禁断師弟がベル君の先輩なのは間違っているだろうか (ナカタカナ)
しおりを挟む

プロローグ


 思いつくたびに書いてしまう。しかし完結までいかない・・・申し訳ない。




 

 「なぁ、トレイナ。こうやってお前と二人で旅するのも、なんだか久しぶりじゃね。」

 

 『そうだな。ここ最近は色々と面倒ごとが重なっていたからな。」

 

 「ジャッポーネの問題に巻き込まれるわ、オウナには恥ずかしい昔話をみんなに暴露されるわ。ハクキには殺されそうになるわ・・・」

 

 『だがまぁ、そのおかげで、童も相当成長しただろう。」

 

 美しい自然に囲まれた辺境の地にて、一人の少年が誰かと会話している。

 

 しかし、少年の周りには誰もいない。

 

 少年の名前はアース・ラガン。七勇者ヒイロと同じく七勇者マアムを親に持つ、俗にいうお坊ちゃまだ。

 

 「なんか懐かしいな。お前と会ってから一年も経ってないけどよ、いや、この世界で一年経ってないだけで、もう二年くらいの付き合いだもんな。」

 

 『本当に、童と出会ってからというもの、余もあんな経験をするなんて思わなかったぞ。」

 

 そして、先ほどから少年と会話している存在は、かつて、世界を恐怖の底に叩きつけた最凶の大魔王トレイナ。その幽霊だった。

 

 少年は、屋敷にある剣に触れたことで、七勇者たちによって倒された後、成仏されずに彷徨っていたトレイナが見えるようになる。

 

 幼い頃から優秀な両親と優秀な友人たちと比べられてきた少年は、世間からは「勇者の息子なのに、何か物足りない」と評価されていた。毎日毎日、鍛錬に励むも、父と同じ魔法剣士としての才能は芽生えず。しかし、大魔王トレイナは少年にいった。

 

 「お前に魔法剣士は向いていない。」と・・・

 

 

 それから少年はトレイナに鍛えられる。

 

 ハードな鍛錬、何度も心が挫かれそうになった。しかし、少年は決して「やめたい」や「もう無理」などと言わなかった。

 

 なぜなら、大魔王トレイナだけが、少年アース・ラガンのことを勇者の息子としてではなく、アースとして見てくれたからだった。

 

 それからというもの、アースは数々の強敵と、その拳で、ハートで、喧嘩してきた。

 

 いつしか少年は八勇者といわれるようになっていた・・・

 

 

 「元気にしてっかな・・・ヘスティア様。」

 

 『あの女神ならきっと、いい眷族を見つけているだろう。いや、案外バイト生活を続けているかもしれんな。」

 

 「ハハハ、ありえる。今度、会いに行ってみるか。」

 

 

 そのときだった。少年の背中が熱く燃えるように熱を帯びる。

 

 『お、おい童。」

 

 「あぁ、ヘスティア様からの声が聞こえる。『僕の新たな眷族を助けてくれ』って。行くかトレイナッ!」

 

 『あぁ、余も久々にダンジョンを見たいぞ。』

 

 「我願う。異なる世界にて、我を子に思う義母に会いたいと ワールド・トラベラー」

 

 そしてアースは光に包まれる。優しくて、暖かな、聖火を連想させる熱を背中に背負って・・・

 

 





 禁断師弟でブレイクスルーは本当に面白いです。読んだことない人は是非とも読んでください。めちゃくちゃ熱いです!!


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

再会 ヘスティア


 キリのいいところで終わっときます。


 

 「すまん、ヘスティアッ!」

 

 迷宮都市オラリオにて、今にでも崩れ落ちてしまいそうな教会。その中で、一柱の男神が、見た目だけならよくて少女、下手をすると幼女にも見えてしまうほど、幼い顔つきをした、しかしそれでいながら、胸部にはとてつもない破壊力を持った、女神に頭を下げていた。

 

 「こいつらも必死だったとはいえ、申し訳ない。」

 

 男神、名をタケミカヅチといい、かの神の後ろには、彼の眷族が一列に並んで顔を伏せていた。

 

 「もし、ベル君が戻ってこなかったら、君達のことを死ぬほど恨む。けれど、憎みはしない。約束する。」

 

 そう告げた彼女の表情はどこまでも優しく、心の底から包み込んでくれるような母の表情を浮かべていた。

 

 「どうか、僕に力を貸してくれないか。」

 

 そういって、女神ヘスティアはタケミカヅチの眷族たちに手を伸ばす。

 

 その姿にタケミカヅチの眷族たちは跪き。

 

 「「「「「「仰せのままにッ」」」」」」

 

 「とはいえ、捜索隊を編成するといっても、めぼしい子はみんなロキ・ファミリアの遠征についていってるわよ。」

 

 そういったのは燃えるような赤髪を持ち、眼帯をした美女。彼女も神であり、名をヘファイストスという。

 

 「うちからも中層に出せるのは桜花と命、サポーター代わりに千草程度だ。」

 

 「俺も協力するよ。ヘスティア。」

 

 そういって、また新たな神が現れる。名をヘルメス。かのヘスティアと同郷の神だ。

 

 「神友として、俺もベル・クラネルの捜索に手を貸すよ。」

 

 爽やかな笑顔を浮かべるヘルメスに対し、他の神々は物申す。

 

 「とかいって、あの子(・・・)がいたときは散々、迷惑をかけていたのに」

 

 「確かに・・・いい加減な神友だ。」

 

 正論を叩きつけられたヘルメスは肩を落とすが、切り替えて・・・

 

 「でも、力を貸したいのは本当だ。 ベル君を助けたいんだ。うちからは、このアスフィを出す。うちのエースだ。」

 

 「はあッ!?」

 

 急な主神からの命令には眷族である彼女も戸惑ってしまう。しかし、これもいつものことと切り替える。

 

 「今は人手が欲しい。頼むよヘルメス。」

 

 「出発は今夜だ。桜花、お前たちはすぐに準備をしろ!」

 

 「ヘルメス様、神がダンジョンに潜るのは。」

 

 「大丈夫大丈夫。バレなきゃいんだよ・・・あっ。」

 

 「ぴゅーぴゅーぴゅー 僕もついていく。バレなきゃいんだろ?」

 

 「あちゃぁー」

 

 捜索隊には冒険者たちに加え、ヘスティアとヘルメスが加わることになった。

 

 ダンジョンに神が潜ることは禁止されている。その理由は、ダンジョンが神を嫌っているからだ。そして、嫌いな神が侵入してきたことを察知したダンジョンは神を排除しようとする。つまり、イレギュラーが発生するのだ。

 

 「感じるんだ。ベル君は生きてる。僕の与えた恩恵は二つとも消えちゃいない。そうだッ! あの子にも力を借りよう。」

 

 そういって、ヘスティアは願う。異なる世界の住人でありながら、自分達の世界に迷い込み、自身の初めての眷族になってくれた少年に・・・

 

 

 

 

 

 

 

 ヘスティアの願いはすぐに届いたようだ。

 

 彼女の目の前に光の扉が現れると、そこから一人の少年が現れた。

 

 「久しぶりだなヘスティア様!」

 

 「アース君ッ!」

 

 そして二人は再会した。

 

 「積話もあるだろうが、今はそれどころじゃないんだろ?」

 

 「あ、あぁ、そうなんだ。実は僕の新しい眷族のベル君が・・・」

 

 ヘスティアから事情を聴いたアースは、腕を組む。

 

 「なるほどな、じゃあ俺も準備する。大丈夫、俺が来たんだ。ヘスティア様もベルってやつも俺が助けてやる。」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 辺りは暗くなり、準備を終えたアースたちは広場に集まっていた。

 

 「ハハハ、にしても久しぶりだね。元気だったかいアース君。」

 

 「おう、ヘルメス様も相変わらずアスフィさんを困らせてるんだろ?」

 

 「あちゃ~その通りさ。」

 

 「アスフィさんも元気そうだな。」

 

 「えぇ、あなたも元気そうでなによりです。」

 

 アースと二人は旧知の仲であり、久しぶりの再会に喜んでいた。

 

 そんなときだった。

 

 「なっ!? ア、アースなのですか?」

 

 「なんだリューさんか。リューさんも手伝ってくれるのか。心強いぜ。」

 

 広場に現れた緑の覆面を被ったエルフの女性。名をリュー・リオン。正義の女神アストレアの眷族だ。

 

 「いつ戻ってきたのですか?」

 

 「ほんの数時間前。ヘスティア様の声が聞こえてな。」

 

 「そうですか。クラネルさんの身を考えると不謹慎ですが、再びあなたとダンジョンに潜れることを嬉しく思います。」

 

 「しばらくいるつもりだから、また一緒に潜ろうぜ。」

 

 「えぇ、それでは行きましょう。」

 

 こうして一行はダンジョンへと向かった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 「おらっ大魔フリッカー。大魔ジョブッ!」

 

 戦闘を進む少年は舞うようなステップを刻み、モンスターにその拳を打ち付ける。

 

