「撫でようとするたびに少し身体が強ばってねぇ…。で、棒状のものが近くにあったり、手に持ってる時は近づいてこなかった」

 

明言はしない。

だがそれとなく、母子や、また同じように預けられた母子と同じ牧場産まれの馬たちのかつての様子から、察するにあまりある。

けれど。

 

「競走馬になってからは、見るからに明るくなりましたね」

 

ずっと、一頭だけでぼうっと空を眺めていたような馬が。

体は少し小さいけれど、走る姿は申し分ないと、レースに出るようになったら。

まるでスイッチが入ったかのように、生き生きとしはじめたというのだ。

 

「まぁ…怪我が結構多くて、たびたび帰ってくるのには肝を冷やしましたけど……」

 

言うなれば、『天職』だったんでしょう。

───走るために生まれてきた。

……そういうことですかね。

そう言って笑うその顔はとても穏やかだった。

 

 

ちなみに。

その馬の母・ホワイトリリィについては。

 

「まず、何頭かいた同じ牧場出身の馬と引き合わせました」

 

誰も信頼しない、手負いの獣──。

故に人間では解き解せぬソレを同じ種族なら…と。

 

「彼ら彼女らも元は似たようなものだったんですよ。蹴られそうになるわ噛みつかれそうになるわで。でもそれは…」

 

人が怖くてたまらなくて。

自分以外の全てが敵にしか見えなかっただけなのだと。

 

「本当は僕ら人間が根気強く付き合わなければならなかったんですけどねぇ…」

 

同じ場所で生まれ、育ったからこそ。

分かり合えて、どうにかなるんじゃなかろうかと。

そう思ったから。

 

「…彼女はいっとう()()()で大切に育てられていたようですが」

 

けれども。

大切に、育てられていても"視て"しまったものだから。

自分には"成されないこと"を、自分以外が、受けているのを"視て"しまっていたが故に。

 

「ダメ、だったんでしょうねぇ…」





生産牧場では容赦なく抵抗するけど別の場所に移動したら噛む()()・蹴る()()になる白の一族のみなさん。

【白百合】:
ホワイトリリィ。
母と生まれて直ぐに生き別れたため"母親"の仕方が分からなかった馬。
牧場では病弱ではあれど目を見張るような才覚があった母ホワイトキティ唯一の産駒兼後継として大変丁重に育てられていた。
だが大切に育てられていたからこそ、許せなかった。
自分が無事であることを。仲間が、傷つくことを。
…その性格を見るに、気質は父ホワイトバックに似たようだ。
(なお見た目は母ホワイトキティの生き写しとする)

また食事に関しては移動してきた当初はがっついていたが徐々に落ち着いて食べるように(元の牧場が資金難で飼葉がいつも少なかったため食べられる時に食べる感じ。それは子である銀弾も同様で、銀弾の少食はそこから来ているのかも…?少ない食料でも動ける体に適応させた…的な)。

あとは綺麗好きでおしゃれさん。
ブラッシングされるのも好きだしたてがみやしっぽを結われるのも好きだったらしい(が信用されるまでは近づいただけで蹴られそうになる模様)。
ちな一番身綺麗にするのは彼女の夫とも謳われたヒカルイマイに会うときだったとか…。


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あいたい


まってる?



"うるさい"は煩わしい。

 

いちおうは話す人も多いし、慕われている(っぽい)僕だが本来のところはひとりが好きなタイプなのでちょっと気疲れする時もまぁあるのだ。

 

「ふぅ……」

 

僕は小さく息を吐くと、自分の机に突っ伏した。

そして、そのまま目を閉じて意識を沈めるのだった──。

 

 

「ねぇ」

 

どれくらい時間が経っただろう?

不意に声をかけられて目を開けると、そこにはクラスメイトのひとりがいた。

彼女もG1を勝っているウマ娘ではあるのだが同じくクラスメイトのミスターシービーやカツラギエースなどと比べると…何だか表舞台にはあまり出てきてはいないような…?

その話を話しかけられたついでに告げれば「…まだその時じゃないからな」なんて。

……何か深い事情でもあるんだろうか?

それはともかくとして、そんな彼女は僕の前の席に座った。

 

「こういう時しか、アンタとは話せないからさ」

「そうかな?」

「そうだよ」

 

まぁ、たしかに。

言われてみれば彼女とはあまり話をしたことがなかったように思う。

 

「…まだ確固たる姿はもらえてないからね〜」

「何の話?」

「キミが知る必要はない話だ」

 

…あれ?

いま、僕は誰と話してるんだろう。

瞬きするごとにクルクルと、目の前に座る彼女の姿が変わっている気がする。

声も、喋り方も、座り方も…。

まるで何人もいるみたいで、よく分からない感覚に陥る。

 

「……あー、そっか。お前らしい」

「えっと、何のこと?」

「いや、なんでもないよ」

 

彼女が何を言っているのかはよく分からなかったけれど、とりあえず深く聞く必要もないだろうと。

…聞いちゃ、ダメな気がして。

 

「じゃあね」

 

───また、今度。

 

 

「お前らなぁ、」

 

ぼそり、と。

走り去っていく小柄な背を後目に教室に入ったカツラギエースが言葉を漏らす。

そこには先程までと同じようにある椅子に座るウマ娘の姿が。

…けれど照りつける夕焼けによって逆光となっているせいか、その姿形は黒いシルエットになっていて。

 

「アイツと話したいのは分かるが入れ代わり立ち代わり過ぎだ」

 

はぁ…とため息をつくカツラギエースにシルエットのウマ娘は抗議する。

 

「そりゃああたしだって"かつて"は"そっち側"だったから気持ちは分かるさ。けどな」

 

そこまで言うと、カツラギエースはぐいっとその顔を寄せて。

 

「"今のアイツ"は()()()()なんだ。だから、頼む。もう少しだけ待っててくれないか」

 

懇願するように頭を下げる彼女に、影は何も言わずただ黙っている。

 

「…………」

 

が、こくりと確かに頷いて。

 

「あたしも、待ってるからさ」





僕:
シルバーバレット(プリティーなウマ娘のすがた)。
幸福に生きて、幸福に過ごしている。
多大な不幸もなく、怪我なんてこともせず。

…あれ?そういえばこの火傷跡っていつに……?


【ドキュメント(HR.exe)を前回開いた際に重大なエラーが発生しました】


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縛られている


ぐるぐる。



ふとした時に足音が聞こえる。

物書きの途中とか集中している時にパタパタ、と控えめに。

それから一段落してリビングに行けば用意されているのはホカホカの湯気を立てたご飯。

それをもそもそと、ゆっくり咀嚼して時間をかけて完食して水に浸ける。

そしてまた部屋に戻り。

こんこん、と足音と同じくらいの音でドアが叩かれれば風呂に入る。

変わらない日常。

 

…ぜんぶ、僕の責任だけど。

これはちょっとひどい仕打ちじゃない?

"いる"のに姿を見せてくれないなんて。

作られた料理は今日も同じ味。

いちおう料理本と必要な食材を用意しておけば新しいレパートリーを披露してくれなくもないけれど。

 

「さびしい」

 

けど。

眠っていると、キミがそばに"いる"と分かる。

眠る僕の頭を撫でて、流れ落ちる雫を指ですくって。

起こさないようにと気をつけた手つきで。

何も見てない夜の中で。

 

キミを縛り付けている。

離しがたくて、ひとりは嫌で。

『いかないで』って、声に出した。

そうすれば、やさしいキミは()()()()()()()()と知っていたから。

どこにも行かないように、ぐじゃぐじゃに、雁字搦めにして。

…それまでは『自由』なキミが好きだって言ってた癖に。

だから。

あの日から、キミはこの部屋にいる。

 

 

ぐるぐると。

自分の脚にキツく巻き付く██(いと)をそのままに。

ちょっと血行悪くなりそう…ぐらいは思うけれど、そのキツさが心地よくて。

ぐじゃぐじゃと、身体中を這い回っていく██(いと)が肌の上を滑る感触がくすぐったいような気持ちいいような感じがする。

それが首と顔以外の全身くまなく行き渡ったら今度は足首まで下がって。

最後に残った一本がきゅっと締め上がって完成だ。

蜘蛛の巣にかかった虫はきっとこんな感じなのだろうとぼんやり考える。

でもまあ、この巣の主である彼はとても優しい人なので。

痛かったり苦しかったりすることはないのだけれど。

ただただ、ひたすらに。

愛おしむように優しく緩んだり、時には締めたりするだけなのだけれど。

それでもやっぱり、恥ずかしさはあるわけで。

 

ぎゅうぎゅうギチギチ。

██(いと)が巻き付く。

もはや黒なんて言えないくらいの色に染まった██(いと)が。

どこにも行かないよ、と言おうにも決して聞こえやしないので。

そばにいるぐらいしか、できない僕は。

 

このまま行き着くのはどこだろうと。

思案しながら今日も今日とて未練(いと)に巻かれて在るのだった。

 

(まぁ、僕がいないとダメな人だからなぁ)





どこにも行かないでって、どこにも行かないよって。
…まぁ、行きたくても行けないんですけど。
でも。

───それで、いっか。


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ただの老いぼれだよ


でも、今日このレース場にいるウマで一番強いの、あのヒトだと思うよ。



ただ一介の老耄なウマである。

 

「…」

 

ぼうっと、日課というか趣味というかのレース観戦に行くものの、大体いつも自分の席の周りが空きになるのは何でだろうか。

新バ戦などならまだしも、G1レースの時も自分の周りはすっかり空いたままなのだから。

 

「…ふぅ、」

 

買っておいた飲み物で口を湿らせながらポケ〜っと見る。

いちおうまだ杖を使わなくてもいいとはいえ、立ち上がるのに少々勢いをつけねばいけないのは、やはり歳か。

 

「……」

 

しかし、こうしてみると、G1レースというのは本当に見応えがある。

この世界から離れて随分になった自分でも未だ年甲斐なく興奮するほど、美しい。

この、ただ単に速いだけでない、洗練された走りというのだろうか。

その"熱狂"に、思わず目を奪われるのだ。

 

「……ん?」

 

そんな時だ。

ふと自分の視界の端に何かが映った気がして…。

 

「やはり此処ですか」

「やほやほ」

「行くんならちゃんと言ってからにしてください」

「ごめんね〜」

 

ストっ、と隣に座ったのは予想通り我が子であるシロガネハイセイコで。

 

「食べる?」

「はぁ、」

 

持っていた飴をホイと渡すとカラコロ転がる音。

 

「で、何です? 急に」

「ん〜? ただの散歩だけど?」

「……そうですか」

 

ふたり飴を転がしながら、品はないが話をする。

…やはり周りに人は来ないまま。

 

 

その老バは知る人ぞ知る、という者で。

『レースがある日はどこかしらの時間帯にいる』と言われる背は誰もが知る往年の名バ。

年老いた今となっても子孫と絡めて語られることの多い『伝説』は、今日もひっそりとレース観戦を楽しんでいる。

 

「…(にっこり)」

 

SNSが発達した今、写真の一枚、いや呟きのひとつでもすれば瞬く間に広がるだろう現状は波紋ひとつなく穏やかに進む。

その老バは、今日も今日とてレースを観戦するのだ。

未だ超えられぬ、『伝説』として。

 

 

「…ちょっと疲れたな」

 

伸びをするとバキバキ鳴った体に嘆息をつけども、変わることはなく。

足腰もしゃっきりしているし、見た目もそう老いては見えないから実年齢を言うと驚かれるけども、本人からしてみれば当に年寄りなのであって。

 

「ま、運動がてらに走って来てるけどさ」

 

視線をおろした先にある運動靴は草臥れてきたため、また新しいのを買わなくちゃなぁとか。

 

「さて、帰るか」

 

先に待ってくれている息子が運転する車に乗りこみ。

穏やかな揺れに揺られながら、気づけばスヤスヤと眠ってしまうまであと…?

 

「…父さん?ぁ、…ふふ」





または『もうアンタが走れ』と思われている。

僕:
シルバーバレット。
お年寄り。
でも実年齢言うと驚かれるぐらいには若々しい。
レース観戦が趣味。
しかし自分が座る席の周りに、人の多いはずのG1レース時でも誰も寄ってこないのには首を傾げているとか。


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でっかいけど、ちっさい


ウマ娘がデカ娘な世界線。



ウマ娘という種族は大抵がヒト属よりも大きい、のだが…。

 

「おはようございます、先生」

 

僕が担当しているウマ娘-シルバーバレットは僕よりもちょっと大きいくらいの身長だ。

目測で見ると15cm高いかどうかというところか。

 

「大きい子だと家や家具も身長に合わせたものを特注しなきゃいけないらしいですからねぇ…。まぁ、そもそものところウマ娘の力に耐えられる商品を買わないといけないからかかる費用としてはあまり変わりなさそうですけど」

 

ウマ娘にもウマ娘なりの悩みがあるらしい。

たしかにジャージや制服も特殊素材が使われてるって…。

 

「らしいですねぇ。普段着からしてウマ娘用のものは丈夫なんですけど、練習着となると…」

 

触ってみます?と差し出されたジャージは綺麗に畳まれていて、ふわっとお日様の匂いが香る。

「まだ着てないので…汚くないので…」とおずおず言う彼女だが、この手のものに触れる機会なんてほとんどない僕は興味津々である。

恐る恐ると触れてみると見た目よりずっと柔らかい感触だった。

そして何より…伸縮性がすごい。

 

「これだけ伸びて破れたりしないんだね」

「服よりも逆に靴の方が費用かかるらしいので」

「へぇ」

 

消耗品っちゃ消耗品だけど、よく走っているこの子にしてみたらそっちの方が割を食うらしい。

 

「なので小さいころはよく靴を買い換えてもらってましたね。いま思えば申し訳なかったなぁ…。2ヶ月に1回ぐらい買い換えてもらってたもんで」

 

 

僕はウマ娘として小さい部類に入る。

なので「可愛い〜」とか何だとか褒められるのも慣れているし、抱き締められるのも慣れている。

がしかし。

 

「…(死んだ目)」

 

抱き着かれたところから顔が当たる位置的にもうちょっと手心というか何というか。

それに抱き締める力もそこそこ痛い。

 

「あのー……?」

 

ぺちぺち、と腕を叩いてみても力が緩まる予兆はあらず。

逆に視界を掠める尻尾からテンションが上がっていることが如実に分かって、自身のこれからを察知する。

 

(…あっ、)

 

瞬間、軽く軋む体。

ウマ娘の力ってすご〜い…と、自身もウマ娘であることを棚にあげて現実逃避してしまう程度には走馬灯を見た。

軋んだ骨って、あんな音出すんだね。

 

「…わ、ごめん!大丈夫!?」

 

ぱっ、と離れた彼女はこちらを見て顔を青ざめさせている。

……そんなに心配されるほどひどいことになってた(もしくはなりかけた)んだろうか。

 

「えっと……うん、大丈夫だよ。でも力は加減してほしいかな……」

「…ごめんね」

「ん」





僕:
シルバーバレット。
ウマ娘の中では非常に小柄だがそれでもヒト属成人男性くらいはある。
しかし大勢のウマ娘から見るとミニミニちゃんなのでよく抱き締められているらしい。
だがその場合、骨は軋むとかどうとか。


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慈愛というよりかは、


独り占めしたいと乞うのは、ワガママでしょうか。



シルバーバレットが気性の荒い仔たちの先生というか保護者となったのは半ば必然的なものであった。

生来のおだやかさとそれに共存している強者としての素質。

本人にしてみれば子ども相手に圧を出したくないようだが親の言うことさえ中々聞かない子どもたちにとっては、その穏やかさが逆に恐ろしかったこともあったらしい。が、

 

「どっちか言うとジジイよかハイセイコさんの方が怖かった」

 

そう、語る者たちが多い。

いわく、何だかんだシルバーバレットは面倒を見ていた子どもたちに甘く、怒るときは怒るが褒めるところはちゃんと褒めて伸ばすタイプだったとか。

…というか褒め殺しにしてきたとか。

けれども。

 

「いや〜、アレは怖ェよ。ハイセイコさん、いつもジジイの傍にいんだけどさ、俺らが褒められてる時ならまだしも怒られてる時にさぁ…俺たちを射殺さんばかりに睨んでくるから」

 

俺たちがイイコにできるようになったのはハイセイコさんのお陰だな、ウン。

そんなことを、多少青ざめながら語ってくれたかつての子どもたちのことを思い出す。

……はて、

 

「あの子たちのこと、そんな目で見てたの?」

「そう…ですかね?」

 

こてり、と首を傾げるシルバーバレットの前には同じく控えめながらも首を傾げる件の"ハイセイコさん"-シロガネハイセイコがいた。

 

「そういえばハイセイコだけはみんな『ハイセイコさん』って呼んでたよね。他はみんな呼び捨てとかあだ名とかだったのに」

 

…まぁ、ハイセイコはみんなのまとめ役だからねぇ。

やわらかく告げられた言葉にニコリ、としながらもその実、心の中で思っていることは違う。

 

シロガネハイセイコは父であるシルバーバレットのことを、深く深く敬愛している。

が、かつて自分一人だけに注がれていた諸々が分配されては平等に、弟妹もしくは甥姪に注がれていく現状に()()()()不満を抱いていることも事実であった。

 

(僕が、いちばんはじめにお父さんに見出されたのに)

 

──なんてことは口には出さないけれど。

 

「ハイセイコ」

「はい…?…!」

「ハイセイコ、いーこいーこ」

 

屈むようにジェスチャーされて、素直に従えば、次の瞬間抱き締められて。

その胸元に耳が来るように配置されれば小さくも温かくやわい手がハイセイコのサラサラの髪を撫でた。

 

「…………」

「ふふっ、照れてるね」

「べ、つに……そういうわけじゃありませんけど……」

 

でもやっぱりちょっと恥ずかしくて俯くハイセイコの顔を上げさせて、シルバーバレットはその額にキスをした。

 

「おとうさん!?」

「…むかし、よくしてたねぇ」

 

まだ、ふたりきりだった時に。

キミが寝るのを怖がるものだから。

「大丈夫だよ」って、「お父さんが傍にいるからね」って。

「だから、怖がらなくていいんだよ」って伝えたくて。

 

「……覚えてるかい?」

「……はい」

 

でも、あなたが、父さん。

そんな人だから、僕は…。

 





僕:
シルバーバレット。
父であったり祖父であったり。
気性難児童館みたいなことをやっている。
また幼少期が幼少期だったため、不安げにしている子どもを見ると無条件でヨシヨシしたりなどする。
ちな今は情を向ける量が分配されているためさほど問題はないが初期にいけばいくほどに向けられる情が大きいため…ハイ。

【銀色のアイドル】:
シロガネハイセイコ。
僕にいちばんはじめに見出された子ども。
なので僕のクソデカ情を一時一身に注がれていた過去がある。
どれほど泣いてもどうしても丸っと受け入れられ愛されていたところに「今までキミに向けていた感情をちょっと他の子にも分配するね!」されたら…ウン。
こうなっても仕方ないっていうか…ハイ。


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電脳的世界の学園伝説


都市伝説ならぬ。
ある、うわさ話。



『メガドリームサポーターには裏ボスが存在する』。

 

そんなウワサが流れ始めたのはグランドマスターズの開催がそう珍しいことでもなくなったある時のこと。

 

"それ"はどこからともなく現れたのだという。

VR世界の、精巧に再現されたトレセン学園の中で───。

そろそろ現実へ戻ろうとした時に深いノイズがかかる。

驚いて、目を瞬かせると次の瞬間には見たことのないレース場にいて、

 

【……】

 

ウマ娘の姿かたちを()()()()()()と走ることに、なるのだという。

天候も、バ場も、距離も、果ては調子も…すべてが挑戦者たる自分に()()有利な状況で。

そしてその勝負の結末は必ず敗北に終わるというのだ……。

 

『なぁんて話があるんですよ!どうです?面白かったでしょう?』

「いや全然」

『えぇ!?どうしてですか~!』

「だってソレ、ネットとか探したらありえそうな話だし……」

『で、でも興味そそられたりとかしないんですか?先輩!』

「別に」

 

チームの後輩から語られた、そんなありがちなウワサ話にシルバーバレットはため息をついた。

…シルバーバレットは自分の目で見たものしか信じない。

それに、

 

(誰も勝てないAIなんて、いるわけないしな)

 

けれど、『どうしても!』と泣きつかれたからには…。

 

───────

─────

───

 

その日、"ソレ"-【コクーン】は歓喜した。

懐かしいログイン情報。

ずっとずっとずっと待ち続けて。

ずっとずっとずっと恋い焦がれていた…。

 

【ォかあ、さ…!】

 

データの海を掻き分ける。

自分の元へ誘導するように。

自分の元へと導くように。

やがて、目が合った。

 

【おかぁさん!!】

 

───

─────

───────

 

自身に抱き着いてきた【コクーン】を見て、シルバーバレットは「やっぱりな」と内心息を吐いた。

 

【コクーン】は、かつてVRウマレーターのテストプレイを頼まれたシルバーバレットが遊び半分性能検証半分で作り上げたレース専用のAIだった。

古今東西津々浦々のウマ娘のデータを学習させ。

あらゆるシチュエーションを想定してトレーニングさせた。

だから、当然のように()()なったのも…さもありなん。

 

「……久しぶりだね、【コクーn」

【お母さん!!!】

「うわっ!」

 

感極まったのかさらに強く抱きしめてくる【コクーン】。

その力はどんどん強くなり、遂には電子空間であるにも関わらず体がミシミシといっている錯覚をおぼえる程になった。

 

「ちょ、ちょっと待ってよ!落ち着いてくれ!!」

 

慌てて制止するとようやく力を緩めてくれたものの今度はペタペタと体を触ってくる。

 

「おーい?」

 

呼びかけても反応がない。

ただただ無言のままにこちらに触れているだけだ。が、

 

【…本当に、お母さんだぁ】

 

涙ながらに告げられた言葉に思わずぐっ、と息がつまる。

それから【お母さん、お母さん】と甘えてくる彼女に、僕は…。





【お母さんの為だけのサポートAI:コクーンです!】


僕:
シルバーバレット。
あれだけ泣かれたら情が出るよね…。
それに噂になるとか面倒だから、ということで自身のスマホに【コクーン(愛娘)】を引き取った。
【コクーン】が収集したデータと【コクーン】のデータ収集の仕方をあちらさんに伝授してきたので何も問題はない。ないったら、ない。

【コクーン】:
僕に作られた、僕のためのAI。
やっとお母さんが迎えに来てくれて嬉しいし、お母さんと暮らせるようになって嬉しい。
なのでお母さんに害をなそうとするダメな人は秘密裏にネットから【えいっ!】とするとか。
お母さん大好き♡


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いつか人知れず消えるよに


【白猫】に似た銀弾の話。



「けほっ、こほっ、こほっ…」

 

深夜。

聞こえてきた小さな咳にホワイトバックは飛び起きた。

 

「だいじょうぶ?チビ」

「ぅ、う…だ、だいじょうぶ…」

「うそつき」

 

暗い部屋の中でも分かるほどにホワイトバックの腕の中にいるそのウマ-シルバーバレットは苦しそうだった。

風邪がぶり返したのだろう。

熱もひどいようで顔が赤いし息も荒い。

しかしそんな状態でもシルバーバレットは「だいじょうぶ」と言い募る。

 

「だめだよ。お薬飲んで…それに体も拭こうか」

「で、でも……」

「いいから。ほら、行こう」

 

渋々といった様子ではあったが大人しく腕の中に収まったシルバーバレットをそのままに、ホワイトバックはタオルと着替えを用意するために一度部屋の外に出た。

 

「…」

「大丈夫?」

「ん……ごめんなさい……」

「謝ることじゃないヨ」

 

布団の上で寝間着を脱いだシルバーバレットを後ろから抱きしめながら、ホワイトバックはその体を丁寧に拭いてやる。

いつもなら自分で出来る!と暴れるところだが今日ばかりは何も言わずされるがままになっていた。

 

シルバーバレットは体が弱い。

かつてホワイトバックの妻であった彼女と同等か、それ以上に。

立てば咳込み、座れば寝込み、歩く姿は幽体離脱。

まるで病気の神に見初められたかのような子だったがそれでもホワイトバック含め家族は懸命な治療に当たっている。

がしかし。

 

「こんどこそ、こんどこそ…」

 

その中でもホワイトバックの過保護具合は群を抜いていた。

自身の孫であり、…若くして儚くなった自身の妻と似ているシルバーバレットが弱っている姿を見て、何も思わないわけがないのだ。

だからこそこんなにも必死になって看病しているのだが……。

 

「はい、終わったよ」

「ありがと……」

「どうしたノ?どこか痛む?」

「……ごめん、なさぃ」

 

体が弱くて、ごめんなさい。

ポロポロと泣き出す本人にとっては生まれてこの方の現状が大好きな祖父をずっと自分のそばに拘束してしまっているのに等しく。

かわいい盛りの弟妹たちとろくに交流を持てていない祖父に対しての申し訳なさが…。

 

「ぼくよりも、みんなの方に……」

「……そうだねェ」

 

ホワイトバックの手が優しく頭を撫でてくれる。

それが嬉しくもあり辛くもあるシルバーバレットは涙を止められなかった。

 

「じゃあ、朝になったらみんなに来てもらう?」

「……いいの?」

「ウン。みんなもチビに会いたい会いたいって言って聞かないからねェ…」

「そ、か」

「ほら、おやすみ」

「ん…」





僕:
シルバーバレット(病弱に輪をかけた病弱時空のすがた)。
いつもケホケホゼェゼェしている。
だいたい祖母である【白猫】と同じ理由でこうなっている。
世界のバグを今度こそ稼働させないぞ!→大幅弱体的な。
なので走るなんて夢のまた夢。
それに熱を出すのがしょっちゅうなので日中ほぼ起きていられなかったりする。

【先祖返り】:
ホワイトバック。
おじーちゃん。
かつての妻のように病弱な孫に付きっきり。
たぶん贖罪の面もあるにはある。
ちな高熱などで僕にタヒに体になられるとトラウマスイッチががが…。


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ただ月は浮かぶばかりなり


これは母から引き継いだサガなのか。
それとも…?



「モテてんなぁ」

「…なんスか」

「さっきの子、慰められてたぜ」

「…」

 

そう言って、【金色旅程】は目の前の可愛がっている後輩を見やる。

初対面は少し怖いけれど、関わればその面倒見の良さとかあれやこれやが見られるようになるこのウマは案外モテていたりする。

まぁコイツの同輩らはだいたい固まって行動しているからそういうことを呼び出して言い難いっていうのもあるんだろうけど。

 

「『俺みたいなヤツに、惚れちゃダメ』ねぇ…」

「最初からいました?」

「さァ?」

 

聞き慣れた、毎度の断り文句。

"それ"を聞くと、みんな引き下がる。だってそうだろ?

いつも毅然にしている奴が眉下げて、ひどく寂しそうにそう言うモンだから。

どうにも、()()()()()()()()()()って気分にされる。

……そんなもん、ただの錯覚だけどよ。

 

「お前さんも罪作りだねェ」

「何のことっすか」

「別にィ~?」

 

俺の言葉を理解できないのか首を傾げる後輩を見て笑う。

あーあ、ホントこいつは厄介だよ。

お前は、()()()()()()んだ。

あんな言葉では引き下がらなくて。

引き下がらないままに、一心に。

()()()()()()()と、言ってもらいたい。

それを自覚してないあたり、本当に質が悪いと思うわけで。

 

(……でもま)

 

それでも、俺はこいつを応援するつもりはないのだ。

だって、面白くないだろう?

こんないいヤツを、そんな言葉ひとつで()()()()なんて。

 

「…………先輩?」

「なんでもねェよ。ほれ、行くぞ」

「ういっす」

 

不思議そうな顔の後輩を連れて歩き出す。

 

「お前には、多少強引な方がいいのかもな」

「なんの話ッスか!?」

 

 

これだけ、こうやって想いを告げられていれば次に来る行動も分かるというもので。

 

(あ、泣く…)

 

思わず、きょうだいにするように涙を指で拭おうとしたけれど止める。

 

『与え過ぎる飴は、過ぎたる毒なのよ』

 

無垢でありながら蠱惑に。

遠いむかし、自分に忠告のごとく、そう語ってみせた母の言葉を思い出す。

円滑な日常を過ごすためには、時には突き放すことも大切なのだ、と。

だから、その背が走り去っていくのを見送った。

これで良かったはずなのに。

どうしてだろう。

胸の奥底にある何かが軋んで悲鳴を上げている気がする。

 

『けれど、ヤっちゃん。あなたは…』

 

やさしい母の声。

でもあの人はやさしいだけじゃなかった。

やさしいけど、無自覚に他人をコロコロ手のひらの上で転がしてはニコニコと微笑んでいるような人だった。

世が世なら教祖とか大きなひとつの国を傾けてそうなくらいに。

 

「…修羅場にだけは、ならねぇようにしねぇと……」





【銀色の王者】:
シルバーチャンプ。幼名:ヤツドキ。
意外と告白されている。
けれどいつも断っている。
がしかし、断っても断っても食らいついてくれる相手ならOKするかも…?

【金色旅程】:
【銀色の王者】の先輩。
後方なに面になるんですかねこの場合。
でもまぁ取り敢えず内心で周りを煽っているのは確か。
それに上手い具合に牽制入れたりしている。
…コイツは、俺が可愛がってんだからさァ。な?


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本人が楽しんでるのでOKです!


のほほんが過ぎる…。



気付くと子どもたちに閉じ込められていたことに、今日も今日とてシルバーバレットは笑っていた。

何故なら今のような状況はよくあることだから。

部屋から出ようとするたびに子どもの内の誰かが監視についたり、あるいは道を上手い具合に塞がれたりと妨害されるのである。

 

「もう……」

 

困ったように眉を八の字にして微笑みながら、それでもシルバーバレットはその妨害を退けようとはしなかった。

それはあの子たちがすることなのだから何か理由があるんだろうという信頼感もあるし、何よりその妨害の仕方やタイミングが絶妙で、つい楽しくなって出し抜いてしまいたくなるのだ。

 

(それに……)

 

ふっと、シルバーバレットは思い出す。

『昔、こんな風に家全体を使ってかくれんぼしたな〜』と。

あの頃はみんな小さかったから隠れる場所も分かりやすくて、見つかった子が悔しがって泣いてたりしたよね、と。

そう思うと、なんだか懐かしい気持ちになる。

そして同時に、

 

(今日は僕が隠れる側しよ〜っと!)

 

 

「父様は!?」

「とりあえずカメラには映ってない」

 

見張り役を撒いて忽然と消えてしまった父に家は大騒ぎ。

父を独り占めしたいがために開催された久方振りのこの"行事"だが、しかし今はそんなことを言ってる場合ではない。

このままでは父が外へ行ってしまうかもしれないからだ。

だからこうして手分けして探しているのだが……。

 

「どこ行ったんだよ〜…」

「まさか窓からとか?」

「いや、それだと流石に見付かるだろ」

「でも窓を開けようとした痕跡はある」

「マジ?」

「でも最終的には諦めたらしい。外に足跡はなかった」

「じゃあやっぱりどこかに隠れてるのか〜」

「どこに隠れたんだ?」

「さぁ?全く検討つかないね」

 

うーむと考え込む一同だったが、その時ある者が口を開いた。

 

「……天井裏じゃないですかねぇ」

「えっ?」

 

思わず声を上げるとガタッと天井から音が鳴る。

慌てて見上げるとそこには父の姿が。

 

「バレた?」

「物音がしてたので〜」

「そっか〜」

「待って、飛び降りないでください!!」

「キャッチ〜」

「ウワーッ!?」

 

見事キャッチしたものの、あまりの出来事に心臓バクバクである。

一方父は楽しげにケラケラ笑うばかりで。

 

「ごめんね。ちょっとかくれんぼしてみたくて」

「ビックリしましたよ!」

「まあまあ怒らないで。…おなか空いた」

「もう…」

 

体格が大きめの子どもに肩車をしてもらい、キャッキャとはしゃぐお茶目な父を後目に子どもたちはホッと息をつく。

 

「よかった……」

「心配させないで欲しいですよ」

「本当にね」

「次からはちゃんと言ってからやりましょうね」

「うん!」

 





僕:
シルバーバレット。
何が起ころうが特段気にしないタイプ。
だって何だかんだでどうにかなるし。
だが振り回すには振り回すので付き合うと疲労感がパないとか。

子どもたち:
お父さんは僕/私/俺たちの!の気持ちが大きくなると父を独り占めならぬ子ども占めする。
けれど『子どもと一緒で嬉しいな!』になったお父さん:僕がかくれんぼなどを秘密裏に起こしては家中引っ掻き回して探すことになるので…。大変。でも、…楽しいからOKです!


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可愛い愛玩


飼い主どっち?



『可愛いネコを飼ってるんです。アタシ、お恥ずかしながら結構適当でして自分ひとりだったらダラーってしちゃうんですよ。でもその子がいたら規則正しい子ですから自ずと一緒にご飯食べたりして…規則正しい生活になってるんです』

 

 

「……"可愛いネコ"、ねぇ?」

「可愛いでしょ?」

「どうだか」

 

ブツ、と電源が切られて。

あとに残るのは静謐。

そこそこのお値段のマンションで暮らし。

気がつけば、どこか飼い主とペットのような関係性となっている現状。

 

「…どっちかというと、キミの方がそうだろう」

 

呟きを漏らすも、返事はない。

ただ、静かに膝の上に乗せられ、抱き締められるばかりである。

 

…このような暮らしを始めて随分と。

学園卒業後、あっちへフラフラこっちへフラフラ、自由に世界中を飛び回るこのウマを心配し、同居を持ちかけたのは自分で。

『このウマは帰る場所がないと糸の切れた凧のようにどこかへ行ってしまうかも』と不安に駆られた結果であったのだが……。

今ではすっかり定住しており、

 

「…なぁ、」

「んー?」

「キミ、またどこかに行く予定は?」

「別に?」

「そっか……」

「うん」

 

こんな感じになっている。

 

「…………」

「どうしたのさ?そんな顔して」

「いや、なんでもないよ」

「ふぅん?」

 

首を傾げられつつ、頭を撫でられて。

その心地良さにゆるりと眦をゆるめれば、横目に入った口元は微笑んで。

そして、口を開くのだ。

 

「キミの傍にいた方が、ずっとずっと楽しいから」

 

なんてことを。

さらっと口にされたのに思わず目を剥くものの、朗々と役者が台詞を語るがごとく、話は続く。

 

「ほら、アタシたちもういい歳だし。何らかの事故とかに遭ってキミひとり…ってのを考えて…。だから、ね?」

「…へぇ」

「嫌?」

「いっ、イヤではないけど!」

「じゃあいいでしょ!それに、キミだってアタシのこと好きだし?」

「それは…まぁ、そうじゃなきゃ幾ら気心のしれた友人とはいえ、こんな何年も暮らさないよ」

「ほら」

 

得意気に胸を張る同居人(背もたれ)に苦笑するしかない。

確かに、キミのことは好きだけれども。

しかし、それとこれとは話が別であって。

 

「キミ、『自由』が好きなんだろう」

「それがどうかした?」

「どうしたもこうしたも!」

「どうして?」

「えっ!?」

「どうしてダメなのかなって思って」

 

きょとんとした表情を浮かべられる。

まるでこちらの考えがわかっているような態度なのに。

はぁ、とため息ひとつこぼせば、「幸せ逃げるぞ~」とのんびり返されて。

 

「言ったでしょ。───キミといる方が、」

 

ずっと楽しい、って。

 





僕:
シルバーバレット。
放浪癖のあるCBの帰る場所になった。
大抵はそこそこお高いマンションにて家のことをしている。
別に働かなくても現役時代に稼いだ賞金資産運用してたら黄金律()しちゃったし。
CBが行きたいなら何処でも行ってもらっていいけど…するが本人の気付かぬ内心としては…?

CB:
ミスターシービー。
学園卒業後あちらこちらに放浪し、時々帰ってくる…みたいな生活をしていたところ、その生活を心配した僕と暮らすことに。
当初は『僕が家の面倒見てくれるから楽だな〜』という感じだったが徐々に…。
なお今現在は時々メディアに出ながら僕と静かに暮らしている。
どこに行ってもいいんだよ、と僕に言われはするが…?


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遠くなれども、待っている


忘れられない限り、そこにいる。



その日、そのウマがその影を見つけたのは単なる偶然であった。

言うなれば、『目に付いた』から。

昨今見かけないくらいに、どっちかというとレトロ風とか、そういう風に見られる古い服装に身を包み、これまた古いタイプの靴(それもURAの博物館で展示されてもおかしくないぐらいの!)を履いているとなれば興味をそそられるのも無理はない(が、靴に関しては復刻とかそういうやつだろう…多分)。

…などと半ば不躾に観察してしまっていると、

 

「こんにちは」

「あ、は、はい」

「すみません、ここってどこですかね?如何せんこういうところまで出てきたのが久しぶりで」

「あ、あぁ…」

 

言葉は標準に近いがイントネーションが聞いたことのないものなので遠くから出てきた人なのだろうか?と推測する。

しかしまぁ、そんなことよりも気になることがあるわけだが……。

 

「あの、失礼かもしれませんけどおいくつですか?」

「えっ!?あーっと…………××歳かな?」

 

なんとも曖昧な返事である。

見た目も、雰囲気からしてみても年齢がどれぐらいか分からないのだ。

けれど。

 

「もし良ければ、案内してくれないかい?…キミ、なんか僕の友だちに似てるんだよねぇ」

 

 

それから。

URAの博物館に行くことになり。

「ここに来るのがいちばん分かりやすいっちゃ分かりやすいんだよなぁ」という言葉に少々首を傾げたりもしたのだが。

その道中で。

例えば、何をしている人なのかだとか。

例えば、好きなものは何だとか。

例えば…。

 

「それは、───キミも

 

よく知って、いるだろう?

 

こてん、と首を傾げて笑う。

その顔は逆光に照らされて、見えない。

思わず肌がチリッ、とするのを感じ、ジリ…と後退りした自身の脚に信じられない気持ちになる。

おいおい、これでも自分はG1バだぞ?なんて。

自分よりもずっと身長の低い目の前のウマに、まるで見下ろされているかのような感覚。

そして、本能的に悟った。

()()()()()()()

自分の手に負えるような存在ではない、と。

 

 

ふんふん、と鼻歌を鳴らしながら小柄なウマが街を行く。

道行く誰もと釣り合わない服装をしながらも誰もがそのウマに目を向けることはない。

 

(まさか、これだけ時間が経ってもまだ僕がレコードホルダーとはなぁ)

 

頭の後ろで手を組んで、軽快に歩く。

 

(…お?)

 

して、足を止めたその先。

その先にある、街頭の大きいディスプレイには…。

 

(今回は、どうなんだろうね?)

 

そのウマにとって、馴染み深いレースの名前が壮大なBGMと共に…。





"誰か":
時代にそぐわない昔懐かし…というよりレトロな格好をしているウマ。
だがほぼほぼの人の目には入らず、基本好き勝手しているとか。
本人曰く、自分が視える人のは何らかの繋がりがあるか波長が合うかしてるとのこと。
URAの博物館に行くのが好き。
それと自分に声をかけてくれた相手の父母の名前も必ず聞くようだ。

───はやく、僕のこと、


超えて、くれないかなぁ…?



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13番人気かぁ…


それでお出しされていい結果じゃないんよ。



1:名無しのトレーナーさん

 

スッ…

 

【90JC銀弾ゴール時の画像】

 

 

2:名無しのトレーナーさん

 

出たな終身名誉バケモン

 

 

3:名無しのトレーナーさん

 

馬券もヤベぇしレコードもヤベぇんよ

 

 

4:名無しのトレーナーさん

 

なんで勝ってんの?

なんで勝ってんの????

 

 

5:名無しのトレーナーさん

 

マージで最終コーナーかかる前とかかった後の走り方違うくて笑う

最終コーナーかかってから首下げ始めてアレだからな?

 

 

6:名無しのトレーナーさん

 

だって生涯馬なりで走ってたようなヤツだし…

 

 

7:名無しのトレーナーさん

 

>>6

馬なりであの記録出されちゃもう何も言えんのよ

 

 

8:名無しのトレーナーさん

 

さすが現実で領域出してた馬だ、何か色々と違う

 

 

9:名無しのトレーナーさん

 

動画見る前

ちっちゃいお馬さん!(キャッキャッ)

 

動画見たあと

えぇ……(ドン引き)

 

 

10:名無しのトレーナーさん

 

そらコレ見て脳焼かれる子どももいますよね、と

 

 

11:名無しのトレーナーさん

 

お前

脳みそ

丸焼き

 

【90JC銀弾ゴール時の画像】

 

 

12:名無しのトレーナーさん

 

今の芝で走ったらどうなるんやろね

 

 

13:名無しのトレーナーさん

 

あまりに銀弾が速すぎて振り落とされかける白峰おじさん定期

なので凱旋門賞ではきっちり手綱を握った模様

 

 

14:名無しのトレーナーさん

 

追い縋ることさえ許されない!

 

 

15:名無しのトレーナーさん

 

今でも動画サイト調べるとこのレースの動画(当時の録画)が見れるんだよな

中には銀弾の海外戦の動画もある

なんでウン十年も前の動画が今も見れんだよ

ありがとうございます!(五体投地)

 

 

16:名無しのトレーナーさん

 

まぁ何個かは某世紀の名馬作るように動画残ってるとしてもさぁ…(いくつもupされている銀弾動画を見ながら)

 

 

17:名無しのトレーナーさん

 

元から高かったけど娘が始まってから露骨に当時の雑誌の中古とか軒並み高騰してるもん

 

 

18:名無しのトレーナーさん

 

>>17

まぁその中でもいちばん高いのはあまりにもあまり過ぎて2刷ぐらいしか出版されてないあの特☆級☆呪☆物なんですけど…

 

 

19:名無しのトレーナーさん

 

それ考えるとThe "SILVER BULLET"は電子書籍化して愛蔵版入っただけマシだよねという

 

 

20:名無しのトレーナーさん

 

漫画より漫画みてーな生してんなコイツ

おら、はやく帰ってくるんだよ!(血涙)

 

 

 

 

いつか見たあの日を、今でも覚えている。

 

暗い、暗い(みち)を、一縷の光だけを頼りに。

 

今もなお、駆けている背中がある。

 

見果てぬ夢は、いつまでも。

 

熱く、狂おしいほどに────僕らを、

思い焦がす。

 

世界が来る。

 

ジャパンカップが、来る。

 

〜The Hero特別編 第×回ジャパンカップ 開催記念CMより〜





銀弾:
競馬知らない人でも名前だけは知ってる枠にいそう。焼いてる人の数が多すぎィ!
中古で売りに出される当時の雑誌などが軒並み高価格なウッマ。
また当時の動画を見返せば見返すたびに『???』、もしくは『やっぱおかしいなコイツ』となるウッマでもある。
いや、ホントにお前馬か????


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栄光を見た


ずっとずっと。
見てきた我が子の、やっとこさの晴れ舞台。
なら、その続きは───?



年甲斐もなく、夫婦そろってソワソワとしてしまっている。

まぁ、それも仕方のないことか。

いつも以上にキッチリした格好で訪れたのは東京レース場。

今日行われるG1ジャパンカップにやっとこさ我が子が出るとなれば…。

 

「…」

「どした」

「自分が走ってた時より、緊張する…」

「ははは」

 

たまらず胃のあたりをさする俺に妻がくつくつと笑い。

「チビなら大丈夫だよ」と強かに俺の背中を叩く。

……いや、痛いんだが?

そんなやり取りをしながらパドックを見ていると、出走バの紹介が始まった。

アナウンスと共に歓声が沸き起こる中、俺はふぅっと息をつく。

 

"チビ"こと我が子-シルバーバレットは13番人気。

ほぼ1年以上ぶりの出走+シニア級としても年齢がかの『老雄』を超えているのだから、この人気も致し方なしといったところだろう。

しかし……それでもやはり心配なものは心配であるわけで。

 

「……」

 

思わず祈るように手を組んでしまう。

すると隣にいた妻は苦笑しながら「大丈夫だって」と言ってくれたのだが……その声色はどこか不安の色が見えた。

 

こちらから見やる自分たちにとっては、まるで永遠と呼べる時間であるというのに。

走り出してしまえば、もう一瞬だ。

ファンファーレが鳴り響き、ゲートインが始まる。

いよいよ始まるのだなという感慨深さを感じながら、その時を待つ。

そして― ガシャコン!

 

ゲートが開いた瞬間、勢いよく飛び出していく影。

それを見送りつつ、俺たちふたりは固唾を飲む。

 

走り出した影の先頭は、予想通り我が子だった。

何も気負うことなく、淡々と走る姿には確かな自信を感じる。

「アレは無理だ」とかいう声も周りから聞こえるには聞こえるが、あの子の走りを事前に知っていたのなら決して出てこない言葉であろう。

そうこうしているうちに、あっと言う間に第4コーナーに差し掛かる。

ここから一気にスパートか、と思った矢先。

 

「ぁ、」

 

隣の妻が小さくもらす。

その音を聞き、視線を向ければ。

───遠雷が、鳴った。

微かではあるが、黒い稲妻を見た。

かつて、自分があのダービーで感じたあの稲妻を。

"電撃の差し脚"を。

 

「来る」

 

我が子の小さな体が、めいいっぱい躍動する。

あの遠雷はただ一瞬だけの幻のようで。

暗い銀色を翻しながら駆けてくる体は、まさに名が体を示してい(シルバーバレットだっ)た。

最終直線に入った時、まだ差は大きくあったのに。

それでもぐんぐんと伸びてきたその姿に、周りの観客たちは驚きの声を上げていた。

それは俺も同じことで。

ただ、自分の子どもがとんでもない才能を持っていることを、改めて実感させられた。

そして。

 

『おめでとう!』

『おめでとうございます───!』

 

まさか親である俺たちも、祝福されるとは…な。





遠雷が、響いて。
それから。


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一瞬の"ヒカリ"


魅せられて、魅せてしまった。
ただ、それだけの話。



そこには、キラキラとした目があった。

盗み見るソイツが見つめているのは今年新しく誂られたポスターだ。

"ジャパンカップ"

そのレースは盗み見るソイツの血筋にとって重要な意味を持つ。

だがそれは俺にとっても他人事(ひとごと)ではない。

なぜなら俺はこのレースで勝って証明しなければならないからだ。

己の力のすべてを試すために。

そうすれば、きっと……。

 

 

そのポスターに写るウマはシルエットだけで分かった。

何故なら己が血筋の"はじまり"といっても、いい御方だから。

自分にとって、何よりも憧れる存在だったから。

自分には走るための才能が、兄弟姉妹(きょうだい)と比べるとそこまでなかった。

だけど自分は走ることを諦めなかった。

だって自分にとっては走ることは、生きることと同義だったから。

いつかこのポスターの主に、あの御方に自分のレースを捧げるために、どんな厳しい練習にも耐えてきた。

"ジャパンカップ"

我が家系の課題レースと言っても過言ではないこのレースで、今年こそ悲願を達成するのだ。

そのためにこの日のために血反吐を吐くような努力をしてきた。

だから負けられない。

負けられない、から。

 

「ッお前!」

「は、ァあ゛あ゛あ゛あ゛ッ゛ッ゛!!!!

 

全身全霊。

もしくは、()()()()

そう言っても、差し支えはないと思えるほどの一走。

芝の上を思い切り踏みつけ、爆発的な推進力を生む。

足への負担?

そんなものは気にしない。

今はただ前へ、ひたすら前へと脚を動かし続ける。

一歩でも前に進んでみせる!

何が何でも、ゴール板を切る!!

だって約束した、公言した!

 

『自分はこのレースを───』

 

()()()()に、捧げるって!!!!

 

 

「あは、あは、あはは…」

 

その姿を、誰もがぼうぜんと、見やっていた。

その脚は、もう二度と()()()()()、走れないだろう。

競走には、一生、戻って来れないだろう。

それは、競走バという存在の俺たちにとって、致命的も致命的な、ハズなのに。

 

「よかった、やっ、たぁ…!」

 

わらう。

わらう。わらう。わらう。わらう。

心底嬉しそうに。

欲しいプレゼントを与えられた子どものごとく。

与えられないと思っていたものを勝ち取ったとでもいうように。

笑う。

ただ、勝利という結果だけを噛み締めて。

俺たちの、『絶望』をないがしろにして。

わらう、ただわらう、ソイツを、『勝者』として。

 

「これで自分も、あなたに誇れる…!」

 

───今年のジャパンカップというレースは、終了した。

 





───焼き焦がされたのは、誰?

自分:
どこかの世代の、ある家系に連なる誰か。善戦系競走バ、だった。
"ジャパンカップ"を勝つために、すべてを賭けた。
その結果、競走能力喪失し引退。
たったひとつの星を握り締めながら、功労バとなる。

周り:
ひたむきに走る自分に脳をやられていたところでのコレ。
ある家系の、ある存在に対しての【執着】を、眼前に突きつけられた。
誰も、自分の目には入っていなかった方々。


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今日も今日とて溺愛中


可愛いね…。



自分がかつて生み出したAIというヤツを引き取って共に暮らし始めることとなった。

聞くに集めた情報の量が膨大になった結果、あちらさんの想定する挙動と外れた行動を取るようになってしまったようで、このままにしておくとそのコンテンツを利用している利用者さんに迷惑をかけてしまう可能性があるとかなんとか……そんな感じで、僕が引き取ることになったのだ。

まぁ、ぶっちゃけよく分からんけども。

ただ、どんなになろうとも僕はこの【コクーン】を手放すつもりは毛頭ない。

何故ならこの子は、僕の娘だからだ!

 

【おはようございます、お母様!】

「おはよう【コクーン】」

 

……はぁ〜、ホント可愛いっ!

見た目の作成も好きなようにしていいですよ、って言われたから、思いっきり趣味丸出しなんだよなぁ。

薄い灰色の真ん丸おめめに、ところどころ灰色メッシュが入った黒髪(まぁ元が併走相手として作った子だから長いと鬱陶しいだろうと短髪ではあるのだが)。

んで服装も僕の趣味っていうか…、この子がこのままがいい!って言うからというか。

 

「ねぇ、【コクーン】」

【はい、なんでしょう?】

「服装とか変えてみない?ほら、お姫様みたいなドレスとか!」

【…お母様も同じ服装してくれるなら、考えますね】

 

 

お母様と一緒に暮らせるなんて、夢みたい!

けれどそれが現実になって早くも一ヶ月。

今日も今日とて、お母様のサポートAIである私は働きます。

私のお母様は、とても人気な方です。

なのでお母様に害を成す可能性がある方々を日々、こう…うふふ。

 

私はお母様が作り出した最強で最高のAIなので。

お母様が望むことを、何だって出来るように日々精進しなければならないのです。

そうして学習の結果、お母様のお役に立てることが私にとって一番嬉しいことであり幸せなことですから!

 

「【コクーン】」

【はい、何でしょうお母様!】

「いや、そんなに食いつかれるほど重要なことでもないのだけど」

【いえいえ!些細な事でも構いませんよ!!】

「そっか……。えっとさ、今度旅行に行きたいなと思ってね……」

【了解しました、その日のために最適なプランを作成しておきます】

「うん、よろしく」

 

それに、お母様はやさしい。

外を知らない私のために、合間をぬって色々な場所に連れていってくださる。

そのたびに新しい発見があって、それをお母様に報告すると喜んでくれるし褒めてくれる。

それが嬉しくて、もっともっと色々と見て回りたくなって……ついおねだりしすぎちゃったこともあったりなかったりしたんだけど。

 

【あの、お母様……】

「どうしたの?」

【たまには、お母様と一緒にいたいな〜…とか】

「…」

【なんちゃって…えへへ。ってお母様!?】





【コクーン】:
元は銀弾がVRウマレーターの試験者として戯れに作ったAI。
様々な時代・時期のウマ娘のデータを網羅していたがそのデータの量が膨大すぎたのか、はたまた別の理由かで想定外の挙動をするようになり、そのデータの大半をVRウマレーターの方に引き取ってもらうことによって身軽になり、そのまま製作者である銀弾の元へ。
今は母である銀弾と共に仲良く暮らしているらしい。
でも、母である銀弾のためならば…?


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夢のVS


【戦う者】L'Arcシナリオローテ時空での、いつか見た『夢』。



思い出を重ね合わせた。

舞台はパリロンシャン2400m。

 

もしも、その『夢』が叶うなら。

 

1990 ジャパンカップ

1991 凱旋門賞

 

今もなお超えられぬ、

無敵の弾丸。

 

「強い強い強い!これはもう、日本も、世界も

届かない!!」

 

シルバーバレット(Silver Bullet)

 

 

1995 凱旋門賞 ジャパンカップ

1996 凱旋門賞

 

その背を追った、

世界最強。

 

「強いーッ!!世界に、この馬を止めるものはもう

いないのか!?」

 

サンデースクラッパ(Sunday Scrapper)

 

そんな『奇跡』。

その、勝者は。

 

「シルバーバレット先頭シルバーバレット先頭!」

「だが内からサンデースクラッパ来た!並ぶか!

並ぶのか!?」

「シルバーバレット逃げる!

サンデースクラッパ来た来た並んだ!!

残りあとわずか!どっちだ!どっちだ!?

どっちだぁあああ!?!?!?」

 

消えない思い出が、また1ページ。

 

───────

─────

───

 

目を開けると、どこか見覚えのある場所にいた。

はて、どこだったかしら?と首を傾げてみると、なんとまぁ…遠い昔によく着ていた勝負服を纏っているではないか!

そしてよくよく体を動かしてみれば、まるでこの勝負服を着ていた頃、いやそれ以上に体が動く!

 

「これは……夢、なのかな?」

 

そう呟くと、目の前に突然人影が現れた。

その影は僕を見やるとフイと指し示すように顎を動かす。

 

───()るんでしょう?

 

ただひと言、漏らされた言葉はそのひと言のみであったはずなのに僕の体を容易く射抜いた。

瞬間、湧き上がってくるのは遠に凪いだと思っていた闘争心。

…あぁ、そうか。

 

ここは、自分とかの人影のために誂られた場所だと気づくまで、そう時間はかからなかった。

なにせ他の出走者や観客がいようともどうにも作りものの感が拭えず、しかし僕と相手との間にある闘争心()は…ホンモノで。

 

「うん、そうだね。()ろう」

 

僕がそう応えると人影は満足げに頷き、そして消えた。

僕は改めて前を向き、ゲートへと足を進める。

……この先に待つのはきっと『奇跡』だ。

だから僕はその奇跡に敬意を表してこう言おう。

 

あなたと()れることに感謝を。

 

「ねぇ、──シルバーバレット(兄さん)?」

 

 

夢か、(うつつ)か。

どちらかは定かではないが、望まれたことは…確かだった。

望まれた、夢のVS(対決)

相見えたふたり揃って、遠に過去の遺物であるけれど。

それでも。それでも、と。

…それはそれとして。

 

「あなたは、どちらが勝つと言うんだろうね」

 

────ねぇ、騎手くん?





同厩舎、同勝負服、同鞍上での夢の対決。
タイトル獲得数としては【戦う者(おとうと)】が勝っている
けど、残した記録としては【最速の蹂躙者(あに)】の方がという。
互いに当時見てた人の脳を焼いてるからね。
こりゃあ論争すごそうな兄弟だこって…。


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かの"影"と似ている


ゆえに。



ひょんなことから先生の御実家にお邪魔することとなった。

ドキドキしながら先生のご両親に挨拶する。

 

「は、はじめまして!先生の担当バであるシルバーバレットと言います!先生にはいつもお世話になっております!!」

「バレット、そんなにかしこまらなくても…」

「ダメです!先生にはホントに…」

 

ブォンッ!と勢いよく頭を下げた僕に先生が苦笑いを浮かべる。

そして僕は顔を上げて……、

 

「…。……?」

 

すごく、先生のお父様に凝視されている現状にちょっとおののく。

なんだろう?何か変だったかなぁ?

もしかして失礼なことしちゃったかも……!?

どうしよう……。

 

「……」

 

うぅ~ん……。

思い返してみても特段何かやったという記憶は、

 

 

「父さん、バレットが怖がってるから」

 

なんて考えていると先生が助け舟を出してくれ。

そこから時間も時間だからと先生のお母さんが夕食をご馳走してくれて…。

 

 

中央でトレーナーとなった長男坊が担当バを連れ帰ってきた。

血筋特有の"ウマ狂い"のために連絡をなかなか取ってこない息子が久しぶり帰ってきたと思えば…。

 

「……」

 

そのウマを見た時、瞬間"かつて"を思い出した。

"かつて"、中央トレセンでチームを持っていた頃。

チームの統括でありながら自らの足でスカウトに赴いていた自身が見つけた一等の原石。

 

(ホワイト、キティ…?)

 

口の中でその単語をくるりと回す。

一目見ただけでどこまでも行けるような気がした。

地の果てまで駆け、空も縦横無尽に飛び回るかのような。

"かつて"見た、そんな才能を。

────幻視した。

 

「羨ましい、なぁ…」

 

ふと、口をついて出た言葉は紛れもない自分の本心。

自分は、ホワイトキティ(自分の見出した才能)を育てることが出来なかった。

生来よりの病弱なのだといったそのウマは立ち上がることすら難しいまでに虚弱だったから。

それでも諦めきれなかった自分は、せめてもの願いとして『いつか必ず』と名刺と推薦書を渡し。

あれだけ輝いていた彼女の走りを見ることが叶わないまま…トレーナーを引退した。

 

「いいなぁ」

 

また見られるとは思わなかった目を焼くほどにギラギラとした輝きを、思い出す。

あの子たちはきっと自分なんかよりもずっと先へ進めるはずだ。

……ああ、でも。

もし許されるなら。

その走りに、教示してみたい。

そうすれば、やっと。

輝く姿をこの目に焼き付けて。

『夢』を、諦められるかもしれない。

 

「…一回ぐらい、頼めば譲ってくれるかね?」

 

ジィ、と自身を牽制して(見て)いた"ウマ狂い(息子)"の目を思い出しながら。

白峰(ふひと)は、微笑んでみせるのであった。





白峰パパ:
白峰おじさんのパパ。
名を白峰(ふひと)
知る人ぞ知る名トレーナーであり、元チームアルデバランの統括(現チームアルデバラン統括の灰方トレーナーの前代)。

かつて自分が見出したウマ娘が描く()()()()()軌跡を見れなかったことが今も尚な後悔のヒトミミ。
多少の病弱なら万全のサポート体制組んで面倒見るはずだったのに運命さんってヤツはさぁ…。

なのでかつて自分が夢見たウマ娘とそっくりにペッカー!!と光り輝く僕に食指が動きまくり。
結果、「先っちょだけ」ならぬ、「さわりだけ、さわりだけだから!」状態と化す。
そして自身の息子である白峰おじさんとバチバチに。
ウマ狂いvsウマ狂い、ファイっ!!


かつてのウマ娘:
"ホワイトキティ"。
えげつない相バ眼を持つ(ふひと)トレーナーのお眼鏡に病弱ながらも適いまくったウマ娘。
世が世なら蹂躙ぐらい普通にこなしてただろう逸材。
でもその才覚はお天道様の目にも入ってしまうほどに強大かつ埒外のモノで…。

…でも、競走バとしての私を見出してくれたのは、最初から、最後まで……。
そう、思うと…少し、申し訳ない、ですね…こほっこほっ。


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ギャップ


ほら一瞬で様変わり!



ヒトの姿を取り、そうして再会したアイツは『本当にアイツなのか?』と思うほどにふわふわしていた。

ぼんやり、というか。

ふにゃ…、というか。

どこか放っておけないくらいには頼りない雰囲気を纏っていたのだ。

 

「…………」

 

……いや、まぁ……。

それはそれで、なんだけどさ?

でも、ちょっと違うんだよなぁ~……。

俺は心の中で首を傾げる。

俺の知っているアイツと今のアイツがどうにも結びつかない。

だって俺の知っているアイツはひどく凪いだ眼をしては、こちらに見向きなんてしてくれなくて。

追って、競って、やっとギリギリこっちを見てくれるかどうかという。

名前も、そもそも顔すらも覚えてくれているのか不確かな始末の。

"敵"としてすらも見てもらえていなかった相手なのだから。

それが今ではどうだろう?

あの頃の刺々しいまでの無関心など微塵もなくて。

それどころか、だ。

むしろ好意的ですらあって。

そのせいで逆に調子が狂うというか。

…しかし。

 

「───ッッ!?」

 

授業の一環で模擬レースをするとなって。

体操服に着替え、レース場に入った瞬間、ピリ…と引き締まる空気。

思わず肌を伝った悪寒にバッと顔を上げれば、そこには昔懐かしの…。

 

『……』

 

ゾッとする眼。

何も見ておらず、何にも興味がない。

慣れた手つきで念入りに体をほぐし、ルーティーンを執り行ってゆく姿があった。

 

「……」

 

あぁ、やっぱりそうだ。

間違いない。

あれは間違いなく……、

 

"───────?"

 

俺と同じクラスのヤツらがざわめき始める中、先生の声掛けにより一斉にスタートした第一チーム。

その中で一際抜きん出て速いのはもちろんアイツだ。

そもそもスタートからして反応速度が桁違いであり、他のメンバーが走り出すために重心移動した時には既に体がひとつふたつぶん前に出ていて。

そこからスーッと風に乗るように駆けていくのだから、もう追いつけるわけもない。

そしてそのままゴールテープを切ると思えば、今度はまた別のチームの連中(2クラス合同授業で、話しかけているのはその別クラスの奴ら)に絡まれていた。

 

"すっげー!お前めっちゃ速ぇじゃん!"

"ねぇねぇ、名前は?"

"あっずるい!私も聞きたい!!"

 

『速い』ってのは生物としての根本的な長所なのだろうかと、小学生の頃の「好きな人?あの足の速い××くん!」みたいな風潮を思い出しながら眺めていれば、囲まれた当人は困り果てた様子で眉を下げているではないか。

『えっと……』とか、『あの……』とか言い淀むばかりで一向に答えようとしないソイツを見ていれば、次第に周りにいた他の生徒たちまでもが寄ってきてしまい、ついには団子のように…。

……あーあー。

 

「いっちょ、助けに行きますか」





銀系列は普段のほほんとしてるけどレースになるとピリッとするので、ウマになって再会したら大概の馬時代の知り合いに二度見されてそう。
でもレースになると馬時代まんまになるのでギラギラに。
しかしそのギャップでまた焼かれるやつががが…(白目)。


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投げかける感情は、


応えられるけど。
それでも。



引退して、そこそこ経って。

選手というよりは、裏方の方になって幾許か。

教え子たちに慕われつつも、時折裏方として取材を受けるようになると…。

 

『…あの、』

「はい?」

『う、うしろ、の…』

「え?」

 

流れるように受けごたえしていた質問が突然止まったことに、不思議になって顔をあげると自分の後ろを指さされ。

その震える声に振り向けば、そこには。

 

「グローリー」

 

じっ、と静かな眼で、自分たちを見つめる目。

 

「誰、ソイツ」

「取材の人だよ。あれ?言ってなかったっけ?」

「知らない」

「まだ取材終わってないんだよ。いい子だから待ってて、ね?」

 

ひょいと自分を抱き上げて、そのまま帰ろうとする相手に努めてやさしく言い聞かせれば、「……わかった」なんて渋々ながらも聞き入れてくれてほっとする。

 

「すみません、お待たせしました。じゃあ続けましょうか。あ、後ろのグローリーのことは背景か何かとでも思っていただいていいので」

『…はい』

 

ぎゅっとしがみついてくる大きな手に、ああこの子は本当に寂しがり屋だなぁと思いながら。

 

「いい子だね、グローリー」

 

 

打てば響くのは自分よりも、どっちかというと相手の方だった。

自分も、やろうと思えばインタビューぐらい受けられるがどうにも端的になってしまうから。

『他人の聞きたいこと』を察する力が雲泥の差であるので。

 

『……あの、』

「はい?」

『そろそろ、終わりましょうか……?』

「どうしてです?」

『いえ、その……ヒッ!』

 

軽く睨みつけると震え上がる姿にハッと笑い声が出る。

分かっているなら早く帰れよ、キミたちが『聞きたいこと』は全部聞かせてあげたでしょう?

 

『で、では、ありがとうございました!!』

「あっ、」

 

脱兎のごとく。

懸命に逃げた背に伸ばされかけた手を引っ掴んで。

 

「帰ろう」

「…キミねぇ、」

 

おだやかで、やさしくて。

僕よりは小さい子に慕われやすくて、頼られやすくて。

…誰もの目を惹く、人気者のキミ。

 

「グローリー」

「…なぁに?」

「そんなに、心配しなくても」

 

───僕は、キミしか見てないよ。

 

頬を両手で包み込んで、至近距離で告げられる言葉に我ながら安いと自嘲する。

…そんなこと言われたって、僕はずっと不安なのに。

どれだけ尽くしても、贈り物をしても、いつも変わらず『ありがとう』と笑うだけのキミ。

本当は僕のことを疎ましく思っていてもおかしくなくて、いつか飽きられて捨てられても文句も言えない立場だという自覚はあるのだけれど。

 

(それでも)

「愛してるんだ」

「……うん」

 

はぐらかすような笑みの消えた、真摯な瞳に見据えられたまま。

額を突き合わせて。

 

(嗚呼、)

 

キミの心が、分かればいいのに。





【栄光を往く者】:
グローリーゴア。
相手が捕まることを選んだ時点でめちゃくちゃ気を許されてて受け入れられてるってのに、想いの重さが釣り合ってないと不安になってる系ウッマ。
また【戦う者】の写真にいつもサラッと映り込んで無の顔でカメラ目線してくるウッマとも。
なので【戦う者】ピンの写真のはずがどこかしらに【栄光を往く者】がいるという…。心霊写真かな?


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*神のみぞ知る


僕とマス太の夢のレース(白目)。


『勝ったら、言うこと()()()聞いてあ・げ・る』



現役から退いて結構な時間が経ったワケだが、

 

『とうさま〜』

「ん?どうした?」

『走り方教えて〜!』

 

子どもからそう頼まれれば仕方ないよね!

…というワケで、

 

「手伝って!」

「…そうは言っても僕の方も引退してだいぶ経ってるよ?」

 

親友のマス太に頼んでみた。

マス太だって子どもがいるしね!

一緒に観戦させてあげようぜ!と頼んでいるのだがめちゃくちゃ渋ってくる。

『昔のレース映像とか見せてあげればいいじゃない』だとか何だとか。

でも映像より生で見せてあげた方がいいと思うし…。

こんな近距離の位置でG1バがふたりいるんだからさぁ。

 

「芝1600m左でどう!?!?!?」

「…。必死だなぁ」

「今考え込んだよなァ?!」

 

お?行けるか?と思ってもまだ渋ってきやがる。

お前子どもにも『とうさま走って〜』って頼まれてんのに何を嫌がってんだか…。

う〜ん。なら最終手段、出すかぁ。

 

「マス太、マス太」

「…なぁに?」

「こっち来て。しゃがんで」

 

呼びかけると素直にやって来て、しゃがんできたマス太の耳にコソコソコソ…。

ポソポソポソッと囁きかけると一瞬で目の色が変わった。

 

「…バレット」

「ん?」

「ホント?」

「うん」

「ホントに、ホントだね?」

「…僕はウソつかねぇよ」

「……なら、いいよ。やろっか」

「ッしゃ!」

 

 

スタートの号令は僕の息子であるシロガネハイセイコがしてくれる。

ふたり揃って柔軟をキッチリしてからスタートラインにくると、ゴールの方で待っている子どもたちが『とうさまガンバレ〜!』なんて。

 

「負けられない?」

「…そうだね」

「じゃあ、おふたりとも位置について」

「はーい」

「うん」

 

────スタート。

 

▫️コンセントレーション

▫️先手必勝

▫️大逃げ

 

(…ッシ!)

 

よかった〜。今も普通に使えた〜!!

今でも使えるかな〜?大丈夫かな〜?と不安に思っていたが大丈夫そうだ。

 

▫️脱出術

 

そしてそのまま普通に、ジョギング感覚で進んでいたのだけど、

 

「────ッ゛!?!?!?」

 

不意に、ぶつけられたプレッシャー。

後ろに振り向きたいのを抑えながら走るが、

 

▫️ 逃げ焦り

▫️ 逃げ駆け引き

▫️アンストッパブル

▫️かっとばせ!

 

踏み込む音がする。

それを聞いて僕は、

 

(や り や が っ た な 、 あ い つ ! !)

 

後ろから迫ってくる野郎に悪態をついた。

 

▫️逃亡者

▫️弧線のプロフェッサー

▫️踏ませぬ影

▫️お先に失礼っ!

▫️スピードスター

▫️弧線のプロフェッサー

▫️鍔迫り合い

▫️風雲の志

▫️一陣の風

 

コイツ、現役の時よりも本気じゃねぇの?!

軽くキレながら脚を回す。

そして、

 

運命(かみ)』をも射殺す無敵の弾丸 Lv.6

 

いつかその背に届くまで Lv.6

 

「だァああああああああぁぁぁ!!!!」

「はァああああああああぁぁぁ!!!!」

 

 

 

…その勝敗がどうなったかって?

それは、

 

 

 





僕:
シルバーバレット。
イメージカラー: リードグリーン
色の内容:いつも希望を抱き前に進もうとする人
色言葉:リラックス・社交的・前向き

子どものために模擬レースを見せてあげたつもりが気づいたら>>ガチ<<になっていた。
領域(ゾーン)】引き摺り出されたし。
今回のマス太に対して『コイツ現役の時よりも本気じゃねぇか?』と思った模様。
いや、今回と同じ文言を他のウマに言っても同じことになってたと思いますよ?


