ニートだった俺がヤクザの大幹部!? (セパさん)
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裏社会と麻雀

・本作品は公式ではありません。そのためキャラクターの性格等も誤っていることがあります。

・筆者は元雀荘の店員でしかないので反社との関わりが正確な情報かわかりません。

・以上をご注意の上お読みください。


「オーラスです。皆様頑張ってください♪」

 

 部屋にむせ返る狂乱と緊迫の雰囲気を無視するかのように、牌が現れた全自動卓から女性声の機械音が流れる。しかしその音に耳を傾けている者はこの場に居ないだろう。

 

 俺の名前は牧村ユタカ、広域暴力団今川組の若頭補佐だ。とはいえ元々暴力団になる気など全くなく、気ままにニートをしていたのだが家を追い出されうっかり……ってこれ小説だった!!いつもYoutubeの漫画動画だから同じノリで自己紹介しちゃった!

 

 とまぁ簡単に言えば訳が分からない内に反社会的勢力のお偉いさんになったおバカさんが俺であり、中々極道として生涯を全うする覚悟が決まらない虚ろな日々が続いている。そして今日俺がやっている事はと言うと……

 

「ツモ。門前自摸(つも)混一(ホンイツ)一通(イッツー)(はく)。親の跳満は6000オールです。」

 

「危なかった。リーチをかけられていれば逆転でした。」

 

「あ、あはは……。」

 

 対面(といめん)から卓上へ赤棒(10000点)を優しく差し伸べるのは口調に似合わぬ顔面に傷跡の走る筋骨隆々とした強面、他の脇に座る二人は互いの数合わせなので静かなものだ。

 

(最初はこんな大事になる予定じゃなかったのになぁ……。)

 

 俺はそんなことを思いながら青棒(1000点)4本を対面の強面に返し、再び親番開始の赤いボタンを押す。

 

 さて、裏社会と麻雀というテーマは麻雀雑誌やギャンブル漫画では手垢が付くほどありふれた話だが、昨今の暴力団がシマや利権を掛けて()ったり、目玉が飛び出るような大金を賭けて定期的に麻雀の盆を立てるなんてことは0ではないがほぼ無くなった。

 

 そもそも昭和の時代であってもテーブルゲームで重大な利権を賭けるなんて酔狂な真似が早々行われるはずもなく、それこそ【雀鬼】桜井〇一や【雀聖】阿〇田哲也なんていうのは物語の存在でしかない。

 

 それでも裏社会と麻雀の関係が疎遠になっていったのは確かだ。

 

 その理由は3つ。

 

 1つ、暴対法――暴力団員による不当な行為の防止等に関する法律――

 

 この法律によって暴力団は表立った賭場を開くことがとても難しくなった。雀荘の健全化に伴い、現在の雀荘では反社会的勢力を店に入れてはいけないという業界努力がなされている。そのため暴力団が麻雀をシノギ……稼ぎとする場合は何重ものセキュリティーを施した高レート雀荘が主となる。しかし昨今ではその需要も陰りが見えて久しい。

 

 その理由が2つ目、裏カジノやオンラインカジノの台頭だ。麻雀というのはまずルールを覚えなければならない上に、一回のプレイ時間が20~30分ほどかかる。その一方で、バカラやルーレットなどはルールを簡単に覚えられる上、1ゲームも数分で終わり回転率が高い。要するに費用対効果において、麻雀は割が悪すぎるのだ。

 

 

 3つ目、前述したように暴対法の影響で裏カジノとはその名の通り闇に紛れる裏の存在となった。皆様も摘発のニュースをネットやテレビでご覧になったことはあるだろう。摘発されれば当然店にあった物品は全て没収されるし、こちらも摘発を免れるため何度も事務所を転々としなければならない。その際、数十万もする麻雀の全自動卓か数万円もしない板とトランプ、どちらが優遇されるかはここに記すまでも無い。

 

 そんな理由でヤクザと麻雀というのは近〇麻雀の漫画の中でしかほとんど陽を浴びない存在となった。

 

 ……んで!なんで俺が今ここで説明したような前時代な麻雀を打っているかと言うと!!

 

「ユタカ、おめぇまだ包帯取れてねぇのか。そうだ、指先のリハビリなら麻雀なんてのはどうだ?ついでだからよぉ、痺れるような金賭けてみればいいかもな。治慢(じまん)組が違法賭博で儲けてんのは知ってんだろ?伊佐治に腕の立つ奴紹介させるから来週までに腕磨いとけ。」

 

 と大判代表という広域暴力団の頂点に立つ御方から断るに断れない提案をされたからだ。そもそも俺はゲームは好きだが、賭け事は好きじゃないのに……。いや、俺のシノギ、オンラインカジノと裏カジノですけれどね!

 

 そんな訳で1点100円、1000点10万円という一回の半荘で数百万……下手をすれば数千万が動く麻雀を打たされている。後ろでは大判代表が飄々と笑いながら、代打ちを用意した伊佐治組長は腕を組みながら緊張した面持ちで対局を眺めている。

 

「伊佐治、おめぇの目論見は外れたか?」

 

「思ったよりも牧村がいい打ち方してますね。逃げる時は徹底的に逃げて、ここぞと言うときは物怖じしない。牌効率だ好選牌だ言っても、博打の基本はこいつだ。あいつはそれが出来ています。」

 

 伊佐治組長、最初反対すると思ったけれど思ったよりノリノリだ。やっぱりヤクザなんだなぁ。相手もかなり本気だしあーもー!どうしよう!今のところトップを取れば差し馬合わせて±0?これで終わらせたいなぁ。

 

「リーチです。」

 

 対面ではない治慢(じまん)組側の御付きからリーチが入った。そっか、この局俺以外があがるか、対面の強面さん以外の誰かが振り込めば向こうの勝ちなんだ。負け額自体は痛くも痒くもないけれど、野口さんになんて言われるか。

 

「伊佐治。これはどう思う。」

 

「うちの勝ちですね。だって牧村の手は……」

 

 勝利条件が俺のあがりか対面さんの振込……。俺の手は……。ん?そっか、ゲームじゃできないけれどこんなこともできるんだ。

 

「リーチです。」

 

「7巡目で親からの追っかけですか。これは困りましたね。」

 

 対面の強面さんは散々に悩んでいるようだった。そして……

 

「……すみません。ロンです。満貫。」

 

 強面さんは自分の子分の手に振り込んだ。共通の安牌がないのだから誰も責められないだろう。まして親の俺に振り込んだなんてなれば最悪。トップ目からラスへの陥落まである。

 

「ゲーム終了ですね。」

 

「ええ、ありがとうございました。代表、手の痛みも強くなってきたのこの辺で御開きしてもいいでしょうか?」

 

「ああ……にしてもユタカ。おめぇ本当ヤクザに向いてるよ。」

 

 大判代表は俺の手。何一つ数字の揃っていないバラバラの手配を見てそう呟いた。




・怒られたら消します!!


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部屋住みの成長

・本作品は公式ではありません。そのためキャラクターの性格等も誤っていることがあります。

・筆者はミリタリーについて門外漢ですので、銃の知識で間違いがあればご意見ください。

・以上をご注意の上お読みください。


「カシラ、キャバクラで暴れてたバカですが戸山さんが(ナシ)つけてくれやした。戸山さんはこのまま遊んでタクシーで帰るそうです。んで対応した譲なんですが、かなり傷心しちまってるみたいで、俺がそのまま話聞きながら送っていこうと思うんですがいいですか?在日の子みたいで、中国語の話で少し盛り上がったんすよ。」

 

「ああ、好きにしろ。間違えても手ぇ出すんじゃねぇぞ。」

 

「当たり前っすよ。帰りに買ってくるものありますか?」

 

「今んとこは……ねぇな。ゆっくり話聞いてやれ。じゃあな。」

 

 今川組若頭野口は耳に当てていたスマホを外して通話終了ボタンを押し、そのまま閉眼して腕を組んだ。

 

「俺の人を見る目も曇ったか?……いや、牧村(あのバカ)の影響だな。」

 

 今さっき通話していたのは今川組の部屋住み、加地小次郎。カジの愛称で親しまれており、仕事着は白のジャージ姿。【チンピラ】という言葉が服を着て歩いているような外見をしており、部屋住み当初は内面も反グレ上がりそのもので、とても〝出来た人間〟とは言い難かった。

 

 そのため野口はカジに重要な仕事を割り振ることはなかったし、他の部屋住みには必要に応じて持たせている道具(けんじゅう)や大金の入った封筒を預ける信用も無かった。そもそも野口の考えだと、カジは部屋住み中に根を上げて辞めるか、組の金に手を付けて逃げたなら、それで脅し鉄砲玉要因にして服役してもらうくらいしか使い道は無いと思っていたのだが……

 

「……この前シマにいる中国人の反グレ集団(ガキども)とやった会合の議事録まとめたのもカジだったな。」

 

 極道の世界において議事録……5W1Hに則りどのような会話がなされたかまとめる仕事は、本来部屋住み(ごと)きが行える簡単な仕事ではない。裏家業の人間とは一言一句・一挙手一投足に難癖(アヤ)をつけて金にするのが仕事のようなものだ。

 

 そのため言質をとられないよう、後々トラブルとならないよう〝言った言わない〟をまとめる仕事にはかなり優秀な人材とそれなりの役職の人間が選ばれる。

 

 もちろん〝部屋住みが作りました〟なんてことそのものが相手を侮辱(ぶじょく)しているともとられかねないので、議事録の筆者は今川組若頭補佐牧村ユタカの名前になっている。

 

 しかし日本語で行われた会合だったが、向こうの中国語での密談やボイスレコーダーでさえ拾えない声までカジが記憶し文章に(したた)め、更には相手に文句を言わせなかったと意気揚々と自慢してきたのは牧村ユタカ本人だ。

 

 完全にこっちを舐め切っていた相手に一泡吹かせた事実に野口自身も爽快感を覚えそうになるが、牧村の術中にハマるようで(しゃく)なため、なんとか根性だけで心を落ち着かせる。

 

「そろそろあいつの評価を改めねぇといけねぇか。」

 

 野口がそんなことを考えていると事務所の電話にワンコールが鳴る。防犯カメラでカジが一人であることを確認し、そのまま開錠を見届けた。……もし電話が無かったり、他の誰かが映った場合防弾シャッターが閉まる仕掛けとなっている。

 

「カシラ!ただいま戻りました!」

 

「おう、女と遊んできたにしちゃ早すぎじゃねぇか?」

 

「勘弁してください、店の嬢に手は出しませんよ。俺が枯れてるようなこと言わないでください。」

 

「……お前、【床下】については知っているよな?」

 

「はい、【床下】……つーかぶっちゃけ〝武器庫〟件〝薬箱〟のことですよね。」

 

「カジにゃ教えてなかったが、暗証番号教えてやる。とはいえ全部じゃねぇ。見つかっても3年程度の懲役で済むものに限りだ。」

 

「あの若頭、サラっと怖いこと言うのやめてもらえます?」

 

「お前実際道具に触ったことはねぇよな。部屋住み仕事は山本に代わってもらう。一緒にこい。」

 

 

 ●

 

 

牧村(あのバカ)に最初持たせたのがコルト・ガバメントって言う……まぁ解りやすく言えば第一次世界大戦から100年以上使われていた素人でも扱いやすい銃なんだが、日本人の体格には反動が大きすぎるし、経口も大型で簡単に人がヤれちまう。だからお前にはもう少し小型のものを渡す。」

 

「アニキんなもんで人撃ったんすか……。」

 

「カジはヒロほど大柄じゃねぇし目的も護衛と護身だ。自動小銃くらいが丁度いいだろ。そこの丸太狙ってみろ。」

 

「はい!……あ、外れた。」

 