 槍のように素早く貫通力を持ち、ハンマーのような威力を備えた、彼の努力の結晶と言っても過言ではない。

 

 「上層じゃあ、ウォーミングアップにもならねぇ。」

 

 「相変わらず豪快だね。でも、僕は君のそういうところが好きだよ。」

 

 アースに向けてヘスティアがそういう。

 

 普段のアースなら美少女にそんなことをいわれたら照れるのだが、アースはそんなそぶりを見せない。

 

 なぜなら、ヘスティアとはアースにとって、この世界の母であるからだ。

 

 「さて、ペース上げていくか。」

 

 「ちょっと!? 無視しないでよッ!」

 

 「はいはい、俺もヘスティア様のことは好きだぜ。リューさん、いくぞ。」

 

 「はい、行きましょう。」

 

 そういって、エルフの女性リューは、神から授かった二つ名「疾風」の如くモンスターを倒し、

少年アースは暴風の如く、モンスターを打ち砕いて進む。

 

 「アスフィ、俺達いらなかったか?」

 

 「そのように思えてきました。」

 

 





 


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

俺の弟分は優秀らしい

 

 「大魔スプリットステップッ! 遅いぞノロマ!」

 

 アースたちはダンジョンを進みキラーアントが現れる七階層まで来ていた。

 

 「千草、槍を出せ!」

 

 「うん、桜花。」

 

 「はあッ!!」

 

 タケミカヅチファミリアの三人がヘスティア、ヘルメスの周りで護衛を務め、アスフィ、リュー、アースが

先頭に立って、キラーアントを討伐している。

 

 「やるねぇ。」

 

 「うんうん、アース君はアース君だ。僕は嬉しいよ。」

 

 そんな自身の子供たちの姿を見て神は嬉しそうにしている。なんともまぁ、呑気なことだ。

 

 「よし、このまま進むぞ。」

 

 アースが先頭に立ち、ダンジョンを突き進む。

 

 『うむ、やはりダンジョンというものは興味深いものばかりだ。シソノターミでもこのような建造物を作ることは出来なかっただろう。腐っても神ということか。』

 

 「そうだな、こんなのがずっと下まで続いているって初めて聞いた時の衝撃は忘れられないよな。天空世界を見たとき以上の衝撃だったぜ。」

 

 『ふふふ、余も興奮が収まらないぞ。さぁ、早く行くぞ童。』

 

 

 

 

 

 

 

 

 「こ、これはベル君の・・・」

 

 そして一行はベルたちがいたと思われる場所までやって来た。

 

 ダンジョンの崩落があったのか、道は瓦礫で塞がれていた。

 

 「もうここにはいないみたいです。」

 

 リューが瓦礫の山を登り、奥の様子を見た。そこには魔石がいくつか落ちているだけだった。

 

 「ここで装備の大半を失い、怪我を負ったと仮定すると、彼らが出鱈目にダンジョンを彷徨うとは考えずらい。となると・・・」

 

 「こりゃ十八階層まで行ったな。」

 

 「私もそう思います。」

 

 アスフィの考えにアースとリューが同意する。

 

 「ダンジョンには無数の縦穴が存在します。上に向かうより下へ向かった方が効率的です。」

 

 『うむ、ヘスティアの話では、そこそこ優秀なサポーターがいるといっていたな。そのサポーターが提案したのだろう。』

 

 「だからって下へ降りるか?」

 

 桜花が疑問に思う。

 

 「十八階層には安全階層(セーフティポイント)である『迷宮の楽園(アンダーリゾート)』がある。それに聞いた話じゃあ、ロキ・ファミリアが遠征でゴライアスを倒したらしいじゃねぇか。なら、そこで上級冒険者と合流し、地上へ戻ってくるときに同行するだろう。」

 

 アースが桜花の疑問に回答する。

 

 「えぇ、それに彼らは、いや、一度冒険を越えた彼なら、そうするはずです。」

 

 リューが力強くそういった。

 

 『レベル1でミノタウロスの単独討伐とな。それが本当であったら、童も弟分は相当な冒険者だろう。』

 

 「そうだな、会うのが楽しみだぜ。」

 

 「僕も、ベル君は下にいる・・・気がするんだ。」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 「出やがったな犬っころ! 大魔フリッカーッ!からの、マジカルフットワークッ。」

 

 アースたちは十四階層まで降りた。すなわち、ファーストラインまでやってきたのだ。

 

 この階層で出てくるモンスターは口から炎を吐く犬。ヘルハウンド。別名「放火魔(バズカウィル)

 

 犬ということもあり、素早いのだが、アースにとってはカタツムリと同じ。

 

 圧倒的な拳の嵐でヘルハウンドたちが炎を吐く前に顎を潰す。

 

 「つ、強い・・・あいつは一体・・・」

 

 桜花はアースの後姿を見て呟く。

 

 「彼はアース・ラガン君。僕の初めての眷族であり、自慢の家族さ!」

 

 ヘスティアは胸を張ってそういった。

 

 『童』

 

 「あぁ、マジカルレーダーに反応がある。リューさん後ろだ!」

 

 「はあッ!」

 

 アースの指示を聞いて、リューは振り向きざまにヘルハウンドを両断する。

 

 「次行くぞ。」

 

 「はいッ!」

 

 リューとアースのコンビは瞬く間に十四階層のモンスターたちを一掃するのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 十五階層 

 

 「やっと手ごたえのありそうなモンスターが現れたな。」

 

 薄暗いダンジョンの奥から足音を響かせてやってきたのは、ミノタウロス。

 

 レベル1での討伐は、ほぼ不可能だといわれているモンスターだ。

 

 というのも・・・

 

 「ウオオオオオオオッ」

 

 聞いただけで、強制停止を招く咆哮(ハウル)を使うためだ。

 

 レベル2であったとしても、命を落とすことは少なくない。

 

 「ウォーミングアップは出来てるんだ。いくぜ。」

 

 そういって、アースは駆け抜けた。

 

 

 

 

 

 

 「す、すごい。」

 

 「あぁ、ミノタウロスとあんなガチンコやるだなんて。」

 

 「武器もないのに・・・」

 

 彼らの視線の先にはアースがいた。

 

 ステップを踏み、ミノタウロスの攻撃をかわすと、急所に的確にパンチをいれる。

 

 「スプリットステップッ! グースステップッ! おらッ喰らいやがれ。大魔スマッシュ!」

 

 アースの放った拳はミノタウロスの顔面に突き刺さり、角をへし折った。

 

 「まだまだッ! 止めだ。 大魔ヘッドバットォォォォ!」

 

 体制を崩したミノタウロスの顔を掴み、そこに目掛けて自身の額をぶつける。

 

 轟音がダンジョンに響きわたり、ミノタウロスは灰へ変わった。

 

 「ふぅ、いい運動になった。」

 

 『最初はあんなに手こずっていたミノタウロスも、今では赤子の手を捻るようだな。』

 

 「あぁ、俺も成長したってことだろ。」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 十七階層

 

 「さて、ついにやって来たか。十七階層・・・ゴライアス。悪いけど一撃で決めさせてもらうぜ。」

 

 そして、アースは己の拳を天に掲げた。

 

 ダンジョンにおいても階層主と呼ばれるモンスターが存在する階層は他の階層と比べても広いのだが、そのダンジョンの天井にまで届く螺旋がアースの腕に現れる。

 

 この日、ゴライアスの体は一つの螺旋に貫かれた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 





 ゴライアスの活躍はほとんどありませんでした。

 ゴライアス哀れ・・・


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

俺の弟分は良い奴だ。


 だいたい、アースがオラリオに来たのが原作の始まる二年前ほどです。

 アースが過去へ飛んで、エスピたちと別れてから現代に戻る際に、色々あって、オラリオに迷い込みます。始めは、アストレア・ファミリアがジャガーノートと戦っているところへ、迷い込み、ジャガーノートと戦います。それに勝利し、一安心したところで、再びアースは飛ばされて原作開始二年前にたどり着きます。

 ヘスティア様はそのとき下界に来ていないのでは?という点は、既に下界に来ていたということになります。

 ちなみにアースのレベルは5です。


 

 ゴライアスを討伐したアースたちは、目的の十八階層へと向かうために、穴から十八階層へと降りた。

 

 「いたた・・・」

 

 ヘスティアは案の定ゴロゴロと転がり落ちた。

 

 「神様?」

 

 「ベル君ッ!! ベル君ベル君ベル君ッ!」

 

 ヘスティアが十八階層へ到達すると、探していた人物ベル・クラネルがいた。

 

 嬉しさのあまりヘスティアはベルに抱き着く。

 

 そんなヘスティアに対し、ベルは苦笑する。

 

 「本物かい? よかったぁ~。」

 

 自身の子供の無事を確認したヘスティアは涙を浮かべる。

 

 「心配かけて、ごめんなさい。」

 

 感動の再会・・・と思いきや。

 

 一人の小人族の少女リリルカ・アーデがヘスティアを離れさせる。

 

