家庭教師ヒットマンREBORN!×僕のヒーローアカデミア (Minadukiyuuka )
しおりを挟む

ボンゴレX世:オリジン
標的.1


はじめてのクロスオーバーです。
試行錯誤しながら書くつもりではいますが、恐らく亀進行になります。
それでもいいと言う方は読んで頂ければ幸いです。


未来での長い長い戦いは終わった。

白蘭を倒して、数多もの世界が救われた。

またみんなでバカ騒ぎして、並盛で暮らしていく。

 

——そのはずだった——

 

「よーし、みんな揃ったね!!そろそろ出発だよ!!」

 

正一くんはタイムマシンの最終調整を終えて俺たちにそう告げた。ヴェルデとスパナ、ジャンニーニも正一くんの一歩後ろで一緒に見送りに来てくれている。彼らだけじゃない。草壁さんや、ラル・ミルチ、他のアルコバレーノ、ビアンキ、フゥ太。みんな、俺たちとの別れを惜しんでいる。

 

「ありがとう、正一くん。怪我もまだ治りきってないのに、無理させてごめんね」

 

「これくらい平気だよ!」ゴホッゴホッ

 

正一くんは強く胸を叩いたせいか咳き込んでしまった。

 

「まったく、正一は強がらないで安静にしてなくちゃ」

 

スパナが正一くんの背中をさすりながら彼の行動を諌める。

 

「そ、そうだ。ボンゴレ匣のことなんだけど…あれ!?なんで起動してるんだ!?」

 

正一くんが何かを言おうとした時、事態は急変した。タイムマシンが起動して俺たちの身体を光が包み出したのだ。

 

「!?しょ、正一くん!?これどうなってるの!?」

 

俺はいきなりの事態に対応できず、アタフタしてしまう。

戦いが終わって気が抜けていた。気づけば、俺はいつもの『ダメツナ』になっていた。

 

「慌てるんじゃねぇツナ。ヴェルデどうなってやがる?」

 

「……分からん。こんな事、計算ではあり得ないのだがな」

 

リボーンが同じアルコバレーノであるヴェルデに聞いて現状を把握しようとするがそれは叶わなかった。

画面には「原因不明」という文字が表示されるだけでどうすることもできなかったからだ。

正一くんたちはパソコンと睨み合ってタイムマシンを止めようとするが、一人、また一人と消えて行く。

 

「十代目!」

 

「ツナ!」

 

「沢田!」

 

「…ボス!」

 

「ツナくん!」

 

「ツナさん!」

 

獄寺くん、山本、お兄さん、クローム、京子ちゃんにハル、雲雀さん、ランボ、イーピン。そして、リボーン。

 

「リボーン!」

 

俺はリボーンへと手を伸ばす。しかしその手は空を切った。

そして、俺たちはその場から消えた。

 

——————————————————————

 

目を覚ました時、そこはどこかの路地裏だった。

まったく見覚えがない。少なくともここが並盛でないことだけはわかった。

空気が違ったから。直感が訴えかけてくる。

 

遠くからは地響きが聞こえてきていた。

どこかで銃撃戦でもやっているのか?と、少し現実離れした考えが過ぎる。

しかしその地響きする方向を見て、俺は目を疑った。

それはまるでアメコミの中のお話だった。

巨大な(ヴィラン)主役(ヒーロー)が倒す。

俺が見たのは、そんな光景だった。

 

俺たちは、確か……そう、タイムマシンで過去に帰ろうとして、みんながどんどん消えて行って……

 

「そうだ、みんなは!?」

 

俺が後ろを振り返るとみんなが横たわっていた。

あの場で光に包まれた全員が誰一人欠けることなくその場にいた。

 

「よ、よかった〜」

 

俺は胸を撫で下ろした。

それでも、わからないことだらけだ。

とりあえず、みんなを起こさないと!

 

「みんな、起きて!」

 

身体を少し揺さぶるとみんなはすぐに起きた。

 

「うっ…ここは…!十代目!ご無事でしたか!?」

獄寺くんは頭を打ったのか目眩を起こしていたようだったが、俺を見るなりこちらの心配をしてきた。こう言う時、できれば自分のことを心配してほしい。

 

「ツナ…ここは?」

山本は立ち上がり辺りを見回してから俺に問いかけてきた。周辺を警戒したのか咄嗟に時雨金時を構えた。

 

「極限にどこなのだここは!!」

お兄さんの大声はこの路地裏によく響く。近くにいた通行人が驚いていたが、俺は少し安心した。

 

「…!?む、骸様?…どこ、どこにいるの…?」

クロームは目を覚ました途端、錯乱したように辺りをキョロキョロしだす。話の内容から骸とのパスが切れていることがすぐにわかった。

 

「………」

雲雀さんは流石と言うべきかまったく動揺していなかった。……違うな、雲雀さんにとって大切なのはここが並盛であるかどうかだから、興味がないのだろう。

 

「ツナくん、みんな?よかった!無事だったんだね!」

京子ちゃんも自分のことよりみんなの心配が先だった。その優しさは美徳だが、こう言う時くらいは警戒心を持っておいた方がいいと思う。…京子ちゃんのそう言うところも好きだけど…

 

「はひっ!?な、なんですか、アレ!!」

ハルは一人、路地裏から抜けてその目の前の光景に指を差しながら後ずさる。俺たちの戦いを見ていたとは言え、あれとは毛色が違いすぎる。

 

「…ツナ、無事だったか…」

最後に目を覚ましたリボーンが乱れてしまった帽子を被り直しながら安否の確認をしてきた。リボーンの決して慌てることのない姿勢に、俺は幾許かの安心感を覚えた。

 

「リボーン!よかった〜」

 

————

——

—-

 

みんなが思い思いのことを言った後、みんなを落ち着かせてこれからについて話し合った。

 

「……とにかく、今は情報がない。オレはボンゴレ本部に連絡する。ツナ、お前らはこの周辺を散策してくれ」

 

「おい、リボーン!一人で行動していいのかよ!?もしもアルコバレーノが狙われるようなことがあったら…」

 

「心配すんな、ここにはノントゥリノセッテはないみたいだからな。それに、オレは最強のヒットマンなんだぞ、簡単やられっか」

 

そう言ってリボーンは小走りで 行ってしまった。

まったく、勝手だな……

 

「……僕も行かせてもらうよ、群れるのは嫌だからね」

 

そう言って今まで黙って傍観していた雲雀さんまでどこかへ行ってしまった。

 

「おい!待て、雲雀!!……あのヤロウ!!」

 

獄寺くんは雲雀さんの行動が許せなかったようだ。

……確かに、この状況じゃ情報が足りなすぎる。雲雀さんのアレは単独行動すると言うことだろう。

俺たちも、できるだけ多くの情報を入手しないといけない。

何があっても、俺が守るから……

 

「…みんな、リボーンが言ってた通り今は少しでも情報が欲しい。危険かもしれないが……」

 

『俺が守る』。その言葉は声には出なかった。

その代わりに、俺の額には死ぬ気の炎が灯る。

——その炎は覚悟の表れ——

どんなことがあっても、みんなは並盛に帰す……

——その背負った「願い」のために、俺は——

 

……眉間にシワを寄せていたからだろうか。山本が肩を組んできた。

 

「…ツナ、あんま気負うなよな。なんかあっても、お前だけには背負わせないぜ」

 

「武……」

 

「あっ、テメェ!俺が言おうとしたことを…十代目!俺だって背負いますよ!!」

 

「隼人も…ありがとう」

 

二人だけじゃない。

お兄さんも、クロームも、京子ちゃんやハルも、ランボやイーピンでさえも応えてくれる。

……知らない場所に来て、一人でテンパってたのかの俺?

俺は一度目を閉じて、開く。

 

「…それじゃあみんな、各自散開。夕暮れ前にまたここで落ち合おう。絶対に、危険なことはするな。」

 

そう言って、俺たちはこの世界に足を踏み出した。

 

『世界総人口の約八割が何らかの“特異体質”である超人社会となった現在!混乱渦巻く世の中で!かつて誰もが空想し憧れた一つの職業が脚光を浴びていた‼︎』

 

『これは、そんな世界に紛れ込んでしまった俺たちの物語……もしくは、彼がヒーローになるまでの物語だ』

 




読んで頂きありがとうございます
お気に入り登録、高評価はモチベーションアップにつながりますのでよろしくお願いします。
誤字脱字があれば報告してくれると嬉しいです


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

標的.2

お待たせしました!
お気に入り登録してくださった方々、本当にありがとうございます。


——この世界では総人口の約八割が何らかの能力を持っている——

 

そう聞いたら人はどう思うだろう?