「結構難しいだろ?ゴ〇ゴ13の世界なんかじゃ1km先の眉間を撃ち抜くのが当たり前だが、動く的なら本職の軍人でも100mも距離がありゃじゃしくじる事が多い。そもそもオリンピックの射撃選手でさえ、300m先の的を外すこともあるんだからな。」

 

「……これを練習なしに成功させたアニキって凄いっすね。」

 

「まず引き金は引くんじゃねぇ、絞るように意識しろ。弾道がぶれる。あと咄嗟のときは狙いを定める時間は無駄だ、兎に角相手の何処かに当てる事だけ考えろ。」

 

「はい!」

 

「メンテナンスも怠るなよ?暴発した日には破門じゃ済まされないからな。」

 

 

 ●

 

 

「アニキ、ヒロと交代しました。メシはどうしますか?」

 

「ああ、上のコンビニで新作のポテチ買って食べたから大丈夫だよ。」

 

「そんな生活してたらまたヒロからあーだこーだ言われますよ。って……。」

 

「すん、すん。んん……?カジ、この辺で花火でもやってた?」

 

「あ~、そうっすね。事務所に爆竹投げたバカの世話したり本当今日は散々っしたよ。」

 

「そっか、お疲れさまだね。」

 

 牧村はそのままカジの肩に手を置いた。

 

「今度銀座でスーツ見に行こう?いい人知ってるんだ。ね?」

 

 カジは改めて、この人だけは敵に回してはいけないと心に誓った。



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三者三様の先生

・本作品は公式ではありません。そのためキャラクターの性格や設定等も誤っていることがあります。

・以上をご注意の上お読みください。


 広域暴力団今川組事務所。4階建てのビルで、玄関やシャッターは鋼の輝きを放つ2重構造となっており、ガラスは全て防弾仕様。監視カメラも設置されている。暴対法の厳しい昨今、代紋を掲げるような真似はしていないが、近隣住民の間ではヤクザの事務所であるということは暗黙の了解となっている。

 

 さて、その内部であるが……

 

「焦るな、焦るな……芯で打て!あああああ!なんでそこで振るんだよただのストレートじゃねーか!」

 

 TVの野球中継を見ながら酒をひっかけている古参組員が電話番として一人いる以外は閑散としている。若頭補佐牧村ユタカが上部組織に収める上納金の大半を担うようになってから、今川組は高齢組員の憩いの場にも似た雰囲気を醸し出している。

 

 そんな今川組の大看板牧村ユタカはというと、現在精神的な疲労から椅子の上でだらしなく姿勢を崩していた。というのも稼ぎ(シノギ)の一つであるオンラインカジノのメンテナンス終了の報告を受け安堵から脱力感に精神を侵されたため。その様子は暴力団事務所というよりもデスマを終えたアプリ開発会社の様相だ。

 

「いやぁ……ポーカー卓でダブルアップが成功しても金額に反映されないバグがあるって聞いた時は心臓が止まるかと思ったよ。とりあえずゲーム代の返還と1000ドル分のチップで解決出来たし、エゴサした限り炎上もしていないみたいでよかった。」

 

「やっぱりアニキがバグったゲームプレイした人全員に一斉送信じゃなく、丁寧に1通1通メール送ったのが大きかったんじゃないっすかね?本当はプレイしていないのに絡んでくる(やから)には毅然とした態度を取っていましたし。」

 

 そういって尊敬の眼を向けるのは、弟分の小塚カズキ。暴力団員というよりもホスト崩れといった印象を抱かせる風貌をしており、今川組(ぼうりょくだん)の名を隠したフロント企業入社から組員になったため、逮捕歴や補導歴もなく、天真爛漫を絵にかいたような人物である。

 

「やっぱりトラブル解決で一番重要なのは〝誠意〟だと思うんだよね。横田さんにも相談したかったけれど、時間も無かったし、兎に角炎上しなくて良かったよ。」

 

「流石アニキ!よ!大先生!」

 

「先生は恥ずかしいから止めてよぉ……。そう言えば話は全く変わるんだけれど、小塚もカジもヒロも俺のこと〝アニキ〟や〝牧村さん〟って呼ぶところを【先生】って言いかけて慌てて訂正したことあるよね?学校の先生を間違えて〝お母さん〟って呼んじゃうことならわかるけれど、あれなんで?」

 

「う~ん。ヒロ、カジ!ちょっときてー。」

 

「「 はい! 」」

 

 小塚が部屋住みであるヒロとカジを呼び、今牧村が抱いた疑問についてを説明する。口恥ずかしそうな面持ちで最初に口を開いたのは、如何にもチンピラと言った風貌のカジだ。

 

「あ~~。最近カルチャースクール行っている影響っすかね。あと元々オレがグレはじめたのが高校の時なんすけれど、補導されて鑑別所に送られると刑務官のこと先生っていうんですよ。そんで目上の人に先生って言う癖がついていた時期があって……。それが再発したのかもしれません。」

 

「あ~!わかるわかる。俺も5年刑務所にいたけれど、料理屋で思わず力強く手を上げて〝願います!〟って言っちゃうことあるもん!あと地べたに座るとき無意識に正座したり、五穀米とかみると刑務所の麦飯思い出したり、元々長風呂なのに髭剃りや入浴時間を気にしちゃったり!」

 

「お、オレはアニキほど重症じゃないっすね……。ヒロ、お前はどうだ?」

 

 カジは一見すれば精悍な顔立ちをした長身の好青年、同じく部屋住みをしているヒロに話を振る。

 

「俺の場合、児童養護施設に居た頃の癖……ですかね。極道の世界じゃ名前の言い間違えなんて詫びじゃすまされない大事なのはわかっているんですが、牧村さんを前にすると不意に……。あああ!こんなんじゃ子分失格ですよね!牧村さん!本当にそんなつもりはないんです!」

 

「わかってるよ。むしろ俺に家族のような感情を抱いてくれていたってことでしょ?悪気がある訳じゃないんだから自分を責めないこと。」

 

「……はい。」

 

「となると小塚だけ謎だよね。普通の家庭で育って、補導や逮捕歴も無いんだから。」

 

「あ~。俺も解らないっすね。何ででしょう?」

 

 そう言って小塚は小首を傾げた。

 

 

 ●

 

 

 場所は雑居ビルに居を構える【槙野金融事務所】。金融事務所と言っても正式な認可を取っている訳ではない。俗に言う【闇金】である。そこには如何にも裏家業の人間といった強面と髪色を青に染め、奇抜な衣装に身を包んだ美女が一人。

 

「おう先生、入金確認しといたぞ。また金が要るなら少しこっちも負けてやる。ああ、またな。」

 

「社長。今の方、お医者様か弁護士さんですか?」

 

「いいや、柔道整復師だ。競馬にハマって一回自己破産したんだが、懲りずにうちに金を借りに来てる。こっちは診療報酬の不正請求の証拠を握っているからどんな手段使っても返済してくれる、典型的なカモだ。」

 

「なるほどなるほど……。」

 

「んだよ、何か言いたげだな。」

 

「いいえ。社長って医療従事者の方に【先生】って言葉よく使いますよね。普通整体師や看護師さんにまで先生呼びはしないですよ。」

 

「チッ……。よくみてやがるな。俺は子供の頃入院して院内学級に通ってたからな。その癖が抜けねぇんだ。恐らくだけれど、小塚もよ。」

 

 




・筆者は懲役になったことはありませんが、慢性中耳炎で院内学級に通っていたことはありました。


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野口の甘い夢

・本作品は公式ではありません。そのためキャラクターの性格等も誤っていることがあります。

・和菓子って時折食べたくなりますよね。

・以上をご注意の上お読みください。


 【ヤクザだけどクッキーを焼いたよ!】

 

 というスレッドが匿名掲示板に立ち話題となったことがある。ヤクザというダークな響きと、クッキーと言うメルヘンな単語が相反し〝面白い1行〟なんてもてはやされて書籍化の表紙まで飾った。

 

 しかし俺から言わせれば〝いや、ヤクザだってクッキーくらい焼くよ〟が正直な感想だった。そもそも暴力団構成員……特に長期の服役(つとめ)をしてきたヤツなんてのは甘党が多い。いや、甘党に〝させられる〟と言った方が正確かもしれねぇな。

 

 何しろ刑務所のメシってのは頭の固い栄養士あたりが考えてんだろう、薄味で量も少ない。もちろん3時のおやつなんて出てくる訳もねぇし、厨房で刑務作業していた奴の話を聞くに砂糖の入った瓶は金庫に仕舞われているなんていうくらい厳重に管理され分量が徹底されている。

 

 例外的にお正月に袋菓子やお汁粉が出たり、慰労の会でジュースが振舞われたりするがそんなもん年に数回だ。そんな生活を5年、10年と続けてみろ。シャバに戻った頃には一級品の甘党の出来上がりさ。

 

 ああ、申し遅れたな。俺は今川組組長代行若頭、野口剛。

 

 たったいま水洗いして2度アク抜きし鍋に入れておいた小豆(あずき)を煮込み始めたはいいものの、〝お汁粉は流石に季節外れだよなぁ〟と悩んでいる40台の極道だ。腹が出て中年太りが気になる昨今、甘いものは控えてたんだが、どうしても食いてぇ時ってのは誰でもあるだろ?

 

「……となると冷やしぜんざいか。白玉粉はまだ残ってたな、抹茶でも混ぜてみるか?」

 

 片手間で抹茶入りの団子を作り、小豆が煮えてきたあたりで砂糖と隠し味に塩を少々。塩を入れる事で味が絞まる。砂糖の量は小豆の重さに対して2/3ってのが定番だが、今みてぇに甘味をガツンと食いたい時は小豆の風味が消えない程度に重さと同量くらい入れちまう。

 

「アイスクリームを乗せるのもいいな。色合い的に……バニラか?」

 

 動画に投稿するわけでもねぇ、別に【映え】なんざ気にしないが、抹茶団子を作った上に抹茶アイスっていうのも(おもむき)がねぇ。意外とストロベリーみたいな果物なんていうのも合わせると旨いんだが、あまりごちゃごちゃとトッピングを乗せたくねぇ。ラーメン屋でトッピングを全部乗せて訳の解らん料理にしたバカと同じになったようで気分が悪い。

 

 小豆が煮えたあたりで粗熱をとって、冷蔵庫で1時間くらい冷やす。氷で一気に冷やす方法もあるらしいが、面倒なので割愛だ。

 

 そうそう、話は変わるが世界三大美女の一人楊貴妃(ようきひ)はデザートに冷やしたライチを食うのが好きだったらしく、冷やすための氷を求めるために配下を洞窟や山頂に探しに行かせ間接的に何百人も殺したんだとさ。

 

 甘いものってのはそれほど魔力があるもんだ。

 

「うんうん。こんなもんか。」

 

 盛り付けを終え、出来栄えに満足を覚える。少し汁気を抑え、しっかりとした粒をのこしたぜんざい。単体では味がしないが、上に乗せたアイスクリームや豆の柔らかな汁を吸って味をつけた抹茶色の団子がしっかりと存在感を放っている。

 

「よし、食うか。」

 

 匙で紫に輝く粒を掬ってまずは一口。洋菓子とは違う豆独特の甘さが口いっぱいに広がって思わずため息が出そうになる。そして次に抹茶団子、こいつを最初はぜんざいと共に咀嚼(そしゃく)すると、弾力が跳ね返ってきて噛みしめるほどに甘みを増す。

 

 そしてアイスクリーム。こいつをぜんざいと合わせて団子を食うとまた別の顔を見せやがる。和洋折衷ってのはこんな簡単に出来るもんだ。二つの別の甘みが団子の中で調和され、素晴らしい味となる。

 

 ……なんて間も無く食い終わるって頃に頭脳がしてきやがった。おそらくアイスクリーム頭痛じゃねぇだろうな。俺の感が正しければ―――

 

