割と平和な遊戯王 (乾燥海藻類)
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第01話 ルールを作ろう

この墓標の下に、最愛の女性(ひと)が眠っているなど未だに信じられない。それでも彼女がいないという現実は胸に痛いほど分かっていた。

空虚な日々を過ごし、その後、一縷の望みをかけてエジプトへと旅立った。そこで体験したものは、彼にとっての僥倖であったのか。

ともあれ、彼はその地で夭折した恋人と、刹那とはいえ逢瀬できたのだ。

そして彼は帰国し、数ヵ月ぶりに恋人の墓標と向かい合っている。彼女が好んでいた白い花を手向け、彼は黙祷(もくとう)した。

 

「ようやく踏ん切りがついたか?」

 

不意に声をかけられ、しかし彼は慌てた様子もなくゆっくりと振り返った。

そこにはひとりの男が立っていた。彼と同年代の青年で、黒目黒髪。一見するとアジア人だが、彼はその男が日系アメリカ人であることを知っている。

彼と同じハイスクールに通う生徒だった。

 

「偶然デスね」

「そうでもない。ここの管理人に、おまえが来たら連絡するように頼んでおいた」

「そんな気の利く管理人には見えませんでシタが?」

「大体のことは金で融通が利く。おまえの方が知っていると思ったがな」

 

男はふっと表情を緩めて肩をすくめた。

 

「お金で買えないものもありマス」

 

陰りのある表情で彼は応えた。

彼の父はラスベガスでいくつものホテルを経営する資産家である。その資産を使い、彼は難病に侵された恋人を救うべく東奔西走した。だが結局、その想いは実らず、彼女は17歳という若さでこの世を去った。

 

「ま、そうだな。俺は牧師でも神父でもないから気の利いたことは言えんが、それでもふさぎ込んでいるよりは、前に進む方がいいと思うぜ」

「そうデスね。そうすることにしマス」

 

彼の目は、何かの決意を固めたことを物語っていた。

 

「卒業後はどうするつもりだ? 進学か就職か、親父さんの仕事を継ぐか……」

「起業しマス」

 

男の言葉を遮って、彼は力強い言葉を口にした。

 

「卒業してすぐか?」

「今すぐデス」

「具体的なことを、訊いてもいいか?」

「新しいカードゲームを創ろうと思いマス」

「カードゲームか」

 

そう言って男は押し黙った。沈黙はわずかな時間であったが、他に音のない墓地では、その静寂がことさらに強調されたようだった。

 

「俺も一枚噛ませてもらっていいか?」

「フム?」

「俺を雇ってくれ」

「相変わらず、決断が早いデスね」

 

呆れたようにため息を落とす。それでも、友人である目の前の男が賛同してくれたことには歓喜の気持ちがあった。

 

「では、改めてよろしくお願いしマース」

 

彼は柔和な笑みを浮かべて、右手を差し出した。男は一瞬の躊躇もなく、その手を取った。

ペガサス・J・クロフォード。この時17歳であった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

男の名前は高杉レン。ごく普通の家庭に生まれ、ごく普通の生活を送っていた。しかし、ただひとつ違っていたのは、彼は転生者だったのだ。

 

(しかも漫画の中というのがな。笑えん)

 

レンがそれに気づいたのは幼少の頃。海馬コーポレーションの存在を知り、そこの社長が海馬剛三郎だと知ったときだった。

それでも彼は半信半疑だったが、ハイスクールで銀髪の少年に出会って確信に変わった。

 

特に理由があったわけではない。何となく、少し交流してみようと思っただけだった。

中庭のベンチでアメリカン・コミック(ファニーラビット)を読んでいたら、向こうから声をかけてくれた。

 

(よく釣れたものだ)

 

レンは自嘲するように笑った。ダメならダメでまあいいか、くらいの策であった。それが予想以上にペガサスの関心を引いた。

資産家の息子であるペガサスはあまり隙を見せない。友人たちと談笑していても、どこか緊張しているように見えた。

だが同好の士に出会えたことが余程嬉しかったのか、ペガサスは饒舌にファニーラビットの魅力について語りだした。

 

その出会いを切っ掛けに交流は続き、病弱な恋人がいることを知った。

元気になれば世界旅行に行きたいなど、将来の展望を語っていたが、残念ながらこの世界にブラックジャックはいなかった。

 

そして時は流れ、今レンはペガサスの邸宅にいる。

そこでペガサスは嬉々としてレンに自分の企画を説明していた。

レンは手元の分厚い冊子に目を通しながら、ペガサスの説明に耳を傾ける。その本人は初めての理解者に気を良くしているのか、饒舌で熱心だった。

 

「その名もデュエルモンスターズ、デース!」

 

声高に叫び、両手を大きく広げるアメリカ人らしいオーバーアクションで締める。

 

「いくつか質問をしていいか?」

「もちろんデース。興味を持ってくれたようで嬉しいデース」

「まず、ライフ2000というのはいささか少なすぎる。8000は欲しいところだ」

「8000ッ!?」

 

もちろんこのライフの少なさには理由がある。それは直接攻撃が不可だからだ。じゃあモンスターを出さなければいいと思うかもしれないが、それだと闘う意志なしと見なされて敗北してしまう。

 

(それもどうかと思うのだがな。とにかく、この直接攻撃できないというルールは弊害しかない気がする)

 

「しかしモンスター同士のバトルが、このデュエルモンスターズの華なのデース!」

「それは分かる。おまえのデザインしたモンスターはどれも魅力あふれるものばかりだ」

 

それは掛け値なしの本音だった。画家の卵でもあるペガサスの実力は本物で、ラフスケッチであっても引き込まれるような迫力がある。

 

「フフフ、そうでしょうとも。どれもワタシの自信作デース」

「そのモンスターだが、召喚方法に問題があるような気がするな」

「召喚方法?」

 

資料には1ターンに1度、モンスターを召喚できるとある。つまり、レベル1であろうとレベル8であろうと関係ないのだ。リリースの概念がないのである。

 

「これでは、資産価値がそのまま戦力へと直結してしまう。戦略性を広げる意味でも、高レベルのモンスターには何かしらの制限を設けるべきだと思う」

「ふむ。例えば?」

 

ペガサスが訝し気にレンを睨む。代案を出せということだろう。否定するだけならサルでもできる。ビジネス界では通用しない。

 

「例えば、暫定的にレベル4以下を下級モンスター、レベル5、6を上級モンスター、レベル7以上を最上級モンスターとしよう。下級はそのまま出せる。上級は場のモンスター1体をリリース(・・・・)することで召喚できる。最上級は2体のリリースを必要とする、というのはどうだ?」

「……ふむ。たしかに、高レベルのモンスターがポンポン出てくるというのは、少しありがたみに欠けるかもしれまセーン」

 

ペガサスが顎に手を当てて考え始めた。それを見ながら、レンは畳みかけるように次の提案を口にする。

 

「次に魔法・罠カードについてだが……」

「まだあるのデスか!?」

 

草案のルールでは、魔法・罠カードは1ターンに1枚しか発動できないとある。この書き方では、どちらか1枚なのか、それぞれ1枚なのかは分からないが、どちらにせよ問題である。

しかも、魔法カードは伏せておけばいつでも発動できるとある。

 

(そういえば遊戯は相手のドローフェイズ前に魔法カードを発動してたな)

 

当然その制限の撤廃を進言した。戦略性って便利な言葉だなぁと思いながら。

 

「そして、モンスターに戻るんだが、この青眼の白龍……4枚だけ作るというのはどうなんだ?」

「そのモンスターは特にワタシのお気に入りデース。希少価値を持たせたいのデース」

「なるほど。では3枚(・・)だけ特別仕様(シークレットレア)の青眼の白龍を作ることにしよう。そして通常のウルトラレアとしての青眼の白龍を市場に流通させる。そうすれば差別化ができる。コレクターはその3枚を求めるだろうし、ドラゴン好きの子供たち(・・・・)はパックから手に入れることができる」

 

子供たちに力を入れて説明する。ペガサスが子供好きなのをレンは知っている。孤児院に寄付しているとも聞いていた。このカードゲームだって子供たちに楽しくプレイしてほしいという思いもあるはずだ。

 

「……たしかに、それならば希少性も保たれマース」

「俺は裾野を広げたいんだ。自由度を広げたいんだよ。このデュエルモンスターズで、みんなを笑顔にしたいんだ。デュエルでみんなを笑顔にしたいんだ」

 

「……みんなを笑顔に……シンディア……」

 

ペガサスがハッとなって考え込む。数秒後、ペガサスはレンの提案を受け入れた。

それ以外にも細々(こまごま)としたルールのツッコミどころは多かった。

例えば――

 

融合素材にできるのがフィールド上のモンスターのみ。

 

――融合が置換融合の下位互換になってしまう!

 

融合召喚したモンスターは、そのターン攻撃できない。

 

――テンポ悪すぎるだろ!

 

どちらかのプレイヤーがデッキ切れになった場合、ライフポイントの多いプレイヤーが勝利する。

 

――デッキアウト戦術が破綻する!

 

先攻1ターン目はドローできない。

 

――さすがペガサス。未来に生きてんな。実際どうするかマジで悩んだ。

 

それ以外にもチェーンの概念(正確にはスペルスピード)がなかったり、発動と効果がごっちゃになっていたりした。

これは誰しもがやったと思うが、発動したミラーフォースをサイクロンで破壊して無効というやつである。

 

あとは本当に細々としたルール(対象を取る取らないやコストと効果、送る捨てるなど)は、該当のカードがほとんど見られなかったので、レンは華麗にスルーした。

そもそも、カードゲームの入り口でするような話ではない。

 

「なるほど。レンはとてもカードゲームの造詣が深いようデスね」

「数少ない取り柄のひとつさ」

「デスが、やはりライフ8000は多すぎマース。間を取って4000としましょう」

 

さすがのレンも、どうやら原作の強制力には勝てなかったようである。

これは(のち)に、ペガサスの右腕とも、デュエルモンスターズの裁定者(ルーラー)とも呼ばれた男の物語である。

 

 

 



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第02話 カードを作ろう

新会社『インダストリアル・イリュージョン社』の設立は問題なく成った。人材も十分に集まり、ついに本格始動である。

プロジェクトの責任者に任命されたレンは、今日もカードの開発・制作に精を出していた。

 

「チーフ、今週のカードデザインが届きました」

「ありがとう。目を通しておくよ」

 

用意された副社長の椅子を蹴り、レンは主任(チーフ)という立場におさまった。

しかしペガサスも(かたく)なで、現在副社長の椅子は空いている状態だったりする。

 

デュエルモンスターズの方はとりあえずのルールも確立され、今は本格的にカードを揃える段階になっていた。ペガサスはカードデザイナーであるが、すべてのカードをデザインしているわけではない。外注も行っている。

 

「……やはりモンスターが多いな」

 

レンがぼそりとつぶやく。魔法や罠と比べればデザインしやすいのだろう。全体の8割くらいがモンスターだった。そこには見覚えのあるモンスターもいれば、初めて見るモンスターもいる。

 

(まあ多いに越したことはない。言い方は悪いが、ある程度の水増しは必要だ。だが……)

 

当然というべきか、どのカードも無難という他ないカード効果だった。

 

(初期頃の低速デュエルも嫌いじゃないんだが、やはりテコ入れは必要だな)

 

前世でデュエルに脳を焼かれた男は、早々にデュエルモンスターズを高速化させることを決めた。

 

(やっぱりカードを見るのは楽しいなぁ。ん? これは……)

 

 

最終突撃命令(永続罠カード)

このカードが場にある限り、すべてのモンスターは攻撃表示になる。

(たが)いのプレイヤーはデッキの中から3枚を選び、残るすべてを墓地に置く。

 

 

「このカードをデザインしたヤツは誰だぁ!!」

「またチーフがキレてるぞ!」

「今度は何のカードが気に入らなかったんだ?」

「キレどころが分からん」

 

今日もカード制作課は平和だった。

そして数ヶ月後、デュエルモンスターズは大々的に発表・発売され、世界を熱狂の渦へと巻き込んだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

アメリカからスタートしたデュエルモンスターズはすぐに市場の支持を得て、わずか数年で世界進出することになった。

現在では世界中でデュエルモンスターズが展開されている。

そんな折に、レンはペガサスの呼び出しを受けて社長室を訪れていた。

 

「社長を引退しようと思いマス」

「なにいってんだこいつ」

「辛辣デスね~」

「すまんな。考えてることが言葉に出ちまった。で、なんでそうなった?」

 

経営は順調で、今やI2社は世界的な企業となった。社長のスキャンダルなども聞かないし、引退する理由はない。レンはそう思っていた。

 

「最近は忙しすぎるのデース。ワタシの本業はカードデザイナーデース。なのでワタシは勇退して会長になろうと思いマース」

「なるほど。理由は分かったが、誰を後任にする気だ?」

 

そう問われたペガサスは、いたずらを思いついた子供のような笑顔で正面の男を指さした。

 

「経営は素人だぞ」

「役員連中がいマス。ワタシが退いたといっても威光が消えたわけではありまセン。彼らの意見を聞きつつ、暴走しないようにするのが社長(アナタ)の役目デース」

「彼らが納得するとは思えんが?」

「させまシタ。なんだかんだ、アナタも最古参のひとりデスからね」

 

ペガサスの不興を買えばどうなるか、役員の連中も分かっている。むしろペガサスよりはやりやすくなるとでも思ったのかもしれない。

 

「……カードの制作業務は引き続きやらせてもらう」

「いいでショウ」

 

それから細かいやり取りを行い、社長業務を引き継いでいく。

その作業の途中で、ペガサスは言った。

 

「ワタシに挑戦状が届きました」

「唐突だな。誰からだ?」

「キース・ハワードという男デース」

「カードプロフェッサー、バンデット・キースか。受けるのか?」

「最初は乗り気ではなかったのデスが、これは宣伝に使えると思ったのデース。条件付きで受けることにしました」

 

ペガサスはデュエルモンスターズの創始者であり、決闘者としても最強を誇っている。故に名を売りたい決闘者たちから挑戦状が届くことは珍しくなかった。

大抵は相手にもされずそのまま流れていくが、今回の相手はかなりしつこいようだった。

 

「条件とは?」

 

さして興味もなさそうにレンが訊ねる。

果たしてその条件とは――

 

ひとつ、100万ドルの賞金マッチにすること。

ひとつ、全米にテレビ中継を流すこと。

 

この2つだった。

 

「もうひとつ条件を追加しよう。両者同じデッキでデュエルを行うこと。これならば、万が一おまえが負けても言い訳が立つ」

「レンはワタシが負けると思っているのですか?」

「物事に絶対はない。手札事故を起こす可能性は常にあり得るさ」

 

とはいえこの時代はまだまだカードパワーが低いので、仮に事故ったとしても1キルされることはほぼない。そしてレンがこの提案をしたのはキースに要らぬ恨みを抱かせないためでもあった。

そしてレンはさらにペガサスの思考を先回りした。

 

「まあわざわざおまえが相手することもない。会場に来た子供にデュエルさせても面白いんじゃないか?」

「……ふむ。それはなかなか」

「本当にやる気か? 構わんが、やるならちゃんと後ろに立って、その都度(・・・・)アドバイスしろよ。ただでさえおまえは敵が多いんだから、余計な反感ややっかみを買う必要はない」

 

どの世界でも出る杭が打たれるのは変わらない。新進気鋭の若手実業家など、羨望の目で見られることもあるが、敵の方が圧倒的に多いのだ。

ビジネスの世界ではペガサスなどまだまだ小僧扱いである。

 

「フッ、まあそれはそれで面白いかもしれまセンね」

 

意外にもあっさりと、ペガサスはレンの提案を受け入れた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

勘違いしている人も多いが、立体幻像(ソリッドビジョン)の開発元はI2社ではなく海馬コーポレーションである。

といっても今はまだその名称はなく、軍事用シミュレーターに使用されているバーチャルシミュレーション具現化システムを転用している。

 

それなりに大きいものであり、個人販売はせず、一部のおもちゃ屋やショッピングモールに貸与する形を取っている。

この業務提携のささやかな謝礼として、レンは海馬瀬人に特別仕様の《青眼の白龍》を3枚贈っていた。

 

当然ながらペガサスは難色を示した。個人に希少価値の高いカードを3枚まとめて贈るのはどうか、と。

その苦言に対してレンは、海馬コーポレーションとの付き合いを密にしておくことはI2社にとっての利益となると言って納得させた。

 

(そのためにわざわざ取っておいたのだからな。I2社発展のために、ソリッドビジョンは外せない要素だ。海馬瀬人、精々利用させてもらうさ)

 

どうせ無理矢理にでも3枚集めるのだから、最初から渡して恩を売っておいた方がいいと考えたのだ。

海馬は闇のゲームで「死の体感」をしたことによってソリッドビジョンの着想を得たらしいが、レンが切っ掛けのアイデアを与えたことで、あとはトントン拍子に進んだ。

海馬瀬人、やはり天才であった。

 

さて、大観衆の拍手に包まれて始まったキースvsペガサスの一戦。先攻のキースが自分のターンを終え、ペガサスにターンが回ってきた。

そこでペガサスは、観客の中からひとりの少年を選び、彼を手招きで呼び寄せると、耳元で何かを囁き、自分の席に座らせた。

 

「僕にできるかなぁ?」

「大丈夫デース。デュエルモンスターズのルールは一見複雑デスが、実際にやってみると驚くほど簡単なのデース」

 

ホンマか?

 

「テメェ! ふざけるのもいい加減にしろ!」

 

キースがテーブルを叩いて立ち上がる。それに対してペガサスは「勝負を投げますか(サレンダーしますか)?」と軽く返した。

キースはイラッとした表情を見せたが、しぶしぶといった様子で腰を下ろす。

 

そうしてターンは流れる。

ペガサスは少年の肩に手を置きながら、とてもフレンドリーに世間話を交えつつ、「この場合はこのカードを使うと良いのデース」などとアドバイスしていた。

それを見ていた対面のキースはどんどんと不機嫌になっていく。

そしてデュエルは決着し、あの名台詞が会場に流れた。

 

「トムの勝ちデース!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

デュエルという名の茶番は終わり、キースの控え室に来たレンは怒声を聞いて立ち止まった。

 

「クソッ、あの野郎! なめたマネしやがってチクショウが!!」

 

(メチャメチャ機嫌悪いな。気持ちは分からないでもないが、備品にあたるのはやめてほしい。壊したら請求するぞ)

 

内心でそう思いつつも、レンは一歩前に出た。

 

「ミスター。少しよろしいですか?」

「アァ? なんだテメェ……その腕章、あの野郎の犬か!」

 

キースは怒りをあらわにしてレンに向き直った。

 

「ペガサスの失礼については謝罪します。私はこのイベントに協力してくださったミスターに謝礼をお持ちした次第です」

「謝礼だァ? どうせたいしたモンでもねぇんだろうが! いるかよそんなモン!」

 

声を荒げて突っかかってくるが、レンとしても受け取ってもらわないと困る。ペガサスが狙われる可能性を少しでも下げておきたかったのだ。

 

「そうおっしゃらずに受け取ってください。手前みそになりますが、良いカードですよ」

 

そう言って桐の箱を開ける。中には3種3枚のカードが収められていた。

 

「――ッ!? こいつは、リボルバー・ドラゴンの進化系か!? 端の2枚もかなりシナジーのあるカードだ……」

 

キースがゴクリと唾を呑み込む。

 

「こう見えても私、ミスターのファンでして。ペガサスもああ見えて、ミスターの活躍がデュエルモンスターズの発展に寄与すると期待されておられます」

「……ハンッ」

 

冗談はよせとばかりに鼻で笑う。それでも視線はカードに釘付けだ。それもそのはずで、これはまだ一般には出回ってないカードだった。

 

「いずれは一般販売されますが、先行配布という形でプレゼントさせていただきます」

「……フンッ、まあ、貰っといてやるよ」

 

ふんだくるように中のカードだけをポケットに押し込むと、キースは鼻歌でも歌いそうな足取りで帰って行った。

それを見送りながら、レンはやれやれといった感じでため息をこぼした。

 

 

 





そんなわけで割と新しめのカードも登場します。


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第03話 神のカードは作らない

「だーかーら! それは本当に危険なんだって! マジのマジで!」

「……そんなに声を荒げないでくだサーイ。たかがカードではないデスか」

創始者(おまえ)がたかがカードとか言うなよ。それはマジで危険なカードなんだ」

「……ムゥ」

 

レンのただならぬ様子に、さしものペガサスも動揺を隠せなかった。レンがいま見ているのは神のカードの原案である。テキスト欄が解読不能の文字で埋められている時点で、カードとして世に出すのは問題だろう。

 

「とにかく、神のカードなんて作るべきではない。常日頃言ってるだろ。カードゲームには平等性を持たせるべきだと。世界に1枚のカードとか必要ないんだ。それとも、その神のカードを大量に刷って一般流通させてもいいのか?」

 

そんなことをしたらどうなるんだろうか。神のコピーカードを使ったら神罰めいたものを喰らったらしいが、運営が正式な手順で刷ったカードなら大丈夫なのだろうか。神のカードは紙のカードになるのだろうか。

 

「……アナタがそこまで言うのなら、神のカードは諦めましょう」

「本当だぞ。約束したからな。絶対に作るなよ。絶対だからな!」

 

念入りに念を押して、レンは叫ぶように約束を取り付けた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

海馬コーポレーションと深く付き合いだしてから、ペガサスは日本に興味を持ち始めた。レンが和物を使っていたり、和食を好んでいたことも多少影響があるのかもしれない。

世界各地で行われているデュエルモンスターズの公式大会、ペガサスが出向くことは滅多にないことだが、日本の大会へは足を運ぶことになった。

 

いま、ペガサスとレンの目の前では全国大会の決勝戦が行われている最中である。12ターンにも及ぶ激戦を制したのは、眼鏡をかけた小柄な少年だった。

 

「コングラチュレーション」

「サ、サンキュー」

 

緊張した様子で羽蛾が優勝トロフィーを受け取る。いつもは小生意気な少年も、I2社のトップの前では借りてきた猫のようにおとなしくなっていた。

続いてレンが副賞のカードを羽蛾に渡す。

 

羽蛾の名台詞と言えば「こうすればよかったんだ!」が有名だろう。だがそうする前に、彼はこうも言っている。

 

――僕はずっと考えていたんだ。エクゾディアを倒す戦略を

 

と。

つまり攻略法を思いつかなかったから強硬手段に出たのだ。原作時点と違って今のカードプールは肥えているから探せばあると思うが、念のために対抗策のひとつを渡しておこうとレンは考えた。

羽蛾に渡した副賞のカード。それを上手く使えるかどうかは彼次第だが。

 

そもそも海馬と遊戯の一戦が行われるのかが、レンには不明だった。海馬はすでに3枚の《青眼の白龍》を所有しているので、遊戯の祖父から奪い取ることはない。仮に双六が《青眼の白龍》を持っていても、それはウルトラレアの《青眼の白龍》であり、海馬の持つ《青眼の白龍(シークレットレア)》よりレアリティは劣る。

それを無理矢理奪い取るというのは考えにくい。何よりウルトラレアの《青眼の白龍》は、世界に数千枚は出回っているのだ。

遊戯と海馬の因縁が無い場合、羽蛾が遊戯の存在を知るすべはない。

ともあれ、つつがなく大会が終わったことにレンは安堵した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「大規模なデュエル大会を開催しようと思いマース」

 

レンはすぐさま決闘者の王国編であることを察した。

 

「では著名な決闘者には招待状を送っておこう。一般の参加枠は何名ほどにするか……」

「ふむ。まあ3万人ほどにしておきまショウ」

「300人ほどでいいか」

「ナンデストッ!?」

 

レンはペガサスの提案をバッサリと切り捨てた。

 

(原作での参加者は確か40人だったか。まあ不正参加者がいたり、プレイヤーキラーがいたりと、カオスでガバガバな大会だったが……)

 

原作ではペガサスの目的が遊戯を倒すこと(KCの乗っ取り)だったので、参加人数は敢えて少なく絞っていたふしがある。

だがこの世界のペガサスは純粋に大会を開催するつもりなので、そういった思惑は全くない。

 

「3万人はどう考えてもキャパオーバーだ。東京ドームの悲劇を忘れてはならない」

「トーキョードーム?」

「いや、何でもない。忘れてくれ。ともかく、管理や調整に手が足りん。そもそも会場は……」

 

そこでレンは、はたと気付いた。王国編ばかりに気をとられていたが、ワールドチャンピオンシップのように、国内予選から行い、世界大会を中継すれば……。

 

(いや、ダメだな。やはり手が足りない)

 

忘れがちだが、I2社はまだまだ新興会社なのだ。急速に成長したがゆえに、色々と脆い部分はある。

 

「会場の心配はありまセン。この日のために、太平洋の孤島を購入していたのデース。すでにワタシの屋敷も建ててありマース」

「それ無人島だろう? 3万人の生活施設を整えるだけでも一苦労だぞ。やはり300人にしよう。それならギリギリなんとかなる」

 

レンは原作で主人公一行が野宿している描写があったのを思い出した。会社のイメージというのもあるし、簡易でも宿泊施設は用意すべきだと思った。

まあサバイバルを条件に入れても、参加者は集まりそうだが。

それほどデュエルモンスターズの人気は、拍車をかけたように盛り上がっているのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

この時代、まだまだパソコンは高い買い物であり、スマホなんてものも存在しない。携帯電話もひとり1台なんてほど遠い。つまり参加者の募集はネットではなくハガキが主になる。

そのハガキをデータに落とし込み、改めて抽選することになる。

 

(さて、条件を「日本」に絞り込んで……あった、城之内克也。武藤遊戯の名前は……あった)

 

その名前を見つけた時、レンは安堵のため息をこぼした。

ここに名前があるということは、ペガサスは招待状(ビデオ)を送っていないということだからだ。

 

遊戯は大会等に参加する性格ではないが、城之内が妹の手術費用を稼ぐためという理由で参加したはず。だから遊戯も参加しているのは別段おかしいことではない。

海馬が意識不明に陥ってないことから、おそらく遊戯との一戦はなかったはずだ。

ならペガサスが遊戯の存在を知る方法はない。

考えてみれば当たり前のことだった。

 

(懸念はシャーディーあたりがなんか吹き込みそうだってことか。確かあいつは遊戯(ファラオ)に使命を全うさせるための存在だったはず)

 

原作キャラの中でもトップクラスに行動が読めない男である。それでも彼の中心にあるのはファラオなので、明確に遊戯と敵対しない限りは大丈夫だと思っていた。

 

 

 




とあるゲーム屋での一幕?

「あれ? ジイさんのブルーアイズ、ちょっと光り方が違うなぁ。フフッ、これが『本物』のブルーアイズだよ(チラッ)」
「……ぐぬぬ」


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第04話 ペガサス島へようこそ

デュエルモンスターズに関わるようになって、レンは世界に疑問を持った。

 

(ここは漫画の世界じゃない。たぶんアニメの世界だ)

 

何が違うんだ? と思う方もいるかもしれないが、実は大違いである。漫画遊戯王とアニメ遊戯王は別の世界線なのだ。

世界線が違うというか、世界の成り立ちそのものが違う。

アニメ版の世界は1枚のカードから始まったとされるが、漫画版はそうではない。

 

オカルト関連にしても、漫画では主に千年アイテムに関わることだけであるが、アニメではドーマやらが出てきて色々とやらかしている。

端的に言って、アニメ世界の方がきな臭くオカルト色が強い。

 

レンがこのことに気づいたのは、デュエルモンスターズの大会入賞者に、GXのキャラがチラホラと見受けられたからだ。

もちろん本編よりも若い姿であるが。

ちなみに、GXはアニメ版遊戯王のその後を描いた作品である。

 

(マジック&ウィザーズではなくデュエルモンスターズの時点で気づくべきだったな)

 

漫画はマジック&ウィザーズ、アニメはデュエルモンスターズ、これが分かりやすい差異であろう。

 

(だがパラディウス社が存在しないのはどういうことだ?)

 

レンの記憶ではパラディウス社の総帥がドーマ編のボスだった。にもかかわらず、そのパラディウス社自体が存在しない。

まるで意味が分からない。

 

(戸籍を調べてみたが、海馬乃亜(のあ)もいないようだ。まあこれは剛三郎が隠蔽した可能性もあるが……BIG5の反応から考えても、いないと見る方が自然だ)

 

レンはBIG5との会話で、剛三郎の家族関係についても話を振ってみたが、慌てたり言いよどむような反応はなかった。

 

(それにあの姉弟(きょうだい)がいるのも腑に落ちない。GXも漫画とアニメは別世界線だったはず……。もしかしたら、漫画でもアニメでもない世界線なのかもしれん。俺がいること自体、もはや原作ではないのだし)

 

と、早々に考えることをやめた。

 

(まあ何かあっても主人公(遊戯)に任せておけばいいだろ)

 

自分は所詮モブ。そう考えていた。

そもそも世界を救おうだとか、不幸なキャラを救済しようだとか、そんな崇高な目的は持ち合わせていない。

精々が関わり合ったペガサスを護ろうと考えているくらいである。

 

そんなレンであるが、今はペガサス島で運営スタッフ(モブ)として働いている。社長のくせに現場に出ているのは、確認しておきたいことがあったからだ。

 

「やっと上陸だぜ! よっしゃー! 早速デュエルだ!」

「おい城之内! ちょっと落ち着けよ!」

 

聞き覚えのある声が聞こえてきて、そちらの方に目を向ける。

そこにいたのは3人の少年。遊戯と城之内と本田。参加者名簿の通りである。密航者の情報も上がっていないので、あの悪魔(獏良了)は来ていない。やはり随伴者不可にしたのは正解だったとレンは胸をなでおろした。

 

ちなみに、今回の大会ではフィールド・パワーソースなどというふざけたルールは存在しない。

 

(なんだよ攻守30%アップって。計算が面倒だろ。俺がやるわけじゃないけど)

 

なのでその地域に合わせたフィールド魔法が最初から発動しているというルールに変更してある。

 

「ん? 本田、あの人だかりはなんだ?」

「おまえ、説明聞いてなかったのかよ。あれはレアカード交換所だよ」

「なにぃ!? レアカードが貰えんのかよ! よし、行ってみようぜ!」

 

駆け出す城之内。それを遊戯と本田が追いかける。

けっきょく島内に作ったのは売店とレアカード交換所だけだった。

宿泊施設や食堂は、参加者たちを運んできた客船を停泊させて利用すればいいと気づいたのだ。

書面だけでは気づかないことは意外と多い。実際に動いてみれば、気づくことは多かった。

 

そして件のレアカード交換所だが、交換所というだけあって、ただで貰えるわけではない。(スターチップ)と交換するのだ。この島において星は生命(いのち)である。

最初に配布された2つの星の1つを、早々にレアカードと交換するのはかなりの自信家だろう。実際あの人だかりもカードを確認しているだけで、交換している人はほとんどいない。

 

(ちゃんと《真紅眼の黒竜》も用意したぞ。頑張って手に入れてくれよ)

 

予選の日程は3日間。決勝に残れるのは先着で32名、星を10コ集めた者が通過できる。

彼らは果たして生き残れるだろうか。このデュエルサバイバルを。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

大会が開始されて数時間が経過した。

遊戯は順調に勝利を重ね、スターチップは6コまで増えていた。

予選は3日間行われるとはいえ、先着で32名という枠がある以上、あまり悠長にもしていられない。

特に、抽選ではなく招待選手として大会に参加している強豪デュエリストは、今日中にでも本戦出場を決めてしまうだろうと遊戯は睨んでいた。

 

「そろそろ俺もやった方がいいかもなぁ」

 

城之内の中にも焦りが生まれる。これまでは勉強という名目で遊戯のデュエルを観戦していたが、自分もそろそろ動き出さねばならないと思ったのだろう。

 

「ようやくおまえにも状況が理解できてきたか」

 

と訳知り顔で本田がウンウンと頷く。

 

「クッ、テメェが早々に敗退するからだろうが!」

 

そう、本田は勢い勇んでスターチップ2コ賭けでデュエルを挑んだものの、見事に敗北。初戦敗退となった。

自分が勝つことで城之内に勢いを付けようと思ったのだが、裏目に出てしまったようだ。

 

「城之内、過去を振り返っても意味はない。俺たちが目指すのは未来だぜ!」

「無駄にカッコイイこと言いやがって。まあいい。とっとと星を稼がねぇと本戦出場に間に合わねぇかもしれねぇしな。それに、あのカードも手に入れたいし」

 

レアカード交換所で見た《真紅眼の黒竜》のカード。それを一目見た時、城之内は運命のようなものを感じた。直感的に、これは絶対に手に入れるべきだと感じたのだ。

 

「おまえ、ただでさえ出遅れてんのに、そんな余裕ねぇだろうが。なぁ遊戯。おまえもなんか言ってやれよ」

「え? ああ、う~ん。そのことなんだけどさ……」

「どした遊戯。なんか気になることでもあんのか?」

 

言いよどんだ遊戯に対して城之内が問いかける。

 

「大会説明の時に、ペガサス会長は言ってたよね。スターチップを10コ集めた者が決勝トーナメントに進めるって」

「おう。しかも32人だろ。結構焦るぜ」

 

城之内が拳を握る。だが遊戯は別のところが気になっていた。

 

「その時に、星を回収するとは言ってなかったんだよね。つまり……」

「そうか! レアカードと星を交換するのは、本戦出場を決めた後がいいってことか!」

「うん、本田くん。ボクはそう思うんだけど、どうかな?」

 

もちろん言わなかっただけでキッチリ星を回収される可能性もある。だが、必ず誰かが抗議するだろう。そんなこと言ってなかったと。だからこれはかなり可能性の高い推測だ。

予選でデッキを強化することも、本戦出場を決めて強化することも、参加者(プレイヤー)の自由である。

遊戯はそれがペガサスの意図だと感じたのだ。

 

「なるほどな。勝ち上がった後のスターチップはボーナスみてぇなモンで、ただ同然でレアカードが手に入る……てことでいいんだよな?」

 

自分で口にしたものの、いまいち自信なさげに城之内は遊戯に伺いを立てる。

 

「たぶんね。この予選、想像以上に早く枠が埋まりそうな気がするんだ」

 

遊戯はそう呟きながら、遠くに見えるペガサス城に目を向けた。

 

(この予測が当たっていれば、本選ではみんな強化されたデッキになる。過酷なデュエルになりそうだ)

 

――ああ、相棒。だがそこに隙も生まれやすい

 

どんなに強力なカードでも、使い慣れていないカードは大きな隙を生む。そしてデッキ全体のバランスも崩しかねないのだ。

 

――とはいえこの大会、想像以上に厳しい闘いになりそうだぜ

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「対戦ありがとうございました! 俺、キースさんとデュエルできたこと一生の自慢にします!」

「……おう」

 

礼儀正しくお辞儀をして去って行く少年を見送りながら、キースは今日何度目かのため息を零した。

 

(記念受験じゃねぇんだぞ! もっとこう……あるだろうが!)

 

あの日、ペガサスとのエキシビションマッチに敗北したことでキースの評価は落ちた。だが同じデッキで闘い、相手は会場に来ていた子供だったとしても、ペガサスのアドバイスを受けて、ペガサスの言う通りにカードを動かしていたので、実質の相手はペガサスだったということで、原作ほどキースの評価は落ちてはいなかった。

 

なにより、そこからキースは荒れなかった。むしろより一層デュエルモンスターズと真摯に向き合うようになり、それ以降も数々の大会で連勝を重ね、チャンプの顕在をアピールした。

そして想像以上の人気者になってしまったのだ。スポンサーも付き、賞金稼ぎを繰り返すよりも安定した生活を手に入れたキースは、持ち前のワイルドさを残しつつも穏やかな性格になっていった。

 

大会が始まった直後からキースは次々とデュエルを挑まれた。だが相手はいずれも彼のファンであり、デュエルの腕は悪くないとはいえ、キースの相手にはならなかった。

そもそも彼らからは、キースに勝ってやろうという気概が感じられなかったのだ。故にキースはファンサービスをしながら適当に相手をすることにした。それでも難なく勝てるところが全米チャンプの実力だろう。

グローブに嵌められた8コのスターチップを眺め、キースはまたため息を落とした。

 

(ダメだ。こんなヌルいデュエルで本戦に行っても調子が崩れたままだ。もっと緊張感のある、ヒリつくようなデュエルじゃなきゃぁ勘が鈍っちまう)

 

島内をうろつきながら相手を探す。

そこで、キースはひとりの女性を見つけた。

 

(あいつは確か……孔雀舞とかいったな。腕利きのディーラーで、デュエリストとしても一流だとか)

 

一時期カジノに入り浸っていたキースの耳にも、その噂は届いていた。デュエルモンスターズに傾倒するようになってからは足が遠のいていたが、その時のカジノ仲間の何人かが敗北したことも聞いている。

 

(面白れぇ。その噂が本当かどうか。確かめてやる!)

 

草を踏みしめて標的へと向かう。その隠しもしない気配に、舞も気付いた。

 

「――ッ!? アンタ、全米チャンプの……」

「おい、デュエルしろよ」

 

挨拶もなくいきなりデュエルを申し込んできたキースに面食らうものの、舞も一流のデュエリスト、視線は一気に鋭くなった。

 

「いいわ。スターチップはいくつ賭けるのかしら?」

「テメェは今いくつ持ってる?」

「……6コよ」

「ほぅ。順調そうだな。俺は8つだ。テメェには2つ賭けてもらうが、俺が負けた時は4つやるよ」

「なんですって!?」

 

キースの提案に舞は動揺する。これはどう考えてもおかしい。キースには損しかない提案だ。

 

「なにを企んでいるの?」

「別になにも企んじゃいねぇさ。今はリスクを背負いたい気分なんだよ。あるだろ? そういう時がよ」

 

とぼけた様子でキースは答える。だがそれは偽らざる本音だった。大した苦労もせずに入手したスターチップに執着などない。

 

「施しは受けないわ。お互いに2コ賭けで勝負よ」

「フッ、強情な女だ。まあいい。ならそれで構わねぇよ」

 

賭けは成立し、ふたりは近場のバトル・ボックスへと入った。

 

 

『デュエルッ!!』

 

 

「私の先攻よ。ドロー!」

 

デュエルは舞の先攻で始まった。バトル・ボックスに設定されたフィールドは《草原》。戦士・獣戦士族モンスターの攻守を200ポイントアップする効果を持っている。

だが舞のデッキは鳥獣族主体の構築で影響は全くと言っていいほど受けない。

 

(このフィールド魔法(ルール)、私にとっては邪魔なのよね)

 

舞の戦術はフィールド魔法《ハーピィの狩場》で相手の伏せカードを除去して安全に攻め込むというものだったが、今大会の予選ルールでは、バトル・ボックスのフィールド魔法は破壊されず、上書きもできないというもの。故に舞は戦術を大幅に修正せざるを得なくなった。

 

「魔法カード《予想GUY》を発動。デッキから《ハーピィ・レディ》を特殊召喚するわ。そして《万華鏡-華麗なる分身-》を発動。デッキから《ハーピィ・レディ三姉妹》を特殊召喚。さらに手札から《ハーピィ・オラクル》を特殊召喚するわ!」

 

瞬く間に3体のハーピィ・レディを展開した舞は、永続魔法《魅惑の合わせ鏡(スプリット・ミラー)》を発動し、カードを1枚セットしてターンを終えた。

 

「エンドフェイズにハーピィ・オラクルの効果で、墓地の《万華鏡-華麗なる分身-》を手札に加えるわ」

 

孔雀舞 LP4000 手札2 モンスター3 伏せ1

 

三:ハーピィ・レディ三姉妹 守備力2100

ハ:ハーピィ・レディ 守備力1400

オ:ハーピィ・オラクル 守備力1400

魅:魅惑の合わせ鏡

■:伏せカード

 

□□魅□■

□三ハオ□

 

□□□□□

□□□□□

 

キース LP4000 手札5 モンスター0 伏せ0

 

――――――――――――

 

「俺様のターン、ドローだ!」

 

舞の射抜くような視線を受けて、キースの身体が震える。

 

(これだ。この緊張感だ。ヤツは本気で俺様をぶっ倒そうと意気込んでいる。伝わって来るぜ。決闘者特有の殺気ってやつがよ!)

 

この大会で初めての真剣勝負。キースは己の身体にこびりついていた錆が落ちていくのを感じていた。

 

(予選の特殊ルールによりフィールド魔法は使えねぇ。まあいい。丁度いいハンデだ。アレは本戦まで取っておくさ)

 

奇しくも舞と同じく、キースも種族テーマのフィールド魔法を使うデッキだった。だがそれは予選ルールで使用できない為、予選用に調整したデッキを使っている。

 

(厄介なのはあの永続魔法だな。あれがある限り後続を呼ばれちまう)

 

ハーピィモンスターのほとんどは、フィールド・墓地にいる限りカード名を「ハーピィ・レディ」として扱うという特性を持っている。

また特殊召喚時の効果を持っているカードも多いため、魅惑の合わせ鏡を除去しないと、モンスターを戦闘破壊しても状況が悪化するという事態もあり得るのだ。

 

「ちと運任せになっちまうが、攻めデュエルが俺様の信条だ! 《融合派兵》を発動。EXデッキの《ガトリング・ドラゴン》を公開し、デッキから《ブローバック・ドラゴン》を特殊召喚するぜ」

 

頭部が拳銃の形をした機械龍が不気味な機械音を奏でる。

ブローバック・ドラゴンの銃口が《魅惑の合わせ鏡》へと向いた。

 

「ブローバック・ドラゴンの効果発動。コイントスを3回行い、その内2回以上が表だった場合、対象のカードを破壊するぜ」

 

「そう上手くいくわけが……」

 

「クククッ、俺様が50%を外すわけねぇだろ!」

 

舞い上がった3枚のコインの内、2枚のコインが表を示し、ブローバック・ドラゴンの銃口から弾丸が発射された。

 

(くっ、墓地にハーピィ・レディがいないため、魅惑の合わせ鏡の破壊時効果は発動できない。発動を早まったか……)

 

内心で臍を噛むが、全米チャンプ相手にカードを温存するのは危険だと判断したのだ。

 

「さらに《融合呪印生物-闇》を通常召喚するぜ」

 

「融合はさせないわ! ハーピィ・レディをリリースして《ゴッドバードアタック》を発動。《ブローバック・ドラゴン》と《融合呪印生物-闇》を破壊する!」

 

ハーピィ・レディがその身を弾丸にして2体のモンスターを撃ち抜く。

 

「ほぅ。そんなカードを伏せていたなら、ブローバック・ドラゴンが出てきた時に使うべきだったなぁ。クククッ……」

 

キースが挑発を込めて小さく笑う。ゴッドバードアタックは鳥獣族モンスターをリリースした上で、フィールドのカード2枚を対象として発動しなければならない。

あの時、キースのフィールドにはブローバック・ドラゴンしかいなかった。発動していれば3:1交換となり大きなディスアドバンテージとなる。破壊が不確定の効果を恐れて使うのはあまりに非効率的だったのだ。

 

(クククッ、破壊が不確定だからこそ発動を躊躇(ためら)う。計算高いヤツらほどハマるって寸法よ)

 

単純なアドバンテージだけではなく、心理的にも優位に立つ。それがキースのコイン戦術だった。

 

「モンスターを除去して安心ってところかぁ? だが悪ぃな。結局は同じことよ。《オーバーロード・フュージョン》を発動。墓地の《ブローバック・ドラゴン》と《融合呪印生物-闇》を除外して、《ガトリング・ドラゴン》を融合召喚するぜ!」

 

現れたのは三つ首の機械龍。その頭部はすべてガトリング砲を模しており、脚はなく代わりにトゲ付きの車輪という異形の姿だ。

舞の額に冷たい汗が流れる。

 

「ガトリング・ドラゴンの効果発動」

 

「効果を使うですって!?」

 

ガトリング・ドラゴンの効果はコイントスを3回行い、表が出た数だけ、フィールド上のモンスターを破壊するというもの。

つまり3回表が出れば、ガトリング・ドラゴン自身も破壊しなければならないのだ。

 

「クククッ、博打ってのはハズレたら痛い目見るから面白ぇのよ。さあやりな! ガトリング・ドラゴン!」

 

とはいえキースにも勝算はあった。3回コイントスを行い、3回とも表が出る確率は12.5%。対して1回、2回表が出る確率はそれぞれ37.5%。圧倒的にキースが有利なギャンブルなのだ。

 

「結果は……クククッ、とことんツイてないようだな。《ハーピィ・オラクル》と《ハーピィ・レディ三姉妹》を爆殺!」

 

2門のガトリングが火を噴き、2体のハーピィを葬り去る。

これで舞のフィールドはがら空きとなった。

 

「さぁお待ちかねのバトルだ。ガトリング・ドラゴンでダイレクトアタック!」

 

弾丸のシャワーが舞の身体に降り注ぐ。

 

「くっ、だけど次のターンで華麗に逆転してみせるわ! 私のハーピィデッキは……」

 

「クククッ、残念だな。テメェに次のターンはねぇ。機械族には一撃必殺のカードがあることを知らねぇのか?」

 

「――まさかっ!?」

 

「手札から《リミッター解除》を発動。ガトリング・ドラゴンの攻撃力は倍になる! これが本当の一撃必殺ってやつよ! ワハハハハハハッ!」

 

ガトリング・ドラゴンの冷たい雨に撃たれ、舞のライフは0となった。

 

(1ターンキル。完全試合(パーフェクトゲーム)。これが全米チャンプ、キース・ハワードの強さ……)

 

数々の大会を総なめにしてきた実力は本物だった。

 

「くっ、だけど私を甘く見ないことね。必ず本戦出場を果たし、本気のデッキでアンタにリベンジするわ!」

 

スターチップと同時に、舞は挑戦状をも投げ渡す。

 

「クククッ、そりゃあ楽しみだ。その時は俺様も本気のデッキで応えてやるよ」

 

「なっ!? 本気のデッキですって!?」

 

「一足先に「上」で待ってるぜ。テメェの運が良けりゃ……いや、運が悪けりゃまた闘うこともあるだろうよ。じゃあな」

 

そう言い残し、キースはペガサス城に向かって歩き出した。

 

 

 




本作ではちょっとだけ綺麗なキースさんでいきます。


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第05話 意地と覚悟

大会開始からしばらく経ち、城之内はようやく初戦に乗り出した。

相手は招待選手ではなく、自分と同じく抽選に受かって参加した選手故、実力はそれほどでもなかったが、初心者に毛が生えた程度の城之内は苦戦を強いられた。

遊戯の助言により辛くも勝利した城之内だったが、勝利の実感は薄かった。

 

(このままじゃダメだ……)

 

遊戯がそばにいることで甘えが出てしまう。これではダメだと思った城之内は、意を決して遊戯にある提案をする。

 

「なあ遊戯。これから別行動にしねぇか?」

「え? 城之内くん……?」

「なに言ってんだ城之内! おまえが遊戯のアドバイスなしで勝てるわけねぇだろ!」

 

唖然とする遊戯と、チャチャを入れる本田。城之内は本能的に感じていたのだ。このままでは決闘者として成長できないと。

その意気を感じ取った遊戯は、無言で首を縦に振った。

 

「遊戯! 俺はこの大会で強くなる! 次は本戦で会おうぜ!」

「うん。城之内くん、お互い頑張ろう!」

 

ガシッと握手を交わし、遊戯と城之内は反対の方向に歩き出した。

 

本気(マジ)かよ……。チッ、すまねぇ遊戯。俺は城之内のお()りに行くぜ!」

 

本田は迷ったあげく、城之内についていくことにした。遊戯は海の方へ、城之内たちは山の方に向かって歩き出した。

 

「まったく、おまえはカッコつけだけは一流……って、もしかしておまえ、震えてんのか?」

「へっ、こりゃ武者震いってやつよ。おっしゃー! やってやるぜ!」

 

意気揚々と歩き出す城之内たちの前に、人影が見えてきた。

 

「おっ、早速相手が見つかったぜ。って、なんかちっちぇな。う~ん、どうすっか……」

 

テンションの上がっていた城之内は、どうせやるなら強いやつがいいと思っていた。だが視界に飛び込んで来た少年は陰気な雰囲気を纏っており、どうにも強者のオーラが感じられない。

 

「ん……あっ、あいつはっ!?」

「知ってんのか本田ァ!?」

「ああ、全国大会のベスト8に残ってたやつだ。確か名前は……ゴースト骨塚だ。たぶん」

「え? ゴ、ゴースト……?」

 

上がったテンションが一気に下がっていく。

 

「やめとこうぜ。強いってのもあるが、おまえ幽霊とか苦手だったろ。相性が悪いって」

「だ、誰が幽霊が苦手っていう証拠だよ!」

「そういうとこだよ」

 

本田が呆れたようにため息をこぼす。

 

「くっ、おばけなんていねぇ。寝ぼけたヤツが見間違えただけさ。この程度でビビってちゃあ、静香に合わせる顔がねぇ!」

 

本田の制止を振り切り、城之内はゴースト骨塚にデュエルを挑む。もちろんスターチップは()掛け。既に6コ所有していたゴースト骨塚はそれを受けた。

 

 

『デュエルッ!!』

 

 

(クククッ、カモがネギしょってやってきたゾ)

 

このバトル・ボックスに設定されたフィールド魔法は《荒野》。ゴースト骨塚の使役するアンデット族の攻守を上げる効果を持っている。

 

「オレの先攻だゾ、ドロー! モンスターをセット。カードを1枚セットしてターンエンドだゾ」

 

ゴースト骨塚 LP4000 手札4 モンスター1 伏せ1

 

セ:セットモンスター

■:伏せカード

 

□□■□□

□□セ□□

 

□□□□□

□□□□□

 

城之内克也 LP4000 手札5 モンスター0 伏せ0

 

――――――――――――

 

「俺のターン、ドロー! 《切り込み隊長》を召喚して、さらに切り込み隊長の効果で《戦士ダイ・グレファー》を特殊召喚。さらに永続魔法《連合軍》を発動するぜ」

 

《切り込み隊長》 攻撃力1200 → 1600

 

《戦士ダイ・グレファー》 攻撃力1700 → 2100

 

「バトルだ! えっと――」

 

ここで城之内は判断に悩む。切り込み隊長から攻撃した方が、その後のダイレクトアタックで相手のライフを半分以上削ることができる。

だが切り込み隊長の攻撃力は1600とそこまで高いものではない。

 

「ええぃ、セットしたってことはそう大したモンスターでもないだろ。切り込み隊長で攻撃だ!」

 

切り込み隊長が剣を振り降ろし、セットモンスターに攻撃を加える。カードの影から《ピラミッド・タートル》が姿を現した。

 

「よし! 守備力は1400だ。破壊できるぜ!」

 

「甘いゾ。ピラミッド・タートルはアンデット族だから、フィールド魔法《荒野》の効果を受けて攻守が200アップするゾ」

 

ピラミッド・タートルが強固な頭部で切り込み隊長の剣を弾き返す。

 

「クソッ、ならダイ・グレファーで攻撃だ!」

 

続けて突撃した戦士の一撃がピラミッド・タートルを両断する。

 

「ククッ、ピラミッド・タートルの真価は戦闘破壊された時に発動するゾ。デッキから《龍骨鬼》を特殊召喚するゾ」

 

地面から這い出るように出現したのは、全身に髑髏を纏ったおぞましき龍であった。

 

「ぎぃやぁぁぁ! な、な、な、なかなかリアルじゃねぇか!」

 

「城之内! 泡吹いてる場合じゃねぇぞ!」

 

「泡なんて吹いてねぇ! 俺はカードを2枚伏せてターンエンドだぜ!」

 

城之内克也 LP4000 手札1 モンスター2 伏せ2

 

切:切り込み隊長 攻撃力1600

ダ:戦士ダイ・グレファー 攻撃力2100

連:連合軍

■:伏せカード

■:伏せカード

 

連■□□■

□切□ダ□

 

□□龍□□

□□■□□

 

龍:龍骨鬼 攻撃力2600

■:伏せカード

 

ゴースト骨塚 LP4000 手札4 モンスター1 伏せ1

 

――――――――――――

 

「オレのターン、ドローだゾ。《ゾンビ・マスター》を召喚して効果発動。手札の《ゴブリンゾンビ》を墓地へ送り、《ピラミッド・タートル》を蘇生するゾ。さらに永続魔法《奇跡のピラミッド》を発動。これでオレのアンデット族は、相手モンスターの数×200ポイント攻撃力がアップするゾ」

 

《ピラミッド・タートル》 攻撃力1400 → 1800

 

《ゾンビ・マスター》 攻撃力2000 → 2400

 

《龍骨鬼》 攻撃力2600 → 3000

 

「バトル! 龍骨鬼で切り込み隊長に攻撃するゾ!」

 

「ぐぁっ!」

 

城之内克也 LP4000 → 2600

 

「続けてピラミッド・タートルで戦士ダイ・グレファーに攻撃だゾ!」

 

「自爆特攻で効果を使う気か! だが代償は払ってもらうぜ。罠カード《アームズ・コール》を発動。デッキから《最強の盾》を手札に加え、《戦士ダイ・グレファー》に装備するぜ!」

 

《戦士ダイ・グレファー》 攻撃力1900 → 3500

 

天から降ってきた盾剣を掴み取り、連撃でピラミッド・タートルを葬り去る。

 

ゴースト骨塚 LP4000 → 2100

 

「ぐっ、このダメージは想定外だゾ。だけどピラミッド・タートルの効果で、2体目の《龍骨鬼》を特殊召喚するゾ!」

 

「うぎゃぁぁぁ! また出たぁぁぁ! って、攻撃力はダイ・グレファーの方が上だ。ビビるこたぁねぇぜ!」

 

「それはどうかな。龍骨鬼でダイ・グレファーに攻撃するゾ!」

 

「な、なにぃ!?」

 

相手の意図が読めずに困惑する城之内だったが、その結果はすぐに分かった。

 

「龍骨鬼が戦士族・魔法使い族とバトルした時、ダメージステップ終了時に相手モンスターを破壊するゾ。続けてゾンビ・マスターでダイレクトアタックだゾ!」

 

「ぐぉっ!?」

 

ゾンビ・マスターのダイレクトアタックで城之内のライフが大きく削られる。

 

城之内克也 LP2600 → 600

 

「オレはこれでターンエンドだゾ」

 

ゴースト骨塚 LP1400 手札2 モンスター2 伏せ1

 

ゾ:ゾンビ・マスター 攻撃力2000

龍:龍骨鬼 攻撃力2600

奇:奇跡のピラミッド

■:伏せカード

 

奇□■□□

□ゾ龍□□

 

□□□□□

■□□□連

 

■:伏せカード

連:連合軍

 

城之内克也 LP 600 手札1 モンスター0 伏せ1

 

――――――――――――

 

(ククッ、この勝負もらったゾ。これでオレは本戦出場だゾ)

 

永続魔法《奇跡のピラミッド》の効果により、相手がモンスターを展開すればするほどゴースト骨塚のアンデット族モンスターは攻撃力を上げる。

守備モンスターで時間を稼ごうとすれば、伏せカードの《メテオ・レイン》を発動するだけだ。

 

「くっ、俺のターン、ドロー!」

 

窮地に立たされた城之内は望みをかけてドローするが、手中にこの状況を覆すカードはない。

 

「罠カード《凡人の施し》を発動。カードを2枚ドローし、手札の《魔物の狩人》を除外するぜ」

 

新たに2枚のカードをドローするも、逆転のカードは引き込めない。

 

(だがこの手札なら次のターンを凌ぐことはできる。まだ勝負は分からねぇ!)

 

「モンスターをセット。カードを1枚伏せてターンエンドだ」

 

城之内克也 LP 600 手札1 モンスター1 伏せ1

 

セ:セットモンスター

連:連合軍

■:伏せカード

 

連□■□□

□□セ□□

 

□□龍ゾ□

□□■□奇

 

龍:龍骨鬼 攻撃力2800

ゾ:ゾンビ・マスター 攻撃力2200

■:伏せカード

奇:奇跡のピラミッド

 

ゴースト骨塚 LP1400 手札2 モンスター2 伏せ1

 

――――――――――――

 

「オレのターン、ドロー。そのままバトルに入るゾ。龍骨鬼でセットモンスターを攻撃! そして《メテオ・レイン》を発動。このターン、オレのモンスター全てに貫通効果を与えるゾ!」

 

「なにっ!? なら罠カード《攻撃の無敵化》を発動だ! このバトルフェイズ中、俺が受ける戦闘ダメージは0になるぜ! そんでセットモンスターは《メタモルポット》だ。リバース効果発動。お互いに手札を全て捨て、カードを5枚ドローするぜ!」

 

「ぐっ、しぶといヤツだゾ。メインフェイズ2へ移り、《ゾンビ・マスター》の効果発動。手札の《魂を削る死霊》を墓地に送り、《ピラミッド・タートル》を特殊召喚。カードを2枚セットしてターンエンドだゾ」

 

ゴースト骨塚 LP1400 手札2 モンスター3 伏せ2

 

ゾ:ゾンビ・マスター 攻撃力2000

龍:龍骨鬼 攻撃力2600

ピ:ピラミッド・タートル 守備力1600

奇:奇跡のピラミッド

■:伏せカード

■:伏せカード

 

奇□□■■

□□ゾ龍ピ

 

□□□□□

□□□□連

 

連:連合軍

 

城之内克也 LP 600 手札5 モンスター0 伏せ0

 

――――――――――――

 

「俺のターン、ドロー! いくぜ! 反撃開始だ! 魔法カード《右手に盾を左手に剣を》を発動。フィールドにいるモンスターの攻守を逆転させるぜ」

 

「チェーンして永続罠《死霊の誘い》を発動だゾ。カードが墓地へ送られる度に、そのカードの持ち主は1枚につき300ポイントダメージを受けるゾ」

 

「な、なんだとっ!? ならさらにチェーンして《非常食》を発動するぜ。《右手に盾を左手に剣を》を墓地に送り、ライフを1000回復する」

 

「けど非常食が墓地に送られたため、ダメージは受けてもらうゾ」

 

城之内克也 LP 600 → 1600 → 1300

 

《ゾンビ・マスター》 攻撃力2000 → 200

 

《龍骨鬼》 攻撃力2600 → 2200

 

《ピラミッド・タートル》 守備力1600 → 1400

 

(くっ、ゾンビ・マスターの守備力の低さが……だけどこの伏せカードがあれば攻撃してきたところで……)

 

「《ギャラクシー・サイクロン》を発動。おまえの伏せカードを破壊するぜ」

 

「げぇっ!?」

 

しかしゴースト骨塚の頼みの綱は無情にも切断された。

 

(ん? あんなカードがあるんなら、最初に使ってた方が良くねぇか?)

 

と、本田は城之内のプレイングに疑問を持った。確かに除去札があるのなら最初に使うのが常道だ。だが2枚の伏せカードがある場合、敢えて様子を見るというプレイングもある。

城之内がそこまで考えていたのかは分からないが。

2枚のカードが墓地に送られたことで、《死霊の誘い》の効果が発動する。

 

城之内克也 LP1300 → 1000

 

ゴースト骨塚 LP1400 → 1100

 

「《鉄の騎士 ギア・フリード》を召喚。そしてこいつをリリースして《拘束解除》を発動。デッキから《剣聖-ネイキッド・ギア・フリード》を特殊召喚するぜ!」

 

鉄の鎧を脱ぎ捨て、剣聖(ソードマスター)が嵐とともに登場する。

2枚のカードが墓地に送られたことで、城之内はさらに600のダメージを受けた。

 

「バトルだ! 剣聖-ネイキッド・ギア・フリードでゾンビ・マスターに攻撃! メガスラッシュ!」

 

剣が(はし)る。剣聖の一撃を受けて、ゴースト骨塚のライフは0となった。

 

「そ、そんな……オレの負け……」

 

「勝った……勝ったぜ本田ァ!」

 

「おう。かなりギリギリだったけどな」

 

城之内は勝利を噛みしめながら、親友とハイタッチを交わした。

 

 

 




予選をだらだらやってもしょうがないので次回から本戦に入ります。


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第06話 チャンプ対決

「予選は1日で終わった。何を言っているのか分からねーと思うが、俺もこんなに早く予選が終わるとは思わなかった」

「みんなやる気があるようで何よりデース」

 

ペガサスは呵々と笑った。

バトル・ボックスの稼働状況はすべて把握できるようになっているが、ほとんどひっきりなしに稼働していた。

どの決闘者もやる気満々だったのだ。

 

ちなみにデュエルディスクはまだ存在していない。レンは海馬に色々と入れ知恵をしているが、完成にはまだ時間がかかるようだった。

あの投げる円盤(ヨーヨー)はめんどくさいので却下した。

 

(なんで完成図を見せてるのに円盤が出てくるんだよ。新しいおもちゃのアイデアが出てきたのは分かったが、それをデュエルと合体させるなよ)

 

海馬は原作通り、持ち前の才覚を発揮して海馬コーポレーションの社長になった。

当然この大会にも招待されているし、当然のように予選を突破している。

 

そして今日は決勝トーナメントの初日。ペガサスとレンの眼下では次々とデュエルが繰り返されている。

今日1日で16戦を行い、2回戦に駒を進める16人を決定するのだ。

 

 

 

「甘ーい! あなたが攻撃したのは《ニードルワーム》。リバース効果によりあなたのデッキはさらに5枚削られる。私の戦術に対策して60枚デッキにしたことは評価してあげますが、その程度で私の戦術は崩れません!」

 

「別にあなた対策じゃないわ。私はいつも60枚デッキよ。それに、ふふっ、いい感じで墓地にモンスターが溜まってる。次のターンで決着をつけるわ! ねぇテリーちゃん」

 

その宣言通り、小さなメガネっ娘は次の自分ターンに《生者の書-禁断の呪術-》で墓地の《シャドウ・グール》を蘇生し、デュエルに勝利した。

 

(いち早く墓地の有用性に気づいたのは、さすがジーニアスといったところか。60枚デッキはまだまだ異端扱いだからな)

 

 

 

「俺は「黒焔トークン」1体をリリースし、《人造人間-サイコ・ショッカー》をアドバンス召喚! これで貴様は罠カードを発動できない。ダイレクトアタック! サイコエナジーショーーーック!!」

 

「ぬぅぅ、さすがですね。しかし私も新流派設立を目指している身。負けるわけにはいかないのです。私のターン、ドロー。手札から《サイバー・ドラゴン》を特殊召喚。そして私のサイバー・ドラゴンと、あなたのサイコ・ショッカーを墓地に送り、EXデッキから《キメラテック・フォートレス・ドラゴン》を特殊召喚します」

 

「俺のモンスターを使って融合したぁ!?」

 

正確には融合ではない。なので「融合召喚できない」といったような制限には引っ掛からなかったりする。

 

(まあ相性が悪すぎたな。サイバー流の前では機械族はただのエサでしかない。サイバー流はまだないけど)

 

 

 

「ふふふっ、デュエルとはすなわち数学だ。俺の場に《グラヴィティ・バインド-超重力の網-》がある限り、レベル4以上のモンスターは攻撃できない」

 

「随分と陰湿な戦術ね。だけど私には通用しない。直接攻撃を優先して、私の場にモンスターを残したことが運の尽きね。《ハーピィ・ガール》を召喚し、リバースカード《スノーマン・エフェクト》を発動。ハーピィたちの攻撃力を、すべてハーピィ・ガールに集める。ハーピィ・ガールで逆巻く炎の精霊を攻撃!」

 

グラヴィティ・バインドはロックカードの1枚であるが、レベルを持たないモンスターが登場して以降めっきり見なくなった。

だがこの時代では強力な拘束力を持つカードである。

 

(イリアステルが来ると困るからシンクロを実装するつもりはないが、シンクロより先にエクシーズを実装したらどうなるんだろ。まさかベクターが来ることはないよな?)