八割もの人々が能力を持っているこの現状で、犯罪が起きないはずがない。

己の正義を掲げ他者を屠る「正義の敵」が現れ、大衆の正義を掲げ他者を守る「正義の味方」が現れる。

そして、どうしても大多数は正義の味方になる。

人々がどんな行動をとるのか。

答えは明白、敵の排除だ。

 

——————————————————————

 

みんなと別れた後、人々が行き交う道を俺は歩いていた。

ふと、電気屋の前で足を止める。

展示用のテレビの一場面が目に止まった。そこには『日本の犯罪件数が年々減少している。これも「平和の象徴」のおかげ』と書いてあった。

俺はその単語に、言い知れぬ何かを感じた。

『超直感』が訴えかけてくる。

関われば、退路はなく、あるのは茨の道だけだと。

そんな時だった。彼に出会ったのは。……出会ってしまったのは。

 

「!?…大丈夫?」

 

俯きながら歩き、当たって来たのに尻餅をついてしまった少年に手を伸ばす。

その少年はどこか自信がなさそうな表情をした、そばかすの少年だった。

 

「あ、ありがとうござい……あ、『個性』……」

 

彼は俺の顔を見てそう言った。

厳密には、俺の額を見て、だ。

…死ぬ気の炎が、消えないのだ。

まるでずっと薪でも焚べているように炎は燃えていた。

彼は俺の手を掴むと萎縮してしまった。

 

「このグローブって……もしかして、ヒーロー、なんですか?」

 

「いや……違うけど」

 

「そ、そうですか……」

 

ドンッ!!!

 

次の瞬間、車線を挟んだ反対側の商店街で大きな音と地響きがした。

すでに多くの野次馬で埋め尽くされているそこに彼は血相を変えて駆け出していった。

その光景を見た誰もが思った。自殺行為だと。

でも、俺はそれを冷静に捉えていた。

慌てる場面、慌てるべき場面に立って俺は冷静だった。

冷静に「彼を助けるべき」だと思った。

俺はX(イクス)グローブに炎を灯し、剛の炎で瞬間的に最前へと躍り出た。

彼は今にも瓦礫の下敷きになりそうだった。

彼と瓦礫の間に滑り込む。

 

「…零地点突破・初代(ファースト)エディション…」

 

周囲が凍っていく。しかし、全ての火が消えた訳ではない。

それでも、彼が進むだけの道は作る。

彼はこちらを振り返ることなくただひたすらに駆けていく。

そして、たどり着いた。

ヘドロを掻き分けて、一人の少年を助け出そうとしている。

……それなら

俺は左手を後ろに構えた。

スパナが作ってくれたコンタクトとヘッドフォンはない。

それでも感覚でわかる。

ヘドロだけを吹き飛ばす。

柔の炎で支えを作り、右手には剛の炎を貯める。

 

「……X(イクス)、」

 

X BURNER(イクス・バーナー)を放とうとする。

しかし、それよりも早く彼の英雄はその場に現れた。

筋骨隆々なその身体は、山のようにデカかった。

触覚のような逆立て髪はそのヒーローのシンボルだ。

全てを救い、全てを守る。そんな言葉が、俺の中には浮かんだ。

先ほどテレビに映っていた「平和の象徴」……オールマイト。

 

「君を諭しておいて…己が実践しないなんて!!!プロはいつだって命懸け!!!!!!

 

DETROIT SMASH!!!

 

振り下ろしたその拳はヘドロを吹き飛ばし、二人の少年を助け出した。

それだけじゃない。その拳圧で巻き起こった上昇気流は天候をも変えた。

降り注ぐ雨はまだ燃え広がっていた火災を鎮めてみせた。

 

…すごい。

 

その呆気に囚われた感想は、もはや声にすらならなかった。

しかし、そんな時間も長くは続かない。

遠巻きに見ていたヒーロー達がこちらにやってきた。

俺は彼等が着くよりも早くその場を離れた。

誰かに見られている気がして振り返るとオールマイトが遠ざかる俺を見ていた。

俺は会釈をしてその場から離れた。

 

—————————————————————

 

予想はしていたし、確証めいたものもあった。

でもどこかで期待していた。

ここは俺たちの世界で、ごく限られた一部地域だけの出来事なのだと。

歩きさえすれば並盛に……母さんの居るあの家に帰れるのだと。

しかし、違った。

ここは俺たちがいた過去ではない。

全く知らない世界に、俺たちは紛れ込んでしまった。

それがみんなの意見を合わせてたどり着いた答えだった。

 

「……」

 

俺たちは黙ることしかできなかった。

当たり前だ。

未来での戦いがやっと終わったんだ。

死ぬ思いまでして、ユニやγ、いろんな人を犠牲にしてしまった。

アルコバレーノの力でマーレリングが関わったことが全てなかったことになると言っていたが、俺はもう目の前で誰も失いたくない。

 

「……そう言えば、リボーンくんは?」

 

「はひ、まだ来てませんでしたか?」

 

京子ちゃんとハルが辺りをキョロキョロするがそこにリボーンの姿はなかった。

リボーンの存在が霞むほど、この世界が俺たちに与える印象が強かったようだ。

ボンゴレと連絡を取ると言って別れたきり、あいつは戻ってきていなかった。

そんな噂話をしたからだろうか?

リボーンは空から降ってきた。

 

「リボーン!」

 

「……ツナ、最悪の事態だ」

 

向き直ったリボーンの顔はとても張り詰めたものだった。

そして、リボーンは他のみんなに少しの間席を外すように言った。

それだけ悪い状況なのか……

 

「……リボーン、ボンゴレはどうだったんだ?」

 

「それより前に、お前いつまで(ハイパー)死ぬ気モードでいるつもりだ?」

 

結局、いつまで経っても死ぬ気の炎が消えることはなかった。

そのことをリボーンに相談するとリボーンは少し考える素振りをする。

 

「(死ぬ気の炎もこの世界に来て変質しちまったってことか……?個性へ昇華したってことなのか?まだまだわかんないことだらけだな……)」

 

リボーンが黙ってしまったので催促する。

 

「黙ってないで何か言ってくれ、リボーン」

 

知らない世界に来て、最悪な状況と聞いて、少し焦っていた。

それは未来に行ったばかりの頃の心情に似ているかもしれない。

リボーンはもう一度こちらを向き直り、そして目を逸らした。

 

「……ボンゴレは、もう無い。……大きくなり過ぎたボンゴレは15年前、あるヒーローとマフィアが裏取引をして潰された。9代目やXANXUS(ザンザス)、家光はかろうじて生きているらしいが……今、どうなってるかまでは……」

 

歯切れの悪い言葉は、リボーンにしては珍しい。

ことがことだけに、それもしょうがないと思う。

 

でも……何故だろう。リボーンがそう言ったとき、焦っていたのがどこかへ行ったように酷く穏やかだった。

いつもいつも、無理矢理継がせようとしていたボンゴレファミリーはもう無いんだと思ったからだろうか?

よかったじゃないか。

これでもう俺はマフィアなんかにならなくて済むんだ。

よかったじゃないか。

山本もこれで気兼ねなく野球ができるし、お兄さんもボクシングだけに専念できる。

よかったじゃないか。

京子ちゃんやハル、クローム、チビ達にも危ない世界を見せなくて済む。

よかったじゃないか。

よかったじゃないか。

よかったじゃないか。

 

…………全然良くない!

