警官というより正義の味方と裏の彼女達 (モンターク)
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偶然は重なる

というわけでまた試験的に書いてみました。
時系列としてはパトレイバー側はグリフォン事件解決後です。
リコリコ側は4話終了後?です。


国家的事業であるバビロンプロジェクトにより急激に普及した多足歩行式作業機械「レイバー」による犯罪に対抗するため警視庁警備部には11番目の機動隊である特科車両二課…通称特車二課が新設されていた。

電波塔事件以来日本は世界で最も治安が良い国といわれていたが、それでもレイバーの犯罪が増加しつつあるからだ。

 

そしてその特車二課には現状2つの隊が存在する。

まず南雲しのぶ警部補を隊長を務める第一小隊。機体はAVS-98 イングラム・スタンダードを使用。現役の警視庁警察官から選抜された人員で構成されるエリート部隊。

そしてもう一つの部隊は後藤喜一警部補が隊長を務める第二小隊。機体はAV-98 イングラムを使用。こちらは即席警官といった警察学校を通ってない面々が多く、特に2号機に乗る太田功巡査の気性の荒さが原因で良くも悪くも独立愚連隊という印象が強い。そのため都民からの評判は非常に悪い。

 

そんな第二小隊と裏のお話。

 

―――――――――

 

『第12管区より通報、江戸川区葛西に205発生、第2小隊全機出動せよ。繰り返す、江戸川区葛西に205発生、第2小隊全機出動せよ』

 

「レイバーをまわせ!リボルバーカノン急げ!だらだらしてるやつは海に叩き込むぞ!!」

 

特車二課整備班班長の榊清太郎の一声で整備班は慌ただしく動き出す。

 

「遊馬、今日もまたレイバーの喧嘩?」

 

「どっかのチンピラがレイバー使って喧嘩してるって通報が入ったんだ。たく…第一小隊が出てる時はすぐこれだ」

 

1号機フォワード(操縦担当)の泉野明とバックアップ(指揮担当)の篠原遊馬が準備しつつもそう呟く。

遊馬に関してはぼやいてもいる。

 

「暴力団だろうが暗殺者だろうが俺たちがいなければ都民の生活がままならなくなるだろうが!第一小隊の先輩方がいなくても俺が!」

 

それに対して2号機フォワードの太田功は豪語し

 

「太田巡査、今日もリボルバーカノンの使用は最後まで取っておいてくださいね」

 

2号機バックアップの熊耳武緒はそんな大田を宥める。

 

「収納完了しました」

 

「こっちも終わりました」

 

1号機キャリア運転手の山崎ひろみと2号機キャリア運転手の進士幹泰が報告し

 

「おう。じゃあいってこい」

 

やる気なさそうな隊長である後藤喜一が最終チェックをして出動する。

これが特車二課第二小隊の変わらない風景だ。

多少人員が違うことがあれど雰囲気は変わらない。

 

13号埋立地ことお台場があそこまで発達したにも関わらず、特車二課が配置されてる埋立地は城南島となりの放置気味の場所ということもあってか相変わらず悲惨な状況である。マシになったのはコンビニが近づいただけか。

それでもUber Eats等は警察の規則上禁止されており、出前は上海亭のみである。

そんなところから出発していく二台のキャリアとパトカー達であった。

 

――――――――――

 

だが現場に付く前に驚きの指令が入ってくる。

 

「出動停止、出動停止。第二小隊は帰還せよ」

 

「はぁっ!?現場はもう目の前だぞ!?」

 

大田が指令に激怒していた。

なんと現場は目と鼻の先にあるにも関わらず、出動取り消しの判定を食らってしまったのだ。

その上、現場には地元警察署の警官と公安らしき黒服の姿が見える。

暴れだしてるレイバーがいないのは幸いではあるが、どうにも締まらない。

 

「どうして遊馬?」

 

「俺が知るか!俺らが止めに入る前に仲良く握手でもしたんじゃないのか?」

 

「そんなバカな」

 

「我慢ならん!俺が文句言ってくる!」

 

大田は怒り出し、現場へ行き封鎖している黒服に文句を言おうとするもそこへ後藤のパトカーから通信が入る。

 

『大田、駄目だ。帰還するぞ』

 

「し、しかし隊長!レイバーがまだ暴れだしてるかもしれないのに現場に入れんとはこれは」

 

『いいからいいから。ハイ撤収』

 

後藤の気の抜けた声で撤収していく。

暴れだしそうな大田は進士と山崎が抑え込んでいる。

 

そんな時…。

 

「ん…?」

 

野明はふと見かけた制服姿の女の子達を見かける。

ベージュ色でリボンは薄いピンク色。

 

(高校生…いいなぁ…都会の女の子はああいう制服で)

 

野明もまた元はと言えば女子高生。そう思うのも当然だろう。出身が北海道というのも尚更だ。

 

一つの歪みであることも知る由もない。

 

――――――――――

 

だがこれらのアレが何回も続けば異常と気づく。

 

「今回も無駄足かよ…」

 

「俺に銃を撃たせろ!!」

 

「落ち着きなさい!」

 

今日も無駄足の出動で第二小隊はあまりよろしくない雰囲気。

遊馬はぼやき、大田はキレかけて、熊耳と進士がそれを二人がかりで止めている。

 

「でも平和が一番じゃないですか。無駄足であることを良いと思うべきです」

 

山崎はそうつぶやきつつ、書類の整理をしている。

 

「でも…」

 

だが野明はどこか引っかかってた。

出動かと思ったら途中で取りやめが何回も続けばというのもあるが、その現場には必ずあの制服を着た女子高生がいた。

都市部ならいざしらず、女子高生がいかなさそうな工場地帯やらにも見かけた。

家出少女なのかもしれないが流石に違和感がある。

 

「うーん…」

 

野明は考え込みつつも基地内を歩き回る。

 

「ん?」

 

そこでばったりと遊馬に出くわす。

 

「どうしたんだ野明?お前らしくない」

 

「だってこんなにも出動掛かったと思ったら出動中止が何回も続くなんて異常だよ?」

 

「人間間違いは何回もするもんだ。警察も例外じゃない」

 

「でも…その現場の近くには必ず同じ服装の女子の高校生がいるし」

 

「女子高生がいるって珍しくもなんともないじゃないか。だいたい女子高生がいるからってなんだってんだ?」

 

「…そうだよね」

 

遊馬に言うことも一理ある。だが何か引っかかる野明。

そこに…。

 

「ええ!?脱線事故!?」

 

進士が慌てて声を出す。

野明と遊馬が休憩室のテレビを見ると、そこには脱線事故のニュースが映し出されていた。

 

『今日夕方、東武伊勢崎線・東京メトロ半蔵門線の北押上駅で地下鉄が衝突し脱線事故が発生しました。これにより駅内の非常用バッテリーに引火し爆発が起こったものの、死傷者はゼロとのことです』

 

「うひゃーっ、脱線事故かぁ…」

 

「怖いねえ遊馬」

 

「死傷者がゼロというのは不幸中の幸いですね」

 

「ああ、無人運転の回送電車で、駅の乗客もすぐに避難したそうだからな。はぁ…銃はどこだ…」

 

「ん…?」

 

進士達が喋る中、野明はテレビの映像内でまたあの女子高生を目撃する。

 

(また…?)

