モノクロの旅人達 (アルカトヌ)
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俳人の落語縁

※タイトルに意味はありません


 

『Welcome To ■■■■!!!』という文字とヤギだか羊だかよくわからない生物が前足を上げてウインクをしている。錆びた門につけられたデザインは経年劣化で醜悪なものになっていた。

 

もはや誰も見向きもしないであろうその生き物がアピールをしているのは滑稽に見えてしまう。

 

 

「うん。ここかな」

 

「あっ、着いたんだ。ここがゆうえんち?」

 

「そうそう。管理人がいないから動きはしないけど色々と大規模な遊具があるよ」

 

 

二人の旅人は遊園地の久方ぶりのお客様になりに来た。

黒髪の旅人…ミリアルはボロボロの門につけられた羊っぽい何かに目を輝かせている。

白髪の旅人…アリアルは相方のそんな様子を見て呆れたように声をかけた。

 

 

「ほら、せっかくミリアルが見たいっていうから来たんだ。早く中に入ろうじゃないか。開園時間はもうとっくに過ぎてるよ」

 

「カイエン時間?よくわかんないけどわかった。今行く」

 

「開園時間ってのは開く園の時間。遊園地が運営され始める時間のことだよ。」

 

「なら、運営者がいないから開園も何もないね」

 

 

そう言うとアリアルは笑いながらミリアルを連れて遊園地の中に入っていく。

アリアルに手を引かれたミリアルは門の先にある未知に興味津々でアリアルについていった。

 

久々を客を歓迎するかのように門につけられた非常用の電灯が光をともした。

 

 

「おーー、なんかすっごいね」

 

「うん。思ってたよりも広いみたいだ」

 

 

繁栄人たちが遺した娯楽は錆びてその役割を失っているものの奇怪な造形をした数多の遊具は久方ぶりのお客様を満足させるに至ったらしい

 

 

「アリアル、あの円形の何?あれも遊具の一種?」

 

 

ミリアルはその遊具の中でも一番大きな遊具に興味を抱いた

 

 

「それは観覧車。遊園地っていうのは繁栄人たちが娯楽を得るために自然を犠牲にして作った遊び場だからね。見た目が大きいものが多いんだ。」

 

「なるほど、かんらんしゃかぁ。こんなでっかい鉄の塊で遊ぶなんて繁栄人は怪我とか気にしないのかな。」

 

 

アリアルの説明でこの廃墟がどういう場所だったかを理解したミリアルは心底不思議な様子で言った

 

 

「登ったりするんじゃなくてこの円の部分が軸を中心に回るから、個室の中に入って上からの景色を楽しむのさ。」

 

「あ、そうなんだ。でもこれから落ちたら死にそうだね、危ないや。」

 

「え………あ、まぁ……落ちたら死ぬだろうねぇ………」

 

 

モノをしらないからこその反応にアリアルは苦笑いをした。

 

そんなことを気にも止めず、ミリアルは他の建造物に興味を向ける

 

 

「じゃあ、あのモノレールみたいなのは何なの?角度がすごいことになってるけど…………」

 

 

ミリアルにはその形状は前に一度見たことがあるモノレールのように見えたがその路線は円を描いたり高低差が酷くついていたりしている。

 

 

「あれはモノレールじゃなくてジェットコースターだね。」

 

「じぇっとこーすたーかぁ……なんかあれに乗って移動はしたくないよ」

 

「あれは移動用じゃないよ。体をしっかり固定して、あのレールの上を進む乗り物に乗りながらスリルを楽しむものさ。」

 

「へぇーーー。楽しむ場所なのにスリルを求めるんだね。そのへんの感覚はよくわからないなぁ」

 

 

その言葉にアリアルはにやっと笑う

 

 

「ミリアルは怖いの苦手だもんねw」

 

「そ、そういうのじゃないから!繁栄人みたいに命の危機を娯楽として見れないってだけ!!」

 

「別に昔の人は命の危機を娯楽にしたわけじゃないと思うけどねぇ」

 

「ど、どっちにしてもここじゃまともな物資とかはなさそうかなぁ……。人が住む場所じゃないみたいだし。」

 

 

ミリアルは焦ったように話題をそらす。

アリアルは笑ってからその話題に乗ってあげることにした。

 

 

「そうでもないさ。あっちにはお土産屋さんがある。あそこなら多少はまともなものがあるはずさ。」

 

「お土産かぁ………」

 

「もしかして嫌だったかい?」

 

 

アリアルがそう聞くとミリアルは苦笑いしながら答えた。

 

 

「いや、お土産はクッキーとかばっかりなイメージだからさ。この前行った水族館もお土産、ぬいぐるみとクッキーばっかだったでしょ?」

 

「あぁ、あのときはクッキーをたくさん持ってったね。美味しいって言ってたじゃないか」

 

「いや、いくら美味しくても流石に7日間ずっとクッキーは飽きるでしょ!」

 

 

ミリアルの反論がよほど面白かったのかアリアルは大笑いした。アリアルの笑い声は、喧騒溢れていた遊園地に響き渡った。

 




ミリアルMemo[繁栄人の娯楽]

遊園地:森の中にあった繁栄人のための娯楽施設。たくさんの高い建物のような遊具があって寂れた雰囲気だった。

観覧車:遊園地にある、大きな鉄の輪に個室を無理やり付け加えた遊具(?)。上から景色を見るだけのことが反映人には娯楽になっていたのだろうか?
私の見たものはいくつかの個室が落ちてひしゃげていたが、本来は落ちないらしい。

ジェットコースター:遊園地にある、乗り物であるモノレールから移動要素を取り除きスリルを加えたやつ。繁栄人は命の危機を娯楽として取り入れてたみたい。どれだけ娯楽に飢えていただろうか?それともそれほど安定した暮らしというのは人間を腐らすのだろうか?

遊園地のお土産:やっぱり三分の1くらいクッキー。あとはストラップとかそんな感じ。いくつかストラップで気に入ったのをもらっていった。


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頼んだ死と儒医を。

※タイトルに意味はありません


「いやぁ………壮大だねぇ……。」

 

「うん。こんな大きさは始めてみた。なんでこんなにでかいの?」

 

 

そう言葉をこぼす二人。

眼前には繁栄人が築いた都市群を飲み込んでなお成長を続けたと思われる樹木が鎮座していた。その大樹は二人が頂点を見ようと首を伸ばしてもなお、枝すら見えることがないほどには巨大な大樹であった。

長く旅を続けている二人にとって、繁栄人の残したものによって自然や環境に異常な影響が出ている例は多々見てきたが、その二人をしても感嘆の声をこぼすほどにはそれは異常な光景であった。

 

 

「さぁ?でも、自然の正しい姿が帰ってきたってことじゃないかな?」

 

「うーん……でもなんか違和感があるんだよね、この大樹。まず普通こんなに大きくならないと思うし………。」

 

 

都市を飲み込んだ大樹に対してのんきな感想を言うアリアルに対してミリアルはこの大樹になにか違和感を感じた。

違和感と言ってもなんだかピースが足りないような感覚。特段何がおかしいわけではないのになにかがおかしいように感じたのである。

根拠もなく理論もない。もはや直感とでもいうべきそれが一人で解決されるはずもなくミリアルは首をかしげざるを得なかった。

 

 

「違和感?………うーん、私にはわからないなぁ。でも、どうせ時間はあるし謎解きでもするかい?違和感を当てるためにここを探索しようじゃないか」

 

 

そんな妹の様子を見てアリアルはそう声をかける。気分屋のアリアルにとって平凡な旅なんぞつまらない。疑問を疑問のままにするにはあまり余った時間があるのだから解消すればいいと思っての提案だった。

ミリアルは少し悩んだ素振りを見せて答えた。

 

 

「うん。それも楽しそうかも。」

 

 

こうして旅人の二人はミリアルの違和感の解決と自身の生存のための物資を求めてこの大樹の中へと飲み込まれた荒廃した都市の中へと入っていった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ーーーーーーーー

 

「さて、なんか面白いものでも落ちてないかなぁ」

 

「流石にそんなところに都合よく落ちてるとは思えないんだけど…?」

 

 

二人は無駄口を叩きながら母屋を漁る。

外面がボロボロの割には中の家一つ一つの保存状態はとてもよく、様々な物資が非常にいい状態で放置されていた。

本棚にはよくわからない粒子力学とやらの本が所狭しと並んでいるのが確認できるため、どうやらここはどこかの研究者が住んでいた家のようだ。

 

 

「……あ!」

 

「え?なにかあったの?」

 

 

探索を続けていると急に声を上げたアリアルにミリアルが問う。

 

 

「フフッ。どうやら都合よくなんか落ちてたみたいだね」

 

 

宝探しに成功した子供のような純粋さと悪人のような悪さを含んだ笑みを浮かべたアリアルは自身が調べていた机をどかす。

そこには不自然な取っ手のようなものと床に不自然な切れ目が確認できて、そこに地下の入り口があることを明確に示していた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ーーーーーーーー

 

コツコツ歩く音が二人分と白色灯が照らす無機質な通路に響く。

暖かさなんぞみじんも感じられない機械的な通路をただ黙々と歩く二人の顔は警戒と好奇心が混ざったような顔になっており、ここの存在に何らかの期待をしていたようだった。

 

長い通路を超えた先には広い空間があり、アリアルがそこに踏み入ると同時に侵入者の二人を歓迎するかのように部屋の電気がついた。

部屋の中は様々な機械類が並べられており、何らかの研究がここでなされていたことは間違いないだろう。

 

 

「うわっ……びっくりした。」

 

「自動電灯かぁ。かなり金をかけた施設だね。こりゃぁ、なにかありそうだ」

 

 

アリアルとミリアルは研究所らしきその部屋を見渡す。

しかし威圧感すら感じられるこの機械類を素人である彼女らが完全な理解をなせるはずもなく、アリアルはつまらなそうに視線を書類が束ねられている机へと向けた。

 

 

「っと……?何だろこのボタン」

 

「え、アリアル?まさか押したりしないよね?ね?」

 

「面白そうなボタンがあるなら押すしかないだろう?」

 

「繁栄人の作ったものなんかまともなものがあるわけないんだからやめとこうよ。」

 

「いや!私は押すね!」

 

 

退屈で気が狂いそうになっていたアリアルは刺激を求めて勢いよくボタンを押す。長い間使われていなかったであろうそのボタンはその役目を正しく果たすために、研究所の奥にあった鉄の扉を開放した。

ゆっくりと持ち上げられる扉をアリアルとミリアルはじっと見据える。

その奥には繁栄人の実験による身体の異常発達で空腹に飢えることになったネズミが目の前に現れた餌2つを捉えるために赤く大きな目を光らせていた。

 

 

「うっそーん………。」

 

「あのさぁ……。」

 

 

でかすぎるネズミに二人は絶句した、と同時にふたりとも目配せをする。

 

 

「アリアル」

 

「何も言わなくても言いたいことはわかってる。」

 

「「逃げるぞーーーー!!!!」」

 

 

二人はそのネズミから逃げるために猛ダッシュで研究所から逃げた。

 

 

 

 

 

 

ーーーーーーーー

 

夕日に照らされた原っぱ。赤く染まった原っぱから見る巨大樹に取り込まれた都市群は少し影になっていて、遠目からでもその異様さを際立たせている。

そんな場所でアリアルはミリアルに正座ををさせられていた。

 

 

「で?反省の言葉は?」

 

「………申し訳ございませんでした」

 

「はぁ……ほんとにさぁ……。もっと安全に配慮した行動をしてほしいんだけど?」

 

「ほんとに申し訳ない……」

 

 

アリアルが再度謝るとミリアルはため息をついて都市群の方へ顔を向ける。

アリアルも自然とそちらに顔をむけた。

 

 

「はぁ………アリアルの行動で迷惑かけられたことはこれが最初じゃないしねぇ。」

 

「面目ないなぁ……」

 

「まぁ、あの大きすぎた大樹の謎は解けたね。あのでっかいネズミもどきみたいなのを見た感じ、繁栄人の道具に物体をデカくするなんかがあったんじゃない?」

 

「うん。彼らが何を思ってそれを作ったかはわからないし、失敗作だったのかもしれないけど。まぁ、もう彼らは生きてないだろうし問題はないか。」

 

 

ミリアルは少し哀れんだ目で巨大樹の方を眺める。アリアルは少し目を細めた。

 

 

「なんか自業自得って感じがするね。」

 

「うん、まぁ……本当に………。」

 

「それよりも、アリアルのせいで今日の寝床が消えたんだから、いい場所探しといてよ?」

 

