セレじょのデュエルトレーニング! (春色帝ナッシュ)
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#1 世怜音の決闘者
ちなみに詳しいことはあらすじ読んでください。読まなくてもいいです。
今のところオリカとかオリキャラとか特殊スキルとかは出ない予定です。
さらに言うとこの話はしっかりしたデュエル描写ないです。ちょっとはあります。
※8/30改稿 行頭に空白を追加。他にも微細な変更。
古より受け継がれしカードゲーム、『遊戯王』。
モンスターを召喚し、魔法や罠を巧みに操り、
歴史を遡ればその起源は古代エジプトの儀式とも言われ、様々な伝承が伝えられている。
歴史的観点だけでなく、現代のゲームとしても『遊戯王』は重要なものになっている。いまや一万を超えるカードが登場し、その多くは今でも使用可能。"どんなカードにも使い様はある"というのはある程度デュエルを楽しむ者であればよくわかっていることであり、今もどこかで個性豊かなデッキが作られているだろう。
プレイングや効果処理、時に美麗で時に荘厳なイラスト、それらに込められたドラマチックな世界観……いずれの観点からも奥が深く、多くの人々に楽しまれている。
そんな遊戯王が世界中の人々の日常に"そちら"以上に溶け込んだ、"そちら"とは少しだけ違うとある世界。
バーチャル配信者グループ『にじさんじ』を運営する大手企業『
その名を『
スマートフォンやPCから接続でき、動画投稿サービスによるリアルタイム配信も可。莫大な手間と資金をかけて作られたデータベースを電脳空間とリンクさせることで、ゲームの挙動を完全再現しつつ状況に応じてCGアニメーションを投影。今までバーチャル空間で活動してきた配信者などが誰でも手軽に、まるでアニメを見ているかのような臨場感あふれるデュエルをプレイできるのだ。拡張機器を用意すれば風や光の演出がさらに豪華になり、すでに一般向けの流通が開始している。
『にじさんじ』の配信者:ライバーは次々とこの企画に参入。最初期こそ既プレイヤーのたわむれ以上にはならなかったものの、次第にその人数は増加。完全初心者であっても同僚らによる手厚いサポートが受けられるということで今までにない大ブームを引き起こし、配信者も視聴者も巻き込んで数々のドラマを生んだ。
強者ぞろいの本気のトーナメントが開かれることもあれば、かっこよさかわいさを押し出す交流もある。言語を越え、今までありえなかった意外なコラボを生み出し、名勝負が日夜繰り広げられる。
今から始まるのは、そんな世界での物語――。
ここは『
うだるほどの熱気と騒がしい蝉時雨の中、一人の女子生徒が桃色のロングヘアを揺らし、怒られない程度に駆け足で廊下を行く。八月一日、夏休み真っ最中の静かな校舎。
部室棟の奥、五色の折り紙でデコレーションされた『演劇同好会』の扉を開く。その看板には"にじさんじも所属!"の文字が見え、どういう人物の集まりかを容易に察することができるだろう。
「みんな~! おまたせ~!」
桃色髪の少女、幼く快活な印象を与えさせるのは中等部一年:
受け取るのは四人の先輩。うち二人、青い髪の朗らかそうな少女と独特な雰囲気を纏う緑髪の少女は腕にスマホと一体になった機械を取り付け、宙に女性や龍を従えながら相対していた。
教室を、
「《
「破壊される! でも《
「それもわかっとるわ! 《
「さあ来たければ来るといいよ? 《氷水呪縛》でダメージは受けてもらうけど」
「おうおう望むところじゃい! 《
二人はデュエルしていた。戦況は互角、やや青髪の少女が攻勢に出ているといったところ。海のモチーフが至る所に見られる女性たちの猛攻を、黒く透き通る氷のような姿の女性が受け止めている。
それを見守るのは黄色い髪の大人びた少女と、おしゃれな雰囲気の赤髪の少女。やってきたサンゴに気が付いた観戦二人は手招きし、サンゴもまた観戦の位置――高身長の黄色髪の膝上に座る。
「こはたん、あーちゃん、今どんな感じ?」
「おチグちゃんが強気だけど、たぶんヒスイちゃん有利だね。」
「あたしは……うーん、チグちゃんの手札からドーンするやつによるんじゃないかな? あのめちゃ強いやつとか」
「《
「チグちゃんの引き次第、って感じかな」
"こはたん"と呼ばれた黄色髪:高等部三年、
やがてターンは進む。青髪は手札1枚を残し、場には【海晶乙女】モンスターをパワーアップさせるフィールド《海晶乙女の闘海》と、それと自身の効果を合わせて攻撃力が5200にまでなった《海晶乙女グレート・バブル・リーフ》を残す。遊戯王というゲームにおいて攻撃力3000の壁は大きく、普通のやり方では突破することは難しいだろう。
一方緑髪は……。
「っしゃ来た! 《サルベージ》発動! 墓地から《深海のディーヴァ》と《氷水のトレモラ》を手札に戻す! 《ディーヴァ》召喚、効果……」
「そんなん通していいわけないやろ! 手札から《海晶乙女波動》! 《ディーヴァ》の効果を無効にしてこのターン《グレート・バブル・リーフ》を守る!」
「ならこっち! 《トレモラ》で手札の《深海のアーチザン》を特殊召喚! その効果で墓地の《
「なんじゃ、何が狙いで……」
「手札の《サイレンス・シーネットル》は自分場に水属性がいると特殊召喚できる! 《デュオニギス》の効果、《シーネットル》のレベルを4から倍の8にする!」
怒涛の展開。手札回復カードで増やしたリソースで、一度は止められても完全に沈黙することはなく。そしてこの動きがデュエルの決着に行きつくのだと観戦席が察する。
「ヒスイちゃん、"アレ"出すつもりだね……」
「……あ! 珍しいおじさん!」
波にもまれて封じられていた《深海のディーヴァ》が起き上がり、増殖した《サイレンス・シーネットル》にその歌声を響かせる。
たゆたう海月の体が震え、
「氷水より託されし霊峰の守護者、巨大な剣で邪念を断ち斬れ! 《
「えぇー!? そいつは、やばいぃ!?」
「墓地の《シーネットル》を
海月は十分に仕事を成し遂げた。功労者たちをデッキに戻すとその体が泡となっていき……その瞬間、《承影》の目が輝いた。
大剣を一振りし、衝撃波が青髪の少女に襲い掛かる。彼女が立っていた海上の舞台が、消えていく。
「カードが除外された時《承影》の効果発動! 相手のフィールド・墓地から1枚ずつ選んで除外する! フィールドの《闘海》と墓地の《クラウンテイル》を除外!」
「やっば、攻撃力が……つか《クラウンテイル》もバレとったか……!」
《闘海》の効果で上昇していた2000もの攻撃力を失った《グレート・バブル・リーフ》。対して除外されていったカードの数だけ強くなる《承影》が優位に立つこととなった。
……その後は、緑髪が《承影》のパワーで押し切る形での勝利となったのだった。
「かぁーっ! 負けたわぁ!」
「ギリギリだったねー……ナイファイっ」
「チグちゃん、すぴちゃん、おつかれー!」
「ンゴ〜! お疲れ〜!」
「乙ー、この後配信なのに頑張りすぎたかもしれん」
デュエルを終えた二人もサンゴの姿に気が付き、暖かさの戻った教室に五人の生徒が揃った。
青髪の元気そうな少女、高等部二年:
「一番キツかったのはアレやな、《氷水呪縛》! ロックされるわダメージ入るわ、マジで大変じゃった!」
「《コスモクロア》どかされた時は焦ったー。やっぱチグちゃんってデュエル上手いわ」
「え、ホント〜〜〜? 嬉しくなっちゃった、ふふん」
勝った緑髪の少女、中等部二年:
チグサもヒスイも"にじさんじ"内で見てもそれなりの実力者。そんな二人の鮮やかなデュエルにサンゴはすっかり見惚れていたのだが、ふと我に返り懐から取り出した一枚のカードを見つめる。自信に満ち溢れた笑みを浮かべる少女が描かれた黒い枠のカード。
「ンゴも、この子のデッキ早く完成させたいなー」
「結構いいところまでは来てるんでしょ? いけるいける」
「この子たちを使う、までは行けるんだけど……このままだと足りないなぁって」
「やっぱ"おじいちゃん"が出てないと厳しいのが気になるよねぇ。もうちょっとンゴみたいに圧を増やせたら……」
「すぴちゃんなんか言った?」
「いや何も~?」
どうやらサンゴはデッキ構築に難航している様子。無理もない、彼女が使おうとしているモンスターは盤面を固めるサポーターで、戦うパワーは他のモンスターに頼らざるをえない。
悩んでいるのは、アタッカー不足。"おじいちゃん"と呼ばれたカードの高いポテンシャルは大型モンスターに繋げるパワーがあるのだが、その導線は非常に細いもの。どうにもサブプランがないとデッキパワーが不安定になってしまう。
うーんうーんとうなるサンゴの頭を軽くなで、背もたれになっているコハクと隣に座るアカネが声をかける。
「ゆっくりでいいんだよ、私も完成したのは最近だから。相談あるなら任せてね」
「こはたんにそう言われちゃあ、お世話になっちゃおっかなぁ~?」
「さすが最年長……! あーこもお願いします!」
「アカネちゃんも難しいカード使いたいんだよね。"あの子たち"は難易度高そうだよ」
「強いっていうのはわかったんだけどね……まだオレが手綱を握れないばっかりにごめんな……!」
「誰のモノマネ……?」
「まあそこをどうにかするんが今日からの目的じゃからな!」
何を隠そうデッキが完成していないのはアカネも同様。その理由は違ってはいるが、デュエルをしたくともデッキがなければ話を始められないのは確か。
今日五人が集まったのは、そんな問題を解消するためでもあった。そうでもなければわざわざ部室にデュエル用拡張機器を用意するはずもなく。壁に張り出された大きなポスターは、数か月後に催される世怜音女学院文化祭の告知、そしてその一プログラムとして"部対抗デュエル大会"の存在を周知していた。同好会メンバー五人、目立つ成果を挙げて人数を増やし"同好会"から"部"にランクアップを狙うべく、演劇ステージと並行してデュエルの特訓に乗り出すこととなったのだ。
「準備できもいた!」
「あーい! みんなトイレとか大丈夫? 告知した?」
「大丈夫です!」
意気込みばっちり。ライバー用スマートフォン、動画配信サービス並びに『虹闘の間』へ接続――完了。
『セレじょのデュエルトレーニング! #1』、ライブ配信開始。
「は~いみなさまこんにちは~! 画面左から自己紹介! にじさんじのにー! 笑顔のにー! 西園のにーっ! 西園チグサでーす!」
「おはぴ~。中学生お姉さんの北小路ヒスイでーす」
「こんにちはこんにちはこんにちはー♪ 世怜音女学院高校一年生朝日南アカネです!」
「お待ち堂です~最年長の東堂コハクで~す!」
「みなさま~! 世怜音女学院中等部一年演劇同好会所属にじさんじも所属の周央サンゴです~どうも~!」
――きちゃ!
――セレじょコラボうおおおおお!!!!!
――こんにちは! みんなデュエル漬けってほんと!?
夏休み期間とはいえ平日夕方だというのに千人以上が見守る中、彼女らは企画趣旨を流暢に語っていく。電波の先の大勢の視線なども意に介さず。そこにいるのは、"
「……ということであたしたちのデッキを完成させて、全員パワーアップしようってことになりました!」
「それまで三日間、学校とえにからにご協力いただき、泊まり込みで毎日デュエルの特訓をしていきます! たまに気分転換で歌ったりもします!」
「人によっては夜更かししてるかも~? してないかも~? しれないで~す!」
「そしてなんと! みなさんご存じ『虹闘の間』を使うので! ゲリラコラボがあるかもしれません! やったー!」
「にじさんじのみんなが乗り気になってくれてよかったよねぇ、本当に助かる」
――みんなのデッキ見れるのか! 待ってた!
――すごい規模になりそう! しかも実質ずっと配信!?
――頑張れ~!
「というわけでー! "セレじょのデュエルトレーニング"、いっくぞー!」
「おー!」
-- VIRTUAL DUEL SPACE --
そして次の瞬間、教室は広大な電脳空間へと変貌した。あちらこちらから聞こえる音、吹き荒れる風、巻き上がる砂塵、その全てが今なお行われている激戦の象徴として彼女らの体を震えさせる。画面越しのリスナーすら視覚聴覚の情報だけで高揚させられるのだ。拡張機器でそれをより現実的に感じている本人たちにとってそれはいかほどの刺激になるのか。
左手の機械――人それを"
「この後は、各視点配信へどうぞ! あたしとひすぴはばちぼこに強い先輩方をお呼びしてひたすら特訓です!」
「緊張するー! 頑張りまーす!」
「ンゴとアカネちゃんは、それぞれリスナーさんとかいらっしゃったライバーさんたちとお話しながらデッキを完成させます! 私東堂コハクもいま~す!」
「あたしはこのかわいこちゃんたちを頑張って使っていけるようにしたいと思います! うおお待ってろーシェイちゃん!」
「んでンゴはというと、まあ前から話してる通り《コロン》ちゃんのデッキを完成させよっかな!」
少女はそれぞれの道へ歩き出す。この先、それぞれが約束した相手が待つそれぞれの戦場。次に会うときは必ず強くなってこようと約束し、前を見つめた。
今回見えたのはチグちゃんの【海晶乙女】とひすぴの【深海氷水】ですが、残り三人もデッキは決まってます。
何ならその気になればにじさんじライバーほぼ全員分考えられそうな気がします。海外出身メンバーはだいぶ悩むんですけど。
にじさんじ二次創作ユーザー、もっと増えてほしい。
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#2 みなさま~(天真爛漫)
それはともかくンゴ編です。
セレじょのイメージデッキは全員分ニューロンで作ってるんですが、一番難しかったのはンゴでした。皆さんのデッキ作成の一助になれればいいな~ってノリで書きました。
なんか思いのほか読まれててめちゃくちゃ嬉しくなりました。感想とかあると喜びのあまり相手フィールドのモンスターを全て破壊するのでよかったらどうぞ。
誤字とかあったらこっそり教えてください。ンゴの口調の「もいた!」とかは大丈夫なはずですが。
※8/30改稿 行頭に空白を追加。他にも微細な変更。
サンゴが講師役のコハクと共に向かった先は、『虹闘の間』のフリースペースとして用意されている場所。ソロ配信にてリスナー参加型企画などにも使われたり、有識者によるデッキ相談会が行われたりする場所。この配信枠『#おうとう デッキつくる!〜挑戦編 #セレじょのデュエルトレーニング』もその例に漏れず、ゲストを招いてのデッキ構築が行われる。
「ってことで、改めてね! みなさま〜〜〜! “おうとう”の“おう”こと周央サンゴと〜〜〜!」
「“おうとう”の“とう”こと東堂コハクで〜〜〜す!」
サンゴとコハク、固い絆で繋がれた二人合わせて“おうとう”の恒例挨拶。訓練されたコメント欄が盛り上がっている。簡単なイントロダクションののち、
「それでは! 今回ンゴのデッキを作る相談に乗ってくれた、ちょ〜〜〜素敵な先輩を紹介します!」
「ンゴちゃ〜〜〜ん!」
「すこや先輩〜〜〜! では、自己紹介お願いします!」
登場したのは、ピンクの可愛らしい刺繍がなされたナース姿の女性。“すこや”と呼ばれた彼女はサンゴからしてにじさんじにおける先輩であり、サンゴが特に親しくしているライバーのうちの一人。すうっと息を吸って。
「みなしゃま~!」
──誰?
──似てない
──みなさま〜(被害甚大)
「先輩、似てないですね〜!」
「これ皆さん聞きました!? マジで似てないですねこれ! ハイハイこんなんンゴ蠱毒最後まで残るの確定です〜!」
「ゔっ」
おそらくサンゴのモノマネであろう挨拶。しかしそれは歯の抜けた幼児、あるいはアニメなどに見られる人の言葉を真似しようとする異形の生命体のような声、モノマネとしてはいささかクオリティの低いそれに微妙な空気が広がる。配信コメントはボロカスな評価を下し、コハクの無邪気な言葉のナイフとサンゴの怒涛のボディブローに苦悶の声を漏らすのだった。もちろんこういうエンタメである。
しばらくして気を取り直した女性は、今度こそしっかりした挨拶を繰り出した。
「はーい、皆さんお加減はいかがでしょうか! にじさんじ所属バーチャルライバーの
花那と合流した二人は、さっそくサンゴの組みたいデッキを確認していく。卓上に並べられたカードは自信満々な少女《プリンセス・コロン》を中心に、その関連カード《おもちゃ箱》《デメット爺さん》《人形の幸福》など。
《おもちゃ箱》
LEVEL1 ATK0/DEF0 光属性・機械族
このカード名の効果は1ターンに1度しか使用できない。
①:このカードが破壊され墓地へ送られた場合に発動できる。デッキから攻撃力か守備力が0の通常モンスター2体を守備表示で特殊召喚する(同名カードは1枚まで)。
この効果で特殊召喚したモンスターはS素材にできず、次の自分エンドフェイズに破壊される。
《プリンセス・コロン》
RANK4 ATK500/DEF2200 光属性・天使族 エクシーズ
レベル4モンスター×2
①:このカードがX召喚に成功した時、自分の墓地の「おもちゃ箱」1体を対象として発動できる。そのモンスターを特殊召喚する。
②:自分フィールドに他のモンスターが存在する限り、相手はこのカードを攻撃対象に選択できず、効果の対象にもできない。
③:自分フィールドの表側表示の通常モンスターが戦闘・効果で破壊され墓地へ送られた場合、このカードのX素材を1つ取り除いて発動できる。
自分のデッキ・墓地から通常モンスター1体を選んで守備表示で特殊召喚する。
「ま、要するに【コロン】デッキってことだね」
「そうなんです〜! コロンちゃんがかわいいから、デッキにしたいなーって思ったんだけど……」
「それがなかなか難しかった、ってことだね……」
そう、サンゴを悩ませている問題は単純に構築が難しいということ。
《おもちゃ箱》は破壊されるとデッキから特定条件のモンスターを召喚し、同じレベルのモンスターを並べることでできる“エクシーズ召喚”によって盤面を作る準備となる。《人形の幸福》が一枚あればおもちゃ箱をデッキから手札に加えてそのまま破壊できるためまず最初の盤面は作りやすいが、その後に繋がりにくいのが難点だった。
《デメット爺さん》はコロンがいると墓地のモンスターをレベル8にして蘇生でき、そこから大型のエクシーズモンスターを召喚できる。レベル8モンスターを使うランク8のエクシーズモンスターは強力な効果を持つものが非常に多いため積極的に狙っていきたいが、そのためには場に《プリンセス・コロン》と《デメット爺さん》の両方がいなければいけないので、準備することが多い。デッキに三枚しか入れられないデメット爺さんに重きを置きすぎてしまえば最悪手札事故によって何もできない可能性すらある。
これらから、【コロン】デッキは非常に難易度が高いとされていた。構築の上で少なくとも他のテーマのカードは採用したいところ。
「それで今は“混ぜ物”の相手を探してるってことだね!」
「はい! ……まあそれが一番難しいんですけど」
「うーん、サンプルデッキで見た気がするんだよね……【星杯】だっけ?」
「そう! です! 最初はンゴもそれを使おうと思ったんです!」
『虹闘の間』は、デュエルの敷居を下げられるようにという製作チームの気遣いもあってサンプルデッキがいくつか用意されている。その中の一つが攻撃力や守備力が0の通常モンスター三種類を擁する【星杯】というテーマと混合した【コロン】デッキ。特に《星杯に誘われしもの》はレベル4で攻撃力1900と、コロンの召喚に繋げられるモンスターの中ではかなり優秀なモンスター。
では、なぜ使われていないのかといえば。
「【星杯】はリンク召喚が強いけど、《人形の幸福》を使うとエクシーズ召喚しかできなくなっちゃうからうまくデッキが回らなくって」
「はいはい! それで考えなくちゃいけないことが多かったのかー……確かに【星杯】のリンクモンスターは結構クセがあるし出すのも難しめだからね」
「他にも試したんですよね~。ほら、なんか違うってなっちゃったやつ、なんだっけ?」
「えっと……お寿司! あとなんか光と闇のやつとか!」
コハクが指摘した通り、サンゴは今までも様々な可能性を模索していた。メインエンジンの《おもちゃ箱》が指定する“攻撃力か守備力が0の通常モンスター”は対応カードこそ四十種類以上。《人形の幸福》の効果に指定された“ドール・モンスター”二体を合わせたレベル4モンスターは十八種類。同じくランク4エクシーズを使用する【
「こんなこと言ったら変かもしれないんですけど、やっぱンゴ的には“解釈違い”になることが多くって……最後はコロンちゃんに決めてほしいなーって……」
それはともすれば傲慢かもしれない。多種多様な強いカードを見てもなお悩むというのは、子供らしいわがままかもしれない。中学一年生と幼いながらにそれを理解しているサンゴは、恐る恐るといった感じで口にした。
だが、花那とコハクが返す答えは彼女らがサンゴを理解しているからこそ違うもので。
「いいじゃん! デッキって好きなカードで組むものだから!」
「そうだよー、ンゴのそういうところ素敵だと思うな」
「私も好きなカードでデッキ作る、ってなった時はすごい大変だったんだよ!」
「先輩の、好きなカード?」
今まで『虹闘の間』を訪れていなかったサンゴが初めて聞く、花那のデッキのコンセプト。気恥ずかしそうにしながら語る花那の言葉は、確かな実感が伴うアドバイスとして突き刺さる。
「私がイラストが良くって好きになったカード、まあ使いづらい子だったの。出すのも難しいし、出してから活躍させるも難しい。どうしようってもうすっごい悩んだ」
「そんなことが……」
「いろんな人に協力してもらったねー。……本当にありがたかったな」
頭によぎるは、かけてもらった言葉の数々。“無茶かもしれないけどこの子で戦いたい”という熱意が伝わった時の思い出。
――ご相談ありがとうございます。健屋様の情熱にお答えできますよう、わたくし頑張らせていただきます!
――俺は詳しくないけど、こういうカードがあるみたいだからよければ。
――要するにその子でバトルして勝ちたいのね! 健屋さんの頼みとあっちゃあお姉さん頑張るしかないわねぇ!
助言と発見の末、完成した時の感動はひとしお。今度は私の番だ、と決意した花那がかける言葉は、おそらくこの場にいる誰よりも説得力と自信を持っていて。
「視点を広げて、時には変えて、いろんな方向からそのカードを見ればいいデッキが作れる! ンゴちゃんのカードも、絶対にいいデッキを作れるから!」
「……! ありがとう、ございます!」
どんなカードも使いようがある。誰かのストレージに眠るそれが違う誰かの切り札になっているかもしれない。一万種を超えたカードがある遊戯王はまさに可能性のカードゲームと言えるだろう。実際どんなデッキかは見えていないものの、口ぶりからするに花那も“好きなカード”でデッキを組むことができたのだろう。
そんな花那の激励が、うつむきそうになっていたサンゴを奮い立たせた。“視点を広げて”……その発言が、今までの固定観点を改めるきっかけになった。今まで自分が見ていたのはおもちゃ箱で特殊召喚できる通常モンスターばかりで、最終的に戦うエクシーズモンスターは後回しになっていた。そちらに、ヒントが隠れているかもしれない。
「エクシーズモンスター、めちゃ見ていこうと思うんだけどどうかな?」
「いいよ~やっちゃえ~!」
配信者らしく行動に移すのは非常に速い。データベースをさっと操作し、ランク8のエクシーズモンスターを少しずつ確認していく。とはいえそれらは非常にバリエーションが広い。除去・妨害・攻撃力……様々な要素が秀でておりどれもエースレベル。最上級モンスターを二体以上用意するのにふさわしい性能ばかりで、逆に難しいというのも珍しい話だ。特定の条件が必要なものなどを除いても二十種類以上は検討されるだろう。一撃のパワーを求めるもよし、テクニカルな動きで翻弄するもよし、じっくりと確認する。
とはいえ今回はデッキのコンセプトが明確で、相性のいいモンスターというのもわかりやすい。やみくもに探すよりよっぽど効率的だ。キーワードは“通常モンスター”。【コロン】デッキの展開に役立ち、フィニッシャーとしての十分なパワーも持つカード。
そうやってある程度絞り込んで考えていたからか、
「あ、ひょっとして……?」
「わーかっこいいー! え、いいんじゃない!」
「ほうほう……うんうん、強いじゃん! このテーマが相性良かったりするかもね!」
「今見てみます! …………これ! あるかもしれもはん!」
通常モンスターを絡めて展開する【コロン】デッキとまさに奇跡のマッチ。展開力もパワーもあり、デメット爺さんだけでは足りないと課題だったレベル8モンスターの用意も手助けしてくれる革命児。調べていくほどに見えてくる相性は最高の一言、テーマとしての動きやすさは《人形の幸福》などにアクセスできなかった時でも十分戦えるようになり、【コロン】デッキを押しのけすぎずに両立する。やがて非常に母数が多く後回しになっていたランク4エクシーズモンスターもおおよそ決まり《コロン》を支えるモンスターたちが勢ぞろいしていった。
“人は誰しも可能性に満ち満ちる”、そんな文言に導かれたサンゴのデッキ作りが急加速を迎え……そして彼女らの歓喜の声がフリースペースに響くのに、そう時間はかからないのだった。
「できたーーーっ!」
それから細かい調整を終えた後。デッキを作ったからには多少なりとも試運転は必要だろう、という前置きと共に花那がサンゴにデュエルを申し込む。
配信開始から二時間以上が経過しており、今日の締めにふさわしいとしてその申し出を受け入れるのだった。配信も非常に盛り上がりを見せ、サンゴの初陣はプレッシャーにも成りえる現状を真正面から受け止めそのうえでデッキを信じた。この胆力こそサンゴの持つ強み。
「さて、ンゴちゃんとデュエルするのは初めてだなー!」
「すこや先輩が使うデッキ、何だろう……よろしくお願いします!」
「よろしくね!」
「それじゃー、ンゴと健屋先輩のデュエル、始めまーす!」
電子音が相対する二人にファンファーレを送る。ここは戦場、誇りと熱意をぶつけ合う遊戯の場。
-- SANGO VS KANA --
-- DUEL --
「「デュエル!」」
TURN1 KANA LP:8000 HAND:5
「早速エースに来てもらおうかな! 私は手札の《地霊媒師アウス》の効果発動! このカードと手札の《
先行は花那。手札に引いていたモンスターはそのまま手札から相方となる他のモンスターと共に捨てることで、自分自身か相方と同じ種族の地属性モンスターを手札に加えるサーチカード。捨てたモンスターは魔法使い族のアウスと昆虫族の天道虫、サーチするモンスターは宣言通り花那のエース、彼女とどこか近しい――
「魔法使い族、《お注射天使リリー》を手札に加える!」
「あれが、先輩のエースモンスター……!?」
「天道虫が墓地に送られたから1000
戦場がたちまち花咲き乱れる野原に化粧された。薫風が運ぶ芳香、機械によって再現されたものだとわかっていても本当に大自然に身を投じているかのような錯覚に陥ってしまうのも無理はない。
「《苗と霞の春化精》の効果! 手札のこのカードとリリーを墓地に送って、デッキから《丘と芽吹の春化精》を手札に加えてから墓地の《苗と霞》を特殊召喚!」
「おー、なんか効果がたくさん! 何起きてるか全然わかんない!」
「【春化精】は手札から捨てるとそれぞれの効果を使いながら墓地の地属性を特殊召喚できるよ。私はエリーちゃんに教えてもらったんだ。花盛の効果で墓地からリリーを手札に戻して……続けて《丘と芽吹》の効果! 手札の自分とリリーを墓地に送って《春化精の暦替》を手札に加え、墓地からアウスを特殊召喚!」
「どんどんモンスターが並んで……!」
手札の消耗は激しい。それでも息切れしているようには見えないのが、カードがカードに繋がっていく展開力に長けた【春化精】の強さだろう。観戦しているコハクはついてこれていないようだが。地属性モンスター全般を墓地から特殊召喚できるというのは彼女のエースであるリリーをいつでも呼び戻せるという強み。リリーをサーチできる《地霊媒師アウス》と合わせ、素晴らしい完成度を誇っていた。
「続けて、自分フィールドのアウスと《苗と霞》を墓地に送ってデッキから特殊召喚! 《憑依覚醒-デーモン・リーパー》!」
「デッキから直接召喚!?」
「デーモンリーパーの効果で墓地から天道虫を特殊召喚! さらに地属性モンスター二体で《Gゴーレム・スタバン・メンヒル》をリンク召喚! 墓地に送られた二体の効果でLPをさらに1000回復しながらデッキの《地霊術-『
止まらない、止まらない。そして先ほどからたびたび見える天道虫によって何度も何度もLPを回復しているのも気になるところだった。二回の効果発動で今や10000LP、削り切るのは相当難しいだろう。
その後花那は手札のカード二枚をセット。おそらく手札に加えていた《春化精の暦替》と《地霊術-『鉄』》だろうそれらを構え、手札1枚とフィールドに攻撃力1500の《スタバン・メンヒル》を残してターンを終了した。
TURN1 KANA LP:10000 HAND:1
FIELD 《Gゴーレム・スタバン・メンヒル》ATK1500
《春化精の花盛》〈SET〉〈SET〉
一見すれば頼りない盤面ではあるが、しかし準備は整っていると言えるだろう。
フィールド魔法《春化精の花盛》は春化精モンスターの特殊召喚に成功した時に、お互いのフィールドや墓地のモンスターを手札に戻す効果を備える。先ほどは自分のリリーを回収し《丘と芽吹》に繋げたが、今度は相手のモンスターを除去する役割を果たすことだろう。
自分場の地属性を墓地に送って別の地属性を蘇生する『鉄』と墓地の春化精を手札か場に戻す暦替によってそれがいつでも可能となっており、考えなければいけないポイント。先行プレイヤーとして後攻をけん制する十分な動きだろう。次の自分のターンからが本領発揮、サンゴの攻めに備えるような盤面を作ったのだった。
そんな、ある意味期待されながら迎えたサンゴのターン。
「……」
最初に見えた手札五枚は悪くない。最低限の動きはできるだろう。このドローによってどれだけ展開できるかが決まる。
「……行けるよね。うん。ンゴならできる!」
「ドローっ!」
TURN2 SANGO LP:8000 HAND:5→6
「!」
果たして、ドローしたカードは……どうやら悪いものではなかったらしい。頼りになるカードを携え、意気揚々と戦場を彩り始める。花盛りの庭園に異質なおもちゃの城が建つ。
「行きます! 永続魔法、《人形の幸福》! デッキから《おもちゃ箱》を手札に加えます!」
「ちゃんと持ってるねー。ここからどうするのかなー?」
「こうします! さらに永続魔法《切り裂かれし闇》を発動! そして《
《予想GUY》、自分の場にモンスターがいなければデッキからレベル4以下の通常モンスターを場に呼び出すことができるカード。ドールモンスターももちろん呼び出せるが、ここで出てくるのはまさに
「行っておいで……《
「魔鍵……?」
「通常モンスターの特殊召喚に成功したので《切り裂かれし闇》で一枚ドローします! フィールド魔法《魔鍵
「おぉ……」
「《魔鍵-マフテア》を発動! 手札・フィールド・デッキの通常モンスターを墓地に送って手札から魔鍵モンスターを儀式召喚します! デッキの《ライドロン》を墓地に送ってバトスバスターを召喚! デッキの《大魔鍵-マフテアル》ちゃんを手札に加えます! 手札のマフテアルちゃんを見せて効果発動! このターン中ンゴは手札の魔鍵モンスターをさらに召喚できます!」
少年が持つ銃はその砲身を自在に変える。拳銃が大筒のガトリングへ転じ、さらなる力を導く。サンゴがたどり着いたコロンを支えるデッキパートナーこそがこの【魔鍵】たちだった。展開はまだ続く。手札の魔法カードが、高らかな宣言と共にフィールドをさらに鉄格子で分断した。
「ま、ここで環境保全させていただきましょうかね! 《超自然警戒区域》!」
「げ、やっべ」
「マフテアルちゃんを召喚! 墓地からゾンビーノくんを特殊召喚して《超自然警戒区域》の効果発動! すこや先輩の《春化精の花盛》を破壊します!」
「じゃあチェーンして《春化精の暦替》を発動! 花盛がなくなっちゃうし……ここは次のターンに備えるか! 墓地の《丘と芽吹の春化精》を手札に戻す! さらに《地霊術-『鉄』》でスタバンメンヒルを墓地に送って天道虫を特殊召喚!」
「よし、ここでさらにモンスター召喚しちゃおうかな! 《デメット爺さん》!」
環境保護、と言いながら大自然のフィールドがどんどん鉄格子に侵食されていく痛々しい姿に、しかしツッコミを入れる者はいない。サンゴと花那は集中しているしコハクは「やるね~」とつぶやくくらいでサンゴのノリには慣れてしまっているがために。
少なくともこのターンでは負けない、と考えた花那は返しのターンでの捲りを意識した動きに切り替える。天道虫が墓地に送られた際の1000回復を加味できればLPは11000。大型モンスターを召喚しようと削り切るのは限りなく不可能に近いだろう。
であれば、盤面を整えておくべきだろう。そう思いサンゴは次々にモンスターを繰り出していく。眼鏡の老父の横、並んだ
「おいでませ~! 《魔鍵変鬼-トランスフルミネ》! 《魔鍵憑霊-ウェパルトゥ》!」
「やるじゃ~んンゴ! ……まだ続くみたいですよみなさま~?」
「ウェパルトゥ
「ウェパルトゥはランク4、1200ダメージってことかー!」
KANA LP10000-1200+1000=9800
「ここでバーン効果……! 破壊される天道虫の効果も発動するけど最終的にマイナス200……でも流石にこれ以上モンスターは並べられないんじゃないかな……?」
「先輩もそう思いますよね~いくらンゴちゃんの魔鍵モンスターが強くてももう何もないんじゃないかな~?」
あからさまなフリだが、こういうところで明るい空気を作れるのは芝居を好む彼女ららしいか。それはそれとして今はサンゴのデッキのアイデンティティとも言える、《人形の幸福》一枚から繋がる動きを見せるこれとないチャンスである。
「あ、へへっ……実はンゴの《人形の幸福》、まだ効果がありまして……使っちゃおっかな! 手札の《おもちゃ箱》を破壊してデッキから《ドール・モンスター 熊っち》を墓地に送っちゃいます!」
「ええ!? 《おもちゃ箱》を、破壊ぃ!?」
「すると~どうなるんでしょうか~?」
「なんと! 今ならデッキから攻撃力か守備力が0の通常モンスターを二体! 特殊召喚できるんです!」
「す、すご~い! 手札に加えたモンスターを破壊して効果を使えるなんて~!」
「ということでンゴは《火炎木人18》と《メガロスマッシャーX》を特殊召喚させていただきますわよ!」
――草
――すげぇ! お得!
――まさかあのモンスターが!?
コメントも流石のノリの良さ。おおよそ宣伝の様相を呈してきたが、試運転とはいえ勝負は勝負。
よって、準備が整った舞台に主役が現れるのも必然。掲げた手のひらに握る黒いカードこそ、満を持して参上するサンゴのエースモンスター。
「レベル4の18とメガロスマッシャーXで、エクシーズ召喚!」
「みなさまにお届け! 天真爛漫のかわいい子!」
「《プリンセス・コロン》ちゃん!」
攻撃力500、その小さな手で何を掴もうとしているのか――決まっている、勝利だ。足元から墓地に送られていた《おもちゃ箱》を引っ張り上げると、サンゴに向かって元気に手を振る。答えるようにしてさらなる指令が下された。
エースを守るにふさわしい、このデッキの
「爺さんゴの効果発動! コロンちゃんの素材を使って、墓地の攻撃力か守備力が0の通常モンスターを
「レベル8のモンスターが二体……来るぞー! 知らんけど!」
「やっばいかもな……!」
「二体のモンスターでエクシーズ召喚ゴ! 重ねた絆で天下無双の銃弾を放て!」
白き羽と黒き翼がその襲来を告げる。迸る光、銃口を向けるその姿はどことなく金髪の青年にも近いように見え、しかし比べ物にならないほど強い覇気を放つ男がいた。
「《魔鍵憑神-アシュタルトゥ》!」
それこそ、デッキを飾る最強のモンスター。コロンの仲間たちの展開力と魔鍵テーマの手数を合わせることで魔鍵だけでは狙うのが難しい大型モンスター《魔鍵憑神-アシュタルトゥ》を《トランスフルミネ》《ウェパルトゥ》などと並べて召喚することができる。
『純魔鍵でよくないか』とは言わせない。『コロンでは戦えない』とは言わせない。この盤面を作れるのはコロンと魔鍵が力を合わせるから。
「すごいよ、ここまでやってくるなんて……!」
「へへーん! ま、先輩にもこはたんにも協力してもらいましたし~? あ、忘れないうちにフルミネンゴの効果でデッキから《魔鍵錠-
SANGO LP:8000 HAND:1(クラヴィス)
FIELD
《プリンセス・コロン》(火炎木人18)ATK500
《おもちゃ箱》DEF0
《デメット爺さん》DEF0
《魔鍵憑神-アシュタルトゥ》(メガロスマッシャーX、ドール・モンスター 熊っち)ATK3000
《魔鍵変鬼-トランスフルミネ》ATK2800
《魔鍵憑霊-ウェパルトゥ》(ウェパルトゥ)ATK2000
《人形の幸福》
《切り裂かれし闇》
《超自然警戒区域》
〈SET〉(魔鍵錠-解-)
「バトルフェイズ! 全員でダイレクトアタック!」
がら空きになった花那のフィールドに、異世界の力を従えたコロンたちの軍勢が襲撃を仕掛けた。防ぐ術なく花那のLPの大半が消し飛ぶ。天道虫の効果で回復していなければ決着がついていただけにサンゴのデッキの凄まじい展開力を理解させられる。
KANA LP9800-3000-2800-2000-500=1500
「あっぶねぇ……!」
「ンゴはもうすることがないので、これでターンエンドです!」
「……なるほど、ンゴらしいねぇ」
コハクのつぶやきもそのはず。この盤面、サンゴは後少しでも攻撃モンスターを増やしていればほとんど勝っていた。EXデッキにはまだ召喚できるモンスターもいて、それらを合わせれば残り1500LP分は確保できた。それをしない理由にコハクは心当たりがある。盤面に残ったカード群、それらを見るに――
思考を巡らせているコハクの眼前では花那のターンが始まっている。《丘と芽吹の春化精》の効果で手札の自身と《春化精の女神ヴェーラ》を捨てて《春化精の花冠》をサーチ、そのまま女神ヴェーラを特殊召喚。巻き返しを図ろうとする花那を、整えたフィールドを駆使して全力で抑え込みに行っているサンゴ。プレイ一つが勝敗に直結しかねない緊迫した状況に二人の空気感もいつの間にか張りつめて……
「そのヴェーラさん、めちゃくちゃ強いみたいなのでどかします! フルミネンゴの効果で破壊!」
「じゃあ次に永続魔法《春化精の花冠》を発動! 自分の全ての地属性を春化精にして、手札の春化精の効果コストを軽減する!」
「ん~~~ここしかない気がする! カウンター罠《魔鍵錠-解-》! それを無効にしもいた! ……? なんか出てきたけどわからんから闇属性宣言します!」
「じゃあ《森と目覚めの春化精》を召喚して……それ後からでも属性変えられるの!?」
「あ、なんか行けるみたい……ですね……?」
「やばいんだけどンゴちゃん!?」
「あ!