 「もう、感動の再開に水を差さないでくれよ・・・ヴァレン何某!?」

 

 ベルを追いかけてきたと思われるロキ・ファミリア所属のレベル6 「剣姫」アイズ・ヴァレンシュタインも現れた。

 

 そして、ベルのもう一人のパーティメンバーであるヘファイストス・ファミリア所属のヴェルフもベルの心配をして、追いかけてきていた。

 

 

 

 

 

 「君がベル・クラネルかい?」

 

 そこへ、ヘルメスが話しかける。

 

 「はい。」

 

 「そうか、君が・・・俺の名はヘルメス。どうかお見知りおき。」

 

 「どうも、ありがとうございます。」

 

 ヘスティアがここにいることから、事情をなんとなく察したベルは、ヘルメスに礼を告げる。

 

 「あぁ、感謝なら俺じゃなくて、俺以外の子達にいってくれよ。彼らのおかげで、ここまで来れたんだ。」

 

 ベル、リリ、ヴェルフは視線を穴のほうへと向ける。そこに立つ人物たちを見た瞬間、殺気だった。

 

 そう、彼らが、命の危機に陥る原因となったタケミカヅチ・ファミリアの三人がいたからだ。

 

 「あれ、なんか俺、空気?」

 

 『童・・・カクレテールであった魔極真流の決勝戦といい・・・泣くな。』

 

 「な、泣いてねぇし!!」

 

 

 

 

 

 

 

 場所は移り、ベルたちが休んでいたテントへと変わっていた。

 

 「本当に申し訳ありませんでした。」

 

 黒髪を後ろに束ねた美少女、命がベルたちに向かって土下座をしていた。

 

 「そんな、頭をあげてください。」

 

 「いくら謝られても、簡単には許せません。リリたちは死にかけたのですから。」

 

 「あぁ、そうすっぱり割り切れるものじゃない。」

 

 ベル以外の二人は、許せないといっている。それも当然だろう。

 

 「本当にごめんなさい。」

 

 千草も命に続き、謝る。

 

 「リリ殿たちの御怒りはごもっともです。」

 

 「責めるなら俺を責めろ。あれは、俺の出した指示だ。」

 

 そして、先ほどまで目を瞑り黙っていた桜花がそういった。

 

 「俺は今でも、あの指示は間違っていないと思っている。」

 

 「それをよく、俺達の前でいえるな・・・」

 

 桜花の言葉にヴェルフは目を細める。

 

 「・・・僕も、リリやヴェルフ・・・仲間の命がかかっていたら同じことをしていたかもしれません。」

 

 その言葉を聞いてリリとヴェルフは黙りこむ。

 

 「ベル様がそうおっしゃるなら・・・」

 

 「・・・ちっ、割り切ってはやる。だが、納得はしないからな!」

 

 「それで十分だ。」

 

 こうして、両者は和解できた・・・

 

 「ところで、あなたは?」

 

 ベルがアースに尋ねた。

 

 「ぐすっ・・・よく、聞いてくれたな。」

 

 先ほどからずっと空気だったため、アースは心で泣いていた。そんなアースをトレイナは慰めていた。

 

 「俺はアース。アース・ラガンだ。簡単にいうと、お前の兄貴分ってやつだな。」

 

 「は、はぁ?」

 

 「ヘスティア・ファミリアの冒険者だってことだ。」

 

 「えっ?・・・・・・・えぇぇぇぇぇぇ!?」

 

 アースの告げた事実にベルは戸惑う。

 

 「ハハハ、お前可愛いな。良い奴だ。良かった、ヘスティア様の新しい眷族がどんな奴か気になってたんだが・・・うん、さっきのやり取りといい、良い奴で安心したよ。」

 

 アースは野性味あふれる笑みを浮かべてベルの頭を撫でた。

 

 「パーティメンバーの二人も、えっと、リリとヴェルフでいいよな? 俺からもベルのことを守ってくれてありがとうな。」

 

 撫でていた手を退かして、二人の前に拳を突き付ける。

 

 「俺の弟分は主神だけじゃなく、仲間にも恵まれたようだ。」

 

 「そんな、ベル様を守るだなんて、いつもリリはベル様に守ってもらってばかりで・・・」

 

 リリはあたふたしながら、アースにそう答えた。それに対しヴェルフは・・・

 

 「そうか、あんたがヘスティア様の最初の眷族か・・・俺も主神様から噂は聞いてたぜ。それに、ベルは俺の仲間だ。守るのは当然だ。」

 

 ハッとした表情を浮かべるが、すぐに堂々とした表情へ変わる。

 

 「アースさんも、僕達のことを探しにきてくれたんですよね? 本当に、ありがとうございます!」

 

 「気にするな。俺の方こそ、ヘスティア様のことを頼むぜ。俺自身ちょっと訳ありでな。ずっとオラリオにいるわけじゃないんだ。」

 

 「はいッ。」

 

 と会話も一区切りしたところで、ヘルメスがこれからの予定について説明する。

 

 「地上への帰還はロキ・ファミリアが先に出発し、ゴライアスを討伐してからとのことです。ですが、先ほどアースさんが単独でゴライアスを討伐したため、予定変更をしなければならないそうです。」

 

 「なので、ロキ・ファミリアが出発するのは早くても二日後とのことです。」

 

 「つまり、一日の休みがある。明日はゆっくりしようか。」

 

 アスフィの説明を聞いてヘルメスがそう提案する。

 

 

 

 

 

 

 

 

 話し合いを終えたあと、ベルはアイズとどこかへ行った。

 

 「しまった、アイズにティオナのこと聞いとけば良かった・・・」

 

 『あのアマゾネスの妹か。確かレベル5で上級冒険者だったな。ならば、遠征にも参加しているはずだ。

どこかのテントにはいるだろうが・・・』

 

 「久々に会いたかったんだけどなぁ、まあ、明日でいいか。」

 

 『童・・・あの娘のことが好きなのか?』

 

 「す、好きッ!? ち、ちげぇよ、アイツは親友だよ。まぁ、確かに可愛いと思うけど・・・」

 

 『フィアンセ、サディス、シノブ、クロン、アミクス、ノジャ・・・』

 

 「う、五月蠅いなッ! それにノジャまで入れるなよ!」

 

 『にしてもだ童よ。この階層は、いつ来ても美しいな。』

 

 そういったトレイナはアースの隣でダンジョンの天井を見る。

 

 そこには魔石たちが星々のように輝いていた。

 

 「これがダンジョンの中なんて信じられないよな。」

 

 『あぁ、様々な経験をしてきた余だが、異世界とは余の知らない未知で溢れてるな。』

 

 「そうだな・・・それで、さっきからどうしたんだヘスティア様。」

 

 マジカルレーダーに反応があったのか、アースは背中のほうにあった茂みに話しかけた。

 

 「な、なんだい気づいていたのかい?」

 

 「まぁな。」

 

 アースが笑みを浮かべて、その場に座り込んだ。すると、ヘスティアもスタスタと歩み寄ってアースの横に腰かけた。

 

 「なんか一年も経ってないのに懐かしいな。」

 

 「そうなのかい? 君が元の世界に帰ってから、この世界では一年以上経ってるよ。」

 

 「やっぱり世界が違うと時間の流れも違うのか?」

 

 「寂しかったんだよ。今はベル君がいるから、そうでもないけど、君がいなくなってからというもの、あの教会はやけに広く感じたんだ。」

 

 「・・・悪い。」

 

 「うんうん、気にしないでくれ。君には帰るべき場所があるんだ。だけど、この世界での帰る場所っていったら、僕達のホームなんだからねッ!」

 

 悲し気な表情を浮かべていたと思ったら、急に元気な声でそういった。

 

 「あぁ、わかってるよ。義母さん。」

 

 「ベル君といい、君といい、どうしてこんなに可愛んだッ!」

 

 アースが「義母さん」と言った瞬間に、ヘスティアはアースに抱き着く。

 

 「や、やめろよ。」

 

 「ふふふ、だからね、もっと頻繁に帰ってきていんだよ。」

 

 「あぁ、わかった。これからはそうする。面倒ごとも色々片付いたし、これからは、ひと月に一度は顔を出せると思う。」

 

 「本当かい!? 嬉しいなぁ。」

 

 幼い容姿のせいか、どこまでも無邪気な少女に見えるヘスティアの姿を見てアースも思わず微笑んだ。

 

 





 アースの性格が原作よりも落ち着いているのは、様々な経験を得たからという設定です。しかし、強敵と戦う時のアースは原作同様! めちゃくちゃ熱いので、楽しみにしておいてください。あと、ヘスティア様はヒロインではないです。


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

俺の弟分は俺を裏切ったようだ・・・


 キリのいいところで終わっておきます。


 

 昨夜は十八階層で義母との語らいで終わり、ぐっすりと休むことのできたアースだったのだが・・・

 

 「おーい起きろおおお!!」

 

 「うわっ!?」

 