「カシラ、牧村さんをお連れしました。」

 

「おはようございます。野口さん。」

 

 悪い感ほど外れて欲しいと思うのに当たるもんだ。

 

「ユタカ!手前(てめぇ)結果出すなって何回言わせんだ!」

 

「ひぃ!」

 

 こうして俺の甘くない一日が始まろうとしていた。



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アルカポネは難しい

「ただいま戻りました~~!」

 

 元気溌剌といった様相で大きなコンビニ袋を両手に抱えて事務所へ戻ってきたのは、広域暴力団今川組の構成員、小塚カズキ。とはいえ格好のカジュアルさや天性の明るさからか、暴力団員というよりも水商売に従事する人物といった印象を抱かせる。

 

「小塚さん!買い物があるならオレらに頼みゃよかったじゃねぇっすか!?〝先輩を顎で使うとは何様だ〟ってオレらが殴られちまいますよ。」

 

「そうです。ここは牧村さんの家じゃないんですから。」

 

「大丈夫、大丈夫。今日事務所に詰めている人少ないし、野口さんはそんなことで怒らないし。」

 

 部屋住みであるヒロとカジは小塚の行動に慌ててしまう。パシリなんていうのは最下層の自分たちがするべき仕事で、間違えても正式な構成員に行わせるものではない。とはいえ小塚、カジ、そしてもう一人の部屋住みヒロは牧村ユタカの弟分・子分(仮)という関係性から他の組員と異なる友誼を結んでいる。

 

 そのため、上下関係というものをそこまで気にしないが、流石に事務所の中でその仲を大っぴらにしてしまうのはよろしくない。

 

「ああ、ヒロもカジも気にしなくていいよ。小塚に買い物頼んだの俺だから。二人とも忙しそうだったからさ。」

 

「忙しいと言っても荷物運んでいただけっすよ。言ってくれればいくらでも……。」

 

「まぁ牧村さんが言ったとなれば野口さん以外誰も文句はいいませんが……。」

 

 今川組若頭補佐牧村ユタカはオンラインカジノの月締め報告書類から目を離さずに小塚へ助け舟を出す。とはいえやはり部屋住みふたりのもやもやが晴れることはない。

 

 そもそも小塚は正式な組員であり部屋住みの二人からすれば大先輩にあたるのだが、本人の気質がフリーダムかつパシリ気質なため、気兼ねなく話せる一方、〝組織の先輩・後輩としては如何なものか?〟というのが頭痛の種だ。

 

「とりあえず適当に飲み物を何本かと、牧村さんにアイスの新作と、そうだカジとヒロにはヤク〇ト1000珍しく残ってたから買ってきたよ!あと野口さんの煙草をカートン3つ……。そういえばヒロとカジってタバコ吸わないんだね。カジなんてバシバシ吸ってそうな見た目してんのに。」

 

「オレぁ昔吸ってたんすけど、一箱500円超えたあたりから禁煙しましたね。流石に金がキビィっす。」

 

「自分は元々吸ってないですね。身体に悪いじゃないですか、息切れしやすくなりますし、闇討ちのとき匂いで相手に(さと)られるのも嫌なんで。」

 

「ヒロの理由怖い!?ん~タバコかぁ。漫画のキャラが吸っているの見るとカッコいいとは思うけれど、自分で吸いたいとは思わないかなぁ。」

 

「俺もアニ……牧村さんと同じかなぁ。よくあんな煙の塊吸うよって内心思ってる。てかカジも言ってましたけれど、何でタバコってこんなに値上がり繰り返しているんですかね?」

 

「ああ……。まずタバコは種類にもよるけれど原価は一箱20本で50円くらいなんだ。そこに輸送費や人件費を乗せても商品価格で言うと130円って言われてる。」

 

「え?今大体一箱560円ですよね?残りの430円はどこからでてきたんですか!?」

 

「全部税金だよ。だから1本換算が30円弱として、23円が税金。ほとんど税金の塊を吸っているようなものなんだ。実際2021年のたばこ税収は加熱式・紙巻き式合わせて2兆円になっている。依存性があるからどんなに値上がりしても買う人は買うし、ヒロの言ったように有害なものって認識が高いから声を大にして反対意見を述べる人も少ない。国からすればいい財源なんだ。実際コロナ禍で酒税は減少に転じたけれど、タバコ税は2兆円台をキープしている。」

 

「そう考えるとなんだか癪っすね。」

 

「てか牧村さんはなんでそんなに詳しいんですか?」

 

「実は紙巻タバコ・加熱式タバコの他に葉巻タバコっていうものがあるんだ。葉巻って言っても大富豪がマッチで火をつけて燻らせるものじゃなくて、文字通り〝タバコの葉っぱで巻いて作りました〟ってタバコのこと。リトルシガーなんて言われているね。これだけは税制が異なっていてかなり安く手に入ったんだよ。他の煙草が500円の時代に240円くらいかな?それで色々調べてたんだけれど……」

 

 牧村はオンラインカジノの報告書を読み終え、小塚の買ってきた棒アイスの袋を開ける。

 

「……2020年の法改正でリトルシガーにもしっかり課税がかかるようになっちゃった。それで〝これは脱法のシノギにするのは難しいな〟と思って調べるのを止めた感じかな。」

 

「アニキ……相変わらずシノギの嗅覚ヤバイっすね。」

 

「やっぱり禁酒法時代のアルカポネみたいにはいかないよねぇ。まぁあれはガッツリ違法だしさ。国も2兆円規模の税収を維持したいから無茶な値上げはしないだろうし。つけ入る隙は無いよ。国も中々(したた)かだなぁ。」

 

 そんな話をしていると事務所に頭を剃り上げた強面が入ってくる。今川組組長代行若頭、野口剛だ。全員が直立不動で立上がり一礼する

 

「「「「「  おはようございます!  」」」」」 

 

「おう。……ああ、小塚タバコ買ってきてくれてたのか、丁度数本しか残ってなくてコンビニ寄ろうか迷っていたところだ。」

 

 野口はそう言ってタバコのビニールを開けて、ジッポライターで火をつけ煙を楽しむ。だが違和感を覚え牧村たちのいるデスクを見ると……

 

「なんだてめぇらその目は?タバコ吸っているだけがそんなにおかしいかよ!?」



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とあるbarの一卓で

・本作品は公式ではありません。そのためキャラクターの性格等も誤っていることがあります。



 赤いスーツを着込んだマスター兼マジシャンを中心とした瀟洒(しょうしゃ)な半円状の卓に3人の男が座っていた。カジはカクテルを、牧村はノンアルコールカクテルを、全員酔うと危険なため、ヒロはジュースを注文し、目の前で繰り広げられる奇術の数々に目を光らせていた。

 

「牧村様はトランプで好きなカードは御座いますか?」

 

「えー。考えたこともないなぁ、じゃあハートの……9?」

 

 赤スーツの男は予測していたかのように左手に持っていたトランプの束の一番上を裏返す。示されたカードはハートの9。牧村は目を見開いて軽く拍手を贈る。

 

「うわ!適当に言っただけなのに凄いなぁ!」

 

「では牧村様、このカードにサインを頂戴してもよろしいですか?」

 

「あ、はい。字が汚いから恥ずかしいけれど……。」

 

「ありがとうございます。……牧村様はこれまでトランプにサインをされた事は御座いますか?」

 

「流石に無いですね。あはは。」

 

「でしたらこのカードは世界で1枚しかないカードという事ですね?ではこのカードを……」

 

 そう言って赤スーツの男は牧村のサインが入ったトランプに火をつけ一瞬で消し去った。

 

「テメェ!牧村さんの名前に何を!」

 

 渡世では【名前】のついたもの、名刺や署名は大きな意味を持つ。名前を間違えるとは本人を侮辱したも同然、名刺破りなぞしようものならば相手の存在や肩書を冒涜(ぼうとく)していると、抗争になってもおかしくない。なのでヒロの反応は極道の世界に身を置く者として間違ってはいないのだが……。

 

「はーいヒロ!ストップ!こういうものだから。」

 

 牧村は激昂するヒロを笑顔で抑え込む。たかだかトランプの署名ひとつで難癖付けていたらマジックなど楽しめないだろう。赤スーツの男は一瞬怯えた様子を見せたが、すぐに瀟洒な態度へと変貌する。流石、中々に肝の太い男だと牧村含め周りも感心した。

 

「さて、いま消えたカードですが、指を鳴らすと……」

 

 赤スーツの男がフィンガースナップをすると、左手に持っていたカードの束が一瞬で一枚のカードになる。そこあったのは先ほど燃やしたはずの牧村のサイン入りトランプだ。

 

「おおーー!」

 

 牧村は拍手をしながら賛美の言葉を贈る。

 

「いやぁ、新しくマジックバーがオープンしたって言うから来てみたけれど、中々面白いね。他のスタッフさんのところも凄く盛り上がってる。」

 

「ええ、いい仲間に恵まれ、良い店が出来たと自負しております。」

 

「本職の人の前でやるのも恥ずかしいけれど……。僕もマジックをしてみていいですか?」

 

 マジックバーにやってくる客の中には駆け出しのマジシャンも多い、どんな稚拙な手品だろうとリップサービスするのも店員の仕事だ。赤スーツの男は笑顔を浮かべて快諾する。

 

「ではトランプを準備して、僕ら3人に配ってください。」

 

 言われた通り無造作にシャッフルし、卓の3人へ配る。

 

「当ててみますね。僕にはスペードのクイーン、カジにはクラブの8、ヒロには……ダイヤのAかな?」

 

 3人が同時に目の前に置かれたカードを開く。そこには牧村が予言した通りのカードが置かれていた。

 

「え!?アニキ……じゃない牧村さん!?これって!?」

 

「いや、とても手品なんて言えない簡単なカラクリですよ。実はこのスーツの袖には超小型のカメラを仕込んでおりまして、カードを配るとき連動させていたスマホで映像を見ただけなんです。タネを知ればなんてことないでしょ?」

 

 牧村はそのまま笑顔を絶やさずに話を続ける。

 

「僕はまだ未熟だから実際の画像を見ないとわかりませんけれど、熟練のイカサマ師だと小さなサイン……それこそハンドサインや機材のバイブレーションで通し(イカサマ)を行えるみたいですね。オンラインカジノではこんなこと出来ませんが、実際のディーラーが居る裏カジノだと結構有効な手なんですよ。何しろバカラやポーカーでの被害額が一軒平均500万、総額4000万に上るほどですから。まぁその場で証拠を掴めない限り本来は泣き寝入りなのですが……」

 

 少し喉を潤すように、ノンアルコールカクテルを口に入れ、震える男へ一気呵成に畳みかける。

 

「……事業計画書を基に銀行から融資を受けて店を構えたとなれば話は別ですかね。〝素敵なお仲間〟様と共に裏カジノへ出入りしている映像や、反社会的勢力とのつながりが露見されれば昨今コンプライアンスの厳しい銀行がどのような対応に出るか……お分かりですよね? ああ、恐喝として通報していただいても構いませんが、その場合銀行融資は凍結されるでしょうし、御存じないかもしれませんが、あなた方は河岸を変えすぎて、日本の暴力団のみならず海外マフィアまで敵に回し、【処分者】と認定されております。ですので、バレてしまえばどうなるのでしょうねぇ……。わたしなら想像もしたくないです。」

 

「まぁマジシャンだから?脱出マジックの一つや二つ習得してんでしょうし、ドラム缶に詰められても何とかするんじゃねぇっすか?」

 

「あはは、かもね。兎に角現状、この事実を知るのは我々だけです。わたしたちのカジノは他の店よりも監視カメラを多数設置しておりまして、顔の特徴をアプリに認識させSNSでサーチさせたところ、この離れた県で店を構えたあなた方が見つかった訳です。流石にもう数年も昔の話だと油断しておりましたでしょう?世の中何があるかわかりませんね。ああ、マスター……。」