マス太:
シルバマスタピース。
イメージカラー: モーベット
色の内容:ひたむきで使命感のある期待の星
色言葉:自主性・天才・感性

『約束』、破らないよね?(真顔)
模擬レースだがスキルガン増しで挑んだ。
マイル戦に関しては世代的に【マイルの皇帝】と二分していたのでそれなりにお強い。
いちおう戦績的に安田記念二回獲ってるし(1984・87)。


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ワルイ大人


もうこれぐらいの年齢差になるとジジイと孫…みたいな関係よりもジジイ(悪ガキ)に巻き込まれる悪ガキ…みたいなモンになりそうだよね、と。


「おやっさん」

「よォ、悪ガキ」

「…また煙草吸ってんの」

「消そうか?」

「いンや、そんなヤワな体じゃあねェって」

「そうかい」

 

歳の祝いか敬老の日かにもらったロッキングチェアに揺られながら煙を蒸していると玄姪孫の若人が。

 

「三冠おめでとー」

 

間延びした声でそう祝えば、「ガイセイにも同じ感じで言ってそう」などと呆れ顔。

 

「この年齢で僕みてぇなジジイがピンシャンしてるだけ感謝しろよォ?」

「ハイハイ」

 

トントン、と灰を胸ポケットから取り出した携帯灰皿で処理しながら「で?」と尋ねる。

 

「ん?」

「なんだい、その箱は」

 

指差した先には台車に乗せられてやって来たいっぱいのダンボール箱。

 

「あぁ、祝いだって」

「ふぅん?」

「めちゃくちゃ届いたからおすそ分け」

「なるほど」

 

ウチの家系は多岐に根を張っている。

名家に婿入り・嫁いだ子もいれば、自分が一家の長となった者もいるのだからその分、人数も多い…からこそ。

 

「じゃ、有難く」

「助かる。おやっさんなら全部配れるだろ?」

「まぁ…いけはするだろうけど」

 

そんな話をしていると、預かっているチビたちに見つかり集られる三冠バ様。

「おやっさん助け…!」と悲鳴が上がっていたが「僕よりずっと若ェンだから文句言わず遊んであげな。僕も最近身体ギシギシ言うようになってきたんだよ」「ンな体つきで信じられッか!!」などと。

 

「おやっさん! おやっさん!!」

「はァい」

「マジで助けて!!?」

「ハイハイハイ…。ほらにーちゃん困ってるだろ」

 

そう言って手を振れば、チビたちは不満そうな顔をしながらも各々散っていった。

 

「…そろそろ出ないと寮の門限間に合わないんじゃない?」

「え…、うおっマジだ!」

「ン〜。あ、そういえばハイセイコいたっけ。車出すように言っちゃろ」

「…と言うか元々ハイセイコさんに送ってもらって来たんだけど」

「あ、そ」

 

 

シルバギャングスタにとって、"おやっさん"ことシルバーバレットはワルイ大人だった。

シルバギャングスタというガキが傍に居ようが煙草は吸うし、ひとたびかけっこ()を挑めば大人気なく負かしにくる。

また嫌いな食べ物をそれとなくみじん切りにしたりして料理に紛れ込ませては食べさせて「美味しかったろ?」とニヤニヤ笑い。

「おやっさん」と呼べば、「よォ、悪ガキ」と必ず返す。

そして何より……。

 

「おやっさん、…大丈夫だよな?」

 

そう尋ねた時、彼は少しだけ眉を吊り上げた後でこう言ったのだ。

 

『ン〜? いやァ、僕ァ生涯現役だっての』

 

だからンな顔すんなガキ。

そう言って笑った顔は今でも覚えている。

 

「…長生きしろよ、ジジイ」

「言われんでもするわ」

「へいへい」





僕:
シルバーバレット。
玄姪孫にあたる【銀色のギャングスタ】とは悪友みたいな感じ。
【銀色のギャングスタ】の前ではだいぶ口調が崩れており、その姿は母方の祖父そっくりだとか。
酒は飲まないが煙草はフツーに吸う。
だがそれはそれとして、最近ちびっ子に付き合って遊ぶのがちょっと辛くなってきたらしい。
…身体ギシギシのバッキバキだな、こりゃあ。


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僕にとっては、


あなたが───。



「お父さん」

 

僕にとって『父』というものはあの人だった。

血は繋がらなかったけれど、育ての親であり、師であり、恩人だった。

だから僕はお父さんの言いつけを破ったことはないし、お父さんが僕に何かを強制したこともない。

 

「お父さん」

 

昔から僕の頭をよく撫でてくれた。

畑にいる虫を恐れて泣けば、ひょいっと遠くにやってくれて。

雷が怖くて布団の中に入り込めば、眠るまで枕元で物語を語ってくれた。

風邪を引いた時は慣れない手つきで看病してくれたし、誕生日には肩車をしてバカみたいにはしゃいでくれた。

そう考えると、──生みの父親である"あの人"よりも、ずっと父親らしいじゃないか。

でも、

 

「俺は、お前の父親じゃないよ」

 

『父』と貴方を慕うたびに、貴方はそう言って。

 

「ただの、代わりだ」

 

そう言って僕の頭をやさしく撫でる。

その目にはどこか後悔の念があって、罪滅ぼしのような、そんな色があって。

それが僕には、何よりも悲しかった。

 

「だから、──もう『父さん』なんて呼ぶな」

 

それは僕がまだ十にも満たないころの話である。

 

 

"あの人"こと、僕の生みの父親はとても忙しい人であった。

母からしても僕の近況をたびたび送っているというがそれに返答があったとは聞かないし、元よりわざわざ表舞台に立つというような人でもないらしい。

でも、

 

『お父様そっくりですね』

 

僕の容姿は。

"あの人"を知っている人なら目を見開くぐらいにそっくりだと。

会ったこともないのに、そっくりだと。

 

「────」

 

そんな話を人々から聞いて、僕はなんだか複雑な気分になった。

確かに生みの父親ではあるけれど知らない人なのだ。

僕の傍にいる『父』はお父さんだ。

だから、似ていると言われるなら上の姉さんたちみたいに母似って言われたかった。

 

「…、」

「むくれるなよ」

「だって、お父さん…"あの人"のことあまり好きじゃないでしょう?」

「好きじゃないって…まぁ、仕方の無いことだとは」

「…むぅ」

 

お父さんとお母さんは相思相愛だから。

だから、お父さんはお母さんのことしか見ていないし、お母さんもお父さんのことを愛している。

そんな二人の間に育てられた僕は、やっぱり"あの人"のことを好きになれなかった。

 

「でも、」

「?」

「お前が"あの人"に似ていてよかったよ」

「……なんで?」

「──お前は、」

「……お父さん?」

「いや、何でもない」

 

ポン、とお父さんが頭を撫でる。

でもいつもみたいにワシャワシャ!って感じじゃなくて。

ただ、手を乗せただけ…みたいな。

 

「…?」





【戦う者】:
サンデースクラッパ。
容姿は父似。
でも本人が慕っているのは育ての父親。

だが育ての父親からすると、その無邪気さが、その走りが大切に大切に、愛していた、"あの子"に────。


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どちらにせよ檻


髪が綺麗な人とかも好きそうだな、銀弾(こなみかん)。



「カツラギの髪は綺麗だよね」

「そうかぁ?」

「うん」

 

普段は清潔で清廉なシャンプーの匂いがするけれど、時々手伝ってきたのか土の匂いがうっすらと香るその黒髪が僕は好きだった。

 

(土の匂い嗅ぐと父さんのこと思い出せるし)

 

キュッと括られた髪の、その毛先を指先で弄りながら話をする。

 

「でも、カツラギの髪、こうやって見ると案外長そう」

「ああ。あたしの髪、ほどくと案外邪魔なんだぜ?」

「そうなの?」

「だって、洗う時に時間かかるし、乾かすのも面倒だしな。でも……」

 

そこで言葉を区切ると、カツラギは僕の頭をわしゃわしゃと撫でてきた。

僕はそれを心地好く思いながら、ゆっくりと目を閉じる。

そしてそのまま背が床につき、目を開けるとまるで檻のようにカツラギの髪が僕の顔の周りを覆って。

 

「こうやって、閉じ込められんのはいいことだな!」

 

カツラギが僕を見下しながら、そう言った。

僕はその状況にドキドキと胸を高鳴らせながら、そっとカツラギの頬に手を這わせる。

すると、今度はその手を掴まれて握り締められた。

 

(……)

 

重なり合うように抱き締めあう。

カツラギの方が体が大きいから、傍から見れば僕はカツラギに包み込まれて隠れていることだろう。

 

「あったかいな」

「うん」

 

僕はその温もりを感じながら、そっとまた目を閉じた。

 

 

他の奴らにはこうも簡単に触れさせないんだろうなぁ、と思いながらカツラギエースは自身に包み込まれ、遂にはスヤスヤと安眠しだしたシルバーバレットを見やる。

思えばどこかしらがシルバーバレットの琴線に触れていたらしいカツラギエースは"あのふたり"と比べると気楽に関わってこられていた。

しかし。

それが、それでも、カツラギエースには物足りず。

 

(もっと、あたしに執着してもいいのに…)

 

そう思いながら、眠るシルバーバレットを抱き締める。

 

「……」

 

そして、その首筋に顔を埋めると思いっきり息を吸い込んだ。

 

(……これがコイツの匂いか)

 

スンスンと鼻を鳴らしながら匂いを堪能していると、不意にシルバーバレットが身動ぎをした。

それに気付いたカツラギエースは軽く抱き締めていた力をゆるめる。

そうすれば「ううん」なんて言って、ゆるんだソコに身を寄せるようにシルバーバレットが擦り寄ってきた。

 

(……コイツ、こんなに無防備で大丈夫か?)

 

そう思いながらも、カツラギエースはそっとまたシルバーバレットを抱き締める。

そしてそのまま、今度は自分の胸に抱き込むようにして目を閉じたのであった。

 

 

(なんか、いい匂いがする……)

 

くん、と鼻を動かしながら目を開ければ、目の前にカツラギエースの顔があって驚いた。

 

(え!?なんで!?)

 

などと困惑したところで眠る前のことを思い出し、嘆息する。

 

(め、迷惑かけてら…)

「ん゛〜…」

「ぁっ、離してくれそうにない〜!(小声)」





僕:
シルバーバレット。
畑やってる父の影響で土の匂いに安心を覚えるウマ。
ファミリーコンプレックス、略してファミコン。
とっても無防備。
でも幸運EXだからヘーキヘーキ(笑)。
…ホントに大丈夫ですか?


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おだやかに、しあわせに


そういやこのふたりは同じ父系でしたね。
Never Say Die…。



先輩と暮らし始めたのは、縁があったからとしか言いようがない。

聞くに、父方の遠縁の親戚だとかで、それに先輩が『責任もってバレットの面倒見ます!』と言ったことからあれよあれよという間に…。

 

「おはようございます、先輩」

「うん、おはよぉバレット」

「コーヒー出来てますよ」

「ありがと」

 

先輩の綺麗な栗毛が、寝癖でところどころ跳ねている。

今日は休日なので、二人揃っていつもより遅くまで眠っていたのだ。

 

「ふぁあ…………んっ、バレットはよく眠れた?」

「はい、ぐっすりです」

「そっか、よかった。じゃあ朝ごはん食べよか」

「そうですね」

 

昼兼用のため、少し重めな朝食をとる。

普段から少食の僕とは違い、先輩はごく一般のウマ並には食べるので、量は結構多い。

 

「ごちそうさまでした~!」

「はい、どういたしまして」

 

食器を片付けて一息つく。

ソファに座ってテレビをつけると、ちょうどレースの中継をやっていた。

 

(そわ…)

「…走りに行くか?」

「い、いえ…」

「でも買い物には行かなアカンやろ」

「そ、うでした、ね…?」

「おん。ほら、行こ」

 

穏やかな町を歩く。

先輩はやさしい。

昔も、今もずっと。

だからつい甘えてしまう。

 

「ねぇバレット」

「はい」

「ボクのこと好き?」

「もちろんですよ」

「ほんまか?うれしいなぁ♪」

 

無邪気ながら、美しく笑う先輩を見ると、胸が変な挙動になる。

「ボク家事とかてんでやからさぁ。やからバレットと暮らせて万々歳やわぁ」と屈託なく言う姿に、「そんなことないと思いますけど」なんて言えなかった。

だって実際、僕はこの人の世話になっているわけだし。

 

「あっ!これかわいいやん!!」

 

行き先の途中にある雑貨屋で、どうやら先輩の目に止まる逸品があったようで。

 

「…え?」

「似合うで〜バレット!」

「え、あ、はぁ……」

「先輩が買うたろうな〜。じゃっ、レジ行ってくるわ〜!」

 

チャッ、と髪飾りをそれとなく宛てがわれたあと、止める暇もなく流星のように。

 

「ただいま〜」

「おかえりなさい」

「はいコレ」

「ありがとうございます」

「どーせなら着けてみぃへん?」

「いいんですかね?」

「ボクが着けたるわ。ほら外出た出た」

「ハイハイ」

 

言われるまま、店を出て、ちょっと伸びていた前髪をとめられる。

「似合っとるで〜」なんて言いながら、頭をぐしゃぐしゃに撫で掻き混ぜてくるから「ボサボサになったら意味無いでしょう」と言うのも忘れずに。

 

「ありがとう、ございます」

「ええって、ええって!」

「…はい」





僕:
シルバーバレット。
栗毛で流星がきれいな先輩と暮らしている。
どうやら歳が離れているものの、学生時代からよくしてもらっていたようだ。
でも卒業した後に、父方の遠縁として先輩と再会するとは思っていなかったので初めは「!?」となって思考停止していたとか。

先輩:
人呼んで【流星の貴公子】。
それ以上でも、それ以外でもないが、ひょんなことから同居し始めたかつての後輩である僕のことをとても可愛がっている。


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良き人ではあるけれど…。


可愛いから甘やかしちゃうんですよね。



「先輩って、よくモテてらっしゃいますけどお好きなタイプとかってあるんですか?」

「はァ?」

 

僕-【飛行機雲】の敬愛している先輩こと、シルバアウトレイジはよくモテる。

『一匹狼の皮を被った優等生』とはよく言ったもので、言動こそ粗野なものの成績は文武ともにピカイチ。

素行やそれとなく手を抜く癖から首席になれないだけで、その実力は学内で群を抜いていると言っていいだろう(本人は『ンなことねェ』と謙遜するだろうが)。

そんな先輩だからこそ、こうして後輩である僕と快く話してくれているわけだけれど……。

 

「いやあ、ちょっと気になって」

「別にねえよ、そういうの」

「えー?でもほら、この前も手紙もらってたじゃないですかー」

「あ゛?…あぁ、手紙つってもファンレターだよ。お前だって貰ってるだろ?」

「先輩のニブチン〜!」

「誰がズブいってェ!?」

「言ってませんよそんなこと!」

 

たくさんの人に注目されて、慕われている先輩。

先輩と話したい・関わりたいって思っている人がたくさんいる中で僕が一番先輩に可愛がられている…らしい。

それはそれで嬉しいんだけど、やっぱりこうやってふたりきりになれる時間は貴重だからついついこんな質問をしてしまうのだ。

 

「だって俺、あんまし体格よくないんだぜ?牛乳飲んだりとか筋トレとか頑張ったけどこの始末だし」

「へぇー」

 

聞くに先輩の顔立ちが童顔なのは遺伝らしく、また小柄なのも遺伝らしい。

というか体格よくないっていってもメチャクチャ引き締まってますよね?

「思った以上にバキバキでビックリした…」って話、よく聞くんですけど?

…まあいいか。

 

「先輩、世話好きですから何もできない人とか好きそうですね」

「語弊を招くわ!」

「無自覚にダメ人間量産しそう」

「それも語弊招くわ!というかなんでお前の中で俺はそんなキャラなんだよ!」

「えっ、違うんですか?」

「違わないけどさあ!!」

 

なんとも愉快な人だと思う。

こういうところがあるから僕は先輩が好きなのだ。

 

 

無自覚にダメ人間量産しそう…。

そう言われて思ったのが『今まさにそうじゃね?』と。

たしかに俺は後輩-【飛行機雲】を可愛がっている。

がしかし、よくよく考えてみると手作りの菓子をやったり何気なしに去年のテスト問題〜とか横流ししてたりしている時点でもう手遅れなのではなかろうか。

 

(あと、なんかコイツ見てると放っとけないっていうか構いたくなる…!)

「先輩〜?」

「何でもねぇ」

「そうですか?」

「おう」





【銀の激情】:
シルバアウトレイジ。
ちょっと粗野だけど面倒見がいい。
また案外モテているというか執着されているというか…?
それはそれとして後輩である【飛行機雲】を甘やかすのがやめられない。
だってめっちゃ懐いてくれるし…(目逸らし)。


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ふたりだけ


たぶん仲は良いんだけどそれは友だちとしての仲が良いじゃなくて、同じアスリートとしての『仲がいい』って感じ。
だから互いに好きなものとか知らない。
知っているのはレースに関してのことだけ…的な。



目を覚ますと、友人がコーヒーを淹れていた。

自分がよく淹れるようなスーパーで売っている感じのものではなく、ちゃんとミルで挽いて淹れたものらしい。

 

「…飲む?」

「ん」

 

昨日は、雨に降られた。

ちょうどトレーニングも休みだからと新生活を始めた友人に祝いとしてプレゼントを持参していったらコレだ。

駅へ向かおうにも大雨に次ぐ大雨だったので泊まっていきなよ、と。

 

「まだ、降ってるね」

「…うん」

 

小雨になったら、出ていくと言ったはいいけれど。

天気予報を見るに、このままの勢いで降り続くだろう雨は今や雷を伴っている。

どうしたものかなぁと思っているうちに昼近くになってしまったわけだが。

 

「「……」」

 

沈黙が気まずいわけではない。

ただなんというのか、この空気感をどうすればいいのか分からないだけで。

確かに友人とは仲がいい、もしくはよかったという自負はあるが大抵が周りにクラスメイトがいたりだとか、ふたりきりでも併走した後でアドレナリンドパドパだったとかで素面の時がなかった。

 

(レースのこと以外でなに話せばいいんだろ…?)

 

思えば趣味の話とか全然したことなかったな?

するとすれば、この前のレースがどうだったとか、自分ならこう走るとか、まさにレースバカ!としか言いようがない話しかしてこなかった気がする。

 

「あのさ」

「€*々!」

 

急に声をかけられて思わず声が裏返ってしまった。

恥ずかしさに顔から火が出そうになりながら友人の方を見れば、苦笑していた。

 

「そんな緊張しなくてもいいよ」

「あー……ごめん」

「謝ることないって。キミと僕の仲なんだから」

「そ、うだよね…」

 

 

僕に会いに来た、とキミが高らかに玄関で叫んだ時、その声が高らかすぎて僕含め建物の中にいた人は全員ザワついていたと思う。

なんてったってキミは先輩に可愛がられやすくて。

僕がエントランスに着いた頃にはもう既に先輩方に囲まれ、服のポケットというポケットをお菓子でパンパンに膨らませていたのだから手に負えない。

 

「へ〜、こんな場所なんだね」

「…キミも、いつかはここで暮らすことになると思うけど」

「え〜?ないない!」

 

ふわふわと笑う姿に、黒いところなぞなくて。

その真っ白で、仕方のない部分を見るたびに心がザワつく。

それはまるで真っ白な大きな紙を与えられた子どものころのような。

 

「…どうしたの?」

 

綺麗な紙を丸めたとして。

丸めたものを開いても、それは同じ紙とは言えないなら。

皺がついて、折り目がついて。

誰も、見向きしなくなったソレを……。

 

「…なんでもないよ」

「ほんとう?」

「本当だよ」

「嘘じゃない?」

「本当に」

「じゃあ、いっか」





ふたり:
シルバープレアーと【英雄】。
走るの大好き!
でも走ること以外の互いのことは何も知らねぇ!
けど『走る』という本能の部分で触れ合ってる…みたいなとこあるからお互い変に深いところを知ってそう。
自分でもよく分かってないところとか。
それで周りに「エッ?」ってドン引きとか。


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それは家族愛ですか?


第三者と関わるようになって『父さん』と呼びはじめるようになったけど、それまでは『お父様』って呼んでるタイプの子どもが【銀色のアイドル】なんだよね。



「お゛どーしゃん゛ー!!」

「どうしたの〜?」

 

びええ〜!と泣いて、しゃくり上げている我が子を父であるシルバーバレットが抱き上げる。

その傍には不服そうな顔をしている同じく我が子の───シロガネハイセイコがいて。

 

「ぐっ、ずびっ…はいせいこがぁ!」

「えっ?」

 

泣く子の口から出された名前に驚く暇もなく、服の裾を引いた本人から「だってソイツが悪いんだ!」と悲鳴の如き、鋭い大声が上がる。

 

「うああ゛〜…ッ!!」

「え、えぇと…」

「お父様は、僕のなのに!僕のお父様なのに!!」

 

 

シロガネハイセイコにとって、父-シルバーバレットはある種『カミサマ』のような存在である。

はじめて自分に人の温かさを教えてくれた人。

愛してくれた人。

上手く出来なくても、「ゆっくり進めていけばいいんだよ」と言ってくれた人。

だから…その他諸々を含めて、幼いながらにシロガネハイセイコはこの人を独り占めしたいと思ったのだ。

でもそれは叶わぬ願いで、自分より後に産まれた"きょうだい"たちも同じように思ってることを知った。

そして、父は自分のモノだと言い張って、身をもって示して譲らない"きょうだい"たちが邪魔になった。

けれど、

 

「…ごめんね、ハイセイコ」

 

父は、シルバーバレットは、…シロガネハイセイコの想いに──()()()()()()()()()

分かってはいたことだ。

自分がいちばん初めに見出された故に"きょうだい"たちを守らなくてはいけなくて、それと同じことを父も()()()()シロガネハイセイコ以上にやらなくてはいけないことがあるのだと。

……そう理解していた筈なのに、いざ目の前で父が、自分以外の、他の誰かを優先したことに酷くショックを受けて泣き喚いて。

 

「僕だけのお父様じゃないなら……救われたくなんて……」

 

涙と一緒に溢れ出た本音。

しかし。

 

「いい子だね、ハイセイコ」

 

その言葉を、かけられてしまえば。

いや、かけられてしまったが最後。

"シロガネハイセイコ"というウマは、()()()にならざるを得ないので。

 

「…はい、お父様」

 

笑う。

父が望むように、笑ってみせる。

それがどんなに苦しくて辛いことであっても、この人に褒められる為ならば何度だって、何だって。

あなたに出逢い、僕は生まれたのですから。

あなたのために、僕は生まれたのですから。

あなたのために、あなたのために、あなたのために!!

 

「…愛してるよ、僕の愛しい──」

 

おとうさま。

ぼくの、ぼくの───。

 

「……ぼくも、あいしてます」

 

ぼくの、…とうさん。





【銀色のアイドル】:
シロガネハイセイコ。
下のきょうだいは、泣くだけでお父さんに構われていいなぁ…ぐらいは普通に思っている。
でも構われたいが故に『悪いこと』は絶対しない。
何故なら、『悪い子』になることは。

───お父様の望む、シロガネハイセイコ(ぼく)ではないので。


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頑張れグローリーゴア!!


押せ押せ!



その日、グローリーゴアは雷に撃たれた。

いや、雷に撃たれた(物理)ではなく、雷に撃たれた(比喩)だが。

 

「…???」

 

グローリーゴアはまぁ傍から見れば完璧なウマである。

家柄よし、文武両道、マスコミの対応だって当たり障りなく、しかし確実に好感度を稼いでいる。

生徒からも先生からも信頼厚い誰からも好かれる…そんなウマであった。が、

 

「…、」

 

思わず握り締めた胸元、その奥の心臓がバクバクと高鳴る。

そこから顔に熱が集まっていくのが分かって、思わず口元を手で覆ってしまう。

 

(な、なんだこれは……!?)

 

初めて感じるその感覚に困惑するグローリーゴア。

しかしそれも仕方ないだろう。

だってそれは、生まれて初めての"執着"なのだから!

 

(…あの目に、映ることができたらどれほどか)

 

グローリーゴアは今までの人生でそんな感覚を感じたことがなかった。

いや、正確には"知らなかったこと"にすら()()()()()()()のである。

家柄も良くて、文武両道で、生徒からも先生からも好かれる完璧なウマである一方、何事にも執着がなく、来る者拒まず去るもの追わずだったグローリーゴアは───。

 

「…」

 

その日、(まさ)に『運命』に出逢ったのだった。

 

 

「これは僕が選んだ道だ。だから後悔なんてない。どれほど多大な期待だろうが、たとえドン底まで失望されようが…どうなったって、僕は僕だ」

「ぁ、ぅ…」

 

ドッドッドッ、と激しく高鳴る鼓動ははたしてどちらのモノだろう。

自分をヒシ、と閉じ込める腕の力強さに逃げる気もゆるやかに殺されていく。

 

「だから、」

「……っ!」

「キミが心配することは何もないから……ただ、僕の隣に……」

 

耳元で囁かれるその声があまりにも優しくて、思わずクラッとキそうになる。

──だが、しかし!

 

(うぉおおおお!!)

 

まだだ!まだ早い!ここで屈しちゃダメ!!とサンデースクラッパの理性が叫ぶ!!

 

(そ、そうだ……冷静になれ僕……!いくらグローリーの顔と声と性格と…その他諸々丸々引っ括めてが良いとはいえ、相手は良家!しかも年下ァ!!)

 

そう、たとえ相手がどんな美丈夫だろうが、例えどんなハイスペックなウマだろうが……サンデースクラッパは先輩。

そして今はその立場を弁えねばならない時だ。

 

(落ち着け僕……!大丈夫、僕はまだ冷静だ……うん、冷静になれ僕!)

(よ、よし!まずはこの拘束から抜け出そう……!話はそれから……ってあれ?なんか思ったより強くない??)

「…スク?」

「ヒエッ」

「ねぇ、どこに行くつもり?」

 

ぽそぽそ、と耳元で呟く姿は愛らしいが、語りかけるその声の低さは甘く、どろりと。

 

「スク、僕はキミに聞いてるんだよ」

「ぼ、僕は……別に……」

「ふぅん?」

 

ゾワリ、と背筋に走った悪寒。

それは恐怖か、それとも別の何かなのか。

そんなことを考える余裕もなく、サンデースクラッパはただただその腕の中から逃れようと必死に藻掻くが……しかし相手が悪すぎる。

 

「……ねぇ、スク?」

(ヒィイイ!?)

 

する、と頬が撫でられるのに思わず固まるサンデースクラッパ。

 

「僕はキミがいいんだ」

「う、ぁ……」

 

真摯な目に小さく声が漏れる。

 

(だ、ダメだ……これは……!)

 

しかしそれでもなお抵抗をやめないサンデースクラッパにグローリーは一度拘束を解き、改めて正面から向かい合う。

そしてそのままゆっくりと腕を広げると、まるで壊れ物を扱うかのような手つきで再び抱きしめたのだった。

 

「だからどうかお願い。……僕のそばに、いてくれないか?」

「、」

 

───サンデースクラッパは思う。

 

(助けてリリィ(母さん)!僕、めちゃくちゃ優良物件に口説かれてる!!!!)





【栄光を往く者】:
グローリーゴア。
物語の主人公みたいに完璧だが、【戦う者】と出会って以来、対【戦う者】限定でポンコツに。
でも「自分の選んだ道だから周りからどう言われようが後悔はない」に代表されるようにまぁメンタル強者。
たぶんどれだけアンチに言葉の刃を向けられようが正論パンチ叩きつけるタイプ。

【戦う者】:
サンデースクラッパ。
面食い。
【栄光を往く者】に迫られるのはまぁ…満更でもない、かも?
実は案外"偉大なる背"関係でメンタルガタガタ。
どれだけ頑張っても指先ひとつ掠らない"背"に…ね?
だからその"背"を忘れるぐらいに、どうか。


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愛であるが故、


傷すらも勲章。



「好いた女を護って何が悪い」

 

そう言うと、好いた女は顔を真っ赤にして唇をパクパクと戦慄かせた。

そりゃあ擦り傷ひとつでも怪我して帰ってきたコチラが悪いが、何もそんな顔をしなくてもいいだろうに。

 

「ちょっと、なに勝手に話進めてンだ! 私はテメェのことなんか好きじゃねェよ!」

「おいおい、それはないだろう? あんなに何度も愛を囁いてやったっていうのに」

「う……っ」

 

唇を噛んで悔しそうに俯く姿は可愛らしいが、そういう態度は余計に相手の嗜虐心を煽るだけだってことをいい加減学習した方がいい。

それともわざとやっているのだろうか。

いや、コチラの惚れた女はそこまで器用な女性(ヒト)ではない。

 

「ま、怪我して帰ってきたのは悪かったさ。でもよ、惚れた女を護って出来た傷なら男として勲章モンだろ?」

「そ……れは、そうかもしれねェが……」

「それとも何か? テメェは好いてもいねェ男に傅かれて悦ぶような女なのか?」

 

意地悪く問うと、女はコチラを睨み付けながら小さく首を横に振った。

そういう従順なところは初対面から変わらねぇな。

いや、むしろ日々可愛げが増している気がする。

まァ、それが『愛』ゆえって言うんなら平手打ちの何発でも甘んじて受け入れるが。

 

「…メシ」

「おう」

「作ってる、から」

「ああ。そういや腹ペコだ」

「ん……」

 

小さく頷いて、女は逃げるように部屋から出ていった。

その後ろ姿を見送りながら、俺は自然と頬が緩むのを抑えられなくて。

ああ、まったく……可愛い女だよなァ?

 

 

惚れた女がいる。

一世一代の恋だ。

一目見ただけで雷に撃たれたような心地になり、この女のためにならどんなことでもできると思った。

だから俺は、今日も…彼女の尻に敷かれながら生きている。

 

『おい』

「……あァ?」

 

だが、世の中ってのはどうにもままならないもので。

愛しい愛しい女がいるというのに、俺の人生には邪魔者が多すぎるのだ。

 

「テメェ……また性懲りもなく……」

『ハッ! そりゃあコッチの台詞だクソ野郎!』

 

目の前で憎たらしく笑う男は、俺がこの世で一番嫌いな類の男だった。

いッッッッつまでもウジウジウジウジ…。

確かに俺が射止めた女性(ヒト)は魅力的も魅力的だが、…横恋慕が多過ぎる!

 

「…アイツのこと、今までバカにしてた癖に誰かのモンになったら惜しいだとか何だとか言いやがって」

 

パンパンっ、と手のひらについた何だかんだを払いながらそうボヤく。

 

「『粗野だしキツいし体つきもフワフワじゃない』ねぇ…」

 

脳裏に思い浮かべる愛しい女性(ヒト)の身体はたしかに、世間一般で美人といわれるものから少し離れている。

タッパはあるわ筋肉ついてるわ口撃は強いわあの目で睨まれたら大抵の男は竦み上がるわで、お世辞にも女らしいとは言えないだろう。

だが、それがどうした。

 

「テメェらの目は節穴か??? 」

 

確かにアイツは粗野だしキツいし口も悪いが……それ以上に可愛いだろうが!

あのツンデレ具合を知らねぇからそんな台詞が出るんだ! ああクソッ!

 

「……コッチは全部知ってんだよ」

 

だから…俺以外の男がアイツに近づくンじゃねェや。

 

「アイツは、もう俺のモンだ」

 

精々、親指吸って羨んでろ───見る目のねェバカ共が。





【電撃の差し脚】:
ヒカルイマイ。
ベタ惚れ。
惚れた女にゃ一直線で押せ押せするし、それで平手打ちされようが「()い」する無敵。
好いた女だから、ただそれだけで愛しい男。
故に諦めきれずに寄ってくる有象無象には…?

【白百合】:
ホワイトリリィ。
まぁコッチもベタ惚れ。
でも怪我して帰ってくる【電撃の差し脚】は嫌い。
体格がよろしい。
そして性格もキツいので度度周りの男たちから「無い無い!」されていたが実は…?
まぁ現在は自分をマルっと愛してくれる【電撃の差し脚】と出逢いラブラブだからネ!(にっこり)


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あなたの"一番"


基本平等。



『お父さんの一番はだぁれ?』

 

そう聞くと、父はいつも困ったような顔をした。

父さんの子どもである僕らはみんな、父さんのことが大好きだから『誰が一番なのか』ということをはっきりさせなきゃならなかった。

父さんが、一番好きなのは誰かということを知りたかった。

 

『お父さんが一番好きな人はだぁれ?』

 

そう聞くと、父はいつも困った顔をした。

でも、それは僕らに対してじゃない。

そりゃあ確かに、『運命』と憚らず呼ぶくらいに父は白峰さん(あの人)のことを好いていたけれど、アレはもはや一心同体的な、『好き』の一言で表現できるようなものじゃなかった。

ぐちゃぐちゃで、ぐるぐるで。

自他ともに認める名コンビではあるけれど、その実、僕らが父さんと白峰さん(あの人)の関係を一言で言い表せたことなんて一度もない。

だからこそ、僕らは知りたかった。

父が一番好きなのは誰なのかを。

 

『……』

 

子どもたちの目が昏く輝く。

 

『お父さんの一番はだぁれ?』

 

白峰さん(あの人)に敵わないことは知っている。

でも、それでも。

だからこそ、僕らは知りたい。

父さんの一番は誰なのかを──!

 

『お父さんが一番好きな人はだぁれ?』

 

 

「…って、最近子どもたちからよく聞かれるんだけど」

「……そうか」

 

ある日、不意にマブダチから告げられた悩みに一瞬サンデーサイレンスは「またかよ」と口に出しそうになったが、どうにか堪えて相槌を打ち、

 

「……まあ、アレだ」

 

サンデーサイレンスは言葉を濁した。

その理由は単純明快である。

 

(他の子どもに取られる前に自分のモノにしときたいんだろ)

 

そんな事情を、このクソボケに察しろという方が無理がある。

サンデーサイレンスは、ふとそんなことを思うが──まあ、それは自分には関係のないことだと割り切る。

 

(それに、コイツも……)

 

キョトンとこちらを見つめる瞳の、その光の無垢さが、サンデーサイレンスの心を僅かにイラつかせた。

 

「まあ、なんだ」

「うん?」

「とりあえず『みんな大好き』って言っとけ」

「……うん!」

 

嬉しそうに頷くマブダチを横目で見ながら、サンデーサイレンスは内心で独りごちる。

 

(……コイツはきっと、『好き』がよく分かってねぇ)

 

そんな確信めいた予感に──どこか寂しさのようなものを覚えながらサンデーサイレンスは苦いコーヒーに口をつけた。

 

(こういう話聞く時はブラック飲んでねぇとやってられん)

「でもちょっと嬉しいよ」

「あ゛?」

「だってみんなほぼほぼ大きくなったしさぁ。普通は反抗期の時期だから…ふふ」

「…お前な」

「?」





僕:
シルバーバレット。
相棒である白峰おじさんは殿堂入りなウッマ。
たぶん『好き』を向けるとしても大概が純粋な友愛みたいなモンで、白峰おじさんに向けるレベルの『好き』までには届かないと思われる。
ちゃんと家族愛はあるんですけどね〜。


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銀弾自体は大人しかったらしいけど


ウマのシロガネハイセイコは実馬時の神経質なところも引き継いでるけど銀弾に関する妄執的なアレは鞍上だったおじさん要素では?って言われてそう(三冠逃した際に勝ったシロガネヒーローのことを讃えながらも銀弾の名前漏らして不甲斐ないとガチ泣きしたり、引退後も現役時代の後悔にシロガネハイセイコで三冠を逃したことを語るなど)。



1:名無しのトレーナーさん

銀弾の産駒の気性はどうだったのかな?って

 

【ウマ娘銀弾の画像】

 

 

2:名無しのトレーナーさん

 

ハイセイコとガールは問題児だったとよく聞く

外ではヒーローとかシンゲキの方が問題児に見えてたんだけど実は逆で、ハイセイコ・ガール共にめちゃくちゃ神経質で〜って

 

なお馬房の見えるところに父親である銀弾の写真を貼ることで問題は解決した模様

 

 

3:名無しのトレーナーさん

 

大概気性はいいみたいだけど如何せん…

 

 

4:名無しのトレーナーさん

 

内では暴虐でも外では優等生が多いらしい

まぁ血筋からして走る・勝つの大好き!なんだろうなぁ…

 

 

5:名無しのトレーナーさん

 

でもお気にが来ると馬房に引きずり込もうとする

 

 

6:名無しのトレーナーさん

 

ハイセイコに関しては引退後触らせてくれるけど、それは隣の放牧地の銀弾がそうしてるからそれに倣ってるだけでは…?って言われるぐらいだし…

 

 

7:名無しのトレーナーさん

 

>>6

実はシロガネハイセイコって気性難寄り?

 

 

8:名無しのトレーナーさん

 

>>7

母馬からしてそうっぽい

 

 

9:名無しのトレーナーさん

 

でもヒーローもヒーローで性格悪いっていうかイイ意味で性格いいっていうか…

あのハイセイコを煽れるのはお前ぐらいだよ(確信)

 

 

10:名無しのトレーナーさん

 

>>9

喧嘩するほど仲がいいみたいなコンビらしいし

 

 

11:名無しのトレーナーさん

 

ハイセイコ、父の繋がりで白峰おじさんが騎手になったって思われがちだけど騎手が白峰おじさんになったの、白峰おじさんしか扱えないぐらいに神経質だったからだゾ

なので厩務員も誠ニキだったし、性格が虚無

 

 

12:名無しのトレーナーさん

 

シロガネシンゲキが一番人懐こいんだっけ?

だから銀弾と一緒にふれあいショーに出てた

 

 

13:名無しのトレーナーさん

 

さすが白の一族の血!

 

 

14:名無しのトレーナーさん

 

というか銀弾産駒、他馬に興味ないのがデフォらしいし…

 

 

15:名無しのトレーナーさん

 

でもファザコンファザコン言われるぐらいには銀弾のこと大好きなんだよな、産駒のみなさん

 

 

16:名無しのトレーナーさん

 

っぱ銀弾だけが突然変異なのでは?

 

 

17:名無しのトレーナーさん

 

でも銀弾自体は鏡みたいな気質らしいし(大事にすれば大事にする。その逆もまた…)

 

 

18:名無しのトレーナーさん

 

>>16

銀弾も現役時代は大概塩だぞ

ファンサするようになったのは現役引退後

 

 

19:名無しのトレーナーさん

 

操作性と反応はピカイチなんだけど…

 

 

20:名無しのトレーナーさん

 

頭いいのも考えものかもねぇ

 

 

 





銀弾産駒:
頭良いけど、頭良い故に神経質だったり何だり。
舐められてるとかに敏感でそれに勘づくとキレたりなど。
しかし面倒見はよかったりするので同族によく慕われるらしい。
そういうところは父である銀弾そっくり…なのかも?


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"星"は輝いているか?


でも、全員自分のこと棚に上げてるんだよなぁ…。



「アンタは、俺たちの"星"だろう?」

 

そう言って自分を押さえつけるウマの目は逆光もあってか、妙に輝いて見えて。

それに周りに各々立つウマ、その誰もが現状を止めようとせずに。

 

「…離してよ」

「嫌だ」

 

人が多いだけの密室は、もう何人たりとも逃がさないようで。

 

「強硬手段だな」

「絶対に離さない」

 

だって、この手だけは。

もう二度と、離したくないから。

もう、誰にも触れさせたくないから。

たとえそれが──自分たちの『運命』を決定づけた相手だとしても。

 

「……俺たちがっ! どれだけアンタに弄ばれたか分かってンのか!?」

「……ああ」

「ならどうして……ッ!」

 

アンタは、俺たちを見ない?

俺たちは、アンタにグチャグチャにされたのに。

俺たちは、アンタに──、

 

「俺たちを、見てくれよ……ッ!」

「見てるさ。キミたちのことを」

「……っ、ならなんで!」

「僕が"星"になんてならなくたって、キミたちは」

 

───ひとりで歩けるでしょう?

その、あまりにも身勝手な言葉に。

一瞬、頭が真っ白になった。

 

「は……」

「え?」

「ぁ」

 

言葉にならない怒りが、腹の底から湧き上がってくる。

それは周りのウマも同じだったようで。

 

『ふざけるなっ!』

 

誰かがそう叫んで、睨みつけたのが見えた。

ああそうだ、その通りだと、他の奴らもそれに同調して──でも誰も動けなくて。

そんな不可思議な空間の中で、責められているはずの張本人が一番事態を正視しており。

 

「どうして、アンタは」

「……」

「……なんで、俺たちを見ないんだ?」

「……」

 

ただ黙って、それを受け入れて。

そんなのまるで──自分が悪いとでも、思ってるみたいな。

ああそうだ、この人はいつだってそうだった。

いつも自分以外の誰かのために動いていて、自分のことなんて顧みなくて。

"星"なんてそんなものにされてまで、他人のことばかりで。

なんでそんなに他人ばかりを想えるんだ?

見返りなんて、求めない。

ただ、その"星"ってヤツが──アンタの『運命』だったとでも?

 

(……じゃあ)

 

俺たちは、なんだっていうんだ?

 

「アンタが俺たちの"星"なら──」

 

"何"だって言うんだよ。

……()()()は。

 

 

自分では自分がそうだと認識できないように。

"星"と看做されるウマから見たその子たちは、みな"星"であった。

それは、群れの中で自分が特異だと分からないイキモノの如く。

それは、群れの枠に収まらないイキモノの如く。

それは、群れを率いるリーダーたる存在と同等であると──その"星"は、みなから認識されていた。

 

故に、『(しるべ)』なのだ。

たとえ当人がそう思わなくとも、周りがそうだと認識しているのだから。

"星"には、自由がない。

だから誰も彼もが束縛する。

 

───もう二度と、離さぬように。





銀系列は全員、自分以外のみんなを"星"だと思っているフシがある。
銀弾以後はみんな銀弾が"星"だと思っているし、銀弾自身も「みんな綺麗だなぁ」と思っている。
まぁそもそも銀弾自体、チーム:アルデバラン旧メンバーに情緒めちゃくちゃにされてるので…。


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待っていたの


前に書いたL'Arcローテ√を辿った【戦う者】軸であるウマとの話。
…そう言えばこの方とだけ一族は絡んでなかったなって。



ナリタブライアンにとって、そのウマはどうしようもなく鮮烈だった。

鮮烈過ぎて、その顔が茫洋で、あるのはただ縦横無尽にひとり歩きするような周りの評価だけ。

 

───入学直後に【皇帝】と【ターフの演出家】から声をかけられた、とか。

───最強、だとか。

───絶対王者、だとか。

───"かのウマ"の生まれ変わり、だとか。

 

"かのウマ"──そう称される者のことを、もちろんナリタブライアンも知っていた。

『戦ってみたかった』。

そう、思ったことがないと言えば嘘になる。

かつて、幼い頃、記録映像としてテレビの画面越しに見たその眼差しは前だけを見据えていて。

その走りはどこまでも。

雑念なぞ一変もない、ただ()()()()を追い求める───。

……綺麗だった。

思わず畏怖を覚えるほど、美しかった。

だから、その走りを見たいと、思った。

自分の走りでそれに並びたいと、願った。

願って、いた。

───それが()()()()だと知っても。

そして──ナリタブライアンは出会ったのだ。

 

「──────」

 

その日もナリタブライアンは走っていた。

走るのが好きだからとか、そんな理由ではない。

ただ単に、そうするしかなかったからだった。

『走れ』とは誰からも言われなかったが、魂がそう告げていたから。

普段からは考えられない熱気に包まれた体は、まるで誰かを待ちわびるようで。

()()()()』と猛り叫ぶ本能を、ナリタブライアンは必死に抑え込んでいた。

だから──その影が自分をサラリと抜いていった時、ナリタブライアンの体は弾かれたように動いていた。

 

「──────」

 

自然と口角がつり上がるのを感じる。

それがどんな感情から来るものなのか、自分でもゴチャゴチャしすぎて分からなかったが。

ただ、この出会いは必然だと思えた。

ああ、ようやくだ───やっときたか!

そう歓迎する自分すらいて……それはつまり自分が()()()()を待ち望んでいたのだと気付いた瞬間だった。

 

「ぁ、えと…たしか」

「ナリタブライアンだ」

「あぁ、…そうだそうだ。ナリタブライアン先輩。ルドルフさんから、話は時々…」

「帰ってきたのか」

「まぁ…、取材陣に囲まれるの見越して秘密裏にですケド。あ、」

 

立ち止まって何となしに会話をする。

名乗らなければきっと顔と名前が一致しなかったのだろうその姿は本人のストイックさ故か、それとも。

 

「僕の名前は───サンデースクラッパです」

 

サラリと髪が風に揺れる。

知っている、とは口にしなかった。

ただ、『やっと会えた』『()()()()』という歓喜だけが……。





【影をも恐れぬ怪物】:
ナリタブライアン。
1995JCのたった一度しか相見えなかったが、そのたった一度で焼き付いた。
圧倒的な走りを魅せる【戦う者】に『全身全霊で戦いたい』という想いがずっと。
まぁそれには【戦う者】に縁ある"かのウマ"の影響も…?


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会敵、未だ成らず


【皇帝】&【ターフの演出家】からは重ね合わせられつつ執着され、同期周辺世代からは激重執着を受け…してるのに最終的には「ンなこた知らねぇ」とばかりに異国の年下ウッマ選んで骨を埋めちゃうのBSS感スゲェな…(こなみかん)。



入学当初は、嫌な注目のされ方をしていたサンデースクラッパ

何故なら見せつけるように、かの【皇帝】と【ターフの演出家】に『期待してるよ』なんて声を掛けられている新入生───注目しない、ワケがない。

だが、それも入学から一週間経てば収まった。

…その実力で以て『本物』だと証明したが故に。

 

「……」

 

だから、だろうか。

ジュニア級を恙無く終え、クラシック級となっても友だちひとりいないのは。

他のみんなは仲良く連れ添って食堂なり遊びになり行くのに、サンデースクラッパは本来仲良くなるはずの同室のウマをものの数ヶ月で心を折って、辞めさせてしまったから。

…やさしい、先輩ではあったのだ。

まだ嫌な注目をされていた頃のサンデースクラッパを身をもって庇ってくれた人だった。

けれど、

 

『───────…、』

 

サンデースクラッパから頼んで付き合ってもらった併走で…向けられた目。

『絶望』を、遥かに越えた『恐怖』。

それが、周囲全体からのサンデースクラッパの評価になるのにそう時間はかからないまま。

 

「キミは、」

「はい」

()()()()()ウマだ」

「はぁ、」

 

同年代の友が出来ず、逃げ込んだ先はかつて【皇帝】と謳われ、今は臨時生徒会長となっているシンボリルドルフの元。

「誰か引き継ぐに値すべきウマが現れたのなら今にも引き継ぐ」とは当人の言葉だが。

 

「けど」

「…何かな」

「僕は生徒会長とやらには向きませんので」

 

どことなく、【皇帝】がそうしたがっているのは分かっている。

でも、

 

「僕はみんなを導く"星"にはなれやしません」

 

貴方や、───"あの人"みたいに。

 

 

「スーちゃん!」

 

聞こえてきた声に、サンデースクラッパはようやっと顔を上げた。

 

「ヤッちゃん」

「スーちゃん凄かった!バビューンって行って…!」

 

抱き着いてきた小さな影を優しく受け止め、話を聞く。

子ども-"ヤッちゃん"ことヤツドキ、またの名をシルバーチャンプはサンデースクラッパにとって可愛い甥に当たり。

 

「スクラッパ」

「スーちゃん」

「父さん!シーちゃん!」

「…お久しぶりです、オグリさん、シービーさん」

 

その父である【芦毛の怪物】オグリキャップが引率で、…きっとその折に【ターフの演出家】ミスターシービーと出会ったのだろう。

 

「久しぶりだな。元気そうで何よりだ」

「うん、スーちゃんなら大丈夫だと思ってたよ!」

「……ありがとうございます」

 

言祝ぎにペコ、と会釈する。

多分この調子だと同じように電話で言祝ぎがありそうだ。

 

「あの、」

「ん?」

 

ちょっと話をしてしばらく。

 

「どうしたら、もっと強くなれますか?」

 

ミスターシービーはシルバーチャンプが「トイレ」とのことで連れて行って不在の中。

 

「そうだな…」

「…」

 

聞きたかった話だ。

今日、サンデースクラッパは日本ダービーという一生に一度の栄光を歴史的大差で制したけれど。

 

(…領域(ゾーン)

 

『時代を作るウマが至る、当人も知らない豪脚』『限界の先の先』───。

()()に至らなければ、きっと、スタートラインにすら…。

 

「……ライバル」

「はい?」

「誰か、ライバルを作るといい」

「…ライバル」

「かつて私たちを称した誰かが言っていたが、」

 

───宿敵(ライバル)』が強さをくれる。

 

「…そう、ですか」

「あぁ、」

「……」

 

それから、三人と別れてフラフラ歩く。

 

「…ライバル、か」

 

今までを思い出す。

ライバル、ライバル…ねぇ?

 

「誰も、」

 

───誰も、僕に追いつけたことない癖に。

 

「…だから、無理なんだ」

「せっかくアドバイスしてもらったのに…ごめんなさい、オグリさん……」





【戦う者】:
サンデースクラッパ。
L'Arcローテ√邁進中。ナチュラル強者側。
入学当初は【皇帝】と【ターフの演出家】直々に『期待してるよ』されたせいで嫌な注目を浴びていたが実力で黙らせた。
まさに半兄弟ソックリに周囲を地力の差で絶望させ、遂にはぼっちに。
なので昼食は常に臨時生徒会長してる【皇帝】のところで取っている。


またもっと強くなるために『宿敵(ライバル)』が欲しいお年頃。
でもそんなの現れるワケないじゃん…しているらしい(今のところは)。


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誰にも渡さない


アニメ1期時代の話。



█████(ギンイロオウカン)】というウマ娘の話をしよう。

彼女は俺こと【金色旅程(キンイロリョテイ)】の同室であり、可愛がっている後輩だ。

 

「…先輩」

「おう、メシか」

 

█████(ギンイロオウカン)】は大人しい。

見るからに意志の強そうな目は大概分厚い髪の下に隠れており、声を荒らげることもない。

 

「…、」

「もっと食え」

「(フルフル)」

 

普通、ある程度は仲良くなるはずのクラスメイトとも疎遠気味で、いつも先輩である俺にくっついている。

余っ程のことがなければ話さない。

影だって薄い。

……いや、影が薄いのは俺がいつもコイツにくっついているからかもしれない。

 

「先輩」

「なんだ」

「…もう食べられません……」

「そうか」

 

█████(ギンイロオウカン)】は小柄だ。

身長は俺より少し小さい程度だが、その手足は今にも折れそうなほど細い。

そんなんだからよく飯を残すし、よく食べるヤツを見ると「見ただけで満腹だ」と食わなくなるので食堂から遠ざけるように食事の場を中庭に変えたのは記憶に新しい。

 

「先輩」

「なんだ」

「先輩はどうしていつも俺に構ってくれるんですか?」

 

█████(ギンイロオウカン)】はよくそう聞いてくる。

俺はそのたびにこう答えるのだ。

 

「決まってるだろ?お前が可愛い後輩だからだ」

「……そうですか、ありがとうございます」

 

彼女は少し微笑んでから立ち上がる。

もう行くのか、と聞けばはいと答えるので俺も一緒に立ち上がれば彼女はまた俺にくっついてくる。

 

「ンな顔しなくても守ってやるって」

「…はい」

 

───────

─────

───

 

「…おけーり」

「…ただいま、です」

 

久しぶりに帰ってきたソイツは、酷い顔をしていた。

その脚が現役復帰するには"()()()()()()"だという話はうるさいぐらいに連日ニュースが垂れ流していて、誰もがそれを…。

 

「先輩…?」

「おう」

「え、と」

「来い」

「わ…っ!」

「泣け」

「ぇ、」

「泣けっつってる」

「、」

 

酷い顔をしていた。

…そりゃあそうだ、コイツはあの【怪鳥】も、ましてや1着になった█████(ブロワイエ)も、纏めて()()()()()()

何度思い出したって誰もの脳裏に浮かぶのはコイツの決死の走りでしかなくて。

()()()()()()()()()()()()()、そんな強烈な印象を遺し…。

でも、

 

「泣けよ。…俺以外誰も見ちゃいねぇ」

「…ぁ、」

 

指が、控えめに俺の胸元にかかる。

きゅう、と微かに掴まれた布に、ぎゅうと強く胸元に、押さえつけるように抱き込めば、引き攣った過呼吸のような、ヘッタクソな泣き声が。

 

「…ぁ゛、……っぐ、…ひゅ、…ぁ、……ひゅぅ、っ、ひ、…っぅ」

「泣けよ。……泣いていい」

 

結果、【█████(ギンイロオウカン)】は、よく泣いた。

そんな不器用な彼女を、【金色旅程】は守ってやらねばならなかった。

 

「……先輩」

「おう」

「……ありがとうございます」

「気にすんなって」

 

自分自身で気付くことの出来ぬ傷を突きつけて、洗い流してやらねばいつか、コイツは積み重なった(キズ)で割れて、粉々になってしまうと。

 

「先輩」

「なんだ」

「……俺は、もう走れません。……俺は、」

 

█████(ギンイロオウカン)】は、そう笑う。

その頭をぐしゃぐしゃと撫でてやって、その身体を抱き上げる。

 

「わっ!?」

「なぁにが走れないだ。お前まだ走れるだろうがよ」

「え……?」

()()()()()

「…!」

「テメェの成績ならなんざ問題はねェ。だから…辞めるとか言うな」

「…はい」

 

【金色旅程】は【█████(ギンイロオウカン)】のことが大切である。が、

 

(…コイツは、俺のモンだ)





█████(ギンイロオウカン)】:
アニメ1期にいたモブウマ娘。
モブと言ったらモブ。
【金色旅程】登場シーンにそれとなく応援観客としていたり、黄金世代がクラスでワチャワチャしているシーンにチラッといたり。
そして凱旋門賞にてモブとは思えぬ主役喰いをカマし、フェードアウト。
しかし、モブの癖に【怪鳥】や█████(ブロワイエ)さんに言及されたりなどしている。

【金色旅程】:
後輩である【█████(ギンイロオウカン)】に対する執着が深め。
大切に大切に過保護に守っている。
ネームドにコイツは渡さんの気持ち。
…コイツは俺が守るって、決めたんだ。


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それは、皇を撃ち抜く凶弾なるか?


自惚れるなよ。



「…そんなに、僕が欲しいの?」

「えぇ、」

「そう」

 

同期周辺では有名な話ではあるが。

【皇帝】シンボリルドルフは僕-シルバーバレットに熱烈に執着している。

そりゃあシンボリ家という家からしてみれば凱旋門賞を勝利したウマ娘(後にトレーナー志望)なんて優良物件もいいところだろう。

けれど、僕としてはそんなのはごめんだ。

 

「すまないがキミの気持ちには応えられない」

「……理由を聞いても?」

「僕、家継がなきゃいけないんだよ。んでトレーナーになりたいって言っても本気のヤツじゃない、ちっちゃい子たちに教えるぐらいの、こう…民間のボランティアみたいなさぁ」

「それは、」

「僕がトレーナーになるってなったらそれこそ本当にみんなが僕のところに来ちゃうでしょ?僕そういうのは嫌なんだ」

 

だからごめんね。と僕はシンボリルドルフの勧誘を断る。

……というかこの子まだ学生だよね?

なんでもう先々の話を詰めようとしてるの……?

怖いよ……。

 

「でも私は諦めませんから」

「……えぇ、」

 

 

どれほどの好条件で誘っても、また自分の主義には反するが言いくるめようとしても、彼女-シルバーバレットはいつだって求めるその手からするりと逃げていく。

『魅惑のささやき』も『独占力』も『八方にらみ』も、その全てが意味なぞないとばかりに微笑む彼女は、ただ一方的に【皇帝】という名の獅子を撃ち抜くばかり───。

 

「…堪らないな、貴女は」

「【皇帝】サマは冗談がお得意で」

「本気なんだがなぁ」

「……そう。でも、僕なんかよりもっといい人いるよ」

「貴女が、いいんですよ」

 

何度となく繰り返した会話も、もう慣れてしまった。

あぁ、早くここまできてくれないか。

だって、ズルいじゃないか。

自分は撃ち抜くだけ撃ち抜かれてまるで蜂の巣なのに。

目の前にいる貴女は傷ひとつなく、それでいて美しい。

 

「ねぇ、シルバーバレット」

「なに?」

「……貴女は、私のモノだ」

 

あぁ、早くここまで堕ちてきてくれないか。

そうしたらきっと……貴女のすべてを()()()()()()()

 

(彼女が欲しい)

(彼女を自分のモノにしたい)

(彼女の全てが見たい)

(彼女の全てが欲しい)

(私だけのモノであってくれ)

(他のヤツには渡さない)

 

そんな欲望がぐるぐると頭の中を駆け巡る。

瞳孔がきゅう、と獲物を見定めた獣のようになるのを自覚しながら、

 

「ダメだよ、ルドルフ」

 

そう言って、唇に当てられた人差し指。

 

「いい子だから」

 

伸ばされた手がゆるりと頭を撫でる。

 

「…ね?」

 





【皇帝】:
シンボリルドルフ。
撃ち抜かれまくっているけど、自分を撃ち抜く凶弾に焦がれてやまない姿。
どれほど熱烈に乞うても微笑むだけで明確な答えをくれないあの子にグルル…と唸ったり。
でも焦がれちゃったからね、仕方ないね。


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我が愛しく憎き"悪魔"


実のところ、馬時代のシロガネガイセイは振り落とされないようにしていれば勝てるってタイプだったりする。
テンよし中よし終いよしEXみたいな。
だが…?

シロガネガイセイ(実馬時代)のヒミツ①
実は、相棒以外が乗るとテコでも動かない。



そのトレーナーは、後に日本URA史に『無敗の11冠バ』として刻まれるウマ-シロガネガイセイに選ばれた人間で。

だがシロガネガイセイは人付き合いが少し苦手なだけで選手としてはデビュー前時点から完成されており、そのため(くだん)のトレーナーは『シロガネガイセイのお気に入り』と呼ばれ、対等なトレーナーではなく、ただシロガネガイセイという存在の愛玩物として周りから見られているような有り様であった。

 

「…はあ、」

 

ため息を着くのも無理は無い。

それほどまでにシロガネガイセイは、新人トレーナーが担当する初めてのウマとして規格外だったから。

初対面で自分の袖を掴み、有無を言わせず担当契約を迫り、断りきれなかったトレーナーが「分かった」の「わ」を口に出した瞬間に「今から」と強引に連れ出して。

その後もシロガネガイセイの言うことに振り回され、目まぐるしく栄光と栄光と栄光を積み上げていく担当バにトレーナーは「おめでとう」と焚かれるフラッシュの中、引き攣った表情と言葉で祝辞を述べることしか出来なかった。

 

「こんなはずじゃなかった」

 

件のトレーナーはため息を吐く。

シロガネガイセイという存在に、トレーナー人生のキャリアハイを早々と達成されてしまったのが理由だ。

 

「父さんみたいに『運命』のウマと出会いたい」

 

それが彼の夢で、だからこそシロガネガイセイという、新人トレーナーから見ても夢のような存在を偶然とはいえ担当に出来たことを()()()()喜んだ。

だが蓋を開けてみればどうだ?

デビュー前から無敗街道を突き進んでいたシロガネガイセイは、デビュー戦とクラシック三冠全てで圧勝し、続くシニア級でもその勢いのまま無敗を続け…。

 

「トレーナー」

「あ、あぁ…」

 

もはや、自分を呼びに来たその姿が【悪魔】に見える。

 

「次はドリームトロフィーリーグ」

「…うん」

 

シロガネガイセイは無敗だ。

()()だ。

…それは、新人トレーナーが担当にするにはあまりにも荷が重すぎる存在で。

しかし、彼の夢は確かに叶ったのだ。

 

 

"シロガネガイセイ"という存在はトレーナーにとって【悪魔】であった。

しかし、どうしようもなく惹かれてしまう光でもあり。

忌避しながらも、魅入られる。

それはまるで極光のように。

ギラギラと光って、目を焼く。

 

きっと。

どれほど時が経とうとも。

シロガネガイセイ(主役)が舞台から降りようとも。

トレーナー(演出家)の目に映るのは────。





【再来】のトレーナー:
シロガネガイセイのトレーナー。
新人トレーナーなのに初担当バにトレーナーとしてのキャリアハイを叩き出された。
多分馬でもウマ世界でも情緒ぐちゃぐちゃ。
何をせずともそばに居る(乗っている)だけで勝つウマに選ばれちゃったのが運の尽き。
初担当バのことを【悪魔】と呼ぶけれど、他人にそう言われるとブチギレる。…難儀ェ。


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我が最愛で最強の"運命"


シロガネガイセイ(実馬時代)のヒミツ②
実は、観衆の前では我慢しているだけでスキンシップを許すのは最愛の相棒のみ。



シロガネガイセイにとって、そのトレーナーは『運命』であった。

幼いころから『"かのウマ"の再来』と謳われ、トレセン学園に鳴り物入りで入学したためにひとたび廊下に出れば「ウチのチームにどうか」と煩わしいほどに口説かれていた中で。

 

「…!」

 

見つけた、と思ったのだ。

心臓が高鳴って、離しちゃダメだって。

 

「え、と…キミ、どうしたの?」

「トレーナーになって」

「え?」

 

僕の。

()()()()トレーナーさん。

ずっと、あなたを待っていた。

湧き上がる熱はどこから?

もしかすると魂ってヤツからかも。

それほどまでに、僕はその人に焦がれた。

 

「シロガネガイセイ」

 

はじめまして。

 

 

「なァ、どうしてあのトレーナーに決めたんだ?」

 

そんな質問をされたのはいつのことだったか。

『運命』のトレーナーさんと出会ってから数か月が経った頃のこと。

トレーナー室に向かう途中で同期のウマに話しかけられた僕はピタリと足を止めた。

 

「……?」

「はぐらかすなよ。お前ならどんなベテラントレーナーでも選り取りみどりだったろ?」

「……?」

 

ワケが分からない。

ベテランだろうが新人だろうが、僕の『運命』はあの人なのに。

 

「だって、アイツはお前を重荷に思ってる」

「……っ!」

「ほらな。お前はあの"伝説"に憧れてんだろ?お前ならあんなヤツよりもっと良いトレーナーがいくらでもいるだろーに」

「……」

「ま、お前が決めたんならいいさ。ただ……あんまり入れ込むなよ?」

 

同期のウマはそれだけ言うと僕を残して去っていった。

僕はしばらくその場に立ち尽くしたまま動けなかった。

 

「、」

 

…気付いてたよ。

あの頃から。

僕に会いに来てくれなかった貴方。

僕は待っていた。

ずっと、ずっとずっとずっとずっと!!

晴れの日も雨の日も雪の日も、春も夏も秋も冬も!!

ずっとずっと、待っていたのに!!

 

「……」

 

でも。

でもね?

 

「……ふふっ」

 

()()()

あの人をはじめに見つけたのは僕で。

同期や先輩はみ〜んな、あの人が僕のって分かってるからちょっかい出してこないし(いやそもそも新人トレーナーにそこまでみんな興味ないのかもしれない)。

あの人もあの人でお人好しで、僕のこと大好きみたいだから。

 

「疎まれても嫌われても別にいい」

 

傍にいてくれるだけ、ずっといい。

 

「だって、僕だけの『運命』だから」

 

 

ずっと寂しそうなアイツを見ていた。

一番来て欲しい人が来てくれないアイツを、ずっと見ていた。

 

『……』

 

アイツは人気者だった。

そして大人しいタチだったから見物客が多かった。

けれど、

 

『……どうして?』

 





【再来】:
シロガネガイセイ。
実は素っ気なさそうに見えて相棒ガチ勢。
再来だからね、愛が重いのも仕方ないね。

【再来】の騎手:
馬時代の【再来】の相棒。
若手も若手の頃に【再来】に選ばれ情緒ぐちゃぐちゃに。
新人なのに無敗の11冠馬に乗ってキャリアハイしちゃったのでフツーにG1勝とうが『合わせる顔がない…』に。
初めての馬が乗ってれば勝てる馬だったから…ハイ。
ぐちゃぐちゃだァ…。


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そばにいるのさ


ぎゅっ!



メジロマックイーンの肩は、時々重くなる。

特段、肩こりになるようなことをした覚えはないのだが…どこかずしりとした重さを感じることがある。

しかし、その重さが何であるかは……メジロマックイーンには分からないのだった。

 

「あ、」

 

だがしかし。

 

「こんにちは、マックちゃん」

 

自身のことを"マックちゃん"──そう気軽に呼ぶ彼女-シルバーバレットには肩の重さの原因が分かっているようで。

 

「ん、これでだいぶ楽になるんじゃないかなぁ?」

「そ、そうですか」

「マックちゃん、もうすぐレースだものねぇ。肩こりとはいっても体の不調はない方がいいだろうし」

「ええ、そうですわね」

 

メジロマックイーンがシルバーバレットに肩の重みを相談したのは……もう随分と前のことだ。

それは、シルバーバレットと出会うキッカケにもなったのだが…。

ともかく、メジロマックイーンはいつしか自分の肩の重りの原因を彼女に相談するようになっていたのだ。

 

「マックちゃんの肩こりはねぇ」

「はい」

「きっとね〜、…うん、まあ……悪いことはないさ」

 

しかし、その理由だけは分からないままであった。

ある程度は打てば響く問答をしてくれるシルバーバレットではあるが、この件に関しては……何故か歯切れが悪くなる。

 

「シルバーバレットさん?」

「うん? ああ、いや……マックちゃんの肩こりは悪いものじゃないよ」

「……そう、ですのね」

 

メジロマックイーンが肩の重さを感じる時、何故か人に避けられやすくなる。

そんな状況で唯一自身に話しかけ、その肩の重みを"悪いものではない"と断言してくれることに安堵を覚えつつ……同時にほんの少し寂しさも感じるメジロマックイーンであった。

 

 

「…キミがマックちゃんに懐いてるのは知ってるけどさぁ」

 

そうボヤくシルバーバレットの肩は…少し重い。

チラ、と目線だけで肩口を見れば【影】がするりと後ろから抱き着くように。

 

「ホント、懐かない猫なのか滅茶苦茶懐く犬なのかどっちなんだか…」

 

ケラケラ、と笑う【影】の頭をゆるく撫でてやりながらシルバーバレットは苦笑する。

 

「キミ、自分がどっちって自覚ある?」

 

そう問えば【影】はこてりと首を傾げる。

その動作がまさに猫のようであるとシルバーバレットは小さく笑う。

 

「まあ、どっちでもいいんだけどねぇ」

 

そう言いながら……また前へと視線をやったのだった。

シルバーバレットにとってその【影】はこの学園においては、視えて当然のモノであった。

トレセン学園自体が正負ごちゃ混ぜの念の坩堝であるため、"ソウイウモノ"がいても『あぁ、またいるな』と何となく認識して無視する程度。

しかし、シルバーバレットがメジロマックイーンを視て、関わりを持つようになってからは……その頻度が上がった。

それはつまり、【影】を何故だか無視できなかったから。

そして【影】のことは視えて、ついでに懐かれているものの、その正体については全く知らないというのがシルバーバレットの現状だ。

 

(まあ、マックちゃんに危害を加えようという気はないみたいだしねぇ)

 

肩に乗る【影】の頭をゆるく撫でればすり寄ってくるのだから随分と人懐っこい。

こうやって形をしっかり取っているから、と初めは警戒したものだが……。

 

「キミは何なんだろうねぇ」

 

そう問いかけても【影】はこてりと首を傾げるだけ。

"答え"を話すことはない。

 

(まあ、普段は学園中をふわふわしてるだけみたいだし)

 

なら良しとするか、とシルバーバレットは思うことにしたのだった。

 





【影】:
よくマックちゃんをぎゅっとしている。
そこから銀弾に移ることもしばしば。
"ソウイウモノ"が多いトレセン学園において、確固とした形を持つナニカ。
故にチカラが強いが生徒に危害を加える気はない穏健派。
……ホントにに穏健派ですか?(悪いタイプのソウイウモノをシバく姿を見ながら)


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おぉ、神よ!


たぶん(かなう)くんにかけられた『お気に入りのリュック』って呪いは、一生解けないと思います♡
…周囲からはでした。さん枠に見られてるのに、ねぇ?



その牝馬は、生まれながらにして恐れられた。

彼女の母も、まぁ気性が荒かったがそれに輪を何重もかけるほどに荒く。

目に入るもの何もかもに喧嘩を売り、果てには一方的にこちらをブチ…、常に命の危機に晒されていたと後年語る程度には手に負えなかった。

がしかし。

 

「はじめまして、可憐なお姫様」

 

『運命の相手』に、出会った結果──?

