北の大地にて (ケンタッキーはおいしい)
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1-1 北の大地へ

この小説では、リニューアル前の旧キャラ設定の踏襲及び現設定の改変、オリジナルキャラの登場を含みます。

また、公式からの言及のない部分につきましては私の想像による補完を含むため、解釈の相違についてはお許しください。

苦手な方はブラウザバックを推奨します。これを読んだことに基づくいかなる損害をも作者は負えませんのでよろしくお願いします。


ウマ娘のレース引退後の足取りは様々である。世話になったURAに就職し、後輩たちを指導する者、大学進学をして一般企業に就職する者、家業を継いで地域の顔となった者…G1ウマ娘ともなればその動向は衆目を浴び、マスコミの格好の餌となる。

 

実際過去には不幸にも週刊誌砲を食らってしまった者もいた。そして自分はそれをする側、要するに週刊誌記者である。

 

いわゆる芸能ゴシップをメインとするうちの週刊誌の編集長が自分に取材を命じたのは先週だった。3年前に電撃引退した元グランプリウマ娘にして女優、マンハッタンカフェの目撃情報が寄せられているから北海道でその噂を確かめてこいと。

 

「引退のとき大騒動になったんだ、これはうちがスッパ抜ければ売れるぜ」とカネのことしか考えていない編集長は汚く笑っていたが、ボーナスははずむぜと言われてしまえばやる気がわかないわけがない。勇んで荷物をまとめ空港へ向かった。

 

マンハッタンカフェは菊花賞、有馬記念、春の天皇賞と特に長距離でその才能を発揮したウマ娘であった。抜群のスタミナはもちろん、スピードも兼ね備えており、世紀末覇王と言われたテイエムオペラオーに引導を渡したのも彼女であった。活躍が期待された矢先の凱旋門賞ではレース中の故障により惨敗し、そのままレースの世界から退いたのだが、そこからは女優業に専念。

 

競技生活時代の当初はエキストラとして出演が多かったが、その頃から惹き込まれるような黄金の人見と黒く長い、艶のある黒髪というビジュアルにファンは多く、演技力も「役が憑依している」と言われるように好評であった。次第に名前付きの役を演じるようになり、凱旋門賞のころには映画の主役を務めていたほどだった。

 

しかし3年前、大女優としての階段を駆け上がり、国内の数々の賞を総なめにし、ハリウッドへの進出も秒読みと言われていた矢先に所属事務所から書面のみで「本日を以て新規の映画・ドラマ・舞台・CMその他の出演を一切停止する」という事実上の引退宣言が出た。当然日本中が大騒ぎになり、文○だの○潮だのフラ○デーだのといった週刊誌(当然うちも)は我先にと飛ばし記事を出した。

 

原因はあーだこーだといろんな説が世間で出回っていた。が、結局どのマスコミも彼女の足取りは追えなかった。居住していた都内のマンションからはすでに退去しており、その後の目撃情報も結局は人違いでしたという状況であった。そうこうしているうちに世の中からその存在は薄くなり、過去の人間となっていたのであるが…

 

2週間前、編集部にこんな電話が入った。「うちの近所のスーパーに最近黒髪のウマ娘が現れる。身長などから考えてどうもあのマンハッタンカフェのようだが、髪型などが全然違うため人違いの可能性もありそうだ」とのことである。

 

普段であったらスルーしていたであろうタレコミだったが、ここ最近の芸能界は有名所の男優女優がこぞって結婚してしまい、また不倫などのネタもなかった。要するに暇だったということである。記者は経験だと言う持論を持っていた編集長は、本腰を入れるようなネタではないと考えた結果エース格の先輩や取材の正確さに定評のあるベテランの記者ではなく、入社2年目の自分を経験を積ませると言う名目のもと北海道へ派遣させた。ゆえに今新千歳空港への航空便に自分は乗っているというわけだ。

 

正直言って今の自分のテンションはハイである。今の季節は夏。編集部のある東京は最高気温35度超えなんてザラだがどうやら向こうは30度ない。避暑もできて、いい情報が得られれば特別ボーナスも狙える。こんな美味しい話はない。もう立派な成人男性であるが、心はお宝探しをする少年である。ウッキウキのまま、飛行機を降りた。予想通り、頬を撫でる風が熱風ではなかった。これだけで北海道に来る価値があるというものだ。

 

さて、とりあえずは最初に札幌へ向かうため空港から電車に乗る。そして、昼ご飯を食べようと考えている。豚丼にしようか、はたまた味噌ラーメンにしようか…うんうん考えていたら、上司からのメッセージがたまっていたことに気づいた。反省。でも、美味しいものいっぱいあるから仕方ないと思う。やる気アップのためにも食事は重要だし、まあ、うん。と浮かれポンチで目的地へ向かった。




