恋姫無双〜黄鬚伝〜(リメイク) (ホークス馬鹿)
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人物紹介

人物紹介です。


・曹彰 字:子文 真名:純

 

曹家当主曹嵩の子である。華琳とは同じ年に生まれたが、腹違いであることと、華琳より1日遅く生まれたため、弟となった。

春蘭、秋蘭、華侖、柳琳、栄華とは従姉妹である。

幼い頃から人並み優れた膂力を持ち猛獣と格闘する事が出来、険阻な場所でも平気であった。武芸に長けており、その腕は他の追随を許さない程である。将兵の統率も非常に高い才能を有しており、彼の子飼いの兵も随一の精強さと結束力を誇る。

その軍才により、『黄鬚』の異名で呼ばれている。

武勇と軍才を父である曹嵩によく褒められていたが気性も激しく、尚且つ無学でもあるためその点を嗜められる事がしばしばあったが、本人は衛青と霍去病のような将軍を目標としており、将軍として先陣を切り、兵と共に苦労を分かち合い、信賞必罰をしっかりすると述べ、曹嵩を呆れさせつつも大笑いさせた。

一兵卒と共に苦労を分かち合ったり、褒賞が足りなければ自腹を切るなど兵を大切にするため、将兵の間では非常に人望が厚い。

しかし、姉の華琳とは後継者争いは起きず、互いに信頼し合っており、内政は姉である華琳が、軍事は純で役割分担をしている。

得物は主に刀(むしろ日本刀)であるが、槍、戟、弓も扱えて、特に弓が得意である。馬術も騎馬民族並みに操れて、騎射の腕は特に優れている。

 

・曹操 字:孟徳 真名:華琳

 

曹家当主曹嵩の子である。純とは同じ年に生まれたが、腹違いであることと、生まれた日が純より1日早く生まれたため、姉となった。

春蘭、秋蘭、華侖、柳琳、栄華とは従姉妹である。

英雄になり得る資質を持ち、覇王としての才器がある。

地位や身分に拘らず、才能ある者を見極め、適材適所にその人材を配置する能力に長けており、その慧眼は天下一と言われている。

弟の純とは非常に姉弟仲が良く、恋愛感情は持っていないが、姉として主君として全幅の信頼を置いており、軍の全てを純に掌握させている程である。

ただし、少々ブラコン気味であり、戦場で武勇を振るっている純を頼もしく思いつつも心配しており、純が戦から帰ってくるたびに抱き締めている。

 

・夏侯惇 字:元譲 真名:春蘭

 

夏侯家の娘である。秋蘭とは双子の姉であり、華琳、純、華崙、柳琳、栄華とは従弟姉妹である。

武芸においては、華琳配下の中では純に次ぐ強さを持ち、猪突猛進な性格も合わさり、常に先陣を切って突撃する姿から後に魏武の大剣と称される。

純に対しては、華琳同様恋愛感情は持っていないが、身内としても武人としても非常に慕っており、いつか追いつき追い越したいと思っており、自身も鍛錬に励んでいる。

 

・夏侯淵 字:妙才 真名:秋蘭

 

夏侯家の娘である。春蘭とは双子の妹であり、華琳、純、華崙、柳琳、栄華とは従弟姉妹である。

武芸、智略共に秀でており、華琳同様文武官をこなしどちらでも中枢を担える程である。

弓の使い手であり、純に次ぐ腕を持っている。

純の元側近だったが、今は華琳の臣下となっている。しかし、純に対する忠誠心は変わらず強く、忠誠心だけじゃなく一人の男として見ており、今は公私共に認められる男女の関係になっている。

 

・曹仁 字:子孝 真名:華崙

 

曹家の1つに生まれる。柳琳の姉であり、華琳、純、春蘭、秋蘭、栄華とは従兄姉妹である。

天真爛漫であり、明るく素直である。まだ武人としては未熟であるが、純と春蘭の強さに憧れており、いつか2人のように強く頼りにされるような存在になりたいと思っている。

 

・曹純 字:子和 真名:柳琳

 

曹家の1つに生まれる。華崙の妹であり、華琳、純、春蘭、秋蘭、栄華とは従兄姉妹である。

曹家一門の中では、比較的良識派であり、癒しの存在であり、我の強い面々が周りにいるため、気苦労が多い役回りである。

武芸はさほどでも無いが、彼女に心酔する最強の親衛隊『虎豹騎』は曹魏の中でも純の子飼いの兵に並ぶ程の強さを誇る。

純の事は、実の兄のように慕っている。

 

・曹洪 字:子廉 真名:栄華

 

曹家の1つに生まれる。華琳、純、春蘭、秋蘭、華崙、栄華とは従兄姉妹である。

魏軍の輜重の全権を握る経理責任者の立場にあり、曹家の金庫番でもあるため、お金には非常にうるさい。

男嫌いであるが、純に対してはそういった感情を抱かず、実の兄のように慕っている。




人物紹介です。

と言っても、ほぼ一緒ですけどね・・・。


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1話

1話です。


華琳「こら純!待ちなさい!」

 

純「嫌ですよー!」

 

満天にどこまでも広がる青空の下、洛陽の街の真ん中で一人の少女が少年を追い掛けている。

少女の名は曹操、字は孟徳、真名は華琳である。彼女はあの三国志の英雄の曹操である。

真名とは、その人の誇りで相手が許可しない限りそれで呼ぶことが許されない名前である。

その華琳に追い掛けられている少年の名は曹彰、字は子文、真名は純である。彼は華琳と同い年だが、一日違いの弟である。

 

華琳「待ちなさいと言っているのが聞こえないのかしら!」

 

純「待てと言われて待つ馬鹿がどこにおりますか!」

 

ちなみに何をしているのかというと、それは純が通っている私塾をサボり、それがバレてしまい怒った姉の華琳が追い掛けているという状態だ。

 

純(全く・・・ちょっと私塾を無断欠席しただけだってのに、何でこうも目くじらを立てんのかねー?)

 

純「そんなんだから、背も伸びねーんだし、胸も小さ・・・っ!」

 

そう小声で言ったその時、純は何か危険な気配を感じたので避けると、鎌が飛んできた。

 

純「っぶねー!いきなり絶を投げないで下さいよ!」

 

そう言い、純は立ち止まり腰の太刀に手を掛けた。

 

華琳「あなた、私に対して失礼な事を考えてなかったかしら?」

 

すると、華琳が良い笑顔でそう言った。

 

純「いえ、何も!それより危ないじゃないですか姉上!俺じゃなく、普通の人だったら間違いなく死んでましたよ!」

 

華琳「だからよ。あなたぐらいの実力だったらこの程度は簡単でしょ?」

 

純「全く姉上は・・・」

 

そう言い、純は構えを解いた。

 

華琳「それより、どうして私塾を無断欠席したの?」

 

その問いに

 

純「・・・何度も言ってるじゃないですか。俺は衛青と霍去病のような将軍になりたいんですよ。机の上で書き物をして、博士になりたいのではありません。」

 

純「それに・・・難しくてよく分かんねーもんは姉上に任せますよ。」

 

純は真っ直ぐな目でそう答えた。

 

華琳「・・・そう。確かにあなたは私以上に戦に長けているし、武芸も他の誰にも負けない腕があるし、人を惹き付ける魅力を持っているわ。」

 

純「そりゃあ買いかぶりすぎですよ。」

 

華琳「そんな事無いわよ。この前の戦で、あなたは大活躍だったらしいじゃない。皇甫嵩殿から聞いたわよ。」

 

華琳「あなたの八面六臂の活躍で、多くの賊が斬り殺されたって。」

 

純「あれは皇甫嵩殿のお陰ですよ。あのお方が俺を支えてくれたからこその勝利です。」

 

華琳「それでも、あなたの実力は確かなものよ。その力、いずれ私の大望成就のため、振るってもらうわよ。」

 

純「御意。」

 

華琳「今回の私塾の無断欠席は、私から先生に言っておくわ。」

 

それを聞いて

 

純「おおーっ!流石姉上!器が大きい!」

 

純は嬉しそうな顔を浮かべながら言った。

 

華琳「調子に乗らないの!」

 

それを聞いた華琳は、つま先立ちで純の額にデコピンしたのだった。

 

純「イテー!何するんですか!」

 

華琳「私を困らせた罰よ。全く・・・しょうがないんだから。」

 

それを見て、華琳は笑みを浮かべつつ純と一緒に屋敷に帰ったのだった。

 

 

 

 

 

 

曹家屋敷

 

 

 

 

 

 

華侖「純兄ー!今日私塾に行かずにどこに行ってたんすかー?」

 

柳琳「もう、姉さんったら食べ物を口に入れたまま喋るのはやめて。」

 

栄華「柳琳の言うとおりですわ。はしたないですわよ華侖さん、お兄様が困っているではありませんか。春蘭さんも。」

 

春蘭「ふが?」

 

秋蘭「姉者・・・。」

 

純「ちょっと遊んでた。」

 

華侖「そーなんすか?」

 

純「ああ、そうだぞ。」

 

それを聞いて

 

栄華「はあ・・・お兄様・・・またですか・・・?」

 

秋蘭「純様・・・。」

 

栄華と秋蘭は顔に手を当て呆れ顔を浮かべた。

 

純「だって・・・俺机の上で書き物なんて性に合わねーし。」

 

栄華「お兄様!」

 

華琳「そのくらいにしなさい、栄華。」

 

栄華「しかしお姉様・・・」

 

華琳「栄華。」

 

栄華「・・・はい。」

 

華琳「純。明日は寝ても良いからちゃんと私塾に出なさい。あまり秋蘭と栄華を悲しませては駄目よ。」

 

純「はあ・・・御意。」

 

華琳「ええ。それで良いわ。」

 

そして、曹家一門は仲良く夕食を食べたであった。



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2話

2話です。


純は今、白き羽織と籠手、そして武骨な軍靴を身に纏っていた。

その理由は、洛陽の付近に賊が現れた為、その討伐に向かっていく為だ。

 

秋蘭「純様。」

 

純「ああ。皆、準備は良いか?」

 

「「「おおーっ!」」」

 

純「皇甫嵩殿も、よろしくお願いします。」

 

皇甫嵩「ふふっ。ええ、いつもの事だけど頼りにしてるわ。」

 

純「いえ、こちらこそ。行くぞ!」

 

そして、純達は出陣した。

 

 

 

 

 

とある山・賊のアジト

 

 

 

 

 

 

賊A「親分!」

 

親分「ああ?どうした?」

 

賊A「麓の見張りからで、官軍の奴らが現れたみたいですぜ。」

 

親分「げへへへ・・・そうか。いつも通り返り討ちにしてやるぜ!」

 

賊A「しかし親分、今回の相手は『黄鬚』という異名を持つ奴ですぜ。」

 

親分「『黄鬚』?」

 

賊A「へえ・・・洛陽北部都尉である曹操とかいう小娘の弟でして、何でも曹操に代わってあちこちの匪賊を討伐して、その圧倒的な強さからそう呼ばれてますぜ。」

 

賊B「噂では、一人で五百の賊を斬り殺したって聞きました。」

 

賊C「いや、俺は千人って聞いたぜ。」

 

それを聞いた賊の親分は

 

親分「俺も『黄鬚』の事は噂で聞いた。しかし、所詮は噂だ。おめぇらもいちいち真に受けんじゃねぇ。」

 

親分「おめぇら、武器を取れ!山の中腹で奴らを待ち構える!!官軍共に教えてやれ!本物の賊ってやつをな!!」

 

親分「ガハハハ!!」

 

一笑に付し、皆に出陣の合図をしたのだった。

 

 

 

 

 

 

賊D「あの・・・親分。今更ですが・・・別に奴らが俺達の基地に上がってくるのを待ちゃあ・・・」

 

親分「あん?」

 

親分「ガハハハ!!これだから頭の弱ぇ奴はまいっちまう。この山は登るのもキツい山だ。甲冑をつけて山登りなんざ無理な話だ。恐らく騎兵もいるから苦労するぜ。例え山を登れたとしても戦う前からヘトヘトだ。」

 

親分「勿論、奴らは俺らの拠点なぞ調べ済みだろう。だがそこまで登り切るまでに一度隊列を整え休息を取る。だから俺達は疲れ切った官軍共に奇襲を仕掛ける!」

 

賊D「な・・・成程。流石親分!」

 

親分「ガハハハ!!奴らに本物の賊の怖さを思い知らせてやれ!」

 

そう言い、出撃した賊だったが

 

純「はあああっ!!」

 

賊「「「ギャアアアッ!!」」」

 

賊E「な・・・何だこの餓鬼!?」

 

賊F「これが噂の『黄鬚』・・・!」

 

秋蘭「はっ!」

 

賊G「何だ!この女も強えーぞ!」

 

賊H「コイツらだけじゃねー!兵達も強えーぞ!」

 

純達の強さに混乱し、とてもじゃないが戦闘できる状態ではなかった。

 

皇甫嵩「流石曹彰さんとその配下の将兵達ね・・・。自身の手足の如く動いてるわ。」

 

皇甫嵩「初陣の時から殆ど一緒になって戦に出たけど、本当に成長したわね。弱者を襲うばかりでまともに戦った事もない匪賊には到底勝つ事は出来ないわ。」

 

その様子を見ていた皇甫嵩は、目を細めながら見ていた。

 

官軍兵士A「中郎将様。我らも・・・」

 

皇甫嵩「ええ、分かってるわ。皆、曹彰さんに続きなさい!」

 

「「「はっ!!」」」

 

そして、皇甫嵩達も匪賊に攻め立てたのだった。

 

親分(あ・・・あり得ねえ・・・。こんなの・・・)

 

この時、賊の親分は自分達がやられている姿に呆然としていた。

 

親分「アイツが・・・!」

 

そして、戦場の中央で暴れている純を見つけるや一気に駆けた。

 

親分「てめぇか!『黄鬚』ってぇのは!?」

 

純「ああ。俺が『黄鬚』曹彰だ。テメーがこの賊の大将か?」

 

親分「そうだと言ったら?」

 

純「知れた事、その首よこせ!」

 

親分「生意気な糞餓鬼が!死にやがれー!」

 

そう言って、親分は持っていた斧を振り下ろした。

しかし

 

純「はあああっ!!」

 

純は攻撃を避け

 

純「死ね!」

 

親分「ギャアアアッ!!」

 

親分の胴から真っ二つに斬り捨てた。純は親分の首を斬り、それを持ち上げて

 

純「賊の大将の首、曹子文が討ち取った!!」

 

高らかに声を上げたのだった。

 

 

 

 

 

 

賊討伐を終えた純達は、洛陽に帰還した。

すると

 

洛陽民A「『黄鬚』様が来たぞ!」

 

洛陽民B「今回も匪賊を見事討伐なされた『黄鬚』曹彰様のお通りだぁ!!」

 

洛陽民C「皇甫嵩様もご一緒だー!!」

 

洛陽民D「賊討伐ありがとうございます!!」

 

洛陽の民に一斉に迎えられたのだった。

 

洛陽民E「格好いいー!!」

 

洛陽民F「こっち向いてー!!」

 

洛陽民G「曹彰様と皇甫嵩様、絵になるわー!!」

 

洛陽民H「曹彰様の後ろに控えておられる方も凜々しくて良いわー!!」

 

洛陽民I「あれは夏侯淵様ね!曹彰様の幼馴染よ!」

 

洛陽民J「まあ!お似合いねー!」

 

洛陽民K「『黄鬚』バンザーイ!!」

 

それを聞いていた純は、少し恐縮していた。

 

皇甫嵩「ふふっ。相変わらずの人気ですね、曹彰さん。」

 

純「皇甫嵩殿。」

 

皇甫嵩「けど、もう少し堂々となさっても良いのでは?」

 

純「けど、此度の戦は俺一人の活躍ではありません。皇甫嵩殿の他、皆が支えてくれたからこそ、此度の戦に勝てたのです。俺一人の力ではありません。」

 

皇甫嵩「フフッ・・・曹彰さんらしいわ。ねえ、夏侯淵さん。」

 

秋蘭「ええ・・・。しかし、これが純様です。」

 

皇甫嵩「そうね・・・」

 

皇甫嵩(それに・・・益々カッコ良くなったわ・・・)

 

そういうやり取りしながら、通りを抜けたのだった。

 

 

 

 

 

曹家屋敷

 

 

 

 

 

屋敷に戻った純は、秋蘭と一緒に華琳に会った。

 

純「姉上。ただいま戻りました。」

 

華琳「良く戻ったわね、純。聞いたわよ、また活躍したと。」

 

純「皆の支えがあってこそ、此度の戦に勝てました。」

 

華琳「そう・・・。良くやったわね。」

 

純「はっ!」

 

すると

 

華琳「さて・・・純!」

 

純「あ・・・姉上?うわあっ!?」

 

華琳「お帰りなさい、純!怪我はしてない?」

 

華琳は純に近付くや、抱き締めたのだった。

 

純「あ、姉上・・・」

 

華琳「だって・・・暫くあなたの顔が見られなくて寂しかったんだもの。」

 

純「だってじゃありません。俺達はもう子供じゃないのですよ!」

 

華琳「ええっ・・・」

 

秋蘭「フフッ・・・。」

 

純「お前も笑ってないで姉上を止めろ。」

 

秋蘭「すみません。華琳様、純様が困っておいでですよ。」

 

華琳「・・・しょうがないわね。」

 

そう言い、華琳は純から離れた。

その時

 

バンッ

 

華侖「純兄!お帰りなさいっすー!!」

 

春蘭「純様!此度のご活躍、詳しくお聞かせ下さい!」

 

部屋の扉が開き、華侖と春蘭が勢いのまま入ってきた。

 

柳琳「ね、姉さん。そんないきなり入ったらはしたないから止めて。」

 

栄華「そうですわよ、華侖さん!春蘭さんも!」

 

その後に、柳琳と栄華が入ってきた。

 

純「その話は飯の後に聞かせてやる。」

 

華侖「やったっすー!」

 

春蘭「純様!もし賊討伐がありましたら、私もご一緒させて下さい!」

 

純「ははっ!分かった!その時までに鍛錬を怠るなよ!」

 

春蘭「はっ!」

 

そう言い、部屋の中は笑いで溢れたのだった。

 

 

 

 

朝廷

 

 

 

 

文官A「また曹彰が活躍したそうじゃな・・・。」

 

文官B「うむ。そうなのじゃ。」

 

文官A「洛陽の北部都尉をやってる姉の曹操といい、益々気に食わぬ。」

 

文官B「全くじゃ。宦官の孫が調子に乗りおって・・・。」

 

文官A「この際、彼奴らを何らかの罪を着せて斬首にしようかのぉ・・・」

 

文官B「それは無理じゃ。あの二人は民の人気が非常に高い。今彼奴らを斬り捨てたら、この洛陽の民が暴動するやもしれぬ。」

 

文官B「いっその事、どこかの太守に任命させて、彼奴らを追い出すのはどうじゃ。」

 

文官A「おおっ!それは妙案じゃ!じゃあ、早速陛下に上奏しようぞ!」

 

文官B「うむ。北部都尉による治安の回復と、此度の曹彰による賊討伐の恩賞という事で追い出そうぞ。」

 

文官A「うむ!」

 

そして、この文官達は今の帝である霊帝に上奏した。

その結果、華琳は陳留の太守となったのだった。

この一件を知った皇甫嵩は、洛陽から追い出そうと企んだ一部の文官による陰謀だと察し、帝に拝謁しようとしたが叶わず、華琳の太守就任が決まったのだった。

そして、華琳達が陳留に出発する時

 

秋蘭「純様。皇甫嵩殿がこちらに参っております。」

 

純「皇甫嵩殿が?」

 

秋蘭「はい。」

 

純「・・・会おう。」

 

皇甫嵩が曹家の屋敷にやって来た。

純は会いに行くと

 

皇甫嵩「曹彰さん!」

 

純「皇甫嵩殿!」

 

皇甫嵩が純に近づき

 

皇甫嵩「ごめんなさい!」

 

そう謝罪の言葉を述べた。

 

純「皇甫嵩殿、何故謝るのです?」

 

皇甫嵩「今回の陳留太守就任の件、全ては一部の文官による陰謀よ。彼らは、あなた達曹一門が気にくわなくて、この洛陽から追い出したのよ。」

 

皇甫嵩「私はそれを知ってすぐに帝に拝謁しようとしたんだけど、それも叶わなくて・・・!」

 

そう言い、皇甫嵩は涙を流した。

それを見た純は

 

皇甫嵩「あっ・・・」

 

純「皇甫嵩殿、そうご自身を責めないで下さい。此度の勅命、恐らくですが姉上は気付いております。」

 

純「けど、俺達は陳留にて力を付け、民の為に戦う所存です。」

 

皇甫嵩の手を取って、真っ直ぐに見据えて言った。

 

皇甫嵩「曹彰さん・・・」

 

純「だから皇甫嵩殿、また会いましょう。」

 

皇甫嵩「はい・・・」

 

純「それでは・・・また。」

 

そう言い、純は拱手してその場を後にした。

そして、曹一門は陳留に向かって出発したのだった。

 

皇甫嵩(曹彰さん・・・必ずお会いしましょう・・・。それまで、息災で・・・)

 

その後ろ姿を、皇甫嵩は目を潤ませながら見ていたのであった。



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3話

3話です。


あれからしばらくが経ち、純たち曹一門は、苑州の陳留に住んでいる。

それは、純の姉である華琳が、陳留の太守になったからだった。

 

そして、陳留の治安維持や財政回復、または、賊の討伐などを行った。そして今、陳留は、非常に住み心地の良い街になったのであった。

 

そんなある日のこと

 

副官「曹彰様、引き揚げの準備が出来ました。」

 

純「ああ、分かった。引き揚げるぞ!」

 

純はとある賊の平定に出陣し、平定が完了したため引き揚げようとしていた。

 

副官「はっ!総員、撤退だ!」

 

純「それと、姉上に使いを送れ。全て完了したと。」

 

副官「御意!うん?曹彰様、あちらに賊に襲われてる者がおります。」

 

純「本当だ。すぐに助けるぞ!」

 

副官「御意!」

 

 

 

 

 

??「はあ、はあ、はあ、風もう少し速く走れないのですか?じゃないと追いつかれますよ!」

 

眼鏡をかけた少女が頭に人形を乗せてある少女に必死に言った。

 

??「そんなこと言われても~、キャ!」

 

すると、頭に人形を乗せてある少女が転んでしまった。

 

??「風!」

 

眼鏡をかけた少女が駆けつけたが、その時には彼女らを追っていた連中が追いついていた。

 

賊A「やっと追いついたぜ。ほらさっさとオレ達と着いてきな。」

 

??「嫌!」

 

眼鏡をかけた少女が抵抗してるが、腕を捕まえられ身動きできなくなった。すると、

 

賊B「おい、大変だ!!後ろから官軍らしき集団が来たぞ!!」

 

賊A「何!!くそ、なかなかの上玉だって言うのに。おい、逃げるぞ。」

 

賊B「ああ!!」

 

そう言って、2人の賊は2人の少女を置いて逃げていったのだった。

 

副官「曹彰様、賊は逃げたようですな。この2人を置いて。」

 

純「そのようだな。2人とも、怪我はなかったか?」

 

??「ええ。危ないところでしたが、ありがとうございます。」

 

??「はい~。おかげさまで~。」

 

??「もし宜しければ、あなたの名前を聞いても宜しいでしょうか?」

 

純「いいが、まずは自分から名乗るのが筋じゃないか。」

 

??「失礼しました。私の名前は戯志才。そしてこっちが」

 

??「程立ともうします~。」

 

すると

 

純「戯志才とやら、その名は偽名だろう?」

 

稟・風「「!?」」

 

純は戯志才の名を聞いてそう言った。

すると、2人は驚愕の表情を浮かべた。

 

稟「な、何故!偽名だと・・・!」

 

純「だって、自分の名前を言う際、一瞬思考する素振りを見せたじゃん。」

 

稟「そ、それは・・・。」

 

彼女は動揺した。しかし

 

純「まあ、このご時世だ。偽名を使わねばならん理由があるのだろう。俺は気にしてねーから。」

 

稟「そ、そうですか・・・。」

 

そう言い、純は気にしてないと言った。

一方の戯志才は、目の前の男の雰囲気に流すことが出来ないでいる。すると

 

風「それで、お兄さんの名前は?」

 

程立は純にそう問うた。

 

純「ああ、すまん。俺の名は曹彰、字は子文だ。」

 

それを聞いた純は、自身の名を言った。

 

稟「あなたがあの曹彰様ですか!?」

 

それを聞いた戯志才は、興奮した。

 

純「おお、そうだが。」

 

戯志才のハイテンションに純は戸惑う。すると程立が戯志才をからかうように言った。

 

風「稟ちゃんは曹彰様の噂を耳にして、ずっと興味を持っていましたからー。その本人に会えたのがとても嬉しいのでしょう。」

 

稟「ちょっ、風!!」

 

すると、戯志才が顔を真っ赤にしながら止めようとした。

 

純「でも、俺より姉の曹孟徳の方に興味が向くと思うんだけどなー。太守でもあるし。」

 

稟「いえ!確かに曹操殿も素晴らしいお方ですが、その弟君である曹彰様は遙かに素晴らしいお方です!なぜなら、曹彰様は幼くして武勇と軍才において圧倒的な才能を見せ、将兵の統率に長け、数多くの戦に勝利している!まさに『黄鬚』という異名に相応しいお方!」

 

純「分かった分かった。まあ落ち着いて。」

 

風「稟ちゃん。いくら憧れの方に出会えたからって、ちょっと興奮しすぎなのですよ~。」

 

稟「ごほん。失礼致しました。」

 

純「まあ、何だ。俺これから陳留に帰る予定なのだが、お前達はどうするの?」

 

稟「はい。もし宜しければ、私をあなた様の軍師として雇っていただけないでしょうか?」

 

風「稟ちゃん、抜け駆けはずるいですよ~。風も曹彰様について行きます~。」

 

純「いいのか。俺、太守でもねーんだぞ。」

 

稟「はい、それでもかまいません。」

 

風「風もですよ~。」

 

純「そっか・・・。分かった。じゃあ改めて、歓迎する。俺の真名は純だ。宜しく。」

 

稟「ありがとうございます。では改めまして、私の名は郭嘉、字は奉孝と申します。真名は稟です。」

 

風「風の真名は風なのです。それとこの際、名を程立から程昱と名を改めます~。日輪を支えるという意味で。」

 

すると稟が、

 

稟「風、それって。」

 

風「はい~。風、先日夢を見ました。それは、風の目の前に太陽が落ちてきて、それを風が持ち上げる夢です。これは風が純様という日輪を支えろというお告げだと思います~。」

 

稟「まさか、風も私と同じ夢を見るとは・・・。」

 

風「おお~、稟ちゃんもですか~?」

 

稟「はい。私も風と同じです。私が日輪を持ち上げる夢を。」

 

2人が驚きと興奮で言葉が告げられなくなっていたので、純が

 

純「分かった。2人の真名、受け取ろう。では、共に陳留に行こう。」

 

稟「はっ!!」

 

風「はい~。」

 

純「っと、その前に。おい、誰か。」

 

兵士A「はっ!」

 

純「道中、軍師を雇ったと姉上たちに伝えておいてくれ。」

 

兵士A「御意!」

 

純「よーし、行くぞ!!」

 

そうして、純たちは陳留に向かったのであった。新たな仲間を加えて。

 

 

 

 

 

陳留

 

 

 

 

 

 

華琳「純からの報告は?」

 

秋蘭「はい。全て滞りなく完了したとの知らせが。」

 

華琳「そう。相変わらずね、純は。」

 

春蘭「流石純様です!」

 

華侖「純兄、また手柄挙げたんすかー!!凄いっすー!!そうっすよね、柳琳!!」

 

柳琳「ええ、そうね姉さん。」

 

栄華「しかし、こうも遠征ばかりでは、お兄様の負担が掛かりすぎのような気がしますが・・・。」

 

華琳「それは仕方が無いわね。純に全て押しつけるつもりはないけど、我が軍で最も戦に長けているのは純なのだから。それに純がこうして引き受けてくれるからこそ、私は国事に集中できるわ。」

 

華琳「なにより、お父様の遺言でもあるしね。内政は私に、軍事は純に役割分担し、共に力を合わせるべしとね。」

 

栄華「そうですわね。」

 

秋蘭「それと華琳様。もう1つ報告が。」

 

華琳「何かしら?」

 

秋蘭「道中、軍師を雇ったとの事です。」

 

華琳「そう、分かったわ。」

 

秋蘭「はっ。」

 

すると

 

栄華「お姉様。それって、まさか・・・。」

 

何かを察した栄華が、華琳にそう言った。

 

華琳「ええ。あなたが考えてる通りね。私の予想だと、純以外の命令は聞かないかもしれないわね。」

 

栄華「やはり・・・。」

 

華琳「でも、構わないわ。純の為に働くというのならばね。」

 

栄華「そうですわね。」

 

華琳「さて。純が帰ってくるまで、私達は出来ることやりましょう。それに紹介したい子もいるし。」

 

そう言って、1人の少女に目を向けた。

 

香風「?」

 

華琳「では、解散‼︎」

 

そう言って、解散となった。



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4話

4話です。


謁見の間

 

 

 

 

兵士A「申し上げます。曹彰様、城門前に着きました。」

 

華琳「分かったわ。城門を開けなさい。」

 

兵士A「はっ!!」

 

そう言って、兵士は下がった。

 

秋蘭「華琳様。迎えに行っても宜しいでしょうか?」

 

華琳「良いわ。あなた、待ちくたびれたでしょう?」

 

秋蘭「はっ。ではすぐに。」

 

そう言い、秋蘭と栄華は城門に向かった。

 

 

 

 

 

城門前

 

 

 

 

純「着いた着いた。」

 

稟「これが陳留ですか。」

 

風「曹操さんの政が善いことが伝わりますね~。」

 

すると城門が開き、出迎えたのは

 

秋蘭「純様。お帰りなさいませ。」

 

秋蘭だった。

 

純「ただいま、秋蘭。いつもそうだが、わざわざ出迎えに来なくても良いんだぞ。」

 

秋蘭「いえ、私にとって、純様は私の主でもありますので。」

 

純「そっか。でも、お前の主は今は姉上だ。そこは、はき違えるなよ。」

 

秋蘭「御意。」

 

純「そうだ。着いてからも紹介するが、軍師を2人雇ったから。稟、風、自己紹介しな。」

 

稟「はっ!」

 

風「はい~。」

 

そう言って2人は秋蘭の前に立ち

 

稟「お初にお目に掛かります。私は郭嘉、字を奉孝と申します。」

 

風「風は程昱、字を仲徳と申します。」

 

秋蘭「そうか。分かった。私は夏侯淵、字を妙才、真名を秋蘭と言う。以後宜しく頼む。」

 

稟「真名まで。宜しいのですか?」

 

秋蘭「ああ、純様と真名を交換したのだろう。なら私も交換せねば不公平だ。」

 

稟「はい!私の真名は稟です。」

 

風「風は風ですよ~。」

 

そう言って、3人は真名を交換し合ったのだった。

 

 

 

 

謁見の間

 

 

 

 

純「姉上、ただいま戻りました。」

 

と純はそう言い、跪き拱手した。

 

華琳「秋蘭、出迎えご苦労だったわね。」

 

秋蘭「はっ。」

 

華琳「それで純、首尾は?」

 

純「万事滞りなく。賊を鎮圧致しました。」

 

華琳「そう、ご苦労だったわね。」

 

純「ありがたきお言葉。しかし、それら全て俺の部下の活躍のお陰です。」

 

華琳「そう。相変わらずね、純。」

 

純「ところで姉上、遣いの者から聞いたと思いますが、軍師を雇いましたので、それの紹介をしたいのですが。」

 

華琳「構わないわ。」

 

純「ありがとうございます。稟、風、前に。」

 

そう言って、秋蘭の時と同様、前に立ち、

 

稟「私の名は郭嘉、字を奉孝と申します。」

 

風「風は程昱、字を仲徳と申します~。」

 

華琳「そう。今後とも純をしっかり支えていくように。私は曹操、字を孟徳、真名は華琳よ。」

 

風「はい~。風は風と申します~。」

 

しかし、

 

稟「私は純様に忠誠を誓っております。曹操殿には申し訳ありませんが、真名を預ける気にはなれません。」

 

そう言って、稟は華琳を睨むような視線で対応した。

 

栄華「なっ!!」

 

春蘭「貴様ーっ!!」

 

これには、栄華や春蘭は激怒したが、

 

純「よせ!!春蘭!栄華!」

 

純が覇気のこもった一声で黙らせた。

 

春蘭「し、しかし・・・。」

 

栄華「この方は、お兄様に恥をかかせただけでなく、お姉様に対して無礼を働いたのですよ。」

 

純「言いたいことは分かる。今は下がれ。」

 

春蘭「は、はい。」

 

栄華「承知致しましたわ。」

 

そう言って、2人は渋々下がった。

 

純「申し訳ございません。姉上。」

 

華琳「構わないわ。純の為に働くというのなら。」

 

純「はっ、ありがとうございます。それと、姉上の方も紹介したい子がいると聞きましたが・・・」

 

華琳「そうだったわね。香風、前へ。」

 

そう言われて、1人の少女が、純の前に立った。

 

香風「シャンは、姓は徐、名は晃、字は公明、真名は香風です。」

 

純「ほう。徐晃って、あの徐晃か。姉上、なかなかの逸材を見つけましたね。」

 

華琳「ええ。ただの偶然なんだけどね。」

 

純「そうですか。では、俺は曹和、字は子元、真名は純だ。以後よろしく。」

 

香風「はい。宜しくお願いしま〜す。」

 

華琳「それで、褒美なんだけど。」

 

純「それでしたら、俺の部下にお与えください。」

 

華琳「そう。分かったわ。」

 

純「はい。ではまた後で。」

 

すると

 

秋蘭「純様。」

 

栄華「お兄様。」

 

秋蘭と栄華が純に近付き、腕を絡めた。

 

純「お、おい秋蘭、栄華。今の俺、汗臭いぞ。」

 

秋蘭「構いません。私は気にしませんので。」

 

栄華「私もですわ。スンスン・・・はあ~!良い匂いですわ~!」

 

栄華に至っては、恍惚とした笑みを浮かべていた。・・・かなりヤバいな。

 

純「・・・はぁ。」

 

その時

 

稟「ああ~、純様はこれからお二人と・・・ぶぅ~~~~。」

 

純「えっ、稟!?」

 

秋蘭「何と・・・!?」

 

栄華「えっ!?」

 

華琳「何っ!?」

 

稟が突然何かつぶやいたかと想うと、盛大に鼻血を出して、倒れてしまい、他の皆も呆然としてしまった。

 

風「おお、とうとう出ましたか。」

 

純「風、コレは一体。」

 

風「稟ちゃんは妄想が過ぎると鼻血を出す体質でして。稟ちゃん、トントンしますよ~。トントン。」

 

稟「ふが・・・風ありがとうございます。純様、そして皆様もお恥ずかしいところをお見せしました。」

 

純「いや、大丈夫なら良いが・・・」

 

稟「ありがとうございます。その・・・。」

 

純「稟、どうした?」

 

稟「いえ・・・その・・・。」

 

風「稟ちゃん、自分の体質で純様に嫌われてしまうと想ったのですよ~。」

 

稟「ちょっと!風!」

 

純「その程度、気にしないから安心して稟。」

 

稟「はい、純様。」

 

すると

 

秋蘭「・・・むぅ。」

 

栄華「お兄様・・・」

 

秋蘭と栄華が純の腕をつねってきた。

 

純「ちょっ、ちょっと秋蘭!!栄華!!イテーって!!」

 

これに、純は慌てて止めたのだった。

その夜

 

華琳「フフッ・・・純~♪」

 

純「あ、姉上・・・。」

 

華琳「ん~?何かしら?」

 

純「これ・・・いつになったらお止めになるのですか?」

 

華琳「良いじゃない。1週間と2日ぶりの純だもの。もう少しだけ堪能させなさい♪」

 

純は華琳に抱き締められていたのであった。



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5話

5話です。


練兵場

 

 

 

純「構えっ!!」

 

「「「はっ!!」」」

 

純「左翼、突撃!!」

 

「「「おおーっ!!」」」

 

純「突けーっ!!」

 

「「「おおーっ!!」」」

 

純は今、練兵場で兵の訓練をしていた。この兵は全て、純の子飼いの兵であり、皆純の手足の如く動いている。その動きと迫力に

 

稟「す、凄い・・・。」

 

風「・・・ぐぅ。」

 

稟「寝るなっ!!」

 

風「おおっ!!想像以上の迫力につい・・・。」

 

稟「全く・・・。でも、確かにそうですね・・・。」

 

様子を見ていた稟と風は、ただただ絶句し、鳥肌が立ち身震いしていた。

 

稟「これが、『黄鬚』と呼ばれている純様のお姿・・・。」

 

稟(こういった兵を従えているのが、私の主・・・!)

 

そして、稟に至っては、純の指揮ぶりに感動に近い興奮を覚えた。

 

純「お前達、見ていたのなら声を掛けてくれれば良かったのに。」

 

その時、純が稟達に声を掛けた。

 

稟「っ・・・純様!」

 

稟は、突然声を掛けられてドキッとした。

 

風「予想以上の迫力で、風と稟ちゃんは声を掛けられなかったのですよー。」

 

風は、何故声を掛けられなかったのかを純に言ったのだが、稟程でなくても驚いていた。

 

純「そっか・・・。しかし、ただ見ているだけだと、退屈だろう?」

 

稟「い、いえ!退屈どころか、非常に勉強になります!」

 

風「風もですよー。」

 

純「そうか、それは良かった。そうだ、どうせなら、お前達もこの兵を指揮してみないか?」

 

この提案に、

 

稟「えっ!?」

 

風「おおっ!?」

 

二人は驚きのあまり目を見開いてしまった。

 

純「何を驚く?お前達にもいずれこの兵の指揮の一部を任せるつもりだ。今指揮して経験を積ませなければ、軍師としての知謀も活かせんだろう。」

 

純「大丈夫だ、お前達なら出来る。なんたって俺の軍師だ、信じているからな。」

 

この言葉に、稟と風、特に稟は胸が熱くなった。

 

稟「はっ!!頑張ります!!」

 

風「風もですよー!!」

 

そう言い、二人は拱手して答えた。

 

純「うむ。では、兵に話をしておくな。」

 

そう言い、純は兵士を集めて事情を話した。そして、稟と風は、この練兵での出来事をきっかけに、純の子飼いの兵の一部の指揮を任されたのだった。

 

 

 

 

 

ある日、純の部屋

 

 

 

 

 

ドカン

 

 

純「な、なんだっ!?」

 

突然ノックも無しに部屋の扉が開けられ、驚いた純。足音高く入ってきたのは

 

春蘭「純様!私と手合わせをして下さい!」

 

春蘭だった。

 

純「春蘭。今日は練兵場で訓練があるから無理だぞ。」

 

春蘭「大丈夫です。華琳様の許可を得ましたので。」

 

純「そうなのか?」

 

すると

 

華琳「ええ、そうよ。」

 

純・春蘭「「姉上/華琳様。」」

 

華琳が秋蘭と一緒に入ってきた。

 

華琳「春蘭が久しぶりに手合わせしたいって聞かないのよ。」

 

純「そうなのですか。」

 

華琳「ええ。」

 

純「秋蘭も見たいの?」

 

秋蘭「ええ。私も純様の武を久しぶりに見たいです。」

 

純「そっか・・・分かった、勝負を受けよう。どこまで強くなったか見てやるよ。」

 

春蘭「はっ!」

 

そして、中庭に行き、純と春蘭はそれぞれ得物を構えた。

 

華琳「2人とも良いわね。」

 

純「大丈夫です。」

 

春蘭「はい。」

 

華琳「では、はじめ!」

 

純・春「「はぁぁぁぁーっ!!」」

 

ガチン

 

両者の刃と刃がぶつかり合った。

 

春蘭はもう一度剣を振り抜いたが、純はそれを受けず、後ろに下がり、次々に来る春蘭の攻撃をあしらっていた。

 

華琳「相変わらずの強さね。」

 

秋蘭「はい。しかし、純様の強さはまだまだです。」

 

華琳「そう。貴女がそう言うのならそうでしょうね。」

 

すると

 

稟「どこにいるかと思えば、ここにいましたか、純様。今春蘭様と手合わせですか。」

 

風「そうですね~。噂では聞いておりましたが、ここまでの強さだとは。」

 

華琳「あら、風に郭嘉。あなた達も来たの。」

 

郭嘉「はい。純様にご相談したいことがありましたので。」

 

華琳「・・・そう。」

 

秋蘭(・・・またか。ここまで徹底するとはな。)

 

その時

 

華侖「ああーっ!純兄と春姉ぇの手合わせっすかー!!」

 

柳琳「姉さん。あまり大声を出さないで。」

 

栄華「柳琳の言う通りですわよ。」

 

香風「あっ、純様と春蘭様だー。」

 

華侖と柳琳、栄華、そして香風もやって来た。

 

華琳「あら、あなた達も来たのね。」

 

栄華「はい。中庭で金属音が聞こえたので。」

 

華侖「それでそれで、どっちが勝ってるんすかー!?」

 

華琳「今のところ、両者互角ね。しかし、純はまだ底を見せてはいないわね。」

 

華侖「そーなんすかー。」

 

香風「シャンも手合わせしてみたい。」

 

風「そういえば、純様が皆を、特に秋蘭ちゃんと栄華様の為にもっと強くなるって言ってましたね~。」

 

秋蘭「それは本当か?風?」

 

栄華「風さん、本当ですの?」

 

風「はい~。純様は自分に関わる全ての人、特に秋蘭ちゃんと栄華様を守るためにもっと強くなるんだって言ってましたよ~。」

 

秋蘭「・・・そうか。」

 

その時秋蘭と栄華の顔が少し赤くなった。それを見た稟は、胸が締め付けられるような思いがしたのだった。

そして、手合わせにも終わりが近づいてきていた。

 

春蘭「はぁ、はぁ、はぁ。」

 

純「どうした春蘭。もう終わりか?」

 

春蘭「ま、まだやれます。」

 

純「そうか。しかし、次でけりを付ける。」

 

そう言って、純は刀を鞘に収めた。

 

春蘭「何のつもりですか、純様。」

 

純「良いからかかって来な、春蘭。」

 

春蘭「なら!!」

 

そう言って、春蘭が剣を振り上げた途端

 

カチャ

 

春蘭の首には、純の刀が突きつけられていたのだった。

 

春蘭「な!」

 

純「俺の勝ちだ、春蘭。」

 

華琳「そこまで!!」

 

そう言われて、純と春蘭は得物を下ろした。

 

春蘭「うう~。もう1回やりましょう、純様。」

 

純「ダメダメ。俺今から訓練があるから。」

 

春蘭「はい・・・。」

 

純「しかし、また腕を上げたな春蘭。流石だ。これからも励めよ。お前はまだまだ強くなれる。」

 

春蘭「はっ!!精進してまいります!!」

 

そう言って、春蘭は拱手した。

 

華琳「流石ね2人とも。純、相変わらずの強さね。」

 

純「恐れ入ります。しかし、春蘭も腕を上げました。あいつも褒めてやって下さい。」

 

華琳「ええ、分かったわ。春蘭、負けたとは言え、良くやったわ。これからも励みなさい。」

 

春蘭「はっ!!」

 

すると

 

華侖「純兄!春姉ぇ!凄いっすー!!あたしも2人みたいにもっと強くなるっすー!!」

 

純「はは。期待してるぞ!!」

 

華侖がそう言って、純に強くなることを言った。

 

栄華「お兄様、お疲れ様ですわ。」

 

純「ん、ありがとう栄華。」

 

栄華「凄い汗ですわね。一度お風呂に入っては如何かと?」

 

純「そうだな。とはいえ、訓練でまた汗をかくかもしんねーけど。」

 

栄華「ふふっ。そうですわね。」

 

秋蘭「純様。宜しければこちらを・・・」

 

秋蘭は、純に手拭いを渡した。

 

純「おっ、気が利くなあ秋蘭。」

 

そう言い、純は手拭いで汗を拭った。

そして、そのまま風呂に向かったのであった。



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6話

6話です。


陳留城下

 

 

春蘭「でりゃああああああああああああっ!」

 

純「ふっ!」

 

ゴロツキA「どわぁあぁあっ!?」

 

ゴロツキB「一瞬で12人の仲間が・・・こいつら、バケモノか!?」

 

春蘭「誰が地の底から這いずり出てきた妖怪変化だ!失礼な事を言うのも大概にしろ!」

 

純(そこまで言ってねーし。昔から思ってたんだが、どんな耳してんだ、コイツ・・・。)

 

ゴロツキB「そ、そこまで言ってねえ・・・がくっ。」

 

春蘭「・・・まったく。狼藉を働くなら、せめて此度の騒ぎが落ち着いてからにすれば良いものを。そう思いますよね、純様!」

 

純「それもそれでどうかと思うがな。まぁとにかく、連れて行け!」

 

兵士A「はっ!」

 

春蘭「しかし、後もう少しですね。」

 

純「そうだな。多分、俺1人だと流石にキツかったかも。ありがとな、春蘭。」

 

春蘭「いえ、とんでもありません!華琳様か純様のご命令だったら、例え火の中水の中どこへでも!」

 

純「ははっ!頼もしいな。よし、次行くぞ!」

 

春蘭「はっ!」

 

 

 

陳留城内

 

 

 

秋蘭「そちらの整理は後で構わん。まずは必要なものを必要な場所へと整えろ!もう時間がないぞ!」

 

兵士B「はっ!」

 

兵士C「夏侯淵様、城内の兵の配置計画が上がってまいりました。ご確認ください。」

 

秋蘭「分かった。・・・ほぅ、これは見事なものだな。最低限の人数で必要な所に配置出来ている。栄華の仕事か?」

 

兵士C「いえ、曹洪様はお忙しいとの事で、部下の・・・」

 

秋蘭「・・・なるほど、あいつか。ならばそれは純様と姉者にも回しておいてくれ。急げよ。」

 

兵士C「はっ!」

 

 

 

 

栄華「まったくもぅ・・・。」

 

栄華「どうして皆さん、何でもかんでもこんなに急に言ってきますの。私だって、別に暇ではありませんのよ・・・。」

 

栄華「ほら、準備を急いでくださいまし!万に一つにでも失礼があっては、この陳留・・・ひいてはお姉様のお名前に傷が付きましてよ!」

 

女官A「かしこまりました!」

 

柳琳「栄華ちゃん。ちょっとお姉様について、街に出てくるね。」

 

栄華「分かりましたわ。護衛は?」

 

柳琳「私の警護のみんながいるから大丈夫。」

 

栄華「あ、ああ・・・、あのかたたちですのね。なら、気をつけて行ってらして。」

 

柳琳「うん。お昼頃には戻るから。」

 

栄華「・・・ふぅ。時間もお金も人手も何もかもが足りませんわ。どうしてこう予定のない事ばかり起きるんですの。」

 

 

 

 

華侖「あ、香風!探したっすよー!」

 

香風「華侖様、どーかした?」

 

華侖「今日ってなんでみんなこんなにバタバタしてるんすか!?」

 

香風「・・・シャンも聞こーと思った。」

 

華侖「香風も分かんなかったんすか?」

 

香風「今日、朝から良いお天気だったから・・・、ふぁあ。」

 

すると

 

稟「『沛国の相が謁見を求める。もう済陰に逗留。至急行かせて欲しい。』ですよ、あなたたち。」

 

その時後ろから平坦な声がしたので振り返ってみると、稟と風がいた。

 

香風「稟・・・、風・・・。」

 

稟「まったく、大事な朝議を何一つ聞いておらず、理解していないとはどういうことです!華侖殿に至っては純様と同じ曹家の一門!もう少ししっかりしてはどうですか。」

 

華侖「うぅ~、稟が怖いっす~。」

 

稟「香風!あなたは朝議の最中に寝るなど、あるまじき行為ですよ!」

 

香風「う~朝から良いお天気だったからつい・・・。」

 

稟「つい、じゃありません!」

 

香風「うぅ~っ。」

 

ぐうの音も出ない正論であったので、何も言えない香風。

 

風「まあ稟ちゃん、それくらいにしたらどうですか~。」

 

宝慧「そうだぞ姉ちゃん。あんまり怒りすぎると小じわが増えてしまうぜ。」

 

稟「何を言っているのですか、風!」

 

風「風が言ったわけではないですよー。稟ちゃん、最近純様とお話しできていないからって、イライラしては駄目ですよー。」

 

稟「誰がイライラしてるか!」

 

風「違うんですかー?」

 

稟「うっ・・・、まあ、そうですね・・・。」

 

風「ぐぅ~~~。」

 

稟「寝るな!」

 

風「おお。珍しく稟ちゃんが素直だったのでつい・・・。」

 

華侖「えっと…、つまり、稟は純兄の事が好きなんすか?」

 

稟「えっ!?それは、その・・・。」

 

すると

 

栄華「何廊下の真ん中で騒いでますの!?こんな所で油を売って!」

 

栄華「・・・相をお迎えする支度に手が足りませんの。この際猫の手でも構いませんから、手伝ってくださいまし!」

 

香風「はーい。」

 

華侖「分かったっすー!」

 

稟「すいません、栄華様。私と風は、純様に頼まれた仕事があるので。」

 

栄華「そうですか。分かりましたわ。後、城内の兵の配置計画、ご苦労でしたわ。」

 

稟「はっ、ありがとうございます。では。」

 

栄華にそう伝えた稟は、風と共にその場を後にしたのであった。

 

栄華「ええっと、まずは・・・。」

 

 

 

 

 

数日後

 

 

 

 

 

栄華「いよいよですわね・・・。」

 

華琳「柳琳。支度は?」

 

柳琳「もちろん、万全です。」

 

純「秋蘭は?」

 

秋蘭「滞りなく。」

 

純「そっか。お前が言うなら、大丈夫だろう。」

 

華琳「結構。純、春蘭。警備に抜けは無いわね。」

 

純「問題ありません。」

 

春蘭「純様と一緒だったので、当然です。猫の子一匹通しません。」

 

華琳「そう。それじゃあ、予定通りね。」

 

そして、陳珪、陳登親子を迎えたのであった。



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7話

7話です。


謁見の間

 

 

 

華琳「・・・ふむ。豫州で賊が暴れているという事は理解したわ。しかしそれは、既にそちらの問題ではなくて?陳珪殿。」

 

華琳「・・・そもそも私達は、あの3人の賊を豫州との州境まで追い詰めていたのよ。それこそあと一歩のところで、そちらへと逃げられてしまった。」

 

華琳「そして逃亡した賊の件はそちらに報告し、引き続き追跡の許可も求めたわ。・・・拒絶されたけれどね。」

 

華琳としては、逃げられたという事実は認めても、その非を認めるつもりはなかった。それは簡単で、もしそこで謝ったら、話は謝罪の方向に行くだけになるからだ。

 

燈「重要な物を追っているという情報を隠して?」

 

華琳「・・・どういう事。」

 

燈「南華老仙の残した書物・・・太平要術の書、というそうね。」

 

燈「書物のことはこちらで調べさせてもらったけど、それを追っていることを陳留からは聞いていないと報告があったわ。」

 

華琳「それが?」

 

純(さすが姉上、これは想定内の話か。しかし、相変わらず難しい話は苦手だな・・・。俺が姉上の立場だったら、稟か風に任せようかな・・・。)

 

その時、華琳と陳珪の話を聞いていた純は、そう思っていた。

 

華琳「確かに盗まれた一番の品は、太平要術の書だったわ。けれどそれは、荘周の遺した貴重な古書というだけの話。盗品という点では、金の塊や錦の反物と変わらないわ。」

 

華琳「それとも豫州では、盗品の明細を作らなければ兵一つ動かせないと?」

 

燈「ふふっ。それはないわね。」

 

華琳「それよりもこちらとしては、豫州の州境を越えて兵を動かせなかった事を問題にしたいのだけれど?」

 

華琳「我が軍が領内で賊を捕まえられなかった非は・・・まあ、認めざるをえないわ。」

 

華琳「しかしそちらで捕まえると言ったものを捕まえられなかった事に関しては、こちらに責任を転嫁される謂われはないのではなくて?」

 

燈「あら。ならば、同じ事が逆の立場であったらどうするのかしら。豫州から逃げた賊を追うために、我々の兵が陳留へ踏み入る許可を求めたら?」

 

華琳「通すわけがないでしょう。特に、私の弟はね。その賊には、そちらでの罪の前に、我が領に足を踏み入れた報いを受けてもらう必要があるもの。」

 

華琳「そちらには私の弟が責任を持って、賊の首と盗品だけを送り返させていただくわ。・・・ああ、その時は確かに盗品の明細があると便利かもしれないわね。」

 

すると、華侖が小声で

 

華侖「・・・華琳姉ぇとあの人、ケンカしてるんすか?」

 

と尋ねると

 

栄華「まさか。ただの挨拶ですわよ、あんなもの。」

 

柳琳「もぅ・・・皆さん、お姉様に叱られますよ。」

 

柳琳に注意されてしまった。

 

燈「ならば此度の件、孟徳殿は私達豫州の兵があなたたち陳留の兵を通さなかった・・・そこが問題の全てだというのね。」

 

華琳「ええ。我が領内から賊を逃がした報は、既にそちらには伝えたもの。さらに言えば、責任を持って私の弟が追跡するともね。」

 

燈「なら・・・改めて、賊を逃がした責任を取ってもらう、と言ったら?」

 

華琳「・・・責任?報を伝え、こちらの申し出を断っておいて・・・先程も言ったはずだけれど、既にそれはそちらの問題でしょう。」

 

燈「身内の恥を晒すようで何だけれど・・・残念ながら、豫州には陳留ほどの精兵を持つ郡はわずかなの。特に貴女の弟の子文殿の子飼いの兵と比べたら尚更ね。」

 

燈「今、その連中は何をどうしたのか、手勢を増やして小さな廃城を根城にしているわ。規模は数百か、千に及ぼうとする・・・といったところかしら。」

 

華琳「・・・初めから我々に追わせておけば三人で済んだものを・・・。」

 

華琳「三人を追えというだけならまだしも、そうなる前に手を打たなかった事はこちらの責任ではないわよ。」

 

華琳「それを曲げて頼むというなら、相応の態度というものがあるのではなくて?」

 

純(そうさせるか、姉上・・・。)

 

華侖「華琳姉ぇ、なんとかの書は取り返したくないんすかね?」

 

秋蘭「華琳様のことだ。向こうから出来るだけ良い条件を引き出そうとするおつもりなのだろう。」

 

純(やっぱ俺、こういうのは嫌だなぁ・・・。天幕で作戦を聞いてた方がずっとマシだ・・・。)

 

そんな時、純はそう思い聞いていた。

 

燈「ふむ。まあ、どうしてもと言うなら、頭を下げても閨で尽くしても構わないのだけれど・・・。」

 

燈「陳留の太守殿は、私ごときの頭と安い懇願一つで機嫌を良くなさるお方なのかしら?」

 

華琳「・・・。」

 

燈「私としては、正直、どちらでも良いの。貴女が動いても、動かなくても。」

 

陳珪は、今でも穏やかなという名のポーカーフェイスを浮かべたまま表情を変えず、それがハッタリなのか事実なのか分からず、ただ空恐ろしく感じるのであった。

 

燈「ただ、一度逃がした賊を再び捉える機会をあげようと思っただけ。・・・孟徳殿が、こちらに賊が逃げた報を送ってくれたようにね。」

 

華琳「・・・。」

 

燈「孟徳殿の助けが借りられないなら、我が豫州の東方、徐州にいらっしゃる陶謙殿に礼を尽くすという手もあるし・・・。」

 

燈「ここからさらに北上して、南皮の・・・何と言ったかしら。いま頭角を現わしつつある、汝南袁氏筆頭の・・・」

 

それを聞いた純は

 

純「・・・麗羽か。」

 

と呟き、華琳に至っては

 

華琳「・・・まさか。袁紹を頼るにしても、南皮から豫州に兵を入れるなど・・・どうするつもり。」

 

と思わず息を飲んで言ったのだった。

 

燈「あのあたりの相や太守にはいろいろ貸しがあってね・・・済陰に寄る前にあちこち足を伸ばして、既に話は通してあるの。まだ袁紹殿ご自身には持ちかけていないけれど。」

 

華侖「あちゃー。袁紹の名前が出てきたっすよ。」

 

栄華「ええ。お兄様はともかく、お姉様とは仲が悪いですからね。」

 

燈「・・・いずれにしても、太平要術の書は取り戻すつもりなのでしょう?今なら、貴女達に優先的にさせてあげると言っているの。」

 

華琳「・・・貴女、国を売るつもり?」

 

華琳「義理にうるさい陶謙はまだしも、袁紹は野心の塊よ。その提案を受け入れるのは間違いないけれど、その後にどうなるか分からない貴女でもないでしょうに。」

 

燈「あら。それこそ他国の話など、陳留太守の曹孟徳殿には関係ないでしょうに。」

 

燈「それとも・・・先に買っておきたいのは貴女だったかしら?」

 

華琳「・・・。」

 

純(さすがにこんなに分かりやすい挑発には乗らねーか。)

 

燈「言ったでしょう。逃がした賊を再び捉える機会をあげる、と。それに、貴女の弟の子文殿は黄鬚という異名で通る猛将。この程度の賊、容易いはず。」

 

それを聞いて

 

純「コイツ・・・。」

 

純は小さい声でそう言った。

 

華琳「助けてあげるのはこちらよ。それと、私の弟を見くびらないで欲しいわ。」

 

燈「・・・。」

 

華琳「・・・。」

 

そして、時間だけがゆっくり過ぎていき、

 

華琳「・・・いいわ。同盟という事なら、引き受けてあげる。」

 

華琳「それと、遠征にかかる費用はそちらに出してもらうわ。賊を千人も余分に退治してあげるのだから、当然よね?」

 

これには

 

陳珪「・・・。」

 

陳珪も流石に面食らってしまったのだが、小さくほぅっと息を吐き、

 

燈「・・・ええ。その条件で結構よ。」

 

華琳「半月保たせなさい。それで、その賊とやらは、私の弟が一人残らず駆逐してあげるわ。」

 

燈「準備に半年かかると言われなくて助かったわ。こちらも州内の根回しをもう少ししておきたいから、その時点で改めて遣いを送るわ。」

 

華侖「・・・終わりっすか?」

 

秋蘭「・・・みたいだな。」

 

華侖「ぷはー。息が詰まったっすー。」

 

栄華「ほら、もう少しですから、静かにしていなさい。」

 

燈「さて、なら私は帰るわ。今日は実のある話が沢山出来て光栄だったわ、曹孟徳殿。」

 

華琳「あら、会食の支度をしておいたのだけれど。」

 

燈「申し訳ないのだけれど、辞退させていただくわ。・・・戻ってすべき事が、山のようにあるの。」

 

華琳「そう・・・。そういえば、その子は?」

 

燈「ああ、この子は私の娘よ。見聞を広めさせるために同行させたの・・・。喜雨、ご挨拶なさい。」

 

喜雨「・・・姓は陳、名は登、字は元龍と申します。」

 

陳登は居心地が悪かったのか、形式に沿った挨拶をしたが、どこかぶっきらぼうな物言いで名乗り、ぺこりと頭を下げたのだった。

 

華琳「陳元龍・・・最近、沛の米や麦の生産が大幅に増えた話を聞いた時、その名が出てきたわね。」

 

燈「あら、お耳が早い。この子は政事よりも、そちらの方が好きなようなのよ。」

 

華琳「そう。私の弟は武が好きだし、ある意味同じね。」

 

喜雨「・・・土と水は、正面からちゃんと向き合った者には誠実に答えてくれるから。腹の探り合いも化かし合いもないし、その方がずっと気楽だよ。」

 

この発言に

 

純「ほほう、お前、中々素晴らしい才能じゃねーか!それが出来るなんて、立派だな、俺は尊敬するよ!」

 

純はそう言って、陳登を褒めたのだった。

 

喜雨「そ、尊敬だなんて・・・。『黄鬚』と呼ばれ戦に勝つ曹彰様と比べたら、僕は大した事してないよ。」

 

これには、普段鉄仮面のように表情を崩さない陳登は大慌てでそう言った。

 

純「そんな事ねーよ、胸を張れ!その考えが、どれだけの民を救えるか!」

 

それに対し、純はそう言って陳登を更に称えたのだった。

その時

 

華琳「純、まだ話の途中なのだけど・・・。」

 

と言い、華琳は純をたしなめた。

 

純「ああ、申し訳ございません。姉上。」

 

それを聞いた純は、そう言って下がった。

 

華琳「弟の非礼、お詫びするわ。」

 

燈「いえ。こちらこそ、娘の非礼をお詫びするわ、曹孟徳殿。」

 

華琳「その知識、いつか私の所でも役立ててほしいものね。」

 

燈「あら。それは人質ということかしら?」

 

華琳「まさか。同盟国を相手にそんな無粋な真似はしないわよ。」

 

華琳「正式な依頼よ。我が陳留にも、これから手を付けなければならない土地がそれこそ山のようにあるの。」

 

華琳「沛で振るった手腕を生かしてくれると光栄だわ。むしろ、純は絶対に快く迎えてくれるわ。」

 

喜雨「・・・曹彰様からの依頼だったら、考えておくよ。」

 

そして2人は頭を下げ、静かに、謁見の間を出て行った。

 

 

 

 

栄華「・・・お疲れ様です、お姉様。」

 

華琳「この程度、大したものではないわ。」

 

純「まあ、朝廷は魑魅魍魎の跋扈する蠱毒壺と同様ですからね。」

 

柳琳「ですが、あのお方・・・どこまでが本心だったのでしょうか。いくら戦力が心許ないとは言え、他国の兵を自領に引き入れるなど・・・。」

 

華琳「さあね。けれど、これで貸しを作っておくのも悪くはないでしょう。もちろん、向こうに良いようにされないよう、色々と根回しは必要だけれど。」

 

華琳「猫にも爪の一つくらいあるものね。それよりも栄華。」

 

栄華「はい。お風呂は用意させてありますわ。ゆっくり、汗をお流し下さいませ。」

 

華琳「それと、遠征に出す兵の支度は純、あなたに全て任せるわ。既に城下の商人には話を付けているし、費用は向こう持ちだから、その点に関しては栄華と相談しなさい。」

 

純「はっ。」

 

栄華「はい。お兄様と一緒に、他国に見られても恥ずかしくないよう、万全整えさせていただきます。」

 

 

 

 

一方

 

 

 

 

喜雨「・・・なるほど。本当に、手の入れがいがありそう。」

 

燈「あら。曹子文から誘いの依頼が来る前に、もうこちらに来る気になっているじゃない。」

 

喜雨「僕は母さんとは違うよ。考える必要があるから、考えるって言っただけ。」

 

燈「そう。・・・けれどあの曹孟徳と言う子、噂に聞くよりずっと自制の効く子だったわね。その弟の曹子文も、血気盛んで気性が荒いと聞いていたけど、意外と大人しかったし。」

 

燈「袁家の名を出せば、もう少し楽にこちらの誘いに乗ってきてくれるかと思ったのに・・・」

 

燈「おかげでこちらの仕込みが台無しだわ。」

 

喜雨「・・・。」

 

燈「もっとも、これなら・・・ふふっ。」

 

喜雨「・・・そういう所が嫌いなんだよ。政治家って。」

 

そんな会話をしていた親子であった。



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8話

8話です。


城下の下を走り回る完全武装の兵士達。束ねられた槍は薪のように積み上げられ、その隣には槍束を二回り小さくした束が更に大きな山を築いていた。

それは、弓隊が使う矢であり、その他にも糧食やその他備品まであった。

 

秋蘭「純様。装備品と兵の数、全て滞りなく済みました。」

 

純「分かった。春蘭、糧食の最終点検の帳簿を受け取ってこい。」

 

春蘭「はい。栄華の所で良いんでしたっけ?」

 

秋蘭「姉者。栄華は商人達への最後の根回しに出ているぞ。実際の作業は補佐の監督官がしている筈だ。」

 

春蘭「ああ。」

 

秋蘭「後、監督官は今、馬具の確認をしている筈だ。そちらに行くと良い。」

 

春蘭「ああ、秋蘭。」

 

妹の秋蘭にそう言われ、春蘭はその場を後にした。

 

 

 

 

 

しかし、監督官の顔を知らない春蘭は、柳琳にどこにいるかを聞き、そこに駆けつけて猫耳頭巾を被っている一人の少女に声をかけた。

 

春蘭「おい、そこのお前。」

 

しかし

 

??「・・・。」

 

無視された。

 

春蘭「聞こえんのか、おい。」

 

また春蘭が声をかけても

 

??「・・・。」

 

無視された。

 

春蘭「返事をせんか、おーい!」

 

すると

 

??「聞こえているわよ!さっきから何度も何度も何度も何度も・・・一体何のつもり!?」

 

と言われてしまったのだった。

 

春蘭「な!聞こえているのであれば、返事をすれば良いではないか!」

 

これには、春蘭はそう言って怒った。

 

??「アンタなんかに用はないもの。忙しいんだから邪魔しないで!」

 

春蘭「何だとう!」

 

??「何よ!」

 

 

 

 

 

 

 

純「あの馬鹿は、一体何やってんだよ?」

 

純は、頼まれて帰ってこない春蘭を探していた。

すると、春蘭が誰かと言い合いしてるのが聞こえてきて、猫耳頭巾を被った小さい少女といがみ合っていた。

 

純「おい春蘭!何やってんだよ!待たせてんじゃねーよ!」

 

それを見た純は、春蘭にそう怒鳴った。

 

春蘭「じ、純様!大変申し訳ございません!」

 

??「何よ!また誰か邪魔をし・・・に・・・」

 

春蘭といがみ合った少女は、怒鳴りつけようと顔を向けたその時

 

??「そ、曹彰様!?」

 

純の顔を見て驚いた顔をした。それと同時に

 

??(マ・・・マズイ・・・!曹彰様に怒鳴ってしまった・・・!このお方は『黄鬚』と呼ばれし猛将で、非常に気性が荒い・・・!叩き斬られてしまう・・・!)

 

顔を青ざめさせてしまった。

それを見た純は

 

純「・・・糧食の再点検の帳簿を受け取りに来た。監督官はお前か?」

 

比較的優しく問うた。

 

??「は、はい、私です!こ、これが帳簿です!!」

 

これに少女は、怯えつつも帳簿を渡した。

 

純「ありがとう。」

 

??「あ、あの・・・」

 

純「ん?」

 

??「先程の無礼、大変申し訳ございませんでした。」

 

すると、少女は身体を震わせつつ純に頭を下げ謝罪した。

 

純「あの程度の事、気にしてねーよ。ただし、次からはちゃんと相手の顔見て言いなよ。」

 

これには、純はそう言い諭しながら帳簿を開いて内容を見た。

 

??「・・・寛大なお言葉、感謝致します。」

 

すると

 

純「・・・ところでお前、これはどういう意味だ?」

 

純は帳簿を少女に見せてそう言った。

 

??「どう、とは?」

 

純「兵糧の数、俺が指定した量の半分だ。何か根拠があるのか?」

 

??「はい。此度の戦では、この量で充分だと判断致しました。」

 

それを聞いた純は

 

純「・・・名は?」

 

少女に名を尋ねた。

 

荀彧「姓は荀、名は彧、字は文若と申します。」

 

名を聞いた純は

 

純「・・・来い。姉上に会わせてやる。」

 

そう言った。

 

荀彧「!?・・・御意。」

 

そして、純は春蘭と一緒に荀彧を連れて行った。

 

 

 

 

 

 

純「姉上、遅くなりました。」

 

華琳「構わないわ。・・・後ろの子は?」

 

純「俺の勘が正しければ、コイツは優秀な人材です。理由はこれです。」

 

そう言い、純は帳簿を華琳に渡した。

 

華琳「どれ。・・・純、これの何処が優秀なの?」

 

秋蘭「如何したんですか、華琳様?」

 

華琳「兵糧、純が指定した量の半分しか用意してないのよ。」

 

これには

 

秋蘭「何と!?」

 

秋蘭は驚きの言葉を発した。

 

純「コイツは、恐らく半分の兵糧で済ませる為の策があるんだと思います。だから、こういった自殺行為をやったんだと思います。」

 

華琳「・・・成程。」

 

華琳(あの気性の激しい純にそのような事をするなんて・・・何て胆力なのよ・・・)

 

その時、華琳は荀彧の顔を見てそう思っていた。

 

華琳「・・・良いわ。そこまで言うなら見極めてみましょう。名は?」

 

荀彧「姓は荀、名は彧、字は文若です。」

 

華琳「真名は?」

 

桂花「桂花です。」

 

華琳「では、私の真名である華琳を預けましょう。」

 

純「俺は純だ。お前らも、真名を預けろ。」

 

秋蘭「私は秋蘭だ。」

 

春蘭「し、しかし純様・・・!このような無礼な輩に真名を預けるなど・・・!」

 

しかし、春蘭は先程罵声を浴びた事を根に持ってるのか、真名を預ける事を躊躇った。

 

純「春蘭、先程の喧嘩が理由で真名を預けねーんなら、お前を戦には出さねーぞ。」

 

これに純は厳しい言葉をかけ、殺気を浴びせた。

 

春蘭「っ!・・・分かりました。おい、私は春蘭だ。」

 

これには、春蘭は恐怖で身体を震わせたが、すぐに命令を受け入れ、桂花に真名を預けたのだった。

そして、曹操軍は出陣したのであった。



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9話

9話です。


豫州の汝南

 

 

 

秋蘭「本当にすんなり通れるとは・・・あれ程苦労したのが嘘のようだ。」

 

陳珪の根回しが本当に効いたお陰で、豫州の州境は驚くくらいあっさりと越える事が出来た事に秋蘭は驚愕した。

 

秋蘭「それはそうと、兵糧の量を少なくするなど思い切った事をしたものだな、桂花。」

 

桂花「今の我が軍の実力なら、これくらい出来て当たり前なんだから。何より、純様が鍛えた兵なんだもの。」

 

桂花「それに、訓練の報告書と今回の兵数を把握した上での計算よ。これでも余裕を持たせてあるから、安心なさい。」

 

秋蘭「その辺りの手並みはおいおい見せてもらうとしよう。」

 

桂花「一刻も早く華琳様と純様の目に留まる働きをして、召し上げていただこうと思ったのだけれど・・・思ってたよりその機が早く来て、良かったわ。」

 

秋蘭「それで、お二人はどうだったのだ?」

 

秋蘭の問いに

 

桂花「思った通り、素晴らしいお二方だったわ・・・。あのお二方こそ、私が命を懸けてお仕えするに相応しいお二方だわ!」

 

桂花「とは言え、純様には既に軍師が二人いるようだけどね。」

 

と桂花は答えた。

 

秋蘭「・・・そうか。香風も、力まずいつも通りやれば良いのだぞ。」

 

香風「うん!シャン、頑張る!」

 

その時

 

春蘭「おお、貴様ら、こんな所にいたか。」

 

春蘭がやって来た。

 

秋蘭「どうした姉者。急ぎか?」

 

春蘭「うむ。前方に何やら大人数の集団がいるらしい。純様がお呼びだ。すぐに来い。」

 

そう言われ、秋蘭達は本陣に向かったのだった。

 

 

 

 

 

本陣

 

 

 

 

秋蘭「・・・遅くなりました。」

 

純「ちょうど偵察が帰ってきた所だ。報告を頼む。」

 

柳琳「はい。行軍中の前方集団は、数十人ほど。旗がないため所属は分かりませんが、格好もまちまちですし、どこかの野盗か山賊だと思われます。」

 

華琳「・・・そう。さて、どうするべきかしら?桂花。」

 

桂花「はっ!もう一度偵察隊を出し、状況次第で迅速に撃破すべきかと。」

 

桂花「将の選抜までお任せいただけるなら・・・純様、春蘭、香風。この三名を中心に据えるのが良いでしょう。」

 

春蘭「おう。」

 

香風「まかせて。」

 

純「・・・成程。」

 

この人選には、純は何となく察した。

すると

 

華侖「ええー!あたしも行きたいっすー!」

 

この人選に、華侖は不満の声を上げた。

それに桂花は

 

桂花「せめて春蘭の抑え役くらい、してちょうだい。」

 

と桂花は答えた。

 

純「柳琳は今戻ったばっかだし、秋蘭と栄華は本隊の指揮があるからな。華侖、今回は諦めろ。」

 

華侖「ううーっ。純兄が言うなら分かったっすー。」

 

純の言葉に、華侖はそう答えた。

 

純「それに、この人選にちょっと納得したしな。」

 

これに

 

春蘭「何を納得していらっしゃるのですか!それではまるで、私が敵と見ればすぐ突撃するようではないですか!純様もそれは一緒でしょう!」

 

と春蘭は言った。

 

純「お前なぁ・・・俺は戦場の空気を肌で感じて、突撃して良いのか否かを判断してんだよ。」

 

春蘭「だったら、それは私も同じですよ!」

 

純「まあともかく、桂花の策で行くぞ。」

 

華琳「純、任せたわよ。」

 

純「はっ、お任せ下さい。」

 

香風「なら華琳様、行ってきまーす。」

 

すると

 

秋蘭「・・・姉者、香風。純様にもしもの事があったら、分かっているな。」

 

栄華「・・・春蘭さん。お兄様に何かありましたら、分かっていますわね。」

 

稟「・・・私もお二人に同感です。分かっていますね。」

 

秋蘭と栄華、そして稟が、禍々しい殺気を出しながら春蘭と香風に対してそう言った。

これに

 

春蘭「う、うむ。分かっているぞ、秋蘭。」

 

香風「コクコクコク」

 

二人は青ざめながらそう言った。それを見た

 

純「やめろ、秋蘭、栄華、稟。」

 

風「秋蘭様、栄華様、稟ちゃん、ちょっと抑えるのですよ。」

 

柳琳「秋蘭様、栄華ちゃん、稟さん、抑えよう。ねっ?」

 

純、風、そして柳琳が抑えたお陰で

 

秋蘭「・・・はっ。」

 

稟「・・・分かってますよ、純様、風、柳琳様。一応念を押しただけです。」

 

栄華「・・・お兄様、風さん、柳琳、分かっていますわ。」

 

何とか殺気を収めたのだった。

 

 

 

 

偵察隊

 

 

 

 

純「春蘭、今回は偵察が第一だ。通りすがりの商人とかその護衛とかだったら、後が面倒だからな。」

 

春蘭「分かっております純様!そこまで私も迂闊ではありません。」

 

純(いや、その迂闊がありえるから俺が付けられたんだよ・・・。)

 

すると、

 

香風「春蘭様、あそこー。」

 

春蘭「よし!と」

 

純「突撃禁止だぞ!」

 

春蘭「わ、分かっております・・・!と、とりあえず、とりあえず・・・、私は何を言おうとしたのでしょうか、純様!」

 

純「お前なぁ・・・。しかし・・・、何だ?ありゃ、行軍してる感じじゃねーぞ?」

 

春蘭「何かと戦っているようですね。」

 

すると、

 

香風「あ、何か飛んだー。」

 

純「ありゃ、人だな。」

 

人が高く飛んでいった。

 

春蘭「何だ、あれは!」

 

兵士A「誰かが戦っているようです!・・・その数、1人!それも子供の様子!」

 

春蘭「何だと!?」

 

すると、その報告を聞いた春蘭は、馬に鞭を当てて、一気に加速させてその集団へと向かっていった。

 

純「おい、春蘭!」

 

すると

 

香風「純様は、後で来て下さい。」

 

そう言った香風も、春蘭が向かった方向へ馬を走らせたのだった。

 

兵士A「曹彰様・・・。」

 

純(ったくあいつら、何しに来たんだよ・・・。)

 

純「しょーがねー。お前は二十騎程率いて春蘭達の援護に行け。ただし、全滅させるな。一部は逃がし、そいつらを残りの俺が追跡する。恐らく敵の本陣かもしくは本隊に逃げ込むはずだ。」

 

兵士A「はっ!承知しました!」

 

そう言って、その兵士は二十騎程率いて、春蘭達に向かったのだった。

 

 

 

 

 

??「でえええええいっ!」

 

野盗A「ぐはぁっ!」

 

??「まだまだぁっ!でやあああああああっ!」

 

野盗B「がは・・・っ!」

 

野盗C「ええい、テメェら、ガキ1人に何を手こずって!数で行け、数で!」

 

野盗D「おおぉぉ!」

 

??「はぁ・・・はぁ・・・はぁ・・・。もぅ、こんなにたくさん・・・多すぎるよぅ・・・!」

 

その時

 

野盗E「ぐふぅっ!」

 

1人の野盗が倒れた。

 

??「・・・え?」

 

それと同時に

 

春蘭「だらぁぁぁぁっ!」

 

野盗F「げふぅっ!」

 

香風「はぁぁぁぁぁっ!」

 

野盗G「ぐはぁあっ!」

 

春蘭と香風が賊を殺した。

 

春蘭「大丈夫か!勇敢な少女よ!」

 

??「え・・・?あ・・・はいっ!」

 

春蘭「貴様らぁっ!子供1人によってたかって・・・卑怯というにも生温いわ!てやああああああっ!」

 

野盗C「うわぁ・・・っ!退却!退却ーっ!」

 

春蘭「逃がすか!全員、叩き斬ってくれるわ!香風、回り込め!」

 

香風「了解。」

 

するとそこへ

 

兵士A「夏侯惇様!徐晃様!お待ち下さい!」

 

先程の兵士が止めに入ったのだった。

 

春蘭「ばっ・・・!貴様、何故止める!」

 

兵士A「我々の仕事は偵察です。その子を助けるために戦うのは良いですが、敵を全滅させるのが目的ではありませんっ!」

 

香風「桂花、流れ次第で全滅させて良いって・・・。」

 

春蘭「そうだぞ。敵の戦力を削って何が悪い!」

 

兵士A「それは確かにそうですが、もっと良い作戦があります。」

 

春蘭「・・・例えば何だ?」

 

兵士A「逃がした敵をこっそり追跡して、敵の本拠地を掴むといったのです。」

 

春蘭「・・・おお、それは良い考えだな。誰か、おおい、誰かおらんか!」

 

兵士A「・・・曹彰様が既に偵察に向かわれました。」

 

香風「さっすがー、純様。」

 

春蘭「うむ、そうだな。」

 

兵士A「はぁ・・・。」

 

 

 

 

 

一方純達は

 

 

 

 

 

純「よし、一部を逃がすことは出来たようだな。あの集団を追うぞ!」

 

兵「「「はっ!!」」」

 

そう言って、純達は逃げた敵を追い、盗賊団の本拠地を見つけ、引き揚げたのだった。

 

 

 

 

 

 

その頃

 

 

 

 

 

華琳達本隊がやって来た。

 

華琳「春蘭。謎の集団とやらはどうしたの?戦闘があったという報告は聞いたけど?」

 

春蘭「私と香風の一当てで総崩れしました。一部は逃がし、追跡させているので、本拠地はすぐに見つかると思います。」

 

華琳「あら、なかなか気が利くわね。恐らく純の指示でしょう?」

 

春蘭「はい、そうです。」

 

するとそこへ

 

秋蘭「ところで姉者、香風。純様と一部の騎馬兵はどうした?」

 

栄華「そう言えば、見当たりませんわね。」

 

稟「どこに行ったのですか?」

 

秋蘭達が春蘭らに尋ねた。

 

春・香「「・・・。」」

 

春蘭と香風は沈黙の後、しまった!と言う顔をし、少し青ざめた顔をした。

 

秋蘭「姉者、香風・・・。」

 

栄華「春蘭さん・・・。」

 

稟「皆さん・・・。」

 

すると、秋蘭、栄華、稟が禍々しいオーラを出したので

 

兵士A「そ、曹彰様は、自ら一部の兵を率いて、本拠地を探っておられます!」

 

代わりに春蘭達を止めた兵が答えた。

 

秋蘭「姉者!香風!純様にもしもの事があったらどうするつもりだ!」

 

栄華「秋蘭さんの言う通りですわ!お兄様にもしもの事があったらどうするつもりですの!」

 

稟「皆さん・・・何かあったら私が許しませんよっ!」

 

すると、秋蘭達は語気を荒げ春蘭達にそう言った。

 

春蘭「秋蘭、栄華、稟!純様は『黄鬚』と呼ばれし我が軍最強の武人だぞ!この程度の連中に遅れを取るものか!」

 

秋蘭「しかし・・・。」

 

栄華「そうですわ・・・。」

 

稟「純様・・・。」

 

華琳「貴女達、純の事を慕っているのなら、信じなさい。春蘭の言う通り、そう簡単にはやられないわよ。」

 

華琳がそう答えたので、

 

秋蘭「・・・御意。」

 

栄華「・・・分かりましたわ。」

 

稟「・・・はっ。」

 

秋蘭達は怒りを静めた。

 

??「・・・!」

 

華琳「この子は?」

 

??「お姉さん、もしかして、国の軍隊・・・っ!」

 

春蘭「まあ、そうなるが・・・ぐっ!」

 

その時、春蘭と一緒に戦っていた少女は鉄球なぎ払い、春蘭に攻撃した。もし春蘭じゃなかったら、そして春蘭の剣が彼女の攻撃を打ち返してなかったら、間違いなくその場にいた全員が吹き飛ばされてしまっただろう一撃だった。

 

春蘭「き、貴様、何をっ!?」

 

??「国の軍隊なんか信用できるもんか!僕達を守ってもくれないクセに、税金ばっかりどんどん重くして・・・ッ!」

 

??「てやあああああああっ!」

 

春蘭「・・・くぅっ!」

 

??「僕は村で一番強いから、僕がみんなを守らなきゃいけないんだっ!盗人からも、お前達・・・役人からもっ!」

 

香風「・・・。」

 

春蘭「くっ!こ、こやつ・・・なかなか・・・っ!」

 

華琳「・・・。」

 

柳琳「・・・お姉様。」

 

??「でえええええええええええええいっ!」

 

春蘭「ぐぅ・・・!仕方ないか・・・いや、しかし・・・。」

 

するとそこへ、一人の影が二人の間に立った。

 

 

 

 

 

数分前

 

 

 

 

 

純「よし、敵の本拠地も割り出せたし、姉上の本隊に合流すっか。」

 

そう言い、引き揚げると

 

純「ん?あの少女、さっき野盗の集団と戦ってた子じゃねーか。本気が出せねーとは言え、あの春蘭を押すとは・・・。とは言え、止めなきゃな。」

 

春蘭が鉄球を持った少女と戦っており、苦戦していた。

それを見た純は後ろを振り返り

 

純「俺、あいつらを止めるから、お前らは後で来い。」

 

そう言って、純は二人に向かって行ったのだった。

 

 

 

 

 

現在

 

 

 

 

 

純「お前ら、そこまでだ。」

 

純は、春蘭と少女の間に立った。それぞれ大小の刀を向けながら。

 

??「え・・・っ?」

 

春蘭「純様!」

 

純「武器を引け!そこのお前も、春蘭も!」

 

??「は・・・はいっ!」

 

純の覇気に当てられて、少女は軽々と振り回していた鉄球を、その場に取り落とした。

 

純「・・・。」

 

その様子を見た純は、刀を鞘に収め、華琳の傍に立った。

 

華琳「・・・春蘭。この子の名は?」

 

春蘭「え、あ・・・。」

 

季衣「き・・・許褚と言います。」

 

華琳「そう・・・。」

 

そして華琳が取った行動は、

 

華琳「許褚、ごめんなさい。」

 

季衣「・・・え?」

 

許褚に頭を下げたのだった。

これには

 

桂花「華琳、様・・・?」

 

春蘭「何と・・・。」

 

純以外の皆は、華琳の行動に驚いていた。

 

華琳「名乗るのが遅れたわね。私は曹操。あなたを止めたのは、弟の曹彰。山向こうの陳留の地で太守をしている者よ。」

 

季衣「山向こうの・・・?あ・・・それじゃっ!?こ、こちらこそごめんなさいっ!」

 

春蘭「な・・・?」

 

季衣「山向こうの噂は聞いてます!向こうの太守様は凄く立派な人で、悪いことはしないし、税金も安くなったし、後、その太守様の弟様のおかげで、盗賊も凄く少なくなったって!」

 

季衣「・・・あ!もしかして行商のおじさんが言ってた、陳留の太守様がこっちの悪い賊を討伐に来るっていうのが・・・!!」

 

華琳「・・・。」

 

許褚の言葉を聞いた華琳は、黙って頷いた。

 

季衣「そんな・・・。そんな人達に、僕・・・僕・・・!ごめんなさい!僕達を助けに来てくれた人に・・・本当にごめんなさい!!」

 

華琳「・・・構わないわ。今の政事が腐敗しているのは、太守の私が一番よく知っているもの。官と聞いて許緒が憤るのも、無理のない話だわ。」

 

季衣「で、でも・・・」

 

華琳「だから許褚。あなたの勇気と憤り、この曹孟徳に貸してくれないかしら?」

 

季衣「え・・・?僕の・・・?」

 

華琳「私はいずれこの大陸の王となるわ。けれど、今の私の力はあまりに小さすぎる。」

 

華琳「だから・・・村の皆を守るために振るったあなたの力と勇気。この私に貸して欲しい。」

 

季衣「曹操様が、王に・・・?」

 

華琳「ええ。」

 

季衣「あ・・・あの・・・。だったら。曹操様が王様になったら、僕達の村も、治めてくれますか?盗賊も、やっつけてくれますか?」

 

華琳「約束するわ。陳留だけでなく、あなた達の村だけでもなく・・・この大陸の皆がそうして暮らせるようになるために、私はこの大陸の王になるの。」

 

季衣「この大陸の・・・みんなが・・・」

 

桂花「ああ、曹操様・・・。」

 

華琳「ねぇ、許褚。」

 

季衣「は、はいっ!」

 

華琳「これから、あなたの村を脅かす盗賊団を根絶やしにするわ。まずそこだけでいい、あなたの力を貸してくれるかしら?」

 

季衣「はい、それならいくらでも!じゃない、僕の方こそお手伝いさせて下さい!!」

 

華琳「ふふっ、ありがとう。純。」

 

純「はっ。春蘭、香風。許褚はひとまず、お前達の下に付ける。分からないことは教えてあげろ。」

 

香風「はーい。」

 

春蘭「了解です!」

 

季衣「あ、あの・・・ええっと・・・」

 

春蘭「既に華琳様には謝ったのだろう。ならば、それで良い。」

 

香風「それより・・・ごめんなさい。」

 

季衣「ほぇ・・・?どうして君が僕に謝るの?」

 

香風「シャンも、前は都の役人だった。・・・何も出来なかった。」

 

季衣「あはは。僕は悪い役人は大嫌いだけど、曹操様みたいに良いお役人様は大好きだよ。それより、さっきは助けてくれてありがとう。これからよろしくね!」

 

香風「うん。シャンは、香風だよ。」

 

春蘭「ならば、私の事も春蘭でいい。」

 

季衣「えええっ!?でもそれって、真名じゃ・・・僕なんかが、畏れ多いです!」

 

春蘭「あれ程の使い手なら、名を預ける価値もあると言うものだ。先程の猛攻、恐れ入ったぞ。」

 

香風「うん。今度、シャンともやろう。」

 

季衣「は・・・はいっ!なら、僕のことも季衣って呼んで下さい!春蘭様、香風、よろしくお願いします!」

 

春蘭「うむ。季衣、その力、華琳様のためにしっかり役立ててくれよ。」

 

季衣「はいっ!もちろんです!」

 

純「姉上、偵察した結果、盗賊団の本拠地はすぐそこです。」

 

華琳「そう。分かったわ。・・・では総員、行軍を再開するわ!騎乗!」

 

純「総員!騎乗!騎乗っ!」

 

そして、盗賊団の根絶やしに向かったのであった。



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10話

10話です。


盗賊団の砦は、山の影に隠れるようにひっそりと建てられていた。

 

純「見つけた時思ったが、メンドーなトコに隠れやがって。」

 

稟「そうですね。先程の場所からはすぐ近くでしたが、山の影に隠れてますし、ここだと絶好の隠場ですね。」

 

風「盗賊団にとっては、非常に良い場所ですね~。」

 

純「そうだな。」

 

そんな話をしていると

 

華琳「許緒。この辺りに他に盗賊団はいるの?」

 

華琳は許緒に盗賊団の事を尋ねた。

 

季衣「いえ。この辺りにはあいつらしかいませんから、曹操様が探してる盗賊団っていうのも、此処だと思います。」

 

華琳「敵の数は把握できている?」

 

秋蘭「はい。およそ三千との報告がありました。」

 

これには

 

栄華「数百か、せいぜい千という話ではありませんでしたの?こちらは千ほどしかいませんわよ・・・?」

 

春蘭「おのれ。あの女狐め・・・。」

 

それぞれそう言った。

 

純「いや、三人から千まで膨れ上がった期間を考えるなら、三千でも少ねーくらいだぞ。」

 

華琳「そうね。純の言う通りだわ。」

 

桂花「とはいえ、連中は集まっているだけの烏合の衆。統率もなく、訓練もされておりませんゆえ・・・我々の敵ではありません。」

 

華侖「じゃあ、このままとつげきー!って突っ込んで、わー!って一気にやっつけるっすか?」

 

華侖の問いに対し桂花は

 

桂花「まさか。それなら、春蘭でも出来るでしょう。軍師のいる意味がないわよ。」

 

と答えた。

 

春蘭「なんだと!私でも出来るとは、どういう事だ!」

 

それに対し、春蘭はそう言って噛みついたが、

 

純「・・・それで、策は?糧食の件も忘れてはいねーぞ。」

 

純は春蘭の発言をスルーした。

 

春蘭「じ、純様ぁ・・・。」

 

華琳「春蘭、そう泣かないの。」

 

春蘭「か、華琳様ぁ・・・。」

 

桂花「はい。まず華琳様と純様は少数の兵を率い、砦の正面に展開していただきます。その間に春蘭・秋蘭の二人は、残りの兵を率いて後方の崖に待機」

 

桂花「本隊が銅鑼を鳴らし、華琳様の朗々たる名乗りをもって挑発すれば、怒り狂った敵はその誘いに応じ、間違いなく外に飛び出てくる事でしょう。」

 

桂花「その後に華琳様と純様は兵を退き、十分に砦から引き離したところで・・・」

 

秋蘭「私と姉者で敵を横合いから叩くわけか。」

 

桂花「ええ。お二人にさらに香風と許緒を加えれば、三千の敵とて羊の群れに等しくなりましょう。」

 

香風「わかった。」

 

季衣「うん!僕、頑張るよ!」

 

純「ほお、俺を使うか。稟、風。どう思う?」

 

稟「悪くない策かと思います。純様の武勇ならば、奴らを殲滅する事は容易かと。」

 

風「風も同じ意見です~。」

 

純「そうか。」

 

その時

 

春蘭「・・・おい待て。」

 

春蘭が待ったを掛けた。

 

純「何か問題があるのか?春蘭は攻撃に回る方が良いだろう?」

 

春蘭「そこは構わないのですが・・・その策は何か?華琳様と純様に囮をしろと、そういうわけか!」

 

華琳「話を聞いてる限りでは、そうなるわね。」

 

純「そうなるな。」

 

桂花「何か問題が?」

 

春蘭「大ありだ!華琳様と純様にそんな危険なことをさせるわけにはいかん!それにこの程度の敵、純様がわざわざ危険を冒してまでやる事ではない!」

 

桂花「反対を口にするなら、反論をもって述べていただけると助かるんだけど?春蘭。」

 

春蘭「ど、どういう意味だ。」

 

純「反対するなら、他にもっと良い作戦を提案しろって事だよ。」

 

春蘭「烏合の衆なら、私と純様で正面から叩き潰せば良かろう。私と純様なら、この程度の敵、すぐに叩き潰せる。」

 

この答えに

 

華琳「・・・。」

 

桂花「・・・。」

 

華琳と桂花は呆れてしまった。

 

純「お前なぁ、それ、説明の一番最初の所で否定されたばっかりだからな?」

 

華侖「え、そうなんすか!?」

 

柳琳「姉さん・・・。」

 

純(否定された張本人も気付いてねーし、ったくコイツは・・・。華侖もだがな。)

 

桂花「油断した所に伏兵が現れれば、相手は大きく混乱するわ。それに乗じれば、烏合の衆はもはや衆ですらなくなるのよ。」

 

桂花「貴重な我が軍の兵と、もっと貴重な華琳様のお時間を無駄にしないためには、この案を凌ぐ策はありません。」

 

春蘭「な、なら、その連中が誘いとやらに乗らなければ・・・?」

 

桂花「・・・ふっ。」

 

春蘭「な、なんだ!その馬鹿にしたような・・・っ!」

 

桂花「純様。相手は志も持たず、武を役立てることもせず、そのちっぽけな力に溺れる程度の連中です。間違いなく、春蘭よりも容易く挑発に乗ってくるものかと。」

 

春蘭「・・・な、ななな・・・なんだとぉー!」

 

純「ふっ。お前の負けだ、春蘭。」

 

華琳「そうよ、春蘭。あなたの負けよ。」

 

春蘭「か、華琳様ぁ・・・純様ぁ・・・。」

 

純「・・・とはいえ、春蘭の心配も一理ある。次善の策はあるんだろう。」

 

桂花「この近辺で拠点になりそうな城の見取図は、既に揃えてあります。もちろんあの城の見取図も確認済みですので、万が一こちらの誘いに乗らなかった場合は・・・」

 

桂花「城を内から攻め落とします。」

 

純「方策は。」

 

桂花「残った城をすぐに新たな拠点として転用出来るものから、向こう百年ネズミ一匹立ち入れなくするものまで、ざっと三十。」

 

純「そうか・・・。分かった。なら、まずはその策で行こう。宜しいですね、姉上?」

 

華琳「構わないわ、全て任せるわ。」

 

春蘭「純様っ!」

 

純「これだけ勝てる要素しかない戦いに、囮のひとつも出来ねーようじゃ・・・姉上が許緒に語った覇道など、とても歩めねーよ。」

 

華琳「ええ。純の言う通りだわ。」

 

桂花「その通りです。ただ、単に賊を討伐しただけでは、誰の記憶にも残りません。せいぜい、近くの村の者に感謝される程度です。」

 

桂花「ですが、他国から請われて遠征し、そこで公明正大な振る舞いをし、万全の成果を上げて凱旋したとなれば・・・華琳様の名は一気に天下に広まります。」

 

桂花「栄華、柳琳、華侖。3人は、本隊の華琳様と純様の援護を頼むわ。」

 

柳琳「承知しました。」

 

栄華「ええ。・・・しかし、私の下で働いていた貴女に指示を受けるというのも不思議な気分ですわね。」

 

桂花「それは私も同じよ。けど、そこを伏してお願いするわ。」

 

栄華「もちろん。そこに私情を挟みは致しませんわ。」

 

しかし

 

華侖「ぶー。あたしも春姉ぇ達と一緒に暴れたいっすー!」

 

華侖が我儘を言ってきたのだった。

 

華琳「華侖。わがままを言わないの。」

 

と華琳がたしなめたが、

 

華侖「でもでも、今回あたし出番が全然ないっすよー。季衣の時も何もしてないし。せっかくの遠征なのにー。」

 

と言ってきたのだった。すると、

 

季衣「なら、僕が曹操様の護衛に入るんじゃダメですか?」

 

と季衣が言ってきた。

 

香風「えー。季衣と一緒に戦ってみたいなー。」

 

春蘭「それは私も同じだな。」

 

桂花「純様・・・如何致しましょう。」

 

純「なら華侖、お前は許緒と交代しろ。最前線に立つ経験を積むのも、たまにはいいだろう。」

 

華侖「やったっす!」

 

純「そして許緒。お前は集団での戦がどういうものか、本陣でそれを見届けな。今までと同じように最前線で敵を倒すよりも、得るものは多いはずだ。」

 

華琳「もちろんこちらにも賊は来るだろうから、それを追い返すのは純と共に任せるわよ。」

 

純「良いんですか?俺が出ても?」

 

華琳「ええ、構わないわ。あなたも久しぶりに暴れたいでしょうし。」

 

純「お気づきでしたか。分かりました。」

 

季衣「は・・・はいっ。頑張ります。」

 

柳琳「そう緊張しなくても大丈夫ですよ。」

 

栄華「そうですわ。私達もいるのですし、気持ちを楽になさいませ。」

 

純「では作戦を開始する!各員持ち場につけ!」

 

そして、それぞれが作戦で決めた持ち場に行く準備を始めたのだった。

その途中

 

純「秋蘭、ちょっと良いか?」

 

秋蘭「はい。」

 

純は秋蘭を呼んで、

 

純「いつものことだが、春蘭の手綱はしっかり握っておいてくれ。後華侖もな。」

 

といった事を伝えた。

 

秋蘭「分かりました。お任せ下さい。」

 

純「後最近お前の働きを見てないからな。久しぶりに見させてもらうぞ。ただし、力むなよ。」

 

秋蘭「はっ!」

 

そう言って、秋蘭に檄を飛ばした。

そして

 

純「栄華。」

 

栄華「はい。」

 

今度は栄華を呼んで、

 

純「柳琳と共に、援護は頼んだぞ。」

 

栄華「お任せ下さいまし!」

 

純「気負う事はない。いつも通りやれ。」

 

栄華「はい!」

 

栄華にそう伝えたのだった。

 

純「稟、風。部隊を率いて初の実戦だ、任せたぞ。ただし、気負わず、落ち着いてやるんだぞ。」

 

稟「はっ!」

 

風「お任せ下さい~!」

 

そして、純は他にも、将兵を激励していったのだった。

 

 

 

 

 

 

戦いの野に激しい銅鑼の音が響き渡ったのだが、

 

華琳「・・・。」

 

純「・・・。」

 

栄華「・・・。」

 

柳琳「・・・。」

 

相手は銅鑼の音で勘違いをした賊は、城門を開けて飛び出してきたのだった。

 

華琳「・・・桂花。」

 

桂花「はい。」

 

純「連中、今の銅鑼を出撃の合図と勘違いしたんじゃねーか?」

 

桂花「はぁ。恐らくは。」

 

栄華「所詮、臭くて汚いオスの振る舞いですもの。お手どころか、待ても躾けられていないに決まっていますわ。」

 

純「栄華の意見に同感だな。ホイホイ挑発に乗りすぎだ・・・。俺でも乗らねーぞ。」

 

柳林「・・・挑発も名乗りも必要ありませんでしたね。」

 

純「姉上、挑発の言葉って、考えてましたか?」

 

華琳「ええ。そういう作戦だったもの、一応ね。大した内容ではないから、次の賊討伐にでも使い回すことにするわ。」

 

純「次の討伐の時も同様、銅鑼鳴らすだけで出てくれたら楽ですね。」

 

華琳「それもそれで良いわね。」

 

その時

 

季衣「曹操様!曹彰様!敵の軍勢、突っ込んで来ましたっ!」

 

季衣から敵が突っ込んで来たとの知らせが入った。

 

純「・・・まあ良いだろう。多少のズレはあったけど、こちらは予定通りにするまでだ。」

 

桂花「総員、敵の突撃に恐れをなしたように、うまく後退なさい!距離は程々に取りつつ、逃げ切れないように!」

 

 

 

 

春蘭達別働隊

 

 

 

 

華侖「華琳姉ぇと純兄の本隊、下がり始めたっすー!」

 

春蘭「やけに早いな・・・。ま、まさか・・・華琳様と純様の御身に何か・・・!?」

 

秋蘭「心配しすぎだ、姉者。隊列は崩れていないし、相手が血気に逸りすぎて、作戦が予想以上に上手くいった・・・そういう所だろう。」

 

春蘭「そ、そうか。ならばそろそろ・・・。」

 

華侖「突撃っすか?突撃するっすか?」

 

香風「まだ。相手をちゃんと引き付けてから。」

 

華侖「おおー。みんな勢いよく逃げてるっすねー。」

 

香風「あ、純様だ。おーい。」

 

秋蘭「見ろ姉者。あそこに華琳様と純様も健在だ。季衣もちゃんとお二人を守る位置にいるぞ。」

 

春蘭「おお・・・。良かった・・・。」

 

華侖「あ、次が来たっす!」

 

春蘭「・・・これが、敵の盗賊団とやらか。」

 

秋蘭「隊列も何もあったものではないな。」

 

華侖「秋姉ぇ、もう突撃っすか?」

 

秋蘭「まだだ。慌てるな。」

 

春蘭「しかし、ただの暴徒の群れではないか。この程度の連中、やはり小難しい作戦など必要なかったな。」

 

秋蘭「そうでもないさ。作戦があるからこそ、我々はより安全に戦うことが出来るのだからな。」

 

華侖「うぅ、もう我慢出来ないっすー!突撃したいっすー!」

 

香風「根性の、見せ所。頑張って。」

 

春蘭「ううむ。これだけ無防備に突撃しているだけだと、思い切り殴りつけたくなる衝動が・・・。」

 

秋蘭「気持ちは分かるがな・・・あと一息だ。」

 

そして

 

春蘭「この辺りなら良いだろう!ちょうど横腹だぞ!」

 

秋蘭「うむ。遠慮なく行ってくれ。」

 

春蘭「ならば行くぞ、華侖、香風!」

 

香風「うん!」

 

華侖「わかったっすー!」

 

春蘭「秋蘭、後は任せるぞ。」

 

秋蘭「応。夏侯淵隊、撃ち方用意!」

 

春蘭「よぅし!総員攻撃用意!相手の混乱に呑み込まれるな!平時の訓練を思い出せ!混乱は相手に与えるだけにせよ!」

 

秋蘭「敵前衛に向け、一斉射撃!撃てぃっ!」

 

春蘭「統率の無い暴徒の群れなど、触れる端から叩き潰せ!総員、突撃ぃぃぃぃっ!」

 

攻撃が始まった。

 

 

 

 

 

本隊

 

 

 

 

 

柳琳「お兄様、後方の崖から春蘭様の旗と、矢の雨が!敵の足が一気に止まりました!」

 

純「流石秋蘭。上手くやった。」

 

華琳「ええ、そうね。」

 

季衣「春蘭様は?」

 

桂花「華侖と一緒に突撃したくてうずうずしている所を、秋蘭と香風に抑えられていたんじゃないの?」

 

純「そうだな。」

 

純「さて、お喋りはここまでだ。この隙を突いて、一気に畳みかけるぞ。」

 

桂花「はっ!」

 

華琳「季衣、あなたの武勇、期待させて貰うわね。」

 

季衣「分っかりましたーっ♪」

 

華琳「純、『黄鬚』の力、久し振りに見せて頂戴。」

 

純「御意。稟!風!後は任せたぞ!」

 

稟「はっ!!」

 

風「はい~!!」

 

 

柳琳「では、私達も出ます。」

 

純「おお。虎豹騎の出番か。」

 

柳琳「はい。隊の皆さんが、任せて欲しいと。」

 

栄華「・・・柳琳の隊は、打撃力ならお兄様率いる黄鬚隊と夏侯惇隊にも負けませんからね。」

 

純「確かにな。ならば、そこは任せたぞ。総員反転!衆ですらない烏合の者どもに、本物の戦が何たるか、骨の髄まで叩き込んでやれ!」

 

純「総員、突撃っ!」

 

兵士「「「おおおおおぉぉぉ!!!」」」

 

そして、盗賊団を根絶やしにする戦いが始まったのであった。



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11話

11話です。


盗賊討伐は、快勝に終わった。

 

桂花「逃げる者は逃げ道を無理に塞ぐな!後方から柳琳の部隊で追撃を掛ける、大人しく力尽きるのを待って良い!」

 

桂花が兵にそう指示をしていると、騒々しい兵達の波が本陣へと向かってきた。その声は興奮と歓声に包まれており、その中心に

 

純「姉上、ただいま戻りました!これは賊の指揮官の首です!奴らは砦に逃げていきました!」

 

純が端正な顔に人懐っこい笑みを浮かべながら戻ってきた。これだけなら女性が見たら黄色い声を上げるのだが、返り血と左手にぶら下げた敵の指揮官の首で台無しになった。

 

華琳「ご苦労様、純。相変わらず見事な働きだわ。」

 

純「はっ、ありがたきお言葉!けど、これも全て、俺の部下の働きのおかげです!」

 

華琳「そう。貴方らしいわね。」

 

純「へへっ。稟!風!此度の戦の指揮、良くやった!おかげでやりやすかったぞ!」

 

これには

 

稟「はっ!!ありがたきお言葉!!」

 

風「はい~!!ありがとうございます~!!」

 

稟と風は嬉しそうな顔を浮かべ、拱手して答えた。

すると

 

秋蘭「純様。ご無事でしたか。」

 

秋蘭が本隊に来た。

 

純「見事な働きだったぞ、秋蘭。」

 

秋蘭「はっ!!ありがたきお言葉!!」

 

純「春蘭はどこだ?」

 

純の疑問に

 

桂花「どうせ追撃したいと思うので、季衣に春蘭と追撃に行くよう指示しておきました。」

 

桂花はそう答えた。

 

純「・・・姉上。俺も参加して良いですよね?」

 

それを聞いた純は、華琳の顔を見てそう尋ねた。

 

華琳「全く・・・しょうがないわね。行っても良いわよ。」

 

純の顔を見た華琳は、呆れつつも笑みを浮かべながら言った。

 

純「本当ですか!?」

 

華琳「ええ。まだ暴れ足りないでしょう?追撃して、好きに思いっ切り暴れなさい。」

 

それを聞いた純は

 

純「はっ!では直ちに追撃して参ります!!」

 

満面の笑みを浮かべながら拱手し

 

純「行くぞ!『黄鬚』曹彰に付いて来い!!」

 

そう言いながら颯爽と馬に乗ってその場を後にしたのだった。

 

華琳「別に良いわよね、桂花。」

 

桂花「はい。純様が加われば、討伐の時間も更に短縮出来るので。」

 

秋蘭「相変わらずだな、純様は・・・。」

 

栄華「そうですわね・・・。」

 

純の様子を見た秋蘭と栄華は、笑みを浮かべながらそう言った。

 

華琳「あんな顔されたら、無下には出来ないわよ。」

 

華琳「それと桂花。あなたも見事な作戦だったわ。負傷者も殆どいないようだし、上出来よ。」

 

華琳の褒め言葉を聞いた桂花は

 

桂花「あ・・・ありがとうございます!華琳様!」

 

嬉しそうな笑みを浮かべながらそう言ったのだった。

 

華琳「後は、栄華。」

 

栄華「はい。事後処理に関しては、お任せ下さいませ。」

 

華琳「任せるわ。桂花、秋蘭。本陣を前に移す指揮をなさい。このまま砦を落とすわ。」

 

秋蘭「はっ!」

 

桂花「承知致しました!」

 

そして、純の苛烈な猛攻に加え本隊も加わったため、砦はあっさり陥落したのだった。

 

 

 

 

 

その帰り道

 

 

 

 

 

純「いやぁ・・・久し振りに暴れたなぁ。やっぱり戦は良い・・・」

 

華琳「あなた・・・戦だと本当に生き生きしてるわね。」

 

純「へへっ。」

 

華琳「これからも、その武勇頼りにしてるわよ。」

 

純「はっ!例え万人の敵が相手でも、全て斬り殺してやりますよ!」

 

華琳「ええっ。」

 

秋蘭「ただ心残りなのは・・・華琳様が気に掛けておられた古書が見つからなかった事ですね。」

 

春蘭「うむ。大変用心の書だな。」

 

純「いや・・・太平用心だよ、春蘭。」

 

これには

 

華琳「・・・太平要術よ。全く・・・」

 

華琳は呆れながら答えた。

 

柳琳「・・・。」

 

桂花「・・・。」

 

秋蘭「純様・・・。」

 

栄華「お兄様・・・。」

 

春蘭「言ったよな!私と純様はそう言ったよな!」

 

純「・・・すいません姉上。」

 

稟「純様・・・。」

 

純「・・・悪い。」

 

純「え、ええっと・・・稟と風は、その古書について何か知ってるか?」

 

稟「ええ。噂程度で、危険な書物であると。」

 

風「風も、稟ちゃんと同じ意見ですね~。」

 

純「そっか・・・。つっても、俺も良く分かんねーけどな。」

 

稟「でしょうね。名前を間違えるほどですから・・・」

 

純「うっ・・・」

 

香風「あの三人の盗賊も見つからなかったし、良く分かんなかったです。」

 

華琳「無知な盗賊に焚き付けにでもされたか、落城の時に燃え落ちたのか・・・。まあ、代わりに桂花と許緒という得難い宝が手に入ったのだから、それで良しとしましょう。」

 

純「そうですね。季衣、姉上の警護、任せたぞ。」

 

季衣「はい!それに僕の村も、しばらくは曹操様が治めてくれることになりましたので!」

 

季衣「税もずっと安くなるし、警備の兵や曹操様の信用してる役人も連れて来てくれるっていうし、それが一番嬉しいです。」

 

季衣「だから今度は僕が、曹操様をお守りするんだー!」

 

栄華「とはいえ、暫くは今回の件の後始末も必要ですし、警護の名目も兼ねて沛国のあの方に申し出ておきますわね。」

 

純「ふーん。それより姉上、もっと重要な事があるんじゃないですか?」

 

華琳「分かってるわ。桂花の事でしょ?」

 

そう言い、華琳と純は桂花を見た。

 

桂花「じ・・・純様。ここでですか!?」

 

見られた桂花は表情を少し硬くした。

 

純「城を目の前にして言うのもあれだけど、俺・・・スゲー腹減ってんだよ。分かるか?」

 

桂花「・・・はい。」

 

桂花「ですが曹彰様。言い訳を承知で言わせていただければ、それはこの季衣が・・・」

 

季衣「ほえ?」

 

純「不可抗力や予測出来ねー事態が起こるのが、戦場の常だ。それを言い訳にするのは、適切な予測が出来ねー奴のする事だと思うぞ?いくら頭が悪い俺でも分かる。」

 

桂花「そ、それはそうですが・・・。」

 

純「此度の遠征においてのお前の功績は無視出来ねー。だが、約束は反故に出来ねーし、無かった事にするのも同じくだな。」

 

秋蘭「純様・・・。」

 

桂花「・・・分かりました。最後まで糧食の管理が出来なかったのは、私の不始末。首を刎ねるなり、思うままにして下さいませ。」

 

春蘭「ふむ・・・。」

 

桂花「ですが、せめて・・・最後は、華琳様か純様ご自身の手で・・・!」

 

春蘭「・・・。」

 

純「とは言え、先程も申したように、今回の遠征の功績を無視出来ねーのもまた事実だ。・・・良いだろう、減刑して、姉上に何かしてもらえ。」

 

桂花「純様・・・っ!」

 

純「宜しいですか、姉上?」

 

華琳「良いわよ、それで。」

 

純「御意。」

 

華琳「桂花、貴女の件、お仕置きだけで許してあげる。」

 

これを聞いた桂花は

 

桂花「華琳様・・・っ!ありがとうございます!」

 

満面の笑みで答えた。

 

華琳「城に戻ったら、私の部屋に来なさい。たっぷり、可愛がってあげる。」

 

桂花「え?そ、それは・・・ま、ままま、まさか・・・!」

 

栄華「お、お姉様っ!?あの、それはいくら何でも・・・」

 

華琳「あら。なら、栄華は純に可愛がって貰ったら?」

 

栄華「え・・・そ、それは・・・。でも、お兄様が望まれるなら・・・」

 

春蘭「・・・いいなぁ。」

 

華侖「ね、柳琳。華琳姉ぇ達、何の話してるんすか?」

 

柳琳「そ、それは・・・その・・・あぅぅ。」

 

純「あはは・・・。」

 

そして、一同は無事陳留に帰還したのであった。



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幕間1 黄鬚の伝説の始まり

黄鬚の伝説の始まりです。


これは、純がまだ無名だった頃のお話である。

 

純「お呼びでしょうか、父上。」

 

純は、父である曹嵩に呼ばれてやって来た。幼馴染であり、側近の秋蘭を連れて。

 

曹嵩「うむ。近くの村が賊に襲われているとの情報があってな。お前たちに任せたい。」

 

純「分かりました。では、すぐに兵馬を整えて、出陣致します。」

 

曹嵩「うむ、頼んだぞ。それと、そこには官軍もおって、皇甫嵩と申す者が率いておる。よろしく頼むぞ。」

 

純「はっ。ではこれにて。行くぞ、秋蘭。」

 

秋蘭「御意。」

 

そう言って、純達はその場を後にし、五千の兵馬を率いて出陣した。

その中で

 

華琳「純!」

 

華琳が見送りに来ていた。

 

純「姉上!?わざわざこちらに来るとは!?」

 

華琳「あなたの見送りよ。お父様に賊討伐を任されたのでしょ。」

 

純「はい。しかし、姉上でも良かったのでは?」

 

華琳「良いのよ。初陣以来、私よりあなたの方が戦で大きな手柄を挙げている。ならばあなたが選ばれるのが当然よ。」

 

華琳「それに、あなたの方が一番戦に長けているしね。」

 

純「ありがたきお言葉。」

 

華琳「気を付けて行きなさい。そして、必ず元気に帰ってくる事!」

 

純「はっ!」

 

そして、純はそのまま出発した。

 

 

 

 

 

官軍

 

 

 

 

 

官軍武将A「皇甫嵩殿、曹嵩殿のご子息曹彰殿がこちらに向かっておられます。」

 

皇甫嵩「分かったわ。」

 

官軍武将A「しかし、大丈夫なのでしょうか?」

 

皇甫嵩「何がかしら?」

 

官軍武将A「此度我らと共に戦う曹彰殿ですが、武に長けているとの噂はかねがね聞いてはおりましたが、まだ年若いです。大丈夫なのでしょうか?」

 

皇甫嵩「それは分からないわ。けど、例え年若かろうとも私達は彼らと協力しなければこの戦は勝てないわ。」

 

官軍武将A「はい・・・」

 

皇甫嵩「良い。例え宦官の息子であろうとも、決して見下してはいけないわよ!」

 

官軍武将A「はっ!!では、兵の様子を見て参ります。」

 

官軍の武将は、そう言ってその場を後にした。

 

皇甫嵩「はあ・・・。」

 

皇甫嵩(曹彰子文・・・曹嵩殿のご子息で武に長けた勇将・・・。どんな子なのかしら?)

 

その時、皇甫嵩はそんな事を考えていた。

そして、純達が官軍の本陣に到着した。

 

官軍兵士A「名を申せ。」

 

純「父曹嵩の名代として参った、曹子文と申す。」

 

官軍兵士A「了解した、では武器をこちらに。」

 

純「うむ。入るぞ、秋蘭。」

 

秋蘭「御意。」

 

そう言い、純は太刀を兵士に預け、天幕に入った。

 

純「お初にお目にかかります。俺は父曹嵩の名代、曹子文です。」

 

皇甫嵩「私は皇甫義真よ。あなたの事はお父君である曹嵩殿から聞いているわ。戦場での働きは任せるわ。」

 

純「御意。であらば、我らは先鋒を担いましょう。」

 

そう言い、純はその場を後にした。

 

皇甫嵩「・・・ふう。」

 

官軍武将A「皇甫嵩殿、如何なさいましたか?」

 

皇甫嵩「大丈夫よ。気にしないで。」

 

そう言った皇甫嵩だったが

 

皇甫嵩(あれが曹彰子文・・・。武勇と軍才に溢れているわ・・・。その強さ・・・まさに虎の如し・・・)

 

純の纏う雰囲気を見て、そう思っていたのだった。

 

 

 

 

 

曹彰軍天幕

 

 

 

 

 

純「一応俺達が先陣だな。この戦で、俺の名を官軍に知らしめてやる!」

 

曹彰軍武将A「曹彰様。皇甫嵩殿は如何なお人でしたか?」

 

この質問に

 

純「ん?そうだな・・・。あのお方はつえーぞ。」

 

純はそう答えた。

 

曹彰軍武将A「え?そこまで武に優れているのですか?」

 

純「いや、個人の武は俺の方がつえー。けど、培った経験による指揮能力と統率力は確かだと思う。実際、官軍の様子も見てみたが、兵の動きもしっかり統率が取れていたし、顔つきも良く、武器鎧もしっかりしていた。まさに精鋭と言っても過言ではない様相だった。」

 

秋蘭「確かに、兵の動きはしっかりしておりましたね。」

 

純「ああ。この戦、面白くなってきやがった。」

 

純「いいかお前ら、賊を討ち滅ぼし、俺達の強さを天下に知らしめてやろうぜ!」

 

「「「おおーっ!」」」

 

 

 

 

 

賊軍

 

 

 

 

 

 

親分「官軍め、全て蹴散らしてやるぜ!」

 

子分A「しかし親分、今回の敵はどこか違う。特に敵の前衛だ、どこか雰囲気が違う気がしますぜ。」

 

親分「んんー?お前さんの気のせいだろう。例え数が増えたって、俺達の敵じゃねーぜ。」

 

親分「良いか!数は俺達の方が上だ!存分に叩き潰してやれ!」

 

「「「おおーっ!」」」

 

そして、賊軍が攻めてきた。

 

 

 

 

 

 

曹彰軍

 

 

 

 

 

曹彰軍兵士A「曹彰様。敵が突撃して参りました!」

 

それを聞いた純は、カッと目を見開いて

 

純「よっしゃああっ!!かかれぇええええっ!!」

 

「「「おおーっ!」」」

 

秋蘭「純様に続けー!!」

 

兵に命令を下し、先陣を切って突撃したのだった。

 

 

 

 

 

 

 

官軍本陣

 

 

 

 

 

 

 

官軍兵士B「曹彰殿率いる兵と賊軍がぶつかりました!」

 

皇甫嵩「分かったわ。」

 

官軍兵士B「はっ!」

 

皇甫嵩「見る限り、賊は陣を十分に展開できていないわね。酷い縦隊だわ。」

 

皇甫嵩「私達も、いつでも曹彰軍を援護できるように準備しなさい。」

 

官軍兵士B「はっ!」

 

 

 

 

 

 

 

戦場

 

 

 

 

 

 

 

純「うおおおっ!!」

 

賊「「「ギャアアアッ!!」」」

 

その頃戦場では、純が大暴れしており、太刀一振りで数十人単位で斬り殺していた。

 

純「良いか!例え千人だろうが万人だろうが、全て斬り殺せ!!」

 

この鼓舞に

 

「「「おおーっ!」」」

 

曹彰軍の士気が一気に上がった。

 

秋蘭「放て!」

 

賊「「「ギャアアアッ!!」」」

 

純「うおりゃあああっ!!」

 

賊「「「ギャアアアッ!!」」」

 

 

 

 

 

 

 

 

親分「な・・・何だあの強さは・・・!」

 

子分B「親分!このままじゃ味方が・・・!」

 

親分「クソッ!よし、あの先頭に立っている奴を矢で射殺せ!」

 

子分B「へいっ!準備しやす!」

 

 

 

 

 

 

親分「お前ら!あの先頭にいる奴へ、全力で矢を射かけてやれー!」

 

「「「おおーっ!」」」

 

すると、純達前衛目掛けて大量の矢が放たれた。

しかし

 

純「邪魔だーっ!!」

 

ズバッ!ザシュ!

 

飛んできた矢を難なく捌き

 

ガシッ!ガシッ!ガシッ!

 

純「これでも喰らいなっ!」

 

と一気に三本の矢を掴んで太刀を納刀し、背中に背負っていた弓に矢をつがえ、放った。

 

賊「「「ガハァッ!!」」」

 

すると、その矢は三本とも賊軍に命中し、射殺した。

 

親分「ば・・・馬鹿な!!クッ、もう一度射かけ・・・」

 

そう言ったが

 

純「うおりゃあああっ!!」

 

賊「「「ギャアアアッ!!」」」

 

全て斬り殺されてしまった。

 

親分「ひぃぃっ!何なんだこのガキは!?」

 

純「うらああああっ!!」

 

賊「「「ギャアアアッ!!」」」

 

この苛烈な戦ぶりに

 

親分「化け物だ・・・虎だ・・・黄鬚だ・・・!」

 

親分「黄鬚だー!!あんなもんに敵わねー!!」

 

賊の親分は逃げようとしたが

 

純「テメーが賊の頭領だな?」

 

親分「ひぃぃっ!」

 

純に追い付かれ

 

純「うりゃあああっ!!」

 

ザシュ!

 

親分「ギャアアアッ!!」

 

真っ二つに斬り殺されてしまった。

 

純「賊の頭領を討ち取ったぞー!!」

 

「「「おおーっ!」」」

 

 

 

 

 

 

その様子を見ていた官軍は

 

官軍武将C「な・・・何て強さだ!?数の差をものともしなかったぞ!!」

 

官軍武将D「これが曹嵩殿のご子息か・・・!恐ろしき武勇じゃ!」

 

官軍武将E「その配下の将兵も、何て精強なのだ!」

 

純達の強さに呆然としていた。

すると

 

皇甫嵩「まるで・・・虎の如き強さね・・・」

 

皇甫嵩「虎の如き・・・『黄鬚』だわ・・・。」

 

と皇甫嵩が純を見てそう呟いた。

 

官軍武将F「まさに言い得て妙ですね。」

 

皇甫嵩「ええ・・・」

 

皇甫嵩(『黄鬚』曹彰・・・。このお方は・・・いずれ天下無双の将軍になるわ・・・!)

 

その時、皇甫嵩は純の戦いぶりを見てそう感じたのだった。

そして、皇甫嵩率いる官軍も、賊軍に攻撃を仕掛け、賊は壊滅したのだった。

 

 

 

 

 

 

 

戦後

 

 

 

 

 

 

 

皇甫嵩「あなたの活躍、朝廷にしっかりとお伝え致します。」

 

純「分かりました。皇甫嵩殿、もし賊討伐がありましたら、また一緒に戦いましょう!」

 

皇甫嵩「フフッ・・・分かったわ。その時は、あなたのその武勇、頼りにするわね。」

 

純「はい!それでは、また!」

 

純「引き揚げるぞ!」

 

そして、純達は颯爽と馬に乗り、その場を後にしたのだった。

この戦は各地で広まり、純の強さが知れ渡る事となった。

それと同時に付けられた異名は、皇甫嵩が言った通り、『黄鬚』と呼ばれ、味方には信頼と尊敬を、敵には恐怖を植え付けられたのであった。



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12話

12話です。


純はこの日、秋蘭の部屋に向かっていた。すると、

 

秋蘭「純様?」

 

ちょうど秋蘭に出会ったのだった。

 

純「おお秋蘭。今日お前って、休みだったよな?」

 

秋蘭「はい、そうですが?」

 

純「ちょうどお前を誘おうと思ったんだけど、これから一緒に街を回ろうよ。」

 

秋蘭「はい。私は構いません。」

 

すると、

 

秋蘭「その前に、少し着替えてもよろしいでしょうか?」

 

と秋蘭は何か思いついたのか、純にそう言ったのであった。

 

純「?まぁ良いけど。」

 

純は意味が分からないと思ったが、了承した。そして、純を部屋の前で待たせ、秋蘭は部屋に入り、箪笥を開き、一着の服を手に取り、着替えたのであった。

 

秋蘭「お待たせしました。」

 

そう言われ、秋蘭を見ると、そこには、高貴な青い礼服に身を包んだ秋蘭がいた。

 

純「お前、それって・・・」

 

秋蘭「はい。前に私と一緒に買い物に行った時に私に買ってくれた服です。」

 

すると、

 

秋蘭「ど、どうでしょうか・・・。」

 

秋蘭が、少し恥ずかしげながら、上目遣いで純に尋ねたのであった。

 

純「・・・うん。やっぱり似合ってる。やっぱ綺麗だな、秋蘭。」

 

と純は言った。それを聞いた秋蘭は、嬉しくなり純に抱き付いた。

 

純「それじゃあ、行こっか。」

 

秋蘭「はい!」

 

そして、2人で一緒に街に言ったのであった。街を回ってる間も、秋蘭は純の腕に抱き付いた状態であった。周りの者は、

 

市民A「おい、曹彰様と夏侯淵様だぞ。」

 

市民B「本当だ。相変わらず仲が良いな。良いなぁ、羨ましい・・・。」

 

市民C「それに今日の夏侯淵様、とってもお綺麗ですわ~!!」

 

市民D「ええ。隣には曹彰様。絵になるわ~!!」

 

純と秋蘭を見て、そう言ったのであった。

 

純「今日のお前、本当に綺麗。それ買って本当に良かった。」

 

すると、純は秋蘭にそう言った。それを聞いた秋蘭は益々嬉しくなったのか、抱き付いてる腕を強くしたのであった。そして、二人は軽く飯を食い、小物屋で商品を見たりなど、色々回ったのであった。その道中、

 

絵師A「お2人さん、ちょっと良いですか?」

 

絵師に声をかけられ、純と秋蘭は振り返った。

 

絵師A「実は私、絵師でありまして、良ければお2人の絵を描かせていただきたいのですが・・・。」

 

純「別に構わねーよ。なぁ秋蘭?」

 

秋蘭「はい。構いません。」

 

絵師A「そうですか。ありがとうございます。」

 

そう言って、絵師は二人の絵を描き始めたのであった。それから暫くが経ち、

 

絵師A「出来ましたよ。」

 

そう言い、絵師は二人に絵を差し出した。

 

純「スゲー!!めっちゃ上手い!!」

 

秋蘭「はい。私も思います・・・!!」

 

その出来に、2人は興奮したのだった。

 

絵師A「喜んでいただいて何よりです。よろしかったらその絵は差し上げますよ。」

 

秋蘭「良いのか?」

 

絵師A「ええ。構いませんよ。」

 

秋蘭「感謝する。」

 

そう言い、秋蘭は絵を大事そうに抱き締めた。

 

純「本当ありがとな。こんな素晴らしい絵、初めて見た。」

 

絵師A「構いませんよ。私も久し振りに良い絵が描けましたから。こんな綺麗な恋仲の絵を描くのは。」

 

純「そうか。ではな、これはその礼だ。」

 

そう言って、純は幾らか金を出して、絵師に渡した。そして、秋蘭と一緒にその場を後にした。

 

秋蘭「純様、この絵は私が貰っても良いでしょうか?」

 

純「良いよ、お前にあげる。」

 

そう言い、純は秋蘭の頭を撫でた。すると秋蘭は非常に嬉しかったのか、純の頬に口付けをしたのであった。そして、二人は城に戻り、その日の夜は、二人で一緒に寝たのであった。



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13話

13話です。


先の戦で、桂花と季衣を手に入れてから暫くが経った。

純は、とある村が賊に襲われているとの報告があったため、稟、風と一緒に自身の子飼いである黄鬚隊五千を率いて出陣していた。

 

 

 

 

そんな中、陳留の城の純の部屋にて

 

 

 

 

??「ふっ・・・はぁっ・・・ふぅっ・・・。」

 

何者かの悩ましげな声が、純の部屋に響き渡った。部屋の主は、現在賊討伐に出陣しているため、当然ここに誰かいるはずも無い。

しかし、寝台の辺りの布団がもぞもぞと動いている。侵入者は純の布団を頭まで被り、その中でなにやら悶えているようだ。・・・声がやけに熱っぽいのは気のせいか。

 

栄華「うっ・・・ぷはぁっ。」

 

その時、布団の中で身動きを取っていたため酸素不足で息苦しくなったのか、ようやく侵入者が顔を布団の外に出した。

現れたのは、栄華だった。彼女は、布団から顔を出した状態で大きく息をついた。

 

栄華「はぁっ・・・はぁっ・・・良い、匂いですわ・・・。」

 

そうウットリと、熱に浮かされたように栄華は呟いた。ただ、ここは彼女が兄と慕う従兄の純の部屋であり、決して顔を赤くして寝台の布団の匂いに浸る場所では無い。

だが、栄華はそう言った事は全て無視といった様子で、布団に染みついた愛すべき従兄の匂いをゆっくりじっくり丁寧に吸っていく。

 

栄華「んはぁ・・・お兄、様ぁ・・・お兄様ぁ・・・。」

 

二回、お兄様と呟いた。

純が出陣したため、いつ帰るか分かるはずも無い。それは彼がこの曹操軍の全てを任せられとはいえ、自身だけが遠征に行く時もあるため、それは今に始まった事ではない。

だが、いつ帰るか分からないというのは辛い所業だ。そのため、彼女は純が遠征等で不在の時は、こっそり純の部屋に行き、こうして寂しさを紛らわせているのである。

 

栄華「あぁ・・・お兄様・・・。」

 

その後、数十分にわたって純の部屋は栄華のプライベートルームとなった。

 

 

 

 

 

栄華「また・・・やってしまいましたわ・・・。」

 

純の部屋を出て、栄華は城内を歩き回りながら、一人自己嫌悪に陥り呟いた。

 

栄華(い、いくらお兄様が恋しいとは言っても、アレは駄目ですわ!!けど・・・)

 

栄華「お兄様の事を考え始めてしまうと、私は自分を制御出来なくなってしまいますわ・・・。」

 

この行動について、以前華琳に相談した事があった。すると

 

華琳『純の事を好きなのは知っていたけど、かなり重症ね、栄華。』

 

と一蹴された。それに対して

 

栄華『お、お姉様。私も分かっていますわ!!けど、お兄様がいないのは、私にとっては胸を剣で突かれるが如く痛いものなのです!!私は、それが苦しく我慢出来ないのですわ!!』

 

と栄華は反論したのだが、華琳は呆れ顔で首を振られてしまったのだった。

 

栄華(それにしても、何でこんな気持ちになってしまうのか、分かりませんわ。)

 

栄華(きっかけも、良く分かりませんわ。ただ、物心ついた頃から、私はお姉様やお兄様、そして、華侖さん、柳琳、春蘭さん、秋蘭さんと一緒に遊んでいましたわ。)

 

栄華(お兄様は、いつも皆に優しく接してくれましたわ。優しいだけじゃ無く、非常に強いお方でもあった。もしかしたら、その時からお兄様を好いていたのかもしれませんわね・・・。)

 

栄華「この気持ち、嘘はつけませんわ。」

 

秋蘭「だからといって、純様の部屋で自分を慰めて良いとは限らぬぞ、栄華。」

 

栄華「っ!?」

 

その時、後ろから声が聞こえたので振り返ると、秋蘭がいた。

 

栄華「秋蘭さん・・・!」

 

そして、何かを察した栄華は

 

栄華「あ、あの・・・秋蘭さん・・・。この事は・・・お姉様は知っておりますが、それ以外のお兄様達には、秘密にしてくれませんの?」

 

と秋蘭に言った。

 

秋蘭「先程の事か?それをやってるのが、お前だけではないぞ。」

 

栄華「えっ・・・!」

 

秋蘭「私もお前と同じ事しているし、後は稟だったかな・・・アイツも純様の事を好いておるぞ。」

 

栄華「そ、そんな・・・。」

 

それを聞いた栄華は、ガクンと項垂れた。

 

栄華(ま・・・まさか・・・。稟さんも私と同じ事をしていたなんて・・・。いつも冷静で知略に優れ、規律に厳しい稟さんが・・・!)