 

首を傾げる野明。

 

そしてその様子をドアから覗き込むように後藤が見ていた。

 

 

――――――――

 

隊長室。

ここには小隊長の後藤喜一と南雲しのぶの席がある。

 

「こりゃあまずいなぁ…」

 

「まずいって何よ?また第二小隊がやらかしたの?」

 

後藤がそうボヤキ、南雲もその話に乗る。

いつもの光景である。

 

「いや…あれだけ出動からの出動中止が続いたのもあるけど、泉が例のやつに気づきそうなんだ」

 

「例の…それはまずいじゃないの。確かに最近アレと鉢合わせして横取りされることが多くなったけど」

 

「ああ…テロリストがレイバーを使ってなにかしようとしてるってことだからかち合うとは思ってたが…嫌なもんだねえ…今回のあの北押上駅の脱線事故も多分連中が関わってるんだろう」

 

「わかるの?後藤さん」

 

「勘…というか…()()()()()()()()俺はここに来たようなもんだし」

 

「それは散々聞いたわよ。私にも悩みのタネを植え付けてくるなんて…」

 

南雲もどうやらその例のことについては知っているようだった。

いや無理やり知らされたも同義だったようだが。

 

「まあでもこんな情報流しても笑い話にしかならないからねえ…はぁ…皆で幸せになりたいのに」

 

後藤はぶつぶつ言いながらも新聞を見ていた。

そこには8年連続世界一平和という輝かしい称号が乗っていた。

 

「8年連続ねえ……」

 




後藤さんが左遷された理由はまあ…そういうことです。


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お仕事

千束ってロボットとかどうなんだろ…

あと地味に内海については変えます。
一応結末自体は漫画版準拠ですが…。


DirectAttack

通称『DA』

警察・政府公認の独立治安維持組織。

犯罪者や犯罪を行おうとする人物を秘密裏に抹殺するいわゆる暗殺者であり、それにより治安を維持し、結果日本は世界一の平和と言われるほどになった。

だが政府と協力関係にありながら指揮下に置かれず強い特権を有しているなど謎が多い。

そこに所属するエージェント達のことをリコリスと言い、DAは女の孤児を育てリコリスとして活動させている。『制服姿の女子高生は日本でもっとも他人に警戒されない姿であるため』ということもあり、ユニフォームは制服姿である。

 

ここは押上にある喫茶リコリコ。

外見からして和風であるいわゆる和菓子喫茶店であるが、実はDirectAttackの支部の一つである。

ただしDAとは違い、民間のいわゆる何でも屋ということも行っており、表向きには万屋兼喫茶店とも言える。

 

そしてその喫茶はあまり客はいないので、今日も従業員である千束とたきなは暇であった。たきなは掃除する中、千束はテレビを見ている。

 

『次のニュースです。またあの第二小隊がやりました。本日午前10時頃、江東区門前仲町の工事現場でレイバーを取り押さえ中に太田功巡査のパトレイバーが多数の発砲を行いました』

 

『往生せえやー!』

 

イングラムがリボルバーカノンをぶっ放してる映像が映し出されている。

 

「おっほほほっほーっ!派手にやるねえ」

 

「なんですか千束。暇なら掃除手伝ってください」

 

「みてみてこの映像!レイバーだよ!」

 

千束はまた興奮しているようで目を輝かせている。

 

「千束はスーパーカーもですが、そういうのが好きなんですか?」

 

「そりゃあもちろん!できることなら一回動かしてみたいよ!あ、レイバーって知ってるよね!」

 

「レイバー…本来は労働者の意味を持つ単語ですがそれから転じて労働者が使う作業用ロボットの名称です。バビロンプロジェクトでレイバーを使って作業することが奨励された結果、今では建設現場などでも多用されてて」

 

「あーはいはい…やっぱり知ってるんだ」

 

「それくらいは常識です。私を世間知らずと勘違いしてるんですか?」

 

「いや…まあいいや」

 

この前のパンツの件しかり色々とあったが、とりあえず飲み込むことにした千束。

 

「ついでに聞くけどバビロンプロジェクトってなんだっけ?」

 

「バビロンプロジェクト…過密化が進む首都圏の人口問題や温暖化による水面上昇に備えるため、東京湾の一部を埋め立てや干拓によって陸地化し、防波堤を作る都市構造計画のことで延空木の計画とは並行して進められている国家的なプロジェクトです」

 

「なるほどぉ…だいたいわかった!」

 

「絶対わかってないですよねそれ」

 

「そうかなぁ…」

 

『昨日の夢は今日の希望、そして明日の現実へと、歩一歩着実に実を結びつつあります。豊かな明日へ向けて、バビロンプロジェクトは未来への挑戦です。政府広報』

 

このようにテレビで政府広報が流れるほど政府は推進しているようだ。

裏で孤児が犠牲になっているのを知ってか知らずに。

 

「あ、そういえばレイバー犯罪に対する部隊とかは作ったの?そこらへん最近めんどくさくて聞いてなかったけど」

 

「一応レイバー犯罪に対応できるようにはなったとは聞きました。詳しくは知りませんが相応のマニュアルはできたと」

 

「へーっ…まあでも確かに…シャフト・エンタープライズの件はDAも介入が難しいとは聞いたし。それで特車二課が大活躍してたとかは聞いたね」

 

「そのせいで世界一平和の称号が揺るぎかけてるそうです」

 

「ふーんっ…」

 

シャフト・エンタープライズ。

表向きは世界的に展開する多目的企業であるが、企業利益のためなら違法行為に出ることも辞さない企業体質であり、特にその内部の企画7課は表向きはゲームの制作をしていたが、裏では軍用レイバーの開発をしておりサターン、ブロッケン、ファントム、グリフォンといったレイバーで、日本を文字通り踏み荒らした。

DirectAttackも探りはいれていたものの、日本国内はともかく海外には手を出せない上、シャフト・セキュリティ・システムという事実上の私兵部門の存在や、AIのラジアータもリソースを総動員したものの、主犯の内海がそれ以上の策士ということもありDAとしても後手後手ということになってしまい、結果事件の解決を表の自衛隊、警視庁と特車二課に任せるしかなかったという。

最終的に日本支社のシャフト・エンタープライズジャパンやそのシャフト製レイバーをOEMしていたトヨハタオートについては警視庁が確保し、パイロットのバドは子供ということもあり罪には問えずに最終的にはアメリカの警察官に引き取られ、内海はリコリスが射殺したものの、腹心の黒崎などについては国外逃亡を許してしまった。

 

「ああ、それでDA上層部も躍起のようだ。ここ数日で複数のレイバー事件がもみ消されている。テロリストが関わってるそうだが、情報はそれくらいしか流れてこない」

 

そう話すのはこの店のマスターであるミカ。千束からは先生と呼ばれる。

大柄の褐色髭男であるが、これでも千束達を見守る保護者である。

 

「ああ、やっぱりぃ?全く、変に力の入れどころはあるんだから」

 

やれやれと思う千束であった。

 

――――――――

 

一方の警視庁。

警備部特車二課課長の福島隆浩が第二小隊の後藤隊長をいつも通り叱っていた。

 

「全く!またマスコミの対応で広報はてんてこ舞いだ!グリフォンを倒した件はいいが、いつもいつも…!」

 

「はい、すみません。ちゃんと指導はしてるつもりなんですが」

 

「…はぁっ……とにかく!明日までに太田功巡査以下2号機担当の者には始末書の提出を!」

 

「はい…あ、そうだ」

 

「駄目だ!」

 

「まだ何も言ってないんですが…」

 

「どうせあの連続出動中止の件だろう!あの件に関しては触れるなと散々厳命したはずだ。そもそも君自身もここに来る前にそれを身を以て感じただろう!」

 

付き合いも長いゆえか後藤の思考も大分読めるようになったらしい。

 

「まあそうですが…」

 

「…私だって悔しいさ。()()()()()()()()()()年端も行かぬ者にやらせていた事実については…だが政府や警察上層部も公認の上だ。我々ではどうすることもできん!」