 

――よかれと思って!

 

うるせぇ!

 

 

 

「《マスク・チェンジ》を発動。フィールドの《E・HERO アブソルートZero》を墓地に送り、《M・HERO アシッド》を特殊召喚。この2体のコンボにより、あなたのフィールドのカードをすべて破壊する。アシッドでダイレクトアタック! アシッド・バレット!」

 

「……ふっ、完敗に乾杯」

 

(やっぱM・HEROを作ったのは早すぎたかな。でもヒーローカードは子供たちに人気で、新しいヒーローのリクエストも多かったからなぁ)

 

 

 

「《時の魔術師》の効果発動。俺は「表」を宣言するぜ。コイントスは――「表」だ! これでテメーのブルーアイズは全滅だぜ!」

 

「ふぅん。凡骨らしい見落としだな。墓地の《復活の福音》を除外し、破壊の身代わりとする」

 

「バカヤロー城之内! 墓地確認はちゃんとしろって遊戯にさんざん言われただろうが!」

 

「うるせーぞ本田! これはあれだ! つ、使わせたんだよ!」

 

(1回戦で海馬と当たるなんて運がないな。まあ町内大会ベスト8から、決闘者の王国(デュエリスト・キングダム)本戦進出(ベスト32)はかなり躍進したと思うが)

 

 

 

そんなこんなで激闘の初日は終了し、2日目の2回戦も問題なく終了した。

そしてついに、決闘者の王国(デュエリスト・キングダム)ベスト8が決定した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

明けて翌日。決勝トーナメントも後半に入り、準々決勝が始まる。

デュエルリングで向かい合う全欧チャンプと全米チャンプ。初回から注目を集めた一戦が始まろうとしていた。

 

「これより決勝トーナメント3回戦第1試合を開始します。クロノス・デ・メディチvsキース・ハワード。デュエル開始!!」

 

進行役兼審判のMr.クロケッツがデュエル開始を宣言する。

 

 

『デュエルッ!!』

 

 

「ワタクシのターン、ドロー。《古代の機械猟犬(アンティーク・ギアハウンドドッグ)》を召喚し、効果を発動するノーネ。あなたに600ダメージを与えるーノ」

 

「チッ、先攻でもダメージを与えてきやがるか」

 

「続けて古代の機械猟犬のさらなる効果を発動するノーネ。このカードと手札の《古代の機械箱(アンティーク・ギアボックス)》を融合。現れるノーネ! 《古代の機械魔神(アンティーク・ギア・デビル)》!」

 

機械仕掛けの魔神が、闇から這い出るように出現する。他のカード効果を受けないという強力な耐性と、戦闘破壊された場合でも後続を呼べるリクルート効果も内蔵したモンスターだ。

 

「古代の機械魔神の効果で、さらに1000ダメージを与えるノーネ」

 

「チマチマと削ってきやがる」

 

「カードをセットし、フィールド魔法《歯車街(ギア・タウン)》を発動し、ターンを終了するノーネ」

 

クロノス LP4000 手札2 モンスター1 伏せ1

 

魔:古代の機械魔神 守備力1800

歯:歯車街

■:伏せカード

 

■□□□□

□□魔□□歯

 

□□□□□

□□□□□

 

キース LP2400 手札5 モンスター0 伏せ0

 

――――――――――――

 

「俺様のターン、ドロー。……《ライトニング・ストーム》を発動だ。テメェの魔法・罠カードをすべて破壊するぜ」

 

少し間があったのは、伏せカードは破壊したいが、歯車街は破壊したくないという葛藤だろう。

破壊された伏せカードは、《競闘-クロス・ディメンション》。さすがアンティーク・ギア、殺意が高い。

 

古代の機械魔神の効果で古代の機械巨人をリクルートし、次のターンに攻撃力を倍にした古代の機械巨人で攻撃。これで1キルが成立する。

古代の機械巨人が攻撃する時、相手は魔法・罠カードを発動できないので、成功する確率はかなり高い。

 

「歯車街の効果発動ゥ。デッキから《古代の機械巨竜(アンティーク・ギアガジェルドラゴン)》を特殊召喚するノーネ」

 

「折り込み済みさ。《BM-4ボムスパイダー》を召喚し、効果発動。コイツとテメェの古代の機械巨竜を破壊するぜ。そして機械族・闇属性モンスターが破壊されたことで、コイツを特殊召喚できる。出番だぜ! 《デスペラード・リボルバー・ドラゴン》!」

 

拳銃を模した頭部をもつ機械竜が雄叫び代わりの銃声を轟かせながら出現し、機械の魔神に狙いを定める。

 

「バトルだ! デスペラード・リボルバー・ドラゴンで古代の機械魔神を攻撃! アサルト・ガン・ショット!」

 

「この瞬間、古代の機械魔神の効果を発動するノーネ。デッキより現れるノーネ。《古代の機械巨人(アンティーク・ギアゴーレム)》!」

 

クロノスの代名詞ともいえる機械巨人がギリギリと歯車を回しながら拳を握り登場する。

 

「ついに出やがったか。カードを1枚伏せてターンエンドだ」

 

キース LP2400 手札2 モンスター1 伏せ1

 

デ:デスペラード・リボルバー・ドラゴン 攻撃力2800

■:伏せカード

 

■□□□□

□□デ□□

 

□□巨□□

□□□□□

 

巨:古代の機械巨人 攻撃力3000

 

クロノス LP4000 手札2 モンスター1 伏せ0

 

――――――――――――

 

「ワタクシのターン、ドロー。魔法カード《古代の整備場(アンティーク・ギアガレージ)》を発動ゥ。墓地の《古代の機械箱》を手札に加えるノーネ。そしてこのカードは、ドロー以外の方法でデッキ・墓地から手札に加わった時に効果が発動できるノーネ。デッキから《古代の機械素体(アンティーク・ギアフレーム)》を手札に加えるノーネ」

 

サルベージとサーチでクロノスの手札が潤っていく。

 

「《古代の機械猟犬(アンティーク・ギアハウンドドッグ)》を召喚して効果を発動ゥ! 説明は不要なノーネ。相手に600のダメージを与え、このカードと手札の《古代の機械箱》、《古代の機械素体》の3体を融合するーノ。現れるノーネ! 巨人を超える巨人、《古代の機械超巨人(アンティーク・ギア・メガトン・ゴーレム)》!」

 

機械巨人よりもさらに巨大な6腕6脚の巨人が出現し、周囲を威圧するように睥睨する。

 

「バトルゥ! 古代の機械超巨人で――」

 

「待ちな! バトルフェイズ開始時、デスペラード・リボルバー・ドラゴンの効果を発動するぜ!」

 

3枚のコインが宙を舞い、運命を定める。その結果は――

 

「表は1枚か。古代の機械巨人を破壊するぜ」

 

「甘いノーネ! 墓地の《競闘-クロス・ディメンション》を除外して、破壊の身代わりとするーノ。バトル続行! 古代の機械超巨人でデスペラード・リボルバー・ドラゴンを攻撃!」

 

機械の6腕が巨大に膨れ上がり、破壊の力で機械龍を襲う。

 

「クククッ、確かにテメェの古代の機械(アンティーク・ギア)モンスターはダメージステップ終了時まで魔法・罠カードの発動を封じる強力なカード群だ。だが有名になりすぎるってのも考えモンだよなぁ! 当然対策はしてたぜ。手札の《ダーク・オネスト》を墓地に送って効果発動。そいつの攻撃力を攻撃力分ダウンするぜ」

 

「攻撃力分でスートッ!? つまり攻撃力は……」

 

「ゼロだ!」

 

「ゼェェロォォ!?」

 

急速に縮小した機械の超巨人は、反撃の弾丸に貫かれた。

 

クロノス LP4000 → 1200

 

「クゥゥ、しかしまだ古代の機械巨人の攻撃が残ってルーノ。アルティメット・パウンド!」

 

鉄の拳が銃身を打ち砕く。

 

キース LP1800 → 1600

 

「チィィ! 墓地に送られたデスペラード・リボルバー・ドラゴンの効果を発動するぜ。デッキから《ツインバレル・ドラゴン》を手札に加える」

 

「ターンを終了するノーネ」

 

クロノス LP1200 手札1 モンスター1 伏せ0

 

巨:古代の機械巨人 攻撃力3000

 

 

□□□□□

□□巨□□

 

□□□□□

□□□□■

 

■:伏せカード

 

キース LP1600 手札3 モンスター0 伏せ1

 

――――――――――――

 

「俺様のターン、ドロー。クククッ、魔法カード《おろかな副葬》を発動だ。デッキから《銃砲撃(ガン・キャノン・ショット)》を墓地に送るぜ。そして《ツインバレル・ドラゴン》を召喚だ」

 

キースは前のターンにサーチした小型の機械龍を召喚する。通常ならツインバレル・ドラゴンの効果の成功率は25%と低い。だがコイン戦術は様々なカードとコンボすることで確率を上げることもできる。その確率を100%にすることも。

 

「《古代の機械巨人》を対象に、《ツインバレル・ドラゴン》の召喚時効果を発動。その効果にチェーンして、墓地の《銃砲撃》の効果発動だ。このカードを除外して、ツインバレル・ドラゴンのコイントスの結果を全て表が出たものとして扱う」

 

頭部のダブルデリンジャーが火を噴き、鉄の巨人を粉砕する。

 

「ノォォォ! マンマミーア!」

 

キースはそのままダイレクトアタックを敢行する。

どちらが勝ってもおかしくない勝負だったが、軍配は全米チャンプに上がった。

 

 

 




クロノス(青年ver)でお送りしました。


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第07話 龍の咆哮

一戦目の熱も冷めやらぬ中、2回戦の決闘者たちがデュエルリングへ立つ。

 

「これより決勝トーナメント3回戦第2試合を開始します。サイバー鮫島vs海馬瀬人。デュエル開始!!」

 

 

『デュエルッ!!』

 

 

「ふぅん。先攻の有利を捨て、敢えて後攻を選ぶか。ならば老骨の意地を見せてもらおうか。俺のターン、ドロー」

 

もはや御曹司の猫かぶりモードではなく、社長としての威厳ある顔つきで対戦者を眺める。相手は老骨というよりは壮年という感じだが、十代の海馬にとっては関係ない。

 

「《竜の霊廟》を発動。デッキから《青眼の白龍》を墓地に送り、さらに《暗黒竜 コラプサーペント》を墓地に送る。《復活の福音》を発動。墓地より甦れ! 《青眼の白龍》!!」

 

海馬のエース、伝説の白き龍が天より舞い降りる。

 

「……何度見てもふつくしい。俺はカードを2枚伏せてターンエンドだ」

 

海馬瀬人 LP4000 手札2 モンスター1 伏せ2

 

青:青眼の白龍 攻撃力3000

■:伏せカード

■:伏せカード

 

■□□□■

□□青□□

 

□□□□□

□□□□□

 

サイバー鮫島 LP4000 手札5 モンスター0 伏せ0

 

――――――――――――

 

「1ターン目から最上級モンスターを呼び出すとは、恐ろしい男ですね。だからこそ挑みがいがある。私のターン、ドロー! 《サイバー・ドラゴン・コア》を召喚。効果によりデッキから《サイバネティック・オーバーフロー》を手札に加えます。そして《機械複製術》を発動。デッキから2体の《サイバー・ドラゴン》を特殊召喚!」

 

「ふぅん。中々のコンボだ」

 

サイバー・ドラゴン・コアはフィールド・墓地ではカード名を《サイバー・ドラゴン》として扱う効果を持っている。この効果により、機械複製術とのコンボが可能になる。

 

「バトルフェイズに入ります。サイバー・ドラゴンで青眼の白龍に攻撃、エヴォリューション・バースト!」

 

「攻撃力の劣るモンスターで攻撃だと? 何を考えている……迎え撃て、ブルーアイズ!」

 

白き龍が翼を広げ、迎撃態勢に入る。

 

「ダメージ計算前に、速攻魔法《リミッター解除》を発動。私のフィールド上の機械族モンスターの攻撃力を倍にします」

 

「なるほど、機械族にはそれがあったな」

 

海馬瀬人 LP4000 → 2800

 

巨大に膨れ上がった機械竜の怪光線を受け、白き龍の鱗が剥がれ落ちる。しかし代わりに墓地から《復活の福音》が除外され、白き龍は命を繋いだ。

 

「2体目のサイバー・ドラゴンで続けて攻撃!」

 

「甘いぞ鮫島! リバースカードオープン《攻撃誘導アーマー》! 攻撃対象をブルーアイズから、貴様のサイバー・ドラゴン・コアに変更する!」

 

「なんですとっ!?」

 

「自分のモンスターに焼かれるがいい。フハハハハハッ!!」

 

「ならば! チェーンして《禁じられた聖槍》を発動。サイバー・ドラゴンの攻撃力を800下げる代わりに、このカード以外の魔法・罠カードの効果を受けない耐性を与えます」

 

聖なる槍の輝きが海馬の発動した罠カードを弾く。

 

「バトル続行。エヴォリューション・バースト!」

 

海馬瀬人 LP2800 → 2400

 

「ふぅん。少しはやるようだな」

 

「最後にサイバー・ドラゴン・コアでダイレクトアタック!」

 

海馬瀬人 LP2400 → 1600

 

「バトルフェイズを終了し、メインフェイズ2へ。フィールドのサイバー・ドラゴン2体とサイバー・ドラゴン・コアを墓地に送り、《キメラテック・フォートレス・ドラゴン》を特殊召喚。カードを2枚伏せてターンを終了します」

 

サイバー鮫島 LP4000 手札1 モンスター1 伏せ2

 

キ:キメラテック・フォートレス・ドラゴン 攻撃力3000

■:伏せカード

■:伏せカード

 

■□□□■

□□キ□□

 

□□□□□

□□□□■

 

■:伏せカード

 

海馬瀬人 LP1600 手札2 モンスター0 伏せ1

 

――――――――――――

 

「俺のターン、ドロー。手札の《青眼の白龍》を公開し、《青眼の亜白龍》を手札から特殊召喚する」

 

どう考えてもゆるい(・・・)条件である。コストではなく見せるだけなので実質コストなしで攻撃力3000のモンスターが特殊召喚できるのだ。

 

「召喚成功時に《サイバネティック・オーバーフロー》を発動。墓地の《サイバー・ドラゴン》を除外し、《青眼の亜白龍》を破壊します」

 

「青眼の亜白龍だけだと。俺をなめているのか?」

 

サイバー・ドラゴン・コアは次のターンの為に温存したかったのだろう。厳然と響いた海馬の声は、ひどく冷ややかに聞こえた。

 

「リバースカード《リビングデッドの呼び声》を発動。墓地の《青眼の亜白龍》を特殊召喚する。そして効果発動。キメラテック・フォートレス・ドラゴンを破壊する!」

 

「くっ!」

 

「フィールドの《青眼の亜白龍》をリリースして《アドバンスドロー》を発動。カードを2枚ドローする」

 

効果を使用した青眼の亜白龍は攻撃できない。そのデメリットを補うため、さらなる一手のために、海馬はカードを引き込む。

 

「さらに《青眼の白龍》を捨て、《トレード・イン》を発動。2枚ドローだ。墓地のコラプサーペントを除外し、手札から《輝白竜 ワイバースター》を特殊召喚」

 

青眼の白龍よりも一回り小さい白竜を呼び出し、海馬はバトルフェイズに入る。

 

「バトルだ! ワイバースターでダイレクトアタック!」

 

サイバー鮫島 LP4000 → 2300

 

「速攻魔法《銀龍の轟砲》を発動。墓地より蘇れ! 《青眼の白龍》!!」

 

白き龍が翼を広げ、海馬のもとへと舞い降りる。

 

「とどめだ! 青眼の白龍でダイレクトアタック!」

 

「ダメージ計算時に《ガード・ブロック》を発動。その戦闘によって発生するダメージを0にし、カードを1枚ドローします」

 

「ふぅん。凌いだか。カードを1枚伏せてターンエンドだ」

 

海馬瀬人 LP1600 手札0 モンスター2 伏せ1

 

ワ:輝白竜 ワイバースター 攻撃力1700

青:青眼の白龍 攻撃力3000

リ:リビングデッドの呼び声

■:伏せカード

 

リ□□□■

□ワ青□□

 

□□□□□

□□□□□

 

サイバー鮫島 LP2300 手札2 モンスター0 伏せ0

 

――――――――――――

 

「私のターン、ドロー。墓地の《サイバー・ドラゴン・コア》を除外して効果発動。デッキから《サイバー・ドラゴン・ネクステア》を特殊召喚。そしてネクステアの効果で、墓地の《サイバー・ドラゴン》を特殊召喚します。さらに《アイアンドロー》を発動。カードを2枚ドローします」

 

2枚のカードを引き込み、鮫島の目がカッと見開く。

 

「ふぅん。良いカードを引けたようだな」

 

「えぇ、まあ」

 

鮫島は曖昧に頷く。確かに攻撃が通れば勝てる。だがそう簡単に攻撃が通るだろうか。そんな不安もあった。しかし動かないわけにもいかない。

 

「《サイバー・ドラゴン・ヘルツ》を通常召喚」

 

鮫島のフィールドに3体の「サイバー・ドラゴン」が揃う。

 

「魔法カード《融合》を発動。フィールドの3体を融合。現れよ! 《サイバー・エンド・ドラゴン》!」

 

三つ首の機光竜が咆哮を上げて光臨する。

 

「墓地に送られたヘルツの効果で、デッキから《サイバー・ドラゴン》を手札に加えます。バトルです。サイバー・エンド・ドラゴンでワイバースターに攻撃。エターナル・エヴォリューション・バースト!」

 

放たれた3つの光線が渦を巻いてワイバースターを襲う。

 

「リバースカード《収縮》を発動。サイバー・エンド・ドラゴンの元々の攻撃力を半減する!」

 

大きく力を落とした機光竜だったが、それでもワイバースターを葬り去るには十分な火力だった。

 

海馬瀬人 LP1600 → 1300

 

「ふぅん。ワイバースターの効果で、デッキから《暗黒竜 コラプサーペント》を手札に加える」

 

「私はカードを1枚伏せてターンを終了します」

 

サイバー鮫島 LP2300 手札2 モンスター1 伏せ1

 

エ:サイバー・エンド・ドラゴン 攻撃力4000

■:伏せカード

 

□□■□□

□□エ□□

 

□□青□□

□□□□リ

 

青:青眼の白龍 攻撃力3000

リ:リビングデッドの呼び声

 

海馬瀬人 LP1300 手札1 モンスター1 伏せ0

 

――――――――――――

 

「俺のターン、ドロー! フィールドに残った《リビングデッドの呼び声》を墓地に送り、《マジック・プランター》を発動。カードを2枚ドロー!」

 

新たに引き入れたカードを眺め、海馬の口角が上がる。

 

「《スタンピング・クラッシュ》を発動。貴様の伏せカードを破壊して500のダメージを与える」

 

ここで鮫島は考える。伏せたカードは《融合解除》。壁の枚数を増やすか、サイバー・エンド・ドラゴンを維持するか。

サクリファイスエスケープとして使うのなら躊躇する必要もなかったのだが、この場合は判断に迷う。

 

「チェーンはしません。そのまま破壊されます」

 

鮫島はサイバー・エンド・ドラゴンを残した。

 

(これでいい。攻撃力4000はそう簡単には超えられないはず……)

 

だが鮫島のそんな想定を、海馬は軽く超えていく。

 

「魔法カード《竜の鏡(ドラゴンズ・ミラー)》を発動。墓地の《青眼の白龍》2体と、青眼の白龍として扱う《青眼の亜白龍》を除外し、《青眼の究極竜(ブルーアイズ・アルティメットドラゴン)》を融合召喚!」

 

三つ首の白き竜が鎌首をもたげ、眼下の獲物に狙いを定める。

 

「バトルだ! 青眼の究極龍でサイバー・エンド・ドラゴンを攻撃! アルティメットバァァァストッ!!」

 

三条の光線がぶつかり合い、鮫島の背筋に冷たいものが走る。

 

「フゥーハハハハッ! これで終わりだ! 青眼の白龍でダイレクトアタック! 滅びのバァァァストストリィィィム!!」

 

「ぬぅわああぁぁっ!!」

 

滅びブレスが鮫島を包み、勝負は決した。

 

 

 




デュエル後の一幕?

「貴様、何やら新流派がどうのと言っていたな」
「は、はい。いまだ未熟なれど、いずれは新流派を立ち上げたいと思っています」
「ふぅん。ならばまた俺に挑んで来い。その結果いかんでは、援助してやらんでもない」
「ほ、本当ですか!? ありがとうございます!」


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第08話 恐竜の声

「クッ、海馬のヤツまた勝ちやがった」

 

城之内は海馬の勝利を苦々しい思いで見ていた。普通なら自分に勝った相手には勝ち進んでもらいたいと思うものだが、基本的に海馬を良く思っていない城之内にとっては、さっさと負けて「ザマーミロ!」してやりたいというのが本音だった。

 

「やっぱり海馬くんは強いね」

 

対して遊戯は、海馬の勝利に少し喜んでいた。

遊戯は海馬とクラスメイトだったが、親交があったわけではない。きっかけは、彼が自分の店を訪れたことだ。

 

みんなで祖父のあるカード(・・・・・)にまつわる思い出話を聞いていた時のことだ。店を訪れた海馬は、その思い出のカードを鼻で嗤った。それだけならまだしも、そのカードを『偽物』と断じたのだ。

海馬にとっては自分の持つカードこそが『本物』で、それ以外はすべて『偽物』という認識だったのだ。

 

祖父の思い出を踏み躙り、あまつさえ友情のカードを『偽物』呼ばわりされては、遊戯も黙っていられなかった。

おい、デュエルしろよ。となるのは無理からぬことであろう。

結果は、精神崩壊(マインドクラッシュ)こそしなかったものの、海馬は敗北という苦汁をなめることになった。

ここから遊戯と海馬の因縁は始まったのだ。

 

基本的にパワーカードを好み、使えないカードをザコカードと断ずる海馬と、使えないカードなんかないというスタンスの遊戯とでは、深い部分で分かり合うのは不可能なのかもしれない。

しかし『デュエリスト』としては互いに認め合っていたのだ。

 

「僕たちも負けてられないね」

 

――ああ、相手は全国大会の決勝まで残った猛者だ。油断せずに行こうぜ、相棒!

 

遊戯は気を引き締め、デュエルリングへと向かう。

 

「これより決勝トーナメント3回戦第3試合を開始します。ダイナソー竜崎vs武藤遊戯。デュエル開始!!」

 

 

『デュエルッ!!』

 

 

「俺の先攻、ドロー。魔法カード《手札断殺》を発動。お互いのプレイヤーは手札を2枚墓地へ送り、2枚ドローする」

 

「いきなり手札交換かいな。まあええ、ワイにとっても好都合や」

 

「手札の《ジョーカーズ・ナイト》の効果発動。デッキから《ジャックス・ナイト》を墓地に送り、このカードを特殊召喚する」

 

黒衣の道化師が遊戯のフィールドに出現し、手にした白銀の剣をシャランと鳴らす。

 

「さらに《蛮族の狂宴LV5》を発動。墓地の《サイレント・ソードマンLV5》と《ジャックス・ナイト》を召喚」

 

墓地から2体の戦士が蘇る。だがこの効果で特殊召喚したモンスターの効果は無効化され、このターン攻撃できない。

とはいえ、先攻ゆえに攻撃できないデメリットはないに等しいが。

 

「ジャックス・ナイトを墓地に送り、《馬の骨の対価》を発動。カードを2枚ドロー。続けてサイレント・ソードマンLV5を墓地に送り、《レベルアップ!》を発動。デッキから《サイレント・ソードマンLV7》を特殊召喚するぜ!」

 

サイレント・ソードマンの最終進化系、レベル7。それはフィールドの魔法カードを、チェーンブロックを作らず無効にするという強力なもの。チェーンを組まないので、カウンター罠でも無効にすることはできない。

 

「カードを2枚伏せてターンエンドだ」

 

武藤遊戯 LP4000 手札1 モンスター2 伏せ2

 

ジ:ジョーカーズ・ナイト 攻撃力2000

サ:サイレント・ソードマンLV7 攻撃力2800

■:伏せカード

■:伏せカード

 

■□□□■

□ジ□サ□

 

□□□□□

□□□□□

 

ダイナソー竜崎 LP4000 手札5 モンスター0 伏せ0

 

――――――――――――

 

「ワイのターン、ドローや。魔法カードが使えへんのは痛いな。まあええ、まずは《二頭を持つキング・レックス》を召喚。さらに《游覧艇サブマリード》を特殊召喚や。こいつはワイのフィールドに通常モンスターがおる時に特殊召喚できるんやで」

 

双頭の恐竜に続いて、空を泳ぐように魚型の恐竜がゆらりと登場する。

 

「バトルや! サブマリードでジョーカーズ・ナイトを攻撃!」

 

「くっ、だがこの程度で!」

 

武藤遊戯 LP4000 → 3800

 

「カードを1枚伏せてターンエンドや」

 

「エンドフェイズに墓地の《ジョーカーズ・ナイト》の効果を発動するぜ。墓地の《ジャックス・ナイト》をデッキに戻し、このカードを手札に加える」

 

ダイナソー竜崎 LP4000 手札3 モンスター2 伏せ1

 

二:二頭を持つキング・レックス 攻撃力1600

游:游覧艇サブマリード 攻撃力2200

■:伏せカード

 

□□□□■

□□□二游

 

□サ□□□

■□□□■

 

サ:サイレント・ソードマンLV7 攻撃力2800

■:伏せカード

■:伏せカード

 

武藤遊戯 LP3800 手札2 モンスター1 伏せ2

 

――――――――――――

 

「俺のターン、ドロー。リバースカードオープン。デッキから《ジョーカーズ・ストレート》を墓地に送り、《ジョーカーズ・ワイルド》を発動するぜ。このカードの効果は墓地に送った魔法カード発動時の効果と同じになる」

 

「なんやてっ!? 罠カードやのに魔法カードの効果を得るって、ずっこいな!」

 

「そういう効果だからな。手札を1枚捨て、デッキから《クィーンズ・ナイト》を特殊召喚し、さらに《キングス・ナイト》を手札に加え、召喚する。そしてキングス・ナイトの効果でデッキから《ジャックス・ナイト》を特殊召喚するぜ!」

 

あっという間に展開する絵札の三剣士。この攻撃が通れば勝負は決する。

 

「バトルだ!」

 

「ちょいまち! メインフェイズ終了時にこのカードを発動するで。ライフを半分払い、《ダイノルフィア・フレンジー》を発動や。デッキから《ダイノルフィア・テリジア》を、EXデッキから《ダイノルフィア・ステルスベギア》を墓地に送り、《ダイノルフィア・ケントレギナ》を融合召喚するで!」

 

恐竜というよりは鱗を持ったヒト型の獣といった感じの女性が、紅い剣を掲げて出現する。

 

 

 

(竜崎はダイノルフィアを選んだか)

 

ダイノルフィアはカードの発動コストにライフが要求され、ギリギリのラインで闘うテーマである。またデッキ構築にも特徴があり、罠カードが多めになる。

 

(だが、どうも強めのカードを突っ込んだだけっぽいな。元々竜崎は罠カードを多用するプレイングスタイルじゃないし、手持ちの罠カードも少なかったんだろう。さてどうなるか)

 

レンが静かに考察しているとも知らず、竜崎は猛攻を続ける。

 

 

 

「まだまだいくで! さらにライフを半分払い、墓地の《ダイノルフィア・フレンジー》を除外して、ケントレギナの効果発動や。このカードの効果は除外した罠カードの効果と同じになるで。つまりもう1回や!」

 

「甘いぜ竜崎! チェーンして《ブレイクスルー・スキル》を発動だ。ダイノルフィア・ケントレギナの効果をこのターン終了時まで無効にするぜ!」

 

「……なん……やて……」

 

竜崎の表情が驚愕で強ばる。ダイノルフィアは効果が強力な分、多大なライフコストを必要とする。すでに竜崎のライフは1000になっていた。

 

「不用意にライフを削りすぎたな。サイレント・ソードマンLV7で二頭を持つキング・レックスを攻撃! 沈黙の剣(サイレント・ソード)一閃!」

 

「んなっ、んなアホなぁぁぁ!?」

 

二頭を持つキング・レックスが沈黙の剣士に両断され、第3試合は幕を閉じた。

 

 

 




別に竜崎をディスるつもりはありませんが、原作でも《真紅眼の黒竜》をただ強いからという理由で投入していたので、まぁそういう傾向はあるのかなと。


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第09話 英雄散華

3回戦もこれでラストとなった。対戦するのは全日本少年の部優勝者の虫使いと、全日本青年の部優勝者のヒーロー使い。

爆発力で言えばヒーローに分があるかもしれないが、レンが早すぎると判断したヒーローたちはまだ実装されていない。

勝利の可能性はどちらにもある。

 

「これより決勝トーナメント3回戦第4試合を開始します。響紅葉vsインセクター羽蛾。デュエル開始!!」

 

 

『デュエルッ!!』

 

 

「ひょひょ、俺の先攻だ。ドロー。モンスターをセット。カードを2枚伏せてターンエンドだ」

 

羽蛾は不気味なほど静かな動きでターンを終えた。

 

インセクター羽蛾 LP4000 手札3 モンスター1 伏せ2

 

セ:セットモンスター

■:伏せカード

■:伏せカード

 

■□□□■

□□セ□□

 

□□□□□

□□□□□

 

響紅葉 LP4000 手札5 モンスター0 伏せ0

 

――――――――――――

 

「僕のターン、ドロー。手札から《E・HERO ソリッドマン》を召喚し、効果発動。手札から《E・HERO ブレイズマン》を特殊召喚するよ。そしてブレイズマンの効果でデッキから《融合》を手札に加え、そのまま発動!」

 

「かかったぁ! カウンター罠《封魔の呪印》を発動! 手札の《超進化の繭(魔法カード)》1枚を捨て、その発動を無効にする。そしてあんたはこのデュエル中、同名カード(融合)を発動できない!」

 

「な、なんだってっ!?」

 

いまさらだがこの大会、カードの持ち込み枚数に制限はない。極論を言えば、毎回デッキを変えて闘うことも可能だ。しかしそうするデュエリストは少ない。

まず練度の問題がある。複数のデッキを同じ練度で扱えるデュエリストもあまりいないだろう。

 

そしてカード自体の問題だ。いくらカードが安い(・・)といっても、そうそう完成度の高いデッキは作れない。

だから大体は、相手に合わせて数枚のカードを入れ替える程度にとどまる。

今回はそれが上手く機能したというところだ。

 

「ひょひょ、ヒーローデッキについては研究したさ。融合しなければ、ヒーローの強さはたいしたことない」

 

羽蛾の言う通り、現状単体で強力なヒーローはエッジマンくらいである。

 

「確かに融合はヒーローデッキの根幹ともいえる要素だ。だが、ヒーローの強さは融合(それ)だけじゃない! バトルだ! ソリッドマンでセットモンスターを攻撃!」

 

「セットモンスターは《共鳴虫(ハウリング・インセクト)》だ。攻撃力がちょいとばかし足りなかったようだね」

 

「それはどうかな? 手札から速攻魔法《マスク・チェンジ》を発動」

 

「そのカードを対象に、速攻魔法《濡れ衣》を発動。お互いのプレイヤーはこのデュエル中、その表側表示のカード以外の、対象のカードと同名カードの効果を発動できない」

 

「な、なにっ!?」

 

羽蛾は融合に続いてマスク・チェンジを封じる。この2枚を封じられては、ヒーローデッキは確実に機能不全に陥る。

 

「だが今回の発動は通る! ソリッドマンを墓地へ送り、《M・HERO ダイアン》を特殊召喚!」

 

白銀の騎士が蒼いマントをなびかせながら登場し、手にしたレイピアが共鳴虫を一閃した。

 

「ダイアンの効果発動。このカードが戦闘で相手モンスターを破壊し墓地へ送った時、デッキからレベル4以下のヒーローを特殊召喚できる」

 

「俺も共鳴虫の効果発動するぜ。デッキから2体目の《共鳴虫》を特殊召喚」

 

「僕はデッキから《E・HERO エアーマン》を特殊召喚する。そしてエアーマンの効果でデッキから《E・HERO キャプテン・ゴールド》を手札に加える。エアーマンで《共鳴虫》を攻撃!」

 

「再び共鳴虫の効果発動。デッキから《アルティメット・インセクト LV3》を特殊召喚するぜ」

 

「……メインフェイズ2へ移り、《E・HERO キャプテン・ゴールド》の効果発動。このカードを墓地へ捨て、デッキから《摩天楼 -スカイスクレイパー-》を手札に加える。カードを1枚伏せてターンエンドだ」

 

響紅葉 LP4000 手札3 モンスター3 伏せ1

 

エ:E・HERO エアーマン 攻撃力1800

ダ:M・HERO ダイアン 攻撃力2800

ブ:E・HERO ブレイズマン 攻撃力1200

■:伏せカード

 

■□□□□

□エダブ□

 

□□ア□□

□□□□□

 

ア:アルティメット・インセクト LV3 攻撃力1400

 

インセクター羽蛾 LP4000 手札2 モンスター1 伏せ0

 

――――――――――――

 

「俺のターン、ドロー。スタンバイフェイズにアルティメット・インセクトは進化するぜ。LV3を墓地に送り、デッキから《アルティメット・インセクト LV5》を特殊召喚する。そして毒鱗粉の効果であんたのモンスターの攻撃力は500ダウンする!」

 

《M・HERO ダイアン》 攻撃力2800 → 2300

《E・HERO エアーマン》 攻撃力1800 → 1300

《E・HERO ブレイズマン》 攻撃力1200 → 700

 

「墓地の《超進化の繭》を除外して効果発動。《共鳴虫》をデッキに戻してシャッフル。その後、1枚ドロー。墓地の《アルティメット・インセクト LV3》を除外し、手札から《ジャイアントワーム》を特殊召喚。さらに《火器付機甲鎧》をジャイアントワームに装備するぜ」

 

ジャイアントワーム 攻撃力1900 → 2600

 

「バトルだ! アルティメット・インセクトでブレイズマンを、ジャイアントワームでダイアンを攻撃!」

 

2体の巨大昆虫がヒーローたちを薙ぎ払う。

 

響紅葉 LP4000 → 2400 → 2100

 

「そしてジャイアントワームは相手に戦闘ダメージを与えた時、効果が発動する。デッキの上からカードを1枚墓地へ送ってもらうぜ」

 

この墓地送り効果は相手に利する可能性もあるが、強制効果ゆえに必ず発動するのだ。

 

「俺はこれでターンエンドだ」

 

「……ありがとう、羽蛾くん。キミのおかげで、強力なヒーローを呼べるよ」

 

「ひょ?」

 

「罠カード《死魂融合(ネクロ・フュージョン)》を発動。墓地の《E・HERO ブレイズマン》と《E・HERO バブルマン》を裏側表示で除外し、《E・HERO アブソルートZero》を融合召喚!」

 

「墓地融合だとっ!?」

 

封魔の呪印を跳ね返し、ついに響紅葉が動き出す。

 

インセクター羽蛾 LP4000 手札2 モンスター2 伏せ0

 

ジ:ジャイアントワーム 攻撃力2600

ア:アルティメット・インセクト LV5 攻撃力2300

火:火器付機甲鎧(対象:ジャイアントワーム)

 

□火□□□

□ジ□ア□

 

□ア□エ□

□□□□□

 

ア:E・HERO アブソルートZero 攻撃力2000

エ:E・HERO エアーマン 攻撃力1300

 

響紅葉 LP2100 手札3 モンスター2 伏せ0

 

――――――――――――

 

「僕のターン、ドロー! まずは舞台を整える。フィールド魔法《摩天楼 -スカイスクレイパー-》を発動!」

 

無数のビルが出現し、ヒーローの戦う舞台が整う。

 

「《E・HERO リキッドマン》を召喚し効果発動。墓地の《E・HERO キャプテン・ゴールド》を特殊召喚!」

 

ヒーローデッキの要とも言える2種のカードを封じられながらも、紅葉はヒーローたちを展開していく。

 

「水属性モンスターが増えたことでゼロの攻撃力がアップする。バトルだ! まずはキャプテン・ゴールドでアルティメット・インセクトに攻撃! そしてスカイスクレイパーの効果で、ダメージ計算時のみ「E・HERO」の攻撃力は1000アップする。銀色の銃弾(シルバー・バレット)!」

 

「ちぃぃ!」

 

宙を舞う巨大蛾が銀の弾丸に貫かれて地に落ちる。毒鱗粉の効果も消え、ヒーローたちが本来の力を取り戻した。

このまま総攻撃でデュエルは決着すると誰もが思ったが――

 

インセクター羽蛾 LP4000 → 3850

 

「ひょひょ、勝ったと思ったかい? 手札の《スモーク・モスキート》の効果発動。このカードを特殊召喚し、受けるダメージを半分にする。そしてバトルフェイズを強制的に終了するぜ」

 

「なにっ!? くっ、僕はこれでターンを終了する」

 

響紅葉 LP2100 手札2 モンスター4 伏せ0

 

リ:E・HERO リキッドマン 攻撃力1400

エ:E・HERO エアーマン 攻撃力1800

ア:E・HERO アブソルートZero 攻撃力3000

キ:E・HERO キャプテン・ゴールド 攻撃力2100

摩:摩天楼 -スカイスクレイパー-

 

□□□□□

リエアキ□摩

 

□□スジ□

□□□火□

 

ス:スモーク・モスキート 守備力 0

ジ:ジャイアントワーム 攻撃力2600

火:火器付機甲鎧(対象:ジャイアントワーム)

 

インセクター羽蛾 LP3850 手札1 モンスター2 伏せ0

 

――――――――――――

 

「俺のターン、ドロー! 来たぜ! 墓地の昆虫族2体をゲームから除外して、手札から《デビルドーザー》を特殊召喚!」

 

フィールドを埋め尽くさんばかりの巨大な多足昆虫が大地を割って出現する。

 

「さらに装備魔法《魔界の足枷》を発動。そうだなぁ、せっかくだから、あんたのエースモンスターに装備させてもらうぜ」

 

氷のヒーローの足首に黒い鉄球が巻き付き、その力を吸い取っていく。

 

E・HERO アブソルートZero 攻撃力3000 → 100

 

「バトルだ! デビルドーザーでアブソルートZeroを攻撃!」

 

「ぐあぁぁぁ!!」

 

デビルドーザーの一撃によって響紅葉のライフは尽き、勝負は決した。

 

 

 




????「俺の戦略が先取りされた気がする」


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第10話 機械龍、激動

「ベスト4が決まりまシタか。レン、アナタは誰が優勝すると思いマスか?」

「そうだな……」

 

レンは顎に手を当てて考える。答えはもちろん遊戯なのだが、この4人の中で遊戯の名を挙げるにはいささか不自然なのだ。

本命はキース・ハワード。実力・経歴ともに文句なくNo.1。

対抗は海馬瀬人。ジュニア時代から耳目を集め、全国大会で優勝した経験もある。社長に就任してからは、その忙しさゆえ大会からは遠ざかっていたが、高い実力は(みな)が認めるところであろう。

注目はインセクター羽蛾。直近の全国大会優勝者である。実はペガサスから直接トロフィーを渡された数少ないデュエリストでもある。そういった意味でも注目を集めている。

 

(まぁあくまで予想だ。深く考える必要もないか)

 

「キース、というのは面白みのない回答だな。俺は大穴狙いでいくよ。武藤遊戯を推す。残った4人の中で唯一の一般参加枠だからな。頑張ってほしいところだ」

「ほぅ、あの少年デスか。確かに不思議な雰囲気を持っていマスね。それに、あの首飾り(アクセサリー)も気になりマス。少し話してみてもいいかもしれまセンね」

 

最上段でそんな会話がされているとはつゆ知らず、デュエルリングで向き合うふたりの闘志は極限まで高まっていた。

 

「これより準決勝第1試合を開始します。キース・ハワードvs海馬瀬人。デュエル開始!!」

 

 

『デュエルッ!!』

 

 

「俺様の先攻か、ドロー。まずは《融合派兵》を発動するぜ。EXデッキの《ガトリング・ドラゴン》を公開し、デッキから《リボルバー・ドラゴン》を特殊召喚。カードを2枚伏せてターンエンドだ」

 

キース LP4000 手札3 モンスター1 伏せ2

 

リ:リボルバー・ドラゴン 攻撃力2600

■:伏せカード

■:伏せカード

 

■□□□■

□□リ□□

 

□□□□□

□□□□□

 

海馬瀬人 LP4000 手札5 モンスター0 伏せ0

 

――――――――――――

 

「俺のターン、ドロー。お得意のコイン戦術か。だが俺には通用せん! まずは永続魔法《一点着地》を発動。続けて《高等儀式術》を発動だ。デッキから《青眼の白龍》を墓地に送り、手札から《青眼の混沌龍(ブルーアイズ・カオス・ドラゴン)》を儀式召喚。一点着地の効果で1枚ドロー!」

 

青眼の白龍に酷似したドラゴンが、藍色の翼を広げて飛翔する。

 

「バトルだ! 青眼の混沌龍でリボルバー・ドラゴンを攻撃! そして攻撃宣言時効果発動。相手モンスターをすべて守備表示に変更し、攻守を0にする! 喰らえ、カオス・バァァァストッ!」

 

「リバースカード《メタバース》を発動。デッキからフィールド魔法《鋼鉄の襲撃者(ヘビーメタル・レイダース)》を発動するぜ」

 

キースは攻撃宣言時にフィールド魔法を発動した。だが攻撃は止まらず、混沌のブレスがリボルバー・ドラゴンを焼く。

 

キース LP4000 → 1000

 

「ぐぅおおぉぉ!? か、貫通効果か!」

 

キースのライフは大きく減衰したものの、リボルバー・ドラゴンは健在であり、尚且つその瞳には怒りの炎が灯っていた。

 

「このフィールド魔法がある限り、俺様の機械族・闇属性モンスターは1ターンに1度だけ戦闘では破壊されねぇ。そしてその戦闘で受けた戦闘ダメージを攻撃力に加えるぜ!」

 

混沌龍の効果で0にまで下げられた攻撃力が3000にまで回復する。

 

「ふぅん。さすがは全米チャンプといったところか。カードを2枚伏せ、ターンエンドだ」

 

海馬瀬人 LP4000 手札2 モンスター1 伏せ2

 

混:青眼の混沌龍 攻撃力3000

■:伏せカード

■:伏せカード

一:一点着地

 

 □□一■■

 □□混□□

 

鋼□□リ□□

 □□□□■

 

リ:リボルバー・ドラゴン 守備力 0

■:伏せカード

鋼:鋼鉄の襲撃者

 

キース LP1000 手札3 モンスター1 伏せ1

 

――――――――――――

 

「俺様のターン、ドロー。《ツインバレル・ドラゴン》を召喚。そしてテメェのセットカードを対象に効果を発動するぜ」

 

成功確率は25%。当たれば儲けものといったところだろう。

 

「ハズレか。まあいい。永続魔法《魂吸収》を発動し、《強欲で貪欲な壺》を発動。デッキの上から裏側表示で10枚を除外し、2枚ドロー」

 

10枚除外というコストが、魂吸収とのコンボによって回復ソースへと変わる。これでライフを確保し、受けたダメージを攻撃力へと変換するのがキースの策であった。

 

キース LP1000 → 6000

 

「青眼の混沌龍は効果の対象にならねぇからリボルバー・ドラゴンの効果は使えねぇか。ならバトルで破壊するまでよ! リボルバー・ドラゴンを攻撃表示に変更。リボルバー・ドラゴンで混沌龍を攻撃!」

 

混沌のブレスと漆黒の弾丸が激突する。刹那の押し合いの末、ブレスを貫いた弾丸が混沌龍の翼を撃ち抜いた。

 

「フィールド魔法《鋼鉄の襲撃者》の効果により、リボルバー・ドラゴンは破壊されねぇ。さらに《鋼鉄の襲撃者》の第2の効果により、手札から《Kozmo-ダークシミター》を特殊召喚するぜ」

 

白と灰色を基調としたカラーリングの船体が空中を旋回する。

 

「ダークシミターでダイレクトアタック!」

 

「クッ、リバースカード《戦線復帰》を発動。墓地の《青眼の白龍》を守備表示で特殊召喚する!」

 

「ならそいつを攻撃だ!」

 

艦砲射撃により白き龍が倒れ――

 

「ツインバレル・ドラゴンでダイレクトアタック!」

 

攻撃はついに海馬へと届いた。

 

海馬瀬人 LP4000 → 2300

 

「ダメージを受けた時、このカードは発動できる。《運命の発掘》を発動。カードを1枚ドローする」

 

「ただのドローカードか。カードを1枚伏せてターンを終了するぜ」

 

キース LP6000 手札1 モンスター3 伏せ2

 

ダ:Kozmo-ダークシミター 攻撃力3000

リ:リボルバー・ドラゴン 攻撃力3000

ツ:ツインバレル・ドラゴン 攻撃力1700

■:伏せカード

■:伏せカード

魂:魂吸収

鋼:鋼鉄の襲撃者

 

■■魂□□

□ダリツ□鋼

 

□□□□□

□□一□□

 

一:一点着地

 

海馬瀬人 LP2300 手札3 モンスター0 伏せ0

 

――――――――――――

 

「俺のターン、ドロー! 手札の《魔神儀(デビリチャル)-キャンドール》の効果発動。手札の《カオス・フォーム(儀式魔法カード)》を公開し、デッキの《魔神儀(デビリチャル)-タリスマンドラ》とこのカードを特殊召喚する。そしてタリスマンドラの効果で、デッキから《ブルーアイズ・カオス・MAX・ドラゴン》を手札に加える」

 

儀式をサポートする奇妙なモンスターたちが、海馬の道を切り開いていく。

 

「《カオス・フォーム》を発動。墓地の《青眼の白龍》を除外し、手札から《ブルーアイズ・カオス・MAX・ドラゴン》を儀式召喚!」

 

混沌を統べる龍が、稲妻を帯びた蒼き翼を羽ばたかせる。

 

「一点着地の効果で1枚ドロー。魔法カード《闇の護封剣》を発動。貴様のモンスターをすべて裏側守備表示に変更する」

 

天から降り注いだ闇の(とばり)がフィールドを包み込む。キースの機械龍たちは項垂れながらカードの裏へと沈んでいった。

 

「バトルだ! カオス・MAXでツインバレル・ドラゴンに攻撃! 混沌のマキシマム・バァァァストッ!!」

 

「ツインバレル・ドラゴンをリリースして《闇の閃光》を発動。このターンに特殊召喚されたモンスターをすべて破壊する!」

 

海馬のフィールドが漆黒の波導に包まれる。魔神儀2体は闇に包まれて消失したが、青藍の龍は依然として健在だった。

 

「フハハハハッ! カオス・MAXは効果では破壊されん。残念だったな」

 

「だが攻撃対象がいなくなったことで、攻撃の巻き戻しが起こるぜ」

 

「ふぅん。気づいていたか」

 

カオス・MAXには貫通ダメージを倍にする効果がある。あのまま攻撃を受けていればキースは敗北していた。

 

「ならばダーク・シミターを攻撃だ!」

 

キース LP6000 → 1600

 

「くっ、鋼鉄の襲撃者の効果でダーク・シミターは破壊されねぇ。そして受けたダメージ分攻撃力をアップするぜ」

 

Kozmo-ダークシミター 攻撃力3000 → 7400

 

「カードを1枚伏せ、ターンエンドだ」

 

海馬瀬人 LP2300 手札1 モンスター3 伏せ1

 

M:ブルーアイズ・カオス・MAX・ドラゴン 攻撃力4000

■:伏せカード

一:一点着地

闇:闇の護封剣

 

 ■□一□闇

 □□M□□

 

鋼□□リダ□

 □□魂■□

 

リ:リボルバー・ドラゴン(裏側守備表示)

ダ:Kozmo-ダークシミター 守備力1800

魂:魂吸収

■:伏せカード

鋼:鋼鉄の襲撃者

 

キース LP1600 手札1 モンスター2 伏せ0

 

――――――――――――

 

「俺様のターン」

 

闇の護封剣が場にあるかぎり、キースのモンスターは表示形式を変更できない。今キースの手札にあるのは、単体ではあまり役に立たないカード。このドローで勝敗が決まる。

 

「ドロー! 《人造人間7号》を召喚!」

 

ちょこんと現れたのは、小さな体躯の改造人間。それを見た海馬は鼻で嗤った。

 

「そんな貧弱なモンスターでどうするつもりだ?」

 

「こうするのさ。まずはリバースカード《非常食》を発動。《魂吸収》と《鋼鉄の襲撃者》を墓地に送り、ライフを2000回復する」

 

キース LP1600 → 3600

 

「そして《人造人間7号》に《脆刃の剣(もろはのつるぎ)》を装備。攻撃力が2000アップするぜ」

 

属性や種族の縛りがなく、2000の攻撃力アップは破格である。だが当然デメリットはある。装備モンスターの戦闘で発生する戦闘ダメージはお互いに受けることになるのだ。

 

「さあ行くぜ。人造人間7号は攻撃力が低い代わりに、直接攻撃が可能なモンスターだ。人造人間7号でダイレクトアタック!」

 

この攻撃が通れば、お互いに2500のダメージを受ける。海馬のライフは尽き、キースのライフは残る。

 

「俺をここまで追いつめるとは……。だが! 俺は負けんぞ(・・・・)! 手札を1枚捨て、罠カード《ライジング・エナジー》を発動。フィールドのモンスター1体の攻撃力を1500アップする!」

 

「今さらカオス・MAXの攻撃力を上げようが関係……ハッ! まさかテメェ!」

 

「俺が選択するのは《人造人間7号》だ! この効果を受け、そいつの攻撃力は4000となる!」

 

「クソッ、あの時に非常食を発動していれば……」

 

前のターン、《闇の閃光》にチェーンして《非常食》を発動していれば、回復量が1000増え、結果は違っていた。

さらに巨大となった脆刃の剣が海馬のライフを刈り取る。そして同時に(・・・)、キースのライフをも焼き尽くした。

 

 

 




海馬って意外と負けてるんですよね。


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第11話 黒魔術師、還らず

準決勝第1試合は引き分けに終わった。この場合、再試合となるのだが――

 

「真剣勝負に再試合はない! 全米チャンプ、キース・ハワード! 貴様の実力は分かった。この勝負、預けておくぞ!」

 

海馬はそう言ってスタスタと退場してしまった。困ったMr.クロケッツがキースに目配せするが……。

 

「勝ってもいねぇのに進むほど図々しくはなれねぇな。俺様は辞退するぜ。ペガサス! テメェへのリベンジはまた今度だ!」

 

そう言ってキースも舞台を降りた。Mr.クロケッツが今度はペガサスへと目配せする。それを受けたペガサスは小さく笑って、レンの方に視線を向けた。

 

(……俺に決めろってか?)

 

しばし頭の中で逡巡したレンは、答えを口にした。

 

「彼らのプライドを尊重しましょう。次の試合を決勝戦にすればいいと思います」

「ではそうしまショウ。審判、進めてくだサーイ」

「ハッ。武藤遊戯、インセクター羽蛾。両者、前へ!」

 

名前を呼ばれたふたりの決闘者が舞台へ上がる。

少々アクシデントはあったが、これが最後の一戦。勝った方がペガサスへの挑戦権と賞金を手に入れることができる。

決勝トーナメントで敗れた者たちが見守る中、決勝戦がスタートした。

 

「これより決勝戦を開始します。武藤遊戯vsインセクター羽蛾。デュエル開始!!」

 

 

『デュエルッ!!』

 

 

「ひょひょ、先攻はもらった。ドロー! 永続魔法《補給部隊》を発動し、カードを1枚セット。そして《手札抹殺》を発動だ。お互いのプレイヤーは手札をすべて捨て、捨てた枚数分ドローする。俺は3枚捨て、3枚ドローだ」

 

「俺は5枚捨てて、5枚ドローするぜ」

 

遊戯の墓地を確認した羽蛾は小さくほくそ笑んだ。

 

(こいつが"エクゾディア"を持っているのは一回戦で確認済みだ。簡単に揃うようなモンじゃあないが、ここは確実に除外(つぶ)しておくぜ)

 

「墓地に送られた《ゴキポール》の効果発動。デッキから《ジャイアントワーム》を手札に加えるぜ。そして伏せておいた《魂の解放》を発動。おまえの墓地にある《封印されしエクゾディア》、《ブラック・マジシャン》、《ジョーカーズ・ストレート》、《クリボー》、《魔法の筒》を除外する」

 

本命のエクゾディアに、遊戯のエースたるブラック・マジシャン、展開札であるジョーカーズ・ストレート、そして防御札であるクリボーと、カウンターでダメージを与える魔法の筒を撃ち抜いた。

上々の結果である。

 

「墓地の《共振虫(レゾナンス・インセクト)》を除外し、《ジャイアントワーム》を特殊召喚。さらに除外された共振虫の効果で、デッキから《究極変異態・インセクト女王(クイーン)》を墓地に送るぜ。さらにモンスターをセット。カードを1枚伏せてターンエンドだ」

 

インセクター羽蛾 LP4000 手札1 モンスター2 伏せ1

 

ジ:ジャイアントワーム 攻撃力1900

セ:セットモンスター

■:伏せカード

補:補給部隊

 

■□補□□

□ジ□セ□

 

□□□□□

□□□□□

 

武藤遊戯 LP4000 手札5 モンスター0 伏せ0

 

――――――――――――

 

「俺のターン、ドロー。魔法カード《予想GUY》を発動。デッキから《エルフの剣士》を特殊召喚。さらに《エルフの聖剣士》を通常召喚し、その効果により《翻弄するエルフの剣士》を特殊召喚する」

 

3体のエルフの剣士が現れ、それぞれの構えで相手を威圧する。

 

「《団結の力》をエルフの聖剣士に装備。そしてカードを2枚セットする」

 

エルフの聖剣士 攻撃力2100 → 4500

 

エルフの聖剣士の攻撃条件を満たすため、遊戯はカードをセットし、バトルフェイズに入る。

 

「エルフの聖剣士でジャイアントワームを攻撃。聖剣十字斬り!」

 

まずは緑衣の剣士が突撃し、戦端を開く。

 

インセクター羽蛾 LP4000 → 1400

 

「戦闘ダメージを与えたことでエルフの聖剣士の効果発動。カードを3枚ドローするぜ」

 

「くっ、このダメージは想定外だぜ。だが俺も補給部隊の効果で1枚ドローだ」

 

「構わないぜ。続けてエルフの剣士でセットモンスターを攻撃!」

 

聖剣士に続き、元祖エルフの剣士がセットモンスターに素早い攻撃を繰り出す。

 

「俺がセットしたモンスターは《共鳴虫》だ。効果は知ってるよな。デッキから2体目の《共鳴虫》を特殊召喚するぜ」

 

「……俺はこのままターンを終了するぜ」

 

遊戯の場にはまだ攻撃権の残っている翻弄するエルフの剣士がいたが、前回のデュエルでヒーローたちを苦しめた羽蛾のレベルアップモンスターを警戒し、遊戯は攻撃を中止した。

 

「おっと、その前に罠カード《戦線復帰》を発動だ。墓地の《究極変異態・インセクト女王》を守備表示で特殊召喚するぜ。そしてエンドフェイズに女王サマの効果発動。「インセクトモンスタートークン」1体を特殊召喚」

 

武藤遊戯 LP4000 手札3 モンスター3 伏せ2

 

エ:エルフの剣士 攻撃力1400

翻:翻弄するエルフの剣士 攻撃力1400

聖:エルフの聖剣士 攻撃力4500

団:団結の力(対象:エルフの聖剣士)

■:伏せカード

■:伏せカード

 

団□■□■

□エ翻聖□

 

□共□究ト

□□補□□

 

共:共鳴虫 守備力1300

究:究極変異態・インセクト女王 守備力2400

ト:インセクトモンスタートークン 守備力100

補:補給部隊

 

インセクター羽蛾 LP1400 手札2 モンスター3 伏せ0

 

――――――――――――

 

「俺のターン、ドロー。《ネオバグ》を召喚し、共鳴虫と究極変異態・インセクト女王を攻撃表示に変更。バトルだ! 共鳴虫でエルフの剣士を攻撃!」

 

「自爆特攻で効果を使うつもりか!?」

 

共鳴虫が羽ばたき、エルフの剣士に突撃する。しかし剣の一撃で共鳴虫は両断された。

 

インセクター羽蛾 LP1400 → 1200

 

「ひょひょ、安い代償さ。共鳴虫の効果でデッキから《ゴキポール》を特殊召喚。さらに補給部隊の効果で1枚ドロー。続けてゴキポールでエルフの剣士を攻撃!」

 

羽蛾は再び自爆特攻でゴキポールの効果を発動する。

 

インセクター羽蛾 LP1200 → 800

 

「ゴキポールの効果でデッキから《甲虫装甲騎士(インセクトナイト)》を手札に加え、そのまま特殊召喚する。さらにエルフの聖剣士を破壊するぜ!」

 

ゴキポールの体当たりにより、エルフの聖剣士が倒れる。

 

「今度は女王サマでエルフの剣士に攻撃だ!」

 

羽蛾のエース、究極変異態・インセクト女王がエルフの剣士に一撃を加え――

 

「ダメージステップ終了時にインセクトモンスタートークンをリリースし、女王サマの効果発動。連続攻撃で翻弄するエルフの剣士を攻撃!」

 

さらなる追撃が遊戯のライフを削り取る。

 

武藤遊戯 LP4000 → 2600 → 1200

 

「だが翻弄するエルフの剣士は、攻撃力1900以上のモンスターとの戦闘では破壊されない」

 

「だがダメージは受けてもらうぜ。続けてネオバグで攻撃だ! こいつの攻撃力は1800。翻弄するエルフの剣士を撃破!」

 

武藤遊戯 LP1200 → 800

 

「これでとどめだ! 甲虫装甲騎士でダイレクトアタック!」

 

「リバースカード《パワー・ウォール》を発動。デッキの上から4枚のカードを墓地に送り、この戦闘で発生するダメージを0にする!」

 

甲虫装甲騎士の剣が遊戯を切り裂く直前で、見えない壁によって弾き返される。

 

「チィ、しぶといヤツだ。俺はカードを1枚伏せてターンエンド。エンドフェイズに女王サマの効果で「インセクトモンスタートークン」1体を特殊召喚するぜ」

 

インセクター羽蛾 LP 800 手札2 モンスター4 伏せ1

 

ト:インセクトモンスタートークン 守備力100

究:究極変異態・インセクト女王 攻撃力2800

ネ:ネオバグ 攻撃力1800

甲:甲虫装甲騎士 攻撃力1900

■:伏せカード

補:補給部隊

 

■□補□□

ト究ネ甲□

 

□□□□□

■□□□□

 

■:伏せカード

 

武藤遊戯 LP 800 手札3 モンスター0 伏せ1

 

――――――――――――

 

「俺のターン、ドロー。モンスターをセット。カードを3枚伏せてターンエンドだ」

 

「ひょひょ、打つ手なしかい? だがトークンはエンドフェイズ毎に増えるんだぜ」

 

武藤遊戯 LP 800 手札0 モンスター1 伏せ4

 

セ:セットモンスター

■:伏せカード

■:伏せカード

■:伏せカード

■:伏せカード

 

■■□■■

□□セ□□

 

ト甲ネ究ト

□□補□■

 

ト:インセクトモンスタートークン 守備力100

甲:甲虫装甲騎士 攻撃力1900

ネ:ネオバグ 攻撃力1800

究:究極変異態・インセクト女王 攻撃力2800

ト:インセクトモンスタートークン 守備力100

補:補給部隊

■:伏せカード

 

インセクター羽蛾 LP 800 手札2 モンスター5 伏せ1

 

――――――――――――

 

「俺のターン、ドロー。いくぜ遊戯、これがラストターンだ。どんなカードを伏せたか知らないが、俺の昆虫軍団は無敵だ!」

 

フィールドに究極変異態・インセクト女王と、他の昆虫族モンスターが存在する場合、羽蛾の昆虫族モンスターは相手の効果の対象にならず、相手の効果では破壊されない。

無敵と言うには大げさだが、かなりの耐性であるのは確かだ。

 

「甲虫装甲騎士でセットモンスターを攻撃!」

 

剣の一閃によって、《熟練の黒魔術師》が倒れる。

 

「最後は女王サマでとどめだ!」

 

究極変異態・インセクト女王が飛翔し、毒のブレスを吐く。

 

「まだだ! リバースカード《リビングデッドの呼び声》を発動。墓地の《バスター・ブレイダー》を特殊召喚するぜ!」

 

遊戯の墓地より、竜破壊の剣士が蘇る。

 

「ひょひょ、パワー・ウォールで落ちたカードか。だがその程度の攻撃力じゃあ、女王サマの敵じゃないぜ」

 

「そう思うのなら攻撃してきな」

 

遊戯は挑発めいた口調で羽蛾に攻撃を促す。

 

(……罠か? いや、だとしても、俺の昆虫軍団は無敵だ。たとえヤツがミラーフォースのような逆転のカードを伏せていたとしても、俺の昆虫軍団には無意味)

 

羽蛾は一瞬躊躇したものの、遊戯のライフは風前の灯火。勝負は一撃で決まる。

 

「そんなハッタリで切り抜けられると思うなよ! 女王サマでバスター・ブレイダーに攻撃!」

 

「その過信が命取りだぜ、羽蛾! 俺は罠カード《輪廻独断》を発動!」

 

「な、なにっ!?」

 

「これはおまえのフィールドにいるモンスターに作用するカードじゃない。お互いの墓地に存在するモンスターの種族を変更するカードだ。俺は「ドラゴン族」を宣言するぜ」

 

リクルートモンスターを多用した羽蛾の墓地には大量のモンスターが眠っている。

 

「いいやっ! まだ終わらねぇ! 墓地の《共鳴虫》を除外し、罠カード《ライヤー・ワイヤー》を発動。おまえのバスター・ブレイダーを破壊する!」

 

チェーン発動したことで、まだ種族変更は行われていない。昆虫族モンスターを除外するというコストは支払うことはできた。これが羽蛾の奥の手。だが、遊戯はその先を行く。

 

「無駄だ! 《トラップ・ジャマー》を発動。ライヤー・ワイヤーの発動と効果を無効にして、破壊する!」

 

「バ、バカな!?」

 

1体除外されたことで上昇量は減ったが、羽蛾のライフを削り切るには十分な攻撃力だ。

 

「破壊剣一閃!」

 

竜破壊の剣士の一撃が、女王の腹に突き刺さった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

一方その頃、ペガサス島のとある場所では――

 

「そろそろ狩るか」

 

邪悪な意思が(うごめ)き始めていた。

 

 

 




羽蛾は緻密な戦略を練った上で、詰めを誤るタイプですね。


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第12話 創造主の心

侮っていたわけではなかった。

ましてや慢心していたわけでもない。

自分が最強のデュエリストだなどと、思ったこともない。

 

無敵のデュエリストなどいない。

その証拠に、自分は何度も負けてきた。

 

(凄まじい少年でシタ。初見であるはずのカードに、即座に対応してきまシタ。あの才覚(センス)は、彼以上の――)

 

「激闘だったな」

 

半ば放心していたペガサスは、馴染みの声を聞いてハッとなった。

 

「……ええ、一般参加の少年が、まさかここまでのデュエリストとは思いませんでシタ」

 

未発表のカード、トゥーンに対して、遊戯は的確ともいえる対応をした。

 

「あのコンボで流れが変わったな」

 

序盤はペガサスが優勢に進めていたように見えた。だが遊戯はただ耐え凌いでいるように見えて、虎視眈々と反撃の機会を窺っていたのだ。

 

(遊戯のデッキは一見破綻しているように見えて、実はあらゆる状況に対応できるカードが詰め込まれていた)

 

まったく情報のないペガサスを相手にするために、遊戯が知恵を絞った結果だった。

そして勝利を手繰り寄せた。

ペガサスは負けたのである。

 

(俺の見るかぎりだが、千年眼を使用しているような気配はなかった。遊戯からもそこまで敵意を感じなかったので、おそらく使用しなかったのだろう)

 

レンにペガサスの心奥は分からない。それでも、ペガサスが変わっていったのは感じていた。

そして遊戯とのデュエルで確信に至った。ペガサスは心の闇に打ち勝ったのだと。

 

「もうすぐ授賞式(パーティー)が始まる」

「ええ、いきまショウ」

 

ペガサスはうなずき、ゆっくりとソファから立ち上がった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

大会は終わった。最後のデュエルの後に行われた授賞式(パーティー)もつつがなく終了し、参加者は館を出て港へと向かって行った。

静寂を取り戻した館の中で、レンは胸騒ぎを覚えてペガサスの私室へと向かっていた。

そして駆けつけた扉の前では、Mr.クロケッツが床に倒れていた。

 

「クロケッツ! ……死んではいないな。気絶しているだけか」

 

その形相は、何か恐ろしいものでも目撃したような凄まじいものであったが、とりあえず無事と判断したレンは扉を厳しい視線で睨み付ける。

 

「ペガサス、ちょっといいか?」

 

やや乱暴にノックをするも反応はない。

ドアノブに触れてみるが、扉はびくともしなかった。この扉に鍵はない。ということは、なにか別の力によって施錠されていることになる。

懐から拳銃を取り出し、ドアノブに向けて2回発砲。通用するかどうかは賭けだったが、びくともしなかった扉は、レンの力でもギリギリ開けられるくらいの重さに軽減されていた。

中に飛び込むと、室内にはうずくまっているペガサスと、三白眼の白髪の少年がいた。

レンはすぐに状況を把握した。

 

「なんだァ、テメェ……うおッ!?」

 

即座に発砲。狙いは肩と脚。だが2発の弾丸はどちらも獏良の身体に当たる寸前で、粘土にめり込んだように、中空で停止していた。

 

「イキナリやってくれるじゃ……チィッ!!」

 

続けて2発。狙いは眉間と心臓。これも防がれる。空になった弾倉を抜いて再装填(リロード)し、間髪入れずに6発射出。これもすべて防がれる。

 

(これでいい。車を走らせるのにガソリンが必要なように、オカルトパワーも無から生み出しているわけではない……はず)

 

その予測が当たっていたのかは分からない。そして反撃してこないところを見ると、おそらく攻撃と防御を同時にはできないとレンはあたりを付けた。

 

「チィィ、拳銃程度どうとでもなるが……この草ァ! オレ様を捕食しようとしてやがるのか! なめやがって!」

 

(……草? 草生えるwってわけじゃないだろうし……ペガサスがなにかやっているのか?)