「さっきわからんって言ってたよね!?」
……張りつめていたのだが、サンゴのカードの想定外の効果によってほんわかとし始めてしまった。地属性モンスターを並べることが重要な春化精にとって、属性変更は天敵と呼んで差し支えない存在。コメントも『そんなことある???』『鬼畜の所業』『セレじょで一番怒らせてはいけないのはンゴ』などある意味恐れを含んだ視線を向け始めた。そうしている決闘者は一応現役中学一年女児なのだが、年齢や性別など所業の前ではちり芥に等しいのだろう。
「あーもうどうにでもなれー!! 手札0枚だから墓地の《暦替》の効果で墓地の春化精を全員特殊召喚できる! 《苗と霞》《丘と芽吹》《女神ヴェーラ》を特殊召喚!」
「えっと、今どんな感じですか……?」
「《丘と芽吹》がいると春化精が効果破壊されなくて、《苗と霞》で春化精以外は攻撃力が600下がって、《女神ヴェーラ》は相手モンスターを地属性扱いで奪うことができる! 終わり!」
普段なら非常に強固な盤面だ。
「ちなみにンゴちゃん、今できることある?」
「えっと……アシュタルトゥ
「ん? ちょっといったん待とう??」
一条の光線が、あまりにあっけなく春化精の女神を打ち抜いた。およそ自然界で見られることのないだろう爆炎と強風が巻き上がる。
「わー爆発したー! 面白いー!」
「面白いじゃないよコハクちゃん!?」
「こはたんゲラってて草! んですみません爺さんゴの効果で……あれ、発動しない?」
「あーそれね、アシュタルトゥは“取り除いて発動”じゃなくて“発動して取り除く”からデメット爺さんの条件とギリギリ合わないんだよね~」
「そうなの!? これ違ったんだ……」
「い、生き延びた……えっとなんかしないと……闇属性になってるからリンク召喚も全然できないんだけどぉ!! これやるしかない、残った三体で《電影の騎士ガイアセイバー》をリンク召喚して……攻撃もできないのでターンエンドです……」
TURN3 KANA LP:1500
HAND:0
FIELD
《電影の騎士ガイアセイバー》ATK2600
デュエル経験者であれば誰もが陥る“こんな状況にはなりたくない”シチュエーション。花那を襲うのは今まさにそれであり、《魔鍵錠-解-》によって完全に不意を突かれてしまった形となる。サンゴに悪気があったわけではなかったのだがこれまた勝負の世界の無常さといったところか。どこかしょんぼりしたサンゴをコロンらモンスターたちが励ましているように見える。
TURN4 SANGO LP:8000
HAND:1→2
「なんかほんとすみませんクソガキで……」
「いやこれはしょうがない! かかってこーい!」
「恐れ入ります……。フィールド魔法《エクシーズ・テリトリー》を発動して、レベル1のおもちゃ箱と爺さんゴでエクシーズ召喚! 《LL-リサイト・スターリング》! その効果でコロンちゃんの攻撃力を600アップ!」
ここまで展開を支えてきたおもちゃ箱とデメット爺さんは、今度はコロンをフィニッシャーにするべくその力を振るう。召喚された鳥人の歌声が幼い姫を鼓舞し、魔鍵の使徒たちの励ましを受け少女はこぶしを握り締めた。そしてここに、《プリンセス・コロン》はフィニッシャーになる。
《プリンセス・コロン》ATK+500+600=1100
「バトルフェイズ! コロンちゃんで、ガイアセイバーを攻撃!」
力がみなぎったコロンと目を合わせ、送り出す。コロンの攻撃力は500、対するガイアセイバーは攻撃力2600。どうあがいても勝てるはずが……否、勝てるからやっている。
ガイアセイバーが突き出した槍をその小さな体で巧みにかわし、大きくジャンプすると日の光を背負いそれを纏う。どんな逆境も覆せる希望の光。魂に宿した“勝ちたい”の思い。
「《切り裂かれし闇》の効果で、ガイアセイバーの攻撃力をコロンちゃんにそのまま加えます! さらに《エクシーズ・テリトリー》でランク×200アップ!」
繋いできた思いが結実する。このフィールドで最も攻撃力が高いのは紛れもなくコロンだ。サンゴは今、コロンで戦えている。
《プリンセス・コロン》ATK1100+2600+800=4500
「超過ダメージ1900、勝負ありだね」
「あの、ありがとうございました!」
「こっちこそ、ンゴちゃんの初陣を務められたなら満足だよ! 今度こそ負けないからね!」
「はい! コロンちゃん!」
小さな手のひらから放たれた光はガイアセイバーを、その先の花那を包んでいく。新米決闘者の初デュエルは、こうして幕を閉じたのだった。
KANA LP:1500-1900=0
DUEL END
勝負を終え、花那は消化不良ということで他の場所に対戦相手を探しに行くこととなる。今回最大の貢献者に感謝を述べ、サンゴとコハクは二人取り残される。昼過ぎに配信を始めて今は夕方過ぎて午後六時ごろ。そろそろ夕飯などの都合で一時休憩を取らなければならない。それまでしばしコメント欄を交えての雑談を挟んでいた。
「こはた~ん、ンゴもデュエルしちゃったね~」
「ふふ、そうだね~。いいデッキになったと思うよ~。……あー、ねえンゴちゃん?」
「な~に?」
コハクの目が輝く。その目にサンゴは覚えがある。FPSゲームなどで見せていた、敵を探す戦士の眼光。
「明日、私ともデュエルしようね」
「……えぇ? いいよ~?」
「ありがとう。楽しみにしてる~! 久しぶりだからうまく出来なかったらごめーん!」
「ンゴ、バリバリ初心者やが……? 東堂さん……?」
「そうじゃーん! あははー!」
酷くあっさりとした宣戦布告。いつも通りの
「……待っててね、君たちをお披露目できるの楽しみにしてたから」
その裏でつぶやいたコハクの腰にかかったデッキケースが奇妙な七色に輝いたのは、おそらく誰も気が付いていない。
特殊タグ機能、あまりにも楽しい。ネット小説ならではの強みって感じで個人的にものすごい好み。読みにくくならない程度に今後も使います。
以下、それぞれの使用デッキです。
周央サンゴ【みなさま~(魔鍵童姫)】
《プリンセス・コロン》関連カードをエンジンに、☆4通常モンスターの多さを【魔鍵】デッキと共有。《デメット爺さん》と上級魔鍵モンスターを駆使して★8エクシーズモンスター《No.22 不乱拳》や《宵星の機神ディンギルス》、《魔鍵憑神-アシュタルトゥ》の召喚を狙う。通常モンスターサポートとして《切り裂かれし闇》《超自然警戒区域》などを採用。
書いている途中でアシュタルトゥの除外効果が「エクシーズ素材を取り除いて発動」じゃなくて「効果処理でエクシーズ素材を取り除く」だって気が付いて相手ターンの2体除去2400バーンプランが崩れてしまい調整に苦労した。
健屋花那【チクッと!針化精】
地属性の《お注射天使リリー》をアタッカーとして最大限に運用するべく、【春化精】テーマによるサポートを充実させるデッキ。
《花盛》や春化精モンスターによる打点底上げと突破力上昇、リソース管理はお手のもの。魔法使い族であるため《地霊媒師アウス》で確定サーチできるのも強みのひとつ。
《メンタル・カウンセラー リリー》を採用しEXデッキのSモンスターを活用するサブプランあり。
元々フルミネのセットは《繋がれし魔鍵》の予定だったのに思い付きで《魔鍵錠-解-》を使ったらVFDレベルのガンメタで詰んでしまったので後々しっかりデュエルを見せたい。
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#3 壱位に憩う、世壊に歌を
ですが一つだけ、どうしても一つだけ言わせてください。
……。
3Dくるぞおおおおおおおおおおうおおおおおおああああああああああああ入場券取れなかったあああああああああああああああああああああ!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!
はい。
オアシス組アーカイブをホラー苦手なのに見てたりとある方の件でちょっと自分のオタクとしての在り方を見直してたりしてたせいでテンションがぐちゃぐちゃになって更新が遅めでしたがそもそも不定期更新なので何も問題ないです。謎解き行きたかった。
来たるにじフェスに向けてまずはあーこ回です。個人的にいいデッキの仕上がりになりました。
感想とかいただけたら嬉しさのあまり自分の手札・デッキ・フィールドから、融合モンスターカードによって決められた融合素材モンスター2体を墓地へ送り、「アルバスの落胤」を融合素材とするその融合モンスター1体をEXデッキから融合召喚するのでよろしくお願いします。
※8/30改稿 行頭に空白を追加。他にも微細な変更。
『#セレじょのデュエルトレーニング 一般JK、ついにデッキ完成なるか?【朝日南アカネ/にじさんじ】』
この配信が始まった時、リスナーは期待し恐怖していた。朝日南アカネのデッキ作りは今まで難航を重ね続けており一度たりとも満足いく結果を出すことができていなかった。アカネが目を付けたモンスターは決して弱いわけではなく、むしろ大会などでも戦績を残せるレベルのデッキのキーカード。
構築が難航しているのは、最終的に“朝日南アカネのデッキ”らしくなくなってしまう問題があったから。様々なデッキとの相性が良く、事実今までも【HERO】【ジェムナイト】、果ては大会でも活躍する【
そんな彼女が本当にデッキを完成させられるのか、挫折してしまわないか……チャットに入力せずともナーバスな空気を感じていたものもいる。しかし、皆等しく概要欄の一文から彼女の気概をしかと感じることとなる。自分たちの不安など安っぽい杞憂でしかないとわからされる。
『みんなの力を借りて、今回こそそらむーに勝ちます・・・!』
大親友でありデュエルにおいては大先輩かつ指導者、そしてライバルの
きらめはアカネが“そのデッキ”を自分らしく作りたいと思ったその時から協力してくれていた。“オアシス組”としてコラボ配信を取り、あるいは配信時間が取れない時も、アカネをずっと支え……そして、アカネがどうしても勝ち切れない高い壁だった。
どれだけ工夫を凝らしても、どれだけプレイングに気を使っても、きらめは最後まで手を抜かずに立ちはだかる。
――最後に、攻撃!
――わーっ……! ほんと強いねきらむー!
――へっへーん、そうだろー! まだまだあーちんには負けないからね!
――ほー……。
勝ちたい想いは本物だ。それは誰もが知っている。
だから待つのだ。配信開始を……デッキを完成させた朝日南アカネのデュエルを。
「ほんで、一時間経ったけどどないしましょか」
「わあ〜早い! あーこちゃんどうですか!」
「あ、うーん……? 完成したのかな、いやどうなんですかね……?」
「わかんないらしいです戌亥さん!」
「面白すぎやろ今の」
配信が始まってからいくばくか経ち、三人の女性の語らいが続けられていた。そのうち一人はアカネ。フリースペースの一室に入っての配信開始直後、彼女が呼んだゲストは二人。
一人は
音楽ユニット“
難航している原因の一つには、彼女のデッキの主役になるテーマが複雑な展開をするというのもある。ちまの視点で見てもやはりそこは気になってくるところのようであった。アカネが選んだカード……
「にしても難しいねーあーこちゃんのデッキ! 【ティアラメンツ】、未だにどうしたらいいのかわかんなくなっちゃうねぇ」
「はい! “シェイちゃん”も“キトカちゃん”もほんと〜に可愛いので使いたいなってなりました……!」
「朝日南はんが好きそうなイラストしとるわ。んでも正直このままでもいい感じなんやないかな? 今んとこティアラメンツのカードとスライムしか入っとらんけどどうにかなりそうな気配あるで」
「うーん……確かに、見た感じ悪くなさそうな……? 一旦ちょっとやってみたいですね」
【ティアラメンツ】。人魚たちが住む世界を舞台にしたカードテーマで、ビジュアルの綺麗さは他の人気テーマと肩を並べるほど。
ゲーム的な視点ではプレイヤーの理解度が試されると言える性能。墓地に送られると素材モンスターをデッキに戻して融合召喚する効果を持つモンスターを、これまたモンスターの効果などを活かして活用するのが特徴。デッキと墓地とを行き来して次々に進化形態の融合モンスターを呼び出していく戦法を得意とし、モンスターを並べる展開力も相手のカードをどかす除去性能も十分に備える。総じて隙が少なく、いわゆる純構築でも存分に輝けるだろう。
今回のデッキはほぼ純構築。ティアラメンツカードを大量に搭載し、以前の配信で見つけた強力な助っ人スライムを混ぜて四十枚ちょっとに収めたところ。
アカネは度重なる練習配信を経てティアラメンツに絞ればほとんどのカードを理解していると言ってもいい状態まで鍛えられている。空回りしがちだった初期の“へたっぴ”を思えばだいぶ成長した。実践形式をとっても無理なくカードを見ていけるだろう。
「よし、ウチが相手なるわ」
「戌亥先輩、よろしくお願いします……!」
「じゃあ町田は応援してます! リスナーさんもよろしくお願いします!」
物は試し。とこが対面となり、アカネのデッキのクオリティを見るためのゆるい練習試合を始める。もちろんこの二人の勝負は初とあり、盛り上がりもなかなかのもので……
「んじゃ行くで! 《デスガイド》召喚して《魔サイ》特殊召喚!」
「じゃあその時《ハゥフニス》ちゃんの効果! 手札から特殊召喚してデッキの上から三枚墓地に送ります!」
「落ちたカードは……《氷結界》《メイルゥ》《ハートビーツ》か」
「ムダムダムダ〜〜〜! そんなんじゃ私のデッキ止まりませんよオリバー君〜〜〜!」
「えっ?」
「えーっと……《メイルゥ》ちゃんの効果だけ発動します! 墓地のメイルゥちゃんとフィールドのハゥフニスちゃんをデッキに戻して《キトカロス》ちゃんを融合召喚! 効果で……」
「なーにがヴァリアンツ・ウォーですか!! エデン組最強はこの私だというところを教えて差し上げます〜〜〜!!」
「あっ……」
「こ、効果で《レイノハート》くんを墓地に送って……
「行きなさい私のモンスター達ぃ!! そこのいけすかない連中をボコボコにして差し上げなさい!!」
「…………」
――レオスいる?
――声デカ
――マジでうるさくて草
「レオスはんちょっとええか?」
「えぇっ!? どうしたんですか戌亥くん突然こんなところに!?」
「あのほんと配信中なのにすみません先輩」
「あっいやこちらこそ……?」
「とこちゃん、圧が……!」
……波乱の展開が幕を開けた。
『虹闘の間』は、その性質上にじさんじライバーであれば誰でもいつでも使用できる。特にコラボ企画などに役立つフリースペースは昼夜様々な国のライバーが集まる人気のスポットで、夏休み期間ということもあって賑わいを見せていた。
しかしそれを鑑みても、普段ならあまり起こり得ない状況。他のルームから漏れた声が隣のルームのアカネが行っている配信に載るレベルというのは……彼女らの前で頭を下げる青い短髪の男の声が
「ほんと〜〜〜〜〜にすみません〜〜〜〜〜!!」
「うるさっ」
彼はレオス・ヴィンセント。アカネたちの後輩にあたるにじさんじライバーで、普段は大都市エデンで研究者として生活している。へこたれない性格を後押しするかのような声量が自慢。
レオスもまた、ここにデュエルしにやってきていた。そういえばつい先日“エデン組”最強決定戦と題した企画で好成績を収めていたのは、ライバーたちの記憶にも新しい。
「先輩方にはご迷惑おかけしました。レオス君も、今日こそ僕に勝つんだってものすごく意気込んでいたみたいで」
「教授さんもわざわざすみません! ちなみにどっちが優勢だったんですか?
「ふっ、もちろん僕ですよ」
「カッコつけるなぁ!!」
教授と呼ばれた体格のいい緑のスーツが似合う男はオリバー・エバンス。レオスと同じくエデン在住のライバーで、エデン組最強決定戦では唯一レオスを下している実力者。世怜音女学院演劇同好会がつい最近とある依頼をしたと話題になっていた。
あの状況は私が圧倒的有利だった、いやいや僕にはこのカードがあったので、とやりとりをする二人を見て。これは偶然とはいえ何か掴むチャンスかもしれないと、アカネが思い切って声をかける。
「よかったら、おふたりもあーこのデッキ相談乗ってくれませんか!」
「朝日南君の……? そういえば企画をされているんでしたよね」
「はい! なーんか上手くいかなくって……」
「ふむ……僕は全然構いませんよ。レオス君は?」
「私も問題ありません!! なんてったって私、IQ一万垓の超天才マッドサイエンティストデュエリストですから!! もうドーンと任せちゃってください!!」
「声デカいなぁ……」
了承も取れたということで、アカネの配信はNornisメンバーにレオスとオリバーを加える突発コラボの様相を呈する。同じ事務所に所属するとはいえ活動方針は人それぞれ、普段関わるわけでもないライバーたちをデュエルという奇縁が繋いだ。
早速デッキを振り返っていく五人のライバー。参戦した二人も実力者らしくカード知識の造詣は深い、ティアラメンツのカードはある程度把握しており、もたつくことなく確認が進む。
デッキを動かす四体のティアラメンツモンスター《レイノハート》《シェイレーン》《ハゥフニス》《メイルゥ》は全て三枚採用。その効果に付随する魔法罠カード六種類と《壱世壊-ペルレイノ》も三枚。合計三十三枚のティアラメンツカードがメインデッキに入る。それを支えるのが“スライム”たち。
「ほう、大半のティアラメンツカードがそれぞれ3枚。《ガーディアン・スライム》を採用し《
「今のところ悪くないんじゃないでしょうか? 動きやすいように《おろかな埋葬》のようなカードも採用しているのはしっかり勉強している証でしょう!」
「僕からすればこのままでも十分だと思います。……ですが、朝日南さんは何か気になるんですね?」
「はい。なんかエクストラデッキが同じカードばかりなのがどうかなーって……」
「なるほど、三枚も使わないシチュエーションが多いってことですね」
重要なアタッカーになるエクストラデッキのモンスターはよく考えなければならないところ。ティアラメンツ融合モンスター《キトカロス》《ルルカロス》《カレイドハート》三種類と《神・スライム》が採用されるが、それらをそれぞれ二~三枚。十五枚上限のエクストラデッキがかなり枠が空いている。アカネとしてはやはりそれは気にしていて、今までの配信ではその観点からデッキを作っていた。
「【HERO】とか【ジェムナイト】とか……融合モンスターを試してたんですけどなんか“解釈違い”で」
「確かに朝日南くんがHEROを使うイメージはないですねぇ~! しかしそれならいいモンスターを紹介できるかもできません!」
「おっ、レオスさん! いきなりですか!」
「はい! 私も融合モンスターを使うのでねぇ! もう私このデッキの性質を知った時からビビっと来てましたよ!」
思いのほか速く、新たなアイデアがもたらされた。レオスが取り出すのは一体の融合モンスターカード。そのカードはテキストを読めば確かにティアラメンツでも無理なく採用できる強力なモンスター……なのだが……。
「《
「キモッ!?」
「ちょ、酷くないですか!?」
「いや〜町田もちょっとこれは……」
いきなり女子高生に見せるには、いささか猟奇的なフォルムをしていると言わざるを得ないだろう。緑の鱗と紫の翼を持つ異形の華竜。体表からは瘴気のようなものを放っており、効果も相手を蝕むような気味悪さを感じさせる。事実アカネもちまも引き気味で、レオスが完全に空回りしている。
そもそもレオスが使うデッキは【捕食植物】、少々人を選ぶ姿をしているのは間違いないだろう。ただそこは彼も流石にエンターテイナー、どうにか興味を持ってもらおうと言葉を張り上げる。
「はぁ~~~これだからミーハーは!! 一回使ってみてくださいよ!!」
「すみません、レオス君がこんな調子なのはいつものことなので……僕からしてもおすすめのモンスターですので朝日南君さえよければ」
「オリバーさんもこのモンスターのこと知ってるんですか?」
「まあ、レオス君が使ってるのもありますし僕自身融合モンスターを使うこともありまして」
「ほぉ~……ちょっと試してみたいです! オリバーさんが使う融合デッキって……?」
ああ、と頷いてオリバーが懐から数枚カードを取り出す。知的な彼の印象とは裏腹に先程のドラゴスタペリア同様、少し怖さを感じさせるそれらが、どうにもアカネには気になった。それはカード名がどこか自分とシナジーを持っていたからか、あるいは以前の構築に挑戦した時に見ていた記憶があるからか。
かつて「イラストが苦手」と初見で可能性から外してしまったそれらへの“偏見”が、使用者の存在によってほぐされていく。
「これ、前にあーこが見つけたんですけどちょっとホラーだからって飛ばしちゃって……」
「おや朝日南君も気になっていただけますか! いや〜このテーマはいいですよ!」
「オリバーさん、なんか年齢下がった?」
「そりゃあ僕も推しているカードです、テンションも上がるというものでして」
「ほー……あの、これとティアラちゃんたちって相性いいですか?」
「そこは試して見ないといけませんが……ひょっとしたらあるかもしれないですね」
「トントン拍子で進むなぁ。おもろくなってきたわ」
「いいじゃないですかぁ! やってみましょう朝日南くん!!」
「はい!」
こうして見つけた新たな可能性。どうすればこの二つを合わせられるかと談義が進み、次々と線が繋がる。疑念は発見が解決し、問題は集合知が取り除く。
――これ使えたら! いいんじゃないかな!
――いっそこれも入れてみましょうかね?
――ほなこれでいけるんちゃうか?
――見てくださいこれぇ!! 強いですよ!!
――よーし、これで完成!
試行錯誤の末、形になったデッキはまるでアカネを待っていたかのように、自然と彼女に馴染むのだった。
「さて、あーちんの今回のデッキはどんななのかな!」
急な呼び出しにも関わらずすぐにやってきた対戦相手、空星きらめはこの機会を非常に楽しみにしていた。今まで幾度となく相手にしてきた親友が、とうとう満足いくデッキを完成させたと。
「あーこちゃん! 頑張れ!」
「いけますよ〜〜〜!!! 全力出してください〜〜〜!!!」
多くの人々に助けられ、またアカネ自身が向上し続けてきたからこそ、今がある。肌で感じ取れるそれがきらめを高揚させる。
「それじゃあそらむー……行くよっ!」
「さあ来いっ!」
二人が決闘盤を構え、電脳空間の“気”が変わり、そして――
――デュエル!!
TURN1 KIRAME LP:8000 HAND:5
「行くよ! 《
システムが決定した先行プレイヤーはきらめ。宇宙空間に幾条の流星が走り、彼女の舞台が作られる。デュエリストたちは立体空間の中に作られた宇宙空間、浮かぶ星の一つに放り出される。
きらめはすぐさま跳躍すると一枚のカードを掲げ巨大な機械を起動させる。それは宇宙を飛ぶ
「ファフニールでサーチした《
「おぉ~来たね!」
「もちろん! 一体で《リンクリボー》を召喚して、墓地に送ったバンαの効果発動! 手札の《アル
デッキから、手札から、墓地から。途切れることなくモンスターが並ぶ驚異の展開能力を持った【ドライトロン】デッキ。その本質は展開にも見えた空色のカードに繋げること。流星群はまだ止まらない。
「レベル1のドライトロン二体でエクシーズ召喚! 《竜輝巧-ファフ
《竜輝巧-ファフμβ’》
RANK1 ATK2000/DEF0 光属性・機械族 エクシーズ
レベル1モンスター×2体以上
このカード名の①③の効果はそれぞれ1ターンに1度しか使用できない。
①:このカードがX召喚に成功した場合に発動できる。
デッキから「ドライトロン」カード1枚を墓地へ送る。
②:儀式召喚を行う場合、そのリリースするモンスターを、このカードのX素材から取り除く事もできる。
③:自分フィールドに機械族の儀式モンスターが存在し、相手が魔法・罠カードを発動した時、このカードのX素材を1つ取り除いて発動できる。
その発動を無効にし破壊する。
星の海の中、きらめが立つ竜の機城が震え動く。それそのものが巨大なモンスターとなり、立体映像だとわかっていても圧巻と言わされるものだ。
ベースシップから《エル
「《流星輝巧群》を発動っ! フィールドのルタδとファフμβ’内部のアルζ、合計攻撃力4000でリリース!」
空色の儀式モンスターカード。恒久の銀河の果てより蒼き機竜が――襲来する。
「進行方向、敵はなし! 発進しろっ! 《竜儀巧-メテオニス=DRA》!!」
《竜儀巧-メテオニス=DRA》
LEVEL12 ATK4000/DEF4000 光属性・機械族 儀式
「流星輝巧群」により降臨。このカード名の③の効果は1ターンに1度しか使用できない。
①:フィールドのこのカードは相手モンスターの効果の対象にならない。
②:このカードの儀式召喚に使用したモンスターのレベルの合計が2以下の場合、このカードは特殊召喚された相手モンスター全てに1回ずつ攻撃できる。
③:相手ターンに、攻撃力の合計が2000または4000になるように自分の墓地からモンスターを除外し、その合計2000につき1枚、相手フィールドの表側表示のカードを対象として発動できる。
そのカードを墓地へ送る。
圧倒的、と言わされるのがふさわしいだろう。攻撃力も守備力もほぼ全てのモンスターを上回る4000ポイント。相手を蹂躙する破壊力の数々。
絶対覇者であり、かつてのアカネにとって間違いなく超えられない壁であり、今は――。
「倒すよ、その子のこと!」
「……! 言うじゃん! なら頑張って倒してみてよ、きらめのドラゴンたち! 《儀式の準備》でデッキの《
あれだけやって、まだ先があるのか。そう言いたくなってしまうほどの連打。今度見えた儀式カードは宇宙的なものを感じさせない、純然たるドラゴン。
「そして手札のサフィラをリリースして墓地のルタδを特殊召喚しさらに1ドロー! 回収した《流星儀巧群》を発動!」
フィールドに残る二体の
「儀式召喚! 舞い降りろっ! 《竜姫神サフィラ》!!」
「その子かぁ……! でもあの“ドデカい”子じゃないだけ安心ですよこれは~」
「次のターンにはその子で決めに行くからね! カード1枚伏せてターンエンド! この時サフィラの効果でデッキから2枚ドローして、手札の《ラスβ》を捨てる!」
TURN1 KIRAME
LP:8000 HAND:2
FIELD
《竜輝巧-ファフニール》
《竜輝巧-ファフμβ’》ATK2000 (《竜輝巧-アルζ》)
《竜儀巧-メテオニス=DRA》ATK4000
《竜姫神サフィラ》DEF2400
《リンクリボー》ATK300
〈SET〉
「言った通り、あーちんがこのターンでどうにかしないときらめは次のターン《カオスMAX》で全部ぶっ飛ばすからね!」
「まずこれどうにかしなきゃいけないってことでしょ? よ~し!」
そんな会話が繰り広げられる中、観戦席は皆一様に驚愕していた。コメントはきらめの先行展開にすっかり怯え、ライバーたちもどこか苦しい表情。いくら改良を施したデッキだとしてもこの一ターンで全てを片付けるのは難しいかもしれない。
一番の身近な強敵として、きらめが打ち出す最後の大勝負。これ以上ない盤面で挑戦者を全力で迎え撃つ猛威を振るおうとしていた。
――容赦ねぇ……これ何妨害?
――ミューベータで魔法罠1無効、DRAで1~2枚墓地送り、リンクリで攻撃無効とか
――伏せ怖いし手札になんか抱えてるかもしれんよな
「さて、どう見ますか」
「あーこちゃんはこのターンできらめちゃんの盤面を処理しないとたぶんヤバイです」
「先ほど聞こえましたねぇ《カオスMAX》と。アレだけは出させちゃいけないですよ」
「ウチらは見ることしかできんからなぁ。……頑張りんさい、朝日南はん」
そして対面のきらめは、この勝負を譲るつもりは毛頭なかった。
元々アカネの【ティアラメンツ】は展開次第では【ドライトロン】をも上回りかねない。油断していれば確実にやられる。そうならないように万全を尽くし、モンスターに対して強く出られるDRAの妨害に加えてこのデッキならではの対策も用意していた。
自分のターン開始にしてすでに佳境を迎えたアカネの大一番。決して自信を崩すことなく、デッキに手をかけ、勢いよく。
「私のターン! ドロー!」
TURN2 AKANE LP:8000 HAND:6
どんなデュエリストにもターンは回る。
ターンプレイヤーは、少なくとも勝負を捨てているようには見えなかった。一枚のカードと共に星の表面がほのかに湿っていく。それはいつも通りの彼女の舞台。
モンスターのサーチ、攻撃力上昇、相手カードの破壊の三役をこなす――きらめはそのカードの危険性を深く理解していた。だからここでまず自分の妨害を一つ使う。
「まず《
「通さない! ファフμβ’の効果でエクシーズ素材を取り除いて無効にし、破壊する!」
「だよねぇ……! そらむーならそうだって思ったよ」
「っ、まさか他に本命が……?」
砕け散る水の世界を見ても思いのほか冷静なアカネに、逆に驚かされるきらめ。今までアカネのデッキはそのほぼ全てが《壱世壊-ペルレイノ》の展開から始まり、それを維持し続けることが戦う術だった。
一度残せば仕事をし続ける優秀なカード、今までの経験から最優先で止めるべきと判断したが……迷うきらめに、アカネから無邪気な声の問いかけがなされる。
「そらむーにクイズっ! 今回のあーこのデッキ、前と違うのはどこ?」
「えー……なんだぁ? プロテクターとか…………っ!? これ、
「正解~! 今回、何と
普通、デッキを組むなら最低基準:四十枚に近いほうがいいとはよく言及されることだ。総量が多くなるほど狙ったカードをドローできなくなる可能性が高く、必要なカードが限られるデッキにとって意識しなければならないことだ。
しかし今回のデッキはレギュレーション最大値の六十枚。何が狙いなのか……答え合わせはすぐそこだった。
「行くよ……! それっ発動! 《隣の芝刈り》!」
「《隣の芝刈り》……?」
「あーこの方がデッキが多い時に、
「えぇーっ!? それじゃあ……」
初期手札に一枚足して、手札六枚からターンを始めたアカネ。最初のターンで全力の展開をしたきらめ。そのデッキ枚数の差はもはや言うまでもなく広がりきっていた。このカードの効果を通すことが、新生朝日南アカネデッキを最大限に動かす手段。
AKANE DECK:54
KIRAME DECK:26
「二十八枚!?」
「うおおおおいけーっ!!」
その数、実にデッキの半分。“効果で墓地に送る”ことが最重要の【ティアラメンツ】らにとって、ランダムといえどこれはあまりにも大きい。デッキトップが次々と瀑布のごとく流れ落ちる。
カードの奔流はそこにデッキの色を映す。人魚たちの青、忍び寄る闇の黒、そして……異質に嗤う
《壱世壊に奏でる哀唱》《ガーディアン・スライム》《壱世壊に澄み渡る残響》《デスピアの導化アルベル》《赫の烙印》《壱世壊-ペルレイノ》《デスピアの導化アルベル》《ティアラメンツ・ハゥフニス》《ティアラメンツ・ハゥフニス》《氷結界》《壱世壊に渦巻く反響》《ブレイクスルー・スキル》《隣の芝刈り》《壱世壊に軋む爪音》《ティアラメンツ・メイルゥ》《烙印断罪》《ティアラメンツ・シェイレーン》《ティアラメンツ・メイルゥ》《ガーディアン・スライム》《壱世界を揺るがす鼓動》《デスピアの凶劇》《悲劇のデスピアン》《スキル・サクセサー》《デスピアの大導劇神》《ティアラメンツ・レイノハート》《絶海のマーレ》《烙印開幕》《テラ・フォーミング》
「やっべ……! ていうかなんか色々入ってね!?」
「えっと、ちょっと待ってね……これとこれ、これ……全部発動!」
同じタイミングで効果が発動できるカードが複数ある場合、それらはチェーンブロックを作って順番に処理されていく。このタイミングで発動する効果は“効果で墓地に送る”ことをきっかけにするものばかり、即ち。
CHAIN1 《
CHAIN2 《
CHAIN3 《
CHAIN4 《悲劇のデスピアン》
CHAIN5 《ティアラメンツ・レイノハート》
CHAIN6 《ティアラメンツ・メイルゥ》
CHAIN7 《ティアラメンツ・ハゥフニス》
CHAIN8 《ティアラメンツ・シェイレーン》
鎖は繋がり、歌が響く。荘厳で、どことなく怖く、しかし決してアカネらしさを損なわない綺麗な旋律。
海の青に異質な赤を混ぜ、紫色の融合モンスターカードが連続で君臨した。
「いくよっ、融合召喚! 《ティアラメンツ・キトカロス》! 《神・スライム》! そして、《デスピアン・クエリティス》!」
《ティアラメンツ・キトカロス》
LEVEL5 ATK2300/DEF1200 闇属性・水族 融合
「ティアラメンツ」モンスター+水族モンスター
このカード名の①②③の効果はそれぞれ1ターンに1度しか使用できない。
①:このカードが特殊召喚に成功した場合に発動できる。
デッキから「ティアラメンツ」カード1枚を選び、手札に加えるか墓地へ送る。
②:自分フィールドのモンスター1体を対象として発動できる。
自分の手札・墓地から「ティアラメンツ」モンスター1体を選んで特殊召喚し、対象のモンスターを墓地へ送る。
③:このカードが効果で墓地へ送られた場合に発動できる。
自分のデッキの上からカードを5枚墓地へ送る。
《神・スライム》
LEVEL10 ATK3000/DEF3000 水属性・水族 融合
水族モンスター+水属性・レベル10モンスター
このカードは融合召喚及び以下の方法でのみEXデッキから特殊召喚できる。
●自分フィールドの攻撃力0の水族・レベル10モンスター1体をリリースした場合にEXデッキから特殊召喚できる。
①:モンスターをアドバンス召喚する場合、このカードは3体分のリリースにできる。
②:このカードは戦闘では破壊されず、相手は「神・スライム」以外の自分フィールドのモンスターを、攻撃対象に選択できず、効果の対象にもできない。
《デスピアン・クエリティス》
LEVEL8 ATK2500/DEF2000 光属性・悪魔族 融合
「デスピア」モンスター+光・闇属性モンスター
このカード名の①②の効果はそれぞれ1ターンに1度しか使用できない。
①:自分・相手のメインフェイズに発動できる。
レベル8以上の融合モンスターを除く、フィールドの全てのモンスターの攻撃力はターン終了時まで0になる。
②:表側表示のこのカードが相手の効果でフィールドから離れた場合に発動できる。
デッキから「デスピア」モンスターまたは「アルバスの落胤」1体を選び、手札に加えるか特殊召喚する。
物憂げな人魚姫が、神を象る粘巨体が、仮面の鎧怪物が、宇宙空間の全てにその威を示さんとしていた。
整うは三体の強者。オリバーから勧められた【デスピア】を合わせることで完成したデッキが誇る連合軍。
「チェーン8ィ!?」
「三連続融合召喚……! どうやら僕たちは素晴らしい場面に立ち会えたのかもしれませんね」
――いけーーー!!!
――デュエル全然詳しくないけどすごいよ!!!
――あーこがデスピア使うの見れるなんて思わなかった……! ありがとう先生!
「やってくれるじゃん……!」
「え、あーこさんすごすぎんか? これは流石にうまいですよ?」
「自画自賛してる……まあ気持ちはわかるよ! きらめはちょっとやばいけど!」
「んでごめんね、まだ色々あるから……レイ男を特殊召喚して手札の《
「ごめん手札何枚?」
「んーと……九枚かな?」
「やべぇ! 今のうちに《星逢の天河》を発動! 手札の《
「むっ……! あーここっから
《古聖戴サウラヴィス》。自分のモンスターを対象に取る効果を無効にできる、手札からのカウンターカード。できれば隠しておきたかった文字通りの
ここでアカネが狙っていたのは攻撃を一度無効にする効果を持った《リンクリボー》を除去する《ティアラメンツ・カレイドハート》の召喚。そのプランでは一方的に倒されてしまう。それだけではない。次のターンになればきらめは先ほど手札に加えた《オッドアイズ・グラビティ・ドラゴン》でアカネの魔法罠カードを安全に対処しながら自分の展開を通すこともできる。その先に待つのは完全無欠の
誰もが理解する。このターンが最初で最後の、アカネの攻撃チャンス。好機を逃さず、きらめがさらに畳みかける。巨大機竜が吼え、流星群が降り注ぐ。
「《メテオニス=DRA》の効果発動! 墓地のアルζを除外し、《神・スライム》を墓地に送る!」
「むっ……でもよかった、ありがとうスライム!」
「そいつの効果さえなければ……!」
砲撃からアカネを守るのは、その身をさらに巨大にした銀色の粘体。他のモンスターを守る効果で十全な活躍を果たした。星の光に打ちぬかれ消えていくそれの奥から、禍々しくも強い光が発現した。立ち向かう敵の力を削ぎ、味方を進軍させる魔槍の力。機竜の動きが鈍っていき、とうとう光を失った。
「《クエリティス》の効果! 攻撃力を0にする!」
「くっ……! でもそっちのモンスターも同じだよ!」
《竜儀巧-メテオニス=DRA》ATK4000→0
《竜輝巧-ファフμβ’》ATK2000→0
《リンクリボー》ATK300→0
《ティアラメンツ・キトカロス》ATK2300→0
《ティアラメンツ・レイノハート》ATK1500→0
この効果が通ってもきらめの場には攻撃を止める《リンクリボー》、守備力2400の《竜姫神サフィラ》。LP8000を守り切るのは難しくない。
それでもアカネは止まらない。
「あーこちゃん……!」
「行きなはれ、朝日南はん……!」
今日こそは勝つと決めたから。束ねた思いが背中を押してくれるから。
手札からカードを一枚。その風貌から彼女曰く“悪い男チーム”、レイノハートの片割れになるそれを呼び出した。
「あーこ、勝ちます!
