バ美肉が友人の売れっ子アイドルにガチ恋される話 (霜降り )
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思いつき
「なあ、この子可愛いと思わね?」
自分一人では入るのに勇気がいるくらいにはおしゃれな喫茶店の中。
俺は目の前の店の中だというのに、帽子を深くかぶり黒いマスクをつけたまるで不審者のような格好の友人にスマホを見せつけられていた。
そのスマホにはとある有名な動画投稿サイトにて、画面の端のいる、狐のような耳を生やした桃色混じりの白髪ロングのアニメのキャラクターのような姿の少女が動き、ゲームを配信する様子が映っていた。
これはVtuberと言うやつだ。
Vtuberとは自身の代わりにアバターを用意して配信をする実況者のことで、最近話題になりだんだんと発展してきているジャンルである。
どうやら、友人は最近ハマり始めたらしく、俺にも布教したいらしい。
「
目の前の友人はスマホをいじると、今度は別の配信の画面を映す。
そこでは少女が奈落に落ちて持っていたアイテムをすべて
「イキってからのフラグ回収もめちゃくちゃ早いし、配信の神様に愛されてるんだよ。気づいたら俺の最推しだわ。お前知ってる?見てる?」
「あー、うん。まあ名前くらいは聞いたことあるかも?」
友人の質問に俺は少し言葉を濁しながらも答える。
確かに、知っている。
だって、狐樫御心って
俺 だ も ん !
狐樫御心
とある狐の神様に仕える巫女の少女。
ご主人である狐の神様に現代人の信仰が欲しいからと、無理やり配信活動を始めさせられた。
現実は非常なり。こんなかわいい女の子も残念ながら中身はそこらへんのサラリーマンである。
まさか、まさか自分が友人に推されるなんてことになるとは。
そんなツイ○ターにありそうな漫画みたいな展開ってリアルで起きるんだ。
「いやー、まじでかわいいな。付き合いてー」
というか、友人お前。
バ美肉宣言してるのになんでガチ恋してるんだよ!
バ美肉、とはバーチャル美少女受肉の略称だ。
これは男なのにVtuberのアバターを美少女にすることを指す(逆バターンも存在しないではない)
つまりは、俺のように男なのに女性である狐樫御心のようなアバターを使うことである。
まあ、正直言って変態的な要素のある行為ではあると思うし、人によっては不快に感じることだと思う。
で、俺(狐樫御心)はそのことを公言している。
なんで、公言してるかといえば、趣味程度で初めた行為に面倒くさいガチ恋野郎を作らないためである。
が、しかし、その対策虚しくどうやら、友人がガチ恋してしまったらしい。
なので目の前の友人も自身がガチ恋してる美少女の中身が男なのは知っているはずなのだが……見た感じ気にしてはないようである。
あー、あー、御心の配信画面を目の前というか、目の目の前でゆらゆら揺らすな見えねぇし見たくねぇよ、目ぇ痛いわアホ。
「まっっっっじで、オススメだから!お前も見たらハマるよ!好きになる!」
それは途中で本性をむき出したVtuberが初配信を見るような地獄の罰ゲームだ。
俺が御心を好きになったらそれはもうナルシストなんだよ。
とはいえもちろんそんな本音を言うわけにはいかず、俺は適当に見てみるよ、と返事をした。
「ところでお「なら俺がオススメの配信を教えてやるよ!まずはこのホラーゲーム、イキってるくせにすぐさま……」
俺はこの話を続けたかなかったので話を変えようとするが、友人は俺の言葉なんて聞こえてないのか、俺の言葉を完全に無視して御心のオススメ配信といいところを解説し始めた。
「これはよくスマホの宣伝で出てくる謎のゲームを全力で遊ぶってやつなんだけどな!クソみたいなゲームのクソみたいな仕様に惑わされる御心ちゃんが可愛いんだよ!それに極めつけはちょっとエッチな宣伝が出てきたときの のはんの……」
まくしたてるように喋る友人の言葉を聞いていると頬が赤くなってくる。
な、なんだこれ。めっちゃ恥ずかしいんだが!?
正面切ってここまで褒められたのは初めてだから、謎のむず痒さが湧いてきて堪えるのが辛い。
褒められてるはずなのに、拷問を受けているような気分だった。
しかし、そんな俺の気持ちを知らない友人は長年の友人である俺と本気で語り合えるようになりたいのだろう、御心の魅力をどんどんと解説していく。
というか、お前オススメの配信とか言ってた癖に最初から全部の内容解説してるんじゃねぇよ!?