 

レンの目には、獏良が身体にまとわりつこうとするナニカ(・・・)を振り払おうとしているように見えた。

空になった弾倉をさらに再装填。

 

「チィィ、メンドくせぇ! ここは見逃してやらぁ!」

 

再装填の隙をついて反転した獏良は窓を突き破って逃げていった。窓の外を眺めると、獏良はピンピンした様子で走り去っていた。

この口径での狙撃は無理と判断し、レンはペガサスへと向き直る。

 

「怪我はないか? ペガサス」

「ええ。しかし、随分と過激なことをしマスね」

「最初の2発で通じないことが分かったんでな。遅滞戦術に切り替えた」

 

いつもは髪に隠れているペガサスの左目があらわになっていた。そこは空洞ではなく、しっかりと千年眼が収まっている。

 

(奪われるのは阻止できたか。しかし獏良はどこでペガサスが千年眼を持っていることを知ったんだ? 千年リングは千年アイテムを探知するみたいな設定はあったが、こんな離れた場所(孤島)にまで有効なのか? というかどうやって来たんだ?)

 

レンは首をひねるが、答えは出そうになかった。

 

「治療班を呼んでくる。ここで安静にしてろ」

「……ええ、お願いしマース」

 

ペガサスは弱々しい口調でそう頼んだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

レンがデュエルモンスターズを商業展開するにあたって細心の注意を払ったのが、カードの偽造についてだ。

これはペガサスをもってして「ここまでやる必要はないのでは?」と言わしめるほど徹底的にやった。

海馬とも相談し、デュエルシミュレーターでもコピーカードを弾く仕様にしている。

 

というのも、勝手にカードを作られると困るからだ。すべてのカードデータはI2社のサーバーに保存されており、そこにないデータのカードが使用された場合、当然だがエラーが出るようになっている。

これは後発するデュエルディスクでも搭載されるシステムである。

よってI2社の把握していないカードが使用される可能性はほぼ0なのだ。

 

そう、ほぼ0である。

ほぼと言ったのは、完全に0ではないからだ。人間にカードの偽造は不可能なレベルだが、ならば精霊では?

これがほぼ、と言った理由だ。

 

この世界には精霊という存在がいる。幸か不幸か、レンは出会ったことはない(・・・・・・・・・)が、いるのは確信を持って言えた。

実際に異世界(精霊界)の研究を真面目にやってる人もいる。

 

つまり、精霊がカード化された場合、あるいは精霊がカードを作った場合、システムが認識してしまうのではないかという危惧があった。

というのもこの世界が、わりと非常識で非科学的な(遊戯王)世界だからである。

 

またこの世界には、世界で1枚という極端なレアカードは存在しない。先行配布などで、期間限定で少数のカードは存在するが、数ヵ月後には一般販売されて、その価値は落ちる。

つまり、レアカード窃盗集団(グールズ)がこの世界には存在しないのだ。

おそらくカードの偽造が難しいことに加え、カード自体の価格が安いことが影響しているのだろう。

 

強いていうならば、海馬の持つ世界に3枚しかない《青眼の白龍》だが、海馬がそれを手放すとは考えられないし、ましてや奪われるとも思えない。

仮に奪われたとしても、草の根分けても探し出すだろう。

 

なんにせよ。

レンの介入とペガサスが綺麗になったことで、原作に比べると世界は多少マシになった。

 

――デュエルで笑顔を

 

レンが口にした言葉はペガサスのお気に入りにもなっていた。

デュエルはみんなを笑顔にする。

そう信じて、レンは今日も業務に勤しんでいる。

 

 

 




決闘者の王国編、完!
評価、感想、誤字報告、ありがとうございました。


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第13話 童実野町へようこそ

世界的大企業となったインダストリアルイリュージョン社であるが、その実態は社歴の浅い新興企業である。とはいえ、基盤にペガサスの父がいることもあって、明確に敵対する企業は少ない。

だが世界的ヒットとなったデュエルモンスターズを独占することに難色を示す企業があることも確かだ。

そこで天下三分の計が実行されることとなった。

 

(いや三国志かよ)

 

と内心でツッコミをいれるレンだったが、確かに独占というのは歪みが生まれる一因となる得ることも理解できた。

そこで名が挙げられたのが「シュレイダー社」である。

代表はジークフリード・フォン・シュレイダー。意外にもI2社との付き合いはそれなりに長かったりする。

 

いち早くデュエルモンスターズの可能性に気づいた先見性のある男だった。そしてシュレイダー社は海馬コーポレーションと類似点の多い企業でもあった。

元々は海馬コーポレーションと同じく兵器産業を主力としていた企業であったが、社長(父親)から実権を渡されるとともに、ジークフリードはそれまでの経営方針を撤回してデュエルモンスターズ(アミューズメント)へと舵を切った。

 

ここでジークフリードはI2社に「バーチャルシステム」の売り込みをかけてきたのだ。そのバーチャルシステムというものは、なんというかソリッドビジョンの下位互換のようなシステムだったのだ。

そこで当時I2社の社長であったペガサスはバッサリとシュレイダー社を斬り捨てた。斬り捨てようとした。そこに待ったをかけたのがレンだった。

 

ジークフリードを管理下に置いておこうと思ったのだ。レンは「キャラクター」としてのジークフリードしか知らないが、前世の経験でこういったタイプに恨みを買うと凄まじく面倒臭くなることを知っていた。

たとえこちらに正当性があったとしても、自分が悪いとか自分が未熟だったとは一切思わない。そういう規格外の人間がいるのだ。

 

とりあえずバーチャルシステムの件は脇に置いて、デュエルモンスターズを欧州展開する場合の基盤としてシュレイダー社と提携したのだ。

そこでレンはジークフリードを宥めすかし、時に持ち上げ、(てい)よく利用した。無論ジークフリードは利用されたとは思っておらず、自分の才能が正当に評価されたと思っているので、Win-Winの関係であった。

少々性格に難のある男だったが、経営手腕は本物だったのだ。

 

そうして順調にデュエルモンスターズは世界中に広がっていき、冒頭の天下三分の運びとなる。

いがみ合う海馬とジークフリードの間を取り持つレンは、社長というよりも中間管理職のようであった。

 

言ってみればI2社が「主」で、海馬コーポレーションとシュレイダー社は「従」なのだが、これが海馬(天才)ジークフリード(秀才)レン(凡才)の差なのかもしれない。その凡才は――

 

(これで俺の知らないカードとかも出てくるのかな~。時の女神の悪戯(ターンスキップ)怖いな~。黄泉天輪は勘弁して)

 

などと考えていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「なぁ、ジイさん。この店で一番のレアカードってなんだ?」

「なんじゃ城之内。(ウチ)のお宝を狙っとるのか?」

「ちっげぇよ! 単純に気になっただけだよ!」

 

城之内が憤慨したように声を荒げる。もちろん双六も本気で言ったわけではない。

 

「そうじゃな。ではちょっとだけ見せてやろう。ちょっとだけな」

 

そう言って双六は棚の奥から小さな木箱を取り出した。

 

「これじゃ」

「ふ~ん。なんか、弱っちいカードだな。これなら俺の持っている《アックス・レイダー》の方が強ぇぜ」

 

箱の中に納まっていたカードは、輝きこそ豪華だが、何の効果も持たないレベル5の通常モンスターだった。ステータスも攻撃力1550、守備力1300と、上級モンスターとは思えないほど低い。

 

「こんなのが前に見た《青眼の白龍》より高ぇのか?」

「金銭的価値という意味ではそうじゃな。もっとも、アレは手放すつもりはないが、これはちゃんとした売り物じゃ」

「その割には飾ったりしてねぇのな」

 

やっぱ売る気ねぇんじゃねぇの、と城之内は思った。

 

「ほっほっ、このカードはの、まだデュエルモンスターズがここまで人気になる前に、あるデュエル雑誌の懸賞で手に入れることのできたカードなんじゃ。確かにこのカードは、決して扱いやすいカードとは言えん。初心者にはお勧めできんカードじゃ。しかしの、熱狂的なファンがおるカードでもある。このカードを中心にデッキを組むデュエリストもおるぞ」

「ふ~ん。でもよぉ、俺このカード見たことある気がすんだよなぁ」

 

得意げに知識を披露する双六を斜めに見ながら、城之内はそのカードに引っかかりを覚えた。

 

「そりゃノーマルカードの方じゃろう。これは懸賞で配られた特別仕様(シークレットレア)じゃからの。ノーマルならウチの店でも1コインで買えるぞい。買っていくか?」

「いや、いらねぇ。悪魔族は俺のデッキじゃ活躍できねぇし、レベル5じゃ《予想GUY》で呼べねぇし」

「……まあそうじゃな。おぬしのデッキには合わんカードじゃ」

 

特に落ち込んだ様子もなく、双六はウンウンと頷いた。

 

「しかしの、城之内。強さだけに囚われとる内はまだまだじゃぞ」

「分かってるよジイさん。デュエルモンスターズはモンスター、魔法、罠のコンビネーションが大事だってんだろ。じゃ、遊戯も便所から戻ってきたことだし、デッキの相談してくらぁ」

 

そう言って城之内は、遊戯とともにデュエルテーブルへ向かった。しばらくして本田と杏子も合流し、会話も賑やかになっていく。

そうしていると、店に来客があった。

 

「いらっしゃいませ~」

「いらっしゃ、あれ? あなたは……」

 

双六に続いて声を掛けた遊戯は、見覚えのある顔に少し驚く。

 

「お久しぶりですね。武藤遊戯くん。私のことは覚えていますか?」

「ええっと、確かペガサス会長の秘書さん……ですよね?」

 

そう言って遊戯が首を傾げる。

 

(ふむ、そういう認識なのか。そういえばお互い顔は知っているが、会話はしていなかったな)

 

レンは社長とはいえ、未だにI2社の顔はペガサスである。ビジネス界の人間ならともかく、遊戯のような一般人なら社長の顔を知らなくとも無理はない。

今でもメディアに露出するのはペガサスの方が多いからだ。

 

「少しお時間をいただけますか? そちらがひと段落してからで構いません」

「そんならもう構わないぜ。城之内、このデッキでもういいだろ」

「う~ん。でもなぁ。このカードも入れた方が良くねぇか?」

「それさっき遊戯がバランスの問題で抜いた方がいいって言ってたカードじゃねぇか。堂々巡りはやめろ!」

 

本田が辛辣に言い放つ。遊戯は苦笑いで返していた。

 

「僕に何か用ですか?」

「ペガサスからの届け物を預かってきました。どうぞ」

 

小さな桐の箱を遊戯に渡す。それを開けた瞬間、遊戯の目が変わった。

 

「……どういうつもりだ」

「ペガサスからの伝言をそのままお伝えします」

 

喉の調子を整え、音域を合わせる。

 

「遊戯ボーイ。かつてワタシは千年眼の魔力に取り憑かれ、道を誤るところでシタ。いえ、一度は誤ったのデース。しかし様々な人と出会い、デュエルの魅力を感じ、ワタシは正道へと戻ることができまシタ。これはもう、ワタシには必要ありまセーン。あなたに託すことにしマース。……だそうです」

「そ、そうか」

「すげぇなあんた。メチャクチャそっくりだったぜ」

「ああ。目ぇ瞑ってたら分からないくらいに似てたぜ」

「数少ない取り柄のひとつです」

 

城之内と本田は素直に感心しているが、杏子だけは、なにこの人……みたいな目でレンを眺めていた。

 

「ああ、それと……」

「ちょっと待ってくれ!」

 

会話がひと段落したと思ったのだろう。声をかけてきたのは城之内だった。

 

「なにか?」

「いきなりでわりぃんだが、俺とデュエルしてくんねぇか? あんたI2社の人間ってことは、デュエル強ぇんだろ」

 

城之内がこう言ったのには意味がある。現在I2社の入社試験にはデュエルがある。筆記や面接を突破してもデュエルで敗北して落ちたという話は、城之内も聞いたことがあった。

とはいえ、I2社の立ち上げからいるレンには関係のないことであったが。

 

「……いや、好都合か。ええ、お相手しましょう」

「ありがてぇ。じゃあ表出ようぜ!」

 

城之内がテーブルの脇に置いていたデュエルディスクを装着する。原作ではバトルシティ開始時に流通し始めたデュエルディスクであるが、この世界では開発が早まり、すでに一般流通を始めている。

店の前でレンと城之内が向き合う。

 

(――覚醒。デュエルモード)

 

レンは頭の中でスイッチを切り替えた。

 

 

『デュエルッ!!』

 

 

「俺の先攻だ。ドロー! 《伝説の黒石(ブラック・オブ・レジェンド)》を通常召喚。んでもって効果発動だ。このカードをリリースしてデッキから《真紅眼の黒竜》を特殊召喚。さらに魔法カード《黒炎弾》を発動!」

 

黒竜がその(あぎと)を開き、極大の炎を吐く。

 

高杉レン LP4000 → 1600

 

「カードを2枚伏せてターンエンドだ」

 

城之内克也 LP4000 手札2 モンスター1 伏せ2

 

真:真紅眼の黒竜 攻撃力2400

■:伏せカード

■:伏せカード

 

■□□□■

□□真□□

 

□□□□□

□□□□□

 

高杉レン LP1600 手札5 モンスター0 伏せ0

 

――――――――――――

 

「私のターン、ドロー。私がドローしたカードは《守護神官マハード》。ドローしたこのカードを相手に見せることで、このカードは特殊召喚できる」

 

「マハードだとっ!?」

 

「うおっ!? どうしたんだ遊戯?」

 

いきなり叫び出した遊戯に城之内は疑問をぶつける。だが遊戯は自分自身でもなぜ反応したのか分からない様子だった。

 

「マハードを特殊召喚。このカードは闇属性モンスターと戦闘する場合、ダメージステップの間のみ攻撃力が倍になります」

 

「ならそいつを通すわけにはいかねぇな。罠カード《奈落の落とし穴》を発動。そいつを破壊して除外するぜ」

 

マハードが降り立った瞬間、その足元の大地が消え失せ、マハードは奈落の底へと消えていった。だが最期の瞬間、守護神官は望みを託す。

 

「マハードは戦闘・効果で破壊された場合に発動できる効果があります。デッキから《ブラック・マジシャン》を特殊召喚」

 

「ブラック・マジシャンか。あんたも遊戯と同じブラック・マジシャン使いだったんだな」

 

見慣れたモンスターと相対して、城之内はさらに警戒を強めた。

黒魔術師と黒き竜が睨み合う。その光景を見たレンは――

 

(ブラック・マジシャンと真紅眼の黒竜……やはりあの友情のカードは作るべきか?)

 

などと物騒なことを考えていた。

 

「バトルフェイズに入ります。ブラック・マジシャンで真紅眼の黒竜に攻撃、黒・魔・導(ブラック・マジック)

 

「させねぇ! 攻撃宣言時に《串刺しの落とし穴》を発動するぜ。ブラック・マジシャンを破壊し、元々の攻撃力の半分のダメージを相手に与える!」

 

高杉レン LP1600 → 350

 

「バトルフェイズを終了してメインフェイズ2へ。カードを2枚伏せてターンエンド」

 

高杉レン LP 350 手札3 モンスター0 伏せ2

 

■:伏せカード

■:伏せカード

 

■□□□■

□□□□□

 

□□真□□

□□□□□

 

真:真紅眼の黒竜 攻撃力2400

 

城之内克也 LP4000 手札2 モンスター1 伏せ0

 

――――――――――――

 

「おいおい、こりゃ城之内のやつ勝っちまうんじゃねぇか? なあ遊戯!」

「……ああ」

 

本田は盛り上がっている様子だが、遊戯は冷静にデュエルを見守っていた。魔術師デッキはパワーが足りない分、除去札やコンバットトリックを多用する傾向にある。

だが今のところ、そういった動きはない。そのことに遊戯は警戒を強めていた。

 

「俺のターン、ドロー。魔法カード《カップ・オブ・エース》を発動だ。さあいくぜ!」

 

ふたりの中央にソリッドビジョンの巨大なコインが現れる。表が出れば城之内が、裏が出ればレンがカードを2枚ドローできる。

普通の決闘者ならデメリットが大きすぎて使わないだろう。使うとしても《セカンド・チャンス》などのケアできるカードと組み合わせて使う。

だが城之内はリスクを恐れずにギャンブルカードを選択した。

 

「コインは表だ。2枚ドローするぜ。おっし! いいカードを引いたぜ。《ハーピィの羽根帚》を発動。あんたの伏せカードを破壊するぜ」

 

「チェーンして《マジシャンズ・ナビゲート》を発動。手札から《ブラック・マジシャン》を特殊召喚し、その後、デッキから《ブラック・マジシャン・ガール》を特殊召喚。さらに破壊された《マジシャンズ・プロテクション》の効果を発動。墓地の《ブラック・マジシャン》を特殊召喚します」

 

2体の黒魔術師とその弟子が姿を現す。

 

「へっ、だが3体とも守備表示たぁ弱気だな」

 

城之内がそう揶揄するが、なにせレンのライフはわずかに350。何らかの手段で城之内がモンスターの攻撃力を上げれば、それだけで致命のダメージを受けてしまう。

 

「《真紅眼の鉄騎士(レッドアイズ・メタルナイト)-ギア・フリード》を召喚してバトルフェイズに入るぜ。ギア・フリードでブラック・マジシャン・ガールを、レッドアイズでブラック・マジシャンを攻撃だ!」

 

鉄騎士の剣に魔法少女が吹き飛ばされ、黒炎弾によって黒魔術師が焼失する。

 

「カードを1枚伏せてターンエンドだぜ」

 

城之内克也 LP4000 手札1 モンスター2 伏せ1

 

真:真紅眼の黒竜 攻撃力2400

鉄:真紅眼の鉄騎士-ギア・フリード 攻撃力1800

■:伏せカード

 

□□■□□

□□真□鉄

 

□□ブ□□

□□□□□

 

ブ:ブラック・マジシャン 守備力2100

 

高杉レン LP 350 手札2 モンスター1 伏せ0

 

――――――――――――

 

「私のターン、ドロー。《死者蘇生》を発動。墓地の《ブラック・マジシャン・ガール》を特殊召喚。続けて《黒・爆・裂・破・魔・導(ブラック・バーニング・マジック)》を発動。このカードは私の場に魔術師の師弟が存在する場合に発動できる。相手フィールドのカードをすべて破壊します」

 

「すべて!? くっ、なら《鎖付き爆弾》を《真紅眼の黒竜》に装備するぜ。装備状態のこのカードが破壊された場合、相手のカード1枚を破壊できる。あんたの《ブラック・マジシャン》を破壊するぜ」

 

師弟の相乗攻撃により城之内のフィールドは一掃されたが、最後の意地とばかりにブラック・マジシャンを道連れにしようとする。だが――

 

「チェーンして手札の《守護神官マナ》の効果発動。このカードを特殊召喚します。そしてこのカードがモンスターゾーンにいる限り、レベル7以上の魔法使い族モンスターは効果では破壊されない」

 

ブラック・マジシャンの身体に巻き付いた鎖付き爆弾を、マナがその手に持っていた守護杖で解除する。

 

「何やってんだ城之内! 破壊するならブラック・マジシャン・ガールの方だろ。ちゃんとやれー!」

 

「うるっせぇぞ本田ァ! 結果だけ見て語ってんじゃねぇ! 黙って見てろ!」

 

本田のツッコミに城之内は冷たい汗を流した。攻撃力上昇の効果を考慮すれば、選択すべきはブラック・マジシャン・ガールだった。またそうすればマナの効果の適用外だったのでそのまま破壊できたのだ。

とはいえ、ブラック・マジシャンには専用サポートカードも多いので、場に残したくないと考えた城之内の判断も間違いとは言い切れない。

 

「バトルフェイズに入ります。守護神官マナとブラック・マジシャン・ガールでダイレクトアタック」

 

「ぐわぁぁぁ!!」

 

ふたりの少女のダブルアタックを受けて、城之内のライフは尽きた。

 

 

 

「クッソー、もうちょいだったのになー」

 

城之内が悔しさをあらわにして地団駄を踏む。その脇をスルリと抜けてきた遊戯がレンに詰め寄ってきた。

 

「なぁあんた、そのカード――」

 

遊戯の言葉を遮って、レンは自分のデッキから数枚のカードを引き抜いて遊戯に向ける。

 

「なんのつもりだ?」

「このカードたちが、キミのところに行きたがっています」

 

遊戯は無言でカードを受け取る。普段なら他人からカードを受け取るようなことはしないのだが、何故かそのカードたちを見ているといいようもない懐かしさを感じるのだ。

 

「では私はこれで」

「ちょっと待ってくれ!」

 

とはいえ、なんとなく施しを受けるようで座りが悪い。遊戯は思わず声をかけた。

 

「そのカード、大切にしてくださいね」

「……ああ。サンキューな!」

 

笑顔でそう言われて、遊戯は毒気を抜かれたように礼を言った。

 

 

 




《黄泉天輪》 永続魔法

①:このカードの発動時の効果処理として、フィールドのモンスターを全て破壊できる。その後、お互いのデッキからモンスターカードを全てゲームから除外する。
②:お互いのプレイヤーは1ターンに1度、自分メインフェイズに発動できる。自分または相手の墓地のモンスター1体を召喚条件を無視して自分フィールド上に特殊召喚する。
この効果で特殊召喚したモンスターはフィールドから離れた場合に除外される。

※確定テキストではないです。でも大体こんな感じ。
現代遊戯王ならワンチャン許される……のか?
①の効果がキツイかな。先攻でやられたら詰むデッキ多そうだし。
②の効果は召喚条件は無視できても、蘇生制限は無視できないからそこまででもないか。
弱点は永続魔法ということかな。


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第14話 バトルシティ開幕

十七歳を迎えたペガサスに待っていたのは、恋人の死という絶望だった。最愛の女性(ひと)を喪ったペガサスの傷は深く、彼は数ヵ月もの間部屋へと引き籠り、誰とも会おうとはしなかった。

 

そしてペガサスは、気がつけばエジプトの地を訪れていた。現世の人の魂は来世へと継がれ、永遠のものとされるという死生観に興味を持ったからだ。

そこで彼は、己の人生を一変させるものと出会う。

不思議な雰囲気を纏う少年と、人の心を見通す千年眼。

ペガサスはその千年眼の所有者として認められた。

 

彼は千年アイテムが邪悪な意志を秘めていると思っているようだが、実際のところは少し違う。

武器を持てば使いたくなるのが人の(さが)であるように、力を持てばそれを使いたくなる。

結局のところ、どんな道具も使い方次第なのだ。知らずのうちにペガサスは、人の心を読み取るという安易な方法に頼りがちになった。

 

それは彼の親友にも向けられた。

高杉レン。ハイスクールで出会った友人のひとりで、自分を資産家の御曹司として扱わない稀有な人間であった。

ペガサスは彼の心を少しだけ覗いてみた。

 

そこに広がっていたのは一面の青空だった。

心が洗われるような景色。暖かく、かと思えば寒気を感じることもある。なんとも不思議な感覚だった。

ひとつ言えることは、この空は何者にも縛られず、自由で、確かな個を持っているということ。

多くのしがらみが存在するペガサスは、少しだけ彼を羨ましいと思った。

 

もっと彼の深いところ、記憶を読み取ってみたいという衝動に駆られた。

だがペガサスは、寸でのところで踏みとどまった。

それをしてしまえば、レンとの友情が壊れてしまうと思ったからだ。

 

それからペガサスは、この力は簡単に使うものではないと確信した。

その力を使うのはビジネスで重要な決断をする時、相手が自分を騙そうとしていないか、嘘をついていないかを見極める時に限定した。

 

デュエルで使用したことは一度もなかったのだ。

キースとのエキジビジョンマッチでも千年眼は使用していない。あの時は両者同じデッキで闘っていた。そしてデッキを用意したのはペガサスだ。当然デッキのカードはすべて把握している。その有効な使い方、戦略についても。

つまり情報アドバンテージは圧倒的にペガサスが優位だったのだ。勝敗は最初から明らかだった。

 

力に溺れ、闇に吞まれようとしたペガサスの手を掴んだのは、紛れもなくレンだったのだ。本人にその気はなくとも、ペガサスは彼に恩義を感じていた。

幻影だけを追い続けていた自分を現実に引き戻してくれたのだ。

 

――雲のような人デスね

 

胸中でつぶやく。

闇はすでに晴れていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

遊戯に千年眼を届けるという大仕事を終えて、レンは寿司を食っていた。

 

(回転寿司も侮れんな。というか普通に美味いし。本格的な寿司屋の方が美味いのは当然だが、あの堅苦しい雰囲気はどうも苦手だ)

 

そんなどうでもいいことを考えながら、しらうおの軍艦巻きを口に運ぶ。社長であるレンがおらずとも、I2社の業務は普通に回っていた。

ペガサスは忙しいといっていたが、なにも全部自分でやる必要などないのだ。むしろ仕事を振り分けてやった役員連中は嬉しそうですらあった。

 

(とはいえ、日本に長居する理由もないんだよな。さすがに遊び惚けるのは体裁が悪いし。海馬に挨拶でもして帰るか)

 

シメのいくらの軍艦巻きを口に放り込み、レンは店を後にした。

アポを取り海馬コーポレーションに向かう。

 

(そういえば海馬と遊戯の因縁はどうなってるのかな? 同じ学校だし面識はあるだろうけど、もしかしたらデュエルもしているのかもしれないな)

 

武藤双六を巡る因縁がなくなったとはいえ、遊戯と海馬は同じ学校という近い場所にいた。

そこで何があったのか、レンには知る由もない。

 

「高杉様、お待たせ致しました。こちらへどうぞ」

 

特に問題もなく社長室に通されたレンは、定型の挨拶を口にした。

 

「ご無沙汰しております。海馬社――危ねぇ!」

 

いきなり何かを投げつけられたレンは、ギリギリでそれを掴み取った。

 

「ふぅん。待っていたぞ、高杉レン」

「はぁ、すいません」

 

約束の時間ピッタリに来たレンは、それでも日本人的な感覚で待たせてしまったかな、などと思っていた。

だが手に収まったそれを見て、考えが変わった。

レンが握っていたのは透明のカード。中にはパズルのピースが埋め込まれていた。

 

「悪いな、レン。キースと決着がつけられなくて、兄サマちょっと機嫌が悪いんだ」

「ああ、今はプロリーグの真っ最中だからね」

 

モクバがレンに囁きかける。

スポンサーが付くというのは、良いことばかりではない。賞金稼ぎをしていた頃よりは、確実に自由は減っただろう。

全米チャンプという肩書がある以上、プロリーグよりバトルシティを優先するのは余程の理由がなければ不可能だ。

 

「俺との勝負から逃げた男になど興味はない。バトルシティのことは、貴様も知っていよう。貴様にも参加資格をくれてやる。開催は一週間後。精々楽しんでいくがいい。フハハハハッ!」

 

(いや、いらないんですけど)

 

とも言えず、レンはなし崩し的にバトルシティに参加することになった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

城之内克也は激怒した。必ず、かの邪知暴虐の海馬をぶちのめさねばならぬと決意した。

 

「なんで俺のデュエリストレベルが『2』なんだよ!」

 

バトルシティに参加するにはデュエリストレベルが『5』以上でなければならない。つまりこのままでは城之内はバトルシティに参加できないのだ。

しかし、決闘者の王国で決勝トーナメントまで残った城之内がレベル2というのは、海馬の陰謀にほかならないと城之内は睨んでいた。

実際この判定には海馬の私情が多分に含まれている。

 

「やっぱあいつは一度ギャフンと言わせなきゃらなねぇ!」

 

そう息巻いて、城之内は遊戯と本田を連れて海馬コーポレーションの本社ビルにやってきたのだった。

 

「たのもぉーー! ってモクバじゃねぇか。ちょうどいい。この俺がデュエリストレベル2のワケをキッチリ説明して……おぉ?」

 

たまたまロビーにいたモクバに詰め寄ろうとした城之内だったが、脇から現れたSPに拳銃を突き付けられて両手を挙げた。

 

「て、てっぽーだとぉ!? この国の治安はどーなってんだ!?」

 

ホントにこの街の治安はどーなってんだ?

 

「ああいいおまえら。銃を下ろせ。で、連れ立って何の用だよ?」

 

モクバは慌てた様子もなくSPたちを下がらせる。

 

「お、おう。えーっと、そうそう俺のデュエリストレベルだよ! レベル2はおかしいだろーが!」

 

「デュエリストレベル? ああそれか。その問い合わせは山ほど来てるんだ。あれはKC(ウチ)独自の判定だからな。納得いかないヤツが多いんだよ」

 

実際、I2社はデュエリストレベルなどというものは設定していない。あくまでバトルシティは海馬コーポレーション主催のデュエル大会なのだ。

 

「だからウチの決闘(デュエル)マシーンと勝負しろよ。勝てばデュエリストレベルを5に変更してやるよ」

 

「おお、話が早くて助かるぜ」

 

意外にもあっさりと話がまとまって城之内は拍子抜けした。報酬はデュエルで勝ち取れという海馬コーポレーションらしい解決法だった。

そうして城之内はデュエルリングに上がった。

 

 

『デュエルッ!!』

 

 

「ワタシの先攻デス。ドロー。手札の《ディメンション・アトラクター》を捨てて効果を発動シマス。次のターンの終了時まで、墓地へ送られるカードは墓地へ行かずゲームから除外されマス。《被検体ミュートリアST-46》を通常召喚。召喚時効果により、デッキから《ミュートリアの産声》を手札に加えマス。そしてこのカードをリリースし、手札の《ミュートリアの産声(罠カード)》をゲームから除外して効果を発動シマス。デッキから《ミュートリアル・アームズ》を特殊召喚シマス」

 

巨大な試験管から飛び出したロボットのような物体が妖しく瞳を光らせる。

 

「カードを2枚伏せてターンを終了シマス」

 

決闘マシーン LP4000 手札2 モンスター1 伏せ2

 

ア:ミュートリアル・アームズ 攻撃力3000

■:伏せカード

■:伏せカード

 

■□□□■

□□ア□□

 

□□□□□

□□□□□

 

城之内克也 LP4000 手札5 モンスター0 伏せ0

 

――――――――――――

 

「いきなり攻撃力3000のモンスターが出てくんのかよ。なぁモクバ、やっぱ決闘マシーン(アレ)って強いのか?」

 

「あったりまえだぜぇい! なんたってウチが作った決闘マシーンだからな!」

 

本田の疑問にモクバは胸を張って答える。

 

「けどデュエリストレベルは5だから、そんなに強いってほどじゃないぜ。むしろこのくらい倒せないようじゃ、バトルシティの参加を認めるわけにはいかないぜい!」

 

「心配すんな本田! こんな機械に負けるほど俺はやわじゃねぇ! 俺のターン、ドロー!」

 

「城之内くん、落ち着いていこう!」

 

「おう! サンキュー遊戯!」

 

ビッと親指を立て、遊戯に大丈夫だと合図を送る。

 

「《異次元の女戦士》を召喚。そして《最強の盾》を装備するぜ」

 

異次元の女戦士 攻撃力1500 → 3100

 

「バトルだ。異次元の女戦士でミュートリアル・アームズを攻撃! 次元斬り!」

 

決闘マシーン LP4000 → 3900

 

「へへっ、その伏せカードはブラフか? 俺はカードを2枚伏せてターンエンドだ」

 

城之内克也 LP4000 手札2 モンスター1 伏せ2

 

女:異次元の女戦士 攻撃力3100

盾:最強の盾(対象:異次元の女戦士)

■:伏せカード

■:伏せカード

 

□□盾■■

□□女□□

 

□□□□□

■□□□■

 

■:伏せカード

■:伏せカード

 

決闘マシーン LP3900 手札2 モンスター0 伏せ2

 

――――――――――――

 

「ワタシのターン、ドロー。フィールド魔法《ミュートリア進化研究所》を発動。発動時の効果処理として、除外されている《被検体ミュートリアST-46》を特殊召喚シマス。そして召喚時効果でデッキから《フュージョン・ミュートリアス》を手札に加えマス」

 

「フュージョン? 融合か!」

 

城之内が警戒を強める。

 

「《被検体ミュートリアST-46》をリリースし、フィールドの《ミュートリア進化研究所》を除外して効果を発動シマス。デッキから《ミュートリアル・ミスト》を特殊召喚シマス」

 

試験管から現れたのは全身に結晶をまとったミュートリア。それぞれの魔石からは稲妻、炎、冷気が放出されている。

 

「リバースカード《ミュートリアの産声》を発動。墓地の《被検体ミュートリアST-46》と除外されている《ミュートリアル・アームズ》をデッキに戻し、《シンセシス・ミュートリアス》を融合召喚シマス」

 

黒い触手のようなものをうねらせながら、妖しい光を放つ合成体(キメラ)が現れる。

 

「融合召喚成功時、《シンセシス・ミュートリアス》の効果発動。《異次元の女戦士》を破壊シマス」

 

「なにぃ!? ならチェーンして《激流葬》を発動だ。フィールドのモンスターを全て破壊するぜ!」

 

「さらにチェーンして《ミュートリア超個体系》を発動。発動時の処理として、デッキから《被検体ミュートリアM-05》を手札に加えマス。次に《激流葬》の効果が適用され、フィールドのモンスターは破壊されマスが、ワタシは破壊の代わりに《ミュートリア超個体系》を除外シマス。よって破壊されるのは《異次元の女戦士》のみデス」

 

「なんだって!?」

 

全てのモンスターを呑み込むはずだった津波は、しかし女戦士ひとりを攫っただけにとどまった。

 

「バトル。シンセシス・ミュートリアスでダイレクトアタック」

 

「させねぇ! リバースカード《大捕り物》を発動。ミュートリアル・ミストのコントロールをいただくぜ!」

 

「チェーンしてミュートリアル・ミストの効果を発動シマス。このカード自身をゲームから除外してカードを2枚ドローシマス」

 

ミュートリアル・ミストは寸でのところで投網をかわし、対象を失った大捕り物は不発に終わる。

 

「攻撃は続行されマス」

 

城之内克也 LP4000 → 1500

 

「くっ、だがなんとかライフは残ったぜ」

 

「バトルフェイズを終了し、メインフェイズ2へ移行シマス。《被検体ミュートリアM-05》を通常召喚。召喚時効果により、デッキから《ミュートリアル・アームズ》を手札に加えマス。そしてこのカード自身をリリースし、手札の《ミュートリアル・アームズ》を除外して効果発動。デッキから《ミュートリアル・ビースト》を特殊召喚シマス」

 

現れたのは獣のようなミュートリア。魚類のような尾を叩きつけて城之内を威嚇している。

 

「カードを1枚伏せてターンを終了シマス」

 

決闘マシーン LP3900 手札4 モンスター2 伏せ1

 

ミ:ミュートリアル・ビースト 攻撃力2400

シ:シンセシス・ミュートリアス 攻撃力2500

■:伏せカード

 

□□■□□

□ビ□シ□

 

□□□□□

□□□□大

 

大:大捕り物

 

城之内克也 LP1500 手札2 モンスター0 伏せ0

 

――――――――――――

 

「俺のターン、ドロー。《カップ・オブ・エース》を発動するぜ!」

 

ミュートリアル・ビーストには、相手が発動した魔法カードの発動と効果を無効にする効果を持っているが、決闘マシーンはこれを静観した。

 

「おしっ、表だ。カードを2枚ドローするぜ。続けて《大捕り物》を墓地に送って、《マジック・プランター》を発動」

 

「チェーンしてミュートリアル・ビーストの効果を発動シマス。手札を1枚除外して、《マジック・プランター》の発動と効果を無効にシマス」

 

「さすがにこっちは止めてくるか。けどそれは計算通りだぜ。まずはその伏せカードを破壊する。《サイクロン》を発動だ!」

 

巻き起こった竜巻が決闘マシーンの伏せカードを剥がす。

 

「手札の《真紅眼の黒竜》を墓地に送って、《紅玉の宝札》を発動。カードを2枚ドローし、デッキから《真紅眼の黒炎竜(レッドアイズ・ブラックフレアドラゴン)》を墓地に送るぜ。よっしゃー! いけるぜ! 《死者蘇生》を発動。墓地の《真紅眼の黒炎竜(レッドアイズ・ブラックフレアドラゴン)》を特殊召喚するぜ!」

 

漆黒のドラゴンが黒炎の翼を翻し、真紅の瞳を輝かせる。

 

「さらに真紅眼の黒炎竜を再召喚。そして魔法カード《フォース》を発動。ミュートリアル・ビーストの攻撃力を半分にし、その数値分、真紅眼の黒炎竜の攻撃力をアップするぜ!」

 

ミュートリアル・ビースト 攻撃力2400 → 1200

 

真紅眼の黒炎竜 攻撃力2400 → 3600

 

「バトルだ! 真紅眼の黒炎竜でミュートリアル・ビーストに攻撃! ブラック・メガ・フレア!!」

 

黒き炎を浴びて、獣のミュートリアが焼失する。

 

決闘マシーン LP3900 → 1500

 

「破壊されたミュートリアル・ビーストの効果発動。除外されている《ミュートリアの産声》を手札に加えマス」

 

「かまわねぇぜ! どうせ次のターンはねぇしな! バトルフェイズ終了時に真紅眼の黒炎竜の効果発動。このカードの元々の攻撃力分のダメージを相手に与えるぜ!」

 

再度放たれた漆黒の炎が決闘マシーンに直撃した。

 

 

 

「へへっ、ざっとこんなモンよ! これでいいんだろ、モクバ!」

 

城之内はスキップしそうな勢いでモクバのもとに駆け寄る。

 

「ああ、後で書き換えておいてやるよ。ホラ、これがバトルシティに参加できるパズルカードだ」

 

モクバは透明なカードを城之内に投げ渡す。

 

「おう、あんがとよ!」

 

「でもよぉ、城之内。3ターン目……だったか? あいつが《被検体ミュートリアM-05》の効果使って総攻撃してきてたら、おまえ負けてたんじゃねぇか?」

 

「ん? そうだったか?」

 

城之内は考え込むようにほほを掻く。

 

「本田くん、それは結果論だよ。もしかしたら城之内くんの伏せカードはミラーフォースのような逆転のカードだったかもしれない。決闘マシーンはそう考えたんじゃないかな?」

 

「ふ~ん。そんなモンか」

 

「まぁデュエリストレベルが5だからか、全体的に(あら)は多かったね。例えば、攻守が同じミュートリアル・ビーストを攻撃表示で出したのとか。守備表示なら返しのターンを耐えられたと思うよ」

 

「そんならフォースの対象をシンセシス・ミュートリアスにすりゃいいだけなんじゃねぇの?」

 

「いや、シンセシス・ミュートリアスには相手が発動したカードに対応して耐性を付ける効果があるから、フォースは効かないよ」

 

「あ~、そうなのか」

 

「おいおまえら、デュエル談義は帰ってからにしろよ! こう見えてもオレは忙しいんだぜぇい! 用が済んだらさっさと帰りな!」

 

モクバは本田の尻を蹴っ飛ばし帰るように促した。

 

「痛って! まあ待てよ、モクバ。俺にもデュエルさせてくれよ」

 

「おまえがかぁ?」

 

モクバは訝しむように本田と睨み付けた。

 

「やめとけ本田。決闘者の王国(デュエリスト・キングダム)予選敗退のおまえにゃ無理だって」

 

そう言って本田の肩にポンと手を置く城之内。

 

「やってみなけりゃ分かんねぇだろ! 俺も出てーんだよバトルシティ! な、頼むよモクバ。このとーり!」

 

本田は手を合わせてモクバに拝み倒す。モクバはため息を零しながらも了承してくれた。

そして城之内の予想通り、本田はキッチリ敗北した。

 

 

 




ちょっと本田くんの扱いが悪いかもしれません。ファンの方には申し訳ない。


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第15話 運命の足音

「通行人はどいてた方がいいぜ! 今日この街は戦場と化すんだからよ!」

 

デュエルディスクを装着した少年が声高に叫ぶ。それを見たレンは、やっぱ童実野町って治安悪いな、などと思っていた。

とりあえず街をぶらぶらしてみるが、グールズと思われる人間はいない。少なくとも目が虚ろで黒いフードをかぶっているような怪しい人間はひとりも見当たらなかった。

 

(こりゃあ平和な大会になりそうだな)

 

このバトルシティは原作通りアンティルールで行われているが、全体的に価格の安くなったカードの中で、目玉が飛び出るような価格のカードはそう多くない。ましてや開発費1000億のカードなど存在しない。

そんな中で海馬の持つ《青眼の白龍》だけが突出して価値が高い。

 

(アレは飾っておいて、ウルトラレアのブルーアイズを使うってのは、海馬の性格的にあり得ないんだろうな。まあ海馬が予選落ちすることなんてないだろうが)

 

適当に売られた喧嘩(デュエル)を買ってパズルカードを稼いでいく。

今のレンはビジネススーツにデュエルディスクというミスマッチな姿で、若年層の参加者が多いこの大会では年齢的にも場違いな闖入者(カモ)に見えるのだろう。

故に対戦相手には苦労しなかった。

 

あっという間に2勝し、パズルカードは3枚となった。別に張り切ったつもりはないが、手を抜くつもりもない。

スーパーで買った大将のきまぐれ軍艦握りを食べ終えると、レンは缶のお茶を飲みながら公園を見渡した。

 

(ホントに平和だな。なんか拍子抜けだ)

 

そんなほのぼのモードで引き続き街をぶらついていると、路地裏の方から何やら言い争うような声が聞こえてきた。

 

「で、でもデュエルを始める前に、このアンティカードで納得してたじゃないか!」

「気が変わったんだよ! いいかぁ、オレはデュエルに勝った! 負けた野郎は勝った人間の言う事を何でも聞かなくちゃならねぇんだよ!」

 

レンの介入によってデュエルの俺ルールはなくなったが、盤外俺ルールを展開するやつはいるようだ。

 

「その理屈だと、おまえを負かせばすべて解決するようだな」

「あぁ? 誰だ!」

「なに、通りすがりのサラリーマンさ。出張中のね」

「ハッ! 無理すんなよオッサン! サラリーマンは引っ込んでな!」

「サラリーマンではあるが、デュエリストでもある。おい、デュエルしろよ」

 

そう言ってレンはデュエルディスクを構える。それを見た金髪の少年は大口を開けて笑った。

 

「いいぜぇ、受けてやるよ。オレが勝ったら、デッキごと置いていきな!」

「いいだろう」

 

 

『デュエルッ!!』

 

 

「俺のターン、ドロー! 《地雷蜘蛛》を召喚! ターンエンドだ!」

 

「は?」

 

チンピラ LP4000 手札5 モンスター1 伏せ0

 

地:地雷蜘蛛 攻撃力2200

 

□□□□□

□□地□□

 

□□□□□

□□□□□

 

高杉レン LP4000 手札5 モンスター0 伏せ0

 

――――――――――――

 

(地雷蜘蛛棒立ちエンド……だと? 伏せカードもなしとは……余程の手札事故か?)

 

原作よりもカードプールが増し、デュエルの加速したこの世界ではまあまあありえない事態だった。

しかしバトルフェーダーや速攻のかかしのような防御カードもすでに存在する。気を緩めるのは危険だとレンは判断した。

 

「私のターン、ドロー。魔法カード《捕食活動(プレデター・プラクティス)》を発動。手札の《捕食植物サンデウ・キンジー》を特殊召喚し、デッキから《捕食植物スピノ・ディオネア》を手札に加える」

 

毒々しい色をしたエリマキトカゲが姿を現し、その舌をうねらせる。

 

「《捕食植物スピノ・ディオネア》を召喚して効果発動。《地雷蜘蛛》に捕食カウンターを置く」

 

「捕食カウンター?」

 

チンピラが首を傾げる。見たところステータスに変化はない。ただレベルが1になっただけだ。

 

「サンデウ・キンジーの効果発動。このカードと地雷蜘蛛を墓地に送り、《捕食植物キメラフレシア》を融合召喚」

 

「なっ!? 俺のモンスターを融合素材にするだと!?」

 

「バトルだ。スピノ・ディオネアで攻撃」

 

一応ゴーズ警戒のために攻撃力の低いスピノ・ディオネアから殴る。だがチンピラがカードを発動する様子はなかった。

 

(ホントに何もないのか? やはり手札事故の可能性は常にある……か)

 

デュエルの不条理に嘆きながら、レンはキメラフレシアに攻撃を命じた。

 

「ぎゃぁあぁぁぁ!! く、くるなぁぁぁ!!」

 

そして最後の一撃が金髪の少年を襲った。

 

 

 

デュエルはわずか2ターンで決着した。レンはチンピラのレアカードには見向きもせずに、パズルカードだけを取ってその場を後にする。

そして、そのデュエルを離れた場所から見ていた者たちがいた。

 

「やっぱりアイツ、凄腕のデュエリストだったんだね、兄サマ」

「ふぅん。あんなザコではやつの実力を測る指針にすらならん」

 

白いコートをたなびかせながら、海馬が鼻を鳴らす。

 

(社長に就任する前のヤツは、裏方故にほとんど表舞台には出なかった。I2社の設立からペガサスと共に社を支えてきた最古参。一説ではペガサスよりも強いといわれているが、あながち風説というわけでもなさそうだな)

 

海馬は無意識のうちに口角を上げていた。

 

「高杉レン。貴様が俺のロードに名を刻むにふさわしいデュエリストかどうか、このバトルシティで見極めてやろう。フハハハハッ!!」

 

海馬の哄笑が童実野町に響き渡った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

路地裏でチンピラから2枚のパズルカードを巻き上げたレンは、現在5枚のパズルカードを所有している。

 

(かなり余裕ができたな)

 

初戦こそ負ければ終わりだが、5枚もあれば1敗や2敗は許容範囲となる。心に余裕を持つことは肝心だが、それが慢心にならないように、レンは一度深呼吸をする。

 

「あれ? レンさん……?」

 

こちらを覗き込むようにして問いかけてきたのは、レンの半分ほどの背丈の少年だった。

 

「レオンくんか。キミもこの大会に参加を?」

 

少年の名はレオンハルト・フォン・シュレイダー。シュレイダー社の代表、ジークフリードの実弟であった。当然、レンとも面識がある。

 

「はい。兄さんは「やつが主催する大会など死んでも御免だ」と言ってましたが、僕はモクバくんに招待されて、甘えてしまいました」

 

海馬瀬人とジークフリードは水と油のような関係だが(一方的にジークフリードがライバル視しているだけだが)、弟同士、レオンとモクバは仲良しだった。

海馬も弟に同年代の友人ができたことは素直に喜んでいる。

 

(まあ水と油も混ぜれば、いつかドレッシングになるかもしれないし)

 

ならねぇだろ。

 

「調子はどうだい?」

「はい。あと1勝です!」

 

レオンはニカッと笑って5枚のパズルカードを手札を持つように並べた。ジークフリード()の数少ない友人であるレンに対しては、レオンも好意的だった。

 

「そうか。私と同じだな」

 

そう言って、レンも5枚のパズルカードを示す。それを見たレオンは感嘆の吐息を漏らした。

 

「凄いな。さすがはレンさんだ。うん、やっぱり最後は……レンさん、僕とデュエルしてください!」

「それは……いいのかい?」

 

ジークフリードと親交のあるレンは、レオンともデュエルした経験はあった。そして勝率は、圧倒的にレンが高い。

 

「はい。思えば、レンさんと公式試合(真剣勝負)で闘ったことはなかったなって。だからお願いします!」

 

レオンは真摯な目でレンを見つめた。

 

「分かった。受けよう」

「ありがとうございます!」

「では――」

 

 

『デュエルッ!!』

 

 

「僕の先攻です。ドロー! 《ドラゴンメイド・チェイム》を召喚して効果発動。デッキから《ドラゴンメイドのお召し替え》を手札に加えます」

 

黒衣の竜人が嫋やかな振る舞いでレオンにカードを届ける。そしてレオンはすぐさまそのカードを発動する。

 

「フィールドの《ドラゴンメイド・チェイム》と、手札の《ドラゴンメイド・ルフト》を融合。来いッ! 《ドラゴンメイド・シュトラール》!!」

 

ドラゴンメイドを束ねる最強の竜。あの青眼の白龍すら上回る攻撃力を誇るドラゴンメイドの長が戦闘形態で出現した。

 

(ドラゴンメイドの先攻はシュトラールを呼べるかどうかと言っても過言ではない。妨害が少ない環境とはいえ、きっちり呼び出してきたか)

 

当然だがこの時代、うららやヴェーラー(チューナー)はいない。さすがのレンも、イリアステルを呼び寄せる可能性のあるシンクロ関連には手を出していなかった。

 

「カードを2枚伏せてターンを終了します」

 

レオン LP4000 手札2 モンスター1 伏せ2

 

シ:ドラゴンメイド・シュトラール 攻撃力3500

■:伏せカード

■:伏せカード

 

■□□□■

□□シ□□

 

□□□□□

□□□□□

 

高杉レン LP4000 手札5 モンスター0 伏せ0

 

――――――――――――

 

「私のターン、ドロー。ここで速攻魔法《禁じられた一滴》を発動だ。手札の《捕食植物ビブリスプ》を捨ててシュトラールの攻撃力を半分にし、効果を無効にする」

 

天より降ってきた一滴の液体を浴びて、シュトラールは力を落とす。モンスターカードをコストにしたことで、シュトラールの効果はチェーンできないのだ。

 

「墓地に送られたビブリスプの効果発動。デッキから「捕食植物」モンスターを手札に加える」

 

「させません! チェーンして《墓穴の指名者》を発動。ビブリスプを除外して効果を無効にします!」

 

「サーチを止めてきたか。では《ローンファイア・ブロッサム》を召喚。そしてこのカードをリリースして効果発動。デッキから《捕食植物オフリス・スコーピオ》を特殊召喚。手札の《エッジインプ・チェーン(モンスター1体)》を墓地に送って効果発動。デッキから《捕食植物ダーリング・コブラ》を特殊召喚する」

 

うねうねと毒々しい植物がフィールドを埋め尽くしていく。だがまだまだレンの手は止まらない。

 

「ダーリング・コブラの効果発動。デッキから《烙印融合》を手札に加える。続けて墓地へ送られた《エッジインプ・チェーン》の効果発動。デッキから《魔玩具補綴(デストーイ・パッチワーク)》を手札に加える。《魔玩具補綴》を発動。デッキから《置換融合》と《エッジインプ・チェーン》を手札に加える」

 

レンの手札がどんどん潤っていく。レオンは警戒を強める。

 

「《置換融合》発動。フィールドのオフリス・スコーピオとダーリング・コブラを素材に、《捕食植物キメラフレシア》を融合召喚」

 

フィールドに鮮やかな花が咲く。だがその触手は牙のような棘で獲物を捕らえようと宙を舞っていた。

 

「《烙印融合》を発動。デッキから《アルバスの落胤》と《壊星壊獣ジズキエル(光属性モンスター)》を墓地に送り、《烙印竜アルビオン》を融合召喚」

 

紅き竜が翼を広げ、さらなる仲間を呼ぶ。

 

「アルビオンの効果発動。墓地の《アルバスの落胤》と《壊星壊獣ジズキエル(レベル8以上のモンスター)》を除外して、《痕喰竜ブリガンド》を融合召喚」

 

獰猛な黒鱗の竜が地を踏みしめながら攻撃態勢を取る。

 

「バトルフェイズに入る。キメラフレシアでシュトラールに攻撃。攻撃宣言時に効果発動。シュトラールの攻撃力を1000ダウンさせ、キメラフレシアの攻撃力を1000アップする」

 

(くっ、フランメで攻撃力を上げても対抗できない。ならば――)

 

「シュトラールを対象に、《ドラゴンメイドのお見送り》を発動。手札から《ドラゴンメイド・パルラ》を特殊召喚し、シュトラールをEXデッキ(手札)に戻します。そしてパルラの効果でデッキから《ドラゴンメイドのお片付け》を墓地に送ります」

 

パルラが身を固めながら出現し、シュトラールが姿を消した。

 

「この効果で特殊召喚したモンスターは、次のターンの終了時まで戦闘・効果では破壊されません」

 

「やるな。レオンくん」

 

「いえ、危ないところでした」

 

「しかし除外には対応できない。メイン2にキメラフレシアの効果発動。パルラを除外する」

 

キメラフレシアの触手に捕まり、パルラは次元の彼方へと消え去った。

 

「くっ、ごめんパルラ!」

 

「カードを1枚伏せてターンエンド」

 

高杉レン LP4000 手札2 モンスター3 伏せ1

 

ア:烙印竜アルビオン 攻撃力2500

キ:捕食植物キメラフレシア 攻撃力2500

ブ:痕喰竜ブリガンド 攻撃力2500

■:伏せカード

 

□□□□■

ア□キ□ブ

 

□□□□□

□□□□□

 

レオン LP4000 手札1 モンスター0 伏せ0

 

――――――――――――

 

「僕のターン、ドロー。墓地の《ドラゴンメイドのお片付け》を除外して効果発動。墓地の《ドラゴンメイド・チェイム》を特殊召喚。チェイムの効果でデッキから《ドラゴンメイド・リラクゼーション》を手札に加えます」

 

(さすがに継戦能力が高いな。劣勢であってもすぐに立て直してくる)

 

「墓地の《ドラゴンメイドのお召し替え》の効果発動。フィールドのチェイムを手札に戻し、このカードを手札に加えます。そして発動。手札のチェイムとフランメを素材に《ドラゴンメイド・シュトラール》を融合召喚!」

 

再びドラゴンメイド最強の竜が姿を現す。

 

「《ドラゴンメイド・ティルル》を通常召喚。効果でデッキから《ドラゴンメイド・ルフト》を手札に加え、そのまま墓地に送ります」

 

2体のドラゴンメイドを並べ、レオンがバトルフェイズに入る。スタートステップにティルルがフランメへと姿を変えた。

 

「フランメでアルビオンを攻撃! 続けてシュトラールでキメラフレシアに攻撃!」

 

「攻撃宣言時、キメラフレシアの効果発動」

 

「シュトラールの効果で無効にして破壊します。そしてシュトラールをEXデッキに戻し、ハスキーを特殊召喚。ハスキーでブリガンドに攻撃です!」

 

ハスキーが地をなめるように疾駆し、ブリガンドに掌底の一撃を加える。

 

高杉レン LP4000 → 3800 → 3300

 

「バトルフェイズ終了時にフランメを手札に戻し、ティルルを特殊召喚。カードを1枚伏せてターンを終了します」

 

「エンドフェイズに、墓地へ送られたブリガンドの効果発動。デッキから《鉄獣鳥 メルクーリエ》を手札に加える。続けてアルビオンの効果発動。デッキから《烙印融合》を手札に加える」

 

レオン LP4000 手札1 モンスター2 伏せ1

 

ハ:ドラゴンメイド・ハスキー 攻撃力3000

テ:ドラゴンメイド・ティルル 守備力1700

■:伏せカード

 

□□□□■

□□ハテ□

 

□□□□□

■□□□□

 

■:伏せカード

 

高杉レン LP3300 手札4 モンスター0 伏せ1

 

――――――――――――

 

「私のターン、ドロー」

 

ここでレンは状況を確認する。レオンの手札はフランメで確定。伏せカードは《ドラゴンメイド・リラクゼーション》。

 

(ハスキーをどう処理するか……だな)

 

手札のメルクーリエは、効果を無効にはするが破壊はしない。またダメージステップでは発動できないので、フランメには対応できない。

ドラゴンメイドがバウンスした時に発動する破壊効果も厄介だが、上級ドラゴンメイドの共通効果も厄介だ。融合モンスターが自分フィールドにいる場合、効果で破壊されないというものである。

 

「スタンバイフェイズに墓地のキメラフレシアの効果発動。デッキから《融合派兵》を手札に加える」

 

「こちらもティルルを対象にハスキーの効果を発動します。墓地から《ドラゴンメイド・チェイム》を守備表示で特殊召喚。そしてチェイムの効果でデッキから《ドラゴンメイドのお心づくし》を手札に加えます」

 

「スタンバイからメインへ。墓地の《置換融合》を除外して効果発動。墓地の《烙印竜アルビオン》をEXデッキに戻し、カードを1枚ドローする。《融合派兵》を発動。EXデッキの《烙印竜アルビオン》を公開し、デッキから《アルバスの落胤》を特殊召喚。手札を1枚捨てて効果発動」

 

「……くっ」

 

アルバスの落胤は対象を取る効果ではない。恐らくはハスキーが素材にされるだろうが、伏せた《ドラゴンメイド・リラクゼーション》でハスキーを戻しても、他のドラゴンメイドが素材にされるだけだ。

またハスキー以外を戻してハスキーの破壊効果を発動させようにも、ハスキーの効果は時の任意効果であるため、タイミングを逃してしまう。

 

「《アルバスの落胤》と《ドラゴンメイド・ハスキー》を素材に、《烙印竜アルビオン》を融合召喚。続けてチェーン1でアルビオンの効果を、チェーン2で手札コストにした《エッジインプ・チェーン》の効果を発動。デッキから《魔玩具補綴(デストーイ・パッチワーク)》を手札に加え、墓地の《捕食植物キメラフレシア》と《エッジインプ・チェーン》を除外して、《捕食植物ドラゴスタペリア》を融合召喚」

 

刺々しい尾を振り回しながら、毒竜が翼を広げて飛翔する。

 

「《魔玩具補綴》を発動。デッキから《融合》と《エッジインプ・チェーン》を手札に加える。続けて《烙印融合》を発動。デッキから《アルバスの落胤》と《捕食植物ビブリスプ(闇属性モンスター)》を墓地に送り、《神炎竜ルベリオン》を融合召喚」

 

神炎を纏いし竜が翼を広げ、さらなる仲間を呼ぶ。

 

「手札を1枚捨て、ルベリオンの効果発動。除外されている《アルバスの落胤》と《壊星壊獣ジズキエル(攻撃力2500以上のモンスター)》をデッキに戻し、《灰燼竜バスタード》を融合召喚。さらに墓地へ送られたビブリスプの効果でデッキから《捕食植物サンデウ・キンジー》を手札に加える」

 

灰燼竜バスタード 攻撃力2500 → 3900

 

「ドラゴスタペリアの効果発動。チェイムに捕食カウンターを置く。捕食カウンターを置かれたモンスターの効果は、ドラゴスタペリアがいる限り無効化される」

 

ドラゴスタペリアの毒液を浴びたチェイムが苦悶の表情を浮かべる。

 

「《捕食植物サンデウ・キンジー》を召喚」

 

「くっ、《ドラゴンメイド・リラクゼーション》を発動。チェイムを手札に戻し、デッキから《ドラゴンメイド・ナサリー》を手札に加えます」

 

チェイムを融合素材にされると思ったのか、レオンはチェイムを逃がす選択をした。

 

「ならば自前で用意しよう。サンデウ・キンジーの効果発動。このカードと手札のエッジインプ・チェーンを融合。《捕食植物キメラフレシア》を融合召喚」

 

再びフィールドに鮮やかな花が咲く。

 

「キメラフレシアの効果発動。ティルルをゲームから除外する」

 

パルラに続き、ティルルまでもが触手の餌食となった。

これでレオンのフィールドはがら空きになり、レンの猛攻を防ぐ手立てはなくなった。

 

「バトル。バスタードとキメラフレシアでダイレクトアタック」

 

2体のモンスターがレオンのライフを削り切り、勝負は決した。

その直後、東の方角から獄炎が立ち昇った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

レンとレオンが獄炎の場所に辿り着いた時、その場には見慣れた兄弟がそのデュエルを眺めていた。

 

「ふぅん。ようやく来たか。見ろ、あれが神のカード。オシリスの天空竜だ」

 

海馬が視線はそのままでレンに声をかける。その額にはうっすらとした汗が光って見えた。

川原では巨大な生物が紅き翼を広げていた。無敵無欠の神として、対面の遊戯を見下ろしている。その威圧は離れていても伝わってきた。

 

「……ハロー、ペガサス。いきなりだが、まさか神のカードは作ってないよな? 作ってない。OK、ならいいんだ」

 

携帯電話でペガサスに確認を取った後、レンは視線を下げた。それに気づいたレオンはすぐさま首を横に振る。

 

「兄さんじゃないと思います。兄さんは北欧神話とかには興味がありますが、オシリスってエジプトの神さまですよね」

 

(確かにジークらしくはない。あいつが作るならオーディンとかロキとかトールだろう。海馬も……あの様子では違うな。なら――)

 

レンの脳内にありえない考えが浮かぶ。

 

(勝手に()えてきた? 普通に考えればありえないが、ここはそういう世界だからな。最近は忘れてたが、ここは"遊戯王"の世界なんだ)

 

カードに精霊が宿ることもあれば、精霊がカードになることもある。カードが異界から来ること(ナンバーズ)もあれば、人の意志がカードを創造すること(アクセルシンクロ)もある。

何故デュエルディスクが認識するかとか、深く考えてはいけない。

結局、真面目に考えることが馬鹿らしくなったレンは、そのうちに考えることをやめた。

そして眼下のパントマイマーへと目を向ける。

 

(グールズはいないはずだが、マリクの手足となる人間はいるらしいな。洗脳って怖ぇな)

 

改めて千年アイテムのオカルト力に身震いする。パントマイマー(マリク)と遊戯のデュエルは、すでに佳境へと入っていた。

 

 

 

「ふっ、遊戯。もはやボクの勝利は揺るぎないようだな」

「いいや、マリク。このデュエル、俺の勝ちだ」

「何を世迷言を……。やることがないのなら、さっさとターンを終了しろ」

 

マリクが嘲笑うかのように遊戯の瞳を睨みつける。

 

「望み通りターンを終了してやるよ。そしてエンドフェイズに、このターン墓地に送られた《暗黒のマンティコア》の効果発動。手札の《暗黒のマンティコア(獣戦士族モンスター)》を墓地へ送り、このカードを特殊召喚する」

「そのカードの攻撃力は2300。召雷弾では破壊されないが、次のターンにオシリスの攻撃を受けて終わりだ」

 

神の稲妻を受け、暗黒のマンティコアの攻撃力が大きく下がる。

 

「《増殖するG》の効果で1枚ドロー。オシリスの攻撃力はさらに1000アップ。ハハハッ、さぁボクのターンだ」

「何を勘違いしているんだ? マリク、俺のエンドフェイズはまだ終わっちゃあいないぜ。墓地の《暗黒のマンティコア》の効果発動。フィールドの《暗黒のマンティコア》を墓地に送り、このカードを特殊召喚するぜ」

 

最初のマンティコアとは別個体のマンティコアがフィールドによみがえる。

 

「さあ、増殖するGの効果で1枚ドローしな」

「ぐっ、おまえ……まさか!?」

「墓地の《暗黒のマンティコア》の効果発動。フィールドの《暗黒のマンティコア》を墓地に送り、このカードを特殊召喚。おまえは増殖するGの効果で、デッキからカードをドローしなければならない(・・・・・・・・・)

 

2体目のマンティコアを犠牲に、最初のマンティコアがよみがえる。マリクはさらにカード1枚ドローした。

 

「これは……やはりこれは! 無限ループ!」

「マリク、神の攻撃力は無限なんかじゃない。デッキの枚数という限界があったのさ」

 

やがて、ドローするカードのなくなったマリクに敗北が訪れた。

 

 

 

「さすがだ遊戯。やはり神のカードは真の決闘者の下へと集う」

「……海馬」

 

遊戯と海馬の視線が交錯する。そんな緊張した空気をバッサリと切り捨て、レンは一歩前に出た。

 

「遊戯くん。その神のカード、少し見せてもらってもいいかい?」

「む。ああ、構わないぜ」

 

特に躊躇することもなく、遊戯は神のカードをレンに渡した。

 

「ふむ、なるほどなるほど。ありがとう遊戯くん。お返ししますよ」

 

レンは平静を装っていたが、内心では「なぁにこぉれ?」と悲鳴を上げていた。

そしてその背後で、寡黙な人形がゆらりと立ち上がった。

 

 

 




タグを追加しました。オリカ嫌いの方はすいません。3枚だけなので許して!


