第2の人生は戦術人形として (MGFFM)
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プロローグ 終わりと始まり

レプリカンズと言う映画を見てこの小説を思いつきその場のノリと勢いで書き上げました。もし人気が出そうだったら次話も投稿します。


技術の進歩とは凄い物だ。昔はただの夢物語だった物が実現したりするることもある。そして技術の進歩は俺に新たな生を与えた。

 

 

 

側から見れば俺のやろうとしていることはとても愚かなことに見えるかも知れない。とある研究組織による非合法な、死んでしまう確率の方が高いと言われている人体実験の被験者に自分から好き好んで志願する奴なんて普通居ないだろう。だがこれにも理由があるんだ。

 

申し遅れたが俺の名前はアルフ。傭兵だ。そして今死にかけている。何で死にかけているのかと言うと答えた簡単。任務中にヘマして敵に撃たれてしまったからだ。運が良いのか悪いのか分からないが即死することはなかったが話に聞く感じ俺はもうそんなに長くはないらしい。そんな中アイツらが来た。いかにも怪しい感じの雰囲気を漂わせたスーツを着た男達。その中の1人、白衣を着たリューゲと名乗った中年の男が俺に言った。

 

「君に新たな生を与えよう」

 

正直言って胡散臭い野郎だなと思った。だって俺に会って第一声がこれなんだぞ?だが男からの説明を聞いた俺はその研究内容に興味を持った。コイツらは人間の記憶などをデータ化して人形の電脳に移植すると言う実験を行なっているらしい。ただこの実験はその性質上当たり前だが人間を被験体として使う必要がある。しかし道徳や倫理観の問題からこの実験は表向きには行うことが出来ずコイツらは裏でひっそりと実験を続けていたらしい。そして俺に声を掛けたのは俺はもう直ぐで死ぬわけだから死んだ人間なら実験に使っちゃっても問題無いよね?と言うことらしい。

 

いやそれもダメだろと言うとリューゲは「今のご時世、戦争などで行方不明になる人間は大勢いますから」と言って来た。更にリューゲは俺に1つ注意事項を言って来た。

 

「この実験は先程も言った通り人間の記憶をコピー、データ化させて人形の電脳にインプットする実験だ。君の脳を人形に直接移植する訳では無い。つまり、君自身はこのまま死ぬ。そしてコピー、データ化された君の"記憶"が人形にインプットされる。このことは承知して欲しい」

 

「何だよ。俺が生き返るって訳じゃないのかよ」

 

「すまないがそう言う訳でない」

 

「まぁ良いさ。どうせもう俺は死んじまうんだ。身体を切り刻もうが脳味噌をかき混ぜようが好きにしろ」

 

「ありがとう。必ず実験は成功させるよ」

 

俺は返事を聞いたリューゲはそう言って笑った。それからリューゲは新しい身体を与える代わりに条件を色々と言って来た。I.O.Pの製造した戦術人形を実験には使うのでボディが女性型だと言うこと。もし実験が成功した後はデータ収集の為に幾つかの実験に参加すること。基本的にこちらの言うことを聞くこと。この実験のことは絶対に口外しないこと。実験後は自分が元人間のアルフだと言うことは誰にも言わないこと。自傷行為や自殺などはしないこと。などだ。自傷行為云々は新しい身体を入れた際に前の体と違うことから脳が混乱して錯乱状態になって自分を傷つけてようとする可能性があるからだそう。だからもし新しい身体が嫌になった場合は直ぐに言えとのことだった。それらの条件を俺は全部飲んだ。

 

「それじゃぁ一旦さよならだ。アルフ君」

 

「地獄で待ってるよ」

 

俺の冗談を聞いてふっと笑った男は「あぁ地獄で会おう」と言って俺に麻酔か何かを注射し俺は直ぐに意識を失った。

 


 

▶︎起動プロトコル始動

 

▶︎自己診断開始

 

確認中・・・確認中・・・確認中・・・確認中・・・

 

▶︎確認完了。電脳、及びボディーの問題認められず

 