銀河系に
「キトちゃんとレイ男を融合! いくよルルカちゃん、突撃だ! 《ティアラメンツ・ルルカロス》!」
《ティアラメンツ・ルルカロス》
LEVEL8 ATK3000/DEF2500 水属性・水族 融合
「ティアラメンツ・キトカロス」+「ティアラメンツ」モンスター
このカード名の②③の効果はそれぞれ1ターンに1度しか使用できない。
①:このカード以外の自分の水族モンスターは戦闘では破壊されない。
②:モンスターを特殊召喚する効果を含む効果を相手が発動した時に発動できる。
その発動を無効にし破壊する。
その後、手札及び自分フィールドの表側表示のカードの中から、「ティアラメンツ」カード1枚を選んで墓地へ送る。
③:融合召喚したこのカードが効果で墓地へ送られた場合に発動できる。
このカードを特殊召喚する。
クエリティスで弱体化した相手を攻めるには十分な攻撃力3000。それでもまだきらめに勝つには至らない。
だから追加する。
「墓地の《烙印断罪》の効果発動! 墓地から《赫の烙印》を手札に加える!」
「やってみてよ! あーちんのデュエル!!」
「ちょっとまだ怖いけど……いくよっ! 《赫の烙印》!」
《赫の烙印》
速攻魔法
このカード名のカードは1ターンに1枚しか発動できない。
①:自分の墓地の、「デスピア」モンスターまたは「アルバスの落胤」1体を対象として発動できる。そのモンスターを手札に加える。
その後、以下の効果を適用できる。
●自分の手札・フィールドから、レベル8以上の融合モンスターカードによって決められた融合素材モンスターを除外し、その融合モンスター1体をEXデッキから融合召喚する。
この効果で特殊召喚したモンスターはこのターン直接攻撃できない。
彼女の名と異界の力が同じ色を映し出し、重ねて――“赫”。奏でるは“
「墓地から《デスピアの
「三体!?」
「あーこの赤とみんなの赤、合わせて行くよ大きなステージ! 《デスピアン・プロスケニオン》!!」
《デスピアン・プロスケニオン》
LEVEL11 ATK3200/DEF3200 光属性・悪魔族 融合
「デスピア」モンスター+光属性モンスター+闇属性モンスター
このカード名の①②の効果はそれぞれ1ターンに1度しか使用できない。
①:自分・相手のメインフェイズに、相手の墓地の融合・S・X・リンクモンスター1体を対象として発動できる。
そのモンスターを除外するか、自分フィールドに特殊召喚する。
②:このカードが戦闘で相手モンスターを破壊した時に発動できる。
そのモンスターの元々の攻撃力と元々の守備力の内、高い方の数値分のダメージを相手に与える。
大きなステージ、という通り。それはまさに舞台、壇上にはとぐろを巻く一対の龍とアイアンメイデン。
ホラーゲームに登場するクリーチャーにも見えるそれは、劇城を覆う紫の巨大な怪物。
「おー! あーちんにしては怖いやつ使うじゃん!」
「あわわわわわ……えっと、アドリブさんの効果で、クエリさんをもう一回、特殊召喚して……」
「ビビってるじゃん!!」
ホラーに弱いアカネにとっては姿を見るのも少々恐れを伴う。それでも召喚したのはこのモンスターこそが今回の切り札だから。怖くとも、嫌ってはいない。
プロスケニオンを取り巻くようにして
サウラヴィスをすり抜けながら作れる盤面として、後攻の一ターン目ということを考えればこの上ない出来と言っていいだろう。
「よし……バトルっ! まずアル太郎でリンクリボーに攻撃!」
「使うしかないのかー! リンクリボーの効果で攻撃力を0にする!」
道化は十分に活躍を果たした。最後の守りを弄び、奥に控える本命の攻撃を通す。凍てつく機竜を飲み込む、双龍の光線。
「プロスケニオンで、そらむーの《DRA》を攻撃!」
「ぐっ……!」
KIRAME LP8000-3200=4800
「追撃! プロスケニオンが破壊したモンスターの、攻撃力か守備力のうち高い方のダメージを、与える!」
「つまり……4000ダメージ……!?」
KIRAME LP4800-4000=800
「最後! ルルカちゃんで、えっと、ふぁむ……? ふぁ……なんだっけ……?」
「……《ファフμβ’》?」
「それ! に! 攻撃!」
「なぁんで最後決まらないんだよぉ!!」
KIRAME LP800-3000=0
DUEL END
一閃の元に敵を切り伏せたルルカロスの姿がホログラムへ分解されていき、戦いは終わる。結果を見ればこれは見事な後攻ワンキル。【ティアラメンツ】のコントロールと【デスピア】のパワーをとてもうまく引き出した、理想的なデュエルだった。
立体映像の宇宙と比べてだいぶ狭くなった部屋にライバーたちの賑やかな声が戻ってくる。その中心で、アカネは立ち尽くしていた。
「お疲れ様~! すごかったよ!」
「いやぁ素晴らしいです!!!」
「うおっうるさっ……まあ間違いなくええデュエルやったな」
「どちらが勝ってもおかしくない勝負でした。二人ともいいデュエルをありがとうございます」
呼びかけにはっと気が付いたアカネは決闘盤を見つめる。
システムの表示が、盤面に並ぶカードたちが、頼もしい人々の声が、“勝ったのはお前だ”と。信じてきたすべてが彼女に語りかける。
“赫”で“舞台”だからどうかと勧められた【デスピア】も、自分が好きな【ティアラメンツ】も、お互いが支え合ったからこそデッキが完成したのだろう。実感が胸中に駆け巡り、笑顔をほころばせて答えるのだった。
「お疲れさまでした……! なんか、すっごい疲れた!」
「楽しかった?」
「はい! 【デスピア】はまだわかってないことも多いんですけど、どうにかなりました……!」
「お疲れ様!! あーマジで悔しい!!」
「空星君、本当に惜しかったですね……ですが間違ったことはしていません。僕とも是非戦っていただきたい」
「無論!! 私も相手になりますよぉ!!」
「うちも今日は不完全燃焼やからな。この後ここにおる皆で組みあわせ変えてやらんか?」
「おー……! あーちんは時間大丈夫?」
「セレじょみんなで集合するのが九時くらいだから……一時間ちょっとくらいならいけます!」
「いいねー! 実は町田もまだデュエル出来てなかったんで、やりましょう!」
六人のライバーが活気にみなぎる。熱いデュエルは、さらなるデュエルを呼び込み、“楽しい”の輪が広がっていく。
そして……
「チャラレイ男でそのカードをデッキに戻します! さらに攻撃!」
「全部ぶっ倒せー! 《ブルーアイズ・カオスMAX・ドラゴン》!!」
「《弦魔人ムズムズリズム》の効果! 攻撃力が、倍!」
「ほないくで……その三つ首で喰い破れ、《ティンダングル・アキュート・ケルベロス》!!」
「行きますよ《グランデューク》! ――撃てッ!!」
「これがまめねこの究極進化系!! 《捕食植物トリフィオヴェルトゥム》!!」
この配信は数々のベストバウトを生み、多数の切り抜きと共に注目を集めることとなったのだ。
Nornisを推してくれ。最近公式Youtubeアカウントもできた。Abyssal ZoneもDaydreamerもほんと好き。いつか公式番組とかに出演してるところ見せてくれ。無人島は行かなくていいから。
緑仙とセフィナが主導してる24時間歌リレーで並んでるからNornis擦りしすぎないようにしながらしっかり見てくれ聴いてくれ。
それはさておき使用デッキ紹介です。調整めちゃくちゃ苦労しました。
朝日南アカネ【壱世壊に届く赫音】
基礎はティアラメンツとデスピアの混合。デッキは60枚だが芝刈りや断殺で墓地を肥やしてエンジンをかけられる。レイ男、アル太郎など1枚で初動になるカードも多い。
融合召喚先はティアラメンツやデスピアのみならず、無理なく採用できる神スライムやドラゴスタペリアも搭載。さらに……?
戌亥とこ【地獄門の三首番】
《ティンダングル・アキュート・ケルベロス》をエースとする。悪魔族のサポートカードを備えながら《ティンダングル・ドールズ》で三回攻撃を狙う。
町田ちま【音楽魔人】
《管魔人メロメロメロディ》《鍵魔人ハミハミハミング》《弦魔人ムズムズリズム》といった【魔人】のエクシーズ召喚で戦う。ランク3が作りやすい構築。
レオス・ヴィンセント【捕食まめねこ軍団】
まあ普通のプレデタープランツ。まめねこ要素はない。
オリバー・エバンス【VV-楽園遊戯】
戦略性が非常に求められるヴァリアンツデッキ。フィールドを自在に支配しながら強力なリンクモンスターを展開しつつ戦っていく。
執筆中に3Dお披露目が決定してとてもめでたい。
空星きらめ【煌めく空の竜青軍】
ドライトロンにカオスMAXやサフィラなどドラゴン儀式モンスターを採用したシンプルに強いデッキ。
途切れないリソースパワーを活かして展開、儀式モンスターの攻撃性能の高さを最大限活用しながら《ドライトロン流星群》《星彩の竜輝巧》による妨害を構える。手札にはサウラヴィスやビュフォートノウェムなどを持っておくこともできる。
手札事故は大量のサーチカードの投入で回避。
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#4 成果の決闘!~スピンゴ
UIが更新した瞬間爆増したり感想が届いたりして結構嬉しくなっています。私はチョロいので。
よければそこのあなたも感想やお気に入り登録をどうぞ。お返しに自分のフィールド・墓地から、融合モンスターカードによって決められた融合素材モンスターを除外し、Sモンスターを融合素材とするその融合モンスター1体をEXデッキから融合召喚します。
この後の展開マジで考えてなかったんで振り返り回でお茶を濁します。
え”ぇ”!”?”
お”前”も”お”茶”を”濁”す”ん”か”ぁ”!”?”
ワ”シ”も”濁”そ”う”!”
※10/3
《氷水帝コスモクロア》の③効果適用ミスにより一部改稿。勝敗には影響ありません。
遊戯王が人々の生活に浸透した世界。バーチャル最先端企業『ANY COLORS』らが開発した『
名門:世怜音女学院に在学しながら『にじさんじ』に所属する五人の配信者は夏休み期間を利用し、三日間のデュエル合宿を行っている。
八月一日の昼からそれぞれ始まった配信にて。
【コロン】デッキを作ろうと意気込んでいた周央サンゴと、【ティアラメンツ】の完成を目指していた朝日南アカネはそれぞれ多くの人々の協力あって無事に満足いくデッキを完成させることができたのだった。
それからしばらく経ち、夜の九時ごろ。
五人は家庭科室を借りて夕食の準備を整えながら成果を報告し合っていた。大鍋の中、コトコトと音を立ててカレーが煮込まれている。
「んでさ、ンゴちゃんすごいんだよ! 先輩に勝ってさ!」
「えへへ……」
「最後まですごくキレキレだったね! コロンちゃんで決めたのすごくかっこよかったよ!」
「あの、もしかして東堂さん、ンゴのこと好き……?」
「当たり前じゃん! うりうり~!」
「コハックのテンションなんかおかしくね?」
「ンゴのこと大好きだもんね〜」
サンゴ本人よりいきいきとその活躍を話すのは間近で見ていた東堂コハク。包丁を使う仕事を終えてからずっとサンゴにひっついており、周りも“いつものことか”と流している。
彼女が評価する通り、サンゴの完成させたデッキは《プリンセス・コロン》を使う上で非常によくできていて、【魔鍵】デッキを取り入れることで申し分ない展開力を獲得し盤面を強固にしながらコロンを活躍させることができるようになっている。
「ンゴちんもめちゃ頑張ったみたいだね〜。オレ嬉しいよ……!」
「そのキャラはともかく……あーこもおめでとう! らめ先輩に勝つって相当じゃよ!」
「えへへ〜ありがとう〜! これでようやくチグちゃんとひすぴともデュエルできる!」
「へぇ……! 楽しみにしてるわ」
一方アカネも【ティアラメンツ】デッキを完全完成。【デスピア】と“芝刈り”に着目した構築で爆発力を生み出し、強力なモンスターを並べる力をより強くした。最終的には積年のライバルに見事勝利をおさめ、他にもベストバウトを生み出したという。
目下の相手は決闘者としての先導たる同胞、西園チグサと北小路ヒスイ。にじさんじ内で見てもかなりの実力者である二人に並ぶため、確かな闘志を露わにした。それを受けた二人もまたアカネを歓迎するかのように笑う。
実際歓迎しているのだ。新たな強者の登場を、決闘者としての感情が。
そうこうしているうちにカレーも程よく完成し、いい香りを漂わせている。人参・じゃが芋・玉ねぎ・牛肉が甘口のルーによく馴染んだ王道のカレー。
集まった五人のうちほとんどは自炊経験ありということもあって学生が家庭科室で作るものとしてはかなりのハイクオリティだろう。
「あ、これ入れてもいいかな?」
「なんやそれ……なんか危ない見た目してない?」
「レオスさんとオリバーさんがくれた、“エデンの白い粉”、だって。食べられるからみんなでどうぞって」
「面白そう! いれちゃえ!」
ここでアカネが取り出すは、謎の白い粉。説明がなければどこかアウトな雰囲気があるものの、一応信頼できるライバーからのもらい物ということで不安感は薄れる。片方は名実ともに破天荒な“マッドサイエンティスト”だが、もう片方はエデンでも著名な大学教授。何か仕込まれているなど考えにくい。
出来上がったカレーに、それをかけていく。匂いはおかしくなく、せっかくだからと全員が口に運んだ。
彼女たちは知らなかった。それがエデンでは結構メジャーなジョークグッズであると。
……その後何が起こったかは、SNSへのコメントが全てだろう。
北小路ヒスイ 8/1 21:24
口が地獄
┗返信 アクシア・クローネ 8/2 00:16
(両手を合わせて謝罪するポーズ)
東堂コハク 8/1 21:24
からい;;
西園チグサ 8/1 21:25
レオスからもらった粉かけたカレー食べたあーこが「んん!?」って言って倒れた。あたしもヤバイ。
とりあえずレオス、オリバー、後で話があります。
┗返信 オリバー・エバンス 8/1 22:11
僕は悪くない。全部レオス君です。
┗返信 レオス・ヴィンセント 8/1 22:14
共犯です
┗返信 レイン・パターソン 8/1 22:13
先輩たちホントすみません!!!!あとでシメときます!!!!!!
ローレン・イロアス 8/1 23:47
先輩にエデンパウダー食わせたヤツいるマ~~~?
そんなアクシデントがあったものの、どうにかカレーは完食。あとは寝るだけとなったが……夜型生活リズムの面々にとって、二十二時はまだまだ活動時間内。
比較的早寝なアカネとコハクは先んじて寝袋を敷いた教室に向かい、残った面々で軽くデュエルする流れになった。
「あたしはちょっと調整したいから、二人で先やっといてや!」
「すぴちゃんとようやくデュエル出来るんだし、せっかくなら勝ちたいなーんて!」
「やってみ? 私もまあまあガチで行くから」
対戦するのはサンゴとヒスイ。世怜音女学院中等部に在籍する両名はヒスイが転入生という事情もあって同年代のように仲が良く、何かと張り合うライバル的な存在でもある。
決闘盤を構え、対するは桃と緑。片や新米、片や熟練。しかし肩書は同じだ、両者ともに決闘者。
――デュエル!!
TURN1 SANGO LP:8000 HAND:5
先手はサンゴ。意気揚々とカードを並べていく。デッキを回す経験は多くないものの、手札の枚数からできることは限られているために扱いきれる。【コロン】デッキを作ろうと努力したかいあってのことだろう。
「まず、《魔鍵施解》を発動! バトスくんをサーチして、手札一枚を《魔鍵-マフテア》と交換! 《切り裂かれし闇》と《人形の幸福》も発動して、おもちゃ箱を手札に加えもいた!」
「ほー、それが新兵器?」
「まあね! んー……ここはこっち! 《人形の幸福》の効果、手札の《おもちゃ箱》を破壊してデッキから《ドール・モンスター 熊っち》を墓地に送る!」
「なるほどね……狙いはそれか」
「《おもちゃ箱》の効果! デッキから《ドール・モンスター ガールちゃん》と……ここは、水属性の《メガロスマッシャーX》を特殊召喚!」
自分のカードを破壊することで繋がる展開。サンゴがチョイスしたモンスターは人形の少女と、発光するサメのような生物。わざわざ選ばれたからにはそれなりの理由がある。
《切り裂かれし闇》で一枚ドローし、さらに続ける。場には通常モンスター、魔鍵の能力が解放される。
「魔法カード《魔鍵-マフテア》! デッキの《魔鍵銃士-クラヴィス》を墓地に送って、手札の《魔鍵銃-バトスバスター》を儀式召喚! さらに《大魔鍵-マフテアル》をサーチ!」
「儀式……あーいや、続くのか」
「そ! 《大魔鍵-マフテアル》を見せてから召喚! 墓地のクラヴィス君を特殊召喚! そして、ガールちゃんとメガロスマッシャーでエクシーズ召喚!」
世界は繋がり、鍵は開く。すなわち道は相棒へと。
光の渦の中から現れるのは、かわいらしくも勝利を掴むべく手を伸ばす童姫。
「みなさまにお届け! 天真爛漫のかわいい子! 《プリンセス・コロン》ちゃん!」
意気揚々と現れて、サンゴと軽快にハイタッチ。続けて場に残ったマフテアルがクラヴィスの魔鍵に宿り姿を変える。
少年が開く可能性の扉、青に染まった銃士は力を繋げる。
「来てっ! 《魔鍵慿霊-ウェパルトゥ》ンゴ!」
召喚されるとともに、漂う
《エクシーズ・ギフト》で手札を整えたサンゴは、出し惜しみなどせず主砲を呼び出す準備を整えた。
「通常召喚、《デメット爺さん》ゴ! 効果で墓地のガールちゃんと熊っちを魔改造召喚!」
「これは……来るねぇ?」
「闇属性・レベル8のガールちゃんと熊っちでエクシーズ召喚! 天衣無縫の拳で、全部ブチ抜け!」
それは魔人。フィールドを黙視し、己の拳を振るう相手を狙っている。
それは圧力。最上級の攻撃力と一撃必殺の無効効果。
召喚条件の重さも、効果に要求される消耗の激しさも、可能性が繋いだ今なら一切問題ない。故にそれは現れる。
「《No.22
《No.22 不乱健》
RANK8 闇属性・アンデット族 エクシーズ
ATK4500/DEF1000
闇属性レベル8モンスター×2
このカードはX召喚でしか特殊召喚できない。
①:1ターンに1度、このカードがフィールドに攻撃表示で存在する場合、このカードのX素材を1つ取り除き、手札を1枚墓地へ送り、相手フィールドの表側表示のカード1枚を対象として発動できる。
このカードを守備表示にし、対象のカードの効果をターン終了時まで無効にする。この効果は相手ターンでも発動できる。
《アシュタルトゥ》と双璧を成すサンゴの“エースアタッカー”。《コロン》の相棒として破壊力を発揮する用心棒といったところか。
『――!』
『――――』
不思議なことに立体映像もそうした雰囲気を感じ取ったのだろうか、《コロン》が《不乱健》によじ登り肩車。寡黙な魔人を振り回す満面の笑みの少女という絵面はほほえましさすら感じさせる。
カードを一枚伏せてターンを終了したサンゴは、ヒスイと共にその立体映像を眺める。
「……妙なシステムだなーこれ」
「んにゃ?」
「ああ。普通のプログラミングでこんな挙動が生み出せるもんなのかな、って思っただけ」
「ほえー。ンゴは“こういうもの”だって思ってたけど……確かにすごいね」
博識なヒスイだからこその着眼点だろう。『虹闘の間』は確かに
まずカードごとに3Dグラフィックが美麗に作成されているのがおかしい。さらに特定のカードが並んだ時の挙動を事前に設定しているなら膨大な量のデータになるはずで、それを普通のテクノロジーで制御できるはずがない。
「でもにじさんじならできそうじゃない? ここっていろんなライバーさんの関係者に協力してもらったって聞いたよ」
「そうなんだけど……うん」
「? さてンゴはー、これでターンエ
SANGO
LP:8000
HAND:2(うち1枚《ライドロン》)
FIELD
《魔鍵施解》
《No.22 不乱健》ATK4500
《プリンセス・コロン》DEF2200
《デメット爺さん》ATK0
《魔鍵銃ーバトスバスター》DEF2200
《魔鍵憑霊ーウェパルトゥ》DEF2000
《人形の幸福》
《切り裂かれし闇》
〈SET〉
TURN2 HISUI LP:8000 HAND:6
「ほんじゃ私のターン、ドロー」
「今のうちに! セットした《魔鍵錠-
青き銃士はその身を変える。闇を切り裂き、出でたるは雷光携えし赤鬼。
「《魔鍵変鬼-トランスフルミネ》!」
「すごいねぇ……これは負けてられないな?」
「《切り裂かれし闇》でドロー! さ、崩してごらんよ!」
口調は軽く、しかし盤面はかなり重い。カード効果を無効にする《不乱健》、連動してダメージを与える《デメット爺さん》、召喚されたモンスターを即座に破壊する《トランスフルミネ》。《切り裂かれし闇》によって戦闘にはめっぽう強く、《コロン》は自身の効果で、デメット爺さんは《人形の幸福》で守られている。
セレじょのデュエルを見ていたサンゴは、ヒスイのデッキが水属性主体であることを知っている。【魔鍵】モンスターの中には墓地の通常モンスターの属性に応じた妨害を行えるものがあり、《トランスフルミネ》もその通り。真っ先に《メガロスマッシャーX》を選んだのはこういうわけだった。
モンスターで
(ンゴがどこまで考えてるのかはわかんないけど……やってみっか、試したいこともあるし)
それに立ち向かっていくのがヒスイのデュエル。彼女もまたモンスターに強いデッキを使うからか、今の手札での崩し方は見えつつある。
相手が強かろうと、自分のデッキの強さを信じること。どんな決闘者にも言える勝負の神髄。
まずは一手。確実に勝ち筋を狙う。
「召喚、《深海のディーヴァ》。デッキからレベル3以下の海竜族を特殊召喚する」
「それは……チグちゃんがいつも無効にしてたやつ!」
「さてどうする?」
たおやかな桃色の人魚、《深海のディーヴァ》。召喚するだけでモンスターをさらに追加できる完全一枚初動。登場から現在に至るまでその強さを十全に発揮し続けている強者。ヒスイとチグサの対戦でもほぼ毎回使用され、これが通るだけで形勢逆転もあったほど。
おぼろげな記憶の中からもそれを想起し、止めるならここだろうと判断したサンゴは手札を一つ切った。
「不乱健ゴの効果! 手札の《ライドロン》、エクシーズ素材のガールちゃんを墓地に送ってディーヴァを無効に! さらに爺さんゴの効果が発動して、破壊して2400のダメージ!」
「痛った……でもこれで一番の問題はどうにかなったな」
HISUI LP:8000-2400=5600
ダメージ先制はサンゴ。しかしそれだけで決するわけではない。空気がわずかに冷え始めた。
「《おろかな副葬》でデッキから《氷結界》を、さらにその効果で《氷水帝コスモクロア》を墓地へ送って《深海のディーヴァ》を手札に戻す」
「うお~出た、【
「今からもっと見せるよ。フィールド魔法《氷水底イニオン・クレイドル》」
また一段、寒気が強まって。決闘者と名を近しくする透き通った体の水モンスターが姿を現していく。
見ていたとはいえ“なにか起きている程度”の認識だったサンゴにとって、氷水カードは未知の存在。相手モンスターを破壊できる《トランスフルミネ》の存在はあれど警戒するに越したことはないと判断し、様子見の姿勢を取った。
「墓地の《コスモクロア》を手札に。《氷水のトレモラ》の効果、手札から《氷水のエジル》を特殊召喚……《フルミネ》の効果使う?」
「んー……どっちみち戻ってくるんだっけ……?」
「まーそうだね、《トレモラ》でそのまま蘇生するかな?」
「じゃあここじゃない……でいいのかな?」
「んじゃあ《エジル》の効果、《氷水呪縛》をサーチして――そのまま発動」
そしてサンゴの陣営は
除去効果を持っていた《トランスフルミネ》が、守備体勢の《不乱健》が、その肩上の《コロン》が、一瞬にして呪縛される。
さらにはサンゴの決闘盤にも霜が降り、体にまで浸蝕を始めつつあった。そんな状況に陥って混乱しないはずもなく。
「え、何これ!?」
「《氷水呪縛》の効果。自分フィールドに【氷水】モンスターと《イニオン・クレイドル》がある限り、相手はこのターンに召喚・特殊召喚した場のモンスターの効果を発動できない」
「ンゴのモンスターが!?」
それはモンスター効果を奪う呪い。このゲームにおいてモンスターが持つ役割の、バリエーションを縛る術。
……しかしまだ、ヒスイの盤面は完成していなかった。
取り出した飴を口に。それは礼節を欠く行動などではなく、彼女が持つ
「さて、ンゴはこれを突破できるかな? イニオン・クレイドルがあることでこのモンスターは手札から特殊召喚できる」
黒衣が世怜音の制服を塗り替え、伸びた髪は色素を濃く、
どちらも
「霊峰の神秘、世界を視る黒き魔女。不届きな敵を塗り潰せ――」
そうして
「《氷水帝コスモクロア》」
黒装束の魔女の優し気な笑みと、牙を見せる決闘者の笑みが重なり。絶対零度に満たされて――
「そいえばさ、ひすぴのデッキってどんな感じなの?」
ところ変わって就寝スペースとして使われた教室。『虹闘の間』の拡張機材を置いた教室からは離れ、わずかに音が聞こえてくるのみ。
その様子が気になっていたアカネが問うのに答えたのはよく対戦していたチグサ。
「どんな感じって、まあ【氷水】デッキじゃな」
「えーっと、そうじゃなくてね? なんというか、どう戦うのかなって?」
「なるほど!
「わかる! ヒスイちゃんっぽいよね!」
「そうなんじゃけどコハック、ひすぴのことブッ刺さんといて」
寝転がっていたコハクも会話に交じり、チグサの思い出し語りに耳を傾ける。
どちらかと言えば負け越しており、しかしデッキとしての完成度を讃える戦士の感情は本物で、だから苦笑いで彼女のデッキを語る。
「ほー……どんなところが嫌だったとかある?」
「だいたい全部! モンスターの効果は使えんし、攻撃力も下げられるし、どんどんダメージもらっちゃうんよ!」
「え、モンスターの効果使えないってすっごく辛くない?」
「フィールドなら何も発動できない、ってえげつないんよ。舞元先輩の
「そうねー。私のドラゴンもすぴちゃんとは相性悪くって困ったなぁ」
条件が整えばモンスター効果を“発動できない”【氷水】のロック盤面は、“無効になる”よりも面倒な場合がある。
後者をすり抜けられるカードであっても前者には太刀打ちできず、防戦一方になりやすい。それに心当たりがありそうなコハクも笑っている。
遊戯王の基本がモンスターで殴り合うことなら、ヒスイの戦法はそのメタ。自分にだけ有利な状況を作り出し相手を縛り付けて殴らせない。
とはいえ、そんなデッキへの対抗策がないわけではないのは当然のこと。
「でもなんか魔法カードでそういうことしてるなら、それどかせばいいんじゃない?」
「……そういうことまで考えられるようになったんやな、ちょっと感動しちょるわ。ひすぴのデッキはフィールド魔法がなくなると厳しいから魔法カードでどけてやるとええんや」
「じゃああーこのデッキだと……《ハートビーツ》が使えるかな?」
「そんな感じじゃないかなー? ヒスイちゃんも
遊戯王の基本、魔法罠で戦況をサポートすること。自軍を強化したり、相手を妨害したり、その妨害を超えたり。
ヒスイが魔法罠を使ってロック戦術を仕掛けるのであればそれを超えるカードも存在する。どんなデッキも弱点がないわけではないのだから。
そうして三人は戦場に思いをはせる。願わくばそのデュエルが、二人にとって良いものであることを。
「ん、コハックってドラゴン使うの?」
「あーまあねー? ふふふ」
「見たことないんじゃっけあーこ? コハックのドラゴンはヤバイぞ」
「え”」
「も~おちぐちゃ~ん、アカネちゃんビビってるじゃん~」
「キングフィッシャーを装備したコスモクロアで、攻撃力が合計2500下がったトランスフルミネを攻撃! 《氷水呪縛》でさらに2800ダメージ!」
「っ……(ライフが“さんご”、とか言ってられない……!)」
「私はこれでターンエンド。さあ、ひっくり返せる?」
SANGO LP8000-2700-2800=2500
HISUI LP5600
HAND:1(《深海のディーヴァ》)
FIELD
《氷水底イニオン・クレイドル》
《氷水帝コスモクロア》DEF3000
(装備:《氷水艇キングフィッシャー》)
《氷水のエジル》DEF2000
《氷水呪縛》
戦場は荒れていた。残った《不乱健》を《氷水艇キングフィッシャー》の効果で突破されると、すぐさま連続ダメージを受けて追い詰められる。不幸中の幸いか《コロン》は自身の効果、《デメット爺さん》は《人形の幸福》によって攻撃されないため場に残ることができたが、この状況下では
「どうだろ、ひっくり返せるかな……」
サンゴが見る先、ヒスイの盤上のカードは全てサンゴが確認できる状態。罠などはなく、それで十分に強い。
《氷水帝コスモクロア》。守備力3000で、《イニオン・クレイドル》と連動し相手モンスターが召喚されたターンにしか効果を発動できなくさせる。氷水の戦闘時に打点が1000下がるのも嫌らしい。次のターンまで残せば装備されている《氷水艇キングフィッシャー》によるバウンスも待ち構える。
《氷水底イニオン・クレイドル》。発動時に墓地・除外の氷水を回収し、モンスターの召喚時に自分場の水属性と相手全モンスターの攻撃力を下げる効果。
《氷水呪縛》。《イニオン・クレイドル》と連動し相手モンスターが召喚されたターンに効果を発動できなくさせる。氷水を含む戦闘で破壊されたモンスターの元の攻撃力だけダメージを与える効果は氷水が破壊されても使用可能。
《氷水のエジル》。召喚時に氷水魔法罠をサーチ、攻撃か効果の対象になると一度の破壊耐性を持ちながら手札・墓地の水属性を特殊召喚することもできる。
墓地の《氷水のトレモラ》。水属性が破壊されると氷水モンスターを蘇生でき、実質氷水に復活能力を与えている。
通常モンスターを素材としてエクシーズ召喚したことで《切り裂かれし闇》が適用されるコロンの攻撃力はわずかに上昇するが、コスモクロアとエジルの守備力の高さが突破できない。うかつに攻撃表示にすれば《イニオン・クレイドル》の弱体効果に絡め捕られることは明白。
このターンで一体幾つの妨害を踏み越えなければならないのだろうか。そして除去を優先した動きで勝てるのだろうか。不安が重くのしかかり、デッキトップにかける腕を鈍らせる。幼い少女に堪える極寒の戦場は、無情な判断を迫っていた。自分の心音が焦りを招く。
(このドローが、全部決める……どうしよ……)
「……諦めるなっ!」
「!? すぴちゃん……」
「ンゴがここで諦めないでよ、私はンゴなら頑張ってくれるって思ってるし、頑張ったンゴを倒したいって思ってる!」
「……頑張って、ダメだったら?」
「それはそれ! 死ぬときは死ぬんだから、終わる最後の一瞬まで
対面からの叱咤は、彼女から“
どこかで諦観していたのかもしれない。“自分は初心者”で、“相手は上級者”、“強固な盤面”で“勝ち筋は薄い”。だが終わっていないのだ。
「…………」
自分の手札を眺める。《切り裂かれし闇》が相手ターンでも増やした二枚の手札は自分の武器で、ならばこれからも戦える。次の一枚を信じれば倒せる。
ぐっと力を込めて、デッキトップを……引き抜いた。
「ドローッ!!」
そして、それを一瞥。突破口が見えた。
「すぴちゃん、やるよっ!! 《超自然警戒区域》!!」
「さあ来いっ!!」
「魔法発動――《思い出のブランコ》っ!! 墓地の通常モンスターを特殊召喚する! おいで《クラヴィス》くん!!」
可能性は繋がる。魔鍵銃士が舞い戻り、瞬間、強烈に二発の銃声。恩恵と抵抗の力を宿し、一弾ずつ、それぞれの決闘者へ。
――通常モンスターの特殊召喚に成功したことで、サンゴのフィールドの二枚の永続魔法の効果が発動。
モンスター効果をどれだけ封じられようと、今の盤面は魔法カードを阻むものはない。冷え切った空間にヒビが入り、開放的な音を立てて砕け散った。
「《切り裂かれし闇》で一枚ドロー! そして《超自然警戒区域》で、すぴちゃんの《イニオン・クレイドル》を破壊するっ!!」
「はっ、いいじゃん……!! 好きなだけモンスター効果使いな!!」
「《魔鍵施解》の効果で手札一枚を交換し、加えた《魔鍵-マフテア》を発動! フィールドとデッキからクラヴィスくん一体ずつを墓地に送って融合召喚! 《魔鍵召獣-アンシャラボラス》!」
闇の魔鍵が繋がり合い、扉の先から牙剥く獣を呼び覚ます。騎乗する銃士の手には、再びあの魔鍵が。
目まぐるしく戦況は移り変わる。《魔鍵施解》は、扉を開き別の世界へ。そこは……彼女のエースたちの暮らす場所。
「効果で墓地のマフテアを手札に! そしてフィールド魔法を《人形の家》に変更! 自分の墓地のドールモンスター二体を選んで同じモンスターをデッキから
「これで、また通常モンスターが……なるほど、《マフテア》!」
「うん! マフテアを発動! 自分場のアンシャラボラスと、デッキの最後のカード《火炎木人18》を融合!」
《魔鍵-マフテア》はその追加効果の使用権限として場に通常モンスターを要求する。そこを新たなフィールド《人形の家》で補い、サンゴはデッキのモンスターを素材に融合召喚を行う。
緑の鱗、翼で舞い上がる息吹と共に現れし異界の生物。それを人は……竜、と呼ぶ。
「羽ばたけ、画竜点睛! 《魔鍵召竜-アンドラビムス》!!」
さらに続く。異なる力を得た二体の人形が
アンドラビムスが竜なら、その美しい存在もまた竜と言えるだろう。黄色の翼は天より舞い降り、その恵みを告げる。
「六道輪廻を見守る存在! 《告天子竜パイレン》!!」
二体のドラゴンが並び現れるフィールドに、もはや弱気なサンゴは見えない。攻める、攻める、勝利に向かって。進軍を阻む呪縛は解かれている。
「アンドラビムスの効果発動! 自分の墓地の
「ん……! でも《トレモラ》の効果を発動、除外して《エジル》を蘇生! さらに二枚目の《イニオン・クレイドル》をサーチ!」
「そこに合わせてアンドラビムスでさらにドロー! っ、今しかない!! 《エクシーズ・インポート》を発動! エジルちゃんを対象に、パイレンゴの素材にする!」
「なっ、厄介な……!? 対象になった《エジル》の効果、墓地の《コスモクロア》を特殊召喚、するけどその効果は通る……!」
「よし! うおおおいくぞー!!」
怒涛の攻勢。《氷水のエジル》の効果を使わせながらその除去に成功し、あと一歩というところまで辿り着いた。
残る壁は《氷水帝コスモクロア》のみ。その突破の算段も見えている。ライフを詰める最後の一手は
彼女が高く跳躍し――天から高速で飛来した
「コロンちゃん、バトルフォーム!! 乗り込めぇー!!」
「《旋壊のヴェスペネイト》!!」
雀蜂のような姿の機械兵器、その頭上に操縦士のように乗りこなすコロンの姿が見える。彼女をアタッカーにする方法の一つであり、攻撃力は2500。
「バトルフェイズ!! パイレンゴで、コスモクロアを攻撃! 《切り裂かれし闇》で、1000下がっても突破できる!!」
「いいね……!! 《氷水呪縛》で1500ダメージお返しするよ!!」
「でももう、すぴちゃんにモンスターはいない!! アンドラビムスとヴェスペネイトでダイレクトアタック!! これで、ターンエンド!!」
HISUI LP5600-2800-2500=300
SANGO LP2500-1500=1000
激闘。お互いに大きくライフを減らし、決着が近いことを明らかにする。
サンゴにとっては惜しくも勝利まで持っていけなかったことが悔やまれる展開だ。EXデッキに《リンクリボー》がいれば残り300を削れた。あるいは《天霆號アーゼウス》がいれば次をしのげたかもしれない。それらを嘆いてもどうしようもないのだ。
ヒスイにとっては発見ばかりの展開だった。自分のデッキの弱点を的確に打ち抜き、残した手数を押し切ってひっくり返したのは紛れもなくサンゴの強さだった。
……脳裏によぎるのは、『虹闘の間』の不思議なオカルト。『この世界』の決闘にまつわる奇妙な伝承。
(“真の決闘者は、ドローカードで戦況をひっくり返せる”……プログラム段階でイカサマしてるとかそういうものじゃない、ここには何かある)
どんな状況でも、勝ちたいと願った決闘者の元にはそれに応じて適切なカードが来る。荒唐無稽な法螺話程度にしか思えなかったそれは、現状を見るに嘘でもないのだとわかる。
かつて『この世界』が生まれたばかりのころ、創始者主催で開催された大会の決勝は追い込まれたライバーがラストターンのデッキトップ一枚で逆転勝利したとして伝説となっている。
その話はいったん置いておいて。自分に勝ちたいと思ってくれたサンゴに、自分は何ができるのかと考え。
――ならば自分も、本気のドローで。
それが答えだった。今まで以上に感情を込め、目の前の相手を打ち倒す確かな決意と共に。
「私のターン――ドローっ!!」
HISUI LP300
HAND:3(うち2枚《深海のディーヴァ》《氷水底イニオン・クレイドル》)
FIELD
《氷水呪縛》
デッキトップが輝きを放ち、勝利を渇望する決闘者に応える。
その瞬間に
「何が来るのかわかんないけど……ンゴは最後まで戦う! スタンバイフェイズにパイレンゴの効果でクラヴィス君を特殊召喚! 《切り裂かれし闇》でドローして《超自然警戒区域》で《氷水呪縛》を破壊する!」
身構えるサンゴだったが――それでも、これは防げない。
天に瞬く星々を繋ぎ、それが
「私がドローしたカードは……《
《RUM-七皇の剣》
通常魔法
このカード名の効果はデュエル中に1度しか適用できない。
①:自分のドローフェイズに通常のドローをしたこのカードを公開し続ける事で、そのターンのメインフェイズ1開始時に発動できる。
「CNo.」モンスター以外の「No.101」~「No.107」のいずれかの「No.」モンスター1体を、自分のEXデッキ・墓地から選んで特殊召喚し、そのモンスターと同じ「No.」の数字を持つ「CNo.」モンスター1体を、そのモンスターの上に重ねてX召喚扱いとしてEXデッキから特殊召喚する。
「深淵の一等星、魂を導く方舟より出でよ!!」
「《
《CNo.101 S・H・DarkKnight》
RANK5 ATK2800/DEF1500 水属性・水族 エクシーズ
レベル5モンスター×3
①:1ターンに1度、相手フィールドの特殊召喚されたモンスター1体を対象として発動できる。
そのモンスターをこのカードの下に重ねてX素材とする。
②:X素材を持っているこのカードが破壊され墓地へ送られた時に発動できる。
このカードを特殊召喚する。その後、このカードの元々の攻撃力分だけ自分のLPを回復する。
この効果で特殊召喚したこのカードはこのターン攻撃できない。この効果は自分の墓地に「No.101 S・H・Ark Knight」が存在する場合に発動と処理ができる。
そのモンスターは、今までのヒスイの静かな印象があるモンスターとはどこか違う武骨な黒騎士。
召喚難易度から考えるに、《七皇の剣》を的確にドローしなければいけないはず。それをこの場所で、確実に召喚したのは何の因果か。
「おわ、初めて見たんだけどその子……!」
「そうね、私もなかなか出せたことなかったよ……じゃあ行くよ! ダークナイトの効果発動! パイレンを吸収する!」
「っ、やり返された~!」
先ほどの《エクシーズ・インポート》の意趣返しと言わんばかりの吸収効果。まずは厄介な破壊耐性を持つ《告天子竜パイレン》を取り込み、突破口を一つ空ける。
「続いて《イニオン・クレイドル》を再発動! 墓地のコスモクロアを手札に戻して、そのまま特殊召喚! これで《アンドラビムス》の効果は封じた!」
「でも、その子は魔法カードは無効にできない! ンゴに《切り裂かれし闇》がある限り、ビムスンゴは戦闘では突破されない!」
「わかってる!! 召喚、《深海のディーヴァ》!!」
最後の一枚。最初のターンに残していた歌姫は、妨害されない今確実にその効果を使える。その一枚が通ることが重大な意味を持つ。
「デッキから《
「除外されたカードは《ガレスヴェート》《魔鍵闘争》《切り裂かれし闇》《マフテアル》……どれもちょっとキツイけど、何してくるの?」
「こうするよ、レベル4のディーヴァとレベル3のデュオニギスでシンクロ召喚! 《深海姫プリマドーナ》!」
歌姫は新たな舞台へ。明るい海の都に歌声は響く。
「効果発動、除外されている《魔鍵闘争》をそっちの手札に戻して、デッキから《深海のアーチザン》を特殊召喚! デッキの一番上のカードを墓地に送って墓地のエジルを効果無効で特殊召喚!」
「手札が戻ってきた……? すぴちゃん、何かするつもりだね?」
「うん、これからンゴを確実に突破する! 私は、レベル3《氷水のエジル》・レベル1《深海のアーチザン》に、レベル7のシンクロチューナー《深海姫プリマドーナ》をチューニング!!」
「レベル……11!?」
歌は静かに、荘厳に。その存在を呼び覚ます。レベルの高さがシンクロモンスターの格なら、レベル11にまで上り詰めたそれは一体何なのか――そう、終焉だ。
「命を絶やす災厄の鼓動! 絶対零度の吹雪よ
《氷結界の還零龍 トリシューラ》
LEVEL11 ATK2700/DEF2000 水属性・ドラゴン族 シンクロ
チューナー+チューナー以外のモンスター2体以上
このカード名の②の効果は1ターンに1度しか使用できない。
①:このカードがS召喚に成功した時に発動できる。
相手フィールドのカードを3枚まで選んで除外する。
②:S召喚したこのカードが相手によって破壊された場合に発動できる。
自分のEXデッキ・墓地から「氷結界の龍 トリシューラ」1体を選び、攻撃力を3300にして特殊召喚する。
相手フィールドに表側表示モンスターが存在する場合、さらにそれらのモンスターは、攻撃力が半分になり、効果は無効化される。
そして次の瞬間、サンゴのフィールドが凍り付き――はじけ飛んだ。
何をされたのか理解した時には既に、《旋壊のヴェスペネイト》《魔鍵召竜-アンドラビムス》《切り裂かれし闇》が除外されており。残るカードは《デメット爺さん》《魔鍵銃士-クラヴィス》と《超自然警戒区域》《人形の家》《人形の幸福》のみ。
「……やば」
「あはは! こんなに頑張ったの久々だわ! すごいフィールド!」
「笑い事じゃないんですけどー!?」
黒の混沌の騎士。白の極地の龍。翡翠の最奥の魔女。立ち並ぶフィールドは、北小路ヒスイという決闘者を語る。
これでも彼女のデッキの全てではないだろう。一面に過ぎないそれらは、バラバラのモンスターでも一つの軍。中学生でも大人でもある彼女に似合う多面性の盤面。
「じゃあ、今回は私の勝ちってことで! バトルフェイズ!」
「あーマジで悔しい!! 次は絶対勝つからね!!」
「うん、待ってる。――コスモクロア、トリシューラ、ダークナイトで攻撃!!」
「それじゃ、次はもっと強くなってくるから! おつかれさーんご!」
「はーい、ばよばよ~」
「やっぱりマジで似てない……」
デュエル終了。間一髪の勝利を掴んだヒスイはいくばくかの振り返り談義を終え、内心の思考を巡らす。友には軽々しく話せない、裏側の思考。
まず、三ターン目のサンゴ。あそこで折れていてもおかしくないはずだったが、自分が
そして四ターン目の自分。あの場面、《七皇の剣》以外のカードをドローしていてもおかしくなかった。しかし手元にそれは来て、結果勝利に繋がった。《還零龍トリシューラ》では突破しきれないのはわかっていたから、それは奇妙な巡り合わせ。
この世界のオカルト、“的確なドローが導かれる”現象。それが関与しているとしか思えない。黒の戦衣の上に外套を羽織り、闇夜に潜むエージェントらしい姿で暗躍を始めた。ひとたび、世怜音からは離れて。
「“ちょっと夜更かししてくる”、っと……さーて、聞いてみようかな」
――Prr...Prr...Prr...