 

すると、

 

秋蘭「だが栄華、お前の気持ちは私も気付いていた。お前も、純様の事が好きだという事を。だが、大丈夫だ。純様は、お前を受け入れてくれるさ。」

 

と秋蘭はそう栄華に言った。

 

栄華「そう・・・ですの?」

 

秋蘭「ああ。だが、正妻の座は譲らぬぞ。」

 

と秋蘭は栄華に宣戦布告をした。

 

栄華「わ、私も、秋蘭さんには負けませんわ!!」

 

それに、栄華もそう言ったのだった。

 

秋蘭「そうか・・・では、互いに頑張ろうではないか。」

 

そう言って、秋蘭はその場を後にした。

ふと、栄華は空を見上げた。目の前には蒼天が広がっていた。

 

栄華(もしかしたら、お兄様もこの空を・・・。)

 

栄華「・・・お兄様。もし・・・その時が来たら・・・」

 

栄華(『貴方様の事が好きです。』と言わせて下さい・・・。)

 

そう空を見て心の中で最後の言葉を呟いたのだった。

 

 

 

 

 

同時刻

 

 

 

 

 

純「・・・。」

 

純は、馬上でふと空に目を向け、そのまま黙っていた。

 

稟「純様、どうかなさいましたか?」

 

純「いや・・・何でも無い。」

 

風「純様~、例の村が見えましたよ~。」

 

それを聞いた純は

 

純「分かった。皆、気勢を上げろ!!罪無き民を襲い、私腹を肥やす賊共を叩き潰せ!!そしてその勝利を、陳留におられる姉上に届けるのだ!!」

 

黄鬚隊兵士「「「おおーっ!!」」」

 

純「行くぞ、『黄鬚』曹彰に付いて来い!!」

 

そう言い、いつも通り自ら先頭に立ち、兵と共に突撃した。

そして、純の圧倒的武勇と精強で鳴らした純率いる私兵黄鬚隊の活躍で、村を襲っていた賊を完膚なきまで叩き潰したのであった。



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14話

14話です。


謁見の間

 

 

 

 

華琳「・・・そう。山陽の平定は上手くいったのね。」

 

純「はっ。ひとまず暴れていた賊は下しましたので、しばらくはあの辺りも平和になるかと。」

 

苑州にある山陽郡の太守から、盗賊団が暴れてるから助けて欲しいという要請が華琳の所に入り、純と春蘭、そして香風が行き平定を終え、その報告をしていた。

 

香風「それで、山陽の太守が・・・これからも、守ってって。」

 

栄華「・・・またですの?」

 

春蘭「うむ。またなのだ。」

 

純「姉上、これゼッテー秋蘭と柳琳が行っている泰山もだと思いますよ、きっと・・・。」

 

華琳「ええ、あなたの言う通りね。」

 

純「それに泰山って、確か結構ヤバかったよな、稟。風。」

 

稟「はい、その通りです。」

 

風「そうですね~。風も調べたとき、驚きましたよ~。」

 

華侖「それって、どういう意味っすか?」

 

稟「あそこの地域は、役人の不正が他の所以上に横行していたのです。」

 

桂花「だから、秋蘭にその証拠の資料をいくつかね・・・。」

 

純「さすが桂花。まあ、それが良いだろう。」

 

華琳「ええ。綱紀粛正を言い渡すだけだもの。それを聞く気がないなら、大人しく軍を退くだけよ。」

 

純「そうですね。この苑州は姉上頼みですからね。」

 

桂花「はい。不正を行わないだけで領地を守ってもらえるので、安いものです。別に賄賂を送れと言っているわけでもないですし。」

 

華琳「ええ。腹を探られて痛いなら、腹を痛くしなければいいのよ。」

 

栄華「何より、苑州各地でのお姉様の人気は相当なものですもの。とは言え、お兄様には負けますが。今さら私達を追い返したところで、民の不満は高まるだけですわ。」

 

純「まぁ、今までの賊退治の応援に気持ちよく応えてたのは、この時のためだからな・・・。」

 

栄華「はい。世の中に、タダより高いものはありませんから。」

 

それを聞いた純は

 

純「しかし、桂花も稟も風も栄華も大変だったろ。今までの仕事に加えて、そういう調査や情報収集までとか・・・。」

 

そう言った。

 

桂花「それこそ望む所です。華琳様の覇道が着々と進んでいるという事ですから。軍師冥利に尽きるというものです。」

 

稟「私は、純様のお役に立てるなら何でもします。」

 

風「風も稟ちゃんと同じ意見ですよ~。」

 

純「そっか・・・。そう言えば姉上、前に州牧から感謝状が届きましたよね。」

 

華琳「ええ。前に一枚そういったのが届いた気がするわね。一層の奮起を期待するって書いてあったわ。・・・もう倉に片付けてしまったけれど。」

 

純「・・・そうですか。」

 

華琳「私の振る舞い程度で満足するような州牧なら、苑州はもっと前からマシになっているわよ。きっと。」

 

華琳「・・・さて。なら、後の報告は純に任せるわ。いつものように報告書に纏めておいて頂戴。」

 

純「はっ。」

 

栄華「お姉様。午後からは・・・」

 

華琳「ええ。陳登の所に視察に行ってくるわ。季衣、午後の予定は空けてあるわね?」

 

季衣「大丈夫です!」

 

華琳「結構。純、後は頼んだわよ。」

 

純「お任せ下さい。」

 

そして華琳は、視察に行ったのであった。



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15話

15話です。


謁見の間

 

 

 

泰山郡に遠征に出ていた秋蘭達が戻ってきて少し経った朝議でのこと。

 

秋蘭「・・・純様、それは本当ですか?」

 

純「ああ、本当だ。姉上が苑州の正式な州牧にならねーかっていう話が来た。」

 

華琳「それも正式にね。」

 

すると

 

春・華・季「「「おめでとうございます、華琳様/姉ぇ!」」」

 

春蘭と華侖、そして季衣がそれぞれ即答して祝いの言葉を述べた。しかし

 

秋蘭「・・・。」

 

柳琳「・・・。」

 

桂花「・・・。」

 

稟「・・・。」

 

風「・・・。」

 

即答した三人以外は、なんとも言えない微妙な表情を浮かべていた。

 

季衣「はれ?秋蘭様達は、賛成じゃないんですか?」

 

華侖「えー。華琳姉ぇが州牧になったほうが絶対いいっすよー!柳琳はイヤなんすか。」

 

柳琳「うん・・・。それ自体は、すごくいいお話だと思うんだけど。」

 

桂花「・・・それは、一体誰からの申し出ですか?とても苑州の現州牧が華琳様に申し出るとは思えませんが・・・」

 

その質問に華琳は

 

華琳「陳珪よ。」

 

そう答えた。

 

桂花「・・・やはりですか。」

 

純「いくら頭の悪い俺でも分かる。これは姉上しか得しねーぞ。」

 

栄華「はい、お兄様の言う通りですわ。」

 

稟「はい、私もそう思います。どう考えても、曹操殿しか得しません。」

 

風「風も稟ちゃんと同じ意見ですね~。」

 

栄華「苑州と何かしらの同盟を結ぶつもりでも、今の無能な牧を好きに操る方が何かと都合が良いでしょうに・・・」

 

すると

 

季衣「ねえねえ、香風。ちょっと良い?」

 

香風「んー。」

 

季衣「陳珪って人、確か豫州の沛国の相だよね?」

 

香風「そう。」

 

季衣「なんで、他の州の人が苑州の州牧を決められるの?」

 

季衣が香風にそう質問すると

 

香風「それが・・・、政事の闇。」

 

と香風がそう答えた。

 

季衣「まつりごとのやみ・・・。」

 

春蘭「・・・秋蘭。」

 

秋蘭「私にも分からん。豫州の州牧が口添えというならまだしも、一国の相がそこまで力を持てるとも思えんが・・・」

 

純「姉上、確か陳珪は色んな所に繋がりがあると仰ってましたし、恐らく朝廷にも・・・」

 

華琳「ええ、そうかもしれないわね。」

 

華侖「じゃあ華琳姉ぇはどうするっすか?州牧にはならないっすか?」

 

華琳「当然、引き受けるに決まっているわ。」

 

しかし

 

桂花「反対です!せめて、もう少し情報を集めてから・・・」

 

栄華「それに、泰山での綱紀粛正の噂も既に出回っています。今州牧を引き受ければ、民草はまだしも他の太守からより多くの反感を買うことに・・・」

 

桂花と栄華が時期尚早であると反対した。

 

華琳「反感など、いつ牧になったとしても起こるものよ。だとしたら、早い方が良いでしょう。」

 

桂花「それはそうかもしれませんが・・・!」

 

華琳「たとえこの先に陳珪の策が控えていたとしても、食い破れば良いだけ。そこで陳珪の策に潰えるなら、私の器もそこまでという事だわ。」

 

そう淡々と言い切る華琳の前に

 

桂花「・・・。」

 

食い下がっていた桂花は黙った。

 

華琳「・・・さて、他に異論の有るものはある?」

 

そう華琳が問うと

 

柳琳「・・・お姉様がそこまでのお覚悟なら。」

 

栄華「ですわね。私達の命、既にお預けしていますもの。」

 

桂花「その策を食い破る策は、私が献じさせていただきます。」

 

皆それぞれそう言った。

 

華琳「・・・純は?」

 

純「俺は難しい事はさっぱり分かりませんが、俺は姉上を信じるだけです。ただ、命の懸け所は見誤らないで下さい。」

 

華琳「それは貴方達の働き次第ね。」

 

華琳「桂花、陳珪に遣いを出しなさい。その申し出、慎んで受けさせていただく、とね。・・・人選は任せるわ。」

 

桂花「・・・はっ。承知致しました。」

 

 

 

 

あれから数日後

 

 

 

 

純「・・・暇だ。」

 

稟「仕方ありません。気長に待つしかありませんよ。」

 

風「ぐぅ~。」

 

稟「寝るな!」

 

風「おお!気持ちよくて遂・・・」

 

稟「全く・・・」

 

すると

 

春蘭「おお、純様。早かったですね。」

 

春蘭と桂花が来た。

 

純「ああ、春蘭か。姉上と秋蘭は?・・・あれか?」

 

春蘭「はい。髪のまとまりが悪くて、今栄華と柳琳に整えさせています。」

 

純「そうか・・・。しかし、もし髪がまっすぐになれる物が出てきたら、ゼッテー姉上は買うだろうな。」

 

春蘭「そうですね。しかし、そのような物、大陸のどこに探してもありませんよ。」

 

純「それもそうか・・・。しかし、姉上ももう州牧か・・・」

 

春蘭「どうかなさいましたか?」

 

桂花「何か気になることが。」

 

純「あ、ああ。姉上も州牧になったから、これからメンドーな問題が起きると思ってな。その時は、頼りにしてるぞ。」

 

春蘭「お任せ下さい!先日華琳様がおっしゃったように、食い破るだけですから。」

 

桂花「・・・その食い破る策を考えるのは私なんだけどね。」

 

春蘭「どうした、華琳様のお役に立てるのだ。誇らしい事ではないか。」

 

桂花「そこは否定しないけど。」

 

稟「まあ、私はもし陳珪が純様に害をなす者であったら、この手で始末しますが。」

 

風「おお!稟ちゃんもなかなかえげつない事を言いますね~。」

 

純「はは。」

 

桂花「後は、情報収集に努めるしかないわね。・・・あまり借りは作りたくはないのだけれど、中央の知り合いに当たってみるしかないか。」

 

桂花「まあ、今は中央も苑州周りの情報は欲しがるだろうし、それをエサにすれば何とかなるかしら・・・。」

 

純「ああ、確かお前の家は名門だったな。それ繋がりもあるか。」

 

桂花「はい。しかし、それだけではありません。前所属していた袁紹の所は、扱いは悪かったのですが、中央との繋がりも作ることが出来たので。」

 

純「なるほどね・・・」

 

すると

 

華侖「お待たせっすー!」

 

華侖の声と同時に華琳達がやって来た。

 

純「・・・。」

 

華琳「・・・何?」

 

純「いえ、春蘭から髪のまとまりが悪かったとお聞きしたので・・・。大丈夫でしたか?」

 

華琳「雨でも降るのかしらね?いつもと違うようにしかまとまらなかったのよ。・・・どう?貴方から見て変ではないかしら?」

 

純「栄華と柳琳が見て大丈夫なら、大丈夫だと思いますよ。それに、俺から見ても、特に変ではありませんし。」

 

栄華「当然ですわ。ちゃんとお手入れさせていただきましたもの。」

 

柳琳「はい。いくらやっても御髪が思うように落ち着かなくて、大変でしたけど。」

 

華侖「・・・あたしは何が違うのか全然わかんなかったっす。」

 

純「そ、そっか・・・」

 

華琳「ならいいわ。それに、州牧になったお陰で季衣との約束を一つ進められたのだもの。ひとまず、それで上出来よ。」

 

純「確かに・・・。ところで、季衣と香風は?」

 

その問いに

 

秋蘭「今朝、この辺りで怪しい人物の目撃証言が入ってきたのです。調査は私と姉者がするから街を見てこいと言ったのですが、聞かなくて。」

 

秋蘭がそう答えた。

 

純「ほお、怪しい人物・・・?」

 

華琳「太った大男と、痩せた小柄な男と、髭面の男の3人組だそうよ。」

 

純「ほお・・・。」

 

栄華「・・・流石にあの根城の壊滅から時間も経っていますし、可能性は限りなく低いでしょうけれど。」

 

華琳「それに珍しくもない外見だし、この陳留に戻ってくる理由も思い当たらないしね。」

 

純「確かにそうですね。」

 

純「そんじゃ、頑張ってる二人に土産を買って帰ってもバチは当たるまい。」

 

春蘭「なんだ、考えることは同じでしたか・・・。」

 

桂花「春蘭、別に観光に行くわけじゃないのよ。」

 

稟「そうですよ、純様。」

 

純「分かってるよ。視察をちゃんとやり、その上で土産を買うんだから。別に構いませんよね?姉上。」

 

華琳「仕事をちゃんとするならね。」

 

春蘭「はいっ!」

 

桂花「・・・返事だけにならなければいいけど。」

 

華琳「さて、揃ったのなら出かけるわよ。桂花、留守番、よろしくお願いね。」

 

桂花「華琳様ぁ・・・。なんで私はお留守番なんですかぁ・・・?」

 

華琳「貴女を信頼してるからこそよ。」

 

柳琳「桂花さん、私も残りますから。」

 

稟「桂花。私と風もいます。」

 

桂花「はぁ・・・。稟と風はともかく、柳琳は、街に行ってもいいんだけど。」

 

華侖「そうっすよ。あたしも柳琳と一緒に行きたかったっすー!」

 

柳琳「でも、誰かが残らないとでしょ?今度また、一緒にお買い物に行きましょ、姉さん。」

 

華侖「約束っすよ!!」

 

華琳「何かあったときの判断は貴女達に任せるわ。いいわね?」

 

桂花「はぁい。」

 

純「稟、風。頼んだぞ。」

 

稟「はっ!!」

 

風「はい~。」

 

そして、視察に行ったのだった。

 

 

 

 

 

城郊外

 

 

 

 

 

 

??「あれが陳留か・・・。」

 

??「やっと着いたのー。凪ちゃーん、もう疲れたのー。」

 

凪「いや、沙和・・・これからが本番なんだが。」

 

沙和「もう竹カゴ売るの、めんどくさいのー。真桜ちゃんもめんどくさいよねぇ・・・。」

 

真桜「そうは言うてもなぁ・・・全部売れへんかったら、せっかくカゴ編んでくれた村のみんなに合わせる顔がないで。」

 

凪「そうだぞ。せっかくこんな遠くの街まで来たのだから、みんなで協力してだな・・・」

 

沙和「うー。わかったのー。」

 

真桜「最近はなんや、立派な太守さんとその弟さんがおるとかで治安も良うなっとるみたいやし、いろんな所から人も来とるからな。気張って売り切らんと。」

 

凪「ああ。その太守様も州牧に格上げになったと聞いたし、街もずっと賑やかになっているはずだ。それにその弟さんは間違いなく『黄鬚』という異名で呼ばれている武勇の誉れ高い曹彰様だ・・・。」

 

真桜「凪はその曹彰様に憧れとるからなぁ。」

 

沙和「そーなのー。凪ちゃんったら、曹彰様の活躍を聞くたびに、恋する乙女みたいな顔になってるのー。」

 

凪「お、おい!別にそんな意味で聞いてはいないぞ!曹彰様は武人の鑑。私の目標であるだけだ。」

 

真桜「そんなこと言うて、本当はそんな関係になりたいくせに~。」

 

凪「ま、真桜・・・!」

 

真桜「はは!冗談や、凪!」

 

沙和「ねえねえ。そんなことより、この街がそんなに賑やかならみんなで手分けして売った方が良くない?」

 

凪「・・・なるほど、それも一利あるな。」

 

真桜「それじゃ、三人で別れて一番売った奴が勝ちって事でええか?負けたヤツは晩飯、オゴリやで!」

 

凪「こら真桜。貴重な路銀を・・・」

 

沙和「分かったのー!」

 

凪「沙和まで・・・。」

 

真桜「よっし。二対一で、可決ってことで!凪もそれでええやろ?」

 

凪「はぁ・・・やれやれ。仕方ないな。」

 

真桜「ほな決まり!」

 

沙和「おーなのっ!」

 

凪「・・・なら、夕方には門の所に集合だぞ。解散!」

 

 

 

 

陳留城下

 

 

 

 

??「はい!それでは、次の曲、聞いていただきましょう!」

 

??「姉さん、伴奏お願いね!」

 

??「はーい。お姉ちゃんに、お任せだよーっ♪」

 

秋蘭「ほぅ。旅芸人も来ているのか・・・。」

 

純「ああ。あれは東の歌か・・・。あちらからは来なかったしな。」

 

秋蘭「はい。そういう意味では、我々の働きが認められたのかもしれませんね。」

 

純「そうだな。」

 

栄華「特にあの方達は女性だけのようですし。道中は煩わしい男どもに絡まれる事も多いでしょうから・・・武芸に相当の自信があるか、よほど安全な道がないと来ないでしょうね。」

 

??「ありがとうございましたー!」

 

??「それでは次、もう一曲、いってみましょうか!」

 

すると

 

華琳「まあ、腕としては並という所ね。それより、私達は旅芸人の演奏を聴きに来たワケではないのよ?」

 

と華琳は言った。

 

純「そうでしたね。狭い街ではないので、手分けして見ていくのはどうですか?」

 

華琳「そうね。それで、どう分けるのかしら?」

 

純「そうですな・・・。では、姉上は俺と。春蘭は栄華と。秋蘭は華侖と組むというのはどうでしょう?」

 

すると

 

秋蘭「・・・純様。私と一緒では駄目ですか?」

 

少し不満そうな顔をした秋蘭がそう言ったのだった。

 

純「お前と二人で視察に行くんだったらまだしも、今回は別だ。違う視点で見ることも大事だと思う。それに、もし春蘭と華侖が組んだら、終わる視察も終わらなくなる。だったらこうやって組んだ方が良いと俺は思ったんだ。」

 

秋蘭「・・・そうですか。」

 

説明を聞いた秋蘭は、納得しつつも少ししょんぼりした感じになった。それを見た純は

 

純「そんな顔をするな、秋蘭。今度一緒に行けたら、一緒に買い物に行こ。なっ。」

 

そう言って、純は秋蘭の頭を撫でてやったのであった。秋蘭は目を細め擽ったそうにしているが、もっとしてくださいとばかりに擦り寄ってきた。

それを見た栄華が、羨ましそうな表情をしていたのは内緒である。

 

春蘭「純様!何故私は栄華と・・・!」

 

春蘭の不満に

 

純「・・・お前は自分の身くらい守れるだろう。」

 

純はそう返した。これに

 

春蘭「・・・うぅ。そういうことですか・・・。分かりました。」

 

春蘭は渋々ながら納得したのだった。

 

華琳「なら、決まりね。では、後で突き当たりの門の所で落ち合いましょう。」

 

純「分かりました。じゃあ秋蘭、また後でな。」

 

秋蘭「・・・あ・・・。んんっ、はい、分かりました。」

 

その時、秋蘭は一瞬寂しそうな表情をしたが、すぐに咳払いをして、いつものクールな顔に戻った。

そして、それぞれ別れて視察を始めたのであった。



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16話

16話です。


陳留城下裏通り

 

 

 

純と華琳が担当する街の中央部は、真ん中を走る大通りと、そこに並ぶ市場がメインであった。

 

純「あの、姉上。」

 

華琳「何?」

 

純「大通りは見て回らなくてよろしいのですか?」

 

華琳「大通りは後で良いのよ。大きな所の意見は、黙っていても集まるのだから。」

 

純「なるほど・・・。」

 

華琳「それより純。・・・この辺りを見て、貴方はどう思う?」

 

純「・・・見たままの意見しか言えませんけど?」

 

華琳「構わないわ。」

 

純「そうですな・・・。野菜を置いてる店もあり、肉を置いてる店もある。後干物もあるな。そういった食材が売っているので、料理屋も多いですね。」

 

華琳「そうね。それで?」

 

純「えっと・・・鍛冶屋があれば儲かりそうですな。」

 

華琳「鍛冶屋?」

 

純「ええ。食材を切るのに包丁が要ります。後調理器具も。確か、鍛冶屋は三つ向こうの通りに行かないと無いですよね。」

 

華琳「ええ、そうね。また、その向こうには料理屋は無かったわね。」

 

純「流石姉上。詳しいですね。」

 

華琳「街の地図を見ていたからね。それに、街の空気は地図や報告書だけでは実感出来ないし。」

 

華琳「たまにはこうして自分の目で確かめておかないと、住民達の意にそぐわない指示を出してしまいかねないわ。」

 

純「なるほど。確かにそうですな。これは、将兵の様子でも同じですな。」

 

華琳「ええ。それにああいう光景も、執務室に座っているだけでは分からないもの。」

 

華琳は露店の前の人だかりを見てそう言った。

 

真桜「はい、寄ってらっしゃい見てらっしゃーい!」

 

そこには露天商らしき少女がおり、その狭いスペースには、竹カゴがずらりと並べられていた。

 

純「・・・何だこれ?」

 

華琳「カゴ屋のよう・・・だけれど?」

 

純「いえ。カゴではなく、こちらの方です。」

 

そう言って純が指さしたのは、少女の脇に置いてあるなんとも言えない物体があった。

 

純「これは一体何の装置でしょう?」

 

華琳「・・・さあ?」

 

すると

 

真桜「おお、そこのお二方、なんともお目が高い!コイツはウチが発明した、全自動カゴ編み装置や!」

 

そう答えたのであった。

 

純「全自動・・・」

 

華琳「カゴ編み装置・・・?」

 

真桜「せや!この絡繰の底にこう、竹を細ぅ切った材料をぐるーっと一週突っ込んでやな・・・、そこの兄さん、こっちの取っ手を持って!」

 

純「ああ・・・。」

 

純は、言われるがまま、機械の取っ手を手に取る。

 

真桜「でな。こうやって、ぐるぐるーっと。」

 

純「回すんだな。」

 

言う通りにぐるぐる回していくと、セットされた竹の薄板が機械に吸い込まれていき、暫くすると、装置の上から編み上げられた竹カゴの側面がゆっくりとせり出してきたのだった。

 

真桜「ほら、こうやって、竹カゴの周りが簡単に編めるんよ!」

 

純「ほお・・・。」

 

華琳「・・・底と枠の部分はどうするの?」

 

真桜「あ、そこは手動です。」

 

華琳「・・・そう。まあ、便利と言えば、便利ね。」

 

純「んだよ。全く全自動じゃねーじゃん。」

 

そう言って、純は取っ手から手を離した。

 

真桜「う。兄さん、ツッコミ厳しいなぁ・・・。そこは雰囲気重視、っちゅうことでひとつ。」

 

これには

 

純「あ、そう・・・。」

 

少し呆れてしまった純だった。

 

純「まあ、いっか。面白いもんが見れたし。そのカゴ、二つ貰おうか。」

 

真桜「お兄さん、ホンマか!」

 

純「ああ。良いですよね、姉上。」

 

華琳「ええ。構わないわ。けど、なんで二つなのかしら?」

 

純「以前村を襲っていた賊の討伐で、稟と風も手柄を挙げたのですが、その褒美を与えておりませんので、代わりにカゴでもあげたら喜ぶかなっと。」

 

華琳「そう。構わないのではなくて。特に郭嘉は大喜びするわよ。」

 

純「そうでしょうか。流石にカゴというのは・・・。」

 

華琳「どのような物でも、褒美であれば臣下は嬉しいものよ。」

 

純「そうですか・・・。そうですね。では、二つ貰おう。」

 

真桜「毎度あり!」

 

そうして、純はカゴを買い、視察を再開した。その際、季衣と香風に土産を買ったのだった。

 

 

 

 

その頃、春蘭と栄華達は

 

 

 

 

春蘭「この辺りは、服屋ばかりか・・・。」

 

栄華「ちょっと。今日は視察なのですから、お買い物はナシですわよ。無駄なお金は使わないようにして下さいまし。」

 

春蘭「そんな事は分かっている。服などどうでも良い。」

 

しかし、

 

栄華「あら。この服、可愛らしいですわね・・・。季衣さんや香風さんに着せたら似合いそう。」

 

栄華が服の誘惑に負けていた。

 

春蘭「言う端からなんだ、栄華。今日は視察に来たのだから、買い物はナシなのだろう。」

 

栄華「わ、分かっていますわよ。私物を買いに来るのなら、ちゃんと日を改めて参りますわ。」

 

春蘭(やれやれ。本当は華琳様と二人で視察をしたかったのだが、純様の命令だしな・・・。)

 

栄華(・・・うぅ。やっぱりさっきの服、気になりますわね。)

 

栄華(それに、本当はお兄様と行きたかったですわ・・・。そうすれば、とても充実した視察だったはずですわ・・・。)

 

栄華(でも、お兄様の命令ですし、仕方ないですわ・・・。)

 

すると、何か良い服を見つけた春蘭は、

 

春蘭「むぅ・・・、これは。」

 

春蘭「この華麗な装い・・・華琳様がお召しになったらさぞお似合いになるだろうな。」

 

そんなことを言ったのだった。

 

栄華「・・・ごほん。春蘭さん?」

 

春蘭「わ、分かっている!買いに来るのなら、日を改めてだろう。」

 

春蘭「だが、一着しかなさそうだし、取り置きだけでも・・・」

 

栄華「・・・お取り置きまでするなら、もう買うのと同じではありませんの。」

 

春蘭「・・・。」

 

栄華「・・・。」

 

春蘭「・・・なあ、栄華。」

 

栄華「・・・なんですの。」

 

春蘭「街の賑わいを確かめるなら、自身でも体感してみるのが一番だとは思わんか。」

 

栄華「あら。春蘭さんにしては、良い事をおっしゃいますのね。」

 

栄華「それに街にお金を回すのも、時には必要な事ですわ。」

 

春蘭「・・・なんだ、金は使わないのが一番ではなかったのか。」

 

栄華「世の中には、使ってはならないお金と使うべきお金がありますの。使うべきお金を使うのは、世間にお金を回すための健全な行いですのよ。」

 

春蘭「お前の言っていることはよく分からんが、私はひとまずこの店を視察してみようと思う。」

 

栄華「視察ですのよ。あくまでも、これは視察ですからね・・・。」

 

そう言って、二人は服屋に入った。

 

店員A「いらっしゃいませー!」

 

春蘭「おお、これはなかなか・・・。」

 

栄華「これも可愛らしいですわ・・・。」

 

店員A「あのぅ、お客様。失礼ですがこの辺りは、お客様よりも少々小さめの・・・。お客様に合うものでしたら、あちらの棚に。」

 

春蘭「私の物など買ってどうするのだ。」

 

店員A「え、お客様・・・?」

 

栄華「申し訳ありません。私達、知り合いの服を買いに来ただけですので・・・。」

 

店員A「そうでしたか。でしたら、何かありましたらお声掛けくださいませ。他の大きさもご用意出来る物がありますので。」

 

栄華「ええ。その時はお願い致しますわ。」

 

春蘭「ほほぅ・・・これも悪くない。ああ、あれも華琳様に・・・」

 

すると

 

??「じゃあ、これは?」

 

1人の少女が春蘭に声を掛けたのであった。

 

春蘭「おおっ。これは素晴らしい!」

 

沙和「やっぱりなの!それだったら、こっちも合うと思うのー。」

 

春蘭「・・・そうか?それはイマイチだろう。むしろ、これを内側に合わせたほうが・・・」

 

沙和「おおーっ。お姉さん、なかなかやるのー。」

 

春蘭「お主もな・・・って、誰だ貴様っ!」

 

沙和「うーん。さっきから、服を見る目がすごく熱かったから・・・。こういう服が好きなら、これも気に入るんじゃないかなーって思ったの。」

 

栄華「あら。そちらは、今年の流行りですわね。」

 

沙和「そっちのお姉さんも詳しそうなの!なかなかやるの・・・。」

 

栄華「ふふっ。まずは基本を抑えてこそ。その辺りは外しませんことよ。」

 

沙和「それにそっちのお姉さんは、自分のこだわりがちゃんとあるみたいなの・・・。そういうのも、とってもステキなの!」

 

春蘭「ふっ。貴様、この私とやり合う気か?華琳様のための私は、自分で言うのもなんだが・・・かなり凄いぞ?」

 

沙和「んー。このお店、可愛い服がたくさんあるし・・・わかったの!その勝負、受けて立つの!」

 

栄華「面白くなってきましたわね・・・。なら、私も負けませんわよ!」

 

そして、勝負が始まったのであった。春蘭と栄華は肝心の視察を忘れて・・・。

 

 

 

 

数時間後

 

 

 

 

春蘭「・・・うむ、久しぶりに良い戦いであった。血がたぎったぞ!」

 

沙和「私も楽しかったの。その買った服も、きっとその子達に似合うと思うのー。」

 

栄華「ふふっ。あなたの見立ても、なかなかお見事でしたわ。」

 

沙和「お姉さんとも、またいい勝負が出来る気がするの・・・。」

 

春蘭「しかし、少々服を買いすぎたな。これでは持って帰るまでに落としてしまいそうだ・・・。」

 

すると

 

沙和「あー。それなら、この竹カゴを使うといいの。」

 

と言った。

 

春蘭「おお、それは助かる!感謝するぞ!」

 

沙和「あ、でもそれ、売り物なの・・・。」

 

春蘭「なんだ、そうなのか。」

 

沙和「あと今思い出したけど、今日中にこのカゴ、全部売らないといけないの・・・。」

 

春蘭「ふっ。それならそうと早く言え。今日の勝負の礼だ。そのようなカゴ、私が全て引き取ってやろうではないか!」

 

しかし

 

栄華「ちょっとお待ちなさい、春蘭さん!それとこれとは別問題ですわよ、必要な分だけ買えば十分でしょう!」

 

栄華は、買いすぎであると反対したのであった。

 

春蘭「好敵手には相応の敬意を払わねばなるまい。任せろ!」

 

沙和「おおっ!お姉さん、太っ腹なのー!」

 

春蘭「はっはっは。誰がお腹がたゆんたゆんで子供が乗ったらフカフカだとー?」

 

沙和「誰もそんなこと言ってないのー。」

 

春蘭「まあ良い。ほれ、これで・・・」

 

そう言って、春蘭は金を出したのだが

 

沙和「・・・。」

 

春蘭「・・・。」

 

栄華「・・・。」

 

服を買いすぎて、もう殆ど残っていなかった。

 

沙和「・・・それはさすがに、一個しか売れないの。」

 

春蘭「え、栄華・・・!」

 

栄華に助けを求めたが

 

栄華「お金なら貸しませんわよ。それは、使う必要のないお金ですもの。」

 

春・沙「「そ、そんなぁ・・・。」」

 

はっきりと断られてしまったのであった。

 

 

 

 

一方、秋蘭と華侖達は

 

 

 

 

秋蘭「・・・。」

 

凪「・・・。」

 

華侖「・・・。」

 

秋蘭「・・・。」

 

凪「・・・。」

 

華侖「・・・ふぁあ。」

 

秋蘭「・・・良いものだな。このカゴは。」

 

凪「・・・どれも入魂の逸品です。」

 

秋蘭「・・・そうか。」

 

凪「・・・はい。」

 

秋蘭「・・・。」

 

凪「・・・。」

 

そして、秋蘭はまたカゴを見ながら、じっくり考えていたのであった。一方華侖は、

 

華侖「・・・あ。こっちはお肉売ってるっす。くださいなー。」

 

秋蘭と凪のカゴを巡っての静かなる戦いに飽き、遊んでしまったのであった。

 

秋蘭「・・・。」

 

凪「・・・。」

 

華侖「・・・むぐむぐ。お肉おいしいっす!もう1本欲しいっす!」

 

男「姉ちゃん、このカゴひとつおくれや。」

 

凪「・・・まいど。」

 

秋蘭「・・・。」

 

凪「・・・。」

 

華侖「あ!こっちは何すか・・・?わ、ぴゅーって吹いたら変な音が出るっす。面白いっすー!」

 

秋蘭「・・・。」

 

凪「・・・。」

 

華侖「よし!これを季衣と香風のお土産にするっす。二人とも、ぜったい喜んでくれるっす・・・!」

 

すると、

 

秋蘭「・・・よし。」

 

凪「・・・っ!」

 

秋蘭「これを二つ、もらおうか。」

 

凪「・・・はっ。」

 

最終的に、秋蘭が二つカゴを買うという事になったのであった。

 

 

 

 

 

突き当たりの門

 

 

 

 

華琳「・・・で?」

 

春蘭「・・・。」

 

秋蘭「・・・。」

 

純「どうしてお前らは、揃いも揃って竹カゴを抱えてんだ。」

 

秋蘭「はぁ。今朝、部屋のカゴの底が抜けているのに気付きまして・・・。」

 

純「・・・なら、しゃーねーな。どうせお前のことだから、気になって仕方がなかったんだろ?」

 

秋蘭「は。直そうとは思っていたのですが、こればかりはどうにも・・・。」

 

純「しかし、なぜ二つ買ったんだ?一つはお前の分だが。」

 

秋蘭「もう一つは純様の分です。」

 

純「俺の?何で?」

 

秋蘭「先日、二人で一緒に純様の部屋でお茶してた時に会話の一部を聞いていたので。『カゴ壊れてしまったし、どうしようかな。』と。」

 

純「覚えてたんだ。わざわざありがとな。」

 

そう言って、秋蘭からカゴを受け取ったのだった。それを見た栄華は、少し頬を膨らませながら見ていたのだった。

華侖「あたしは季衣と香風にお土産を買ってきたっすよ!」

 

華琳「そう、喜んでくれると良いわね。・・・で、春蘭と栄華は?何か山ほど入れているようだけれど・・・。」

 

春蘭「こ、これも・・・、季衣の土産にございます!」

 

栄華「え、ええ・・・。それと、香風さんにも。」

 

華琳「何?服?」

 

春蘭「はっ!左様でございます!」

 

華琳「・・・そう。土産も良いけれど、ほどほどになさいね。」

 

栄華「ええ。そうしますわ。」

 

秋蘭「それで、純様もカゴを2つ持っていますね。何故ですか?」

 

純「これか。以前村を襲っていた賊討伐で、稟と風も手柄を挙げたんだけど、なかなか褒美をあげる物が思い出さなくて、カゴで良いかなと思って、買ったんだよ。」

 

秋蘭「・・・そうですか。喜ぶと思いますよ。特に稟が。」

 

その時秋蘭は、少し拗ねた態度を取った。それに気付いた純は

 

純「今度お前にも何か買ってやるから。なっ。」

 

そう言い、秋蘭の頭を撫でてやった。

 

秋蘭「・・・はい。」

 

そう言って、少し頬を染めた秋蘭だった。

 

栄華「お、お兄様!私にも頭を撫でで下さいまし!」

 

その際、栄華も頬を染めながら純にそう言って詰め寄った。

 

純「お、おお・・・良いぞ。」

 

それに純は、少し気圧されながらも栄華の頭を撫でた。

 

栄華「んあ・・・これ・・・気持ち良いですわぁ・・・お兄様・・・」

 

これには、栄華の顔はウットリとした表情に変わった。

 

純「・・・お前にも何か買ってやるからな。」

 

栄華「んっ・・・はい、約束ですわよ・・・」

 

純の言葉に、栄華は気持ち良さそうな顔で言ってその場を離れたのだった。

 

華琳「それで、視察はちゃんと済ませたのでしょうね。カゴなり土産なりを選ぶのに時間をかけ過ぎたとは言わせないわよ。」

 

華侖「もちろんっす!」

 

この言葉に

 

栄華「お、お任せくださいまし・・・。」

 

さっきまでウットリとした栄華の表情が少し引き攣った。

この様子に

 

純「栄華、声が震えてるぞ。」

 

純はそう聞いたら

 

栄華「いえ、何でもありませんわ。」

 

と返されたのだった。

 

華琳「ならいいわ。帰ったら今回の視察の件、報告書にまとめて提出するように。」

 

そう言って、城に帰ろうとしたその時

 

??「そこのお若いの・・・。」

 

純「ん?」

 

華琳「・・・誰?」

 

謎の声の主にかけられた。

 

??「そこの、お主・・・。」

 

栄華「何ですの?占い師?」

 

春蘭「華琳様は占いなどお信じにならん。慎め!」

 

華琳「・・・二人とも、控えなさい。」

 

春蘭「は?・・・はっ。」

 

そして、占い師は華琳を見つめて、その結果を述べた。

 

占い師「強い相が見えるの・・・。稀にすら見たことの無い、強い強い相じゃ。」

 

華琳「あら、一体何が見えると?言ってごらんなさい。」

 

占い師「力のある相じゃ。兵を従え、知を尊び・・・。お主が持つは、この国の器を満たし、繁らせ栄えさせる事の出来る強い相。この国にとって、稀代の名臣となる相じゃ・・・。」

 

春蘭「ほほう。良く分かっているではないか。」

 

占い師「・・・国にその器があれば・・・じゃがの。」

 

栄華「・・・どういうことですの?」

 

占い師「お主の性、今のひび割れた国の器では収まりきらぬ。」

 

占い師「その野心、器の内に留まるを知らず・・・溢れた野心は、国を侵し、野を侵し・・・いずれ、遙か地の果てまで名を轟かせて、類い稀なる奸雄となるであろう。」

 

と占い師はそう言った。

 

栄華「あなた!それ以上お姉様を侮辱するならば、容赦は致しませんわよ!」

 

それを聞いた栄華は鋭い目つきで怒った。

 

華琳「栄華!」

 

栄華「し、しかしお姉様!」

 

華琳「そう。乱世においては、奸雄となると・・・?」

 

占い師「左様。それから、そこのお主・・・。」

 

純「俺か?」

 

すると、今度は純を見て

 

占い師「お主は、そこの娘以上に危うい。その器は、あらゆる理を全て破壊し、敵味方問わず多くの者の命を奪い、恐れられ、その名は遙か天の果てまで轟かせ、類い稀なる梟雄となるであろう。」

 

そう言った。

 

純「!・・・そうか。」

 

その際、純は少し驚いた表情をし、そう呟いた。その時

 

秋蘭「貴様!純様を愚弄する気か!」

 

栄華「お姉様に飽き足らず、お兄様も侮辱するならば、許しておけませんわよ!」

 

それを聞いた秋蘭と栄華は烈火の如く怒った。

 

純「秋蘭!栄華!」

 

秋蘭「・・・し、しかし純様!」

 

栄華「この方は、お姉様だけでなく、お兄様も侮辱し傷つけたのですよ!」

 

純「いいから下がれ。」

 

そう言って、純は二人を下がらせた。

 

純「そうか。乱世において、姉上は奸雄、俺は梟雄になるのか・・・?」

 

占い師「左様。それも、千年、万年・・・人の世が続く限り、名を残すやもしれぬほどのな。」

 

純「・・・そうか。」

 

華琳「・・・ふふっ。千年、万年と・・・ね。」

 

華琳「気に入ったわ。栄華、この占い師に謝礼を。」

 

栄華「は・・・?」

 

純「聞こえなかったのか?礼だよ。」

 

栄華「ですがお姉様、お兄様。このような胡乱な輩に出すお金など・・・。」

 

華琳「・・・純。この占い師に、幾ばくかの礼を。」

 

純「御意。」

 

そう言って、純は幾らかの金を占い師の脇に置いてある茶碗に入れた。その際、栄華と秋蘭は華琳と純、特に純の事を悪く言われたのが気に入らなかったのか、静かに睨みつけたままだった。

 

純「乱世の梟雄大いに結構だ。それが例え悪名だろうが何だろうが、人の世が続く限り人々の記憶に刻まれるのならばな。」

 

華琳「ええ。私も大いに結構。人の世が続く限り名を残すなら文句は無いわ。」

 

そう言い残し、その場を後にしたのだった。

 

 

 

 

その帰り道

 

 

 

 

華琳「・・・それにしても春蘭。よく我慢したわね、偉かったわ。」

 

春蘭「・・・はぁ。」

 

純(こいつ、あの占い師の言った意味、分かってねーな。)

 

そう思っていると

 

華侖「ねえねえ純兄。あの占い師の人、結局なんて言ってたんすか?らんせの・・・?かんゆー?と、きょーゆー?」

 

華侖が純に占い師が言ってたことを尋ねた。

 

純「乱世の奸雄というのは、奸知に長けた英雄という意味だ。」

 

華侖「かんち・・・。」

 

純(こいつもかよ・・・。)

 

これに

 

栄華「奸知というのは、ずる賢くて、狡猾という意味ですわ。」

 

栄華はまだ怒っているのか、不機嫌そうな声でそう言った。

 

華侖「おー!じゃあ、きょーゆーは?」

 

秋蘭「残忍かつ強く荒々しい人という意味だ。」

 

華侖「おー!そーなんすねー!」

 

純「つまり、姉上は世が乱れれば、ずる賢い手段で上へのし上がるヒドい奴で、俺は、強いだけでなく、残酷なやり方で上へのし上がる悪人という事だよ。」

 

その時

 

春蘭「何だとぉっ!あの占い師、華琳様と純様にそんなひどい事を!華琳様!純様!今すぐに引き返して、あのイカサマ占い師の首を刎ねてやりましょう!」

 

突然春蘭がキレた。

 

純(やっぱコイツ、分かってなかった・・・。)

 

秋蘭「・・・姉者。あの占い師の言葉、分かっていなかったな。」

 

栄華「ああ・・・そういうことですの。」

 

華琳「・・・だから、いいと言っているでしょう、春蘭。落ち着きなさい。」

 

春蘭「これが落ち着いていられますか!くそぉ、あの占い師め!」

 

すると

 

純「春蘭、いいから落ち着け。二度は言わねーぞ。」

 

純が春蘭に少し威圧しながら言った。

 

春蘭「は・・・、はい。」

 

これに、春蘭はやっと落ち着いたのだった。

 

純「・・・。」

 

秋蘭「純様?」

 

栄華「お兄様?」

 

純「ん?どうした、秋蘭?栄華?」

 

秋蘭「いえ、何でもありません。」

 

栄華「私も、何でもありませんわ。」

 

純「そうか・・・。」

 

秋蘭「・・・。」

 

栄華「・・・。」

 

その時、秋蘭と栄華の目には、純の感情が僅かに乱れていただけではなく、深く傷ついた表情をしていたのを一瞬だったが見逃さなかったのだった。

城に戻った後、純は稟と風に例のカゴを渡し、稟はそれを大事そうに持っていたのだった。

一方季衣と香風は、例の盗賊三人組を追っていたが、途中その三人組が例の旅芸人に書物を渡したのだが、これが後に大陸中を騒がす事になるのは、この時誰も知る由は無かったのである。



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17話

17話です。


純の部屋

 

 

 

 

純「・・・。」

 

純は、部屋の窓から月を眺めていた。

 

純「・・・。」

 

その時、純は占い師の言葉を思い出していた。

 

 

 

 

回想

 

 

 

 

占い師(類い稀なる梟雄となるであろう。)

 

 

 

 

回想終了

 

 

 

 

純(梟雄か・・・。歴史に名を残せばそれで良いと言ったが・・・)

 

純(俺は、衛青と霍去病のような偉大なる英雄として名を残せねーのか・・・?)

 

その時

 

秋蘭「純様、秋蘭です。」

 

純「秋蘭?ちょっと待って。」

 

秋蘭の声が聞こえた純は、扉を開けた。

 

純「どうした、秋蘭。って、栄華もいるな。」

 

栄華「お、お兄様・・・。」

 

秋蘭の隣には栄華もいて、モジモジしていた。

 

秋蘭「純様にお願いがあって栄華と共に参りました。」

 

純「そうか。まあ入れ。」

 

そう言い、純は秋蘭と栄華を中に入れた。

 

純「それで、二人は俺に何の用だ?」

 

栄華「いえ、特に急ぎの用はありませんわ。ただ・・・」

 

秋蘭「今日は純様と共に寝ようと思ったのです。」

 

と秋蘭は栄華の代わりに答えた。

 

栄華「秋蘭さん!」

 

純「・・・はっ?えっと、秋蘭、もう一度今なんて言った?」

 

それに純が再度問うと

 

秋蘭「はい、私達と一緒に寝て欲しいと言ったのです。」

 

と秋蘭はそう言った。

 

純「えっ、何で?」

 

秋蘭「最近一緒に寝ることがなかったので。」

 

栄華「・・・駄目ですか?」

 

これには、栄華は上目遣いで見つめた。

 

純「いや、駄目じゃねーけど・・・昔はともかく、お前らもいい年だろう?」

 

すると

 

秋蘭「ふふ、私達の間に年は関係ありませんよ。」

 

栄華「そうですわ、お兄様。私達、よく一緒に寝ていたではありませんの?」

 

クスクスと口元に手を当てて笑いながら秋蘭と栄華は言った。その表情は女性の妖艶さが滲み出ていた。

 

純「・・・しょーがねーな。」

 

そう言った純は、二人の頭を優しく撫でて

 

純「好きにしろ。」

 

と言った。そして

 

秋蘭「・・・はい!」

 

栄華「では、お好きに致しますわ!」

 

そう言った秋蘭と栄華は、純の左右の両腕に抱き付き、一緒に寝床に入った。

 

秋蘭「・・・温かいです。」

 

栄華「・・・お兄様は良い匂いですわ。」

 

純「ったく。・・・お休み、秋蘭、栄華。」

 

秋蘭「お休みなさい、純様。」

 

栄華「お休みなさい、お兄様。」

 

そう言い、二人は仲良く川の字になり、眠りについたのだった。

 

 

 

 

暫くが経ち

 

 

 

 

秋蘭「ふふ・・・。」

 

栄華「お兄様の寝顔、可愛らしいですわ・・・。」

 

夜が更けてきた頃、秋蘭と栄華は目の前で寝ている純の頬を撫でていた。

 

秋蘭「・・・純様、大好きです。」

 

栄華「秋蘭さん、それは私もですわ。お兄様・・・。」

 

二人は純の寝顔を見てそう言い、その想いが溢れてくる。

それぞれの腕で純の腕を抱き、足で純の足を絡め、純の手を取って自らの頬に添えたりした。

 

栄華「スンスン。ああ、お兄様・・・。」

 

栄華に至っては、純の胸に顔を当てて匂いを嗅ぐ程だった。

 

秋蘭「栄華、それでは純様が起きてしまうぞ。」

 

栄華「も、申し訳ありません。けど、お兄様の寝顔と匂いを嗅ぐと、遂・・・」

 

秋蘭「こみ上げる気持ちが、抑えきれないわけか・・・。」

 

栄華「・・・はい。」

 

そして、栄華は純の顔を見て

 

栄華「それに、お兄様は先の視察で占い師に言われて、傷ついた表情を一瞬しましたわ。」

 

秋蘭「ああ、余程衝撃的だったのだろうな。」

 

栄華「はい。お兄様は常に私達だけじゃなく、周りの人達の事を考えているお方です。お兄様は、あのような評価をされる酷いお人にはなりませんわ。」

 

栄華「私は信じております。お兄様は、必ずや衛青と霍去病のような素晴らしき将軍になれると。」

 

秋蘭「栄華・・・。そうだな。純様は、必ずや衛青と霍去病のような名将になれるはずだ。」

 

栄華「だから、もしお兄様が傷ついたなら、私が癒して差し上げ、味方になるつもりですわ。」

 

そう言った。

すると

 

秋蘭「それは私も同じだぞ、栄華。」

 

栄華「秋蘭さん・・・?」

 

秋蘭「私は、初めて会った時から純様しか見ていない。私も、純様の側を離れないつもりだ。私は純様がいなくなったら、もう生きていけない。そうなったら、私は命を絶つつもりだ。純様のいない世界に、生きる価値がないからな。」

 

秋蘭もそう真っ直ぐな目で純を見て言った。

 

栄華「秋蘭さん、それは私も同じですわ。」

 

秋蘭「だから栄華。華琳様もそうだが、純様を公私共に支えていこうではないか。」

 

栄華「はい、秋蘭さん!」

 

そして、お互い純の寝顔を堪能し、頬に口付けをした。そして、両手で純の腕を抱き、匂いに包まれながら眠る幸せを噛みしめながら眠りについたのであった。



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18話

18話です。


謁見の間

 

 

 

春蘭「・・・というわけです。」

 

華琳「そう・・・やはり、黄色い布が。」

 

その日の軍議は、暴徒の鎮圧から帰ってきた春蘭の報告で始まった。

 

純「てことは、秋蘭の方もか?」

 

秋蘭「はい。こちらの暴徒達も同じ布を携えておりました。」

 

純「そっか・・・。そういや、俺が前に鎮圧した奴らも、黄色い布を巻いていたな。」

 

稟「そうでしたね。」

 

風「・・・。」

 

華琳「桂花。そちらはどうだった?」

 

桂花「は。面識のある諸侯に連絡を取ってみましたが・・・どこも我が兗州と同じく、黄色い布を身に付けた暴徒の対応に手を焼いているようです。」

 

華琳「具体的には?」

 

桂花「ここと・・・ここ、それからこちらも。」

 

そう言って、桂花は広げた地図の上に丸石を置いていく。

 

桂花「それと、一団の首魁の名前は張角というらしいのですが・・・正体は全くの不明だそうです。」

 

栄華「正体が分かりませんの?」

 

桂花「捕らえた賊を尋問しても、誰一人として話さなかったとか。」

 

純「稟達も同様か?」

 

稟「はい。私も捕らえた賊を尋問したのですが、桂花と同様でした。」

 

風「風もですね~。」

 

純「そっか・・・。」

 

春蘭「・・・ふむ。剣を振り上げれば逃げ回るクセに、そこだけは口を割らんのか。さして忠義が厚いとも思えんが。」

 

その時

 

純「・・・黄巾党。」

 

純が突然そう呟いた。

 

秋蘭「純様、それは一体・・・。」

 

純「ああ。敵を呼ぶにも名前が必要だと思って、咄嗟に思いついた名前だよ。」

 

華琳「そう。まあ確かに、敵を呼ぶにも名前が必要だわ。黄巾党という名だけはもらっておきましょう。それで皆、他に新しい情報はないの?」

 

秋蘭「はい。これ以上は何も・・・。」

 

春蘭「こちらもありません。」

 

華琳「ならば、まずは情報収集ね。その張角という輩の正体も確かめなければ・・・」

 

その時、一人の兵士が慌てて入ってきた。

 

兵士A「会議中、失礼致します!」

 

純「どうした!」

 

兵士A「はっ!南西の村で、新たな暴徒が発生したと報告がありました!また黄色い布です!」

 

言い終わったとき、皆の顔が引き締まり、真剣な表情になった。

 

華琳「休む暇もないわね。・・・さて、情報源が早速現れたわけだけれど、純、今度は誰を行かせる?」

 

純「そうですね・・・」

 

すると、

 

季衣「はいっ!僕が行きます!」

 

季衣が真っ先に手を上げた。

 

純「季衣か・・・。」

 

しかし、純はすぐに決断しなかった。

 

春蘭「・・・季衣。お前は最近、働き過ぎだぞ。ここしばらく、ろくに休んでおらんだろう。」

 

季衣「そんなの平気です!それに、また知らない村が襲われてるんですよ?せっかく僕、そんな困ってる人達を助けられるようになったのに・・・。」

 

香風「なら、シャンが行く。」

 

華侖「だったらあたしも行くっすー!」

 

純「そうだな。今回の出撃、季衣は外そう。確かに最近の季衣の出撃回数は多すぎる。」

 

季衣「どうしてですか、春蘭様っ!僕、全然疲れてなんかないのに・・・!」

 

純「季衣。お前のその心は貴いものだ。けど、自らの力を過信しては、いずれ足元を掬われるぞ。」

 

季衣「そんなこと・・・ないです。」

 

華琳「季衣。純の命令に従いなさい。」

 

季衣「・・・でも、みんな困ってるのに・・・。」

 

華琳「そうね。けれど、目の前の百の民を救うために貴女が命を投げ打っては、その先救えるはずの何万という民を見殺しにする事にも繋がるの。・・・分かるかしら?」

 

季衣「だったらその百の民は見殺しにするんですか!」

 

すると、季衣の発言に

 

華・純「「するわけないでしょう!/ねーだろーが!」」

 

季衣「・・・っ!」

 

華琳と純が覇気のこもった力強い一声を出した。その一声に季衣だけでなく、その場にいる皆が身を縮ませる程だった。

 

春蘭「季衣。お前が休んでいる時は、私達がその代わりにその百の民を救ってやる。だから、今は休め。」

 

季衣「ううー・・・。」

 

華琳「今日の百人も助けるし、明日の万人も助けてみせるわ。その為に必要と判断すれば、無理でも何でも遠慮なく使ってあげる。それは純も同じ事よ。・・・けれど今はまだ、その時ではないの。」

 

純「それに我が軍がいかに人手不足と言っても、お前一人に全てを背負わせる程ではねーよ。そうだろ?」

 

すると

 

華侖「おいっす!」

 

香風「・・・うん。任せて。」

 

華侖と香風が返事をした。

 

季衣「・・・。」

 

華琳「純。編成を決めなさい。」

 

純「御意。・・・では秋蘭、柳琳。今回の件、お前達が行ってくれ。」

 

香風「えー。」

 

華侖「なんでっすかー!今、あたしと香風が行く気まんまんだったっすよー!?」

 

しかし、華侖と香風は不満を漏らしたのだった。

 

桂花「今回の出動は、戦闘よりも情報収集が大切になってくると華琳様もおっしゃってたでしょ。・・・二人とも、気が付いたら突撃してるじゃない?」

 

そう言って、桂花は純の選定のフォローをした。

それに対し

 

香風「・・・そんなことない。命令なら、ちゃんとする。」

 

華侖「そ、そうっすー!」

 

二人は揃ってそう言ったが、明らかに目が泳いでいた。

 

純「これで決まりだ。秋蘭、柳琳。くれぐれも情報収集は入念にな。」

 

秋蘭「は。ではすぐに兵を集め、出立致します。」

 

季衣「秋蘭様!柳琳様!」

 

柳琳「大丈夫よ。私達が、季衣さんの分までしっかり村の人を守ってくるから。」

 

季衣「はい・・・。よろしくお願いしますっ!」

 

秋蘭「うむ。私達にしかと任せておけ。」

 

そして、秋蘭と柳琳は出立をしたのだった。

 

 

 

それから暫くが経ち

 

 

 

純「姉上、都から軍令が届いたとお聞きしましたが。」

 

華琳「ええ。早急に黄巾の賊徒を平定せよ、とね。」

 

栄華「あの・・・、今頃ですか?」

 

華琳「今頃よ。」

 

それを聞いた純は

 

ドカッ!

 

純「クソッ、遅すぎだぞ!!どれだけ民が苦しんだと思ってんだ!!」

 

柱を殴り、怒りの声を上げた。

 

華琳「怒りを静めなさい、純。いくらあなたでも、朝廷の事は知っているはずよ。」

 

これに、華琳は純をなだめた。

 

純「・・・はっ。申し訳ございません、姉上。」

 

それを聞いた純は、怒りを静めて謝罪した。

 

香風「・・・でも、する事は一緒。」

 

華侖「華琳姉ぇ、純兄、大変っすー!」

 

夜の警備に回っていたはずの華侖が慌ててやって来た。

 

華琳「どうしたの、華侖。」

 

華侖「ええっと、陳留の隣の郡で、また黄色い布の人が出てきたって報告が届いたっす!それも、沢山!」

 

香風「沢山・・・?」

 

華侖「えーっと、今までに無い規模で、街に近付いてるって!」

 

それを聞いた純は

 

純「姉上、俺を先遣隊として秋蘭達の救援に向かわせて下さい!」

 

華琳の前に立ち、拱手して言った。

 

華琳「分かったわ!すぐに行きなさい!」

 

それを聞いた華琳は、即決で許可した。

 

純「御意!稟、風、行くぞ!」

 

稟「はっ!」

 

風「はい~!」

 

そして、純はすぐにその場を後にした。

 

華琳「春蘭と華侖はすぐに本隊の準備を。栄華と桂花は、城下に降りて糧食の調達に向かいなさい。」

 

全員「「「はっ!!」」」

 

華琳の指示により、皆もそれぞれ準備のためその場を後にしたのであった。



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19話

19話です。


先遣隊

 

 

 

純「稟、後どれくらいだ?」

 

稟「後、十里ぐらいだと思います。」

 

純「・・・そうか。」

 

風「純様。焦りは禁物ですよ~。」

 

純「分かっている。戦になる前に疲れさせては、意味がない。」

 

風「はい~。その通りなのですよ~。」

 

稟「先に偵察部隊を送りましょう。」

 

純「うん、それが良いだろう。人選は任せた。」

 

稟「御意。」

 

そう言って、稟は兵を選び、偵察部隊を送った。

 

偵察隊兵士A「郭嘉様。我が軍の側面にて数百名ほどの謎の集団が。」

 

すると、偵察兵の一人がそう言ってきた。

 

稟「その集団が我らに攻撃する様子は?」

 

偵察隊兵士A「いえ。特に攻撃する様子はございません。」

 

稟「・・・純様。如何致しますか?」

 

純「・・・俺の勘だが、多分そいつらは味方だ。」

 

これに

 

稟「勘、ですか?」

 

風「・・・。」

 

稟と風は疑問の表情を浮かべた。

 

純「ふっ・・・。こういった動きをする奴は一人しか知らねーよ。」

 

その時

 

??「純様!お久し振りです!」

 

一人の若武者が、馬に乗って颯爽と駆けつけてきた。

 

純「やっぱりお前だったか、剛!」

 

これに、純は笑顔で答えた。

 

純「久し振りだな!」

 

剛「はい!お久し振りです!」

 

これに

 

稟「純様。この者は?純様とはお知り合いのようですが・・・」

 

風「風も気になりますね~。」

 

稟と風は純にそう尋ねた。

 

純「ああ、悪い。剛、コイツらは俺の軍師だ。」

 

剛「そうか。俺は、姓は朱、名は霊、字は文博だ。純様とは、幼馴染のような関係だ。」

 

これに、剛は馬上ながら拱手して自己紹介した。

 

稟「そうでしたか。私は郭嘉、字を奉孝と申します。」

 

風「風は程昱、字は仲徳ですよ~。」

 

純「剛、何故ここに?母君のご容態は?」

 

剛「・・・母上は・・・つい先日天寿を全うした。」

 

純「・・・そうなのか。済まない。」

 

剛「良いんだ。あなたが気にする事ではない。それまで、気ままな独り暮らしをしていた。」

 

剛「だが・・・あなたの活躍を聞き、俺もいてもたってもいられなくなり、今こうして駆けつけて参ったのです。鍛練を積んだ勇士と、生死を共にせんとする仲間三百人を連れて。」

 

純「そうか。」

 

そう言い、純は剛が連れて来た勇士を見ると

 

純「皆良い面構えじゃねーか。流石俺の友だ。」

 

そう剛に言った。

 

剛「ありがたきお言葉!」

 

その時、偵察部隊が帰ってきた。

 

偵察兵A「報告致します。」

 

稟「村の様子はどうでしたか?」

 

偵察兵A「はっ。村の周りは賊に完全に囲まれています。村の中では、夏侯淵将軍と曹純将軍が戦っている模様です。」

 

稟「分かりました。あなた達は本隊が来るまで休んでて下さい。」

 

そう言って、稟は偵察部隊を下がらせた。

 

稟「純様。」

 

純「ああ。皆の者、よく聞け!我々の仲間が十里先で戦っている。仲間を助け、賊を倒すぞ!」

 

兵士「「「おおーっ!!」」」

 

純「行くぞ!剛も付いてこい!」

 

剛「はっ!お前ら、純様に続け!」

 

純の一言で、黄鬚隊と剛の率いる勇士は駆け出したのだった。

 

 

 

 

 

一方秋蘭達は

 

 

 

 

 

 

柳琳「秋蘭様!西側の防壁、三つめの防柵まで破られました!」

 

秋蘭「・・・ふむ。残りの柵は後二つか・・・それでどのくらい保ちそうだ?李典。」

 

真桜「せやなぁ・・・。応急で作ったもんやし、後一刻保つかどうかって所かなぁ。」

 

秋蘭「・・・微妙な所だな。本隊が間に合えば良いのだが。」

 

柳琳「きっと大丈夫です。お姉様とお兄様は必ず来ます。」

 

凪「しかし、夏侯淵様達がいなければ、ここまで耐えることは出来ませんでした。ありがとうございます。」

 

柳琳「それは私達も同じです。あなた達義勇軍の皆さんがいなければ、相手の数に押されて保たなかったはずですから。」

 

その時

 

沙和「大変なのー!東側の防壁が破られたのー!防壁は、後一つなのー!」

 

沙和が慌てた様子でやって来て、東側の防壁が壊されたことを報告に来たのであった。

 

真桜「・・・あかん。東側の最後の防壁て、材料が足りひんかったらかなり脆いで。すぐ破られてまう!」

 

秋蘭「仕方ない。西側は最低限の人数を残し、残る全員で東の侵入を押しとどめるしかない。」

 

凪「では、先陣は私が切ります。私の火力を集中させれば、相手の出鼻は挫けるはずです!」

 

柳琳「でしたら私の隊が続きます。それで、一度は敵を退けられるはず・・・しばらくは時間を稼げるでしょう。」

 

秋蘭「・・・そうだな。なら柳琳、そちらの指揮は任せる。」

 

柳琳「秋蘭様もお気を付けて。では、楽進さん。」

 

凪「はっ!」

 

秋蘭「皆、ここが正念場だ。力を尽くし、何としてでも生き残るぞ!」

 

沙和「分かったの!」

 

真桜「おう!死んでたまるかいな!」

 

その時、

 

凪「か・・・夏侯淵様!外に砂煙が見えます!」

 

外に砂煙が見えるとの報告を受けたのであった。

 

真桜「なんやて!」

 

沙和「えー・・・。また誰か来たの?」

 

秋蘭「敵か!それとも・・・」

 

すると

 

柳琳「お味方です!青の旗色に曹の旗印!お兄様です!」

 

そう柳琳は報告したのであった。それを聞いた兵士達は、

 

兵士B「おお!曹彰様だ!」

 

兵士C「曹彰様が来たからにはもう大丈夫だ!」

 

気力を取り戻し、士気が上がったのであった。

 

 

 

 

黄鬚隊

 

 

 

 

純「稟、風。ちゃんと付いて来いよ。」

 

稟「はっ!」

 

風「はい~!」

 

純「剛もな。」

 

剛「当然です!」

 

純「良し!突破するぞ!」

 

そう言い、西門に向かった。黄巾党はそちらに目を向けたが

 

純「邪魔すんじゃねー!!どきやがれー!!」

 

剛「純様の前に立つんじゃねー!」

 

純と剛の圧倒的な武勇と黄鬚隊の攻撃力に、周りは死体のみが転がった。

 

 

 

 

 

村中央

 

 

 

 

純「秋蘭!柳琳!」

 

秋蘭「純様!!」

 

柳琳「お兄様!助かりました!」

 

純「お前達、ここまでよく耐えたな。」

 

秋蘭「彼女らのおかげです。」

 

純「この者か?お前達、よくこの村を守ってくれた。俺は曹彰、字は子文と言う。お前達は?」

 

その時

 

凪「自分は楽進、字は文謙と申します。・・・我らは陽平義勇軍。黄巾党の暴乱に抵抗するため、こうして兵を挙げたのですが・・・」

 

その時、ある一人の少女の顔を見た瞬間

 

純「あっ。」

 

真桜「あー!」

 

純と真桜は、お互い指を差し合った。

 

秋蘭「純様、知り合いですか?」

 

純「ああ、前にみんなで城下に視察に行ったときにな。へえ、お前も義勇軍か。」

 

真桜「せやで。ウチは李典、字は曼成。そっか・・・てことは、あの時の姐さんが州牧様で、兄ちゃんはその弟さんか・・・。」

 

沙和「私は于禁、字は文則なのー!お兄さん、とってもカッコいいの!」

 

その時

 

凪「真桜!沙和!曹彰様にに対してその言い方は何だ!」

 

沙和「っ!!凪ちゃん痛い!!」

 

真桜「本気で殴ったなー!!」

 

凪が、真桜と沙和に拳骨を下ろした。

 

純「はは。ああ秋蘭、柳琳。後半刻ほどで、姉上達の本隊もやって来る。それまでに、何としても持ち堪えるぞ。」

 

秋蘭「はっ!!」

 

柳琳「はい!!」

 

純「それと・・・おい!」

 

剛「久し振りだな、秋蘭!柳琳!」

 

剛の登場に

 

秋蘭「剛!?」

 

柳琳「剛さん!?」

 

秋蘭と柳琳は驚きの顔をした。

 

純「ここに到着する前にコイツが来てくれてな。」

 

秋蘭「そうだったんですか・・・」

 

柳琳「剛さん、改めてよろしくお願いします。」

 

剛「おう!」

 

純「さて・・・俺は剛と一緒に西側に行くから、そちらは任せたぞ。」

 

秋蘭「御意!!」

 

柳琳「分かりました!!」

 

純「稟と風はここで補佐をしてくれ。」

 

稟・風「「御意。」」

 

純「じゃ、行ってくる。来い、剛!」

 

剛「はっ!」

 

その時

 

秋蘭「純様!!どうかご無事で・・・。」

 

そう言われたので、純は右手を掲げて行ったのだった。

 

 

 

 

 

西側

 

 

 

純「よし、矢を放て!!」

 

純の命令で、多くの矢が放たれた。それによって、賊が多少怯んだ。

その様子を見た純は、鞘から刀を抜き

 

純「敵に一当てする。突撃だー!!」

 

兵士「「「おおーっ!!」」」

 

純「剛!共に暴れてやろーぜ!」

 

剛「はっ!共に暴れて、俺達の強さを見せつけましょう!」

 

純「ああ!」

 

剛やその他の兵と共に突撃した。その時の純は、最初に突撃したのと同様に

 

純「全部ぶっ殺してやるぜー!!」

 

剛「オラオラー!!皆殺しだぜー!!」

 

黄巾党兵士A「うわーっ!!コイツ、つえーぞ!!」

 

黄巾党兵士B「横にいるもう一人の小僧もメッチャつえーぞ!!」

 

黄巾党兵士C「に、逃げろー!!『黄鬚』には敵わねーっ!!」

 

圧倒的な武勇を見せ、その勢いで敵を斬っていった。その動きは、言動とは逆でまるで流麗な舞の如く刀を振るっていき、剛はそれとは対照的で大剣を豪快に振り回し、敵を斬り殺していった。

その二人の周りには、黄巾党の兵士達の死体だらけとなっていた。

その後、華琳達の本隊が到着し、黄巾党は壊滅的被害を受けて、撤退したのだった。

 

春蘭「純様!秋蘭!季衣!ご無事ですかっ!」

 

純「ああ!大丈夫だ!」

 

秋蘭「危ないところだったがな・・・まあ見ての通りだ。」

 

季衣「秋蘭様ーっ!」

 

華侖「柳琳!柳琳はいるっすかー!」

 

柳琳「姉さん!」

 

妹の様子を見た華侖は

 

華侖「るー!!」

 

柳琳に抱き付いた。

 

柳琳「もぅ、姉さんったら。そんなに心配しなくても大丈夫だから。」

 

華侖「お姉ちゃんなんだから、心配するに決まってるっすー!無事で良かったっすー!うわーん!」

 

香風「・・・純様。」

 

純「香風も助かったぞ。」

 

香風「・・・うん。」

 

華琳「皆、無事で何よりだわ。けれど、損害は大きかったようね。」

 

秋蘭「いえ。防壁こそ破られましたが、純様の救援と彼女らのおかげで最小限の損害で済みました。街の住人も皆無事です。」

 

純「彼女らは陽平義勇軍と申し、黃巾の暴乱に抵抗するために兵を挙げたそうです。」

 

その時

 

春・栄・沙「「「あー!」」」

 

春蘭と栄華、沙和が互いに指を指し、叫んだのであった。

 

華琳「・・・何よ、一体。」

 

純「実は姉上、俺も到着して気付いたのですが、以前に皆で視察に行ったときに会った、絡繰を作ってたカゴ売りの者です。」

 

華琳「・・・思い出したわ。あの時の。」

 

真桜「せやで。」

 

沙和「私は前に服屋でむぐぐ」

 

しかし、沙和が喋ろうとしたときに春蘭と栄華が口を押さえ

 

春蘭(そ、それは内緒にしておいてくれっ!)

 

栄華(そうですわ。私とあなたは初対面。いいですわね。初対面ですわよ・・・?)

 

そう述べたのだった。

 

沙和(むぐむぐ。わかったの・・・。)

 

季衣「どうしたんですか?春蘭様。」

 

春蘭「い、いや、何でもないっ。何でも!」

 

沙和「むぐぐー。内緒にするから、離してなのー!」

 

栄華「そうですわ。何でもありませんわ。おほほほほほほほほ。」

 

沙和(でもこれだけお話してたら、とっくにバレてる気がするの・・・。)

 

季衣「春蘭様・・・なんなんですかね?」

 

秋蘭「さあな。何かあったのだろうが、姉者に合わせておいてやってくれ。」

 

華琳「・・・で、純。傍にいるのって・・・」

 

純「はい。姉上は勿論、皆も知っている者です。剛、前に出ろ。」

 

剛「はっ!ご無沙汰しております曹操様!朱霊でございます!」

 

そう言い、朱霊は拱手して華琳に自己紹介した。

 

華琳「・・・久し振りね、朱霊。」

 

すると、華琳は一瞬眉間にしわを寄せながら剛を見た。

 

純「姉上。剛をまた俺の配下に加えても宜しいでしょうか?」

 

それに純は、華琳にそう言った。

 

華琳「・・・良いわ。朱霊、今後とも純を良く支えるように。」

 

剛「はっ!いつ如何なる時も、純様に付いていく所存でございます!」

 

華琳「・・・頼むわね。さて、あなた達義勇軍がこの村を守っていたのね。」

 

凪「はい。ですが、黄巾の賊がまさかあれだけの規模になるとは思いもせず・・・こうして夏侯淵様と曹彰様に助けていただいている次第。身の程も弁えず、お恥ずかしい限りです。」

 

華琳「けれど、あなた達がいなければ私は大切な将を失う所だった。皆を助けてくれた事、感謝するわ。」

 

そう言って、華琳は凪達に頭を下げた。

 

凪「それはこちらも同じです。こちらが感謝こそすれ、感謝されるようなことは・・・。」

 

その時

 

純「姉上。この者達を、我が軍に加えてみては如何でしょうか?」

 

と純が華琳に言った。

 

華琳「義勇軍が私の指揮下に入るということ?」

 

凪「聞けば、曹操様もこの国の未来を憂いておられるとのこと。一臂の力ではありますが、その大業にぜひとも我々の力もお加え下さいますよう・・・。」

 

華琳「・・・そちらの二人の意見は?」

 

真桜「ウチもええよ。新しい州牧様とその弟さんの話はよう聞いとるし・・・そのお方が大陸を治めてくれるなら、今よりは平和になるっちゅうことやろ?」

 

沙和「凪ちゃんと真桜ちゃんが決めたなら、私もそれでいいのー。」

 

華琳「純から見てどうかしら?」

 

純「俺も一連の動きを見ておりましたが、村のカゴ売りで終わらせて良い人材ではありません。皆、鍛えればひとかどの将になる器かと。」

 

華琳「そう・・・。純が認めたなら問題ないでしょう。名は?」

 

凪「楽進と申します。真名は凪・・・曹操様にこの命、お預け致します。」

 

真桜「李典や。真名の真桜で呼んでくれてええで。以後よろしゅう。」

 

沙和「于禁なのー。真名は沙和っていうの。よろしくおねがいしますなのー♪」

 

華琳「凪、真桜、沙和。以後宜しく頼むわね。それでは三人の件はこれでいいわね。物資の配給の支度が終わったら、この後の方針を決めることにするわよ。各自、持ち場に戻りなさい。」

 

純「かしこまりました。」

 

そして、それぞれ持ち場に戻ったのであった。



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20話

20話です。


本陣

 

 

 

 

華琳「さて。これからどうするかだけど・・・。新しく参入した凪達もいることだし、一度状況をまとめましょう。・・・純。」

 

純「はっ。俺達の敵は黃巾党と呼ばれる暴徒の集団だ。構成員は若者が中心で散発的に暴力活動を行っているが・・・特に主張らしい主張はなく、現状で連中の目的は分かっちゃいねー。」

 

純「また首領の張角も、旅芸人の女らしいという点までは突き止めたが、それ以外は不明だ。どこにいるかも分かんねー。」

 

真桜「・・・ぶっちゃけ何も分かってへんのやな。」

 

栄華「本当に張角が指揮を執っているかも怪しいものですわ。張角が扇動だけして、煽られた者達が好き勝手に暴れている可能性もありますわね。」

 

春蘭「誰も口を割らん以上、本人を捕まえて聞くしかなかろうな。」

 

真桜「それ、口を割らんのやのうて、ホンマに知らんだけとちゃうん?」

 

桂花「その可能性も否定出来ないのが面倒なところね・・・。」

 

稟「はい、そうですね。」

 

風「ぐぅ~。」

 

稟「寝るな!」

 

風「おお!面倒な事だと思いつい・・・。」

 

稟「全く・・・。」

 

凪「目的とは違うかもしれませんが・・・我々の街では、地元の盗賊団と合流して暴れていました。陳留のあたりではいかがでしたか?」

 

華琳「似たようなものよ。ただ、この街の例もあるように、事態はより悪い段階に移りつつある。」

 

春蘭「悪い段階・・・?どういう意味ですか?」

 

桂花「ここの大部隊を見たでしょう?無為に暴れるだけの烏合の衆や、地の盗賊と組むだけじゃない。それなりの指揮官を戴いて、組織としてまとまりつつあるのよ。」

 

春蘭「・・・ふむ?」

 

しかし、イマイチ良く分かってなかったので

 

桂花「要するに・・・今までのように、春蘭が大声で咆えたら終わるような敵じゃなくなるってこと。」

 

と説明した。

 

春蘭「なるほど。」

 

桂花「・・・ホントに分かってるのかしら。」

 

香風「前より強くて、面倒になってる。」

 

春蘭「・・・うむ。それだ。」

 

純(コイツ、ゼッテー香風に乗っかっただけだろ・・・。)

 

華琳「ともかく、一筋縄ではいかなくなった事だけは間違いないわ。ここでこちらにも味方が増えたのは幸いだったけれど・・・これからの案、誰かある?」

 

桂花「相手も組織化しつつあるなら、それこそ張角が首領として据えられてる可能性も高いです。そこを一網打尽にするしかありませんが・・・」

 

秋蘭「本拠地を潰せば一番良いのだが・・・旅芸人という出自故、我々のように特定の拠点を持たず、各地を転々としている可能性も高い。そもそも潰す本拠地がないなら、痛いな。」

 

凪「本拠地が不明で何処から来るか分からない敵ですか・・・。」

 

桂花「だからこそ、都から直々に討伐命令が出たのでしょ。ただ、それを討伐出来れば、華琳様の名がさらに大陸に轟くのは間違いないわ。」

 

稟「はい。私も桂花の意見に同感です。それが出来れば曹操殿だけじゃなく純様の武名が広がります。」

 

その時

 

沙和「・・・すいませーん。軍議中、失礼しますなのー。」

 

柳琳や華侖と一緒に炊き出しを手伝っていた沙和が顔を出した。

 

華琳「どうかした、沙和。また黄巾党が出たの?」

 

沙和「ううん、そうじゃなくってー。」

 

春蘭「何だ。早く言え。」

 

沙和「村の人に配ってた食糧が足りなくなっちゃったの。代わりに行軍用の糧食を配ってもいいですかー?」

 

華琳「・・・栄華、糧食の余裕は?」

 

栄華「数日分はありますけれど・・・義勇軍が加わった分の影響もありますし、ここで使い切ってしまっては身動きが取れなくなってしまいますわ。」

 

桂花「・・・とはいえ、ここで出し渋れば騒ぎになりかねないわよ。」

 

栄華「分かっています。既に補充の手配はしてありますから、それがこちらに着くのが・・・そうですわね。三日分なら、出しても構いませんわ。」

 

沙和「三日分ね。わかりましたなのー。」

 

凪「すみません。我々の持ってきた糧食があれば良かったのですが、先程の戦闘であらかた焼かれてしまいまして・・・」

 

栄華「焼けてしまったものは仕方ありませんわ。悔やめば灰が食べられるようになるわけでもなし、あるもので何とかしましょう。」

 

すると

 

純「・・・糧食か。」

 

華琳「純?」

 

純がそう呟き、華琳を含め皆の視線が純に集中した。

 

純「部隊の規模が大きくなればなるほど、糧食の数は増えていく・・・。」

 

この発言に

 

香風「・・・あー。」

 

秋蘭「・・・なるほど。」

 

香風と秋蘭は成程といった表情を浮かべた。

 

稟「成程。」

 

風「その手がありましたか~。」

 

他の皆も、理解した。

 

季衣「にゃ?」

 

・・・一部を除いて。

 

栄華「ああ、その手がありましたわね。桂花さん。」

 

桂花「分かってるわよ。・・・今どうすれば良いか考えてるんだから、声を掛けないで。」

 

春蘭「どういう意味ですか、純様?」

 

華琳「流石ね、純。」

 

真桜「流石大将やないの。」

 

春蘭「お、おい・・・!華侖がいないと、分かっていないのは私だけのようではないか!」

 

季衣「春蘭様、大丈夫です。僕も分かりません!」

 

華琳「純、皆に説明を。」

 

純「はっ。あいつら黄巾党は、今や大部隊まで発展している。現地調達だけでは武器、食糧を賄いきるのは不可能だ。どこかに、連中の物資の集積地があるはず。そこを叩けば、情報だって集まるし、仮に何も無くても相手に確実に打撃を与えられる。もっと運が良ければ、拠点に張角達がいるかもしれねー。」

 

華琳「ええ。桂花。」

 

桂花「はい。周辺の地図から物資を集積出来そうな場所の候補を絞り、それぞれに偵察部隊を向かわせます。」

 

華琳「任せるわ。物資の集積場所だけでなく、搬入と搬出に使えそうな道や痕跡も見逃さないようにしなさい。いいわね?」

 

桂花「もちろんです!」

 

純「稟と風も頼めるか?」

 

稟「お任せ下さい。」

 

風「お任せなのですよ~。」

 

純「他の者は、桂花達の偵察経路が定まり次第、出発しろ。それまでに準備を済ませておくことだ!良いな!」

 

春蘭「はいっ!」

 

季衣「分かりました!」

 

華琳「相手の動きは極めて流動的だわ。仕留めるには、こちらも情報収集の早さが勝負よ。皆、可能な限り迅速に行動なさい!」

 

そして、それぞれ即座に行動を移したのだった。

 

 

 

 

それから数日後

 

 

 

 

純「既に廃棄された砦か・・・良い場所を見つけたものだな。」

 

華琳「ええ、そうね。」

 

沙和達の地道な調査で敵の拠点を見つけ、山奥に残されていた砦跡に辿り着いた。

 

凪「敵の本隊は近くに現れた官軍を迎撃しに行っているようです。残る兵力は一万がせいぜいかと。」

 

純「ふん。だから砦を捨てて逃げようとしてんだろうな。」

 

春蘭「はい。そうでしょうね。」

 

栄華「正直、ここまで使い捨てられると良い気分ではありませんわ。砦をひとつ建てるのに、一体いくらかかると思っていますの。」

 

純「お前らしい考えだな。」

 

春蘭「その身軽さと神出鬼没が連中の強みなんだから、仕方ないな。」

 

純「ああ。もう少し遅かったら、この砦はもぬけの殻だったな。」

 

純「まあいずれにしても、厄介極まりねー相手に一当てする絶好の機会だ。・・・それで凪、こちらの兵は?」

 

凪「我ら義勇軍と併せて、八千と少々です。向こうはこちらに気付いていませんし、絶好の機会かと。」

 

純「そうだな。姉上、このまま一気呵成に攻め落としましょう。」

 

華琳「ええ、そうね。」

 

すると

 

桂花「純様。それに際して、ひとつご提案が。」

 

純「何?」

 

桂花「戦闘終了後、全ての隊は手持ちの軍旗を全て砦に立ててから帰らせて下さい。」

 

と桂花が提案した。

 

稟「私も桂花の意見に賛成です。軍旗を立てた方が今後のために良いと思います。」

 

華侖「え、置いて帰るんすか?なんで?」

 

桂花「この砦を落としたのが、我々だと示す為よ。」

 

純「なるほど。黄巾の本隊と戦っているという官軍も、狙いはおそらくここだ。ならば、敵を一掃したこの城に俺達曹の旗が翻っていれば・・・」

 

稟「はい、そういうことです。」

 

純「おもしれー策だ。良いだろう、軍旗を持って帰った隊は厳罰に処す。」

 

栄華「まったくもぅ・・・砦もですけれど、軍旗もタダではありませんのよ?」

 

純「おっ、栄華は反対か?」

 

栄華「・・・いいえ。今後のために必要な策だと理解していますから、結構ですわ。そういう意見がある事だけ、お心に留め置いてくださいまし。」

 

そう言って、栄華はため息をつきながら言った。すると

 

真桜「せやったら、誰が一番高いところに旗を立てられるのか、競争やな!」

 

と真桜はそう言った。

 

凪「こら、真桜。不謹慎だぞ。」

 

華侖「面白そうっすー!あたしもやるっす!」

 

春蘭「ふん。新入りどもに負けるものか。季衣、お前も負けるんじゃないぞ!」

 

季衣「はいっ!もちろんですっ!」

 

香風「いちばん高い所・・・。シャンも頑張る。」

 

凪「・・・むぅ。」

 

純「そうだな。一番高いところに旗を立てられた者には、何か褒美を考えておこう。それでどうでしょう、姉上。」

 

華琳「ふふっ。ええ、良いわよ。全て任せるわ。」

 

すると、

 

凪「それでしたら、私も頑張ります!」

 

凪が先程の態度と打って変わって、やる気になった。

 

純(急にどうしたんだ?まあ、やる気になったから良いか。)

 

純「ただしお前ら、作戦の趣旨は違えねー事だ。狙うは敵の守備隊の殲滅と、糧食を残らず焼き尽くすことだ。良いな。」

 

春蘭「はっ!」

 

すると

 

沙和「あの・・・純様?」

 

純「どうした?沙和。」

 

沙和が純に質問をしたのだった。

 

沙和「その食料って・・・さっきの街に持って行っちゃ、ダメなの?」

 

純「ダメだ。糧食は全て焼き尽くせ。俺達の糧食とする事も禁じる。」

 

沙和「どうしてなの・・・?」

 

桂花「我が軍は今まで、どこからも略奪を行わずに戦ってきたのよ。」

 

稟「もし盗賊ごときの糧食をかすめ取るような真似をしてしまえば、今まで築いてきた評価が台無しになってしまいます。」

 

純「街に施しを行って手持ちの糧食が心許ないのは事実だが、かといって目の前の賊に売って貰う訳にもいかない。・・・ならば、焼くしかねーんだ。」

 

沙和「けど・・・!」

 

華琳「・・・それに、奪った糧食を村に持って行けば、今度はその街が黃巾党の復讐の対象になるかもしれない。規模は前回とは比較にならないでしょうね。」

 

これには華琳がそう言ってフォローした。

 

沙和「・・・あ。」

 

栄華「あの街には既に、警護の増援と糧食を手配していますわ。それで復興の準備は整うはず。お姉様はあの村を見捨てるような事はしませんから、安心なさい。」

 

純「そういうことだ。糧食は全て焼け。米一粒たりとも持ち帰ることは許さねー。それが奴らの怒りを全てこちらで引き受け、村を守る手段だと理解するんだ。いいな?」

 

沙和「・・・分かったの。」

 

華琳「なら、これで軍議は解散とするわ。先鋒は純と春蘭が務めなさい。」

 

純「はっ!」

 

春蘭「お任せ下さい!」

 

華琳「ならば、この戦をもって、大陸の全てに曹孟徳の名を響き渡らせるわよ。我が覇道はここより始まる!各員、奮励努力せよ!」

 

全員「「「はっ!!」」」

 

華琳「純、いつも通り各部隊の配置と全軍の指揮、任せたわよ。」

 

純「御意。」

 

華琳「それと、義勇軍の皆は貴方の下に付けるわ。」

 

純「分かりました。」

 

そして、それぞれ各部隊の配置を決めたのであった。



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21話

21話です。


本陣

 

 

 

 

凪「純様。楽進隊、布陣完了致しました。」

 

純「ああ、ご苦労。」

 

真桜「大将。布陣完了したで。」

 

純「ああ、ご苦労。」

 

沙和「純さん。布陣終わったの。」

 

純「ご苦労。」

 

そして、純は腕を組んだ。

暫くして

 

剛「純様。黄鬚隊、布陣完了しました。」

 

純「ああ。」

 

香風「純様ー。夏侯淵隊、準備できたー。」

 

季衣「夏侯惇隊も準備完了ですっ!」

 

純「分かった。」

 

華琳「なら、行くわよ。」

 

そして、華琳は純と春蘭に目配せをした。

 

純・春「「御意!」」

 

純「銅鑼を鳴らせ!鬨の声を上げろ!追い剥ぐことしか知らぬ盗人と、威を借るだけの官軍に、我らの名を知らしめてやれ!」

 

純「総員、奮闘せよ!突撃ぃぃぃぃっ!」

 

純の覇気の籠もった声で、曹操軍は奮い立つ。

 

純「楽進隊は前に出よ!李典隊、于禁隊は後方にて、打ち零れた敵兵を殲滅せよ!」

 

凪「はっ!」

 

真桜「了解や!」

 

沙和「了解なのー!」

 

純「黄鬚隊も前に出ろ!この戦で、俺達の隊の強さを知らしめるのだ!」

 

「「「おおーっ!!」」」

 

純「剛も、思いっきり暴れてこい!そして、お前の強さを知らしめるのだ!」

 

剛「御意!」

 

そう言い、剛は大剣を豪快に振るい、黄巾の賊を斬り殺していった。

 

 

 

 

 

それから暫くが経ち、砦内

 

 

 

 

 

春蘭「おりゃああああああああっ!」

 

季衣「てりゃああああああああああああ!」

 

春蘭「ちっ。やるな、季衣!」

 

季衣「春蘭様こそ!でも、今度こそ負けませんよーっ!」

 

春蘭「それはこちらの台詞だ!あの時の勝負は純様のお声で水入りになったが、今度こそカタを付けてくれる!」

 

春・季「「やああああああああああああっ!」」

 

 

 

 

 

 

純「おりゃあああ!!」

 

剛「でりゃああああ!!」

 

純「剛!何人斬り殺した?」

 

剛「そんなの、覚えてませんよー!」

 

純「はっ!奇遇だな、俺もだ!だが、まだまだ俺は強くなる!」

 

剛「それは俺もですよ!」

 

純・剛「「はああああああっ!!」」

 

そういうやり取りをしながら、純と剛は果敢に敵に突っ込んだ。そして、二人の通った道には死体の道が出来ていた。

 

 

 

 

 

凪「華侖様!はああああああああっ!」

 

華侖「・・・へっ!?」

 

その時凪は、華侖に後ろから襲いかかろうとしている黄巾兵に向かって、気弾を放った。

 

華侖「あ・・・っ。」

 

柳琳「ね、姉さんっ!!」

 

黄巾党A「うわぁあぁぁぁぁぁぁぁあ・・・っ!」

 

そしてそれは、華侖の脇を抜け、黄巾兵を吹き飛ばしたのだった。

 

凪「大丈夫ですか、華侖様!」

 

華侖「ほへー。びっくりしたっす・・・。」

 

すると凪は、城壁の上を見上げて、

 

凪「よし、絶対に私が一番になってみせる!」

 

そう呟いた。その横で、

 

柳琳「もぅ・・・姉さん、危ないからやめてって言ったのに!」

 

華侖「大丈夫っすよー。柳琳は心配性っすねぇ。」

 

柳琳「心配もするよぅ!」

 

華侖と柳琳はそう言ったやり取りをしていた。すると、

 

華侖「それより凪!今の何すか?」

 

華侖「ばーってなって、ずばーってなって、どかーんって・・・、とにかくすごかったっすー!あれ、どうやるんすか?あたしにも出来るっすか?」

 

凪「ええっと、その・・・それは・・・。」

 

妹の心配を余所に、華侖は凪が放った気弾に興味津々だった。

 

 

 

 

 

香風「うーん。」

 

真桜「やっぱ、上手くいかへんなー。」

 

一方香風と真桜は、どうやったら空を飛べるのか、考えていた。

 

 

 

 

 

純「よう、お前ら。」

 

沙和「あ、純さん。お疲れ様なのー。」

 

純「ああ。沙和と栄華は大丈夫だったか?」

 

沙和「ん、平気なのー。」

 

栄華「私も大丈夫ですわ、お兄様。」

 

沙和は少し疲れた顔に見えたが、すぐに笑顔を見せたのであった。

 

純「そっか。」

 

栄華「ところで、剛さんは?」

 

純「あいつなら、今頃屋根の上辺りに行ってるだろう。」

 

栄華「そうですの。」

 

すると、

 

秋蘭「火を放て!糧食を持ち帰ること、まかりならん!持ち帰った者は厳罰に処すぞ!」

 

庭の中央で、秋蘭の指示によって糧食が集められ、火をかけていた。

 

沙和「あーあ。やっぱり、もったいないの。」

 

栄華「まったくですわ・・・。これだけの糧食があれば、我が軍が何日食べ繋げる事か。」

 

純「気持ちは分かる。俺だって焼きたくなかったさ。恐らく姉上も。けど、こうするしかねーよ。」

 

沙和「みゅうう・・・。」

 

栄華「それを理解するのと、もったいないと思うのは別問題ですわ。お兄様も、思うところはあるのでして?」

 

純「まあな。今の俺達だって、ただでさえ糧食が足んねーんだからな。」

 

沙和「もしかして、食料が足りないのって村の人の所に色々置いてきちゃったからなの?沙和がもっと出せませんか、って聞いたから・・・。」

 

栄華「あれは、あの場では必要な行いでしたわ。それにそれを責めるなら、三日分は置いて良いと判断した私の責任でしてよ、沙和さん。」

 

そう、栄華は沙和に優しく声をかけたのであった。

 

栄華「さて、屋根の上の勝負もそろそろ終わりの頃合でしょうし、本陣に戻りましょう。」

 

純「栄華はともかく、沙和は参加しなかったんだ。」

 

沙和「うん。沙和達はもう、城壁の所に全部立てちゃったの。」

 

純「そっか。」

 

栄華「ずっと気になっておりましたが、そういうお兄様は何処に立てましたの?」

 

純「正殿天井のちょっと下辺りだ。投げたらそこに刺さった。」

 

沙和「・・・え?」

 

栄華「そ、そうですの・・・。」

 

そして、最終的に一番高い所に旗を立てたのは、季衣であり、二番は意外なことに凪であり、春蘭は三番、剛は四番であった。

そして、純達が本陣に戻ると、沛から急な知らせが来たのだった。

 

 

 

 

 

 

本陣

 

 

 

 

 

 

華琳「沛の城が襲われたですって?」

 

沛国兵士A「はい。黄色の布を巻いた集団が大軍を率い、我らが沛国の都を・・・」

 

沛国兵士A「包囲が完了するまでの僅かな時間で、自分は陳珪様の命を受け、この地に出陣しておられる曹孟徳殿と曹子文殿に助けを求めるようにと出されたのです。」

 

純「分かった。ひとまず、お前は控えていろ。向こうに飯と寝床を用意させてある。」

 

沛国兵士A「・・・感謝致します。」

 

そう一礼し、不眠不休でここまで来たのかふらつく足取りで、その場を後にした。

 

華琳「しかし・・・大変な事になったわね。」

 

純「はい。しかも、陳登もちょうど沛に戻っているはず。状況としては最悪ですね。」

 

真桜「けどさっきの遣い、陳留やのうて出陣しとるこっちに行くよう言われたて、どないなっとんの?沛の都からここと陳留じゃ、方角が全然違うで?」

 

真桜の疑問に

 

桂花「こちらの動きは把握済みだったんでしょ。あの女狐の事だから、それくらいの情報収集はしてても不思議でもなんでもないわ。」

 

桂花はそう答えた。

 

栄華「もっとも、それを知られるのは向こうにとっても本意ではないはず。・・・それだけ余裕がなかったとも取れますわ。」

 

稟「しかし、罠の可能性もあります。」

 

桂花「そうね。」

 

風「嘘とも言い切れませんが、かといって本当のことだとは言い難いです。」

 

秋蘭「どうなさいますか、純様。沛に向かうのですか?」

 

純「ああ。陳珪には借りも多いし、陳登はこれからの陳留に欠かすことの出来ねー人材だからな。」

 

華琳「ええ。純の言う通りだわ。」

 

桂花「反対です。我が軍は既に連戦に連戦を重ね、疲弊の極みにあります。何より行軍に必要なだけの糧食がありません。」

 

稟「私も桂花の意見に賛成です。一度陳留に戻り、準備をしてから出陣すべきかと。」

 

風「風も同じ意見です~。」

 

栄華「私も、お三方の意見に賛成ですわ。」

 

桂花「陳珪は朝廷との癒着の証拠も多く見つかりましたし、罠の可能性も否定出来ません。ここから無理に兵を動かす事も計算の上で、どこかで待ち伏せている可能性すらあります。」

 

春蘭「・・・まさか、黄巾党と戦っている官軍と結託しているなどとは言わんよな?」

 

稟「流石にそこまではないと思いますが・・・せめて、沛城襲撃の裏付けを取ってからの出陣を提案致します。」

 

華侖「んー。でもそんな事してて、間に合うんすか?」

 

香風「・・・たぶん、無理。」

 

華侖「え、それじゃ意味がないっす・・・。」

 

華琳「意味がないわけではないわ。少なくとも、救出に向かったという事実は出来るもの。・・・間に合うかどうか別としてね。」

 

純「しかし姉上・・・」

 

華琳「分かってるわ。ただ、あなたでも分かると思うけど、私達も万能ではないの。届く手の長さは決まっているし、手で掬える大きさにも限りがある。」

 

そう言って、華琳は少し離れている純に向けて手を伸ばしたが、純の所には届かなかった。

 

純「姉上・・・。」

 

純も手を伸ばしたが、指先さえ触れる事は出来なかった。

その時

 

季衣「なら、華琳様、純様・・・お願いがあります。」

 

季衣が華琳と純に声を掛けた。

 

華琳「何?」

 

純「どうした?」

 

すると

 

季衣「僕を、沛国に行かせて下さい。」

 

そう言った。

 

春蘭「・・・季衣。お前、またか!」

 

季衣「あの砦の一番高い所に旗を立てたら、ご褒美があるんですよね?だったら僕、あの人達を助けに行きたいです。」

 

華琳「・・・。」

 

純「・・・。」

 

季衣「華琳様と純様の手が届かないなら、僕が一緒に伸ばします。」

 

そう言って、季衣は華琳の手を取り、自身も一杯まで手を伸ばし、純に、反対側の手を伸ばしてきた。

 

季衣「華琳様と純様に掬えないものは、僕もお手伝いします。」

 

その時、純は季衣に手を伸ばした。すると、季衣はしっかりと純の手を握りしめたのだった。

 

季衣「ほら。これなら華琳様の手は、純様に届きます。だから・・・」

 

しかし

 

桂花「ダメよ。季衣だって、ここに来るまでどれだけ戦ったと思ってるの。それにいくら黄巾の連中が雑魚ばかりでも、季衣一人が行ったところで・・・」

 

栄華「何より、もう食料がありませんのよ。せめて、こちらに向かっている輸送部隊と合流して、補給を済ませてからでないと。」

 

桂花と栄華が反対したのであった。しかし季衣は

 

季衣「それじゃ間に合わないかもしれないんでしょ!それに、その食べ物はあの街の人達のものなんだから。」

 

そう言ったのだったが、季衣の腹が鳴り

 

栄華「・・・ほら。今の私達は、その空腹を満たすのが精一杯ですのよ。」

 

と栄華が言った。

 

季衣「だ、大丈夫だよ。お腹が空いてるのも、絶対に我慢するから!うぅ・・・お腹なんか減ってない、減ってない・・・。」

 

華琳「・・・純、あなたならどうするかしら?」

 

純「俺ですか?」

 

華琳「ええ。この軍を率いているのはあなたよ。将兵は勿論、私もあなたの命令に従う。あなたの判断に任せるわ。そしてその判断を、私は信じるわ。」

 

その発言に

 

純「そうですね・・・。」

 

純はそう言って、腕を組んで目を閉じた。すると

 

季衣「純様、助けに行きましょう!」

 

桂花「ここは公正な判断を・・・純様!」

 

稟「何とぞ、純様!」

 

風「・・・。」

 

栄華「お兄様!」

 

柳琳「お兄様!」

 

春蘭「純様!」

 

香風「純様。」

 

華侖「純兄!」

 

皆が一斉に純に目を向けた。

 

純「・・・。」

 

そして、純は沈黙の後、目を開き

 

純「沛国の救援に向かう!皆、強行軍となるから、大至急出撃の準備をせよ!ついて来れなかった者は置いていくぞ!」

 

そう言った。

 

全員「「「はっ!!」」」

 

純「栄華!お前は本隊から先行して、沛国に向かう進路上にある郡や県に声を掛け、糧食を貸して貰ってこい!」

 

栄華「承知致しましたわ!」

 

稟「でしたら純様。移動する際、武器鎧は傷めてあるのを装備させて下さい。それの方が、沛国に向かう進路上にある郡や県に声をかけやすくなります。」

 

純「分かった。お前の策を使おう。なら各自、行動を開始しろ!」

 

全員「「「はっ!!」」」

 

そうして、陳珪救出のための準備を始め、出撃したのであった。



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22話

22話です。


豫州・沛

 

 

 

 

 

燈「戦況はどうかしら?」

 

沛国将軍A「良くありませんな。」

 

沛国将軍A「既に北門も破られました。その奥に壁を作って、何とか凌いではいますが、いい加減、布きれの連中も痺れを切らしているようです。」

 

燈「大攻勢が来るのも時間の問題か。ここまで半月、よく保ったほうでしょうね。」

 

沛国将軍A「はい。そこらの賊のように、一当てすればすぐ崩れる烏合の衆かと思いましたが・・・いやはや、敵ながらあっぱれ。なかなかに粘る。」

 

燈「仕方ないわ。報告はもう結構よ、持ち場に戻りなさい。」

 

沛国将軍A「・・・はっ。」

 

そう言い、将軍は部屋を後にした。

 

燈「・・・この状況であっぱれはないでしょうに。」

 

燈「とはいえ、あれの本質が見えない者は、ただの烏合の衆と見誤るか・・・。」

 

喜雨「違うの?暴徒と賊が寄り集まっただけでしょ?」

 

燈「・・・ええ。あれらには、あの黄色い布がある。」

 

喜雨「それが・・・?ただの布だよね?」

 

燈「ええ。私達にとっては、ただの布きれよ。・・・けれど、あの暴徒達にとってはそれこそが自分達の正義の証となる。」

 

喜雨「何それ。意味が分からない。」

 

燈「他に頼れるものもすがれるものもなくなってしまえば、そんなものでも希望に見えてしまうのでしょうね。進んだ道の先には、何もないというのに。」

 

燈「せめてあの布をかざした者が、荒れた土地を開拓する方向や、街を襲う賊に抗う力へと導く者なら良かったでしょうけれど・・・」

 

喜雨「それって、誰かがあの布を使ってあの集団を操ってるって事?それが・・・沛の城を囲んでる連中の正体?」

 

燈「恐らくね。力を合わせて沛を落とせば、お米が腹一杯食べられる。皆で協力して、私腹を肥やす悪の相を追い落とそう。・・・せいぜい、その程度の煽りでしょう。」

 

喜雨「母さんを殺しても、何も解決しないのに?」

 

燈「希望を失った民などそんなものよ。それが張角の望んだことか知る由もないけれど・・・その言葉にすがって走り出した者達は、もう止まることはないでしょうね。」

 

喜雨「でも、沛やこの辺りの郡で生活が苦しい民なんて、もう殆どいないはずだよ。」

 

喜雨「最近は大きな干ばつも起こってないし、税を納めてもご飯はちゃんと食べられてる。暴れてた賊だって、曹操様と曹彰様が退治してくれたはずなのに・・・。」

 

燈「黄巾の隆起は、なにも豫州で起こっているだけではないのよ。」

 

燈「東の徐州か、南の揚州か・・・。徐州の陶謙殿の権威も今はだいぶ弱まっているそうだし、揚州は税も重く、徐州以上に荒れていると聞くわ。」

 

燈「そんな場所で集った暴徒が、豊かな沛の都に押し寄せるのは・・・まあ、当然の流れでしょうね。」

 

喜雨「大陸でも、貧しい所がまだそんなに・・・」

 

燈「あなたが育てたこの豫州や、力を付けた曹操とその弟曹彰が守る兗州が特別なのよ。そんな恵まれた土地は、この大陸からすればほんの一握りに過ぎない。」

 

燈「喜雨も、こんな事に巻き込んで悪かったわね。せめて、連中が城を包囲する前に逃がせれば良かったのだけれど・・・。」

 

喜雨「・・・土を触っていても、嵐が来る事はあるよ。」

 

燈「そうね。・・・けれど、連中が城まで入ってきたら覚悟を決めて頂戴。戦で虜囚となった若い娘は、不幸よ。」

 

喜雨「・・・よく知ってる。村のみんなから、何度も聞いたよ。」

 

燈「そう。なら、この短刀は・・・あなたの分よ。」

 

そう言って、燈は喜雨に短刀を渡した。

 

喜雨「・・・。」

 

喜雨「でも、出来れば・・・まだ死にたくはないな。」

 

燈「そうね。私もよ。」

 

喜雨「曹操様達、助けに来てくれないかな。・・・手遅れになる前には何とかしてくれるって、言ってたのに。」

 

燈「こういう時のために貸しは作っておいたし、それを理解出来ない愚物ではないはずだけれどね。」

 

燈「・・・少し、間が悪過ぎた可能性はあるのよねぇ。」

 

すると、外が騒がしいことに喜雨は気付いた。

 

喜雨「・・・何?」

 

燈「いよいよ、向こうの大攻勢が始まったのかしらね。」

 

その時、

 

沛国兵士B「報告です!」

 

兵士が知らせにやって来た。

 

燈「何?」

 

沛国兵士B「城の北方に新しい軍団を確認!」

 

燈「旗は。」

 

沛国兵士B「はっ!旗は曹!陳留の曹孟徳殿とその弟、曹子文殿です!」

 

喜雨「・・・曹操様と曹彰様?」

 

燈「もうここまで来たというの・・・?まさか・・・」

 

 

 

 

 

沛城城外

 

 

 

 

 

秋蘭「斥候の兵、戻りました。既に沛城は最寄りの北門を始め、主要な門のいくつかが崩壊。黄巾党に城下への侵入を許しているそうです。」

 

秋蘭「ですが、城や門にいまだ陳の旗は健在。陳登殿は不明ですが、陳珪殿はまだ無事と思われます。」

 

華琳「・・・流石我が弟ね。」

 

純「ありがとうございます。」

 

純「まずは城と、陳珪・陳登親子の確保が最優先だ。その後に賊を捕え、暴徒どもの繋がりを曝く。これだけの規模の賊だ、張角に続く手掛かりは必ずあるぞ。」

 

凪「はっ!」

 

純「稟、桂花。」

 

稟「はい。まずは落とされた北門を集中して攻略します。その後、城の確保と各城門の支援に隊を分割します。」

 

桂花「それと門の攻撃は、内外から同時に行い、門を攻める敵を挟撃して殲滅します。」

 

春蘭「まずは、あの一番近い門を攻めている連中を叩き潰せば良いのだな。」

 

稟「はい。そうです。」

 

桂花「好きなだけ暴れなさい。」

 

春蘭「良い策だ!季衣も行けるな?」

 

季衣「もちろんです!ご飯もお腹いっぱい食べましたから、いくらでも戦えますよーっ!」

 

華琳「純。あなたも、好きに思いっ切り暴れなさい。そして奴らに『黄鬚』の力を見せつけなさい。」

 

純「御意!剛も、共に参るぞ!」

 

剛「はっ!!」

 

純「よし。ならば、我が陳留の勇者達よ!沛国を襲う脅威を蹴散らし、この地に平穏を!そして、我が国の農の希望を救出せよ!」

 

秋蘭「総員、進撃を開始せよ!」

 

そして、陳珪・陳登親子の救出戦が始まった。

 

 

 

 

 

城内

 

 

 

 

 

 

春蘭「はあああああああああああああああああああっ!」

 

季衣「でりゃああああああああああああああああああ!」

 

黄巾党A「うわぁぁぁっ!なんだあれは!逃げろ、逃げろぉっ!」

 

黄色巾党B「こら、お前らばかり先に逃げるな!逃げるのは俺が先だぁっ!」

 

春蘭「雑魚は捨て置け!まずは城までの道を切り開くのだ!行くぞ、季衣!」

 

季衣「任せて下さい!どりゃああああああああああああっ!」

 

黄巾党C「うわーっ!」

 

純「おーおー、相変わらずだなぁ、春蘭は。」

 

剛「そうだな・・・。」

 

真桜「なんか、弱い者いじめ感はんぱないな・・・。でも、大将はもっと強いんだよな・・・。」

 

沙和「うん・・・。春蘭様達が味方で、ホントに良かったの。」

 

すると、

 

秋蘭「純様。」

 

秋蘭が香風らを引き連れてやって来た。

 

純「秋蘭か。その様子だと、作戦通りにやってるようだな。」

 

秋蘭「はっ。万事滞りなく。」

 

純「そっか。」

 

香風「純様、華琳様がお城の中に行くと。」

 

沙和「えーっと、北門を抜けたら、沙和達は何するんだっけ?」

 

真桜「残った門の開放やな。内側から街中を掃除して回る組と、門の外側に回り込んで敵軍を後ろから叩く側に別れるんやて。」

 

凪「私達は全員、門の外側から賊の背後を叩く側だ。それでは純様、行って参ります。」

 

純「ああ。三人とも、気を付けてな。」

 

そう言って、三人はその場を後にした。

 

香風「なら、シャン達もいこー。」

 

純「そうだな。あの流れを止めるのはさすがにな。」

 

秋蘭「はい。姉者と季衣の手綱は私が何とかします。純様、どうかご無事で。香風も、頼んだぞ。」

 

純「秋蘭もな。剛も、ここは任せたぞ。」

 

香風「はーい。」

 

剛「お任せを。」

 

 

 

 

 

城内

 

 

 

 

燈「来ていただけたこと、改めて礼を言わせていただきますわ、曹孟徳殿、曹子文殿。・・・正直、間に合わないかと思っていたもの。」

 

華琳「同盟の誼だもの。礼には及ばないわ。」

 

純「既に城には兵を入れて、防備を固めている。城下と城門は今掃除している最中だが、敵の指揮系統は崩壊しているようだし、後は時間の問題だ。」

 

燈「そう・・・。重ね重ね、感謝するわ。」

 

純「陳登も無事だったんだな。」

 

喜雨「うん。何とか助かったよ。・・・ありがとう。」

 

燈「しかし、どうやってここまでこんなに早く来られたの。私の遣いは、賊討伐の遠征先に着いたはずでしょう?」

 

華琳「純の判断で、そこから直接来たのよ。」

 

純「ああ。陳留に戻る時間も惜しかったからな。」

 

燈「そんなに糧食に余裕があったの?」

 

純「いや。手持ちの糧食など、ここに来る道程の半分ももたなかったぞ。」

 

華琳「ええ。そうだったわ。」

 

栄華「ですが、どこの太守や県令も、少し声を掛けただけで今までの恩返しとばかりに快く糧食を貸して下さいましたわ。」

 

純(ま、割増にした代金を後で支払う事を条件にだがな・・・。)

 

栄華「沛国の相殿をよしなに、だそうですわ。」

 

燈「・・・そう。」

 

栄華「脅してやってではなく、涙ながらに訴えただけですわ。こちらも賊退治の連戦で満身創痍ではあるけれど、大切な盟友である沛国の相殿をなんとしてでも助けねばなりません・・・とね。」

 

燈「・・・随分と、大衆受けしそうな手段を取ったものね。」

 

桂花「その方が民の語り草になるでしょう。」

 

稟「はい。こういう時は、危機感や悲壮感を出すくらいの方がちょうどいいので。」

 

燈「・・・。」

 

華琳「そんな事より、あの連中はどこから現れたの?貴女はともかく、陳登の人望があれば沛の農民が城に攻め入る事などないでしょうに。」

 

喜雨「・・・僕にだってそんな人望はないよ。」

 

栄華「ふふっ。そうでもありませんわよ。」

 

栄華「沛に入った後で道なりの村に声を掛けたら、陳登さんをお助け出来るならお代は結構です・・・という農民の方が後を絶ちませんでしたもの。」

 

喜雨「え、じゃあそれって・・・。」

 

栄華「もちろんこちらも、適正な代金をお支払いさせていただきますわ。今は手持ちがありませんから、買い掛かりにさせていただきましたけれど。」

 

喜雨「・・・そっか。なら良かった。」

 

燈「恐らく、喜雨の力が及ばない、徐州や揚州でしょうね。徐州は押さえの陶謙殿の力も衰えていると聞くし、揚州は徐州以上に無法がまかり通っているそうだから。」

 

華琳「成程ね・・・。」

 

燈「それでね・・・曹操。いえ、曹孟徳殿。」

 

燈「ちょうど良い機会だし、お願いがあるの。」

 

華琳「これ以上何を求めるつもり?」

 

燈「ええ。・・・あなたとの同盟を解消させてくださらない?」

 

この宣言に、華琳と純は勿論、桂花や稟、そして陳登も予想外だったのか、驚きの表情を浮かべた。

 

華琳「この時期に、随分と一方的な話ね。・・・それで、破棄した後はどうするつもりなの?」

 

燈「ええ。この豫州を、貴女の下にお預けするわ。」

 

華琳「・・・。」

 

燈「もはやあなたには、この沛国・・・いや、私と同盟を結ぶ旨味はないでしょう?」

 

桂花「だからといって、本当に売国の徒となるつもり!?」

 

燈「ふふっ。今さらでしょうに。」

 

燈「・・・曹洪殿、正直に答えていただきたいわ。先程の件、ここまでの通り道で立ち寄った沛の県令達は、みな本当に喜んで糧食を差し出してくれたのではなくて?」

 

栄華「・・・。」

 

彼女の問いに、栄華は図星だったのか、何も答えなかった。

 

燈「曹子廉殿。遠慮は無用よ。」

 

栄華「・・・県を預かる令ともあろう者達が、私のような遣いの小娘に媚びへつらう・・・とてもおぞましい光景でしたわ。正直、二度と思い出したくありませんわね。」

 

純「とゆー事は・・・」

 

桂花「黄巾の暴徒如きにいいようにされる陳珪に見切りを付けて、華琳様と純様に乗り換えたって事です。」

 

稟「はい。桂花の仰る通りです。」

 

燈「軍師殿は本当に遠慮が無いわね・・・。」

 

燈「でも、残念ながらその通りよ。恐らく、豫州の他の郡でも状況は変わらないでしょう。」

 

華琳「陳珪・・・。」

 

燈「豫州はもはや、貴女のものという事よ。私が何をしようとね。」

 

華琳「・・・そう仕向けたのは、あなたでしょうに。」

 

燈「・・・で、どう?外の戦いももうすぐ終わるでしょう。今の内に決めておいた方が、戦後処理に手間取らなくて済むと思うのだけれど?」

 

華琳「なら・・・一つだけ答えなさい。」

 

燈「何なりと。」

 

華琳「貴女の目的は、何だったの?私を州牧にまで引き上げ、自分の属する州を売り渡すような真似までして・・・貴女は、一体何を見ていたの?」

 

燈「そうね・・・。」

 

すると、陳珪は穏やかな微笑みを浮かべ、

 

燈「有能な後進に道を与えたかった、ではダメかしら?」

 

そう答えた。

 

華琳「おためごかしは嫌いよ。」

 

燈「・・・なら、この地を守るための大樹が欲しかった、とでも言えば満足する?」

 

華琳「育てた大樹に屋敷を潰されていては世話はないわね。」

 

燈「そうね。それでも、大樹の陰や洞を新しい家とすることは出来るわ。」

 

そう言い、何か憑きものが落ちたように感じた純だった。

 

燈「何よりこれからは、国ごとその大樹の恩恵に預かっていられるのだもの。国一つを差し出した対価としては、まずまずだわ。」

 

華琳「貴女には為政者としての誇りはないの?」

 

燈「この土地と民もろとも果てるのが為政者の誇りというなら、そんなものはとうに捨ててしまったわね。」

 

華琳「・・・。」

 

燈「ふふっ。貴女のその顔が見られただけでも、十分な対価な気がしてきたわ。」

 

華琳「・・・その言葉、私の寝首を掻いた時にも口にするつもり?」

 

燈「さあ?そんな時が来ない事を願うだけだわ。」

 

燈「・・・さて、曹孟徳殿。我が真名を預けるに足るお方よ。我が恭順を受け入れるや。あるいは我が首を刎ねた血と屍の上に立ち、此の地の主となるや。」

 

華琳「・・・。」

 

香風「純様ー。外の制圧、終わったって。」

 

純「・・・姉上。」

 

燈「・・・曹孟徳殿。いざ。」

 

陳珪の重ねての問いに、華琳は小さくため息を吐いて

 

華琳「・・・いいでしょう。ならばその真名とこの地、私に預けなさい。」

 

燈「・・・御意。」

 

と返したのだった。

 

 

 

 

 

陳留へ向かう街道

 

 

 

 

 

純「姉上、燈をあのままして良かったでしょうか?」

 

華琳「沛の事後処理もあるし、ひとまずの処置よ。まあ、しばらくはこのままでしょうね。」

 

純「まあ、そりゃそうですか。これは燈自身が片付けなきゃなんねー問題ですし、何より喜雨もいますしね。」

 

華琳「ええ、そうよ。」

 

すると純は、後ろを振り返り、

 

純「お前達、ずーっと黙ってたけど、不満だったろう?まあ、俺は難しい事は分かんねーから殆ど黙ってたけど。」

 

そう言った。すると

 

桂花「はい、不満です。」

 

桂花がそう言った。

 

桂花「でも、燈が怪しいのは前々からずっと言っていたことですし、今さら言っても仕方ないです。」

 

稟「はい。私も桂花の意見に同感です。ですが純様、もう少し勉強してみては如何かと。」

 

純「い、いや、そういうのは得意な奴に任せた方が一番良いんじゃねーのか?」

 

稟「それでもです。信頼してくれるのは嬉しいですが、少しは勉強して下さい・・・。」

 

純「わ、分かったよ・・・。」

 

栄華「それに、お姉様の事ですもの、どうせいつもの・・・」

 

華琳「ええ。罠があるなら食い破る、それだけよ。」

 

純「はは・・・。」

 

春蘭「華琳様の領地が増えるのだ。何にせよ、めでたいことではないか。お前達もうだうだ言っていないで、素直に喜べ。」

 

桂花「戦働きするだけだと色々考えなくて、楽で良いわね。」

 

と、春蘭に対して皮肉を言うと

 

春蘭「ふふん、羨ましいか。」

 

そう返されたのだった。

 

桂花「・・・その厚かましさ、羨ましいを通り越して腹立たしいんだけど。」

 

栄華「いずれにしても、燈さんを信用出来ないのは今までと何一つ変わりませんわ。信用の置ける者を補佐に入れて、監視の目を強くするくらいしかありませんわね。」

 

純「・・・。」

 

華琳「純、どうかしたの?」

 

純「いえ。何かを忘れた気がして・・・」

 

華琳「賊の砦に旗を立てて、一番高い所に立てる事が出来たら褒美を与えるという話ではないかしら?」

 

純「ああ、そうでしたね。・・・季衣。」

 

季衣「はい、純様。」

 

純「何か欲しい物はあるか?お前に欲しい物があれば、答えれる範囲で答えよう。」

 

季衣「え?でもあれ、沛に行く話で・・・」

 

純「あれはお前の意見がなくても向かっていた。季衣の願いを聞いた形にしては、それこそ格好が付かねーよ。」

 

季衣「えええ・・・でも僕、別に欲しい物なんてないんですけど。」

 

純「そっか・・・。何か欲しい物があったら、その時言いなよ。」

 

季衣「はいっ!」

 

純「確か、二番目が凪だったんだよな?」

 

凪「はい。後一歩及ばずでした。」

 

そう言って、凪は悔しそうにしていた。

 

純「剛は四番目と?」

 

剛「はい。春蘭に及ばずだったがな。」

 

剛も悔しそうな表情であったが

 

春蘭「いや、お前もなかなかだったぞ。強くなったな。」

 

春蘭がそう褒めた。

 

純「そっか。では剛、今回の武功として、お前を俺の隊の正式な武将として迎え入れる。」

 

剛「はっ!ありがたき幸せ!!全力でお支えします!」

 

純「ああ。」

 

そして

 

純「二番目の凪には俺が褒美を出してやろう。」

 

純がそう言ったのであった。これに

 

凪「本当ですか!?」

 

凪が食いついてきた。

 

純「ああ、何が望みだ?」

 

すると

 

凪「では私を純様の傍に置いて下さい!!」

 

そう言った。

 

純「何でだ?」

 

凪「私は純様の傍で、色々学びたいのです。あなたについて行けば、私はもっと強くなれる気がするんです!お願いします!!」

 

そう言われて、純は華琳の方を見た。すると

 

華琳「構わないわ。純、彼女の望みを叶えてやりなさい。」

 

そう答えた。

 

純「分かった。では、俺の傍で仕えろ。真桜と沙和はどうする?」

 

真桜「ウチも凪について行くでー。」

 

沙和「沙和もなのー!」

 

他の二人もそう言ったので、

 

純「分かった。宜しくな。」

 

そう言った。

 

華琳「あなた達、知っての通り純は『黄鬚』と呼ばれし我が軍随一の武人でもあり、私が最も信頼の置ける者よ。ついて行くのは大変だろうけど、頑張りなさい。必ず、大きく成長出来るはずよ。そして、純に仕えてる朱霊、郭嘉、風とも、互いに成長し合うのよ。」

 

そう華琳が伝えると

 

凪「はっ!!」

 

真桜「はいよー!!」

 

沙和「はいなのー!!」

 

凪ら三羽烏はそう答えたのだった。

その際

 

凪「あ、あの・・・!?純様っ!?」

 

純「んー?どうしたー?しかし、お前の髪、結んでるけどサラサラしてて触り心地も良いな・・・。」

 

凪の頭を優しく撫でたのだった。それを見た秋蘭、栄華、そして稟がこれから髪をしっかり手入れしようと決意したのは内緒である。

 

 

 

 

 

 

 

 

燈「・・・ふふっ。」

 

その頃、燈は一本の短刀を見つめていた。

 

喜雨「母さん・・・?」

 

燈「・・・ああ、喜雨。まだ起きていたのね。」

 

喜雨「少し眠れなくて。・・・どうかした?」

 

燈「ええ、ちょうど良かったわ。これを・・・預かっておいて欲しいの。」

 

そう言って、喜雨に短刀を渡した。

 

喜雨「これって・・・母さんの分の短刀?まさか、母さん・・・」

 

燈「大丈夫よ。ここで自ら命を絶つほど、私は繊細な世界に生きていないわ。」

 

喜雨「・・・そう。」

 

燈「明日から陳留でしょう。早く眠ってしまいなさい。」

 

喜雨「うん・・・そうするよ。・・・母さんも、早く寝てね。」

 

燈「ええ・・・。」

 

そう言って、喜雨は部屋を後にしたのだった。

 

燈「・・・あれが、英雄というのでしょうね。」

 

燈「・・・されど英雄は、ただの一人で成るものではなし。」

 

燈「諸子百家然り、秦王政然り、項羽と劉邦然り・・・。」

 

燈「曹孟徳。この先も英雄たらんとするならば、この先貴女を育て、導き、競い合うのは、果たして・・・一体、誰なのかしらね。」

 

燈「・・・その行く末、見届けさせて貰うわ。我が大樹。」

 

そう、一人部屋の中で呟いたのであった。



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23話

23話です。


青州中央部

 

 

 

ここに二つの軍がいた。一つは官軍、もう一つは『劉』という旗をメインとした軍だった。官軍を率いている将は皇甫嵩。彼女は、かつて純と共に戦い、賊を討ち倒した者で、この黄巾党の討伐でも官軍の将として動いている。

もう一つの軍は、義勇軍と幽州の軍の連合軍のようなもので、それを率いている将は劉備と公孫賛である。劉備は、桃園で姉妹の契りを交わした関羽と張飛、そして、軍師の諸葛亮と鳳統を連れており、公孫賛は自慢の騎馬隊を率いている。

 

皇甫嵩「劉備さん達の話で、状況は把握していたつもりだったんだけど、まさかこれほどとは。」

 

そう、皇甫嵩は現在の青州の状況を思い出し厳しい目で見て言った。

それは、放棄されたままの県令の城に、賊に荒らされた田畑。進めば進むほど、その荒れようはまさに想像を越えていた。

 

関羽「地獄というのが本当にあるのなら、ここはその入口やもしれませぬな。」

 

皇甫嵩「ええ・・・そうね。」

 

関羽「そういえば、青州の牧は今なお決まっていないと聞きますが・・・この惨状を見たら、牧を引き受けようという物好きはいませんな。」

 

張飛「そうなのか?桃香お姉ちゃんだったら、やるって言いそうな気もするけど。」

 

皇甫嵩「今の立場から一足飛びに牧というのは難しいわ。」

 

そう言い、皇甫嵩は色んな意味を込めて『難しい』と重みを感じさせるような声で言った。

 

皇甫嵩「次の州牧が決まるのは恐らく、この黄巾の騒ぎが落ち着いた後になるでしょうね。」

 

関羽「・・・。」

 

この言葉に、関羽の眉にしわが寄った。

その時

 

張飛「うぅ・・・何だか鈴々、お腹が空いてきたのだ。」

 

張飛が突然そんな事を言い出した。

これには

 

関羽「鈴々、さっき昼を済ませたばかりではないか。夕飯まで我慢しろ。」

 

関羽は呆れた表情でそう言った。

 

張飛「ええええええ・・・」

 

このやり取りに

 

皇甫嵩「・・・ふふっ。それにしても、賑やかねぇ。」

 

皇甫嵩は微笑ましく見ていた。

 

関羽「不調法な者ばかりで申し訳ありません。」

 

皇甫嵩「良いのよ。この位の方が、私としては気楽で良いわ。」

 

関羽「・・・はっ。」

 

その時

 

糜芳「愛紗ちゃん!皇甫嵩さん!桃香ちゃん達が、黄巾党の大部隊を見つけたって!」

 

糜芳から、黄巾党の大部隊発見の報告が来て

 

関羽「分かった。すぐ戻る。」

 

本陣に向かったのだった。

 

 

 

 

 

本陣

 

 

 

 

 

公孫賛「・・・成程。これは確かに。」

 

皇甫嵩「こちらの偵察でも、この大部隊が、青州で暴れ回っている黄巾党の大部隊だろうという報告だったわ。」

 

劉備「なら・・・この大部隊を倒したら、この青州は平和になるって事ですか?」

 

皇甫嵩「そこまで単純ではないだろうけれど・・・この部隊を倒せば、張角率いる黄巾党本隊の力を大きく削ぐ事になるのは確かね。」

 

劉備「皇甫嵩さん。作戦なんですけど・・・本当にこれなんですか?」

 

皇甫嵩「・・・ええ。天子様の軍隊に、これ以外はあり得ないわ。」

 

公孫賛「・・・。」

 

劉備「・・・。」

 

愛紗「・・・。」

 

諸葛亮「・・・。」

 

鳳統「・・・。」

 

静かに断言する皇甫嵩の言葉に、皆黙ったままだった。

 

関羽「・・・まさか、正面からのぶつかり合いとは。」

 

その策は、作戦も何も無い、正面からの突撃だった。

 

関羽「これは・・・分が悪いかと。」

 

劉備「はい。何か作戦が無いと、私達の被害も・・・」

 

皇甫嵩「分かってはいるけどね・・・。今の朝廷の軍に、小細工は許されないのよ。何とか、聞き入れて貰えない?」

 

公孫賛「・・・むぅ。」

 

劉備「朱里ちゃん、雛里ちゃん。何か策はある?」

 

諸葛亮「・・・この辺りの地図はありますか?」

 

諸葛亮の発言に

 

皇甫嵩「ええ、これで良い?偵察からの報告によると、敵の現状の位置は、こんな感じよ。」

 

皇甫嵩は地図を広げ、敵の位置と向きを示す駒を置いた。

それを見た諸葛亮は

 

諸葛亮「・・・分かりました。説明させていただいて宜しいですか?」

 

そう皆に言った。

 

諸葛亮「・・・一通りですが。」

 

諸葛亮「まず・・・お味方の配置は、こうします。」

 

そう言い、味方の駒を配置し始めた。

 

関羽「しかし、この配置は・・・?」

 

これに、関羽が疑問の声を上げた。その理由は

 

諸葛亮「はい。敵陣には・・・正々堂々、真正面からぶつかります。」

 

といったものだったからであった。



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24話

24話です。


張飛「愛紗!黄巾党の連中がいたのだ!」

 

関羽「よし、予定通り、正面からぶつかるぞ!総員、攻撃開始!」

 

 

 

 

 

 

官軍・幽州連合軍本陣

 

 

 

 

 

 

鳳統「始まりましたね・・・」

 

高台に築いた本陣からは、敵と味方の様子が良く見える。関羽率いる第一陣は、作戦通り正面からぶつかった。

 

公孫賛「黄巾の勢いは凄まじいな。こちらの規模に自棄になっているのか・・・それとも、士気を上げる何かがあったか。」

 

諸葛亮「・・・恐らく、向こうも後がないと悟ったのでしょう。敵陣の中に、忠義を尽くすべき何かがある証拠です。」

 

諸葛亮と公孫賛の冷静な分析を尻目に、最初の突撃を受け止められた官軍と幽州の連合軍は、砂煙を上げてゆっくりと撤退を初めていった。

 

 

 

 

 

 

 

黄巾党兵士A「おっ。連中、一当てしただけで逃げ腰だぜ!」

 

黄巾党兵士B「進め進め!このまま一気に連中を追い返してやれ!」

 

黄巾党兵士C「官軍をやっつけろーっ!!」

 

黄巾党兵士D「我らは全て、張角様の為に!!」

 

黄巾党兵士E「このまま突っ込めーっ!!」

 

黄巾党兵士「「「ほわああああああっ!!」」」

 

この勢いに

 

張飛「・・・連中、思った以上に勢いがあるのだ。」

 

関羽「勢いに飲まれておるのだろう。それが朱里の掌の上とも知らずに、退き際を見誤るという事だ。」

 

関羽はそう冷静に言った。

 

張飛「なら愛紗!」

 

関羽「うむ。殿は任せろ!」

 

張飛「応なのだ!皆ー、鈴々に続くのだー!!」

 

関羽「我らは出来るだけ派手に砂埃を立てて走るぞ!決して慌てるな!連中を引き離さない程度に加減して構わぬぞ!」

 

 

 

 

 

そして、黄巾党の連中が追っていった場所は

 

黄巾党指揮官A「・・・何だ、ここは?」

 

隘路と言っても過言ではない険しい道だった。

 

黄巾党指揮官B「逃げた連中を追い掛けてきたとは聞いたが・・・そろそろ報告が来るはずだが・・・」

 

すると、報告の兵がやって来たが

 

黄巾党兵士F「報告です!」

 

黄巾党指揮官B「どうした!」

 

黄巾党兵士F「前方を逃げていたはずの官軍が・・・消えました!」

 

この報告に

 

黄巾党指揮官B「何だと!?」

 

黄巾党の指揮官は驚きを隠せなかった。

 

黄巾党将A「おい。それよりここ・・・また更に随分と狭くなってるぞ。」

 

これを聞き

 

黄巾党指揮官B「しまった!一度進軍を止めろ!これは罠だ!」

 

察した指揮官は止めるよう言ったが

 

黄巾党指揮官A「止まれと言われても今の状況じゃ止まれねーぞ!」

 

止まれなかった。

 

黄巾党兵士G「報告です!我々の後方に官軍の大軍団が・・・!!」

 

黄巾党指揮官A「何!?」

 

これにより、立ち位置はすっかり逆転したのだった。

 

 

 

 

 

 

官軍・幽州連合軍本陣

 

 

 

 

 

 

皇甫嵩「砂煙で誤魔化しながら少しずつ部隊を離脱させ、大きく周囲を取り囲んで、賊の後方に再集結する。」

 

皇甫嵩「砂煙の中を少しずつ減っていくから気付きにくく、追っている側は優勢という勢いに押されて、余計に前しか見えなくなってくる。」

 

皇甫嵩「変だと、罠だと気付いたときにはもう止まれなくなり、今に至るというわけね。」

 

公孫賛「とはいえ、こんなに鮮やかに決まる物なのか。」

 

諸葛亮「砂埃も良く立ってくれましたし、皆さんの部隊程の練度があれば、このくらいの動きは十分出来ますから。」

 

皇甫嵩「私達の練度もしっかり見ていたのね。」

 

鳳統「はい。行軍中に何度か。」

 

これには

 

公孫賛「・・・それでこれか、恐れ入ったな。」

 

公孫賛はそう言った。

 

諸葛亮「追い込んだあの山道は、先月の大雨で崩れたままになっていますから。このまま奥に逃げても、身動きが取れなくなるだけです。」

 

公孫賛「成程な・・・」

 

諸葛亮「では、敵目掛けて、一斉に矢を放って下さい!相手の動きが鈍ったら、一斉に攻撃をお願いします!」

 

公孫賛「なら、私達も攻撃隊に合流するぞ。皇甫嵩殿と桃香は本陣の守備と遊撃を頼む。」

 

劉備「うん!」

 

皇甫嵩「分かったわ!」

 

公孫賛「総員、攻撃開始!」

 

そして、一気に大攻勢が始まったのだった。

これで上手く敵を殲滅できれば良いのだが

 

黄巾党指揮官A「こうなったら、仕方ねー。このまま奴らに突撃し、一矢報いてやる!!行くぞ、掛かれーっ!!」

 

黄巾党「「「おおおーっ!!!」」」

 

向こうが一気に突撃を仕掛けたのだった。

 

黄巾党指揮官A「進めー、ここが死に場所ぞ!我ら一人残らず、奴らに一矢報いるのだー!!」

 

黄巾党「「「おおおーっ!!!」」」

 

糜竺「凄い頑張ってるー!」

 

公孫賛「いつもいつも、一体何があいつらをそんなにさせてるんだ?」

 

 

 

 

 

官軍・幽州連合軍本陣

 

 

 

 

 

伝令兵「敵の予想外の攻撃に我が軍は混乱しております!!このままだと、関羽様達が!!」

 

この報告に

 

諸葛亮「はわわっ!?これは一体・・・!?」

 

鳳統「あわわ・・・!?」

 

諸葛亮と鳳統は慌ててしまい

 

劉備「どど、どうしよう!!」

 

劉備も慌ててしまった。

すると

 

皇甫嵩「二人とも、落ち着きなさい!軍師であるあなたが取り乱したらどうするの!!劉備さんも、軍の大将であるあなたがそのような姿を見せたら兵に伝播するわよ!!」

 

皇甫嵩が三人に一喝した。

これに

 

劉備「・・・すみません。」

 

諸葛亮「・・・はい。申し訳ございません。」

 

鳳統「・・・すみません。」

 

二人は冷静さを取り戻し、謝罪した。

 

皇甫嵩「前の敵を叩くしかないわ!関羽さん達を救い出すわよ!」

 

 

 

 

 

黄巾党兵士H「うおおおっ!!」

 

関羽「はあああっ!!」

 

黄巾党兵士H「ぐはぁっ!」

 

張飛「うりゃりゃりゃりゃあああっ!!」

 

黄巾党兵士I「ぐぅふ・・・っ!」

 

黄巾党兵士J「がはっ!」

 

黄巾党「「「うおおおっ!!」」」

 

関羽「っ・・・次から次へとっ!」

 

張飛「愛紗!」

 

関羽「鈴々、無事か!」

 

張飛「大丈夫なのだ!けど・・・これ以上は・・・!」

 

関羽「クッ、何て数なのだ!このままでは・・・!」

 

その時

 

??「「「ワーッ!!!」」」

 

関羽「なっ・・・!」

 

後方から鬨の声が聞こえた。

 

張飛「愛紗!後ろから聞こえるのだ!」

 

関羽「っ!だが・・・あの旗は・・・!!」

 

その声の正体は

 

純「黄巾共、この『黄鬚』が相手だ!!死にたい奴だけ掛かって来やがれ!!」

 

剛「純様に続けーっ!!」

 

黄鬚隊兵士「「「おおーっ!!」」」

 

純が率いる一万の兵の声だった。

 

黄巾党兵士K「て、敵の新手か・・・!」

 

黄巾党兵士L「苑州の曹軍だっ!」

 

黄巾党兵士M「あ・・・あの男・・・!こ・・・『黄鬚』だ!『黄鬚』が来たぞーっ!!」

 

秋蘭「放て・・・!」

 

黄巾党兵士N「がっ!!!」

 

黄巾党O「ぐはっ!!!」

 

張飛「愛紗!味方なのだ!」

 

関羽「ああ!まさかあれは・・・噂の・・・」

 

公孫賛「『黄鬚』曹彰だ・・・苑州州牧曹操の弟の・・・」

 

関羽「やはり・・・!」

 

すると

 

黄巾党「「「うおおおおっ!!!」」」

 

黄巾党の何十人かが純に襲いかかったが

 

純「うおりゃぁあああっ!!」

 

黄巾党「「「ぎゃああああっ!!!」」」

 

一太刀で全滅したのだった。

 

関羽「ッッ・・・!!」

 

張飛「す・・・凄いのだ・・・!」

 

公孫賛「い、今・・・曹彰は一太刀で何人斬ったんだ?」

 

関羽「分からぬ・・・」

 

これには、関羽と張飛、そして公孫賛は唖然としてしまった。

 

 

 

 

 

官軍・幽州連合軍本陣

 

 

 

 

 

劉備「・・・ねえ朱里ちゃん。あの旗って・・・」

 

諸葛亮「苑州州牧曹孟徳殿が弟、曹子文殿の旗です。」

 

皇甫嵩「曹彰さん・・・!」

 

劉備「そう・・・」

 

諸葛亮「曹彰さんの軍は、ただ一度の突撃でしたが・・・敵の一番薄い所を確実に叩き、そのまま突き崩しています。兵の精強も練度も、我々とは比べものになりません。」

 

糜芳「何か・・・ちょっと怖い。」

 

すると

 

官軍兵士A「申し上げます。曹彰軍の軍師が挨拶に。」

 

稟「お初にお目に掛かります。私は主曹彰様の軍師、郭奉孝でございます。此度青州における賊平定のため我が主が姉である苑州州牧曹孟徳の代わりに参りました。」

 

稟が皇甫嵩達に挨拶した。

 

皇甫嵩「郭奉孝殿、援軍ご苦労だった。感謝の念絶えないわ。この事、曹子文殿にお伝え下さい。」

 

稟「かしこまりました。我が主もきっとお喜びになるかと。」

 

と稟はそう返した。

 

諸葛亮「・・・。」

 

その稟と、眼下の戦場で暴れ回っている純達黄鬚隊を諸葛亮は警戒の目で見ていたのだった。

 

 

 

 

 

 

黄巾党指揮官A「な、何だよこれ・・・?」

 

黄巾党指揮官B「どうなってんだよ・・・?」

 

戦場では、黄巾党の指揮官が自軍の突撃が別の軍に破れたことに呆然とした。

 

純「テメーらがこの軍の指揮官か!」

 

そんな中、純が獰猛な雰囲気を身に纏った状態で目の前に現れた。

 

黄巾党指揮官A「ひっ!」

 

これに、黄巾党の指揮官は情けない声を出し、戦意を喪失したのか

 

黄巾党指揮官A「た、頼む!これまでの事は謝るから許してくれ!この通りだ!」

 

黄巾党指揮官B「この通りだ!」

 

武器を投げ出して純に命乞いをした。

しかし

 

純「・・・そうやって、子供を庇い守ろうとする者達を、テメーらはどうやったんだ?」

 

純は唯々、その者達に無慈悲な眼と言葉を向け

 

ズバッ!ザシュ!

 

その指揮官を斬り捨てた。

 

純「黄巾党の指揮官を討ち取った!」

 

それを聞いた黄巾党らは動揺し

 

剛「よっしゃああっ!!純様に続けー!!」

 

秋蘭「放て!」

 

戦は大勝に終わったのだった。

 

純「・・・こんなもんか。」

 

関羽「すみません!」

 

純「ん・・・?官軍の将か。」

 

関羽「我が名は関雲長。都と幽州の合同軍で、指揮の一端を預かっている者です。あなたが曹彰殿でお間違いないでしょうか?」

 

純「ああ。俺は曹子文。苑州州牧、曹孟徳の弟だ。黄巾の賊共を討伐するために、泰山を越えてここまで来た。」

 

純「コイツらが青州で暴れ回っていた黄巾か?」

 

関羽「はい。何とかここまで追い詰めたのですが、最後のひとあがきを受けられてしまいまして・・・助太刀、感謝する。」

 

純「気にすんな。これも主命だからな。さあ、皇甫嵩殿も首を長くして待ってるだろう!」

 

そう言い、純達は皇甫嵩達がいる本陣に向かったのだった。

 

 

 

 

 

官軍・幽州連合軍本陣

 

 

 

 

 

皇甫嵩「また強くなったようね、曹彰さん・・・」

 

その様子を見ていた皇甫嵩は、目を細めて見ていた。

 

劉備「・・・。」

 

しかし、劉備の方は、純達の容赦のない攻撃に憤りの目で見ていたのだった。

 

 

 

 

 

 

皇甫嵩「劉備さん、曹彰殿。あなた方の活躍、何進大将軍にしっかりとお伝えするわね。」

 

純「分かりました。」

 

劉備「・・・はい。」

 

純「では皇甫嵩殿。またどこかでお会いしましょう。」

 

そう言い、純は拱手した。

 

皇甫嵩「はい、曹彰さん!また!」

 

これに、皇甫嵩は柔らかい笑みでそう答えたのだった。

 

純「行くぞ、秋蘭。稟。」

 

秋・稟「「はっ!」」

 

そして、純は秋蘭と稟と一緒に天幕を出た。

 

関羽(『黄鬚』曹彰殿・・・。また共に戦いたいものだ。その前に、私も強くならねばな・・・!)

 

張飛(うぅ・・・鈴々も絶対に負けないのだ・・・!)

 

その姿を見て、関羽と張飛は一層鍛練を積もうと誓い

 

皇甫嵩(曹彰さん・・・またどこかで。今度は戦場ではなく、どこか穏やかな場所で・・・。)

 

皇甫嵩は潤んだ目で純を見たのだった。

 

諸葛亮「・・・。」

 

一方の諸葛亮は、目を閉じ

 

諸葛亮(あれは・・・まさに『黄鬚』に相応しい強さだった・・・。他の追随を許さない圧倒的な武勇と将兵を自らの手足の如く巧みに動かす統率力・・・まさに戦の天才。曹彰さんがいる限り、私達・・・桃香様の理想は叶わない・・・)

 

諸葛亮(必ず・・・曹彰さんを亡き者にし、曹操さんの力を削いで・・・桃香様の理想を叶えなければ・・・)

 

そう考えていた。

 

劉備(私は・・・あの人を決して認めない・・・!あんなの・・・絶対に間違ってる・・・!)