「うっ……。わかったよ…。」

 

 

二人は都市群に背を向けて歩いてった。

巨木に呑まれた都市郡は二人の旅人を静かに送り出した




ミリアル'sMemo [都市を呑んだ大樹]

大樹:ものすごくでかい木。どうやら反映人の使った薬によってデカくなったみたい、予想でしかないけど。自分たちが作った薬で自分たちの繁栄の証が壊れるなんてなんだか自業自得って感じがする。

研究所:どっかのアホが化け物開放したせいで探索があんまりできなかった。無機質すぎて少し怖く感じた。

大きなネズミ:ものすごくやせ細っていた。多分大きくなる薬かなんかをかけられたんだと思う。あくまで予想でしかないから違うかもしれないけど。閉じ込めた側は責任も果たさず死んだんだからネズミが可愛そうとも思ってしまう。まぁ、餌になる気はないけど。


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火もなお、熱のあとで。

※タイトルに意味は多分ありません


雨が上がりきれいな日の光が見える清々しい日にボロボロの小屋を探索している二人の旅人がいた。

 

「おお!こんなものが落ちてるのか。」

 

「どうしたの?」

 

 

旅人の一人、アリアルは小屋の中に珍しいものを発見する。

 

 

「いや、花火玉がたくさんおいてあってね。」

 

「はなびだま?なにそれ」

 

「簡単に言うと花火を出すやつ。」

 

「あー、前にアリアルが言ってたやつか。夜に打ち上げられてるのがきれいだって言ってたね」

 

「そうだよ、とってもきれいなんだ。」

 

 

そんな話をしているとアリアルはふとあるものを見つけ一つの名案を思いついた。

 

 

「そうだ!せっかくだし見てみるかい?」

 

 

また突飛な提案をした姉にミリアルは呆れ気味に返す。

 

 

「いや、見てみたいけどさ。確か花火って元は火薬でしょ?」

 

「そうだよ。」

 

「いや、危なくない?」

 

「危なくはないよ。」

 

「ほんとに?」

 

「ほんとほんと。アリアルウソツカナイ。それに彼らの残した道具もあるみたいだしね。」

 

「前科持ちがなんか言ってるよ……。ほんとにできるんでしょうね?」

 

「これぐらい余裕さ。」

 

 

ミリアルはドレだけ安全面の確認や機能面、技術面の確認をしても自信満々にできると答えるアリアルを信頼してみることにした。

 

 

「ふーん。じゃあ私はあたりの探索をしとくから。夜を楽しみにしてるね。」

 

「まかせてくれ。」

 

 

アリアルの自信満々な声を背にミリアルはその小屋を出てあたりの探索を始めた。

 

 

 

 

 

 

ーーーーーーーー

 

「さて、準備ができたよ。」

 

 

夜。小屋から離れた場所で座って休憩していたミリアルにアリアルは駆け寄っていった。

 

 

「花火の場所から離れてて大丈夫なの?」

 

「もちろん。彼らの作った機械は無駄に優秀だからね、時間に合わせてで映し出すのなんて簡単なことさ。」

 

 

ミリアルの素朴な疑問にアリアルは昼と変わらない様子で自信満々に答える。

 

 

「なるほどぉ………。なんか私達の旅道具にもそういう便利なのがほしいなぁ……。」

 

「やめときな。それで少し前に彼らの作り上げたものを壊したばかりだろう?」

 

 

アリアルは少し前にミリアルが持ってきたオートクッキングの装置がすぐに壊れたことを指摘する。

それでもミリアルは諦めきれないようだ。

 

 

「それはそうだけどさ、あれはあれで便利だったでしょ?ずっと火をつけるのが大変な生活のまんまなのは疲れるよ………。」

 

 

ミリアルがそう言うとアリアルは少し目を細めてミリアルを見たかと思うと話題を変えた。

 

 

「まぁまぁ。それよりほら、そろそろ始まると思うよ。設定が完璧なら……。」

 

パァーーン!

と、花火の特徴的な音が聞こえると同時に空に花が描かれた。

 

 

「ほら、始まった。」

 

「きれい………。」

 

 

ミリアルは初めて見る花火に感動した。

その様子にアリアルはフフッと笑いをこぼす。

 

 

「いやーかなりの年数たってたから失敗するかと思ってたけど、うまく動いてるみたいだね。良かった良かった。」

 

 

そんなことを行っている間にも空にはハートや土星、スマイルなんかの模様が次々描き出されている。

 

 

「形が色々あるんだね。」

 

「昔の花火師である彼らが頑張って作り上げたものからとっているからね。きっと彼らも使われたことに喜んでいると思うよ。」

 

「そうだといいなぁ」

 

 

空に描かれる花火の鑑賞会は花火師の思いを乗せるかのように長く、長く続いた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ーーーーーーーー

 

 

彩り鮮やかに彩られていた夜空は、花の先終わりと同時にいつもと寸分変わりのない景色へと切り替わった。

 

先程までの騒ぎがまるで嘘だったかのように夜空は澄み渡っている。

 

 

「終わっちゃったね。」

 

「そうだねぇ……」

 

「なんだかきれいだけど儚い。そんな感じがした。」

 

「そうだねぇ………」

 

「ねぇ、アリアル?」

 

「どうしたの?ミリアル」

 

「あれほんとに花火だったの?」

 

「うん。あれは“花火”だよ。」

 

「そっか。“花火”ってきれいだね。」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ーーーーーーー

 

動くものはみな寝静まった真夜中に、ボロボロになった小屋の中には人影があった。

 

 

「ありがとうございました。」

 

 

そう、小屋の中でつぶやいた彼女の手にある小さな立体映像媒体が、部屋の中に先程夜を彩った華を映し出している。

彼女は愛おしそうにもう使うことのできない花火玉を撫でたあと、その上に映像機体と一輪の花を置いた。

 

 

「じゃあ、おやすみなさい。」

 

 

花火玉の上に飾られた白色のダリアは花火師を称えるかのように優美に咲いていた。




ミリアル's Memo[姉と夏のおもいで]

花火玉:火薬がたくさん詰まった球状のもの。アリアル曰く3、6、10、30、40の5つの大きさがあるらしい。
火花を当たりに散らして空に模様付けしているらしく、炎色反応という繁栄人の作ったルールに則って火花に色がつくと言っていた。
打ち上がった“花火”はすごくきれいだった。

花火師:空へ打ち上げる花火をつくる繁栄人達の総称。彼らの描きたかったものこそが私の見た花火だったのかもしれないと思うと、なんだか花火が愛しくなった。 

ダリア:花火師の家の近くの花畑にあった花の一つ。赤色・オレンジ色・黄色・白色・ピンク色・藤色・ボタン色・紫色等の色んな種類があるとアリアルが言っていた。
アリアルは白いダリアを一輪持ってたけど、いっつも白色基調の服を着ているし、白いダリアが好きなのかな?


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初志蔵匿

※タイトルはなんも関係ありません


快晴とでもいうべき雲ひとつない青空の下、そびえ立つコンクリートビル群をのんびりと歩いている二人の旅人が見えた。

 

 

「なんかおかしくない?」

 

「うん、おかしいね。明らかに」

 

 

黒髪の旅人ミリアルが白髪の旅人アリアルに疑問点を尋ねるとふたりとも同じことを思っていたようで肯定の回答がかえってきた。

 

 

「やっぱり?」

 

「あぁ……。新しすぎる。ちょっと前までは経年劣化した建物ばかりだったのに、徐々に新しくなってるような………そんな感覚だ。」

 

 

述べている通り二人の周りにそびえ立つ建物は明らかに築30年も立っていないぐらいきれいに見えた。

 

 

「あと、この街広すぎない?明らかに広すぎると思うんだけど。そろそろ三日目だよ?」

 

「うん、そろそろ食料も危ない。建物の中に全く物資がないと思わなかったよ………。どうしよう?そろそろ私達干からびると思うんだけど。」

 

「どうしようも何も、この街を抜けてくしか方法なくないんだよね………。」

 

 

ミリあるがそう答えて、二人がすこしずつ前に進んでいくと明らかにおかしい建てられ方をした建物を発見した。

 

 

「え、これどうなってるの?」

 

「お、おぅ……?さすがの私もこんなのは初めて見たぞ?」

 

 

その建物は崩れ落ちた別の建物を潰すかのように立っており、まるで廃墟となった街を無理やり上書きしたかのような立ち方をしている。

 

 

「なにこれ…?無人で勝手に建物が立ったってことなのかな?」

 

「無人で建物………?」

 

 

無人で建物が立つ。このワードになにか引っかかったアリアルは少し考えた後、焦ったように街の奥の方へ目を向けた。

 

 

「なるほど、ピースが集まった。」

 

「え?どうしたの?」

 

「いや、ちょっとまずいことが起きてる気がするから早めに街の端っこにいくべきだ。」

 

「え、ちょっと?どうして?」

 

「多分下手すると永遠に街から出れなくなるぞ」

 

「え、えぇ??」

 

 

困惑するミリアルをおいて、アリアルは猛ダッシュで街の出口と思われる方向に走っていった

 

 

「あ、ちょっとまって!」

 

 

おいていかれたミリアルは焦ってアリアルを追いかけた。

 

 

 

 

 

 

 

ーーーーーーーー

 

 

息を切らしてミリアルがアリアルを追いかけると、アリアルは街の終わりに立っている骨組みのようなものを睨みつけていた。

 

「はぁ……はぁ………ちょっとアリアル!いい加減説明をしてほしいんだけど?」

 

「あぁ、ごめんね。ちょうど元凶も見つけたし説明しようじゃないか。」

 

 

アリアルはミリアルに気づくと申し訳無さそうに笑い、元凶とやらの説明を始めた。

 

 

「仮定の話だったんだけどねぇ………。たぶん、この街は彼らの開発した3Dプリンターによる自動生成で住処を創っていたんだと思う。」

 

「すりーでぃーぷりんたー?」

 

「うん。言うなれば素材と図面だけあれば勝手にものを作ることができる技術。それの究極系の一つがあの機械だよ」

 

 

そうアリアルが言った途端、後ろの骨組みのようなものの周りに空を飛ぶ機械が舞い、一瞬にして建物へ成り代わった。

アリアルはそれを憎々しげににらみつけ、ミリアルはただただ驚くだけだった。

 

 

「うわっ………建物が勝手に出来上がった?」

 

「……そう、あれが多分無限に建物を作り上げ続けているんだと思う。」

 

「だからアリアルは街から出れないって言ってたのか。でもそんなに焦ることなかったんじゃない?」

 

「いやまぁ、一応ね。あれを放置しておくと最悪の場合、地球をビル群の塊に戻されてしまうかもしれない。」

 

 

ミリアルはただでさえ繁栄人の意味のわからない瓦礫だらけの野原なのに、その上から高い無機質な塔がそびえ立つ様子を想像して顔をしかめた

 

 

「うわぁ………。どうにかできるの?」

 

「いや、普通なら無理。多分自動修繕機能付きだから文字通り無限に動き続けれるよ。アレは。」

 

「え?じゃあどうするの?」

 

「こうするのさ!!」

 

 

アリアルは大きな声で答えると右手に集中し力を集めた。

アリアルの手元に集まっているナニカは明らかに禍々しい雰囲気を漂わせており、アリアルはそれを躊躇なく元凶の機械へとぶち当てた。

ミリアルはその行動に対して怒る。

 

 

「なにしてるの!!!魔法を使うのは禁止ってこの前言ったじゃん!!!!」

 

「いや今回は仕方ないんだって!」

 

 

後ろでクソでかい爆発音がする中、さっきまでのかっこいい雰囲気をぶん投げてアリアルはミリアルに謝る。

姉にまさる妹はいない?そんなことはない。怒っている妹に勝てる姉はいないのである。少なくともアリアルが知る限りでは。

 

 

「……………はぁ……。とりあえず解決はしたのね?」

 

「まぁ、もちろん。」

 

 

ひとしきり怒ったあとミリアルはアリアルに疑問を投げかけ、アリアルは自信満々に答える。

解決したのはいいが、無茶な行動をしたアリアルがミリアルの結局怒られる。

さっきまでの緊迫した空気はさっぱりなくなっていた。

 

ひたすらに肥大した都市の中で呆れ果てる黒髪の旅人と謝り続ける白髪の旅人がいた。




ミリアル's Memo[増殖都市]

立ち並ぶビル:結局よくわからないまんまだった。アリアルの説明が足りないのが悪い。元凶がぶっ壊れたから多分大丈夫とはアリアルの言。こういうことに関してはアリアルは信用できる。………と思う。