コール音が三度。電話口から聞こえるのは若い男の声。それがこの『虹闘の間』を作り出した第一人者であることを知っているからこそ、電話をかけるべき相手としてふさわしい。
「あ、もしもし? 北小路です」
――もしもし。こちら『虹闘の間』運営の加賀美。どうかされましたか?
「ちょっと聞きたくって……“ドローについて”なんですけど、大丈夫ですか?」
――ほう……なるほど、やはりいい眼をしている。こちらからお話したいことがありますので明朝特設デュエルスペースまでお越しいただければ。
そして彼女は、電脳世界の謎に一歩踏み込んだ。
周央サンゴ【みなさま~(魔鍵童姫)】
実はアーゼウス非採用。永続魔法でのサポートが多いため、それらを失うのはアーゼウスが除去されたシチュエーションを考えると圧倒的に不利。アーゼウスが《切り裂かれし闇》の影響を受けないのも考慮。
浮いた枠にはリソース回復に《ダイガスタ・エメラル》など。今回のデュエルの経験からさらに改良していく決意をした。
北小路ヒスイ【深海の氷水邸】
《深海のディーヴァ》から始まる展開は、かの《ハリファイバー》を失った今でも健在。ネプトアビスで手札を増やすもよし、デュオニギスでレベルを整えてシンクロするもよし。《承影》《還零龍》といった大型モンスターはディーヴァからの展開が通ればほぼ確実に召喚できるため安定した高出力が出せるのが強い。終着点はシンクロだけに留まらないとか……?
【氷水】の盤面が完成すると実質スキルドレインに近い状態となり、バーンも合わせて大変厄介。相手する際は魔法罠除去が重要。
隠し玉のダークナイトは継続除去とLP管理を兼ねる切り札。
エデンパウダーの出典はオリバー3Dです。
草案だともうちょいひすぴがボコボコにしてましたが気まぐれで軌道変更したから遅くなったりしました。
最後の最後までンゴを勝たせるかを悩んでました。パイレンが他のランク6ならあるいは……って感じでしたがまだ早かった。次の登場時ははたして……?
次回の本編はおちぐのデッキ見せる回の予定ですが番外編を挟むかもしれません。あーこにティアラメンツ使わせたばかりにとんでもないことに……
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#EX1 水は新たな色を示して
WIXOSSにハマってて遅くなりました。にじさんじDIVA三箱予約しました。
OCGの時の流れに乗ってちょっと番外編です。
※注意※
この作品には、『2022/10/1以降のリミットレギュレーションの内容』及び『2022/9/14以降に遊戯王公式より発表された“PHOTON HYPERNOVA”新規カードの内容』を含みます。
こちらで登場するカードは時系列の都合上、本編では登場しません。
発売前に脱稿したかった……
「むむむ……どうしようかな……?」
これは、朝日南アカネが自身のデッキを完成させてしばらくした日の話。デュエルスペースの一室にて彼女は一人で自分のデッキを眺めていた。
【ティアラメンツ】と【デスピア】を合わせたデッキを構築していた彼女は、『虹闘の間』に通知された一件のアナウンス以降ずっと頭を悩ませていた。
無理もない、そのアナウンスは彼女のデッキ編成に大きく影響するもの――『リミットレギュレーション改定』告知だったが故。
「《ハゥフニス》ちゃんが二枚になっちゃうのはどうにかなるけど、《ペルレイノ》が一枚は……むむむ」
【イシズティアラ】の大会環境での流行を意識し、いくつかの【ティアラメンツ】カードの採用枚数が制限される規制が敢行されることとなった。特に初動・強化・除去を一手に担う《壱世壊-ペルレイノ》が三枚から一枚に減らされ、デッキとしての構築難易度が少々上がることとなったのが大きい。相手ターンに動ける《ティアラメンツ・ハゥフニス》の絶対数が減少したのも初手に引き込みにくくなった面で弱体化と言える。
幸いにも痛手を受けたのは【イシズ】デッキと呼ばれるカードのパーツばかりで、【ティアラメンツ】そのものが致命傷を受けたわけではないのは初心者を脱却したばかりのアカネには救いだろう。噂によれば今回の改定で大打撃を受けてしまったライバーはかなり多いとのことで、さっそくあらゆるところでデッキ改造が行われている。耳をすませばそこかしこのデュエルルームから……
――おい《アギド》も《ケルドウ》も《
――うみせのスプライト……
――きがえるくん! せいげんだって! どうしよ!
――もちもちくんもいなくなっちゃったよね、どうしましょ!
――わかんない! ふふふ!
「あーこも頑張らないと! とりあえず一人でやってみたいし……」
そうして改造に着手する。まずは浮いた三枠を何で埋めるか、それに合わせてどのようにデッキを変えるか。先の構築計画時に見ていたカードから【デスピア】【烙印】に関するものを洗い出す。これらのカードは今回のレギュレーション変更の影響を受けておらず、使おうと思えばいくらでも使えることだろう。
しかし【烙印】カードは様々な陣営にまたがる大カテゴリ、お目当てのカードを探し当てるのは困難だ。
「んと、《烙印追放》で墓地からデスピアを戻せるのかな? 後は……んー……《アルバスの落胤》って子に関係するのが多いけど、流石にみんなの枚数は減らしたくないし……」
《『虹闘の間』が十二時をお知らせいたします》
「あ、もうそんな時間? ご飯食べよっ」
思考の渦からアナウンスが呼び戻す。音楽活動など日々忙しいアカネは午前のちょっとした時間も重要。配信せず一人でゆっくりと調整するつもりだった。
そして昼休憩をとるため、一度ログアウトしようとしたところで。
《アップデートのお知らせです。十月アップデートより『虹闘の間』にて使用できるカードが追加されます。
【クシャトリラ】【ヴィサス・スタフロスト】【スケアクロー】【ティアラメンツ】デッキを強化する新カードが登場します。詳細は……》
再度のアナウンスが、動きを止めた。
度々行われる『虹闘の間』の大規模アップデートは、使用できるカードに追加が来る一大イベント。新たな戦術のデッキが登場したり、いくつものテーマデッキが強化されたり。そして今回その中にはアカネが使う【ティアラメンツ】の強化もあるという。
「お? もしかして! ……ふむふむ、なんか怖くなっちゃった? でもこっちはかわいい〜!」
いてもたってもいられず、お知らせ欄を開きいくつかのカード情報を確認していく。侵略種の赤鎧に覆われた人魚や、鮮やかな海原で戯れる乙女たち。
目立つのはカードイラストに留まらず、効果テキストも。それは見るものが見れば《ペルレイノ》や《ハゥフニス》が減らされても問題ないと言わんばかりの優秀な力。アカネはまだその全貌を測り切れてはいないものの、それでも直感で“強そう”だと感じた。
「これ強いかも? ちょっと考えてみーよっと」
そして今度こそ彼女はログアウトする。鬱屈とした気分を晴らす新カードの訪れに心も弾み、何かが変わる予感がしていた。
――アカネは知らなかった。
これらの追加カードが、今までのデッキの強みをそのままに、新たな可能性まで広げられるようになったことを。即ち、レギュレーションによって弱体化などまるでしていない、むしろ一層強化されたことを。
《アップデートのお知らせです。十月アップデートより『虹闘の間』にて使用できるカードが追加されます。
【
「来た! ……うお~シンクロじゃん、最高か? 強え~」
一方で、北小路ヒスイもまた動き始めていた。自らの愛用デッキの進化は見逃せず、さっそく情報を確認。パワーに関しては……一目見ただけで感嘆の声が漏れるほど。
追加されたのは新たなエースモンスターと展開魔法。“除外”をコンセプトにするデッキとしての強みが強くなり、【深海】テーマを使用すれば召喚も容易。軽微な変更ですぐさま実戦投入できる即戦力。
「カスタマイズはちょっとでいいかな。《大剣現》を何枚にするかは考えないと、先行だと使いづらいし……」
巡らせる思考、知略。強豪の仲間入りとしてカウントされているだけあって慎重に検討を進める。
その顔が子供っぽい弧を描いていることに、果たして本人は気が付いているのか。
「んと、これは使えないけど……これはいけるの? じゃあこの子とかこの子も簡単に出せる?」
「枠キッツ……! 流石に二枚か~?」
「そういえばちょっと変えようって思ってたカードあったんだった……んーどうしよう……?」
「あ~わからん! もうコイツ入れたろ!」
迎えた十月某日、カード追加アップデート終了後。早速ライバーたちはこぞって配信を始める。リスナーと共に追加カードを勉強したり、対戦をしたり。……世怜音の二人もそうだった。
『【#あーことひすぴ】ひすぴとデュエル!【朝日南アカネ/にじさんじ】』
――ティアラメンツちゃんたちに新しいカードが来たとのことで、新しいデッキを作ってひすぴとデュエルします!
『【#あーことひすぴ】新デッキ【北小路ヒスイ/にじさんじ】』
――めちゃ強い新規
アップデートの影響を濃く受けた二人の真正面対決。新しいものに目を引かれるのは決闘者の性、二人それぞれが強化されていたことを知る者も知らない者も集まって、新規カードの強さを確かめようと目を光らせる。
「さてひすぴさん、あーこたち配信じゃ初めて二人でデュエルするんですがどうします?」
「確かに、そもそもサシが久しぶりじゃない? あーこのデッキマジで楽しみだったんだよな」
「お~そう言われると嬉しい~! あーこもひすぴとデュエりたかったよ~!」
二人が肩を並べる機会は実のところそこまで多くない。歌やゲームを短時間でさっくり楽しむアカネと、長時間の作業や雑談交じりの配信が多いヒスイの真逆とも言えるスタイル。それでも二人は友で、決闘者で。なら今ここにいる事実、それだけでいい。
アカネはヒスイたちに支えられて配信活動に取り組んできた。
ヒスイはアカネたちが本当に大切だ。
それぞれの道を進む最中の彼女たちの足跡には、間違いなくお互いの存在がある。だから決闘を全力で楽しみたいのだ。
アカネが決闘盤を構えると共にヒスイは桜色の飴を口に……すぐにその姿を“大人”へと転じさせて、両者真剣に気合を入れる。
ライブ配信は大衆の注目を受け、赤と緑が対峙する電子の世界は彼女たちのデッキを読み取り……
――デュエル!!
……深き水中を、舞台とした。
AKANE LP:8000 HAND:5
HISUI LP:8000 HAND:5
「あーこの先行だね。まずは《シェイ》ちゃんから! 手札の《悲劇のデスピアン》を捨てて、特殊召喚! さらにデッキから三枚墓地に送るねー……お、墓地に送った《サリーク》《メイルゥ》ちゃん、あと悲劇さんの効果が発動! サリークで《ハゥフニス》ちゃん、悲劇さんで《アルベル》くんを手札に加えて……メイルゥちゃんで、墓地のメイルゥちゃんと一緒に送られた《絶海のマーレ》さんを融合! 歌おう、《キトカ》ちゃん!」
「飛ばすねーぇ」
「キトカちゃんの効果でデッキから新カード・フィールド魔法《
「フィールド魔法もってこれんだ。でもそんぐらいならどうにかなるかな?」
透き通るような青。早速発動された一枚目の新規カード《嫋々たる漣歌姫の壱世壊》がバーチャル空間の海の様子を明るく変える。元々ティアラメンツに存在したフィールド魔法《壱世壊-ペルレイノ》の規制は響いたが、その分こちらは“ティアラメンツ”の名称を持つ点で《キトカロス》からのサーチが繋がるところを披露した。
とはいえヒスイの評価は限定的な打点強化で「そんぐらい」。……これほどわかりやすい
「ここで《グリーフ》を発動! デッキから《メイルゥ》ちゃんを特殊召喚して、フィールドの《シェイ》ちゃんを墓地に送るね! そして墓地に送られた《シェイ》ちゃんの融合効果と、出てきたメイルゥちゃんの墓地送り効果を発動!」
「ん……素材、もう墓地にないみたいだけど? メイルゥで落ちるの狙い?」
「いや、用意するから大丈夫! ここにチェーンして《ペルレギア》の効果を発動! 水族のティアラメンツちゃんが墓地に送られると、デッキからレベル4以下の水族モンスターを追加で墓地に送る!」
「へぇ! 墓地肥やしてそのまま融合するのね……さて、何が出てくるかな~?」
「あーこはこの効果で……新入り! 《沼地の魔神王》を墓地に送るよ!」
「沼地の魔神王……っ!? そういうこと!?」
「チェーン2のメイルゥちゃんで三枚墓地に送って、チェーン1のシェイちゃんの効果! 墓地のシェイちゃんと魔神王さんをデッキに戻す! この時、魔神王さんは融合モンスターに書かれてる融合素材モンスターになれる! これで魔神王さんを《ティアラメンツ・キトカロス》に変身させて、融合召喚!」
不定形の泥が意志を持って動き出し、その姿が場の人魚姫に近しくなっていく。やがて泥は清らかな流れと共に一体の人魚の剣に宿り……深層の人魚姫を、呼び起こす。
「行くよルルカちゃん! 突撃だ! 《ティアラメンツ・ルルカロス》!」
盤上に揃う似通う姿の人魚姫たち。己が壱世壊の領域において自在に泳ぎ回る彼女らは、悲しげな表情だったキトカロスすらも活気づけさせる。剣を向けるルルカロスが対戦相手を嘱目する。――決して屈することはない、と。ペルレギアを受けての攻撃力、2800と3500。ルルカロスに備わる効果を考えるに、これらを無視しようものなら痛手を受けることは間違いないだろう。
ヒスイは単純に驚いていた。融合モンスターを瞬く間に並べ、次のターン以降に繋がる強い動きをされたこと。つい数か月前まで初心者だったはずのアカネがそこまでしていること。
「すごいじゃん、夏のトレーニングが効いたのかな」
「それもそう! でもせっかくやるなら、ひすぴに勝ちたいって思ったから! あーこ、ひすぴのデッキのことはあんまり知らないけどね」
「……それは嬉しいな」
まだ決闘は進む。清流に混ざる赫、アカネのデッキを
「通常召喚、《アル太郎》! デッキから《赫の烙印》を手札に加えて、メイルゥちゃんとアル太郎でリンク召喚! モンスター二体で《クロシープ》さん!」
「まだ召喚権使ってなかったのか……!」
「最後に《おろかな副葬》を使って、デッキから《スクリーム》を墓地に送ってそれで《メタノイズ》を手札に加えるよ! 二枚伏せて、ターンエンド!」
AKANE LP:8000
HAND:2
(うち《ハゥフニス》確定)
FIELD
《嫋々たる漣歌姫の壱世壊》
《クロシープ》A700
《ティアラメンツ・キトカロス》A2800
《ティアラメンツ・ルルカロス》A3500
〈SET〉
〈SET〉
~TURN CHANGE~
HISUI LP:8000
HAND:5→6
――先行でルルカとキトカ並ぶとは……このルート覚えときたいな……
――正直ティアラなめてたかもしれん。これやべぇわ。
――あーこのデッキ、ここからさらにモンスター追加できるのか……!
――なんもわからんけどすごそう! 頑張れー!
(さて、ブラフを考慮せずに見えてる範囲は……《ルルカロス》、《赫の烙印》、《メタノイズ》……あとは手札の《ハゥフニス》、クロシープで一回蘇生か)
ターン巡って、ヒスイのドロー。デュエルログからサーチされたカードの効果が見える以上アカネが仕掛けている戦略のほとんどは見えている。サーチカードを使わないことはないだろうという読みも合わせ、
《ティアラメンツ・ルルカロス》、モンスターを特殊召喚する効果を無効にする。さらに融合召喚された状態で効果によって墓地に送られれば復帰し、おまけに自身以外の水族モンスターに戦闘破壊耐性を与えている。
《赫の烙印》、墓地のデスピアモンスターを回収して融合召喚。これで《悲劇》を回収して素材にすれば後続確保になる。
《
《ティアラメンツ・ハゥフニス》、相手モンスター効果に反応して手札から特殊召喚され、デッキトップ三枚を墓地へ。奇襲性が高く歴代ティアラメンツでも重宝されていたカード。
《クロシープ》のリンク先には現在《ルルカロス》が存在。モンスターがリンク先に特殊召喚されれば墓地の下級モンスターを蘇生できる。この効果で《メイルゥ》や《アルベル》などが出ればそれがまた次の手になる。
ヒスイの予想としては、明確な弱点は低打点の《クロシープ》への攻撃。しかし焦って戦闘を仕掛けようものならその前に強固な盤面で返されるだろう。そのために取れる手は……
「……ひすぴ?」
「ぁあごめん、ちょっと考えてた」
「そっか……いや、
そう言われて自覚する。この決闘を楽しむ己の感情に、本気で考えていたことに、アカネが本気であることを嬉しく思っていたことに。
元より軽く遊ぶつもりだったのを、気が付けば“バトルコスチューム”まで使っていた。自分と戦う相手が本気だと知ったから。本気で答えたいと思ったから。
そんな感謝と戦意を束ね、ヒスイのデッキが動き出す。
「ありがとう。じゃあごめんね……まず、ルルカロスにはどいてもらおっか」
「え?」
海の底、光届かぬ領域からそれは迫っていた。あまりに巨大な体を巧みに隠し、獲物へ向かって一気に詰め寄る。
「ルルカロスを……
「あっ! それは……!」
「強襲せよ、私の牙――《海亀壊獣ガメシエル》」
アカネのフィールドに超巨体の危険生物が出現した。元居た人魚姫の居場所を奪いながら。
【壊獣】、決闘歴が浅いアカネでもわずかにその危険性を知っているモンスター。相手モンスターを無条件で除去する回避不能の厄災。その中でも選ばれたのは水属性の“海亀壊獣”。ヒスイらしい、強い一手だと思わされる他なかった。
「その子って“効果”じゃないんだねぇ……ルルカちゃんが反応しなかったよ」
「そ、壊獣はそういう“ルール”を持つ。どんなに厄介なモンスターでも一方的に処理できる。効果じゃないから復活もしない……さて、ここから攻めさせてもらおうかな!」
「むむむ……ならもう使っちゃえ! 《赫の烙印》発動!」
にやりと笑うヒスイに、エースを除去されたアカネが食らいつく。セットカード一枚、そこから始まる
「墓地の《悲劇》さんを手札に戻して、手札の悲劇さんと《デスピアの
「最後の手札はそれか……ってことは」
「ここで除外された悲劇さん、アドリブさん、さらにクロシープさんの効果! デッキの二枚目の《アル太郎》を手札に加えて、クロシープさんで《メイルゥ》ちゃんを特殊召喚! そして融合素材として除外されたアドリブさんは、墓地の融合モンスターを場に戻せる! ひすぴがリリースしたルルカちゃんを特殊召喚!」
「ははっ、そうこなくちゃねぇ!」
「さらにメイルゥちゃんで三枚墓地に送るよ! 送られた《ティアラメンツ・クシャトリラ》の効果でさらに二枚墓地へ! お~あーこのフィールドかっこいい~!」
――立て直した!?
――ガメシエル使ってこれってマジ……?
盤面はさらに苛烈に。
除去されたルルカロスは、自己蘇生効果こそ失えど未だ健在。さらに追加された《赫灼竜マスカレイド》が、さらなる試練を与えようと睨みを利かせていた。
「さて聞いておくよ、その《マスカレイド》の効果は?」
「えっと、ひすぴのカード全部に
「おーけー大体わかった……ライフコストかー、キッツ」
《赫灼竜マスカレイド》
LEVEL8 闇属性・悪魔族 融合
ATK2500/DEF2000
「デスピア」モンスター+光・闇属性モンスター
このカード名の②の効果は1ターンに1度しか使用できない。
①:融合召喚したこのカードがモンスターゾーンに存在する限り、相手は600LPを払わなければ、カードの効果を発動できない。
②:このカードが墓地に存在し、相手フィールドに儀式・融合・S・X・リンクモンスターのいずれかが存在する場合に発動できる。
このカードを特殊召喚する。この効果で特殊召喚したこのカードは、フィールドから離れた場合に除外される。この効果は相手ターンでも発動できる。
その効果は非常に凶悪。ヒスイの全カードに“600LP払う”コストの追加。現在LP8000のため、カード効果はここから十三回が上限。細かな効果で展開を伸ばすヒスイのデッキとしてはかなり苦しい戦いを強いられる。遊戯王において最終的に勝敗を分けるのがLPである以上、そこを攻め続けられれば長くはもたない。ヒスイとしては早急にマスカレイドを除去しなければいけなくなってしまった。しかしガメシエルを使ってしまった以上それを突破するのは非常に困難。
ここからのデュエルは緊迫したものになる。決闘者の本気を肌で感じた決闘者は、それでも勝つために知略を練り戦術を組み立てる。それが決闘の世界に身を置く人間の性だから。
「…………ふぅ、仕方ない。ライフはくれてやるから」
「おっ、いいよ……! ひすぴの本気で来て!」
「通常召喚、《深海のディーヴァ》! ……っ、デッキからレベル3以下の海竜族モンスターを、特殊召喚する!」
それはヒスイのデッキの確実な展開札。その一枚を振るうのにも、体に纏わりつく赫い炎が痛みを与える。
『虹闘の間』の拡張機能はダメージに応じて微弱な刺激を与える機能も持つ。それが実害となるようなことはないが、実際に戦場にいるかのような感覚は決闘者を追い込んでいく。
カウント1。
HISUI LP-600=7400
「それは……だめだと思う! ルルカちゃんで無効にして破壊! さらにキトカちゃんを墓地に送る! その効果でデッキの上を五枚、《ペルレギア》で魔神王さんを墓地へ! 《ハートビーツ》の効果で墓地の《サリーク》を手札に持ってきて、《シェイ》ちゃんと墓地のキトカちゃんで別のキトカちゃんを融合! デッキから《レイノハート》くんを手札に!」
初動札を封じられ、盤面にはキトカロスが復活。攻撃力2800の壁として立ちはだかり、盤面が荒らされようと次のターンに繋がる。それでも終わらない。
「ライフ払わせてから無効にしてくるの嫌だなぁ! でも、まだ続ける! 《おろかな副葬》で《氷結界》を墓地へ、さらにそれを除外して《氷水帝コスモクロア》を墓地に送ってディーヴァを手札にっ! さらに《氷水のトレモラ》の効果で手札から捨てて手札の《海皇の重装兵》を特殊召喚ッ!」
HISUI LP-600-600-600-600=5000
カウント2、3、4。
刻一刻と近付いてくる決闘者としての終わりの瞬間。結末へ加速する怒涛の展開。赫炎に焼かれながら、それでも止まらない。
「おお、なんだかすごいよ……!?」
「当然だよなぁッ! 《海皇の重装兵》の永続効果で、海竜族の召喚権が追加される! 《深海のディーヴァ》を召喚し、今度こそ……《黄紡鮄デュオニギス》を特殊召喚! あーこのデッキトップ三枚を、除外するッ!」
「むむ、除外は厳しいな……《烙印劇城デスピア》《サリーク》《マーレ》さんが除外された!」
「フィールド魔法《氷水底イニオン・クレイドル》! 墓地のコスモクロアを回収し、そのまま特殊召喚する! 霊峰の神秘、世界を視る黒き魔女、不届きな敵を塗りつぶせ! 《
「出てきたね、ひすぴのエース! 今はそこまで怖くないけど!」
「それでもいい……! レベル2の重装兵・レベル3のデュオニギス・レベル2チューナーのディーヴァでシンクロ召喚! 私の静寂に反響する歌声、《深海姫プリマドーナ》! 効果であーこの手札に《劇城》を渡して、《氷水のエジル》を特殊召喚!!」
HISUI LP-600-600-600-600=2600
――本気で危ないぞ!?
――でもシンクロの準備が整った!
カウント5、6、7、8。
コメントが予想を広げる中、アカネも感づいていた。ヒスイが得意とする戦術“シンクロ召喚”。それに必要なものはわかっているから、アカネは自分が確実に勝つための一手を切る。相手が強いことはわかっているから、自分もしっかりと立ち向かう。そのために必要なことはカードが教えてくれるゆえに。
広がっていた
「ここ! 罠カード《
「ッ……!!」
「デッキから二枚目の《レイ男》を墓地に送っておくね。……ひすぴ、あたし本気で勝ちたいから」
――容赦ねぇ……
――流石にもう伸ばせないんじゃ……
シンクロ召喚は、表側表示のモンスターしか使用できない。裏側表示にする妨害は今後に響く最強の妨害。シンクロ素材となった際に強化を行う《プリマドーナ》を封じたアカネのプレイングは、本人が“ヒスイに勝ちたい”という一心であるため自覚こそないが競技シーンでも通用するレベル。一連の流れ全てが、アカネの正真正銘の全力。
マスカレイドの炎に焼かれ傷つき、圧倒的な不利盤面。もはやいつ潰えても、折れても、砕けてもおかしくない。召喚されたエジルも、主人の痛ましい姿に気が付いて涙をこぼす。崩れ落ちる霊峰の中、緑の髪の決闘者は息を切らして。
……だが。それでも。
「まだ終わってない!!」
「……!」
「特殊召喚したエジルの効果発動、デッキから……《
HISUI LP-600=2000
張り上げた声、発動されたそれは炎を打ち破る氷水の新たな力。逆境を覆す希望の一枚。
戦火に包まれたイニオンクレイドルから現れたのは、魂を宿した反撃の戦車。
カウント9、10、そして11。
「相手の場にモンスター、自分の場に水属性が存在する場合、デッキから氷水モンスターを特殊召喚するッ!! 浮上しろ、レベル7チューナー《氷水艇エーギロカシス》ッ!!」
「やっぱり、ひすぴはすごいよ……!」
「ここで《イニオン・クレイドル》の効果! エーギロカシスの攻撃力2000分、相手モンスターの攻撃力を下げる!」
《クロシープ》A0
《ティアラメンツ・ルルカロス》A1500
《ティアラメンツ・キトカロス》A800
《ティアラメンツ・メイルゥ》A0(守備表示)
《赫灼竜マスカレイド》A1000
《海亀壊獣ガメシエル》A200
HISUI LP-600=1400
ライフを削りながら、刃が届く位置まで来た。あと一押し、それをヒスイは持っている。
「そしてこれが私の切り札!!! レベル3のエジルとレベル7チューナーのエーギロカシスで、シンクロ召喚ッ!!!」
白く透き通る氷水の少女が、こぼした涙をぬぐって戦車と共鳴。
その体は穢れを知って黒くなりゆき、覚悟を知って決意を持ち……ここに、新たな氷水帝が誕生する。
「霊峰の深淵、世界がどれだけ残酷でも!! その涙の先に繋がるものがある!! 白き少女よ、不届きな敵に立ち向かえ!!」
「《
成長した少女はかつての氷水帝と共に進軍する。ヒスイたちはまだ止まらない。着実に勝つべく、命を賭して決闘する。どれだけ傷つこうが、決して砕けぬ翡翠の矜持。
「墓地から《エーギロカシス》の効果ッ!! このカードをエジルギュミルに装備し、攻撃力を除外されているモンスター一体につき400アップさせる!」
「除外されてるのは……あーこの悲劇さん、アドリブさん、マーレさん! 1200だね!」
《氷水啼エジル・ギュミル》A3000+400*3=4200
元から高かった攻撃力をさらに跳ね上げたそれは、どんな相手だろうと打開するために。エジルギュミルが操るエーギロカシスが強く光り、狙いを定めた。主を苦しめる道化の竜へ、その先の勝つべき相手へ。
カウント12。
代償として失ったLPは大きい。ヒスイに残されたのはわずか800LP。あと、一回。しかしそれでも今この瞬間は……
「これで、バトル――」
「まだだよ!! あーこもここまで来たら勝ちたい!! 墓地の《ハイレート・ドロー》の効果!!」
「!?」
……終わってなどいなかったのは、アカネも同じだった。ティアラメンツたちの効果で墓地に送られたカードの中に潜んでいた一枚の罠カードが最後の最後でその力を振るう。
「相手メインフェイズに墓地から発動出来て、自分フィールドのモンスターを破壊して墓地からこのカードをセットする!」
「っ、まさか……」
「そうだよ! 対象は、メイルゥちゃん!! そして破壊されたメイルゥちゃんの効果発動!!」
――破壊して融合するってことか!
――これでカレイドハート出てきたら今度こそ終わるぞ!? 墓地に素材もあるはず!
――ここまでか……!
“効果で墓地に送る”ことに反応するティアラメンツモンスターは、当然“破壊”にも対応。
コメントが予想するのは、そして事実アカネが狙おうとしているのは、融合召喚時に相手カード一枚をデッキに戻す凶悪な効果を持ったティアラメンツのエースモンスター《ティアラメンツ・カレイドハート》の召喚。これでエジルギュミルがデッキに帰されれば、今度こそなすすべはないだろう。カレイドハートの詳細な効果を知らないヒスイからしても何かが来ることは理解でき、もはや絶体絶命。
(いける……!)
……そう誰もが思った。たった一人を除いて。
ファイナルカウント、13。
「……いや、私はまだ負けないッ!! 最後の600ライフを使い、メイルゥの効果にチェーンして《氷水啼エジル・ギュミル》の効果を発動ッ!! このターン私のモンスターは効果破壊耐性と効果除外耐性を得る!!」
「でも、融合は止まらないよ!」
「それだけじゃない!! この効果を相手の効果にチェーン発動した場合、そのカードを相手のフィールド・墓地から除外する!!」
「え……っ!?」
《氷水啼エジル・ギュミル》
LEVEL10 水属性・水族 シンクロ
ATK3000/DEF1500
水属性チューナー+チューナー以外のモンスター1体以上
このカード名の①②の効果はそれぞれ1ターンに1度しか使用できない。
①:自分・相手ターンに発動できる。
このターン、自分フィールドの表側表示モンスターは相手の効果では破壊されず、相手の効果では除外できない。
相手の効果の発動にチェーンしてこの効果を発動し、その同名カードが相手のフィールド・墓地に存在する場合、さらにその同名カードを全て除外できる。
②:このカードが墓地に存在し、相手の効果でカードが除外された場合に発動できる。このカードを特殊召喚する。
メイルゥが起こした海流に、氷水の大剣が突き刺さる。融合の渦が断ち切られ、人魚が深海へ沈んでいく。……そして、戦場はそれ以上変わらなかった。
墓地から融合召喚をするティアラメンツの効果の弱点とも呼べるポイント、それは“墓地の自身”。
「ティアラメンツちゃんは、自分が墓地にいないと融合できない……!」
「これで止めた!! 今度こそ、バトルフェイズ!! さらに強化されたエジルギュミルで、赫灼竜マスカレイドを攻撃ッ!! このダメージ計算時、コスモクロアの効果が
「
「知ってるなら早い!! マスカレイドの攻撃力をさらに1000下げる!! これで、4600ダメージッ!!!」
「っっっ!! さ、流石だよ……!!」
激流が迸る。誰よりも盤上を支配していた赫き怪物は打倒され、もはやそれは脅威ではなくなった。
AKANE LP-4600=3400
「私はこれでっ、ターンエンド!! ……まだ、楽しめるね」
「うん、もっと続けてたいな……でも勝つのはあーこだよ! ドロー!」
この一ターンだけで、両者大きくライフが変動。次の一撃が重たい。死に瀕し、されど決着に非ず、闘いはまだ続く。
HISUI LP200
HAND:0
FIELD
《氷水底イニオン・クレイドル》
《氷水啼エジル・ギュミル》A4600
(装備:《氷水艇エーギロカシス》)
《氷水帝コスモクロア》D3000
〈深海姫プリマドーナ〉D2700
AKANE LP3400
HAND:4+1
(確定:《ティアラメンツ・ハゥフニス》《デスピアの導化アルベル》《ティアラメンツ・レイノハート》《烙印劇城デスピア》)
FIELD
《嫋々たる漣歌姫の壱世壊》
《クロシープ》A700
《ティアラメンツ・ルルカロス》A3500(《凶劇》で蘇生)
《ティアラメンツ・キトカロス》A2800
《海亀壊獣ガメシエル》A2200
ヒスイはこのターンで全てのリソースを吐き切った。残る札は盤上と墓地のみ。それでも《コスモクロア》の沈黙効果と《イニオンクレイドル》の弱体化が残り、うかつな効果は《エジルギュミル》に撃ち落とされる。
一方のアカネはカード枚数こそ潤沢ではあるもののヒスイの妨害盤面の固さに攻めあぐねる。《エジルギュミル》のティアラメンツ
「でも、やらなきゃ始まらないよね! 墓地の《トリヴィカルマ》の効果! デッキから“テキストにヴィサスくんが書かれてる魔法罠カード”を手札に加えるよ! この効果で《
「ここからか……仕方ない!」
「その後手札を一枚墓地に送らないといけないから……ここは《ハゥフニス》ちゃんを送るね! 効果発動!」
「それは通さない! チェーンして……」
「その前にこっちが先に発動できる! 《ペルレギア》の効果発動! デッキからレベル4以下の水族を墓地に送る!」
「っ、ターンプレイヤーが優先か……! なら《ペルレギア》にチェーン! エジルギュミルの効果で耐性を付与し、《ペルレギア》を除外!」
「フィールド魔法のペルレギアが除外されちゃったから効果が止まっちゃうけど……よかった、ハゥフニスちゃんは無事だ! 行くよ、ハゥフニスちゃんと墓地の《
エジルギュミルの効果が及ぶのは、直前にチェーンしたカード一種類のみ。ペルレギアが挟まることで本命の融合効果が通る。
侵攻される明るい海、傷ついていく人魚たち。嗜虐的な笑みを浮かべたかつての支配者は、主に勝利をもたらすために再臨する。
「レイ男、パワーアップ! 行けーっ!!」
「《ティアラメンツ・カレイドハート》!!」
その召喚成功時、触腕が鞭のように振るわれる。互いのエース、魂をこめた氷水帝と怪魚王の激突が荒波となり、空間が震える。
「
「くっ……!」
「よぉし、あとはギュミルちゃんの攻撃力を超えれば……!」
「いや、まだだよ! 氷水モンスターがデッキに戻されたことで墓地の《氷水大剣現》の効果が発動する!」
「えっ、まだあったの!?」
剣はまだ残っていた。コスモクロアを弾き飛ばしたカレイドハートの隙をついて、一人取り残されたエジルギュミルがとっさに刃を放つ。
先ほど墓地から罠カードを発動したアカネに対し、今度はヒスイの墓地の魔法カードが牙を剥く。
「氷水モンスターが
「それはだめだよ!? セットしておいた《ハイレート・ドロー》を発動! あーこのフィールドのモンスターを二体以上破壊して、二体につき一枚ドローする! チャラレイ男・クロシープ・キトカちゃん・ガメシエルを破壊して二枚ドロー!」
「かわされたかっ……! いやてか私のガメシエル破壊してドローってずるくない!?」
「あーこのフィールドにいるからいいでしょ? 破壊されたチャラレイ男とキトカちゃんの効果発動! スーパーレイ男を復活させてデッキからシェイちゃん、さらに上から五枚墓地に送るね! シェイちゃんの効果で墓地のデスピアモンスターとデッキに戻して《デスピアン・クエリティス》を融合召喚! この効果で……」
「させるかぁ!! クエリティスの召喚成功時、《イニオンクレイドル》の効果発動! エジルギュミルの元々の攻撃力・3000分相手全員の攻撃力を下げる!!」
「あっ!? むむ、こうなると攻められない……! 仕方ないからターン終了! ……あっ通常召喚してなかった!?」
「えぇぇあっぶねぇ……! ドロー!!」
――プレミ草
――残りライフ200で手札一枚とか絶望だゾ
――トップ一枚で逆転とかそうそう起こるわけ
「オラァ《RUM-七皇の剣》!! 現れろ《CNo.101 S・H・DarkKnight》!! イニオンクレイドルで全体攻撃力2800ダウン!! カレイドハートを吸収しろ!!」
「えええええ!? クエリさんでみんなの攻撃力を0にする!!」
「エジルギュミルの効果をチェーン!! 除外する!!」
「除外されちゃった……から効果発動!! デッキから《
「あああああうっざいなぁそいつ!! エジルギュミルを守備表示にしてターンエンド!!」
「ドロー!! このままバトル!! ツルツルさんで守備表示のダークナイトさんを攻撃!!」
「破壊されたダークナイトは復活しライフを2800回復する!! さらに全体3000デバフ!!」
「むむむ……!! レイ男を召喚しても墓地に送ったティアラメンツちゃんが除外されちゃう……!!」
――そんなことある?