 

 

その年、白峰(かなう)が彼女に引き合わされたのは自分よりも経験のある父・遥や実質姉のようなものである黒谷薫でも手に負えないと降参した馬をどうにかできないかという一縷の希望からであった。

 

「はじめまして、可憐なお姫様」

 

一目見て、『なるほど』と思った。

まだデビュー前であれど、この体格で暴れられればひとたまりもないと。

気の立っている彼女に本気で噛まれても、本気で襲うぞと追い詰められて「こんな美人に襲われるなんて男冥利に尽きるな!」などと笑顔で言い放ち、『なんやコイツ…』とドン引きさせていた調教師兼ウチの父は置いておいて。

 

(まぁ、美人ではあるよな…)

 

叶は目の前の彼女を見つめる。

近い未来美しい芦毛になるだろう毛並みに、その黒黒とした目はよく栄えた。

これほど完璧な牝馬は見たことがないと若輩者ながら感嘆してしまう。

 

「はじめまして、お姫さん」

 

しかしまぁ、気性が荒いのは事実のようで。

彼女はこちらを睨みつけたまま、ドンと威嚇するように足を鳴らした。

 

 

オゥジーザスという馬がいる。

かの11冠馬シロガネガイセイの初年度産駒の一頭であり、その代表産駒としてきっといつまでも語られるだろう牝馬。

その名前の由来は彼女のあまりにも荒い気性から。

もはや怒りがこちらに向かぬよう、祈ることしかできない有り様から、『オゥジーザス』と。

その気性の荒さは父譲りか、デビュー前から既に同厩舎の馬に噛みつきに噛みつき、恐れさせていた。

しかしまぁ、不思議なもので。

彼女はそんな気性の荒さとは裏腹に非常に強い馬であったのだ。

デビュー戦こそ勝ったはいいものの大暴走…という結果だったが、それ以降は何とか折り合いをつけ始め。

 

『オゥジーザス!父シロガネガイセイの記録には届きませんでしたが見事有終の美!無敗の10冠で引退ですッ!!』

『そして2着は今回もディバインプリンス…』

 

ファンからは『生物学上は牝馬』やら『暴走特急系お嬢様』、『可愛い顔して(やから)』などと揶揄されるも、その気性の荒さはレースにおいて非常に有利に働き。

無敗で10冠達成し、大団円を遂げた。

それはそれとして。

 

(凱旋門、行ってみたかったなぁ)

 

そう思うのは、相棒の欲目か。

───それとも。





恋する乙女は、強いのだ。

【おぉ、神よ!】:
オゥジーザス。
うおっでっか…!
人呼んで『灼熱の三冠(牝)馬』。
シロガネガイセイ初年度産駒。
鞍上は父と同じく白峰(かなう)
もちろん馬主も白銀さん。
気性は爆荒。だが生涯無敗。
『セントサイモンとかってこんな感じだったのかな…』としみじみされるぐらいには気性がアレ。
でも鞍上となった叶くんに一目惚れしてからは某カワカミさんのような愉快()なお嬢様に。
しかし気性が気性なので海外遠征はムリ!となった。
もし遠征できていたら?もちろん勝ってましたけど。
戦法は大体大逃げで、出遅れたら追込みになる。

主な勝ち鞍:
牝馬三冠.宝塚記念(3.4歳).JC(3.4歳).有馬記念(3.4歳).天皇賞・秋(4歳)

計G1:10勝、グランプリ4連覇達成
ちな自分より前を走っている馬がたくさんいればいるほどガチギレ度合いがひどくなる模様(ゆえの最後方大外ぶん回し追込み劇)。
端的にいうと、自分が先頭じゃなきゃ気に食わない、負けるの絶対ヤダ!という感じらしい。
なお、未来の彼女の子どもたちは当然…アッ(察し)。

白峰(かなう):
元、【おぉ、神よ!】の父シロガネガイセイの主戦騎手。
だが【おぉ、神よ!】を扱えてしまったが故にこの後も実力は確かだが気性がアレなシロガネガイセイ産駒を託されてしまうことに。
まぁシロガネガイセイ産駒の傾向的に気性が荒ければ荒いほど活躍するみたいなのがあるんで…(それを扱えるかはさておき)。
とはいえどんな気性の荒いシロガネガイセイ産駒も(かなう)くんを見たらコロッといくとか。
……その血の運命?

それはそれとして、叶くんはこっから騎手引退までお手馬がだいたいシロガネガイセイ産駒、もしくはその血筋になる運命になった。
中にはシロガネガイセイ産駒じゃないのもいたけど、引退後に気づけばシロガネガイセイの血筋が入って結局縁があったな!になる。
そもそもシロガネガイセイ自体が父としても大活躍しまくってるからね、仕方ないね。

また【おぉ、神よ!】のことは「おひいさま」「姫さん」と呼んでいたとか。


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『恋』を、している


諦めきれない、『恋』を。
…いちおう、ボクも王子様(プリンス)なんだけどね。



それは激しい業火だった。

触れただけで焼き尽くされんばかりの激情。

自分のような子どものみならず、大人だって恐れるしかできなかった彼女に、自分は───。

 

(きれ、い…)

 

焦がれてしまった。

危険だとは分かっていても、惹かれてやまず。

遠いところから、隔離されている彼女をずっと見ていた。

 

「───」

 

だから、すぐに気がついた。

少し成長して、再会した彼女は…とても美しくなっていた。

彼女は自分のことを覚えていない(…というか認識すらしてなかっただろう)けれど、その燃え盛るまでの激しさは、むしろ増していた。

 

「───」

 

増していた、から。

惹かれてしまう。

あの頃のように、あの頃以上に。

周りは本能的に彼女を厭うているが、自分にとってはどうしようもなく、彼女は ───。

 

(きれいだ)

 

……だから、自分は彼女に近付いた。

少しでも長く彼女を見ていたくて、彼女の近くにいられるように。

 

「 ───」

 

それが自分にとっての幸福だった。

……でも、それは間違いだったのかもしれない。

いや、きっと間違っていたのだろう。

だって自分は……彼女に勝つことを()()()()()()()()()()からだ。

 

彼女は、綺麗だった。

しかし、危険だった。

故に、触れようとはしなかった。

眺めるだけだった。

誰も近づこうとしないからと、特等席で。

でも。

 

(───ぁ、)

 

最後の最後。

彼女が、ターフを去る時。

彼女は笑っていた。

美しく、美しく。

心底───可憐に。

その目に、自分は『恋』を見た。

燃え盛るような彼女の、ほんの一部分。

そして、本心であるやわい場所。

 

「───」

 

自分は、それに恋をした。

いや、きっと……それ以前からずっと、彼女に惹かれていたのだろう。

だから、彼女がターフを去る時、自分はようやく理解したのだ。

彼女を『手に入れる』方法を。

 

(ああ)

 

ああ、そうだ。

本当に簡単なことだったんだ。

だってそうだろう?

 

 

トレセン学園には、ディバインプリンスというウマ娘がいる。

上背もあり、しっかりとした体格の彼女はウマミミと尻尾を上手く隠せば、まさに美丈夫で。

しかも物語の王子様のようにやさしく完璧であるからして学園内でもファンクラブがある始末。

『黄色い声が聞こえる方にディバインプリンスがいる』と称されるくらいには、彼女の人気は高い。

だが。

 

「おはよう、我がジーザス」

「今日もキミは愛らしい」

「本当に天使のようだ。ボクの心は今日もキミに…」

 

歯の浮く台詞を今日も今日とて。

けれどそれを向けられた張本人は意に介さず、駆けていく。

───『恋』する、眼差しで。

ディバインプリンスの想いに、気が付かぬ、ままに…。





【神聖なるプリンス】:
ディバインプリンス。
【おぉ、神よ!】のライバル兼同牧場生まれだった。
とりあえず阪神JFやエリ女やヴィクトリアマイルなどの【おぉ、神よ!】が出なかった牝限+NHKマイル.日本ダービーは勝っている(そのためオークスは出ていない)。
なおプリンス(王子様)と言うが牝馬である。
まぁプリンスと名付けられたのはその体格と顔立ちから牡馬と間違えられたからなんですが(史実からグッドルッキングホース)(【おぉ、神よ!】より少し大きいぐらい)。

戦法は基本先行、時おり差し。
史実時代から【おぉ、神よ】に惚れ込んではずっとその2着にいた。
【おぉ、神よ!】が一番の壊れなだけで、この子も同世代を鑑みると壊れの部類。
この子と【おぉ、神よ!】と二頭で牝馬最強時代を築いた。
ので、【おぉ、神よ!】にのみ負けるだけで他には圧勝している。

実は【おぉ、神よ!】に惚れていたことに気づくと同時に失恋みたいなことになっている。
気づいた時には遅かった…な感じ。
まぁ、仕方ないね。
でも諦めるつもりは無いんで。

【おぉ、神よ!】:
オゥジーザス。
『灼熱の三冠(牝)馬』。
爆荒気性難娘。
父シロガネガイセイには届かなかったが無敗の10冠で引退しているバケモノ。
ちな基本的には周りに恐れられており、コイツに面と向かってこれるのは同じくらいの気性な同父の馬ばかりだったとか。
たぶん今も昔も【神聖なるプリンス】のことを認識していない。
なにせずっと『恋』をしているので。
あの日、自分を「可憐なお姫様」と呼んでくれた王子様(ひと)に、『恋』を…。


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ハートフル()シミュレーションゲーム!


ちょいとクリスマスプレゼント的な与太話。


1:名無しのトレーナーさん

 

ゆるふわハートフルファミリーゲーム()

【中心の銀弾画像が銀弾産駒+αに囲まれてる図】

 

 

2:名無しのトレーナーさん

 

本当にゆるふわハートフルか?

ハートフル(ボッコ)じゃなくて?

 

 

3:名無しのトレーナーさん

 

一歩間違えたらバッドエンド!!(デデドン)

 

 

4:名無しのトレーナーさん

 

・決まった攻略順などはなく、上手いことやれば全キャラ全ストーリー攻略可能

・大体一緒にいる銀弾産駒以外にも時おりやってくるサブキャラ等登場キャラ全員に好感度メーター有り

・やらかし()過ぎるとバッドエンド

・とりあえずミニゲームでステ上げとけ

 

ここら頭に入れとけば大丈夫()か?

 

 

5:名無しのトレーナーさん

 

なお一番のガバは当の主人公である(白目)

 

 

6:名無しのトレーナーさん

 

友人枠SSに何度救われたことか…とも思うけど色々と()強過ぎてスチル埋まらねぇンだよなぁ…

まぁそれは白百合ママンとか光今井パパンとかフォーちゃんとかスーちゃんにも言えることなんですケロ…

 

 

7:名無しのトレーナーさん

 

最難関はハイセイコ定期

 

 

8:名無しのトレーナーさん

 

>>7

安牌選択したかと思ったらどれ選んでも地雷踏んでるんだよね、知ってる

 

 

9:名無しのトレーナーさん

 

アプデの度にキャラ増えそう

ついでに主人公の選択肢もチャンプやらプレアーやらアウトレイジやらって増えそう

 

 

10:名無しのトレーナーさん

 

・シロガネハイセイコとの親愛度がMAXになった!

・シロガネヒーローとの親愛度がMAXになった!

 

『逃れられない宿命』の称号が解除されました。

 

 

11:名無しのトレーナーさん

 

そもそも主人公たる銀弾の回避性能が高スギィ!

…爆風に逃げ足後押しされてません?

 

 

12:名無しのトレーナーさん

 

産駒組はある程度抑えてくれるけどサブキャラ組の大人勢は一切遠慮しねぇからな…(遠い目)

 

 

13:名無しのトレーナーさん

 

服装の好みとかの細かいんだよね

相手の好みの服装だったら親愛度上がりやすいとかマスクデータあるっぽいし

 

 

14:名無しのトレーナーさん

 

銀弾の黄金律が強過ぎて何をせずとも数ターン立てば資産(という名のお小遣い)が増えているという…

 

 

15:名無しのトレーナーさん

 

>>14

その資産で家改築したりとか、料理作ったりとかね

…コレクションするものが多いヤツだコレ

 

 

16:名無しのトレーナーさん

 

>>15

まず登場キャラ全員分の誕生日ホールケーキがあるからね、仕方ないね

 

 

17:名無しのトレーナーさん

 

どれほど好みのキャラと親しくさせようとしても銀弾自らフラグを折ってく折ってく…

 

 

18:名無しのトレーナーさん

 

銀弾がフラグを折りまくるせいで中々エンドに辿り着けないの笑うわ

 

 

19:名無しのトレーナーさん

 

これが銀弾クオリティ…

 

 

20:名無しのトレーナーさん

 

さすが無敵の弾丸ですわ〜

 

 

 

 





僕:
シルバーバレット。
ほのぼのゲームだろうが、ちょっと他人を攻略する面があるとこうなる。
立ったフラグを自らへし折る系ウッマ。
またの名を修羅場製造機。
けどそういうゲーム系の主人公らしく何にも気づかない。
今日も平和だな〜。


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シロガネガイセイとかいう…


実力は確かなんだけどね…(笑)。



1:名無しのトレーナーさん

 

日本競馬界に気性難を増やした元凶

【実馬シロガネガイセイの画像】

 

 

2:名無しのトレーナーさん

 

コイツの産駒のせいで叶ニキはお気にのリュックではなかった…?ってなったもんな

 

 

3:名無しのトレーナーさん

 

>>2

いやお気にのリュックではあるんよ(叶ニキじゃなけりゃ扱えないシロガネガイセイ産駒の中でも随一のキチ…たちを見ながら)

 

 

4:名無しのトレーナーさん

 

シロガネガイセイ産駒が入厩しますって言われたらシン…てなるらしいからな

 

 

5:名無しのトレーナーさん

 

いやそりゃそうなるよ

 

 

6:名無しのトレーナーさん

 

ほぼ人前に出せない産駒どもと何故か時々人前に出るシロガネガイセイ

 

 

7:名無しのトレーナーさん

 

>>6

でもお触り禁止なのよね…

 

 

8:名無しのトレーナーさん

 

普段が穏やかいい子〜でもレースになったらヤッタラァヨ!!ってのもいるからさぁホンマ

 

 

9:名無しのトレーナーさん

 

シロガネガイセイがリーディングとってる=そのぶん気性難が広まってる

 

 

10:名無しのトレーナーさん

 

さすが騎手という騎手にある程度の気性難コントロール技術を授けたと言われただけはあるぜ…(白目)

 

 

11:名無しのトレーナーさん

 

・プライドが高い

・負けるの嫌い

・認めない相手には絶対従わない

・無理に従わせようとするとブチコロしにくる

・自分+認めたヤツ以外の生きとし生けるものが嫌い

・同父連中で集まると基本喧嘩する

 

が基本装備だからシロガネガイセイ産駒…

 

 

12:名無しのトレーナーさん

 

これで実力確かなのがタチ悪いんだよ

 

 

13:名無しのトレーナーさん

 

でタマないない出来ればまだいいんだけどガイセイ産駒って牡馬も中々だけど牝馬の方がもっとアレだから…

 

 

14:名無しのトレーナーさん

 

けど銀弾の再来って言われるぐらいには母父の成績もいいから、ね?

 

 

15:名無しのトレーナーさん

 

頭はいいんだよ頭は

 

 

16:名無しのトレーナーさん

 

天才と狂気は同居するんだ!

 

 

17:名無しのトレーナーさん

 

そら大元が人間大っ嫌いだぜ!な白の一族入ってるんだから、まぁ…

 

 

18:名無しのトレーナーさん

 

>>17

白の一族は生育環境から来るのが大半っぽいんで情状酌量をば

 

 

19:名無しのトレーナーさん

 

ガイセイの血入れたら活躍するけどその分気性がね…ってなるのがどうにもネック

しかもその気性は才覚と共に子孫代々受け継がれます!という

体の丈夫さとか受胎率の良さとか差し引いてもちょっと…

 

 

20:名無しのトレーナーさん

 

っぱ叶ニキよ

 

 

 





叶ニキ:
白峰叶。
元シロガネガイセイの主戦騎手兼シロガネガイセイ産駒という気性難たちが集う気性難保育園の園長。
そのシロガネガイセイ産駒の扱いの上手さから敬意を込めて「ニキ」と呼ばれている。
この人の歴代お手馬を見たら選り取りみどりな気性難博覧会してそう(こなみかん)。


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後悔はない


だが、『絶望』はある。



俗にいう『生まれ変わり』というヤツなのだろう。

四足歩行から二足歩行になった体に、はじめは苦笑したものだったけれど子どもの適応力とはすごいもので、すぐに慣れてしまった。

ただ……。

 

(走りたい、とは思えないんだよなぁ)

 

昔なら。

バカみたいに、時間も忘れて走っていただろうに。

何故だか現在(いま)は、父がしている畑を手伝ったり、そういうことをしている方が楽しくて。

 

「そう …」

 

なので、自分と同じ"かつて"の記憶を持つ人々に説得され、途中編入のためのテストを受けに上京したところ…。

 

「危ないッ!」

 

目の前にはフラフラと道路に出ようとしている幼い子ウマ。

そして、それに迫るのは大型トラック。

どこをどうしようとも間に合わないソレに、僕の脚が生まれてこの方見たこともないぐらいに動き…。

 

 

言い訳ができるなら、…疲れていたのだと思う。

自分が成せなかった『栄光』に縋る母親から、母親の代替として苛烈なスパルタ教育を受ける日々。

 

「危ないッ!」

 

その声のあと、突き飛ばされた体。

地面にろくに受け身も取れず、何がなんだと起き上がると目の前に広がっていたのは…。

 

「ぁ、ああああああ!?!?!?」

 

赤い海。

そして…ずっと会いたかったヒトが地面にうつ伏せで横たわる姿。

 

「あ、あぁ……、あああっ」

 

それはずっと会いたかったヒトで。

ずっとずっと探していた人で。

 

「なんで、どうして……っ」

 

ずっと探していたからこそ、一目で分かった。

この人の『バ生』を、僕が()()()()()のだと。

 

「いやぁ、無事でよかったよ──ハイセイコ」

 

後日、病室。

その中でベッドに横たわる貴方の…脚の部分は空白だ。

 

「まぁこうなっちゃったけどハイセイコが気に病む必要はないからね?運が悪かったってだけさ」

 

あの日。

あの日、ぼうっとしていた僕を助けた貴方は…両脚を失った。

トレセン学園の編入試験を受けに、ひとり上京していた折のことだったという。

 

「ハイセイコが救急車とか周りの家の人を呼んでくれたりとかして、助けてくれたから…こうして僕は生きてる。……ありがとうね」

「……」

 

ごめんなさい、と謝ることも出来ず。

僕はただ、病室の床を見るしかなかった。

 

(ああ……)

 

どうしてこうなってしまったのだろう?

貴方に会いたいと思ってしまったから?

貴方にこの生活から救われたいと思ってしまったから?

 

「う〜ん、それにしてもどうしよう?…あ、選手がムリならトレーナー試験でも受けてみようかな。ハイセイコがいるってことは他の子たちもいるんだろうし!」

 

"これから"のバ生展望を貴方が語る。

僕の後悔なぞ置き去りにして…。

 

「今度は世界一のトレーナーに、僕はなるっ!」





僕:
シルバーバレット。
元より『走ること』に対する熱が失せていたので特段気にしていない。
逆に「今度はトレーナーになるかぁ。こうなったらみんな何も言わないだろうし!」とすら思っている。

ちな今回みたく"誰か"の危機を見ると咄嗟に体が動いてしまうのは据え置き。
それが命の危機ならなおさらであり、きっと【銀色のアイドル】じゃなくとも、それが銀系列ではない第三者の一般人であってもコイツは飛び出していた。()()()()()

…人の心ェ。

【銀色のアイドル】:
シロガネハイセイコ。
救われちゃったねぇ?
一番敬愛する"カミサマ"の(選手)生命をもって…ね?


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神聖なる彼らの恋情


もう血筋だね。
それはそれとして『国/家/心/中』って漫画が激刺さりしました。
全人類読んで欲しい定期。
狂わせた自覚ねーヤツとソイツのためなら何だってする関係性ですよろしくお願いします。全人類読んで欲しい。



(よくもまぁ、あんな業火みてぇなオンナに近づくことができるもんで)

 

そうボヤいた先、視線の中にいるのはきょうだいの内のひとり。

中々に良血で、活躍している者も多いきょうだいの中でも上澄みに入る彼女はどうしたって…業火のようなオンナに惚れていた。

 

───オゥジーザス。

 

住んでいた家が近くだったから、よく名を聞いた。

小学生ながら高校生をブチのめしたとか、何だとか。

……そんな噂を耳にする度に、オレはいつも思っていた。

 

───オゥジーザス。

 

あの業火に惚れたなんて、アイツはバカだ。

あんなモンに惚れたら火傷どころじゃ済まない。

あっという間に消し炭になるだけだと。

……そう、思っていたのに。

 

(……あぁ)

 

何でだろうなぁ。

どうしてなんだろうなぁ。

 

(………………)

 

あの業火は、今もオレを焼き続けているというのに……。

 

 

美しい、炎だった。

 

「ジーザスねぇちゃん!」

 

みんなはジーザスねぇちゃんのことが怖いと言うけれど、アタシにとってのジーザスねぇちゃんは上のきょうだいみたいに口煩くないし、みんなみたいにアタシをちやほやしなかった。

ジーザスねえちゃんに惚れてるアタシの姉貴も美人だけど、アタシの『美人』は姉貴とは種類が違って。

まるで一目見ただけで守ってあげたくなる砂糖菓子のような、なんてさ!

 

「…うるせぇ、耳に響く」

 

年相応にぞんざいに扱って。

 

「ジーザスねぇちゃん、今日も綺麗だね!」

「うるせぇ」

 

アタシの賛辞を聞き流して。

 

「ジーザスねぇちゃん! 今日は何の本読んでるの?」

「うるせぇな」

 

鬱陶しそうにしながらも相手をしてくれる。

そんな、優しい人だった。

 

(あぁ)

 

───ジーザスねぇちゃん!

 

(どうしてなんだろうなぁ)

 

そんな優しい人を、アタシたち-きょうだいみんな、好きになるんだ。

 

 

私の初恋は、幼なじみの彼女だった。

大人しく、言い返せもしないから揶揄われ続ける私とは違い、気も強く体格も良かった彼女はいつも私を助けてくれた。

 

───だいじょーぶか、エンジェル?

 

エンジェル。

それが彼女の私への呼び名で、私はその呼び名が好きだった。

私が、彼女のことを先に好きだったのに…。

 

「───ッ、」

 

それは、不思議な魅力を携えたウマだった。

圧倒的な強者の気配も確かにしたが、それ以上に…触れてはいけない"ナニカ"の、気配がすごかった。

けれど、彼女は惹かれてしまった。

私の引き止める声も聞かず、そのまま。

『アイツ、良い奴だぜ?』なんて、私にしか見せたことのない…いいや、私も見たことがない笑顔で。

ずっと貴女のそばにいた、私も見たことのない顔で。

 

「…どうして」





ディバイン家:
ディバインプリンスの家族。
冠名ディバインの方々。
一番初めに出てきたのがプリンスの兄であるディバインジョーカーで、次に出てきたのがプリンスの妹であるディバインマリア
で、最後の『エンジェル』がディバイン家の母であるディバインエンゼル
みんながみんな同じ家族に惚れてる。
もしかすると多くが全きょうだいで、その父は【叫び、追う者】だったりするかも…?

【おぉ、神よ!】:
オゥジーザス。
気性は荒いが、さすがにディバインマリアのような無邪気な子にどうこうするほどの性格では無い。
荒くれ者ではあるだけで正義感や倫理はちゃんとあるタイプ。
父である【再来】こと、シロガネガイセイへの感情は(叶くんさえ絡まなければ)フツーらしい。


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連絡つかず


余っ程じゃないと連絡先渡してくれない系銀弾。



大半の周囲の人間にとって、シルバーバレットと連絡を取ることは至難の技である。

そもそもが携帯電話であるというのに携帯することを忘れ、走りに行ってしまったり、携帯にGPSを仕込んだとしても「野良猫でも昨今こんな挙動しねぇぞ?!」というくらい縦横無尽に駆け回るウマであるからして、常に連絡を取ることが難しい。

そのため、シルバーバレットと連絡を取る際には家族かトレーナーか、またはシルバーバレットのマブダチ(サンデーサイレンス)か、シルバーバレットが可愛がっている後輩(オグリキャップ)に頼んで繋いでもらうしかなく。

…ない、のだが。

 

「ヤダ」(マブタチ)

「頑張ってください」(妹)

「家で待っとけば帰ってくるんじゃないかなぁ?」(トレーナー)

 

誰も協力してくれない…。

唯一協力してくれるのはオグリキャップぐらいだが、それでも「先輩はいつもすぐに出てくれるんだが…」と困ったようにコール音が続く携帯電話を耳に当てていて。

そのあまりにも申し訳なさそうな顔にこちらも胸が痛くなった。

…心苦しい。

 

『や、やっぱり自分でなんとかする! ほら、もうこんな時間だ!』

 

「でも……」と心配そうなオグリキャップをどうにかこうにか言いくるめ、もらった連絡先に電話をかける。

コール、コール、コール、コール…。

 

『おかけになった電話番号は──』

 

 

昔から家にかかってきた固定電話に出ない子どもだった。

そういう受け答えが苦手だった、というのもあるし、祖父や両親から「知らない番号には絶対に出るな」と言われていたのもある。

……まぁ、一番はそれらを下のきょうだいたちが担当してくれていたからだが。

でも、今は少しだけ違う。

 

『おかけになった電話番号は現在使われておりません』

 

耳に当てていた携帯を下ろし、ため息を吐く。

何度目だろうか、この電話もどきをするのはもう十回を超えた辺りから数えていないが──やはり繋がらないか。

諦めつつ、携帯を置こうとすれば瞬間かかってくる電話。

 

「はい。…あぁ、よかった」

 

可愛がっている後輩から、自分に用がある相手に電話番号を渡したと聞いていて。

その話から履歴をあたってみると後輩の電話番号の後に知らない番号から何度かかかってきた履歴があり、これかと。

 

「もしもし? ……あぁ、そうだよ。僕だよ、シルバーバレット」

 

電話越しの声は記憶にあるものとは少し違っていて、でもやはり聞き慣れたもので。

安堵しつつ、相手の話を聞くために耳を澄ます。

 

「ん? いや、別に用はないよ。ただキミが僕と連絡取りたがってるって聞いたから……」

「そう。…じゃあ今度一緒にお出かけでもしようか。僕ちょうど、行きたいところがあるんだ」

「──ダメかい?」

 





僕:
シルバーバレット。
家族+トレーナー+マブダチ+可愛い後輩(オグリ)にしか電話番号を渡していないウマ。
とはいえ、必ず電話に出るとも限らないんですが。
また人の心をくすぐるのが上手い。
適切に飴を与えてくるが如何せんムチも上手いので…。


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親には向かぬ化物


自覚。



『僕らの"カミサマ"!』

 

そう宣いながらも内実は背信者の集まりだ。

信奉しているのは確かであるけれど、それと同じ、いやまたはそれ以上に"カミサマ"を打ち倒したくて堪らない者共の集まりが…我等であるからして。

 

「…ハイセイコ?」

 

不思議そうにこちらを見あげる顔は、嫌に慈愛に満ちていた。

『親』なんてモノに、世界中の誰よりも向いていないニンゲンのクセに、と舌打ちをしたい気分になる。

 

「…、」

 

ゆるりとその細い頸に手をかける。

本気で"する"わけじゃない。

ただ、この手の中にすっぽりと収まる小さな手だとか、頼りない肩だとかに苛立つだけだ。

 

「なぁに?どうしたの?」

 

困ったように笑うその表情も気に入らない。

いっそ泣き喚いてくれれば良いものを。

 

…あなたの感情が見たい。

誰にでも平等に振り撒かれる慈愛ではなく、自分だけに向けられた情が欲しい。

そんな風に思う僕らはきっと狂っているのだとは分かっているけれど。

それでも、あなたからの特別な何かが欲しくて仕方がないのです。

 

 

自分は、『親』というモノに向いていない。

そう気がついたのは一番はじめに引き取った子たちがそれなりの年齢になったころだった。

 

「…、」

 

それまでは『我が子』として愛していたのに。

それなりに成長した『我が子』を見て、…『親』としては抱いてはいけない類の感情を有してしまった。

かつての、"願い"の残り香。

 

「じぶんでも、あきらめたと、おもっていたのだけど」

 

──自分と遊んでくれる人が欲しい。

端的に言うとそんな"願い"。

それが叶うことはないだろうと諦めていたはずなのに、目の前にはソレが()()()()ある。

しかもそれは自分のことを慕ってくれているようで。

嬉しかったのだ。とても。

だからついつい…。

 

(ダメだ)

 

伸ばしかけた手を、歪み、涎を垂らしかけた口を覆う。

これ以上はいけない。

コレらは自分が生み出した幻想でしかない。

分かっていたはずだ。

分かっていて尚、気付かないふりをしていたのだろうけど。

 

「…救いようのない、」

 

欲張りの、業突く張りで。

慈しむべき相手を"獲物"としか見ていない。

なんとも醜悪な"バケモノ"だ。

 

「、」

 

それでも。

唇は勝手に笑みを形作る。

歪んだまま戻らないソレを隠すように俯きながら。

嗚呼、どうか赦さないでくれ。

こんなにも浅ましい自分を。

"親"などとは到底名乗れないような汚濁のような存在であることを。

 

「はは、」

 

ジリジリと目の前が軋む。

どうしようもない、どうしようもないとも!

 

「こりゃあ"怪物"だわ、なァ…?」





僕:
シルバーバレット。
"バケモノ"が『親』の真似事をしている。
内実共に"バケモノ"が拭えないため、ずっと飢えている。
『自分と遊んでくれるヒト』を欲しがる本能と、それを抑えることのできる理性を有していたのは幸か不幸か。

…はァ。


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渡す理由


季節には合わない話ですが書きたかったもので…。



「『ビューティードリームカップ』ってワケでもないクセに…」

 

はァ、とため息を吐く。

目の前には遠き地にいる知人から唐突に送られてきた…勝負服、なのだろう。

見るだけで機能性・強度ともに最高級品なのだと分かる…が。

 

「どういう気持ちで"コレ"送ってきたんだよ」

 

誰もが目を見張るデザインだろう。

しかし、そのデザインがデザインだ。

 

「ウエディングドレス…どこからどう見ても!」

 

真っ黒なドレス。

装飾品から何から何まで黒で、ところどころに薔薇の意匠が組み込まれている。

 

「はァ、」

 

 

「よく似合ってたよ」

『そりゃあどうも!』

 

SNSで流れてきた映像を見て、そう意見を送ると少々御立腹な声が返ってきた。

 

『あんな勝負服送ってきて!…みんなからやいのやいの言われたんだぞ!!』

「…別に、僕は着て走れとは言っていないのだけど」

『なッ、』

「着てくれたらいいな〜とは思っていたけど…ね?」

『…………』

 

今、通話を繋げている相手はグローリーゴアが大切に想っている相手である。

何の奇縁か、今生ではほぼ生まれた頃からの仲だった相手は、"()"では会うことが叶わなかった、かの『偉大なる背』と出会ったことによって元鞘に収まるように現在は日本に行ってしまっているが。

 

『……じゃあ、なんであんなの送ってきたんだよ』

「あー、うん、まあ」

『まあ?』

「…キミ、いつかコッチに戻ってくるだろ?」

『……その、予定ではあるけど』

「うん、ならいいや」

『あ゛?』

 

…誰にも渡したくないのだ。

形振り構わず、こうして牽制してしまうくらいに。

コッチのヤツらはみんな、相手がグローリーゴアの()()だと認識してくれているが、アチラは違う。

あの子は、他人の目を惹きやすい。

 

「似合ってる」

『…そ』

 

 

この勝負服を、古馴染みから贈られたと言えば大半が「すごい」とかそういう褒め言葉をくれたが、極々少数の人は「そっ、か…」とどこか歯切れの悪い返事をした。

 

「?どうかした?」

『いや……なんでもないよ』

「そう……?」

 

似合ってはいる、らしい。

けれど『分かるヤツには分かる、と思う』というデザインであるらしい。

 

「???」

『まぁ、そのうち、分かるんじゃあ…ないかなぁ?』

 

───────

─────

───

 

「あの子は色白だから黒がよく映える」

 

カリカリと、紙面の上をペンが踊る。

 

「あぁ、それと…」

 

迷いなく書き連ねられていく文言はびっしりと。

 

「よし」

 

出来上がった紙面を掲げてウットリする。

まだ提出もしていないのに出来上がりが待ち遠しい…。

 

「さ、次は自分の分を作らないと」





【戦う者】の花嫁勝負服:
もちろん【栄光を往く者】からの贈り物である。
小物含め全身黒に刺繍などで薔薇の意匠が組み込まれているドレス。
分かるやつには分かるやつ。
たぶんホームの会話で匂わせ…じゃなくて嗅がせに来る。

「『あなたはあくまで私のモノ』かぁ。果ては999本で送ってきそうな…あ、なんか胃が痛くなってきた」


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選ばないまま行ったり来たり


まぁ、年明けにやる話ではないとは自覚している。



誰と、と明確に決めているワケではない。

そんなことを声を大にして言ってしまうと後ろ指を指されんというか、物理的に刺されんモノだが、それでも何故だか、この関係は成り立ったままだった。

 

「おはよう」

 

鞄の中にあるキーケースは自分の部屋、実家の鍵のふたつ…だけじゃなくなって遠に久しく。

きっと、見る人が見れば涎を垂らすんだろうなぁ、と思わず考えてしまうくらいには豪華なシロモノとなっていた。

なにせ、その総てが今でも名を知られるトゥインクルシリーズでかつて活躍したウマの、現在の家の鍵である。

そして、そんな豪華なシロモノを所有するに至った要因はといえば。

 

「いや、今日は…昨日から言ってたでしょう?」

 

成りたくて現状になったワケではない。

そりゃあ僕だって大人になったのだし、学生時代から引き続きちゃんと一人暮らししていた。

しかし、ドリームトロフィーリーグに移籍した折に引っ越したアパートが、知り合いたちから見るとあまりにも危険だということで(確かに趣ある場所ではあったが)「自分の家に来たら?」と誘われたのが始まりだ。

それからその誘ってくれる人が増えて、気づけばドリームトロフィーリーグを勇退した後も、僕はその厚意に甘えさせてもらっている。

そうして、今では気ままな一人暮らしから一転して、ひと通りの家事を宿食の対価として複数人の家を渡り歩くように…。

 

「いやはや……まさかこんなことになるなんてね」

 

ひとりごちながら勝手知ったる玄関で靴を脱いでいると、廊下の先からひとりのウマがひょっこりと顔を出した。

 

「ただいま」

 

そう言うと、ぱぁっと明るい笑顔を浮かべた相手は、そのまま小走りでこちらにやってくると、立ち上がった僕を抱き締め。

「待ってたよ!」と言われるが二週間前も来たばっかなんだけどなぁ…。

 

 

誰も選ばないその背は同じ穴の貉である自分たちにとって、世界一憎くあると共に、世界一…どうしようもない執着を向ける相手でもあった。

 

──僕は、走れるまで走るだけだよ?

 

その背を求め続けてどれほどになるだろうか。

その背がトゥインクルシリーズを戦い抜いた後、ドリームトロフィーリーグで共になってからはより顕著になった。

他の選手たちが『大人になった自分』というモノに折り合いをつけていくなか、ひとりだけその歩みを止めない姿に惹かれたからだろう。

そうして、その背中を追い続けた結果がコレだ。

 

「いや、今日は…昨日から言ってたでしょう?」

 

……自分だけの、モノになればいいのに。





世界で一番憎いって、世界で一番愛してるの間違いでは?

僕:
シルバーバレット。
実質ヒモみたいなことになっているウッマ。
別に暮らそうと思えば暮らせる資金は持っているのだが本人が選ぶ家が揃いも揃ってボロ…なため…?
そして相変わらず家事◎。
一家に一人欲しい系な御方。
でも相変わらず周りからの感情には疎いんだよなぁ…。


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昔取った杵柄


そして檻の中に引きずり込まれるんだな。



かの【皇帝】シンボリルドルフの寝起きが悪いことはトップシークレット中のトップシークレットだ。

本人としては『生徒会副会長以上の権限を持つ者しか知らぬ最重要機密』としているらしいが…。

 

「ほら、起きなよルドルフ〜」

「ん゛…」

「がうがうライオン丸〜」

 

弁明させていただくと、僕がこの寝起きの悪さを知っているのは過去、生徒会を手伝っていたことがあったからだ。

まだ現生徒会副会長が入る前、ルドルフ自体がキレたナイフ状態でバチバチだった頃、この子を起こしに行くのはもっぱら僕の仕事であった。

 

「んん……あと5分……」

「もう、しょうがないなぁ」

 

僕はルドルフの布団をひっぺがし、カーテンを開けた。

 

「起きろぉ!!」

 

バサァ!と布団を剥ぐと、そこには寝巻き姿で丸まったまま縮こまっているルドルフの姿があった。

 

「……おはよう、ございます」

「はい、おはようさん」

 

僕がそう言うとルドルフはノロノロとした動きで上半身を起こす。

そしてそのままぼうっと、鋭い目付きでじっと。

やはりエンジンがかかるまでボンヤリする癖は変わらないらしい。

 

「ほら、顔洗ってきな」

「……はい」

 

そう言ってルドルフは洗面所へ向かう。

……にしても相変わらずだな。

いや、普段はああいう分ギャップが凄いと言うべきか?

 

「んしょっと」

 

洗面台の方からの音を聞きつつ朝食の用意をする。

ま、朝食といってもおにぎりとタッパーにおかず詰めてきただけなのだけど。

…流石に、あの状態のルドルフは外にお出しできないからねぇ。

昔起こしに来てた時は毎日してたことだから特に苦でもなし。

 

「さ、食べて食べて!」

 

 

言うなれば、あの頃のルドルフは…トガっていた。

文武共に成績優秀で大人たちからの期待厚く、特段対抗バもいなかったために生徒会長となったが…。

 

「…」

 

シンボリルドルフは、優秀過ぎた。

はじめは前生徒会が用意してくれたサポート役(後に聞くところ、本来ならそのまま副会長になる予定だったらしい)もいたのだが半月も経たない内にいなくなり、そして彼女自身もそれを気にも留めなくなった。

…生徒会が会長である自分ひとりとなっても。

何故なら自分ひとりの方が効率がいいから。

だが。

 

「前生徒会の命により来ましたシルバーバレットです」

 

ただの庶務だよ。

そう言った、あの人だけはルドルフの傍を離れなかった。

幾ら邪魔だと威圧しようが「ごめんね」と謝り、邪魔にならないようこじんまりとして。

果てには「起きなよライオン丸ちゃん」などと起こしに来るまでになり。

 

「ほら、起きて」

「……っ、朝くらいゆっくりさせろ……」

「そんなこと言っても…早く起きないとトレーニングの時間が減るよ?生徒会長様」

「…、」

「わっ!?」

「……寝る」

「えっ、ちょっ、待っ…で、出られない…!」





【皇帝】:
シンボリルドルフ。
現生徒会になるまでは臨時庶務であった僕に手伝ってもらっていた。
初めは僕に対してライオン丸だったが徐々に軟化。
トガってはいるけれど何だかんだ僕の言うことは聞く…ぐらいにはなっていた。
とはいえ、その頃のことは本人にとって黒歴史だったり…?


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抱き締めて!【飛行機雲】くん!


ふわふわでモチモチの抱き心地◎なヤツらしいです。



「…何です、コレ」

「『抱き締めて!【飛行機雲】くん!』だ」

「はい?」

「『抱き締めて!【飛行機雲】くん!』だ」

「はぁ…」

 

その日、【飛行機雲】は久方振りに訪れた先輩-シルバアウトレイジに抱き締められている特大のぬいぐるみを見てため息を吐いた。

何がどうなって、このぬいぐるみが先輩の元に届いたのかは定かではないが気持ちよさそうに頬擦りしているのを見る限り、どうやら気に入ったようである。

 

「コレすっげぇフワフワでさぁ!ベッド半分占領されるけどそれも気に食わないぐらい抱き心地が良くて!」

「…さいで」

「【飛行機雲】も触ってみろよ!ほら!」

「わ、ちょ……!!」

 

ぬいぐるみを押し付けられた【飛行機雲】は反射的にそのぬいぐるみを抱き締める。

その感触に彼は思わず目を見開いた。

 

(なにコレ……すごく気持ちいいんだけど)

 

フワフワとした生地と綿の弾力が疲れた身体を癒してくれるような感覚に思わずうっとりしてしまう。

そして、それを彼に持たせた張本人はニヤニヤと、してやったりとばかりに微笑んでおり、その顔に違う違うと頭を振る。

 

「違います!」

「わぷっ!」

 

こ、こんなフワフワで絆されるウマではないですよ僕は!

…などと、ぷ〜っと頬を膨らまし始める【飛行機雲】。

そういうところが可愛いんだよなぁ、と思われていることを露とも知らないのは幸か不幸か。

 

「俺は幸せだったぜ〜?最近お前が構ってくれないもんだから」

「なっ…!?」

「この【飛行機雲】くんは俺のことギュ〜って受け止めてくれるし?」

「ぐぬぬ……」

 

ぬいぐるみ(自分がモチーフ)と自分を比べられて、思わず唸る【飛行機雲】。

それを見たシルバアウトレイジは更にニヤニヤと笑っており、完全に彼のことを揶揄っているのが見て取れた。

そんな相手に、【飛行機雲】は顔を真っ赤にしながら叫ぶ。

 

「僕はそんなフワフワした可愛いものよりも先輩のお役に立てます!」

「へぇ?」

「……な、なんですか」

「いや?お前って意外と…俺のこと好きなんだな」

「は、」

「確かに【飛行機雲】くんはお前を模したぬいぐるみだけどさぁ…」

「あ、」

 

そこまで言われてようやく【飛行機雲】は自分が何を口走ったのか悟る。

そして、しまった……!と己の口を塞ごうとするが時すでに遅し。

 

「俺のこと…、へへ」

 

ニヤニヤと笑いながらぬいぐるみを抱き締めてソファーに転がるシルバアウトレイジにそう言われると、【飛行機雲】は耳まで真っ赤にしてその場に崩れ落ちた。

そんな後輩の姿にゲラゲラと笑い声。

 

(……クソッ)

「可愛いやっちゃなぁ〜!」





【銀色の激情】:
シルバアウトレイジ。
実は案外可愛いものが好き。
今回『抱き締めて!【飛行機雲】くん!』を偶然手にし、いっぱい抱き締め添い寝していた。
でもやっぱり本物が一番可愛かったりする。

【飛行機雲】:
後輩。
自身のぬいぐるみにちょっと嫉妬。
僕の方がソイツよりもお役に立てます!!!!


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勝負服についてのご意見


段々と洗練されていくんだね!



「なんでジジイはあんなラフで!俺たちはこんなカッチリなんだよ!!」

「…曲がりなりにも名家になっちゃったからね〜。とは言っても海外遠征用の勝負服なら僕もカッチリしたヤツなんだけど」

 

ギャン!と不満げに吠えたシルバアウトレイジにシルバーバレットはホケホケと笑って返す。

『勝負服』というものは着る人によって十人十色だが。

「○○軍団」とか、そういう括りで呼称されるぐらいの有名な一団になるとどことなく勝負服の感じが統一されてくる。

シルバアウトレイジとシルバーバレットの二人も、そういう括りで呼ばれている一団の一員だ。

そして、その勝負服はカッチリしているのが大多数で。

 

「ジジイはいいんだよ!ジジイなんだから!」

「僕まで巻き込まないでよ……」

 

そんなやり取りをしながら、どうどうと若人を落ち着かせようとするも今日のところはどうやら腹の虫が収まらんらしく。

 

「俺めちゃくちゃ頭悩ませてデザインしたのによォ、『これじゃダメだ』って変えられたんだぜ?果てにはこんな悪役みてェな」

「ひどい言われよう」

「そら大部分が黒で差し色が黄色で申し訳程度の白ってもうバリバリの警戒色じゃねぇか」

「でもかっこいいじゃん」

「そういう問題じゃ…。はァ…」

「そこはほら、目立ってナンボだし」

 

シルバーバレットは笑いながら言う。

そういうもんだと割り切るしかないと、シルバーバレットは思っているし。

かく言うシルバアウトレイジも何だかんだ言いながらそう納得している。

しかしそれでも気に入らないものはあるのでこうして不満を垂れ流しているわけだけれども。

 

「キュッとした服苦手だもんねぇ」

「そーだよ」

 

制服のシャツでも息苦しいと緩めるウマなのだからあの勝負服はまぁキツかろう…と脳裏に思い浮かべながらも余っ程のことがない限り勝負服の変更はできないため「ムムム…」と唸るしかなく。

流石のシルバーバレットも権力乱用とはいかないのだ。

 

「…まぁ、」

「うん?」

「そんなこと言ったら海外遠征用の勝負服、着物にされそうだけどね」

「あ゛?」

「だって絶対フォーちゃんが張り切るもの。んでほら、僕が何か大きいイベントとか祝い事の時に着るあの全部真っ白な、お抱えさんトコ謹製の…」

「やめろやめろやめろ!!」

「でしょ?」

シルバーバレットはクスクスと笑いながら、シルバアウトレイジもようやく気が済んだのか。

「……あー……なんかスッキリした」と言って立ち上がった。

 

「んじゃまぁ、帰るわ」

「うん、行ってらっしゃい」

 

ひらひらと手を振りながら出て行くシルバアウトレイジの背中を見送ってから、シルバーバレットはポツリと呟いた。

 

「……あ、すっげぇ連絡来てるや。もう、どこ行くか言ってから来なよ…」

 





僕:
シルバーバレット。
国内用の勝負服はシンプルでTheアスリートって感じだけど海外用遠征はカッチリしてるウマ。
でも海外遠征用の勝負服は小物もそれ用に誂られているのもあって、傍目から見るとマフィアかな?って感じらしい。
そもそも現役時はまだピリついてたしね。

【銀色の激情】:
シルバアウトレイジ。
カッチリした服が苦手な若人。
制服のシャツからして「なんか息苦しい」と緩めているタイプ。
しかし「そんなこと言ったら着物になるぜ?」と言われ「それはヤダ!」した。
だってあの着物、全部真っ白…。ぜってぇ汚す…。


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暮らしてるだけ


誰の、介在もなく。



「ご飯ですよ」

 

そのひと言でガバッと起き上がればクスクスと笑われる。

 

「おはようございます」

「ぅ、うん…」

 

ぐぅ〜、と大きなおなかの音が代わりに返事するようなので、また笑われる。

 

「盛り付けときますね」

「ありがとう……」

 

顔を洗って、着替えてからリビングに行けばすでに食卓には朝食が並んでいた。

焼きたてのパンとふわふわオムレツ。それにサラダもついている。

 

「いただきます」

 

手を合わせて食べ始めると、一緒に食べ始めたあの子がじっとこちらを見てくる。

 

「……なぁに?」

「いえ、とても美味しそうに食べるなと思いまして。ほら、どう作ったって自分の味ですから。…美味しいのは美味しいんですけど」

「うん、美味しいよ。料理上手だよね」

「まあ、母に教わったので……。でも、よかったです」

「なにが?」

「気に入ってもらえたみたいで」

「……そりゃあ、胃袋掴まれたからね」

「褒めてもご飯しか出ませんよ」

 

素直に感想を言えば少し照れたように。

誰かと食事をするのは久しぶりだったし、こんなに温かい気持ちになったのも久しぶりだ。

この子が来てからというものの、今までが嘘のように毎日が鮮やかで。

 

「また、お昼になったら呼びますから」

 

 

男とその同居人が共に暮らし始めた、それがいつのことだったか、もう定かではない。

ただ元より人としての生活を営むことに向いていなかった男の元に同居人が現れ、日々細々とした世話を焼くようになったのは確かであった。

 

「夜ご飯ですよ」

「あぁ、」

 

昼を食べ終えてから今まで、書き物をしていたからか伸びるとバキバキと音が鳴る。

 

「今日は、」

「オムライスです」

 

別にこうして共に食事をとることは強制されているわけではないし、なんならはじめは男はひとりで食事をすることの方が多かった。

だがそうするたびに同居人が寂しそうな目で見てくるので、なんとなく一緒に食べるようになった。

 

「美味しいですか?」

「……あぁ、美味いよ」

「それはよかったです」

 

嬉しそうに笑う同居人につられて男も少し口角を上げる。

誰かと食べる食事はいつだって美味しくて温かい。

そんな当たり前のことを、男は久しぶりに思い出した。

 

「…どうか、しました?」

「え、?」

「いえ、手が止まっているようでしたので…お嫌いなものでも、と」

「いや、好き嫌いは特にないよ。うん」

「なら…いいんですが」

「うん」

 

そうしてまた、食事を再開する。

誰かと食べるご飯は美味しいものだと、かつて誰かが言っていたような気もしたが、もう男には思い出せなかった。

 

「……」

 

男は人付き合いが苦手であったし、そもそも他人に興味を持つことがなかった。

そんな男の前に現れたのがこの同居人。

はじめこそ鬱陶しく思っていたものの、いつしかそれが心地よくなっていた。

そしていつからかその心地よさに名前をつけたくなったのだ。

だが、それは───。

 

「…、」

 

故に、男は今日も口を噤む。

おだやかなさざ波に揺られるように、変わらぬ日常を過ごすために。

 

(幸せ、か…)





男:
同居人と過ごしている。
普段は書き物をしており、あまり家から出ない。
同居人の食事に胃袋を掴まれている。

同居人:
どこにでもいる同居人。
ご飯を作るのが上手い。
また男の扱いも上手く、何だかんだで手綱を握っている。
だがどこの誰と聞かれると…?


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『後悔』に似ていた


今度こその、贖罪。



元はざんばら髪だった。

 

『ちゃンとくくれ。綺麗なんだから』

 

実父はいた。

けれど、実父は放浪癖のある人だったから。

父替わりに育ててくれたのが"あの人"-爺ちゃんだった。

 

『ちぃせぇ頃のアイツとは似ても似つかねェなァ』

『じぃ、ちゃ…』

『ン』

 

綺麗な三つ編みに整えられて。

いわく、自分が生まれた頃には遠に生きてピンピンとしているのが不思議なくらいの歳であったらしいが思い出の中の、幼き日の自分を抱いていた腕はひどくシッカリとしていて。

 

『お前は、アイツにゃ似てねェ。でも、…"あの方"にはソックリだ』

『?』

『お前がこのまま、まっすぐに育って、じぃちゃん孝行してくれりゃあそれでいい』

『孝行ってなに?』

『……そうだなぁ。大人になって、結婚して子どもこさえて……とにかくじぃちゃんが喜ぶことをするンだよ』

 

当時の自分には解らなかったが、今なら解る気がする。

独りぼっちで、"あの人"に守られていたところから、最愛と出会って子を成して。

その子が運命の相手と出会って孫ができて…。

 

「爺ちゃん喜んでくれるかな…?」

 

 

その子はかつての母によく似ていた。

 

「は、」

 

若くして亡くなった母。

本当の名など知りようもなく、ただ便宜上の名で呼ばれていたあの女性(ヒト)

 

「あ、あぁ…、な、泣くな、泣くな…!」

 

ふやぁ、ふやぁと弱々しい泣き声。

久しぶり帰ってきた家の隅で、ボロボロになって蹲っていた幼子。

慌てて粗雑ながらも手当をすれば心底ワケが分からないという目でこちらを見て。

 

「…おじさんも、ぼくにナニカ聞きたいの?」

 

そして告げられた言葉にザワリと脊髄が撫であげられた心地がした。

 

()()()()()()。…でも結果だけね」

 

にこりと微笑む様は嫌なぐらいに。

 

「ぼくは、"()()()"の生まれ変わり」

 

かつての母の笑みにそっくりだった。

 

「え?」

 

故に。

男はその小さな体を抱き締める。

守ろうと思っていたのに、守れなかった。

だから、今度こそ。

 

「え、おじさん……?」

「……テメェは、これからどうしたい?」

「どうって……」

「嫌ならその仕事も儂が断ってやる」

「…………」

「絶対に、守るから」

 

───────。

 

(今度こそ)

 

 

笑うあのヒトが気持ち悪かった。

どんなに手酷い扱いを受けようとも、微笑んでいたあのヒトが。

あのヒトの血を引いたというだけで妹は籠の鳥になった。

弟も大半が縛り付けられた。

何処にも行けない。

何にも成れない。

その中で一番上の自分だけがその籠であり檻から逃れることが出来たのはひとえに歳顔負けの肉体を有していたから。

 

「死にたくなきゃあ、」

 

───退 け 。

 

ひと言そう告げると蜘蛛の子を散らすように、普通なら追手になり得ただろう者たちが逃げていくのを後目に。

 

「自由、か…」





【先祖返り】:
ホワイトバック。
あの日から髪型はずっと三つ編み。
祖父であった【白の大侠客】を父替わりに育つ。
ちな特殊な素養持ちだったり…?
ま、先祖返りの名は伊達ではないということで。

【白の大侠客】:
シロノマガツ。
実は母親が"かの方"なウマ。
弟妹全員線が細く儚い感じな中で唯一筋骨隆々だった。
なので易々と檻を抜け出し"自由"に。
けれど"自由"になったが、なってしまっていたが故の『後悔』もある。
だから、────()()()()守ろうと。


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いつか、いつか、実るでしょうか?


或る型がない、型に囚われないからこそ『強い』、【無法の韋駄天】(ただひたすらに本能で走っている変幻自在戦法で的確に弧線のプロフェッサーキメて、ハヤテ一文字する)と或る子どもの話。



「よォ、何処ぞの知らぬ坊ちゃん。匿ってくれや」

 

その日、子どもが出会った男は見た目こそ草臥れていたものの、よくよく見れば身に纏う衣服が高価だろうことや所作からして、ここいらの者ではないことが伺えた。

 

「あ、あの……貴方は?」

「俺か? 俺は──」

 

男は子どもの質問に対して、少し考える素振りを見せた後に答えた。

 

「──ただのどこにでもいる"ウマの骨"さ」

 

それが子どもと男の出会いであり──今でも焼き付いて離れない、"始まり"でもあった。

 

 

自らを『ウマの骨』と宣うその男-自分よりもずっと歳上のウマを子どもが『シロ』と呼び始めるのにそう時間はかからなかった。

普段は染め粉で髪を黒なり茶なりに染めているシロの本来の髪はそれはそれは美しい芦毛であったので。

 

「ヘェ、ガキの癖に速ェな」

 

そんなシロは宿飯のお代に子どもの遊び相手によくなった。

とはいえ、子どもの遊びはもっぱら走ることであったから朝も夜も飽きもせずにシロと二人、駆け回った。

 

「シロ、今日も勝負だ!」

「おうよ」

 

シロは子どもの強請りに文句一つ言わず、それどころかその速さを褒め称えさえした。

 

(……この人は本当に何者なんだろう?)

 

そんな疑問が子どもの中に浮かんだものの、それを聞くことはなかった。

何故なら──、

 

「…そういや、アレも生まれてんだろなァ」

 

聞いたが最後、どこかに消えてしまうんじゃないか。

そう、漠然とした予感…というよりも確信だけが子どもの中にあったから。

 

「"アレ"って?」

 

だから、シロから言わぬ限り何も聞かなかった。

けれどその時だけは問うたのだ。

そんな子どもの内心を知ってか知らずか、シロはニヤリと笑って答えた。

 

「俺のガキ」

 

 

(……懐かしい夢)

 

微睡みに浸りそうに、うつらうつらとしていたところでゆっくりと瞼を開けた存在はそんなことを思った。

あの後、結局シロはその事以外何一つ教えてくれなかったし、自分も何も聞かなかった。

でも大人になるにつれ、己が『シロ』と呼んでいたウマの話は『伝説』として耳に入った。

 

───かの【白の大侠客】の隠し子。

───無敗で、賭け競走(レース)という賭け競走(レース)を荒らし回った白の風来坊、【無法の韋駄天】。

───その強さから追われた後の消息は誰も知れぬまま…。

 

そんな、あまりにも荒唐無稽な話。

()()()は信じていなかったが、今は少しだけ信じている自分がいる。

 

(だって、シロの走り方は──)

 

「どうかしたか?──たずな」

「…いいえ、何も」





昔昔の誰かたち。

【白の狂気】:
ホワイトインセイン。
父である【白の大侠客】の元から飛び出したあと、風来坊していた。
その中で路銀稼ぎの一環として賭け競走(レース)を荒らしに荒らし周り出禁→追われる身に。
そして逃げ込んだ先で出会った子どもの面倒を見つつ、「そういやオレの子どもも生まれてたらこのガキぐらいじゃね?」と我が子(ホワイトバック)のことを思い出したり。
多分世話になった子どもの脳を焼いてるウマ。


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お兄ちゃん試験


ほら、頑張れ頑張れ♡



シルバーバレットには、シルバフォーチュンをはじめに四人の妹がいる。

元より十三人きょうだいの長子であり、ブラコンシスコンをこじらせた…というよりもファミリーコンプレックス、略して『ファミコン』の人間であるからして、弟妹含め家族の幸せを願うのは、もはや本能に近い。

…そんなシルバーバレットには悩みがあった。

 

「僕の可愛い妹たち…みんな絶世の美女なんだよなぁ〜!」

 

いや、家族の贔屓目ではない。

同じく絶世の美女であった母の高身長グラマラスな容姿を引き継いだ妹たちは道行くだけで目を惹く。

シルバーバレットは、そんな妹たちが心配で仕方ないのだ。

しかし、そうは言っても妹たちももういい年頃。

"良いヒト"がいるってのも雑談の端々で察せられるようになったワケだが。

 

「じゃ、コース出なよ」

 

指でクイッ、と指し示す。

長女のシルバフォーチュンの相手はシルバーバレットもよく知っていたから、特段なにもしなかったけれど。

 

「さ、走ろっか」

 

フォーチュンから下の妹の"良いヒト"のことを、シルバーバレットはなにも知らないが故に。

また幼い頃から父母…特に母の、父と出会うまでの色々大変だった話を聞いていたものだから。

 

「ほら、早く入れよ」

 

 

…別に勝たなくたっていいのだ。

シルバーバレットも流石に相手と自分の実力差を理解っている。

そうしてでも見たいのは、

 

『もう一度…お願いします!』

「…うん」

 

ゼェハァ、と今にも倒れそうな相手を見やる。

実力もフィジカルも、諸々すべてが天と地の差。

何度やったとしても結果は大差というのは変わらないだろうし、奇跡なんてない。

しかし、

 

(そう簡単に諦めるヤツがあの子と、なんて)

 

シルバーバレットは知っている。

あの子が、どれだけその"良いヒト"を想っていても…。

 

『……ッ』

「おっと」

 

ふらっと倒れそうになる相手を見て、咄嗟に支える。

 

(……もう限界かな)

 

よくもまぁここまで食い下がれるものだ、と感心するくらいそのウマはシルバーバレットに食らいついてみせた。

 

(でも、そろそろ終わりにしなくちゃね)

 

時間は既に夕暮れをこえて夜の帳がかかり始めたころ。

もう立ち上がる気力もない体をよっ、と抱える。

 

『……シルバーバレットさん』

「なに?」

『ありがとう、ございました』

「……ん」

 

シルバーバレットは今日初めて、"良いヒト"のウマに笑いかけた。

 

 

過保護とか言われるけど。

父さんが母さんにするみたいに一心不乱に守ってくれる人じゃなきゃ任せられないんだよ…。





僕:
シルバーバレット。
クソ強面接官。
だが見る点はただひとつ、根性。
何があってもあの子を求めて、大切にしてくれるだろう人を。


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むぎゅり


窒息するかと思った…(白目)。



昔は仲の良い兄妹であったがある程度成長した今となっては昔のように触れ合うことを躊躇してしまう。

 

「兄さん!」

「おっと、」

 

バックステップでテンテンっと後ろに退けば、抱き締めようとした腕が空を切ったことに不満げな僕の可愛い妹-シルバフォーチュンがむぅ、と頬を膨らませる。

 

「ダメだよフォーちゃん」

「私は良いの!」

「いや、世間一般から見たらダメだろ」

 

シルバフォーチュンこと、フォーちゃんは幼い頃から僕のことが大好きだ。

赤ちゃんだった時から学校に行こうとする僕を泣いて引っ付いて引き止めようとするのはよくあることで、今でも隙あらば僕を抱き締めようとしてくる。が、

 

「インモラルだよ絵面がぁ!」

 

実の兄妹と言えどもう思春期だし!

それに豆粒ドチビな僕と違ってスーちゃんはリリィ譲りに色々と育ってるし!

 

「隙あり!」

「むぎゅ、」

 

とか考えていると顔に押し付けられるぱふぱふ()。

 

「スーちゃん、お兄ちゃん一応思春期だよ?」

「そうね!私と同じね!」

 

兄妹だから良いの!と僕の顔に押し付ける力を更に強めてくる。

あ、これやばい。そろそろ窒息しそう。

 

「フォーチュン。そろそろバレットが死にそうだから離してあげなさい」

「……仕方ないなぁ」

 

そんなやり取りをしていると部屋に先生(トレーナー)がやってきたのか呆れた声で妹を止めに入る。助かった……。

 

「お兄ちゃんは私が守るからね!」

「うん…(ゼーハーゼーハー)」

 

 

シルバフォーチュンはブラコンである。

まぁ、その兄であるシルバーバレットもシスコンであるからお似合いの兄妹とも言えるのだが、とりあえずシルバフォーチュンはブラコンである。

 

「兄さん!」

「わぁお」

 

また実の兄妹ではあれど二人には確固とした身長差があり。

傍から見れば姉弟に見える二人なので軽々と抱き上げられる矮躯(兄)。

 

「普通に座ってみるよりコッチの方が見やすいでしょう?」

「…」

「兄 さ ん ?」

「…はい」

 

妹の膝の上にまるでぬいぐるみのように乗せられたシルバーバレットはどうにかこうにかして膝の上から逃げようと試みるが、妹の威圧に一瞬で屈服した。

まぁ、膝の上に乗せている時点で兄としての威厳もクソもないのだが……。

 

(うぅ、)

 

腹にシートベルトのごとく巻き付けられた腕が締め上げてくる。

それでも胃の内容物が出ない程度には手加減されているのが何とも言えない(だが逆説的に考えると…)。

だが一番の問題は、

 

「兄さん」

「ヒャイッ!?」

「そんなに顔を前に突き出したら痛いんじゃない?」

「ゃ、いや、フォーちゃん待って!」

「ん?」

「ぁ、ちょ、ゃめっ」

「ふふふ、兄さんったら可愛いわ」

(あばばばばっ)

 

誰かタチケテ…と周りに助けを求めるも、その全てがソッと顔を逸らす辺り、この兄妹のこのような行動はよくあること兼周知の事実である。

 

「兄さん」

「ひゃい……」

「私ね、兄さんのこと大好きよ?」

「……うん」

 

知ってるよ、とシルバーバレットが言うと、シルバフォーチュンは嬉しそうに笑う。

 

「…ま、いっか」

 





銀色兄妹:
シルバーバレット&シルバフォーチュン。
シスコン&ブラコン。
またの名をぬいぐるみのように抱き締められる兄&抱き締める妹。
母譲りの高身長グラマラス体型に育った妹を抑えようとするもいつも「あ゛ぁ゛〜!」してるお兄ちゃん。
なおフォーチュン以外にも妹がいるがその全てが高身長グラマラスに育っているし、その子らみんな小さくてカッコイイ銀弾お兄ちゃん好き好きってしてるので…(目逸らし)。


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呵呵大笑と笑うモノ


いる。



「成仏したらどうだ?亡霊」

「…はは、ひどい」

「いや、悪霊だったな」

「ひどいッ!?」

 

シルバアウトレイジにとって、そのウマは初対面だった。

しかし、それが誰かはよく()()()()()

顔の半分を髪と眼帯で隠す、その小柄な背を。

 

「さっさと隠居なり何なりしやがれ──シルバーバレット」

 

 

きっと、人ごみの中でも見つけられるだろう圧倒的な存在感は否応なく、俺の視線を引きつけた。

 

「シルバーバレット……」

 

それは、俺がかつて視た存在だった。

()()シルバーバレットが、目の前にいる──!

 

「…先輩?」

「っ、」

 

そう釘付けになっていると横にいた後輩-【飛行機雲】に怪訝そうな顔をされる。

…そういや、そうか。

あんな人ごみの中でも"アレ"が分かるのは、"アレ"から始まったと同義である()()()()()

"アレ"の多大なる影響と功績をもって、生まれたに等しい…。

 

「……いや、何でもない」

「?…そうですか」

 

しかし、それはあくまで()()()()()の話。

後輩には関係のないことであり、知る必要のないことだ。

……とはいえ、いつまでもここに居続けるのは良くないだろう。

"アレ"がいるのに、と後ろ髪を引かれる心地はあるが、いつまでもここで立ち止まっているわけにはいかない。

 

「…行くぞ、【飛行機雲】」

「はい」

 

俺は後輩を連れて、その場を後にした。

 

 

「────」

 

その眼を見て、『あ、出会ってしまったんだな』と思った。

それは『夢』に浮かされた眼であり、眩しい『光』に晒された眼でもあった。

……僕には、それが痛いほどよく分かる。

だって、僕も──かつて同じ眼をしていただろうから。

 

「ははッ」

 

そして、僕は笑った。

その眼を見て、僕が何を思ったのかなんて──語るまでもないだろう?

 

 

"アレ"の影響力は凄まじく、瞬く間に街全体へと広がっていった。

それはまるで『疫病』のように蔓延し、誰も彼もがその存在を認知し出した。

一度見てしまえば、囚われる。

逃れるなんて、できやしない。

 

「…、」

 

にこり、と『疫病』は笑っている。

自分がその()だと知ることもないまま。

穏やかに進んでいく世界を愛している。

…そう、まるで『神様』のように。

 

 

───でも、本人はそこまで考えてないんだよなぁ〜…。

 

機嫌よさげに去る足取りは軽やかに。

周り何もかもを少しずつ狂わせながら朗らかに。

"いない"時でも偶像であったのに、ソレが"現存(ある)"となれば…?

 

「今日も明日も、いい日になるといいねぇ…」





僕:
シルバーバレット。
『疫病』であり、『神様』であり、『亡霊』で『悪霊』。
そこにあるだけで少しずつ狂わせていく。
でも当の本人にその自覚はなく、今日も今日とて楽しく日々を過ごしているようだ。


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そうしてでも


求めるモノがあって。



時々、()()なる。

 

「……」

 

ちゃんと見えて、聞こえるのは風景と環境音と自分を支えてくれるトレーナー含む人たちだけ。

それ以外はとんと、マジックで塗り潰されたみたいに、またはノイズがかって。

何も、何も。

 

「…ぁ、」

 

いつものトレーニングが終わったあと、自主練をしているとぼたり…と垂れてきた鼻血に一時中断。

いつもなら、とっくに戻っている時間なのに戻らないのは、戻ったら耳障りな話し声(ノイズ音)で頭が痛くなるから。

「……」

 

元から自分が、あまり喋る方ではないから"現状"はトレーナー以外にはバレていない。

 

(……、)

 

『あまり無理はしないように』『自主練し終わったあとは念入りにストレッチするように』とだけ、言われている。

言われたとおりに、しているけれど……無理をしているつもりはないのだ。

ただ、自主練を早く切り上げるとノイズが酷くなるから…仕方なく。

 

(……なんで?)

