ガンナーズ!! -女子高生×銃撃戦×青春!?- (k9suger)
しおりを挟む

SH始めます!
第一話・信濃川さんとの出会い


「高速道路上に三人......全員軽装備だね、偵察かな?」

 

 隣におる凪沙はんは、黒色の小さいバードウォッチング用の双眼鏡を覗きながら、遠くに見える高速道路の跡地を指さした。

 凪沙はんが指をさす方向にM700を向けて、スコープを覗きゼロインを合わせる。

 

 調整を終わらしてターゲットを確認してみると、迷彩色のジャケットを着て周囲を警戒しながら歩いている敵さんがよう見える。

 

「そうかもなぁ。見た感じアーマー薄っぺらくても正面戦闘向きやないし、高速道路らへんの索敵にでも来たんかな?」

 

「そんで、あの人達は倒せそうなの?」

 

「うん。体をモロに出しとるから簡単に仕留められるとは思うけど、その前に稔はんに連絡しぃひんとね」

 

 ウチがそう言うと、凪沙はんは腰のあたりからぶらさげとったトランシーバー取り出して、稔はんに連絡を取る。

 

「はーいこちら凪沙です。高速道路上のエリアF3に軽装備の敵が三人居て翼ちゃんは簡単に倒せるって言うんだけど、どうする?」

 

『えっとその位置なら主力部隊とも遠いと思うので、ひとりでも倒せるのであれば狙撃をお願いしたいです』

 

「りょーかい」

 

 凪沙さんはトランシーバーのボタンを押して通信を終わらせる。

 

「だってさ翼ちゃん」

 

「わかったで」

 

 肺に溜め込んでいた空気を吐き出す。スコープに刻まれた十字の線が高速道路場を慎重に歩く敵の頭を捉ええた。

 

 開幕狙撃で退場なんて運がなかったな。

 

 引き金を引く。

 腕にかかる反動を受け流すと、すぐさまコッキングをして二人目の獲物に備える。チャンバーから弾き出された薬莢が地面に落ちて心地よい金属音を奏でた。

 

「大当たり」

 

「残りの二人は? コッキングしとったせいでスコープ覗かれへんかった」

 

「ひとりは青いコンテナの後ろで、もうひとりは白いバンの後輪に隠れてる」

 

「ウチらの位置はバレてる感じかな?」

 

「大方の方向は知られていると思うけど、サプのお陰で詳しい場所までは知られてないと......って青いコンテナの左側から顔だしてる」

 

 凪沙はんの言うたとおり、敵さんのひとりが青いコンテナから無防備に顔を出しとる。息を吐いて指先に意識を集中させる。

 

 引き金を引く。

 

「あっ右に逸れた。それと今ので完璧に場所バレたかも」

 

「ほな、もう顔は出さへん感じかな?」

 

「そうだと思う......あれ? バンの後輪に隠れてる人の頭がほんの少し見えてるんだけど、狙える?」

 

 素早くコッキングをして、スコープの十字を少し飛び出しとる頭に合わせる。

 次は外さへんよう慎重に.......

 

「ナイスだよ翼ちゃん」

 

「ありがとう凪沙さん。それと場所変えよか銃声鳴らしすぎたわ」

 

「りょーかい」

 

 

     ◇  ◇  ◇

 

 

 まだ蕾が多い桜の木が立ち並ぶ並木道を歩いて高校を目指す。

 これから始まる新生活に期待して、晴れやかな表情の人もいれば、顔を俯かせて灰色のコンクリートを真っ直ぐ見つめている人もいる。

 

 私はまだ肌寒い春の風に吹かれて、冷たく冷えた手をこすりながら足を進める。

 

 背中に押し掛かる教科書の重さと、高校に続く登り坂のせいで少しの気怠さを感じながらも、まだ着慣れないセーラー服の感覚が私の心を弾ませた。

 

 と書けばこれから始まる高校生活に胸を躍らせながら高校を目指す乙女と共に爽やかなBGMが流れている情景をイメージするかもしれないが、実際は違う。

 

「き、きつい......」

 

 日々の運動不足が原因で、私の体力は既に限界を迎えようとしていた。

 

 主要五教科の教科書・ノート・参考書や英語の辞書と国語辞典の重さが私の背中に伸し掛かる。それに加えて、スキーのダウンヒルが開催できそうな急勾配のせいで足の筋肉が攣りそうだ。

 

「地獄だ......こんな高校選ばなければよかったぁ」

 

 吹き付ける春の風はまだ冷たいから、手の先や顔面は冷えて冷たいのに体は軽く汗を掻いている。

 

 登校初日で転校を心から望んでいる生徒は私だけじゃないだろう。

 

「あぁやっと頂上についた」

 

 息を上げながら坂道を登りきると、目指している学校が見えた。

 薄汚れた白い外壁には正方形の窓が等間隔に並んでいて、無機質でデザイン性の欠片もないその建物はまさしく公立高校のそれだった。

 

 正門で、近所からのクレームが心配になるほどの声量で挨拶をするガタイの良い男の先生を軽い会釈で受け流し、校門を潜り玄関で靴を履き替えて教室を目指す。

 

 私達一年生の教室は四階にあり、坂を登りきって疲れた足に階段がさらなる追い打ちをかけたせいで、私が教室に到着する頃には足の感覚がもうなかった。

 

        ◇

 

 窓から差し込まれている朝の傾いた日差しが教室の中を照らしている。

 殆どの生徒は机の上に置かれた「入学案内」に目を通していたり、ぼんやりと窓の外を眺めて暇そうに過ごしているのが大半だが、中には教室の隅で楽しげに話している人もいる。

 恐らく同じ中学校出身なのだろう。

 

 黒板に貼られた座席表を目印に席を見つける。背負っていたリュックサックを肩から下ろして机の脇に置いた。

 クリアファイルを取り出してプリントを挟みリュックの中へと仕舞う。

 

「申し訳御座いません。席をお間違えになられてはいませんか?」

 

 右側から声がかかる。

 

 制服の上から薄手のコートを羽織っているその女子高校生は、黒板の方を指差した。その指先の動きを辿るように私の顔は黒板の方へと向けられる。そこには座席の配置図が貼られていた。

 

「あっごめんなさい。後ろでしたね」

 

 座席の紙を改めて見ると座る場所がひとつズレていた。

 

 私は少しの恥ずかしさを感じながら軽く会釈して後ろの席に移る。

 声を掛けてきた女子生徒の、長い黒髪と相性の良い可憐で凛とした表情に何故か自然と目が惹かれる。

 

 その可憐な少女を無意識のうちに目で追っていたのは私だけでなかったらしく、クラスに居た大方の男子生徒はその美しさに目を奪われていて、女子生徒も数人の例外を除いた殆どが突然現れた美貌に目を向けている。

 

「わたくし信濃川澄玲(しなのがわすみれ)と申します。これから宜しくお願いしますね」

 

 信濃川と名乗った女子生徒は私に向かって深々とお辞儀をする。

 

「えっと私は若葉(わかば)(みのり)って言います。こちらこそ宜しくお願いします」



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

第二話・SH部入ります

「あの若葉さん、御一緒にお昼頂きませんか?」

 

 四時間目の終わりを告げるチャイムが鳴り昼休みが始まると、前の席に座っていた信濃川さんがお洒落なデザインのランチバックを掲げて見せる。

 

 初日から誰かと一緒にお弁当を食べられると思ってなかったので嬉しい。

 

「良いよ......ってお弁当豪華だね」

 

「別に私が作ったものでは有りませんよ、作って頂いたものです」

 

 信濃川さんのお弁当には、色とりどりのおかずがぎっしりと詰まっていていた。

 漆塗りの日本風なお弁当箱に雰囲気を合わせて料理を作ったのか、中に入っている物はどれも和風の料理だった。

 信濃川さんのお母さんは相当料理に力を入れているらしい。

 

「そういう若葉さんの料理だって可愛らしくて美味しそうじゃないですか」

 

「お母さんがこういうの可愛いの好きでさ。やめてって言ってるんだけどね......」

 

 私のお母さんはいわゆるキャラ弁的なものが好きで、お弁当の蓋を開けるたびに、動物とかハートマークとか流行りのアニメキャラの顔とかを見る羽目になる。

 

 もう高校生なので恥ずかしいと言っているのだが、やめる気配は全くない。

 

「良いじゃないですか、わたくしはこの様な可愛らしいお弁当素敵だと思いますよ......今度わたくしも作って頂こうかしら。あの写真とっても良いですか?」

 

「うん良いよ、でもそんなに凄いものじゃないと思うけど......」

 

 信濃川さんはポケットからスマホを取り出して私のお弁当の写真を取る。信濃川さんにとっては可愛い弁当が珍しかったのか角度を変えて何枚も撮影していた。

 

「そういえば若葉さんは何処の中学校に在籍なさっていたんですか?」

 

 信濃川さんはだし巻き卵を箸でちょこんと摘みながら私に尋ねる。

 

「えっとね渓相中学校。東区の端っこにあるんだけど知ってる?」

 

「名前だけは聞いたことがあります。確か野球が強いと......」

 

 確かに私の母校である渓相中学校の野球部は全道大会の常連校だけど、その先へ進んだことは過去に一度もない。

 実情は“ちょっぴり強い”程度なのだ。

 

「まぁ誇れるほど強くはないよ......信濃川さんは?」

 

「えっと、わたくしは躑躅山女子学院の中等部から」

 

「えっ躑躅山って白石区にある?」

 

 信濃川さんは頷く。

 躑躅山女学院は言わずとしれた、私立の名門女子高校と中学校。制服がお洒落で可愛らしく、学校の設備も整っているらしいが入学には結構なお金が掛かる。

 

 詳しくは知らないけど皇室関係者も通っていたとか。

 

「でも躑躅山女学院ってエレベーターで高等部に行けるよね? なんでわざわざこんな高校に入学したの?」

 

「まぁ周囲と馬が合わなかったんですよ。お金を払っていただいた両親には申し訳ないですが、居心地が悪くて......ってこんな話どうでも良いですね御免なさい」

 

 最後の方はお茶を濁されてしまったが、私は家庭の話に首を突っ込むほど非常識な人間じゃない。無理矢理話題を変える。

 

「そうだ信濃川さんって趣味はあるの?」

 

「趣味ですか......ありふれてはいますが、映画鑑賞や読書などを嗜んでいます。最近はヘミングウェイの本を読みましたね。若葉さんはどのようなご趣味を?」

 

「えっと......その......」

 

 自分から話を振っておいて、返答を全然考えていなかった。

 正直言えば趣味と言えるような物を私は持っていない。家に帰ったら大抵FPSに時間を割いているタイプの人間だから映画も見なければ読書もしない。

 

 でもまあそう考えるとゲームが趣味なのかな?

 

「ゲームかな?」

 

「そうなんですか......わたくし、その手の遊びには全く触れてこなかったんですよ。具体的にはどのようなゲームを為さっているのですか?」

 

 具体的にと聞かれてもなぁ......ゲームに疎いならタイトルとか言ってもピンと来ないだろうし、内容とかを説明したほうが良いのかな?

 

「私がよく遊ぶのはエフピーエスっていうジャンルなんだけど、オンラインで対戦しながら銃を撃ち合ったりするゲームなんだよね」

 

「銃を撃ち合うんですかっ?」

 

 突然信濃川さんのテンションが上って会話に対する姿勢が前のめりになる。

 

「う、うん」

 

「そのようなゲームも世の中には存在してるんですか。今度おすすめの面白いゲームなどを教えて頂こうかしら」

 

「わかった。今度教えるね」

 

 その後は趣味の話から高校の印象や、中学校の思い出などについて話した。

 その流れで、中学校時代にの話で盛り上がった時、ふと思い出したかのように信濃川さんが私に質問した。

 

「そういえば若葉さんはどこの部活に入る予定なのですか?」

「えっとねぇまだ全然考えてなくて......もしかした帰宅部になるかも」

 

 とは言ったものの現時点では、ほぼ帰宅部に決定している。

 お母さんから口を酸っぱく「どこか部活にでも入りなさい」と言われてるけど、早く家に帰ってシーズンランクを上げる方が部活で汗を流すよりも楽しい。

 

「もし決まってないのでしたら今日の放課後新入生勧誘会へ行きませんか?」

 

 そういえば朝のホームルームで、色々な部活が体育館で新入生に向けた部活動紹介を行うとか言っていたような気がする。

 特に放課後はすることがないので断る理由もない。

 

「良いよ、予定もないし。それで信濃川さんはなんか気になる部活でもあるの?」

 

「はい、興味のある部活がありまして......これです」

 

 そう言って信濃川さんはブレザーの内ポケットから『スポーツシューティング部部員募集』と大きく書かれたプリントを私に見せた。



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

    SH部入ります②

 その日の放課後。

 

 学校の体育館はどんな部活に入ろうか悩む新入生と、なんとか新入部員を確保したい上級生達でとても混雑している。

 入学する前から「この高校の部活は他と比べても盛んだ」とは聞いていたけど、ここまで盛り上がっているとは正直思わなかった。

 

「結構人多いね......」

 

「ただ部活動を紹介するだけの会場なのかと思っていましたが、どうやら違ったようですね」

 

 体育館の中は各部活がそれぞれの“ブース”を用意して、詳しい活動内容や部の雰囲気なんかを紹介しているらしい。

 なんか企業の合同説明会みたいな雰囲気だ。

 

「それにしても信濃川さんがスポーツシューティングに興味あるなんてちょっと意外だったな。文化系の部活に入るのかと思ってた」

 

「兄の友人がスポーツシューティングを嗜んでいて、話には聞いていたんです」

 

「じゃあこの学校に入学したのはスポーツシューティングをする為なの?」

 

「いえ違います。入学してから偶然このポスターを見つけて、スポーツシューティング部が有るなんて思ってもいなかったので、驚いたんですよ」

 

 私と信濃川さんは『女子運動系部活コーナー』と書かれた場所へ行く。

 

 文字通り多くの女子運動系部活のブースが並んでいて、女子バスケットボール部や女子バレーボール等のメジャーな部活から、女子アーチェリー部などの珍しいものも並んでいる。

 

「ねぇねぇテニスに興味ない?」

 

「サッカーの体験してみたら結構面白いけど」

 

「その身長ならバドミントン強いと思うんだけど」

 

 それぞれのブースの前を通る度に、上級生から声を掛けられる。

 どうやら私達以外の新入生も被害に遭っているようで、明確な意思を示さないと強引にブースの中まで連れて行かれてしまう。

 

「なんか熱気が凄いね......」

 

「部活数が多いですからどこの部活も新入生を渇望なさっているのでしょうね」

 

 

「おっそこの美人さん男バスのマネージャーとか興味ない?」

 

「わたくしマネージャーになるつもりはないので......」

 