 

「……」

 

福島課長は珍しく悔しがるような表情を見せる。

裏の治安維持の一端を知ってもそれでも警察官を続けているようだが、その悔しさは変わらないようだ。

 

「……そのことにつきましてですが、少し課長に相談が」

 

「変に刺激するのは駄目だ」

 

「いえ、ちゃんと『特車二課』としての仕事をしようと思いまして」

 

一見普通の言葉に聞こえるが、後藤の表情は悪巧みしているようなものであった。

そして福島の耳にその「悪巧み」をささやくのであった。




ちなみに福島課長も漫画版準拠です。


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レイバーバカと

こわいなぁ(5話視聴済み)
今回だけ一時間開けての2話連続投稿です



野明は非番ということで街に出ていた。

用事もあったというのもあるが、旧電波塔がある押上に来ていた。

脱線事故が起きた北押上駅もここにある。

 

(ここがあの旧電波塔…本当に傾いてるんだ)

 

電波塔事件

10年前、東京を象徴する巨大タワー電波塔がテロリストによって占拠された事件。

当時の当局により解決したのものの電波塔自体が傾くという結果に終わった。

その後、在京局の放送送信設備は予備送信所であった東京都港区にある東京塔へ再移転。

現在は新たなるシンボルとなる634mの延空木が建設中であり、終了次第そちらが新たな電波塔の役割を果たす予定のようだ。

ちなみにバビロンプロジェクトは少子化傾向があった日本が再び出生率増加に転じたことによる人口増加による土地不足解消という理由があるのだが、その延空木の建設と同時に始まっている。

 

(10年前…あたしがまだ小学校のときだっけ。なんか報道されてるなって思ったけど、こんなんだったんだ)

 

 

その旧電波塔は今や日本を代表する平和のシンボルである。

原爆ドームや震災遺構などと同様に戒める意図もあり、あの悲劇を忘れないためにあるものでもある。

 

(そして駅は…)

 

北押上駅はまだ封鎖されているようで、警官達の見張りもある。

とてもじゃないが入っていけるようなものではない。

野明は警察官とはいえ、警備部所属であり、捜査する権限もない。

もちろんあったとしても入れるわけではないのだが。

 

そんな時…。

 

「あ、後藤さんのところの」

 

「あ!松井刑事!」

 

松井刑事

本名は松井孝弘、階級は警部補で後藤隊長の同期であり警視庁捜査一課の刑事である。

後藤には色々と頼まれごとをされていたりするのでいい加減に縁を切りたいと思ってるがそれは叶わぬ願いである。

 

「どうしてここに?」

 

「いや、ちょっと野暮用ついでに昨日の事故について見に来たんだが…どうにも入れてくれなくてね」

 

「松井刑事でも入れないんですか?でも松井刑事ってこういう捜査もするような…」

 

「いや…にっちもさっちも入れてくれないんだ。所轄の連中にも話を聞いたが、同じようみたいなんだ…」

 

「そうですか…」

 

そして松井はまた別の用事があるようで分かれるが、野明としてはまた疑念を強くせざるをえないものとなっていた。

 

(うーん…松井刑事も入れない現場かぁ……そんなに脱線事故って重要なことなのかな?国交省が出てきたとしてもそんなのって)

 

「あーん…さっき食べたばっかなのになんか小腹空いちゃった…なんか喫茶店とかないかなぁ…」

 

そうやって押上をトボトボと歩いてるとふと喫茶店が目に入る。

 

「ん?…喫茶…リコリコ?」

 

木造で少し和風な建物。看板には「喫茶リコリコ」と書いてあった。

 

「へーっ、こんなカラフルな店も東京にはあるんだ。入ってみよ!」

 

ファントム、廃棄物13号、グリフォンやらの騒動が続いたこともあり、外出することが少なくなってしまった野明にとってこういう店は始めてだった。

 

カランカラン…

 

「はい、いらっしゃーい!」

 

出迎えたのは赤い和装した女子高生くらいの女の子。

どうやら従業員である。

 

「お一人様?」

 

「あ、はい!」

 

「じゃあカウンターに座ってねー」

 

その女の子はとても元気そうであった。

 

「いらっしゃい」

 

カウンターに居るのは褐色の大男…と言っても野明にとって大男は見慣れているので今更驚くことはなかった。

 

「あ、はい。じゃあコーヒーと…これを」

 

「はいよっと」

 

「あれ?お客さん、先生のこと見ても驚かないんだねぇ」

 

「え?あー…あたしの同僚にこの人くらいの大男がいるから慣れてるんです」

 

(他にも色々とあったしね…)

 

「へーっ、そうなんですかぁ」

 

「はいよ。まずはコーヒー」

 

コトンとコーヒーが置かれる。

野明はそれを口に運ぶ。

 

「んんっ。おいしい!」

 

「でしょ?先生のコーヒーはめっちゃ美味しいから!」

 

「はい。隊で飲むあのインスタントなんかより全然」

 

「隊?お嬢さん、なんかそういう仕事についているのか?」

 

「あ、まあなんというか…」

 

(まあ隠してるもんじゃないし、見せたって良いよね)

 

野明は持っていた警察手帳を見せる。

そこには『巡査 泉野明 警視庁』と書いてあった。当然写真付きである。

 

「ほう、警察官か」

 

「へーっ、警察官?うちにも常連さんいるよ?どこの警察署?」

 

「えっと、一応警視庁の本部だけど…あの特車二課って言えばわかるかな?」

 

「あーあのパトロールレイバー隊の特車二課か。てことはお前さん特車二課の第二小隊か?」

 

「え?そうですけど」

 

マスターに言い当てられたのは少し驚いた野明。

それ当時にその女の子は急にテンションを上げた。

 

「ってことはあのパトレイバーの操縦?指揮?」

 

「操縦だよ?もしかしてレイバーに興味あるの?」

 

「うん!だってロボットだよ?ドシンドシンとかってかっこいいじゃん!」

 

どうやら馬があったようである。

そこにもう一人の従業員がやってくる。

 

「…千束?」

 

もう一人のほうは青い和装をしていて、黒い長髪だ。

いかにもクールな印象を醸し出している。

 

「たきな、見て。ついにうちにもパトレイバーのパイロットさんが来てくれたんだよ!」

 

どうやらその従業員はたきなと、赤いほうは千束と言うらしい。

 

「パトレイバー…ああ…どっちのですか?」

 

「あ、そうだ。どっちの?第一?第二?」

 

「えっと…第二小隊の……」

 

「ああ、あの『第二小隊が通った後はペンペン草も生えない』の第二小隊か」

 

マスターはポンと手をたたく。

模範的な第一小隊に対し、第二小隊は『独立愚連隊』『こいつ、おまわりさんです』とか言われるほどの問題児として有名であった。それでも数々のレイバー事件を解決した事実は揺るがないものではあるが。

 

「ああ、あの独立愚連隊の第二小隊かぁ。もしかしてバーンって撃ってるの?」

 

「いやそれは…もう一人のほうだよ?太田功さんって言って『俺に銃を撃たせろ!』なんてたまに叫んでるの、聞いたこと無い?」

 

「ああ!あの報道されてたほうね!なるほどなるほど」

 

太田の悪名は酷く。一時期は保険屋すら見直しかけてたほどである。

対する野明は比較的おとなしい。比較的だが。

 

「あははは…」

 

それに対して苦笑いするしかない野明であった。

だがそんなとき…。

 

ドシーンッ!