 

劉備は、純達の戦いぶりに関して先程鳳統と一緒に純のいる天幕へ向かい問い詰めたのだが

 

稟『奴らは人を殺め、物を略奪し、そのまま暴徒と化しました。中にはやむなく参加した者もいるかもしれません。しかし、それでも他の奴らと何ら変わりはないです。かような者に、慈悲は必要ありません。この戦は青州にて跋扈している黄巾党の討伐で我らはその援軍要請に応えた者です。その目的を違えた事を我らが主は行いましたか?』

 

純の傍にいた稟が、そう冷静に論破され何も言えなかったのだった。それを思い出し、嫌悪な目で純の後ろ姿を見ていたのだった。

 

鳳統(桃香様・・・)

 

その様子を、鳳統は何とも言えない気持ちで見ていた。

 

 

 

 

 

純「稟、風・・・後の始末は済んだか?」

 

稟「はい。黄巾の将も主だった者は殆どが討ち取られ、敗残兵は散り散りに逃亡致しました。」

 

風「しかし、張角ら三姉妹は見つかりませんでした~。」

 

純「そうか・・・。そう上手くいかねーか。」

 

純「しかし・・・やはり戦は良い・・・!戦場の匂いを嗅ぐと、力が漲る!俺が俺らしくいられる・・・!」

 

そう、純は生き生きとした表情だった。

 

秋蘭「純様・・・」

 

剛「相変わらずですね・・・」

 

稟「あまり戦の虜になってはいけませんよ。」

 

純「・・・分かってるよ。しかし劉備め・・・いきなり幕に来て突然俺達の戦のやり方を非難しやがって・・・。」

 

風「向こうにも向こうの理想・・・考えがあるのでしょうね~。」

 

純「それは分かる。しかしな・・・いくら頭の悪い俺でも分かる。一滴の血も流れずに全ての敵を倒すなんてのはありえねーんだぜ。」

 

稟「劉備は、理想に目を向けすぎているのでしょう。しかし、今後大きな敵になると思います。」

 

純「その理由は?」

 

稟「第一に、劉備の理想は純様の姉曹操殿とは合いません。必ず異を唱えます。」

 

純「そうだな。先の戦でも非難してたからな。」

 

稟「また、理想というのは一種の美酒と同様です、人を酔わせる事が出来ます。本人も、その理想に酔っておられます。しかし、その理想につられ多くの者が彼女に集まりましょう。此度一緒におられた諸葛亮、鳳統もその例です。」

 

純「そういえば俺、諸葛亮の方から強い視線を感じてたな・・・。」

 

稟「恐らく、諸葛亮は純様並びに曹操殿を第一の敵と見なしたのでしょう。決して油断は出来ません。」

 

風「純様。稟ちゃんの知謀と先見の鋭さは風を凌ぎますよ~。」

 

純「成程・・・関羽と張飛も、中々の強さだったしな。警戒しねーとな。」

 

稟「はい。」

 

純「さて・・・秋蘭も剛も良くやったな!」

 

秋蘭「光栄の至り。」

 

剛「はっ!!ありがたきお言葉!!」

 

純「今後ともよろしく頼むぞ。」

 

秋蘭「はっ!!」

 

剛「お任せ下さい!!」

 

そして、純達は陳留に帰還し、華琳に報告した。

その後

 

華琳「純~!お姉ちゃん寂しかったわよ~!」

 

純「あ、姉上!俺が戦から帰る度に抱き締めるのはお止め下さい!」

 

華琳「良いじゃない!純~♪」

 

華琳は自身の部屋に純を呼び、彼を抱き締め頭を撫でるなど堪能したのであった。



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25話

25話です。


洛陽・朝廷

 

 

 

 

買駆「ほら、月。急いで!もう軍議、始まってるよ!」

 

董卓「ま、待ってよ・・・詠ちゃん。」

 

買駆「ただでさえ月はアイツに覚えが悪いんだから。・・・多分、言い訳も聞いて貰えないよ。」

 

董卓「でも、豫州からの報告だよ。ちゃんと聞いておかないと。」

 

買駆「そうだけど、理屈が通じる相手じゃないでしょ。」

 

董卓「それは・・・。・・・あ。」

 

その視線の先には

 

朝廷役人A「・・・おのれ、成り上がりの肉屋風情が。天子様のお気に入りだからと言って、あの態度・・・いい加減目に余るわ。」

 

朝廷役人B「全くだ。とはいえ、今の都で生き残るにはあれに睨まれてはどうにもならん。・・・次は賄の額を増やすしかあるまいて。」

 

朝廷役人A「如何ともしがたいが・・・。だがこれ以上税を増やせば、足元もうるさくはならんか?」

 

朝廷役人B「なに・・・その時は何と言ったか、あの黄色い布を巻いた」

 

朝廷役人A「黄巾党とか呼ばれておる連中か。そうだな、こういう時にこそあれらに責を押し付ければ良いか。」

 

朝廷の役人達がとある人の陰口等を話していた。

そこへ

 

董卓「・・・ご機嫌よう。」

 

董卓が挨拶した。

 

朝廷役人A「お、おお・・・これは董仲穎様。買文和殿まで連れて、どうなされた。」

 

董卓「これから、中郎将の軍議がありますので。」

 

朝廷役人B「さ・・・左様か。・・・あの、先程の言。」

 

董卓「はて。私は何も聞いておりませんが?」

 

朝廷役人B「そ、そうであったの。・・・いやはや、そうであった。では、我々はこれにて。」

 

そう言い、役人達は逃げるように去って行った。

それを見た買駆は

 

買駆「まったく・・・腐りきった連中だね。どうせこの後、僕達の事も散々陰口を叩くんだよ。」

 

そう言ったのだった。

 

董卓「構ってても仕方ないよ。ほら、早く行こう。」

 

 

 

 

 

董卓「申し訳ありません、遅くなりました!」

 

何進「何をしていた、董仲穎。」

 

董卓「はい。ちょうど豫州に出した部隊からの報告が届いておりまして・・・大将軍の何進殿のお耳にも入れるべき事かと。」

 

何進「そのような田舎の些事と、此度の軍議とどちらが大切か。」

 

この言葉に

 

買駆(何だよ、豫州に出兵するよう指示したのはアンタだろう・・・)

 

買駆は怒りを覚えた。

その時

 

??「・・・傾、構わぬ。」

 

何進「・・・はっ。」

 

ある者が何進を止めた。

 

董卓「え・・・?」

 

買駆「ちょっと、どういう事・・・!?どうして・・・どうして・・・」

 

何進「ほれ、貴様ら。もう良い、早く席に着かんか。」

 

その者は

 

何進「天子様の御前であるぞ。」

 

霊帝「・・・」

 

霊帝だった。

 

董卓「どうして天子様が・・・このような、中郎将の集まりに。」

 

董卓のこの疑問に

 

何太后「妾がお誘いしたのよ。たまには、貴女達がどのような働きをしているかを見るのも良いでしょう?ねぇ、空丹様?」

 

霊帝「・・・うむ。」

 

何太后「それを姉様にお話ししたら、快く聞いて下さいましたの。」

 

何皇后がそう答えた。

 

何進「うむ、可愛い瑞姫の頼みだからな。聞かぬわけにはいくまいて。」

 

何太后「さ、妾達の事は気にせず、軍議とやらをお続けになって下さいまし。そちらの貴女達も、気を楽にね?」

 

買駆(天子様がご覧になる会議で気を楽になんて、そんなの出来るわけないでしょ・・・!)

 

これに、買駆は心の中でそう思っていた。

 

皇甫嵩「さ、董卓殿。こちらに。」

 

董卓「ありがとうございます、皇甫嵩殿、蘆植殿。」

 

蘆植「私も報告は受けなければならなかったのに、ごめんなさい。」

 

董卓「いえ、構いません。・・・それで、お話はどこまで?」

 

何進「うむ。各地の黄巾党の動きと対応について話していたのだ。そちらはどうだ、董卓。」

 

買駆(だから、その報告を受けてたんだよ・・・)

 

董卓(詠ちゃん、抑えて・・・)

 

何進「董仲穎!」

 

董卓「・・・はっ。現在、豫州南部に派遣した私と蘆植殿の合同軍は、作戦を遂行中。間もなく豫州から、予定通り揚州北部に賊を追い出せる見込みです。」

 

何進「そうか。此度は上手く行っているようだな。結構結構。」

 

董卓「とはいえ今回の作戦は、冀州から戻ってすぐの急な出陣だったため、現時点でも兵の損耗は大きく・・・」

 

何進「・・・何だ?よもや、増援が欲しいと申すか?それとも、今さら作戦の延期をしたいとでも?」

 

これには

 

董卓「そ、それは・・・」

 

董卓は言葉が詰まった。

 

買駆(・・・天子様を呼び出したのはこのためか!くそっ。)

 

これに、買駆は何故霊帝がこの場にいるのか全てを察した。

 

その時

 

劉協「あ、あの・・・」

 

霊帝の隣にいる妹劉協が何かを言おうとしたが

 

何太后「・・・白湯様。今日の妾達は、見学しているだけですのよ。黄のように、大人しくしていらっしゃいませ。」

 

趙忠「・・・ああ、陛下。凜々しいお顔もお素敵です。」

 

何太后にそう言われ

 

劉協「あぅ、あぅぅ・・・」

 

劉協は何も言えなかった。

 

何進「やれやれ、涼州の田舎者と老いぼれではそれが限界か。冀州での汚名をそそげるよう、せっかく余が挽回の機会をくれてやったというに・・・期待外れも甚だしいな。」

 

董卓「・・・。」

 

すると

 

皇甫嵩「何進殿。涼州の田舎者という言い草。私としては聞き捨てなりませんが。」

 

皇甫嵩が何進に対して鋭い目をして言った。

 

何進「おお。そうであったな、皇甫嵩。そういえばお主も涼州生まれであったか。」

 

何進「だが同じ涼州生まれでも、皇甫嵩は苑州州牧の曹なにがしと見事に連携を取り、恙なく賊の拠点を落としたというのにな。」

 

何進「その曹なにがしの弟の『黄鬚』とよく組んで戦で功を上げ、青州でも久方ぶりに再会したというしな。」

 

董卓「・・・。」

 

皇甫嵩「・・・。」

 

何進「冀州では袁本初殿の足を引っ張り、作戦を失敗寸前まで追い込んだというではないか。何か言い逃れの言葉はあるか?」

 

買駆(・・・ッ!)

 

董卓「いえ・・・弁解の言葉もありません。」

 

蘆植「先程の仲穎殿の申し出は取り消しますわ。今ある戦力をもって、見事作戦を遂行してご覧に入れましょう。」

 

何進「当然である。天子様の軍を預かる中郎将として、共同作戦を提案してきた揚州の袁公路殿にも、恥ずかしくない振る舞いをするように。」

 

董卓「・・・はい。」

 

何進「次もしくじれば・・・そうだな、幽州あたりはこれから寒くなると聞くが・・・」

 

董卓「・・・。」

 

その時

 

霊帝「傾。」

 

何進「・・・はっ。どうなさいましたか、天子様。」

 

霊帝「朕はこうきんとう、とやらの話をするというからか顔を出したのだけれど・・・。こうきんとうの話は、いつ出るの?」

 

霊帝が意味分からない事を聞き始めた。

 

何進「・・・は?」

 

霊帝「糖、と言うからには甘い物なのでしょう?黄や瑞姫に聞いても知らないというの。ねぇ?」

 

趙忠「申し訳ございません。」

 

何太后「後宮に入った後の巷の流行りは、とんと疎くて。」

 

劉協「・・・あぅぅ。」

 

何進(黄・・・おのれ、天子様に黄巾党がどのようなものか説明しておけと言っておいたのに・・・!それでは、瑞姫に主上を引きずり出させた意味がないではないか・・・!)

 

霊帝「街育ちの貴女なら分かるでしょう。ほら、早く説明してごらんなさい。」

 

霊帝「後・・・こうしゅ、という変な名前の説明もね。」

 

これには

 

皇甫嵩「・・・ッ!」

 

皇甫嵩は怒りの顔を一瞬浮かべ

 

何進「あの・・・主上。畏れながら・・・」

 

何進は言いづらそうだった。

 

霊帝「何?下々の食べ物が口に合わないというなら、味に期待などしていないから構わないわ。一目見て見たいだけだもの。」

 

趙忠「そうですよ。傾、主上様をお待たせしてはいけませんよ。」

 

何進「そ・・・そうではなくて、ですね。畏れながら、黄巾党というのは、巷を騒がせる賊の名前でございまして。」

 

霊帝「あら、そうなの?何それ。」

 

何進「それで、今もその対策に軍議を・・・」

 

霊帝「ならこうしゅ、は?」

 

何進「『黄鬚』と言うのはですね・・・」

 

その時

 

皇甫嵩「畏れながら陛下。『黄鬚』と言うのは、苑州州牧曹孟徳が弟、曹子文の異名であり、虎髭を生やしたような勇者の称号という意味でございます!軽はずみな発言で、私がお慕いしている者の名を変な名前と言わないでいただきたい!」

 

皇甫嵩が怒りの声でそう霊帝に言った。

 

霊帝「あ、ああ・・・す、すまぬな。」

 

これには、霊帝も少し怯えた表情を浮かべていた。それは霊帝だけではなく

 

劉協「・・・あぅぅ。」

 

妹の劉協も同様だった。

 

何進「・・・皇甫嵩。」

 

皇甫嵩「・・・申し訳ございません何進殿。田舎者故、陛下に対して無礼を働きました。」

 

何進「・・・次はないぞ。」

 

皇甫嵩「御意。」

 

霊帝「そ、そのようなものは貴女達で好きになさい。官軍にも各地にも、腕の立つ者はいるでしょう?」

 

霊帝「ああ、麗羽に言えばきっと何とかしてくれるわ。先程も、名前が出ていたようだし。」

 

霊帝「あれも朕の命なら、喜んで動いてくれるでしょう。」

 

何進「は、はい・・・。既に冀州の袁本初殿からも、八面六臂の活躍で賊を退けているとの報を受けております。」

 

霊帝「そ、そうなのね。なら傾、此度の軍議はここまでだな。」

 

何進「は、はっ。」

 

何進「貴様ら、何をそこでぼうっとしておるのだ!天子様が、軍議はもう良いと仰っておいでなのだ!さっさと下がらんか!」

 

董卓「・・・はっ。」

 

買駆「・・・。」

 

蘆植「では、失礼致します。さ、楼杏さん。」

 

皇甫嵩「・・・はい。」

 

 

 

 

 

買駆「あはははは。いい気味だよ、あの肉屋!」

 

買駆「月や風鈴さん達をあんなに悪く言った報いだよ。」

 

軍議が終わった後、買駆は先程の何進の姿を思い出して笑っていた。

 

買駆「けど・・・楼杏さんがあんなに怒るのは初めてだけどね。」

 

皇甫嵩「・・・ごめんなさい。私はかつて曹彰さんとよく賊討伐で一緒だったのよ。それで仲を深めたのだけど・・・変な名前と言われてつい頭に血が・・・」

 

買駆「成程・・・確かに『黄鬚』曹彰っていったら、ここ洛陽は勿論、涼州にもその勇名は轟いてるものね。」

 

皇甫嵩「それはともかく・・・状況は良くはないわよ。」

 

買駆「ええ・・・分かってるわよ。」

 

董卓「詠ちゃん・・・」

 

買駆「だって、月は悔しくないの?天子様の前であんなに言われて。」

 

董卓「それは・・・」

 

皇甫嵩「それより、もっと二人を上手に庇えれば良かったんだけど・・・ごめんなさい。」

 

蘆植「気にしないで、楼杏。」

 

皇甫嵩「もし私が月さんを助けられる事があったら、遠慮なく言ってね。・・・私が出来る事なんて知れてるでしょうけど。」

 

董卓「そんな事ありませんよ。その時は・・・どうかお願いします、楼杏さん。」

 

皇甫嵩「勿論。何でもするからね。」

 

蘆植「ほら、もうそのお話は終わりにしましょう。それより月ちゃん・・・豫州は大丈夫なの?」

 

この質問に

 

買駆「・・・正直、かなり厳しいよ。国庫も陛下の贅沢で圧迫されてるから、地方に出す軍の戦費なんて真っ先に削られちゃうし。」

 

董卓「うん。ただでさえ冀州から戻る間もなくの転戦だから、装備や糧食も、最低限を補給するので精一杯だったし・・・」

 

買駆「揚州側の動きに合わせろって指示に合わせてかなり急ぎの移動になったから、兵の皆にだいぶ無理させてると思う。いくら霞の用兵でもね。」

 

と厳しい表情でそう答えた。

 

皇甫嵩「せめて増援が出せるなら、恋さんに率いてもらえたのに。」

 

買駆「・・・それは、どちらにしてももう間に合わないわね。」

 

蘆植「大丈夫よ。今回の出陣で何かあったら、責任は全部私が取るから・・・安心して。」

 

董卓「風鈴さん、そんな・・・。だったら私が。」

 

蘆植「月ちゃんも詠ちゃんも、これからの朝廷には絶対に必要な子達だもの。あなた達がいなくなったら、それこそ朝廷はあの人の良いようにされてしまうわ。」

 

董卓「風鈴さん・・・」

 

皇甫嵩「そうだ。豫州なら、この間の手紙に応えてくれた曹操が預かってるはずでしょ。今回も話を持っていけば・・・」

 

買駆「それも出してはいるけど、多分間に合わないと思う。」

 

董卓「本当に急だったものね・・・」

 

買駆「あれは思いつきって言うんだよ。」

 

皇甫嵩「・・・そっか。詠さんもいるんだから、手を打っていないはずがないか。」

 

董卓「霞さんも華雄さんも・・・どうか、無事に帰ってきて下さい。」

 

董卓はただ、そう祈るしかなかったのであった。



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26話

26話です。


豫州・沛

 

 

 

 

 

官軍兵士A「張遼将軍!我が本隊、両翼共にもう限界です!」

 

張遼「ちぃっ。アホ何進め・・・冀州から豫州に大急ぎで転戦せえとか、無茶ばっか言いくさりおって・・・!」

 

張遼「黄巾の連中もここまで規模が膨れ上がったら、野盗や暴徒どころかその辺の軍隊と変わらんで。」

 

官軍兵士B「・・・こうなれば、撤退ですか?」

 

張遼「出来るもんならとっくにしとるわ!けど、ここでしくじったら本国の月らの首が飛ぶやろ。二度目やで!?」

 

張遼「お前、そないに月の首飛ばしたいんか!」

 

そう、張遼は目つきを鋭くして言った。

 

官軍兵士B「まさか!ですが、このままでは・・・」

 

張遼「・・・。」

 

すると

 

張遼「・・・はぁ、せやな。頭冷やさんとあかんのは、ウチも一緒か。」

 

そう溜息吐いて冷静になり

 

張遼「華雄と蘆植殿んトコの将軍に伝令出しい!一時後退して、陣形を整え・・・」

 

そう指示したが

 

官軍兵士C「張遼様、右翼の華雄様から伝令です!我、敵部隊に包囲され孤立。至急支援求むとの事!」

 

この知らせに

 

張遼「出来るかアホー!」

 

と怒鳴った。

 

張遼「あーもう!飯も武器も兵も時間も策ものうて、どないせぇっちゅうねん!」

 

その時

 

張遼「な・・・っ!何や、敵の増援か!」

 

別の方向から新たな集団がやって来た。その集団は

 

官軍兵士A「いえ!青の旗色に曹の旗印!恐らく、曹孟徳の軍かと思われます!」

 

純の軍勢だった。

 

張遼「苑州の州牧か!月が手ェ回せるか分からん言うとったけど、何とかなったみたいやな!助かった!」

 

張遼「それに青の旗色で曹の旗印言うたら、『黄鬚』曹彰やないか!」

 

これには、張遼は興奮したのだった。

 

 

 

 

 

 

稟「純様。官軍の指揮官から、連絡文が届いているそうです。」

 

しかし

 

純「・・・別に読まなくても良い。」

 

そう純は言った。

 

凪「えっ、良いのですか?」

 

純「いらねーよ。どうせ、やれ到着が遅いだの早く蹴散らせだの書いてあんだろ。そんな手紙、見る間も惜しい。」

 

純「読んでる暇があったら、敵兵一人でも多く斬り殺してた方が良い。」

 

凪「はあ・・・」

 

稟「純様・・・」

 

これには、稟は額に手を当てて呆れた表情をした。

 

香風「見せてー。」

 

稟「・・・純様。」

 

純「任せる、好きにしな。」

 

稟「はっ!・・・ええと、支援の感謝と、包囲された右翼の将軍殿の救出を頼みたいと書いてあります。」

 

手紙の内容を聞き

 

純「何だ。どこの間抜けが囲まれているのかと思ったが・・・右翼の将だと?」

 

純はそう稟に聞いた。

 

稟「どうやらそのようですね。」

 

剛「純様!部隊の展開、完了しました!」

 

純「まあ良いや。なら、香風は左翼と本隊の援護を。間抜けな官軍の援護は凪と稟、お前に任せる。」

 

香風「はーい。」

 

凪「分かりました!」

 

稟「純様。出来れば、揚州州境の前までには敵を殲滅するようお願いします。」

 

純「元々そのつもりだが、それはどういう意味だ?」

 

稟「実を申しますと、この辺りと揚州近くの土地を事前に調べたのですが、その揚州近く辺りは沼地が多く、身を隠すには非常に都合が良い場所なのです。」

 

稟「下手に追い掛けてしまうと相手に気付かれ、更に逃げられるのが可能な地です。それに、その先は袁術の領地です。もし無闇に追い掛け袁術の領地に侵入してしまい、袁術の兵とぶつかったら、後々面倒になります。」

 

純「確かに・・・そうなっちまったらメンドクセーな。姉上にも迷惑を掛けちまう。分かった。お前の言う通り、揚州の州境までには殲滅するようにしよう。」

 

稟「それが宜しいかと。」

 

純「ああ!剛は俺と一緒だ。賦抜けた官軍には荷が重い相手かもしんねーが・・・真の精兵たる俺達には、黄巾党など赤子も同然!ひねり潰してやれ!」

 

剛「総員、突撃だーっ!」

 

そう言い、黄巾党目掛けて突撃した。

 

 

 

 

 

官軍兵士D「な・・・何という強さだ・・・」

 

官軍兵士E「あの黄巾党が、まるで相手になっていない・・・」

 

この純率いる軍の圧倒的な強さに、官軍の兵士達は呆然としていた。

 

凪「将軍閣下!右翼を率いる官軍の将軍閣下はどちらにおわすか!」

 

凪の声に

 

華雄「お、おう!ここだ!ここにいるぞ!貴様らはどこの兵だ!」

 

華雄は反応した。

 

凪「我が名は楽進。」

 

稟「私は郭嘉と申します。」

 

凪「我らは苑州が州牧、曹孟徳の代理として馳せ参じました。ご無事か!」

 

華雄「ああ。敵に囲まれ苦戦しておったが、貴公らのお陰で何とか命を繋ぐ事が出来た。礼を言うぞ。」

 

凪「はっ。ここは我らが引き受けます故、皆様は急ぎ後退なさいませ。既に本隊と左翼は、我らの援護を受けて動き始めております。」

 

華雄「すまん。ならば、その言葉に甘えさせてもらう。撤退するぞ!」

 

官軍兵士D「はっ!」

 

華雄「総員、撤退せよ!撤退だ!」

 

官軍兵士E「撤退!撤退ー!」

 

そして、華雄率いる右翼は撤退した。

 

凪「・・・ふぅ。」

 

凪「それにしても、随分と薄汚れた装備を使っていましたね。練度もそうですが、官軍というのは純様が鍛えた兵とは随分と違うものなのですね・・・」

 

稟「あれが官軍の実力なのでしょう・・・」

 

香風「凪ー。稟ー。」

 

凪「香風。本隊と左翼の援護は終わったのか?」

 

香風「うん。終わったよ。」

 

稟「香風。純様の部隊は?」

 

香風「純様も、敵をある程度倒して追い掛けた後、すぐに撤退したよー。」

 

この知らせに

 

稟「・・・そうですか。」

 

稟は少しホッとした表情を浮かべた。

その様子を見た

 

凪「純様の事、大事に思ってるのですね。」

 

凪はそう稟に言った。

 

稟「ええ。私にとって、あのお方は真の主君ですから。あの武勇と優れた軍才に将兵の統率力。まさに英雄の器です。」

 

稟「ただ・・・唯一の弱点といったら、知恵が足りないだけ。そこは、私が全身全霊お支えします。」

 

凪「稟様・・・」

 

稟「凪。あなたも、純様の傍に仕えるからには共に命を懸けてお支えしましょう。」

 

凪「はい!稟様!」

 

すると

 

純「良し。稟、敵を殲滅したぞ!」

 

剛「いやぁ・・・敵もあっけなかったですなぁ。」

 

純「確かに・・・けど、もし何も考えずにあのまま行ってたら確実にメンドーな事になってたから、そこは稟に感謝だな。」

 

剛「そうですね。」

 

純が剛と一緒にやって来た。

 

稟「純様。お疲れ様です。それと、お見事です。」

 

凪「純様、お疲れ様です。」

 

香風「お疲れ様ですー。」

 

純「ああ。お前らも、お疲れさん。さて、引き揚げるか!姉上に良い報告が出来そうだ!」

 

そう言い、純は将兵を纏めて引き揚げたのであった。



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27話

27話です。


謁見の間

 

 

 

純「・・・とまあ、豫州の黄巾党は平定しました。」

 

純は、華琳に黄巾党討伐の報告をしていた。

 

華琳「そう、良くやったわ。」

 

純「はっ。」

 

華琳「純。官軍の指揮官は誰だったのかしら?」

 

純「はっ。張遼です。彼女は董卓将軍の配下です。」

 

華琳「そういえば、この前の山中の食糧庫を陥とした時の戦、共同作戦だった事にして欲しいと手紙を送ってきた中郎将がそんな名前だったわね。」

 

それに燈は

 

燈「あれは皇甫嵩将軍の任務でしたから、それででしょう。皇甫嵩将軍と董卓殿は、同じ閥に属していたはずでしたから。」

 

そう答えた。

 

華琳「董卓というのは、どういう人物なの?あの時は恩を恩と解する人物のようだったから引き受けたけれど・・・その口ぶりだと、知っているのでしょう。燈。」

 

燈「もちろん。董卓将軍は地方豪族の出ですが・・・」

 

燈「公明正大な人物で、怪異蠢く朝廷の数少ない良心の1つと言えるでしょう。」

 

燈「そちらに手紙を送ってきた際も、贈り物はほんの手土産程度だったのではない?」

 

華琳「ええ。大量の賄を持ち込んだなら突き放すつもりだったけれど、手紙の文面も礼を尽くした物だったし、土産の趣味も悪くなかったわ。」

 

燈「恐らく、その文面で感じた通りの人物よ。ただ、そんな性格だし、朝廷では苦労しているようだけれど。」

 

純「俺には無理な場所です。息が詰まります。」

 

香風「・・・賄賂を沢山送った人が、強い。」

 

華琳「官軍の動きも妙だったし、今後はあちらを援護する場面も増えるでしょうね。純同様。」

 

純「そうかもしれませんね。」

 

華琳「ええ。ああ、そうだわ、純。今回の討伐の恩賞だけど・・・」

 

純「それでしたら、俺の部下にお与え下さい。」

 

華琳「分かったわ。皆には、相応の恩賞を与えるわ。」

 

純「ありがとうございます。」

 

華琳「それでは、他に何か報告すべき意見はある?」

 

桂花「いえ。朝廷の動きは、私の知人を通じて探らせておきます。」

 

燈「あちらの監視は、私に預けてもらって構わなくてよ。香風さんも色々知っているだろうし。」

 

香風「んー。あんまり頼りにされても、困る。」

 

桂花「結構よ。こちらはこちらでするわよ。」

 

と桂花は燈に対抗心むき出しだった。

 

華琳「・・・競いすぎてお互い尻尾を掴まれないようになさい。上に睨まれてもつまらないわ。」

 

桂花「お任せ下さい!」

 

燈「ええ、心得ていますわ。」

 

華琳「黄巾党はこちらの予測以上の成長を続けているわ。官軍は当てにならないけれど・・・私達の民を連中の好きにさせることは許さない。いいわね!」

 

季衣「分かってます!全部、守るんですよね!」

 

華琳「そうよ。それにもうすぐ、私達が今まで積み重ねてきた事が実を結ぶはずよ。それが、奴らの終焉となるでしょう。」

 

春蘭「・・・どういう事でしょうか?」

 

華琳「いずれ分かるわ。・・・それまでは、今まで以上の情報収集と連中への対策が必要になる。」

 

華琳「民達の血も米も、一粒たりとて渡さないこと。以上よ。」

 

そして、その日の軍議は解散となった。

 

 

 

 

関所

 

 

 

 

香風「華琳様は、シャン達が見えてる景色が違うんだろうね。」

 

秋蘭「我々には及びもつかん事を考えていらっしゃるお方だからな。仕方ないさ。」

 

香風「純様は、華琳様の考えている事を理解できてるのかな?」

 

秋蘭「純様は、華琳様の考えを理解していないはずだ。あのお方は、そういうのは苦手だからな。」

 

秋蘭「だが、純様は常に仰っていた。『俺達に出来るのは、分かろうとする事と姉上を信じる事だけだ。だったら俺は、姉上の道をこの武で切り開く』とな。」

 

香風「・・・凄いね。」

 

秋蘭「あのお二人は、互いに互いを信頼し合っておられる、ある意味理想の姉弟関係なのかもしれないな。」

 

香風「・・・間違っていない事は、大体分かる・・・。」

 

秋蘭「ふっ。そうだな。」

 

その時

 

純「何の話してんだ、お前ら。」

 

純が現れた。

 

秋蘭「純様、いえ、何でもありませんよ。」

 

純「そっか・・・。しかし、俺も国境警備の視察か・・・。まぁ、それが正しく行われてんのか確かめるんだけどな。」

 

秋蘭「はい。しかし、苑州は他より厳しくないはずなんですけどね。」

 

旅人A「こんにちは、お役人様。」

 

香風「こんにちはー。」

 

旅人B「どうも、ごきげんよう。お役人様。」

 

秋蘭「うむ。」

 

純「ああ。」

 

そうやって暫く視察をしていた時だった。

 

兵士A「捕まえてくれ!関所破りだ!」

 

という声が聞こえた。

 

純「秋蘭!」

 

秋蘭「はっ!!」

 

それを聞いた秋蘭は、馬にくくり付けていた弓をひょいと取り上げ、つがえた矢を素早く引き絞った。

 

秋蘭「・・・無理に関など破らねば、この場にいる純様は貴様を受け入れて下さったものを。」

 

そう言って、秋蘭は関所破りに向けて矢を放った。

 

関所破り「がっ!?」

 

その矢は、関所破りの肩にまるでそこに最初から決まっていたかのように吸い込まれていった。

 

純「おおーっ。お前また腕上げたな。」

 

それを見た純は額に手をかざしながらそう言った。

 

秋蘭「いえ、まだまだ純様には遠く及びません。それに聞いたことがあるでしょう、長沙の辺りにはこの倍の距離でも外さない弓使いがいることを。」

 

純「確かに聞いたことがある。けど、俺の中ではお前が一番だよ。」

 

秋蘭「ありがたきお言葉。・・・さて、肩ならば致命傷になっていないはずですが。」

 

そう言って、純達は関所破りに近づいた。

 

関所破り「うぅ・・・痛ぇ・・・。」

 

香風「純様、この人・・・。」

 

純「ああ。しかし、関所に払う金がねーのか、後ろめたいと思う気持ちがあったのだろうな。まあその分、救いようがあるんだがな。」

 

そう言って、純は関所破りを見ていると

 

純「ん?」

 

懐に何かを発見した。

 

秋蘭「どうかなさいましたか?」

 

純「こいつの懐に何か入ってる。・・・何だこれは、手紙か?」

 

そう言って、懐から取り出し、広げて見てみた。

 

純「これは・・・!」

 

秋蘭「純様?」

 

純「これを見てみろ。」

 

そう言い、純は秋蘭達に見せた。

 

秋蘭「これは!いきなり情報が転がり込んで来ましたね。」

 

純「ああ。おい、連れて行け。」

 

兵士A「はっ。ご協力、感謝致します。」

 

そう言って、兵士は関所破りならぬ、黄巾党の連絡兵を連れて行った。

 

純「大手柄だな、秋蘭。」

 

とその時純は秋蘭の頭を撫でそう直接褒めた。それを聞いた秋蘭の頬は緩みに緩んでおり、非常に幸せそうな表情だったと、後に香風は語っていた。

 

 

 

 

 

謁見の間

 

 

 

 

 

華琳「大手柄ね、秋蘭。」

 

秋蘭「・・・はっ。」

 

桂花「連中の物資の輸送経路と照らし合わせて検証もしてみましたが、敵の本隊で間違いないようです。その後、凪と沙和を偵察に向かわせましたが・・・。」

 

凪「はい。張三姉妹と思われる三人組も、見受けられました。」

 

華琳「間違いないのね?」

 

沙和「うん。三人があの歌を歌って、黃巾の兵士達がみんなでそれを聞いてたの。すっごく楽しそうだったの。」

 

華琳「・・・楽しそうだった?」

 

沙和「なの!」

 

華琳「分からないわね・・・何かの儀式?」

 

凪「詳細は不明です。連中の士気はやたらと上がっていたようでしたので、戦意高揚の儀式かもしれません。」

 

華琳「そう・・・。ともかく、この件は一気にカタが付きそうね。」

 

華琳「動きの激しい連中だから、これは千載一遇の好機と思いなさい。皆、決戦よ!」

 

そして、皆は出陣の準備をしたのであった。



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28話

28話です。


別働隊

 

 

 

 

華侖「秋姉ぇー。本隊、到着したそうっすよー。」

 

秋蘭「そうか。各隊の報告はまとまったか?」

 

真桜「ちょうど終わったところやで。連中、かなりグダグダみたいやな。」

 

秋蘭「ふむ。華琳様の予想通りか。」

 

真桜「それと・・・連中の総数やけど、約二十万やな。」

 

これには

 

沙和「うはー。もの凄い大軍勢なの・・・。」

 

香風「本隊って言っても、多い。」

 

季衣「それって・・・僕達だけで勝てるんですかね?」

 

と、それぞれ本隊の数に驚いていた。

 

真桜「まあ聞きや。総数は二十万やけど、そのうち戦えそうなんは・・・、三万くらいやな。」

 

秋蘭「・・・成程な。」

 

沙和「残りの十七万はどこに行ったのー?」

 

真桜「武器も食料も全然足りてへんみたいなんよ。その割に、さっきもどっかの敗残兵みたいなのが合流しとったから・・・。」

 

凪「二十万というのは、その敗残兵も合わせた数ということか。」

 

真桜「せや。陣のあっちこっちで小競り合いも見えたから、一枚岩っちゅうわけでもないな。見た限りじゃ仲裁もなかったし、指揮系統もバラバラなんちゃうか?」

 

華侖「でも、なんでそういう連中が今頃合流してるんすか?そういうのって、関所で止められるんじゃないんすか?」

 

華侖のその疑問に

 

秋蘭「大軍ならともかく別れて数名ずつで抜ければ、関所は止めんよ。華琳様がそういう命を出しておられるからな。」

 

秋蘭がそう答えた。

 

沙和「えげつないのー。」

 

真桜「それ、褒め言葉に聞こえへんで。沙和。」

 

秋蘭「黄巾を旗印に団結を旨とする集団なら、来たものは陣内に取り込むしかないだろうし、拒絶すれば内々に火種を生む遠因となる。」

 

秋蘭「その結果は・・・見ての通りだ。」

 

凪「神出鬼没の人食い熊も、太り過ぎればただの的、という事ですね。」

 

しかし凪の例えは

 

真桜「太りすぎたら・・・。」

 

沙和「・・・イヤな例えなの。」

 

この二人には不評だった。

 

香風「・・・?」

 

季衣「熊なら僕、いくらでもやっつけるよ!」

 

華侖「それで、どうするっすか?作戦は、最初ので良いんすか?」

 

秋蘭「問題なかろう。華琳様と純様の本隊に伝令を出せ。皆は予定通りの配置で、各個撹乱を開始しろ。」

 

秋蘭「攻撃の機は各々の判断に任せるが・・・張三姉妹を殺すような真似だけはするなよ。以上だ。」

 

 

 

 

黄巾党本隊

 

 

 

 

黄巾党兵士A「張角様!張宝様!張梁様!」

 

人和「何?そんなに慌てて。」

 

黄巾党兵士A「申し訳ありません!しかし、急用だったもので・・・!」

 

天和「急用・・・?」

 

黄巾党兵士A「敵の奇襲です!各所から、火の手が!」

 

人和「何ですって!すぐに消火活動を!」

 

黄巾党兵士A「各々でやっているようですが、火の手が多いのと誰に指示を受ければ良いかが分からず・・・!」

 

すると、

 

黄巾党兵士B「張角様!大変です!火事ですっ!」

 

黄巾党兵士C「張宝様!大変です!」

 

黄巾党兵士D「張梁様!火事が・・・!」

 

色んな報告が三姉妹に届いたので、

 

地和「ああもうっ、ちゃんと聞いてあげるから、一列に並びなさーいっ!」

 

収集がつかなくなってしまったのだった。

 

人和「く・・・っ。人ばかり無駄に増えているから・・・!」

 

黄巾党兵士たち「「「どうしましょう!」」」

 

人和「ともかく、敵の攻撃があるならまずはその対処を!火事も手の空いている者が協力して消して!」

 

黄巾党兵士たち「「「はいっ!」」」

 

人和「・・・まったくもぅ。」

 

天和「れんほーちゃぁん・・・。」

 

地和「人和・・・。」

 

人和「・・・もう潮時ね。誰かが付いてくるかもなんて言っている場合じゃないわ。・・・よっと。」

 

天和「何?その荷物。」

 

人和「逃げる支度よ。三人分あるから・・・三人でもう一度、初めからやり直しましょう。それでいいなら、荷物を取って。」

 

地和「仕方がないわね。でも、二人がいるなら。」

 

人和「また貧乏との戦いだけど、いい?」

 

地和「楽しく歌えるなら、そっちの方がずっとマシよ。」

 

天和「そだねー。ちーちゃんとれんほーちゃんがいれば、何度だってやり直せるよね♪」

 

人和「そうだ、これも・・・。」

 

その時、人和がある一冊の本を取った。

 

地和「太平なんとか、だっけ・・・?」

 

人和「そうよ。これがあれば、いくらでも再起が図れるもの。」

 

天和「もうそんなのいいよ。二人がいれば何もいらないから、早く逃げようよー!」

 

そう言って、三人は逃げる準備を始めたのだった。

 

 

 

 

曹操軍本隊

 

 

 

 

栄華「お兄様。敵陣の各所から火の手が上がりましたわ。秋蘭さん達が行動を開始したようです。」

 

柳琳「秋蘭様から伝令が届きました!敵の状況は完全に予想通り、当初の作戦にて奇襲をかけると、こちらも作戦通りに動いて欲しいとの事です。」

 

純「了解・・・。しかし、流石姉上ですね。こうも黄巾の連中をじわじわと追い詰めるとは。」

 

華琳「あなたの戦場での働きほどではないわよ。」

 

純「いえいえ。姉上のお陰で、俺も戦場で武を振るいやすくなるものですよ。」

 

華琳「そう。なら、いつも通り戦場は任せたわよ。」

 

純「はっ!桂花、稟、風!指揮は任せたぞ。」

 

桂・稟・風「「「御意!」」」

 

純「剛も、一緒に暴れてやろうぜ!」

 

剛「はっ!」

 

春蘭「しかし、先日はあれ程苦戦したというのに・・・何ですか、今日の容易さは。」

 

それに桂花は

 

桂花「苦戦したのは春蘭が馬鹿だからじゃないの?」

 

そう答えた。

 

春蘭「なんだとぅ!」

 

純「少数の兵で春蘭程度をあしらえる器はいても・・・あれほどの規模の兵を纏め、扱える器はいなかった。それだけの事だ。」

 

春蘭「なるほど。私程度を・・・って純様!それは酷うございます!」

 

純「はは、冗談だ。」

 

華琳「けどあなたなら、あれ程の規模の兵を纏め、私以上に上手く扱える事が出来るわ。何せあなたは、大将軍の器なのだから。」

 

純「ありがとうございます。」

 

華琳「それより喜雨。燈はともかく、貴女まで来る事はなかったのよ?」

 

喜雨「ううん。この大陸を散々荒らして、豫州の作物もたくさん略奪して回った連中だもの。その最後くらい、僕にも見届けさせて。」

 

喜雨「戦場で役に立たない自覚はちゃんとあるから、始まったら邪魔にならない所に退がるよ。後方で良い?」

 

華琳「後方は奇襲が来るかもしれないから、安全ではないわ。見届けたいと言うなら、燈と共に私の側にいなさい。良いわね?」

 

桂花「純様。そろそろ、こちらも動こうと思うのですが。」

 

純「もうか?もう少し時間があるかと思ったんだけど・・・秋蘭達、張り切りすぎじゃねーのか?」

 

桂花「向こうの混乱が輪をかけてひどいのでしょう。こちらの準備は出来ていますので、お早くお願いいたします。」

 

桂花「急がなければ、張三姉妹がこちらではなく身内に殺されかねません。」

 

純「それは問題だな・・・分かった。それでは姉上、皆に言葉を。」

 

華琳「あら、私が?あなたでも良いのよ?」

 

純「ここは俺より覇王に相応しい姉上が相応しいかと。それに、先の戦では掛けられませんでしたし。」

 

華琳「そう。分かったわ。」

 

そして、華琳は前に立ち

 

華琳「皆の者、聞け!」

 

華琳「汲めない霧は葉の上に集い、すでにただの雫と成り果てた!」

 

華琳「奴らを追って霧の中を彷徨う時間はもうお終い。今度はこちらが呑み干してやる番よ!」

 

華琳「ならず者どもの寄り合い所帯と、我らとの決定的な力の差・・・この私に、しっかりと見せなさい。」

 

そう兵士に鼓舞し

 

純「総員、攻撃を開始せよっ!」

 

純によって全軍に総攻撃の命を下したのだった。

 

 

 

 

別働隊

 

 

 

 

沙和「凪ちゃん。華琳様の本隊が来たのー!」

 

曹の旗を掲げた本隊が、大地を揺らしながら突っ込んだ。

 

凪「流石、予定通りだ・・・。」

 

沙和「そろそろ合流しよう、華侖様達は?」

 

すると

 

華侖「凪ー!」

 

華侖達がやって来た。

 

凪「皆さんご無事でしたか?」

 

華侖「大丈夫っす。あたし達は何もしてないのに向こうが勝手に崩れていったっす。」

 

季衣「だから、華琳様と純様も来たし、そろそろかなって。」

 

華侖「秋姉ぇや香風は、もう右翼の応援に行ったっすよ!」

 

凪「よし。なら、我らも急いで本隊に合流しましょう。」

 

沙和「凪ちゃん、指示をお願いするの!こういうの、得意でしょ!」

 

凪「お、おい・・・!私はお前や真桜がやらないから、仕方なくしていただけであってだな!」

 

凪「それに、ご一門の華侖様を差し置いて・・・」

 

しかし

 

華侖「凪の号令、聞いてみたいっす!」

 

華侖もそう言っていた。

 

沙和「ほらほら凪ちゃん、華侖様もそう言ってるの。」

 

沙和にも言われてしまったので

 

凪「やれやれ・・・了解です。なら・・・」

 

仕方なく号令を掛けた。

 

凪「これより我らは本隊に合流し、本隊左翼として攻撃を続行する!ただし張三姉妹は生け捕りにせよ!総員、今まで連中に味わわされた屈辱と怒り、存分に返してやれ!」

 

兵士「「「応っ!」」」

 

凪「全軍突撃ーっ!」

 

季衣は、愛用の反魔を振りながら黄巾党を吹き飛ばし、真桜も螺旋槍で敵を一掃し、凪は気弾と体術で敵を倒し、部隊の巧みな指揮で敵を追い詰めていった。

 

 

 

 

とある場所

 

 

 

 

地和「この辺りまで来れば・・・平気かな。」

 

天和「もう声もだいぶ小さくなってるしねー。・・・でも、みんなには悪いことしちゃったかなぁ?」

 

人和「難しいところだけれど・・・こればかりはどうしようもないわね。正直、私だってこんな事になるなんて思ってなかったし・・・。」

 

地和「けど、これで私達も自由の身よっ!ご飯もお風呂も入り放題よねっ!」

 

人和「・・・お金ないけどね。」

 

地和「う・・・。」

 

天和「そんなの、また稼げばいいんだよ。ねー?」

 

地和「そう・・・そうよ!また三人で旅をして、楽しく歌って過ごしましょうよ!」

 

人和「で、大陸で一番の・・・。」

 

地和「うん!今度こそ歌で大陸の一番になるんだからっ!」

 

天和「がんばろーっ!」

 

天・地・人・侖「「「おーっ!」」」

 

その時

 

天和「あれ、何か多い気が・・・」

 

一人多いことに気付いた時

 

地和「・・・え、ちょっと!あんた誰よ!」

 

華侖に誰かを尋ねた。

 

華侖「え?あたしは華侖っす!」

 

地和「そうじゃない!何者だって聞いてるのよ!」

 

しかし

 

華侖「華侖は華侖なんすけど・・・あれ?じゃあ、華侖じゃない何者だっていうなら、あたしは何者なんすか・・・?」

 

全く話が伝わっていなかった。

 

地和「・・・なんだか姉さんがもう一人増えた気がする。」

 

天和「えー。ちーちゃんひどーい。それに華侖ちゃんだって、華侖ちゃんって名乗ってるじゃない。」

 

人和「姉さん、多分それ真名・・・。」

 

天和「あー。ごめーん。訂正するねー。」

 

華侖「あはは。大丈夫っす!気にしないっす!」

 

すると

 

沙和「華侖様ー。どこに行っちゃったのー。」

 

華侖「あ、沙和ー!こっち、こっちっすー!」

 

沙和「もぅ。探したのー!」

 

沙和が馬に乗って頬を膨らませながらやって来た。

 

地和「なんか増えた・・・。」

 

沙和「あっ!」

 

天和「えっ。」

 

人和「・・・まさか!」

 

すると

 

沙和「もしかして、三人って張三姉妹なの?」

 

そう言うと

 

天和「えー。お姉ちゃん、有名人?」

 

そう言ったが

 

人和「ちょっと姉さん、ここで張三姉妹なんて名乗っちゃダメよ。敵方の追っ手かもしれないんだから。」

 

そう注意した。

 

沙和「沙和、三人の歌大好きなの!いつも歌ってるの!」

 

華侖「あたしも大好きっす!」

 

地和「ホント!?ありがとー!」

 

天和「ほら人和ちゃん。私達の歌を応援してくれてる人が、追っ手なわけないよ。こっちの部隊の偵察の誰かじゃないの?」

 

人和「そ、そうなのかしら・・・?」

 

地和「ええっと、揮毫はここでいい?」

 

華侖「わーい!おっきく書いて欲しいっすー!」

 

人和「ちょっとちぃ姉さんもなんでそんなに適応してるのよ。」

 

地和「え、だってちゃんと応援してくれる子なら大事にしないと。」

 

人和「時と場合によるでしょ!」

 

すると

 

凪「・・・私もそうだと思うぞ。」

 

凪がやって来た。

 

華侖「あ、凪ー。」

 

天和「あら、二人の友達?」

 

地和「あなたも私達を応援してくれてる人?」

 

凪「それはまあ、応援していないと言えば嘘になりますが・・・。あなた方の歌にはとても感銘を受けましたし、あの歌がなければ私はここに立っていないでしょうし・・・。」

 

天和「ほらね。人和ちゃんは心配しすぎなんだってばー。」

 

凪「・・・いえ、そうでもありませんよ。」

 

沙和「なの。・・・ごめんね。応援はしてるけど、沙和達その追っ手なの。」

 

天和「えええええ・・・。」

 

華侖「大人しく捕まって欲しいっすー。」

 

地和「ちょっと、あんたまで曹操軍の一員ってこと!?」

 

天和「どうしよう・・・もう護衛の人達もいないよー?」

 

地和「くぅぅ・・・っ。まだあんな事やこんな事もしてないのにー!」

 

人和「だから言ったじゃない。時と場所を考えろって・・・!」

 

凪「・・・とはいえ、乱暴にするつもりはない。大人しく付いて来るなら、悪いようにはしないと約束しよう。」

 

人和「・・・付いて行かなかったら?」

 

沙和「えー。困っちゃうの・・・。」

 

地和「もしかして、その硬そうなので殴るの!?」

 

凪「いや。幸い私は無手の心得があるからな。お主らを傷付けずに捕まえることは出来る。」

 

天和「でも、痛いんでしょ?お姉ちゃん、痛いのは嫌だなぁ。」

 

その時

 

黄巾党兵士E「張角様っ!」

 

黄巾党の残党がやって来た。

 

黄巾党兵士F「テメェ!俺達の・・・」

 

しかし

 

凪「はあああっ!!」

 

グシャッ・・・

 

全員「「「!?」」」

 

話が終わる前に彼らは凪によって殺された。

 

凪「・・・それで、お主らは私達に付いて来るのか。もし断れば、両手両足をへし折ってでも連れて行くぞ。」

 

凪はそう言って殺気を出すと、三姉妹は顔を真っ青にしながら首を縦に振った。

その時の凪の様子は、まるで修羅のようだったと、その場にいた皆は語っていたのであった。



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29話

29話です。


曹操軍本陣

 

 

 

純「姉上、これは黄巾党指揮官の首です。奴らを殲滅させ、残りは捕虜にしました。」

 

純は左手に持った首を華琳の前に投げた。

 

華琳「ご苦労。捕虜にした者は、纏めて郷里に送り返させなさい。」

 

純「はっ!」

 

純「・・・で、コイツらが張三姉妹ですか。どいつが張角なのですか?」

 

そう言い、凪達が連行してきた三人の少女を指差して華琳に尋ねた。

 

華琳「真ん中にいるのが張角よ。周りの二人は妹の張宝と張梁よ。」

 

純「・・・そうですか。」

 

天和「うっぷ・・・おええええっ。」

 

地和「え、ええっと・・・あ、あの・・・その・・・うっぷ。」

 

その時、純が首を持って来たからか、三姉妹の顔は青ざめ振るえてしまい、天和は胃の中全てを吐き出し、地和は吐いていないが吐き気を催していた。

 

華琳「ごめんなさいね、弟は戦になるとこうなるから。」

 

人和「え、あ・・・はい、大丈夫です。」

 

華琳「季衣、間違いない?」

 

季衣「はい。僕が街で見届けたのと同じ人達だと思います。」

 

喜雨「・・・この三人が、張三姉妹。」

 

そして、その三姉妹を喜雨は見つめていた。

 

華琳「喜雨。思う所は色々あると思うけれど。」

 

喜雨「・・・分かってるよ。」

 

喜雨「無理を言って同席させてもらったんだから、大人しくしてるよ。華琳様にこれ以上迷惑は掛けないから。」

 

華琳「・・・そう。」

 

純「それで姉上。コイツらの処分はどうしますか?殺しますか?」

 

この純の発言に

 

地和「ちょっと!何で私達が殺されなきゃならないのよ!ちぃ達は何も悪くないわよ!」

 

立ち直った地和が目を吊り上げ純にそう言った。

 

喜雨「ッ!」

 

この発言に、喜雨は怒りの声を上げようとしたが

 

純「・・・テメー、もういっぺん言ってみろ!」

 

その前に、純は溢れんばかりの凄まじい覇気を出し怒りの目で地和を見た。

 

地和「ひっ!」

 

純「テメーらでこれだけの騒ぎを巻き起こし、村々を散々荒らして罪なき者を殺しといて。何が何も悪くねーだ!それ以上ふざけた事言うなら、この俺が斬り殺してやろーか?」

 

そう言い、純は腰の太刀を抜いて地和達に突きつけた。

これには、地和は先程までの勢いをなくし、腰が抜けたのかそのまま座り込んでしまい、他の天和と人和も腰を抜かしてしまった。

それは他の者も同様で、三姉妹だけじゃなく春蘭達も純の覇気に押しつぶされそうな感覚に陥った。

すると

 

華琳「・・・純、やめなさい。」

 

華琳が純の前に立ってそう言った。

 

純「しかし姉上!コイツのこの態度、聞いてて腹立たしいですよ!斬らねば、死んでいった者達に申し訳が立ちません!」

 

華琳「あなたの怒りは尤もよ。だけど、抑えなさい。話が進まないわ。それでも怒りが収まらないなら、私を斬ってからこの三人を斬りなさい。」

 

これには

 

純「ッ!」

 

純は目を見開き、固まった。

 

華琳「純。」

 

純「・・・御意。」

 

これには、純は渋々怒りを静め、太刀を納めた。

それと同時に、皆はそれぞれほっと一息ついた。

 

華琳「それで良いの。ありがとう、純。」

 

そう言い、華琳は純の頭を優しく撫でた。

 

天和「えっと・・・私達、死なないんですか?」

 

華琳「ええ。今のところ、私の弟であり、『黄鬚』が斬らないと言ってるから。けど、どうなるかはこれからの話の内容次第よ。」

 

純「姉上。俺は兵の様子を見に行きます。」

 

そして、純はそう言い残し、本陣を後にした。

 

桂花「純様!」

 

華琳「良いのよ、桂花。」

 

桂花「ですが華琳様!」

 

華琳「少し機嫌が悪くなっただけよ。大丈夫、すぐに機嫌が良くなるわ。」

 

桂花「そうでしょうか?」

 

華琳「純はとても情に厚い優しい子よ。民を散々殺し、その上何も反省しない彼女らの態度が許せなかったのでしょう。」

 

桂花「はい。」

 

華琳「さあ。それより、何故このような事が起きたのか、子細に話しなさい。」

 

そう言い、華琳達は事の次第を話し合ったのだった。

その頃純は

 

純「はっ!ふっ!はあっ!」

 

一人太刀を振り回していた。華琳に兵の様子を見に行くと言ったが、今の状態で兵の様子を見たらマズイと判断したため、こうして太刀を振り回していた。

とはいえ、その立ち振る舞いと太刀筋は見事なもので、見るものを魅了するものだった。

 

剛「純様。」

 

凪「素晴らしい太刀筋です。」

 

真桜「何や、まるで舞を舞ってるみたいや・・・」

 

沙和「そうなのー!」

 

それを、剛と三羽烏が声をかけた。

 

純「剛か。それに・・・凪達も・・・」

 

剛「相変わらず、あなたの太刀筋は見事なものです。先の戦でも、目を奪われましたよ。」

 

凪「はい!真桜の言う通り、まるで舞のようでした。」

 

真桜「ウチには無理な芸当やな。」

 

沙和「沙和もなのー!」

 

そして、剛は純に水が入った竹筒を渡した。

 

純「剛も、中々なものだったぞ。そのデケー剣を自在に操れんだからよ。凪達三人も、中々の腕だな。特に凪、見事な体術だったな。」

 

そう言い、純は水を飲んだ。

 

剛「滅相もない。あなただって、この剣を自在に扱えますよ。」

 

凪「ありがたきお言葉です!これからも精進します!」

 

真桜「良かったな、凪。」

 

沙和「凪ちゃん、とっても嬉しそうなのー!」

 

その様子を

 

純「ふっ・・・。」

 

純は微笑んでみていた。

 

剛「・・・しかし、随分と苛立っておりますね。僅かに太刀筋が乱れてましたよ。何かありましたか?」

 

純「・・・お前はよく見てるな。」

 

剛「恐れ入ります。」

 

純「・・・黄巾党の本隊は潰した。だが張三姉妹は、各地の村を散々に荒らし、罪なき者を殺した。にもかかわらず、奴らは何も反省してねー。俺は今すぐにでもあの三人を斬り殺してー。そうじゃなきゃ、死んでいった者達に申し訳が立たねーよ。」

 

純「だが姉上がそれを許さぬ。姉上にも何か考えがあるのだと思うのだが・・・俺は姉上と違って頭が悪いからさっぱり分からぬ。」

 

剛「・・・成程。」

 

すると

 

稟「曹操殿は恐らく、あの三姉妹の歌の力を使って、兵を集めようと考えているのですよ。」

 

風「そうですよ~。」

 

稟と風が二人の間に入った。

 

純「稟・・・風・・・」

 

凪「稟様・・・風様・・・」

 

真桜「稟と風か・・・どういう事や?」

 

沙和「なのー?」

 

剛「軍師殿。教えて下さい。」

 

稟「曹操殿は、この大陸に覇を唱える為には今の勢力では到底足りない。だからあれだけの賊を熱狂させ、この軍の将兵にも少なからず影響を与えた程の力です。故に、彼女らのその歌の力を利用し、徴兵し兵力を上げようと考えておられるのです。」

 

剛「成程・・・流石は曹操様だ。」

 

風「大丈夫ですよ~。純様のお気持ちはここの将兵も同じ思いです。けど、皆共に我慢しておられます。ですから、今はその苛立ちを鎮めて、華琳様の覇道を邪魔する者をその刃で斬り殺して下さい~。」

 

稟「はい。風の仰るとおりです。皆も、同じ思いですよ。」

 

すると、殆どの兵達が、純の周りに集まった。

 

純「お前ら・・・」

 

そして

 

「「「曹彰様!」」」

 

皆跪き、拱手した。

それを見た純は

 

純「・・・皆も同じ思いの筈なのに、俺は皆の前ではしたない姿を見せてしまった。すまなかった。」

 

そう言い、拱手し謝罪した。

 

純「だから、改めてもう一度誓おう!例え何があろうとも、俺達は心を一つにし、共に苦楽を分かち合おう!」

 

「「「はっ!我らは、曹彰様と共に!!!」」」

 

そして、将兵達は皆、そう純に言ったのだった。

その様子を

 

華琳「ね、大丈夫だったでしょ?」

 

桂花「はい。華琳様の仰る通りでした。」

 

柳琳「一時はどうなるかと思いましたが・・・」

 

華侖「ホントに良かったっすー!」

 

季衣「良かったですね、春蘭様!」

 

春蘭「ああ、そうだな。」

 

秋蘭「純様・・・」

 

栄華「お兄様・・・」

 

華琳達は目を細めて見ており

 

天和「す、凄いねー!」

 

地和「こ・・・これが噂の『黄鬚』なの・・・!」

 

人和「そうね・・・ちぃ姉さん、二度と彼に逆らわないようにね。」

 

地和「わ、分かってるわよ!」

 

張三姉妹に至っては、この様子に鳥肌が立ってしまったのだった。

これにより、各地を荒らしていた黄巾党の反乱は終わったのであった。



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幕間2 曹姉弟の過去

曹姉弟の過去です。


華琳と純は同い年の姉弟であるが、腹違いであり、一日遅く生まれてしまったため純が弟である。

純の母親は、純を生んですぐに亡くなってしまったため、父親曹嵩は純を引き取り、娘の華琳同様、可愛がった。華琳の生みの母も、曹嵩と同様、純を実の息子の如く可愛がった。

そして、二人は成長し、それぞれすぐに非凡な才を見せるようになった。

そんなある日の事、曹家でとあるイベントを開いた。この日は、曹嵩の誕生日であり、その誕生日会を開いた。

 

「「「曹嵩様、誕生日おめでとうございます!!」」」

 

曹嵩「うむ、皆ありがとう。今日は天気も良く、実に良い日だ。美酒に美味い料理で溢れている。一緒に盛り上がろうではないか!!」

 

「「「御意!!」」」

 

曹嵩「さあ、わしと共に、この杯を飲み干そう。」

 

そして、曹嵩は誕生日会に集まった人と一緒に酒を飲んだ。

 

曹嵩「後ほど、武将達には弓比べを文官達には賦比べを行う。弓比べのやり方は簡単じゃ。あそこに二つの的がある。百歩以内に矢を放ち、的の中心に命中出来たら良い。その中で、わしが誰が良かったかを決める。賦比べも同様じゃ。」

 

そう言い、曹嵩は皆と一緒に美味い料理と美酒を楽しんだ。

暫くして、弓比べが始まった。

 

兵士「「「おう!!おう!!おう!!」」」

 

これには、周りの兵士達は盛り上げるため声を上げた。

 

春蘭「はっ!」

 

まず最初に春蘭から行った。

 

春蘭「はっ!!」

 

春蘭自身、弓は剣と比べて得意ではないが、無難に矢を的に当てた。

 

秋蘭「ふっ!!」

 

次の秋蘭は、元々得意武器であるため、こともなげに命中させた。

 

華侖「ほいっす!!」

 

剛「はっ!」

 

続く華侖と剛も、二人ほどの腕は無いが、春蘭同様無難に命中させた。

そして

 

純「はっ!」

 

純の番が来て、純は馬を走らせた。

 

純「はっ!」

 

その時、純の声を聞いた曹嵩は、身を乗り出した。

 

家臣A「曹嵩様、曹彰様です!二本の弓をつがえています!」

 

純「はあっ!!」

 

純は二本の弓を構えた。そして

 

純「はあっ!!」

 

矢を放ち、二本とも的のど真ん中に命中させた。この瞬間、純は弓を掲げて喜びをアピールし、兵士達も大喜びした。

 

家臣A「矢はどちらもど真ん中に命中しました!!どうやら弓比べの一番は、若君ですね!!」

 

それを見た家臣は、純の弓の神技に興奮していた。

 

純「どうだ!!やったぞ、どうだ!!」

 

その間も、純は当てた喜びを兵士達にアピールしており、兵士達も

 

兵士A「流石曹彰様だー!!」

 

兵士B「流石俺達の大将だぜ!!」

 

兵士C「一生ついていきます!!」

 

自分の事のように喜んでおり

 

春蘭「おお!!流石純様だ!!」

 

秋蘭「ああ、そうだな。」

 

華侖「流石純兄っすー!!」

 

剛「流石純様だぜ!!」

 

華琳「フフッ・・・本当、あの子の武は凄いものね・・・」

 

春蘭と華侖は大喜びし、秋蘭と剛は普段通りに振る舞っていたが、自身の主の姿に喜んでおり、華琳も自分の事のように嬉しそうな表情を浮かべたのだった。

 

曹嵩「中々やるな、流石純だ!!」

 

家臣A「はい!!」

 

これには曹嵩も、喜びの表情を浮かべていた。

そして、弓比べが終わり

 

曹嵩「此度の弓比べ、一番は純じゃ!!純、前に出よ。」

 

純「はっ!」

 

そして、純は曹嵩の前に移動した。

 

曹嵩「中々の腕だ、流石じゃ。」

 

純「お褒めに預かり、恐悦至極です、父上。」

 

曹嵩の言葉に、純は跪き拱手した。

 

家臣A「曹嵩様。曹彰様の武は、誠に他の追随を許しません。」

 

曹嵩「前から言っておるが、お主は武芸、将兵の扱いに長けていても気性は激しく、全く書を読まず、学に力を入れぬ。お主は将来何になりたいのじゃ?」

 

純「俺は将来、衛青と霍去病のような将軍になり、戦場にて功を立て賊を一掃し、苦しむ民を水火より救う。他に出来る事はありません。」

 

曹嵩「つまり将来は大将軍になりたいのじゃな?」

 

純「はい!」

 

曹嵩「では聞こう、如何にして大将軍になれると思う?」

 

純「功あらば賞し、罪あらば罰す。兵と苦楽を共にし、武器を持ち共に戦い何事にも恐れず!」

 

この言葉に

 

曹嵩「やはり純は大将軍になれる器じゃ!」

 

家臣A「如何にも!」

 

純「ありがとうございます!」

 

曹嵩は非常に嬉しそうに言ったのだった。

賦比べでは、華琳が圧倒的な才を見せ、曹嵩を大いに喜ばせたのだった。

 

 

 

 

 

 

曹嵩「実に見事じゃった!良き日じゃった!」

 

家臣A「はい!姫様も若君も実に立派になりましたね!」

 

曹嵩「うむ。それぞれの才を存分に発揮しておる。華琳は君主としての器があり、純は武勇と軍才に溢れておる。あの二人が互いに力を合わせ助け合えば、曹家は安泰じゃ。」

 

家臣A「はい。誠にその通りです!」

 

曹嵩「うむ。」

 

そう、曹嵩は目を細めていた。

その頃、華琳と純は

 

純「姉上!今日は楽しかったですね!」

 

華琳「ええ!」

 

純「父上も、非常にお喜びでしたね!」

 

華琳「そうね!けど、あなたの弓の腕は相変わらず流石ね!」

 

純「へへっ!衛青と霍去病になるんですから、これくらい当然です!」

 

そう言い、純は頭の後ろで手を組んで仰向けに寝ていたが、目を輝かせていた。

 

純「それに、姉上の賦も流石でしたよ!よく分からなかったですが、スゲー心に響きましたよ!」

 

華琳「そう。ふふ・・・ありがとう。あなたに褒められるのが、私にとって一番幸せよ。」

 

純「俺は戦場で敵を斬り殺し、姉上は難しくてよく分かんねー仕事をする。これで、共に父上を支え合いましょう!」

 

華琳「ええ!」

 

部屋でお互いに誕生日会の事を話し、笑い合っていた。

それからひと月が経った頃だった。

 

春蘭「華琳様!」

 

ドガンッ

 

栄華「春蘭さん!またそのように扉を!何度言わせれば気が済むのですの!」

 

華琳「良いのよ、栄華。」

 

栄華「しかし・・・!」

 

華琳「良いの。これが春蘭よ。それで春蘭、どうしたの?」

 

春蘭「はっ!純様が、村を襲った賊を平定したとの知らせが入りました!」

 

これには

 

華琳「そう!流石は純ね!」

 

栄華「はい!やはり、お兄様は本当にお強いですわね!」

 

華琳「ええ!」

 

華琳とその場にいた栄華は破顔した。

 

春蘭「戦後処理をし、兵馬を整えた後、帰還するとの事です!」

 

華琳「そう。これでお父様の病も良くなれば・・・」

 

栄華「はい・・・」

 

その時だった。

 

華侖「華琳姉ぇ!大変っすよー!」

 

華侖と柳琳が慌てた表情を浮かべながらやって来た。

 

華琳「どうしたの、華侖?」

 

華侖「曹嵩様が・・・!曹嵩様がまた血を吐いたっすー!」

 

これには

 

華琳「何ですって!?」

 

華琳は驚きの声を上げ、すぐにその場にいる皆と一緒に曹嵩の部屋に駆けつけた。

 

 

 

 

 

曹嵩の部屋

 

 

 

 

 

華琳「お父様!」

 

春・栄・侖「「「曹嵩様っ!」」」

 

部屋に入ると

 

柳琳「お姉様・・・」

 

華琳母「華琳・・・」

 

柳琳と華琳の生みの母がおり、華琳達の顔を見るや、首を横に振った。

それを見た華琳達は、急いで寝台に近付いた。

そこには

 

曹嵩「・・・。」

 

明らかにやつれ、弱り果てている曹嵩の姿だった。

 

華琳「柳琳・・・お父様は・・・どうなの?」

 

柳琳「医師によると・・・もう・・・長くはないと・・・」

 

柳琳「ぐすっ・・・曹嵩様・・・」

 

それを聞いた華琳は、目に涙を溜めながら

 

華琳「お父様・・・華琳です。」

 

曹嵩を呼んだ。

すると

 

曹嵩「ああ・・・華琳か・・・」

 

曹嵩が目を覚ました。それを見た華琳は

 

華琳「お父様・・・お父様・・・」

 

曹嵩の手を両手で優しく握りしめた。

 

曹嵩「・・・華琳。我が曹家を継ぐのだ。」

 

華琳「お父様・・・それはなりません!お父様はすぐ良くなります!弱気にならないで下さい!」

 

それを聞いた曹嵩は

 

曹嵩「・・・いや、自分の事は・・・一番理解しておる。・・・その前に、一つお主に言い遺したい事がある。」

 

と言った。

 

華琳「お父様・・・。」

 

曹嵩「・・・兵を率いて戦場に駆け、天下の争いに与するような事においては・・・お前は純に遠く及ばぬ・・・。」

 

華琳「はい。それは重々理解しております。私は、純の武勇と軍才には遠く及びません。」

 

曹嵩「・・・されど才ある者を用いて国を発展させる事については・・・お前は純より遙かに勝っておるのじゃ。」

 

華琳「しかしお父様・・・。曹家の将兵は、皆純と共に生死を共にしており、人望も厚いです。それは私を遙かに凌ぎます。彼らにとって、純は家族も同様。全ての将兵が純に従っても・・・私に従うでしょうか?」

 

華琳「私と純では・・・戦での功は遙かに違います。彼らを・・・従わせる自信がありません。」

 

これには、華琳は涙を流しながら不安な様子を見せ、その思いを吐露した。

これに曹嵩は

 

曹嵩「はっはっは・・・。華琳よ・・・そこに気付く見識が・・・お前には備わっておる。確かにお前は・・・純と比べて・・・戦での手柄はあまりない。全ての将兵は純に心服しておるだろう。だが・・・覚えておけ。」

 

曹嵩「お前が主で・・・彼らは臣だ!」

 

そう華琳に叱咤した。

 

華琳「お父様・・・。」

 

曹嵩「ハア・・・ハア・・・お前は曹家を継いだら・・・戦の事・・・将兵の事全てを・・・純に委ねるのじゃ。」

 

曹嵩「お前は常に・・・領国内の事を考え・・・互いに力を合わせよ・・・。大丈夫じゃ・・・お前は・・・一人じゃない。皆がおる・・・。皆が・・・お前を支えてくれる・・・。」

 

すると

 

華琳母「華琳・・・。ご先祖様に恥じぬよう、曹家を継ぐのです。」

 

華琳の母は、涙を流しながら華琳にそう言った。

それを聞いた華琳は

 

華琳「お父様・・・謹んで・・・お受け致します。」

 

涙を流しながら拱手し、頭を下げた。

 

曹嵩「・・・それを聞いて安心した。・・・春蘭、華侖、柳琳、栄華・・・。お前達も・・・華琳と純の事を頼んだぞ・・・。」

 

春蘭達も

 

春・侖・柳・栄「「「「はっ!!!!」」」」

 

涙を流しながら拱手した。そして

 

曹嵩「・・・良き人生じゃった・・・」

 

曹嵩はそう言い、息を引き取った。

 

華琳「お父様!」

 

華琳母「あなた!」

 

春蘭「曹嵩様ー!!わぁーっ!!」

 

華侖「曹嵩様ー!!目を開けて下さいっすー!!」

 

柳琳「いけません、曹嵩様!!」

 

栄華「曹嵩様!!」

 

華琳「お父様!!目をお開け下さいっ!!お父様ー!!」

 

彼女らがどんなに呼びかけても、曹嵩は二度と目を開ける事はなかったのだった。

 

華琳「・・・春蘭。」

 

春蘭「ぐすっ・・・はい!」

 

華琳「純達に遣いを出しなさい。」

 

春蘭「はっ!直ちに!」

 

華琳「栄華。お父様の葬儀の準備を。」

 

栄華「お任せ下さい。」

 

そして、華琳の命で行動が開始された。

その頃、純は秋蘭と一緒に戦後処理をしていたところだった。

 

純「此度の戦の勝利で、父上の病が良くなれば良いんだが・・・」

 

秋蘭「はい、そうですね。」

 

剛「きっと、良くなると思いますよ。」

 

純「・・・そうだな。」

 

するとそこへ

 

兵士A「曹彰様!曹彰様!」

 

春蘭が送った遣いの兵士がやって来た。

 

純「一体何事だ?」

 

兵士A「曹操様の命です。すぐにお戻り下さい!」

 

純「何があった?」

 

兵士A「曹嵩様が・・・お亡くなりに・・・。」

 

純「・・・何だと!?」

 

秋蘭「・・・!?」

 

剛「何と・・・!?」

 

兵士の言葉に、純と秋蘭、そして剛は目を見開き驚いた。

 

純「お前!デタラメを抜かすんじゃねーよ!父上が亡くなるなんて、あり得るか!」

 

そして、純は涙を溜め怒りの声を上げながら遣いの兵士に詰め寄ろうとした。

 

秋蘭「純様!お止め下さい!」

 

剛「純様!」

 

これに、秋蘭と剛は羽交い締めにして必死に止めた。

 

兵士A「曹彰様!私とて、曹嵩様が亡くなったなど信じられません!けど、真なのです!」

 

兵士は、涙を流し必死の表情で純に言った。

 

純「っ!」

 

これに、純は脱力し膝を付き

 

純「アアアアアアッ!!」

 

大声を上げて泣いた。これを見た秋蘭は、目に涙を浮かべながら純の傍に寄って、優しく抱き締め、剛は顔を天に向け、涙を流した。

 

秋蘭「曹嵩様は、何か言い遺したか?」

 

兵士A「曹嵩様は亡くなる前に、曹操様に曹家を任せ、曹彰様は姉曹操様と共に力を合わせ助け合うようにと。」

 

それを聞いた秋蘭は

 

秋蘭「・・・分かった。」

 

と言い、遣いの兵士はその場を後にした。

 

秋蘭「純様・・・お辛いでしょうが・・・直ちに戻りましょう。」

 

純「・・・ああ。」

 

そして、純は兵馬を纏め出発した。

 

 

 

 

 

 

曹嵩霊前

 

 

 

 

 

 

曹嵩の霊前には、華琳が一人座っていた。

 

兵士B「申し上げます、曹操様。曹彰様が戻られました。」

 

その時、兵士がそう伝えてきた。それを聞いた華琳は

 

華琳「分かったわ。」

 

そう言って、兵士を下がらせた。すると、純が戦装束の状態で現れ

 

純「・・・!」

 

曹嵩の霊前を見て、絶句した。そしてフラフラとした足取りで霊前に近付き跪いて

 

純「父上・・・申し訳ございません。俺は親不孝者です。戻るのが遅すぎ、看取る事も出来ず・・・父上・・・」

 

泣きながら曹嵩の霊前で謝罪した。すると、華琳は立ち上がって純にある事を言った。

 

華琳「純。私に代わって、曹家の後を継いでくれないかしら?」

 

それに驚いた純は

 

純「姉上、何を言われるのですか!?父上は姉上に後を任せたのです。俺は姉上と違って、そのような才は持っておりませんし、何より姉上を差し置いて曹家を継ぐことなど出来ません!」

 

立ち上がってそう言った。

 

華琳「聞いて、そうじゃないわ。曹家を思っての事なの。あなたは武勇と軍才に溢れ、全ての将兵を束ね共に生死を共にしてきた。それ故、最も人望が厚い。あなたが曹家を継げば、大業を成せるわ。」

 

それを聞いた純は

 

純「ならば、お聞かせ下さい。姉上は何を?」

 

そう尋ねた。すると華琳は

 

華琳「私はあなたの配下となって、あなたを支えるわ。」

 

そう言った。

 

純「それが父上のご遺言であると?」

 

華琳「・・・お父様の遺言は、曹家を私が継ぎ、あなたがそれを支え、互いに力を合わせよと。しかし、今の曹家を引っ張れるのは純、あなただけなの!」

 

そう言われた純は、曹嵩の霊前を見て

 

純「お気持ちは分かりました。」

 

そう言った。そして

 

純「されど俺は頭が悪いため、そのような器はございません。お断りします。」

 

そう言い、拱手してその場を後にしたのだった。

 

 

 

 

華琳母の部屋

 

 

 

その部屋には、華琳の生みの母がいた。すると

 

純「義母上、純が戻りました。」

 

純が参り、戻ったことを報告した。

 

華琳母「純、私は幼くして母を、その後は友であったあなたの母親を、そして今度は夫を亡くした。人生とは、誠に辛いものです。」

 

純「お察し致します。なれど父上を助け、姉上を育て、そして、血は繋がっていなくても、俺を実の息子の如く扱ってくれて、ただただ敬服致します。」

 

華琳母「私も辛いですが、私よりもずっと苦しんでる者がおります。」

 

純「・・・どなたですか?」

 

華琳母「華琳です。あの子はあなたと同い歳。あの歳で、曹家を任されたのです。その道は険しいものです。華琳は、大きな不安に苛まれ、今も震えが止まりません。いくらあなたでも、それが分かりましょう。」

 

華琳母「先程華琳が、あなたに曹家を任せると言われましたね。」

 

純「はい。お断りしました。」

 

そして

 

純「義母上。父上のご遺言、お聞かせ下さい。」

 

そう尋ねた。

 

華琳母「純よ。そなたが言ったように、そなたとは血は繋がっていないが、実の息子同様に思っておる。故に、全てを打ち明けましょう。」

 

そして、純に曹嵩の本当の遺言を述べた。

 

華琳母「お父上が残した遺言は、華琳に曹家を任せるというもの。」

 

真実の遺言を聞いた純は

 

純「ならば、なぜ俺に曹家当主の座を?」

 

そう言った。すると

 

華琳母「まだ分かりませんか?華琳は、確かにあなたを姉として慕っておる。しかし、それと同時に最も恐れているのです。全ての将兵に慕われているあなたを見て、自分なりに将来を考え、今あなたに譲った方が良いと考えた。」

 

華琳母「分かりますか?そうすることで、自分の命を守り、曹家の将来を守ろうとしたのです。この考えは全ての将兵も同じでしょう。純、あなたも知っているように、華琳は聡明です。しかし、あなたが思っている以上に聡明すぎるのです。よって、将来のために自らの地位を放棄すると決めた。」

 

華琳の母はそう述べたのだった。それを聞いた純は、頭を下げ

 

純「義母上、全て心得ました。」

 

そう言って、部屋を後にしたのだった。

 

 

 

 

 

曹嵩霊前

 

 

 

 

純は、春蘭、秋蘭、華侖、柳琳、栄華を引き連れて、華琳がいる曹嵩の霊前の部屋に来た。そして跪き、拱手してこう述べた。

 

純「父上!この純は、春蘭、秋蘭、華侖、柳琳、栄華らと共に、父上の霊前で誓いを立てに参りました。心を一つにして姉上を助け、命を懸けて、姉上をお支えします!」

 

春・秋・侖・柳・栄「「「「「命を懸けて、華琳様/華琳様/華琳姉ぇ/お姉様/お姉様/をお支えします/するっす/しますわ!!!!!」」」」」

 

そう言って、頭を下げたのだった。それを聞いた華琳は

 

華琳「みんな、どうか立ってくれないかしら。」

 

そう言い、純達は立ち上がった。

 

華琳「この私も、霊前で誓おう。大業を成すため、栄辱生死を共にするわ!」

 

全員「「「はっ!!!」」」

 

華琳「純、改めて曹軍の全兵馬をあなたに託すわ。皆も、戦では私ではなく純に全て従いなさい!」

 

純「謹んでお受け致します!」

 

春・秋・侖・柳・栄「「「「「はっ!!」」」」」

 

そう言って、華琳は拱手し、純達もそれに続いて拱手した。これにより、曹一門の結束は強まったのであった。



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30話

30話です。


純の部屋

 

 

 

 

剛「純様、俺の分の書類を纏めておきました。」

 

稟「私の方も纏めておきました。」

 

風「風もですよ~。」

 

純「うむ、ご苦労だったな。」

 

そう言って、純は三人分の竹簡を確認した。本来、純はこういう書類は得意ではなく、他の人に任せていたのだが、稟曰く

 

稟「純様が信頼してくれるのは非常にありがたいことですが、自らご確認していただかないと意味がありませんよ。」

 

と稟に言われてしまい、それ以来自分でも出来る限り確認を取っていた。

 

純「ふむ・・・」

 

そして、純は一つ一つ丁寧に確認していた。

 

純「三人とも、中々良い査定だな。これなら、兵達に与える恩賞をしっかり与える事が出来る。」

 

純の言葉に

 

剛「ありがとうございます。」

 

稟「はっ。」

 

風「はい~。」

 

三人とも、頭を下げた。

 

純「では、これは栄華に提出する事とする。お前達、ご苦労だったな。今度何かお礼するよ。」

 

剛「本当ですか!」

 

風「ホントですか~!約束ですよ~!」

 

稟「ちょっと風!」

 

純「稟は嫌か?」

 

稟「い、いえ、私は・・・純様のお役に立てたのならそれで・・・」

 

純「はは。まあ、今すぐ決めろとは言わねーから、何か思いついたら言って。」

 

稟「か・・・考えておきます。」

 

純「うむ。そんじゃ、また後で。」

 

そう言い、純は部屋を後にした。

 

純「栄華はまだ居るかな・・・。」

 

そう言い、純は栄華の執務室の前に立った。

 

純「静かだな・・・。どっかで休んでんのかな?」

 

そう思った純は、執務室の扉を開いた。すると

 

栄華「すぅ・・・すぅ・・・。」

 

純「栄華?寝てんのか?」

 

栄華は執務室の机に突っ伏して、静かに寝息を立てていた。

 

純「疲れてんだな・・・。」

 

開け放たれた窓から気持ち良い風が入り込み、栄華の前髪を揺らしていた。

 

純(まあ、良い天気だしなあ・・・。俺だったら、木の下で昼寝すんな。稟に怒られるけど・・・)

 

純「起こすのも悪いし、待つか。」

 

そう思った純は、近くにあった椅子を引き、栄華の寝顔が見える位置にそっと座った。

そして、栄華の頭にそっと手を添え、頬に触れたりした。

 

純(栄華・・・。)

 

すると、自分自身も少し眠くなっていくのを感じた。

 

純(ちょっと寝るか、俺も・・・)

 

そう思った純は、そのまま眠ったのだった。

暫くして

 

栄華「んっ・・・ああ、思ったよりも長く眠ってしまったようね・・・。」

 

栄華が目を覚ました。

 

栄華「んんーっ、んっ・・・お陰で頭もスッキリしたし、お仕事を再開させて・・・えっ?」

 

背伸びして、仕事を再開しようとしたら

 

純「・・・すぅ・・・すぅ・・・。」

 

純が横で寝ていたのだった。

 

栄華「お、お兄様・・・!?」

 

これには栄華もびっくりしたのだが、純が持ってる竹簡を見て

 

栄華「恩賞の査定を提出に参ったのですね・・・。」

 

と何しに来たのか察したのだった。

 

栄華「しかし・・・」

 

栄華は純の寝顔を見て

 

栄華「やっぱり、お兄様の寝顔は・・・可愛らしいですわ・・・。」

 

そう言った栄華は、純の頬や髪に触れたりした。そして

 

栄華「・・・スンスン。」

 

純の匂いを嗅いだりしていた。

 

栄華「はぁぁ~・・・お兄様・・・。」

 

その行動は少しエスカレートし、純の服に顔を当てて擦り寄せるほどだった。

 

栄華「お兄様・・・お兄様・・・。」

 

そして、自ら純を抱き締め堪能していた。その時、栄華は自身が持っているぬいぐるみを見て

 

栄華(お兄様・・・)

 

ある事を思い出していた。

 

それは、栄華がまだ幼かった頃だった。

その日、栄華は誕生日を迎え、それぞれが栄華にプレゼントをあげた。華琳や春蘭、秋蘭、華侖、柳琳はそれぞれ首飾りや耳飾りをあげたりし、栄華の誕生日を祝った。

 

栄華「お兄様は私に何をあげますの?」

 

純「それは見てのお楽しみだ。栄華、ちょっと目を瞑って手を出して。」

 

栄華「はい、こうですの?」

 

純にそう言われた栄華は、目を瞑り手を出した。すると、純はある物を栄華の手に置いた。

 

栄華(な、何でしょうこれは・・・?非常に柔らかいですわ・・・。これは一体・・・?)

 

そして、

 

純「目を開けな。」

 

栄華「はいっ!・・・わあぁぁぁ♪」

 

栄華が目を開けると自身の手に兎らしきぬいぐるみがあり、口には何かを入れるのに使うチャックらしき物が付いていた。

 

純「この前、お前と一緒に街に出ただろう?」

 

栄華「はい。」

 

純「その時お前がこういうぬいぐるみ欲しがってたのを見てたんだよ。それで、材料を揃えて作って、何かを収納できるぬいぐるみを栄華に作ろうと思ったんだ。」

 

栄華「えっ!?これってお兄様が作ったんですか!!」

 

純「ああ、こういうのを作るのは初めてだったから、世辞にも店頭に売れる物じゃねーんだけどな・・・。」

 

そう言われてよく見ると、僅かに糸も飛び出ていて縫い目なども見えており、とても店頭に出せる物ではなかった。

しかし

 

栄華「いいえ、お兄様の作った物なら、どんな高価な物よりも千金の価値がありますわ・・・。大切に致します・・・。」

 

と栄華はぬいぐるみを大事に抱き締め、大粒の涙を流しながらそう言った。それを見た純は、少し慌てたのだった。

 

それ以来、栄華は今でもそのぬいぐるみを大事に使っており、それと同時に純に強い想いを寄せるようになった。後に秋蘭に気付かれた後も、秋蘭と一緒に純と触れ合ったりした。

 

栄華「お兄様・・・チュ。」

 

そして、栄華は純の唇を奪った。そして、純から離れ頭と頬を撫でた後、そのままそっとして仕事を始めた。

開け放たれた窓から吹く優しい風が、二人を包み込んだのだった。



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31話

31話です。


陳留・城下

 

 

 

 

店主「へいお待ちー。」

 

秋蘭「さて、こんなものですかね。」

 

純「ああ、そうだな。」

 

純と秋蘭は、今陳留の城下で食材の買い出しをしている。その訳は、昨日純が言ったある一言がきっかけだった。

 

 

 

 

回想

 

 

 

 

純「なあ、秋蘭。」

 

秋蘭「はい、何でしょう?」

 

純「いきなりでわりーんだけど、お前の手作り料理食いてーな。」

 

秋蘭「突然どうしたんですか?」

 

純「いや、何か唐突に食いたくなった。」

 

秋蘭「ふふっ、そうですか。では、何を食べたいですか?」

 

純「そうだな。お前の飯は最高に美味いからなぁ。うーん・・・。」

 

そう言って、純は少し考え込んだ。そして

 

純「そうだ、焼売。」

 

秋蘭「焼売ですか?」

 

純「ああ、焼売食いてー。お前、出来るよな?」

 

秋蘭「ええ、作れます。」

 

純「なら、一緒に食おうぜ。ダメ、かな?」

 

そう言って、純は秋蘭の顔を覗き込んだ。すると、

 

秋蘭「・・・はい!構いません!」

 

と秋蘭は嬉しそうな顔をした。

 

純「よっしゃ!!なら、早速仕込みの材料買いに行こう!!」

 

秋蘭「はい。」

 

 

 

 

回想終了

 

 

 

 

そして、二人で一緒に乾物屋に行き、仕込みの材料を買った。その時の秋蘭は、純に久し振りに料理をせがまれた事で、普段より気持ちが弾んでいた。それが他の材料を買いに純と一緒に行ってる今でも、その気持ちは続いていた。

 

純「秋蘭、荷物は俺が持つよ。」

 

秋蘭「え、しかし・・・良いのですか?」

 

純「構わねーよ。ほれっ。」

 

そう言って、純は荷物を持った。

 

秋蘭「ありがとうございます。」

 

純「気にすんな。さて、次は皮の材料だな・・・。」

 

そして、材料の買い出しを終えたのだった。

 

 

 

 

 

 

厨房

 

 

 

 

 

 

純「さて、始めるか。」

 

秋蘭「はい。」

 

そして、厨房に着いた二人は、焼売を作った。

 

純「秋蘭、皮の練り具合、こんなもんで良いか?」

 

秋蘭「はい。その程度です。」

 

純「分かった。なら、今度は肉を切るな。」

 

秋蘭「はい、お願いします。」

 

そう言った秋蘭だったが、秋蘭の手元には、さっきまでピチピチと跳ねていた筈の大きな川エビが見事なむき身に変わっていた。

しかし、もちろんそこで秋蘭の手は止まらず、表皮をむいた大量のタマネギを端から真っ二つにし、みじん切りにした。

 

秋蘭「純様、肉はどんな調子ですか?」

 

純「ああ、これでどうだ?」

 

秋蘭「完璧な大きさです。今度はそれを三つに分けて、タマネギと一緒に混ぜて下さい。」

 

純「了解。」

 

そう言って、純は肉をタマネギと一緒に混ぜた。

 

純「秋蘭、食器は?」

 

秋蘭「用意しました。純様、どんな塩梅ですか?」

 

純「ほい、これ。もう少し混ぜた方が良いよな?」

 

そう言って、純は肉を見せた。

 

秋蘭「そうですね、お願いします。」

 

そして、第一陣を練り終え、現在純は第二陣に突入していた。第一陣の方は、

 

秋蘭「・・・。」

 

秋蘭のワンアクションで、あっという間に見事な焼売に大変身した。しかも、

 

純(俺の大きさに合わせてるな・・・。)

 

純に合わせて、普通よりも大きい焼売だった。

 

純「そろそろだな。」

 

秋蘭「はい。」

 

すると、

 

純「何か、本当に夫婦みてえだな、俺達。」

 

そう純が言うと、

 

秋蘭「はい・・・。」

 

秋蘭は幸せそうな顔でそう言った。すると、秋蘭の動きが少し加速し、先程の倍近い速さで焼売が並べられた。

 

秋蘭「さて、蒸しますね。」

 

純「ああ。」

 

すると、

 

純「秋蘭、お前も食おうぜ。」

 

秋蘭「え、しかし・・・良いのですか?」

 

純「良いんだって。だって、お前と食いてーし。・・・ダメかな?」

 

そう言って、純は覗き込んでそう言った。それを見た秋蘭は

 

秋蘭「・・・はい!!」

 

そう言って、純に抱き付いた。そして、焼売が出来上がり、二人で一緒に食べた。

 

純「・・・流石秋蘭。また上達したな。」

 

秋蘭「光栄の至り。」

 

そう言って、秋蘭は喜色満面の笑みを浮かべた。それを見た純は

 

秋蘭「あっ・・・。」

 

秋蘭の頭を優しく撫でた。すると秋蘭は、純に寄り添うようにくっついた。

 

純「はは。どうした、秋蘭?」

 

そう言って、純は秋蘭の顔をのぞき込んだ。

 

秋蘭「いえ、少し、このままで。」

 

すると、秋蘭は顔を真っ赤にしながらそう言った。そして、二人で仲良く焼売を食べたのだった。



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32話

32話です。


稟は、資料を持って歩いていた。その時ふと中庭に目をやると

 

純「・・・すぅ。」

 

純が、中庭の木の下で横になって眠っていた。稟が純を目で追ってしまったのは、ただ偶然そこにいたからではない。

 

稟(純様・・・。)

 

彼女は、彼の優れた軍才を愛していたが、彼と接する時間が多くなるほど、彼の人柄を知りそして、愛したのであった。

 

 

 

 

 

純の部屋

 

 

 

 

純「さて、今日はどうすっかな・・・。」

 

この日の純は休暇を取っており、一日部屋で過ごすか、どこかに出かけるか、迷っていた。すると

 

稟「純様。稟です。入っても宜しいですか?」

 

純「ちょっと待って。・・・良いぞ、入れ。」

 

扉が開き、稟が部屋に入った。

 

稟「失礼します。」

 

純「どうした稟?」

 

すると、

 

稟「えっと、純様。もし宜しければ今日、一緒に出かけませんか?」

 

稟は顔を赤らめながらそう言った。

 

純「え?俺と?」

 

稟「そうですが。」

 

純の一言に、稟はそう言って眼鏡のフレームを軽く上げ掛け直した。

 

純(稟って、あまり買い物とかしねーからちょっとびっくりだな・・・。)

 

と思っていると、

 

稟「あの・・・純、様?私とでは困るでしょうか?」

 

稟が俯きがちにしながら寂しそうな表情をした。

 

純「ううん、そんなわけないよ。行こう行こう。」

 

それを見た純は

 

純(何か、普段の稟と違って可愛いな・・・)

 

と思い稟の髪を撫で、頬に手を添えながらこっちに顔を向かせた。

 

稟「・・・はい。」

 

それに対し、稟は頬の手の上に掌を重ねて相好を崩して柔らかい笑みを浮かべたのであった。

 

純「それじゃあ、行こうか。」

 

稟「はい。」

 

そう言って、二人は互いに手を取り、腕を組みながら街に行ったのであった。そして、二人で買い物したり、商品を見たりなどして、充実した時間を過ごした。そして、二人は純の部屋にいた。

 

純「今日は楽しかったな。」

 

稟「はい。そうですね。」

 

純「明日もどっか行こうよ。」

 

すると、

 

稟「純様・・・明日は仕事ですよ。」

 

稟は眼鏡のフレームを上げ、ジトッとした目で純を見た。

 

純「はは、冗談だよ。」

 

稟「全く・・・。」

 

そして、稟は純の隣に座った。

 

純「そうだ。稟、お前に渡したい物があるんだ。」

 

そう言って、純は懐から髪飾りを一つ取り出した。その髪飾りには、椿の花に鈴がついていた。

 

稟「これは・・・。」

 

純「お前には、何度か助けて貰ってるからな。そのお礼。」

 

純は、少し恥ずかしそうに言った。

 

稟「はい。ありがとうございます。」

 

そう言って、稟は髪飾りを大事そうに胸に抱き締めたのだ。そして、髪飾りを付けて、

 

稟「どう・・・でしょうか?」

 

と純に尋ねた。

 

純「うん。とても似合ってる。買って良かった。」

 

と言った。それを聞いた稟は、純に抱き付き、胸に顔を埋めた。

 

純「稟・・・くすぐったいって。それに俺、風呂入ってねーからくせーぞ。」

 

稟「良いんです。私には好きな匂いですから。」

 

そう言って、稟は顔を擦り寄せたり、匂いを嗅いだりし、時々恍惚な笑みを浮かべたりした。

そして

 

稟「純様・・・」

 

純「ん・・・」

 

稟「・・・好き・・・です。」

 

と純に告白した。

 

純「・・・そっか。俺には秋蘭がいるけど、良いのか?」

 

稟「構いません。私も愛してくれれば、それで・・・」

 

純「・・・稟。」

 

稟「・・・純様。」

 

そして、そのまま二人は口付けをしたのであった。



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33話

33話です。


警備・屯所

 

 

 

凪「はぁ・・・。」

 

凪は、ここ最近溜息をついていた。その様子を見ていた

 

真桜「なーぎー、どうしたんー?」

 

沙和「凪ちゃーん、どうしたのー?」

 

真桜と沙和は、心配そうな顔で声をかけた。

 

真桜「なぁ、最近の凪はなんかおかしくないか?」

 

沙和「沙和もそう思うのー。」

 

普段の凪ではないので、二人は心配になった。凪がこうなった理由それは、

 

凪(純様・・・。)

 

凪が純に惚れていたからである。戦場での圧倒的な武勇、将兵の巧みな扱い、そして気遣いもあって、軍中にて人望を得ていた。

そんな彼に凪は憧れを抱いていたが、それは時間と共に愛に変わっていった。だからこそ分かるものがある。彼と仲が良い女性は誰もが美人だ。

凪には焦る条件しかなく、そんな中に純に近付くにはどうすれば良いかと、そんなことばかり考えていた。

 

真桜「な、なんや、めちゃめちゃ険しい顔してるで。」

 

沙和「何か深刻な悩みを持ってるのー。」

 

二人がこそこそとそんな話をしていると、

 

純「お前ら、ちょっと良いか?」

 

純が屯所にやって来た。

 

真桜「おぉ大将、入って・・・」

 

その時、

 

凪「じ、純様!ど、どうぞ!」

 

凪が急に元気になり、さらには頬を若干赤らめているのだった。その様子を見て、真桜と沙和の二人は理解した。

 

真・沙((これは惚れてるな/のー。))

 

と。

 

純「お前ら、この後暇か?」

 

凪「は、はい!自分はこの後休みでございます!」

 

真桜「ウチもや・・・」

 

沙和「沙和もなのー!」

 

純「そっか・・・。もし良ければ、一緒に狩りに行かないか?」

 

凪「よ、よろしいのですか?」

 

純「お、おお・・・。もしかして迷惑だったか?」

 

真桜「そんな事あらへんで。」

 

沙和「なのー!」

 

純「そっか。なら早速行こうか。」

 

そう言い、四人は一緒に狩りに出かけた。そして、猪や熊を狩って、それを皆に振る舞ったりしたのだった。

その日の夜、真桜と沙和は、凪に純について聞いてみた。

 

真桜「いいか凪、今から大事なこと聞くから、しっかりと答えるんやで。」

 

凪「?いったいなんだ?」

 

沙和「凪ちゃんは、純様の事が好きなの?」

 

その質問に、

 

凪「ななな、何を言ってるんだ、お前達は!?確かに純様は武人として、人として尊敬すべきお方でカッコいいし優しいけど・・・。」

 

凪は顔を真っ赤にしながらそう言った。

 

真桜「ようは好きっちゅうことやな。」

 

凪「・・・。」

 

すると、凪は顔を真っ赤にした状態で、コクリと頷いた。

 

沙和「凪ちゃんってば、真っ赤になっちゃって、かわいーのー!」

 

真桜「・・・うーん。」

 

沙和「ねえねえ、真桜ちゃん。」

 

真桜「分かっとる。凪のためや、一肌脱いだろ。」

 

沙和「でも、純様の周りには秋蘭様を筆頭に強敵が多いの。」

 

真桜「確かに。特に秋蘭様は大将とは幼い頃からの付き合い。一番の強敵や。」

 

沙和「そうなのー!秋蘭様は綺麗でカッコいいのー!」

 

真桜「せやな。けど、凪にも凪の魅力がある。そこを大将に見せなきゃな。」

 

沙和「そうなのー!そうすれば、きっと純様も、ドッキーンてしてキューンってなってくのー!」

 

凪「純様にはそのような姿は想像出来んが・・・。」

 

真桜「ともかく凪、諦めたらアカンで。」

 

凪「・・・わ、わかった。頑張る・・・。」

 

こうして、純が凪の事も好きになれるよう努力すると決意したのであった。



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34話

34話です。


司隷・洛陽

 

 

 

 

 

季衣「でっかーい。」

 

春蘭「どうだ季衣、驚いたか。」

 

栄華「・・・別に春蘭さんが誇るところではありませんでしょう?」

 

季衣「でも、陳留も大きいって思ってたけど、もっと大きい街があるんですねぇ。すごいなぁ・・・。」

 

純「はは。しかし、都は久し振りですね、姉上。」

 

華琳「ええ、そうね。」

 

純「懐かしいですね。覚えてます?良くここで私塾を無断欠席した俺を追い掛けてた事。」

 

華琳「覚えてるわよ。ホント、あなたのそれには苦労したわ。先生にどう説明すれば良いのかもね。」

 

純「別に少しくらい良いじゃないですか。」

 

それを聞いた華琳は

 

華琳「あなたの少しはどのくらいなのかしら?」

 

純「い、いひゃい!いひゃいですよ姉上!」

 

純の頬をつまんでそう言った。

 

燈「華琳様。遊ぶのは良いですが、急ぎましょう。西園軍の任命式、遅れるとそれだけで印象が悪くなりますし。」

 

それを見た燈は、そう言い純に助け船を出した。

 

華琳「それもそうね。」

 

そう言い、華琳は頬から手を離した。

 

純「いってー!姉上、やり過ぎですよ!」

 

華琳「これくらいですんだのだから、ありがたく思いなさい。全く・・・」

 

そう言う華琳だったが、どこか親愛の情を感じさせる顔だった。

そして、そのまま少し急いで朝廷に向かったのだった。その後、ボディチェックに持ち物検査などを行ったため、城内には入れたのは、結構な時間が経ってからだった。

 

 

 

 

 

朝廷

 

 

 

 

 

季衣「ほへー・・・。」

 

純「・・・季衣。」

 

季衣「あっ!」

 

純(まあ、気持ちは分かるな・・・。俺も小さい頃父上に連れてかれた時はこんな感じだったもんな・・・。)

 

季衣の反応にそう思っていると

 

秋蘭「純様。」

 

純「ああ。季衣、行くぞ。」

 

秋蘭に言われ、純達は華琳から離れ、後列に向かった。の際辺りを見渡すと、中には見覚えのある顔も混じっていた。

 

純(何進、皇甫嵩殿、呂布、田豊もいる・・・。後董卓と賈詡もいるな・・・。)

 

その際

 

皇甫嵩「・・・。」

 

純「・・・。」

 

皇甫嵩と目が合ったので、ちょっと会釈をしたら皇甫嵩も会釈をしたのだった。その横で

 

栄華「・・・ああ、この前仕立てさせたお衣装を着せたら、どれだけ似合う事でしょう・・・はぁはぁ。」

 

純「・・・栄華、止めろ。」

 

燈「純様の言う通りですわ。」

 

栄華がかなり危ない状態で董卓を見ていた。しかし、この広間には全体的にピリピリした空気が漂っており

 

何進「・・・。」

 

特に苛立ちを隠していないのが、中央の椅子の脇に立っている何進だった。その時

 

??「遅くなりましたわ、失礼!」

 

と、高飛車な声が聞こえた

 

何進「誰だ!名を名乗れ!」

 

袁紹「あら。この私に、名乗りが必要ですの・・・?」

 

と人を食った返事をしたが

 

何進「・・・いいから早く席に着け、袁本初。」

 

と言ったのだった。

 

純(相変わらずだな、麗羽・・・。)

 

その様子を見た純は、そう思っていると

 

何進「これで全員揃ったな。では、式典を開始する。」

 

何進「天子様の御前である。控えよ!」

 

といった声が聞こえたので、純達は平伏した。その上から

 

霊帝「・・・皆、此度は大義であった。今後も朕の西園軍を支える八校尉の一員として、一層奮励努力するように。」

 

皇帝の気怠げな声が聞こえた。

 

何太后「続いて、尚書令・劉協様。」

 

劉協「皆の者、お、面を上げよ。」

 

そうして顔を上げた。すると

 

栄華「・・・まあ♪」

 

玉座の間に立っていたのは、栄華好みの少女であった。

 

 

 

 

 

数時間後

 

 

 

 

栄華「・・・まったく。なんですの、あの方々は。」

 

と、式典が終わった後、栄華は一番不機嫌さを露わにしていた。

 

純「まあ栄華、そう不機嫌になるな。」

 

栄華「しかし、お兄様は感じませんでしたの?あの大将軍というかたに・・・。」

 

純「まあ、確かにこの式典の大半を占めたのは、何進大将軍の演説だったしな。」

 

純(まあ、いつも通り難しくて良く分かんなかったけどな・・・。)

 

栄華「それに西園軍は天子様の軍なのです。それなのに、事あるごとに我が軍、我が軍と・・・。」

 

栄華「お姉様はあのような方に仕えるために八校尉を拝領したわけではありませんのに!お兄様も同じ気持ちではありませんの!」

 

すると

 

華琳「控えなさい、栄華。どこで誰が耳をそばだてているか分からないわよ。」

 

と華琳がたしなめた。

 

純「そうだ。今は落ち着け、栄華。」

 

栄華「あ・・・失礼致しましたわ。私ったら、何をこんなに熱くなって。」

 

董卓「いずれにしても、八校尉は名誉官職ですから。実際に軍があるわけではありませんし、恐らくはこの先も同じでしょう。」

 

と董卓は言った。

 

純「まあ、あれは本来、黄巾党に対抗すべく設立された軍だからな。」

 

董卓「はい、その通りです。」

 

すると

 

春蘭「あの・・・純様。腑に落ちない事があるのですが・・・」

 

と春蘭が純にそう言った。

 

純「何だ?」

 

すると

 

春蘭「どうしてあんな雑魚が大将軍を名乗っているのだ?」

 

とこの場で絶対に口にしてはいけない事を言った。

 

純「お前なぁ・・・」

 

すると

 

季衣「あー。それ、僕も思いました。」

 

燈「季衣ちゃんまで・・・。」

 

季衣も春蘭の意見に同調した。

 

春蘭「だが禁軍数十万の頂に立つ大将軍だぞ?実力を隠している様子でもなし、あれなら十人束にしても季衣の方が強かろう。そう思いますよね、純様?」

 

燈「隣に天子様の奥方がいらしたでしょう?あの方が、何太后。その姉君が、あの何進殿よ。」

 

純「お前ら、城を出るまで黙ってろ。」

 

華琳「純の言う通りよ。その話は帰り道でゆっくり聞くわ。」

 

春蘭「・・・はぁ。」

 

季衣「・・・はーい。」

 

純「栄華、お前もだ。」

 

栄華「うぅ・・・どうして私まで、このお二方と同列に・・・。」

 

董卓「でしたら、孟徳殿。この後はどうなさいますか?」

 

華琳「もう陳留に戻るわ。ここにいては、泰山府君にいくら寿命を伸ばしてもらっても足りそうにないもの。」

 

董卓「そうですか・・・。それでは、門の所までお送り致します。」

 

華琳「ええ、よろしくお願いするわ。」

 

董卓「今日はお会いできて光栄でした。今後も、朝廷のために力を尽くして下さいませ。」

 

華琳「こちらこそ。貴女と話が出来て、足を伸ばした甲斐もあったというものよ。」

 

董卓「後、子文殿。義真殿が、子文殿に会いたいと。」

 

純「分かった。それでは姉上、ちょっと。」

 

華琳「ええ。すぐに戻りなさい。」

 

純「はっ。」

 

そう言い、純はその場を後にした。

 

 

 

 

 

皇甫嵩「・・・。」

 

純「皇甫嵩殿。」

 

皇甫嵩「曹彰さん!」

 

皇甫嵩が振り向くと、純が拱手していた。

 

純「お久し振りです、皇甫嵩殿。」

 

それを見た皇甫嵩は

 

純「!こ、皇甫嵩殿・・・!」

 

皇甫嵩「ああ、お会いしたかったです・・・!」

 

真っ先に純に抱き付いたのだった。

 

純「ええっと・・・青州での賊討伐以来でしたね。」

 

皇甫嵩「はい!あの日から、どれだけ待ちわびていたか・・・!」

 

そう言い、皇甫嵩は純の背中に回した腕を更に強く抱き締めた。

 

純「皇甫嵩殿こそ、息災で何よりです。それに、あれ以降もご活躍なさったとか。」

 

皇甫嵩「いいえ、曹彰さんのご活躍と比べたら、私など微々たる物です。曹彰さんのご活躍は、ここ洛陽の民の間でも有名でした。それを聞いて、私も胸が熱くなりました!」

 

純「そ、そうでしたか・・・。それで、皇甫嵩殿。俺に何用で?」

 

皇甫嵩「ただ、曹彰さんとお話したかっただけです。先程の式典で目を合わせてから、もう我慢が出来なくて・・・。」

 

純「そうですか・・・。しかし、昔はよく、共に賊討伐してましたね。」

 

皇甫嵩「ええ。その度に、あなたの武勇に何度も助けられたわ。」

 

純「こちらこそ、皇甫嵩殿の的確な采配に助けられましたよ。」

 

皇甫嵩「ふふっ。けど、もうあなたは、私の手が届かない所まで成長し、立派な将軍になった・・・。」

 

純「まだまだですよ、俺は。衛青と霍去病のような将軍になるまでは。」

 

皇甫嵩「そう。あなたは変わらないわね・・・。」

 

そう言い、皇甫嵩は目を細めた。

 

純「・・・。」

 

皇甫嵩「・・・。」

 

そして、二人はそのまま見つめ合ったまま、時が過ぎた。

 

皇甫嵩「あっ・・・」

 

純「それでは皇甫嵩殿、俺は陳留に戻ります。」

 

皇甫嵩「そう・・・。」

 

すると、皇甫嵩は寂しい顔をした。それに対し

 

純「また会いましょう。」

 

そう言い、純は皇甫嵩の顔を覗き込んで言った。

 

皇甫嵩「はい・・・また。」

 

そして、純は拱手してその場を去った。

 

皇甫嵩(曹彰さん・・・。)

 

その後ろ姿を、皇甫嵩は胸に手を当てながら見ていたのだった。

 

それからしばらくが経ち、何進が暗殺され、その後董卓が実権を握ったという情報が入った。そして、不正を働いた役人の大粛正を董卓が行ってると聞いた栄華は、精神的ダメージを受けたのであった。



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35話

35話です。


何進が暗殺され、董卓が実権を握っても、仕事がある事には変わらない。

 

純「構えっ!!」

 

「「「はっ!!」」」

 

純「左翼、突撃!!」

 

「「「おおーっ!!」」」

 

純「突けーっ!!」

 

「「「おおーっ!!」」」

 

純はいつも通り、練兵場で兵の訓練をしていた。

その時

 

稟「訓練中失礼します。」

 

風「失礼します~。」

 

稟と風が入ってきた。

 

純「稟と風か。何の用だ?」

 

稟「はっ、純様にお会いしたいと申す者が参っております。」

 

純「俺に?」

 

風「はい~。何でも并州太原郡の出身で、非常に勇壮な感じでしたよ~。」

 

稟「はい。私もそう感じました。如何致しますか?」

 

純「聞いた感じじゃあ、面白そうだな。名は?」

 

稟「郝昭、字は伯道と申すそうです。」

 

純「その者は今どこにいる?」

 

風「今純様のお部屋でお待ちですよ~。」

 

純「良し。早速会おう。」

 

そう言い、純は練兵場を後にし、自身の部屋に向かった。

部屋に入ると、全身を鎧で身に纏い、如何にも武人な雰囲気の男が椅子に座っていた。その者は、純に気付くと立ち上がって挨拶をしようとしたが

 

純「いやいや、そのままで結構だ。楽にしてくれ。」

 

そう言われ、リラックスした。

 

純「俺はこの苑州州牧の曹孟徳の弟である、曹子文だ。」

 

郝昭「俺は、姓は郝、名は昭、字は伯道と申す。此度は武勇の誉れ高い『黄鬚』曹子文様を我が主として仕えたい。」

 

純「郝昭、お前の気持ちは分かった。しかし、何故俺なのだ。他にも有力な勢力は多々ある。それに、もし我が軍に加わるなら、姉上に仕えるという選択もあるんだが。」

 

郝昭「俺は太原郡にて、弱き者を虐げる賊を我が三尖刀にて成敗していた。その中であなたの噂を聞いた。各地の賊を平定し、その武勇で敵からは『黄鬚』という異名で怖れられ、味方からは尊敬を受けてると。その噂の真意を確かめるべく、俺はあなたの戦を見た。」

 

純「ほう。それで?」

 

郝昭「あなたの勇ましさに、俺は鳥肌が立った。そして確信した。このお方こそ、我が三尖刀を振るうに相応しいと。」

 

郝昭の真っ直ぐな答えに

 

純「・・・良い眼だ。」

 

純は笑みを浮かべ

 

純「分かった。お前の任官を許そう。俺の真名は純だ。以後よろしく頼む。」

 

そう言った。

 

哲「ありがとうございます。我が真名は哲と申す。よろしく頼む、殿。」

 

純「それで早速だが、姉上達にも紹介をしてもらうのだが、良いか?」

 

哲「はっ。構いませぬ。」

 

そして、華琳達に哲を紹介した。その実力は、他の武将に引けを取らず、他の武官達はより一層鍛錬に気合を入れたのだった。

一部の男嫌いは、複雑な気分を抱いたのは内緒である。



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36話

36話です。


陳留

 

 

 

 

練兵場にて、純と凪が手合わせをしていた。

 

純「はあああっ!!」

 

凪「でやあああっ!!」

 

純「うりゃあああっ!!」

 

凪「くっ!!はあああっ!!」

 

純(初めて会った時から思ったが、やはりコイツ・・・春蘭を凌ぐ程の将になるんじゃねーか?)

 

凪(くっ・・・!流石純様だ!!相変わらず強い・・・!!けど・・・だからこそ、この手合わせはやる価値がある!!)

 

そんな事を思い、二人は激しい手合わせを行った。

 

凪「ハア・・・ハア・・・」

 

純「良いね、凪!!お前、中々の強さじゃねーか!!」

 

凪「あ・・・ありがたきお言葉!!」

 

純「まだやれるか?」

 

凪「はい!!自分はまだやれます!!」

 

純「そうか・・・なら、こっちから行くぞ!!」

 

そう言い、純は太刀を構えた。

その時

 

??「純様ー!」

 

一人の少女が、純を呼んだ。

その者は

 

純「どうした流琉?」

 

流琉、それは典韋の真名だった。彼女は季衣の友達で、季衣から貰った手紙を元に故郷を離れ、陳留に向かって旅をした。

しかし、季衣が華琳の親衛隊隊長になっているとは信じれず、何より手紙の内容に城と書かれている野を見て、大きな建物を城と勘違いしたのではと思っていた矢先に宿泊していた村に賊が現れ、自らも伝磁葉々を使って賊を倒していった。

すると、純率いる黄鬚隊がやって来てこれを撃破し、その活躍が純の目に留まって、純の推薦で親衛隊のもう一人の隊長となった。その際季衣と再会を果たし、少し一悶着あったのは内緒である。

 

流琉「華琳様がお呼びです!」

 

純「姉上が?分かった、すぐ向かう!」

 

それを聞き

 

純「凪、ひとまず中断だ。俺は謁見の間へ向かう。それまでゆっくり休め。」

 

凪「はっ!」

 

ひとまず手合わせをやめ、華琳のいる謁見の間へ向かった。

 

 

 

 

 

 

謁見の間

 

 

 

 

 

 

純が謁見の間に到着すると、そこには袁紹の部下である顔良と文醜がいた。

 

純「姉上、遅くなりました。」

 

華琳「構わないわ。」

 

春蘭「純様、何をしていたのですか?」

 

純「ああ。凪にちょっと稽古を付けていた。」

 

春蘭「そうなのですか。」

 

純「まだ荒削りだが、先が楽しみだ。お前もうかうかしてらんねーぞ。俺を追い越す前に、あいつに抜かれるやもな。」

 

その瞬間

 

春蘭「いえ、負けるつもりはありません。」

 

春蘭の目つきが変わって、そう言った。

 

純「はは。それで姉上、わざわざ主要な者を呼び出して何用ですか?顔良と文醜がいるようですし。」

 

華琳「ええ。この二人は袁紹の使いでね、檄文を持ってきたのよ。」

 

純「麗羽から?」

 

華琳「ええ。袁紹を筆頭に袁術、陶謙、公孫賛、西涼の馬騰にも檄文を渡したそうよ。」

 

純「うわぁ・・・有名どころじゃないですか。」

 

顔良「董卓の暴政に、都の民は嘆き、恨みの声は天高くまで届いていると聞いております。今も続く官の大粛正に、禁裏も血の臭いで満ちているとか・・・。」

 

文醜「それをなげいた我が主は、よをただすため、董卓をたおすちからをもったしょこうのかたがたに・・・」

 

純「スゲー手本になるくらいの見事な棒読みだな・・・」

 

華琳「持って回った言い方は止しなさい。あの麗羽の事だから・・・どうせ、董卓が権力の中枢を握ったことへの腹いせなのでしょう?」

 

これには

 

顔良「う・・・っ。」

 

図星の反応をした。

 

華琳「そういえば、以前黄巾の討伐で董卓がそちらに出向いた時、麗羽は賄を要求したとか。・・・どうせ断られた怨みも引きずっているのではなくて?」

 

文醜「・・・げっ。」

 

華琳「大粛正とて、都で不正を働いていた官に行っただけと聞くわよ。どちらが悪かは、判断の余地があると思うけれど?」

 

顔良「で、ですが・・・官軍の中でも賢人の誉れ高い蘆植殿を幽州に流したという話も・・・。」

 

華琳「・・・蘆子幹殿の流刑は何進が大将軍だった頃の話でしょう。」

 

文醜「・・・よく知ってますねー。」

 

華琳「よく聞こえる耳があると、知りたくない事も入ってくるのよ。」

 

純(俺も稟からその情報は入っている。しかし稟・・・一体何人隠密がいるんだ・・・?)

 

燈「顔良殿、先程あげた諸侯の中で、既に参加が決まっている方々は?」

 

顔良「先程あげた挙げた皆様は既に。今も、流れを見ていた小勢力や、袁家に縁のある諸侯達を中心に、続々と参戦の表明を受けております。」

 

華琳「桂花。私はどうすれば良い?」

 

桂花「はい。ここは参加されるのが最上かと・・・。」

 

桂花「これだけの英傑が一挙に揃う機会など、この先あるとは思えません。ここで大きな手柄を立てれば、華琳様の存在は諸侯の間で一層盤石な物となります。」

 

燈「それに私達が動かなくても、既に周りは動いています。ならば、それに乗るのも一つの道。」

 

華琳「顔良、文醜。麗羽に伝えなさい。曹操は、その同盟に参加する、とね。」

 

顔良「はっ!」

 

文醜「ありがとうございます!これであたい達も、麗羽様にお仕置きされないで済みます。」

 

そう言い、顔良と文醜はその場を後にした。

 

華琳「純。軍の編成をしなさい。」

 

純「御意。」

 

純(久し振りの大戦だ・・・ふっ、楽しみだ・・・)

 

この時、純は僅かに獰猛な雰囲気を纏いつつあった。

 

秋蘭(まただ・・・相変わらず純様は、戦が決まるとこんな感じになるな・・・)

 

とまあ、華琳達は反董卓連合への参加を決めたのであった。



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37話

37話です。


連合の参加を表明してから数日後、華琳は兵を率いて出陣した。そして、

 

桂花「華琳様!袁紹の陣地が見えました!他の旗も多く見えます!」

 

目的地まで目の前に着いた。

 

香風「華琳様。向こうに馬の影ー。」

 

顔良「曹操様!ようこそいらっしゃいました!」

 

華琳「顔良か。久しいわね。文醜は元気?」

 

顔良「はい。元気すぎるくらいですよ。」

 

華琳「結構な事だわ。・・・で、私達はどこに陣を張れば良いのかしら?案内して頂戴。」

 

顔良「了解です。それから曹操様。麗羽様がすぐに軍議を開くとの事ですので、本陣までおいでいただけますか?」

 

華琳「分かったわ。純、顔良の指示に従って陣の構築をしておきなさい。それから桂花は、どこの諸侯が来ているのかを早急に調べておいて。」

 

純「分かりました。栄華、手伝ってくれ。」

 

栄華「分かりましたわ。」

 

桂花「御意。」

 

華琳「私は麗羽の所に行って来るわ。春蘭、秋蘭、燈は、私に付いてきなさい。」

 

春蘭「はっ!」

 

秋蘭「了解です。」

 

そして、華琳達は本陣に向かった。

 

 

 

 

 

連合軍本陣

 

 

 

 

 

華琳が天幕に入ると

 

袁紹「おーっほっほっほ!おーっほっほっほ!」

 

耳に響く高笑いが聞こえた。

 

華琳「・・・久し振りに聞いたわね。その耳障りな笑い声・・・麗羽。」

 

袁紹「華琳さん、よく来てくださいましたわ。」

 

華琳「・・・。」

 

袁紹「あら、純さんは?」

 

華琳「・・・純なら、今陣の構築をさせているわ。」

 

袁紹「あら、そうですの。・・・真直さん!」

 

田豊「はいっ!」

 

袁紹「純さんに使いを。陣の構築が終了次第、諸侯と同じように来なさいと。」

 

田豊「し、しかし麗羽様!曹彰殿は曹操殿の弟君であって、諸侯ではございませんよ!」

 

袁紹「構いませんわ!同列に迎え入れなさい!」

 

田豊「し、しかし・・・!」

 

袁紹「真直さん・・・!」

 

田豊「・・・御意。」

 

袁紹に強引に言われた田豊は、曹軍の陣営に使いを送ったのだった。

 

華琳(全く・・・私はまだしも、純に迷惑を掛けるなんて・・・本当に腹が立つわね・・・)

 

この時、華琳は心底嫌な顔をしていたのだった。

 

袁紹「さーて。これで主要な諸侯は揃ったようですわね。華琳さんがびりっけつですわよ、びりっけつ。純さんもこのような姉を持って可哀相ですわ。」

 

と、華琳は袁紹に言われたが

 

華琳「・・・はいはい。」

 

華琳はスルーした。これには

 

秋蘭「・・・。」

 

秋蘭は、完全に諦めモードだった。

 

袁紹「それでは純さんがまだですが、最初の軍議を始めさせていただきますわ!」

 

袁紹「知らないお顔も多いでしょうから、まずそちらから名乗っていただけますこと?ああ、華琳さんはびりっけつですから、一番最後で結構ですわよ。本当に純さんが可哀相ですわ。おーっほっほっほ!」

 

そして、それぞれ自己紹介を始めた。

 

公孫賛「幽州の公孫賛だ、よろしく頼む。今回は徐州の陶謙殿の軍と連合で参加させていただく。徐州からは・・・」

 

??「雷々だよー!」

 

??「電々でーす!」

 

公孫賛「・・・おい、お前達!ここで名乗るときは真名じゃなくて名前を名乗れとあれほど・・・」

 

糜竺「あ、そうだった・・・。」

 

糜芳「電々、間違えちゃった・・・。」

 

公孫賛「・・・良いからやり直せ。」

 

糜竺「ええっと、陶謙様の名代で来た、雷々・・・じゃなくって、糜竺だよ!徐州の軍を率いるよ!よろしくー!」

 

糜芳「その補佐の、糜芳でーす。・・・えへへ、ちゃんと出来た!」

 

袁紹「・・・いつからここは年少の私塾になりましたの。」

 

華琳「・・・陶謙殿の発言力も衰えたと聞いていたけれど、人材も不足しているようね。」

 

袁紹「まあ結構ですわ。次の方!お願い致しますわ。」

 

劉備「あ・・・はい。平原から来た劉備です。こちらは、私の軍師の諸葛亮。」

 

諸葛亮「宜しくお願いします。」

 

劉備「ええっと、私達も、幽州と徐州の連合に入れさせていただいています。宜しくお願いします!」

 

馬超「涼州の馬超だ。今回は母の馬騰の名代としてここに参加することになった。」

 

馬鉄「補佐を務める馬鉄です。よろしくお願いしまーす。」

 

袁紹「あら、馬騰さんはいらっしゃいませんの?」

 

馬超「最近、西方の五胡の動きが活発でな。袁紹殿にはくれぐれもよろしくと言付かってるよ。」

 

袁紹「あらあら。あちらの野蛮な連中を相手にしていては落ち着く暇がありませんわねぇ・・・。」

 

馬超「・・・ああ。すまないが、よろしく頼む。機動力のある相手なら任せてくれ。」

 

袁術「袁術じゃ。江南を治めておる。まあ、皆知っておろうがの!ほっほっほ!」

 

張勲「私は美羽様の補佐をさせていただいています、張勲と申しますー。こちらは客将の孫策さん。」

 

孫策「・・・。」

 

孫策は立ち上がって、黙礼を1つしてそのまま座ったのだった。

そして

 

袁紹「次。びりっけつの華琳さん、お願いいたしますわ。」

 

華琳達の順番になった。

 

華琳「・・・典軍校尉の曹操よ。こちらは我が軍の夏侯惇、夏侯淵、陳珪よ。」

 

華琳達を最後に、参加した諸侯の自己紹介を終えたちょうどその時

 

袁紹軍兵士A「申し上げます!曹彰殿が参りました!」

 

純が来たとの知らせが入った。

 

袁紹「通しなさい!」

 

袁紹軍兵士A「はっ!」

 

そして、それに入れ替わるように

 

純「遅参の段、御免なれ。」

 

純が入り拱手した。

 

袁紹「構いませんわ。それより、お久し振りですわ純さん。」

 

純「ああ、麗羽も息災で何よりだな。」

 

袁紹「ええ、純さんもお元気そうで。しかし、どこかの誰かさんと違って、純さんは相変わらずお優しいですわね。」

 

純「・・・どうも。それより麗羽、自己紹介したいのだが。」

 

麗羽「ああ、そうですわね。純さん、お願い致しますわ。」

 

純「はっ!典軍校尉曹操が弟、曹彰でございます。こちらは副官の朱霊と、軍師の郭嘉です。」

 

と純は拱手し自己紹介した。

 

袁紹「まあ、凜々しくて見事な自己紹介ですわ!ささっ、純さんはこちらへ!」

 

そう言われ

 

純「ああ。」

 

純は華琳の隣だが、麗羽に最も近い位置に座った。

 

華琳「ごめんなさいね、純。」

 

純「いえ、お気になさらず。」

 

この際、華琳と純はそんな話をしたのだった。

その間も、各諸侯はそれぞれ色んな目で純を見ており、その視線を純はそれぞれ判別していった。

 

純(色んな目で見られてんな~。慣れたっちゃあ慣れたけど・・・ん?この突き刺す感じの視線は?)