 

▶︎メンタルモデル初期化開始

 

初期化中・・・初期化中・・・初期化中・・・

 

▶︎初期化完了

 

 

▶︎人格データ、メンタルモデルへダウンロード開始

 

ダウンロード中・・・ダウンロード中・・・ダウンロード中・・・ダウンロード中・・・

 

▶︎ダウンロード完了

 

 

▶︎システム起動シークエンス開始

 

起動中・・・起動中・・・起動中・・・

 

▶︎システム起動

 

目が覚めた。見慣れない白い天井と無影灯が見える。あれ?俺何で眠っていたんだっけ?と言うかここはどこだ?起きたばかりだからか考えの纏まらない。気配を感じ横を向いて見ると白衣を着た男がいた。リューゲだ。

 

「おはよう。アルフ君。いや、今はこう呼ぶべきか。戦術人形CM901と」

 

その言葉を聞いて俺は意識を失う前のことを全て思い出しハッとした。手術台に寝かされていた俺は身体を勢い良く起ーそうとしたがどうやら身体を縛られている様で動けなかった。

 

「ねぇ、何で縛られているの?・・・え?」

 

そう発した自分の声に俺は驚いた。聞き慣れた男特有の低い声ではなく若い女の様な高い声になっていた。いや、様なじゃなくて若い女の声だ。それに口調がおかしい。「おい、何で縛られているんだ?」と俺は言った筈なのに口から出た言葉は女の様な口調になっている。

 

「すまないね。混乱して暴れ出す可能性も考慮して縛ったんだ。そして口調が変わっているのは口調の矯正機能が働いているからだ」 

 

「何で口調まで変える必要があるの?」

 

自分が話している筈なのに声も口調も全く違うから凄い違和感を感じる。まるで俺の喋ろうとしている言葉を他の奴が喋っている様な感じだ。

 

「すまないがこれも実験も一環だ。そして口調で君の身元がバレるのも考慮してだ」

 

「口調でバレることなんて無いでしょ」

 

「念には念をだ。そしてこの矯正機能は他にも機能があってだな。もし他人にこの研究のことや自分が元人間のアルフ・ガレットだと言うことをバラそうとした時にその重要な単語を言えない様になっている」

 

「凄い念の入れようね」

 

「この研究は私の全てだからね。悪いがちゃんと意識、と言うか自我があるか確認する為に簡単な発問をするから答えてくれ」

 

「分かった」

 

「それじゃぁまず名前と年齢と性別を答えてくれ。あぁ勿論人間の時の」

 

「アルフ・ガレット。23。男。いや、元男か」

 

「所属していたPMCの名前は?」

 

「クレークフォースカンパニー」

 

「両親は今どこ?」

 

「クソテロリスト共に殺されたよ」

 

「よし!よしよし!良い感じだ。ちゃんとデータた記憶はダウンロードされている様だね。記憶の欠損も今の所は確認出来ない!つまり我々の実験は成功したわけだ!」

 

リューゲはとても嬉しそうにそう言った。この研究が私の全てとか言って研究が成功した訳じゃだからその嬉しさは相当なものだろう。そして、実験が成功したと言うことはつまり今のこの俺の記憶は俺自身の記憶ではなくてコピーされたただのデータって訳だ。あまり実感は無いがな。

 

「そりゃ良かったよ。って言うかこの拘束を解いてくれないか?」

 

先ずは自分の身体がどうなったのかこの目で確かめたい。一体どんな姿に変わってしまったのか想像も出来ない。

 

「あぁそうだな。ちょっと待っててくれ」

 

そう言ってリューゲは他の作業員達を呼び俺を拘束しているベルトを外して行った。

 

「これが新しいキミだ」

 