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第16話 真紅眼の鼓動

最後にハッピーエンドになるからといって、わざわざその過酷な過程を見たいとは思わない。

マリクの策略により城之内が狙われていると知った遊戯はすぐさま街に向かって駆けて行った。

海馬もそれを追う。

残されたのはレンとモクバとレオンと、意識を失ったマリクの人形だけだった。

 

「さて、オレは本部から城之内の位置を探るとするか。おまえらは、進捗はどうなんだ?」

 

モクバに問われて、レンとレオンが顔を見合わす。

 

「私は6枚集め終わったよ」

「僕は4枚だよ」

 

それを聞いたモクバは目を丸くする。

 

「マジか。おまえらやっぱスゲェな。レンは一番乗りだぜ」

「……まだひとりなんだ。じゃあ僕にもチャンスは残ってる」

 

決勝トーナメントに進めるのは先着で8人。レオンはあと2勝、賭けるパズルカードによっては1勝で決勝に進める。

 

「僕も行くよ。また後でね、レンさん、モクバくん」

 

レオンは相手を探すべく駆け出していった。

 

「レンは決勝の場所に向かえよ。パズルカードを集めても、その場所にいなけりゃ決勝には参加できないからな」

「ああ、そうしよう」

「おう、んじゃまた後でな」

 

そうして、レンとモクバは違う方向に向けて進み出した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

パズルカードに示された場所に向かいながら、レンは考えていた。

 

(このまま帰ろうかな)

 

レンがいなくともバトルシティは支障なく進むだろうし、むしろ異物のような自分がいない方がスムーズに進むのではないかとも考えていた。

原作で孔雀舞が闇マリクから受けた罰ゲームがトラウマ物だったというのもあるが。

 

(いや、モクバは俺が6枚集め終わったのを知っているからな。さすがに不自然か。俺がバックレたら海馬はどう思うかね。「ふぅん。蛟竜(みずち)だと思っていたが、ただの土竜(もぐら)だったようだな」とでも思うのかね。……それはそれでなんかムカつくな)

 

私情で契約を破棄するような男ではないが、激情型なのが海馬である。

そんなことを考えながら歩いていると、目的地が見えてきた。

 

(まぁ、やるだけやってみるか)

 

バトルシティ――G地区422地点。童実野スタジアム建設予定地。

 

「ようこそ、最終決戦の地へ」

 

海馬コーポレーションの黒服がレンを出迎える。

 

「高杉社長、あなたの決勝トーナメントの参加を認めます。この参加証(ID)をお受け取り下さい」

「ありがとう」

「他の通過者が集まるまで、少々お待ちください。飲み物、軽食などもご用意しておりますので、ご希望の際はお声がけを」

「ああ、その時は頼むよ」

 

タイムリミットまでは後5時間以上もある。レンは観客席のひとつに腰を下ろし、デッキの調整を始めた。

 

(神のカードなんてリリースしてしまえばいいと考えていたが、想定が甘かったな)

 

神には共通効果と固有効果がある。オシリスの効果を確認したレンは、「相手によってリリースされない」のは共通効果だと睨んだ。

 

(よもやオシリスだけということはあるまい。神を亀に変える策は破綻したな。これは抜本的な改革が必要だ)

 

神のカードだけではなく、"万が一"を想定して壊獣は実装していたが、まさか神の側が対策してくるとは思っていなかった。先読みがあだになった形である。

レンは嘆息しながら新たにデッキを組み始める。

 

(マリクとリシドはこれでいい。海馬は……そういえばオベリスクはどうなってるんだろうな。さすがに攻撃力∞はないと思うが……魔法カードは通じないと考えた方がいいな)

 

原作では神のカードは1ターンのみ魔法カードの効果を受けるという仕様であるが、レンの確認した《オシリスの天空竜》は「神属性以外のモンスター効果・魔法・罠カードの効果を受けない」と記されていた。

ならばオベリスクも同様と考えるべきだろう。

 

(しかも魔法カードも「上級スペル」しか通じないときた。洗脳が通じない辻褄あわせとしか思えないが、まあそこをツッコむのも野暮というものだろう)

 

原作の神効果は割と曖昧である。

 

(獏良は多分ウィジャ盤を使うだろうからバック除去のカードを多めにして、イシズはよく分からんな。未来予知がどの程度か予測もできん。というか、来るのか?)

 

原作での決勝進出者は通過順に、マリク、リシド、海馬、遊戯、城之内、舞、獏良、イシズである。この世界ではすでにレンが通過を決めているため、この中から一人あぶれることになる。

普通に考えれば最後の通過者のイシズとなるが、未来が見通せるならそうはならないだろう。

 

しばらくしてふたりの通過者が現れた。黒い外套に身を包み、顔にタトゥーの入った長身の男と小柄な少年。どちらもエジプト系の顔立ちである。

 

「マリク・イシュタール、ナム、両名の参加を認める」

 

という黒服の声が聞こえてきた。そのふたりはレンとは正反対の位置の観客席へと向かって行った。

それからしばらくの時間が経ち、上空から降りてきたヘリから海馬が姿を現し、程なくして遊戯一行が現れた。

そして後を追うようにバクラも姿を見せる。

 

(静香ちゃんがいるということは、上手くいったみたいだな。というか、孔雀舞がいないな)

 

一行の中に孔雀舞の姿はなかった。

さらに時間が流れたが、最後のひとりは現れず、決勝の舞台である決闘艇(バトルシップ)に乗船することとなった。

レンは用意された部屋の扉を開け、ソファに身を沈める。

 

「さすが海馬コーポレーション。良い部屋だ」

 

そのまま本戦開始の時間まで待つ。離陸時間の10分前になった時、レンの部屋の扉がノックされた。

 

「どうぞ」

「失礼します」

 

ノックの主は赤毛の少年、レオンハルト・フォン・シュレイダーだった。

 

「まさか、キミが最後の予選通過者かい?」

「いえ、残念ながら……ほんの数分遅かったようです」

 

それからレオンはレンと分かれた後のことを語り始めた。最初はゴーストデッキの使い手とパズルカード2枚賭けで闘い、破れたこと。

次にハーピィ使いの女性デュエリストととも2枚賭けで闘い、それに勝利したこと。

4枚まで戻した後は相手探しに時間を取られ、6枚集まったのは時間ギリギリだった。

急いで童実野スタジアムに駆けつけたものの、タッチの差で本戦参加は叶わなかった。

 

「最後の通過者は女性だったそうです。僕はモクバくんの厚意で乗船を許可してもらいました。本戦ではレンさんの応援をしたいと思います」

「そうか。それは心強いな」

 

会話しているうちに、かすかな浮遊感が生じた。ついにバトルシップが飛び立ったのだ。

それから一時間後、デュエリストたちに招集がかかり、中央集会場にてトーナメント抽選会が行われた。

最初の対戦カードは、ナムvs城之内。

ついに決勝トーナメントの幕が上がる。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「まさか一回戦で城之内くんと闘うことになるとはなぁ。お手やわらかに頼みますよ」

「へへっ、わりぃなナム。俺は友達(ダチ)だからって手加減するような甘ちゃんデュエリストじゃねぇぜ! いつだって全力さ!」

「わかったよ。じゃあお互い全力で闘おう」

「おう!」

 

 

『デュエルッ!!』

 

 

「ボクのターン、ドロー」

 

ドローしたカードにニヤリと笑うナム。

 

(城之内、おまえ如きに「神」はもったいないよ。この表のデッキで十分さ)

 

「フィールド魔法《王家の眠る谷-ネクロバレー》を発動し、《墓守の司令官》を召喚。ネクロバレーの効果で攻守が500アップする。そして永続魔法《ネクロバレーの祭殿》を発動だ」

 

ネクロバレーの祭殿はお互いに「墓守」以外のモンスターを特殊召喚できない効果だ。言ってみれば相手だけの《虚無空間》である。

 

「カードを2枚伏せて、《命削りの宝札》を発動。カードを3枚ドローする。さらにカードを1枚伏せてターンエンドだ。残った2枚は墓地へ送る」

 

ナム LP4000 手札0 モンスター1 伏せ3

 

司:墓守の司令官 攻撃力2100

祭:ネクロバレーの祭殿

■:伏せカード

■:伏せカード

■:伏せカード

王:王家の眠る谷-ネクロバレー

 

■■□祭■

□□司□□王

 

□□□□□

□□□□□

 

城之内克也 LP4000 手札5 モンスター0 伏せ0

 

――――――――――――

 

「俺のターン、ドロー。特殊召喚封じか。厄介だぜ」

 

当然ながら城之内のデッキに「墓守」モンスターは入っていない。

 

「なんつってな! その程度じゃ俺は止まらないぜ! 《真紅眼の鉄騎士(レッドアイズ・メタルナイト)-ギア・フリード》を召喚。そんで、ちともったいねぇが《メタルシルバー・アーマー》をこいつに装備するぜ。そしてギア・フリードの効果発動。このカードに装備カードが装備された場合、そのカードを破壊する。その後、相手の魔法・罠カードを1枚破壊できるぜ」

 

「なるほどね。だけどそうはいかないな。ライフを1500払い、カウンター罠《神の通告》を発動。ギア・フリードの効果発動を無効にして破壊する」

 

突如出現した光がギア・フリードを包み、吞み込んでいった。

 

「なっ!? くっ、俺はカードを1枚伏せてターンエンドだ」

 

城之内克也 LP4000 手札3 モンスター0 伏せ1

 

■:伏せカード

 

 ■□□□□

 □□□□□

 

王□□司□□

 □祭□■■

 

■:伏せカード

■:伏せカード

司:墓守の司令官 攻撃力2100

祭:ネクロバレーの祭殿

王:王家の眠る谷-ネクロバレー

 

ナム LP2500 手札0 モンスター1 伏せ2

 

――――――――――――

 

「ボクのターン、ドロー。伏せていた《墓守の石板》を発動。墓地の《墓守の霊術師》と《墓守の審神者(さにわ)》を手札に加える。そして《墓守の霊術師》を召喚して効果発動。このカードと手札の《墓守の審神者(さにわ)》を墓地に送り、《墓守の異能者》を融合召喚する」

 

白髪の悪鬼が手にした錫杖を鳴らす。

 

「墓守の異能者の効果発動。エンドフェイズにデッキから「墓守」モンスターか「ネクロバレー」カード1枚を手札に加えることができる。バトルだ。墓守の異能者でダイレクトアタック!」

 

「ここで罠カード《大捕り物》を発動! 《墓守の異能者》はいただくぜ!」

 

「なんだとっ!?」

 

ネクロバレーの効果はフィールド全域に及ぶ。よって相手のフィールドにいる「墓守」モンスターも強化(バフ)を受けるのだ。

 

(チッ、無駄なあがきを)

 

「ボクはこれでターンエンドだ。エンドフェイズに墓守の異能者の効果で、デッキから《王家の眠る谷-ネクロバレー》を手札に加える」

 

ナム LP2500 手札2 モンスター1 伏せ1

 

司:墓守の司令官 攻撃力2100

■:伏せカード

祭:ネクロバレーの祭殿

王:王家の眠る谷-ネクロバレー

 

■□□祭□

□□司□□王

 

□□異□□

大□□□□

 

異:墓守の異能者 攻撃力3900

大:大捕り物(対象:墓守の異能者)

 

城之内克也 LP4000 手札3 モンスター1 伏せ0

 

――――――――――――

 

「俺のターン、ドロー。おし! 速攻魔法《サイクロン》を発動。おまえのフィールド魔法を破壊するぜ!」

 

巨大な竜巻が、フィールドの景色を一変させる。そして《王家の眠る谷-ネクロバレー》が破壊されたことで、墓守の司令官のステータスが下がり、《ネクロバレーの祭殿》も破壊された。

 

「《墓守の異能者》をリリースして《真紅眼の凶雷皇(レッドアイズ・ライトニング・ロード)-エビル・デーモン》をアドバンス召喚。行くぜ! エビル・デーモンで墓守の司令官に攻撃! 紅雨の魔降雷!」

 

「罠カード《攻撃の無敵化》を発動。ボクはモンスターを破壊から守る効果を選択する」

 

「だがダメージは受けてもらうぜ!」

 

天より降り注いだ紅い稲妻が、墓守の司令官を直撃する。

 

ナム LP2500 → 1600

 

「俺はカードを1枚伏せてターンエンドだ」

 

城之内克也 LP4000 手札1 モンスター1 伏せ1

 

デ:真紅眼の凶雷皇-エビル・デーモン 攻撃力2500

■:伏せカード

 

■□□□□

□□デ□□

 

□□司□□

□□□□□

 

司:墓守の司令官 攻撃力1600

 

ナム LP1600 手札2 モンスター1 伏せ0

 

――――――――――――

 

「ボクのターン、ドロー!」

 

(ボクが2枚目のネクロバレーを握っていることは城之内も承知しているはず。ならばあの伏せカードは特殊召喚系のカードか)

 

ナムは城之内のプレイングから戦略を立てる。

 

「《墓守の石板》を発動。墓地の《墓守の霊術師》と《墓守の審神者(さにわ)》を手札に加える。フィールド魔法《王家の眠る谷-ネクロバレー》を発動し、《墓守の霊術師》を召喚。そして墓守の霊術師の効果を発動する。このカードと手札の《墓守の審神者(さにわ)》を墓地に送り、再臨せよ、《墓守の異能者》!」

 

墓守を守護する白髪の悪鬼が再び姿を現した。手に持つ錫杖を鳴らし、目前の悪魔と向き合う。

 

「墓守の異能者の効果発動。エンドフェイズにデッキから「墓守」モンスターか「ネクロバレー」カード1枚を手札に加えることができる。さらに《ワンダー・ワンド》を墓守の司令官に装備」

 

墓守の司令官 攻撃力2100 → 2600

 

「バトルだ。墓守の異能者でエビル・デーモンを攻撃!」

 

城之内克也 LP4000 → 2600

 

「これで終わりだ! 墓守の司令官でダイレクトアタック!」

 

「そっちは通さねぇ! 速攻魔法《スケープ・ゴート》を発動。羊トークンを4体特殊召喚するぜ」

 

城之内に攻撃が届く寸前、綿毛のかたまりが盾となる。

 

「チッ、ボクは墓守の司令官とワンダー・ワンドを墓地に送り、カードを2枚ドローする。カードを1枚伏せてターンエンドだ。エンドフェイズに墓守の異能者の効果で、デッキから《ネクロバレーの祭殿》を手札に加える」

 

ナム LP1600 手札2 モンスター1 伏せ1

 

異:墓守の異能者 攻撃力3900

■:伏せカード

王:王家の眠る谷-ネクロバレー

 

■□□□□

□異□□□王

 

羊羊羊□□

□□□□□

 

羊:羊トークン 守備力 0

羊:羊トークン 守備力 0

羊:羊トークン 守備力 0

 

城之内克也 LP2600 手札1 モンスター3 伏せ0

 

――――――――――――

 

「俺のターン、ドロー! 手札の《真紅眼の亜黒竜》を墓地に送り、《紅玉の宝札》を発動。カードを2枚ドローするぜ。その後、デッキから《真紅眼の黒炎竜》を墓地に送る。続けて《カップ・オブ・エース》を発動。よっしゃ! 2枚ドローだ!」

 

(チッ、運の良いやつだ)

 

「《伝説の黒石》を召喚。そんでこのカードをリリースして効果発動。デッキから《真紅眼の黒竜》を特殊召喚するぜ!」

 

黒き竜が、その翼を広げて天に舞う。

 

「これで終わりだぜ、ナム! 《黒炎弾》を発動!」

 

「それを受けるわけにはいかないな。カウンター罠《地獄の扉越し銃》を発動。このダメージはキミに受けてもらうよ」

 

墓地より放たれた黒炎弾が黒き扉に跳ね返されて城之内を襲う。

 

「ぐぁっちちっ! くっ、やるじゃねぇかナム。俺はカードを1枚伏せてターンエンドだ」

 

城之内克也 LP 200 手札0 モンスター4 伏せ1

 

真:真紅眼の黒竜 攻撃力2400

羊:羊トークン 守備力 0

羊:羊トークン 守備力 0

羊:羊トークン 守備力 0

■:伏せカード

 

 □□■□□

 真□羊羊羊

 

王□□□異□

 □□□□□

 

異:墓守の異能者 攻撃力3900

王:王家の眠る谷-ネクロバレー

 

ナム LP1600 手札2 モンスター1 伏せ0

 

――――――――――――

 

「ボクのターン、ドロー。墓守の異能者の効果発動。エンドフェイズにデッキから「墓守」モンスターか「ネクロバレー」カード1枚を手札に加えることができる」

 

(まあ必要ないとは思うけどね)

 

ナムは内心でほくそ笑む。城之内のライフはわずか200。このまま墓守の異能者で真紅眼の黒竜に攻撃すれば勝てる。

 

(だがあの表情はなんだ? 負けを覚悟した目には見えない)

 

城之内の目は諦めた者の目ではなかった。

 

(だがここで手を緩めるのは論外だ。また黒炎弾のようなカードを引かれる可能性もある)

 

「永続魔法《ネクロバレーの祭殿》を発動。《墓守の長槍兵》を召喚」

 

ナムはもちろんこのターンで決めるつもりだが、何かを感じ取ったのか新たなモンスターを展開した。

 

「バトルだ。墓守の長槍兵で羊トークンを攻撃!」

 

墓守の長槍兵は貫通効果を持っている。この攻撃が通れば勝負は決する。

 

「攻撃宣言時に《モンスターBOX》を発動。コイントスを1回行い、裏表を当てる。当たった場合、その攻撃モンスターの攻撃力は、このカードが魔法・罠ゾーンに存在する限り、バトルフェイズ終了時まで0になるぜ!」

 

「ここでそんなギャンブルカードをっ!?」

 

「俺は表を宣言するぜ。さぁ、運命の時間だ」

 

巨大なコインが空を舞い、フィールドに落ちる。それが示したのは――

 

「表だ。墓守の長槍兵の攻撃力は0になるぜ」

 

勢いよく突き出された長槍が急激に速度を落とし、綿毛に跳ね返される。

 

(チッ、どうする……このターンは引くか?)

 

ナムは手札に視線を落とす。このカードを防御用に使えば、次のターンは恐らく凌げる。

 

(違う。それは弱い考えだ。ボクはそれに反逆する)

 

ナムは自身の考えを即座に否定する。城之内がモンスターBOXのコストを支払えば、次の自分ターンにもモンスターBOXは残る。都合良く除去カードが引けるとも限らない。

何より、次のターンに何が起こるか分からないのがデュエルだ。

 

(カップ・オブ・エースにモンスターBOX、そろそろやつの運も打ち止めだろう)

 

ナムは手札を切った。

 

「手札から速攻魔法《エネミーコントローラー》を発動。羊トークンの表示形式を変更する」

 

羊トークンの1体が綿毛を逆立てて威嚇を始める。そこに墓守の異能者が錫杖を突き出し呪言を唱え始めた。

 

「再度モンスターBOXの効果発動。俺はもう一度表を宣言するぜ!」

 

再びコインが空を舞う。それが示したのは――

 

「ゲッ!? う、裏だとぉ!?」

 

羊トークンは爆散し、城之内のライフは0となった。

 

 

 




孔雀舞は犠牲となったのだ。まぁ罰ゲームを受けずに済んだのは幸運かもしれない。


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第17話 罠戦術の脅威

(おいおいおい、城之内くん負けちゃったよ)

 

一回戦の結果を受けて、レンはわずかに困惑した。

原作では実質勝ってたみたいなものだったので、少し期待していたのだ。

 

(やっぱり追い詰められないと実力が出せないタイプかね。舞の件が無くなったし、遊戯とのデスデュエルもほとんど記憶がなかったっぽいし、何より相手がマリクじゃなくてナムだからな)

 

城之内にしてみれば、気の良い友人とのデュエルみたいなものだろう。それが隙に繋がったのかもしれない。

 

(次は俺の出番か)

 

二回戦の対戦カードが決まった。

高杉レンvsマリク・イシュタール。

ふたりのデュエリストが、天空のデュエルリングに立つ。

 

「レンさん頑張って!」

 

レオンの声援にレンはサムズアップで応える。

 

「兄サマ、あのマリクって男が、3人目の神の使い手なの?」

「噂ではな。だが俺の目で確認せん限り断言はできん」

 

(神の使い手とされるマリク・イシュタール。そして、ペガサスと共にデュエルモンスターズを今日(こんにち)まで支えたといわれるほどの男、高杉レン。果たしてどちらか勝つか)

 

海馬の顔に笑みが浮かぶ。どちらが勝ちあがるにしても強敵であることに変わりはない。決闘者としての本能が、海馬の血を滾らせる。

 

 

『デュエルッ!!』

 

 

「私のターン、ドロー。手札の《天獄の王》の効果発動。このカードを相手ターン終了時まで公開する。そしてその間、フィールドにセットされたカードは破壊されない。カードを4枚伏せてターンを終了する」

 

マリク LP4000 手札2 モンスター0 伏せ4

 

■:伏せカード

■:伏せカード

■:伏せカード

■:伏せカード

 

■■□■■

□□□□□

 

□□□□□

□□□□□

 

高杉レン LP4000 手札5 モンスター0 伏せ0

 

――――――――――――

 

「私のターン、ドロー。手札から《フォトン・スラッシャー》を特殊召喚。このカードは自分フィールドにモンスターが存在しない場合、手札から特殊召喚できる。そしてこのカードをリリースして《人造人間-サイコ・ショッカー》をアドバンス召喚」

 

「なっ!? サイコ・ショッカーだとっ!?」

 

マリクが目を見開いて驚愕する。それもそのはずで、罠カードを封殺するサイコ・ショッカーは、デッキの8割を罠カードが占めるマリクとは相性最悪のカードなのだ。

レンが動きを最小限にしたのも理由がある。それは《スキルドレイン》を警戒したからだ。先にスキルドレインを発動されてしまうと、サイコ・ショッカーの効果は無効化されてしまう。

 

(とりあえず場に出ることはできたか)

 

そして最悪なのは召喚自体を無効にされることだった。いかにサイコ・ショッカーといえども、神の宣告には耐えられない。

 

「バトルフェイズに入る。サイコ・ショッカーでダイレクトアタック!」

 

「攻撃は……通さん! 速攻魔法《墓穴の指名者》を発動。おまえの墓地の《フォトン・スラッシャー》を除外する。セットされたカードが発動したことで、手札の《天獄の王》を特殊召喚。そして天獄の王の効果で、デッキから《サンダー・ボルト》をセットする」

 

「随分と強引な手段で呼び出したな。バトルは中止だ。カードを2枚伏せてターンエンド」

 

高杉レン LP4000 手札2 モンスター1 伏せ2

 

サ:人造人間-サイコ・ショッカー 攻撃力2400

■:伏せカード

■:伏せカード

 

■□□□■

□□サ□□

 

□□天□□

サ■□■■

 

天:天獄の王 守備力3000

サ:伏せカード(サンダー・ボルト)

■:伏せカード

■:伏せカード

■:伏せカード

 

マリク LP4000 手札1 モンスター1 伏せ4

 

――――――――――――

 

「私のターン、ドロー。《サンダー・ボルト》を発動。サイコ・ショッカーを破壊する!」

 

「チェーンして速攻魔法《不朽の特殊合金》を発動。私の場の機械族モンスターは、このターン相手の効果では破壊されない」

 

サイコ・ショッカーの全身を銀幕が覆い、天雷を防ぐ。これでサイコ・ショッカーを破壊し、罠モンスターで一気に攻め込むというプランは瓦解した。

セットした《アポピスの化身》、《殿神アポピス》はメインフェイズでしか発動できないのだ。

 

「ならば戦闘破壊するまで! 天獄の王を攻撃表示に変更。バトルだ。天獄の王でサイコ・ショッカーに攻撃!」

 

「《禁じられた聖槍》を発動。天獄の王の攻撃力を800下げる」

 

「なにっ!? ぐぉおぉぉっ!!」

 

飛来した聖槍が天獄の王の脚に突き刺さり、動きを止めたところにサイコ・ショッカーの電脳(サイバー)エナジー・ショックが直撃した。

 

「くっ、《光の護封剣》を発動する」

 

3本の光の剣が降り立ち、ふたりのフィールドを分ける。

 

(これで時間を稼ぎ、解決札を引くしかない)

 

「ターンエンドだ」

 

マリク LP3800 手札1 モンスター0 伏せ3

 

■:伏せカード

■:伏せカード

■:伏せカード

光:光の護封剣

 

■■□■光

□□□□□

 

□□サ□□

□□□□□

 

サ:人造人間-サイコ・ショッカー 攻撃力2400

 

高杉レン LP4000 手札2 モンスター1 伏せ0

 

――――――――――――

 

「私のターン、ドロー。《宇宙の法則》を発動。キミは手札・デッキから罠カードをセットできるが、どうするかね」

 

「セットすれば2体目のサイコ・ショッカーが出てくるわけか。遠慮しておこう」

 

どの道いま伏せているカードはすべて発動を封じられている罠カードだ。その上で罠カードをセットすれば、魔法・罠ゾーンがすべて埋まることになる。それでは解決札が引けても発動できない。

 

「相手がセットしなかった場合、私はデッキから《人造人間-サイコ・ショッカー》1体か、そのカード名が記されたモンスター1体をデッキから手札に加えることができる。《魔鏡導士サイコ・バウンダー》を手札に加える」

 

だがマリクの選択は、結果として悪手となった。2体目のサイコ・ショッカーを特殊召喚しても、レンに光の護封剣を突破する手段はない。

しかしマリクが罠カードをセットしないことを選択したため、そのためのカードを手札に引き込むことができる。

 

「《魔鏡導士サイコ・バウンダー》を召喚して効果発動。デッキから《電脳(サイバー)エナジーショック》を手札に加え、そのまま発動。光の護封剣を破壊する」

 

「なん……だと……」

 

マリクの表情が絶望に変わる。

 

「バトルだ。2体のモンスターでダイレクトアタック!」

 

「ぐぁああぁぁっ!!」

 

マリクにその攻撃を防ぐすべはなかった。

 

 

 

(まさかリシドが敗れるとは……これでは計画が……)

 

――ふふっ、狂う……か?

 

(――ッ!? お、おまえ……)

 

――あの男の圧が弱まっていくのを感じるよ。さあ、お(ねむ)の時間だぜ。主人格サマよォ

 

(くっ、誰が……おまえなんかに……)

 

――クハハハッ、脆い脆い。さっさと眠りな。ここからはオレの出番だ。さぁ、闇のゲームの始まりだぜ

 

 

 




ちょっとあっさりすぎたかもしれませんが、罠デッキにサイコ・ショッカーぶつけたら大体ああなると思います。


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第18話 オカルトデッキの侵攻

ついにマリクの「闇」が目覚めた。

そして今までマリクと名乗っていたリシドを影と断じ、神の所有を明らかにする。

 

「クククッ、まだ本調子とはいかないか……。束の間の猶予を与えてやるよ。フフフ……」

 

場は緊迫した空気に包まれたが、マリクは意に介さずとばかりに去って行く。

そして重苦しい空気の中、決勝トーナメント三回戦が始まる。

対戦カードは、武藤遊戯vs獏良了。

千年アイテムを持つ者同士の、ミレニアムバトルが幕を開ける。

 

「さぁ、楽しもうぜ。遊戯ィ」

「バクラッ! やはり貴様ッ!」

 

 

『デュエルッ!!』

 

 

「ククッ、オレ様のターン、ドロー。《クリバンデット》を召喚。フィールド魔法《ダーク・サンクチュアリ》を発動し、カード3枚伏せてターンを終了するぜ。そしてエンドフェイズにクリバンデットをリリースして効果発動。デッキの上から5枚めくり――《暗黒の扉》を手札に加える。残りのカードは墓地へ送るぜ」

 

(墓地に行ったのは《クリッター》、《破械童子アルハ》、《ギャラクシー・サイクロン》、《ダメージ・ダイエット》か。良くもねぇが悪くもねぇってところか)

 

獏良了 LP4000 手札2 モンスター0 伏せ3

 

■:伏せカード

■:伏せカード

■:伏せカード

ダ:ダーク・サンクチュアリ

 

■□■□■

□□□□□ダ

 

□□□□□

□□□□□

 

武藤遊戯 LP4000 手札5 モンスター0 伏せ0

 

――――――――――――

 

「俺のターン、ドロー。《マジシャンズ・ロッド》を召喚して効果発動。デッキから――」

 

「待ちなっ! 永続罠《デモンズ・チェーン》を発動するぜ。そいつの効果を無効にし、攻撃を封じる!」

 

「なにっ!? くっ、ならば《融合派兵》を発動。EXデッキの《超魔導師-ブラック・マジシャンズ》を公開し、デッキから《ブラック・マジシャン》を特殊召喚するぜ!」

 

遊戯を象徴する黒魔術師がフィールドに降臨し、杖を振るう。

 

「バトルだ。ブラック・マジシャンでダイレクトアタック!」

 

「この瞬間《ダーク・サンクチュアリ》の効果が発動するぜ。コイントスを1回行い、表が出ればその攻撃を無効にし、その相手モンスターの攻撃力の半分のダメージを相手に与える!」

 

禍々しいオーラを帯びたコインが宙を舞う。その結果は――

 

「ほぉう、裏か。おめでとさん。攻撃は成立だ」

 

獏良了 LP4000 → 1500

 

一気に半分以上のライフを削られた獏良だったが、その表情には余裕があった。

 

「……カードを1枚伏せてターンエンドだ」

 

「クククッ、ここで永続罠《ウィジャ盤》を発動するぜ」

 

獏良の背後に不気味な盤が出現し、「D」の文字が浮かび上がる。

 

「これは貴様に死を告げる運命の(しるべ)。貴様のエンドフェイズにカウントは進み、DEATHの5文字が完成した時、貴様は抹殺される」

 

「くっ、これが貴様の戦略……特殊勝利を狙うデッキか!」

 

「エンドフェイズにデッキから《死のメッセージ「E」》を、ダーク・サンクチュアリの効果でモンスターゾーンに、通常モンスター扱いとして特殊召喚するぜ。この効果で特殊召喚したカードは「ウィジャ盤」以外のカードの効果を受けず、攻撃対象にされねぇ」

 

獏良の背後に「E」の文字が浮かび上がる。遊戯に残された時間は後3文字(ターン)

 

 

武藤遊戯 LP4000 手札3 モンスター2 伏せ1

 

ブ:ブラック・マジシャン 攻撃力2500

マ:マジシャンズ・ロッド 攻撃力1600

■:伏せカード

 

 ■□□□□

 □□ブ□マ

 

ダE□□□□

 ウ□デ□■

 

E:死のメッセージ「E」 攻撃力 0

ウ:ウィジャ盤

デ:デモンズ・チェーン(対象:マジシャンズ・ロッド)

■:伏せカード

ダ:ダーク・サンクチュアリ

 

獏良了 LP1500 手札2 モンスター1 伏せ1

 

――――――――――――

 

「オレ様のターン、ドロー。デモンズ・チェーンを墓地に送り、《マジック・プランター》を発動。カードを2枚ドローするぜ。《カードガード》を召喚。召喚成功時にこのカードにガードカウンターを1つ置く。そしてこのガードカウンターを《ウィジャ盤》に移すぜ。これでウィジャ盤は破壊耐性を得た」

 

ウィジャ盤は獏良の戦略の要ともいえるカード。獏良はそれをより強固にする。

 

「永続魔法《暗黒の扉》を発動。ターンエンドだ。せいぜい無駄にあがきな。貴様に残されたのはあと3ターンだ。ヒャハハハハッ!」

 

獏良了 LP1500 手札2 モンスター2 伏せ1

 

カ:カードガード 攻撃力1600

E:死のメッセージ「E」 攻撃力 0

■:伏せカード

暗:暗黒の扉

ウ:ウィジャ盤

ダ:ダーク・サンクチュアリ

 

■□暗□ウ

□□カ□Eダ

 

マ□ブ□□

□□□□■

 

マ:マジシャンズ・ロッド 攻撃力1600

ブ:ブラック・マジシャン 攻撃力2500

■:伏せカード

 

武藤遊戯 LP4000 手札3 モンスター2 伏せ1

 

――――――――――――

 

「俺のターン、ドロー。バクラ……ならば俺はその3ターンで貴様のオカルトコンボを打ち崩すぜ!」

 

「ハハッ! 王サマは言うことが違うねぇ。ならやってみせな!」

 

「ああ、いくぜバクラ! 速攻魔法《黒魔術の秘儀》を発動。フィールドの《ブラック・マジシャン》と《マジシャンズ・ロッド(魔法使い族モンスター)》を融合。現れろ、《超魔導師-ブラック・マジシャンズ》!!」

 

魔術師のロッドから呼び出された魔術師の少女が師匠の隣で杖を振るう。

 

「ククッ、暗黒の扉がある限り、貴様はモンスター1体でしか攻撃できないからな。より強力なモンスターを呼んだってワケだ」

 

「バトルだ。ブラック・マジシャンズでカードガードを攻撃!」

 

「この瞬間《ダーク・サンクチュアリ》の効果が発動するぜ。コイントスの結果は――表だ。攻撃は無効となり、貴様は攻撃モンスターの攻撃力の半分のダメージを受ける」

 

武藤遊戯 LP4000 → 2600

 

「ぐぁっ! だが魔法・罠カードの効果が発動したため、ブラック・マジシャンズの効果で1枚ドローするぜ。ターンエンドだ」

 

「エンドフェイズにウィジャ盤の効果発動。デッキから《死のメッセージ「A」》を特殊召喚するぜ」

 

武藤遊戯 LP2600 手札4 モンスター1 伏せ1

 

超:超魔導師-ブラック・マジシャンズ 攻撃力2800

■:伏せカード

 

 ■□□□□

 □□超□□

 

ダEAカ□□

 ウ□暗□■

 

E:死のメッセージ「E」 攻撃力 0

A:死のメッセージ「A」 攻撃力 0

カ:カードガード 攻撃力1600

ウ:ウィジャ盤

暗:暗黒の扉

■:伏せカード

ダ:ダーク・サンクチュアリ

 

獏良了 LP1500 手札2 モンスター3 伏せ1

 

――――――――――――

 

「オレ様のターン、ドロー。カードガードを守備表示に変更。カードを1枚伏せてターンエンド。残り2ターン、恐怖に歪む貴様の顔を拝ませてもらうぜ」

 

獏良了 LP1500 手札2 モンスター3 伏せ2

 

カ:カードガード 守備力 500

E:死のメッセージ「E」 攻撃力 0

A:死のメッセージ「A」 攻撃力 0

■:伏せカード

■:伏せカード

暗:暗黒の扉

ウ:ウィジャ盤

ダ:ダーク・サンクチュアリ

 

■■暗□ウ

□□カAEダ

 

□□超□□

□□□□■

 

超:超魔導師-ブラック・マジシャンズ 攻撃力2800

■:伏せカード

 

武藤遊戯 LP2600 手札4 モンスター1 伏せ1

 

――――――――――――

 

「俺のターン、ドロー!」

 

「スタンバイフェイズに《威嚇する咆哮》を発動。貴様はこのターン攻撃できない」

 

獏良の狙いは成就しつつあった。遊戯の額に冷たい汗が流れる。

 

「ククッ、貴様の命もあと2ターンだ」

 

獏良の闇が深まっていく。もはや勝利を確信したような笑みが零れていた。

 

(まあこれが貴様のラストターンだがな。オレ様が伏せたカードはカウントを1ターン進める必殺のカード。だがわざわざ教えてやる義理もねぇ。貴様がターンエンドを宣言した瞬間にオレ様の勝利が確定する!)

 

「魔法・罠カードの効果が発動したため、ブラック・マジシャンズの効果で1枚ドローするぜ。そしてドローしたカードをセットする。ターンエンドだ」

 

「クク……罠カード《死の宣告》を発動するぜ! このカードを墓地に送り、デッキから《死のメッセージ「H」》を特殊召喚する。そしてウィジャ盤の効果で最後の文字、《死のメッセージ「T」》を呼び出すぜ。これでオレ様の勝ちだ!!」

 

獏良が快哉をあげる。だが勝負は、まだ決していなかった。

 

「それはどうかな? ブラック・マジシャンズの効果でセットした速攻魔法・罠カードは、セットしたターンでも発動できる。俺はライフを1000払い《コズミック・サイクロン》を発動。貴様の《ウィジャ盤》を除外するぜ」

 

「除外……だとっ!?」

 

カードガードの効果で破壊耐性を付与したが、除外には対応していない。ウィジャ盤は虚空に消え、死のメッセージも墓地へと送られた。

 

「バクラ! 貴様のオカルトコンボは粉砕したぜ!」

 

「チィィ、いい気になるなよ。まだオレ様に手は残されているぜ!」

 

武藤遊戯 LP1600 手札5 モンスター1 伏せ1

 

超:超魔導師-ブラック・マジシャンズ 攻撃力2800

■:伏せカード

 

 ■□□□□

 □□超□□

 

ダ□□カ□□

 □□暗□□

 

カ:カードガード 守備力 500

暗:暗黒の扉

ダ:ダーク・サンクチュアリ

 

獏良了 LP1500 手札2 モンスター1 伏せ0

 

――――――――――――

 

「オレ様のターン、ドロー! 手札を1枚捨て、《ダーク・オカルティズム》を発動。デッキから《ダーク・ネクロフィア》を手札に加える」

 

「ブラック・マジシャンズの効果で1枚ドロー。そしてドローしたカードをセットするぜ」

 

「墓地に送られた《魔サイの戦士》の効果発動。デッキから《魔神童》を墓地に送る。そして魔神童は自身の効果で、フィールドに裏側守備表示で特殊召喚される。さあいくぜ遊戯。墓地の悪魔族3体を除外して《ダーク・ネクロフィア》を特殊召喚!」

 

獏良のフィールドに、壊れた人形を胸に抱いた不気味なモンスターが出現する。

 

「バトルだ。ダーク・ネクロフィアでブラック・マジシャンズを攻撃!」

 

「攻撃力の劣るモンスターで攻撃だと!? 迎え撃て! 魔術師の師弟よ!」

 

念眼殺と黒魔術がぶつかり合う。その結果は、当然攻撃力の高い方が押し勝った。

 

獏良了 LP1500 → 900

 

「ククッ、これでいいのよ。さらにモンスターをセットしてターンエンドだ。そしてエンドフェイズに《ダーク・ネクロフィア》の効果が発動する。このカードを貴様のモンスターに装備し、コントロールを得る!」

 

マリオネットの霊魂が魔術師の師弟に乗り移り、獏良のもとへと駆けつける。

 

(ククッ、守備固めも万全。次のオレ様のターン、ダーク・オカルティズムの効果で大量にドローできる。それで決まりよ。せいぜい最後のターンを楽しみな。遊戯ィ……)

 

獏良了 LP 900 手札1 モンスター4 伏せ0

 

超:超魔導師-ブラック・マジシャンズ 攻撃力2800

カ:カードガード 守備力 500

セ:セットモンスター

魔:魔神童(裏側守備表示)

ダ:ダーク・ネクロフィア(装備カード)

暗:暗黒の扉

ダ:ダーク・サンクチュアリ

 

□ダ暗□□

□超カセ魔ダ

 

□□□□□

■□□□■

 

■:伏せカード

■:伏せカード

 

武藤遊戯 LP1600 手札5 モンスター0 伏せ2

 

――――――――――――

 

「俺のターン、ドロー! ――ッ!?」

 

ドローしたカードを確認した遊戯の目が見開かれる。

 

(なんだ? 何を引いた? まさか……)

 

「魔法カード《サンダー・ボルト》を発動。貴様のモンスターをすべて破壊する。そして破壊されたブラック・マジシャンズの効果発動。墓地から《ブラック・マジシャン》を、デッキから《ブラック・マジシャン・ガール》を特殊召喚する」

 

「チィ、全体破壊カードか。オレ様も《魔犬オクトロス》の効果を発動するぜ。デッキから《カース・ネクロフィア》を手札に加える」

 

「速攻魔法《クリボーを呼ぶ笛》を発動。デッキから《クリボー》を特殊召喚!」

 

遊戯のフィールドに3体のモンスターが揃った。それが意味するものを、獏良は的確に見抜いた。

 

「貴様ッ!」

 

「3体のモンスターをリリースし、神よ、降臨せよ! 《オシリスの天空竜》を召喚!」

 

三幻神の一柱(ひとはしら)、天空を支配する赤き竜が咆哮を上げる。

 

 

 

――神を呼んだか。どうやらここまでのようだね

 

(テメェ、早々に闇に呑まれちまった貧弱ボウヤがしゃしゃってんじゃねぇ! オレ様のおかげで生き長らえている分際でよォ!)

 

――それについては感謝しているさ。おまえに人格の一部を移しておいたおかげで、ボクは完全に取り込まれずにすんだ

 

(分かってるなら黙って見てな! 勝負はまだ終わっちゃいねぇ!)

 

 

 

「バトルだ! オシリスの天空竜でダイレクトアタック! 超電導波サンダーフォース!」

 

「この瞬間、ダーク・サンクチュアリの効果発動!」

 

「無駄だバクラ! 神にそんな効果は通用しない!」

 

宙に舞ったコインがサンダーフォースによって弾き飛ばされる。

 

(……ぐぅ、仕方ねぇ。この闘いは負けといてやるよ。だが最後の勝利者となるのはこのオレ様よ。遊戯ィ……いずれ貴様は永遠の闇に葬ってやるぜ!)

 

巨大なエネルギーの奔流はいささかも勢いを衰えず獏良を直撃した。

 

 

 




オシリスの天空竜 神属性 レベル10
攻撃力? 守備力? 幻神獣族/効果

このカードを通常召喚する場合、3体をリリースして召喚しなければならない。
①:このカードの召喚は無効化されない。
②:このカードの召喚成功時には、魔法・罠・モンスターの効果は発動できない。
③:このカードは元々の属性が神属性以外のモンスターの効果を受けず、魔法・罠カードの効果を受けない。
④:このカードがモンスターゾーンに存在する限り、相手はこのカードをリリースできない。
⑤:このカードがモンスターゾーンに存在する限り、他の自分のモンスターは攻撃宣言できない。
⑥:このカードがモンスターゾーンに存在する限り、相手はモンスターをセットできない。
⑦:このカードの攻撃力・守備力は自分の手札の数×1000アップする。
⑧:相手モンスターが召喚・反転召喚・特殊召喚に成功した場合に発動する。そのモンスターが攻撃表示なら攻撃力を2000ダウンさせ、守備表示なら守備力を2000ダウンさせる。この効果で攻撃力または守備力が0になった場合そのモンスターを破壊する。この効果は無効化されない。
⑨:このカードが特殊召喚されている場合、エンドフェイズに発動する。このカードを墓地へ送る。



感想欄の意見を参考にさせていただきました。
確かに先出しスキルドレインの問題は残りますが、神といえども「無敵の存在ではない」とするにはこのくらいなのかなと思います。


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第19話 墓守の呪縛

決勝トーナメント四回戦が始まる。

最後に残ったのは海馬と、タイムリミットギリギリに滑り込んできた女性デュエリスト。

そのふたりが天空決闘場にて向かい合う。

 

(マリクの闇人格が目覚めてしまった。もはや一刻の猶予もない。それが定められし運命だというのなら、私はあなたを――)

 

「海馬瀬人。私の持つ千年タウクには未来を透視する力が秘められています。あなたは私に敗北する。それが定められた未来です」

「クククッ、フハハハハッ!! そんな非ぃ科学的な論理で俺を惑わそうとはな。俺に貴様らの持つオカルトグッズの迷信など通用せん。そんなものはこの世の不合理性のゴミ溜めにでも捨てておけ!」

 

オカルトを信じない海馬は、イシズの言葉を一刀両断する。

 

「ふぅん、読めてきたぞ。あのマリクという男、貴様の身内だな。ヤツを(おび)き寄せるために自らは身を隠し、俺を矢面に立たせて利用したといったところか?」

 

「…………」

 

「クククッ、問答は無用ということか。ならば語るまい! 決闘(デュエル)開始の宣言をしろ! 磯野ぉ!」

 

 

「ハ、ハイ海馬サマ! 決闘(デュエル)開始ィィィ!!」

 

 

「来いッ! イシズ!」

 

「いいでしょう。私のターン、ドロー。手札の《宿神像ケルドウ》を捨て、《剣神官ムドラ》を特殊召喚。ムドラの効果でデッキから《墓守の罠》を表側表示で置きます」

 

「墓守の罠……だと?」

 

海馬の頭をよぎったのは、先のデュエルでマリク(ナム)が使用した墓守デッキ。墓地、除外、特殊召喚を阻害するカード群だった。

 

「墓守の罠の効果発動。手札を1枚捨て、デッキから《古衛兵アギド》を手札に加えます」

 

イシズが捨てたのは《現世と冥界の逆転》。墓地にこのカードが存在する限り、墓守の罠の効果で相手は墓地のカードの効果を発動できず、墓地のモンスターを特殊召喚できない。

海馬の操る《青眼の白龍》は最上級モンスター故、墓地からの特殊召喚を多用する。それを制限するのがイシズの狙いだと海馬は睨んだ。

 

「《ティアラメンツ・レイノハート》を召喚して効果発動。デッキから《ティアラメンツ・ハゥフニス》を墓地に送ります。そして墓地に送られたハゥフニスの効果発動。このカードとフィールドのレイノハートをデッキの下に戻し、《ティアラメンツ・キトカロス》を融合召喚します」

 

(ティアラメンツ……墓地融合を主体としたカード群か)

 

白藍の髪をたなびかせながら、少女たちが舞う。

 

「キトカロスの効果発動。デッキから《ティアラメンツ・メイルゥ》を手札に加えます。続いて自身を対象に、第2の効果も発動します。手札のメイルゥを特殊召喚し、キトカロスを墓地に送ります。さらに墓地へ送られたキトカロスの効果でデッキから5枚のカードを墓地に送り、メイルゥの効果で3枚を墓地に送ります」

 

キトカロスの3種の効果をすべて使い、イシズのデッキが回りだす。

 

「墓地に送られた《古衛兵アギド》の効果発動。お互いにデッキの上から5枚のカードを墓地に送ります。そして私の墓地に《現世と冥界の逆転》が存在するので、あなたのデッキからさらに5枚のカードを墓地に送ります。続けて《古尖兵ケルベク》の効果発動。お互いにデッキの上から5枚のカードを墓地に送ります。さらに追加効果で、墓地の罠カード《魔法の筒》を私のフィールドにセット。《シャドール・ビースト》の効果で1枚ドローし、2枚の《髑髏顔 天道虫(レディバグ)》の効果でライフを2000回復します。最後に《ティアラメンツ・シェイレーン》の効果発動。このカードとキトカロスをデッキの下に戻し、《ティアラメンツ・ルルカロス》を融合召喚します」

 

ここで海馬はイシズの戦術に気づく。

 

(相手の墓地を封じ、デッキ破壊でプレッシャーと焦りを与え、攻撃を誘発する……といったところか)

 

「カードを2枚セットし、ターンエンド」

 

イシズ LP6000 手札2 モンスター3 伏せ3

 

ム:剣神官ムドラ 守備力1800

ル:ティアラメンツ・ルルカロス 守備力2500

メ:ティアラメンツ・メイルゥ 守備力2000

魔:伏せカード(魔法の筒)

墓:墓守の罠

■:伏せカード

■:伏せカード

 

魔□墓■■

□ムルメ□

 

□□□□□

□□□□□

 

海馬瀬人 LP4000 手札5 モンスター0 伏せ0

 

――――――――――――

 

「俺のターン!」

 

「あなたのドロー前に、墓守の罠の効果を発動します。ドローしたカードが、私の宣言したカードだった場合、あなたはそのカードを墓地へ送らなければならない」

 

「ふぅん。面白い。ならば当ててみるがいい」

 

「私が宣言するのは《青眼の白龍》!」

 

「ドロー! ぐっ、バカな!」

 

海馬がドローしたカードは、イシズの宣言通りのカード。海馬をそれを墓地へと送った。

 

「未来はすでに決まっています」

 

「戯言を! ならば何故俺に神のカードの収集を依頼した! 未来が見通せるというのならば、他にも方法があったはずだ!」

 

その問いにイシズは沈黙を持って答えた。

 

「だんまりか。所詮未来を見通すなどその程度よ。それを今から証明してやる。魔法カード《ライトニング・ストーム》を発動。貴様の魔法・罠カードをすべて破壊する!」

 

「ライフを1000払い、罠カード《現世と冥界の逆転》を発動。さらにチェーンして墓地の《宿神像ケルドウ》の効果発動。続けて墓地の《剣神官ムドラ》の効果発動」

 

ここでチェーンは終わり、逆順処理に入る。

《宿神像ケルドウ》と《剣神官ムドラ》の効果で海馬の墓地から合計10枚のカードがデッキに戻り、続けて《現世と冥界の逆転》の効果が適用され、デッキと墓地が入れ替わる。

最後に海馬の発動した《ライトニング・ストーム》がイシズの魔法・罠カードを破壊する。

 

「これであなたのデッキは6枚。勝負は決しました」

 

その6枚のカードも、イシズが脅威ではないと判断したカードだった。

 

「ふぅん。この程度で勝利を確信するとは……笑止! もう一度言ってやろう。貴様の未来予知など所詮その程度よ! 俺の墓地とデッキを操作したなら分かっていよう。そこに神のカードがなかったことにな!」

 

イシズもそれには気づいていた。海馬はすでに神のカードを握っていることに。

 

「しかもおあつらえ向きに3体の生贄まで用意するとはな。速攻魔法《交差する魂》を発動! 貴様のモンスター3体をリリースし、《オベリスクの巨神兵》を召喚!」

 

破壊の力を秘めた巨神が覚醒する。

それでも平静を装うイシズを、海馬はさらに追い立てる。

 

「貴様の予知など俺のロードには不要! 未来は俺が決める! オベリスクで貴様にダイレクトアタック!」

 

巨神の拳が天高く振り上げられる。だが――

 

「とでも言うと思っていたのか? 貴様が仕掛けた最後の罠。俺が気づいていないとでも思ったか!」

 

「…………」

 

「ククッ、なかなか(したた)かな女だ。恐らく貴様、ここまで読んでいたな? おとなしい顔で必殺の罠を仕掛けていたとはな。交差する魂はあくまでカード効果によるアドバンス召喚。俺にはまだ召喚権が残されている」

 

「……まさか」

 

「貴様の未来予知……大抵の人間には通用したのだろう。だがそんなもので俺を縛ることはできん。貴様は未来予知という「安心」に溺れた。リスクこそがデュエルの本質。そこから逃げた貴様に勝利はない!」

 

海馬は神に(すが)らない。海馬にとっては、神すらも戦術のひとつにすぎない。

 

「神を生贄にする! 現れろ! 《偉大魔獣 ガーゼット》!」

 

神を生贄に、悪魔が召喚される。

 

「《偉大魔獣 ガーゼット》の攻撃力は、リリースしたモンスターの元々の攻撃力の倍となる」

 

偉大魔獣 ガーゼット 攻撃力8000

 

「一撃で仕留めれば《ヴォルカニック・カウンター》の効果も発動できまい」

 

「そんなカードは、あなたのデッキにはなかったはず……」

 

「ふぅん。こいつはこのデュエルの寸前にモクバから受け取ったカードだ。それは読めなかったようだな。何度でも言ってやろう。貴様の未来予知などその程度だとな」

 

(運命とは……逃れられないものだと決めつけていましたが、あなたは運命(それ)すらも踏み越えて行くのですね)

 

「運命をねじ伏せて俺は進む! 喰らえ! アトミック・バァァァン!!」

 

悪魔の胸から放たれた光の奔流がイシズを包み込む。その爆発が海馬の勝利を決定づけた。

 

 

 




オベリスクの巨神兵 神属性 レベル10
攻撃力4000 守備力4000 幻神獣族/効果

このカードを通常召喚する場合、3体をリリースして召喚しなければならない。
①:このカードの召喚は無効化されない。
②:このカードの召喚成功時には、魔法・罠・モンスターの効果は発動できない。
③:このカードは元々の属性が神属性以外のモンスターの効果を受けず、魔法・罠カードの効果を受けない。
④:このカードがモンスターゾーンに存在する限り、相手はこのカードをリリースできない。
⑤:このカードがモンスターゾーンに存在する限り、他の自分のモンスターは攻撃宣言できない。
⑥:自分フィールドのモンスター2体をリリースして発動できる。相手フィールドのモンスターを全て破壊し、相手に4000ポイントのダメージを与える。この効果は相手ターンでも発動できる。この効果は無効化されない。
⑦:このカードが特殊召喚されている場合、エンドフェイズに発動する。このカードを墓地へ送る。



感想欄でご指摘のあった通り、⑤の効果でオシリスとオベリスクが並ぶとセルフロックがかかりますね。
オシリスとオベリスクは仲が悪かった……?

それはそれとして、ティアラメンツ(というかイシズ系)は文字にするとかなり分かり難いですね。
世界大会のアレとか文字に起こしたらどんな感じになるんだろうか。


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第20話 太陽神光臨

高杉レン。

マリク・イシュタール。

武藤遊戯。

海馬瀬人。

 

準決勝に進出する四名のデュエリストが決定したところで、決勝トーナメント初日の日程が終了した。

参加者たちが眠りにつく中で、ある部屋の扉が開く。

 

「リシド……貴様がいなくなればオレを封印できる者はいない……死の闇が迎えに来たぞ……なにっ!?」

 

深い眠りにつくリシドに永遠の眠りを与えるべく、マリクが千年ロッドを掲げる。だがここで、ベッドがもぬけの殻であることに気づいた。

 

「ククク……コイツとの契約でね。あのハゲを殺させるワケにはいかねぇのよ」

 

扉の影からバクラが姿を現す。

 

「貴様は……そうか、奴の一部を取り込んでいたか。フフッ、引っ込んでな!」

「――ッ!? ガハッ!」

 

千年ロッドから溢れた闇の力が、バクラを壁に叩きつける。

 

「ハハハ、このまま押し潰してやろうか。……むっ」

「……ククッ、千年ロッドとやらの力も、たいしたことねぇな」

 

バクラの首から提げられた千年リングが怪しく光り、闇の力を跳ね返す。

 

「……ほぅ」

「千年アイテムに選ばれた者は、闇の決闘(ゲーム)決着(ケリ)をつけるしかないようだな」

「死にたがりが……いいだろう。相手をしてやるよ。表に出な!」

 

夜風が吹きすさぶデュエルリングで、闇の決闘(ゲーム)が始まる。

 

「闇のゲームに敗れた者は闇に呑まれる。まぁ、消えるのは貴様だがな、バクラ」

「今のうちにほざいてな。闇に葬られる前によォ。クククッ」

 

 

『デュエルッ!!』

 

 

「オレ様の先攻――チッ、テメェの片割れが話したいとよ」

 

――ボクは真実を知った。貴様が父を殺したという真実を。決して貴様を許すことはできない!

 

「おいおい、都合の良い解釈をするんじゃねぇよ。オレを生み出したのはテメーの心の闇だろーが。破壊と憎悪、憤怒と邪悪、その結晶体がオレってワケだ。つまりテメーがオレに父殺しをさせたんだよ!」

 

――確かに、ボクの心の弱さが生み出した惨劇には違いない。

 

マリクは瞑目し、亡き父の姿に想いをはせる。

 

――五年前のあの時、ボクの前に現れたあの男こそ……(ファラオ)の魂の意志を継ぎ、父を殺した者だとばかり思っていた

 

(……あの男? (ファラオ)の意志……まさかっ!? いやありえねぇ。五年前ならヤツはすでに……)

 

「ゴチャゴチャと御託を並べやがって……つまり何が言いてぇんだ? 主人格サマよォ」

 

――ボク自身……そして貴様を葬ることが父への償い

 

「クククッ、ケヒャァ! やってみなァ!」

 

マリクの闇人格が見下すように笑った。

 

――いくぞ、バクラ!

 

「オレ様に命令すんじゃねぇ!」

 

(クソッ、考えがまとまらねぇ。何なんだヤツは。死人はおとなしく死んでろってんだ。まあいい。まずはコイツをぶっ殺して千年ロッドをいただく!)