「大丈夫だから。力仕事もあんまりないし、それに君美人だからさ」

 

 顔立ちが良いからなのか、誘いの声がかかるのは大抵信濃川さんで私ではない。

 歩く度に声を掛けられて断りの返事を、困ったような顔でしている信濃川さんを少しだけ正直少し羨ましく思う。

 

「コラッ女子コーナーでマネージャーの募集は禁止でしょ?」

「あっ樋口先生......」

 

 信濃川さんに声を掛けてきたバスケ部の部員が、赤いジャージを着た体育科の先生に腕を引っ張られながら、コーナーの外へと連れ出される。

 連行されながら、去り際に「まってるからぁ」と何度も叫んでいた。

 

 その様子がマヌケで、当の本人である信濃川さんは恥ずかしそうに顔を下に向けていたけど、私は声を出して笑ってしまった。

 

     ◇

 

「スポーツシューティング部見当たりませんね......」

「看板もキャッチも見つからないね」

 

 色々なキャッチに声を掛けられたり、パンフレットを渡されたりしたけど未だに肝心のスポーツシューティング部を見つけることが出来ていなかった。

 もしかして文化系......な訳ないか。

 

「そういえば、そのポスターどこで貰ったの?」

 

「二階の掲示板に貼ってあった物なんですが」

 

「えっじゃあ勝手に剥がしてきちゃったの?」

 

 信濃川さんは、私が何に驚いているのかをイマイチ理解できていないようで「取ってはいけない物だったのでしょうか?」などととぼけたことを言っている。

 

「......まぁいいや、そのポスターに活動場所とか書いてないの?」

 

「えっと四階の化学準備室とは書いてあったんですが、てっきり勧誘会にブースが有るものだと思って......若葉さんには無駄足を運ばせてしまいました」

 

 そう言って信濃川さんは私に頭を下げる。

 

「良いよ別に、無駄足って言ったってほんの少しだけだし。部室行こう」

 

 

 私と信濃川さんは勧誘会場の体育館を出て階段を登り、スポーツシューティング部の部室がある四階を目指す。

 階段からかなり奥の方に進むと目当ての『化学準備室』に到着する。

 

「誰も居ませんね......部屋を間違えたんでしょうか?」

 

 何度かドアをノックしても返事がなかったので「失礼します」と声を出しながらドアを開ける。鍵などは掛かっておらず簡単に開いた。

 

 しかし部屋の中には誰も居なくて、本当にここが部室なのか心配になる。

 

「あっ若葉さんこれ見てください、スポーツシューティングに使用する銃が」

 

 準備室の中央に置かれた机の上に置いてあった段ボール箱の中には二丁の拳銃と畳まれたTシャツが入っている。

 信濃川さんは「これを試合では撃つんですね」と小さく呟いて手に取った。

 

「わたくしスポーツシューティング用に限らず、直接銃を見るのは初めてで......こんな感じなのですね思っていたよりもかなり重たいです」

 

 信濃川さんは熱心にハンドガンを眺めている。その様子はまるで買った貰った新しい玩具を期待の眼差しで見ている子供のようだった。

 

「あっ危ない」

 

 信濃川さんが銃口を覗き込もうとしたので、私は思わず信濃川さんからハンドガンを取り上げた。

 チャンバーを確認してみると、幸い銃弾は装填されていなかったが、念の為マガジンを外して残弾がないことを確認してから信濃川さんにハンドガンを返す。

 

「ごめんなさい、わたくし夢中になっていて」

 

「慣れてないと銃口の管理とかって出来ないよね。まぁ最初は意識しないと出来ないかもしれないけど、使ってくうちに出来るようになると思うよ」

 

 FFのあるゲームだったら銃口管理を怠ると重大なプレミに繋がってしまうので、無意識のうちに気をつけるようになってしまっていた。

 こうゆうのを職業病っていうのだろうか?

 

「それと若葉さん、なんか銃の扱いに慣れていませんか?」

 

「そうかな? そんな事ないとは思うけど......」

 

「でも、今の動きとかかなりスムーズでしたよ迷いがないと言いますか......」

 

 多分日頃からFPSをプレイしているせいで無意識のうちにリロードモーションなどを覚えてしまったのだんだと思けど、今までに銃を持ったことがなかったのに、すんなりと体が動いてしまった事に私自身も驚いている。

 

「もしかすれば、その様なゲームをプレイされている若葉さんであればスポーツシューティングも楽しめるのではないですか?」

 

「まぁそうかもしれないけど......」

 

 信濃川さんはそう言うけど、実際に駆け回って銃を撃つのとコントローラーを使ってゲーム上で遊ぶのはぜんぜん違う。

 そもそも体力がないからリアルでは全然動けないしチームの足手纏になりそう。

 

「でもまぁ興味がないわけじゃないけど......」



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

    SH部入ります③

「もしかして新入部員の方ですか?」

 

 私と信濃川さんが銃を見ていると、背後から声がかかる。

 

 振り返ると、高校指定のジャージを着たボブの女の子が立っている。背はそこまで高くないけどスラリとした体付きで、運動神経が良さそうな人だった。

 

「その、まだ入部は決めていないんですが、スポーツシューティングに少しだけ興味がありまして、是非どんな部活か見てみたいなと思いまして」

 

「私は信濃川さんに付いてきた感じで、入部するかは決めてないんだ」

 

「そうだったんですか......それでお名前は?」

 

 私と信濃川さんはクラスと名前を伝えるだけの軽い自己紹介をする。

 

 そうすると、ボブの女の子も私達に続くように「自分は一年三組の種島由加って言います」と自己紹介をして軽く頭を下げた。

 

「それで、スポーツシューティング部はどのような活動をなさっているのでしょうか?」

 

 そう信濃川さんが尋ねると、種島さんは少し申し訳なさそうにして答える。

 

「それが......この部活は昨日に設立申請を出したばかりで、まだ正式に部活を設立すら出来ていないんですよね」

 

 私は、だから体育館にブースがなかったのかと納得する。

 

「それに、この学校って部員の人数が少ないと、部活ではなく同好会判定になるので、今のままでは部活動としてSHに取り組めるかも怪しい状況なんです」

 

 種島さんはそう言って“はぁ”と溜め息を付いた。

 

「あの、部員が集まらないのは、スポーツシューティングに興味のある女子生徒が少ないからなのでしょうか?」

 

「それも理由のひとつだとは思いますけど、一番の理由はこの学校にSH部が存在していることを知らない生徒が多いことだと思います」

 

 私も信濃川さんにポスターを見せられるまで、この学校にスポーツシューティング部が有ることを知らなかった。

 私と同じ様に部活の存在を知らない生徒が居ても不思議ではない。

 

「一応スポーツシューティング部の宣伝ポスターも何枚か貼ったんですが、そのうちの一枚剥がされてしまったりしたんですよね......」

 

 私はそっと信濃川さんの方を見る。

 信濃川さんは普段と変わらない様子で「そうなんですか、それは災難でしたね」と相打ちをしているが、どことなく目が泳いでいる。

 

     ◇

 

「由加はん、申請書の下書き持っとる? なんや手続きに必要らしいねんけどウチは持ってへんのや......」

 

 廊下から慌ただしい足音が聞こえてきたかと思えば、化学準備室ドアが勢いよく開らかれ、ショートヘアの快活な女の子が顔を出しす。

 

「それなら持っています......はい、これです」

 

「おーきに」

 

 種島さんは背負っていたリュックサックからプリントを取り出すと、その女の子に手渡した。

 関西弁の女の子はそのプリントを受け取ると「ほな」と言って走り去っていく。

 

「あの、今の方は?」

 

「自分と一緒にSH部を立ち上げてくれた平坂さんで、色々と申請の手続きとかを手伝って貰ってるんですよ。本来は部長である自分の仕事なんですが、書類関係の仕事がどうも苦手で......」

 

 と種島さんは申し訳無さそうに話す。

 

「それよりも折角部室まで足を運んでくれたんですから、SHの体験でもしてみますか?」

 

 種島さんは話題を変えるようにそう言うと、机の上に置いてあるダンボールから、先ほど私たちが見ていたハンドガンを取り出す。

 

「色々と説明したいのは山々ですが、まずは撃ってみますか」

 

 そう言いながら種島は、試験管などが並ぶ化学準備室の棚に置いてあったビニール袋から、弾丸とガスボンベのような物を取り出す。

 

 そして「ここが取れるんですよ」と言いながら弾丸と薬莢を指で引っ張って切り離す。弾頭はプラスティックとスポンジで出来た玩具みたいな見た目だけど、薬莢はしっかりとした金属で作られている。

 

「仕組みは実銃とほぼ同じですが、火薬ではなく可燃性ガスを使うんですよ。まずはこうして弾頭と薬莢を組み合わせて......この穴からガスを入れれば弾薬が完成です」

 

 その後も同じような作業をして、何個か弾薬を作る。

 

「あとはマガジンに弾薬を詰めてリロードすれば撃てる状態になるのですが......その前にこれを着けてください」

 

 種島さんは私と信濃川さんにゴーグルを差し出す。

 

 スポーツシューティングで使われる銃の威力は法律の範囲内で決められた数値はあるものの、目に当たれば失明する危険がある。

 そんな事を説明しながら種島さんは、ハンドガンからマガジンを引き抜いて弾薬を籠める。

 

「はい、これで準備は完了です。どちらが先に撃ちますか?」

 

 元からスポーツシューティングに興味があった信濃川さんに先を譲る。

 

 ハンドガンで狙うのは、教室の端に置かれた少し大きめの消しゴムで信濃川さんからは大体4mぐらい離れている。

 

 簡単ではあるけど、信濃川さんは種島さんから照準の合わせ方を教わってハンドガンを構えて消しゴムを狙う。

 

「では、撃ちますね......」

 

 信濃川さんはそう宣言すると、少し目を細めて慎重に的を狙う。

 

「うわっ」

 

 信濃川さんがハンドガンの引き金を引くと“バンッ”とかなり大きい銃声が鳴る。それと同時にハンドガンの銃口でマズルフラッシュが光った。

 

「消しゴムには当たってませんが、かなり近い場所に飛んでいきましたね」

 

「そうだったんですね......わたくし銃を撃った瞬間に驚いて目を閉じてしまって、的を見てなかったんですよ」

 

「初心者さんあるあるですね、まぁ慣れれば大丈夫になる人が多いですよ」

 

 信濃川さんの言う通り、銃声やマズルフラッシュも充分に凄かったけど、撃った瞬間にハンドガンを持つ信濃川さんの手が上に跳ね上がった事が印象的だった。

 ただ驚いて、咄嗟に銃を上げたような動きには見えなかったので、反動によって腕が上に持っていかれたんだとは思うけど......

 

「稔さんも撃ちますか?」

 

 信濃川さんは、それから何発か撃った後、私の番が来る。

 

「う、うん」

 

 ハンドガンを受け取ると、私はなんとなくでは有るけど、正しいと思う姿勢で銃を構えてみる。持ってみた感じは意外と重くて手が微かに震える。

 それのせいでフロントサイトとリアサイトが上手に合わせられない。

 

 息を整えて腕の動きを落ち着かせて......いまっ

 

「なっ」

 

 引き金を引いた瞬間に、撃った反動でハンドガンが上の方に持ち上がる。咄嗟に力を込めて握ったから良かったけど、気を抜いてたら手からハンドガンが飛んでいくところだった。

 

「凄いですよ若葉さん、最初なのにしっかり消しゴムに当たってます」

 

 何故か信濃川さんが私よりも嬉しそうにしている。

 

「それにしても反動強いね......腕が上に持っていかれたよ」

 

「まぁGlock29ってコンパクトハンドガンなので結構反動が強く感じられますが、フルサイズのハンドガンや長物ならもう少し反動がマイルドになりますよ」

 

「たしかにこの銃って、サイズが小さい割に銃弾が10mmAutoだもんね」

 

「稔さん詳しいですね、もしかしてGlockファンだったり?」

 

「いやそうじゃなくて、前にプレイしてたゲームでGlock系の銃が沢山登場してたから、それのせいで覚えちゃったんだよね......」

 

「もしかして、CODModern Strikeですか?」

 

「そう、CODMD。あ、あと私は一発の威力の高い20とか29よりも、連射力の高い18のほうが使ってて楽しいから好きなんだよね」

 

「確かに一分間に1200発の連射力は魅力的ですもんね」

 

「そうなんだよ! 頭に丁度良くエイムが合うとすぐに溶けるから」

 

 そう種島さんと話していると、頬をわざとらしく膨らませた信濃川さんが、私と種島さんを見ながら

 

「わたくしを放って、おふたりだけで盛り上がるなんて......疎外感と言いますか、おふたりが羨ましいですわたくしも混ざりたいです」

 

 と言って拗ねてしまった。

 

 

 なんとか信濃川さんの機嫌を取ろうとしていると、生徒の下校時間を知らせるチャイムが鳴る。

 

 種島さんは設立申請の書類にサインするとかなんとかで学校にまだ残る必要がるらしく、私と拗ねた信濃川さんのふたりで帰ることになった。



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

    SH部入ります④

「記入不備もないし大丈夫そうだな......担任印は押して置いたから、あとは部長にこの紙を渡せば入部できるぞ」

 

 信濃川さんとスポーツシューティング部を訪れた次の日の放課後。

 私と信濃川さんは、入部するための手続きを職員室でしていた。手続きと言ってもB5サイズの用紙に名前とかを書くだけで大したことはなかった。

 

「それにしても若葉がスポーツシューティング部に入るなんてなぁ。先生はてっきり若葉はインドア系だから帰宅部か文化部に入るもんだと思ってたよ」

 

 たしかに思い返してみれば、初日に自己紹介の時に“家でゲームをするのが趣味で”とか“あんまり体を動かすことは得意じゃなくて”みたいな事を言っていたような気がする。

 

 まぁ実際に体を動かすのは苦手だし、運動部に向いてないけど......

 

「なんか見学に行った時に楽しそうだったので」

 

 それと、信濃川さんからの熱烈なオファーがあったので......