 

その瞬間、路地裏には死ぬ気の炎が業火のように燃え上がった。

これは狼煙だ。

 

「……リボーン、イタリアに行こう。…ボンゴレを、再建する。これ以上みんなは巻き込まないために。そのために、ボンゴレが必要だ。」

 

「……それは、アイツらに聞いてからじゃないか?」

 

後ろを振り返ると、みんながいた。

ネオンの光が逆光で表情が読み取れない。

でも、何を言いたいのかはわかった。

そうか……あの時、俺が覚悟を決めた時にはもうみんなも覚悟していたんだ。

まだ未来での戦いの傷も癒えていないくせに、無理して……

 

「……そうか、そうだな。言うべき言葉が違ったな。」

 

俺はみんなに向き直る。

死ぬ気の炎が一度消える。

 

「みんな、もう一度力を貸してくれ!」

 

みんなに頭を下げる。

今度は何も隠さない。

京子ちゃんとハルにも全て話す。

だって、答えはわかっている。

少し狡いとも思う。

だからこそ、言葉にしなきゃいけない。

今までのような曖昧な立ち位置ではいられない。

これから俺はみんなを裏の世界に引っ張り込む。

だからこれは覚悟だ。

 

「はい!この獄寺隼人、10代目の右腕としてどこまでもお供します‼︎」

 

「当たり前だろ、ツナ‼︎俺の力も使ってくれ!!」

 

「沢田‼︎極限に力を貸すぞ‼︎だから心配するな!!!!」

 

「…私の力も使ってください、ボス!」

 

「……群れるのは嫌だけど並盛に帰るまでだよ、小動物」

 

「ランボさんも!ランボさんも!ツナに力貸してあげるんだもんね‼︎」

 

「ツナくん!私たちも力貸すよ!」

 

「そうです!ハルたちにも何かお手伝いさせてください!」

 

「イーピンも!」

 

巨大マフィアになってしまったボンゴレはもうない。

それなら、彼らの意志を継ごう。

愛する人たちを守るために自警団を作ったI世(プリーモ)のようになろう。

そうして、俺たちは日本を飛び出した。

 

——————

———

——

 

日本に帰ってくるのは、それから一年の後。

ヒーロー志望の学生が誰しも憧れる、日本最高峰の高等学校。

『雄英高校』の入学試験。倍率300倍、選ばれし者のみがその門をくぐれる。

俺はリボーンの言う通り、誰もを救うヒーローにはなれない。

それでも、ここにいるみんなと最高のファミリーを作るために……

 




正直、年齢どうしようかすごい悩みましたが面倒なので全員同じタイミングで雄英に入学させます。
次回はイタリアに向かう上空1万メートルを飛ぶ旅客機が舞台のつもりです。
お気に入り登録、高評価はモチベーションアップにつながります。
感想やアンケートの方もよろしくお願いします!


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

標的.3

お待たせしました!
お気に入り登録、評価してくださった方ありがとうございます。
今回、恋愛要素あります。


およそ上空1万メートルを飛ぶ旅客機の中。

俺たちは何事もなかったかのようにそこに座っていた。

しかし、他の人に俺たちは見えない。

それは偏に、彼女のおかげだ。

 

「クローム、大丈夫か?」

 

俺は少し息づかいの荒い彼女に問いかけた。

 

『無いものを在るものとし、在るものを無いものとすることで敵を惑わしファミリーの実体をつかませないまやかしの幻影』それが霧の守護者の使命。

 

そう、彼女は唯一の霧の守護者。

クローム髑髏だ。

 

————————————

——————

———

 

「クローム、頼めるか?」

 

二人きりで話したいと言って俺は彼女の前に立った。

何を頼んでいるか、それは明白だ。

この世界に身寄りがない俺たちがイタリアに行くにはどうすればいいか。

彼女にもわかっている。

クロームは目を逸らして言った。

 

「さっきは、ああ言ったけど……私だけで、できるのかな?」

 

クロームはあくまで骸の代理人。

本当の守護者じゃない。

しかも、この世界では、骸の力は借りられない。

それでも、このメンバーの中で頼めるのは彼女しかいない。

 

「クローム、骸はこの世界にはいない」

 

彼女は目を見開く。

俺はあえて事実を突きつけた。

彼女だってわかっている。

それでも必死に誤魔化して、自分で生み出した内臓の幻覚でなんとか命を繋いでいる。

 

「だから、今頼めるのはお前だけなんだ。クローム」

 

そう言うとクロームは寂しそうな表情をしたけど、すぐに覚悟を決めた顔をする。

彼女の中で六道骸という存在は神に等しい。

しかし、二人の関係性はとても歪だ。

共依存と言っていい。

互いが互いを必要とし、そうしなければ生きていけない。

でも、その関係もいつかは終わる。

そうなった時、彼女が自分自身を大切にできるように……

彼女が自分の足で歩けるように……

 

「……わかった…ボス、ありがとう」チュ

 

彼女は俺の頬に口づけをする。

……初めて会った時もそうだった。

わかっている。

これはあいさつだ。

彼女もそう言っていた。

 

だから、勘違いするな……

 

——————————————————————

 

そして、今に戻る。

 

「…平気、です。」

 

やっぱり少し辛そうだ。

京子ちゃんたちにはクロームが無理しないように気を遣ってほしいと言っておいた。

イタリアまでは半日以上のフライトになる。

無理して倒れないように……

——しかし、クロームは体調を崩してしまった。

原因は幻覚を使いすぎたことによるオーバーヒート。

十人もの人間に常時幻覚を纏わせることは、ボンゴレリングの力を持ってしても簡単ではない。

クロームに幻覚を解くように言う。

これ以上の負担はクロームの命に関わると判断したからだ。

そして必要最低限の幻覚を再構築する。

俺の額に灯った死ぬ気の炎は危険だろう。

何せ側から見れば、これは発火だ。

周りに騒がれるととても面倒だ。

 

これから先も、クロームは必要だ。

こんなところで、無理はさせられない。

そして、事態は悪い方へと向かっていく。

 

『コノヒコウキワハイジャックサレマシタ』

 

機械的な音声がアナウンスされた。

その瞬間、超直感が警鐘を鳴らす。

今すぐ避けろと。

そして、銃声が轟く。

それは俺たちがいる場所よりもずっと前。

そして銃弾は俺の頭があった位置を正確に貫いていた。

 

「一番弱そうな奴を狙ったんがなぁ……なんで死んでねぇ」

 

仮面をつけた男が銃を片手にそう言い放った。

その瞬間、他の乗客が一斉に逃げ出す。

我先にと後ろのフロアへ向かっていく。

そして、顔全体を覆うその仮面からはとても不愉快な声が聞こえてきた。

もう一度銃口が向けられる。

——不思議な気分だった。

銃口を向けられているのに、怖くない。

殺気を感じないからだろう。

……だから、油断してしまったのかもしれない。

 

「おーっと坊主、コイツがどうなってもいいのか?」

 

後ろに、もう一人仮面の男が現れ一人の少女を人質とした。

 

「…ごめん、なさい…ボス」

 

顳顬(こめかみ)に銃口を当てられ、身動きが取れないクロームがそこにはいた。

 

「!?クローム!」

 

何故クロームが?

そう思ったが、それよりも先に腕に痛みが走った。

 

「よそ見してんじゃねぇぞ」

 

銃から硝煙が上がる。

そして、ここで最も恐れていた事態が発生した。

 

「うおっ!?なんだこいつ、腹が凹みやがったぜ!」

 

クロームの幻覚が切れてしまったのだ。

 

「こっちは発火かよ!本当どうなってんだ!?」

 

仮面を被った男たちは混乱するが、そんなことはどうでもいい。

今一番重要なのは…クロームの命だ!

 

————————————

——————

———

 

……あの頃を思い出す。

やっと終われると思っていた、あの頃を。

……骸様、助けて……助けて……お願いします……

しかし、返ってくる言葉はもうない。

あの空間には、私一人しかいない。

もう、彼は来てくれない。

そうか、もう一人なんだ。

一人で生きていくんだ。

……でも、無理。立てないよ。

私は座り込んでしまう。

——誰か、助けて——

 

「…た、す…けて」

 

掠れる声。

気管に入った血が逆流して吐血する。

一体どれだけの人に聞こえただろう。

 

「——当たり前だろ、クローム」

 

一条の光が差し込む。

誰かが私に手を差し伸ばす。

その手はとても暖かくて、とても優しかった。

 

大空の炎の特性は「調和」。

正常な内臓を基準として彼女の体を調和する。

彼女の失った内臓が再生する。

以前はここまでの力はなかった。

せいぜい、敵の攻撃をコンクリートと調和して壊すくらいの使い方だった。

でも、今ならわかる。

炎の使い方、その応用、そして意味。

 

「安心しろ。一人で立てるまで支えてやる。」

 

俺はクロームを抱え、そう言った。

 

—————————————————————

 

飛行機をハイジャックした二人の男はその場で縛り上げられた。

犯人を縛り上げるときの隼人の顔が般若のようだったことは言うまでもない。

俺はその光景に少しだけ口角が上がる。

自分の身を心配してくれていることがわかると、やっぱり嬉しい。

結果として、民間人への被害は0だった。

しかし、クロームはまだ体調がすぐれない。

体力の回復にはまだしばらく時間がかかるだろう。

それでも、良い方向に変わったことがある。

クロームが名前を教えてくれた。

今はまだ、それでもいい。

少しずつ成長していこう。

 

——ボス、ありがとう。

私は、あなたと共に——

 

頬が赤い彼女を抱えて、俺たちはイタリアに降り立った。

 

「さぁ、行こう!みんな!」

 

これから目まぐるしい日々が始まる。

隼人、武、了平、恭弥、ランボ、京子、ハル、イーピン、リボーン。

そして、凪。

俺がすべきことは決まっている。

——みんなを守ること、ただそれだけだ。——

 




と、言うわけでクロームをヒロインにしました!
アンケートに答えてくださった方ありがとうございました。
もちろん、京子ちゃんやハルもヒロインとして物語に出します!
ツナハーレムです!
一応、ヒロアカからも二人ヒロインにします!
気になった方は、お気に入りに登録、評価、感想、よろしくお願いします!