 

「オレ様のターン、ドロー!」

 

(悪くねぇ手札だ。まずは下準備をしねぇとな)

 

「モンスターをセット。カードを2枚伏せてターンエンドだ」

 

バクラ LP4000 手札3 モンスター1 伏せ2

 

セ:セットモンスター

■:伏せカード

■:伏せカード

 

■■□□□

□□セ□□

 

□□□□□

□□□□□

 

闇マリク LP4000 手札5 モンスター0 伏せ0

 

――――――――――――

 

「オレのターン、ドロー。《予想GUY》を発動。デッキから《ギル・ガース》を特殊召喚。さらに《ニュードリュア》を召喚。バトルだ。ギル・ガースでセットモンスターを攻撃!」

 

殺戮マシーンが巨大なカタナを振り下ろす。

 

「セットモンスターは《魂を削る死霊》だ。残念だったな、こいつは戦闘では破壊されないモンスターよ」

 

「チッ、カードを1枚伏せてターンエンドだ」

 

「エンドフェイズに罠モンスター《死霊ゾーマ》を守備表示で特殊召喚するぜ」

 

闇マリク LP4000 手札3 モンスター2 伏せ1

 

ニ:ニュードリュア 攻撃力1200

ギ:ギル・ガース 攻撃力1800

■:伏せカード

 

■□□□□

□ニギ□□

 

□□魂ゾ□

□□□□■

 

魂:魂を削る死霊 守備力 200

ゾ:死霊ゾーマ 守備力 500

■:伏せカード

 

バクラ LP4000 手札3 モンスター2 伏せ1

 

――――――――――――

 

「オレ様のターン、ドロー。ヒャハハハハッ、テメェにオレ様の必殺コンボを見せてやるぜ。魔法カード《闇の指名者》を発動。モンスターカード名を1つ宣言し、宣言したカードが相手のデッキにある場合、そのカード1枚を相手の手札に加えさせる。オレ様が宣言するのは《ラーの翼神竜》!」

 

「なんだとっ!?」

 

バクラのありえない戦術に、マリクの目が見開く。それでも《闇の指名者》の効果はデッキに宣言したカードがある場合、手札に加えなければならない強制効果。

マリクはデッキから《ラーの翼神竜》を手札に加えた。

 

「ライフを800払い、《洗脳-ブレインコントロール》を発動。テメェの《ギル・ガース》をいただくぜ。そして《エクスチェンジ》を発動」

 

「チッ、それが狙いか」

 

「さあ、好きなカードを選びな。といってもオレ様の手札は1枚だがな。オレ様はテメェの神をいただくぜ!」

 

エクスチェンジは手札交換だけでなく、手札を公開するため、相手の戦術を把握することもできる。

だが、バクラがライフを失ったことで闇の決闘が効力を発揮する。バクラの肩が闇に喰われた。

 

(この程度、なんてこたぁねぇよ。オレ様の手札はモンスターカード1枚。奪われたところで問題ねぇ。ヤツの手札は……チッ、《手札抹殺》がありやがる。これで手札を入れ替えられたら、戦術を読んでも意味がねぇな。まあいい。このターンで決めりゃいいだけよ)

 

バクラの手札に神のカードが加わった。

 

「ヒャハハハハッ、神のカードをゲットだぜぇ! 3体のモンスターをリリースし、《ラーの翼神竜》を召喚!」

 

金色の翼を広げ、最高位の神がバクラのもとに舞い降りる。

 

ラーの翼神竜 攻撃力3900 守備力1900

 

「クククッ、神の力はこんなモンじゃねぇよなぁ! 派手にいこうぜぇ! ラーの翼神竜の効果発動。オレ様のライフを3100捧げ、神の攻撃力に加える!」

 

バクラ LP3200 → 100

 

ラーの翼神竜 攻撃力3900 → 7000

 

バクラのライフが低下したことで、その身体のほとんどが闇へと消えていく。

 

「ヒャハハッ、オレ様は闇そのものだ。関係ねぇんだよこんなモンは! バトルだ! ラーの翼神竜で攻撃! ゴッド・ブレイズ・キャノン!」

 

神の業火がマリクへと迫る。

 

「攻撃宣言時、リバースカードオープン」

 

「無駄だ! 神にはどんなカードも通じねぇ! テメェも分かってンだろうが!」

 

「愚かなやつだ。オレが神への対策を怠っているわけがないだろう。《ディメンション・ウォール》を発動。この戦闘で発生するダメージは貴様が受ける。これはモンスターを対象にする効果ではない」

 

「なっ!? クソが! ならラーの翼神竜の効果を発動するぜ。このカードの攻撃力を5700下げ、オレ様のライフに変換する」

 

ラーの翼神竜 攻撃力7000 → 1300

 

バクラ LP 100 → 5800

 

「これで発生する戦闘ダメージは100だ!」

 

「戦闘で破壊されたニュードリュアの効果が発動する。フィールドのモンスター1体を破壊する」

 

「そんなモンが神に通用するかよ」

 

――バクラ、神を奪ったからといって調子に乗るな。ラーの翼神竜は必ずフィールドに維持し続けるんだ

 

「分かってンよ。オレ様はこれでターンエンドだ」

 

バクラ LP5700 手札0 モンスター1 伏せ1

 

ラ:ラーの翼神竜 攻撃力1300

■:伏せカード

 

■□□□□

□□ラ□□

 

□□□□□

□□□□□

 

闇マリク LP4000 手札3 モンスター0 伏せ0

 

――――――――――――

 

「オレのターン、ドロー。《手札抹殺》を発動。オレは手札を3枚捨て、3枚ドローする」

 

「オレ様に捨てる手札はねぇ」

 

手札を一新し、マリクの表情が一変する。口角を上げ、腕を真横に振って叫んでくる。

 

「バクラ! 神は返して貰おう! 《グラナドラ》を召喚。そしてグラナドラの効果でライフを1000回復する!」

 

闇マリク LP4000 → 5000

 

「そしてグラナドラをリリースし、《痛み分け》を発動。貴様はモンスター1体をリリースしなければならない。貴様自身の手でな」

 

「甘いんだよ! チェーンして《戦線復帰》を発動。墓地の《魂を削る死霊》を守備表示で特殊召喚するぜ!」

 

「甘いのは貴様だ。さらにチェーンして《D.D.クロウ》の効果発動。このカードを手札から墓地へ捨て、貴様の墓地の《魂を削る死霊》を除外する」

 

これで対象を失った戦線復帰は不発となる。

 

「……くっ、ならラーの翼神竜の効果を発動するぜ。神の攻撃力をオレ様のライフに変換する」

 

ラーの翼神竜 攻撃力1300 → 0

 

バクラ LP5700 → 7000

 

「神は真の所有者の墓地へと行く。オレはこれでターンエンドだ」

 

――くっ、ラーがやつの墓地に……

 

「……エンドフェイズにテメェが手札から捨てた《彼岸の悪鬼 スカラマリオン》の効果を発動するぜ。デッキから《クリッター》を手札に加える」

 

闇マリク LP5000 手札0 モンスター0 伏せ0

 

□□□□□

□□□□□

 

□□□□□

□□□□□

 

バクラ LP7000 手札1 モンスター0 伏せ0

 

――――――――――――

 

「オレ様のターン、ドロー」

 

「スタンバイフェイズ、《ラーの翼神竜》は墓地より蘇る。この効果で特殊召喚したラーの攻守は4000となる。クククッ、ラーの必勝パターンに入った。貴様になすすべはない」

 

「チィ、モンスターをセットしてターンエンドだ」

 

(ラーが場にいる限り、モンスターを並べても意味はねぇ。クソッ、この勝負は――)

 

「悪あがきだな。特殊召喚された神はエンドフェイズに墓地へ送られるが、その前に効果を発動しておこう。ラーの攻撃力をライフへと変換する」

 

ラーの翼神竜 攻撃力4000 → 0

 

闇マリク LP5000 → 9000

 

「クハハッ、次が貴様のラストターンだ!」

 

バクラ LP7000 手札1 モンスター0 伏せ0

 

セ:セットモンスター

 

□□□□□

□□セ□□

 

□□□□□

□□□□□

 

闇マリク LP9000 手札0 モンスター0 伏せ0

 

――――――――――――

 

「オレのターン、ドロー。スタンバイフェイズにラーは蘇る」

 

ラーの翼神竜が不死鳥の如く舞い上がる。

 

「ククッ、忙しねぇことだな」

 

バクラが悪態をつく。それが最期の意地だとばかりに。

 

「ライフを1000払い、ラーの効果を発動。このカード以外のモンスターをすべて墓地へ送る。ゴッド・フェニックス!」

 

神の業火がバクラのモンスターを焼き尽くす。

 

「クリッターの効果発動。デッキから《バトルフェーダー》を手札に加えるぜ」

 

「ククッ、バトルフェイズを強制終了させるカードか。だがクリッターの効果でサーチしたモンスターの効果は、このターン発動できない。覚悟はできたか、バクラ! オレのライフをラーの攻撃力へと変換する!」

 

闇マリク LP8000 → 100

 

ラーの翼神竜 攻撃力4000 → 11900

 

「受けろ! 不死鳥の羽ばたきを! オレの残留思念ごと消え失せるがいい! ゴッド・ブレイズ・キャノン!!」

 

太陽神(ラー)の能力。それはすべてのモンスターを抹殺し、プレイヤーの命を燃やし尽くす。

 

――ぐあぁぁ!

 

神の業火がマリクの思念ごとバクラを葬り去る。

 

「カハハハッ、神の炎に抱かれて消えろ!」

 

「……チッ、今回はオレ様の負けにしておいてやる」

 

「負け惜しみを」

 

「だが覚えておけ。オレ様は必ず蘇り……テメェを殺す」

 

バクラの身体が闇に溶け、千年リングが乾いた音を立てて地に落ちた。

 

「フフ……あっけないもんだ。次は貴様だ、遊戯……。その後は……すべてを破壊してやる。この衝動は誰にも止められねぇ。クククッ、フヒャヒャヒャッ」

 

マリクが千年リングを拾い上げ、不敵に笑った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「あれがラーの翼神竜か。バクラの敗因は「奪う」ことを基本骨子にしたことかな。ふむ、持久戦は不利だな。速攻で決めるしかない……か。さて、準決勝はどういう組み合わせにはなるやら」

 

レンは小さく嘆息した。

 

 

 




ラーの翼神竜 神属性 レベル10
攻撃力? 守備力? 幻神獣族/効果

このカードを通常召喚する場合、3体をリリースして召喚しなければならない。
①:このカードの召喚は無効化されない。
②:このカードの召喚成功時には、このカード以外の魔法・罠・モンスターの効果は発動できない。
③:このカードが召喚に成功した時、1000LPを払って発動できる。このカード以外のフィールド上に表側表示で存在するカードの効果を無効にする。この効果は無効化されない。
④:このカードは他のカードの効果を受けない。
⑤:このカードがモンスターゾーンに存在する限り、相手はこのカードをリリースできない。
⑥:このカードがモンスターゾーンに存在する限り、他の自分のモンスターは攻撃宣言できない。
⑦:このカードの攻撃力・守備力はリリースしたモンスターの元々の攻撃力・守備力をそれぞれ合計した数値になる。
⑧:1000LPを払って発動できる。このカード以外のフィールド上のモンスターを全て墓地へ送る。この効果は無効化されない。
⑨:100の倍数のLPを払って発動できる。このカードの攻撃力はこの効果を発動するために払ったLPの数値分アップする。この効果は相手ターンでも発動できる。
⑩:このカードの攻撃力を100の倍数の数値分ダウンさせて発動できる。この効果を発動するためにダウンさせた数値分LPを回復する。この効果は相手ターンでも発動できる。
⑪:このカードはすべてのモンスターに一度ずつ攻撃できる。
⑫:このカードが墓地に存在する場合、スタンバイフェイズに発動できる。このカードを墓地から特殊召喚する。この効果の発動に対して効果は発動できない。この効果で特殊召喚したこのカードの元々の攻撃力・守備力は4000となる。
⑬:このカードが特殊召喚されている場合、エンドフェイズに発動する。このカードを墓地へ送る。



ラーは滅びぬ、何度だって蘇るさ!


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第21話 王の拳

人知れず行われた深夜の決闘から一夜明け、決勝トーナメント2日目。

バトルシップは最後の決闘場へと降り立ち、準決勝の幕が上がる。

 

ガレキの中に聳え立つ塔、決闘塔(デュエルタワー)頂上(てっぺん)で決闘が行われるのだ。

そして準決勝の対戦相手は原作のようなバトルロイヤルではなく、普通にアルティメットビンゴマシーンで決まった。

 

準決勝第一戦は、高杉レンvsマリク・イシュタール。

準決勝第二戦は、武藤遊戯vs海馬瀬人。

 

デュエルタワーを昇り、準決勝第一戦が始まる。

 

(まさか本当に神のカード(闇マリク)と闘うことになるとはな)

 

レンは胸中で小さくため息を零した。

 

 

『デュエルッ!!』

 

 

「私のターン、ドロー」

 

「フフフ……闇のゲームの始まりだ……」

 

デュエル開始と同時に、マリクが千年ロッドを翳す。重苦しい闇があたりを包みだした。

 

(やはり闇のゲームか。予想はしていたが、あまり気持ちのいいものではないな)

 

闇の瘴気に息苦しさは感じるが、思ったほどではない。闇のゲームが精神にダメージを与えるといっても、来ると分かっていれば覚悟はできる。そして覚悟を決めた人間はそう簡単には倒れないものだ。

 

「カヒャヒャヒャッ、苦痛にもがけ、あがけ! その度に全身に快感が走るぜェ。うへぁぁぁ」

 

(あの顔は結構イラッとくるな)

 

「……いいぜ。おまえが何でも思い通りにできるってんなら、まずはそのふざけた神をぶっ倒す!」

 

「ガハハハッ、威勢がいいねェ。貴様は闇に沈む運命なんだよォ! 精々踊ってみせなァ!」

 

マリクの哄笑とともに、闇の瘴気がますます強くなっていく。

 

(手札は悪くない。だが手の内を見せすぎるのはまずい。油断しているところを一撃で仕留めるのがこのデッキだ。幸い、相手は俺をなめてくれているようだしな)

 

「カードを1枚伏せてターンエンド」

 

高杉レン LP4000 手札5 モンスター0 伏せ1

 

■:伏せカード

 

□□■□□

□□□□□

 

□□□□□

□□□□□

 

マリク LP4000 手札5 モンスター0 伏せ0

 

――――――――――――

 

「オレのターン、ドロー。モンスター()も引けなかったのかァ? いたぶりがいがねぇな。ならさっくり殺してやるよォ! 《ラーの使徒》を召喚して効果発動。デッキから同名モンスターを2体特殊召喚する。さらに《二重召喚》を発動」

 

召喚権が増えたことで周囲がざわめく。マリクの場にはすでに3体のモンスターがいるのだ。

 

「3体のモンスターを贄とし、神を呼ぶ! 絶対無敵! 究極の力を解き放て! 天を舞え! 太陽の神! いでよ! 《ラーの翼神竜》!!」

 

暗雲を切り裂いて金色(こんじき)の竜が飛来する。神のカードの中でも最高位を誇る神を、マリクはわずか1ターンで呼び出した。

 

ラーの翼神竜 攻撃力3300 守備力1800

 

「ラーの翼神竜の効果発動。ライフを1000捧げ、神の攻撃力へと変換する」

 

マリク LP4000 → 3000

 

ラーの翼神竜 攻撃力3300 → 4300

 

「バトルだァ! ラーの翼神竜でダイレクトアタック!」

 

「罠カード《和睦の使者》を発動。このターン、私のモンスターは戦闘では破壊されず、戦闘ダメージも受けない。まあモンスターはいないがね」

 

「ククッ、ダメージを受けないねぇ。なら試してやるよ! 受けなァ! 神の業火を! ゴッド・ブレイズ・キャノン!!」

 

吐き出された紅蓮の炎がレンを包み込む。その輝きはあたりを真昼のように照らし出した。

炎は肌を焼き、呼吸を妨げるものでは、ない。これは現実の炎ではない。精神を焼く炎だ。すべては幻にすぎない。幻惑だと分かっているはずなのに――

 

(この熱量! これが神の炎か! 一瞬でも気を抜けば……持っていかれる!)

 

飛びそうな意識を必死で繋ぎ止める。灼けるような炎の中心で、レンは歯を食いしばる。

 

「ぐぁああぁぁっ……ぐはぁっ……」

 

「ほぅ、神の業火に耐え切ったか。ククッ、ザコも群れれば一撃くらいは防いでみせるか。カードを2枚伏せてターンエンドだ」

 

マリク LP3000 手札1 モンスター1 伏せ2

 

ラ:ラーの翼神竜 攻撃力4300

■:伏せカード

■:伏せカード

 

□□■□■

□□ラ□□

 

□□□□□

□□□□□

 

高杉レン LP4000 手札5 モンスター0 伏せ0

 

――――――――――――

 

「やはりおまえは……世界の歪みだ。存在してはならない邪悪だ」

 

「カカカッ! 言ってくれるねェ。だがどうにもできないよ、貴様には。精々あがいてオレを楽しませろ。そして最期には神の贄となるんだよォ!」

 

マリクは歪んだ笑みを浮かべてレンを嘲笑する。

 

「その歪んだ因果……俺が断ち切る! 俺のタァァーン、ドロー!」

 

「この瞬間、《ギブ&テイク》を発動。さらにチェーンして永続罠《召喚制限-猛突するモンスター》を発動だァ」

 

マリクが2枚のリバースカードをオープンする。チェーンの逆順処理により、まず《召喚制限-猛突するモンスター》の効果が適用され、続けて《ギブ&テイク》の効果が適用される。

 

「オレの墓地の《ラーの使徒》を貴様のフィールドに守備表示で特殊召喚する。そしてラーの翼神竜のレベルを、そのモンスターのレベル分上げる。まぁ神には何の影響もないがねェ。そして《召喚制限-猛突するモンスター》の効果でラーの使徒は攻撃表示になり、貴様はこのターン、そいつでラーの翼神竜に攻撃しなければならない」

 

攻撃の強制。レンは負けると分かっているモンスターで神に挑まなければならない。そしてラーの使徒は、中々に厄介な効果を持っていた。

 

(特殊召喚もできず、アドバンス召喚のためにリリースすることもできない。攻撃を強要することで1ターンキルを狙うのがやつの戦術か。だが伏せカードが剥がれたのはありがたい。このターンで決める!)

 

「《おろかな埋葬》を発動。デッキから《ワイトベイキング》を墓地に送る。墓地に送られた《ワイトベイキング》の効果により、デッキから《ワイトプリンス》と《ワイトメア》を手札に加え、《ワイトプリンス》を墓地に送る」

 

「ハァン! ザコ共を躍らせてどうするつもりだァ?」

 

「今に分かるさ。墓地に送られた《ワイトプリンス》の効果発動。デッキから《ワイト》と《ワイト夫人》を墓地に送る。《闇の誘惑》を発動。カードを2枚ドローし、《ワイト》をゲームから除外する。手札の《ワイトメア》の効果発動。このカードを墓地に送り、除外されている《ワイト》を墓地に戻す」

 

繰り返されるワイトたちの饗宴(ダンス)。マリクは意図が読めずわずかに困惑していた。この世界はまだまだ情報の伝達が遅いことに加え、低ステータスのモンスターは軽視される傾向にある。

 

「《死者転生》を発動。手札を1枚捨て、墓地の《ワイトメア》を手札に加える。そしていま捨てた《ワイトプリンス》の効果発動。デッキから《ワイト》と《ワイト夫人》を墓地に送る」

 

これで墓地にいる「ワイト」は8体。

 

「《ワイトキング》を通常召喚。このカードの攻撃力は、墓地にいる「ワイト」の数×1000となる」

 

「てことはァ、攻撃力は3000……」

 

「8000だ」

 

「8000だとォ!?」

 

キングはひとり、この俺だ! とばかりにワイトキングが咆哮する。レンが神に対抗するために用意した策は、実にシンプルなものだった。

上から殴る。それだけである。

 

ラーは墓地に置かれれば必勝パターンに入る。相手ターンでは強固な壁になり、4000のライフを回復される。

そして次のターンでは、その回復したライフを攻撃力に変えて必殺の一撃とするのだ。

 

(一応ドローフェイズに隙はあるが……)

 

復活効果自体にチェーンはできないが、その前段階に処理すればいい。《墓穴の指名者》で除外するなり、《転生の予言》でデッキに戻すなど、打つ手はある。

 

(だが相手もそれは予測しているはず)

 

デッキバウンスはともかく、除外ゾーンから墓地に戻すカードはそれなりに多い。

 

(だからこその速攻。ラーの攻撃力は無限じゃない。プレイヤーのライフという限界がある。強力なライフゲインを作られる前に、一撃で仕留める!)

 

ワイトの王は同胞の死を力に変えて神を()つ。

 

「バトルだ。ワイトキングでラーの翼神竜を攻撃!」

 

「チィ、手札のジュラゲドの効果発動。このカードを特殊召喚し、オレのライフを1000回復する」

 

ジュラゲドにはもうひとつ、自身をリリースすることで他のモンスターの攻撃力を上げる効果を持っているが、ラーの翼神竜は他のカードの効果を受けない。それがたとえ自分のカード(仲間)であっても。

 

「さらにライフを3900捧げ、神の攻撃力へと変える!」

 

マリク LP3000 → 4000 → 100

 

ラーの翼神竜 攻撃力4300 → 8200

 

「ハハハハッ! 骸骨ふぜいが神に挑もうということ自体が間違いなんだよォ! ハハハハハハハハッ!!」

 

「手札から速攻魔法《アンデット・ストラグル》を発動」

 

「ハハハ……ハッ?」

 

「《ワイトキング》の攻撃力を1000アップする」

 

王の拳がさらに膨れ上がる。

 

「おまえがザコ共と見下した者たちの力を見るがいい! ワイト・ハンド・クラッシャー!!」

 

「あ、ありえないィ……神が……オレが……こんなヤツに敗れるなど……」

 

白骨の拳が神の翼を撃ち抜いた。

 

「……バカ……な……ギャァアァァ!」

 

断末魔の悲鳴を上げて、マリクの邪悪なる意思は闇に溶けて消えていった。

 

 

 




バクラ戦は相手が千年アイテムの所持者&主人格が憑依中なのでそれなりに警戒していましたが、今回の相手は闇マリク視点だと「ただのおっさん」なので、そこに油断があったのかもしれません。


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第22話 宿命の決闘

マリクの闇人格は倒れた。このデュエルの勝利を確信していた闇人格は主人格(いけにえ)を用意していなかった。

結局はその(おご)りがすべてを良い方向へと導いた。今は気絶しているマリクだが、目覚めれば(ファラオ)の良き協力者となるだろう。

 

「アンティルールにより、これはあなたのものです」

 

磯野が恐る恐る神のカードを拾い上げ、レンへと渡す。レンも内心ではおっかなびっくりであったが、表には出さずにそれを受け取った。

そしてしずしずとイシズが近づいてくる。

 

「今、分かりました。あなたがマリクの"光"だったのですね」

 

(んなわきゃねンだわ。未来予知って結構ザルか? もしかして本人の願望も多少影響されるんじゃないか? いや、この段階だともうその力は失ってるんだったか)

 

むしろオカルトを科学的に考えようとしているレンの方が、前世の常識を引きずりすぎているとも言える。

 

(神を(くだ)したか。やはりあの男、ただ者ではない。クククッ、この俺のロードに花を添えるにふさわしい存在よ。だがその前に――)

 

海馬は視線を宿敵へと向ける。

 

「遊戯ッ! 俺たちの決着をつける時だ!」

「望むところだぜ! 海馬!」

 

遊戯と海馬、宿命のデュエルが、いま始まる。

 

 

『デュエルッ!!』

 

 

「俺のターン、ドロー! 魔法カード《ジョーカーズ・ストレート》を発動。手札を1枚捨て、デッキから《クィーンズ・ナイト》を特殊召喚し、《キングス・ナイト》を手札に加える。その後、いま手札に加えた《キングス・ナイト》を召喚する。さらにキングス・ナイトの効果でデッキから《ジャックス・ナイト》を特殊召喚!」

 

(最速召喚能力を秘めた三剣士を呼び出したか。いきなり呼ぶつもりだな! 遊戯!)

 

海馬は警戒の色を強める。と同時に、その表情には喜色が浮かんでいた。

 

「速攻魔法《神速召喚》を発動。デッキから《オシリスの天空竜》を手札に加え、召喚する!」

 

絵札の三剣士が空へと昇り神を呼ぶ。

 

「カードを2枚伏せてターンエンドだ。そしてエンドフェイズに墓地の《ジョーカーズ・ストレート》と《ジョーカーズ・ワイルド》の効果を発動するぜ。《キングス・ナイト》と《ジャックス・ナイト》をデッキに戻し、この2枚を手札に加える」

 

武藤遊戯 LP4000 手札3 モンスター1 伏せ2

 

天:オシリスの天空竜 攻撃力3000

■:伏せカード

■:伏せカード

 

□□■□■

□□天□□

 

□□□□□

□□□□□

 

海馬瀬人 LP4000 手札5 モンスター0 伏せ0

 

――――――――――――

 

「俺のターン、ドロー! 《トレード・イン》を発動。手札の《青眼の白龍》を捨て、カードを2枚ドローする。《復活の福音》を発動。墓地より蘇れ! 《青眼の白龍》!!」

 

白き龍が翼を広げてフィールドに降り立つ。その瞬間、天より稲妻が降り注いだ。

 

「オシリスの効果発動。召雷弾!」

 

「くっ、だがブルーアイズは倒れん! 手札の《高等儀式術》を公開し、《魔神儀-キャンドール》の効果を発動。このカードと、デッキから《魔神儀-タリスマンドラ》を特殊召喚する」

 

再び天より稲妻が迸る。だが魔神儀たちは平然とその場で踊り続けていた。

 

「さすがだな海馬。もうオシリスの穴を見つけたか」

 

「ふぅん。当然だ」

 

オシリスの能力は、自身の効果で対象のモンスターの攻撃力か守備力が0になった場合に破壊する効果である。

つまり元々の数値が0の場合、オシリスの効果が適用されないのだ。

 

「タリスマンドラの効果でデッキから《ブルーアイズ・カオス・MAX・ドラゴン》を手札に加える。いくぞ遊戯! 貴様が神を呼ぶというのなら、俺もそれに応えねば無作法というもの。見るがいい! 俺が従えし神! 《オベリスクの巨神兵》を!!」

 

3体のモンスターを贄に、破壊の巨神が大地に立つ。だがその直後にオシリスの召雷弾を受け、攻撃力は半減する。

 

「カードを2枚伏せ、ターンエンドだ」

 

海馬瀬人 LP4000 手札2 モンスター1 伏せ2

 

巨:オベリスクの巨神兵 攻撃力2000

■:伏せカード

■:伏せカード

 

■□□□■

□□巨□□

 

□□天□□

■□■□□

 

天:オシリスの天空竜 攻撃力3000

■:伏せカード

■:伏せカード

 

武藤遊戯 LP4000 手札3 モンスター1 伏せ2

 

――――――――――――

 

「俺のターン、ドロー」

 

お互いに最初のターンは神を召喚したことで終わった。同格の神とはいえ、先に出したオシリスの方が攻撃力は圧倒的に高い。

だからこそ――

 

(海馬は攻撃を誘っている)

 

遊戯は警戒する。神には魔法も罠も通用しない。それは海馬も承知しているはず。

 

「だが臆するわけにはいかない! バトルフェイズ! オシリスの天空竜でオベリスクの巨神兵に攻撃!」

 

「やはり攻めてきたか! 罠カード《溟界の呼び(みず)》を発動!」

 

オベリスクの両脇に小さな蛇が2体出現する。その攻守は0であり、オシリスの召雷弾をすり抜ける。

 

「この2体をリリースし、オベリスクの効果発動。オシリスを破壊し、貴様に4000のダメージを与える! ゴッド・ハンド・インパクトォォ!!」

 

オベリスクの拳がオシリスを貫き、その余波が遊戯に直撃する。その刹那――

 

「罠カード《エネルギー吸収板》を発動。オベリスクのダメージを回復へと変換する!」

 

遊戯は1枚のリバースカードを開示し、必殺の攻撃を防ぐ。

 

「ふぅん。これを防ぐか。面白い」

 

「まだだぜ海馬。まだ俺のバトルフェイズは終わっちゃあいない。《マジシャンズ・ナビゲート》を発動。手札から《ブラック・マジシャン》を特殊召喚し、デッキから《ブラック・マジシャン・ガール》を特殊召喚する。ブラック・マジシャンでオベリスクの巨神兵を攻撃! 黒・魔・導(ブラック・マジック)!!」

 

黒魔術師の杖から漆黒の稲妻が迸り、神を撃つ。

 

「ブラック・マジシャン・ガールでダイレクトアタック!」

 

「それは通さん! 罠カード《リビングデッドの呼び声》を発動。墓地より《青眼の白龍》を特殊召喚!」

 

白き龍が再臨し、魔法少女の進撃を阻む。

 

「くっ、攻撃はキャンセルだ。メインフェイズ2へ移り、《星呼びの天儀台》を発動。ブラック・マジシャン・ガールをデッキの一番下に戻し、カードを2枚ドローする。俺はカードを2枚伏せてターンを終了するぜ」

 

武藤遊戯 LP8000 手札2 モンスター1 伏せ2

 

ブ:ブラック・マジシャン 攻撃力2500

■:伏せカード

■:伏せカード

 

■□□□■

□□ブ□□

 

□□青□□

リ□□□□

 

青:青眼の白龍 攻撃力3000

リ:リビングデッドの呼び声(対象:青眼の白龍)

 

海馬瀬人 LP3500 手札2 モンスター1 伏せ0

 

――――――――――――

 

「俺のターン、ドロー! 《高等儀式術》を発動。俺はデッキから――」

 

「待ちな海馬! 俺はチェーンして《手札断殺》を発動。お互いに手札を2枚捨て、2枚ドローする」

 

「なんだとっ!?」

 

海馬の手札は2枚。よって今持っているカードをすべて捨て、新たに2枚ドローしなければならない。

 

「くっ、俺の手札に儀式モンスターはいない。《高等儀式術》は不発になる。だがこの程度では止まらん! フィールドの《青眼の白龍》をリリースし、《アドバンスドロー》を発動!」

 

「甘いぜ海馬! 俺は墓地の《マジシャンズ・ナビゲート》の効果を発動するぜ! このカードを除外し《アドバンスドロー》の効果を無効にする!」

 

「甘いのは貴様だ遊戯! フィールドに残った《リビングデッドの呼び声》を墓地に送り《マジック・プランター》を発動。カードを2枚ドロー!」

 

窮地から2枚のドローカードを引き込む海馬の剛腕に、遊戯は昂揚を隠せなかった。海馬瀬人、やはり尋常のデュエリストではない。

 

「《竜の霊廟》を発動。デッキから《青眼の白龍》を墓地に送り、追加効果で最後の《青眼の白龍》を墓地に送る。いくぞ遊戯! 《竜の鏡》を発動。墓地に存在する3体の《青眼の白龍》を素材として除外し、飛翔せよ! 《真青眼(ネオ・ブルーアイズ)の究極竜(・アルティメットドラゴン)》!!」

 

白き翼を広げた三つ首の龍が雷雲を裂いて飛翔する。

 

「これが至高にして究極。ブルーアイズの最強進化系の姿だ! ブラック・マジシャンを攻撃! ハイパー・アルティメット・バァァァーストッ!!」

 

真青眼の究極竜とブラック・マジシャンが激突するその瞬間、光が広がった。周囲の景色が一変し、あたりは遺跡内部のような光景に変わる。

 

――神のもとに、黒き魔術師と白き龍が交じり合う時、記憶の扉が開かれる

 

イシズの手に預けられていた千年錫杖(ロッド)が輝きを放ち、ふたりの決闘者を包み込んだのだ。

その記憶の光の中で、ふたりは俯瞰でデュエルを見ていた。

対峙しているのは海馬と遊戯(己自身)に瓜二つの人物。

黒き魔術師を操る若き王と白き幻獣使いの神官。

 

「――ッ!!」

「――ッ!!」

 

ふたりが何事かを叫び、互いのしもべがぶつかり合う。その衝撃によって、海馬と遊戯は現実に引き戻された。

 

「なんだというのだ……あのビジョンは……」

 

「……ようやく理解したぜ海馬。俺たちが闘うことは3000年前からの宿命だった。俺たちは闘うべき運命にあったとな!」

 

「ふぅん。3000年前がどうのなど非ぃ科学的なことはどうでもいいが、俺たちが闘う宿命だったというのは否定せん。だが遊戯! その勝負もこれで決した! ダメージステップ終了時、EXデッキから2枚目の《真青眼の究極竜》を墓地に送り、このカードは再度攻撃できる」

 

「連続攻撃だとっ!?」

 

「所詮、神ですらも俺たちの闘いの添え物でしかなかったということだ! やはり貴様にとどめを刺すのは、神をも超越した我が最強のしもべ、ブルーアイズ!」

 

再び至高のブレスが遊戯を襲う。

 

「ぐぁぁああぁぁっ!!」

 

「まだだ! 真青眼の究極竜の効果は1ターンに2度まで発動できる。EXデッキから最後の《真青眼の究極竜》を墓地に送り、最後の攻撃を行う! 俺の記憶に巣食う石板ごと粉砕してくれるわ! 喰らえ! ハイパー・アルティメット・バァァァーストッ!!」

 

勝利を確信した海馬のラストアタックが遊戯を襲う。だがその光の奔流が遊戯に届く直前、黒い毛玉が遊戯の盾となった。

 

「まだだ! ダメージ計算時に《クリボー》の効果を発動。戦闘ダメージを0にするぜ!」

 

「この攻撃も防ぎきるか。面白い。ターンエンドだ」

 

「エンドフェイズに墓地の《ジョーカーズ・ストレート》の効果を発動するぜ。《クィーンズ・ナイト》をデッキに戻し、このカードを手札に戻す」

 

海馬瀬人 LP3500 手札0 モンスター1 伏せ0

 

真:真青眼の究極竜 攻撃力4500

 

□□□□□

□□真□□

 

□□□□□

■□□□□

 

■:伏せカード

 

武藤遊戯 LP1500 手札2 モンスター0 伏せ1

 

――――――――――――

 

「俺のターン、ドロー! 《ジョーカーズ・ストレート》を発動。手札を1枚捨て、デッキから《クィーンズ・ナイト》を特殊召喚し、《キングス・ナイト》を手札に加える。その後、いま手札に加えた《キングス・ナイト》を召喚する。さらにキングス・ナイトの効果でデッキから《ジャックス・ナイト》を特殊召喚!」

 

「ふぅん。壁を並べるだけか? ならば次のターンに粉砕するだけだ」

 

「慌てるなよ海馬。《クィーンズ・ナイト》を墓地に送り、《馬の骨の対価》を発動。カードを2枚ドローするぜ」

 

その瞬間、遊戯の目がカッと見開いた。

 

(城之内くん。キミの想い()、確かに届いたぜ!)

 

決勝で闘おうと約束した親友は、無念にも一回戦敗退という結果になった。

そして託されたカード(想い)が、遊戯の窮地に光を与える。

 

(俺の失われた記憶を取り戻すために、海馬! 俺は貴様を倒す!)

 

遊戯の前に光の道が浮かび上がる。

 

「勝利のピースはすべて揃った。リバースカード《ジョーカーズ・ワイルド》を発動! デッキから《絵札融合》を墓地に送り、その効果を適用する。そして絵札融合は俺のフィールドに絵札の三剣士のいずれかが存在する場合、デッキのモンスター1体を融合素材とすることができる。俺は手札の《真紅眼の黒竜》と、デッキの《バスター・ブレイダー》を融合する。現れろ――」

 

稲妻が迸り、巨大な剣が舞う。それを掴み取ったのは白銀の鎧を身に纏うドラゴンスレイヤー。

 

「《竜破壊の剣士-バスター・ブレイダー》!!」

 

それは、剣というにはあまりにも大きすぎた。大きく、分厚く、重く、そして大雑把すぎた。

それはまさに鉄塊だった。

竜を狩るためだけに作られた竜殺しの魔剣。その剣の前では、いかなるドラゴンであっても膝を折る。

 

「このカードがモンスターゾーンにいる限り、相手のドラゴン族は守備表示となり、ドラゴン族の効果は発動できない」

 

「それが貴様の切り札か!」

 

「さらにこのカードの攻撃力・守備力は、相手のフィールド・墓地にいるドラゴン族の数×1000アップする」

 

青眼の白龍3体は除外されてしまったが、海馬の墓地にはブルーアイズ・カオス・MAX・ドラゴンと、2体の真青眼の究極竜がいる。

 

竜破壊の剣士-バスター・ブレイダー 攻撃力2800 → 6800

 

「だがその程度の攻撃力では、俺を倒し切ることはできんぞ!」

 

バスター・ブレイダーが貫通能力を持っているといっても、真青眼の究極竜の守備力は3800の上、海馬の墓地にはドラゴン族を破壊から守る《復活の福音》がある。海馬のライフを削り切るにはわずかにとどかない。

 

「言ったはずだぜ海馬。勝利のピースはすべて揃ったと。速攻魔法《異次元からの埋葬》を発動。除外されている3体の《青眼の白龍》をおまえの墓地に戻す。これにより、竜破壊の剣士-バスター・ブレイダーの攻撃力はさらに3000アップ!」

 

竜殺しの魔剣は必殺の剣となって、その切っ先を白き龍へと突きつける。

 

「海馬、独りの力をいくら極めようと、結束の前には敵わないぜ!」

 

「ぐっ、そんな妄言は聞き飽きたわ!」

 

「思い出せ海馬! かつての貴様も、孤独(ひとり)ではなかったはずだ!」

 

遊戯の熱のこもった言葉に海馬はたじろいだ。そしてチラリと視線を移す。海馬剛三郎という人間に人生を狂わされる前、海馬にも確かに在ったのだ。モクバ()と共に笑いあった過去(思い出)が、語り合った未来()が。

 

「過去は葬り去るものじゃない。乗り越えていくものだ! 海馬! 貴様の闇を切り裂く! 竜破壊の剣士-バスター・ブレイダーで真青眼の究極竜に攻撃! 破壊剣一閃!!」

 

竜殺しの魔剣が白き龍の鱗を切り裂く。この一撃により、宿命のデュエルは決着した。

 

 

 




未来予知について。
「断片的に未来を見ることができ、絶対にはずれない」らしいですが、海馬に覆されています。
絶対にはずれないとは一体……。

断片的に、というところがミソな気がします。すべてを見通せるわけではない、と。
まあすべてを見通せるなら海馬を利用しなくてもマリクの捕獲くらいできそうなもんだと思うんですよ。イシズはエジプトでかなり高い権限を持っているので、ある程度人は動かせるでしょうし。
なので未来予知については、ある程度ガバ設定ということでお願いします。


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第23話 激闘の決勝戦

(負けた……俺が……この……俺が……)

 

海馬は崩れ去るブルーアイズを呆然と眺める。

 

(亡き義父によって刻みつけられた憎しみを抱え――復讐の墓標(モニュメント)――その頂上に立ち――)

 

消え去ったブルーアイズの先には、悠然と立つ宿敵の姿があった。

 

(遊戯……貴様は……俺の……)

 

奥歯を噛みしめながら、海馬は虚空に手を伸ばす。

 

「海馬。今、俺と貴様の間に勝敗の境界は存在するが、力の差はない!」

「くっ、(あわ)れみのつもりか。遊戯ッ!」

「海馬。俺は決闘者としての貴様は認めているつもりだ。だがな、怒り、憎しみ、そんなものをいくら束ねたところで、俺には届かないぜ!」

 

海馬の心中にあったもの。それは遊戯を倒し《決闘王》の称号を手に入れることで、忌まわしき過去と決別すること。

 

「海馬。貴様は気づいていないのかもしれない。いや、認めたくなかったのかもしれないな。孤高であることが強者の証とでも思っていたのか? あえてもう一度言うぜ。貴様は最初から、孤独(ひとり)ではなかったとな」

 

「――くっ」

 

海馬はデュエルリングの外へと目を向ける。そこには目に涙を溜めてこちらを見つめている(モクバ)の姿があった。

 

「その想いをカードに乗せることができていたら、結果は違っていたかもしれないぜ」

「フン! 吠えるのは勝者にのみ与えられた特権。今は黙して引いてやるわ。遊戯! 受け取るがいい!」

 

海馬はデュエルディスクから1枚のカードを取り出し、遊戯に投げつける。

神のカード、《オベリスクの巨神兵》が遊戯の手に渡った。

 

「確かに受け取ったぜ! 海馬」

「遊戯、俺を倒した以上、決勝戦で敗北することは断じて許さん! いくぞ、モクバ!」

「うん、兄サマ!」

 

海馬は白いコートをたなびかせながら、塔の中へと戻っていった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

決勝戦までのわずかな休憩時間、遊戯は部屋でデッキ調整に勤しんでいた。

というのも、決勝の相手である高杉レンの戦術がまったく読めないからである。

 

一回戦で使用した《人造人間-サイコ・ショッカー》は、罠カードを封殺する強力なカード。ならばデッキに入れる罠カードは少なめにした方がいいのか。

 

二回戦で使用した《ワイトキング》は、ラーの翼神竜に正面から撃ち勝つほどの力を秘めたカード。状況次第では攻撃力10000を超えてくる可能性もある。

 

あるいは城之内とのデュエルで使った魔術師デッキ。遊戯が知っているだけでも3つのデッキがある。

そして忘れてはならないのが《ラーの翼神竜》だ。オシリスやオベリスクの効果さえとどかない最高位の神。

だがその弱点は露呈された。他のカードの効果を受けないという弱点(・・)。オシリスやオベリスクも同じような効果を備えているが、ラーの翼神竜はより顕著である。

 

数多(あまた)のデッキを使いこなすデュエリスト。その全貌はまだ見えない。

 

――どう思う? 相棒

 

(ワイトはないと思う。あれは必要なパーツが多いから専用のデッキでないと真価が発揮できない。それに爆発力はあるけど、安定感があるとは言い難いから、決勝戦で使うとは思えないかな。それに、あの人がネタの割れた手を使うとも思えない)

 

――確かにな

 

相棒の言い分に納得する遊戯。

どちらの遊戯も、レンはデュエリストとしてかなり高い次元にいると思っていた。

海馬のような分かりやすい力強さは見えないが、知識・戦術・理解力・応用力といった点では海馬を凌ぐかもしれない。

そして太陽神(ラー)の炎にも耐えきる強靭な精神(こころ)。あれこそが真の決闘者だと感銘を受けたほどだった。

 

さらに遊戯はレンの癖のようなものにも気づいてた。レンは速攻を好む。防御カードは必要最低限しか積んでいないだろう。

決勝戦はおそらく殴り合いになる。そんな予感があった。

 

――かつてない激闘になる

 

遊戯の額に冷たい汗が流れる。海馬戦とはまた違った意味の緊張を感じていた。

結局、遊戯のデッキが完成したのは時間ギリギリになった頃だった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

場所は移り、レンもまたデッキ構築に頭を悩ませていた。主にラーの翼神竜について。

 

(神は特殊召喚モンスターではない。直で墓地に送っても蘇生できる。だが弱点もある)

 

それはレン自身も考えた除外やデッキバウンスだ。フィールドではほぼ無敵に近い存在だが、墓地にいる間は隙ができる。

 

(回復効果を逆手に取られる可能性もある)

 

回復をダメージに変換する《シモッチによる副作用》を使われるとラーの強みが封殺される。

効果を受けないのはあくまでラー自身であって、プレイヤーではないのだ。

 

(そういえばバーンカードに制限はかかっているが、回復カードにはかかってないんだよな)

 

《シモッチによる副作用》、《ギフトカード》、《成金ゴブリン》でゲームエンドになる。

 

(神を無視されることも考えられる)

 

つまり直接攻撃だ。例えば《流星の弓-シール》を採用したベンケイ1キルなど。

 

(ネタが割れれば意外と弱点多いな。もしかして神ってそんなに強くない……?)

 

相手が神を持っていることが分かっていれば、対策はいくらでもあるということだ。

 

(そもそも俺が使って大丈夫なのか? バクラは普通に使っていたが、たぶんマリクの主人格が憑依してたはずだから、ギリセーフという判定だったかもしれんし……)

 

神の怒りを買うのは避けたいレンだった。

 

(というか、あの精神を焼く炎は何なんだろうな)

 

ラーの翼神竜(神のカード)自体の力なのか、闇マリクの力なのか、千年ロッドの力なのか、あるいは複合的なものか。そもそもプレイヤーが制御できるものなのか。

 

(まあ、使わない方が無難だろう。さて――)

 

レンは改めてカードケースに目を移す。

 

(デュエルが常に劇的であるとは限らない。あっさりと終わることもあれば、ぐだついて終わることもある)

 

むしろ()のデュエルでは、先攻を取れないのはプレミ、初手に手札誘発を引けないのはプレミ、などと揶揄されるくらいの魔境だった。

かと思えば、お互いに手札事故を起こしてぐだることも稀によくあった。

 

(そうだ、デュエルが常に劇的である必要はない。決勝戦だからといって盛り上げてやる必要もない。武藤遊戯、キミにも決闘者としてのプライドがあるだろう。神のカードを渡して、はい終わりでは味気ない。俺はキミに全力で挑もう)

 

それからしばらくの時間が経ち、レンのデッキは完成した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「只今より、バトルシティ・トーナメント決勝戦を開始する!」

 

天高く掲げられた磯野の手が振り下ろされ、遂にバトルシティ最終戦の幕が上がる。

 

 

『デュエルッ!!』

 

 

先攻を得たのはレン。

 

「私のターン、ドロー。《ワン・フォー・ワン》を発動。手札の《フォーチュンレディ・ウォーテリー(モンスター1体)》を墓地に送り、デッキから《フォーチュンレディ・ライティー》を特殊召喚。続いて《ルドラの魔導書》を発動。フィールドのライティーを墓地に送り、カードを2枚ドロー。ライティーの効果でデッキから《フォーチュンレディ・ダルキー》を特殊召喚。《死者蘇生》を発動。墓地のウォーテリーを特殊召喚して、効果でカードを2枚ドロー」

 

目まぐるしく魔法少女たちが入り乱れる。度重なるドロー、手札交換に遊戯は警戒を強める。

 

「《ワンダー・ワンド》をウォーテリーに装備。そしてこのカードとウォーテリーを墓地に送り、カードを2枚ドローする。《融合派兵》を発動。EXデッキの《E・HERO サンダー・ジャイアント》を公開し、デッキから《E・HERO スパークマン》を特殊召喚する」

 

魔法少女に続いて、雷を操るヒーローが現れ――

 

「《トランスターン》を発動。スパークマンを墓地に送り、《サイレント・ソードマン LV5》を特殊召喚」

 

その姿が青き意匠の衣を身に纏った沈黙の剣士へと変わる。

 

「《闇の誘惑》を発動。カードを2枚ドローし、《人造人間-サイコ・ショッカー(闇属性モンスター)》を除外する。ダルキーをリリースして《威光魔人(マジェスティー・デビル)》をアドバンス召喚。手札を1枚捨て、《D・D・R》を発動。除外されている《人造人間-サイコ・ショッカー》を特殊召喚して、このカードを装備する」

 

後光の差す悪魔に続いて、次元の彼方から電脳の人造人間が帰還する。

 

「最後に《レベルアップ!》を発動。サイレント・ソードマン LV5を墓地に送り、デッキから《サイレント・ソードマン LV7》を特殊召喚」

 

さらに沈黙の剣士が最終進化を遂げ、ひときわ巨大となった大剣を構える。

 

「カードを1枚伏せてターンエンド」

 

手札を全て使い切る猛攻を見せ、レンはターンを終えた。

 

高杉レン LP4000 手札0 モンスター3 伏せ1

 

威:威光魔人 攻撃力2400

サ:人造人間-サイコ・ショッカー 攻撃力2400

7:サイレント・ソードマン LV7 攻撃力2800

D:D・D・R(対象:人造人間-サイコ・ショッカー)

■:伏せカード

 

D□■□□

□威サ7□

 

□□□□□

□□□□□

 

武藤遊戯 LP4000 手札5 モンスター0 伏せ0

 

――――――――――――

 

「俺のターン、ドロー!」

 

威光魔人の効果は、場所を問わずモンスター効果が発動できなくなるというものだが、サイコ・ショッカーもサイレント・ソードマン LV7も、発動しない永続効果のため、威光魔人の影響を受けない。

 

これにより魔法・罠・モンスター効果をすべて封殺することができる。

だが当然、完璧な盤面というわけではない。まず壊獣などのリリースには無力だ。ラヴァ・ゴーレムでまとめて除去されれば最悪である。

 

リリースを警戒して《生贄封じの仮面》にするか、罠カード自体を封じる《王宮のお触れ》または《人造人間-サイコ・ショッカー》を採用するか迷ったあげく、遊戯の性格(デッキ)を考慮してお触れとサイコ・ショッカーを投入した。

 

「手札を1枚捨て、《幻想の見習い魔導師》を特殊召喚するぜ!」

 

「発動しない特殊召喚か。だがサーチ効果は発動できない」

 

「承知の上だ。さらに幻想の見習い魔導師(魔法使い族モンスター)をリリースして《沈黙の魔術師-サイレント・マジシャン》を特殊召喚! そして《サイレント・ソードマン LV3》を通常召喚するぜ!」

 

並び立つ沈黙の魔術師と沈黙の剣士。レンの眉がピクリと動いた。あの2体のサポートカードには、決して止めることのできないカード(・・・・・・・・・・・・・・・・)が存在する。

 

「バトルだ! そしてバトルフェイズに速攻魔法《サイレント・バーニング》を発動。お互いのプレイヤーは、手札が6枚になるようにドローする。俺の手札が増えたことにより、サイレント・マジシャンの攻撃力もアップするぜ! サイレント・ソードマンLV7を攻撃!」

 

サイレント・マジシャンの攻撃力が一気に4000まで跳ね上がり、その魔術が沈黙の剣士を襲う。

 

高杉レン LP4000 → 2800

 

「サイレント・ソードマンLV3で威光魔人を攻撃! そして手札から速攻魔法《沈黙の剣》を発動。サイレント・ソードマンLV3の攻守力を1500アップさせる」

 

続けて巨大化した沈黙の剣(サイレント・ソード)が威光魔人を両断した。

 

高杉レン LP2800 → 2700

 

「まだまだいくぜ! 《ディメンション・マジック》を発動。フィールドの《サイレント・ソードマン LV3》をリリースし、手札から《ブラック・マジシャン》を特殊召喚。そして《人造人間-サイコ・ショッカー》を破壊するぜ!」

 

そして最後に残ったサイコ・ショッカーも、遊戯のマジックコンボにより粉砕される。

 

「ブラック・マジシャンでダイレクトアタック! 黒・魔・導(ブラック・マジック)!」

 

「手札から《バトルフェーダー》の効果発動。このカードを特殊召喚し、バトルフェイズを終了する」

 

「くっ、墓地の《沈黙の剣》と《サイレント・バーニング》を除外して効果を発動するぜ。デッキから《沈黙の剣士-サイレント・ソードマン》と《サイレント・マジシャン LV8》を手札に加える。カードを2枚伏せてターンエンドだ」

 

最後の一撃はとどかなかったものの、遊戯は見事に盤面を覆してターンを終えた。

 

「エンドフェイズに罠カード《王宮のお触れ》を発動」

 

武藤遊戯 LP4000 手札3 モンスター2 伏せ2

 

ブ:ブラック・マジシャン 攻撃力2500

沈:沈黙の魔術師-サイレント・マジシャン 攻撃力2500

■:伏せカード

■:伏せカード

 

■□□□■

□ブ□沈□

 

□□バ□□

□□触□□

 

バ:バトルフェーダー 守備力 0

触:王宮のお触れ

 

高杉レン LP2700 手札5 モンスター1 伏せ0

 

――――――――――――

 

「私のターン、ドロー。ライフを1000払い、《簡易融合》を発動」

 

遊戯の場には、1度だけ魔法カードの発動を無効にできる沈黙の魔術師-サイレント・マジシャンがいる。

だが遊戯はこれを通した。

 

「EXデッキから《サウザンド・アイズ・サクリファイス》を融合召喚扱いとして特殊召喚する。そして効果発動。《沈黙の魔術師-サイレント・マジシャン》をこのカードに装備する」

 

「手札の《ホーリー・エルフ-ホーリー・バースト・ストリーム》の効果を発動するぜ。このカードを特殊召喚し、その効果を無効にする!」

 

遊戯の手札から飛び出た聖なる光が、千眼呪縛を弾き返す。

 

「《フォーチュンレディ・ライティー》を通常召喚。そしてこのカードと、《沈黙の魔術師-サイレント・マジシャン》を対象に、手札の《時花の賢者-フルール・ド・サージュ》の効果発動。対象のカードを破壊し、このカードを特殊召喚する」

 

「くっ、破壊された《沈黙の魔術師-サイレント・マジシャン》の効果発動。手札から《サイレント・マジシャン LV8》を特殊召喚するぜ!」

 

白い髪をたなびかせながら、最上級の沈黙の魔術師が遊戯のもとに馳せ参じる。

 

「こちらもライティーの効果を発動。デッキから《フォーチュンレディ・ファイリー》を特殊召喚。ファイリーの効果発動。《サイレント・マジシャン LV8》を破壊し、その攻撃力分のダメージを与える」

 

「なにっ!? ぐあっ!」

 

武藤遊戯 LP4000 → 500

 

「《円融魔術(マジカライズ・フュージョン)》を発動。墓地のライティー、ウォーテリー、ダルキー、そしてフィールドのファイリーとサウザンド・アイズ・サクリファイス、5種5体の魔法使い族をゲームから除外し、《クインテット・マジシャン》を融合召喚」

 

魔術文字が空間を侵食していく。それはやがて五つの魔法陣を形成し、魔力の奔流を生み出した。

その光は遊戯のフィールドのカードをすべて破壊していく。

 

「破壊された《運命の発掘》の効果発動。カードを1枚ドローするぜ!」

 

王宮のお触れの効果が適用されるのは、あくまでフィールドの罠カードのみ。墓地で発動する罠カードには影響しない。

 

「バトル」

 

「墓地の《光の護封霊剣》を除外して効果発動。このターン、相手モンスターは直接攻撃できないぜ!」

 

(用心深さがあだとなったか。もっと強引に攻めても良かったかもな)

 

クインテット・マジシャンの全体破壊効果を狙い過ぎたとレンは反省する。

 

「ターンエンド」

 

高杉レン LP1700 手札2 モンスター3 伏せ0

 

バ:バトルフェーダー 守備力 0

ク:クインテット・マジシャン 攻撃力4500

フ:時花の賢者-フルール・ド・サージュ 攻撃力2900

触:王宮のお触れ

 

□□触□□

□□バクフ

 

□□□□□

□□□□□

 

武藤遊戯 LP 500 手札2 モンスター0 伏せ0

 

――――――――――――

 

「俺のターン」

 

デッキに指を添える。恐らくはこれがラストターンになる。このターンに逆転できなければ、自分は負ける。遊戯の直観がそう告げていた。

肺に溜まっていた重い空気を吐き出し、運命のカードを引く。

 

「――ドロー!」

 

引き込んだのは、いま遊戯がもっとも欲していたカード。

 

「このカードをドローした時、相手に公開することで、このカードは手札から特殊召喚できる。こい、我がしもべ! 《守護神官マハード》!」

 

光の中から、太陽のような金色(こんじき)の鎧に身を包んだ魔術師が現れ、遊戯の前にひざまずく。

 

(ここでマハードを引き当てるか)

 

遊戯の引きに目を見張りつつも、その表情は崩れない。何故なら、遊戯が攻撃してきた瞬間に、自分の勝利が確定するからだ。

 

「いくぜ! マハードで時花の賢者-フルール・ド・サージュを――」

 

マハードに攻撃指令を出そうとした瞬間、遊戯のデュエリストとしての勘が待ったをかけた。

このまま攻撃すればやられる――と。

 

遊戯は気持ちを落ち着けてフィールドを眺めた。伏せカードはない。だとすれば、この直観の正体はレンの手札にある。

遊戯は己の知識を総動員し――その正体に辿り着いた。

 

「俺はこの閃光(ひらめき)を信じる! 手札から速攻魔法《抹殺の指名者》を発動。デッキから《ダーク・オネスト》を除外し、このターン終了時まで除外したカード及びそのカードと元々のカード名が同じカードの効果は無効化される!」

 

その瞬間、レンの表情は確かに驚愕に彩られていた。

 

「マハードで時花の賢者-フルール・ド・サージュを攻撃! このカードが闇属性モンスターと戦闘を行うダメージステップの間、このカードの攻撃力は倍になる!」

 

集束した光の魔術が、デュエルを終焉へと導く。

 

「バトルシティ決勝戦――勝者、武藤遊戯!!」

 

磯野の手が上がり、勝者の名が高らかに宣言された。

 

 

 




ダメステいいっすか?
ダメです。


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第24話 新しい旅が始まる

バトルシティは原作通り、武藤遊戯の優勝で幕を閉じた。

というより神のカードを3枚所有しないと、王の記憶的にマズいのだろう。

 

(となると、神のカードが生まれてくるのは必然だったのかもしれんな)

 

そう思わなくもないが、やはりカードが無から発生するのは、いかんともしがたいモヤモヤとしたものを感じる。

これはレンがこの世界の住人になりきれていない証拠かもしれない。

 

(結局、神のカードがどこから来たのかは、分からずじまいだが……)

 

イシズ曰く、気がつけばそこに在ったらしい。

ともあれバトルシティは無事に終わり、レンはアメリカへと帰国した。そこでレンは役員に振り分けることの出来ない仕事に従事していた。

エジプト政府との折衝である。

墓守の一族はエジプトでも中核をなす存在であり、(まつりごと)には関与していないが国の重鎮のようなものである。

 

この世界のマリクは世界的な犯罪組織(グールズ)首領(ドン)ではなく、愚連隊の(ヘッド)のようなものだが、相手が悪かった。

世界的な企業である海馬コーポレーションの主催する大会を荒らし、I2社の社長にも迷惑をかけた(と思っている)とあっては、彼らが焦りを見せるのも無理からぬことであろう。

 

海馬はすでに一切不問(どうでもいい)と回答しており、現在はI2社と交渉している。海馬のように一刀両断できぬ回答をしたレンにエジプト政府も不安を感じてるのだ。このあたりはレンの落ち度であった。

最終的にはマリクの被害を被った者たちの救済を命じて場を治めた。

原作ほどではないが、マリクの被害者は多い。これから彼の贖罪の旅が始まるだろう。

 

(そもそもマリクを罪に問うというのが、かなり無理筋な気がする)

 

それを立証するためには、まず「洗脳」について証明しなければならない。

 

問.どうやって洗脳しましたか。

答.千年錫杖(ロッド)を使用しました。

 

(法律には詳しくないが、通るのかこれ?)