 

「は、はい!」

 

 既に顔面は蒼白、脳内は暗澹たる未来に染められ、顔は絶望に滲んでいる。

 

「込み入った話になりそうなので、ノンアルコールカクテルをもう一杯。」

 

 それでも目の前で笑う男はどこまでも(ほが)らかで、得体の知れない気味の悪さに卒倒しそうになっていた。



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悪魔と救世主

・今回は特にキャラ崩壊が激しいかもしれません。

・裏世界ラボの最新話みたら書いてみたくなりました。


「おいテメェ!牧村さんがしゃべってるのにスマホいじってんじゃねぇ!」

 

「いいよ、ヒロ。あまりビックリさせないで。君も全然リラックスしていて良いからね。」

 

 場所はとあるカラオケボックス、今川組若頭補佐牧村ユタカは、未だ顔つきに幼さの残る髪を雑に染めた少女を相手に柔和な顔つきを崩さず対応していた。

 

「てかさぁ、雑誌の取材ってきいたけど、何の話聞きたい訳?そっち系の撮影?どっちにしろ早くしてくんね?マジダルイんだけど。」

 

 少女は傲岸不遜な態度を崩さず、スマホに目を向けたまま怒気を孕んだ声で応対する。御付きとして来ているヒロは怒髪天だが、牧村は飄逸(ひょういつ)とした態度を崩さない。

 

 ……目の前にいる女性は【パパ活】とも【神待ち】とも、一昔前ならば【援助交際】と言われる方法で金を稼いで生きている俗に言う〝家出少女〟であり、若き人生を安値で売っている代償か、はたまた将来を考える能力の能動的欠落からか、非常に厭世的(えんせいてき)かつ自暴自棄だ。とはいえ、そんな人間は特別珍しい存在ではない。

 

 事実日本において年間8万人もの行方不明者届が提出されるうち、10~20代の若者が占める割合は3万人以上で、10代は1万6千人を超え、その大半は犯罪被害者、又は犯罪加害者という形で発見される。裏社会を幽歩する悲惨な若者など今のご時世掃いて捨てるほどいる。

 

 ただ、事の発端は中々珍しいかもしれない。後ろめたい事情がある男を相手にしている彼女のような人間は、無防備になった(えもの)から金品や個人情報を盗むのも仕事の内だ。そこから〝トモダチ〟と組んで美人局(つつもたせ)をさせればそこそこ良い金にもなるし、社会的地位の高い人間ならしばらく遊んで暮らせる。

 

 問題はその被害者となったのが暴力団構成員だったということである。この少女は男がシャワーを浴びている間になれた手つきで大金の入った財布を物色。そのほとんどに手を付けて逃げてしまったのだ。

 

 当然組員の男は大激怒、しかし〝パパ活で金を盗まれました〟なんて間抜けな話を(おおやけ)に出来るはずもなく、下手に追い込めば後ろに手が回る。構成員としてロ〇コンの烙印を押され刑務所に入るなどこれ以上の恥は無い、下手を打てば破門ものだ。

 

 かと言って見過ごすというのも沽券に関わる。そんな二重拘束(ダブルバインド)に苦しんでいる組員に救いの手を差し伸べたのが牧村。条件は〝お互いの組長――今川組の場合野口さん――に内緒〟という被害に遭った組員からすれば願ったり叶ったりという内容だ。

 

「にしてもさぁおじさん何者?トモダチのSNSまで探ってわたしに連絡つけるとか……あんた本当に記者?」

 

「そうですね、ではそろそろ茶番も終わりにしましょうか。まずわたしは記者ではありません。あなたは〇月〇日22時ごろ、ある男性から17万8000円を窃盗しました。その相手が何者であるか、貴女は知っていたはずです。ならばこの未来は予測していたもの……と我々は判断します。」

 

 少女の顔が強張り、初めてスマホを弄る手が止まり、目線が牧村へ向く。表情こそ笑顔だがその瞳には一切の感情が無く、一瞬で人が変わったかのようだ。少女はここにきて初めて怯えの感情が芽生える。

 

「〝女性を売り物にした回収〟を行う予定はありません。確かに我々は反社会的行為を躊躇(ちゅうちょ)することはありませんが、今回の目的は金銭の回収ではないからです。次にわたしから親元に連絡することも無いです。君の親は両親とも公務員であり大変裕福で被害金額を請求する事は簡単ですが、通報のリスクが高く、リスクとリターンが釣り合わないと判断しました。」

 

 少女は震える指でスマホをダイヤル画面に切り替える。自分も痛い目を見るだろうがなりふりなど構っていられない。1……1……0と指をすべらせていく。しかし……

 

「はい没収。人の話聞くときはスマホを弄んなって学校で教わらなかったか?ああ、学校行ってねぇんだっけ?じゃあ良い勉強になったな。」

 

 後ろに控えていたカジがそのまま少女の手からスマホを取り上げる。少女は錯乱状態となり、そのまま悲鳴混じりの大声をあげるが……。

 

「牧村さん、少し黙らせましょうか?」

 

「いいよ、俺そういう場面見たくないし、この店は防音がしっかりしているからね。落ち着くまでゆっくり待っていようか。」

 

「ですが女性の悲鳴は響きやすいですからね。通報されても面倒ですし。」

 

 御付きの青年がズッシリと重い金属の塊を懐から取り出す。少女がそれを拳銃と認識するのには数秒かかり、あまりの恐怖で脳内のキャパシティーが限界を迎えそのまま無言となる。

 

「ヒロだめ!仕舞って!」

 

「はい!失礼しました。」

 

「ごめんねビックリさせて。落ち着いて話せる状態になったら言ってね?」

 

 少女はただ無言のまま赤べこのようにコクコクと頷いた。

 

「じゃあ、この念書を書いて欲しいんだ。300万円の借用書と住所に電話番号。君の実家には固定電話があるよね?その番号も。」

 

 そのまま恐怖に駆られ、用意された念書の空欄を埋めていく。脳内の整理はついていないが、〝このままではタダでは済まない〟ことだけはありありと理解したが故の行動だ。

 

「お忙しいところ恐れ入ります、〇〇様は御在宅でしょうか?……ご不在。かしこまりました。では改めてご連絡させていただきます。うん、実家の番号も間違いないみたい。さて、この金額を10日以内に収めてください。待ち合わせ場所は……××の近くにパチンコ屋さんがあるのは知っているかな?その裏の駐車場でいい?あそこは深夜になると監視カメラが切れるんだ。言っている意味……分かるよね?カジ、スマホ返してあげて。」

 

 少女はスマホを受け取ると一目散にカラオケボックスから飛び出した。お金を用意しなければならない。警察には行けない。殺される。

 

 まずはトモダチに相談をした。美人局なりなんなりを手伝ってもらって金にしようと目論んだのだ。しかし〝牧村ユタカ〟の名前を聞いた途端、手の平を返したように誰彼々も少女から距離を置いた。あまりにもしつこく連絡をしすぎたためだろう。彼女のメッセージが【既読】となることが段々と少なくなり、やがて0になった。

 

 次に消費者金融を回った。しかし定職に就かない彼女へ昨今貸し渋りの激しい業界が金を貸すはずもなく、手に出来たのは5万円を3件。15万円だけだった。

 

 身体を売るしかない。そう考え多くの【パパ】が集まる場所で待機もした。だが今まで美人局といった悪事や窃盗をし過ぎた性だろうか、誰も自分に声を掛けてくれる人などいない。

 

 少女は慟哭(どうこく)した。深夜の人だかりで、人目を憚らず。しかしその姿に目を向ける者も、耳を傾ける者もいない。周りはまるで定刻に時計が鳴った程度の反応だ。そこに……

 

「どうしました?大丈夫ですか?」

 

 目の前にいたのは、髪の色を青く染め奇抜な衣装に身を包んだ女性だった。その瞬間涙腺の堤防が決壊し、回らない舌で事情の全てを説明した。

 

「なんだ姉ちゃん、金がいるのか?」

 

 そこには眼鏡をかけた強面の男が佇んでいる。

 

「詳しく話を聞かせてくれよ。事情によっちゃ貸してやる。」

 

 

 ●

 

 

 今川組事務所。そこで牧村は送られてきたメッセージを見て安堵の溜息をついた。

 

「あの子、上手く槙野君と接触できたって!GPSと監視付けていたとはいえ、変な事にならなくて本当よかった~。」

 

「牧村さん……。今回危ない橋渡り過ぎじゃないですか?通報されていれば実刑コースですし、何より今川組の話じゃないんです。牧村さんが出張らなくても決着のついた話じゃないですか。」

 

「だってその場合あの子×××漬けにされるとか、×××で××な客の相手されるとか、下手すれば××に送られて日本から居なくなるとかそんな話でしょ?俺そういう話聞くの嫌なんだよ。あの子だってここまですればもう裏社会に関わろうなんて二度と思わないだろうし、元々ネグレクトやDVが原因の家出じゃないみたいだからね。真っ当な生活に戻ってくれればいいんだけれど……。まぁそれは彼女の決める事だね。俺に出来るのはここまで。」

 

「向こうもアニキが〝こっちで処理しました〟って言えば深堀はしないでしょうし、勝手に妄想膨らませてくれるたぁ思いますけれど、受け取った金はどうするんすか?」

 

「とりあえずお金盗られた組員さんには30万渡して、あとは槙野君へ戻すかな。それとは別に手間賃も渡さないと。」

 

「結局あの野郎の300万が牧村さんに来て手元に戻るだけじゃねぇっすか、リスク背負って損しただけって人が良すぎます。」

 

「そんなことないよ。あの子、自分を買った客の社員証や身分証明書を携帯の画像で撮っていたみたい。カジにスマホ奪ってもらっていた時コピー頼んだじゃない?それが結構な量だったんだ。凄いよね~●●社の地域包括マネージャーって言えばネットで顔が出てくるよ。そんな人でもこんなことするんだなぁ。」

 

「……その情報、どうすんすか?」

 

 牧村のことだ、単純に恐喝といった外道な真似はしないだろう。それでも薄ら寒い感情を覚え、カジは牧村に問うた。

 

「今のうちに●●社の株でも空売りしておこうか。あとは……おいおい考えよう。」

 

 笑顔で話す牧村に、ヒロとカジは同時に背筋へ寒気を覚えそのまま唾を呑み込んだ。



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牧村ユカ奮闘記

・裏世界ラボ別館様より【性別が逆転した話】の二次創作です。リンク下記

【https://www.youtube.com/watch?v=Mfg5TCDwqp0】

・タグにはついていませんがTSものです。苦手な方はバックしてください。


 皆さまこんにちわ。俺の名前は牧村ユタカ……改め牧村ユカです。

 

 現在別館のぶっ飛んだ世界線に呑み込まれ所謂(いわゆる)【女体化】をしております。いや、広域暴力団員のアラサーがTSって誰得!?もう一体何日この姿でいるのか数える気にもなりません。

 

 

「林田さんの選んでくれた服でクローゼットが一杯だよ……。折角のスーツや私服がどんどんタンスの肥やしになっていく……。」

 

 とはいえ体格まで変わった俺が今までの服を無理に着る訳にもいかないよねぇ。常時萌え袖ってどこのアニメキャラだよって話。

 

 アニメといえば、今まではスーツの胴回りを広くして銃器(どうぐ)を隠し持っていたけれど、レッグホルスター装着して太ももの銃器をスカートで隠すのって何だか格好いいよね。あ!やってみたくなってきた!