――思ったより泥沼で笑う
――現代のカードパワーってすげぇんだな……
二人が使うカードの大半は所謂“
耐久戦が得意な【氷水】デッキと、リソースを回復しながら戦い続ける【ティアラメンツ】デッキは
荒波は混ざり合い、闘いは続く。……本人たちの予想も超えて。
この決闘の切り抜きを作るリスナーは、あまりにも長い決闘に恐れをなしダイジェスト形式を採った。主に注目されていたのは……
・ ・ ・
「《サリーク》発動! ダークナイトさんの効果を無効にする!」
「あーダークナイトー!!」
「よ、よし……! これでやっと倒せるぞ……!」
・ ・ ・
「リンク召喚《海晶乙女コーラルアネモネ》! 墓地のプリマドーナを特殊召喚する!」
「えっとえっと、ルルカちゃんの効果!」
「でも先に打っておいたギュミルの効果で破壊はされない! ……この後どうするか考えてなかったんだけどね…………」
「えっ」
・ ・ ・
「メイルゥちゃんの効果、魔神王さんを《アルバスの落胤》くんにして、《神炎竜ルベリオン》を融合! 手札を捨てて、墓地のモンスターと除外されてるモンスターをデッキに戻してもう一回融合する!」
「そこだっ、永続罠《氷水浸蝕》! エジルギュミルを破壊して無効!」
「ああっ!? でもギュミルちゃんがいないなら……」
「墓地のトレモラを除外して即復活!!」
「おお……戻ってきちゃった……!」
・ ・ ・
「あー……ようやく、揃ったぁ……! エーギロカシスを装備したギュミルで攻撃!!」
「うおぉー……負けちゃった……!」
最終的には、ヒスイが攻撃力で一歩リードして押し切る形での勝利となった。往復十ターンを超える
さらなる手数を増やしたアカネのデッキ、攻める力を増したヒスイのデッキ、両者の進化が如実に現れたからこその激戦。
電子映像が途切れ元のデュエルルームの風景に戻る中、息を切らした二人が肩を並べゆっくりと座り込む。
「やー……あーことガッツリ遊べて楽しかったわ……」
「そうだね……最近あたしもひすぴも忙しかったり、そもそもゲームの相性合わなかったりね」
「私が3Dゲームばっかやってるからなんだけどさ……うん、楽しかった」
「ありがとね、ひすぴ……またデュエルしようね」
「うん」
「「でもしばらくはいいかな……」」
二人は疲れ果てていた。
ワイ「ペルレイノ制限、ハゥフニス準か……どうにかならないわけじゃないけどな……」
公式「《
ワイ「キレていいと思う(番外編執筆を始める)」
公式「深海で簡単に出せる星10ティアラメタ氷水シンクロ出すやで!w」
ワイ「キレた(やる予定のなかったデュエル展開を考え始める)」
今回のデュエルはそれぞれの追加カード合計五枚を全部使うっていう縛りをつけてたのですごく構成を悩みました。ガバらないか不安すぎて
ティアラメンツはキトカロスでサーチできるペルレギアが追加されたことで融合素材代用モンスターの《沼地の魔神王》に触りやすくなってルルカロスとかカレイドハートとかの召喚難易度が下がったのがいい感じ。墓地枚数を追加するティアラクシャも悪くない。トリヴィカルマで制限のペルレイノとか既存ティアラ魔法罠をなんでも持って来られるのはバグ。
氷水はいよいよ3000打点が出てきたのがありがたい。条件付きリクルートで捲りが強くなった上で除去牽制もしやすくなって器用になった感じ。ギュミルは承影と同じルートでディーヴァ1枚から対象耐性つけながら出てくる。
ちなみにちらっと出した【イシズ】はイブラヒム、【スプライト】は海妹さん、【ガエル】はいちごちゃんのイメージです。
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#5 世界のシンソウ
今回は説明パートみたいなものですがしっかりデュエルがあります。頑張りました。
お気に入り登録していただける方が増えてきていてありがたい限りです。よければ感想もください。
※注意
この話以降、
・アニメなど遊戯王公式作品を強く意識した内容
・独自世界観に伴ったにじさんじライバーに関する独自設定
・現在活動を行っていない元にじさんじ所属ライバーに関する内容
以上の要素がより深く含まれます。
あとにじさんじ遊戯王マスターデュエル祭2022とかいう告知がされてるんですけどその要素を入れる予定はあんまりないです。
(12/1編集
今後の展開に関しての変更。詳しくは活動報告をご覧ください。)
八月二日。世怜音女学院に朝が来る。
昨日の夜どこかに行っていたヒスイも戻ってきていて、チグサなどが軽く話を聞いている。
「おはよ! どこ行ってたの?」
「あー、ちょっと
「おいおい学校抜け出してお酒かよー!」
「いいじゃん、ちゃ〜んと年齢変えたし〜?」
「……ふーん、ヒスイちゃんも考えてるんだね」
「コハックどしたん?」
「んーん、なんでもー」
それぞれの事情はともかくとして。今日はより実践的なトレーニングを積む予定が建てられているため、この時点で気合も十分。
朝食と、演劇部らしく朝のトレーニングを済ませて午前九時。目も冴えてきた五人は配信の準備のため手早くログイン。そして――
「今日は、朝から自主練して夕方から
「そやな! 五対五で受けてくれるっていうからありがたく声掛けさせてもらったわ!」
「流石に“ゲーマーズ”の先輩たちは強いって聞いてるけどねー、どうなることやら」
「よくぞいらっしゃいました、若き決闘者たちよ」
「……お?」
覇気の籠った声で迎えられた。
眼前には長身の男。スーツをぴっちりと着こなす姿はライバーとして何度も見て、そして『虹闘の間』に参加するとなった時に深く印象付けられた人物。
「加賀美社長? おはよーございます」
「おはようございます。にじさんじ所属バーチャルライバー、兼加賀美インダストリアル代表取締役社長、そして『虹闘の間』開発チーム代表・加賀美ハヤトでございます」
加賀美ハヤト。二十代にして国内有数のトップシェアホビー企業“加賀美インダストリアル”を経営。人々の少年心に訴えるような手腕は企業の名を国内外に轟かせている。
日本国内における遊戯王の普及活動にも一役買っており、『虹闘の間』プロジェクトもその一環として発足。“ANY COLORS”と提携して全世界のあらゆる企業・国家機関・果ては未だ不明瞭な点も多い“異世界”との協力を取り付け莫大な資金のもとに開発を主導した。また時折“にじさんじ杯”というライバーの腕自慢大会を開催、自身も出場し数多くの名勝負を披露してきた凄腕の決闘者。
一大ムーブメントの中心に座する、まさに時の人。
そんな男が今なぜここにいるのだろうか。特に連絡など取っておらず、トレーニング企画のゲストとしても予定されてはいなかった故に疑問は多い。様子を見かねたハヤトから語りかけられる。
「貴方達はこれから、己の決闘者としての腕を磨くために特訓を行うつもりだったのでしょう。話は伺っております」
「まあ、そうですね……?」
「みんなで対戦しながら、色々話してプレイングとか見れたらいいなって思ってました!」
「その試練、この私から出題させていただきます。貴方達の腕前であればきっとこなしてくれることだと信じてのお願いです」
「……“お願い”なんですね」
「察しが良いですね北小路さん。その通り、私から皆様に依頼させていただくものとなります」
「へー……? どうするどうする?」
「いいんじゃない? 社長からのお願いだよ?」
「ま、変なことにはならないやろ!」
急展開ではあるものの、加賀美の目的が自分たちへの頼み事であるというなら応えたいと五人は判断した。
すぐに決まった結論から、五人を代表してチグサが趣旨を問いかける。
「それで、お願いってなんなんですかー!」
「そうですね……詳しい話は私に
「おぉ、なんか“決闘者”っぽい……!」
「めちゃくちゃいい笑顔するじゃないですかー」
「どなたかお一人、私と決闘していただきたい。手短にLP4000で行きましょう」
「社長って、確か“にじさんじ杯”常連でめちゃくちゃ強いんだよね……どうする?」
「んー私はいったんパスー! 誰かやる?」
純朴な少年、あるいは歴戦の強者か。ハヤトが醸し出す雰囲気はまさに覇道征く上位者の姿。
そんな彼に食いついたのは、やはりというべきか彼女だった。青い髪が揺れる。
「じゃあ! あたしが行くしかないでしょう! なんたってあたし、この中だと決闘者としてはだいぶ先輩ですからぁ!」
「ちぐちゃん! 頑張れー!」
「あなたが来ますか……よろしい、【海晶乙女】使いの噂はかねがね聞いております。全力でかかってきなさい」
「はいっ! ここでかっこいいとこ見せて社長のことビックリプンプンさせてやりますよ!」
向かい合うハヤトとチグサ。切れ長の瞳に映る青い少女はやってやるぞと言わんばかりに腕を回し、デュエルスペースの立体映像を輝く青海へと塗り替えていく。世怜音の中ではヒスイと同じレベルで決闘に向き合ってきた彼女だ、これまでに得てきたものは非常に大きい。
……
それぞれの色がぶつかるフィールドで、簡素ながらも激しい激突が……
HAYATO LP:4000
CHIGUSA LP:4000
――デュエル!!
……始まった。
早速、手札を一瞥。お互いに考えることはあれどまずは先行プレイヤーの動きが始まる。華麗な手さばきで繰り出すカードは、上下二色に分かれた
「私の先行! 見せて差し上げましょう、我が【DD】の力の一端を! 現れよ《DD魔導賢者ケプラー》! 効果により永続魔法《地獄門の契約書》を手札に加え、発動! その契約により私は一ターンに一度デッキのDDを手中に収めることができる、よって《DDグリフォン》を手札に!」
「あたしからの妨害はありません! 存分に展開してください!」
「では遠慮せずに参りましょう。手札より《DDスワラル・スライム》の効果を発動し《DDネクロ・スライム》と融合! 異界を統べる魔の魂、
「融合モンスター…………Dが増えた……!」
「DDD、すなわち
手札を消耗してはいるが、しかしこれは見事なまでの連続展開。サーチから特殊召喚、融合召喚へ繋がりさらに損失を取り戻す動き。これが“まだ始まったばかり”であることに、見る者は驚きを隠せない。
「ね、ねぇ……なんかすごいよ……」
「ほぇ~……これが加賀美先輩のデュエル……」
盤上に並んだ悪魔たちが、さらなる展開へ献身する。【契約書】を交わし決闘者に力を与える【DD】たちは、強力な見返りを用意しているのだ。
「魔導賢者ケプラーとネクロスライム、二体のDDをリンクマーカーにセット!
「今度はリンク召喚! なーにしようっていうんですか!」
「こう、いたします。リンク召喚されたビルガメスは、デッキよりDD
HAYATO LP4000-1000=3000
「……おっといけない、今回はLP4000で決闘してもらっているんでした」
「はは~ん先輩、もしかしてヒントくれちゃいました~?」
「さてどうでしょうね? ニュートンの効果によってEXデッキよりケプラーを手札に加えます」
さらに繋がる。
「手札より自身の効果によって《DDグリフォン》を特殊召喚! そしてレベル4のグリフォンと魔導賢者コペルニクスにて
「今度はエクシーズですか!」
「登場して早々ですが、彼の役割はここではありません。コペルニクスの効果によって墓地に送られた《DDラミア》は、手札・フィールドの【DD】カードか【契約書】を墓地に送ることで自身を特殊召喚できます。よって《怒涛王シーザー》を墓地に送り、現れなさい!」
「シーザーを墓地に……あ、墓地効果ですね!」
「その通り。フィールドより墓地に送られたシーザーはデッキより契約書を手札に加えます。来なさい、《魔神王の契約書》」
「わざわざエクシーズ召喚したモンスターでサーチっていうのがプロっぽい!」
「ここらへんが社長の強さなんだろね」
「まだまだ行きましょう。レベル6の烈火王テムジンに、レベル1のラミアを
「シンクロまでするんですか! そいつは何をしてくるんですか!」
「こう見えて可愛いものですよ。それを発揮するために……墓地より《DDネクロ・スライム》の効果発動! 墓地のモンスターを自身と融合させる! 私はネクロスライムと烈火王テムジンを融合! 異界を統べる炎の剣、魔の魂と一つとなりて、更なる力で再誕せよ! 《DDD烈火大王エグゼクティブ・テムジン》!」
「墓地融合……!」
「これで私がDDの召喚に成功しました。よってアレクサンダーにより、墓地のDDを特殊召喚します。エクシーズ素材となって墓地に送られていたグリフォンを特殊召喚。彼が墓地からの特殊召喚に成功した場合の効果によって《DDナイト・ハウリング》をサーチ。さらに《エグゼクティブ・テムジン》もまた墓地のDDを特殊召喚できるためシーザーを特殊召喚。さらにシーザーを
融合、シンクロ、エクシーズ、リンク。ペンデュラムを合わせ、繋がる力はあまりにも多様。
墓地からの特殊召喚を繰り返し、さらに展開を継続させるテクニカルなデッキ。着地するモンスターも決して低打点ではないのが恐ろしいところだが、そこにまだ“エース”はいない。
ハヤトの目が輝き、魔天に立ち込める雲が割れる。新たな王の生誕を告げる上位者の通達。
「では、西園さんに乗り越えてもらうべき壁をご用意いたします。《魔神王の契約書》を発動! DDDを融合する権利を獲得する! フィールドより狙撃王テル、並びに疾風王アレクサンダーの二体を融合! 異界を統べる魔の魂、二つの玉座を潰し束ね、強靭・凶暴・脅威を齎せ! 《DDD
「3200打点の融合モンスター……!」
「墓地に送られたテルはデッキより《DDリビルド》を墓地へ送る。……しかし! 私にはまだ召喚できるモンスターがいる! 私は深淵王ビルガメス一体で……オーバーレイ!!」
「リンクモンスターで!?」
「このカードは、DDD一体でエクシーズ召喚を可能とする!!
異界を統べる魔の魂、重なり告げよ終末の兆し! これぞ私のエースモンスター!! 《DDD赦俿王デス・マキナ》!!!」
《DDD
RANK10 闇属性・悪魔族 ATK3000/DEF3000
PENDULUM SCALE10
このカード名のP効果は1ターンに1度しか使用できない。
①:もう片方の自分のPゾーンにカードが存在する場合、自分のフィールド・墓地のPモンスター1体を対象として発動できる。
もう片方の自分のPゾーンのカードを特殊召喚し、対象のPモンスターを自分のPゾーンに置く。
悪魔族レベル10モンスター×2
このカードは自分フィールドの「DDD」モンスターの上に重ねてX召喚する事もできる。
①:「DDD赦俿王デス・マキナ」は自分のモンスターゾーンに1体しか表側表示で存在できない。
②:相手フィールドのモンスターカードが効果を発動した時に発動できる(同一チェーン上では1度まで)。
このカードのX素材を2つ取り除くか自分フィールドの「契約書」カード1枚を破壊し、その相手のカードをこのカードのX素材とする。
③:自分スタンバイフェイズに発動できる。このカードを自分のPゾーンに置く。
玉座に足組む悪魔の王。戦局を見定め己の軍を勝利させる圧政の支配者。歯向かう者には、過酷な処分が下される。
「私のエース、デスマキナはあなたのモンスターを支配する。フィールドで効果を発動したモンスターはデスマキナの
「オーバーレイ・ユニット……ああエクシーズ素材ですね! でもそれはかなり嫌じゃな~!」
「では最後に、カード一枚をセット。墓地のDDリビルドの効果によって除外されているラミア・ネクロスライム・テムジンをデッキに戻します。これでターンエンド。……さあ、攻めてきなさい」
「あい! アタシのターン!」
「セットカードは《DDDの人事権》。墓地よりシーザー・テル・コペルニクスをデッキに戻し《DDオルトロス》《DDケルベロス》の二体をサーチ。彼らに妨害効果はありません」
HAYATO LP3000
HAND:4
(ケプラー・ナイトハウリング・オルトロス・ケルベロス)
FIELD
《DDD赦俿王デス・マキナ》ATK3000
(《DDD深淵王ビルガメス》)
《DDD烈火大王エグゼクティブ・テムジン》ATK2800
《DDD怒濤壊薙王カエサル・ラグナロク》ATK3200
《DDグリフォン》DEF1200
{GO-DDD神零王ゼロゴッド・レイジ}SCALE0
《地獄門の契約書》
《魔神王の契約書》
{DD魔導賢者ニュートン}SCALE6
CEMETERY
《DDD疾風王アレクサンダー》《DDDの人事権》
BANISHED
《DDスワラル・スライム》《DDリビルド》
これが頂点の決闘者の一人、加賀美ハヤトの作る盤面か。
赦俿王の支配はフィールドに二枚の契約書、自身が持つエクシーズ素材一つを合わせ累計四回を保証。モンスターを用意してもそれをかたっぱしから奪われてしまうのは、攻め手の損失という圧倒的なディスアドバンテージ。
「……そういえば、あの怖い融合モンスターって何をするんだろう」
「あー、カエサルラグナロク……」
「ご覧になっている皆様にも教えて差し上げましょう。彼は相手モンスターと戦闘するとき、自分場のカード一枚をバウンスすることで別の相手モンスターを吸収装備いたします。この効果は対象を取りません」
「え、戦闘にも強いんですか!?」
「あなたがデスマキナを乗り越えてモンスターを並べようと、それすらカエサルラグナロクが叩き潰す……あえて言いましょう。“これ、すごくないですか”」
「“すごい”っていうか……“エグイ”?」
ははは、と笑うハヤトは自身の強さを理解しきっているのだろう。デスマキナだけでも十分にいやらしいのに、カエサルラグナロクはそれを詰める。次のターンまで残ればその攻撃力を存分に振るい敵対者を屠るだろう。
だがチグサの目は怯えてなどいなかった。彼女もまた、自分の強さを知っているから。
「でも! あたし見つけましたよ! しゃっちょ先輩のエースの弱点!」
「ほう。……やってみなさい! あなたのターンだ!」
「《サイバネット・マイニング》を発動! 手札一枚を捨ててデッキから《
「デスマキナ! 地獄門を破棄し、そのモンスターを支配しなさい!」
泡の中から現れたのは、海を思わせるひらひらとした服の少女か。その姿もすぐに紫雲の中に消えていってしまった。……だが。
「やっぱり、そいつは効果までは無効にできないみたいですね! 手札から《海晶乙女ブルータン》を特殊召喚! さらに効果発動!」
「そちらも吸収させていただきましょう! 魔神王を破棄!」
「デッキから《海晶乙女シーホース》を墓地へ! 続いて《テラ・フォーミング》で《
「……これがあなたのフィールドということですね」
デスマキナが支配の手を広げようと、泡はその場に残る。マリンセス達が残した痕跡が次なるマリンセスへ受け継がれ。
広がる景色は、光を浴びた水面の映る闘いの舞台。アカネの《ペルレイノ》とも、ヒスイの《イニオン・クレイドル》とも異なる海のステージ。
これぞ西園チグサの誇る【
「闘海を対象に《海晶乙女スリーピーメイデン》の効果を発動! この子がおる限り、闘海は相手に破壊されなくなります!」
「とうとう盤面にカードを残すことに成功しましたね。しかしそこから繋げられるかはまた別の問題です」
「いやいや、あたしもまだまだ動けるんですよ! 《
二体のモンスターを取り込まれながら、なお場に二体。
フィールドの情報を確認したチグサはうんうんと頷き、舞台に
「ここでリンク召喚! スプリンガール一体で《海晶乙女ブルースラッグ》! この時ブルースラッグと、チェーンしてリンク素材になったスプリンガールの効果を発動します!」
「ほう……!」
モンスター効果の発動。ハヤトが声を上げる。
フィールドのブルースラッグを取り込まれようものなら、今度こそ手数が枯渇する。あわや絶体絶命。しかしチグサに動揺は見られない。
「あの子も取り込まれちゃうのかな……ん?」
「社長さん、動かないね?」
「……あーわかった、これはチグちゃんがうまいわ」
そのままチェーンは終わる。
恐怖の支配者が咎めることなく、光の海は賑わいを見せていく。
「……通しましょう!」
「やっぱりですね! じゃあスプリンガールの効果から解決して、デッキの上から場のマリンセスの数だけ墓地に送ってその中のマリンセスカードの分ダメージを与えます! 落ちたのは《海晶乙女雪花》《海晶乙女波動》! よって400ダメージです!」
「ダメージは《ゼロゴッド・レイジ》のP効果によって無効にさせていただきます」
「次にブルースラッグの効果! 墓地のシーホースを手札に加えて、この子の効果でリンク先に特殊召喚!」
三体のモンスター展開。十分に回復した。
観戦していたサンゴはまだこの処理を理解しきれていないようであって、くいくいと隣の袖を引っ張る。
「えーっと……どうして社長さんが吸収しなかったの?」
「デスマキナの効果が思ったよりも限定的だから、かな~?」
「んん……?」
「コハク、もうちょっと説明してあげなさい……あーこはわかった?」
「あ、たぶんだけど、あのモンスターが効果を発動できるのって“フィールドのモンスター効果に
「わかった! “タイミングを逃す”ってやつ! チグちゃんが墓地で効果を使ったから発動できなかったんだね!」
せいか~い、とヒスイが手で丸を作る。
《DDD赦俿王デス・マキナ》の効果テキストは、“②:相手フィールドのモンスターカードが効果を発動した時に発動できる (中略) その相手のカードをこのカードのX素材とする”というもの。
このテキストは“時、できる”とタイミングが限定されていて、ちょうどその瞬間に発動できない場合“タイミングを逃す”。
同じプレイヤーの公開領域で同時に発動できる効果があった場合、プレイヤーはそれぞれの発動順を決定し、全て選んだあと相手プレイヤーへ効果発動優先権が移動する。これがわかりやすいのが、今回のチグサの展開。
フィールドの《海晶乙女ブルースラッグ》のリンク召喚成功時の効果にチェーンして墓地の《海晶乙女スプリンガール》のリンク素材になった場合の効果が発動されたことで、“相手フィールドのモンスターカードが効果を発動した時”が来る前に別の効果が使われたため《DDD赦俿王デス・マキナ》は《海晶乙女ブルースラッグ》に直接チェーンするタイミングを失い効果を発動できなかった。
凶悪に見えるデスマキナにも弱点は存在する。それを確実に見つけ、突破口を開いたチグサもまた強者ということだ。
「こうなったら後はあたしの番ですよ! ブルースラッグとシーホースでリンク召喚! あたしたちの魂は砕けない! 《海晶乙女クリスタルハート》!
さらにクリスタルハートとスリーピーで《海晶乙女コーラルアネモネ》をリンク召喚!」
「打点ゼロのリンク2モンスター……しかも経由しただけ? 何をしようというんですか?」
ハヤトは理解しているのだろう。クリスタルハートの召喚に意味があることを、チグサがそれを考えていることを。
しかし。
「社長先輩、見せてあげますよ! あたしのデッキの進化!」
「何?」
「あたしは墓地の《氷結界》の効果発動! デッキからレベルが高い水属性を墓地に送って、そのまま手札に加える!」
「いつの間に……っ、最初の《サイバネット・マイニング》か!」
「あれは、すぴちゃんがめっちゃ使ってる……」
「どんなマリンセスちゃんなのかな……なんか寒くなった?」
「これはもしかすると……マリンセスじゃないのかもね」
アカネが感じた寒さは気のせいではないのだろう。『虹闘の間』は特定のカードに風の温度を調節する演出が備わる。それが《氷結界》のものでないことは、このカードを愛用するヒスイにはわかっていた。
だとするとこれは何なのか。すぐにその姿が見えることになる。闘海の一角がみるみる凍り付いていき、やがて。
「さあ見せてあげましょう! あたしの墓地には《スプリンガール》《ブルースラッグ》《シーホース》《クリスタルハート》《スリーピーメイデン》! 合わせて
「な、まさかあのモンスターを……!?」
「五角の星が結ばれるとき、世界は極寒に包まれる!
《氷霊神ムーラングレイス》!!」
それは神。白銀の体は氷柱を引き下げ、その場に居るだけでも地表には霜が降る。
それは水属性最高峰のモンスター。墓地に水属性五体のみが存在する場合に特殊召喚される兵器。攻撃力も2800と十分ながら、その効果こそが最強の証。
【霊神】の一柱、氷の権化。今ここに青天の霹靂を下す。悪魔たちを上から猛吹雪が殴りつけ、寒波はモンスターたちを超え後ろの決闘者へ。
「特殊召喚成功時、ムーラングレイスの効果発動! 社長先輩の手札をランダムに二枚捨てる!」
「ぐ、やってくれますね……! ですがあなたにも消えていただこう! デスマキナ、素材二つを取り除き奴を吸収しろ!」
「ですけど! ムーラングレイスの効果は止まりませんよ! 西園のにーっ!」
「私の《ナイトハウリング》と《ケルベロス》が……! く、次のターンに活かせる二体だったというのに!」
ハヤトはここに一手を使うしかなかった。ムーラングレイスは放置すれば2800打点としてこちらに進軍、エグゼクティブテムジンとの相打ちを取ることも可能。単純に水属性モンスターの一体としてリンク召喚に利用される危険性も考えられる。さらにムーラングレイスを取り込むことでエクシーズ素材は残り二つ、あと一回の妨害を残す。この一手を削げば、相手を詰められるとの判断を下した。
「お待たせしました! 《コーラルアネモネ》の効果発動! 墓地から攻撃力1500以下の水属性を特殊召喚します! 対象はクリスタルハート!」
「最後の一手だ! デスマキナ、そのモンスターを無力化しろ!!」
残ったリンクモンスターの効果は蘇生。波の音に合わせて踊り始める。
当然、魔の手が伸びる。赦俿王の前で、王魔の前で、そのような狼藉は許さぬと。
……だが。
「わ! 綺麗……!」
「これは……!」
その手が珊瑚礁の乙女に届くことはなく。
透き通った水晶が阻み、優雅に踊り続ける。
「デスマキナの効果が、防がれた!?」
「闘海の効果! 《海晶乙女クリスタルハート》を素材にしたリンクモンスターは、相手の効果を一切受けない!」
「なるほど、クリスタルハートのリンク召喚はそれが狙いだったのか……!」
「これでモンスターが揃った! あたしはリンク2のコーラルアネモネと、同じくリンク2のクリスタルハートでリンク召喚! あたしのエース!」
「波は激しく、瞳は優しく、全てを洗い流す! 踊って、歌って、最強の海のアイドル!」
「《海晶乙女グレート・バブル・リーフ》!!」
舞台に躍り出るは、竜宮城の乙姫を思わせる風貌の乙女。手には薙刀、波を従える様はそれがエースだと知らしめている。
「この時、闘海とフィールドから墓地に送られたアネモネの効果を発動! アネモネで墓地から《海晶乙女波動》を手札に加えて、闘海はリンク召喚されたマリンセスに墓地のマリンセスリンクモンスターを三体装備できる! 《ブルースラッグ》《コーラルアネモネ》《クリスタルハート》を装備! さらに闘海の効果で、マリンセスの攻撃力が装備カードの分アップするんで、合わせて2000上がって攻撃力4600!」
攻撃力も補い、さらに闘海のクリスタルハートによる付与効果も健在。
「お見事です。……さあ、かかってきなさい!」
「バトル! グレートバブルリーフで、烈火大王を攻撃!」
「ぐぅっ……!! ですがこのダメージに合わせて手札の《DDオルトロス》を特殊召喚させていただきます……!」
HAYATO LP3000-1800=1200
選ばれた攻撃対象は、打点が最も低く今後の展開効果も持っていたエグゼクティブテムジン。炎の剣が激流に揉まれ鎮火される。
一転攻勢、今アドバンテージを取っているのは間違いなくチグサの方だった。
「あたしはこれでターンエンドです! さあ社長先輩、今度はこっちの番ですよ! 絶対勝ってやりますからね!」
「よろしい! 私のターン、ドロー!」
「スタンバイフェイズ、グレートバブルリーフの効果で墓地からシーホースを除外して一枚、ドロー! さらにモンスターが除外されたことでグレートバブルリーフの攻撃力は600アップする!」
盤上に攻撃力5200にまでなった《海晶乙女グレートバブルリーフ》を残し、構えは万全。
しかし見ている側からは当然気になることもある。アカネからその疑問が出るのも当然の話だった。
「でも、あの子が倒されたりしたら危なくない? 今セットしてるトラップとかないでしょ?」
「まあ、そう思うよねぇ。おちぐちゃんのデッキと戦ってないうちは」
「おー? なんかあるの?」
「見てればわかるよ、たぶん」
ターン変わってハヤトのドロー。手札は今のドローカードと、手札に《DD魔導賢者ケプラー》。フィールドには赦俿王デスマキナ、怒涛壊薙王カエサルラグナロク、グリフォン、オルトロス。
「最後まで気を抜かないことをお勧めいたします。私のペンデュラムスケールは0と6、レベル1から5のモンスターを同時に召喚できる!
「その子はサーチができるはずやった! ここで止めさせてもらいますよ! 手札から《
「ケプラーが……! ずいぶんと、やってくれるじゃないですか!」
チグサの手札から罠カードが放たれる。音に乗り、歌踊に合わせ、闘いの流れを操る。波の中に生きる彼女たちの戦法。
「相手ターンに手札から罠カード! だから伏せなかったんだね!」
「これがあの子の妨害、って感じ。何回もあれにやられてるからなー」
攻撃力、防御力、展開力、妨害力、全てを兼ね備えたバランスのいい高水準なデッキ。チグサの【海晶乙女】。
それを超えたいと思うのが、あるいは決闘者の性なのかもしれない。ハヤトの手が天高く掲げられる。
「ですが!! これであなたの手札は残り一枚!! これが私からあなたに送る最後の試練です!!」
「いやまだなんかあるんですか!?」
「レベル1・魔導賢者ケプラー! レベル3・オルトロス! レベル4・グリフォン! これらにレベル2チューナー・ゴーストをチューニング!!」
「モンスター四体!?」
「異界を統べる魔の魂、雷の剣と共振し、さらなる力で再誕せよ! レベル10!!
《DDD疾風大王エグゼクティブ・アレクサンダー》!!!」
闇を切り裂くかのごとき勢いで推参したそれは、墓地に眠る疾風王のさらなる姿か。
その剣に稲妻が迸り、攻撃力が上がっていく。
「このカードは、自身を含めたDDDが場に三体存在する場合、攻撃力が3000アップし6000となる!!」
「っ……!」
「赦俿王よ、怒涛壊薙王よ、疾風大王に力を!!」
『――!』
『――!』
『――!!!』
グレートバブルリーフを凌ぐ凄まじい力。水面に電光が走り、肌がひりつく。
「あなたは十分、私に力を見せてくださいました。合格は差し上げます――しかし!! 勝負は私がもらったぁ!! バトルフェイズ!! 疾風大王エグゼクティブアレクサンダーで、グレートバブルリーフを攻撃!!」
「――いいや、あたしも譲れないですよ社長先輩!! 手札から発動、罠カード《
「なんだとォ!?」
絶体絶命、故に起死回生。荒れた海は大きな飛沫を上げて新たな波を巻き起こす。
「グレートバブルリーフをEXデッキに戻して同じリンク数のマリンセスに変身させる! 現れろリンク4!」
「魂を貫く激戦の音が、波に乗り海を越えて世界中に届く! 海に輝く希望のハート!」
「《海晶乙女ワンダーハート》!!」
新たなマリンセス。その武器はより攻撃的な刃へ転じたものの、攻撃力はむしろ先ほどよりも下がっている。しかしチグサはこれを選んだ、つまり意味があるのだ。勝つための意味が。
「何をしようと、エグゼクティブアレクサンダーの攻撃は防げていない!! 装備カードすらも失ったマリンセスで……ッ!?」
「気が付いたみたいですね! 変身させたことで装備してたマリンセスは墓地に送られます! よって、《海晶乙女コーラルアネモネ》の効果を発動できる! さらにこれはリンク召喚扱いなので《闘海》も発動!」
「これは、まさか……!」
「三枚を再装備し、アネモネで墓地の海晶乙女カードを手札に加える! 帰ってこい《海晶乙女波動》!! そしてこれはもう一度発動できる!! エグゼクティブアレクサンダーの効果を、無効にする!!」
驚異の展開。名称ターン一のない無効札を墓地から回収することによる、
「あのカード、一ターンに何回でも効果使えちゃうんだね……」
「あそこまでするのは珍しいよねー、ヒスイちゃんもなかなかやられないんじゃない?」
「ま、そうね。チグちゃんが本気で勝ちたいって思ったからこそ、だよ」
「……く、くく、ははは! 良いものを見せていただきました! やはり勝ちたいと思う決闘者の熱き魂は素晴らしいものです!」
「めっちゃにこにこじゃないですか! ありがとうございます!」
「いいでしょう、今回はあなたが上手だった! 巻き戻しは行いません! 疾風大王エグゼクティブアレクサンダー、攻撃を続行なさい!」
「ワンダーハート、迎え撃つぞー!」
HAYATO LP1200-1400=0
- DUEL END -
そして、波は静まる。
「よっしゃー!! 社長先輩に勝ったぞー!!」
「ということで、社長さんからのお願いって何ですかー!」
「この腕前があるならば、お任せできることでしょう。
私からの極秘任務……この世界の“決闘精霊”の調査について」
その前置きから始まる話は、あまりにも大きなスケールだった。
加賀美インダストリアルが代替わりしてしばらく、社長としてもライバーとしても安定したハヤトが目を付けた新規事業が遊戯王の促進。それに伴い、世界各地の決闘歴史に残る史跡を調査することで知見を深める計画が打ち出された。実質海外旅行ということで社内でも盛り上がり、ハヤトもまた自ら現場で指揮を執るためにチームの一つに同行。その先は決闘発祥伝説の地――エジプト。
調査の途中、ピラミッド周辺に立ち寄った一行はそこで謎の男に呼び止められる。肌を白い布で隠し、わずかに伺える風貌から現地の老人だと思われた
――あなたは……
――知りたいですかな、本物の“決闘”を。この世界に足りぬ力を
――……? それはどういう……
――何、簡単なこと。“決闘”には宿るのですよ、本当の魔力が
――なっ……
物語、あるいは法螺話としか思えないのにも関わらず、老人の語りから耳が離せない。それは自身が『にじさんじ』で魔力の類いを持つ存在を見ていたからか、信じたいと思ったからか。
曰くこの世界の決闘は、元々“精霊の力”を有していた。カードに宿る精霊を操り、現実世界にまで影響を及ぼす強き力があった。それらは時代と共に失われ、決闘は単なるボードゲームに成り下がった。しかし“精霊の力”を正しく操れば人も精霊もその感覚を共にし、古来の正しき形の決闘を取り戻すことができる。
それができる存在を探していた、そして見つけた。老人はハヤトの手に古めかしい箱を乗せる。
――これを使いなされ。御主らに間違いなく喜んでもらえるものですぞ
ずっしりと重たい金の箱。《封印の黄金櫃》にも似たそれは当初は一切不明瞭なだけのもの。ハヤトらが持ち帰り解析を進めた結果、恐ろしい事実が判明した。この箱の中には、幾千万にも及ぶ“魂”とそれぞれに伴う“時空”が広がっていたのだ。
彼は見た、この世界で起こらなかった数々の対戦を。輝かしき決闘者たちを。
『ブラック・マジシャンで攻撃!