どのくらいの長さになるかは私にも想像がつきません。作者は多分失踪しないと思うので気長に続編をお待ちください。


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1-2 手がかり①

この小説では、リニューアル前の旧キャラ設定の踏襲及び現設定の改変、オリジナルキャラの登場を含みます。

また、公式からの言及のない部分につきましては私の想像による補完を含むため、解釈の相違についてはお許しください。

苦手な方はブラウザバックを推奨します。これを読んだことに基づくいかなる損害をも作者は負えませんのでよろしくお願いします。


空港から快速列車に揺られること40分弱、ついに自分は札幌駅に到着した。降りたホームには青色の特急列車が止まっていて、エンジン音を響かせていた。札幌は200万都市であり、北海道はおろか北日本でもぶっちぎりの最大級都市である。窓から見えるビル街はさすがに東京都心のレベルには及ばないが、それでもやはり都会特有の空気を醸すには充分であった。ここからは地下鉄に乗り換える。東京のとは違って車輪が鉄ではなくゴムタイヤなのが特徴らしい。乗り換えを一度挟んでしばらくすると、支社の入っているビルの最寄り駅に到着した。

 

階段を上がって地上に出てビルに入り、エレベーターで4階へ。札幌支社はあまり大きくないこのビルのワンフロア分を借り切っていた。従業員はおよそ30名弱といった感じだろうか。支社長だと名乗る痩せて頭皮の薄くなった中年男性と通り一遍のコミュニケーションを済ませた後、今回一緒に仕事をする人とのご対面だ。彼は松原といった。年は30行かないくらいだろう、頭を角刈りにしてどことなくスポーツマン臭のする人間だった。

 

「とりあえず、お昼でも食べましょう」と彼に誘われた。や○い軒だった。ごはんお代わりできるのうれしいよね、ここ。彼は見た目に違わず生姜焼きをおかずに米をかっ食らっていた。ちなみに自分は味噌カツがおかずだ。別に東海地方の人間ではないが、濃いみそだれが良く白米に合うのでお気に入りのメニューである。お互いのメインディッシュが半分くらいになった時彼は急に話を切り出してきた。

 

「例のタレコミなんですがね、どうもビンゴみたいですよ」

「本当ですか。目撃情報が一人だけからだったんでどうせガセネタだろうと踏んでいたんですが」

「いや、それが目撃されたスーパーの二ブロックとなりの八百屋に現れたんですってよ」

「へえ、シンプルに買い物なんでしょうかね」

「それは分からないみたいです。レタスを3玉買って行ったとかで…一人でそんな食べますかねえ。でも、髪が短くなっていた以外はあの金色の瞳も、華奢な体も何も変わっていなかったようですからやはりこれは噂通り札幌にいるのではないかと」

 

編集長からすでに支社の人間が先行調査をしているとは聞かされていたがまさかここまで話が進んでいたとは…ともかく、見間違いではなさそうなので証拠固めをすれば十分な収穫となるだろう。とにかく、まずはこのカメラのファインダーにその姿を収めるところから始めなくてはならないが、そんなにやる気満々で現場近くを徘徊しても通報されるのがオチである。今日は取材の下準備に彼とともに取り組むことにしようと、そう決めたのだった。

 

オフィスに帰った後は、彼と共に取材の役割分担や方向性を決める。聞き込みに関しては突然部外者の自分が入っても怪しまれるだけなのが目に見えていたため彼に一任し、自分は証拠写真の撮影を狙うことにした。さっきも述べたように当然カメラを持ってうろうろしているだけではただの怪しい人なので何らかのカモフラージュが必要だ。警察みたいに車の中での張り込みも考えたが、目撃された場所は路駐禁止であるためこれも断念。結局、駅の近くのホテルを借りることにした。このホテルには朝食会場にもなっているレストランやラウンジが通りに面しており、若干見るときの角度がきついが八百屋やスーパーも見える位置にある。これで基本体制は整った。ここからは根気よくターゲットを待つのみである。

 

松原の聞き込みによれば、彼女が店を訪れたのは6日前らしい。編集部に目撃の第一報が届いたのが2週間前、ということは周期的に来るのであればもうそろそろという推論に至る。実際そううまい話ではないだろうが、とにかく根性で耐えて待つしかなかろう。我慢比べである。そうして、撮影用のカメラの充電やら編集長との事務的な報告やらをしてこの日は眠った。




実際の投稿は1日に1本、字数は1500字程度になるかと思われます。ただ、私用で今後2週間ほど投稿が不定期になる可能性がありますが気長にお待ちください。多分失踪しないんで。


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1-3 手がかり②

この小説では、リニューアル前の旧キャラ設定の踏襲及び現設定の改変、オリジナルキャラの登場を含みます。

また、公式からの言及のない部分につきましては私の想像による補完を含むため、解釈の相違についてはお許しください。

苦手な方はブラウザバックを推奨します。これを読んだことに基づくいかなる損害をも作者は負えませんのでよろしくお願いします。


さてと、アラームで目を覚ましたらいよいよ張り込み生活の始まりである。今回対象となるスーパーは9時開店、八百屋が8時半開店である。それまでに準備を整えたいと思う。とりあえず、ホテルのバイキングで朝食を摂ったらコンビニで昼ご飯を買う。いつ来るかわからない以上当然だ。