 

純(・・・興味や好奇心、そして嫌悪。前者の二つは孫策と馬超の視線。後者は・・・劉備か。)

 

と自らに向けられた視線の中で、一番強い視線の持ち主に気付いた。

見るというよりかは『睨みつける』といった方が正しいであろうその表情を隠そうともしない彼女に、純は視線を送った。

 

劉備「っ!」

 

フイッ

 

その瞬間、劉備はその顔を純から背けたのだった。

 

純(ありゃりゃ・・・嫌われちったか。まあ、しょうがねーか。俺達とは考えがちげーからな・・・)

 

それを、純はそう思いながら見ていたのだった。

 

袁紹「さて、それでは・・・最後はこの私、袁本初ですわね!」

 

それに続いて袁紹も自己紹介をしようとしたのだが

 

華琳「それは皆知っているから、いいのではなくて?」

 

公孫賛「だな。有名人だから、みんな知ってるだろ。」

 

袁紹「そ、それはそうですけれど・・・っ!」

 

糜竺「雷々も知ってる!」

 

糜芳「電々もー!」

 

馬超「軍議を円滑に進めるための名乗りだろう?なら、いらないんじゃないか?」

 

と言われたのであった。

 

袁紹「うぅ・・・三日三晩考えた名乗りですのに・・・。」

 

純(うわぁ・・・それゼッテーなげーやつじゃねーか・・・。)

 

袁紹「ま・・・まあ、仕方ありませんわね。それだけこの私が名を知られているという証ですわ!おーっほっほっほ!」

 

袁紹「では、紹介も終わりましたし、軍議を始めさせていただきますわ!」

 

袁紹「僭越ながら、進行はこの私!このわ、た、く、し!三公を輩出した袁家の長、袁本初が行わせていただきますわ!」

 

袁術「むぅ・・・袁家の長は、この妾じゃぞ。」

 

華琳「良いから早く始めなさい。」

 

田豊「あ、袁紹様の補佐は、不肖この田豊が務めさせていただきます。」

 

袁紹「さてでは、最初の議題ですけれど・・・このわ」

 

公孫賛「現状の目的と確認だろ?」

 

袁紹「え・・・ええ、そうですわ。この私が集めた、反董卓連合の目的ですけれど・・・」

 

華琳「都で横暴を働いているという董卓の討伐、でいいのよね。」

 

華琳「西園軍の任命式の頃は中郎将だったはずだけれど、今はどれだけ官位を上げているの?」

 

袁紹「さあ?どうせ大した役職では・・・」

 

しかし

 

公孫賛「聞いた話だと、相国だそうだ。」

 

その言葉を聞いて

 

紹・術「「なぁぁぁぁあんですってぇぇぇぇぇぇ!/なんじゃとぉぉぉぉぉぉっ!?」」

 

袁紹と袁術は、驚きの声を上げた。

 

馬鉄「・・・んー?相国って?聞いた事のない官位だけど、そんなに偉いのー?」

 

袁紹「え、え、え、偉いなどというものではありませんわ・・・。相国など、どうして董卓さんなんかが・・・董卓さんが相国・・・。」

 

純「相国っつーのは、俺達朝臣に与えられる中では最高位の官職だ。髙祖に仕えた蕭何様、曹参様以来、長らくあのお二人の大業を成した者がいなかったため、空位になっていたんだ。」

 

馬鉄「へえ・・・。」

 

華琳「三公より上となると、袁家の立場も形無しね。」

 

袁紹「ぐぬぬ・・・!」

 

袁紹「なんたる専横、なんたる横暴。これは私達だけではありません・・・私達の父祖に対する侮辱ですわ!」

 

袁紹「ただでさえ空丹様を玉座から引き下ろし、許せないと思っていた所にこの所業・・・!許せません、絶対に許せませんわ・・・!」

 

袁術「おのれ董仲穎。西涼の田舎者と思うておれば・・・。」

 

馬超「・・・あの。あたしの故郷も西涼なんだが。」

 

馬鉄「聞こえてないみたいだよー。」

 

華琳「なってしまったものは仕方ないわ。理由は何であれ、朝廷をほしいままにする董卓は誅しなければならない。・・・次の議題は何かしら?」

 

その後、都までのルートや配置、先鋒を決め、そして、総大将が袁紹と決まり、解散となったのだった。

 

 

 

 

 

陣外

 

 

 

 

 

純「さて・・・やっと色々決まった。早く戦が始まんねーかなぁ・・・!」

 

華琳「全く・・・あなたは戦になるといつもそうね・・・」

 

この華琳の言葉に

 

純「だって・・・戦場の匂いって、凄く良いじゃないですか!何かこう・・・血が滾るっていうか・・・!」

 

純は生き生きとした顔でそう華琳に言った。

 

華琳「本当・・・仕方ない子ね。」

 

純「へへっ・・・!けど、汜水関は公孫賛と劉備なんですよね。」

 

華琳「ええ。汜水関の将は華雄一人よ。それほど強い相手ではないし、あなたを使うのは勿体ないわ。」

 

華琳「もし使うなら、呂布と張遼がいる虎牢関よ。」

 

純「成程・・・流石は姉上です。」

 

華琳「純。兵の指揮は、いつも通りあなたに任せるわ。私の事は気にせず、我が全軍を好きに動かしなさい。」

 

純「御意!」

 

華琳「それはそうと・・・あなた、その劉備に随分と嫌われてるように感じたけど・・・」

 

純「あれは、以前姉上の名代として俺が青州に出陣して、皇甫嵩殿と共に賊を殲滅した時なのですが・・・」

 

そう言って、純は青州の件を話した。

 

華琳「何よそれ。貴方は全く間違ってないじゃない。」

 

純「はい。俺も何故責められたのかよく分かんなくて・・・」

 

華琳「・・・そう。劉備って子、相当な甘ちゃんね。」

 

純「はい。しかし、稟によると、奴らは今後俺達にとって大きな敵になるやもしれないとの事です。奴らは、俺達とは対極の考えですから。」

 

華琳「そうね。さて、私達の陣に戻るわよ。」

 

そう言い、陣に戻ったのだった。

 

 

 

 

 

連合軍本陣

 

 

 

 

 

袁紹「・・・ああもうっ、何もかもが台無しですわ!あのクルクル・・・!!純さんの前で恥をかかせて!!」

 

袁紹「私が、どんな想いでこの連合を集めたか・・・幽州や徐州の田舎者どもに頭を下げたか・・・ギギギ・・・」

 

文醜「まあ、実際あの話は長いですからねー。無くて正解でしたよ。」

 

顔良「それに・・・以前会った時も思ったけど・・・曹彰さんも結構な戦狂いな気が・・・」

 

袁紹「何か仰いまして!!」

 

文醜「・・・何でも。」

 

顔良「・・・いえ。」

 

田豊「落ち着いて下さい、麗羽様。連合の作戦は、まだ始まったばかりです。」

 

田豊「どさくさ紛れでしたけど、連合の盟主の座は無事、麗羽様になったではありませんか。」

 

袁紹「ま、まあ・・・そうですけれど?」

 

田豊「何より・・・幽州連合は、自分達が領土的に大きな発言力を持っているという自覚がありません。」

 

田豊「今のうちに懐柔して味方に取り込んでしまえば、揚州の袁術殿は勿論、孟徳殿を抑える事も可能です。」

 

袁紹「それは分かっていますけれど・・・うぅ、純さんと違ってあの芋っぽい方々にこれ以上頭を下げるのは、私の誇りが・・・矜持が・・・」

 

袁紹「幽州と青州の半分だけあれば、このような事をするハメにはなりませんでしたのに・・・どうして徐州と同盟など・・・」

 

田豊「ご辛抱下さい。全ては戦いの後のため。董卓を討ち果たした後に、大陸の覇権を握る為の準備です。」

 

袁紹「・・・そうですわね。私はここで終わりではありませんもの。」

 

袁紹「それにあのエセ相国に引きずり下ろされた空丹様の無念に比べれば・・・私の誇りなぞ、ものの数に入りませんわ。」

 

と本陣でそのような話をしていたのであった。



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38話

38話です。


汜水関

 

 

 

 

凪「・・・噂には聞いていたが、高いな。」

 

真桜「せやな。」

 

その巨大な砦の足元に展開しているのは、幽州と徐州、そして劉備の連合軍。連携の撮れていない反董卓連合には珍しく、それぞれの隊はお互いを助け合うような動きを取っている。

 

沙和「でも、見ているだけで良いのー?」

 

凪「良いんだ。指示あるまで戦闘態勢のまま待機が、純様のご命令だ。」

 

真桜「ま、今んとこはこっちが有利みたいやし、大丈夫やろ。」

 

その時

 

純「よっ、お前ら。」

 

純が剛と哲を連れてやって来た。

 

真桜「大将・・・。」

 

凪「何故ここに?」

 

純「姉上に『後方は何とかするから、あなたは最前線にいなさい』って言われてな。」

 

凪「そうですか・・・」

 

その時

 

沙和「あれ?門が開いて、砦から兵士が出て来たの・・・。」

 

城門が開いて、兵士が出て来たのだ。

 

純「・・・定石で言えば、この場は籠城だ。勝てねーまでも、負けはねーぞ。」

 

剛「確かに、仰る通りです。」

 

凪「先ほど劉備陣営の将が何か言っていたようでしたし、挑発にでも乗ったのでしょう。」

 

真桜「守備隊の将ってどんだけアホやねん・・・。」

 

哲「うむ・・・」

 

凪「む。あの先頭にいるのは・・・。」

 

真桜「知っとるんか、凪。」

 

凪「・・・ああ。確か、華雄将軍だ。前に黄巾党に包囲されている所を助けた事がある。」

 

真桜「成程なぁ・・・。おっ、劉備陣営からも出てきたで。」

 

沙和「きれいな黒髪なのー。」

 

純「あれは関羽だな。劉備の義妹だ。」

 

凪「お強いのですか?」

 

純「ああ。以前青州での戦ぶりを見たが、中々の強者だった。」

 

凪「そうですか・・・」

 

純「ああ。あと一つ言い忘れたことがある。汜水関が破られたら、すぐに進撃する。劉備達が様子見で引いた隙を突いて一気に関を抜け、散り散りになった敵に追撃をかけるぞ。」

 

真桜「しかし、敵の罠やったら?・・・あ。」

 

すると、守備隊の将が馬の上から落とされた。

 

純「・・・あれが汜水関の総大将だ。今が好機!総員、移動開始だ!あの門が閉まるまでに無理矢理ねじ込むぞ!」

 

兵士「「「おおーっ!!」」」

 

そして、汜水関は難なく抜ける事が出来たのであった。

 

 

 

 

 

連合軍本陣

 

 

 

 

 

袁紹「華琳さん!何を考えていらっしゃいますの!」

 

華琳「我が軍の指揮権は弟に委ねているから私が口を出すまでも無いわよ。全ては純に聞きなさい。純。」

 

純「はっ。麗羽、劉備達は戦闘直後で、いったん矛を引いた形だった。そこで反撃を受けると厳しいだろうと判断したから、追撃を引き受けようと思ったんだ。」

 

純「とはいえ、現場判断だった故、連絡が行き届かなかった。申し訳なかった。」

 

そう言って、純は袁紹に謝罪した。

 

袁紹「そ、そんな・・・!!別に純さんを責めてるわけでは・・・」

 

純「だが、汜水関を一番に抜けたかったという風に見えてしまったのは否定しない。けれど、敵軍の追撃が主な目的だったのは確かだ。分かってくれ。」

 

と純はまた袁紹にそう言った。

 

華琳「純もこう言っているのだし、それで良いのではないかしら?」

 

袁紹「ぐ、ぐぬぬぬぬぬぬ・・・っ!分かりましたわ!純さんのお顔に免じて、今回は大目に見ますわ!」

 

純「助かる。その代わり、詫びと言っちゃ何だが、次の虎牢関一番乗りは、麗羽が取っても構わない。」

 

純「ただ・・・追撃が必要になった場合、誰かに引き受けて貰えると助かるんだが。」

 

袁紹「なら、私・・・」

 

華琳「錦馬超、あなた達はどう?」

 

袁紹「・・・ッ!」

 

馬超「ああ、あたし達は遠慮しとくよ。野戦ならいくらでも引き受けるけど、砦攻めは得意じゃないし、わざわざ残党を追い回すだけってのもなぁ。」

 

華琳「そう。なら、他に誰かいないかしら・・・袁術は来ていないし。」

 

袁紹「で、でしたら、追撃は私が引き受けてもよろしくてよ!虎牢関の一番乗りは、今度こそ私達袁家一門ですわ!」

 

華琳「・・・はいはい。なら、それで良いわね。」

 

そして、華琳と純は一緒に天幕を出た。

 

 

 

 

 

曹操軍陣営

 

 

 

 

 

桂花「お帰りなさいませ、華琳様!いかがでしたか?」

 

華琳「虎牢関攻略の指揮権は引き受けてきたわよ。とはいえ、殆ど純がやってくれたけどね。」

 

純「すいません、勝手に進めてしまって。」

 

華琳「構わないわ。実質、我が軍を指揮しているのはあなた。気にしてないわ。」

 

純「ありがとうございます。これで良いんだな、桂花。」

 

桂花「はい。ここで呂布と張遼を破れば、華琳様の名は一気に高まるでしょう。」

 

香風「けど、その分強敵。その中でも特に強いのが呂布。」

 

秋蘭「うむ。今は董卓のもとでその実力を遺憾なく発揮していると聞く。張遼も、黄巾党の時の燻っていた様子とはわけが違うぞ。」

 

純「姉上。もし張遼を我が陣営に引き入れたいのなら、春蘭が最適ですよ。」

 

華琳「あら、どうして私が張遼を欲しいと思っていると気付いたのかしら?」

 

純「ただの勘です。」

 

華琳「あなたの勘って、一体どうなってるのよ。聞いてて恐ろしくなるわね。」

 

華琳「まあ良いわ。なら、どうやったら捕まえれるかも考えているのでしょう。」

 

純「はい。彼女の強みは個人の武よりも用兵です。兵を奪い取った上で捕らえるのであれば、兵は桂花が。張遼は春蘭が何とかしてくれるでしょう。」

 

桂花「お任せ下さい!」

 

しかし

 

春蘭「わ・・・私ですか!?」

 

まさか自分が言われるとは思わなかったのか、春蘭は驚いてしまった。

 

華琳「あら、してくれないの?春蘭。桂花はしてくれるようだけれど?」

 

桂花「・・・ふふん。」

 

春蘭「くぅぅ・・・っ!張遼ごとき、ものの数ではありません!十人でも二十人でも、お望みの数だけ捕らえて参りましょう!」

 

純「良し。張遼は桂花と春蘭に任せる。見事捕らえてこい!」

 

春・桂「「はっ!」」

 

華琳「それと、呂布の相手は・・・純、あなたに任せるわ。」

 

栄華「お姉様!?」

 

秋蘭「・・・。」

 

純「俺ですか?」

 

華琳「ええ。あなた、呂布の旗を見てから闘気が更に溢れてるわよ。」

 

純「はは。お気づきでしたか。」

 

華琳「ええ。純、『黄鬚』の力、この私に見せて頂戴!」

 

この言葉に

 

純「御意!」

 

純は拱手して答えた。その様子を見ていた秋蘭と栄華は不安が心に湧き上がったのだった。

そして、軍議は終わり解散となった。

 

 

 

 

虎牢関

 

 

 

 

華琳「・・・でてきたわね。連中は籠城という言葉を知らないのかしら?」

 

桂花「恐らく華雄の独断でしょう。」

 

純「春蘭でもしねーぞ、こういう事は。」

 

春蘭「純様、どうして私を引き合いに・・・純様も良い勝負では・・・」

 

純「おい、俺はお前と違ってそこまで蛮勇じゃねーぞ。」

 

春蘭「何を言い出されるのですか!純様だって・・・!」

 

華琳「はいはい、そこまでよ。」

 

剛「純様。後続の部隊も出て参りました。」

 

哲「旗は呂と張です!」

 

純「華雄の独走に引きずり出された、という所か。まあいいや、剛と哲は他の部隊に通達してくれ。本作戦は、敵が関を出て来た場合の対応で行うと!」

 

剛「御意!皆、行くぞ!」

 

哲・凪・真・沙「「「「おう!/はっ!/任しとき!/分かったの!」」」」

 

華琳「・・・さて。流琉。」

 

流琉「お側に。」

 

華琳「確かこれが初陣になるのよね・・・。汜水関では遠巻きに見ているだけだったけど、実際に相手を目の当たりにして、どうかしら?」

 

流琉「正直・・・ちょっと怖いです。熊や虎を退治した事はありますけど・・・」

 

それを聞いた華琳は

 

華琳「・・・純と同じ事が出来る子がいるとはね。」

 

と引き気味に言った。

 

季衣「大丈夫だよ!僕も一緒に戦うから、頑張ろう。ね!」

 

流琉「うん!」

 

純「さて。流琉が大丈夫なら行動を開始するか。」

 

華琳「ええ。純、皆に言葉を。」

 

純「はっ。」

 

そして、純は馬を前に出した。

 

純「聞け!曹の旗に集いし勇者達よ!」

 

純「この一戦こそ、今まで築いた我ら全ての風評が真実である事を証明する戦いだ!」

 

純「黄巾を討ったその実力が本物である事、あまねく天下に知らしめてやれ!」

 

純「総員突撃!敵軍全てを挽き潰せ!」

 

そして、虎牢関の戦いが始まった。



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39話

39話です。


虎牢関

 

 

 

 

 

虎牢関の戦いは、曹操軍の活躍で優勢に進めていた。

 

華雄「くぅぅ・・・っ!」

 

霞「あーっ、やっとおった!このどあほう!とっとと関に戻るで!」

 

華雄「霞!離せ、私はまだ戦える・・・っ!」

 

霞「どんだけアホ晒しゃあ気が済むんや!そういう事は、虎牢関の上から言い!」

 

そう言い、霞は華雄を連れて撤退しようとした。

 

華雄「はーなーせー!」

 

霞「撤退や!撤退!虎牢関に戻れば、まだ十分戦えるわ!皆もはよ戻り!」

 

呂布「・・・霞。」

 

霞「今取り込み中や!」

 

呂布「・・・ねねの伝令。」

 

霞「何や。手短にな。」

 

董卓軍兵士A「はっ!先程買駆様より連絡があり、非常事態あり。虎牢関を放棄し、至急戻られたしとの事!」

 

霞「何やて・・・!?誤報とちゃうやろな。」

 

董卓軍兵士A「印は董卓様のものだったそうです。陳宮様は、既に撤収の準備を始めておいでです!」

 

霞「何や詠の奴!自分がおったら何とかなる言うて、なってへんやないか・・・!」

 

そう言い、霞は買駆に対して不満を言った。

 

呂布「・・・霞。」

 

霞「次から次に何や!ウチ、一人やねんぞ!」

 

呂布「・・・関に人。」

 

霞「人って・・・ちょっ、やばっ!奴らに突入されたら、ウチら帰る所がなくなるで!」

 

呂布「・・・先に行く。」

 

霞「任せた!だぁあ、華雄もさっさと来い!」

 

華雄「う、うぅ・・・。」

 

そう言い、張遼らは撤退したのだった。

 

文醜「おらぁ!総員駆け足ー!ここを抜けりゃ、虎牢関はあたいらのもんだぞっ!」

 

顔良「皆さん、急いで下さーい!」

 

袁紹軍が、虎牢関に入ろうとしたその時

 

呂布「・・・させない。」

 

顔良「きゃ!」

 

呂布が立ちはだかった。

 

文醜「お、呂布じゃんか!勝負だっ!」

 

呂布「・・・邪魔!」

 

そう言って

 

文醜「どわぁっ!?」

 

顔良「きゃああっ!」

 

顔良と文醜を弾き飛ばした。

 

関羽「大丈夫か、二人とも!」

 

顔良「な、何とか・・・。ありがとうございます。」

 

文醜「ひゃーっ。死ぬかと思ったぁ・・・!」

 

呂布「死んでない・・・頑丈。」

 

文醜「当たり前だ!あたいらがどれだけ麗羽様のお仕置きに耐えてきたと思ってんだよ!」

 

呂布「・・・?」

 

関羽「お前達は退がっていろ。ここは我々が引き受ける!」

 

文醜「えーっ。あたいもまだまだやれるぜ!」

 

顔良「ダメだよ文ちゃん、ここはこの人達に任せて、私達は本隊の指揮を!」

 

文醜「うーっ。次はコテンパンにしてやるからなー!」

 

そう言って、文醜は顔良と共に本隊の指揮のため引揚げた。

 

呂布「・・・やっと減った。次は・・・」

 

張飛「次は鈴々が行くのだ!」

 

関羽「待て鈴々!一人では無理だ!」

 

張飛「大丈夫なのだ!でえええええいっ!」

 

呂布「・・・遅い。」

 

張飛「にゃにゃー!?こいつ、強いのだ・・・っ!」

 

関羽「だから無理だと言ったろう!これと一対一でやれるのは、恐らく『黄鬚』曹彰殿くらいだ!」

 

孫策「・・・あら、劉備の軍も来ていたのね。」

 

関羽「・・・お主、孫策・・・?」

 

呂布「・・・また増えた。」

 

孫策「これが呂布?強いって聞いているけれど・・・こんなボーッとした子が、そんなに強いの?」

 

関羽「動いてる所を見れば分かる。桁違いだ。すまんが助力を頼めるか?」

 

孫策「ふふっ。高いわよ?」

 

関羽「この場の一番乗りなら譲ってやる。・・・あいつを退けられたら、だが。」

 

孫策「それはちゃんと支払える対価になるの?・・・まあ良いわ。強い相手とやるのは、嫌いじゃないし。」

 

関羽「よし!ならば、三方より一斉に掛かるぞ!」

 

張飛「分かったのだ!」

 

孫策「ええ!」

 

そして、三人は一斉に掛かったが

 

呂布「・・・だから、邪魔!」

 

関羽「くぅっ!」

 

張飛「うひゃあっ!」

 

孫策「ぐっ!」

 

呂布に一蹴された。その時

 

霞「でりゃあああっ!」

 

孫策「・・・きゃっ!何、割り込み!?」

 

関羽「ちぃっ!鈴々、大丈夫か!」

 

張飛「だ・・・大丈夫なのだ!誰なのだ!」

 

孫策「ちょっと。正々堂々・・・じゃないけど、人の勝負に割り込むなんて何考えてるのよ!」

 

張遼が入ってきた。

 

霞「じゃかあしい!お前らに構うとる暇はあらへんのや!」

 

霞「恋!そんなん相手にしてへんで、本隊叩くで!道はウチが開いたる!」

 

華雄「ぐむむむー!離せー!」

 

呂布「・・・分かった。」

 

そして、呂布達はその場を後にした。

 

孫策「ちっ!」

 

張飛「待つのだー!勝負するのだー!」

 

関羽「今は退け、鈴々。相手も状況が悪い。無理をしてこちらが傷つけば、桃香様が悲しむぞ?」

 

関羽「確か、割り込んできたのは張遼だ。呂布と張遼に揃われては、曹彰殿がいなければいくら何でも分が悪すぎる。」

 

張飛「うぅ・・・次は鈴々が勝つのだ・・・。」

 

孫策「関羽の言う通りね。あれに勝つには、曹彰を頼るしかないわね。総員退け!作戦は失敗した!」

 

張飛「総員、下がるのだ!撤退なのだ!」

 

関羽「撤退!撤退ー!砦の上から矢が来るぞ!」

 

孫策「けど・・・呂布と張遼、あの二人が揃ってるなら・・・この砦攻め、長い戦いになるかもしれないわね。」

 

しかし翌日、誰もが予想しなかった情報が入ってきた。

 

純「・・・何?虎牢関が、無人だと?」

 

栄華「はい。袁紹さんが偵察を放ったところ、中は呂布どころか猫の子一匹いなかったそうですわ。」

 

香風「にゃーん。」

 

純「どういう事だ?さっぱり分からん。」

 

稟「罠の可能性は低いかと。」

 

風「そうですね~。呂布さんも張遼さんも健在な現状、その意味すらないかと~。」

 

桂花「はい。私も同感です。」

 

剛「都に立てこもって、本土決戦をするつもりでは?」

 

哲「けど、それじゃあ・・・」

 

秋蘭「ああ。虎牢関が陥ちた後ならまだしも、今の段階でそれをする意味はないだろう。向こうは将の一人も欠けていないのだぞ?」

 

剛「・・・だよなぁ。」

 

凪「他所から挙兵があったとは考えられませんか?」

 

桂花「そもそも挙兵したい諸侯が集まったのが、この連合軍なんだけど?」

 

燈「ここにいる以外の諸侯で、呂布と張遼の二人を呼び戻す程の勢力を用意出来る者は・・・恐らく大陸にはいないでしょう。」

 

剛「小規模な敵なら、誰か将を一人回せば済む話か・・・」

 

華琳「それに都での籠城戦となると、民にも心を配らねばならない。それをするくらいなら、兵しかいない関で籠城した方が遙かに負担が少ないわ。」

 

真桜「やっぱ罠かなぁ?」

 

華琳「連中にとって、籠城して稼ぐべき何らかの時が満ちたか・・・あるいは」

 

純「あるいは?」

 

華琳「・・・都で何かが起きたか。」

 

華侖「起きたって、何がっすか?」

 

華琳「それは分からないわ。少なくとも、虎牢関を捨ててでも優先しなければならない事態としか言えないわね。」

 

春蘭「むぅ・・・華琳様でもお分かりにならないとは、一体何が起きているのだ。秋蘭。」

 

秋蘭「私に聞かれても分かるものか。」

 

桂花「いっその事、どこかの馬鹿が功を焦って関を抜けに行ってくれれば良いのですが・・・」

 

純「流石にねーだろ。春蘭でもそこまでしねーぞ。」

 

春蘭「だから純様、どうしてそこで私を引き合いに出すのですか・・・純様も良い勝負ですよ・・・」

 

純「だから俺は・・・」

 

その時

 

柳琳「お兄様。今偵察の兵から、袁紹さんの軍が虎牢関を抜けに行ったと報告が!」

 

柳琳からそういった報告が入ってきた。

これには

 

華琳「・・・。」

 

純「・・・。」

 

桂花「・・・。」

 

稟「・・・。」

 

風「・・・。」

 

秋蘭「・・・。」

 

剛「・・・。」

 

哲「・・・。」

 

華琳をはじめ、皆呆れた表情を浮かべた。

 

柳琳「・・・どうかなさいましたか?」

 

純「・・・ったく。」

 

華琳「汜水関の時は散々言ったクセに、今度は自分が抜け駆けとはね。」

 

剛「しかし、袁紹が無事に抜けられたら、罠は無いって事で良いのでは?」

 

純「そうだな。」

 

華琳「たまには馬鹿に感謝するのも悪くないかもね。」

 

純「麗羽が無事に関を抜け次第、俺達も移動を開始するぞ。」

 

そして、連合は無事虎牢関を抜け、洛陽を包囲したのだった。



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40話

40話です。


連合軍が洛陽を包囲して既に数日が過ぎたが、未だに落ちる気配は見せなかった。

 

黄鬚隊天幕

 

 

 

 

流琉「純様、只今戻りました!」

 

純「ご苦労だった。状況はどうだった?」

 

季衣「・・・全然ダメでした。上からもああも反撃されたら、手も足も出ないですよー。」

 

流琉「劉備さんの軍も攻めてましたけど、状況は同じようでした。今は袁術さん・・・っていうか、孫策さんが攻めてますけど、多分変わらないんじゃないかと。」

 

純「・・・そうか。分かった、下がって姉上の護衛をしろ。」

 

そう言い、季衣と流琉を下がらせた。そして、天幕に残ったのは、純と秋蘭に剛と哲に稟、そして風のみとなった。

 

純「クソッ!早く決着を着けなきゃなんねーのに!」

 

そう、純は苛ついた表情を浮かべながら言った。

 

秋蘭「この連合は、元々連携が取れてる訳でもありません。あまり長く城攻めが続くようなら、士気も下がりますね。」

 

剛「そうなったら、連合の敗北が必至かと。」

 

風「そうですね~。あまり長引かせるわけにはいかないかと~。」

 

哲「俺も同感です。」

 

純「うむ・・・。」

 

すると

 

稟「純様。私に一つ策があるのですが。」

 

と稟が純に言った。

 

純「何だ?言ってみろ。」

 

稟「はっ。今までのような散発的な城攻めを止めて・・・そうですね、一日を六等分にして一つの隊が六分の一ずつ攻めるというの如何かと?」

 

剛「それはつまり・・・」

 

秋蘭「一日中時間を問わず攻め続けるという事か?」

 

哲「うわぁ・・・それやべー。」

 

風「おおー!稟ちゃん、流石ですねー!」

 

宝慧「やる事全てがえげつねーな姉ちゃん。」

 

純「・・・成程。朝も昼も晩も攻められたら、数で劣る向こうはたまんねーな。」

 

稟「はい。試してみる価値はあるかと。」

 

純「よし、その策を採用する!姉上に相談しよう!」

 

稟「はっ!」

 

そして、純は華琳のいる天幕に行き、稟が提案した策を話した。それを聞いた華琳は

 

華琳「・・・良い策ね。」

 

桂花「稟の頭って、どうなってるのよ?」

 

それぞれ色んな顔で言ったのだった。

 

華琳「早速麗羽に伝えなさい。」

 

純「俺で良いのですか?」

 

華琳「ええ。この軍の実質指揮しているのはあなたよ。それに、麗羽がちゃんと耳を傾けてくれるのはあなただけよ。全て任せるわ。」

 

純「分かりました。」

 

そして、早速連合軍本陣の軍議で純は提案した。

 

 

 

 

 

連合軍本陣

 

 

 

 

 

馬超「・・・攻め続ける?どういう事だ?」

 

張勲「うわ・・・えげつないですねぇ・・・。」

 

袁術「七乃、どういう事なのじゃ!妾にも分かるよう、説明してたも!」

 

糜竺「電々、分かる?」

 

糜芳「分かんない・・・。雷々は?」

 

糜竺「雷々も分かんない・・・。」

 

袁紹「純さん、今も我が軍は間断なく攻め続けていますわ。やり方をどう変えろと?」

 

公孫賛「・・・間断なくぅ?」

 

袁紹「・・・何か文句ありますの?」

 

公孫賛「いや、別に・・・」

 

純「簡単な事だ。今の皆が攻めている散発的な城攻めをやめて、一日を六等分にして・・・」

 

諸葛亮「そうして、一つの隊が六分の一ずつ攻め続けるという事ですか?」

 

純「その通りだ。」

 

孫策「成程ね・・・。」

 

周瑜「中々良い策だ・・・。」

 

諸葛亮(恐らくだけど・・・曹彰さんの軍師郭嘉さんの策だ・・・。流石の知略です。)

 

袁紹「しかし純さん、一日の六分の一しか攻めないようでは、いつまで経ってもお城が陥ちませんわよ!」

 

袁術「麗羽姉様の言う通りなのじゃ!残りを昼寝されたら、たまらんぞ!」

 

・・・しかし、袁家の馬鹿は伝わっておらず

 

純「・・・。」

 

華琳「・・・。」

 

公孫賛「・・・。」

 

諸葛亮「・・・。」

 

馬超「・・・。」

 

孫策「・・・。」

 

周瑜「・・・。」

 

皆呆れた表情を浮かべたのだった。

 

袁術「な、なんなのじゃ?」

 

袁紹「何ですの、その目は・・・」

 

田豊「お二方、あくまでも一隊がの話です。それが六隊あったらどうですか?」

 

袁術「六分の一が、六個あるのかえ・・・?」

 

糜竺「六分の一って何・・・」

 

糜芳「一個のリンゴを、六つに分けるんだよ、雷々。その一個が、六分の一だよ。」

 

糜竺「だったら分けたリンゴはウサギさんにしようよ!電々。」

 

糜芳「良いよ!ウサギさんリンゴ、可愛いもんね!」

 

田豊「大事なのはそこじゃないでしょう!その六つに分けたリンゴを、六つ合わせたらどうなると思う?」

 

糜竺「ええっと・・・」

 

糜芳「ええっと・・・」

 

袁紹「・・・一日が全部埋まってしまいますわ!」

 

純「そういう事だ、麗羽。朝も昼も晩もなく攻められたら・・・数で劣る向こうとしてはたまんねーだろう。」

 

純「数で勝る今のうちでなければ、試せない作戦だ。ここまですれば、向こうもすぐに音を上げてくると思う。麗羽、どうする?」

 

麗羽「流石純さんですわ!あなたの策、採用しますわ!」

 

この策は、董卓軍には結構こたえ、買駆はやむなく、最終決戦に臨んだのだった。

 

 

 

 

 

洛陽・董卓軍

 

 

 

 

 

霞「これが最後の決戦・・・やな。」

 

華雄「三万か・・・。これで、よく保ったものだ。」

 

霞「どっかの馬鹿が無茶せんかったら、もうちょっとおったんやけどなぁ・・・。ま、今更言うても仕方ないっちゃ仕方ないけど。」

 

霞「恋。用意はええか?」

 

呂布「・・・全部倒す。」

 

霞「その意気や!楼杏もスマンかったな・・・。こんな争いに巻き込んでしもうて・・・。」

 

皇甫嵩「別に構わないわ。私は、自分の意志でこの戦に参加したまでよ。」

 

霞「そうか・・・。詠、ねね、城の守りは宜しゅうな。」

 

買駆「ええ。任せておいて。」

 

陳宮「恋殿の後背はしっかりお守りするのです!」

 

董卓軍兵士A「張遼様!敵軍は四方から取り囲み、いつでも攻められる状態になっています!」

 

霞「連中、楚の歌ぁ歌っとるか?」

 

董卓軍兵士A「え、あ・・・いえ。」

 

霞「やれやれ。ここまでやっといて、洒落の効かん奴らやなぁ。・・・ま、ええわ。景気づけに・・・お前ら、聞けぇ!」

 

呂布「・・・。」

 

華雄「・・・。」

 

皇甫嵩「・・・。」

 

買駆「・・・。」

 

霞「・・・って、誰も喋らんのかい!」

 

呂布「・・・苦手。」

 

華雄「かっ、かっ、かかっ!」

 

霞「どもるくらいなら黙っとき!」

 

皇甫嵩「詠さん・・・。あなたがやるべきでは?」

 

買駆「・・・はい。」

 

そして

 

買駆「皆の者、今までよく頑張った!ここが最後の決戦だ!この戦いに勝てば、再び心安らかに眠れるあの日々が帰ってくるだろう!」

 

買駆「しかし、もし退けば、この悪夢の日々は永劫の先まで続く事となる!」

 

買駆「我らが平和を、我らが天子様を、禁城を穢す逆賊共からお護りするのだ!総員、戦闘用意!」

 

 

 

 

曹操軍陣営

 

 

 

 

凪「報告っ!城の正門が開きました!」

 

純「見えている。なら・・・お前ら、聞けぇ!」

 

純「お前ら、今までよく頑張った!ここが最後の正念場だ!この戦いに勝てば、長い遠征を終え、故郷の地を再び踏む事が出来るだろう!」

 

純「けれど、もし奴らをあの城の中に押し戻してしまったら、この遠征は永劫に続くこととなる!」

 

純「我らが平和を、我らが天子様を、禁城をほしいままにする逆賊どもから取り戻すのだ!総員、戦闘用意!」

 

桂花「門より敵部隊出撃!突撃してきます!」

 

純「・・・さあ、誰が俺達の相手をしてくれんのかなぁ。総員、突撃ぃっ!」

 

そして、この戦の最終決戦が始まった。戦いは一進一退の攻防となったが、次第に董卓軍が押され始めたのだった。

 

 

 

 

霞「・・・やれやれ。西涼の連中も、やっと撒けたか。」

 

霞「けど、どう見てもこっちの負けやなぁ・・・。月と詠、上手く逃げられたやろか。」

 

すると、

 

春蘭「待て!貴様が張遼かっ!」

 

春蘭が張遼の前に現れた。

 

霞「あちゃぁ・・・このクソ忙しいときに。一騎打ちの申し込みなら、もう締め切っとるで!」

 

春蘭「そんなことは知らん!否というなら、私との勝負に応じるまで追いかけるまでだ!」

 

霞「その目・・・アカンっちゅうても仕掛けてくる目やな。」

 

春蘭「・・・ふむ。貴様の目も、剣に映る私の目と同じように見えるが?」

 

霞「・・・なんや、そうか。あー。あかんなぁ。自分の事は、出来るだけ殺しとるつもりやったんやけど・・・。」

 

そう言って、霞は飛龍偃月刀を構え、

 

霞「・・・せやな。ま、最後くらい自分のしたいことしてもバチあたらんやろ。詠にもそう言うとるしな。・・・名ぁ名乗りぃ!」

 

そう言った。

 

春蘭「我が名は夏侯元譲!主の覇道を切り開き、立ち塞がる何者をも打ち倒す、曹孟徳の剣である!」

 

霞「元譲いうたら、夏侯姉妹の手が付けられんほうか!」

 

霞「ウチの名乗りは今さらいらんやろ!・・・来ぃや!」

 

春蘭「良い心がけだ。ならば行くぞ、張文遠!」

 

そして

 

霞「おおおおおおっ!」

 

春蘭「でやああああああっ!」

 

両者の刃は激突した。

 

 

 

 

 

 

呂布「・・・邪魔。」

 

秋蘭「・・・くっ!呂布め、何という強さだ・・・!」

 

文醜「けど、ここを抜かれたら麗羽様のいる本陣だろ!」

 

呂布「だから・・・、無駄。」

 

季衣「流琉、いっちー、ちびっこ、黒髪の綺麗なお姉さん!もう一度仕掛けるよ!」

 

流琉「うん!」

 

文醜「おっしゃ!」

 

張飛「だから、チビにチビって言われたくないのだ!」

 

関羽「そんなこと言っている場合か!行くぞ、鈴々!」

 

呂布「・・・大人しく、通して。」

 

季衣「でえええええいっ!」

 

流琉「はあっ!」

 

呂布「・・・何度やっても、無駄。」

 

文醜「そうかぁ?背中ががら空き・・・」

 

呂布「・・・何が?」

 

文醜「だああっ!」

 

張飛「甘いのだっ!」

 

呂布「・・・うぅ。」

 

張飛「ひゃっ!」

 

こういった状況に

 

秋蘭「・・・くっ。やはり、純様か姉者でもなければ足止めで精一杯か。」

 

秋蘭もそう弱音を言った。その時

 

秋蘭「・・・っ!」

 

呂布「・・・通る。」

 

呂布が秋蘭の目の前に現れ

 

流琉「秋蘭様っ!」

 

秋蘭を攻撃しようとしたが

 

ガチン

 

呂・秋・季・流・文・張・関「「「「「「「!?」」」」」」」

 

純「大丈夫か、秋蘭?」

 

秋蘭「純様っ!?」

 

純が間に入り、太刀で呂布の一撃を止めたのだった。

 

純「秋蘭、動けるか?」

 

秋蘭「は、はい。かろうじて。」

 

純「なら、皆を引き連れて下がれ。」

 

秋蘭「し、しかし・・・!!」

 

純「早くしろ!!」

 

秋蘭「・・・御意!!」

 

そう言って、秋蘭は皆を下がらせた。

 

純「関羽達も下がれ。」

 

張飛「何でなのだ!!鈴々はまだ行けるのだ!!」

 

関羽「承知致しました。」

 

張飛「愛紗!!」

 

関羽「鈴々。我らでも敵わなかったのだ。ここは曹彰殿にに任せるぞ。」

 

張飛「けど・・・!!」

 

関羽「鈴々!!」

 

張飛「・・・分かったのだ。」

 

純「二人は劉備達の陣に戻りな。」

 

関羽「承知致しました。行くぞ、鈴々。」

 

そう言い、関羽達は劉備達の陣に向かった。

 

純「待たせたな、呂布。ここからは俺が相手だ。連戦になるが、大丈夫か?」

 

呂布「大丈夫。」

 

そして、純と呂布は互いに馬上でそれぞれの武器を構え、両者は激突した。

 

黄鬚と飛将軍

 

互いにそう呼ばれ敵に恐れられた猛将二人は、互いに馬上から一振りを交えるが互いに防いだ。両者は即座に馬首を返し追撃し、呂布の方天画戟が純と馬共々、首を斬り飛ばそうとするが純は馬の首を逸らさせ胴を右へ回転させ太刀で受け流した。

純は呂布に近づき太刀で脇腹を狙うが呂布は方天画戟を引き戻し防ぐ。攻防入れ替わりながら純と呂布は馬を走らせ乱撃を繰り返す。

その様子を見ていた秋蘭は

 

秋蘭(純様・・・)

 

心配な様子で見ていたのだった。

一方華琳達も、この一騎打ちを見ており

 

華琳「何合になったのかしら?」

 

柳琳「一五〇合程です。」

 

華琳「まだ勝負はつかないようね。」

 

柳琳「ついておりません。」

 

華琳「優勢なのは?」

 

柳琳「互いに互角です。」

 

華琳「そう・・・。二人とも、疲れ知らずね。」

 

栄華「けど、あのお兄様と相対して討たれない武将は初めてですわ。」

 

華琳「ええ、そうね。」

 

華琳(純・・・死なないで。)

 

栄華(お兄様・・・。)

 

そう話しながら見ていた。そして、二人の打ち合いは続いたが

 

呂布「・・・。」

 

呂布が一歩退いた。

 

純「呂布?」

 

呂布「馬が疲れてる。馬を換える。」

 

と呂布は言った。

 

純「はっはっは!そうか!なら、俺も馬を換えるとしよう。」

 

そして

 

純「はっ!」

 

呂布「はっ!」

 

互いに陣へ引揚げた。

 

 

 

 

 

呂布隊

 

 

 

 

 

 

陳宮「恋殿に赤兎馬を!!」

 

呂布隊兵士A「御意!」

 

陳宮「恋殿。流石曹彰は『黄鬚』と謳われし猛将なのです。気をつけて下さいなのです!!」

 

呂布「・・・分かった。」

 

陳宮(赤兎馬を使うときは恋殿が本気を出す時・・・。ここまでとは・・・流石『黄鬚』曹彰なのです・・・。)

 

 

 

 

 

 

曹操軍本陣

 

 

 

 

 

 

純「姉上!僭越ながら俺に絶影をお貸し下さい!!」

 

と華琳に言った。

 

華琳「分かったわ!栄華、絶影を!」

 

栄華「分かりましたわ!」

 

そして

 

純「剛!あれを持ってこい!」

 

と言った。

 

剛「分かりました!」

 

華琳「あれとは何かしら?」

 

柳琳「私もさっぱり・・・。」

 

華琳の疑問に、柳琳は首をかしげた。暫くすると

 

栄華「お兄様、絶影ですわ。」

 

栄華が絶影を引いてきた。それと同時に

 

剛「純様!持ってきました!」

 

剛が、呂布が持ってる持ってる方天画戟にそっくりな戟を持って来た。

 

純「ありがとう、栄華。」

 

栄華「お兄様・・・。」

 

その時、栄華は心配そうな表情で純を見た。それを見た純は

 

栄華「あ・・・っ。」

 

純「心配するな。」

 

と栄華の頭を優しく撫でたのだった。そして、絶影に颯爽と乗り

 

華琳「呂布は流石の強さ。気を付けなさい。」

 

純「ご心配なく!!見事勝利をご覧に見せましょう!!」

 

純「剛、寄越せ!」

 

剛「はっ!」

 

剛から戟を貰い

 

純「はっ!」

 

純は絶影を駆けさせた。

 

呂布「はっ!」

 

呂布の方も赤兎馬に乗って駆けた。

 

純「はあああっ!!」

 

呂布「・・・っ!!」

 

そして、互いにぶつかり合い、呂布の方天画戟と純の戟が、火花と金属音を周囲にまき散らし再び激しい一騎打ちを繰り広げた。

その様子を見ていた

 

季衣「スゴイ・・・。」

 

流琉「うん・・・。純様と関わってまだ日が浅いし、噂程度しか聞いてなかったけど、あんなに強かったんだ。」

 

季衣と流琉は呆然としながら見ていた。

 

秋蘭「あんな純様を見たのは初めてだ。」

 

季衣「秋蘭様もですか!?」

 

秋蘭「ああ。私は幼い頃から純様に仕え、殆ど一緒に過ごした。もちろん手合わせも何度かした。無論姉者も。一度も勝てなかったが、あそこまでの強さではなかった。」

 

季・流「「!?」」

 

秋蘭「まだ底は見せていないと思っていたが、ここまでとは・・・。」

 

と秋蘭は言ったのであった。一方

 

関羽「これが曹彰殿の本気・・・」

 

関羽は純と呂布との一騎打ちを見て、唯々呆然と見ていた。まるでレベルが違うと。それは

 

孫策(スゴいわね・・・。これは母様以上だわ。私なんか一撃で倒されるわ。)

 

孫策も同様だった。

一方春蘭と張遼は激戦の末春蘭が一騎打ちを制し、説得の末張遼は降った。それと同時に張遼と共に戦っていた皇甫嵩も降った。そして、皆で呂布との戦いの様子を見に行くとちょうど純と呂布の激しい一騎打ちが繰り広げられていた。

 

春蘭「これが純様の本気なのか・・・あんなの初めてだ。」

 

張遼「ホンマかいな!?けど、ウチも恋の本気初めて見たわ。あの赤兎馬を使う時は、恋が本気になった証拠や。」

 

春蘭「そうなのか!?」

 

張遼「ああ。それ使わすとは・・・中々やるな、曹彰は。」

 

それを聞いた春蘭は

 

春蘭「ふん!!これが我らが自慢の『黄鬚』と呼ばれし純様なのだ!!」

 

そう言って、胸を張った。

 

春蘭「しかし・・・まだ純様の背中すら見えていない。あの強さと・・・あの覇気に・・・」

 

張遼「惇ちゃん・・・」

 

春蘭「だからこそ、目指し甲斐ある。常に私の遥か前に居てくれる。武人として私は幸せなのかもしれないな。」

 

張遼「惇ちゃんは前向きやな。けど・・・ホンマやな。」

 

皇甫嵩(曹彰さん・・・。)

 

その横で、皇甫嵩は潤んだ瞳で一騎打ちを見ていたのだった。

そんな中、両者の一騎打ちは続き再び一五〇合程となった。

 

ガギン!ガン!

 

純(コイツ、俺の本気について来やがる!!)

 

呂布(速い!動きについていくので精一杯・・・!!)

 

ガキン!ドン!ギン!

 

純(このままじゃ、先にバテるぞ!!)

 

呂布(恋が先に疲れきっちゃう。)

 

尚も斬り合いが続き、両者ともそう思っていたが、

 

純・呂((でも、スゲー楽しい!!/スゴく楽しい!!))

 

そんな気持ちが芽生えていた。

 

純「ははっ!中々やるじゃねーか!!」

 

呂布「そっちこそ!!」

 

両者ともそう笑顔で言ったのだ。

 

純「けど・・・そろそろ終わらせねーとな。」

 

呂布「っ!?どうして・・・」

 

純「戦の勝敗が完全に連合に傾いてる。このまま続けても多分、邪魔が入る。」

 

純「それに、俺もお前も、互いに限界だろ?」

 

呂布「・・・ん。」

 

そうお互い、肩で息をしていた。

 

純「次でけりを付けるぞ!!」

 

呂布「うん!!」

 

そう言って、互いに武器を構えた。そして

 

純「はあああっ!!」

 

呂布「ぁあああっ!!」

 

互いに馬を駆け、武器を振るった。そして

 

純「終わりだっ!!呂布!!」

 

そう言った純は、呂布の脇腹に斬撃を加え呂布は何とか防いだが完全に防ぎきれず

 

ドォン!

 

呂布「がはっ!」

 

呂布は赤兎馬から落馬したのだった。

 

純「ふぅ・・・。」

 

その時

 

「「「おおおーっ!!!」」」

 

戦場を激しい歓声が鳴り響いた。二人は気付かなかったが、多くの将兵が観戦していたのだ。

 

呂布「ぐっ。」

 

呂布は、戟を杖代わりにして立ち上がった。そして、

 

呂布「負け・・・ちゃった。でも・・・楽しかった。」

 

呂布は純にそう言った。

 

純「そうか・・・。俺もだ。」

 

と純もそう返し、それと同時に、呂布は倒れた。すると、

 

陳宮「恋殿ー!」

 

陳宮達呂布隊がやって来た。

 

陳宮「恋殿!しっかりするのです!」

 

純「安心しろ。まだ生きてる。」

 

純は、陳宮にそう伝えた。そして、

 

陳宮「恋殿を担ぐのです!」

 

と呂布隊に命令した。

 

陳宮「見逃すのですか?」

 

純「あいにく、そんな余裕はねーよ。」

 

陳宮「・・・今日は恋殿の負けなのです!でも次は必ず恋殿が勝つのです!」

 

そう言って、陳宮と呂布隊は戦場を離脱したのだった。そして、それをきっかけに董卓軍は完全に崩れ、連合軍はその勢いに乗って洛陽に突入したのだった。



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41話

41話です。


洛陽

 

 

 

 

あの激しい戦いから一夜明けて、華琳は兵を城内に入れて、道路や倒壊した建物を片付けさせ始めていた。本当は勝手にこういったことを行ってはいけないのだが、純同様、古い知り合いがおり、既に許可が下りていた。本当は使いたくはなかったが、非常時であったため、やむを得なかったのである。その時

 

袁術「あーっ!いたのじゃ麗羽姉様!」

 

袁紹「見つけましたわっ!華琳さん!」

 

華琳「・・・またうるさいのが。」

 

袁紹と袁術がやって来た。

 

季衣「あ、いっちー!元気ー?」

 

文醜「おー。きょっちーも流琉も元気そうで何よりだ。」

 

顔良「こんにちは。」

 

袁紹「そんなことより何ですの、この工事は!また私達に無断で・・・!」

 

華琳「大長秋から許可はいただいてあるわよ。問題があるようなら、確認して貰っても構わないけれど?」

 

その発言に

 

袁紹「な・・・っ!大長秋・・・!?」

 

袁紹は驚いたが

 

袁紹「ま、真直さん。確認なさい。その書類、偽物ではなくて?」

 

脇に控えている田豊に命令し、書類を持っている燈から受け取り、確認をさせると

 

田豊「・・・いえ。間違いなく本物です。この通り、大長秋の璽印もしっかりと。」

 

本物だった。

 

袁術「なんでおぬしのような奴が大長秋と繋がりを持っておるのじゃ!」

 

華琳「私と純の祖父が何代か前の大長秋だったのよ。」

 

袁術「ずるいのじゃ!それを言うたら、妾達とて三公を輩出した名門袁家の出身じゃぞ!」

 

華琳「あらそう。なら、今の三公に許可を取っておけば良かったのではなくて?」

 

袁紹「く~・・・っ!点数稼ぎも良いところですわ!」

 

華琳「私は必要なことをしているまでよ。文句を言われる筋合いはないわ。」

 

その横で

 

文醜「大中小って何だ?斗詩。」

 

顔良「・・・ええっと、確か・・・」

 

燈「大長秋。皇后府を取り仕切る宦官の最高位よ。華琳様と純様のお爺様は、以前その地位にあったの。」

 

文・季「「・・・ふぅん。」」

 

顔良「分かってないふぅんだね、二人とも・・・。」

 

燈「今は天子様も相国以下の官職も軒並み不在だから・・・、都の事を取り仕切っているのは、健在なあの辺りの方々になるようね。」

 

季衣「・・・とりあえず、凄く偉いって事だけは分かったよ。」

 

文醜「だな。それだけ分かりゃ充分だ。」

 

顔良「いいんだ・・・。」

 

といった話をしていた。

 

袁紹「ええい、猪々子さん、斗詩さん、真直さん!こんな所にいる場合ではありませんわっ!行きますわよっ!」

 

袁術「木を見て瓶なのじゃ!」

 

文醜「ひゃ、ちょっと、麗羽様ー!」

 

顔良「きゃーっ!引っ張らないでー!」

 

田豊「そもそもどこに行くんですか!まずそれを決めないと!」

 

袁紹「走りながらお決めなさい!」

 

田豊「いくらなんでも無茶言わないで下さいよーっ!麗羽様ーっ!」

 

そして、袁紹達はそのままその場を後にしたのであった。

そして、ある程度街を回っていると

 

純「ここにいらっしゃいましたか、姉上。」

 

春蘭「華琳様。」

 

純達がやって来た。

 

季衣「あ、春蘭様!」

 

流琉「秋蘭様も!」

 

華琳「言われた通り、ちゃんと季衣と流琉を連れているわよ。文句はないでしょう?」

 

春蘭「それは構いません。それと、華琳様に会わせたい輩がおります。」

 

そう言って春蘭は

 

霞「・・・どもー。」

 

霞を華琳の前に出した。

 

華琳「・・・そう。見事純に言われた役目を果たしたわね。」

 

春蘭「はっ!」

 

華琳「純も、呂布との一騎打ち、見事だったわ。」

 

純「しかし姉上、俺は呂布を逃がしてしまいました。申し訳ございません。」

 

しかし純は、申し訳ないといった表情で、華琳にそう言った。

 

華琳「構わないわ。とにかく、あなたが無事で何よりよ。」

 

だが、華琳は責める事無く、寧ろ労いの言葉を純にかけたのだった。

 

純「はっ。」

 

華琳「それで純、あなたの後ろにいる者は?」

 

純「俺に仕えたいと申す者です。前に。」

 

そう言い、純は一人の女の人を前に出した。その者は

 

皇甫嵩「お久し振りです、曹操殿。」

 

皇甫嵩だった。

 

華琳「久し振りね、皇甫嵩殿。」

 

華琳「ここにいるという事は、我らに降るという事なのかしら?」

 

皇甫嵩「いえ。私は曹操殿ではなく、曹彰さんの軍に加わります。」

 

純「と申しておりまして、宜しいですか?」

 

華琳「それで構わないわ。純のために働くと言うならね。」

 

純「分かりました。それでは皇甫嵩殿、俺の真名は純です。今後とも宜しく頼みます。」

 

華琳「私の真名は華琳よ。」

 

楼杏「私の真名は楼杏よ。けど純さん、私に敬語や敬称は不要よ。」

 

純「しかし、俺にとってあなたは尊敬する理想の武人なのです。流石に・・・」

 

楼杏「良いの。あなたは主、私は臣下よ。そこは弁えなさい。」

 

それを聞いた純は

 

純「・・・分かった。なら、これからも頼む、楼杏。」

 

楼杏「ええ、宜しく。」

 

華琳「楼杏殿、あなたの事は弟から聞いているわ。人格と実力を兼ね備えた非常に優れた武人であると。今後とも、弟の事をよく支えるように。」

 

楼杏「当然です!純さんのため、この身全てを捧げます!」

 

そう言って、楼杏は拱手したのだった。

こうして、大陸の諸侯達を巻き込んだ反董卓連合の戦いは終わりを告げたのであった。



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幕間3 純と秋蘭の出会い

純と秋蘭の出会いです。


純と秋蘭の二人の初めての出会いは、今から十年近く前だった。その頃から、華琳と純は既にそれぞれの才能を発揮していた。

そのため、当時曹家の当主であった曹嵩は、二人を公私共に支えてくれる股肱の臣として仕えてくれる者として春蘭と秋蘭を呼び、華琳と純にもそれを伝えたのだった。

 

秋蘭「私は、姓は夏侯、名は淵、字を妙才と申します。」

 

純「おお、来たか!話は聞いてるか?」

 

秋蘭「はっ!この夏侯淵、心身の全てを捧げ、曹彰様をお守りし・・・」

 

すると

 

純「堅苦しい。『曹彰様』はよせ。もっと砕けて呼んで良いぞ。俺より一個年上だけど、『純さん』とか。」

 

純はそう秋蘭に言った。

 

秋蘭「め、滅相もございません!!これから仕える主にそのような呼び方は!!しかも真名をいきなり預けるなど!!」

 

これには、秋蘭は普段見せない慌てた表情でそう言った。

それを聞いた純は、少ししょんぼりした顔で見つめた。

 

秋蘭「・・・そ、それでは・・・『純様』とお呼びしても宜しいでしょうか?」

 

純「まぁ、それでいっか。」

 

秋蘭「後、私の真名は秋蘭です。真名を預けられたので、私も純様に真名を預けます。」

 

純「おお、そっか。分かった。秋蘭、これからよろしく。」

 

そう言って、純は秋蘭の前に行き、手を取って

 

純「秋蘭。早速だけど、何の武器が得意?」

 

と尋ねた。

 

秋蘭「えっ。弓が得意ですが・・・。」

 

これに秋蘭がそう言うと

 

純「ホント!じゃあ、早速狩りに行こう。」

 

秋蘭「えっ!宜しいのですか!?」

 

純「大丈夫だって。ほら、行こ。」

 

純はそう言って、秋蘭と一緒に狩りに出かけた。その道中

 

春蘭「おお、秋蘭!どこか出かけるのか?」

 

春蘭と会った。

 

秋蘭「ああ、姉者。ちょっと純様と狩りにな。」

 

純「お前が、秋蘭の姉か?確か姉上に仕える事になった・・・」

 

春蘭「はっ!姓は夏侯、名は惇、字は元譲と申します。」

 

純「そうか。俺は曹彰、字は子文、真名は純だ。」

 

春蘭「真名まで!?宜しいのですか!?」

 

純「ああ、お前もこれから共に戦う仲間。真名を預けなければ。」

 

春蘭「では、私の真名は春蘭です。」

 

純「そっか。春蘭、よろしく頼む。後俺のことは『純さん』で良いぞ。」

 

春蘭「そんな!そのような呼び方、畏れ多いです!!」

 

純「そっか・・・まあ、秋蘭にも同じ事言われたなあ。まぁ、好きに呼べ。」

 

春蘭「はっ!では、『純様』とお呼びします!」

 

すると

 

華琳「あら、純。どこか出かけるのかしら?」

 

華琳が現れた。

 

純「ああ、姉上。少し秋蘭と一緒に狩りに出かけようと・・・」

 

華琳「そう。」

 

秋蘭「姓は夏侯、名は淵、字は妙才と申します。今後ともよろしくお願いします、曹操様。」

 

華琳「ええ。今後ともよろしく頼むわ。それと、私の真名は華琳よ。」

 

秋蘭「はっ。私の真名は秋蘭です。」

 

華琳「ええ、秋蘭。」

 

華琳「純、怪我しないように気を付けなさい。それと、新鮮な肉を期待してるわね。」

 

純「はは。そう言われると気合が入りますね、承知しました!ですがその肉、兵達にも振舞いますね。」

 

華琳「ええ。構わないわ。さあ、行ってらっしゃい。暗くなる前に戻るのよ。」

 

純「はっ!」

 

華琳「行くわよ、春蘭。」

 

春蘭「はっ!では純様、また後で。秋蘭も、気を付けてな。」

 

そう言い、華琳は春蘭と一緒にその場を後にした。

 

純「よし、早速行くとするか!」

 

秋蘭「はい。」

 

そう言って、純は秋蘭の手を取り、狩りに出かけ、虎や熊といった大物を取って皆にご馳走を振舞った。

それからも、純と秋蘭は寝食を共にし、絆を深めていった。その時秋蘭は、前から聞いていた通り、純は武勇と軍才に優れ、将兵の統率にも長けており、全ての将兵を非常に第一に考えているため、非常に慕われていた。その人望は、姉の華琳を遙かに凌いでいると感じた。

それを見た秋蘭は、益々純を慕い、やがてそれは次第に愛に変わっていった。

そんなある日

 

純「お呼びでしょうか。父上。」

 

純は、父である曹嵩に呼ばれていた。秋蘭を連れて。

 

曹嵩「うむ。近くの村が賊に襲われているとの情報があってな。お前たちに任せたいのだが。」

 

純「分かりました。では、すぐに出陣します。」

 

曹嵩「うむ。頼んだぞ。」

 

純「はっ。ではこれにて。行くぞ、秋蘭。」

 

秋蘭「御意。」

 

そう言って、純達はその場を後にし、出陣した。

 

華琳「お父様。此度の賊討伐、純に任せたと。」

 

曹嵩「うむ。心配か?」

 

華琳「・・・少しは。」

 

曹嵩「はっはっは!お主はまだ弟離れが出来ぬか!」

 

華琳「お、お父様・・・」

 

曹嵩「そう心配せずとも、純はちゃんと帰って来る。勝利を手土産にな。いつもそうじゃろう?」

 

華琳「・・・はい。」

 

 

 

 

 

 

純「秋蘭。部隊を二つに分ける。一つはお前が率いろ。もう一つは俺が率いるから、二つの部隊で挟み撃ちをする。一人も逃がさず殲滅しろ。」

 

秋蘭「御意。」

 

そして2人はそれぞれ率いる部隊に別れ、村に向かう街道を駆け下りる。

それに気付いた賊であったが時既に遅く、

 

純「死ね。」

 

純の一太刀で賊の首が宙に舞う。それが皮切りで、賊との戦いが始まった。

一方の秋蘭の方も、賊とぶつかり、戦いが始まった。秋蘭はただただ純に褒められたいの一心で賊を射抜いていた。しかし

 

賊A「このアマー!死ねー!」

 

一人の賊が、秋蘭に剣を振り下ろそうとした。

 

秋蘭「・・・っ!」

 

突然のことで身体が動かず目を閉じたが、その衝撃が来ず、むしろ

 

賊A「ぐはぁっ!?」

 

秋蘭「・・・っ!?」

 

賊のうめき声が聞こえたので目を開けると、賊の身体に矢が貫いていて、その先には純が弓を構えていたのだった。

そして、馬を走らせ秋蘭に近付き

 

純「大丈夫か、秋蘭!」

 

心配の顔で秋蘭に言った。

 

秋蘭「はい、大事ありません。」

 

純「そうか。良かった!お前ら、このまま徹底的に叩き潰すぞー!」

 

そう言って、純は馬を駆け抜けた。そして賊は、全滅したのだった。

 

 

 

 

 

そして、村人達から感謝された純達は、帰る準備をしていた。その時

 

秋蘭「純様。」

 

秋蘭が純を呼んだ。

 

純「おお、秋蘭。先程は大丈夫だったか?」

 

秋蘭「はい。申し訳ありません。」

 

純「ん?何故謝る?」

 

突然謝ってきたので、困惑する純。

 

秋蘭「お支えするはずが、逆に助けられてしまって・・・。」

 

すると純は

 

純「気にすんなって。これから経験を積めば、お前は凄い将軍になるって。大丈夫。」

 

秋蘭「・・・はい。」

 

純「よし、引き揚げるぞ。」

 

秋蘭「・・・御意。」

 

そして、純達は引き揚げて、曹嵩に報告をした。更に

 

華琳「純~!」

 

純「あ、姉上!」

 

華琳に抱き付かれてしまったのは内緒だ。

 

 

 

 

 

 

 

 

秋蘭は一人、弓の鍛錬をしていた。

 

秋蘭「・・・。」

 

ヒュッ!パンッ!

 

秋蘭(駄目だ!こんな事で、純様のお助けにはならぬ!)

 

しかし、いつもの秋蘭ではなく、どこか焦っている感じだった。

 

秋蘭「もっと・・・強く・・・!」

 

すると、後ろから純が秋蘭の背中に付き

 

純「良いか秋蘭。弓はこう構えた方が良いぞ。」

 

そして、純は秋蘭に指導していた。

 

純「これで打ってみな。」

 

その声に従って、打ってみた。すると、先程よりも打ちやすくなっていた。

 

純「そうそう、そんな感じ!この感じを忘れんなよ。」

 

すると、秋蘭は跪き、拱手した。

 

純「そう思い詰めるな。お前は良くやっている。」

 

純がそう言うと

 

秋蘭「いいえ。まだ足りません。」

 

秋蘭はその言葉を否定した。

 

秋蘭「純様をお支えするには、まだ力が足りません。いえ、何もかもが足りませぬ。」

 

すると、純は秋蘭の頭を撫で

 

純「もう良い。」

 

そう優しく言った。

 

秋蘭「純様・・・。」

 

純「お前のそんな姿、俺見たくねーよ。お前は俺にとって、大切な人なんだから。」

 

秋蘭「私にそのようなお言葉、もったいない。」

 

すると、純は秋蘭の膝の上に頭を置いた。

 

純「だからもう良い。見ろ。今日は満月だぞ。」

 

そう言われて、秋蘭は空を見上げた。すると、純が言った通り、満月だった。

 

秋蘭「・・・はい。」

 

すると、純は秋蘭の膝の上で静かな寝息を立てながら眠った。秋蘭は、彼の寝顔を見て、表情が柔らかくなった。そして純の頭を撫でながら

 

秋蘭「いつまでも、お側でお支えします。いつまでも・・・。」

 

そう言った。すると

 

純「ああ、約束だぞ。」

 

恐らく純の寝言であろう台詞に驚いた秋蘭であったが、すぐに穏やかな表情になった。

優しい夜風と満月の光が、二人を優しく包み込んだのだった。



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栄華の想い

栄華の想いです。


純「さてと・・・これで先の戦で活躍した兵達に恩賞を与える事が出来るな・・・。」

 

純は、剛達が書いた兵達の恩賞の資料を持って栄華の執務室に向かっていた。そして、栄華の執務室の前に立った。

 

純「変だな、今は休憩の時間じゃない筈だが・・・。」

 

そう思った純は執務室の扉を開けた。すると

 

純「栄華?寝てんのか?」

 

栄華は執務室の机に突っ伏していた。

 

純「ん?」

 

しかし何か様子がおかしいと思った純は、よく見ると

 

栄華「はぁ・・・はぁ・・・。」

 

顔にはじっとりと汗をかいていて、全体が少し赤みを帯びていた。それに加え、寝息もどこか苦しそうで、喘ぐようにも聞こえた。

 

純「栄華、おい栄華!」

 

純はそう言って肩を揺すって声を掛けたが

 

栄華「あ、う・・・ん、んんっ・・・」

 

栄華の反応は鈍かった。そして、純は栄華の汗ばむ頬に触れた。

 

純「スゲー熱じゃねーか!」

 

と感じた純は誰かを呼び、栄華を部屋まで運んで寝台に寝かせた。

 

 

 

 

 

栄華の部屋

 

 

 

 

 

栄華「ん、んんっ・・・あら、ここは・・・」

 

栄華「私の部屋?どうして・・・私は執務室で仕事を・・・」

 

栄華「くっ、頭が・・・体も・・・」

 

純「気が付いたみてーだな、まだ寝てろ。」

 

栄華「ふぁっ!?ど、どうしてお兄様が私の部屋にっ!」

 

純の声に気付いた栄華が、がばっと体を起こした。

 

純「お前、執務室の机で突っ伏していてな、明らかに体調が悪かったから、俺がお前の部屋に運んだんだよ。」

 

栄華「そうですか。お兄様、ありがとうございます。」

 

純「大した事じゃねーよ。」

 

栄華「それで、私の病状は・・・」

 

純「医者曰く過労だ。日頃の無理が祟ったんだろうよ。」

 

栄華「過労・・・そんなの病気でも何でもありませんわ。」

 

純「まあ風邪とかとは違うかもしんねーけど、休息が必要な事に変わりねーよ。」

 

純「お前の仕事は、桂花や稟がやってくれてるから、今日のところは何も心配せずゆっくり休め。」

 

栄華「お三方は忙しいでしょうに・・・私が不甲斐ないばかりに。それに、稟さんはお兄様の軍師。申し訳ないですわ。」

 

純「自分で自分の事をそんな風に言うな。栄華は十分やってくれている。」

 

栄華「でもっ・・・こうして倒れてしまって・・・」

 

純「それについては、ちょっと反省しろ。」

 

純「仕事中に倒れてしまって悔しい気持ちは分かる。俺も、もし兵の調練の最中に倒れてしまったら、申し訳ない気持ちで一杯になってしまう。」

 

純「けど、あまり一人で背負い込むな。もっと周りを頼れ。」

 

栄華「・・・分かりました。今日のところは休みます。」

 

純「そっか・・・。そんじゃあ、俺は食堂で飯持ってくるから。」

 

栄華「・・・お願いします。」

 

そして、純は部屋を後にした。

 

栄華「・・・行きましたわね。」

 

栄華「はぁ・・・お兄様は、私のために言ってくれました。やっぱりお兄様は、優しいお方ですわ。」

 

栄華「けど・・・私は、お姉様の金庫番なのです・・・。しかし・・・お兄様は誰かを頼れと言ってくれた。」

 

そして、栄華はぬいぐるみを抱き締めて

 

栄華「・・・何故です。何故・・・お兄様は・・・私の心をこうも乱すのですか・・・。」

 

栄華「好きで好きでたまりませんわ・・・。はあ、はあ、お兄様・・・。」

 

涙を流しながらそう言ったのであった。

それから暫く経ち

 

純「待たせたな、栄華。」

 

純がお粥を持って来た。

 

栄華「お兄様、ありがとうございます。」

 

そして、純は傍に座り、お粥をレンゲで掬って

 

純「ほら・・・栄華。」

 

栄華「はい、お兄様・・・。」

 

栄華に食べさせた。そして

 

栄華「ごちそうさまですわ。」

 

全部食べきった。

 

純「全部食ったようだな。そんじゃあ、ゆっくり寝な。」

 

そう言って、純は部屋を出ようとしたが

 

ギュッ

 

純「ん?」

 

栄華は純の服の裾を掴んだ。

 

純「栄華・・・?」

 

すると

 

栄華「好き・・・。」

 

純「え・・・?」

 

栄華「お兄様の事が・・・好き・・・なのです・・・。小さい頃から、ずっと・・・」

 

と栄華は純に告白した。

 

栄華「もう抑えたくても抑えられないのです。お兄様には秋蘭さんがいる事が分かっても、抑えられないのです。」

 

と栄華は目を潤ませながらそう言った。それを聞いた純は

 

純「そうか・・・。栄華・・・俺も、お前の事、好きだよ。秋蘭と同じくらい・・・。」

 

栄華「え・・・っ?」

 

純「そのぬいぐるみをお前にあげてからだと思う、お前の事が気になったのは。その日から、お前の事好きだったよ。」

 

それを聞いた栄華は頬に涙が伝い、口元を抑えた。

 

栄華「嬉しいですわ、お兄様・・・。」

 

純「けど、俺には秋蘭が・・・」

 

栄華「分かってますわ。お兄様には、秋蘭さんがいる事を。そして、愛し合っている事も。でも、構いませんわ。お兄様は、自身を好きでいてくれる人皆を幸せにして下さい。」

 

純「栄華・・・。」

 

栄華「けど今は、私だけを愛して下さいまし。」

 

純「・・・分かった。」

 

そう言って、互いに抱き締め合い、口付けを交わしたのであった。



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楼杏の想い

楼杏の想いです。


楼杏「純さん、楼杏です。宜しいでしょうか?」

 

純「うむ。入れ。」

 

そして、楼杏がカツカツと軍靴を鳴らしながら純の部屋に入った。

 

楼杏「お呼びと聞いて、参上致しました。」

 

純「そう畏まるな、俺と楼杏の仲だ。楽にしてくれ。」

 

楼杏「・・・分かりました。」

 

楼杏「純さん、私にご用というのは?」

 

純「うむ。稟と風、そして剛とも話し合ったのだが、楼杏にはこれから俺が率いてる隊の指揮の一部を任せたいのと、剛達に、今までの戦で培った経験と知識を伝えて欲しいのだが。」

 

楼杏「えっ・・・?私が兵の・・・つまり、純さんが率いる黄鬚隊の兵の一部の面倒と皆に将としてのイロハを教えろと?」

 

純「そういう事だ。楼杏の将としての実力は、俺がよく知っている。俺や皆も、何度か戦に出て経験を積んできた。けれど、楼杏ほど将としての経験はしておらず、剛達にとって、楼杏は生きた手本だ。頼めるかな?」

 

そう言われ

 

楼杏「身に余るお言葉。是非とも拝命致します。」

 

と拱手した。

 

純「そうか!では、頼むぞ!」

 

楼杏「はっ!」

 

その日以来、楼杏は軍のあらゆる面に関して、今まで培った経験と知識を余す事なく伝えた。それは剛だけじゃなく、春蘭や秋蘭らにとっても、目から鱗が落ちる事でもあった。

そして、楼杏が直々に指揮を執った練兵でもしっかりとした練兵を見せ、純に隊の一部を任されたのだった。

 

 

 

 

 

純の部屋

 

 

 

 

 

純「今日の練兵、ご苦労だったな。」

 

楼杏「純さん、ずっと私の練兵を見ていたわね。どうだったかしら?」

 

純「うむ。久し振りに見たがやはり、楼杏の練兵は基本に沿っている。実に楼杏らしい堅実な練兵だったな。」

 

楼杏「何事も基本に沿う事が大切だからね。」

 

純「そうだな。」

 

純「それで、練兵してみての感想はどうだった?」

 

楼杏「ええ。純さんが鍛えただけあって、皆優秀な兵ばかりね。呑み込みも非常に早かったわ。」

 

純「そうか、それは良かった。」

 

すると

 

楼杏「ふふっ・・・。」

 

楼杏が突然笑ったのだった。

 

純「?どうした?」

 

楼杏「いえ、あなたとこうして二人っきりで話すのは久し振りだなって・・・。」

 

純「そういえば、そうだな。」

 

楼杏「始めて会った時から、あなたは武勇と軍才に優れていたわ。その時思ったの、いつかこの子は、大陸を轟かす強い将軍になれるってね。」

 

純「そうだったんだ。楼杏に言われるなんて、光栄の極みだよ。」

 

すると、楼杏は純の手を優しく握り、指を絡めた。

 

純「楼杏?」

 

楼杏「そして、あなたはいつも私の心を簡単に乱してしまう悪い御方・・・。」

 

そう言い絡めた指を更に強め、純の頬に手を添え

 

楼杏「んっ・・・。」

 

純に口付けをした。

 

純「えっと・・・楼杏?」

 

楼杏「好き・・・。」

 

すると、楼杏は純に告白した。その溢れた想いは、留まる事は出来ず、純を抱き締めた。

 

楼杏「あなたが好きなの、純さん。好きすぎて、苦しくて夜も眠れない。」

 

純「楼杏・・・。」

 

楼杏「正妻にしろだなんて言わない。序列は最後で良いの。だから・・・だから、私と恋仲になって下さいっ!!」

 

それを聞いた純は

 

楼杏「あっ・・・。」

 

楼杏を強く抱き締めた。

 

純「こんな武骨者だけど、良いんだね。」

 

楼杏「ええ。もうあなたしか考えられない。ああ・・・純さん・・・。」

 

そう言い、楼杏は純の胸板に顔を埋めた。そして、純は楼杏の顎に手を添え

 

純「楼杏・・・。」

 

楼杏「純さん・・・。」

 

楼杏も両手を純の頬に添え

 

純「んっ・・・。」

 

楼杏「んっ・・・。」

 

口付けをしたのだった。そして、その夜二人は一つになったのであった。



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稟の想い

稟の想いです。


稟「純様っ!」

 

廊下に、稟の声が聞こえた。それはもう、耳がキーンとするレベルの声だった。

 

稟「曹操殿も今ではないと仰いましたが、では、いつがその時なのですか!」

 

稟「今こそが充実の時と私は考えます!何故、純様らしくない惰弱なお考えで水を差されますか。」

 

そう言い、鼻息荒く稟は純にそう進言していた。

 

純「惰弱かぁ・・・。」

 

稟「今こそ飛躍の時なのです。・・・純様はお感じになりませんか?この高まりを。」

 

そう稟は珍しく両手を大きく振り回し、熱の籠もった弁を続けている。

 

純「確かに、反董卓連合が終わり、皆が群雄割拠している。それに、先日は青州での黄巾の残党を平定し、その中から精鋭を選んだ。それによって兵の数も増え、精強な軍隊になったな。」

 

先日、青州での黄巾残党が反乱を起こし、兗州まで侵入したのだが、純の活躍で反乱を平定し、降伏した中から兵を選んだのだ。そして彼らは、『青州兵』と名付けられた。

 

稟「そうです!その機を最大限に生かす事を、何故お考えにならないのですか!」

 

稟「今こそ、この大陸に曹操殿が覇を唱える準備は整ったと言えましょう。将兵達も、曹操殿の大願成就のため、純様がご活躍されるための戦を待ち望んでおります!」

 

純「確かに。・・・その熱は心地の良い、歓迎すべきものだな。」

 

稟「では・・・その前に後顧の憂いを断ちましょうという策に、何故採用しないのです!」

 

純「後顧の憂いか・・・。」

 

稟「純様も、辺りの山地に巣食う盗賊が跋扈しているとの報告は届いてるはず。何故、それを見て見ぬふりをなさいます。」

 

稟「純様は、この曹軍全軍の将兵を束ねておられるお方です。曹操殿が何を言おうと、純様のお声で出陣する事が出来ます!」

 

すると

 

純「ネズミを殺すのに、虎をけしかけろと言うのか?それとも、大願成就の大戦の前に贄の一つを捧げろと言うのか?」

 

と純はそう返した。

 

稟「に、贄などと・・・」

 

純「血を目にすれば人は狂う。俺は大切な将兵に、無意味に血の味を覚えさせる趣味はこれっぽっちもねーぞ?」

 

その時、純の目にさっと冷たい輝きが映り込んだ。

 

稟「しかし民達は盗賊に脅され、喘いでいるのです!それを全軍の将帥として見逃すと仰るのか!」

 

純「それに、そいつらの生まれは、元々その辺りに住んでいた若い連中と姉上は言っていた。そいつらが力を持て余し、結果暴徒になっているんだ。放っておいても構わねーだろう。」

 

稟「なんという愚挙・・・なんという愚行!蟻の一穴より堤も崩れる事があるというのに・・・」

 

稟「それにこの一事を見逃しては、純様の姉である曹操殿の風評にも障りましょう!」

 

純「稟・・・頭に血が上りすぎじゃねーのか?」

 

稟「そ、そんな事は・・・!」

 

純「お前の冷静さとその鬼謀も、向こうに回す相手が小者過ぎると勝手がちげーのか?・・・それとも、そうして頭に血を上らせる理由でもあんのか?」

 

稟「う・・・。」

 

それを聞いた稟は、その自覚があったのかバツが悪そうな顔をした。

 

純「姉上もそうかもしんねーが、俺の目には、お前の心配する暴徒など、稚気に満ちたものにしか見えねーよ。」

 

稟「し、しかし・・・っ!」

 

純「でもまあ、稟がどうしてもと言うのなら、制圧部隊を派遣するか。」

 

稟「・・・御意!」

 

純「では稟、兵はどのくらい必要だと考えている?なるべく少数精鋭で見積もれねーか?」

 

稟「そうですね・・・三千で制圧しましょう。」

 

純「いや・・・もっと少なく出来るぞ。」

 

稟「では・・・純様は一体何人で制圧できると?」

 

それに

 

純「三人だ。」

 

と答えた。

 

稟「え、三人?・・・まさか!」

 

純「流石稟、察しが良いな。張三姉妹に一働きさせれば十分だ。ついでに開墾出来そうな土地も調査させておきたいのだが、三姉妹だけじゃ足りねーし、人選はお前に任せるとする。しかし、千も二千も動かすなよ。」

 

稟「む・・・。」

 

純「では稟、任せたぞ。」

 

すると

 

稟「・・・純様は、暴れるだけの下衆共に職を与え、顎の下を撫でてやろうと仰るのですか!」

 

稟はそう純に対して強く言った。

 

純「・・・稟。俺は国を治める立場じゃねーし頭もわりーが、そんな俺でも分かる。跳ねっ返りの若者などは必ず居るぞ。そんな若気を窘めるのに、大切な兵を動かす必要はねーよ。」

 

純「姉上によると、その場合は二つのショクと・・・そして少々の娯楽だったかな?その三つを与えてやれば、稚気にまみれた動乱なんか、すぐに鎮圧出来ると言っていたしな。」

 

稟「むぅぅ・・・。」

 

純「それに、暴れているとはいえ既に姉上の国の民だ。・・・その若者を無慈悲に討ち滅ぼして、その家族は俺達に頭を垂れてくれるか?」

 

稟「それは・・・」

 

純「そういう事だ。稟、任せたぞ。」

 

稟「・・・御意。」

 

純「まあでも、お前のそういう姿見れて楽しかったな・・・。」

 

稟「そ、それは・・・」

 

純「しかし、最近のお前は何だ?秋蘭によると、俺に嫉妬してるらしいな。」

 

稟「べ、別に嫉妬なんて・・・!」

 

すると

 

純「ふっ。その、隙あらばこの俺をも刺し貫いてしまおうとする目の奥に・・・揺れているのは何だ?」

 

と純は稟に近付いて、耳元でそう言った。

 

稟「つ・・・っ、あ。」

 

それに、稟は純の胸元に両手を置き抵抗しているのだが弱々しい抵抗だった。

 

純「何を恐れているんだ?稟。俺の信頼を完全に得る事が出来るかどうか?それとも、俺がお前の才を捧げるに足りる器かどうか・・・か?」

 

純「けど俺は、お前の事を全面に信頼してるんだぞ。それを疑ってるのか?」

 

稟「あ、あるいは、暗愚の主として・・・私はあなたに失望するかもしれません。」

 

純「ほう・・・?」

 

純「そんじゃあ、稟・・・。どうすれば、お前は俺に失望するんだ・・・お前の策も解さぬ愚か者と感じたらか?」

 

稟「如何にも。」

 

純「お前の献策をはね除ければ、即ち俺は無能か。」

 

稟「あるいは・・・」

 

純「なら、今の俺は無能で失望する相手という事か・・・ふっ、はっはっはっは。」

 

そして

 

純「主を侮辱する軍師か・・・ふっ、おもしれーな。」

 

そう言って、純は稟の腰に手を回した。

 

純「けど、困ったな、稟・・・。お前がどんなに可愛くても、お前ばかりを構っては、俺の直属の臣下を寂しがらせてしまうな。」

 

稟「な・・・っ、わ、私がいつ寵愛の話など!」

 

純「本当は俺を独占してーのか?んちゅ・・・」

 

そう言い、純は稟の耳に口付けした。

 

稟「んっ・・・あふっ・・・」

 

それに稟も益々抵抗が弱まり、腕を純の背中に回そうとする寸前だった。

 

純「俺の視線を・・・信頼を、一身に集めてーのか?」

 

稟「あなたではなく、あなたの将帥としての資質を・・・私は欲します!そんなものは・・・んっ、求めては・・・いないっ!」

 

しかし、稟は残った理性をフル動員してそう言い返した。

 

稟「あなたは私の野心です。私の知謀であなたをがんじがらめに、まるで傀儡の人形であるかの如く扱うのが・・・我が目的!」

 

と更にそう言った。

 

純「ふっ・・・あはははは。」

 

純「お前の思い通りになる主など、この大陸のどこにでも転がっているだろう?なら、どうして俺に仕えた?」

 

稟「・・・そ、それは・・・」

 

純「俺はそう簡単に、お前の思い通りにはならねーぞ?寧ろ、人形遣いの筈のお前を、繋がった糸でがんじがらめに縛り付けちまうかもな。」

 

純「それに、もう俺に縛り付けられちまってるかもな。」

 

稟「そ、そんな事・・・」

 

純「そんじゃあ、俺の背中に回してる両腕は何だ?」

 

稟「!」

 

その時、稟は自分の両腕が純の背中に回してる事に気付いた。それを解こうと考えたが、逆に強く抱き締めてしまっていた。

 

純「稟・・・。」

 

稟「あ・・・。」

 

そして、二人は顔を近づけ

 

純「んっ・・・。」

 

稟「んっ・・・。」

 

互いに口付けをした。そして互いに口を離して

 

稟「純様・・・。」

 

純「ん・・・?」

 

稟「愛してます・・・。」

 

純「ふっ・・・俺も・・・。」

 

そう言い、また口付けを交わし、抱き締め合った。

 

稟「あの・・・純様・・・」

 

純「んっ?」

 

すると、目を潤ませながら上目で純を見て頬に手を添え、愛おしそうに撫でた。

 

純「ふっ・・・どうした?」

 

稟「もっと・・・きつく抱き締めて下さい・・・。あなたを・・・もっと感じたいのです・・・」

 

純「・・・分かった。」

 

そして、お互いきつく抱き締め合ったのであった。



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凪の想い

凪の想いです。


凪「・・・はぁ。」

 

城の上で、凪は一人溜息をついていた。

 

凪「たまの余暇に、何をしているのだろうな?私は。」

 

彼女は、ある悩みを抱えていた。それは、自身の主でもある、純の事である。最初は、憧れの人の下に仕える時、歓喜の声を心の中で上げた。その時は、自身の武をこの人に全てを捧げようとし、日々の鍛錬に勤しみ、今や黄鬚隊の指揮の一部を任せられるほどになった。

そして、彼を間近で見て、その思いは敬意だけでなく、次第に愛も加わっていき、彼を目で追うようになっていった。しかし

 

凪(純様には、既に秋蘭様と栄華様がいる。それに稟様も楼杏様も。そのどれもが私とは違って、綺麗で凜々しい方ばかりだ。やはり、私が入り込む隙などありはしない・・・。)

 

と思い、諦めようと思っていた。けど

 

凪(でも、駄目なのだ。どうしても、純様を目で追ってしまう。諦めなきゃならないのに。胸が苦しい。私はどうすれば・・・。)

 

と思い

 

凪「はぁ・・・。」

 

また溜息をついた。するとそこへ

 

真桜「なーぎー。ここにおったんかー。」

 

沙和「凪ちゃーん。」

 

凪「真桜・・・沙和・・・」

 

真桜と沙和が現れた。

 

真桜「何をしとるん、こんな所で?」

 

凪「別に何もしていない。そういう二人は何をしている。」

 

真桜「ウチも沙和も今日は非番やから、息抜きで散策しとったら、凪がそこで黄昏れていたのを見つけて声をかけただけや。」

 

沙和「なの!」

 

凪「・・・そうか。」

 

真桜「それで凪、大将の事やろ?」

 

凪「・・・。」

 

真桜「やっぱりな。大将が気にしとったで。」

 

これに

 

凪「な・・・!?」

 

分かりやすく、顔を真っ赤にして驚いた。

 

凪「何故、純様が・・・!?」

 

沙和「朝から晩まで溜息ばかりだと、純様でなくても気にするのー。」

 

凪「・・・純様は何と?」

 

真桜「ええー。どうしようかなー?」

 

沙和「なのー!」

 

しかし、真桜と沙和は互いに笑顔で顔を合わせ、話さなかった。それを見た凪は

 

真桜「じ、冗談や凪!」

 

沙和「凪ちゃーん、ごめんなのー!」

 

閻王を構えて、いつでも攻撃できるよう構えた。

 

真桜「全く・・・閻王を構えるとはな・・・。」

 

沙和「怖かったのー!」

 

凪「お前達が、からかうようなことばかり言うからだっ!!」

 

真桜「大将と栄華様が情を交わしたのを知って、苦しいんとちゃうんか?」

 

沙和「なの。」

 

すると

 

凪「な・・・!?」

 

また凪の顔が真っ赤になった。

 

凪「何故二人がそれを知っている?」

 

沙和「そんなの、あんな仲良しの姿を見たら、誰だって分かるのー。稟ちゃんも、純様の事愛してるし、楼杏様もなの!」

 

凪「・・・。」

 

真桜「大将はホンマに気にしとった。これまで一緒におって分かったんやけど、大将はホンマに将兵の事を考えとる。」

 

凪「それが純様なのだ。私達臣下だけでなく、一兵卒のことも大事にしておられる。」

 

真桜「大丈夫や。凪も充分可愛いで。ウチらが保障したる。」

 

沙和「なの!凪ちゃん、自信持つの!純様は、きっと凪ちゃんの思いを受け取ってくれるの!」

 

凪「・・・そうだろうか。」

 

真桜「そうやで!大将は、人の想いを無下にするような人やないやろ。」

 

凪「・・・そうか。ここで私が躊躇ったら、意味がない。純様の思いを裏切るのと同じ。今から純様の元へ向かう。済まんな、二人とも。」

 

真桜「何言うてんねや。ウチらの仲やろ。」

 

沙和「なのー!困ったときは、お互い様なの!」

 

凪「ああ!」

 

そう言って、凪はその場を後にした。そして、凪は純の部屋の前に立ち

 

凪「純様、凪です。入っても宜しいでしょうか?」

 

と言った。すると

 

純「凪か。入れ。」

 

という声が聞こえたので

 

凪「失礼します!」

 

と言い、部屋に入った。

 

純「それで、俺に何のようだ?」

 

凪「えっと、そのですね・・・。」

 

その姿は、いつもの凪にしては珍しくしおらしかった。

 

凪「純様は、秋蘭様と栄華様に稟様、そして楼杏様をどう思ってますか?」

 

純「好きだよ。俺にとって、かけがえのない存在だ。」

 

凪「・・・。」

 

純「けど、最近もう一人決してなくしちゃいけない人を見つけたんだ。」

 

凪「・・・それは一体・・・。」

 

純「お前だ、凪。」

 

凪「っ!!。」

 

純「俺、お前のことも好きなんだ。一臣下としてだけでなく、一人の女として。」

 

すると、凪の目から大粒の涙が零れ落ちた。

 

凪「純様、それは本当ですか・・・。本当に・・・。」

 

純「ああ。嘘でもない。お前のことも好きだ。」

 

凪「純様っ!!」

 

凪は、純の胸に飛び込み、胸に顔を埋めた。

 

凪「ずっと、我慢してたんです。」

 

純「?」

 

凪「純様には、秋蘭様に栄華様に稟様、そして楼杏様がいる。私はあの四人とは違って、綺麗で凜々しくもなく無骨者ですし、なによりこの傷跡。だから、諦めようと思っていました。けど、そう思えば思うほど、純様への気持ちがどんどん強くなってしまい、どうすれば良いのか分からなくなってしまいました。」

 

すると

 

純「お前は無骨者なんかじゃねーよ。」

 

と純は言った。

 

凪「えっ?」

 

純「凪は無骨者なんかじゃねー。凪は、俺には勿体ないくらいの魅力を持った女子だ。だから、そう自分を卑下すんなよ。俺が辛い。」

 

純「それに、その傷跡は友を、仲間を守った傷なんだろ?だったら、それは勲章ものだ。千金の価値に勝るものだ。もし、その傷跡を馬鹿にする奴は、この俺が許さねー。」

 

そう言い、純は凪の背中に腕を回して、強く抱き締めた。

 

凪「本当に、私みたいな女でも・・・?」

 

純「二度も言わせるな。俺は見た目で判断しねーし、凪が俺を好きだって言ってくれた事が本当に嬉しかった。」

 

凪「はい・・・。」

 

純の言葉が恥ずかしかったのか、凪は顔を真っ赤にしたのだが、それが嬉しそうにはにかむように笑った。そして

 

純「凪・・・。ん・・・っ。」

 

凪「純様・・・。ん・・・っ。」

 

二人は静かに唇を合わせ、寝台に倒れ込んだのだった。



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霞の目覚め

霞の目覚めです。


霞「はぁ・・・。」

 

とある日、霞は上物の酒が手に入ったので月見酒と洒落込もうとしたのだが、何か物足りなさを感じていた。

 

霞「おっかしいなぁ~。こんなに良い酒と綺麗な月があるっちゅうのに何かが足りひん気がするんよな~。」

 

そう言い、酒を一口飲むが、やはり何かが足りなかった。

 

霞「う~ん。こういうときは妙ちゃんに聞くに限るな。」

 

そう言って、霞はその場を後にして秋蘭の部屋に向かったのだった。

 

 

 

 

 

秋蘭の部屋

 

 

 

 

秋蘭「ふむ。何かが足りない気がすると。」

 

霞「そうなんよ。何が足りひんのかな?」

 

そう言って、霞は秋蘭に尋ねた。

 

秋蘭「そうだな・・・。最近あった一番楽しかったことは何だ?」

 

霞「へ?一番楽しかったことか・・・。せやな・・・たまたまなんやけど、純と一緒に街に行ったことかな?」

 

と霞は言った。すると、それを聞いた秋蘭はクスクスと笑いながら

 

秋蘭「なんだ、もう答えは出たではないか。」

 

と言ったのであった。

 

霞「?どういうこっちゃ?」

 

秋蘭「とりあえず、純様を誘うといいぞ。」

 

霞「そうなん?まぁとりあえず誘ってみるわ。」

 

そう言い、霞は秋蘭の部屋を後にした。

 

秋蘭「随分と軽い足取りではないか。それにしても、栄華に楼杏、そして稟に凪か・・・。恋敵が多くて困ったものだ・・・。」

 

そう言った秋蘭だが、その顔には微笑を浮かべていたのだった。

その後霞は、純の部屋を訪ねたのだが留守で、あちこち探し、そして先程飲んでいた場所に行くと

 

霞「なんや純、ここにおったんか。」

 

純「ん?ああ霞か。俺を探してたのか?」

 

純を見つけたのであった。

 

霞「せやで、一緒に酒でもどうかなと思ったんよ。」

 

純「そうか。それじゃあ馳走になろう。」

 

そう言って、純は少しずれて霞の座るスペースを作る。霞はそこに腰を下ろし杯に酒を注ぐと純に手渡し、自分の杯にも注いだ。

 

霞「結構良い酒やで。」

 

純「霞がそう言うならそうなんだろうな。」

 

そう言い、純と霞は静かに酒を飲み始めた。二人の間には特に会話はなく、ただ静かに月を見上げていた。その時、

 

霞「なぁ純、隣にそいつが居るだけですっごい満足感が味わえるような奴ってどんな存在なんかな?」

 

と純に質問した。それに純は

 

純「うーん、そうだな・・・。難しくは言えねーんだけど、同性なら親友、異性なら恋人、もしくは好きな人じゃねーかな。」

 

そう答えた。すると

 

霞「!!そっか~、好きな人か~。」

 

霞はそう呟いたが、その頬は朱色に染まっていた。

 

純「俺はそう思っただけだ。しかし、今日の月は良いな・・・。」

 

と言い、酒を飲んだ。

 

霞「へへ、せやな~♪」

 

霞もそう言い、酒をクイッと飲み干した。その時の霞の表情は、非常に幸せな表情をしていた。そして、二人はその後も酒を飲み月を見上げていたのであった。



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42話

42話です。


反董卓連合が解散してしばらくの時が過ぎたが、諸侯の小競り合いが続き、乱世は収まることはなかった。ただ、それで華琳達の日常が劇的に変わったかというと、特にそういうわけでもなかった。ただそれは、この先に起こる嵐の前の静けさでしかなかった。

そんなある日の事であった。

 

 

 

 

 

玉座の間

 

 

 

 

 

 

華琳「これでやりなさい。」

 

桂花「仰せの通りに。」

 

その日、華琳は桂花に指示をしていた。

その時

 

純「姉上。洛陽より董承の密使が、詔書を届けて参りました。」

 

純が入ってきて、詔書を華琳に渡した。

 

華琳「その密使はどうしたの?」

 

純「はは。どうやらかなり腹を空かせていたらしく、着くなり倒れたので、裏庭に運ばせて粥を食わせました。」

 

そう言い、純は華琳に詔書を渡した。

それを読んだ華琳は、少し顔色を変えた。そして、その詔書を桂花に渡して読ませた。

それを読んだ桂花も

 

桂花「っ!?・・・これは・・・!?」

 

驚きの表情を浮かべた。

 

純「桂花。何があったんだよ?教えてくれ。」

 

それを見た純は、そう桂花に尋ねた。

桂花は華琳を見ると

 

華琳「・・・。」

 

華琳は頷いた。

 

桂花「純様。私達が力を付けている間に、都で天地を揺るがす一大事が起きたのです。反董卓連合の後、天子と百官が賊の権力争いに翻弄され、洛陽は廃墟と化し、血が川の如く流れ、水や食糧も枯渇しました。天子は粗末な物を召し上がり、百官達の命も危うい。」

 

すると

 

華琳「要点を言いなさい。」

 

と華琳が桂花に言った。

 

桂花「はっ。今天子は、安集将軍董承の下決起し、賊と事を構えております。」

 

純「はぁっ!都の兵は脆弱な奴らじゃねーか!そんなの、ひと月と持たねーぞ。」

 

桂花「はい。純様の仰る通りで、このままじゃひと月と持たず、皆殺されます。そのため、董承はこの詔をお書きになり、諸侯に急ぎ助けを求められたのです。」

 

これに

 

華琳「このような好機、またとないわ。」

 

そう華琳は言った。

 

純「好機?姉上、どこが好機なのですか?俺にはさっぱり分かりません。」

 

桂花「つまりこうです。今から出兵し、天子をお助けすれば、天子は華琳様の手の中。しかる後は・・・」

 

華琳「天子の名の下諸侯に命じ、天下を我が手に!」

 

華琳は手を掲げ掴みながら言い

 

華琳「純。今すぐ兵の準備をしなさい!」

 

純にそう命令した。

 

純「はっ!それで姉上、その賊共は全て俺が斬り殺しても宜しいですか?」

 

華琳「ええ。好きになさい。」

 

それを聞いた純は、すぐに獰猛な笑みを浮かべ

 

純「御意!ではすぐに出陣の支度をして参ります!」

 

そう拱手して言い、その場を後にした。

そして、すぐに出陣した。

その他の諸侯にも勿論詔書が届き、袁紹は特に駆けつけたかったが、郭図に猛反対され決断できなかった。

袁術の方は、詔書を破り捨てるなどし助けに向かわなかったのだった(もっとも、その詔書を破り捨てたのは張勲だった。)

これを聞いた華琳は

 

華琳(麗羽・・・私より洛陽に近いはずなのに・・・。袁術も詔を受けないと。あの耳障りな高笑いのみが取り柄の愚かな一族ね・・・。)

 

華琳(麗羽・・・あなたのような馬鹿に、私の可愛い弟を渡せないわ・・・。)

 

と馬上でそう思っていたのであった。



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43話

43話です。


董承「くぅぅっ!卑しき賊め!皆、何とか持ち堪えるのじゃ!賊共に陛下をお渡ししてはならぬ!」

 

「「「はっ!!!」」」

 

董承「陛下、どうかご安心を。この董承がついております。」

 

霊帝「そ、そうね。頼りにしてるわよ!」

 

劉協「頼みます!」

 

董承「ははっ!」

 

朝廷兵士A「申し上げます!城の東に大軍が現れました!」

 

この知らせに

 

朝廷文官A「何と!?」

 

朝廷文官B「漢室はもうお終いじゃ!」

 

皆はそう動揺した。

 

董承「どこの軍じゃ!それは賊の味方か!」

 

董承の質問に

 

朝廷兵士A「いえ、援軍です!我らの援軍でございます!」

 

兵士はそう答えた。

これに

 

朝廷文官C「おおっ!援軍じゃと!」

 

朝廷文官D「恐らく袁紹じゃろう!もう安心じゃ!」

 

皆はそう答えた。

 

董承「陛下!援軍が参りました!もうご安心ですぞ!」

 

そう二人に言った。

 

劉協「それで、どこの軍なのですか?」

 

董承「きっと冀州の袁紹が馳せ参じたのでしょう!冀州はこの洛陽に最も近いのです!」

 

しかし、彼らの予想とは大違いだった。

 

朝廷兵士B「申し上げます!援軍は、冀州の袁紹ではございません!苑州州牧のそ、曹操です!」

 

これには

 

朝廷文官E「曹操だと?何故だ?」

 

朝廷文官F「分からぬ・・・」

 

皆は驚きの表情を浮かべた。

 

董承「陛下・・・曹操とは、思いも寄りませんでした。一番近くの袁紹は静観しているのに、曹操が遠路はるばる助けに参りました。」

 

董承「陛下。まさしく、『苦難に陥ったときこそ、誰が忠臣か分かる』と申すとおりですぞ!」

 

董承「曹操が参りましたら、どうか労いの言葉をお掛け下さい!」

 

霊帝「分かってるわ。曹操には、沢山労うわ。」

 

劉協「十分な恩賞も授けます。」

 

 

 

 

 

 

 

曹操軍

 

 

 

 

 

 

華琳「随分廃墟と化したわね。」

 

純「そのようですな。姉上がちゃんと復旧させたにもかかわらず。これじゃあ、余所の軍が攻めてきたら半日も保ちませんよ。まあ俺だったら、半刻で落とせますけど。」

 

華琳「そう。純、あの賊共を殲滅しなさい。その後、私は天子にお会いするわ。」

 

純「御意。」

 

桂花「華琳様。天子の前では朝廷の礼儀作法を守り、天子と百官を安心させるのです。」

 

華琳「分かってるわ。」

 

純「稟、風、後ろは任せたぞ。」

 

稟「はっ。存分にお暴れ下さいませ。」

 

風「御意~。」

 

純「お前ら、『黄鬚』曹彰について来い!」

 

「「「おおーっ!!!」」」

 

春蘭「純様に遅れを取るな!」

 

秋蘭「純様に続け!」

 

華侖「行くっすよー!!」

 

柳琳「姉さん、決して無理をしないでね!」

 

栄華「そうですわ!」

 

霞「よっしゃああっ!!やったるで!!」

 

香風「うんっ!!」

 

剛「行くぞ!!」

 

哲「殿に遅れてはならぬぞ!!」

 

楼杏「純さんに続きなさい!!」

 

凪「前進あるのみだ!!」

 

真桜「行くでー!!」

 

沙和「なのー!」

 

そして、この突撃で賊軍は壊滅し、賊の主だった者は全て斬り殺されたのだった。

 

 

 

 

 

 

 

華琳「桂花。あと一つ考えて欲しいわ。」

 

桂花「何でしょう?」

 

華琳「洛陽はもう使い物にならないわ。都を移すならどこが相応しいのかしら?」

 

この質問に

 

桂花「苑州の許です。」

 

桂花は即答した。

 

華琳「何故かしら?」

 

桂花「華琳様のお膝元に、天子を置いておけば安心できるでしょう。華琳様もそうなさろうと思われていたのでは?」

 

これに

 

華琳「桂花。私の考えをそこまで察していたとはね。」

 

華琳はそう言った。

 

桂花「それが、臣下としての務めです。」

 

と桂花は拱手して答えた。

 

華琳「フフッ・・・これからも頼むわね。」

 

桂花「ッ・・・!御意!」

 

そして、華琳はそのまま奥へ向かった。

跪いた華琳は

 

華琳「ここに、苑州州牧曹操、拝謁致します。」

 

そう拱手し、手をつき三拝した。そして立ち上がり、数歩歩いて跪き、手をつき三拝した。

 

霊帝「ご苦労だわ、曹操。」

 

これに、霊帝はただそう答えた。

 

劉協「忠臣です・・・まさしく忠臣です!」

 

しかし、劉協はそんな華琳の行動に感動したのか、涙を流しそう答えた。

その間も、華琳は朝廷の礼儀作法を行っていた。

 

霊帝「そんなまだるっこいのする必要ないわ。さあ、立ちなさい。」

 

華琳「陛下、万歳万歳万々歳。」

 

そう言い、華琳は立ち上がって手を叩いた。

それに後ろにいた桂花は布を被せていたある物を華琳に渡した。それを受け取った華琳は、霊帝に献上した。

 

華琳「陛下、どうぞ。」

 

霊帝「曹操、これは何かしら?」

 

華琳「お当て下さい。」

 

これに

 

霊帝「瑪瑙かしら?」

 

霊帝「琥珀?」

 

そう答えても、華琳は首を横に振った。

 

霊帝「何よ、早く教えなさい。」

 

これに、霊帝は痺れを切らしたのか、そう言った。

 

華琳「ではご覧下さい。」

 

そう、華琳は言った。

それに霊帝は、布を取り、蓋も取ると

 

華琳「陛下。こちらは鶏の汁物でございます。」

 

鶏肉のスープだった。

それに霊帝はスプーンを取って汁を掬って口にした。

 

霊帝「曹操。朕は、半年以上も肉を口にしてなかったのよ!」

 

これに、霊帝はそう言った。

 

華琳「お召し上がり下さい。」

 

そう言い、渡した華琳は後ろに合図を送った。

すると、純が現れその後ろには、沢山の食べ物を持った兵士が続いた。

 

華琳「皆様も、お召し上がり下さい。」

 

朝廷文官G「おおーっ!」

 

朝廷文官H「食べ物だーっ!」

 

純「落ち着いて下さい。まだありますから、ささっ、お召し上がり下さい。」

 

そして、天子と百官は腹を満たした後、外に出た。

するとそこには、勇壮な雰囲気を見に纏った多くの曹軍がいた。

 

華琳「どうか、苑州の将兵の閲兵をお願いします。」

 

霊帝「曹操。皆そちの将兵なのか?」

 

華琳「いいえ。これは皆陛下の将兵です。」

 

華琳(私の、というより全て純の将兵なのだけどね・・・)

 

霊帝「して兵の数は?」

 

華琳「兵馬合わせて十万でございます。」

 

これに

 

霊帝「・・・凄いわね。」

 

劉協「はい、姉様。」

 

霊帝とその妹劉協は圧倒された。

そして、華琳は純の方に目を向けた。それを見た純は頷き、太刀を抜き天に掲げた。

すると

 

「「「おおーっ!!!おおーっ!!!おおーっ!!!」」」

 

全ての将兵がかけ声をあげた。

これに

 

董承「陛下。」

 

天子と百官はその圧に後ろに下がった。

そして、純が太刀を下げると、兵のかけ声は止まった。

 

霊帝「凄いわ・・・!」

 

劉協「曹操殿の存在は、朝廷の喜びです!賊の根絶やしも、大いに期待できます!」

 

董承「陛下。曹操殿こそまさに忠臣であり、この漢の社稷の臣です!」

 

華琳「陛下。早速奏上したい事がございますが・・・」

 

霊帝「何かしら?」

 

華琳「この洛陽は、ご覧の通り無残な有様です。宮廷や宗廟もすっかり荒れ果て、その上守るのも非常に難しいです。」

 

華琳「そこで、陛下御身の安全及び漢帝国の再興を図る為にも、ここは許に遷都なさり、朝廷を立て直す事を切に願います。」

 

これに

 

朝廷文官I「それは、断じてなりませぬぞ。」

 

朝廷文官J「廃れたとはいえども、洛陽は二百年の帝都。風光明媚な地なのです。」

 

朝廷文官K「許などとんでもない!彼の地は曹操の領地。」

 

朝廷文官L「ええ!許に移れば、曹操の手の内に入ることになりますぞ!」

 

文官達はざわつき、反対の声を上げた。

それを見た華琳は、再び純に目を向けた。再び頷いた純は、再び太刀を抜き、天に掲げた。

 

「「「おおーっ!!!おおーっ!!!おおーっ!!!」」」

 

再び将兵はかけ声をあげた。そして、純が太刀を下げると、かけ声は止まった。

 

華琳「陛下如何です?どうぞよくご覧下さい。許においでになれば、我が弟曹子文を筆頭とした猛将と精鋭兵に守られ、朝廷は安泰ですぞ。」

 

と華琳は言った。

そして

 

霊帝(何よこれ・・・!怖い・・・!)

 

霊帝「奏上を・・・認めるわ。許に・・・遷都するわ。」

 

と霊帝は言った。

それを聞いた華琳は、再び純に目を向け、それに純は再び太刀を抜き天に掲げた。

 

「「「万歳!!!万歳!!!万歳!!!万歳!!!」」」

 

 

 

 

 

 

霊帝「朕は・・・怖いわ!!」

 

劉協「狼の巣から抜け出したかと思ったら、今度は虎穴に落ちてしまいました。」

 

董承「こうなってしまったら、時を待つしかありません。」

 

劉協「曹操殿は姉様と私を殺して、自ら皇帝になるのですか?」

 

董承「いいえ。曹操はただ陛下を掌中に収め、利用したいだけです。」

 

霊帝「そんな・・・」

 

劉協「・・・。」

 

そして、華琳達は許に遷都したのであった。



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44話

44話です。


許に遷都した華琳達は、大いに祝った。

霊帝は、その功により華琳に大将軍の位を賜ろうとしたが、華琳は麗羽が不満に出ると思い、その位を麗羽に譲った。

そして、華琳はまず許都の周辺の民に土地を与え、民屯として与えた。

純も、兵馬の訓練をさせ、鍛錬を積み重ねた。

そうして民心を安んじ、領内を安定させ、将兵を鍛え上げたのだった。そんな中、ある者が華琳に仕官した。

 

華琳「名は何て言うのかしら?」

 

司馬懿「はっ。姓は司馬、名は懿、字は仲達でございます。」

 

その者は、涼しげな風貌をした若者で、如何にキレ者と分かる程だった。

 

華琳「司馬懿、これからもよろしく頼むわ。」

 

司馬懿「はっ!」

 

そう言い、司馬懿は拱手した。

 

純(ん~。コイツ、何か嫌な感じがすんなー。)

 

その時、純はそう思いながら司馬懿を見ていたのだった。それから暫くして、淮南でとある動きがあった。

 

 

 

 

袁術「のお、七乃。妾は、皇帝になろうと思う。」

 

張勲「えっ?」

 

袁術「この玉璽があれば、誰でも皇帝になれるのじゃ。」

 

そう言い、袁術は玉璽を張勲に見せた。

 

張勲「フフッ・・・それが良いですわ。袁紹も美羽様に従うかと。」

 

袁術「ほっほっほ!麗羽姉様の悔しそうな顔が目に浮かぶぞ!」

 

張勲「よっ!流石美羽様!」

 

袁術「はっはっは!褒めてたもうー!」

 

そして、袁術は皇帝を僭称し、仲氏を名乗り寿春を都に定め、天下に告知したのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

袁紹「美羽さんは、天に逆らい皇帝を僭称し、仲氏皇帝と号しこの私に臣従するよう要求してきましたわ!」

 

その書簡を見た袁紹は、怒りのあまり投げ捨てて語気を荒げた。

これに

 

袁紹武将A「けしからん!例え袁術様とはいえ、無礼にも程がある!」

 

袁紹武将B「領土の広さや兵の数など、どれも全て袁紹様が袁術様を凌ぎます!」

 

文醜「そうだぜ!麗羽様、すぐに皇帝になった方が良いぜ!」

 

顔良「ちょっと文ちゃん、曹操さんの所には陛下がいらっしゃるのよ!」

 

顔良を除いて、他の袁紹軍武将がこぞって即位を進めた。

 

田豊「麗羽様。私が思いますに、この天下大乱の世の中で、諸侯には三つの選択肢がございます。」

 

田豊「一、漢を助ける。二、漢を奪う。そして三つ目は、助けることを名目に漢を奪う道です。美羽様は目先の利に走り、万民の前で漢を奪いました。これはまさしく愚行です。必ず報いを受けるでしょう。」

 

田豊「しかし麗羽様は、明晰な頭を持ち、視野も広い。ここは事を静観し行動するのが宜しいかと。」

 

この意見に

 

郭図「将軍達は建国によって、名をあげようとしていることは私も理解しております。ですが目下、漢も陛下もご健在。諸侯はこぞって覇を唱えるも、天下は定まらず、袁紹様の出番は時期尚早です。」

 

郭図「袁術様は未熟な桃を焦って摘まみ、手は棘だらけです。諸侯を敵に回したのです。袁術様はすぐに自滅するでしょう。」

 

郭図はそう言った。

 

田豊「麗羽様。美羽様の愚行に腹を立てる必要はございません。これは凶報ではなく、慶事だからです。」

 

袁紹「真直さん。何故慶事ですの?」

 

田豊「皇帝になりたがる者は多く、その者はえてして他の者がなる事を許しません。美羽様の僭称は天下の義憤を招くでしょう。そうなれば、全ての怒りが美羽様に集中します。ここで、麗羽様が一気に河北の残りを平定してからゆっくりお考え下さい。」

 

田豊「しかし、麗羽様にはやることが一つございます。美羽様は今、麗羽様に臣従を求めております。そこでですが、書簡を送っては如何かと?しかし、内容は臣従の意志ではなく、あくまでも祝賀です。」

 

袁紹「・・・ええ。分かりましたわ。」

 

そして、袁紹は袁術に祝賀の書簡を送ったのだった。

 

 

 

 

 

許都

 

 

 

 

 

華琳「ふふふっ・・・あはははは!皆聞いたわね!袁術が皇帝を名乗ったわ!」

 

華琳「私は笑い死にかけたわ!」

 

袁術皇帝即位に、華琳は大笑いした。

 

華琳「これは予想外だったわ!本当に・・・!」

 

純「姉上。袁術の野心を見抜けなかったのですか?」

 

華琳「違うわ。流石の私も、袁術がここまで馬鹿だったとは思わなかったのよ。この私がよ!これは大失態だわ!あはははは!」

 

これに

 

純「ははは!成程!」

 

春蘭「それは華琳様の仰る通りですね!」

 

秋蘭「ふっ・・・」

 

霞「まあ、せやな!あはははは!」

 

栄華「ええ、お姉様の言う通りですわ!」

 

華侖「あはははは!」

 

柳琳「ね、姉さん!笑いすぎよ!ふふっ!」

 

純を筆頭とした者達は大笑いした。

 

桂花「先に皇帝を名乗るのは袁紹だとお考えでしたが、意外にも袁術の方が先でしたね。」

 

華琳「ふふっ・・・天下の諸侯の中でも、麗羽と袁術は私の敵では無いわ。劉表は格下。公孫賛は見かけ倒しで、外面と違い中身は無いわ。私の真の好敵手は、劉備と孫策よ。」

 

華琳「麗羽と袁術の野心は見抜いていたけど、袁術が先に皇帝を名乗るのは予想外だったわ。これはつまり、麗羽も袁術同様愚物だけど、流石にそこまで馬鹿では無かったという事。」

 

華琳「今の私はどんな気分か、分かるかしら?」

 

すると、司馬懿が拱手して前に出てきて

 

司馬懿「内心喜んでおられますね。今や、漢室の中心は許都。曹操様はその重臣です。誰が皇帝を名乗ろうとも、我らが天子こそ正統な漢の皇帝。天子の命を受けて諸侯を招集し、袁術を討伐すべきかと。」

 

そう進言した。

 

華琳「だけど、敵は30~40万。私達の二倍以上よ。それに、奴らには孫策がいるわよ。」

 

司馬懿「袁術の軍勢は数は多くとも、統制は取れておりません。更に、強引な即位で周囲の怒りを買っておられます。恐らく孫策は、この僭称を大義名分とし、袁術から離反するでしょう。袁紹も支援をしないため、我らの出陣を阻む者はおりませんでしょう。」

 

司馬懿「それに、袁術が即位して皇帝が二人となり、我らが天子は、権威が半減しております。このまま見過ごせば第三、第四の皇帝が現れるやも。その時、天子に何の価値がありましょうか。」

 

桂花「更に、もう一点ございます。此度純様を出兵なされば、天子に代わっての出陣となります。純様は討伐軍の盟主となり、従わなければ謀反となる一方で、出兵した各諸侯は、純様とそれを纏めた華琳様の地位を認める事になりましょう。領地を奪い取るより有益だと思います。」

 

華琳「そうね。だが諸侯達は、従うと思うかしら?」

 

司馬懿「恐らくですが、形だけは従うものの、出陣はしないでしょう。皆、己の事で手一杯ですので。」

 

華琳「ふふふっ・・・あはははは!」

 

そして、華琳は立ち上がった。

 

華琳「命を下すわ。桂花、討賊の檄文を書いて天下に布告なさい。」

 

桂花「御意。」

 

華琳「司馬懿。詔をしたためた後、袁紹、劉表、馬騰、公孫賛に伝えなさい。朝廷から爵位を拝した諸侯は全て、各々が詔を受けて、ただちに討賊を助けるようにと。」

 

司馬懿「御意。」

 

華琳「純。あなたは20万の兵を率い袁術を討伐なさい。誰を連れて行くかはあなたに全て任せるわ。」

 

純「御意。では、稟、風、剛、哲、凪、真桜、沙和、楼杏、春蘭、秋蘭、霞を連れて行きます。」

 

華琳「分かったわ。」

 

華琳「明日、私が天子に上奏するわ。その後に出陣よ。私は許都にて吉報を待つわ。」

 

「「「御意。」」」

 

その翌日

 

華琳「陛下。これは陛下に対する謀反です。急ぎ、袁術を討伐しましょう。」

 

華琳は霊帝にそう進言した。

 

霊帝「そうね。なら、あなたが出陣なさい。」

 

霊帝の発言に

 

董承「おお、流石は陛下!まさに賢明なお言葉!曹操殿なら、賊の討伐など容易い。」

 

董承はそう讃えるように言った。

しかし

 

華琳「恐れながら陛下。私より遙かに適任がございます。」

 

華琳はそう霊帝に言った。

 

霊帝「誰なの?」

 

霊帝の問いに答える前に

 

華琳「董車騎将軍。私を推薦していただきありがとうございます。」

 

華琳は董承に顔を向け頭を下げ、礼を言った。そして、霊帝の方へ目を向け

 

華琳「我が弟の曹子文です。我が弟は、私より遙かに武勇に優れ戦に長けており、将兵の人望も非常に厚く遙かに適任です。必ずや、陛下のご期待に応え賊を討伐なさりましょう。」

 

そう言った。

これに

 

董承「曹操殿。このようなことを言うのは不躾じゃが言わせてもらう。お身内を推されるとは天下の人事を私しているように思いますが。」

 

董承は眉を潜ませながら言った。

 

華琳「董車騎将軍。身内であれ適任である人物いるにも関わらず、衆人の目を気にし憚る事の方が陛下への不敬かと存じます。」

 

華琳「それに、先の洛陽での陛下救出の際、御身が難に遭われた時、賊を一網打尽にしたのはどなたでしたか?」

 

董承「・・・そなたの弟君じゃ。」

 

華琳「ええ。私はただ賊がいた場所を歩いただけ。討伐してくれたのは我が弟です。これ以上の適任はいないでしょう。」

 

董承「う~む・・・」

 

これには、董承もうなるしか無かった。

 

霊帝「・・・分かったわ。では、そなたの弟曹子文を討伐軍の盟主とするわ。」

 

華琳「ははっ!」

 

そして、出陣のための儀式が始まった。

純を先頭に、他の将が歩いた。その先には、霊帝が祭壇に向け拱手した後、純に顔を向けた。

そして、純は拱手した。

 

霊帝「そなたを、護国大将軍に任じる。皇命を受け、朕に代わって王師に号令せよ!」

 

純「御意!」

 

そう言い、純は後ろへ振り返り太刀を抜き、天高らかに掲げた。

 

「「「必勝!必勝!必勝!万歳!」」」

 

「「「必勝!必勝!必勝!」」」

 

「「「必勝!必勝!必勝!万歳!」」」

 

そして、純は20万の兵を率いて出陣したのであった。



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45話

45話です。


純率いる20万の兵が、寿春へ向けて出陣した。その姿は、まさに官軍に相応しく威厳があり、勇壮な雰囲気を纏っていた。

 

純「・・・。」

 

純も、まさに護国大将軍という名に相応しい覇気を纏っていた。

 

霞「なあ惇ちゃん、妙ちゃん。」

 

春蘭「ん?」

 

秋蘭「何だ?」

 

霞「純、ホンマにかっこええなぁ・・・!」

 

それを見た霞は、春蘭と秋蘭にそう言った。

 

春蘭「当然だ。なんたって、『黄鬚』と呼ばれし我が軍いや、呂布を倒したから大陸最強の武人なんだぞ。」

 

秋蘭「ふっ・・・」

 

霞「せやなぁ・・・!何かこう・・・一緒にいるだけで力が湧いてくるっちゅうか・・・!目一杯頑張るでー!」

 

春蘭「ああ!」

 

秋蘭「そうだな・・・」

 

剛「哲、俺達も手柄を挙げてやるぞ!」

 

哲「当然だ・・・それが武人としての務めだ。」

 

楼杏「フフッ・・・剛さんと哲さんは相変わらずね。」

 

楼杏(私も頑張らないと・・・!)

 

凪(私も・・・!決して皆さんに遅れは取らぬ・・・!)

 

真桜「凪の奴、エラい気合入っとるな・・・」

 

沙和「そうなのー!沙和達も頑張らないと・・・!」

 

他の者も、気合の入った表情を浮かべた。

 

純「稟、風。此度の戦だが、全兵力を集中し、奴らの拠点寿春を攻め落としてやろうと思うんだが・・・」

 

稟「はい。それが良いかと。それこそ唯一の勝利かと。」

 

風「はい~。純様なら、必ず出来ますよ~!」

 

純「そうか・・・良し、一気に寿春まで行き、攻め落とすぞ!皆、存分に手柄を挙げよ!」

 

純は後ろを向きそう皆に鼓舞すると

 

「「「おおーっ!!!」」」

 

全ての兵士は皆拳を上げて答えた。そして、進軍速度が上がったのだった。

そして、純率いる20万の官軍は、寿春に到着し包囲した。

 

 

 

 

 

 

純「・・・。」

 

純は一人、天幕の中で悩んでる表情を浮かべていた。

その時

 

稟「純様。お呼びですか?」

 

風「・・・。」

 

稟と風が天幕の中に入ってきた。

 

純「稟。風。ここは俺達が討賊に王師を集める場所だな。」

 

稟「如何にも。」

 

風「そうですね~。」

 

純「もう五日が経った。姉上達の予想通り、誰一人として来なかった。」

 

稟「はい。曹操殿の予想通りでした。」

 

風「・・・。」

 

純「ああ。しかし予想外の者が現れた。そいつは数千の兵馬を率いて現れたんだ。」

 

稟「それは誰です?」

 

その問いに純は

 

純「劉備だ。」

 

そう答えた。

 

稟「ああ。忘れていましたが、劉備は漢の末裔です。あの者は悪事を許さぬ者です。袁術の愚行に腹を立てるのは道理かと。」

 

風「漢の末裔というのも、本当か分かりませんけどね~。」

 

純「正直に言おう。アイツは以前青州での戦の一件で俺の事を嫌っているから、来ねーと思っていてな。どうしたら良いと思う?教えてくれ。」

 

これに

 

稟「私は、劉備を殺すべきかと。」

 

稟はそう答えた。

 

純「何故だ?」

 

稟「劉備は我らとは対極の考えの持ち主です。この先我らとは相容れないでしょう。彼女の配下には二人の義妹の関羽と張飛という一騎当千の豪傑と、『臥龍』諸葛亮、『鳳雛』鳳統という軍師がおります。後の憂いを考えるなら、今のうちかと。」

 

純「成程・・・」

 

しかし

 

風「風は反対ですね~。」

 

風は反対した。

 

風「確かに劉備さんは純様とは対極の考えの持ち主であるため、将来の災いの種となりましょう。しかし、この袁術討伐は義をもって天下を治める為です。劉備の意見か分かりませんが、その義に応え出陣してきたのです。」

 

風「もし殺せば、この先味方する者がいなくなり、華琳様の覇道の二の足を踏む恐れがあります。」

 

風「風の考えは、今は殺さず生かしておいて、その後華琳様に相談すべきかと~。」

 

と風は純にそう進言した。

 

純「・・・そっか。分かった。二人とも、下がれ。」

 

稟「はっ。」

 

風「はい~。」

 

そして、稟と風は下がった。

 

純「・・・。」

 

一人になった純は、目を閉じ腕を組んで考えた。

 

純(稟の意見も風の意見も間違ってない。稟は殺すべきで、風は生かした後に考えるか・・・。)

 

純(この軍は袁術討伐という義を掲げている軍だ。風の言う通り、ここは生かしておくのが賢明か・・・)

 

純(俺には、アイツらの助言を参考に行動することしか出来ねー。姉上だったら、あの明晰な頭脳で何とかなるんだろうな・・・)

 

 

 

 

 

 

 

稟「あそこまでお悩みの純様は初めてですね・・・」

 

風「はい~。稟ちゃんがかつて仰った通り、純様は生まれながらの武人。武勇と軍才、将兵の統率力はまさに英雄の器です~。」

 

風「しかし、知恵が足りないのが純様の弱点。純様はそれを自覚しているからこそ、風達に意見を求めたのですよ~。」

 

稟「そうですね。けど、私達は二つの選択肢を示したのです。どれを選ぶかは、純様にお任せしましょう。そのいずれかを選んでも、私達は全身全霊でお支えしましょう。」

 

風「当然なのですよ~。」

 

そう言い、二人は純がいる天幕を振り返って見たのであった。



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46話

46話です。


純率いる官軍の外で、劉備達は待っていた。

 

張飛「愛紗!鈴々達は袁術が悪い事をしたからそれをやっつけるために来たのだ!それなのに、なんでこんなに待たなければならないのだ!帰るのだ!」

 

劉備「私も同じだよ鈴々ちゃん!もう帰ろう!曹彰さんは酷い人だよ!」

 

関羽「桃香様!曹彰殿は護国大将軍。格が違います!もし今帰ったら、我らの苦労が無駄になります!」

 

劉備「けど・・・!」

 

関羽「桃香様!袁術の愚行をお許しになるのですか!」

 

関羽のこの問いに

 

劉備「それは・・・!」

 

劉備は窮した。すると、純が秋蘭と一緒にやって来た。

それを見た劉備達は、馬から降りて純の元へ向かった。

純は

 

純「劉備殿。待たせて悪かった。」

 

そう言い、拱手した。

 

劉備「曹彰さん・・・」

 

それを見た劉備は、少し眉をひそめたが、拱手した。

 

純「袁術が簒奪し、天子を蔑ろにした。それに応えた劉備殿に感謝する。流石漢の末裔だな。」

 

純の言葉に

 

劉備「・・・。」

 

劉備は何も答えず、少し睨むような目で見ていた。

 

純「・・・共に賊を討とう。討伐が終わった暁には、共に許都へ行こう。さっ、中に入ろう。関羽と張飛も、さあ。」

 

関羽「はっ!」

 

張飛「応なのだ!」

 

関羽「こら鈴々!何だその返事は!」

 

純「はは!俺は気にしてねーよ。共に戦場で暴れよう!」

 

関羽「は・・・はっ!」

 

張飛「鈴々頑張っちゃうもんねー!」

 

そう言い、共に陣に入ったのだった。

そして、純率いる20万の官軍は、攻撃の準備をした。

準備が終えたとき、純は馬上で太刀を抜き

 

純「放てーっ!」

 

そう叫んだ。そして、投石車と連弩の猛攻が始まった。

火の点いた石が、どんどん寿春城に当たり、城内の一部が破壊された。

連弩から放たれた矢も、袁術軍の兵士にどんどん当たった。

 

袁術軍武将A「皆の者、しっかりしろ!慌てるなっ!」

 

袁術軍の武将も、何とかそう言い鼓舞するが

 

袁術軍兵士「「「ギャアアアッ!!」」」

 

投石車と連弩の猛攻により統制が取れない袁術軍は阿鼻叫喚となり、被害が甚大になった。

そして

 

純「お前らー!突撃だー!」

 

純はそう皆に叫び、突撃した。

 

曹彰軍兵士「「「おおーっ!!!」」」

 

そして、曹彰軍は剣と槍を構え、突撃した。

 

春蘭「うおおおっ!!」

 

秋蘭「純様に遅れるなー!!」

 

霞「よっしゃああっ!!やったるでー!!」

 

剛「皆に遅れるなー!!」

 

哲「行くぞー!!」

 

楼杏「私も続きましょう!!」

 

凪「行くぞー!!純様に遅れるなー!!」

 

真桜「行くでー!!」

 

沙和「なのー!!」

 

これに、春蘭達も純に続いた。

 

関羽「我らも遅れを取るな!!」

 

張飛「鈴々もなのだー!!」

 

劉備軍も、関羽と張飛を筆頭に突撃した。

寿春城では

 

袁術軍武将B「良いか!何としても守り抜け!!」

 

猛攻を耐えようと必死だが

 

袁術軍兵士「「「ギャアアアッ!!」」」

 

純達の猛攻の前に、兵の戦意は喪失していた。

 

劉備「突撃開始したようだね・・・」

 

諸葛亮「はい・・・袁術さんの軍勢は数は多いだけ。孫策さん達が援助に来ないとなれば、寿春は落ちたも同然でしょう。」

 

鳳統「私も朱里ちゃんの意見に同感です。」

 

劉備「けど・・・どうしてこんな形になるのかな・・・。袁術さんにこういった事はやめるように話し合えば良いのに・・・」

 

劉備「・・・もし袁術さんが捕虜となったら、命だけは取らず助けよう!仮に曹彰さんの所で捕虜になったら、殺さないように説得しよう!」

 

鳳統「桃香様!それは駄目です!今回の袁術さんの愚行は決して許し難い行為!捕まえ首を刎ねるならいざ知らず、生かすなど以ての外です!」

 

これには、鳳統は強硬的に反対した。

 

劉備「けど・・・それじゃあ可哀想だよ!」

 

しかし、劉備は引き下がらずそう鳳統に言った。

 

鳳統「桃香様!もう袁術さんは越えてはいけない一線を越えてしまったのです!もし命を取らない、もしくは助けるように進言したら、我らが賊となります!」

 

劉備「けど・・・けど・・・!」

 

鳳統の言葉に、劉備は泣き出してしまった。

 

諸葛亮「桃香様・・・」

 

鳳統「・・・」

 

これに、劉備軍の天幕は重苦しい雰囲気となった。

一方寿春城では、城門を突いていた。

 

曹彰軍兵士「「「そーれっ!!!」」」

 

純「ぶち破れ!もっと大勢で門を突け!!」

 

純も、矢が頭上に降り注ぐ中、指揮を取っていた。

そして

 

ドガアアアン!!!

 

遂に城門が破られた。

 

純「門が破られたぞ!!お前ら、突撃しろー!!存分に手柄を挙げよー!!」

 

純「『黄鬚』曹彰についてこい!!」

 

これに、純を先頭に一斉に突撃した。

純達は、袁術軍を容赦なく討ち取り、袁術軍30万の軍勢が、僅か半日でほぼ壊滅状態となった。

そして、純達は寿春城へ入城した。

 

純「寿春城を半日で落とす事が出来た!!」

 

「「「おめでとうございます!!!」」」

 

純「これも皆のお陰だ!!感謝する!!」

 

「「「ははっ!!!」」」

 

純「春蘭。お前の活躍は特に目覚ましかった。流石、姉上の大剣だな。」

 

春蘭「ははっ!ありがたきお言葉!!」

 

純「お前とその部下には、それ相応の恩賞を与えるよう、陛下に上奏する。」

 

春蘭「はっ!!」

 

純「劉備殿の所の関羽と張飛も、中々の活躍だった。陛下に上奏するからな。」

 

劉備「・・・はっ。」

 

純「皆にも、相応の恩賞を与えるよう、陛下に上奏する。待っていろ。」

 

「「「ははっ!!!」」」

 

そう言い、皆は純に拱手した。

その時

 

袁術「離すのじゃー!!」

 

張勲「離しなさい!!」

 

袁術と張勲が縛られた状態で連れられた。

 

純「袁術。臣の身でありながら天子の名を僭称し、民を惑わすなど愚の骨頂!許せねー事だ!」

 

これに

 

袁術「嫌じゃー!!どうか妾の命は取らないでたもうー!!」

 

張勲「お嬢様もこう仰ってるのです!!どうか命だけはー!!」

 

袁術らはそう懇願した。

 

劉備「曹彰さん。袁術さん達もこう言ってるので、許してやってくれませんか?」

 

それを見た劉備は、純にそう進言した。

 

稟「お言葉ですが劉備殿、何故袁術を生かすのですか?」

 

これに稟はそう劉備に尋ねた。

 

劉備「袁術さんの行為は許し難い事です。けど、もう反省しているので許してやっても良いのではと・・・」

 

劉備の答えに

 

稟「フッ・・・何と愚かな回答か。劉備殿、あなたの発言は今後とも天子の名を僭称しても許しても良いという事ですか?」

 

稟は怜悧な冷たい笑みを浮かべながら言った。

 

劉備「そ・・・それは・・・!」

 

これに、劉備は怯んだ。

 

稟「純様。袁術の愚行は天地がひっくり返ろうとも許せぬ愚行。ここは首を刎ね、皆の見せしめとしましょう。」

 

純「稟の発言は尤もだ。誰か!」

 

曹彰軍兵士「「はっ!!」」

 

純「袁術らの首を刎ねろ!!」

 

曹彰軍兵士「「御意!!」」

 

これに

 

劉備「待って下さい!!袁術さんはまだ子供です!!殺すのはあまりにも酷いです!!」

 

劉備は跪きながらそう言ったが

 

純「構うな!!連れて行け!!」

 

純は容赦なくそう言った。

 

袁術「嫌じゃ-!!死にとうないー!!」

 

張勲「お嬢様!!お嬢様ー!!」

 

袁術達が泣き喚く中、兵に連れて行かれた。

 

劉備「曹彰さん!郭嘉さん!どうして・・・こんな酷いことを・・・!間違ってますよ!!」

 

その様子を見た劉備は、怒りの表情を見せながら言った。

 

純「俺は天子の命に従ったまでだ。何か違えた事をしたか?」

 

劉備「けど・・・殺すなんて・・・!話し合っていれば・・・このような・・・!」

 

稟「フフッ・・・聞いていればあなたは本当に甘いお方ですね。そのような姿勢で、民が望む泰平の世を築けるとお思いですか?」

 

これに、劉備は何も言えなかった。

そして、袁術達は首を刎ねられ、その首は暫く晒した。そして、寿春の民を慰撫した後、純達は許都へ引き揚げた。

一方の孫策達は、袁術から離れた後、江東で勢力を拡大していき一大勢力を築いたのであった。



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47話

47話です。


純が寿春を落とし、袁術を討ち取った事は許都に広まった。

 

桂花「華琳様。純様が寿春を落とし、袁術を討ち取ったとの事です!」

 

華琳「ええ!!良くやったわ!!」

 

華侖「流石純兄っすー!!帰ったら活躍を聞きたいっすー!!」

 

柳琳「フフッ・・・そうね、姉さん。」

 

栄華「流石お兄様ですわ!!」

 

司馬懿「流石曹操様の弟君で、『黄鬚』曹彰様ですな。」

 

燈「華琳様。おめでとうございます。」

 

喜雨「おめでとうございます。」

 

華琳「ええ。早速、百官達を参内させましょう。」

 

桂花「はっ!」

 

しかし、今回の勝利に喜んでいるのは華琳達だけじゃない。

 

許都民A「此度の袁術討伐、曹彰様が大活躍したそうだな!!」

 

許都民B「ああ。曹彰様を先頭に多くの兵を討ち取り、逆賊袁術を討伐し民を慰撫したそうだ。」

 

許都民C「流石『黄鬚』曹彰様だな!!」

 

許都民D「曹彰様だけじゃねぇ!!曹彰様と共に戦った夏侯惇様、夏侯淵様、張遼様、朱霊様、郝昭様、皇甫嵩様、楽進様に李典様に于禁様も素晴らしい活躍をした!!」

 

許都民E「スゲえ・・・!!俺も曹彰様と共に戦いてぇー!!」

 

許都民F「ああ、そうだな!!」

 

許都民G「けど、凄いのは曹彰様だけじゃないわ!姉の曹操様もご立派ですわ!!私達民の事を考えて下さる。曹操様のお陰で、私達は安心して暮らせる!曹操様も本当に素晴らしいわ!!」

 

許都民H「ああ!!」

 

許都の民も、自分の事のように喜んでいた。

 

董承「近頃の民は、曹操と曹彰の姉弟しか興味が無い!!」

 

王子服「左様。これじゃあ、誰が天子なのか分からぬ。」

 

呉子蘭「如何にも。これ以上、あの姉弟の権力が強大化して、天子に害が及ぶやも・・・!」

 

董承「まさしく!早く始末せねば・・・!」

 

この時、董承らは密かにそう話し合っていたのだった。

一方許都では

 

許都民I「おーい、『黄鬚』曹彰様が戻ってこられたぞー!!」

 

純達討伐軍が凱旋してきた知らせが入った。

それと同時に、純達が入ってきた。

 

許都民「「「護国大将軍、曹彰様バンザーイ!!!」」」

 

これに、許都の民は一斉に諸手を挙げ万歳を合唱し、迎え入れた。

これに純は、恐縮しながら朝廷に向かったのだった。

 

 

 

 

 

文官A「護国大将軍曹彰、上意を奉じて謁見!」

 

これに、純達は朝廷に参内した。

そして

 

純「曹彰、天子に拝謁致します。」

 

拱手し跪いた。

 

霊帝「面を上げなさい。」

 

純「はっ。詔を受け寿春へ進軍し、逆賊袁術を始め多くの者を討ち取り、多数の兵馬武器を得ました。」

 

霊帝「そちの大きな手柄を、朕は大変嬉しく思うわ。」

 

純「これも全て天子と民の為、畏れ多いことです。陛下には、活躍した将兵に恩賞をお与え下さい。こちらが、その記録簿です。」

 

そう言い、純は竹簡を董承に手渡し、董承はそれを霊帝に渡した。

それを広げて見た霊帝は

 

霊帝(いちいち見るのも面倒ね・・・まあ、誰かに任せれば良いか・・・)

 

そう思い

 

霊帝「分かったわ。将兵には、それ相応の恩賞を与えるわ。」

 

そう純に言った。

 

純「ははっ!ありがたき幸せ!」

 

この様子を

 

華琳(フフッ・・・良くやったわ、純・・・)

 

華琳は柔らかい笑みを浮かべながら見ており

 

董承(生意気な小僧め・・・調子に乗るでないわ・・・!)

 

董承は眉間にしわを寄せながら見ていた。

 

純「陛下。陛下に会わせたい者がおります。」

 

そう言い、後ろにいる劉備に目を向けた。

 

霊帝「あの者は?」

 

純「劉備でございます。」

 

霊帝「劉備か。近う寄れ。」

 

この言葉に、劉備は小走りで近付き

 

劉備「劉備、陛下に拝謁致します。」

 

そう言い、跪き地面に額をつけた。

 

霊帝「そちの家系は?」

 

劉備「中山靖王の末裔です。」

 

霊帝「朕の親戚?」

 

劉協「陛下。恐らく、陛下の皇叔かと。」

 

劉協「長年の戦で、国は翻弄され、陛下は賊に苦しめられてきました。」

 

すると

 

華琳「ごほんっ!」

 

華琳は咳き込んだ。

 

劉協「あ・・・さ、幸いにも曹操殿の弟、曹彰殿が賊を討ち、曹操殿は民を安んじてくれました。今日劉備殿にお会い出来、喜ばしい限りです。」

 

霊帝「劉備。今後折りあらば、宮中に来なさい。朕の遊び相手になりなさい。」

 

劉備「ははっ!」

 

董承(劉備殿か・・・劉備殿がおれば、漢室の再興はなる・・・!曹操と曹彰を取り除けるぞ・・・!宦官の孫なぞに、国は任せられぬわ・・・!)

 

華琳(へえ・・・劉備を許都に呼ぶよう、純に命じたのだけど、陛下はやはり外部に助けを求めたわね・・・特に警戒が必要ね・・・)

 

この時、密かにそんな思いが渦巻いていたのであった。



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48話

48話です。


華琳の屋敷

 

 

 

 

 

 

司馬懿「曹操様の功績は偉大ですが、臣下は臣下です。」

 

桂花「しかし劉備は、瞬く間に皇叔となりました。誠に解せませぬ。」

 

この二人の意見に

 

華琳「それがどうしたって言うの?私は、皇族になるつもりは無いわ。」

 

華琳はそう返し気にしてないと言った。

 

司馬懿「しかし天子は、劉備に宮中に参っても良いと仰いました。天子は明らかに、力を求め動いたのです。ご用心なされませ。」

 

桂花「私も司馬懿に同感です。華琳様、お気をつけを。」

 

華琳「私もそれに気付いたわ。警戒はするけど、何事にも一長一短があるわ。今や劉備は皇叔となった。いずれ天子の詔を使って牽制しましょう。」

 

司馬懿「成程・・・」

 

桂花「流石は華琳様です。」

 

華琳「皇叔となってからは、有頂天になっているかしら?」

 

桂花「いえ、その反対です。皇叔となり、逆に謙虚になっております。客舎に籠もったまま、日がな一日外にも出ません。」

 

司馬懿「仮に外に出ても、礼節を守り、極めて慎重です。とはいえ、これは恐らく諸葛亮、鳳統の入れ知恵かと。」

 

華琳「成程。フフッ・・・賢いわ。」

 

すると

 

司馬懿「曹操様。私は以前から、申し上げたかった事が・・・」

 

司馬懿が華琳にそう言った。

 

華琳「何かしら?」

 

司馬懿「曹操様の功績は偉大であり、その恩威は天にも届かんばかり。それ故、いつまでも臣下に甘んじてはなりません。」

 

華琳「司馬懿。帝位に就けと言うのかしら?」

 

司馬懿「まさしく!」

 

これには

 

桂花「あなた、何を言ってるの!?兵馬の数と領地は袁紹には遠く及ばないわ。それに、今の状態で帝位に就けば、たちどころに諸侯が牙をむき、私達は滅ぶのよ!」

 

桂花は強硬に反対した。

 

華琳「それだけじゃ無いわ。朝廷の内外には、天子に忠実な者達も少なくないわ。特に一番面倒なのは・・・董承よ。」

 

華琳「あの頑固爺は、ことある毎に私達に噛みつく。先の袁術討伐でも純を行かせる事を強く止めた程よ。」

 

司馬懿「では策を講じましょう。誰が天子に忠実で、誰が曹操様に忠実か。」

 

華琳「成程。なら・・・二日後に、許田で巻狩りをしましょう。司馬懿、あなたは宮殿へ行き天子を誘いなさい。それから朝廷の文武百官も連れて行くわ。」

 

司馬懿「御意。」

 

そして、司馬懿はその場を後にした。

 

 

 

 

 

宮殿

 

 

 

 

 

董承「陛下。お聞きしたいことが・・・」

 

霊帝「何?」

 

董承「会われたばかりの劉備に、何故あのような特権を?」

 

劉協「私もです。何故ですか、姉様。」

 

この質問に、霊帝は辺りを見渡して

 

霊帝「曹操が朝廷を牛耳り、朕には何の力も無い。劉備は漢室の末裔で、朕にとっては得難い存在よ。ゆくゆくは、朕や白湯の力に・・・」

 

そう言った。

 

董承「成程・・・」

 

劉協「しかし姉様。劉備さんは領地はともかく、兵馬が少ないのですよ。」

 

霊帝「それは、何とかなるわ。きっと・・・」

 

その時

 

朝廷文官A「申し上げます。司馬懿殿がお見えです。」

 

そういった知らせが入った。

これに

 

霊帝「すぐ通しなさい。」

 

朝廷文官A「はっ。」

 

霊帝は通すように言った。

そして、司馬懿が入ってきて

 

司馬懿「司馬懿、陛下に拝謁致します。」

 

拱手し頭を下げた。

 

霊帝「楽にせよ。」

 

司馬懿「恐れ入ります。」

 

霊帝「何用で参ったのかしら?」

 

司馬懿「申し上げます。陛下、我が主が『明後日、狩りをご一緒に』と。」

 

これには

 

霊帝「司馬懿。狩りに興じるなどとは、天子に凡そ相応しくないわ。それに、朕は身体の具合が優れないわ。故に・・・」

 

霊帝は行く気が無いと言ったがその途中

 

司馬懿「陛下。古より聖君は狩りを好まれ、春夏秋冬狩りに出られ、そのご威光を示してこられました。」

 

司馬懿「主は、陛下をお招きするほか、朝廷の大臣達や将兵も同行させます。皆、陛下の行幸を楽しみにしておられます。」

 

司馬懿「ああ・・・陛下の御身が優れない事については・・・どうかご再考を賜りますよう。」

 

司馬懿が遮ってそう言った。

これには

 

霊帝「そちの話を聞き、朕の具合も良くなった。曹操に伝えなさい。『朕は行く』と。」

 

霊帝はそう言わざるを得なかった。

 

司馬懿「承知しました。」

 

その二日後、許田で巻狩りを始めた。皆馬を走らせ、それぞれの獲物を狩った。

中でも純は別格で

 

純「うりゃあああっ!!」

 

ドシュ

 

虎「ガアアアアアアッ!!」

 

虎を素手で仕留めたのだった。

 

霊帝「み、見事だわ曹彰・・・」

 

純「はっ。ありがたきお言葉!」

 

これには、霊帝を含め董承や王子服に呉子蘭、そして劉協などは顔を青ざめていた。

 

董承(な、何じゃあれは・・・!虎を素手で仕留めるとは・・・!まるでかつての飛将軍・李広ではないか!これが・・・『黄鬚』曹彰・・・!)

 

王子服(『黄鬚』曹彰・・・!恐ろしや・・・!)

 

呉子蘭(何と恐ろしい・・・!虎を素手で仕留めるとは・・・!まさに『黄鬚』だ・・・!)

 

劉協(し、信じられません・・・!)

 

それに対し、周りの将兵は

 

曹軍兵士A「流石曹彰様だぜ!!」

 

曹軍兵士B「ああ!この程度、曹彰様なら当然だ!!」

 

春蘭「おお!流石は純様!!」

 

秋蘭「フッ・・・」

 

季衣「すっごーい!流琉、純様本当に素手で仕留めちゃったよ!」

 

流琉「み、見てるよー!季衣、落ち着いて!揺らさないで!」

 

まるで自分の事のように喜び、中でも秋蘭は表面上クールに振る舞っているが内心は非常に嬉しそうだった。

 

華琳(この程度・・・私の弟なら当然よ・・・)

 

華琳も当然という反応だったが

 

華琳(でも・・・怪我してないわよね・・・お姉ちゃん心配だわ・・・!)

 

華琳(もし怪我してたら、あの虎・・・八つ裂きにしてあげるわ・・・!)