何?全部の配信の内容覚えてる?どんだけ俺のこと好きなんだよこいつ。
いや、こいつが好きなのはあくまで御心であって俺ではないのだけど。
結局、友人のラブコールはいつ終わるんだと俺がストップをかけるまで続くのだった。
食い下がるな。
あー、顔があちい……
「ん?お前顔が赤いぞどうしたんだ?」
「あー、いや、ちょっと熱いんだよ、うん」
「いま冬だけど……まあ、いっか。取り敢えず見てくれよ?御心について語り合える仲間がほしいからな」
勘弁してください。
自分について友人と語りあうってどんな地獄だよ。
しかもこいつのことだから恥ずかしいこと言いまくるだろ。俺の体を熱暴走させたいのかお前は。
あと、お前、
「現役アイドル様がVtuberにガチ恋していいのかよ」
現役アイドルの癖にバ美肉Vにガチ恋してるんじゃねぇよ。
そう、目の前の友人はなんとあの大手芸能事務所所属のガチの売れっ子アイドルなのである。
どのくらい売れっ子といえば、ライブの座席が予約開始から数分もかからずに売り切れるくらいには売れっ子である。
こんな喫茶店のなかでも帽子とマスクをつけているのは顔を隠すためであった。
なんでこんなすごい人と俺みたいな一般人が友人なのかと言えばただの高校からの腐れ縁からだった。
そんなアイドルがバ美肉Vにガチ恋とか週刊誌に切り抜かれて炎上すんじゃねぇの?
流石にないと思いたいが。
「別にいいだろ。個人の趣味だしな」
「バラエティのネタにでもすんのか?」
「お、それいいな!地上波で御心ちゃんのこと布教するわ」
やっべ、墓穴掘った。
まずいやつに、まずい発想植え付けてしまった。
やるなよ?やらないでくれよ?俺の胃が死ぬから絶対にやめろよ?
そんなことしたらお前のガチ恋ファンから硬ーいマシ○マロがうちに来るからな?
Vに詳しくないとバ美肉というのがどういうものか知らなくて俺のこと女だと思って、嫉妬のDMとかきかねないからな。
というか、分かってても来かねない。
注意したら、ならツイ○ターでやるわ!との返事を貰った。やめろ。
「御心ちゃんってもっと輝けると思うんだよな。だからその後押しを……」
「迷惑だからやめろ!するにしても匿名で布教しろ!」
「いや、でも迷惑だなんて御心ちゃんにしか分かんないし……そうだ!DMで布教していいか聞けばいいんだ!」
「やめろ!」
迷惑だから!御心ちゃんとして教えてやるよ迷惑だから!
くそ!こいつ厄介ファンすぎる!悪意ないのがなお悪い!
取りあえず、俺が本気で注意してるのがわかったのか、友人は不承不承ながらも止まってくれた。
話が通じるレベルでまだ助かった。
……いや、これじゃ結局DMで聞いてきたのを断るのと変わんねぇな。
昔から好きに対しては猪突猛進なとこがあるやつだったが、御心相手にはそういうところが悪化してる気がする。
恋には一直線、美徳に見えて迷惑でしかねぇ。
「しゃあねーし、ゲーム垢の方で布教するわ」
「それアイドルとは関係ないよな?」
「おう、ただのネッ友と駄弁るためのアカだよ。誰も俺の中身なんて知らねー」
「迷惑かけないように布教しろよ?」
「わかってるよ。この俺が推しのイメージを落とすようなことをすると思うか?」
俺の記憶が間違いでなければ数分前に落とそうとしていたところだ。
まあ、いいや止まってくれたし。布教してくれるのはありがたい。
狐樫御心のチャンネル登録者はまだ少ない。最近収益化に届いたくらいだ。
まだまだ成長途中という状態、ちょっとした布教でもありがたいのは事実だった。
「配信環境よくしたいらしいからな、そのためにはチャンネル登録者も沢山いるだろ?御心ちゃんのためになるし、それで配信の環境がよくなれば俺ももっと楽しめるからな、頑張って布教してやろう……手始めに千人くらいに布教するか」
「まともだ」
友人が先程の発言と同一人物の発言とは思えないほどまともなことを言う。
先程までの発言が酷すぎたゆえにギャップを感じてるだけだと思うが驚きだ。
いや、なんか手始めに布教する人数が明らかにゼロが二つほど多かった気がするが、それでもアイドルが、Vtuberを布教するよりは少なくまともなのでどうでも良かった。
「一括送信と、よし、コレで御心ちゃんに五千万円は届くだろ」
「計算が適当すぎるわ。全員が全員五万スパチャするわけないだろ」
考えが甘すぎるだろ。
そこまで簡単に兼ね稼げたら誰も普通の仕事なんてしないわ。人類全員Vtuberと化すわ。
あと、俺にも送ってくるな。
「いーや、御心ちゃんを見たら誰でも五万スパチャは投げるね。それでもまだ足りないくらいだね」
「誰もがお前みたいに生活に余裕があるわけじゃないんだよ」
「最悪、脅してでも払わせる」
「やめなさい」
俺のチョップが、友人の頭に突き刺さる。
友人はイテッ!とそこまで痛くなさそうに言った。
正直、そんな方法でお金をもらったところで一ミリも嬉しくなかった。
まあ、流石の友人もこれは冗談だったらしく、嘘だよと否定してきた。
「というか、お前ならそんな面倒なことせずに自分で全部スパチャにぶん投げそうだけどな」
「当たり前だろ。俺を誰だと思ってる」
カッコつけてるとこ悪いけど、一ミリもカッコよくないよ。アイドルなのに全くカッコよくないよ。
喋らなければイケメンとはまさにこのことか。
「昨日も五万スパチャ投げたしな」
「そっかぁ」
あれ、お前かぁ……ただ無言で建築してる時間に唐突に無言で五万でぶん殴られてめっちゃビクッたぞ。
というかどのアカウントが投げたか覚えてる。初配信からいたアカウントだったからめっちゃ記憶に残ってる。
マジかよこいつ、超古参じゃねえかお前のおかげで新しい音響装置買えたよありがとなぁ!!