 

「そうなのか、まぁ怪我なく活動しろよ」

 

 そう担任の先生と話していると、信濃川さんも必要なことを記入し終えたらしく、担任印を貰うために入部届を先生に手渡した。

 

「......うん、信濃川も記入不備はないな」

 

 入部届を確認してから、先生は信濃川さんの入部届に印鑑を押す。

 

 私と信濃川さんは先生に軽く“ありがとうございます”とお礼を言ってから職員室を出て、スポーツシューティング部の部室に向かう。

 

        ◇

 

「入部決めてくれたんですか、嬉しいです」

 

 旧化学準備室には、昨日と同じ様にジャージ姿の種島さんが居た。

 私と信濃川さんが入部届を手渡すと、嬉しそうに何回も「本当にありがとうございます」と頭を下げながら言った。

 

 少し態度が大袈裟すぎるような気がしたので「そんなに嬉しそうにしなくても......」と思わず言うと、種島さんは「それはですね......」と前置きをして答える。

 

「昨日もチラッと言ったんですが、三人以上居ないと部活としては認められなくて活動自体制限されることが多いんですよ、なので澄玲さんと稔さんが入部してくれることでSHが出来るようになりますし、人数が多ければ公式試合にも出場することが出来るので、つい喜びすぎてしまいました」

 

「そうだったんだ」

 

 私と信濃川さんが種島さんの態度が大袈裟だった理由に納得していると、部室のドアが何度かノックされ「誰か居ませんか?」と声が聞こえた。

 

 

「あ、はいっ居ます」

 

 種島さんはドアに駆け寄って勢いよく開ける。

 

 ドアが開くと、ひとりの女子生徒が立っていた。

 

「あの、入部したいんですが良いですか?」

 

 立っている女の子はそう言うと、ブレザーのポケットからB5サイズの紙を取り出して種島さんに差し出す。恐らく入部届だろう。

 

「もちろん大歓迎です......って二年生! 先輩でしたか」

 

 渡された入部届を見て、種島さんは声を出して驚く。入部届には年組名前を記入する欄があるので、種島さんはそこを見たのだろう。

 

「取り敢えず、こちらへ」

 

 そう言って入部届を持ってきた先輩を部室に招き入れる。

 

 その先輩も、種島さんみたいにすらりと背が高く、背の低い私は見上げないと顔が見れない程だった。

 女子の中でも比較的背の高い信濃川さんよりも背が高いとなれば、この先輩の背の高さは160cm後半はあるだろう。

 

「えっと、私は二年四組の陽向彩乃って言います。元々帰宅部だったんですけど、女子のSH部が出来るって聞いたので入部しました」

 

 そう自己紹介すると陽向先輩は頭を下げる。

 

「その彩乃先輩は元々SHに興味があったんですか?」

 

「まぁ興味があったと言うか、私外部のSHクラブチームに所属してて」

 

「えっSH経験者なんですか?」

 

 種島さんによると、サッカーや野球、水泳などと同じ様にSHにもクラブチームなる物が札幌にも何個かあるらしい。

 

「そのクラブチームの名前をお伺いしても?」

 

「うん、SSHCのU20なんだけど、わかる?」

 

「もちろん知ってますよ。SSHCって結構強くて有名なチームじゃないですか」

 

「でも私は基本的にベンチで......」

 

「ベンチでも凄いですよ。SSCHのU20って、そもそも入会する時点でかなりの腕前を要求されるんですよね? 自分なんてベンチにも行けませんから......あっおふたりにも説明しますね」

 

 そう言って種島さんは私達にスポーツシューティングのクラブチームについて少し説明してくれた。

 

 SSHCは札幌に幾つか有るクラブチームのひとつで、規模も大きくレベルもかなり高く、本州の強豪相手にも引けを取らないらしい。

 そして、そんなSSCHの中でもU20と言われる選抜選手育成の為に設立された部門は、日本でもトップクラスの実力も持つチームで、過去に何人も日本代表を輩出しているそうだ。

 

「っじゃあ、めちゃくちゃ強いんだ」

 

「......まぁ確かにチームは強いけど私は全然で」

 

 照れ隠しなのか、陽向先輩は頭を下に向けて、小さい声でそう言った。

 

 

 陽向先輩が所属しているクラブチームの話などをしていると、部室のドアが何度かノックされて「入るで〜」と声が聞こえてくる。

 

 ドアが開かれると大阪弁の女の子......たしか平坂さんが入ってきた。

 

「由加はん、新入部員候補連れてきたで」



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

    SH部入ります⑤

「由加はん、新入部員候補連れてきたで」

 

 扉が開かれて、現れたのは大阪弁を話す明るい女子生徒......たしか平坂さんが現れる。その平坂さんの後ろには女子生徒がふたり立っている。

 

「あっ本当に勧誘してきてくれたんですね」

 

「なんや由加はん、疑ってたん?」

 

 種島さんは「いや疑ってたわけではないんですが、本当に勧誘してくれるとは思ってなくて」と言い訳になっていな言い訳を言いながら“新入部員候補”を部室に案内する。

 

 部室には私と信濃川さんと種島さん、それに加えて陽向先輩と今来た平坂さんとふたりの新入部員候補の計七人が居るのだが、部室である旧化学準備室はあまり広くないので、ここまで人数が多いとかなり狭く感じる。

 

「ふたりとも入部希望しとるらしいで、ほら入部届も預かっとんねん」

 

 そう言って平坂さんは種島さんに二枚の入部届を渡す。

 

「入部していただいてありがとうございます......えっと自分は部長の種島由加と言います、よろしくおねがいしますね」

 

 その自己紹介に続くように平坂さんも自己紹介をする。

 

「ウチは平坂翼、ここの副部長を努めとんのや。よろしゅうな」

 

 平坂さんはそう言い終わると、私と信濃川さんの方をちらちと見る。多分この流れで私達にも自己紹介をさせる気なのだろう。

 

「私は......」

 

 私と信濃川さん、そして陽向先輩がクラスと名前、それと何か一言を伝えるだけの簡単な自己紹介をする。平坂さんを始めとする三人は、陽向先輩がスポーツシューティング経験者である事を知ってかなり驚いていた。

 

 五人の自己紹介が終わったので、いよいよ新しく来た二人の新入部員が自己紹介をする番になった。

 

 最初は首からネックレスを下げたギャルっぽい女の子が自己紹介をする。

 

「アタシは花咲姫奈、ヒメって呼ばれることが多いんだけど好きに呼んでいーから。スポーツシューティングの経験はゼロなんだど元々バスケ部だったから運動には自信あるんだよね」

 

 入学したてなのに、制服を着崩しているし化粧もしているから大体は予想できてたけど、なんか賑やかで明るくて......その......陽キャのオーラを纏ってる。

 

「あーインスタとかやってるけど鍵かけてるから、フォローする時はDMかラインで声掛けてくれたらリクエスト許可するから。スタバはアイスフラペ......」

 

 理解できない今どきの女子が使いそうな横文字を色々と喋って自己紹介を終える。そして、ギャルの花咲さんに続くように二人目の女の子が自己紹介をする。

 

「倉敷雛音っていいます。私もスポーツシューティングの経験は全くないんだけど、前々から知ってて面白そうだなっ思ってたんだよね」

 

 倉敷雛音と名乗った女の子は花咲さんとは対象的におっとりとした性格で、喋り方ものんびりとしていて”ふわふわ”という表現がよく似合う。

 

「あんまり運動は得意じゃないんだけど、スポーツシューティングを全力で頑張って楽しみたいと思っています」

 

 この場にいる全員の自己紹介が終わったので、種島さんから今後の活動方針について説明される。活動日時や服装など内容は一般的なものだった。

 

「それで、ここから大切な話なんですが」

 

 先程と比べて種島さんの声のトーンが下がる。

 

「部員が八人なので、このままでは高体連などの公式戦に出場することは出来ないんですよね。外部との合同チームを組むことでこの問題は回避できますが、学校も違いますし毎日練習することも出来ないのでデメリットもあります。皆さんは合同チームを組むか、非公式試合の出場だけにするのか、どちらが良いですか?」

 

 一同は種島さんの説明を受けて考え込む、すこし間が空いてギャルの花咲さんが手を上げて種島さんに尋ねる。

 

「ねえユカ、公式試合に出場するには何人必要なの?」

 

「えっと最低十人は必要です」

 

「それなら、あと三人か......私の友達にこーゆー部活に興味ありそうな子が居るから連れてこよーか? 多分入部してくれると思うんだけど」

 

「本当ですか? ありがたいです」

 

 とはいえ花咲さんの友達が入部してくれたところで十人にはならない。

 

「でもまぁ姫菜はんがお友達連れてくるのやったら、公式試合出場に必要なんは残り二人やろ? ほんならもう少し待ってみてもええんちゃう?」

 

 確かに新入生勧誘期間が終わったとしても、望みは薄いが新しく部活に入ってくれる生徒がいるかもしれない。

 今すぐ外部との合同チームを作るか決める必要はないのかも。

 

「そうですね、公式試合の件はもう少し保留にしますか。では、次の話題になるんですがSHをするに当たって銃が必要になるんですが、皆さん持ってないですよね?」

 

 元々スポーツシューティングを趣味でやっていた種島さんや平坂さん、クラブチームに所属している陽向先輩は銃を持ってるけど、経験のない私たちは持っていない。

 

「それで銃を買わなければならないんですが、銃って安くないので......」

 

 種島さんがインターネットの通販サイトを私達に見せてくれる。

 並んでいる品物はどれもアサルトライフルみたいな銃で、押し並べて見ると商品の平均価格は4,5万円程度で、種島さんの言う通り安いものではない。

 

 当たり前だけど、銃を買わなければ試合どころか日々のスポーツシューティング部の活動にすら参加できなくなる。

 つまり部活に入る以上必要な出費という事だ。

 

「まぁ安くはないけど、私は大丈夫だよ4万円くらい」

 

「わたくしも普段お金はあまり使わないので、それぐらいの出費でしたら全く問題ないですよ」

 

 私や信濃川さんの声に続いて、皆も銃を買うことを快く承諾してくれる。

 聞いた話では軽音楽部や吹奏楽部に所属している人の中には、10万円以上する楽器を購入している人も居るらしい。

 

 それに比べれば4万円くらい安い......のかもしれない。

 

「では、来週中までにはみんな銃を用意しておいてください。もしなにか質問とかあればラインで連絡してもらったら答えるので」



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

第三話・お金が足りない!!

「インターネットの方が安いんだよなぁ......」

 

 金曜日の夕方、学校から帰ってきてソファの上で寝っ転がっている。

 私はスマホでスポーツシューティング用の銃を販売している店舗やインターネットサイトで銃の値段を調べていた。

 

 スポーツシューティング用の中に限らず、大抵の物はインターネットで買ったほうが安く済むんだけど実物を持って感触を確かめたい気持ちもあるからなぁ......

 

「それなら、店舗で感触を確かめて同じ商品をネットで買えば良いじゃん」

 

 その事を妹に相談すると、何気なくそう答えられる。

 

「でもさ、なんか店舗まで行って感触を確かめたのにそのお店で買わないのってなんか失礼じゃない?」

 

「まぁ言いたいことは理解できるけど......今のお姉ちゃん、そんなこと言ってられる程お金持ってないじゃん」

 

 痛いところを付かれてしまった。

 いまお財布に入っているお金......つまり私が自由に使えるお金は四万円ぐらいしかない。

 銃本体だけを買うなら店舗でも大丈夫だけど、カスタマイズパーツとかを買うことを見越したら絶対に店舗じゃ足りない。

 

「まぁそうなんだけどね......」

 

「それと、そのカスタマイズパーツ? って奴も安くはないんでしょ? 銃本体とカスタムパーツを合わせたら結構な金額になるんじゃない?」

 

「そうなんだよね......」

 

 私が買おうとしてるカスタムパーツは、種島さんから“最低限必要なもの”と言われた光学サイトだけなんだけど、この光学サイトも意外と高い。

 

「そういえば、銃本体の値段っていくらなの?」

 

「それなんだけど......まだ決まってなくて」

 

「えっ?」

 

 銃の製品紹介サイトとかを見ると商品スペックとが結構細かく書いてあるけど、正直初心者の私が数字だけ見て銃の特性をすべて理解出来することは出来ない。

 

 なので、実際に試し打ちが出来るお店に行って良さげなものを探したいと思っていたんだけど、店舗だとお金がなぁ......

 

「まったくお姉ちゃんは行動力と思い切りがないからなぁ」

 

 そう言うと妹はクローゼットからジャンバーを取り出して私に向かって投げる。

 

「え?」

 

「何とぼけた顔してるの? お店行くよ」

 

「いや、でも......」

 

「この調子じゃ、いつまで経っても銃買えないでしょ。私が着いていってあげるからお店で良さそうな銃探してこよ」

 

 そう言いながら妹もジャンバーを羽織ったりバックを肩に掛けたりして、買い物に行く準備を着々と進めている。

 

「あの......」

 

「ほら早く、行くよ」

 

 

     ◇  ◇  ◇

 

 

「おーなんかアジトみたいだね」

 

 家から飛び出て最寄りの地下鉄駅まで走り、調べた中で一番近いスポーツシューティング用品を売っている店にたどり着く。

 

 そして、何故か妹のほうが楽しんでる。

 

「なんかもっと玩具っぽいの想像してたんだけど......結構リアルだね」

 

 店の雰囲気はアウトドアショッピングみたいな内装だが、壁にはライフルが掛かっていたり、並んでいるショーケースの中には拳銃が展示されていた。

 

「あっこれ見たこと有る......こうゆうのを買うの?」

 

「いや、拳銃は実戦向きじゃないから買わないかな......アサルトライフルとかサブマシンガンとかの方が強いし扱いやすから」

 

 種島さんによると、一概に“これが一番強い”と言える銃はないそうだ。

 ただ、フィールドのサイズや環境によって色々と状況が変わってくるらしいので、汎用性の高い銃が良いらしい。

 

 まぁゲームで愛用してた銃を使ってみたい気もするけど......

 

 そんなふうに妹と話しながらお店の奥の方に行くと『店長がオススメするアサルトライフル』という看板が立てかけられているコーナーを見つける。

 

「なんかマトリックスみたいだね」

 

 並んでいる銃はM4A1などの見たことがある有名なライフルからVHS等の聞いたこともない名前の物まで紹介されている。

 

 そして、私が探していた銃もそこに並んでいた。

 

「わぁ......木製ハンドガードの質感リアルだなぁ」

 

 NATO弾を使う西側の銃がたくさん並んでいる横にひっそりと置かれているAK-47に私は思わず見入ってしまう。

 

 CODやBFでは大抵この銃を使っていた。黒い本体と綺麗な木目模様のコントラストと、西側の銃とは少し違う独特なフォルムが特徴的だ。

 

 AK−47を紹介するポップには「カラシニコフの最高傑作!!」と書かれている。そして、その下に「持つのOK・試し打ちはNG」と注意書きがされていた。

 

「持ってもいいのか......って重すぎじゃん」

 

「私にも持たせて......おぉ確かにずっしりくる」

 

 試しにAK−47を持ってみると、あまりの重さに驚く。トリガーガードに着いているタグに書いてあった「商品スペック」を確認してみると重さは4660gだった。

 

「そりゃあ重い訳だよ......って構えるのも大変だ......」

 

 試しに構えて遠くの方に照準を合わせてみると、AKがかなり重いせいでフロントサイトとリアサイトがプルプルと震えてズレてしまう。

 力のない私では構えるのも大変だし、これを持ってフィールドを走り回るなんてキツ過ぎて死にかける未来しか見えない。

 

 流石にAKが好きでもこれでは扱えないかな......