 

「!」

 

たきなはその音を察知し警戒し、千束は驚いている。

そして野明はこの音に聞き覚えがあるのだった。

 

「もしかして!」

 

野明は即座に店から飛び出した。

なおお金はちゃんと置いていっている。

 

「うわ、あのお客さんちゃんとお金置いてってるよ!」

 

千束はその意味でも驚いていた。

 

――――――――

 

そして通りへ出ると、案の定レイバーが暴走していた。

 

「うぃーひっく…課長がなんだってんだ…おりゃあレイバー運転できんだぞ…」

 

どうやら酔っ払いがレイバーで暴走しているようだった。

そのレイバーは菱井インダストリー製のヘラクレス21であった。

 

(やっぱりレイバーの暴走…というより飲酒運転!)

 

「そこの暴走レイバー!止まれ!」

 

「ういーっ…なんだよこの…ひっく…じゃまだぁ!」

 

腕を振り回している。幸い野明には当たらないが、代わりに街灯や木々が破壊されている。

 

「うわっ!もー危ないなぁ…」

 

(どうにかして止めないと…でもレイバーが…アルフォンスがないと…)

 

そう思ってると野明のスマホに着信が入る。

 

「あーもう!こういう時に…もしもし!」

 

『野明、聞こえるか!』

 

「遊馬?どうしたの、今あたし忙しいんだけど」

 

『確か今は押上辺りにいるんだよな?』

 

「いるけど…それが何?」

 

『ならよかった!あと数分でそっちにつくからイングラムに乗ってくれ!』

 

「ええ!?なんでアルフォンスが…というか遊馬も非番じゃないの?」

 

『非番だけど八王子からイングラム1号機を戻しに来たところだったんだよ。そんで警察無線でそっちのことをキャッチしたから思いついて隊長にも許可はもらった!第一小隊はまたなんか手間取ってるらしいからな』

 

「すごい行動力だね…」

 

遊馬は基本どこかいけ好かないが、こういうときの行動力はピカイチであった。

 

「…というか遊馬、運転中の携帯はだめだよ?それハンズフリーじゃないでしょ」

 

「…超法規的措置ってやつだ!」

 

その瞬間ピッと切れたのであった。

いつも通り、警察官らしくない警察官の遊馬であった。

 

――――――――

 

そしてキキーッとブレーキを掛けて、レイバーのキャリアが到着する。

 

「野明!乗れ!」

 

遊馬はヘルメットを野明へ投げる。

そして野明はそれを付けた後、足早にイングラム…アルフォンスへと乗る。

 

「遊馬、いいよ!」

 

「おう!デッキアップする!」

 

キャリアのレイバー載せている荷台が上へと上がり、イングラムが直立する。

そして拘束を解除し、イングラムが動き出す。

 

「よし。アルフォンスも元気みたい」

 

「そりゃそうだ。今のイングラムは新品ピカピカも同然よ!野明、いつも通りレイバー無力化だ!」

 

「わかった!そこの暴走レイバー止まりなさい!」

 

サイレンを鳴らしつつ、ヘラクレス21へと突撃をする。

 

「ひっくなんだぁ…特車かぁ…さつかぁ…」

 

「ほら!早く投降しなさい!」

 

野明は対レイバー用電磁警棒を装備している。

 

「くっ…うっせえ!サツごときがおれをとめれるかよぉ…!」

 

ヘラクレス21はすぐさまイングラムへと飛びかかる。

 

「うわっ!でも…!」

 

前の野明だったら慌てたかもしれない。だが様々なレイバーとの戦いを経験してきた今の野明は違う。

 

「そりゃあああ!」

 

「うわああっ!!」

 

柔道の一本背負いのように綺麗にヘラクレス21を地面へ打ちのめす。

 

「うぁっ…ひっく…」

 

「器物損害!道路交通法現行犯!」

 

鮮やかに抑えていた。

彼女の成長がよくわかる…が。

 

「あ!野明!そこには車が…!」

 

「あ!」

 

背負投げた際に無人の車を2つほど潰してしまっていたようだ。

オチをつけるのはやはり第二小隊らしい。

 

「あはは…また保険降りるかな?」

 

「そう願うしか無いな」

 

野明はガックシするのであった。

 

一方喫茶リコリコの二人もその現場の一部始終を見に来ていたようで、千束は目を輝かせて、たきなは冷静に見ていた。

 

「どうやらただの酔っ払いだったようですね」

 

「うわあ、すごい…AV-98イングラム…!生で見れるなんて…!」

 

「やっぱり好きなんですか…」

 

「いやぁ…だから私も操縦しようと先生にレイバーの調達頼んだのに駄目だって。駐車スペースがないからって」

 

「スペースあればいいんですか」

 

「らしいよ?あとたきな、制服姿以外じゃ銃持ち歩いちゃ駄目だって。どうせ使えないんだから」

 

「まあそうですけど…癖で」

 

天然具合はやはり抜けていないたきなであった。

 

そして野明はリコリコへ戻る。

 

「あはは…すみません。途中で飛び出して…」

 

「いえ、迅速な鎮圧。見事でした」

 

「うんうん!流石パトレイバー!私も乗ってみたいなぁ…」

 

「もしかして、レイバーに興味あるの?」

 

野明はぐんぐんと来る。

 

「うん!色々な機体を映像で見たけどかっこいいよね!ずかーんってどかーんって!」

 

「だよね!ちなみにどんな機体が好きなの?」

 

「うーん…そう言われると悩むなぁ…」

 

トントン拍子でレイバー談義が進む。

 

「……千束、そろそろ時間ですよ」

 

「あ、そうだった!すみません野明さん!また今度!」

 

千束はたきなに連れられて秒で制服に着替えた後、喫茶店を後にする。

 

「じゃあねー!千束ちゃーん!」

 

それを見送る野明であった。



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偽り

こちらより5話の時系列です。
もう少しゆっくり考える予定があまりにも衝撃的なアレだったのでこちらは緊急作成です。
あとすまん、放映中の執筆故に色々と途中変えることがあるかも
人工心臓とか想定外だった



警視庁警備部特車二課本部施設

出動さえなければ、静かな場所である。

ある者はハゼ釣りに明け暮れ、ある者はひたすら薬莢磨き、ある者は単純に将棋やらに明け暮れる。

そんな特車二課。

 

 

「はぁっ…暇だね…」

 

後藤隊長が見てる新聞には北押上駅脱線事故から一ヶ月が経過し、東京地下鉄の社長が会見を開いている写真が載っている。

 

「この社長さんも大変ね…知らないことを必死に謝って…」

 

「後藤さん、いつも警視庁に謝罪会見させてるあなたが言うことなの?」

 

「ありゃ」

 

南雲の鋭い指摘に笑うしかない後藤である。

そしてそんな特車二課に一台の車。

それは後藤がよく知る人物の車である。

 

「…はぁっ…東京はあれだけ発達したのにこの特車二課は変わらないな…」

 

ご存知

後藤にいつも捜査を押し付けられている松井刑事であった。

そして松井刑事は隊長室へと向かう。

 

「松井さん、わざわざすまないね。なにかわかった?」

 

「ええ。阿部刑事と一緒に北押上駅に潜りこんでみたんですよ」

 

そして松井刑事は机にコンクリートの破片のようなものを出してくる。

 

「こいつは…なんだ?」

 

「裏を見てみてください」

 

後藤はそのコンクリートの破片を裏返す。

そこには何かが潰れたもの…いや、実弾が潰れたようなものがくっついていた。

 

「これって…!」

 

「ええ、間違いありません。実弾の銃弾です。その上表向きは脱線事故と言っているにも関わらずホームは天井ごと崩壊。もっとも他の証拠は取る前に見つかりそうになったので退散しましたが」

 