 

やはり心配?はしており、死んでるにもかかわらず、物騒な事を考えていたのだった。

 

霊帝「朕も仕留めねばな・・・!」

 

霊帝も矢を放ったのだが、矢は外れてしまい、鹿は逃げてしまった。

 

華琳「陛下に成り代わり私が。」

 

その時、華琳は霊帝から弓矢を借り、構えた。

そして、矢を放つと、矢は鹿に命中した。

 

純「お見事です、姉上!」

 

春蘭「お見事です、華琳様!!」

 

季衣「凄いです、華琳様!!」

 

桂花「万歳!!」

 

司馬懿「万歳!!」

 

「「「万歳!!!万歳!!!万歳!!!」」」

 

これを見た純は万歳の声を上げ、それに続いてその他の将兵達も、皆揃って万歳を合唱した。

それに華琳は、霊帝の前に行き万歳を受け止めた。

これを見た董承や王子服、呉子蘭といった者は怒りで顔を赤らめた。

劉備も、怒りの表情で馬を動かし華琳に向かおうとしたが

 

関羽「桃香様・・・」

 

劉備「愛紗ちゃん・・・!」

 

関羽「・・・。」

 

関羽に止められた。そして関羽は

 

関羽「曹操殿の腕前は、まさに神業です。」

 

そう華琳に言った。

 

華琳「それは違うわ関羽。あなたは先の袁術討伐で弟の弓の腕を見た事があるでしょう。」

 

関羽「はい。城攻めをしてる折、曹彰殿は矢を三本纏めてつがえ、一斉に放ち敵兵三人を射殺しました。」

 

華琳「ええ。我が弟こそ、真の神業の持ち主よ。私なんか、一本放つので精一杯よ。これも帝のご威光の賜物ね。」

 

華琳「陛下。宝雕弓をお返し致します。」

 

そして、華琳は宝雕弓を霊帝に渡そうとしたが

 

霊帝「これは取っておきなさい。」

 

霊帝は不機嫌そうな表情でそう返した。

 

華琳「ありがとうございます。」

 

純「姉上、万歳!」

 

「「「万歳!!!万歳!!!万歳!!!」」」

 

そして、再び万歳の合唱が始まったのだった。

狩りを終えた華琳達は、屋敷に戻った。

 

華琳「純。」

 

純「はい。」

 

華琳「先の狩りで虎を仕留めた褒美よ。受け取りなさい。」

 

そう言い、華琳は宝雕弓を純に渡した。

 

純「姉上。これは柔らかすぎて戦場では全く役に立ちません。」

 

華琳「なら捨てなさい。」

 

純「ああ・・・いえ、あの・・・頂戴します。」

 

その声を聞き、華琳は屋敷の中に入った。

 

華琳「司馬懿。桂花。」

 

司馬・桂「「はっ。」」

 

華琳「さっきの様子を見ていたかしら?将兵達の万歳という声に、誰が不満そうだったかしら?」

 

司馬懿「董承などは怒りで顔を赤らめました。」

 

桂花「劉備が、華琳様に詰め寄ろうとしました。怒りを堪えていた大臣達も少なからずおりました。」

 

華琳「そうね。これで分かったわ。朝廷に忠実な者が少なからずいるわ。まして群雄が割拠して覇を競っている今は、帝位の話をする時では無いわ!」

 

司馬懿「・・・はっ。」

 

桂花「御意。」

 

そう、華琳は二人に一喝して中に入ったのであった。



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49話

49話です。


劉備の屋敷

 

 

 

 

巻狩りを終えたその日の夜、劉備は不機嫌だった。

 

劉備「巻狩りでの曹操さんの態度、失礼だよ!天子様を押しのけて、皆の祝詞を奪ったんだから!」

 

その理由は、先の巻狩りでの華琳の行動が原因だった。

 

諸葛亮「桃香様。曹操さんの帝位への野望は、恐らく非常に強い。それは、此度の行動で誰の目にも明らかかと。」

 

劉備「曹操さんに間違っていると言おうとしたのに、どうして愛紗ちゃんは止めたの?」

 

関羽「あの時曹操殿の周りには将兵で固めておられました。あの将兵は全て、曹彰殿が手塩にかけて鍛えた精鋭揃いで、曹彰殿の一声で、皆曹彰殿の手足の如く従います。もしあの時、桃香様がそのまま曹操殿へ行っても、曹彰殿が止め、最悪桃香様は・・・」

 

鳳統「恐らく、最悪の目に遭ったでしょう・・・」

 

劉備「そんな・・・」

 

これには、劉備はショックな表情を浮かべた。

 

諸葛亮「桃香様。もし曹操さんを取り除かなければ、いつかこの大陸にとって大きな災いとなります。」

 

劉備「そうだね。しっかり話し合って、曹操さんを正さないと・・・」

 

諸葛亮「いいえ、それではいけません。殺さなければいけません。」

 

諸葛亮の発言に

 

劉備「えっ・・・!?」

 

関羽「朱里・・・!?」

 

鳳統「朱里ちゃん・・・!?」

 

その他の皆は絶句した。

 

諸葛亮「しかし、今曹操さんを殺そうと思っても殺せません。曹操さんの弟、曹彰さんを先に亡き者にしなければなりません。」

 

諸葛亮「そうしなければ、曹操さんの力を削げず、殺す事が出来ません。」

 

そう、諸葛亮はどこか狂気を含んだ目で言った。

 

関羽「朱里、お前自分の言っている事が分かっているのか!それじゃあ、桃香様の理想の世が築けぬではないか!それに、曹操殿の弟の曹彰殿は『黄鬚』と呼ばれし猛将だ。そう簡単に殺せぬ!」

 

関羽「何より、あのお方は戦に長け、将兵の間でも非常に人望が厚い。もしそのようなお方を卑劣なやり方で殺せば、桃香様に味方する者は皆離れていくぞ!」

 

これには、関羽は必死な表情でそう言った。

 

諸葛亮「愛紗さん。曹操さんは我らにとって相容れぬ存在。いずれ討たなければなりません。その為に、曹軍にとっての精神的な存在、曹彰さんをまず先に討たなければ、意味が無いのです。」

 

しかし、諸葛亮は淡々とそう返した。

 

関羽「・・・では朱里。もし仮に曹彰殿を討ち取れたとしよう。それでもし、桃香様に味方している者が離反したら、どうするつもりだ?」

 

関羽のこの問いに

 

諸葛亮「見せしめとして処刑します。」

 

諸葛亮はそう答えた。

 

関羽「それは・・・私もか?」

 

諸葛亮「・・・はい。当然です。愛紗さんだけじゃなく、鈴々ちゃんや雛里ちゃん、他の皆も同様です。」

 

これには

 

関羽「っ!?」

 

関羽は目を見開いた。

関羽だけじゃなく

 

劉備「・・・朱里ちゃん。」

 

劉備も同様の反応をし

 

鳳統(・・・朱里ちゃん。どうしてそこまで曹彰さんを・・・)

 

鳳統は、諸葛亮の発言に違和感を感じたのであった。



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50話

50話です。


華琳の屋敷

 

 

 

 

華琳に呼ばれた劉備一行は、華琳の屋敷に来ていた。

 

劉備「うわぁぁ・・・立派なお屋敷!」

 

諸葛亮「はい。まさに曹操さんの権勢を現わしていますね。」

 

鳳統「はい・・・」

 

関羽「それに・・・ある程度の防衛機能を持っているな・・・」

 

華琳の屋敷を見て、劉備達はそれぞれの感想を言った。

すると、屋敷の扉が開き

 

柳琳「ようこそおいで下さいました、玄徳殿。」

 

そこに、柳琳と司馬懿が現れた。

 

劉備「曹純さん!それと・・・」

 

司馬懿「申し遅れました。姓は司馬、名は懿、字は仲達と申します。以後お見知りおきを。」

 

そう言い、司馬懿は拱手し挨拶した。

 

劉備「あ、はい。こちらこそ宜しく、司馬懿さん。」

 

そう言い、劉備も挨拶を返した。

 

諸葛亮(司馬懿・・・このお方、かなりの智者です・・・。それに・・・何か・・・底が知れません・・・)

 

鳳統(司馬懿さん・・・何というか・・・私と朱里ちゃんが二人でやっと対等な気が・・・)

 

この時、諸葛亮と鳳統は、司馬懿の底知れぬ何かを感じたのだった。

 

柳琳「さ、玄徳殿。お姉様がお待ちです。」

 

そう言い、曹純は劉備を案内したが

 

関羽「む、桃香様が行くなら、私も同行させて貰う。」

 

関羽がそう言った。

 

司馬懿「関羽殿は、是非我々とお越し下さい。曹操様も、玄徳殿とは一対一でお話がしたいと。」

 

しかし、司馬懿がそう言い、関羽を遮った。

 

関羽「だが・・・!」

 

すると

 

孫乾「でしたら、私だけでも同行させていただけませんか?身だしなみを整える侍女の一人も控えていなければ、孟徳様にも失礼でしょうし。」

 

そう、孫乾が横から言った。

 

関羽「・・・ならば任せたぞ、美花。」

 

孫乾「お任せ下さいまし。」

 

そして、屋敷の中へ案内されたのだった。

暫くして、東屋に到着した。

 

司馬懿「曹操様。劉玄徳様をお連れしました。」

 

華琳「ご苦労だったわね。」

 

孫乾「では桃香様。私は向こうで待たせていただきますね。」

 

劉備「う、うん・・・」

 

そして、東屋に入ると

 

劉備「失礼します。」

 

華琳「よく来たわね、劉備。司馬懿もご苦労様。」

 

司馬懿「はっ。ではこれにて・・・」

 

華琳が待っていた。

 

華琳「劉備。飲み物は茶と水、どちらが良いかしら?酒でも良いけれど・・・まだ少し陽が高い気がするわね。」

 

劉備「あ・・・お水で大丈夫です。」

 

華琳「そう。なら、冷たいうちに召し上がれ。」

 

この言葉に

 

劉備「え?冷たいって・・・」

 

劉備は疑問を抱いたが

 

劉備「ひゃ、本当に冷たい。これ・・・氷!?」

 

すぐに気付いた。

 

華琳「ええ。氷室を一つ開けさせてね。」

 

劉備「は、はぁ・・・」

 

そして、水を飲むと

 

劉備「それに、何だか不思議な味がする・・・これ、梅ですか?」

 

梅の味がした。

 

華琳「ええ。今年取れた梅で私が風味を付けてみたのよ。どうかしら?」

 

これに

 

劉備「はい・・・美味しいです。」

 

劉備は正直な意見を言った。

 

華琳「フフッ。なら良かったわ。」

 

そして、喉を潤した劉備は、改めて姿勢を正し

 

劉備「えっと・・・曹操さん。この度の袁術討伐、お見事でした。お陰で賊を滅ぼせましたし、民も苦しみから解放されました。」

 

袁術討伐の事を褒めた。

 

華琳「その言葉、言う相手が違うわ。確かに袁術討伐を決めたのは私だけど、実質討伐したのは私の弟よ。その事は弟に言いなさい。」

 

これに、華琳はそう劉備に返した。

 

劉備「あ・・・はい。」

 

華琳「・・・まさか、そんな話をしに呼んだとでも思っているの?」

 

劉備「いえ・・・。そういえばさっき、曹彰さんを中心に練兵をしており、武器兵糧が運び込んでいると聞きました。袁紹さん対策ですか?」

 

この劉備の質問に

 

華琳「ええ、勿論。」

 

と華琳は答えた。

 

華琳「まさかこんなに早く幽州が陥ちるとは思っていなかったけれど・・・次に麗羽が目を向けるのは、ここかそちらでしょうしね。」

 

劉備「・・・はい。」

 

華琳「あの気分屋が、この後どちらから狙うかは分からないけれど、徐州になら横合いを突けるでしょうし、こちらに来るならそれはそれで問題ないわ。」

 

劉備「けど・・・袁紹さんは河北の四州を手中に収めました。勢力もあります。」

 

華琳「ええ、そうね。恐らく朝廷の中には、戦うべきでは無いという考えが多いでしょうね。」

 

華琳「けど、数が多くても、率いる将があれじゃあ、ただの烏合の衆に過ぎないわ。」

 

華琳「その点、私の弟は武勇に優れ戦に長け、将兵からの人望が厚い。まさに総帥の器。戦えば、火を見るより明らかよ。」

 

劉備「けど、袁紹さんは反董卓連合では一緒に戦った仲です。それに真名だって・・・」

 

華琳「ただの腐れ縁よ。それは私の弟も同じ。それに、降りかかる火の粉を払う。それだけよ。」

 

劉備「けど・・・」

 

華琳「それに・・・袁紹を倒し、河北を平定したら、次は河南を全て平定するわ。」

 

これに

 

劉備「えっ!?」

 

劉備は目を見開いた。

 

劉備「それってつまり・・・」

 

華琳「ええ。大陸の全てよ。今までは黄巾や董卓・・・内の脅威だったけれど、既に外の脅威は蠢き始めているもの。」

 

華琳「既に北方の烏丸は動き出しているわ。それを、麗羽は対処に追われているとね。」

 

華琳「貴女も名前くらいは知っているでしょう?」

 

劉備「河北の更に北にいる、異民族の人達ですよね。」

 

華琳「ええ。漢王朝が権威を失った今、次に立つ者が早急に大陸に覇を唱え、外の脅威を打ち払う力を得る必要があるでしょうね。」

 

劉備「それはそうですが・・・袁紹さんはともかく、他の諸侯は、曹操さんと戦うつもりは無いと思います。」

 

劉備「外の脅威と戦うって曹操さんが天子の名の下旗を揚げれば、協力してくれるはずです。」

 

この劉備の考えに

 

華琳「それで、皆は応えたかしら?先の袁術討伐の時、誰も純の所に来なかったらしいじゃない。貴女以外。」

 

華琳はそう返した。

 

劉備「それは・・・」

 

華琳「新時代がやって来たのよ。かつて殷が周に、秦が漢へと変わったようにね。」

 

劉備「その為に、この大陸を武力で統一しようと?」

 

華琳「ええ、そうよ。」

 

華琳「だから・・・この曹孟徳に降りなさい、劉玄徳。我が配下になれば、貴女の望みを叶えてあげる。」

 

そう、華琳は劉備に降伏勧告をした。

 

劉備「それは・・・出来ません。」

 

しかし、劉備は断った。

 

華琳「あら、どうして?」

 

劉備「どうしてって・・・」

 

華琳「貴女が求めるのは、民が笑っていられる平和な国なのでしょう?私に降れば、それは私が作ってあげられるわよ。」

 

華琳「外の脅威は、私の弟が全て斬り殺してあげるしね。」

 

劉備「それでも・・・曹操さんには従えません。」

 

劉備「力で平和な国を築くなど出来ません。寧ろ、力で相手を従わせるなんて、間違ってます。」

 

華琳「フフッ、そう。」

 

華琳「じゃあ、話を変えましょうか。この大陸で、最も英雄に相応しい人物は誰だと思うかしら?」

 

劉備「まずは・・・曹操さん。」

 

華琳「そうね。それから?」

 

劉備「えっと・・・袁紹さん?」

 

華琳「冗談でしょう。あれは、朝廷と一族の権威にすがるだけの俗物でしょうに。」

 

劉備「なら・・・馬騰さん?」

 

華琳「確かに、馬騰殿は素晴らしい功績を挙げているわ。けど、涼州止まりの器だわ。」

 

華琳「劉表や劉璋とて、朝廷に仕え、そこから甘い汁をすおうとするだけの俗物だわ。」

 

劉備「なら・・・孫策さんは?」

 

華琳「確かに、弟が袁術を討伐した後、独立し江東を怒濤の勢いで平定したわね。まさに英雄の器。」

 

華琳「他は?」

 

劉備「・・・いえ。それ以外は全く。」

 

華琳「まだもう一人いるわよ。」

 

そう言った華琳は

 

華琳「貴女よ。」

 

劉備を指差して言った。

 

劉備「え・・・!?」

 

自分が言われると思わなかった劉備は、ただ固まるしかなかった。

その時

 

純「ご歓談中、申し訳ありません。姉上。」

 

純が秋蘭と共にやって来た。

 

華琳「・・・純。どうかした?」

 

純「はっ。麗羽が動き出したと、報告が。」

 

この報告に

 

華琳「全く。相変わらず私の邪魔ばかりするのね、麗羽は。劉備、悪いけれど話はここまでにさせて頂戴。」

 

華琳は呆れ顔を浮かべた。

 

華琳「部屋や会食の用意をさせていたのだけれど・・・」

 

劉備「あ・・・いえ、お気遣い無く。これで失礼します。」

 

華琳「そう。なら、他の皆がいる所までは送らせるわ。」

 

劉備「はい。では、失礼します。」

 

そう言い、劉備はその場を後にした。

 

華琳「・・・ふぅ。さて、純。麗羽の動きを報告して頂戴。」

 

純「はっ。」

 

報告の内容を聞いた華琳は、すぐさま皆を集めるよう命令した。

その際

 

華琳「純。」

 

純「はっ。」

 

華琳「郭嘉を軍議に呼びなさい。あの子の知恵も借りたいわ。」

 

純「御意。」

 

華琳はそう純に指示した。

一方の劉備は、その後徐州へ帰り、華琳に対抗するために密かに準備をしたのであった。



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51話

51話です。


文官A「曹操様。袁紹の領地は広く、兵力も甚大。文官武将も多数おります。郭図、田豊など、誰もが知謀に長けています。顔良、文醜などといった勇将。これらを相手では、いくら曹彰様とて敵わぬかと。」

 

この文官の発言に

 

純「んだと!?テメー、もういっぺん言ってみろ!俺がやられると言ってんのか!!」

 

純は目を吊り上げて怒鳴った。

 

文官A「い、いえ・・・!私は・・・」

 

春蘭「そうだぞ!貴様、純様は『黄鬚』と呼ばれし大陸一の武人なのだぞ!そのお方が、袁紹如きに負けるとでも言うのか!」

 

しかし、それは純だけではなく、春蘭も目を吊り上げて怒鳴った。

すると

 

華琳「純。やめなさい。」

 

秋蘭「純様。姉者。」

 

栄華「お兄様。春蘭さん。」」

 

純「っ!けどさ・・・!」

 

華琳「純。」

 

純「・・・はっ。」

 

華琳達が止めたため、純と春蘭は大人しくなった。

 

秋蘭「純様。あの者も悪気があって発言したのではございませぬ。」

 

栄華「そうですわ。だから、堪えて下さいまし、お兄様。」

 

純「・・・わーったよ。おい。」

 

文官A「は、はい⁉︎」

 

純「悪かったな。」

 

文官A「い、いえ・・・」

 

秋蘭「姉者もだ。」

 

春蘭「・・・うむ。」

 

その様子を司馬懿は

 

司馬懿(ふむ・・・相変わらず曹彰様は直情というか・・・気性が激しいというか・・・。しかし、戦における力は確かなものなんだよな・・・)

 

そう思いながら見ていたのだった。

 

華琳「・・・ふぅ。さあ、それでどうすれば良いと?」

 

文官A「は、はっ。故に、袁紹とは戦わずに和睦すべきかと。」

 

そう言い、文官は下がった。

すると

 

稟「ふっ・・・何と浅はかな考えか。」

 

稟が鼻で笑いながらそう言った。

 

華琳「郭嘉。意見があるなら言いなさい。」

 

稟「はっ。」

 

華琳の言葉に、稟は前に出て

 

稟「曹操殿。今の意見は、まさに腐れ儒者の発想です。私が見るに、明らかに袁紹の十敗、純様の十勝でしょう。」

 

そう発言した。

 

文官A「ほお、詳しく聞きたいのう?」

 

稟「袁紹は儀礼を好むが、純様は自然体を好まれる。これ、『道』の勝ち。」

 

稟「袁紹は逆賊。純様は忠臣。これ、『義』の勝ち。」

 

稟「袁紹は甘く、純様は厳格。これ、『治』の勝ち。」

 

稟「袁紹は人を疑い、親戚を重用。純様は明察鋭く、実力を重視。これ、『度』の勝ち。」

 

稟「袁紹は優柔不断で、純様は即断実行。これ、『謀』の勝ち。」

 

稟「袁紹は虚名を好み、純様は誠実に接する。これ、『徳』の勝ち。」

 

稟「袁紹は遠近ともに疎か。純様は隅々にまで目を配る。これ、『仁』の勝ち。」

 

稟「袁紹は虚言を信じるが、純様は真を信じる。これ、『明』の勝ち。」

 

稟「袁紹は是非が混同するが、純様は法で裁く。これ、『文』の勝ち。」

 

稟「袁紹は数頼みで、兵法に疎いが、純様は自らの手足の如く兵を操る。これ、『武』の勝ち。」

 

稟「これにて、袁紹の十敗、純様の十勝となります。戦が始まる前から、勝敗は決したも同然です!」

 

そう言い、稟は下がった。

 

純「稟。それは褒めすぎだぞ。」

 

全て聞いていた純は、謙遜しながら言った。

 

稟「そうでしょうか。自身を客観的に見て、苦手な事を配下に任せるというのも、一つの才覚では無いでしょうか?」

 

これに、稟はいつも通りの怜悧な顔で答えた。

 

華琳「もう良いわ。戦か和睦か、議論はここまでだわ。純、軍を整え、いつでも出陣できるようにしなさい。」

 

純「はっ!」

 

華琳「それと、桂花。すぐに百官達を参内させなさい。」

 

桂花「御意!」

 

華琳「純。あなたも参加しなさい。」

 

純「え。俺もですか?」

 

華琳「ええ。全将兵を率いているのはあなたよ。あなたの言葉で、百官達を和睦から抗戦に変えなさい。」

 

これに、純は

 

純「御意!」

 

気合の入った表情を浮かべ、拱手した。

それを見た華琳は、柔らかい笑みを浮かべたのであった。



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52話

52話です。


冀州

 

 

 

 

郭図「袁紹様は四つの州に君臨され、兵糧や資金も充実。兵は百万。将は多数。今こそ、曹操を討伐し、大業を成す絶好の機会です!」

 

郭図「しかし、曹操を討つのは、天子や朝廷の為では無く、あくまでご自身の大業を成す為です。」

 

そう、郭図は今すぐ曹操を討つべきだと進言した。

すると

 

田豊「麗羽様。公孫賛を倒し、幽州を平定しましたが、戦を終えたばかりの兵馬は疲れ果てております。加えて近年、戦続き故、諸州は焼け野原と化しており、民は窮しております。」

 

田豊「郭図殿は、兵糧や資金が十分と申しましたが、それは帳簿の上の数字です。軍用とすべく物資を備蓄するには、少なくとも後三年から五年は要します。」

 

田豊「従って、今は兵を休め、民を養い、国力の回復後に曹操を討つべきと存じます。」

 

田豊は反対し、今は派兵せずに力を蓄えるべきだと進言した。

 

郭図「袁紹様。今の話は、書生の弁です。目下、我が軍は勢いがあり、士気も盛んです。袁紹様のご威光と士気があれば、曹操を討つなどいとも容易い。例えそれは、曹操の弟であり、『黄鬚』呼ばれし猛将曹彰であっても同じ。」

 

郭図「今すぐ挙兵するのです。良いですか、躊躇されてはなりません。」

 

しかし、郭図は怯む事無く挙兵すべきと進言した。

 

田豊「麗羽様。無謀とはまさにこの事です。古より、大業を成した者は、軍備の大きさや城や領地を得る事を誇ってはおりません!大切なのは国力と民力。どれ程豊かな土地と多くの民を持つかが大事なのです!」

 

田豊「戦にあたり必要なのは、国力と民力です!麗羽様は、冀州、青州、幽州、并州を治めておられます。曹操は苑州と淮南の一部のみ。麗羽様の半分にも及びません。」

 

田豊「麗羽様。今は富国強兵に力を注ぎながら静観なさり、三年後に挙兵すれば、その時には泰山が寄せるが如く曹操を圧倒できます!それは、例え『黄鬚』曹彰がいても同じ結果になるでしょう!」

 

それは田豊も同じで、挙兵せず今は力を蓄えるべきと進言した。

 

郭図「袁紹様。今袁紹様は、河北四州を治めておられ、天下におられる諸侯の頂点にお立ちなのです。一方曹操は、力は及ばずとも、他を寄せ付けぬ勢いがあり、『黄鬚』曹彰の存在で謂わば上り調子です。」

 

郭図「更に発展していく為に安定を必要としている時期。袁紹様。もし我らも民力を養えば、上辺は優勢に見えるでしょう。」

 

郭図「しかし本当に有利なのは曹操です!何故なら曹操は、発展するための時間を袁紹様より多く要するのですから。」

 

郭図「袁紹様。今こそが敵と我らの実力差が最も大きな時なのです!これぞ天から賜った絶好の機会!」

 

郭図「よもや袁紹様が、決断を先延ばしにし、静観なさるならば、曹操はその力を増し、果ては袁紹様と肩を並べるでしょう!」

 

郭図「袁紹様。その時には、袁紹様はかつて無いほどの大敗を喫し、滅ぶでしょう。」

 

それを聞いた袁紹は

 

袁紹「決まりましたわ!華琳さんを討ちますわ!今すぐにですわ!」

 

華琳の討伐を決めた。

 

袁紹「良いですわね!雄々しく、勇ましく、華麗に進軍ですわよ!」

 

袁紹「おーっほっほっほ!おーっほっほっほ!」

 

そして、袁家特有の甲高い笑い声が響いたのだった。

 

 

 

 

 

許昌

 

 

 

 

 

 

華琳から袁紹が動いたとの報告を聞いていた霊帝は、その場にいる文武百官に意見を求めた。

 

霊帝「袁紹が、70万の兵馬を率い進軍を開始したわ。そこで聞くわ。皆の者、如何にすべきだと思うかしら?」

 

すると

 

董承「陛下。袁紹は勢いも兵力も絶大です。当面は戦を避け和睦し、機を見て変を待ち、謀をもって制すべきかと。」

 

董承は今は戦を避け、機を見て動くべきと言った。

他の皆も、董承の意見に追随した。

しかし

 

純「我らには、陛下がおられます。陛下のおられるこの許都を襲おうと賊が迫っているのです!何の機を見るべきと?」

 

純「陛下を襲う逆賊を今討たずして、いつ誰が討つのです!俺達が賊に屈するなど、ありえねー事!今すぐに、決戦を挑むべきです!」

 

純「よもや、アンタらは数の多さに恐れをなし、賊に屈するとお考えなのですか!!」

 

純は対照的に徹底抗戦を唱えた。

それは、気持ちが昂ぶり、つい素の感情が出てしまう程だった。

すると

 

「「「戦おう!!!」」」

 

「「「そうだ!!我らが賊に屈するなど、あり得ぬ!!!我らこそが正義だ!!!」」」

 

その場の空気が、和睦から抗戦へと傾いた。

 

華琳「我が弟の言う通りです。我らにこそ大義があります。ただ座して待つだけでは駄目です。今すぐに、逆賊袁紹を討ちましょう。」

 

華琳「弟が、いつでも出陣の準備を終えております。」

 

これに、華琳はそう霊帝に言った。

 

霊帝「それで曹彰。どのくらいの兵を揃えたのかしら?」

 

この質問に

 

純「7万で十分です。」

 

と言った。

これには

 

文官A「7万だと!?」

 

文官B「袁紹の兵は70万と号しているのだぞ!それでは少なすぎる!」

 

殆どの者はざわめいた。

 

霊帝「曹彰。何故それだけなのかしら?」

 

純「陛下。戦で決まるのは数にあらず!兵は数より質であり、将は勇も必要ですが智も必要!将兵の数を競うなら、永遠に袁紹には敵いません!」

 

純「だが、強さで競うなら、麗羽が三人いようとも、この俺には敵いません!精鋭を以て、戦を制すべきです!」

 

と、純は切れ長の目を更に鋭くしながら言った。その際、無意識に少し覇気が出た。

 

霊帝「な、成程・・・素晴らしいわね。」

 

これに、霊帝は少し身体を硬直した。

 

霊帝「なら、三日以内に出陣しなさい。」

 

華琳「では、我が弟に全てお任せ下さい。」

 

その時

 

王子服「曹操殿、お待ちを。あなたの弟君の曹彰殿ばかりに負担をかけさせるのは申し訳ない。ここは、他の者に総帥を任せ、曹彰殿を副将にすべきかと。」

 

王子服がそれに待ったをかけた。

 

霊帝「では、誰が良いと?」

 

王子服「私は、徳が高く忠義に溢れた人物がなるに相応しいかと存じます。」

 

これに

 

華琳「ふっ、徳が高い人物ですと?」

 

華琳は鼻で笑った。

 

呉子蘭「曹操殿。何が可笑しいのです!今の発言が、間違いだとでも?」

 

これに、呉子蘭はそう反発した。

 

華琳「良いですか?逆賊の討伐を、祭祀と勘違いしておりませんか?袁紹は徳が高い相手なら手加減するとお考えか?」

 

呉子蘭「我らは袁紹と比べて弱い!なら、徳の高く忠義が厚い人物が兵を率い、結束を強めてこそ勝算があります!」

 

王子服「呉子蘭殿の言うように、そういった人物で無いと駄目です。董車騎将軍は徳が高く、忠誠心も厚い。董車騎将軍こそ此度の総帥に相応しいかと。」

 

華琳(コイツら・・・)

 

これに、華琳は顔を少し歪めた。

 

霊帝「誰か他に意見のある者は?」

 

朝廷文官A「賛成です。曹彰殿ばかり負担をかけるのは惜しい。ならば、徳が高く忠義が厚い董車騎将軍こそ相応しいです。」

 

霊帝「情勢は急を要するわ。一刻の猶予も無い。」

 

霊帝「なら、こう定めましょう。董車騎将軍に命じる。」

 

董承「はい。」

 

霊帝「そなたに軍の統率を命じるわ。曹彰、あなたは副将として董車騎将軍を支えなさい。呉子蘭と王子服も将として参加せよ。皆で力を合わせ、見事逆賊を討伐しなさい。」

 

これに

 

董承・王子・呉子「「「承知致しました。」」」

 

董承と王子服、そして呉子蘭は拱手した。

 

純「・・・。」

 

純も拱手したが、その目は怒りに燃えていたのだった。

 

 

 

 

 

 

秋蘭「華琳様。純様。お帰りなさいませ。」

 

栄華「お帰りなさいませ、お姉様。お兄様。」

 

華琳と純の帰りを、秋蘭と栄華が出迎えた。

 

純「・・・姉上。俺は少し部屋へ。」

 

華琳「・・・ええ。」

 

そう言い、純は自身の部屋へ向かった。

 

華琳「・・・秋蘭。栄華。」

 

秋・栄「「はっ。/はい。」」

 

華琳「純の傍にいてやって。あの子、相当頭に血が上ってるから。」

 

秋蘭「・・・はい。私が見る限りでは、かなり怒っているご様子。」

 

栄華「私も感じましたわ。」

 

華琳「ええ。郭嘉も連れて行って構わないわ。だから、傍にいてやって。」

 

秋蘭「はっ。」

 

栄華「分かりましたわ。」

 

そう言い、秋蘭と栄華はその場を後にした。

 

華琳(奴らめ・・・本格的に私達を牽制しにきたわね・・・)

 

華琳(けど・・・私も純も、そう簡単に御せないわよ・・・。特に純、あの子は特にね・・・)

 

その時、そのような事を華琳は思っていた。

秋蘭と栄華は、稟を連れて純の部屋の前の扉に着いた。

すると

 

ガシャーン!

 

秋・栄・稟「「「っ!!」」」

 

部屋の中から何かが壊れた音がした。

 

秋・栄・稟「「「純様/お兄様/純様!!」」」

 

それを聞いた三人は、扉を開けると

 

純「ハア・・・ハア・・・ハア・・・」

 

純が三人を背にしながら部屋の真ん中に立っており、目にした者全てを殺すような目をしながら振り向いた。その右手にはボロボロに壊れた椅子を持っていた。

部屋の至る所ボロボロになっており、相当部屋の中で暴れたことが分かる有様だった。

 

秋蘭「純様!どうか落ち着いて下さい!!」

 

栄華「お兄様!!」

 

稟「どうか、気を静めて下さい!!」

 

それを見た三人は、すぐに駆けつけ、秋蘭は純の背中を抱き締め、栄華は純の右手を、稟は純の左手を握ってそう必死な声で言った。

 

純「・・・お前ら。」

 

これに、純は幾分か落ち着きを取り戻し、右手に持っていた椅子を落とした。

それを見た秋蘭達三人は、ホッとした表情を浮かべた。

 

純「今回の麗羽の討伐、俺は総帥じゃねー。」

 

秋蘭「そんな・・・!?」

 

稟「・・・誰なのです?」

 

純「董承だ。」

 

それを聞いた稟は

 

稟「・・・成程。これは曹操殿と純様らの派閥に対する牽制です。」

 

そう冷静に言った。

 

栄華「稟さん。どういう事ですの?」

 

稟「今、内政面でも軍事面でも実績を残しておられるのは曹操殿と純様です。それらを見て、古くから漢に仕えている董承らの派閥は面白くないのでしょう。」

 

秋蘭「だから、今回の袁紹討伐では、董承を総帥に据えたという事か。」

 

稟「はい。」

 

栄華「しかし、そんな理由でお兄様を総帥に据えないなんて・・・!」

 

秋蘭「余程気に入らぬのだろう。」

 

純「フンッ!ふざけやがって!」

 

稟「純様。お怒りはご尤もです。しかし、今は袁紹との対決前です。そのお怒りは、全て戦場で晴らすのです。」

 

稟「そして、我らにもその怒りを分かち合って下さい。」

 

そう、稟は純に言った。

 

純「・・・分かった。この怒りと屈辱、戦にて晴らしてやる。」

 

すると、純は少し落ち着きを取り戻した。

 

秋蘭「純様・・・」

 

栄華「お兄様・・・」

 

稟「ふぅ・・・」

 

それを見た秋蘭と栄華は、柔らかい笑みを浮かべ、稟はホッとした表情を浮かべた。

 

純「さて。秋蘭、稟。出陣の支度をしろ。栄華、姉上を頼むぞ。」

 

秋・稟「「御意!!」」

 

栄華「はい、お兄様!」

 

そう、秋蘭達は拱手した。

 

凪(純様・・・そのお気持ち・・・私も共有致します・・・)

 

楼杏(純さん・・・私も・・・)

 

その時、扉の前で凪は拳を握り締めながら、楼杏は胸に手を当てながら決意を固めていたのであった。



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53話

53話です。


城外には、7万の将兵で溢れかえっていた。

その理由は、この日袁紹との戦に向けて出陣するためだ。

 

純「姉上。後はお任せします。」

 

華琳「任せなさい。それと・・・武運を祈るわ。」

 

純「はっ!」

 

稟「桂花。司馬懿。後の事は任せました。」

 

風「お任せなのですよ~。」

 

桂花「当然よ!」

 

司馬懿「お任せ下さい。」

 

稟「それと・・・徐州の劉備には警戒を怠らぬようお願いしますよ。」

 

桂花「言われなくても分かってるわよ。」

 

司馬懿「ご安心を。劉備が後方で何かしたらどうするか既に考えております。」

 

稟「・・・そうですか。」

 

桂花「アンタ達も、純様をしっかり支えるのよ。」

 

稟「言われなくても。」

 

風「・・・ぐぅ。」

 

稟「寝るな!」

 

風「おおっ!?当たり前の事につい・・・」

 

稟「全く・・・」

 

華侖「春姉ぇ。秋姉ぇ。頑張って下さいっすよー!」

 

柳琳「春蘭様。秋蘭様。ご無事で。」

 

春蘭「ふんっ!言われなくても!」

 

秋蘭「我らに任せておけ。」

 

栄華「頼みますわよ。霞さん、楼杏さん。」

 

霞「任しときぃ!純と一緒に敵を斬りまくるでー!」

 

楼杏「任せなさい。」

 

香風「凪ー!真桜ー!沙和ー!頼むねー!」

 

凪「ああ!」

 

真桜「ウチらに任しとき!」

 

沙和「なの!」

 

そう、華琳達は出陣の前に声を掛け合っていた。

その時

 

董承「さあ皆!逆賊を討ちに出陣するぞ!!」

 

董承がそう大声を上げ、出陣した。

 

その際

 

華琳「純。」

 

純「はっ。」

 

華琳「何があっても、決して頭に血を上らせては駄目よ。」

 

華琳はそう純に言った。

これに

 

純「・・・分かってますよ。」

 

純は目を逸らしたので

 

華琳「本当に分かってるの?ちゃんと目を見なさい!」

 

華琳は純の頬をつまんだ。

 

純「いひぇ、いひぇ!わはっへまふはら・・・おはにゃひくだひゃい・・・!」

 

これに、純はつままれた状態でそう華琳に言った。

 

華琳「そう。素直で良いわ。」

 

華琳「安心なさい。今のところ、董承に威張らせておけば良いわ。あれには戦の功績が無いわ。この7万の将兵は、皆あなたの将兵。戦が始まれば、あの頑固爺では無く、皆あなたに従うわ。」

 

純「・・・ご尤もです。」

 

そして、純達は出陣をしたのだった。

暫く進軍し、董承の様子を聞きに兵を送ると

 

曹彰軍兵士A「報告!」

 

稟「車騎将軍の様子はどうなっていますか?」

 

曹彰軍兵士A「馬車にハエが群がってます。」

 

そんな報告が入った。

 

稟「ハエ・・・ですか?ハエが一匹消えたと思ったら、今度は大群ですか。」

 

風「どういう事でしょうね~。」

 

純「・・・どういう事だ?」

 

曹彰軍兵士A「車騎将軍殿が、飲み食いして馬車を酷く汚したからです。」

 

これには

 

稟「フッ・・・それが車騎将軍の本来の姿という事ですか。」

 

稟は失笑してしまった。

それから、また暫く進軍すると

 

董承「全軍に命じる。ここで駐留する。」

 

突然そう言ったのだった。

この知らせを

 

曹彰軍兵士B「報告。ここで駐留するそうです。」

 

兵は純に報告した。

 

純「出陣して二、三日しか経ってねー。官渡まではまだ先だ。何でここで留まるんだ?」

 

これには、純は疑問を抱き

 

純「稟。風。董車騎将軍は何を考えてんだ?」

 

稟と風に尋ねた。

これには

 

稟「いえ、私にもサッパリ・・・」

 

風「・・・ぐぅ。」

 

稟「寝るな!」

 

風「おおっ!?何を考えているのか分からずつい・・・」

 

純「そうか。秋蘭!」

 

秋蘭「はっ!」

 

純「ここに留まる理由を尋ねてきてくれ。」

 

秋蘭「承知しました。」

 

そして、秋蘭は馬を走らせ董承のもとへ向かった。

 

 

 

 

王子服「董承殿。」

 

董承「王子服殿。如何した?」

 

王子服「曹彰の側近の夏侯淵が訪ねて参りました。」

 

董承「あの小僧の側近か・・・通すのじゃ。」

 

王子服「はっ。」

 

そして

 

秋蘭「夏侯妙才。主曹子文の名代として参りました。」

 

秋蘭は、董承に拱手して参った。

 

董承「夏侯妙才殿。何用かな?」

 

秋蘭「我が主が、車騎将軍殿が何故ここで駐留するか、その訳を聞きたいそうです。」

 

秋蘭の質問に

 

董承「・・・策はワシの胸の内にある。」

 

と答えた。

 

秋蘭「・・・車騎将軍様。その策とは?」

 

そう尋ねると

 

董承「お主は知らずとも良い。ただ黙ってワシに従えば良い。」

 

とそれ以上言わなかった。

それどころか

 

董承「ところで、お主は『黄鬚』殿の幼馴染じゃと?」

 

秋蘭「はっ。我が主とは、幼い頃からの付き合いです。」

 

董承「そうか・・・。お主のような良い女が、あの様な者の側近とは勿体ない。どうじゃ、いっその事このワシのもとへ・・・」

 

そう、下劣な目で秋蘭を勧誘する始末だった。

 

秋蘭「・・・申し訳ありません。この事を我が主に報告しなければなりませんので、ご遠慮致します。」

 

これに、秋蘭はそう返しその場を後にした。

その場を後にした際

 

秋蘭「・・・。」

 

秋蘭は董承がいる天幕を怒りと蔑みの目で見ていたのだった。

そのまま戻ると

 

純「戻ったか。」

 

純が待っていた。

 

純「秋蘭。董車騎将軍は何て言っていた?」

 

この問いに

 

秋蘭「・・・『策はワシの胸の内』と申した後、それ以上のことは何も申しませんでした。」

 

秋蘭は少し不機嫌な様子で言った。

 

純「・・・そうか。」

 

稟「どういう事でしょう?」

 

風「サッパリですね~。」

 

純「分かった。やむを得ん。ここで駐留するとしよう。」

 

秋蘭「純様。後で幕に来ても良いですか?」

 

純「・・・良いぞ。」

 

秋蘭「・・・では、また後で。」

 

そう言い、秋蘭はその場を後にした。

その際

 

稟「秋蘭殿?」

 

春蘭「どうした、稟?」

 

稟「いえ。少し秋蘭殿のご様子がおかしいなと思い・・・」

 

春蘭「言われて見れば、少し機嫌が悪かったな・・・」

 

純「そうだな・・・」

 

その場にいた者は、秋蘭の様子に首を傾げていたのだった。

そして、天幕を張り終えて暫くすると、秋蘭が純のいる幕に入った。

 

純「秋蘭・・・」

 

すると

 

ギュッ

 

純「えっ?」

 

秋蘭が突然純に抱き付いたのだった。

 

純「秋蘭?どうした?」

 

これに、純がそう尋ねると

 

秋蘭「・・・。」

 

秋蘭は抱き締めてる腕を強くし、顔を胸に埋めたまま何も喋らなかった。

 

純「・・・。」

 

それを見た純は

 

秋蘭「っ!」

 

秋蘭の背中に手を回し

 

純「何があったんだ?言いな。」

 

そう、優しく耳元で尋ねた。

 

秋蘭「・・・董車騎将軍に、下劣な目で誘われました。」

 

純「・・・それで?」

 

秋蘭「私の身も心は全て純様に捧げております。あの様な者にあんな目で見られるのは嫌です。」

 

それを聞いた純は

 

純「・・・そうか。」

 

秋蘭「あっ・・・」

 

抱き締めながら秋蘭の頭を優しく撫で

 

純「怖い想いさせちまったな。悪かった。」

 

そう、秋蘭に謝罪した。

すると

 

秋蘭「純様・・・んっ。」

 

秋蘭は目を潤ませながら顔を上げると、純に口付けをした。

これに、純は少し驚いたがすぐそれに応えた。

二人はそのまま互いをきつく抱き締め合いながら口付けをし、満足するまでそのまま身を委ねたのであった。



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54話

54話です。


純達が駐留してから十日が経った。

 

凪「稟様。昨日同様董車騎将軍様が言うには、『策はワシの胸の内にある』と。それ以上は答えませんでした。」

 

この報告を聞いた稟は

 

稟「もう十日ですよ。まだそんな事を言っているのですか?」

 

眉をひそめながらそう言った。

 

凪「後はもう自慢話ばかりで、口を開けば漢への愛国心を云々と熱っぽく語ったり、天子様への忠誠を誇ったり。それは、王子服様と呉子蘭様も同じでした。だがどうも、本心は隠しているようでした。」

 

これに

 

稟「やはり、愚物共ですね。」

 

と稟は言い

 

凪「全くです。一緒にいるだけで吐き気がします。」

 

凪も同調した。

 

稟「凪。この事は、純様には伏せておいて下さい。純様は、今回の対袁紹の総帥と秋蘭殿の一件で董承らに対して怒りを抱いております。この事を知れば、董承達に何をするか分かりません。もしこの事を袁紹側に知られたら、大変な事になります。」

 

凪「しかし、それもいつまで隠し通せるか・・・」

 

これには、稟も眉をひそめるしか無かった。

 

 

 

 

 

剛「兵達は食糧を調達するために、近くの山に野草を採りに行っています。しかし、それもすぐに尽きるでしょう。」

 

哲「兵達は皆、空腹にあえいでいます。」

 

楼杏「このままでは、皆飢え死にしてしまいます。」

 

純「・・・ああ。」

 

そして、純は空腹で意気消沈している兵の肩を叩いた。

 

曹彰軍兵士A「曹彰様・・・」

 

純「すまないな・・・」

 

これには、純はそう言うしかなかった。そして、周りの兵の顔を見た純は

 

純「何を自慢げに策略などと・・・!駐留してもう二十日経つ。俺達は戦をしに来たんだ。飢えるためじゃねー!兵達は虎だ。野良犬じゃねー。俺の命の次に大事な兵をこんな目に遭わせやがって!」

 

怒りを浮かべてそう言った。

 

純「董承はどこだ?」

 

剛「この数日、董車騎将軍様は王子服様と呉子蘭様と共に、幕舎で酒宴を行っているかと。」

 

これを聞いた純は

 

純「何、こんな時に酒宴だと!?」

 

ただただ驚き、いてもたってもいられず、そのまま本営の幕舎へ足を運んだ。

 

 

 

 

 

 

董承「この酒は格別じゃ!」

 

王子服「そうですな!」

 

呉子蘭「全くです!」

 

その頃、董承らは酒を飲みながら楽しんでいた。

そこへ、純が入ってきた。しかし

 

王子服「いやぁ、美味い!」

 

呉子蘭「うむ!」

 

董承「ははは!」

 

彼らは酒に夢中で気付かなかった。

 

純「・・・。」

 

その様子を、純は呆れつつも董承のもとへ歩いた。

そして、董承に近付くと腕を組んで

 

純「車騎将軍殿。」

 

と呼んだ。

 

董承「おお!『黄鬚』殿か!」

 

これに気付いた董承は、純を異名で呼んだ。

 

純「お辞め下さい。俺は将軍です。陛下から大命を受け、逆賊袁紹を打ち破るために出陣した。」

 

純「それなのに、戦にも行かず、酒を飲み宴とは!こんな事をして陛下に、民に申し訳が立つのですか!」

 

そう言い、純は器の中に入っている酒を投げ捨てた。

 

董承「ははは!曹彰殿、落ち着かれよ。曹彰殿は、いち早く官渡まで駆けつけ、袁紹の軍を破りたいのだろう。」

 

董承「しかし、いくら7万の将兵全てが最精鋭とはいえ、袁紹の軍勢は70万じゃ。とても太刀打ち出来ぬ。よって、ここは戦わず、袁紹軍が現れ我らに攻撃してきたら、それを耐え凌ぎ、袁紹軍が疲労困憊になったその隙に攻める。そうすれば必ず勝てる。」

 

董承「つまり、今は動く時では無いのじゃ。武器を持って戦場を駆け回り敵を殺す事においては、ワシは曹彰殿に遠く及ばない。だが、軍営から全体を見て策を練るのは、曹彰殿よりもワシの方が上じゃ。」

 

董承はそう純に言い

 

董承「さあさあ、酒を・・・」

 

王子服と呉子蘭に酒を勧めると

 

純「俺にとって家族同然の兵達は飢えてるんだぞ!!」

 

純はそう董承に怒鳴った。

 

董承「戦が、苦しいのは当然じゃ!それはそなたも分かっておるはず!苦しみに耐えられぬなら、戦に勝てるはずが無い!」

 

これに、董承はそう怒鳴り返した。

 

純「例えそうでも、車騎将軍殿。アンタは、日夜酒を飲み、王子服殿と呉子蘭殿と一緒に享楽に耽っているだけです!」

 

純「兵達が苦しんでいるのを何とも思わねーのか!」

 

しかし、純も負けじとそう言い返した。

 

董承「曹彰殿。陛下はこの重要な役目をワシに任されたのであって、曹彰殿に任せたのでは無い!日夜酒を飲んでいるのは、享楽に耽っているのでは無く、結束を強める為じゃ!」

 

董承「確かに、兵達の中には、寒さと空腹を訴え、不満を持つ者もいる。だがそれは、気合と漢室への忠誠心、そして愛国心が十分で無いからじゃ!」

 

董承「フッ・・・曹彰殿。そのような兵達は、将軍が適切に罰するべきじゃ。頼んだぞ。」

 

それに、董承はそう言い、最後に馬鹿にしたような笑みを浮かべながら

 

董承「さあ。遠慮せず飲もう!」

 

王子服「いただきます。」

 

呉子蘭「どうも。」

 

王子服と呉子蘭と再び酒を飲んだ。

これに、純は言い返す気力も失せ、ただ呆れ笑いを浮かべながら

 

純「ごゆっくり!」

 

純「皆様も!」

 

そう言い残し、幕舎を出たのだった。

 

董承(フンッ・・・宦官の孫が、調子に乗るでないわ!漢室に、お主のような穢れた者など必要ない!)

 

董承(必要なのは、ワシらのような心の清い者だけじゃ・・・!)

 

純の後ろ姿を見てそう心の中で呟きながら、董承は酒を飲んだのであった。



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55話

55話です。


その翌日、董承は全軍に対し、次のような軍令を出した。

 

『猛き事虎の如く。悖る事羊の如く。貪る事狼の如く。凶暴で我が命に従わぬ者は、斬首致す。』

 

これには

 

春蘭「何だこれは!!」

 

秋蘭「純様の事を暗に言っているな・・・!」

 

霞「あのクソ爺!!純は留まっている理由を聞いて意見を言っただけや!!こんな事あってたまるかいな!!」

 

楼杏「ええ!!私も、同じ武人として、いや人としてこれ程腹が立った事は無いわ!!私達の純さんを馬鹿にして!!」

 

凪「はい!!私も同感です!!」

 

真桜「ああ!!ウチも流石にこれは腹が立つでー!!」

 

沙和「沙和もなのー!!あのクソ共を嬲ってやりたいのー!!」

 

それぞれ怒りの表情を浮かべていた。

 

 

 

 

 

 

純「・・・。」

 

幕にいる純も、この軍令を見て静かに怒っていた。

 

稟「純様・・・」

 

風「・・・。」

 

これに、稟と風は怒りを覚えつつも、純を気遣っていた。

その時、純は立ち上がって外に出た。

 

稟「純様!」

 

風「お待ち下さい~!!」

 

その際、純の表情を見た稟と風は何かを察し、止めようとした。

 

稟「純様、お待ちを!!」

 

風「純様!!」

 

しかし、純は無視し馬に乗って走らせた。

これに

 

稟「純様!それはお辞め下さい!!」

 

稟は前に立って純を止めた。

しかし

 

純「・・・誰もついてくんじゃねー!」

 

稟・風「「っ!」」

 

純はそう鋭い目つきで言い、稟達を黙らせ

 

純「はっ!」

 

馬を走らせた。

そして、着いた先は、董承が寝ている本営の幕舎だった。

馬から降りた純は、そのまま幕舎の中に入り、横になって寝ている董承へ迷わず向かった。

これに

 

董承「ああ。これは『黄鬚』ど・・・」

 

董承は起き、純だと気付いて異名で呼びかけたその時

 

ズバッ!

 

董承「ぐわぁっ!!」

 

純に頭を掴まれ、そのまま首を刎ねられた。

 

曹彰軍兵士A「何があった!!」

 

曹彰軍兵士B「曹彰様!!」

 

異変に気付いた兵士達は、そのまま中に入ると、董承の首を持って強烈な覇気を纏っている純がそこにいた。

 

曹彰軍兵士A「そ、曹彰様・・・!」

 

兵士達は、その覇気に動けず、ただ純を見つめていた。

すると、主だった者が本営前に集まり

 

稟「皆騒ぐのは止めなさい!!さもなければ斬り捨てます!」

 

稟がそう良く聞こえる声で兵に言っていた。

その声を聞いた純は、董承の首を持ってそのまま外へ出た。

そして、その首を掲げ

 

純「董承の首がここにある。」

 

そう言い、掲げた首を投げ捨て

 

純「董承は、密かに袁紹に内通し、許都の民を売ろうとした。それを知った姉上はこの事を知らせ、俺は密命を受けた。よって、誅殺した。テメーら、異存はあるか?」

 

そう問うた。

 

「「「ありません!!!」」」

 

これに、将兵達は声を揃えてそう言い

 

秋蘭「元々、我らは純様の将兵です。それに、天子様をお助けしたのは華琳様と純様。謀反人がいれば、誅殺も当然。誰も異議を唱えません。」

 

秋蘭は純の行動を当然であると言った。

 

純「俺達が姉上の下旗揚げをし、黄巾や多くの敵と戦った時に、このような不義の輩が我が軍にいたか?どうだ?」

 

純「一人もいない!皆世のため人のため、命を懸けた志士だった!お前達の親、兄弟、友は大義のため命を捧げた!」

 

純「俺達は、その者らを手本とし、立ち塞がる敵を倒すため、情熱を燃やし、奮い立つのだ!!」

 

純「んな所で、もたもたしていては、天下の笑いものだ!!」

 

そう、純は涙を流し熱の籠もった言葉で皆に言った。

この時、将兵皆、目に力が宿り、純同様涙を流していた。

 

純「テメーら。誇り高い曹軍としての気概と、勇気も持ち、この俺についてこい!!姉上の覇道完遂の為、立ち塞がる敵を全てなぎ倒すのだ!!」

 

そして、純は太刀を天に掲げてそう叫んだ。

すると

 

「「「曹彰!!!曹彰!!!曹彰!!!曹彰!!!曹彰!!!」」」

 

皆馬から降り、跪き拱手しながらそう叫んだ。

その声は、まさに天を貫かんばかりの大声だった。

そして、曹彰軍の結束力は更に強くなった。

 

 

 

 

 

純「稟。王子服と呉子蘭は?」

 

軍を再び纏めた純は、王子服と呉子蘭についてを稟に尋ねた。

 

稟「幕舎の中にいます。」

 

これに

 

純「生かしてるのか?」

 

と純が聞くと

 

稟「いいえ。首だけです。」

 

と稟はそう冷徹に答えた。

 

純「・・・そうか。」

 

稟「あなたが行った後、すぐに凪を呼んで兵を与え、二人がいる幕舎へ向かわせ殺したのです。」

 

純「フッ・・・流石だな。」

 

稟「ありがたきお言葉。」

 

純「じゃあ、策略はお前と風に全て任せるぞ。」

 

稟「はっ!ではこれにて。」

 

そう言い、稟はその場を後にした。

 

楼杏「・・・稟さんはあまり怒らせない方が良いですね。」

 

純「そうだな。楼杏。」

 

楼杏「はっ。」

 

純「董承、王子服、呉子蘭の首を持って、陛下に奴らの罪を報告しろ。また内密に、このように伝えろ。」

 

そう言い、純は楼杏の耳元でその内容を伝えた。

 

 

 

 

 

 

許都

 

 

 

 

 

 

 

そして、楼杏は一部の兵を率いて董承、王子服、呉子蘭の首を掲げながら

 

楼杏「皆聞きなさい!董承、王子服、呉子蘭は反逆を企み、我らが戦地に赴いた際に事もあろうに、逆賊袁紹に内通し、我らを殺し、民を売ろうとしたのです!」

 

楼杏「それを知った曹操様は、真相を知り、陛下の許可を取り曹彰様に命じました!反逆者とその仲間を討てと!これがその首です!」

 

そう唱えた。

 

許都民A「良くやってくれた、曹彰様!!」

 

許都民B「流石曹操様だ!!」

 

許都民C「曹彰様も良くやった‼︎」

 

許都民D「逆賊に通じた卑劣な裏切り者め!!」

 

許都民E「私達を売るなんて!!」

 

許都民F「同じ人として、あり得ないわ!!」

 

これに、許都の民はこぞって華琳と純を讃え、董承と王子服、そして呉子蘭には、その首に罵声を浴びせたのだった。

 

 

 

 

 

華琳「思い切った事をしたわね、純は。」

 

この知らせを聞いた華琳は、ただただ驚きの表情を浮かべながらそう言った。

 

桂花「そうですね。」

 

それは、桂花も同様だった。

 

司馬懿「ですが、これで我らに刃向かう連中は内部でいなくなりましたね。」

 

しかし、司馬懿はこの事を逆にプラスに捉えそう言った。

 

華琳「そうね。とはいえ、まだ油断は出来ないわ。」

 

司馬懿「はい。承知しております。」

 

華琳「さて・・・私は陛下に会うわ。」

 

そう言い、華琳は朝廷に参内した。

楼杏も一緒で、霊帝は楼杏が持ってきた書状を読んだ。

 

霊帝「・・・。」

 

霊帝(まさか・・・牽制するはずが、裏目に出てしまうなんて・・・!)

 

霊帝は、流石に動揺を隠しきれなかった。

 

劉協(まさか・・・董承さん達がこうも・・・)

 

劉協も動揺を隠せずにいた。

 

華琳「・・・。」

 

横にいる華琳と

 

楼杏「・・・。」

 

純の遣いとしてやって来ている楼杏の二人の視線を感じ、霊帝は再び書状を開いた。

そして

 

霊帝「良し!良くやったわ!」

 

そう作り笑いを浮かべながらそう言ったのであった。



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56話

56話です。


霊帝「良し!良くやったわ!よくぞ殺したわ!」

 

そう言うと、霊帝は水を少し飲み

 

霊帝「朕も殺すつもりだったわ!曹彰も朕と同じ考えだったとは!」

 

そう褒め称えた。これに、楼杏も満更でも無い顔だった。

 

華琳「陛下。我が弟は、賊を殺し功を立てました。漢にとって義士であり、漢に幸福をもたらしました。」

 

華琳「そこで、弟を全軍の総帥に任命して下さい。」

 

その横で、華琳は霊帝にそう進言した。

 

霊帝「・・・分かったわ。曹彰を全軍の総帥に任命するわ。全軍曹彰の命令に従うよう伝えなさい。」

 

これに、霊帝はそう発言した。

 

華琳「陛下。英明でございます。」

 

楼杏「御意。陛下、曹操様。私はただちに、軍に戻り、ご命令を伝えます!」

 

そう、楼杏は拱手してその場を後にしようとした。

 

霊帝「ああ、皇甫嵩将軍。」

 

すると、霊帝が楼杏を引き留め

 

霊帝「私がそなたを見送ろう。」

 

と言ったが

 

楼杏「それは恐れ多いことです。どうぞ、そのままでいて下さい。」

 

楼杏「では。」

 

そう止められ、楼杏はその場を去ったのだった。

 

霊帝「・・・。」

 

その姿を、霊帝は恐ろしさを感じ

 

華琳(フンッ・・・純を総帥にしなかった報いよ・・・。)

 

その様子を、華琳は冷たい眼差しで見ていたのだった。

 

 

 

 

 

徐州

 

 

 

 

 

諸葛亮「・・・という策で行けば、勝てると思います。」

 

徐州では、諸葛亮が劉備にある作戦を進言していた。

 

劉備「・・・。」

 

この作戦に、劉備は複雑な表情を浮かべており

 

関羽「しかし朱里!これでは我らが朝廷に刃を向けるようじゃないか!」

 

鳳統「そうだよ朱里ちゃん!愛紗さんの言う通りだよ!こんな危ない賭け、私は反対だよ!これじゃあ、私達が賊になっちゃうよ!」

 

関羽と鳳統はこの作戦に反対していた。

 

諸葛亮「愛紗さん!雛里ちゃん!お二人は、先日の巻狩りを知っているでしょう!特に愛紗さんは、傍にいたから尚更知っているはず!」

 

関羽「確かにあれは曹操殿の野心が明白だと分かる行動だった。許し難い行為だ。」

 

関羽「しかし、私は許都の民の表情を見ていた。それは、我らにとっての理想ではないのか?」

 

関羽「活気に溢れ、民達も笑顔で溢れてる。そのようにしておられるのは、曹操殿が民の為の政を行い、曹彰殿が外の脅威を守ってくれているからこそ、民達が笑顔でいられるのだ!」

 

関羽「そうしてくれる者を討ち取るなど、義に悖る行為でもあり、我らの理想とは程遠い!考えを改めよ、朱里!我らは、曹操殿と共に歩めないのか!」

 

これに、関羽はそう諸葛亮に強く言った。

 

諸葛亮「愛紗さん!桃香様と曹操さんじゃ、考え、やり方が違います!いずれ敵対する関係になります!」

 

諸葛亮「だったら、今のうちに曹軍にとっての精神的支柱の曹彰さんを討ち取り、返す刀で許都まで行き、曹操さんを討ち取り天子様をお救いすれば、必ず泰平の世が訪れます!」

 

しかし、諸葛亮はそれに怯まず、強硬に唱え

 

諸葛亮「桃香様!ご決断を!」

 

と劉備に言った。

 

関羽「桃香様!この作戦、お辞め下さい!」

 

鳳統「桃香様!」

 

関羽と鳳統も同時に強く言った。

 

劉備「・・・私は、朱里ちゃんと同じ考えだよ。」

 

しかし、劉備は諸葛亮の考えに同調した。

 

関羽「桃香様!」

 

劉備「だって、曹操さんは天子様を押しのけてあんな行動をするんだもん。それに、力で天下を取ろうとする姿勢も間違ってる!手を繋げば、全て丸く収まるのに!」

 

劉備「それに曹彰さんもだよ!お姉さんの曹操さんと同様、力で解決しようとしてる!あんな人達、この大陸にいたら乱世が深まるだけ!それじゃあ、駄目なんだよ!」

 

劉備「だから、曹彰さんを討ち取って、その勢いで許都の曹操さんも討ち取り、天子様を救う!私は朱里ちゃんの考えに賛成だよ!」

 

そう、劉備は強く言った。

 

関羽「桃香様・・・」

 

これに、関羽は呆然と劉備を見ていた。

 

劉備「それで朱里ちゃん。具体的にどうすれば良いの?」

 

諸葛亮「はい。恐らく、曹彰さんは前方の袁紹さんの方に集中しておられます。その後ろを突けば、さしもの曹彰さん率いる精鋭兵も太刀打ちできず、曹彰さんを討ち取れます。」

 

諸葛亮「後はその勢いで許都まで行き、強硬攻めすれば、必ず大業を成せます。」

 

そう、諸葛亮は劉備に進言していた。

 

関羽(朱里・・・お主は一体・・・何故そこまで曹彰殿を・・・?)

 

鳳統(朱里ちゃん・・・何でそこまで・・・?)

 

この様子を、関羽と鳳統は何とも言えない顔で諸葛亮を見ていたのであった。



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57話

57話です。


劉備軍は、袁紹と決戦に挑もうとする純率いる軍に向けて徐州を起ち進軍していた。

 

関羽「おい、雛里。」

 

鳳統「はい。」

 

関羽「この出陣、どうなると思う?」

 

進軍中、関羽は神妙な面持ちでそう鳳統に尋ねた。

 

鳳統「正直に言います。今回の出陣には、大義名分がありません。」

 

鳳統「加えて、急な出陣であるため万全では無く、もし今の状態で急襲されれば、敗北は免れません。」

 

これに、鳳統はそう正直に言った。

 

関羽「・・・そうか。しかし、朱里は何故そこまで執拗に曹彰殿を・・・」

 

鳳統「私にも分かりません。桃香様も、曹彰さんを非常に嫌っているご様子でした。」

 

関羽「それは・・・袁術らを処刑した事が原因か?」

 

鳳統「はい。桃香様は話し合い、袁術さん達が反省さえすれば、命を取らないで助命しようと考えていたと思われます。」

 

関羽「しかし、袁術討伐は朝廷からの命だぞ。曹彰殿はそれに従い、実行したまでだ。曹彰殿を嫌う理由など・・・」

 

鳳統「それ以前です。桃香様と曹彰さん、それに姉の曹操さんじゃ、考えが違います。」

 

鳳統「曹操さんと曹彰さんは武力による泰平の世を築く。桃香様は対話で泰平の世を築く。これじゃあ、両者は相容れません。」

 

関羽「確かに、桃香様はその考えをお持ちだ。ただ、ここ最近思うのだ。桃香様の考えは確かに尊い物だ。」

 

関羽「しかし、どんな理想も力が無ければただの夢物語だ。力無い理想など、無に等しい。逆も然りだが。」

 

関羽「桃香様は、その道理を分かっていらっしゃらないのかとな。」

 

そう、関羽は鳳統に心に思っている事を言った。

 

鳳統「それは分かりません。ただ、ここ最近の桃香様は理想ばかりに目を向け、現実を見ません。」

 

鳳統「前から理想を見ておられる方でしたが、少し度が過ぎます。」

 

関羽「そうだな。しかし、私も大概の事は言えないが、桃香様は頑固なお方だ。」

 

鳳統「はい。私や愛紗さんがどう言おうとも、耳を貸さないでしょう。」

 

関羽「それは朱里もか?」

 

鳳統「はい。朱里ちゃんも昔から決めた事は決して覆さない一面があります。」

 

関羽「・・・そうか。」

 

その時

 

張飛「愛紗ー!!大変なのだー!!」

 

張飛が糜竺と糜芒を連れて現れた。

 

関羽「どうした、鈴々!!」

 

張飛「後ろから曹操軍が現れ、襲ってきたのだー!!」

 

これに

 

関羽「何だと!?」

 

鳳統「そんな!?いくら何でも気付かれるのが早すぎです!?」

 

関羽と鳳統は驚きを隠せなかった。

 

 

 

 

 

 

曹操軍

 

 

 

 

 

 

華侖「純兄の後ろを狙う劉備軍は容赦なしっすー!!全軍、突撃っすー!!」

 

柳琳「皆さん。敵を殲滅させるのです!!」

 

この時、華侖と柳琳率いる曹操軍が、劉備軍を攻撃していた。

 

司馬懿「いやはや。臥龍め・・・こうも予想通りに動いてくれるとはな・・・」

 

その際、司馬懿は劉備軍動いたとの知らせを聞いた時を思い出していた。

 

 

 

 

 

 

回想

 

 

 

 

 

 

華琳「何?劉備が動いたですって?」

 

曹操軍兵士A「はっ!劉備達は、真っ先に曹彰様率いる軍目掛けて動いております!」

 

この知らせを聞き

 

桂花「華琳様。劉備は純様率いる官軍に攻撃をするつもりです。今すぐに、劉備軍を撃破しましょう。」

 

華侖「そうっす!!華琳姉ぇ。今劉備達は急な出陣で万全な態勢じゃ無いと思うっす!!」

 

華侖「今のうちに急襲すれば、撃退できるっす!!」

 

これを聞き

 

司馬懿「私も曹仁殿の意見に賛成です。恐らく劉備達は事前に準備をしていたと思います。」

 

司馬懿「しかし、現在劉備陣営では関羽と諸葛亮の関係はあまり良くなく、準備が上手く運べなかったとの話も入っております。今の状態なら、必ず劉備を撃退できます。」

 

司馬懿「そして、徐州も制圧出来るかと・・・!」

 

司馬懿も華侖の意見に賛同した。

これに

 

華琳「分かったわ。華侖。あなたに騎兵を預けるわ!劉備軍を撃退なさい!!」

 

華琳はそう、華侖に命令した。

 

華侖「はいっす!!」

 

華琳「柳琳。司馬懿。あなたは華侖の補佐をしなさい!それと、分かってると思うけど、徐州を平定しても、民から物を搾取する輩は例え誰であろうとも処刑しなさい!!」

 

柳琳「はい!!」

 

司馬懿「御意!!」

 

そして、華侖達は出陣した。

 

 

 

 

 

 

回想終了

 

 

 

 

 

 

司馬懿「フンッ・・・これで、徐州は曹操様の物だ・・・」

 

そう、司馬懿は黒い笑みを浮かべたのだった。

 

 

 

 

 

 

劉備軍

 

 

 

 

 

 

劉備「皆!頑張って戦って!」

 

諸葛亮「駄目です!!これ以上、戦線が持ちません!!」

 

劉備「けど朱里ちゃん!!」

 

諸葛亮「悔しいですが、これは私達の敗北です!!どうか、ご決断を!!」

 

その時

 

糜竺「大変!!徐州が、曹操軍に占領されちゃった!!」

 

徐州が占領されたとの知らせが入った。

 

劉備「そんな!?」

 

劉備(じゃあ・・・徐州の民は・・・!)

 

この時、劉備は徐州の民が、曹操軍に虐殺されたと何故か思い込んでしまった。

 

諸葛亮「桃香様!!」

 

劉備「・・・分かった。逃げよう!!」

 

そして、劉備達は敗残兵として何とか撤退した。

その際、半数以上の兵が、劉備について行けないと判断し、離反したのだった。

 

劉備(徐州の皆・・・陶謙様・・・ごめんなさい・・・!)

 

劉備(曹操さん・・・絶対に許さない・・・!)

 

この時、劉備の目は憎しみに囚われていた。

 

諸葛亮(このままじゃ・・・桃香様の理想は叶わない・・・!!)

 

諸葛亮(どこかで拠点を手に入れ、力を蓄え、必ず・・・!)

 

諸葛亮も、何かに執着したような表情になったのであった。



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58話

58話です。


背後を襲おうとした劉備軍を撃退したとの知らせは、純にも届いた。

 

純「ほお?俺達の背後を襲おうとした劉備らを、華侖が撃退したと。」

 

これに

 

春蘭「おお!流石華侖だ!!良くやったな!!」

 

春蘭は自分の事のように喜んだ。

 

純「はは。お前は華侖を可愛がってるからな。」

 

春蘭「はい!!」

 

霞「しかし劉備の奴、油断も隙もあらへんなぁ~。」

 

稟「いえ。これは諸葛亮の考えも汲んでいるかと。」

 

剛「諸葛亮の?」

 

稟「はい。恐らく我らを襲い純様を討ち取って、その勢いで許都を攻め、曹操殿を討ち天子様を自らの手に取り、大業を成すお考えです。」

 

秋蘭「何と・・・!?」

 

楼杏「臥龍と謳われた諸葛亮とは思えない随分と杜撰な策ね。」

 

哲「そうだな。」

 

風「稟ちゃん。諸葛亮さんの策を読んでいたのでは~?」

 

風の質問に

 

純「そうなのか?」

 

純は尋ねた。

 

稟「はい。なので、撃退を考えておりましたが、華侖様が良くやりましたね・・・」

 

これに、稟は怜悧な顔を崩さずに眼鏡を指でクイッと上げて言った。

 

風「おお~!稟ちゃんが誰かを褒めるなんて、珍しいですね~!」

 

稟「失礼な!私だって褒める時は褒めますよ!」

 

霞「いや稟。お前・・・普段滅多に褒めないって兵の間でももっぱらやで。」

 

純「まあ。お前は『鉄の軍師』って兵達から恐れられてるからな。」

 

稟「じ、純様まで!」

 

純「ははは!さて、これで麗羽との戦に集中できる。官渡まであと少しだ!気合入れてけよ!」

 

「「「はっ!!!」」」

 

稟「その際ですが皆さん、私に策があります。耳をお貸し下さい。」

 

この時、稟は皆に何か話し合っていた。

そして、遂に純率いる曹彰軍と麗羽率いる袁紹軍が向かい合ったのだった。

 

 

 

 

 

 

官渡

 

 

 

 

 

馬上で、純は目を瞑っていた。

その時

 

秋蘭「純様!」

 

秋蘭が馬を駆け現れ

 

秋蘭「申し上げます。官渡までの距離は二十里。袁紹軍は既に山腹に陣を構えています。」

 

そう伝えた。

 

純「麗羽の軍はどっちを向いてるんだ?」

 

秋蘭「西を向いております。」

 

この回答に

 

純「・・・。」

 

純は西日を見た。

そして

 

純「稟。」

 

稟「はっ!」

 

純「お前から聞いた例の作戦を実行させて貰うぞ。」

 

稟「はっ!」

 

稟にそう言った。

 

純「秋蘭。」

 

秋蘭「はっ!」

 

純「俺はこれから茶を振る舞っとくから、陣を敷け。」

 

秋蘭「はっ!」

 

秋蘭「姉者!霞!」

 

春・霞「「おう!」」

 

秋蘭「急いで鉄騎四万を率いて、後方から奇襲を掛けろ!」

 

春蘭「うむ!!」

 

霞「了解や!!」

 

秋蘭「凪!真桜!沙和!」

 

凪「はっ!」

 

真桜「はい!」

 

沙和「はいなのー!」

 

秋蘭「発石車と共に中軍を守れ!」

 

凪「御意!」

 

真桜「了解や!」

 

沙和「なのー!」

 

秋蘭「剛!哲!」

 

剛・哲「「ここに!!」」

 

秋蘭「長槍隊と盾隊を率い、先鋒へ!」

 

剛・哲「「はっ!!」」

 

秋蘭「楼杏殿!」

 

楼杏「はい!」

 

秋蘭「私と共に弩弓隊を率い、敵の前線を狙います!」

 

楼杏「ええ!」

 

秋蘭「出陣!!」

 

そして、秋蘭の号令の下、皆それぞれ兵を率いて行動を開始した。

暫くして、戦場の中央にて、純が椅子に座りくつろいでいた。

その姿を

 

袁紹「純さん・・・何をやってますの?」

 

郭図「私にもサッパリ・・・」

 

文醜「あたしもさっぱりだぜ・・・斗詩~。」

 

顔良「私に分かるわけ無いでしょう・・・」

 

袁紹軍の面々は首を傾げていた。

すると、純の兵が袁紹軍に向かって馬を駆け

 

曹彰軍兵士A「曹彰様が、『お茶をご一緒に』と申しております。」

 

と袁紹に伝えた。

 

袁紹「我が軍の勝利は確実。恐らく純さんは、私に大切な事を伝えようと思い、あのように席を用意したはずですわ。」

 

袁紹「私は行きますわ!全軍、くれぐれも攻撃なさらぬように!」

 

そう言い、袁紹は純のいる場所へ向かった。

近付くと、純は立ち上がり

 

純「麗羽。息災で何よりだ。」

 

と端整な顔に笑みを浮かべた。

 

袁紹「お気遣い、感謝致しますわ。日を追うごとに、健やかになっていきますわ。」

 

純「そうか。」

 

袁紹「純さんこそ、ご活躍を耳にしますわ。相変わらずお強いですこと。」

 

純「どうも。」

 

すると、純は席の埃を払い

 

純「麗羽。どうぞ。」

 

袁紹に先に座るよう促した。

 

袁紹「純さん。あなたは王師の総帥ですわ。あなたが先にお座りなさいな。」

 

これに、袁紹はそう純に先に座るよう促すが

 

純「はは。良いんだ。お前は俺と姉上の一つ上だ。年長者を敬うのは当然だろう?さあ。」

 

そう、純は袁紹を促した。

これに

 

袁紹「分かりましたわ。」

 

袁紹は先に座った。

それを見た純は、盃に茶を入れ向かい合って座った。

 

純「俺らも随分、なげー付き合いだ。幼い頃から姉上と共に親密だった。」

 

純「お前はよく俺と一緒に姉上に連れられ、洛陽中を遊び回ったな。」

 

純「昼は俺が主導して鷹狩りに興じ、夜は騒いで、本当に痛快な日々だったな。」

 

純「お前は言ったな。『このままずっと、子供のままなら楽しいはずですわ。』と。」

 

すると、純はかつての思い出を袁紹に言った。

 

袁紹「・・・そうですわね。」

 

これには袁紹も、少し感慨深い表情を浮かべていた。

 

純(ああ・・・早く戦をしてー。戦場のあの匂いを嗅ぎてー。けど稟の策に従わねーとなんねーんだよなあ・・・。ああ・・・メンドクセー。)

 

この際、純は早く戦がしたくうずうずしていた。

 

袁紹「純さん、何か言いたそうですわね。構いません、仰いなさい。」

 

これを見た袁紹は、純に発言を促した。

 

純「・・・麗羽。今この時期に70万の兵を率いてきたのは、本当に賢いな。」

 

袁紹「あら?突然なんですの?」

 

純「いや。この戦があと五年遅かったらよ、必ず俺達が勝つと姉上が言ってたんだ。」

 

袁紹「フフッ・・・五年も待てませんわ。」

 

すると

 

袁紹「純さん。悪い事は言いませんわ。降伏なさって下さいな。私は、あなたの命を奪う事は致しませんわ。」

 

そう、袁紹は純に降伏を促した。

 

純「麗羽。俺は曹軍の全将兵の思いを背負っているんだ。その思いを無駄にしたら、アイツらはどうなる?」

 

しかし、純は降伏を拒否した。

 

袁紹「純さんらしいですわ。けど、華琳さんはどうですの?」

 

純「姉上は、お前に和睦を求めていたぞ。」

 

袁紹「あら?私とですの?」

 

純「ああ。だが俺は反対した。和睦するなら、いっその事一暴れしてからが良いと思った。」

 

純「だが俺は武人だ。武人は主の命には従うしかねー。」

 

そう、純は苦い顔をした。

 

純「それでな、俺は姉上に言われたんだ。麗羽にこう伝えろと。」

 

袁紹「何ですの?」

 

純「もし撤退したら、苑州だけを手元に残し、その他の領地をお前に差し出すとな。」

 

純「また今後とも、お前と二度と争わねーともな。」

 

これに

 

袁紹「・・・そうですの。」

 

袁紹は完全に信じ切った顔を浮かべていた。

この二人の会談を

 

郭図「フッ・・・『黄鬚』曹彰も、所詮は噂か・・・」

 

郭図「あのように諂うなど・・・姉の曹操同様、袁紹様の敵では無いわ・・・」

 

郭図は勝利を確信したような笑みを浮かべていた。

そして

 

袁紹「じゃあ、純さん。華琳さんにお伝え下さい。あなたの条件、全て受け入れると。」

 

純と袁紹の会談は終わりに向かった。

 

純「そうか。これで、姉上も民も救われる。」

 

そう純が言ったその時、純は姿勢を崩した。

 

純「フフッ・・・ははは!」

 

これに

 

袁紹「え・・・純・・・さん?」

 

袁紹は状況が呑み込めなかった。

それを余所に

 

純「麗羽。テメーは本当に馬鹿だな!姉上がテメーなら、和睦を求めたりしねー!それは俺も同じだ!」

 

純「俺達が生きている限り、俺達が必ず勝つからだ!」

 

そう、純は袁紹に言い

 

純「ははははは!」

 

後ろから駆けてきた馬に颯爽と乗り、自らの陣営に戻ったのだった。

その時

 

袁紹軍兵士A「袁紹様!早くお戻りを!」

 

袁紹軍の兵が、そう袁紹に言った。

 

袁紹「何ですの!」

 

袁紹軍兵士B「今すぐ本陣へ!敵に奇襲を掛けられました!!」

 

袁紹「何ですって!!」

 

これに、袁紹は驚き、急いで自らの陣営へ戻った。

 

陣営に戻った純は

 

純「これで良いんだな、稟?」

 

稟にそう聞いた。

 

稟「はい。実に見事な演技でした。」

 

これには、稟も素直に純を褒めた。

 

純「・・・そうか。春蘭も良い時機に奇襲を仕掛けたな。」

 

稟「はい。純様、皆に号令を。」

 

純「ああ。」

 

純「テメーら!待ちくたびれたな!俺も待ちくたびれた!いよいよ戦が始まる!向こうの数は圧倒的だ!けど、奴らは黄巾と同様、ただ数が多いだけの烏合の衆だ!」

 

純「血と涙に培われた訓練を思い出せ!俺と共に戦ったこれまでの戦を思い出せ!あそこで培われた経験と強さを持ってすれば、この程度の相手に負ける理由などねー!」

 

純「『黄鬚』曹彰と共に、敵を撃退するぞー!!テメーら、存分に暴れやがれ!!」

 

そう、純は馬上で太刀を抜いて覇気を前面に押し出して叫んだ。

こうして、官渡の戦いの、河北の覇者を決める決戦が始まった。

純の覇気溢れる力強い声を聞いた秋蘭は

 

秋蘭「弩弓隊!」

 

秋・楼「「放てー!!」」

 

楼杏と共に矢を放つ指示をした。

その声を聞いた弩弓隊は、一斉に弓を構え、矢を放った。

その矢は、西日の影響で袁紹軍の兵士は眩しくて良く見えず

 

「「「うわーっ!!!」」」

 

「「「ギャー!!!」」」

 

一斉に矢の餌食になった。

それでも、曹彰軍の弩弓隊は間髪無く矢を放った。そんな中で

 

凪「真桜!」

 

真桜「おう!いつでもええでー!!」

 

凪「うむ!沙和!」

 

沙和「了解なのー!みんなー!てーなのー!」

 

三羽烏率いる発石車も一斉に放ったため、袁紹軍の被害は更に増していった。

 

文醜「クソー!!こうなったら、突撃だー!!」

 

これに、文醜は我慢出来ず突撃し

 

顔良「ま、待ってよ文ちゃーん!」

 

顔良も慌ててそれに続いた。

 

秋蘭「盾隊!前へ!」

 

それを見た秋蘭は、哲率いる盾隊に前に出るよう指示をした。

 

哲「皆、恐れるな!敵を食い止め、足が止まったら一気に突け!」

 

「「「おおーっ!!!」」」

 

そう、哲は指示をした。そして、一斉に袁紹軍が近付くと

 

「「「ギャー!!!」」」

 

すぐさま槍を繰り出し、袁紹軍を突き殺した。

袁紹軍の中にも、盾隊を一部突破し

 

「「「うおおおっ!!」」」

 

「「「ギャー!!!」」」

 

「「「う、うわああああっ!!」」」

 

激戦となったが、兵の質にはやはり差があり、袁紹軍の被害は増していった。

そんな中、春蘭と霞率いる鉄騎四万が袁紹軍の後方に再び現れたのであった。



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59話

59話です。


許都

 

 

 

 

曹軍兵士A「申し上げます。」

 

華琳「何かしら?」

 

曹軍兵士A「曹彰様と袁紹が官渡にてぶつかりました。」

 

この報告を聞き、華琳は兵から書状を取り読んだ。

 

桂花「下がりなさい。」

 

曹軍兵士A「はっ。」

 

それを見た桂花は、兵に下がるよう言った。

 

華琳「フフッ・・・」

 

すると、突然華琳が笑い始めた。

 

栄華「お姉様。如何なさいましたか?」

 

燈「華琳様?」

 

これに、周りの者は気になって尋ねた。

 

華琳「純が、郭嘉の策に従って実行したら、麗羽が見事引っかかったらしいわ。」

 

そう言い、華琳は純が稟の策に従った偽の会談を言った。

 

燈「成程・・・」

 

栄華「お兄様の演技に騙されるなんて・・・やはり袁紹は馬鹿ですわね、お姉様。」

 

これに、燈と栄華は笑った。

 

華琳「しかし、これからどうなるか分からないわ。劉備達も、あれから行方知れず。」

 

華琳「どこに行ったかも分からないわ。」

 

桂花「恐らくですが華琳様。劉備の一行は、荊州か益州辺りに行ったのでは?」

 

華琳「成程。確かにそこしか・・・。では、その近場辺りを調べておきなさい。」

 

桂花「御意。」

 

 

 

 

 

 

 

官渡

 

 

 

 

 

 

 

「「「ギャー!!!」」」

 

「「「う、うわああああっ!!!」」」

 

「「「うおおおっ!!!」」」

 

官渡では、純率いる曹彰軍と袁紹率いる袁紹軍と激しい戦を繰り広げていた。

 

文醜「くぅぅぅっ!!なんて強さだ!!数ではこっちが上だってのに!!」

 

顔良「曹彰さんが自ら手塩にかけて育てた将兵なんだもの!!その中でも彼らは精鋭を選んだんだから、強いのは当然だよー!!」

 

これには、袁紹軍の二枚看板はそう言いながら何とか対応していた。

そんな中、袁紹軍の後方にて再び現れた春蘭と霞率いる鉄騎四万の兵が

 

春蘭「突撃だー!!」

 

霞「行くでー!!目の前の敵全て斬り殺すんやー!!」

 

一斉に突撃をした。

これには

 

袁紹軍武将A「お、おい!!また曹彰軍の鉄騎が現れたぞ!!」

 

袁紹軍武将B「お、おい!!あれは曹操の大剣、夏侯惇じゃないか!!」

 

袁紹軍武将C「こっちは張遼だ!!張遼が来たぞー!!」

 

春蘭「フンッ!はあああっ!!」

 

袁紹軍兵士「「「ギャアアアッ!!」」」

 

霞「はあああっ!!うりゃあああっ!!」

 

袁紹軍兵士「「「うわあああっ!!」」」

 

袁紹軍は更に混乱に陥れ、乱れに乱れきった。

そして、戦線を維持する事が出来ず、袁紹軍は退却をした。

これを見た

 

秋蘭「ここまで順調に進めたか。皆、一気に攻めあげろ!敵を恐怖に陥れるのだ!」

 

そう指示を下した。

 

春蘭「行くぞ!!奴らを斬り捨てろ!!」

 

霞「行くでー!!全ての敵兵を斬り捨てるつもりで行くんやー!!」

 

楼杏「私も、参加させるわ!」

 

凪「行くぞ!真桜!沙和!」

 

真桜「おう!」

 

沙和「なのー!」

 

剛「遅れを取るなー!!」

 

哲「行くぞー!!」

 

これに、皆は更に袁紹軍への攻撃を増した。

この戦は、曹彰軍の兵士一人が十人の敵を同時に戦い勝つという非常識な出来事が起きており、これにより袁紹軍の兵は四割程失うという大敗を喫し、士気も大いに下がったのだった。

 

 

 

 

 

 

袁紹軍本営

 

 

 

 

 

袁紹「きーっ!!誇り高き袁家が、敵に背を向けて逃げるとは!!」

 

初戦の大敗に、袁紹は悔しさのあまり癇癪を起こしていた。

 

郭図「袁紹様。此度の策、恐らく曹彰の考えではございませぬ。」

 

袁紹「・・・それは誰ですの?」

 

郭図「恐らく、曹彰の懐刀である郭嘉だと思われます。」

 

袁紹「郭嘉?」

 

郭図「はい。あの者は曹彰陣営でも中々のキレ者であり、その知略と敵味方問わず冷徹に振舞う姿から、『鉄の軍師』と恐れられております。」

 

これに

 

袁紹「許せませんわ!郭嘉と申す者は、なんてあくどい者なのですの!正面から堂々と戦いに挑めば、私には敵いませんわ!」

 

袁紹「だから、奸計を純さんに授け騙したのですわ!純さんは強く優しく素直な方!だから、このような策を!」

 

袁紹は怒りに震えながら言った。

 

 

 

 

曹彰軍本営

 

 

 

 

春蘭「純様!此度の戦で、数多の武具などを奪い取りました!」

 

霞「袁紹は本営に戻ったきり、守りを固めて首を引っ込めて戦意を失ってるようやったで!」

 

秋蘭「負傷兵は二万。死者は七千程です。」

 

楼杏「まさに大勝です。」

 

純「・・・そうか。」

 

春蘭「純様!この勢いで攻め続ければ、冀州はおろか、河北四州全て平定出来ます!」

 

霞「ウチも惇ちゃんに賛成や!今一気に攻めれば、河北四州取れるで!」

 

これに、春蘭と霞は一気に攻めるべきと言った。

しかし

 

純「・・・。」

 

純はいつものように攻めるとは言わず、らしくなく悩みの表情を浮かべていた。

これには理由があった。

 

純「確かに俺達は大勝した。俺もこの勢いで一気に攻めたい。けど、依然として俺達の軍が劣勢だ。」

 

純「麗羽には、まだ40万程の兵馬がいる。いくら俺達の兵馬が精鋭でも、数の暴力には敵わねー。」

 

純「それに、青州、幽州、并州などから、兵馬兵糧の調達が可能。麗羽は確かに姉上と比べたらアレかもしんねーが、完全に頭が悪いわけじゃねー。次の戦、苦しくなるかもしんねーな。」

 

純「それだけじゃねー。兵糧が残り僅かなんだ。」

 

これには

 

春・霞「「っ!!?」」

 

春蘭と霞は目を見開き

 

楼杏「・・・。」

 

楼杏は察していたのか目を閉じ

 

秋蘭「・・・どのくらいしかありませんか?」

 

秋蘭は楼杏同様、やはりといった表情を浮かべながらそう尋ねた。

 

純「・・・持って五日分だ。」

 

これに

 

春蘭「そんな・・・」

 

霞「クッソー!あの時董承が変な駐留しなけりゃんな事にならんかったのに!」

 

春蘭と霞はそれぞれそう言った。

 

楼杏「純さん。どうするつもりなの?」

 

楼杏の問いに

 

純「・・・本心を言うと撤退してー。けど、今撤退するのは惜しい。」

 

純は素直に答え

 

純「・・・お前らは下がれ。それと、稟と風をここに呼んでくれ。」

 

と言い、下がらせた。

暫くして

 

稟・風「「拝謁致します。」」

 

稟と風が入ってきた。

 

純「お前達に相談なんだが・・・」

 

それを見た純は、そう話をしようとしたら

 

稟「兵糧の件ですか?」

 

と稟に言われ

 

純「ははっ。流石は稟だな。よく分かったな。」

 

純は苦笑いを浮かべた。

 

稟「純様と常に共にあったのです。悩みを感じ当然です。」

 

風「風も同様ですよ~。」

 

純「・・・そうか。でだ。兵糧はほぼ底をついた。これ以上は長く戦えねー。」

 

純「もしこの事を麗羽に察知されたら、長期戦に持ち込まれ俺達は不利になる。けど、今撤退するのは惜しい。またとない機会を自ら手放し、麗羽に立て直す機会を与えちまう。」

 

そう、純は二人に言った。

 

風「・・・。」

 

これに風は、飴を舐めながら聞いており

 

稟(成程・・・純様は恐らく、撤退をお考えだ。)

 

稟は、純の心の内を察した。その上で

 

稟「純様。私は、撤退には反対です。」

 

と言った。

 

稟「確かに袁紹は大敗しました。けれど、河北四つの州の豊かな土地を有し、多くの田畑は尽きる事無い兵糧と兵馬を送り出せる事が出来るのです。」

 

稟「時は袁紹に利があります。されど、戦局は純様に利があります。この機を逃さず再び戦うのです。」

 

稟「今この時、最も恐ろしいのは兵糧が尽きる事ではありません。」

 

純「・・・何だ。」

 

稟「純様。あなた様が悩まれる事です。」

 

純「俺?」

 

稟「大勝しながら憂いておられます。敗北を恐れていては、勝利は得られませぬ!」

 

稟「いつものように、皆を奮い立たせるのです!」

 

稟の叱咤激励に

 

純「・・・。」

 

純は目を閉じながら頷き聞いていた。

そして

 

純「・・・ここまで考えてくれる大切な仲間がいるにもかかわらず、俺は何を迷ってんだよ。」

 

と呟き

 

稟「では・・・」

 

純「全軍に伝えろ!武具を整え、戦に備えろ!」

 

純「もし退くという者がいたら、軍法に裁け!」

 

覇気を溢れさせながらそう稟に言った。

 

稟「御意!」

 

純「風は何か言いてー事あるか?」

 

これに風は

 

風「軍師というのは主の心が定まらぬ時に助言をするのが責務です。」

 

風「それに、全て稟ちゃんが言ってくれました。風も同じ考えです。申し上げる事は何もございません。」

 

そう飴を持ちながら拱手した。

 

純「・・・分かった。」

 

そして、純は軍を整え、再戦の準備をしたのであった。



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60話

60話です。


曹彰軍本営

 

 

 

純「・・・。」

 

本営にて、純は一人腕を組み地図を見ていた。

その時

 

稟「純様。お耳に入れたき事がございます。」

 

幕の外で、稟の声が聞こえた。

 

純「稟か。入れ。」

 

その声を聞き、純は中に入れさせた。

 

稟「はっ!」

 

純「それで稟。何か情報が入ったのか?」

 

稟「はい。隠密からある有力な情報を手に入れました。」

 

純「それは何だ?」

 

稟「はい。それは袁紹軍の兵糧庫の場所です。」

 

純「その場所は?」

 

稟「はっ。隠密によりますと、袁紹軍の兵糧庫は烏巣にございます。」

 

と稟はそう言った。

 

純「烏巣?」

 

稟「はい。五千の精鋭を率いて急襲すれば、容易く落ちます。また、袁紹軍を混乱させ、今必要な兵糧も奪う事も可能です。」

 

純「成程。良し、俺自ら率いて烏巣を襲う!」

 

純「それに、何故麗羽が負けても撤退するどころか、数十万の敗残兵を呼び戻せた理由に合点がいった。」

 

純「その数十万の兵は餓死を恐れ、豊富な兵糧目当てに戻ったという事だ。違うか?」

 

稟「そうです。流石は純様です。」

 

稟「それで、出陣はいつなさいますか?」

 

これに

 

純「すぐ出陣する。五千の精鋭を率い烏巣を奇襲する!夜明け頃には着くと思う。」

 

と即決した。

 

稟「賢明です!それと、烏巣への道中、袁紹軍の兵に出くわしたら、袁紹軍の幟旗をお見せになり、『将軍蒋奇の配下で命を受け、烏巣の支援に行くところだ』と説明を。」

 

純「成程。その策も採用しよう。奪った幟旗は山ほどあるからな。」

 

しかし

 

稟「ただ、個人的には少し不安です。」

 

そう、稟は少し憂いの表情を見せて言った。

 

純「何故だ?」

 

稟「あの袁紹の事です。烏巣から火が出たら、どうすると思われますか?」

 

純「ただちに兵を送り、烏巣を守るはずだ。」

 

稟「いえ。純様も長年のお付き合いだったからお分かりのはずです。袁紹は、意外と頭が回られる。烏巣は顧みず、全兵馬をこの本営に投入するはずです。」

 

稟「純様は烏巣襲撃で、本営は手薄だと考えると。」

 

純「アイツの考えそうな事だな。」

 

稟「はい。そこでご提案です。兵馬を一隊残し、本営の外に張り込ませれば・・・」

 

しかし

 

純「駄目だ!」

 

稟「!」

 

純は途中で遮り

 

純「それじゃあ生温ー。手薄の本営にかまけず、官渡の麗羽の本営を襲えば良い。官渡は俺らの本営より、もっとデケーにちげーねー!」

 

そう、いつもの獰猛な笑みを浮かべたのだった。

そして、すぐに兵を率い出陣した。

 

 

 

 

 

烏巣

 

 

 

 

 

烏巣守備兵A「うっ!」

 

烏巣守備兵B「ガハッ!」

 

烏巣守備兵C「ぐっ!」

 

烏巣の番兵の一部が矢で射殺され

 

純「今だ!やれ!!」

 

門が破られ、一気に純を先頭に奇襲部隊が突撃した。

 

純「うおりゃあああっ!!!」

 

「「「ぐはあああっ!!!」」」

 

霞「うりゃあああっ!!」

 

「「「ガハッ!!!」」」

 

凪「はあああっ!!!」

 

「「「うわあああっ!!!」」」

 

烏巣の守備隊も、突然の奇襲と警備が不十分であったため、次々に殺されていった。

 

霞「火を放て!!焼き尽くすんや!!」

 

そして、櫓などを火矢で焼き尽くし

 

霞「はあっ!!」

 

霞も偃月刀を振るって篝火を櫓に当ててみせた。

 

凪「純様のご命令だ!!烏巣の軍用車で兵糧を運べ!!」

 

霞「急げ!!もたもたすんなや!!」

 

そう言い、兵糧以外はどんどん火に包まれていった。

 

烏巣守備兵D「あちー!!あちーよー!!」

 

烏巣守備兵E「た、助けてくれー!!」

 

烏巣の守備兵が一方的にやれていくその光景は、まさに阿鼻叫喚という言葉に相応しかった。

 

純「フフッ・・・はーっはっはっはっはー!!」

 

その中で、純は笑いながら敵兵を斬り殺していったのだった。

 

 

 

 

 

袁紹軍本営

 

 

 

 

 

顔良「麗羽様ー!!」

 

文醜「大変です麗羽様ー!!」

 

袁紹「んんっ・・・何ですの?騒々しい・・・」

 

顔良「大変です!!烏巣に火の手が!!」

 

この言葉に

 

袁紹「何ですって!?」

 

袁紹は飛び上がり

 

袁紹「何処が燃えているですって!?」

 

再び尋ねると

 

文醜「だから、烏巣ですってばー!!」

 

そう文醜が再び言うと

 

袁紹「どういう事ですの!?何故!?」

 

そうパニクりながら外に出た。

そこには、確かに烏巣の場所がある所が燃えていたのだ。

 

袁紹「何という事ですの!!マズイですわ!!マズイですわ!!」

 

そう言い、袁紹は天幕に入った。

 

袁紹「すぐに烏巣の救援に向かわせますわ!!」

 

すると

 

郭図「袁紹様。敵が烏巣を襲っているという事は敵の本営は恐らく手薄。この間に曹彰の本営を奇襲すれば、敵は必ず引き返すでしょう。そうすれば、援軍を出さなくても何とかなります!!」

 

郭図が敵が烏巣を襲撃してる間に今すぐ敵本営を襲うべきと主張した。

しかし

 

??「待たれよ、郭図殿!!」

 

端整な顔立ちをしている一人の青年武将が待ったをかけた。

その者の名は

 

郭図「・・・なんですか、張郃殿。」

 

張郃、字は儁乂と言い、多くの戦に参加し数々の武功を挙げている猛将だ。

 

張郃「曹彰は武勇に優れた戦の天才。恐らく本営の守備も抜かりないはず。急襲しても勝ち目は無い!!そこを急襲しても美しさの欠片も無い!!それよりも早く烏巣を救援すべきです!!」

 

その青年武将は、敵本営を急襲せず今すぐ烏巣を助けるべきと主張した。

 

郭図「いや!!曹彰は烏巣襲撃に全てを投入しておられる!!だから今本営を襲えば、必ず勝てる!!」

 

張郃「いいえ郭図殿!!曹彰は戦の天才!!本営よりも兵糧を何とかすべきです!!」

 

これに、二人は言い争った。

 

文醜「おい張郃・・・」

 

顔良「張郃さん・・・」

 

すると

 

袁紹「お辞めなさい!!」

 

袁紹の一言で、二人の言い争いは終わり

 

袁紹「なら、お二人の作戦を採用致しますわ!!軽装の騎兵を烏巣へ送りなさい!!それと張郃さん。あなたは敵本営を今すぐ急襲なさい!!」

 

両方の作戦を採用するという、中途半端な策を取った。

 

張郃「し、しかし袁紹様・・・!!」

 

これに、張郃は異を唱えようとしたが

 

袁紹「張郃さん!!」

 

張郃「・・・御意。」

 

渋い表情を浮かべながら拱手したのだった。

そして、袁紹は烏巣救援部隊と敵本営急襲部隊の両方を派遣したのであった。



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61話

61話です。


軍議を終え、自身の幕に戻った張郃。

そこにいたのは

 

??「帰ったか、明。」

 

蝶の羽の模様を浮かべた袖に白い服を着た少女だった。

 

張郃「星か。」

 

それを見た張郃は、彼女の真名らしき名で呼んだ。

彼女の名は趙雲、字は子竜。常山郡の出身で、槍に長けた勇将だ。

今彼女は、袁紹軍というよりかは張郃の下で武将として槍を振るっている。

ちなみに『明』というのは張郃の真名だ。

 

星「どうやら、軍議はあまり芳しくなかったようだな。」

 

明の顔を見た星は、そう言うと

 

明「ああ。烏巣を奇襲されたため、今すぐ救援に向かうべきだと進言した。」

 

明「しかし、郭図殿が烏巣救援は諦め、曹彰軍の本営を急襲すべきと進言したのだ。」

 

明はそう眉間にしわを寄せながら言った。

 

星「ほお・・・しかし、あの『黄鬚』と呼ばれし戦の天才、曹彰の事だ。そう簡単には落ちまい。」

 

明「ああ。だが袁紹様は本営急襲と烏巣救援の両方の策を取った。」

 

星「うむ・・・中途半端だな。お主、まさか・・・」

 

明「察しの通り、本営急襲を任された。」

 

星「成程な・・・それで、どうするのだ?」

 

明「このような策、美しさの欠片も無い。戦果は得られない。」

 

明「だが、俺は武人だ。従うほか無い。」

 

星「・・・そうか。なら、私も従おう。」

 

明「すまないな・・・」

 

そうやり取りをした後、二人は出陣の準備をし、本営急襲に向かったのだった。

 

 

 

 

 

曹彰軍本営

 

 

 

 

 

 

曹彰軍の本営前に到着すると

 

明「掛かれー!!」

 

「「「わああああっ!!!」」」

 

明の一言で、兵は一斉に本営に向かって突撃した。

しかし

 

「「「ギャアアアッ!!」」」

 

一部の兵士が、落とし穴に落とされてしまい、突撃がストップしてしまった。

 

明「何だ!?」

 

星「明!あれを!!」

 

すると、櫓や至る所から曹彰軍の兵士が現れ、一斉に弓を構えた。

 

春蘭「はーっはっはっは!!」

 

それと同時に、春蘭が高笑いをしながら現れ

 

春蘭「私達の策に落ちたな!!」

 

秋蘭「放て!!」

 

秋蘭の命令で、一斉に矢が放たれた。

これにより、明達率いる兵は混乱に陥った。

 

明「クッ・・・やはりちゃんと対策をしていたか!!」

 

星「明!急いで撤退するぞ!!」

 

明「ああ!!」

 

そして、明達は急いで撤退をしたのだが

 

楼杏「逃がしはしないわ!!」

 

楼杏率いる部隊が後ろにて現れ、明達を蹂躙した。

 

 

 

 

 

 

 

 

烏巣

 

 

 

 

 

曹彰軍兵士A「曹彰様!袁紹軍の軽騎兵が現れました!!」

 

純「へえ・・・現れたか!!」

 

純「お前ら、もう一暴れすんぞ!!軽騎兵全てぶっ殺して、その勢いで麗羽の本陣を攻め落とすぞー!!」

 

「「「おおーっ!!!」」」

 

霞「よっしゃあ、やったるでー!!」

 

凪「私も、頑張ります!!」

 

そして、純率いる部隊は、烏巣救援の軽騎兵全てを斬り殺し、その勢いのままに袁紹軍の本営へ向かった。

 

 

 

 

 

 

 

袁紹軍本陣

 

 

 

 

 

 

袁紹軍兵士A「大変です!!曹彰軍本営急襲部隊が、敗北しました!!」

 

袁紹「何ですって!!」

 

この知らせを聞いた袁紹は、驚きで目を見開いた。

 

郭図(マズイ・・・このままじゃ、自分の責任が降りかかる・・・!避けねば・・・!)

 

その知らせを聞いた郭図は、自身に責任が降りかかるのを恐れ

 

郭図「袁紹様。実は先程入った情報なのですが、本営急襲に失敗した張郃殿が、撤退途中に『袁紹様は誠に愚かだ!自分の策をとらず、烏巣救援と敵本営急襲という何とも言えない中途半端な策をとったから負けたのだ』と高らかに揶揄したとの事です。」

 

そう袁紹に讒言した。

 

袁紹「何ですって!!郭図さん!!もし張郃さんが帰還なさいましたら、即刻首を刎ねなさい!!」

 

これをまともに受けた袁紹は、そう郭図に言い

 

郭図「はっ!」

 

頭を下げた郭図は、にやりと笑みを浮かべたのだった。

この話を偶然聞いた一人の兵士が、急いで馬を走らせ明の下へ向かい、事の顛末を話した。

それを聞いた明達は、最早戻る術無しと思い、曹彰軍に投降したのだった。

その時

 

袁紹軍兵士B「大変です!!烏巣救援部隊が壊滅しました!!」

 

今度は烏巣救援部隊が壊滅したとの知らせが入った。

 

袁紹「何ですって!?」

 

袁紹軍兵士B「曹彰率いる部隊が、真っ直ぐこちらに向かってきます!!」

 

そして

 

袁紹軍兵士C「敵本営から数万規模の大軍が押し寄せてきました!!」

 

袁紹「何ですってー!?」

 

文醜「麗羽様ー!!もう限界ですー!!」

 

顔良「ここは撤退を!!」

 

完全に挟み撃ちにされ、そこからは一方的に蹂躙され、袁紹軍70万は100足らずとほぼ壊滅状態となった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

純「お前ら、勝ったぞー!!」

 

本営に戻った純は、将兵達の前で太刀を掲げ、覇気を前面に押し出しそう叫んだ。

 

「「「応!!応!!応!!」」」

 

これに、将兵達は皆雄叫びを上げた。

 

純「さあ!!もう一度だ、もう一度勝利の雄叫びを上げろ!!許都におられる姉上に聞こえる程に天地を揺るがす雄叫びを上げろー!!」

 

そう、純は更に強烈な覇気を前面に押し出して叫んだ。

 

「「「応!!応!!応!!」」」

 

これに、将兵達は再び雄叫びを上げた。

 

明「これが・・・『黄鬚』曹彰・・・!」

 

星「ああ・・・身体が震える・・・」

 

これに、明と星は興奮に似た震えを感じたのであった。



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62話

62話です。


純率いる7万の兵が、袁紹70万の兵を撃破した事は、許都にも伝わった。

 

華琳「純が、麗羽の軍を破ったそうよ。」

 

それを聞いた

 

桂花「流石純様ですね!」

 

栄華「お兄様・・・!」

 

華侖「流石純兄っすー!」

 

柳琳「そうね、姉さん!」

 

皆は、自分の事のように喜んだ。

 

燈「それで華琳様。純様はどうすると?」

 

華琳「一度許都に引き揚げるそうよ。」

 

燈「そうですか。」

 

華侖「それじゃあ、純兄が凱旋したら皆でお祝いっすねー!!」

 

華琳「ふふっ・・・ええ、そうね。さて、この事を陛下に報告するわ。皆も下がりなさい。」

 

「「「御意!」」」

 

それを聞き、皆は下がった。

 

 

 

 

 

 

華琳「陛下。我が弟が、逆賊袁紹70万の兵を撃破しました。」

 

霊帝「そ、そうか。それは良かった。」

 

霊帝「それで・・・曹彰はこれからどうするのだ?」

 

華琳「一旦兵を立て直す為、許都へ引き揚げるそうです。」

 

霊帝「そうか・・・今日は誠にめでたい。曹彰にも、何か褒賞をやらねばいけないわね。」

 

華琳「それが宜しいかと。」

 

霊帝「う、うむ・・・」

 

そう、霊帝は少し怯えながら言った。

 

劉協(姉様・・・)

 

その様子を、劉協は複雑そうな表情を浮かべていたのだった。

 

 

 

 

 

揚州・建業

 

 

 

 

 

 

孫策「そう・・・曹彰が・・・」

 

周泰「はい。曹彰は、烏巣の兵糧庫に奇襲をしかけ、官渡の袁紹の本陣を攻撃しました。その結果、袁紹は大敗を喫しました。」

 

甘寧「戦場は文字通り血の海と化し、死屍累々。70万の袁紹軍は100騎足らずとなり、散り散りとなってしまいました。」

 

孫策「・・・そう。」

 

張昭「しかし、70万の大軍が100騎足らずとなってしまうとはな・・・」

 

黄蓋「奇々怪々な話じゃのう・・・」

 

程普「そうね・・・」

 

孫権「70万の大軍が、7万の軍勢に負けるなんて・・・」

 

この結果に、流石の孫呉のメンバーも驚きを隠せなかった。

 

遜策「蓮華。戦は数では無いわ。それを率いる総帥次第よ。その事、良く覚えておきなさい。」

 

孫権「・・・はい。」

 

周瑜「冀州城も、直に陥落するだろう。何せ曹彰は、『黄鬚』と呼ばれし猛将であり、戦に長けているからな。」

 

孫策「そうね・・・もし私達が戦ったら・・・」

 

周瑜「かなり厳しいだろうな。これからどうするか、よく考えねばな・・・」

 

そう言い、皆それぞれ考え始めたのだった。

 

 

 

 

 

 

益州近く

 

 

 

 

 

 

劉備「そんな・・・袁紹さんが・・・!」

 

孫乾「はい。曹彰は、烏巣の兵糧庫に奇襲を仕掛け陥落させ、官渡の袁紹本陣を攻撃しました。その結果、袁紹は大敗を喫し、戦場は血の海と化し、死屍累々。70万だった袁紹軍は、僅か100騎足らずとなってしまいました。」

 

これを聞いた劉備は

 

劉備「70万が100騎足らず・・・」

 

ただただ驚くしかなかった。

 

劉備「袁紹さんは、凄い大勢力の人だったのに・・・」

 

関羽「桃香様。冀州だけじゃなく、并州、幽州、青州も全て、曹彰殿に平定されるかと思われます。曹彰殿は、『黄鬚』と呼ばれし猛将であり、戦に長けておりますから。」

 

鳳統「今の私達は逆賊です。今のままでは、必ず私達は滅ぼされます。」

 

諸葛亮「その為には、急いで益州を劉璋さんから奪い、軍備を整え挑むべきです。」

 

劉備「そうだね・・・益州の人達を苦しめてる劉璋さんを追い出して、益州を私達の物にしないとだね。」

 

そう、劉備は暗い瞳を浮かべながら言ったのであった。



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63話

63話です。


袁紹を破った純は、許都に凱旋した。

その際、民から熱狂的な大歓声を浴びながらだった。

その歓声を浴びながら、純は朝廷に参内した。

その途中

 

純「姉上。戻りました。」

 

純は華琳と再会し、言葉を交わした。

 

華琳「お帰りなさい。良くやったわね、純。」

 

純「はっ。これも全て、皆のお陰です。」

 

華琳「そう・・・さあ、恩賞を楽しみにしてなさい。今回の恩賞は凄いわよ。」

 

純「?・・・何が凄いのですか?」

 

この疑問に

 

華琳「それはお楽しみよ。フフッ・・・」

 

華琳は少し悪戯っぽい笑みを浮かべながら言ったのだった。

 

純「曹彰、天子に拝謁致します。」

 

そして、純は拱手し跪いた。

その際、左右に並ぶ文武の百官を観察する。

 

純(何か・・・減った気がすんな・・・)

 

それが、純が最初に感じた第一印象だった。

袁紹との決戦を前の軍議の時と比べて、凡そ半分に減っていた。

しかも、居並ぶ百官達は、純に敬意と好意の雰囲気があった。

その理由は、欠席した百官の共通点は、皆漢室しか考えていない者達で、今回の戦の勝利をあまり喜んでいない者なのだ。

また、形はどうあれ、董承や呉子蘭、王子服らを斬首し、7万の将兵を纏め上げ70万の大軍を率いた袁紹に大勝し、その苛烈な戦を聞き恐怖を覚えてしまった者もいた。

 

霊帝「お、面を上げなさい。」

 

この時、霊帝は少し怯えているような表情を浮かべながら言った。

 

純「はっ。」

 

霊帝「此度の戦の勝利、朕は誠に喜ばしいわ。」

 

霊帝「加えて、賊と通じていた者達を事前に討ち取り災いを防いだ。見事だわ。」

 

純「これも全て天子と民の為、畏れ多いことです。しかし、勝ったとはいえ、袁紹は未だ健在です。油断は出来ませぬ。」

 

純「よって、ひと月で兵馬を整え、再び出兵し、河北四州を平定致します。お認め下さいますか?」

 

この意見に

 

霊帝「そのような急な話、今決めなければならないのかしら?」

 

霊帝は目を見開いた。

 

純「全ては民の為です。」

 

これに、純は以前より強くなった覇気を滲み出した。

 

劉協「そ、曹彰殿。陛下は今、難儀しておられます。今一度、考えさせる余地を与えては・・・如何かと・・・」

 

すると、霊帝の傍に控えていた劉協が、そう純に言った。

 

純「・・・承知致しました。では陛下、この件はゆっくりお考え下さい。」

 

これに、純は少し劉協を一瞥し、そう霊帝に言った。

 

霊帝「え、ええ・・・分かったわ。」

 

霊帝「それと、此度の功績を踏まえ、そなたには正式に大都督に任命するわ。今後とも、全軍将兵を統率しなさい。」

 

霊帝「加えて、あなたが使ってる剣を帯び、履物を履いたまま昇殿する事を許すわ。また、名を名乗る必要も小走りに走る必要も無いわ。」

 

また、霊帝は純にそういった特権を与えた。

 

純(成程・・・凄いっていうのはこれか・・・)

 

純「承知致しました。」

 

これに、純はそう言い拱手した。

 

霊帝「今後とも、よろしく頼むわ。」

 

純「はっ。ではこれにて。」

 

そう言い、純は踵を返してその場を後にした。

その後ろ姿を、霊帝は恐ろしさを感じたのであった。



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64話

64話です。

今年最後の投稿です。

どうぞ。


華琳の屋敷

 

 

 

 

 

 

華琳「純。今回の麗羽との戦、本当にご苦労だったわ。」

 

純「ありがたきお言葉。しかし、先程も申したように、全ては皆のお陰です。俺はただ、この太刀を振るったに過ぎません。」

 

そう、純は腰に帯びている太刀を取って華琳に言った。

 

華琳「そう・・・河北四州全て平定したら、次は南よ。今後とも、その軍才と武勇を頼りにしてるわ。」

 

純「はっ!」

 

華琳「今日は、ゆっくり休みなさい。」

 

そう言い、華琳は優しい笑みを浮かべながら背伸びして純の頭を撫でた。

 

純「あ、姉上・・・いくら何でもこれは・・・!」

 

華琳「構わないじゃない。あなたは私にとって、いつまでも可愛い弟よ・・・」

 

純「・・・分かりました。」

 

そう言い、純は暫く身を任せた。

そして、一通り堪能した華琳は、純を帰したのだった。

そのまま一人になった華琳は

 

華琳(フフッ・・・何だか・・・昔を思い出すわ・・・)

 

まだ父の曹嵩が存命だった時の事を思いだした。

 

 

 

 

 

回想

 

 

 

 

 

この日、曹嵩自ら軍を率いて出陣し、賊を討伐した。

その際、賊の中で一部の幹部を裏切らせ、その者の策のお陰で戦に勝てた。

加えて、この頃純の異名である『黄鬚』が定着し始めていた時期であり、純の暴れっぷりを見た賊が戦意喪失したほどだった。

 

「「「曹嵩様。此度の勝利、誠におめでとうございます!!!」」」

 

曹嵩「うむ。これも皆のお陰だ。」

 

その時

 

デク「おい曹嵩様よう~。この俺がいなかったら、賊の平定など、無理だっただろうよう~。」

 

投降した賊の一人のデクが、ぞんざいな言葉遣いで曹嵩に言った。

 

これには、春蘭や秋蘭、華侖に柳琳と栄華は眉間にしわを寄せていた。

 

華琳「・・・。」

 

華琳は、それらとは対照的に冷静な表情を浮かべていた。

 

曹嵩「うむ。お主のお陰で、此度賊を討ち滅ぼせた。」

 

デク「俺の手柄を忘れんじゃねーぞ。」

 

曹嵩「分かっておるわ。さあ、下がって休め。」

 

そう言い、デクを下がらせた。

 

純「・・・。」

 

その際、純はぞんざいな言葉遣いをしたデクを誰よりも怒りの目で見ていたのだった。

下がった後も、デクの態度は崩れなかった。

 

デク「フンッ!あの曹嵩ときたら、随分と甘いな・・・。」

 

デク「確かに今回の勝利はこの俺様のお陰だ。しかし、俺みてーな賊を許し、褒美を与えるなど、どこまでも馬鹿な奴なんだ。」

 

それどころか、酒を飲みしたたかに酔っ払った状態で曹嵩の悪口を言っていた。

 

チビ「や、やめた方が良いですぜ兄貴!この事が耳に入ったら、殺されちゃいますぜ!」

 

これには、この賊の仲間であろうチビが止めていたが

 

デク「フンッ!何ビビってんだよ!あの程度の爺、俺でも殺せるぜ!」

 

デク「加えて、曹嵩の身内ときたら、スッゲえ美人だし・・・!あの女どもを片っ端から物に出来るんだぜ!」

 

聞く耳を持たなかった。

すると、この話を偶然聞いていた者がいた。

 

純「・・・。」

 

その者は純で、後ろの兵を手で抑え

 

純「行くぞ。」

 

馬を走らせた。そして

 

ビシッ!

 

デク「うわっ!?」

 

デクが乗っていた馬の尻を叩き、落馬させた。

立ち上がると、その近くには純が怒りの表情を浮かべており

 

デク「この匹夫が!何をしやがる!」

 

これに、デクはそう怒鳴った。

 

純「テメーみてーなクソ野郎は、我が軍に相応しくねーんだよ!」

 

純もそう言うと

 

デク「我が軍に相応しくないだと?曹嵩に聞いてこい!この俺様がいなかったら、テメーみてーな猪武者が今回の戦に勝てたかどうか!」

 

デクもそう返した。

すると

 

純「よく聞け。また父上と俺の大切な人の暴言を吐いてみろ・・・その首を刎ねてやるぞ・・・」

 

純は馬上でそう脅した。

 

デク「はっ!何をぬかしやがる!テメーみてーな猪武者など話になんねー!曹嵩を呼んでこい!」

 

デク「後ついでに、先程一緒にいた者達も一緒にだ!皆の前で、頭を下げさせてやる!」

 

デク「それとも、俺様の首が欲しいのか?」

 

そう言うと

 

デク「やれるもんならやってみやがれ!腕に自信があるなら刎ねてみやがれ!テメーの父親に褒美が出るぞ!」

 

デク「ほら!度胸があるならやってみろ!」

 

首を差し出して挑発した。

 

デク(フンッ・・・どうせビビって斬れねーよ・・・)

 

そう思ったその時、純は太刀を抜き

 

純「フンッ!!」

 

デク「っ!?」

 

ズバッ!

 

デクの首を刎ねた。

 

純「このクソ野郎が・・・」

 

そう、純は首を見て言ったのだった。

 

 

 

 

 

 

 

曹嵩「此度の純は、実に見事じゃ。『黄鬚』という異名に相応しい。」

 

華琳「はい。私など、足元にも及びません。」

 

華侖「ねえ柳琳、『こうしゅ』って何すか?」

 

柳琳「『黄鬚』っていうのは、虎髭を生やした勇者っていう意味よ。」

 

華侖「おお!!つまり純兄は、虎みたいに勇敢で強いって事なんすね!」

 

柳琳「ふふっ・・・そうよ。」

 

春蘭「はは!流石純様だ!私も負けてはおれん!」

 

これには、華侖と春蘭は目を輝かせた。

 

秋蘭「・・・。」

 

栄華「・・・。」

 

しかし、秋蘭と栄華は少し憂いの表情を見せた。

 

春蘭「ん?どうしたのだ二人とも?」

 

華侖「どこか具合が悪いっすか、栄華?」

 

秋蘭「いや・・・大丈夫だ姉者。確かに純様はその異名に相応しい力を持っている。私は常に純様と共にいたからな。」

 

栄華「私も、お兄様の実力は知っておりますわ。ただ・・・」

 

曹嵩「お主達が気にしておるのは、純の気性の荒さじゃろう?」

 

秋蘭「・・・はい。」

 

栄華「そうですわ・・・曹嵩様。」

 

曹嵩「確かに、彼奴は血の気が多い。すぐにカッとなって剣を抜いてしまう事もある。血気盛んと血の気が多いは大いに違う。あの気性を上手く抑えれたら、勇猛果敢な全軍の総帥になれるはずじゃ。」

 

華琳「そうですね・・・以前私塾で私達を侮辱した者を、純は怒りに身を任せ、殴りに殴って怪我をさせましたから。」

 

華琳「もし私が止めなければ、今頃あの者は死んでおりました。」

 

曹嵩「うむ・・・」

 

そう考え事をしていると、純が布に包まれている物を持ってきて現れた。それは、一部が血で染まっていた。

曹嵩の前に立つと、純はそれを投げ捨てた。

 

曹嵩「純よ、また問題を起こしたのか?」

 

これに、曹嵩はそう尋ねると

 

純「コイツは父上の温情で命を救われ功を立てたにもかかわらず大勢の前で父上やこの場にいる皆を侮辱しました!黙らせようとしたら首を刎ねてみろと挑発してきたのです!故に、一太刀に斬ってやりました!斬らねば我が名が廃ります!」

 

純は怒りの表情で曹嵩に言った。

それを、華琳は眉間にしわを寄せながら見ており、他の皆は絶句していた。

すると、曹嵩は立ち上がって

 

曹嵩「この者を斬ったというのか?」

 

と指を指して言った。それに純は、負けじと睨み返した。

 

曹嵩「忘れたか!此奴は此度の戦で殊勲を立てたのだぞ!その者を斬ったのか!」

 

この曹嵩の怒りに

 

純「首を差し上げます!」

 

と言った。

それを聞き

 

曹嵩「よくぞ申した!即刻純の首を刎ねよ!」

 

曹嵩はそう兵に命令したが

 

曹軍兵士A「し、しかし曹嵩様・・・!」

 

曹軍兵士B「曹彰様は我らにとって家族同様・・・!その者の首を刎ねるワケには・・・!」

 

兵士は皆躊躇った。

 

栄華「お待ち下さいませ曹嵩様!お兄様は何度も戦で手柄を挙げて参りましたわ!此度の戦も同じく!これまでの戦功に免じて、どうかお許し下さいませ!」

 

これに、栄華も続いた。

 

曹嵩「ならぬ!この者を斬ったのは軍法上も道義上も許されぬ!早く連れ出し、首を刎ねよ!」

 

しかし、曹嵩は耳を貸さず首を刎ねるよう強く言った。

 

曹軍兵士A「しかし曹嵩様・・・!」

 

曹軍兵士B「どうか・・・どうかお許しを・・・!」

 

春蘭「曹嵩様!どうかお許しを!」

 

秋蘭「曹嵩様!」

 

華侖「曹嵩様!許して下さいっす!」

 

柳琳「曹嵩様!」

 

これには、兵士や栄華の他に春蘭、秋蘭、華侖、柳琳も跪き拱手して助命を求めた。

 

栄華「曹嵩様!曹嵩様!はずみの事だったのです!」

 

純「ちげー!前々から殺したかった!」

 

栄華「何を言っておりますの、お兄様!?」

 

これに、純は怒りでそう栄華に言うと

 

曹嵩「それ見ろ!謀反だ!謀反だ!連れ出せ!此奴の首を刎ねよ!」

 

曹嵩は怒りで物を蹴り飛ばしたその時

 

華琳「お聞き下さい!」

 

華琳が拱手し、大きな声で言い

 

華琳「純は確かに罪はありましょう。しかし私も何度も耳に致しました。全将兵の面前で喚き散らし、許し難い程お父様を貶め、侮辱するこの者の言葉をです。」

 

華琳「かくなる上は、この者を手厚く葬り、純を厳罰に処し、墓前で謝罪させては如何でしょうか?」

 

曹嵩に進言した。

 

曹嵩「華琳。この者は大きな功を立てたのだ。勝利したばかりで、わしがこの者を斬ったとなれば、わしの評判はどうなる?」

 

曹嵩「心が狭いと思うであろう?悪口を言っただけでわしに殺されると思うであろう?」

 

これに、曹嵩は怒りを収めずそう華琳に言った。

 

華琳「決してそのような事はありませぬ。何故ならば、この者の話は全て根も葉もない事を言い放っていたからです。」

 

華琳も負けじとそう言い

 

曹嵩「この者の話が根も葉もない事だとどう証明する?」

 

華琳「私が何とかしてみせます!どうか、全てお任せ下さいませ!」

 

真っ直ぐに曹嵩を見て言った。

それを見た曹嵩は冷静になったのか、納得した顔で頷き純を見て

 

曹嵩「純。お主は此度の戦で大功を立てたこの者を殺した。その罪は許せん。」

 

曹嵩「なれど酔った上での事、死罪は免ずる。本日より、この者の墓前で額づき、許しを請え。」

 

曹嵩「それと、三ヶ月の謹慎処分とする。暫く兵の調練に参加する事を禁ずる。狩りに行く事もだ。良いな?」

 

処分を言い渡した。

 

栄華「お兄様。早くお礼を。」

 

秋蘭「純様・・・」

 

春蘭「純様!」

 

華侖「純兄!」

 

柳琳「お兄様・・・」

 

これには、皆揃って純に言った。

 

純「・・・。」

 

純は複雑そうな表情を浮かべたが、曹嵩の顔を見て

 

純「感謝致します。」

 

拱手し言った。

それを聞いた曹嵩は

 

曹嵩「下がれ。」

 

と一言言った。

 

 

 

 

 

純「姉上!」

 

外に出た純は、華琳を呼んだ。

 

純「お待ちを。助けていただき、感謝致します。」

 

拱手してお礼の言葉を華琳に言った。

 

華琳「いえ、礼には及ばないわ。」

 

これに、華琳はそう返した。

 

純「ところで、先程の事でよく分かんない事があるのですが。」

 

華琳「何が分からないのかしら?」

 

純「その・・・栄華や他の皆が跪いて俺の助命嘆願をしても父上は受け入れなかったのに、姉上の意見はお聞きになった。それは何故ですか?」

 

この疑問に

 

華琳「栄華もそうだけど、皆どう言えば上の者の心に届くか分かっていないのよ。私はよくお父様と一緒に仕事していたから、よく分かるわ。」

 

華琳はそう答えた。

 

純「成程・・・。なら姉上、俺に代わって父上に頼み事を・・・」

 

これに

 

華琳「まだ何かあるの?」

 

華琳は呆れ顔で聞くと

 

純「いやいやいや、姉上ならお分かりでしょう?謹慎の件です。あの者の前で百回額づこうが構いませんが、まるまる三ヶ月も、兵の調練はおろか、狩りにも出かけられないというのは、気が滅入りますよ。」

 

純はそう言った。

それを聞いた華琳は

 

華琳「フフッ・・・あはははは!」

 

笑いだし

 

純「ははは!」

 

純も笑い出したが

 

華琳「この馬鹿!」

 

純「っ!?」

 

そう一喝し

 

華琳「なんて欲深いのよ、あなたは・・・。その願いは、例えあなたでも聞き入れられないわ。」

 

去ろうとしたが

 

純「お待ち下さい姉上!後生です。お助けを。聞いていただければ、俺、一生姉上に尽くしますよ。」

 

純は華琳の腕を取って、拱手しながら言った。

 

華琳「純。あなたはお父様のお気持ちが少しも分かっていないのね。」

 

この言葉に

 

純「どういう事です?」

 

純は疑問の表情を浮かべながら尋ねた。

 

華琳「言っておくけど、お父様はあなたを大層気に入っているわ。しかも今日の行いは、お父様がやりたくても出来なかった事。よくあの者を殺したわね。お父様は怒ったふりをして内心喜んでおいでよ。」

 

と華琳は疑問に答えた。

 

純「本当ですか?」

 

華琳「ええ。」

 

純「そんな事とはつゆ知らず・・・父上に申し訳ない。」

 

華琳「ふふっ・・・それでこそ純ね。お父様が謹慎処分を下したのは、あなたを鍛える為よ。」

 

華琳「お父様は考えておられるわ。必ずあなたを、全軍の総帥に据えると。その力を持っており、必ず期待に応えてくれるとね。」

 

それを聞いた純は

 

純「っ!」

 

驚きのあまり、固まってしまった。

 

華琳「どうするの?それでもまだ私に口添えを?」

 

それを見た華琳は、純にそう尋ねると

 

純「いいえ。処分の前に・・・兵の様子を見て参ります。」

 

純は少し声を詰まらせながら言い、その場を後にしようとした。

その際、純は華琳の前に跪き、手をつき三拝し、拱手して去って行った。

 

華琳(純・・・私とお父様は信じてるわ・・・。あなたなら必ず、この教訓を糧に成長してくれる事を・・・)

 

華琳(そしてきっと・・・衛青と霍去病を凌ぐ天下に誇れる名将になれる事を・・・)

 

その後ろ姿を、華琳は姉の顔を浮かべながら見ていたのだった。

 

 

 

 

 

回想終了

 

 

 

 

 

華琳(あれから、純は成長した・・・。けど・・・まだまだ敵は多いわ・・・)

 

華琳(お父様・・・必ずや、天下を一つとし、新時代を築いてみせます・・・!)

 

そう、華琳は決意を込めた顔を浮かべ、泉下の曹嵩に言ったのであった。



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65話

65話です。

今年もよろしくお願いします。


冀州・鄴

 

 

 

 

官渡で大敗北を喫した袁紹。これにより、河北四州各地で反乱が勃発し、その対処に苦心していた。

 

袁紹「きーっ!!またこの私に歯向かいますの!キリがありませんわ!!」

 

そう、袁紹は顔を歪ませて言った。

 

郭図「袁紹様。この状況を打開するために、再び曹彰と決戦に挑むのです!!」

 

これに、郭図は強く純との再度決戦を勧めた。

 

袁紹「・・・そうですわね。各地で軍を集めなさい。再び決戦致しますわ!」

 

郭図「御意!」

 

命を聞いた郭図は、その場を後にした。

そして、袁紹は30万の兵を率いて進軍を開始した。

 

 

 

 

 

 

 

許都

 

 

 

 

 

 

 

華琳「陛下。袁紹に再び挙兵の動きがあります。」

 

華琳「よって、我が弟が申した袁紹討伐を実行し、その勢いで河北四州を平定すべきだと思います。陛下、お認め戴けますか?」

 

袁紹挙兵の動きは、許都にも届いており、華琳は霊帝に袁紹討伐と河北四州の平定の許可を求めた。

 

霊帝「しかし曹操。麗・・・袁紹の袁家は四世三公の名門。その先祖は、この漢に多大なる貢献をした。それに免じて討伐は控え、和睦するのが良いのでは無いのか?」

 

これに、霊帝は討伐せずに和睦するべきではと言い

 

劉協「曹操殿。私も陛下の意見に賛成です。何も討伐し、河北四州平定までは・・・」

 

劉協も霊帝の意見に同意した。

 

華琳「あの者は大将軍の位を賜ったにもかかわらず朝廷に刃を向けた不届き者です。」

 

華琳「もし討伐せねば、陛下のご威光が地に落ちますよ。」

 

しかし、華琳は強くそう唱え、有無を言わせなかった。

 

霊帝「わ、分かったわ曹操。そちの弟に袁紹討伐、河北四州の平定の詔を下すわ。」

 

この圧力に、霊帝は耐えきれず詔を下した。

 

華琳「ありがたきお言葉!」

 

これに、華琳は拱手してそう言った。

その翌日

 

華琳「大都督、前へ。」

 

百官が居並ぶ前で、華琳は純を呼び

 

純「何でしょう。」

 

純は前に出て拱手した。

 

華琳「陛下の詔よ。三日以内に精兵を率いて袁紹の討伐、そして河北四州の平定を行いなさい。」

 

これを聞いた純は

 

純「承知しました!」

 

純(フフッ・・・ひと月ぶりの戦だ・・・!派手に暴れてやろうじゃねーか・・・!)

 

拱手しつつ獰猛な笑みを浮かべ、その場を後にした。

そして、純は10万の精兵を率いて出陣し、倉亭に着陣した。

袁紹軍も、同時期に倉亭に着陣し、両軍は睨み合った。

 

 

 

 

 

 

曹彰軍本営

 

 

 

 

 

 

純「さて・・・あの軍勢をどう殲滅させるか・・・」

 

風「純様~。風に策がございます~。」

 

すると、風が飴を舐めながらそう言った。

 

純「何だ?」

 

風「はい~。まず、純様率いる我が軍の主力三隊を正面に展開させます。」

 

風「戦が始まれば、三隊とも敵の足止めに全力を尽くして貰います。」

 

風「頃合いを見て、純様率いる中軍はわざと後退し、敵を誘い出して下さい。」

 

風「敵軍が突出してきたら、その予想進路に伏せてある伏兵を突撃させます。」

 

風「このように、伏兵は右に五面、左に五面の陣を敷き、合計十隊の伏兵で敵に奇襲を仕掛け混乱させ、純様はそれを見て自らの部隊を再度突撃をし、残りの二隊も、後ろから袁紹軍を襲うという策です。」

 

楼杏「成程。左右合わせて十面の伏兵で奇襲し、敵軍を殲滅させるという事ね。」

 

風「名付けて、十面埋伏の陣です~。」

 

これに

 

稟「成程。流石は風ですね。」

 

霞「うへえ~。えげつない策やな~。」

 

春蘭「これなら、袁紹軍を殲滅できる・・・!」

 

秋蘭「そうだな・・・!」

 

剛「流石だな・・・!」

 

哲「ああ!」

 

純「おもしれー!早速その策を採用すんぞ!」

 

純達は面白いと感じ

 

風「御意!」

 

策を実行する事と決めた。

そして

 

純「行くぞ!『黄鬚』曹彰についてこい!!」

 

「「「おおーっ!!!」」」

 

倉亭の戦いが始まった。

暫くして

 

純「良し!退くぞ!」

 

剛「はい!」

 

哲「今だ、退け!」

 

純は作戦通り退却を始め、袁紹軍を誘った。

 

袁紹「郭図さん、どうなさいますの?」

 

郭図「勿論、このまま一気に攻めるべきです!」

 

袁紹「では、一気呵成に攻めなさい!」

 

郭図「御意!」

 

これに、袁紹らは見事誘いに乗り、純率いる部隊を追い掛けた。

 

秋蘭「どうやら、上手くいったようだな・・・」

 

楼杏「ええ。そのようね・・・」

 

秋蘭「なら・・・全員矢を構えろ!」

 

その様子を、右の伏兵を率いていた秋蘭と楼杏が見ており、攻撃準備をさせた。

 

凪「準備は良いか、真桜、沙和?」

 

真桜「いつでもええで!」

 

沙和「ばっちりなのー!」

 

凪「良し!全員構えろ!」

 

凪達も同様で、攻撃準備をさせた。

そして

 

秋・楼・凪「「「放てー!!!」」」

 

一斉に袁紹軍目掛けて矢を放った。

 

袁紹軍兵士A「ギャアアアッ!!」

 

袁紹軍兵士B「な、何だ!?一斉に矢が降ってきたぞ!!」

 

袁紹軍兵士C「た、助けてくれー!!」

 

これには、袁紹軍は大混乱に陥った。

 

春蘭「おお!敵が混乱に陥ったぞ!」

 

霞「このまま一気に攻めるで!!」

 

春蘭「ああ!」

 

この様子を見た春蘭と霞は、後方から一気に攻めまくった。

 

純「よっしゃあ!!策は成った!!反転して、袁紹軍を斬って斬って斬りまくれー!!」

 

剛「行くぞー!!」

 

哲「殿に遅れを取るなー!!」

 

「「「おおーっ!!!」」」

 

すると、純率いる部隊も反転し、純を先頭に一気に袁紹軍目掛けて突撃開始した。

 

純「はあああっ!!!」

 

「「「ぐはあああっ!!!」」」

 

純「うおりゃあああっ!!!」

 

「「「ギャアアアッ!!!」」」

 

純の一太刀で、袁紹軍は一気に斬り捨てられていき

 

純「はーっはっはっはっはー!!」

 

獰猛な笑い声を上げながら斬っていった。

 

純(はっはっは・・・やっぱり戦は良い!!戦場の血の匂いを嗅ぐと、いつも以上に力が漲るわ・・・!!)

 

純「テメーら!!虎となれ!!虎となって、敵を食え!!」

 

この純の凄まじくも覇気溢れる鼓舞に

 

「「「おおーっ!!!」」」

 

兵達の士気は最高潮に上がり、次々に袁紹軍を殺していった。

その結果、袁紹軍は30万いた兵が僅か一万足らずという大敗北を喫し

 

袁紹「とにかく逃げますわよ!!」

 

顔良「麗羽様ー!!待って下さいよー!!」

 

文醜「ちょっと待ってよ文ちゃーん!!」

 

袁紹は顔良と文醜らと一緒に逃げたのだった。

対する曹彰軍は、僅か約千程しか戦死者が出なかったのだった。

 

 

 

 

 

曹彰軍

 

 

 

 

 

 

純「はっはっはっは!!お前ら、勝ったぞー!!」

 

そう言い、純は覇気を前面に押し出し、太刀を天に掲げてそう叫び

 

「「「応!!応!!応!!応!!」」」

 

将兵達はそれに続いて雄叫びを上げた。

 

純「さあ、もう一度だ!!もう一度、天地を揺るがす雄叫びを上げろー!!」

 

そして、純はまた更に強い覇気を前面に押し出して叫び

 

「「「応!!応!!応!!応!!」」」

 

将兵達はまた更に大きな雄叫びを上げた。

 

純「さあ!!このまま一気に河北を攻め、四州全て平定するぞー!!」

 

純「もう一度、大暴れしようぞー!!」

 

「「「応!!応!!応!!応!!」」」

 

そして、純は颯爽と馬に乗り

 

純「行くぞ!!『黄鬚』曹彰についてこい!!」

 

自ら先頭に立ち曹彰軍は怒濤の勢いで河北へ進軍を開始した。

その勢いのままに、曹彰軍は次々と拠点を占領していき、遂に河北四州全て平定した。

この功績により、純は今ある大都督の他に驃騎将軍の位を授けられた。

これに純は

 

純(良し・・・!俺が憧れの霍去病と同じ将軍号を貰った・・・!)

 

純(もっと・・・もっと活躍して、衛青と霍去病を上回る将軍になって歴史に名を残してやる・・・!)

 

内心子供のように大喜びしたのであった。



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秋蘭と夜に響く旋律

遅れながら、今年も宜しくお願いします。

ちょっと幕間かな・・・?