 

 もっと軽くて実戦向きな銃を種島さんに聞いてみるのも良いかもしれない。私はポケットからスマホを取り出して種島さんにラインをした。

 



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

    お金が足りない!!②

「それで具体的には何に困ってるんですか?」

 

 種島さんに“教えてほしい事があって”とラインをすると、数分してから返事が来る。文字でのやり取りは面倒だったので電話で色々と教えて貰うことになった。

 

「えっとね......」

 

 私は種島さんに、AKを持ってみたけど腕の力がなくて構えられなかった事や、重たいせいで持って歩くだけでもキツイ事を話した。

 

「なるほど、たしかに若葉さんはパワー系ではないですもんね......やっぱりSMGが良いんじゃないですか? 軽くて扱いやすいと思いますよ」

 

 と種島さんは言ってくれるけど、私には少し不安要素がある。

 

「あのさ、SMGだと広いフィールドじゃまともに戦えないんじゃない?」

 

「確かに基本SMGは野戦向きじゃないですが、有名なクローズドボルト採用のMP5とかであれば200mぐらいまでなら戦うことが出来ます」

 

 200mか......少し心許ないけど、それぐらいまで離れていても戦えるのであれば態々重たいアサルトライフルを使う必要性はないかもしれない。

 

「ありがとう種島さん、SMGとかも見てみるね」

 

「わかりました。また何か有ったら連絡ください」

 

「わかった。またね」

 

 

     ◇  ◇  ◇

 

 

 私と妹が種島さんのアドバイスを聞いてサブマシンガンが並ぶ棚へ向かう。

 私たちが先程までいたアサルトライフルコーナーの向かい側にあったので、特に迷うこともなく来ることが出来た。

 

「MP5って結構種類有るんだな......」

 

 SMGコーナーに着いて、種島さんにお勧めされたMP5が並んでいる棚を見つけたのだが、バリエーションの数が多いことに驚いた。

 

 よくゲームとかで見るベーシックなMP5は勿論のこと、伸縮ストックを搭載した物やサプレッサーが元から装着されているSDモデルなども置いてある。

 

「なんか少しづつ形が違うんだね......これとかは商品名は違うのに何が違うのか全然わからないよ」

 

「えっとね......たしかバーストが有るか無いかだったような気がする。ほらこのセレクターの部分にバーストのマークがないでしょ?」

 

 と説明したけど、妹はいまいち理解していない様子で“うん、そうだね”と気の抜けたような返事を返した。

 

「それで、色々有るけどどれが良いの?」

 

「取り敢えず無難にA4とかが良いのかな?」

 

 一時期熱中していたCODのMWでMP5A4を少しだけ使った事が有り、それを思い出してMP5A4を手に取ってみる。

 ゲームでは威力があまり高くなく、結局AKに切り替えてしまった思い出がある。

 

「やっぱり軽いな、流石サブマシンガン。鈴も持ってみる?」

 

「うん......うわっ軽い、これならお姉ちゃんも使えるんじゃない?」

 

 重さを確認すると2780gだった。もちろん手に持ってみるとずっしりとしていて重たいが、AKと比べてみるとかなり軽く感じる。

 

「あっこれとか試し打ち出来る」

 

 手に取ったA4モデルの横に置いてあったMP5SDに『試し打ちOK 声かけてください』と書かれた紙が貼ってある。

 銃ひとつで数万円もするので、買ってから後悔するのは避けたい。

 

「でも、試し打ちして銃を買わずに帰ると定員さんに.....」

 

 

 

「あの、この銃試し打ちしたいんですけど......お姉ちゃんが」

 

 気がつくと妹がMP5SDを抱えてレジの横に置いてあったラックにミリタリー系の雑誌を並べている店員さんに話しかけていた。

 店員さんは快く妹の頼みを承諾してくれる。

 

「あぁ良いですよ、射撃レンジはコッチです」

 

 そう言われて私たちが店員さんに着いていくと、小さな射撃場があった。的まではだいたい10mぐらい離れていて的の形はよくある人の形だった。

 

「じゃあまずは弾を込めますね」

 

 そう店員さんが言うと、横置いてあった棚から銃弾を取り出して、慣れた手付きでMP5のマガジンに弾を込めている。

 動きがスムーズでめちゃくちゃ早く、数十秒で弾込めが終わった。

 

「......どうぞ」

 

「ありがとうございます......っと銃弾が入ると重たいですね」

 

 受け取ったMP5は少しだけ重たくなっていた。

 弾頭はプラスチック製なのだが薬莢が金属製なので、30発のフル装填だと300gぐらいプラスされているらしい。

 

「じゃあ、撃ってみます」

 

 銃を構えてサイトを覗き込む。MP5だけではなく銃全般に言えることだが、アイアンサイトは見にくくて照準が合わせにくい。

 息を吐いて一番奥の方にある的にリアサイトとフロントサイトを合わせる。

 

 まずはセミオートで撃ってみるか......

 

「......っ」

 

 引き金を引くと銃が跳ね上がる。両手で構えていたのでハンドガンを撃ったときと比べたら、少しだけマイルドになっている。 

 的を確認してみると、狙った位置よりも下の方に銃弾が当たった痕跡があった。

 

 もう一度的に狙いを定めて引き金を引く。

 

「凄いね......本物の銃みたい」

 

 振り返ると妹が目を丸くして銃口から出る細い煙を見ている。

 

 

 もう一度的に狙いを定めて引き金を引く。

 

「おー今度は当たったね」

 

 今度は狙い通りに着弾する。店長さんが「次はフルオートで撃ってみたらどうですか?」と言うのでセレクターを回してフルオートに切り替える。

 

 さっきと同じ様に狙いを定めて引き金を引く。

 

「......っと..............はぁ」

 

 初段の跳ね上がりが意外と抑えられなくて焦ったが、数発撃てば反動の制御にも慣れてきて、的に命中させる事が出来た。

 狙った場所から少し上に弾痕が集中している。

 

「どう、撃ってみた感想は?」

 

「反動も抑えやすくて使いやすかったけど、レートが速いぶん弾切れが早いのと、ダメージがそんなに高くないのが心配なんだよね」

 

 射撃レンジの横に貼ってあるポスターには各弾薬のダメージが書かれている。

 このポスターによれば9mmのダメージは18らしくM16やAKなどで使用されるライフル弾と比べると1/2程度のダメージになっている。

 

「実際の試合でフルオートを多用する場面は少ないですから、弾切れの心配はあんまりしなくても良いとは思いますけど、ダメージが低いのは確かに欠点ですね」

 

 と、店員さんは呟いて考え込む素振りをする。そして私に向かって「まっていてください」と言うとアサルトライフルコーナーに走って向かう。

 それから一分ほど経つと、銃を抱えた店員さんが帰ってきた。

 

「それは......ショートバレルのM4ですか?」

 

「まぁそうですね。もっと正確に言えばMK18 MOD0です。マガジン込の重さ3180gだから、フルサイズのM4と比べたらまだ軽いほうだと思います」

 

 そう言って店員さんがフル装填されたマガジンと一緒にMK18 MOD0を手渡してくる。私はそれを受け取ってリロードしてチャージングハンドルを引く。

 

「撃ちます」

 

 引き金を引いて銃を撃つ。

 当たり前だがMP5なんかより反動は大きく、狙いは定めにくかった。銃から飛び出した薬莢はMP5の物と比べて2倍ほど大きかった。

 

「MP5と比べたらコッチのほうが良いかな......」

 

 ゲームでも小ダメージの弾をばら撒いて戦う戦法はあまり好きじゃないので、どちらかと言えばMP5よりもMK18のほうが性に合っている気がした。



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

    お金が足りない!!③

「なんかこれも違うなぁ......」

 

「え〜これも違うの? もう五つ目だよ」

 

 MP5やMK18以外にも使ってみたいと思った他の銃を試し打ちしてみたけど、どれもしっくり来ることはなかった。

 

 今まで試し撃ちした銃の中ではL85A3が一番良かった気はするけど、ブルパップ方式のせいでリロードが遅くなるのとカスタマイズの幅が狭いのがなぁ......

 

「あの、力が強くない私でも扱いやすい銃ってありますか?」

 

 あまり銃に詳しくない私が色々試し撃ちしても埒が明かないので、私よりも知識が豊富な店員さんに頼るしかない。

 

「そうですね、SMGやPDWが軽くて扱いやすいけど......お客さんが使()()()()って思える銃を使うのが一番だと思いますけど」

 

「使いたいって思える銃は有るんですけど......」

 

 私は店員さんに、本当はAK-47を使いたかったが非力過ぎて持ち上げるのも大変だった事や、7mmの反動を抑えられない事などを伝える。

 

「なるほど、それなら......」

 

 

     ◇  ◇  ◇

 

 

「重さも3500g程度だし、口径は5.45で反動は7.62よりも抑えやすいですよ」

 

店員さんに連れてこられたのは東側の国の銃が多く並ぶコーナー。私がさっき持ったAK-47などは勿論のことAKSなどの5.45弾を使うAKも並んでいた。

 

「なんか、またおんなじ見た目の銃ばっかりだね」

 

「いやぜんぜん違うよ、この名前の後ろについてるアルファベットで大体のバリエーションの種類がわかるんだけど、Nとかは折りたたみタイプMは近代化改修した.......」

 

「ストップ、ストップそんなマニアックなこと聞いても理解できないから、まぁ要するにバリエーションが多いって事を言いたいんでしょ?」

 

「うんまぁそういうこと」

 

 そんなバリエーションが多いAKシリーズの中で店員さんがお勧めしてくれたのがAK-74を近代化改修したAK-74Mだった。

 店員さんが言うように軽くて反動も抑えやすいのに加えて、カスタマイズ性も広く好みの形に変えられる利点も有る。

 

「そうなんですよ、持ってみますか?」

 

 試しに持ってみると重さはSCAR-Hぐらいで扱いやすく、口径もSMG等の9mmよりも大きい為ダメージが高く私のプレイスタイルに合う。

 それに射撃レートが遅いためリコイルコントロールが容易なのも魅力的だ。

 

 やっぱAKは優秀だなぁ......

 

 

     ◇  ◇  ◇

 

「商品名ちゃんとメモった?」

 

「うん“ハシモトのAK-74M”だよね」

 

 妹のアドバイス通り、インターネットで買う時に困らないようにするため、スマホのメモ帳に商品名を書いておく。

 

「それで、他にもなんか買うものあるんでしょ?」

 

「光学サイトは着けないと中距離以降の戦闘では狙えないから着けたいんだよね」

 

 妹に光学サイトの有用性を説明していると、AKシリーズのカスタムパーツが並んでいる棚の前に辿り着く。

 

「まず優先すべきはサイトだけど、どうやって装着させようか......」

 

 AKシリーズはHK416やSCARと違いレールシステムが搭載されていないため、光学サイトやフォアグリップ等をポン付けすることが出来ない。

 

 そのためサイトを着けるにはひと手間掛けないといけない。

 

「なんか面倒だね」

 

「いや、そこも魅力のうちのひとつだから」

 

 AK-74Mにはサイドマウントベースが標準でついているので、それを活用してサイトを装着する方法があるが、これではストックを折り畳めなくなってしまう。

 

 他にも、リアサイトからドット用サイトマウントに付け替えてサイトを装着させる事ができるが出来るけど大型のホロサイトやスコープを装着できない。

 

「となると方法は.....」

 

 ハンドガードやダストカバーをピカティニー・レールが着いたものと交換する方法がある。今後スコープ等を着ける可能性も考慮すると......

 

「ダストカバー買うか......」

 

 他の方法、つまりサイトマウントやサイドマウントよりもダストカバーを交換するほうが値段が高くなってしまうのが欠点なんだよなぁ.....

 

 銃本体だけでも結構お金が掛かるのにZenitのレールダストカバー購入するとなると追加で1万200円も掛かってしまう。

 

「ネットでもう少し安くなるんじゃない?」

 

「そうかも知れないけど、高いことに変わりはないからね」

 

 まぁ必要経費だと思えば安いものか......

 

 私は棚に並んでいるパーツからダストカバーを手に取って商品名を確認する。

 

「っとダストカバーは良いけど.....サイトはどうしようかな?」

 

 取り敢えず近距離戦登用のドットサイトやホロサイトは着けるとして、遠距離戦闘用のスコープやブースターも着けておきたいけど、如何せんお金の問題がない。

 

 レプリカ品の安いものだとホロサイトで6000円ぐらいから買うことが出来るけど、ブースターやスコープで良いものを買おうとすると1万円以上してしまう。

 

「結構高いな......」

 

 それにスコープとかを乗っけるぶん重さがまして構えた時腕に掛かる負担が大きくなる問題もあるので、どうすべきか迷う。

 

「ブースターは300gで中型のスコープで700gかぁ......」

 

「結構こーゆー細々したものでも重いんだね」

 

 ホロサイト単体でも200gほどの重さがある。ノンカスタムの銃でも腕に負担がかかっている状態なので、これ以上重さを増やしたくない。

 

「あっこれとか良いかも」

 

 ホロサイトやドットサイトが並んでいる棚のひとつ上の段に、マイクロドットサイトがたくさん並んでいることに気がついた。

 私の背が小さくて、今になるまで二段目が有る事自体気が付かなかった。

 

「なんか他のと比べてミニサイズだね」

 

「ハンドガン用とかだけど、ライフルにも着けられるのかな?」

 

 商品スペックを見ると重さは50gほどでホロサイトやチューブ型のサイトと比べれば格段に軽かった。ただ難点としてレールに直接つけることが出来ない。

 まぁ大抵の場合はピカティニー・レールに載せられるようなドットサイトマウントと呼ばれる小さな板が有るはずなんだけど......

 

「これも高いな......」

 

 サイトマウントの相場は大体2000円から4000円程度。

 光学機器と比べたら値段は安いけど、こんな簡単な作りならもう少し値段を抑えられないのかと疑問に思ってしまう。

 因みにドットサイトマウントの重さは30g程なので、サイトと合わせても80gほどでホロサイトを着けるよりも軽くなっている。

 

「これで良いかな」

 

 ダストカバーが1万円、サイトと取り付けるマウントの合計9000円ぐらいなので、光学サイトを取り付けるだけで合計1万9000円ぐらいの出費になる。

 インターネットで買ったら多少は安くなるけど、結構出費が......

 

「バイトするしかないかなぁ......」



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

第四話・カスタマイズ!