「ほう…。なるほどね…やっぱりテロか」

 

後藤は予想していたようで手に取りつつもじっと眺めているが南雲は驚いていた。

 

「つまりこれは政府が…いや…例の連中がテロ事件を隠蔽したってこと?」

 

「まあそういうことになるね…いやぁ…悪い予感は的中するもんだね…そして他の死体とかはなかったんだろう?」

 

「はい、綺麗さっぱり。つまり犠牲になった人はいない……なんて虫がいい話はないでしょう。つまりそういうことです」

 

「まあだろうね…『リコリス』はそういうものだからね」

 

後藤は窓の外に目を向けつつ、外の部下たちの様子を見る。

 

「そうやって彼女達が犠牲となり、我々はこうして仮初めの平和を生きている…」

 

『こらぁ!もっと走れ!シゲ、お前はあと三週!』

 

『拳銃でも良いから撃たせろぉ!』

 

『はぁ…たまには穴子釣りてえなぁ…』

 

「……後藤さん…」

 

後藤の表情は見えない。

だが、声はどこか弱い。

 

「…じゃあ松井さん、引き続き頼むよ。もちろんやばくなったら逃げて良い」

 

「ええ、もっともここまで知った今、引き下がるわけにはいきませんよ。その代わり…今度の奢りはもっと豪華にしてくださいよ」

 

「はいよー」

 

そして松井は特車二課棟を後にする。

当然、小隊長室に残ったのは南雲と後藤だけである。

 

「…後藤さん、ところで前に福島課長に何吹き込んだのよ。隠し事苦手なのよあの人」

 

「なぁに。『特車二課』として…『警察官』としてちゃんと仕事をしますって言っただけだよ?」

 

「つまり今まではしてなかったってこと?」

 

「まあ…どうだろうね?しのぶさん」

 

その後藤さんの目は変に笑っていたそうな。

 

――――――――

 

一方浅草。そこで野明と千束達がばったり出くわした。

 

「あれ?千束ちゃん、その人連れて何しに来たの?」

 

「あーうん。この人に東京見物の案内だよ!ちょっと知り合いに頼まれちゃって」

 

千束とたきなが連れているのは車いすに乗った老人。

ゴーグルを掛けており、横には心電図のようなモニターだ。

ちなみに野明は喫茶リコリコに非番で暇さえあれば来るようになっており、すっかり常連となっていた。

 

「へーっ。千束ちゃんもたきなちゃんもこの人連れてなんて大変だね。東京は人多いし」

 

「いえ…」

 

浅草はやはり人が多い。

野明も東京の人混みには慣れてはいるが、うざったらしいのは変わりない。

 

 

「じゃあ気をつけてね」

 

「はいはーい!」

 

「失礼します」

 

その二人は元気そう…ではあった

 

(平和って良いねぇ…ああやって楽しそうだし…。ま、あたしもその平和を守る人なんだけどね!えっへん)

 

心の中故に誰にも聞かれない物なのは言うまでもない。

 

――――――――

 

「うーっ…たく、タクシー代もないから歩くしかねえのか…」

 

とある深夜。特車二課第二小隊のバックアップの篠原遊馬は夜道を歩いていた。

自分の独身寮へ帰る道のようである。

 

「…?」

 

だが遊馬はその前に制服姿の女子高生を見た。

()()()()()()()のその姿は間違いないであろう。

ただこんな深夜に出歩くのはおかしい。

 

(家出少女とかか?って一応俺も警察官だから声はかけとかないと)

 

遊馬は迷わずその少女へ声かけた。

 

「そこの君、何をしてる?」

 

「え…」

 

「見たところ女子高生のようだが…駄目じゃないか。こんな時間に出歩いたら」

 

「で、でも…」

 

「あ、俺も怪しいやつってか?大丈夫。ちゃんと警察官だから」

 

胸ポケットにしまっていた警察手帳を見せる。

そこには『巡査 篠原遊馬 警視庁』と書かれた上で彼の証明写真も載っている。

 

「恐らく家出少女だろうが…全く…俺みたいな可愛くねえやつならともかくこういう可愛い子の話も聞かない親がいるなんて世も末だな…」

 

やれやれとなっている遊馬。

なおその彼女はボソボソとなにか言っているが遊馬は気づかない。

 

「よし、とりあえず近くの警察署に送ってやるからな。後日ゆっくり家族と話すんだぞ」

 

「……はい」

 

遊馬はその少女を連れて警察署へ向かうのであった。

 

 

 

 

 

 

 

 

「真島さん!例のやつが警察官に連れられていきました!どうします?」

 

「チッ!せっかく作業用レイバーで轢いてその上で銃撃して放置すれば流石に事件になると踏んだが…まあいい…まだ別の案はある…」

 

真島と呼ばれたその男は再び邪悪に微笑んだ。

 




真島捕まえちゃっていいかな(キレ気味)
多分駄目だろうけど

パトレイバーが混ざったのでテロリスト言えど地球防衛軍とかそこらへんがまあ…うん


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黒と白

なるだけ抵触しないように執筆中



 

『たかが脱線事故で一ヶ月も不通とか馬鹿にしてるのか!』

 

『半蔵門の脱線事故だけで京成と都営浅草線まで封鎖とは何を考えている!』

 

『代行バスは都営、京成、東武三社の運行でも手一杯なんですよ!早急に復旧を願いたい!』

 

『本当に重ね重ね利用者の方々には本当に申し訳ない…』

 

後藤隊長が聴いているラジオには東京地下鉄の社長の記者会見が流れている。

一ヶ月も通勤の足を止められて怒らないやつはいないのは言うまでもない。

 

「後藤さん、何聴いているの?また競馬?」

 

「いや、ニュース聴いてたらまた地下鉄の社長が記者会見開いてたらしいからそれ聴いてる。謝り倒したところでこの社長さんは悪くないのに」

 

「恐らくその社長さんも引責辞任の結末になるんでしょう?あの組織はそういう尻拭いまではしてくれないのね」

 

「ま、事件を事故に変えれるなら、表の人間のクビが飛ぼうとなんとも思わないさ。さてと…そろそろ」

 

「やっぱり競馬じゃない」

 

「当てたら奢るよ?デアリングタクトが1番取ってあの馬がくれば…」

 

「そういう問題じゃなくてね…」

 

引き続き昼行灯な後藤に頭を抱える南雲であった。

 

 

――――――――

 

その日の夜。

 

『支援したのは今や匿名支援の代名詞であるアラン・アダムズという謎の人物』

 

『まさに人の善意によってこのたびの歴史的快挙がもたらされたのである』

 

『またしてもですか。人の善意が歴史を作ったのですね』

 

『アランの支援を受けた者の共通点はこのチャームのみ。スポーツ選手以外にも研究者や芸術家など世界中で様々な分野の天才がアランの支援を受けており…』

 

特車二課の休憩室でテレビがついている。

それを遊馬と野明が見ている。

 

「ねえ遊馬、アラン機関っていわゆるあしながおじさんってことだよね?」

 

「まあ端的に言えばそうだな。アラン・アダムスってのはよくわからんがまあ相応の金持ちだろうな。つまり金持ちの道楽よ。俺らみたいな凡人なんか目もくれない」

 

「だよねぇ…でも人のためにお金を使うなんてすごいよね」

 

「いやいや…どうせなんか裏があるに決まってる。人の善意なんてそう簡単にあるか?どうせなにかしらの見返りがあるからやってるんだろ?その天才が成功して金が入ったら何%かはアラン機関にやるとか」

 

「もー、身も蓋もないこと言わない。まあでもそういう感じだろうね」

 