 アースの安らぎは一人の少女によって壊された。

 

 「ティ・・・オ、ナ? ティオナじゃねぇか! 久しぶりだな。」

 

 アースの安らぎを壊した少女の名はティオナ・ヒュリテ。オラリオのニ大派閥であるロキ・ファミリアに所属するレベル5のアマゾネスの少女だ。二つ名は「大切断(アマゾン)」巨大な両刃のウルガという武器を使用し、モンスターを真っ二つにする。

 

 「アースッ! 久しぶり。」

 

 「ちょっと待ってろ、すぐに起きるから。」

 

 二人は大親友だ。というのも、オラリオに迷い込んだアースは、元の世界に帰るためにダンジョンを攻略していたが、それだけではなく、地上での鍛錬も行っていた。その中に読書があった。

 

 読書をすることで、目の力を鍛える。トレイナの練習メニューだ。

 

 そこで、本屋にいったところで出会ったのがティオナだった。ティオナも英雄譚が好きで、アースにお勧めの物語を教えていたのだ。

 

 それからというもの、二人は親友となった。

 

 「にしてもティオナ・・・その、あんま変わってないんだな。」

 

 「ああッ!! どこ見ていったの!! ねぇ、今完全に私の胸を見ていったよね!!」

 

 「悪い悪い。でも、なんだか大人っぽくなったな。」

 

 「えっ!? 本当?」

 

 ティオナには双子の姉がいる。ティオネといい、彼女もまたロキ・ファミリアに所属るするレベル5の冒険者で二つ名は「怒蛇(ヨルムンガンド)」。ロキ・ファミリアの団長フィン・ディムナに恋する少女なのだが・・・二人はその、なんというか、顔つきはほとんど一緒なのだが・・・胸部装甲だけ似なかったようだ。

 

 「アースもなんか、落ち着いたね。前までは肉食獣が獲物を探してるって感じで、目がギラギラしてたのに、今は、いや、今もギラギラしてるけど、なんか見つけた獲物を逃さないっていう感じだね。」

 

 「まぁ、俺も色々あったからな。」

 

 オラリオから戻ったあと、真っ先にエスピとスレイヤに会って、カレー食って、エルフの森にいって、シノブの親やコジロウと再会して、ノジャとも会って、戦って・・・

 

 「いや、ほんと、俺ってどんだけ大変な人生送ってるんだ!?」

 

 『それは余も思うぞ。だが、それが童の成長に繋がってるのだ。』

 

 自身の人生を振り返ってアースは叫んだ。

 

 「アハハ、やっぱりアースは面白いね。そうだ、アースはアルゴノゥト君には会ったの?」

 

 「アルゴノゥト?」

 

 「うん、えっと、ベル君だっけ?」

 

 「あぁ、会ったぞ。けど、なんでアルゴノゥト?」

 

 アルゴノゥトというのはティオナが一番好きな英雄譚の主人公で、英雄に憧れている少年のことだ。まぁ、なんだかんだ冒険しながら仲間を集めて、最後にはハッピーエンドを迎えるのだ。

 

 ティオナの話を聞くと、ベルがレベル2に上がったきっかけであるミノタウロス戦で、ベルの姿がアルゴノゥトのようだったからアルゴノゥトと呼んでいるらしい。

 

 「へぇ~なるほどな。」

 

 「いや、ほんとすごかったんだよ!!」

 

 ひまわりの様な満開の笑顔を浮かべてはしゃぐティオナにアースはドキドキした。

 

 アマゾネスという種族は女性しかおらず、美少女、美女ばかりだ。そのためティオナも美少女であり、なおかつ、布面積の少ない服を着ている。思春期のアースにとっては親友であってもドキドキしてしまうのだ。

 

 「あれ、どうしたのアース? 顔が赤いよ・・・あっ、もしかしてぇ」

 

 アースの様子がおかしいことに気付いたティオナはひまわりのような笑顔から、ニヤリと悪い笑みに代わり、アースの腕に抱き着いた。

 

 「私にドキドキしちゃったの? そうだったら嬉しいな。」

 

 「ちょ、離れろよ。」

 

 「いいじゃん。いいじゃん。」

 

 『はぁ、余がいることを忘れないでもらいたいのだが・・・』

 

 「ふふふ、また顔赤くなった。可愛い。」

 

 「だあああッ! 離れろッ!」

 

 「あぁ、もう、照屋だなアースは・・・」

 

 久しぶりに再会した親友の魔性っぷりにアースは戦慄するしかなかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 ティオナがファミリの仲間と水浴びするといって、別れてからアースは十八階層を歩いて回っていた。

 

 「はぁ、あいつ、いつの間にあんな風になったんだ?」

 

 『シノブといい、胸が小さいやつはああやって引っ付くのが好きなのだろうか?』

 

 そのときだった、ヘルメスがベルを連れて何かをしていた。

 

 「おーい、何してんだ?」

 

 「ア、アースさん!?」

 

 「しぃ~。静かに、声をあげるとバレてしまう。」

 

 二人の様子が怪しいな。まるで、学園でオウナと(エロ本)を交換しているときの俺の様な・・とアースが考えていると。

 

 「覗きさ。」

 

 ヘルメスが堂々とそういった。

 

 「なっ!?」

 

 「覗きは男のロマンだぜ。」

 

 「馬鹿!死んじまうぞ。ほら、ベルもこんなアホ神の話を聞いてないで戻るぞ。」

 

 そういって、アースがベルを連れて戻ろうとしたとき。

 

 アースの立っていたところが崩れる。

 

 「え?・・・うおおおおおおお。」

 

 「うわあああああああああああ。」

 

 アースとベルはそのまま落っこちてしまう。

 

 バシャ~ンと水しぶきをあげた。

 

 「あっちゃぁ~。」

 

 ヘルメスが頭を抱える。

 

 「あっれぇ~? アルゴノゥト君とアースじゃん。なになに、水浴びしに来たの?」

 

 「ふぅーん、意外とピュアなアースに大人しそうな顔してると思ってたあんたも、なかなかやるわね。」

 

 日ごろから、裸同然の服を着ているヒュリテ姉妹は二人の乱入に顔色一つ変えず、むしろ一緒に入ろうと誘う始末。

 

 他の女性陣は冷めた目で二人を見ている。

 

 そんな中、アスフィだけは、おそらく真犯人であろう神を探し、見つけた。

 

 すぐさま、その真犯人を捕らえる。

 

 「ごめんなさいいいいいいいいい。」とベルは脱兎の如く逃げ出した。

 

 「えっ? ちょ、ベル? ベルうゥゥゥゥゥゥゥゥ」

 

 「それで、一応、言い訳は聞いておいてあげるわ。」

 

 アースはベルに見捨てられる。

 

 突然のことに茫然とするアースの目の前に二ヤリと悪い笑みを浮かべたティオネが尋問しだした。

 

 「い、いや、その・・・ほんと、すみませんでした。」

 

 

 

 

 

 

 

 「はぁ、なんでこんな目に・・・」

 

 『その、なんだ童、元気を出せ。一応、ヘスティアのおかげで誤解は解けただろ。』

 

 「それはそうなんだがよ・・・はぁ~。」

 

 キャンプ地に戻ってきたところでベルと再会し、二人そろってベートにガミガミ怒鳴られていた。

 

 「てめぇら、よりにもよってアイズの水浴びを除くだとおおおお!? 俺にも出来ないことをおおおおお。っていうか、なんでお前までいるんだよおおおおおおおお!アースッ!」

 

 「もうそのことはいいの。」

 

 「そうよ、全部ヘルメス様が悪いんだから。」

 

 そういって、ベートはヒュリテ姉妹に引きづられていった。

 

 





 結局、ゴライアスはアースが討伐したのですが、ロキ・ファミリアは原作通り先に出発しています。


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

リュー「私と彼の出会い」


 今回はリューとアースの出会いについて書いています。

 つまりアースが初めてオラリオに飛ばされたときの話です。


 

 リューside

 

 私はリュー・リオン。アストレア・ファミリア所属のレベル4の冒険者です。二つ名は「疾風」。

 

 そんな、私が彼、アース・ラガンと出会ったのは今から七年ほど前に遡ります。当時のオラリオは、ゼウス・ファミリアとヘラ・ファミリアが黒竜の討伐に失敗し、暗黒期を迎えていました。

 

 闇派閥と呼ばれる彼らは、各地で冒険者や市民を殺して行ったのです。

 

 私が初めて彼に出会ったのは闇派閥により、私たちのファミリアが壊滅の危機にまで追いやられたときのことです。

 

 ルドラ・ファミリアによって私たちは、ダンジョンに呼び出されました。勿論、それは彼らの罠で、恐ろしいモンスターを出現させたのです。そのモンスターの名は、ジャガーノート。このモンスターが私たちを絶望の淵に追い込んだのです。

 

 見た目は骨の怪物。

 

 出現した瞬間に仲間のノインが切り裂かれ、次にネーゼが、更に盾を構えていたアスタが殺されました。

 