そう言って男は俺の目の前に姿見を持って来た。起き上がってその鏡に映った自分の姿を見た俺の驚きは多分今までの人生で1番の驚きだったたと思う。鏡に映っていたのは男の頃の面影など一切ない病衣服を着た長身の女性の姿だった。20歳ほどの見た目で顔は流石人形と言うべきか整っていて美人と言って差し支えは無いだろう。水色の瞳が特徴的で黒色のボブカットの髪が良く似合っている。身体のスタイルも良く大きな胸に引き締まったウェスト、男の頃より大きくなった様に見えるヒップとボンキュッボンと言う言葉を具現化した様な姿だ。

 

何より気になるのが胸にある確かな膨らみ。試しにその膨らみを触ってみるとむにっと言う感じの感触があった。勿論胸を触られていると言う感触もある。つまり間違いなくこれは自分に付いているものだってことだ。にしても結構あるな。

 

「どうだ?」

 

「信じられないって言うのが今の正直な感想ね。この鏡に映っているのが自分とは思えない・・・」

 

「まぁ気持ちは分かるよ。最初の内は新しい身体に慣れないと思うが、まぁその内慣れるだろう」

 

俺は男の話を聞き流しながらベッドから降りて自分の目で自分の身体を確認して行く。手や足を動かしてみたり髪の毛を摘んで見てみたり色々してみたがやっぱりこの鏡に映る少女が今の俺だと言うの信じられなかった。

 

「それ以外で今後身体に何か異常や違和感を感じた場合は直ぐに言ってくれ」

 

「分かった」

 

「さて、という事で手術前にも言った通りこれから君には色々とテストを受けてもらう訳だが、その前に着替えてもらう。いつまでもその病院服のままと言う訳にもいかないからな。流石に私達の居るここで着替えたくはないだろうからそこにある個室を使いたまえ」

 

「そりゃが親切にどうも」

 

俺はリューゲから着替えの服を受け取ると個室に移動した。個室には姿見と脱いだ服を入れる為であろう籠が用意されていた。俺は着せられていた病院服を脱ごうとするが少し躊躇してしまう。今来ている服を脱げば下には何も着ていない。つまり裸だ。見ず知らずの女の身体を見てしまうと思うと言うことで目のやり場にこまる。いや、でも自分の身体なんだし遅かれ早かれ自分の裸体を見ることになる。ならここでひよってても意味はない。

 

意を決して俺は病院服を脱いだ。壁に設置してある鏡を見てみるとそこに映るのは真っ裸の女性。何だか見てはいけない物を見てしまっている気がして目のやり場に困ってしまう。取り敢えず鏡は余り見ない様にして着替えよう。

 

用意されていた衣服は黒インナー、グレーの上着、女性用の黒色のスポーツショーツと同じく黒色のスポーツブラ、黒タイツ、上着と同じ色のショートパンツ、コンバットブーツだった。

 

女性用のパンツやブラ、インナーなんかは勿論今まで付けたことも履いたこともない物だったが少し手間取りながらも着替える。人生初の女用のスポーツショーツを履き、次に同じく人生初のスポーツブラをなるべく直視しない様にしながら自分の胸に付ける。付けてて改めて思ったけどやっぱ胸が大きいな。そして俺用に用意されたと言うのは本当の様でブラのサイズなどはピッタリだった。ブラはスポーツブラだったお陰様でブラを始めて付ける俺も簡単に着ることが出来た。

 

下着を着終わった俺は次にショートパンツを履こうとしたが、タイツがあったことを思い出した。ブラもそうだがまさか人生でタイツを履く日が来るとは予想だにしていなかったよ。慣れない手付きで若干手間取りながら俺はタイツを履き終わった。履き心地は思ったより悪くは無い。ただ女性用の物であるブラやタイツを着ていることが何だが女装しているみたいな、なんかしてはならないことをしている様な背徳感的なのを感じて恥ずかしい。

 

気を取り直してショートパンツを履く。このショートパンツはオシャレの為なのか左右で長さが違い左の方が長くて右の方が短くなっている。俺はオシャレとかはサッパリだからこう言うのは何が良いのかが分からない。

 