遊馬は親が親であるために金持ちに対しては妙に手厳しい。

野明もそれを知ってるために同意している。

そこへ後藤がやってくる。

 

「おお、篠原ここにいたか。ちょっと頼みたいことがあるんだが」

 

「なんですか隊長?」

 

「いや、男子トイレの電球が切れちゃってね。予備も探したんだが見つからないからちょっとコンビニに買ってきてくれないか?進士や太田はまだ忙しそうだし、山崎は仮眠してるし、女性陣をこんな真夜中にほっぽり出す鬼にはなりたくないし」

 

「ええ!?ここから歩いてコンビニに!?」

 

「何言ってるの。指揮車くらいは使っていいよ。まああとお釣りでなんか好きなの買ってきていいよ

 

遊馬に1000円渡す後藤隊長である。

 

「お、ラッキー!珍しいですね隊長!」

 

「そんなに珍しい?」

 

 

『やはりアラン機関は…』

 

 

――――――――

 

「ありがとうございましたー」

 

「都内にゃコンビニは大量にあるのに、あの孤島はちょっと行かないと無いとかどんないじめだ…しかも電球売ってるコンビニは更に少ねえし…」

 

そう言いつつ電球と飲み物やらの袋を後ろのスペースに置くとエンジンを掛け、指揮車を動かす。

パトカーがコンビニに止まり、警察官が買い物するというのは一昔前は色々と言われたが現在は防犯にもなるということで許容されている。もっとも一部は相変わらずクレームを入れるが…。

 

「窓はあけて…はぁっ、いい風だなぁ…」

 

昼間は物凄く暑いか夜はまだマシであるがゆえに遊馬は窓をあけて風を感じつつアクセルを踏んでいる。

いかにもいつもの遊馬であるが…。

 

 

パンッ!

 

「!?」

 

一発の銃声

しかもかなり近い場所での音だ。

 

パンッ!パンッ!

更に複数の銃声が響く。

 

(こいつは…銃声!)

 

遊馬は指揮車を止めて飛び出す。

 

(こっちのほうからだったな…しかしあの音ならレイバーではなく拳銃…何があったんだ…?)

 

 

――――――――

 

「はぁっ…はぁっ…」

 

そして制服姿の彼女…つまりサードリコリスの一人。

遊馬が先日送ったその子であった。

どうやら再び任務に入ったが失敗し攻撃を食らってしまったのだろう。

肩に銃撃を受けており、血も流している。複数のかすり傷もある。

そしてよほど走ったのか披露は限界のようだ。

 

(このままだと…見つかる…!)

 

だがそこへ遊馬がやってくる。

 

「あれ、この前の送ってやった……ってなんだその血は…!?」

 

「あ、あなたは…」

 

「誰にやられたんだ!?」

 

そして遊馬が周りに目にやると拳銃が落ちていた。

グロック17。グロック社が開発した自動拳銃だった。

 

「モデルガン?いやこの匂いは…」

 

「こっちだ!」

 

「!?」

 

そして敵らしき男達が向かってくる。

遊馬としてもこの状況をなんとなく理解した。

 

「おい、はやく逃げるぞ!」

 

「で、でも…」

 

「いいから!殺されるぞ!」

 

そして遊馬は彼女を急かすように走らせて、停めていた指揮車に乗らせ、サイレンを鳴らし即座に走らせる。

 

「緊急車両が通るぞ!」

 

シートベルトなんかする余裕もなく走り去る。

 

そして後ろの男たちは…。

 

「真島さん!リコリスを逃しました!またサツが!」

 

「チッ…悪運の強いやつだ…」

 

真島はバツが悪そうな表情でそうつぶやいた。

 

―――――

 

「隊長!隊長!」

 

遊馬はすぐさま隊長に直接電話をした。

 

『どうした篠原、電球見つかったか?』

 

「それどころじゃありません!銃撃による負傷者1!ベージュの制服姿の女子が銃撃された模様!」

 

『なに!?』

 

「どこか病院に送りたいんですが、隊長の方から消防に!」

 

『…わかった。城南港病院に移送しろ。俺の名前を出せばすぐにやってくれる。後で俺もそっちに行く』

 

「了解!」

 

「はあっ…くっ…!」

 

「大丈夫だ。もうすぐで病院につく!おらおら!国家権力のお通りだ!」

 

サイレンが鳴り響きながらそのまま進んでいくのであった

 

―――――

 

城南港病院に後藤以下第二小隊がついたのは数時間後だった。

だが後藤は院長に話を通すためか熊耳、野明、山崎、太田、進士が先に遊馬と会っていた。

深夜ということもあり、病院の待合室は小さい明かりがついているだけでほぼ無人である。

 

「篠原巡査、説明をお願いします」

 

「はっ!指揮車で二課棟に帰還中に突如として銃声が数発ほど近くで起こり、その銃声が聞こえたほうへ駆けつけたところ少女が血を流して倒れておりました。そこで彼女を抱えて指揮車に乗せ、隊長の指示に従い病院へと搬送しました。そしてこれが彼女が倒れていた現場の近くに置かれていた拳銃です」

 

遊馬は拳銃を取り出す。

 

「間違いなく本物です。念の為火薬は抜いておきました」

 

「これは…」

 

「グロック社製のグロック17じゃねえか!なんでこんなもんが…」

 

銃が大好きな太田が真っ先に食いつく。

 

「この拳銃であの子が撃たれたってこと?」

 

「それはわからない。だが後ろに何人かの男に追われていた以上、追われていた存在であることは確かだ。ヤクザの娘辺りかそれとも…」

 

「おお、ここにいたのか」

 

遅れて後藤がやってくる。

 

「隊長!なにか重大事件の予感です。すぐに手配を」

 

「まあまて。まず篠原、その拳銃で撃たれた少女はこういう制服を着ていなかったか?」

 

後藤はスマホを操作し写真を見せる。テレビのキャプチャ画面のようで、中継の際にその制服の子が写ったのを後藤は保存しておいたようだった。

 

「あ、はい。間違いありません。薄いベージュ色でリボンは…」

 

「ちょ、ちょっと待って!これってあの連続出動中止の時に必ず居た制服の…!」

 

野明は一ヶ月前のことを鮮明に思い出した。

出動した所、必ず制服姿の子がいて、その後に出動が取りやめられた事。

 

「本当か?野明」

 

「う、うん!間違いないよ!でもなんで…」

 

あまりにも不自然なものが重なった。

出動中止の裏に必ずいたその制服姿の子。

そして今回銃撃されたのも同じ制服の子。

偶然にしてはあまりにも出来すぎているものだった。

 

「これって……うわあ!」

 

だがそれを考える隙間はなかった。

何故なら次の瞬間、その待合室に黒服の男達がなだれ込んだからだ。

 

「これは何事ですか!」

 

「な、何だお前ら!警察に対して何するんだよ!」

 

「…ああ…やっぱり来ちゃうか」

 

熊耳が驚き、遊馬が文句言う中、後藤はこれを予想していたように嘆く。

そして後藤は口を開く。

 

「…もしかして俺たちの記憶消去しにきたかい?『DA』さん」

 

「………駒の回収だ」

 

他の黒服は何も聴いていないかのように動かないが黒服のリーダー格と思われる男だけは口を開く。

 

「やっぱりか。まあそれに関してはいいんだが」

 

「いいんだがってなんですか隊長!だいたいこいつらは一体何者なんです!」

 

「まあまあ篠原。銃を持っている相手には逆らわないほうが吉だ」

 

黒服たちは隠してはいるが、拳銃を持っているのは明白である。

後藤は「銃は持たない 銃を持っている相手には逆らわない」主義というのもあるが、後藤は遊馬を抑えている。

 