 

「ねぇカジ!今川工房のネット通販からレッグホルスターを注文してくれない?」

 

「アニキ、どっかカチコミですか!?」

 

「違うよ、流石にこの格好じゃ何処に道具を隠しても不自然だから、対策を考えただけ。」

 

 

 後日

 

 

「うわぁ思った以上の出来だ!スカートの色には注意しないといけないけれど、これならバレる事もなさそうだね。どうかな?」

 

「あの……はい、すげぇ似合っていると思います。」

 

「……………。」

 

「ちょ、ヒロ!何で倒れてるの!?ちょっと!誰か助けて!」

 

「あ~、牧村さん。その恰好とポーズ、刺さる人には刺さると思うんすよ。何気ないOL風の清楚系美女が自分からスカートめくりあげて、綺麗な太ももをあらわにしたと思ったら、そこに銃器を隠し持っているって。」

 

「ええ!傍から見るとそんなアレな映像になってたの!?」

 

「やっぱアニキは無防備すぎるんすよねぇ。キャパ超えしたヒロはこっちで何とかしておくんで、仕事に入っていてください。」

 

「あ~、うん。今日はうちのマンションに槙野君が来るから、申し訳ない話だけれどヒロが倒れたのは丁度良かったかも……。」

 

「でも今は槙野もあの有様っすからねー。誰か付いていきます?」

 

「ううん。マンション内のBarで合うだけだから危険は無いよ。ありがとう。」

 

 ~~♪

 

「おっと噂をすればだね。じゃあ、ヒロの介抱よろしく。」

 

 ドアを開けると目の前には男性であれば目を奪われるであろう豊かな胸が特徴的な、眼鏡をかけたやや大柄な女性。俺と同じ世界線に吞み込まれた被害者である槙野君が立っていた。Tシャツにジーパン姿という見た目とアンバランスな恰好をしているが、その美貌に陰りは見えない。……林田さんの気持ちが解ってしまう。なんて失礼な考えさえ過る。

 

「槙野君、毎回呼び出してごめんね。しかも今回はこんな夜遅くに。」

 

「いいえ、全然構いません。むしろ今の状況だと林田から逃げられるだけこっちに来た方が安全っす。」

 

「じゃあ事前に連絡した通りなんだけれど、お金の返済以外でちょっと相談事があるから上に行こうか。」

 

「はい、わかりました。」

 

 

「……なるほど。海外勢を本格的に取り込むプロジェクトですか。確かに牧村さんの出会い系アプリやインカジは独自性も高く、悪質な真似をしていないので以前からコアな海外ユーザーはおりましたね。」

 

「そう。でもリスクもまた計り知れない。勝算がないわけではないけれど、このご時世アナリティクスの表示ひとつ、国名の記載ひとつで大炎上するからさ。」

 

「八方美人も蝙蝠(コウモリ)も嫌われる国際情勢ですからね。Go〇gle傘下のように〝母国のスタンスを取る〟という真似も難しいでしょうし、何より牧村さんの運営会社は特殊で規模も違いますので……」

 

 槙野君はやはり頭が回る。自分の中で漠然としたアイデアでしかなかったものがどんどんと形となって現実味を帯びていく。そんな真面目な話をしている時だった……

 

「初めましてお嬢様方、一杯ご一緒に如何ですか?」

 

 急に現れたのは瀟洒(しょうしゃ)なスーツに身を包み、取ってつけたような笑顔をした青年だった。

 

「……牧村さんは何回目っすか?」

 

「え?何回目って?」

 

「ああ、そういえば優秀なボディーガードに守られてましたね。俺ぁこの姿になってから数えられないくらいっすよ。チャラ男から反グレから油ぎったオヤジに至るまで。」

 

「あはは……。御気の毒様。」

 

「にぃちゃん。二人ともおめぇに興味なんてねぇから、火傷したくなければさっさと帰れ。」

 

「まぁ槙野君、話だけでも聞いてみようよ。どうせここは会員制なんだから変な人じゃないよ。あ、こちらの席へどうぞ。」

 

「いや、牧村さんの隣は流石に危ない。にぃちゃん、こっちに来い。」

 

「いやぁ麗しいお二方からアプローチをされてしまうとは、こちらもどちらの席に座るか悩んでしまいます。」

 

 俺は槙野君が「天性のバカだな。」と言ったのを聞き逃さなかった。それにしても20代前半くらいかな?一体どんな子だろう?……という俺の疑問はすぐに晴れた。その青年は卓に座るや否や自分の来歴を自慢げに滔々(とうとう)と語り始めた。

 

 曰く議員の息子であり、曽祖父の代から議員を続けている名門の家系。自身も日本で最も優秀な大学を卒業し、被選挙権を手にした(あかつき)には当選はもちろんのこと、国政の中枢を担う事は確定しており、現在でも現職の議員でさえ自分に頭はあがらないとのこと。

 

 槙野君の眼光はどんどんと氷に近くなっていくが、俺は笑顔のまま彼の話を聞き続けた。お酒を促しつつ、相手が酔って潰れ去ってくれるように。こうして聞いてみるとまるで興味の無い人間の自慢話は中々に退屈なものと実感する。

 

「そんな訳れぇ、2人が俺に出会えたのらぁ、ほんろーに幸運。何なら君たちのパパに口利きもしてあげようかなぁ。条件次第だけどねぇ、まぁ……わかるよねぇ?」

 

 どんどんと呂律も回らない様相を呈してきた自称議員の息子であるが、彼がトイレに行っている間にスマホで真実を調べてつつ、守秘義務により何も話せない神無月さんの【一人言】を聞いてみたら何てことない外れクジ。

 

 確かに父親は議員であるらしいが国政に打って出ている大物というほどでは無く、何より長男が既に二世議員となっており、この男の話であった学歴や講演会に支持されているなんて話も嘘八百。

 

「おれぁあ、こうやって我慢の連続で生きている訳!ああ、泣きたい。男が涙を流していい場所ってどこか知ってる?そう、女の胸の中!」

 

 そういって男は槙野君の豊満な胸に向かってダイブした。正直このビルからダイブした方がまだ生存率が高そうな選択をするとは……。なんて思ってしまう。槙野君は予想通り怒髪天に達したようで、拳を振り上げ引き離そうとするが、その前に……。

 

「酔いを覚まされては如何でしょうか?」

 

 俺はレッグホルスターから道具を取り出し、冷たい鋼の輝きを笑顔のまま向けた。痣が出来る程度には押し付けているので、プラスチックと勘違いすることもないだろう。

 

「へ?あ?は?」

 

 男は間抜けな声を出しながらまるで事態が呑み込めないといった印象だ。まぁ当然だろうけれどね。神無月さんは後ろを向いてボトルの整理をしている。リスキーすぎるかとも思ったが、このままでは槙野君が何をしでかすか解らなくて怖い。

 

「女性に乱暴するなど、名門の汚穢となってしまいますよ。とはいえ面白いお話でした。もし使える情報があればまた後日、別の姿でお会いするかもしれませんね。まぁ、貴方様に運がありましたら……ですが。」

 

 そうして乾いた銃声が轟いた。……なんてね、確かに引き金は絞ったけれど、中に詰めているのは空砲。耳を(つんざ)くような音が男に直撃し、そのまま後ろへ飛び上がり気絶した。

 

「ああ神無月さん、ボトルを落として割ってしまったようです。申し訳ございません。」

 

「それは大変です。お怪我はございませんか?」

 

「こちらの男性が驚いて倒れてしまいました。ああ、失禁までされていますね。」

 

「それではご家族へご連絡し、連れ帰って頂きましょう。床の掃除は今手配致します。ご不快を招き申し訳ございません。きっと酔い過ぎて起きれば荒唐無稽な事を沢山言うと思うのですが、困りましたね。今日は生憎と監視カメラの調子が悪く、たった今修理をしていたところでしたので、わたくしの知る範囲を口頭で説明する他ありません。コンシェルジュ失格ですね。」

 

 神無月さんはそう言って、モノクル越しにひとつウィンクをした。



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小噺

・よくある昔話を改変した小噺です。


 ●

 

 昔々あるところに、牧村ユタカ太郎という漁師が住んでおりました。

 

「完全に太郎いらないよね?浦島ユタカとかじゃダメだったの!?」

 

 牧村ユタカ太郎が海辺へ到着すると、亀が数十人のヤクザにいじめられているのを見つけました。

 

「ストーップ!それイジメじゃない!完全に【始末】しようとしている場面だよね!?」

 

 亀をイジメていたヤクザたちは牧村ユタカ太郎を見て、一目散に逃げだしました。

 

「ちょっと待って、俺の武勇伝で強引に話進めるの止められる?」

 

「助けてくれてありがとうございます。是非お礼をしたいので俺の背中に……へ、へへへ、ま、牧村のアニキが俺の背中に……」

 

「この前俺をストーカーしてた変態だーーーー!」

 

 そのまま牧村ユタカ太郎は恍惚(こうこつ)の表情を浮かべ小刻みに痙攣する亀の背中に乗って竜宮城へ行きました。

 

「ねぇ、俺に拒否権ないの!?絶対乗りたくないんだけれど。」

 

 竜宮城に着くと美しい乙姫様のコスプレをした林田がもてなしてくれました。

 

「もう、コスプレって断言しちゃった……。」

 

「変態……じゃなかった、亀を助けていただきありがとうございます。鯛やヒラメ……はもう絶滅してしまったので、お礼にピラニアたちによるロックンロールフェスティバルをご堪能下さい。」

 

「この乙姫様、海の管理に向いてなさすぎる!!」

 

 浦島が竜宮城でゆったりしている間に時間はあっという間に過ぎていきます。

 

「うん、俺の意思が完全に無視されるということだけはわかった。」

 

「……………………………………!…………。……………?」

 

「ロックンロールの聞き過ぎで俺の鼓膜破れてるよね!?」

 

 そうして玉手箱を貰った牧村ユタカ太郎は再び亀に乗って久々の地上に戻りました。

 

「おじいちゃんになるのか……、何だか終わりが見えてホッとする。」

 

 牧村ユタカ太郎が地上に戻った瞬間、再び亀が数十人のヤクザにいじめられはじめました。

 

「もう二度と助けないからね俺!」

 

 

 ●

 

 

 町の上に高く柱がそびえ、その上に幸福の牧村の像が立っていました。 牧村の像は全体を厚い純金で覆われ、 目は二つの輝くサファイアで、 スーツの裏に隠されている拳銃(どうぐ)には大きな赤いルビーが光っていました。

 

 そこに一羽のやけに眼光の鋭いツバメが牧村像のもとへ戻ってきます。

 

「いわれた通り、売れない画家には金箔を、飢えた子供のいる家にはルビーを、怪我で漁に出られない漁師にはサファイアを貸し付けてきました。」

 

「そっかありがとう。みんなどうしてる?」

 

「画家は質屋で換金して即行パチ屋に走っていきましたね。今頃スロット打ってます。」

 

「今の6号機なんて勝てる仕様になっていないのにね。もうここまで来たらギャンブル依存症以外の病名が付く新しい症例だよ。」

 

「あと飢えた子供のいる家の母親はホストん所へ行きました。しばらくは遊べるんじゃねぇっすか?」

 

「ここまで証拠が揃えば言い逃れ出来ないね。児童相談所へ連絡しといて。」

 

「漁師ですが、傷病手当金をオンラインカジノで使い果たして更には借金までしていたところだったんで、手にしたサファイアで一発逆転目指してますね。まぁ正直ツキがあるとも思えませんので、このまま溶かすと思います。」

 

「借金を返しても少しは遊んで暮らせる額のはずなんだけれどなぁ。」

 

「……牧村さん、解ってやっているでしょアンタ。」

 

「そんなことないよ。最初は本当に善意……ではないけれどウィンウィンの関係で居たかったんだ。それが回数を重ねるたびに薄かった金箔は厚くなっていくし、目や装飾のルビーやサファイアが高価なものになっていく。どうすれば上手くいくのかなぁ……。」