『ヒーローにはヒーローの、戦う舞台ってのがあるんだぜ! スカイスクレイパー発動!』
『レベル2のスピードウォリアーに、レベル3のジャンクシンクロンをチューニング! シンクロ召喚!』
『かっとビングだ俺! レベル4のモンスター二体で、オーバーレイネットワークを構築! エクシーズ召喚!』
『お楽しみはこれからだ! 揺れろ魂のペンデュラム、天空に描け光のアーク! ペンデュラム召喚!』
『アローヘッド確認! モンスターをリンクマーカーにセット! サーキットコンバイン!』
紡がれた歴史はカードに精霊を宿した。それらは純粋で、ただただ決闘が好きな存在だった。
それをただ放っておくわけにもいかず、ハヤトたちは力を尽くした。曲がりなりにもVR空間に出力できたのは加賀美インダストリアルの技術と努力の結晶だろう。しかし風向きは芳しくなく、いつエラーを起こすかもわからぬ危険なものだった。
転機があったのはそれから少し。連絡を受けたハヤトの元を訪れたのは、にじさんじの“元一期生”であり“女神”、モイラであった。
彼女は“箱”の持つ力を察知し、間近で確認することで把握を試みた。結果は……
「なるほど、今も拡張し続けているのだわ。少々まずいかも」
「それは……」
「これを放置すれば箱から溢れて氾濫する。この世界などあっという間に塗り潰される。その前に対策を打たなければならないのだわ……人間のあなたを関わらせるのも怖いのだけど、いける?」
「……はい、もちろんです。私たちの力でこれをあるべき形に導きましょう」
そしてにじさんじを挙げての大規模計画が始動する。
虹のように色とりどりで、決闘を愛するものが集う世界。そんな場所を作りたいという願いから名付けられた『虹闘の間』プロジェクト。
にじさんじ本社ビルの一部屋、照明を落とされたその部屋には、スクリーンにいくつもの空間が映る。一つ一つをよく見れば、それはモンスターたちが動いている姿だった。その近くに決闘者はいないのにも関わらず。
それを眺める影が二つ。一人はスクリーンを凝視するハヤト。もう一人は、椅子に座るサイバネティクスな格好の男。白いサイバースーツに青い光のラインが走り、頭にかぶったヘッドギアからは青い目が覗く。目線が向いている先は不明瞭だが、あごに手を当て思案する様子からはインテリジェンスを感じ取れる。
「やっぱりわからないことだらけだね。俺もこれがプログラムの範疇に収まってるのが信じられない」
「あなたでも難しいとは……やはり“これ”はとんでもない代物だったわけですね」
「その挙動の一切に再現性が確認できない、中にAI……あるいはそれ以上のものがなんか仕込まれてるんじゃないかってくらい不規則で、自由意志を持ってる。まさにブラックボックスだよ」
「危険でしょう。ですが、私はこれを完成させたい。この世に生きる決闘者がすべからく楽しめるように。そのために、私はにじさんじの皆さんを頼らせていただいているんです」
「ハヤトさんが楽しそうでよかったよ。さて、俺はもう少し他のあてを探してみる。科学力でわからないことでも、にじさんじならそれを超えられる。そうでしょ?」
「ええ全く。では私も私なりに調べさせていただきます。お体にはお気をつけて」
「ああうん。それじゃ、お疲れ様。またね」
男はハヤトを部屋に残し、ヘッドギアを外して立ち去っていった。
その青いインナーが入った髪を見送って、ハヤトは画面を注視する。広がる世界のあちこちに、闘い戯れ生きるそれらの姿があった。
「何としても、これを完成させなければならない」
彼の決意が固まったのはその時だったのだろう。どこまでも決闘を愛するハヤトだからこそ、誰よりもひたむきになれた。その様に多くが惹かれた。
やがて力は集まる。
多額の資金を提供しスポンサーとなった名だたる家々。
不可視のエネルギーを宿し操る数々の魔法の世界。
神と人とが繋がれる妖術の皇国。
最先端の技術力を有する科学の楽園。
全世界でも類を見ないレベルで“異世界”と連携し、にじさんじと加賀美インダストリアルの完璧なオペレーションによって統率された計画は順調に進み、『虹闘の間』を完成させることに成功した。
「……このように、我々は『虹闘の間』開発を続けてきました。システムとして完成した今でも、これは拡張を続けている」
「なんか壮大な話ですね……」
開発者インタビューなどでも触れられなかった“世界の裏側”。自分たちが踏み込んでいるのが正真正銘未知の世界であることに、感じるのは不安と高揚。そうなると気になるのは、何が起きてどうなっているか。
「それで、精霊を調査するって……そもそも何が起こってるんですか?」
「あなたたちも少なからず経験したことがあると思います。時に、先程の私たち二人の決闘を思い出していただければ」
「んー……なんかスムーズに進んでましたね」
「ちょっと
「まさしく、
確かに言われてみればその通りだ。
ハヤトの初手には一枚から初動になる《ケプラー》《コペルニクス》と、手札で融合する《スワラル》・墓地で融合する《ネクロ》のスライム二体。展開力のある【DD】とはいえかなり上振れていただろう。
対してチグサは《デス・マキナ》の妨害をかわしながら氷霊神を確実に降臨させ、墓地に《波動》を送りながら回収し、最終的にはエース召喚までこぎつけた。しかも次のターンの《グレート・バブル・リーフ》の一枚ドローは状況を確実に変えた《環流》。あまりにもうまくいきすぎていた。
「……すぴちゃん、もしかして」
そう言われたサンゴの脳裏に過ぎるのは、昨日のヒスイとの一戦。勝ちたい一心でドローし続け、《超自然警戒区域》や《エクシーズ・インポート》など盤面をひっくり返す手段を一つ一つ持ってきた。その次のターンのヒスイの《七皇の剣》もまた、うまくいっていた一例だろう。
もしかするとヒスイはこれを知っていたのか、そう思って目線を動かし……
……突然の爆発音のようなものに遮られる。バーチャルの世界でおおよそ感じることのない衝撃に、理解しきれない異常事態を感じ取れてしまう。
「思ったより動きが早いですね……詳しい説明は後ほどさせていただきます! 今はとりあえずあちらへ!」
「行くぞー!」
「ちょ、コハクー!?」
「バトルジャンキーだ……」
一目散に駆け出していったコハクを追う形で、一堂は爆発音の震源地へ向かう。
その最中、逃げていく動物系のモンスターとすれ違ったのは……気のせいではなかっただろう。
「……ふむ、【海晶乙女】。私も構築してみましょうかね」
西園チグサの口調再現とDDの展開がムズすぎる。ハゲた。この世界の加賀美ハヤトはマジで雲の上の存在みたいなところがあるので使用デッキは頭使う【DD】です。“社長”だし。Daemonは誤字じゃないですが他でなんか間違えてたらなんか便利な機能があるらしいのでそこで教えてください。
というか今まで「チューニング」「オーバーレイ」とかのアニメワードを使ってなかったの気付いた人とかいるんですかね。説明不十分なので次回以降でしっかりします。まあ次回はコハクのデッキお披露目回なんですけどね。
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#6 東堂堂々決闘中
にじさんじ遊戯王祭、なかなか楽しかったです。織姫星の皆さんも、経験者の皆さんもすごく楽しまれていたのが印象深いです。ライバーの皆さんに「いつかまたやりたい!」と思ってもらえたなら、いち“リスナー”かつ“決闘者”として嬉しい限りです。
散々引っ張ったコハクのデッキお披露目となります。構築が一番難しかったです。私が盛りに盛ったからですけど。詳しくは読んでもらえれば。
多くの方に読んでいただけているようで嬉しいです。感想など頂けたらさらに嬉しいです。
どんな感じに嬉しいのかと言うと、《スケアクロー・ライヒハート》でサーチしながらドローすると手札がめちゃくちゃ潤うみたいな感じです。
※注意
この話で行われるデュエルには、キャラクターの強さを引き立てるための演出として「追加のルール」が適用されます。
『デュエルリンクス』における『スキル』のようなものだと思っていただいた上でお楽しみください。
また今回のデュエルで登場するカードはシナリオ時系列を意識し、2022年8月2日時点でOCGで登場しているカードまでとなります。『DARKWING BLAST』からは登場しますが『PHOTON HYPERNOVA』からは登場しません。
『虹闘の間』の裏側に触れた世怜音女学院演劇同好会。ハヤトからの“決闘精霊の調査依頼”の説明を受けている最中、突如として聞こえた爆発音の元へと向かうのだった。
『──!!』
「ん!?
「かわいい、けど逃げてるよね……」
「それらをゆうに上回る力を持った決闘精霊がこの先にいる、ということなのでしょう!」
「なんか思ったよりヤバそうなんだが?」
必死で逃げる精霊の姿に異常事態を肌で感じる。電脳空間での移動とはいえ緊張感もあって息を切らす思い。
たどり着いた爆心地に広がるのは地獄絵図。見るも無惨に燃えていく“森”らしき何か、暗黒の焦土に枯れ果てた木々が並ぶ
灼熱地獄の中央、口から火を放つ紅の巨体。とぐろを巻く長い姿は龍の如く、牙と爪を鋭く光らせ金の瞳が新たな外敵を見定めた。その口に炎が宿る。大気の異温、朽ちる木の煤けた匂い、それらが嫌でも連想させる“終わり”の光景。
「! えー何あれ!」
「ややややばいよ!?」
「来ます! 伏せなさい!! 防げ《レオニダス》!!」
森が燃える攻撃をまともに向けられればどうなることか。ハヤトが即座に自身の決闘盤を操作し、一枚のカードを盤面へ。呼びかけに応じ現れた反骨王が大きな盾をかざした直後、それが襲い来る。
劫火が視界一面を覆い隠し、盾に防がれて直撃はしないものの熱波が肌を焼き、チリチリと痛みが伝う。熱い、苦しい、この感触は『虹闘の間』でダメージを受けた時と同じようなもので、しかしそれ以上に自分の“存在”そのものに来る痛み。
少女たちは理解する、精霊の力は自分たちにダメージを与えることができるものだと。受け続ければ危険だと。
長い長い灼熱のブレスが途切れ、その名が明かされる。
「けは、喉が乾く……」
「社長さん! あれは……!」
「神炎皇ウリア!! 幻魔が一柱、紛れもない厄災です!!」
それは吼える。猛る炎、割れる大地、格の違いは言葉にするまでもなく。
《神炎皇ウリア》。いま絶大な脅威として、矮小な人間の前に現れた。立ち向かわねば屠られるのみ、少女たちに過酷な選択が迫られている。
・ ・ ・ ・ ・
【幻魔】。強大な力を持つとされる三体の伝説のカード。一部地方の決闘神話に名が残され、いずれも災害級の脅威を持つと伝えられる。そのうち一体、神炎皇ウリアは罠の力をもって地上を黄泉へ送らんとした。
伝説、空想上の話、そう思われていた【幻魔】の実在。その実害。畏れを感じるのも無理はない。
そのウリアの胴の下、ニタニタと笑みを浮かべる悪魔の姿があった。骨格だけで作られた体に張られたコウモリを思わせる薄い羽、体表には青くよどんだ炎を纏う。
『ヒヒ……! まずはウリア様! そしてやがては全ての幻魔を!』
「なんやお前!」
『ぬぅ、人間か! 邪魔だぞ、ここはこれより我らが崇める幻魔の支配する地となるのだ!』
「うっわぁ……」
その悪魔、幻魔を崇拝する
醜悪な顔に、思わず後ずさりしてしまうのも仕方ない。まだ彼女らは若い学生で、ただの人間なのだから。
「社長さん! アレ倒せますか! というか倒したいです!」
しかし彼女に関してはどうやら違うようだった。
東堂コハクの目は爛々と輝き、崩れぬ笑みが“闘いたい”と雄弁に。
「こはたん!? 危ないよ!?」
「でも~、危ないのはみんな同じだし? あと私もデュエルしたいし?」
「……敗北すればどうなるかわかりません。それでもいいのであれば」
「大丈夫ですよ! 負けるつもりないんで!」
歩み行く。死を覚悟した者の足取りではない、むしろその逆、勝利を突きつけに行く勇気ある前進。
それを見た悪魔も、不気味な決闘盤を構えコハクを勝負へ誘い込む。その姿を愚かだと笑いながら。
『まずはお前か、女ぁ! 貴様を叩きのめして幻魔への生贄にしてくれよう! そこのガキどもと同じくな!』
「あ、そう? じゃあやってみてよ! 私、負けるつもりないし!」
『その虚勢がいつまで続くか見ものだな! 我ら精霊の決闘、人間ごときが抵抗できると思うな!』
「コハクのデュエルが見られんのは久々やな、最近はずっと調整続きだったみたいやし」
「まさかその相手が幻魔とは思わなかったけどねぇ」
「…………」
「ンゴちゃん、怖いよね」
「だって……あんなやつの攻撃受けたら……」
「安心せぇ! コハクは強いんやからな!」
「私たちも何度か負けてるし……パワーならこの中で一番じゃないかな?」
サンゴは、コハクが決闘する姿をあまり見たことはない。それでもチグサが自信満々に語るのを踏まえると、少なからず幻魔相手であっても瞬殺されることはないだろうと思えた。
それでも心配だから、声を張り上げて応援するのだ。
「こはたーん!! 絶対、勝ってねー!!」
「任せろー!! それじゃ……行くよ!」
あたりに闇が立ち込める。
――その中に、七色の光がきらめいて。
-- DUEL START --
『見ろぉ!! ウリア様の力をぉ!!』
“精霊法――THE SEARING FLARE”
ACTIVATE:《ハイパーブレイズ》《覚醒の三幻魔》
HAND→TRASH:《暗黒の召喚神》
決闘が始まった直後、突如としてフィールドが割れ二枚のカードが現れた。ウリアを刻んだ二枚の永続罠カードが、何の前触れもなくフィールドに現れる。当然これはカードの効果ではなく、ゲームのルールを超えた異常事態。
精霊を相手にする人間に、その常識は通用しない。
「はぁ、ちょ、ズルやろそれは!」
「精霊はルールまで変えられる、ってことですよね……?」
「これほどまでに無茶苦茶な存在だとは……!」
「決闘は“正々堂々”だと思いま~す!」
『黙って見ていろ! 今から貴様を絶望のどん底に落としてやる! 《暗黒の招来神》を通常召喚! デッキより《七精の解門》を手札に加え、発動! さらに《混沌の召喚神》を手札に加え、暗黒の招来神の効果によってこれを召喚! 精霊法によって墓地に送られた暗黒の召喚神を除外し、デッキよりウリア様を手札に加える!』
それはこの世界では未だ見られぬ、【幻魔】のサポートカード。三幻魔が伝説上の存在であるこの世界ではその存在もカード化されておらず、サポートも作成されていない。故にこれはコハクにとって完全な未知との勝負。……それを怖がる様子はみじんもないが。
「面白い! 伝説のカードにもしっかりサポーターがいるんだね!」
『鬱陶しいガキが……! 貴様には見せてやらねばなるまいな、我らの主の姿を! 混沌の召喚神を生贄に、手札からおいでなされ! 《神炎皇ウリア》様!!』
「おおっ……!」
『さらに墓地の混沌の召喚神を除外し、フィールドを《失楽園》とする! ウリア様の恵みにより我は二枚のカードをドロー!』
大地は枯れ果て、木々も萎れる終末の地。そこを根城とする幻魔には恵みがもたらされる。
そして殉教者は笑みをさらに悪く吊り上げる。手をかける場所は、決闘盤のEXデッキ。
『我がウリア様のためにこの世界からかき集めたカードを使ってやろう! 通常召喚した招来神で《転生炎獣アルミラージ》をリンク召喚!』
「なんかよく見るやつになった!」
『さらに七精の解門によって、手札の《黒き覚醒のエルドリクシル》を捨てて墓地から招来神を特殊召喚! アルミラージとレベル2の招来神で《スプライト・エルフ》をリンク召喚する!』
現代でも見られるリンクモンスターが姿を現してゆく。全てのカードが集う『虹闘の間』よりかき集められたらしいそれらを使って、彼はまだまだカードを叩きつける。
「【エルドリッチ】のカードと【スプライト】カードまで……!」
「めっちゃ最近のカードじゃないですか! 結構厄介なやつ!」
「注意してください! 何をしてくるかわかりません!」
『どれだけあがこうが無駄だ! 魔法カード《幻魔の殉教者》! 手札をすべて捨て、
「あ、増えるんだね!」
『やかましい! トークン一体で《リンクリボー》! さらに一体で《サクリファイス・アニマ》! この二体と最後のトークンで《ライトロード・ドミニオン キュリオス》を召喚! デッキより《呪われしエルドランド》と、三枚のカードを墓地に送る! 墓地に送られた《リミッター・ブレイク》の効果によってデッキより《スピード・ウォリアー》を特殊召喚! さらに七精の解門の第三の効果によって墓地の呪われしエルドランドを手札に加える! これを発動!』
手札を投げ捨て、それでもリソースが尽きない恐ろしさ。次に選ぶのは、下劣なまでに輝く黄金の都。
MARTYR LP8000-800=7200
『800LPを払い、デッキより《黄金卿エルドリッチ》を手札に加える! ドミニオンキュリオスとスピードウォリアーで《警衛バリケイドベルグ》をリンク召喚! 手札の黄金卿エルドリッチを捨てることでエンドフェイズに墓地の永続魔法を手札に戻す! そして墓地のエルドリッチは、自分フィールドの呪われしエルドランドを墓地に送ることで特殊召喚される! さらにデッキから《黄金郷のワッケーロ》を墓地へ!』
「攻撃力と守備力が1000アップして、効果破壊されない! エルドリッチは知ってる!」
『スプライトエルフの効果を発動! 墓地からレベル2モンスター《カプシェル》を特殊召喚! カプシェルと警衛バリケイドベルグで《スプライト・スプリンド》をリンク召喚! デッキより《ソウル・シザー》を墓地に送り、カプシェルの効果によって1枚ドローする!』
「なるほどねー! ほうほう!」
『墓地の《黒き覚醒のエルドリクシル》《白き宿命のエルドリクシル》を除外し、デッキより《黄金郷のコンキスタドール》《黄金郷のワッケーロ》の二枚をセット! 墓地の呪われしエルドランドを手札に戻し、ターンを終了する!』
MARTYR LP7200
HAND:2
(うち《呪われしエルドランド》確定)
FIELD
《失楽園》
《スプライト・エルフ》ATK1400
(リンク先:《スプライト・スプリンド》)
《神炎皇ウリア》ATK4000
(※墓地に永続罠4枚)
《スプライト・スプリンド》ATK1400
《黄金卿エルドリッチ》ATK3500
(効果破壊耐性)
《ハイパーブレイズ》
《覚醒の三幻魔》
《七精の解門》
〈黄金郷のコンキスタドール〉
〈黄金郷のガーディアン〉
『ふはははは!! どうだ!! これぞウリア様を迎えるにふさわしい盤石なるフィールド!』
「そうだねー、うん! なんか
『……何だとぉ?』
「なんか“強い動き”だけどー、色々混ぜててごちゃごちゃしてるよね!」
揃ったカードは強い。しかしコハクが指摘した通り“いびつ”でもある。様々なカードで環境を整えられたウリアだけでも十分な圧力があるにも関わらず、混ぜ込んだカードによって元来の強みはむしろ薄れてしまっているようにも思われる。
《失楽園》で効果に、《ハイパーブレイズ》で戦闘に強くなったウリア。高打点と破壊耐性を持つ《エルドリッチ》。《コンキスタドール》で破壊、《ガーディアン》で弱体化、《エルフ》から《ソウル・シザー》を蘇生して破壊。この盤面は“強い”。しかし……。
『黙れ!! 勝てぬ癖にほざくなよ人間風情が!!』
「いやー……言ってるんだけどな〜?」
巡るターン、少女は勇む。引き抜くカードにかける期待は大きく、自らを信じる強さがあった。それはこの一言に集約される話なのだろう。
「私、勝つよ。──ドロー!」
『ッ!?』
「よしよし……いいね! ならこう行こうかな! 永続魔法《心の架け橋》!」
そしてそれが明かされる。悍ましい闇を払う光の力、輝く世界を作るコハクのデッキ。その“架け橋”がひとつ、繋がった。
「このカードが場にあるとき、【宝玉獣】モンスターを追加で一回召喚できる! ということでまずおいで! 《宝玉獣 サファイア・ペガサス》!」
「【宝玉獣】……! あれが……」
「そ、コハックのデッキは【宝玉獣】……というか見てればわかるんやが【宝玉】やな」
「サファイアの効果! 場に出た時、デッキの宝玉獣を選んで永続魔法として場に置くよ!」
『同時に、《覚醒の三幻魔》によって1800のライフを得る! クソッ、なんなのだ貴様……!』
「デッキから置くのはねー、新しい友達! 《
光が繋がる、その先に見えるのは闇を宿した赤の宝玉。大きな宝石の中には生き物が眠っているようにも見え、それからなんとなく凶暴そうな印象を受ける。
彼女のデッキが【宝玉】と知っていたチグサもヒスイもこの“新しい友達”は知り得ていなかったのか、目を見開いている。
「宝石……って闇堕ちしちゃったよ!?」
「うぉっなんだアレ! 今まで使ってなかったよな!?」
「【
「最近の調整って、あのアドナントカ宝玉獣を使うためやったんかな……したら“あいつ”は……?」
戦場では、引き続きコハクの展開が進んでいた。新顔を存分に活躍させてやると、惜しみなく全てを出し切ると、晴れ晴れとした顔で進めていく。
「《心の架け橋》効果発動! 手札・フィールドの宝玉獣モンスターを破壊して、デッキから宝玉魔法罠を手札に加える!」
『チィ……どうせつまらんカードだ!』
「あ、そっか……じゃあ遠慮なく! フィールドのサファイアを破壊して、《宝玉の絆》を手札に加える! この時フィールドで破壊されるサファイアは代わりに
『何!? ならば《黄金郷のコンキスタドール》でそのカードを破壊する!』
「ふーん、いいよ! 破壊される! ……そっか、こんなもんか」
『……?』
把握する、理解する、決断する。コハクに浮かんだ表情は果たしてなんなのか、殉教者にはわからなかった。
決闘は止まらない。その先にある決着へ至るまで。
「魔法カード《宝玉の絆》! デッキの宝玉獣一体を手札に加えて、違うやつを宝玉モードで置く! 《A宝玉獣 コバルト・イーグル》を手札に、《究極宝玉獣 レインボー・ドラゴン》を宝玉モード! さらに宝玉モードの宝玉獣レインボードラゴンを除外することで、デッキから《宝玉獣 エメラルド・タートル》を今度は特殊召喚! さらにデッキからこの子を手札に加えるよ……!」
「私のエース! 《究極宝玉神 レインボー・ドラゴン》!」
そのカードが、手札に引き込まれると同時。彼女を取り巻く世界が一変する。
暗く澱んだ雲に覆われた空を突き破る日差しが彼女にスポットライトを当てるかのごとく。足元には七つの丸を結んだ魔法陣らしき何かが浮かび上がり、その丸の三つに光が灯っていた。明るい青、暗い赤、明るい緑。
「見えましたね……!」
「あいつがコハクのエース、レインボードラゴン……」
「綺麗なモンスターだったな……今のこはたんも、なんかかっこいい」
「じゃあ、続けていくよ! Aコバルトを手札から捨てて、デッキから《アドバンスド・ダーク》を手札に!」
『光がまた……いや、そのカードは闇の力……?』
足元の光がひとつ、暗い紺色が増える。これで四つ。
「さらに続けてー、自分フィールドに表側の魔法カードがあるときこのモンスターを特殊召喚できる! おいで、《水月のアデュラリア》!」
『そのモンスターは……魔法カードと罠カードによって強化されるモンスターか! 我のライフを4600回復する! そして即座に消えてもらおうか、スプライトエルフによって墓地よりソウルシザーを特殊召喚し、その女モンスターを破壊する!』
「ここに使うんだねー……うんうん、わかったよ。《おろかな副葬》で《救いの架け橋》を墓地へ、さらにそれを除外して《A宝玉獣 サファイア・ペガサス》と《虹の古代都市-レインボー・ルイン》をデッキから手札へ」
高打点の《アデュラリア》を即座に破壊されたものの、コハクに動揺は一切見られない。残る手札から次の手数が足されるアドバンテージ継続。もはや打てる手が限られる悪魔と違い、今後明確に響くもの。
《覚醒の三幻魔》でライフを得ようと、除去を使おうと、幻魔の殉教者は対面の彼女がどこか恐ろしくて堪らなかった。
「じゃあ……もういいかな。フィールド魔法《アドバンスド・ダーク》! フィールド・墓地の宝玉獣は闇属性モンスターになる!」
「暗くなった!」
「おおっ、宝石が光ってる〜! 綺麗〜!」
「これは……」
そして、コハクの周りの影が濃くなる。舞台照明は落ち、その中に宝玉の彩りが一際輝いて。
「【
足元の陣に増えたのは暗い緑。フィールドには三体のA宝玉獣が並ぶ。そしてコハクはまだ、そのEXデッキを使っていなかった。
ここからが始まりだ、とコハクはさらにカードを操る。
「行くぞー! 闇属性になったエメラルドとAエメラルドでリンク召喚! 《暗影の闇霊使いダルク》! そっちの墓地から闇属性モンスター、暗黒の招来神を私のフィールドに特殊召喚!」
『チッ……! いい気になりやがってぇ!』
「魔法カード《宝玉の恵み》、墓地からAエメラルドとAコバルトを宝玉モードにする! そしてリンク2で魔法使い族モンスターのダルクと暗黒の招来神でさらにリンク召喚! 私たちの光を繋ごう! 《神聖魔皇后セレーネ》! お互いのフィールドと墓地の魔法カードの数だけ魔力カウンターを乗せておくよ」
『何故、何故展開できる……!?』
「じゃそろそろライフ回復もめんどくさいしー……AサファイアとAルビーでリンク召喚、《トロイメア・フェニックス》! 手札のレインボールインを捨てて覚醒の三幻魔を破壊する!」
『フン……! だが貴様がモンスターを出し続けたことで、今の我のライフは膨れ上がっている……!』
「確かにねー! まあ……どうにかしてみせる! フェニックスと魔皇后セレーネが相互リンクなので一枚ドロー!」
MARTYR LP:22500
合計ライフ22500。元々8000からスタートするデュエルで、三倍に迫る数値というのはあまりにも暴力的だ。しかし、やはりコハクに恐れは見えない。
この場にいる者に彼女は状況を理解できない愚か者か……と問えば、それは違うと答えられる筈だ。なぜなら。
「いっつも思うんだ、コハクってすっごく楽しそうにデュエルするの」
「あんなにも自信に満ち溢れた方はなかなか見ないですよ。東堂さんの何よりの強さはアレでしょう」
「魔皇后セレーネの効果! 魔力カウンター三つを使って墓地から魔法使い族・アデュラリアを特殊召喚!」
『戻ってきたか……しかし守備表示では攻撃には参加できまい!』
「そうなんだけどね〜、この子はこっちの方が使うから! 効果発動して、自分フィールドの表側の魔法カード二枚とデッキのレベル4以下のモンスター一体を墓地に送る! 宝玉モードのAエメラルドとAコバルト、デッキから《宝玉獣 アンバー・マンモス》を墓地へ!」
そしてデッキから琥珀の宝玉獣が墓地に送られる。魔法陣に灯る明るい橙色の光が、七つの丸の最後の一つ。
フィールドには宝玉モードの《サファイア》、墓地に《Aサファイア》《Aルビー》《Aエメラルド》《Aコバルト》《エメラルド》《アンバー》。
影の中、枯れた大地に溢れんばかりの光が満ちる。
「これで揃ったー! 私のフィールドと墓地に宝玉獣が合わせて七体だけいる時、このカードは手札から特殊召喚できる!」
「勝利へ向かって七色の橋を架ける! 今、虹臨!」
「《究極宝玉神 レインボー・ドラゴン》!!」
その龍は、白銀の体に七色の宝珠を宿し天より来たる光の神。
東堂コハクのエース《レインボー・ドラゴン》。大いなる闇へ立ち向かう輝きとして、今舞い降りた。
雄々しく咆哮を上げ、決闘者を包むように陣取る勇姿からそれに宿る精霊の魂を感じられる。
『攻撃力……4000……! だがいくらその精霊が強くともっ』
「さらに魔法カード《虹の架け橋》、デッキから宝玉魔法をサーチする! これで手札に加えた《宝玉神覚醒》を発動! 二枚目の《心の架け橋》を手札に加えて《宝玉獣 ルビー・カーバンクル》を特殊召喚! その効果で宝玉モードのサファイアを特殊召喚し、《宝玉獣 アメジスト・キャット》を宝玉モードに!」
『なっ……!?』
まだ続く。エース召喚では止まらない。
悪魔が揺らぐ。対面の敵が止まらない。
「ここで、ルビーとアデュラリアでリンク召喚! 《I:Pマスカレーナ》! さらにリンク3の魔皇后セレーネとマスカレーナで連続リンク召喚! フェニックスのリンク先に現れろ! 閉ざされた世界を貫く黄金の槍! 《アクセスコード・トーカー》!! 攻撃力を3000アップさせる!」
『な、ならぬっ!! その後《黄金郷のガーディアン》を発動!! その大型リンクモンスターの攻撃力をゼロにする!!』
「焦ってるなー? でもまだ終わってないよ、フェニックスとサファイアでリンク召喚! リンク3、《トロイメア・ユニコーン》! 手札の《宝玉の奇跡》をコストに、コンキスタドールをデッキに戻す! アクセスコードとユニコーンが相互リンクなのでさらに一枚ドロー! さらにアクセスコードの効果で、墓地からフェニックス、ダルク、魔皇后セレーネを除外! 失楽園、ハイパーブレイズ、七精の解門を破壊する!」
『おのれ、おのれェッ!! よくもやってくれたなァ!! ウリア様を迎えるこのフィールドをォ!!』
連続するリンクが盤面を貫く。モンスターこそ残りつつ、防衛手段を失った悪魔の表情は怒りに満ち満ち、あまりにも無様に見えた。
容赦のないコハクのプレイングに、“自分がこれを受けていたら”と考えるのも決闘者の性。同じ時を過ごしてきた世怜音の面々でも震え上がってしまうほど、
「やーば……ユニコーンとアクセスで四枚除去って、普通なら何も残らんて」
「コハック、なんか怒ってるよね……?」
「……貴方達のためかもしれませんね」
「えっと……何かしてたっけ?」
「ん〜? ンゴたちに関係ありそうなこと……?」
ハヤトの指摘で思い出されるのは、悪魔の決闘前の言葉。
──『貴様を叩きのめして幻魔への生贄にしてくれよう! そこのガキどもと同じくな!』
彼女がそれを受けて何を感じたのか、正確には掴めずとも……同じ立場の自分だったらどう思うか、それが答えのようなものだった。
「……あ」
「貴方達という大切な人を失いたくないために、コハクさんは戦っています。少なくとも私からはそう見えました」
「や、コハック〜! ありがとうな〜!」
「そしてそんな感情にしっかりと彼女の精霊は応えているようですね……!」
友を想う優しさが、何よりの武器となってデッキに宿り手札に至る。
レインボードラゴンの精霊はコハクを間違いなく導いている。勝利へ、希望ある未来へ。
「さらにリンク召喚! アクセスコードとユニコーンで《クロシープ》!」
『なっ、大型リンクを捨てただと!?』
「むしろこっちが本命だー! そして、レインボードラゴンをリリース! この輝きと一つとなれ!」
虹龍が羽ばたき空へ行く。光芒に照らされ、光そのものと融合したかのように存在感はより強く。伸ばした手に見えるのは
「天龍、光の海へ舞い上がりその翼で翔る! 今再び、虹臨!」
「《究極宝玉神 レインボー・オーバー・ドラゴン》!!」
新たな姿、レインボーオーバードラゴン。より神々しくなったその姿で、狙うは更なる展開。
「来た! コハックの切り札!」
「融合モンスターなのに、一体リリースするだけで出てくるの? はて、
「そういうことあるある……なんかまだ続きそうだよ?」
「リンク先に融合モンスターが特殊召喚されたクロシープの効果発動! 墓地からサファイアを特殊召喚! 墓地のルビーを宝玉モード! さらに宝玉モードになったことに反応した墓地の《宝玉の奇跡》を除外して、デッキの《宝玉獣 トパーズ・タイガー》も宝玉モードにする! ここで《レア・ヴァリュー》発動! 相手は私の宝玉モードのカード一枚を選んで、それを墓地に送って二枚ドローする!」
『どれでもいいッ!! 右端のカードを捨てろ!!』
「じゃあ選んだアメジストを墓地に送って二枚ドロー! 《宝玉の契約》でルビーを、合わせてトパーズを特殊召喚! サファイアとクロシープで《ブルートエンフォーサー》を、ルビーとトパーズで《アンダークロックテイカー》をリンク召喚!」
『どうして、そこまで精霊に選ばれているというのだ!?』
「勝ちたいって本気で思ってるからっ!!」
『ッ、どこまでも我を愚弄しやがって!! 許さんぞ、次のターンが……』
「いや、このターンで決めるよ!! 墓地のレインボードラゴンと宝玉獣七体を除外し、宝玉融合召喚!!」
龍の魂に集う、七色の宝玉。
《サファイア・ペガサス》。《ルビー・カーバンクル》。《エメラルド・タートル》。《Aコバルト・イーグル》。《アメジスト・キャット》。《トパーズ・タイガー》。《アンバー・マンモス》。
全ての光は一点に至り、最高の光へ進化する。
「このカードに、私の全力を賭ける!! 伝説を超える究極の龍よ、今、虹臨!!」
「《究極宝玉神 レインボー・ドラゴン オーバー・ドライブ》!!」
世界が光に包まれる。直視するには眩しすぎるそのモンスター──レインボードラゴンの極み、オーバードライブ。
龍が光を纏ったのではなく、光が龍となっていると言うべきか。電脳世界の全てを光と影とで二分してしまいそうなほどの圧力。そして、それを背後に決闘盤を構える金の髪の決闘者。
「うおっまぶしー!」
「なんやあのレインボードラゴン……! 初めて見る姿や……!」
「こはたん……!」
『ぐおぉッ……な、なんだ、そのモンスターは……!』
「オーバードライブ、私とレインボードラゴンの新しい力! その攻撃力は宝玉獣七体以上が除外されているなら7000アップする!!」
『……は?』
《究極宝玉神 レインボー・ドラゴン オーバー・ドライブ》
ATK:4000 + 7000 = 11000
尋常でない攻撃力に、誰もが言葉を失った。
「は、はははっ! 凄いですねえこれ!!」
「えっ社長さんが急に笑い出しちゃったよ!?」
「あー……脳筋だなぁ……」
『バカな、バカな……』
「アンダークロックテイカーの効果、リンク先のオーバードライブとエルドリッチを対象にして、オーバードライブの分攻撃力を下げる!」
『ひっ!?』
「なんでエルフのリンク先にエルドリッチがいないのかわからなかったけど、結果オーライ! そしてブルートエンフォーサーとアンダークロックテイカーでリンク召喚! 怒りに満ちた黒き獣、暴虐非道の限りを尽くせ! 《破械雙王神ライゴウ》!!」
更なる恐怖が追加される。牙を剥き出す破壊の象徴。打点3000、妥協はない。
「レインボーオーバーの効果発動! 墓地のAサファイアを除外してその攻撃力を得る! これでこっちは攻撃力5800!」
一万超えがいながら、なお攻撃力が追加されていく。
「そして! これで最後だよ!! 自分の墓地から《アンダークロックテイカー》《ブルートエンフォーサー》《I:Pマスカレーナ》《アクセスコード・トーカー》《トロイメア・ユニコーン》《A宝玉獣 ルビー・カーバンクル》《A宝玉獣 エメラルド・タートル》、以上七体の闇属性モンスターを除外!!」
「闇の世界に、虹の龍の姿は翳る! 今、荒臨!!」
「《究極宝玉神 レインボー・ダーク・ドラゴン》!!」
そして現れるのは、このデュエル四体目にもなる究極宝玉神。闇を照らす黒虹の龍。その攻撃力もまた他の宝玉神に同じく4000。
《破械雙王神ライゴウ》、攻撃力3000。
《究極宝玉神 レインボー・ダーク・ドラゴン》、攻撃力4000。
《究極宝玉神 レインボー・オーバー・ドラゴン》、攻撃力5800。
《究極宝玉神 レインボー・ドラゴン オーバー・ドライブ》、攻撃力11000。
どれだけライフを増やしていようと、この猛威の前には時間稼ぎにしかならなかった。
東堂コハクの獰猛な笑顔が、真っ直ぐに、敵をとらえた。逃がさないと。
「……みんなには嫌な思いしてほしくないから、全力で相手したよ。結局パワーが一番だからね!」
『ヒィッ!?』
「バトルフェイズ! ライゴウでエルフを攻撃!」
『グッ!!』
「戦闘破壊によってライゴウの効果! ガーディアンを破壊する!」
暴力的な勢いの嵐が守りを剥がす。
MARTYR LP:22500 - 1600 = 20900
「続いてレインボーダークでスプリンドを攻撃!」
『ガァッ!?』
黒と虹が混ざった光線が薙ぎ払う。
LP: - 2600 = 18300
「レインボーオーバーで、攻撃力をゼロにしたエルドリッチに攻撃!」
『グォォオッ!!!』
輝く虹が一条、力を奪われた死者の王を貫く。
LP: - 5800 = 12500
「そして、オーバードライブ!! 神炎皇ウリアに、攻撃ぃ!!」
『ゥ、ウリア様の攻撃力は墓地の……』
「《アドバンスド・ダーク》の効果!! 究極宝玉神の攻撃対象の効果は無効化される!! 攻撃力ゼロのウリアを、焼き尽くせ!!」
『そんな、そんな馬鹿なァァァアアアッ!?!?』
虹の光を受けたウリアの背後にできた大きな影が、その身動きを止める。そうして無防備な姿を晒した赤き幻魔を、莫大な煌めきが消し去った。
LP: - 11000 = 1500
防ぐこともできない閃光をまともに受けた悪魔が地を転がり、焼け付いた肉体から白煙が昇る。
残すはほんの僅かな命。もはや腰は抜け、みっともなく逃げようとする哀れなそれは、もう決闘者とすら呼べなかった。
「すごいすごい! あんなに回復されてたのに!」
「いいぞコハックー! やっちゃえー!」
「コハクさん! トドメを!」
声援を受け、コハクは柔らかく笑う。下劣な悪魔の思惑通りにさせまいと全力を尽くした甲斐があるものだと満足し……この決闘を終わらせる、最後のカードを使う。
一対の虹龍が渦を巻く。
『や、やめろ……!』
「メインフェイズ2! レインボーダークとレインボーオーバー、二体のレベル10モンスターでエクシーズ召喚! ダイヤのもとに大地を走る最後の兵器! 《超弩級砲塔列車グスタフ・マックス》!! その効果で、エクシーズ素材一つを取り除き、2000ダメージを与えるっ! いっけぇぇえ!!」
『ヴ、ヴォオアアアア!!!!!』
現れたエクシーズモンスターは巨大で無骨な機械兵器。
車両に積まれた砲台の先から、レインボードラゴンの力を宿した射撃が──悪魔を消し去った。
LP: - 2000 = 0
-- DUEL END --
気がつけば、周囲は元の景色を取り戻していた。ウリアの炎を受けた場所は燃えてしまっているものの、それ以外は青々と自然が茂る平穏な大地。既にちらほらと小さなモンスター達が戻ってき始めている。
悪魔の姿はもうどこにもなかった。グスタフマックスの砲撃を受けた地点に散らばったカードをハヤトが拾い上げる。先のデュエルで見えたウリアやそのサポートのみならず、おそらく今後解放されていくはずだった他の幻魔のカードもあった。
ここで止められなければ惨状はもっと広がっていたであろう、と身震いを覚えるハヤトは同時に安堵も感じていた。一つの脅威を防いだ強き決闘者に感謝を込めて、彼は幻魔たちのカードをどこからか取り出した黄金の箱に封じ込めた。
「……あー!! 疲れたー!!」
「コハック〜! ナイス〜!」
「よかった……!」
激戦を制した彼女は晴れやかな顔をしていた。仲間の暖かさに触れ、安らぎを取り戻す光景を俯瞰する存在が一体。コハクの後ろに控え、巨体をゆっくりと休めている。
「レインボードラゴンも、お疲れー! 頑張った!」
「いや、凄かったよ。コハクのデッキがここまで進化してるなんてね」
「前はレインボードラゴンってどれか一体出てきたらよかったくらいだったんにな!」
チグサらの言葉を受け、どことなく満足げなレインボードラゴン。人への敵対心などは今は感じられず、少女たちがコハクと仲がいいということをしっかり理解しているようだ。
「コハクさんがそこまでレインボードラゴンの精霊と良い絆を結べているとは……お声がけして正解だったようですね」
「あー、確かに社長さんが
「こちらこそ、そちらの方々には常々お世話になっております……!」
「ちょいちょい待って……? もしかしてコハックのお家……」
「んー、私はあんまり関わってないんだけどね! ウチとして『虹闘の間』プロジェクトに協力してるって言ってた!」
「……こういうところがお嬢様なんだよな」
『虹闘の間』は、にじさんじのあらゆる存在が関わって成り立つプロジェクト。その一部に“東堂家”がいても不思議ではない……がしかし、お嬢様らしさを感じさせない普段の様子ばかり見ていると気がつけないものもあったということか。
「いやそうじゃなくて!!」
「どうしたのおチグちゃん? 急に大きい声出して?」
「そもそもなんで、あたしらは精霊と意思疎通できてるんですか!! そこんとこどうなんですか社長さん!!」
「あ〜そうだ……まだ説明してなかったですね……?」
「でもなんとなくわかるよ、あたしたちが今まで立体映像だって思ってたカードの動きが、精霊ちゃんたちが動いてたりしたってこと……だよね?」
「精霊は多分ンゴたちのデュエルを見てて、自分たちもデュエルが大好き……いいドローができたりしたのは精霊が何かしてるってことかな?」
「アカネちゃんとンゴちゃんの言う通り! “決闘精霊”は本能的にデュエルが好きで、勝ちたいって気持ちを受け取ると協力したくなるんだって! ドロー運がよくなったりするのはそういうのもあるらしい! 最終的に決闘者次第みたいだけど!」
さっきも助けてもらったよ、とレインボードラゴンの体を撫でるコハク。デュエルが好きな決闘精霊という未知の存在がいることはもう疑いようがない。
「加えて言うなら、“ライバー”は精霊と違う存在……精霊たちの興味を強く惹きやすいようですね。大半のライバーにそれぞれの精霊が確認できますし、コハクさんのようにそれを知っている方もいらっしゃいます」
「そんで私たちに頼みたい“精霊の調査”っていうのが、さっきのアレみたいに怪しい精霊がいないかを見て止めることかな」
「……ついて来れてないの、あたしだけなん? いやまあわからんこともないな……」
深い理解はできずとも、“決闘精霊はいる”“ライバーと関わっている場合がある”“中には凶暴なものがいるかもしれないので、それを探して止める”くらいの要点は掴める。先程のようにいつ何が起きるかわからない現状、それだけでも情報が掴めていればいい。そう判断し、早速メンバーが動き出す。
「しゃあ、とりあえずやべぇ精霊をデュエルでぶっ倒せばええんやな! やるでぇー!」
「デュエリストデビューしたばっかのンゴ、なんかすごいこと巻き込まれてますが……?」
「平気平気〜! ンゴちゃんは強いよ!」
「私も、管理者の側からできることがないかを探っています。随時連絡いたしますので……どうか、ご武運を!」
気持ちを固め、拳を握り、セットしたデッキを信じる。
……その矢先のことだった。
「よ〜し頑張るぞ〜! あーこも、みんながいるから大丈夫!」
『うんうん、そうだねぇ。じゃあ頑張ってね? あはは!』
「え、今の声……ひゃっー!?」
「あーちゃん!?」
少年らしき声が聞こえたとともに、皆の視界からアカネが消えた。
驚いて先程まで彼女がいた場所に目を向ければ、足元には大きな
こんなにも早く事態が変動するとは思っておらず、友を見失った不安と先の見えない緊張が肌を伝う。特にサンゴは強く動揺していて、表情はすっかりこわばり体も固まってしまっている。
「おーい!! ……流石に遅いか」
「え……どうしよ……」
「この穴に落ちちゃったのかな……?」
「朝日南さんが狙われた……彼女のデッキに、そういう類の精霊が潜んでいたのでしょうか。皆さんはこちらへ! 一度安全な場所へ……」
「下がって!!」
『 A T T A C K 』
「どしたひす……うわっなんや!?」
「今度はなんだー! 武器だー!」
黒衣に転じたヒスイが持つ短刀が、“それ”とぶつかり重い金属音を鳴らす。
最前線でツノ型の剣を振るった
『 I N V A T I O N 』
「【クシャトリラ】……!」
「みんなは、先に行ってっ! 私が食い止める!」
「いや、すぴちゃんがっ……」
「いいから行けっ!!!」
「っ……!」
「普通に武器持ってるし、明らかやばいですよねこれは……」
「こいつらを相手するには準備が足りません! ここは一時撤退です!」
「……ンゴちゃん、行くよー!」
「待って、みんな……!! あーちゃん、すぴちゃん……!!」
手を伸ばせど何もできない。コハクに抱えられサンゴはその場から遠ざかっていく。
アカネを飲み込んだ奇妙な穴の影も、【クシャトリラ】と呼ばれた軍勢にたった一人で立ち向かう大人の姿のヒスイの姿も、どんどん小さくなっていき……やがて、涙で霞んで見えなくなった。
幻魔の殉教者【一の幻魔・罠の皇】
精霊法“THE SEARING FLARE”
自分の最初のターン開始時に適用される。
デッキから《ハイパーブレイズ》一枚を選んで自分フィールドに表側表示で置く。
さらに手札から罠カード・攻撃力0/守備力0の悪魔族モンスター・《神炎皇ウリア》いずれか一枚を墓地に送ることで、デッキから《覚醒の三幻魔》一枚を選んで自分フィールドに表側表示で置く。
この効果を使用する場合、自分の初期手札のうち1枚を《幻魔の殉教者》にする。
《神炎皇ウリア》特化デッキ。
精霊法によってサポート罠を展開し、ここに【エルドリッチ】の動きを取り入れることによってさらに妨害と手数を増やす。
レベル2の招来神と《リミッター・ブレイク》を起点にしたスプライトリンクによる拡張性も備える。
東堂コハク【光重なる宝玉】
【宝玉獣】と【A宝玉獣】、【究極宝玉神】を全て採用。《アドバンスド・ダーク》を要求する【A宝玉】に寄せつつサポートを共有し、リンクで展開を伸ばしながら脳筋火力を叩き出す。闇属性を増やして宝玉獣を墓地に残すことで究極宝玉神を複数種並べるのも不可能ではない。
ハマれば《アストラム》や《万物創世龍》、【邪神】すらも屠る一撃は並の防御では避けられない。
恐怖! 【炭酸エルドウリア】!