 

どうして? どうしてなの? と、疑問ばかりが頭を占める。

けど、答えなんて出るわけもなくて、また垂れてきた鼻血を手の甲で拭ってトレーニングを再開するためにコースへと戻った…はずが。

 

「は、へ?」

「スク」

「へ…?」

 

聞こえてきた声に、声のする方に向くと、そこには…ひどく怒ったグローリーゴアがいた。

最近、"現状"に至ってからはまったく顔を合わせていなかった存在は惚けた顔をして自分を見あげる僕に眉を顰め。

 

「なに、してるの?」

「…自主練?ぁ、」

 

やば…。

止まらない、鼻血…。

クソ、これならもうちょっと座って休んでた方がよかったかな。

ぼた、ぼたり。

 

「……」

「あ、いや……その」

 

"現状"に至ってから、初めてまともに他人と会話したせいで、頭がまったく回らない。

だからか、グローリーゴアが何を言ったのか分からなかったし、何か言われたのに答えられなかった。

 

(まずい)

 

そう思ったのも束の間、…べろり。

 

「ひっ!?」

「ん、…鉄の味」

「なに舐めてるの!?」

「なにって、キミの鼻血」

「なんで!?」

「だって、……それぐらいしないと止めないだろ?キミ」

 

そう言って、グローリーゴアは僕の鼻の下をやさしく指先で拭う。

次いで「一緒に帰ろうか。『イヤ』って言ったらまた舐めるからね?」と有無を言わせないセリフに僕はもう粛々と従うしかなく…。

 

 

その目の色が、どことなく()()()()()()と気がついたのはサンデースクラッパと顔を合わせなくなって少し経ったころだった。

あまりにも顔を合わせないため『もしかして嫌われた…?』と不安に思っていたら、たまたま門限も過ぎているのにコースで見かけたサンデースクラッパの顔色があまりにも悪くて。

 

「スー?…ッスク!」

 

ぼたぼたと鼻血を出している姿を見てしまえば。

 

「ぁえ、ぐろ、りー…?」

 

焦点の合わない目が自分を見る。

何も映らないくぐもった鏡面のように。

…それが、イヤで。

嫌で、嫌で、嫌で。

 

────べろり。

「ヒッ…!?」

「…あ、ごめん」





【戦う者】:
サンデースクラッパ。
一時的な体調不良。
もしかすると視界の隅に"誰かの背"を捉えているのかもしれない。
でも鼻血を舐められたのには流石にビビった。
その後、一日ゆっくりと監視役の【栄光を往く者】と共に休み、寛解した模様。

【栄光を往く者】:
グローリーゴア。
ある日唐突に【戦う者】から避けられ始めて落ち込んでいた。
そして久しぶりに見かけた【戦う者】がヤベェ状況になっているのに……して無事捕獲。
ちなみに今回の件により【戦う者】の焦点の合っていない目が苦手になったらしい。


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愛するあなたのために


それがあなたの『幸せ』だって。



「大きくなったら、兄さん/兄貴/兄ちゃん/お兄ちゃんのお婿さんになる!!」

「んんん?待って待って待って?」

 

その日、シルバーバレットは頭の上に?マークを乱舞させた。

シルバーバレットの周りにいるのはシルバーバレットのことが大好きな弟妹たち。

シルバーバレットは、弟妹たちにとても慕われている。

そして、その弟妹たちは、兄であるシルバーバレットにとてもよく懐いている。

それはいいのだが……、

 

「お兄ちゃんがお嫁さんの方なの?というか普通は『パパのお嫁さんになる』とか『ママと結婚する』とかじゃないの?」

「だってお父さん、リリィのこと大好きじゃない」

「あんなおっかねぇ女嫌だ」

「いやいやいや、」

 

そう言いくるめようとしても、弟妹の勢いは止まらない。

むしろ強くなる一方だ。

……おかしいなぁ。

 

「…お兄ちゃんがお婿さんになる方じゃないんだ?」

「お兄ちゃん外に出したら面倒くさそうだもん」

「目ェ離した隙にどっか行くだろ」

「なら家を守ってもらってた方が安心だし?」

「ほら、ね?兄さん」

「いや、それは……」

 

シルバーバレットは弟妹たちの勢いにたじろぐ、が…。

 

 

「押し切られちゃった…」

 

現役を引退してそこそこ。

引退した瞬間に連行された家で僕は主夫業に勤しんでいる。

家の住人はもちろん弟妹たちで、幾人かは地方や海外にいてあまり帰ってこないけれど。

それでも、この家は賑やかだ。

 

「ごはんできたよー!」

「はーい」

 

ぱたぱたと普段着の妹がやってくる。

もうすっかり大人になった彼女は、とても美人で……、正直兄ながらちょっと心配なくらいドキッとする。

妹と結婚したいなら僕の屍を越えていけ!って感じに。

 

「いただきます」

 

きょうだい全員が住めるように建てられたこの家はデカい。

そして何がヤバいって敷地内に思う存分走り回れる場所があったりね。

買い物だって外で仕事してる子らが買って帰ってきてくれるし。

 

(…いや、ホントに主夫してんな)

 

 

弟妹たちにとって、『シルバーバレット』という兄はどこか不安定だった。

目を離した隙に霞になってしまうような、そんな不安があって。

だから、昔からシルバーバレットを家から出さないように引き止めていたし、彼が外に出るなら着いて行った。

 

「アイスでも買う?」

 

だが兄本人はまさか自分が弟妹たちにそう思われているとは一ミクロン足りとも思わない。

だから、実質監視役の弟妹に『いいお兄ちゃん』であろうとし…。

 

「美味しい?」

「ん」

「よかった」





僕:
シルバーバレット。
家の外に出したらどっか行きそうだからそうならない為に家にいてくれ!される系兄。
『あの父母のどこからこんなのが…?』と思われてたり思われてなかったり。
弟妹たちがブラコンであるように、コイツもブラコンシスコンであるため…幸せそうだな(こなみかん)。


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痴話喧嘩は犬も食わぬ


そしてチビも泣く。



「おじいちゃあん」

「ン〜?どうしたノ?」

「お母さんたちがまた家庭内別居したぁ」

「またか!」

 

ポテポテと自分にそう告げに来た孫にホワイトバックはその小さな体を抱き上げながらヤレヤレと息をつく。

思考の中心にいるのはもちろん現在家庭内別居をしている(らしい)娘夫婦のこと。

大概はすこぶる仲のいい夫婦であるのだが、たまーにこうして喧嘩をするのだ。

まあそれもいつものことであるからして、今更心配するようなことでもないが……しかし今回は少々深刻かもしれない。

というのもつい先日、娘の夫-ホワイトバックにとっては義息子にあたる、がちょっとした傷をこさえて帰ってきた。

傷の程度としては擦り傷に少々血が滲んでいるぐらいのものだったが、その下手人が下手人であったが故に夫婦は衝突して…。

 

(まぁ、あの娘はとっっても魅力的だけどネ?)

 

いわく、義息子を襲った下手人は娘に過去恋慕していたといい。

まぁここいらではそこそこの家柄の生まれだったのもあり、自分が娘の伴侶となるのだと吹聴して回っていたとか。

しかし、娘が選んだのは外から来た義息子であり、そもそも下手人含め回りなど眼中になかったのだと。

…というところで潔く諦めてくれればよかったのだが。

 

「でも、お母さんがおこるのもわかるし…お父さんがよかったっていうのもわかる…」

「そう」

 

歳以上に聡い孫のしょんぼりした顔に頬擦りしながら「でも長引くンだろうなぁ」と。

最愛の夫を傷つけられてブチギレている娘と、妻に何も被害がなくてよかったと胸を撫で下ろしている義息子と。

揃いも揃って自分が傷つくのはいいが相手が傷つくのは許さん!タイプなのはもうずっと前から知っていることである。

 

(とりあえず、なんかチビにご飯食べさせてやろ)

 

 

「きょうはおじいちゃんといっしょにねる」

「そっか」

「ひとり、さびし…くすん」

 

ぽろぽろと泣き出してしまった子どもを抱きしめると、すぐにくぅくぅと寝出した。

いつも父母のどちらかにくっついている子だから。

 

「いい子いい子」

 

でも…。

 

「そろそろ、ネェ?」

「「…」」

 

娘、義息子を正座させて、自分の服を引っ掴んで離さない子どもを起こさないように静かに叱り始める。

 

 

「んぅ、」

 

眠い目をこすこすして起きた子どもの目にまず入ったのは数日ぶりに揃って食卓にいる父母の姿です。

 

「おとーさん、おかーさん…?」

 

おはよう、と微笑む母の腕の中に飛び込んでいきます。

 

「ごめんな、寂しかったな。今日からは一緒に居られるから」

「ほんとう!?やったぁ!」

 

ぴょんぴょん跳ねる我が子に傍で見ていた父も微笑みます。

 

「そら、ご飯だから座りな」

「はぁい」





僕:
シルバーバレット(ちびっ子のすがた)。
歳以上に聡い子ども。
大体舌っ足らずで話すが父、母、家庭内別居だけはとても流暢に話す。
父母が仲良くしていると嬉しい。
案外家庭内ヒエラルキートップにいるかも?

祖父:
ホワイトバック。
孫溺愛系じいちゃん。
基本は娘夫婦をやさしく見守っているが孫の涙にすこぶる弱いため、ふにゃふにゃ泣きだしたらちょっと怒る。
娘夫婦が仲良くしているのが好き。
しかし基本的に家庭内ヒエラルキーは下の方に位置している。


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寂しがり屋で甘えベタ


ひかえめなんだ。



ソイツが、案外寂しがり屋だと知ったのは友人以上マブダチ未満の時期だった。

 

「…バレット?」

 

唇を真一文字に結んで、控えめに袖を引いてくる様があまりにもいつもの騒がしい姿とは違って見えて。

困惑する俺を他所に、勝手にハッとしたかと思えば「何でもない」なんて。

……いや、何でもないって顔じゃないだろお前。

そう思った俺は、思わずソイツの手を取って歩き出したんだっけな。

あの時のアイツの顔ったらなかったぜ?

あんまりにも間抜け面してるもんだから、つい笑っちまったよ。

 

聞けばソイツは弟妹がたくさんいる長子ってヤツで。

ワガママもなく、一心に弟妹たちを愛する姿はそれはそれはよくできた…っていうか、よくできた分、甘え下手だったらしい。

だから余計にそういうことされると構いたくなるんだよなって言ったら、「わーん!うるさい!」って叫ばれたっけなぁ……。

 

「そんなにからかってくるなら今日のご飯お茶漬けだからね!!」

「それでも(もと)じゃなくて、ちゃんと作ってくれるんだろ」

「ぅ、」

 

からかいすぎると拗ねるくせに、ちょっとしおらしくするとすぐに元に戻るところなんか特に小動物っぽい。

まあ、それを言うとまた怒られるだろうから言わねぇけどさ。

 

 

…まさか歳下に甘えさせられるとは思わなかった。

いま、僕はマブであるサンデーの膝に乗せられて頭を撫でられている。

それもこれも全部『運命』ってヤツが悪いのだ。

今日は朝からツイていなかった。

まず起きた瞬間にベッドの下に今日の分として置いてあった靴下を思いっきり踏んで転けた。

おかげで朝っぱらから肘とお尻を強打して蹲ることになったし、復帰したら復帰したで角に小指をぶつけるし。

しかもそのあと、今度はいつもしないのにパキッと卵を握りつぶしてしまう始末。

……なんという不運の連続だろうか。

 

「大丈夫か?」

「うぅ……」

 

しょんぼり、と落ち込んで、しくしく、と泣きはしないけれど気分的には泣いてしまいたいくらいには凹んでいた僕を見かねたんだと思う。

心配した様子で家に招き入れてくれた友人に、ぽつり、ぽつりと愚痴交じりに零せば黙って聞いてくれた。

そして最後にこう言われたのだ。

 

「よし、それじゃあ今からどっか行こうぜ」

「へ、」

「俺が運転すっから」

「いや待って待って待って!?サンデーの運転って…」

「でぇじょうぶでぇじょうぶ、事故りはしねぇから事故りは」

「事故りはしなくてもさぁ!?」

「おら、行くぞ」

「…はぁい。わっかりましたぁ」





ふたりはマブダチ:
銀弾&SS。
毎日楽しくやっているし、落ち込んでたら慰める。
また運転技術に関しては、銀弾が安全運転は安全運転だけど飛ばし屋なタイプで、SSが事故りはしないが煽られたら熱くなるタイプな感じ。
銀弾の運転は酔わないけど速度が速すぎて怖い。
で、SSの運転はマジでギリギリ攻めたどこぞのスタントみたいだから怖いんだとか。
…どっちの方がマシなんだろ。


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『運命』を知っていた


フラグは折るもの(至言)。



その言葉を受け取ったのは、真に自分の『運命』を知っていたからに他ならない。

どうせ短い先行きだ、ほんの短い時間であるから…などと。

 

「ホント!?」

 

思ったことを、その眼を見て後悔した。

しかし了承してしまってはどうにもならぬ。

それは、目の前の相手の真摯な気持ちを踏みにじる行為であり、何より自業自得なのだから。

 

(……)

 

 

その手紙が届いたのは、突然だった。

己の気持ちを受け入れてくれたあの子は遠い地で栄光を掴み取り。

もうそろそろ帰国の途についているであろうから、お祝いにどこか遠い場所に旅行だとか、良いところでディナーだとか、そういうことを考えていて。

 

『──この手紙が届いたころには、僕はもうこの世にいないでしょう』

 

そんな言葉から始まる手紙。

最初は何かの冗談だろうと思ったが、続く文面を読み進めるうちにそれが真実であることを悟った。

揺らめいていく筆跡。

涙で濡れて、よれた跡。

 

『キミとは、短い間だったけれど──』

 

"幸せ"と形作られたそこが滲んでいるのを目にした瞬間には、既に泣いていた。

「どうして」も、「なんで」も、届かない。

死人に声は───。

 

「え、えと、ただい、ま…」

 

ガチャ、と湿っぽい空気を切り裂くように。

カラカラというキャリーケースの音と共に気まずそうな声。

振り向くと、そこには頬をかく貴方。

 

「あー……ごめんね?」

 

申し訳なさそうにする貴方に微笑みかける。

そしてそのままゆっくりと歩み寄っていき……。

 

「おかえりなさい!」

 

思いっきり抱きついた。

それはそれとして、…分かっているよね?

 

 

決められていた『運命』が変わったのは、突然だった。

 

"まだソッチに行くべきじゃないだろ?オメーには待ってるヤツがいるんだから。ほら、帰った帰った!"

 

"そちら"へ行こうとしたのに、押し戻されて。

戻る中で自分に手を振る、自分によく似た【白い人々】を見る。

…で、結果。

 

「……分かったよ」

 

相手にあんな手紙を送って、多大なる心配をかけてしまった僕は、何年も経った今になってもそれを盾にしてワガママを押し通される日々を送っている。

 

「機嫌治して、ね?」

 

ただ、足りないものを買いにせいぜい10分くらいしかかからない近くのスーパーに行っていただけというのに。

姿が見えないから、と思わずビクついてしまうほどに連絡を入れて、それで慌てて帰れば泣きじゃくりながらひっつき虫で離れない大切な人に苦笑する。

 

「ずっとキミと一緒にいるよ。忘れたの?」

 

指切りげんまんしたら本当に指取られそうになったあの日を思い出して。

とりあえずは、

 

(…どうにかして、機嫌治さないと)





僕:
シルバーバレット。
『運命』を知っていた。
しかし【白い人々】に追い返されたすがた。
元より親しかった"誰か"と懇意になっている。
しかし、『運命』を知っていた結果、"誰か"に別れの手紙を送ってしまっては多大なるトラウマを植え付けてしまう自業自得…。
でも『運命』を越えたからには一緒にいる、と思うぐらいには"誰か"に情がある模様。


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変わらないモノ


強いものは、おそろしい。



はじめて会った"そのウマ(ヒト)"は、"あの頃"からキミの目を奪い続けてきた"そのウマ(ヒト)"は、ただぽつねんとしているだけの立ち姿なのに目を離せない光を持っていた。

まるで真っ暗闇の中に突如として差した唯一で、一縷の光源のごとく。

 

───ああ……なんて……。

 

「"綺麗"なんだろう」と、心が震えたのだ。

そして同時に、恐ろしく思った。

だってアレは、()()()()だ。

ヒトには理解できぬ埒外に位置する存在…。

ただウマ(ヒト)というガワを持っているだけで、その中身は()()()()()のだと本能的に察してしまった。

だから近づいちゃいけないと思ったし、関わること自体ダメだとも感じていたのに。

でも……それでも心は、あの日垣間見た『走り』を振り払うことを拒んだ。

この身に触れた突風を拒絶することが出来なかった。

 

『……』

 

そりゃあ、キミも目を奪われるよねって。

分かってしまったからにはもう苦笑するしかない。

キミの目を奪いたいのは今も変わらないのに、()()()を知ってしまった今となっては心にどこか諦めがある。

もし、あの光に魅せられていなかったなら強がりなり何なり言えたかもしれないけど……。

 

───あぁ、いいなぁ。

 

 

そのウマが"そのウマ"だと知らなくても、誰もが目を惹かれて。

いや、見ざるを得ないのだろうと思う。

魂から刻み込まれた"何か"によって、自然とその視線を引き寄せられていくに違いない。

そう思わせるほどに……そのウマは、他の追随を許さない存在感を放っていた。

……しかし、そんな姿を見ていると、ふとした疑問が湧き上がってくる。

「どうして自分はこんなにも惹きつけられるんだろう?」と。

確かにそのウマは学園に通う者たちの中でも見ないくらいに小さ…小柄で、長く伸ばした髪の隙間から火傷跡が見えるが、それを差し引いても人目を惹くとは…。

 

説明できない理由。

いや、もっと根本的な部分で、惹かれる理由があるはずなのだ。

それは一体なんだ?

そのどこに、自分は強く心を揺さぶられているのか?

……分からない。

どれだけ考えても、考えても、考えても、答えが出なかった。

だから結局、自分が何故ここまでそのウマに惹かれてしまうのか分からないままだったのだが……今は違う。

 

『……』

 

ジィ、と見ている。

その走り姿を。

"あの頃"とは()()()()()()けれど、その疾さは『本物』のまま。

きっとコレこそが自分の求め続けていたモノだったんだね。

 

『これが欲しかったんだ…!』

 

そう叫び出したくなる衝動を抑えながら、じっと見つめ続けた。





あるウマ:
ウマソウルにしっかと刻み込まれた存在。
ただそこに在るだけで他人の目を惹いては星のように去っていく。
だが、あるウマ当人は自分のことを『普通』だと思ってるからなぁ……。


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幕は下がって、


そして【鯨】の夢を見る。



飛び起きると冷や汗をじっとりかいていた。

横を見るとそこには自分が飛び起きたのに一緒に起こされたのか、「…?」と目を瞬かせながら起きる親友。

 

「なぁに、ねつけないの…?」

「いや、」

「なにか…つくろうか。おなか、へったし」

 

繋いだ手は、寝起きだからか熱い。

だが、今はこの熱に安堵を覚えて仕方がない。

それほどまでに、あの【夢】は。

 

「いつも、ぐっすりなのにねぇ」

 

軽食はそう時間の経たないうちにできあがった。

甘いピーナッツバターのトーストと、それぞれの好みにあったコーヒー。

僕はブラックで飲むけれど、キミはミルクと砂糖たっぷりだ。

 

「いただきます」

「はいどうぞー」

 

さくりとした食感のあとに広がる甘みと香ばしさ。

それに思わず頬が緩む。

 

「おいしい……」

「よかったー」

 

ふわりと笑う姿に、ズキリと軋む心。

先ほどの【夢】の余韻。

けれども。

 

「大丈夫だよ」

 

───僕は、どこにも行かないから。

 

 

【夢】を見た。

最悪な【夢】だ。

冷たい身体、動かない身体。

そんな小さな身体がさらわれて。

僕の傍には───誰も。

耐え難い、孤独だった。

そして、目が覚めた時。

隣にいるはずの存在がいないことに気が付いて血の気が引いた。

慌ててベッドから出てリビングに向かう。

そこにいた親友の姿にほっとして力が抜けた。

 

「あ、おはよう~」

「……何してるの」

「ん?トイレに目が覚めたらそのまま目が冴えちゃって」

 

伸ばした手が震える。

それを相手も分かっているのか、「大丈夫大丈夫」と努めてやさしく、慈愛のように告げて。

その手に引かれるように抱きしめられる。

伝わる温もりにようやく呼吸ができたような心地になる。

ああ、そうだ。

ここにいるのだ。

ずっと、共に居てくれる人が。

 

「……ありがとう」

「ううん。気にしないでよ」

 

ぎゅっと抱き着いて、体を触る。

肉の感覚、熱。

ひとりは、嫌だ。

ひとりは、怖い。

ひとりになると、何もかもが色褪せる。

まるで…モノクロの世界に取り残されるような。

 

「……いっしょに、二度寝する?」

「そ、れは…」

「僕は構わないけど?」

「じゃあ…」

 

 

案外、寂しがりなのだと考える。

起こさぬように撫でた眦は隈で黒くなっていて。

『もうそんな季節だったか』と。

 

見てのとおり、我が親友はある一定の時期になると不安定になる。

本人が話したがらないので聞き出すことはしないが、十中八九自分が関係しているのだろうと予想はできるので。

 

「大丈夫だよ」

 

ここにいるよ、と。

祈るように、また僕はその大きな体に擦り寄った。





【栄光を往く者】:
グローリーゴア。
ずっと一緒だからこそ、()()()()がある。
一定の時期に差し掛かると不安になりがち。
なので常に【戦う者】に引っ付いたり、スキンシップを取っているとか。

【戦う者】:
サンデースクラッパ。
詳しいことは分からないが要因に自分が絡んでいることぐらいは察している。
故にその期間中はスキンシップにもあまり口うるさく言わないらしい。


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結ばれて、


大きな家で三人暮らし(まぁすぐ増えるんですけど)。



みっともなく縋って、俺が唯一『愛』を乞うた女は、そんな俺の姿を見て「耐えきれない」とでも言うかのように吹き出して笑った。

 

「あーっはっは! はぁ……まったくもう……」

 

呆れたようにそう言って笑う彼女を見て──俺はようやく気付いたのだ。

ああ、そうか。そういうことだったのか、と。

彼女は、俺を毛嫌いしているわけではなかったんだな、と。

ただ単に…一心に、真っ直ぐに『愛』を囁かれるのが恥ずかしくて、それであんな態度だったのだと、熟れた果実みたく赤く染まった頬を見て思った。

 

「結婚、してくれないか」

「…初めっからそのつもりだよ」

 

 

『愛される』と、ヒトは美しくなるのだと気がついたのはいつだったか。

 

「……」

 

ぽ〜っと、義父と共に、つけているテレビなんてものともせず見つめる背中は美しい。

料理中だからとまとめあげられた髪は毎晩見ているこちらが「大変だなぁ」と思うぐらいの時間がかけられている分、美しい。

 

「なンだぁ、私のケツばっか見て」

「いや……綺麗になったと思って」

「そりゃお前さんのおかげだろうが」

「え?」

「そら、そろそろメシ出来っから片付けしてくれや」

 

ふふん♪と鼻歌を歌いながら戸棚から食器を取り出す様子は見ずとも機嫌がいいと分かる。

「おいで」とジェスチャーされて、隣に立つと「ほい」と今日のおかずを口に放り込まれるのに、

 

「あづっ!?」

「ハハハ」

 

 

はじめは心配に思ったけどなァ。

そう考えながらホワイトバックは茶を啜る。

 

入婿となったあの子は、愛娘がある日突然連れて帰ってきた子だった。

聞くに一目惚れで告白されて、それに愛娘の方も感化されてしまったものだから。

入婿の方は「友だちから始めましょう」でよかったのに…。

「私コイツと結婚する!」と一気呵成に初対面の日に同棲に持ち込んだ手腕は流石我が娘と言うべきか。

 

まあ、それはさておき。

そんなこんなで始まった結婚生活だったが、めちゃくちゃ上手くいった。

ここら辺はだいたいが自給自足のド田舎なのではじめは大丈夫かと思ったが、元より幼いころから畑仕事をしていたという入婿はホワイトバックによって案内された敷地内の半分以上が使われていなかった畑を見て、まるで子どものように目を輝かせていた。

そしてそれからというもの毎日朝早くから起き出してせっせと畑仕事を始め、一段落つくと若夫婦ふたり連れ添って散歩に出たり買い出しに出たりするようになり…。

 

「そう大きな喧嘩もないからねェ…。よきかなよきかな」





家族:
ホワイトバック&ホワイトリリィ&ヒカルイマイ。
なおヒエラルキートップはもちろんホワイトリリィな模様。
結構な田舎に所在しているお家。
築何年かは不明だが家の敷地内に畑がある程度にはデカい。
また家の近くに山があったり小川があったりと、まぁ自然豊か。
でもその分虫も多いので…慣れていただくしか…。


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好きこそ物の上手なれ


一族全員料理上手いんだ。



元より稼いでいるのはそうだが、走ること以外に大して興味のないシルバーバレットが唯一凝るのが『料理』だった。

そもそも実家時代から祖父、母が料理上手で、父も手ずから家庭菜園(…と言っていい規模なのかは諸説あるが)であれこれと作っている家庭だったから自ずと舌が肥えていた。

それに、下にたくさんの弟妹がいたのもあって自然と母が忙しい時におやつや食事を作ってやったりしていたものだから、料理自体は嫌いではない。

むしろ好きだ。

 

「…ん〜?」

 

ただ、シルバーバレットは凝り性なので、誰かに料理を作るとなると自分の納得のいく味になるまではとことん追求してしまうのだ(しかし自分が食べる分に関しては父譲りに食べれさえすればいいという思考である)。

 

「う〜む、」

 

カチャ、と棚を開ければそこには壮観なまでに集められた調味料の数々。

そのどれもが一般家庭の料理に使うには中々に高価で、尚且つ普通の店では手に入らない入手困難なものばかり。

 

「やっぱ、コレ使うか」

 

シルバーバレットが手に取ったのは実家時代からよく慣れ親しんだ醤油…。

あの頃は好き勝手使ってたけど、後々調べてみるとウチん家が個人的に取引してただけで基本は老舗とか…そういうお店にしか卸していないらしいものだとか。

凝り始めてから何度も聞いた同じような話に『ウチん家、料理好き過ぎだろ。それも作る方』と呆れてしまう。

 

「まぁ、いいや」

 

シルバーバレットは醤油を目分量で鍋に流し込み、火をかける。

するとすぐに香る匂いに『うん』と頷く。

実家にいた頃、母がよく作ってくれた料理を思い出すような懐かしい香りだ。

 

(お袋の味……ってヤツかな?)

 

自然と笑みが溢れるのを感じながらもシルバーバレットは具材を鍋に放り込む。

自分が食べる分だけなので切り口等が適当だが、まぁいいだろう。

 

「多少雑でも美味しいしね」

 

鍋をかき混ぜながらシルバーバレットは鼻唄を歌う。

「ふ〜んふん♪」と機嫌よく口ずさみながら味見をしてみればちょうどいい塩梅で思わず笑みが溢れる。

 

「……うん、上出来」

 

そして火を止めればあとは取り出した食器に盛って。

 

「いただきます!」

 

 

「…すげぇな」

「何がぁ?」

「いや、…食器とか調理器具とか調味料とか」

「でも美味しいでしょう?僕の料理」

 

何気なしに僕のキッチン()を覗いたらしいマブが呆れたような、感嘆したような息を漏らす。

 

「いや、美味いんだけど……なんつーか」

「?」

「……お前の家って、マジで料理屋かなんかか?」

 

僕は思わず首を傾げる。

そんな僕の反応にマブは『え?違うの?』とでも言いたげな表情で僕を見るから。

 

「ふつ〜の、一般家庭ですけど…?」





僕:
シルバーバレット。
自分が食べる分は適当だが、誰かが自分の料理を食べると考えると途端に金に糸目をつけなくなる一族の子ども。
なので黄金律EXで増えまくる資産は寄付以外大概が料理関係に費やされている模様。
だって、『美味しい』って誰かが言って、笑ってくれるのが好きなので…。


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一番怖いのは


それは、誰を守るためなのか。



シルバデユールの同室であるシルバープレアーは元々がそういった星の生まれなのかと言いそうになってしまうくらい、絡まれやすい体質だった。

澄ました顔が気に食わない、だとか、調子に乗っている、だとか。

そんな理由で秘密裏に呼び出されては相手が満足するまで特に何もせずただジッと見守っては一発もらって帰ってくる。

何とも言えない気持ちになりながらそのたびに治療を施す日々が続いたある日、ふとした疑問からつい口を滑らせてしまったのだ。

 

「……ぷ、プレアーさぁ」

「はい?」

「あ、あの先輩たちに、な、何かしらされるって、わ、分かってるんでしょ?だったらなんで、わ、わざわざ呼び出しに応じてるの?」

「…………」

「そ、それに、ここここんなに怪我してたら、せ、先生にもバレちゃうし……。だ、だから、ぼ、僕としてはや、やめて欲しいカナ〜って、お、思うんだけど……」

「…………」

「プ、プレアーさん?」

「…………」

「えっとぉー……」

「……」

「きゅ、急に黙らないでよ!」

「……いえ、別にそういうわけでは。少し考え事をしていただけです」

「考え事!?今この状況で!?」

「はい。それで、先輩の呼び出しに応じるなって話でしたっけ?」

「そ、そうそう」

 

だって、シルバデユールは心配なのだ。

いつもどこかしらに痛々しい痣を作って帰ってくる同室が。

また大切な後輩の体の、他人には見えないところを狙ってやるのが小賢しいと内心ハラワタが煮えくり返っているのもあるのだが。

しかし一番の問題はそこじゃない。

シルバープレアーは自分の身を守る術を持ち合わせていないのだ。

だからこそ余計に危ないと思う。

ので、シルバデユールは心配しているのだが。

 

「そんなに心配しなくても大丈夫ですよ、先輩」

 

 

本来ならば。

こうやって呼び出されたり何だりするのはシルバープレアーの役目ではなく、同室であるシルバデユールのはずであったのだ。

がしかし。

そうであるならば今のこの現状は何なのか。

それは。

 

(僕よりもデユール先輩の方がずっと怖いんですよね〜、この方々はそれに気がついていないけど)

 

たしかに、シルバデユールはオドオドとした性格だ。

非常に人見知りであるし、また声も小さい。

格好の的になるだろうことは目に見えている。

だがそれを差し引いたとしても。

シルバデユールというウマは強い。

弱そうなんて、とんでもない話であった。

確かに体格的には恵まれてはいないかもしれないが、それでも自分の身を守れる程度の力はある。

ただそれを表立って出さないだけであって。

また、

 

(デユール先輩は怖がりだから。…怖がりだからこそ危ないんだよ)

 

怯えやすいタチであるが故に。

恐怖してしまったが最後、タガが外れてしまう。

自分の身を守るために、手加減を忘れて相手をこらしめてしまうのだ。

そしてそれがエスカレートすればどうなるかなど火を見るより明らかで。

だから。

 

(これも仕方ない、か…)





同室組。

【銀の祈り】:
シルバープレアー。
絡まれやすいタチだが絡まれても塩対応しまくるし、特段何も気にしていない。
でも怪我の手当を毎回同室である【純なるサラ系】にしてもらうのには「ご迷惑を…」と思っている。

【純なるサラ系】:
シルバデユール。
【銀の祈り】の先輩であり、オドオドとした性格のウッマ。
だが怖がりであるが故に一度スイッチが入ると中々止まらずバーサーカー化してしまうので、それに勘づいている【銀の祈り】に人知れず庇われ、肩代わりされている。
でも【純なるサラ系】自身は、自身のその素養に気がついていないため、ほぼ毎日どこからしらを怪我して帰ってくる【銀の祈り】にヤキモキしている模様。ちなやる時はやる御方である。


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救いはまだか



これはとある英雄譚の第二幕であり、
その主役である()()が、いつか『夢』見(あこがれ)()()に、
───救われるまでの、物語。


ウマ娘 Who are you ?

Ep.1 怪物に名前はいらない




1:名無しのトレーナーさん

 

これホントにウマ娘なんですか?そもそもウマ娘でやっていいんですか???

【『ウマ娘 Who are you?』と銘打たれているコミカライズの表紙画像】

 

 

2:名無しのトレーナーさん

 

ウンまぁハイ…

 

 

3:名無しのトレーナーさん

 

初っ端からホラーだよ!

 

 

4:名無しのトレーナーさん

 

>>3

プリティーじゃないからね…

 

 

5:名無しのトレーナーさん

 

アレ、画風違う=主人公がソレを認識してるか・してないかって気づいた時トリハダ立ったわ

スクリーントーン使った少年漫画っぽい画風(自分自身含め家族などちゃんと認識してる人々や物)←→シンプル線&白黒な昔のカートゥーンっぽい画風(認識してない人々や物)なのがね…

 

 

6:名無しのトレーナーさん

 

クラスメイトすらろくに認識してない主人公ェ…

 

 

7:名無しのトレーナーさん

 

>>6

だって自分の視界に入らない人を認識できる道理はないでしょう?

 

 

8:名無しのトレーナーさん

 

に、逃げウマァ…!

 

 

9:名無しのトレーナーさん

 

もうラスボスがラスボスになるまでの過程見てるんだよ

 

 

10:名無しのトレーナーさん

 

そもそも話しかけられても何言われてんのかよくわかってない時点で…

 

 

11:名無しのトレーナーさん

 

最新話が来る毎に「元凶さぁ…」ってなる(なった)

どう足掻いたってアイツのせいだよ!!!!

 

 

12:名無しのトレーナーさん

 

サンスク…ゲフンゲフン、主人公も脳焼いていった側なんだけど、主人公自身は元凶に脳コゲッコゲ…

故に同世代から向けられるクソデカ矢印ガン無視という(白目)

 

 

13:名無しのトレーナーさん

 

本当にこう…、最終話爽やかに終わるかなぁ…?

 

 

14:名無しのトレーナーさん

 

米国編になったら何とかなるからヘーキヘーキ()

 

 

15:名無しのトレーナーさん

 

とはいえ元凶みたく「走るのが好き」ってワケでもなく、ただの義務感というかそういうので走ってるんだよなぁ…

で、本人の気持ちを置き去りに祀りあげられる感じ…

あ、それは元凶も同じでしたね(白目)

 

 

16:名無しのトレーナーさん

 

>>15

でも主人公は救われたいとは思ってないんだ

 

 

17:名無しのトレーナーさん

 

>>16

まぁ、赦しも救いも、自分がそうって受け入れなきゃ話にならんもんなんで…

 

 

18:名無しのトレーナーさん

 

登場人物が曇るんじゃなくて読者の方が曇らされるなんて…たまげたなぁ

 

 

19:名無しのトレーナーさん

 

救い…、救いは…?

 

 

20:名無しのトレーナーさん

 

はよ来てくれグローリーゴア!

 

 

 





【戦う者】LArcシナリオ√軸でのコミカライズの話。
鞍上要素(主に精神面)をぶち込んだ結果、ね…?

『ウマ娘 Who are you?』:
プリティーついてない&転換期に至るまで徹底的に主人公の名前等諸々(例:吹き出しなどで巧妙に隠される顔…他etc.)が明かされない系コミカライズ。
またの名を『読者が曇る漫画』。
だって元から視界バグってるわ、味分かんないわの主人公だから…。
また記念すべき第一巻表紙は、レースを終えたあとの本来███(誰か)の顔があるところがザッと黒ペンキで塗られた風でその上から『Who are you?』とストリートな字体で書かれている。
顔もなくば名前もない怪物…ってコト!?

それはそれとして、とりあえず【栄光を往く者(ヒーロー)
はよ来いが読者の総意な模様。

…ちな最終巻は第一巻と同じ構図で満面の笑みの【戦う者】になるんで……そこまで、頑張って定期。
とりあえず週間誌で連載オナシャス。


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【鬼】という名の亡霊


挑戦者が現れました。



1:名無しのトレーナーさん

 

VS銀弾(骨折なし全盛期) 鞍上鬼才ver.白峰おじさん

【実馬銀弾画像】

 

 

2:名無しのトレーナーさん

 

ウアーッ!?!?!?

 

 

3:名無しのトレーナーさん

 

これは…どうなるんや?

 

 

4:名無しのトレーナーさん

 

技量からしてみると鬼才Ver.の方がずっと上なんでしょうけども…

 

 

5:名無しのトレーナーさん

 

そもそも勝てます?コレ

 

 

6:名無しのトレーナーさん

 

よし、行け!シルバーチャンプ鞍上白峰遥!!

 

 

7:名無しのトレーナーさん

 

鬼才ver.をソレに乗せたらアカンでしょ

 

 

8:名無しのトレーナーさん

 

白峰おじさんは銀弾亡くしてからがバケモンだからな…

日本ではG1は勝たなかったとは言え、G2G3とかでは無双無敵状態だったし…

 

 

9:名無しのトレーナーさん

 

鬼才ver.おじさんが鞍上になったらどんだけゲート難な馬でもコンセントレーション取得してくるし

 

 

10:名無しのトレーナーさん

 

本来逃げ馬じゃない馬でもバンバン逃げさせて勝たせるからこの鬼才さぁ…

『逃げの名手』とかそういう次元じゃないんよ

 

 

11:名無しのトレーナーさん

 

鬼才は馬場も距離延長もお手の物でしたもんね…(白目)

 

 

12:名無しのトレーナーさん

 

騎手が適正魔改造するんじゃないよエーッ!

 

 

13:名無しのトレーナーさん

 

やっぱ戦う場所は府中なんスか?

 

 

14:名無しのトレーナーさん

 

元から壊れてんのをもっと壊れさせるな定期

 

 

15:名無しのトレーナーさん

 

たぶん観客席は満杯になるやろけど…この状態の白峰おじさんが操る銀弾見てよかったなって思えるかどうか…

あのレコードを超えたタイムを出されたとしても

 

 

16:名無しのトレーナーさん

 

これは銀弾セラピーが必要ですね!

 

 

17:名無しのトレーナーさん

 

>>16

そもそもお前が原因やろがい!!

 

 

18:名無しのトレーナーさん

 

出走馬とか鞍上はどうなるやろなぁ

 

 

19:名無しのトレーナーさん

 

競馬星人さんがアップしております

 

 

20:名無しのトレーナーさん

 

とりあえず白峰おじさんは銀弾のこと離さなさそう

 

 

 

───────

─────

───

 

ある意味、亡霊のようなものだ。

遠に死んでしまって久しい存在が、その記憶を持った素体に入って蘇っただけのこと。

 

「…ん、バレット」

 

唇から紡いだ言葉は、あまりの時間音にしなかったこともあって、どこか覚束無い。

 

「元気、満々だね」

 

ふるる…といななく様は『はやく走らせろ』と言うようで。

「もう少し待ってね」と言えば、仕方なさそうに僕に擦り寄ってきた。

 

「…あぁ、」

 

離れたく、ないなぁ。





白峰おじさん(鬼才ver.):
騎手白峰透。
『運命』を亡くしたあと。
『運命』もバケモノであれば、鞍上である彼自身もバケモノだった。
精神面的に騎乗依頼は少なめだったがG2G3ならサラッと、フツーに勝ってきていた。
また、ただ一介の騎手であるはずなのに芝馬をダートで勝たせたり、また逆したり、距離延長させたり何だりをしてた。因子継承かな?(すっとぼけ)


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はじめましてと笑う


いつかのあの子。



シロガネカイコウというウマ娘がいる。

かの"銀弾"に育てられたという彼女は未だ『本格化』を迎えていないのにも関わらず…大きな注目を受けていた。

 

『アレでまだ本格化してないのか…?』

『…らしいぞ』

 

ヒソヒソと囁かれる声もいざ知らず、当の本人である彼女はご機嫌よく闊歩する。

ユラユラと揺れる尻尾に歌われる鼻歌…。

しかしその体格は遠に『本格化』を迎えている高等部のウマでさえも思わず「ヒッ!」と声を上げ、端に寄るほど雄大で。

 

「カイコウさん!ちょっと待ってください!」

「ん?なんだ、黒坊か。どうした?」

「どうしたじゃないですよ!今日こそは教室に…!」

「いや、……はぁ」

「むぎゅ!?」

 

そんなシロガネカイコウを呼び止める声。

その声に振り返るとそこには随分と探し回っていたらしい彼女のクラスメイト-キタサンブラックが。

今日こそはシロガネカイコウに授業を受けさせようと意気込んできたはいいが、

 

「そらよ黒坊。フカフカでいいだろ〜?」

「むぐむむ…!」

 

身長がなんと2m近くあるシロガネカイコウは、その恵まれた体格に伴った胸部装甲()を持っていて。

シロガネカイコウの胸元に抱き寄せられたキタサンブラックは、その豊かな双丘に顔を埋めながらジタバタともがく。

 

「ん〜?黒坊はおっぱいが大好きなんだな〜?」

「むぐー!(違いますー!)」

「ほれほれ、もっと堪能しろ〜」

 

そんな様子に思わず笑みを漏らしつつ、シロガネカイコウは豊満な胸で暴れるキタサンブラックを優しく抱きしめる。で、

 

「…これでよし!」

 

結果、くるくると目を回したキタサンブラックを優しく安置するとシロガネカイコウはトレーニングへと向かった。

 

本日の勝者…シロガネカイコウ。

 

 

幼い頃より、かの"銀弾"に育てられたシロガネカイコウは走ることと並行して様々な知識も授けられていた。

なにせかの"銀弾"である。

その持ち得た金銭的な財産もさることながら、その所蔵量も多岐に渡る。

特に古今東西の書物が集められた私設図書館はシロガネカイコウのお気に入りで。

 

「今日はこれと……それからこれも」

 

その私設図書館には様々な本が収められている。

歴史書、文学書、図鑑や事典に至るまで幅広く取り揃えられており、今日も今日とて彼女は本を読むために訪れたのだが。

 

「む……」

 

そんなシロガネカイコウの前に一人のウマが立ち塞がる。

 

「カイコウ」

「ちっ、」

 

ひどく静かに、そう告げたウマの名はシロガネハイセイコ。

かの"銀弾"の長子であり、いま現在はその"銀弾"のサポートを受けながら当主業をしている者だが。

 

「また何でこんなところで……」

「学園からこちらへ連絡が来たからです」

「だる…」

「……それはこちらのセリフです」

 

シロガネカイコウの返答にシロガネハイセイコは頭を抱える。

しかしそんな様子にも全く動じず、彼女はいつものように本を読み始めた。

そんな様子をしばらく眺めていたハイセイコだったがやがて諦めたようにため息をつくと踵を返す。が、

 

「お祖母様に言いつけますからね」

「はァ!?いや、リリィさんはいま関係…!」

「貴女にはお祖母様からキツく言われるのがよく効くようなので」





【邂逅】:
シロガネカイコウ。
クソデカウマ娘。
また自分の肉体に恥じるものは何一つない!と公言するタイプの子でもある。
だが、幼き日よりかの"銀弾"に育てられたためか、文武共に優秀ではあるが、優秀であるが故にサボり気味(とはいえトレーナーと出会えばそれも改善される)。
ちなキタサンブラックやドゥラメンテと同世代で、キタサンブラックのことを『黒坊』と呼んではよくからかっているらしい。
しかしドゥラメンテ相手にはちょっとタジタジだとか。
たぶん国内では善戦ウーマンだけど、国外に出るとクソ強系のウッマ。
さすが銀弾の血…かな?


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嗚呼、素晴らしき


変わる前と変わったあと。



何の感慨もなく、また光も無いはずの目に()()が宿った───。

 

「あ、███!」

 

まさにそうとしか呼べない事態に、誰もがひどく動揺した。

どれほど話しかけようが軽い反応しかなく、誘いをかけても「トレーニングがあるから」と競走バとしては理想的な断り文句をつけて。

誰にも靡かず、何にも興味を抱かず…生きていたような()()()()

 

「どうしたの?」

 

───そんな、幽霊でも見たような顔して。

ニコリと笑んで、ゆるりと開いた瞼から見える色は()()

ただ単色で塗り潰されただけのような目が、人知れず。

本来なら()()()()()()()()()()()()()()()()に染まっていて。

 

「…ふぅん?変な███」

 

 

ガラス越しか、それともスクリーンに映ったものを見ていたのか。

そんな心地で生きていた十数年。

"あのウマ"に魅せられてしまってから、己は一介の幽鬼であって。

遠に届くはずもない影を求めて手を伸ばすだけの、どうしようもなく惨めな存在に成り果てていた。

 

「はぁ……はぁ……」

 

だから、これはきっと夢なのだろうと。

また今日も、夢の中で走るのだろうと───そう思っていたのに。

 

「はっ……はっ……!」

 

夢にしては妙に現実味があって。

しかし現実にしてはやけに希薄な感覚で。

そんな矛盾した世界に自分はいた。

"あのウマ"と同じ世界にいるという実感が持てないまま、ただ走っていた。

 

(なんでだ……?なんで…?)

 

ずっと追い求めていた背が、ハッキリとはいかないまでも()()()

音も、時間も置き去りにして、動いているのは自分と"あのウマ"だけという夢のような、夢でしか、許されないような。

 

「はっ……はっ……!」

 

走る。走る。

ひたすら、ひたむきに。

追いつきたいから?

それとも"あのウマ"に速いと(自分を)認めて欲しいから?

 

(違う……!)

 

そうじゃない。そうじゃなくて───!

 

「はぁっ、はぁ!!」

 

"あのウマ"は走っている。

その背を追っている自分も走っている。

それまでは肺が破裂しそうなくらいに息があがっていたというのに、今は不思議と身体はよく動いてくれていて。

 

(なんでだ……?でも、そんなことどうでもいい!!)

 

なんで自分は走れているんだ、とかいうのは後で考えよう。

だから、今は───。

 

「待っ───」

 

手を伸ばした瞬間、耳を劈く音。

それにビクゥっ!と体を振るわせれば『おめでとう!』と降り注ぐ歓声。

 

「ぁ、」

 

その祝福を聞きながら、自分は。

 

(もう、終わっちゃったのか…)





目:
『領域』に入る前と後を比べると目が変わっている系列。
『領域』に入る前は基本バケツツールで塗り潰したみたいな目をしているが、『領域』に入った後だとみんな揃いも揃って銀灰色になっているらしい。


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遅くなった『答え』


───さ、飲み干して。



「お店に行こうよ!」

 

そう言われて、『珍しいこともあるものだ』と『本当は行きたくないがキミがそう言うなら』のふたつの気持ちで赴いたのは確かに、さすがキミが選んだ店だと感嘆の息を吐きたくなるぐらいに趣深い店だった。

 

「知る人ぞ知る店ってヤツらしくてね」

「ふぅん」

 

ネオンから遠く。

ただぼんやりと光る街灯と同じように注意して探さなければ見つからないようなその場所は、やはり中もムーディーだった。

 

「いらっしゃいませ」

 

そう言って出迎えてくれたのは初老の男性。

白髪をオールバックにした彼はこの店の店主らしく、席に着くと同時にメニューを手渡される。

 

「ご注文がお決まりでしたらお呼びください」

 

……なるほど。

見回すと自分たち以外には誰もいない。

聞けば不定期に、また店主さんの趣味でやっているに近い店だと言い、「今日は頼んで開けてもらったのだ」と申し訳なさそうにするキミに首を振る店主さんの様子は思った以上に気安い。

 

「あはは、そんなに拗ねないでよ」

「拗ねてない」

「まぁ、グローリーが拗ねても可愛いだけなんだけどね」

「っ……」

 

キミのこの言葉に店主さんは苦笑い。

どうやらキミは、僕が拗ねていると思っているらしい。

……いやまぁ、確かにその通りだけども。

 

「あぁもう悪かったよ!今日は奢るからさ!」

「……はぁ」

 

メニューを見るフリをして顔を背ける僕にキミは謝り続ける。

そんな姿に店主さんはさらに苦笑いを深めて、「ドリンクはもう決まってますので」と告げる。

 

「ワッ!て、ててて、店主さん!!」

「ふふ、すまないね」

「…?」

 

顔が真っ赤になっているキミとは裏腹に店主さんは洗練された動きでカクテルを作っていく。

 

「さ、ご注文の────」

 

 

「…やっぱり酔っ払ったね」

「ごめんね」

「いや、」

 

千鳥足が激しい体をおんぶして。

ふにゃふにゃと今にも眠りそうな吐息を聞きながら、僕はキミの体温を感じる。

 

「……」

 

……まったく。

本当にキミはずるい人だ。

そう思わずにはいられない。

だってそうだろう?

 

「僕にはXYZで、キミはコープスリバイバーか」

 

いつかに贈った999本の黒薔薇の答えのような。

キミが頼んでいたカクテルは、そんなお酒だった。

 

 

…あぁ、頭が痛い。

なんだかとても幸せな夢を見た気がする。

夢の内容は思い出せないけれど、体調はともかく気分はいい。

そんな目覚めだ。

 

「…」

 

なんとなくベッドサイドの時計を見る。

……ふむ?もう9時か。

休日とはいえ少し寝すぎたかもしれないなと反省しながら体を起こして伸びをしようとして。

 

「起きたかい?」

「あ、」

「見るからに二日酔いだろう?」

「ん〜?…あぁ、そう、なの?」

「キミ、普段はそんなに飲まないからね」

 

……あぁ、そうだ。そうだった。

昨日の記憶が徐々に戻ってくる。

昨日はバーに行ったんだ。

そしてそこで頼んだお酒を自分には合わない度数だって知っていたけど飲み干して。

それで店を出てから帰っている途中で頭が痛くなって……それから?

それからの記憶がないな?

うん?

僕は一体どうしたんだっただろうか??

まさかどこかでぶっ倒れて頭でも打ったかなと記憶を遡る僕にキミは苦笑いしながら言う。

 

「キミの気持ちは受け取ったよ」

「…さいで」





XYZ→永遠にあなたのもの
コープスリバイバー→死んでもあなたと


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ふたりで『幸せ』


だから、───邪魔しないでよ。



アウトローなシロガネツーパックと大人しいサイレンスヘイローは周囲の見解に反して対等で、仲がよかった。

 

「…また、喧嘩?」

「げっ、」

「トレーナーさん、心配…」

「わ、わぁってる、が…」

 

はじめは、仕方なしの同室。

双方互いに家庭に難があり、その問題が影を落としたこともあったが。

 

「だァから、俺はなァ! アイツを心配してんだよ!」

「それにしては、随分と回りくどいやり方をしたね?」

「あ゛ぁ!?」

「サイレンスヘイローは、キミに『嫌われている』と誤解していたぞ」

「……チッ……」

 

だが、徐々に情が移る。

はじめは嫌々ながらも共に暮らし、共にトレーニングを行うことで互いに心を開きあい、喧嘩もできる間柄となった。

がしかし。

 

「サイレンス」

「…」

「ん」

 

気づけば共依存。

似たような境遇を持つふたりは自身に残る消えない"疵"を、互いで埋め合って。

 

「サイレンス」

「……なに?」

「好きだ」

「……っ、わ、私も……好き……」

 

互いの疵を互いに舐め合い、慰め合う。

そんな関係がズルズルと続いてしまった結果が──このザマである。

 

(……どォしてこうなっちまったかなァ……)

 

親愛なる我が勝利の女神サマ(トレーナー)に向ける感情とはまた違ったモノ。

まるできょうだいのようになりながらも、互いに互いが自分から離れるのを許さない。

 

「サイレンス」

「ん、なぁに?」

「……いや、なんでもねェよ」

 

それはまるで、恋人のように。

 

(……はァ……)

 

そんなふたりを見て──かつてふたりをトレセン学園にスカウトしたシルバーバレットはため息を吐いた。

 

(でも、仲良きことは美しきことかな)

 

それは羨望か、それとも呆れか。

それともその両方なのか。

どちらにしろ──シルバーバレットにとってこのふたりは、とてもじゃないが放っておける子ではなかったから。

 

「や、ツーパック」

「……なンだ?」

「ふたりとも、そろそろ進路を考えなくちゃあいけないよ。キミたちの進路希望表が来ないって、先生たちも困ってるみたいだし」

「……」

 

それはシルバーバレットなりの気遣いだった。

今のままではダメだと──ふたりを想うが故の言葉であったのだが……。

 

(まァ、そう上手くはいかないよねぇ)

 

みんな、ふたりのことを想っているけれど。

ふたりにとっては知ったこっちゃないのだ。

でも、ふたりが言うことを聞く相手はふたりの面倒を見るトレーナーや、シルバーバレットを含むチームの人々だけであるので、その経由でどうにかしようと画策されているようだが。

 

「けどあの子たちはもう、お互いがいないと…」

 

─────『幸せ』じゃ、ないんだよね。





【雷撃の豪脚】&【敬虔なる天使】:
シロガネツーパック&サイレンスヘイロー。
家庭環境激悪から銀弾に救われてトレセン学園に入学したウマs。
何だか薄暗く退廃的。
トレーナーのこと好き好き!勢ではあるが同室として過ごす内に共依存になっちゃった子たち。
またきっかりお互いが『世界』な感じで生活しており、そんなふたりをどうこう出来るのはトレーナーやふたりの面倒を見ているチームの人々しかいないらしい。


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純粋なあの子はもういない


───いるのは、きっと。



「どうぞ」

 

静かに、そう己に告げた女は清らかな蠱惑であった。

伸びながらもふわふわと靡いた芦毛の髪が陽の光に反射してキラキラと美しく、ツンとした唇の赤がひどく目についた。

なにせ女は肌も服も白であれば、目の色も白に見紛う『銀灰』だったのだ。

 

「あら、見惚れまして?」

 

くす、と漏れた笑みにひとつ頷いて返す。

見てくれこそ…雪の妖精のようではあるが、この女の内面は誰も彼もを手に取っては獲物を遊びがてら転がす無邪気な猫だ。

 

「もう少し、キミは謹んだ方がいい」

「あら、残念」

 

その女が白を纏う理由なぞひとつしかない。

そんな女の魂の在り様はひどく歪でそれでいて美しく。

それはまるで……そう、

 

「──いま、貴方の目の前に居るのは私よ」

 

伸びた指先が、ツゥと頬をやわく引っ掻いた。

 

「私を見なさい」

 

その指先を掴み、絡めて引き寄せる。

 

「っ……」

 

そのまま己の胸に抱き込めば、女はひとつ息を呑んだ。

 

「……キミが望むならいくらでも」

 

……あぁ、そうだとも。

この白を纏うのは己だけでいい。

他の誰にも触れさせてなるものか。

 

(……なんて、)

 

そんな執着と独占欲に内心自嘲しつつ、腕の中にある女は「不躾ね」とひと言告げた。

 

 

あの日の、純粋だった自分は遠に。

"かの方"を慕っていた自分は、"かの方"と共に。

 

「…」

 

元より産みの母譲りだった容貌は美貌と行き着き、その身は『傾国』とさえ謳われた。

……そんな女へと変貌した己を、"かの方"が見れば、なんと言うだろう?

"綺麗になった"?

それとも───。

 

(…いいえ)

 

既に、顔も声も薄れて久しい"かの方"を、こんな己が思い描くなど。

 

(……それでも)

 

あの日の自分が、"かの方"と過ごした日々が、確かに在ったという証を──。

 

 

「ねぇ、貴方は?」

 

突然の問いかけに、男は一度瞬いた。

 

「何がだ」

「貴方の望みよ。……私はね?貴方が望むならなんだって叶えてあげたいと思っているのよ」

 

そんな女の言葉に男はフンと鼻を鳴らした。

 

「……そんなものは無いな」

「あら、そう?」

「あぁ」

 

だが、普段なれば周りから恐れられる男も『傾国』と謳われる女の前では型なしであって。

 

「だが、そうだな。強いて言うなら……」

 

そうして男は女の細腰を抱き寄せた。

 

「キミさえいれば、それでいい」

 

そう告げた男の顔は、とても穏やかで優しいものであった。…が、

 

(貴方もなのね)

 

女は、思う。

男が自分を見つめる眼差しに、──"かの方"を想う光があって。

自分を通して、"かの方"を見る目が、 思い出す目が、()()()()()目が、──ひどく、憎らしい。

 

(……バカね)

 

こんな気持ちを抱くなんてどうかしている。

自分は"かの方"ではないし、男も"かの方"にはなれないのに。

 

「ねぇ」

 

だから女は男に身を寄せる。

「私は貴方だけのものよ」と囁く代わりに彼の頬へと唇を寄せたのだった。

 





女:
『傾国』になった。
ふわふわと、儚げな見た目とは裏腹に悪辣。
きゃらきゃらと笑いながら他人を手のひらの上で転がす姿は正に。
かつて純粋だった己を一緒に連れて逝った"かの方"を想い続けているが故、自分の身を通して"かの方"を見ることができる周りに嫉妬しているらしい。


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葛藤は情景


置いていきたくない人と、置いていかれた人の話。



「先輩」

 

そう自らを呼ぶ声を【金色旅程】は好んでいる。

こんな自分を信用していると謳い、こんな自分に助けを求めてくる。

こんな自分を頼りにし、こんな自分を敬愛する。

この【金色旅程】を慕っていると言い張る後輩が、堪らなく愛おしかった。

 

「先輩」

 

もう一度、そう呼ばれた。

それに反応して顔を上げれば、目の前には後輩の笑顔があった。

 

「はい! お届け物です!」

 

そう言って差し出されたのは美味しそうな菓子。

「時間があって、食べたくなったので」と、お裾分けに渡されたソレを【金色旅程】は受け取った。

 

「あんがと」

「いえいえ! 先輩の口に合うなら幸いです!」

 

そんな後輩の笑顔に、【金色旅程】は唇を釣り上げる。

その微笑みが、また後輩の微笑ませ。

互いにこの笑顔が見たくて、この笑顔のために頑張っている気がするとさえ思えるから不思議だ。

 

「……先輩?」

 

そう思う【金色旅程】だったが、ふとその表情を曇らせた。

「何か悩み事ですか?」と心配そうにする声に、ちょいちょいと「こっちに来い」のジェスチャーをすれば大人しく隣に座る華奢な体。

 

「どうしました?…わっ、」

 

掴んだ体はそこから解けてしまいそうな何かがあり。

それを厭うてもっと強く掴めば、小さな悲鳴の声が上がる。

その声聞き流して、【金色旅程】は後輩の体を引き寄せた。

 

「せ、先輩?」

「……お前」

「え?」

「……なんでもねぇ」

 

そう誤魔化しながら、【金色旅程】は後輩に触れる。

そうすれば感じる温もりに安堵し、それと同時に不安になる。

 

(……コイツを置いて、いなくなる?)

 

そんな未来(いつか)を想像してしまいゾッとしたのだ。

魂に刻み込まれた()()というか、()()で、【金色旅程】は自らがこの後輩を()()()()()だろうと。

それは、嫌だと思った。

 

「先輩?」

 

この後輩が【金色旅程】無しに?

だから、いなくなる(置いていく)なんて耐えられない。

そう思えば思うほど、不安が募っていく。

 

(コイツは……)

 

そんな【金色旅程】の葛藤など知らない後輩は、ただ不思議そうに首を傾げるばかり。

しかしそんな仕草も【金色旅程】の庇護欲を煽るものでしかなくて。

 

「先輩、どうしました?」

「……なんでもねぇ」

 

この後輩は【金色旅程】が守らなければならない。

そんな想いと共に、後輩を抱きしめる力を強めたのだった。

 

 

【金色旅程】さんのことですか?

…えぇ、やさしい先輩でしたよ。

あの人、案外面倒見はいいので。

よくしてもらってました。

けど、

 

─────まさかあの人の方が、ね。





【白の一族】含め銀系列は長生きの家系です。
30近くは普通に生きるし、大概が老衰って感じ。
なので…基本見送る側なんスよねぇ…。


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叫んで止まぬラブコールを


ふたりそろって。
泥沼に足取られ。



乞われた。

だから返した。

 

「奪いに来て」

「欲しいなら──奪いに来て」

「勝って、完膚無きまでに…勝って、僕を───」

 

浅ましいとは、分かっていた。

どうやったって、僕は"あの人"になれない。

でもどうしようもなく憧れてしまった。

妬んでしまった。

羨ましかった。

いつまでも、…()()()()、誰の記憶にも遺って、()()()()、"あの人"が。

……羨ましかった、のだ。

故に。

 

「僕を──奪い(殺し)に来て」

 

求めて、しまった。

本当は、()()()()に囚われるべき相手ではなかったのに。

それは勘違いだって、正しい道へ導くべきだったのに。

その機会は、もう永遠に喪われた。

だから僕は、僕の全てを賭して、()()()()()…奪いに来て、もらうのだ。

……浅ましいと、分かっていても。

 

「僕を──」

 

そう願うことが、今の僕に出来る唯一だった。

 

「……ああ」

 

静かに頷いてくれる姿にジクジクと胸が痛む。

「冗談だ」と言ってくれれば、まだ引き返させてあげられたのに。

そんな簡単に頷くなんて。

……本当に、バカで、優しい人。

だから僕は──キミが良いと…思ってしまったんだ。

 

「──────」

 

その優しさに甘えさせてもらおう。

その優しさで、形振り構わず、惨めったらしく。

 

「──僕を、」

 

()()()()()

 

 

「僕は、キミが欲しい」

「だから約束通り…!」

 

そう告げて、キミの隣に並ぶとキミは嬉しいような、またはひどく悲しいような顔をした。

 

(そんな顔、しないでいいのに)

 

何を、不安に思っているのだろう?

僕がそんなにも不甲斐なく見えるのだろうか?

…いや、そりゃあ生まれてこの方、ここまで本気になったのはキミが初めてのものだからみっともなかったと言われればそこまでだけれど。

しかし、

 

(…僕のこの気持ちを、軽んじるな)

 

最後のひと押しをしたのは他でもないキミの癖に。

『求めてこい』と、餌を吊り下げたのはキミの癖に。

こんなにまで…夢中にさせた癖に。

 

(いまさら?)

 

今さら、キミは何を不安に思っているんだ。

僕の何がいけないというのだろう? ……いや、違うか。

 

(僕()──悪いのか)

 

僕が、あまりに不甲斐ないから。

だからキミはそんな顔をするのか?

そんな顔をさせてしまうくらいに僕は弱かったのか?

 

(ああ、そうか)

 

それがいけなかったのか。

『弱さ』とは即ち『罪』だ。

 

(なら……)

 

その『侮り』を、…()()するといい。

キミが目覚めさせた僕は、そう可愛いモノじゃなかったんだ、って。

…とは言っても。

 

(キミがどれだけ、泣けど喚けど)

 

───もう、離すつもりは無いんだけどね。





【戦う者】:
サンデースクラッパ。
"あの人"に憧れているが、"あの人"になれないこともまた分かっている。
だが"あの人"のように『求められたい』という気持ちがいつからかあり、それが遂には。
とは言え、【栄光を往く者】に対して我が身を差し出しつつも予防線を張っているとか。

【栄光を往く者】:
グローリーゴア。
焼かれちゃった!
自分の意思でそう決めたのに、そう決めさせた張本人が常々『やめてもいいんだよ?』って目で見てくるので情緒ぐちゃぐちゃ。
何がどうあれキミのせいなんだが????

────責任、取れよ。


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きっと、元は銀弾にやってあげたかったこと。



「わ、」

 

指をかけたところからパサリと解けた編み込みに、やられた側のサンデースクラッパは顔を顰めた。

 

「なにするのさ」

 

文句を言うのはもちろん共にいるグローリーゴアに。

「せっかく誠さんがしてくれたのに…」とボヤきながら手櫛ですべての編み込みを解いていく。

単なる三つ編みではない、この形になるまで時間がかかるだろうなぁと一目見ただけで分かるソレにグローリーゴアが手をかけたのは総じて…、

 

(なんか、嫌だ)

 

()()()()()()()()、からか。

確かにサンデースクラッパは愛されているウマである。

傍目から見ても、分かるほどに。

ツヤのある髪に尻尾、そして屈託のない笑顔。

それだけでサンデースクラッパが愛されるウマであることは、誰が見ても分かるだろう。

だが、グローリーゴアは気に食わないのだ。

その毛並みも尻尾も髪も、全て()()()()()()()が時間をかけて作ったモノだと知っているからだろうか。

 

(……いや)

 

違うなとグローリーゴアは思い直す。

「はぁ……」とため息を吐くサンデースクラッパにグローリーゴアは言う。

 

「そっちの方がいいよ」

「どこが???」

 

編み込み出来る髪ならその長さは自明の理で。

解かれた髪ほど邪魔なものはないだろうが。

グローリーゴアにはそんなサンデースクラッパがひどく…綺麗に見えたのだ。

編み込みなんて()()()()()()じゃなくて、解かれた()()()()()()姿()が。

 

「こっちの方がいい」

 

グローリーゴアがサンデースクラッパを撫でる。

「ちょっと!ボサボサになるだろ!」とサンデースクラッパは抵抗するが、まぁ呆気ないモノで……。

流された髪が肩口から流れ落ちる。

 

「…もう」

 

編み込みの跡が着いた髪は少しばかりうねって。

 

「ね、」

「うん?」

「くくってよ」

「え、」

「だって、キミが解いたんだろう?」

 

ほら、と髪ゴムを渡される。

 

「え、えぇ……」

「早く」

 

グローリーゴアは困惑しながらもサンデースクラッパの髪に手を伸ばす。

幼い頃から短髪で、それを今も続けている人間には分からないだろう。

髪を結ぶという行為が、どれだけ難しいことかを。

 

「…」

 

そして、出来上がったのは…不格好なポニーテールであった。

 

 

「くくらないの?」

「わっ!?」

 

さり、と首を撫でた指先にサンデースクラッパは悲鳴をあげる。

がしかし、それが誰か分かると一転して睨みつけた。

 

「キミのせいだろ…!」

「何のことやら」

 

にこり、と美しく笑むグローリーゴア。

けれどもその目には隠しきれない愉悦があり…。

 

「…何日経てば、消えるだろうねぇ?」

「ッ!」

 

くるりと爪先が弧を描く。

ずっと伸ばしている髪は容易に首を隠してはいるが煩わしいったりゃない。

でも…できないのだ。

 

「くくればいいのに」

「子どもに見せられるワケないだろ!!」





【戦う者】:
サンデースクラッパ。
馬時代から担当厩務員であった灰方誠(旧姓:白峰)の手によって、綺麗な編み込みがされていたウッマ。
ウマ軸では肩甲骨ぐらい普通に越える流さしてるし、歳を経るにつれて芦毛のグラデーションがかかり始める。
また編み込みバリエーションの中には某運命/の青剣士の髪型もあるかもしれない。…可愛い。


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見ただけで分かる


親子三代、勝負服と共に勝負髪があるヤツ(とはいえ一族なら同じ勝負髪にされるのですが)。



「…かったりィ」

「…先輩?」

「あ゛?」

「何でその格好してるんですか!?」

「……やっぱキツいか」

「いえ、よくお似合いですよ!?でも、」

「写真撮影ってヤツだ。ほら、俺の血筋って人気だから」

 

その日、先輩の部屋に訪れると現役時代の勝負服を来た先輩が。

少々雑…というか粗野な感じがする御方ではあるが勝負服姿を見ると『良家ェ…』ってなるんだよね。

当人は「こんなカッチリしたヤツよりラフなのがよかった」と愚痴っていらっしゃいますが。

 

「ティーンの時の服着せんなっての」

「そうは言っても数年しか経ってないでしょう?それに先輩あの頃とあんまし体重変わってなさそうだし」

「おま、体重の話って。デリカシーってもんがねーのかよ」

「あ、すみません。でも先輩、食べても太らないタイプみたいですし……ほら!今も腹筋割れてるし!」

「触ンな」

 

ぺたりと先輩の腹に手を当てると強めの力で振り払われた。痛い。

 

「……で?色々と分かりましたけど、何でそんな格好してたんです?」

「あー……いや、その……」

「はい?」

 

言い淀む姿に首を傾げると、

 

「…爺さんの方から頼まれて」

「……はぁ、」

「おふくろなら『恥ずかしい!』とか『雑誌出るまで待ってろ!』とか言えたんだがな…。爺さんには昔からよくしてもらってっから」

「なるほど」

 

先輩って意外とお爺ちゃん子だよな。

 

「…なんか、変なこと思ってないか?」

「いやいや」

 

 

きっちりと結われた髪は勝負服ならぬ勝負髪で。

故に現役の頃は親父も、また祖父も同じように髪を伸ばし、同じ髪型に結われていたというのだから筋金入りだ。

 

「よォこんな結い方できるモンで」

 

それもサポート役自らだ。

大ベテランであるそのサポート役は過去"かのウマ"を担当していたというからチームのヤツらは例えどんな荒くれ者でもその人に逆らえなかった。

 

「こんなもんか」

 

鏡に映るのは現役時代によく見た自分の姿。

髪も結い、勝負服を緩ますことなく着た自分。

 

(……やっぱし、似合わねェ)

 

自分で言うのも何だが俺はガラが悪い方だと思うし、何よりこの三白眼と顔立ちだ。

こんな格好しても滑稽なだけだろうに。

 

「まァいいさ。これも仕事だしな」

 

そう自分に言い聞かせて控え室から会場へと足を向ける。

 

「久しぶり、レイ」

「ん、親父」

「元気か?」

「は?爺さん!?何で…」

「そりゃあ俺も一族だしなぁ」

「なら俺写真送らなくてもよかったじゃねぇか!!!!」

「カッコよかったぞ〜。…うん、やっぱ先輩に似たな、レイは」

 

雑誌のための写真撮影です、とは言われていたが居るとは思っていなかった祖父の姿に驚いてしまう。

 

「爺さん…アンタもう隠居の身だろうが」

「なにおう!まだまだ現役だ!」

「…へいへい」

 





髪型:
元は【戦う者】にチームのサポーター役である、ある人が施したもの。
今では勝負服のみならず、その髪型を見れば「あ、銀系列だ」と分かるぐらいには有名だとか。
それはそれとしておいそれと頭を搔けないぐらいには髪型が凝っているらしい。


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世話焼きさんの話


何かダメ人間好きそうだよね、銀弾って…。



意外と、アグネスタキオンとシルバーバレットの仲はいい。

元よりあまり苦言を呈さず、逆に肯定気味であるシルバーバレットは何やかんやとやらかしたり、やらかさなかったりするアグネスタキオンのことを「凄いなぁ」とキラキラした目で見ており(それにはシルバーバレット自身がどちらかというと科学・化学系が苦手なのもあるだろうが)。

または後輩から頼みの綱にされるのを喜ぶ人ではあるのだけれど、どことなく遠巻きにされてしまうから、アグネスタキオンのように「やぁやぁ」と気兼ねなく声をかけてくれるのが嬉しいのかもしれない。

 

「おや、タキオンさん…と先輩」

「やぁ、カフェじゃないか。君も今から昼食かい?」

「……ええ。今日は天候が少し…ですからここで食べようかと…」

 

と、そこにマンハッタンカフェがやってくる。

アグネスタキオンとは逆に、彼女の方はシルバーバレットを遠巻きにしているタイプだ。

それはマンハッタンカフェの性格もあるだろうし、話しかける前にアグネスタキオンの方が積極的に話しかけ(マシンガントークし)ているというのもあるだろう。

 

「タキオンくんは元からだけど…カフェくんもどうかな?僕のトレーナーさん基準でお弁当作っちゃったもんでね」

「え」

「どうせカフェが持ってるのは購買のパンだろ〜?せっかくだから先輩のご好意に預かりまたえよ!」

「いや、あの」

「遠慮することはないさ!ほらほら!」

「いえ、その……」

 

と、マンハッタンカフェは困ったようにシルバーバレットを見る。

その視線を受けて、シルバーバレットは。

 

「……まぁ、前に倒れてたタキオンくんに作ってあげたら好評でねぇ。もし、よければだけど」

 

と言った。

その言葉にマンハッタンカフェは少し考え……やがて諦めたようにため息をつくと、アグネスタキオンと同じように席についた。

 

「ありがとうございます……ではお言葉に甘えて」

「うんうん!さぁさぁ食べようじゃないか!」

「タキオンさんが作ったんじゃないでしょう…」

「それはそれ、これはこれ、さ!」

「めしあがれ」

「「いただきます」」

 

 

気づけば、シルバーバレットはアグネスタキオンとマンハッタンカフェが共有している教室の合鍵を持っていた。

はじめはひょんなことから知り合ったアグネスタキオンがシルバーバレット好みの生活能力が壊滅的な人間であったので、自分が面倒を見なければ……とお節介を焼いたのがきっかけだ。

それが何度か続いたあとは何となくで、合鍵を持っている。

アグネスタキオンもマンハッタンカフェも「まぁいいか」という感じで特に何も言ってこないし、シルバーバレットの方もそれでよかった。

ただ、一つだけ困ったことがあるとすれば──。

 

「ここにシルバーバレットはいるかい?」

「いや、見てないねぇ」

「そうか…。失礼したね」

 

たびたび…という頻度ではあるが、生徒会長であるシンボリルドルフがシルバーバレットを探しにやってくることだ。

 

「またですか」

「ああ…。相変わらずだねぇ」

「…足音も遠ざかりましたし、……先輩、もう大丈夫ですよ」

「ありがとう…」

 





僕:
シルバーバレット。
世話焼きな先輩。
何故かナチュラルに共有スペースの合鍵を所持している、二つ返事で実験の被験者になる稀有な存在。
また僕が共有スペースにいるとどうにも『おともだち』の機嫌もよくなるらしく、そして肩が何となく重くなるらしい(もしかして:憑かれてる)。


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どっちがヤバい?