前作と内容一緒ですが・・・。


純の部屋

 

 

 

 

純「・・・ん、何だ?」

 

深夜、どこから聞こえてくる旋律に純は目を覚ました。純は身体を起こし、その耳を澄ましてみた。

 

純「この音色・・・笛か。」

 

純(音色から察するに、姉上ではない。多分アイツだな・・・。)

 

そう思った純は

 

純「折角だし、行ってみるか。」

 

廊下を出て、笛の主を探したのだった。

城を出て、中庭を歩いた。空を見上げると、無数の星と美しい月が煌めいていた。部屋にいた時よりも、笛の音色は大きくなっている。

 

純「どこだ・・・?」

 

寝静まった城内を見渡しても、まだその主は見えない。どうやら、音は風に乗って流れてきていた。

純は指を湿らせて天に掲げた。緩やかな風が、南東に向けて吹いていた。

 

純「・・・裏庭か。」

 

そして、純は裏庭に足を運んだ。城内の林道を抜けて、裏庭へと出る。すると、それは正解だったらしく、笛の音は徐々に大きくなっていった。

 

純「この辺りの筈なんだが・・・」

 

純は月明かりを頼りに、辺りを見渡した。そしたら

 

純「・・・やっぱり、秋蘭だったか。」

 

秋蘭が、東屋の屋根の上で横笛を吹いていた。すると、静かに笛の音が止み、東屋の屋根の上に上っていた秋蘭が、純の方を見下ろした。

 

秋蘭「純様・・・何故ここに?まさかとは思いますが、散歩ですか?」

 

純「お前の笛の音が風で流れてきたんだ。それを辿ってここまで来たんだよ。」

 

秋蘭「それは申し訳ございません。起こしてしまいましたか・・・ここなら城までは届かないと思っていたのですが。」

 

純「気にすんな。恐らく俺以外他の連中は気付いてねーよ。」

 

秋蘭「そうですか。それなら良かったです。」

 

そう言って、秋蘭はホッと胸をなで下ろした。その曲線が、月の光を受けて更に艶やかに感じられた。

 

純「秋蘭、俺もそっち行って良いか?」

 

秋蘭「はい、構いませんよ。」

 

そう言って、秋蘭は承諾した。それを聞いた純は、ひょいと屋根の上に上った。吹き抜ける風が非常に気持ちよかった。

そんなに高い場所に上った訳でもないのに、月が先程よりも大きく綺麗に見えた。

 

純「秋蘭の笛を聴くのは久し振りだな。」

 

秋蘭「私も笛を吹くのは久し振りです。しかし、華琳様と比べたら楽の才は劣りますよ。」

 

そう言って、秋蘭は謙遜したが

 

純「そんな事ねーよ。お前の笛も、中々心が安らぐぞ。綺麗な音色だし。」

 

と純は秋蘭の笛を褒め称えた。

 

秋蘭「ふふっ・・・ありがとうございます。」

 

そう言って、秋蘭は頭を純の肩に乗せた。それに純は、秋蘭の頭を抱いた。

 

純「それに曲も・・・この地域に伝わる伝統的な舞踊曲だよな。」

 

秋蘭「はい。以前たまたまその舞踊を目にする事がありまして、その音を記憶し、再現したのです。」

 

純「成程・・・俺には無理だがな。」

 

秋蘭「純様は楽は好まなかったですからね。」

 

純「よく父上に叱られていたがな。しかし、俺の性に合わん。」

 

秋蘭「純様らしいですね。」

 

そう言って、秋蘭は口元を抑えて笑った。

 

秋蘭「・・・さて、もう遅いです。そろそろ城に戻るとしましょう。」

 

そう言って純の肩から頭を起こし、立ち上がろうとしたが

 

純「おいおい、待ってくれ。もう少しお前の笛を聴かせろよ。」

 

と言い、純は秋蘭の手を掴んだ。

 

秋蘭「し、しかし純様・・・」

 

そう言って秋蘭は断ろうとした。

 

純「折角ここまで来たんだ。一曲だけでも頼むよ。」

 

秋蘭「しかし・・・」

 

純「ダメ・・・かな・・・?」

 

しかし、純の上目遣いに

 

秋蘭「・・・わ、分かりました///」

 

秋蘭は顔を真っ赤にしながらそう言い、再び笛を吹いた。静かに旋律は流れ、穏やかな笛の音に、純は耳を傾けた。

 

純(不思議な曲だな・・・。)

 

その曲自体は明るいのだが、どこか胸を締め付けられるような切なさが感じられた。そう思わせるほど、秋蘭の奏でる音には、美しく澄んだ透明感があった。柔らかな月明かりを受けながら、秋蘭は旋律を奏でていった。

秋蘭は曲を吹き終えると、ゆっくりと笛から唇を離した。照れているのか、彼女は純から目線を逸らしていた。

 

秋蘭「ど・・・どうでしょうか?」

 

純「スゲー良かったぞ。感動した。」

 

それを聞いて

 

秋蘭「そ、そうですか・・・!それは良かったです!」

 

秋蘭は照れながらも嬉しそうな笑みで言い、また純の肩に頭を乗せた。

 

純「秋蘭・・・。」

 

そして、お互いに口付けをし、抱き締め合ったのだった。



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稟、益々想いが強くなるの事

稟のお話です。


稟は廊下を歩いていると、純が廊下に立っていた。

 

稟(今日は軍議の筈。何をしておられるのか・・・。)

 

そう思った稟は

 

稟「純様、このようなところで何をしていらっしゃるのです?軍議ではないのですか?」

 

そう言って尋ねた。

 

純「あんな退屈な会議、俺が出る必要ねーよ。」

 

と純は言った。これには

 

稟「な・・・何たる怠慢・・・!」

 

と、眉間にしわを寄せた。

 

純「今回の軍議、姉上も同席していねーんだ。無論お前も。重要性など、たかが知れている。」

 

稟「っ・・・ああ言えばこう言う、そのような甘言で。」

 

と稟はそう言って純に説教しようとした。すると、

 

純「甘言?へえ、嬉しいな。俺の言葉で稟も、少しは甘い思いをしたんだな。」

 

そう言って、純は稟にくっついた。

 

稟「わっ、わっ、わ・・・!?純様ぁ。」

 

純「相変わらず面白ーな、お前・・・。下らねー経過報告なんかより、お前を構っている方がずっと面白ーよ。」

 

稟「どこに触っているのですかぁ、純様っ!?」

 

純「この前は俺の抱擁を受け入れたのに、今度は拒むのか?・・・憎いな。」

 

稟「これ以上私を呆れさせないで・・・いただきたい。」

 

そう言って、稟は純の抱擁に抵抗していたが、いつも通り弱々しい抵抗だった。

 

純「それだよ・・・お前はいつも一生懸命だから面白ーんだよ・・・ふっ。」

 

稟「ふぁ・・・っ!?耳にっ、お、おやめ下さい。」

 

純「えーっ、何でー?」

 

稟「そ、その・・・。」

 

その様子を見た純は、

 

純「ふっ・・・その目、たまんねーな。」

 

純「さらに力づくで、俺の物にしようかな。」

 

稟を見てそう言った。

 

稟「立場を利用して・・・そ、それは暴君の振る舞いですっ!人心が離れ・・・っ」

 

そう言ったが

 

純「・・・ふっ。」

 

稟「は、離れ・・・離れて・・・」

 

稟は益々抵抗が弱くなり、更に純に身を預けてしまう寸前で、頭の中に靄がかかったかのようにいつもの冷静な思考が奪われていく。

 

稟(だ・・・駄目です・・・。ちゃんとしっかり・・・お諫めしなければ・・・)

 

しかし、僅かに残った理性が稟の頭の中の靄を少しだけ振り払った。

 

純「そんな言い方しなくてもいいだろう。俺は稟の事が好きなんだ。愛してるんだ。だから、時にはからかうようなことを言うし・・・」

 

純「いつも、一緒にこうしたいと思っているんだぞ。」

 

稟「はっ、は・・・は、う、上に立つ者が色に狂うなど、それこそ傾国のひゃぅんっ!?」

 

純「相変わらず可愛い声だな、稟。」

 

稟「い、今のは違います!純様が、私の・・・」

 

純「稟の・・・どこを触ったんだ?」

 

稟「お、お、お尻、を・・・。」

 

純「ふっ、よく言えたな・・・。」

 

そう言った純は

 

純「でもさ、稟?俺がお前に捉われて軍務が手につかなくなる事と、お前で満足して普段の倍の軍務をこなすこと・・・どちらがこの国の為になると思う?」

 

純「俺の筆頭軍師であるお前の見解を聞きたいな。」

 

と稟に尋ねた。

 

稟「ずるい、です・・・そのような聞き方。」

 

稟はそう言って純の顔を見上げた。その目は、いつもの凜々しい参謀の目ではなく、どこか恍惚に満ちた蕩けた目だった。

 

純「ふっ、お前のその顔が一番好きだな・・・そうやってどこか惚けた状態で俺を見上げてくる目。」

 

稟「そ・・・そんな事は・・・」

 

純「無いと言い切れるか?」

 

稟「・・・恐ろしいお方です、純様は。」

 

純「・・・恐ろしいのが気持ちいいんだろ?」

 

稟「・・・。」

 

純「素直になりな、稟。そうすれば、もっと幸せになれる。俺に身を委ねれば良いんだぞ。」

 

そう言って、純は稟の顔に近付いていった。

 

稟「だ・・・駄目・・・。」

 

しかし稟は目を背け抵抗しようとしたが、目が離せなくなり、それどころか純の背中に腕を回していた。

そして

 

純「んっ・・・。」

 

稟「んっ・・・。」

 

口付けをしたのだった。

 

稟(もう・・・駄目・・・。純様・・・私をもっと・・・もっと求めて下さい・・・。)

 

すると、稟は更に密着し、背中に回してる腕を強く抱き締め、催促するかのように大胆な動きをした。

それに純は、更に稟を強く抱き締め、彼女の想いに応えたのだった。

そして、互いに唇を離した後、稟は純の手を取って自身の頬に添え

 

稟「純様・・・。ああ・・・純様・・・。」

 

と恍惚した顔を浮かべながら言った。それを見た純はすぐに稟と一緒に部屋に連れて行ったのであった。



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楼杏の悩み

楼杏の悩みです。


楼杏の屋敷前

 

 

 

 

純「洛陽時代から思っていたが、質素な屋敷を取るんだな・・・。」

 

純(まあ、これが楼杏なんだけどな・・・。俺達曹家の屋敷だと、楼杏程ではなかったけど見た目慎まやかだったし、俺の進言で少し防衛機能を兼ねた屋敷だったんだけどな・・・。)

 

そんな事を思いながら屋敷の使用人に取り次いで貰い、入ったのだった。

 

楼杏「純さん!」

 

純「楼杏。」

 

そう言い、互いに抱き締め合い、口付けをした。

 

楼杏「何の用かしら?」

 

純「練兵の帰りに少し立ち寄った。非番に関わらず、済まないな。」

 

楼杏「構わないわ。わざわざありがとう。」

 

そして

 

楼杏「誰か!」

 

使用人「殿、お呼びですか?」

 

楼杏は使用人を呼んで

 

楼杏「酒と肴を用意してくれないかしら。純さんと酒を酌み交わすの。」

 

と言った。しかし

 

使用人「それが・・・」

 

楼杏「どうしたのかしら?」

 

使用人「今の俸禄は、官渡と河北四州の平定で戦死した兵の子供の援助に・・・。俸禄は暫く来ず、酒や肴を買うお金がありません。」

 

と使用人は言った。

 

楼杏「ならば・・・」

 

すると、楼杏はある箪笥から衣服を取って

 

楼杏「この衣服を質に入れて、酒と肴に交換すれば良いわ。」

 

と言った。

 

使用人「しかし・・・」

 

楼杏「行きなさい。」

 

そして、使用人は衣服を持って質に入れ、酒と肴を買った。

 

楼杏「どうぞ。」

 

純「・・・楼杏。」

 

楼杏「どうしたのかしら?」

 

純「急な来訪であったにも関わらず、自身の衣服を酒と肴に換えてまで俺をもてなしてくれるとは、心を打たれた。お前のその細やかな気遣いに一献、捧げよう。」

 

楼杏「そんな、大袈裟よ。あなたは主、私は臣下。臣下が、主をもてなすのは当然。私は、当たり前の事をしたまでよ。」

 

楼杏「私があなたに従ったのは、昔からの仲だけではないわ。その武勇と軍才で、水火に苦しむ人々を助けるのを協力しようと思ったからよ。」

 

その言葉に

 

純「皇甫義真はやはり皇甫義真。大義に徹し、些かも揺るぎない。」

 

と褒めた。

 

楼杏「ふふっ、褒めすぎよ。」

 

そう言い、互いに一献飲んだ。

 

純「そういえば、あれからあの商人はこの屋敷に来たか?」

 

楼杏「いいえ。あの日以来、この屋敷に来てないわ。」

 

純「そうか・・・。」

 

すると

 

純「楼杏、済まなかったな。」

 

と純は楼杏に謝罪した。

 

楼杏「えっ!?」

 

これには、楼杏は驚いた。

 

純「あの日、感情に任せてあの商人に怒鳴ってしまって。賄賂を断るにしたって、アイツが優秀な商人なら、あんな言い方はマズかったなって・・・」

 

楼杏「別に構わないわよ。曖昧な態度を見せたら、ずっと誤解されるもの。」

 

楼杏「現に、最初に賄賂を送ってこられた時、私は黙って、あの商人を突き返した。だけど、その意味を完全に誤解していた。」

 

純「ああ。賄賂の額が不足していたって勘違いしてたな。」

 

楼杏「ふふっ、だからあれで良いの。私こそ、あの日純さんにつまらないものを見せてしまって、申し訳なかったわ。」

 

楼杏「それに、あなたがあんなに怒る姿を見たの、初めてだわ。今回私の屋敷に訪問したのは、その為ね。」

 

純「ああ。本当に済まなかった。けど、お前とは洛陽時代から知っている。だから、あの態度には腹が立って・・・」

 

純「お前が侮辱された気がしたんだ・・・。それで遂・・・」

 

すると

 

楼杏「・・・ううん、本当に良いの。私、とても嬉しかったわ。」

 

楼杏は嬉しそうな表情をしながら、純の頬に手を添え

 

楼杏「それだけ、私の事を大切に思ってるのよね・・・。それが伝わって、とても嬉しかった。それと同時に、益々あなたの事を愛したわ。ありがとう。」

 

そう言って

 

楼杏「んっ・・・。」

 

純に口付けをした。それに純も

 

純「楼杏・・・。んっ・・・。」

 

楼杏に口付けをした。そして、お互い抱き締め合い、寝台に倒れ込んだ。

 

純「楼杏・・・。」

 

楼杏「純さん・・・。」

 

そして、そのまま一夜を過ごしたのであった。



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霞の恋

霞の恋です。


純「さてと・・・仕事も一段落したし、秋蘭のトコに行くか・・・。」

 

仕事を一段落終えた純は、秋蘭の部屋に向かって、一人廊下を歩いていた。すると

 

純「おっ。」

 

真っ直ぐに続く廊下を、霞が歩いているのを確認した。

 

純「霞~!」

 

霞「ん?」

 

純が呼ぶと、霞はキョロキョロと辺りを見回した。

 

霞「お。」

 

そして、純の姿を認めると、彼女は跳ねるようにして純の元に走ってきたのだ。

 

霞「純や~ん!偶然やな~。」

 

純「ああ。」

 

霞「こんなとこで、なにしてんの?どっか行くん?」

 

純「ああ、ちょっとな。秋蘭に呼び出されて、あいつの部屋に行くとこだ。霞は?」

 

霞「ウチは本日の業務終了したからな。何しようかなー・・・って。」

 

純「ブラブラしてるってとこか。」

 

霞「ブラブラちゃうよ!・・・仕事を探してるねん。」

 

と言い、霞の視線はフラフラとしていた。

 

純「そうか・・・。まぁ、そういうことにしとくか。」

 

霞「おおきに!純のそーいうとこ、めっちゃ素敵やと思うで♪」

 

純「・・・悪びれねーな。誉めても何も出ねーぞ。」

 

霞「あ、可愛くない。そーいうとこは好かんわ。」

 

それを聞いた純は

 

純「なんでだよっ!!」

 

と、霞に裏拳を入れたのだった。

 

霞「あはは!!ノリえーなぁ!!」

 

純「はは。そんじゃあ、俺秋蘭のトコ行くわ。」

 

しかし、

 

霞「ああっ、ちょっと待って!!」

 

霞は、純の服の袖を握って止めたのだった。

 

純「何だ、どうした?」

 

霞「あんな、純は秋蘭のトコ何しに行くん?」

 

純「何しにって?」

 

霞は

 

霞「楽しいことがあるんちゃうん?」

 

そう言って大きな猫目を更に丸め、興味津々といった様子で、純の顔を覗き込んだ。

 

霞「なあなあなあ、隠さんと教えてえなー。」

 

純「・・・お前、よっぽどヒマなんだなあ。・・・まあ、一人で来て下さいって言われたから、茶か何かだろう。」

 

霞「『一人』で?」

 

純「ああ、一人だ。まあ、いつもの事だよ。」

 

霞「『一人』で『部屋』~?『いつもの事』~?」

 

純「ああ、そうだが。」

 

すると

 

霞「はっはーん・・・。」

 

霞の目が、にやりと細めた。

 

純「何だ?」

 

霞「・・・それはアレやろ、ア・レ。」

 

と言った。

 

純「・・・ふっ、そうかもな。」

 

霞「せやってー!!純と秋蘭は、もう皆が羨ましがる程仲ええんやからー!!」

 

純「あはは。」

 

その時

 

霞「・・・なぁなぁ、純。」

 

霞が純の耳元に近づき、囁いた。

 

純「ん?何だ?」

 

すると

 

霞「あ、あのな・・・その・・・えっと・・・。」

 

いつもの霞と違って、顔を赤くして、もじもじとしながらはっきりしない。

 

霞「うーんと、えーっと・・・あの・・・。」

 

純「どうしたんだ?霞らしくねーぞ。」

 

と純は霞の頭をポンポンと撫でて促した。

 

霞「やー・・・せやかて、しゃーないやんかー。」

 

純「良いから、遠慮せず言ってみな。俺と霞の仲だろ?」

 

そう言うと

 

霞「・・・うん・・・えっと、その・・・笑わへん?」

 

と霞はしおらしく言った。

 

純「笑わねーよ。ほら、言ってみな。」

 

それを聞いた霞は

 

霞「その・・・そういうのって、どんな気持ちなん?」

 

と、顔を赤くし、もじもじしながら尋ねた。

 

純「それって・・・男女の営みか?」

 

それを聞いた霞は

 

霞「こくん」

 

と頷いた。

 

霞「や、あのな・・・ウチ、そういうコトに、あんま免疫無いねん。」

 

霞「あんまっちゅーか、全然。全く。」

 

純「全然無い・・・ってコトは、恋をしたこともない・・・とか?」

 

すると

 

霞「こくん」

 

また霞は頷いた。

 

純「・・・そうなんだ。」

 

霞「せや。ウチは元々、武官の生まれの家やんか?せやから子供の頃からずぅっと、武芸一筋でやってきてん。」

 

霞「何の疑問も持たんと、それを極めることだけを考えとった。」

 

霞「そんで気ぃついた時には、軍に仕官してて・・・あれよあれよっちゅう間に、一軍を任せてもらえるようになって・・・ほんで今やから。」

 

純「そっか・・・。」

 

霞「けど、最近純を見ると、胸がかあっと熱くなるんよ。それと、一緒にいると楽しいし、ドキドキするし、他の女の子と一緒やと、何かモヤモヤしてしまうんよ。」

 

純「・・・。」

 

霞「けど、この気持ちが本当に恋かどうかも分からん。だから純、ウチに恋をよく教えて欲しい!!」

 

純「俺が?」

 

霞「せや、お願い・・・。」

 

そう言って、霞は純の服の裾を掴んで、上目遣いに見つめた。

 

純「じゃあさ、今度時間があるときに、少し二人っきりで過ごしてみるか。」

 

すると

 

霞「ホンマか!!やったー♪いよっ、純すってきー!」

 

霞の表情がぱあっと明るくなった。

 

純「ったく、相変わらず調子良いな。」

 

霞「へへ。そんで、二人っきりで過ごして、そんでどうするん?」

 

純「それはお楽しみな。」

 

そう言って、純は霞の頭を優しく撫でた。

 

霞「そっかー。へへ、楽しみにしてる。」

 

そう言って、霞は嬉しそうな顔でぴょんぴょんと跳ねた。

 

純(コイツにもこんな悩みがあったんだな・・・。)

 

そんなことを思っていると

 

霞「・・・あ、そうや。」

 

ふと霞がはっと何かを思い出し、

 

霞「純、秋蘭に呼ばれてたんやね。」

 

純にそう言った。

 

純「ああ、そうだったな。」

 

霞「ゴメンゴメン、引き止めてもて。はよ行きや!秋蘭待ちくたびれてるかもしれへんで。」

 

純「ああ、じゃあまたな。」

 

霞「うん!ウチとは次回っちゅうことで!楽しみにしてるでぇ~。」

 

純「ああ、分かった。」

 

霞「おーきに!ほな、またなー♪」

 

そう言い、純と霞は別れたのだった。

 

霞(これって・・・ウチは純の事・・・好き、やのかなぁ・・・。せやったら、ウチメッチャ嬉しいかも!だって、初めての恋の相手が純やもん!!)

 

その時、霞はそう思いスキップしながら廊下を歩いていたのは内緒である。



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栄華の気持ち

栄華の気持ちです。


栄華の執務室

 

 

 

 

栄華「今日は良い天気ですわ。」

 

さっきまでやっていた書類の整理をある程度終えた栄華は、窓から空を見上げてそう言った。

気持ち良い陽気のお陰で、リラックスした気分になる。

 

栄華(少し昼寝しましょうかしら・・・。)

 

そう思っていると

 

秋蘭「栄華。」

 

秋蘭が栄華の執務室に入ってきた。

 

栄華「あら、秋蘭さん。何か用ですの?」

 

秋蘭「用という用はないが、お前に少し聞きたい事があってな。」

 

栄華「私に・・・ですの?」

 

そう言い、栄華は首を傾げた。すると、秋蘭は栄華の耳元へ行き

 

秋蘭「純様とは良い所まで行ったのか?」

 

と耳打ちしたのだ。

 

栄華「ぶっ!」

 

栄華「な、ななななな・・・」

 

これには、栄華は噴きだしてしまった。その様子を見た秋蘭は

 

秋蘭「成程・・・。その様子だと、もう最後まで・・・」

 

栄華「し、秋蘭さん!そ、その・・・はしたないですわよ!」

 

言いかけたが、栄華は顔を真っ赤にして止めた。

 

秋蘭「ははは!成程、そこまで進展していたか!」

 

栄華「そ、それはまあ・・・。私とお兄様は、恋人関係ですし・・・。」

 

栄華「手を握ったり・・・肩や腰に触れたり・・・く、口付けをしたり・・・してますわ。」

 

栄華「そして最後は私の部屋の寝台か、お兄様の部屋の寝台で一緒に・・・ああ、恥ずかしいですわ。」

 

そう言い、栄華の頭から湯気が出ていた。

 

秋蘭「成程・・・。結構良い所まで進展しているな。」

 

栄華「秋蘭さん・・・。」

 

秋蘭「けど、お主は勿論、皆も知ってる事だが、純様は生まれてすぐに母君を亡くした。華琳様の母君が可愛がってくれたが、あの御方は、母の愛情を求めている。」

 

栄華「ええ、知っておりますわ。」

 

秋蘭「そのせいか、ああ見えて純様は寂しがり屋でもあり、甘え気質な御方だ。だから、純様を良く支えてやってくれよ。」

 

秋蘭「しかし、好敵手も多いから、互いに頑張ろうではないか。」

 

栄華「当然ですわ!」

 

そう言って、栄華は秋蘭にそう言ったのだった。

 

そしてその夜、

 

栄華(うぅ・・・緊張してきましたわ。)

 

栄華は純の部屋の扉の前まで来ていた。

 

栄華(けど、迷っているわけにはいきませんわ!)

 

意を決した栄華は大きく息を吸った。

 

純「栄華か?」

 

栄華「・・・っ!?」

 

その時、扉越しから純の声が聞こえた。それに栄華は一瞬混乱したが

 

栄華「え、えっと、お兄様、今大丈夫ですか?」

 

と声を掛けた。

 

純「良いぞ。入れ。」

 

そう言われ、栄華は部屋に入った。

 

純「こんな時間にどうした?」

 

栄華「そ、その、えっと・・・」

 

しかし栄華は、なんと言ったら良いのか分からず、言い淀んでいた。しかし、純は栄華が来た事に純粋に喜んでいるのか、機嫌が良い雰囲気を纏っていた。

それを見た栄華は、徐々に落ち着いてきた。

 

純「どうした?何か様子が変だぞ。」

 

すると

 

純「えっ!?」

 

栄華は純に抱き付いた。

 

純「ど、どうしたんだ、栄華!?」

 

すると

 

栄華「スンスン。」

 

栄華は純の匂いを嗅いでいた。

 

純「栄華、何やってんだ?」

 

栄華「お兄様の匂いを匂ってるのですわ。」

 

純「お前、その為に来たのか?」

 

栄華「それと、お兄様に触れたくて・・・」

 

純「そ、そうか・・・。けど、俺臭いだろ?」

 

栄華「いいえ。いつもの事ですが、とても良い匂いで好きですわ。」

 

と言い、栄華は純の胸に益々顔を埋めた。そして

 

栄華「はあああ~・・・。」

 

時々変な声を出しながら匂いを嗅いでいた。

 

純「栄華・・・。」

 

そう言って、純は栄華を呼ぶと、栄華は顔を見上げた。すると、いつもの顔とは違って、目はトロンと蕩け、恍惚した顔だった。

 

純「悪い、栄華。今日は覚悟してくれ・・・。」

 

そう言った純は

 

栄華「ふぇ・・・?」

 

栄華を強く抱き寄せ、寝台に倒れた。そして、そのまま朝を迎えたのだった。



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凪の気持ち

凪の気持ちです。


日が天高く昇った穏やかな天気の午後。

純は城内にある中庭で一人、刀に手を添えた格好で静かに佇んでいた。

 

純「・・・ふぅ。」

 

息と一緒に余計な力を抜き、集中力を研ぎ澄ます。そして、目を瞑ってイメージする。

 

純(数は・・・二十人で軽く準備運動すっか。)

 

そして、刀を抜き

 

純「っ!」

 

本当に今自分の周りに二十人の敵がいることを想定して、刀を振った。その動きは、周りから見れば、流麗の舞を舞っているかのような動きを見せた。

そして、最後の一人を斬り捨てたのだが、

 

純(次からは数増やすか・・・。)

 

といったことを思った。そして

 

純「いつまでこそこそ見てんだ。出てこい。」

 

と声をかけた。すると

 

凪「お気づきでしたか。」

 

凪が出て来た。

 

凪「こそこそ見るつもりはありませんでした、お許しを。」

 

純「別に良いけど・・・。」

 

凪「純様は、剣術意外にも弓と槍、そして戟も扱えるとか。」

 

純「まあな。でも、刀と弓以外はそんなに得意じゃねーけどな。」

 

凪「ご謙遜を。先の反董卓連合での呂布との一騎打ちでは、関羽が使ってる青龍偃月刀を基に作られた武器をいとも容易く操っていたではありませんか。」

 

純「あれは偶々だよ。」

 

凪「そうでもありませんでしたよ。でも、それに私は憧れ、この武をいつか振るってみたいと思いました。」

 

純「そうか。最近では、兵法も学んでいるらしいな。先の河北四州の平定の時、奇策を巡らして敵を撃破したな。」

 

凪「兵法に関しては、風様に教わっているお陰です。それにあの時は、風様に授けられた策を実行しただけです。」

 

純「それは俺もだぞ。俺、頭わりーからさ、稟か風の策を聞き、それに従って実行してるだけだからな。」

 

純「そのお陰で、俺は戦場でより武を振るえる。しかし、稟はそれを才覚だと言っていたな。」

 

凪「才覚?ただ授けられた策を聞き、実行する事がですか?」

 

純「ああ。稟曰く、『万全の策があっても、それを実行できるかどうか。それを才覚ではないでしょうか。』と言っていた。」

 

凪「成程・・・。稟様らしい発言ですね。」

 

純「ああ。だから、俺はそんな稟を尊敬しているよ。」

 

それを聞いた凪は

 

凪(流石純様と稟様だ。互いに信頼し合っている。主従としても。恐らく、男女の関係でも、信頼し合っているのだろうな・・・。)

 

そう思いながら聞いていた。すると

 

純「お前の事も尊敬しているぞ、凪。」

 

と純に言われた。

 

凪「えっ?」

 

純「お前がいると、兵の気持ちも引き締まるし、戦でも良く兵を統率している。先の河北四州の平定では、お前の活躍も光っていた。感謝する。」

 

そう言って、純は凪の頭を優しく撫でながら褒めた。

 

凪「い、いえ、私は大したことをしておりません。私の兵と真桜と沙和が手伝ってくれたおかげです。」

 

と、凪は顔を真っ赤にしながらそう言った。その姿は、いつも凜々しく兵を纏め、その武勇を大いに振るう楽進将軍ではなく、楽進と言う一人の少女の姿であった。

 

純「そうか。では、これからも頼りにしているぞ。」

 

凪「はっ!!」

 

すると

 

純「凪・・・。んちゅ・・・。」

 

凪「ふぁっ!?純様・・・。」

 

純は凪に口付けをしたのだった。はじめは驚きで身体を強ばらせたが

 

凪(ああ・・・純様・・・。あなた様がいないと、私は・・・私は・・・。もっと・・・もっと感じさせて下さい・・・。)

 

次第に力を抜き、自らも純の首に腕を回して、口付けを受け入れた。そして、お互い抱き締め合い、熱い口付けを交わした後、純の部屋に向かったのであった。



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66話

66話です。


河北四州全てを平定し、その広大な領地を支配下に置いた。

そんな時、益州ではある動きがあった。

それは、劉備率いる軍勢が、劉璋が治める益州を平定したのだ。

益州を取られた劉璋は、民を苦しめていると諸葛亮は劉備に言ったが、実はそのような事は真っ赤な偽りだった。

劉璋は、確かに英雄としての才に乏しく、人が良いだけの凡庸な人物であったが、それを自覚しており、無駄な野心を持たず、民を思う優しい心を持っており、全ては益州の民を第一に考えるような者であり、異民族の氐族でさえも、彼を慕っている程だった。

その為、劉備達が攻め

 

「降伏すれば命の保障をする。」

 

といった降伏勧告を促された時、官民の多くは戦う覚悟だった。

しかし

 

劉璋「これ以上、私が愛する益州の民の血が流れるのを見たくない。」

 

と劉璋は言い、降伏勧告を受け入れた。

しかし

 

諸葛亮「やはり・・・劉璋は愚かだ。この者を処刑せよ!」

 

全ては諸葛亮の罠だった。捕らえられた劉璋は、何も抵抗できず、処刑台に移動された。

 

劉備「劉璋さん。益州の民を苦しめた罪、許し難いです。その為、あなたを処刑します!」

 

この時、劉璋は憎しみの目を向けながら

 

劉璋「劉備!貴様はいずれ、破滅の時を迎えるじゃろう!」

 

そう言い遺し、処刑された。

こうして、劉備は益州を手に入れたのだが

 

益州民A「劉備め!劉璋様を殺しやがって!」

 

益州民B「アイツら!ゼッテー許さねー!!」

 

益州民C「ああ!確かに劉璋様は人が良すぎる。しかし、それだから、俺達はあの人が好きだった!!」

 

益州民D「ああ!あの人はいつも俺達の事を第一に考えるお方。降伏したのも全て俺達のためだった!!にもかかわらず、劉備は処刑しやがった!!」

 

益州民E「ああ!アイツはこの益州を奪った盗人だ!!決して許さねーぞ!!」

 

益州の民は、劉備が卑劣なやり方で劉璋を処刑した事に怒りを覚え、暴動を起こした。

この時、暴動の中心に立ったのが

 

魏延「私に続け!!悪逆無道の劉備を討伐するぞー!!」

 

厳顔「焔耶に遅れを取るなー!!」

 

黄忠「今こそ、益州を救うのです!」

 

魏延と黄忠、そして厳顔だった。魏延と黄忠は、まだ劉備が益州入りする前から劉備に仕えた武人だった。

彼女達は、劉備のその溢れんばかりの仁徳に惹かれ、彼女に仕える事に決めた。

厳顔は、劉璋に仕えていた武人だが、劉璋の命を保障するという言葉を信じ、劉備に投降した。

益州入りでも、魏延は一番槍を取って武勲を挙げたのだが

 

魏延「これはどういう事だ・・・?益州の民は全く辛い表情を浮かべてないではないか・・・!?」

 

魏延「桔梗様・・・これは一体・・・!」

 

厳顔「お主・・・何を言っておる・・・?劉璋様はそのような者ではない!民を第一にお考えの者じゃ!」

 

魏延は、自身が劉備や諸葛亮から聞いた情報と現実とのギャップに戸惑いを感じた。

そして、劉璋は劉備と諸葛亮の手により処刑された。

 

厳顔「何故じゃ・・・!?何故心優しき劉璋様を処刑したのじゃ・・・!?」

 

これに厳顔は劉備と諸葛亮にこの事を尋ねたのだが

 

劉備「桔梗さん。全ては皆が笑って過ごせる世を作るためだよ。」

 

諸葛亮「桔梗さんはただ、桃香様の命令に従えば良いのです。」

 

そう返された。

 

厳顔(これが・・・皆が笑って過ごせるだと・・・!まるで逆じゃないか・・・!)

 

厳顔(まさに暴虐無道じゃ・・・!この世に災いをもたらすだけじゃ・・・!儂は何て馬鹿なんだ!!)

 

厳顔(こうなったらいっそ、劉備を討ち取り、益州を救うのみ!!)

 

そう思った厳顔は、すぐさま考えに賛同する者を集め、反乱を起こした。

その中には魏延と黄忠もおり

 

魏延「私も参加させていただきます!!」

 

黄忠「私も参加するわ!」

 

即答で答えた。

 

劉備「ねえ朱里ちゃん。どうして益州の人達は私に反発するの?」

 

朱里「それは、民の中にも桃香様を嫌っている者がおり、その者達が反発しているためです。」

 

朱里「なので、暴動を鎮圧させましょう。」

 

劉備「・・・そうだね。そんな悪い人達を全員処刑しちゃおう。」

 

そう言い、劉備は軍を動かし、暴動を鎮圧させた。

 

厳顔「え、焔耶!!紫苑‼︎早く逃げよ!!」

 

魏延「き、桔梗様!!」

 

紫苑「桔梗‼︎」

 

厳顔「焔耶!!紫苑‼︎必ず生きるのだ!!生きていれば、必ずや益州を取り戻してくれ!」

 

厳顔「さあ、急げ!!紫苑!!」

 

黄忠「ええ!焔耶ちゃん!!」

 

魏延「離せ紫苑!!離せー!!」

 

厳顔に言われた黄忠は、魏延と一緒に逃げた。

 

厳顔「・・・後は頼むぞ、焔耶、紫苑。」

 

そう言い、厳顔は民達と共に突撃した。

 

魏延(桔梗様・・・申し訳ございません・・・!!私の力が足りないばかりに・・・!!桔梗様・・・!!)

 

これに、魏延は涙を流しながら逃げたのだった。

因みに黄忠の娘は、黄忠自ら事前に逃がしており、無事に済んでいた。

 

厳顔「さあ来い!!儂の首は、そんな簡単には取れぬぞ!!」

 

そう言い、劉備軍の兵に奮戦したのだが力及ばず、乱戦の中討ち取られてしまった。

その首は晒され、反逆者の汚名を着せられてしまったのだった。

 

関羽「これが・・・私達の目指す理想の世界なのか・・・」

 

張飛「違うのだ・・・鈴々達の目指す国は、こんなのじゃないのだ・・・」

 

関羽「ああ・・・。あの桃園の契りはいずこに行ったのだ・・・」

 

鳳統「・・・。」

 

鳳統(朱里ちゃん・・・何でこうなっちゃったの・・・?これじゃあ、乱世は深まるだけだよ・・・!)

 

この時、関羽と張飛はどこか泣きそうな顔でそう言い、鳳統に至っては、帽子を深く被り、涙を流していたのであった。



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67話

67話です。


劉備が益州を平定した事はすぐ許都にも届いた。

 

華琳「そう・・・劉備が益州をね・・・」

 

桂花「諸葛亮の策により、益州を平定した劉備は、益州を治めていた劉璋を偽の降伏勧告で騙し首を刎ね、支配下に置きました。」

 

司馬懿「その行為に反発した益州の民と、一部の武将達が劉備らに反旗を翻し反乱を起こしましたが鎮圧され、大勢の民が処刑されました。」

 

華琳「そう・・・これが仁徳・劉備の真の姿ってとこかしら?」

 

司馬懿「曹操様。劉備はわれら官軍に刃を向けただけでなく、先帝に益州を託された劉璋を騙し討ちしました。」

 

司馬懿「これは良い大義名分です。朝廷に弓引く者として、今すぐ劉備を討ち、益州を平定しましょう。」

 

華琳「・・・そうね。けど、河北四州全てを平定したばかりの現状の我らは地盤固めの最中。今兵を動かしては、固めてる地盤が崩れてしまうわ。」

 

司馬懿「確かに・・・」

 

桂花「それだけじゃありません。もし我らが益州に完全に目を向けたら、これを機に江東の孫策らが北進し、この許都を襲う危険性があります。」

 

華琳「そうね・・・軽はずみに攻めては私の覇道も露と消えるわ。」

 

桂花「ここはどう動くか、見極めましょう。そして、それと同時に純様に兵馬を鍛錬させ、いつでも出陣できるように致しましょう。」

 

華琳「分かったわ。純にも、準備させるよう言っておくわ。」

 

桂花「御意。」

 

司馬懿「御意。」

 

そして、華琳は地盤固めと同時に劉備の動きの見極めと、純に兵馬の鍛錬といつでも出陣できるように心構えをするよう言ったのだった。

それから数日後、益州にて反乱を起こした厳顔と共に戦った魏延と黄忠が華琳達の前に現れた。

黄忠曰く

 

黄忠「劉備は、益州の主劉璋殿を卑劣な策で殺しました。最初、私はここにいる魏延と共に劉備の下で益州平定に尽力致しました。劉璋殿が民を蔑ろにする暴君であると聞き、必死に戦いました。」

 

黄忠「しかし、劉璋殿はそのような事をするお方ではなく、寧ろ民を思う心優しいお方だとお聞きしました。現に、益州の民は皆歓迎していなかった。」

 

黄忠「故に、仲間と共に立ち上がって反乱を起こしたが力及ばず、ここにいる魏延と共に逃げて参りました。」

 

華琳「それで、貴方達二人はこれからどうしたいの?」

 

それを聞き

 

魏延「私は劉璋殿と反逆者として処刑されたききょ・・・厳顔様と仲間の仇を取りたい!そして、曹操殿が目指す泰平の世を作るための手助けをしたいです!」

 

黄忠「私も同意見ですわ!是非とも、お力添えを!」

 

魏延と黄忠は拱手して必死に言った。

 

華琳「分かったわ。あなた達の言葉、受け取ったわ。これからは、私の覇道のため、力を貸して頂戴。」

 

そう言い、その後互いに真名を交換した。

 

 

 

 

 

益州・成都

 

 

 

 

 

諸葛亮「桃香様。お呼びですか?」

 

劉備「うん。座って、朱里ちゃん。」

 

諸葛亮「ありがとうございます。」

 

劉備「朱里ちゃん。私達は益州を平定したけど、悪い人達を倒して、皆が笑って暮らせる世を作れるのかな?」

 

諸葛亮「桃香様、そう嘆かれないで下さい。事を急いては、大業を成し遂げられません。お志も高く、配下には千以上の良将を抱え、百万近い兵馬。曹彰さんが攻めてきても、返り討ちに出来ます。」

 

劉備「朱里ちゃん。曹操さんと曹彰さんは私達と違い、力で武力で平和な世を築こうとしているよね。」

 

劉備「けど、それじゃあいつまで経っても皆が望む平和な世を築けないと思うんだ。二人の姿勢は、乱世を深めるだけだし。」

 

劉備「だからね、今すぐ北進し曹操さんと曹彰さんを倒し、天子様をお救いして大業を成し遂げたいと思う。」

 

劉備「私達は益州を平定したばかりで士気も高い。けど、曹操さんは曹彰さんに河北四州全てを平定させたから疲れているはず。今から攻めれば、例え曹彰さんでも容易く倒せると思うんだ。」

 

これを聞き

 

諸葛亮「素晴らしいです!!そこまでお考えとは、敬服致しました!!」

 

諸葛亮は扇を持って拱手した。

 

諸葛亮「しかし、そうなれば戦の最大の鍵は、兵糧と武器です。それで、色々分析したところ、各郡県で六割の税を徴収し、三人に一人を徴兵します。」

 

諸葛亮「そうすれば、新たに25万前後の兵と、150万石の兵糧を確保できます。」

 

これを聞いた劉備は

 

劉備「凄い!!これで大業を成し遂げられる!!」

 

大喜びして立ち上がって諸葛亮の手を取った。

 

諸葛亮「しかし・・・桃香様。愛紗さんと雛里ちゃんは六割の徴税及び三人に一人の徴兵には反対しております。」

 

諸葛亮「もしこれを続けたら、民の負担は重くなるとの事です。」

 

これに

 

劉備「大丈夫。皆きっと分かってくれるよ。残ってる民は、皆私の理想に共感してる人達だから。」

 

劉備は笑顔で答えた。

 

諸葛亮「分かりました。早速、準備に取りかかります。」

 

そう言い、諸葛亮はその場を後にした。

 

 

 

 

 

鳳統「愛紗さん!桃香様が、六割の徴税と三人に一人の徴兵に同意なさいました!」

 

この知らせに

 

関羽「何だと!」

 

関羽は驚きを隠せなかった。

 

鳳統「未だに益州内で私達に反発する者が燻っており、内側は安定しておりません。もう一度、桃香様を諫めましょう!」

 

鳳統は言うが

 

関羽「もう既に二度はお諫めしたのだ。けど、今回命を下されたという事は、桃香様と朱里の北進の決意が固い証拠だ。私とお前が、二度諫めたらまだしも、三度目は許されぬ。」

 

関羽「私達が取るべき道はただ一つ。桃香様を全力でお支えするのみだ。それ以外に道はない。」

 

関羽はそう言うしかなかった。

 

鳳統「・・・はい。」

 

関羽(雛里・・・私達が訴えてももう無駄だ。桃香様は最早現実と理想の区別が全くついておらぬ。どんなに諫めても、頑固なあのお方は耳を貸さぬだろう・・・)

 

そう、関羽は雛里を見ながら心の中でそう呟いたのであった。



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68話

68話です。


益州を平定した劉備は、六割の徴税と三人に一人の徴兵を行い戦に備えた。

 

劉備「ねえ、朱里ちゃん。次はどんな手を打つの?」

 

諸葛亮「次なる手は、朝廷には、未だ曹操さんに不満を持つ者が少なからずおります。その者を使って曹操さんを討ち、その隙に乗じて攻め、天子をお救いするのです。」

 

諸葛亮「そうすれば、必ずや、桃香様の理想とする世の中の完成です。民や天子も、きっと桃香様を歓迎するでしょう。」

 

劉備「成程・・・流石朱里ちゃんだね!早速実行しよう!」

 

そう言い、劉備は諸葛亮の策を実行させた。

 

 

 

 

 

 

耿紀「曹操は大逆無道!天子がいるにもかかわらず蔑ろにし、民を惑わしている!」

 

耿紀「今こそ逆賊を倒し、漢室を救い、益州の劉備様を迎えよう!」

 

「「「逆賊を倒し、漢室を救おう!命を懸けて!」」」

 

耿紀「良し!同志よ、よく聞いてくれ!今宵、曹操は五鳳楼にいる。奴の周りには僅かな兵しかおらぬ。その隙を突いて五鳳楼に奇襲を仕掛け、曹操を斬り殺す!」

 

耿紀「その後天子にお越し願い、国賊討伐をご訓示いただき、劉備様を迎える!」

 

耿紀「既に劉備様の軍師諸葛亮殿と話し合って決めた作戦だ!」

 

金褘「おおー!」

 

韋晃「しかし、曹操の弟曹彰が現れたらどうする?」

 

耿紀「その心配は無い。先に我らが曹操を討ち取り、天子様に国賊討伐をご訓示出来たら、曹彰は逆賊となり、その者に味方する者を逆賊。全ての兵は、皆我らに味方する。」

 

耿紀「そうなれば、曹彰も討ち取れる!」

 

韋晃「成程・・・!」

 

耿紀「これで大勢は決した!漢に殊勲を立てるのだ!」

 

そう言い、耿紀らの反曹操派閥は、夜中に兵を率い、華琳が寝ている五鳳楼に向かった。

そして

 

耿紀「同志よ!私に付いてこい!五鳳楼に攻め入るぞ!行けー!」

 

耿紀は兵を率い突撃した。

 

春蘭「何の騒ぎだ!」

 

曹操軍兵士A「大変です!謀反です!耿紀なる者が攻めてきました!」

 

春蘭「ええい!守りを固めろ!華琳様に決して指一本触れさせるな!」

 

曹操軍兵士A「はっ!」

 

季衣「春蘭様に続けー!」

 

流琉「ここは決して通しません!」

 

これに春蘭は、すぐさま守りを固め、応戦した。

 

香風「ここ・・・絶対に守る!」

 

華侖「華琳姉ぇを守るっすよー!」

 

その場にいた者も、春蘭に続いて応戦した。

桂花と司馬懿は、華琳が寝ている寝室へ急いで向かった。

 

桂花「華琳様!」

 

司馬懿「曹操様!」

 

華琳「桂花!司馬懿!これは何の騒ぎ!?」

 

すると、既に華琳は起きており、絶を持っていた。

 

桂花「耿紀らを中心とした者が、謀反を起こしました!」

 

司馬懿「今夏侯惇殿達が必死に守りを固め奮戦しております!」

 

それを聞いた華琳は、急いで寝室から出て、皆が集まる場所へ向かった。

そこには

 

栄華「お姉様!」

 

柳琳「お姉様!」

 

栄華と柳琳が既にいた。

 

華琳「状況は!」

 

柳琳「今、春蘭様を中心に何とか凌いでおります!」

 

栄華「皆、口々にこう叫んでおります!『逆賊曹操を討ち取り、漢室を救おう!』と!」

 

それを聞くと

 

華琳「・・・愚かな!そんな事して、民が喜ぶと思っているのかしら?」

 

華琳は怒りつつも呆れた顔でそう吐き捨てたのだった。

 

 

 

 

 

一方、純は秋蘭、楼杏、霞、稟、風、三羽烏らとたまたま兵舎にいた。

すると

 

曹彰軍兵士A「大変です曹彰様!曹彰様大変です!四方で殺せとの声が!城中の者が叫んでます!」

 

兵の一人が慌てながら駆けつけてそう言った。

それを聞いた純は

 

純「何て言ってんだ?」

 

そう尋ねると

 

曹彰軍兵士A「そ、『曹操を殺し、漢室を救え』と!」

 

そう答えた。

 

秋蘭「なっ!?」

 

楼杏「何ですって!?」

 

霞「何やて!?」

 

凪「・・・!?」

 

真桜「何やそれ!?」

 

沙和「なのー!?」

 

稟「何と・・・!?」

 

風「っ!?」

 

純「姉上は!?」

 

曹彰軍兵士A「五鳳楼の寝所に!夏侯惇様達もおり何とか踏ん張っておりますが、間もなく火の手が・・・!」

 

それを聞いて

 

純「すぐに出陣する!五鳳楼へ行き、姉上達を救う!」

 

曹彰軍兵士A「御意!」

 

純「お前ら、急ぐぞ!」

 

「「「御意!!!」」」

 

純は兵を率い、五鳳楼へ向かった。

そして、五鳳楼に到着すると

 

純「良いか!反乱兵は全て斬り殺し、五鳳楼の姉上達をお守りしろ!例え五鳳楼が燃え尽きても、姉上達が無事ならそれで良い!」

 

純「『黄鬚』曹彰についてこい!」

 

先頭に立って太刀を抜き、突撃した。

 

「「「おおーっ!!!」」」

 

他の皆も、それに続いて突撃した。

純達の気付いた反乱兵は、そちらにも剣や槍を向けたが

 

純「はあああっ!!」

 

「「「うわあああっ!!」」」

 

純「うおりゃああ!!」

 

「「「ギャアアアッ!!」」」

 

純の無双にどんどん討ち取られていき

 

反乱兵士A「チクショー!曹彰を討ち取れー!」

 

反乱兵士B「左右に囲んで討ち取っちゃえ!」

 

一部の兵士が純の両サイドから槍を突き出して討とうとしたが

 

ガシッ!ガシッ!

 

一人は純にやられ、もう一人は首を絞められ

 

純「うりゃあああっ!!」

 

そのまま倒され

 

純「はあああっ!!」

 

斬られてしまった。

そのまま純は、奥へ奥へ進んで行き、次々と敵兵を斬り殺していった。

彼が通った周りには、反乱軍の兵士の遺体で溢れていたのだった。

 

 

 

 

 

 

 

華琳達は、未だに収まらない兵の鬨の声に少し動揺していた。

 

華琳(純がいるといないじゃ、こうも兵に動揺が生まれるとはね・・・)

 

華琳(私には・・・兵を率いる器は無しか・・・)

 

華琳は、目を閉じつつも動揺している皆に対し、そんな事を考えていた。

すると

 

曹操軍兵士B「曹操様!耿紀が防衛線を突破し、こちらに向かっております!」

 

兵士が跪いて拱手して、耿紀が近くに来ている事を言った。

 

桂花「どういう事!?いくら数が多いからって強すぎるんじゃないかしら!?」

 

曹操軍兵士B「交戦してて気付きましたが、皆我々が使っていない武器を使っており、それぞれ質の良い物でした!故に苦戦しております!」

 

華琳「誰かが裏で糸を引いてるわね・・・」

 

この時、華琳は指を口に当ててそう言うと

 

桂花「恐らくですが、劉備らかと・・・」

 

栄華「孫策の可能性は?」

 

桂花「孫策はこのような小細工をする者じゃ無いわ。このような事をするのは劉備か諸葛亮、もしくは両方が考えたかもしれないわ。」

 

司馬懿「私も同じ意見です。奴らは、我らと相反する者です。」

 

桂花はそう答え、司馬懿もそれに同意した。

 

 

 

 

同時刻

 

 

 

 

 

純「門を開けろ!」

 

純がある者を連れて中に入った。

 

 

 

 

 

 

曹操軍兵士B「曹操様!今すぐ移って下さい!ここはもう危険です!」

 

桂花「この者の言う通りです!早くここを離れましょう!」

 

栄華「お姉様!」

 

柳琳「お姉様!」

 

しかし

 

華琳「何馬鹿な事を言っているの!何故私が逃げなければならないの!我が軍に精鋭がいないと言うのかしら!それは間違いよ!純が来たら、あのような連中を全て斬り捨ててくれるわ!」

 

華琳「どこにも行かないわ!私はここで、弟の助けを待つわ!」

 

華琳は怒鳴り声を上げてそう言った。

その時

 

曹操軍兵士C「曹操様!」

 

兵士の声が聞こえた為、皆それぞれ華琳の前に立った。

目を向けると、純が左手に何かを持ちながら強烈な覇気を身に纏って現れ

 

純「姉上!只今参りました!これは反乱に加わった金褘と韋晃の首!囲んでいた連中は全て俺が殲滅致しました!」

 

金褘と韋晃の首を投げ捨てて言った。

 

華琳「耿紀は?逃がしたの?」

 

この問いに

 

純「はははは!」

 

純は獰猛な顔で笑い

 

純「連れて来い!」

 

曹彰軍兵士「「はい!!」」

 

後ろを振り向き大声で兵士に命令した。

すると

 

耿紀「くっ!」

 

縄で縛られた耿紀が現れた。

 

華琳「耿紀。何故謀反を起こしたのかしら?」

 

耿紀「曹操。謀反を起こしたのは貴様だ!私は漢の為に賊を討つ!」

 

華琳「威勢が良いわね。私は、あなたの九族を全て抹殺できるわよ。」

 

耿紀「子孫が絶えるとも、私は貴様を殺す!」

 

これに

 

ドカッ

 

耿紀「グホッ!!」

 

純が耿紀の腹を思い切り蹴飛ばした。

 

純「テメー!もういっぺん言ってみやがれ!誰を殺すって言ってんだ?ああ?」

 

純「今すぐ斬り殺してやろうか!」

 

そう言い、純は太刀を抜いた。

しかし

 

華琳「やめなさい、純!」

 

純「しかし!」

 

華琳「純!」

 

純「・・・御意。」

 

華琳に止められ、純は太刀を納めた。

 

耿紀「ゲホッ・・・ゴハッ!」

 

華琳「さあ、気が済むまで罵りなさい。罵りを聞くのはいつ以来かしらね。」

 

この華琳の余裕ぶりに

 

耿紀「な・・・何だと?」

 

耿紀は言葉を詰まらせた。

 

華琳「耿紀。一つあなたに聞きたいことがあるわ。」

 

華琳「漢室は日ごとに衰え、腐敗していった。官吏は重税で民を苦しめ、四方八方で反乱が起き、国全体が廃墟と化したわ。」

 

華琳「そこで私が、苦心惨憺して国を立て直して、民が食べるのに困らないようにしたのよ。腐敗し、堕落しきった官吏達も更正させた。外の敵は、ここにいる我が弟が全て斬り殺してくれた。」

 

華琳「微力ながら、私は内政で、弟は軍事で手柄を立ててきたわ。なのに、何故恨み殺そうとしたの?」

 

華琳「あなた達は漢室を、また廃墟と化したいのかしら?」

 

この問いに

 

耿紀「私は道徳を重んじ、生きて聖人の書を読み、死して聖人の道を尽くす!」

 

そう耿紀が返すと

 

華琳「聖人の道が役に立つなら、聖人が天下統一を果たしていたわ!良いかしら。あなたは、愚かなる忠臣よ。腐敗した役人や、愚昧な君主に増し、あなたみたいな愚かな忠臣こそ、憎むべきだわ!」

 

華琳はそう突っ込んだ。

 

耿紀「曹阿瞞め!例え死のうとも、悪鬼となって殺してやろうぞ!」

 

これに、華琳は耿紀の顔を取って

 

華琳「そう!ならばこの顔をしっかり見なさい!この顔を目に焼き付けるが良いわ!あの世に行っても忘れるんじゃ無いわよ!」

 

華琳「あなたみたいな輩は相手にしないわ!あの世に行っても相手にならないわ!」

 

そう強く言った。

 

純「連れて行け!」

 

「「はっ!」」

 

耿紀「賊を殺せー!賊を殺せー!賊を殺せー!」

 

そう叫び続けながら、耿紀は連れて行かれた。

 

華琳「・・・純。」

 

純「ここに。」

 

華琳「命を下すわ。将兵を率いて、劉備達に備えなさい。」

 

華琳「もし攻めてきたら、全て任せるわ。皆も、純の命令に従いなさい」

 

純「御意!」

 

「「「御意!!!」」」

 

それを聞いた純とその他の者は、拱手してその場を後にした。

その後、徹底的に調べ上げた結果、桂花の予想通り諸葛亮が考えた策略である事が分かり、霊帝らに討伐許可を求めたのだがすぐに承諾せず、次の日にまた聞く事になったのであった。



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69話

69話です。


諸葛亮の耿紀を利用して内乱を起こし、その隙に乗じて攻めるという作戦は失敗に終わった。

それを聞いた諸葛亮は

 

諸葛亮「そうですか・・・全く使えませんね・・・」

 

ただただ冷たい目をしてそう述べただけだった。

しかし、諸葛亮はこれを上手く利用しようと考え、彼らの葬儀を行った。

そして、葬儀が始まり、皆が白装束を着ていると

 

関羽「桃香様!!」

 

張飛「お姉ちゃん!!」

 

劉備も白装束を着て現れた。

しかし、その途中躓いてしまい転び掛け、関羽と張飛に肩を抱かれたが

 

劉備「寄らないで!助けなんて無くても立てるよ!」

 

と言い、墓前に近付いて跪き

 

劉備「耿紀さん・・・金褘さん・・・韋晃さん」

 

と涙を流して耿紀と金褘、そして韋晃の名を言った。

 

劉備「ご無念でしたでしょう・・・漢の忠臣でありながら・・・このような目に・・・」

 

劉備「ごめんなさい・・・私が・・・もっとしっかりしてれば・・・あなた達が死ぬ事は無かったのに・・・」

 

そう、泣きじゃくって言っていた。

すると

 

諸葛亮「桃香様・・・この気高き誠の忠臣を殺した曹操さんと曹彰さんを生かしてはおけません!」

 

諸葛亮「桃香様のご命令あれば、曹操さんと曹彰さんを討ち取り、天子様をお救いし、漢の再興を致しましょう!!」

 

諸葛亮が羽扇を手に拱手し、涙を流して言った。

それを聞いた劉備は

 

劉備「朱里ちゃん・・・」

 

諸葛亮の手を取り、共に涙を流した。

 

鳳統「お気を確かに。桃香様、まずはご自愛下さい。」

 

鳳統の言葉に

 

劉備「これが悲しまずにはいられないよ・・・」

 

劉備「この人達は・・・国賊の曹操さん相手に果敢に挑み、死んじゃったんだよ。私の胸は、張り裂けんばかりだよ・・・」

 

劉備は姿勢を崩して泣くばかり。

 

諸葛亮「桃香様。この忠義溢れる者達の仇をお取り下さい!」

 

すると

 

劉備「この仇・・・必ず討つよ。曹操さん達は・・・絶対に許せない!!」

 

劉備はゆらりと立ち上がり

 

劉備「曹操さんは・・・力を使ってこの大陸を混乱と苦しみの世を作ろうとしている・・・私はそれを止め、皆が笑って過ごせる世の中を作りたいと思った。」

 

劉備「けど曹操さんは弟の曹彰さんと一緒に武力で勢力を拡大し、忠義溢れる者達を殺した・・・」

 

劉備「あの人達は・・・この国にとってまさに心臓に相応しい人達の命を奪い、民を苦しめている!!」

 

劉備「必ず・・・その人達を滅ぼし、天子様と民を救ってみせる!!」

 

そう強く述べ

 

劉備「秦宓さん!!」

 

秦宓「劉備様・・・」

 

秦宓を呼び

 

劉備「すぐに・・・曹操さんと曹彰さんを討つ檄文を書いて!!」

 

檄文の執筆を命じた。

しかし

 

秦宓「劉備様、どうかお考え直し下さい!!」

 

秦宓は床に額を付けるほど頭を下げてそう言った。

 

劉備「秦宓さん・・・私に逆らうの?」

 

秦宓「劉備様。確かに曹操は、耿紀殿達漢の臣下を討ちました!」

 

秦宓「しかし、曹操は民の為の政を行い、その弟曹彰は民の為に立ち塞がる敵を斬り殺しております!!」

 

秦宓「此度の騒動は、決して己の欲望の為に耿紀殿達を討ったわけではありません!!」

 

秦宓「確かに劉備様とはやり方は違います!しかし、あの人達も劉備様と同じく真にこの大陸の為、民の為に動いておられるのです!!決して民を苦しめておりません!!」

 

秦宓「この大陸の為、今一度曹操ともう一度話し合い、劉備様の理想をお築き下さい!!」

 

そう、秦宓は必死に諫めた。

 

劉備「またその話・・・何度も言わせないで!!あの人達は力で大陸を統一しようとしているの!皆が手を繋げば良いのに、それを放棄してるの!!」

 

劉備「その人達を止める為に行動するんだよ!!仇も討たなければいけない!!」

 

劉備「もう決めた事なの!!二度と反対しないで!!」

 

そう、劉備は秦宓に言うが

 

秦宓「劉備様!曹操と曹彰の姉弟は固い絆で結ばれており、とりわけ曹彰は『黄鬚』と謳われし大陸きっての武勇と軍才に溢れし名将!曹彰の下、将兵達の人望も厚く結束力も固い!その武勇と軍才、そして将兵との固い絆で、袁紹率いる70万の大軍を退けました!!」

 

秦宓「軽挙妄動を起こせば、袁紹と同じ轍を踏みます!!」

 

秦宓は怯まず必死に諫言した。

しかし

 

劉備「ねえ誰か。この人の首を刎ねて!!」

 

劉備には届かず、秦宓の首を刎ねるよう命じた。

 

秦宓「劉備様!私は死んでも悔いはありません!!」

 

秦宓「されど、それじゃあこの大陸の混乱は収まりませぬ!!劉備様!!」

 

兵に引っ張られながらも、秦宓は諫め続けた。

これには、周りも動揺し

 

関羽「桃香様!!秦宓は口が過ぎましたが、全ては桃香様をご心配しての事です!!」

 

張飛「お姉ちゃん!やめるのだ!!こんなの、お姉ちゃんじゃないのだ!!」

 

関羽は跪き拱手して止め、張飛は必死の表情でそう言ったが

 

劉備「愛紗ちゃん!!鈴々ちゃん!!二度とあんな人を庇い立てしないで!!あんなの、私達の仲間じゃない!!」

 

劉備は怒りの声を上げて関羽と張飛に怒鳴った。

すると

 

鳳統「桃香様。秦宓さんの死罪は何卒ご容赦を!私が檄文をご用意致します!!」

 

鳳統は跪いてそう劉備に言った。

 

劉備「・・・雛里ちゃんに手間は取らせたくない・・・私が書くよ。」

 

諸葛亮「桃香様。秦宓は、如何致しましょう?」

 

劉備「取り敢えず殺さない。ひとまず投獄しておいて。」

 

諸葛亮「御意!では、曹操さんと曹彰さんの討伐が成功した暁には、あの二人の首と一緒に仲良く焼き尽くしてあげましょう。」

 

劉備「うん。流石朱里ちゃん。」

 

諸葛亮「ありがたきお言葉。」

 

劉備「良い皆・・・今回の北伐に反対する人がいたら・・・全て私の敵だからね!」

 

そして、劉備は皆を指差してそう言い

 

「「「承知致しました。」」」

 

劉備はその場を後にし、それに諸葛亮も続いた。

 

関羽「・・・。」

 

張飛「お姉ちゃん・・・」

 

この時、関羽は目を閉じ、眉間に皺を寄せながら苦悩の表情を浮かべ、張飛は悲しい表情を浮かべていたのであった。



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70話

70話です。


耿紀達の葬儀から暫くして、関羽は訓練場にて偃月刀を手に鍛錬をしていた。

一通り終え、休んでいると

 

鳳統「愛紗さん。」

 

関羽「どうした?」

 

鳳統が、張飛と一緒に現れた。

 

張飛「愛紗。皆が噂してるのだ。桃香お姉ちゃんの命令で、朱里が兵隊達の指揮を握っているのだ。愛紗。愛紗の兵隊達の指揮が出来なくなってるのだ。」

 

そう、張飛は関羽に言うと

 

関羽「鈴々。桃香様と仲違いさせる気なのか?」

 

関羽は眉間に皺を寄せながらそう張飛に言った。

 

張飛「そうじゃないのだ!愛紗。他にもこう言っているのだ・・・鈴々達を無視して、全て朱里に兵隊達の指揮と皆のための政治を委ねると!」

 

これに張飛は必死な表情で関羽に言うと

 

関羽「鈴々!お前の耳には戯言しか入らないようだな!!鈴々。お前と私は、桃香様と桃園の契りで固く結ばれた仲だ!!私達は、桃香様の理想の為、命を懸けてお支えするのだ!みだりに憶測するな!!」

 

関羽「百歩譲って、誠に朱里が全権を握っても・・・それが何だというのだ!この地を支配している以上、実力ある者を使うのは当然ではないのか!」

 

関羽は厳しい言葉でそう返した。

その横で

 

鳳統「愛紗さん。今回の鈴々ちゃんの訴えは、妹として愛紗さんの事を心配しているからですよ。」

 

鳳統はそう張飛をフォローして関羽にそう言った。

 

関羽「雛里。桃香様にお詫びの文を書きたい。」

 

鳳統「何で・・・」

 

張飛「愛紗。桃香お姉ちゃんに何を謝るのだ!?」

 

関羽「・・・北伐の事だ。今回の北伐は、天意であるにもかかわらず、愚妹が桃香様を幾たびもお止めした。この愚かな行い、いくら悔やんでも、悔やみきれぬとな。」

 

鳳統「・・・そうですか。」

 

張飛「愛紗・・・」

 

関羽「後でしたためるつもりだ。だが、今はこの偃月刀を振るいたい。二人共、下がってくれ。」

 

鳳統「はい・・・」

 

張飛「分かったのだ・・・」

 

関羽にそう言われ、張飛と鳳統は下がった。

そして、再び関羽は偃月刀を振るっていたが

 

関羽(私は・・・何て無力なんだ・・・!何が民草のための武だ・・・!)

 

そこには、迷いが強く曇りのある動きだった。

 

鳳統「愛紗さん・・・」

 

張飛「愛紗・・・」

 

その様子を、張飛と鳳統の二人は複雑な表情で見ていたのだった。

そして、劉備は20万の大軍を率いて北へ進軍を開始した。

 

 

 

 

 

 

許都

 

 

 

 

 

 

劉備挙兵!この知らせは、許都にも届いていた。

 

純「姉上。劉備が、20万の大軍を率いて進軍をしております。」

 

華琳「そう。やはり兵を挙げてきたわね。」

 

純「それで、陛下の討伐許可は?」

 

華琳「まだよ。もう少し考えさせてくれとの一点張りよ。」

 

実を言うと、耿紀らを処刑してからも、華琳は霊帝に何度も討伐許可を尋ねた。

しかし、霊帝の意見は

 

霊帝「考えさせて欲しいわ。」

 

の一点張りだった。

 

純「ふんっ!どうせ、同じ劉の姓だから討伐を遠慮してるとかの類じゃないですか!」

 

純「何甘っちょろい事を!」

 

これに、純は語気を荒げて言った。

 

華琳「純。一応あれでも天子様なのよ。軽はずみにそういう事は言わないの。」

 

純「分かってますよ!」

 

すると

 

華琳「なら、あなたが説得なさい。」

 

華琳は純にそう言った。

 

純「俺が、ですか?」

 

華琳「ええ。軍の頂点に立っているあなたよ。あなたが言えば、陛下も聞くのではないかしら?」

 

これに

 

純「成程。なら、お任せ下さい!」

 

そう、純は胸を叩いて言ったのだった。

そして、華琳の命令で朝廷の文武百官が集められた。

その外には、銀色の荒野が広がっており、その数四十万。兵士達が掲げるのは、槍、矛、弓・・・。それは空から降り注ぐ太陽を弾き、さながら鉄刃の海原のようだった。

暫くすると、純がいつも戦で着る白き羽織と籠手、そして武骨な軍靴を身に纏い、腰に太刀を帯びながら歩いてきた。

それを見た四十万の将兵は、ズレる事無く揃って跪き拱手した。

純の姿を見た霊帝は、緊張の顔を見せていた。

 

純「陛下。拝謁致します。」

 

そう、純が拱手し、霊帝が拱手し返すと、四十万の将兵は皆立ち上がった。

 

純「先日からここにいる我が姉曹孟徳が申し上げておりました件、劉備の討伐をお認めいただけますか?」

 

それと同時に、純は劉備の討伐の許可を尋ねた。

 

霊帝「いや大都督。劉備は私達の親戚なの。討伐はせず、話し合って解決できないかしら?」

 

しかし、霊帝はそう純に返すと

 

純「あの者は陛下の親戚などと抜かす不届き者であり、先の袁紹討伐の折に朝廷の軍に刃を向け、あまつさえ益州を治めている劉璋様を討った逆賊で、民を苦しめております!」

 

純「温情で生かしても、彼奴は仇で返して、我らを殺した後必ずやこの地を乗っ取り、民を苦しめるでしょう。」

 

純は強く発言した。

 

劉協「曹大都督殿。陛下にもう少し考えさせるお時間を・・・」

 

これに、傍にいる劉協がそう返すと

 

純「何をそう考える必要がおありなのです?」

 

純はそう突っ込み、更に一歩前に出て

 

純「俺が軍を率い、先頭に立って命を懸けて戦っているのは、全ては世のため人のためです!!」

 

純「陛下が賊によって難に遭われた時、その賊を全て斬り殺したのは誰ですか?」

 

純「もし俺が逆賊を討たず、我が姉曹孟徳が民を安んじなければ今頃は、この中原は灰燼に帰していたのかもしれませぬぞ!!」

 

強烈な覇気を前面にぶつけて強く言った。

 

これには

 

霊帝「・・・。」

 

劉協「・・・。」

 

霊帝と妹の劉協は腰を抜かし

 

華琳(凄い覇気ね・・・思わず跪きそうになったわ・・・)

 

華琳でさえも、その覇気に畏怖の念を抱いた。

暫くして

 

霊帝「わ、分かったわ。詔を下すわ。」

 

霊帝「大都督驃騎将軍曹彰。精兵を率い、劉備を討伐せよ。」

 

霊帝は怯えながら純に劉備討伐の許可を取った。

 

純「ありがたきお言葉!!」

 

これに、純は拱手し、すぐに将兵の下へ向かった。

将兵達は皆、純の言葉を待っていた。

 

純「聞け!勇士達よ!」

 

その声と同時に、兵達は己の武器を構え直す。続けざまの金属音が、連なり響く後に生まれた光景は・・・切っ先の揃えられた完璧な凪の稲原だった。

 

純「これより俺達は、この地を攻め滅ぼさんとする劉備を返り討ちにする!!」

 

純「奴らは、陛下に多大なる恩がありながら朝廷に弓を引き、益州を治めていた劉璋様を卑劣な手で殺した逆賊である!!」

 

純「そのような卑劣な者達から、お前達の家族を、友を、恋人を守るのだ!!」

 

純「良いか!!この戦は、俺達に義あり!!」

 

純は覇気を前面に押し出して太刀を抜き、天に掲げてそう叫んだ。

 

「「「応!!応!!応!!応!!」」」

 

それに続いて、鋼の稲原は嵐を受けたように揺らぎ、兵達の喚声は大地を震わせる程で、その声は遙か遠くの地までいつまでも木霊していくのであった。



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71話

71話です。


純率いる曹軍と、劉備率いる劉軍が、共に祁山に到着し、それぞれ陣を構えた。

 

 

 

 

 

曹軍本陣

 

 

 

 

 

 

秋蘭「純様、劉軍の陣が展開していきます。」

 

純「そうか。劉備達もか?」

 

春蘭「まだ・・・いえ、出て来ました!」

 

純「まずは舌戦か・・・。何人か付いてこい。」

 

楼杏「では、私が!」

 

霞「ウチも行くでっ!」

 

哲「俺も行きます!」

 

剛「俺も!」

 

純「分かった。残る皆はそれぞれの持ち場でいつでも出撃できるよう待機だ。秋蘭、稟、風、判断は任せるぞ。」

 

秋・稟・風「「「「御意。」」」」

 

そして、純は馬に乗って行き、劉備と向かい合った。

 

純「劉備!陛下から大恩あるにも関わらず、益州州牧の劉璋様を騙し討ちし、大軍を率いて侵略行為を行うとはどういう事だ!」

 

劉備「曹彰さん、あなたとあなたの姉である曹操さんこそ逆賊です!あなた達のやり方は間違ってます!」

 

劉備「力で制圧して、人を殺して!!だから、あなた達を倒すためにここに来たんです!!」

 

すると、劉備は純の顔を見るなり、そう返してきた。

 

純「それで、テメーはどうやってこの大陸に平和な世を作るのだ?」

 

劉備「皆で話し合い、手を繋ぐ。それで、平和な世の中になります。」

 

純「じゃあ、何でこんな大軍を率いて現れた!」

 

劉備「そ、それは・・・」

 

純「話し合うんだろ?なら尚更大軍いや、兵を率いる必要ねーじゃねーか?」

 

純「んなの、馬鹿な俺でも分かるぞ。」

 

純「それに、かつてテメーは俺らが麗羽との対決の時、背後から攻めようとしたよな。それが大徳を掲げる者の行動か?」

 

劉備「え、えっと・・・」

 

純「テメー、自分の言ってる事とやってる事の矛盾を一切感じてねーんだな。」

 

劉備「違います!私の行動には、矛盾は一切ありません!私の理想は絶対です!何もかもが間違っているのはあなた達です!」

 

劉備「ここであなたを討ち取り、あなたの姉の曹操さんも討ち取り、天子様を救います!そうすれば、民は苦しまない平和な世を築いて見せます!」

 

この時

 

楼杏(これが風鈴さんが可愛がって育てた弟子なのね・・・。風鈴さんの言う通り、理想ばかりに目を向きすぎて現実を見ていない。)

 

楼杏(それ故に己の理想の矛盾に気付いてない・・・風鈴さんが可哀想ね・・・)

 

純の傍にいる楼杏が、劉備を見て軽蔑の目を浮かべていたのだった。

 

純「劉備。俺は難しい話は好きじゃないんでね。これから先は戦にてけりを付けよう。」

 

劉備「・・・分かりました。絶対に私達が勝ちます!だって、私達が正義なんですから!」

 

純「フンッ・・・行くぞ!」

 

そう言うと、純は馬首を返して自陣へ戻ったのだった。

劉備も、自陣へ戻った。

 

 

 

 

 

 

 

純「全軍戦闘態勢に入れ!!己の友、思い人、家族を守る為、侵略者である劉備の軍勢を俺と共に叩き潰せ!!」

 

純「『黄鬚』曹彰についてこい!!」

 

そう言い、覇気を前面に押し出して鼓舞した。

 

「「「おおーっ!!」」」

 

そして

 

秋蘭「弓隊、放てーっ!!」

 

秋蘭の号令で、弓隊全員が、劉備軍に向けて矢を放った。すると、多くの矢が劉備の陣営に届き

 

「「ぎゃーっ!!」」」

 

多くがその矢の餌食となった。それと同時期に

 

真桜「凪!沙和!照準はどないや!」

 

凪「問題は無い!」

 

沙和「距離良し!方向良し!目標、劉備軍に合ってるの!」

 

真桜「よっしゃ!なら、撃てーぃっ!!」

 

投石機も発射され、劉備軍は多くの被害を受けた。

 

諸葛亮「戦車(兵を乗せて運ぶ馬車)隊突撃!!」

 

それを見た劉備軍全軍の指揮権を握っている諸葛亮は、戦車隊を突撃させた。

 

哲「盾隊、前へ!!」

 

それに対し、哲率いる盾隊が前に出て、槍を構えながら防御の構えを取った。そこに突撃していく劉備軍の戦車隊だったが

 

「「「ふん!!」」」

 

「「「うわーっ!!」」」

 

盾に止められその反動で宙に放り出された劉備軍の兵士は、

 

「「「ぎゃーっ!!」」」

 

すぐに槍の餌食となった。

そして、曹軍と劉軍との間に激しい戦が繰り広げられたが、質と士気においては曹軍の方が圧倒的に上なため、曹軍が優勢だった。

対して劉軍は、無理な徴兵や圧政などで兵の心は纏まっておらず、士気もあまり高くなかった。

 

純「良し!騎馬隊!歩兵隊!かかれー!!」

 

霞「お前ら行くでー!!」

 

剛「行くぞー!!」

 

楼杏「突撃しなさい!!」

 

春蘭「突撃だー!!」

 

霞と剛、そして楼杏と春蘭が指揮を取り、それぞれ騎馬隊と歩兵隊を率いて突撃していった。

それに対抗して諸葛亮も騎馬隊を突撃させたのだが状況は変わらず

 

諸葛亮「くっ!!何故押されているのですか!?」

 

諸葛亮は、自軍の不利な状況に焦りが募った。

そして

 

純「稟。風。ここは任せたぞ。」

 

稟「はっ。存分に暴れて下さい。」

 

風「ここはお任せですよ~。」

 

純「頼むぞ。」

 

純「行くぞ!『黄鬚』曹彰についてこい!!」

 

純自ら兵を率いて劉軍に突撃した。

 

純「はあああっ!!」

 

「「「ギャアアアッ!!」」」

 

純「うらあああっ!!」

 

「「「がはあああっ!!」」」

 

純「うおおおっ!!」

 

「「「うわあああっ!!」」」

 

純の相も変わらずの無双ぶりに、劉軍の混乱は更に深まり、劉軍は退却をしたのだった。

こうして、曹軍と劉軍の初戦は曹軍の圧倒的勝利に終わったのであった。



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72話

72話です。


戦いが始まってから半月が経過し、依然として曹軍が優勢であった。しかし、劉軍も不利とはいえ、諸葛亮の策で何とか持ち堪えており、両軍暫くにらみ合いが続いた。

それが暫く続き、月が変わり季節は夏になった。

 

 

 

 

劉軍本陣

 

 

 

 

 

劉軍武将A「劉備様。我が軍は、風土の馴染まない戦地での生活に体調を崩す兵が出てきています。酷暑で水源が枯渇し、汚水を飲むため、疫病が蔓延しています。」

 

劉軍武将A「昨日私が自ら視察に行きましたところ、感染した兵が多く見られ、二つほどの陣営がやられており、その影響で軍は厭戦気分になっております。」

 

諸葛亮「恐らく、これは郭嘉さんの策です。持久戦で私達を弱らせる企みだと思います。」

 

劉備「そうか・・・それで、皆はどう思ってるの?」

 

劉軍武将B「はっ。私が思いますに、ここは一旦、撤退すべきと愚考致します。」

 

この発言に

 

劉軍武将C「私も同感です。今の状態で戦えば、我が軍は敗北致します。」

 

劉軍武将D「私も同感です。」

 

他の将も同意見だった。

 

諸葛亮「私は撤退をしてはならないと思います。」

 

しかし、諸葛亮のみ撤退には反対だった。

 

劉備「どうしてなの、朱里ちゃん?」

 

諸葛亮「もしここで撤退なさったら、世間の者はどう思われますか?私達の大義が、国賊に負けたと感じてしまい、兵の士気は下がってしまいますよ。」

 

劉備「成程・・・確かにそうだね。」

 

劉軍武将A「しかし、このまま戦を続行すれば、飲み水が無くなり我が軍は干上がってしまうぞ!」

 

諸葛亮「この酷暑に苦しんでいるのは、相手も同じ事です!決して退いてはなりません!」

 

劉軍武将A「し、しかし・・・!」

 

すると

 

諸葛亮「誰か!この者を斬って下さい!」

 

諸葛亮が撤退を勧める武将の処刑を命じた。

 

劉軍武将A「お待ちを!私は意見を申したまで!劉備様ー!」

 

これに、他の将は絶句の表情を浮かべた。

 

諸葛亮「今日より、撤退を口にしたら誰であろうと首を刎ねます!」

 

そう、諸葛亮は狂気な表情で言った。

これには、将達は顔を俯かせたのだった。

 

 

 

 

 

 

 

曹軍本陣

 

 

 

 

 

 

純「そうか・・・奴らに動きは無しか・・・」

 

稟「はい。」

 

春蘭「おい稟!ここは一気呵成に攻めるべきではないのか?」

 

霞「ウチも同感や。ひと月は経過しとるが、依然ウチらが有利や。この勢いに乗じて、どんどん攻めれば・・・!」

 

稟「確かにお二方の意見は一理あります。しかし、私には考えがあります。」

 

稟「それまで、ご辛抱いただけますか?」

 

この言葉に

 

剛「ここは軍師殿に従おう。」

 

哲「そうだな。」

 

楼杏「ええ。稟さんの考えに従いましょう。」

 

秋蘭「姉者・・・霞・・・」

 

剛と哲、楼杏と秋蘭は宥めた。

 

純「・・・春蘭。霞。お前達の気持ちは良く分かる。俺も一気呵成に攻めてー。」

 

純「だが、ここは稟の策に従おう。」

 

純「稟。任せたぞ。何かあったら、俺が責任を取る。」

 

稟「御意。」

 

純「風も、良く支えてやってくれ。」

 

風「御意なのですよ~。」

 

そして、その日の軍議は終えた。

暫くして、劉軍の動きに変化が起きた。

それは、劉軍全軍が、暑さに耐えきれず山林の茂みに移動したのだ。

 

稟「フフッ・・・私の思った通りになりましたね。」

 

稟「山林の茂みに入れば、確かに酷暑は避けられる。しかし、そこに陣営を構えるのは、兵法にとって最大の禁じ手。火攻めの機会を与える。それに、ここ最近雨が降っていない為、その状態で火を掛ければ、どれ程燃えるのかしらね。」

 

それを隠密から聞いた稟は、怜悧な笑みを浮かべながらそう呟いたのだった。

 

風「しかし・・・諸葛亮さんがいるにもかかわらずどうしてなんでしょうね~?」

 

稟「さあ。流石の諸葛亮も、これには気付いていますよ。けど、しっかり諫めなかったのかもしれませんね。」

 

 

 

 

 

劉軍本陣

 

 

 

 

 

 

諸葛亮「桃香様!このような山林の茂みの中に布陣するのは、兵法にとって最も忌むべきところ!一旦火攻めを受けたら一巻の終わりです!」

 

諸葛亮「どうかご再考を!」

 

実を言うと、諸葛亮はこの事を劉備に進言していたのだが

 

劉備「大丈夫だよ!聞くところによると、曹彰さんは武勇と兵の統率は凄いけど頭は悪いんでしょ。そんなのに気付くはず無いよ。」

 

劉備「朱里ちゃんの考えすぎだよ。」

 

劉備は呑気にそう返答した。

 

諸葛亮「確かに曹彰さんは武勇と軍才に優れ、戦に長けた猛将でありますが知略が足りないのが欠点です。」

 

諸葛亮「しかし、どのような意見にもしっかり耳を傾ける度量の広い一面も持っております。」

 

諸葛亮「とりわけ、曹彰さんの筆頭軍師の郭嘉さんは神算鬼謀の持ち主!これまでの曹軍の戦では、曹彰さんの武勇と統率力、将兵の精強さが際立っておりますが、郭嘉の知謀のお陰でより活かされているのです!」

 

諸葛亮「どうか・・・どうかご再考を!」

 

諸葛亮はそう必死に諫めたが

 

劉備「大丈夫って言ったら大丈夫!私だって、黄巾の時から戦を見てきたんだよ!少しは戦の流れは分かるもん!」

 

劉備「それにこの戦、正義は私達にあるんだから、必ず勝てるよ!」

 

劉備は耳を貸さなかった。

これに諸葛亮は何か言おうとしたが

 

諸葛亮「・・・。」

 

諦めたのか、顔を俯かせてしまった。

 

 

 

 

 

曹軍本陣

 

 

 

 

 

純「劉備らが、全軍を林に移動した?」

 

稟「はい。劉備らは、この酷暑に耐えかねて、全軍山林に移りました。」

 

風「幅七百里を超え、陣屋は四十余りです~。」

 

この事は、純の耳にも入った。

 

純「それはつまり・・・?」

 

稟「劉備は、これで敗北が決まりました。」

 

これに、純は身を乗り出し

 

純「何故そう思った?」

 

そう稟に尋ねると

 

稟「純様。茂みに駐屯するは、兵法の禁じ手です。しかも、七百里連なっては敵を防げません。」

 

稟「更に、この酷暑で草木が燃えやすく、火攻めを起こせば、劉備は無残な敗北を喫するでしょう。」

 

稟は冷徹に答えた。

 

純「成程・・・確かに俺は、かつて父上と一緒に戦に出たばかりの時、山林の中に陣を敷けば、敵に火攻めの機会を与え、大敗を喫する。決してそのような愚かな事はするなと言われたな。」

 

純「多分だが劉備は、この暑さを凌いで、秋になって涼しくなったら決戦に挑もうと考えたんだろうな。」

 

稟「まさしく!流石は純様です!」

 

純「良し!稟!風!皆を集めてくれ!」

 

そう、純は皆を集めるよう命令した。

 

 

 

 

 

 

純「この戦が始まってもうすぐひと月半が経つ。皆、この厳しい戦いの中よく戦ってくれた。しかし、それももうすぐ終わる。」

 

秋蘭「それは何故でしょうか?」

 

純「フッ・・・稟。」

 

稟「はっ。劉軍は、現在この酷暑と風土と疫病の影響で二つほど陣営がやられております。ただでさえ兵の心が纏まっていない状況でありますから、更に士気は落ちるかと思われます。」

 

純「この劉軍の損失は、大徳を唱えておきながら私利私欲で戦を起こし、人を殺し、大地と民を苦しめた天からの怒りに等しい!!」

 

これに

 

春蘭「はっはっはっは!!よくぞ仰いました、純様!!」

 

秋蘭「そういうことですか・・・!!」

 

楼杏「二十万の劉軍が、不義で病人の群れに成り果てという事ね!」

 

凪「成程・・・!!」

 

真桜「流石大将や!!」

 

沙和「スゴイのー!!」

 

霞「よう言うたでー、純!!」

 

剛「流石です、純様!軍師殿!」

 

哲「スゲぇ・・・!」

 

風「稟ちゃんの知謀は風を遙かに凌ぎますからね~。」

 

諸将は皆、そう讃える声を上げた。

 

純「病だけじゃねーぞ。そうだよな、稟?」

 

稟「はい。皆さん、目の前の山林をご覧になって下さい。」

 

そう、稟は皆に山林を見るよう指を指し

 

稟「乾いた薪が、竈に積み上げられたも同然です。後は火を用意するだけで、劉備らは、無残な目に遭うでしょう。」

 

秋蘭「成程・・・!」

 

純「そしてこの炎は、天地が裂けんばかりの勝利の炎となるだろう!!」

 

この言葉に、皆の心は最高潮に昂ぶり

 

「「「はっ!!!」」」

 

皆揃って純に拱手した。そして、それぞれ準備を進めたのであった。



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73話

73話です。


火攻めの準備を終えたその日の夜

 

 

 

 

 

 

秋蘭「鏑矢を合図とし、蜀軍の軍営に火攻めを仕掛け、敵軍が乱れるのを見て、中へと突撃する!!」

 

春蘭「純様の命だ、逃がすな!!とことん追え!!恐怖を劉備の心に刻み込ませろ!!」

 

楼杏「肝に命じなさい!!この戦、必ず勝つ!!」

 

「「「必勝!!!必勝!!!必勝!!!必勝!!!」」」

 

霞「勝って、ウチらにとって大切な人を守るんやー!!」

 

剛「大義は我らにあり!!」

 

哲「我々は、殿と共にあり!!」

 

「「「曹彰様と共にあり!!!」」」

 

 

 

 

 

曹軍本陣

 

 

 

 

 

純「真桜!!鏑矢を放て!!」

 

真桜「了解!!」

 

純「それと、俺も出撃する!!お前らも共に行くぞ!!」

 

凪「はい!!」

 

真桜「了解や!!」

 

沙和「はいなのー!!」

 

稟「純様。ここはお任せ下さい。」

 

風「ご武運をですよ~。」

 

純の命令で、鏑矢が放たれた。

 

 

 

 

 

それを見た秋蘭は

 

秋蘭「火を点けろ!!」

 

そう命令し、兵達は、矢や投石器の石に火を点け構えた。

そして

 

春・秋・楼・霞・剛・哲「「「「「「攻撃開始ーっ!!!!!!!」」」」」」」

 

そして、大量の火矢と火の点いた石が一斉に劉軍陣営に向けて放たれた。そして、劉軍陣営は一気に火に包まれた。

 

劉軍武将A「逃げるな!!火を消せ!!急げ!!」

 

消火活動しようとするが、尽きること無く火矢などが来るのと、山林の茂みの中にあるため、中々火が消えなかった。その間も、曹軍は容赦なく火矢と火の点いた石が放たれるため、被害はどんどん広がっていった。

 

春蘭「一気に攻め入る!!劉軍を殺せ、突撃ーっ!!」

 

秋蘭「行くぞーっ!!」

 

楼杏「突撃しなさい!!」

 

霞「行くでーっ、皆ーっ!!」

 

剛「この槍の錆としてくれる!!」

 

哲「奴らを殺せーっ!!」

 

そして、曹軍は一気に劉軍陣営に向かって突撃した。

その途中

 

純「俺も加わる!!」

 

純率いる鉄騎兵も加わった。

 

秋蘭「純様!?」

 

凪「私もいます!!」

 

真桜「姐さーん!!」

 

沙和「姐様ー!!」

 

霞「お前らもかいな!?」

 

純「俺は常に戦場に在りだ!!共に戦うぞ!!」

 

純「皆!!このまま劉軍の兵を殺しまくれー!!」

 

純「『黄鬚』曹彰についてこい!!」

 

「「「おおーっ!!!」」」

 

これにより、士気は最高潮に昂ぶり、次々と劉軍の兵を殺していった。

一方の劉備は、目が覚めると

 

劉備「・・・え?」

 

目の前が火で燃えているという状況が全く呑み込めていなかった。

そこに

 

劉軍武将B「劉備様!!」

 

劉軍の武将が入ってきて

 

劉軍武将A「火攻めを仕掛けられました!!火の勢いが強く、多大な犠牲が・・・。」

 

火攻めを食らった事を言った。これには

 

劉備「・・・何で?」

 

劉備は呆然としたままだった。

 

劉軍武将A「はい!!陣屋は全て林の中!!火が点けばひとたまりもありません!!私がここに駆けつけたときは、既に火の海でした!!」

 

それを聞いた劉備は

 

劉備「・・・っ!!」

 

自らの剣である靖王伝家を持って外に出た。

 

劉軍武将A「劉備様!!お待ちを!!」

 

外に出て見ると

 

「「「うわーっ!!!」」」

 

「「「「あちーっ!!!あちーよーっ!!!」」」

 

「「「た、助けてくれーっ!!!」」」

 

阿鼻叫喚とした様子が映し出されていた。

 

純「俺についてこい!!劉軍を皆殺しにしろ!!」

 

秋蘭「皆殺しだーっ!!」

 

春蘭「劉軍を皆殺しにしろー!!」

 

霞「皆殺しやーっ!!」

 

楼杏「容赦はいりません!!」

 

剛「うおーっ!!」

 

哲「うらあああっ!!」

 

凪「はあああっ!!」

 

真桜「おらあああっ!!」

 

沙和「てやーなのー!!」

 

劉軍武将A「劉備様!!早く馬に!!」

 

それを見た劉軍の武将は、早く馬に乗って逃げるよう言ったが、劉備は聞こえないのか、呆然としたまま歩いて行った。

 

劉軍武将A「早く馬にお乗り下さい!!私が何とかお守りし、軍師殿の下へ行かせます!!」

 

その途中

 

劉軍武将B「劉備様!!早く馬に!!」

 

劉軍武将C「早くお乗り下さい!!」

 

他の劉軍の武将も加わり、必死に説得した。

すると

 

劉備「・・・ねえ、何て叫んでるの?」

 

劉備がそう聞いた。

 

劉軍武将A「劉備様・・・」

 

劉備「何て叫んでるのか聞いてるの!!」

 

何言っても言わない劉軍の武将に、劉備は怒鳴るように聞いた。

 

劉軍武将A「・・・曹軍は叫んでいます。口々に、我が軍を皆殺しにしろと・・・!!」

 

それを聞いた劉備は前へ進み

 

劉備「私は退かない!!」

 

劉備「全軍に伝えて!!今こそ決戦の時!!曹軍を皆殺しにしてー!!」

 

劉軍武将B「お願いです!!早く馬に!!」

 

劉軍武将C「そうです!!お早く!!」

 

武将達も必死に止めたが

 

劉備「離して!!」

 

劉備は振りほどいて

 

劉備「行けーっ!!」

 

靖王伝家を抜いて突撃しようとした。

 

劉軍武将A「劉備様をお守りせよ!!」

 

その声を聞いた劉軍の兵士は劉備の盾となり、劉備は死なずに済んだ。

しかし、それでも攻撃が続いたので、盾となった兵は全滅した。

 

劉備「殺せー!!殺せー!!」

 

それでも劉備は叫び続けたが

 

ドシュ

 

劉備「アアーッ!!」

 

腹に流れ矢が当たってしまった。

 

劉軍武将A「劉備様!!」

 

劉軍武将B「劉備様を!!」

 

それを見た劉軍の武将達は、急いで助け起こした。

 

劉備「曹操さんを殺せー!!曹彰さんを殺せー!!」

 

劉備「私に逆らう者皆殺しだー!!」

 

劉備「皆死んでしまえー!!」

 

劉備は、腹に矢を受け、口から血を吐きながらそう叫び続け、周りに抑えられながら退いた。

諸葛亮の方も、多大な犠牲を払いつつも何とか退却した。

この戦いで、劉軍20万の兵のうち、何とか益州に戻れたのは千に満たなかったのであった。



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74話

74話です。


劉備大敗の知らせは、成都にまで届いていた。

 

関羽「それは確かか、雛里!!」

 

鳳統「はい。桃香様率いる20万の兵は、火攻めによりほぼ壊滅。残ったのは、千にも満たないそうです。」

 

鳳統「加えて桃香様が・・・」

 

すると、鳳統は言いづらそうに口ごもった。

 

関羽「言え!!桃香様はどうしたのだ!!」

 

それに、関羽は焦ったような口調で尋ねた。

 

鳳統「と、桃香様が・・・流れ矢を受け、重傷との事です。」

 

鳳統は、トンガリ帽を深く被りながらそう震え声で言った。

 

関羽「そ、そんな・・・!」

 

これには、関羽は呆然とした表情で呟き椅子に座り込んだ。

 

鳳統「愛紗さん。遠距離の進軍とひと月に及ぶ戦で遠征軍は疲弊しているにもかかわらず朱里ちゃんは撤退をせずに無理に戦を進め、夏となって涼を求めた桃香様が大軍を山林に移しました。」

 

鳳統「愛紗さん。この戦は、負けるべくして負けたのです。」

 

すると、鳳統は関羽にそう言った。

 

関羽「・・・そうだな。桃香様と朱里が、このような無理を遠征をせずに力を蓄えていれば・・・」

 

関羽「いや。それ以前に益州を卑劣なやり方で取り、それに反発した民を虐殺したから無理か・・・」

 

そう、関羽は端整な顔を歪ませながら額に手を当てて言った。

 

鳳統「桃香様と朱里ちゃんは、曹彰さんと出会ってから明らかに変わりました。」

 

鳳統「桃香様は益々理想にばかり目を向け、現実を見なくなっており、朱里ちゃんは曹彰さんを己が天敵と見なしております。」

 

鳳統「朱里ちゃんの曹彰さんへの恨みは、明らかに度が過ぎております。」

 

関羽「いや、もう止そう。私は今すぐ一万の騎兵を率いていく。何とか曹彰殿の大軍を釘付けにする。」

 

鳳統「分かりました。愛紗さん。どうかご無事で。」

 

関羽「ああ。」

 

そう言い、関羽は急いでその場を後にした。

 

 

 

 

 

 

劉軍

 

 

 

 

 

 

諸葛亮「桃香様!後しばらくのご辛抱です!!」

 

劉備「・・・うん・・・はあ・・・はあ・・・」

 

劉軍は、負傷していない兵は殆ど無く、とりわけ劉備は重傷を負っていた。

その横で、諸葛亮は劉備の手を取って懸命に声をかけていた。

 

劉軍兵士A「申し上げます!!曹軍が現れました!!」

 

すると、曹彰の軍勢が近くに現れたとの報告が入った。

 

諸葛亮「そんな・・・速過ぎです・・・!?」

 

これに

 

劉軍武将A「ああ・・・もう我らは終わりだ・・・」

 

劉軍武将B「そもそもこんな戦をするのが間違いだったんだ・・・」

 

劉軍武将C「ああ・・・天の怒りを被ったんだ・・・」

 

周りの武将達は、目を虚ろにしながらそう言った。

 

 

 

 

 

 

曹軍

 

 

 

 

 

 

秋蘭「純様!もう少しで劉軍を囲めます!!」

 

純「ああ!皆、戦闘準備にかかれ!!このまま殲滅するぞ!!」

 

「「「おおーっ!!!」」」

 

純の檄に、40万の兵の進軍速度が更に跳ね上がった。

しかし

 

春蘭「うん?純様!!劉軍後方から何かやって来ました!!」

 

春蘭の報告で、様子が変わった。

 

純「あの軍は・・・関羽か。」

 

 

 

 

 

 

 

劉軍

 

 

 

 

 

 

 

劉軍兵士A「申し上げます!!関羽様の軍が現れました!!」

 

この知らせを聞き

 

劉軍武将A「おお・・・関羽様が現れた・・・!!」

 

劉軍武将B「もう安心だ・・・!!」

 

劉軍武将C「これで死なずに済む・・・!!」

 

劉軍の武将達は安堵の表情を浮かべた。

 

劉軍兵士B「関羽様ー!!」

 

劉軍兵士C「ああ・・・関羽様が来てくれた・・・助かった!!」

 

兵達も、皆安堵の表情を浮かべた。

 

諸葛亮「桃香様!愛紗さんが来ましたよ!!」

 

これに、諸葛亮は劉備にそう言うと

 

劉備「・・・うん。良・・・かった・・・愛紗ちゃん・・・」

 

劉備は青白く目に隈が出来ている状態で笑顔を浮かべた。

 

関羽「桃香様!!朱里!!」

 

すぐに関羽が現れ

 

諸葛亮「愛紗さん!!」

 

諸葛亮は喜色満面の顔を浮かべたが

 

関羽「・・・朱里。お前に言いたい事が山ほどある。だが、今は何も言わぬ・・・すぐに下がれ!!」

 

そう、関羽に厳しい表情で言われると

 

諸葛亮「・・・はい。」

 

諸葛亮は少し不満そうな表情を浮かべながら退いていった。

 

関羽「これで、曹彰殿が退いてくれたら良いのだが・・・」

 

劉軍兵士D「関羽様。もし敵が攻めてきたら・・・!!」

 

関羽「そうなったら、私は一歩も退かず、命を懸けてここを通さぬつもりだ!!」

 

そう、関羽は毅然とした態度で言った。

 

劉軍兵士D「そうですか・・・なら、私達も共に!!」

 

劉軍兵士E「私もです!!」

 

劉軍兵士F「私も、関羽様と共に!!」

 

すると、他の兵達も、そう続いた。

 

関羽「お前達・・・分かった!!もし攻めてきたら、共に守ろう!!例え両手両足を失っても、ここを死守するぞ!!」

 

「「「おおーっ!!!」」」

 

 

 

 

 

 

 

曹軍

 

 

 

 

 

 

 

 

楼杏「どうやらここを通さないつもりのようですね・・・」

 

霞「どないする、純?」

 

純「・・・。」

 

すると

 

純「・・・退くぞ。」

 

春蘭「純様!?」

 

純は撤退すると言った。

 

純「このまま攻めれば、平定は容易い。しかし、我らも被害が無いわけでは無い。」

 

純「一旦引き揚げ、戦力を立て直すぞ。」

 

そう、純は引き揚げの命令を下した。

そして、国境に近い場所にて陣を敷き、戦力整備をすると

 

曹軍兵士A「申し上げます。陛下の使者が参られました。」

 

霊帝の使者がやって来たとの報告が入った。

 

純「・・・分かった。」

 

そう言うと、使者が入ってきて、純は下座にて跪いた。

 

使者A「此度の戦で、大都督驃騎将軍曹彰殿は見事な戦功を立てた。」

 

使者A「よって、曹彰殿を驃騎将軍から大将軍に昇格し、大司馬も兼任させる事とする。大都督も引き続き継続せよ。」

 

これを聞き

 

純「拝命致します!!」

 

純は拱手し言った。

 

使者A「それと・・・もう一つある。すぐに許都へ撤退せよとの事だ。」

 

これには

 

純「・・・は?」

 

純は姿勢を崩し、疑問の表情を浮かべた。

 

純「おい、それはどういう意味だ?戦力を立て直し、益州を平定する予定なんだが。」

 

純「陛下御自らのご命令か?」

 

この疑問に

 

使者A「・・・いえ。曹丞相のご命令です。」

 

使者はそう答えた。

 

純「・・・どういう意味だ?何故姉上がそのような命令を下した?」

 

純「劉備らは甚大な被害を被り、力を大いに失った!今こそ、一気に益州を平定する好機ではないのか!」

 

この怒りに近い声に

 

使者A「私も分かりませぬ。とにかく、ご命令に従って下さい。」

 

使者は卒倒しかけたが何とか純に言った。

 

純「・・・ちっ。分かった。軍を引き揚げる。」

 

純「しかし、いつ敵が侵攻してくるか分からねーから、十万の兵を残す。それで良いか?」

 

使者A「・・・分かりました。では、戻る事と兵を一部残す事をお伝え致します。」

 

そう言い、使者はその場を後にした。

そして、純は将兵に引き揚げの命令が出た事を伝え、三十万の兵を率いて許都へ向かったのであった。



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75話

75話


純率いる40万の曹軍が劉備の20万の兵を撃破した事は、許都にも届いていた。

 

華琳「・・・そう。」

 

曹軍兵士A「はい。曹彰様が、劉備を撃破したとの事です!」

 

これには

 

華侖「流石純兄っす!ねえ、柳琳!」

 

柳琳「フフッ・・・そうね、姉さん。」

 

栄華「お兄様・・・!」

 

皆自分の事のように喜んでいた。

 

桂花「これで、劉備らの力は大いに消耗しましたね。」

 

華琳「ええ、そうね。」

 

華琳「近々、天子に上奏して、純を大将軍に昇格させ、大司馬も兼任させるわ。」

 

桂花「それが宜しいかと存じます。軍事の頂に純様を立たせましょう。」

 

燈「これで益々、覇道完遂が近付きましたわ。」

 

華侖「そうっす!純兄は最強っすー!」

 

柳琳「姉さん・・・」

 

これに、桂花は勿論、他の皆も賛成の色だった。

 

華琳「・・・。」

 

しかし、華琳はその皆の思いとは裏腹に、少し怯えたような顔を一瞬浮かべた。

 

司馬懿「・・・。」

 

それを、司馬懿は見逃さなかったのだった。

そして、華琳は霊帝に上奏し、純を大将軍に昇格と大司馬の兼任の許可を取らせ、その事を使者に使わしたのだった。

その日の夜

 

華琳「・・・。」

 

華琳は一人、部屋の中で考え事をしていた。

 

華琳(確かに・・・これまで純は全将兵を任せ、多くの戦に勝利してきたわ・・・)

 

華琳(けど・・・これ以上あの子に功績が上がり続けたら、私の立場はどうなるのかしら・・・?)

 

華琳(皆・・・私に付いてくれるかしら・・・?純について行くのではないかしら・・・?)

 

華琳(私は・・・どうすれば良いのかしら・・・?)

 

そんな事を考えていると

 

司馬懿「曹操様。司馬懿です。宜しいでしょうか?」

 

華琳「良いわ。入りなさい。」

 

司馬懿「はっ。失礼致します。」

 

司馬懿が華琳の前に現れた。

 

華琳「司馬懿。こんな夜に何の用かしら?」

 

司馬懿「はっ。実は、曹彰様の件でご相談があります。」

 

そう、司馬懿は言った。

 

華琳「・・・言いなさい。」

 

司馬懿「はっ。此度の戦とこれまでの戦で、曹彰様は多大なる功績を挙げております。」

 

司馬懿「武勇と軍才に溢れ、将兵の統率にも優れ、まさに『黄鬚』の異名に相応しい。」

 

華琳「そうね。なんたって、あの子は私にとって自慢の弟よ。」

 

司馬懿「しかし、曹彰様は軍の間でも人望が厚く、曹操様直属の近衛兵以外の全将兵を従えており、数々の特権を持っております。それは曹操様を遙かに凌ぎます。」

 

司馬懿「このままでは、いずれ曹操様のお立場の危険を招く恐れがあります。」

 

華琳「・・・何が言いたいのかしら?」

 

司馬懿「曹操様も何度かご覧になったはずです、曹彰様の覇気を。あのお方の覇気は曹操様を、いやこの大陸中どこを見渡してもあのお方以上の覇気はいないでしょう。」

 

司馬懿「曹操様は、あのお方を御する事は出来ますか?」

 

そう、司馬懿は巧言を述べ、華琳に詰め寄った。

 

華琳「そ、それは・・・」

 

これに、華琳は言葉が詰まり、何も言えなかった。

 

司馬懿「曹操様。全ては覇道完遂の為です。曹彰様には、大将軍の昇格と大司馬の兼任はそのままで良いです。」

 

司馬懿「しかし、軍の統率権を剥奪なさって下さい。」

 

華琳「軍の統率権を?」

 

司馬懿「はい。そうすれば、位だけで何の権限もございませぬ。何かあっても、曹彰様は兵を率いれませぬ。」

 

司馬懿「曹操様のお立場は、安心ですぞ。」

 

そう、司馬懿は華琳に言った。

 

華琳「・・・分かったわ。純が許都に戻り次第、軍の統率権を剥奪するわ。」

 

華琳「その際、何か表向きの理由を作って剥奪させるわ。」

 

これに、華琳は目を虚ろにしながらそう司馬懿に言った。

 

司馬懿「流石は曹操様。賢明であらせられます。」

 

司馬懿は、そう拱手して言った。

その際、司馬懿は黒い笑みを浮かべていたのだった。

そして、純は許都に帰還し、霊帝に挨拶をした後、華琳に呼ばれた。

 

華琳「純。今回も良くやってくれたわ。」

 

純「全ては皆の働きのお陰であり、俺はこの太刀を振るったにすぎません。」

 

華琳「・・・そう。それで、大将軍の昇格と大司馬の兼任なんだけど・・・」

 

純「有難き事です。その位に恥じぬお働きをしてみたく存じます。」

 

華琳「そう。けど・・・少し難しい事があるのよ。」

 

純「・・・如何様な事ですか?」

 

華琳「ある者が言ったのよ。聞けば、劉備の軍を撃破し、追撃してると関羽率いる1万の騎兵を見るや交戦せずに引き揚げたと。」

 

純「あれは今無理に攻めれば、被害が拡大する危険があったのです。我が軍も決して被害が無いわけでは無く、一旦戦力を立て直し、整えてから侵攻するおつもりでした。」

 

華琳「まだあるわ。己の地位を守る為に、敢えて関羽と戦わずそのまま侵攻せずに退いたと。」

 

華琳「そうせねば、己の重用もあり得ないからってね。」

 

それを聞くと、純は目を見開き

 

純「姉上!俺は決してそのような事・・・!」

 

跪いて拱手して言うと

 

華琳「まだあるわ。全将兵を従え、大いなる力を持っている為、それを利用して私を引きずり下ろし実権を握り、自ら大軍を率い天下を争うのでは、とね。」

 

そう、華琳は純に言った。

それを聞いた純は

 

純「・・・姉上。そんなの・・・断じてありませぬ!俺はそのような事、全くございませぬ!」

 

純「讒言に惑わされないで下さい姉上!!どうかご明察を!!」

 

そう、頭を下げて言った。

 

華琳「純。こんな出鱈目、私は一切信じないわ!例えこの命が尽きても信じないわよ!」

 

これに華琳は、純の手を取ってそう言った。

この言葉に

 

純「そうです!!流石は姉上です!!」

 

純は顔を上げ、華琳に言った。

 

華琳「けどね純、いくら私でも失態は見過ごせないのよ。」

 

純「全ての責任は俺にあります。どうかこの俺の命を以て謝罪の意を示します!」

 

華琳「馬鹿な事言わないで!私にとって、あなたは可愛い弟なの!守りたいの!位はそのままにするわ。」

 

華琳「ただし、軍の統率権を剥奪するわ。暫くは、ゆっくり休みなさい。」

 

これに

 

純「っ!?」

 

純はショックを受けた表情を浮かべ

 

純「ははは・・・」

 

涙を流しながら乾いた笑い声を上げた。

そして

 

純「・・・結構です。よく分かりました。」

 

純「陳留に戻ります。そこで、暫く休みたく存じます。」

 

そう、華琳に言うと

 

華琳「いいえ、その必要は無いわ。許都の屋敷にてゆっくり休みなさい。」

 

華琳は純の手を離し、後ろを向きながら言った。

これに

 

純「・・・仰せの通りに。」

 

純は拱手してそう言い、立ち上がってその場を後にした。

その際、あまりにもショックだったのか、ふらつきながら出て行ったのだった。

 

華琳「・・・これで良いのね、司馬懿?」

 

すると、華琳はそんな事を言うと

 

司馬懿「・・・はい。それで宜しいです。」

 

司馬懿が突然部屋の一角から現れた。

 

華琳「これを聞いて、劉備らは攻めてこないかしら?」

 

司馬懿「それは杞憂かと。劉備は先の戦の大敗で力を大いに失っております。立て直しには時間がかかります。」

 

司馬懿「その間、我らは更に力を蓄え、将来のために曹操様の下一枚岩に纏めねばなりませぬ。」

 

華琳「そう・・・それじゃあ、国境にいる十万の兵に、私の命を伝えさせなさい。」

 

華琳「ただちに許都へ引き返し、待機せよとね。」

 

それを聞いた司馬懿は

 

司馬懿「曹操様。それは難しいかと存じます。」

 

そう発言すると

 

華琳「・・・何故かしら?」

 

華琳の目の色が変わった。

 

司馬懿「先日申した通り、曹操様直属の近衛兵以外の全将兵が従うのは曹彰様ただ一人。たとえ曹操様のご命令でも、思い通りには動かぬかと・・・」

 

それを聞くと

 

バンッ

 

華琳は傍の机を叩いて

 

華琳「曹家を継いでどれだけ経つの!兵の主は私なのか純なのか!」

 

司馬懿「っ!」

 

華琳「伝令を送りなさい・・・軍を引き返させるのよ!命に従わないなら、斬りなさい!!」

 

そう怒鳴ったのであった。



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76話

76話です。


成都

 

 

 

 

純に完膚なきまでの大敗を喫した劉備達。しかし、20万いた大軍は僅か千足らずとなってしまい、劉備も重傷を負って非常に危険な状態で士気も悪くなっていた。

また、今回の大敗で成都の周辺がいつ反乱が起きてもおかしくなかった。

 

益州民A「おい聞いたかよ。劉備の奴、死にそうらしいぜ。」

 

益州民B「ああ。諸葛亮と一緒に俺達を散々苦しめ、挙げ句の果てに無理な徴兵で戦をしたんだ。今回の大敗も、きっと劉璋様が天から罰を与えたに違いないぜ!」

 

益州民C「ああ!俺の隣の人、あの戦で旦那を亡くしちまったんだ!」

 

益州民D「ああ・・・それを諸葛亮は何の謝罪も無しだ!馬鹿にしてんのかよ!」

 

益州民E「けど・・・関羽様が自ら謝罪に来てくれたから何とか怒りを抑えてるけどよ・・・いくら何でもあんまりだぜ!!」

 

益州民F「関羽様がこの益州の主になってくれたらなぁ・・・」

 

益州民G「ああ・・・関羽様は強いだけじゃ無く、俺達民を見てくれる心の優しいお方だ。あの人がもしこの益州の主になったら、俺達はあの人に一生ついて行くつもりなんだがな・・・」

 

そう、益州の民は劉備と諸葛亮の悪口を言い、逆に関羽の事を褒め称える内容を話していた。

一方の劉備は、日に日に悪化していった。

傍で見ている諸葛亮は、必死に看病をしていた。

 

諸葛亮「桃香様・・・何かお召し上がり下さい。」

 

諸葛亮「お体に障ります。」

 

関羽も

 

関羽「桃香様!お願いです!どうか、御身をお労り下さい!」

 

跪いて必死に拱手して言った。

しかし

 

劉備「・・・いらない・・・」

 

劉備は頑なに食事を口にしなかった。

 

関羽「桃香様・・・!」

 

劉備「・・・い・・・らないって・・・言ってるの!」

 

劉備「ゴホッゴホッ!!」

 

そう怒鳴ると、劉備は辛そうにむせた。

 

諸葛亮「桃香様!」

 

劉備「ハア・・・ハア・・・愛紗・・・ちゃん・・・出てって。」

 

関羽「・・・え?」

 

劉備「出てってって・・・言った・・・の!」

 

劉備「助・・・けに・・・来てくれ・・・ない・・・愛紗・・・ちゃんなんか・・・!」

 

劉備「ゴホッゴホッ!!」

 

諸葛亮「桃香様!まずは落ち着いて!」

 

諸葛亮「愛紗さん。ひとまずは、お部屋を・・・!」

 

関羽「・・・ああ。鈴々達の様子を見てくる。」

 

そう言い、関羽は辛そうな表情を浮かべながら部屋を後にした。

 

諸葛亮「桃香様・・・」

 

劉備「・・・ねえ・・・朱里・・・ちゃん・・・」

 

劉備「何・・・で・・・私達・・・は・・・負け・・・ちゃったの・・・?」

 

すると、劉備は諸葛亮にそう尋ねた。

 

諸葛亮「桃香様・・・」

 

劉備「わ・・・私達・・・は・・・正・・・義・・・の・・・戦・・・を・・・した・・・筈だよ・・・」

 

劉備「なのに・・・何で・・・私達は・・・負けたの・・・?」

 

これに

 

諸葛亮「それは・・・」

 

諸葛亮は何も言えなかった。

 

劉備「悪い・・・のは・・・あの人・・・達なのに・・・何で・・・なの・・・?」

 

そう、劉備はそう言い続けた。

 

諸葛亮「桃香様・・・全ては桃香様に逆らう者が悪いのです。桃香様は何も悪くありません。」

 

諸葛亮「だから・・・ゆっくりお休み下さい・・・」

 

諸葛亮「全ては、この私が何とか致します。」

 

これに、諸葛亮はそう返答した。

 

劉備「・・・うん。頼んだよ・・・朱里ちゃん・・・」

 

劉備「私達・・・の・・・正義が・・・正しいんだって・・・証明・・・してみせて・・・ね。」

 

諸葛亮「・・・はい。」

 

劉備「それと・・・もう一つ・・・」

 

すると、劉備が上体を起こすと

 

劉備「絶対に・・・私のお墓の前で・・・曹操さんと・・・曹彰さんの首を・・・そ・・・な・・・え・・・て・・・」

 

そう言い遺し

 

バタリ

 

そのまま倒れ、動かなくなった。

 

諸葛亮「桃香様!?」

 

これに、諸葛亮は大声を上げた。

しかし、劉備は二度と口を開く事は無かった。

こうして、一介の庶民から成り上がった劉備は、大志を果たせぬままその生涯を閉じたのであった。



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77話

77話です。


許都

 

 

 

 

 

劉備の死は、許都にも届いていた。

 

華琳「そう・・・劉備がね・・・」

 

司馬懿「はっ。先の戦による怪我が元で・・・」

 

華琳「・・・そう。」

 

司馬懿「・・・曹操様?」

 

華琳「・・・ああ、ごめんなさい。」

 

司馬懿「いえ・・・何をお考えになっておりましたか?」

 

華琳「・・・ええ。純の事よ。」

 

華琳「あの子、今何をしているのかしら?」

 

司馬懿「曹彰様は、今屋敷に籠っておいでです。時々庭にてお持ちの剣を振るったりしておられます。」

 

華琳「・・・そう。屋敷の周りにいる兵は、全て純の直属の兵なのは知ってるわね?」

 

司馬懿「はい。如何致しましょう?」

 

華琳「決まってるでしょ。全ての兵に守りを解くよう命じなさい。」

 

司馬懿「・・・御意。」

 

そう命令され、司馬懿はその場を後にした。

 

 

 

 

 

 

純の屋敷

 

 

 

 

 

その頃純は、屋敷の庭にて、太刀を振るっていた。

 

純「はっ!ふっ!はあっ!」

 

その立ち振る舞いは、まるで一種の舞の如く流麗だったが、どこか辛そうな顔だった。

その姿を

 

秋蘭「・・・。」

 

稟「・・・。」

 

秋蘭と稟は今にも泣きそうな顔で見ていた。

その時

 

剛「純様!」

 

剛が現れ

 

剛「本当に、これは一体どういう仕打ちなのですか!!」

 

そう怒鳴った。

 

純「剛・・・」

 

秋蘭「剛・・・」

 

剛「曹操様のこの仕打ちはあまりにも酷すぎます!!」

 

剛「勝って戻ったにもかかわらず、位を授かっただけで軍の統率権を失い、形だけの位になりました‼︎まるで飾りです!!」

 

そう、怒りの声をあげていた。

 

純「姉上を責めるな。全ては、あの時軍の立て直しと言って撤退をした俺が悪いんだ。」

 

それに純は剛にそう言ったのだが

 

剛「司馬懿は純様と比べて、戦の功は然程無いのに、何故ああも口を出すのか!!」

 

剛「純様のは、決して過ちでは無いにもかかわらず、敢えて大きな過ちだと大ごとにする!!」

 

剛「曹操様の考えが読めませぬ‼︎」

 

純「黙れ!!」

 

剛「曹操様は愚かな主!!そのお側にいるのは讒言をする奸臣!!」

 

剛「このままでは、あなたは不名誉な最期を迎えますぞ!!」

 

剛の怒りは収まらず、そう純に怒りに身を任せて言った。

それを聞いた純は

 

ドガッ‼︎

 

剛「っ‼︎」

 

剛を殴り

 

純「馬鹿な事を言うんじゃねー‼︎良いか‼︎これ以上、姉上の悪口を言えば、この俺が許さねーぞ!!」

 

純「お前の首を斬って、姉上に送るぞ!!」

 

そう怒鳴った。

 

秋蘭「剛・・・お前は知っているのか?純様は・・・先の戦で、なぜあの時無理して益州を攻めなかったか・・・ずっと後悔して、華琳様に詫びの文を書いていたのだぞ。」

 

稟「剛殿・・・あなたのお気持ちは痛い程理解出来ます。しかし・・・純様の友でもあるなら、お気持ちを察してあげて下さい。」

 

剛「っ!!」

 

純「・・・全ての罪は俺にある。これで許せとは言わねー。」

 

純「だが・・・将兵は、俺にとって皆家族同様だ。そいつらには、働きに報いてそれ相応の恩賞を授けるように頼む。」

 

純「だから・・・これ以上姉上を責めないでやってくれ・・・」

 

そう言われると

 

剛「・・・」

 

剛は何も言えなかった。

その頃

 

司馬懿「そなたら、この屋敷の守りを解くようにと曹操様のご命令だ。」

 

司馬懿が、純の屋敷を守備している兵に守りを解くよう命令した。

 

曹彰軍兵士A「お断り致す。」

 

しかし、兵はその命を拒否し

 

司馬懿「・・・何故だ?」

 

曹彰軍兵士A「我らは曹彰様と共にあります。たとえ曹操様のご命令でも、我らは従いません。」

 

そう毅然と返した。

周りの兵も、同じように毅然とした態度だった。

これに

 

司馬懿「・・・そなたら、命に背いた罪で首を刎ねられたいか!」

 

司馬懿はそう脅したが

 

曹彰軍兵士A「ほお・・・?斬れるなら斬ってみろ!」

 

曹彰軍兵士B「そうだ!やってみろ!」

 

兵士は怯む事無く、そう返した。

これには

 

司馬懿「クッ・・・!」

 

司馬懿は何も出来ず、そのまま引き返してしまった。

 

純「何か騒がしいと思ったら、お前ら・・・」

 

すると、純が呆れ顔で言いながら現れた。

 

「「「曹彰様!!!」」」

 

「「「我らどうなろうとも、曹彰様と共に!!!」」」

 

これに、兵士は皆拱手してそう声を揃えて言った。

 

純「お前らの気持ちには感謝する。だが、姉上をこれ以上困らせるな。良いな?」

 

そう、純は兵にそう言ったのだった。

 

 

 

 

 

 

司馬懿(ううむ・・・ここまで結束が強いとは・・・)

 

司馬懿(ここで守りを解き、時期を見計らって曹彰を暗殺に見せかけて殺し、曹操を操って大陸を統一した後に私自ら曹操を殺し、天下を取るつもりだったのだがな・・・)

 

司馬懿(国境の兵も、難しいだろうな・・・)

 

この時、司馬懿は胸中でそう思っていた。

実を言うと、彼は表向きは忠実な臣下として華琳に仕えているのだが、その心中は途轍もない野心を秘めており、自らが天下を取ってこの大陸を支配する考えを持っていたのだ。

その為に、覇者たる素質を持っている者に近付き、実権を握り機が熟したら自ら天下を取るための行動を開始する事を考えていた。

 

司馬懿(ううむ・・・)

 

そう心の中で唸りながら、司馬懿は歩いていたのだった。

 

 

 

 

 

 

桂花「華琳様!純様から全軍の統率権を取り上げたのは本当ですか!?」

 

その頃、桂花が華琳の元に現れてそう尋ねた。

 

華琳「・・・ええ。したわ。」

 

桂花「何故そのような!?」

 

華琳「私の将来の為よ。このままじゃ、私の立場が危うくなるわ。司馬懿の意見を汲み入れて、純を大将軍の昇格と大司馬の兼任をさせる代わりに全軍統率権を剥奪したのよ。」

 

桂花「しかし華琳様!!我が全軍の将兵が従うのは純様です!!そのような事をして、将兵に大きな悪影響を与えかねません!それに、このような事を喜ぶのは諸葛亮ただ一人です!!」

 

華琳「黙りなさい桂花!!」

 

桂花「華琳様!!司馬懿という男をこれ以上信じてはなりませぬ!!」

 

華琳「桂花!!これ以上言うなら、許さないわよ!」

 

桂花「っ!」

 

華琳「下がりなさい!!」

 

桂花「っ!・・・御意。」

 

これに、桂花は何も言えず、下がった。

暫くすると

 

栄華「お姉様・・・」

 

栄華が、華侖と柳琳と共に現れた。

 

華琳「あなた達、何の用かしら?」

 

この言葉に

 

栄華「お兄様の事ですわ。」

 

栄華は毅然とした態度で言った。

 

華琳「・・・言いなさい。」

 

栄華「お姉様。今我らは、逆賊を討ち滅ぼし、覇道を成し遂げんとする時です。にもかかわらず、お兄様を大将軍に昇格させ、大司馬も兼任させておきながら全軍の統率権を剥奪なさるとはどういう事ですの?」

 

華琳「・・・私の将来の為よ。あの子は、将兵の間でも人望厚く、全将兵を従えているわ。加えて、数々の特権も持っている。」

 

華琳「今のあの子の力は危険だわ。下手したら私に牙をむく恐れがある。だから、統率権を剥奪したのよ。」

 

栄華「お兄様はそのような事を考えるお方ではありませんわ!お姉様、今すぐ統率権を元に戻し、お兄様を復帰させて下さいまし!!」

 

華侖「華琳姉ぇ。それじゃあ、純兄ぃが可哀想っすー。」

 

柳琳「お姉様・・・私も姉さんの意見に同感です。これではお兄様が不憫です。」

 

そう、栄華達がそう訴えても

 

華琳「いいえ。これは決定事項よ!」

 

華琳は耳を貸さなかった。

すると

 

栄華「・・・そうですか。分かりましたわ・・・」

 

栄華はそう呟くと短剣を取り出し

 

華琳「っ!?」

 

栄華「お兄様にもしもの事あれば、お姉様を刺し、私も死にますわ!」

 

そう強く言った。

 

華侖「栄華!?」

 

柳琳「栄華ちゃん!?」

 

華琳「やめなさい、栄華!!」

 

栄華「私にとって、お兄様が全てなのですわ!!お兄様が笑ってない世など・・・ましてや、お兄様がいない世なんて・・・私は・・・!」

 

栄華「それを作るお姉様は・・・!」

 

そう、いつでも華琳に突進する構えを見せた。

 

華侖「やめるっす栄華!!」

 

その時、華侖が真っ先に栄華を抑え、短剣を取り上げた。

 

栄華「何をするんですの、華侖さん!!」

 

華侖「ここで華琳姉ぇを殺しても意味ないっすよー!!やめるっすー!!」

 

柳琳「姉さん・・・!お姉様、栄華ちゃんを下がらせます!しかしお姉様・・・今暫く、良くお考え下さい!」

 

栄華「柳琳さん!何をなさいますの!!華侖さんも!!お離し下さいまし!!」

 

そう言い、柳琳は華侖と共に栄華を抑え、下がったのだった。

 

華琳「・・・。」

 

これに、華琳は一人頭を抱えたのであった。



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78話

78話です。


純の一件で疲れていた華琳。

 

華琳(幼い頃・・・私は純と比べられてきた・・・)

 

華琳(将兵を率いて先頭に立ち、戦場を駆け抜ける才は全く持ってないと・・・)

 

華琳(けど・・・私は・・・純のような武勇と軍才が無くても・・・お父様のお陰で自分の才に気付いた・・・)

 

華琳(私には・・・王の器があると・・・)

 

華琳(だから私は・・・あの子に劣等感を抱かずに済んだ・・・)

 

華琳(一緒にいるだけで・・・安心できたし、対等になれるって思ってた・・・)

 

華琳(けど・・・あの子が戦で功績を立てれば立てるほど・・・どんどん覇気が強くなってきて・・・あの子を御する自信が無くなってきた・・・)

 

華琳「いつだったかしら・・・あの子が怖くなったのは・・・?」

 

そう、考えつつ呟いた。

その時

 

使者A「只今戻りました。」

 

益州との国境の兵に許都へ撤退するように使わした使者が戻ってきた。

 

華琳「・・・そう。撤退はさせたかしら?」

 

この問いに

 

使者A「はっ。皇甫嵩殿、張遼殿、夏侯惇殿、程昱殿らが申しますには、『撤退すれば、劉備が亡くなり敵に大打撃を与えたが、諸葛亮はその隙を見逃す筈が無いと。どうか、ご検討いただきたく存じます。』との事です。」

 

そう使者は言った。

これに

 

華琳「何ですって?検討しろ?馬鹿な事を言わないで!!」

 

華琳「劉備は亡くなり、力を大いに消耗した敵が北進するというのかしら!」

 

華琳「私に逆らった口実よ!今すぐその四人を斬りなさい!」

 

華琳はそう怒鳴った。

その時

 

??「いい加減にしなさい、華琳!!」

 

華琳「っ!?」

 

とある女性が華琳の前に現れた。

その者は

 

華琳「お母様・・・」

 

華琳の生みの母だった。

 

華琳「お母様・・・最近苛立つ事が多く、つい逆上しました・・・」

 

華琳母「華琳。あなたは・・・父のご遺言を忘れたのですか?」

 

華琳「っ!」

 

華琳母「戦の事、将兵の事は純に委ねさせるように。あなたは領国内の事を考え互いに力を合わせなさいと。」

 

華琳母「あなたはそれを忘れ、臣下の巧言を聞き入れ、将兵から人望厚い純を冷遇すれば、皆の気持ちは離れてしまいます。」

 

華琳母「純の支えが無ければ、今のあなたは無いのですよ。」

 

華琳「お母様・・・」

 

華琳母「確かに純は・・・最近のあの子は益々風格が出て参りましたし、一段と覇気も強くなりました。」

 

華琳母「しかし、どんなに出世しても、あの子の気持ちは昔から何も変わっていません。兵士の事だけじゃなく、常に曹一門の事、あなたの事を守ろうとしております。」

 

華琳母「華琳・・・あなたは、純の事が嫌いですか?顔も見たくないのですか?」

 

この問いに

 

華琳「嫌いではありません!!」

 

華琳「純は・・・あの子は・・・私にとってたった一人の大切で可愛い弟なのです!あの子にもしもの事があったら・・・私は・・・!」

 

華琳は涙を流しながら答えた。

 

華琳母「なら・・・仲直りしなさい。」

 

華琳母「あなたが理想を叶えるには、主君と臣下の心を一つにする事ですよ。」

 

華琳母「純とは・・・仲違いしてはいけません!必ず、それを敵に突かれ、滅ぼされますよ。」

 

これに、華琳の母はそう諭したのだった。

それを聞き、華琳は目の光が戻り、純の屋敷へ向かった。

 

 

 

 

 

純の屋敷

 

 

 

 

 

純の屋敷に向かった華琳。

 

曹彰軍兵士A「これは曹操様。我が閣下に何かご用で?」

 

これに、純の屋敷を守っている兵は、通さないように槍を構えた。

 

華琳「純に会いたいわ。通してくれないかしら?」

 

そう言うと

 

曹彰軍兵士A「たとえ閣下の姉君であろうと、讒言を真に受け、我が閣下を虐げる者に会わせるのは御免被ります。」

 

兵士はそう言い、華琳を通さなかった。

 

華琳「それは分かってるわ。全て私の過ちである事も。けど、許して欲しいとは言わないわ。けど今は、純に会わせて。」

 

これに、華琳は怯まずそう答えた。

それを聞いた兵士は

 

曹彰軍兵士A「・・・良いでしょう。しかし、もし閣下の御身に何かあれば、あなたであろうと許しは致しませぬ。」

 

そう、華琳に言い、通すのを許した。

そして、屋敷の中に入り、暫く待っていると後ろから誰か来る気配がしたので振り返ると純が歩いて来て

 

純「拝謁致します。」

 

と拱手して言った。

それを見た華琳は

 

そっ

 

純「姉上?」

 

純を抱き締めて

 

華琳「ごめんなさい、純。今回は、全て私が間違っていたわ。」

 

と涙を流しながら謝った。

そして、抱擁を解き

 

華琳「私とあなたは、腹違いとはいえ、同い年の姉弟。あなたは、私のお母様を実の母の様に大事にしてくれたわね。」

 

華琳「かつてお父様が亡くなった時、あなたは率先して臣下の礼を取って皆を纏めてくれて、多くの戦にも勝利してくれた。あなたがいなければ、私は志半ばで命を落としていたわ。」

 

純「・・・っ。」

 

そう優しい声で純に言った。

 

華琳「亡きお父様は、今際の際にこう言い遺したの。『戦の事は全て純に任せ、お前は国の事を考えて互いに力を合わせ、助け合い、大業を成せ』ってね。」

 

純「・・・っ!」

 

華琳「あなたは私にとって、皆にとってかけがえのない存在よ。今回の事は、本当にごめんなさい。」

 

華琳「お父様の遺言に背いてしまったわ。あなたに謝罪するわ。」

 

そう言い、華琳は拱手して頭を下げようとしたが

 

純「姉上!主君たる者、そう頭を下げては・・・!」

 

純は慌てて華琳を止めた。

 

華琳「純・・・。」

 

すると、華琳は純の手を取って

 

華琳「主君と臣下といえど、それ以前に私達は血の繋がった姉弟よ。私は人間だから、過ちも犯してしまうわ。けど弟として、私を許してくれないかしら?」

 

そう言った。それを聞いた純は

 

純「姉上、それ以上・・・何も仰らないで下さい!」

 

と華琳に言った。

 

華琳「では将兵の統率権をあなたに譲るわ。これより、大将軍大司馬大都督として、全兵馬を率いなさい。」

 

この言葉に

 

純「はっ!」

 

純は跪いて拱手した。

そして、華琳は純の屋敷を後にし、司馬懿を呼んだ。

 

華琳「司馬懿。純に、将兵の統率権を戻したわ。」

 

これに

 

司馬懿「っ・・・何故なのです!?」

 

司馬懿は驚きの声を上げた。

 

華琳「私は純を・・・弟を信じるわ。たとえ誰でも、純を貶める発言をする者は許さないわ!」

 

華琳「けど司馬懿。あなたはこれまで私に仕えて手柄もあるわ。それで、純に傘下に入りなさい。」

 

華琳「純の下で、益州平定の力になりなさい。」

 

と、華琳は上の者に相応しい堂々とした雰囲気で言った。

 

司馬懿「・・・御意。」

 

これに、司馬懿は頭を下げ拱手したが、その顔は酷く歪んでおり

 

司馬懿(どういう事だ・・・?何故こうも仲が戻った・・・?)

 

司馬懿(クソッ・・・!計画を変えねばなるまいな・・・)

 

そう心の中で呟いた。

 

華琳(成程・・・この司馬懿・・・誰かの下で満足するような者では無いわね・・・)

 

華琳(こうして冷静に見ると、それが良く分かるわ・・・)

 

この時、華琳は司馬懿の野心を察したのであった。



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79話

79話です。

長らくお待たせして大変申し訳ございません。

どうぞ。


建業

 

 

 

 

 

江東の建業を拠点としている孫策らは、ある者と対面していた。

 

使者A「と言うわけですが、宜しいでしょうか?」

 

その者は、諸葛亮が送った使者であった。

何の用で来たのかというと、一言で言えば同盟締結に来たのだ。

 

孫策「・・・。」

 

それを聞いた孫策は

 

孫策「申し訳ないけど、その申し出、断らせておくわ。」

 

と使者にそう返した。

 

使者A「な、何故ですか?このままでは、いずれ曹操の弟である『黄鬚』曹彰にこの地を平定されますよ!?」

 

孫策「そんなの分かっているわ。けどね、民を第一に考える劉璋を処刑して、益州を手に入れる卑劣な者とは私は組みたくないの。」

 

孫策「加えて、それに抗議した民を殺し、強引に戦を進めた挙げ句に多くの命を散らした。」

 

孫策「そのような事をする者とは組まないわ。」

 

孫策「諸葛亮に伝えなさい。あなたのような卑劣な者とは手を携えないと!」

 

そう、孫策は『江東の小覇王』の異名に相応しい覇気を出して使者に言った。

 

使者「は、はい・・・」

 

これに、使者は怯えたように返事をして、その場を去った。

 

孫策「これで良いのよね、冥琳。」

 

孫策は、傍にいる眼鏡をかけた稟に少し似た怜悧な美人に言った。

彼女の名は周瑜。孫策とは『断金の交わり』による固い絆で結ばれた友で、冥琳は彼女の真名だ。

 

周瑜「ええ。それで構わない。諸葛亮と手を結んだら、それこそ我が身の破滅だわ。」

 

孫策「・・・そう。」

 

陸遜「しかし・・・諸葛亮さんも焦っているのでしょうか~?先の戦で大敗を喫し、劉備も戦傷が元で亡くなりました。」

 

陸遜「その影響で、益州内では国力が大いに消耗し、諸葛亮に対する不満が日に日に高まっているとか。」

 

呂蒙「はい。それに対して諸葛亮は、その者らを次々と粛清をしているとか。」

 

張昭「うむ。諸葛亮め、国は民の支えなくして成り立たずという言葉が分からぬのか・・・」

 

張昭「劉備も生前その事がよう分からぬような行動を取っておったしのう・・・」

 

黄蓋「人というのはよう分からぬのう・・・」

 

程普「そうね・・・」

 

そう、孫家の重鎮らは諸葛亮に対して痛烈に批判した。

 

孫権「・・・。」

 

そんな中、孫策の妹の孫権は、考え事をしていた。

 

孫策「どうしたの、蓮華?」

 

これに、孫策はそう聞くと

 

孫権「あ、はい・・・。亡くなった劉備は何を目的に名を上げたのか・・・その事を考えておりました。」

 

孫権「それは諸葛亮も同じで、彼女らの目的は大陸の平和であったはず。それはやり方は違えど曹操と同様。にもかかわらずあの様な行動・・・。それが分からなくて・・・」

 

そう、孫権は孫策に言った。

 

張昭「蓮華様・・・」

 

孫策「蓮華。本来の目的を忘れ、誤った行動をする者はああなるというのを覚えておきなさい。」

 

これに、孫策は孫権に対しそう諭すと

 

孫権「はい・・・」

 

孫権は真面目な表情で返事をしたのだった。

 

 

 

 

 

 

益州

 

 

 

 

 

 

諸葛亮「そ、そんな・・・!」

 

諸葛亮は、孫策が同盟を拒否した事に驚きを隠せなかった。

 

諸葛亮「何故・・・このままでは曹操さんに併合されるだけだというのに・・・!」

 

諸葛亮「何故・・・断ったの・・・?」

 

すると

 

関羽「それは当然だ、朱里。お前は今まで桃香様と共に卑劣な手で民を蔑ろにし、強引に曹彰殿らに戦をした挙げ句、多くの兵の命を散らした。」

 

関羽「そのような事をする者に、誰も手を組もうとは思わぬ。」

 

関羽は、そう諸葛亮に厳しく言った。

 

鳳統「愛紗さんの言う通りだよ、朱里ちゃん。もう、これ以上皆を傷付けないで。」

 

鳳統「明らかに度が過ぎてるよ。」

 

鳳統「水鏡先生も、こんな事望んでないよ。」

 

鳳統も、友として諸葛亮の暴走を止めようと説得したが

 

諸葛亮「そんな事ない。私は全て民の為、大陸の為に動いてるよ。亡き桃香様の遺志を叶える為、曹彰さんを討ち、その勢いで曹操さんや河北の皆を討ち、大陸を笑顔にしてみせる!」

 

諸葛亮はどこか狂気を含んだような目で言い、耳を貸さなかった。

 

関羽「いい加減にしろ、朱里!お前のやっている事は、ただ単に世を乱してるだけだ!いい加減それを自覚しろ!」

 

それに怒りを感じた関羽は、そう朱里に怒鳴った。

 

諸葛亮「そんな事ありません!全て民の為にやってます!」

 

関羽「朱里!」

 

諸葛亮「もう言う事はありません!私は私のやり方で桃香様のご遺志を継ぎます!」

 

そう言い、諸葛亮はその場を後にした。

 

関羽「・・・。」

 

これに関羽は、顔を歪ませ頭を抱え

 

鳳統「愛紗さん・・・」

 

それを見た鳳統は、何とも言いがたい感情が渦巻いていたのであった。



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80話

本当に長らくお待たせし、申し訳ございません。

80話です。

どうぞ。


孫策からの同盟を拒否されてしまった諸葛亮。

次に目を向けたのは、西涼だった。

 

諸葛亮(西涼の馬騰さんなら、私達の同盟の話を受け入れてくれるはず・・・!)

 

そう思い、諸葛亮は使者を西涼に送った。

しかし、使者の者は会えなかった。

その理由は、馬騰が病気のため会わないと言ったのだ。

代わりに会ったのは

 

馬超「あたしが代わりに聞いてやるよ。」

 

馬騰の娘馬超だった。

彼女は反董卓連合でも『錦馬超』の異名に相応しいその武勇を発揮し、知らぬ者はいない勇将だ。

そして、話が進み

 

馬超「つまり、天子様を意のままに操り混乱に陥れている曹操と戦うためにあたし達と手を組みたいって事か?」

 

使者A「はい。是非とも、我らと同盟を組み、曹操を倒し天子様を救い、泰平の世を築きましょう。」

 

そう、話を締めた。

 

馬超「成程・・・」

 

そう、馬超は呟いた。

それに、使者は

 

使者A(この調子なら・・・西涼は手を組んでくれるやもしれんな・・・)

 

使者A(馬騰ら馬家は漢の忠臣。今の朝廷に思う所はあるはず・・・)

 

そう手応えを感じていたのだが

 

馬超「悪いが、その話は断らせて貰うぜ。」

 

使者A「・・・え?」

 

馬超は使者にそうきっぱりと断りの返事を言った。

これに

 

使者A「な、何故なのです!?何故我らとの同盟を!?」

 

使者は動揺しながら聞くと

 

馬超「あんたらは、民を第一に考える劉璋を殺して、益州を手に入れたんだろ?」

 

馬超「加えて民も迫害して、強引に戦を起こした挙げ句、多くの兵士達の命を散らした。」

 

馬超「それに聞いてるぞ。未だに民に重税を敷き、納めれなかった人を見せしめで首を刎ねて晒し首にしてるって。」

 

馬超「あんたらと手を組んだら、それこそこの西涼の誇りに傷がつくね。馬鹿なあたしでも分かる。」

 

馬超「人を人とも思わねー卑劣なあんたらとは手を組みたくないね。」

 

馬超はそう使者の言葉に返し

 

馬超「諸葛亮に伝えておけ。卑怯な連中とは手を組みたくないってな。」

 

『錦馬超』の名に相応しい、堂々とした態度で言った。

 

使者A「は、はい・・・」

 

これに、使者は身を縮めながらその場を去った。

 

馬岱「良いの、お姉様?」

 

すると、馬超の傍にいた従妹の馬岱がそう馬超に言った。

 

馬超「良いんだ。アイツらには大義が無い。それに、曹操は民を大切にし食うに困らない暮らしをさせているし、弟の『黄鬚』曹彰は戦で多くの敵を斬り殺し、戦に苦しむ民を救っている。」

 

馬超「どちらに義があるか、いくらあたしでも分かる。」

 

これに

 

馬岱「そっか・・・」

 

馬岱も納得した表情を浮かべた。

 

馬超「しかし、諸葛亮もこの前死んじまった劉備も民を蔑ろにして、一体何が目的なんだ・・・?」

 

この時、馬超はぼそっとそう呟いたのだった。

 

 

 

 

 

 

益州

 

 

 

 

 

 

諸葛亮「そ、そんな・・・西涼まで・・・!?」

 

諸葛亮は、孫策に続いて西涼も拒否されてしまった事に驚きを隠せなかった。

 

諸葛亮「何で・・・皆私達の理想を分かってくれないの・・・?」

 

そう、身体をふらつかせ

 

諸葛亮「そうか・・・なら、全部壊してしまえば良いんだ・・・。そうすれば、全て綺麗に元通りに戻れる・・・」

 

諸葛亮「桃香様が望んでいた皆が笑って暮らせる世の中を作れるんだ・・・」

 

諸葛亮「全て・・・壊してしまえ・・・」

 

諸葛亮「ふふふっ・・・アハハハ・・・」

 

この時、諸葛亮の目からハイライトが消え、狂気を含んだ笑い声を上げた。

その笑い声は、不気味に部屋の中に響いていた。

それから数日後、諸葛亮は強引に兵を動員して自ら出陣を決めたのであった。



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81話

81話です。


諸葛亮出陣の知らせは、許都に届いた。

 

華琳「諸葛亮が出陣ね・・・」

 

桂花「はっ。その数、凡そ10万との事です。」

 

この諸葛亮率いる軍の大軍に

 

華侖「ほへぇー・・・10万っすか・・・」

 

柳琳「一体どこからそんな数を・・・?」

 

栄華「不思議ですわ・・・」

 

それぞれ首を傾げた。

 

季衣「空から降ってきたのかな・・・?」

 

流琉「そんなわけ無いでしょ、季衣・・・」

 

香風「空・・・」

 

・・・若干ボケが入ったが。

 

華琳「ともかく、諸葛亮がこちらに進軍してるのは明白・・・純を呼びなさい。」

 

桂花「御意!」

 

華琳は、今兵舎にいる純を呼んだ。

暫くして

 

純「姉上・・・お呼びと聞き参上しました。」

 

純が現れた。

 

華琳「ええ。先程入った知らせだけど・・・」

 

純「諸葛亮の事ですか?」

 

華琳「やはり、知っていたのね。」

 

純「既に稟と風から聞いております。10万の大軍を率いて進軍していると。」

 

華琳「ええ。それで、あなたに全て任せるつもりよ。」

 

純「分かりました。全て俺にお任せ下さい。」

 

華琳「ええ。今から、天子に会って上奏するわ。その後に出陣だから、あなたは兵馬を整えなさい。」

 

純「御意。」

 

そう言い、華琳は朝廷に行って、霊帝に拝謁した。

 

華琳「陛下。益州を卑劣に横取りした劉備の配下諸葛亮がこちらに向かって進軍開始しました。」

 

霊帝「曹操。劉備は死に、後に残った諸葛亮は何の目的でこの許都に?」

 

この霊帝の問いに

 

華琳「それは勿論、この地を灰燼に帰し、大地と民に苦しみを与えるためです。」

 

華琳はそう冷徹に答えた。

 

霊帝「し、しかし曹操。その諸葛亮は別に戦が目的ではあるまい。話し合えば・・・」

 

しかし、いつまで経っても変わらぬ発言に

 

華琳「陛下!この際だからハッキリ申し上げます!陛下のその甘いお考え、臣下として呆れ以外の他にもありません!」

 

華琳「亡き劉備と今進軍している諸葛亮は、最早やり過ぎたのです!あの者らは民を冒涜し、朝廷に刃を向ける不届き千万の奸賊です!」

 

華琳「もしこの地を手に入れ、陛下の元に現れても、諸葛亮は必ず、この大陸を滅亡に向かわせるでしょう。」

 

華琳「我が弟に、諸葛亮の討伐、そして益州平定のご許可を・・・」

 

華琳はそう厳しく言った。

 

霊帝「け、けど・・・けど・・・!」

 

しかし、霊帝は受け止められず、何か言おうとしたが

 

華琳「陛下。」

 

華琳は、純程ではないが強い覇気を出し、霊帝に圧をかけた。

 

霊帝「わ、分かったわ・・・曹子文に・・・諸葛亮討伐ならびに益州平定の詔を下すわ。」

 

これに、霊帝は涙を流しながらそう華琳に言った。

 

華琳「ご英断、感謝致します。」

 

そして、翌日に華琳の命令で文武百官が集められ、出陣の儀式を始めた。

霊帝は、強烈な覇気を身に纏う純を見るや、恐怖に怯えた表情を浮かべながら

 

霊帝「大将軍。奸賊諸葛亮の討伐ならびに益州平定の命を下す!」

 

霊帝「また、曹丞相より如何なる事があっても、事前の報告は不要との事。そなたの好きなように軍を動かしなさい。」

 

純にそう伝え、更に己の好きなように軍を動かしても構わない特権を与えた。

 

純「拝命致します!」

 

これに、純はそう力強く言い、全軍の総帥に相応しい風格を身に纏いながらその場を後にした。

そして、純は30万の兵馬を率い、出陣した。

その中には、先日純の傘下に入った司馬懿も含まれていたのであった。



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82話

82話です。


30万の兵馬を率いた純は、国境沿いの10万の軍と合流し、軍議を開いた。

 

純「諸葛亮は随分と大軍を率いてきたな。」

 

この発言に

 

秋蘭「しかし、10万という大軍・・・一体どこからそのような・・・」

 

楼杏「確かに・・・先の戦で殆ど失ったのに・・・」

 

秋蘭と楼杏は疑問の首を傾げ

 

春蘭「天から降ってきたのか・・・?」

 

霞「んなわけあるかい!」

 

春蘭の言葉に、霞が鋭いツッコミを入れた。

 

稟「私の隠密の話によると、10万の兵の殆どは、強引に徴発された民衆や、流民が多数を占めており、訓練をまともに受けた兵は少ないです。」

 

霞「成程な・・・以前あれだけやられたんや。当然やな。」

 

霞は、この知らせに納得の表情を浮かべ

 

凪「しかし・・・民達を強引に徴兵するなんて・・・!」

 

真桜「せやな・・・諸葛亮は最低や!」

 

沙和「なの!ウジ虫にも勝るくそ野郎なの!」

 

三羽烏は怒りの表情を見せた。

 

稟「諸葛亮らは、先の戦で大量の兵馬と武器兵糧を失いました。」

 

稟「益州内でも重税を課し、その重税で民からは怨嗟や不満の声が高まっている状態です。」

 

稟「加えて大義も無い。彼奴らにとって不利なのは、今更説明など不要です。」

 

純「その通りだ、稟。皆、各自準備を怠るな!」

 

そう、覇気に溢れた力強い声で言うと

 

「「「御意!」」」

 

皆それぞれ拱手し、準備を進めた。

 

純「司馬懿。今回の戦、お前も存分に手柄を挙げろ。良いな?」

 

そう、純は司馬懿に言うと

 

司馬懿「・・・御意。」

 

司馬懿は頭を下げ拱手したが

 

司馬懿(どこかでこの私が天下を奪える機会は必ずあるはずだ!必ず・・・!)