 私は激昂し、ジャガーノートを攻撃しようとしましたが、返り討ちにあい、「もう駄目だと」思ったときでした。

 

 私の前に輝夜が現れ、私を庇ったのです。右腕が飛び、鮮血が彼女の着物を汚しました。

 

 そのときです。目の前に光が現れ、彼がその場に立っていたのです。

 

 「えっ? 何、ここ。」

 

 彼は何がなんだかわからない状態でその場に立ち尽くしていました。

 

 「逃げてくださいッ!!」

 

 私が彼にそういうと・・・

 

 「えっ?」

 

 そして、ジャガーノートの凶刃が彼を襲い掛かったのです。

 

 「うわっ!?」

 

 その場にいた、私を含め、全員が彼の死を確信したところで、彼はなんとジャガーノートの攻撃を避けたのです。

 

 「あっぶねぇ、なんなんだよあの化け物!!」

 

 「早く逃げて!!」

 

 アリーぜが彼にそういった。

 

 「グルオオオオオオオオ」とジャガーノートが雄叫びをあげる。

 

 「あぁっ!! もうッ! うるせぇなッ!」

 

 そして彼はジャガーノートに突撃したのです。

 

 私たち全員が、自暴自棄になったのか!?と思いましたが、違いました。襲い掛かってくるすべての攻撃を避ける。更に、反撃までしていたのです。それもなんの武器も持ってない素手の状態でだ。

 

 「てめぇなんか、ゴウダに比べればパワーもスピードも、固さもどうってことないぜ!」

 

 彼の拳はジャガーノートを確実に捉えます。

 

 彼がジャガーノートを引き付けてくれているうちに、輝夜の治療を行い、なんとか腕がくっつきました。

 

 「彼は一体何者なの?」

 

 アリーぜが深刻そうな表情を浮かべています。

 

 「これで、止めだ。大魔螺旋!!」

 

 ようやく彼の足が止まったと思うと、今度は彼は拳を天に突きあげました。

 

 「一体何を・・・」

 

 すると、巨大な魔力の塊を感じ、その塊は螺旋となって彼の腕の周りで回転しだしたのです。

 

 「アァァァスッ!スパイラルッ!ブレイクゥゥゥゥゥゥゥゥ!」

 

 そして螺旋は、一直線にジャガーノートの顔へと迫り、突き刺さったのです。

 

 「俺はッ! 俺はッ! 突き進む・・・この世の果てまでええええええええ!」

 

 こうして、ジャガーノートは灰へと変わった。彼の拳が、彼の叫びが、かの怪物を貫いたのです。

 

 そのとき、私の体は震えていました。しかし、その震えというのは、恐怖から来るものではなく、彼の勇ましい姿から来る震えでした。

 

 己の身だけで恐ろしい怪物を討伐する姿は、まるで神々が下界へ降りてくる前の、古代の、恩恵などという力が無かった、英雄たちを彷彿とさせました。

 

 心が震えたのです。その震えが体にまで現れたのでしょう。

 

 「って、なんだこりゃ、灰になりやがった。」

 

 「異世界っていうのは、本当なんだろうな・・・」

 

 彼が何か呟いたように聞こえましたが、当時の私には聞きとることは出来ませんでした。

 

 「えぇと、大丈夫か?」

 

 そして、彼は私たちの方へと歩いてきました。

 

 「あなたとっても強いのね!! 何者なの!?」

 

 アリーぜが興奮気味に話しかけます。

 

 「何者って」

 

 彼がアリーぜの質問に答えようとしたときでした、再び彼は光に包まれたのです。

 

 そして、光が収まるとそこには既に彼の姿は無かった。

 

 闇派閥の事件が解決してから、私たちは、ジャガーノートを討伐してくれた彼を探すために、ギルドや様々なファミリアに訪ねました。

 

 しかし、どこにもそのような人物はいないというのです。

 

 拳が武器という点と、ジャガーノートを討伐できるくらいの実力を持つ冒険者で探すと何人か候補はでてきました。

 

 中でも最有力だったのが黒拳と呼ばれていたバウンティハンターでしたが、その黒拳も違いました。

 

 なぜなら、黒拳は女性だったのです。あのとき、私たちを助けてくれたのは十五歳くらいの少年でした。

 

 そのため、彼の存在は幻だったのかと、私を含めて、あの場所にいた全員が思ってしまう始末です。

 

 

 

 

 

 

 それから五年の月日が流れました。今から遡るとおよそ二年前です。

 

 私は冒険者活動を少し休むことにしました。理由は色々ありますが、己の正義について考えたいと思ったからです。

 

 だからといって、働かなければ生きていけないので、私はとある店でバイトを始めました。

 

 その店というのが「豊穣の女主人」という店で、冒険者たちの間でも有名な店でした。

 

 働き始めて一年が経ち、仕事にも慣れてきたなと思ったときに、私は再び彼に会ったのです。

 

 そう、あのとき、私たちを救ってくれた少年に・・・

 

 「あ、あなたは・・・」

 

 「どうかしたか? 俺の顔になんかついてるか?」

 

 私が初めて会ったときと、ほとんど変わらない姿だったため、もしかして、彼の血縁者なのかと思い、思い切って尋ねました。

 

 「あなたは、五年前に、ジャガーノートを討伐した方と何か関係があるのでしょうか?」

 

 「ジャガーノート?・・・もしかして、骨の怪物みてぇなモンスターか?」

 

 「そうです!!」

 

 「あぁ、もしかして、あのときいたエルフさんか? 髪の毛切ったせいで、気づかなかったっぜ。」

 

 「え?」

 

 帰ってきた返答が私の予想していた物とは違っていたため、私は少し戸惑ってしまいました。

 

 「いやぁ、あのときは無我夢中だったから周りのこと見えてなくてさ、そういえば片腕がなくなった人とかいただろ? 大丈夫だったか?」

 

 おちゃらけた様子でそう話す彼に、私は何もいえませんでした。

 

 「俺は、アース。アース・ラガン。エルフさんはなんていうんだ?」

 

 「・・・リュー・リオンと申します。」

 

 「そうか、よろしくなリューさん!」

 

 獰猛な野生動物を連想させる笑みを浮かべる彼、アースさんでしたが、その体から漂うオーラは強者の風格を感じさせながらも、優しい暖かい人でした。

 

 

 

 





 豊穣の女主人でリューと再会したアースは既にヘスティア・ファミリアに所属しています。

 アストレア・ファミリアは一応、現在のオラリオではガネーシャ・ファミリアとともに街の警備をしたりしています。

 どちらかというと、街の警備が主な仕事で、たまにダンジョンに潜るようになっています。

 アストレア様もオラリオにいます。


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

穿て黒い巨人!!


 今回はちょっと長いです。


 

 ロキ・ファミリアが先に出発してから、とある事件が発生した。

 

 なんと、ヘスティアが誘拐されたのだ。

 

 犯人からの手紙にはベルが一人で来るようにと書かれていた。

 

 「僕にこんなことをしてもいいと思っているのかい? 僕は、これでも神なんだぞ。」

 

 十八階層の森林地帯にて、ヘスティアが縄で木に括りつけられていた。

 

 

 

 

 

 

 「よう、来たなリトル・ルーキー。」

 

 

 「リトル・ルーキー」とは、ベルの二つ名であり、ヘスティアを誘拐した犯人は、ベルが気に食わなかったようだ。

 

 「神様はどこですか。」

 

 「安心しろ、神様は無事だぜ。俺だって神に手をあげるような罰当たりなことはできねぇ。」

 

 そして、二人は戦った。

 

 ベルト対峙する冒険者の名はモルド。決闘が始まるや否や、ベルの目を砂で潰し、自身はすぐに、どこかの神から貰ったハデスの隠れ兜を使用し、自身の姿を隠した。

 

 姿が見えない相手に、ベルは成すすべなくやられる。

 

 「がっ」

 

 「おらおらどうしたッ!!」

 

 モルドはベルに拳を叩きこむ。

 

 すると、異変に気付いたヴェルフたちが駆けつけた。

 

 

 

 

 

 

 

 「一体、何が起きているんだ・・・」

 

 ヘスティアは響いてくる剣のぶつかり合う音で、不安に駆られる。

 

 「俺達もいくか?」

 

 「そうだな、ここで見張ってばかりじゃつまらねぇし。」

 

 ヘスティアを見張っていた冒険者たちも、戦闘に参加したいという闘争本能に駆られたようだ。

 

 「ちょっと、待てよ。」

 

 するとそこへ、誰かが待ったをかける。アースだ。

 

 「なんだおめぇ?」

 

 「あぁ、リトル・ルーキーと同じファミリアのやつか。神様を助けに来たのか。」

 

 「アース君ッ!!」

 

 あちこちを全速力で駆け回ったのか、少し汗を掻いている。

 

 「なに、俺の義母さんに手をだしてんだ?」

 

 「丁度いい、俺達も戦いたくてうずうず、してたところなんだ。」

 