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

標的.4

遅くなってごめんなさい…
お気に入り登録、評価してくださった方ありがとうございます.



イタリアに着いた俺たちは散り散りになってしまった元ボンゴレファミリーを集め始めた。

リボーンの情報で9代目とXANXUS、そして父さんが生きているらしいと言うことだけわかっていた。

俺とリボーンはそちらを当たる。

他のみんなにもそれぞれ見つけてほしい人物を伝える。

一から作るボンゴレに必要な人材たちを……

 

———————

————

——

 

俺とリボーンが歩いているのはイタリアの都市部から離れた、いわゆるスラム街の様な所だった。

いや、リボーンに言わせればここはもともとボンゴレが治めていた土地で、それなりに栄えていたらしい。アイツなら、今でもここにいるはずなんだ。俺の超直感がそう告げている。

そんな俺たちを周りの人たちは好奇な目で見てくる。でも、その格好は誰も豊かな暮らしができているようには見えなかった。

そして、感じるのは好奇だけじゃない⋯⋯これは、殺気?でも……

 

「リボーン、少しおかしくないか?」

 

「あぁ、この独特の殺気⋯⋯ヴァリアーだな、でも…」

 

不完全だ。

後方から来るナイフを避け、Xグローブに灯った炎で溶かす。

そして、ナイフについたピアノ線を引っ張る。

 

「!?……シシッ、マジかよ。降参でーす」

 

首元に手刀を近づけるとそいつは呆気なく敗北を認めた。

何だこれ……諦め慣れている?

リング戦の時はこんな奴じゃなかった。

自分が死ぬかもしれない状況でもリングを優先するような男が、こんな……

 

「……ベルフェゴール、ボスの…XANXUSのところまで連れていけ」

 

そう言うとベルフェゴールの口元から笑みが消えた。

そして問う。

 

「お前たちは……敵か?」

 

敵、か……ボンゴレが無くなってから、どんな風に生きてきたんだろうか?

俺は首を横に振り、彼の言葉を否定した。

 

「俺は…ボンゴレを継ぐ者だ」

 

そう言って手刀を収めた。

 

——————————————

 

ベルに連れて来られたのは廃工場だった。

そこに鎮座しているのは俺の知っているアイツの変わらぬ姿だった。

 

「…XANXUS」

 

「コイツは、どう言うことだドカス?」

 

俺の一歩前を歩くベルに対して投げかけられた言葉を、代わりにリボーンが答える。

 

「こいつはツナ、沢田綱吉……ボンゴレの正当な後継者だ。XANXUS、お前はこいつの下につけ。ボンゴレを守りたかったらな。」

 

そう言うとリボーンは銃口をXANXUSに向けた。

銃口を向けられたXANXUSは懐から銃を抜き取ろうとする。

そう。普通の銃を、だ。

 

「ふざけるな!!ボンゴレは……ジジイのモノだ!!」

 

……そうか、そこまで追い詰められていたのか。

XANXUSの発言でボンゴレの現状が垣間見えた。

きっと色々あったのだろう。

今の俺には、そんな考えしかできない。

みんなが味わった辛さを、俺は知らない。

XANXUSだってボンゴレが好きなんだ。

それはこの世界でも変わらなかった。

そんなXANXUSとなら、理想のボンゴレが作れる。

 

抜き放たれた銃は俺を捉えるよりも前にあらぬ方向に飛んでいった。

Xグローブを使った瞬間的な高速移動でXANXUSの懐に入り込んだ俺は、腕を掴み銃を払い落とした。

 

「……XANXUS、ボンゴレの意志は俺が継ぐよ。だからさ……もういいんだよ。」

 

「!?ふ、ふざけんじゃねぇ!!」

 

XANXUSは掴まれた反対の拳を振りかざす。

それでも、前ほどの鋭さを感じない。

その拳を見切った俺はそれを躱す。

 

「ボンゴレはこのままじゃなくなるんだぞ……それでも良いのか?……お前だって、ボンゴレが好きなんだろ?」

 

XANXUSの表情が固まる。

 

「お願いだXANXUS。九代目のところに連れて行ってくれ」

 

———————

————

——

 

XANXUSに連れてこられたのは廃工場の近くにあった河原だった。

そして一人の老人を見つけた。

老人は釣り竿を垂らし、傍には酒瓶と松葉杖を置いていた。

 

「ジジイ、客人だ。」

 

XANXUSに呼ばれた老人はゆっくりとこちらに目を向ける。

そこにいたのは以前に会ったあの優しそうなお爺さんではなかった。

その瞳に映るものなどないと言うような生気がない目。

そして何より目を惹かれたのは、その失ってしまった足だった。

 

「九代目……」

 

俺はかける言葉がなかった。

15年前に何があったのか、詳しいことまでは知らない。

マフィア界の中心だったはずのボンゴレが、今は影も形もない。

しかし、九代目は困ったような笑みを浮かべた。

 

「…私のことを、まだそんな風に呼んでくれる人が居るとはね……」

 

そして、黙ってしまった。

いや、何を言えば良いのかわからないのだろう。

口をワナワナさせてしまっている。

生気がなかったはずの瞳が俺を捉える。

 

「これは……まさか死ぬ気の炎、なのか?しかし……」

 

俺の額にともる炎。死ぬ気の炎はボンゴレの象徴と言ってもいい。

しかし、居ないのだ。

もうこの世界に死ぬ気の炎を出せる人間なんて。

何となく気づいてはいた。

XANXUSのあの武器、そして俺を見ても反応しなかった。

知っているはずなのだ。

XANXUSなら。

なのに、知らなかった。

そこから導き出される現状は、『死ぬ気の炎の消失』。

俺は九代目の近くに行き、膝をついた。

 

「九代目、俺は別の世界でボンゴレの後継者だった男です。」

 

そう言うと、目の前のシワだらけの顔に涙が伝った。

 

「…そうか、そうだったのか…初代の予言が、ついに来てくれたのか……」

 

そう言って九代目は崩れるように眠ってしまった。

 

——————————————

 

九代目をベッドに連れて行った後、みんなが続々と廃工場に集まってきた。

そしてみんなに集めてもらっていた人物たちが目の前に並ぶ。

ヴァリアーの面々、ビアンキとお腹を抑えた隼人、お互い切り傷だらけのバジルと武、了平の脇に抱えられたジャンニーニ、京子とハルの後ろに隠れてしまったフゥ太、縛り上げられて気絶したディーノを連れてきた恭弥、凪の幻覚でここまで導かれたスパナ。

俺はみんなの前で話し始める。

 

「…みんな、集まってくれてありがとう。ここに集まってもらったのは他でもない、ボンゴレファミリーを再建するためにみんなの力が必要なんだ。」

 

そう言うと、大多数が「意味がわからない」という表情を浮かべる。

……当然か。ボンゴレが無い今、彼らは一般人に極めて近い存在だろう。

でも、賛成してくれた者もいた。

 

「……俺は、乗ってもいい」

 

XANXUSだ。

現ボンゴレにおいて実質的トップの賛同で少なくともヴァリアーが仲間になってくれた。

そしてそれを皮切りに一人一人話し合っていく。

すると彼らの酷い現状が露わになった。

どうやらここにいる人間は全員が裏の世界に入り込んでいるらしい。

義賊、武器職人、不良少年、情報屋、暴力団の息子。

形は様々だが、今の社会への不満がそこにはあった。

だから俺たちの話にも耳を傾けてくれた。

守りたいもののために自警団を作りたい。

綺麗事だけで片付くものばかりじゃ無い。

それでも、みんなわかってくれた。

ボンゴレファミリーは、自警団としての活動を開始した。

 