魔法:アリアルだけが使える不思議なパワー。便宜上私は魔法と言っている。私にはできなかった。これを使うとアリアル自身の寿命が少し縮まるらしく、あまり使いたがらない。今回は仕方ないにしても、もっと方法があったでしょ………。


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次の向かい先

※タイトル詐欺はしてません


しんしんと雪が降る荒野の真ん中でテントを貼った旅人二人は、明日の予定について話し合っている。

 

 

「ねぇ、ミリアル?次は東の方に見えた洞窟に入ってみないかい?」

 

「いや、北の方に雪山が見えたしそっちの方へ行こうよ。洞窟に出口があるかわかんないし、陥落したら生き埋めだよ?」

 

 

どうやらアリアルは洞窟へ、ミリアルは雪山へ行きたいらしく二人しかいないテントの中では話し合いで決めるしか方法はなかった。

 

 

「でもさ、洞窟なら宝石とか骨董品とかあるかもじゃん?」

 

「ないでしょ。そんなのあったら繁栄人がとっくに盗ってるよ。繁栄人たちは強欲なんだから。」

 

「彼らも可愛そうな言われようだねぇ。雪山だって登るにしても寒さと体力切れによる死亡の可能性があると思わないかい?」

 

「そんなこと言うなら一番安全なのは洞窟にも雪山にもいかずにそのへんの安全そうな道を探すのが一番じゃん。」

 

 

ミリアルの言うとおりである。しかし、長く旅をしている二人は安全策など飽き飽きしており、危険かつ冒険心がくすぐられる方へ意見が傾き、またお互いに意見を曲げるつもりは微塵もなかった

 

 

「たしかに………、ミリアルは天才かい?」

 

 

アリアルはあたかも今気づきましたとでもいうかのように大げさに反応する。

アリアルの意図が透けて見えたミリアルは目を細めて言った。

 

 

「………おだてても私の意見は変えないからね」

 

「だめかぁ………。」

 

「駄目に決まってるでしょ!!そんなにちょろいと思われてるのかな私。」

 

 

作戦がうまくいかずしょんぼりするアリアルに対して、自分が流されやすいのかと不安になってしまうミリアル。

 

 

「思われるも何もここには今私しかいなくて私がミリアルのことをちょろいと思ってるから、満場一致でミリアルはチョロいんだよ。」

 

「満場一致って言葉で一人だけのことはないと思うんだけど」

 

「いや、今私がその状況を作っているから問題はないね」

 

「問題しかないよ?」

 

「それはミリアルにとって不都合だからだろう?不都合だからって遠ざけようとすると彼らみたいになってしまうよ?」

 

 

アリアルはもっともらしいことを行ってミリアルを説得しようとする。

ミリアルは自身の姉のイメージの中の自分はどれだけ流されやすいのかと気が滅入った。

 

 

「いや、だから騙されないからね?」

 

「うーん、駄目かぁ………」

 

「駄目だよ。というか、私のことちょろいって思ってるのはアリアルだけだよ。」

 

「だってそれは私しか……、」

 

「もういいから。」

 

 

また屁理屈を並べようとしたアリアルをミリアルが一刀両断する。

 

 

「ひどい!」

 

 

徐々に雪が積もってきた雪原とでもいうべき場所に、アリアルの情けない声が響いた。

 

旅の途中のなんてことない雑談。

平穏を噛み締めている二人の旅人の話である。




アリアル's Memo [寒い夏季の次]

結局、ミリアルは一切折れてくれなくて雪山を登ることになったよ。
ミリアルにはやっぱり勝てないね…………。
言葉を紡ぐ彼女らも妹のほうが強いらしいし、姉の定めってものなのだろうか………。

はぁ…………寒いのは苦手なんだ。手が凍りそうになってしまう。凍るなんてありえはしないんだけどね。


追記:雪山で雪崩にあって結局洞窟に入ることになった。雪崩があっても別に雪山にのぼれないことはなかったんだけども、私が雪崩に巻き込まれるとは………。
洞窟に入ることはできたけど、嬉しいような悲しいような……………。複雑だよ。


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四季を変えて彼眠る。

※タイトルなんて知りません


崩れ落ちて原型をとどめていないビル群を超えて二人の旅人は博物館をめざしていた。

彼女らが来た方法にある街の経路案内の看板はすでに自立できず倒れていたがどうやら役目を果たすことはできていたようだった。

 

 

「これが博物館か。実際にこんなきれいに残ってるのを見るのは初めてかもな。」

 

 

眼の前に見えた大きく、芸術的な建物を見てアリアルはそう声を漏らす。アリアルの後ろからついてきたミリアルは周りの瓦礫だらけの景色と違う西洋風の建物が見えて驚いているようだ。

 

 

「それで?ついたみたいだけど入るかい?」

 

「入ろうかな。きょうりゅう?の化石があるんでしょ?きょうりゅうがなにか知りたいし。」

 

 

「ここにあるとは限らないとんだけどなぁ………。」

 

「まぁまぁ、何があるのかも気になるし。」

 

 

期待に答えられるか心配になり困り顔のアリアルと、少し楽しそうなミリアルは博物館の中へと入っていった。

 

 

 

 

 

 

 

ーーーーーーーー 

 

中に入るとそこは開けたエントランスのような形になっていて二階へ続く階段が壊れているのが見えた。

 

 

「あー残念、ここは恐竜の化石とかが飾られてるタイプの博物館じゃないみたいだ。」

 

「入るだけでわかるものなの?」

 

「大体ね。飾られてるものが化石とかの展示室構造っぽくないんだよね。」

 

 

そう言うとミリアルは少し落ち込んだ様子を見せる。

 

 

「えーそっか。ちょっと残念かも。なら、ここは何が飾られてるの?」

 

「美術品とかじゃないかな?」

 

「適当すぎない?」

 

「そりゃ、ここのことをほぼ知らないしなぁ。」

 

「まぁ確かにここのことを網羅してたら私はアリアルのことドン引きするけどね。」

 

「ハハッ、知らなくてよかったかもしれないね。」

 

 

そんなくだらない話をしているとアリアルはぐちゃぐちゃになった博物館のパンフレットのようなものを見つけた

 

 

「おっと、パンフレットが落ちてたよ。うーん、経年劣化がひどくて読ないけどいるかい?」

 

「流石にいらないよ。実用性もあったもんじゃない。かさばるだけじゃない」

 

「そう言われればそれまでだね。」

 

 

正論で返され少し残念に思いつつも、アリアルはミリアルとともに展示室と思われる方向へと向かった。

 

 

 

 

 

 

 

 

ーーーーーーーー

 

展示室へ入るといくつかのガラスケースは粉々に砕けており歩くのが難しく感じるレベルには破片が散らばっていた。

 

「これ、危ないね。」

 

「うーん、中だけ局所的にボロボロになることはないと思うんだけどなぁ……?」

 

 

アリアルは壊れたガラスケースのところに展示品紹介の立て札を見つけ、壊れたものにはすべて宝石やら黄金やらと書かれていることがわかりなぜ、ガラスが割れてるかを理解した。

そんなアリアルを横目にミリアルは無事だった展示品をながめている。

 

 

「なんか、よくわからない絵が多いね。あとは服?ぼろぼろすきて使えそうにないけど。」

 

「ん?あぁ………多分だけどここは歴史保存館なんだと思うよ。彼らが繁栄すまでの過程が遺されているみたいだし。」

 

 

辺りの古風な巻物や屏風を見てミリアルは首を傾げる。

アリアルはこの建物の権能を説明するが見リアルにはピンとこない内容だったみたいで再び首を傾げることとなった。

 

 

「なんで?繁栄人に過去を振り返るとかそんな必要ないと思うんだけど?」

 

「彼らの中にも、過去が消えることを是としない人は多かったというとさ。」

 

「そんなイメージがないんだよねぇ。」

 

 

そう言ったミリアルにアリアルは真面目な顔をして説明を始める。

 

 

「彼らは効率を求めたからね。もし、過去が消えてしまったら、過去にした失敗と全く同じ失敗も何度もしてしまう可能性がある。だから過去を遺そうとしたと考えてみるとしっくりくるんじゃないかな。」

 

「なるほどねぇ……。同じ失敗をしないためか。過去から学んで今に至るっていう、思想自体はあったんだね。」

 

「まあ、あっただろうね。それで、どうする?もっと見ていくかい?」

 

 

アリアルからそう聞かれすこし悩むミリアル。ミリアルは繁栄人が嫌いだからこそ彼らの歴史などに興味はない。しかし、アリアルの言うこともわかるからこそ彼らの歴史に価値を見いだせた。そんな狭間での悩みだった。

 

 

「うん、やっぱりあんまり興味はないかな」

 

「でも、あっちの方の蔵書っぽいところから何冊か歴史書を持っていきたい。」

 

 

ミリアルらしからぬ結論を出したことに驚いたアリアルはつい聞いてしまった。

 

 

「………なにか思うところでもあったのかい?」

 

「そういうのは聞かないでいるものだと思うんだけど?」

 

「私は無粋だからね。」

 

「はぁ…………。」 

 

 

堂々と自分の無粋さを認めてなお何故かドヤ顔をしている姉にさっきまでの悩みなんか忘れてしまうほどに呆れてしまった。

 

 

「ただ、繁栄人と同じ道なんて進みたくないだけだから。誰かが伝えないと、繁栄人達の進んだ成果は無駄になるんでしょ?」

 

「繁栄人のことは嫌いだけど、そんな人たちがいるから私が生きてるんだろうし。そのまま消えるよりは私が持ってたほうがいくらか有意義だってだけ!」

 

 

言ってて恥ずかしくなったのか、ミリアルは顔を赤くした。アリアルはそれを見て笑ってしまった。

 

 

「ふふっ………ミリアルは優しいね。あいつを思い出すよ。」

 

「もう……さっさといこ!」

 

「はいはい、いこうか。きっと彼らも多少は報われると思うよ」

 

 

博物館にすこし場違いな大きめな音が響く。少しあと、久しぶりの客を見送った博物館はまた、歴史を抱えて長い、長い眠りについた。

 




ミリアル's Memo[歴史を抱えて眠る]

博物館:コンクリートの瓦礫の中で唯一まともに建っていた建物。キョウリュウがあったり、絵画があったりするらしい。今回は繁栄人の歩んだ道がわかりやすく並べられてるタイプだったそう。

歴史書:これからの旅の中でのんびりと読んでいこうと思う。すこしだけ……楽しみ。


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便利の多々世界

※タイトルは関係ないけど新しいキャラを出します


崩れ去って、もはや文明のかけらも見えない都市の跡地で、倒れた並木の一つに腰を掛け、座る黒い旅人と何かを白い鳩に託し飛ばした白い旅人の姿が見えた。

 

黒い旅人、ミリアルはアリアルが鳩を通して手紙のやり取りをしてるのを知っていたが、何を誰とやり取りしてるのかは知らず、気になったアリアルは聞いてみることにした。

 

 

「ねぇねぇ、アリアルって偶に誰かとやり取りしてるみたいだけどさ、誰とやり取りしてるの?」

 

 

遠くに飛んでいく鳩を見送るかのように視線を向けていたアリアルはミリアルからの質問を聞いてそちらに意識を向けた。

 

 

「ん?あぁ………。この世界で生きてる私の知り合い?みたいなものさ。さっきのはコトノハに当てた文書だね」

 

「コトノハさん?会ったりしにいかないの?」

 

「最近はあんまりだね。ほとんど旅で時間を使っていたから。旅の記録とかを雑にまとめて送りつけているんだ」

 

 

アリアルはこともなげにいうが、ミリアルはアリアルの知り合いという存在に興味津々だ。

 

 

「ねぇねぇ、アリアル?その、コトノハさんとかに私も会ってみたいんだけど……。」

 

「んー、ならコトノハに聞いてみようかな。たぶんアイツなら快く会ってくれると思うよ。というか、定住してるのはあいつぐらいだしね」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ーーーーーーーー

 

数日後、アリアルの案内でミリアルはコトノハと合うことになった。

目的の場所へ行くとそこは山の中のこじんまりとした小屋のようで、和の空気を醸し出していた。

 

アリアルがその家に向かって大きく声をかける

 

 

「おーい!久しぶりだねコトノハ。元気してるかい?」

 

 

その声に反応したのか小屋の中から二人の女性が出てきた。容姿は瓜二つで、片方が赤髪を後ろでまとめた女性。その後ろから青髪を乱雑に伸ばした女性の姿が見える。

 

 

「おぉ!久しぶりやなアリアル!何年ぶりぐらいやろか。」

 