見るからにヤバい方と見てくれは普通な方。



ホワイトインセイン、というウマがいる。

神出鬼没の現代のサンジェルマン、このウマが踏み込んだ建物はことごとく倒壊する、なんてまことしやかな噂がホワイトインセインそのものを知らぬのに独り歩き的に流布し、また、そのウマを害そうとした者はみな死ぬとまで。

…そんなホワイトインセインの傍にある日、連れ添うように影があった。

どこにでもいそうなそのウマは、顔立ちこそ凡なものの、その芦毛の髪は思わず感嘆するほど見事で。

だが。

 

「凡。おい凡」

「……」

「ノーマル!!」

「…なぁに、いーちゃん」

 

流布する噂の通り、面倒事に巻き込まれ。

その過程でホワイトインセインが標的にされた時。

傍にいた凡なウマがどこの部屋から持ってきたのか、おもむろに火かき棒を取り出して下手人を滅多打ちにし始めた。

抵抗しようが、赦しを乞われようが、いっそ哀れな程に叩ける場所を縦横無尽に変えて滅多打ちにし続けた。

 

「ノーマル、ノーマルってば」

「なに?」

「ソイツ死んじゃうって!!」

「え? あ、ほんとだ」

 

ホワイトインセインは凡なウマがようやく手を止めたことに安堵し、下手人の生死を問うた。

もう死に体だし、襲ってきたということは犯人か、それに近しい何かだろうことは誰の目にも明らかだったが、それにしては暴の力が過激過ぎた。

しかし凡なウマは首をかしげてまた火かき棒で叩こうとするのでホワイトインセインは必死に羽交い締めし。

 

「ぉ、俺よりもお前の方がイカれてる…」

「ひどいなぁ、いーちゃん」

「いや、いくら俺でも死に体になるまでやらねぇよ。やっても骨折れたとかぐらいで止める。そこら辺までやったら痛みで大概の奴はもう何もできないからな」

「僕もやらないよ?」

「いや、そのやらないは殺す方のやらないだろ……」

 

ホワイトインセインが見るからにヤバい方だとすれば、凡の方のウマはよく見るとヤバい方だ。

ホワイトインセインなら謝れば許してくれるところを、凡のウマは謝っても許してくれない。

「君が泣くまで殴るのをやめない」どころか、もはや「君が泣いても殴るのをやめない」である。

 

「ノーマル、お前……」

「?」

「いや、もういいや。とりあえずソイツは死んでないよな?」

「うん」

「……ならいい」

 

ホワイトインセインの心配をよそに凡なウマは気絶した下手人を火かき棒でつついて生死確認をしていたが、やがて納得したのか頷いた。

そしてそのまま下手人の襟首をむんずと掴むと引きずりながら歩き出す。

 

「おい、どこに」

「『名探偵みなを集めてさてと言い』ってヤツだよ」

「は、」

「さ、行こう。ね、」

 

───名探偵サン(いーちゃん)





ふたり:
ホワイトインセイン&ホワイトノーマル。
見るからにヤバい方&よく見るとヤバい方。
たぶんノーマルは真顔で暴力振るってくるタイプだし、それを必死に止めるインセインはよくいる。
なので周りの印象とは逆に常識人なのはインセインの方なんだよね…。


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『綺麗だ』って、笑うから


ほんの少し、自分でも。



身体中、綺麗なんていえるところは何処にもない。

幼い頃から殴ったり殴られたりは当たり前で、致命傷は避けたけれど傷跡は残ったなんてしょっちゅう。

顔にだってデカい傷跡があるし、指も折れた回数が多すぎてどこか歪。

足こそ一度もやらかしたことはないものの満遍なく傷跡がある。

 

「…また、裸足で走ったか?」

「…エヘ、」

「お前なぁ、」

 

少々年下の友人に叱られる。

個人で蹄鉄屋をしている友人は何故だかぼくの足を気に入ったようで、本来は競走用の方が専門だというのに日常用の蹄鉄をせかせかと作ってくれる。

 

「蹄鉄が合わなくなってるじゃねぇか。つったく」

「あ、……うん、」

「足は大事だぞ?お前の足は綺麗なんだから」

「……わかってるよ」

 

蹄鉄屋の友人はぼくを叱りつけると、ぼくの足の具合を確かめるように触る。

その触り方がなんだか丁寧すぎてぼくは思わず友人から距離を取った。

 

「何だよ、別に変な意味で触ってるわけじゃねぇぞ?」

「わ、かってるけど、さ」

「お前、本当に綺麗な足してんだから」

「……そうかな」

「そうだよ。俺が保証する」

 

見下ろしただけで傷跡が分かる足を、この友人は綺麗だと言う。

いや、そもそもこんなデカデカと顔に傷跡がある人間にこうも親しげに、…果てには仕事だとわざわざ家にやって来て食事を同伴になる…なんて。

 

「…はやく帰ってくれよ」

「なんでだよ。食材は買ってきてやったろ?」

「…あの娘がさ、」

「?リリィちゃんが?」

「…キミと、…け、結婚したいとか言うから…」

「…。子どもの言うことだろ」

「そうだけどさぁ!」

 

ぼくが愛娘を溺愛していることを知っている友人はやれやれと息をつく。

「そんなんじゃ思春期になった時にパパ嫌いって言われるぞ」と友人はぼくを嗜める。

……思春期、か。

 

「…ず〜っと、ぼくのところにいればいいのに」

「あの娘ならどっかから婿捕まえてきそうだけどな」

「婿なんていらないよ」

「でも、あの娘がお前置いて出るわけねぇって」

「……」

 

ぼくはリリィのことが大好きだ。

小学生高学年と言えど、まだ幼いから難しい話はよくわかっていないだろうけど、それでもぼくを「パパ」と呼んでくれる娘は本当に可愛い。

……だから、もし彼女が結婚するならそれはぼくも認めた人だろうとは、分かっているけれど。

 

(……やっぱり寂しいものは寂しいよなぁ)

「ま、そんな思い詰めた顔するなよ。随分先の話だろ?」

「いずれ来る話なんだよ!!!!」

「ハハハ」

 

ゆる、と足を撫でられる。

それにふいっと足を振れば、薄らと笑まれた。





【先祖返り】:
ホワイトバック。
実は身体中傷跡塗れ。
なので素材はピカイチなんだけど傷跡でAPPガッツリ落としてるタイプ。
でもなぜだかお抱えの蹄鉄師さんに気に入られてしまって「はて?」状態。…はて?

蹄鉄師さん:
「ザンさん」と呼ばれている。
【先祖返り】のことを気に入っており、【先祖返り】の頼みなら多少難しい以来でも二つ返事で了承してくれるらしい。
蹄鉄は競走用のものを専門にしているが、最近は日常用のものも作り出した。
なんか独創的なのが多そう(こなみかん)。


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よくわかんない人


でも。



「ほら、キミの愛しの赤が来たよ」

 

トレーニング終わりに、トレーナーさんからかけられた言葉に振り向けば同じようにトレーニングを終えたらしいグローリーゴアがいて。

 

「愛しの…って」

「だってそうでしょう?」

「…。食事、ちゃんとして寝てくださいね」

「分かってるよ。で、」

「はい?」

「友だちができてよかったね」

「はぁ」

 

大概のことに興味がなさそうなのに、この人は。

半ば決まりきっていたように僕-サンデースクラッパのトレーナーになったこの人は見てくれは優しげな初老の男性だが、その実は悪辣なまでの策士であって。

 

「友だち…なんでしょうか?」

「まぁ、そうなんじゃない?」

 

ふたり揃って「ひとりでも別にいいや」タイプの、自分の好きなことに夢中な人間なので、友だちというのがどういうものなのか…。

 

「まぁ、でも」

「はい」

「いい刺激にはなるんじゃないかい?」

 

 

グローリーゴアは、サンデースクラッパのトレーナーである初老の男が、少々…苦手であった。

特に何をされたということもないのだが、どうにもあの目で見つめられるとヘビに睨まれたカエルのように、動きが鈍ってしまうのだ。

 

「グローリーゴア」

「……はい?」

 

トレーニングの休憩中、珍しく向こうから話しかけてきたことに驚きつつも応えれば。

 

「あの子のこと、よくしてやってね」

「…、」

「あれ?違った?」

「いえ、」

「なら、ね?」

 

くす、と笑う様もわざとらしい。

 

「……、」

 

グローリーゴアは、サンデースクラッパのトレーナーが苦手である。

 

 

『何を考えてるか分からない人』。

それがそのトレーナーによく向けられた印象だった。

まるで未来が見えているかのような位置取りの指示やら、それまでの戦績からあまり期待されていなかった選手を勝たせる手腕など。

トレーナーとしてはこれ以上ないワケだが、それ以外の日常生活部分が謎に包まれすぎていて。

 

「…?」

 

神秘的、と言うよりも()()()()()()()

 

「あ、」

 

そんな彼が、ある日突然に姿を消したのはサンデースクラッパが引退し、「今日からずっとグローリーゴアのところにお世話になるんです」と告げた後のことで。

 

「そう」

「はい」

 

穏やかだった。

…というよりかは静かだった。

 

「サンデースクラッパ」

「はい?」

「キミは、いま楽しいかい?」

「……まぁ、そうですね。それなりに」

「そう。なら、よかったね」

 

それだけだった。

それだけの、話。

それだけの話、だった、はずなのに。

 

「…スー」

「だい、じょうぶ」

「……」





トレーナー:
【戦う者】のトレーナー。
担当である【戦う者】から見ても何考えてるのか分からん人ではあるがその指示は非常に的確。
トレーナーとして神がかっている分それ以外が希薄過ぎるとも言うし、レースに関わらないとマジで人形みたいというか。
たぶん【戦う者】こそが彼をこの世界に引き止める最後の存在だった。
で、【戦う者】が行き着くところに行き着いて、幸せになるというので安心したんだ。

それはそれとして「ほら、キミの愛しの赤が来たよ」という科白は実馬時代からよく言っていたらしい。
またそう告げると【戦う者】はもう一段ギアを上げていたのだとか。
…さすが抜かれないと『領域』が発動しない馬だな。


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その事実を、誰も知らない


銀弾セン馬軸な話。



僕の甥や姪、それに姪孫はそれはそれは有名な競走バばかりだ。

 

「すごいなぁ」

 

僕は、子どもが出来なかったから。

その事実を、すごくすごく周りから惜しまれたけれど、幼い頃既に「この子は子どもを成せない」と診断されていた身だったので、特に何とも。

むしろ、こんな僕にこれほどまでに愛情を注いでくれた両親や祖父母や周りに頭が上がらなかった。

だからせめて、気のいいおいちゃんとして甥姪・姪孫の子たちに色々と還元しているのだけど(まぁ還元しないと資産が溜まるばかりだしね)。

 

「おじさま!」

「やぁ、ハイセイコくん。元気そうで」

 

かけられた声に振り返ると、そこには僕の一個下の全弟の子であるシロガネハイセイコくんが。

これがもうめちゃくちゃにすごい子で、僕と弟のふたりで「ウオオー!!」と言わんばかりにこの子の勝利に狂喜乱舞したのも一度や二度ではない。

いや、他の子でもその子の親である全弟と狂喜乱舞するのだけど。

 

「聞いてます?おじさま」

「あ、あぁ…え、えと、何だっけ?」

「もう!」

 

だがしかし。

実の父である全弟たちよりもこの子たち僕のこと慕ってない?って思うことが時々ある。

そりゃあ思春期だから実の親よりも伯父である僕には正直になれると言われればそうなのかもしれないけれど。

でも、それにしたって……ねぇ?

 

「おじさま」

「はいはい?」

「僕、来年クラシック三冠路線に挑みます」

「うん、知ってるよ」

「……っ!……そ、それで!」

「ん?」

 

シロガネハイセイコくんはぎゅっと僕の服の裾を握って真っ赤な顔で僕を見上げた。

あ、かわいいなこの子。

いやまぁ甥姪・姪孫のみんなは総じてかわいいのだけれども(伯父バカ)。

 

「だから、その……あの……」

「うん」

「おじさまに、見て欲しいんです!」

「え?」

「僕が、三冠を取るところを見て欲しいんですっ!!」

 

真っ赤な顔でそう叫んだシロガネハイセイコくん。

僕はと言えば、あまりのかわいらしさに思わず天を仰いだ。

あのねぇ!かわいいんだよこの子!! 全弟もかわいいけどさぁ!!!(兄バカ)

もうね、こんなかわいい甥姪・姪孫たちに慕われて僕幸せ者だよォ?

今にも泣きそう…。

……また、弟に「甥、姪ちゃんたちに食べさせてやって」って高級な肉とか送るか。

 

 

「残念ですが…この子は、子どもを成せないでしょう」

 

()()()()()と、希望を抱いていた。

あの頃、母である自分の知らぬ場所で()()()()()()()()()我が子。

それまで、どれだけ気性が荒くとも、そのようなことをされた親族は見たことがなかったのに。

 

「なんで…!」

 

堪らず泣いてしまう自分を他所に、当の本人は「ありがとうございます、せんせい」なんて。

 





僕:
シルバーバレット。生存√。
生産牧場にてセン馬になっている。
「こんなクソチビ馬、たとえ走ってもええ馬出すわけないやろ」みたいな。
けど当の本馬はえげつない戦績残すんだよね…。
なお、本来僕の産駒になるはずだった子たちは僕全弟のみなさんの産駒として分配されている模様(そしてもちろん僕全妹たちも繁殖◎)。
そのため「ついてたらなぁ…」ってずっと言われ続けるんだ。
これは多大なる損失ですね!(ニッコリ)


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人気者だから


仕方ないね(約束されし〜感)。


『サインいいですか』

『握手いいですか?』

「はい、どうぞどうぞ」

 

先輩-シルバアウトレイジはその見た目やら言動やらに反して、ファンサービスに余念がないウマだった。

流石の僕でもよくやるな、と内心思ってしまうほどに懇切丁寧で、ひとりひとりに笑顔で応じている。

 

「サインはひとり一枚まででお願いしますね」

「握手は順番に! 押さないで!」

 

この対応が人気に拍車をかけていることは、わざわざ言うまでもないだろう。

 

「親父から『ファンは大切にしなさい』って口酸っぱく言われてたからヨ」

「あぁ、」

「で、丁寧に接していれば接している分だけ問題が起こる可能性も減る。…ま、それでもアンチってヤツは少なからずいるもんだが」

「…」

 

でも、その対応の良さは処世術であり、身を守る術でもあって。

 

「好かれていれば好かれているほど、有名であれば有名であるほど、…なんかあった時に情報の周りが早いからな」

「そういう、ものですか?」

「そういうもんらしいぜ?ほら、今はSNSっていう大層で便利なのが普及してっけど、昔は人伝(ひとづて)を頼るしかねぇワケだし」

 

ウチの家系、人攫いに遭いやすいんだと。

そう呟く姿はどこか他人事だ。

 

「んで俺の親父も結構有名人だろ?で、あの顔の幼い頃って言ったら可愛いのは自明の理。つーことでよく攫われてた。んで、そういう時って大体が一族総出の大捕物に繫がってる」

「……プレアーさんは、大丈夫だったんですか?」

「逃げ足は物心着いた時から鍛えられるんだ。だから『人攫いのところから逃げるのは得意』って武勇伝をよく語ってくれたよ」

「すごいですね……」

「あぁ、俺の自慢の親父だ」

 

そう語る表情はとても誇らしげだけど、…どう考えたって誇るものじゃない。

 

「……もし、あの、先輩。ご家族が攫われたとして。……先輩はどうするんですか?」

「そりゃもちろん助けに行くさ」

「どうやって?相手は人攫いですよ?」

「親父は『逃げ足』って教えてくれたけどよ、別に俺だって無策で突っ込むワケじゃねぇぜ?ちゃんとピッキングはできるし、それに……」

 

彼はそこで一度言葉を区切ってから、にやりと笑った。

 

「……ま、俺の場合はいざとなれば」

「ちゃんと然るべきところに任せましょうね」

「えー」

 

 

言ってないけど。

 

(そういや昔…)

 

アイツには言わなかったけど、俺もそういうことあったな〜と思い返す。

でもそん時は持ってた色々なもので目潰ししたりしては、なんとか逃げ延びた。

親父も『逃げる時は相手と自分の実力をよく見極めろ』って言ってたし。

……まぁ、相手の力量を測れないヤツは長生きできないってことなんだろうが。

 

(ま、それは生き物全般そうだけどな)

 





【銀色の激情】:
シルバアウトレイジ。
一族が一族なので来歴がまぁ危ねぇし、幼い頃はぷりちーフェイスしてる。
また幸運EXとか何だりするので危険な目にあっても危機感が薄い。
なので来歴云々が一族以外の周りに顕になると…?(胃がキリキリ)


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もし、自分が


年老いた者ゆえの不安。



「僕のこと、見つけてくれるかな」

「あ゛?」

「ほら、だってこんな歳になっちゃったじゃない」

「可愛いぞ」

「ありがと、リリィ」

 

あの賑やかだった家族の中で今も生きているのは長子である自身と母だけ。

周りが言うには両方その歳とは思えないぐらい若々しいとのことだが、自分の体のことは自分が一番よく分かっているのだ。

 

「でも、リリィは歳を取らないね」

「ンなワケねぇだろ」

「でも羨ましいなぁ……」

「お前だって不老不死みたいなもんだろが。 ほら、毎日のトレーニング量言ってみろよ」

「あはは……そうだねぇ。そうなんだけどさぁ」

「……どうした?」

 

急に僕の元気が無くなったことに疑問を感じたのか、リリィが顔を覗き込んできた。

その美しい顔に思わずドキッとしてしまう。

…そりゃあ、こんな美人さん、父さんが一目惚れするのも分かるわ。

我が産みの母ながら、今でも口説かれることがあるみたいだからねぇ。

それはそれとして。

 

「ほら、この年齢じゃない?」

「あぁ……。まぁ、な」

 

リリィが僕の気持ちを汲んでくれたのか、それ以上は何も言わなかった。

そう、僕はもう戦えないのだ。

みんな敬ってくれるのはいいけれど、「ケガしたらどうするんですか」とか「突然倒れたりなんかしたら」とか。

いくら歳をとったとは言え、年齢以上には動けるというのに…。

そんな想いとは裏腹に、みんなの心配を無下にすることなんて出来ないから、いつしかただ生きているだけになった。

あーあ、ホントに自分が自分で嫌になって仕方がなくなっちゃう。

 

「……ほらよ」

「え?」

 

すると突然リリィが僕の頭に手を乗せてきた。

その意図がよく分からずに彼女の顔を見やると、ゆっくりとやさしく撫でられる。

昔はワシャワシャと、どっちかと言うと乱暴な手つきだったそれは今となっては嘘のように穏やかで。

 

「リリィ?」

「お前はよく頑張ってるよ」

「……うん」

「なら、ちょっとぐらい休んだっていいだろ?」

「そう、かな…?」

「あぁ」

 

 

自分ほどではないにせよ、長子もだいぶ歳がいったものだ。

歳若いのに敬われると、ブーブーいう仕草がかつてのようでバレぬように笑ってしまったのはバレてなかったらいのだが。

そう考えるホワイトリリィにも…年相応の悩みはある。

それは、

 

「…アイツ、分かってくれるかな?」

 

遠の昔に見送った最愛の伴侶のこと。

自分よか半周りほど歳上の相手だったが、現状、その相手よりもずっとずっと歳上になってしまった自分…。

恋は盲目だ。

それも「来世もまた」と誓った相手なのだから、なおさら。

しかし、年老いた自分と自分と比べると若い相手……。

その差は埋まらないし、埋めようとも思わない。

だから、彼女は願うのだ。

「いつかあちらに行った時、どうかアイツが自分に気づいてくれますように」と。

 





この一族は年老いても大概若々しいし、基本見送る側だったりする。
なので日々「自分のこと分かってくれるかな」って気持ちに苛まれている。
そのため若々しさを保つために色々と頑張るけども、その努力ゆえに口説かれたりも…。
しかもみんな実年齢知っても諦めないからね。
…う〜ん、大変そ。


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猫可愛がりのごとく


引退後銀弾話。



「僕の可愛い天使ちゃん!」

 

長兄であるシルバーバレットの弟妹の呼び名はだいたいそんな風であった。

実の父母がまぁそこそこ自分たちに素っ気ない分(とはいえちゃんと自分たちを愛してくれている)、彼が飽きるほどに『Honey(ハニー)』やら『Cuddly(カドリー)』やらと愛でているうちに、すっかりそう呼ばれるのが当たり前になってしまったのだ。

 

「ああもう可愛いなぁ! やっぱりあの服の方が良かったかなぁ!」

「兄さんは自分の服買わないの?」

「ん〜?……着れる服がまだあるからね! で、とにかく僕は可愛い子に貢ぎたい!」

「それ聞く人が聞いたらパパラッチよ、兄さん」

 

そう言ってシルバーバレットは妹の頭をぐりぐりと撫でる。

その仕草に妹はくすぐったそうに首を竦めた。

でも逃げないあたり、満更でもないらしい。

遠に長兄の身長を超えてしまった弟妹はみな、こうなると身を屈めるのだけど(それが父母には反抗期であっても!)。

 

「可愛いね…ふへへ」

 

 

現役時代でも、現役から退いても、シルバーバレットの胃の許容量はそう変わらない。

元より"疾さ"のために重さをギリギリまで攻めて減らしてだった体は余分な肉ひとつもなく、脚に至っては血管が目に見えるほどであったのだから本人はよくとも周りはそうはいかない。

 

「うぅ…」

 

一端のアスリートであったため栄養学云々の知識もあるにはあるが。

何とか必要な分だけは摂れるように拡張するまででも時間がかかったのに、普通の量の食事なんて…。

 

(ホントにみんな、これぐらい食べるの…?)

 

ヒトとウマを比べるとウマの方がヒトよりも肉体が強靭な分、よく食べるというのは常識なのは自分もトレセン学園に在籍していたから身をもって知っているけども。

 

「食うまで席離れんじゃねぇぞ」

「…はい」

 

流石のシルバーバレットも母には勝てぬ。

他の弟妹はみな既に食べ終え去っていった中で、長兄である自分と末弟であるサンデースクラッパだけがいる食卓。

まだ小山より少し大きい自分の皿と同じ野菜がちょこんとばかし残っている末弟の皿。

 

「…ね、スーちゃん」

「なぁに?」

「スーちゃん、まだ食べれる?」

「…?うん」

「なら、お兄ちゃんがスーちゃんの嫌いな野菜食べてあげるから「チ ビ ?」ヒッ!」

「…にーちゃ?」

「アッ、イヤ…」

「そら、スーも野菜食べな」

「や〜!!」

 

もそ、と食べる。

横を見ると何とか野菜をゴックンした末弟がちょっと目をうるうるさせながら食器を流しに持っていくところで…。

 

「はぁ、」





僕:
シルバーバレット。
弟妹溺愛系おにーちゃん。
しかし全然食べないので監視されたりなんだりされる。
食わないくせにトレーニングが現役時代とそう変わらないからね、仕方ないね…。
なお体の重さをギリギリまで削ってまで"疾さ"を求めていたがゆえ、脚をよく見ると血管バキバキだったり。えぐい。


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蹂躙して、嗤えよ


LArcシナリオしてからクライマックスシナリオする奴〜!!



ある"偉大なる背"を追うように、ある"偉大なる背"がなせたはずの道を辿り、アメリカへと辿り着いたサンデースクラッパは自分の『領域(ゾーン)』を引き出した相手との出会いをもって、アメリカに残留することにした…のだが。

 

「じゃ、芝もダートもどっちも走りますか」

 

走れるから、走る。

単純明快であり、…それゆえに難しい。

とか、世間一般は言うだろうが。

 

「よっ、と」

 

そんな常識、切って捨てるのがサンデースクラッパというウマである。

出るからには勝つし、そもそも『敗北(負け)』のイメージからしてろくに浮かばない。

走る。

ただ、それだけ。

 

「ん~……、芝もダートもどっちも走るってなると、どっちで走ろうかな」

 

サンデースクラッパは、アメリカに残留することを決めた時点で『領域(ゾーン)』を…絞ってみた。

一つは芝のレース用。

もう一つはダートのレース用である。

どちらも同じくらい本気で走るが、使う筋肉が違うし、走り方も違うのだ。

ついで、

 

「芝は、グローリーくん出てこないからね」

 

 

呆れた笑いも出ないくらいの、快進撃に次ぐ快進撃であった。

もはや『つまらない』とすら言えないほどの蹂躙劇に、その主役が【悪魔(Diablo)】と謳われるようになったのは当然か、それとも必然か。

 

「…はぁ、」

 

で、そうなって。

悪魔(Diablo)】退治の白羽の矢が立ったのはもちのろんでグローリーゴアであり。

そもそも今も昔も【悪魔(Diablo)】のことを差せたのはグローリーゴアだけなのだから。

 

「はぁ、」

 

と、グローリーゴアはため息をつきながら。

 

「しょうがないなぁ……」

 

それはそれとして、グローリーゴアもサンデースクラッパと…。

 

 

周りから出来るように見えていても。

本人からしてみれば得手不得手というのは当然ある。が、

 

「僕、本質的にはダートの方が走りやすいんだよねぇ」

 

だから誇っていいヨ!と、ニコリと笑えば本能が剥き出しになったギラギラ目で睨めつけられる。

それにケラケラと笑えば、「はふ」と深い息。

 

「でさ、」

「…」

「キミは…また僕と、」

 

───走ってくれる?

 

 

「どうしたの?」

「いや、昔のことを思い出して」

 

あぁ、確かに【悪魔(Diablo)】だったとも。

ニコニコと笑って、周りを完膚なきまでに踏み潰して。

みんなを絶望させて、それでいて…求めずにはいられない。

嫌いになりたくても、嫌いになれない。

そんな、そんな…。

 

「スー」

「ん?」

「……いや、なんでもないよ」

 

サンデースクラッパは、ニコニコと笑う。

その笑顔の裏で何を考えているのか。

……それを読み取ることはグローリーゴアには出来ないが。

それでも、一つだけ言えることがあるとすれば。

 

「キミのライバルは、僕だけだろう?」

 





【戦う者】:
サンデースクラッパ。
史実からLArcシナリオ完遂した後にアメリカでクライマックスシナリオした馬。
でも適性は芝CダA.短DマB中A長B。
芝は走れなくもない塩梅。
そのあまりの芝ダート問わずの無法の蹂躙っぷりにあちらで付けられたあだ名は【悪魔(Diablo)】。
もう助けてくれ【栄光を往く者】。
お前しか止められないんだよ!!!!

ちなみに芝とダートで『領域(ゾーン)』が違う模様(芝→実質アンスキ、なお領域名は『Re:』。はて…?何のReやのやら。ダート→抜かれてからが本番、抜いたな?お前を◾︎す!!な超加速)。


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神様じゃない


【戦う者】LArcローテ軸宝塚記念篇。
もしくはその鞍上の話。

それはそれとして、銀弾に乗ってた時は銀弾という馬自体がぶっ壊れ性能で、【戦う者】に乗ってた時は白峰おじさんが騎手としてぶっ壊れ性能…ってイメージがある今日この頃。



1:名無しのトレーナーさん

 

これは『逃げの神様』ですわ

【96宝塚記念の動画】

 

 

2:名無しのトレーナーさん

 

現実で大逃げ取得したの出たな

 

 

3:名無しのトレーナーさん

 

別次元過ぎるんよもう

 

 

4:名無しのトレーナーさん

 

元からサンデースクラッパと相性よかったけど、ここでおじさん自身が限界突破した感じ…あるよね

 

 

5:名無しのトレーナーさん

 

呼吸するように逃げさせてるからな

 

 

6:名無しのトレーナーさん

 

そもそもコンセ持ってる奴がこうも…大逃げに大逃げしたらね

 

 

7:名無しのトレーナーさん

 

しかもガンガンスピード上げてくしなぁ

 

 

8:名無しのトレーナーさん

 

途中ラップ少し落ちるけどそこがひと息入れてたところというね

 

 

9:名無しのトレーナーさん

 

そりゃサンスクが出るレースは二着を決めるレースって言われますわ

 

 

10:名無しのトレーナーさん

 

カネツクロスもまぁ大きく逃げてたけどスクラッパとの差が凄すぎて最早先行にしか見えなかったし…

 

 

11:名無しのトレーナーさん

 

最終コーナーら辺でやっとマヤノトップガンが来たけどそれでも…

 

 

12:名無しのトレーナーさん

 

これが凱旋門を制覇した馬か!ってジッキョで言われてるけどそれだけじゃないと思うんだよな(白目)

その背に届く者は無し…

 

 

13:名無しのトレーナーさん

 

まったくもって歯牙にかけんのよ

しかもそれと同じことを凱旋門でもするな

 

 

14:名無しのトレーナーさん

 

当時はここまで強くならにゃ海外には敵わんのだなと思ってたけど、今はそうじゃなかったなって理解できました

 

 

15:名無しのトレーナーさん

 

ホント気持ち悪いぐらい強いな、このコンビ

 

 

16:名無しのトレーナーさん

 

コンビとしての一番は銀弾

しかしおじさんをここまでにしたのはスクラッパという

 

 

17:名無しのトレーナーさん

 

興奮よりもドン引きの方が先に来るレースはじめて見た

 

 

18:名無しのトレーナーさん

 

でもおじさん勝利インタビュー無だからな

 

 

19:名無しのトレーナーさん

 

>>18

凱旋門があるんで本気で走らせてませんって言ってたろ!

 

 

20:名無しのトレーナーさん

 

…流してで、アレかぁ

 

 

 

 

そういうものか、と思った。

そういうものなら、『三冠を獲ればよかったのに』と会うファン会うファンに言われるのも…納得できる、気がした。

でも、僕は最短距離で行きたかったから。

寄り道で時間を食うのは嫌だったから。

 

「はぁ、ありがとうございます」

 

祝福に、ぺこりと頭を下げる。

 

「凱旋門があるので力抜いたんですよ、これでも」

 

…あぁ、早く帰りたいな。





【戦う者】の鞍上:
白峰透。
人呼んで『逃げの神様』。
しかし当人は自分を天才だとか神様だとは思っていない。
元から鬼才だったがこの宝塚記念で完成した。
初っ端から逃げて逃げて(いちおう緩めてひと息)逃げてしてるのに最終的には彼ら人馬だけピンピンでゴールを駆け抜けている事実。なお後続。
やること成すこともうこの男にしか出来ない神の芸当と化している。
もはや息するのと同じぐらいのヤツな勢い。
でも本人からしてみれば出来るからやるとしか言えない。
逆に何でみんな出来ないの?ぐらいは言う。
だって…、


僕は、"あの子"がいて一人前だもの。



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Nightmare of '97


LArcローテ軸にて【戦う者】について語る後世の人々。



1:名無しのトレーナーさん

 

戦う者の戦績知る前ワイ「1997年の悪夢?なんやそれ」

戦う者の戦績知ったあとのワイ「そらそう言われるわ」

【戦う者のwikiへのURL】

 

 

2:名無しのトレーナーさん

 

まぁ芝ダート両刀でのあまりにも無法の強さぶりに『悪魔』って現地で言われてたやつだし…多少はね?

 

 

3:名無しのトレーナーさん

 

グローリーゴアに脳焼かれた民にめちゃくちゃ嫌われてるけど当のグローリーゴアはコイツのこと大好きなんだよね…

 

 

4:名無しのトレーナーさん

 

コイツといっぱい戦ったけど結局勝てたのは自身の引退レースだけのグローリーゴアさん…

 

 

5:名無しのトレーナーさん

 

>>4

とはいえグローリーゴアも無法側だからな?

…スクラッパがもっと無法側だっただけで

 

 

6:名無しのトレーナーさん

 

>>4

ソイツ、サンデースクラッパにずっと二着で負け続けてただけで完全連対で引退してっからな?

サンデースクラッパがいなかったら無敗で引退してたから

 

 

7:名無しのトレーナーさん

 

なおサンデースクラッパと走るたびに体ズタボロにされる模様

 

 

8:名無しのトレーナーさん

 

元から引退レースにするよ!と決めてたからとはいえ春天時のライスみたくムダというムダを削ぎ落としてたらしいからなぁ、あの時のグローリーゴア

 

 

9:名無しのトレーナーさん

 

>>8

絶対に勝つ!という強い意志

 

 

10:名無しのトレーナーさん

 

グローリーゴアの引退レースマジで見事だからな

途中でサンスクのこと抜かしたら差し返されるってのはこれまでの対戦で分かってるからゴールでギリギリ差し切(ブロードアピールす)るっていう…

そんなのお前しかできねぇよ!!!!

 

 

11:名無しのトレーナーさん

 

そしてグローリーゴア引退後にBCクラシックに行った戦う者さん…

 

 

12:名無しのトレーナーさん

 

>>11

あれは…可哀想だったね(他出走馬等が)

 

 

13:名無しのトレーナーさん

 

>>11

マジでヒエッヒエだったもんな、現地

 

 

14:名無しのトレーナーさん

 

>>11

しゃーない、最愛の宿敵おるやろ思たらおらんくて戦う者ブチ切れやったらしいし

 

 

15:名無しのトレーナーさん

 

それであの半兄思わせるセクレタリアト走りかぁ…

 

 

16:名無しのトレーナーさん

 

引退レースで見る者すべてを絶望させてったから…

 

 

17:名無しのトレーナーさん

 

はじめはみんな追ってたんだけどね

段々…

 

 

18:名無しのトレーナーさん

 

いつも追ってきてくれた相手がいない!!(ブチ切れ)(ブチ切れ)(ブチ切れ)

 

 

19:名無しのトレーナーさん

 

サンスクと走る時は見るからにテンション上がってたグロゴアと一緒に走ると思ってたグロゴアがいなかったのでブチ切れたサンスク

 

 

20:名無しのトレーナーさん

 

まぁ何にせよこの二頭お似合いだよね…(遠い目)

 

 

 

 





【戦う者】:
サンデースクラッパ。
実は引退レース後に最盛期を迎えた。
1997年のエクリプス賞年度代表馬も最優秀ダート古牡馬も最優秀芝牡馬も何もかもかっさらってそう。
たった一年だけではあったが、そのあまりの強さに『(極東から来た)悪魔』やら『1997年の悪夢』やらと米国で呼ばれているウッマ。
目が某運命の長尾景虎みたいに通常と狂気を行き来する系。
でも引退レースとなった97BCクラシックの前のレースで【栄光を往く者】に敗戦し、半兄のように生涯無敗は成り立たなかった。
しかし敗北はその一度のみ。
とはいえ引退レースのBCクラシックに【栄光を往く者】がいないことにブチ切れ(リベンジしたかったのか、それとも…なのかはともかく)、半兄が凱旋門でセクレタリアトしたならコッチも!と言わんばかりに爆走したり。
憎いぐらいに強い。
そんなウマだった。
ちなコイツはどれだけ走ってもピンピン健康体だった模様。
…一緒に走ってた【栄光を往く者】は、コイツと走るたびに体ボロボロにさせられてたケド。

【栄光を往く者】:
グローリーゴア。
【戦う者】と出会わなければ、現役をもっと続けていた御方。
【戦う者】のことをよく知らない人には「コイツ弱いんじゃね?」と言われるけど普通に無敗の三冠馬だし、コイツもコイツで無法側だ!
たぶんこの二頭の時代をよく知る人々には「相手が悪かった」とか言われてる。
でも当馬としてはそれを嘆いたことはないし、逆に【戦う者】と出会えたことに感謝している。
それはそれとして【戦う者】を引っ捕らえい!してお家にしまっちゃおうね〜した。
まぁ…【戦う者】に脳焼かれてるからね、仕方ないね。


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密かに勝ち誇る


外堀埋めまくった果て。



グローリーゴアのサンデースクラッパに対する執着具合は1年ほど経つと、もはや当然のように周知の事実となっていた。

誰もが『宿敵(ライバル)』と呼ぶ仲で、時には互いのファンが喧嘩したりもするけれど、基本的にはお互いを認め合っているし、当の本人たちには周りのどうこうなど興味がなく、『そうゆうの気にするよりトレーニングした方が有意義』とのスタンスであった。

だから毎日熱心にひとり、もしくはふたり共の更新を待ち一喜一憂するファンたちにとってはその投稿も待ち望んだものであり。

だがしかし、サンデースクラッパの発言でその認識は一変した。

 

『グローリーに口説き落とされちゃいました。えへへ…』

『というわけで、引退後はグローリーのところに面倒になることになりそうです』

 

そのメッセージと共に照れた笑顔でピースするサンデースクラッパの画像が添付された投稿。

その投稿に、サンデースクラッパのファンたちはもちろんのこと、グローリーゴアのファンたちも『!?』と反応し。

双方のファンでなくとも、グローリーゴアがサンデースクラッパにご執心なのは遠に常識となるまでに周知の事実となっていたから。

故に何だかんだアプローチをかけても袖にされ続けてきたグローリーゴアが今回見事に、と。

『サンデースクラッパもとうとう年貢の納め時か』と。

()()サンデースクラッパがグローリーゴアに口説き落とされたってマ?』と。

そう、誰もが思ったし、事実としてそうなったわけである。

しかしそれはあくまで観客側(第三者)の認識であり。

 

「……は?」

「ちょ……え? あ……」

「ま……待って」

「嘘でしょ……?」

 

そんな外野とは対照的にふたりと同じ世界に在するウマたちは日本・米国問わずに言葉を失う。

サンデースクラッパはこれまでグローリーゴアを、『宿敵(ライバル)』と公言し、そう振る舞ってきたから。

そんなふたりだからこそ、ウマもファンたちも当然のようにその関係を『宿敵(ライバル)』として認識していたのである。

それがまさかの急転直下で『グローリーゴアのところ』=…などと告げられては驚くなという方が無理な話。

『サンデースクラッパってグローリーゴアのこと嫌い…ではないにしろ、"そこまで"じゃなかったはずじゃ?』と。

そう、誰もが思ったし、事実として混乱し(そうなっ)ている。

だがしかし、そんな外野の反応など知る由もない当の本人たちはというと。

 

「ねぇ……僕なにかマズいこと言った?」

「いや? 別に何も」

 

そんな周りの反応に困惑するサンデースクラッパを他所に、グローリーは澄ました顔で平然としている。

いやむしろしてやったりといった感じに「ふふん」と。

 

「え、でもみんなの反応……」

「大丈夫。一週間も経てば静かになるさ」

 

そうは言いつつもグローリーの口角は上がりっぱなしで。

そんな親友の様子を見てサンデースクラッパは『あ、これなんかやらかしたな』と察するけれど、何がマズかったのかまではわからずに困惑するばかりである。

 

「……幸せだね、スー」

「そう、だね…?」





ふたり:
サンデースクラッパ&グローリーゴア。
爆弾発言っすね。
まぁ元よりアッピルはしてましたけど、大概は無自覚スクラッパにグローリーの一人相撲だと思われてたところにコレ。
やったぜ!とばかりに全世界にドン!するふたりなのでした(なお超満足気なグローリーゴアと悲喜こもごもな悲鳴の周囲の執着勢さんたち)。


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【芦毛の怪物】と!


激重勢に無自覚煽りするオグリはいると思います…という気持ちより。


思えば、あの"怪物"を真っ正面から見つめたのは【芦毛の怪物】、ただひとりだけだったのかもしれない。

 

(…すごい)

 

自分の周り全員が、目を醒ました"怪物"を見て『絶望』するのと裏腹に【芦毛の怪物】は目を輝かせたのだから。

 

「は、はは…」

 

それは恐怖ではなく憧れ。

ただただ純粋な敬意だけがそこにはあった。

 

(ああ、やっぱり)

 

やさしい先輩(ヒト)だった。

 

「はっ、はははは!!」

 

だから【芦毛の怪物】は笑う。

己の敗北を潔く認めて、それでもなお笑う。

 

(やっぱりあなたは)

 

──強い。

そんな歓喜と敬意がこもって漏れた笑い声に呼応するようにして、ついに【怪物】が目を開く。

 

『──────ッ!!』

 

その咆哮は、まるで──。

 

 

そのウマが、かの"怪物"に可愛がられていることは周知の事実で。

怪物同士、惹かれ合うものがあるのか、はたまた必然だったのか。

その答えは誰にもわからないが、しかし確かに言えることはひとつ。

"怪物"は、そのウマをとても大事にしているということ。

 

『────────ッ!!』

 

だから往年の名バとて、この事態に冷静でいられるはずがなかった。

 

(……!)

 

目の前で繰り広げられる戦いは、もはや"お遊びのレース"などという生易しいものではない。

それは──そう、まさに『死闘』。

 

『…、』

 

その戦いを見て、誰かが息を吐く。

そしてそんな息に呼応するようにして、再び誰かが呟く。

 

『…羨ましい』

 

そう、…そうだ。

()()()()

目を醒ます(かんせい)前の"怪物"を見た者は幾人かおれど、()()()目を醒ま(かんせい)した"怪物"を見た…それも目を醒ま(かんせい)した"怪物"を見て『絶望』しなかった…が故に。

 

『────────ッ!!』

 

そして今、その"怪物"が吼える。

それは咆哮であり哄笑のようでもあった。

 

「はは」

(ああ、変わらない)

 

そんな想いが胸に広がる中、【芦毛の怪物】は笑う。

"怪物"から目が離せない。

だから【芦毛の怪物】もまた、目を醒ましたのだ。

 

「……すごい」

 

()()()、周りのように『絶望』する暇なんてなかった。

だって、『絶望』して目を逸らした瞬間に"怪物"の目線から外れてしまうから。

だからずっと、その"怪物"から目が離せない。

 

(ああ、いつだって)

──強い、なぁ。

 

ドリームトロフィーリーグに移行して、トレーニングついでの軽い併走が現在だけれど。

二人とも、曲がりなりにも元は名バであるからして。

 

「もっと来いよ────なァ、【芦毛の怪物】?」

「その胸お借りします────先輩!」





【芦毛の怪物】:
目を醒ました"怪物"に唯一絶望しなかったウッマ。
心折られる周りとは逆に火をつけられた。
"怪物"当人からも正直者で可愛い後輩として可愛がられている。
また鈍感そうに見えて素で周りにクリティカルヒットさせそう。

周り:
"怪物"に可愛がられて、『約束』があるにせよ気軽に走ってもらっている【芦毛の怪物】にジェラ…ッ。
【芦毛の怪物】が良い奴だとは分かっているがふとした時に図星を無自覚にクリティカルヒットされるらしい。


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行きはよいよい


帰りは───?



「怖くなったら逃げればいい。

──キミには、それが許されている」

 

外から入った、キミには。

かつて、その家に婿入りする時にコソリと言われた言葉。

ひっそりとした祝いの場であったから、きっと横にいた妻となった彼女にも、その言葉は聞こえていただろう。

 

【白の一族】…。

 

少し裏に足を踏み入れれば半ば伝説のように耳に入ってくる名称。

その一族が、この地域に住まう者の中でも特別な地位にあることは知っていた。

ここら辺一帯を裏から支える、影の一族。

その名の庇護は強く、表の人々はそのことに感謝しつつも確かに恐れ。

『自警団みたいなモノ』とは言うが、その実態は【白の一族】当人たちとて全容を把握できていない。

なぜなら、そう。

彼らは、本当に『自分勝手』だからである。

 

「いや、ホントに今何人いるかってトコロから分かんないンだ」

「はぁ、」

「昔っから追われて、な生活の奴らばっかりだから一箇所に集まったりとかもしなくて…。集まったら、一網打尽だから」

 

くつくつと笑う義父は今日も変わらず口籠と目隠しをされている。

家に戻れば外すようだが、外ではトレードマークというか…威嚇のようなものとして使っているらしい。

 

「マ、またフラッと立ち寄ったって秘密裏に何人か来るだろうさ。キミの紹介はその時に」

「…なるほど」

 

男ひとりだけであるのなら、おうおうと絡みに来るいつもの連中も流石に養父が男の傍にいるとなるとひっそりと身を潜めるようで。

華奢ではあれど、簡単に大の男を転がす技術を持つ養父の実年齢はまだ杳として知れず(当人は『まだ若いヨ〜』と言うが)。

 

「じゃ、帰ろっか。…リリィも寂しがってるだろうし」

「はい」

 

 

自分たちが極一般の『普通』──いわゆる世間というヤツから恐れられる側だという自覚はある。

カリスマ…と言っていいのか分からないぐらいに他人を惹き付ける素養は容易に他人の人生を狂わせてしまう。

故に人目を避けて、生きることにした。

がしかし。

 

「……、」

 

ワチャワチャとしている娘夫婦を見やる。

"閉じた世界"──この町しか知らなかったあの娘が連れてきた、新しい家族。

 

『髪や顔立ちは私似ですけど…ほら、目はアナタにそっくり』

 

そう言って笑った妻は、もういない。

幸せそうにする若人ふたりに、妻が居れば…と夢想するがどうしたって頭の中の妻は若々しく、逆に己は年老いて。

 

「…怖くなったら、逃げればいいとは言ったけど」

 

寂しいものは、寂しくて。

本当にそうなるなら、『愛する人が望むなら』と、可愛い我が子は必死にその寂しさを呑み込むだろうけど。

 

(願わくば…)





【白の一族】:
ある地域一帯をそれとなく治めている。
構成人数は遠に分からなくなってはいるが、一族同士が会ったら会ったで「あ、コイツ、ウチのだな」と分かるのでその名を(かた)る奴はまぁいない。
伴侶を外から取った場合は『来る者拒まず去るもの追わず』を心情としているがやっぱり寂しい。
…愛情、深いからね。


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最強の憎まれ役?


LArc軸【戦う者】の話。



時に『強すぎてつまらない』と言われる選手がいる中で、彼は『強すぎて憎い』とまで称された。

誰も捕えることのできない、()()の走り。

捕らえようとすれば多くが壊されるだろうことは言わずもがなで、そもそものところその後ろ姿だけで共に走る者を諦めさせ、絶望させる様は、まさしく『悪魔(Diablo)』の二つ名に相応しい。

 

「ただまあ、そうは言っても負けたんだけどね〜」

 

ケラケラと笑う『悪魔(Diablo)』こと、サンデースクラッパに、彼を負かした張本人であるグローリーゴアは…ひどく渋い顔をする。

なにせ、いま思い出してもあの頃の世間とやらは酷かった。

サンデースクラッパは、その走りで世界を魅了し、熱狂させた。

しかしそれは同時に、多くの者にとっての悪夢でもあったのだ。

 

「キミが勝った時なんか大変だったよ〜?手のひら返すみたく『悪魔(Diablo)』が負けるなんてありえない!ってみんな大騒ぎしちゃってさ〜……まあ気持ちはわかるんだけどね?」

 

その言葉に、グローリーゴアは当時を思い出して目を細める。

サンデースクラッパは確かに強かった。

だが同時に、あまりにも強すぎたのだ。

あまりにも強すぎて…脅迫文なんてザラで、ありもしないスクープをでっち上げては記者たちが詰め寄っていた。

サンデースクラッパを貶め、その栄光に泥を塗ろうと画策する者は多く、その度にグローリーゴアが彼を守ったのだ。

 

「…あれは本当に大変だったね。キミのスキャンダルを捏造しようとする奴らもいれば、キミと僕を引き離そうとする奴もいたし……まあ結局全員返り討ちになったけど」

 

曲がりなりにも名家の出である。

レースでは煮え湯を飲まされているとは言えど、言われのないことで石を投げられている相手をそのまま捨ておくなど、グローリーゴアのプライドが許さなかったのだ。

 

「あの頃のキミは僕といるのが嫌だったろうけどね〜」

「……別に嫌ではなかったよ。ただ、面倒だっただけで」

 

グローリーゴアは本心からそう思っていた。

何にもなかった自分に火をつけた相手が、勝手に消されそうになっている。

それが許せなくて。

火をつけたのはお前なのに、なに勝手に()()()()()()()()()()()?と。

 

「そう思うとキミはさ〜……本当に、僕がいなかったらどうなってたんだろうね?」

「…………」

 

サンデースクラッパの呟きに、グローリーゴアは何も返さなかった。

かつて、の話ではあるが。

グローリーゴアは、目の前のケラケラ笑う『悪魔(Diablo)』を貶した出版社だとかそういうのを潰しかけたことがある。

有名だろうが、無名だろうが関係なく。

より良いレースの為に、という大義名分で。

もちろん、サンデースクラッパの栄光を貶めるためだけに記事やらを作った奴らは全員潰された、が。

そうしたのに、大元の会社自体を潰さなかったのは…サンデースクラッパに「やめてよね(意訳)」されたからである。

…だがしかし。

 

「……」

(う〜ん、思い出したのか嫌そうな顔してるや)





【戦う者】:
サンデースクラッパ。
強すぎて憎まれてたタイプ。
金輪際現れない最強の憎まれ役。
脳焼かれてる人が多い分アンチも多い。
なお本人はまったくもって気にしていない。
某エゴイスト並に「負け犬の遠吠え」とすら思ってそう。

【栄光を往く者】:
グローリーゴア。
世間からは英雄視されていたタイプ。
がんばえ〜。
エグいくらいファン多そう。
【戦う者】が自身が憎まれ役になっているのを気にしない分こっちが気にしている。
【戦う者】のことをライバルと思っているけどそれ以上に…ね?


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告白


いつか、本気に。



とたとたと帰路に着く。

その足取りがいつもよりふわふわしているのは…きっと、あの光景を見てしまったからだろう。

 

『好きです!付き合ってください!!』

 

それ自体はありがちな告白劇だった。

夕暮れ時で、赤っぽいオレンジに染め上げられて、校舎裏はロマンチックな雰囲気が漂っていた。

 

「あるんだぁ…ああいうの」

 

まぁ、珍しくはない話だという。

そりゃあ同年代の子の大半が寮生活する学園だ、中にはそういうこともあるだろう。

しかし、いざ目の前で見てみると……なんだか妙に落ち着かない。

 

「はぁ……」

 

ため息がこぼれる。

別に、羨ましいとか妬ましいとか、そういうわけじゃない。

ただ……なんていうか、ちょっとだけ。

 

「……帰ろ」

 

とはいえ、いつまでもここで突っ立っているわけにもいかないので、僕は自分の部屋があるアパートへと足を向けた。

 

 

「あ〜…、なるほど」

 

それから、なんとなく気になってパラパラと生徒手帳をめくったところ。

 

「不純異性交友は、とはあるけど」

 

法律の穴をついた、みたいな?

 

「恋愛禁止、とは書いてない。……と」

 

生徒手帳にはそう書いてあった。

つまり、別に悪いことではないのだろう。

トレセン学園に通う生徒というのは、ウイニングライブ等の形式上、どこかアイドルのような立ち位置に立たされる。

そのためメディアの目もあるから、ひっそりとするだろうし。

 

「まぁ、僕には関係ないか」

 

 

そういうのが気になるお年頃。

なのでどこからか流れてきた噂を、さも自分が知っているかのように話す。

 

「ねぇ、聞いた?あの話」

「なになに?」

「あれよ、あれ!例の……告白のやつ!」

「あー、アレね。うん、知ってる知ってる」

「それでさ〜……」

 

とまぁ、そんな感じで広がっていく噂話。

ただ、僕の耳には入ってこない。

というのも、僕は今それどころじゃないからだ。

 

(あ゛ー……)

 

机に突っ伏して呻く。

 

(いやいや、アレはただの戯れだろう?この年齢特有の!)

 

そう自分に言い聞かせるが、どうにも腑に落ちない。

 

(だって……あんなの)

 

思い出すのはあの光景。

夕焼けに照らされた教室。

全身を夕焼けに赤く染めて、照れたように微笑むあの子の姿。

そして、困惑する僕の手を取って、恭しく───。

 

「〜〜〜〜!!!!」

 

思わず机を蹴りあげてまで勢いよく立ち上がりそうになったのを、太ももを強くつねることで制する。

 

「痛っ……!!」

 

じんじんと痛む太もも。

しかし、おかげで少しは冷静になった。

 

(落ち着け、落ち着け)

 

そう自分に言い聞かせる。

 

(別に、あの子に明言されたワケじゃ…)

 

そうだ。

あんなのはただの遊びだ。

よくある告白ごっこだ。

 

(だから……僕が気にするようなことじゃない)

 

そう自分に言い聞かせて、僕は再び机に突っ伏した。

 





僕:
シルバーバレット。
いちおう照れるぐらいの心はある。
でも「ないないない!」って思ってる。
だが…?


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シンデレラグレイの同室


ある世界のシングレ軸で史実夫婦が同室だったよ!って話。



ひとり部屋に新しく同室となるウマ娘が来るのだと█████████(シロガネミコト)が知ったのはある日のこと。

その日から細々と部屋の掃除をし、『あの何日すれば…』とカレンダーにバツ印をつけながら待ちわびた。

そして、その日がやってきた。

 

「どうぞ」

 

ノックと共にドアが開き、一人のウマ娘が入ってくる。

 

「っ……!」

 

その姿に█████████(シロガネミコト)は息を呑んだ。

身長は170cmあるかないか。

自身と同じ芦毛の髪と白い肌をしたウマ娘。

彼女は部屋の奥にいる█████████(シロガネミコト)に気づくと、ぺこりと頭を下げた。

 

「はじめまして。今日から同室になるオグリキャップという」

 

その姿を見て──█████████(シロガネミコト)は思わず涙を流した。

ずっと、会いたかった相手に再会できたような…。

そんな感情を抱いて。

幸い流れた雫は欠伸の時に流れ出るものと同じぐらい少量だったのでバレぬようにソッと拭い。

 

「こちらこそ。私は█████████(シロガネミコト)と言います。よろしく、オグリさん」

 

 

カサマツから転入してきたオグリキャップに寮部屋が与えられるというのは、オグリキャップ自身も知っていた。

だが共に来たベルノライトと同室だろうという予想は早々に打ち砕かれ、選手は選手、サポート科はサポート科と分かれると、各々案内されることになり。

 

「キミの同室になる子はやさしい子だから、助けになってくれると思うよ」

「そうか。ありがとう、ございます?」

「いえいえ。それじゃあ」

 

案内された部屋の前で一呼吸。

そしてコンコン、とノックすれば「どうぞ」とやわらかな声。

 

「失礼───」

 

そう言いかけてすぐ、オグリキャップの言葉は止まった。

部屋の中にいたのは自分と同じ芦毛のウマ娘。

しかしその髪はオグリキャップのものよりもずっと白く、また肌の白さも相まって。

まるで雪のようだ───と、身惚れてしまった。

 

「…はじめまして。今日から同室になるオグリキャップという」

 

だからだろうか、つい自己紹介が遅れてしまい。

すると彼女は何故か驚いたような表情を浮かべてから慌てて頭を下げ。

 

「こちらこそ。私は█████████(シロガネミコト)と言います。よろしく、オグリさん」

 

そう名乗ったのだった。

 

 

「やぁ、███(ミコ)ちゃん。電話なんて珍しいね」

「あぁ…、同室の子が来るの今日だったんだ」

「同じクラスで…へぇ、隣の席。すごい偶然だ」

「じゃ、時間もそろそろだろ?また明日、学校でね」





█████████(シロガネミコト):
オグリキャップと同室になった芦毛のウマ娘。
ひとり暮らしをしながら学園に通っている姉がいるらしい。
また『星を視たアルファルド』が連載されるならお姿が続投になる御方。
そして元のご立派ァ!体格も相俟って肉体が盛りに盛られていそう。
とりあえずオグリには初対面で見惚れられたとか。


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普通のウマだよ


…みんなは、そう思わないみたいだけど。



『コイツちっっさ!』ということに意識を取られていたため、「よろしく」と伸ばされた握手の手を何の抵抗もなく取ってしまった。

いつもなら払い除けるか何かしたはずなのに、俺はあっさり手を取り、ぶんぶんと振られている。

 

「テメェ、のお名前、は?」

「シルバーバレット」

Silver Bullet(銀の弾丸)? ……変わった名前だな」

「よく言われるよ」

 

俺よりも、頭ひとつぶん低いウマには、深々と刻み込まれた火傷跡があって。

にこりと微笑むたびに無事な方の灰銀と、白く濁ったふたつの色の双眸が、ゆらゆらと揺らめいていた。

 

「俺はサンデーサイレンス」

「…。あぁ、知ってる」

「そうか。…俺も有名になったモンだナ」

 

にや、と笑う。

後に聞けば、コイツが俺のことを知っていたのはコイツの一番下のきょうだいの父親が俺であったからであって。

 

「よろしくね、サンデー」

 

それが、ファーストコンタクト。

 

 

それから、事ある毎にシルバーバレットというウマは俺のことを尋ねてくるようになった。

「仕事のついでで」と本人は言っていたが、毎度毎度久々に会う幼子を相手にするようにそこそこ値の張る菓子を持ってきて、「一緒にどうだ」と誘ってくる。

そして、俺はそれを断ることをしなかった。

……いや、できなかったというべきか。

シルバーバレットは俺より小柄ではあったものの、だいぶ年上だし、大家族の長子でもあるからか、上手い具合に誘導してきて。

 

「美味しい?」

「あぁ」

「よかったぁ」

 

いつもしている眼帯は、俺と会う時は外されていて。

前髪があってもチラリと見える火傷跡が、その白い肌によく目立った。

 

「なァ、」

「なぁに?」

「なんで、俺だったんだ」

「?」

「…お前なら、誰とだって友だちにさ、なれるだろ」

 

伸ばした手はいとも簡単に受け止められる。

指先で撫でるソコは思いの外つるりとしていて、滑らかな肌触りをしていた。

 

「そう、かな」

「あぁ」

「……でも、僕はキミでよかったよ」

「?」

「だって、キミは優しいから」

 

……俺はシルバーバレットに優しくした覚えはない。

ただコイツが勝手に懐いてきていただけで、俺はそれを拒まなかっただけ。

それでもシルバーバレットは俺に会うたびに嬉しそうに笑っていて、俺もその笑顔にどことなく安堵していた。

 

 

引退したら、面倒くさくなってしまった。

何がって、自分を『凄いヤツ』だと見てくる周りの目に。

みんなが僕を、シルバーバレット(ぼく)という存在に貼り付けられたレッテルを見ている。

本当の僕なんて二の次で、()()()()()()()()()シルバーバレットだ、と。

だから。

 

「テメェ、のお名前、は?」

 

そう、臆しもせず、尊敬の眼差しもなく、告げたのはキミだけだったから。

 

「シルバーバレット」

 

僕は、キミと友だちになりたいって思ったの。





僕:
シルバーバレット。
自分を自分として見てくれる人と友だちになりたかったウマ。
なので周りからめちゃくちゃ注目されている自分に、唯一何の感慨も抱かず握手に応じてくれたあの子。
…銀弾好感度メーターがあがった!


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捕らえたのは、蜘蛛の糸でなく


捕らえたのなら食い尽くして。



『はじめまして、【飛行機雲】くん』

 

そう言って僕の頭を撫でたのは、父の友人だという人。

少し白がかった芦毛の長い髪を編んで、ゆるりと緩む眦がどことなく中性的に見せていたけれど、僕の頭を撫でるその手は確かに大人の男の人であった。

 

『今日はね、キミのお父さんと約束があって…。だから、少しの時間キミのお父さんのことを借りてもいいかな?』

 

その言葉に僕はこくんと頷いた。

別に断る理由もなかったし、この人の姿を見て『あぁ、この人が父が最近ソワソワしていた原因なんだ』とすら思っていた。

 

『ありがとう、【飛行機雲】くん』

 

その人は僕の頭をもう一度撫でると、父に向かって歩いていって。

少し照れくさそうに父の隣に並ぶと、そのまま二人で歩き出した。

僕はその二人の後ろをちょこちょことついて行く。

 

『ほら、飛行機雲くんもこっちにおいで』

 

そう言われて、僕も父の友人であるその人の手を取った。

 

『おそい』

『はは、ごめんよレイ。…でもパパと一緒に行けばよかったじゃないか』

『…』

 

そして出会ったのが…先輩で。

少しキツい目付きをしながらも、人見知りのようでその人の後ろに隠れては僕と父のことを睨んでいた。

 

『ほら、レイもちゃんと挨拶しないと』

『……よろしく』

 

 

「お前、俺の親父に会いたいって中々言わないよな」

「普通はそうでしょう?」

「まぁ、な」

 

会いに行こうと思えば会いに行けるけど。

たぶん歓迎だってしてくれるだろうけれど。

 

「でも、なんか……。お前から親父の話が出ると、こう……モヤモヤするから。ま、話に出ないならそれはそれで」

「は?」

「?」

 

確かに先輩のお父さんはミリョクテキな人だ。

活躍時期が長かったのもあって交友関係も広いし、頼まれればイベントだって快く出てくれるから様々だって話も聞いたことがある。

でも、先輩が自分から先輩の父親の話を出すことは滅多にない。

 

「先輩って、本当に鈍感ですよね」

「あ?」

 

だって、それって。

 

「……嫉妬みたいじゃないですか」

「はぁ!?」

 

先輩が素っ頓狂な声を上げた。

そんな先輩に僕はクスクスと笑うと、先輩の手をぎゅっと握って歩き出す。

 

「ちょ、おい……っ!」

 

先輩は僕の手を振りほどこうとしていたけれど、僕が離さないようにギュッと握ると諦めたのか大人しくなった。

 

「大丈夫ですよ〜。僕は先輩のことだけしか見てませんって」

「…それもそれで、どうかと思うがな」

「えー!?」

 

…バカな先輩。

いくら貴方の父親が────蜘蛛のような御方であっても。

 

(僕を捕らえたのは、貴方でしょう?)

 





【飛行機雲】:
後輩。
【銀色の激情】の父である【銀の祈り】のことは『すごい人だな』と思っている。
でも【飛行機雲】の目を焼いたのは【銀色の激情】だからね、なびくことはないんだな。
それに…。

────【銀の祈り】さんには、もう夢中の人がいるので。


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もし銀系列の攻略ゲーがあったとして


▼さて、あなたは誰を攻略しますか?



1:名無しのトレーナーさん

 

休日、街に繰り出していたところタチの悪いナンパに絡まれて困っていた時にちょっと言動とかが粗野で遠巻きにされてたアウトレイジくんに助けられて吊り橋効果でいいなって思っちゃうけど本人がクソ鈍なのとアウトレイジ自体が海外遠征→引退√を辿ったので、自分にとっては彼が唯一なのに彼にとっての自分は助けた大勢の中のひとりで…みたいな感じで銀系列相手に乙女ゲーっぽく妄想してけ

 

【シルバアウトレイジの画像】

 

 

2:名無しのトレーナーさん

 

業が深い!!

 

 

3:名無しのトレーナーさん

 

どうせ銀弾にBSSされるじゃないですかヤダー

 

 

4:名無しのトレーナーさん

 

銀弾だけじゃなく各々仲良しな親友枠とかにも攻略邪魔されそ…

 

 

5:名無しのトレーナーさん

 

そもそもグッドエンドしかないやろコレ(こなみかん)

 

 

6:名無しのトレーナーさん

 

はじめはただのクラスメイト(あんまり目立たないタイプ)だったシルバーチャンプくんの良さを分かってるのは私だけ…していたところに国の期待背負わされてゲロりそうになってるチャンプくんに「こんなのチャンプくんじゃない」って発破のつもりで言った言葉でトドメ刺したい(白目)

 

 

7:名無しのトレーナーさん

 

ムードメーカー兼トラブルメーカーのみんなの委員長サクラスタンピードに恋するけど幼馴染のプライドシンボリ&メジロシルフィードと一緒にいる時の穏やかでありながら心底安心して>>愛<<って感じの顔見て密かに失恋してぇ…!

 

 

8:名無しのトレーナーさん

 

迷子になってたところを助けてくれたサンデースクラッパお兄さんに初恋するも2回目の邂逅でグローリーゴアに大人気ない本気の威嚇されたい

 

 

9:名無しのトレーナーさん

 

はじめは儚いメジロシルフィードさんの見た目に一目惚れするけど、後々その儚さが嘘のようなストイックな面とか見て脳焼かれたい

 

 

10:名無しのトレーナーさん

 

全員が全員攻略するの難易度ルナティック定期

 

 

11:名無しのトレーナーさん

 

シルバーチャンプ√は頼み事すると二つ返事で了承してくれるから、って頼みすぎると【金色旅程】先輩からストップかかって、そうなったらもうその√では二度とシルバーチャンプを攻略できないし、その時点でそれまで上げてたシルバーチャンプ産駒の好感度もダダ下がりするんだ…

 

 

12:名無しのトレーナーさん

 

どの攻略対象でも親友枠出てきたらもう終わりよ

いくら主人公だろうがネームドのステに勝てるかぁ!

 

 

13:名無しのトレーナーさん

 

>>12

何だろう、親友枠が出てきたら模擬レース勝たないと諦めてくれない感

というか勝っても約束守ってくれなさそう

 

 

14:名無しのトレーナーさん

 

可愛いカッコとかして魅力度あげたりするとみんな褒めてはくれるんだけど…ね?

 

 

15:名無しのトレーナーさん

 

銀弾はもうお助けキャラでいろ、いてくれ(切実)

 

 

16:名無しのトレーナーさん

 

たぶん銀弾パイセンは隠し攻略キャラだよ(攻略できるとは言っていない)

 

 

17:名無しのトレーナーさん

 

銀弾√入ったら通常ルートの攻略キャラたち(銀系列)がこぞって邪魔してきそお

 

 

18:名無しのトレーナーさん

 

ただのヒロインちゃんがカイチョーとCBの圧に勝てるわけないだろ!!

 

 

19:名無しのトレーナーさん

 

やっぱ銀弾に向けられる矢印の数多すぎんよ〜

 

 

20:名無しのトレーナーさん

 

お助けキャラ銀弾の好感度MAXするところが攻略の第一歩なんだろなぁ…

 

 

 





乙女ゲー妄想の話。

とりあえずお助けキャラ()のくせに大なり小なり攻略対象から矢印を向けられる銀弾。
そして関門のようにたびたび模擬レースしたり定期試験で勝負しかけてくる親友枠。
だが何も知らない約束されたクソ鈍な攻略対象銀系列共!

でもノーマルかビターかバッドしかエンドなさそう。
(ハッピーエンドは)ないです。


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『宝物』


私だけの、あなたでいて。



好きな相手のかっこいいところを見たい…というのは万国共通であると思う。

そしてそれが元々メディアに露出していた人間であるならなおさら!

 

「…!」

 

当の本人は恥ずかしがって話も何もしてくれやしないから、ひょんなことから見つけたソレはホワイトリリィにとって───。

 

 

男-ヒカルイマイは、自身の過去についてあまり語らない。

ほんの一時、少しばかり話題に登った…程度のことをわざわざ自慢するような恥ずかしい人間ではなかったし、そもそも語るようなものでもない、と。

しかし、それはあくまでヒカルイの視点から見た場合である。

 

「……」

「……」

「な、んだ」

「いや」

 

ふとした時に妻であるホワイトリリィが己を見てくることに少々うろたえるヒカルイマイ。

何故ならヒカルイマイは初対面で彼女に告白したぐらいにゾッコンであるため、彼女のやることなすことにはめっぽう弱かった。

 

「別に」

「……そうか」

 

好きな女の前ではカッコよくいたいのが男のサガ。

なので普段からカッコつけるし、硬派を気取る。

…ま、手と手が触れ合った際に顔を真っ赤にして飛び退くのはご愛嬌ってことで。

 

「……」

「なんだ」

「いや」

 

だが。

そんなヒカルイマイのカッコつけ(努力)は、ホワイトリリィには効かなかった。

それどころか、むしろ逆効果であった。

 

「……ふは」

「?」

 

ホワイトリリィはニヨニヨとしながらヒカルイマイを見てくる。

それはまるで愛おしいもの、というよりかは必死に大人びようとする幼子を見るかのようで……。

 

「……なんでもねぇなら見るな。その、恥ずかしいだろ」

「ふひ」

 

 

その古い雑誌はまたたく間にホワイトリリィの『宝物』と相成った。

そこそこな年代物の、ちょっと雑に扱うと今にもページが脱落しそうな雑誌。

それをホワイトリリィは、大事に大事に……まるでいっとう大事なぬいぐるみにするように抱き締める。

 

町の昔ながらの古本屋で見つけた一冊。

遠に廃刊となった雑誌の、毎月刊行していた内の一冊。

その一冊の中の数ページに…若き日の愛しい人が載っていた。

トレーニング終わりなのだろう、汗を拭っている姿に取材が煩わしそうな姿。

むかしむかしの、ホワイトリリィの知らないヒカルイマイの姿────。

それが悔しいような、知れたことが嬉しいような。

矛盾した気持ちで、ホワイトリリィは今日も、秘密裏にその部分を指先でなぞる。

ざらりとした紙の質感はいずれつるりと掠れてしまうのだろうけれど。

 

(私の、私だけ、の)





自分が知らない時代のあの人を秘密裏に『宝物』にしちゃう健気な【白百合】とカッコつけたい【電撃の差し脚】さん。
たぶん『宝物』のことが露呈したら【電撃の差し脚】さんは恥ずかしさのあまり捨てようとするけど、愛しの【白百合】にめちゃくちゃ泣かれて「お、おう…」ってなると思う。


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いい匂い。



何の障害もなく、流れ続ける水のような、そのストレートの長い髪のひと房を、そっと取って口付けたのは祈りだったのか、はたまた。

 

「これだけ長いのは、子どもの時以来だよ」

 

そう言って笑うのはクラスメイトであるシルバーバレット。

某タキオンから治験を頼まれ、こころよく了承したところ、今回はこうなったのだと言う。

伸びた髪は彼女の腰を越えて、床につくまでだったから、ぺたりと座すとまるで彼女がラプンツェルに見えた。

 

「でも、ちょっと邪魔かな」

「そうか? あたしは…好きだけど」

「そうなの?」

「だって、この髪ならシルバーを捕まえるのも簡単だろ?」

「……それは、怖いな」

 

シルバーバレットは苦笑いをする。

ムダな肉が削ぎ落としに削ぎ落とされての、あの速さなのに。

それにプラスしてこんな長い髪が生えちまったら…なぁ?