 お店で色々と銃を見て回った日から二日経った日の夜。

 

 私は自分の部屋で箱から出し状態のAK-74Mと説明書、それに買ってきた諸々のカスタマイズパーツ達と向き合って睨めっこをしていた。

 

 そして、その様子を妹がベッドの上から眺めている。

 

「えっと......ここ押せば折り畳めるのか」

 

 実際の戦いになったら折り畳み機能使う場面はないかもしれないけど、普段持ち歩く時とかにはバックとかに入れられて重宝しそう。

 

「これでサイトの調整が出来るんだ」

 

 光学サイトを乗せるつもりなのでアイアンサイトを使う予定はないけど、リアサイトの部品を前後させたりしてみる。

 ついでに付属品のパーツでフロントサイトも意味もなく調整する。

 

「お姉ちゃん、いつまでそれ動かしてるの?」

 

 いつまで経ってもAKのカスタマイズをしない私を見かねて妹が声を掛ける。

 

「ごめん、ごめんつい夢中になっちゃって......」

 

 私はAK-74Mと同じ段ボール箱に入っていたカスタマイズパーツを取り出す。マイクロドットサイトはお洒落なデザインの箱に入っていたけど、マウントとダストカバーは結構雑に梱包されていた。

 

「まずはダストカバーだよね」

 

 金属製のダストカバーを包んでいる透明なプチプチとテープをハサミで雑に切って開封する。

 届いたダストカバーは初期のダストカバーよりも角ばったデザインで格好良い。 

 

「ここを押せば......って硬いな」

 

 説明書には、ダストカバーから少し飛び出てる突起みたいな部分を押すと、簡単にカバーが取れるとは書いてあるんだけど、ボタンが固くてなかなか取れない。

 

 押し方が間違ってるのか、それともただ私の力が弱いだけなのかな?

 

「貸して......あっ取れた」

 

 非力な私ではなく妹がボタンを押し込むと、簡単にダストカバーが外れる。

 

 カバーが取れてバネが剥き出しになった状態のAKも、普段よりも無骨な際立った感じがあって、これはこれでカッコいい......

 

「それで次はアイアンサイトか」

 

 私が買ったカバーはZenitのb-33をモデルにして作られたものらしいのだが、説明書によれば、AKのリアサイトが乗っている状態だと取り付けられないらしい。

 

 なので、リアサイトを押し込んで外す。こっちはカバーよりも簡単に外れた。

 

「えっと溝を合わせて」

 

 リアサイトとダストカバーを外せば、後は買ってきたレールが着いたダストカバーを付ければ良いだけになる。

 

「おっ出来た」

 

「簡単にはまったね」

 

 ダストカバーを押し込んで本体に嵌める。そして、付属のピンをリアサイトが有った場所にある穴に合わせて打ち込めば、しっかりと固定される。

 

「じゃあ後はサイトだけだ」

 

 ここまで来れば後は楽な仕事だ。

 

 取り付けたダストカバーに付いているマウントレールは20mm、いわゆるピカティニー・レールなのでマウントベースを着けて、その上からサイトを乗せる。

 

「おぁかっこいい」

 

 ただカバーを交換してサイトを付けただけなのに、何故かテンションが上がる。

 

「って......ゲームと違って視認性良くないんだな」

 

 覗いてみると、レンズが青み掛かっているような感じで、ゲームに出てくるようなサイトのような覗き心地ではなかった。

 

「まぁお姉ちゃんが買ったのってあんまり高くないしね」

 

 確かにそうか考えれば、この覗き心地は値段相応の物なのかもしれない。それと、取り付けた位置に少し違和感があるので、それのせいで覗き心地が悪いのかも。

 

「これだとサイトの圧迫感が強いな......」

 

 手前過ぎたサイトを少し奥の方に取り付けし直す。

 

「こっちの方が良いね......鈴はどう思う?」

 

「どう思うって言われても私は詳しくないし......気持ち覗きやすくなったかな?」

 

 

 部屋の中で銃を構えてみたり、意味もなくコッキングレバーをガチャガチャして弄ったり、リロード繰り返しているとスマホの通知音が鳴る。

 

 確認してみると部活のグループラインに種島さんがメッセージを送っていた。

 

[次の部活から買ってきた銃を持ってきてください]



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

第五話・狙うのって難しい

「それで、今日は皆さんに持ってきて頂いた銃を使った活動をしたいと思います」

 

 みんな週末のうちに銃を買ってきたらしく、リュックサックや手持ちのガンケースから各々の銃を取り出す。

 私もジャージを入れる為の手提げ鞄の中に入っていたAK-74Mを取り出す。

 

「見た感じ、大丈夫そうだね」

 

「そうですね安心しました......」

 

 私達の銃を見て、種島さんと陽向先輩がそう話している。

 種島さんによると、個々人が自由に銃を買いに行ってしまったのでスポーツシューティングに不向きな銃を買ってしまっていないか心配だったそうだ。

 

「本来は、自分がしっかりと皆さんに説明すれば良かったんですけどね......まぁでも皆さん大丈夫そうだったので良しとしますか」

 

 

        ◇

 

 

「...........で、これはなんや?」

 

「射撃練習場ですよ」

 

「いや見たらわかるわ! そういう事を聞いとるんやなくて......」

 

 買ってからまだ間もない銃を持って私達は部室棟の四階にある化学準備室に集まっていたが、流石に狭い部屋の中で試し撃ちは出来ないので隣りにある化学教室で練習することになった。

 

「これ種島さんが作ったの?」

 

 そんな化学教室には横向きに並べられた机の先に人型の的とCDディスクのような形の丸い的が何個か並んでいる。

 

「はい、あっでもあんまり手間ではなかったですよ」

 

 私達が立っている場所から的まではだいたい10mぐらい離れている。

 人型の的に“ただ”当てるのは簡単な距離だけど、ヘッドショットとかCDディスクみたいな的を狙うには少し難しい距離になっている。

 

「じゃあ詳しい撃ち方は後ほど説明しますから、まずは各々撃ってみましょう......っとその前にゴーグルと耳栓を着けてくださいね」

 

 

 

 

「......全然当たらないなぁ」

 

 銃の構え方が悪いのか、それとも狙い方が悪いのかはわからないけど、当てたい場所に全然弾が飛んでいかない。

 

 的の胴体部分を狙う分には大丈夫なんだけど、丸い的を狙うと結構サイトと着弾地点のズレが目に見えてわかる。

 

 初心者だからって言い訳も出来るけど、他に皆はもう少し的に当てられてる......

 

「稔ちゃん、どうかしたの?」

 

 経験のない私が悩んでいても仕方がないので、種島さんにアドバイスを貰おうと思ったけど、種島さんは既に倉敷さんに構え方を教えていたので、スポーツシューティング経験者の陽向先輩に助けを求めた。

 

「全然当たらなくて......」

 

「なるほど、ちょっと貸してもらって良い?」

 

 陽向先輩に銃を貸すと、陽向先輩はサイトの取り付け位置やダストカバーやストックのグラつきを確認した後、的に向かって四発射撃する。

 

 最初の二発は外れたけど、その後に撃った弾は両方とも丸い的に当たる。

 

「うーん、結構レティクルと着弾地点がズレてると思うな......これマルイのだよね? 調整用の六角レンチ持ってる?」

 

 私は陽向先輩にサイトに付属していた三本の六角レンチが入った袋を渡す。一応撃つ前に調整はしたはずなんだけど、足りてなかったのかもしれない。

 

「このサイト安いけど結構使いやすいよね......少し青みがかってるけど、歪みとか殆どないし小さくて軽いからハンドガンとかに最適だよね。私もSH初めた時はよくこのサイトのお世話になってたんだよね」

 

 そんな事を話しながら、陽向先輩は六角レンチを使い手際よくサイトの調整をする。一通り調整し終わったところでもう一度銃を構えて的を狙う。

 

 次は全弾が丸い的に命中した。

 

「こんな感じでどう?」

 

 陽向先輩から銃を受け取って、もう一度的を狙って撃つ。

 

 私の腕がまだまだなので、陽向先輩のように全弾的に命中させることは出来なかったけど、サイト通りに弾が飛んでいった。

 

「すごい、ちゃんと飛んでいくようになった」

 

「サイトのレティクルじゃなくてマウントの方が少しズレてたみたいだね......それと、サイトのズレだけじゃなくて稔ちゃんの構え方が違うのかも」

 

「稔ちゃんの構え方ってインターネットとかで調べたの?」

 

「いや、フィーリングで構えてました......ゲームとかでよくAK使っていたのでその時にしていた構え方を真似してるんですけど......」

 

「なるほどね、じゃあ......」

 

 そう言うと、陽向先輩は銃を構えて的を狙っていた私の体に、背中から寄り添って両手をそっと掴んでくる。

 親身になって教えてくれるのはありがたいけど、体が密着しすぎてるような......



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

    狙うのって難しい②

「まず、稔ちゃんは小柄だから無理にハンドガードを握る必要はないんじゃないかな? こうやってマガジンの方を握り込んだほうが良いかも」

 

 そう言うと陽向先輩は私の左手を掴んで、AK本体とマガジンの付け根の部分に手を持っていく。

 

 たしかに手を大きく伸ばして、ハンドガードを握るよりはマガジンの部分を掴んだほうが握りやすくて安定している気がする。

 

「それと、先にマガジンに手を掛けておくとリロードの時に時間の短縮にもつながるから、AKの欠点をカバーできるしね」

 

 歴代AKシーズにはホールドオープンの機構がないので、リロードをする時にボルトを引く必要があり、リロードの時間が長い事はAKシリーズの弱点でもある。

 

 まぁそんなところも愛嬌なんだけどね......

 

「それと、この構え方だとしっかりと肩にストックを押し付けないと反動を抑えきれないから注意してね」

 

 

 陽向先輩から教えられた通りに構えて、もう一度的を狙う。基本的に初弾は当たるんだけど、二発目からは反動などが抑えきれず当たらないことが多い。

 

「じゃあ、撃ってみます......」

 

 最初の弾は狙った通りの場所に飛んでいく、しかし二発目は反動の制御がしきれていないためか当てたい場所よりも上の方へ飛んでいく。

 

 このままだと着弾地点が上の方に集中してしまうので、私はマガジンを掴む手により力を込めて銃口の跳ね上がりを抑える。

 

 

「最初の跳ね上がり方が大きいけど、その後の反動はちゃんと抑えられてるね......この調子で反動を押さえる練習をしていけば的に当たりやすくなるんじゃない?」

 

「わかりました。ありがとうございます」

 

「あっでも、SHの交戦距離ってサバゲーと違って長いから、立ち姿勢は当たらない事が多くて、しゃがんだり伏せたりして銃を安定させるのが基本だね」

 

 私の買ったAK-74Mは商品スペックによると有効射程距離が300m、平坂さんが使うM700などの有効射程は500m程らしい。

 

 まぁ、こんなに長い距離で交戦が出来るなら態々接近して、被弾リスクの高い近距離戦なんてあまり起こらないのも納得できる。

 

「たしかに普通の森林フィールドとかは至近距離線は頻発しないけど、室内とか家が多いフィールドだとCQBとかMOUTが多くなることはあるけどね」

 

「そうなんですか」

 

 と相槌を打ってるけどシーキュービーとかマウトってなんだ?

 

「この近くだと江別に有るシューティングフィールドの......」

 

「あの先輩、教えて欲しい事が有るのですが......」

 

 そう言いかけたところで陽向先輩に、信濃川さんから声がかかる。信濃川さんはドラグノフを使っているので銃身が長く重量もあるので使うのが難しいらしい。

 

「なあに? 構え方とかの質問?」

 

「はい、ここの......」

 

 

        ◇

 

 

「信濃川さん、私にもその銃撃たせて」

 

 陽向先輩からアドバイスを受けた後AK-74Mの射撃練習を続けていたのだが、隣で練習をしている信濃川さんの銃声が異様に大きいので“なんの銃を撃っているのだろう?”と思い左を見たら、信濃川さんの手にガッチガチにモダナイズされたSVDが握られていた。

 

 そのSVDに見とれているうちに思わず声を掛けてしまったのだ。

 

「ええ良いですよ......あの、わたくしにも若葉さんの銃を貸して頂けますか?」

 

 と、言うことで私の信濃川さんの銃を交換して撃ってみることになった。

 

 信濃川さんのSVDはハンドガードやストックがカスタマイズされていて、木製の部分は全くなくハンドガードにはKeyModシステムが搭載されていたりダストカバー上にはピカティニー・レールが着いていた。

 

 SVDのグリップと一体化した特徴的なストックも付け替えられていて、標準的なアサルトライフルみたいな形状になっていた。

 

「ホロサイトと......三倍ブースターなのか」

 

 そんなモダナイズSVDにはEoTecのホロサイトとブースターが乗っている。すごく見易くて本物かと疑うレベルだったけど、信濃川さんによればレプリカらしい......がどう見たって

 

「重いなぁ......」

 

 SVDは私のAK-74Mとは比べ物にならないぐらい重たかった。元々の本体重量が重いのに、カスタマイズされて色々と光学機器が乗っていたりするので更に重量が増している。

 

 信濃川さんは私より力あるから、これぐらい重くても平気なのかな?

 

「じゃあ撃って見るか......」

 

 ホロサイトを覗いて、人形を狙う。

 SVDは大口径なので反動に備えて銃を抑える腕に力を入れる。

 

「......っ......少し左に逸れたのか」

 

 引き金を引いた瞬間に、肩にかなりの力が掛かった。もともと立ち姿勢で撃つことを前提として作られていないのでかなり撃ちごたえがある。

 

「次はブースター着けるか」

 

 丸い筒のような形をしたブースターを倒して、倍率を上げた状態にして的を狙う。 ブースターもかなり見易くて的を狙いやすかった。

 

「......おぉっ当たった」

 

 ブースターで倍率を上げているためか、ドットサイトやホロサイトで狙うよりも簡単に的へ当てることが出来た。

 

「やっぱり反動が大き良い......って............」

 

 SVDの射撃を楽しんだので、そろそろ信濃川さんに銃を返そうと隣を見ると、信濃川さんは私のAKをめちゃめちゃ楽しそうに連射している。

 

 そして、マガジンに入っていたすべての銃弾を撃ち尽くしてから「あっわたくし夢中になってしまって......」と申し訳無さそうにAK-74Mを私に返した。

 

 信濃川さんってもしかしなくてもトリガーハッピーの素質が有るかもしれない.....



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

    狙うのって難しい③

「そう言えば、なんで信濃川さんってSVDを買ったの?」

 

 正直に言ってSVDってそこまでメジャーな銃じゃないし、西側のM4とかHK416なんかと比べると扱いづらいと思うんだけど。

 

「お店でこの銃を見つけた時に、何故か惹きつけられて......性能や使い易さ等で選んだほうが良いのは理解しているのですが......」

 

 とは言うものの、SVDって結構精度高いはずだし使用する弾薬が7.62x54mmRと大口径なので火力も出しやすい銃では有る。

 反動が大きいとか制度が悪いとか色々と言われてはいるけど、ここまでモダナイズされていればその欠点もあまり目立たないような気がする。

 

 それに、連射できる武器だとさっきにAK-74Mを撃った時みたいに、トリガーハッピー化してしまうかもしれないし......