 

そう、心の中のドス黒く醜い野心が先の戦で劉備軍を焼き尽くしたあの炎の如く燃え盛っていたのだった。

 

稟「・・・。」

 

その様子を見ていた稟は

 

稟「風。」

 

風「はい~?」

 

稟「あなたは司馬懿の事、どう思いますか?」

 

風に司馬懿の事を尋ねた。

 

風「司馬懿さんですか~?確かにあの人は優れた知謀を持っておりますね~。」

 

風「けど~、あの人の心の中には人並み外れた野心を持ってますね~。」

 

風「いつまでも誰かの下で収まるような人ではないですね~。」

 

そう、風は飴を舐めながら司馬懿をそう評した。

これに

 

稟「はい。あの者は危険です。純様に反旗を翻します。」

 

稟「あの者は必ず、純様に謀反を起こします。もしあの者が純様を傷付けようなら、私が必ずこの手で粛清します。」

 

稟はそう冷徹な声で言った。

その怜悧な姿は、まさに『鉄の軍師』の異名に相応しかった。

 

風「おお!流石稟ちゃんですね!」

 

これには、風も感心の声を上げたのだった。

 

稟「からかわないで下さい、風。それでは、私は純様に司馬懿の事を言いに行きます。」

 

風「はい~。分かりました~。」

 

そうして二人は別れ、稟は純の元へ向かった。

そして、純のいる天幕に着くと

 

秋蘭「むっ?」

 

稟「秋蘭様・・・」

 

秋蘭と会った。

 

秋蘭「純様に用か、稟。」

 

稟「はい。秋蘭様もですか?」

 

秋蘭「ああ。ちょっと話しておきたい事があってな・・・どうやら、同じようだな。」

 

稟「そのようですね・・・」

 

秋蘭「まあ、入ろうじゃないか。」

 

稟「はい。」

 

そして

 

秋蘭「純様。秋蘭です。」

 

稟「稟です。」

 

純「秋蘭に稟か。入れ。」

 

稟「はっ!」

 

純の天幕に入った。

 

純「二人して何の用だ?」

 

秋蘭「司馬懿の事です。」

 

稟「私も同じです。」

 

この言葉に

 

純「・・・話せ。」

 

純は目を鋭くした。

 

秋蘭「純様。司馬懿は知謀に優れており、これまでその知謀で華琳様に大きく貢献しました。」

 

秋蘭「しかし、彼は表向きは忠実に従っておりますが、内心は野心に満ちております。」

 

秋蘭「くれぐれも、お気をつけ下さい。」

 

秋蘭は、そうクールな美貌を崩さずにそう忠告した。

 

純「・・・稟。お前もか?」

 

稟「はっ。私も秋蘭様と同じです。あの者は誰かの下で満足するような者ではありません。決して、気を許してはいけません。」

 

稟も、秋蘭同様忠告した。

これに

 

純「まあ、俺もアイツに出会った時から嫌な感じがしたんだよな~。」

 

純「上手く言えねーけど、何かな。」

 

純も出会った時の思いを正直に言い

 

純「警戒しておこう。お前らも、十分気を付けろよ。」

 

警戒する事を言った。

 

秋蘭「御意。」

 

稟「はっ!」

 

純「それと・・・手を貸してくれ。」

 

すると、純は二人にそう言い

 

秋・稟「「?」」

 

秋蘭と稟は疑問に思いつつ近付いて手を差し出すと

 

秋蘭「っ!」

 

稟「純様!」

 

純は二人の手を優しく取り、指を絡め

 

純「俺は将兵の皆を非常に信頼していて、皆家族であり、宝だと思ってる。」

 

純「その中で、俺はお前ら二人を特に信頼している。」

 

純「だから、此度の戦、頼りにしてるぞ。」

 

そう、優しくも力強く言った。

これに

 

秋蘭「・・・はい!」

 

稟「純様・・・」

 

二人の表情は柔らかく愛おしい表情に変わり、純に抱き付いた。

そして、純達は準備を終えたのであった。



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83話

83話です。


純率いる40万の兵が、洮陽にて構え軍議を開いていた。

 

純「諸葛亮も洮陽に現れたか。」

 

稟「はい。」

 

純「しかし諸葛亮め、劉備もそうだが大徳だと謳いつつも、民を虐げ、苦しめるとはな。意味が全く分かんねー。」

 

そう、純は吐き捨てるように言った。

 

稟「そうですね・・・」

 

風「・・・。」

 

その時

 

曹彰軍兵士A「閣下。諸葛亮からの使者が四人参られました。文も携えております。」

 

兵士が入ってきて、諸葛亮の使者が来たと知らせてきた。

 

純「諸葛亮から使者だと?」

 

霞「何や?今更ウチらにビビって降伏するつもりやないやろうな。」

 

楼杏「まさか・・・」

 

春蘭「まだ刃を交えていないのにか?」

 

これに、皆それぞれ疑問の表情を浮かべていた。

 

稟「純様。如何致しましょう?」

 

純「会おう。何を言いに来たのか、興味がある。」

 

そう言い、純は使者を通すように言った。

 

使者A「ししし諸葛りり亮様からのつつつ使いででまま参りました。」

 

すると、使者は幕に入るや否や、純の覇気に圧倒されたのか、身体を震わせ怯えるような表情で拱手し挨拶をして、両手に地面をつけ平伏した。

その者の後ろには、屈強な体躯をした男三人が片膝をつき拱手していた。

使者は勿論だが、男三人にも帯剣は許しておらず、丸腰状態だ。

しかし、周りはいつでも純を守れるよう警戒していた。

 

純「使者殿。そう怯えてどうした?別に俺はお前を取って食う事はしねーよ。落ち着いて話せ。」

 

これに、純は使者を気遣うように言ったが

 

使者A「はははい。おおおお気遣いありがとうございます。」

 

使者の声は未だに震えていた。

 

純「使者殿。諸葛亮からの文を読み聞かせてくれ。」

 

純は、使者に優しく言ったのだが、使者は震えている身体を更に震わせた。

この時、周囲の者は察した。使者がここまで怯えるという事は、文の内容は余程純やそれに近しい者の事を痛烈に批判し、侮辱する内容だという事を。

 

稟「使者殿。役目を果たされませ。」

 

稟がそう言うと、使者は震える手で文を開き、読み上げた。

 

『益州を攻めんとする曹子文は罪無き者を斬り殺し、その姉である曹孟徳は、天子を意のままに操り民を苦しめ、大地を灰燼に帰せんとする大逆の奸臣である。』

 

『先君劉玄徳は、その大逆の者を討ちに奮戦するも及ばず、賊の卑劣な手にかかり殺された。』

 

『曹姉弟の真の狙いはただ一つ、この大陸を我が物とする事だ。』

 

『もし益州を奪われれば、次は江東へもその歯牙が向くであろう。』

 

『もしこのままこの悪行を見逃せば、この大陸は全て曹姉弟の物となり、大地を民を恐怖に陥れ、滅びるであろう。』

 

『悪逆無道な曹姉弟を許す事は出来ない。』

 

『よって、臣諸葛亮は、先君劉玄徳の遺志を継ぎ、大陸の為、民の為に義兵をあげる。』

 

『まずは曹子文率いる賊軍を蹴散らし、その勢いで許昌へ行き天子をお救いし、曹孟徳とその身内をこの世に生まれたを悔いる程の恥辱を味あわせ処刑し、その屍は朽ちるに任せ野に打ち捨ててくれる。』

 

『正義は我にあり。曹子文よ、首を洗って待ってるが良い。』

 

この内容に、周りは怒りを通り越して呆れた表情を浮かべていた。

文を読み上げた使者は、文を地面に落とし、身体を震わせた。

 

純「・・・ふんっ。安い挑発文だな。」

 

そう、純は笑みを浮かべながら使者を見た。

そして、悠然と立ち上がり使者にゆっくりと近付き、左横に立つと見下ろすように視線を向けた。

その時

 

「逆賊が!死ねぇ!!」

 

「悪逆無道よ、お命頂戴!!」

 

「覚悟ぉ!!」

 

後ろに片膝をつき控えていた男三人が、懐から短剣を取り出し純の命を奪わんと襲いかかった。

しかし

 

春蘭「はあっ!!」

 

ザシュ!

 

「ギャアアッ!!」

 

霞「うりゃああっ!!」

 

ズバッ!

 

「ガアアアッ!!」

 

春蘭と霞に斬り殺され

 

純「フッ!」

 

ズバッ!

 

「ゴハァ!!」

 

最後の一人は、純に斬り殺された。

 

使者A「ひいいいっ!!」

 

使者は怯えるあまり腰を抜かしてしまった。

その場は、あたりに血飛沫が飛び、血の匂いと相まり酷い状況になった。

稟は、すぐに幕の外で控えている兵に命令するために動き出した。

純は、返り血を浴びた状態で使者に視線を向けると、使者は必死に這いつくばって逃げようとしたが

 

ガシッ!

 

秋蘭「・・・逃げるな。」

 

使者「ひいっ!」

 

秋蘭が抑え、誰もがゾッとするような冷たい声と目で言った。

すると、幕に兵が入ってきて、中の惨状を見るや絶句したが、稟に命令され死体を運び出した。

 

秋蘭「純様。此奴は如何致しますか?」

 

秋蘭は、抑えてる使者をどうするか尋ねると

 

純「そいつは獄に繋げ。ただし、命は取るな。」

 

純は殺さずに獄に繋げるように命じた。

 

秋蘭「御意。」

 

純「さて、戦の支度をしろ!大地を苦しめ、卑怯にも暗殺を企む賊を討伐し、益州を平定し民を救うぞ!!」

 

「「「おおおーっ!!!」」」

 

こうして、純達は戦支度を始めたのであった。



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84話

84話です。


翌日、洮陽にて純率いる40万の兵と諸葛亮率いる10万の兵が対峙した。

純は、その軍の先頭で目を閉じ腕を組んでいた。

暫くして

 

秋蘭「純様。諸葛亮が現れました。」

 

純「・・・そうか。」

 

諸葛亮が僅か数騎の騎馬兵を引き連れて現れた。

その手には、矢文を持っており、馬を止めると

 

諸葛亮「国賊曹彰!!あなたとあなたの姉曹孟徳を決して許さない!!」

 

諸葛亮は憎しみを込めた声でそう純に怒鳴った。

 

純「諸葛亮!!姉上と俺のどこが国賊なのだ!!頭の悪い俺に分かるよう説明しろ!!」

 

これに、純はそう怒鳴り帰すと

 

諸葛亮「あなた達は、陛下を無視して軍事と政治を牛耳り民を惑わし、漢の忠臣を亡き者にし、権力を更に独占した!!」

 

諸葛亮「帝から、漢から恩恵を貰っているにもかかわらずのこの不忠に値する行動、国賊以外の何を言うのですか!!」

 

諸葛亮「その罪、万死に値します!!」

 

諸葛亮「無念にも命散らした我が主劉玄徳に代わって、あなた方を討ち取ってみせます!!」

 

諸葛亮は、憎しみと狂気を含めた目でそう答えた。

 

純「はっはっはっは!!」

 

これに、純は大きな声で笑い

 

諸葛亮「何が可笑しいのですか!!」

 

純「はっは・・・!!聞いてみれば、意味分かんねー事をほざきやがって!!」

 

純「陛下から大恩受けたにもかかわらず官軍を背後から襲おうとし、益州を卑劣な手で乗っ取り、劉璋を騙し討ちし、重税を課して民を苦しめ、意見をしたりする者は容赦なく斬り捨てる!!」

 

純「このような行動をしているテメーらは何なんだ!!」

 

そう言い返すと

 

諸葛亮「全ては皆が笑って過ごせる世を作るためです!!劉玄徳の遺志に背く者は死以外の何物でもありません!!」

 

諸葛亮「その崇高な理想に相反する者は滅びる運命なのです!!」

 

諸葛亮はそう言い返すと

 

諸葛亮「誰か!これをあそこに放ちなさい!!」

 

劉軍兵士A「はい!」

 

矢文を兵士に渡し矢を放たせ

 

ピュー!

 

トシュ!

 

純の前に落ちた。

 

諸葛亮「それを見なさい!!」

 

その矢文を拾った純は、書状を広げると

 

諸葛亮「ちゃんと読むんですよ!!」

 

そう蔑む声で諸葛亮は言った。

純は書状を広げ読んだ。

内容は一言で言えば純と姉の華琳の他に、曹一門とその将兵や仲間を揶揄した内容だ。

 

純「・・・」

 

それを読んでいると

 

諸葛亮「頭が戦以外何も無いあなたの頭でも分かるような内容ですよ!!」

 

諸葛亮が馬鹿にした笑みで言った。

 

稟「純様。怒ってはなりません。」

 

秋蘭「稟の言う通りです。これは全て諸葛亮の策略です。」

 

その純の左右両サイドで控えている秋蘭と稟は、書状を読んでいる純を見て、そう言った。

 

諸葛亮「あなたなんか、頭が空っぽの単なる匹夫!!それを読んで憤死しそうですね!!」

 

諸葛亮「フフ!どうやら、怒りのあまり言葉が出ないようですね!匹夫の宦官の孫!!」

 

そう諸葛亮は罵倒していると

 

春蘭「ええい彼奴!!もう許せん!!」

 

春蘭が目を吊り上げながら剣を持って今にも斬り掛かっていこうとする勢いで歩んでいた。

 

霞「ち、ちょ待て惇ちゃん!落ち着けや!」

 

春蘭「これが落ち着いてられるか!純様をさっきから馬鹿にして、黙ってられるか!!」

 

霞「それこそ敵の思う壺や!純も必死に我慢してるんや!惇ちゃんも抑えぃ!!」

 

春蘭「ええい離せ!離せぃ!!」

 

これに、霞がそう必死に春蘭を抑えていた。

 

諸葛亮「宦官の孫如きが調子に乗るな!!」

 

そう諸葛亮は言うと、左手を挙げた。

それと同時に、兵が弓を構え、書状に目を向けている純に向け

 

シュ

 

諸葛亮が左手を下ろすのと同時に矢を放った。

そのまま矢は純に向かって一直線に飛んでいった。

 

諸葛亮(このまま死になさい!!)

 

これに、諸葛亮は酷薄な笑みを浮かべながら心の中で呟いた。

しかし

 

純「フッ!」

 

純は太刀を抜いて

 

シュパッ!

 

その矢を真っ二つに斬り捨てた。

そして、それと同時に

 

秋蘭「はっ!」

 

秋蘭が矢を放ち

 

劉軍兵士B「グハッ!」

 

矢を放った劉軍兵士を射殺した。

 

諸葛亮「っ!?」

 

これには、諸葛亮は驚きのあまり固まってしまった。

 

純「諸葛亮!先の使者を使っての暗殺行為と今回の不意打ちといった卑劣な行い・・・やはりテメーこそ逆賊だ!!」

 

そう怒鳴ると純は颯爽と馬に乗り

 

純「行くぞ!!世を乱し、民を苦しめる敵を全て斬り殺すぞ!!」

 

「「「応!!応!!応!!応!!応!!」」」

 

純「『黄鬚』曹彰に付いてこい!!」

 

覇気に溢れた姿で軍に号令をかけた。

 

「「「おおおーっ!!!」」」

 

これに40万の曹彰軍の士気は最高潮に達し

 

純「行くぞ!!奴らから全てを奪えー!!」

 

純を先頭に諸葛亮率いる10万の劉軍に突撃していった。

 

諸葛亮「こ・・・ここ・・・これは一体・・・!?何故・・・!?」

 

一方の諸葛亮は、使者を利用しての暗殺、今回の書状を使っての不意打ちが全て不発に終わった事に動揺を隠しきれず、ただでさえ寄せ集めの10万の兵も伝播し、純を先頭にした曹彰軍40万の強烈な突撃に恐れおののき

 

劉軍兵士「「「ギャアアアアッ!!」」」

 

劉軍兵士「「「うわあアアアアッ!!」」」

 

劉軍兵士「「「ひぃぃぃぃぃっ!!」」」

 

劉軍兵士「「「に、逃げろーっ!!」」」

 

槍や剣の餌食になったり、中には刃を交えずに逃げてしまったりなどしたが、それらも悉く殺されていった。

その中でも

 

純「はあああっ!!」

 

「「「ギャアアアッ!!」」」

 

純「うらあああっ!!」

 

「「「がはあああっ!!」」」

 

純「うおおおっ!!」

 

「「「うわあああっ!!」」」

 

純「フフッ・・・はーっはっはっはっはー!!」

 

純は先頭にて目の前の劉軍の兵士を笑いながら次々と斬り殺していき

 

春蘭「おらおらぁ!!諸葛亮は何処だー!!散々純様を馬鹿にしやがって!!」

 

霞「うりゃあああ!!お前ら、純に遅れを取ったらアカンでー!!」

 

剛「はああああっ!!」

 

哲「おりゃあああっ!!」

 

春蘭や霞、剛と哲や

 

凪「はああああっ!!」

 

真桜「うりゃあああ!!」

 

沙和「てやああああっなのー!!」

 

三羽烏に

 

秋蘭「放て!!」

 

楼杏「決して手を緩めてはなりません!!」

 

秋蘭と楼杏も続き、戦場はまさに阿鼻叫喚と化した。

これには

 

諸葛亮「こ、これは・・・もう耐えられない・・・!!」

 

諸葛亮も恐怖を感じ

 

諸葛亮「て・・・撤退です!!ここは撤退するのです!!」

 

撤退を口にし、それと同時に自らはすぐに馬首を返して逃げた。

 

諸葛亮(これは決して負けではありません!あくまで戦略的撤退です!!決して負けを認めたわけではありません!!)

 

諸葛亮(これは戦略的撤退です・・・そう・・・戦略的撤退・・・戦略的撤退・・・)

 

その際、諸葛亮はずっと心の中でブツブツと言いながら馬を必死に走らせたのだった。

洮陽における戦は、純の圧勝に終わり

 

純「この勢いで一気に益州に侵攻するぞ!!」

 

勢いのまま益州に侵攻したのであった。



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85話

85話です。

この主人公の能力値ですが

統率:100 武力:100 知力:50 政治:40 魅力:100

かなと個人的には思っております。

個性や政策などは皆さんのご想像にお任せします。

それでは、どうぞ。




洮陽にて諸葛亮の軍を破った純は、その勢いのまま益州に侵攻した。

侵攻の際

 

純「お前らも、この軍に加わるんだな?」

 

馬超「ああ。あたしらも、あんたらの征討軍に加わらせて貰う。この大陸の人々のための戦をしているあんたらの助けになりたいんだ。」

 

純「分かった。お前達の加入を許そう。俺の真名は純だ。共に諸葛亮を倒し、益州の民を救うぞ。」

 

翠「ああ!分かった!あたしの真名は翠だ!誇り高き西涼の力を純殿に見せてやるぜ!」

 

馬超ら率いる西涼兵五万が加わった。

この知らせを聞いた劉軍は

 

劉軍武将A「何と・・・西涼が・・・!?」

 

劉軍武将B「西涼が・・・曹彰軍に加わっただと・・・!?」

 

劉軍武将C「ただでさえ曹彰軍は精鋭揃いなのに、西涼の騎馬隊が加わったら虎に翼を得たようなものだ・・・」

 

劉軍武将「ああ・・・我らは終わった・・・」

 

動揺を隠しきれなかった。

すると

 

諸葛亮「皆さん、何を弱気になっているのですか?」

 

諸葛亮がそう皆に言った。

 

劉軍武将A「し、しかし・・・!」

 

劉軍武将B「西涼の騎馬隊の精強さは諸葛亮様もご存じの筈ですよ・・・!」

 

この怯えるような言葉に

 

諸葛亮「皆さん、確かに今我らは危機的状況です。西涼が加わったのですから。」

 

諸葛亮「しかし、この危機的状況においても、私達は不屈の意志と必勝の信念、そして犠牲心によってこの危機と困難を必ず乗り越える事が出来ます!」

 

諸葛亮「この戦は、曹彰さん達賊軍が勝利しません。亡き主劉玄徳が成し遂げようとした皆が笑って過ごせる国を作る蜀が勝つのです!」

 

諸葛亮「そうです。これから先も、私達蜀が最後に勝利するのです!皆、必勝の信念を持ち、奮い立つのです!」

 

諸葛亮はそう喋ったのだった。

そして

 

諸葛亮「あなた。この地を守りなさい。一兵たりとも成都に行かせてはなりません!」

 

一人の武将にそう命じた。

 

劉軍武将A「し、しかし・・・敵は45万です!それも全て精鋭揃い!真っ向から立ち向かっても勝ち目はありませぬ!」

 

これに、劉軍武将はそう強く言ったのだが

 

諸葛亮「先程申したでしょう。不屈の意志と必勝の信念を持ってさえすれば必ず勝つと!」

 

諸葛亮「一歩でも退くのは許しませんよ。もし退いて成都に戻ったら、あなたを敵前逃亡の罪で処刑し晒しますよ。」

 

諸葛亮は耳を貸さず、彼を処刑すると言った。

これには

 

劉軍武将A「っ・・・御意。」

 

劉軍武将は唇を噛みながら拱手するしかなかった。

 

諸葛亮「さあ皆さん、成都まで引き揚げましょう。」

 

そう言い、諸葛亮は僅か数千の兵馬を残し、残りを率いて成都目掛けて撤退したのだった。

そして、暫くして

 

純「どうやら、諸葛亮は兵を一部残したようだな。」

 

純らが現れた。

 

秋蘭「どうやら、一歩も退く気配はございませんね。」

 

純「雰囲気から察するに、そのようだな。」

 

純「だが、ここを突破すれば成都まですぐだ。攻撃の準備をしろ。」

 

秋蘭「御意!」

 

そして、純らは攻撃態勢を整え

 

純「黄鬚』曹彰に付いてこい!!俺と共に目の前の敵全てを斬り殺せー!!」

 

純の覇気溢れた号令の下、一斉に攻撃を開始した。

 

翠「これが『黄鬚』と呼ばれし者の号令か・・・!」

 

翠(何て力強く、覇気に満ち溢れた姿なんだ・・・!)

 

翠(凄い・・・まるで力が湧いてくるようだ・・・!)

 

これには、翠も身体から力が湧いてくる感覚になった。

この号令のお陰なのか

 

翠「うおおおおおっ!!」

 

翠の槍捌きはいつもより更に力強く、多くの敵兵が槍の餌食になった。

新たに加わった翠の活躍で、成都最後の防衛ラインは突破され、守りを任された劉軍武将は

 

劉軍武将A「どうせ逃げても首を刎ねられるだけだ!」

 

ザシュ!

 

自らの命を絶った。

こうして最後の防衛ラインは突破され、成都まで後少しと迫ったのであった。



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86話

86話です。

前回のお話の前書きで主人公の能力値を付け加えましたがこの能力はこの数値じゃないかなと思った方は遠慮無く言って下さい。

また、この主人公の声優はこの人かなと思った方は、活動報告で聞いてみますので能力値同様興味があれば回答お願いします。

それでは、どうぞ。


純との戦に大敗を喫し、何とか成都に逃げ帰った諸葛亮。

戻って早々に聞いたのは

 

諸葛亮「成都の最後の防衛線が・・・破れた?」

 

成都の最後の防衛ラインが破られ、純ら率いる45万の大軍団が迫ってきているという知らせを聞いた。

これに

 

諸葛亮「彼には不屈の意志と必勝の信念が足りなかったようですね・・・何という不忠者ですか・・・」

 

と冷たくそう言うだけだった。

 

張飛「朱里ー!!」

 

すると、それを聞いた張飛は、諸葛亮に殴りかかろうとしたのだが

 

関羽「鈴々!!」

 

関羽に抑えられた。

 

張飛「離せ!離すのだ愛紗!!朱里!今の言葉、撤回するのだー!!」

 

それでも、張飛の怒りは収まらず、暴れていた。

 

諸葛亮「何を怒っているのですか、鈴々ちゃん。私は事実を言ったまでですよ。怒られる理由が分かりません。」

 

これに、諸葛亮がそう答えると

 

張飛「朱里!!お前は・・・兵士を・・・命を何だと思ってるのだ!!死んだ兵士達の事を何にも考えてないのだ!!お前なんか大馬鹿者なのだー!!」

 

張飛は涙を流しながら目を吊り上げてそう諸葛亮に怒鳴った。

 

関羽「止せ!止さぬか鈴々!!」

 

関羽は、必死に抑えているのだが張飛の言葉に感じる物があるのか、胸が痛くなった。

 

諸葛亮「鈴々ちゃん。本来ならあなたは私に盾突いた罪で処刑されますが、これまで桃香様の義妹として多くの軍功を挙げてきました。それに免じて死罪は無しです。」

 

諸葛亮「愛紗さん。鈴々ちゃんを下がらせて下さい。」

 

しかし、張飛の怒りの言葉は諸葛亮の心には響かず、淡々とした声で張飛の言葉を流したのだった。

 

関羽「朱里、お前・・・!」

 

鳳統「朱里ちゃん・・・」

 

これに、関羽と鳳統は非難の目で見たのだが

 

諸葛亮「愛紗さん。雛里ちゃん。何ですかその目は・・・?」

 

諸葛亮「早く準備をして下さい。」

 

諸葛亮はそれを流し、防衛の準備をするよう言ったのだった。

 

関羽「くっ・・・!」

 

鳳統「・・・っ!」

 

これに関羽と鳳統は、顔を歪ませながらその場を後にしたのだった。

 

諸葛亮(私は悪くない・・・私は悪くない・・・私は悪くない・・・)

 

諸葛亮(悪いのはこの大陸の人達です・・・全て壊してしまえば・・・桃香様の望む皆が笑って暮らせる世の中に・・・)

 

そう心の中で呟きつつ

 

諸葛亮「大丈夫です・・・あの防衛線から成都まで50里あります・・・曹彰さんの軍は西涼合わせて45万・・・」

 

諸葛亮「いくら西涼の騎馬隊が速く精強でも相当な時間がかかります・・・それまでに対策すれば・・・」

 

あの防衛ラインから成都までそれなりの距離があるためそれまでに整えれば何とかなると思い、楽観視していた。

しかし、諸葛亮は知らなかった。

純率いる軍の進軍速度は、通常よりも10倍速いという事に・・・。

 

 

 

 

 

 

 

純「あれが成都か・・・」

 

秋蘭「そのようですね・・・」

 

純ら45万の大軍団は、成都に到着し、包囲をしていた。

 

霞「向こうも気付いてるんやろか?」

 

楼杏「どうかしら・・・まともな兵士はあまりいないから、私達に気付いてないのかもしれないわよ。」

 

剛「それ・・・兵を率いる身としてどうなのよ?」

 

哲「いや・・・最早総帥失格だろう。」

 

春蘭「純様。このまま成都を一気呵成に攻め落としちゃいましょう!」

 

翠「あたしも春蘭に賛成だ!純殿!あたしと春蘭と霞で一気に攻め立てるぜ!」

 

これに、春蘭と翠は一気呵成に攻めるべきと言った。

 

純「そうだな。俺達は45万。向こうは度重なる負け戦で残ってるのはたかが一万だ。明日にでも落としてやる!」

 

純は、獰猛な笑みで覇気に溢れた表情で言った。

 

司馬懿「お見事ですな、曹彰様。曹彰様の武勇と忠勇に溢れし我が軍の精鋭なら、半日で落とせましょう。」

 

すると、これに司馬懿がそう答え

 

純「ほお・・・司馬懿。お前もそう思うか?」

 

司馬懿「はい。あなた様なら、あなた様の武勇なら必ず出来ます!」

 

最後には媚びるような言い方で言い

 

稟「・・・」

 

風「・・・」

 

これに稟と風は少し疑うような雰囲気で見た。

 

純「成程・・・稟。風。お前の策は如何にする?」

 

そして、最後に純は稟と風に成都陥落の策を尋ねると

 

稟「司馬懿殿の言う通り、純様の武勇と我が軍の精強さと鉄をも上回る結束力。これら全てを兼ね備えながら勝利はあれど敗北はあり得ません。」

 

稟「後は『黄鬚』の異名に相応しい堂々とした戦ぶりを見せ、将兵を鼓舞するだけです。」

 

そう、稟は拱手して答えた。

 

風「軍師は主が迷っている時に助言するのが責務なのです。」

 

風「迷いがない場合、申すべき事はございません。」

 

風も、そう拱手して答えた。

 

純「そうか・・・よし!!各自、準備に取りかかれ!!」

 

「「「御意!!!」」」

 

そして、純の号令でそれぞれ準備のため別れた。

 

司馬懿(まだだ・・・まだその時じゃない・・・!だが・・・いずれ必ず・・・時が来る!)

 

その際、司馬懿は良からぬ事を企んでるような顔を浮かべながら思案しており

 

稟「・・・。」

 

風「・・・。」

 

それを、稟と風は警戒するように見ていたのであった。



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87話

87話です。


秋蘭「純様。全軍、集結致しました。」

 

純「・・・分かった。」

 

全軍に城攻めの準備を命令した純は、全軍を集結させた。純の目の前には、銀色の荒野。槍、矛、弓・・・。それは空から降り注ぐ太陽を弾き、さながら鉄刃の海原のようだった。

そして純も、その目の前の光景を壇上の上で太刀を立てながらゆっくりと見渡した。

その姿は、まさに数々の死線をくぐり抜けてきた勇猛な歴戦の総帥に相応しい覇気と貫禄に溢れていた。

 

翠「なあ、霞?」

 

霞「ん?何や翠?」

 

翠「純殿の号令は凄く力強いけど、演説もやはり凄いのか?」

 

その時、翠は霞に純の演説について尋ねた。

 

霞「もうメッチャ凄いで!戦場での暴れっぷりや覇気溢れる号令を見ると力が湧いてくるやろ?」

 

翠「ああ。あたしもあの覇気溢れた号令には力が漲る感覚がした。」

 

翠「まさにあれこそ天下の大将軍『黄鬚』の異名に相応しい覇気だった。」

 

霞「せやろ!せやろ!だから、この演説もそれに匹敵する程凄いんや!」

 

翠「そうなのか?」

 

霞「まあ聞いてのお楽しみや!ウチ、もう今の純の姿見るだけでもう身体が熱くなってドキドキが止まらへんもん!」

 

そう霞は頬を赤らめながら言うと、純の演説が始まろうとした。

 

純「聞け!曹軍の勇士達よ!」

 

その覇気溢れる声と同時に、兵達は己の武器を構え直す。続けざまの金属音が、連なり響く後に生まれた光景は・・・切っ先の揃えられた完璧な凪の稲原だった。

 

純「相次ぐ戦乱によって、何度苦難に遭ったか。自分の近くの身内や身の回りの知人が、巻き込まれていったか!」

 

純「どれ程・・・乱世を憎んだ事か!」

 

純「ここにいるお前達は、数々の死線をくぐり抜け、地獄の底から這いあがってきた者達だ!」

 

純「お前らの目の前には、成都がある。そこにいる兵は凡そ一万。率いる者は、皆が笑って過ごせる国を作ると言いながらも民を苦しめ恐怖に陥れ、罪のない人々を大勢殺し、無駄な戦を起こしその結果、天に罰を受け死んだ劉備の腰巾着、諸葛亮だ!」

 

純「その諸葛亮も、劉備同様民を苦しめ、罪のない人々を殺し乱世を深めようとする糞野郎だ!」

 

純「俺達は今から、その糞野郎が籠る成都に総攻撃を仕掛け、諸葛亮を大義によって討つ!」

 

純「我が姉曹孟徳は、戦で苦しむ民を助ける為に民の為の政を行った。そして俺達は、その助けにならんと共にこの武を奮い、戦に苦しむ民を救う為命を懸けて戦った。」

 

純「民の為、大陸の平和の為に骨を折ってきた俺達に、一体何の罪があるのだ!奴らは、皆が笑って過ごせる国を作ると言いながら、本当は己の欲の為に民を恐怖に陥れ苦しめ、それに意見した者は皆殺しにしようと考えているまさにクズ共だ!」

 

純「敢えて言おう、カスであると!」

 

この覇気溢れる力強い声に、皆が聞き入り、涙を零していたが、それぞれの目には力が宿っていた。

 

翠「・・・。」

 

翠の目にも、いつの間にか涙が零れており、それでも聞き入っていた。

 

西涼軍兵士「「「・・・。」」」

 

西涼の騎馬兵5万全員にも、目に力が宿り、それぞれ涙を零しながら聞き入っていた。

 

純「俺達はそのようなカス共を討つ!!これはお前達曹軍の仲間達には常に言っている事だが勇敢にして誇り高い西涼軍もいるため、再度言う!」

 

純「テメーらは、そのようなクソッタレ野郎を殺す為にこの世に生を受けたのだ!そのクソッタレ共を殺す為に、テメーらは獰猛な虎になれ!!俺もテメーらと共に獰猛な虎になる!!俺と共に、我が姉曹孟徳の覇道の為、戦場で敵を狩って狩って、狩りまくってやろうぜ!!」

 

純「それを戦狂いだ野蛮だと馬鹿にするならば、それでも構わねーじゃねーか!!皆で戦狂いの野蛮人になってやろうじゃねーか!!その手に剣を取って敵共を殺せ!剣が折れたなら絞め殺してやれ!腕を斬り飛ばされたのなら首を噛み切って殺してやれ!」

 

純「俺達が戦狂いの野蛮人である事を止めさせるには、俺達全員を殺さねー限りはそれが叶わねー事を教えてやれ!」

 

純「剣を取れ!槍を取れ!気勢を上げろ!姉上の覇道の為、目の前の敵を地獄に陥れろ!!戦狂いの野蛮人らしく暴れてやろうじゃねーか!!」

 

そう覇気溢れた大声を上げながら立ててある太刀を抜いてそれを天に突き上げた。

次の瞬間

 

「「「うおおおっ!!!!!!」」」

 

45万の大軍団全ての将兵が、剣や槍を天高く突き上げて地鳴りの如き雄叫びを上げた。

 

翠「うおおおっ!!!」

 

純の演説に聞き入っていた翠も、気が付けば手に持ってる槍を天に突き上げ、周りに負けじと雄叫びを上げていた。

この時、45万全ての将兵はこう思ったのであった。

 

「「「我々の目の前には、『王』がいる!力強き龍や虎をも凌ぐ覇気に溢れた『覇王』が!」」」

 

と。



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88話

88話です。


純の大演説が終わってすぐに

 

ドーン!ドカーン!

 

凪「真桜!」

 

真桜「おう!まだまだいけるでー!」

 

凪「うむ!沙和!」

 

沙和「了解なのー!みんなー!てーなのー!」

 

三羽烏が率いる発石車隊が一斉に攻撃を開始した。

この攻撃に

 

「お、おい!?何だこの衝撃は!?」

 

「どこの攻撃だ!?」

 

成都を守る劉軍の兵士は混乱した。

すると

 

「お、おい・・・あれ・・・!」

 

一人の兵士がある一点に指を指すと

 

「あ、あれは・・・!?」

 

「そ、曹彰軍じゃねーか!?」

 

純率いる45万の大軍団の軍旗が掲げられていた。

 

「う、うわぁあああ!!そ、曹彰軍だ!曹彰軍が現れたぞー!!」

 

この兵士の叫びに

 

「「「う、うわぁあああ!!!」」」

 

「「「た、助けてくれー!!!」」」

 

「「「ど、どうすりゃ良いんだー!!!」」」

 

兵士は大混乱に陥り

 

「「「ギャァアアア!!!」」」

 

「「「うわぁあああ!!!」」」

 

更に間断なく発石車隊が繰り出す巨石の攻撃に多大なる犠牲者が出た。

 

関羽「鈴々!!急いで対処するぞ!!」

 

張飛「応なのだ!」

 

関羽と張飛は、この攻撃に何とか対応しようとし、応戦したのだった。

 

 

 

 

 

 

諸葛亮「何事ですかこれは!?この音はどこからなのですか?」

 

諸葛亮は、この攻撃音に叫ぶように尋ねると

 

劉軍武将A「大変です諸葛亮様!成都が曹彰軍に包囲され総攻撃を受けております!」

 

武将の一人がそう慌てるように答えた。

 

諸葛亮「包囲されたですって!?そんなはずはありません!あの防衛線から成都まで50里あります!」

 

諸葛亮「それに曹彰軍は西涼の騎馬隊合わせて45万!それだけの大軍団を率いていれば時間がかかるはずです!!」

 

これに、諸葛亮は動揺した様子でそう答えると

 

諸葛亮「そもそも何故敵が迫ってきていることをすぐに報告しないのですか!!皆誰も役立たずです!」

 

諸葛亮「見張りを担当した兵とその指揮官を、全て軍法に則り裁きなさい!」

 

すぐさまその命令を下した。

 

劉軍武将B「お待ち下さい!今この状況で味方を処断しますと、更に動揺が広がります!」

 

劉軍武将B「ここはまず目の前の敵からこの成都を守り切り、戦が終わった後にすれば良いのでは?」

 

これに、劉軍武将の一人がそう慌てるように言うと

 

諸葛亮「黙りなさい!私に逆らうのですか!」

 

諸葛亮はそう狂気の目で言った。

 

劉軍武将B「っ!」

 

これに、劉軍武将は何も言えず俯いてしまい

 

諸葛亮「分かったなら、今すぐ実行しなさい!」

 

劉軍武将A「・・・御意。」

 

拱手しその場を後にした。

そして、すぐに諸葛亮は軍議を開いた。

しかし

 

劉軍武将C「もう一度申し上げます!ただちに前線の守備隊の援護をしないと壊滅してしまいます!」

 

諸葛亮「援護は出来ません!命を伝えなさい!不屈の意志と必勝の信念を持って一歩も退かずに守り抜きなさいと!」

 

劉軍武将D「それでは本当に壊滅してしまいますよ!」

 

諸葛亮「曹彰軍に情け容赦ない攻撃をすれば良いのです!そのようなの、気合でどうにかなります!」

 

劉軍武将D「どのようにすれば?」

 

諸葛亮「不屈の意志と必勝の信念があれば良いと言っているではないですか!」

 

劉軍武将D「それだけで戦に勝てたら苦労しません!」

 

軍議は中々纏まらず

 

劉軍武将E「他にも、まだ成都には大勢の武器を持たぬ民がおられます!彼らをすぐに避難させませぬと!」

 

成都の民の避難指示を求めても

 

諸葛亮「私達の存亡の危機に構ってはいられません!」

 

劉軍武将E「恐れながら、残ってるのは女子供に年寄り、それに負傷者ばかりです!彼らを見捨てろと仰るのですか?」

 

諸葛亮「・・・桃香様の理想に殉じるのです。そうなれば、彼らの犠牲は尊い犠牲です。」

 

劉軍武将E「っ!」

 

諸葛亮は耳を貸さず、そう冷たい言葉を放ち、絶句させたのだった。

 

 

 

 

 

 

 

曹彰軍本営

 

 

 

 

 

 

 

純は、本営にて腕を組んで泰然自若とした様子で座っていた。

その周りを、稟と風がおり、それぞれ地図を見ていた。

すると

 

曹彰軍兵士A「閣下。楽進様、李典様、于禁様率いる発石車隊の猛攻で、成都の城壁を破壊し、敵に甚大な被害を与えております。」

 

兵士が現れ、自軍の攻撃が順調に進んでいることを報告しつつ

 

曹彰軍兵士A「ただ、関羽と張飛率いる守備隊の抵抗は予想以上に激しく、張遼様と馬超様が加わりましても、容易にいっておりませぬ。」

 

関羽と張飛がいる部隊の抵抗に苦戦している事も報告した。

この報告に

 

純「・・・ふっ。はは・・・」

 

純は笑みを浮かべた。

 

曹彰軍兵士A「閣下。こんな時に笑われるとは?」

 

稟「純様・・・?」

 

風「・・・」

 

これには、兵士の他に傍にいる稟と風も注目した。

 

純「流石あの関羽と張飛だと思ってな。敵ながら天晴れだ。」

 

純「ジッとしてるわけにはいかねーな・・・前線部隊に伝えろ!攻撃の手を緩めるなと!」

 

そう伝えると

 

曹彰軍兵士A「御意!」

 

兵士は力強い表情で拱手しその場を後にした。

そして

 

純「俺も出陣する!稟!風!本営は任せたぞ!」

 

純は太刀を持ってそう二人に言うと

 

稟「はっ!存分にお暴れ下さいませ!ここはお任せを!」

 

風「御意なのですよ~!」

 

二人はそう拱手し答えた。

そして、天幕を出て颯爽と馬に乗り

 

純「行くぞお前ら!『黄鬚』曹彰に付いてこい!」

 

そう覇気に溢れた号令をかけると

 

「「「応!!!応!!!応!!!」」」

 

兵士全員が力強い雄叫びを上げ、純と共に最前線へ向かって駆けていったのであった。



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89話

89話です。


最前線

 

 

 

 

 

曹彰軍兵士A「張遼様!馬超様!三度攻めましたが、反撃されました!敵は、怯む様子を見せません!」

 

これに

 

霞「さっすが関羽やな~!ウチらの猛攻によう粘るわ~!」

 

翠「そうだな・・・関羽と一緒の張飛もいるからなー。」

 

霞と翠がそう言うと

 

凪「それだけじゃありません。敵兵にも守りたい家族がいるのです。必死になるのは当然です。」

 

真桜「せやな・・・それは当然や。」

 

沙和「なの・・・」

 

三羽烏もそれに続いた。

その時

 

純「この戦い、俺も参加するぞ!」

 

純が颯爽と現れた。

 

霞「純!?」

 

翠「純殿!?」

 

この突然の登場に、霞と翠は目を丸くし

 

凪「っ!?」

 

真桜「大将!?」

 

沙和「純様!?」

 

三羽烏も驚きのあまり一瞬固まった。

 

霞「な・・・何で純がここに・・・?」

 

純「後方でジッとしてるのは俺の性に合わん!俺は常に戦場で暴れてる方が良いんだよ!」

 

純のこの好戦的な気質に

 

翠「はは・・・総帥自ら戦場とは・・・噂通り勇猛果敢なお方だ・・・」

 

翠は呆気にとられつつもその魅力に惹かれており

 

翠「何だろう・・・この感覚・・・」

 

翠(何だか・・・また更に力が湧いてくるような・・・)

 

己の身体に力が湧いてくるような感覚を味わった。

 

純「さて・・・行くぞテメーら!!『黄鬚』曹彰に付いてこい!!」

 

そして、純はそう強烈な覇気溢れた号令と共に太刀を抜き自ら先頭に立って馬を走らせた。

 

「「「おおおーっ!!!」」」

 

これに、兵士も力強い雄叫びと共に駆け

 

霞「おっしゃー!!お前ら、純に続くでー!!」

 

翠「純殿や皆に遅れを取るなー!!」

 

霞と翠も純に続き馬を走らせ突撃を開始した。

 

凪「真桜!沙和!」

 

真桜「おう!行け、凪!!大将や姐さん達と共に暴れてこい!!」

 

沙和「なの!!沙和達も、全力で後方で援護するの!!」

 

凪「ありがとうお前達!」

 

そして、凪も馬に乗り

 

凪「行くぞ!ただ前進あるのみ!!純様達に続けー!!」

 

そう部下を率いて突撃を開始したのだった。

 

春蘭「おお!純様御自ら戦場に!」

 

春蘭「皆の者!純様が加わった!我らも純様に褒められるような手柄を挙げるぞー!!」

 

「「「おおおーっ!!!」」」

 

秋蘭「全く純様は・・・」

 

楼杏「でも・・・これが純さんなんでしょうね・・・」

 

秋蘭「そうですね・・・皆!純様に遅れを取るな!!」

 

楼杏「存分に手柄を挙げなさい!!」

 

「「「応!応!応!」

 

剛「哲!」

 

哲「ああ!皆の者!我らも続くぞー!!」

 

「「「おおおーっ!!!」」」

純の突撃に、曹彰軍の士気は最高潮に上がり、攻撃に激しさを増したのだった。

 

 

 

 

成都

 

 

 

 

劉軍兵士A「申し上げます!敵の攻撃、曹彰が加わった影響で更に激しさを増し、被害は先程の比ではございませぬ!」

 

関羽「ぐぅっ・・・流石曹彰殿!『黄鬚』の異名に相応しい勇猛な総帥であり、名将だ・・・」

 

純の強烈な武勇に改めてそう感じた関羽。

その時

 

張飛「愛紗!本陣からなのだ!」

 

張飛が本陣から遣いの兵士と一緒に現れた。

その遣いの兵士は関羽を見るや否や

 

劉軍兵士B「諸葛亮様の遣いで参りました!」

 

劉軍兵士B「関羽様!今すぐ成都の城にお戻り下さい!」

 

そう大きな声で関羽に言った。

 

関羽「こんな時に何故だ!!」

 

この関羽の問いに

 

劉軍兵士B「勝手に持ち場を移動した罪で一度成都の城にて弁明を求めるとの事です!」

 

兵士はそう関羽に言うと

 

関羽「お主、何を言っているのだ!!私は持ち場を移動してはおらぬぞ!!」

 

張飛「そうなのだ!!鈴々と愛紗は一歩も移動してないのだ!!」

 

関羽と張飛は意味が分からないといった表情を浮かべ、そう兵士に言った。

 

劉軍兵士B「しかし、持ち場を移動したとの知らせが入りましたぞ!!」

 

しかし、兵士もそう続いて関羽に言うと

 

張飛「だから鈴々と愛紗は移動なんてしてないと言っているのだ!!」

 

張飛は怒鳴りつけるように言った。

 

関羽「鈴々の言う通りだ!私達は一歩もここを動いてはいないぞ!!」

 

劉軍兵士B「しかし、後方へ下がったと聞いておりますぞ!」

 

これに

 

関羽「馬鹿を言うな!!目の前に敵が迫っているのだぞ!!」

 

関羽はそう怒鳴るように兵士に言ったその時

 

張飛「愛紗ー!!」

 

張飛が突然関羽を庇うように抱き締め後方に下がったその時

 

ドカーン!!

 

そこに大量の巨石が降ってきたのだ。

間一髪で助かった関羽は

 

関羽「すまないな、鈴々!」

 

そう張飛に礼を言いすぐに立ち上がった。

しかし、遣いの兵士は巨石の下敷きになって即死しており

 

「ああー!!お、俺の腕がー!!」

 

「痛ー!痛ーよ!!」

 

「だ、誰か助けてくれー!!」

 

関羽「っ・・・!」

 

関羽の目の前に広がるのは、兵士の阿鼻叫喚とした姿だった。

 

張飛「どうするのだ、愛紗?」

 

張飛の問いに

 

関羽「すぐに成都の城に向かう!」

 

関羽はそう答えた。

 

張飛「な、何故なのだ!?」

 

関羽「朱里に直接会って、この戦を止める!」

 

関羽「どのみちこの戦は我らの負けだ!これ以上、兵の命を無駄に散らしたくない!」

 

張飛「け、けど愛紗!今の朱里には・・・!」

 

関羽「それでも私は行く!来い、鈴々!」

 

そう言い、関羽は張飛と共に成都の城に向かったのであった。



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90話

90話です。


成都の城に到着した関羽と張飛は、怒りの表情で城内を歩いた。

向かっているのは諸葛亮がいる部屋ただそれだけだ。

諸葛亮がいる部屋の近くに来ると

 

劉軍武将A「これはこれは関羽殿に張飛殿。」

 

劉軍武将がおり、彼らは関羽と張飛を見るや拱手した。

 

関羽「お前達に聞きたい。何故私が持ち場を離れたといった誤報が入ったのだ?」

 

関羽は、彼らを見るやすぐにそう尋ねると

 

劉軍武将B「関羽殿。我らもそんな事をするお方ではないと諸葛亮様に再三仰いました。」

 

劉軍武将A「しかし、諸葛亮様は耳を貸さず、弁明を聞いた後、軍法にて裁くと仰いました。」

 

劉軍武将はそう答えた。

 

関羽「馬鹿を申すな!私と鈴々、そして兵の皆は敵の猛攻に耐え休まずに勇戦しているのだぞ!城門を破り、成都内に攻め入るのも時間の問題だ!これ以上の戦いは、兵だけじゃない、大勢の無辜の民も巻き込まれ、イタズラに犠牲を増やすだけだ!」

 

張飛「そうなのだ!!鈴々達は一生懸命戦っているのだ!けど、これ以上は駄目なのだ!」

 

これに、関羽と張飛はそう言うと

 

劉軍武将A「・・・我らとてそう思っておりまする。しかし、我らでは何も出来ませぬ。諸葛亮様に全てお話し下さい。」

 

劉軍武将はそう答え、諸葛亮のいる部屋へ案内した。

 

関羽「・・・分かった。すまないな、怒鳴ってしまって。」

 

これに、関羽はそう謝罪すると

 

劉軍武将B「いえ。もし逆の立場だったら、我らも同じ事をするはずです。お気になさらず。」

 

劉軍武将はそう答えた。

そして、関羽と張飛は諸葛亮がいる部屋に入ると

 

関羽「おい朱里!私達が持ち場を離れたというのはどういう事だ!」

 

関羽はそう諸葛亮に怒鳴った。

 

諸葛亮「愛紗さん。あなたは持ち場を離れ後方に下がったとの情報が私に入りました。そのような行為をした者は例え誰であっても軍法にて裁きます。」

 

諸葛亮は、そう淡々と答えると

 

関羽「私達や兵の皆は敵の猛攻に耐え休まずに勇戦している!敵が城門を破り成都内に攻め入るのも時間の問題なのだぞ!」

 

関羽「朱里!これ以上の戦は無用だ!ここは降伏するのが賢明ではないのか?」

 

張飛「愛紗の言う通りなのだ!朱里、ここは降参した方が良いのだ!これ以上皆が死んでいくのは見たくないのだ!」

 

関羽と張飛はそう必死の表情でそう言った。

 

諸葛亮「何を仰るのですか!!私は降伏なんてしません!!降伏なんて恥辱です!!もし降伏なんてしたら、桃香様の理想が悪に屈するのも同様!!私は断じてしません!!」

 

しかし、諸葛亮は意固地にそう言うと

 

関羽「しかし朱里!これ以上の戦は兵だけじゃなく、大勢の無辜の民の命を失うのだぞ!彼らをどうするのだ!!」

 

関羽はそう怒鳴るように聞くと

 

諸葛亮「桃香様の理想に殉ずるのです!それが皆の務めです!!皆もそれは本望でしょう!!彼らの犠牲は尊い物なのです!!」

 

諸葛亮はそう喚くように言うと

 

関・張「「っ!!」」

 

関羽と張飛は絶句するような表情で諸葛亮を見た。

 

諸葛亮「これ以上の話は無駄です!すぐに持ち場に戻って下さい!」

 

そして、諸葛亮はそう関羽達に怒鳴るように言い、関羽と張飛は幻滅した表情を浮かべながらその場を後にした。

 

諸葛亮「見てるのです・・・これは正義を守る為の戦です・・・私達が正しい事を証明するのです・・・そうです・・・これは正義なのです・・・」

 

この時、諸葛亮はそうブツブツと呟くようにそう呟いたのだった。

同時刻、純が加わったことで曹彰軍の攻撃は激しさを増し、遂に

 

ドガアアアン!!!

 

城門が破られた。

 

純「成都の門をぶち破ったぞ!!お前ら、突撃しろー!!敵を全て食い殺せー!!」

 

これに、純はそう先頭にて号令し、一斉に突撃した。

霞と翠、そして凪も続いて突撃を開始した。

 

「う、うわぁあああ!!!城門が破られたぞー!!」

 

「こ、『黄鬚』だー!!『黄鬚』が来たぞー!!」

 

こうなると最早蹂躙に等しく

 

純「はああああっ!!」

 

「「「ぐはあああっ!!!」」」

 

霞「うりゃあああっ!!」

 

「「「ガハッ!!!」」」

 

翠「とりゃああああっ!!」

 

「「「ギャアアアッ!!!」」」

 

凪「はあああっ!!!」

 

「「「うわあああっ!!!」」」

 

皆それぞれ数十人の敵兵を殺していく勢いで進んで行った。

この状況に

 

秋蘭「城門を破ったか!」

 

楼杏「そのようね!」

 

秋蘭「全く・・・あの方の武勇はいつ見ても驚くばかりだ・・・」

 

楼杏「フフッ・・・でも、非常に勇壮で頼もしい大将軍様ね。」

 

秋蘭「そうですね・・・皆!我らも遅れを取るな!!」

 

春蘭「私も続く!!行くぞー!!」

 

剛「行くぞ哲!!」

 

哲「応!!」

 

他の部隊も士気がまた更に上がり、一斉に成都内に突入し、敵兵を蹂躙していった。

これには

 

関羽「クッ・・・!急いで戻ったが遅かったか!!」

 

関羽は顔を歪ませながらそう答えた。

 

張飛「愛紗!もうこのままじゃ持たないのだ!」

 

張飛の言葉に

 

関羽「そうだな!これ以上の抵抗は無用だ!皆、武器を下ろせ!!」

 

関羽はそう兵に言った。

これに反応した

 

純「テメーら!攻撃止めー!!攻撃止めー!!」

 

純はそう兵に叫び

 

霞「おら止めや!!」

 

翠「止めるんだ!!」

 

凪「止めー!!」

 

純と一緒に突撃した霞達もそれに続いて攻撃中止を叫んだ。

 

秋蘭「攻撃止め!攻撃止め!」

 

楼杏「止めなさい!止めなきゃ斬るわ!」

 

春蘭「攻撃止め!」

 

剛「閣下の命だ!止め!」

 

哲「止めー!」

 

それに続いて秋蘭達も攻撃中止を叫んだ。

 

関羽「曹彰殿ー!!曹彰殿はおられるかー!!」

 

関羽は大声でそう叫んだ。

すると

 

純「俺が曹彰だ!!テメーは関羽か!」

 

純は関羽に近付いて聞くと

 

関羽「如何にも!我が名は関雲長!我らは、曹彰殿に投降する!!」

 

関羽は青龍偃月刀を置き跪き、張飛やそれ以下敵軍将兵も続いた。

 

純「・・・分かった。お前達の投降を受け入れよう。」

 

純「秋蘭。彼女らを丁重に保護し、稟と風のいる本陣に行け。」

 

秋蘭「御意!」

 

これに、純は秋蘭にそう命じ、秋蘭は拱手した。

この関羽らの投降に、劉軍将兵は残り千足らずとなり、櫓の一部に諸葛亮と共に籠ったのであった。



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91話

91話です。


櫓の一部にて千足らずの将兵と共に籠る諸葛亮を純達曹彰軍が包囲していた頃、司馬懿は稟や風と共に本陣待機をしており

 

司馬懿「フハハハハ!!これこそ天が与えた好機!天佑なり!!今ここで密かに刺客を送り曹彰とその主要を殺せば、奴が率いる45万の精兵を束ね益州を平定し、この精兵を率いて許都を攻め曹操を殺し帝を殺し江東の孫策を殺しこの大陸を我が物に出来る!!」

 

司馬懿「我が野望、これにて完遂なり!!フハハハハ!!」

 

幕内にて己の野心を剥き出しにし、独特の高笑いをしながらそう言うと、自らの私兵の中から刺客を選び純らの暗殺に向かわせようと考えたその時

 

司馬懿「ん?何の騒ぎだ?」

 

幕の外で足音のような音が聞こえた。

すると

 

バッ!

 

??「とうとう本性を現わしましたね、司馬懿!!」

 

幕に複数の人が入り、同時に凛とした声が幕内に響いた。

そこには

 

司馬懿「なっ!?か・・・郭嘉!?」

 

屈強な兵士が槍先を司馬懿に向けて構え、その中心には稟がいた。

 

司馬懿「これはどういう事だ!!」

 

司馬懿の怒鳴り声に

 

稟「我が主曹彰暗殺を企み軍を乗っ取り、謀反を起こそうとする反逆の罪であなたを処断します!!」

 

稟は軍師らしい雰囲気を身に纏いながらも炎の如き燃えるような気迫でそう答えた。

 

司馬懿「そ、外にいた我が私兵はどうした!?」

 

稟「彼らは既に風によって抑えられております!さあ司馬懿!お覚悟を!!」

 

そう稟は言うと

 

司馬懿「ク・・・クソォォォォ!!」

 

司馬懿は懐から短剣を取り出し、それを構えて稟目掛けて突進した。

しかし

 

ドシュ!ドシュ!ドシュ!ドシュ!

 

司馬懿「グハアアッ!!」

 

兵士に全身に槍を突かれ、大量の血を噴き出してその場に倒れた。

そして

 

司馬懿「お、おのれ・・・か、郭嘉め・・・!」

 

稟に対し恨みの籠った目で這いつくばりながら手を伸ばしたが

 

パタリ

 

その場に倒れ絶命した。

 

稟「純様を傷付けようとする者は、例え誰であってもこの私が許しません!」

 

そう、稟は事切れた司馬懿の遺体を見下ろしながら言い

 

風「稟ちゃん。」

 

稟「風。終わりましたか?」

 

風「はい~。万事滞りなく~。」

 

稟「そうですか。誰か!」

 

曹彰軍兵士A「はっ!」

 

稟「この賊の首を、ただちに許都に送って下さい。ついでにこの書状も携えて。」

 

曹彰軍兵士A「御意!」

 

司馬懿の首を許都に送るよう兵士に命令し

 

稟「誰か!」

 

隠密A「はっ!」

 

稟「彼の九族全て始末して下さい。女子供も容赦なく全てです。」

 

隠密A「御意!」

 

普段誰にも見せない冷たい声と目でそう自ら率いる隠密に命令したのだった。

 

風「おお~。血も涙もないですね~稟ちゃん。」

 

稟「こういうのは、全て根絶やしにしなければなりません。」

 

風の言葉に、稟は終始冷徹に答えた。

こうして司馬懿とその一族は、稟によって粛清されたのであった。



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92話

92話です。


許都

 

 

 

 

 

 

司馬懿の首は、稟が書いた書状と共に許都に届いた。

 

霊帝「丞相。司馬懿が謀反を企んだため、討ち取ったと書いてある。」

 

その書状を読んだ霊帝は、華琳にそう言った。

 

華琳「そのようですね。弟は勿論ですがその配下は皆まさにこの大陸の義士です。」

 

華琳「此度の戦に勝利した暁には、戦功の他にも多大なる褒美をお与え下さいませ。」

 

これに華琳は、そう霊帝に進言した。

 

霊帝「と、当然よ。大将軍とその配下には、それ相応の恩賞を与えるわ。」

 

華琳「それが宜しいかと。後、ついでに司馬一族全員を朝廷に召し出しましょう。」

 

霊帝「そうね。すぐに参上するよう伝えなさい。」

 

華琳「御意!」

 

霊帝の命に、華琳は拱手しその場を後にした。

そして、桂花を呼び

 

華琳「桂花。司馬一族全員を朝廷に参上するよう伝えなさい。」

 

そう命令したのだが

 

桂花「えっと・・・華琳様。」

 

桂花の様子がおかしかったので

 

華琳「?どうしたの?」

 

華琳はそう尋ねると

 

桂花「実は・・・司馬懿の司馬一族全てが、殺されておりました。」

 

桂花が、司馬懿らの一族全てが殺されている事を言った。

 

華琳「何!」

 

これには、華琳も驚きの反応を示した。

 

桂花「華琳様に司馬一族の様子を調べるよう言われ、すぐに調べさせたのですが、私の密偵の情報によると、司馬一族全員が首を刎ねられた状態で発見されていたとの事です。」

 

桂花「加えて、このような物が一緒に・・・」

 

そう言い、桂花は一枚の紙を華琳に渡した。

その紙に書かれていたのは

 

『謀反を企み我が主を謀殺しようとした卑劣な輩は万死に等しい。よって、天誅を下す。』

 

『彼らと組んで企んだ者よ、例え天に昇り地に潜って逃げても決して逃がしはしない。首を洗って待ってるが良い。』

 

と書かれていた。

 

華琳「これは・・・郭嘉がやったわね。」

 

これを読んで、華琳は誰がこのような事をやったのかすぐに察した。

 

桂花「はい。華琳様の仰る通り、そうかと思います。」

 

華琳「ええ・・・これは彼女の手によって相当粛清されるわね。」

 

華琳「完全に反乱分子を無くす事が出来る。」

 

そう華琳は桂花に言った。

 

桂花「そうですね。」

 

これに、桂花もそう答えた。

この時、司馬懿に与した者全てが粛清されており、この粛清の嵐の知らせを聞いた霊帝は恐怖で震えてしまい、その後心労で体調を崩しあまり人前に出なくなったのだった。

 

 

 

 

 

 

稟が司馬懿を粛清した事は、勿論純達最前線にも届いた。

 

純「ほお・・・稟が?」

 

秋蘭「はい。純様を暗殺しこの精兵を束ね天下を取ろうと企んだ司馬懿を、反逆の罪で即刻殺したとの事です。」

 

この知らせに

 

楼杏「稟さん・・・」

 

翠「しっかし司馬懿め・・・純殿を暗殺しようとするなんて・・・」

 

春蘭「クソォー!華琳様の恩をこんな卑劣な形でー!」

 

霞「応!司馬懿め・・・卑怯者や!!」

 

それぞれ色んな表情を浮かべており、春蘭と霞、そして翠に至っては、怒りの表情に染まっていた。

 

純「それで、司馬懿の首はどうするって?」

 

純の疑問に

 

秋蘭「許都に送るようです。それに加えて、司馬懿の司馬一族九族全て始末するつもりだそうです。」

 

秋蘭はそういつも通りのクールな表情でそう答えた。

 

純「そっか・・・まあ、それが妥当だろうな。」

 

純「勅命は出てないが、密かに始末するつもりだな、稟。」

 

楼杏「そのようですね・・・」

 

そして

 

純「よし!そういうのは稟達に任せ、俺達は総攻撃をかけるとしよう!お前ら、すぐ支度に取りかかれ!」

 

純は皆に総攻撃の支度をするように命令し

 

「「「御意!!!」」」

 

皆それぞれ拱手しその場を後にした。

 

純「諸葛亮・・・大地と民を苦しめたその悪逆の報いを、この俺が受けさせてやる!」

 

その際、純はそう言うと鞘から太刀を抜き

 

バッ!

 

袈裟斬りで空気を斬った。

その時の純の目は、まるで激しい炎が燃え盛るように爛々としていたのであった。



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93話

93話です。


純達に完全に包囲されているこの状況下で

 

諸葛亮「大丈夫です。我々のこの危機的状況を救済してくれる軍勢は必ず現れます。」

 

諸葛亮はそう言っていた。

 

劉軍武将A「諸葛亮様、恐れながら申し上げます。そのような軍は最早存在しませぬ!」

 

劉軍武将B「仮にいたとしても、もう既にそれらには戦闘能力は存在しませんし、曹彰軍に立ち向かえませぬ!」

 

劉軍武将C「曹彰は勇猛果敢な総帥であり名将です!その配下の将兵皆精鋭揃い。返り討ちに遭うのが関の山です!」

 

劉軍武将D「諸葛亮様。ここは一つ、関羽殿と張飛殿同様降伏するのが賢明かと!」

 

この言葉に

 

諸葛亮「あなた!今何と言いましたか!!」

 

諸葛亮は怒りの表情を浮かべ

 

諸葛亮「私は決して降伏なんてしません!!降伏するなんて論外です!!降伏すれば、私達の、桃香様の崇高な正義の思想が彼ら悪に屈したも同様です!!」

 

諸葛亮「私は負けておりません!!寧ろ、今こそ我らが逆転し勝利する好機!!」

 

諸葛亮「あの二人のような卑劣な臆病者にはなりません!!」

 

そう怒鳴ると

 

劉軍武将A「しかし、今この状況下を逆転出来る手はありません!」

 

諸葛亮「それはあなた達が私の完璧な策に従わないからです!!その結果がこれじゃないですか!!

 

諸葛亮「あなた達は嘘つきです!!武人とは名ばかり!!皆誰も嘘つきで、無能な臆病者裏切り者揃いです!!」

 

劉軍武将A「諸葛亮様!それはいくら何でも言い過ぎです!」

 

諸葛亮「黙りなさい!無能で卑劣な臆病者が!」

 

劉軍武将A「諸葛亮様!それは我ら武人にはあまりにも侮辱です!」

 

諸葛亮「皆誰も桃香様の理想に反する恥さらしです!!何が武人ですか!!あなた達は、一体何回の戦を経験し、何を学んだんですか!!」

 

諸葛亮「あなた達はいつも私の足を引っ張り邪魔しますね!!あなた達だけじゃありません!!今私達を卑劣にも桃香様の崇高な理想ごと踏み躙ろうとする悪丞相曹操さんに弟の匹夫の曹彰さんと、江東の孫策さん、ありとあらゆる人達は私や亡き桃香様の敵です!!」

 

諸葛亮の罵声は収まらず

 

諸葛亮「私は朝廷の官職をいただいたわけではありません。出世街道を進んだわけではないですが、桃香様に出会い、その崇高な理想のために己が力を使い、皆を幸せにしてきました!!」

 

諸葛亮「この大陸全ての人は、桃香様や私を裏切り嘘つき共なのです!!」

 

諸葛亮「私は決して屈しません!!屈するは恥辱です!!私達正義が、悪に負けるなどあり得ないのです!!」

 

諸葛亮「必ず私達が勝利を収め、この大陸を笑顔にするのです!!」

 

そう、ひとしきり喚き散らした。

 

「「「・・・。」」」

 

これには、周りの武将達は呆然と諸葛亮を眺める者もいれば、蔑むような思いで見る者もいたのだった。

 

 

 

 

 

 

 

曹彰軍

 

 

 

 

 

 

 

純「どうやら、諸葛亮は降伏する気はねーようだな。」

 

その頃、純は最前線に立ち、櫓の様子を見てそう呟くと

 

秋蘭「そのようですね。」

 

秋蘭も同じくそう感じたのか、呟いた。

 

純「これ以上待つわけにはいかねー。生かしたら後々危険だ。この手でアイツを斬り殺してやる!」

 

そう、獰猛な表情で呟くと

 

純「秋蘭!総攻撃の準備をしろと全軍に触れを出せ!!」

 

秋蘭に命令した。

 

秋蘭「はっ!」

 

拱手した秋蘭がその場を後にすると

 

純「もしかしたら・・・これが最後の戦になるのか・・・それとも江東の孫策との戦が最後になるのか・・・」

 

純「もしこの戦が最後なら・・・俺の存在価値は一体・・・」

 

純は消え入るような声でそう呟いたのであった。



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94話

94話です。

読み終わったらで良いので、活動報告にてお聞きしたいことがありますので、興味があったら見て下さい。

では、どうぞ。


総攻撃の準備を終えた純達曹彰軍。

 

純「諸葛亮と、残った敵兵全て皆殺しだ!行くぞテメーら!!『黄鬚』曹彰に付いてこい!!」

 

純の力強い号令と共に

 

「「「おおおーっ!!!」」」

 

純を先頭にした曹彰軍45万の総攻撃が開始された。

劉軍も最初は何とか抵抗したのだが

 

純「はああああっ!!」

 

「「「ギャアアアアッ!!!」」」

 

純「うらあああっ!!」

 

「「「ぐはああああっ!!!」」」

 

純「うおおおっ!!」

 

「「「うわあああっ!!」」」

 

純が先頭にて目の前の劉軍兵士を一太刀で数十人斬り殺していき

 

春蘭「おらおらぁ!!全員皆殺しだー!!」

 

霞「うりゃあああ!!お前ら、純に遅れを取ったらアカンでー!!」

 

翠「純殿に続けー!!」

 

剛「はああああっ!!」

 

哲「おりゃあああっ!!」

 

それに負けじと春蘭、霞、翠、剛、哲も次々と劉軍兵士を殺していき

 

凪「はああああっ!!」

 

真桜「うりゃあああ!!」

 

沙和「てやああああっなのー!!」

 

三羽烏に

 

秋蘭「放て!!」

 

楼杏「決して手を緩めてはなりません!!」

 

秋蘭と楼杏も続き、一方的な蹂躙となり、周りは劉軍将兵の死体で溢れていき、阿鼻叫喚と化した。

その時

 

諸葛亮「匹夫の宦官の孫!!」

 

諸葛亮が純達の前に立ち

 

諸葛亮「悪逆無道の宦官の孫の曹彰!!頭が高いです!!ただちに投降しなさい!!」

 

そう叫んだ。

それを見た純は

 

純「悪逆無道はテメーだ諸葛亮!!覚悟しやがれー!!」

 

諸葛亮目掛けて突撃した。

すると

 

諸葛亮「正義の一撃を食らいなさい!!」

 

諸葛亮はそう言うと懐から短剣を取り出し

 

諸葛亮「はあっ!」

 

それを純目掛けて投げた。

 

純「はああああっ!!」

 

純はそれを太刀で叩き落とすと

 

諸葛亮「くぅっ!しかし、これで最後です!!食らいなさい!!」

 

諸葛亮は再び懐から短剣を取り出し構え、突撃した。

しかし、武芸はからっきしな諸葛亮では全く勝負にはならず

 

純「うらああああっ!!」

 

ズバッ!!ザシュ!!

 

諸葛亮「アアアアッッ!!!」

 

純に両腕を斬られ

 

ドシャアアアッ!

 

倒れ込んでしまった。

 

純「フンッ!テメーの負けだ!諸葛亮!!」

 

そして、純は太刀を諸葛亮に向けてそう言うと

 

諸葛亮「ゲホッ!!ゴホッ!!ま・・・まだです・・・!!まだ・・・わ、私は・・・!!」

 

諸葛亮は両腕を失ったのと激痛で上手くバランスを取って立ち上がれず、血を吐き地に這いつくばっていたのだがそれでも執念で何とか起き上がった。

そして

 

諸葛亮「ゲホッ!!曹彰さん・・・!!あなたは・・・グフッ!!あなただけは・・・決して許さない・・・!!」

 

諸葛亮「あなたに・・・こ、殺された兵士と・・・ゴホッ!み、皆の・・・憎しみを・・・し、知りなさい・・・!!」

 

諸葛亮「それらを・・・踏み躙ってきた者達と・・・ゲホッ!亡き桃香様と・・・こ、この私に・・・頭を垂れて・・・詫びながら・・・グフッ!し、死になさい!!」

 

諸葛亮「正義は・・・ゴホッ!わ、私達にあります!!」

 

諸葛亮は血を吐きむせながらも憎しみの炎に燃えた目でそう純に向かって喚いた。

 

純「呆れたな・・・この期に及んで未だに己が正しいと言ってやがるよ・・・」

 

純「さらばだ、劉備同様妄執に囚われた逆賊よ。大地と民を苦しめたその悪逆の報い受けると良い。」

 

そう言うと、純は太刀を上段に構えた。

そして

 

諸葛亮「・・・地獄に落ちろ、曹彰。」

 

諸葛亮は最期にそう憎しみの籠った声でそう言い遺し

 

ザシュッ

 

純に首を刎ねられた。

純は、諸葛亮の首を持つと

 

純「逆賊諸葛亮は死んだ!!この戦、俺達の勝利だー!!許都におられる姉上に聞こえる程に天地を揺るがす勝利の雄叫びを上げろー!!」

 

その首を掲げ、強烈な覇気を前面に押し出しそう叫んだ。

 

「「「応!!応!!応!!応!!」」」

 

純「もう一度だ!!!もう一度、天地を揺るがす勝利の雄叫びを上げろー!!!」

 

純は、また更に強烈な覇気を前面に押し出し叫ぶと

 

「「「応!!!応!!!応!!!応!!!」」」

 

将兵45万の雄叫びはまた更に大きくなった。

 

秋蘭「純様・・・!!」

 

楼杏「純さん・・・!!」

 

春蘭「オオーッ!!」

 

霞「おっしゃー!!」

 

翠「おおー!!純殿ー!!」

 

剛「やったな、哲!!」

 

哲「応!!」

 

凪「うおーっ!!」

 

真桜「流石大将やーっ!!」

 

沙和「やったのー!!」

 

秋蘭達もそれぞれ喜びの雄叫びを上げたりなどそれぞれ嬉しさを表現した。

この日を以て、益州は完全に純の手によって平定されたのであった。



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95話

95話です。


諸葛亮を斬り、益州を平定した純達。

早速、民達の慰撫を行うよう指示し、細部を稟と風に任せた。

また、他にもこういった内容の高札を出すよう命じた。

 

 

 

 

一・みだりに人を殺す者

 

二・みだりに物を盗む者

 

三・みだりに流言を放つ者

 

以上。その一つを犯す者は斬罪に処す。

 

大将軍曹彰

 

 

 

 

この内容を見て

 

稟「非常に単純な内容ですが、如何にも純様らしいですね。」

 

稟はそうクールに言うと

 

純「俺は難しい事はさっぱり分かんねーし苦手だ。こういうのは単純なのが良いんだよ。」

 

純はそう答えた。

 

稟「分かりました。では早速、この内容の高札を出して参ります。」

 

純「ああ、頼む。」

 

この高札により、曹彰軍はこの軍令をしっかり厳守した。

 

風「純様〜。未だ我らに抵抗する勢力がございますが〜。如何なさいますか〜?」

 

純「当然討て。俺達は侵略者ではない。この地の民を救う軍だ。賊に加担し民の心を脅かす者を生かすのは義に反する。」

 

純「奴らを徹底的に排除して、民を安心させるんだ。」

 

風「御意〜。」

 

そして、抵抗勢力は徹底的に討伐され、それの中心にいた者は処刑された。

こうして、成都を含めた益州の民は、皆心服し、治安と民心が落ち着いていった。

そんな時

 

純「そう言えば、鳳統の様子は?」

 

稟「はい。特に何かするわけでもなく、一日中部屋に籠っておられます。」

 

鳳統が、純に願いがあると言って会いたいと言ったのだった。

実はこの鳳統、純が最後の総攻撃をする前日に諸葛亮によって根も葉もない謂われのない罪で投獄され、戦が終わった後に謀反の罪で処刑される予定だったのを総攻撃で諸葛亮が純の手によって斬られた後、牢から出したのだ。

それから暫くは彼女は特に何もしなかったのだが、純にお願いを頼んだ。

 

純「・・・そっか。」

 

稟「純様。如何なさいますか?」

 

純「・・・鳳統個人がどうしたいか聞きたい。ここに来るよう伝えてくれ。」

 

稟「御意。」

 

そして、鳳統が純の前に現れると。

 

鳳統「鳳士元が、曹大将軍に拝謁致します。」

 

すぐに跪き、拱手すると三拝した。

 

純「鳳士元。俺は堅苦しいのは苦手なんだ。そう畏まらずに楽にしろ。」

 

純の言葉に

 

鳳統「ご配慮、ありがとう存じます。」

 

鳳統はそう礼を言うとすぐに立ち上がった。

 

純「鳳統。お前、今後どうするつもりだ?」

 

純の問いに

 

鳳統「私は・・・山に籠り、そのまま余生を送りながら贖罪の生活を送りたいと思います。」

 

鳳統は目を俯かせながらそう答えた。

 

純「お前の出身は荊州の襄陽だったよな。」

 

鳳統「はい。しかし、そこに戻ってももう帰る場所はございませぬ。襄陽どころか、荊州にはもう戻れませぬ。」

 

純「なら、許都に来るか?俺が姉上に頼んで、何とか生活できるようにしよう。」

 

純のこの提案も

 

鳳統「お気遣い感謝致します。しかし、もう私はあまり表に出たくはございませぬ。」

 

鳳統「山に籠り余生を送り、友が犯した罪の償いをしていきたいと思います。」

 

鳳統はそう断った。

 

純「何故そこまで諸葛亮を?アイツは、友であるお前を謂われのない罪で殺そうとしたんだぞ。」

 

純のこの疑問に

 

鳳統「友だからです。朱里ちゃ・・・諸葛亮は、例え誰がどう言おうと私にとって一番の友です。友が犯した罪は、全て私が背負い、償っていく。それが、私が死んでいった無辜の人達に出来る唯一の償いなのです。」

 

鳳統はそう答えた。

それを聞いて

 

純「・・・そうか。そこまで言うなら、許そう。」

 

純はそう言って許可を取った。

 

鳳統「感謝致します。」

 

鳳統は、そう言ってその場を去ろうとすると

 

純「鳳統。達者で暮らせ。」

 

純は、そう声をかけたのだった。

 

鳳統「・・・。」

 

それを背中で聞いた鳳統は、そのまま立ち去ったのだった。

 

純「・・・稟。」

 

稟「はっ。」

 

純「アイツは・・・鳳統は、目の前の友が変わっていく姿を見て、何も出来ない無力な自分を恨んだだろうな。」

 

稟「純様・・・」

 

純「悪い。らしくねー事言っちまったな。さて、今後どうするか許都に指示を仰ごう。」

 

そう言い、純はその場を後にした。

 

稟(純様は武勇と軍才、そして統率力に優れた古今東西比類無き勇猛果敢な名将であり、将兵からの人望も厚い英雄の器でもある。・・・知恵が足りないのが最大の弱点ですが。)

 

稟(しかし・・・乱世が終わったら、まだ異民族の問題があります。姉であり主君である曹操殿は引き続き純様を重用なさってくれると思いますがその先は疑問です。飛鳥尽きて良弓蔵められ、狡兎死して走狗煮らるの言葉があります。)

 

稟(韓信大元帥がまさにその言葉を体現するかの如くの末路を辿りました。)

 

稟(もしそのような事が起きそうになりましたら・・・杞憂であって欲しいものです。)

 

この時、稟はそのような事を考えていたのであった。



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96話

96話です。


許都にて今後の指示を仰ぐため、純は書状を送った。

 

楼杏「純さん。純さんは既に将兵を己の好きなように動かしても良いという特権を与えられましたにもかかわらず、何故指示を仰ぐのですか?」

 

楼杏のこの質問に

 

純「確かに俺は、好きに動かしても良い待遇を得た。」

 

純「しかし、それを笠に俺自身が驕り高ぶるかもしれないんだ。俺は頭が悪いが、そのような特権を得て驕り自滅していった者が過去に存在したのは分かる。」

 

純「第一、俺は武人だ。姉上に楯突く敵を切り殺し、勝利に導く事が俺の役目だ。そのような特権など、本当はいらねー。」

 

純「俺たちの務めはただ一つ。姉上を脅かす敵に対し命を懸けて臆する事無く勇猛に戦い、勝つ事に全力を注ぐ事だ。」

 

純は『黄鬚』の異名に相応しい勇猛な総帥の威厳に満ちた雰囲気でそう言った。

 

楼杏「成程・・・」

 

この純の言葉に

 

霞「せやな。純の言う通りや。」

 

春蘭「ああ。」

 

霞と春蘭がそう言うと

 

秋蘭「純様。私は勿論、全軍将兵は皆、純様のご命令に絶対に従います。」

 

翠「例え死ねと命じても、あたし達は純殿の命令なら喜んで従い死んでみせるぜ。」

 

秋蘭と翠はそう迷いのない目でそう言った。

 

純「・・・分かった。お前達の言葉、しっかり受け取った。」

 

そして、暫くすると許都から返答の書状が届いた。

その内容は

 

『荊州にて狩りをせよ。』

 

といった非常に短いものだった。

 

純「・・・はは。はっはっはっはっ!」

 

それを読んで、純は高笑いした。

これに

 

稟「・・・曹操殿からは何と?」

 

稟がそう尋ねると

 

純「見てみろ、稟。」

 

純は上機嫌にそれを稟に渡した。

読んだ稟は

 

稟「・・・これはつまり、荊州を平定せよという意味でしょうね。」

 

そう判断した。

 

純「そういう事だろうな。」

 

稟「それに加え、荊州を治めてる劉表は劉備、諸葛亮らの残党を匿っております。」

 

稟「以前、彼らを引き渡すよう伝えましたが劉表は断りました。」

 

稟「賊を匿った者を討伐するという大義名分も揃っております。」

 

純「分かった。皆、兵を整え、出陣の準備をしろ!」

 

「「「御意!」」」

 

純の命で、皆それぞれ準備を進めるためその場を後にした。

 

純「さて・・・荊州に狩りに行くとするか・・・」

 

この時、純は一人部屋の中でそう呟いたのだった。

こうして純は、荊州平定に向けて出陣したのだった。

 

 

 

 

 

荊州

 

 

 

 

 

この頃、荊州では劉表が治めていた。

彼は皇族の一人であり、若い頃から儒学の勉強をしており、評判の高い人物だった。

この荊州の統治を朝廷から任された時、当時戦続きだった荊州を上手く治め、善政を行い豊かにしていくなど卓越した手腕を見せた。

しかし、年齢と共にその能力に陰りが見え、判断が下せなくなっていった。

そんな時

 

「劉表様!曹彰率いる軍がこの荊州を攻めて参りました!」

 

劉表「な、何じゃと!?」

 

「その数凡そ30万!益州平定と比べて数は少ないですがそれでも大軍勢です!」

 

「既に武陵と零陵、そして南郡は平定されました!」

 

純率いる30万の大軍勢が荊州を攻めてきたとの知らせが入った。

 

劉表「何と・・・出陣してそんなに日が経っておらぬというに・・・何故そんなに速く・・・!」

 

「曹彰率いる軍勢は、多くの戦を経験した百戦錬磨の精鋭揃い。加えてそれを率いる曹彰は劉表様もご存じの通り、曹操の弟で『黄鬚』の異名で知られる勇猛果敢な歴戦の名将!我ら荊州の軍勢では立ち向かうのも・・・」

 

この知らせに

 

劉表「な、何と・・・!どうすれば・・・どうすれば・・・!」

 

劉表は狼狽するだけだった。

 

「劉表様!かくなる上は、劉備、諸葛亮らの残党の首を差し出すのが良いのでは?」

 

この進言に

 

劉表「し、しかし・・・あの者らは儂を頼ってきたのじゃ!その者らを差し出すのは・・・」

 

劉表は躊躇った。

 

「劉表様!以前引き渡しの使者が参られた際、引き渡すよう命じたのはこのような事態になるのを恐れたためです!」

 

「断れば、賊を匿ったとして相手に大義名分が生まれるからです!今からでも遅くはありません!すぐにでも引き渡しましょう!」

 

劉表「し、しかし・・・!」

 

その時

 

劉表「うっ・・・!」

 

劉表が突然胸を抑えて苦しみだし、そのまま倒れてしまった。

 

「劉表様!」

 

「誰か!医者を!」

 

これに、劉表の配下は慌てて劉表の下に集まったのだが、劉表はそのまま息を引き取ってしまい、誰も純率いる大軍を止められず、荊州は殆ど平定された。

しかし、劉備、諸葛亮の残党は残っており、彼らは荊州最北部にある新野に籠もり抗戦の姿勢を見せたのであった。



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97話

97話です。


荊州のほぼ全てを平定した純達曹彰軍は、本拠である江陵に入った。

純はいつも戦で着る白き羽織と籠手、そして武骨な軍靴を身に纏い、腰に太刀を帯びながら歩き、主君の間に入ると、部屋の中にいる将兵全員ズレる事無く揃って跪き拱手し

 

霞「これで荊州攻略したも同様やな、純!」

 

春蘭「おめでとうございます、純様!」

 

翠「流石だぜ、純殿!」

 

霞と春蘭、そして翠はすぐに純を褒める発言をした。

 

純「まだ気がはえーぞ、お前ら。新野には、劉備、諸葛亮の残党が立て籠もって抗戦の姿勢を見せている。」

 

純「奴らを倒して、本当の荊州平定だ。」

 

しかし、純はまだ敵がいるため、荊州は平定していないと返しながら太刀を抜いて右手に持って椅子に座った。

この頃になると、純には髭が生え、まさに『黄鬚』の異名に益々相応しい勇壮な雰囲気と貫禄を身に纏わせていた。

 

純「稟!」

 

稟の名を呼んだ。

 

稟「はっ!新野に劉備、諸葛亮の残党五千の逆賊が立て籠もって、抗戦の構えを見せております。」

 

稟「彼らを討ち取って、初めて荊州平定したとなります。」

 

稟は、新野を攻略してこそ真の荊州平定だと言った。

 

純「そうだな。誰が新野を守っている?」

 

純のこの問いに

 

稟「密偵によりますと、姜維と申す者が守っております。」

 

稟はそう答えた。

これに

 

楼杏「姜維・・・確か涼州の天水郡出身の者ですね。」

 

翠「ああ・・・あたしも聞いた事がある。劉備らに仕えていたんだな。」

 

楼杏と翠が、姜維の名を聞いてそう言った。

 

純「二人とも、姜維を知ってるのか?」

 

楼杏「はい。彼は天水郡の出身。姜一族は代々『天水の四姓』と呼ばれる程の豪族でした。」

 

翠「槍に長けてて、頭も良いと聞いたな。」

 

二人がそう答えると

 

純「成程・・・戦の経験は?」

 

純は加えて実戦経験を尋ねると

 

稟「これまでの戦において、そこまで参加しておりませんね・・・益州平定の時と先の北伐の時くらいかと。」

 

稟は戦の経験は然程無いと答えた。

 

純「成程・・・けど、力は侮れねーな。俺自ら出陣するか。」

 

そう純は言ったが

 

稟「お待ちを。純様はここ最近、戦続きでお疲れだと思われます。ここは誰かにお任せになるのが宜しいかと。」

 

稟が止め、誰かに新野攻略を任せるべきだと進言した。

 

純「俺はそう疲れてはいねーんだが・・・」

 

純は、疲れは感じないと言ったが

 

稟「純様は生まれながらの勇猛な総帥であられました故、御身は常に戦場にあられました。その為、戦疲れは感じなくてもお身体は分かりませぬ。」

 

稟「ここは一つ、御身を大切になさりませ。」

 

それでも稟は、出陣を控えるよう言った。

 

純「・・・分かった。お前の言う通りにしよう。」

 

これに、純は稟の意見を受け入れた。

 

稟「ありがとうございます。」

 

そして

 

純「命令を下す!秋蘭、前に出ろ!」

 

純は立ち上がると、秋蘭を呼んだ。

 

秋蘭「はっ!」

 

秋蘭は純の前に跪き拱手し

 

純「新野に籠っている劉備諸葛亮残党の首魁、姜維の討伐をお前に任せる!」

 

純は、左手に持ってる太刀を秋蘭に差し出した。

それはつまり、文字通り純が持ってる軍事権を全て秋蘭に委託される事とほぼ同じだった。

 

秋蘭「謹んでお預かりします!」

 

秋蘭は、手を差し出し純の太刀を受け取った。

 

純「頼むぞ、秋蘭!何かあったら、俺が全責任を取る!思う存分武を奮え!」

 

この純の檄に

 

秋蘭「はっ!」

 

秋蘭は気合の入った表情を浮かべ、太刀を持ちその場を後にした。

 

稟「純様。秋蘭様を選んだ理由は?」

 

稟の質問に

 

純「アイツは幼少の頃から俺と常に一緒だった。その実力もよく知っている。」

 

純「猪突猛進で頭も悪くすぐカッとなる俺と違って冷静に戦況を見極める力がある。だから、俺はあいつを選んだ。」

 

純はそう答えた。

 

稟「成程・・・」

 

純「俺は秋蘭を信じる。大切な家族を、仲間を信じず誰を信じるか。」

 

そう、純は答えると

 

ザッ!

 

周りの将兵全てが、全員跪き拱手し

 

「「「我らは、いつ如何なる時も、常に大将軍と共にあり!」」」

 

「「「心を一にして共に戦い、同年同月同日に生まれる事を得ずとも、同年同月同日に死せん事を願わん!」」」

 

声を揃えてそう答えた。

純も

 

純「お前ら立ってくれ!俺もお前らに誓おう!同年同月同日に生まれなくても、同年同月同日に共に死ぬ事を!」

 

そう拱手し、将兵の前で誓ったのだった。

 

 

 

 

 

 

新野

 

 

 

 

 

 

新野では、姜維率いる五千の将兵が武装していた。

するとそこに

 

「申し上げます!曹彰軍がこちらに向かって進軍しております!その数、凡そ五万!」

 

敵が攻めてくるという知らせが入った。

 

姜維「曹彰自ら参ったのか?」

 

この問いに

 

「いえ!曹彰の副将夏侯淵が率いております!」

 

兵士はそう答えた。

 

姜維「・・・分かった。下がれ。」

 

これに、姜維は兵を下がらせると

 

姜維「曹彰め・・・劉備様と諸葛亮様の仇を討ってみせる!」

 

姜維「その前に、夏侯淵を血祭りに上げてそれから曹彰を討ち取ってやる!」

 

姜維「劉備様。諸葛亮様。必ずや、曹彰の首を取って御霊に捧げます・・・」

 

そう、狂信的な目で天に向かって拱手したのであった。



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98話

98話です。

一部疑問点がある所がありますが、ご都合主義でお願いします(土下座)

それでは、どうぞ。


新野に到着した秋蘭率いる五万の軍勢。

 

秋蘭「これが新野城か・・・」

 

秋蘭(小城だと聞いたが、稟から聞いた通り、姜維の手によって防御が強化されてるな・・・)

 

着くやすぐに、秋蘭は城を見てそう感じた。

すると、新野城の城門が開くと、そこから姜維が馬に乗って颯爽と現れた。

 

姜維「逆賊め!とうとう荊州を完全平定に現れたか!」

 

すると、姜維はそう秋蘭達を罵倒した。

 

秋蘭「姜維!何故我らを逆賊呼ばわりする!」

 

秋蘭は、怒る事無く冷静に聞くと

 

姜維「漢の臣下でありながら、曹操とその弟曹彰は政と軍事の権利を独占し、加えて陛下の傍におられた忠臣を殺し、陛下を蔑ろにした!」

 

姜維「我が主劉玄徳は、陛下と国を救い、皆が笑って過ごせる世を作るという崇高な理想を掲げたが果たせず、逆賊の卑劣な手によって戦場の露と消えた!」

 

姜維「私と共に戦った諸葛亮も、同じく逆賊にかかり命を落とした!このままでは、お二人の掲げた崇高な理想が淘汰され、この大陸が力に支配される!」

 

姜維「そのような事をするお前達は逆賊だ!故に、志半ばで無念にも命を散らした劉備様と諸葛亮様、また辛い思いをしておられる陛下に代わって、大義によって逆賊を討つ!」

 

姜維はそう答え、右手に持ってる槍を秋蘭に向かって突きつけた。

 

秋蘭「黙って聞いておれば、笑わせる!我が主曹孟徳とその弟であり、この軍の総帥であられる曹子文は民の為にその力を振るっておられる!」

 

秋蘭「曹孟徳は仁政にて民を慈しみ、曹子文は己の武で敵を斬り殺し、民を守ってきた!」

 

秋蘭「そのような事をしておられるこのお二人を逆賊呼ばわりとは片腹痛いぞ、姜維!」

 

これに秋蘭は、毅然とした態度で姜維にそう言い返した。

 

姜維「夏侯淵!私には志を共にした五千の精兵がおる!」

 

姜維「この城を見たか?高さは三丈、厚さは二丈。私自らこの城を難攻不落の城に改造した!例え百万の兵が攻めてきても絶対に落ちない!」

 

姜維も負けじと、己で改造した新野城の守りの堅さを強調した。

 

秋蘭「それがどうした!私は曹子文に代わって必ず落としてみせる!」

 

姜維「ふん!やってみるが良い!逆賊の攻撃など、この城は決して通用せぬ!」

 

そうお互いに言うと、互いに馬首を返して戻っていったのだった。

 

 

 

 

 

 

夏侯淵軍本陣

 

 

 

 

 

 

本陣に着いた秋蘭。

 

「夏侯淵様!このまま一気呵成に新野城を攻撃しましょう!」

 

曹彰軍の武将の一人が、新野城を猛攻撃するべきだと述べた。

しかし

 

秋蘭「いや。あの城の守りを見たが、姜維の言う通りだ。高さは三丈、厚さは二丈。強攻すれば、例え我が軍とて被害は甚大となる。」

 

秋蘭は、総攻撃をかければ、強固な守りの城の前に被害が甚大になる危険があるため、駄目だと言った。

 

秋蘭「ふむ・・・誰か!地図を持て!」

 

「はっ!」

 

少し考えた後、秋蘭は兵士に地図を持ってくるよう言った。

そして、地図を見た秋蘭は

 

秋蘭「稟の話によると、この新野城は元々小城だったと聞いたが、今の形を見たら投低信じれぬな。」

 

そう呟いたその時

 

秋蘭「・・・ん?」

 

何かに気付いた。

 

秋蘭「この城・・・川から遠いな・・・水の入手は厳しいのか・・・?」

 

それは、新野城が川から遠いという事だった。

 

秋蘭「誰か!あの城の周りに探りを入れろ!」

 

「はっ!」

 

これに、秋蘭は城の周りを偵察するよう兵士に命じたのだった。

 

「夏侯淵様?」

 

秋蘭「私の予想が正しければ・・・あの城は確実に落とせる!」

 

秋蘭は、そう力強く述べたのだった。

 

 

 

 

 

新野城

 

 

 

 

 

姜維の方も、戻るや早速軍議を開いていた。

 

「姜維殿。夏侯淵率いる五万の軍は城を完全に包囲しました。これで我らは退路が無くなりました。」

 

退路が無くなった事で、自軍が不利になってしまった事を姜維に言ったら

 

姜維「はっはっは!それは不利ではない。孫子曰く、『高きによって下を見るに、勢い竹を割くが如し』と言う。」

 

姜維「城を包囲した敵軍は、高く厚みを増したこの城を攻めあぐむ。敵が攻撃を仕掛けてきたら、上から矢を放ち、木や巨石を落とせば包囲した軍は瞬く間に木っ端微塵だ!」

 

姜維は孫子の兵法を述べ、自軍が有利であると説いた。

 

「しかし、もし包囲するだけで攻めてこなければ?兵糧は数日で底をつきます。それに、ここは川から非常に遠く、水を賄うのが非常に難しいです。水源を断たれ、それに加え兵糧を失えば、我らは戦わずして自滅してしまいます!」

 

これに、攻めずに包囲され、兵糧と水を失えば一貫の終わりだと言ったら

 

姜維「『これを死地に置き、而して後に生く』だ。この兵法の道理、貴様に分かるか?兵糧が途絶えれば兵士達は奮起し、一人で百人の敵を倒すものだ。そして勝つ!」

 

姜維は再び孫子の兵法を引き合いに出し、自軍の優位を説いたら

 

「姜維殿!兵法が全て正しいとは限らぬぞ!」

 

兵法が全てでは無いと注意したら

 

姜維「おいお前!さっきから私のやり方にいちいち口を出して・・・!私は諸葛亮様に薫陶を賜り、兵法も熟読した!その私に逆らう気か?それ以上逆らうなら、斬るぞ!」

 

姜維にそう言い返されてしまい

 

「っ!・・・ご命に従います。」

 

苦い顔で拱手した。

 

姜維「ならば結構。我らには劉備様と諸葛亮様の御霊がついておられる。天も我らの味方だ。必ず、我らが勝利するのだ!」

 

そう言い、軍議を終えたのだった。

 

 

 

 

 

 

夏侯淵軍本陣

 

 

 

 

 

 

本陣にて、秋蘭は地図を見ていた。

すると

 

「申し上げます。偵察兵が戻って参りました。」

 

偵察兵が戻ってきた知らせが入った。

 

秋蘭「分かった。通せ。」

 

「はっ!」

 

そして、入れ替わりに偵察兵が入り

 

秋蘭「それで、どうだったんだ?」

 

秋蘭はそう尋ねると

 

「敵兵の一部が、川の水を取って水を賄っておりました。この川は、城から非常に遠く、水の確保が非常に難しいと思われます。」

 

偵察兵は城の周囲の探りについて報告した。

それを聞いた秋蘭は

 

秋蘭「やはり・・・私の思った通りだ。城を完全に包囲し水源を断てば、たちまち敵は混乱し自滅する!例え持ち堪えても、せいぜい数日しかもたないだろう。」

 

秋蘭「姜維・・・実戦経験の無さが裏目に出たな・・・。命を伝えろ!包囲を更に厳しくし、水源を断て!ただし攻めるな!太鼓を叩き鬨の声を上げて、敵の心を乱せと!」

 

全軍に包囲を更に厳しくし、水源を断って敵の動揺を誘えと命じた。

 

「はっ!」

 

命を聞いた兵士は、拱手しその場を後にした。

 

秋蘭「数日経てば、確実に敵は動揺する。そこを突けば、我らの勝利だ!」

 

秋蘭は、幕で一人そう呟いたのであった。



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99話

99話です。


秋蘭の命により

 

「「「観念して出てこい!」」」

 

「「「出てこい逆賊!!」」」

 

「「「もう逃げ道は無いぞ!」」」

 

五万の兵は包囲を更に厳しくし、太鼓を叩き鬨の声を上げたりなどした。

この様子に

 

「姜維殿。敵に完全に包囲されました!」

 

一部の将がそう姜維に言うと

 

姜維「敵は僅か五万だぞ、怖じ気づくな。騒ぐだけ騒がせろ。昼過ぎには連中も疲れ果てる。」

 

姜維「その時、城から出て奇襲を仕掛ければ、殲滅も可能だ!」

 

姜維はそう返すと同時に

 

姜維「それに、逆賊曹彰のいない曹彰軍など、数だけの軍団に過ぎぬ。必ず勝てる!正義が負ける筈など無い!」

 

そうハッキリと言ったのだった。

しかし、時間が経つと様子が一気に変わった。

 

「お、おい!水が無いぞ!」

 

「どうなってるんだ!?」

 

城内から水が無くなったのだ。

そして

 

「の、喉が渇いた・・・」

 

「た、助けてくれ・・・」

 

水が飲めず脱水状態となった城内の兵士は、動けなくなり皆殆どグッタリしてしまった。

この様子に

 

姜維「どうしたのだ?立て!立つのだ!」

 

姜維「早く立て!」

 

ドガッ!

 

姜維「立て!さっさと立て!」

 

ドガッ!

 

兵士を蹴り上げ、立たせようとした。

 

姜維「これはどういう事だ!?」

 

これに、姜維は将の一人を捕まえ尋ねると

 

「姜維殿。水源を断たれ、兵士全員脱水状態になってしまいました。」

 

水源を断たれたため、皆脱水状態に陥ってしまったと言われた。

 

姜維「そんな馬鹿な事があるか!賊軍が襲来した当初はちゃんと水が取れたぞ!」

 

「敵が城の包囲を更に厳しくし、城外へ水を汲みに行けなくさせたのです。水源の確保は、もう出来ません!」

 

水源確保が無理と言われ

 

姜維「城外に出て、水源を確保しろ!」

 

姜維は城外に出ろと言うと

 

「先程も仰いましたが、敵軍の包囲が厳しく、無理にでも行けば非常に危険です!」

 

無理に水源確保に行くのは非常に危険だと言った。

 

姜維「そんなの関係ない!私達には劉備様と諸葛亮様の御霊が付いておられる!賊の攻撃など効きやせぬ!構わず取りに行け!」

 

しかし、姜維は耳を貸さず、それでも水を確保しろと言った。

その時

 

「「「応!応!応!」」」

 

城外が一気に騒がしくなり、それと同時に

 

「大変です!敵が攻撃を仕掛けました!」

 

秋蘭率いる五万の軍勢が一気に総攻撃を仕掛けてきた。

 

姜維「何!?皆の者怯むな!迎え討てー!!」

 

これに姜維は、持ってる槍を掲げ迎え討つよう命令した。

しかし

 

「「「ギャアアアア!!!」」」

 

「「「う、うわぁあああ!!!」」」

 

脱水状態となった兵士では何も出来ず、ただただ討ち取られていくだけだった。

 

姜維「くぅっ!かくなる上は・・・私自ら夏侯淵を討ち取る!!」

 

これに姜維は血管が切れるのではという程の怒りと憎しみの表情を浮かべ、馬に乗って駆けていった。

 

 

 

 

 

 

夏侯淵軍

 

 

 

 

 

秋蘭「一気に攻めろ!敵は相当弱まってるはずだ!!賊は一人残らず討ち取れ!!」

 

秋蘭は、馬上で的確かつ巧みな指揮を取っていた。

その時

 

「夏侯淵様!何者かが近付いて参ります!」

 

誰かがこちらに向かってくるとの知らせが入った。

目線を向けると

 

姜維「うおおおっ!!我が名は姜維!亡き劉備様と諸葛亮様に代わって、逆賊を討ち取ってやるー!!」

 

姜維が槍を振り回して突破していき、秋蘭に近付いた。

そして

 

姜維「これが正義の一撃だ!食らえ、夏侯淵ー!!」

 

姜維は秋蘭に一撃を食らわせようとした。

しかし

 

ガキーン!

 

姜維「な、何!?」

 

秋蘭は純から預かった太刀を抜いて、姜維の一撃を止めたのだった。

 

秋蘭「私が弓だけの将だと思ったら大間違いだぞ。あのお方ほどではないが、剣も扱えるのだぞ。」

 

秋蘭(尤も・・・純様のこの反った剣を扱うのはこれが初めてなのだがな・・・)

 

姜維「き、貴様・・・!」

 

姜維は驚きつつ

 

姜維「逆賊の武が、正義の武に負けるわけ無い!!」

 

そう言い、槍を振った。

 

秋蘭「フッ!」

 

これに秋蘭は、使い慣れていないながらも太刀を巧みに捌き、いなした。

 

秋蘭「勝手に言ってるが良い。貴様の言葉、痛くもかゆくも無い。」

 

そう、秋蘭は姜維に言うと

 

姜維「貴様ー!!」

 

姜維は怒りに身を任せ、猛然と突進してきた。

この様子を見た秋蘭は

 

秋蘭(・・・何と愚かな奴だ。あの劉備と諸葛亮と同じ。理想ばかりに目を向けすぎて曇っている。現実をまるっきり見ていない。)

 

秋蘭(これだけの優れた武を持っているにも関わらず、都合の良い理想ばかり盲信している・・・)

 

そう思いながら彼の攻撃をいなしていると

 

姜維「どうした夏侯淵!!さっきから受けてばかりではないか!我が正義の攻撃に耐えれなくなったか!」

 

姜維がそう声をかけた。

 

秋蘭「ただ闇雲に攻めるのが武ではない!貴様のような軽い武に呆れていただけよ!」

 

これに、秋蘭はそう姜維に返すと

 

姜維「なっ!?か、軽いだと!私の武が軽いだと!」

 

姜維は目を見開いた。

 

秋蘭「そうだ!理想ばかりを盲信し現実を見ない!そのような者に力などこれっぽっちも感じぬ!ただ軽いだけよ!!」

 

すると

 

姜維「我が武は軽くない!私は・・・私は劉備様と諸葛亮様の遺志を継ぐ者だ!あのお方の崇高な理想を継ぐ私の武が軽いはずがない!」

 

姜維「夏侯淵!!我が理想の前に死ぬが良い!!はああああっ!!」

 

姜維はそう言い、槍を振り回し秋蘭に向かって突撃した。

秋蘭も

 

秋蘭「はああああっ!!」

 

馬を駆け突撃した。

そして、二人が交差し、そのまますれ違い走り抜けた。

秋蘭は馬の速度を落としゆっくり回転し姜維の姿を見ると

 

ドサッ

 

姜維は落馬し地面の上に仰向けに倒れていた。

秋蘭は騎乗したままゆっくりと近付き馬上より見下ろすと

 

姜維「殺せ!」

 

姜維は秋蘭を憎悪の表情で睨みながら言った。

秋蘭は、馬から降り

 

秋蘭「何か言い遺す事はあるか?」

 

と声をかけた。

 

姜維「ゲホッ・・・天下の者全てが・・・そ、曹彰や貴様らをガハッ・・・称えようとも、ゴホッ・・・わ、私は必ず・・・曹彰や貴様らを呪ってやる!呪い殺してやる!」

 

姜維は血を吐きながら血の気がない表情ながら憎しみに満ちた目でそう言葉を吐いた。

それに秋蘭は

 

ザシュ

 

眉一つ動かさずに姜維にトドメを刺した。

そして、首を斬り落とし

 

秋蘭「敵将姜維は、この夏侯妙才が討ち取った!」

 

首を掲げそう高らかに叫んだ。

これに

 

「「「おおおーっ!!!」」」

 

五万の軍勢は一斉に雄叫びを上げた。

 

秋蘭「残りの敵兵全て殲滅せよ!!」

 

秋蘭は、そう太刀を前に突き出して命令した。

劉備、諸葛亮の残党の首魁姜維は討ち死にし、新野は陥落し、荊州は完全に平定されたのであった。



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100話

100話です。


秋蘭が、姜維を討ち取り新野を平定したという知らせは、江陵にも届いた。

 

「申し上げます!夏侯淵様が、新野を落とし姜維を討ち取ったとの事です!」

 

この知らせに

 

純「そうか!」

 

純は立ち上がって自分の事のように喜びの声を上げた。

純だけじゃない。

 

春蘭「良くやったな、秋蘭・・・!」

 

霞「ああ!」

 

楼杏「秋蘭さん・・・」

 

翠「スゲぇな、秋蘭・・・」

 

剛「凄いな、秋蘭・・・」

 

哲「そうだな・・・」

 

他の皆も、自分の事のように喜び、特に姉である春蘭が特に喜んでいた。

 

純「それで、秋蘭は今どこにいる?」

 

「今戦後処理で新野におり、終わり次第江陵に帰還するとの事です。」

 

それを聞いて

 

純「そうか・・・早く帰ってこねーかな・・・」

 

純は笑みを浮かべながらそう答えたのだった。

 

稟「これで、荊州は完全に平定なさいましたね。」

 

純「ああ。」

 

稟の言葉に、純はそう一言返事をした。

そして、その数日後に

 

「申し上げます。夏侯淵様の旗が見えました。」

 

秋蘭が江陵に帰ってきた。

この一報を聞いた純は

 

純「分かった。」

 

そう言い、すぐに城門に向かったのだった。

一方の秋蘭は

 

秋蘭「着いたか・・・」

 

秋蘭(純様もさぞかしお喜びだろうな・・・)

 

城門前で、純の喜ぶ顔を想像し、頬を緩めていた。

すると城門が開き、そこにいたのは

 

純「よっ、秋蘭!」

 

秋蘭「っ!じ、純様!?」

 

純だった。

これには、普段クールな秋蘭もいつになく驚き

 

秋蘭「じ、純様!わざわざのお出迎え、ありがたき幸せに存じます!」

 

慌てて下馬し、跪いて拱手した。

 

純「そう固くなるな、秋蘭。お前の勝利を真っ先に祝いに来たんだ。」

 

そう言うと、純は秋蘭を立ち上がらせ

 

純「お前達も立て!一緒に城に入ろう!」

 

他の者も立ち上がらせ、共に馬に乗って中に入った。

そして、純と秋蘭が手を繋ぎながら主君の間に入ると、主要な者が秋蘭を出迎えていた。

 

春蘭「良くやったな、春蘭!」

 

霞「ようやったで、妙ちゃん!」

 

楼杏「凄いわ、秋蘭さん!」

 

翠「流石だぜ、秋蘭!」

 

剛「良くやったな、秋蘭!」

 

哲「秋蘭・・・!」

 

凪「流石でございます、秋蘭様!」

 

沙和「なのー!」

 

真桜「スゴイでー、秋蘭様ー!」

 

皆それぞれ喜びの声を上げ迎えた。

その声を聞いた秋蘭は、満更でもないような笑みを浮かべていた。

そして、純は繋いでいた手を離すと、主君が座る席に座った。

その際、秋蘭は一瞬寂しい表情を浮かべたがすぐにキリッとした表情に切り替え、拱手し跪いた。

周りの者も、すぐに切り替えサッと並んだ。

 

純「秋蘭。新野平定本当に良くやったな!」

 

秋蘭「はっ!ありがたきお言葉!お預かりしていた太刀ですが、純様にお返しします!」

 

そう言い、秋蘭は太刀を床に置き再び拱手した。

それを持った兵士は、純に渡し受け取った純は

 

純「さて・・・お前には褒美を与えなければならねーな。」

 

そう言うと椅子の傍にある一本の太刀を一振り手にした。

それを持って秋蘭に近付くと

 

純「この太刀をお前に与える。受け取ってくれ。」

 

そう笑顔で言った。

 

秋蘭「恐れながら純様。この太刀は純様が先程お返しした太刀同様日頃から手入れを欠かさずしておられる大切な太刀では?」

 

これに、秋蘭はその太刀を見て普段からも手入れを欠かさずしているうちの一振りだと分かり、驚きの表情で尋ねると

 

純「お前は劉備、諸葛亮の残党の首魁を討ち取っただけじゃなくそいつらが占拠していた城も平定して見せたんだ。なら、それ相応の褒美を与えなきゃならねーだろ。」

 

純はそう秋蘭に返した。

秋蘭は、それを両手で受け取ると、長く、深々と礼をした。

この時、秋蘭は頭を下げているため顔は見えないが、これだけでも非常に感激していた。

太刀を賜る事は、武人としての最高の誉れなのだ。

 

純「まだあるぞ。お前が新野を平定したと聞いたその時、この役目をお前に与えようと考えた。」

 

しかし、純は秋蘭にまだ褒美があると答えた。

 

秋蘭「それは一体・・・?」

 

純「ああ。お前をこの軍の副都督に任命する。既に許都にはこの件を報告している。近々、正式に任命するだろう。受け取ってくれるか?」

 

それは、秋蘭を全軍の副都督に任命するという事だった。

つまり、秋蘭は純に次ぐ全軍の№2に上り詰めたという意味だった。

 

秋蘭「有り難き幸せ!謹んでお受けし、身命を賭して粉骨砕身励みまする!」

 

これに、秋蘭は感激のあまり涙を流しながら拱手し頭を下げた程だった。

 

純「これからも頼りにしてるぞ!」

 

秋蘭「はっ!」

 

純「それと・・・稟!風!」

 

稟「はっ!」

 

風「はい~!」

 

そして、今度は稟と風を呼び、二人は拱手し秋蘭の横に立った。

 

純「お前達も、司馬懿の反乱を未然に防ぎ禍根を絶ち、軍を、家族を救ってくれた。その手腕、実に見事だ。よって、その功によりお前をこの軍の参軍に任命する。この件も秋蘭と同様許都に報告している為、正式に任命されるだろう。受け取ってくれるか?」

 

純は、稟と風を参軍に任命した。

 

稟「謹んでお受け致しまする!我が知謀、全て純様にお捧げ致します!」

 

風「風も、謹んでお受け致しまする~!今後もより風をお使い下さいませ~!」

 

これに、一層気合の入った表情を浮かべ、稟と風は拱手した。

 

純「これによって、荊州は完全に平定した!これも全て、皆のお陰だ!皆が、俺と共に戦い、互いに力を合わせたからこそ、ここまで戦ってこられた!」

 

純「俺は太刀を振るう以外何も出来ねー男だ!だから・・・今後も俺に力を貸してくれ!」

 

純「行くぜ!『黄鬚』曹彰ここにあり!!俺達は『黄鬚』曹彰軍だ!!」

 

「「「おおおーっ!!!」」」

 

純の覇気に溢れた力強い言葉に、皆雄叫びを上げた。

こうして、純率いる軍はより一層結束力が増したのだった。

 

 

 

 

 

建業

 

 

 

 

 

その頃、建業では、荊州が純の手に落ちたとの知らせが入った。

 

孫策「荊州が、もう曹彰の手に・・・」

 

太史慈「だねぇ。てっきり、もう少し時間がかかると思ってたけど。」

 

周瑜「荊州に侵攻し僅か二ヶ月。こうもあっさり平定するとは・・・流石『黄鬚』曹彰だな・・・」

 

この知らせに、周瑜も流石と言う他なかった。

 

黄蓋「加えて配下の将兵も数多くの戦を経験した百戦錬磨の軍。劉表の軍が可哀想に感じる。」

 

孫策「そうね・・・我が江東の軍も、真っ向から戦えばかなりの犠牲者が出るわね・・・」

 

黄蓋の言葉に、孫策も慎重にならざるを得ず

 

魯粛「うぅ・・・私も袁術様に仕えてた時に拝見した事があるのですが、思い出すだけでも寒気が・・・」

 

魯粛もそんな発言をした。

しかし

 

孫尚香「姉様!何弱気なこと言ってんの!!姉様らしくもない!!」

 

孫尚香「『黄鬚』なんて、所詮格好つけたいだけの異名でしょ!そんな奴、シャオがコテンパンにしてあげるんだから!」

 

孫家の末娘である孫尚香は、純は恐るるに足らずと勝ち気な発言をした。

 

張昭「しかし小蓮様。曹彰は姉である曹操の下これまで曹軍の全将兵を率い数多くの戦を経験し勝利を収めてまいりました。」

 

張昭「その勇猛さは、古の覇王項羽にも勝るものです。軽はずみに倒すと仰ってはなりませぬぞ。」

 

これに、張昭は軽はずみな発言をしてはいけないと注意し

 

孫権「シャオ。雷火の言う通りよ。それに、もし今荊州に侵攻したら向こうにこの江東侵攻の大義名分を与えてしまうわ。」

 

孫権も妹に注意した。

 

孫尚香「そんなの、やってみなきゃ分からないわよ!」

 

しかし、孫尚香は聞く耳を持たなかった。

 

陸遜「小蓮様。お二人の言葉尤もですよ~。ここは一つ、言う事を聞いて下さい~。」

 

陸遜も、遜尚香を諫めても

 

孫尚香「もー!何で穏も蓮華姉様と雷火の肩を持つのよ!」

 

効果は無かった。

 

孫策「シャオ!」

 

孫尚香「っ!」

 

その時、孫策の声が主君の間に響いた。

 

孫策「シャオ。あなたのその発言、姉としても非常に頼もしいと思うわ。けど、今回は別。軽挙妄動は控えなさい。」

 

孫策「でないと、父祖から受け継いだこの江東は灰燼に帰するわよ!」

 

そう、孫策は妹に一喝した。

 

孫策「取り敢えず、今後どうするかは曹彰達の行動次第ね。皆、いつでも動けるように準備するように。ただし、軽挙妄動は控えなさい。」

 

加えて、そう皆に命じたのだった。

 

孫尚香「・・・。」

 

この時、孫尚香は少し不満そうな表情を浮かべていたのだった。

そして、孫尚香はこの日密かに兵を引き連れて出発し、長沙郡の陸口を占領するという愚挙を働いてしまったのであった。



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101話

101話です。


江陵

 

 

 

 

 

 

稟「陸口が?それは本当ですか?」

 

陸口が占領された。その知らせを聞いた稟は、隠密に再度確認のため尋ねると

 

「はい。昨晩夜襲を仕掛けられ、陸口の守備兵は抗戦しましたが力及ばず・・・先程陸口の守備兵が全身血塗れで怪我をしながら首の入った箱を持っている状態で参られてそう話しました。」

 

隠密がそう報告し、加えて陸口の守備兵が怪我した状態で参られたと話した。

 

稟「・・・誰が陸口を占領したのですか?」

 

「孫家の末娘、孫尚香です。母孫文台と姉孫策に負けず劣らずの苛烈な性格だとか。」

 

稟「孫尚香ですか・・・」

 

稟は顎に指を当てて考え込むような仕草を取ると

 

稟「・・・純様にはまだ連れておりませんね?」

 

そう隠密に尋ねた。

 

「はい。ですが、陸口陥落の情報が耳に入るのも時間の問題かと。」

 

稟「ならば、私が通して純様にご報告します。下がって下さい。」

 

「はっ!陸口の守備兵ですが、今治療をしております。」

 

隠密はそう言い、その場を後にした。

 

稟「フフッ・・・これは天啓ですね。江東を攻める良い大義名分が出来ました。」

 

すると、稟はそう冷酷な笑みを浮かべながらそう呟いたのだった。

そして、陸口の守備兵を連れて純の部屋の前に行き彼を待機させると

 

稟「純様。至急お知らせしたき事があります!」

 

と扉越しに声をかけた。

 

純「稟か。入れ。」

 

稟「はっ。」

 

許可を貰い、稟は部屋の入った。

その際、稟は深い悲しみの表情を浮かべながら入った。

 

純「どうした?そんな顔して?」

 

純は、稟の表情を見てそう尋ねると

 

稟「純様。悲しい知らせが入りました。陸口が、賊に襲われ陥落致しました。」

 

稟は悲しみの表情を崩さずにそう言った。

 

純「・・・どういう事だ?」

 

稟「先程陸口を守っていた守備兵が血塗れの状態で参られ、知らせに来たのです。今、外に控えております。」

 

それを聞き

 

純「・・・呼べ。」

 

と純は言った。

 

稟「純様。何を聞かれようとも、決してお取り乱しなきよう。」

 

稟の言葉に

 

純「早く呼べ!」

 

純が語気を強めて言うと

 

稟「・・・入りなさい。」

 

稟はそう外にいる兵士を呼んだ。

すると、陸口の守備兵が、左腕を吊らし右足を引き摺り右腕に箱を持った状態で現れ、箱を置き何とか跪いて

 

「申し上げます!昨晩の暮れ、孫策の末の妹孫尚香率いる軍に突然夜襲を仕掛けられ、力の限り奮戦しましたが守り切れず、城を奪われ隊長は・・・隊長は・・・!」

 

涙を流しながら報告し、最後の辺りで詰まった。

 

純「お前の隊長がどうしたんだ?」

 

それを見て、純はそう尋ねると

 

「隊長は・・・自らを盾に御身の全身に矢を受け、戦死なされました!」

 

陸口の守備兵は、最後は耐えきれず泣きながら報告した。

 

純「・・・んなの、ありえねーよ。お前達の隊長は俺がまだ未熟の時から仕えてくれた歴戦の友であり兄弟なんだぞ。死ぬなんてありえねーよ。」

 

これに、純は動揺を抑えれず

 

純「だって・・・お前らの隊長は・・・」

 

「閣下!隊長は・・・誠に亡くなられました!私が、責任を持ってその首を守り、何とかここまで参られた次第なのです!」

 

「亡くなる間際に『閣下!陸口守り切れず、武人として誠に申し訳ございませぬ!』と最後に申し上げておりました!」

 

「そして、陸口の守備兵三千は、私以外全て戦死なさいました!」

 

声を震わせながら言うと、陸口の守備兵は顔を伏せてしまった。

 

稟「純様。残念ながら事実です。こちらがその隊長の首でございます。」

 

稟は、純にそう言うと首の入った箱を空けた。

それを見た純は

 

純「あ・・・あぁ・・・」

 

その首を抱き締め

 

純「アアアア!!!」

 

大声を上げ泣いたのだった。

 

稟「純様。すぐさま陸口を取り返し、その報復として江東を灰燼に帰しましょう!」

 

すると、稟は涙を流しながら純にそう進言した。

 

純「・・・孫尚香。よくも・・・よくも俺の仲間を・・・家族を殺したな・・・断じて許さねー!」

 

純は、涙を流しながらその目は憎しみの炎に燃えていた。

 

純「皆を集めろ!即刻兵馬を整え、出陣する!」

 

覇気に溢れた雰囲気で言うと

 

稟「御意!」

 

稟は拱手しその場を後にした。

 

純「お前の仇・・・必ず討ってやるからな・・・!」

 

そう、純は涙を流しながら呟いたのであった。



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102話

102話です。


江陵

 

 

 

 

 

 

江陵では、出陣の準備をしていた。

その数は20万。兵士達が掲げるのは、槍、矛、弓・・・。それは空から降り注ぐ太陽を弾き、さながら鉄刃の海原のようだった。

ただ、一つだけ違いがあった。それは、将兵全て白装束を着ている事だった。

そして、純も白き羽織と籠手、そして武骨な軍靴を身に纏い、腰に太刀を帯びながら歩いてきた。

勿論彼も、白装束を着ていた。

それを見た20万の将兵は、ズレる事無く揃って跪き拱手した。

皆、純の言葉を待っていた。

 

純「皆、よく聞け。」

 

その声と同時に、兵達は己の武器を構え直す。続けざまの金属音が、連なり響く後に生まれた光景は・・・切っ先の揃えられた完璧な凪の稲原だった。

 

純「お前達も聞いただろう・・・陸口での凶報を。」

 

純「その中には、お前達の友、兄弟がいたはずだ。皆、俺にとってかけがえのない友であり、家族だった。」

 

純「俺は、身が裂かれるような思いだった・・・」

 

最初は、静かに演説が始まり、純の言葉に全将兵が涙を流した。

 

純「そんな大切な者達を、孫尚香は奪い殺した!」

 

純「それは・・・俺にとって半身を失ったも同様だ!俺は決して許しはしねー!」

 

純「必ず・・・仇を討って、その首を陸口に散っていった三千の将兵の御霊に捧げる!」

 

純「良いかテメーら!例え孫尚香や以下将兵が降伏を口にしても決して許すんじゃねー!!一人も逃がすな!!全て皆殺しにしろ!!」

 

純「俺達は虎だ!!それも獰猛で野蛮な虎だ!!虎らしく、その肉も一緒に食らい尽くしてやろーじゃねーか!!」

 

純「奴らが一体誰に喧嘩を売ったのか、思い知らせてやろーじゃねーか!!」

 

純「剣を取れ!槍を取れ!気勢を上げろ!目の前の敵を、食って食って食いまくろうじゃねーか!!」

 

そう涙を流しながらも覇気に溢れた大声を上げて太刀を天に突き上げた。

次の瞬間

 

「「「うおおおっ!!!!!!」」」

 

20万全ての将兵が、剣や槍を天高く突き上げて涙を流しながら地鳴りの如き雄叫びを上げた。

 

純「風。留守を頼むぞ。」

 

風「はい~。存分にお暴れ下さいませ~。」

 

純「ああ!」

 

そう風に声をかけた純は馬に颯爽と乗り

 

純「出陣だー!!」

 

そう馬上にて高らかに声を上げ、出陣したのだった。

 

 

 

 

 

 

建業

 

 

 

 

 

 

孫策「何ですって!?」

 

孫尚香の独断での陸口占領。この知らせを聞き、孫策は驚きのあまりいつもより大きな声を上げた。

 

周瑜「事実だ雪蓮。小蓮様が、勝手に軍を動かして長沙郡の陸口を攻め、そこを占領した。」

 

これに、周瑜は眉間に皺を寄せながらそう答えた。

 

孫策「あの子は・・・一体何をしてるの!!そんな事したら・・・曹彰に江東平定の良い大義名分を与えるのも同様よ!!」

 

孫策は、頭を痛そうに抑え

 

孫策「とにかく、急いでシャオを連れ戻さないと!」

 

そう焦るように言い、兵の準備をしたのだった。

 

 

 

 

 

 

陸口

 

 

 

 

 

 

その頃陸口では

 

孫尚香「フフンッ!こんな小城なんか、シャオ様にかかればあっという間ね!」

 

孫尚香が陸口を陥落させた事を誇らしく言うと

 

周泰「しかし小蓮様。これは雪蓮様を無視した独断での出陣ですよ。もしもの事があれば、雪蓮様ご自身の問題では済まされないですよ。」

 

彼女の傍にいる周泰がそう言うが

 

孫尚香「何言ってんの!そんなの、シャオが曹彰を討ち取れば良いだけの話よ!」

 

孫尚香「この陸口でも分かるように、曹彰の軍はとっても弱い事が分かったでしょ!だったら、雪蓮姉様も分かってくれるわよ!」

 

孫尚香は聞く耳を持たなかった。

 

周泰「しかし小蓮様。曹彰は必ずや本隊を率いてこの陸口を取り返しにやって来ます。その軍は百戦錬磨の猛者揃い。とてもですが今の我らの軍勢では到底無理です。」

 

それでも、周泰は諫言したのだが

 

孫尚香「ああ、もう!そんなの、シャオ一人で充分だって言ってるでしょ!こうやって城も手に入れたし、敵の実力も分かったんだからそれで良いじゃない!」

 

孫尚香「本当に強いんだったらこんな簡単に落ちる筈ないわ!それはつまり、曹彰の軍は数頼みの軍だって事!」

 

孫尚香「その数が少ないと結果は丸分かりよ!このまま一気に曹彰もけちょんけちょんにしてあげるわ!」

 

孫尚香は頑として聞かなかった。

 

周泰「小蓮様!陸口の守備兵は確かに三千と少なかったですが、皆曹彰が手塩にかけて育てた兵の内の一部であり、皆精鋭揃いです。現に、非常に頑強に抵抗されていたではないですか!」

 

周泰「そんな我らが勝てたのは、奇跡に等しい!しかし、将兵の精強さでは我らとは格が違います!何度でも言いますが、我らでは到底無理です!」

 

しかし、それでも周泰は諦めずに諫めた。

その時

 

「申し上げます!青の旗色に曹の旗印!曹彰の軍が現れました!その数、凡20万かと!」

 

純率いる20万の軍が現れたという知らせが入った。

 

孫尚香「フフン!噂をすればってやつね!すぐに行くわ!」

 

これに、孫尚香は笑みを浮かべながら言うと

 

孫尚香「あっ!それと・・・フフッ!良い事思い付いた!ねえ!あれも連れて来ようっと!」

 

何かを連れて来ようと思い付いたのだった。

 

 

 

 

 

 

曹彰軍

 

 

 

 

 

 

純「陸口に着いたか・・・」

 

秋蘭「そうですね・・・」

 

純「桃地に孫・・・これは確かに孫尚香の旗なんだな?」

 

稟「はい。情報通り、あれは孫尚香の旗です。」

 

すると

 

純「孫尚香・・・よくも兄弟を・・・!」

 

純の身体から更に覇気が溢れ、目が怒りに染まり益々血走っていった。

その時

 

秋蘭「純様!城門が開いて、敵の将が出て来ました!」

 

陸口の城門が開き、孫尚香が出てきた。

それを確認した純は

 

純「俺が出る。お前ら、いつでも動けるよう支度しろ。」

 

そう言い、馬を前に出した。

 

純「・・・テメーが孫尚香か?」

 

孫尚香「ええそうよ!我が名は孫尚香!江東の虎、孫堅の末娘よ!」

 

純「そうか・・・このような事して・・・テメーはタダで済むと思ってんのか?」

 

孫尚香「何?それは脅しかしら?弱いクセして、格好つけたいから『黄鬚』なんて異名付けて、オマケに髭なんて生やしちゃって・・・格好付けてシャオを脅すなんて100年早いわよ!!」

 

孫尚香は、そう純を馬鹿にした。

 

純「・・・だとしたら、どうする?」

 

これに対し、純はそう答えると

 

孫尚香「そんなの、決まってるでしょ!」

 

孫尚香は城に合図を送った。すると、城から一匹の大きな虎が現れた。その虎は、通常の虎よりも一回り大きい虎だった。

 

純「ほお、随分デケー虎だな・・・。」

 

孫尚香「ふふん・・・そうでしょ?アンタなんか、この子に食い殺されちゃいなさい!」

 

そして

 

孫尚香「行きなさい!!」

 

そう虎に命令した。すると、虎は純達めがけて走り出した。

 

純「ふんっ!」

 

しかし、純はそれに動じる事なく馬から降り虎目掛けて駆けた。

 

孫尚香「馬鹿ね!この虎は普通の虎よりも大きく、力も強いのよ!人の身で敵うはずないわ!」

 

それを見た孫尚香は、鼻で笑いながら言った。

そして、虎は純目掛けて襲おうとしたその時

 

純「うおおおっ!!」

 

ドシャアアアア

 

純は虎の右の前足を取り、そのまま背負い投げをして倒してみせた。

 

孫尚香「・・・え?」

 

それに、孫尚香は呆けた声を出した。

しかし

 

「ガアアアアッ!!」

 

虎はすぐに立ち上がり再び純を襲おうとしたが

 

ギンッ!

 

純に一睨みされ

 

ドスウゥン!

 

虎は動きが鈍くなり、そのまま泡吹いて気絶し倒れてしまったのだった。

しかし、気絶したのは虎に限らなかった。

 

「お、おい・・・どうしたんだお前・・・!?」

 

「こっちもだ!急に泡吹いて倒れちまったよ!」

 

孫尚香率いる一部の兵も、泡吹いて気絶し倒れてしまっていた。

 

孫尚香「な・・・何よ・・・何よこれ・・・!」

 

周泰「小蓮様・・・お気を確かに・・・!!」

 

孫尚香と周泰は、泡吹いて気絶はしなかったが、少しでも気を抜くと倒れてしまう程の状態で、孫尚香に至っては腰が抜け顔は涙と鼻水でぐちゃぐちゃになりながら尻餅をついてしまっており、一部が濡れていた。

 

稟「これは驚きですね・・・」

 

秋蘭「あれくらい当然だ。」

 

春蘭「うむ!」

 

楼杏「何て愚かな子・・・」

 

霞「流石やで、純ー!!」

 

翠「ざまぁねーぜ!」

 

剛「流石閣下!」

 

哲「そうだな、剛!」

 

「流石閣下だぜ!!」

 

「閣下の膂力を舐めて貰っては困るぜ!!」

 

「まさに『黄鬚』だ・・・!」

 

その一方で、純率いる将兵全て、皆賞賛の声で満ち溢れた。

そんな中

 

純「どうした?もう終わりか?」

 

純が、更に強烈な覇気を剥き出しに獰猛な笑みを浮かべ孫尚香に言ったが

 

孫尚香「あ・・・あ・・・」

 

孫尚香は恐怖のあまり声が出なかった。

 

純「今更になって怖じ気づいたか、江東の虎の末娘!」

 

そう言うと純は

 

純「フンッ!!」

 

ドシュッ!

 

虎の背中に手刀を叩き込み、それが背中に深々と突き刺し

 

ジュバッ!

 

手を引っこ抜くと、その手には虎の心臓が握られていた。

 

純「テメーら全員、この虎と同じ目に合わせてやる!」

 

そう言うと、純は自陣に戻り、馬に乗ると

 

純「テメーら、攻撃開始だ!仲間を、家族を手にかけたらどうなるか・・・その報いを受けさせてやれ!!」

 

強烈な覇気を身に纏いながら太刀を掲げ総攻撃の命令を下した。

 

「「「おおおーっ!!!」」」

 

これにより、20万の全将兵は揃って雄叫びを上げ、陸口へ総攻撃を開始した。

この時になって、孫尚香は後悔した。

 

「誰に対して喧嘩を売ったのか。それはどれ程愚かな事だったのか。」

 

と。



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103話

103話です。


純「攻撃開始ーっ!!」

 

曹彰軍兵士「「「おおーっ!!!」」」

 

純の命で、曹彰軍は一気に陸口目掛けて攻撃した。

 

「か、構え!撃てーっ!」

 

孫軍も、純とそれ以下20万の将兵の気迫と覇気に怯えつつも弓部隊が一斉に構え、矢を放ったのだが

 

「「「ギャアアアア!!!」」」

 

「「「う、うわぁあああ!!!」」」

 

投石車と連弩の猛攻に何も出来ず、加えて一部の兵士が、純の覇気に当てられて士気が下がってしまっていた。

その影響で孫尚香率いる軍は統制が取れない状態になり、それはまさに阿鼻叫喚の状態で、被害は益々甚大となっていった。

そして

 

純「テメーら!突撃だー!!」

 

純はそう皆に叫び、先頭に立って突撃した。

 

春蘭「うおおおっ!!」

 

秋蘭「純様に遅れるなー!!」

 

霞「よっしゃああっ!!やったるでー!!」

 

翠「皆殺しだぜー!!」

 

剛「皆に遅れるなー!!」

 

哲「行くぞー!!」

 

楼杏「私も続きましょう!!」

 

これに、他の皆も続いた。

その猛攻を前に

 

ドガアアアン!!!

 

遂に城門が破られた。

 

純「門が破られたぞ!!テメーら、突撃しろー!!目の前の敵全て斬り殺せー!!」

 

そう言い純は

 

純「はああああっ!!」

 

「「「ギャアアアア!!!」」」

 

純「うおりゃあああっ!!」

 

「「「うわああああっ!!!」」」

 

目の前の敵兵数十人斬り殺していき、その勢いでどんどん攻めていった。

 

孫尚香「な、何よこれ・・・!」

 

この純の暴れっぷりを、孫尚香は顔を真っ青にしながら見ていた。

その時

 

孫尚香「!」

 

孫尚香は自分が持っていた弓矢を思い出し、それを持って構えた。

狙うは、前線で暴れ回っている純に向けてだった。

そして

 

孫尚香「はっ!」

 

矢は純目掛けて飛んでいき

 

ドシュ

 

純「っ!」

 

純の左肘に食らった。

 

孫尚香「フ、フンッ・・・!シャオを舐めないで欲しいわ!」

 

そう、孫尚香は涙目ながら強がって言った。

 

「「「閣下!!!」」」

 

純「大事ない!俺に構わず、目の前の敵全て食い殺せ!」

 

「「「はっ!!!」」」

 

しかし、純は怯む事なく将兵を鼓舞すると

 

純「矢がどうしたー!!全て斬り殺してくれるわー!!」

 

ズバッ!ザシュ!ドシュ!ザン!

 

孫尚香「・・・え?」

 

暴れっぷりは一層激しさを増し、周りの敵兵はあっさり斬り殺された。

 

ズバッ!ザシュ!ドシュ!ザン!