 

「あいつらはあいつらで刹那の快楽を手に入れた、牧村さんはどんどんと像が拡大をしていく。ある意味ウィンウィンじゃないっすか。まぁ回収は任せてくださいよ。今度、目をサファイアじゃなくてダイヤモンドにしましょうか?」

 

 

 ●

 

 

 あるところに兎の恰好をした新界組長と、亀の恰好をした牧村ユタカがおりました。

 

「オイコラ、亀テメェ、亀この野郎。世界で手前ほどノロマはいねぇんだよ。何を人並みに肩で風切って歩いてんだ、身の程を(わきま)えやがれ!」

 

「いえその……え~と。どうしよう。」

 

「あぁん?その挙動不審な態度が気に食わねぇんだよ。折角の機会だ、ここでどっちが上かスピード勝負をしてみようかぁ。」

 

「いえ、人それぞれ得手不得手はありますし、僕走るのは苦手なんで。」

 

「ああ!?ごちゃごちゃとうるせぇなぁ。よしあの山の天辺にある木の下まで競争だ。……とはいえテメェのことだ、色んな抜け道使うに決まってる。【同じ道を走る】【他の乗り物に乗らない】これがルールだ、いいな?」

 

「ええ、いきなり言われても……。」

 

「じゃあ俺がコインを弾くから、地面についたらスタートだ。いいな?」

 

 新界兎はポケットからコインを取り出して(おもむろ)に弾き、コインの着地と同時に目にも止まらぬ速さで駆け出しました。

 

「あはは、速さで俺に勝てるヤツなんざこの宇宙にいねぇんだよ!」

 

 新界兎が気持ちよく走っていると、突如サイレンの音と共に(まばゆ)赤色灯(せきしょくとう)がグルグルと回り、犬の恰好をした鷲尾がパンダに乗って現れました。

 

「10:33、スピード違反だな。これほど速度をオーバーしていると署まで来てもらう必要もありそうだ。」

 

「おいおい!スピード違反ってそもそも何の法律だよ!世界観ぶっ壊してんじゃねぇよ!」

 

「やかましい、公務執行妨害にされたくなければ大人しくついてこい。」

 

「はぁ!?ふざけんじゃねぇ!」

 

 二人が口論をしている間に、牧村(亀)はいつの間にか山のてっぺんにある木の下へ到着しておりました。歩き疲れた牧村は木に寄りかかりながら小さく溜息を吐きます。

 

「ふぅ、鷲尾さんに連絡しておいてよかった。」



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職務と友情と……

・裏世界ラボ別館様より【性別が逆転した話】の二次創作です。リンク下記

【https://www.youtube.com/watch?v=Mfg5TCDwqp0】

・タグにはついていませんがTSものです。苦手な方はバックしてください。


 みなさんこんにちは、今川組若頭補佐牧村ユタカ……改め牧村ユカです。

 

 俗に言う【女体化】が起こって一体どれだけ経ったのか、最近では〝お花摘み〟と言う言葉が自然と出てきたり、男の人が近づいてきた時〝あ、この人ナンパ目的だ〟と第六感が働いたり、肉体に引っ張られるよう精神が侵されはじめ、恐怖を覚える毎日です。

 

 最近では非公式ファンクラブなんてサイトまで立ち上がり、隠し撮りの写真――しかも小塚に聞いたら「俺が撮った写真じゃないっすね」と――が数十万円で転売されていると聞いた時は膝を折って泣きそうになりました。

 

 まぁそんな日々が続いている訳で、ヒロは暴走するし、カジは洗濯物などを気まずそうに行うので今までのような暮らしは難しいと判断し、今は同じく【女体化】の被害者である槙野君と暮らしています。とはいえ俺の生活が平凡になったという訳でもなく……。

 

「窓ガラスの振動を拾って音声信号を送る、レーザー型の盗聴器の可能性が高いな。一応室外内の検査は全て行ったが、盗聴器が設置されている反応は無い。ここまで来ると警察よりも探偵の領分になるかもしれん。振動を遮断させる盗聴防止の商品は数あるから何個か見繕ってみるといい。」

 

 この人は鷲尾章宏(わしおあきひろ)さん。警視庁組織犯罪対策部、暴力団員を相手にするのでマル暴とも呼ばれる刑事さんだ。え?なんで暴力団員が警察に通報しているのかって?非公式ファンクラブのサイトに明らかにプライベートな会話の録音が流出するという大事件があったから!

 

 ヒロに伝われば暴走するのは火を見るよりも明らかだし、野口さんに伝えればこれが原因で界転組との火種になれば嫌だし、とりあえず警察(鷲尾さん)を間に挟むことにした。

 

「あ、ありがとうございました。兎に角ガラス窓の部屋を対策してみますね。」

 

「レーザー盗聴は1km先からでも音声を拾う事が可能だからな。一番簡単な対策は音楽を大音量で流す事だ。被害届はどうする?俺が言うのも情けないが、この手口だと、まず犯人は見つからないと考えてくれ。それに牧村の立場なら、他の組との関係に余計な軋轢を生むかもしれん。」

 

「そっかぁ。じゃあ、被害届は止めておこうかなぁ。」

 

「……にしても、暴力団員、それも若頭補佐が警察に〝自宅を隅々まで捜査してくれ〟なんて依頼、前代未聞だぞ。何か見つけたらどうしようかこっちがビクビクしたわ!」

 

「あはは、御迷惑おかけしました。」

 

 もちろん見られてはマズイ【道具(けんじゅう)】や裏帳簿などは全部隠蔽(いんぺい)している。鷲尾さんもあくまで〝盗聴の被害者女性〟として取り扱ってくれ、ガサ入れのような乱暴なことはせず、金属探知機や盗聴電波を拾う機材で部屋を丁寧に調べるまでにとどめてくれた。

 

「それにしても部屋住みたちは休みか?いくら俺だろうと……いや俺が警察だからこそ絶対にお前を一人にはさせないと思っていたんだが。」

 

「ああ、流石にこの身体になっちゃってから色々気まずく、必要な時だけ来てもらう形にしているんです。」

 

 ここであえて槙野君の情報を言う必要は無いだろう。俺は嘘でもなく、かつ真実でもない話で鷲尾さんの疑問をはぐらかす。

 

「じゃあ今は一人で居ることが多いのか。まぁこのマンションはセキュリティがしっかりしているから大丈夫だとは思うが……」

 

「そうだ鷲尾さん!前Barで話した時、警察独自の逮捕術っていうのがあるって言ってましたよね。俺もちょっと習ってみたいです!」

 

「確かに逮捕術は暴漢から身を守る護身術の要素もあるが、〝生兵法は怪我のもと〟というように格闘技は一朝一夕で身につくものでもないぞ。でもまぁ初歩的なものならば教えるのも(やぶさ)かじゃないが……」

 

 鷲尾さんは俺を上から下まで眺め、やや気まずそうにつぶやいた。

 

「とりあえず動きやすい服装に着替えてくれ。流石にスカートとベルスリーブ姿の女性に荒事を教える気にはなれん!」

 

「ああ!滅茶苦茶感覚麻痺してた!」

 

 

「さて、護身術で一番手っ取り早く、尚且つとても有効なものが……」

 

 鷲尾さんはスエット姿に着替えた俺の顔面へ向かって目にも止まらぬ速さで鞭のように腕をしならせ、手の甲を両目の寸前で止めた。腕に注視していたので気が付かなかったが、片足が俺の太ももの前で止まっておりダボダボだったスエットから風圧を覚える。

 

「目潰しと金的蹴りだ。どちらもスポーツ格闘技の試合では反則だろう?逆を言えばどんな大男だろうと、この技さえ決めてしまえば大抵は悶絶して動けなくなる。」

 

「なるほど!これなら手っ取り早く覚えられそうですね。」

 

「突き・蹴り・投げ・締め・縛法や施錠術は身につけるまで年単位の時間がかかるが、これなら少しコツを覚えれば簡単だ。まず目潰しだが、手の甲と指でハエをはじくように相手の眼を狙う。次に金的を蹴るときは 膝を上げる、足を伸ばす、引く の動作をなるべくスムーズに行う。つぶすことが目的じゃなく、揺さぶるように……」

 

「なるほど、こんな感じですか?」

 

「おわ!!」

 

 俺は先ほどの鷲尾さんの模倣をして目と股間に向かって同時攻撃を行ってみた。その瞬間、鷲尾さんの血相が変わり、俺の腹部に強烈な蹴りが飛んでくる。俺はそのまま壁まで吹き飛んでしまった。

 

「うはあ!」

 

「す、すまん!牧村、大丈夫か!?」

 

「いてててて、ちょっと擦りむいたかも。この身体(もろ)くて本当に。」

 

「い、言い訳になるがお前は本当に人の不意を突くのが上手いな。危うく本気で食らいそうになった。すまないかなり本気で反撃したので痛むところはないか?」

 

「う~んどうでしょう?」

 

「少し触るぞ。肋骨などは折れていてもすぐには気が付かないからな。」

 

「あ、はい。」

 

「……いや、本当に済まない。謝罪で済むことでは無いな。公僕である俺が意味なく人を傷つけるなど。」

 

「何を言っているんですか、〝格闘技指導中の不慮の事故〟ですよね。なんてことありませんよ。」

 

「いや、しかし。」

 

「鷲尾さんは頭が固すぎますって。ほら、触られてもどこも痛みませんし、大丈夫です。」

 

「……そう言ってくれると助かる。しかし擦りむいた傷、傷。あの……ううん。」

 

「 ? 」

 

「わるい。救急箱はあるか?それを探してくるので、その間に、その、胸くらいは……隠しておいてくれ。」

 

「あ!!」

 

 その後俺は鷲尾さんに傷口へ軟膏を塗ってもらったが、お互い気まずい空気が流れたままで、どのように会話の糸口を見つけようか散々に悩む羽目となった。




 お蔵入りにしていたとてもハーメルンには載せられない二次創作小説の一部公開を始めてみました。もし興味のある方はTwitterID【https://twitter.com/takaomi_sepa】へメッセージを下さい。


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今川組北海道旅行! 序章

〝本日は〇〇海峡フェリーをご利用いただき、誠にありがとうございます。当船は、間も無く函館へ到着いたします。大型トラック、車両チケットをお持ちのお客様からのご降船となりますので、チケットをお持ちのお客様は、お車に移動の上、誘導員の指示に従い、車内でお待ちください。〟

 

 雑音の混じるスピーカーから流れる女性の機械音が耳朶に響き、一等室の二段ベッドで毛布にくるまっていた牧村ユタカは目を覚ます。

 

「ん~~。もう到着?結構あっという間だったね。ヒロ、小塚とカジは?」

 

「小塚さんは長距離トラックの運転手さんと仲良くなったみたいで、ロビーで一緒にワンカップ片手に盛り上がっています。カジは見張りの為扉の前ですね。」

 

「船旅って楽しいの最初の一時間だけだね。強風で甲板にも出られなかったし……。あ、でも自動販売機で道内各地のお弁当売っていたのは面白かった!あの蟹メシは美味しかったな。帰りにもまた食べようかなぁ。」

 

「蟹メシですか……。わかりました、野口さんに頼んで作れるようにしておきます。グリーンピースと根野菜は抜きですね。」

 

「そんなに気合入れないで!?まぁ、とりあえず小塚たちと合流しようか。」

 

 本州から北海道に向かうルートは大きく分けて3つある。

 

 1つ、空路。北海道の政令指定都市札幌の近く、新千歳空港へ向かうことの出来る空港便は山ほどある。しかし飛行機に乗る以上避けては通れないことであるが、荷物のチャックが恐ろしいほど厳しく、【道具】はおろか、ヒロの三段ロッドすら通関で没収されかねない。