———————

————

——

 

——目まぐるしく月日は流れていった。

この街からはスラム街が無くなり、風紀を乱していた連中がいなくなった。

敵事件発生数が“0”になり、『ヒーローのいらない街』として一部のメディアに報道された。

街からの信頼も厚く、ボンゴレは屋敷が建つほどまでの存在になった。

 

そして年も暮れるそんな時期になって、探していた人物が現れた。

現れてしまった。

 

その日、俺は「たまには休め」と言うリボーンの言葉で休日だった。

しかし、休日だからと言ってすることは変わらない。

一通り身支度をして見回りに出かけようとする。

見回りなんかと思うかもしれないが、街の人に直接話を聞いて、悩みがあればすぐに解決する。

そうやって街は回っていく。

そんな風に考えていた俺より、リボーンは上手だった。

門を出たところで待ち伏せしていたのは京子とハル、凪だった。

要するに、「ガス抜きをして来い。無理はするな」と言うことか。

 

——————————————

 

あんまり「おしゃれ」に頓着しない凪を、ここぞとばかりに着せ替え人形にする京子とハル。

色々買い込んだ三人の荷物持ちを買って出た俺は、前を歩く三人を見て少し微笑んだ。

この世界に迷い込んでしまってから、早いもので半年以上が経っていた。

元の世界に戻る手立ては一向に立っていない。

メカニックからジャンニーニとスパナに、調査の名目で新設された風紀財団にも動いてもらってはいるが、ボンゴレがいくら大きくなったからと言って、未だに人材不足は課題に上がっている。

そんなことを考えていたとき、その男は街の害として現れた。

酔った客が乱闘を起こしている、という通信が入った。

三人に断ってから、俺はすぐに現場へと向かった。

そこにいたのは、父さんだった。

無精髭を生やして、酒を浴びてだらしのない姿。

俺たちの間に、感動の再会なんてものはない。

いつも家を留守にして、帰ってくれば寝ている姿しか見たことがなかった。

そんな男が、押さえ込もうとする街の住人を傷つけていた。

見逃すことはできなかった。

俺は周りを囲っていた住人たちに離れるように言った。

俺と父さんを中心にして人が離れていくと、父さんは俺に目を止めた。

酔いが回っているのか、俺を捉える瞳は据わっていなかった。

酒を飲んでいて、だらしがないのに、そこにいる父さんは別人のようだった。

そして、その直感は当たっていた。

父さんはフラフラしながら口を開いた。

 

「オメェ、どこのどいつだ?」

 

その言葉は、この半年触れてこなかった考えの蓋を開けた。

ボンゴレ消滅の事件が起きたのは15年前。

俺が生まれるよりも前の出来事。

かろうじて生き残った父さんは日本に帰ることはなかった。

つまり、この世界は「俺が生まれることのなかった世界」の一つなのだ。

 

「シカトすんじゃねぇ!」

 

問いに答えず、黙り切っていた俺に手を伸ばす。

でも、それよりも早く俺は動いた。

伸ばされた手を払い、胸ぐらを掴む。

勢いよく投げ、俺は驚いた。

軽かったのだ。

母さんに「石油を掘っている」と言うだけあって、父さんの体はとても筋肉質だった。

しかしその腕は細く、とても筋肉質とは言えなかった。

俺は父さんの問いには答えることなく、こちらの質問を投げかける。

 

「この15年間、どこで何してたんだ?」

 

地面に叩きつけられたせいで咳き込んでいた父さんは、その質問に我に返ったのか酔いが覚めたようだった。

続け様に言葉を投げかける。

 

「……奈々さんは、お前の帰りをずっと待っているんだぞ」

 

その言葉に父さんは驚いた表情を浮かべ、目を背けた。

触れて欲しくない部分。

リボーンに調べてもらったから間違い無い。

母さんは、父さんがいなくなったあとも必死に生きていた。

明るく、天真爛漫の笑顔で周りを照らすような人だった。

でも、そこにも影はある。

泣いているのだ。

一人になったとき、声を押し殺して。

 

俺は目の前の男を、許すことができなかった。

胸ぐらを引っ張って、その頬を思い切り殴ろうとした。

しかし、それよりも前に俺を止める声がかかった。

 

「ツナくん!」

 

「ツナさん!」

 

「ボス!」

 

振り返ればそこには息を切らした三人がいた。

俺は振りあげた拳を収めた。

そして、男を振り返ることなく三人の元に向かう。

酔いも覚めただろう。

そして、男にだけ聞こえる声で言った。

 

「……お前を許すことはできない。だから、こんなところにいないで日本に行け。それが……産まれるはずだったアンタの息子からの言葉だよ」

 

「!?……ま、待ってくれ!」

 

その言葉にも、俺は答えなかった。

 

——————————————

 

三人のところまで行くと、京子とハルが胸に飛び込んできた。

それを拒むことはしなかった。

なぜなら、その瞳には涙があったから。

 

「ごめん、もっと…上手くできると思ったんだけど、ダメだった」

 

もっと冷静に接するつもりだった。

でも、怒りに振り回された。

それを見て悲しんでくれる人がいるのにも気づかずに……

 

泣いている二人を慰めて、屋敷に戻って……それから……

 

——————————————

 

「リボーン」

 

俺は執務室の中でリボーンに今日のことを話した。

リボーンはエスプレッソを飲みながら聞いてくれた。

 

「……ツナ、お前はこれまでよく頑張ったと思うぞ」

 

その言葉に、俺は息を呑んだ。

リボーンが今まで俺を褒めたことんなてなかった。

そして、リボーンは話を続ける。

 

「見慣れない世界で、頼れる者も少ない世界で、守らなきゃいけないモノを多く抱えたまま。……だから、そろそろ良いんじゃねぇか?わがまま言っても。心配なんだろママンが」

 

……やっぱり、見透かされてたか。

母さんの生存を確認してもらって、バレないはずもないか……

でも、ボンゴレはまだ……

 

「俺が見ておいてやる。ボンゴレのことは心配すんじゃねぇ」

 

リボーン……

 

「……それに、ファミリーのメンタルコントロールもボスの仕事だからな」

 

ドンッ!

 

執務室の扉が勢いよく開かれた。

そして、そこには人垣ができていた。

この世界に一緒に来たみんな、この世界で集めた仲間たち。

そう言うことか……

 

「俺たちは、日本に行く。付いてきてくれるか?」

 

———————

————

——

 

年が明けてすぐ、俺たちは日本に戻って来た。

ボンゴレ本部はリボーンとXANXUSたちに任せた。

日本に着いてすぐ、リボーンから教えてもらった住所に向かう。

そこには「沢田」の表札がかかった一軒家があった。

インターホンを押す手が少し震えた。

しかし、母さんは家にはいなかった。

みんなと合流するために背を向けた時、声がかけられた。

 

「ウチに何かご用ですか?」

 

振り返ると、そこには俺が知っているよりも髪の長い母さんが買い物カゴを持って立っていた。

 

「か…」

 

「ママ〜ン!!」

 

「ママンッ!!」

 

俺が声をかけるよりも先にランボとイーピンが母さんへと駆け出した。

……半年以上も我慢させたからな。

ランボもイーピンも、イタリアに行ったあの日からわがままを言わなくなった。

特にランボには守護者としての役割もあったから、今だけは、今だけは……

伸ばしかけた手を引く。

母さんはランボとイーピンの突撃に驚きながらも二人を抱えて、ゆっくりとこちらに歩いてきた。

俺は姿勢を正して、少し緩んでしまったネクタイを締める。

 

「突然、申し訳ありません。……母に、とても似ていたものですから……」

 

そう言って、俺はランボとイーピンを母さんから受け取る。

その重さに、時間が経ったことを実感させられる。

大きくなったんだなぁ。

二人を抱えて挨拶をしていると、母さんの手が頬に触れた。

 

「もしかして……家光さんの、親戚の方ですか?」

 

「……はい」

 

「…そう、ですか…」

 

笑っているのに、その表情はどこか暗かった。

そうか、これがリボーンの言っていた……

 

「実は俺たち、行くあてがなくて……」

 

嘘だ。

日本に滞在するにあたって、場所は確保してある。

でも、それよりも……

 

「一緒に、住まわせてくれませんか?」

 

「!?……はい!」

 

その笑顔は、紛れもない母さんの笑顔だった。




次回、「雄英高校編」に突入する予定です!
速くヒロアカ側と接触させたい
ヒロインも出せると思う…思いたい…
モチベーションになるのでお気に入り登録、評価、感想、よろしくお願いします!