「ねえ、君たちのボスとお話できないかな?」

 

「……」

 

「これは後藤喜一としてのお願いなんだが…聴いてくれないかな?何、君たちの邪魔をする意図は一切ないよ」

 

「……まて」

 

その男は携帯電話で通話し、何かを話した後、その携帯電話を後藤に手渡す。

 

「はいはい。もしもし?後藤」

 

『ふっ…その気の抜けた声。後藤か」

 

「久しぶりだね、楠木さん…いや今は楠木司令だったかな」

 

『後藤喜一…あの件で首を突っ込みすぎたが故に特車二課に飛ばされたが、そのカミソリ具合は直っていないようだな』

 

「この具合は生まれつきなもんでね。それより、今回の件は感謝してよ?殺されそうになったところを助けてあげたんだから」

 

その話す姿は警備部長へ話すような口調ではなく、南雲と話すようなタメ口である。

 

『余計なことを…。最近嗅ぎ回っているようだが、今度は城南島ではなく南鳥島か沖ノ鳥島に飛ばしてほしいのか?』

 

「何言ってるの。君たちの任務の邪魔はしてないよ。第一ああいう女子高生にあんなことさせてるなんて。仮に気づいたとしても君たちはもみ消すしダークネットでも笑い話にしか扱われない。警視庁の鼻つまみ者が何を言ったって本庁の連中は笑うし、知ってる上の連中は黙殺する…君が一番良く知っていることのはずだ」

 

『……』

 

この具合で二人の話は続けている。

なにか重大なことを言っているようだが、遊馬達には訳が分からないことしか聞こえない。

そして数分後。

 

 

「うん、わかったわかった。じゃあ」

 

そして後藤は携帯電話を再び黒服の男に手渡す。

 

「司令…え?このまま…ですが…はい…はい…わかりました」

 

そして黒服の男は携帯電話の通話を切ると他の男達に撤退の指示を出し、この場から黒服は引き潮のように消えていった。

 

「………」

 

第二小隊の面々は唖然としていた。

特に野明は文字通り口をあんぐりと開いていた。

 

「た、隊長!一体どういうことですか!説明してください!」

 

遊馬も隊長の胸ぐらをつかむほど混乱しており

熊耳は察して苦い顔をし、進士や山崎はまだしも太田も珍しく言葉を失っている。

 

「…本当は巻き込みたくはなかったんだが……仕方ない」

 

いつもは部下すら誘導して操作する後藤ですら今回の件に関しては偶然が重なった結果のようで、本音でため息を付いていた。

 

「…今から話すことは一切他言無用だ。話した場合は命がない物と思え」

 



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落胆

城南島埋立地

特車二課棟

 

今日も第二小隊が待機任務といういつものことが行われているのだが、どうにも様子がおかしかった。

 

「変っすね班長…」

 

「シゲ、どうした?」

 

「いやぁ、いつもなら何かしら騒いでる第二小隊の皆さんがやけに静かなんですよ。食中毒でも起こっちまったんですか?」

 

「……さあな」

 

何も事情を知らないシゲがぼやく中、事情を知る榊班長はあえて流した。

 

そしてその第二小隊はと言うと…。

熊耳は第二小隊オフィスにおいて書類の作業を行っているがどこか表情は暗く、ため息もついている。リチャード・王(=内海課長)の件でも精神的に追い込まれた彼女ではあるが、それとは別のベクトルでまた精神が安定していないというものの現れであった。

山崎はまた畑や鶏の世話をしているが、同じく浮かない表情であり、珍しく肥料の量や鶏のエサの量を間違えたりしている。

太田はこの中ではまだいつもの調子に近く、整備班がこしらえた人間が携行できる銃が使える射撃練習場で拳銃を撃っているが、的には命中しているものの浮かない表情であり「クソッ」と嘆いていたほど。

進士はその横で大田に付き添っているがどこか上の空。太田に対するツッコミもほぼしない上、弾に関しても直ぐに太田に渡すという珍しい有様である。

そして遊馬は屋上に登り、東京という街を見渡していた。

 

(…確かに平和だ。レインボーブリッジが攻撃されたりなんかされてねえ…でもこの裏には…野明)

 

そう思いつつ、野明のことを心配しているようだった。

 

そしてその野明は…。

 

「………」

 

女性用仮眠室で1人ベッドにくるまったままだ。

今は当然日中であり、勤務時間ではあるが、状況が状況なので誰も咎めることはない。あの遊馬や太田ですら何も言っていないのである。

 

(私達がいるこの平和が……()()()()に守られていたものだったの…?)

 

あの時の夜。

後藤が話したことは想像をも超えることだった。

 

明治以前に誕生した組織を前身とした秘密組織『DirectAttack』

そしてそのエージェントの『リコリス』

政府が公認し、その組織が孤児を教育し暗殺者に仕立て上げ、犯罪者等を抹殺する。

警察とは完全に真っ向から反する組織なのに警察はそれに逆らえない。

 

(そしてあの子達も…)

 

野明が行ってた喫茶リコリコのあのバイト二人もそのDAのリコリスであることも明らかにされた。

 

(私は…何もわかっていなかった…)

 

野明は項垂れるしかなかった。

今まで自分達もやれることはやっていた。レイバー犯罪を少なくし、レイバーが悪く言われないようにしたいと彼女は思っていた。

 

(グリフォンの時のあの子は人身売買で売られて、悪いやつに教育されてゲームするようにレイバーを操っていた。そんなのに似たのが…この日本も…)

 

 

グリフォンとは違い、後藤はDAは日本の裏の治安維持を担い、民間人に危害を加えることはないとは言った。だがそれでも「悪い大人に子供が洗脳されて銃器を握らせてる」という事実に変わりはない。

野明は今まで持っていた何かが崩れたような感覚だった。

名誉?誇り?そんなものじゃない。もっと大事ななにかだった。

だがそれを言い表すには今の野明では到底無理なことであった。

 

「……はぁっ…」

 

――――――――

 

そして特車二課隊長室。

 

「全く…ついに話したのね。通りであなたの部下たちの気力が全くないと思ったら」

 

「前も言った気がするけど、うちの連中は繊細だからねえ…」

 

「言わないって選択肢はなかったの?」

 

「まさか黒服があんなに来るとは……来なきゃもう少し誤魔化せたんだが…」

 

後藤はため息をつく。

 

「それでどうするのよ。このままってわけにはいかないでしょ」

 

「まあそこは…立ち直ってもらうしか無いとしか言えないねえ…俺ができることはせいぜい酒に誘うかそれくらいしかないよ」

 

後藤は外の風景を見つつ言う。そしてふと時計に目をやると時計は17時を指していた。

 

「あ、そろそろ俺行かないと」

 

「行かないとってどこに?」

 

「まあちょっとね。俺にも付き合いはある。夜だけ非番にしてくれてありがとうね」 

 

そう言うと後藤はいつも制服姿からスーツに着替えると車乗って何処かへ行ってしまった。

 

「……全く後藤さんは」

 

南雲はまだ書類はあるのにと言おうとしたが、言うのは止めて自分で整理し始める。ただしその表情はどこか嬉しそうであった。

 

――――――――

 

Bar forbidden

決して表からは行けない会員制のバーであり、それを利用するのは財界人や政治家などそれなりの人物ばかりである。

そして後藤はバーの仕切りがある個室に腰を置く。

ここは基本バーの人間もバーを利用する他の人にも守秘義務があり、内部で話されたことは絶対に漏れることはないが、それでも聞かれたくない物があった場合はそれ専用の個室がある。

 

「……久しぶりだね。ミカ」

 

「久しぶりだな、後藤」

 