「お久し振りですアリアルさん。妹の葵です。あっちは姉の茜。その子が私たちに会いたいと言っていた子ですか?」

 

「そうそう。私の義妹のミリアル。」

 

 

朗らかに笑う赤髪の女性は茜。その後ろから来ていた青髪の女性は葵といい、姉妹だという。 

急に話を振られたミリアルは緊張しながら二人へ挨拶をする。

 

 

「は、はじめましてコトノハさん。いつも姉がお世話になっています……。」

 

 

ミリアルがそう挨拶すると、茜はおかしそうに笑って答えた。

 

 

「あぁ、気にせんでええ、気にせんでええ。そいつの放浪癖とか今に始まったことじゃないからな」

 

「そうです。アリアルさんの旅好きは昔からずっとなんですから。多分猫かなんかの生まれ変わりなんですよ。」

 

「ひどい言いようじゃないか…。流石の言い草にアリアルさんは涙が止まらなくなってしまうよ?」

 

「はいはい、わかったから。ずっと外なのも変やし上がっていき。ごっつ美味いもん集めといてるから。葵の料理は美味しいから期待しててええで。」

 

「腕によりをかけて作ったので。お二人もぜひ召し上がっていってください。」

 

 

茜と葵とアリアルの自然な会話の流れにミリアルはこの人たちは本当にアリアルと仲がいいんだなぁ……と少しズレた感銘を受けていた

 

 

「ありがとうございます。上がらせていただきますね。」

 

「ふぅ……申し訳ないね。ありがとう葵。」

 

「なぁなぁ、アリアル?うちに感謝は?」

 

「茜だしいらないでしょ」

 

「アリアルゥ!!!」

 

 

コトノハの家の前でくだらない話をしながら、四人は中へと入っていった。

 

 

 

 

 

 

 

 

ーーーーーーーー

 

茜と葵が次々と料理をおいていき、コトノハ宅はまるでパーティー会場かと思うほどに豪華になっていった。

 

アリアルが料理に舌鼓を打つ中ミリアルは気になっていたことを茜と葵に聞いてみることにした。

 

 

「そういえば、義姉からお二人は語り部だと聞いたんですが、語り部って一体何なんです?」

 

「あれ、アリアルから聞いてないんか?」

 

 

茜はアリアルに話を振る。アリアルは口に含んでいた唐揚げを飲み込んで答えた。

 

 

「まぁね。私が話をするよりも直接聞いたほうがわかりやすいだろう?」

 

「んー、うちは説明ベタやからなぁ……葵?」

 

 

茜は節米に少し悩んだ後に、妹に丸投げにすることにした。料理の片付けをしていた葵は片付けを茜に任せ、説明をすることにする。

 

 

「はいはい、わかったよおねーちゃん。これ運んどいて?」

 

「はいはい。」

 

「じゃあ、ミリアルさん。姉に変わって私が説明しますね?」

 

「あ、はい。……お願いします。」

 

「と言っても、実は語り部っていうのは基本的にナーンもしません。」

 

 

説明をするといったあとの一言目から衝撃の事実を聞かされ驚くミリアル。

 

 

「え?そうなんですか?」

 

 

思っていたより良い反応をするミリアルに、葵は少しだけ笑って、理由を説明した。

 

 

「えぇ、そうなんです。ほんとに何もしてないですよ。理由もしっかりあって、基本的に私達が何かをするのは生きている人に対してだからなんですよね。」

 

「というと…?」

 

「私達はコトノハ。名は体を表すといいますしそれはミリアルさん達が一番わかると思うんですが、私達は“言葉”なんです。未来を生きている人たちに今を伝える。または、今を生きてる人たちに過去を伝えます。」

 

 

葵が説明してもミリアルの頭の中にははてなマークが回っていた。その様子を見て難しく説明しすぎたと葵は苦笑いをする。

 

「ごめんなさい、ちょっと分かりづらかったですかね。簡単に言うと生きる博物館みたいな感じです。この前お二人で博物館の残骸へ行ったのでしょう?」

 

 

ミリアルは首を降る。いつも以上に真剣に話を聞くミリアルを見ていたアリアルは何が面白かったのか笑っていた。

 

 

「博物館は実際のモノで視覚的に歴史を説明しますが、私達は言葉を紡いで相手の人に対して歴史を聴覚的に説明するんです。」

 

 

葵の説明に、アリアルと片付けを終えた茜が補足を加える。

 

 

「この前言っただろう?歴史がないと同じ過ちを繰り返すって。茜と葵がいないと私達は過去をしれなくなってしまうかもしれないからね。必要なんだよ、コトノハは。」

 

「そーゆーこっちゃ。人がおらんと仕事にならんからなぁ………あんまりすることはなくても一応必要な存在と言われたら、ここにおるしかないからな。」

 

「まぁ、そんな感じです。伝わりましたかね……?」

 

「なんとなく。本人から直接聞いてなんだか勉強になりました。」

 

「それなら良かったです。」

 

先ほどとは違いしっかり伝わった様子のミリアルを見て葵は笑顔を浮かべた。

 

その後もたくさんの話をしていって、言の葉の二人と白黒の二人の夜は更けていった。

 

 

 

 

 

 

 

ーーーーーーーーー

 

満月が輝き、明るい夜にコトノハ宅から出ていこうとするアリアルたちとそれを送る茜たちの姿がみえた。

 

 

「それじゃあ、私達は満月が出てるうちにお暇することにするよ。久しぶりに会えてよかった。」

 

「食事とお話ありがとうございます。」

 

「いえいえ、また来てくださいね。」

 

 

そう葵が返す中茜は対象的に不貞腐れたかのような態度で言った。

 

 

「あーあ、せっかくなら止まってけばええんに。」

 

「無理だよおねーちゃん、アリアルさんは放浪癖のある変人なんだから家に居ようとすると体が爆発しちゃう。」

 

 

葵は茜に対してフォローをしながらしれっとアリアルのことを馬鹿にした。

 

 

「いや、流石にそんなことはないからね?」

 

「いや、アリアルならありえるでしょ。」

 

「ミリアル???」

 

アリアルは思わぬところからの追撃に驚く。

ミリアルは別に日頃の恨みが溜まっていたわけではない。たぶん。

 

そんな様子を見ていた姉は大笑いをしてあリアルに声をかける。

 

 

「ハッハッハ!!おもろいなぁあんたの妹。二人の名も良さそうやし………あんたに預けても大丈夫そうや。」

 

「それなら良かったよ。私も“琴葉”ってのはいい字だと思うよ。」

 

 

アリアルがそう返すと茜は嬉しそうに頬を緩めた。

 

 

「そう言ってくれてよかったわ。葵と一緒に結構考えたんやで?」

 

 

二人でそんな話をしていると葵から声がかかる。そろそろ別れのときが来たみたいだ。空を見ると満月は雲の後ろに隠れようとしていた。

 

 

「ほな、またなお二人さん!」

 

「またいつでも来てください。お二人の旅路の無事を祈ってます。」

 

「ああ、またね茜、葵。」

 

「ほんとにありがとーございました!!」

 

 

こうして二人の旅人と二人の語り部の楽しい晩餐は終わりを告げた。二人の旅人と語り部は互いに姿が見えなくなるまで手を振り続けた。

 

二人の旅人と語り部の姉妹が対面したこの日。語り部の語る話には旅人達とのくだらない雑談がその日から追加され、旅人たちには友好関係と少しの物資が追加された。

 




ミリアル'sMemo[丹青の語り部]

手紙:30日に一度ぐらいのペースでアリアルが書いているもの。中を見たことはない。今回の茜さん、葵さん以外にも数人手紙をおくってる人がいるらしい。
伝書鳩っていうので相手に届くらしい。

琴葉茜さん:赤い髪をした女性。少し変わったイントネーションで話していておおらかな性格だったように思えた。アリアルの知り合いであるコトノハさんの一人。語り部をしていて葵さんのおねーさんらしい。
茜さんが基本的に人に話をするらしいけれど、最近は野蛮な人が多くて困っているらしい。コトノハ宅には武器なんかが少ないと言っていた。いくつか武器をあげたのでぜひ有効活用してほしい。
…………姉が妹を守ろうとするのはどこの世界でも変わんないみたいだ。


琴葉葵さん:青い髪をした女性。しっかりものな雰囲気をしていて、丁寧な方だった。茜さんと同じ語り部で茜さんの妹。実は怖いのが苦手だと茜さんが言っていた。
葵さんの茜さん呼び方は私達の前では“姉”だったけど、茜さん相手だと茜さんのことをおねーちゃんとよんでいてびっくりした。今度アリアルにもやってみようかな………


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普遍の懐古

*久しぶりですね。僕は久しぶりだと思います


雨が降りしきる梅雨を超え、少しずつ太陽が仕事を再開し始めた日の夜。ミリアルはビル群を進む途中で急に倒れてしまったアリアルの看病をしていた。

 

 

「ねぇ、アリアル?大丈夫?」

 

「う……?あぅ…」

 

 

ミリアルが声をかけるが、発熱による症状なのか言葉になっていない喘ぎをだすアリアル。それを見て心配になるミリアル。

 

 

「……失敗だったかなぁ。やっぱり夏場にビル街に行くべきじゃなかったかもね。」

 

「あ………、うん……。」

 

 

そうつぶやきながらミリアルはテキパキとアリアルの病状を確認する。

旅人だからこそその手際は非常にスムーズであり、現役の看護師や医者がいたらきっと驚くことだろう。

 

 

「うーん、意識の混濁に目眩と発熱かぁ。……たぶん熱射病だろうね。夏になってるし気をつけなきゃだなぁ。」

 

「あぇ……?あぁ……」

 

「はぁ……。アリアルはもう静かにしていて。これ以上無理したら怒るから。」

 

 

アリアルの瞳は不安げにゆれており、焦点は合わなくなっているようにも見えるが、ミリアルの声を聴くと眠るかのように目を閉じた

 

 

「……ね、アリアル。前に私がインフルエンザ…?にかかったときにさ。アリアルがずっと付ききっきりで面倒見てくれたよね。」

 

 

ミリアルはいつもと違ったアリアルの姿をいつくしむように眺めながら話を続ける。

 

 

「あのときには食料も少なかったってのにお粥をわざわざ作ってくれて。」

 

「あのときのおかゆの材料は酷かったなあ……。都市部で拾った香辛料と、古米、あとは山菜だったっけ。」

 

「お粥って割には味が濃かったイメージがあるんだよねぇ………」

 

 

当時出てきた濃い味のおかゆを思い出して、ミリアルは苦笑交じりにアリアルに告げた。

 

 

「でも、すっごく嬉しかった。」

 

 

ミリアルの中ではずっと記憶の中に残っている大切な思い出の一つ。アリアルの看病を続けていると昔看病をしてくれていた姉の姿と自身を重ねてしまう。

ミリアルはアリアルの頭に手を伸ばし撫でながら話を続けた。

 

 

「心配してくれる人がいるのってすっごく幸せなことだって思ったんだ。」

 

「アリアル。ありがとう。」

 

「あなたが居るから私は今ここに居れるよ。」

 

 

そう告げてアリアルの方を見るとアリアルの胸は規則的に上下していた。アリアルが眠っている証拠だろう。

 

 

「寝ちゃってたか。」

 

 

眠っているアリアルを横目にミリアルは明かり1つない曇天の夜空を眺める。先ほどは燦燦と照っていた太陽は夜に紛れて消えていた。

 

 

「ねぇ………まだかな。」

 

「…………私もあなたも成長できないね。」

 

 

少し震えた声で呟いた言葉は誰にも届かず、寒空の中へ溶けていった。




アリアル's Memo[恋譜の返歌]
私が起きたら、ミリアルが隣で寝ていてね。
正直びっくりだよ。
ぼやけた意識の中、ミリアルに看病してくれていたのは覚えているけど…………さ。

あれは反則じゃないかい?
さすがのアリアルさんもびっくりしてしまったよ。
私が面倒くさい女なのは自覚していたからね。嫌がられているもんだと思っていたから、あんなことを言われると……うん。思い出すだけで顔から火が出そうなぐらいには恥ずかしいねぇ。

まぁ、そろそろ時期は過ぎたけれど、暑い日は反射光とかがひどいから熱中症や日射病に注意しなければね。

……そうだ、いいこと思いつた。アリアルに悪戯してこよう

追記 アリアルに「ゆっくり"熱中症"って言って?」って言ったら、どうやら知ってたみたいで口をきいてくれなくなってしまったよ。悲しい…。


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修羅の悪魔、虚に吊る

*例のごとくタイトルに意味なんてありません


ボロボロで掘っ立て小屋のようなものが並んだ集落。

元の住民が一人いなくなった集落に二人分の影があった。

 