何でこんなデッキになっちまったんだ……いや《エクスピュアリィ・プランプ》で無限リミッターブレイクしないだけマシか……?
今回のデュエルの目標は《アドバンスド・ダーク》の効果で相手の効果を封じて勝つことでした。その相手としてウリアはちょうどよかったですね。
なんかこの世界だと幻魔の扱いがすごくなってるんですが、オリカにするレベルでもないかなって思ってOCG効果で実装しました。最近だと耐性も火力も十分なので。その分今後に繋がる『精霊法』を実装したんですけど。
次回以降のデュエルもできる限り楽しんでもらえるように頑張ります。まずは怪しげな穴に飲み込まれたあーこから……一体何ベルの仕業なんだ……
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#7 Diva Drop Deep
前回のあらすじだよ!
“決闘精霊”の調査をすることになった“セレじょ”の朝日南アカネちゃん!
でも突然足元に謎の穴が空いちゃって、みんなとはぐれちゃった! これは大変! アカネちゃん、どこに行っちゃったんだろう〜?
その頃、他のみんなも何やら大変そう? 果たしてこの先どうなっちゃうのかな?
……頑張ってね、ふふ。あはは。
※登場カード・レギュレーション:2022/08/02時点
「…………」
「ンゴには悪いことしちゃったな……でも……」
緊急事態に撤退を選んだハヤト、チグサ、コハク、サンゴはひとまず騒動が起きていない安全そうな場所までたどり着いた。昨日まで使っていたライバー用デュエルスペースに入り一息つくも気分は優れない。特にサンゴはひどく落ち込んでしまっていて、ほろりとこぼれた涙の後がくっきりと見えてしまう。
しかし時間は進む。どうしようもなかろうが、“今”は無常に事実を伝える。スマホが鳴らす通知音が、心拍音と連鎖して。
「……ライバーの皆さんから、既に何件か精霊絡みと思われる連絡が来ています。規模が拡大していくのは避けられなさそうですね」
「すっごいですねこれ……」
「どうすれば、いいんだろ……」
「ンゴ……んーとりあえず、できることするしかないですよね!」
「しかし何をすれば……運営チームからできることも限られてますし……」
「いや〜わからんな〜……ウチらだけじゃ頭が回らん……!」
手詰まりに近い。
“何が”、“どこで”、“何を”、“どうやって”……ハヤトとセレじょ三人だけでは思考も手数も足りないというのは明確。かと言ってハヤトが運営権限で何かしようにもライバーにそれが明確に伝わる保証はなく、さらなる混乱を招きかねないのが難しい。下手を打てば影響はバーチャルだけに留まらず、繋がる現実すら侵食しかねない。
意気消沈しているサンゴ。難しい思考が苦手なチグサ。知っているからこそ動きづらさを感じるハヤト。……ここのメンバーだけではとうてい解決できそうになかった。
「――じゃあ、こういうのは?」
しかし、終わってはない。
こういう時にこそ試される力がある。彼ら彼女らならではの困難に立ち向かう力がある。
コハクがふっと口にした言葉は――。
(落ちてる……よね? やばいかな……)
朝日南アカネは、ほとんど意識を失っていた。足元に突然現れた穴に真っ逆さま、重力に従って闇に沈んでいく。
こうなってしまっては何もできない、ただ身を任せるしかなかった。
『あの道化、いくらなんでもやりすぎでしょう……!』
『私が出てこれなかったら今頃大変なことになっていましたよ!』
『昨日のデュエルの相手……確か“そらむー”さんでしたね。まずは彼女に……』
ふっと、落下の感覚が鈍る。背中に不思議な感触が伝わり、まるで誰かに受け止められているようだった。空中同然の闇の中で、誰がそうしたのかという疑問はあったが……今はそれを受け入れるのが先決だった。
『アカネさん……!』
『……アカネさん!』
ようやく覚醒した意識。まず朝日南アカネの目に入るのは、自分をのぞき込む顔だった。
自分と合う青い目に、青白い肌、自分を揺さぶる青い
「んんっ……あれ、ここは?」
『よかった、目を覚ましたんですね!』
「えっ、
アカネのデッキのキーカード、《ティアラメンツ・キトカロス》。状況からしてその決闘精霊のようだ。
落下から救ってくれたのもどうやらキトカロスらしい。水中の世壊に生きる人魚であれば、その精霊が空間を泳ぐことは容易いだろう。
「ありがとね! それで、ここは……」
『とても不気味な場所です。おそらくあいつが……』
「あいつ、って……というか……?」
落ち着いて周りを見渡せば、あたり一面が白くぼやけた異様な空間。
あちらこちらに浮かんでは消えていく影の手たち、ギロリとうごめく赤黒い眼、笑い声と泣き声が遠くに響く。そのどれもが慈愛と悲嘆に満ちているように思えてならない。
さらに目を凝らせば、うっすらと登っていく大量の文字列までもあった。それらは恐ろしい呪いの文言などではなく、むしろ見慣れたメッセージ。
――公式チャンネルが突発配信とは
――あーこやんけ!
――どうした?
『これらは一体……?』
「コメントだ! でも誰が配信してるの?」
『そりゃもちろん、ボクだよ♪』
声の先から地面に伸びる一つの長い人影。自分たちのものではない、別の場所から照らされている長身のシルエット。その方向に目をやれば、カツカツと足音を立てながら歩いてくる男が見えた。
『ようこそ、ボクの特別ステージへ! よろしくね、アカネちゃん?』
「アル太郎……」
《デスピアの導化アルベル》、昨日完成したアカネの新たなデッキのモンスター。道化らしくにやにやと笑いながら舞台に現れた。彼こそアカネをここに招いた張本人。
キトカロスが宙を泳いで詰め寄る。目じりは吊り上がり、怒りの感情をあらわにする様子は《ティアラメンツ・キトカロス》のカードイラストからは考えにくい、彼女に意思があることの証左。
『アルベル……! あなたが余計なことをしてくれたのはわかっているんです!』
『ヒドいなぁ~キトカちゃん~? デッキの後輩にそんなツンツンしなくてもいいじゃ~ん?』
『黙りなさい! そもそも、なぜこんなことを!』
『え~~~っとね、面白いことがしたいから! それだけだよ!』
「……どういうこと?」
嗤いと怒りに挟まれた困惑。そもそもアカネは自分がここに落とされた理由を知らない。アルベルがそれを伝えていない。
『虹闘の間』で活発になり始めた精霊は何を考えているのか。《デスピアの導化アルベル》は何を思うのか。彼の口が回り出す。
「教えてほしいな、アル太郎が何を思ってるのか」
『いいよ~! さて、まずは……ありがとう、ボクらを見つけてデッキを作ってくれて!』
「お? それはこちらこそだよ! デスピアのみんながいたから、あーこのデッキは完成したんだ……!」
『悔しいですが、私たちから見てもあなたたちの働きは素晴らしいものでした……そこだけはあなたたちに感謝させていただきましょう』
【デスピア】のカードパワーはとても高かった。【ティアラメンツ】と互いを補い、巧みな融合召喚の連続でリソースを獲得していく華麗な戦術。展開の難易度がさほど高くないのも、ゲームが元来苦手なアカネをサポートしてくれる優秀なところ。
アカネは自分のデッキを誇りに思っている。もともと好きで使っているティアラメンツも、新しく使えるようになったデスピアも大切に思っている。
『ボクらデスピアも、面白い決闘者に見つけてもらえて満足! ティアラメンツっていう人魚さんたちは初めて会ったけどなかなか面白くって良かったよ!』
「うん、これからもよろしくね!」
『……でもね、ボクはキミがどこまでやれるのか気になった。ボクら深淵の使徒を扱いきれるのか……試させてもらうよ』
「わっ!?」
ぱちん、と彼が指を鳴らす。
アカネのデッキが紫の光に包まれ、カードがひとりでに宙へ飛び出す。それはいずれも【デスピア】【烙印】のテーマカード。
やがてアルベルの手元に集まったそれは、彼のデッキとひとつになった。深淵のひし形を模した決闘盤を構え、深淵の導化は笑い続ける。
『ボクは楽しいことが好き! 面白いことが好き! だからゲームをしよう!』
「っ、カードが……」
『キミのデッキからデスピアのカードを没収した! そのデッキで、ボクとデュエルしよう! 面白かったら合格、そうじゃなかったら……これは没収させてもらうね?』
『なっ、勝手なことを!』
「えっと……つまり、デスピアなしのデッキでデュエルすればいいってこと?」
『そういうこと! ボクらに勝てる決闘者こそ、ボクらを扱うに相応しい力の持ち主!』
「よし、頑張るぞ……!」
意気込むアカネ、しかしキトカロスが心配げな瞳で袖を引く。
『アカネさん、気を付けてください! 今のアカネさんのデッキは枚数が……!』
「……それは、やばいんじゃ?」
『あーキトカちゃん! 教えなくって良かったのに!』
指摘されなければ気が付かなかっただろう。二テーマをミックスしたデッキから一テーマをごっそり抜いてしまえば、デッキのクオリティは非常に不安定になる。
六十枚のメインデッキから十枚以上のカードを失い、デュエルを始めることはできても機能する初手になるかはわからない。《隣の芝刈り》のように、役目が十分に果たせなくなったカードもある。
さらにEXデッキは被害甚大。デスピアの融合モンスター全てを奪われアタッカー不足に陥りかけている。このままデュエルしても、全力のアルベル相手に立ち回るには不十分。
『ボクは手を抜かない! 今あるだけの烙印の力を存分に開放して、キミと楽しいデュエルをする! さあ、始めよう!』
「ちょっと待ってもらいたいんだけど……?」
『んー……ボクは今すぐデュエルしたいなー?』
「むむむ……!」
――予告なしでこういう企画珍しくね?
――というかキトカロスとアルベル誰?聞き覚えない声
――流石アルベル、いじわる
――ん?
――変な音した
――上か?
「なんか聞こえた!!」
『何が起きて……!』
『よかった、来てくださったんですね!』
『キトカちゃん、キミ何やったのかなぁ?』
『援軍要請ですよ! 頼もしい決闘者を知っていましたので!』
「ちょっとまったぁぁあああ!!!」
空気を突き破る大声が聞こえた。
真っ白な空間のはるか上空、ヒビが入ったそこから見える青一条の光線。轟音を引き連れて天を劈く機竜の影。
「あーちんー!! 来たぞー!!」
「そ、そらむーだ!」
アカネの親友、空星きらめが突如現れた。足元には円弧の翼を広げる超巨大機竜《竜儀巧-メテオニス=QUA》の姿。
『キミは、確かアカネちゃんのライバルみたいな子だったよね? どうしてここに来れたのかな?』
「なんかQUAに任せたらうまくいった!!」
『あ、そう……せっかく《命数》も用意したのに、そのモンスターは魔法カードに強かったか……』
この事態は把握済みなのだろう、閉ざされた空間に突入したきらめは既に決闘盤を装着している。後ろ目にアカネを見て、そしてアルベルと対峙する。
「っ……今のうち! 急げ急げ……!」
「配信経由で話は聞かせてもらったっ! あーちんがピンチなら、きらめが相手になってやるっ!」
『あーそう? 言っておくけど、キミがつまんないことしないでよ? ボクは楽しいデュエルがしたいだけなんだからね?』
「そこは心配せんでもろて! きらめ、強いから!」
『ふぅん……じゃあ見せてよ、キミの面白さ♪』
嗤う道化が手を翳せば、そこはもう戦場。それぞれ五つのモンスターゾーンと五つの魔法罠ゾーン、二つのエクストラモンスターゾーンを挟んで決闘者の視線が交叉する。
KIRAME LP:8000
ALUBER LP:8000
――デュエル!!
先行を取ったのはきらめ。一枚の魔法カードから、彼女のデッキは動き出す。
降り注ぐ流星群が描き出す竜輝巧の黄金展開。それが始まり……
「きらめのターン! 《
『ふぅん……』
「リンク召喚、《リンクリボー》! そして墓地のアルζの効果発動! 手札の《バン
『ダメだよ~♪ 効果を発動したそのモンスターを対象に、手札の《
「なっ、きらめのターンなんだけど!?」
『キミの墓地の光属性を除外して、手札から特殊召喚できる! 相手フィールドにモンスターがいれば相手ターンでも発動できる効果だよ!』
……止まってしまった。きらめのフィールドにホールが開き、星の竜の輝きを鎖に囚われた赤い竜が喰らう。
苦しい顔を隠せないきらめだがリカバリー能力も十分持つデッキだ、まだまだ手札を捌いていく。
『さあおいでマグナムート! この子が特殊召喚されたエンドフェイズに、ボクはデッキ・墓地からドラゴン族を手札に加えることができる!』
「つっよ……! でもまだだ、墓地の《バンα》の効果で手札の《ルタ
『もうその儀式モンスターを持ってたんだねぇ?』
「バンαとルタδでエクシーズ召喚! 守備表示で現れろ、《竜輝巧-ファフ
『今度はその儀式魔法……うんうん、それで?』
「《エマージェンシー・サイバー》発動! デッキからドライトロンモンスター……仕方ない、ここは《ラス
『あはは! ようやくお目見えだね、キミのエースモンスター!』
「攻撃力合計4000! フィールドのラスβ、ファフμβ’内部のバンαをリリース!」
「進行方向、敵はなし! 発進しろっ! 《竜儀巧-メテオニス=DRA》!!」
ようやく現れた、彼女が誇る極限兵器。《メテオニス=DRA》、いつもと同じように、いつだって同じように、彼女と共に突き進もうとしていていた。
しかしこの展開で手札は枯渇気味。それでも展開しなければ一方的にやられるだけとわかっているから、自分の盤面に託すこととした。
「……カードを一枚伏せて、ターン終了!」
『なるほどなるほど……エンドフェイズ、マグナムートの効果で《深淵の獣ルベリオン》を手札に加えよう』
KIRAME LP:8000
HAND:0
FIELD
《リンクリボー》A300
《竜儀巧-メテオニス=DRA》A4000
《竜輝巧-ファフμβ’》D0
(素材:《竜輝巧-ルタδ》)
〈SET〉
『さて、空星きらめちゃん……でよかったかな? キミのプレイしっかり見させてもらったよ! 一手止められてもすぐにリカバリーを意識した動きにして……ボク好みの
「そりゃどうも……?」
『アカネちゃんもそう思うよね……あれ、どっか行っちゃったの?』
「ふふん、きらめがなんも考えてないと思ったか~? あーちんには今、崩されたデッキを組みなおしてもらってる! すぐに戻ってくるよ!」
『へぇなるほど! でも~、それってキミがこのターンを凌げたらの話だよね?』
「えっ……? マジか、なんかヤバそうだぞ……!」
『プレリュードは終わりだ。ここからはボクらの舞台。深淵の使徒の力、その身でとくと堪能せよ――ボクのターン!』
デュエルが進む中、アカネは離れデッキを広げていた。目線は上向き、表情は明るく、キトカロスと隣り合って座り、ここではない虚空に喋りかける。
「こんにちは~! 世怜音女学院高等部一年、朝日南アカネです~!」
『これがライブ配信ですか……みなさん聞こえておりますでしょうか、ティアラメンツ・キトカロスと申します……』
「ゲストにキトカちゃんに来てもらいました!」
――あーこも配信始まった!
――公式チャンネルから
――キトカロス!?
悩んだアカネはアルベルの相手をきらめに任せ、デッキ構築に専念することとした。“決闘精霊”キトカロスの存在を出していいものかと考えたものの、アルベルが公式配信を乗っ取っている以上どんなに隠しても集合知の前には無意味。……というよりは、アカネに考えている余裕がなかったとも。
リスナーもある程度公式チャンネルのアルベルの放送を見ている者がいたために順応するまでは早かった。“アルベルとアカネが戦うらしい”と理解した面々が空気を作っていく。実際はもう少し複雑な事情なのだが。
『ええと、アルベルが勝手なことをしてくれたので戦う力を求めています……!』
「キトカちゃん意外と物騒だよね……? とにかく、デッキを組みなおしたいのでみんなの力を貸してください!」
『ここに今のデッキレシピがあります。……先ほどヤツにカードを奪われたせいでめちゃくちゃなことにっ』
「特にエクストラデッキと、攻撃できるモンスターを増やしたいなって感じかな?」
『現状アタッカーは《ルルカロス》《カレイドハート》《神・スライム》が候補……戦えはするでしょうが、やはり不安ですね』
――ひとまず刺して強いモンスターって感じか
――とりまイシズやろ
――デスピアの代わりになりそうなやつかぁ……
――芝刈り残すならシャドールとか?
「なんか見えたよ今! シャドール、ってどんな感じ?」
『検索してみましょう……ほう、カード効果で墓地に送られて強いモンスターたちですか。私や《シェイレーン》などを有効に扱えそうです』
「融合モンスターもいる! おお、なかなか強いのでは?」
『エクストラデッキを補強するのはこれらで十分でしょう』
「ん? 今の……」
有効なコメントにひとまず枠は足りた。そこで、アカネの目に一つのコメントが入る。記されたカード名は、なんとなく目にしたことがあったけれど今まで注目していなかった存在。専用サポートが存在することは知っている、強いらしい存在。
「……そういえば、あーこ
『どうしました?』
「えっと、これなんだけど……元々この子を入れてて……」
『これは……!?』
――お! シナジーだ!
――まさかこれ使うのか
――クエリティスが怖いけどどうにかなりそう
「よし、この子も入れてみよう!」
『これを“この子”と呼ぶのは私にははばかられますが……』
かくしてデッキ作成は進む。サポートカードを探し、テーマを決め、来たるべき決戦に備える。心の中の焦りをエネルギーに変えて。
――あっちやばそう
――アルベル、めちゃくちゃ強い……
「そらむー……がんばれ……!」
『こちらがサーチで、さらに……』
「おお、なんかたくさんある!」
ターンを始めたアルベルは、たちまち猛攻を繰り出していく。白くぼやけていた空間は次第に赤黒く、彼の舞台へ染まっていく。
ALUBER LP:8000
『まずはセッティングから! 永続魔法《失烙印》《復烙印》を発動! ……そのエクシーズモンスターの効果は使うのかな?』
「ここで使うのはなんかもったいない気がする……両方通すよ!」
『ふふ~ん……♪ 続いて、キミの場の方がモンスターが多い時この子を特殊召喚できる! 現れろ《白の聖女エクレシア》! 聖女サマをリリースすることで、デッキからボクのトモダチ《アルバスの落胤》を特殊召喚! コイツが現れたとき手札の《烙印凶鳴》を捨てて、キミの場のモンスターと融合することができるよ!』
「っ……DRAの効果発動! 墓地のモンスターを除外して攻撃力2000につき一枚相手のカードを墓地に送る!」
『おお、除去までできちゃうの! でもキミの墓地のドライトロンはもう少ないよね、ここで除外しすぎるとキミに次のターンできることがなくなっちゃうよ~♪』
「わかってる……! 墓地のバンα一体を除外! アルバスの落胤を墓地へ送る!」
『そうだよね、そうしないといけないよねぇ! ボクは《
――煽るな……
――誰かのRPだろうとは思うけどだいぶ解釈一致
『まだほんの序の口! 手札の《
「デッキ融合カード! 《ファフμβ’》の効果発動! 魔法罠の発動を無効にして破壊する!」
『ああっ、烙印融合が……なんてね? 《失烙印》がある限り、融合召喚は無効にならない! 残念でした~♪』
「うわっこいつ、やられた……!」
『アルバスと……光属性モンスター《
「精霊法……? っ、いてっ!?」
きらめを巧みに挑発し、赤熱するドラゴンを融合召喚するアルベル。それが咆えると共に彼が指を鳴らせば、足元に現れた烙印の鎖がきらめを縛り付ける。それからわずかに感じるのは
KIRAME LP:8000-300=7700
ALUBER LP:8000+300=8300
『プレイヤーが融合召喚を行うたびに、相手プレイヤーのライフを300奪う! イベント戦ならこういうのも面白いでしょ?』
「これきらめが不利になるだけじゃない!? ずるいぞ!?」
『ずるいくらいが楽しいんだよ! ただのデュエリストが精霊を相手にするんだから、そのくらいは覚悟してよね♪』
「くぅっ……!」
掟破り、プレイヤーのライフポイントに直接影響する特殊ルール。決闘者同士の闘いでは考えられない予期せぬライフダメージに、きらめの不安は掻き立てられる。
『《失烙印》の効果、デッキから《
「また融合召喚っ!」
『神炎竜ルベリオンの効果を、カルテシアを捨てて発動! さらにアルビオンがモンスターを除外したから墓地の《軒轅の相剣師》の効果、そして二回目の精霊法も発動!』
「くっ……!」
KIRAME LP:7700-300=7400
ALUBER LP:8300+300=8600
『軒轅の相剣師はモンスターが除外されると自分も除外されて、手札墓地の聖女を特殊召喚できる。手札から捨てたカルテシアを特殊召喚! さらに神炎竜ルベリオンによって、フィールド墓地除外モンスターをデッキに戻してまたまた融合召喚する! さっき除外してたアルバスと攻撃力2500の深淵の獣マグナムートを戻して融合! 天底の使徒、閉ざされし地にその爪を突き立てん! 《
「三連続融合……っ!」
『いいや四連続だよ! 《赫の聖女カルテシア》はお互いのメインフェイズに手札場のモンスターを融合させることができる! フィールドから《
「クエリティス、そいつはっ!?」
『ご存じの通り、レベル8以上の融合モンスターを除く全モンスターの攻撃力をゼロにできるモンスター! キミのフィールドじゃあ太刀打ちできないねぇ~?』
「マジで、やばいっ……!」
KIRAME LP:7400-300-300=6800
ALUBER LP:8600+300+300=9200
《リンクリボー》A300→0
《竜儀巧-メテオニス=DRA》A4000→0
《竜輝巧-ファフμβ’》A2000→0(守備表示)
《深淵の獣ドルイドヴルム》A2500→0
ライフも、フィールドも、次々に追い詰められていく。クエリティスのオーラできらめのフィールドのモンスターから光が奪われていく。
そしてこれでまだ終わっていない。赤い目が輝き、額から二本の鋭い竜角が伸びていく。それは彼の
『ボクは、墓地に存在する《
「変身した!?」
『我が姿は分かたれし深淵へ回帰する! 光を嘲り、闇をも欺かん!《
「リンクリボー! ファフμβ’!」
『バトルフェイズ! ボクの場には攻撃力2500のクエリティスと深淵の獣ルベリオン、さらに攻撃力が3500になった灰塵竜バスタードがいる。対してキミのフィールドには攻撃力0の
――やばいか
――どれか防げばライフは残る……!
『
「……まだだぁ! トラップ発動、《
《竜儀巧-メテオニス=DRA》A0→2500
それは最後の抵抗。残されたセットカードで攻撃を凌ぎ、失われた蒼機竜の光を蘇らせる。だがそれでも本来の力には届かない。これできらめに残されたものはもうない。手札もフィールドもゼロ。火炎のブレスが迫りくる。
『っ、ははっ! 名前の通り
「ぐっ……!」
KIRAME LP:6800-1000=5800
『デスピアンクエリティスでキミにダイレクトアタック!』
「っ、うわぁあっ!!」
悪魔の槍が振り下ろされる。地を割る残虐な一撃に、きらめの体が吹き飛ばされ宙を舞った。
しかし、それでも
「ま、間に合った……!」
『手札から《ガーディアン・スライム》の効果! ダメージを受けたとき、このカードは手札から特殊召喚されます!』
「あーちん、待ってた……!」
流動体のスライムモンスターが落下したきらめを受け止める。そのコントローラーは当然朝日南アカネ。
デッキを完成させた彼女は、今戦場へと駆け付けた。きらめからライフと盤面を受け継ぎ、アルベルと向き合う。
それを見た彼は、ようやくかと満足げな笑みを浮かべ。
『時間をかけすぎちゃったかな? まあいいか……キミがモンスターを特殊召喚したことで《復烙印》の効果が発動。墓地のドルイドヴルムを特殊召喚して、そのスライムに攻撃!』
「スライムさんの効果! 攻撃してきたモンスターと同じ守備力になる!」
『防がれちゃったか……ならバトルは終わり! フィールド魔法《烙印劇城デスピア》を発動! フィールドからデスピアンクエリティス、深淵の獣ドルイドヴルム、神炎竜ルベリオンを融合! 偉大なる神の依り代よ、我らの聖女を呼び戻せ!《デスピアン・プロスケニオン》! アカネちゃんにも、精霊法の力を受けてもらおう!』
「このくらいへっちゃらだよ! でもアル太郎のライフが大変だ……!」
『ちなみに、ボクの精霊法はキミが融合召喚しても発動される! ティアラメンツの力の使い過ぎに注意だよ♪』
『なっ、私たちにまでその力が及ぶのですか……!?』
現れたるは、きらめとのデュエルを終わりに導いた凄絶なアイアンメイデン。そのオーラがアカネを蝕みアルベルを輝かせる。ライフの差はこれで三倍以上。さらにアカネが融合召喚してもアカネのライフが減ることを告げられ、否が応でも考えたプレイングを強制される。
AKANE LP:3300-300=3000
ALUBER LP:9200+300=9500
――容赦ねぇな
――物理ダメージ発生してる?
――何が起きてるかわかる人いますか?
フィールドに余力を残しながら墓地に潜む幾多の妨害、これぞ今の彼の作り上げた舞台か。烙印の翼を広げ天から挑戦者を見下ろす。今ここが決戦の死線。
『エンドフェイズ、墓地の《烙印竜アルビオン》の効果で《赫の烙印》をセット。アルバスの効果で墓地に送った《烙印凶鳴》もセット。二人の聖女サマも手札に戻る。これでボクのターンは終了、魅せてよキミの面白さ!』
「いくよ……ドローっ!」
信頼と希望を抱き、アカネのターンが始まる。
ALUBER LP:9500
HAND:2
(《白の聖女エクレシア》《赫の聖女カルテシア》)
FIELD
《烙印劇城デスピア》
《デスピアン・プロスケニオン》A3200
《灰塵竜バスタード》A3500
《深淵の獣ルベリオン》A2500
《烙印の獣》
《復烙印》
《失烙印》
〈赫の烙印〉
〈烙印凶鳴〉
精霊法【烙印の業火】
お互いのプレイヤーが融合召喚するたびに発動する。
相手プレイヤーに300ダメージを与え、自分は300LP回復する。
次回予告!
果敢に挑んできたきらめちゃん、でもボクの精霊法でライフが大きく削られちゃってる!
残りライフはほんとに少ししかない! どうにか凌いでアカネちゃんにバトンタッチしたけど、ここから逆転できるのかな~?
……どうやらこのちょっとの時間でデッキをいじってたみたいだね。見せてもらうよ?
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#8 SUNRISE
アルベルからデスピアカードをかけたデュエルを挑まれたアカネ。きらめの協力あって新たなデッキを構築。
展開を終え盤石なフィールドを作り上げたアルベルに、アカネは果敢に挑んでいく。
果たしてデュエルの行く先は……?
前回つめつめだったので今回はさっくりです。余談ですがぼざろの波が来てて遅れました。不定期更新もロックですよ。
フィールドを受け継ぎ、きらめを後方に退避させたアカネはアルベルと向き直る。自分のターンはもう始まった、足に巻き付く烙印の鎖を確かめて、フィールドに着目。彼の手札もセットカードも既に公開されている、つまり予想外の事は考えにくい。それだけでアカネは気が楽になった。
ALUBER LP:9500
HAND:2
(《白の聖女エクレシア》《赫の聖女カルテシア》)
FIELD
《烙印劇城デスピア》
《デスピアン・プロスケニオン》A3200
《灰塵竜バスタード》A3500
《深淵の獣ルベリオン》A2500
《烙印の獣》
《復烙印》
《失烙印》
〈赫の烙印〉
〈烙印凶鳴〉
精霊法【烙印の業火】
お互いのプレイヤーが融合召喚するたびに発動する。
相手プレイヤーに300ダメージを与え、自分は300LP回復する。
『ボクのフィールドのおさらい! 《烙印の獣》はビーステッドがいればドラゴン族をリリースすることで相手のカード一枚を破壊できる。キミがモンスターを特殊召喚すれば《復烙印》で墓地のビーステッド……例えばドルイドヴルムが特殊召喚されるし、プロスケニオンに至っては説明するまでもないよね♪』
『私たちの墓地の融合モンスターを奪う効果……まったくもって悪趣味です』
『そして精霊法! お互い融合召喚しすぎには注意しないとね~♪ “融合モンスターの特殊召喚”だけなら反応しないから安心して!』
「それはオッケーなんだ……! よし、頑張るぞ……!」
セットカードはデスピアを回収しながら融合を行う《赫の烙印》と融合モンスターをフィールドに戻す《烙印凶鳴》。手札二枚が聖女で確定されているだけまだマシだろうか。
対するアカネの手札は五枚、フィールドにはきらめのダメージを受け止めた《ガーディアン・スライム》。……それが悪くないことを確かめ、慎重に進めていく。
「まずは《ティアラメンツ・シェイレーン》ちゃんの効果発動! シェイちゃんを特殊召喚して、手札から《ティアラメンツ・ハゥフニス》ちゃん、デッキの上から三枚墓地に送るよ! ……よし、《絶海のマーレ》が落ちた! 墓地に送られたハゥフニスちゃんの効果と、一緒に《シャドール・ビースト》の効果!」
『そっちのモンスターは初めて見るね……まず一回! ついでに復烙印で墓地のドルイドヴルムを特殊召喚!』
「シャドールビーストが墓地に送られたことで一枚ドロー! よしいいぞ、ハゥフニスちゃんとマーレさんをデッキに戻して融合召喚! 歌おう、キトカちゃん! 《ティアラメンツ・キトカロス》! ぃいてて……」
烙印の鎖が業火を伴い、深淵の竜が再起する。それでも巻き起こる水流は歌を流し、導かれるのは海底深層の令嬢。
AKANE LP:3000 -300 =2700
ALUBER LP:9500 +300 =9800
『参りましょう! 私の効果により、デッキよりティアラメンツカードを手札に加えるか墓地に送ります!』
『キトカちゃんはその後の手札墓地のティアラメンツを呼ぶ効果が厄介だからねぇ……ここでもう倒しちゃおう! 烙印の獣の効果でバスタードをリリースしてキミを破壊だ!』
『くっ、きゃぁっ! ですが発動した効果は止められません……!』
「あーこは《
元はアカネのデッキの同僚、知識はある。キトカロスの展開効果を警戒したアルベルは即座に彼女を除去。しかし墓地活用デッキのティアラメンツにはいいチャンス、送られたカードが影の光を放ち始める。
「墓地に落ちたカードの中にあった《シャドール・ドラゴン》、《
『復烙印を狙ってきたか……仕方がない! これでボクはもうドローできないわけだ』
――え? 伏せ狙わんのか
――二枚ともチェーンされるなら今使えないカードを狙うのはそこまで悪くないのかも
――墓地に落ちたあれなんだ?