喫茶リコリコのマスターであり元DAの教官のミカと元警視庁公安部で現警視庁警備部特車二課第二小隊隊長の後藤。

交わりにくいはずではあるが、知り合いであったようだ。

 

「すまないね。俺のところの部下が暫くそっちに通ってて」

 

「なに…千束が喜んでいた。そのせいか千束も最近はレイバーにハマってリコリコでレイバーを持とうと言って聞かなくてな」

 

「レイバーほしいなら紹介するよ?うちの部下には篠原重工の御曹司も一応いる。もっとも本人はその立場を嫌っているが」

 

「駐車スペースがないんだが…」

 

「なあに。おたくらならパパっとでしょ?我々警察が踏み込めないところも踏み込めるなら民家の一つくらい潰したところで」

 

そう言うと後藤はウイスキーに手を付け、飲んでいる。

 

「…後藤、部下に言ったのか?」

 

「ああ言ったさ。いやぁ、楠木司令も強情だねぇ。わざわざリコリスを保護しただけなのにあれだけ情報部の連中に囲ませるとか…同じ治安維持をしてる人間だってのにまあ。お陰で部下に誤魔化しようができなくなったよ。うちの連中は謎だと思うことはなんやかんやで調べたくなるのが多くてね。その前に先手を打っておこうと……。まあ、他言無用と厳命はしておいたけど」

 

「………そうか」

 

「おや、一応機密バラしてるのに良いのかい?」

 

「今は俺はDAの左遷先の人間だ。それに関しては何も言えない」

 

「あ、そう…」

 

そして暫く後藤とミカが無言になる。

その二人はそれなりの友人ではあるらしく、緊張といった面は見られなかった。

だがそこから今度は後藤が口を開く。

 

「そういえば聞く限り千束ちゃんは元気そうだけど、『人工心臓』も問題ないの?」

 

「ああ、千束の体調等は問題ない。だが…」

 

「千束ちゃんの好きな通りに過ごさせればいいさってのがミカの意見だろう?なら俺は口を挟むことはないさ。だがあいつがわざわざ機関の教えを破ってまで接触してきたと聞いた時は驚いたが……全く、今の俺じゃ何もできないのに厄介事ばかりは積み重なる…神でもなんでもいいからなんとかしてほしいよホント」

 

酒が入ってるからか若干ぶっきらぼうになっている後藤である。

 

「後藤、お前は本当に何もできないのか?」

 

「当たり前だ。辺境の埋立地に飛ばされた身だよ?こっちができるのはレイバー犯罪の取り締まりかハゼ釣りか野菜畑か…」

 

「……後藤。隠しても無駄だ。とっくにあの件については掴んだのはわかってる」

 

「お?そこまで地下鉄のことの情報渡ってたの?」

 

「勘だ」

 

「おっと」

 

珍しくカマかけに引っかかってしまった後藤である。

 

「情報を集めることには何も言わないが何を企んでいる?」

 

「なに…治安維持のための大事なことさ。もっとも少し警察官としては外れているかもしれないが……ちょっと引っかかることがあったからね」

 

「…やっぱりお前はカミソリだな。昔から変わらない」

 

「……どうだか」

 

後藤はウイスキーのグラスを覗き込みつつ、再び飲み干した。

 



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いまを生きていく

(アタシは…アタシは…!)

 

引き続き布団の中で潜ってしまっていた野明。

 

(アタシは…警察官で…アルフォンスのパイロットで…だから…!)

 

野明はその心の中に秘めていたものを掘り起こすかのように飛び起きる。

グリフォンの件を乗り越えた彼女は前のように長く悩むことはなかったのだ。

そしてせっせと制服に着替えた後、射撃場へとやってくる。

 

「泉、どうした?」

 

「い、泉さん?」

 

「太田さん!太田さんって元機動隊でしょ!」

 

「あ、ああ…そうだが…」

 

「ならアタシに拳銃の撃ち方レクチャーしてよ!」

 

「あ…な、なんだと!?」

 

野明はイングラムの操縦の際にも射撃を使わないほうが良いと後藤が言うほど射撃は得意ではなく、本人も射撃訓練はイングラム及び生身双方であまり行っていないので太田からしてみれば驚きも良いところだ。

 

「し、しかし…」

 

「警察官は射撃も完璧じゃないといけないんだよね!太田さんはいつもそう言ってたよね!?」

 

「い、言ってた…かもしれないが…」

 

太田は破天荒ではあるが意外にも女性には弱い方である。

女性にもぶっきらぼうな態度を取れるのは第二小隊では恐らく遊馬くらいであろう。

 

「でしょ!だから!」

 

「わ、わかった!」

 

当然押し切られる太田であった。

 

数時間後。

その練習を終えた野明は遊馬がいる屋上に来ていた。

 

「野明、もういいのか?」

 

「いいか…はわかんない」

 

遊馬の隣に座り込む野明。

先程よりは悩みの表情はないがまだ影がある表情である。

 

「まさか国が裏であんなことしてるなんてな。俺も驚いたよ」

 

「うん…」

 

「しかも明治以前から存在するって話だぜ?あんな昔から子供使ってあんなことしてたとか夢も希望もねえよな」

 

遊馬はどこか投げやりな言葉ではある。

遊馬なりにショックを受けていたのである。

 

「うん…びっくりだよ。でも…」

 

「進まなくちゃ…って言うんだろ?」

 

「遊馬、アタシの心読めるの?気持ち悪い」

 

「んなアホな。長くバディやってりゃ少しくらいはわかるさ。確かに重大な陰謀が裏にあるとわかっても俺たちには何もできない。少なくとも今まで通りレイバー犯罪を取り締まることしかできないからな。バラしたら今度は俺達が文字通りバラされるかもしれんし」

 

「うん。だからせめて…何があっても大丈夫なようにアタシも準備はしておこうかなって」

 

「だから拳銃撃ち始めたのか?やめとけやめとけ。野明に射撃の才能はないって」

 

「んもー。心の持ちようだよ。アタシだって警察官の端くれだし。レイバーを無力化できたとしてもその中の人が何するかはわからないって遊馬もわかってるでしょ?」

 

「はいはい。まあでも確かにその心構えは大事だ。俺もなんかしねえとな…」

 

「遊馬も銃撃つの?」

 

「それもそうだが…その前に腹ごしらえだ」

 

「え」

 

空気を読めないその発言に思わずずっこける野明であった。

 

――――――

 

「やっぱりレイバー置こうよ!」

 

「駄目だ。本当にスペースがない」

 

「スペース買ってよー!」

 

「駄目だ」

 

千束はミカに相変わらずレイバーを強請っていた。

なお最近見ている映画もレイバーが出てくるものばかりとすっかりハマっていた。

 

「千束、そこまでレイバーがほしいんですか?スーパーカーよりも?」

 

「それとそれはまた別!だからレイバーがほしいの!」

 

「そうですか…」

 

千束のレイバー熱に関してはたきなも少し引くほどである。

数週間前の松下さんの一件で悩んでたと思ったらすぐこれである。

 

「あ、そうだたきな。この映画おすすめだよ」

 

「なんですかこれ」

 

「簡単に言うとコンピューターウイルスにレイバーが感染して暴走しちゃうやつ。それを止めるために方舟をぶっ壊すんだよ」

 

「よく知りませんけど端折り過ぎじゃないですかその説明」

 

「あーでも続編のやつはレイバーほぼ出てこないからあんまりおすすめできないよ。ある意味面白いけど」

 

「それもはやレイバー映画じゃないですよね」

 

「この監督ある意味おかしい人だからねー」

 

すっかり映画談義をする二人であった。

 



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