 

 2つ、青函トンネルを用いた新幹線の利用。こちらも簡単ではあるが、手荷物検査があり、【厄介なもの】が発見されれば大事になる。なにより手荷物検査だけであるということは、逆を言うと牧村を襲う刺客にとっても好都合な出来事だ。

 

 3つ目がかつては連絡船とも呼ばれていた、青森―函館を結ぶ青函フェリーの利用だ。長距離トラックの御用達であり、一々車や荷物の中身を検査していればキリがなく、ほとんど素通りで乗船することができる。それに船内は個室の一等船室と大勢が雑魚寝する二等船室に分れており、個室であれば護衛の見張りを立てることも可能だ。

 

 そのため今回牧村たちは北海道へ行くにあたり、かなりの遠回りと分っていながら、車で出発し途中仙台で一泊、青森からフェリーに揺られ、ようやく北海道に辿り着いた。

 

「は~、やっと北海道だ。ヒロとカジ交代とはいえ、長く運転させてごめんね。」

 

「いえ、気にしないで下さい!むしろ色んな景色が見れて楽しいっすよ!んで、どうします?函館で一泊しますか?」

 

「いいや、このまま札幌に向かってもらおうかな。野口さんに〝事前に宿を決めるな〟って言われているから今からとれる場所があるかわからないけれど、小塚、ちょっと手配してもらっていい?」

 

「了解っす!事前に色々調べてましたから何とでもなりますよ!」

 

「事前に聞いていると思うけれど、国の割安キャンペーンは使わないようにね。暴力団ってことに足が付くから。」

 

「あ~、それで逮捕された暴力団の会長いましたもんね。気を付けます。」

 

「まったく、ホテルに泊まっただけで逮捕なんて本当に不便だよね~。一時期ホテル暮らししてた俺が言う事でもないけれどさ。」

 

「……牧村さん、そろそろ教えてくださいよ。まさかアニキがすすきの豪遊目的で北海道に来た、なんて訳ないですよね。」

 

「そうっすよ。密漁っすか?それともロシアンマフィアとのコネクション?」

 

「あはは……。小塚、ヤクザ映画の見過ぎ……。簡単に言うと今、東京から別の都道府県へ本社の所在地を転出させる動きが活発になってるんだ。これはコロナ禍で首都一極集中がどれほどリスキーであるかが周知されたこと、そして在宅ワークの業務促進でオフィスを構えるコストを抑える目的が挙げられる。」

 

「はぁ……。でも何で北海道なんすか?」

 

「飲食業で言えばブランド名だね、ほらコンビニにも【北海道産〇〇】なんてものが山ほどあるでしょ?今回のコロナ禍で一次産業でも飲食店の売り上げ減少に伴ってダメージを負った農産業は多い、力のある企業ならマッチングを持ち掛ければ、かなり有利な条件で良品質な食材を安価で手に入れられる。本社を北海道に移せば道や市から補助金も出るからね。

 

 次に製造業。北海道は貧富の差が激しい地区でもあるんだ。例えば札幌市や北広島市は税収赤字は目を瞑れる方だけれど、夕張市が財政破綻したのは有名な通り、10年以内に財政破綻の危機に陥るだろうとされている市町村は枚挙に暇がない。だから例えば〝もの凄い汚染物を垂れ流しますが工場を建てさせてください、税収はお支払いします〟と言われれば断る事は難しい。

 

 ……ざっくりだけれどそんなあたりかな?」

 

「つまり、企業と地域のマッチングに一噛みされるということですか?」

 

「運営コンサルトっていう形になるから暴力団である俺たちには敷居が高いかな、でもこの流れをみすみす見逃すと言うのももったいないからさ。実際札幌で経営コンサルタントをしている人とアポイントがとれたから話してみようと思って。」

 

「はぁ~、てっきりロシアンマフィアとドンパチ騒ぎでもするのかと思ってワクワクしてましたよ!」

 

「だから小塚は俺に何を期待しているの……。兎に角北海道という今熱い地を実際にみてみたかったんだ。他にシノギのタネが見つかるかもしれないしね。」

 

 牧村が柔和な笑顔を浮かべたあたりで、一同が乗る車は函館インターチェンジから高速道路を走り始めた。




・長くなってしまったので一端序章と言う形にします、次回更新は未定です。

・プロットは出来ておりますが、その間に他の話を挟む可能性があります。ご了承ください。


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【生誕祭記念SS】
ふしぎな捜査


・本作品はフィクションの二次創作として薬物について語っています。ダメ、ゼッタイ。

・キャラ崩壊注意です

・時系列的に本編発雷前です


 俺の名前は鷲尾章宏(あきひろ)、警視庁組織犯罪対策部、通称〝組対〟の人間だ。広域暴力団を専門に相手をするため〝マル暴〟とも呼ばれている。

 

「密造覚せい剤・MDMAの紊乱(びんらん)についてか……。ったく、面倒な案件が来たな。」

 

 違法薬物の蔓延が地域で起こった場合、その規模が膨大であるほど組織内の連絡調整が重要となるのだが、同時に警察組織というか日本社会の暗部……〝縦社会〟の弊害(へいがい)が大きくなる事案でもある。同じ親方日の丸であるというのに情けない。

 

 通常警視庁において、違法薬物の取り締まりを主としているのは〝組対〟に属する薬物銃器対策課であるが、各都道府県警においても各々(おのおの)薬物対策課を設置しており、未成年に売買が行われた場合は少年課の案件にもなってくる。

 

 そして有名だと思うが、違法薬物取り締まりの代名詞である【麻薬取締官】の直轄は警察庁ではなく、まるで管轄の違う厚生労働省となる。情報交換そのものは密に行っているが、人間そう簡単に所属や管轄を割り切れるはずもなく、どちらのお偉いさんも自分たちの功績にしようと虎視眈々と狙っているのが本音だ。

 

「……その尻ぬぐいが末端だってんだからやってられないよなぁ。それにしても密造か、界転組の(エス)から有益な情報は得られなかったが、もし界転組以外だとすれば、外人による犯行か?いや、反グレって線もあるな。」

 

 【薬物の無い世界を!】なんて大層なお題目を掲げている上層部の皆々様には悪いが、本当に違法薬物の乱用をなくしたいなら日本を石器時代に戻す以外方法は無いだろう。

 

 何しろ覚せい剤の主成分であるメタンフェタミンはある程の薬学知識と異臭を遮断できる環境があれば、その辺の風邪薬やクリニックで処方されるような薬から造れてしまう。しかも昨今はその知識がインターネットから得られるというのだから、手口は悪質になっていく一方だ。

 

 とはいえ、密造は日本において今のところメジャーな犯罪ではない。何故犯罪組織はわざわざリスクを背負って海外から違法薬物を日本へ密輸入をしているのかと言えば、密造で精製できるメタンフェタミンはどうしても純度が低いものとなる。

 

 そのため俗に言う【粗悪品】としかならず、高値で売れない上、バッドトリップ――薬物によって逆に不快になること、副作用で身体的・精神的後遺症が残る事――や異物混入による血管障害を起こしやすく、【常連さん】に出来ないためだ。

 

「……てことを考えると、暴力団側も黙ってはいないよな。【始末】をされる前に見つけたいから俺ら(マル暴)にも声がかかったんだろうけれど、無茶を言ってくれる。」

 

 【蛇の道は蛇】なんて言葉もある。暴力団員とのなれ合いが暴対法により遮断された現在、警察側のスパイ……(エス)による情報やガサ入れでしか情報収集をすることしか出来ないマル暴側は、暴力団の全貌が掴めていない。

 

 もし暴力団の〝シマ〟で密造した粗悪な薬物を売っているバカがいるのだとすれば国家組織より先に発見され【処分】されていたなんて話も珍しくない。そしてそんなマヌケな事件が起これば、警察の面子は丸つぶれだ。

 

 いや、面子にこだわるような話は上層部が勝手にしていればいい、問題は法治国家において法のもと裁かれない人間が生まれるという理不尽だ。俺はそれが許せない。

 

「資料によれば今川組のシマにも手を出している……。牧村のことだ、黙って指を咥えて見ているはずがないよな。」

 

 俺はひどく童顔な友人の笑顔を思い出す。この世で最も荒事と無縁そうな雰囲気を纏い、マイペースな話口調に惑わされそうになるが、あいつは拳銃で人体を撃ち抜き5年の実刑を受けた立派な〝暴力団幹部〟なんだ。

 

 今川組は牧村が来てから完全に薬物の売買を絶っている。これはマル暴がSを使うまでもなく、あいつの武勇伝を反社や夜の街から話を集めていれば嫌でも耳に入ってくることだ。今川組の情報工作である可能性も限りなく低いだろう。

 

「あいつの手を借りられればなぁ……。」

 

 日本は法治国家だ、悪事を働いた者は法の下裁かれるべきであり、決して【私刑】になど遭うべきではない。つくづくあの夜、牧村をSに出来なかった自分を歯がゆく思う。あいつは悪事を行う仕事、俺は悪事を取り締まる仕事。どれだけ牧村と過ごす時間が楽しかったとしても、お互い友人のように思っていたとしても、その事実だけは変わらない。

 

 いつか変わる日が来るかもしれないが、今ではない。

 

「鷲尾、すぐ出られるか?」

 

「森さん!?どうしたんですか?」

 

「薬対課から厄介な資料が来てたろ、アレ関係だ。」

 

「……死人が出ましたか。」

 

「いや、う~ん……詳しい話は行けば解る。とりあえず来い。」

 

 

 

「うげ……。」

 

「鷲尾、ちゃんと鼻孔の粘膜は防護しておけよ。労災は使いたくねぇだろ。」

 

 思わずえずきそうになる異臭漂う人里離れたガレージにあったのは70ℓ袋いっぱいに入った空のカプセル、多種多様な粉末の薬剤、精製に用いたであろう有機溶剤の数々だった。しかし整理の仕方があまりにも不自然、これでは【自分たちはこの方法で密造・販売しました!】と告白しているようなものだ。

 

「ったく何だこれ?ディアゴ〇ティーニじゃねーんだぞ。まるで薬物の密造カタログじゃねぇか。」

 

「しかし密造者がこの状況を作ったとは思えませんね。……出し抜かれたのでしょうか。」

 

「だろうな、密造者は今頃土の中かはたまた海の中か……。とりあえず証拠集めだ。指紋ひとつ、髪の毛一本見逃すなよ。あと鷲尾、お前に言うのも酷かもしれんが、覚悟を決めておけよ。」

 

「もちろんです、森さん。」

 

 このらしからぬ【整理整頓】に牧村……引いては今川組が関わっていれば、俺はこの手であいつの手を後ろに回さなければならない。しかし俺の覚悟も虚しく、検出された指紋や残留品にマル暴のデータに引っかかるものはなく、今件でマル暴は完全に手を引き、薬物銃器対策課へ事件を委ねることとなった。

 

 

 ●

 

 ……ということがあってな。かなり厳しい捜査になるだろうと思ったんだが、なんてことはないそのまま芋づる式に違法滞在していたフィリピン人が見つかってそのまま逮捕に至った。背後に海外マフィアが居る可能性もあるが、ヤツラの場合裏切者は家族含めて処刑されるからな。口を割らないだろう。

 

 不気味な事件だよ、あまりにも出来過ぎている。警察の欲しい情報が次々揃って、まるで調書作成をなぞるように証拠が出て来て、犯人も捕まって……。こんな事件最初で最後だろうな。

 

 言っただろう?俺の独り言を聞いて欲しいだけだって。それにもう〝解決した事件〟なんだ。公判も始まっている、今更舞台をかき回すつもりはないさ。ただ、何と言えばいいかな。もしこの事件が誰かの台本であり、俺らは役者であったとすれば……劇作家には怒るべきなのかもしれないが、俺は個人的こう思った。

 

 〝良い脚本だった。ありがとう。〟と

 

 まぁ酔っぱらいの戯言さ。で、牧村。次は何を呑む?