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

標的.5

色々迷いました。
でも、読んでもらえたら嬉しいです!


日本での生活を開始して、数日が経過した。

そこにあるのは何事もない光景。

しかし、だからこそ忘れていた。

この国は事件発生率こそ低いが、決して“0”ではないことに。

 

——————————————

 

その日、母さんはチビたちと買い物に出掛けていた。

俺は日本に滞在することをリボーンに伝えるためにテレビ電話を行っていた。

リボーンは二つ返事で了承してくれた。

どうやら向こうは向こうでやりたいことがあるようだ。

テレビ電話を終え、リボーンに習ったコーヒーを淹れていた時に一本の電話がかかってきた。

それは、警察からだった。

内容は、敵事件に巻き込まれて三人が負傷したと言うものだった。

俺はすぐに病院へと向かった。

 

——————————————

 

「ランボさんね!ランボさんね!ママンを守ったんだぞ!」

 

「イーピンも、頑張りました!」

 

病室に着くとランボとイーピンが我先に詰め寄って来た。

顔に絆創膏を貼ってはいるが、二人とも元気そうだ。

数人組の敵に占拠されてしまい、敵に傷つけられそうになった母さんを二人が守ってくれたらしい。無傷とは行かなかったが母さんも腕に軽い切り傷を作っただけだった。

 

「ごめんね、ツっ君に迎えに来てもらっちゃって」

 

母さんの買い物カゴを持って家路についていた俺は、前を歩くチビ二人を見ながらこの国の在り方に疑問を浮かべていた。

平和の象徴に依存した国は、その栄光にあやかり、欺瞞の英雄が跋扈する。

敵が発生する環境をよしとしたまま放置する社会。

……俺も、日本という国は好きだ。だからこそ、この現状を許すことができなかった。

そして何より、母さんの言ったことが俺には納得できなかった。

 

『ヒーローの人たちのおかげで、このくらいの怪我で済んだのよ。お礼言わなきゃね』

 

その言葉に、俺は思った。

ヒーローならば、被害を出すなと。

被害を出すくらいなら、それはヒーローじゃない。

 

「……どうかしたのツっ君?」

 

その場に立ち尽くした俺を振り返り、母さんが問いかける。

母さんを守るために、俺がやることは……

 

「母さん……ヒーローって、どうやったら成れるの?」

 

俺が、この忌まわしい社会体制を壊す。

 

——————————————

———————

———

 

その日のうちに俺は守護者たちのいるホテルへと赴き、今後の方針について話し合った。

 

「…ヒーロー、ですか?十代目」

 

隼人の言葉に俺は肯定した。

そして、今日の出来事についても話した。

 

「でもさ、俺たちがヒーローになる必要ってあるのかツナ?」

 

武の言葉ももっともだ。

俺たちは既に自警団としての活動で成功している。

今更ヒーローになる必要自体はない。

ただ、今のままではこの国は近いうちに崩壊する。

それがここ数日で抱いた「日本」という国の印象だ。

それだけ伝えると、みんなは何も言わずに承諾してくれた。

彼らもわかっていたのだ。

だからこそ、わかってくれた。

 

「…それで、高校ですか?」

 

そう。

ヒーローになるには高校のヒーロー科を出ていなければいけない。

それに根幹を変えるならまずはトップになるところからだ。

『国立雄英高等学校』、日本屈指の学校で、最も入るのが難しい学校。

ここが、一番の近道だ。

あとは……まぁ、オマケみたいなものだ。

 

——————————————

 

「そうなると……勉強、ですね!」

 

「…………」

 

隼人の言葉に、少なからず絶望した人間がいる。

それからの日々は、勉強漬けの毎日だった。

でも、それが少し懐かしく感じた。

あの頃の、並盛にいた頃の、あの感じに……

 

——————————————

———————

———

 

——雄英高校・入試日——

 

……周りが、少し騒々しい。

……前を歩く人たちが、その道を譲っていく。

この服を着るのも、久しぶりな気がする。

俺たちに着ていく制服はない。

そもそも中学も途中から行っていない。

そんな俺たちの“制服”。

……黒いスーツに身を包んだ集団が、その門をくぐる。

この何かに挑む感じ、『チョイス』の時に似てるな……

 

「なんだよアイツら!?」

 

「どこの学校だよ!?」

 

「あ、あの女子かわいくね!?」

 

通り過ぎた後から聞こえてくる声。

でも、そんなことよりも目の前にいるあの少年が俺の注意を引いた。

あの時、この世界に来た時に敵へと駆け出した少年がそこにはいた。

向こうも気づいたようで俺を見て何か声をかけようとしたが、俺は何も言わずに通り過ぎた。

 

「……いくぞ、みんな!」

 

「おお!!」

 

——————————————

 

筆記試験が終わったが、不安はなかった。

隼人にハル、電話越しではあったがリボーンも勉強を見てくれた。

これで落ちていたら洒落にならない。

そして、非戦闘員とはここから別行動になる。

俺と、ランボ以外の守護者はヒーロー科へ、京子とハル、バジルは普通科へ、スパナはサポート科に入学するつもりでいる。

サポート科ならあの男もきっといる。そしてスパナとなら……

ファミリーの力になってくれる。

そう思いながら俺は実技試験説明会場の空いていた席に着いた。

俺を中心に左右に守護者たちが座っていくが、近くに座ろうとする他の受験生はいなかった。

そして、しばらくすると一人の男が登壇した。

 

今日は俺のライヴにようこそー!!!エヴィバディセイヘイ!!!

 

……沈黙が会場を支配する。

調査してもらったおかげでこの男の情報は頭に入っている。

男の名前は「プレゼントマイク」、プロヒーローだ。

沈黙が我慢できなかったのか、プレゼントマイクはさらに声を上げる。

 

こいつぁシヴィ——!!!受験者のリスナー!実技試験の概要をサクッとプレゼントするぜ!!アーユーレディ!?

 

また沈黙するかと思ったが、なんだ?小言?

俺が声のする方を見ると……あの少年だった。

そんな彼を置いて、説明は続いていく。

……掻い摘んで言えば、ポイントが振り分けられた仮想敵を時間内にどれだけ多く倒せたか、と言うものだった。持ち込みは自由、協力行為をさせないために連番でも別の会場に振り分けられる。

 

——————————————

 

一通りプレゼントマイクが説明を終えると、一人の受験生が挙手をした。

それは、配布された資料とプレゼントマイクの説明の差異を指摘したものだった。

そう、四種類目の仮想敵。0ポイントの障害物。

プレゼントマイクはそれを避けるべき「お邪魔虫」と表現した。

そして、その説明に納得した受験生は後方を向き一人の受験生を指差した。

あの少年だ。

指差した受験生は厳しい口調であったが、彼の意見も正論だったので何も言うまい。

 

俺からは以上だ!!最後にリスナーへ我が校“校訓”をプレゼントしよう!かの英雄ナポレオン=ボナパルトは言った!「真の英雄とは人生の不幸を乗り越えていく者」と!!“Plus Ultra”!!それでは皆 良い受難を!!

 

そう言って、説明会は終了した。

 

——————————————

———————

———

 

実技試験会場C

 

俺が案内された会場は「町」と表現していいものだった。

そしてその入り口には大勢の受験者がたむろしていた。

そんな中、俺は浮いていた。

たった一人のスーツ。

他の受験者は己の個性を最も発揮できる服装、つまり運動着が多い。

そんな中で、あまり動きやすいとは言えないスーツでの受験。

俺は己の手に嵌められた「Xグローブ」に炎を灯す。

……人間を傷つける心配はない。なら、最速でポイントを獲りにいく……

 

ハイスタートー!

 

周りの人間が浮き足立っている中、ただ俺一人だけがその場で動いた。

遅れて数人が走り出した時にはもうゲートを超えた後だった。

七属性随一の推進力は後続との間を広げる。

そして接触した、最初の仮想敵。

姿、形は違うが…その本質は、『モスカ』に近かいように感じた。

そして、その対処法をも「超直感」で感じとる。

炎の灯った手刀で仮想敵を行動不能にした。

それが今入試において、最速の仮想敵撃破だった。

 

——————————————

 

後続は俺とは別のゾーンを選びポイントを獲っていく。

しかし、その記録は俺にとって微々たるものだった。

俺は付近の仮想敵を殲滅した後一度上空に上昇し、上から仮想敵を索敵した。

その時、ここにいないと思っていた人物が目に入った。

眼鏡をかけた、掻いたのか少しボサボサな頭髪。

間違いない、彼だ!