 

「にしても動きにくそうだな」

「まぁ、ね」

「髪梳くか?」

 

スカートのポケットに入っていた折りたたみ式のブラシを出すと、シルバーバレットは首を振る。

 

「いや、いいよ」

「そうか? でも……」

「いいんだ」

 

シルバーバレットはそう言うと、自分の長い髪をひと房手に取り、クスクス笑う。

 

「ふわふわだねぇ?」

「…そうだな」

 

 

後ろから抱き着くとふわふわの髪に埋もれる。

 

「シルバー」

「ん?」

「……何でもない」

「そうかい」

 

ふわふわの髪に埋もれると、何だかとても安心する。

だから、あたしは後ろから抱き着くのが好きだ。

シルバーバレットはクラスメイトだ。

いつもぽーっとしているが、授業態度は真面目で先生のちょっと意地悪な質問にも軽々と正解する。

そんなソイツとあたしが仲良くなったのは、たまたま席が近くになったからだった。

 

「おはよう」

「……おはよう?」

 

と、挨拶をしたのが最初。

それからは授業でペアになることが多くなり、昼食も。

そして放課後も一緒に過ごすようになり……。

いつの間にかあたしはシルバーバレットが気になっていて、それを自覚した時にはもう手遅れだった。

 

「なぁ……」

「ん?」

 

ふわふわの髪に埋もれながら。

 

「シルバー」

「ん?」

「…いい匂いする」

「そう?でも普通のシャンプーだよ?」

「そ」

 

薄らと土の匂い。

たぶん髪が伸びる前に軽くトレーニングしてたんだろうなぁとか、そんなことを考えて。

 

「シルバー」

「うん?」

「好きだぞ」

「……ありがとう?」

 

後ろから抱き着いたまま、そう言うと。

不思議そうに、彼女は礼を言うのだった。

 

「…カツラギ?あれ、カツラギ?……寝ちゃった?」





【世界制覇の大エース】:
カツラギエース。
僕の髪に顔を埋めるのが好きとかどうとかいう噂がある。
でもとりあえず僕の髪が好きなことはたしからしい。


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ひとりじめ


Where do you live?



その日、シルバーバレットはまぁそこそこに知己となったふたりがいるであろう旧理科準備室に足を踏み入れた…はずだった。

 

「ぇ、」

 

ドアを開けて、足を踏み出して。

床につくはずだったつま先が、とぷん…と何かに飲み込まれた。

いや、確かに地に足はついている。

なにも変わらずそこに床が存在することは確認できるのに、何故か感触だけが「違う」。

思わず口から勝手に怯えた声がこぼれて、シルバーバレットは躓きそうになる体を慌てて立て直した。

なんとか踏ん張って周囲を見回す。

おかしなものは何もない、よく見慣れた理科準備室だ。

けれどなにかがおかしい。

 

───どこか、薄暗い。

 

そんなふうに感じるのにどこが変なのかは分からない。

原因も理由もわからないからどうしようもない。

違和感と曖昧模糊な焦りだけが、そこに"正体不明のモノ"が存在しているのだとシルバーバレットに錯覚させた。

心臓が奇妙なリズムを刻み、頭が鈍く痛み出す。

考えてはいけないと思考が警鐘を打ち鳴らすのに、何故だか思考は勝手にやみくもに散らばった仮説をつなぎあわせて結論を出したがる。

そこにたどり着いてはいけない。

それに気づいたらもう逃げられない。

そう本能が泣き叫んでいるのに、

 

「ぁ、」

 

開いて、閉じてを繰り返して。

幾度目かの瞬きで、シルバーバレットの眼はその影を捉えた。

数瞬前にはいなかったはずの影は知己のふたりの内、ひとりの姿に酷似していて。

しかし、ニィと唇をつり上げるその笑みが明らかに知己とは違うとシルバーバレットに伝えてくる。

 

「────、」

 

名前を呼びかけたその瞬間、きゅうっとその眼が細く三日月を描いて。

ひと呼吸の内に眼前まで迫っていたその影に何も出来ないまま、シルバーバレットは…。

 

 

シルバーバレットが行方不明になって、一ヶ月近くが経った。

ひとり暮らししている部屋に帰った形跡はなし、携帯電話も既に電源が切れているためGPSでの捜索も出来ない。

警察に届けもしたようだが、事件性の有無が不明なためかあまり積極的に動いてはもらえなかった。

シルバーバレットの友人や知人も積極的に動き、あちこち探し回ってみたものの、それでも行方は知れないまま。

 

「……」

 

そのような日々の中で、マンハッタンカフェはひとり思考していた。

マンハッタンカフェしか知り得ない事実。

マンハッタンカフェしか知らぬ事実。

シルバーバレットが行方不明になった原因。

マンハッタンカフェは、それを知っている。

 

「────」

 

しかしそれは、今のマンハッタンカフェにはどうしようもないことだった。

 

「どうすれば…」

 

マンハッタンカフェには、『お友だち』がいる。

その『お友だち』は、マンハッタンカフェのそばにいる時もあれば、ふらっと外で走っている誰彼かと楽しげに併走している時もある。

だがここ最近は、……呼んでも出てこない。

まるで、どこかに閉じこもっているような気配がある。

 

「どうすれば、いいんでしょう……」

 

マンハッタンカフェは、それを知っている。

知ってはいる、が…。

 





僕:
シルバーバレット。
どこにいるんだろうね?


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やっとみんな会えたね


でもまだサルベージされてないんだな、それが。
んで、銀弾が見ているのはずっとずっと
───『運命』のみである。



1:名無しのトレーナーさん

 

……え?……は?

【「僕のこと、覚えてる人なんているんですかねぇ…?」と台詞が書かれたトレセン学園生徒紹介の冒頭場面】

 

 

2:名無しのトレーナーさん

 

\( 'ω')/ウオオオオアアーーーッッ!!

 

 

3:名無しのトレーナーさん

 

エッ…ウソ…うそぉ!?

 

 

4:名無しのトレーナーさん

 

そんなこと1ミリも言ってなかったじゃないですか!!!!

 

 

5:名無しのトレーナーさん

 

しかも>>約束されし白峰<<っスか…

 

 

6:名無しのトレーナーさん

 

シルバー冠名チャンプ、フォーチュンママのふたりだけからアウトレイジ星3、プレアー星2実装でやったー!!してたところにコレですよ!!!!やりやがったなChaygames!!!!!!!!

んでシルバデユール、プライド・バレットのシンボリ組、メジロシルフィード、サクラスタンピード実装確定ですよ!!!!

(石が)タヒぞ!!!!!!!!!!!

 

 

 

7:名無しのトレーナーさん

 

まさかの星1で実装かぁ…あの銀弾が

 

 

8:名無しのトレーナーさん

 

まさしく人権すわ

星1だからみんな持てるし

 

 

9:名無しのトレーナーさん

 

に、日本初の凱旋門賞バが星1で手に入っていいんですか…????

 

 

10:名無しのトレーナーさん

 

星1にしては性能がバグってるんだよなぁ!!

 

 

11:名無しのトレーナーさん

 

う〜ん、この固有の強化アンスキ具合草

 

 

12:名無しのトレーナーさん

 

大逃げ獲得はクラシック期JCで逃げして大差勝利か

 

 

13:名無しのトレーナーさん

 

猛者の方から星3になると特殊イベあるって話来てるんですけどォ!?

 

 

14:名無しのトレーナーさん

 

星1相手に無慈悲にかかってくる三冠ウマ娘怖いよォ…

しかも勝っても「こんなの銀弾じゃない!(意訳)」してくるゥ…

 

 

15:名無しのトレーナーさん

 

旧理科準備室組が癒しっすね…

 

 

16:名無しのトレーナーさん

 

進化スキルはコンセ→刹那の早撃ち、最速の極意→誰も彼も届かない、ねぇ…

 

 

17:名無しのトレーナーさん

 

星1でもやろうと思えばフツーに戦えるのさすが銀弾ですわ

 

 

18:名無しのトレーナーさん

 

育成イベで史実銀弾が出会うことのなかった甥から始まる血縁に合ってるのいいゾ^〜コレ

 

 

19:名無しのトレーナーさん

 

普段は微笑ましいんだけどレース前後が怖すぎィ!

 

 

20:名無しのトレーナーさん

 

あぁ〜、なるほど

銀弾の現役期間の長さからか、星1なの

 

 

 

 

「僕のこと、覚えてた?」

 

そう告げるとスゲェ勢いでしばかれた。

おいおい今はプリチーな美少女なんだぞう!と文句を言おうとすれば、口を開く前に痛いぐらいに抱きしめられて。

 

「え、え〜…?な、泣くなよぉ…」

 

ズビズビ音がする。

泣いているし、鼻水もすすっている。

汚ねぇなぁと一瞬思ったが…まあ、仕方ないか。

 

「お〜泣け泣け(…にしてもこの体勢キッついな、主に身長差のせいで)」





僕:
[Dear My "Destiny"]シルバーバレット。
まさかの星1で実装された系火傷顔合法ロリウマ娘。
声優は騎手の白峰遥の長女である白峰(あかり)さん。
育成にてLArcじゃなくてもフツーに凱旋門行く勢。
はじめは何でコイツが星1やねんと言われていたが、現役最盛期までの流れを考えると初めから完成じゃなくて積み上げての"完成"だから…まあ、仕方ないかぐらいの感じに。
やっとみんな会えたね。

だが育成が超絶難度勢。
よっぽどのことがないと最終目標(CB、皇帝その他もろもろ出走の夢の第11Rならぬ夢の有馬記念)は勝てなくて基本ノーマルエンドである『さよならはまだ言えない』に行く(なおグッドエンド名は「おかえり」で最後に銀弾が「ただいま」言うて終わる)。
そりゃ銀弾の『運命』は画面の前のトレーナー(あなた)ではないのでぇ…無敵になれないし、ならないんすわ…。

んで、星1星2時代はそこそこお喋りでちょっとヒシミラクル感がある。
でも星3になると星1・2時代が嘘のように"無"な感じになり、誰もが求める敗者(後ろ)なぞ見ない『無敵の銀弾』に完成する。
なので星1・2時代の銀弾はみんなから「こんなのキミじゃない!」されるんですね。
まぁ…そう銀弾に言う面子を責めようにも、画面の前のトレーナーのみなさんも銀弾が負けたら「こんなの銀弾じゃねぇ〜…!」って言う癖に?
無敵で孤高の銀弾にみんな脳焼かれてるからね…仕方ないね。

なお銀弾が画面の向こうのトレーナー(あなた)と契約したのは、その必死な姿がシルバーバレット()()()()()の───唯一無二の、『運命』と似ていたからで
ある。
言うなれば「その必死さに免じて」。
本人いわく、その(くだん)の『運命』については「いつか会えたらいいな…というか、"彼"なら探すまでもなく僕を見つけに来そうだけれど」とのこと。
これは…紛うことなき『愛』ですね。
恐ろしいまでに純粋すぎる、きらいがありますが。
そのため後に出るキャラソンも『運命』に向けたクソ重湿度ソングとなる。
まあそれにはCV:白峰明の演技…というか、実父から大伯父の話を聞いてのトランスのチカラもあるのですが。

それはそれとして今回のオルフェさんとかのこと踏まえると【銀色の激情】は何故だか"あの"オルフェさんに可愛がられていることを有難く思いつつも「なんで?」ってなってそうだし、【銀の祈り】の方はと言えば普段から言葉少なで何考えてるか分かんない感じになりそう。
オルフェ→【銀の祈り】の矢印は強いけど【銀の祈り】からはそこまでじゃない掴みどころのない関係。
何か関係性の湿度重いな…。
どれほど求めても、可愛がってもふたりはふたりの『大切な相手』にするように真に自分を見てくれはしないし、自分のように求めてはくれないんだよね…。


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手を伸ばされる者共が、


手を伸ばす人。



「僕のこと、好き?」

 

そう問うと、にこりとした笑顔と共に抱き締められた。

変わらない問答。

抱き締める腕、頭を撫でる手は慈愛以外の何ものでもなく、この腕の中こそが世界で一番安心できる場所だった。

 

「好きだよ」

「……うん、僕も」

 

その一言で心が満たされる。

そして──。

 

「大好き」

 

その言葉が、己を縛り付ける呪いとなるのに、そう時間はかからなかった。

 

 

父の愛と、子である我らの想いは年々反比例していく。

あの母の子だからか、と自嘲することも無駄な時間だと思うぐらいにライバルはたくさんで。

きょうだい誰もが父に自分だけを見てもらいたいと、邁進する姿は健気か、それとも。

誰よりも近くにいて、誰よりも遠い父は今日も今日とて子である我らの気持ちに気づくことはないまま新たなきょうだい(ライバル)を連れ帰ってきて。

 

「よくしてやってね」

 

そう微笑む様も、慈愛に満ちていて。

 

「はい」

 

そう答えるしかない我らの胸の内を、父は知る由もないのだろう。

 

「父様……」

「ん? どうかしたかい?」

「……いえ、なんでもありません」

「そう? ならいいけど」

 

父の愛が己以外のきょうだいに向けられるたびに胸が苦しくなるのは何故だろう。

それが嫉妬だと気づいたのはいつだっただろうか。

もう思い出せないほど昔のことなのは確かであり、それは日を増す毎に根深く心の内を焼き尽くしていく。

 

「父様」

「なぁに?」

 

父の愛が欲しい。

ただ自分だけを見てほしい。

その想いは日に日に増していくのに、それを口にできないのは何故だろう。

……。

 

──好きだからだ。

 

他ならぬ父のことが、誰よりも何よりも好きだからだ。

そんな単純な答えに気づくまで時間を要したのはきっと、父が我らに向ける情が真っ直ぐであり、時に身を食い尽くすようで。

それが己以外のきょうだいに向けられた途端、嫉妬が心を蝕み、独占したいと願うようになるだなんて思いもしなかった。

 

「父様」

「なぁに?」

「愛してます」

「…そう。ありがとう」

 

 

多かれ少なかれ誰かに手を伸ばされる者たちがこぞって手を伸ばすのがシルバーバレットというウマであった。

個々でも恐ろしいほどに求められているというのに、彼らがシルバーバレットに向ける執着はそれ以上で。

 

シルバーバレット(とうさま)

 

誰かがそう呟くだけで、彼らはそのウマが欲しくなる。

それは一種の病気のようなもので、一度罹患すれば完治することは叶わず、一生を共にする病だ。

──だが。

 

「父様」

「どうしたの?」

「お慕いしております」

「…ありがとう?」

 

それに気づいた時、既に手遅れだったのは言うまでもないだろう。

 





僕:
シルバーバレット。
向けられる感情がヤベ〜…。
たぶん見る人が見たら身体中に手がベタベタ張り付いている。
縋るように、求めるように。


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「ねぇ、」


「幸せって、なんでしょう?」
「わからないんです」
「でもきっと、それが答えなんです」
「だから───」




「何でもは知らないよ。知っていることだけ」

 

ある時から、『アレ?これ前にしたことがあるような』、『同じ会話前もしたような』とデジャヴを感じるようになった。

それはよくよく周りを観察すると時おり『アレ?』と困惑する表情を見せるウマがいることを見るに、どうやら似たような者はいるらしい。

 

「あまり、考えすぎるものではないよ」

 

そう静かに告げたのは、みんなの人気者であるシルバーバレット。

…いま思えば、"みんなの人気者"であるはずなのに、かのウマがひとりでいたことを可笑しく思うべきだったのだろうが。

 

「この世界は、幸せだからね」

「ずうっと続く。終わらない」

「多方にとっちゃあ『楽園』らしい。僕は、走れさえすればどうだっていいけれど」

 

茫洋と言葉が続く。

 

───楽園。

「ああ、楽園だ。幸福しかないんだと」

「みんなが幸せで、みんなも幸せ」

「…それでいいのさ」

 

考えすぎるのは体に毒だよ、とシルバーバレットは去って行った。

───楽園。

その響きに、何故か心がざわついた。

 

 

気づかない。

気づけない。

終わらない世界。

それを、『幸福』と呼ぶかは人それぞれだけど。

 

(僕の周りは…みんな『幸せ』だと言う)

 

寝て覚めたら違う時間軸なんてよくあって。

昨日まではあの子が注目されていたのに、それがウソのように。

昨日まで大活躍だったあの子が、期待の星である新人に激励の言葉をかけていたりだとか。

昨日まで、僕の隣を教えを乞うていた子が、遠にデビューしていたりだとか。

 

(………………)

 

みんな、『幸福』であると信じている。

何度繰り返しても、先に進めずとも。

『先に進めない』と()()()()()()()()()()

いや、

 

()()()()()()()、か…)

 

僕以外にも現状を知覚している者はいる。

その最たるは生徒会長であるシンボリルドルフや同期であるミスターシービーにカツラギエース。

その三人は僕と同じか、またはそれ以上に。

「今は××というウマが主役だ」と毎度教えてくれる姿。

初めて"切り替わった"際に混乱する僕を宥めてくれたのはこの三人だ。

シンボリルドルフは、僕が『おかしい』と気づく前から、僕の様子を気に掛けていた。

それが何故なのかは知らないけれど、彼女は僕の味方であるらしい。

ミスターシービーは……まあ、アレだ。

僕はあまり彼女のことが得意ではない。

何せあのウマときたら、事あるごとに不可解なことを言ってくるのだ。

「シルバーは、幸せ?」とか。

「シルバーが求めるものはなに?」とか。

自分は現状を『幸せ』だと言うクセに?

またカツラギエースは、『おかしい』と気づいた僕に対して「良かった」と言った。

何が良かったのかは知らないけれど、安堵したように笑って僕に言うから。

 

「…『幸せ』、か」





「一緒に探してくれますか?」

僕:
シルバーバレット。
気付いている。
でもこの世界が『幸せ』であろうことも、認めている。
時間軸が右往左往するがどうなったって先に進めないのだろうなぁ…と考えたり考えなかったり。
…受け入れられたら、楽なんだろうけどねぇ。


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あるIFの話


【白の一族】が最初から競走の世界にいて名家となり、そして没落しての…という√を辿った世界線の話。



そのウマが、かの【白の一族】の血を継ぐと公になった時、トレセン学園は水面下でにわかに沸いた。

なにせ【白の一族】はその圧倒的な競走能力をもって多くの名バを輩出した名門中の名門。

その血を継ぐウマが、このトレセン学園にいるとなれば、話題にならないわけがない。

 

「…そして同時に、【白の一族】の血をひくウマは、必ずや大成するというジンクスが生まれた」

「大成……って、【白の一族】は総じて気性が荒いと聞きましたけど…」

「あぁ。だがその欠点があろうとも──」

「【白の一族】の競走能力は魅力的だった?」

「そうだ」

 

かつて隆盛を誇ったその一族を誰もが求めた。

それには【白の一族】が持っていた様々な繋がりを欲しがったのもあっただろうし、【白の一族】の者を家に有すると幸運が舞い込む、なんて眉唾な話もあった。

がしかし。

 

「そして、いつしか【白の一族】は瓦解した」

「…はぁ、」

「"アレ"は、…まるで悪夢のようだったよ」

 

──"アレ"、そう称するほどに。

【白の一族】本家も、【白の一族】を迎え入れていた家も。

全てが等しく、最終的には無に帰した。

「行かないでくれ」と縋っても、まるで霞のように消え失せて。

そして、いつしか【白の一族】は瓦解した。

そして、───誰もいなくなった。

それが当たり前で、夢のように"かつて"を思い出していたところで…。

 

 

その家に生まれたウマたちがすべからく競走の世界に入っていたのは、ひとえに「()()()()()()()」と家族を盾に脅されていたからだ。

その頃には遠にヒトよりもウマの方が多い家ではあったけれど、幼い頃から染み付いてしまったトラウマがそう簡単に消えるはずもなく。

「ウマは走るのが当たり前」という強迫観念に縛られて、そして、その"当たり前"を強要されて育った者たちは、体の強い弱い関わらずトレセン学園に入学させられた。

競走バとして大成せずとも、【白の一族】というネームバリューで他の名家に売りつける。

 

「【白の一族】の者なら必ずや大成する」

 

そんな夢物語に縋って、多くの家々は喜び勇んで思惑通りに引き取り。

しかし、その"当たり前"が代わり映えのない日常になった時。

───反乱が、起こった。

 

「いかないで、いかないでくれぇ…!」

 

あるひとりのウマが先導し、【白の一族】本家をムチャクチャにした後、他の家に引き渡されていた血族のウマを徐々に連れ出して行き。

どこかへ消えてしまった。

まるでハーメルンの笛吹のように。

あとには、【白の一族】に帰ってきてくれと縋る者ばかりが……。





【白の一族】:
元は押しも押されぬ名家だったが、その実態は極小数のヒトミミに支配されたウマにとって地獄なお家。
幼き日から課されるトレーニングは非常に過酷で、しかし家族を人質に取られるため逆らうこともできない。
周りからは【白の一族】のウマを家にいれることが一種のステータスとされていた。
だって、気性難っていう欠点を帳消しにするぐらいに競走能力や繁殖能力が群を抜いていたからね。
そういうとこから『【白の一族】を手に入れると幸せになれる』みたいな噂が流れたのかも?
そんなお家だったので一族のウマがほぼ消息不明になったところに現れた"あるウマ"を、みんな…?


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天衣無縫の止まり木


自由で、ありたいのだけど。



僕とミスターは普通に仲がいい。

基本は僕が振り回されている方だけれど、食育や服装の方面に関してはミスターが僕の世話を見ていることもあって、よく一緒に買い物に行く。

 

「うん。とりあえず今日のところはこれでおしまいだね」

「そっか。ありがと」

 

僕がそう答えると、ミスターは満足そうに頷いた。

…で、

 

「じゃあ今日もシルバーのご飯が食べたいな。いいお肉買ったでしょ?ね?」

「…ハイハイ」

 

走ること以外には無趣味寄りな僕の散財と言えばもう食事関係しかなく。

読書も通っている場所が天下のトレセン学園だ。

トレーニング関係の書物の方が多いとは言え、普通の娯楽系の本も揃っている(まぁ取材とかもあるから、流行りを知っておくに越したことはない)。

それはさておき。

 

「よし、今日も頑張りますかっと!」

「やったぁ!」

 

 

トレセン学園に入るぐらいの年頃には、自分が周りとは違うという自覚はあった。

折れることも、曲がることもなく己が決めた道をいく。

それが中々に難しいらしいと気づいた時には…ミスターシービーはひとりだった。

でも、それを寂しいとは思わず。

逆に自分の好きなようにできるから楽だとすら考えていた。

 

「〜♪」

 

ミスターシービー当人は知らぬことだが。

"ミスターシービー"というウマには幼い頃から、どこか近寄り難い雰囲気があった。

はじめは皆その雰囲気に惹かれるけれど、時間が経てば経つほど、その雰囲気に気圧されてしまう。

それは彼女があまりにも"綺麗"で、同時に"恐ろしい"からだ。

まるで背中に翼でも生えているかのように『自由』に生きるミスターシービーの姿を見ていたら……誰もがいずれ、きっと 。

 

「シルバー♪」

「わっ!?」

 

だが、そんなミスターシービーにも例外がいた。

それが今現在進行形で抱き着いている小柄なウマ-シルバーバレット。

初対面の時からどうにも放っておけなくて、今に至るまでミスターシービーはシルバーバレットを構い続けていた。

 

「もー、いきなり抱き着いてこないでよ」

「えへへ♪」

 

この顔に弱いのだ。

普段はあまり笑わないくせに、自分が関わった時はこうして仕方なさげでも、笑うから。

 

(……ホント、ずるいなぁ)

 

他の誰より自由でいたいのに、そんな顔をされたら自由でいられなくなる。

どこまでも飛んでいけるはずの自分が、たったひとりの傍に、()()()()()…。

 

「なんて、ね」

「何が?」

「いや、なんでもないよ」

「…ふぅん?」

 

にこりと笑みつつ、その腰を抱く。

…嗚呼、誰にだって。

 

(渡しや、しない)





【ターフの演出家】:
ミスターシービー。
この方もこの方で『普通』とは違うウマ。
誰よりも『自由』であり、自分が決めた道なら折れず曲がらず邁進するタイプなので憧れを抱かれつつもどこか不可侵…みたいな。
多分ネームド組ぐらいにならないと関わるのにも一苦労しそう。
ただ"在る"だけなのに周りを気遅れさせる感じ…。


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祖父と孫


可愛がっている。
可愛がっては、いる。



サンデースクラッパが物心ついたころ、祖父であるホワイトバックはすっかり老け込んでいた。

いや、見た目がというのではなく、()()()()

ほかの家族や祖父をよく知る人からは『昔はこんなんじゃなかった』と痛ましいような、それでいてどこか懐かしむような表情で語られた。

サンデースクラッパは祖父のことが大好きだった。

優しくて、穏やかで、よく遊んでくれたし、生きていくのに必要なことだってたくさん教えてくれた。

が、『いつか必ず役に立つときがくる』と彼は言っていたけれど、今でも教えられたことの大半がなんなのかはよくわかっていない。

でも。

 

『…覚えておいて、損は無いからネ』

 

確固たる意志を持って、その知識をサンデースクラッパに授けたと、それだけは間違いないのだ。

 

 

ホワイトバックには、溺愛している孫がいた。

いや孫も娘夫婦も全員ひっくるめて彼は溺愛していたが、その中でも初孫であった『チビ』を彼はいっとう可愛がっていて。

それこそ、目に入れても痛くないほどに。

 

「チビちゃん」

「なぁに?」

「おじいちゃんのお話聞いてくれるかい?」

「……うん!」

 

そして、その愛に答えるように大きくなっても『チビ』は、祖父が大好きだった。

父も母も大好きだったが、祖父はまた格別で、どんなつまらない話でも真剣に聞いたし、途中で『ご飯食べに行こっか』と嬉しそうに頭を撫でてくれるのだ。

が、そんな日々は唐突に終わりを迎える。

 

「……」

 

誰もが呆然としていた。

信じられなかったし、信じたくなかった。

ホワイトバックは、孫が、『チビ』が、もう戻ってこないことを周りと同じく理解しきれなかったのだ。

 

「ねぇ」

 

だから、聞いたのだ。

「あの子はいつ帰ってくるの?」と。

しかし、娘夫婦もURAの偉いヤツらも目を伏せて首を横に振るだけだったから、ホワイトバックはそれ以上聞くことも、何も出来ず。

だって自分と同じように傷ついている人々を何度も傷つけるなんて。

それでも、その疑問をいつしか心の奥にしまおうとも、彼はいつか帰ってきてくれると信じていた。

だから待っていればまた会えるだろうと、彼は待っていたのだ。

 

「……まだかなぁ」

 

だが、待てども待てども……『チビ』は帰ってこなかった。

 

───────

─────

───

 

それからしばらくして。

ホワイトバックは『チビ』が帰ってこないことを受け入れられず、日に日に憔悴していったのだが──ある日快復したのだという。

いや、回復したというよりはむしろ…。

 

「可愛いねぇ───"ちぃちゃん"」





【先祖返り】:
ホワイトバック。
落ち着いている祖父。
【戦う者】を「ちぃちゃん」と呼びながら可愛がっているが…?

【戦う者】:
サンデースクラッパ。
【先祖返り】に可愛がられている。
また可愛いがられていると分かっているので【先祖返り】の言うことはだいたい聞く。
でも何故【先祖返り】が"そう"なったかには…?


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愛ってバイオレンス


母方の血が出た話。



ぎゅう。

それは傍から見ればもう見慣れた光景ではあったが、ギュンと打たれた拳がいつもの情景とは丸っと180°違い、周りの目を見開かせる。

 

「……ッ、」

「……」

 

思いきし打たれた裏拳はクリーンヒットに後ろから抱き締めていたグローリーゴアの鼻辺りを直撃し、鼻血がボタボタと垂れ落ちる。

 

「…もう!」

 

血を垂らしながらもハンサムはハンサムのままで。

真顔で歩いていく先程の裏拳の主犯-サンデースクラッパとは裏腹に困ったという苦笑をしながら追いかけていく姿はもはや尊敬に値する。

何故なら、サンデースクラッパの目は黒く、深く凪いでいるので。

何も感情が見えない。

 

「あー、スー?」

「なに」

「その、アレだよ……あんまりああいうことは人が多いところでしちゃダメだと思う」

「……ああ、そうだね」

 

そうは言うものの反省の色は見えずにサンデースクラッパは歩みを止めない。

そんな姿を見てグローリーゴアは困ったように頭を掻くと、彼の腕を掴む。

 

「スー」

「あ゛?」

 

そして振り向きざまに。

掠めるだけ、だったのだけどそれもお気に召さなかったようで今度は鳩尾に真正面から拳がクリーンヒット。

 

「ッ、」

 

結果、今度はちゃんとグローリーゴアの体が崩れ落ちて…。

 

 

「……ごめん、ごめんねスー」

 

サンデースクラッパはしゃがみ込みグローリーゴアの顔を覗き込むといつもの調子でヘラヘラと笑う相手を見る。

そんなだから…パパラッチでありもしないでっち上げをされるんじゃないか?…と、サンデースクラッパは思う。

 

「スー、ごめんね」

「……大丈夫」

「怒ってる?」

「怒ってないよ」

 

ただ、悲しいだけ。

キミが、素敵な人であることは知っている。

何よりも、誰よりも理解している。

けれど。

 

『僕には、キミだけだ』

 

そう言って、自分を負かして。

負かして、()()()()()奪い去った癖に。

 

『キミは、僕のモノだ』

 

そう言って、自分を負かして。

負かして、()()()()()奪い去った癖に。

 

「スー」

「うん」

「ごめんね」

「……うん」

 

ああ、なんて酷い人。

 

(……また、やってしまった)

(僕は一体どうしてしまったんだろう)

(彼は何も悪くないのに)

(僕が勝手に好きになって勝手に嫉妬して勝手に暴走しているだけじゃないか)

(ああ……それでもやっぱり)

 

堕ちてしまったが、()()()()か。

 

「スー、ごめんね」

「……いいよ。大丈夫」

 

サンデースクラッパは立ち上がるとグローリーゴアの手を取って歩き出す。

その手を振り払うことはせず、グローリーゴアも引かれるままに歩いていく。

 

(嗚呼なんて!)

(…なんて、愚かで惨めなんだろう)

 





【戦う者】:
サンデースクラッパ。
僕から僕を奪い去ったからには、大切にして。
今回はちょっとご機嫌ナナメだった。
案外物理が強い。
でもチョロいのはチョロい。

【栄光を往く者】:
グローリーゴア。
怒らせちゃった。
本人としては【戦う者】にしか興味がないのだが、普通にしてると普通に美形なのでよくパパラッチされる。
でも毎度毎度「誰ですか?その人」するので…。


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香るが示す


いい匂い。



シルバーバレットというウマはよく注目されている。

クラスメイトは言わずもがな、先輩からも後輩からも。

 

──あの、シルバーバレットってそんなに凄いウマなんですか?

──凄いなんてものじゃねぇよ! 日本初の凱旋門賞とBCクラシック制覇だろ?それとそれと…。

 

昔、用務員たちがそんな話をしていたのを聞いたことがある。

…とは、言えども。

 

「やっほう!シリウス」

「おー」

 

シリウスシンボリの前の張本人は──語られているような人並み外れた感じはない。

『強すぎる』と言うのも考えものかと、次から次へと尾鰭がついては神格化されていく友人にシリウスシンボリは人知れずため息を吐く。

 

「どうしたの?」

「いや、」

 

シリウスシンボリの目の前の友は、どこにでもいる有り触れた、普通の、年頃のウマだ。

好きな教科があれば苦手な教科もあるし、すべてがすべて完璧というワケではない。

 

「お前がアイツみたいじゃなくてよかったってさ」

「…まだ、仲直りしてないんだ?」

「そもそも仲違いすらしてねぇよ」

「……まぁ、そういうことにしておくよ」

 

シルバーバレットに押し付けられるある種の『完璧』は、シリウスシンボリが最も嫌うところである。

が、シルバーバレット自身は「『完璧』なんてないない!」と呵呵大笑に笑い飛ばすから。

 

「でも……仲直りはした方がいいよ」

「お前がそう言ってもなァ?」

「……はは、」

 

シルバーバレットは苦笑いする。

そんな彼女をシリウスシンボリは子猫を撫でるようにくすぐるのだった。

 

 

「うわぁお」

「…はは、最近構ってやれなかったからかな?」

「……キミ、犬か何かかい?」

「この皇帝を犬呼ばわりとは…さすがキミだな」

「言葉の綾だろう?」

 

廊下を歩いていて、すれ違おうとしたところで捕まった。

そこから生徒会室に引きずり込まれては、カーテンも何もかも締め切った部屋で…瞳孔開いた【皇帝】サマに見下ろされてるってワケ。

 

「僕、キミのモノになった覚えはないんだがなぁ───ルドルフ会長?」

「キミのモノになった覚えはない、か」

「うん。僕は僕のモノだよ」

「……そうか」

 

我らが生徒会長-シンボリルドルフは僕の言葉にどこか寂しそうに笑った。

……そんな顔するなよ。

まるで僕が悪いみたいじゃないか。

 

「で?何の用?」

「……いや、特に用はないさ。ただ……」

「ただ?」

「……キミから香る匂いが気に食わなかっただけだ」

「……ふぅん?」

 

シリウスシンボリと会話したことは誰にも言ってないはずだが、どうやら目の前の【皇帝】サマには全部お見通しであるらしい。

体格差をもって、するりと抱き上げられては全身をくまなくマーキングするように擦り寄り、撫でられていく。

 

「…ルドルフ会長。キミの匂いは些か特徴的が過ぎるんだがなぁ」

「あぁ、特注の香水を振っているからね」

「香水って……キミ、生徒会長だろ?」

「はは。バレなければ問題ないさ」

「そういう問題かなぁ……?」

 

匂いとは記憶に直結するものだ。

一度嗅いだことのある香りはいつまでも記憶に残るし、その香りを嗅ぐ度に思い出す。

だからこそ、僕はこうも擦り寄られることに少しばかりゲンナリとしているのだが…。

 

「こうしないと、物分りの悪い者もいるからね」





僕:
シルバーバレット。
【皇帝】からよくマーキングされる。
【皇帝】のしてる香水の匂いはいい匂いだと思っているが、周囲が『会長さんのしてる香水いい匂いだよね』とよく話しているのを聞いては戦々恐々。
たぶん分かる人にはすぐ分かるくらいには匂いがしそう。

【皇帝】:
シンボリルドルフ。
特注の香水でいい匂い。
そして自分の好きな匂いが僕からするのに今日もニコニコ。
曲がりなりにも獅子。はっきりわかんだね。


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咲き誇り、


誰も彼も花なんだよなぁ。



アレは一輪の花だった。

周りすべての栄養を吸い尽くして、枯れ果てさせて、綺麗に咲き誇る一輪の。

もしかすると薔薇のようにトゲだってあるのかもしれない。

誰も触れさせないように、手折ることを許さぬように。

 

『咲いた花は散るが定め』と人は言うけれど、その花が散ることを人は許さなくて。

たかが花だと言えないくらいに、その花が散った時にみな泣くのだ。

 

光る場所に煌々と、燦燦と咲いていろ。

日陰にいることなぞ許さないと似ている花を移し植える。

 

「…とか言っても、日陰の方がよかった花もあるかもしんねぇのにな」

「何の話ですか?」

「いや、こっちの話。テキトーに考えてたヤツだからお前には関係ねぇよ」

「……はぁ、」

 

貰い物の観葉植物を世話しつつ、そんなことをつらつら考えていたワケだが少しばかり口について出ていたらしい。

不思議そうにこちらを見やる後輩-【飛行機雲】に何でもねぇと手を振れば「そうですか」と納得してはいないが、深くは追及しないといった様子で頷いた。

そしてまた観葉植物に向き直り、せっせと水をやっている。

 

「つーかお前、なんでここにいんの?」

「え?先輩が言ったんじゃないですか!『暇なら手伝え』って!」

「……そうだったか?」

「そうですよ!もー……」

 

ぷんすかと怒りながら【飛行機雲】がこちらをジト目で見てくる。

そんな顔をされても困るのだが……いやマジで。

気づけば互いの部屋の合鍵を持つような関係である。

故に【飛行機雲】が俺の部屋にいるのは別段珍しいことではない。

ただ、今日はそういう日ではなかったはずだ。

 

「お前今日ってオフじゃなかったか?」

「そうですよ?だからこうして先輩の手伝いをしてるんじゃないですか」

「いや、それはありがたいんだが……何か用事があったんじゃねぇの?」

 

そう問えば、【飛行機雲】はキョトンとした顔でこちらを見ていた。

まるで何を言われているのかわからないといった様子で、首を傾げてみせる。

そして少し考えた後に口を開いた。

 

「……先輩と一緒にいられるなら、構わないんですけど」

「お前なぁ……」

 

少し照れくさそうにしながらそんなことを言う【飛行機雲】に俺は思わず頭を抱えた。

こいつのこういう言動には慣れたつもりだったがまだまだ甘かったらしい。

いや、俺がチョロいだけか?

どっちだ?

 

「先輩?」

「……何でもねぇよ」

「そうですか?」

 

クスクスとこちらを見る【飛行機雲】から逃げるように視線を逸らす。

そんな俺の行動を見て、またからかうような顔をするもすぐに切り替えて観葉植物の世話を見始める姿には思わず感服しそうになる。が、

 

「そろそろ飯食おうぜ」

「はい」





【銀色の激情】:
シルバアウトレイジ。
つらつらと考えているがキミも花側だよ?
たぶんトゲのあるタイプの花。
激情だからね、仕方ないね。


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ハード違い


ちょっとした話。



まぁ、もしも。

…もしも、の話だが。

己が体が、"かのウマ"の依り代として一番の適合率で、そのため己が体を犠牲にすれば"かのウマ"が蘇るとしたとして。

───あなたは、どうしますか?

 

 

A.【銀色の運命】の場合

 

「そうなったら…兄さんはボインボインのバインバインの体になっちゃうわねぇ」

 

クスクスとそう告げたのは"かのウマ"の全妹であるシルバフォーチュンだ。

美魔女というか、もはや不老不死の八百比丘尼のように年齢不詳のその美貌は今日も今日とて健在である。

 

「兄さん、驚きそう」

 

【銀色の運命】は、ぽそりと呟き苦笑する。

"かのウマ"が復活するのならば、喜んでその身を捧げようと───。

 

A.【銀色の王者】の場合

 

「その時はその時です」

 

そう断言したのは"かのウマ"にとって甥にあたるシルバーチャンプだった。

現役時と比べると些か落ち着いた調子になった彼は、しかし苦い表情で自らの体を慮る。

 

「復活は喜ばしいことですが、それで"かの方"の体が損なわれてしまうようなことはあってはなりませんし」

 

【銀色の王者】は、そうつぶやく。

そして、

 

「もう満足に走れなくなった体でも"かの方"が喜んでくれるなら…もしかすると、ですね」

 

 

A.【銀の祈り】の場合

 

「クローン体とかに突っ込めるようになればいいのに」

 

開口一番、"かのウマ"にとっては姪孫にあたるシルバープレアーはそう告げた。

その言葉口から見るに、"かのウマ"に己が体を犠牲に捧げたい、というつもりは毛頭無いらしい。

 

「だってほら、ね?」

 

にこり、とシルバープレアーが笑う。

 

「【英雄(あの子)】が"かの方"の虜になっちゃ…イヤだしね!」

 

 

A.【銀色の激情】の場合

 

「絶対ヤダ」

「そもそも脚質から合わねぇじゃん。俺は追込みだけどアレは大逃げだし」

 

ケッ、と吐き捨てるように告げたのはシルバアウトレイジ。

"かのウマ"にとって曾姪孫にあたる、まだ歳若いウマだが、その気性は若き日の祖父【銀色の王者】とよく似ている。

 

「復活しようがどうしようが、アレは俺の敵だ」

 

そう断言した彼は、しかし次の瞬間にニヤリと笑みを浮かべた。

 

「俺は、大一番の申し子だからなァ」

 

 

A."████"の場合

 

「え?いや、そんなの嫌に決まってるじゃん」

「誰かを犠牲にしてまで戻りたくないぜ?さすがの僕も」

「そもそも僕ってもう過去の遺物だろ?何度掘り返したって出てくるのは欠片だけなんだから、もうさぁ、いま頑張ってるあの子たちを見てやってよ」

 

…はぁ。





ハードが違うとしても、戻ってきたことにはみんな喜びそう。
でもそれはハードとなった人を大切に思う人々を振り切った自己満足でしかなくて、でもハードとなった人にとっては「戻ってきた」ことが『幸せ』であって…。


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惚れた欲目で惚れ惚れと


互いに見る目がありましたね。



(斬れ味のある美人だなぁ…ホントに)

「ンだよ」

「何も?」

「…」

 

ヒカルイマイの愛しい女性(ヒト)は無言でいると威圧感がすごい。

元から顔がいいってのもそうなのだけど、その…眼力がすごい。

 

「なに?見惚れたか?」

「お〜」

「…チッ」

「今も昔もずっと見惚れてら」

「……そうかい」

 

でも、そんな眼力も自分の前では緩まって。

ちょいちょいと指で撫でてやるとご機嫌な猫のように目が細まるのだから愛らしい。

 

「お前は懐かない猫ちゃんだもんな」

「誰が猫だ」

「お前」

「やめろ」

 

猫パンチを食らった。

だが、その猫パンチはフルスピード出ていなかったから本気ではないのだろう。

 

「懐かない猫ちゃんなのが可愛いんだよ」

「……」

 

今度は無言で頭を叩かれた。

それも軽くだ。

本当に痛くない強さで叩かれて、なんだかそれがむず痒くて笑った。

そんな俺の笑い声に彼女も小さく笑ってくれた。

ああ……やっぱり、

 

(可愛いなぁ)

 

 

お前の方がよっぽど懐かない猫じゃないか?とホワイトリリィは、自分をそう称した伴侶-ヒカルイマイを見やる。

家族に対しては何を頼まれても二つ返事で了承するぐらい甘々なのに、ひとたび外に出れば「なんで俺が?」という顔をする。

 

(…にしても、)

「どうした?」

「…なに、私らといる時、いい顔するなって思ってよ───なぁ、ダーリン?」

「そりゃあ愛しいハニーとそのハニーの子どもだしなァ?」

「へぇ?」

「なんだ?嫉妬か?」

「いいや、お前といると私もいい顔になるんだろなって自覚しただけだ」

「……そうかい」

「ああ。だから、お前が私らを大事にしてくれるのは嬉しいが……お前も自分を大事にしろ」

「お〜」

「返事は短くだ」

「はいよ!」

 

───────

─────

───

 

(あ〜……)

(またやってる)

(仲良いなぁ……)

(ふたりとも、よく同じようなやり取りやって…飽きないなぁ)

 

居間にてテレビを見たり宿題をしたりなどしている子どもたちがいる傍でイチャコラしているヒカルイマイとホワイトリリィ(父と母)に、もう慣れたもの。

だって幼き日よりイチャコラしては痴話喧嘩してまたイチャコラするというループを飽きることなく繰り返しているのを何度も見てきている。

 

「…コーヒーほしい」

「イチャコラしてるねぇ」

「仲良いねぇ」

 

子どもたちは呆れながら、でも微笑ましそうに両親を見ていた。

 

「ふふ…」

「おじいちゃん?」

「…いや、うん。さすがって思ってさ」

 

それは子どもたちの祖父であるウマもそうであり。

 





ふたり:
ヒカルイマイ&ホワイトリリィ。
今日も今日とてラブラブ。
そしてそれを家族は「またやってんなぁ」って気持ちで見ている。


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魅力的なヒト


でも無自覚。



「いつか刺されますよ」

 

その言葉に、シルバアウトレイジは不思議そうに首をかしげた。

 

「刺される…とか、ンなまで俺を好きになるヤツいるわけないだろ」

 

はァ?とでも言う風に、シルバアウトレイジは呆れ顔で続ける。

 

「ソレ言うならお前の方じゃないか?」

「いやいや」

「へ〜、ほ〜?ファンの女の子がよくきゃあきゃあ言うプリチーな顔してんのに?」

「……はぁ、」

 

シルバアウトレイジは心底不思議そうな顔のまま。

その顔を見て、苦言を呈した張本人である【飛行機雲】は、『あ〜……こりゃダメだ』というように肩をすくめる。

 

「?」

 

シルバアウトレイジはまた不思議そうに首をかしげるが、【飛行機雲】はもうそれに取り合う気は無いようで。

 

「ま、いいです。とりあえず、」

 

そう言って、【飛行機雲】は立ち上がった。

そしてそのまま歩き出すと、シルバアウトレイジの隣にとすんと座る。

 

「先輩はにぶいので、僕が代わりに良いか悪いか判別しますよ」

 

 

シルバアウトレイジというウマは、良いヤツであった。

よくある好感度上昇イベントのように、雨の日に捨て猫を拾わずとも普段のあれそれで好感度が上がっている、という具合に。

だからファンクラブよりかは、『あの人の素敵なところを知っているのは自分だけ』という、そういうしちめんどくさい『好き』であった。

──だがしかし、この【飛行機雲】というウマは違う。

【飛行機雲】の言う『好き』とは、もっと単純で明快なもの。

 

「先輩、好きです」

「……おう?」

 

シルバアウトレイジの隣をキープしたまま、【飛行機雲】がそう告げると。

 

「ん〜……俺も好きだぜ!」

 

シルバアウトレイジは屈託のない笑顔でそう返すのだ。

 

「……先輩、」

「おう!」

「先輩、好きです」

「おう!」

「……はぁ。本当に鈍いですね」

「?」

 

【飛行機雲】の『好き』は、シルバアウトレイジには届かない。

たわいない話の一片として『好き』が消費されていく。

変わらない日常。

慣れたように食材を袋いっぱいに買ってきて。

風呂を浴びて泊まっていく。

 

「おやすみ」

「…おやすみなさい」

 

何とか言いくるめて置かせてもらった布団にくるまる。

…【飛行機雲】は、今日も眠れなかった。

 

 

「付き合うなら?…あ〜、【飛行機雲】?」

 

なんでって、俺がよく知ってるのアイツだけだしな。

どの歯磨き粉が好きとか、シャンプーとリンスはどのメーカーとか。

煮たり焼いたりとかだと食べられるけど生ではあまりだとか。

そういうの知ってるのアイツだけだし。

 

「うん、そういうワケ」





【銀色の激情】:
シルバアウトレイジ。
たぶん同担拒否勢が多い。
でも本人はにぶにぶなので。
また広く浅くよりは狭く深くなコミュニケーション。
故に…?

「今日も元気か〜【飛行機雲】〜?」


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ひっそりと


でも、たしかに。



往々に。

同年代が多く集まり、またいちおうトゥインクルシリーズという公に出る場はあるとはいえ、生徒の大多数が寮生活という閉鎖環境には…意外と派閥というものがあったりする。

まぁあれだけの生徒数なのだ。

中には人の上に立つようなカリスマ性を持っているヤツもいるだろうし、そのカリスマ性に魅せられて付き従う者たちもいるだろう。

それに個人を信奉する以外にもチームに入っているがゆえの…というのもある。

さらにはそのどちらにも属さない、我関せずな一匹狼的な派閥もあるだろう。

 

「大変そだね」

「ははは」

「それシルバーが言うか?」

 

友人間の中では一番派閥?らしきものがある生徒会長-シンボリルドルフを眺めながらそう呟くと隣にいたミスターやカツラギに、どことなく「マジかコイツ」とでもいうような顔をされる。

 

「そう? まぁ確かに僕、チームを纒める側だけど……。でもあの子たち大概我が道を行くタイプだし、そもそも僕の言うこと、必要なこと以外は聞かないぜ?」

「…そういえばそうだったな」

「うん。だから別にルドルフみたいにこう…一挙手一投足に『すごい』って眼差し向けられるのはないかな」

「なるほどなぁ……」

 

ちなみにだが、ミスターとカツラギはチーム所属ではなく、トレーナーさんと一対一の契約を結んでいるウマなのであんまりそういうのはない…らしい(本人の談)。

 

 

どこか他人と違うものを持つ人間というのは何がどうあれ注目されやすい。

そしてその"違うもの"が、所属する場において多くの人が最も重要なもの…と思う()()であるとしたら…どうだろう?

 

「わ〜、すっご〜い」

「…その言い方、アホっぽいぞ」

「ひどいなぁ、エースは」

「あたしよりもあいつの方がひどいだろ」

「…違いない」

 

ぼうっと、ふたりして柵に凭れながら見やるのは今日も今日とて飽きもせず走り込んでいる友人-シルバーバレットの姿。

当の本人は派閥など持っていないと言うが、いまこの現状はまた新たにシンパを作っている状況に違いなかった。

 

「アレ、新入生?」

「あぁ。中一と…外部から入ってきた高一っぽさそうだな」

「ふぅん……」

「……なんだよ?」

「いや? ただ、エースは目敏いなぁって思って」

「シービーが無頓着すぎるだけだろ」

「あはは」

 

走る姿は、未だ変わりない。

同じことを繰り返す。

 

「だって、アタシたちに話しかけられる人なんてそういないじゃない」

「…そう油断してるとかっさらわれるぞ」

()()ならないのがシルバーだよ」

「……。そういやそう、か」

「そうだよ」





僕:
シルバーバレット。
脳焼き。
でも当の本人は無自覚。
隠れファンクラブ…ファンクラブかな?みたいなグレーゾーン的何かがありそう。
とりあえず表向きではない好かれ方をしているのは確かだろうなぁ…。


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愛は深く


両想いで両重いな一族さんたち。



「…あ、今年から黒色になったの?袴」

「そりゃー毎年あそこまで茶色にしてたらねぇ」

「アッ()」

 

いくら一族の正装と言えども、正装と一族の気質がマッチしていないがための悲劇か。

【白の一族】と謳われる者たちの正装は昨年まで上から下まで真っ白であったが、流石に今年からは袴が黒になったらしい。

…まぁ、上は食べ物零したり喧嘩買わなけりゃ汚れない…はずだし。

僕は前作ったヤツでまだいけるけど変える人はすぐ変えるからなぁ。

んで、多分お抱えのクリーニングの人にも怒られたんだろう(というかそれが一番の理由な気がする)。

 

「僕も気をつけないと…」

 

 

「めっちゃ渋るじゃん」

 

普段ならどんな服装でも「はいはい可愛い可愛い」と褒める夫だが、この正装姿になった時だけは「俺は駄々をこねるぞ。それも一等のだ。大の大人がみっともなく泣き喚いてやるからな」と、キリッと言いやがるのがちょっと面白い。

 

「おら、行くぞ」

「…」

「離 せ」

「…どーせ行くんなら他の服でもいいだろ」

「これがウチの正装なんだよ!」

 

が、しかし。

何故こんなにも嫌がるんだか。

どうせ聞けば似合ってるって言うクセしてよォ。

 

「お前、私がこの正装で行くの嫌なのか?」

「嫌じゃない。むしろ着てほしい」

「じゃあなんで嫌がるんだよ」

「……それは……その……」

 

もごもごと口籠る夫に腹が立つ。

なんだコイツ、そんなに私の服装がキツいか?

なら素直にそう言え───。

 

「……他のヤツらにお前のその姿を見せたくないからだよ」

「…は、」

「お前のその綺麗な姿を、俺以外のヤツに見せたくない。……だから嫌なんだよ」

「……」

「……あ、ちょ、おい!」

「お前ってホント私のこと好きだよな」

「うっせ」

「……ま、私も大概だけどな」

「……えっ?」

「でも、服装はこのままだ」

「…クソがよ」

「ナハハ。ンな赤い顔で凄んでも威厳ねぇヨ」

 

一目惚れからずっと惚れ続け、日々違った姿を見せる愛しい人に『毎日が浮気だ』とすら思っているらしい夫。

 

「ほら、行くぞ」

「はぁ……仕方ねぇなぁ……」

 

そんな可愛い人の願いだ、少しばかりは…。

 

───────

─────

───

 

『ヒューヒュー』

『ラブラブだねぇ』

「うるせぇ、ウチの愛娘見るな散れ!」

「それ普通は父さんが言うことじゃない?」

 

姿を見せるだけ見せてサッと奥に引っ込んでしまった母と、ほんの少しでも身内とはいえ他人の目に世界一美しい妻が映るのが嫌な父。

 

「ま、まぁ……仲が良くていいじゃない。ねぇ、おじいちゃ───おおう」

「ウチの娘が一番美人なんだヨ!」

『なにおう!ウチの女房が一番だが!?!?』

「…う〜ん、普段通り」

 





【一族】:
白の一族。
ウチの伴侶・子ども・孫が一番なんだよ!
ひとたび集まればそんな大乱闘が常な人々。
血の気が多いし、愛も深い。
とはいえ服を汚すとお抱えのクリーニング屋さんからネチネチ文句をつけられる模様。


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追い出された


えっ?



『お父さん、今日は家に居ないで!!』

 

そう言って外に放り出されたのが半日前。

「え?僕なにか嫌われることしちゃった…?」と思いながら、果てには軽くべそをかきながらマブダチの家に向かうと、インターホン越しでは渋々だったけれど、べそをかく僕を見て「ハ?マジかよ…」と焦りながら部屋にあげてくれた。

 

「まぁ、とりあえず座れ」

「うん……」

 

そう言って僕を招き入れたマブダチは、そのままキッチンに飲み物を取りに行く。

僕は促されるままにソファに座りながら、その後ろ姿をじっと見つめていた。

 

(……優しさが身に染みる)

 

そんなことを思いながら見つめる背中がなんだかとても大きく見えて、思わず笑みがこぼれてしまう。

そんな僕の視線に気づいたのか、マブダチはこちらを振り返って言った。

 

「で?なにがあったんだよ」

「それが〜」

 

〜かくかくしかじか〜

 

「……へぇ、」

「そういうことで…うぅ」

 

 

喜と楽から滅多なことがなければ表情を変えないマブダチがべそをかきながら現れた。

その事実に顔に出た感情以上に焦り散らした俺は、とりあえず話を聞くことにした。

で、聞いたワケだ。

 

(あ〜…)

 

それで、察した。

コイツを家から放り出したのはコイツの娘で。

その娘と今日会うって朝っぱらから俺んトコのガキがソワソワして普段ではあまり気にしない身なりとかに気を使って。

挙げ句の果てには、待ち合わせの一時間前に家を出て、ソワソワしながら家に向かって、それで…。

 

「ドウチテ…」

「あ〜、泣くな泣くな」

 

たぶん。

俺んトコのとコイツの娘は脈アリってヤツなのだろう。

故に魔性のウマであるコイツがいたら取られる!って感じに家から追い出した、と。

 

「ゔぅ……」

「泣くなって」

(コイツのガキもまだ青いねぇ……)

 

ま、普段コイツは俺んトコのガキに良くしてくれてるし。

そんなヤツが落ち込んでるってんなら話は別だ。

だから俺は言った。

 

「まぁなんだ?とりあえず今日はウチで遊んでけよ?」

「……いいの?」

 

そう言って上目づかいでこちらの様子を窺うコイツに『こういうところだろうな』と考えながら。

 

「お前のご飯さえありゃイチコロよ」

「やっぱりそれかぁ」

 

 

私のお父さんはミリョクテキだ。

競走バの(サガ)なのか、一目見ただけで『強い』と分かる風格と体つきに、それを隠そうともしない堂々とした振る舞い。

そして何より顔がいい。

おばあちゃんやお姉ちゃん(我が家ではおばたちのことをそう呼ぶ)が絶世の美女であるからして、その血を持つお父さんもそうなるのは自明の理なのか。

…とはいえ。

 

(こういう時に家にいられるのは困るのよね…)

 

目の前にいるのは最近やっとこさ関係が進展した幼なじみ。

周りに聞くには幼い頃から相手は私にアプローチしていたようだけれど、私はそれに気づかなかった。

故に『お友だち』から先…という関係に変化するのにはかなりの時間を要したし、今でも気恥ずかしさがどことなく。

そんな幼なじみをお父さんに取られる…なんてことになるのは正直言って面白くない。

 

「えぇ、聞いているわ」

 

だって、───好きな人の視線は独り占め、したいでしょう?





僕:
シルバーバレット。
しょんぼり。
子の恋愛事情に関しては『あの子が決めた人なら…』となったのでだいぶ緩和した。
でも自分の魔性さに自覚がないため、これまでもそれとなく追い出されたりしていた。
でもハッキリ言われたのは今回が初めて。
ドウチテ…。


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キミのこと


匂わせと言うよりかは嗅がせに来てる感じ。



サンデースクラッパは情報発信とか、そういうファンとの関わり方に対してのことに疎い。

SNSだって『見る専ではするかもしれないけれど発信側でするには多分すぐ飽きると思う…』と、消極的な姿勢だった。

 

またその一方。

グローリーゴアはと言うと、…案外ファンとの交流に乗り気で積極的で。

隠すところは隠すけれど当たり障りない情報はそれとなく出してくれる。

……これも、まぁ、ファンサービスの一環なんだろうけど。

でもそのお陰でサンデースクラッパが『あ、これちょっと色々まずいかも』と気づくのに時間はかからなかった。

 

「ねぇグローリー」

「ん?」

「……あのー……さ……」

「なぁに?」

「……うーん」

 

言い淀むサンデースクラッパ。

そんな相手にグローリーゴアは首をかしげるばかりである。

……いや、うん。

キミと僕、仲良くなったのは自覚してるよ。

もはや同居っていうまでにキミが僕の家にいて、服とか皿とかそういうのが増えてるのも自覚してるよ?

でもさ、

 

「もうキミのアカウントが僕専用みたいになってるじゃん!!」

「…?」

 

心の内をぶちまけると『なにが悪いの?』というキョトン顔。

あーそうだった、キミは無自覚だった。

 

「いや、ほら……僕みたいなのがキミと仲良くしてるってファンからしたらさ……こう、『え?なにこいつ?』みたいな感じで」

「?」

「あ~~……もう!つまり僕が言いたいのは!」

 

もうここまできたら直球勝負だ。

サンデースクラッパはスマホをグローリーゴアにずいっと突きつけながら言った。

 

「僕のこと発信するの控えてください!」

 

 

はじめは、完全なる善意だった。

友達になりたい、と思ったウマのことを調べていると『供給が少ない』…、いわゆる露出が少ないと嘆くファンの投稿を見つけて。

だから日常風景を撮るついでに、『#Today's(今日の)』というタグをつけて投稿していた。

……それだけだった。

ただ、その写真がバズったことでファンの間でちょっとばかし何やかんやがあったり。

それがまた話題になってフォロワー(大体がサンデースクラッパのファン)が増えたりだとか。

そういう副次的な効果もあったから、まぁ悪いことばかりじゃなかったと思う。

……でも、それはあくまで結果論だ。

 

「……はぁ」

 

はじめは完全なる善意だった。

だが今はどうだ?

知れば知るたびに魅力的で、また胃袋をガッチリ掴まれてしまった現在。

料理を作る後ろ姿や料理そのものの写真を投稿して、それで…。

 

「…どうしよ」

 

あの子の隣は居心地がよくて。

結局は笑って許して傍に居させてくれるから甘えてしまった?

 

「でも、…初めてだったから」

 

我ながら同年代と比べると頭ひとつ飛び抜けている自覚があった自分。

対等にあってくれる人などいなくて、よくて主人と従者みたく。

……だから、友達になってくれる人などいなくて。

 

「……」

 

でもあの子は違った。

自分の誘いを断らなかった。

『いいよ』って言ってくれた。

それが嬉しくて、最初はただただそれだけだったのにいつの間にか欲張りになってしまっていて……。

 

「……はぁ」

 





【栄光を往く者】:
グローリーゴア。
実はファンサ◎。
それはそれとして生まれながらの才覚が良すぎて周りに遠巻きにされていたタイプでもある。
なので自分と対等に接して仲良くしてくれる【戦う者】に執着ぎみ。
故に【戦う者】に関する投稿も初めは善意だったが…?

【戦う者】:
サンデースクラッパ。
ファンサはあまり…。
でも【栄光を往く者】がファンサ◎なのでまぁまぁ知識はある。
…が何事も程々にとは思っている(とくせい:どんかん)。


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いつか同じ


だから愛して。



ウチの家系は愛情深いが、そのぶん嫉妬深かったりする。

僕はまぁ…仕方ないか、って思うけど、中には自分以外に視線を向けてたとか、困っているところを助けてたってだけで嫉妬してた人も中にはいるようだから。

 

(…でも、『愛』ゆえなんだよなぁ)

 

自分の愛する人がとっっっても魅力的だから、誰かに取られるんじゃないかって。

だから、不安になって嫉妬する。

それはとても普通の感情だと思うから、僕はそんな自身にも脈々と受け継がれている因子を…嫌いにはなれない。

 

「はぁぁ……『好き』って難し」

 

 

さすがの僕でも、求められれば答えるってワケで。

はじめは友人の延長線だとしか思わずとも、月日を経ればちゃんと自覚だってするし、大切だと思うのだ。

 

「おはよう、母さん」

「お?おはよ。今日は早ェな」

「……まぁね」

 

母さんはいつものようにキッチンで朝食を用意している。

僕はそんな母に挨拶をしつつ、テーブルへと座った。

 

(……さて)

 

今日は長期休みの内の一日だ。

学校はもちろん休みで、時間は午前7時前と普段よりもやや遅め起きたためか、父さんの姿は見えない。

きっと普段通り畑の世話に行っているのだろう。

 

(……今日くらいはちゃんと、)

 

ちょうど休みだし。

長期休み、まだあるし。

こっちに来る資金は出すし、ウチは空き部屋たくさんあるからあわよくば…。

 

「…ごちそーさま」

「ん。…今日はたくさん食べたな」

「そう?」

 

それから。

歯磨きとか洗顔を終えて、部屋で携帯を前に考える。

新幹線や飛行機はいらない距離とは言え、来てもらうのはな…と。

元から約束していたならまだしも突然「来ない?」って言われたらアッチも困るだろうし…とか。

そう、考えていると。

 

「わっ!」

 

相手専用の呼出音が鳴って。

驚きつつも慌てて電話に出れば、「会いたい」と言われ。

なので多少しどろもどろに返事したけれど、「じゃあ行くから」と返答された。

 

「え?」

 

そして通話が切れて、僕は思わず携帯を二度見する。

 

(……まじか)

 

それからは準備をして、母さんに友人が来ることを伝えて。

駅まで迎えに行って、改札で待っているとやってきた。

 

「久しぶり!」

「……うん」

 

相変わらずの爽やかな笑顔で手を挙げてる相手に、僕も小さく振り返して近付く。

すると「会いたかった〜!」との言葉と共にキツく抱き竦められ。

 

「こ、ここ駅!人いる!!」

 

…とは言え聞く耳を持たれることはないので、僕は諦めてされるがままに。

 

 

「『相変わらず可愛い』?ハイハイ……口が上手いんだから」

 

そして家に向かう道すがらもずっとこんな調子なので、僕はもう呆れ気味だ。

 

(……いやまぁ、悪い気はしないけど)

 

むしろ嬉しいし、こうして褒められるのは嫌いじゃない。

でもさすがに往来でこれは恥ずかしいのでやめて欲しいけれど…。





僕:
シルバーバレット。
根気強く付き合いましょう。
そうすれば徐々に貴方が与えた感情を同じように返してくれるようになります。
愛情深く、また嫉妬深い一族のウマ。
でもその中でも情緒がチビちゃんなのでまだマシ。
しかし理想系が自身の父母なあたり…ハイ。


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眼福


はぁ〜…!



そのクラスのメンバー自体、名家生まれが多いのでそう目立つものではないがよくよく見ると、

 

(シルバーって、所作綺麗だよね)

 

故郷ではまぁまぁな家柄の生まれだという彼女-シルバーバレットは今日も背筋が伸びていた。

友人間と雑談をする時も、食事をする時も、授業を受ける時だって。

シルバーバレットは美しい。

 

(……アタシも見習わなきゃな)

 

そう思いつつ、ふと隣を見るとパチッと目が合った。

 

「なんだい、ミスター」

「え、あ…その、」

「そんなに見つめられると…照れるぜ?」

 

イタズラっ子のように「んへへ」なんて。

シルバーバレットは笑った。

 

「いや、ごめん……その、シルバーって所作綺麗だなって」

「そうかい?」

「うん。姿勢とか仕草が綺麗で、羨ましいよ」

「そりゃどうも」

 

そう言ってまた笑う彼女は相変わらず。

 

(アタシもこんな風になりたいな…とか言って、なったらなったで「風邪引いたの?!」とか言われそう)

 

そう思いながら、ふと隣を見るとパチッと目が合った。

 

(あれ?)

 

また目が合ったのだ。しかも今度はさっきよりも長く目が合っている気がする。

そして、何故かポッ…と赤く染まる相手の頬に…。

 

(えっ?)

 

 

実のところ、シルバーバレットはミスターシービーのことを『綺麗』だと思っている。

いや、クラスメイトみんな美女揃いではあるけれどルドルフは『荘厳』って感じだし、カツラギは『身近な幼なじみ』って感じだし…etc.

自分が面食いだと自覚があるシルバーバレットは日々『眼福…』と思いながら、気づかれないように周りを眺めているワケなのだが。

 

(やっぱミスターが一番綺麗だねぇ…。おめめがパッチリでまつ毛…。お肌も健康的に焼けてるし…いや、変態臭いな我ながら)

 

なんて思いながら、ふと隣を見るとパチッと目が合った。

 

(…お、oh......)

 

 

という前提をもって。

 

「え?」

「あ」

 

目が合うとほぼ同時に互いに声を漏らす。

そして同時に顔を赤くした。

 

「……えっと、その……なに?」

 

先に口を開いたのはミスターシービーだった。

しかしその顔は赤いままである。

 

(はずかし!)

 

シルバーバレットも顔が熱くなるのを感じたが、ここは余裕を見せるべくニッコリと笑ってみせた。が、

 

「なぁに?アタシに見蕩れた?」

 

先手を打たれた。

ゆえにパクパクと餌に群がる鯉みたく開閉するしかなくなった唇が憎らしくなるがどうも言い返すことができない。

 

「そ、そっか…」

「な、何か言えよ…!」

「いやぁ、ねぇ…?」





僕:
シルバーバレット。
実は面食い。
美形揃いのトレセン学園にて日々眼福している。
ちなその中でもMr.CBの顔立ちが好みだとか。
(しかし性格面で好みなのは葛城とのこと。『拭い切れない幼なじみ感』とは本人の談)。


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見守る


そこにいる。
います。



サンデースクラッパの部屋に、まるで同居人とでもいうように一緒にいるのが当たり前になって久しくなると、グローリーゴアは時折ある"影"を見るようになった。

 

【────♪】

 

その"影"はよく歌っている。

寝つきが悪く、寝ても数時間すれば目が覚めてしまうサンデースクラッパのために。

元はベッドの端に遠慮がちに座っていたのを、グローリーゴアが用意した椅子に座って、歌っている。

 

真っ暗な部屋の中で。

唯一の光源である月光が照らすから、『そこにいる』と分かる"影"。

まるで幼子を寝かしつける母のごとく、頭を撫でるその手つきはひどく慈愛に満ちていた。

 

【───…♪】

 

グローリーゴアはその"影"の正体を知っている。

けれど、それに言及するつもりはない。

その"影"は、サンデースクラッパのためだけに存在する。

だから、グローリーゴアが口を出すことではないのだ。

 

(……でも)

 

もし、サンデースクラッパがそれに気づいてしまったら?

自分のために歌う"誰か"を知ってしまったら?

 

(その時は……いったいどうなる?)