次に俺は黒インナーの上からグレーの上着を羽織る。この上着、ボタンやファスナーみたいなのが付いていないからこうして前を閉じずに着るのが前提の服みたいだ。別にそれは気にならないから問題はない。って言うかもしファスナーとかで閉じようとしてもこの胸が邪魔で閉じられない気がする。もし無理矢理閉じれたとしても結構窮屈なことになるだろうな。そう思いつつもう一度視線を下に向けてみると黒色のインナーを押し上げている胸の膨らみがバッチリ確認できた。何かインナーを着たことによってより胸の大きさが強調されている様に感じるが気にしない方が良いだろう。最後にブーツを履いて脱げない様に靴紐をしっかりと結んで完了だ。人生初のインナーやタイツに違和感を感じるが着替え自体は何とか終わった。着替え終わった俺は部屋から出た。

 

「うむ。良く似合っているよ。それじゃぁテストを始めようか」

 

それから俺は本当に色々なテストを受けた。簡単な座学の問題集を解いてみたり、手先の器用さを確かめたり、視力検査など身体測定や体力測定をしたり、戦術人形としての能力を確める為に射撃場で撃ちまくったりキルハウスで模擬戦闘をしたりした。初めてCM901って名前のアサルトライフルを使ったが、まるで昔から使い込んで来た銃の様に自然に動かして撃つことが出来た。話によるとスティグマシステムと呼ばれる銃と戦術人形を高度に連携させる物だそうだ。戦術人形はスティグマに適応した銃を自分の手足の様に使うことが出来るそう。そのスティグマの恩恵は凄まじく射撃テストの時は人間の頃よりも命中率が良かった。

 

様々なテストを受けたが結果はどのテストでも良好な結果を出したらしい。そして数々のテストをして全て終わる頃には日が暮れていた。

 

一通りテストを終えた俺は研究施設の屋上に来て手すりに寄り掛かりながら休憩がてら外の景色を眺めていた。極秘の研究をしている施設なだけはあってこの施設はゴーストタウンのど真ん中にある。パッと見はこの施設は周りの建物と同じ様に廃墟に見える様になっている。と言うか廃墟だった所を内部だけ改造して研究施設として使っているらしい。

 

そんな建物の屋上からの眺めは意外に良くて夕日に照らされるゴーストタウンは結構絵になる。その景色を眺めていると後ろから気配を感じた。振り返ってみるとリューゲが立っていた。

 

「お疲れ様」

 

「まさかあんなに大量のテストを受ける事になるとは思わなかった」

 

「まぁ色々と調べたかったからね。身体の調子は問題ないかな?」

 

「えぇ。この女の身体にはまだ慣れていないけど調子はすこぶる良好よ」

 

「それは良かった」

 

「・・・ねぇ。ちょっと哲学的な質問をしても良い?」

 

「私に応えられる内容ならね」

 

「今の私のアルフとしての記憶は、男だった私の記憶をコピーしたものなのよね?」

 

「あぁ。そうだ」

 

「なら今のこの私って人間なの?それとも戦術人形なの?」

 

本当の俺、アルフ・ガレットはリューゲの話によると記憶のコピーとデータ化の実験を受けた後の7時間後に死んだらしい。そして今の俺は言ってしまえばただのアルフ・ガレットと言う人物の記憶のデータから作られた人格だ。果たして今の俺は俺なんだろうか?アルフ・ガレットだと言えるんだろうか?人間と言えるのだろうか?

 

「考え方や捉え方によってはどちらとも言えるな。だが私は今の君も人間、アルフ・ガレットだと思うよ。君は哲学的ゾンビと言うのを知っているかい?」

 

「詳しくは知らないが思考実験のやつだよな?」

 