 「せいぜい、気持ち良く殴られてくれよ。ガハハッ。」

 

 その瞬間、二人の冒険者は吹っ飛んだ。

 

 「喧嘩するのに人質とってんじゃねぇよッ!!」

 

 そう叫ぶアースの瞳には怒りの炎が揺らいでいた。

 

 「大丈夫かヘスティア様!!」

 

 「う、うん、助かったよアース君。ベル君は?」

 

 「どうやら、犯人と喧嘩してるっぽいな。」

 

 「急がないと!」

 

 「あぁ、しっかり捕まってろよ。」

 

 そういって、アースはヘスティアをお姫様抱っこする。

 

 「ちょ、アース君!?」

 

 「飛ばすぜ。」

 

 そしてアースは走り出した。

 

 元の世界で過去に飛ばされた際、七勇者の一人で、自身の妹分であるエスピを助けたときのように、アースはただひたすらに、走った。

 

 「見つけた。あそこだ。」

 

 「あぁ、だが、アイツらが邪魔だな。」

 

 二人はベルの姿を捉える。しかし、その前には多数の冒険者とヴェルフたちが交戦していた。

 

 

 「やめろおおおおおおおお。」

 

 ヘスティアが争いを止めるべく叫んだ。 それと、同時にアースが跳躍した。

 

 ヘスティアを抱えたまま、アースは冒険者たちを飛び越えて、ベルとモルドの傍に着地した。

 

 モルドのナイフがベルの頬を傷つけた瞬間、ヘスティアの神威が解放された。

 

 「やめるんだ。」

 

 神威によって、モルドたちは争いをやめ、すぐさま逃げ出す。

 

 そしてヘスティアはアースに降ろされると、すぐにベルに抱き着いた。

 

 「ベル君! 無事でよかった。ごめんよっ! 僕のせいでボコボコにされて・・・」

 

 「神様・・・僕の方こそ、護ってあげられなくてごめんなさい。」

 

 これにて、一件落着と思い一安心。

 

 ところが、突如ダンジョンが震えた。

 

 「な、なんだよアレ。」

 

 「これは嫌な予感がします。」

 

 十八階層の天井に亀裂が入る。

 

 そして生まれた・・・黒い巨人。ゴライアスだ。

 

 このモンスターが生まれたのはダンジョンが神を排除するための措置なのだろう。

 

 アースたちに緊張が走った。

 

 「た、助けにいかないとッ!!」

 

 ゴライアスはリヴィラの街を襲う。黒い巨腕によって薙ぎ払われ、街を踏みつぶす足は、まるで黒い鉄槌のようだ。

 

 「本当に助けにいくのですか? このパーティで・・・」

 

 リューがベルに問う。

 

 「・・・」

 

 ベルは仲間たちを見渡す。

 

 「助けます。」

 

 強くベルがそういった。

 

 「あなたはリーダー失格だ。だが、間違っていない。」

 

 リューは美しい顔を、英雄に憧れる少年のような表情へ変え、ゴライアスの元へと駆け抜けた。

 

 「千草さん、神様をお願いします。」

 

 ベルも、ヘスティアを千草に預けて、走り出す。

 

 『あれが、神がダンジョンに入ってはならないという理由か・・・神も相当嫌われているようだ。』

 

 「呑気にいってる場合かよ、なんとかしねぇとッ!」

 

 『見た所、レベル5相当だな。』

 

 「ハッ、面白れぇ。」

 

 

 

 

 

 

 戦闘が始まりしばらく経った。

 

 リヴィラにいた冒険者全員でゴライアスに立ち向かう。

 

 「はあッ!!」

 

 「せやッ!!」

 

 桜花と命がゴライアスの足を斬りつける。

 

 するとゴライアスは二人を標的にした。

 

 「まずい咆哮(ハウル)がくるぞ!!」

 

 「ウィル・オ・ウィスプッ」

 

 ゴライアスの口元で、魔法が破裂する。

 

 「まずいっ!?」

 

 煙から姿を現したゴライアスは再び魔法を放とうとヴェルフを見ていた。

 

 「大魔フリッカァァァ!!」

 

 まさに今、ゴライアスが魔法を放とうとした瞬間、何かがごライスの顔を殴り飛ばした。

 

 「間に合ったな。大丈夫かヴェルフ。」

 

 「すまん、助かった。」

 

 そういって、ヴェルフは撤退する。

 

 「アースさん、アンドロメダからの伝言です。これより街の魔導士が詠唱に入ります。詠唱を終え次第、一斉掃射するので、時間稼ぎをお願いしたいとのことです。」

 

 「あぁッ、任せろ。」

 

 アース、リュー、そして巻き込まれたアスフィの三人でゴライアスの注意を引き付ける。

 

 「こっちを見やがれデカブツッ!! 大魔コークスクリューブロー!」

 

 跳躍したアースはそのまま、ゴライアスの脇腹へ、数々の強敵を打ち破ってきた拳を叩きこむ。

 

 ゴライアスは体勢を崩して、倒れ込む。

 

 「ルミナス・ウィンドッ」

 

 そこへ詠唱を終えたリューの魔法が炸裂する。

 

 冒険者たちは各々が、自分のスタイルで黒い巨人へと挑む。連携何てものは知らない。ただただ、自分の戦い方で、他の冒険者の邪魔にならないように戦うというのが、ここでのルールだ。

 

 「よぉ~っし!! 前衛は引けええええ!」

 

 ボールスの指示で全員が退避する。

 

 「放てええええええ!」

 

 そして数十、数百の魔法がゴライアスを襲った。

 

 直撃を喰らったゴライアスに止めを刺そうと、全冒険者が突っ込んだ。

 

 しかし・・・

 

 「グオオオオオオオオオオ」と雄叫びをあげると、ゴライアスの肉体は何もなかったかのように修復される。

 

 「じ、自己再生・・・」

 

 冒険者たちが絶望の淵へ落とされた。

 

 さらに、十八階層へと現れた他のモンスターは増える一方だ。

 

 「クラネルさんと、アースさんは、周囲のモンスターの掃討をお願いします。私たちがゴライアスを抑えます。時間を稼いで、魔法師たちで攻撃します。それでも倒せなかったら、何度でも倒します。」

 

 リューの瞳が細く鋭利な物へと変わった。

 

 「待てよ、リューさん。俺も手伝うぜ。」

 

 「ありがたいですが、その前に、周囲のモンスターに襲われている冒険者たちを助けてあげてください。先ほどからモンスターは増える一方です。このままではゴライアスに潰される前に、モンスターの物量でやられてしまいます。」

 

 「だがよ『それなら、私がやられないように、早くモンスターを倒してください。』あぁ、分かった。」

 

 「死にますよリオン!?」

 

 アスフィがそんなリューを見て、止める。

 

 「ご武運を。」とだけ告げて、リューは再び風になった。

 

 ヘスティアやリリは戦闘には参加せずに、補給地点にて冒険者たちのサポートに勤めていた。

 

 「千草様は?」

 

 「さっきの爆発で飛び出して行った。きっと桜花君たちの元だろう。」

 

 

 

 

 

 

 「リオンッ!! 本当に死にますよ。」

 

 戦闘が激しくなる一方で、ずっと一人、ゴライアスへ挑み続けるリューにアスフィが痺れをきらす。

 

 「魔石を狙おうにも固すぎる。このままでは・・・」

 

 「それでも、望みがあるのなら・・・」

 

 そこへベルが現れる。

 

 「クラネルさん!?」

 

 「ファイアボルトオオオオオオオ。」

 

 ベルの魔法がゴライアスの頭部へと放たれる。

 

 雷の如き炎はゴライアスの顔、上半分を消し飛ばすことに成功するが、巨人はそれでも止まらない。

 

 「グオオオオオオオオオオ。」

 

 ゴライアスの腕がベルを襲うが、盾を構えた桜花が、ベルを背中にし、受け止める。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 「ブレイクスルゥゥゥゥゥゥゥゥ。」

 

 飛ばされた桜花とベルを緑の光を身に纏ったアースが受け止める。

 

 「ベル君!!」

 

 「桜花!!」

 

 アースはヘスティアたちに意識を失ったベルを託し、光となってゴライアスへ突き進んだ。

 

 「くそっ! モンスターが思いのほか、多かったせいで、ちっと遅れちまった。」

 

 『焦るなよ童。』

 

 「あぁ、目がチカチカして、頭が吹っ飛びそうだ。だけど!! 心は熱く、頭は冷静に・・・」

 

 『分かっているならいい。いけ、童。』

 

 牙を剥きだしにしたオオカミの如く、アースは拳を振りぬいた。

 

 「大魔ソニックフリッカー!!」

 

 音速を越えた拳はソニックブームとなり、ゴライアスの体へ突き刺さる。

 

 「まだまだっ!!」

 

 止まらない拳は更にゴライアスへと叩きつけられた。

 

 「グオオオオ。」

 

 ゴライアスの足がアースを潰しにかかる。

 

 「大魔ソニック・アッパァァァァァァァ。」

 