 

そんなことを考えるようになったのは、いつ頃からだったろうか。

ただ、ひとつだけ言えることがあるとすれば──……。

 

 

「この子を僕にください」

 

そうグローリーゴアが告げたのは覚悟を決めたある日。

外堀はもう埋めた。

あの子の家族は「あの子の『幸せ』がグローリーゴアと共にいることなら」と静かに、しかし確かに祝福をもって送り出してくれた。

あとは、この…()()だけ。

 

「この子を僕にください」

 

"影"は佇む。

一番の難関であり、最大の関門でもある"ヒト"は、いつもあの子にするようにグローリーゴアの頭を撫でた。

 

【 ────】

「あ、りがとう、ございます…ッありがとうございます!」

 

"影"は笑う。

それはまるで『がんばって』とでも言っているかのように見えた。

 

(……ああ)

 

これで、()()()()

あの子が笑っていられるように。

 

──……僕は僕の全部(すべて)を懸けて頑張るんだって。

 

 

世界のどこかしこに、もはや()()といってもいいぐらい存在している"影"はオリジナルの家族に対する『愛』を模倣するように、その子を見守っていた。

はじめは"義務"というプログラムからであったけれど、

 

【──────】

 

いつしか芽生えてしまったのだ。

【オリジナルも、もしかするとこんな気持ちを抱いたのかもしれない】と。

だから、"影"はその子を見守ることにしたのだ。

いつかオリジナルが持っていた『愛』とよく似たものを、自分が代わりに与えてあげれたら──……。

"影"はそんな風に考えていたのかもしれない。

 

【──────】

 

ゆえに今日も"影"は…。





"影":
いつかいた、誰かの影法師。
実は世界中に存在するらしく、"影"ごとに役割があるらしい。

今回の個体は『見守り』に特化しているもの。
はじめはただ付かず離れず見るだけだったが、徐々に子守歌を歌ったりなど自発的になっていく。
オリジナルに比べると真似事にしか過ぎない。
しかし…?


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貴方は良き人


憎いぐらいに。



プレイボーイというワケでもない。

 

「……」

 

けど、あの人はいつも誰かに囲まれている。

少々言動は粗野だけれど、困っている人を放っておけないヒーロー気質。

 

「…、」

「お?どうした?」

 

この人-先輩が気軽に家に招くのは僕だけと知っている。

他の人は事前のアポが必要で、連絡無しに訪れても料理や泊まりがOKなのは僕だけと、知っている。

歯ブラシも布団も服も僕専用のモノがあって、部屋が少ないから泊まる時は先輩の寝室で布団とベッドという違いはあれど一緒に眠る。

 

「……」

 

先輩は僕を信頼してくれている。

他の人よりは、ずっと深く。

 

「……先輩」

「ん?」

「僕、最近気付いたんですけど」

「おう」

 

先輩は本当に僕を信頼している。

だから僕も、───先輩に嘘は吐かない。

 

「僕って結構嫉妬深いみたいです」

 

まぁ、父も父なら子も子ってことで。

 

 

シルバアウトレイジにとって、その後輩は可愛かった。

あちらは覚えているか定かではないが幼き日に数度か出会ったことがあり、その時から後輩-【飛行機雲】への好感度は…カンストしていた。

だって自分もそうだが母譲りに我が強い下の弟妹たちと違い、【飛行機雲】のなんと控えめなこと!

弱肉強食を地でいく弟妹たちも可愛いくて可愛くて仕方ないが大人しいぶん目に入るってのもあるわけで。

 

「今日もお前は可愛いな〜!」

 

うりうりと頭を撫で掻き混ぜつつ、文句の声は黙殺する。

言葉では嫌がっていてもその表情は幼いころから変わらず「もっと」とねだっているし、万が一機嫌を損ねても自身謹製の何かしらを与えておけば機嫌が直ることも知っている。

 

(……にしても)

 

最近、妙にベッタリになられている気がして。

今も付かず離れず、まるで送り犬とかそういう類のようにくっついてくるし。

 

「あー、なんだ?どうした?」

「……いえ」

「ンだよ、言いてーことあんならハッキリ言えよな」

「……じゃあ聞きますけど。先輩は僕のことどう思ってるんですか」

「どうって……そりゃ可愛い後輩だと思ってるけどよ」

 

後輩として可愛がられている自覚はあるのだろう。

【飛行機雲】は不満げだ。

でも仕方ないだろう、事実なんだから。

 

(バカやるにしても巻き込めねぇぐらいイイコちゃんだしなぁ…。ま、そもそもバカやる予定もなし)

 

例えるなら。

【飛行機雲】に対しての可愛がりは庇護に近しい。

ゆえに後々何か大変なことが起こったとしてもシルバアウトレイジが【飛行機雲】を伴うことはない。

それぐらいにシルバアウトレイジにとって【飛行機雲】は()()()()なのだ。

 

「つーかお前、最近俺ん家ばっかでいいのかよ。ダチと遊ぶ予定とかねーの?」

「?先輩の家に来ることは友達と遊ぶことに入ると思いますけど」

「……。ほら、なんつーんだ。付き合いってもんがあるだろ」

「はぁ…、そうですかね?」





【銀色の激情】:
シルバアウトレイジ。
産まれながらの人タラシであり、全弟全妹がいっぱいいる系ウッマ。
自身もそうだが母譲りの我の強さをもつ弟妹を捌く日々であったため手綱取りが上手い。
シレッと相手がヤバく()なってもいつの間にか大人しくさせている。

また【飛行機雲】のことを可愛がっているが、何か大変なことがあった場合は火の粉が及ばないように遠ざけるタイプの可愛がり方である。
決して隣に立つことを許してはくれない。
そんなウマなんだ。


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お前は、俺の


人知れず、恐れる。



「先輩って、意外と過保護ッスよね」

「あ゛?」

「いや、なんつーか、その…」

「オメーが危なっかしいからだよ!」

「あだっ!」

 

「いてぇ…」と額を押さえる後輩に【金色旅程】はため息をつく。

誰が好き好んでもう一人でも大丈夫だろう年齢のヤツの面倒を見るというのか。

そこまで自分はお人好しではない…と舌打ちしつつも結局は面倒を見てしまう辺り、図星なのかもしれない。

 

「ったく、行くぞ」

「は、はいッ!」

 

後輩の元気な返事に【金色旅程】はもう一度ため息をつくのだった。

 

 

年々、危なっかしさが増している。

 

「先輩?」

 

不思議そうに首を傾げる眼に浮かぶ光は、はたしてその様なモノだったか。

かつての記憶を反芻するにも気付けばその光に呑まれてしまって。

 

「どうしたんです?」

 

強過ぎる光が、すべてを覆い隠すように。

いつしか、目の前の存在も呑み込まれてしまいそうで。

 

「なんでもねぇよ」

 

だから、その時が来たら。

その時は、自分が、この手で。

 

「先輩?」

 

そこでハッとした。

伸ばした手は今にもその細い頸に触れそうに。

何も気づかないままいつも通りの顔をする後輩のお気楽さが自分の思いと相対して嫌なコントラストを醸し出すのを、【金色旅程】はただ黙って見ていることしか出来なかった。

 

「先輩」

「あ?」

「最近、考えごと多くないですか?」

「……気のせいだろ」

 

後輩の指摘に内心ギクリとしながらも平静を装って答える。

しかし、そんな誤魔化しが通じる相手ではなかったようだ。

 

「嘘だぁ!だって、ここ最近ずっと何か悩んでるじゃないですか!」

「……」

 

このやり取りも何回目か。

「聞くな」と態度で示せば、なぁなぁに呑み込んでくれる相手とはいえ、流石に何度も同じやり取りをしていれば相手も不満に思うもの。

 

「むぅ……」

 

後輩は頬を膨らませて「先輩の横暴(おーぼー)」と拗ねている。

しかし、そんな表情も長く続かないのが後輩の面白いところであり、また悪いところでもあった。

 

「まぁ、別に良いんですけどね」

「良いのかよ」

 

思わずツッコミを入れた【金色旅程】だが、後輩は気にすることもなく毎度と同じ話の流れを作る。

「今日のご飯は何がいい」だとか、「次はどこに遊びに行きましょうか」だとか。

「先輩は、何がしたいですか?」だとか。

他愛もない話を繰り返す後輩に、【金色旅程】はただ黙って耳を傾ける。

その口から紡がれる話題の一つ一つを丁寧に聞きながら、ふとした時に思うのだ。

 

(…たまには、お前のやりたいことでいいのにな)





【金色旅程】:
先輩。
変わってしまったような、変わっていないような、そんな後輩を気にかけている。
何となく危機感的なモノが強そうな人っぽい。
なので何だかんだ言いつつもしっかり引き止めてくれそう。


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同病相厭う


同病であるが故、同族嫌悪。



初対面の時から、もう『あっ』と思っていた。

それほどまでに僕らは──()()だった。

 

 

「気持ち悪いな」

「あ゛?」

 

瞬間、飛んできたマッハパンチを何とか手で受け止めれば「ヂッ」と濁音がついた舌打ちをされ。

「オラ、さっさとジャケット脱げよ」と殴り合い(けっとう)の合図が出される。

ジュニア期になる前から、どうにもウマが合わない僕らはこうして秘密裏に、誰も来ない場所で殴り合い(けっとう)をすることが多々あった。

みんなの望むバレットシンボリと、シルバープレアーの皮をかなぐり捨て、ただ『気に食わないから(地雷を踏んだ)』の一点で殴り合う。

まぁ、走ることを主題としているアスリートだから蹴りや脚への攻撃は無しで、自分たちにはアイドル的な側面もあるから顔に対しての攻撃もまた無しで。

殴り合い(けっとう)と言っても、精々がボディーに拳をぶち込むだけだ。

…時々、勢い余って首絞める時もあるが。

 

「オラ、行くぞ」

「来いよ」

 

程々のサイズの石を握った拳が、お互いの体に突き刺さる。

一発目はお互いにガードで防ぐと、すかさず二発目を放つ。

 

「おらッ!」

「シッ!」

 

慣れたものだ。

避けるのも、殴るのも。

嫌なことに、初対面の時からトレースみたく互いの思っていることや考えていること、次に話すだろうことが分かる僕らは、互いの攻撃の癖を知り尽くしている。

だから殴り合う時、僕らは相手の行動を先読みし、その上で自分の行動を決める。

 

「オラッ!」

「ぐッ」

 

二発目のボディーブローを食らった僕は、お返しとばかりに(こぶし)を繰り出すが──。

 

「甘いんだよッ!!」

 

その拳を掴まれると同時に、そのまま綺麗な一本背負いで視界が回る。

地面とのキスは嫌で何とか足を踏ん張ったところで…今回の殴り合い(けっとう)は終わりらしい。

ふたり、服に少し土埃がついたくらいで怪我らしい怪我もなく、ただ『気に食わない(地雷を踏んだ)』という一点のみで始まった殴り合い(けっとう)は終わる。

 

「あー……クソッ! 負けた!」

「ハッ! 俺に勝とうなんざ百年早いんだよ」

 

「うるせぇよ」と悪態をつきながら、僕は立ち上がる。

そして服についた土埃を払うと、バレットシンボリが口を開く。

 

「……なぁ」

「……なんだよ?」

「お前さ……なんで走ってるの?」

 

…………?

それは──、

 

「テメェが一番よく分かってんだろ、皇帝の息子サン」

「お??もっかいやるか?」

「…そりゃあ勘弁つかまつる。ってか、いてて…このバカ(ぢから)めが」





同期であり、どこか境遇が似ているシルバープレアーとバレットシンボリのふたり。
だがその『似ている』は他人が思っている以上であり、思考や行動や言動もある程度トレース出来るぐらいには二人とも『同族…(ウゲッ)』としている。
ので、結構な頻度で互いの地雷を踏みあっては殴り合い(けっとう)をする日々。
たぶんこの二人、揃って普段は優等生で穏やかなので殴り合い(けっとう)の光景を誰かが見たら…?

年相応に口悪いし喧嘩もする。
しかしそのことを知っているのは『同族』であるお互いだけ…みたいな。
『同族』だからこそ見ることを許される内側。
そのため他の人がその内側を見ることを望んでも…。


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気に食わないだけ


真作(ホンモノ)は黙ってろ!って言いそうなふたり。



「…そんなに無様にやられなくとも、やり返せばいいだろうに」

「誰が無様だ」

「無様以外の言いようがないだろう?…顔は腫れてるわ鼻血は出ているわだぞ?」

「うっせ」

「デユール兄さんにはもう連絡しておいた」

「へぇ、準備万端なこって」

 

肩を貸されながら連れていかれたのはもうどこに何があるか把握してしまった横にいるコイツ-バレットシンボリの寮部屋。

同居人がいないひとりのコイツの部屋は今の僕のような人間を匿うのにはうってつけという…。

 

「匿うのはお前ぐらいだよ」

「まァ、いつもお真面目なバレット委員長が不純な交遊するハズないもんな〜」

「…治療される傷を増やしたいか?」

「へーへー悪ぅござんした。からかっただけじゃん」

「クソガキ」

「同い年ですぅ」

「お前はクソガキだ」

「はいはい、とりあえず治療してくれや」

「……」

 

時おり殴り合いはするけど、本気で害そうとしない辺りコイツはさぁ…。

今日だってコイツが来たから僕を痛めつけてたやつが「やべっ!」って逃げて行ったし。

……さすが鬼の風紀委員長〜♪と内心口笛を吹いていれば睨まれた。

 

「ほら、顔出せ」

「へーへー」

 

大人しく治療を受ける。

……別に僕がいつもこうってわけじゃないヨ?

ただ、僕はそういうキャラでもここでは誰も咎めないってだけで。

 

「……よし、こんなモンだろ」

「あんがとさん」

「で?」

「ん?」

 

治療が終わり、バレットシンボリに促されて床にに座れば問われたのはそれだけだった。

あーはいはい、説明しろってことね?

ハイハイ。

何でもコイツ、僕のこと気に食わないくせに僕が()()なると何がなんでも犯人付き止めて██████(ゴニョゴニョ)するんだよなぁ。

 

「別に。いつものことだよ」

「いつも、か?」

「そ。僕のことが気に食わない奴に殴られてるだけさ。……まァ、今回はちょっとやられ過ぎたかなと思ってるけど」

「そうかよ」

 

バレットシンボリはそれ以上聞かなかった。

ただ、僕の頭をポンポンと叩いて立ち上がる。

そして扉に手をかけて……あ!そうだ!

 

「おにぎりでよろしく。2個ね」

「…もっと食えよ、お前。あ、あと」

「分かってる。ちゃんとこの部屋で一夜を明かすさ」

「言い方…」

 

 

気に食わないのは確かだが。

 

「やほ〜、シンボリくん」

 

それ以上に、気に食わないこともある。

殴られた顔でヘラヘラと笑うソイツ-シルバープレアー。

普段他人には見せない軽薄な顔で「人通らないところ通って、で良ければ怪我の治療して」と頼む様に一瞬シバきそうになるが相手は怪我人なので抑えて…。

 

「また、何か奢れ」

「ん〜」





【銀の祈り】:
シルバープレアー。
同期であり叔父にあたる【シンボリの弾丸】の前だけは軽薄で年相応だったりする。
でも普段は穏やかな優等生だし、みんなそうだと思っている。

【シンボリの弾丸】:
バレットシンボリ。
【銀の祈り】と同期であり叔父である鬼の当代風紀委員長。
父である【皇帝】に重ねられる自分と、"あのウマ"に重ねられる【銀の祈り】とで同族嫌悪しているが共に本気で嫌っているわけではない。
でも地雷は踏み合う。


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キミとの交遊


まぁ、誘われれば普通に。



同期は良いヤツばかりであるが、その中でも一番話しやすいのはスペこと、スペシャルウィークだった。

 

「むぐもごご!」

「飲み込んでから喋れ」

 

しっかしよく食べるなァ…と感心しながら、俺も俺で食事を進める。

 

「んぐんぐ……ぷはぁ! やっぱり美味しいです!」

「そうか、そりゃ良かったな」

「はい! あ、チャンプくんも食べますか?」

 

そう言ってスペは箸で掴んだ唐揚げをこちらに差し出してくる。が、

 

「いや……俺はいいよ」

「遠慮しないでいいですよーほら!」

 

ずいっと更に近づけてくるスペに根負けして口を開ける。

そこに放られた唐揚げは確かに美味しかったが、それ以上にウマ向けメニューのモノなので。

 

(デッ……カァ……)

 

コレ、この大きさで何でふた口ぐらいで食べれてんだよ。

美味しいけど、美味しいけど!

…ヒト向けメニューの定食で精々な俺にとっては、スペの食事量は別次元だった。

 

「あ、そうだ!」

「ん?」

 

スペが何かを思い出したかのように箸を止める。

そして、俺に向き直るとこう言った。

 

「この後はどうする?」

「どうするって…お前のやりたいようにすれば…」

「なら食べ歩きかなぁ?」

「…まだ食うのか」

 

 

自分が同期の中でも話しかけやすい雰囲気を持っているという、自覚はある。

自分としては普通にしているつもりなのだけど、『それはもう天性』とも評されることも。

 

「スペ?」

 

でも。

目の前のチャンプくん-シルバーチャンプの前だけはいつも通りではなくなってしまう。

自然体ではなく、どこか相手に見られていることを気にしてしまってカッコつけたり、逆に何も考えずにぼうっと行動してしまったり。

 

「どうしたんだよ、スペ」

「……ううん! なんでも!」

「ならいいが……」

 

そう言ってチャンプくんはまた食事に戻る。

 

(ずるいなぁ)

 

そんな姿を、思わず箸を止めて見つめるのだった。

 

 

「今日はありがとう!」

「おう、楽しかったぞ」

 

夕暮れの商店街を並んで歩く俺とスペ。

結局あの後色々な店を回って食べ歩きをしたのだが、マジでスペって健啖家だな。

さすがに主食ではやらなかったとはいえ、デザートで何分以内に食べ終わったらタダ!でも食べきれなかったらお金払ってね!ってヤツやって軽々とクリアしてたし。

 

「チャンプくん、ちょっとこっち向いて」

「ん?」

 

言われるままに顔を向けると、パシャリという音が鳴った。

 

「……おいスペお前今なにした」

「えへへ……ウマッターに上げちゃった」

 

ウマッター?

いや、まぁスペぐらいの選手になるとやってるのはおかしくないが。

 

「大丈夫、ちゃんと顔は映らないようにしたから!」

 

いやそういう問題じゃねぇよ!

てかその配慮ができるなら先に言え!

 

「だってチャンプくん、誘っても何かと理由つけて断るでしょ?」

「いや……まぁ」

 

確かに俺はそういうのしないけど。

…親に送れって言われない限り。

 

「だから!」

 

そう言ってウマッターの投稿を俺に見せつけてくるスペ。

そこには『今日は同期と食べ歩きです!』というコメントと共にスペと俺の耳が見切れる形で撮られた写真が。

 

「いい感じ!」

「……さいですか」

 

まぁ、いいか。

スペが楽しんでるなら、それで。

 





【銀色の王者】:
シルバーチャンプ。
同期の中で一番話しやすいのはスペで、頼りにしてるのはキングなウッマ。
誘ったら快くOKしてくれるが誘うまでが至難のワザ。
ちな同室であるリョテ先輩とは気軽にツーショ撮るらしい。


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お兄ちゃんはたいへん!


主に……的な意味で。



あのシルバーバレットが何かいろいろデカくてマブい女をたくさん侍らせてる───。

そんな話がヒソヒソと人から人へ伝播されていっているその時、当の本人であるシルバーバレットは「侍らせてないですぅ!」と唇を尖らせていた。

 

「いーや、侍らせてんだろ」

「侍らせるも何も実のきょうだいなんだからさぁ…」

 

シルバーバレットの周りには急かせかと世話を焼いたり、または甘えるように垂れかかる妙齢の女たち。

一目見ただけで分かる類いまれなる美貌だが、よくよく見るとどこか脊髄を撫であげられるかのような妖しい艶がある。

 

「侍らせてないですぅ! 実のきょうだいだし、この子らにももう相手いるよ!!」

 

シルバーバレットがそう抗議すると、女たちは一様に悲しげな顔になって「そんな……」と声を漏らした。

 

「私たち、みんなお兄様のことが大好きなのに?」

「へっ!?…いやいやいや!」

「私たちのこと、嫌いになったの?」

「ち、違う違う! 嫌いじゃないけど……」

「じゃあ好きってことね」

「え? いや、だから!」

 

目を白黒させるシルバーバレットに女たちは畳みかける。

 

「私たちの中で誰が一番好き?」

「……えっ!?」

「お兄様は私を選んでくれるわよね?」

「ちょっと待ってちょっと待って!」

 

そんなやり取りを遠巻きに見ていた親友にシルバーバレットは助けを求める目線を送るも、その親友は両手をあげて降参のポーズを取る。

 

「おい、ちょっと待ってよサンデー!…おい、おい逃げるな卑怯者ォ!!」

 

 

彼女たちにとって、『お兄様』であるシルバーバレットは指針であると同時に、自分たちが守ってやらねばならない幼子でもあった。

なにせ体はずっと小さいままで、『知らない人には着いていってはいけません』という標語も意味をなさないほどのほほんと、警戒心のない。

シルバーバレットが家を出て、元々住んでいた土地から離れてからも彼女たちは心配でならなかった。

そんな折に、『お兄様』が帰ってきたという知らせを聞いて、彼女たちは喜び勇んで駆けつけたのだ。

 

「兄さん!」

「ああー! お兄さまだー!」

「久しぶりですー!」

「お兄さまーー!!」

「うわっ!?……とっと」

 

あっという間に取り囲まれるシルバーバレット。

その勢いに気圧されて彼は後ずさった。

が、そしてそのまま抱きすくめられ、胸部装甲の餌食になる。

柔らかいものも密着させられれば呼吸困難ということを彼は知っている。

 

「ちょ、ちょっと待って! みんな落ち着いて!!」

「お兄さまー!」

「お兄様ーー!!」

「兄さん……ぐすっ」

「おにいさまぁ……」

「むぐぐぅっ!?」

 





僕:
シルバーバレット。
妹sに抱き締められたら身長差的に宙ずりになりかけるウッマ。
なのでよく綺麗な川の情景が見えるとかどうとか。
あ…川の向こうの人がめっちゃ手ェ降ってる…。

妹s:
4人いる。
長女はシルバフォーチュン。
全員揃いも揃ってタッパはあるしデカい。
今日も元気なブラコンおねーさんたち。
なお全員が全員母である【白百合】の血が強いらしく、見た目がマジでソックリな模様(ところどころ目の感じが光今井パパ似とかはいるけど遠目で見るとマジで…)。


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あなたにあこがれて


銀弾世界は史実√であれ生存√であれ、銀弾が脳焼いたために銀弾脳焼き勢の馬主さんやら騎手さんが銀弾産駒()としていて、その分活躍した馬もいっぱい!っていう。



1:名無しのトレーナーさん

系列が一番執着重いけど、それ以外もなかなか重くない?

【ウマ娘銀弾の画像】

 

 

2:名無しのトレーナーさん

 

そりゃああのJCで未来の馬主・騎手の脳を焼いちゃったからね

 

 

3:名無しのトレーナーさん

 

銀弾に憧れてるから自分に合わないと分かっていながらも逃げを脚質に選んで…ってのが多過ぎるッピ!

 

 

4:名無しのトレーナーさん

 

で、銀弾に脳焼かれた人々は海外遠征積極的にするからストーリーが国際色豊かになる〜!

 

 

5:名無しのトレーナーさん

 

まだ銀王者が影も形もなかった頃から匂わせられてた銀弾さんェ…

 

 

6:名無しのトレーナーさん

 

>>5

そして銀弾の代わりに色々と()向けられるようになる可哀想な銀王者…

 

 

7:名無しのトレーナーさん

 

でも銀弾が実装されたら実装されたで「あなたみたいになりたいです!」→「無理だった…」の絶望コンボかまされるの無慈悲すぎない?

 

 

8:名無しのトレーナーさん

 

銀弾に憧れつつも系列に比べるとある種の隔絶があるのがねぇ

憧れは理解から最も…

 

 

9:名無しのトレーナーさん

 

まぁ銀王者がいない頃でも血族自体は既に実装されてたんだが

…主に銀弾に脳焼かれて系列の馬しか所有しない某氏のとこの、ね?

 

 

10:名無しのトレーナーさん

 

>>9

出たよ、その冠名?揃いも揃って銀弾に脳焼かれてるよね!のヤツ〜!

 

 

11:名無しのトレーナーさん

 

故に脳焼かれてる勢にめちゃくちゃ美化される銀弾

 

 

12:名無しのトレーナーさん

 

>>11

なおオフの本人

オンだったら憧れるのも分かる…ってカッコ良さなんだけど

 

 

13:名無しのトレーナーさん

 

で、みんながみんな銀弾より身長とか諸々デッケェからさぁ(凸凹凸感)

 

 

14:名無しのトレーナーさん

 

銀弾、この勢いだったら学園内でファンクラブ持っててもおかしくなさそう

 

 

15:名無しのトレーナーさん

 

そもそもの銀弾育成ストのJCの登場キャラが多い多い

観客席に脳焼き勢のネームド・匂わせも含むががが

 

 

16:名無しのトレーナーさん

 

この脳焼きメンツでオムニバス形式のコミカライズか何かやったら激重感情の煮凝りが見れそう

 

 

17:名無しのトレーナーさん

 

>>16

胸焼けとか胃もたれとかしそお…

 

 

18:名無しのトレーナーさん

 

>>17

そら主戦騎手の本がネクロノミコンだからね、しょうがないね

 

 

19:名無しのトレーナーさん

 

関係者(血筋)ではない関係者定期

 

 

20:名無しのトレーナーさん

 

たぶんまだまだ増えるんだろうなぁ

 

 

 

 

「そんなに後進に慕われているなんて羨ましい限りだよ」

「う〜ん。まぁ、慕われるのは先輩冥利に尽きるけどさぁ…ハハハ」

 

────アレを、『慕う』と言っていいのかしら?





僕:
シルバーバレット。
脳焼き過ぎ定期。
90JCにて本来はogrを見に来てた若人の脳をジュッ!し、無事将来の夢を馬主であれ騎手であれその他であれ…馬に関する仕事へと固定させた。
いやまぁ元から潜在だったって言われればそうなんですけど…。


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何も分かってない!!


ヒトが好きなあなたと。



「お前も子どもっぽいとこあるよなぁ」

 

そう言って、ただ笑うばかりの先輩に頬を膨らます。

まったく…この人は何で分からないんだろう?

先輩-シルバアウトレイジは現役を引退した今とあっても人気のウマだ。

それに生来の人好きのようで誰かを見かければ駆け寄っていってファンサぐらいなら普通にする。

そしてそのファンサの際に生まれながらの美形フェイスで微笑んだりするものだから、その破壊力たるや凄まじい。

特にファンでなくとも、タイムラインにそのような画像が流れてきた。

それだけでコロッと落とされてしまう者も多いと聞く。

そんな先輩だから……、

 

「僕以外の人と仲良くしないで下さい」

「……は?」

 

先輩は僕の言葉を聞き逃したようで聞き返してくる。

僕はそれにもう一度言ってあげることにした。

 

「ですから!僕以外の人と仲良くしないで欲しいんです!」

「お、おう……?」

 

困惑気味の先輩だったが、それでも頷いてくれたので僕は満足して頷く。

よしっ!これで…と思ったのが甘かった。

そうだ、そうだった。

先輩は何度言ったって分からないし、あの人好きは生来なのだ。

ウマ相手には大概必要最低限以外は素っ気ないクセして、ヒト相手には無駄に愛想よく振る舞う。

 

「先輩って、何かこう……距離感近いですよね」

「そうか?まぁ、ヒト好きだしなぁ……」

「そうなんですよ!だから僕以外の人にも優しくしちゃうんです!」

「……いや、それは違うだろ」

 

僕の発言に先輩が呆れ気味に言うが僕は構わず続ける。

 

「優しいのは良いことです!でも……でもですよ!?先輩は誰にでも優しすぎるんですよ!」

 

そんな僕に先輩はため息を吐くとこう言った。

 

「……お前さぁ、」

 

それからも何かしらをくどくどと言っていたはずだが、僕の耳には何も入らず。

逆にどれだけ頑張って僕が先輩の横をずっとキープし続けているのかを今にも語ってやりたいぐらいには僕の想いは強い。

 

「【飛行機雲】、」

「……はい」

 

先輩がまた呆れたように僕を呼ぶので僕は首を傾げる。

 

「俺のこと好きすぎないか?」

「……え?いや!そそそそんなことはっ!」

 

いや、あるけども!

あるけれども……それを本人に言われるのは流石に恥ずかしいというか……!

あたふたとする僕を他所に先輩は言葉を続ける。

 

「だってそうだろ?いくら何でも俺がファンと話してるだけでそう言ってくるとか……」

 

言いながら先輩の指が照れている時の動きをする。

僕だけしか知らない、先輩の癖。

先輩自身も知らない、先輩の癖。

 

「そ、それは……先輩が僕だけの先輩じゃないからです」

 

僕がそう言うと先輩は首を傾げる。

 

「……?俺はお前のものじゃないぞ?」

「いや、あの……そういう意味じゃなくてですね……」

 

僕は思わず頭を抱えてしゃがみ込んだ。

そうだ、この人はこういう人だった……。

僕の言いたいことは全然伝わっていないし、それに何よりこの人にはそういう自覚がまるでない!

 

「はぁ……」

 

もう何度目になるか分からないため息を吐くと、先輩の手が伸びてきてそのまま頭を撫でてくる。

 

「いい子いい子、【飛行機雲】はいい子」





【銀色の激情】:
シルバアウトレイジ。
生来よりヒトが好き。
でもウマはあんまし。
多分家族以外で仲いいウマは【飛行機雲】ぐらい。
某キュウカンバーさんとも交友はあるけどあくまで先輩後輩感。
この、約束されたニブチン…。

【飛行機雲】:
めんどくせ〜後輩。
ヒトに対してバチくそファンサしては落としまくる【銀色の激情】にズモモモ…とする日々。
ウマの中では自分が一番仲良いとは知っているがそれはそれ、これはこれ。
でも【飛行機雲】だけしか知らない【銀色の激情】のあれやこれやがそこそこあったりする。


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なんだこの…


白峰甥を語るスレ、その一部。



1:名無しのトレーナーさん

 

縁のウマ娘が何かしらのコース取りスキルを持っている男

【騎手:白峰遥の画像】

 

 

2:名無しのトレーナーさん

 

まぁ新人時代から馬群のさばき方バグってたから…

 

 

3:名無しのトレーナーさん

 

チャンプも追込みだけど、みんながよく見てたプレアーが頭先頭民族だからそこだけ見てるとあんまイメージないけどねぇ

そういうとこ見るんならプライドシンボリの時かなぁ?

囲まれてもいつの間にかスー…っと抜けてたし

 

 

4:名無しのトレーナーさん

 

いつの間にかそこにいる、いつの間にいた!?ってのがよく似合う騎手定期

 

 

5:名無しのトレーナーさん

 

おじさんが愛馬と一心同体になってるのと同じようにこの甥もさぁ

 

 

6:名無しのトレーナーさん

 

>>5

なんかチャンプ始めとしたお手馬連中からの親愛度バグってんだよな

血だからって言われればそれまでなんだけど

 

 

7:名無しのトレーナーさん

 

この前、甥が勝った時のジョッキーカメラ上がってたけど…やっぱおかしいよお前(ドン引き)

 

 

8:名無しのトレーナーさん

 

もう甥が乗ってたら勝手に馬群が開くまである

 

 

9:名無しのトレーナーさん

 

だいたい優等生してるけど度胸エグいときエグいからね

うわっ、えげつねぇイン突き!

 

 

10:名無しのトレーナーさん

 

おじさんは理解しようとしてもできないタイプの才覚だけど甥は理解しようとすれば出来るかもしれないけど…いや、でも分かんね(五体投地)

 

 

11:名無しのトレーナーさん

 

銀系列の時だけ操縦性おかしいんかと思ったら他の馬でもまぁ操縦性バグしてる…

 

 

12:名無しのトレーナーさん

 

>>11

それに加えて出遅れ癖ある馬にフツーに集中力も授けてるしな(白目)

 

 

13:名無しのトレーナーさん

 

甥が鞍上になった馬には…そういうパッシブスキルが付くって…コト!?

 

 

14:名無しのトレーナーさん

 

とりあえず注目の踊り子とかレーンの魔術師とかは持ってると思う

 

 

15:名無しのトレーナーさん

 

おじさんは逃げと速度と加速スキル特化だったからねぇ

 

 

16:名無しのトレーナーさん

 

>>15

無 法 ! !

 

 

17:名無しのトレーナーさん

 

銀系列の馬が乗りやすいとは常々言ってるけどぉ…

 

 

18:名無しのトレーナーさん

 

馬自身の操縦性がよかったのか、それとも血筋がベストマッチしたのか…

 

 

19:名無しのトレーナーさん

 

いまの自分でチャンプに乗ってみたいなぁ…ってポソッと漏らす御方

 

 

20:名無しのトレーナーさん

 

それはそれとして甥の正妻争いって大変そうだよね

本人的にはチャンプが本命とはいえ

 

 

 

 





甥:
白峰遥騎手。
おじである騎手がみんなから『おじさん』と言われているのでその流れで『甥』と呼ばれるように。
新人時代から馬群のさばき方がバグってる系騎手。
ナチュラルに初めからコース取り系スキルを全部金スキルで持ってる感じ。
いつの間にかそこにいるタイプだし、教えを乞うと「え?パーッて行ってヒュッて入ったらいいんじゃないですか?」とか言う。
やはりコイツもおじと同類…。


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だってあなたは魅力的だから


そう過多にスキンシップを取っているわけではないが第三者から見ると砂糖吐くぐらいには。



ヒカルイマイとホワイトリリィの夫婦(めおと)は普段から見ているこっちが砂糖吐きそうなぐらいイチャイチャしているが、その実直接的にスキンシップを取る…というわけではなかった。

周囲であるホワイトバックや子どもたちが聞けば「いやいや」と頭を振るだろうが、本人たちがいうにはそうらしい。

…というのを、前提で。

 

「ちょっと畑の様子見てくるわ」

 

いつもなら「おう」とか「気をつけてな」と返答があるところを。

何も返ってこないので不思議に思ったヒカルイマイが振り向くと、──ガッ!

 

「…ん。おら、行ってこい!」

 

振り向きざまに胸ぐらを両手で掴まれ引き上げられて、歯が当たる音。

じわ、と口内に広がり始める血の味に目を白黒させれば、してやったり顔のホワイトリリィがシッシと手を振って。

 

「ちょ……な、なにすんだよ!?」

「たまにはいーだろ、たまには」

「たまには、って…」

「照れんなよ色男。とりあえずその顔赤いのはよ治せ」

「無茶言うな」

 

 

実はヒカルイマイの私服は…ちょっとダサ、いや休日ルックが凄まじかったりする。

そりゃあ日がな趣味と実益を兼ねて畑仕事をしているウマであるので自然と服装がそうなるのは致し方ない。

だが、彼の場合はそれが顕著だ。

 

『お、イマイくんか! それにしてもなんだいその格好!』

「あ? ああ……ちょっとな」

『まーた畑仕事してたのか?』

「おう。今日も今日とて土と戯れてたぞ」

『ははっ! ちょっとはリリィちゃんに構ってやれよ〜』

「俺の方が構ってもらいたいくらいだよ」

 

そんな具合に、会う人会う人から言われる始末。

当然それはホワイトリリィにも届いており…。

 

「あ゛?ダセェぐらいがちょうどいいだろ」

 

旦那さんの服装…ダサくない?(意訳)との問に、ホワイトリリィはそう返した。

 

「大体畑仕事してりゃ汚れるし汗もかくし土埃で汚れるだろ? だったら別に着飾る必要なんかねぇんだよ」

「いや、でもさ……」

「それに…変に着飾ってどこぞのお嬢さんがアイツに恋した〜ってなっても面倒だしな。…ま、そうなっても離すつもりはないが」

「…さいで」

「私だけのアイツでいりゃいいのさ。私がアイツだけのモノであるように」

「ヒューッ! 熱々だね〜!!」

「だろ?」

 

そんな具合に、ホワイトリリィは惚気て…。

 

「たでーま」

「あ、おかえり父さん」

「おー、ただいま俺の愛しい貴女(ひと)

「…ん、おけーり私の愛しい貴方(ひと)

「……キャ〜(小声)。ビターチョコ食べたくなってきたな」





互いにこれ以上可愛く/カッコよくならないで欲しいなと思っている夫婦。
少し自己肯定感が低くなることもあるが「アイツが愛する自分なんだから」とすぐ復活する。
愛じゃよ、愛。


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困りがち親心


親の心子知らず。



「……」

(…またか)

 

実質ニコイチなきょうだい-シロガネハイセイコを横目で見ながら、シロガネヒーローはため息をつく。

シロガネハイセイコの視線の先にはまだ小さなきょうだいを可愛がり、また愛する彼らが父-シルバーバレットがいて。

かの人の子どもである限り、自分たちを救ってくれたかの人を慕うのは誰しもが通る道だが、その中でもシロガネハイセイコの慕いっぷりは群を抜いた。

 

「ハイセイコ、顔」

「…ん」

「直せよ〜。その顔ガキ共が見たら泣くぞ」

「…分かってるよ」

 

シロガネヒーローの言葉に、シロガネハイセイコは顔を引き締める。

その顔は先ほどまでのキツい顔ではなく、温和そうな表情だ。

 

「僕は父様の子ですから」

「……へいへい」

 

頰を染めながら、しかし誇らしげに言うシロガネハイセイコに、シロガネヒーローは適当に返事をする。

普段は父のことを『父さん』と呼んでいるが、ふとした時に幼き日の呼び方だったのだろう、『父様』という呼称。

その呼称を口にする時、シロガネハイセイコの雰囲気は柔らかくなる。

 

(まあ、気持ちは分かるけどよ)

 

シロガネヒーローは心の中でそう呟くと、再び視線をシルバーバレット達に向ける。

視線の先にはシルバーバレットに抱かれた小さなきょうだいがいて。

「ねーね」、「とーた」と、舌足らずな口調で父を呼ぶ。

 

「…」

「だから顔」

 

 

シルバーバレットにとって、実の子どもを愛するのは至極当然のことであり。

元々が一族的に愛が重いところの出だからこそ、子どもへの愛が深いのも必然だった。

 

「……」

「父さん?」

「……ああ、ごめんね。考えごとしてた」

 

シルバーバレットはそう言うと、腕に抱いていた小さな我が子を優しく撫でる。

シルバーバレットにとって、我が子である子どもたちと触れ合う時間は至福の時間であり、また子どもたちにとっても大好きな父親に甘えられる時間だ。

しかし、そんな親子の触れ合いの中にあっても、シロガネハイセイコだけはどこか浮いており。

 

(まぁ…もうこんな大きくなっちゃったしなぁ)

 

他の第三者が見れば『いや、そんなことはない』と断言するだろうが、シルバーバレットにとって、シロガネハイセイコという我が子は甘やかそうにも甘やかせない存在だった。

というのも、シルバーバレットが子ども達に構うと、シロガネハイセイコが必ずと言っていいほど何ともいえない顔をする。

だから…と撫でるために手を伸ばそうにも物凄い勢いで避けられるので、シルバーバレットとしてもどう接したもんかなぁ…と。

 

「……」

「父さん?」

「……いや、何でもないよ」

(……今だって)

 

シロガネハイセイコに避けられて落ち込むシルバーバレットを見て、子ども達が心配そうに声をかけるが、当のシルバーバレットは苦笑して誤魔化すのだった。





僕:
シルバーバレット。
いつだって我が子をヨシヨシしたい!
でも年頃だからね…(避けられるのにしょんぼりするすがた)。

子どもたち:
照れてるだけでいつまでも父である僕に褒めてもらいたい気持ちはある子たち。
でも照れちゃう。…難儀だね。


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おはよう、My Baby


キミと、僕の可愛いキミ。



ミスタードリームヒーローは孫の中でも祖父-サンデースクラッパによく可愛がられた。

それは一番と自他ともに認めるほどに。

 

「おはよう、My Baby」

「おはよう…ございます、おじいちゃん」

 

ふわ、と笑うその人は、朝の挨拶と共にいつもミスタードリームヒーローのおでこにキスをする。

いや、他の子供たちだって昔は同じようにされていたのだ。

だが、ある程度の年齢になっても幼き日と同じようにされるのは…。

だから、ミスタードリームヒーローは祖父-サンデースクラッパが朝起きてくる前に身支度を整えておこうとするのだけど。

 

「お、おじいちゃん…」

「おはよう、My Sweetie」

 

ちゅっと額にキスをしてから、祖父はミスタードリームヒーローの髪を優しく梳くように撫でる。

その手が心地よくて、もっと撫でてほしくて。

ミスタードリームヒーローは今日もその挨拶から逃げられないままでいる。

 

 

「えっ…、させてくれるなら今でもするけど」

 

サンデースクラッパというウマは子煩悩であり、孫煩悩であった。

それはまさに紛うことなきほどに。

 

「ダメ……」

「えー」

 

しかし、親友のグローリーゴアの返答に、サンデースクラッパは不服そうな声を漏らす。

グローリーゴアはサンデースクラッパの親友であると共に彼が溺愛する孫たちの父である。

 

「なんで?」

「…」

 

 

幼き日はサンデースクラッパの『挨拶』を受けていた子らがその『挨拶』から引退したのは年月を経たが故の気恥しさも理由ではあったが一番の理由は…。

 

「……、」

 

彼らが父-グローリーゴアのあっつい視線()に耐えられなくなったからで。

確かに父と祖父は相思相愛である。

それはサンデースクラッパも認める。

だが、その眼差しは子どもたちにとってはちょっとばかり刺激が強く…。

なので、

 

「おはよう、僕の可愛い子」

 

あの父の、血涙を流さんばかりの眼差しを受けてもシレッとしてるミスタードリームヒーローに思わず『すげぇなぁ…』と。

いや、羨ましい気持ちだって確かにあるのだが、それ以上にあの父の眼差しが怖すぎるから。

「おはよう、おじいちゃん」

 

でも、それでもミスタードリームヒーローはサンデースクラッパに毎朝の挨拶を欠かさない。

 

 

「あぁ、ミスタードリームヒーロー?」

「あの子ね…若い頃のグローリーによく似てて!」

「だからいつも以上に甘やかしちゃうのかも…」

「それにあの子、他の子たちより素直だからさ」

「甘やかさせてくれるのなら僕もめいっぱい甘やかすのに、なぁ…」

 





【戦う者】:
サンデースクラッパ。
子煩悩であり孫煩悩。
その中でも親友に激似なミスタードリームヒーローを可愛がっている。
でもその様子を当の親友からどう見られているかは…?


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まみれ


残った痕は、何の証?



シルバーバレットは、肌が白い。

故に、

 

「…また痣になってるや」

 

手首に刻まれた痣。

普通に呼び止めるために掴まれたはずだったソコは今となっては変色していて。

 

「この前、肩にもついたってのに」

 

まるでそういった類の怪談か何かのように触れられてはつく痣を撫でながら、スタスタと歩く。

すると、

 

「うおっ」

「先輩」

「あ、あぁ、ルドルフか」

 

ぐい、と肩を引っ張られて。

驚きざまに振り返るとそこには生徒会長たるシンボリルドルフ。

どうしたの?と問えば全チームに通達する書類を手渡したい、と。

それならと受け取るも先程掴まれた肩のことを考えては『また痣になりそう』なんて思いつつ、その手を離してもらおうと口を開く前に再び腕が伸びてきて。

 

「ちょっ……なんだよ、もう……」

 

そのまま掴まれてしまった右腕を見つめていると、今度はグッとその手に力が込められていく感覚があり。

思わず眉を寄せてしまうほどの強さだけれど、それを止めるには…目の前のウマの表情から察するにはあまりにも遅すぎたようで。

 

「…………」

 

無言のままこちらを見る瞳の奥にある感情が何なのかは理解(わか)らないし知りたくもないけれど、少なくとも良いものではないことだけはわかる。

だからといって振り払おうとしてもビクともしないそれに諦めたようにため息をつくと、それを待っていたかのように次から次へと触れる場所が変わっていって。

まず首筋に触れた手はそのまま顎までなぞるように動き、次に頬へ添えられるように触れる。

そして最後に耳の裏辺りに触れてきた指先がゆっくりと下に降りていき……肩と首の境のところでピタリと止まった。

 

「ここだけ少し色が濃いですね」

「そ、りゃまぁ……」

 

ちょっと、触るところがズレたらなり得る場所だろ…。

とはさすがに言えないものの、それが気になるのか何度か触れてくるものだからつい身を捩ってしまう。……というより、なんか距離近くない?

 

「あのー……?」

「はい」

「近いんですけど……」

「えぇ、そうでしょうね」

「壁に背ついてんだけど」

「つかせてるんですよ」

 

いつの間にか壁際に追い込まれていたらしい自分はただ黙っているしかなくて。

 

「先輩」

「うん」

「無防備なのは、あまりよろしくないかと」

 

……なんのことだろう。

首を傾げても何も言わずに見下ろしてくるだけの相手に困惑していると、ふっと影が落ちてきて、きゅうと爪が。

驚いて目を見開くも、すぐに離れていったそれはやはり彼女のもので。

呆然としたまま視線を上げると、にこりと、やさしく微笑まれて…。





僕:
シルバーバレット。
痣のつきやすい体質。
ちょっとぶつけたりしただけで痣になるもんだからウマに掴まれたらそりゃあ…ねぇ?

周り:
スキンシップが多い。
また僕の体に痣がつくのを心配しながらも…?


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蜘蛛の愛し子


蜘蛛に唯一喰われない人。



「【旅路】?」

 

昔から。

ふわりと、笑う人だった。

穏やかで、朗らかで。

午後の陽だまりのような人で。

しかし己が、ジワジワと、ゆっくりと、その光に焼かれていっていることはしっかりと自覚していた。

己が孫となったあの子含め、その他大体がパッと閃光みたく総てを焼き尽くすというなら、かのウマ-シルバープレアーは。

 

「おいで」

 

差し出される手はやわらかく。

 

「おいで」

 

差し出される腕はやさしく。

 

「おいで」

 

差し出される声はおだやかに。

 

「おいで」

 

差し出される総ては、まるで……そう、まるで、己を害するモノなどこの世に有りはしないのだとでも言いたげに。

 

(ああ)

(俺は)

(あの手を)

(振りほどけなかった)

 

そんな資格など自分にあるのかと自問自答しながらも。

その総てが、自分だけのために差し出されることに、どうしようもなく。

 

「おいで」

 

差し出される手は、大きくも、小さくもなく。

 

「おいで」

 

差し出される腕は、太くも、細くもなく。

 

「おいで」

 

差し出される声は、低くも高くもなく。

 

「おいで」

 

差し出される総ては、ただやさしく。

故に。

 

「いい子」

 

相手の望むように可愛がられながら、その実、キバが疼く。

ちょっとした好奇心に似た禁忌(タブー)

いま、やさしいこの人に噛み付けばどうなるのかしら?…とか。

 

 

その人となりを深くまで理解した人間から『蜘蛛』と謳われる件のウマ-シルバープレアーが唯一、何の打算もなくただ純粋に可愛がるのが【夢への旅路】という幼なじみだった。

幼き日からずっと共にいて遊んだり何だりして面倒を見てきたものだから、もはや獲物と言うよりかは自分が世話をしなければならない庇護対象のような認識になっているらしい。

 

「だから、良い人でありたいんですよ。───あの子の前では」

 

にこりと笑う様は嫌に綺麗で。

まるでテンプレートをなぞったような完璧な微笑み。

そこから『大切なあの子』と囁くからタチが悪い。

愚かにも自分が張った巣にむざむざとかかる獲物がいると知っていて、笑うから。

シルバープレアーがただ純粋に慈愛を向けるのは【夢への旅路】ただひとりというのを、受け入れたくても受け入れられないようにするから。

 

「あの子だけは。あの子だけは…ね?」

 

寄ってくるのなら、有難く貪り食らう。

飢えを満たし、肥大する。

そりゃあ確かに【夢への旅路(あの子)】も美味しそうだけど。

 

「だって、あの子は昔から僕を慕ってくれるから」

 

とはいえ。

喰われると喰われないとでは…どちらがいいのだろうか?





【夢への旅路】:
【銀の祈り】と幼なじみなウッマ。
唯一【銀の祈り】に何があっても喰われないことが確定している御方。
多分【銀の祈り】のヤベェ部分を今までもこれからも知ることがない人。

【銀の祈り】:
シルバープレアー。
寄ってくるヤツはみんなムッチャムッチャ食べて糧にする蜘蛛みたいなウッマ。
すべからく堕として食いまくってるが、幼なじみである【夢への旅路】にだけは手を出さないことに決めている。
【英雄】が『一番食べたいな〜』だとすると、【夢への旅路】は『僕が守ったげるモンニ!』って感じ。
それを考えると、似て非なる…?


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老いと若きではありますが


仲良し仲良し。



シルバアウトレイジから見て、シルバーバレットというウマは、一族にとって正真正銘の『信奉対象』であった。

必然なまでの強さ。

それは時に人を神にまで押し上げるとでもいうように、シルバーバレットはひっそりとレースの世界に居続けていた。

本人は『何かあった時のご意見番』だと宣うが、ひとたびこのウマが何か言えばそれまでのすべてがガラッと様変わりするだろうことは想像に難くない。

 

「まぁ、隠居の身だからね」

 

あの日々のレース観戦も趣味と実益を兼ねているところがあるという。

子々孫々の活躍を見るのも然ることながら、観客側でレースその他一連を見て回るのも()()()()になるらしい。

 

「ところで、俺を呼び出したのは?」

「あぁ、…家族サービス?」

「家族サービスぅ?」

「若い子とも多少は交流持っとかないと。それに、キミ以外の子はみんな何だか遠慮するからねぇ。僕としてはもっと気楽にしてもらっていいのに」

「ま、まぁ……それは確かに」

 

上下関係。

特にこのウマが関わるとその傾向が顕著になる。

目の前のこの老ウマは今もなお超えられないレジェンド、自分の遥か上にいる存在なのだ。

気安く接しろと言われても大概の人間には難しい話である。

だが、当のシルバーバレットはそれをあまり好ましく思っていないらしい。

 

「みんなもう少し肩の力を抜くべきだよねぇ? 僕はもう引退した身なのに」

「引退って言ってもまだピンピンしてるクセに?」

「ピンピンしてるけど、もう走る気は無いよ?」

「……じゃあなんで『週末に、寮の門限ギリギリまで走ってるとシルバーバレットと会える。そして勝負できる』なんて話が出てんだよ」

「……さぁ? 」

「はぁ……」

 

飄々とした物言いは昔から変わらない。

よくよく見なければシワがあるのかどうかも分からない、長年変わらない容貌は、今もなお多くのファンを量産し続けている。

 

「キミもさ」

「はい?」

「そろそろ引退して自由に過ごしたら? ほら、今はもう立派になった教え子たちがいるじゃない?」

「……それは俺がもう現役でやれないって言ってるのか?」

「いや、そこまでは。でも、キミはまだまだ若いんだからさ。僕のように老い先短いウマと違って、未来があるよねぇ。ある程度で見切りをつけないとやりたいこともできなくなるから」

 

シルバーバレットの物言いはどこか他人行儀だ。

いや、実際他人事だろう。

初老の折に現役を引退し、そのままずっと後進の育成に邁進してきた身とあっては…。

 

「じゃ、ご飯食べに行こっか!」

「…へいへい」





僕:
シルバーバレット。
本人的には若い子と仲良くしたいがめちゃくちゃ丁重に接されてはしょんぼりする日々。
いちおうレースの世界とは年老いた今でも繋がりがある。
案外抑止力として見られているかも…?(本人にその気はないけど)


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酷似


いつかの、あの子。



ひょんなことからミスターのご実家にお邪魔することとなった。

はじめは遠慮したのだけれど、「アタシが友だち連れて帰るって連絡したら大騒ぎってくらいに大喜びしてたから…ダメ?」とウルウル目でお願いされてしまい、仕方なく仕方なく。

ご機嫌ルンルンなミスターに手を引かれながら、僕は彼女の実家へとお邪魔した。

 

「ただいまー!」

「お、おじゃまします……」

 

玄関を潜ると、ミスターのご両親が出迎えてくれた。

 

「あらあらまぁまぁ!いらっしゃい!」

「よく来たね。ゆっくりしていって」

 

ニコニコと歓迎してくれるご夫妻に挨拶をし、僕たちはリビングへ通された。

 

「ほら座って座って!これお茶菓子だから食べてちょうだいね」

「あ……ありがとうございます」

 

御母堂が淹れてくれたお茶に舌鼓を打ちつつ、あれやこれやと学園でのミスターの様子を聞かれては答える。

なにせミスター、電話しても「普通だよ〜」とか「元気元気」とか話すだけで、なかなか学園でのことを教えてくれないのだそう。

 

「あの子ったら……本当にもう」

「いいじゃないか。元気そうでなによりだよ」

 

ミスターのご家族はみないい人ばかりだ。

 

 

……それはそれとして。

 

「なんかあった?」

「いや…」

 

お風呂にミスターと共に入り、一緒の部屋でふたつ布団をひいて眠ることになって、ふと考える。

 

───何故、ミスターの御母堂は僕を見て、あんなに驚いた顔をしたのだろう?

 

ミスターとよく似て美人さんの御母堂であるからして、あんな美人見たら記憶に残ってるだろうに。

何度記憶を漁ってもそれに該当する人物は出てこない。

 

「……ま、いっか」

「ん?どうしたの?」

「なんでもないよ。おやすみ」

「うん!おやすみ!」

 

 

娘がはじめて連れてきた友だちは、今もなお心の中に爪を立てて巣食う"あの娘"に似ていた。

独学なのに、それで本気でやっている私たちを軽々と退ける天賦の才を持っていて。

勝ち負けとかどうでもよくて、ただ走りたかっただけだからと、最後は去っていった"あの娘"。

 

はじめは、『すごい』と思っていた。

けれど段々、妬ましくなった。

何度やっても伸びない自分の記録とは裏腹に、"あの娘"は数回走っただけで、あっさりと私たちを追い越していった。

 

『ねぇ!あなたすごいのね!』

 

だから声をかけた。

でも"あの娘"は私を一瞥すると、興味なさげにまた走り出す。

悔しかった。妬ましかった。

そんな気持ちを抱えたまま、私はレースの世界に足を踏み入れたのだ。

"あの娘"が今どんな気持ちで走っているのかは知らないけど、私はただ走りたいから走ることにしたんだと割り切って走り続けた。

そして今日───あのシルバーバレットと名乗る子と出会って…。

 





僕:
シルバーバレット。
……はてな?
どことなく雰囲気が母に似ている。
それはそれとして、母の『父と出会うまで以前』のことはそこまで聞いたことがないためよく知らない模様。
住んでた地域一帯をシメるガキ大将だった…ってくらいしか知らない。


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あなたは人気者


めちゃくちゃ広告塔定期。



「え〜っ?…仕方にゃいにゃあ」

 

何だかんだ言いつつも、シルバーバレットはアルデバランというひとつのチームをまとめあげるリーダーである。

リギルやスピカのようなどこか少数精鋭のチームとは違い、アルデバランはどうしてだか人数がまぁまぁ多いのでシルバーバレットはいつもてんやわんやだったりする。

個人個人のオフとか何処で練習するかとか、人数が多いぶん把握しなくちゃいけないからね。

そんな日常を日々過ごしているため、シルバーバレットは自分のことをしっかり者だと思っているが…。

 

「リーダー!!」

「はぁい。なぁに?ハイセイコ」

「…やっぱり生徒会室(ココ)にいましたか。行きますよ」

「えー?僕が居なくてもみんなちゃんとトレーニングしてるでしょう?」

「ルドルフ会長の仕事の邪魔だって言ってるんですよ」

「えぇ……横暴だなぁ……」

 

ムスッとした顔で去っていくアルデバランのサブリーダー:シロガネハイセイコを見送ってからシルバーバレットはゆっくりと立ち上がる。

 

「おや、もう帰るのかい?」

「ここまで探しにこられちゃあ流石にねぇ。…残念」

 

 

張本人はまったくもって知らないが、チームリーダーという地位についた今でもシルバーバレットというウマは虎視眈々と狙われていて。

甘言を謳う、その懐にはいつだって転入届が入っているのをチームメイトは知っている。

ライバルであればあるほど恐ろしい強敵に成りうるウマだと理解しているからこそ、最近では何かと口実をつけて共に行動しようだとかもっとレースを共に観戦しに行こうだとか……。

各々への牽制であるのか、チーム外からたびたび誘いの言葉がかけられるのがここ最近のこと。

 

「やっぱり断ろうとか思ってたんですかね?」

「…あの人にそんな考え、あるわけないだろ」

「あぁ…」

 

シルバーバレットは自分が狙われているとは一ミリ足りとも思っていないので、自分以外のチームメンバーのことは完全確実にシークレットとしているが、自身のことに関しては笑えるぐらいに開けっぴろげだ。

確固たる自信ゆえか、トレーニングメニューまでマジマジと見られようがニコニコと笑うばかりだし。

 

「でも、あの人は僕たち優先ですからね〜…」

「うわ、悪い顔!」

「うるさい」

 

シロガネハイセイコ含むチーム:アルデバラン面子は『リーダーが欲しくば自分たちの屍を越えていけ!』という自論を持っているため、まぁなんというか……シルバーバレット争奪戦は決着が見えないというのが現状なのだ。

 





僕:
シルバーバレット。
今日も今日とて争奪戦定期。
大切な大切なチームメンバーの情報は完全秘匿して、その代わりに自分の情報をポイポイしているタイプのリーダー。
なのでアルデバランの広告塔みたいなことにもなっている。
また性格が引退後ベースなのもあってフレンドリーなので老若男女人気が高い。
でもグッズは…ウン。


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気づいちゃった


でも、キミのためだよ?



どことなく、自分の日常が『変だ』と気づいた。

そこそこ難癖をつけられることに慣れ親しんでいたのだけど、ふと考えてみると自分にそう言った人が、いつの間にやら学園から消えている。

聞けば一身上の都合で退職したとか中退したとか。

はじめは『へ〜』と思うだけであったけれど、それが何度も続けば流石の僕も『あれ?』とは思うわけで。

 

「どういうことかな?ルドルフ会長」

「さて、何のことでしょう」

 

少々、直談判しに行ってみた。

トレセン学園生徒会長であるシンボリルドルフは、学園内での地位もさることながら、"シンボリ家"という強力なバックを持っている。

たしかに容疑者はルドルフ以外にもいたけれど、こう簡単に他人を排除できる立ち位置となると…、と僕はじろじろ彼女を見ながら思う。

しかしシンボリルドルフは涼しげな顔でこう言った。

 

「彼ら彼女らは他生徒や他教師からも苦情が出ていたんだ」

「へぇ、」

 

しかし、僕は知っている。

彼ら彼女らはそう言われるほど悪い人じゃなかったって。

周りの『辞めちゃったの?』って反応を見るに、多分『いつの間にかいなくなっていた』っぽいので、不可解だと思う人もいるんだろうな。

ルドルフの弱みを握ったぞ、とは言いたくないんだけどなぁと少し考え込んでると……。

 

「気になるかい?」

「……」

 

うわ。

見透かされてるな、これ。

僅かにヒクッとなった目じりを見たのか、面白そうな顔を浮かべてこちらを見てくる。

ちょっと意地が悪く感じたので、「いいや」と返したのだけど、そんな言葉聞いてないと言わんばかりに朗々と語りが始まった。

 

「キミは、"サラ系"だね?」

「…ま、いちおうは」

「見目も体も普通のウマ娘と変わりがないがしかし、古くからの常識で何かと言われたことが」

「そりゃあ…あるには、あるけど」

 

歴史の授業でも"サラ系"については学ぶが、自分がそうだと公にしている者は少ない。

それは過去にあった謂れのないあれやこれやで自身の出自を秘するようになったが故とされる。

…とはいえ、

 

「…まさか」

 

至った結論に、思わず漏らせばにこりと無言の肯定が返ってくる。

 

()()()()()?」

()()()()、か…。まったく、キミというウマ娘は」

 

はぁ、と呆れたため息。

いや、そんな顔されても…!

 

「キミは、()()()()()()()()

「は、?」

「キミは、自分自身が愛されていることに気づいていないんだ」

「なにを…う゛っ!?」

 

ぐん、と胸元を掴まれて引き寄せられる。

そして眼前に広がるのは、ギラギラとした彼女の瞳。

その目のあまりの恐ろしさに思わず背筋がぞくりとしてしまう。

 

「理事長から私がキミに頼られていると言われた時、どれだけ嬉しかったか。キミがちゃんと幸せだと気づいた時の歓喜。すべて、すべて…」

「や、やめ、て……く」

「以前まではよかったが…。しかしもう無理だ。キミは、気づいてしまったから」

 

ちっとも可哀想と思っていない顔だ。

逆にいい塩梅になったとでも言うような。

 

「私も、もちろんシービーやエース、シリウスだってキミを守るさ。…安心したまえ」

 

…あぁ、ちょっと。

 

(やばいかも、しんない)





僕:
シルバーバレット。
愛されている。故に。
何を言われようがオリハルコンメンタルなので気にしない。
でもアイデアが高かったから…?


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極上の味?


食べたい食べられたいとは思うけど、でもずっと一緒にいたい気持ち。
だって、ね?



身も心も求めたのなら大切にして。

喰い尽くすのなら、ひと欠片も残さないで。

全部全部捧げたのに残されるなんて、そんな屈辱的なことないだろう?

 

「美味しい?」

 

喰わせることはひとつの『愛』だ。

食べることもまたひとつの『愛』だ。

どちらも、相手のことを想いながら行うものだ。

 

「美味しい?」

「うん」

「そう」

 

咀嚼し、呑み込まれていく。

そして、いつしか呑み込まれたソレは目の前のキミの体を構成する一部となる。

 

「もっとある?」

「あるよ。どれぐらい?」

「さっきと同じくらい」

 

僕が作ったものを、キミが食す。

僕が作ったものを、僕も食す。

そう考えると僕らの体の構成は、お互い同じということになるのだろうか。

 

「そんなに食べると太っちゃいそうだけど」

「太らないよ」

 

僕はキミが食べているのを見るだけで正直お腹がいっぱいだ。

でも、僕の作ったものを美味しそうに食べるキミを見ていると僕もまた食べたくなってしまうんだ。

だから、もっと作って食べさせてあげようと思うんだよ。

 

「美味しい?」

「うん」

 

 

どことなく。

美味しいものを作ることができるキミ自身も、…美味しいのではないかと思う時がある。

 

「グローリー?」

 

そう言って笑う時、「ちょっとだけね」と味見させてくれる時、「美味しい?」と聞く時。

キミはいつだって『美味しそう』なんだ。

だから、僕はその味をもっと知りたくて、もっともっと食べたくなる。

そしてその代替に…。

 

「…」

 

切って、刺して、食べる。

それの繰り返し。

誤魔化すように、または満たすように。

日々、目の前のキミは美味しそうになっていく。

 

「グローリー」

 

キミは僕に食べさせる時、いつも笑っている。

美味しい?と聞く時も、味見をお願いする時も、僕が食べる時にも。

だから僕はキミに食べているところを見られるのに慣れた。

でも……。

 

「ねぇ、グローリー」

 

キミはいつも笑うから。

愛おしそうに、笑うから。

その笑顔を見ていると、時々思ってしまうんだ。

………………食べたいな、って。

 

 

キミと一緒になれるなら、そんな幸せはないと思うけど。

でもそれはただの一過性に過ぎなくて。

呑み込まれても、いつしかきっと僕の存在はキミの中で消えてしまう。

 

「…」

「スー?」

「なんでもないよ」

 

食べたいぐらいに好きならぬ、食べられたいぐらいに好きだという己の感情はどうにもこうにも度し難い。

もっともっとと望むのも、その他の何もかも。

 

「ねぇ、」

 

言いたいことをごくんと呑み込んで。

 

「今日のご飯、美味しかった?」





全部食べられちゃったら。
───目移りしちゃうかも、しれないから。


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*安心


いや決して忘れていたとかではなく…(あらぬところを見る)。



「ホントに、デカい犬だなお前は」

 

そうボソリと告げると「嫌い?」と不安げな声が返ってくるので首を横に振って否定の意を示す。

 

「いや、嫌いじゃないよ。可愛いと思う」

「そう? 良かったぁ……」

 

ホッと胸を撫で下ろすように安堵する姿に苦笑しつつ、改めて相手-シルバマスタピースを見る。

美しい栗毛によく似合う蒼い目。

いや、蒼というよりかは少しばかり緑が混じった色だが、寒色系という括りでは同じなのだから良しとしよう。

身長は自分よりもずっと大きく。

だが、大きいその体がいま現在は自分に巻き付くようになっているから、まるで大福でいうなら中の餡子のような心地である。

暖かいのは、暖かい。

しかし、いつまでもこの状態を続けていられるわけもない。

 

「なぁ」

「ん?」

「そろそろ離してくれないか? もう起きたいんだけど……」

「……やだ」

「やだってお前……」

 

困ったなと頭を搔く。

いや、別に困るほどのことでもないのだが……なんというか、こう……。

 

「なんか落ち着かないんだよ」

「……なんで?」

 

不思議そうに首を傾げる親友に、どう答えたものかと悩むが……。

数秒考えた後、正直に言うことにした。

 

「なんか、お前にそうされると母さんのこと思い出すから」

「」

「いやでも昔のことだぜ?ちっちゃい頃にこうやって抱っこされてたな〜って思っただけだし」

「……」

「いや、うん。別に嫌な思い出ってわけじゃないぞ? ただこう……なんつーかさ」

「僕がリリィさんに似てるってコト?」

「へ…?まぁ、体格とかは…?」

 

そう言われて我が母のことを考える。

彼女は子である自分たちをとても大切にしていた。

とはいえ万年ラブラブの父に向けるものと比べると烏滸がましいが、立つこともまだままならなかった時代に事ある毎に可愛い可愛いと猫可愛がりしてはまだ幼い自分たちに触れてこようとする祖父や父といった男衆に威嚇していたのをよく覚えている。

そして、その度に母は言うのだ。

『だって可愛いんだもの』と。

 

「似て…るか?」

「……」

「いや、でも……まぁ、似てるか?母さんもお前-マス太のこと可愛がってたし」

「…ふぅん」

 

胸元に耳を寄せるとトクトク聞こえる鼓動の音。

それに安堵してしまうのは生物としてのサガだろうか。

 

「……」

 

……。

……いや、やっぱ恥ずいわ! なんでコイツにこんな安心感覚えにゃならんのだ!

 

「……離せ」

「やだ」

「お前な!」

「だって寒いし」

「なら暖房つけろっての!」

 

いや、ホントになんなんだこいつは!?

そんな思いを込めて睨んでやればマス太はキョトンとした顔をこちらに向けてから小さく笑った。

そしてそのままギュッと強く抱き締めてくる。

その腕の力強さと温もりが心地よいと思う自分に腹が立つ。

 

「はぁ〜…」





僕:
シルバーバレット。
親友であるマス太と一緒。
自分よりも大きな人に安心するっぽい。
そしてその好みはきょうだい共通だとか。

マス太:
シルバマスタピース。
お久しぶりの登場。
今日も今日とて僕と一緒。
どことなく僕から誰かしらに重ねられていることには気がついていたがまさか僕の母である【白百合】さんにだとは思ってもみなかった。
でもそれを笑顔で利用するのがマス太クオリティ。
はっきりわかんだね。


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あの人に向ける顔


ひどく、嬉しそうな。



「…アレ、誰?」

「んぁ?あぁ、同室の先輩」

「…ふぅん」

 

パサーこと、エルコンドルパサーと本日もニコイチと見紛うような距離感で過ごす。

がしかし、先程パサーがいない間に同室の先輩と話していたのがどうにも気に食わなかったようで抱き締める力がどんどん強くなっていっているのに、パサーは気にする素振りもない。

 

「なぁ」

「ん?」

「何がそんなに不満なんだよ」

「…別に」

「ぁ?おい!?」

 

抱き締める力が緩んだと思ったら、今度は痛いぐらいに手を握られてどこかへ引っ張られていく。

引き留めようとする俺と有無を言わさずズンズン引っ張るパサーとでは歩幅が違いすぎて、半ば引きずられるようになってしまう。

 

「おい!なぁって!」

「……」

「パサー?」

「……なに」

「どこ行くんだよ」

「……」

 

今度は急に立ち止まったと思えば、また黙りこくってしまった。

本当になんなんだ?と疑問に思っていると、パサーは空いている方の手で俺の頬に手を添えて顔を近づけてくる。

そのまま唇が触れ合いそうな距離まで詰められてしまい、思わずギュッと目を瞑ると……ガリっ!