 

しかもエジプト政府は千年アイテムを秘匿する方向で話を進めようとしている。さらに一番の被害者である(かどうかは分からないが)遊戯が罰を与えるよりも罪を償うべきというスタンスなのだ。

 

(あれ? 最初の頃は嬉々として「罰ゲーム!」とかやってたような……)

 

初期のことは言ってやるな。

 

(まあ千年ロッドが証拠物件として警察機関に押収されるのも(ファラオ)的にマズいってのもあると思うが……なんにせよ軟着陸に成功してよかった)

 

レンにとってもこの問題を騒ぎ立てて遊戯の怒りを買うのは得策ではないのだ。それだけならまだしも、(ファラオ)の邪魔をすればあの男(・・・)が出張ってくる可能性だってある。

それだけは避けたいレンだった。

 

(今頃は記憶編あたりか……。KCグランプリもやるかどうか……)

 

さすがにバトルシティから一ヵ月も経たぬうちに世界規模の大会を開くつもりはないようで、噂すら聞こえてこない。

 

(とりあえずは落ち着いたということか)

 

この後、遊戯と王の「闘いの儀」を持って物語は完結を迎える。遊戯たちの道はこれからも続いていくだろうが、その未来(さき)はレンの与り知らぬことである。

 

「レン」

 

と。

 

呼びかけられ、レンは思索を止めた。顔を横に向けると、眠りから覚めたペガサスがこちらをのぞき込んでくる。

 

「最近頑張りすぎじゃないのか? 別にカードデザインは急ぐ必要もないぞ」

「溢れ出るインスピレーションをそのままにはしておけないのデース。思いついた瞬間にラフスケッチくらいは済ませなければなりまセーン」

 

それを聞いて、レンは小さくため息をついた。この職人気質なところは昔から変わっていない。

ふたりはいま車中にいた。海馬ランドUSAのプロモーションを兼ねたジュニアのデュエル大会を観戦するために、ラスベガスのデュエルスタジアムに向かっているのだ。

 

「海馬ボーイに会うのも久しぶりデスね。バトルシティでは惜しいところでシタ。アナタもね」

「そうか?」

 

準優勝という結果だったが、レンとしては満足のいくものだった。勢い切って挑んだものの、どうにも遊戯に勝つというビジョンが浮かばなかったのだ。

 

(そもそも俺が勝ってたらどうなってたんだろうな? 色々と台無しになっていたような気がする)

 

意図せずして破滅への引き金を引いていたのかもしれないと考え、レンは小さく身震いした。

 

「そういえば聞きまシタか? 海馬ボーイはデュエリストの養成所を造る計画を立てているようデスよ」

「らしいな」

 

この世界ではスターターデッキの販売や、初心者向けのデッキレシピの公開など、入り口を広くしているためデュエリストのレベルはそれなりに高い。

だが海馬から見ればまだまだなのだろう。

 

(まあ原作でも描写がないだけでスターターデッキや構築済みデッキも販売していたのかもしれないが)

 

と考えるも確かめるすべはない。そもそもこの世界はプレイ人口が桁違いだ。デッキを持ってない人間を探す方が難しいレベルである。

 

I2社(ウチ)も負けていられまセン」

「そうだな」

 

ペガサスはデュエリスト養成所の構想を語った。

 

(デュエルアカデミア・アメリカ校か。面倒なことにならなければいいが)

 

「レンにはぜひそこの校長を務めていただきたいのデース!」

「……ああ、そのために夜行と月光を俺に付けたのか」

 

これからはあのふたりがI2社を支えていくだろう。レンは社長から校長になる。ペガサスはそこまで計画していたのだ。

 

「相変わらず食えんやつだ」

「社長の椅子にそこまで執着はしていないのでショウ?」

「まあな」

 

ペガサスはいたずら好きではあるが、本気で嫌がることはしない。校長の件についても、レンが本気で拒否すればおとなしく引き下がるだろう。

だがレンは断るつもりはなかった。

 

(どうせならアメリカ校ではなく、サティスファクションスクールとでもしてやろうか)

 

レンは苦笑した後、かぶりを振った。

今まで厄介事も多かったが、それなりに楽しんでもいたのだ。

 

「受けてもらえマスか?」

「まぁ、それも面白いかもしれんな」

 

レンは小さく肩をすくめた。

 

 

 




というわけで完結です。
評価、誤字報告、感想を下さった方々に感謝を。
最後までおつき合いいただきありがとうございました。

最後にちょっとだけ主人公の設定を。
主人公は、精霊は見えないけれど好かれる体質です。
GX編のトム少年みたいなタイプですね。(ジェリービーンズマンに好かれていた少年。DM編のトムとは別人)

王国編でバクラにまとわりつこうとしていたり(捕食植物)、バトルシティ編で闇マリクの攻撃を防いで弱めてくれていたり(ワイトファミリー)、要所要所で頑張ってくれています。
精霊を認識できるオリ主は多いですが、こういう系統の主人公はあまりいないかなと。
あと主人公はころころデッキを変えるので、特定の精霊と契約?すると自由度が減るというメタ的な理由もあります。


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第25話 学園計画


お久しぶりです。もうちょっとだけ続けます。まあボチボチと。



アメリカは都会とそうでない地域の差が大きい国である。レンやペガサスの生まれたネバダ州は、世界でも最大級のカジノの都、ラスベガスのある州だ。

大小のカジノホテルが存在し、俗に「眠らない街」とも呼ばれている。

そこから東にふたつの州を越えていくと、穀倉地帯として有名なネブラスカ州がある。

いわゆる田舎とされる地域だ。交通の便も悪く、娯楽も少ない。

レンはそこに居を構えるある人物を訪ねていた。

 

「しかしあんたも律義だね。メールで済む用件だろうに」

「顔を見て話したかったのですよ。ミセス」

「日本人らしいおためごかしだねぇ」

 

マイコ・カトウはクスリと笑った。悪い気はしていないらしい。

レンは日本人ではなく、日系アメリカ人なのだが、わざわざ訂正するほどのことではない。

マイコ・カトウも同じく日系人なのだが、日本人としての文化を好んでいるようだ。

 

(年代的に純粋な日本人の可能性もあるな)

 

いわゆる戦前戦後に移住してきた日本人のことだ。あの時代はかなりゴチャゴチャしており、日系移民の排斥運動などもあった激動の時代だ。

レンもあえて仔細を調べようとはしなかった。過去を探られて気分の良い人間は少ないだろう。

 

「今日はお答えを伺いに参りました。此度新設されるデュエルアカデミアで教鞭を取っていただけませんか? 教頭の席を用意しております」

 

マイコ・カトウがカードプロフェッサーを引退し、3人の孫もすでに彼女の手を離れていることくらいは調べている。

レンは彼女に教鞭を取らないかと勧誘しているのだ。

 

「……この車椅子、調子がいいわ。I2社ではこんなものも作ってるんだねぇ」

「いえ、実は製作したのは海馬コーポレーションなのですよ。ここだけの話、KCでは新たにバイク型のデュエルディスクを開発しているようで、その応用だそうです」

「バイクに乗ってデュエルするのかい? そりゃあ面白そうだねぇ!」

 

マイコ・カトウはコロコロと笑った。

 

「ふふっ、私を高く買ってくれるのはありがたいがねぇ。この年で常勤は厳しいかね」

「ということは、非常勤ならば良いと?」

「ええ、いかがかしら?」

 

マイコ・カトウは猫のような愛らしい笑顔でそう言った。

 

「構いません。それで十分ですよ。では後ほど書類を持ってお伺い致します」

 

最上ではないが、上々の返事をもらうことができた。レンはそのまま席を立とうとするが、マイコ・カトウがそれを手で制した。

 

「せっかく来たんですもの。デュエルでもどうかしら?」

 

その瞬間、穏やかな瞳が鋭くなった。

 

「心配しなくてもデュエルの勝敗で契約をごねたりはしないわ。余興よ、余興」

 

(意外と好戦的な人だな。いや、デュエルはコミュニケーションのひとつだから、意外と俺を見極めようとしているのかもな。今はネタデッキしか持ってないが、まあいいか)

 

デュエルでしか見えないものがある……のかもしれない。

 

「受けて立ちましょう」

「素敵なお返事ね。では――」

 

場所を庭に移し、ふたりのデュエルが始まる。

 

 

『デュエルッ!!』

 

 

「私が仕掛けたんですもの。先攻はお譲りするわ」

 

「ではお言葉に甘えて。私のターン、ドロー。ふむ、ミセス。このデュエル、思いのほか早く決着がつきそうですよ」

 

「あら、そんなに手札が良かったのかしら」

 

当然マイコ・カトウはこの程度の口撃で動揺するような胆力ではない。カードプロフェッサーとして、負けられないデュエルを繰り返してきた経験は、決して揺れることのない精神力(マインド)を作り上げたのだ。

 

「モンスターをセットし、《太陽の書》を発動」

 

「太陽の書……リバース効果ね」

 

カードの影に隠れていたモンスターがその姿をあらわにする。そしてふたりのデュエリストにひとつずつダイスを投げ渡した。

 

「《ダイス・ポット》のリバース効果発動」

 

「……なんてリスキーな」

 

マイコ・カトウが呆れたようにつぶやく。確かにこれならば、思いのほか早く決着がつくという言葉も頷ける。なにせこのターンでデュエルが終わる(・・・・・・・・・・・・・・)可能性もあるのだから。

 

「では私から――出目は『5』ですね」

 

「次は私ね」

 

マイコ・カトウがデュエルディスクを操作して、ソリッドビジョンのダイスを振る。

その出目は――

 

「――『6』ね」

 

「……ん?」

 

ダイス・ポットの効果は小さい目を出したプレイヤーが、相手の出目×500のダメージを受けるというものだが、例外がある。相手が『6』を出した場合、6000ポイントのダメージを受けるのだ。

 

「ぐわぁああぁぁ!!」

 

(さい)の壺から吐き出された炎を浴びて、レンのライフは燃え尽きた。

 

「……ごめんなさいね。こういう時、どんな顔をすればいいのか分からないわ」

 

「……笑えばいいと思いますよ」

 

レンは精一杯の強がりでそう言った。

 

(なんだか余計に分からなくなったわね)

 

デュエルでレンの為人(ひととなり)を見極めようとしていた彼女は、肩透かしを食らった気分だった。

 

(そうか、この子はカードプロフェッサー(わたしたち)のように、勝敗に執着していない。純粋にデュエルを楽しんでいるんだわ)

 

孫たちの幼い頃を思い出す。新しいカードを手に入れて、ワクワクしながらデッキを組む。エースカードだ、アイドルカードだと言って、まったくシナジーの無いカードを1枚だけ入れておく。

そういった「童心」を持ったまま大人になったのだと、マイコ・カトウは思った。

 

(大体は成長するにつれ「勝つ為のデッキ」に変わりそうなものだけど。この子は少し違うようだね)

 

無論、レンも勝つ為の(ガチ)デッキは持っている。ただ使う場所をわきまえているだけだ。

だが基本的に(ひとつ)のデッキを改良、改善していくスタイルの多いこの世界では、レンのように複数のデッキを使うデュエリストは稀な存在ではある。

 

(悪意の人ではない。分かったのはその程度かね。まあ、面白い子ではある。しばらく付き合ってみるのも、悪くないかもしれないわね)

 

少しだけ、マイコ・カトウは若かりし頃のワクワクを思い出した。

 

「そういえば、キースのボウヤには声をかけたのかい?」

「キース……キース・ハワードですか? いえ、彼は教師という職には興味ないかと……」

 

彼女にかかれば全米チャンプもボウヤ扱いだった。

 

「見かけによらず、あの子は意外と教えたがりだよ。殿堂入りも見えてきたし、そうなったらヒマになるんじゃないかね。声をかけてみたらどうだい?」

「……そこまでおっしゃるのでしたら、一声かけてみましょうかね」

 

絶対断られるだろ、と思いながらも、レンは社交辞令でそう言った。

 

 

 




バトルシティ編では感情を出さないようにデュエルしていましたが、それ以降は普通に楽しんでデュエルしているようです。


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第26話 渦巻く悪意

身体が動かない。

まず知覚したのはそこだった。身体全体が重く、身動きが取れない。また上下の感覚も曖昧になった。寝ているようでもあり、直立しているようでもある。奇妙な感覚だった。

 

(油断したな。響紅葉やフェニックス氏がまともだったから、いないものと思っていた)

 

眼前で黒い笑みを浮かべていたのは、ミスターマッケンジーだった。マイコ・カトウの次に、教頭の候補に挙がっていた彼と面談をしていて、レンは眩暈に襲われたのだ。

 

「貴様もそれなりのしもべを従えているようだが、使いこなせてはいないようだな」

「……使う?」

「ほぅ、覇気が増したな。面白い。さあ、これで動けるだろう。構えろ。闇の決闘の始まりだ」

 

 

決闘(デュエル)

 

 

「俺のターン、ドロー!」

 

かくして始まった闇の決闘。先攻を得たのはレン。だがその表情は思わしくない。

 

(……悪くはないが、良いとも言えないな。デッキにいてほしいカードが手札に来てしまった)

 

可もなく不可もなくといった手札で、レンは戦略を練る。

 

「《おろかな埋葬》を発動。デッキから《悲劇のデスピアン》を墓地に送り、悲劇のデスピアンの効果で、デッキから《デスピアの導化 アルベル》を手札に加える。さらにデッキから《ブラック・マジシャン》を墓地に送り、《マジシャンズ・ソウルズ》の効果発動。このカードを手札から墓地に送り、《ブラック・マジシャン》を蘇生する。さらに《デスピアの導化 アルベル》を召喚して効果発動。デッキから《烙印融合》を手札に加える」

 

アルベルの道化服から取り出された1枚のカードを手に取ると、レンはすぐさま発動する。

 

「デッキから《アルバスの落胤》と《融合呪印生物-光(光属性モンスター)》を墓地に送り、《烙印竜アルビオン》を特殊召喚。そしてアルビオンの召喚時効果を発動。墓地の《融合呪印生物-光(ブラック・マジシャン)》と《アルバスの落胤(ドラゴン族モンスター)》を除外し、《竜騎士ブラック・マジシャン》を融合召喚する」

 

竜を駆る黒魔術師が暗雲を切り裂いて現出する。

 

「カードを1枚伏せてターンエンド」

 

高杉レン LP4000 手札3 モンスター4 伏せ1

 

ア:烙印竜アルビオン 守備力2000

ブ:ブラック・マジシャン 守備力2100

導:デスピアの導化アルベル 攻撃力1800

竜:竜騎士ブラック・マジシャン 攻撃力3000

■:伏せカード

 

■□□□□

アブ導竜□

 

□□□□□

□□□□□

 

マッケンジー LP4000 手札5 モンスター0 伏せ0

 

――――――――――――

 

「オレのターン、ドロー。フフッ、派手に動いたものだな」

 

フィールドに並び立つモンスターを見ても、マッケンジーは余裕を見せる。

そして、その内の2体がかき消えた。

 

「なにっ!?」

 

「もう1体だ」

 

さらに2体のモンスターが消失し、溶岩の塊が降ってくる。

 

「カードを3枚伏せてターンエンド」

 

「……クッ、エンドフェイズに墓地の《烙印竜アルビオン》の効果を発動する。デッキから《赫の烙印》を手札に加える」

 

マッケンジー LP4000 手札1 モンスター0 伏せ3

 

■:伏せカード

■:伏せカード

■:伏せカード

 

■□■□■

□□□□□

 

□ラ□ラ□

□□□□■

 

ラ:溶岩魔神ラヴァ・ゴーレム 攻撃力3000

ラ:溶岩魔神ラヴァ・ゴーレム 攻撃力3000

■:伏せカード

 

高杉レン LP4000 手札4 モンスター2 伏せ1

 

――――――――――――

 

「俺のターン、ドロー」

 

(そう都合良くは引けんか)

 

理想はデッキに1枚しか入っていない《ハーピィの羽根帚》だったが、残念ながら引いたのはそのカードではなかった。

 

「スタンバイフェイズに溶岩魔神ラヴァ・ゴーレムの効果を受けてもらう」

 

高杉レン LP4000 → 2000

 

「――ッ!? 身体が!?」

 

ダメージを受けたことで、レンの身体が部分的に消失する。

 

「ククッ、闇の決闘に敗れた者は"魂"を失う。だが心配するな。貴様の身体は、オレが有効に活用してやろう」

 

マッケンジーが舌なめずりをするように酷薄な笑みを浮かべた。

 

「……なるほど、闇の決闘か。《魔玩具補綴(デストーイ・パッチワーク)》を発動。デッキから《融合》と《エッジインプ・チェーン》を手札に加える。《融合》を発動。手札の《D-HERO ディバインガイ》と《D-HERO ダッシュガイ》を墓地に送り、《D-HERO デストロイフェニックスガイ》を融合召喚」

 

不死鳥の如き運命の戦士が、黒き翼を広げる。

 

「バトルだ。デストロイフェニックスガイでダイレクトアタック!」

 

「リバースカード《洗脳解除》を発動」

 

「チェーンしてデストロイフェニックスガイの効果発動!」

 

「さらにチェーンして《スキルドレイン》を発動だ」

 

(くっ、ここは無理矢理にでも通すしかない)

 

「速攻魔法《赫の烙印》を発動。墓地の《悲劇のデスピアン》を手札に加え、このカードとデストロイフェニックスガイを素材に、《デスピアン・クエリティス》を融合召喚する」

 

スキルドレインの効果はフィールドにのみ作用する。そのため、すでにフィールドからいなくなったデストロイフェニックスガイの効果は適用されるのだ。

 

「デストロイフェニックスガイの効果で、発動済みの《赫の烙印》とおまえの《洗脳解除》を破壊する」

 

そして永続魔法や永続罠のような、フィールドに残り続けて効果を発動するカードは、フィールドに存在しなくなると効力を発揮できなくなる。

これでレンのフィールドには3体のモンスターが残った。《赫の烙印》の効果で特殊召喚した《デスピアン・クエリティス》は直接攻撃できないが、2体のラヴァ・ゴーレムの攻撃でライフは削り切れる。

 

「除外された悲劇のデスピアンの効果で、デッキから《デスピアの導化 アルベル》を手札に加える。溶岩魔神ラヴァ・ゴーレムでダイレクトアタック!」

 

「永続罠《強制終了》を発動。スキルドレインを墓地に送り、バトルフェイズを終了する」

 

だがマッケンジーの発動した罠カードにバトルフェイズは強制終了された。

 

「溶岩魔神ラヴァ・ゴーレムをリリースして、《ブラック・マジシャン・ガール》をアドバンス召喚。ターンエンドだ」

 

高杉レン LP2000 手札2 モンスター3 伏せ1

 

ガ:ブラック・マジシャン・ガール 攻撃力2600

ク:デスピアン・クエリティス 攻撃力2500

ラ:溶岩魔神ラヴァ・ゴーレム 攻撃力3000

■:伏せカード

 

■□□□□

□ガクラ□

 

□□□□□

□□強□□

 

強:強制終了

 

マッケンジー LP4000 手札1 モンスター0 伏せ0

 

――――――――――――

 

「オレのターン、ドロー。モンスターをセットし、《命削りの宝札》を発動。カードを3枚ドローする。そしてすべての手札を伏せてターンエンドだ」

 

(ドローした3枚全部魔法・罠カードかよ)

 

相手のドロー運に心中で悪態をつくが、どうにもならない。

 

マッケンジー LP4000 手札0 モンスター1 伏せ3

 

セ:セットモンスター

■:伏せカード

強:強制終了

■:伏せカード

■:伏せカード

 

■□強■■

□□セ□□

 

□ラクガ□

□□□□■

 

ラ:溶岩魔神ラヴァ・ゴーレム 攻撃力3000

ク:デスピアン・クエリティス 攻撃力2500

ガ:ブラック・マジシャン・ガール 攻撃力2600

■:伏せカード

 

高杉レン LP2000 手札2 モンスター3 伏せ1

 

――――――――――――

 

「俺のターン、ドロー」

 

「スタンバイフェイズに溶岩魔神ラヴァ・ゴーレムの効果が発動する」

 

高杉レン LP2000 → 1000

 

「《闇の誘惑》を発動。カードを2枚ドローし、《デスピアの導化 アルベル》を除外する。モンスターをセットし、カードを2枚伏せる。これで俺の手札は0。墓地の《D-HERO ディバインガイ》の効果が発動できる。このカードと《D-HERO ダッシュガイ》を除外してカードを2枚ドローする」

 

新たに2枚のカードをドローするも、バック除去のカードは引けない。

 

「バトル。デスピアン・クエリティスでセットモンスターを攻撃」

 

「強制終了の効果発動。セットモンスターを墓地に送り、バトルフェイズを終了する。そしてフィールドから墓地に送られた《魔犬オクトロス》の効果発動。デッキから《溶岩魔神ラヴァ・ゴーレム》を手札に加える」

 

マッケンジーがデッキから最後のラヴァ・ゴーレムを手札に加えた。

 

「カードを1枚伏せてターンエンドだ」

 

「エンドフェイズに《ゴブリンのやりくり上手》、《貪欲な瓶》を発動。さらにチェーンして《非常食》を発動だ。発動した2枚を墓地に送り、ライフを2000回復する。そして墓地の《洗脳解除》、《スキルドレイン》、《命削りの宝札》、《魔犬オクトロス》、《溶岩魔神ラヴァ・ゴーレム》をデッキに戻してシャッフル。その後、1枚ドロー。さらにカードを2枚ドローし、1枚をデッキの下に戻す」

 

高杉レン LP1000 手札1 モンスター4 伏せ4

 

ガ:ブラック・マジシャン・ガール 攻撃力2600

ク:デスピアン・クエリティス 攻撃力2500

ラ:溶岩魔神ラヴァ・ゴーレム 攻撃力3000

セ:セットモンスター

■:伏せカード

■:伏せカード

■:伏せカード

■:伏せカード

 

■■■■□

□ガクラセ

 

□□□□□

□□強□□

 

強:強制終了

 

マッケンジー LP6000 手札3 モンスター0 伏せ0

 

――――――――――――

 

「オレのターン、ドロー。ブラック・マジシャン・ガールとデスピアン・クエリティスをリリースし、《溶岩魔神ラヴァ・ゴーレム》を特殊召喚」

 

三度(みたび)、灼熱の巨人が姿を現す。マッケンジーは勝利を確信した笑みを零した。

 

「カードを2枚伏せてターンエンドだ」

 

「エンドフェイズに《赫の烙印》を発動。墓地の《デスピアの導化 アルベル》を手札に加え、このカードとフィールドの《エッジインプ・チェーン(セットモンスター)》と《溶岩魔神ラヴァ・ゴーレム》を素材に融合召喚を行う」

 

「ラヴァ・ゴーレムを素材にするだとっ!?」

 

マッケンジーの顔から笑みが消え、目がカッと見開く。さすがにそれは想定外だったらしい。

 

「召喚条件はカード名が異なるモンスター3体。現れろ、《ガーディアン・キマイラ》!」

 

虚空より現れた3つ首の獣が咆哮を上げる。

 

「ガーディアン・キマイラの効果発動。カードを1枚ドローし、おまえがいま伏せた2枚のカードを破壊する」

 

「バ、バカなっ!?」

 

2枚の伏せカード、《魔法の筒》と《業炎のバリア -ファイヤー・フォース-》が破壊された。

さらに《エッジインプ・チェーン》の効果でデッキから《魔玩具補綴》を手札に加える。

 

「だがラヴァ・ゴーレム1体で十分よ。次のスタンバイフェイズに勝負は決まる!」

 

「それはどうかな」

 

「ふんっ、負け惜しみか!」

 

マッケンジー LP6000 手札1 モンスター0 伏せ0

 

強:強制終了

 

□□強□□

□□□□□

 

□ラ□キ□

□□■■■

 

ラ:溶岩魔神ラヴァ・ゴーレム 攻撃力3000

ガ:ガーディアン・キマイラ 攻撃力3300

■:伏せカード

■:伏せカード

■:伏せカード

 

高杉レン LP1000 手札2 モンスター2 伏せ3

 

――――――――――――

 

「俺のターン、ドロー。ドローフェイズにリバースカード《ダメージ・ダイエット》を発動。このターンに受けるダメージを半減する」

 

ラヴァ・ゴーレムのダメージを半分に抑え、レンはギリギリのところで踏みとどまる。

 

「バトルだ。ラヴァ・ゴーレムでダイレクトアタック!」

 

「まだだ! まだ終わらんよ! 手札の《バトルフェーダー》の効果発動!」

 

「チェーンしてカウンター罠《透破抜き》を発動。手札・墓地で発動したモンスター効果を無効にして除外する」

 

「なっ!?」

 

マッケンジー LP6000 → 3000

 

「これで終わりだ! ガーディアン・キマイラでダイレクトアタック!」

 

3つ首の牙がマッケンジーに突き刺さる。

 

「ぐおぉぉ……このオレが闇の決闘で敗れるとは……完全な復活さえしていれば……貴様ごときに……があああぁぁぁっ!!」

 

マッケンジーが倒れ、闇が晴れていく。

それを見届けて、レンは意識を手放した。

 

 

 



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第27話 勘違いの結末

 

――社長を辞めたからといって安穏とはさせまセーン。校長として頑張ってもらいマース

 

――ふぅん。俺たちが造るアカデミアと貴様らが造るアカデミア。どちらが優れているかは、数年後に分かるだろう

 

――クククッ、俺様はレアだぜ。教師なんてガラじゃあねぇが……ま、報酬次第だな

 

――また辺鄙なところに造るんだねぇ。非常勤とはいえ、年寄りには堪えるわよ。まぁ、まだまだ若い者に負けるつもりはないけどね

 

――私は私の意思でここに来たのです。なので気にしないでください。マリクの件は感謝しています。その恩返しとでも思っていただければ

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

大病院の個室だけあって、窓から一望できる街の眺めは壮観だった。

医師の話では2日ほど寝込んでいたらしい。多少の衰弱はあるが、そこまで大事ではないとのことだ。

 

マッケンジーはレンよりも一足早く目覚めたらしいが、記憶障害を起こしており、ここ数年の記憶がないらしい。

ともあれ、身体の異常を感じられなかったレンは翌日に退院した。

そして2週間後、改めてマッケンジー宅を訪れ、彼との面談を行った。

 

「ではここ数年の記憶は全くないと?」

「ええ、何か得体の知れないものと……会話したような記憶は、ぼんやりとはあります。そこから先はまったく……」

 

こう言われては、レンも嘆息するしかない。

出された紅茶をすすりながら、ふと入り口の方へ目を向けた。そこで、部屋の様子を窺っていた少女と目が合った。

 

「娘さんですか?」

「ええ、レジー。挨拶をしなさい」

「……こんにちは」

 

口調は刺々しく、目つきは鋭い。どうやら嫌われているようだが、レンに思い当たるふしはなかった。

 

「パパはこの人に負けたから、あんなことになったの?」

「いや、それは……」

「でもパパがこの人とデュエルしているところを見たって人がいたよ。だからパパが倒れたって! 校長になれなかったって!」

 

確かに見方によっては、そうなるだろう。だがレンも倒れたのだから、痛み分けというのが正しいのだが、それを知らないレジーには父がデュエルに負けて倒れたという事実しか分からない。

 

(そもそもデュエルに負けて倒れるってのを受け入れているのはどうなんだ? それに校長になれなかったとは?)

 

あの面談は、マッケンジーを教頭として雇うかどうかの面談だった。校長はレンで決定しており、マッケンジーが校長になるなどあり得ないことだ。

 

(ああ、俺の身体を奪って校長になるつもりだったのか。いや、それだとレジーに校長になると告げるのはおかしいな。俺の意識を支配して、実質的な校長になる予定だったのか? それだってペガサスが気づきそうなものだが……)

 

穴の多い計画だとは思うが、確かめようにもあれ(・・)はもういない。

 

「違うんだレジー。彼は関係ない……たぶん」

 

そして肝心の本人の記憶がないものだから、彼女も納得し辛いのだろう。

 

「もう少し経てば、記憶もはっきりしてくるかもしれません。今日のところはこれでお(いとま)しましょう」

「申し訳ありません。たいしたおもてなしもできずに」

「いえ、とりあえず席は空けておきますのでご安心を」

 

そう言ってレンはマッケンジー宅を後にした。

そして駐車場に移動したところで、何者かの気配を感じて振り返る。

そこにいたのは、先ほど挨拶を交わした少女、レジー・マッケンジーだった。

 

「お願い、パパを見捨てないで!」

 

その声には縋るような想いが込められていた。

 

(どういうこと?)

 

だがレンはよく分かっていなかった。おそらく思春期特有の暴走思考で、パパが切り捨てられるとでも思ったのだろう。

I2社が設立するデュエリスト養成所はかなり話題になっており、そこの教頭に抜擢されたマッケンジーもまたしかりである。

レンは気づいていなかったが、この件をきっかけに足の引っ張り合いも起こるだろう。もっとも、自己を高めず、他人の足を引っ張るような輩はペガサスに一蹴されるであろうが。

 

「何か誤解があるよう……」

「どうしてもダメというのなら、デュエルで勝ち取るわ!」

 

そう言ってデュエルディスクを構える。この世界ではデュエルで得るもの、失うものの比重は大きくなりつつある。

就職活動で筆記・面接・決闘とあるのも、レンにとっては未だに慣れないことであった。

 

(「とりあえず」と言ったのが悪かったかな? にしても、この()、こんな性格だったか?)

 

レンの知る「レジー・マッケンジー」というキャラクターは、高校3年生の落ち着いた女性である。

だがいま目の前にいる少女は、まだまだ幼い。

 

(こうなったら、クドクド説明するよりデュエルで決着をつけた方が早いな。時間をおけば頭も冷えるだろう)

 

元々マッケンジーを切り捨てるつもりはない。このデュエルで負けても、レンには失うものはないのだ。

 

 

『デュエルッ!!』

 

 

「私のターン、ドロー」

 

(さて、俺が負けた方が話は早いのだろうが、わざと負けるというのはありえないな)

 

それはデュエリストの矜持に反するし、レジーも納得しないだろう。

 

「フィールド魔法《暴走魔法陣》を発動。発動時の効果処理でデッキから《召喚師アレイスター》を手札に加える。そしてそのまま召喚。アレイスターの効果でデッキから《召喚魔術》を手札に加える」

 

杖を携えた白法衣の少年が、反対の手に持った魔導書を開く。

 

「《召喚魔術》を発動。フィールドのアレイスターと手札の《教導の聖女エクレシア》を素材とし、《召喚獣メルカバー》を融合召喚。そして墓地の《召喚魔術》をデッキに戻し、除外されている《召喚師アレイスター》を手札に加える。カードを1枚伏せてターンエンド」

 

高杉レン LP4000 手札4 モンスター1 伏せ1

 

メ:召喚獣メルカバー 攻撃力2500

■:伏せカード

暴:暴走魔法陣

 

■□□□□

□□メ□□暴

 

□□□□□

□□□□□

 

レジー LP4000 手札5 モンスター0 伏せ0

 

――――――――――――

 

「私のターン、ドロー。《サンダー・ボルト》を発動するわ」

 

(いきなりだな。ここは止めるしかないか)

 

「チェーンしてメルカバーの効果発動。手札の《ライトニング・ストーム》を捨て、その発動と効果を無効にして除外する」

 

メルカバーの持つ白銀の剣が、雷光を切り裂いた。

 

「想定内よ。永続魔法《神の居城-ヴァルハラ》を発動。その効果により、手札から《The splendid VENUS》を特殊召喚するわ!」

 

レジーのフィールドに、白き翼の天使が舞い降りる。

 

「ヴィーナスの威光により、天使族以外のモンスターの攻守は500ダウンするわ」

 

召喚獣メルカバー 攻撃力2500 → 2000

 

「さらに《豊穣のアルテミス》を召喚。カードを2枚伏せてターンエンドよ」

 

(さすがに攻撃はしてこないか)

 

レジー LP4000 手札0 モンスター2 伏せ2

 

ヴ:The splendid VENUS 攻撃力2800

豊:豊穣のアルテミス 攻撃力1600

■:伏せカード

■:伏せカード

神:神の居城-ヴァルハラ

 

 ■■神□□

 □□ヴ豊□

 

暴□□メ□□

 □□□□■

 

メ:召喚獣メルカバー 攻撃力2000

■:伏せカード

暴:暴走魔法陣

 

高杉レン LP4000 手札3 モンスター1 伏せ1

 

――――――――――――

 

「私のターン、ドロー」

 

(アルテミスということは、エンジェルパーミッションか。ならあまり動かない方がいいな)

 

「そのままバトルフェイズに入る。メルカバーでアルテミスを攻撃」

 

「攻撃宣言時、カウンター罠《攻撃の無力化》を発動。その攻撃を無効にし、バトルフェイズを終了するわ。そしてアルテミスの効果で1枚ドロー!」

 

メルカバーの攻撃は時空の渦に吸収され無効になった。カウンター罠ゆえに、メルカバーの効果もチェーンできない。

またアルテミスのドロー効果もチェーンブロックを作らない永続効果のため、メルカバーでは止められない。

 

(まあ《The splendid VENUS》がいる限り、メルカバーでも魔法・罠は止められないんだがな。しかし、このままターンを渡すのも不安だな)

 

「《召喚師アレイスター》を召喚して効果発動。デッキから《召喚魔術》を手札に加える。そしてそのまま発動」

 

「チェーンして《魔宮の賄賂》を発動。召喚魔術の発動と効果を無効にして破壊するわ。その代わり、あなたは1枚ドローできる。そして私もアルテミスの効果で1枚ドローするわ」

 

「……なるほど。では1枚ドロー。そして召喚魔術の効果でフィールドのアレイスターとメルカバーを除外して《召喚獣アウゴエイデス》を融合召喚。アウゴエイデスの召喚時効果により、《The splendid VENUS》を破壊する」

 

光輝なる召喚獣の指から放たれた光が、最上級の天使を包み込んだ。

 

「……え?」

 

レジーの口から呆然とした言葉が漏れる。

 

「ちょ、ちょっと待って! 魔宮の賄賂の効果で召喚魔術は無効になったはずよ!」

 

「フィールド魔法《暴走魔法陣》の効果で融合モンスターを融合召喚する効果は無効化されない」

 

「でも私のフィールドにはThe splendid VENUSがいる……いたわ。ヴィーナスがいる限り、私のフィールドの魔法・罠カードの効果の発動及びその発動した効果は無効化されないのよ!」

 

「暴走魔法陣の効果は「融合モンスターを融合召喚する効果は無効化されない」のであって、相手のカード効果を無効化する効果ではないんだ」

 

「……え?」

 

またしてもレジーの口から呆然とした言葉が漏れた。これはレジーの勘違いというよりは、自分のエースモンスターを過信した結果だろう。無効化されない=絶対に通ると思い込んでしまったのだ。

 

この世界はデュエルディスクがすべての処理を(おこな)ってくれるため、分かっているようで分かっていないデュエリストは意外と多い。

そのせいか、今回のようにその事態に直面しないと自覚できないのだ。

 

「あ~、キミにはまだ早かったか。この領域(レベル)の話は」

 

「バ、バカにしないで! ちゃんと分かったわよ! ただ……納得できないだけよ!」

 

「ああ、それなら分かるよ」

 

レンはしみじみと頷いた。同じような効果でも、カードが違えば裁定が変わるのはよくあることだ。

 

「まあそれを言っても仕方ないだろう。学園(アカデミア)では評価される項目だから覚えておいた方がいい。さて、デュエルを続けよう。墓地の《召喚魔術》をデッキに戻し、除外されている《召喚師アレイスター》を手札に加える。カードを1枚伏せてターンエンドだ」

 

高杉レン LP4000 手札4 モンスター1 伏せ2

 

ア:召喚獣アウゴエイデス 攻撃力2000

■:伏せカード

■:伏せカード

暴:暴走魔法陣

 

■□□□■

□□ア□□暴

 

□豊□□□

□□神□□

 

豊:豊穣のアルテミス 攻撃力1600

神:神の居城-ヴァルハラ

 

レジー LP4000 手札2 モンスター0 伏せ0

 

――――――――――――

 

「私のターン、ドロー。カードを2枚伏せてターンエンドよ」

 

レジー LP4000 手札1 モンスター1 伏せ2

 

豊:豊穣のアルテミス 攻撃力1600

■:伏せカード

■:伏せカード

神:神の居城-ヴァルハラ

 

 ■■神□□

 □□□豊□

 

暴□□ア□□

 ■□□□■

 

ア:召喚獣アウゴエイデス 攻撃力2000

■:伏せカード

■:伏せカード

暴:暴走魔法陣

 

高杉レン LP4000 手札3 モンスター1 伏せ2

 

――――――――――――

 

「私のターン、ドロー」

 

(アルテミスを守備表示に変更しなかったということは、手札にアレを握っている可能性が高いな。攻撃してこなかったのは伏せカードを警戒したか、カウンターを狙っているか……)

 

「《召喚師アレイスター》を召喚して効果発動」

 

「ライフを1500払い、《神の通告》を発動するわ。アレイスターの効果発動を無効にして破壊する!」

 

「さらにチェーン。ライフを半分払い、《神の宣告》を発動」

 

「ならこちらもカウンター罠《ギャクタン》を発動するわ!」

 

「さらにチェーン。ライフを半分払い、手札から《レッド・リブート》を発動」

 

「くっ、そんな……」

 

カウンター罠の応酬はレンに軍配が上がった。アレイスターの効果発動は成立し、デッキから《召喚魔術》を手札に加える。

 

「《召喚魔術》を発動。フィールドのアレイスターと、キミの墓地のThe splendid VENUSを除外して、《召喚獣メルカバー》を融合召喚」

 

レンは召喚獣の鉄板の動きでレジーを追い詰める。除外されたアレイスターの回収も忘れない。

 

「バトル。メルカバーで豊穣のアルテミスを攻撃」

 

「……ダメージ計算前に手札の《オネスト》の効果を発動するわ」

 

無駄だとは分かりつつ、レジーは手札を切る。当然レンはメルカバーの効果でそれを無効にした。

 

「アウゴエイデスでダイレクトアタック」

 

アウゴエイデスの指先から放たれた光線がレジーに突き刺さり、デュエルは終わりを告げた。

 

 

 

「うぅ……ひっく……パパ……ごめんなさい……」

 

(デュエルに負けて泣く……か。若いなぁ。まあ今回はそれだけではないが)

 

レンは膝をつき、へたり込むレジーに視線を合わせて、優しく語りかける。

 

「レジー。キミのパパについては、心配しなくていい。体調に問題がなければ、ちゃんとアカデミアで教鞭を取ってもらうつもりだ」

「……ひっく……ホントに?」

「ああ、本当だ。それと、キミに訊きたいのだが、キミは記憶に何らかの障害があったりはしないかね?」

 

そう問われ、レジーはわずかに瞑目した。

 

「実は……私の中のなにか(・・・)が無くなったような気がするの。でも心の中では、それを思い出したくないとも思っているの」

 

(本能がリミッターをかけているのか?)

 

「そうか。すまない、変なことを訊いたね。でも思い出したくないと思っているのなら、無理に思い出さなくてもいいと思うよ」

「そう……かな?」

「そうさ」

 

レンははっきりと断言した。大人に確信を持って言われれば、子供は意外と納得するものだ。

 

「うん……なら、そうする」

 

少しだけ雰囲気が変化して、声色が変わる。

 

「それと……あ、ありがとう」

 

レジーはようやく年相応の笑顔を見せた。

 

 

 




前回はちょっと唐突すぎたというか、漫画版GXを読んでない人にとっては誰やコイツってなったかもしれませんね。
簡単に言うと漫画版のラスボスです。とはいえ完全復活はしてないので、エースカードも持ってないし、原作より弱体化しています。

設定上では様々な人間に乗り移り、最終的にエド・フェニックスの父親 → ミスターマッケンジーの体を乗っ取っています。
主人公の影響でそのルートに変更があったのでしょう。
まあこんな感じのサクサクぐあいです。次回より学園編です。


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第28話 日本から来た少女

エリートデュエリストを養成する学園、デュエルアカデミア・アメリカ校の試験から一週間。ようやくその結果が届いた。

封書を受け取った母親と共に、少女はドキドキしながら封を切る。

 

(自信はある。筆記も面接も実技も、ミスらしいミスはなかった)

 

落ちるはずがない。とは思いつつも、やはり実際に確認するまでは落ち着かない。緊張した面持ちで書類を取り出す。その一枚目には、赤い判で大きく「合格」と押印されていた。

 

「――よしっ!」

 

少女は小さくガッツポーズをする。それとは対照的に、母親は小さく項垂れていた。

 

「ホントに受かっちゃった。ねぇ、なんでアメリカなの? 日本のアカデミアじゃダメなの?」

 

母親は不安そうに娘に目を向ける。デュエルアカデミアは世界に2校ある。海馬コーポレーションが設立した日本校と、I2社が設立したアメリカ校だ。日本人なら普通は日本校を選ぶ。

 

「またそれ? 日本校っていっても絶海の孤島だし、あんまり関係ないでしょ」

 

あっけらかんと少女は言う。それでも日本に居るのと、アメリカに居るのでは、親の安心感は違うだろう。

 

「でも言葉も違うし……」

 

当然ながらアメリカ校の授業はすべて英語だ。

 

「あのね、試験だって全部英語だったよ。それで主席だったんだから、もっと褒めてほしいわ」

 

そう、少女は大勢の受験生を押さえ、首席で合格したのである。書類には新入生代表の挨拶について打ち合わせがしたいので、他の生徒よりも早く現地入りしてほしいと書いてある。

 

「それに、プロになるには絶対アメリカ校の方が有利よ。なんたってI2社のお膝元だもの」

 

日本にもプロリーグはあるが、やはり世界的に注目されているのはアメリカのプロリーグなのだ。

 

「さっそく準備しないと。あ、荷物はもうまとめてあるから、この住所に送ってね。ふふっ、忙しくなるなぁ」

 

こうして、首席合格を果たした少女、藤原雪乃は再びアメリカの大地に立つ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ではこれが新入生代表挨拶の最終稿になります。よろしくお願いしますね」

「はい。お任せください」

 

雪乃は小さく頭を下げる

ここはデュエルアカデミア・アメリカ校の校長室。ふたりは最後の打ち合わせを行っていた。

 

「さて、寮生活で不自由はないかね。日本校ほどではないが、ここも陸の孤島のようなものだからね」

 

アメリカ校はかなり田舎の方に建設されており、街に出るには車で一時間ほどかかる。

大抵のものは購買部で購入できるし、何なら通販でもいいが、色々と不便なのは確かだ。

 

「キミは新入生27人の中で最も優れた成績を残した生徒だ。暫定的ではあるが《ファースト》となる。可能な限り便宜は図ろう」

 

このデュエルアカデミアはプロデュエリストの養成所だ。入学試験の段階でふるいにかけられている。

日本校の実技試験は勝敗よりも内容で審査されるらしいが、アメリカ校は違う。勝つことは最低条件なのだ。

 

人生の節目である受験という大舞台で、受験用に調整されたデッキにも勝てないようではプロとして大成しないという判断だ。

いじましくとも、泥臭くとも、まずは勝つこと。勝ってこそ初めて道は拓かれる。

故に合格者は少なく、生徒たちも自信を持つ。そして卒業生の9割近くがプロデュエリストになる。

 

これは日本校に比べて圧倒的に高い数値であり、バックにI2社があるからこその数字だった。

この少数精鋭のやり方を受けて、日本校の分校計画も白紙になったと聞く。

 

また日本校ではオシリスレッド、ラーイエロー、オベリスクブルーと3つの階級に分けて生徒たちを管理しているが、アメリカ校にはそれがない。

代わりに各学年、上位3名を《スペシャルズ》として扱い、優遇制度を設けている。

 

例えば学費の免除、豪華な個室、公式大会でのシード枠、新カードの早期入手、そしてプロへの推薦などなど。プロを目指す生徒にしてみれば、垂涎ものであろう。

このスペシャルズの入れ替えは年に2回。前期試験と後期試験の時だけである。

 

「では、ひとつお願いがあります」

「聞こう」

「校長先生にデュエルを申し込みますわ」

 

おい、デュエルしろよ。と雪乃は言った。

 

「私とかね。強者と闘いたいなら、実技最高責任者のキース先生の方がいいと思うが?」

「私、バトルシティのデュエルに感銘を受けましたの」

「随分と懐かしい話だね」

 

バトルシティのデュエルは映像化されているので、一般人でも入手することはできる。だがデュエルの内容はかなり編集されている。特に闇マリクのデュエルはオカルト部分が削除されあっさり風味となっていた。

 

「制圧して支配する。普通ならあれでゲームエンドですわ」

「ああ、決勝戦の……残念ながら相手は普通ではありませんでしたが」

 

レンの敷いた制圧盤面を、遊戯はあっさりと返した。あれを名デュエルと言う者もいれば、決闘王(デュエルキング)が凄すぎただけと言う者もいる。

また対話拒否盤面を敷いたレンを指して、壁とやってろと言った者もいた。

 

「確かに、決闘王(デュエルキング)は異次元の強さでしたが……話を戻しましょう。私の挑戦、受けていただけますか?」

「それが望みとあらば、受けて立ちましょう。あの時のデッキではありませんがね」

「ふふっ、かまいませんよ。では、よ・ろ・し・く、お願いしますわ」

 

色好い返事をもらえた雪乃は妖艶にほほ笑んだ。

そして場所をデュエルアリーナへと移す。

 

 

『デュエルッ!!』

 

 

先攻後攻の選択権を得たのは雪乃。だが彼女は後攻を選んだ。

 

「私のターン、ドロー。モンスターをセット。カードを2枚伏せてターンエンド」

 

高杉レン LP4000 手札3 モンスター1 伏せ2

 

セ:セットモンスター

■:伏せカード

■:伏せカード

 

■□□□■

□□セ□□

 

□□□□□

□□□□□

 

藤原雪乃 LP4000 手札5 モンスター0 伏せ0

 

――――――――――――

 

「私のターン、ドロー。ふふっ、随分とお静かなこと。《高等儀式術》を発動するわ。デッキから《甲虫装甲騎士(インセクトナイト)》2体を墓地に送り、手札から《終焉の王デミス》を儀式召喚!」

 

次元の穴から姿を現したのは、巨大な斧を担ぎ、蒼炎を纏った悪魔だった。

 

「召喚成功時、速攻魔法《収縮》を発動。終焉の王デミスの元々の攻撃力を半分にする」

 

「……あら?」

 

雪乃の口から疑問符が漏れる。相手はデュエルアカデミアの教師、ましてや校長ともなれば終焉の王デミスの効果は当然知っているだろう。例え知らなくても、デュエルディスクから情報は得られる。

しかし、この判断の速さは疑問が残る。

 

「センセイったら見かけによらずせっかちね」

 

「せっかちな男は嫌いかな?」

 

「いいえ、遅い男よりはいいわ。早さは回数で補えるし……ね」

 

「それは重畳」

 

レンは雪乃の冗談を軽くいなす。

 

(さすがは校長先生。この程度の口撃じゃ動揺もしないか。さて、普通ならチェーン発動するはず。このタイミングで発動したのは何故?)

 

相手はデュエルアカデミアの校長だ。意味がないなんてことはない。この行動には必ず意味がある。

 

「ならば踏み込んでみましょう。ライフを2000払い、デミスの効果発動。このカード以外のフィールドのカードをすべて破壊します!」

 

「チェーンして《破壊輪》を発動。《終焉の王デミス》を破壊する」

 

「――ッ!? なるほど、そういうことね」

 

破壊輪が発動時に参照するのは「攻撃力」である。そして受けるダメージは「元々の攻撃力」を参照する。つまり破壊輪の効果が確定すれば、お互いに2400のダメージを受けることになる。

 

「だけどそんな決着はつまらないわ。さらにチェーンして《神秘の中華なべ》を発動。デミスをリリースし、その攻撃力分のライフを回復するわ」

 

藤原雪乃 LP4000 → 2000 → 4400

 

「デミスがいなくなったことにより、破壊輪は不発になる。だがデミスの効果によって破壊された《マシュマカロン》の効果を発動するよ。デッキから2体の《マシュマカロン》を特殊召喚」

 

ピンク色のスライムのような物体がレンを守るように分裂する。

 

「あらかわいい。とも言ってられないわね」

 

後攻1ターンキルを決めるつもりだった雪乃は、壁モンスターが2体も現れたことでプランを変更せざるを得なくなった。

 

「ですが、センセイがモンスター効果を使ってくれたので、このカードが発動できます。《三戦の才》を発動。カードを2枚ドロー」

 

新たに2枚のカードをドローし、雪乃は攻勢に出る。

 

「《マンジュ・ゴッド》を召喚して効果発動。デッキから2枚目の《終焉の王デミス》を手札に加えます。そして墓地の《甲虫装甲騎士(インセクトナイト)》2体を除外して、手札から《デビルドーザー》を特殊召喚」

 

雪乃は2体のモンスターを展開して、2体のマシュマカロンを破壊した。

 

「カードを1枚伏せてターンを終了します」

 

藤原雪乃 LP4400 手札2 モンスター2 伏せ1

 

マ:マンジュ・ゴッド 攻撃力1400

デ:デビルドーザー 攻撃力2800

■:伏せカード

 

■□□□□

□マ□デ□

 

□□□□□

□□□□□

 

高杉レン LP4000 手札3 モンスター0 伏せ0

 

――――――――――――

 

「私のターン、ドロー。《成金ゴブリン》を発動。相手のライフを1000回復し、1枚ドロー。もう1枚《成金ゴブリン》を発動して1枚ドロー。《ブラック・ホール》を発動。フィールドのモンスターをすべて破壊する」

 

2体のモンスターが漆黒の穴に吸い込まれ、消滅する。

 

「《イエロー・ガジェット》を召喚して効果発動。デッキから《グリーン・ガジェット》を手札に加える。バトル。イエロー・ガジェットでダイレクトアタック」

 

ガジェットパンチが雪乃を直撃する。

 

藤原雪乃 LP4400 → 5400 → 6400 → 5200

 

「カードを1枚伏せてターンエンド」

 

「エンドフェイズに《緊急儀式術》を発動します。墓地の《高等儀式術》を除外して、そのカード効果をコピーする。デッキから《アレキサンドライドラゴン》2体を墓地に送り、手札から《終焉の王デミス》を儀式召喚!」

 

再び漆黒の王が姿を現した。

 

高杉レン LP4000 手札2 モンスター1 伏せ1

 

イ:イエロー・ガジェット 攻撃力1200

■:伏せカード

 

■□□□□

□□イ□□

 

□□デ□□

□□□□□

 

デ:終焉の王デミス 攻撃力2400

 

藤原雪乃 LP5200 手札1 モンスター1 伏せ0

 

――――――――――――

 

「私のターン、ドロー。ライフ2000を払い、デミスの効果発動」

 

「チェーンして《マインドクラッシュ》を発動」

 

「……マインドクラッシュ?」

 

またしても雪乃の口から疑問符が漏れた。当然雪乃もマインドクラッシュの効果は知っている。これは相手がサーチをした直後などに使うカードだ。だが雪乃が前のターンにサーチした《終焉の王デミス》はすでに儀式召喚されている。

つまり、レンは雪乃の手札に関して何の情報も得ていないということになる。

 

「私は《巨大化》を宣言」

 

「――ッ!? 手札の《巨大化》を捨てるわ」

 

続いてデミスの効果が適用され、振り下ろされた斧がイエロー・ガジェットを粉砕した。

 

「……ねぇ、センセイ。タネを教えていただける?」

 

雪乃は唇に指をあてながらレンに質問した。しだいに紅潮していく顔色が、彼女の気持ちを表している。

 

「簡単な推測だよ。あの時、キミは《緊急儀式術》でイエロー・ガジェットの攻撃を防ぐこともできたが、それをしなかった。つまりライフを減らしたかった」

 

それ以外にも、メイン2で除去される可能性を考えたというのもある。

 

「それはジュニア時代から使い続けているデッキと同じですね。いつまでも同じデッキが通用するほど、この学園は甘くない。アップデートをおすすめしますよ」

 

「……センセイは受験生のデッキをすべて把握してらっしゃるの?」

 

「合格者のデッキはすべて把握していますよ。でないとアドバイスもできませんからね」

 

「ふふっ、やっぱりセンセイはス・テ・キ・な・(かた)。でも今ドローしたカードまでは読めませんでしたね。私は墓地の《アレキサンドライドラゴン(光属性モンスター)》と《終焉の王デミス(闇属性モンスター)》を除外して、手札から《カオス・ソルジャー -開闢の使者-》を特殊召喚!」

 

昏き穴より光とともに現れたのはひとりの戦士。デュエルを終焉へと導く開闢の使者。

 

「バトルフェイズに入ります。2体のモンスターでダイレクトアタック!」

 

光と闇(カオス)の一撃が、レンのライフを削り切った。

 

 

 

デュエルが終わって雪乃は気づく。終始自分が優勢に進めていたように見えたこのデュエルは、その実勝負ですらなかったと。

 

「校長先生、丁寧な授業、ありがとうございました」

 

雪乃がペコリと頭を下げる。

 

「いつか先生の本気を引き出して見せますわ」

「私はいつだって本気ですよ」

「でも全力ではなかった……ですよね。本気の全力でぶつかり合うアツいデュエル。いつか一緒にヤりたいですわ」

 

雪乃の言葉に、レンは苦笑を顔に広げた。

 

「ああ、そういえば先生、ひとつ質問があるのですけど、上級生のファーストを教えていただけます?」

「いいですよ。2年生のファーストはケイト・モヘアくん。3年生のファーストはデイビット・ラブくんです」

 

 

 



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第29話 日本から来た少年

「――真新しい制服を身にまとい、これからの学園生活――」

 

(……くっ、本当なら俺があの舞台で挨拶するはずだったのに……いや、これ以上は言うまい。恥の上塗りだ)

 

檀上で挨拶するツインテールの少女を厳しい目つきで眺めながら、万丈目は臍を噛んだ。

 

(大見得切って受験した結果が《セカンド》か。兄さんたちに申し訳ない)

 

用意されたオベリスクブルーの席を蹴り、万丈目はより厳しい環境を選んだ。だが結果は2番目(セカンド)。首席で合格してみせると豪語した手前、万丈目は兄たちに引け目を感じていた。

 

(だが入試の格付けなど所詮は暫定的なもの。前期試験で直接叩きのめしてやる!)

 

こうして万丈目は改めて決意を燃やす。

そんな万丈目の決意など知らず、雪乃は一度もトチることなく、完璧に新入生代表挨拶をやり遂げた。

 

そうしてつつがなく入学式も終わり、生徒たちは解散となった。観覧していた保護者たちも帰路へとつき、新入生たちも寮へと帰る。

本格的な授業は翌日からだが、ロビーには親交を深めようとする生徒たちもいた。

その中に目当ての人物がいないことに気づいた万丈目は、直接彼女の部屋へと足を運んだ。

ドアをノックして待つこと数秒、小さくドアが開いた。

 

「なんだ、万丈目くんか。何か用?」

「ご挨拶だな。ロビーにいなかったから様子を見に来ただけだ」

 

素っ気ない言葉に、万丈目は微かに眉をひそめる。だがドアの隙間から見えた室内の光景に、万丈目は小さくつぶやく。

 

「デッキ調整をしていたのか?」

「レディの部屋を盗み見るなんて、イケナイ子ね」

「……たまたまだ」

 

デスクの上には無数のカードが広げられていた。デュエリストならそう思うのは当然だろう。

 

「いいわ。少し話しましょうか。ロビーでね。残念だけど、部屋にはあげられないわ」

「そんなつもりで来たんじゃない。チッ、場所を移すぞ」

 

悪態をつきながらも、会話することは否定しない万丈目だった。ふたりはロビーの隅の席に腰かける。

こう見えてもふたりの付き合いは長い。ジュニア時代ではほとんどの大会で顔を合わせていた。プライベートの付き合いはないが、お互いにライバルとして意識し合っていたのだ。

 

「ここ1年、大会に出てこなかったのは受験勉強に専念していたからか?」

「ええ。というかアナタは相変わらずの実戦派だったようね」

 

入試では実技もそうだが、筆記も気を抜けない。

原作でも遊城十代は、実技最高責任者のクロノスを、入試という大舞台で倒している。しかも試験用のデッキではなく、本気のデッキを使ったクロノスをだ。

これは明らかにプロの素養が見える。にもかかわらず、最低のオシリスレッドに振り分けられている。原因は筆記が悪かったからだろう。

 

「そういえば、質問に答えてなかったわね。アナタの言う通り、新しいデッキを作ることにしたのよ」

「調整ではなく、新調するのか? 思い切ったことだな」

「校長先生に言われたのよ。こだわりというのは大事だが、囚われないように、とね」

「……そうか」

 

ジュニア時代から、雪乃が周りに色々と言われてきたのは万丈目も知っている。今では多少マシになっているが、儀式召喚というのは不遇な召喚法だ。

単体では機能しない2種類のカードをメインデッキから投入し、手札に揃えなければならない。融合召喚よりも融通が利かず、リソースの消費が激しく、サポートカードも少ない。端的に言って事故率が高い。

 

「儀式モンスターなんて実戦では使えない観賞用のカードだね」といった少年は、速攻で雪乃に叩きのめされていたが。

 

そんな構築の難しいデッキを使い続け、雪乃は結果を残してきた。だが世界でもトップクラスの強豪が集うこのアカデミアに来て、少しだけ考えが変わった。

 

「私は意固地になっていたのかもしれない。デミスにこだわっていたのではなく、囚われていたんじゃないかってね」

「…………」

 

万丈目にも雪乃の気持ちは分かる。デッキ構築については常に悩んでいるからだ。デッキ構築に正解はなく、完成もない。進化しないデッキに、デュエリストの成長もない。

 

「儀式で有名なのは、ブルーアイズだが……」

「あれはカードよりも使い手の方が有名なのよね。だからプロでも使い手がいないわ。あの噂も……あながちデタラメというワケでもなさそうだし」

「ブルーアイズを使えば、海馬瀬人がやって来る……か」

 

最初は都市伝説のようなものだった。

 

――青眼(ブルーアイズ)のデッキを使うと、海馬瀬人がやってくる

 

だがここまで表立ってブルーアイズデッキを使う者がいないと、その噂も信憑性を帯びてくる。使うことを止めた者はその理由までは口にしないが、誰だって負けたデュエルを語りたくはないだろう。それがこっぴどい負け方ならなおさらだ。

 

「子供が使っていても問題ないというのが、いかにもよね」

 

海馬瀬人が子供好きというのは公然の秘密だった。孤児院の運営から始まり、海馬ランドの入園無料など、公言はしていないが、端々から子供好きだというのが垣間見れる。

 

「その子供が大人になった時はどうするんだろうな」

「……そりゃぁ、嬉々として挑み(狩り)に来るんじゃないかしら」

 

 

――よくぞここまで育った。ならば狩らせてもらおう。貴様のブルーアイズごと

 

 

「とか言いそうじゃない?」

「いや、さすがにそこまでは……ないと思うぞ」

 

そう言いつつも、海馬瀬人ならあり得そうだと万丈目は思った。

 

「そういえばアナタ、海馬社長には何も言われなかったの?」

 

数々のデュエル大会で優勝した万丈目は日本校からオベリスクブルーの席を用意するとスカウトを受けていた。それを蹴ってアメリカ校に来たのだ。

 

「あの人はオーナーであって、校長ではないからな。会ったことはない」

「え? そうなの?」

「ああ。「見た」ことはあるが、「会った」ことはない。当然、会話したこともな。向こうは俺のことを知らないんじゃないか?」

「そんなことはないと思うけど……どうかしらね」

 

万丈目は将来を嘱望されたデュエリストであるとともに、万丈目財閥の三男である。とはいえ、海馬にとっては興味を示すほどのことではなかったのだろう。

 

「まあ、そんなことはいい。それよりも藤原、俺たちの立場が分かっているのか。他の生徒よりも厳しい(・・・)立場だぞ」

「……分かっているわ」

 

万丈目の警句に、雪乃は気を引き締める。このスペシャルズという立場も、将来を見据えた場合、良いことばかりではない。

例えば、1年時にファースト、2年時にサード、3年時に番外という生徒と、1年時に番外、2年時にサード、3年時にファーストという生徒がいれば、どう評価されるだろうか。

前者は堕落した、後者は成長したと取られるだろう。内実はどうであれ、結果だけを見ればそう評されるのも無理はない。

 

「私たちは、結果を示し続けなければならない。ふふっ、まるでプロみたいね」

「厳しい環境でこそ人は成長する。次のファーストは頂くぞ、藤原」

「いいわね。私を楽しませなさい、ま・ん・じょ・う・め・くん」

 

雪乃は妖艶にほほ笑んだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

場所は校長室へと移る。

 

「ふむ。ヨーロッパ校の進展はなしか」

「すいません。兄さんも意固地になっていて」

 

赤毛の少年、レオンハルト・フォン・シュレイダーは申し訳なさそうに答えた。

本来ならデュエルアカデミアは世界に3校展開するはずだった。日本、アメリカ、ヨーロッパである。

当然ヨーロッパは地元であるシュレイダー社が設立するはずだったのだが、代表であるジークフリードのプライドがそれを邪魔した。

I2社の援助を断ったのだ。要するに、すべて自分でやるといったのだ。

 

ここで問題となったのが、資金面ではなく人材面である。すでに日本校(KC)アメリカ校(I2社)の話題が上がっていて、目ざとい者はそちらに流れていたのだ。

またジークフリードにしても、「来てください」ではなく「雇ってやろう」というスタンスだったため、多くの者にそっぽを向かれた。

デュエリストという人種はプライドの高いやつらが多いのだ。

そういった意味では、学園の運営を人柄の良い鮫島に任せたのは海馬の英断だろう。自身が忙しいという理由もあったのだろうが。

 

(そもそもあいつにデュエリストを育てるつもりが本当にあったのかも怪しいんだよな)

 

正直なところ、海馬に対抗しているだけではないかと、レンは勘ぐっていた。

そうこうしているうちに日本校が開校を宣言し、遅れてはならぬとアメリカ校も開校を宣言した。

ヨーロッパ校は置いていかれる立場となったのである。

 

「僕が広告塔(プロ)になって盛り返すつもりだったんですが、不甲斐ないです」

「キミの世代は黄金世代とも言われているからね。それにこう言ってはなんだが、ケイト・モヘアくんの台頭は意外だった」

 

入学時に番外だった彼女は、1年の後期試験でトップの成績を取り、いきなり2年の《ファースト》となったのだ。

 

「彼女は恥も外聞も捨ててエド先輩に弟子入りしたんです。それは見習うべきだと思います」

 

この学園の生徒は、良くも悪くも皆ライバルだ。だからこそ、どこかで線引きしているふしが見られる。しかし彼女は軽くそれを踏み越えた。在学中にプロデビューを果たしたエド・フェニックスに弟子入りしたのだ。

 

「なんだかんだ、彼も面倒見がいいからね。断り切れなかったのだろう」

 

そして彼女は、エドと同じく「D」の使い手となった。最初の頃はデッキに振り回されている感じだったが、最終的には見事使いこなし、《ファースト》の地位をもぎ取ったのだ。

 

「僕も、もっと貪欲になるべきだと思いました。レンさ……いえ校長先生、これからもご指導お願いします」

 

レオンはペコリと頭を下げた。

 

(もうこの子がシュレイダー社の代表になった方がいいんじゃないかな?)

 

レンは割と真面目にそう思った。

 

 

 



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第30話 前期試験

アカデミアの2年生寮のロビーではふたりの生徒がくつろいでいた。ひとりは家族である愛鰐のカレンと食事をとっており、もうひとりは銃型のデュエルディスクの手入れを行っていた。

しかしそんな穏やかな時間は、勢いよく開かれたドアで消え去った。

 

ロビーに入ってきたのは不機嫌さを隠そうともしていない青年だった。それを見たジムはカレンの鱗を撫でながらぞんざいに言った。

 

「まぁたキース先生に返り討ちか? アモン」

 

その言葉に、アモンの反応はジムを一瞥するだけだった。そのまま自室に戻るかと思いきや、アモンは手慣れた様子でコーヒーメーカーを操作すると、そのままロビーのソファに腰かけた。

 

「……なぜ勝てない。あんなに対策したというのに」

 

答えを求めていたわけではない。アモンは同級生に相談するような殊勝な性格ではないが、

それでもここに腰を下ろしたあたり、よほど行き詰っているらしい。オブライエンはそう推察した。

 

「対策に気を取られすぎて、デッキ全体のバランスが崩れているんじゃないか?」

「……なに?」

「デッキ構築は足し算と引き算。それは語るまでもないが、重要なのはバランスだ。今の貴様は迷走しているように見える」

「…………」

 

オブライエンの言葉を、アモンは黙したまま聞いた。

 

「自分のスタイルを崩さず、相手の妨害もしたい。どちらもが中途半端になっているんじゃないか? メタカードで強く出られるのは良いが、それで自分本来の強みが消されれば意味がない」

 

徹底的にメタを張れば、当然勝率は跳ね上がるだろう。だがそれはあくまで特定の相手に対してのみ。プロを目指す上では、あまり褒められたことではない。

というのも、プロリーグではサイドデッキ(入れ替えられるカード)に限りがあるからだ。

リーグ中に入れ替えられるカードは最大で15枚しかない。

 

(そもそもメタカードの対処なんて、現役時代に嫌というほどやってただろうに)

 

ジムが心中でため息を零す。実際、限られたリソースの中で誰にメタを張るかといえば、一番の強者になるのは当然の帰結だった。

 

「貴様の目的はプロになることだろう。キース教官に勝ったからといって、プロの推薦を貰えるわけでもあるまい。もっと視野を広げた方がいい」

「……言ってくれるじゃないか。番外席次の分際で」

 

それは図星だったのか、アモンの口調が荒くなった。

 

「……ふっ、確かに貴様は《スペシャルズ》で、俺はキース教官に『挑戦する権利』すらない一般生徒だ。これは同輩からのアドバイスとして受け取ってほしいものだな」

 

スペシャルズの特権のひとつとして、教師にデュエルを挑む権利というのがある。月に一度という制限はあるが、アモンはそれを活用して何度もキースに挑戦していた。だが戦績は思わしくない。辛うじて全敗は免れているが、アモンの目標は卒業までにキースに勝ち越すことだった。

その目標達成も、このままでは遠のいていくばかりだ。

 

「それと、上空の戦闘ヘリばかり警戒していると、足元の地雷を踏み抜くことになるぞ」

 

オブライエンが射抜くような眼光でアモンを睨みつける。

入学時にファーストだったアモンは、前期試験でセカンドに落ち、後期試験でサードまで落ちた。つまり《スペシャルズ》といっても崖っぷちにすぎない。

ここにいるジムやオブライエンも《スペシャルズ》の一席を狙うライバルたちなのだ。

 

彼女(・・)も力を増してきている」

「…………チッ」

 

オブライエンの言葉に、アモンは苦々しい表情を浮かべた。前期試験で不覚を取った相手、ヨハン・アンデルセンは、ペガサスも認めるデュエリスト故、どこか納得できるところはあった。

だが後期試験でファーストをもぎ取ったのは、完全に予想外の生徒だった。

 

「エド・フェニックスに弟子入りした節操なしだ。どうせあの男にま――」

「アモン・ガラム!!」

 

アモンの言葉を遮って、オブライエンは大声を上げた。

 

「それ以上はやめておけ。貴様の品位を下げることになる。貴様が他人をどう思おうと、それは貴様の勝手だ。だが一度口にした言葉は、決してなかったことにはできない。思っておくだけにしておけ」

「……忠告、感謝する。少し熱くなりすぎたようだ」

 

アモンはこめかみを押さえながら、軽く頭を下げた。

 

(見かけによらず激情家だねぇ、アイツは。なぁカレン)

(ガァ!)