 それをアースは弾き返す。ゴライアスは再び姿勢を崩し、倒れ込んだ。

 

 そこへ、回復した冒険者たちが一斉攻撃を始める。

 

 高速戦闘の中でリューは平行詠唱を行い、命は重力魔法による結界を発動するために詠唱を始めた。

 

 ベルはとどめの魔剣を使うために、己のスキルである「英雄願望(アルゴノゥト)」のチャージを進めた。

 

 「俺の拳のフルコースはまだ終わりじゃねぇええええええええ。大魔ソニックスマッシュ!」

 

 「ルミナス・ウィンド!!」

 

 「フツノミタマ!!」

 

 アースの拳がゴライアスを吹き飛ばし、リューの魔法で切り刻む、最後にボロボロとなったゴライアスを閉じ込めるのは重力の結界。

 

 しかし、結界はすぐさま解かれる。

 

 「お前ら退けえええええええ!火月ッ。」

 

 「あれは、クロッゾの魔剣・・・」

 

 そこへヴェルフの魔剣が爆発を呼び起こす。

 

 頑なにも魔剣を打つことを拒んでいたヴェルフが魔剣を使ったのは、彼の主神であるヘファイストスの言葉が原因だった。

 

 「意地と仲間を秤にかけるのは止めなさい。」

 

 「そうだ、ただの意地だ・・・」

 

 そしてヴェルフは森へと落ちていく。

 

 燃え盛る炎に身を焼かれたゴライアスに白い光を身に纏ったベルが近づく。

 

 圧倒的な力の不条理に対して、そのたった一つの、ちっぽけな力で、逆らう・・・すなわち。

 

 「英雄の一撃ッ!!」

 

 「うおおおおおおッ!!」

 

 直後、ロキ・ファミリアが置いて行った魔剣を使用したベルの一撃が炸裂した。

 

 しかし、吹き飛んだのは首から上のみであった。

 

 「ふざけろ・・・自己再生した部分が更に強化されていた、なんて・・・」

 

 「あの一撃でも、倒せないなんて・・・」

 

 「諦めんなッ!!」

 

 誰もが終わりを覚悟した直後、アースが吠えた。

 

 「俺の心は、魂は、宿った聖火は、まだ・・・消えちゃいねぇええええええええええ!」

 

 「アース君!!」

 

 魔呼吸によって、魔力を最大限まで回復したアースはブレイクスルーを解かずに、拳を天へと突きあげる。

 

 「いけっ!アース君!」

 

 「うおおおおおお 聖・大魔螺旋アース・スパイラル・ウェスタ・ブレイクゥゥゥゥゥゥゥゥ!!」

 

 彼の拳に巻き付く螺旋は、魔力の塊ではなく、彼の主神の権能である聖火・・・決して折れることのない彼の心に宿った、力の本流であった。

 

 「突き抜けろおおおおおおおおおおお」

 

 そして、螺旋は、かの巨人を消し飛ばした。

 

 「決めろ!ベルッ!」

 

 「はいっ。」

 

 その場に残った魔石に、ベルがナイフを突き立てた。

 

 そして魔石は砕けた。

 

 「ベル様とアース様がやりました。」

 

 「よかったぁ~二人共無事で・・・」

 

 「ハハハっ! 見たぞ、このヘルメスが、新たな英雄(ヒーロー)の誕生を・・・時代は動くぞ! ハハハハハ。」

 

 ゴライアスの討伐成功に冒険者全員の歓声が十八階層を揺さぶった。

 

 





 書いてて思いました。本当にアースとヘスティア様は相性がいいです。

 ベル君もまた、アースの弟になりそうですねw

 とある弟「なに勝手に僕以外の弟を増やしているんだい?」

 とある妹「ふわふわダイビングでミンチにされたいのかな?かな?」

 


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

ヘスティア「僕とアース君の出会いはね・・・」


 今回も過去編です。といってもアースとヘスティアの出会いだけなんですが・・・


 

 黒いゴライアスの討伐に成功したアースたちは、傷を癒すために、十八階層に留まっていた。

 

 「ふふふ、よくやったね。二人共・・・」

 

 そういってヘスティアは疲れて寝ているアースとベルの頭を撫でる。

 

 「う、うぅう・・・あ、れ、神様?」

 

 「起きたのかい?」

 

 「はい。」

 

 包帯でグルグルにまかれたベルは体を起こすのにも一苦労だ。

 

 「まだ、無理をしちゃいけないよ。」

 

 「大丈夫ですよ。僕達・・・かったんですよね。」

 

 「あぁ、かっこよかったぜ。二人共。流石は僕の子供だ。」

 

 誇らしげに自身の胸にそびえたつ山を主張して、ヘスティアはそういった。

 

 「アースさん、すごく強かったです。」

 

 「そうだね、僕も久しぶりに会ったけど、こんなに強くなってるなんて・・・ふふ、やっぱり子供たちの成長は早いね。」

 

 ヘスティアとベルが視線を向ける先には、戦闘のときの獰猛な姿からは想像できないほどに、かわいらしく眠っているアースの姿だった。

 

 この姿を、アースの初恋の相手であり、アースに仕えているメイドであるサディスが見ていたら、アースの貞操が危なかったかもしれない・・・いや、大丈夫なはずだ・・・うん、多分・・・きっと。

 

 「僕も、アースさんみたいに強くなれますか?」

 

 「勿論さ!! なんたってアース君の強さの秘密はね、地道な努力の成果なんだから!!」

 

 自分の好きな物について話すときの子供のように無邪気な笑顔を浮かべたヘスティアは、包帯で巻かれたベルの手を握る。

 

 「努力ですか?」

 

 「そうだよ。ふふん、アース君は常に自分を鍛えてる。たとえどんなに苦しくても、強くなるためにひたむきに、地道な鍛錬を続けるんだ・・・」

 

 自分の知らないヘスティアの姿にベルは驚く。それと同時に、もっとヘスティアとアースについて知りたくなったようだ。

 

 「神様とアースさんの話を聞かせてもらえませんか?」

 

 「勿論だよ!!」

 

 こうして、ベルは自分がファミリアに加入するまでのヘスティア・ファミリアについて知ることになるのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 ヘスティアがアースと初めて出会ったのは今から二年程前だ。

 

 アースからすると、アストレア・ファミリアを襲ったジャガーノートを討伐してからのことだった。

 

 なんの前触れもなく、再び光に包まれたと思ったアースは気が付くと、現在ヘスティア・ファミリアが使ている教会にいたのだ。

 

 全身血だらけとなったアースは、ヘスティアに発見された。

 

 「おい君ッ!! 酷い怪我じゃないか。え、えっと、ミアハを呼んでくるから、おとなしくしてるんだよ。」

 

 ヘスティアは神友であるミアハの協力を得て、アースの治療を行った。

 

 「それにしても、この子は一体どうしたんだいヘスティア?」

 

 「僕にも分からないんだ。地下に居たんだけど、急に音がしたから、見に行ったら、この子が血まみれの状態で倒れているから・・・」

 

 「ふむ、見た所、冒険者なんだろうか? 私はファミリアの仕事があるから、戻るが、何かあればまた呼んでくれ。」

 

 「あぁ、ありがとうミアハ。」

 

 ミアハが自分の子供たちの元へ帰ってからも、ヘスティアはアースの傍で目が覚めるのを待っていた。

 

 「う、うぅ。」

 

 ヘスティアがアースを見守る中、アースは僅かに声を漏らした。

 

 「こ、こは?」

 

 「気が付いたのかいッ!!」

 

 目を開けたアースにヘスティアは声を掛ける。

 

 「あんたは?」

 

 「僕はヘスティア。こう見えて、炉の神様なんだぜ!!」

 

 己を神となのる少女にアースは戸惑いを見せるが、すぐに自分の名前を告げた。

 

 「アース。アース・ラガンだ。世話になったみたいだな。助かった。」

 

 「いいんだよ。それよりも一体、何があったんだい?」

 

 そしてアースはヘスティアに何があったかを説明した。

 

 「うぅ~ん、なるほどね。君は違う世界の住人で、その世界で色々あって、過去に飛ばされた。それから過去の時代で、元の時代に帰るために色々やって、ようやく元の時代へ帰れるようになって、帰ろうとしたら、神を名乗る人影によって、飛ばされてきたと・・・」

 

 「信じるのか? 自分でいうのもあれだが、ありえない話だろ。」

 

 「信じるよ!! なにせ僕は神だからね。君は知らないだろうが、神は嘘を見抜くことができるんだ。」

 

 アースはその言葉に精神的に救われたのだ。

 

 過去に行ったときも大変だったが、そのときは歴史を知っていたため、なんとかなった。ところが、今回は異世界に飛ばされたのだ。自身の常識では分からないことだらけの世界において、ヘスティアのような神物に出会えたことは幸運だったと感じる。

 

 「君の方こそ、僕のことを簡単に信じちゃって大丈夫なのかい?」

 