 

入江 正一。

 

10年後の未来でメカニック兼指揮官として共に戦ってくれた仲間。

そして、探していた人物。

そんな彼が、今にも仮想敵の餌食になりそうだった。

俺は急降下すると共に、間に合わないことを悟る。

だから、腰に下げていた小箱を手に取る。

 

「…ボンゴレ(ボックス)、開匣!!」

 

未来で手に入れた俺たちの力。

その姿は、ライオン…

天空ライオンVer.V.である「ナッツ」は形こそ小さく、猫に見られることが多いが、その力……

 

「ナッツ形態変化 防衛モード(カンビオ・フォルマ モード・ディフェーザ)!」

 

——すべてに染まりつつ すべてを飲み込み 包容する大空——

 

I世のマント(マンテッロ・ディ・ボンゴレ・プリーモ)!」

 

俺は正一の前に降り立ち、その攻撃の一切を受けた。

しかし、その攻撃を“調和”の力で無効化した。

 

「サンキュー ナッツ」

 

正一は尻餅をついていたので、手を伸ばす。

彼は手をとってくれたが、その表情は暗い。

 

「…た、助けてくれて……ありがとう、ございます。」

 

彼は立ち上がり、俯きながら俺に言った。

 

「……やっぱり、僕みたいな人間が「雄英」(ヒーロー科)を受けるなんて、間違いだったんだ!

 

僕は、ヒーローにはなれないんだ!!!」

 

その言葉には自棄も入っていただろう。

俺は、打算なしに彼に言葉を放つ。

 

「……君は、ヒーローには成れないかもしれない。でも、」

 

THOOM!!!

 

その時、目と鼻の先に四種類目の仮想敵が現れた。

近くにいた受験生は我先にと逃げて行く。

無理もない。

この大きさ。戦っても意味のない仮想敵。疲労した体。

この条件が揃えば、受験生の思考回路は皆同じだった。

それは彼も同じだった。

せっかく立ったのに、彼はまた腰を抜かしていた。

 

「俺がヒーローになる」

 

俺はそう言って、仮想敵へと向かって行く。

この大きさだ。いくら壊してもいい会場だからと言って倒れた拍子に、逃げ遅れた人を傷つけてしまうかもしれない。なら、

 

「一発で決める」

 

左手で後方に「柔の炎」を出す。

そして、右手には「剛の炎」の炎圧を上げていく。

狙うは一点。こんなウスノロ、外しはしない!

 

X BURNER

 

前方に範囲を狭めた「剛の炎」が噴出され、仮想敵を的確に捉えた。

その瞬間、ほんの数秒前まで動いていた仮想敵はその機能を停止した。

 

終了〜!!!!

 

そして、プレゼントマイクの合図で実技試験は終わった。

幸い、仮想敵を倒したことによる二次被害には至っていないようだ。

俺はもう一度正一の前に降り立つ。

彼の目には、俺はどう写っただろう?

ちゃんとヒーローに見えただろうか?

……彼の顔が見れなかった。

俺は背をむけ、彼に言葉の続きを言う。

 

「ヒーローに成れないかもしれない。でも、俺がヒーローになる。だから、俺を助けるヒーローになってくれないか?」

 

この言葉を、彼はどう言う風に解釈するだろう?

罵詈雑言だろうか?

それとも……彼を変える一言になっただろうか?

 

「……はい、ありがとうございました!」

 

その声は、どこか吹っ切れたような口調だった。

 

——————————————

———————

———

 

その頃、審査室では不協和音が流れていた。

 

「沢田綱吉、VILLAINポイント97、RESCUEポイント75、トータルポイント172。他5名も軒並み150ポイントオーバー。なんなんだ、あの連中は!?」

 

一人の審査員が嘆きのように現実を口にした。

雄英の門を通った黒いスーツの少年少女。

明らかに普通ではなかった。

用意された書類にはイタリアの中学が書かれていた。

……もちろんこれはリボーンが偽造した書類だ。

しかし、問題はそこじゃない。

出来過ぎている。

プロ顔負けの成績、技術、個性がその集団には備わっていた。

 

「校長、この受験生達をどう扱いましょうか?」

 

学校に入れたところで「何も教えられない」と言うのが審査員の評価だった。

校長はある決断を迫られていた。

強大すぎる力を入れるか、生徒を除外するか……そんなもの、決まっている。

 

「……彼らを、合格としよう。」

 

「し、しかし!」

 

反対するのには、理由があった。

これでは、「推薦入学者」の立つ瀬がないからだ。

今年の推薦入学者には、「エンデヴァーの息子」に「財閥の令嬢」までいるのだ。

そんな彼らが陰ってしまってはいけないと言う配慮からだった。

 

「もちろん、普通に入学させるわけにもいかない。彼らは良い意味でも、悪い意味でも力を持ちすぎている。下手にばら撒くより、一箇所にまとめておいた方が良いだろうネ!……だから、彼らのために新しくクラスを作ることに決めんたんだよネ!」

 

反対意見もあったが校長が説得したおかげで新クラスの設立は叶った。

そして、問題は次の段階へ……

 

「……誰が見るんですか?」

 

担任の問題。

もうすでに、1-Aの担任に“イレイザーヘッド”、1-Bの担任に“ブラドキング”が決まっていた。

新しい『ヒーロー科』クラスを作って、担任をさせる余裕がなかったのだ。

力を持った彼らを導ける者が、いなかったのだ。

……その時だった。

 

「CHAOSだな」

 

審査室の扉を開けたのはボルサリーノを被った、もみあげがチャームポイントの男だった。

 

「何者だ!?」

 

プロヒーローの巣窟とも言える雄英高校に侵入者が出たかもしれない。その事実が彼らを焦らせた。

しかし、その焦りは目の前に出された教師免許と通行許可証で振り払われた。

 

「俺の名は、REBORN。そいつらの教師になるために来た男だ」

 

——————————————

———————

———

 

試験後は各自解散だった。

帰る前に少し学校の中を散策することにした。

試験が筆記と実技だけなら、受かるのは間違い無いだろう。

春からは、高校生だ。

一通り散策が終了したので手近にあったベンチに腰を下ろした。

吐く息はまだ白く、空模様も悪くなってきた……この分だと、雪が降りそうだな。

 

「ねえねえ君の個性、何で頭燃えてるの?不思議!」

 

目を閉じていたら、声をかけられた。

……目の前の少女は炎に触れるか触れないかの距離に手をかざしていた。

 

「あの……何か?」

 

俺が聞くと、彼女は姿勢を正し先ほどまでの笑顔もどこか不自然だ。

 

「私はね、波動ねじれ。……さっきの実技試験見てたんだ。すごいね、君は……」

 

その表情はとても悲しそうだった。

今になって気づいたが、彼女は雄英の生徒だった。

今生徒なら、俺が入った時には2年生か、3年生の先輩か……

 

「貴女も、ヒーロー科ですか?」

 

「……そうだね。確かに、私はヒーロー科の人間だよ……でもね、私はすごくないよ」

 

彼女には自信がないと言った方が良いかもしれない。

力にじゃない。

きっと、人間関係で何かあったんだ。

 

「……クラスの人にも嫌われてるし、インターンで失敗しちゃってね。……私ヒーロー失格かな?」

 

……不思議だ。

彼女にはきっと力がある。

それなのに嫌われているなんて……

 

「……失格になんか、させませんよ」

 

俺は彼女の前に立ち、その頬に手を触れる。

そして、両の頬を軽く引っ張る。

彼女は呆けた顔をした後、笑ってくれた。

 

「その方が……その笑顔の方が貴女には似合う。」

 

——それが彼女との出会いだった。

 




読んで頂きありがとうございます!
少し駆け足気味で書いていきますが、バトルシーン本当に苦手……
もっと上手く書きたい!
お気に入り登録、高評価はモチベーションアップにつながります。
感想やアンケートの方もよろしくお願いします!