 

そんなふたりのやり取りを眺めていたジムは、笑いながらカレンの喉を撫でた。

そして時は流れ、前期試験の時期が訪れる。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

自身の効果で手札から特殊召喚した《バイス・ドラゴン》をリリースし、《偉大魔獣 ガーゼット》をアドバンス召喚しました。

その後、相手が《偉大魔獣 ガーゼット》を対象に《収縮》を発動しました。

《偉大魔獣 ガーゼット》の攻撃力はいくつになるでしょう。

 

問題文を読み取り、万丈目は頭の中で計算を始める。この問いの中に登場したカードの詳しい説明は書かれていない。前提として、それぞれのカードを理解していないと解けない問題なのだ。

 

(偉大魔獣ガーゼットの攻撃力は、リリースしたモンスターの元々の攻撃力の倍となる。バイス・ドラゴンは自身の効果で特殊召喚した場合、攻守は半分となるが、元々の攻撃力は2000。つまり偉大魔獣ガーゼットの攻撃力は4000となる。そして《収縮》の効果は、元々の攻撃力を半分にする効果……)

 

ここで万丈目は引っ掛かりを覚えて、もう一度情報を整理する。

 

(偉大魔獣ガーゼットの元々の攻撃力は「0」だ。それが永続効果により4000となっている。収縮は……そうだ、収縮の効果は「元々の攻撃力」を半分にすると同時に、「攻撃力」を「元々の攻撃力」の半分にもする効果なんだ)

 

万丈目の頭がスッキリ整理された。

 

(つまり答えは「0」だ!)

 

攻撃力の増減計算は簡単なようで面倒なパターンがいくつか存在する。計算自体はデュエルディスクがやってくれるが、いざカードを発動して予想と違った数値になれば、戦略も崩れてくる。

プロならそんな事態を引き起こしてはならない。

 

(よし、次だ!)

 

万丈目は新たな問題へと取りかかった。

筆記試験は一般の高校でも行われる「一般科目」と、デュエリストの知識を問う「決闘科目」に分けられる。スペシャルズとして評価されるのは決闘科目のみだが、一般科目で赤点を取るような生徒は例外である。どれだけデュエリストとして優秀でも、一般科目で赤点を取ればスペシャルズからは除外される。

これはデュエリストがデュエルしかできないと思われるのを避けるためでもある。最低限の教養は必要なのだ。

 

「あら、ツァン。随分とご機嫌ね」

「あ、雪乃。いやぁ、筆記が予想以上に上手くいってね。ついにボクがファーストかなって」

「あらあら、宣戦布告かしら。お可愛いこと」

 

筆記試験も終わり、これから実技試験が始まるとあって、彼女も気持ちが昂っているようだ。

 

「アナタとならアツいデュエルができそうだわ。私と当たるまで、あまり黒星を増やさないようにね」

 

実技試験は総当たり戦で行われる。3日かけて全員と闘うのだ。相当なタフさが求められる。

 

「アンタこそ、ボクと当たるまで誰にも負けないでよね!」

 

そう言い残して、ツァン・ディレは体育館に向かって歩き出した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「――ありがとうございました」

 

本日最後のデュエルを終え、雪乃は相手と握手を交わした。その瞬間、肩がどっと重くなり、膝から力が抜けていくのを感じた。

 

(さすがに1日で8戦はキツいわね)

 

しかも相手はみな非凡なデュエリストだ。気を抜ける瞬間などない。1日中フリーデュエルをやったことはあるが、負けられないというプレッシャーのせいか、身体に感じる疲労は比べものにならなかった。

 

(先生のアドバイス通り、キャンディを買っておいてよかったわ)

 

購買に甘味類が大量に補充されているのを見た時は何事かと思ったが、糖分の補給が理由だったのだ。デュエルの合間にショートケーキやシュークリームを食べる生徒もいたほどだ。

デュエル中にキャンディをなめるくらいはかわいいものだった。

それでも脳疲労が溜まった後半に、いつもならやらないようなミスを犯して、それが敗北に繋がってしまった。

 

(まだ2日もある。今日は早く寝た方が良さそうね)

 

重い身体を引きずりながら、雪乃は自室へと帰っていった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ファーストとセカンドは変動なし。サードにツァン・ディレくんが入りましたか」

 

キースから提出された書類を眺め、確認する意味でそれを言葉にする。

 

「勝率は同じだったんだがなァ。筆記の差が出たな。万丈目もさぞガッカリだろうよ。クククッ」

「生徒を笑うとは趣味が悪いですよ」

「性分なモンでなァ。こればっかりは治らねぇよ。テメェもそれを承知で俺様をスカウトしたんだろうが。クククッ」

 

キースは悪びれもせずに笑った。確かに教育者というガラではないが、チャンプの座を3度も防衛した実力者である。彼が教壇に立つというだけで、学園の注目度は跳ね上がった。

 

「まあ、これで交流戦の代表も決まりました。頑張ってほしいですね」

「フッ、世代の差ってのは残酷だなァ。一昨年はウチの全敗。昨年は全勝。さて、今年はどうなることやら」

 

年に一度開催される、日本校との新入生同士の交流戦。当然今年も行われる。

 

(ついに遊城十代が入学したか。だが万丈目がこちらに来たり、TFキャラがいたりと、相変わらずよく分からん世界線だな)

 

レンは小さく苦笑した。

 

 

 




今さらですがキャラクター設定はアニメと漫画のごちゃ混ぜになっています。ご了承ください。


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第31話 交流戦の始まり

前回のあらすじ。
収縮の処理は一見簡単そうだけど複雑だぜ!

簡単に言うとガーゼットのように「召喚時に攻撃力が決定する」タイプのカードは収縮の効果を受けます。(攻撃力は0になり、ターン終了時も0のまま)
逆にカオス・ネクロマンサーなどの「永続的に攻撃力が決定され続ける」タイプのカードは収縮の効果を受けません。
また妥協召喚した神獣王バルバロス(攻撃力1900)に収縮を発動した場合、攻撃力は950になり、ターン終了時には3000になります。
まあこのあたりはWikiを見てもらった方が早いし分かりやすいと思います。



「……疲れた」

 

激闘の3日間(前期試験)が終わり、1日明けたにもかかわらず、身体からはダルさが抜けきっていなかった。

こうなることは教師陣も予想していたので、今日は休日である。1日中ベッドと戯れたところで、誰も文句は言わない。

 

だが雪乃の妙なプライドが邪魔をした。いつも通りの時間に起きて、食堂で朝食をとった。意外にも生徒が多かったのは、この後張り出される結果を見ずにはいられないのだろう。

気もそぞろに朝食を胃に収め、大掲示板の前に向かう。

結果を見て訪れた感情は、歓喜よりも安堵だった。

雪乃は幾ばくか軽くなった足取りで中庭に向かい、ベンチに腰を下ろしていた。

今日は陽気も良く、気を抜けば居眠りでもしてしまいそうだったが、静寂を切り裂いて隣の茂みからひとりの少年が飛び出して来た。

 

「ん? なあ、ここにオニヤンマが飛んでこなかったか?」

「……この辺りはオニヤンマの生息域ではありませんよ。ヨハン先輩」

「え? マジ? う~ん、じゃあ見間違えたかな」

 

藍髪の少年、ヨハン・アンデルセンはポリポリとこめかみを掻いた。

 

「……随分と元気ですね」

「え? なにが?」

 

ヨハンは雪乃の言葉の意味が分からなかった。

 

「いえ、スペシャルズにヨハン先輩の名前がなかったもので」

 

掲示板に張り出されたスペシャルズの一覧にヨハンの名前はなかった。故に消沈していると思ったのだが、本人はそれほど気にしている様子はなかった。

 

「ああ、それか。いやぁ、一般科目で赤点取っちまってなぁ。実技(デュエル)の成績は一番だったんだけど……失敗、失敗」

 

この学園では、一般科目で赤点を取るとスペシャルズの資格を失う。文武両道に達してこそ真の決闘者にふさわしいということだ。

そしてヨハンは、自分がケロリとしていることで雪乃が不機嫌になったことを感じ取った。

 

「気に入らないか? 成績にこだわらない俺が」

「いえ、随分と余裕だなと」

 

自分でもトゲのある言い方だなと雪乃は思った。

 

「ああ、キミもプロを目指しているクチか。ま、ここの生徒のほとんどはそうだからな。俺は、プロを目指すのを止めたんだよ。それが影響しちまったのかもなぁ」

「……そうなんですか?」

「俺がプロになりたかった理由は、いろんな強いやつとデュエルしたかったからだ。でもこの間、校長と話して、それだけが理由ならプロにはならない方が良いって言われちまってな」

 

雪乃は何も言わず、ヨハンの言葉の続きを待った。

 

「プロは色々としがらみの多い世界らしい。俺はお金とか名声とかには、あんまり興味ないからな。デッキに口出しされるのも嫌だし……校長はそういうとこを見抜いたんだろうな」

「ヨハン先輩から見て、校長先生はどういう方に見えますか?」

 

雪乃は何とはなしに訊いてみた。

 

「そうだなぁ。俺以上にみんな(・・・)から好かれている人間は初めて見たかな」

 

(さりげなくモテ自慢が入ったのかしら?)

 

そう思ったが、敢えて口にはしない。

 

「ただ一方通行なのが寂しいとこだな。結構相談とかされるんだけど、俺に言われてもできることなんてないからなぁ」

 

ヨハンは困ったようにほほをかいた。

 

(一方通行ということは、生徒かしらね。まぁ頼れるお兄さんっぽくは見えるわよね。確かキース先生より若かったはず)

 

「なんか切っ掛けでもあれば見えるようになるらしいけど、俺にも分かんねぇしなぁ」

 

(そういえば決闘王(デュエルキング)が言ってたわね。見えるけど見えないものが大事だって。確か、絆だったかしら)

 

友との絆。カードとの絆。決闘者の王国(デュエリスト・キングダム)で優勝した時のインタビューでそう答えていた。

 

(まぁ愛情も似たようなものよね。校長先生は気づいていて気づかないフリをしているだけかもしれないけど。生徒が相手じゃ、それも仕方ないわよね)

 

噛み合っているようで噛み合っていない、雪乃とヨハンだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

そうして月日は流れ、交流戦の日を迎える。

 

「うわぁ、ホントに火山島なのね」

 

ヘリの窓から見える孤島を見下ろしながら、ツァンが感嘆の吐息を漏らす。

 

「アンタたちは驚かないのね」

 

ツァンが隣に座っていた雪乃と万丈目に視線を向ける。

 

「テレビやパンプレットでも見たから、そこまでのインパクトはないわ」

「俺は見学に来たこともあるからな。入島するのはこれが二度目だ」

「おおぅ、さすが日本人ね」

 

日本人のデュエリストなら普通はまず日本校を目指す。またCM(コマーシャル)や見学会も定期的に行っているため、目にする機会は意外と多い。

やがてヘリはアカデミア校舎の屋上に着陸する。

出迎えたのはふたりの教員だった。

 

「お久しぶりです。鮫島校長、クロノス教諭。今年もよろしくお願いします」

「ええ、こちこそ」

 

レンと鮫島が和やかに握手を交わす。

 

「クククッ、元気そうだなぁ。オカッパ先生よ」

「相変わらずの口の悪さナノーネ。全米チャンプの質が疑われるノーネ」

「口の悪さとデュエルの腕は関係ねぇさ」

 

その隣ではキースとクロノスが軽く拳をぶつけ合っていた。

 

「では予定通り、交流戦は明日開始ということで。部屋を用意しておりますので、今日はゆっくりとお休みください」

 

鮫島の言葉は柔和だった。

だがこの校舎全体から発せられるデュエリストの闘気のようなものを、雪乃たちは敏感に

感じ取っていた。

 

(楽しい交流戦になりそうネ)

 

雪乃は明日が待ちきれないとばかりに笑みを浮かべた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

場所は移り、アカデミアの食堂。その一席では、4人の生徒が昼食をとっていた。

その中のひとり、黄色(イエロー)の制服を身にまとった生徒は震える手で食事を口に運んでいた。

 

「なんだよ三沢。もしかして今から緊張してんのか?」

 

その対面に座ってエビフライを頬張っている生徒、遊城十代が揶揄うように声をかける。

 

「ヘリの音が聞こえたものでね」

「ヘリの音? 聞こえたか? 翔」

「う~ん。分かんなかったッス」

「でもアメリカ校の生徒が到着するのは昼頃だって言ってたから、そうかもしれないわね」

 

空を眺めて疑問符を浮かべる丸藤翔に続いて、サンドイッチを食べ終えた天上院明日香は、口元を拭いながら答える。

 

「でもアメリカ校のデュエリストかぁ。どんなヤツだろうなぁ。くぅ~、楽しみだぜ」

 

昂揚を隠せぬ様子で十代は拳を握る。

 

「ひとりは多分、みんなも知ってるやつさ。万丈目だ。多分、だけどな」

「……万丈目って誰だ?」

 

十代のとぼけた返事に、口にした三沢だけではなく、翔と明日香の肩もカクンと揺れた。

 

「俺たちの世代で万丈目を知らないやつがいることにビックリだよ。大会とかで見たことないか?」

「いや、俺、大会とかあんまり出なかったんだよな。町内のデュエル大会とかに出てたくらいで」

 

十代は頭をポリポリと掻く。

 

日本校(ここ)のスカウトを蹴ってアメリカ校に行ったってのは一時期、噂になってな。同年代だと藤原雪乃って子も有名なんだが、知らないか?」

「知らない」

「そうか。まあ、ここにいないってことは、その子もアメリカ校に行ったのかもしれないな」

 

三沢は自分たちの世代ではそのふたりが二強だったと続けた。

 

「へぇ~、つまり明日はそのふたりが出てくるかも知れないってことか!」

「確証はないぞ。アメリカ校の層だって厚いだろうからな」

 

と言いつつも、三沢は万丈目と闘いたいという気持ちがあった。ジュニア時代からの目標のような存在だったから。

 

「僕は代表になれなかったッスけど、みんなには頑張ってほしいッスよ!」

「任せとけって翔! おまえの分も俺が闘ってやる! まずは先鋒の俺がガツンとかましてやるぜ!」

 

十代はグッと拳を握り込んだ。

 

 

 



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第32話 交流戦1戦目

鮫島という男について考えてみる。

まず善人であるということに疑いはない。アカデミアを問題なく運営していることも評価できる。

だが教育者としての能力には疑問が残る。

 

それは非情に徹しきれないということ。

それは退学者が極めて少ないということ。

それは赤の制服のままでも卒業を許されていること。

 

(この階級制度も色々と分かんないんだよなぁ)

 

アメリカ校では最低限の一般教養、デュエルの知識、そしてデュエルの強さが求められる。その中で最も重視されているのがデュエルの強さだ。

極論だが、試験で全勝すれば、筆記の成績がどうであれ《ファースト》として認められる。無論、赤点は論外だが。

だが日本校は少々違うように思えた。もちろん部外者であるレンは、詳細な採点基準など知る(よし)もないが。

 

(ここらは海馬と鮫島の意見の食い違いかもしれんな)

 

基本的にデュエルが強ければ問題なかろうという海馬と、生徒の将来を考えれば学力や知識も必要だという鮫島。

デュエルエリートを育成するという主旨からはズレているような気もするが、開校してまだ数年ゆえ議論の余地はあるのだろう。

 

(鮫島も……まぁアニメほどアレ(・・)ではないみたいだし)

 

少なくとも生徒を軟禁したり、失踪した生徒を隠蔽したりはしていないようだ。

またアメリカ校と交流があるため、良いところは取り入れられている。鮫島はそういう柔軟さを持っていた。

 

原作で問題になっていたアンティルールは、そもそも原作とはカード価値が違いすぎるため、この世界ではなかなか成立しない。むしろトレードの方が盛んになっている。

カードが捨てられていた枯れ井戸も、購買部でポイント変換できるようにしたことで解消した。

 

(三幻魔がいてユベルがいないってのも、独特だよな)

 

ユベルの存在は、十代の身辺調査をすればすぐに分かる。三幻魔(と影丸)については、KCと協力して上手く処理した。

今は神のカードと共に、墓守の谷にて厳重に封印されている。

そんなわけで、学園は割と平和である。

 

(後はダークネスと破滅の光だが……)

 

ダークネスの正体は宇宙が1枚のカードから生まれた時のカードの裏側である。だがレンはこの世界がその成り立ちではないと推測していた。だとすれば表側も裏側もなく、ダークネスも存在しない。

 

(斎王は、異能はあるもののごく普通の少年だった。破滅の光は、たぶん憑いていない。調査の結果、存在自体はしてそうだが……どう動くかは予測すらできんな)

 

混同されがちだが、ダークネスと破滅の光は別種の存在である。

 

「高杉校長、そろそろ始まるようですよ」

「……そのようですね」

 

眼下に目を向けると、交流戦の1戦目が始まるようだった。

最初の対戦カードはツァン・ディレvs遊城十代。

司会兼審判であるクロノスがデュエル開始を宣言する。

 

「ではこれヨーリ、先鋒戦、シニョール遊城十代とシニョーラツァン・ディレのデュエルを始めるノーネ!」

 

 

『デュエルッ!!』

 

 

「ボクのターン、ドロー!」

 

先攻はツァン・ディレ。

 

(手札は悪くないね。欲を言えば門が欲しかったけど、そう簡単には引けないか。でもまだ引き込める可能性はある)

 

「ボクは永続魔法《六武衆の結束》を発動。そして《六武衆-ザンジ》を召喚し、続けて《六武衆の師範》を特殊召喚。これで六武衆の結束に武士道カウンターが2つ乗った。このカードを墓地に送り、カードを2枚ドロー」

 

2体のサムライを呼び出し、さらに2枚のカードを引き込む。目当てのカードは引けなかったが、彼女の大将軍(エース)が手元に舞い込んできた。

 

「手札から《大将軍 紫炎》を特殊召喚!」

 

紫紺の覇気を纏った大将軍がツァンのフィールドに舞い降りる。

 

「うぉぉ、カッケー!」

「ふふふっ。そうでしょう、そうでしょう」

 

無邪気にはしゃぐ十代の反応を見て、ツァンも悪い気はしなかった。

 

「カードを2枚伏せてターンエンドだよ」

 

ツァン・ディレ LP4000 手札2 モンスター3 伏せ2

 

大:大将軍 紫炎 攻撃力2500

師:六武衆の師範 攻撃力2100

ザ:六武衆-ザンジ 攻撃力1800

■:伏せカード

■:伏せカード

 

■□□□■

□大師ザ□

 

□□□□□

□□□□□

 

遊城十代 LP4000 手札5 モンスター0 伏せ0

 

――――――――――――

 

「よぉし、俺のターン、ドロー! まずは《予想GUY》を発動。デッキから《E・HERO スパークマン》を特殊召喚。続けて手札から《キリビ・レディ》を特殊召喚して、効果発動。このカードを墓地に送り、手札から《E・HERO シャドー・ミスト》を特殊召喚するぜ。そんでシャドー・ミストの効果でデッキから《マスク・チェンジ》を手札に加えるぜ!」

 

雷と闇のヒーローが十代の脇を固める。そして十代はさらなるヒーローを呼び出す。

 

「《E・HERO エアーマン》を通常召喚して効果発動。俺は相手の魔法・罠カードを破壊する効果を選択するぜ」

 

「させないよ。チェーンして《デモンズ・チェーン》を発動。エアーマンの効果を無効にして、攻撃を封じる!」

 

「ならさらにチェーンして速攻魔法――あれ?」

 

十代は手札から速攻魔法を発動しようとするが、強制的にチェーンを切られて処理が始まった。

 

「な、なんでマスク・チェンジが発動できなかったんだ? もしかして壊れた?」

 

十代が困惑しながら軽くデュエルディスクを叩いているが、審判のクロノスは手を額に当てて天を仰いでいた。

 

「あ~、えっとね。ボクのフィールドに《大将軍 紫炎》がいるから、魔法・罠カードは1ターンに1度しか発動できないよ」

 

「マジかよ!? そんな効果があったのか!?」

 

「マンマミーア! やっぱりアナタはドロップアウトボーイナノーネ! 公開情報の確認を(おこた)るナンーテ、ありえなイーノ!」

 

「ゲッ! 悪かったよ、クロノス先生。まぁこんなこともあるって」

 

まるでコントのようなやり取りをする十代とクロノスを、ツァンは少し冷めた目で見つめていた。

 

(緊張して見落としたってわけでもなさそうだし、ボクが軽く見られてる? いや、ボクを油断させてハメようとしてるのかな? でもそんなタイプには見えないけどな~)

 

ツァンは遊城十代というデュエリストを測りかねていた。そしてこの試合の前に交わした、ふたりの言葉を思い出す。

 

――赤で代表に選ばれたということは、相当の実戦派だぞ

――そうね。赤だからといって油断しない方がいいわ

 

あのふたりは赤というレッテルだけで相手を過小評価したりしない。むしろ、赤なのに代表に選ばれたことに警戒の色を示していた。

 

(普通に考えれば、青より強いから選ばれたってことだよね。まあなんにせよ、ミスがうつらないようにしないと……)

 

ミスというのは連鎖しやすいものだ。ベストのプレイで負けたのなら納得もできるが、プレイミスで負けた時の悔しさは筆舌に尽くしがたい。

 

 

――『クロノス教諭』

 

 

いまだ説教を続けていたクロノスに頭上から鮫島の一声が入り、デュエルは再開される。

ここで十代は大きく深呼吸をした。(ミス)の連鎖を止めるための、無意識の所作だった。

 

(おっ、空気が変わったね。ようやくスイッチが入ったかな?)

 

「俺はカードを1枚伏せてターンエンドだ」

 

遊城十代 LP4000 手札2 モンスター3 伏せ1

 

シ:E・HERO シャドー・ミスト 攻撃力1000

ス:E・HERO スパークマン 攻撃力1600

エ:E・HERO エアーマン 攻撃力1800

■:伏せカード

 

□□□□■

□シスエ□

 

□ザ師大□

■□□□デ

 

大:大将軍 紫炎 攻撃力2500

師:六武衆の師範 攻撃力2100

ザ:六武衆-ザンジ 攻撃力1800

■:伏せカード

デ:デモンズ・チェーン(対象:E・HERO エアーマン)

 

ツァン・ディレ LP4000 手札2 モンスター3 伏せ1

 

――――――――――――

 

「ボクのターン、ドロー。《六武衆-イロウ》を召喚し、魔法カード《六武式三段衝》を発動するよ」

 

六武式三段衝は3つ効果の内1つを選択して発動できる。

相手フィールド上に表側表示で存在するモンスターを全て破壊する。

相手フィールド上に表側表示で存在する魔法・罠カードを全て破壊する。

相手フィールド上にセットされた魔法・罠カードを全て破壊する。

 

(さてどうするかな。モンスターを一掃すればゲームエンドまで狙えるけど……)

 

身代わり効果を持つ六武衆の弱点は全体除去である。あの伏せカードがミラーフォースのような逆転のカードであれば、ツァンは一気に苦しくなる。

 

(あのセットカードがサーチした《マスク・チェンジ》だと決め打ちするのは危険すぎるね。ここは確実にいこうかな)

 

「ボクはセットカードを破壊する効果を選択するよ」

 

「くっ、俺の《ヒーロー・シグナル》が!」

 

「後続を呼び出すカードかぁ。まあこれは結果論だから仕方ないね。ボクは4体のモンスターで総攻撃するよ!」

 

ツァンの号令一下、先陣を切った大将軍の一刀がエアーマンを切り伏せ、続く師範の一撃がシャドー・ミストを両断する。

 

「墓地に送られたシャドー・ミストの効果発動。デッキから《E・HERO ブレイズマン》を手札に加えるぜ!」

 

さらにザンジの刺突がスパークマンに突き刺さり、イロウの抜刀術が十代を襲った。

 

遊城十代 LP4000 → 3300 → 2200 → 2000 → 300

 

「くぅぅ、効いたぜ!」

 

「ボクはカードを1枚伏せてターンエンド」

 

ツァン・ディレ LP4000 手札0 モンスター4 伏せ2

 

大:大将軍 紫炎 攻撃力2500

師:六武衆の師範 攻撃力2100

ザ:六武衆-ザンジ 攻撃力1800

イ:六武衆-イロウ 攻撃力1700

■:伏せカード

■:伏せカード

 

■□□□■

□大師ザイ

 

□□□□□

□□□□□

 

遊城十代 LP 300 手札3 モンスター0 伏せ0

 

――――――――――――

 

「俺のターン、ドロー! よし、これなら! 俺は《皆既日蝕の書》を発動。おまえのモンスターを全て裏側守備表示にするぜ」

 

4体のモンスターたちがパタリパタリとカードの裏に隠れていく。

 

「くっ、やってくれるじゃない」

 

「《E・HERO ブレイズマン》を召喚して効果発動。デッキから《融合》を手札に加えるぜ。そして発動だ。フィールドのブレイズマンと手札のリキッドマンを融合。現れろ、絶対零度の支配者! 《E・HERO アブソルートZero》!」

 

フィールドに水柱が立ち昇り、それが一瞬にして凍り付く。その中央に絶対零度の支配者が降臨した。

 

「リキッドマンの効果発動。カードを2枚ドローして、1枚を墓地に送る」

 

その瞬間、ツァンは伏せカードへと目を向ける。

 

(ここじゃない。あいつの手札には《マスク・チェンジ》がある。ならばあのコンボが来る!)

 

「手札から速攻魔法《マスク・チェンジ》を発動。フィールドのゼロを墓地に送り、EXデッキから《M・HERO アシッド》を特殊召喚するぜ! ゼロの効果でモンスターを全て破壊し、アシッドの効果で魔法・罠カードを破壊する!」

 

「響プロの必殺コンボだね。だけどモンスターは護らせてもらうよ。チェーンして《墓穴の指名者》を発動。墓地の《E・HERO アブソルートZero》を除外して、その効果を無効にする!」

 

「なにっ!? だがもう1枚の伏せカードは破壊させてもらうぜ! アシッドレイン!」

 

水の飛礫(つぶて)が伏せカードを撃ち抜く。だが相手の場には4体のモンスターがいる。アシッドで1体削ったとしても、エンドフェイズに皆既日蝕の書の効果で3枚ものドローを許してしまう。

そうなるとライフが300しかない十代は、そのまま押し切られる公算が高い。

 

「なら俺はこのドローに賭ける! アシッドをリリースして《アドバンスドロー》を発動。カードを2枚ドローするぜ」

 

アシッドが水柱となって消え、2枚のドローカードへと変わる。

 

「いけるぜ! 魔法カード《ミラクル・フュージョン》を発動。墓地の《E・HERO スパークマン》と《沼地の魔神王》を除外して、《E・HERO シャイニング・フレア・ウィングマン》を融合召喚だ!!」

 

白き翼を広げ、光輝なるヒーローが光臨する。

 

「沼地の魔神王? リキッドマンの時だね!」

 

「その通り! シャイニング・フレア・ウィングマンの攻撃力は墓地の「E・HERO」の数×300アップするぜ!」

 

E・HERO シャイニング・フレア・ウィングマン 攻撃力2500 → 3700

 

(くっ、攻撃力3700……確かあのカードはバーン効果を内蔵していたはず……やっぱりか。このターンでやられることはないだろうけど、ザンジの自爆特攻で破壊するのは不可能になったね)

 

紫炎を破壊されればその攻撃力分の2500のダメージを受ける。残りのライフではザンジで無理矢理突破するのは不可能だ。

だがこのターンを乗り切れば、3枚のドローができる。ならば解決札が引き込める可能性は十分にある。

 

「さらに《H-ヒートハート》を発動。シャイニング・フレア・ウィングマンの攻撃力は500アップし、貫通効果を得る!」

 

「か、貫通!?」

 

しかし十代もターンを渡せば敗北の可能性が高いことは分かっている。シャイニング・フレア・ウィングマンにさらなるパワーアップを施し、このターンでの決着を狙う。

 

「バトルだ! シャイニング・フレア・ウィングマンでセット状態の《大将軍 紫炎》を攻撃! シャイニング・シュート!!」

 

光の拳が紫炎の鎧を突き破る。そして――

 

「シャイニング・フレア・ウィングマンの効果発動。戦闘で破壊したモンスターの攻撃力分のダメージを与えるぜ!」

 

逆の手から迸った光の奔流が、ツァンを包み込んだ。

 

「――ガッチャ! 楽しいデュエルだったぜ!」

 

 

 



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第33話 交流戦2戦目

「ツァンは負けたようね」

「慎重になりすぎたな。時には果敢に攻め込むことも必要だ」

 

控え室でモニター観戦していた雪乃と万丈目は率直な感想を零す。

 

「でもそれは結果論でしょ。伏せカードを警戒するのは当然のことだわ」

「仮にあの伏せカードがミラーフォースのような逆転のカードでも、モンスターを破壊していれば総攻撃する必要もなかったんだ。師範とザンジを守備表示にして、紫炎とイロウでライフは削り切れた。そうすれば身代わり効果も使えたしな」

ウェーブ・フォース(デッキバウンス)の可能性もあったわ。それに収縮のような攻撃力を下げるカードならリーサルを(のが)していた。伏せカードがなにかなんて分かるはずないんだから、慎重になるのも間違いではないわ。結果論だけでものを語るのは二流よ」

「……ふん。行ってくる」

 

水掛け論になると悟った万丈目は、話を切り上げて控え室の扉を押し開いた。

 

「負けたら慰めてあげるわ」

「……嫌味な女だ」

 

それが雪乃流の激励であることは、さすがの万丈目も気づいた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

交流戦、第2戦。万丈目の相手は黄色の制服に身を包んだ偉丈夫だった。

 

「キミが俺の相手とはな、万丈目。運命を感じずにはいられないよ」

「……どこかであったか?」

 

対戦相手から熱い視線を向けられるが、万丈目には覚えがない。

 

「やはり覚えていないか。いや、仕方がない。ならば今日、俺の名前を憶えて帰ってもらおう。この三沢大地の名前をな!」

 

ジュニア時代から表彰台の常連だった万丈目と、いつもそれを下から眺めているだけの三沢には大きな差があった。

だが進んだ学園(みち)は違えど、研鑽を怠ったつもりはない。

 

「ではこれヨーリ、交流戦2戦目を開始するノーネ!」

 

 

『デュエルッ!!』

 

 

「俺のターン、ドロー。《牛頭鬼》を召喚!」

 

先攻を取った三沢は、大槌を持った地獄の獄卒を呼び出す。

 

「牛頭鬼の効果でデッキから《屍界のバンシー》を墓地に送る。そして墓地のバンシーを除外して効果発動。デッキから《アンデットワールド》を発動する」

 

フィールドがおどろおどろしい雰囲気に包まれる。

 

「続けて《おろかな埋葬》を発動。デッキから《死霊王 ドーハスーラ》を墓地に送り、カードを2枚伏せてターン終了だ」

 

三沢大地 LP4000 手札2 モンスター1 伏せ2

 

牛:牛頭鬼 攻撃力1700

■:伏せカード

■:伏せカード

ア:アンデットワールド

 

■□□□■

□□牛□□ア

 

□□□□□

□□□□□

 

万丈目準 LP4000 手札5 モンスター0 伏せ0

 

――――――――――――

 

「俺のターン、ドロー」

 

「スタンバイフェイズに、墓地の《死霊王 ドーハスーラ》の効果発動。このカードを墓地から守備表示で特殊召喚する」

 

(ヤツのデッキはアンデットか。あいつのデッキとは少し違うようだがな)

 

ドーハスーラはアンデット族の効果が発動した場合に効果が発動する。それだけならどうということはないが、フィールド・墓地のモンスターをアンデット族に変更するアンデットワールドとの組み合わせで凶悪なコンボとなる。

 

「フィールド魔法《闇黒世界-シャドウ・ディストピア-》を発動。フィールドのモンスターはすべて闇属性となる」

 

おどろおどろしいフィールドが、さらに暗雲に包まれる。

しかしこのカードの恐ろしいところは属性変更ではない。自分フィールドのモンスター1体の代わりに相手フィールドの闇属性モンスター1体をリリースできる、というところにある。

 

「《死霊王 ドーハスーラ》をリリースし、《牛頭鬼》を対象に、《受け継ぎし魂》を発動」

 

「くっ、チェーンして《針虫の巣窟》を発動する。俺のデッキの上から5枚のカードを墓地に送る」

 

「墓地肥やしか。構わん。受け継ぎし魂の効果で、牛頭鬼を墓地に送り、デッキから《トライホーン・ドラゴン》を特殊召喚!」

 

万丈目のデッキから3本角の悪魔竜が出現する。

 

「墓地に送られた牛頭鬼の効果発動。《ゴブリンゾンビ》を除外し、手札から《九尾の狐》を特殊召喚する」

 

(九尾の狐か。あれは確か……)

 

現れた白い体毛のもののけを前に、万丈目は思考を巡らせる。

 

(受け継ぎし魂のデメリット効果により、このターン俺はモンスター1体でしか攻撃できん。そしてあれは破壊された場合、2体のトークンを残す。そして次のターンに蘇る。いや、そのコストに使わずとも、トークンは利用できる)

 

万丈目はわずか数秒の思考で、戦闘を放棄することを選んだ。

 

「モンスターをセット。カードを2枚伏せてターンエンドだ。エンドフェイズに「シャドウトークン」1体が特殊召喚される」

 

万丈目準 LP4000 手札1 モンスター3 伏せ2

 

セ:セットモンスター

ト:トライホーン・ドラゴン 攻撃力2850

シ:シャドウトークン 守備力1000

■:伏せカード

■:伏せカード

闇:闇黒世界-シャドウ・ディストピア-

 

 □■□■□

 □セト□シ闇

 

 □□九□□

ア□□□□■

 

九:九尾の狐 守備力2000

■:伏せカード

ア:アンデットワールド

 

三沢大地 LP4000 手札1 モンスター1 伏せ1

 

――――――――――――

 

「俺のターン、ドロー。スタンバイフェイズに、墓地の《死霊王 ドーハスーラ》を特殊召喚する。《堕ち武者(デス・サムライ)》を召喚して効果発動」

 

「連動してドーハスーラの効果を発動するつもりだろうが、そうはさせんぞ。九尾の狐をリリースし、《弩弓部隊》を発動。ドーハスーラを破壊する」

 

九尾の狐がトークンを残すのは、戦闘・効果で破壊された場合だ。リリースされては発動できない。

 

「やってくれる。俺は堕ち武者の効果でデッキから《馬頭鬼》を墓地に送る。そして馬頭鬼を除外して効果発動。ドーハスーラを特殊召喚する」

 

「チェーンして《転生の予言》を発動。貴様の墓地の《光の護封霊剣》と《死霊王 ドーハスーラ》をデッキに戻す」

 

「な、なにっ!?」

 

馬頭鬼の対象となったドーハスーラがデッキに戻り、効果は不発になる。

 

(光の護封霊剣にも気づいていたか。どうも思い通りにならない。ジュニア時代の万丈目に引きずられすぎたか)

 

三沢の知る万丈目はドラゴン族のサポートカードを巧みに使い、力押しで相手を攻め立てる戦術だった。ゆえに、種族をアンデットに変更することで、そのサポートカードを無力化しようと考えたのだ。

 

(まさかこんなトリッキーな戦術に変化していようとはな。彼も進化しているということか)

 

「だが臆するわけにはいかない。ひとまず数を減らす。堕ち武者でシャドウトークンを攻撃だ!」

 

兜だけになった怨念が黒い影に激突する。

 

「カードを1枚伏せてターンエンドだ。シャドウ・ディストピアの効果で、シャドウトークンが俺のフィールドに特殊召喚される」

 

「エンドフェイズに《砂塵の大嵐》を発動だ。貴様がいま伏せたカードと《アンデットワールド》を破壊する」

 

(くっ、いやまだだ。俺にはあの伏せカードが残っている)

 

三沢大地 LP4000 手札0 モンスター2 伏せ1

 

堕:堕ち武者 攻撃力1700

シ:シャドウトークン 守備力1000

■:伏せカード

 

 ■□□□□

 □堕□シ□

 

闇□□トセ□

 □□□□□

 

ト:トライホーン・ドラゴン 攻撃力2850

セ:セットモンスター

闇:闇黒世界-シャドウ・ディストピア-

 

万丈目準 LP4000 手札1 モンスター2 伏せ0

 

――――――――――――

 

「俺のターン、ドロー。手札の《闇黒の魔王ディアボロス》を捨て、《トレード・イン》を発動。カードを2枚ドローする」

 

新たに2枚のカードをドローし、万丈目の目が鋭く光る。

 

「セットモンスターをリリースし、《聖夜に煌めく竜》をアドバンス召喚!」

 

「なっ、1体のリリースでレベル7のモンスターをアドバンス召喚だと!?」

 

「セットモンスターは《霊廟の守護者(ダブルコストモンスター)》だ。さらに俺のフィールドの闇属性モンスターがリリースされたことで、墓地の《闇黒の魔王ディアボロス》も特殊召喚できる!」

 

光と闇、2体の竜が万丈目のフィールドに現れる。とはいえ、フィールド魔法の効果ですべて闇属性へと変更されているが。

 

「そして聖夜に煌めく竜の召喚時効果で、貴様の伏せカードを破壊する」

 

「バ、バカなっ!?」

 

三沢の切り札である《波紋のバリア -ウェーブ・フォース-》が、聖なる息吹(ブレス)によって破壊される。

 

「バトルだ。聖夜に煌めく竜でシャドウトークンに攻撃。ダメージステップ開始時に効果発動。相手モンスターをエンドフェイズまで除外する」

 

しかしトークンは除外できないため、その場で破壊される。

 

「そしてこの効果を使用した場合、続けて攻撃できる。堕ち武者に攻撃。聖煌波導(ホーリー・シャイン・ソニック)!」

 

闇に染まった聖なるブレスが堕ち武者に降り注ぐ。

 

「続けてトライホーン・ドラゴンとディアボロスでダイレクトアタック!!」

 

「……ちく……しょぉ……」

 

2体の闇竜のブレスが三沢を直撃した。

 

 

 




ツァンは普通に負けてました(笑)
変なこだわりですけど「このカードを発動していたのさ!」はあんまりやりたくないんですよね。その方がストーリー的には盛り上がるのかもしれませんが。


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第34話 交流戦3戦目

控え室で三沢の試合を観戦していた十代は呆然とその結果を眺めていた。

 

「三沢が1ポイントも削れねぇなんて……。あの万丈目ってヤツ、スゲーな!」

 

十代は震える拳でモニターを眺めている。初めてカイザーのデュエルを見た時と同じくらいの衝撃と昂揚を感じていた。

その隣で、明日香はゴクリと唾を呑み込んだ。

 

普通に考えれば、これから自分が闘う相手は、この万丈目よりも上手(うわて)のデュエリストだろう。

自分が強い緊張の中にいることを改めて自覚する。

 

「これで1勝1敗か。明日香、シメは頼んだぜ!」

 

十代のまっすぐな瞳が明日香を射抜く。それを受けて、明日香は両手で自分のほほを叩いた。

 

「行ってくるわ」

「お、おう。気合い入ってるな。頑張れよ!」

「ええ」

 

明日香は胸の高鳴りを感じながら、デュエルリングへ向かった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

デュエルアリーナの盛り上がりは最高潮だった。

大歓声の中、最終戦の幕が下りる。

 

 

『デュエルッ!!』

 

 

デュエルは明日香の先攻で始まった。

 

「私のターン、ドロー! 手札の《竜輝巧(ドライトロン)-ルタδ(デルタ)》をリリースして《竜輝巧(ドライトロン)-バンα(アルファ)》の効果発動。このカードを手札から守備表示で特殊召喚するわ。その後、デッキから《サイバー・エンジェル-弁天-(儀式モンスター)》を手札に加える。そして弁天をリリースして、墓地の《竜輝巧-ルタδ》の効果発動。このカードを守備表示で特殊召喚。その後、手札の《流星輝巧群(儀式魔法カード)》を見せることで、1枚ドロー!」

 

「すでに儀式魔法を握っていたのね」

 

竜輝巧(ドライトロン)はレベルではなく攻撃力を参照して儀式召喚する特殊なカード群だ。雪乃も新デッキの候補として考えていたため、動きは大体理解できる。

 

「リリースされた弁天の効果で、デッキから2枚目の弁天を手札に加えるわ。儀式魔法《流星輝巧群(メテオニス・ドライトロン)》を発動。フィールドの2体をリリースして、手札から《竜儀巧-メテオニス=QUA》を儀式召喚!」

 

天上より最高位の竜儀巧が光臨する。

 

「墓地の《流星輝巧群》の効果発動。《竜儀巧-メテオニス=QUA》の攻撃力を相手ターン終了時まで1000ダウンし、このカードを手札に戻すわ」

 

竜儀巧-メテオニス=QUAは守備表示のため、攻撃力を下げたところであまり影響はない。

 

「カードを1枚伏せてターンエンドよ」

 

天上院明日香 LP4000 手札4 モンスター1 伏せ1

 

Q:竜儀巧-メテオニス=QUA 守備力4000

■:伏せカード

 

■□□□□

□□Q□□

 

□□□□□

□□□□□

 

藤原雪乃 LP4000 手札5 モンスター0 伏せ0

 

――――――――――――

 

「私のターン、ドロー。苦労して呼び出したところ申し訳ないけれど、早々に退場してもらうわ。手札の《黄金卿エルドリッチ》の効果発動。このカードと《黄金郷のワッケーロ》を墓地に送り、《竜儀巧-メテオニス=QUA》を墓地に送る」

 

「それはどうかしら。リバースカード《墓穴の指名者》を発動。墓地の《黄金卿エルドリッチ》を除外して、その効果を無効にする!」

 

黄金の輝きが次元の穴へと消えていき、その力が消失する。

 

「そこを止められるとキツいわね。まあいいわ。永続魔法《呪われしエルドランド》を発動。ライフを800払い、デッキから《黄金郷のコンキスタドール》を手札に加える。カードを3枚伏せてターンエンドよ。そしてエンドフェイズに墓地の《黄金郷のワッケーロ》を除外して、《紅き血染めのエルドリクシル》をセットするわ」

 

藤原雪乃 LP3200 手札1 モンスター0 伏せ4

 

呪:呪われしエルドランド

■:伏せカード

■:伏せカード

■:伏せカード

■:伏せカード

 

呪■■■■

□□□□□

 

□□Q□□

□□□□□

 

Q:竜儀巧-メテオニス=QUA 守備力4000

 

天上院明日香 LP4000 手札4 モンスター1 伏せ0

 

――――――――――――

 

「私のターン、ドロー」

 

ドローしたカードを手札に収め、明日香は相手のフィールドを見渡す。

 

(あの伏せカードのうち2枚は《黄金郷のコンキスタドール》と《紅き血染めのエルドリクシル》。そのコンボを使えば、QUAを破壊できるはず……)

 

竜儀巧-メテオニス=QUAは相手の魔法・罠カードの対象にならない耐性を備えているが、《黄金郷のコンキスタドール》は対象を取らない破壊だ。

また竜儀巧-メテオニス=QUAは起動効果で相手の魔法・罠カードを全て破壊することができる。

 

(大将を務めるような()が効果を見落とすなんてありえない。だとすればこれは……罠!)

 

明日香の読みは当たっていた。雪乃が伏せたカードの1枚はカウンター罠の《大革命返し》。竜儀巧-メテオニス=QUAが効果を発動すれば、無効にされた上に除外されていた。

 

「墓地の《竜輝巧-バンα》の効果発動。手札の弁天をリリースして、このカードを守備表示で特殊召喚。その後、デッキから《竜儀巧-メテオニス=DRA》を手札に加える。そしてリリースされた弁天の効果発動」

 

(QUAの効果を発動する気配はない。弁天であの厄介なカードを持ってこられる前に使うしかない!)

 

雪乃はここしかないというタイミングで伏せカードを開示する。今ならQUAの破壊時効果も不発にできる。

 

「リバースカード《黄金郷のコンキスタドール》を発動。さらにチェーンして《紅き血染めのエルドリクシル》を発動」

 

チェーンの逆順処理により、まずはデッキから《黄金卿エルドリッチ》が特殊召喚され、続けて罠モンスター《黄金郷のコンキスタドール》が特殊召喚される。

 

「《黄金郷のコンキスタドール》の効果で《竜儀巧-メテオニス=QUA》を破壊するわ」

 

「私は弁天の効果で3枚目の弁天を手札に加えるわ。まだまだいくわよ。墓地の《竜輝巧-ルタδ》の効果発動。手札の弁天をリリースして、このカードを守備表示で特殊召喚。その後、手札の《竜儀巧-メテオニス=DRA》を相手に見せることで1枚ドロー。そしてリリースされた弁天の効果で、《紫光の宣告者(バイオレット・デクレアラー)》を手札に加えるわ」

 

明日香は雪乃が警戒したカード、罠カードの発動を無効にする《紫光の宣告者》を手札に加えた。

 

「いくわよ! 儀式魔法《流星輝巧群》を発動。フィールドのαとδをリリースして、手札から《竜儀巧-メテオニス=DRA》を儀式召喚!」

 

ドライトロンの双璧を成す1体、攻撃型の機械竜が翼を広げる。

 

「続けて《極超の竜輝巧(ドライトロン・ノヴァ)》を発動。デッキから《竜輝巧-エルγ(ガンマ)》を特殊召喚。バトルフェイズに入るわ。 DRAは特殊召喚されたすべてのモンスターに攻撃できる。行きなさい!」

 

「リバースカード《黄金郷のガーディアン》を発動!」

 

「無駄よ! 手札の《紫光の宣告者》と《イーバ》を捨てて、その発動を無効にして破壊するわ。そして墓地に送られたイーバの効果発動。弁天2体を除外して、デッキから《緑光の宣告者(グリーン・デクレアラー)》と《紫光の宣告者》を手札に加える。攻撃続行よ!」

 

機械仕掛けの竜翼から放たれた閃光がエルドリッチとコンキスタドールを粉砕する。

 

「竜輝巧-エルγでダイレクトアタック!」

 

続けてエルγの一撃が雪乃のライフを削った。

 

藤原雪乃 LP3200 → 1200

 

「バトルフェイズを終了して、墓地の《流星輝巧群》の効果を発動するわ。エルγの攻撃力を1000ダウンし、このカードを手札に戻す」

 

エルγはエンドフェイズに破壊されるので、デメリットはないに等しい。

 

「ターンエンドよ」

 

「エンドフェイズに墓地の《黄金郷のガーディアン》を除外して効果発動。デッキから《紅き血染めのエルドリクシル》をセットするわ」

 

天上院明日香 LP4000 手札5 モンスター1 伏せ0

 

D:竜儀巧-メテオニス=DRA 攻撃力4000

 

□□□□□

□□D□□

 

□□□□□

■□□■呪

 

■:セットカード

■:セットカード

呪:呪われしエルドランド

 

藤原雪乃 LP1200 手札1 モンスター0 伏せ2

 

――――――――――――

 

「私のターン、ドロー。《サンダー・ボルト》を発動」

 

「くっ、手札の《緑光の宣告者》の効果発動。このカードと《紫光の宣告者》を墓地に送り、その発動を無効にするわ」

 

(まあ、ここは止めてくるわよね。というか紫光の宣告者を捨てた? ダブっていたか、他に天使族モンスターが無かったのか)

 

「ライフを800払い、呪われしエルドランドの効果発動。デッキから《黄金卿のコンキスタドール》を手札に加えるわ。そして呪われしエルドランドを墓地に送り、墓地の《黄金卿エルドリッチ》の効果発動」

 

「手札の《D.D.クロウ》を捨てて効果発動。対象のエルドリッチを除外するわ」

 

黒鳥が弾丸のように飛来し、黄金の征服王を次元の穴に叩き落とす。

 

(これで手札は2枚。1枚は《流星輝巧群》で確定。もう1枚が緑光でも紫光でも発動条件を満たせない。妨害はDRAのみ)

 

雪乃は冷静に明日香の手札を見極めていた。

 

「墓地に送られた《呪われしエルドランド》の効果発動。デッキから《黄金郷のワッケーロ》を墓地に送る。続けて《紅き血染めのエルドリクシル》を発動。デッキから最後の《黄金卿エルドリッチ》を特殊召喚!」

 

明日香はこれを静観する。

 

「ここが分水嶺だったのよ」

 

「……え?」

 

明日香は雪乃の真意が分からず困惑する。

 

「ここでDRAの効果を発動すべきだった。でもタイミングを逃したわね。すでに優先権は私に移ったわ。魔法カード《アンデット・ネクロナイズ》を発動。このカードはフィールドにレベル5以上のアンデット族モンスターがいる場合に発動できる。《竜儀巧-メテオニス=DRA》のコントロールをエンドフェイズまで得る」

 

「コントロール奪取!? くっ、チェーンしてDRAの効果発動。墓地のルタδを除外してエルドリッチを墓地に送るわ!」

 

「だけど発動した効果は止まらない」

 

地面から噴き出た蒼炎に機械竜が包まれ、その瞳が赤く変貌する。そしてその炎をまとったまま、雪乃のフィールドに場を移した。

 

「強すぎる力は諸刃の剣。最後はあなたのエースで決めてあげる。竜儀巧-メテオニス=DRAでダイレクトアタック! 流星群殲滅(メテオ・エクスクラメーション)!!」

 

「くっ、きゃぁああぁぁっ!?」

 

蒼炎の流星群が明日香を襲う。その一撃は明日香のライフを根こそぎ奪っていった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

こうして、交流戦は2勝1敗でアメリカ校の勝利で幕を閉じた。

デュエルリングでは最終戦を闘った藤原雪乃と天上院明日香が握手を交わし、お互いの健闘を称え合っている。

その光景を閲覧席から見下ろしながら、鮫島も拍手を送っていた。

 

「さて、今度は我々の出番ですな」

 

視線を隣のレンへと移し、鮫島は言う。その瞳は教育者としての柔和な目ではなく、デュエリストとしての鋭い目つきになっていた。

 

「お手柔らかにお願いしますよ」

「それは承伏しかねますな。今年は私が勝たせてもらいますよ」

 

祭りの最後の催し物。校長同士のエキシビションマッチが始まる。

 

 

 




十代について結構意見があったので、個人的な考えを述べます。(あくまで個人の考えです)
この頃の十代って勝敗は二の次で楽しいデュエルがしたいって考えだと思うんですよね。この試合もあくまで交流戦ですし。
デュエルって突き詰めれば『自分のやりたいことをやる』か『相手のやりたいことをさせない』の二択だと思うんですよ。バランスの良いデッキのそれが5:5くらいだとすれば、十代は9:1とか8:2くらいになってるイメージです。一応エアーマンで伏せカードを剥がしに行ったりと、やりたいことをやるための準備みたいな手も打ってますし。

まあ真面目に授業も受けないのにデュエルは強いってのは、他の生徒からすれば面白くないですよね。逆にメチャクチャ努力しても1番になれない三沢の方が周りの好感度は高そう。人間的にも好まれそうだし。
なのになぜあんなことになってしまったのか。


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第35話 校長はつらいよ

前回のあらすじ。

「緑光です」
「通れ」

「紫光です」
「通れ」

「朱光&神巫です」
「(チューナーだから)通さない」

「虹光です」
「(シンクロだから)通さない」

「聖光です」
「(エクシーズだから)通さない」

「虚光です」
「(リンクだから)通さない」

「神光&崇光です」
「(デュエルがつまらなくなるから)通さない」
「!?」



「鮫島校長~、がんばれ~!」

 

観客席から十代の声援が飛ぶ。鮫島は手を振ってそれに応えた。

 

「校長センセイ、アツいデュエルを期待してますわ!」

 

その反対側の席から雪乃の声援が聞こえた。レンは手を上げてそれに応える。

 

「お互い負けられませんな」

「ええ。では――」

 

 

『デュエルッ!!』

 

 

「むっ、私の先攻ですか。ドロー」

 

先攻を取らされたのは鮫島。さすがのレンもサイバー流に後攻を渡したりはしない。原作の鮫島は半ば引退状態であったが、この世界の鮫島は師範は退いたものの、未だに研鑽を続けている。

年に一度のこの日の為に。

 

「手札の《サイバー・ダーク・カノン》の効果発動。このカードを捨て、デッキから《サイバー・ダーク・キメラ》を手札に加えます。続けて《サイバー・ダーク・クロー》の効果発動。このカードを手札から捨て、デッキから《サイバネティック・ホライゾン》を手札に加えます。そしてそのまま発動。手札から《サイバー・ドラゴン》、デッキから《サイバー・ダーク・キメラ》を墓地に送り、デッキから《サイバー・ドラゴン・コア》を手札に加え、EXデッキから《サイバー・エンド・ドラゴン》を墓地に送ります」

 

サーチと墓地肥やし、さらに限定的とはいえEXデッキのカードまで墓地に送る効果に会場がどよめく。

 

「墓地に送られたサイバー・ダーク・キメラの効果発動。デッキから《サイバー・ダーク・エッジ》を墓地に送ります。《サイバー・ダーク・キメラ》を召喚して効果発動。手札の《ギャラクシー・サイクロン(魔法カード)》を墓地に送り、《パワー・ボンド》を手札に」

 

サイバー流の代名詞でもある究極の融合魔法、パワー・ボンドが鮫島の手札に加わる。

 

「サイバー・ダーク・キメラの効果により、1度だけ墓地のモンスターを除外して融合素材にできる。出し惜しみはしませんよ。《パワー・ボンド》を発動、フィールドの《サイバー・ダーク・キメラ》と、墓地の4体の「サイバー・ダーク」モンスターを素材に、《鎧獄竜-サイバー・ダークネス・ドラゴン》を融合召喚!」

 

黒き機械竜が、鋭利な牙のような翼を広げて飛翔する。だがそれすらも布石にすぎない。

 

「鎧獄竜-サイバー・ダークネス・ドラゴンの効果発動。墓地の《サイバー・エンド・ドラゴン》を装備します。そしてサイバー・エンドを装備したこのカードをリリースし、EXデッキから《鎧皇竜-サイバー・ダーク・エンド・ドラゴン》を特殊召喚!」

 

さらに深い漆黒の翼を翻し、最上級(レベル12)の機械竜が咆哮をあげる。

 

「鎧皇竜-サイバー・ダーク・エンド・ドラゴンの効果発動。墓地の《サイバー・ダーク・キメラ》をこのカードに装備します。私はカードを2枚伏せてターンエンド。エンドフェイズにパワー・ボンドの効果で2000のダメージを受けます」

 

鮫島 LP2000 手札1 モンスター1 伏せ2

 

皇:鎧皇竜-サイバー・ダーク・エンド・ドラゴン 攻撃力5000

キ:サイバー・ダーク・キメラ(装備カード)

■:伏せカード

■:伏せカード

 

キ□■□■

□□皇□□

 

□□□□□

□□□□□

 

高杉レン LP4000 手札5 モンスター0 伏せ0

 

――――――――――――

 

「私のターン、ドロー」

 

鎧皇竜-サイバー・ダーク・エンド・ドラゴンは、相手の発動した効果を受けないという強力な耐性を持つ。

ちなみに、「発動した効果」なので、発動しない永続効果は受けたりする。

 

「《レスキューラビット》を召喚して効果発動。このカードを除外して、デッキから《E・HERO スパークマン》2体を特殊召喚」

 

デッキから2体のヒーローが姿を現す。

観客席でこのデュエルを観戦していた十代は興奮のあまり立ち上がっていた。

 

「うぉぉ~! 相手の校長もヒーロー使いか!」

「落ち着け十代。高杉校長は毎年デッキを変えているらしいぞ」

 

三沢が十代の肩を掴んで席へと戻す。

 

「へぇ、複数のデッキを使うのか。おまえみたいだな、三沢」

「……俺とはレベルが違うさ」

 

三沢は小さく笑った。その笑いに自嘲が含まれていた。

 

「まあ、あの校長は交流戦が終わった後にデッキレシピを公開しているからな。参考にさせてもらうさ。今回はヒーローデッキだから、キミも興味あるんじゃないか?」

「ん~、俺はあんまり……カード選びは大体直感だからなぁ」

「そうか、まあキミはその方がいいかもな。さて、続きを見ようか」

「お、そうだな」

 

ふたりはデュエルリングへと視線を戻した。

 

「《融合識別(フュージョン・タグ)》を発動。このターン、スパークマンの1体を《E・HERO フレイム・ウィングマン》として融合素材にできる」

 

スパークマンの首に、フレイム・ウィングマンの絵柄が記されたドッグタグがかけられる。

 

――俺はフレイム・ウィングマン、俺はフレイム・ウィングマン

 

「スパークマンとフレイム・ウィングマン……その組み合わせは!?」

 

鮫島が目を見開く。その2体から呼び出されるのは、交流戦第1戦でフィニッシャーとなったヒーローモンスター。

 

「《融合》発動。現れろ、《E・HERO シャイニング・フレア・ウィングマン》!」

 

2体のスパークマンが融合し、光のヒーローが生まれる。

 

「シャイニング・フレア・ウィングマンの攻撃力は墓地の「E・HERO」の数×300アップします。さらに《フェイバリット・ヒーロー》を装備。バトルフェイズに入ります。そしてバトルフェイズ開始時、フェイバリット・ヒーローの効果発動。デッキから《摩天楼 -スカイスクレイパー-》を発動。そしてシャイニング・フレア・ウィングマンの守備力を攻撃力に加える」

 

シャイニング・フレア・ウィングマン 攻撃力2500 → 3100 → 5200

 

「まさか鎧皇竜の攻撃力を上回るとは……さすがですな」

 

「バトル。シャイニング・フレア・ウィングマンで鎧皇竜-サイバー・ダーク・エンド・ドラゴンを攻撃!」

 

「甘いですな! 攻撃宣言時、速攻魔法《決闘融合-バトル・フュージョン》を発動! 鎧皇竜の攻撃力は戦闘する相手モンスターの攻撃力分アップします!」

 

鎧皇竜-サイバー・ダーク・エンド・ドラゴン 攻撃力5000 → 10200

 

「ダメージ計算前に、手札の《オネスト》を捨てて効果発動。相手モンスターの攻撃力を加算します」

 

シャイニング・フレア・ウィングマン 攻撃力5200 → 15400

 

「……あなたなら、それくらいやってくると思っていましたよ。しかし! オネストの効果処理後に《リミッター解除》を発動。鎧皇竜の攻撃力を倍にします!」

 

黒き鋼の巨体がさらに大きく膨れ上がる。

 

鎧皇竜-サイバー・ダーク・エンド・ドラゴン 攻撃力10200 → 20400

 

この時点で鮫島は勝利を確信していた。ダメージ計算時にフィールド魔法の効果でシャイニング・フレア・ウィングマンの攻撃力は1000アップするが、それでも2体の攻撃力の差は4000。

レンのライフは一撃で消し飛ぶ。

だが闇のブレスと光の拳がぶつかり合う、その瞬間――

 

「ダメージ計算時、手札の《D-HERO ダイナマイトガイ》を捨てて効果発動。この戦闘で発生するダメージを0にし、お互いに1000のダメージを受けます」

 

運命の戦士が発生する衝撃波を受け止めた。

 

「なっ!? くぅっ!」

 

高杉レン LP4000 → 3000

 

鮫島 LP2000 → 1000

 

「私はこれでターンエンド」

 

「エンドフェイズにリミッター解除の効果を受けたモンスターは破壊されます。ですが破壊されたサイバー・ダーク・キメラの効果で、デッキから《サイバー・ダーク・カノン》を墓地に送ります」

 

高杉レン LP3000 手札0 モンスター0 伏せ0

 

摩:摩天楼 -スカイスクレイパー-

 

□□□□□

□□□□□摩

 

□□□□□

□□□□□

 

鮫島 LP1000 手札1 モンスター0 伏せ0

 

――――――――――――

 

「私のターン、ドロー! 《サイバー・ドラゴン・コア》を召喚して効果発動!」

 

ここで鮫島はサーチするカードに悩む。攻撃を優先するなら《サイバー・レヴシステム》。防御を優先するなら《サイバネティック・オーバーフロー》あたりとなる。

 

(攻撃力400のコアを残しておくのは不安が残る。ならば……)

 

「私は《サイバネティック・レボリューション》を手札に加えます。バトル! サイバー・ドラゴン・コアでダイレクトアタック!」

 

高杉レン LP3000 → 2600

 

「メイン2へ移り、墓地の《ギャラクシー・サイクロン》の効果発動。このカードを除外し、《摩天楼 -スカイスクレイパー-》を破壊します。カードを1枚伏せてターンエンドです」

 

鮫島 LP1000 手札1 モンスター1 伏せ1

 

コ:サイバー・ドラゴン・コア 攻撃力400

 

□□■□□

□□コ□□

 

□□□□□

□□□□□

 

高杉レン LP2600 手札0 モンスター0 伏せ0

 

――――――――――――

 

「私のターン」

 

レンもまた苦しい状況だった。手札は0。相手の場に伏せられているのは《サイバネティック・レボリューション》だろう。

 

「ドロー」

 

ドローカードを確認したレンから笑みが漏れる。

 

(なんだこの主人公みたいな引きは)

 

長くデュエルを続けていれば、こういった劇的なことも起こる。レンの脳内にカン☆コーンという音が鳴り響いた。

 

「魔法カード《ミラクル・フュージョン》を発動。墓地のシャイニング・フレア・ウィングマンとスパークマン2体、ダイナマイトガイの4体を素材として除外します」

 

「4体もの素材を!?」

 

「《Wake Up Your E・HERO》を融合召喚!」

 

複数のヒーローたちが、1体のヒーローとなって現れる。

 

「《Wake Up Your E・HERO》の攻撃力は素材としたモンスターの数×300アップします」

 

Wake Up Your E・HERO 攻撃力2500 → 3700

 

「バトル。サイバー・ドラゴン・コアを攻撃!」

 

「させません! サイバー・ドラゴン・コアをリリースし、《サイバネティック・レボリューション》を発動。EXデッキからサイバー・エンド・ドラゴンを特殊召喚!!」

 

サイバー流・裏の切り札に続き、表の切り札が姿を現す。その攻撃力は《Wake Up Your E・HERO》を超える4000。

 

「……攻撃を続行。サイバー・エンド・ドラゴンを攻撃!」

 

「なんですとっ!? ならばサイバー・エンドで迎撃!」

 

機械竜から放たれた光のブレスがヒーローを包み込む。戦闘はサイバー・エンド・ドラゴンの勝利に終わった。だが――

 

「ダメージ計算後に《Wake Up Your E・HERO》の効果発動。戦闘を行った相手モンスターを破壊し、その元々の攻撃力分のダメージを相手に与える。この効果は《Wake Up Your E・HERO》が戦闘破壊される場合でも発動します」

 

「なっ!? ぐわぁああぁぁっ!!」

 

鮫島 LP1000 → 0

 

 

 

「あっちゃぁ、校長負けちゃったか。でもあのヒーローカッケーなぁ。あんなカード初めて見たぜ。三沢は知ってるか」

「……いや、知らないな。そういえば、来月I2社から新パックが発売されるらしい。もしかしたら、そのお披露目……宣伝だったのかもな」

「へぇ~。よし、あのヒーロー、絶対引き当ててやるぜ!」

 

そしてデュエルリングに視線を戻せば、両校長が試合後の握手を交わしているところだった。

そこで司会のクロノスが再びマイクを握る。その隣には、いつの間にかひとりの女性が立っていた。

 

「ではこれヨーリ、勝者の高杉校長にプレゼントが贈られるノーネ。ささ、トメさん、よろしくお願いしまスーノ」

「まかせておくれ!」

 

レンに学園のアイドルから熱いキッスが贈られる。

その光景を、雪乃は複雑な表情で眺めていた。

 

 

 




……おや!? 雪乃の 様子が……!