 

「一つ言えることは白色の子猫は何も悪くなかった。もうなにもかも黒色の子猫のせいだったのである。」

 

 

歌うようにとある小説の一説を読み上げる、白髪の少女。その足元には血を流している男の死体があり、少女の手にはその男の命を散らしたのであろうナイフがにぎられていた。

その近くには顔色を悪くした黒髪の少女がおり、白髪の少女に殺された男の死体に視線が向けられている。

黒髪の少女が白髪の少女に抱いたのは恐怖なのだろうか?いや違う。

 

 

「急に…何の話?」

 

 

黒髪の少女ミリアルがアリアルに抱いた感情は彼女が人を殺したことに対する恐怖よりも彼女がつぶやいた小説の一説に対する疑問の方だった。

 

 

「いや?これを見て思い出しただけだよ。たしか題名は鏡の国のアリス。今度読んでみるといいさ。」

 

「そんなこと……言えるような精神状態なのがうらやましいかな…」

 

「ミリアルはまだ慣れないかい?結構やってる気がするけど」

 

 

ミリアルの方は人を殺したとは思えないほど陽気に返し、ミリアルの方も少し顔色が悪いながらも普通に返す。

彼女らの足元で男の命が潰えているとは思えないほどそこは平和だった。

 

 

「まぁ、とりあえずこれの処分をしなければいけないね」

 

「ミリアルは……だめか。」

 

 

ミリアルに死体の処理を手伝ってもらおうと声をかけるが、ミリアルの顔色は悪いまんまでとても手伝えそうな状態ではない。

 

 

「私たちを殺そうとしてきたやばいやつなのはわかってるんだけど、さすがに……ね?」

 

「まぁ、これに関してはあんまりなれない方がいいと思うよ。ただ悪人に対して躊躇するようならダメだけどさ。」

 

 

そんな話をしながらアリアルはその死体を集落にある家へと投げる。

その家には、たくさんの死体の山が積んであった。

 

 

「しかし、いったいこの家は何なんだろうねぇ。」

 

「さぁ…?お墓変わり……とかだったんじゃない?」

 

 

少し顔色の良くなったミリアルが死体が大量に置かれた家を見てそうこぼす。アリアルは少し険しい顔で大量の死体を観察していた。

 

 

「うーん。それはそうなんだろうけど、お墓って言うよりかはどっちかというと死体置き場の方がしっくりくるかな。弔う気持ちが感じられない」

 

「それはそうかも……。」

 

「それにだ。死体の方も絞めた跡が残ってたり、やけど跡があったり。違和感が多いね。明らか自然死じゃない。」

 

「うん。ひどいときは足から頭まで真っ黒だったりしたから…」

 

 

アリアルはしたいまみれの部屋から視線を外すと廃墟になりかけている集落を見まわして言った。

 

 

「せっかくだし少し探索してみるのもいいかもね。」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

探索を初めて数分後、アリアルが何一つまともな食糧が見つからなかったことに落胆しながら集合場所に行くと、難しい顔をしたミリアルがとある紙を持ちながら待っていた。

 

 

「なんかみつけたかい?こっちはまともな食糧はなーんにも見つからなかったよ。」

 

「まぁ、一応みつけはしたよ。アリアル。」

 

「何があったんだい?」

 

「これかな。」

 

 

ミリアルが持ってきたのはA5サイズの大き目の古びた紙。その紙には中央上段に簡素な文字で"生贄"と書かれており、その下には横線がひかれた人の名前が50人分近く書かれていた。しかし最後の一人と思われる人物の名前にのみ横線はひかれていなかった。

 

 

「まぁ、予想はできてたね」

 

「うん。そうだね。」

 

「まぁ、めずらしい話じゃあない。食料がつき始めて、どうにもならなくなって、地下にも逃げられずに食いぶちを減らすため集落の住民を殺して最後の一人が生き残ってた。その程度の話だろうね。まぁもういないけどさ。」

 

 

ミリアルは何でもないように事実をミリアルに告げる。ミリアルは少しかなしそうな瞳でその紙を見つめていた。

 

 

「でも……なんだかやるせないね。」

 

「どうせ私たちでは救えなかっただろうさ。」

 

「そうだね…。」

 

「ほら、いこうミリアル」

 

 

アリアルは少し強引にミリアルをそこから離す。

ミリアルはアリアルにひかれるがままにそこから離れた。

 

 

「ねぇアリアル。血なまぐさい。」

 

「うっ…痛いとこをつくね。服を洗わなくちゃいけないな。」

 

 

旅人二人は壊滅した集落を背に森の中へと目を見据え、去っていった。

 

 




ミリアル'sMemo [ある集落の末路]
■■■■:私たちを襲ってきた男の人の名前と思われるもの。襲われたし、そのまま襲われて殺されてもよかったなんて口が裂けても言えないが、彼が生きた証拠がここにあってもいいかな。なんてくだらないことを思ってしまった。

アリアルの服:本人曰くオーダーメイド。どこにどう頼むというのか。今回汚れてしまったから近くにあった川で割と乱雑に洗った。なんでかぬれたとこがすぐに乾いたのでよくわからない品物の一つなんだろう。

集落:あそこは気味が悪い。死体とかじゃなくて雰囲気が。何なのかはわからないけど。死んだ人を見た時と同じ感覚がした。

一つ言えることは~せいだったのである:鏡の国のアリスという本の一文。初めの話で毛玉にいたづらしていた子猫の話が急に始まる。きっと彼が悪いのではない。彼にああさせる何かがいけないのだろう。きっとそうだよね?アリアル。


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ゆかりさんは薬が売れない。

*タイトルの13分の5に新キャラのネタバレを含んでしまいました。申し訳ございませんでした。


暗がりの町は廃れており、もはや人がいないであろうことを静寂が物語っていた。そんな静かに眠る街に一つの人影が見えた。

 

 

「…予想外ですね。排斥がひどいし売りつけようがない。」

 

 

その人影は大きなカバンを背負っておりそのかばんには大量の薬品が詰まっていた。

数時間前、彼女はとある地下集落で伝染病を治せる薬品を配ろうとしていたがその集落は排他的であり、外から来た人間からの薬品は買えない!と突っぱねられてしまったのである。

 

 

「うーん。どうすればいいと思いますか?」

 

「それ聞くためにわざわざうちのとこまで来たん?」

 

 

あまりにも売れなさ過ぎて茜ちゃんの家にお邪魔して相談することにしました。結構賢い茜ちゃんや葵さんならきっと素晴らしい案があるはず………!(希望的観測)

 

 

「はい。もちろんです。あ、この薬いりま「いらん。」はい……。」ションボリ

 

「つっても、ゆかりは商売魂盛んやしなぁ。精神論がどうこうって感じではないか。」

 

 

精神論ですか……というよりもなんだかんだ言いながら うーんうーん ってうなって考えてる茜ちゃんかわいいですね……。私の相談にまじめに考えてくれる彼女のやさしさは美点です。ゆかりさんの好感度はすごく上がってますよ!あとは薬を買ってくれたら百点ですけど……強要はよくない(戒め)

 

 

「精神論でどうにかなるならもっと売れてるだろうしね。あ、ゆかりさん。こちらお茶です。」

 

「あ、ありがとうございます。」

 

 

葵ちゃんがお茶を持ってきてくれました。やっぱり茜ちゃんとうり二つですねぇ……。二人の性格も持ちつ持たれつって感じだし、さすが双子!

 

 

「ほなら葵はなんかええ案があるんか?」

 

「うーん。どっちかというとゆかりさんが悪いっていうよりかは地下に売りつけようとしてること自体がダメなんだと思うよ。繁栄人の墓場なんかに売りつけてる暇があれば地上の人に売ればいいと思う。」

 

「葵ちゃん辛辣ですね……。」

 

「葵!ちょっと言いすぎやで」

 

「あっ………ごめんなさいゆかりさん。そういうつもりでは………」

 

「気にしないでください。わかってますから」

 

 

葵ちゃんの繁栄人嫌いはやっぱり激しいですね……。ゆかりさんも思わず苦笑いが出てしまいましたよ。

 

 

「それにしても地上の人ですか……。あんまり知り合いもいないし、そもそも母数が少ないんですよねぇ。」

 

「か、もしくはしっかりどこで作ったかをいうとかはどうや?」

 

「それはちょっと………。」

 

「確かにそれはそうかもね。やっぱり製造元が大事なんじゃないかな?」

 

「でもぉー………うーん。」

 

 

すごい正論でたたかれている…………。ただこれの製造元とか最初から知らないんですよねぇ。衛生状態のまともな薬をいただいているだけですし。まずあの人はそういうのを好まない気がします。

 

 

「まぁ、ゆかりにも事情があるやろうしあんまり言わんけれども、売りたいんやったら怪しさ満点の売り方をどうにかせなあかんと思うで。」

 

 

怪しさ満点って……。そこまで言います?純情で純粋なゆかりさんが年甲斐もなく泣き散らかしますよ?恥も外聞も投げ捨ててわめき散らかしますよ?

 

 

「なら、あの人たちに売るのはどうかな?」

 

「あの人たち?って誰や?」

 

「ほら、この前久々に会ったじゃん」

 

「あーーー!アリアルか!ええやんそれ」

 

 

あっあっあ(過呼吸)どんどん話に置いて行かれている………。ありある?というのは人物名みたいですね。お二人の知り合いなんでしょうか?二人は顔が広いですね……。

 

 

「あ、ごめんな。ゆかりさんはあったことないか。うちらの知り合いにアリアルっていう変人の旅人がおるんよ。」

 

「そのアリアルさんがこの前、熱射病になってしまったみたいで、なんともなかったからいいけどほかの病気にかかった時に困るから薬が欲しいって言ってたんですよ。」

 

 

ふむ?薬を欲している旅人ですか。すごく商売のにおいがしますね……。先生産のよくわからない薬も売れそうですし、良さそうです。

 

 

「なるほど………。アリアルさんでしたっけ?ゆかりさんとてもその人のこと気になります」

 

「ええで!あいつの気狂いっぷりを聞かせたるわ!」

 

「ええ!ぜひお願いします」

 

 

そのあとたっぷり夜が更けるまで二人の思い出話を聞いていた。

今日はいい日でしたね!当分はアリアルさんを探すことになりますが会えるのが楽しみです!




ゆかりさんメモ Ver.1

アリアルさん:どうやら茜ちゃん曰く気分屋の旅人みたいです。いまはミリアルという方とともに行動しているのだとか。目的はなくふらふらしているだけのやばいやつだとか、論理的に見えて感情の発露が強いバカだとか悪口も結構ありましたけど茜ちゃんたちとの仲はすごくよさそう。
茜ちゃんも葵ちゃんもアリアルさんについて話してるとき楽しそうでしたしね!当分はアリアルさんを探しながらふらつくことにしましょうか。

地下集落:繁栄人たちが未曽有の地上災害を警戒して作り上げた地下帝国とでもいうべき住処。まぁ未曽有の地上災害って言っても実際に起きたわけでもなければただただ繁栄人の立てたものが朽ち果てるだけの結果に終わったんですけどね。
地下の収容人数は一定だと決まっていて毎年20人前後が地下から地上に放り出されています。実際に私も放り出されましたし。
そういう人道から外れた判断を取ることの多い繁栄人は結構地上の人からは嫌われてるみたいですね。


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知識の中の天動説

【天動説】

 

太陽を浴びすくすくと育った雑草がある一つの教会を覆い尽くしている。祀られていた神も、祀っていたであろう神父ももういない静かな協会の中で二人の旅人は休憩をしていた。

 

 

「ミリアル。知ってるかい?長い間地球は太陽系の中心だと考えられていたんだ。」

 

 

協会の長椅子の一つに腰を掛けたアリアルはミリアルにそう声をかける。

ミリアルは床の掃除をしながらアリアルの方へと向いた。

 

 

「なんだっけそれ、地動説だっけ?聞いたことはあるよ。それがどうしたの?」

 

「逆だよ。地動説は地球が太陽を中心に動いているという説で、天動説が今回の話で上げた地球が太陽系の中心だという考え方だよ。」

 

「あ、そうなんだ。」

 

 

ミリアルの反応は薄い。アリアルが急に突拍子のない話を始めるのはいつもどおりだし、今回もそんなアリアルのおしゃべりな一面が顔を出しているだけだろう。

 

 