『ごちゃごちゃうるさいですわね……』
『同感~。キミたちはデュエルしてないでしょ~』
「えごめんそこまで深く考えてなかったよ? 永続魔法《
リスナーのコメントが気になるキトカロスとアルベルだったが、アカネにとってそんなもの今は全く関係ない。着々とカードを並べていく。現れたのはアルベルとは違った方面の嫌な笑みを浮かべた男。彼が鞭を一振りすれば、アカネのデッキが反応してカード一枚が飛び出してくる。
「レイ男の召喚成功時、デッキから《ティアラメンツ・メイルゥ》ちゃんを墓地に送るよ! その効果発動!」
『また融合召喚……ボクは知ってる、キトカちゃんを素材にする
「来たっ……! キトカちゃん!」
『キトカちゃんを、ボクの場に特殊召喚! ボクのフィールドで頑張ってね~♪』
『こんな屈辱的な……っ!! 後を頼みます!!』
双頭の邪竜が口を伸ばし、アカネの墓地のキトカロスを無造作に掴むと中心部のアイアンメイデンに幽閉する。敵の墓地の融合モンスターを奪うプロスケニオンの効果、本来であれば《ティアラメンツ・ルルカロス》が融合できないのは大きな痛手。
それでも、今のアカネのデッキなら動ける。ずっとティアラメンツと向き合ってきたアカネだから、彼女たちをどう扱えばいいかは感覚と経験でわかる。水流は影を巻き込み、新たな色へ。出でたるは杖と獣携えし魔女。
「こういう時のためのこの子だよ! あーこが戻すのはメイルゥちゃんと、シャドールビースト! シャドールモンスターと闇属性モンスターで融合召喚! 《エルシャドール・ミドラーシュ》ちゃん!」
『なるほど、さっきの闇属性モンスターは融合の媒介だったのか! でもでも~、ボクのライフ、とうとう一万ポイントになっちゃったよ!』
「た、大変だ……! でもまだまだ行くよ! ミドラーシュちゃんは場にいる限りお互いに一回しか特殊召喚できなくなっちゃうから……レイ男とミドラーシュちゃんでリンク召喚! 《クロシープ》! ミドラーシュちゃんが墓地に送られたことで、墓地のシャドール魔法カード《
『いつの間に融合魔法を……』
「ティアラメンツちゃんたちはカードをたくさん墓地に送ってくれるからね! みんなの助けがあって、あーこのデッキは動くんだ……! もちろん、アル太郎たちにも助けられたよ」
『だから、あなたに理解してもらわねばなりません。私たちを信じてくれる、私たちが信じるアカネさんは素晴らしい決闘者だと!』
『……っはは、いいだろう! まだまだ楽しもうじゃないか、アカネちゃん!』
「発動、《影依融合》! アル太郎の場にエクストラデッキから特殊召喚されたモンスターがいるから、このカードでデッキのモンスターを素材にして融合召喚できる! デッキから《シャドール・リザード》と光属性《ヴィサス・スタフロスト》さんを融合! 《エルシャドール・ネフィリム》さん!」
AKANE LP:2700 -300 -300 =2100
ALUBER LP:9800 +300 +300 =10400
融合が止まらない。ひるむことなく続く展開、影の糸を操る光の巨人を呼び起こした。さらなる影を、その先に光を、勝利を導くため。
対するアルベルもここまでアカネの展開を眺めていただけ、ようやくフィールドのカードを動かしてゆく。
「特殊召喚したネフィリムさんと素材のリザードはそれぞれの効果でデッキのシャドールカードを墓地に送れるよ! さらにリンク先に融合モンスターが出たから、クロシープの効果で墓地のシャドールドラゴンを特殊召喚! デッキから《
『ボクとクエリティス、バスタードを狙うか……! なら二枚のセットカードを発動! 《赫の烙印》、そして《烙印凶鳴》! 墓地からクエリティスを特殊召喚! さらにボクを手札に戻して……ここの融合召喚はこうしようか、手札のエクレシアちゃんとフィールドから《
「むっ、知らないぞ……!」
『ドラゴン族と魔法使い族モンスターを融合! 現れよ、《ミュステリオンの竜冠》!』
「知らない子……でも、デッキの《
『灰塵竜バスタードは討ち取りました!』
AKANE LP:2100 -300 =1800
ALUBER LP:10400 +300 =10700
墓地のさらに深くに沈み消えていく銀の竜と入れ替わり、フィールドに現れたのは鋭い牙持つ金色の竜。頭上の魔導士が睨みを利かせる。鎖から熱を感じながら、アカネは次を考える。
『ミュステリオンの竜冠がいる状態でモンスター効果でモンスターが特殊召喚されると、そのモンスターを対象にして同じ種族のフィールドの全モンスターを除外できる。ティアラメンツには水族モンスターが多いって聞いたからね! ついでだ、ボクが融合召喚に成功したから失烙印でデッキの《スプリガンズ・キット》を手札に加えようかな』
「でも、結構限定的だよね……だったら先にどけちゃおう! クロシープとシャドールドラゴンでリンク召喚! 《トロイメア・ユニコーン》! 手札のティアラメンツクライムを捨てて、今出てきたばっかりのその子をデッキに戻すよ!」
『まあしょうがないな。でもこれでもう、キミに除去札はないんじゃないかな~? これでボクが次のターン生き残れる可能性も出てきたわけだ!』
アルベルの目論見は理解できるところだ。フィールドにはユニコーンの攻撃力をゼロにできる《デスピアン・クエリティス》、フィールドから墓地に送られることでモンスターを除去し戦闘破壊をけん制する《深淵の獣ドルイドヴルム》、さらに攻撃力3200の《デスピアン・プロスケニオン》、壁として攻撃力2200の《ティアラメンツ・キトカロス》。それらを潜り抜けても、彼のライフは一万以上。
手札には烙印魔法罠を手札に加える《デスピアの導化アルベル》と《スプリガンズ・キット》、融合効果を持つ《赫の聖女カルテシア》。これらによって展開、融合召喚を行い残り少ないアカネのライフを削り切る魂胆か。
明かされてはいないものの、《烙印の獣》は墓地の《復烙印》を場に戻す効果も持つため完璧に修復されてしまう。次のターンを渡せばアルベルは間違いなくとどめを刺せるだろう。
……しかし、彼はこれで使い切った。アカネにはまだリソースが大量に残っている。手札に、場に、墓地に。
ふと、頭の中によぎる記憶。『虹闘の間』リリースから間もなくして、ライバーに
リリース記念、ライバー一律プレゼント。そう銘打ってとあるカードが配布された。
開発部メッセージによれば、今まで地球上に存在し得なかったとあるカード、その
いくつかのサポートカードと共に実装され、データカードとして目にすることができるものになった。
「うおー! これがスペシャルレアの輝きかー!」
「光り方めっちゃ綺麗やんね」
「こういうカード、一回見てみたかった~! まあまだデュエル出来ないんですけどね、たは」
「かっこいいー! でも使いづらーい!」
「ほぇ~……なにもわかんないや」
それが何だったのかはその時わからなかった。だが、自分のアカウントで確かにそのカードを入手していたことを、アカネはなんとなく覚えていた。
景色が変わる。無色の世界が、水と星が流れてゆくアカネ色の異世界へ。
「よし、これでアル太郎がやることはもうなさそうだ! これで安心して使えるぞ、《
『そのフィールド魔法を残してたのかぁ! やってくれる……!』
「まだまだ! 《ガーディアン・スライム》をリリースして特殊召喚! スライム変身、《
『神スライムの変身は“融合召喚”ではありません! アナタの精霊法はここには発動しない!』
『でもそれだけだ! たかだか攻撃力3000程度のモンスターに……』
「あーこの狙いはこっちだ! フィールドから墓地に送られた《ガーディアン・スライム》の効果発動! デッキから《ラーの翼神竜》の名前を記した魔法カード《古の呪文》を手札に加える!!」
『なんだとっ!? それは、まさかっ!?』
『私とて驚いています……ですが、あれはまさしく……!』
「そうだよ、
閉ざされた世界に、いつの間にか光が満ちていた。きらめのQUAが破壊した穴から差し込む太陽の光がカーテンのように幻想的な光景を演出し、フィールドの全てが照らされる。
アルベルの攻撃からきらめを受け止め場に残り、神を呼び出す準備を整えた《神・スライム》。
新たにデッキに加わり手数を大きく増やした《エルシャドール・ネフィリム》。呼び出された裏側表示の《影依の炎核ヴォイド》。
融合を阻害する魔の手を止めた《トロイメア・ユニコーン》。
そしてこのターン最初に召喚された《ティアラメンツ・シェイレーン》。
すべてが繋がる。輝く水面に、映る影が四人分。そのうち一つは水色と馴染む空の色。戦ってきた星の色。
『それでも、それでも! この盤面を突破する札なんて、そう簡単に作れない!』
「いや、もう作れてる! ずっと一緒だから! そうだよね、そらむー!」
「その通り! きらめが戦ったから、今あーちんが戦えてる! いけっー!」
「墓地の《ヴァレルロード・
『行きなさい、シェイレーン!』
『墓地を引き継いだだとっ……!』
「シェイちゃんを破壊っ! シェイちゃんの融合効果が発動できる!」
「墓地から三体! シェイちゃんとガーディアンスライム、レイ男を融合! レイ男、パワーアップ! 行けーっ!! 《ティアラメンツ・カレイドハート》!!」
哀嘆の魔王、ここに現る。片手に涙の真珠、もう片手には三叉の鞭。人間らしい姿だった下半身は蛸や烏賊を思わせる触腕へ変わり果てより一層威圧的に。
絡みつく烙印を振り払って、カレイドハートの腕がドルイドヴルムを弾き飛ばした。
AKANE LP:1800 -300 =1500
ALUBER LP:10700 +300 =11000
「融合召喚されたスーパーレイ男の効果で青いドラゴンをデッキに戻す! デッキにティアラメンツが戻ったことで《ペルレイノ》の効果でクエリティスを破壊! さらにティアラメンツが特殊召喚されたことで《スクリーム》の効果! デッキの上から三枚墓地に送って、このターン相手モンスター全員の攻撃力を500下げる!」
『ここまでやってくれるとは……! クエリティスの効果で、トロイメアユニコーンの攻撃力をゼロにする! さらにクエリティスが破壊されたことでデッキよりデスピアモンスター一体を特殊召喚する! ボクの盾となれ、《デスピアの
『そのようなモンスターを召喚したところで通用しません! 《
《デスピアン・プロスケニオン》A3200 -500 =2700
《デスピアの大導劇神》A3000 -500 =2500
《ティアラメンツ・キトカロス》A2300 -500 =1800
《ティアラメンツ・カレイドハート》A3000 +500 =3500
《神・スライム》A3000 +500 =3500
《エルシャドール・ネフィリム》A2800 +500 =3300
《トロイメア・ユニコーン》A2200→0
足元の水がアルベルの陣営の足を奪い沈めていく。代わりにアカネの陣営は活き活きとしていく。
準備は整った。もう十分だと確信し、全身全霊をかける。ここで決着をつけるべく。
そんな全力の決闘者に応えるのが、最高峰のカードだ。
「行くよっ! 《トロイメア・ユニコーン》、《
「降臨せよ太陽の神よ、この世界に輝きを!」
「《ラーの翼神竜》!!」
――!!!
《ラーの翼神竜》A? +2200 +2900 +2800 +1400 =9300
AKANE LP:1500 -1400 =100
それはモンスターの域を超えた紛う事なき神。誰もを寄せ付けぬ威光を放つ黄金。語り継がれし伝説。
もう一度も融合できない。もうダメージを受けられない。後には引けない。引かない。
朝日南アカネが呼び込んだ神は、彼女との間に光の線を繋ぎ、圧倒的な攻撃力9300を持って召喚された。
『これがッ、神かッ』
『なんというプレッシャー……! これで
「っ、ふぅ…………
『私からの恨みです、くらっておきなさいっ!』
『くっ……!』
カレイドハートの鞭撃が弱った大導劇神を打ちのめし、神スライムが無理矢理アイアンメイデンをこじ開けて中のキトカロスを救出する。さりげなくキトカロスが念力らしき力でアルベルにフィールドの水をぶっかけ、紅の髪を濡らした。フィールドに残ったのはプロスケニオンと、攻撃を控えた神。その口腔に離れていても肌がひりつくほどの火炎を宿している。
ALUBER LP:11000 -1000 -1700 =8300
「行くよっ!! ラーの翼神竜で、デスピアンプロスケニオンを攻撃!! 確かこういうんだよね……ゴッド・ブレイズ・キャノン!!」
『ぐっ、ぐぉおあぁっっ!! だがッ、ボクのライフは、残ったみたいだなァ!!』
ALUBER LP:8300 -6600 =1700
神の炎を受け全身を焼き尽くされながらも、ライフは残り彼は嗤う、嘲笑う、道化として。
残り1700。あとわずか、しかしそれが削れない。残りライフ100のアカネは、アルベルの融合を通した瞬間に負ける。
『これで攻撃できるカードはない! もう終わりだ!! キミはこのまま、ボクに負ける!! そういうシナリオだ!!』
「まだだよっ! そんなシナリオ、アドリブで変えちゃうから!! リバースカード、《
『さっき伏せたカードだとッ!?』
『このカードは、ラーの翼神竜が存在すれば即座に発動を許されます! その効果により!』
「自分フィールドのラーの翼神竜をリリースすることで、その攻撃力だけライフを回復する! これで9300回復だ!」
AKANE LP:100 +9300 =9400
フィールドから太陽神が消えて行く。アカネに降り注ぐ祝福の光。起こったことは、それだけ。それだけに意味があったのだ。
『その効果に、なんの意味がある!! 自ら神を手放すなんて!!』
「手放したわけじゃないよ、ラーの翼神竜っていう神のカードは、“不死”みたいだから」
『
「あーちんのデッキは墓地活用型! デッキの上から色んなカードが墓地に送られる! 積み重ねたものが発揮される!」
「これがあーこの、最後のカード! ラーの翼神竜が墓地に送られたことで、墓地に存在する《ラーの翼神竜-
後光が再燃する。不死を司る古の神は、大いなる力、すべての万物を司らん。 その生命、その魂、そしてその骸でさえも。
今は、誰もが笑顔になれる不思議な暖かさを持った究極の幻神獣。
「太陽神よ天を舞え、輝く炎の不死鳥となりて!」
「《ラーの翼神竜-
《ラーの翼神竜-
『…………ここで、攻撃力4000のモンスター……いや、神を呼び出すとは! 見込んだとおりアカネちゃんは面白いな!』
「ありがとう! これからもよろしくね?」
『こりゃ叶わないな……いいよ、ボクらデスピアをよろしく♪』
「うんっ! 《
真なる神の炎がアルベルを包み込む。
それを受ける彼の顔は、やはり笑顔だった。
ALUBER LP:1700 -4000 =0
DUEL END
『う〜ん、合格〜♪いいデュエルをありがとう♪アカネちゃんはもちろん、きらめちゃんも!』
「あっどもどもありがとうございます〜へへ」
「アル太郎にいいとこ見せられて良かった〜」
『どうなることかと思いましたが……まあよかったですわね、ふふ』
デュエルを終え和気あいあいと話す四人。静かにアルベルに近づいたキトカロスが、ライバー二人に聞こえないようにこっそりと話しかける。空気感を察したアルベルも近くに寄って耳を立てた。二人の空気感は一度対立を挟んだからか、主人が優しいからか、軽口を言い合えるくらいにはなっていた。
『アナタ、あまり本気ではなかったでしょうに。ところどころプレイングが乱雑でしたわよ』
『キトカちゃんにはバレるか〜。ま、ここで頑張りすぎなくてもあの子なら面白いことしてくれるかなってね? それにビーステッドでティアラメンツ止めちゃったらそれはそれで面白くないじゃん?』
『愉悦で動く
「ふたりともどしたの?」
『ナイショ!』
変な二人だね、と言ってアカネは虚空へ向き直る。そこにカメラがあると察した皆が目線を向けて挨拶を。
「そういえば全然意識してなかったけど配信だった! みんなありがと〜」
「大変な配信だった! この後はここから出てゆっくり休みます!」
『あっボク一回言ってみたかったことある! “チャンネル登録、よろしく”!』
『では私からも、“高評価、通知のオン、よろしくお願いします”ね?』
――なにがなんだかわからんけど楽しかった!
――いいデュエルだった
――おつ〜
そうして配信を終了し、きらめがドライトロンカードを決闘盤に乗せる。現れた機械竜に跨って、開いた穴へと上昇。
『では帰りましょう、アカネさんのご学友の元へ』
「みんな今何してるんだろ?」
『どうだろ? ボクらみたいにデュエルしてたり?』
その頃、周央サンゴの視界は揺れていた。強いショックで言葉も出ない。
いなくなった仲間たちの様子が気になって仕方なくなって先ほどヒスイと別れた地点まで戻っていた彼女は、その景色がまるで別物だと意識せざるを得なかった。
空から降ってくる黒と赤の機械が次々と自然を覆い隠し、どことなく和風な塔がリアルタイムで立ち並んでいく。“それまで”を壊していく無の世界。
その開けたスペース、散らばったカードからゆっくりと体を起こした何かと、目が合った瞬間。
「っ、ぁ……」
「ンゴ、わるいっ……逃げ、て……」
立ちはだかる
か細い声、金の瞳、緑の髪、間違いなく彼女のものなのに。
ボロボロになった成人姿のコスチュームも纏う怒りのような雰囲気も無理やりにつけられただろうクリムゾンカラーの外装もボイスに混じるノイズも、何もかもが気持ち悪い。
「ァ、ア……! クシャトリラ、侵略を開始するッ……!」
「すぴちゃん!!」
声を出しても手を伸ばしても届かない。
今のサンゴにわかるのは……ヒスイはあの敵に負けたこと。
自分は、変わり果てたヒスイと戦わねばならぬこと。
次回、VS
地の文にDM4付属版ラーのテキストを一部引用しました。
マジで見切り発車で書いてる作品なのでプロットとかないです。
次のデュエルの展開考えてるのでもうしばらくお時間いただきます。架空デュエルの台本作るのマジでムズイな。
時間かかりそうならデュエルなしの番外編やるかも。リミット改訂とか氷水新規とか色々あったのでね。
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#EX2 DuelistShortStory
今回は色々書いてみたかったので短編集です。新規カードとか新衣装とかあーこ3Dとかからアイデアをもらってあれこれ書きます。ほんのりチグ虐かもしれない。
それはそれとしてティアラメンツのキーカード根こそぎ規制されたのはションボリ@イグニスター。まだ生きてるけどね。MDで組みます。
※今回だけ時系列が飛びます。2023年4月想定です。デュエリストパック『ワイルド・サバイバーズ』のカードに関するネタも含まれます。
*the Virtuous
2022年末、寒波と共にそれはやってきた。
『そんな……』
『まさかこんなことになるなんてね……』
「…………えっと、これやばくない?」
『やばいですわ』
『やばすぎだね』
リミットレギュレーション改定通知。2023年1月より、使用できるカードに変更がなされる。
制限:《ティアラメンツ・シェイレーン》《ティアラメンツ・レイノハート》。
禁止:《ティアラメンツ・キトカロス》。
大会環境での影響は無視できないもの。事実上、これまでの【ティアラメンツ】デッキの終焉。
それを見たアカネは……言葉もなく、その場に崩れ落ちてしまうのであった。
「あぅ」
『アカネちゃんがキャパオーバーした!』
『禁止になった私以上にダメージを受けていませんか……?』
融合条件が一番簡単で、サーチも展開も墓地増強もできる。【ティアラメンツ】を一枚で支えていた重要な札がキトカロス。その禁止とは、デッキの回転が急激に低速化するのを意味する。
キトカロス本人もショックを受けているが、衝撃が大きいのはアカネだろうか。自分が人生で初めて形にできたデッキの最重要カードが使えなくなる経験はなかなかできるものではない。
「えっと、デッキ……どうなるの……? キトカちゃん……」
『まだ終わっていませんわ! 沼地の魔神王でのルルカロス融合は残されています!』
『がんばろ~。なんなら新しい力を貸してもいいよ♪ ビーステッドで除去を増やしちゃおう!』
規制を受け、新たなデッキプランを考える。
遊戯王の面白さの一つとはいえ、ここまでの大打撃は初心者には厳しいものがある……しばらく頭を悩ませる日々が続くのだった。
とりあえず【ビーステッド】を投入することによる【烙印】サポートの厚さへと振り切ったデッキとなった。
・ ・ ・ ・ ・
そして、三月。次のレギュレーションが発表される。
「あばばばばばば」
『むごい……』
『バ、バカな……
【ティアラメンツ】より《ハゥフニス》《メイルゥ》。【ビーステッド】より《ルベリオン》《ドルイドヴルム》《バルドレイク》、五種のカードが制限指定。
アカネ陣営のカードプールは死屍累々だった。これはまずいと急遽集まったアカネ、キトカロス、アルベルはカードを広げて今後の方針を語らう。
『ほんとにどうする? ここまで徹底的に規制されるとは思ってなかったよ? サーチャーの
『もう私たちで残ってるの《ティアラメンツ・クシャトリラ》くらいですわよ……アレを主軸にするのはなんか複雑で……』
「二人とも強いんだね……でもあーこはまだまだこのデッキ使っていきたいな!」
アカネ視点、好きになったカードがたまたま強かっただけ。
『嬉しいこと言ってくれるじゃん! 実際ボクらもまだ戦えるよ!』
『ここまでの仕打ちを受けて折れるなどティアラメンツのプライドが許しません! 目にもの見せてやりましょう!』
「作戦会議、いくぞいくぞいくぞー!!」
『『おー!!』』
諦めきれないデッキへの愛が、どれだけ減っても可能性を求め続ける。《キトカロス》が禁止になってもティアラメンツが止まらなかったように、【烙印】が次々増えていくように、新世代11期最後の波に乗ってデッキが再編されてゆく。
・ ・ ・ ・ ・
後日、あらかた調整が終わったアカネはチグサを呼び実践テストをしてもらうことに。セレじょ内でもデュエル歴が長めのチグサはよく人の調整を手伝っていたりする。
「ということで、頑張ってティアラメンツ組み直したからデュエルしまーす! チグサ……俺のデッキ、見てくれ……」
「あぁよろしくなぁ! ちょっとイケボ混ぜてくるん面白いわホント」
「あーこのターン! まずは……アル太郎を召喚! デッキの《烙印開幕》を手札に加えるよ! これを発動して、手札の《
新たな顔は、白髪の乙女。周りに漂う“赫”の風格は、デスピアに通ずるアカネのデッキにしっかりと馴染んでいる。召喚成功時にデッキの「アルバスの落胤」関連カードを墓地に送る効果を発動した。
「アルバスの落胤……? なんかまた新しい子が来たんか?」
「この子はいい子だよ、アル太郎も仲良しだって言ってた! 魔法カード《融合派兵》! EXデッキの《赫焉竜グランギニョル》を見せることで、デッキから融合素材モンスター《赫の聖女カルテシア》を特殊召喚だ! この子の効果で融合召喚できるから、アル太郎とシェイちゃんで融合! 熱狂的に燃え上がれ、あーこの舞台! 《
また別の聖女、カルテシア。手札フィールドから素材を使ってレベル8以上のモンスターを融合召喚する能力を持つ。昏き烙印の結晶が輝き、アルベルが操るホールの力をさらに強め、深海のシェイレーンの剣も共鳴する。アカネが得意とする、デスピアとティアラメンツの効果をそれぞれ起動しての連続融合は今も健在だ。
「墓地に送られたシェイちゃんの効果で、シェイちゃんと魔神王でさらに融合召喚! この時魔神王はキトカちゃんに変身! 突撃だっ! 《ティアラメンツ・ルルカロス》! ……大丈夫、これでターン終了!」
「ほほう……マスカレイドが600ずつチクチクしてきて、ルルカロスは特殊召喚する効果を無効か。他は知らんけどどうにかなるやろ! アタシのターン!」
アカネの盤面にはルルカロスとマスカレイド、カルテシアとクエム。手札は《融合》と合わせて二枚。そのくらいならどうにかなると踏んでチグサは平時の展開を行い始める。
……それが招く、アカネの新たな力の萌芽。
「ブルータン召喚!
「じゃあそこで! EXデッキのカードが移動したとき、クエムさんの効果が発動だ! 墓地に送ってた《アルバスの落胤》くんを特殊召喚!」
クエムもう一つの効果、自身の効果で墓地に送っていたモンスターを特定条件で蘇生。
開いたホールから降り立ったのは銀髪褐色肌の少年――アルベルと似た顔立ちの彼は、名を“アルバス”。
「なんやと? でもブルータンの効果で……スリーピーメイデンを手札に! シーエンジェルでダイブ持ってくる!」
「出てきた時、手札の《融合》を墓地に送ってアル次郎の効果発動! このカードと相手モンスターを融合する!」
「はっ、妨害効果!? その女の子残してたんはそういうことやったか……! でもシーエンジェル使って何出すん?」
「アル太郎に教えてもらったすごい子が出てくるよっ! 冷たい剣が、音を響かせ届かせる! 覚醒アル次郎! 《
アルバスの額が輝き、シーエンジェルを巻き込んで冷気の鎧を作りゆく。氷の剣を浮かべ悠然と大地を踏みしめるそれは、攻撃力3000の上級融合モンスター。アルバスの落胤とリンクモンスターの融合によって召喚される切り札、《氷剣竜ミラジェイド》。
鋭い目に威迫されながら、チグサはまだ止まるつもりはなかった。
「どれだけデカブツやろうと、まだ終わっとらんわ!
「ルルカちゃん! 無効にしちゃえ! 自分を墓地に送って、そのまま戻ってくる!」
「ここ止められんの苦しいな……やけど、もうちょいいけそうやな! スプリンガールを、墓地のブルータン除外して
デッキからの特殊召喚は止まり、手札を消耗していくチグサの展開。ねらい目は盤面が完成するまでの、途中段階のここ。そう判断したアカネはカルテシアに呼びかけ、昏き烙印の結晶を再度起動させる。
「ん……今のうち! カルテシアさんの融合効果は相手のメインフェイズでも使える! クエムさんとカルテシアさんを融合! 手と手を合わせて、きらびやかな空へ飛ぼう! 《
カルテシアの半身が溶けゆき、影の手が重なって竜を象る。翼はステンドグラスのように多様な色を映し出し、至る所から赤い目がぎょろりぎょろりと、統一感なくあちらこちらを見やる。
忍び寄る影が竜巻を起こし、輝く明るい海を荒らして舞台を割っていった。
「この期に及んでまた新しい融合モンスター!? しかもいっちゃんやなことを……! でも止まれんわ、アネモネで墓地のメイジを対象に、リンク先に
「そこで、フィールドのグランギニョルを除外してさらに効果発動! 相手がモンスター効果でモンスターを特殊召喚した瞬間、EXデッキのデスピアを特殊召喚する! この効果は融合モンスターじゃなくてもいい! 誇り高き剣士、最強の聖女さん! 《
幾千の赤い雷撃が降り注ぐ。グランギニョルの殻を破り、聖女を軒並み抑え込み、白銀の鎧の女戦士が真っすぐな瞳をして現れた。アカネのデッキ初となる白い枠のシンクロモンスター。
今や彼女のフィールドは、マスカレイド・ルルカロス・ミラジェイド・ルルワリリスが並ぶ壮観な光景。大半を烙印関係でまとめながら、展開の最中にも最終盤面にもティアラメンツが残るのはそれだけの信頼があるから。
「今度はレベル12の、シンクロモンスター!? でも、アネモネとメイジでリンク召喚! 頼んだ、グレートバブルリーフ!!」
「その子は困っちゃうよ……! ミラジェイドはお互いのターンに一回、EXデッキのアル次郎が変身する融合モンスターを墓地に送ってフィールドのモンスター一体を選んで除外する! 《烙印竜アルビオン》をコストに、グレートバブルリーフを除外だっ!」
「対象取らない除外とか、流石にんなことさせるわけないやろ!!
「でももう攻撃力は上がんないはず! EXデッキの烙印竜アルビオンが移動したことでルルワさんの効果! 自分モンスター全員の攻撃力を500アップ! ルルカちゃんとミラジェイドが3500、ルルワさんとマスカレイドが3000だ!」
「あっ…………あの、ターンエンドです…………」
「烙印竜アルビオンの墓地の効果で、デッキから《赫の烙印》をセット! カルテシアさんは融合モンスターが墓地に送られてるターンの終わりに手札に戻る! そしてドロー、フェイズ中! 赫の烙印を発動! 墓地のアル太郎を手札に戻して、手札のアル太郎・カルテシアさんとフィールドのマスカレイドを除外して融合召喚! うおおおお暴れろー!! 《ガーディアン・キマイラ》!! 2枚ドローして、グレートバブルリーフを破壊!」
「ヒドイ!! ねえあたしのライフ2000しかないんやけど!!」
「マスカレイドで6000も減ってたんだね……あっ、ルルワさんでみんなパワーアップ! そのまま、全員で攻撃ー!!」
「んぎゃー!?」
*Icejade Rán Aegirine
別日。チグサはヒスイに呼び出され、デュエルを受ける。先行を取ったチグサはしっかりと展開をこなし、十分な手数で盤面を形成し終えた。しかしヒスイはにやにやと笑うだけ……不穏なものを感じながらも手番を終えた。
「最後にクリスタルハートとアネモネでリンク召喚! 《海晶乙女アクア・アルゴノート》! 墓地の三枚を装備! 攻撃力4300で、相手の魔法罠の効果を一回無効にして、手札にはさっき加えたウェーブもある! ひすぴ相手にするんやったら調整でもこんくらいやらんとな!」
「んじゃ、私のターン。……ごめんねっ、アルゴノートをリリースし《海亀壊獣ガメシエル》特殊召喚」
「え?」
あまりにも無慈悲に片づけられる。そうなればもう後は一直線。
「《氷水揺籃》発動。デッキから――《氷水帝エジル・ラーン》を手札に加える」
「なんやそいつ……? エジルの進化系か?」
「エジルラーン、効果発動。手札の水属性か氷水カードを捨てて特殊召喚する。
「待て待て情報量が多いって!! どうなってんやそれ!!」
自己展開効果を持った、単体でレベル10シンクロ召喚を可能とする新規カード。召喚権すら使わず、なんならコストまで水属性デッキではアドバンテージになってしまう。
これまでの北小路ヒスイのデッキをさらにランクアップさせてしまう、11期テーマ【氷水】の最後の置き土産。
「あとは……いつものって感じ。ディーヴァ召喚、デュオニギス、デッキ上三枚除外、レベル変えてプリマドーナ、デッキのエジル特殊召喚、大剣現サーチ、承影シンクロ召喚。大剣現発動して《氷水艇キングフィッシャー》を特殊召喚。自身の効果で承影に装備し、もう一つの効果でガメシエルをバウンスしながら装備解除で特殊召喚……これで承影の元々の攻撃力だけでも3000+3000+2900、打点足りてるね。じゃあ、おつぴ~」
「なんでぇー!?」
*Crystal Rule
また別の日、チグサにデュエルを申し込んだのはコハク。なんとなく展開が読めてしまったチグサだが、やっぱり友人とデュエル出来るのは嬉しいのだ。
「おちぐちゃんおちぐちゃん!! 新しいカード使いたい!!」
「うんええよ……うち安請け合いし過ぎか?」
「《
「早い早い早い……あーこの新しい女の子とか“なんとか扱い”カードって便利やな。んでどういうカードなんや? 装備魔法ってことは……つけた宝玉獣がムキムキになるとか?」
「違うー! 発動だ《金科玉条》!! 手札・墓地の宝玉獣を特殊召喚してこのカードを装備、デッキから二枚の宝玉獣を宝玉モードで置く! Aコバルトを戻して、《
「あっ……ッスゥー……まずいかこれ……」
「エメラルドとサファイアで《I:Pマスカレーナ》! そしてAルビー、Aサファイア、Aコバルト、マスカレーナでリンク召喚! 月の女神に見初められし、高潔なる弓の使い手! 《召命の神弓-アポロウーサ》!!」
「モンスター四回無効はホントにまずいんやけど!?!?」
宝玉獣をデッキから二体増やしながら蘇生を行うために、《Aコバルト》と組み合わせるコンボによって【A宝玉獣】では場にモンスター三体を一気に出力する展開札。
エースのレインボードラゴンに必要な宝玉獣カウントの加速も行い、特にデメリットもない。《サファイア》用の通常召喚権も残ったまま。
これが《金科玉条》。あの夏が終わった後に登場した宝玉デッキのワイルドカード。
「そして! 七体の宝玉獣が揃った! 現れろレインボードラゴン! そして進化! レインボーオーバードラゴン!! このカードは相手ターン中にリリースすることで場の全カードをデッキに戻す!!」
「アポロウーサくぐって展開してもそいつがおるん、マジで厳しいわ……! つかマスカレーナ!」
「一枚セット! かかってこいー!」
……その後。
「効果発動!」
「アポロウーサで無効!」
「こっちは!」
「無効!」
「こいつなら!」
「無効ー!」
「これでっ!」
「無効で~す!」
「ああああああ!! だったら魔法カードを……」
「リバースカード《宝玉の奇跡》! アンバーを破壊して無効からの破壊!」
「ねぇコハックがイジメるんやけど!! せめて攻撃力0になったアポロウーサだけでもしとめな気が済まん!!」
「レインボーオーバーで全部デッキに戻す! 私のターン! 墓地のレインボーオーバーと七体の宝玉獣を除外してオーバードライブ召喚! 攻撃力11000で、ダイレクトアターック!!」
「……ひん」
*Ground Xeno
過程前略。
「
「あっうん、なんかデュエルすればええんやろ? このパターン最近多いんよな」
「それじゃあはじめもいた! ンゴのターン、まあ練習なんでね、ンゴはみんな向けに手札全部紹介しながらやってくワケなんだけど……最初の五枚は《人形の幸福》《魔鍵施解》《グラウンド・ゼノ》《魔鍵銃-バトスバスター》《デメット爺さん》って感じだぁ! それじゃあ……《人形の幸福》でおもちゃ箱を持ってきて、さらに新規カード《グラウンド・ゼノ》発動! このカードはデッキから恐竜族の通常モンスターかチューナーモンスターを手札に加えてから手札一枚を破壊する魔法カードなんだけど、これで《メガロスマッシャーX》を手札に加えておもちゃ箱を破壊! そうするとおもちゃ箱の効果でデッキから攻守どっちかゼロの通常モンスターを特殊召喚できるから、ドールモンスターのガールちゃんと熊っちを特殊召喚! これンゴも初めて知った時ほんとにびっくりしたんだけど、何がすごいって通常召喚もしてないしエクストラデッキからなんでも出せるとこなんだよね、今までおもちゃ箱を破壊するのは人形の幸福の仕事だったんだけどその効果を使っちゃうとエクシーズモンスターしか召喚できなくなっちゃうから困る時もあったの、でもこのカードのおかげで制約がかからないうちにいろいろ展開できちゃうってことなんだよね、メガロスマッシャーXは元々おもちゃ箱で出せる水属性の枠で入れてたんだけどグラウンドゼノのおかげで一気に地位向上して『ただの通常モンスターのオレ、周央サンゴのデッキのキーパーツになってしまう』状態なの」
「めっちゃ喋る……おもちゃ箱を破壊するカードが増えたっちゅうわけか! 便利やなぁ」
「でもまだすごいところがあるの、このカードを墓地から除外すると手札フィールドのモンスターを素材にして恐竜族モンスターを融合召喚できちゃうのね、これでンゴはフィールドの熊っちと手札のメガロスマッシャーで融合! 驚天動地、太古の覇道に震えあがれ! 《超越竜ギガントザウラー》!! こいつを特殊召喚すると墓地の恐竜族モンスター、メガロスマッシャーが手札に帰ってくる! うおーでっけー!!」
「でっけー!! …………攻撃力3800?」
「フィールド魔法《魔鍵施解》を発動してデッキから《大魔鍵-マフテアル》を手札に! さらに手札一枚を《魔鍵-マフテア》に変えちゃう! ここで変えるカードはさっきギガントザウラーで戻したメガロスマッシャーでいいからエコですよこれ、環境保全ポイントですねはい。そして魔鍵マフテア発動! ンゴの場に通常モンスターのガールちゃんがいることでデッキの通常モンスターを一体墓地に送って魔鍵モンスターを融合できる! フィールドのガールちゃんとデッキの《魔鍵銃士-クラヴィス》くんで融合! 《魔鍵召獣-アンシャラボラス》! 墓地のマフテアを手札に戻す! さらに手札のマフテアルの効果を発動して、追加召喚! 墓地からクラヴィス君を特殊召喚! もう一回魔鍵マフテアを発動して、今度はデッキのメガロスマッシャーを墓地に送って儀式召喚! 《魔鍵銃-バトスバスター》! デッキから《繋がれし魔鍵》を手札に! レベル4チューナーのマフテアルとレベル4のクラヴィス君でシンクロ召喚、《魔鍵変鬼-トランスフルミネ》! デッキからカウンター罠《魔鍵錠-解-》をセット! 続いて残ったアンシャラボラスとバトスバスターでエクシーズ! お待たせ、《プリンセス・コロン》ちゃん! 最後に《デメット爺さん》ゴを召喚! コロンちゃんのエクシーズ素材一つを使って墓地からガールちゃんと熊っちを魔改造召喚! 闇属性レベル8になった二人で最後にエクシーズ召喚! 《No.22 不乱健》!! 繋がれし魔鍵をセットしてターンエンゴ!」
「なんかすげぇ展開されたんやけど?」
「ンゴの場にはコロンちゃん・不乱健ゴ・フルミネンゴ・爺さんゴ・ギガントザウラーがいるよ! 墓地には
「破壊しすぎやろがい!! しゃーないわ、あたしのターン! まずは《海晶乙女ブルータン》を召喚して、効果発動!」
「フルミネンゴで破壊!」
「あーっ!! でもまだや、ブルータンの効果で墓地にマンダリンを送るわ! そしたら《海晶乙女の潜逅》で……」
「リバースカード、《魔鍵錠-解-》! 魔法罠カードの発動を無効にして破壊する! ごめーんご♪」
「イヤーッ!?」
*Dreaded Deluge Dragon
「あたしも新しいカードデッキに入れたい!!」
西園チグサは嘆いていた。周りを見ればどこもかしこも新規カード。
アカネはかつてのデッキの原型を留めぬほどの大打撃を受けつつも立ち直り、デスピアの聖女を迎え入れた。それらのテクニカルなパワーにボコられた。
ヒスイは順当なテーマ強化を得たことでさらに盤面形成を強固にした。それにボコられた。
コハクはいつの間にか有用な展開札を手に入れていた。それからの展開にボコられた。
サンゴは予想外の新たなカードによって展開力を爆増させ、更なる大型モンスターまでも獲得した。それにボコられた。
要するにチグサは見返してやりたかった。自分も新たにデッキを見直し、強化するタイミングではないかと。そのために配信枠も取った。
「でもあたしのデッキ、今のが結構完成形説はあるんよな。マリンセスってどれだけマリンセス引いてるかの勝負やし」
――まあそう
――だいたいブルータンかシーホース持ってたら動けるけど下手に枚数増えると動きにくくなるし
――どういう方向で強化する?
「方向性かぁ……そやな、最近先行でぶん回された時に苦しくなったこととかはよくあったから、相手をドカーンって荒らせるようなカードが欲しい!」
――アクセスコードとかは枠なさそうだよね
――これ以上EXはいじれなさそう
「そやな、EXデッキは今の十五枚で確定させたいわ! 」
求めているのは“捲り”のカード。メインデッキに採用でき、展開も阻害しない札。
マリンセスを形成する要素は「サイバース」「リンク」「水属性」。これらのキーワードから検索し、目についたものへ触れていく。見たことがないカードに触れる楽しみは、いつになっても変わらない。
「《ガッチリ@イグニスター》! サイバースの効果を無効にして手札から特殊召喚、全体が一回効果で破壊されない、耐性もつけれる……水属性なら完璧やったけど悪くない! クリスタルハート行けないときとかに挟んでもええかも!」
「《サイバネット・ロールバック》! 除外サイバースを特殊召喚! スプリンガールのコストとか、バブルリーフでドローに使ったやつとか、相手に除外されたやつ……だいたいなんでもいける! ……お、この《スクリプトン》もええやん! 《デグレネード・バスター》は……二枚ってのが重そうやんな」
「《フルアクティブ・デュプレックス》……ううん、リンクモンスター二体のコストが重いのがアレやけど、出せたらマリンセスリンクが二回攻撃……重たいけど、ロマンがある……!」
「《クシャトリラ・オーガ》……なんかびみょくない? 攻撃力2800はあるけど……相手のデッキの上見て一枚除外って、マジのひすぴが七皇の剣使うときのメタくらいよな」
あらゆるカードが目については流れゆく。そんな中、運命の出会いというのは突然にある者。
検索条件を水属性モンスター全体に変えて少しの時。
「……これなんて読むん? き……たくみ……何……?」
目についた一枚、国語力が弱いチグサにはごちゃごちゃした漢字の並びにしか見えないカード名。親切なリスナーの助言を受けてもまだわからない。
――かっけぇ
――氷結界対応! 強い!
――こいつの英語名すごい好き
印象も悪すぎず、効果も豪快で爽快。半分相手依存の発動条件と、自分もまきこんでしまう難点はあるが……ちょっと難しいくらいが燃えるもの。
ムーラングレイスなど、マリンセスを守る周りのモンスターはかっこよさげなモンスターが映えると思っているチグサに、金銀のメカニカルなビジュアルはうまく刺さった。
「よし、お前うちに来い!」
・ ・ ・ ・ ・
後日セレじょメンバーの集まりにて、今までやられた分の仕返しをしたいと意気込んだチグサがデュエル開始の宣言をした。
新顔となるそのモンスターも、ばっちりお披露目できた。
「フィールドにEXから出たモンスターが二体以上いる時、こいつは手札から出てこれる! 《
「わ……! 吹っ飛ばされた!」
「カード名なんて?」
「タカクラミッツィツァホォウ!」
(噛んだな……)
「ありがとなオカミ! こっからマリンセス展開始まりや!」
「……こないだボコボコにしちゃったからどうなることかと思ったけど」
「大丈夫だよー、おチグちゃんのデッキ作りしっかりしてるし!」
「楽しそうだし!」
ニューロンでセレじょデッキは逐一更新してるんですけど、あーこのデスピアティアラだけ既に4つくらいデータある。最新版はカルテシアとか入れた代わりにスライムが抜けました。
次回の本編はクシャ小路です。レギュレーションが去年の8月頭なのでアライズハートとかパライゾスとかがない代わりに“全て”が3枚入る時代です。既にデュエル構成は書き終わってるので、楽しみにしててください。
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