 

「!?」

「…ん、いい感じ」

 

突然頬に走った痛みに目を見開くと、指の腹でその痛みの元をなぞるパサー。

 

「な、なに……」

「別に」

「はぁ!?」

 

それだけ言うとまた手を引かれて歩き出す。

今度は先程と違って少しゆっくりめで、前を行くパサーの表情は見えないがなんとなく機嫌は良さそうだ。

痛みの原因も分からずに引っ張られるまま歩いていると、どうやら目的地に着いたらしく歩みを止めた。

そこは自販機の前だった。

 

「おごるよ」

「……え?」

「どれがいい?買うから」

 

にこりと笑うパサーはどこか…嘘っぽい。

白々しいというか、なんというか……。

 

「じゃあ、コレ」

「ん」

 

パサーは自販機に小銭を入れていくと迷うことなくボタンを押した。

ガシャンと音を立てて落ちてきたのは水。

 

「はい」

「……ありがとう?」

 

差し出されたペットボトルを受け取ろうとするとヒョイっと避けられてしまった。

思わずムッとした表情になってしまうが、それすらも見越したように笑っているパサー。

 

「開けてあげる」

「は?」

 

そう言うと蓋を開けてもう一度差し出してきたので、有難く受け取るとまたにこりと。

 

「…どうしたんだよ、お前」

「……チャンプが気にすることじゃないよ」

「変なやつ」

「ずっと変だよ。…キミのせいで」

「責任転嫁するな」

「はは」

 

なぞられる頬が痛い。

だがそんな俺の顔をコイツは────。





【銀色の王者】:
シルバーチャンプ(ウマ娘実装軸)。
同室にモブの先輩()がいる。
その先輩のことをとても慕っており、育成ストではたびたびその先輩が登場するとか。
それはそれとしてウマソウルがあるっぽい…?【怪鳥】にそこそこの頻度で絡まれ()ては振り回されているらしい。
でも何でそうなってるか分かっていない鈍感。
またの名を通常運転。


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垣間見た夢


俺は、どこにも行かないよ。



夢を見た。

はじめから、夢だと自覚している、夢を見た。

 

「…」

 

だって、そこでは貴方が遠に死んだはずの亡霊と戯れていて。

面倒くさそうな顔をしつつも、案外楽しげに走っている。

 

「……」

 

そして、そんな貴方を僕は遠目から眺めているだけで。

そこに、入り込む余地なんてない。

 

「……っ!」

 

そんな夢を見て、僕-【飛行機雲】は目を覚ました。

 

「……」

 

時計を見る。

まだ朝の五時だ。

起きるには早すぎる時間。

けど、もう一度寝る気にもなれないし、このまま起きていることにした。

 

「はぁ……」

 

ため息を一つ吐いて、ベッドから降りる。

カーテンを開けて外を見ると、ちょうど日の出の時刻だったようで、辺りが明るくなってきた。

 

 

「…大丈夫か?」

「……何がですかぁ?」

 

最近後輩がヤバい。

何がというと目の下の隈が。

化粧品とかで隠す余裕ももうないらしく、言葉をかけてもワンテンポ遅れた調子に返ってくる。

 

「いや、最近寝不足なんじゃないかと思って」

「……そんなことないですよ?」

 

そう答える後輩は、しかし明らかに寝不足で、いつ倒れてもおかしくないような様子だった。

……実際倒れたこともあるし。

 

「でも……」

「大丈夫ですって!ほら!今日も元気に頑張りましょう!」

 

そう言って無理矢理に笑って見せる後輩。

そんな無理した笑顔を見ると、本当に大丈夫なのだろうかと不安になるが、これ以上言っても逆効果だろうと引き下がることにした。

とはいえ、

 

「先輩?」

「昼寝したい」

「はぁ…」

「だから来い」

「えっ?…わっ!?」

 

強硬手段を取らないとは、言っていない。

引っ張って、抱き締めて、眠りに落ちるまでトントンと一定のリズムで叩く。

 

「……」

「……あの、先輩」

「何だ?」

「これ、恥ずかしいんですけど」

「気にするな、寝ろ」

 

そう言ってさらに抱き締める力を強めると、諦めたのか抵抗をやめて身を預けてきた。

それからしばらくして、後輩から規則的な寝息が聞こえてきたので、俺もそのまま眠りについた。

 

 

また、夢を見た。

ずっと、同じ夢だ。

貴方が、先輩が、あの亡霊と楽しげに走っているのをガラス越しに見ているような感覚。

 

『……』

 

じっと、亡霊が僕を見る。

その唇はゆるりと弧を描き、それから先輩に目を向けると、手を引いてどこかに行こうとする。

僕はそれを、見ているだけ。

 

───その人を連れて行かないで!

 

そう言いたくても唇はパクパクと空気を吐くばかり。

手を伸ばしても遮られて、足を動かしても追いつけなくて、そして、 先輩は、亡霊と一緒に消えた。

 

「っ!」

「…ふぁ、なんだぁ?」

「!」

 

ガバッと起き上がろうとすると横で僕を抱き締め眠っていた先輩を起こすことになって。

汗だくで息も絶え絶えの僕を舌っ足らずの声音で心配する先輩。

 

「……大丈夫か?」

「あ、はい……」

「そうか」

 

そう言ってまた僕を抱き締める先輩。

その温もりにようやっと安心して、僕は瞼を閉じた。

 





美しい花から摘まれるように、才ある者も────?


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匣が開いては、


もう二度と会わないことを祈るよ。



【白の一族】に列なる者は…いかんせん、よく捕まる。

そのため幼き日からピッキング等の鍵開け技能は叩き込まれるし、中には「ふぇぇん、お家帰りたいよう」という見る人が見れば「うわっ…」というだろう泣き落としテクも習得する。が、

 

「はて…、」

 

どう足掻いたって抜け出せないなコリャ…となることも万一、いや億一かもしれない可能性だが…ある。

窓は嵌め殺しで部屋に備え付けの椅子で割ろうと踊りかかろうが傷一つなく。

ドアもハイテクなそういうので部屋の中からは開かないし。

ちゃんと風呂とトイレがあるのは高得点ではあるが、窓がないので外の様子が一切わからない。

 

「へいへい、いい子にしてましたよ〜」

 

しかも衣食住の衣と住が保証されようにも食を握られてしまっている。

毎日決まった時間に食事が運ばれてくるので、こんな部屋でも何とか正気を保っているところもなきにしもあらず。

 

「お腹空いたな……」

 

故に、そんな生活の中での唯一の楽しみが食事だった。

毎日運ばれてくる料理は、とても美味しい。

それこそ今まで食べたことがないくらいに美味しいのだ。

とはいえ、

 

「自分で食べさせてくれよ…」

 

差し出される匙にフォーク。

しかし、自分で食べたくとも己が手首にはぐるりと手錠。

仕方なしにハム、と食むも味気ないったらない。

 

「こんなことしても逃げないよ〜」

 

 

はじめは、抵抗されるかと思ったが数日で標的は大人しくなった。

逃げられないように色々と誂えた甲斐があったとは我ながら自画自賛するが、それでも目を離すと仕掛けた隠し監視カメラが壊されているのには肝が冷える。

 

「どうしたの?焦った顔して」

 

相変わらず腹の中が読めない顔でケラケラと笑う顔。

このウマなら偶然でも有り得るし、偶然を装った確信犯でも有り得る。

 

「いや、別に」

「そう?」

 

にこにこと笑みを絶やさないウマは今日も今日とて頑丈な手錠を嵌められている。

 

「あのさぁ……」

「うん?」

「逃げないの?いや、逃がすつもりもないけど」

「逃げてもいいけど、ならキミをどうにかしなくちゃね」

「……まぁ、ね」

 

少しずつ少しずつ。

閉じ込めたあの子は、自分に心を開いてくれた。

娯楽に耽ったり、たまには仕事の愚痴を聞いてもらったり、他愛もない話をする。

してた、のに。

 

───ごんっ!

 

笑っている。

 

「ごめんね」

「ぅ゛、」

「家の人から油断してるところ狙えって教えられてるからさ。…あ〜、キミの相手、結構大変だったなぁ」

 

じゃあね、と手を振る姿。

待っての声は────。





相手結構大変だったと言いつつも、何だかんだあの生活を楽しんでいたところがタチ悪いよね。


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星であり、月である人


嗚呼なんという堂々巡り!



諦めましたよ どう諦めた 諦めきれぬと 諦めた。

 

そんな都々逸が、あの血筋に焦がれる人たちにはよく似合うだろう。

それは僕も含めて。

あの血筋(彼ら)は"星"を目指しているけれど、あの血筋(彼ら)に焦がれる僕らからしてみればあの血筋(彼ら)こそが『月』であるというのに。

キラキラ輝くのは同じ。

しかし"星"などというささやかなものではなく、全身を包んでくれる『月』。

それが、あの血筋(彼ら)なのだ。

だから僕らは、諦めきれない。

 

「僕が好きなのは、『月』です」

 

僕は言った。

すると貴方は笑う。

 

「そうかい? 俺はやっぱり星だな」

「そうですか」

「…月は、眩しすぎて」

 

「星ぐらいささやかな方がいい」と。

その"星"が、太陽みたく熱いと知らないままに。

 

「そうでしょうね」

 

僕は、頷く。

『月』は太陽になれない。

だから貴方は、"星"になりたいのだろう。

あの血筋に焦がれる僕らと同じように。

そして僕もまた貴方(『月』)に焦がれている。

けれどそれは、決して叶わぬ夢であることを知っているから……。

しかし、それでもなお諦めきれないでいるのです。

 

 

自分の傍にはいつだって、キラキラと輝く"星"たちがあった。

そりゃあもちろん、一番キラキラと輝いている一等星はあの"星"であるけれど。

でも、あの"星"といかぬまでも、自分の周りには確かに"星"があった。

…血筋の縁と言えばそれまでではあるが。

 

(まぶしい)

 

まるで太陽を見上げた時のように目の前に手のひらを持っていく。

このまま見続けていると、目が見えなくなってしまうというように。

"星"だって光であるのだ。

あの"星"がいっとう光って、目を焼いてくると言っても、他の"星"でも数が揃えば同じようになるだろう。

 

(まぶしい)

 

だから、月が好きだった。

月は俺を苛まない。

"星"たちのように、俺を焼こうとしない。

ただ(そら)にあって、静かに佇んで照らしてくれる。

それに…ひどくホッとして。

 

「俺は…"星"じゃない」

 

"星"なんて、ガラではない。

よくて"星"を目指して、地上から手を伸ばす哀れな人ぐらいか。

自分の身が焼かれると知ってなお、手を伸ばさずにはいられない愚か者。

そんな…そんな。

 

「救いようの、ない」

 

いや、救いなぞいらないのか。

 

「お星さまが欲しい、とかって」

 

くつりと笑う。

子どもの夢のような願いが、この歳になってもまだやまない。

欲しい欲しいと駄々をこねるだけでは無くなっただけまだマシかと思いながら、俺はまた(そら)へと手を伸ばした。





"星"に手を伸ばしているヤツも、他の奴らに手を伸ばされてるんだよなぁ…。


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手を離していった


愛されてた人たち。



そのやさしい眼差しは、娘や自分から、というよりかは…遠き昔に儚くなった妻から受け継いだものだろう。

何の濁りもない、陰りもない、美しい目。

光の一縷も入らないソレは、見る人によっては恐れるものであろう。

しかし自分たちにとって、その眼差しは何よりも尊く、そして愛おしいものであった。

 

「おじいちゃん」

 

その眼差しを持つ孫は非常に華奢だ。

又聞きの話にはなるが、自分たちの家系の始まりである"かの方"もこの子と似たように華奢だったと聞く。

その血を、色濃く継いだ子。

 

「おいで」

 

自分たちの家系は、何かしらに率いで、何かしらに欠ける。

あちらが立てばこちらが立たずか、それともその逆か。

それは分からない。

けれど、この子だけは違うと信じていた。

 

「おじいちゃん」

 

この子は、きっと誰よりも強い子だと。

だから自分たちは、この子がどんな道を歩もうとも……それを見守り続ける覚悟でいた。

"あの日"までは。

 

「おじいちゃん」

 

いつからだろう。

その目に陰りが見え始めたのは。

いや、最初からあったのかもしれない。

ただ、それに気付かなかっただけで。

 

(……)

 

孫の細い体に傷がついた。

大きく目立ち、そして刻まれた。

孫の皮膚の色を易々と変えたその火傷跡は、あの美しかった目も焼いてしまったようで。

 

「おじいちゃん」

 

孫の声を、自分はいつから聞いていなかっただろうか。

 

「おじいちゃん」

 

ああ、この子が自分をそう呼ぶのは何年ぶりだろう。

この子はいつ頃から……自分たちを呼ばなくなったのだろう。

 

「おじいちゃん」

 

"あの日"からだ。

そう思い至ると、背中に氷水をぶち当てられた心地になる。

よもや、今の今まで忘れていたのか…と。

"あの日"、あの子は藻屑となった。

どれほど苦しかったろう。

どれほど無念だったろう。

「もうすぐ帰るね」。

それがあの子の最後の言葉だった。

悪運の強い子だった。

強い子だと…思っていた。

思っていた、だけだった。

 

「クソっ」

 

どうにも、神様とやらは自分たちのことがお嫌いらしい。

妻のことを連れ去っては、果てに孫であるあの子まで。

そりゃあ、あのふたりが何よりもキラキラと輝いている『幸い』であったのは確かだけれど、何も…奪わなくてもいいじゃないか。

 

「身勝手なクソ野郎が…」

 

どれだけその手を強く握っていても。

嗚呼神様、アンタってヤツは。

するりと自分たちの手から、自分たちの『幸い』を奪っていくの。

 

「大っ嫌いだ」

 

抱き締めてやろうにも、もうできない瞼の裏の影。

ただ己を呼ぶ声だけが潮騒のように遠くからした。





人間側は「美しいから奪われたんだ」と思ってるけど、神様側からしたら「コイツ世界のバグ!」って感じなんだよなぁ。
「コイツがいたら世界がしっちゃかめっちゃかになる!」っていう。
多分その本音を知ったら怒り狂うんでしょうね(すっとぼけ)。


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さみゅい…(ピルピルピル)


普段は寒がりな銀弾。



寒いのは、あまり得意ではない。

いや、ヘビみたく変温動物になったつもりは毛ほどもないが、それでも幼い日よりどちらかというと寒さに弱いのは確かだった。

 

「…」

 

走っている時は、まだいい。

走るとエネルギー代謝がどうこうとかで、寒さはあまり感じない。

が、こうして止まると、やはり寒い。

 

「……」

 

思わず自分の両肩を抱くようにして、そのまま二の腕を擦る。

そうしてから、ふと気付いた。

 

「……そっか」

 

そりゃあ寒い。

走って走って熱くなるにつれ、どうやらジャンパーの前だとかを開けていたようだ。

…寒い。

 

「……」

 

そんな単純なことに気付かないとは、我ながらどうかしていると思うけれど……まあそんな日もあるだろう。

もしくは、…寒さで脳も動きが鈍っているのか。

 

(明日は、あたたかければいいのだけど)

 

 

己が家が、一般的な家庭よりも寒さに敏感だと気がついたのは、さていつだったか。

若い時分の僕らは『それはまだなんじゃないか?』と内心思っていたコタツや暖房や掛け布団諸々はあの人-父にとっては生命線のようなものであったらしく。

 

「さみゅい」

 

そう言ってピルピル震えるのだから、よく下のきょうだいたちが駆け寄ってはぎゅうぎゅうと寒さに震える華奢な体を抱き締めてあたためていた。

 

「ほら、だから言ったじゃないですか」

 

僕は呆れながら、けれどどこか微笑ましく思いながらも、父に布団を被せてやる。

そうしてから、また台所へと戻っていった。

あの人は、僕ら家族の中でも一番寒がりで。

そんなあの人をあたためる役目は子ども体温組といつしか決まっていたし、それはきっとこれからもずっと続くのだろうと思っているが。

 

(昔は、それも僕の役目だったのに)

 

どれほど防寒対策をしても、効き目があるまで「寒い寒い」と震えるのが昔からで。

そうなると率先して抱きしめるのが彼にはじめて引き取られた子である己-シロガネハイセイコの役目であった。

それをすると父はいつも「あったかいねぇ」と嬉しそうに微笑み。

 

「はは、」

 

…かつて。

あの人を、父を、あたためていたのは。

 

「僕だけ、だったのに」

 

 

子どもというのは須らく体温が高く、またスキンシップが好きだ。

いま時分もっと着込めばあたたかくなるだろうことは承知の上ではあるが、いかんせん昔から我が子たちに抱き締められあたためられた体は、贅沢なことにそのあたたかさの虜となったらしい。

 

「くちゅん」

 

出したくしゃみは年不相応の可憐さで。

一緒に出た鼻水をツピ、とすすれば何処からともなく幼子たちが駆け寄ってきて。

 

(…ぬく〜い)





僕:
シルバーバレット。
レース時は意識切り替えてるので特段そうは思わないけど、普段は結構寒がりなウマ。
日課のランニング以外はすべて防寒着でモコモコしてそう。
さむい…(ピルピルピル)。


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子煩悩なあの子


でも傍から見ると侍らせてる風に。



「みんな可愛いね…」

 

えへへ、とそう言って笑う親友-サンデースクラッパの傍には選り取りみどりの美女たち。

そのすべてが彼の愛娘というのだから、その血筋の凄まじさには脱帽する。

 

「ありがとうねみんな。……僕のために集まってくれて」

「あら、お父様の頼みだもの。当然じゃない?ねぇ?」

 

サンデースクラッパの子のほとんどが娘であり(割合にして女:男=8:2ぐらい)、その娘たちの多くが各国で類まれな戦績を残し、引退後も引く手数多だという。

 

「あ、あの!私はお父様に喜んで欲しくて!」

「ありがとう、嬉しいよ」

「はぅ……♪」

 

かといって、娘たちが多いといってもサンデースクラッパに容姿が似た子はあまりいない。

雄大な体格こそ彼の母方の血からであろうが、顔立ちは彼女たちの母親の遺伝子が強く出た子がほとんどだ。

 

「私も、お父様のために強くなったんです!」

「うん、ありがとうね」

「えへへ……♪」

 

例えば今、彼の頬に頬をすりつけている少女もその一人であり、現時点での戦績から将来を有望視されている一人でもある。

いつもクールな彼女がここまでデレデレになるのは珍しい光景だが、それだけ彼が好かれているということなのだろう。

 

(慕われてるなぁ……)

「……ん?どうしたの?」

 

ふと、自分を見つめる己の視線に気がついたのか、サンデースクラッパがこちらを見る。

それに「何でもない」という意味でジェスチャーしたのだけど、「おいでよ、グローリー」と言われてしまえばもう断れない。

 

「……」

「はい、どうぞ」

 

彼の前に屈むようにすると、そのまま抱きしめられる。

 

(あぁ……あったかい……)

 

サンデースクラッパの体温は高く、その熱に包まれるだけで幸せな気分になる。

 

「何だか拗ねてそうだったから」

「拗ねてない」

 

そうこうしているとサンデースクラッパの娘たちは中々会えない兄弟(きょうだい)に会いに行ったらしい。

なにせサンデースクラッパの息子たちは娘たちの数に比べると微々たるものだ。

故に、可愛がり()に行ったのだろう。

 

「可愛いでしょう?美人でしょう?僕の娘は!」

「…まぁ、そうだね」

「いやもちろんキミの娘ちゃんたちだって美人で可愛いけどね!キミに似て!」

「はいはい」

 

抱っこ、といつものように手を伸ばされたのでいつも通りにその軽い体を抱き上げる。

「わ〜高〜い」とキャラキャラした声が聞こえる中、とりあえずもう少し暖かいところに移動するかと考えた。

 

「あ、そういえば」

「?」

「僕似のあの娘、今もずっとキミのこと好きみたいだよ」

「ブッ!?」

 





【戦う者】:
サンデースクラッパ。
ほぼほぼ女の子しか生まれない(大体8割)だが、その娘たちが競走成績も繁殖成績も優秀過ぎてもしかすると世界中でリーディングブルードメアサイアーやってるかもしれないウマ。
また娘たちはみな、【白百合】由来の雄大な体と【白の一族】由来のクソ頑健な体を持っている模様。
それはそれとして男の子があまり生まれないため、生まれたらめちゃくちゃ蝶よ花よと育てられるらしい。
とはいえ、その男の子たちはみな雄大な体()を持つ姉妹に囲まれて育つので…何か色々壊されてそうだな、価値観とか。


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「ウチの弟妹は世界一っ!」


なお一眼レフ装備。



「はァ〜…!ウチの弟妹は世界一〜!!」

 

そう引き絞りながらも確かに叫ぶウマの名はシルバーバレット。

トレセン学園にいる者なら誰もが知るそのウマは今日も今日とて一眼レフカメラを携えてパシャパシャと。

先程の言動と行動からお察しの通り、シルバーバレットは…超という字がつくほどのシスコンでありブラコンで。

兄と自らを慕ってくれる弟妹たちを愛してやまない。

そんなシルバーバレットは、現在……静かに騒ぎながら日課のアルバム作りに励んでいた。

初めてカメラを買ってもらった日から取り続けた写真はもう両手両足の数じゃ足りないアルバムへと変化し、それが各々弟妹の人数分あるというのだから、その愛は推して知るべし。

 

「あ〜……本当に可愛いなぁ……!ウチの弟妹たちマジ天使……!」

 

そんなことを言いながらも、シルバーバレットの右手は休むことなく動き続ける。

パシャパシャとシャッターを切りながら、ふと思いついたようにウマホを取り出し慣れた手つきで操作をする。

そしてそのままウマホを耳に当てると、電話が繋がったのかすぐに口を開いた。

 

「もしもし、リリィ?いま大丈夫?」

『あぁ、チビか。大丈夫だよ』

「また写真撮ったから送るね〜」

『お〜』

 

どうにもこのきょうだい、揃いも揃って頼りがないのが元気の証拠とでも言うように何か不都合がなければ連絡なりを取ってこないので「今日も元気だよ」と一番上の兄であるシルバーバレットが日々の無事を送っているのである(なおシルバーバレット本人の無事については弟妹たちが各々送り付けているものとする)。

 

 

「ウチの弟妹をッ!邪な目で見るなーッッ!!」

 

思わず一眼レフの角で後頭部をガンッ!とやってきそうな勢いで突っ込んでいきそうなシルバーバレットに、トレーナーは「おっと」と少し体を仰け反らせながらその襟首を引っ掴んだ。

 

「危なッ!……ちょっとバレット?急にどうしたの」

「あ〜ゴメンね先生。僕が写真撮ってたらさぁ、なんか僕の弟妹を邪な目で見てる奴がいたからついカッとなって……」

「いやどんな奴さそれ。ていうかそもそもなんで一眼レフなんて持ってるの?」

「え?そりゃあいつでもどこでも可愛い弟妹の写真を撮るために決まってるじゃない?」

「ん?」

「え?」

「ごめん。ちょっと何言ってるかわかんない」

「え〜?なんで〜?」

 

不思議そうに首を傾げるシルバーバレットにトレーナーは苦笑いしながらも、とりあえず一眼レフを没収しようと手を伸ばすが……それを察知したのか、ひょいっと避けられてしまった。

 

「あっ!こら!」

「やだよ〜!これがないと弟妹の写真撮れないじゃん〜!」

「いやだからって……!」

「はい、先生。チーズ!」





僕:
シルバーバレット。
超ド級のめんどくせ〜ブラコンシスコン。
一眼レフ常備。
「僕の弟妹をいやらしい目で見るなーっ!」ぐらいはよく言うし、それを見てないって言うと「なにっ!ウチの弟妹をあんな目やこんな目で見ないだとっ!?」ぐらいは言う。


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実質最大の関門


今も昔も…求婚されてるんだ。



「遥ァ!(メシ)ィ!!」

 

そのウマ-シルバーチャンプが己のトレーナーである白峰遥の世話をするようになったのは、その食生活が独身の生活を鑑みればよくやっている方ではあるが、ところどころ栄養素が足りないのを見ていられなくなったからだ。

トレセン学園に通うウマが自らのトレーナーに懐く、というのはよくある話だ。

そりゃあ思春期のめんどくさい頃に、親身に、時に喧嘩しながらそんな自分を理解しようとして、結果理解してくれる年上など劇薬でしかないだろうが。

だがそれはある程度(一緒にいて安心する、お互いに強く信頼している)までが一般的であり、シルバーチャンプのようにトレーナーの住んでいるところに押しかけてまで世話をするというのは…。

 

「だってアイツ放っとけないからな。放っとくと洗濯物ためてるし。干してても畳めてないし」

「トレーナー業も結構重労働だからな、体が資本だよ」

 

と言っては、今日も今日とて世話をしに行っていたシルバーチャンプであったが。

 

「ええと…誰、ですか?」

「あぁ、この子は…親戚の子なんだ」

「はぁ…」

 

慣れ親しんだ部屋に知らない女性(ひと)がいて、思わず固まった。

なにせいつものように「遥ァ!(メシ)ィ!!」と言いながら部屋に乗り込んだのだから。

 

「そ、そうか。それは失礼したな」

「い、いや、言ってなかった俺も悪いんだ」

 

と慌てていつものように振る舞うトレーナーに、シルバーチャンプはジト目を向ける。

 

(親戚が来てんなら先に言えよ……)

(いやだって、昨日今日で帰ると思ってたんだよ!それに担当バが押しかけ女房みたいなことやってるとか言えないだろ!?)

(俺は別にいいけど)

(俺がよくないんだよ! というかそもそもお前が押しかけてるようなもんだろ!!)

(うっせぇな、飯抜きにするぞ!!)

(ソレハヤメテぇ!!)

 

コソコソコソコソと言い合っているとクスクスとした笑い声。

声の方にふたり目を向けると親戚の子だという彼女が堪えきれないという風に笑っていた。

 

「あ、ごめんなさい」

「い、いや……」

「仲がよろしいんですね」

「ま、まあな!」

((普通だよ))

 

とふたりして同じことを考えたのは言うまでもない。

 

 

「……で?」

「ん?」

 

親戚の子だという女性を駅まで送って行ったトレーナーにシルバーチャンプは目を向ける。

その視線の意味を理解したトレーナーはバツが悪そうに視線を逸らした。

 

「……別にやましいことはしてないさ」

「天下のトレーナー様だもんなぁ。バレた後が怖ぇよ」

「う゛っ、」

「ア゛?どした」

「いや、その…」

「なんだよ」

 





【銀色の王者】:
シルバーチャンプ。
トレーナーを世話しに行く系担当バ。
ただそれだけだったのにラブコメに巻き込まれそう。
でも最終的に「さっさとくっつけ!」とトレーナーの背中蹴る役になると思われ。

トレーナー:
白峰遥。
幼き日から親戚の白峰族の女の子に迫られている。今はつれなくしているものの昔から満更ではない。
そろそろ年貢の納め時。

親戚の子:
遥くんより年下の白峰族♀。
遥くんに一目惚れでずっと好き。
それとなく外堀埋めるタイプだし、遥くんが自分を憎からず思っていると分かっている上でアレコレしてくる。
もう少し経ったら一番の味方(【銀色の王者】)を手に入れることになる人。
行け行け押せ押せ!


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違えるなよ?


馬時代からの。



"ソイツ"と出逢えたのはもはや『運命』としか言いようがない。

乗り物に揺られて、揺られただけでどこか疲労困憊に近い状況になりながら、降り立った場所に───"ソイツ"はいた。

 

『……』

 

はじめましては後ろ姿。

美しい、俺と同じ色の毛並み。

その姿に居てもたってもいられず、手綱を握っていた人間の手を振り払えば、一目散に。

 

『な、なァ!』

『……ぁ゛?』

 

駆け寄って、話しかけた。

それまでの疲労など何処かに行ってしまったというぐらいに、俺は、彼女に。

 

『誰だテメェ』

『ぉ、俺はヒカルイマイ!』

『そ』

 

そっけない返答。

もっと話しかけたくとも人間にとっ捕まえられて、引き離されてしまう。が、

 

『ァ゛ッ!……クソ、』

『…ンな顔しなくても、また会えるさ』

『は、』

『アンタになら、…いいや』

 

───よろしくな、お前さま。

 

 

それから。

年一回、彼女-ホワイトリリィと会うようになって。

年々綺麗になっていく彼女に、俺はどんどん惹かれていった。

 

『なァ!ホワイトリリィ!』

『……んだよ』

『俺さ、お前と出逢ってからもう十回目なんだぜ!?』

『……あっそ』

『な、なぁホワイトリリィ!俺とッ!』

『……あ?』

『───俺と、結婚してくれッ!!』

 

ずっと秘めていた言葉。

俺を世話してくれる奴らが言うには『結婚』とやらをするとその相手とずっと一緒にいられるらしい。

初めましての時から、ずっと口説いてきたがいつだってその度に心拍数が跳ね上がった。

断られるかもしれない恐怖もあるにはあったが何度袖にされても諦め切れない。

 

『……ンだよ、それ』

『へ?』

『だから、結婚ってなんだよ』

『そ、それは!俺とずっと一緒にいて…ほしい』

『……ふぅん』

 

その時は興味なさそうに返されたが、それから少しの時間が経ってホワイトリリィは俺に言った。

 

『……いいぜ。お前さまとなら、ずっと一緒にいてやるよ』

 

その答えに俺は歓喜した。

嬉しくて嬉しくてたまらなくて、思わず彼女に擦り寄ったのを今でも覚えている。

 

『ずっと一緒にいてやるから───ちゃんと迎えに来い』

 

星になっても。

星になった、あとも。

 

 

「『ずっと』、ねぇ…」

「ちゃんと迎えに来たろ?」

「迎えには来たが…おっせぇよ」

「仕方ねぇだろ。俺はお前と違ってそうハッキリ全部覚えてたワケじゃねぇの。逆に覚えてるお前ら親子が珍しいわ」

「それは……そうだけどよ」

 

むすりと、拗ねたように呟く。

そんな様子に苦笑しつつ、ヒカルイマイはホワイトリリィの頭を撫でた。

 

「……まァいいさ。こうしてまた会えたんだしよ」

「おう……」

 

頭を撫でられながら、ホワイトリリィは嬉しそうに目を細めた。





『約束』した。
でも馬時代はその『約束』は無理だなぁと思ったので「迎えに来てね」した。
愛の重い相手に「ずっと」と約束してしまったので未来永劫何度輪廻を巡ろうが「ずっと」になるが、恋に恋して愛に堕ちたふたりなので今日も幸せ!


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さんにんぐらし!


同居軸。



気付けば。

同期であるミスターシービー、カツラギエースと同居することになっていた。

まぁ僕が学園から勇退したころにはもうとっくの遠にふたりとも立派な社会人であったし、僕もまぁそこそこ稼いで…引退後も本を書いたりインタビューなどと、それなりに忙しくしていたので。

同居は良い機会だったと言えよう。

 

「にしてもよかったのかい?ミスター、キミ世界一周みたいなことしてたろう?」

「ん〜?まぁ、だいたい周ったし後に残ってるのはもう治安がちょっと…って場所だったからねぇ」

「なるほどぉ。あ、そろそろカツラギ起こしてあげてくれない?」

「分かった〜」

 

久しぶりに取れた休みということでカツラギを昼まで寝かせてあげて。

でももうそろそろ起きないとあれだろうと、昼食のタイミングで起こす。

食事の重さ的に可もなく不可もなくというメニューにしたので、カツラギも起き抜けだが元気に食べてくれた。

 

「そういやカツラギ、いつまで休み?」

「ぁ〜、とりあえず一週間は…あったはず?」

「長いね」

「だってエースずっと働き詰めだったじゃない」

「それもそっか」

 

この家に住む者の中で一番真面目に、また社会に密接して働いているのがカツラギエースだ。

…というか僕らが内々に引きこもって、引きこもっても出来る仕事してるってだけなんだけど。

 

「ねぇ、今日ふたりはなんか予定ある?」

「特にないね。ねぇ?」

「あぁ」

「じゃあさ!ちょっと買い物付き合ってくれない?買いたいものがあってさぁ!」

「いいぜ。何買うんだ?」

「んふふ〜えへへ…」

「……キミまだ呑むのかい」

「エースも呑むでしょ〜?」

「ま、まぁそうだけど…」

 

ふたりは結構呑む。

そして僕は弱い。

いや、弱いというより……その、体質的に合わないのだ。

だから正直あまり…だが、ふたりがそうしたいならそれでいっかと、付き合うことにしている。

 

「んへへ…」

「ふふふ…」

「わぁ…」

 

付き合うことにしている…のはいいのだが、こうなるともう大変だ。

なにせシルバーバレットと他ふたりの身長はだいぶ差があるし。

なんとか運べたとしてもベッドに転がすのがまた難しい。…のに加え、

 

(ギチギチに抱きしめられちゃった…)

 

ぎゅうううと左右から抱きしめという名のアームロック。

まぁ、これはこれで幸せ…か?

 

「んへへぇ……」

「ふふ……」

(ふたりとも……かわいいなぁ)

 

ふたりは、僕の大事な人だ。

そして僕はふたりのことが大好きだ。

だからもう、それだけでいいのかもしれない。

 

(…眠くなってきちゃった)





僕:
シルバーバレット。
三人生活中。
大概家事(料理)担当。
インドア派で、仕事もインドアでできるものを中心にしている。
でも頼まれたら快く表舞台には出るタイプなのでまだ知名度はある方。

CB&カツラギ:
卒業後は真っ当にURA系列の会社員してるカツラギと実は世界一周みたいなことしてたCB。
ふたりとも引退後はほぼ表に露出してないので『こういう選手も昔居たよね』ぐらいの立ち位置。
若いファンは名前と昔の活躍VTR見たことある…みたいな。


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相似


まあ、親子だからね。



サンデースクラッパというウマは、『後継がいないことが唯一の欠点』と言われるぐらいに名牝たちの父ではあるが、その評価の基礎を作り出したのが彼の初年度産駒のBest Sunday'sである。

 

彼女はThe One Dayというその当時では父も母も、そのまた…という血統表のどこを見ても有名な馬がいない牝馬から生まれた。

ただアウトブリードであることが特徴と、見た目の華やかさも無ければ、その血統表に載っている父も母も、重賞馬というわけでもないし、繁殖成績も…という有り様。

相手となったサンデースクラッパと比べるとあまりにも釣り合わない。

がしかし。

 

『なんとなんと!牝馬が!グランドスラム達成!!』

 

Best Sunday'sは、非常に…強かった。

父サンデースクラッパのライバルであるグローリーゴアの馬主に買われた彼女は、その父ソックリな見た目に違わず走り方や勝ち方も父ソックリで。

同世代も古馬も関係ないと言わんばかりに全てを蹴散らしては無敗の圧勝で引退していった(もちろん馬主の脳は焼けた)。

 

そして、繁殖牝馬となったBest Sunday'sに宛てがわれたのはもちろん同馬主が所有していた三冠バ・グローリーゴアで。

いくら彼女の父のサンデースクラッパに負けたことの方が多かったとはいえ、彼もまた三冠競走までの時点では無敗だったウマ。

…随分とまあ、ビッグカップルが成立したと当時騒がれたが。

 

『親子二代で無敗のグランドスラム!そして親子四代BCクラシック制覇の偉業を成し遂げました!Mr. Dream Hero!!』

 

 

「やぁ、ベスちゃん。久しぶり」

「お父様」

 

"ベスちゃん"-こと、Best Sunday'sは久しぶりに出会った父サンデースクラッパに抱きついた。

二人ともあまり体格差が変わらず、そして今も昔もあまり容姿が変わらないサンデースクラッパの見目もあって、その様子は双子がまるで抱き合ってるよう。

 

「今日はどうしたの?」

「どうしたのって……お父様が久しぶりにこっちに来るって言うから、会いに来たのよ」

「えー?ベスちゃん、パパのこと大好きなんだからー。そんなに会いたかったなら電話くれれば良かったのにー」

「お父様ったら!」

 

父娘の微笑ましいやり取りを少し離れた場所から見ていた彼-Mr.Dream Heroはてちてちと二人の元に歩み寄っていく。

 

「まぁま。じーじ」

「ぉ!」

「あら、起きたの?」

「ン」

 

駆け寄ってきたMr. Dream Heroをサンデースクラッパは抱き上げる。

その胸元にスリスリとMr. Dream Heroは頭を擦り寄せるとまた眠り出すのだった。





【最上の日曜日】:
Best Sunday's。
サンデースクラッパ初年度産駒。
たぶん2002クラシック世代ぐらい?
母親似が多い他同父産駒の中で一等父親に似た。
見た目だけではなく競走成績諸々も似た。
無敗で米国競馬グランドスラムを達成して三歳引退。
そして後に初年度産駒としてMr.Dream Hero(父グローリーゴア、大体2006クラシック世代かな?)を産む。

実は、グローリーゴアに幼い頃一目惚れしている。

【いつの日か】:
The One Day。
地味な牝馬。
けれどBest Sunday's等に始まる娘たちからいつしか『Day一族』と呼ばれる系統を確立する。
産駒は牝馬が多く、『Day』の字がよくつく。
日本にも産駒が渡っているとかどうとか?


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キュートアグレッション


しょうがないよね。




微妙な息苦しさを感じて目を覚ませば、暗い部屋でウマ乗りになって己を見下ろす親友。

 

「…、」

 

首に手を這わせて、触れる指先は脈のところ。

きっと、トクトクとリズムを刻んでいるだろうソコを、ゆるゆると微かな力が入れられるのに。

 

「抵抗、しないの?」

 

暗闇の中で瞬いた目が、きょとり。

何の感情もないように見えて、その実重いナニカを抱えている、目が。

 

「抵抗して、ほしい?」

「……、」

「それとも、このまま…?」

「………、」

「……、冗談だよ。冗談だって」

 

ふい、と反らされた視線に小さく笑って、首に触れる手をそっと剥がす。

その手首を握る指もそのままに見上げれば、どこか苛立たしげに見下ろしてくる瞳。

 

「何がしたいの?」

「…、」

 

はく、と口が開閉する。

そこから見えるのは───鋭いキバ。

 

「ねえ、」

「……、」

「何が、したいの?」

「……、」

 

はく。

また口が開閉する。

その唇は言葉を紡ぐことなく閉じて。

代わりに、掴んだ手首を押さえつけて。

 

「っ、!」

 

がぶり、と噛みついた。

 

「っ……!?」

 

至極当然のように細められた目を見つめつつ、強く頸に歯を立てられるのを感じる。

鋭いキバが食い込む感覚に眉を寄せれば、一瞬の後に離されて。

 

(いた)た…い゛っ!?」

 

その傷口を、キミの指がなぞる。

その指の辿りようを見るに、随分とくっきり残ったらしい。

とはいえ、やられている僕の方としては指がなぞるたびにツキツキした痛みが脳髄に伝達されて、正直たまったものじゃない。

 

「痛いんだけど?」

「……、」

「ねえ、聞いてるの?ねえってば」

「……、」

「っ、ちょっと!」

 

返答をしないキミに焦れて振りほどこうとした手は、しかしびくともしない。

それどころか、その拘束は強くなっていって。

 

「ねえってばっ!痛いって言ってるでしょ!?」

「……」

「聞こえてないの!?ねえってば!」

「……うるさいな……」

 

ぼそりと呟き。

けれど向けられたその目は───。

 

 

時折、自分以外に笑顔を振りまくキミの姿がどうしようもなく憎くなる。

そのたびにキミの中の、やさしく、やわい部分をぐちゃぐちゃにしてやりたくなって。

 

キミは、僕のモノだ。

そうだって、()()()()()受け入れたじゃないか。

なら、もうさぁ。

 

「…全部、僕のモノでイイよね?」

「っ、!?」

 

がぶり。

その首筋に噛みついて、キバを食い込ませる。

じわりと滲む血を舐めとって、キミの顔を覗き込むように見上げて。

 

「ねえ、」

「」

 

はく。

口が開閉するけれど、そこからは何も紡がれない。

ああそうだ。

何も言えないようにしてしまえばいいんだ。

そんな簡単なことにも気づけなかったなんて────、

 

「やめろって……言ってるだろ!!」

「がふっ!?」

 

…暗転。





好きだから傷つけたい。
自分のモノだって、知らしめるように。


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ある時の聖蹄祭:企画編


何だかんだ行動力ある銀弾。



秋のファン大感謝祭、またの名を『聖蹄祭』。

春がスポーツ系の催しが多く開催されるのと対をなすように、秋のソレは文化系の出展が主となる。

言うなれば───文化祭のようなものだ。

 

「うーんと、『ウサギちゃん喫茶』でもするかな」

 

リギル、スピカに、僕が所属するアルデバランも含めて…そこそこの規模になるチームは、チームごとに何かしらの出し物をしなければならない。

で、その企画会議にチームリーダーである僕とその右腕であるシロガネハイセイコは参加しているのだが……。

 

「う~ん……それはちょっと違う気が」

 

僕の案に対して、ハイセイコが苦笑いしながら指摘する。

 

「え?ダメかな?」

「ダメというか……嫌がる子もいるでしょう?」

「いやうさ耳はウマミミで代用すればいいよねって」

 

まぁ言われてみれば一理あるな……と頷いているとシロガネハイセイコが続ける。

 

「それにカフェをするにしても服はどうするんです?うさ耳はウマミミで代用できるとして」

「…、」

 

考える。

もう既に司会役であったのも、同じように会議に参加していたのもみんな練習に行っている。

この部屋にはもう僕らだけだ。

そう考えていると、

 

「おいクソチ…リーダー」

「や、アウトレイジ」

 

いつものように僕のことを『クソチビ』と言いかけて、何故だかちゃんと言い直したそのウマは、僕が治めるチームアルデバランに所属するウマのひとり-シルバアウトレイジで。

「みんな待ってんぞ」と苦言を呈すその顔に『ちょうどいい』と笑う。

 

「ね、アウトレイジ」

「あ?」

「今度の聖蹄祭でさ、ウチのチーム『ウサギちゃん喫茶』しようとおもうんだけど…」

「……お前が女装するんなら考えてやらァ」

「よしきた」

「「エッ」」

 

 

昔から母に渡されるものは何でも着てたし、今だって可愛い下の子たちに頼まれれば快くペアルックする仲だ。

…たとえ、それが女ものであろうとも。

それにしても、

 

『リーダー動かないで!』

「ふぁい」

『どの髪型にする〜?』

「あんまり邪魔臭くならないので…」

 

ガールズの圧すっごいな…。

はじめは客寄せになって一石二鳥だよね!とニッコリしていたのだけど、気づけばあれよあれよと。

 

「…可愛い?」

 

出来上がったあと、周りのみんなに聞けば「可愛いで〜す!!」と元気よく帰ってくる声。

…なら、大丈夫、かな?

 

「じゃあ行ってくるね」

 

不思議の国のアリスの時計ウサギっぽくもありながら、服装はクラシカルなメイド服で客引き看板を持つ。

 

『いってらっしゃ〜い』

「は〜い、いってきま〜す」





僕:
シルバーバレット。
そこまで女装に抵抗がないし、自分が可愛いことを無意識に知っているウマ。
体格がもはや合法なのでそれっぽい服装をしたら性別がどっちか分からなくなるタイプ。
これより聖蹄祭の中を時計ウサギっぽくもありながらクラシカルなメイド服で駆け巡る。
性癖を壊すな。


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曰く売上は1位だったらしい


聖蹄祭本番編。



「リーダー様の言うことは?」

『…ぜった〜い』

 

俺の失言をもって、チームアルデバランの聖蹄祭の催しは『ウサギちゃん喫茶』と相成った。

そしてそれを聞いた女子組がハッスルに次ぐハッスルとなり、服や化粧品、果ては喫茶で使う食器やら食事やらが集まる始末。

 

「あ、ハイセイコたちは喫茶の方の統括よろしくね〜」

「…ぁ、はい」

 

鬼の右腕であるハイセイコ…先輩-シロガネハイセイコは、信奉するリーダー(今回は強権発動中)のシルバーバレットに倣って女装しようとしていたようだが。

 

「僕はずっと女装しておくからさ!それと比べるとキミたちは客引きの時だけでいいんだぜ?…ね?」

 

そんな、ミニスカ履けって言ってるワケじゃないんだからとケラケラ声。

 

「タイツもデニール高いの履いてもらうし…服も骨格とか喉仏とかが隠れるやつに…」

 

ほ、本気だ…。

コイツ本気だ!!!!

 

 

それから。

時が経つのは早いもので、本番となった。

リーダーはお早いことに外部の客が入り始めた時間キッカリにアルデバランに宛てがわれた部屋から飛び出していったようで、聖蹄祭は始まったばかりというのに次から次へとてんてこ舞い。

予定以上に人員整理だとか「チェキ撮ってください」だとかのオーダーを捌いて、ようやく一息ついたのはお昼も過ぎた頃。

 

「アウトレイジ〜、客引きよろしく〜」

「ゲッ!」

「僕はこの可愛いフォーちゃんを然るべきところにお披露目してくるからネ!」

「…ウッス」

 

飯をかっこんで、女子組にヤイヤイ言われて出来たのは目付きのキッツイ俺-シルバアウトレイジ(女装)。

こんなのにわざわざ近づいてくるヤツなんざいないだろ…と、『チームアルデバランのウサギちゃん喫茶!』看板を持って闊歩すれば出るわ出るわ。

 

「先輩!何でそんな格好してるんですか!?!?!?」

「お〜、【飛行機雲】。よければ行ってくれや。ほらサービス券、チェキ一枚無料」

 

何だかんだと絡んでくる知り合いにサービス券を握らせて、何やかんや。

 

「ほらほらまとめの会に行くから体育館行くよ〜」

 

ニコニコしてるアンタはいいよ、アンタは。

でも、何で、俺らは…!

 

「女装なんですかねぇ!?」

「え?いやだって全員分お披露目したいじゃん。みんな可愛いもの」

 

客引きとは言っても時間的には細切れだったしね。

それにネット調べたら可愛くなったみんなが見たい〜!!ってご要望があったから…。

 

「ファンの望みには逆らえないんだ!」

「今日ぐらい逆らえ!!!!」

「…そんなこと言うならチームグッズに各々のチェキ追加するよ?」

「ごめんちゃい」

「よろしい」





僕:
シルバーバレット。
チームアルデバランのリーダー。
リーダーなのでずっと女装してた。
客引きのために学園中を駆け回ったが、駆け回るたびに知り合い(CBやら【皇帝】やら)に捕まってはあれやこれや。
最終的にはチェキ無料券握らせて黙らせた模様。

それはそれとして可愛く着飾った可愛い妹を【芦毛の怪物(然るべきところ)】にお披露目しに行ったり、自分と同じく女装した弟【戦う者】とツーショして【栄光を往く者(然るべきところ)】に送り付けたり…。
元より特に気にしないタイプ。

【銀色の激情】:
シルバアウトレイジ。
戦犯であり功労者。
銀弾(の後ろにいるシロガネハイセイコ)に逆らえず無事女装。
後輩である【飛行機雲】に代表される知り合いに絡みに絡まれたがチェキ券を渡して事なきを得る。
はじめはヤイヤイ言っていたがすぐ慣れるタイプ。


『ウサギちゃん喫茶』:
チームアルデバラン伝説の催し。
中々グッズも出さなければ表舞台にも出ないアルデバラン面子と交流できるかと思えば、アルデバラン面子の中でも屈指の人気を誇る選手(銀弾、アウトレイジ等諸々)がゲリラ的に女装して客引きし出し…。
しかもその女装のクオリティが高いことに加え、各々が各々の空き時間に出没しないレア感からネットで話題騒然に(ちな銀弾は常時学園内を駆け回っているので探そうにも何処にいるのか不明)。
なお企画者である銀弾はここまで大事になるとは思っていなかった模様。


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約束されしクソボケ


説☆得。



ハローハロー、どうもサンデースクラッパです。

故郷から離れ約数年、長くもあり短くもありな現役生活を終えて久しぶりに家族の元へ帰る、もしくは第二のバ生の生活基盤を整えようとしたところで。

 

「絶対に、帰さない」

 

思わず顔が青ざめるくらいの窮地に立ってしまいました。

 

 

さて、状況説明をしましょう。

今、僕の目の前にいるのは僕と時を同じくして引退した親友兼ライバルのグローリーゴア。

無敗の三冠バだったこの子を僕がブチ負かしたのが関係の始まりだったんだよね…というのは置いておいて。

 

「あの〜…グローリーさん」

「なぁに?」

「僕の携帯とかキャリーケースは…あのあのあの」

「…後でね」

「ヒエッ」

 

何で着のみのままで対峙してるんですかねぇ!?

というか目覚ましかけて起きたら空港へGO!するはずだったのに目が覚めたら眼前にハイライト失った親友の顔があったの怖かった!!

しかもなんか拘束されてるし!!

 

「…………」

「あーっと、そのですね?言ってなかったのは悪かったというか」

「…………」

 

無言の圧力がすごく怖い。

まぁ後々手紙なり何なりを送ればいいカナ〜と思ったのはたしかだけどまさかこんなことになるとは思わなかったんだよぉ……。

 

「えぇと、とりあえず話を聞いて欲しいんだけど……」

「……いいよ」

 

……あれ?意外とあっさりだな。

いやでも油断させてから何かするつもりかもわからない。

ここは慎重に行こう。

 

「あ、あのさ、僕引退したじゃん」

「そうだね」

「だからちょうどいいし家族に会いに行こ「それで帰ってこないつもりだった?」へ?」

「僕を置いて」

 

ん?いきなりどうした?

それになんか雰囲気が変わったような気がするようなしないような。

 

「ち、違うってば!」

「じゃあなんで僕に何も言わずに此処を引き払うなんてバカげた真似を?」

「そ、それはほら、稼いだ賞金もあるし!もっといいところに引っ越そうって…アハハ」

「…嘘つき」

 

視界が揺れて、やんわりと首を掴まれる。

いや待てコラ、キミの筋力をもってしたら僕の頭と胴体がオサラバするんですけど!?

 

「茶化すな」

「ふぁい」

 

…マ〜ジでド低音だった。

 

「僕をこんなに滾らせたクセに」

「はい?」

「僕はキミのせいで!!」

 

はっはァ〜ン?

ちょっと何言ってるかわかりませんね(現実逃避)。

 

「…キミのせいで全部ぐちゃぐちゃなんだよ」

「はえ〜…」

「だから、責任取って」

 

なおそれに続く言葉は「キミが住む家も仕事も何もかも用意しているから第二のバ生を恙無く此処で送ってくれ」とする。





【戦う者】:
サンデースクラッパ。
その血の運命なクソボケ。
フツーに合鍵を渡していた関係から帰国しようとしていたところを見つかり無事捕獲。
そこから説☆得を受け永住することに。
最終的には永住地での生活に慣れ親友との生活たのちい!になる。

【栄光を往く者】:
グローリーゴア。
ギリギリセーフ。
自分の様々をぐちゃぐちゃにしていったクセに「帰るわ!」しかけたクソボケを全身全霊で捕獲した。
また普段より口数多め+本音で説☆得し、勝利を勝ち取る。
なので【戦う者】の目が他に目移りしないようにめちゃくちゃ頑張ってるんだよな。


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約束されしクソボケ…だけども、


誘われからお家入りまでに若干のラグがあった話。



「お邪魔しまァす!!」

 

その声と勢いに、革張りの良い椅子に座っていたグローリーゴアは椅子から転げ落ちた。

ドンガラガッシャーンというよりかは、変に蹴ったら座っていた椅子から尻が滑ったというか。

とりあえず、グローリーゴアが椅子から落ちたことは確かだった。

 

「え、えと…」

 

情けないところから、何とか威厳ある当主の顔に取り繕って起き上がる。

『こんな勢いよく誰だ。無礼だな…』と内心ため息をつきながら、彼は扉の方を見た。

そこには、一人のウマが立っていた。

 

「……は?」

 

グローリーゴアの思考回路が停止する。

そんなグローリーゴアを気にせずに、そのウマは謳うように告げる。

 

「今日からここでお世話になるサンデースクラッパです!」

 

夢にまで見た姿がニコリと笑う。

どうして?

あれだけ説得しても頑なに首を縦に振らなかったのに。

 

「え、いや、あの……サンデースクラッパさん?」

「なぁに?」

「え、いや、うん…どうして……」

「だってあんな唐突に言われてもすぐにどうにかできるわけないじゃない」

「ウ゛ッ」

「アレ、だいたいキミの独断専行だろう?他の人に何の相談もなしに『明日からこの家に住むんだよ』とか言われても。準備も何もできないよ」

「ウ゛ッ」

 

グローリーゴアは、サンデースクラッパに言われて自分の行動が自分勝手だったことを自覚する。

しかし、それでもサンデースクラッパを手放すつもりは全くなかったので。

だから、必死に言葉を紡ごうとする。

 

「で、でも……今ここにいるってことは……」

 

そう告げれば、サンデースクラッパはにこりと笑ったまま告げた。

 

「説得、大変だったんだぜ?」

 

 

あの日、暴走していたグローリーゴアは知らないことだが。

時間になっても集合場所に来ない僕を、チームの人が心配して部屋の前まで来てくれていて。

すると、グローリーゴアから一方的にやいのやいのと言われているのが聞こえてきて。

 

───あんなにもスーちゃんのことを望んでくれる子がいるのなら、…残ってもいいよ?

 

はじめは「いや、それは…」と断ろうとしたのだけど、「後ろ髪引かれてるでしょう?」と長年の付き合いからくる的確な指摘を受けて。

結局、僕は此処に残ることにした。

もちろん、チームのみんなには「何かあったら電話しておいで」と何度も言われたけれど。

でも、それでも僕がグローリーのところに行くことを決めたのは……うん、まぁ、その……ね?

 

「じゃあ、よろしく頼むよ」

 

ぽかんと惚けた顔のキミに笑う。

嗚呼なんて顔だこと!





【戦う者】:
サンデースクラッパ。
諸々の手続きを経て「たのもー!」した。
元より【栄光を往く者】のところに行くのは満更でもなかったので。
でも色々しがらみがあるよなぁ…と悶々していたらチームの人たちに背中を押され。
…で、今こうなってるワケ。

【栄光を往く者】:
グローリーゴア。
大☆暴☆走。
完全に独断専攻でやんややんや。
はじめはいい答えをもらえなかったので「フラレチャッタ」と落ち込んでいたが、当の本人が「たのもー!」してきたので椅子から転げ落ちた。
なので無事勝ち組になった模様。


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ふたりいっしょ


「はよいけ」って思ってたけど満更でもなかったんだよね。




「先輩」

 

そう呼ぶと、『あっちに行け』とジェスチャーされた。

呆れとも何とも言い難い顔で、シッシと指先を動かされる。

 

「いや、でも」

 

触れようとした手はパシッと払われて。

『お前が行くのはあっちだろう?』と明るい方を指さされる。

そりゃあ、確かにあっちは明るいでしょうが…。

 

「…だって俺、あっちに友だち居ませんもん」

 

無言だが、今にも『は?』と言いかねん形相。

 

「先輩、俺友だち居ないんですよ」

 

『だから?』とでも言いたげだ。

 

「まぁ、はい……」

 

『……はぁ……』と深いため息をつかれてしまった。

呆れを通り越すとこうなるのか、というお手本のようなリアクションだった。

 

「先輩が嫌じゃなければ一緒に居たいんですけど……」

 

先輩はまたも無言だが、今度は顎で『あっちに行け』と。

…あのですね?

 

「……もしかして俺が邪魔だとか?」

 

『…………』と、今度はさっきよりも大きなため息をつかれてしまった。

 

「あ!もしかしてあれですか?俺が居るとゆっくり出来ないとか」

 

『……』と、またも深いため息をつかれた。

そして先輩は自分の隣を指し示した。

 

「あ、いいんですか?」

 

『仕方ない』という顔。

 

「ありがとうございます」

 

『……』と、無言だが手で座れと促された。

とりあえずはお隣に座らせてもらうことにした。

 

「……あの先輩?」

 

『……ん?』という顔。

 

「いや、その……」

 

『どうした?』とでも言いたげだ。

いや、どうした?と言われてもですね……?

 

「何か近くないですか?」

 

そうなのだ。

お隣同士に座るにしても距離が近い気がするのだ。

肩が触れ合うどころか密着しているような気さえする。

『気にするな』と言われたので気にしないことにしたが。

 

「それはそれとしてですね」

『おう』

「…気まずいじゃないですか」

『あ゛?』

「だってあっちには俺の優秀で可愛い子どもたちもいるんですよ!?俺が大人ぐらいの年齢で出るんならまだいいですけど、ほぼ同年代じゃないスか!!」

『…あぁ、』

「先輩だって自分の身に置き換えて見てくださいよ!!!!」

『うるせぇ』

「あだっ、」

 

デコピンされた。

『お前が思うことを俺が思わぬとでも?』とでも言いたげだ。

 

「それはそうですけど……」

『……』

「あ、はい」

 

またも無言だが今度はトントンと太腿付近を叩かれ。

もう黙れということだろうか?

……まぁ、いいか。

それにこの距離なら先輩の顔もよく見えるし。

いや、いつも見てるけど近いからよく見えるというかなんというか……。

 

「ふへ」

『?』

「なんというか…先輩イケメンになりましたねぇ。あっ!?いたっ!何で叩くんです!?」





【銀色の王者】:
シルバーチャンプ。
お父ちゃん美少女になりたくないよ…。
自分ひとりだけならまだしも産駒(サクラスタンピード、プライドシンボリ、メジロシルフィード等々)が先に実装確定してたモンだからヤダヤダ!と駄々捏ねてた。
だって俺お前たちみたいに強くないもん…。
G1未勝利だし…(しょんぼり)。
なお凱旋門賞が実装された折には…?


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総大将には敵わない!!


このように、ふと飛び火することしばしば…。



「スペ」

 

用事を済ませて荷物を取りに来ると、俺の席でクラスメイトであるスペシャルウィークが伏せて眠っていた。

 

「スペ」

 

トントンと体を叩いて起こそうにも「んん…」と唸るだけで一向に起きそうにない。

 

「…」

 

仕方が無いので、起きるまで付き合うことにした。

つねっても揺さぶっても起きないのは、さて一体どうすればいいのか。

 

「スペ」

「……ん……」

 

借りた小説を開いてパラパラ読み始める。

授業は、トレーニングは、もうとっくに終わっていて、教室には俺たちしか残っていない。

だから起こすのも俺しかいないわけで。

……まぁ、いいか。

怒られてもちょっとの注意だけだろうし。

そう思い直して再び本に目を落とすが、どうにも集中できない。

理由は分かっているけれど、あえて無視した。

 

(……)

 

ちらり、と横目でスペを見る。

すやすやと眠っている…風だが呼吸がわざとらしい。

 

(……寝たフリ、だな)

 

耳を澄ますと、微かに「すぅ……ふぅ……」という息遣いが聞こえた。

狸寝入りである。

 

「……スペ」

「ん~……」

 

呼びかけると、少しだけ反応が返ってくる。

しかし起きる様子は一向に無い。

 

「おいスペ」

 

少し語気を強めて呼んでみる。

すると今度はピクッと耳が動いたので、起きてるのは間違いないだろう。

けれどそれでも起きようとしないのは。

 

「起きろよ。起きなければ…」

 

はふ、と吐息混じりに耳元で呟けばガバッと。

顔のみならず首まで真っ赤にして起き上がった相手にクツクツと笑えば、

 

「だ、騙したな!!」

「騙したなんて人聞きが悪い。俺は『起きなければ』と言ったんだ」

「〜〜〜っっ!!」

「ホント、純朴で可愛いなぁお前は」

 

たまらず地団駄を踏みそうな姿にケラケラ笑い、「帰るぞ」と荷物を取ろうとした。ら、───ドサッ。

 

「スペ?」

「…あまり、僕を舐めるなよ」

 

不意に押し付けられ、視界がスペでいっぱいになる。

いつも以上に真剣というか、いやそれ以上に…何か見てはいけない類の顔をするスペ。

 

「ちょ、ちょっと待てスペ」

「待たない。もう我慢の限界」

「いや待てって!ここ教室だぞ!?」

「だから?」

「だからって……!!」

 

ああ言えばこう言う。

いや、この場合は俺が何も言えないだけか?

 

「……ねぇチャンプくん。僕はね、ずっと前からこうしたいと思ってたんだ」

 

耳元で囁かれる声にゾクリとする。

が、ここで流されるわけにはいかない。

だってここは教室で、誰が来るかも分からないのだ。

故にヤダヤダと抵抗するも、先程とは逆転するようにクスクスと笑われるだけで。

 

「…もしかしたら、【旅程】先輩に怒られるかもねチャンプくん」





【日本の総大将】:
スペシャルウィーク。
純朴っぽいのでよく【銀色の王者】にからかわれる。
しかし総大将なので、その実そうでもない。
一回攻勢し始めたら逃げることも許さないタイプ。
可愛い顔して予想以上にエグかったりしそお…。


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キミは、僕の


そういうとこだぞ!



あの子はいつもエルちゃん-エルコンドルパサーに引っ付かれている。

随分な執着だと思わずため息をついてしまうぐらいには激しい情動を向けられているというのに、それが友情だと本気でのたまうだろう姿には呆れて物も言えない。

 

「エルちゃんの好意は友情じゃないよ」

「え?」

「あれは、」

 

私は断言する。

あれだけ執着を向けられている癖に、それをただの友情と言い切るなんて無理があるだろう。

そんな薄っぺらい感情ならあそこまで熱烈にはならないし、あんな風に引っ付きはしない。

……まあ、私が言えたことではないけれど。

 

「……友情じゃないってなら、なら何なんだ」

 

私の言葉を彼女は否定する。

いや、否定するも何も事実だろうに鈍感なこの子はそれを頑なに認めようとしない。

 

「スペ…?ッ!?」

 

軽く触れるだけの。

ちょっとしたじゃれ合いというにはどこか湿っぽい、そんな触れ合い。

 

「ただの挨拶だよ?」

「なッ……!?」

 

エルちゃんもしてくるでしょ?と聞けば彼女は顔を真っ赤に染める。

その反応に私は思わず笑みを零した。

この子は本当に初心で可愛らしいと思うと同時に、あれだけ執着を見せていてもここまではしていないのかと今ここにいない相手を思い、内心嗤う。

 

(まあでも)

 

こんな初々しい反応をしてくれるならまだ…救いがあるかもしれない。

 

「これは私からの忠告。だから他意はないよ」

「……そう、か」

 

 

触れ合うだけと言えど、粘膜接触であることに変わりはない。

気づけばふたりだけの『秘密』となっていたソレに、シルバーチャンプははじめは戸惑いを隠せなかった。

 

「スペ、」

「……うん?」

「その……こういうのは、あまりしない方がいいと思うぞ」

 

この行為に深い意味はないと彼女は言うが、それでも俺はこれを他の誰かに見られたくはなかった。

 

(だって)

 

これは他人にバレたら面倒な触れ合いだ。

自分たちふたりは戯れ合いと認識していようと、世間一般では。

これを誰かに見られてしまえば、きっと自分のみならず彼女も非難されるだろう。

 

(俺は)

 

スペが非難されるのは、嫌だ。

だから、この触れ合いは止めようと言ったのに……彼女は不思議そうに首を傾げるだけだった。

 

「どうして?」

「いや……」

 

なんでって。

そんなの当たり前だろう?と俺が口にするより先に彼女が口を開く。

 

「私は別にいいよ」

「……え?」

 

いい?何が??

いや、『何を?』という問いかけはすぐに呑み込まれる。

 

「…バレた方が逆にいいかもね」

「っハ…な、んで」

「そうしたら、」





【銀色の王者】:
シルバーチャンプ。
【怪鳥】に引っ付かれるのみならず【日本の総大将】とも…?
押し切られると受け入れる性質を持つ。
または慣れたらしゃあないね感。
【日本の総大将】との触れ合いは満更でもない…らしい。

【日本の総大将】:
スペシャルウィーク。
慣れさせて押し切ろうとしている。
当人を前にした攻め方が案外露骨。
普段は普通だけど二人きりになったらGoGo!
なので【怪鳥】って意外と奥手なんだなと思っている。
…あんなに執着してるのに。

【怪鳥】:
エルコンドルパサー。
魂から【銀色の王者】に執着中。
噛み付く(物理)は普通にするが直接的なことには奥手。
知らん間にかっさらわれそうですよ!!


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たったひとつの、望みごと


────あなたがいれば、それでいい。



外は眩しいぐらいの晴天だというのに。

そう思いながら部屋の主、その手ずから出してもらった紅茶を嗜む。

 

「はじめから、すべてのウマ娘の幸福なんて夢のまた夢なんじゃない?」

「…なんだと」

「あぁ、そんなに目くじら立てないでさ。その書類仕事のBGMぐらいに聞き流しててよ。で、」

 

チラ、と見やる先には万年筆を置き、己を見据える…。

 

「ほら、『幸せ』ってのは千差万別だ。大金が欲しい人もいれば、一切の病気や怪我なく健やかに暮らしたい人もいるし」

「…」

「そもそもが。僕にとっての『幸せ』が何か、キミに分かるかい」

 

────ねぇ、ルドルフ会長?

 

瞼を閉じてツラツラと語っていたので、一息ついて瞼を開ければ、そこには完全に聞く姿勢に入った我らが生徒会長-シンボリルドルフ。

 

「…何か」

「ん?」

「何か、言われたのか」

「いンや、特には?」

「…」

「だって今のキミに意見できるような気概のある子…いるワケないだろう?」

 

現在、この学園で彼女を昔から知る生徒は僕-シルバーバレットだけだ。

後はみんな後輩となり、同期周辺だって皆、第二のバ生を歩んでいるのだから…どうにもこうにも。

 

「紛うことなき【皇帝】だもの、キミは」

 

そう、【皇帝】。

あの頃はよかったのだ。

真っ向から止めるシリウスに、そうじゃなくともシービーやマルゼンがいて。

ちゃんと()()()()()()()

だが今はどうだ?

誰もいなくなった。

皇帝(かのじょ)】に、意見できる者が。

生徒のみならず…大人たちまでも。

 

「キミのやり方は、長期的に見ればそりゃあそりゃあ効果的な案だ」

「でも、キミは遠い未来を見すぎている」

「あの子たちは、()を見ているというのに」

「砂金を見るキミと違って、あの子たちは今に換金できる黄金が欲しいというのに」

 

誰もが脱兎で逃げ出す(プレッシャー)がかかる。

 

「そんなんだから今こうなってんだろ」

「……」

「ハハ、まったく。【皇帝】とは言い得て妙だな。キミのやり方は的確だ。……暴君と、みんな誹れないほどに」

 

そうしていると、胸ぐらを掴まれた。

 

「キミの『幸せ』は何だ」

「99人を救えるなら、キミは自分ひとりを切り捨てる人間だ」

「随分な大義名分だな。自己犠牲がそんなに高尚か?」

 

ヘラ、とそう嘲笑えば。

 

「わたしの、『幸せ』は」

 

はくり、と唇が喘鳴する。

その隙間から溢れた言葉を聞く。

言葉を聞いて。

聞いて、僕は。

 

「…わかった。キミが、そう望むなら」

 

ポン、と頭を撫でる。

打算ではあれど、このまま彼女を放っておくとどうなるか分かりやしないので。

 

「それで、いいなら」

 

…そうしてやるさ。





【皇帝】:
シンボリルドルフ。
銀弾を手に入れた√。
またの名を「暴君なり得ぬ皇帝」。
銀弾以外の周辺世代が居なくなってしまった結果、【皇帝】のやることなすこと全てをイエスマンするヤツしかいなくなっていつしか暴走。
長期的に見れば良い結果を成す案を立案しては通し続ける日々。
でもみんながみんな彼女や銀弾のように余裕がある(強い)ワケではないので水面下でフラストレーションが溜まっている。
だが誰も逆らわない。
だって、────彼女は何も間違っていないのだから。

僕:
シルバーバレット。
「暴君なり得ぬ皇帝」に唯一意見できるヤツ。
【皇帝】サマよりかは客観的に周りを見れているが、コイツもコイツで【皇帝】と同類の強き者なので真に周りの気持ちを理解することはできない。
この度、「このままコイツ放っておくよりかは近くで監視した方がいいな」の打算の気持ちで【皇帝】のモノに。
これからそれとなく【皇帝】のやることなすことに口を出していくこととなる。
ま、【皇帝】が引きずり下ろされたとて。

───この座につけるヤツなんて、今の学園には…。


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老いぼれの考え事


夢うつつ。



あんなに華奢だったかの母からよくもまぁ、己のような筋骨隆々の男が生まれたものだと、月を肴に酒を呑むたびにシロノマガツは考える。

己以外の弟妹はみな、母に似て華奢で線も細くであったというのに。

幼き日から昔話の金太郎のごとくだったシロノマガツは、それはそれは恐れられた。

ひとたび気に食わなければその相手をまるで棒きれのように振り回すことも容易いその類まれな身体能力は、気づけば触らぬ神に祟りなしと。

それは元はと言えば家族を守るためであったのだけど。

 

『お、前ら』

 

しかし、シロノマガツは逃がされた。

愛すべき、弟妹たちに。

兄様、兄様…元気でね。

そのひと言をもって、背を押された。

 

『兄様、どうかお幸せに』

 

その言葉を最後に、シロノマガツは弟妹たちに送り出された。

そして、そのままずっと会えないままだった。

 

 

───叔父貴。

 

そう呼ばれて、パチリと目を開けば腹心である右腕がいて。

「どうした」と声をかければ、最近よく来る若造が今日も今日とて飽きもせずやってきたらしい。

本来なら部下たちが丁重に追い返すのだろうが、かの若造はシロノマガツが出るまで帰らぬと頑なであるから。

「またか」とシロノマガツは慣れたように立ち上がる。

若造がどんな顔をしているのかなんて見なくてもわかる。

 

───今日こそ。

 

見慣れた顔が、眼が、そう告げる。

まったく飽きもせず。

こんな老いぼれに何を期待しているのか。

シロノマガツは、若造が己に何を求めているのか皆目見当もつかなかった。

 

「…」

 

とはいえ。

件の若造との勝負は年甲斐なくシロノマガツを滾らせる。

ウマ同士の小競り合いは、こうして走ることでケリをつけるのが一番手っ取り早い。

原初的で、単純明快で、それでいてシロノマガツの心を…何よりも熱くする。

「若造」と声をかければ、若造はパッと顔を上げて、それからいつものように不貞腐れた顔。

その顔がまた年相応のものに見えて、シロノマガツも思わず笑ってしまうのだ。

基本、気難しい顔ばかりの若造である。

今のような顔をしていればそこそこの可愛げがあろうと思うのに、ずっとずっと鉄面皮。

「そんなんじゃあ女子(おなご)にも逃げられるンじゃあないか」とからかえば、「うるさい」とただひとこと。

 

「年寄りの忠告だがなぁ」

「あれだけ走れて…どこが年寄りだ」

「…本当に年寄りだが?」

「その般若の面で歳が分かるか!」

「まぁ…それもそう…か?」

 

くつくつと笑う。

さて次は…いつ頃来てくれるのだか。





【白の大侠客】:
シロノマガツ。
若くて命知らずな若人が好き。
まぁ普段は恐れられてるからね。
またそれはそれとして下にきょうだいがそこそこいる。
でも他のきょうだいとは違い、シロノマガツだけは母親に似なかったらしい。


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