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さそり座の男




「んぐ……ぅぅう…… はぁ! ふぅふぅ…… …チィ。」

 

 決して綺麗とは言えない部屋の、決して綺麗と言えない布団の中から、眉目秀麗な1人の青年が起き上がる。バネのように跳ね起きた後の様子は背伸びする蝸牛(かたつむり)のようで、気だるそうな面持ちと同時に苦悶の表情を噛み殺しており、全身からは冷や汗と脂汗が浮かんでいた。

 

「……あの女、夢にまで出てきやがって。畜生。」

 

 広域暴力団今川組部屋住み、広河原学人……通称ヒロは、苛立ちから自分の太ももに向け、思いっきり握りこぶしを振り下ろした。

 

 夢の内容はヒロにとって解けない呪い、問題はその内容だ。心情的な苦痛と言った方が適当であろうか。湧き上がるのは純粋な怒りだけではなく、頬に感じる柔らかさと温もり、頭を撫でる手の感覚。それらが憤怒・寂寥(せきりょう)・多幸感となっていっぺんにヒロの脳内を蹂躙(じゅうりん)し、激情へと変わる。

 

 時刻を見れば早朝6時、本日は牧村付きではなく今川組の部屋住み係だ。早速仕事にとりかかろうとヒロはジャージに着替え、先ほどの悪夢を払拭するかのように大きく(かぶり)を振った。

 

 部屋住み仕事は牧村ユタカが出所して以来、仕事量は大幅に減った。とはいえ手を抜くなど許されない。掃除道具を取り出し、事務所を清潔で整然とした空間へ変えていく。その後に新聞の交換や監視カメラなどの機材調整を終えればあとは……

 

「あ、ヒロおはよう!今日もおつかれさま~。」

 

「牧村さん、おはようございます!」

 

 ヒロは事務所へやってきた牧村に対し、見る者の目を奪う程優美な一礼をする。本来在宅で完結する牧村の仕事(シノギ)であるが、事務所当番の部屋住みを思って週の半分以上事務所へ顔を出してくれる。その慈悲深さに対し自分如きが出来る事など、精々礼を尽くす程度だ。自分の非力があまりにも憎い。

 

 (のろい)のこともある、自分の顔は今尊敬する兄貴分へ見せられるものになっているだろうか……。焦燥が思考を鈍麻させ、ヒロを悪循環に追い詰めさせる。

 

「どうしたのヒロ?元気ないよ?」

 

「そ、そんなことはありません!いらない心配をさせたのでしたら本当にすんません。」

 

 普段は若干挙動不審で子供っぽい一面がある牧村のアニキだが、特有の洞察力、直観力はヒロの人生で見てきた人物の中で誰よりも鋭い。

 

「ならいいけれど……。」

 

 釈然としない様子ながら牧村ユタカはデスクに座り、小塚さんと共にヒロには理解できない会話を繰り広げながら和気藹々と仕事に励んでいる。この胸に去来する微弱な陰りを何と呼ぶのだろう?

 

「そうだ、槙野くんと林田さんが同居するんだってさ。今日挨拶に行こうと思うんだよね。」

 

 聞き耳を立てていたら聞き捨てならない爆弾発言が投下された。ヒロにとっては不俱戴天の人物、もちろん害をなすなど思ってはいないが、胸に轟く電流がより増した音が響いた。

 

 

 

 ●

 

 

「何て無防備なことさせてんだよカジ……。それに小塚さんもだ。アニキを歩かせてんじゃねぇ。」

 

 ヒロは何時ものジャージ姿ではなく、ラフな服装に眼鏡という簡素な変装をして3人を尾行していた。部屋住みの仕事は基本24時間在住であるが、無理を言い、嘘を吐き、野口さんの許可も得て――かなり呆れていたが――無理やりに休みを貰った形だ。

 

「あそこが槙野の家か……立派なとこ住みやがって守銭奴が。」

 

 呪詛にも似たセリフを吐きながら、3人が入っていったマンションを眺める。牧村さんほどではないが、かなり立派な建物だ。今のヒロでは逆立ちしても住むことなど出来ないだろう。

 

「……俺、何やってんだろうなぁ。」

 

 朝の夢のせいだろうか、何故自分はこんなストーカーまがいのことをしているのだろう……。今更に罪悪感が込み上げてくる。

 

「ああ、はは……馬鹿らしい。」

 

 ヒロは電柱に身を預けながら天を仰いで、自嘲気味に笑った。人はこのような感情を【嫉妬】と呼ぶのだろう。もちろん牧村のアニキが自分にしてくれたことは人生を投げうるに値する。それでもまだ足りない強欲な自分が心の隅にいるのだ。

 

 自分は最高の幸せ者だと思っていた、しかしヒロはもっとわがままになってしまっていたのだ。もう帰ろうか……。そんな時だった。

 

「ばぁ!」

 

「うえわぁ!!」

 

 ヒロは突然背後から聞こえた声に思わず拳を振りかざそうとして……

 

「アニ……牧村さん?」

 

「やっぱりヒロだった。あはは、いい感じに驚いた。」

 

 悪童のようにクスクスと笑っているのは牧村のアニキ。一体いつの間に?アニキは自分の事を小動物と言っているが、本当に蛇のような人だ。

 

「ったく。マジでストーカーかよ。何してんだテメェは。」

 

「でもアニキの言った通りでしたね!野口さんにも最初から根回ししてましたが本当に来るってあはは!」

 

「来るって……。そこまで読んでたんですか!?」

 

「テメェの事だから、放っておく訳もないって牧村さんが言ってたんだよ。ったく……まぁあがれや。」

 

「あがれって……。お前の家にか?何で?」

 

「今日、何月何日だ?」

 

「そりゃあ……。え?」

 

 そう今日は……

 

 

「おめぇは本当に、さそり座の男って称号がピッタリだ。ケーキとプレゼントがあるからよ。兎に角いこうぜ。」

 

「いや……。そこまで……。」

 

 今までヒロを追い詰めていた悪循環が雲を晴らしたように消えていく。自分のためにここまでしてくれた人間は……。

 

「ヒロ、誕生日おめでとう。いつもありがとうね。」

 

 そういって牧村はヒロの頭を撫でる。朝の夢と違う、まるで慈母の如き柔らかな手の温もり。その手はサポーターによって保護されており、傷跡の理由は手前の不始末によるもの。改めてヒロは思う。

 

 今胸に去来する感情を、人は何と言うのだろう?



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それは誰が為に

・新界組長生誕祭2022 投稿作品です

・キャラ崩壊注意です


「何が激アツだこのクソ台がよぉ!ああ!」

 

 形相を憤怒に染めレトロなスロット台に握りこぶしを振りかざそうとしていた男は、辛うじて理性が働いたのか、そのまま振り上げた拳を宙に浮かせて自分の膝に叩きつける。

 

「今日だけで40万溶けてんだぞ!?本当に当たんのかこれ!?おい店員、こっちこいコラ!」

 

 サングラス姿に白スーツ、柄物のYシャツ姿といった如何にも反グレといった風貌。しかし瞳の奥底には知性を感じさせる不思議な魅力を持った男だった。

 

「お客様、申し訳ございませんが他のお客様のご迷惑になりますので……。」

 

「あぁ?こっちはここ1週間で200万溶かしてんだぞ!?文句の権利も無ぇのかよ!」

 

 その後も男は店員に怒りをぶつけ続け、店員はひたすらになだめていく。……そんな様子を大勝している一人の男、何千……万枚に届こうかというドル箱(コインのタワー)を積み上げている男性は静かに店内の喧騒をみつめていた。

 

 

 ●

 

 

 何重にも厳重なセキュリティが施されているビル。メダル1枚50円~100円での賭け――正規店では1枚20円――を行っている、俗に言う闇スロの店を出たサングラスの男は悪態をつきながら帰路につく。そんな時、後ろから男に声が掛った。

 

「よぉ、災難だったな兄ちゃん。」

 

「あ?何だ、テメェ?」

 

「さっき店に居たんだよ。やりとり見てたぜ。」

 

「ああ、万枚近く出してた野郎か……。なんだ?俺を笑いに来たのか?」

 

「まぁ、そう早とちりするな。そろそろタネ銭も限界だろ兄ちゃん。良い儲け話があるんだ。日当で5万円出す。2~3時間の仕事で、場合によっちゃ20万にもなる。どうだ?」

 

「……胡散臭ぇなオイ。」

 

「ここなら人もいないし……。まず結論から教えてやる。あの店で普通に勝つのは無理だ。というよりも、この界隈の闇スロ全般だがな。」

 

「はぁ?俺が初見で行った時は70万勝ったぜ?」

 

「全く、ちょっとは頭が回るヤツだと思ったんだが見た目だけかよ。裏モノだよ、B盤面ともいう。」

 

「あの店が遠隔操作やってる……。ってことかぁ?」

 

「それもあるが、似ているようで違うな――」

 

 男の話はこうだった。

 

 ① スロットには4号機という一度大当たりすると止まらない爆裂機がある――現在一般のパチンコ屋で打てる機種は6号機だ――。その中でも【大当たり】のフラグを獲得してもメダルが放出されず、【大当たり】をストックしていくものが、【裏モノ】と呼ばれる基盤である。

 

 ② 何十・何百もストックされた【大当たり】がいっぺんに放出されるにはいくつかの条件を満たさないといけない。そして一度【大当たりストック解放】フラグを引けば、1度の大当たりで何千・何万枚のメダルを手にすることが出来る。

 

 ③ そのストック放出条件とは本来ランダムなのだが、店の遠隔操作も可能であるそして……

 

「その放出を客側で無理やり行う方法がある……。てめぇゴト師か?」

 

「最近正規の店はどこも厳しくてな。」

 

「にしたって、こんな店だ筋者絡みだろ。日当5万の打ち子じゃ割に合わねぇよ。」

 

「安心しろ、いくつかの店では店長とも話を通して勝ち分を折半してる。よほど下手を踏まない限り、ヤーさんも気がつかない。」

 

「ほぅ……。おめぇ、顔が広いんだな。」

 

「この辺は界転組っていうヤクザが仕切ってんだが、組員たちは反グレ上がりだから金で黙る。良い狩場なんだよ。」

 

「はぁん、わかった。その話乗ろうじゃねーか。連絡先はラインでいいか?住所や名前、携帯番号はいいのか?」

 

「ああ、構わん。くれぐれも他言無用だぞ?俺に会ったこともな。」

 

「当然だ、〝他言無用〟……。良い言葉だな。」

 

「 ……? 」

 

 疑問符を浮かべるゴト師に対し、男は微笑みを浮かべ、誰にも聞こえない様な音量で静かに呟いた。

 

「ナントカは何も喋らない……と言いますので。」

 

 

 

 ●

 

 

「……ふぅ。」

 

「おい、黒瀬。何だその恰好?」

 

「ああ、頭の悪いカモを演じようと思いまして。あなたのファッションセンスを模倣させていただきました。わたしの普段の恰好では引っかかりませんので。」

 

「喧嘩売ってんのか?」

 

「いいえ、改めてあなたのセンスに辟易(へきえき)していただけの話ですよ。」

 

「んで、俺のコスプレして楽しんでた理由はなんだ?気持ち悪いなぁ。」

 

「本当に気持ちの悪い話です。そういえばもうすぐあなたの誕生日だった。何ならば喜ぶだろうと、考えていたまでです。」

 

「はん、テメェが何をくれるってんだ?」

 

「そうですね……」

 

 黒瀬は爽やかな笑みを浮かべて答えた。

 

「……新鮮なお肉。なんてのは如何でしょうか?」



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