 

「信濃川さには単発の銃があってるとおもうな」

 

「そうですか? そう言って頂けると嬉し.......」

 

 信濃川さんの言葉を遮るかのように、すぐ隣からけたたましい銃声が聞こえてくる。今まで聞こえていた物とは比べ物にならない程で、耳栓をしていても結構うるさく感じる程だった。

 

 何事かと思って銃声の方を見ると、機関銃を腰に構えた花咲さんが文字通り銃を“乱射”していた。弾薬帯が銃に引き込まれ、薬莢となって排出されている。

 

 排莢される薬莢のサイズもかなり大きくSVDと同じくらいの大きさだった。

 

「......あぁ重すぎ」

 

 ひと通り撃つと、花咲さんは持ち上げていた軽機関銃を地面におろす。軽機関銃をもつのは腰だめの状態でも、流石にきつかったらしく少し息が揚がっていた。

 

「凄い音でしたね......銃はストナーのLMGですか?」

 

 水筒のお水を飲んで休んでいた花咲さんに種島さんが話しかける。

 

「そう、お店で一番軽い機関銃が欲しいって言ったらこの銃オススメされてさ。見た目も良い感じだし買ってみたんだけど腕が疲れるわ......でも楽しいわ」

 

 トリガーハッピーがここにも居たとは。

 

「まぁストナーのLMGって軽機関銃の中でも軽いほうですが、それでも5kg弱ありますからね。長時間持ち続けるのは結構キツイですよね」

 

 そもそも設計段階から立ち姿勢で射撃、ましてや長時間乱射することなんて想定されていない。基本的には伏せたりして射撃を安定させて撃つのものだ。

 

「しかし何故軽機関銃なんですか? 量を撃ちたいならドラムマガジンの着いたアサルトライフルでも良かったんではないですか?」

 

「まぁアサルトライフルでもいーけど、やっぱり銃弾をばら撒くのが似合うのはアサルトライフルより機関銃でしょ?」

 

「そうですね、弾幕は分隊支援火器の専売特許ですもんね」

 

 何がどう似合うのか理解できないけど.......まぁ取り敢えず花咲さんが軽機関銃を乱射したいことだけは理解できた。

 

 

 

「おぉやってるな、調子はどうだ種島」

 

 教室で射撃の練習をしているとドアが開き、背の高い先生が顔を出す。見ると私たち一年生の体育のを担当している別所先生がいた。 

 

 別所先生は女の人でありながら身長は170cmを超えていて、格好いい雰囲気もあってか男子生徒は勿論のこと女子生徒からも人気がある。

 

「あっ、ゆー先生だ。もしかしてゆー先生が顧問?」

 

「花咲、先生を下の名前......しかも渾名で呼ぶんじゃない」

 

 先生が入ってきた為、みんな射撃を止めて先生に目を向ける。

 

「わぁゆー先生だ......でも先生ってバスケ部の顧問じゃなかったんですか?」

 

「倉敷も先生を渾名で呼ぶんじゃない......で、バスケ部の顧問でもあるんだが兼任という形でここの顧問も務めることになった」

 

「そういえば、顧問の先生をみんなに紹介してへんかったね......ほんで、先生は部活動の風景を見に来はったんですか?」

 

「あぁ、それもあるんだが橋田の奴が職員室で生徒を怒鳴るもんだから煩わしくてなぁ......あと種島に伝えることがあって来た」

 

「伝えることですか?」

 

「次の土曜日なんだが、校舎の四階つまりこの階を貸し切りにしてスポーツシューティングの撃ち合いをしても良い事になったんだ」

 

「えっ許可下りたんですか?」

 

「あぁ結構楽に許可が下りたよ」

 

「そうなんですね。頼んでおいて言うのも失礼ですが、校内で模擬戦する許可がおりるなんて思ってもみなくて」

 

「まぁもし本当に模擬戦をするんだったら、先生が立ち会わないといけない決まりだから声を掛けてくれ......おっとそろそろバスケ部に顔を出さないとな」

 

 そう言って先生は教室をあとにする。



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

第六話・試合準備!

「由加はん、学校で模擬戦やるん?」

 

 先生が立ち去ったあと、平坂さんが種島さんに尋ねる。種島さんによると数日前から先生に模擬戦をしたいと頼んでいたらしい。

 

 ただ、スポーツシューティングの試合となればサッカーや野球と違って怪我や破損の危険が高いので学校の許可が必要になる。

 今回は別宮先生が学校側に連絡を取ってくれた。

 

「そのつもりなんですが、皆さんに相談せずに決めてしまってすいません」

 

「別に謝らなくてもよくない? ユカちゃん部長なんだし」

 

「そうだよ、練習メニューや活動の日程を決めるのは由加ちゃんの仕事なんだから謝る必要なんてないでしょ」

 

 と、種島さんは花咲さんと日向先輩にフォローされる。

 

「しかし種島さん、スポーツシューティングの試合をするには銃だけではなく色々他の装備なども必要なのでしょう? わたくしはそのような装備......」

 

 信濃川さんの言う通り、銃を用意しただけではスポーツシューティングの試合をすることはできない。判定用のTシャツやリグなどの装備品も必要となる。

 

「ああ、気にする必要はありませんよ」

 

「Tシャツとかは消耗品判定やから部費で買ぉたから気にする必要はないねん。それとリグとか最悪なくても試合は出来るしな」

 

 平坂さんの言う通り、最悪スポーツシューティング用の銃と当たり判定用のTシャツを揃えれば撃ち合いは出来る。

 安全のためにゴーグルとかも必要だけど、すでに種島さんが用意してくれているので今から取り揃える必要はない。

 

 大会とかの試合だとリグやアーマなどを着用する必要があるけど、使い勝手は悪いけどリグはポケットで代用できるし、アーマは体力数値をいじれば良い。

 

「なるほど、そのような装備がなくても大丈夫なんですね」

 

「あっあのさ、前に言ってた友達なんだけどその日連れてきて良い? なんかバスケ部とコッチの部活で迷ってるらしくてスポーツシューティングやってるところ見せてあげたいんだよね」

 

 花咲さんが言っている前に言ってた友達というのは、花咲さんが部活に入った日に“誘ってみる”と言っていた人のことだろう。

 

「良いですよ」

 

 花咲さんはその返答を聞くと、廊下に出てその友達に電話をかけて連絡を取る。一分ほど経って、電話が終わったらしく教室に戻ってきた。

 

「友達土曜日見に来るって」

 

「そうですか、よかったです。っと土曜日に模擬戦をすると言っても当日に集まって銃を撃ち合うだけでは試合にならないので今のうちに準備しましょう」

 

「準備?」

 

 種島さんによると、撃ち合いをする前にHPの設定などを済ませておいたほうが当日スムーズに活動できるらしいので今のうちから準備しておくらしい。

 

「まずはこれを着けてください」

 

「これはスマートウォッチですか?」

 

 倉敷さんは種島さんから貰ったスマートウォッチみたいな物を腕に巻き付けながら尋ねる。私と倉敷さんは腕が細いのでスマートウォッチのベルトが余る。

 

「これはSH用のスマートウォッチでカウンターとか呼ばれたりしますね。みなさん腕につけたようなので設定の仕方を教えますね」

 

 種島さんの説明を頼りに設定を進める。平坂さんが用意してくれた当たり判定用のTシャツとブルートゥースで接続してから自分の体力値を入力する。

 

「体力は自分の身長と体重を合計した数に女の人だと1を掛けた数がHPですね。男の人だと1.2を掛けるんですよ」

 

 とは言うものの、身長とか体重とかって覚えてないからなぁ......

 

「まぁ身内で戦うだけなので詳しい数字じゃなくても大丈夫ですよ。大会とか他学校との親善試合となると話は別ですが」

 

 ということなので、結構前に行った身体測定の記憶を辿って入力する。身長は149cmで体重は47kgなので私のHPは196となる。

 女性の平均HPが大体209だと考えると少しこころもとない数字だ。

 

「入力終わりましたか? まぁこれで大体の準備は完了ですね。これを見てください」

 

 種島さんは204と表示されている腕時計を私達に見せて、その腕時計と同期しているTシャツに向かって拳銃を撃つ。

 すると腕時計が“ブッ”とバイブレーションが起きて震える、表示されている数字が204から168に減少する。多分ダメージを受けた判定になったんだろう。

 

「こんな感じでダメージを受けますね。これで撃ち続けると......」

 

 種島さんは続けてTシャツに拳銃を撃つ。何発か撃って表示されている数字が0になると時計から“ビィーーッ”という機械音が大きな音で鳴る。

 

「これが倒された時のサインですね」

 

「あのさ由加ちゃんが今撃ってた拳銃のダメージって36だったけど、他の銃になるとダメージって変わってくるんでしょ?」

 

 ひと通り時計とTシャツの説明を受けたあと倉敷さんが尋ねる。

 

「そうですね、銃というより銃弾によってダメージが変わってきます。平坂さん、対応表をみなさんにラインで送れますか?」

 

「出来るよ」

 

 平坂さんからラインを通じて対応表が届く。

 

 

【挿絵表示】

 

 

「基本的にダメージは銃弾の種類と体の部位、そして着用しているアーマーの性能で決まります。距離減衰とか跳弾確率とか非貫通判定とか他にも色々と面倒くさい計算式が有るんですが、基本的にはこの表を見ればなんとかなりますね」

 

「じゃあ、さっき拳銃のダメージが36だったのは12ダメージの弾丸が×3の部分に命中したからだったんだ」

 

「そういう事になりますね。ダメージが高い拳銃でも......」

 

 その後も種島さんからダメージやボディーアーマーの説明を受ける。

 部活の終わり時間に近づいてきたので今日はそれで終わりにして、土曜日の模擬戦に各自備えることになった。




対応表なのですが4.62×39mmは7.62×39mmの間違いです。


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

第七話・模擬戦

「初めまして浅天凪沙っていーます。今日はよろしくね」

 

 土曜日、部活始まりの簡単なミーティングで花咲さんが誘ってくれた、友人の浅天さんが挨拶をする。浅天さんは入部するか迷っているらしく、今日の活動とかを見て面白そうだったら入ってくれるそうだ。

 

「今日は模擬戦当日で、早く試合をしたい気持ちは分かるがいくつか私から注意事項を話しておく。問題に発展しないようによく聞いておくんだぞ」

 

 珍しく今日は部活の始まりから顧問の別所先生が付いている。

 普段はバスケ部だったり仕事だったりで顔を出すことは少ないけど、今日は試合をするので器物破損などの問題が起こっても大丈夫なよう先生が監督してくれる。

 

「と長々と話したが、平たく言えば怪我をするな、銃弾を学校外に飛ばすなの2点だ。これさえ守ってくれれば文句はない、じゃあ種島あとは任せた」

 

「はい、じゃあ早速試合を始めたいと思うんですけど、その前に軽く試合のルールについて説明しますね......」

 

 種島さんの話を簡単にまとめると試合のルールはフリーフォーオール、つまり自分以外全員が敵の撃ち合いでゲームでもよく見るルールだ。

 復活はなしで体力が0になったら敗北。バトロワとも似てるけど、倒した人数が一番多い人が勝ちなので最後まで生き残ってもメリットはない。

 

「それと、陽向先輩は流石に強すぎるので......はい、どうぞ」

 

 種島さんはポケットからリボルバーを取り出して陽向先輩に渡す。リボルバーは片手に収まるようなサイズで、カスタマイズしてあるのか見た目はカッコいい。

 

「えっとこれ何の銃?」

 

「スミスアンドウェッソンのM36ですね。グリップとシリンダーとトリガーとマズルをカスタマイズして格好良くしました」

 

「えっと......これを使うってこと?」

 

 陽向先輩はスポーツシューティングの経験があるので、ハンデとして弱い武器を使うことで出来るだけ私達でも平等に戦えるようにして貰う。

 それと同じで経験がある種島さんもベレッタのM9だけで戦う事になった。

 

「じゃあクジを作ったのでこれを引いてスタート地点を決めましょう」

 

 種島さんの手に握られた細長い紙をひとつ摘んで引き抜く。選んだクジを見ると「サンルーム」とボールペンで書いてあった。

 

「では、それぞれ移動してください」

 

 

【挿絵表示】

 

         ↑フィールドマップ:校舎四階

 

 

     ◇  ◇  ◇

 

 

 取り敢えず、Tシャツとスマートウォッチの同期は完了してるし、マガジンもジャージの両ポケットに入れて準備は万全。

 あとは、試合開始の合図を待つだけ。

 

[それでは試合開始です]

 

 しばらくして種島さんから部活のグループラインで連絡が来る。

 

 試合が始まった。

 

 取り敢えずこのフリーフォーオールのルールだと下手に隠れて初動が遅れるより、活発に動いて接敵をしたほうが良い。

 

 となれば、出発地点が「資料室中」の倉敷さんを倒しに行くのが妥当かな?

 正直倉敷さんは種島さんや平坂さん、陽向先輩みたいにスポーツシューティングの経験もないし元運動部でもないから倒しやすいはず。

 

 私は普通教室側からの攻撃に警戒しつつ楽器庫まで近づく。倉敷さんの性格から考えて、あんまり動き回ってキルを取ることを考えてはないと思うから......

 

「わっ」

 

「って、そんな場所に」

 

 資料室を目指そうと廊下を曲がったところで身をかがめて待ち構えていた倉敷さんと八合わせる。突然のことで私声を上げて驚く。

 そして、何故か角待ちしていた倉敷さんも驚いていた。

 

「ごめんなさいっ」

 

 そしてほんの僅かな間があった後、倉敷さんが持っていた銃が乱射される。

 倉敷さんの銃はSIGのMCX、銃弾は.300 AAC Blackoutって名前の銃弾を使用していてダメージは比較的高い。

 そんな中を毎分900発のレートで撃たれたら文字道り瞬溶け......

 

「あっ」

 

 至近距離の乱射だったけど、射撃姿勢がちゃんとしてなかったからかマズルフラッシュに驚いて目を瞑っていたせいか、一発も私に当たらなかった。

 

「えっと......ごめんね」

 

 私は弾切れに戸惑っている倉敷さんの頭をAKで撃つ。倉敷さんの時計からビープ音が鳴って倉敷さんの敗北を知らせる。

 

「頑張ってね若葉さん」

 

「うん」

 

 取り敢えず1キル、ダメージを一切喰らわずにキルを取れたのは大きい。次に狙うのは暗室スタートの花咲さんか1−4スタートの信濃川さんかな?