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第36話 学園祭

交流戦(お祭り)が終われば、また別の学園祭(お祭り)が始まる。

交流戦から3ヵ月ほどが経ち、藤原雪乃は自室でカタログを眺めながら唸っていた。そのカタログには様々なモンスターが描かれている。

その中からコスプレする対象を選ばなければならないのだ。

 

来たる学園祭。1年生はコスプレすることが義務付けられていた。そして、ただコスプレするだけではない。学園からそのモンスターを主軸としたデッキが支給され、そのデッキで来場者とデュエルしなければならないのだ。学園祭はお祭りでありながら、授業の一環でもある。

 

「勝つことを念頭に置けば、ハーピィ・レディやドラゴンメイドなんかは良さそうだけれど……」

 

ちなみに、支給されたデッキをいじることは許されない。完全にレンタルデッキで闘わなければならないのだ。

あまりネタに走ると後悔することになる。

 

「《薔薇恋人(バラ・ラヴァー)》は攻めすぎかしら……」

 

そこには背中が大きく開いた赤いドレスを身にまとった貴婦人が描かれていた。

 

「霊使いもなかなか面白そうね」

 

ヒータのへそ出しルックはともかく、他は比較的おとなしい衣装だった。

 

「幻奏は……あのコンビはなかなか強固なロックだけど、レンタルデッキだからどうかしらね」

 

デッキの内容は当日にならないと分からない。その為のギミックが搭載されているかは現段階では不明なのだ。

 

「あら、これは……」

 

とあるページで雪乃の手がとまる。それはレンがバトルシティで使用していたカードの1枚だった。

とはいえ専用のデッキではなく、ギミックのひとつとして採用していたのだが、このレンタルデッキはおそらく専用の構築がされているだろう。

 

「これにしましょう」

 

雪乃はパタンとカタログを閉じた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

デュエルアカデミアの学園祭当日。校庭では定番のたこ焼き、焼きそば、りんご飴などの屋台が並んでいた。

だが運営しているのは生徒たちではない。生徒数が圧倒的に少ないこのアカデミアではどうやっても困難なのだ。

 

つまるところ、この学園祭は生徒の運営するものではなく、デュエルアカデミアという場所で開催されるお祭りと言った方が正しい。

都市部から離れ、娯楽の乏しいこのデュエルアカデミアに通う生徒たちへのささやかな贈り物といったところだろう。

 

そしてこの学園祭の目玉といえるのが、1年生のコスプレデュエルだ。生徒数の関係上、いつもは閑散としているデュエルアリーナは多くの観客が詰め寄せ、満員御礼だった。

毎年1年生がコスプレをして挑戦者(お客さん)と闘うのだ。プロの卵ともいえるアカデミアの生徒とデュエルできるとあって、希望者は多い。ファーストの雪乃はそこで大トリを務める。

その控え室で、雪乃は最後のデッキ確認を(おこな)っていた。調整はできないが、デッキ内容を暗記しておくのは基本である。

 

「むっ。早いな、藤原」

 

控え室に来た万丈目が雪乃に声をかける。が、雪乃は万丈目の姿(コスプレ)を見て呆気に取られていた。

 

「アナタはてっきりドラゴン族を選ぶかと思っていたけれど、意外ね」

「俺は普段からドラゴンを使ってるからな。変わり映えしないデッキでは評価されないと思ったんだ。カタログを見る前から【ローレベル】でいくと決めていた」

 

万丈目はブスッとした口調で答えた。

 

(デッキ選択ではなく、初見のデッキをどう回すかが見られるところだと思うけれど……)

 

雪乃はそう思ったが確信はない。万丈目の言うように、普段のデッキと似たようなデッキではなく、正反対のデッキを選んだ方が、チャレンジ精神が旺盛であると評価される可能性もある。

ともあれ、いまさらな話であるが。

 

「それ……おジャマ・イエローよね」

 

触覚のような目玉に黄色い身体。そして赤い海パン。コスプレではなく、そんな着ぐるみを来た万丈目に問う。

 

「このデッキは凄いぞ。おジャマモンスター6種が3積みで18枚も入っている。事故率がハンパない!」

 

やけくそ気味に万丈目が叫ぶ。

 

「通常モンスター2体で《始祖竜ワイアーム》が出せるんじゃない?」

「そんな気の利いたものが入ってると思うか?」

「まあ、そうよね」

 

雪乃のデッキにも、正直微妙とも言えるカードが入っていた。とはいえ、抜いたり差し替えたりするわけにもいかない。

 

「まあ、勝ち筋はいくつかありそうだ。ところで、おまえの格好は……ハイネか?」

「……黒だけで判断したでしょ? まあ、闇属性・魔法使い族というところは合ってるわ」

 

雪乃が呆れたようにため息を零す。

そうこうしているうちに、万丈目が呼ばれ、大トリの雪乃に声がかかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「さあ本日最後のコスプレデュエル! 大トリを務めるのは当然ファーストの生徒だ! アカデミアの1年トップ、藤原雪乃!」

 

ノリノリで司会をしているヨハン・アンデルセンの紹介で、雪乃はデュエルリングに進み出た。

観客席に向かって大きく手を振る。

 

「そして対戦者の登場だ!」

 

反対側の入場口から現れた少女に、会場は一瞬静まり返る。そして、それが大歓声に変わった。

 

「オイオイオイ、ブラック・マジシャン・ガールじゃねぇか。完成度たけぇな!」

「オイオイオイオイ、可愛すぎだろ! 死んだわ俺」

「僕も」

「ワイも」

 

何人かの観客が鼻血を出してぶっ倒れる。

 

(まあ、お客さんがコスプレしちゃいけないわけじゃないけど)

 

毎年の名物だけあって、客側もコスプレしてくる場合はある。しかしここまで完成度が高いのは珍しい。まるでカードの中から飛び出てきたようである。

雪乃は内心で舌を巻いた。

 

「応援ありがと~! 頑張りま~す!」

「こいつは可愛らしい挑戦者だ。先攻後攻の選択権は挑戦者(キミ)にあるぜ。どっちを選ぶ?」

「じゃあ先攻でお願いします!」

「了解だ。じゃあいくぜ。せーの!」

 

ヨハンが観客席に向かって合図を送る。

 

 

『デュエルッ!!』

 

 

「わたしのターン、ドローで~す。いきなり行きますよ。《黒魔術の秘儀》を発動。手札の2枚を融合します!」

 

ブラック・マジシャン・ガールは手札の2枚を指に挟むと、くるりと手首を回転させる。

 

「精霊界の平和を守るため、わたし(勇気)お師匠さま()融合(ドッキング)! 融合召喚! 愛と正義の使者、《超魔導師-ブラック・マジシャンズ》!」

 

融合の渦中から現れたのは、2体の魔術師。その登場に観客は一層の盛り上がりを見せる。

 

「まだまだいくよ~! 《死者蘇生》を発動。墓地の"わたし"、復活! そしてブラック・マジシャンズ(わたしたち)の効果でカードを1枚ドローします」

 

ふわりとブラック・マジシャン・ガールが蘇り――

 

「そして《星呼びの天儀台》を発動。わたしをデッキの一番下に戻し、カードを2枚ドロー!」

 

すぐさまデッキに戻って、ドローカードへと変わる。

 

「さらにモンスターをセットして、カードを2枚伏せてターンエンドで~す」

 

B・M・G LP4000 手札1 モンスター2 伏せ2

 

超:超魔導師-ブラック・マジシャンズ 攻撃力2800

セ:セットモンスター

■:伏せカード

■:伏せカード

 

□□■□■

□□超□セ

 

□□□□□

□□□□□

 

藤原雪乃 LP4000 手札5 モンスター0 伏せ0

 

――――――――――――

 

「私のターン、ドロー。永続魔法《フォーチュン・ヴィジョン》を発動。デッキから《フォーチュンレディ・ライティー》を手札に加えるわ」

 

ブラック・マジシャンズ(わたしたち)の効果でカードを1枚ドローしますね」

 

「好きになさい。フィールド魔法《フューチャー・ヴィジョン》を発動」

 

周囲の景色が歪み、異次元空間に包まれる。

 

「《フォーチュンレディ・ライティー》を召喚。この瞬間、フューチャー・ヴィジョンの効果が発動され、ライティーは次の私のターンのスタンバイフェイズまで除外されるわ。そして効果でフィールドを離れたライティーの効果発動。デッキから《フォーチュンレディ・ファイリー》を特殊召喚」

 

ライティーが杖を振るって呼び出したのは真紅の衣装を身にまとった魔法少女。その少女が杖を振るえば、巨大な火球が現れる。

 

「ファイリーの効果発動。《超魔導師-ブラック・マジシャンズ》を破壊し、その攻撃力分のダメージを相手に与える」

 

「な、なんですと~!? ですがただではやられませんよ。破壊時効果により、墓地からお師匠さまを、デッキからわたしを呼び出しちゃいます!」

 

魔術師の師弟が炎に包まれたかと思えば、それぞれが左右の違う位置から出現する。さながら脱出マジックのようだったが、破壊されたことに変わりはなく、きっちりダメージは発生していた。

 

B・M・G LP4000 → 1200

 

「カードを4枚伏せてターンエンドよ」

 

藤原雪乃 LP4000 手札0 モンスター1 伏せ4

 

フ:フォーチュンレディ・ファイリー 攻撃力400

■:伏せカード

■:伏せカード

ヴ:フォーチュン・ヴィジョン

■:伏せカード

■:伏せカード

チ:フューチャー・ヴィジョン

 

■■ヴ■■

□□フ□□チ

 

セブ□ガ□

■□■□□

 

セ:セットモンスター

ブ:ブラック・マジシャン 攻撃力2500

ガ:ブラック・マジシャン・ガール 攻撃力2000

■:伏せカード

■:伏せカード

 

B・M・G LP1200 手札2 モンスター3 伏せ2

 

――――――――――――

 

「わたしのターン、ドロー。おっ、良いカードを引けましたよ」

 

ブラック・マジシャン・ガールはニマッと笑って、詠唱のために息を吸い込む。

 

「滲み出す混濁の紋章、不遜なる狂気の器、湧き上がり・否定し・痺れ・瞬き・眠りを妨げる爬行(はこう)する鉄の王女 絶えず自壊する泥の人形。結合せよ、反発せよ、地に満ち己の無力を知れ。魔導の九十・《黒・魔・導(ブラック・マジック)》!!」

 

「カウンター罠《運命湾曲》を発動。そのカードの発動を無効にして除外するわ」

 

しかしブラック・マジシャンの杖より放たれた魔術は、無情にも次元の穴に吸い込まれていった。

 

「えぇっ!? 頑張って覚えたのに……噛まずに言えたのに……っていうかなんのコストもなしのカウンター罠ですか!?」

 

「一応、私のフィールド上のモンスターが「フォーチュンレディ」のみという条件はあるわ。それに無効にしたカードはこのターンのエンドフェイズに持ち主の手札に戻るわ」

 

「……それって一時しのぎにしかならないのでは?」

 

ブラック・マジシャン・ガールは訝しんだ。

 

「ええ、そうね」

 

と雪乃も同意する。だが昨今のデュエルにおいて、1ターン稼ぐことの意味は想像以上に大きい。

 

「う~ん、これは悩みどころですねぇ」

 

ブラック・マジシャン・ガールがほほに指をあてて首を傾げる。相手の場には3枚の伏せカード。攻め込むには少々不安がある。エンドフェイズには《黒・魔・導》は帰ってくるが、次のターンに発動条件である《ブラック・マジシャン》が場に残っている保証はない。

 

「待った方がいいんでしょうけど、今日はお祭りです。攻めちゃいますよ。装備魔法《魔術の呪文書》を発動。わたしの攻撃力を700アップします!」

 

ブラック・マジシャン・ガール 攻撃力2000 → 2700

 

「バトルフェイズに入ります。まずはわたしが先陣を切ります!」

 

ブラック・マジシャン・ガールが手にしたロッドをくるりと回す。

 

「攻撃宣言時、《パワー・フレーム》を発動。その攻撃を無効にし、このカードをファイリーに装備するわ。そしてファイリーの攻撃力はその時の攻撃モンスターとの攻撃力の差分アップする」

 

フォーチュンレディ・ファイリー 攻撃力400 → 2700

 

「ありゃりゃ、パワーアップがあだとなっちゃいましたか。ですが甘いです。リバースマジック《ディメンション・マジック》を発動。セットモンスターをリリースして、手札からもうひとりのわたしを特殊召喚!」

 

ブラック・マジシャン・ガールの隣にもうひとりブラック・マジシャン・ガールが現れる。

 

「ブラマジガールがダブルでキター!」

「ブラマジガールがふたりとか豪華すぎるだろ!」

「でもさ、ディメンション・マジックを伏せてたのなら、ファイリーの効果をかわせたんじゃね?」

 

(ブラック・マジシャンズの効果は破壊時にしか発動できない。リリースしてしまえば、ダメージは回避できるけど、後続は呼び出せない。それよりもフューチャー・ヴィジョンの効果にチェーン発動されてたら、かなりキツかったわね)

 

ライティーの効果は「時の任意効果」なのでチェーン2以降にフィールドから離れるとタイミングを逃すのだ。

 

(《ワンダー・ワンド》が入ってるのは絶対に罠よね。便利なドローソースではあるのだけれど……)

 

「その後、相手モンスター1体を破壊します。《フォーチュンレディ・ファイリー》を爆☆殺! もうひとりのわたしで直接攻撃! ブラック・バーニング!」

 

ブラック・マジシャン・ガールの振るう杖から炎の魔術が迸る。

 

藤原雪乃 LP4000 → 2000

 

「これでお終いです! お師匠さまでダイレクトアタック! ブラァァック・マジック!」

 

「そちらは通さないわ。《ガード・ブロック》を発動。戦闘ダメージを0にし、カードを1枚ドロー」

 

「むむっ、かわされちゃいましたか。わたしはこれでターンを終了します。エンドフェイズに《黒・魔・導(ブラック・マジック)》が戻ってきますよ」

 

「こちらもエンドフェイズに《フォーチュン・インハーリット》を発動するわ。次のスタンバイフェイズに手札から2体まで「フォーチュンレディ」を特殊召喚できる効果よ」

 

B・M・G LP1200 手札1 モンスター3 伏せ1

 

ガ:ブラック・マジシャン・ガール 攻撃力2700

ガ:ブラック・マジシャン・ガール 攻撃力2000

ブ:ブラック・マジシャン 攻撃力2500

魔:魔術の呪文書(対象:ブラック・マジシャン・ガール)

■:伏せカード

 

 □魔■□□

 □ガガブ□

 

チ□□□□□

 □□ヴ□□

 

ヴ:フォーチュン・ヴィジョン

チ:フューチャー・ヴィジョン

 

藤原雪乃 LP2000 手札1 モンスター0 伏せ0

 

――――――――――――

 

「私のターン、ドロー」

 

ドローしたカードを確認した雪乃は、思わず口角を上げた。

 

(我ながら良い引きだわ)

 

「スタンバイフェイズに除外されていたライティーが戻って来るわ。そして《フォーチュン・インハーリット》の効果で、手札から2体の《フォーチュンレディ・ウォーテリー》を特殊召喚。それぞれの効果で、カードを4枚ドローするわ」

 

「4枚ドロー!?」

 

「そしてフォーチュンレディの共通効果で、ライティーとウォーテリーのレベルが1つあがるわ」

 

フォーチュンレディ・ライティー レベル1 → レベル2

フォーチュンレディ・ウォーテリー レベル4 → レベル5

 

「さあ、反撃開始よ。永続魔法《異次元隔離マシーン》を発動。私のフィールドのライティーと、あなたのフィールドのブラック・マジシャンを除外するわ」

 

「お、お師匠さまァァァ!」

 

次元の穴に吸い込まれていくブラック・マジシャンに手を伸ばすが、その手が届くことはなかった。

 

「効果でフィールドを離れたライティーの効果発動」

 

「また赤いあの子ですか!?」

 

「そうしたいところだけど、ファイリーは1枚しか入っていないのよ。私が呼び出すのは、《フォーチュンレディ・ダルキー》!」

 

漆黒の衣装を身にまとった魔法少女が現れる。それを見たブラック・マジシャン・ガールは思わず「あっ」と声を漏らした。

 

「もしかしてあなたの衣装……」

 

「今頃気づいたのかしら? そうね、あなた風に言うのなら、"私"で攻撃、と行きましょうか」

 

ダルキーが杖を腰だめに構え、ブラック・マジシャン・ガールへと向ける。

 

「私で、攻撃力の低い方のあなたを攻撃! ダーク・フェイト!」

 

「ふふっ、甘いですね。マシュマロンマシュマロくらい甘々です! 攻撃宣言時、《聖なるバリア-ミラーフォース-》を発動! 絶望の淵に沈みなさ~い!」

 

ブラック・マジシャン・ガールが華麗なステップで逆転の舞いを披露するが、そのバリアは乾いた音を立てて崩れ去った。

 

「はぇ?」

 

「永続魔法《フォーチュン・ヴィジョン》の効果よ。自分フィールドのカード(フォーチュンレディ・ライティー)が効果で除外されたため、このターン、私のモンスターは効果では破壊されない」

 

「な、なんですと~!? ですがふたりの攻撃力は同じ……」

 

「速攻魔法《タイム・パッセージ》を発動。私のレベルを3つ上げるわ。そしてレベルが上がったことで、攻撃力も上がる」

 

フォーチュンレディ・ダルキー 攻撃力2000 → 3200

 

漆黒の杖から放たれた暗黒魔法がブラック・マジシャン・ガールが包み込む。

 

「ジャ、ジャストキル~!」

 

「対戦ありがとうございました」

 

デュエルを終え、雪乃は優雅に一礼した。

 

 

 




次回は時間が一気に飛びます。


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第37話 押し売り

未来予知の力というのは、千年タウクの能力であって、イシズの能力ではない。イシズの能力はあくまで千年タウクの力を引き出せるというだけであって、イシズが未来予知できるわけではないのだ。

 

だがこの少年は違う。タロットカードを使いはするが、それは補助的なもの。むしろ演出的な部分が大きい。その方が、客が納得しやすいから。

しかし千年タウクと違い、確実な未来が見えるわけではない。とはいえその力を求める者や、恐れる者はいる。それが迫害にまで発展することも、ある。

 

(正直、関わるつもりはなかったんだがな)

 

そもそも斎王の居場所をレンは知らない。調べようともしていない。I2社の力を使って探すこともできたが、変に藪をつつきたくなかったというもある。

では何故この少年(正確には兄妹(きょうだい))がレンの前にいるのかというと、イシズが拾ってきたからだった。

 

ここで何故イシズがI2社にいるのかを説明すると、エジプトから派遣されて来たのだ。

エジプト政府側としてはマリクの件でレンが譲歩しすぎたことを不気味に思っているらしく、人材派遣という形の人質を差し出して来たのだ。そして意外にも、イシズ自身も乗り気だった。

 

(闘いの儀も終わったしヒマになったのかね。まあ秘書として雇って、後は夜行月光に引き継げばいいか)

 

と思っていたのだが、何故かイシズはレンについて学園(アカデミア)設立に尽力することとなった。

今は保健室で養護教諭を務めている。

 

話を斎王琢磨に戻そう。

当時の彼らは逃亡中だった。特定の誰かというよりは、人々の悪意(世間)からといった方が正確かもしれない。

レンに彼らを保護することはできる。I2社の力を使わずとも、それくらいの権力や財力はある。

 

しかしこれまで、様々な悪意にさらされてきた彼にとって、善意というのもまた胡散臭いものなのだ。

レンは一切気を緩めぬ彼の気配からそれを感じ取った。

 

「取引をしましょう」

「……伺いましょう」

「私は、こう見えても敵の多い身でね。キミは私に危機が迫った時、それを教えてくれるだけでいい。その対価として、キミと妹が不自由なく暮らせる生活を保障しましょう」

 

無論これは方便だ。レンに敵対している人間はいない……こともないが、社長を辞めた今ではわざわざ狙いに来る者もいないだろう。またI2社に限っていえば、レンよりもペガサスの方が影響力は高い。

先日襲われた"悲劇"は交通事故のようなものだろう。

 

斎王はレンの目を見据えた。

相手はI2社の元社長。後ろ盾としては申し分ない。だが、信用していいのか。問題はその一点に限る。

 

「もちろん契約書も用意しましょう」

「……分かりました」

 

これが決め手になった。このアメリカは契約社会と呼ばれるほど、契約書の内容を重視する。ここで自分の意思を明確にしておけば、いざという時にも有利になる。

まだ全面的に信用したわけではないが、一時の住処を手に入れるには悪くない条件だと思った。

 

またレンは気づいていないが、彼の傍らで浮遊し、少年に微笑みかける金髪の少女も、斎王を安心させる一助となっていた。

こうして斎王琢磨とその妹、美寿知はレンの庇護下に入った。

 

(もう随分と昔のことだな)

 

急にそんなことを思い出したのは、携帯電話の液晶に映る名前を見たからだ。彼の方から連絡が来るのは、初めてだったから。

 

「ハロー、斎王。元気かね」

「契約を果たす時が来たようです」

 

声は至極真面目だった。いや、深刻というべきか。

 

「穏やかではないね」

「逆位置の恋人(THE LOVERS)。不倫や浮気などの不誠実な男女関係に陥ったり、快楽に溺れ気持ちのコントロールが抑えられなくなります」

「……私は独り身だ。不倫も浮気もありえないな」

「ええ、続きがあります。正位置の死神(DEATH)。それが表すものは終点、損失。あなたは今、どうやっても止められない流れに飲み込まれています。手の打ちようがないまま物事が強制的に終了してしまう、ということもありえます」

「……穏やかではないな」

 

知らずに口調が素へと戻っていた。

 

「普通に考えれば、あなたに片思いをしている女性が衝動的に、あるいは計画的に動き出す可能性があります。あなたを攫い、監禁する。あるいは、心中する」

「強硬手段に出る前に、まず告白してほしいところだがな」

 

あいにくと、この学園に来てからそんな経験はない。

 

「……ここからは私の勘ですが、そんな生易しいものではないような気がします。なんにせよ、警戒してください」

 

そう言って斎王は通話を切った。

 

斎王(占い師)でも勘とか言うんだな。しかし……)

 

レンは斎王の言葉を反芻する。

 

(終点……終わり。損失……命。物事……人生。取りようによっては物騒だな)

 

そんなことを思いつつも、今日は早く帰ろうと、レンは校長室をあとにした。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

藤原雪乃が入学時から一度もファーストを譲らなかったのは、本人のたゆまぬ努力と、ささやかな願掛けのおかげだったのかもしれない。

このデュエルアカデミアの歴史はまだまだ浅いが、それでも3年間ファーストを守り通せた生徒はいない。

 

その史上初の実績を掲げてプロへと入る。その時、初めて雪乃はあの人に想いを伝えようと決心していた。

しかしそれは、最後の最後で覆された。

 

万丈目準という男は、いつまでも2番手に甘んじている男ではなかったということだ。

闇の竜が迫り、己のライフを削り取る。

デュエルディスクから聞こえる乾いた音、敗北を告げる音はいつまでも耳に残った。

 

(油断していたつもりは、なかったのだけれど……)

 

努力していたのは自分だけではない。万丈目もまた、兄たちの重圧に負けず努力し続けていたのだ。

それが最後の最後に結実した。

 

(どうしようかしら)

 

この気持ちをなかったことにはできない。しかし、何も伝えずに卒業して、ただの一生徒として見送られるのは御免だ。

彼の記憶に残りたい。

彼の心に、藤原雪乃という名前を刻みたい。

 

――あの男が欲しいのか?

 

最初は憧れだった。それがいつしか、恋心へと変わった。

 

――屈服させればいい

 

巷では恋愛決闘(ラブデュエル)というものが流行っているらしい。先日読んだデュエル雑誌で特集されていた。無論、勝てば付き合えるというものではなく、デュエルという形での告白のようだが。

 

――力が欲しいか?

 

それは闇の底から響いてくるような声だった。そこで雪乃は、はたと気づく。

 

(この声は、なに? どこから聞こえて……)

 

――力が欲しいのなら

 

室内は霧のような、白いもやのようなものに包まれていた。

深淵から漏れ出た光が、雪乃の心を侵食していく。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

――くれてやる

 

 

 




次回は1枚だけオリカが登場します。一応『神』のカードなのでご容赦ください。


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第38話 ミラクルロマンス

学園から教員寮への帰路、うす暗い夕方の逢魔が時に、それは現れた。足の重さを感じたレンは、続けて重い空気が、瘴気のようなものが自分を包み込んでいくのを知覚した。

 

「身体が動かないでしょう? それは仕方のないことよ。あなたの身体は今、急速に()の中に呑まれつつある」

 

その言葉通り、レンは確かに動けずにいた。指先を動かすこともできず、瞬きすらできない。

聞き覚えのある声だった。そして聞き覚えのない声音だった。

 

(……誰だ?)

 

誰何(すいか)の声は闇に溶けた。声を出そうにも、唇が動かないのだ。

 

「あなたを永遠のものとしたいの。捕らえて、大事に大事にしまっておきたいの」

 

背中になにかが這った。レンの頭の中に斎王の警句が蘇る。

 

(なるほど。これは終点の危機だな)

 

意外なことに、レンにはまだ余裕があった。この瘴気に覚えがあったのだ。さすがに3回目ともなれば嫌でも慣れる。

 

(……闇のゲームか)

 

ならばまだチャンスはある。相手が問答無用で自分を始末するつもりなら、それこそ打つ手はない。

 

「私たちは一心同体となるの。心も身体もひとつになるの。そうすれば、永遠に一緒。ずっと、ふたりきり」

 

何かを言おうにも、唇が動かない。レンにできることは、相手の言葉を聞くことだけだ。

 

「ああ、そういえば、動けないのだったわね」

 

正面にぬっと現れた顔は、レンのよく知る少女だった。その瞳の色以外は。

レンは反射的に後方へと跳び退(すさ)った。この魔性に魅入られては、心まで牢獄に閉じ込められそうになる。

 

「あら、つれない人。ふぅん、デュエルをご所望なのね」

 

レンは無意識にデュエルディスクを構えていた。だがこれは悪い展開ではない。

 

「お互いデュエリストだ。デュエルで決着をつけようか。俺が勝てば、その子を返してもらうぞ」

「ふふふっ、私はこの娘の願いを叶えてやろうとしただけだ」

「曲解して、だろう。さっさと構えろ」

「ふん。いいだろう」

 

 

決闘(デュエル)

 

 

「私のターン、ドロー。手札1枚をコストに、《スネーク・レイン》を発動。デッキから爬虫類族モンスター4体を墓地へ送る。そして墓地より《溟界の(おり)-ヌル》を特殊召喚」

 

漆黒の鱗を持つ大蛇がとぐろを巻いて現れる。

 

「このカードは私のフィールドにモンスターがいない場合、墓地より特殊召喚できる。まあフィールドを離れた場合に除外されるけどね。そしてヌルをリリースし、墓地より《溟界の黄昏(たそがれ)-カース》を特殊召喚。その後、おまえは自分の墓地からモンスター1体を効果を無効にして特殊召喚できるが、おまえの墓地にモンスターはいない。カースの第2の効果を発動。墓地の《溟界の滓-ナイア》を特殊召喚する。そしてナイアの効果でデッキから《溟界の蛇睡蓮》を手札に加える」

 

高い守備力を持つモンスターを並べ、カードを2枚伏せて雪乃はターンを終えた。

 

藤原雪乃 LP4000 手札3 モンスター2 伏せ2

 

カ:溟界の黄昏-カース 守備力2400

ナ:溟界の滓-ナイア 守備力2000

■:伏せカード

■:伏せカード

 

□■□■□

□カ□ナ□

 

□□□□□

□□□□□

 

高杉レン LP4000 手札5 モンスター0 伏せ0

 

――――――――――――

 

「俺のターン、ドロー。《白銀の城の召使い(ラビュリンス・サーバンツ) アリアーヌ》を召喚して効果発動。手札の《Vivid Tail(通常罠カード)》を墓地に送り、デッキから《白銀の城の召使い(ラビュリンス・サーバンツ) アリアンナ》を守備表示で特殊召喚する。さらにアリアンナの効果で、デッキから《迷宮城の白銀姫(レディ・オブ・ザ・ラビュリンス)》を手札に加える」

 

ゴシック風の衣装を着た銀髪の双子悪魔がハイタッチを交わし、レンに向かって一礼する。

 

「続けて墓地の《Vivid Tail》の効果発動。このカードをセットし、アリアンナを手札に戻す。そしてアリアーヌの効果発動。カードを1枚ドローし、手札から《迷宮城の白銀姫(レディ・オブ・ザ・ラビュリンス)》を特殊召喚する」

 

白銀の鎧に身を包んだ迷宮城の主が優雅な仕草で登場し、視線をチラリとレンに向けてウインクを送る。

 

「バトル。迷宮城の白銀姫で溟界の黄昏-カースを攻撃!」

 

白銀の剣を振りかぶり、白き淑女が突撃する。その双撃は、黄金の鎧を容易く斬り裂いた。

 

(伏せカードは動かずか)

 

相手は変わらず闇色の瞳を歪め、奇怪な笑みを続けている。

 

「カードを2枚伏せてターンエンド」

 

「エンドフェイズに《毒蛇の供物》を発動。ナイアとおまえがいま伏せたカード2枚を破壊する」

 

「チェーンして《迷宮城の白銀姫》の効果発動。発動した罠カードとは違う名称の罠カードをデッキからセットする。俺は《聖なるバリア-ミラーフォース-》をセット」

 

高杉レン LP4000 手札4 モンスター2 伏せ2

 

白:迷宮城の白銀姫 攻撃力3000

ア:白銀の城の召使い アリアーヌ 攻撃力1800

ビ:伏せカード(Vivid Tail)

聖:伏せカード(聖なるバリア-ミラーフォース-)

 

□□ビ聖□

□□白ア□

 

□□□□□

□■□□□

 

■:伏せカード

 

藤原雪乃 LP4000 手札3 モンスター0 伏せ1

 

――――――――――――

 

「私のターン、ドロー。《溟界妃-アミュネシア》を捨てて《トレード・イン》を発動。カードを2枚ドローする。さらに手札を1枚捨てて《スネーク・レイン》を発動。デッキから4体の爬虫類族を墓地に送る」

 

(墓地がヤバいことになってるな。爬虫類族限定とはいえ、おろかな埋葬×4だからな)

 

「墓地の《溟界の滓-ヌル》を自身の効果で特殊召喚。そしてヌルをリリースし、墓地より《溟界の昏闇(くらやみ)-アレート》を特殊召喚」

 

鋭い爪を持つ獣のような漆黒の爬虫類族が影より現れる。

 

「その後、おまえは自分の墓地からモンスター1体を手札に加えることができるが、おまえの墓地にモンスターはいない。そして特殊召喚時の効果で、除外されているヌルとナイアを墓地に戻す。続けて《溟界の蛇睡蓮》を発動。デッキから《溟界神-オグドアビス》を墓地に送る。その後、墓地に5種類以上の爬虫類族がいる場合、追加効果が発動できる。当然条件は満たしている。復活せよ、《溟界神-オグドアビス》!」

 

胴長の巨体をうねらせ、漆黒の蛇がその翼を広げる。

 

「オグドアビスの効果発動。墓地から特殊召喚されたモンスター以外のモンスターを全て墓地へと送る」

 

迷宮城の白銀姫はセットカードがある限り効果破壊耐性を得るが、墓地送りには無力だ。レンの場にいる2体の悪魔たちは墓地へと送られた。

 

「バトルだ。オグドアビスでダイレクトアタック」

 

「なにっ!?」

 

セットカードが《聖なるバリア-ミラーフォース-》であることは相手も承知している。攻撃してきたモンスター2体に破壊耐性もない。

 

(あの伏せカードが罠カードを無効にするカウンター罠か? だとしてもこのままではやられる。使うしかない!)

 

意を決し、レンは伏せカードの1枚を発動する。

 

「底知れぬ絶望の淵へ沈め! 《聖なるバリア-ミラーフォース-》を発動! 相手の攻撃表示モンスターを全て破壊する!」

 

崇高なる輝きが世界の全てを包み込む。レンに襲い掛かってきた2体の大蛇は光に包まれて消滅した。

 

「通った……?」

 

ミラーフォースは、確かにその効力を発揮していた。しかしそれは、さらなる絶望への呼び水でしかなかったのだ。

 

「ふふふっ、私のモンスターが相手の攻撃または効果で破壊された場合、ライフを半分払うことで、このカードは手札から特殊召喚できる。顕現せよ――」

 

闇の中から巨大な蛇舌が現れる。続けて爛々とした一対の瞳が出現し、額に3つの宝玉が埋め込まれた頭部が出現する。

 

「《蛇神ゲー》!!」

 

「ゲーだと!?」

 

驚愕するレンとは対照的に、雪乃の哄笑が闇にこだまする。

 

「ふふふっ、ハハハハハッ、蛇神ゲーで攻撃! インフィニティー・エンド!」

 

巨大な毒牙がレンへと迫る。

 

高杉レン LP4000 → 3900

 

しかし予想に反して、削られたライフはわずかに100。その結果にレンは困惑した。

 

(……生きてる? しかし、蛇神ゲーだと!? ダーツとアレは無関係のはず……だよな? そうだ、効果を……)

 

レンは慌てて蛇神ゲーの効果を確認する。幸いにもデュエルディスクは、蛇神ゲーの効果を正しく表示してくれていた。

 

(――ッ!? 原作効果ではない。しかしこれは……ラーの翼神竜に匹敵するか、それ以上の……クソッ、こいつも湧いて出たクチか!)

 

「相手にダメージを与えた時、このカードに「蛇神カウンター」を1つ置く」

 

額にある宝玉の1つが赤々と光を放つ。

 

「このカウンターが3つ溜まった時、ふふふっ、どうなるのだろうなぁ!」

 

結果は言わずとも知れた。レンに残された時間(ターン)は、予想以上に少ない。

 

「ターンエンドだ」

 

藤原雪乃 LP2000 手札0 モンスター1 伏せ1

 

神:蛇神ゲー 攻撃力 100

■:伏せカード

 

□□□■□

□□神□□

 

□□□□□

□□ビ□□

 

ビ:伏せカード(Vivid Tail)

 

高杉レン LP3900 手札4 モンスター0 伏せ1

 

――――――――――――

 

「俺のターン、ドロー! 墓地のミラーフォースを除外して、手札から《悪魔嬢アリス》を特殊召喚」

 

攻撃表示で呼び出されたアリスが「え? マジで?」とレンに視線を送るが、蛇神ゲーがいる限り、強制的に攻撃表示にされるので守備表示で特殊召喚しても結局は同じことなのだ。

 

「《白銀の城の召使い アリアンナ》を召喚し、リバースカード《Vivid Tail》を発動。悪魔嬢アリスを手札に戻す。この瞬間、アリアンナの効果が発動する。カードを1枚ドローし、手札から《白銀の城のラビュリンス》を特殊召喚する」

 

先ほどの鎧姿ではなく、今度は純白のドレスに身を包んだ迷宮城の主が現れた。

 

「白銀の城のラビュリンスの効果発動。墓地の通常罠カードを1枚をセットする」

 

迷宮城の主が手に持った白銀の斧をドスンと地に落とす。その音に驚いたのか、墓地でスヤァと眠っていたアリアーヌがそそくさと《和睦の使者》をセットした。

 

「《毒蛇の供物》で破壊した1枚か。なるほど、それを使い回して時を稼ぐ算段か」

 

この時点で、レンには3つの勝利プランがあった。

まずはプランA。それはデッキアウト狙い。雪乃は2枚のスネーク・レインを使い、デッキの総数はレンよりも少ない。

蛇神ゲーは戦闘ダメージを与えた時に「蛇神カウンター」が1つ灯る。先ほど雪乃自身が言ったように、和睦の使者を使い回して時間を稼ぐ。

 

次にプランB。それはバーンダメージを与えること。レンのデッキには《墓穴ホール》が入っている。だがこれは相手依存のカードであり、サーチすれば相手も知ることとなり、この策は水泡に帰す。

また、蛇神ゲーは「他の自分のモンスターは攻撃できない」という永続効果を持っており、モンスターを展開することはまずないだろう。

この時代はまだチューナーがいないため手札で効果を発動するモンスターはそう多くない。

 

最後はプランC。それは直接攻撃でライフを削る。レンのデッキ(正確にはEXデッキ)には直接攻撃できるモンスターがいる。

だが火力の問題があり、コンボを成立させなければならない。

 

(プランAをメインとするのは消極的すぎるか。隙あらばプランB、主軸をCとした方が良いな)

 

デッキアウトを狙うなら、こちらもドロー、サーチを抑える必要がある。レンはそれを悪手だと感じた。

 

(時間をかけるのはマズい気がする)

 

デュエルが始まってから、雪乃の被支配深度が加速度的に大きくなっている気がしていた。この得体の知れないナニカは、確実に雪乃の意識を侵食しているのだ。

 

「カードを2枚セットしてターンエンド」

 

高杉レン LP3900 手札2 モンスター2 伏せ3

 

ラ:白銀の城のラビュリンス 攻撃力2900

ア:白銀の城の召使い アリアンナ 攻撃力1600

和:伏せカード(和睦の使者)

■:伏せカード

■:伏せカード

 

□和■■□

□□ラア□

 

□□神□□

□□□■□

 

神:蛇神ゲー 攻撃力 100

■:伏せカード

 

藤原雪乃 LP2000 手札0 モンスター1 伏せ1

 

――――――――――――

 

「私のターン、ドロー。悠長な策につき合うつもりはない。《サンダー・ボルト》を発動」

 

「チェーンして《和睦の使者》を発動。さらに《白銀の城のラビュリンス》をリリースして、《闇霊術-「欲」》を発動。カードを2枚ドローする」

 

相手は魔法カードを見せることで、闇霊術-「欲」の効果を無効にできるが、雪乃の手札は0。選択の余地はなかった。

ひとり残されたアリアンナは天雷に撃たれ、チリチリアフロになった銀髪を整えながら墓地へと沈んでいった。

 

「だがこれで使い回しはできまい。ターンエンドだ」

 

「それはどうかな。《戦線復帰》を発動。墓地の《白銀の城のラビュリンス》を守備表示で特殊召喚する」

 

だが蛇神ゲーの眼光を受けて、強制的に攻撃表示となる。

 

「……しぶとい」

 

藤原雪乃 LP2000 手札0 モンスター1 伏せ1

 

神:蛇神ゲー 攻撃力 100

■:伏せカード

 

□□□■□

□□神□□

 

□□ラ□□

□□□□□

 

ラ:白銀の城のラビュリンス 攻撃力2900

 

高杉レン LP3900 手札4 モンスター1 伏せ0

 

――――――――――――

 

「俺のターン、ドロー。白銀の城のラビュリンスの効果発動。墓地の《和睦の使者》をセットする」

 

レンは確実にアドバンテージを稼いでいるが、一瞬たりとも油断はできない。2回の戦闘ダメージを受ければ、いくらライフが残っていようと敗北は免れない。

 

「《闇の誘惑》を発動。カードを2枚ドローし、《悪魔嬢アリス》を除外する。《悪魔嬢ロリス》を召喚して効果発動。墓地の《闇霊術-「欲」》と、除外されている《Vivid Tail》、《聖なるバリア-ミラーフォース-》をデッキの下に戻し、カードを1枚ドローする」

 

幼女の悪魔がポポイと3枚の罠カードをデッキに戻し、代わりに1枚のカードをレンへと届ける。

 

(――そろった!)

 

キーカードがそろった。だがあの不明の伏せカードの正体を暴いてからでないと攻め込めない。

あの伏せカード次第では、勝ち筋が消えてしまう。

 

「カードを2枚伏せてターンエンド!」

 

高杉レン LP3900 手札3 モンスター2 伏せ3

 

ラ:白銀の城のラビュリンス 攻撃力2900

ロ:悪魔嬢ロリス 攻撃力1500

和:伏せカード(和睦の使者)

■:伏せカード

■:伏せカード

 

□和■■□

□□ラロ□

 

□□神□□

□□□■□

 

神:蛇神ゲー 攻撃力 100

■:伏せカード

 

藤原雪乃 LP2000 手札0 モンスター1 伏せ1

 

――――――――――――

 

「私のターン、ドロー」

 

「スタンバイフェイズ、《和睦の使者》を発動。さらに《白銀の城のラビュリンス》をリリースして、《闇のデッキ破壊ウイルス》を発動。俺は「罠カード」を宣言する」

 

セットカードは《エネルギー吸収板》だった。

 

(やはり効果ダメージの対策はしていたか。手札は――)

 

「私の手札は《ハーピィの羽根帚》。魔法カードだ」

 

「……悪魔嬢ロリスの効果で、墓地の《和睦の使者》をセットする」

 

「徒労だな。《ハーピィの羽根帚》を発動。おまえの魔法・罠カードを全て破壊する。ターンエンドだ」

 

藤原雪乃 LP2000 手札0 モンスター1 伏せ0

 

神:蛇神ゲー 攻撃力 100

 

□□□□□

□□神□□

 

□ロ□□□

□□□□□

 

ロ:悪魔嬢ロリス 攻撃力1500

 

高杉レン LP3900 手札3 モンスター1 伏せ0

 

――――――――――――

 

「俺のターン、ドロー。さて、終わりにしよう。そろそろ」

 

「ほぅ、ついに膝を折る覚悟を決めたか」

 

「逆だ」

 

「……どういう意味だ?」

 

「俺の勝ちだってことだよ。手札を1枚捨て、悪魔嬢ロリスを対象に、《マスク・チェンジ・セカンド》を発動。EXデッキから《M・HERO 闇鬼(あんき)》を特殊召喚する」

 

幼女の鎧が変形し、漆黒の鬼と化す。

 

「バトル」

 

雪乃のフィールドには蛇神ゲーただ1体。マリクの闇人格にも言えたことだが、絶対的な力を持つとその力を過信しがちになる。

神に頼らなかった遊戯や海馬が、いかに規格外のデュエリストかが分かるだろう。

 

「手札から速攻魔法《コンセントレイト》を発動。闇鬼の攻撃力を守備力分アップする」

 

《M・HERO 闇鬼》 攻撃力2800 → 4000

 

「いくら攻撃力を上げようが、蛇神ゲーには届かんよ!」

 

「何を勘違いしているんだ? 俺が攻撃するのは蛇神ゲーじゃない。おまえ自身だ」

 

「なん……だと……」

 

漆黒の鬼は蛇神をすり抜け、直接雪乃にその拳を向ける。

与えるダメージは半分となるが、その一撃はデュエルを終わらせるのに十分な威力を秘めていた。

 

「私は……人々の願いを……」

 

「本質を捻じ曲げ、結果だけを手に入れても意味はない。願いとは己の意志と力で叶えるものだ。おまえの出番はない」

 

レンは薄々気づいていた。この存在の本質は、単純な"邪悪"ではなく、願いを叶える"システム"か、超自然的な"概念"のようなものだと。

 

「……違う……私は願われたのだ……ワタシハ……ネガワレタ……ノダァァァ……」

 

風船から空気が漏れるように、雪乃の身体から白いもやが立ち昇った。

 

 

 





蛇神ゲー 闇属性 レベル12
攻撃力 100 守備力 0 爬虫類族/特殊召喚/効果

このカードは通常召喚できず、このカードの効果でのみ特殊召喚できる。
①:自分フィールドのモンスターが相手の攻撃・効果で破壊された場合、LPを半分払って発動できる。このカードを手札から特殊召喚する。この効果の発動に対して効果は発動できない。
②:このカードが特殊召喚に成功した時、LPを半分払って発動できる。相手フィールド上に表側表示で存在する魔法・罠カードを全て破壊する。この効果は無効化されない。
③:このカードは他のカードの効果を受けない。
④:このカードがモンスターゾーンに存在する限り、相手はこのカードをリリースできない。
⑤:このカードがモンスターゾーンに存在する限り、他の自分のモンスターは攻撃宣言できない。
⑥:このカードがモンスターゾーンに存在する限り、相手フィールドのモンスターは攻撃表示になり、表示形式を変更できない。
⑦:このカードが相手モンスターを攻撃するダメージステップの間、そのモンスターの効果は無効化される。
⑧:このカードが戦闘を行うダメージ計算時に発動できる。このカードの攻撃力は、ダメージ計算時のみ、戦闘を行う相手モンスターの攻撃力分アップする。
⑨:このカードが相手ライフに戦闘ダメージを与えた時、このカードに蛇神カウンターを1つ置く。このカードに蛇神カウンターが3つ乗った時、このカードのコントローラーはデュエルに勝利する。



ぶっちゃけゲーである必要はなかったんですけど、そこはご容赦ください。
アバターとヴェノミナーガを足して最終突撃命令を添えた感じですね。
原作よりはかなりマイルドになってます。


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第39話 crazy for you

雪乃は保健室のベッドに横たわり、安らかな寝息を立てていた。外傷はない。

 

「むしろあなたの方が憔悴しているように見えます」

「……そうかな?」

 

確かに気だるさは感じている。だがそれだけだ。

 

「自覚がないのは心配ですが、闇の決闘ですか……」

 

おおよその経緯を聞いた養護教諭のイシズは考え込むように手の平を唇に当てた。千年アイテムは墓守の領域の奥深くに封印されており、荒らされたという話も聞いていない。

雪乃の持ち物も調べてみたが、それに類するようなものは発見されなかった。

 

(まあアレの存在を知らなければ、真っ先に千年アイテムを疑うのも仕方ないか)

 

レンはイシズの反応を見て小さく嘆息した。

 

「たまたま魔に魅入られたのだろう。魔が差す……とは少し違うか」

「確かに、少々ショックなことがあったようですから」

 

雪乃がファーストから陥落したことは知れ渡っている。学園も雪乃の偉業を売りにしたかったが、そのための忖度などありえない。

ここはその牙城を崩した万丈目を評価するべきだろう。

 

「まあ、それ以外にもありそうですけど?」

 

イシズがクスリと笑う。

レンは困ったように肩をすくめた。雪乃の好意には気づいていたが、それは憧憬や敬意(リスペクト)に近いもので、まさか愛情だとは思っていなかった。

 

「想いには応えてあげないのかしら? もう教師と生徒という関係も終わりますよ」

「一回り以上も違うのにか?」

「愛に年の差は関係ありませんよ」

 

イシズは雪乃を応援しているようだ。あるいは面白がっているだけかもしれないが。

 

「考えておこう。彼女を頼む。もし記憶が混濁しているようなら、適当に誤魔化しておいてくれ。あんな記憶はない方がいい」

 

そう言って、レンは自室へと帰っていった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「思い起こせば、本当にあっという間の3年間だったと感じます。これまでに経験したことのない濃密な3年間でした。この学び舎で得たものは――」

 

万丈目は感無量の思いで卒業生代表挨拶を述べていた。来賓席では彼の兄たちがうっすらと涙を浮かべている。

そのまま卒業式は恙なく終了した。

 

卒業生の多くがプロの世界へと進むが、プロリーグはひとつではなく、世界中に存在する。万丈目は日本のプロリーグを選び、雪乃はアメリカのプロリーグを選んだ。

雪乃はレンに詰め寄っていた来賓客が引けるタイミングを見て、意を決して話しかけた。

 

「私と、デュエルしてください。先生」

 

レンは雪乃の神妙な面持ちから、並々ならぬ決意を感じ取った。レンは小さくコクリと頷くと、ふたりはデュエルアリーナに向かって歩き出す。

いつもは誰かしらがいるデュエルアリーナも、今日ばかりは閑散としていた。そもそも施錠されていたので、レンがいなければ入ることもできなかったのだが。

観客が誰もいない中で、ふたりのデュエリストがリングに立つ。

 

 

『デュエルッ!!』

 

 

「私の先攻ですね。ドロー。カードを4枚伏せてターンエンド」

 

先攻を得た雪乃はモンスターを出さず、カードを伏せるだけで静かにターンを終えた。

 

藤原雪乃 LP4000 手札2 モンスター0 伏せ4

 

■:伏せカード

■:伏せカード

■:伏せカード

■:伏せカード

 

□■■■■

□□□□□

 

□□□□□

□□□□□

 

高杉レン LP4000 手札5 モンスター0 伏せ0

 

――――――――――――

 

「私のターン、ドロー。《闇の誘惑》を発動。カードを2枚ドローし、《雷獣龍-サンダー・ドラゴン》を除外。そして除外された雷獣龍の効果発動。デッキから《サンダー・ドラゴン》を守備表示で特殊召喚」

 

(先生のデッキはサンダー・ドラゴン……。ワッケーロやコンキスタドールはあまり当てにできないわね)

 

雪乃は頭の中からサンダー・ドラゴンの情報を引き出す。サンダー・ドラゴンの多くは除外された時に効果を発動し、融合体である超雷龍、雷神龍は破壊耐性を持っている。

 

「手札の《雷源龍-サンダー・ドラゴン》を捨てて効果発動。フィールドの《サンダー・ドラゴン》の攻撃力を500上げる。そしてサンダー・ドラゴンをリリースし、《超雷龍-サンダー・ドラゴン》をEXデッキから特殊召喚」

 

EXデッキから強力な稲妻を帯びた雷龍が姿を現す。サーチを封じる強力な効果を持っているが、雪乃のデッキにはあまり刺さらない効果だった。

 

「手札の《雷電龍-サンダー・ドラゴン》を墓地に送り、《混沌領域(カオス・テリトリー)》を発動。デッキから《輝白竜 ワイバースター》を手札に加える。そして墓地の《雷電龍-サンダー・ドラゴン》を除外して《輝白竜 ワイバースター》を特殊召喚。除外された雷電龍の効果でデッキから《雷劫龍-サンダー・ドラゴン》を手札に加える」

 

「ここで永続罠《サモンリミッター》を発動します」

 

雪乃が最初の札を切った。サモンリミッターはお互いに1ターンに2回までしかモンスターの召喚行為が行えない制圧効果を持っている。これは発動前の召喚行為もカウントされるため、レンはこれ以上の展開ができなくなった。

 

「ならばバトルフェイズに入ります。超雷龍-サンダー・ドラゴンでダイレクトアタック」

 

「攻撃宣言時に《紅き血染めのエルドリクシル》を発動。デッキから《黄金卿エルドリッチ》を守備表示で特殊召喚します」

 

エルドリッチの守備力は2800。これを突破できるモンスターはレンの場にはいない。

 

「バトルフェイズを終了。私はこれでターンを終了します」

 

「エンドフェイズに《黄金郷のワッケーロ》を発動。罠モンスターとして特殊召喚し、効果で先生の墓地の《混沌領域》を除外します」

 

高杉レン LP4000 手札5 モンスター2 伏せ0

 

超:超雷龍-サンダー・ドラゴン 攻撃力2600

輝:輝白竜 ワイバースター 攻撃力1700

 

□□□□□

超輝□□□

 

□□エワ□

サ■□□□

 

エ:黄金卿エルドリッチ 守備力2800

ワ:黄金郷のワッケーロ 攻撃力1800

サ:サモンリミッター

■:伏せカード

 

藤原雪乃 LP4000 手札2 モンスター2 伏せ1

 

――――――――――――

 

「私のターン、ドロー。そのままバトルフェイズに入ります。ワッケーロでワイバースターを攻撃!」

 

高杉レン LP4000 → 3900

 

「墓地に送られたワイバースターの効果発動。デッキから《暗黒竜 コラプサーペント》を手札に加える」

 

「メイン2へ移り、墓地の《紅き血染めのエルドリクシル》を除外して効果発動。デッキから《黄金郷のガーディアン》をセットします。私はこれでターンエンド」

 

藤原雪乃 LP4000 手札3 モンスター2 伏せ2

 

ワ:黄金郷のワッケーロ 攻撃力1800

エ:黄金卿エルドリッチ 守備力2800

サ:サモンリミッター

■:伏せカード

■:伏せカード

 

□□■■サ

□ワエ□□

 

□□□□超

□□□□□

 

超:超雷龍-サンダー・ドラゴン 攻撃力2600

 

高杉レン LP3900 手札6 モンスター1 伏せ0

 

――――――――――――

 

「私のターン、ドロー。《雷龍融合(サンダー・ドラゴン・フュージョン)》を発動。墓地の雷源龍と、除外されている雷電龍、雷獣龍をデッキに戻し、《雷神龍-サンダー・ドラゴン》を融合召喚する」

 

サンダー・ドラゴンデッキのエース、神の名を冠する雷龍が暗雲を切り裂いて飛来する。

 

「墓地のワイバースターを除外し、手札から《暗黒竜 コラプサーペント》を特殊召喚」

 

これで特殊召喚は2回。サモンリミッターがある以上、これ以上の展開はできない。

 

「手札の《雷電龍-サンダー・ドラゴン》を捨てて効果発動。デッキから同名カード1枚を手札に加える」

 

「チェーンして《黄金郷のガーディアン》の効果発動。このカードを罠モンスターとして特殊召喚し、雷神龍の攻撃力を0にします」

 

雷神龍の効果は手札で雷族モンスターの効果が手札で発動した時に発動できる。だが直接チェーンする必要があり、優先権を得た相手がなにがしかのカードをチェーンすれば、雷神龍の効果は発動できない。

当然雪乃もそれは承知していた。

 

「バトルフェイズに入ります。超雷龍でワッケーロに攻撃」

 

藤原雪乃 LP4000 → 3200

 

「カードを1枚セットしてターンエンド」

 

「エンドフェイズに墓地の《黄金郷のワッケーロ》を除外して効果発動。デッキから《紅き血染めのエルドリクシル》をセットします」

 

高杉レン LP3900 手札4 モンスター3 伏せ1

 

超:超雷龍-サンダー・ドラゴン 攻撃力2600

暗:暗黒竜 コラプサーペント 攻撃力1800

神:雷神龍-サンダー・ドラゴン 攻撃力 0

■:伏せカード

 

■□□□□

超暗神□□

 

□ガエ□□

サ■■□□

 

ガ:黄金郷のガーディアン 守備力2500

エ:黄金卿エルドリッチ 守備力2800

サ:サモンリミッター

■:伏せカード

■:伏せカード

 

藤原雪乃 LP3200 手札3 モンスター2 伏せ1

 

――――――――――――

 

「私のターン、ドロー。黄金卿エルドリッチを攻撃表示に変更。バトルフェイズに移行します。エルドリッチで雷神龍に攻撃! 征服王撃掌(アデランタード・ウェイガー)!」

 

「リバースカード《魔法の筒》を発動。その攻撃を無効にし、攻撃力分のダメージを相手に与える」

 

「なっ!?」

 

だがその一撃はレンに届くことなく、魔法の筒によって跳ね返された。

 

藤原雪乃 LP3200 → 700

 

「まだです! 《紅き血染めのエルドリクシル》を発動。デッキから《黄金卿エルドリッチ》を特殊召喚。再度雷神龍に攻撃!」

 

影より躍り出た2体目の征服王から黄金の衝撃波が放たれる。

 

高杉レン LP3900 → 1400

 

「私はカードを1枚伏せてターンエンドです」

 

藤原雪乃 LP 700 手札3 モンスター3 伏せ2

 

エ:黄金卿エルドリッチ 攻撃力2500

エ:黄金卿エルドリッチ 攻撃力2500

ガ:黄金郷のガーディアン 守備力2500

■:伏せカード

■:伏せカード

サ:サモンリミッター

 

■□□■サ

□エエガ□

 

□□□暗超

□□□□□

 

暗:暗黒竜 コラプサーペント 攻撃力1800

超:超雷龍-サンダー・ドラゴン 攻撃力2600

 

高杉レン LP1400 手札4 モンスター2 伏せ0

 

――――――――――――

 

「私のターン、ドロー。墓地の《雷龍融合》を除外して効果発動。デッキから《雷電龍-サンダー・ドラゴン》を手札に加える。続けて《闇の誘惑》を発動。カードを2枚ドローし、《雷電龍-サンダー・ドラゴン》を除外する。そして除外された雷電龍の効果で、デッキから《雷龍融合》を手札に加える。手札を1枚捨て、《ツインツイスター》を発動。キミの伏せカード2枚を破壊します」

 

「チェーンして《墓穴の指名者》を発動。墓地の《雷神龍-サンダー・ドラゴン》を除外します」

 

「《雷龍融合》を発動。墓地のサンダー・ドラゴンと、除外されている雷神龍、雷電龍をデッキに戻し、《雷神龍-サンダー・ドラゴン》を融合召喚」

 

除外ゾーンに眠る雷神龍は素材となって天に昇り、新たな雷神龍となって転生召喚された。墓穴の指名者の効果でその効果は無効にされているが、この攻撃力ならば問題ない。

 

「バトルフェイズに入ります。雷神龍で――」

 

そこで、レンはふと雪乃の表情に疑問を持った。雪乃の表情は、諦めた者の顔でも、敗北を受け入れた顔でもなかった。

それは、獲物が罠にかかる瞬間を待ちわびているような表情だった。

 

(……あの時(・・・)の俺も、こんな顔をしていたのかな? そりゃあ気づかれるわけだ)

 

レンは苦笑し、手札を切った。

 

「手札から速攻魔法《抹殺の指名者》を発動。デッキから《オネスト》を除外する」

 

「なっ!?」

 

サンダー・ドラゴンには光と闇がいる。1枚ずつデッキに入れていたことが、ここで役に立った。

 

「雷神龍-サンダー・ドラゴンで黄金卿エルドリッチを攻撃!」

 

三つの(あぎと)から放たれた轟雷砲が黄金の鎧を貫いた。

 

 

 

藤原雪乃 LP 700 → 0

 

 

 

デュエルディスクから無情な音が鳴り響く。勝者の名を告げる審判もなく、歓声も拍手もない。ただデュエルの終わりを告げる(ライフが0になった)音が鳴り響いただけ。

レンはリングの中央に向かって歩き出した。

雪乃もまた、晴れやかな気持ちで胸を張って歩き出す。

 

「私を見ていてください。校長先生」

 

その声は優しいながらも決意に満ち溢れていた。

闘う者(デュエリスト)としての矜持を示し、彼女は右手を差し出す。

レンは迷いなくその手を取った。指先から彼女の体温が伝わってくる。

 

「では先生、また」

「ええ、また会いましょう」

 

別れの挨拶ではなく、再会の言葉。それが雪乃の精一杯だった。我ながら、面倒な性格だと思った。

そして彼もその言葉を口にしてくれたことに喜びを感じる。ただの社交辞令かもしれないが、それは考えないことにした。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

そして時は流れ、場所はラスベガスのデュエルスタジアムへと移る。

 

『さぁ、皆さまお待たせいたしました。リーグの垣根を越えたワールドチャンピオンシップ・ルーキーズ杯。待ちに待った決勝戦(ファイナル)がまもなく開始されます。しかも日本人同士の対戦です!』

 

「さて……どちらが勝つかな?」

「さぁ、私としては複雑な気持ちね」

 

三沢の問いに、明日香は曖昧に答えた。片方はかつて負けた相手。もう片方は同窓生。心中は意外と複雑だった。

 

「しかしアイツがプロとはね。ふらりと旅にでも出そうだったがな」

「風のようなヤツだったからね」

 

三沢の零した言葉に明日香は同意を示した。

 

「あれだけ強いんだから、プロにならない方が嘘ッスよ」

「……ふっ、それも一理ある。だがアイツの服、アレはどうにかならないモンかなぁ」

「そうね。卒業しているのにアレじゃあ……ね」

「まっ、アニキらしくていいんじゃない」

 

呆れ顔のふたりに対して、翔はニシシッと笑った。やはりあの服、あの色が一番似合っていると思っているのだろう。

 

 

 

「なぁに、万丈目くん。入場通路から観戦? それとも、激励に来てくれたのかしら?」

「フン。せいぜい恥だけはかくなよ」

 

万丈目がぞんざいに告げる。

 

「ああ、そういえば、あなたは準々決勝であのコに負けたんだったわね」

「ぐっ、相変わらず嫌味な(ヤツ)だな!」

「ふふっ、まあそこで見ていなさい。私がチャンピオンになるところをね」

 

優雅に笑い、彼女はステージへと向かう。対戦者はすでに待ち構えていた。

 

「へへっ、ようやくおまえと闘えるな。明日香の(かたき)は討たせてもらうぜ」

「随分と昔の話ね。というか、そんな理由で闘うのかしら?」

「いや、それは建前。いつだって俺は、楽しいデュエルがしたいだけさ!」

「ふふっ、そういうの、嫌いじゃないわ。なら楽しいデュエルをしましょう」

 

ふたりがデュエルディスクを構える。

 

 

 

――決闘(デュエル)

 

 

 

 




というわけで完結です。
評価、感想、ありがとうございます。
誤字報告、処理ミス報告、大変助かります。
延長戦にまでおつき合いいただきありがとうございました。


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