 

というわけで今回は隣のビルにあるセ○ンイ○○ンで買うことにする。眠気覚まし用のコーヒーも一緒にだ。食べやすいようにおにぎりが二つ(しゃけとおかか)、サンドイッチが一つ(たまご)、サラダチキンバー一本(バジル)を購入して部屋に戻った。タオル交換以外のルームサービスの類は一切お断りした。ホラ、下手にいろいろ機材に触れられて取材の邪魔をされても困るしね。

 

松原さんの調査と推測によると、来る時間としてはお客がほどほどに多い昼時のセールをやっていない時間帯が一番濃厚だということだった。まあ、理にかなった推測だ。周りでとやかく騒ぎ立てられれば一番迷惑だと分かり切っているのはマンハッタンカフェ本人である。おばさんの戦場と化すカオスな時間帯に先陣切って突入するわけがない。かといって閉店間際や客の少ないときに店に行けば店員の印象は強くなる。これに当てはまる時間帯は10時半から11時半と13時から15時半だとも教えてもらった。

 

この時間帯を中心に撮影を狙うが、今の時間はまだ8時にすらなっていない。メモリーカードの容量や電池残量をチェックしながら、「今日はどちらの店もセールがないらしいから、もしかしたら朝一で来ることもあり得るな」なんて思考を巡らせてコーヒーを飲み、気合を入れた。そして、二回のラウンジに降り、椅子に腰かけて態勢を整えた。

 

が、まだ30分は暇である。コーヒーばっか飲んでても仕方ないので3年前の引退騒動の時にうちの編集部がまとめた資料でも読む。引退当時の年齢は26、かつて住んでいたのは東京都台東区の上野のマンションの一室で、引退発表の二日前に大家に契約解除の連絡がありそのまま身辺のもの以外引き払ってしまっていたらしい。その後の足取りは(よう)として知れず、都内某所にある実家にもマスコミは押し掛けたがやはりそこにも顔を出してはいなかった。

 

いくら探し回っても本人の居場所がつかめないので、いったい何が引退の原因か?と各誌は頭をひねり、それを見つけに取材に向かった。

 

しかし、何らかの病気説を推して全国を回った某編集部は目撃情報がなくて撃沈、男がらみだと推測して調査した某記者はマネージャーやスタイリストなど彼女の関係者がみんな女性でスキャンダルから守られていたため糸口がつかめず撃沈、トレセン学園時代の友人であるアグネスタキオン某大准教授に取材に行った某女性雑誌は「親友の情報を金銭ごときで売ったりするわけないねえ」と取り付く島もなく追い返された挙句に出禁を食らって撃沈と散々な目に遭っていたらしく、みんな手を引いた。

 

ちなみに某記者とはうちの編集部の人だが、この失敗を機に落ち目となり事実上の左遷である配置換えを食らい今では総務部にいるとか。おお怖い怖い。

 

そして、次のページには今の編集長が残した考察が残っていた。そこには大きい文字で「トレーナー、トレセン学園退職済み 要調査」と書かれていた。トレーナーとは競技生活での指導者であり、特に専属トレーナーとは多くのウマ娘が卒業後一生を共にすることは多い。実際、さっき話題に出したマンハッタンカフェの同期のアグネスタキオン准教授もそうらしい。

 

が、彼女は違った。芸能界に入り、レースと無縁の生活を送り続けた。そして、彼女のトレーナーもまたトレセン学園専属のトレーナーとして勤務を続けており、彼女との関係は絶たれていた。

 

そんな状態はしばらく続いていたらしいが、彼女が芸能界を引退する2か月前に突如として退職届を出しその後国外に転出したらしい。彼の知り合い曰く退職する前年に「海外留学した時にお世話になった人が、『牧場をやるから君も手伝ってくれないか』っていうんだ。正直今の仕事もいいけど、心は揺れるね」と話していたというから、恐らくその筋が濃厚だろう。編集長は海外に行った彼の足取りをつかんで彼女の引退の原因を見つけようとしていたみたいだが、先ほど言ったように各編集部が撃沈していたことと、海外取材のコストがシンプルに高いことから断念していたようだ。

 

どうも、この線がクサイと思えてきた。後で松原さんにも話してみるとしよう。時間は8時28分、スーパー開店の2分前。さあやるぞと改めて缶コーヒーのブラックをぐっと飲み干し、気合を入れた。




さてと、三話ですね。飽き性の自分でもここまで書けるのかと少し感動しております。まだ彼女が出てくるのはしばらく先ですが気長にお待ちください。
基本的に朝六時の予約投稿にしていますが、筆がのりすぎた場合は今回みたいに夜投稿もあります。よろしくお願いします。


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