 

 と考えてるときに部室の方から大きい銃声が聞こえる。多分この轟音は花咲さんの軽機関銃だから、これは漁夫をするチャンス。

 

「......ってもう終わった?」

 

 印刷室の手前まで走ってきたところで、鳴り響いていた機関銃の音が消える。多分撃ち合ってた相手に倒されたのか倒したのか......

 

「あちゃー倒されちゃった、全然当たらなかった」

 

「そんな事はないですよ、わたくしもHPが少なくなってますから」

 

 印刷室の角から化学教室の前を覗くと床に座った花咲さんと、それに手を差し伸べている信濃川さんの姿が有る。

 話的に信濃川さんのHPが削られているらしいので、狙うなら今がチャンス。少しセコいけど私は話している信濃川さんに向かって銃口を向けた。

 



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

    模擬戦②

「あら若葉さん」

 

 角から飛び出した私は信濃川さんと向かい合う形になる。信濃川さんは花咲さんと話していたため銃口が床に向けられていて戦う準備ができていない。

 

 私はサイトを覗き込み信濃川さんに合わせる。

 

 信濃川さんは咄嗟の事に驚きながらも、被弾しないように向けられた銃口から逃げようと、体を屈めつつSVDを私に向けて構える。

 

 動く信濃川さんをしっかりとサイト内に収めて引き金を引く。

 

「......いまっ」

 

 私がAKを発砲したとほぼ同時にSVDのマズルが光り、AKとは比べ物にならない雷みたな銃声が廊下に響く。

 信濃川さんの射撃はインスティンクト射撃で、私を狙いきれていない状態だった為銃弾は私の体から大きくハズレて後ろの壁に着弾する。

 

 私が撃った弾は、最初の跳ね上がりが抑えきれず信濃川さんの頭上にそれる。しかし四発目以降はなんとか踏ん張って反動を抑えられた。

 

 やっと反動に慣れてきたあたりで、もう一度SVDのマズルが光り私の方に銃弾が飛んでくる。

 

 今度はサイトを覗いて私をしっかり狙った為か、さっきみたいに大きく外れることはなく、私の肩に命中し腕時計から被弾を知らせる音が鳴る。

 

「いっ......」

 

 マガジンに入っていた弾が半分ぐらいになった時、信濃川さんの腕時計から体力がゼロに鳴った事を知らせるビープ音が鳴った。

 

「はぁ負けてしまいました......1発は命中させる事が出来たのですが」

 

 床に座り込んだ信濃川さんは少し溜息を付きながら悔しそうに言った。

 

 腕時計を見ると残りHPのは160になっていた。SVDは大口径弾を使うので普通のARやSMGよりも一発あたりのダメージが大きい。

 腕に被弾したから良いけど体に当たってたら致命傷になってたかもしれない。

 

「若葉さん頑張ってくださいね」

 

「ファイトー」

 

 信濃川さんと花咲さんに応援されながら、次の戦いに向かう。

 私が信濃川さんと戦闘している最中、一発ではあったけど講義室の中から銃声がしたような気がするので、もしかしたら今も誰かが潜んでるかもしれない。

 

 

    ◇

 

 

「......誰も居ない?」

 

 講義室に入ったものの机と椅子が並ぶだけで、誰も居なかった。銃声は確かに講義室の中から聞こえたような気がするんだけど。

 

 気の所為だったのか、銃声を鳴らした主が既に教室から抜け出したのかはわからないけど相手が何処にいるのかがわからない以上警戒をしておく必要がある。

 

「この近くで鉢合わせそうなのは」

 

 頭の中で地図を思い描いて、相手がいそうな場所に検討をつけてみる。私が通ったルートを追いかけられて居なければ、多分普通教室のどれかに潜んでるはず。

 

「......?」

 

 そんなことを考えていると、講義室の前の方から小さい音だったけど“カラン”と薬莢が硬い床に落ちる音が響いた。

 講義室は机と椅子が並ぶただの広い部屋で隠れられそうな場所は殆どない。ただひとつ有るとすれば、それは黒板の前に置かれた大きな教卓の裏。

 

 いつ頭を出して発砲してくるのか予想できないので、机に身を隠しつつ教卓にずっと狙いを定め続けて突然の顔出しに備える。

 

「そこだっ」

 

 教卓に隠れていた誰かが立ち上がり、私に銃口を向ける。教卓の裏から姿を表した人は平坂さんで手にはハンドガンが握られている。

 平坂さんの武器はスナイパーライフルで、至近距離戦がじゃなり不利になってしまう為平坂さんだけサブウェポンのXDMを持って良いことになっている。

 

 既に顔出しに備えて教卓へ銃口を向けていた私は、素早くドットを飛び出してきた人の頭に合わせて引き金を......

 

『ビィ――――――ッ』

 

「え?」

 

 私がAKを発砲する直前、何処からか“パンッ”と乾いた銃声が一発聞こえて来たかと思えば、平坂さんの腕時計から例のビープ音が鳴る。

 

 咄嗟に銃声が鳴った方向を見ると、講義室のドアから顔を覗かせるような形で陽向先輩が平坂さんに向かってリボルバーの照準を合わせていた。

 

「って......やばっ」

 

 そんな陽向先輩は平坂さんのキルを確認すると、すぐさま私の方にその銃口を向けて間髪入れずに発砲してくる。

 私はなんとか近くの机の裏に隠れて銃弾を避ける。

 

「こっからどうしよう」

 

 私が机の裏に隠れる姿は陽向先輩に見られてしまっている。

 恐らくこの机にエイムを置いて、私が顔を出したり体を晒したりすれば、いつでも攻撃できるように準備してるに違いない。

 

 顔を出したりしなければ、陽向先輩に撃たれる心配はないけど試合を長引かせることに繋がる。

 陽向先輩はスポーツシューティングの経験があるので、戦いが長くなればなるほど有利に事を進められてしまう可能性がある。

 

「取り敢えず置きエイムをどうにかするか」

 

 私は腕だけ出して陽向先輩が居るであろう方向にAKを乱射する。

 

 そして被弾を恐れて陽向先輩が少し身を引いたところで、今隠れていた机から飛び出して位置的に有利な少し奥の机へと移動する。

 

 ブラインドファイヤをしたお陰で移動先は見られていないはずだから、エイムを置かれていたさっきよりもマジな状況と言える。

 それに陽向先輩が“講義室と廊下を隔てる壁の裏”に居ることはわかっているので、位置把握の観点で言えば私が有利な状況だ。

 

 陽向先輩が私を攻撃しようとするには、さっきみたいに講義室の中を覗くか講義室の中に突入してくるかの二択しかない。

 とは言え私が持っている銃はAKで陽向先輩の銃はリボルバー、火力の差は大きくわざわざリスクの有る突入を選ぶとは思えない。

 

 ......だからどちらかのドアから顔をだして来る筈なので、今度は私がドアにエイムを置いておけばかなり有利に戦える。

 

「きたっ」

 

 廊下を走る足音が聞こえる。私を撹乱してふたつあるドアのうち、どちらから顔を出すのかを迷わせる作戦なのかもしれない。

 しかし動揺せずにしっかりと足音を聞いて、どちらのドアから顔を出すのか予測すれば良いだけ。

 

「ここっ」

 

 タイミングもエイムもすべてが完璧だった。

 

 予想に反して陽向先輩は教室に突入してきたけど、赤いドットはスライディングで飛び出してきた陽向先輩を狂いなくしっかり捕らえていた。

 なんの躊躇いもなく引き金を引き、陽向先輩にAKの......

 

 

 

『ビィ――――――ッ』

 

 

 額に銃弾が当たるのと、私の腕時計からビープ音がなるタイミングはほぼ同時だった。スライディング飛び出してきた陽向先輩の右腕には、銃口をまっすぐ私に向けたリボルバーが握られていた。

 

 少しの間があった後、陽向先輩は安堵の溜息を付いてリボルバーのシリンダーを開き中に入っていた薬莢を床に落とした。

 

 “カラン”と心地の良い金属音で私は我に返り、AKのマガジンを抜いてコッキングレバーを引っ張りチャンバー内の銃弾を排出する。

 

「えっと」

 

「穂ちゃん結構動きよくて驚いたよ。気を抜いてたら負けてたかも」

 

 そう陽向先輩が言うと、ポケットの中に入っていたスマホが振るえメッセージが表示される。

 

 送り主は種島さんで模擬戦が終わったことを知らせる物だった。

 



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

    模擬戦③

「最後まで残ったのも陽向先輩で一番キルを取ったのも陽向先輩でしたね」

 

 模擬戦が終了して散らばった銃弾と薬莢を拾い集めた後、例の狭い部屋に集まって模擬戦の流れを振り返る軽いミーティングを行っている。

 

 模擬戦の結果は陽向先輩が種島さんと平坂さん、そして私の三人を倒して一位。それに次いで信濃川さんと倉敷さんを倒した私が二位だった。

 

「取り敢えず結果を踏まえて、先生からなんかありますか?」

 

「怪我なく終われたのは良かった。先生自身スポーツシューティングには明るくないから、何処が良いとか駄目だったとか詳しく言えず申し訳ない。あと、みんな楽しそうに試合をしてたから先生は嬉しかった。以上」

 

 別宮先生はそう簡単に話を切り上げて司会を種島さんに戻す。

 

「えっと、そうですね自分が試合を振り返った感想だと陽向先輩が凄すぎるのと花咲さんと倉敷さんはまだ銃の扱いに慣れていないのかな? とは思いました」

 

 花咲さんの方は知らないけど、倉敷さんは確かに銃を撃つ際に目を瞑っていた記憶がある。あの場面で普通に撃たれてたら私は負けてただろうから、倉敷さんからすれば勿体ない場面だった。

 

「すいません」

 

「いや別に謝る必要はないですよ。これから練習で治していきましょう」

 

「花咲はんは腰だめに拘りすぎやない? 折角軽い軽機関銃やのに構えないでつこうたら少し勿体ない気がするんやけど」

 

「いや〜もう少し当たる想定だったんだけどね......やっぱり立ち姿勢で軽機関銃乱射するなら腰だめじゃん? 覗き込むなら伏せて撃ちたいし」

 

 花咲さんの軽機関銃に対する謎のこだわりはイマイチわからない。

 

「じゃあレーザーサイトとか着けたほうが良いかもしれませんね、腰だめでも狙いやすいと思いますし。試しにこれ着けてみますか?」

 

 種島さんは、今日の模擬戦では使わなかったけど一応持ってきていた()()()()()()()()()()()()M4A1からレーザサイトを取り外して花咲さんに手渡す。

 

「あー、それなんだけどアタシもレーザーサイト付けようと思ったんだけどスコープ乗っけると、着けれる場所がなくて......」

 

「あっあのネゲヴサイドマウント無いタイプですか」

 

 花咲さんのネゲヴを見てさっき言っていた『やっぱり立ち姿勢で軽機関銃乱射するなら腰だめじゃん? 覗き込むなら伏せて撃ちたいし』の意味が理解できた。

 

 軽機関銃の上に着いてるスコープは倍率が高そうで、至近距離では扱いにくい。さっきみたいな信濃川さんとの撃ち合いだと覗き込むより腰だめで挑んだほうが勝率は高そう。

 

「確かネゲヴにサイドマウント着けるとしたらハンドガードの部分を交換するしか方法はないハズですよね......そんなネゲヴのパーツなんて売ってましたっけ?」

 

「アタシも調べたんだけど売ってなくて......買うとしたら実銃用のハンドガードぐらいしかないんだよね」

 

 頭を抱える二人に陽向先輩が提案する。

 

「それか無理やり拡張マウントベースをサイトが着いてる部分に着けて、スコープとレーザーサイトを両立させる方法もあると思うよ」

 

「ああそれ良いですね」

 

「どーゆーこと? アタシ、イマイチ理解できてないんだけど」

 

「えっとですね今スコープが着いているこのレールに拡張マウントベースを着けてスコープを着けつつレーザーサイトを着けてしまおうという事です」

 

 そう説明しながら、インターネットに転がっている写真を花咲さんに見せる。花咲さんも写真付きの説明はわかりやすかったらしく頷きながら聞いていた。

 

「じゃあこの方法にしてみる......ってどこに売ってる?」

 

「この近くだと月寒のショップですかね。この後一緒に買いに行きますか?」

 

「そーだね、ユカちゃん居たほうが安心できるし一緒に行こう」

 

 その二人の会話に倉敷さんも参加する。

 

「あの、私も欲しいものがあるので一緒に付いて行っても良いですか?」

 

「良いですよ。それで何が欲しいんですか?」

 

「マズルフラッシュ? を抑えるパーツなんだけど」

 

 恐らく倉敷さんが言っているのはフラッシュハイダーの事だろう。フラッシュハイダーは銃口から出るマズルフラッシュを軽減する効果がある。

 

 スポーツシューティング用の銃と言ってもガスの燃焼を利用しているのでマズルフラッシュが発生する。特にレートの高い倉敷さんの銃だとかなり大きく見えるため、射撃精度に問題が出る場合もあるし、光に驚いてさっきみたいに目を瞑ってしまうことだってある。

 

「フラッシュハイダーですね。多分同じ店に売ってると思うので花咲さんの買い物と一緒に倉敷さんの買物も済ませちゃいましょう」

 

「なんや、みんな行くならウチも行きたいわ別に欲しい物あらへんけど」

 

 と何故か平坂さんも付いていくらしい。雰囲気的に私と信濃川さんは「私達はこれで帰ります」とは言えず結局全員でお店に行くことになった。

 

「じゃあ、みんなでお買い物だね」

 

「初めてじゃないですか、部員全員で買い物にいくなんて」

 

「買い物した後どっかでご飯食べに行こうよ」

 

「それええな最近美味しそうな......」

 

 

「ゴホンッ......盛り上がってること済まないが少し話が」

 

 模擬戦終わりのミーティングから話が大幅に脱線したところで、別宮先生が喉を鳴らして話を遮る。さっきまで盛り上がっていた会話は途切れて化学準備室の中は静まり返った。

 

「その......すいません」

 

「ごめんなさい」

 

 種島さんと、花咲さんが小さな声で呟くように謝る。

 

「え? あっ勘違いさせて悪いが、別に煩くなったから話を遮ったわけではなくてな......こっちの話をしたくて話を止めたんだ」

 

 そう言って別宮先生は隣りにいる浅天さんの肩を少し叩く。

 

「えっと模擬戦の最中も、今のミーティングも楽しそーで、その入部してみたいなーって思って。入部届はまだ用意できてないんですけど、これからよろしくお願いします......あと別宮先生ごめんなさい」

 

 新しい部員の参加に喜びかけた皆は、突然の謝罪に戸惑う。謝られた別宮先生も訳がわからないらしく、困った顔をしていた。

 

「えっと、どういうことだ?」

 

「だって別宮先生バスケ部の顧問じゃないですか......その入学した日に誘ってくれたのに裏切るみたいなカンジになって......」

 

「あぁ別に気にしてない。まぁ浅天がバスケ部に入ってくれたら強いし嬉しくは思っただろうが......浅天がなんの部活を選ぶにしろ応援する。それに私はスポーツシューティング部の顧問だ。新しい部員の参加を歓迎しないはず無いだろ?」

 

 浅天さんと中学時代から付き合いがある花咲によると、浅天さんは中学校の頃かなりバスケが上手だったらしくその力で全道大会準優勝まで上り詰めた実力者らしい。

 女バス顧問のでもある別宮先生は、入学当初からそんな浅天さんに目をつけていたらしく、バスケ部に入らないかと声を掛けていたそうだ。

 

「じゃあ今日のお買い物の後は浅天さんの歓迎会も含めて、どこか美味しいお店にでも行きましょうか」

 

「そーこなくっちゃ。で、どこのお店に行く?」

 

「ここなんかどーやろ?」

 

「いいね」

 

「じゃあそこにしますか」



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

第八話:【幕間】SHのある生活

今回は幕間という事で若葉稔、陽向彩乃、別宮先生視点の3つです。


「うーん......チャージングハンドル並んでないか」

 

 模擬戦中AKのリロードをするタイミングが何度かあり、チャージングハンドルを操作してコッキングををしたけどツマミが小さくて扱いづらかった。

 なので、フリマサイトにでもチャージングハンドルが安く並んでいないかを調べてるけど、目当ての商品はまだ見つからない。

 

 まぁチャージングハンドルぐらいなら新品でも2000円ぐらいで買えるけど、出来るなら安く済ませて他のものにお金を回したい。

 

「ハンドガードとかも変えたいしな......」

 

 模擬戦の時種島さんや陽向先輩の銃を見せてもらったけど、どちらも自分なりのカスタマイズをしていて格好良かった。

 そう言えば信濃川さんのモダナイズSVDも厳つくて良かったな......