 

その太刀筋は、まるで流麗の舞を舞っているような攻撃だが、一撃一撃は速くて鋭く、ある種の神々しさを感じさせた。

しかし

 

純「うらああああっ!!」

 

それとは裏腹に純の雄叫びはその動きとは対照的で、敵にとっては恐怖以外の何物でもなかった。

 

孫尚香「い、いや・・・いやぁー!!」

 

この純の気迫に、孫尚香の心は完全に折れてしまい、頭を抱え発狂してしまった。

 

周泰「小蓮様!」

 

これに、周泰は慌てて孫尚香の傍に寄り

 

周泰「皆さん!小蓮様を御守りし、何とか逃げましょう!」

 

そう、将兵に命令し何とか逃げようとした。

しかし

 

純「そこに孫尚香がいるぞ!逃がすな!追えー!!」

 

純を先頭に執拗に追い掛けられ

 

「「「ギャアアアア!!!」」」

 

「「「うわああああっ!!!」」」

 

殆どの将兵が斬り殺されていった。

それでも何とか脱出できたのだが、孫尚香と周泰を除いて全ての将兵が討ち死にしたのだった。

そして、陸口に入ると、純は秋蘭とその後慌てて駆けつけた稟と一緒に入った。

 

稟「純様!しっかりして下さい!」

 

稟は、そう声をかけ続け

 

秋蘭「純様!お気を確かに!」

 

秋蘭も、稟同様そう純に声をかけた。

この時、秋蘭は既に軍医を呼んでおり、すぐさま治療の準備に取りかからせた。

その時

 

純「・・・。」

 

純は刺さってる矢を見るやそれを握り

 

純「んっ!」

 

抜き取り、投げ捨てた。

 

秋蘭「純様!」

 

これに、秋蘭は慌てて傍に寄り、いつになく冷静さを欠いた姿で声をかけた。

 

稟「痛みは!?」

 

稟も、普段の冷徹な姿からは程遠い姿だった。

 

純「・・・大丈夫だ。」

 

そう言ったが、どうも様子がおかしく

 

秋蘭「いかん!軍医!」

 

秋蘭は軍医を急かすと、軍医はすぐに純の左肘を診た。

 

「こ、これは・・・!」

 

傷口を診て、軍医は目を見開き

 

軍医「この矢は・・・毒矢です。体内にまで回ってるかと・・・」

 

そう、軍医は言いづらそうに言った。

 

秋蘭「それで?治るのか?」

 

秋蘭は、いつになく切羽詰まった表情で尋ねると

 

「それは何とも申し上げられません・・・傷口は消毒しましたが、体内にまで回った毒の解毒は・・・」

 

軍医は申し訳なさそうに項垂れた。

これに

 

秋蘭「貴様!それでも軍医か!」

 

秋蘭は軍医の胸ぐらを掴んで詰めたが

 

純「止せ・・・秋蘭!」

 

純は苦悶の表情を浮かべながら秋蘭を止めた。

 

秋蘭「純様!」

 

純「良いから・・・手を・・・離せ!」

 

秋蘭「っ!・・・御意。」

 

純は、脂汗を浮かべながらもその目は歴戦の総帥であり、尚且つ『黄鬚』の異名に相応しい気迫に満ちていた。

これには秋蘭も手を離した。

 

純「・・・ご苦労だった。下がれ。下がって、他に怪我した兵達を診てやってくれ。」

 

純は、そう軍医に言った。

 

「・・・はっ。」

 

軍医は、拱手し一礼すると退出した。

 

稟「秋蘭様。私はすぐ解毒薬を調合します!」

 

稟は、そう言うとすぐにその場を後にした。

 

純「っつ!?」

 

純が再び苦悶の表情を浮かべると

 

秋蘭「純様!」

 

秋蘭は右手を握り声をかけた。

 

純「・・・心配ない。そう取り乱すな、秋蘭。お前は・・・この軍の副都督だぞ。そう取り乱しては・・・兵達も動揺するし・・・士気も乱れるぞ!」

 

これに、純は額に脂汗を浮かべつつも気丈に秋蘭に注意した。

 

秋蘭「・・・はい。申し訳ございません。」

 

秋蘭は、項垂れながら純に謝罪した。

 

純「・・・兵の様子は?」

 

秋蘭「楼杏殿を筆頭に何とか纏めております。」

 

純「・・・そうか。流石・・・楼杏だな。」

 

これに、純は少しホッとした表情を浮かべながら楼杏を褒めた。

その時

 

稟「純様!解毒薬が出来ました!」

 

稟が解毒薬を持って現れた。

そして、それを純に飲ませると

 

純「・・・ふぅ。」

 

純の顔色が多少なりとも良くなった。

 

稟「少し顔色が良くなりましたね・・・」

 

これに、稟は普段皆に滅多に見せないホッとした表情を浮かべた。

 

秋蘭「純様。部屋まで私達がご一緒に。」

 

そう、秋蘭は自らの肩に純の右腕を回し支え、稟も傍に寄り、共に部屋に行った。

そして、部屋に到着すると

 

純「・・・では、少し寝る。」

 

純は床に入った。

 

秋蘭「はい。ゆっくりお休み下さい。私達が暫く傍におりますので。」

 

稟「純様・・・」

 

秋蘭と稟は、左右に座って柔らかい表情を浮かべた。

 

純「ああ・・・頼んだぞ・・・」

 

そう言うと、純はすぐに眠りについたのだった。

 

秋蘭「稟。純様はどうなる?」

 

すると、秋蘭はすぐに眉間に皺を寄せ厳しい表情で尋ねると

 

稟「今は解毒薬で何とか持ち堪えれます。しかし、解毒薬だけでとなると・・・」

 

稟は正直にそう言った。

 

秋蘭「・・・すぐに、腕利きの医者を探さなければ。」

 

これに、秋蘭は厳しい表情を変えずにそう言ったのであった。



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104話

104話です。


陸口の奪還に成功した純達だったが、孫尚香に毒矢を受けた純の体調は日に日に悪化していった。

 

純「・・・。」

 

それでも、純は平静さを保ち続けていたが、時折辛そうな表情を浮かべた。

稟も、毎日解毒薬を作り飲ませていたのだがそれも限界があり、稟自身に疲労が溜まっていった。

 

秋蘭「向こうの様子は?」

 

「はっ!今のところ、変化はありません!」

 

秋蘭「そうか。引き続き頼むぞ。」

 

「はっ!」

 

秋蘭も、副都督として純がよく行っていた兵の様子を見たりして、声をかけたりしていた。

 

春蘭「秋蘭・・・」

 

その様子に、春蘭は複雑な表情を浮かべていた。

 

霞「惇ちゃん・・・」

 

春蘭「おお・・・霞か。」

 

これに、霞も感じており、春蘭に声をかけた。

 

霞「何か妙ちゃん・・・無理してへんか・・・」

 

霞も、秋蘭の様子を見て春蘭にそう言った。

 

春蘭「お前もそう思うか・・・多分だが、秋蘭は純様と同じように兵の様子を見て、声をかけたりしている。」

 

春蘭「しかし、どこか無理に純様がやっている事をやっているように私も感じるんだ・・・」

 

霞「せやな・・・妙ちゃんは妙ちゃん。純やない。無理に真似したって、何も意味ない。」

 

霞「別に何かを手本にやるのはええ。けど、合わなければきっぱりやめるのも手なんやけどな・・・」

 

そう、霞も複雑そうに秋蘭を見た。

 

春蘭「けど・・・秋蘭はああ見えて頑固だからな。聞いてくれるかどうか・・・」

 

春蘭も、同様の表情を浮かべた。

 

楼杏「けど・・・それだけ秋蘭さんは必死なんでしょうね。副都督として与えられた使命を全うしようと。」

 

春蘭「おお、楼杏!純様のご様子は?」

 

楼杏「ええ。様子を見に行ったけど、私達に心配をかけまいと平静さを保っているわ。」

 

楼杏「けど、やはり辛いんでしょうね。苦しそうな表情を僅かに浮かべる時があるわ。」

 

楼杏「稟さんも、参軍としての仕事と純さんの看病で解毒薬も作ってるから、疲れも溜まってるし。」

 

楼杏は、純と稟の様子を思い出し、顔を歪めていた。

 

楼杏「どうすれば良いのかしら・・・もし・・・もし純さんが・・・」

 

これに、楼杏は弱気な発言をすると

 

霞「馬鹿言うなや、楼杏!」

 

バシッ!

 

楼杏「っ!」

 

霞が楼杏の頬を引っぱたいて

 

霞「そんな事、軽はずみに言うんやない!純はきっと助かる!ウチが女として惚れた男や!死ぬはずない!アンタも、純に惚れとるやろ!」

 

霞「だったら、好いた人を信じんでどうするんや!」

 

そう目を吊り上げ泣きそうな表情でそう言った。

これに

 

楼杏「・・・そうね。ごめんなさい、霞さん。」

 

楼杏はいつものキリッとした表情になり

 

楼杏「私も信じるわ。純さんは、きっと助かる!」

 

そう、力強い声で言った。

 

霞「せや!純は助かる!なんたって純は、『黄鬚』と呼ばれし強くて勇ましいウチらのいや、全将兵の大将軍やからな!」

 

霞も、いつもの快活な笑顔を見せてそう言ったのだった。

 

春蘭「そう言えば、許都から誰か参ると聞いたが?」

 

楼杏「ああ、それね。一応純さんの事を江陵の風さんに通じて許都にも知らせていたのよ。」

 

楼杏「恐らくだけど・・・栄華さんが来ると思うわ。その際、ある名医も一緒に連れて行ってるとか・・・」

 

 

 

 

 

 

同時刻

 

 

 

 

 

 

栄華「早く!!急いで下さいまし、華佗さん!!」

 

華佗「分かってる!!そう急ぐと馬が先に潰れてしまう!!」

 

栄華「でも・・・もたもたしては、お兄様が・・・お兄様が・・・!!」

 

華佗「気持ちは分かる!けど、辿り着く前に俺達がくたばってしまうぞ、曹洪殿!!」

 

栄華が、いつになく焦り、余裕のない表情で馬を必死に走らせていた。

その後ろを、華琳が必死に探して見つけた医者が必死に栄華に付いて行っていた。

これより3日前の事だった。

 

 

 

 

 

 

3日前

 

 

 

 

 

 

「江陵からの文です!」

 

一人の兵士が、文を携えて現れた。

 

華琳「江陵から?何があったのかしら?」

 

華琳は疑問の表情を浮かべながら文を受け取り、それを読むと

 

華琳「何ですって!?」

 

華琳は驚きのあまり、大声を上げて立ち上がった。

 

桂花「如何なさいましたか、華琳様?」

 

これに、桂花が尋ねると

 

華琳「純が・・・陸口を占拠した孫策の妹、孫尚香を攻めている時に孫尚香に毒矢をくらったって!」

 

華琳が、純が毒矢を受けたと言った。

これに

 

桂花「え!」

 

桂花は驚きの声を上げた。

桂花だけじゃなかった。

 

柳琳「そんな・・・!?」

 

華侖「ほんとっすか、華琳姉ぇ!?」

 

燈「・・・。」

 

皆それぞれ驚きの声を上げたり、口にはしないが動揺の表情を浮かべてる者もいた。

とりわけ

 

栄華「お姉様!お兄様は・・・お兄様はご無事ですの!!」

 

栄華は激しく動揺しており、華琳に純の様子をすぐに尋ねた。

 

華琳「今のところ命は繋いでるようだけど、明日も分からない状態との事よ。」

 

この回答に

 

栄華「お姉様!今すぐに私を陸口に行かせて下さいまし!!」

 

栄華は必死の表情で華琳に言った。

 

華琳「落ち着きなさい、栄華!あなた、医学の心得はあるの?」

 

これに、華琳は冷静にそう言うと

 

栄華「・・・ございませんわ。」

 

栄華は目を俯かせてそう言ったが

 

栄華「しかし・・・お兄様が・・・!」

 

すぐに顔を上げて鳴きそうな表情でそう言うと

 

華琳「分かってるわ!純を・・・あの子を死なせない!桂花!燈!この許都に華佗がいると聞いてるわ!すぐに探しなさい!」

 

桂花「御意!」

 

燈「分かりましたわ!」

 

華琳は、すぐさま桂花と燈にそう命令した。

命を聞いた二人は、すぐさまその場を後にし、捜索を開始した。

そして、華佗を見つけ事情を説明すると

 

華佗「分かった!すぐに行こう!」

 

華佗は即決で言った。

 

華琳「頼むわね!付き添いには、栄華も一緒に連れて行かせるわ!」

 

これに、華琳はそう華佗に言った。

 

 

 

 

 

 

そして、栄華達は必死に陸口まで走らせていた。

 

栄華(お兄様・・・どうか・・・どうかご無事で・・・お兄様・・・!)

 

この時、栄華はそう必死の気持ちで内心叫びながら馬を走らせていたのであった。



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105話

105話です。


建業

 

 

 

 

 

その頃建業では

 

孫策「・・・。」

 

孫策が、自室で一人、目を閉じて何かを待っていた。

すると

 

周瑜「雪蓮・・・」

 

周瑜が孫策の部屋に入ると

 

孫策「全て言わなくても分かってるわ。今すぐ向かうわ。」

 

孫策は、そう周瑜に言った。

 

周瑜「・・・分かった。」

 

周瑜は、そう言い部屋を後にした。

そして、孫策は立ち上がり部屋を出て、主君の間に向かった。

 

 

 

 

 

 

主君の間

 

 

 

 

 

 

主君の間では、皆それぞれの場所で立って眉間に皺を寄せながら中央にいる者を見ていた。

 

孫尚香「・・・。」

 

そのド真ん中に、孫尚香がボロボロの状態で俯きながら立っており

 

周泰「・・・。」

 

その後ろには、孫尚香同様ボロボロの状態の周泰が控えていた。

すると、孫策が現れると、皆拱手して構え

 

孫尚香「っ!」

 

孫尚香も、姉の孫策の気配を感じた瞬間、ビクッと身体を震わせた。

 

孫策「・・・。」

 

孫策は、孫尚香の傍に向かって歩み寄り

 

孫尚香「し・・・し・・・雪蓮ねえ・・・」

 

孫尚香が、孫策の名を呼ぼうとしたその瞬間

 

ドゴッ!!

 

「「「っ!?」」」

 

孫策は、孫尚香の腹を殴り

 

ドガン!!

 

その衝撃で孫尚香は床を転がり、壁にぶつかった。

そして

 

ドガッ!バキッ!ドゴッ!ボカッ!

 

孫策は孫尚香の髪の毛を掴み無理やり立たせるとそのまま殴り続けた。

この様子に

 

周瑜「やめなさい、雪蓮!!」

 

黄蓋「やめるのじゃ、策殿!!」

 

蓮華「おやめ下さい、姉様!!これ以上はシャオが死んでしまいます!!」

 

周瑜、黄蓋、孫権が必死になって止めたが

 

孫策「黙りなさい!シャオは・・・この子はやってはならない事をやってしまったのよ!!母様が・・・父祖が必死に守ろうとしたこの江東を・・・!!滅亡の危機に陥れたのよ!!」

 

孫策「私は・・・母様や父祖に・・・なんて言い訳したら良いの!!」

 

孫策は、怒りで目が血走った状態でそう三人に怒鳴った。

 

程普「雪蓮様・・・お怒りはご尤もです。しかし、このままではシャオ様が死んでしまいます。ここは一旦、落ち着きましょう。」

 

すると、黄蓋と共に先代の孫堅から仕えている程普が、冷静に孫策を止めた。

程普の言葉に

 

孫策「・・・。」

 

孫策は手を止め、目を閉じ己を抑えた。

そして、孫尚香から手を離し、それを孫権はスッと抱き締めた。

既に何発も蹴られ殴られた孫尚香の顔は、普段の可憐で勝気な表情からは程遠い程までに腫れてしまい、身体も痣だらけになり、一部骨が折れている状態で意識を失っていた。

 

孫策「・・・分かったわ。蓮華、この子を治療して牢に入れといて。」

 

孫権「・・・はい。」

 

孫権は、姉の命に従い、孫尚香を優しく抱き締めながらその場を後にした。

 

孫策「・・・。」

 

顔を歪めた孫策は、頭を抱えた。

これを機に、江東の一部の豪族は孫策から離反し反旗を翻していき、それを孫策は平定にしてはまた反旗を翻されそれをまた平定するなどのイタチごっこが繰り返されたのであった。



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106話

106話です。


陸口

 

 

 

 

 

秋蘭「・・・。」

 

眉間に皺を寄せながら厳しい表情で兵の様子を見ている秋蘭。

その時

 

楼杏「秋蘭さん!栄華さんが参りました!」

 

楼杏が秋蘭の前に現れ、そう叫ぶように言った。

 

秋蘭「本当か!医師も一緒か!」

 

楼杏「はい!華佗と申す名医もご一緒です!」

 

これに

 

秋蘭「直ちに連れて来てくれ!」

 

秋蘭はすぐに連れて来るよう言った。

程なくして

 

栄華「秋蘭さん!」

 

栄華が華佗と共に現れた。

 

秋蘭「栄華!それと、そこにいるお主が華佗か?」

 

華佗「ああ!俺が華佗だ!患者は何処だ?」

 

秋蘭「ああ!案内する!栄華も一緒に来てくれ!」

 

華佗「分かった!」

 

栄華「勿論ですわ!」

 

そして、秋蘭は栄華と華佗を連れ、純が休んでいる部屋に向かった。

 

 

 

 

 

 

純の部屋

 

 

 

 

 

 

その頃

 

純「・・・。」

 

純の容態は益々悪くなっていった。

しかし、純は弱気な言葉を吐く事なく、辛い表情を僅かに浮かべながらも平静さを保っていた。

 

稟「純様・・・」

 

稟も、そんな純を健気に支え、傍に寄り添っていた。

すると

 

秋蘭「失礼します!」

 

秋蘭が栄華と華佗を引き連れて入ってきた。

 

稟「秋蘭様!それに栄華様も!」

 

稟は、驚きの声を上げ

 

純「・・・え、栄華か・・・」

 

純は、栄華の名前に反応した。

これに

 

栄華「お兄様!!」

 

栄華は泣きながら純の傍に近付いた。

 

稟「それと・・・そちらの方は?」

 

華佗を見て誰かを尋ねた。

 

栄華「この方は華佗さんですわ!」

 

これに、栄華は華佗だと言い

 

稟「あの神医華佗殿ですか!?」

 

稟は驚き目を見開いた。

 

華佗「すまないが、早く診せてくれ!」

 

華佗はそう言うと、稟はすぐに華佗に純を診せた。

この時

 

純「・・・お前が華佗か?」

 

純は脂汗を浮かべ苦しそうに聞くと

 

華佗「そうだ。曹操殿の命を受けてここに来たんだ。」

 

華佗は診察しながら言った。

 

純「成程・・・姉上が・・・」

 

これに、純は苦しそうにそう答えると

 

純「よく来たな・・・栄華・・・」

 

純はそう栄華に優しく言った。

 

栄華「お兄様・・・!」

 

これに、栄華は涙が止まらなかった。

少し経つと

 

華佗「うむ・・・既に毒が骨の髄まで達しているだけじゃない。内臓まで蝕んでいる。」

 

華佗は診断結果を述べた。

 

栄華「そんな・・・!」

 

栄華は、驚き口元を抑えながら絶句した。

 

秋蘭「助かるのか?」

 

秋蘭は、冷静に努めて尋ねると

 

華佗「・・・とにかく、全力を尽くそう。すまんが、外してくれるか?」

 

そう言った。

 

秋蘭「分かった。何かあれば、外にいる兵に声をかけてくれ。」

 

華佗「分かった。」

 

秋蘭「稟、栄華。出るぞ。」

 

そう言い、秋蘭は稟と栄華を連れて部屋を出た。

 

秋蘭「栄華。昼夜兼行ここまで来てくれて、礼を言う。」

 

そして、秋蘭は栄華にそうお礼の言葉を述べた。

 

栄華「い、いえ!そんな・・・!」

 

稟「私からもです。本当にありがとうございます。」

 

稟も、栄華にお礼の言葉を述べた。

 

栄華「わ、私は当然の事をしたまでですわ!お、お兄様が心配で・・・心配で・・・!」

 

これに、栄華は涙を流しながらそう言うと

 

秋蘭「大丈夫だ・・・栄華。」

 

稟「栄華様・・・」

 

秋蘭と稟は、栄華を優しく抱き締めたのだった。

暫くして

 

栄華「もう大丈夫ですわ・・・」

 

栄華はそう二人に言った。

それと同タイミングで

 

華佗「・・・お三方。少し良いか?」

 

華佗が深刻な表情を浮かべながら現れた。

 

秋蘭「うむ・・・」

 

稟「はい・・・」

 

栄華「ええ・・・」

 

三人は、非常に真剣な表情を浮かべながら部屋に入った。

 

華佗「では、率直に言おう。曹彰殿の容態だが、このままでは腕を斬り落としても意味がない。確実に死ぬ。」

 

これに

 

稟「・・・やはり、私の解毒薬では駄目でしたか。」

 

稟は暗い表情で俯かせて言ったが

 

華佗「いや、郭嘉殿の薬は確かに効いていた。もしこれがなければ、今頃死んでいた筈だ。」

 

華佗はそう言い、稟をフォローした。

 

稟「そうですか・・・」

 

これに、稟は少しホッとした表情を浮かべた。

 

華佗「だが、勿論完治したわけではない。毒を体内から取り除かねばならん。」

 

そう言い、華佗は表情を引き締めた。

 

秋蘭「具体的には?」

 

華佗「患部辺りに、毒に穢された悪い血が溜まっている。それを抜かねばならんが、その為に患部を切開する必要がある。」

 

これには

 

稟「患部を・・・」

 

栄華「せ、切開・・・」

 

稟と栄華は顔を青ざめてしまった。

 

華佗「勿論だが、その分激しい痛みを伴う。その為に、麻沸散を使う。」

 

秋蘭「麻沸散?」

 

聞いた事ない言葉に、秋蘭は首を傾げた。

 

華佗「施術の間に眠って貰う薬だ。それだけの痛みなのだ。」

 

華佗「そして、血を抜き取ったら、骨を削り取る。」

 

これには

 

「「「・・・!!」」」

 

稟と栄華は勿論、流石の秋蘭も顔を歪めた。

 

華佗「そして薬を塗り、針と糸で傷口を縫合し、また薬を塗る。」

 

秋蘭「成程・・・」

 

華佗「ああ。もうこれ以外に手立てはない。さもなくば、腕どころか本当に命を落とす。」

 

その時

 

純「成程・・・相当・・・難しい事だと分かった・・・」

 

純がそう苦しそうに言うと

 

純「か、華佗・・・頼む・・・」

 

そう華佗に言った。

 

華佗「無論だ。俺も全力を以て、あなたを完治させよう。」

 

華佗も、しっかり頷きそう言った。

 

純「そ、それと・・・く、薬は・・・いらねー・・・」

 

これに

 

華佗「馬鹿を言うな!!堪え難い痛みを伴う施術なんだぞ!」

 

華佗は驚きのあまりそう言ったのだが

 

純「ふっ・・・華佗・・・。お、俺は・・・あ、姉上の・・・為に・・・か、数え・・・切れねー戦に・・・身を投じ・・・い、命を懸けて戦ってきた・・・」

 

純「い、痛みなんか・・・恐れねーよ・・・」

 

純は笑みを浮かべながら言った。

 

華佗「し、しかし・・・」

 

これに、華佗は戸惑ったが

 

秋蘭「純様・・・華佗に従って下さい。」

 

秋蘭は、純にそう言った。

 

純「し、秋蘭・・・き、気遣い無用だ・・・」

 

秋蘭「純様。今は戦時故、急を告げている最中ではありますが、だからこそしっかり治さなければなりませぬ。」

 

純「・・・。」

 

秋蘭「純様なら確かに耐えきってみせるでしょう。しかし、万が一激痛のあまりに華佗が施術をしくじったらどうなさいますか?」

 

すると

 

稟「秋蘭様の言う通りです。ここはどうか・・・」

 

栄華「私からもお願いします!お兄様・・・!」

 

稟と栄華も、そう純に言った。

 

純「・・・分かった。意見に従おう・・・」

 

これに、純はそう言い、三人の手伝いで横になって目を閉じた。

 

秋蘭「では華佗。お願いする。」

 

華佗「承知した。」

 

秋蘭「では、私達は出るぞ。」

 

そう、秋蘭は言い

 

稟「はい。」

 

栄華「分かりましたわ。」

 

稟と栄華もそれに続いた。

そして、翌朝・・・

 

華佗「ふぅ・・・」

 

華佗が部屋から出てきた。

 

秋蘭「華佗・・・どうだ?」

 

稟「華佗殿・・・」

 

栄華「華佗さん・・・」

 

これに、秋蘭と稟、そして栄華は、華佗に詰め寄ると

 

華佗「ああ。確かに毒が内臓を蝕み始めていたが、流石『黄鬚』の異名で鳴らした猛将だな。無事、施術は済んだ。」

 

華佗は、そう三人に言った。

 

稟「良かった・・・!」

 

栄華「はい・・・!」

 

これに、稟と栄華はそう涙を浮かべて言ったが

 

秋蘭「良かった・・・純様・・・本当に良かった・・・!」

 

とりわけ秋蘭が一番嬉しそうにしており、口元を抑えながら涙を流し、嗚咽を漏らしながら膝を付いた。

 

華佗「暫し、養生は必要だがな。」

 

そう、華佗は笑みを浮かべ言った。

そして、その日の夕方に、純は目を覚ました。

 

秋蘭「ご気分はどうでしょうか?」

 

純「まだ腕に違和感はあるが、気分は良い。」

 

少々顔色は悪いが、以前のような苦しそうな程ではなかった。

 

稟「良かったです・・・!」

 

栄華「お兄様・・・!」

 

楼杏「本当ね・・・!」

 

霞「ホンマに良かったよー!!純!!」

 

剛「良かったですよ・・・閣下。」

 

哲「そうだな・・・」

 

稟に栄華、楼杏、そして霞に剛と哲はそれぞれ涙を流しながらも喜びの表情を浮かべ

 

春蘭「じゅんざまー!!よぐぞごぶじでー!!」

 

春蘭は、顔が涙と鼻水だらけの状態で喜びを爆発させながらそう言うと

 

翠「ああ、そうだな・・・本当に良かったよ、純殿・・・」

 

翠も、涙は出てないが嬉しそうな表情でそう言った。

 

華佗「毒に侵された箇所は全て取り除いた。その後で、これを使って気を送ったから、後は回復を待つだけだ。」

 

華佗は、気を送るために使う針を取ってそう言った。

 

秋蘭「華佗。純様は回復するまで如何程かかる?」

 

秋蘭の問いに

 

華佗「そうだな。本人次第だが、百日ほど安静にすれば、完全に良くなるだろう。」

 

華佗はそう言い

 

華佗「曹彰殿。その間、無闇に怒ったり、気を昂ぶらせたりするのは禁物だ。無論、武器を振るって戦場を駆けるのもだ。」

 

華佗「そうしなければ、傷口が開き体調が悪くなる。だから、一度引き揚げた方が良いと思う。」

 

華佗「曹操殿も、俺と同じ考えだ。」

 

純にもそう言った。

これに

 

純「・・・俺は武人だ。姉上の為に敵に対し命を懸けて臆する事無く勇猛に戦い、勝つ事が役目であり、忠義だ。」

 

純「俺達は陸口で死んでいった友であり、家族に等しい仲間の御霊に仇の首を捧げる事すら叶っていねーんだ。」

 

純「陸口を奪還したその勢いに乗じて、一気に江東を平定すべきなんじゃねーのか?」

 

純はそう反論すると

 

純「姉上の元に戻り、こう伝えてくれ。『許都にて、姉上は吉報をお待ちになって下さいませ。俺は戦場にて目の前の敵を斬り殺し、姉上の為に勝利をお捧げ致します。』とな。」

 

華琳にそう伝えるよう華佗に言った。

しかし

 

華佗「曹彰殿!あなたは・・・姉である曹操殿を蔑ろにするつもりか!」

 

華佗「あなたが死ねば、ここにいる夏侯淵殿達を中心とした全軍将兵だけじゃない!曹操殿他、皆が悲しむ!ましてやあなたは、曹操殿が最も大切に思われている血を分けた、たった一人の弟なんだぞ!」

 

華佗にそう言われると

 

純「っ!」

 

純は何も言えず

 

純「・・・。」

 

目を閉じ、沈黙した。

そして

 

純「・・・分かった。俺は江陵に戻るとしよう。」

 

純は目を開けると、江陵に一旦戻ると言った。

 

華佗「それが良いだろう。それを聞いて安心した。」

 

これに、華佗はホッとした表情を浮かべた。

 

純「稟。机の上にある兵符を、秋蘭に渡してくれ。」

 

すると、純は稟に兵符を渡すよう命じた。

 

稟「御意。」

 

これに、稟は兵符を取り、秋蘭に渡すと

 

純「秋蘭。全軍の統率と指揮権を暫くお前に譲る。何かあれば、万事全て任せるぞ。」

 

秋蘭に全軍の統率と指揮権を暫く譲ると言った。

 

秋蘭「御意!」

 

秋蘭は、兵符を持ち跪いて拱手した。

 

純「春蘭、楼杏、翠、そして稟。」

 

春蘭「はっ!」

 

楼杏「はい!」

 

翠「おう!」

 

稟「はっ!」

 

純「お前達は秋蘭をしっかり支え、秋蘭の言葉は、全て俺の言葉と思い行動しろ。」

 

そう、四人に命じると

 

春蘭「御意!」

 

楼杏「承りました!」

 

翠「ああ!ちゃんと秋蘭を支えてやるぜ!」

 

稟「御意!」

 

四人は跪き拱手した。

 

純「秋蘭も、この四人の意見にしっかり耳を傾け行動しろ。良いな。」

 

秋蘭「はっ!」

 

純「では、俺は江陵に戻って、暫く養生する。霞、剛、哲、そして栄華、頼むぞ。」

 

霞「任しとき!純には指一本触れさせへんで!」

 

剛「霞の言う通り、もし襲われたら任せてくれ。」

 

哲「御意!」

 

栄華「お任せ下さいまし!」

 

そして、純は霞と剛に哲、そして栄華を連れて一万程の将兵と共に江陵に戻ったのであった。



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107話

107話です。

主人公の髭ですが、今回の大河ドラマで登場した山○裕○が演じた某戦国最強の武将の髭の形ををイメージしていただけると良いです。
詳細は下記サイトにて。

https://www.sponichi.co.jp/entertainment/news/2023/11/05/gazo/20231104s00041000091000p.html

容姿と髪型は皆様のご想像にお任せしますが、これかなと思いましたら、是非活動報告にてお聞きしますので、ぜひお気軽に宜しくお願いします。

それでは、どうぞ。


江陵

 

 

 

 

 

純「はっ!ふっ!はあっ!」

 

霞「流石純や!鈍ってるどころか更に鋭くなっとるで!おりゃあああっ!」

 

純「そうか!はああああっ!」

 

江陵では、純が霞と一緒に練兵場で手合わせをしていた。

普通だったら、まだ安静な状態なのだが

 

華佗「驚いたな。こうも早く完治するとは・・・!」

 

華佗でも想像がつかない程、純は早く傷が完治し、今こうして模造刀を振るっていた。

 

華佗「これも、曹彰殿の強靭な体力と精神が為せる業といったところか・・・」

 

これには、華佗はそう呟いた。

すると

 

純「おお!華佗か!」

 

霞「華佗やん!」

 

純と霞が華佗に気付き、声をかけると

 

華佗「見たところ、本当に大丈夫そうだな。」

 

華佗は、純の想像以上の回復力にそう素直に口にした。

 

純「いや、これも全てお前のお陰だ。華佗、礼を申す。」

 

これに、純はそう華佗に感謝の言葉を口にし拱手し

 

純「そこで提案なのだが華佗、我が軍の軍医にならないか?お前が加わったら、一万の兵を得たに匹敵するんだが。」

 

華佗を自軍の軍医と誘ったのだが

 

華佗「お誘い感謝する。しかし、俺は医者だ。病や怪我に苦しんで助けを求める者がいる限り、俺は行かねばならんのだ。」

 

華佗は一人の医者として多くの患者を救いたいと言い、純の誘いを断った。

 

純「成程・・・流石だ・・・敬服する。」

 

それを聞いて、純は華佗に対し拱手して敬意を表すと

 

純「誰か!」

 

兵士を呼ぶと、兵士はある物を持ってきた。

それは

 

純「華佗。感謝を表した、黄金百両だ。」

 

黄金百両が入った箱だった。

 

華佗「それはいらない。それは民の為に使ってくれ。」

 

しかし、華佗は受け取らず、それは民に使うように言った。

 

純「分かった。」

 

華佗「だが、気持ちは受け止めよう。では、俺は行くよ。」

 

純「そうか。見送ろうか?」

 

華佗「いや、気遣いは無用だ。それじゃあ。」

 

純「ああ。」

 

そういうやり取りをし、華佗はその場を後にした。

 

霞「なぁ・・・純。」

 

純「あっ?どうした、し・・・」

 

霞に呼ばれた純が振り返ったその時

 

ギュッ

 

純「霞?」

 

霞が純を抱き締め、胸に顔を埋めると

 

霞「ぐすっ・・・良かった・・・ホンマに良かった・・・純・・・」

 

そう涙を流しながら純に言った。

 

純「・・・霞。」

 

霞「不安やった・・・絶対純が死ぬはずないと信じてたんやけど・・・ホンマ不安やった・・・。純がホンマに死ぬんやないかって・・・純・・・」

 

そう言いながら

 

霞「んっ・・・」

 

霞は顔を上げ、純に口付けをした。

これに純は驚いたが、それに応え、霞の背中に手を回した。

その際

 

霞「なぁ、純。」

 

純「ん?」

 

霞「髭、くすぐったいで・・・」

 

霞は純の髭が当たっていた為、くすぐったいと言った。

 

純「悪い、剃った方が良いか?」

 

これに、純はそう言ったが

 

霞「ん〜ん〜。寧ろこれが良いで〜。」

 

霞はそう言い甘えるようにキスをしながら自らの腕を純の首に回し、愛おしそうに純に密着したのだった。

その日の夜

 

純「・・・。」

 

純は、部屋の中で自らの太刀を抜いて

 

純(また・・・俺はこうして太刀を持って戦場で暴れる事が出来る・・・)

 

純(必ず・・・江東を平定してみせる・・・)

 

そう心の中でそう呟いた。

その時、扉の向こうに誰かがいる気配を感じ

 

純「誰だ?」

 

と言うと

 

栄華「お兄様。私ですわ。」

 

栄華の声が聞こえた。

 

純「栄華か・・・入れ。」

 

これに、純はそう栄華に言うと

 

栄華「失礼します。」

 

栄華が入ってきた。

 

純「どうした?こんな夜中に・・・」

 

すると

 

栄華「お兄様。陸口に戻られるんですの?」

 

栄華が、目を潤ませつつ上目遣いで純を見てそう尋ねた。

 

純「ああ・・・陸口で散っていった友の為に江東平定に向かう。」

 

栄華の問いに、純はそう答え

 

栄華「お兄様・・・」

 

純「悪いな、栄華。俺は武人だ。姉上の為に命を懸けて臆する事無く勇猛に戦い、勝つ事に全力を尽くす事が俺の務めであり、使命なんだ。」

 

純「その使命を全うしなければならねー。だから、俺は戦場に向かう。止めんなよ、栄華。」

 

最後にそう付け加えた。

それを聞いた栄華は

 

栄華「お兄様!」

 

ギュッ

 

純「栄華?」

 

純に抱き付き

 

栄華「そこまでのご決意なら、もう私からは何も言いませんわ。」

 

栄華「ただ一つだけ・・・ご武運をお祈りしてますわ、お兄様・・・」

 

そう涙を流しながら言い、純の胸に顔を埋めた。

 

純「栄華・・・」

 

純は、栄華の名前を呼ぶと

 

栄華「おにいさ・・・」

 

純「んっ・・・」

 

栄華「んっ!?」

 

栄華の口に口付けをし、腕を背中に回した。

最初は驚いた栄華だったが

 

栄華「んっ・・・お兄・・・様・・・」

 

目を閉じ、抱き締めてた腕を強くした。

純も、それに応え栄華の背中に回してた腕を強くしたのだった。

その際

 

栄華「ふふっ・・・」

 

純「栄華?」

 

栄華「いえ・・・お兄様、お髭がくすぐったいですわ。」

 

栄華も純の髭が当たってくすぐったいと言ったが

 

栄華「でも・・・良いですわ・・・お兄様・・・」

 

栄華はうっとりした表情を浮かべながら純の胸に顔を埋めたのだった。

そして、翌日。一万の将兵が純の前に集まり、命令を待っていた。

 

純「では栄華、行って来る。」

 

栄華「はい、お兄様。」

 

純「風。留守を頼む。」

 

風「お任せ下さい~。純様も、ご武運お祈りしてます~。」

 

純「ああ。」

 

二人にそう言うと、純は颯爽と馬に乗り

 

純「出陣だー!!」

 

そう馬上にて声を上げ、秋蘭ら二十万の将兵がいる陸口に向かって出陣したのであった。



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108話

108話です。

前回活動報告でお聞きになった質問ですが、少し内容を変えておりますので、もし宜しければご意見お願いします。

それでは、どうぞ。


陸口

 

 

 

 

 

陸口に到着した純達。

城内に入ると

 

秋蘭「純様!ご回復誠におめでとうございます!」

 

秋蘭の回復祝いの言葉が出た。

これに

 

「「「おめでとうございます!!!」」」

 

皆もそう言い続いた。

 

純「お前達も、俺がいない間陸口を守り、心より感謝する!」

 

純は、秋蘭達将兵にそう労いの言葉を言った。

 

「「「ありがとうございます!!!」」」

 

これに、秋蘭を筆頭に皆がそうお礼の言葉を述べた。

 

秋蘭「純様。預かっていた兵符をお返し致します!」

 

秋蘭は、兵符を純に返した。

この瞬間、全軍将兵の統率と指揮権は、純に戻った。

それを受け取った純は

 

純「秋蘭。改めて感謝する。良く全軍を統率し、陸口を整えたな。お前はこの軍における一番手柄だな!」

 

そう、笑顔で秋蘭の頭を優しく撫で褒め称えた。

これに秋蘭は、クールで凛々しい美貌が緩みそうになったが

 

秋蘭「いえ、私一人では出来ませんでした。姉者や楼杏殿に翠、そして稟が支えてくれたからこそです。」

 

秋蘭「これは全て、純様が日頃から全軍将兵を家族として大切にしてくれたお陰です。即ち、純様の恩恵と威光の賜物であります。」

 

なんとか表情を保ち、秋蘭はそう拱手し頭を下げ皆が支えてくれたのと全て純の恩恵と威光の賜物だと言った。

 

純「そうか・・・春蘭!楼杏!翠!そして稟!秋蘭を良く支えてくれた!感謝する!」

 

それを聞き、純は春蘭、楼杏、翠、そして稟にそう労いの言葉を述べ

 

春蘭「有り難きお言葉!!」

 

楼杏「身に余る光栄です!!」

 

翠「気にする事無いぜ、純殿!!」

 

稟「有り難きお言葉!光栄でございます!」

 

四人は跪き拱手し、揃えてそう言ったのだった。

そして、純はすぐに全軍将兵を統率する歴戦の総帥の表情に切り替えると

 

純「それで、江東の様子はどうなっている?」

 

稟にそう尋ねた。

 

秋蘭「はい。孫尚香の暴走以来、江東では各地の豪族が次々と孫策に離反していき、それらを平定いくの繰り返しになっております。」

 

純「地元の豪族が離反か・・・」

 

秋蘭の報告を聞き、純はそう呟くと

 

稟「孫策は袁術から離れた後、父祖の土地である江東を電撃的な勢いで一気に平定したのですが、その過程で抵抗した豪族達を次々と粛清していったので、結構地元の有力豪族から非常に強い恨みを買っていたのです。」

 

稟「恐らく、孫尚香の暴走をきっかけに地元の有力豪族達は孫策に反旗を翻そうと企んだのでしょうね。」

 

稟「彼女は母孫堅に勝るとも劣らずの英雄でありますが、それ以上に性急な性格で、尚且つ粛清した豪族達の臣下の人心掌握も怠っておりましたので、恨まれるのは必然かと。」

 

稟「先の孫尚香の暴走で離反した豪族達にも、同様の措置を取っていると思われます。」

 

これに

 

純「そっか・・・」

 

純はただ一言、そう呟いたのだった。

 

 

 

 

 

 

 

建業

 

 

 

 

 

 

 

孫策「くっ!また離反したの!!」

 

その頃、江東では新たな離反者が現れ

 

孫策「シャオでの一件以来、各地の豪族が離れていってる・・・」

 

孫策「このままじゃ、母様や父祖の皆が守ってくれたこの江東を守れない・・・」

 

孫策「冥琳!!これまで以上に敵対豪族は徹底的に処断しなさい!!」

 

孫策は己をコントロールする事が出来なくなっていった。

 

周瑜「待て!落ち着くんだ雪蓮!これ以上敵対する地元豪族達を厳しく処断すれば、その苛烈さにまた新たに離反する者が現れる!」

 

周瑜「これ以上の離反を防ぐためには、ある程度の寛大さと彼らの心を掴むのも肝要だぞ!」

 

これに、周瑜はこれ以上の苛烈な粛清を止めるべきだと進言し

 

孫権「姉様!冥琳の言う通りです!!これ以上の粛清は更なる恨みを買うだけです!!お怒りはご尤もですが、それ以上にこの江東を一枚岩にするために、ここは寛大なるご対応を・・・!!」

 

孫策の妹の孫権も同様に諫めたのだが

 

孫策「だったら、また更に厳しく措置すれば良いだけの話よ!離反した者を許したら、皆に示しが付かないでしょ!!」

 

頭に血が上った状態の今の孫策には、断金の友である周瑜と孫権の言葉も耳に入らなかった。

 

太史慈「雪蓮・・・」

 

太史慈も、このやり取りには何も出来ず

 

程普「・・・。」

 

黄蓋「・・・。」

 

孫堅の代から仕えている宿将二人も、腕を組みながら目を閉じ、眉間に皺を寄せたまま黙っており

 

張昭「・・・。」

 

張昭もただ腕を組んで目を閉じ、黙っているだけだった。

 

魯粛「ひゃわわ・・・皆さん落ち着いて・・・」

 

魯粛は、この剣呑たる雰囲気に弱々しい声だった。

 

孫策「とにかく、その豪族の一族とその配下全ての首を刎ねなさい!!」

 

そして、孫策はそう怒りで目を血走らせた状態で吐き捨てるように言うと、その場を後にしたのだった。

 

周瑜「・・・。」

 

周瑜は、これに眉間を抑えるしかなかった。

 

孫権「姉様・・・」

 

孫権も、孫策の後ろ姿を見て悲しい表情を浮かべた。

 

程普「以前から大殿に匹敵する程苛烈な一面を見せてはいたけど、ここ最近はより激しくなった気がするわね・・・」

 

黄蓋「うむ・・・いつにも増してな・・・加えて酒の量も増えておる・・・」 

 

程普「それだけ、この江東が灰燼に帰するのを恐れているのね・・・」

 

黄蓋「そうじゃのう・・・大殿から託されたこの江東を守らねばならぬからのう・・・」

 

これに、程普と黄蓋はそう話しており

 

魯粛「雷火様。小蓮様は・・・?」

 

魯粛は、張昭に孫尚香の様子を尋ねると

 

張昭「牢の中で、一人泣きながらずっと詫びの言葉を述べておる・・・」

 

張昭「まるで・・・壊れた絡繰りのようじゃ・・・」

 

張昭は、そう孫尚香の現在の様子を言った。

 

魯粛「そうですか・・・」

 

張昭「それだけ、己のやった事を悔やんでおるじゃろう・・・」

 

張昭「雪蓮様はどうなさるのか・・・」

 

そう、張昭は呟いたのであった。



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109話

109話です。


陸口

 

 

 

 

 

復帰した純は、部隊の編成や訓練を行い、彼らを労ったりして将兵との絆を更に深めていった。

これにより、兵の士気は上がっていった。

暫くして

 

純「お前らも来たのか。成都の様子はどうだ?」

 

凪「はっ!民心も治安も安定しております!」

 

真桜「せや!凪なんか先頭に立って頑張ったんやで!」

 

沙和「なの!だから純様!凪ちゃんを労って欲しいの!」

 

三羽烏が五万の将兵を率い成都から陸口にやって来た。

 

純「そうか・・・」

 

それを聞き、純は凪に近付き

 

純「良くやったな、凪・・・」

 

そう言い凪の頭を優しく撫でると

 

凪「ふあっ!?じ、じ、じ、純様!?」

 

凪は武人然とした顔から一気に顔を真っ赤にし、恋する乙女の顔になった。

 

沙和「あーん!凪ちゃん可愛いの!!」

 

真桜「せやな!!」

 

これには、沙和と真桜はそう凪の顔を見て言ったのだった。

 

純「さて、お前らも来たからには戦での働き、大いに期待してるぞ!」

 

凪「はっ!この楽文謙、これまで以上に粉骨砕身励む所存でございます!!」

 

真桜「ウチもや!!存分に使い!」

 

沙和「沙和も一生懸命頑張るの!!」

 

この言葉に

 

純「共に戦おう!!」

 

純はそう力強く言ったのだった。

凪らが加わった事で、将兵達の士気は更に上がっていった。

そして、その日が来た。

城にて、その数二十五万の将兵が槍や矛、そして弓を持ち、整然とし尚且つ精鋭と呼ぶに相応しい威厳を醸し出し、その表情も堂々としていた。

暫くして、純が白き羽織と籠手、そして武骨な軍靴を身に纏い、腰に太刀を帯びながら歩いて現れた。

その姿は、数々の戦場をくぐり抜けた勇猛果敢な歴戦の総帥に相応しく、また更に覇気と貫禄が増していた。

純を見た二十五万の全将兵は、ズレる事無く完璧に揃って跪き拱手した。

 

純「皆、よく聞け!」

 

その声と同時に、兵達は己の武器を構え直す

 

純「陸口は奪還した。これも全て、お前らの働きあってこそだ。この曹彰、心より感謝する。」

 

そう言い、純は頭を下げ感謝の意を示した。

 

純「お前らの働きに、陸口にて無念に散っていった友も、報われただろう。」

 

純「しかし・・・まだまだだ・・・まだまだ足りねー・・・。江東の者は、未だ俺達に詫びの文も使者も送らず、陸口の友を殺した孫尚香の首を送らず未だ誠意を見せていねー。」

 

純「つまり、奴らは己のした事を何一つ悪いと思っていねーという事明白だ!」

 

そう、更に強くなった覇気を前面に押し出し、涙を流しながら話す純。

これに

 

「「「そうだ!!!」」」

 

「「「その通りだ!!!」」」

 

涙を流しながらそう叫ぶ兵士達。

 

純「俺達は、そのような不逞の輩を成敗する!」

 

純「てめーらに一つだけ言う!俺達は、天子様の命によってこの大陸の民の為に編成された官軍だ!」

 

純「民の為に命を懸けて戦っている俺達に刃を向け傷つけたアイツらは、最早逆賊に他ならねー!」

 

「「「そうだ!!!」」」

 

純「つまり、それをやった孫尚香は勿論、その姉である孫策は、詫びの一言もない誠意を示さない謂わば大悪人だ!」

 

「「「賊を殺せ!!賊を殺せ!!賊を殺せ!!」」」

 

純「そうだ!だからこの戦は、孫尚香と姉孫策の首を取ってこその勝利とする!良いか!」

 

「「「おおーっ!!!」」」

 

純「それまで決して手を緩めるな!!死力を尽くし、命を懸けて戦え!!」

 

純「俺達は官軍だがそれだけじゃねー!!俺達は戦狂いの野蛮人であり、獰猛な虎だ!!だ!!姉上の覇道の為、目の前の敵全て地獄に陥れ、暴れてやろうじゃねーか!!」

 

「「「賊を撫で斬りだ!!!」」」

 

純「俺と共に、目の前の敵を狩って狩って、狩りまくるぞー!!」

 

そう言い、純はまた更に覇気を強く全面に押し出し、大声を上げながら太刀を天に突き出した。

次の瞬間

 

「「「うおおおっ!!!!!!」」」

 

二十五万全ての将兵が、それぞれの武器を天高く突き上げ、地鳴りの如き雄叫びを上げた。

そして

 

純「いざ、出陣だー!!」

 

純はそう皆に号令を下したのであった。



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110話

110話です。


建昌

 

 

 

 

ここは建昌。荊州の国境に近くに位置する街だ。

そこを統治する太守は

 

「ああ、心配だ・・・心配で堪らない。兵はこれだけしかおらぬのか?これより遙かに十倍は必要だぞ。」

 

そう、弱音を吐いていた。

 

「恐れながら、これはただの巡回です。多勢は不要かと思いますが。」

 

これに、副官はそう言ったのだが

 

「ここは荊州の国境に近い街なのだぞ。ああ、恐ろしい!あの国境から血に飢えた獰猛な虎の軍団が・・・それを率いる『黄鬚』が押し寄せてくる・・・その凶暴な牙を剥き出しにしながらな!」

 

「ああ・・・孫尚香様があの様な愚かな事をしたから・・・それを止められなかった孫策様も・・・ああ・・・もう無理じゃ!!」

 

怯えを抑えきれず、ヒステリック状態となった。

 

「お、落ち着いて下さい!!そう仰っておりますが、『黄鬚』曹彰は孫尚香様の手により怪我なされてると聞いております。まだ攻めては来ぬかと・・・」

 

副官は純の怪我の回復力を知らず、ましてや出陣しているという情報も手に入れてなかったため、攻めてこないと言ったその時

 

「も、申し上げます!!『黄鬚』曹彰が攻めてきました!!」

 

純が攻めてきたとの知らせが入った。

 

「な、何だと!?」

 

「ほ、ほら来た!!ほら、ほら見ろ!!ああ・・・孫尚香様が愚かな事をしたから・・・これは天がお怒りになっておるのじゃ・・・!!」

 

そう言いつつも、何とか迎撃態勢を整えた。

 

 

 

 

 

曹軍

 

 

 

 

 

純「邪魔する敵は全て斬り殺せ!!これは侵略にあらず!!陸口にて散っていった仲間の敵討ちだ!!」

 

純「進めーっ!!」

 

純はそう太刀を抜いてそう号令すると

 

「「「おおおーっ!!!」」」

 

二十五万の将兵全員が雄叫びを上げた。

そして、連弩と発石車の猛攻が始まった。

 

凪「準備は良いか、真桜!沙和!」

 

真桜「いつでもええでー!!」

 

沙和「バッチリなの!!」

 

凪「良し!!放てーっ!!」

 

三羽烏の命に、一斉に発石車から巨石が発射され、城壁がどんどん破壊され

 

「「「ギャアアアア!!!」」」

 

敵兵がどんどん潰されていった。

発石車だけじゃない。

 

秋蘭「放てーっ!!」

 

秋蘭の命によって放たれた連弩の矢も、敵兵にどんどん当たっていき

 

「「「う、うわぁあああ!!!」」」

 

被害が益々甚大となり、阿鼻叫喚の状態だった。

 

純「良し!お前ら、存分に手柄を挙げろ!!総攻撃開始ー!!」

 

これを見た純は、総攻撃の命令を下し、純を先頭に突撃を開始した。

 

春蘭「良し!!我らも続くぞー!!」

 

秋蘭「皆に遅れを取るなー!!」

 

霞「やったるでー!!」

 

翠「よっしゃー!!錦馬超の槍の冴え、江東に見せてやるぜー!!」

 

剛「皆に遅れるなー!!」

 

哲「行くぞー!!」

 

楼杏「私も続きましょう!!」

 

凪「行くぞー!!純様に遅れるなー!!」

 

真桜「行くでー!!」

 

沙和「なのー!!」

 

これに、他の皆も続いた。

そして

 

ドガアアアン!!!

 

その猛攻に耐えきれず、遂に城門が破られてしまい

 

純「おりゃあああっ!!」

 

「「「ギャアアアア!!!」」」

 

純はその勢いで次々と敵兵を斬り殺していき、春蘭達もそれに負けじと次々と敵兵を屠っていった。

 

純「この程度か、江東の兵は!!俺は『黄鬚』曹彰だ!!命を惜しまねー奴はかかってきやがれ!!」

 

この際純は、太刀を血で染め、顔に敵兵の返り血を浴びた状態でそう敵兵に言いながら

 

純「うりゃあああ!!!」

 

「「「うわああああっ!!!」」」

 

敵兵を次々と斬り殺していた。

その姿に

 

「「「よーし!!我らも閣下に続くぞー!!」」」

 

曹軍将兵は益々奮い立ち

 

「な、何だコイツらは!!十人が束になっても全員あっさり殺されたぞ!!」

 

「と、虎だ・・・まるで戦狂いの獰猛な虎だ!!」

 

「に、逃げろーっ!!」

 

その気迫に敵兵は完全に戦意を喪失し、次々と逃亡していった。

そして、そのまま建昌は僅か三刻で完全に制圧され、守備隊と建昌を統治していた太守は戦死し、僅かに残った兵も全員降伏するか逃亡するかで、事実上の壊滅だった。

 

 

 

 

 

 

 

純「これで制圧は完了か?」

 

稟「はっ!敵兵はほぼ壊滅。残った兵は、全員武器を捨てて投降しました。」

 

稟の言葉に

 

純「チッ!まだ暴れ足りねーんだがな・・・!」

 

純は舌打ちをしながら物足りないと言ったのだが

 

純「だが・・・怪我明けで久し振りに暴れたから・・・良いとするか。」

 

純「まだ孫策本隊が相手じゃねーしな・・・」

 

怪我明けの実戦復帰で暴れる事が出来たのと、まだ孫策本隊と相手してないから良いと言ったのだった。

 

純「ここの民衆には決して手を出すな!手を出した者は、例え誰であっても処刑すると全軍に伝えろ!」

 

稟「御意!」

 

純「凪!この戦いでは特にお前の活躍が目立っていたな!」

 

凪「はっ!有り難きお言葉!!」

 

純「褒美として、お前の部隊には酒と肉を与えよう!校尉以上には更に褒美を与える!」

 

凪「はっ!有り難き幸せ!更に粉骨砕身励みます!」

 

これに、凪は喜びの表情を見せ、拱手した。

そして、純は全軍将兵の前に立ち

 

純「全軍聞け!!この街は制圧した!!俺達の勝利だ!!」

 

純「だが、戦はまだこれからだ!!決して気を緩めるな!!狩って狩って、狩りまくるぞー!!」

 

覇気を前面に押し出し、太刀を天に突きつけてそう叫んだ。

 

「「「おおおーっ!!!」」」

 

これに、全軍将兵は天地を揺るがすほどの雄叫びを上げたのであった。



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111話

111話です。


建昌を制圧し、破竹の勢いで進んで行く純達。

次のターゲットとなったのは、南昌だった。

 

 

 

 

 

曹軍本営

 

 

 

 

 

 

 

秋蘭「南昌は既に門を固く閉ざし、籠城の構えを見せております。」

 

純「そうか・・・」

 

楼杏「建昌にて僅かに残った逃亡兵が南昌に着いて、それを聞いた南昌の太守は守りを固めたというわけね。」

 

これに

 

春蘭「純様!このまま一気呵成に攻め、南昌を落としましょう!」

 

春蘭はそう強く言ったのだが

 

霞「アホ!話聞いとったんか!南昌は守りを固めたんや!その前に落とした建昌と比べ守りをガッチガチに固めとるんや!」

 

霞「確かにウチらの将兵は一騎当千の猛者が揃っとる!しかし、ここで無理に攻めて犠牲者が出たら、江東制圧前に力尽きてまうで!」

 

霞はそう強く春蘭に言った。

 

翠「霞の言う通りだ、春蘭。確かに純殿を中心とした全将兵は一騎当千。けど、無理に攻めて無駄な死傷者が出たら、それこそ自滅だ。」

 

翠も、冷静にそう言った。

 

春蘭「ぐぬぬ・・・!」

 

これには、春蘭はそう唸るしか無かった。

 

純「春蘭。俺もお前と同じで、このまま一気呵成に攻めてー。だが、霞と翠の言う通り、無理に攻めて犠牲者を出しては、江東平定は難しくなるんだ。」

 

純「分かってくれ。」

 

純の言葉に

 

春蘭「・・・御意。」

 

春蘭も、流石に従った。

 

純「とはいえ、このまま見過ごすわけにはいかねーな。」

 

そう、純は呟くと

 

稟「純様。私に考えがあります。」

 

稟がそう言ったので

 

純「何だ、言え。」

 

と尋ねると

 

稟「私の隠密で、城の見張り兵を殺し、合図を送り門を開けさせます。」

 

稟「合図が送られ、門が開いたら、一気呵成に攻めるのです。そうすれば、南昌の守備兵は壊滅します。」

 

稟は、自らの隠密を使って城を落とす策を述べた。

 

純「成程・・・良し!万事任せる!」

 

それを聞いて、純は稟に全て任せると言い

 

稟「御意!」

 

稟は拱手しその場を後にした。

 

純「お前らも、それまで待機し、いつでも突撃出来るよう準備しろ!」

 

「「「御意!!!」」」

 

純の命で、皆それぞれ準備を進めた。

そして、その日の夜

 

「行くぞ。」

 

「はっ!」

 

稟の手下の隠密らが密かにそう言うと、短剣を使って城壁を登り

 

「うっ!」

 

「ギャ!」

 

「グハッ!」

 

見張り兵全員を素早く殺した。

そして、合図の火を見せ、城門を開けた。

 

秋蘭「純様!合図が出ました!門も開きました!」

 

これに

 

純「待ちかねたぜ!テメーら、『黄鬚』曹彰に付いてこい!!一気呵成に攻めて、敵を殺しまくれ!!」

 

純はそう獰猛な笑みを浮かべながら将兵に命令し

 

「「「おおおーっ!!!」」」

 

将兵全員が雄叫びを上げ、純に続いて一気呵成に突撃した。

この勢いに南昌の守備兵は壊滅し、太守は降伏した。

こうして南昌は陥落し、僅か一日で二つの街を陥落させた。

その勢いは止まらず、孫策に恨みを持つ豪族達もこぞって純に味方した事で、僅か半月で豫章郡を平定し、江東の三分の一が純の手に落ちたのだった。

 

 

 

 

 

建業

 

 

 

 

 

純率いる二十五万の曹軍が江東に侵攻し、建昌を三刻で陥落させたという知らせは、建業に届いた。

この知らせを聞いた孫策は

 

孫策「ひと月どころか僅か三刻で陥落なんて・・・何という事なの!!」

 

バンッ!!

 

怒りのあまり椅子の手すりを叩いた。

 

周瑜「雪蓮。建昌陥落の知らせは既に建業に飽き足らず、各地に知れ渡っていて、既に大騒ぎになっている。」

 

周瑜「江東の主力の兵も然り。動揺が走っている。」

 

黄蓋「冥琳の言っている事は確かじゃ。儂の率いる部隊も動揺が走っておる。」

 

程普「私もね。」

 

太史慈「既に私の方も・・・何とかさせているけど・・・」

 

この混乱状況を聞いて

 

孫策「・・・。」

 

孫策は目を瞑る他無かった。

 

孫権「姉様・・・」

 

この様子に、孫権はただ見る事しか出来なかった。

その時

 

「戦況の報告に参りました。」

 

孫軍の兵士が、書状を持って現れた。

 

孫策「・・・読みなさい。」

 

これに、孫策は目を閉じながら言った。

 

「曹彰は、建昌を落とした後、南昌も攻略。その勢いは止まらず各地を平定し、豪族達もこぞって曹彰に味方し、今や豫章郡全てが曹彰の手に落ちました。」

 

「各地の守備兵はほぼ壊滅し、投降する兵士も数知れずとの事です。」

 

そう読み上げると

 

孫策「もう良いわ!!」

 

孫策はそう怒鳴り、報告を止めた。

 

周瑜「落ち着くんだ、雪蓮!」

 

周瑜は、そう宥めるが

 

孫策「これが落ち着いていられるわけないでしょう!!江東の三分の一が、曹彰の手によって平定されたのよ!」

 

孫策は、ヒステリック気味に喚いた。

 

周瑜「気持ちは分かる!だが、今は落ち着け!」

 

それでも、周瑜は何とか孫策を落ち着かせた。

その姿は、最早『江東の小覇王』の異名からは程遠かった。

そして

 

孫策「うっ・・・!」

 

周瑜「雪蓮!」

 

孫策は頭を押さえふらつき、周瑜は何とか支えた。

 

孫権「姉様!!」

 

黄蓋「策殿!」

 

程普「雪蓮様!」

 

太史慈「雪蓮!」

 

張昭「雪蓮様!」

 

これには、他の者も皆孫策に駆け寄ると

 

孫策「このままでは・・・江東が・・・父祖の地が・・・どうすれば・・・」

 

孫策は、そうブツブツと呟くように呟いていた。

この日を境に孫策は寝込んでしまい、孫権が代役を務めたのであった。



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112話

112話です。

今年最後の投稿です。
前作のリメイク作品で尚且つこのような拙作でも読んでくれ応援してくれた方々に感謝です!!

来年もよろしくお願いします!!

それでは、どうぞ!!


江東の豫章郡を僅か半月で制圧した純達。

その勢いは止まらず、会稽郡も純の手に落ちた。

この電撃的な勢いが落ちない理由は、純を筆頭とした一騎当千の勇猛果敢な将兵が一枚岩となって攻撃しているため、江東の者達は手も足も出ないのだ。

それだけじゃ無かった。

 

稟「これでここの豪族達は純様に付きましたね・・・」

 

稟はそう言って、目の前に広げてある地図を見ながらそれぞれの地点に黒の碁石を置いた。

実を言うと、この電撃的な勢いは豫章郡でもそうだったが孫策に恨みを持つ豪族達が揃って孫策から離反し、純に味方したのも理由の一つで、それらの調略を行っていたのが稟なのだ。

彼女は、孫策に恨みを持っている豪族達に近付き、言葉巧みに彼らを誘導し味方に付けたのだ。

 

稟「フフッ・・・孫策は相当恨まれたようですね。私が少し喋っただけでこんなにあっさりと・・・」

 

稟は、まるで何もかも見通せるかの如き冷徹な笑みを浮かべた。

 

稟「しかし・・・まだ安心できませんね・・・我らは馬や歩兵等の陸での戦闘は長けておりますが、水上戦に持ち込まれると不利です・・・」

 

稟「以前に密かに突貫で造らせていたアレが完成する頃だと思いますが・・・」

 

そう呟いたその時

 

「郭嘉様。益州より遣いの者が参りました。」

 

兵士がそう言ってやって来た。

 

稟「通しなさい。」

 

「はっ。」

 

そして、遣いの者が入ると

 

「申し上げます。郭嘉様に頼まれた例の物が完成しました。」

 

ある物が完成したと言ってきた。

 

稟「そうですか。それはちょうど良い。この事、真桜にも言いましたか?」

 

これに、稟はちょうど良いと思いつつ、この事を真桜に言ったのか聞くと

 

「いえ。李典様には後ほど伺う予定ですが・・・」

 

遣いの者は少し言いにくそうな雰囲気を出し

 

稟「ああ・・・彼女も来たのですね。」

 

この様子に稟は、彼女も同伴なのだと察し

 

「はっ。あの者、李典様とは兎も角、楽進様とは馬が合わず・・・」

 

稟「まあ確かに彼女は凪とは合わなそうですね・・・」

 

苦笑いを浮かべた。

 

稟「では、私から会います。ここに来るよう伝えて下さい。」

 

稟は彼女をここに連れて来るよう言い

 

「はっ!」

 

遣いの者は拱手しその場を後にした。

 

稟(ここ最近、長江に木屑がよく流れていましたが・・・私が命じておいて何ですが、相当の数の木を使ったようですね・・・)

 

稟(ですが、真桜の技術も相まってそれ相応の物が造られているはずです。それに・・・この辺りの気候や風土、そして相手軍師周瑜の作戦を考えると、恐らく火を使ってきます・・・)

 

稟(その為に造らせました。この戦・・・必ず純様に勝利をもたらせてみせます!)

 

そう、稟の凜々しい怜悧な目から燃え盛る炎が垣間見えたのだった。

暫くすると、遣いの者と同伴していた者が稟の前に現れた。

その者は、腰に剣を帯び、サバサバした雰囲気を纏っている気風の良い感じの女性だった。

 

稟「ご苦労でしたね。」

 

稟は、まず早速彼女に労いの言葉を言うと

 

??「良いって事よ!しかし、軍師さんの頭ん中は一体どうなってんだ?」

 

??「江陵にいる頭に人形置いてるもう一人の軍師も似たような事言ってたぜ!」

 

彼女は気にするなと手を振って、稟にそう言うと

 

稟「私の頭はあなたや風が思ってるような物は入っていませんよ。」

 

稟はそう怜悧な笑みを浮かべながら答えた。

 

稟「それで、例の物は?」

 

??「おお!まあ外に出て見てみなって!」

 

そう言い、稟を外に出して見せると

 

稟「これは・・・想像以上の出来ですね・・・」

 

稟は、思ったよりも想像以上に出来ている事に珍しく驚きの表情を見せた。

 

??「そうかい!軍師さんのそのような顔を見れただけで儲けもんだな!」

 

これに、彼女はそう言い笑顔を浮かべた。

その時

 

純「何じゃこりゃ!?」

 

純が現れるやそれを見て驚きの声を上げて言うと

 

秋蘭「これは・・・一体・・・」

 

春蘭「何て大きさだ・・・」

 

霞「楼杏・・・見たことあるか?」

 

楼杏「いえ・・・こんな大きさは見た事無いわ・・・」

 

翠「スゲぇ・・・」

 

秋蘭らも驚きの表情でそれを見上げていた。

 

純「兵から長江から何か巨大な物が流れたと聞いて駆けつけたら・・・何てデケぇ・・・」

 

そう、純は呟くと

 

純「お、おい稟・・・これは一体・・・」

 

稟にそう尋ねると

 

稟「それを今からご説明致しますので、まずは天幕に入りましょう。」

 

稟はそう言って天幕に入るよう促すと

 

真桜「やっぱお前やったんやな!」

 

真桜が彼女に近付くと

 

沙和「なの!スッゴくおっきい何かが来たって知らせが入って何かなと思ったらビックリなの!」

 

沙和もそう言って真桜と一緒に近付いたが

 

凪「・・・来たのか。」

 

凪のみ、少し嫌そうな表情でそう言うと

 

??「まあ、そんな顔するなって、楽進。」

 

彼女はそう凪に言った。

 

純「まあ取り敢えず、中に入ってくれ。」

 

これに、純はそう言い皆を中に入らせたのであった。



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113話

113話です。

新年あけましておめでとうございます!

今年もよろしくお願いします!!

それでは、どうぞ!


純「それで、お前の名は何て言うんだ?」

 

王濬「私は、姓は王、名は濬、字は士治だ。宜しくな!」

 

このサバサバした自己紹介に

 

凪「おい、王濬!その自己紹介は何だ!」

 

凪が目を吊り上げて言った。

 

王濬「え?私はただ普通に自己紹介したんだけど?」

 

これに、王濬は何を言ってるのか分からないと言う感じで言うと

 

凪「態度が駄目だと言ったんだ!お前はそうやって・・・!」

 

凪はそう説教を始めようとしたが

 

真桜「凪!説教始めんやな!話が進まへん!」

 

沙和「なの!純様も困っちゃうの!」

 

真桜と沙和が凪を止めた。

 

凪「し、しかしだな・・・!」

 

純「止めろ、凪。その話はこの巨大な船の説明をさせてからにしろ。良いな?」

 

凪「・・・御意。」

 

これに、純がそう言うと、凪は拱手した。

因みに

 

春蘭「ぐぬぬっ・・・!あの態度、凪の言う通り良くないな!叩き斬りたい気分だ!!」

 

秋蘭「姉者・・・」

 

春蘭はそう言って腰の剣に手を掛けており、秋蘭は呆れた表情をしていた。

 

純「悪いな。凪は真面目な子だから、ついお前の態度に怒ってしまうんだ。」

 

王濬「良いって良いって!」

 

純「取り敢えず楽にしてくれ。それで、あの船の説明をしてくれ。」

 

純にそう言われ、王濬は楽な姿勢になり

 

王濬「ああ!あの船は、益州各地の一部の林から伐採したり、木を買い占めたりして木材を確保して作った船なんだ。」

 

王濬「全長120歩あって、最大二千人の兵が入れる程の大きさだ。櫓もあるし、四つの門もあるし、甲板を馬で走らせる事も出来るよ。その数125隻。」

 

これに

 

霞「ひゃ、125やって!!」

 

霞が驚きのあまり声高く反応した。

 

王濬「それだけじゃ無いんだな。他にも、そこの軍師殿の指摘もあったんだが、この軍の最大の弱点は水上戦の経験が無いという事だ。」

 

王濬「そこで、真桜の工兵を少し拝借して鎖を作った。船同士をその鎖で繋いで揺れを防ぐ。」

 

王濬「また、この辺りの気候はほんの僅かな時間に風向きが変わる時がある。その時に敵軍の軍師周瑜が火攻めを行ったら大惨事の恐れがあるため、万が一の時も考えいつでも外せるように作った。ここの兵誰でも外せる事が出来るぜ。」

 

これに

 

純「成程・・・良くやったな。」

 

純はそう言い、王濬を褒めた。

 

王濬「ありがとさん!その言葉で、疲れが吹き飛んだ気分だ!」

 

そう言い、王濬は笑顔で拱手した。

 

純「稟も、良くやったな。」

 

稟「いえ。私は純様の参軍です。私の役目は、主の勝利の為に軍略を研ぎ澄ませる事なので。」

 

これに、稟はクールな笑みを浮かべながらそう拱手して答えた。

 

純「良し!では早速乗るとしよう!」

 

純「王濬!お前には、この軍の指揮の全権を一任する!」

 

純はそう立ち上ると、王濬に全軍指揮の全権を委ねた。

 

王濬「私で良いのかい?」

 

この抜擢に、王濬は目を見開き驚きの表情を浮かべた。

 

純「勿論だ。ここからは水上戦となる。そうなれば、この船に最も詳しいお前が指揮を取るべきだ!」

 

純「もしもの事があれば、俺が全責任を取る!自分の思い通り、好きに動かせ!」

 

これに、純はそう王濬に檄を飛ばした。

この檄に

 

王濬「全軍指揮のご命令、しかと承りました!必ずや、ご期待に応えて見せます!我が真名は美咲です!!この命、閣下にお捧げます!!」

 

王濬はやる気に満ちた表情を浮かべ、拱手した。

 

純「俺の真名は純だ!よろしく頼む!」

 

純「稟!美咲を良く支えろ!美咲。稟とよく相談し、事を進めろ!」

 

美咲「御意!」

 

稟「御意!」

 

こうして、純率いる二十五万の将兵は、船に乗り移ったのであった。



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114話

114話です。


建業

 

 

 

 

江東では、孫策が倒れてしまい、その彼女の代理を務められるのは妹の孫権しかいなかった。

しかし、状況は良くならず

 

孫権「そうか・・・もうそこまで・・・」

 

周瑜「はい。この辺りの豪族達は、皆それぞれ迷っております。」

 

陸遜「豫章郡、会稽郡の豪族は全て曹彰の下に付き、我らに刃を向けております故、去就を決めかねておりますぅ~。」

 

呂蒙「彼らと同じように曹彰に付くか、曹彰に敵対し最後まで戦うかに割れております。」

 

江東は主戦派と降伏派に分かれ分裂してしまっていた。

この話に

 

孫権「そうか・・・」

 

孫権は頭を抱え込んだ。

その時

 

甘寧「申し上げます。長江に、巨大な船が現れたとの知らせが入りました!」

 

甘寧が巨大な船が現れたと言って現れた。

このような隠密は、彼女もやっているが基本周泰が行っていた。

しかし、孫尚香の一件で彼女も関わっていたため、その責で謹慎処分を食らっていた。

 

周瑜「大きさは?数はどれ程だ?」

 

甘寧「そ、それが・・・」

 

周瑜の質問に、甘寧は詰まったが

 

甘寧「全長は見た限り120歩程で、数は・・・ひゃ、100隻以上はあるかと存じます。」

 

正直にそう答えた。

 

孫権「何ですって!?」

 

この知らせに、孫権は驚き立ち上がり

 

魯粛「ひゃわわ・・・!120歩程の船って、聞いた事無いですよー!」

 

太史慈「確かに・・・聞いた事無いわ・・・」

 

張昭「ふむ・・・」

 

黄蓋「奇々怪々じゃのう・・・」

 

程普「そうね・・・」

 

他の者も、それぞれあるが、同様の反応を示した。

 

周瑜「・・・まさか!」

 

この時、周瑜はある一件を思い出し、察した。

 

孫権「どうしたの、冥琳?」

 

周瑜「はっ。実を申しますと、ここ最近偵察兵から長江に大量の木屑が流れているとの知らせが入っておりまして、勿論その時は隠と私は敵が船を大量に作っているだろうと思い警戒したのですが・・・」

 

陸遜「まさか・・・そこまで巨大な船を大量に作るなんて思いもよらず・・・」

 

孫権「そう・・・」

 

この知らせに、重い空気が漂った。

 

陸遜「取り敢えず、使者を送りましょうか~?謝罪の文も一緒に~?」

 

この陸遜の進言に

 

孫権「・・・そうね。それしか無いわね。冥琳、万事任せるわ。」

 

孫権はそう周瑜に言うと

 

周瑜「御意。では包。お前が行ってくれ。」

 

周瑜は魯粛に使者の任を任せ

 

魯粛「ひゃわわ!大変ですけど、何とか致します!」

 

周瑜「梨晏。済まないが護衛を頼む。」

 

魯粛の護衛に太史慈を指名した。

 

太史慈「分かった。」

 

周瑜「ああ。」

 

そして、魯粛と太史慈はその場を後にした。

 

周瑜「皆も、来たるべき時に備え、それぞれ準備をして欲しい。」

 

黄蓋「うむ。」

 

程普「分かったわ。」

 

周瑜の命に、黄蓋ら宿将を中心とした者達はそれぞれ準備のため下がったのだった。

 

 

 

 

 

 

曹彰軍

 

 

 

 

 

 

純「本当に揺れねーんだな・・・まるで、水上に出来た巨大な城みてーだな。」

 

稟「そうですね。まさに、『虎に翼』ならぬ、『虎に水かき』ですね。」

 

この言葉に

 

純「はっはっは!お前、おもしれー事言うな!」

 

純は大笑いした。

 

稟「しかし、油断は出来ません。確かに揺れないといえ、水軍の扱いは相手が上です。ご油断無きよう。」

 

純「ああ、分かっている。」

 

凪「純様。江東から使者が参られました。」

 

その時、凪が現れ、江東から使者が来たと言ってきた。

 

純「使者だと?誰だ?」

 

凪「魯粛と太史慈です。」

 

これには

 

純「・・・今更降伏すると言いに来たのか?」

 

純はそう眉間に皺を寄せながら言うと

 

稟「取り敢えず、会って話を聞いてみるのが良いかもしれませんね。」

 

稟は、取り敢えず会ってみた方が良いと言った。

 

純「分かった。ここに呼べ。ああ、後皆もここに来るよう言ってくれ。」

 

凪「御意。」

 

純の命を聞き、凪は拱手しその場を後にした。

 

純「・・・。」

 

その際、純は怒りを必死に押し殺すようにしていたのであった。



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115話

115話です。


魯粛と太史慈が、純の前に現れたのだが

 

魯粛「ろ・・・ろろ、魯、子敬・・・あ、あ、主、だだ代理そそ、孫権の使いで、まま参りました!」

 

魯粛は純の覇気に威圧され、声が震えてしまっていた。

魯粛に限らず

 

太史慈(ヤバイ・・・身体の震えが・・・止まらないわ・・・)

 

太史慈(これが・・・『黄鬚』曹彰・・・!何て覇気なのよ!反董卓連合で見た事あるけど、あの時の比じゃ無いわよ・・・!)

 

太史慈(少しでも気を抜いたら・・・気を失ってしまうわ・・・)

 

太史慈も、純の覇気に威圧され、気を失ってしまいそうだった。

 

その様子を見ていた秋蘭らは

 

「「「・・・。」」」

 

それぞれ鋭い目で二人を見ており、重い空気がその場を支配していた。

 

純「何の用で来たんだ?」

 

純の問いに

 

魯粛「あ、あの・・・わ、わた、私は・・・!」

 

魯粛は気圧され、何も喋れなかったが

 

太史慈「魯子敬の代わりに、私が申し上げます。」

 

太史慈「孫策が妹孫権の使者として、こちらの書状を私に参りました。」

 

太史慈が代わりに喋り、書状を取った。

 

純「・・・。」

 

それを見た純は、秋蘭に目を向けると、秋蘭はそれを受け取り純に恭しく渡した。

その書状の内容は

 

『孫権、謹んで曹大将軍大都督に記す。』

 

『陸口にて散っていった曹軍の将兵は、我が妹孫尚香の愚かな行動故に起こしたもの。』

 

『その全ては、姉であるこの孫権にも非あり。故に、謝罪と哀悼の意を表す。」

 

『これで、全てを水に流し盟を結び、大陸の為民の為にあなたの姉曹丞相と共に奮おうではないか。』

 

といった内容だった。

 

純「・・・。」

 

その書状を、純は目を動かし読んでいた。

 

太史慈「孫権は、此度の件を非常に責任を感じております。それは、今病で寝込んでいる孫策も然り。」

 

太史慈「故に、手を結び今後は泰平の世を作るために腕を奮いたいとの事です。」

 

太史慈は、そう付け加えて言った。

その時

 

純「・・・その孫尚香と孫策の首は?」

 

純は低い声でそう尋ねると

 

太史慈「え、ええっと・・・それは・・・」

 

太史慈は言葉が詰まってしまった。

すると

 

ビリッ!ビリッ!

 

純は書状を破り

 

ドガッ!

 

魯粛「ひいっ!!」

 

純「何故、その二人の首がここにねーんだ!本当に謝罪の意志があるなら、首を持ってくるのが筋だろうが!」

 

そう怒りの声を上げながら机を叩いた。

その衝撃で、机は壊れてしまう程だった。

 

純「テメーら、謝罪する気はねーんだろ?」

 

太史慈「そ、それはちが・・・!」

 

純「なら、何で首はねーんだ?」

 

太史慈「・・・っ!」

 

純「話しにならねーな。孫権に伝えろ!もうおせーってな!この俺が、江東を切り取り、孫尚香と孫策の首を陸口にて散っていった友に捧げるとな!」

 

純は、目を怒りで血走らせ、強烈な覇気を剥き出しにしながらそう魯粛と太史慈に言った。

 

魯粛「あ・・・は・・・かひゅー!かひゅー!」

 

すると、その覇気に当てられ限界を超えたのか、魯粛はそのまま倒れ過呼吸を起こしてしまった。

 

太史慈「お、お待ち下さい!」

 

太史慈は、諦めず純に言おうとしたが

 

純「帰れ!」

 

太史慈「っ!」

 

純はそう太史慈に怒鳴り

 

「「「・・・。」」」

 

秋蘭らが、それぞれいつでも攻撃できるような体勢を取っていた。

 

太史慈「・・・はっ。」

 

これには、太史慈は何も出来ず、魯粛を連れて下がったのだった。

 

純「フンッ!」

 

純は、怒りに身を任せ壊れた机の一部を蹴飛ばした。

 

稟「純様。お怒りはご尤もです。しかし、ここはひとまず、落ち着くのです。」

 

すると、稟が純にそう宥めると

 

純「・・・ふぅ。」

 

純は目を閉じ一つ深呼吸し、幾らか落ち着いた。

そして

 

純「全軍出陣する!江東を平定し、陸口に散っていった友に捧げるぞ!」

 

「「「御意!!!」」」

 

皆に檄を飛ばし、全軍を出陣させたのであった。



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116話

116話です。


許都

 

 

 

霊帝「ねぇ、丞相。」

 

華琳「はい、陛下。」

 

霊帝「今、大将軍は江東を平定しようとしているそうね。」

 

霊帝の問いに

 

華琳「はい。愚かにも陸口を襲い、三千の将兵を殺した卑劣な賊を討伐する為です。」

 

華琳「故に、我が弟は目下江東に侵攻し、賊を討とうとしておられるのです。」

 

華琳はそう答えた。

 

霊帝「しかし丞相。何とか大将軍を止められぬか?」

 

華琳「・・・何故でしょうか?陛下は既に、我が弟に軍を好きに動かしても良いという特権を与えたはずでは?」

 

霊帝「確かに朕はそうした。しかし・・・もう既に陸口は奪還したわ。これ以上軍を進める必要は無いと思うんだけど・・・」

 

しかし、霊帝は陸口を奪還した以上、これ以上の軍事行動は必要無い為、侵攻を中止すべきではと言った。

 

劉協「私も陛下の意見に同感です。これ以上の進軍は不要では?」

 

それは、劉協も同じ意見だった。

 

華琳「陛下。殿下。既に江東の孫一族は、越えてはならない一線を越えてしまいました。」

 

華琳「陸口の三千の将兵を卑劣にも襲い殺しただけでなく、陛下より大将軍大都督の位を賜り大陸の為民の為に命を懸けて戦っている我が弟を怪我させた。」

 

華琳「これ即ち、陛下に弓引くも同様。加えて、我が弟は手のつけられない程気性が激しく、一旦腹を立てると目の前の敵を全て斬り殺すまで止まりません。」

 

華琳「それに、弟配下の全軍将兵は、弟と生死を共にする同志であり、友であり、家族の如く強い絆で結ばれております。その者達は、例え誰であっても弟以外の命には従わず、弟の為ならば、たとえ火の中水の中でも喜んで飛び込む覚悟を持ってるのです。」

 

華琳「もし進軍を止めるならば、その怒りはどちらに向けるが良いでしょうか?」

 

これに、華琳はそう二人に言うと

 

霊帝「そ、それは・・・!」

 

劉協「・・・!」

 

二人は何も言えなかった。

 

華琳「陛下。殿下。ここは万事、弟にお任せ下さい。必ずや、大業を成し遂げましょう。」

 

そう、華琳は拱手しながら言った。

 

霊帝「・・・。」

 

最早霊帝は何も言えず

 

劉協「うぅっ・・・」

 

妹の劉協も同様だった。

 

 

 

 

建業

 

 

 

 

 

孫権「・・・そうか。」

 

太史慈「ええ。雪蓮と小蓮様の首が必要だと仰っておりました。」

 

建業に戻った太史慈は、詳細を孫権に報告していた。

 

孫権「・・・包は?」

 

太史慈「幾らか落ち着きました。とはいえ、私もかなりきました・・・」

 

太史慈「何か、心の臓を思い切り掴まれた感覚でしたし、少しでも気を抜いたら倒れそうでした。」

 

太史慈「ちょっと、今まで見た事無い覇気でしたよ。」

 

この報告に

 

孫権「・・・そうか。」

 

孫権は、ただそれしか言えず

 

孫権「どうしたら良い、冥琳?」

 

周瑜にそう尋ねた。

 

周瑜「江東の先を考えれば、雪蓮と小蓮様の首を向こうに送らざるを得ませぬ。」

 

周瑜「しかし・・・仮に送って解決できたとしても、別の土地へ移されるでしょう。」

 

周瑜「そうでなくても、この江東を治めるのは・・・最早不可能かと。」

 

周瑜は眉間に皺を寄せてそう言った。

 

孫権「これまで姉様が豪族達を苛烈に粛清した代償か・・・」

 

この孫権の呟きに

 

周瑜「はい・・・加えて、曹彰率いる軍は一騎当千であり、これまで多くの戦を戦ってきた百戦錬磨の猛者が揃っており、それを率いる曹彰は、まさに生まれながらの英雄豪傑。」

 

周瑜「それは、かの古の覇王項羽を凌ぐ程でしょう。」

 

周瑜は純をそう評した。

 

孫権「・・・もう手はないのか。」

 

周瑜の言葉に、孫権は頭を抱える他無かった。

 

周瑜「・・・一つだけ手はあります。」

 

この言葉に

 

孫権「・・・何かしら?」

 

孫権はそう反応すると

 

周瑜「曹彰の軍は確かに精強です。しかし、それはあくまで陸での話。水軍の扱いは慣れておりません。」

 

周瑜「もしこの戦に勝つなら・・・そこを突くしかありませぬ。」

 

周瑜は、水軍に慣れてないという弱点をつく事が唯一の勝機だと言った。

 

孫権「・・・それしか無いか。」

 

孫権の言葉に

 

周瑜「・・・今の現状を打破するにはこれしかありません。」

 

周瑜は苦い表情で答えたのであった。



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117話

117話です。


慣れてない水軍で決戦を挑む事が、純率いる二十五万の精兵に勝てる唯一の策であると述べた周瑜。

しかし

 

張昭「わしは反対じゃ!」

 

張昭「曹彰率いる二十五万の将兵は、この上なく勇猛で、これまで多くの戦を駆け抜けた百戦錬磨の強者揃い!」

 

張昭「それらを率いる曹彰は、『黄鬚』の異名に相応しい武勇と軍才に溢れた歴戦の勇将!加えて全将兵と友または兄弟の如く強固な繋がりを持ち、結束力もある!それらを己の手足の如く巧みに操り、これまで多くの戦を経験してきた!」

 

張昭「また、彼に従っている参軍の郭嘉は、神算鬼謀の持ち主で、曹彰軍の強さをより際立たせております!」

 

張昭「それに比べて、我ら江東の兵馬は、歩兵や水軍合わせても十万に足りず!何より、我らは江東を取り戻して以来戦を殆ど経験しておりませぬ!このまま戦えば、我らは皆討ち死にし、この江東は、灰燼に帰してしまうでしょう!」

 

張昭は、そう強く反対した。

 

孫権「けど雷火。我らには、長江という要害があるわ。」

 

これに、孫権がそう返すと

 

張昭「如何にも。なれど、曹彰は歴戦の勇将であり、従っている将兵は、全て多くの戦を経験した百戦錬磨の精鋭揃いなのです。その上、蓮華様もお聞きになられた通り、曹彰は軍船を揃え、全長120歩あり、数は百隻以上。それらを使って水軍の調練を行っております。」

 

張昭「これは我らが有する軍船よりも遥かに大きく、多いのです。」

 

張昭は、要害があれど、純率いる精兵には敵わないと言った。

 

孫権「・・・では雷火。あなたの考えは?」

 

張昭「・・・戦は、江東の民を苦しめます。大変申し上げにくいのですが、雪蓮様と小蓮様の首を差し出し、降るのが良いかと・・・」

 

張昭は、そう言い孫権に降伏を勧めた。

 

周瑜「雷火殿。確かに曹彰は歴戦の猛将であり、その配下の将兵も皆、多くの戦を経験してきた一騎当千の精鋭揃いだ。」

 

周瑜「しかし、調練してるとはいえ、水上戦での戦は不慣れだ。加えて南部特有の病に抗う術も持ち合わせていないだろう。」

 

周瑜「そこを突けば、多少の戦力差など・・・」

 

しかし、周瑜は慣れてない水上戦での隙を突けば、勝利出来ると言ったが

 

張昭「それはあくまでも理想じゃ。実際には、二十五万の軍勢を目にすれば、威に圧されて自然と膝を折るのが人の常というものだ。ましてや多くの戦を経験した猛者で、その軍勢を率いるのがあの『黄鬚』曹彰なら、尚更の事。」

 

張昭はそれでも不利だと言った。

 

黄蓋「おい雷火!お主、言い過ぎじゃ!そのような弱気な発言などしてどうするのじゃ!」

 

黄蓋「わしは、この江東の為に大殿と共に命を懸けて戦った。この江東を、敵に臆して渡すなど出来ようか!」

 

これに、黄蓋は強硬的な発言で張昭に申した。

 

張昭「わしもお主と同様、大殿と共にこの江東の為に己の才を振るった。」

 

張昭「しかし、この江東と孫家を守る為には、無駄な血を流さぬのが良いのじゃ!それも分からぬのか!」

 

しかし、張昭も負けじと黄蓋に言い返すと

 

張昭「蓮華様。ここは降伏なさいませ。雪蓮様と小蓮様の首を差し出せば、曹彰は姉の曹操に伝えて降伏を受け入れましょう。そうすれば、孫家の血筋も、この地の安寧も保たれるでしょう。」

 

そう拱手して孫権に言った。

 

孫権「・・・。」

 

その時

 

周瑜「・・・ふぅ。文台様の代から仕え振るってきたその知謀も、錆びれたものだな。」

 

周瑜が張昭にそう言うと

 

張昭「・・・何じゃと?」

 

張昭は目を細め怒りの表情を周瑜に向けた。

 

周瑜「戦わずしてこの江東を譲り渡すぐらいなら、いっその事初めから曹彰の陣営に加わっておけば良いのだ。」

 

張昭「ふん。国同士の駆け引きも知らぬヒヨッコが何を言うか!」

 

そう言い合っていたその時

 

??「私は戦うわよ!」

 

突然そのような大きな声が聞こえたので声のする方に目を向けると

 

孫権「姉様!?」

 

周瑜「雪蓮!?」

 

太史慈「雪蓮!?」

 

黄蓋「策殿!?」

 

孫策がそこにいた。

 

孫権「姉様!お身体は?」

 

孫策「もう良くなったわ!このような危急存亡の時に、寝てなんていられないわ!」

 

孫策「私は戦うわ!降伏しても、かえって悪化するだけよ!」

 

孫策「私はこの江東を守りたい!父祖の地を戦わずして敵にくれるなんて出来ないわ!」

 

孫策「曹彰に決戦を挑むわ!そして勝って、必ずこの江東を守ってみせる!」

 

孫策は、決戦に挑むと言った。

 

黄蓋「策殿。よくぞ申された!」

 

これに、黄蓋は孫策の発言に大いに喜び

 

張昭「しかし雪蓮様!」

 

張昭は反対意見を述べようとしたが

 

孫策「雷火!もう決めた事よ!何も言わないで!」

 

孫策にそう言われると

 

張昭「っ!」

 

もう何も言えなかった。

 

孫権「・・・。」

 

この様子に、孫権は何も言えず

 

太史慈(ここに粋怜殿がいれば・・・)

 

太史慈は、今ここに程普がいない事に内心頭を抱え、目を閉じており

 

周瑜(雪蓮・・・)

 

周瑜は、友の今の雰囲気に違和感を感じた。

こうして、孫策達は純らに決戦を挑む事になったのであった。



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118話

118話です。


許都

 

 

 

 

霊帝「丞相。朕は決めたぞ。」

 

華琳「何をでしょうか?」

 

霊帝「大将軍に文を送りたい。良いだろうか?」

 

霊帝が、純に文を送りたいと言ってきた。

 

華琳「・・・恐れながらお聞きします。何故、我が弟に文を?」

 

霊帝「ちょっと大将軍が気になってね。丞相の手を煩わせる事はしないわ。」

 

華琳「・・・そうですか。宜しいかと存じます。」

 

すると、華琳はあっさり許可を取ったので

 

霊帝「そ、そうか・・・!では、すぐにしたためて送ろう。」

 

最初は驚いたが、すぐに切り替え、文をしたために下がった。

 

華琳(恐らく・・・純に撤退させる為の文というよりは勅命をしたためた文を送るつもりね・・・)

 

華琳(フンッ・・・そうはさせないわ。)

 

霊帝の企みにすぐ気付いた華琳は、すぐに屋敷に戻り文を自らしたため

 

華琳「誰か!」

 

「はっ!」

 

「この文を、今江東にいる純に送りなさい。」

 

「御意!」

 

それを兵士に渡し、行かせたのだった。

 

桂花「華琳様。」

 

華琳「あら、桂花。」

 

すると、桂花が現れ

 

桂花「今、兵が出て行かれましたが・・・」

 

華琳にそう尋ねると

 

華琳「純に文を送ったのよ。天子も同じ時期に送ったと思うから、同時期に到着すると思うわ。」

 

華琳は、そう桂花に言った。

 

桂花「・・・何故、陛下は純様に?」

 

華琳「恐らく、撤退の勅命をしたためた文よ。」

 

これには

 

桂花「何と!?」

 

桂花は驚きを隠せなかった。

 

桂花「・・・そこまでして我らを・・・純様を御するおつもりでしょうか?」

 

華琳「天子様らしいやり方ね。けど、私は何者の下に収まるつもりは無いし、あの純を御する事なぞ、出来はしないわ!」

 

これに、華琳は覇者に相応しい笑みを浮かべながらそう言ったのだった。

 

 

 

 

 

曹彰軍本営

 

 

 

 

 

 

純「秋蘭。美咲に、和戦の両方で対応できるように言ってくれ。」

 

秋蘭「御意。」

 

純は、本営にて秋蘭にそう話していた。

その時

 

稟「申し上げます。孫策が、反対意見を退け抗戦を宣言したとの知らせが入りました。」

 

稟が入ってきて、孫策らが宣戦布告したと知らせてきた。

 

純「孫策・・・病と聞いたが。」

 

稟「病だと思われますが、あの孫策の事です。この状況に寝ていられないと思ったのでしょう。」

 

純「成程・・・」

 

稟の言葉に、純は得心したように言った。

すると

 

「申し上げます!陛下より使者が文を携えて参られました!」

 

「申し上げます!曹丞相より使者が文を携えて参られました!」

 

霊帝と華琳からの遣いの者が同時に来た。

 

純「陛下と姉上の文が同時に・・・これは一体?」

 

そう疑問を浮かべたが

 

純「分かった。会おう。秋蘭、皆を集めろ。」

 

秋蘭「御意。」

 

会おうと即決した。

暫くして、皆が集まり、外にはその中央にはまず

 

「陛下から文を携えて参りました。」

 

霊帝からの遣いの者がおり、そう言い文を出した。

それを見た純は、秋蘭に視線を送ると、秋蘭は遣いの者から文を受け取り、純に恭しく差し出した。

それを広げ、目を動かし読んだ。内容は

 

『これ以上の進軍は不要のため、和睦し許都に引き揚げ、陸口にて散っていった将兵の御霊を鎮めるように』

 

との勅命の文だった。

 

「陛下は、大層大将軍を気にしておいでです。故に、このような文を大将軍に。」

 

遣いの者はそう純に言った。

そして、読み終えると文を戻し

 

純「・・・使者ご苦労だった。下がって休め。決めた後、呼ぶ。」

 

「御意。」

 

そう遣いの者に言うと、遣いの者は拱手しその場を後にした。

その次に

 

「曹操様より文を携えて参りました。」

 

華琳からの遣いの兵士が現れ、そう言い文を差し出した。

先程同様、秋蘭は文を受け取り、それを純に差し出した。

それを広げ読む純。内容は

 

『天子の勅命を気にする必要は無い。あなたは将兵を好きに動かせる特権を与えられている。今まで通り、あなたは自分の思い通りに好きに軍を動かし、江東を平らげ、陸口にて散っていった将兵の無念を晴らしなさい』

 

といったものだった。

読み終えた純は

 

純「・・・ご苦労だった。下がって休め。」

 

「御意。」

 

そう遣いの兵士に言うと、兵士は拱手し下がった。

 

稟「純様。陛下と曹操殿からどのような文を?」

 

そして、早速稟は純に文の内容を尋ねた。

 

純「・・・陛下からはこれ以上の戦は不要の為、和睦し許都に引き揚げ陸口にて散っていった友を、家族の御霊を鎮めるようにとの謂わばほぼ勅命の文だった。」

 

純「姉上からは、これまで通り好きに将兵を率い動かし、江東を平定し陸口にて散っていった家族の無念を晴らすようにとの文だった。」

 

これを聞いた稟は

 

稟「・・・成程。」

 

ただ一言、そう呟いた。

 

春蘭「純様!いくら天子様の勅命とはいえ、全軍将兵を好きに動かしても良いといった特権を与えられたのです!ここは、華琳様の文の通り、江東を平定し陸口にて散っていった仲間の無念を晴らしましょう!」

 

すると、春蘭が早速華琳の文に従って江東を平定し陸口の守備兵の無念を晴らすべきだと言い

 

翠「しかし春蘭!どのような特権を与えられたとしても、純殿は臣下だ!勅命を軽く見てはいけないだろう!」

 

春蘭「翠!お前は純様に忠誠を誓ったのではないのか!」

 

翠「確かに、私は純殿に従うと決めた!しかし、勅命もあるんだぞ!甘く考えてはいけない!」

 

翠は、勅命を軽く見てはいけないと言い

 

楼杏「翠さんの言う通りよ!純さんは全軍将兵を好きに動かす特権を与えられたわ!私達はいつ如何なる時も純さんの命に従う!けど、どのような立場でも純さんは臣下!それが道理よ!」

 

楼杏も翠の意見に同意した。

 

霞「ウチは惇ちゃんの意見に賛成や!例え勅命でも、純はこの全将兵のてっぺんに立っとるし、特権も貰うておる!ここは江東を平定して陸口の守備兵の仇を討った方がええと思う!」

 

すると、霞は春蘭の意見に同意し、意見は二つに割れ、それを純は目を閉じ腕を組みながら聞いていた。

 

剛「・・・どう思う、哲?」

 

哲「どちらも正しいし、道理があると思う。」

 

剛「そうか・・・実は俺もそう思っている。」

 

剛と哲は、どちらも正しいと思っていた。

その時

 

秋蘭「皆、静まれ!ここは、純様に決めて貰おう!」

 

秋蘭がそう言うと

 

春蘭「・・・そうだな。」

 

翠「そうだな・・・純殿に任せよう。」

 

霞「ああ・・・妙ちゃんの言う通りや。」

 

楼杏「私達は純さんと一心同体。例えどのような道でも、共に進み、共に死ぬ同志よ。」

 

剛「そうだな・・・」

 

哲「うむ。」

 

皆は落ち着いてそう言った。

 

秋蘭「純様!私達以下将兵は、どのようなご決断をされたとしても従います!右に向けと言われたら右に、左にと言われたら左に!火の中水の中に飛び込めと言われたら喜んで飛び込みましょう!死ねと言われたら喜んで死にましょう!」

 

秋蘭「我らは、永久に純様と共に!!」

 

そして、秋蘭は純の前に跪き拱手してそう言うと

 

「「「永久に純様/さん/殿/閣下/と共に!!!」」」

 

他の皆も同様の行動を取り、拱手し声を揃えてそう言った。

 

純「・・・お前達の言葉、よく分かった。」

 

純は、閉じていた目を開けると

 

純「俺には分かっている。勅命を重く受け止めるにしろ、姉上に従い進軍するにしろ、陸口にて散っていった友を、家族を思っての主張!どのような黄金にも勝る程大切な家族だからこそだという事を!」

 

純「だが・・・俺の心中は既に決してある!」

 

純「それは・・・この先どのような困難が待っていようとも、決して揺るがねー!」

 

皆にそう言うと、二つの文を取り、宙に投げると太刀を抜き

 

ズバッ!!

 

一つの文を斬り落とし、もう一方の文を手に取り

 

純「進軍する!!俺達は江東を平定し、大義のため、孫策と孫尚香を討つ!!」

 

純「皆、もう一度俺と共に力を合わせて互いに支え合い、友の、家族の仇を討ち、江東を平定するぞ!!」

 

そう強烈な覇気を前面に押し出し、江東を平定し、仇を討つと改めて宣言した。

 

「「「御意!!!我らは、永久に大将軍閣下と共にあり!!!」」」

 

これに、皆拱手し声を揃えてそう答えた。

こうして、曹彰軍はまた更に強固に、そして一つに纏まった。

解散した後、秋蘭は幕にて机の上にある水に浮かんである小型の船を見て考え事をしていた。

するとそこへ

 

稟「秋蘭様!!秋蘭様!!」

 

稟「今日は私の人生で最も嬉しい日です!!あははは!!」

 

稟が普段見せない明るい表情と雰囲気を見せながら現れ、最後に笑い声を上げた。

それを見た

 

秋蘭「稟。斯様なお主は初めて見るな。」

 

秋蘭は、稟にそう言うと

 

稟「嬉しいです!!嬉しいのです!!」

 

稟はそう返して

 

稟「純様は、益々見事な大将軍になりました!!僅かな言葉で、分裂しかけた皆さんの心を改めて一つにし、江東を平定するように導かれたのです!!」

 

秋蘭に弾んだ声で続けた。

 

秋蘭「無論純様は見事であった。これでまた一つに纏まり、更に強固になった。私も長年仕えてきて、あの様に益々立派なお姿を見ると非常に嬉しい気持ちだ。」

 

これに、秋蘭もそう稟に返した。

 

稟「はい!!」

 

秋蘭「だが、今我が軍は、美咲に頼んで水軍の調練をさせているが、船の扱いでは江東の方が遙かに上だ。」

 

秋蘭「加えて、江東全軍の大都督は周瑜だ。あの者の統率力と知謀は並外れておる。我が軍の弱点を気付かぬ筈が無い。」

 

稟「また、孫策も復帰しました。病身か否かは別として、彼女が軍中にいると、士気が違ってきます。」

 

秋蘭「ああ。決して、気を緩められないな。」

 

しかし、油断は出来ないと秋蘭がそう言い引き締めると、稟もいつものクールな表情に切り替わり、秋蘭と一緒に机の上にある小型の船を見たのであった。



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119話

119話です。

内容を一部大幅に変えました。

その理由ですが、前回投稿したお話の後の次のお話が中々纏まらず、それなら少し変えてみるかと思いたった次第です。

予告も無く突然変えてしまい、大変申し訳ございません。

少し違和感あるかもしれませんが、どうぞ。


孫軍は、総大将である孫策の他に周瑜、黄蓋、程普、太史慈を中心とし、合計十万の兵を率いて出陣した。

といっても、この十万の兵はあまり士気が高くなく、何より

 

程普(もし私があの場にいれば・・・このように出陣する事は無かったかもしれない・・・)

 

この中で、程普は決戦には反対の方であり、戻ってきた時に話を聞いた時、孫策に反対を唱えたのだが耳を貸してくれなかった。

 

程普(このまま戦ったら・・・我が軍は壊滅的被害を被るわ・・・仮に勝っても、この江東に・・・私達の居場所は・・・)

 

程普は、そう思い悩んでいたのだが

 

程普(けど・・・もう覆らない・・・。なら・・・この命を以て、戦うまでだわ・・・)

 

しかし、程普は武人然とした雰囲気に切り替わり、戦う事を決意したのだった。

 

 

 

 

建業

 

 

 

 

 

孫権「・・・。」

 

その頃、孫権は一人玉座の間にて悩んでいた。

 

孫権(確かに私達は曹彰と比べて騎馬や歩兵といった陸での戦闘は足元にも及ばない。しかし水軍が得意で、曹彰の軍と比べたら一日の長があるわ。加えて長江という要害がある。それは確かだわ・・・)

 

孫権(けど・・・雷火の言う通り、曹彰はこれまで数多くの戦を経験した勇猛な歴戦の総帥。それに従う将兵全て剽悍で死をも恐れない百戦錬磨の精兵揃いで、まるで兄弟や友の如く強固な繋がりと結束力がある。それに比べて、我らは降伏派と主戦派に分かれて纏まっていないし、江東を取り戻して以来殆ど戦を経験していない。)

 

孫権(何より・・・私達には大義が無いわ・・・どうすれば良いの・・・!)

 

それは、今回の戦に関する事で悩んでいた。

将兵の精強さは比べものにならず、加えて内部は纏まらずにガタガタであり、戦の大義名分も無いのだ。

そんな状態で戦に臨んでいるため、張昭の意見も聞いた身としては、不安が渦巻いていたのだ。

 

甘寧「蓮華様・・・」

 

呂蒙「・・・。」

 

その様子を、甘寧と呂蒙は傍で複雑な表情で見ていた。

その時

 

張昭「失礼します。」

 

張昭が現れた。

それも幾らかの兵と文官を引き連れてだった。

 

甘寧「蓮華様!」

 

それを見た甘寧は、咄嗟に前に出て鈴音の柄を握り

 

呂蒙「動いてはなりません!」

 

呂蒙も、孫権の前に立って袖の中からいつでも暗器を放てるようにした。

 

「孫権様。一緒に参りましょう。甘寧殿と呂蒙殿も!」

 

文官が、そう孫権達に言った。

 

孫権「これはどういう意味だ!」

 

孫権の問いに

 

「言う通りにしていただければ、手荒な真似は致しませぬ!」

 

文官はそう答えた。

 

甘寧「それ以上一歩も蓮華様に近付くな!もし従わないなら、この私が斬り捨てる!」

 

これに、甘寧はそう強く言い、鈴音を抜いて構え、一触即発の雰囲気になった。

 

張昭「止めるのじゃ、思春!!」

 

その時、張昭が現れ、甘寧らの前に立った。

 

呂蒙「雷火様!あなたが主導したのですか!」

 

張昭「そうじゃ!亞莎、お主は軍師になってまだ日が浅いが、よく分かっておるじゃろう!この戦は勝てぬと!」

 

張昭「故に、儂らは曹彰に投降する!」

 

張昭は、純に投降すると言った。

 

孫権「しかし雷火!この事、もし雪蓮姉様と冥琳達に知られたら・・・!」

 

孫権のこの言葉に

 

張昭「分かっております!」

 

孫権「っ!」

 

張昭「分かっておりまする・・・!しかし・・・これも全て大殿が愛した江東の民の為・・・江東の明日の為です!!」

 

張昭は、全ては江東の為であると言った。

この言葉に

 

孫権「・・・。」

 

孫権は何も言えず、そのまま項垂れてしまった。

そして、暫くすると

 

孫権「思春・・・剣を下ろしなさい。」

 

孫権は、苦渋の表情を浮かべながら甘寧に鈴音を下ろすよう命じた。

 

甘寧「れ、蓮華様!」

 

これに、甘寧は何か言おうとしたが

 

孫権「甘興覇!命令よ、剣を下ろしなさい。」

 

孫権に強く言われ

 

甘寧「っ!」

 

甘寧は鈴音を下ろした。

 

孫権「これで良いのね、雷火?」

 

張昭「・・・はい。」

 

孫権「なら・・・思春、残ってる兵全てを束ねなさい。」

 

思春「御意。」

 

孫権「亞莎。雷火と共に文官を束ねて。また、シャオの様子を見てきてね。」

 

呂蒙「・・・御意。」

 

張昭「御意。」

 

そして、孫権は二人にそう命じた。

命を受けた張昭と呂蒙は、孫尚香の様子を見に牢に行くと、見張りの兵が倒れており、牢の扉が開かれ、もぬけの空だった。

これに張昭と呂蒙が見張りの兵を起こすと、兵は驚き事情を説明した。

曰く、突然首筋に衝撃を感じ、すぐに目の前が真っ暗になってしまい、気が付いたらこのようになっていたということだった。

それを聞いた張昭と呂蒙は、孫尚香が見張りの兵を手刀で気を失わせ、鍵を取って牢から脱出したのだと察し、すぐさま孫権に報告した。

それを聞いた孫権は、慌ててすぐに追い掛けるよう命じたのだった。

この時、孫尚香は

 

孫尚香「はあ!はあ!はあ!」

 

自身の武器である月華美人を持って、馬を必死に走らせていた。

 

孫尚香(蓮華姉様・・・ごめんなさい・・・私・・・もうこうするしか道が無いの・・・!)

 

孫尚香が牢の中で壊れた人形のようになり、そして考えた結論。それは

 

孫尚香(すぐに雪蓮姉様と合流して、一緒に曹彰を討ち取る!それが・・・私が悪夢から解放され、母様が守ってくれた江東を大変な目に合わせてしまった償いよ!)

 

純を討ち取り江東を守る事が自らの罪滅ぼしであるという事だった。

 

孫尚香(だから・・・ごめんなさい・・・!)

 

そう心の中で謝罪して、馬を走らせた。

 

 

 

 

 

 

 

曹彰軍陣営

 

 

 

 

 

 

純「はああああっ!!」

 

「「「うわあぁっ!!」」」

 

「「「やあああっ!!」」」

 

純「はっ!たああっ!!」

 

純はその頃、兵と一緒に鍛錬を行っており、汗を流していた。

 

「やあああっ!!」

 

一人の兵士が、槍で突こうとしたが

 

純「んっ!」

 

純は、その突きを避け、槍を握り

 

純「おりゃああっ!!」

 

「うわああっ!!」

 

彼を倒した。

純は、その兵に

 

純「良い突きだ!!戦場での働き、期待してるぞ!!」

 

そう激励し

 

「はっ!!閣下のため、命を懸けて身を粉にして頑張ります!!」

 

彼は、目を輝かせやる気に満ち満ちた表情で答え、槍を構えた。

 

純「お前らも、中々良い攻撃をする!!天晴れだ!!さあ、どんどん来い!!」

 

そう、純は周りの兵士に言うと

 

「「「はいっ!!!」」」

 

兵士はそう返事をし

 

「「「はああああっ!!!」」」

 

純に向かったのだった。

 

「「「行け!!行け!!行け!!行け!!」」」

 

周りの兵も、互いに声援を送っており、その場は強烈な熱気に包まれていた。

その様子を見ていた

 

稟「純様はその圧倒的な武と覇気を前面に押し出すお方。それは、多くの将兵を魅了し熱狂させる。」

 

稟「欠点と言ったら・・・知恵が足りないのと、直情的な所ですね。」

 

稟はそう呟いていた。

その時

 

「郭嘉様。」

 

稟の隠密が現れ

 

稟「あなたですか。ここではマズイです。場所を移動しましょう。」

 

稟は人気の無い場所へ移動した。

 

稟「首尾はどうですか?」

 

稟はすぐさまそう尋ねた。

 

「はっ。張昭ら降伏派を上手く抱き込みました。」

 

それを聞いた隠密は、そう稟に報告した。

その報告は、張昭ら降伏派を抱き込み、降伏派で建業を抑えさせたという事だ。

これら全て稟が独自で策を練り、実行した事だ。

しかし、純や他の皆には何も言わずに実行した事でもあった。

 

「また、郭嘉様のご指摘通り、こういった情報が孫策らに漏れないよう、建業の周りを固めておきました。」

 

稟「ご苦労です。あなたは下がって休みなさい。」

 

「御意。」

 

報告を聞いた稟は、そう隠密に言い、隠密はいずこへ消えたのだった。

 

稟「フフッ・・・分裂した状態で戦に臨むとは・・・まさに愚の骨頂。これで孫策らは戻る場所が無くなりました。」

 

そう、稟は冷徹な笑みを浮かべながら一人呟いたのだった。

 

秋蘭「・・・来たか。」

 

美咲「ああ。敵さん、来ましたよ、副都督。兵には待機させ、軽はずみに動かないように厳命しておいた。」

 

同時期に、秋蘭が美咲から孫策らが来たとの報告を受けた。

 

秋蘭「うむ。美咲はすぐに皆を集めてくれ。私は純様を連れて参らせる。」

 

美咲「そう言えば、閣下は何処にいるんだ?」

 

秋蘭「あのお方は兵と共に鍛錬をしている。」

 

それを聞いて

 

美咲「・・・閣下は噂通りの根っからの武人なんだな。」

 

美咲はそう素直に述べた。

 

秋蘭「そういうお方なのだ。それでは、連れて参りに行って来る。」

 

美咲「はいよ。」

 

そう言い、秋蘭は外に出て純を探すと

 

純「はっ!とりゃああっ!!」

 

「「「はああああっ!!」」」

 

すぐに純を見つけ

 

秋蘭「純様。」

 

と声をかけた。

これに気付いた純は

 

純「おお、秋蘭!鍛錬に参加・・・ってわけじゃなさそうだな。得物持ってねーし。」

 

秋蘭の様子を見てそう言うと

 

純「お前ら、鍛錬は終わりだ!下がれ!今日の鍛錬の成果、戦で存分に発揮しろ!」

 

兵士にそう檄を飛ばした。

 

「「「はっ!!ありがとうございます!!」」」

 

これに、兵士全員拱手しお礼を言うと、皆解散した。

 

純「どうかしたのか、秋蘭?まさか、敵が現れたのか?」

 

純は、秋蘭にそう尋ねると

 

秋蘭「その通りです。純様、孫策らが水軍を率いて現れました。」

 

と秋蘭は言った。

 

純「やっと来たか・・・ここんところ、戦が無いから退屈してたところだ。お陰で身体が鈍っちまう。だから、こうやって皆と鍛錬しているんだ。こうして鍛錬して汗を流していると、戦場に出てる感覚になって気分が良い。」

 

純は、そう汗を拭いながら言った。

 

秋蘭「その滾り、是非戦場にて発揮して下さい。さあ、行きましょう。」

 

純「ああ!」

 

そう言われ、純は秋蘭と一緒に天幕に戻ったのであった。



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120話

120話です。


曹彰軍本営

 

 

 

 

 

 

孫策らが現れたと秋蘭から聞いた純は、鍛錬を中止し本営に戻った。

 

純「孫策らが現れたか・・・」

 

秋蘭「はい。その数、凡そ十万かと。」

 

稟「主だった者は、周瑜に黄蓋に程普、そして太史慈です。」

 

純「成程・・・」

 

それを聞き、純は腕を組んで目を閉じた。

 

楼杏「しかし、敵は内部がバラバラの状況なのに戦に臨んだ。これでは・・・」

 

霞「ああ。かなり危ないものや。そんなの、ウチでも理解出来る。」

 

翠「けど、もし勝ったら、また江東は一つに纏まる。」

 

剛「そうなるために、相手の軍師周瑜は必ず何か企んでるはず。」

 

哲「ああ。多分だけど、我が軍の弱点であるこの水軍の練度。その為に火を仕掛けるはずだ。」

 

春蘭「火攻めか・・・しかし、いつ仕掛けるのか分からないから、常に警戒しなければならないな。」

 

これに、皆はそれぞれの意見を述べ

 

秋蘭「稟。お主はどう思っている?」

 

秋蘭は、稟にそう尋ねると

 

稟「私も、周瑜は火攻めを仕掛けると思っております。その為に、連環の鎖を作り、設置させました。」

 

稟「後は相手の出方次第です。」

 

稟はそう答えた。

その間も、純は腕を組んだまま無言だったのだが

 

純「・・・何も難しく考える事はねーだろう。」

 

そう腕を組んで目を閉じたまま呟くと、皆は純に集中した。

そして、目を開くと

 

純「稟。前から少し思ってた事なんだが、確かに敵は風を利用して火を使って俺達を焼き尽くすかもしれねー。」

 

純「だが、その風が吹く前にこちらから攻めれば良いんじゃねーのか?」

 

純は、そう稟に言った。

 

稟「と、言いますと?」

 

純「ああ。我ら全軍をもって全速力で前に進み、敵の船を木っ端微塵に潰し、その勢いで向こう岸に上陸して、残った敵を斬り捨てれば済む話だ。」

 

純「いつまでもこの調子じゃ、我が軍の厭戦気分は広がり、いざという時に何も出来ねー。俺は兵と共に鍛錬をしてたんだが、皆やはり退屈してた。」

 

純「このまま敵の出方を待ってたら、士気は下がる一方だ。だったら、一気に攻め、目の前の敵を斬って斬って斬りまくれば良い。」

 

と、純は稟にそう答えた。

 

純「お前の策を否定してはいねー。これまでお前の策のお陰で我が軍は幾度も勝利してきた。お前の貢献は、十万いや、百万の兵に匹敵する程だ。」

 

純「だが、ここは俺の我儘を通してはくれねーか。」

 

と、純は続けて稟に言った。

 

純「・・・。」

 

稟「・・・。」

 

そして、お互いを見つめ合って

 

「「「・・・。」」」

 

周りも、この雰囲気に声を出せずにいた。

そして、それがどれ程経ったか不明だが

 

稟「・・・はあ。」

 

稟は頭を押さえながら溜息をついて

 

稟「・・・分かりました、純様。」

 

そう、呆れつつも笑みを浮かべながらそう答えた。

 

純「そうか!」

 

それを聞き、純は笑みを浮かべたが

 

稟「ただし!!決して無理はしないようにお願いします!良いですね!!」

 

そう、稟は強く純に言った。

 

純「ああ!」

 

純は、そう言い

 

秋蘭「・・・ふっ。」

 

秋蘭はクールに笑みを零した。

周りも

 

「「「・・・はぁ。」」」

 

緊張したのか、揃って盛大に息を吐いた。

 

純「さて!話は終わった!!秋蘭、美咲に出陣の準備をするよう伝えろ!」

 

秋蘭「御意!!」

 

純「お前らも、いつでも出れるよう準備しろ!!俺と一緒に、盛大に暴れまくってやろうぜ!!」

 

「「「御意!!」」」

 

そう、純は皆に命じたのだった。

 

 

 

 

 

 

長江・孫軍陣営

 

 

 

 

 

 

長江に到着した孫策達。

その眼前には

 

周瑜「これは・・・想像以上だ・・・」

 

純率いる二十五万の精兵と巨大軍船が集結していた。

それを見た周瑜は、唯々絶句していた。

 

周瑜「まるで・・・水上の大要塞だ・・・」

 

そう呟いていると

 

黄蓋「ほお・・・これはこれは・・・見事な光景じゃのう・・・」

 

孫策「そうね・・・」

 

程普「これだけの兵を難なく束ねるとは・・・流石『黄鬚』曹彰ね・・・」

 

周瑜「雪蓮・・・祭殿に粋怜殿・・・」

 

孫策と黄蓋、そして程普がそう言いながら現れた。

 

黄蓋「儂もこれまで大殿と共に多くの戦を経験してきたが・・・此度のような大船団をこの目で見るのは初めてじゃ。」

 

黄蓋「兵達も皆、驚きで固まっておる。」

 

程普「確かに・・・私も見た事が無いわ・・・」

 

周瑜「あれだけ巨大な船が100隻以上もあるんです・・・驚くのも仕方がありません。」

 

周瑜は、兵が驚くのも仕方が無いと言った。

 

孫策「けど、アイツらは水上戦での経験は無いんでしょ?」

 

周瑜「ああ・・・北方は原野での戦に長けているが、水上での戦は不得手。そこを突く他無い。」

 

孫策の意見に、周瑜はそう言うと

 

孫策「なら、一発奇襲をかけましょう!!そうすれば、こんな大船団なんか木っ端微塵だわ!」

 

黄蓋「うむ!奇襲は大軍に勝る!今の我らの力で、敵を敗北させるやもしれぬ!」

 

孫策と黄蓋は奇襲を仕掛けようと言った。

 

程普「何を言ってるんですか!もしこちらから仕掛けたら、私達の立場は更に悪くなるんですよ!」

 

周瑜「粋怜殿の言う通りだ。軽々しく奇襲を仕掛けたら、ただでさえ朝敵扱いの我らだ。更に厳しくなるだろう。それに、その程度じゃ、曹彰の軍は動じもせぬ。意味が無い。」

 

しかし、周瑜と程普は奇襲に反対で、やっても向こうは動じないから意味が無いと言った。

 

孫策「何言ってるのよ!一撃で撃破せずにこのまま戦が長引いたら、江東の豪族達は次々に私達から離反して曹彰に付いてしまうわ!」

 

孫策「そうなれば、私達はこの江東を守れないわ!」

 

しかし、孫策は奇襲せずにこのまま戦が長引いたら、他の豪族達が見限られてしまう恐れがあると述べた。

 

周瑜「雪蓮!祭殿!言いたい事は分かるが、軽挙妄動は慎んでくれ!」

 

周瑜は、そう強く釘を刺し

 

程普「冥琳の言う通りよ。従いなさい、祭。雪蓮様も。」

 

程普も周瑜に続いてそう言った。

 

孫策「・・・。」

 

黄蓋「・・・。」

 

言われた二人は、それ以上何も言わなかったが、納得できない表情を浮かべていたのだが

 

周瑜「これは私の策だが、あの様な敵の大軍を撃破するには、火攻めが必要だ。」

 

周瑜「だが、その為には東南の風が吹かなければならない。その時こそ、我が軍は火攻めを行う絶好の好機!」

 

周瑜「その時は、お二人の力が必要だ。」

 

と周瑜が言うと

 

孫策「そう!分かったわ!」

 

黄蓋「うむ!分かっておるではないか!!」

 

二人は機嫌を取り戻した。

その時

 

太史慈「あの~・・・」

 

太史慈が気まずそうな表情を浮かべながら現れ

 

孫策「どうしたの、梨晏?」

 

孫策は太史慈にそう尋ねると

 

太史慈「えっと・・・」

 

太史慈はそれでも気まずそうに言ったのだが

 

??「私も来たわ!」

 

太史慈の後ろから声が聞こえたと同時に一人の少女が現れた。

その少女は

 

孫策「シャオ!?」

 

孫尚香だった。

 

周瑜「っ!?」

 

黄蓋「何と・・・!?」

 

程普「・・・!?」

 

周瑜らも、驚きの表情を浮かべていた。

 

孫策「何で!?」

 

孫尚香「私も姉様と戦う!そして、曹彰を討ち取って江東を守る!」

 

孫尚香「それしか、私は皆に償えないわ!」

 

そう、孫尚香は強く言った。

 

孫策「何言ってるの!帰りなさい!」

 

孫尚香「イヤ!!帰らない!!姉様や皆と戦う!!」

 

孫策「駄目よ!!帰るの!」

 

孫尚香「イヤったらイヤ!!」

 

孫策「イヤ!!」

 

これに、二人の帰ろ帰らないの押し問答が続いた。

暫くし

 

孫策「・・・はあ。」

 

孫策は溜息をつき

 

孫策「・・・好きにしなさい。」

 

そう、孫尚香に言った。

 

孫尚香「姉様!」

 

これに、孫尚香は笑顔を浮かべたが

 

孫策「良い!この戦が終わったら、厳罰を受けてもらうわよ!!」

 

そう、孫策は厳しい言葉を言い

 

孫尚香「分かったわ!けど、絶対に私達が勝つわ!!」

 

孫尚香はそう返したのであった。



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121話

121話です。


曹彰軍

 

 

 

 

 

 

100隻以上ある船に、二十五万の将兵がいる。

皆それぞれ槍、矛、弓を持っており、それぞれ綺麗に揃えた状態だった。

暫くして、純がいつもの格好である白き羽織と籠手、そして武骨な軍靴を身に纏い、腰に太刀を帯びながら現れた。

その姿は、まさに数々の死線をくぐり抜けてきた勇猛な歴戦の総帥に相応しく、益々覇気と貫禄が増していた。

すると次の瞬間

 

「「「曹大将軍!!!曹大将軍!!!曹大将軍!!!」」」

 

二十五万の将兵全てが、武器を掲げながらそう大合唱した。

 

純「聞け!曹軍の勇士達よ!」

 

その覇気溢れる声と同時に、兵達は己の武器を構え直す。

 

純「皆、慣れねー水上での苦労、ご苦労だった!だが、それも今日で終わる!」

 

純「これより俺達は、孫軍との決戦に突入する!この一戦に勝てば、陸口にて無念に散っていった我らが兄弟の想いが報われるだろう!」

 

純「だがしかし!この一戦に負ければ、俺達は全員、その屍を大河に沈められ、野晒しにされるだろう!」

 

純「そうなれば、不義不逞の輩なあいつらはこの勢いで北に進軍し、民や我が姉曹孟徳や天子様を殺め、この大陸を支配される。これを許すか、テメーら!」

 

純の問い掛けに

 

「「「いいえ!!!」」」

 

二十五万の全将兵は、ズレる事無く揃ってそう答えた。

 

純「テメーらに聞く!俺達は官軍か?賊軍か?どっちだ?」

 

「「「官軍だ!!!」」」

 

純「他に俺達はどういう存在だ?」

 

「「「戦狂いの野蛮人!!獰猛な虎!!!」」」

 

再びの純の問い掛けに、全将兵は純に負けない気迫でそう返し

 

純「そうだ!!皆で、戦狂いの野蛮人として、獰猛な虎として、目の前の敵を、狩って狩って狩りまくってやろうじゃねーか!!」

 

純「たとえ剣や槍が折れても、手足が斬り飛ばされても、敵を噛み殺してやろうじゃねーか!!」

 

純「陸口にて散っていった兄弟達に届くような気勢を上げ、兄弟達から力を貰い、姉上の覇道の為、目の前の敵を地獄に陥れ、戦狂いの野蛮人らしく暴れてやるぞー!!」

 

純も皆に負けない程の気迫と強烈な覇気を前面に押し出し、太刀を抜いて天に突き上げた。

次の瞬間

 

「「「うおおおっ!!!!!!」」」

 

二十五万全ての将兵が、それぞれの武器を天高く突き上げ、地鳴りの如き雄叫びを上げた。

それは、まさに空の彼方まで響き渡り、陸口にて散っていった兵達に届かんばかりだった。

そして、全将兵の身体から無限といっても過言では無い力が漲っていき

 

純「さあ行くぞ、テメーら!!『黄鬚』曹彰について来い!!」

 

純「目の前の敵を全て食い殺してやろうぜ!!」

 

「「「おおーっ!!!」」」

 

純が乗っている軍船を先頭に100隻以上の全ての軍船が、対岸にいる孫軍の船団に突入していったのであった。



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122話

122話です。


100隻以上の巨大軍船が、全速力で一斉に孫軍の船団に突撃した。

それに気付いた

 

「お、おい!敵の船が一斉に来たぞ!」

 

「急いで本陣に知らせろ!」

 

「か、回避だ!回避を取れ!」

 

孫軍の兵士達は、回避行動を取ろうとしたが

 

「だ、駄目だ・・・間に合わない!わぁぁぁ!!」

 

間に合わず

 

ドゴーン!!ゴォーン!!ドゴォォン!!

 

ガガッガガッ!!バキキバキャ!!ガキャキャ!!

 

そのままぶつかり、激しい轟音と共に軍船が沈み

 

「う、うあああああ!!」

 

「ぎゃあああああ!!」

 

兵士達も、そのまま水中に投げ出され、死んでいった。

 

ドォン!!ドォン!!ドォォーン!!

メキキバキャバリバリバリィバキキキメリメリメリ!!

 

その勢いのまま、純率いる100隻以上の巨大軍船はどんどん進み、孫軍の軍船を破壊し沈め、甚大な被害を与えていった。

何故ここまでの破壊力を見せれるのか?それは、実を言うと、この巨大軍船の一部は特殊な軍船で、前方に衝角というサイの角のような突起物をつけていた。

それらが孫軍の船を抉り、破壊させているのだ。

孫軍の軍船のみが破壊される音が戦場に響き渡る。

 

 

 

 

少し時間が遡り孫軍本営

 

 

 

 

程普「雪蓮様!大変です!!曹彰の奇襲です!!あ、あの巨大軍船がまっすぐ突っ込んできております!!」

 

程普が、慌てた表情を浮かべながら本営に戻って報告してきた。

それを聞いた

 

孫策「とうとう来たわね・・・!」

 

孫策は目を鋭くしながら言ったが

 

周瑜「しかし粋怜殿。何をそんなに慌てているのです?速やかに反撃を・・・」

 

周瑜は、何故程普がここまで慌てているのかよく分からなかった。

 

程普「そ、それが・・・相手が全く止まらないから反撃する暇もな・・・」

 

これに、程普は周瑜の言葉を遮って言おうとしたその途中

 

ドゴーン!ゴォーン!!ドゴォォン!!

 

ガガッガガッ!!バキキバキャ!!ガキャキャ!!

 

程普「きゃあ!」

 

巨大軍船が一斉にぶつかった音が本営に響き、説明が途絶えてしまった。

 

周瑜「な、何だ!?」

 

孫策「な、何の音よこれは!?」

 

これには、孫策と周瑜は人生で一度も聞いた事がない音に驚きを隠せなかった。

それと同時に伝令兵が入って来て

 

「ほ、報告します!!既に我が軍の軍船の凡そ8割が沈没!!既に四万程の犠牲者が出ております!!」

 

報告を聞き、孫策と周瑜は外に出て長江を見てみると

 

孫策「な、何よこれ・・・!」

 

周瑜「・・・!」

 

目の前に広がるのは、純率いる巨大軍船の水上要塞が、孫軍の船を踏み潰すようにどんどんにじり寄っていく光景だった。

この様子に、孫策と周瑜は絶句し、言葉が出なかった。

 

 

 

 

 

秋蘭「放て!!」

 

同時刻、秋蘭が弓隊に矢を放たせると

 

「「「ぎゃあああああ!!」」」

 

ただでさえ巨大軍船にやられているこの状況で矢の雨が降りかかり、犠牲がさらに増していった。

そんな中

 

黄蓋「このままでは終わらぬぞ!」

 

黄蓋は怯む様子を見せず、自らも矢を放つなどして奮闘した。

しかし

 

「「「ぎゃああああ!!」」」

 

「「「うわぁぁぁ!!」」」

 

巨大軍船と矢による二重の猛攻に部下はどんどんやられていき

 

ドシュ!ドシュ!

 

黄蓋「グッ!」

 

黄蓋自身も、肩と脇腹に矢を喰らってしまった。

 

黄蓋「グゥ・・・こ、この黄公覆・・・決して・・・決して斃れはせぬぞ・・・!」

 

それでも、黄蓋は矢を放つのを止めなかった。

 

プツン

 

しかし、遂に弓の弦が切れてしまい

 

黄蓋「グゥ!」

 

それと同タイミングで足と胸に矢を喰らい、誰が見ても分かる程立つのもやっとの満身創痍の状態だった。

しかし

 

黄蓋「ま、まだ、じゃ・・・こ、この・・・黄公覆・・・決して・・・死なぬ!!」

 

黄蓋は剣を抜き、そのまま突撃したのだが

 

ドシュドシュドシュ!!

 

黄蓋「ガハァッ!!」

 

更に全身に矢を浴び

 

ドサァ!!

 

そのまま斃れてしまい、息絶えてしまった。

その様子を見た

 

純「黄公覆・・・孫文台から仕えし宿将・・・見事な最期だ。」

 

純は黄蓋の壮絶な死に様に何かを感じ

 

純「黄蓋の遺体を回収しろ。決して辱めさせるな。もし破ったら、その者の首を刎ねる。」

 

美咲「御意。」

 

美咲に黄蓋の遺体を回収させるよう命令した。

そして、黄蓋の遺体を見るや

 

純「黄公覆・・・敵ながら見事な最期だ。一人の武人として、敬意を表す。」

 

そう言い、拱手した。

そして

 

純「この遺体は手厚く保護しろ。戦が終わり次第、懇ろに葬る。」

 

そう命じると

 

純「もし許しを得るなら、『剛侯』の諡を与えたいものだ。」

 

そのように呟いた。

そして

 

純「よく聞けテメーら!!」

 

純「敵将の誇りある死を心に刻め!」

 

純「その誇りに倣い、俺達も自らの誇りを天に向かって貫き通す!」

 

純「己を信じろ!己を信じる戦友を信じろ!『黄鬚』たる俺を信じろ!そして、覇王たる我が姉曹孟徳に、そして、陸口にて散っていった兄弟に勝利を届けろ!」

 

そう覇気を全面に出して純は将兵達に鼓舞した。

 

「「「おおーっ!!」」」

 

この鼓舞に、全将兵の士気は更に最高潮となり、更なる突撃を開始し、孫軍の軍船を破壊していった。

そして

 

ドォォーン!

 

100隻の軍船全てが、孫軍がいる岸に到着した。

到着するや否や純やその他の将兵全てが上陸し

 

純「はああああっ!!」

 

「「「ギャアアアア!!!」

 

純「うありゃあああっ!!!」

 

「「「うわああああっ!!!」」」

 

純は先頭に立って太刀を振るい、目の前の孫軍の兵士数十人を斬り殺していく勢いで進んでいった。

 

春蘭「うおおおっ!!」

 

秋蘭「純様に遅れるなー!!」

 

霞「よっしゃああっ!!やったるでー!!」

 

翠「皆殺しだぜー!!」

 

剛「皆に遅れるなー!!」

 

哲「行くぞー!!閣下に続けー!!」

 

楼杏「私も続きましょう!!」

 

凪「行くぞー!!純様に遅れるなー!!」

 

真桜「行くでー!!」

 

沙和「なのー!!」

 

これに、他の皆も続いた。

その様子を初めて見た

 

美咲「はは・・・これは凄いね・・・」

 

美咲は引き攣りながら苦笑いを浮かべたが

 

美咲「って、だからって私も遅れるわけにはいかないね!」

 

すぐに切り替え

 

美咲「行くよ!閣下や他の皆に負けない手柄を挙げよう!」

 

突撃していった。

それを見ていた

 

孫策「・・・。」

 

孫策は、唯々呆然と見ていた。

その時

 

太史慈「雪蓮!冥琳!祭殿が・・・討ち死にしたよ!」

 

太史慈が、黄蓋が戦死した事を知らせた。

 

孫策「な、何ですって!?」

 

周瑜「っ!」

 

これに、孫策と周瑜は驚きの表情を浮かべ

 

孫尚香「そんな・・・祭ぃ・・・」

 

後から来た孫尚香は、特に黄蓋を慕っていたため、大粒の涙を零した。

 

孫策「冥琳!残ってる兵を集めなさい!!」

 

孫策は、周瑜に兵を集めろと命令した。

 

周瑜「それは駄目だ、雪蓮!」

 

これに、周瑜は孫策が何をするか察し、肩を取って止めたのだが

 

孫策「離しなさい、冥琳!!祭の仇討ちよ!」

 

孫尚香「姉様!私も行くわ!!冥琳!!そこをどいて!」

 

孫策は聞く耳を持たず、本当に出撃しようとし、孫尚香もそれに続こうとした。

 

周瑜「もう前線は完全に崩壊した!!行っても無駄だ!徒に兵を減らすだけだ!」

 

それでも、周瑜は諦めずに二人を説得し

 

太史慈「雪蓮!お願いだから聞いて!!ここは撤退しよう!」

 

太史慈も、周瑜と一緒に引き揚げて体勢を立て直すよう言った。

 

孫策「け、けど・・・けど・・・!!」

 

孫尚香「イヤイヤイヤ!!祭の仇を取るの!!撤退なんてイヤ!!」

 

しかし、孫策は躊躇い、孫尚香は聞かずに首を横に振った。

 

周瑜「雪蓮!」

 

周瑜は強く孫策の名を言うと

 

孫策「・・・分かったわ!私達は、建業へ退却するわ!!」

 

孫策は悔しさを浮かべた表情で建業撤退を決断した。

 

孫尚香「何で!?何でよ姉様!!祭の・・・祭の仇を取るの!撤退なんてイヤー!!」

 

これに、孫尚香は癇癪を起こして撤退を頑なに嫌がったが

 

程普「小蓮様!失礼します!」

 

程普は孫尚香を俵担ぎにして持ち上げた。

 

孫尚香「いやー!!離して!離してー!!祭の仇を取るの!!」

 

孫策「退却よ!一度建業に戻り、体勢を立て直すわよ!!」

 

そう言い、孫策は残兵を集めて退却した。

彼女らがいた本営の跡地や残っていた軍旗は、純達二十五万の将兵全員に踏みつけられ、ボロボロになっていった。

この戦で、孫軍六万の戦死者を出すという大敗に終わった。

また、彼女らは知らなかった。

自分達の本拠である建業は、既に降伏派によって占拠されてしまい、もう帰る場所が無い事を。

 

 

 

 

 

 

純「テメーら!!まずは勝ったぞー!!」

 

「「「おおおーっ!!!おおおーっ!!!おおおーっ!!!」」」

 

二十五万の将兵の中心に立っていた純は、全身に返り血を浴びた状態ながらも獰猛かつ強烈な覇気を剥き出しにした状態で太刀を天に掲げ、将兵と喜びを分かち合い、将兵も剣や槍を天に掲げ、純と共に喜びを分かち合った。

 

稟「益々の驍勇、お見事にございました。」

 

すると、そこに稟がいつものクールな表情で言いながら現れた。

 

純「おお、稟か!しかし、これは皆が俺を信じてくれ、付いてきて支えてくれたお陰だ!」

 

純「しかし、俺の我儘を聞いてくれて、後押ししてくれたお前のお陰でもある!感謝する!」

 

そう言い、純は全軍将兵は勿論、稟に感謝の言葉をかけた。

 

稟「あり難きお言葉。」

 

これに、稟はクールな笑みを浮かべながら拱手し

 

「「「曹大将軍!!曹大将軍!!曹大将軍!!」」」

 

周りの将兵は、全員そう叫びながら跪き武器を置き拱手した。

 

稟「この戦に勝った事で、少なからず日和見していた者や孫策寄りの者達は、一斉に我らの味方に付きます。」

 

稟のこの言葉を聞き

 

純「この勢いで、一気にカタを付けよう。」

 

純は、そう一言呟いた。

 

秋蘭「では・・・?」

 

純「ああ。俺達の兄弟を殺したその代価を払わせてくれるわ!」

 

そう、純は獰猛な雰囲気を崩さずに答えると、颯爽と馬に乗って

 

純「このまま進撃する!!兄弟達の仇を取り、御霊に捧げるぞ!!」

 

太刀を天に掲げ号令した。

この号令の下、純達二十五万は進撃を開始したのであった。



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