……てか、確かあの人俺の配信の切り抜きやってなかったか?
「そうそう昨日の配信の、突然五万スパチャ投げられたシーン切り抜いてるから見るか?反応が可愛いんだよ、しかも俺が理由でこんな反応してくれたってなると……な?」
「い、いや、家で見るよ」
切り抜き師だった。
マジかよ俺って現役売れっ子アイドルに切り抜きしてもらってるのかよ、ヤバくね?
大丈夫?俺友人のファンから殺されない?
あと可愛いとか言わないでくれ、恥ずかしさと男としての微妙な気持ちが一緒に俺のことを襲ってくるんだよ
いや、嬉しいよ?褒めてくれてるから嬉しいよ?でも、やっぱ!さぁ!こう!なんかさぁ!変な気持ちになるんだよ!
そういえば可愛いで思い出したが、ツイッ○ーに可愛いと言われ続けた人がもっと可愛くなろうと女装するようになってくる漫画があったな……
メス墜ち……?
いやいやいやいやいやいやいやいやいやいやいやいや
俺は頭の中に浮かび上がった単語を否定する。
「……?急に頭振ってどうした?」
「……なんでもない」
変なことを考えてしまった。
忘れよう。これは考えてはならないことだ。
「ホントはもっと投げたいんだけどさー」
「五万投げても足りんのか」
「いやー、クレカ天井言っちゃってさぁ」
「スパチャでクレカ天井????????????????????????」
ちなみに今は月始めである。
何をしてるんだこいつは。
「あ、いや、大体の原因はソシャゲの課金だから安心してくれ」
「一ミリも安心できない。むしろ心配が増えた」
「だから今クレカ以外でスパチャ送るつもり」
「まず散財をやめろ」
稼いでれば散財していいわけじゃないんだよ。ちょっとは貯金しろよ。
「いいじゃん、俺の金だし」
「俺はお前の将来が心配だよ」
「ママ……」
「誰がママだ」
「そーいや、御心ちゃんってママ属性もあんだよね。全く属性過多だよけしからん。言われるとお前と同じ感じで否定するけど」
そりゃそうだろうね。同一人物だもん。
ちょっと料理得意で世話焼き気質なだけなのに、なんでここまでママ、ママなんて言われなきゃならんのだか。
「いや、茶碗蒸しを自炊で作ってるのにちょっと得意は無理があるだろ」
「なんだよ、旨いだろ茶碗蒸し」
「だからって自炊で作るもんじゃなくね?」
いいじゃん、旨いじゃん茶碗蒸し。銀杏入りが最近のマイブームだ。
「はー、御心ちゃんが朝ごはん作ってくれるママ配信とかしてくんねーかなぁ」
「それはもうお前の性癖だろ」
「甘やかされたいぜー、芸人同士のしがらみめんどくさすぎんだよ」
「そりゃ大変だな?」
「そーなんだよ。芸能界なんてロクなもんじゃねぇ……ああ、御心ちゃんに慰められたい」
「はいはい」
その願いもう叶ってるよ。
その後は互いに愚痴で盛り上がり、御心の話はほぼせずに友人と別れた。
後日、何となくママ配信をやってみたら五万スパチャが三つほど届いたのだった。
なんで投稿しなかったのかと言うと、
適当に思いついて考えただけなので、詳しい設定(御心の名前とか)を考えるのがダルかった。
ってのと
内容的に小説より漫画向けじゃね?
という二つの理由です。
ちなみに名前の由来は、
狐樫御心 → 狐神ノ御心
こがしみこころ きつねがみのみこころ
です。
言うまでもないか
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