「そうなんだよ。でだ。この天動説は一説によると紀元前………つまり3000~4000年前にはすでにアリストテレスという人物が唱えていたとされるんだ。そしてこれは2000年ほどの間信じられていて、誰一人として疑わない常識だったんだ。」

 

「へ~、でも実際には太陽系の中心は太陽だよね?」

 

「そう!そこにこの話の本質がある。年数が正しいかは置いておいて、実際に千年単位で信じられていたのは事実だし、だれも疑わなかったし、疑った人物は処刑されるなんてこともあった。なんでだと思う?」

 

 

ミリアルはアリアルから質問されて初めてて掃除の手を止め考えた。アリアルの言う話は突拍子もないが、話す理由がないわけではない。わざわざ疑問を飛ばしてきたということはそれなりの回答をアリアルが求めていることを知ってるからこその対応でもあった。

 

 

「う~~ん。やっぱり確認するすべがなかったからとか?あとはそう考えたら都合がよかったとか、そう誤解する何かがあったとかかな。」

 

 

アリアルはその答えを聞いて満足そうにうなずく。どうやらお気に召したよう。

 

 

「さすが私の義妹。大体すべてが答えだし、多分これには決まった答えはない。でも私はこう考える。『人々が考えることを止めたからだ』とね。」

 

「で、結局アリアルはそれを通じて何が言いたいわけなの?」

 

「さぁ?これはただミリアルに知識として入れておいてほしいものだよ。こんなふうになりたくなければ……ね?」

 

 

アリアルはそう言うと長椅子に所狭しと並ぶ十字架を掲げて事切れた無数の死体を指さした。ミリアルはちらりとそれに視線を向けて掃除を再開する。教会には元の静寂が戻った。

アリアルはその様子を見て空を見上げる。

 

 

「まぁ受け売りは嫌いなんだがね。」

 

 

アリアルのつぶやきは空へと消えた。

 

 

 

 

 

・地動説

 

昔の話。立派な都市群が炎にのまれ、逃げまとう人々。そんな地獄のような光景を遠くの山から眺めている二人の人間がいた。

片方はきれいな白髪を乱雑に伸ばた少女。もう一人は不思議な雰囲気を持つ薄桃の髪を持つ少女。

 

 

「あんたは地動説って知っとるか?」

 

「どうしたんだいコトノハ。急にそんな話をして?」

 

 

コトノハと呼ばれた薄桃の髪を持つ少女は遠くの燃盛る都市を目にいれながら話している。隣にいる少女もそうであった。

 

 

「まぁまぁ、最後まで聞きや。地動説ってのは地球が太陽を中心に回ってるっちゅう話やな。」

 

「そうだね。金星かなんかの動きから地球が動いてることを証明したんだっけ?」

 

「そうやな、しかしこの話の本質はそこじゃない。例えば、実は地動説は嘘やねんって言ったらあんたはどうする?」

 

「どうもこうも、コトノハの頭もついにおかしくなったと思うぐらいかな。」

 

 

桃髪の少女からの質問に対して一切の時間差なくそう答えた白髪の少女。桃髪の少女はその回答を聞いてはっはっはと豪快に笑った。

 

 

「ちゅうことは真面目に捉えへんわけやな?」

 

「まぁ、私は知識として地球が動いていることを知っているからね。」

 

「それはどうやってや?実際に見たんか?」

 

 

白髪の少女は予想外の返しをされて困惑する。地球が動いているのを知識で知っているが、この少女は無傷で宇宙空間に出て地球が動いている様子を実際に見たわけでもなければそんなことを考えたこともなかっただろう。

 

 

「いや、まぁ見てないけどさ…?文献にもそう書いてあるだろう?」

 

「甘いな。それを思考停止っちゅうねん。バカ正直に自分より賢いやつの言うことを信じる。これがあかん」

 

「常に情報を疑え。常に人を疑え。自分の中で吟味しろ。自分が愚者だと思うなら愚者なりに頭を回せ。そういうこと。」

 

 

話を聞いた白髪の少女は少し目をつむって考える。そして少しした後薄く微笑んだ。

 

 

「面白い考え方だね。」

 

「まぁ、うちの人生観よ。ほんまに。」

 

「まぁ心にとどめておこうかな。」

 

「そうしとき。年長者の言葉を甘く見たらあかんで!」

 

 

町の炎はより一層燃盛り、たくさんの命を奪っている。そんな地獄を高みの見物する言葉の奴隷と旅人となる少女の昔の話。

 




アリアル’s Memo [鉗の天使の地動説]
教会の中には無数の遺体が座っていたよ。神に祈りをささげるかのように天を仰ぎ十字架を握りしめていたんだ。

今まっでの安寧が壊されて、人が普通ではいられなくなったときに人が頼るものは超常的な存在なのかもしれないね。かくゆう私もそんなことになったことがあるし。

いつも通りの穏やかな旅のはざまにはいろいろな過去の残骸が残っている。まぁ、ちょっとぐらい覗いて行っても問題ないさ。


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悔恨所蔵

※お久しぶりです。タイトルの意味はないみたいです


 

「過去依存症って知ってるかい?」

 

ビルの立ち並ぶ荒野を当てもなくさまよっていると隣を歩いていたアリアルが突然そう声をかけてきた。

 

 

「依存症ってことはナニカに執着してるってことでしょ?過去のことが忘れられない人を指す言葉なんじゃない?」

 

 

私は足を止めることなく答える。アリアルが突拍子のない話をするなんていつものことだ。

 

アリアルの顔は見えないけど私の返しに対して少しだけ笑ったような気がした。

 

 

「まぁ、間違ってはいないね。言葉の意味をそのまま取るなら過去依存症っていうのは過去に執着して忘れられない人……みたいなことになる。」

 

「でも、私の言う過去依存症は少しちがうのさ。」

 

「それならどういうことなの?」

 

「ミリアルはさっきからまわりの遺骸に違和感を感じないかい?」

 

 

そう言われ周りを見渡す。ビルの残骸が散らばる中、たくさんの白骨死体が落ちているのがみえる。

 

その殆どが何かしらの板状のものを持っているように見えた。 

 

 

「気づいたかい?」

 

「このへんの白骨死体は手に板状のものを持っている。なんでだと思う?」

 

「すまーとふぉんだっけ?」

 

 

だいたいのことを理解した私はアリアルが答えを言う前に答えを言う。するとアリアルはとても嬉しそうな笑顔を浮かべて言った

 

 

「そう、正解だ。さすが私の妹といったところか。」

 

「彼らはおそらく過去依存症だったんだろうね。都市部の崩壊、政府機能の停止。下へ逃げるためのルートすらも塞がれた彼らは過去にすがった。」

 

「少しでも現実から逃げるために、元通りの世界で過ごしているつもりのまま死んでったんだろうね。」

 

「まぁ、あくまで想像の範疇だが…実際に過去依存症なんて呼ばれる症状を持っていた人は結構いたんだよ。」

 

「過去依存症って幻覚症状のたぐいだったんだ。」

 

私がそう返すとアリアルは少し悩むような声を出して答えた。

 

 

「幻覚症状というよりも………どちらかというと脳内麻薬に近いものだよ。」

 

「脳内麻薬ってたしか、エンドルフィンかなんかのことを指す単語だっけ?」

 

「そうだね。本来はβ-エンドルフィンとかの物質を指す言葉のはずなんだが、この場合は本当の薬のことを指す。」

 

「終末初期に流行ったオクスリだよ。本来なら規制されて然るべきものなんだが………まぁ、止めれるような組織はその時存在してなかった。そういうことさ。」

 

「じゃあこの人たちはオクスリでぶっ飛んでたってことね。」

 

「そういうこと。症状は色々あったみたいだけどね。医学上では他の言い方があるんだろうけど私達は過去依存症なんて言ってたってわけさ。」

 

 

そこまでいうとアリアルは言いたいことを言い終わったのか歩き始めた。私はその後についていく。

 

 

 

「ミリアルはさ、どっちがいいと思う?」

 

「なにが?」

 

「薬で偽りの幸せの中死ぬのと、つらい現実を直視してそれと争いながら死ぬの。」

 

「すごいマイナスな選択肢だね」

 

「まぁ…うん極端な選択肢であるのは理解してる。でも、言ってしまえば彼らは前者だ。いつも通りだったはずの幸せを奪われて現実を直視できなくなった人達。」

 

周りの白骨化した死体を見る。誰も彼も板を片手に死んでいて、まるで宗教家たちが集団自殺でもしたみたいになっている。

 

私から見たら滑稽にしか見えないけれど、アリアルの言う通り彼らはきっと偽りの幸せを生きながら死んでいったのだろう。

 

 

「ねぇ。ミリアルはどっちがいいんだい?」

 

アリアルはそう尋ねてくる。

私は心に一つの答えを決めた。

 

 

「わたしは…………」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ミリアルの答えを聞いた私は前を向いてあるきはじめる。後ろにいるミリアルがどんな顔をしているかは分からないが後ろについてきてくれている。

 

私はそっとポケットの中の板を握って呟いた。

 

 

「それでも、私は嫌だ…。」

 

 

呟きは誰にも届くことはなく、風でかき消えてった。

 

 

 




ミリアル'sMEMO[過去依存症]

依存症:身体的依存を伴うことがある、薬物や化学物質の反復的使用のことを指す言葉。行動的依存、身体的依存、心理的依存は物質関連障害の特徴とも言えるのだとか。

脳内麻薬:麻薬と似た作用を示す物質で物理的、精神的な痛みを感じるとこれが分泌され和らげる働きをするらしい。ドーパミンやβ- エンドルフィンなどの物質が例に挙げられる。

終末:人によって言い方はさまざま。なんなら終末なんてなかったという人もいる。なかったと言うならなぜここまで人が消え、建物が崩れたのか教えてほしいものだ。
私は教えてもらったことがないから。

エンドルフィン:鎮痛効果や気分が高揚したり幸福感が得られるという作用がある脳内物質。別名は「しあわせホルモン」。これこそ危ない薬みたいな名前をしている。

過去依存症:過去の繁栄人達が地下に逃げ込めなくなったときの最後の心の防衛手段。薬による効果は過去依存症以外にも多岐にわたっていたらしい。



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咲く芭蕉の誤算

※タイトルに意味はなかったりします


 

「あっついねぇ」

 

「熱くてとろけそ…」

 

 

暑さにやられている旅人の二人、アリアルとミリアルは砂漠の真ん中で坦々と足を勧めていた。あたりは一面砂まみれでギラギラと容赦なく照らす太陽が旅人二人の水分を奪い取っていた。

 

 

「動いてないのに暑いよぉ〜」

 

「いや、歩いてるじゃん」

 

「なんか言わなきゃいけない気がした。」

 

 

アリアルはどうやら暑さで頭がやられたらしい。

 

 

「それにしても、まさか砂漠がこんなに長いなんてね……」

 

「水っぽいの見えてなかった…?」

 

「それ…多分蜃気楼でそう見えてただけだよ」

 

 

砂漠では熱気による太陽光の屈折や砂の中に含まれる長石の反射などで錯視を引き起こしやすく、アリアルの目にも湖のようなものが見えていたがそれが紛い物たとわかっていた。

 

 

二人は水を飲んでまた前へと進む。

少し進んだ先でミリアルは気になるものを見つけアリアルに声をかけた。

 

 

「アリアルー…」

 

「どうしたんだい?」

 

「珍しい形の石見つけたー」

 

 

そう言ってミリアルが見せた石はたくさん枝分かれのした白色の石だった。

その石を見た途端アリアルは目の色を変えそれをまじまじと観察する。

 

そして数秒経った後、アリアルはその石から目を離し、ここが何であるかを理解してため息を吐いた。

 

 

「この石、なんか特別なやつなの?あんまり見たことない変な形してるけど…」

 

「それはー、珊瑚だよ珊瑚。」

 

「え?珊瑚って海にあるって言ってたやつだよね?この辺に海があるかもしれない?」

 

 

ミリアルがそう言って希望を抱くがアリアルは首を降ってその発言を否定した。

 

 

「海が近くにあるんじゃないよ。……まぁ、海がすぐここにあるって意味では近くにあるかもだけど。」

 

「どういうこと?」

 

「ここが元々海だったんだと思う……。」 

 

 

そうアリアルが言うとミリアルは驚いたような顔をした。アリアルはそんなミリアルを横目に説明を続ける。

 

 

「まず、珊瑚っていうのは殆どが浅いかつ暖かい海に生息してるんだ。暖かい海は当たり前だがあたりの気温は比較的に高い。それに深海と呼ばれるような部分もない。」

 

「ミリアルは終末が訪れてから、北の方と南の方で大量の氷山ができたのは知ってるかい?」

 