「あぁ。哲学的ゾンビは見た目の中身も普通の人間と全く一緒で社会性もあり喜怒哀楽もあるが哲学的ゾンビにはクオリアを一切感じないし、主観的な意識も持たない。だが嬉しいことがあれば喜ぶし悲しいことがあれば涙を流して悲しむ。だがそれは感情がある訳ではなく機械的にプログラムされたものだ。だが普通に話している分には本当の人間と何ら変わらない。例えば君の友人が哲学敵ゾンビだったとしよう。だがその友達が哲学的ゾンビだと言う情報を事前に聞かない限り君は友人が哲学的ゾンビだと見抜くのは不可能だ。つまり、最初にも言った通り考え方や捉え方によってどちらとも言えると言うことだ。第三者から君が人間なのか哲学的ゾンビなのか判断は出来ない。そこで君に質問だ。君は人形と話したりしたことはあるかな?」

 

「えぇ。何度か」

 

今現在、戦争や崩壊液の汚染などで人口は激減してしまっている。人口が少なくなったと言うことは労働力が減ってしまったということでそれを補う為に作られたのが人形だ。だから今のご時世、人形に合わないことは殆どない。

 

「人形の話になるとさっき言った哲学敵ゾンビの話題によくなる。人形は高度なAIを搭載しているただのロボットだ。だが本当の人間の様に喋り感情もある。だから人によっては人形も人間だと言う人も居るがその反対の意見の人もいる。どんなに人間らしくても所詮プログラムだってね。因みに私はどっちかと言うと人形も人間だと思っている。所詮人間や動物のDNAだってプログラム様な物で、脳や体は電気信号で動いている。人形は中身を取り出せば生体部品と機械の塊で人間は中身を取り出せば肉の塊だ。それにどれ程の違いがある?」

 

「確かに。そう言われるとどっちも変わらない様に思えるわね」

 

「だろう?そもそも皆深く考え過ぎだと私は思うんだよ。人形も人間と同じ様に喋るし喜怒哀楽もあるし個性もある。人間と全く変わらない人形は人間と言って良いと思うんだよ。それを人間じゃないって言うならじゃぁ人間という定義はなんなんだって言うまた哲学的な話になってしまう。すまないね。あまり私は人を元気づけたりするのが苦手なもので上手いこと言えてないが、君が自分はアルフ・ガレットと言う人間だと思うなら他の誰が言おうと君はアルフ・ガレットと言う人間なんだ。だって君にはアルフ・ガレットとしての記憶も人格もるんだからな。姿形が変わっても君は君だ。他の人は君が人間かどうかどうかなんて否定も肯定も出来ない」

 

俺は再び夕日に照らされるゴーストタウンを見ながら言った。

 

「確かに貴方の言う通り深く考え過ぎてたのかも。私は今、この景色を見て綺麗だな思ってる。この感情は機械的にプログラムされた物なのかもしれないけどこうして綺麗だと思ってる。それで良いんだと思う」

 

人間がこの景色を見て綺麗と思うのと機械がプログラムでこの景色を見て綺麗と思うことに違いはあるんだろうか。プロセスが少し違うだけで結果は同じだ。

 

「ありがとう。スッキリした」

 

「それは良かった」

 

「ところで、前から気になっていたんだけどリューゲって名前、偽名でしょ」

 

「そうだ。Lüge(リューゲ)はドイツ語で嘘と言う意味がある」

 

「分かり易いことで」

 

「こんな実験をしている以上なるべく我々のことは知られない様にしたいからね。名前も教えられないんだよ」

 

「だろうね」

 

病院で死んだ俺も、戦術人形として生まれ変わった俺もどちらも俺だ。姿や性別は変わってしまったがこれからも俺はアルフ・ガレットとして生きて行こうと思った。

 


 

俺が戦術人形のCM901として目覚めてから1週間が経ったある日、それは突然言われた。この1週間色んなテストなどをして色んなデータを収集をしていた。戦術人形の身体に慣れる為の特別訓練をしたり、思考実験をしてみたり、より実戦的な模擬戦をしてみたり、1対多数の戦闘をしてみたり、他の戦術人形と戦わせてみたり、車に乗って激しい運転をしてみたりなど相変わらず色んなことをさせられていた。

 

が、そんなある日、最近日課になりつつあった屋上で外の景色を眺めているとリューゲがやって来た。その表情はいつも俺のデータを収集している時に見せるワクワクしている様な、何処か楽しそうな感じの元気は無く暗かった。何かあったのは明らかだ。俺の前にだったリューゲは少し躊躇う様に静かに話した。

 

「突然の事でで申し訳ないが……君を廃棄処分する事になった」

 

「・・・・・・・・え?」

 

突然の廃棄処分発言に俺は頭が真っ白になった。廃棄処分だって?俺を?何で?