 

 なんて事を考えていると、いつのまにかAmazOnの欲しい物リストはAKのカスタムパーツで埋め尽くされていて合計金額はパーツだけで三万円を超えている。

 もちろん最近AKを買った私にパーツを買える財力はなく、欲しい物リストをこんなに埋めたところで何か購入する事はできない。

 

「まぁ今のAKも格好良いし......いっか」

 

 私は床に置いてあるAK-74Mを持ちあ上げて意味もなくレバーを引いたりリロードしたりして楽しむ。競技としても楽しいけど、こうやって遊べるのもスポーツシューティングの魅力だなぁ......

 

「みのりーご飯できたわよ冷めないうちに食べちゃって」

 

 なんて思っているとお母さんから声がかかる。持っていたAK74Mを種島さんから持ったライフルバックの中に戻してから一階へ行く。

 

 

 ◇

 

 

 日曜日の夕方クラブチームの練習が終わって、ロッカールーム兼更衣室の中で今日練習に使ったHK416のメンテナンスをしていた。

 

 ハンドガードに付いていた泥汚れを落とし終わったところで、同じチームに所属してる森田先輩から話しかけられる。

 

「陽向部活入ったんだって?」

 

「はい新しく出来たスポーツシューティングの部活に」

 

「まぁ部活入るのは勝手だけどコッチに支障が出ないようにな」

 

 コッチというのは、私が所属しているスポーツシューティングのクラブチームであるSSHGのU20のこと。ベンチが基本なので試合に出たりする機会は少ないけど、怪我や病気などで代役が必要なときには私が代わりを務めている。

 

「わかってます」

 

「わかってますって言うけどさ、最近練習に来る頻度減ったよな? 陽向は皆と比べて上手くないんだから練習サボってて大丈夫なの?」

 

 部活に入るまでは、技術向上のためにほぼ毎日顔を出していたけど、入部してからは部活の方を優先させていたので来る回数は半分ほどに減っている。

 

「まぁ......その、頑張ります」

 

「頑張りますねぇ......最近新しい銃でも練習してるらしいじゃん、なんか陽向自身も色々と迷ってんじゃないの? そんな状況だとコッチも例の部活にも身が入らないんじゃない?」

 

 使い慣れた銃の方が良いパフォーマンスが出来る場合が多いので、スポーツシューティングの競技選手が試合で使う銃を変えるのは、そこそこ大きな意味を持つ。

 

 趣味でプレーしている人は気分によって銃を変えたりするけど、ポジションや役割が決まっている場合安易に銃を変えるとチームの負けに繋がる場合もある。

 まぁ私はベンチだから銃を変えてもチームに支障が出る事は殆ど無いけど......

 

「いや別にプレイスタイルを変えようと思ってる訳じゃないんですよ」

 

 私が銃を変えた理由は単純で、部活で使う銃とクラブの方で使う銃を分けたかったから。同じ銃でも良いけど沢山使えば故障のリスクも増えるし、クラブの試合で使う大切な銃を部活の試合で持ち出したくないという理由だ。

 

 HK416はクラブでしか使わず、新しく買ったPDXは部活用として使っている。

 今日PDXを少しだけ練習したのは、部活で使った時に使い慣れてないせいで変に戸惑わないようにするためで、クラブチームの試合でPDXを使う気はまったくない。

 

「そういうのが支障をきたしてるって言うんだけどな......PDXの練習をしてるせいで普段使う銃の練習時間を奪ってんじゃん」

 

「まぁそうですね」

 

「あの森田先輩、次の試合のことキャプテンが話したいって」

 

「あぁ今行く......陽向もクラブチームに所属して活躍したいんだったら、もう少し遊びも控えてコッチに集中すべきだろ」

 

 そう言い残して森田先輩は更衣室を去る。

 

「はぁ......帰って御飯食べるか」

 

 私は荷物をまとめて、そっと更衣室を後にした。

 

 

 ◇

 

 

「ふむ......イマイチ違いがわからないな」

 

 時間も遅くなってきて、人が疎らになった職員室を見渡し頼れそうな人間を探す。教頭先生は御年58歳でこうのに明るいとは思えない。

 隣でお茶を啜っている三学年主任の石田先生も......教頭先生よりは若いとは言え40を超えている。プラモデルが趣味とか聞いたことはあるが銃に関心があるという話は聞かない。

 

「あっ」

 

 そんな事を思っていると、職員室のドアがガラガラと音を立てて開きバトミントン部の顧問をしている大野地先生が職員室に入ってくる。

 大野地先生は部活終わりなのか、額に大粒の汗をかいていた。

 

「ふむ使えるかもしれない......あの大野地先生」

 

 大野地先生は、去年大学を卒業したばかりでまだ若い。そして前に廊下で男子生徒とゲームの話で盛り上がっているの耳にした事がある。

 

「はいどうかしましたか?」

 

「くだらない質問で申し訳ないんですが、このアサルトライフルやDMR、スナイパーライフルとかの違いってなんですかね?」

 

「は、はい?」

 

「自分でも色々と調べたんですけどね、調べていくうちに段々よくわからなくなってきて......ほらG28なんて見た目はアサルトライフルなのにwikipediaによると半自動狙撃銃らしいじゃないですか。単発なのがスナイパーライフルなのかと思って調べてみたんですけど単発のAR15は別にスナイパーライフルでは......」

 

「ちょっと待ってください、別宮さんが銃に興味があって色々と僕に質問をしてきているのは理解出ましたけど......いきなりどうしたんですか?」

 

「あぁいや今年からスポーツシューティング部の顧問になったんだが......恥ずかしい話スポーツシューティングやそもそも銃のことなんて全く知らなくてな......」

 

「なるほど、そういう事でしたか......でなんで僕に聞くんですか?」

 

「なんか大野地先生はそのような方面に明るそうだったので」

 

「まぁ確かにFPSとか学生の頃は熱中してたんで、そんなことなら説明できますけど......もう少し待って頂けますか? 先に部活の荷物まとめたいので」

 

「良いですよ。すいませんね色々と焦ってしまって......運動が出来て若い女だからという理由で顧問に推薦されて、私も引き受けてしまったんですが本当は大野地先生みたいに少しでも知識のある先生が顧問を務めたほうが良いんですけどね」

 

「いや、そんな事ないですよ。運動係の指導なら別宮先生が適任ですし、俺なんてバトミントン一筋ですから銃のこと少し知ってるぐらいじゃスポーツシューティングの顧問には成れませんよ。それに生徒さんの為に色々と調べてる別宮先生が適任じゃないなんて事ありませんよ」

 

「そうですかね?」

 

「そうですよ......それじゃ一度荷物まとめてきますんで」

 

 

「ふむ......まぁ頑張ってみるか」




前回の模擬戦で第一章はお終いでした。
第二章からは本格的にスポーツシューティングの戦いが始まります。
ここまで読んでいただいて面白いと思っていただければ評価や感想をしてくださると嬉しいです。


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

第九話:重大発表

 もう部室の狭さにも慣れてきて......というか感覚が麻痺してきたのか、誰も部室の狭さに文句を言ったり指摘することはなくなった。

 

 普段はジャージを着て活動するけど、今日はミーティングだけで活動を終わらせるらしく制服のまま集まっている。

 

「まず皆さんに結構大きいお知らせがあります」

 

 種島さんはそう言うと私達にプリントを配る。

 

「えっと大抵のことは書いてあるんですが、口頭でささっと説明しますね。まず皆さんに見てもらいたのは一番上のお知らせなんですが、再来週他校と親善試合を行います!」

 

「お〜ぃ」

「うぇーい」

 

 なんて反応すれば良いのか皆よくわからなかったらしく、気の抜けた様なそれでいて勢いのあるような返事をする。

 

「相手は森丘高校で詳しい日時は、再来週の4月29日えっとゴールデンウィーク初日ですね。時間は朝10時から12時までの二時間です。なんか予定ある人とか居ますか?」

 

 特に誰も手を上げることはない。

 

「じゃあ全員参加できるという事ですね」

 

「あのさ相手の高校って強いの?」

 

 花咲さんが手を上げ尋ねる。

 

「まぁ昔はかなりの強豪校でしたね。もの凄く強い世代があったんですが、その世代が抜けてからかなり下火で偶に全道進出とか聞きますけど......微妙です」

 

「とは言っても私達よりは強いっしょ?」

 

 花咲さんの質問に重ねて浅天さんも聞く。

 

「そうですね、経験は向こうのほうが圧倒的にあると思いますし、人数も多いですから相手の方が強いと言えますね」

 

 スポーツシューティングは珍しく参加する人数が違っていても対戦できる少し不思議なルールだ。高体連の場合参加人数は最低10人、最高30人なので、最悪10人vs30人みたいな可愛そうな事が起きることもしばしばある。

 そして、それは親善試合も同じなので人数が少ない私達はかなり不利だ。

 

「恐らくやけど、相手は春の大会も控えてるしフルで挑んでくるんやない?」

 

「やっぱりそう思いますか平坂さん?」

 

「それめっちゃ卑怯じゃん! 私達そもそも初心者なのに三倍以上の人数で戦うわけ? 話しつけてもう少し平等に出来ないの?」

 

 少し感情的になった花咲さんを陽向先輩がなだめる。同学年の私達だと花咲さんを鎮めるのは難しいからこういう時めっちゃ陽向先輩が頼りになる。

 

「姫奈ちゃんの言いたいこともわかるけど、人数不利が生まれるのはスポーツシューティングの世界だとあたり前のことだから......」

 

「そうは言っても」

 

「でもね過去には10vs30の不利な戦いを勝利した例だってあるから、絶対に負けるとは言い切れないし、そもそも私達が森丘高校と戦えること自体凄いと思うよ。私達実績もないし人数も少ないから普通は相手してくれないと思う」

 

「そこは別宮先生に感謝ですね。結構色々と探し回ってくれたみたいです」

 

「でも花咲さんの言う通り折角戦うんだったら負けるのは嫌ですよ」

 

 と倉敷さん。

 

「別に種島さんも先生も負けるために試合を組んだわけではないんですから、人数不利とか経験不足とか色々と問題はあるかもしれませんが、出来る限りの努力をしてみましょう。弱音を吐くのはそれの後です」

 

「せやな、ウチらなら、何とか成るしれんし」

 

「なにか策でもあんの?」

 

「陽向先輩と由加はんとウチがいるんやし」

 

「陽向先輩はクラブチーム入ってるし強いのはわかるんだけどさ、ユカちゃんとツバサちゃんってスポーツシューティングの経験あるだけでしょ?」

 

「まぁそれなんですが......自分はともかく平坂さんは凄いんですよ。300m以上離れた人にもポンっとヘッショ決めちゃう凄腕スナイパーなんです」

 

「えっ本当?」

 

 この中で一番驚いてるのは陽向先輩。スポーツシューティング初心者の私達には、平坂さんがどのぐらい凄いのかイマイチよくわからない。

 

「まぁ本当やな」

 

「そんな人クラブチームでも何人かしか居ないよ......でもそれぐらい高精度な狙撃が出来るなら初動で何人か落とせる可能性も高いし......最悪私が近接戦に持ち込んで10人以上倒せばなんとかなるかな?」

 

 なんか陽向先輩さらっと凄いこと言ったような。

 

「まぁ取り敢えずそういう事です。色々と不安要素はありますが信濃川さんの言った通り出来ることをやって最高のパフォーマンスを発揮しましょう」

 

 

 と種島さんが意気込みを言うと、部室のドアが開いて別宮先生が入ってくる。

 

「親善試合の件は伝えたのか?」

 

「はい丁度今伝えました」

 

「そうか、それなら良いんだが......流石に部室狭すぎないか? 満員のエレベーターじゃあるまいし、もう少し広い部屋をあてがって貰えるよう話しとくな」

 

「そんなに狭いかな?」

 

「まぁ少し息苦しいですが、そこまで狭いとは感じませんけど......」

 

「いや、それは感覚が変になってるだけだ。なぁ浅天流石に狭すぎるよな?」

 

「そうですね。私も狭いなぁとは思ってたんですけど、みんな普通にしてるからこれが正常なんだと思って言わなかったんですが、流石に座ったら両肩が他の人と触れ合うのは狭すぎると思います」

 

 と浅天さんの強い希望と別宮先生の熱いオススメのもと、私達の部室は今までの化学準備室から化学教室にグレードアップするらしい。



目次 感想へのリンク しおりを挟む




評価する
※目安 0:10の真逆 5:普通 10:(このサイトで)これ以上素晴らしい作品とは出会えない。
※評価値0,10についてはそれぞれ11個以上は投票できません。
評価する前に
評価する際のガイドライン
に違反していないか確認して下さい。