「知ってる。北極山と南極山でしょ?」

 

「そう。その2つの氷山は海の水が凍ってできたものなんだ。海の水が凍ると当たり前だが水位は下がってく。結果浅い海はこんな感じに干上がってしまったというわけさ」

 

「なるほどねぇ……。」

 

 

まぁ、あくまで予測だけどね。そうアリアルは話を締めくくりまた歩き出す。

 

風も吹かない元海洋の砂漠に二人分の足跡がザクザクと残される。

 

視界も歪むような暑さの中旅人達はのんびりと進み続けた……。

 

 

 

 

 

「……ねぇ、ミリアル。水あとどれぐらい?」

 

「んーとね。4Lと500ml。」

 

「………ちょっと急ごうか。」

 

 

………やっぱりちょっと急ぎ足で。

 

 

 

 

 




ミリアル'sMEMO[サンゴ礁の砂漠]
蜃気楼:温度の異なる高密度の空気が重なることで光が屈折して、遠くの景色が違うものに見える現象のこと。詳しくは知らないけど砂漠ではよくあることらしい。

珊瑚:かんぶりあきから存在する海の宝石。実際に見たことはない。かんぶりあきっていうのがよくわからないがかなり古くから生きているらしく、多種多様な珊瑚が海で群生しているらしい。

南極山・北極山:遥か北と遥か南に存在する高さ不明の巨大氷山の名称。これができる前の最高峰はエベレストという山だったらしいが、今はこの2つが最も高い山らしい。終末初期にできた山でありなんでできたかは不明。


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ゆかりさんは運がいい

※ユカリサンカワイイヤッター


 

旅商人っぽいことをしているゆかりは今日も適当の歩き回っている。以前琴葉たちに出会って以来アリアルという旅人を探しているが、どこかにアテがあるわけでもなく結局は普段通りの生活となっているのだ。

 

 

「この辺のビル真新しいですね……。こんなきれいに残ることあるんですか…。」

 

 

どうやら当時では珍しい樹皮建築のようで、地上でこんなにきれいに形が残っているのはここだけなのではないのでしょうか…?

 

 

「もしかしたらこの辺で樹皮建築を繰り返してる人とかがいるかんじなんですかね。」

 

 

あたりを見渡してもビルビルビルビル………慣れてる私でも気が狂いそうなほど同じような形のビルが立ち並んでいます。

 

 

そう独り言を言いながら歩いていると、奥に明らかにビルではない凸型地形を見つけました

 

 

「何がありそうですしあそこに向かいますか。」

 

 

ビル街にも飽きましたからね。

 

 

 

 

 

 

「んー、山じゃなかったんですか」

 

 

近づいてわかったのですが、山だと思っていたのは合成樹皮の積み重ねでできた人工物でした。隣には作りかけのビルがあります。

なんでこんなのがあるんでしょうか…?

この辺はビル街だと思いますし、ビル街の真ん中に景観を損ねるようなものを作るとは思えないんですが……。

 

 

そう思いながら山を一周していると、その途中で現況と思わしき機械を見つけました。

 

 

「あー、これが壊れたから無限に樹皮が出てるわけですか…」

 

 

樹皮の山を生み出し続けている元凶であるその機械は修復機能のエラーによってなのか飛行の能力を完全に失っていました。

 

私は手慣れた手付きで機械を停止させて改めて考えます。

 

 

「にしても……この高さですよ?」

 

 

改めて樹皮の山の隣にある建てかけの建物を見ると、その高さがよくわかります。

 

 

「自動修復装置のついた自動樹皮建設機の暴走を破壊によって食い止めることができる人がいるってことですか……」

 

 

その技術を間近に見たことのある私だからこそわかります。銃を使っても、電撃を流しても壊れることがなく動き続けるはずの機械を停止ではなく破壊する……その難しさを。

 

ゆかりさんは虎穴に入らずんば虎子を得ずなんて状況なら虎子を諦めるタイプの人なんですが……。

 

この先に茜ちゃんの言っていたアリアルさんがいるかもしれないし……、まず、この状況を生み出したのが件のアリアルさんという可能性もあります。

茜ちゃんが言うには冷静ながらぶっ飛んだ思考の持ち主らしいですし。

 

 

「どうしましょうかねぇ。」

 

 

私は合成樹皮で作られた新しめの巨大建物群に囲まれて途方に暮れました。

 

この辺には追い出された人たちの集落はなさそうですし、先生の薬も売れ残ったまんまですし、何なら食べ物が無くなりそうなので薬を食って生きていくとかいうオーバードーズもびっくりの生活を送る羽目になってしまいます。

 

この辺の建物はすべて足元にある機能停止した機械が急増させたビルみたいで中にはなんにも残ってなかったので食べ物に関してはマジの死活問題です。

 

 

「とりあえず、北の方に進みますか。」

 

 

不安を覚えながらも私は商売人として歩みを勧めました。きっとその先になにかがあると信じて!!

まぁ、とりあえず……

 

 

「どこかに空を飛ばないタイプの車とかがあったら盗みましょうか。歩くの疲れますしね。」

 

 

私の商売旅はまだまだ続く。ってことですね

 

 

 




ゆかりさんメモ Ver.2

自動樹皮建設機:めちゃくちゃに大きい3Dプリンター。設計図があれば空気中から合成樹皮を無限に生み出せるとかいう神秘の品。
挙げ句に自動修復機能付き。これを兵器利用するとすっごいことになる。なので当時は核爆弾と同じように自動修復機能の禁止条約が世界で結ばれた。破壊できない兵器同士で戦争とか泥沼ですしね。

樹皮でできた建物:メリットは本当に一瞬で組み上がること。デメリットは耐久性がいまいちなこと。あと、燃えやすい。IHが一般化してたからこそ使える建物であり、マッチやライターも持ってる人がいないからこそ放火等も少なかったが、旧時代のガスを使ったり紙タバコを使ってた場合は恐らく普及しなかったと思います。


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業な右翼と狂言

※死人に口はありませんしタイトルに意味はありません


 

「いやー、ゆっくりできるところがあってよかったよ。」

 

「ホントだね。持ち主の方にはちょっと申し訳ないけど……」

 

 

そういったミリアルの目線の先には椅子の上で眠るように事切れた初老の男性の姿があった。

 

 

「すでに事切れている人物は文句を言わないからね。死人に口無しだよ。」

 

 

アリアルが外を見るとあたりには森の木で狭められた月光だけが僅かにてらす暗闇だけが広がっていた。

 

 

 

「この人は元々旅人だったのかな?」

 

 

ミリアルはその辺に落ちていた地図のようなものを広げながらアリアルに聞く。

アリアルはアリアルで遺体をどけてその下にあった残された手記のようなものを読み漁っていた。

 

 

「そうみたいだね。この人はどうやらユートピア目指して旅を続けていたみたいだよ。ミリアルも読むかい?」

 

 

「読みたい読みたい。私以外の旅人の人に合うことあんまりないからどんな感じなのか気になるし。」

 

「あー……うん。この人を一般の旅人と当てはめるのは語弊があるかな…。」

 

「どういうこと?」

 

「まぁまぁ、読んでみなよ」

 

 

疑問は残るもののアリアルに促されミリアルはその手記を開いた。

 

 

ーーーーーーー

862日目

ところどころ日記を書き忘れているからか正確な日数を覚えていない。今は前と同じ小屋に引きこもっている。やはり神なんてくそくらえだ

 

桃源郷もユートピアも天竺も所詮は人間の作り話に過ぎないのか。

神秘はびこる今だからこそ、出現して然るべきだっただろう!!!

 

クソが。体が動かない。腕の左はもう動かせなくなってしまった。神に祈ってやったにも関わらず理想の地へ導かぬ神への永遠の恨みを込めて私は死ぬのだろう。

覚えておけ。私神へと必ず報いをうけさ

ーーーーーーー

 

 

ミリアルはそこまで読むと顔を上げた。

 

 

「日記ここで途絶えてるね。」

 

アリアルはどこからか取り出したインスタントコーヒーを飲みながらミリアルの方を見る

 

「そうだねぇ。きっとこれを書いている途中に彼は死んだんだろうね。」

 

「うん。それよりそのインスタントコーヒーどこから出したの?」

 

「そこの戸棚に入ってたよ」

 

「私にもちょーだい」

 

「ん。」

 

ミリアルはアリアルにコーヒーを頼むと次のページをめくった。

 

ーーーーーーー

853日目

最近体の調子がおかしい為、無事だった山小屋に拠点を置くこととした。

身体中が痛いが泣き言を言ってられない。

わざわざ退屈な地下から飛び出して理想郷を、ユートピアを、私にとっての桃源郷を探しに来たというのにここであきらめるという選択はないんだ。

 

あぁ、神よ。私はいつでもあなたのことを信心しております。どうか私に理想郷への導きをお与えください…。

 

 

 

851日

最近体の調子がおかしい。

左手がまともに上がらなくなった。四十肩かとも思ったが無理やりあげようとすると腕が避けるかのような激痛が走る。

 

食べ物も食べられないことが多くなった。

最近はコーヒーや果汁で済ませてしまっている。物を食べようとすると吐き気が止まらなくなる。

 

どこかゆっくりできるところで休んだほうがいい気がする。

あぁ……神よ。私にあなたのご加護を……。

 

ーーーーーーー

 

 

そこまで読んだところでアリアルがコーヒーを持ってくる。ミリアルはそれを受けとりアリアルに質問をする。

 

 

「なんか……人変わった?10日ぐらいしか日付変わってないけどこんなに変わる……?」

 

 

アリアルはゆっくりとコーヒーを味わってから質問に答える

 

 

「人間は死に際に本性が出るって言うしねぇ。そんなこともあるんじゃないかな。」

 

 

「あと、その辺は何も進まないからもっと前から読んだほうがいいと思うよ」

 

「わかった。ありがと」

 

ーーーーーーー

 

363日

やはりあのような限界集落に住む下民は神にあだなす者だった。

 

私は神への供物として作物の要求をしただけなのにもかかわらずあのガキどもと女は自分たちの我が身恋しさにその要求を拒否した。

だから私が天罰を下してやった。女は原型もなくなるほど切り刻み、子供の首は晒してやった。

 

すると神にあだなす愚か者は私に危害を加えようと襲いかかってきた。

しかし、老衰した下民共は今私の目の前で聖なる炎のもとに天へと登っている。

 

やはり神託を受けた私こそが正義だったのだ。

拠点にできなかったのは残念だが食料庫に溜め込んでいた薄汚い食物のおかげで当分飢えることはない。

このような汚れた者たちの食物を捧げるなど神に失礼に当たるため私が責任を持とうではないか。神よ!私はまた一つ善行を積みました!

 

 

362日

生き残りの集落を見つけた。

かなりの人数と物資があるがほとんどがヨボヨボの老人だ。女は数人、その中でも若いやつは二人ほど。子供に関しては3人しかいない。

いわゆる限界集落だ。

 

無償で物資はもらえたがここは私の求めた桃源郷ではない。

 

場合によっては奪うのもありだろう。

神の名において私は行動するだけだ。

 

ーーーーーーー

 

 

ミリアルはその内容に嫌悪感を覚え反射的にその手記を投げ捨てた。手記は埃を舞わせながら床を転がっていく。

 

ミリアルはそれを気に求めずに死体の方へと大股に歩き拳を振り上げたが、そこでアリアルがそれを片手で止めた。

 

 

「とめないで!一発殴らないと気がすまない!!!」

 

「落ち着け。どうせもう死んでいるんだから放置すればいいだけの話だろう?」

 

「……………ごめん」

 

 

ミリアルは大きく息を吸いホコリを吸ってしまったのか激しく咳き込んでから大人しく席についた。

アリアルはミリアルが落ち着いたのを確認してから尋ねる。

 

 

「それで?予想してたとはいえあそこまで冷静さを失うなんて珍しいじゃないか。どこを読んだんだい?」

 

「……集落で子供と女の人を晒し首にして老人達を燃やし殺したってところ。」

 

「あーあそこか。まだマシだね」

 

 

その言葉を聞くとミリアルは驚きのあまり目を見開いてアリアルに聞き返す。

 

 

「あれでもまだマシなの…?」

 

「あれにはもっと酷いことがたくさん乗ってたよ。大都市になりそうだった集落一つをたった一つの嘘で崩壊させたり、人間を生贄だと言って躊躇無く殺害したり。」

 

 

 

 

「この人は何がしたかったの?桃源郷とか、ユートピアとか……居場所を探してたんだとしても自分から居場所を壊してるようにしか見えなかった……」

 

 