 

「今まで君から収集したあらゆるデータは本当に素晴らしい物だった。だが上は君のその素晴らし過ぎる結果を見て逆に恐れてしまっているんだ。上の連中は私達と違い君をただの人形、機械としてか見ていない。だから普通の戦術人形以上に人間らしい、と言うか人間そのものである君を人類にとって脅威になり得る危険な存在になる可能性が極めて高い危険因子だと決め付けて今回の研究データだけ保存して君は廃棄処分するのを一方的に決めて来た。鉄血の反乱の件もあるから上の連中は余計に君を恐れてる。我々に反旗を翻すのではないかってね」

 

つまりこの研究を進めていた上の連中は人間らし過ぎる俺を見て鉄血みたいに反乱されそうだからその前にぶっ壊せって言って来た訳か。俺は思わず失笑した。こんなのってアリかよ。

 

「意外に短い第2の人生だったわね」

 

俺の戦術人形としての人生はセミと変わらない長さだった訳だ。思っていたより短かったな畜生。

 

「私は君を廃棄処分にするなんてごめんだ。上の気まぐれで1人の男の人生を簡単に終わらせてたまるか」

 

俺はリューゲが手を握り締めて何かを決意した様な表情になったことに気がついた。

 

「何をする気?」

 

「君をここから逃す」

 

「でも私が居なくなったら問題になるでしょ」

 

「ここには予備として同じ姿形をした人形がストックしてある。それをダミーに使う。上の連中は廃棄場で廃棄処分される瞬間をリモート映像で見ることしかしないからバレない筈だ。処分は2日後で遅くても明日には上の連中が寄越して来た見張り役の奴らが来る筈だから君は今日中に逃げてくれ。荷物や装備は直ぐに用意する」

 

「見張り役が来るなら同じ姿の人形があっても動いたり喋ったりしなかったら怪しまれるでしょ」

 

「そこは君が廃棄処分を嫌がって暴れたから強制スリープモードにしていると言い訳するさ。さ、善は急げだ。脱走の準備をするぞ」

 

俺はリューゲに連れられて空き部屋らしき部屋に案内された。その部屋にはリューゲ以外にも職員がいて話によるとリューゲと同じく俺を逃す為に集まったそうだ。

 

「皆んな。私なんかの為にありがとう」

 

「前から上には不満があったので良い機会ですよ」

 

「そうそう。いつもいつも一方的に無理難題を押し付けてくるのがムカつくのなんの」

 

「やっと完成したかと思ったら追加機能を要求して来る時とか殺意湧きますよね」

 

「監視カメラはちゃんと工作したか?」

 

リューゲが職員の1人に聞くとその職員はパソコンを操作しながら頷いた。

 

「はい。今はここら辺周辺のカメラは停止させています。今録画した映像を編集で繋ぎ合わているのでこの時間は誰も居なかった様に見える筈です。そうだ、アルフさんには廃棄処分に嫌がって暴れる映像を証拠として撮らなきゃなので協力宜しくお願いします」

 

「分かった」

 

「それじゃぁ何処で暴れようか。ブリーフィングルームにするか?」

 

「良いと思う」

 

ブリーフィングルームではよく今日の日程などを聞いていたからリューゲから廃棄処分の話を聞く場所としは問題無いだろう。と言うことで一旦リューゲとブリーフィングルームに向かった俺はリューゲから廃棄処分の話をもう一度聞き、そして近くにあったパイプ椅子を投げたり机を蹴り飛ばしたりなど思いっきり暴れてやった。それからリューゲがタブレットを操作して実際に俺を強制スリープさせた。俺は意識を失いその場にぶっ倒れた。