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

標的.6

お待たせしました!
評価、感想、お気に入り登録してくださった方々、本当にありがとうございます!
……書きたい話は一杯あるのに、なかなか進まない……


彼女(ねじれ)と話していると隼人から連絡が入った。

全員集まったからそろそろ帰ろう、というものだった。

俺は彼女に帰ることを告げる。

彼女は少し寂しそうに、でも笑顔で「またね」と言ってくれた。

 

————————————————

————————

————

 

一週間後、雄英からの通知が来た。

封筒を開けると、そこには投影装置と合否通知書が入っていた。

投影されたのは雄英の校長、根津先生だった。

 

「やあっ!ボクは雄英高校校長の根津サっ!……唐突で悪いけど今回の試験、君は最も多くの仮想敵を倒し「敵ポイント」を手に入れた。しかし、我々が見ていたのはそれだけじゃあ無い。どれだけの人間を助けたか、審査式の加点「救助ポイント」。君は合計得点で我が校始まって以来の高得点を叩き出したのサっ!……正直なところ、ウチでなくても君はトップヒーローになれるし、君を導ける者が我が校にはいなかった。……しかし、だからこそ、君にはウチに来てほしい!他の生徒を導いてほしい!それだけの「個性」を君は持っている!……ここが、君の「ヒーローアカデミア」サっ!」

 

それだけ言うと、投影は終わった。

合否通知書には「特別合格」と、それに伴う説明が書かれていた。

他を導く者を一まとめにするために取られた特別措置。

例年、雄英高校ヒーロー科は推薦含め40人しか合格しない。

しかし、俺たちはその枠組みから外れた状態で入学する。

ヒーロー科特別教室『V組』。それが春から俺たちが使用するクラスの名前だった。

 

——最後に小さい文字で、「担任 REBORN」と書かれていた——

 

———————————————

 

その日の晩、俺はリボーンへ電話をした。

雄英高校に合格したこと。

イタリアに残してきた者への言葉。

そして、担任について……

 

「……リボーン、この担任なんだが」

 

「悪いツナ、急用が入っちまった。」

 

……それから何日か電話をしたが「忙しい」の一点張りだった。

 

そんなことをしているうちに、入学式が着実に迫って来ていた。

 

————————————————

————————

————

 

——あれから、丁度一年。

——元の世界に帰る手立てはないけれど、守らなければいけないものは変わらない。

ネクタイを締める手に力が入る。

——この世界にきた時には考えもしなかった。

靴紐を結び、荷物を持ってドアノブに手をかける。

 

「ツナ〜!」

 

ランボが後方から猛突進してきて体制を崩しかける。

 

「ほらほら、ランボちゃん。ツっ君が困ってるから放してあげて」

 

母さんがランボを引き剥がしてくれる。

イーピンも寝ぼけ眼を擦りながら歩いてきた。

 

「ツっ君も!黙って出て行こうとしないの!」

 

……怒られてしまった。

 

「ご、ごめん……母さん」

 

俺は頬を掻きながら謝った。

 

「……行ってらっしゃい、ツナ。制服、似合ってるわよ」

 

「ありがとう……行ってきます。ランボも、イーピンも良い子にしてろよ」

 

———————————————

 

——少し歩いたところで、隼人、武と合流した。

この三人で登校するのも、久しぶりだな……

たわいない話で盛り上がる。

それができることこそ、学生の特権だろう。

 

——もう少し歩いたところで、京子、ハル、凪、バジル、了平、スパナとも合流した。

女性陣はこれから始まる高校生活を楽しみにしているようだった。

特にハルは中学が別だったからか、同じ学校へ通えることに終始ウキウキしていた。

バジルも、イタリアではまともに学校に行ったことがないらしくソワソワしていた。

実力から言えば、彼だってヒーロー科には入れるだろう。

しかし、彼にはやってもらっていることがある。

それは『京子とハルの護衛』だ。

同じ雄英生と言えど、ヒーロー科と普通科は離れている。

科が違う以上、いつでも守れるわけじゃない。

「もしものとき」が起きてしまった時の保険だ。

 

——最後に合流……遭遇したのは恭弥だった。

その格好は、相変わらずの学ランだった。

雄英から制服はもらったらしいのだが、脅……話し合った結果「学ランでも可」ということになったらしい。

学校が始まるまでの間、この町のチンピラは全員漏れなく恭弥の餌食になったらしい。

早急に頑丈な訓練場を作らないと恭弥が暴れ出してしまいそうだ……

 

————————————————

————————

————

 

「なぁ、聞いたか?例の特別クラスの話」

 

「今年の一年だろ?入試で高得点叩き出した」

 

「そいつらの得点が高すぎて、『特別待遇』で新クラス増設だってさ」

 

「あぁ、ヤダヤダ。ヒーロー科ばっかり贔屓だよな」

 

「でもさ、入試の時にチラッと見たんだけど先頭のヤツ、エンデヴァーの個性そっくりだったんだよな!」

 

「そう言えば聞いたな。エンデヴァーの息子が入学してくるって……まさかソイツなのか?」

 

「No.2の息子が特別クラス……ヒーロー科がそんなに偉いのかよ」

 

学校中に今年度の大ニュースが走るのに、そう時間は掛からなかった。

もちろん、それが彼の耳に入るのにも……

 

———————————————

 

京子、ハル、バジル、スパナとは校舎に入ってから別れた。

俺たちも指示された教室へと向かう。

すれ違う生徒は皆一様に道を譲っていく。

入試の時は気にしなかったけど……あまり、いい気持ちはしないな……

リボーンが来るまで、俺は譲る側の人間だったから。

彼らはきっと怖いんだ。

力で及ばない相手に、目をつけられるのが。

 

「……凪、頼む」

 

「うん……わかった」

 

俺は凪に頼んで「死ぬ気の炎」を見えなくしてもらった。

……これで少しは緩和するだろう。

しばらくして、「1ーV」と書かれた教室が目に入った。

しかし、その扉の前には彼が立っていた。

 

「退いてくれ。そこは俺たちの教室だ」

 

一年前に起きた、「ヘドロ事件」の被害者。

 

爆豪 勝己。個性『爆破』

 

その個性故、受けているとは思っていたが……まさか受かっているとは。

 

「あ゛あ゛!テメェだろ!!入試1位っつーのは!!俺と戦えや!!!」

 

そう言うが早いか、彼は掌で爆破を起こしこちらに襲い掛かってきた。

咄嗟のことすぎて、俺も反応が遅れた。

しかし、その爆破が俺たちに届くことななかった。

 

「ご無事ですか、十代目?」

 

俺たちは隼人の「匣兵器」に守られていた。

それだけじゃない。

一瞬の隙を見て、駆け出した男が一人いた。

 

「君、面白いモノ持ってるね」

 

恭弥だ。

恭弥は仕込みトンファーで爆豪との交戦に出た。

爆豪も恭弥の攻撃を器用に避けていくが、そんな戦いも長くは続かない。

強い個性を持っただけの少年が勝てるほど、恭弥は甘くない。

地力が違いすぎるのだ。

しかし、このままでは噛み殺してしまう。

入学初日からそう言うのは勘弁してほしい。

 

「……初代(ファースト)・エディション」

 

突如として現れた氷に二人とも囚われてしまう。

俺はため息をつきながら二人の元に向かった。

 

「沢田綱吉……後で噛み殺す」

 

「お゛い!!邪魔するくらいなら俺と戦え!!!」

 

……劣勢だったのは間違いなく彼だ。

後もう少し遅ければ彼は倒されていた。

それが分からないほどに、彼は張り詰めていた。

少しでも恭弥と戦えたのだ。

俺たちが居なければ、入試1位は彼だっただろう。

それが蓋を開けてみれば全然違う順位だった。

 

——その事実が、彼を追い詰めた。——

 

思考しながら俺は恭弥の周りにあった氷から溶かし始める。

……正直、噛み殺されたくはないのだが……背に腹はかえられない。

俺は彼に向き直り、言った。

 

「お前……本当にヒーローになりたいのか?」

 

その言葉が彼に止めを刺した様だった。

怒りで体を震わせていた。

 

……戦意だけは消えた、か……

 

彼の周りの氷も溶かし、俺たちは教室へと入った。

 

——その後、廊下から叫び声が聞こえてきたのは言うまでもないだろう。




読んでいただきありがとうございました!
読み返してみて思った。
「本ッ当に牛歩!!」
それでも、感想、評価、お気に入りに登録してくださるとモチベーションになります。
感想は質問でも全然構いません。
むしろ設定の深掘りができてありがたいです!


目次 感想へのリンク しおりを挟む




評価する
※目安 0:10の真逆 5:普通 10:(このサイトで)これ以上素晴らしい作品とは出会えない。
※評価値0,10についてはそれぞれ11個以上は投票できません。
評価する前に
評価する際のガイドライン
に違反していないか確認して下さい。