アリアルは少しだけ死骸となった彼に視線を向けたあと疑問に答えた。

 

 

「彼はどうやら下の住民だったみたいでね。太陽の光すら浴びれないし監視はきついしで彼にとってはストレスが溜まっていったみたいだ。だから彼は自分が満足できるような理想郷を探すたびに出た。」

 

「………たしかに理解できなくはないけど、その考え自体が贅沢だよね」

 

「それには同意する。第一、彼は最初神なんて信じていなかったんだよ。」

 

「……は?」

 

「神を信じ始めたのはどこかで廃墟となった神殿を見つけたときだって書いてあった。そこにある神の記述を見て信仰があれば誰でも願いを叶えてくれるんだと思ったみたいだよ」

 

「……」

 

 

ミリアルが黙ったのを見て席を立つ。インスタントコーヒーはお互いに飲み終わっており、外が暗い事以外を除けばそとへ出る準備は整っていた。

 

 

「とりあえずどうする?ミリアルが“それ”を無理だって言うならここを離れるのもやぶさかじゃないけど。流石の私も気分が悪いしね」

 

 

それを聞いたミリアルは以外の方を睨みつけながら思考する。アリアルが早めに出ていこうとしたときミリアルは自分の意志を口に出した。

 

 

「アリアル。……土に埋めるのだけはしてここから出よう。」

 

「“それ”を?」

 

「うん。」

 

 

アリアルは心底不思議そうにミリアルのことを見る。

 

 

「さっきの話聞いてただろう?それは救いようのない屑だよ?」

 

「それでも。死体を放置するってことは生命を適当に扱うってことだから。私はこんな人と同じようなことしたくない。」

 

 

アリアルは反論しようとも思ったがミリアルの真剣な目を見ると肩をすくめて言った。

 

 

「やれやれ。そう言うなら手伝うよ。」

 

 

 

 

 




ミリアル'sMemo[強欲な桃源郷]
桃源郷:本来は俗界を離れた他界・仙境のことを指し「武陵桃源」との別名があるらしい。
中国という国でできた書物からくる単語で意味としてはユートピアとか理想郷とおんなじ意味。

手記:思い出すだけで吐き気がしてくる。あの手記は遺体と一緒に土の中に埋めた。残しとくべきかとも考えたけれど私はあんな記録が残っていることが耐えられなかった。
……私もあんな奴と一緒なのだろうかと不安になる。

神:誰が考えるかによって変わる定義。誰かにとっては無差別に自愛を振りまくものであり、誰かにとっては都合のいい存在であり、誰かにとってはなにかの邪魔となるもの。私達にとって神は何なのだろうか。




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アクロフォビアの投身

※タイトルに意味がありますし、私は東京タワーとかにあるガラス張りのとこが苦手です。


 

アクロフォビア(高所恐怖症)とは、特定の恐怖症のひとつ。高い所(人によって程度の差がある)に登ると、それが安全な場所であっても、下に落ちてしまうのではないかという不安が生じる。例えば、エレベーター、エスカレーター、ショッピングモールの上階などが怖く、利用を避ける場合がある。 

ーpixiv大百科より

 

 

 

 

 

 

 

やぁ、そこの白髪のお嬢さん。こんなところまでどうしたんだい?

 

 

「……君こそ何をしてるんだい?」

 

 

見ればわかるだろ?ちょっくら空を飛ぼうと思ってね。

 

 

「この建物は15階建て。もっと上に上がれば楽に死ねるだろうに、ここだと満足な高さじゃないから運が悪いと死ねないかもしれない……。君はそれでいいのかい?」

 

 

高いところは昔っから苦手なもんでね。だからここで死のうとしてる。

 

 

「高いところが嫌いならどうして飛び降り飲んて選ぶんだい?他にも死に方なんかは……それこそ選びきれずに死んでしまうほどにはあると思うけれど。」

 

 

あー……そう言われると痛いな。俺は高いところが嫌いだからな。高いところにいれば恐怖で震えてくる。

 

 

「高所恐怖症?」

 

 

まぁね。だからこそ躊躇しない。高いところからすぐに低いところに行けるこのルートから飛び降りようって気になれるんだ。死ぬ恐怖より高所の恐怖が勝ったからね。

 

 

「なるほど…。私にはわからない感覚だな。生き抜くって気持ちにはなれなかったのかい?」

 

 

ははっ、ズカズカと遠慮ないねお嬢さん。

 

 

「それはすまない。疑問点は解消したくなるのが性分なんだ。」

 

 

まぁ……別にいいさ。生き抜くなんて考え自体はなかったよ。好きでここに来たわけじゃないしな。追い出されて、食いものもなくて諦めた先にここに立ってるんだ。

 

 

「なるほどねぇ。世知辛い世の中だ。」

 

 

嬢ちゃんは下から来たわけじゃないのかい?

 

 

「私はずっと上で生きてるよ。なかなか生きづらいところだけどね。」

 

 

それはなんというか……すまなかったな

 

 

「別に君を責めるつもりはない。クラスメイトに殴られたからって人間全てを憎むようなやつはいない。気にしなくていいさ。」

 

 

そうか。

 

 

「そうさ。」

 

 

…………お嬢さんはこのあとどこかに行くのかい?

 

 

「行く宛はないよ。適当にブラブラと旅をするだけさ。」

 

 

そうか。ならここでお別れだな

 

 

「…………そのようだね」

 

 

 

 

 

 

 

「まぁ……何だ。お穣ちゃんとまた会えるのがはるか先であることを祈っているよ」

 

 

男はそう言って自然体のまま飛び降りる。

 

男はビルの下で物言わぬ死体となっている。

 

 

そうして、そのビルには白髪をたなびかせる旅人の女性と………

 

 

何事もなかったかのように壊れた壁の淵に立つ男の姿があった。

 

 

 

「やぁ、そこの白髪のお嬢さん。こんなところまでどうしたんだい?」

 

 

アリアルはその質問に答えずに哀れみの目でその男の足元を見た。

 

 

 

 

最初から足はなかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 




アリアル's Memo【朗庵の足首フォト】

高所恐怖症は高いところを怖がる恐怖症の一つだ。それなら高い高い空の上なんか怖がって当然なんだよ。

だからこそ彼はそこにいて、いまでも過ちを繰り返している。
上に上がることが嫌で。でも生死の法則には逆らえない。

誰でも嫌いなものや怖いものはある。これは実質的に人間全員が恐怖症を持っていると言っても過言ではないだろうね。

私?私をそういう類で言うならば……クロノフォビアかな。
本当に恐ろしい。私がそう感じるものだよ。


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ある姉妹の一日

※作者はエセ関西人です。茜ちゃんカワイイ!!!


 

外からの眩しい日差しで目が覚める。

3代前ぐらいの人が窓の向きや風水を考えて立ててくれてたこの建物は、窓布を取っ払ってると朝に日差しがいい感じに入ってくるようになっとる。

 

ただ、このタイミングで起きるとうちにとっては都合が悪いのでちょっぴり布団を深く被って狸寝入りをする。多分そろそろ来るはずや。

 

 

ガチャ

 

「おねーちゃーん。朝だよー」

 

 

きたきた。

 

今部屋に入ってきたんが妹の葵。うちと瓜二つの青髪の子や。ごっつべっぴんさんやろ。

 

朝はせっかく葵が起こしに来てくれんねんから早起きなんて勿体ないことできへんわ。

 

 

「おねーちゃーん?おーきーてー!」

 

 

うちが起きてないと思ってか葵がもう一回声をかけてくれる。もちろんうちのお目々はいつでもパッチリになるけど、ちょっと寝ぼけたふうにしてると甘やかしてくれることが多い。

………葵には秘密やで?

 

 

「んぅー…?おはよぉ………」

 

「もー、全くおねーちゃんったら相変わらず朝弱いんだから………。」

 

「うちはあさつよいでぇー?」

 

「はいはい。ほら、朝ごはんあるから行こ?」

 

 

ほらな?葵は優しいから寝ぼけたうちのことを抱っこで運んでくれる。声は呆れた感じやけどなんやかんや嬉しそうな声色なんをおねーちゃんは知ってるんやで?

 

でも、こうやって抱っこされると葵が大きくなったように見えるわぁ。うちと葵は同い年なんやけどなぁ。

 

 

葵に抱っこされながら食卓まで運ばれる。机の上には青いの作った料理がぎょうさんある。

 

うちは椅子に座ると対面に座った葵と一緒に手を合わせた。

 

 

いただきます!!

 

 

うちらの一日はそんな感じで始まる。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

そっからは葵が家で昼ごはんとかの準備をうちは結構外におることが多いかなぁ。うちらの仕事は一応……一応?人を守るって言う感じやから、ある程度生存者の捜索とかはすんねんで?

荒事はうちの方が慣れてるから何があってもええようにうちだけで出ることが多い。

 

まぁ実を言うと人を守るっちゅうとちょいと語弊があるんやけどな。

 

まぁんなことはええねん。

いっつも外に出てもあーんまりええ事はないんやけど、家に帰ると葵のご飯があるってだけでうちはバリバリに頑張れる気がするわー。

 

姉に勝る妹なしやなんて迷信や迷信。胃袋掴まれたらな妹のほうが強なるから。よー覚えとき

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ほんで夕方まで家の周りを歩き回って人探して終わりやな。

今日は複数人で村荒らしてる不届き者がおったから縛って地下に送り込んどいたで。向こうでどんなことになるんかは知らんけど………。うちらには関係ないからオールOKやな。ヨシ!(指差し)

 

ちょちょいと服の血を消して家まで帰る。ここでちゃんと消しとかんと葵が心配するからなぁ。

 

 

「邪魔するでー」

 

 

うちがそんなことを言いながら入ると

 

「邪魔するなら帰ってー」

 

と奥から聞こえてくる。さすがうちの妹や()

 

 

「はいよー。ただいまー」

 

「おかえりおねーちゃん。ご飯にする?」

 

 

おっと、普通に返されてもた。ここはうち的に『普通に入ってくるんかーい』ぐらい言ってくれたらやったら百点満点花丸大勝利やったんやけどな。………葵がんなことほんまに言うたら大爆笑もんやけどな。

 

 

「ほならシャワーだけ浴びて飯食べるで。」

 

「りょーかい。準備しとくね」

 

「ありがとなぁ」

 

 

葵がキットンに行くのを見てからうちは急いでシャワー室に入る。鏡で自分の服を見るとちょいちょい服に赤くシミが付いてるのがわかる。

 

 

「ちょいとはしゃぎすぎたなぁ」

 

 

うちは髪留めを外して洗面台に置くと、服を脱いでシャワーを浴びようとする。そのときに改めて目に入る赤色のシミにため息をついた。

 

 

 

ふぅ……、風呂から上がってスッキリしたし葵の飯でも食べるかぁ!これを楽しみにしとったから家の元気も百万倍やで!!

 

ん?サービスシーン?ないで(無慈悲)

 

 

「あ、おねーちゃん上がったんだ。」

 

「上がったでー」

 

「それじゃあご飯にしよっか」

 

「せやなー」

 

 

葵に連れられて食卓まで行くと葵の作ってくれたハンバーグがある。やっぱり適度にうちの好物を作ってくれるんは優しいわ。うちが一人のときは……っと。ちょいと疲れてるんかな。

 

 

「ほな、手を合わせて。」

 

いただきまーす

 

 

 

あ、めっちゃうまい。うちより料理上手になってないか…?

 

 

 

 

夜になるとやっぱり互いに自由にしてる。外にはでぇへんけどな。葵は多分本でも読んどるんととゃうかな?うちはあのへんの本は読み潰したから葵が読む感じ。たまーにうちがその辺から蔵書を増やしてたりする。あとは知り合いからもらったり……かな。

 

アリアルからはまともなん小説系の本が貰えるねんけど、どこぞのずんだ狂いからはアホみたいな量のずんだ本をもらった記憶があるで。しかもたち悪いんはその本全部違うやつやねんな………。どっから取ってきてん!

 

ん?うちは今何してるかって?そら……ベットの上でゴロゴロしとる。基本的には絵書いたりもするんやけど、葵のほうが上手やから……

 

あとはたまーにくる知り合いからの手紙を受け取るぐらい?いや、それも葵が受け取っといてくれることが多いねんな。

 

あれ?うち何もしてへんくね?

このままではうち、昼に散歩してるだけの人では……?

 

………、良し!寝るとしよか!

嫌なことは寝て忘れるに限る。偉い人もそういっとったしな。

 

 

おやすみ!良い夢を!

ここまでの語り手は琴葉茜でお送りしました!

 

 

 

 



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