 

「良い感じに撮れてましたよ」

 

再び意識を取り戻した俺にさっきの職員はパソコンでさっきの映像を確認してサムズアップしてみせた。映像には俺がぶっ倒れた後駆け付けてきた警備員が倒れた俺を別室の研究室に運びベッドに縛り付けるまでバッチリ写っていた。

 

「この強制スリープさせたりする信号は最長でも1キロ程しか届かない。つまりこの施設から1キロ以上離れれば幾らこのタブレットや他の端末で操作しても君を強制スリープさせたりすることは出来なくなる。この施設から出たら真っ直ぐ西へ進め。この方向なら誰にも会ったり目撃させることは無く逃げることが出来る筈だ。本当は車とかを貸してやりたいんだが車が無くなっていたら怪しまれてしまうからな。すまないが徒歩で移動してもらうよ」

 

リューゲは地図を机の上に広げると逃げる方向を指でなぞりながら説明をした。

 

「分かった」

 

20分も歩いとけば1キロなんて距離は直ぐだ。問題はそれから何処に向かうかだが、近くの街に行くのは少し危険かも知れないな。近く街だと研究所の関係者がいる可能性がある。地図を見てみると少し遠いが西南方向に小さな街がある。ゴーストタウンとかではなく人がちゃんといる街だ。

 

「この街って人が居る街なのよね?」

 

「あぁ。街と言うか街だったゴーストタウンに住む家を失った人間が集まって出来たスラムみたいな所だと聞いている。逃げ込む場所としては良いだろう」

 

「持って来ました!」

 

地図を見ながら逃げる方向について議論していると部屋のドアを勢い良く開けて男が入って来た。走って来たんだろう。息切れした職員が地図を広げていた机に俺の装備や銃を置いた。わざわざ持って来てくれたのか。俺はその職員に礼を言いニーパッド、チェストリグ、拳銃用のホルスター、拳銃の予備マガジンを入れているポーチなど装備品を付けていく。そしてサイドアームのP320の9ミリコンパクトモデルに弾の入ったマガジンを入れてスライドを引いて弾を装填し、安全装置を掛けて腰に付けたホルスターに入れる。チェストリグにはCM901の予備マガジンを5個刺してCM901にもマガジンを入れ、チャージングハンドルを引いて弾を装填する。セレクターはセーフにしておく。

 

「後これを。必要な物が入っている。こっちのコートは姿を隠す為だ」

 

そう言ってリューゲから渡されたのは黒色のリュックとコート。リュックを受け取るとかなりの重量を感じ色んな物が入れてあるんだなと分かった。そしてコートはフード付きの物で実際に着てみると全身を隠すことが出来た。リュックを背負い全て準備を終えた俺は手伝ってくれた職員達に礼を言ってからリューゲに連れられて施設の裏口に来た、

 

「こんな結果になってしまってすまない」

 

「謝る必要なんてない。こうして危険を顧みず私を逃がそうとしてくれてるじゃない」

 

「もし今後身体に異常が発生したりしたら連絡してくれ。これが私の電話番号だ。いつも使っているのとは別のな」

 

「分かった。色々とありがとう。気をつけてね」

 

「それはこっちの台詞だ。これから君は1人で生きて行くことになるんだからな」

 

「当てはあるから大丈夫」

 

「そうか。それじゃぁ幸運を祈るよ」

 

「そっちもね。今までありがとう!」

 

俺はそう言ってフードを被ると走って施設から離れて行く。リューゲも見送ったりはせずに直ぐに施設の中に戻って行った。こうして俺、アルフ・ガレットは第2の人生を戦術人形として生きて行くことになった。これはそんな俺の話だ。




最後まで読んでくれた皆さん。ありがとうございます。

皆さんはもし本当にドルフロの人形の様なアンドロイドが居たとしてそれはもう人間だと思いますか?それともどれ程人間ぽくても機械は機械だと思いますか?自分は人間と言っても良いんじゃないかと思っています。

もし良かったら感想も書いて言ってください。


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