 「あ、あぁ、あんたっていったら失礼だな。ヘスティア様は悪い神様には見えないし・・・トレイナも大丈夫だって。」

 

 「最後なんていったんだい?」

 

 ヘスティアは最後にアースが呟いた言葉を聞き逃したため、もう一度聞くと。

 

 「いや、なんでもない。それじゃあ、俺は出て行かせてもらうぜ。あまりヘスティア様にも迷惑はかけられないし・・・治療までしてくれて、本当にありがとうございました。」

 

 起き上がって、体の調子を確認したアースは、そういって教会から出て行こうとする。

 

 「で、出て行くって君。行く当てもないんだろ?」

 

 「まぁ、旅のときは基本野宿だったし、大丈夫だろ。」

 

 「で、でも・・・」

 

 「自分の世界の子供ならまだしも、別の世界の人間である俺に、そこまでしてくれるなんて、本当にいい神様なんだな。」

 

 「当り前さ!! どんな世界であろうと、子供たちは子供たちだよ。そうだ!! なぁ、君。僕の家族(ファミリア)になってくれないかい?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 「とまぁ、こうして、僕とアース君は家族(ファミリア)になったんだ。」

 

 「別の世界の住人って・・・話して大丈夫なんですか神様?」

 

 ヘスティアが語った内容があまりにも衝撃的だったため、ベルは聞きながら頭が混乱していた。

 

 「あぁ、アース君の許可も貰っている。僕が信用した子になら話してもいいって、だからね、彼はずっとオラリオにいれるわけじゃないんだ。」

 

 そう聞いて、ベルは先日の会話を思い出す。

 

 『ヘスティア様のことを頼むぜ。俺自身ちょっと訳ありでな。ずっとオラリオにいるわけじゃないんだ。』

 

 「僕は幸せだよ。君たちみたいな子供に出会えて・・・」

 

 

 

 





 こんな感じで、少しずつアースの過去編をやっていきたいと思います。


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

いざ温泉リゾートへ!!


 今回もキリがいいところで終わってます。


 

 「こ、これは!?」

 

 ダンジョンのとある場所に手、一人の少女が戦慄していた。

 

 少女の名は、ヤマト・命。タケミカヅチ・ファミリアに所属するレベル2の冒険者で、二つ名は「絶☨影」。

 

 そんな彼女が発見したものは温泉だった。

 

 何故こんなことになったのかは、遡ること十数分前・・・

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 「いやぁ~、まさに大激戦だったね。本音をいうと、もう少し十八階層に留まっていたかったけれど、俺とヘスティアがいる以上、あまり留まれないからねぇ。」

 

 ヘルメスが呑気にそんなことをいっている間に、後ろの方ではヘスティアとリリがベルを取り合ってもめている。

 

 危険なダンジョン内だというのに、なんともまぁ、気楽な奴らだ。

 

 「おいでなすったぞ。」

 

 するとアースが何かを感じたのか、ヘスティアを背にするように、ファイティングポーズを見せた。

 

 「ヘルハ「はあッ!」まだです。あれは・・・ハードアーマード。」

 

 アスフィが襲い掛かってきたモンスターの名前を告げる前に、ベルがヘスティアナイフを使って、ヘルハウンドを殲滅した。

 

 ところが、それだけでは終わらず、ダンジョンの壁に亀裂が入り、見ただけでも固いと分かるモンスターが現れた。

 

 「神様は僕が護ります!」

 

 「なら、ヘスティア様のことは頼んだぜベル!!」

 

 「はいッ!」

 

 ヘスティア・ファミリアの二人は会って数日だというのに、お互いに信頼関係を結べているようだ。

 

 その姿を見て、親であるヘスティアは嬉しそうにしていた。

 

 アースが走り出し、拳をハードアーマードの固い鱗を叩きつける。

 

 「はんッ! てめぇなんざ、マチョウさんたちに比べたら貧弱なんだよおおおおお。」

 

 雄叫びと共に、アースの拳はハードアーマードの鱗を突き破る。

 

 一瞬のうちに絶命したハードアーマードなぞ、気にせず、アースは二匹、三匹と狩り続けた・・・

 

 「すごいじゃないか二人共!!」

 

 五分も経たずに、ハードアーマードを全て倒したアースたち。ヘスティアは自分の子の成長を喜ぶ。

 

 「すごいですベル様!」

 

 「ちょっ、リリ。」

 

 方や白髪赤眼のベルはリリに言い寄られ・・・

 

 「流石ですアースさん。」

 

 「私たちの出る幕はなかったですね。」

 

 「いや、ベルの前でカッコいい所を見せたかっただけだって。」

 

 方やオレンジ髪の鋭い目つきの少年アースは誰もが見惚れてしまうような美貌を持つリューと、アスフィに言い寄られていた。

 

 「さっすがはリトル・ルーキーと熱血鉄拳(ハート・パンチャー)だ。」

 

 そしてヘルメスは二人をおだてる。

 

 「むむむ・・・なんだいなんだい、二人そろってデレデレしちゃって。」

 

 そういって、ヘスティアが落ちていた小石を蹴り飛ばした。

 

 その小石はダンジョンの壁にぶつかり跳ね返る・・・だけでおさまらず、壁が崩れた。

 

 「これは、未開拓領域ですか?」

 

 「それって、マッピングされていないルートですよね。」

 

 「はい、そうです。」

 

 「流石です神様!」

 

 「面白れぇ。行ってみようぜ。あぁ、勿論、注意を怠るなよ。」

 

 全員が先へ進もうとしたときだった。

 

 「クンクンクン・・・まさかッ!!」

 

 何やら匂いを嗅いでいた命は、その匂いが自身の想像しているものか確かめるために、真っ先に飛び出して行った。

 

 「馬鹿ッ。」

 

 「一人じゃ危ないですよぉ。」

 

 桜花とベルが命を追いかける。

 

 それに続いてアースたちも命を追いかけた。

 

 「これは・・・温泉?」

 

 そして話は冒頭へ戻る。

 

 「はいッ。間違いなくこれは温泉です。自分、温泉には少し詳しくて。」

 

 「他には何もないみたいですね。」

 

 「へぇ、ダンジョンが造った癒しの空間って奴か・・・」

 

 『このようなものまであるとは、流石は未知で溢れかえったダンジョンだ。童よ、せっかくだし入って行ってはどうだ?』

 

 「そうだな。マジカルレーダーにはモンスターの反応はねぇみたいだし。」

 

 そんな中、温泉大好き命ちゃんはというと・・・

 

 「ゴキュゴキュゴキュ・・・ぷはぁ~!! お湯加減、塩加減、問題なし最高の一品です。是非入っていきましょう!」

 

 温泉に顔を突っ込んで、その舌で堪能した命は目をおかしくさせながら、そういった。

 

 「「「「「温泉リゾートとしゃれこもうじゃないかぁ!!」」」」」

 

 こうして、アースたちは温泉を堪能することになった。

 

 しかし、すぐさま女性陣の視線が冷たくなる。

 

 「どうしたんだい?」

 

 ヘルメスがそんな彼女らの変化に気づき尋ねると・・・

 

 「ヘルメス様。水浴びの件をお忘れですか?」

 

 「あぁ、アース君とベル君が良い思いをした件ね!」

 

 「二人が良い思いをした? なんだそれ。」

 

 何も知らないヴェルフは頭上に?マークを浮かべた。

 

 「とにかく、僕らはヘルメスがいると安心して入れないよ。」

 

 「なら水着を着ればいいじゃないですか?」

 

 「なるほど!・・・でも、水着はどこに?」

 

 「ふっふっふ、水着ならここにあるぜ!」

 

 ヘルメスはそういって、アスフィの羽織っていたローブを翻す。そこには数々の水着が隠されていた。

 

 『あの娘も、毎度のことながら大変だな。』

 

 「今度、なんか奢ってやるか。」

 

 『そうだな。』

 

 これに関してはトレイナでさえも、アスフィのことを同情する始末。

 

 

 

 

 

 

 女性陣が水着に着替えている間に、アースたちはその水着姿を想像していた。

 

 「今頃、あの岩の向こうでは美の供宴が繰り広げられているのだろうね。」

 

 『アホか。こやつ。』とヘルメスに対してトレイナは辛辣なツッコミを入れる。

 

 「リリちゃんは、まだ幼さを秘めながらもダンジョンで生き抜く強さを纏ったしなやかな姿を・・・」

 

 「ヒャアアアアアアア。」

 

 そんなリリの姿を想像したのかベルは声にならない悲鳴をあげた。

 

 「命ちゃんは生真面目さに似合わぬ、不埒な体のラインを・・・千草ちゃんは可憐な腰つきを・・・」

 

 「うちのアスフィだって、ああ見えてかなりのもんだぜ。俺が保証する。」

 

 「きわめつけはヘスティアだ。天界屈指のあの胸。それがあの向こうにあると思うと・・・」

 

 更に男性陣の顔は赤くなる。

 

 『おい童!! しっかりしろ。』

 

 「だ、大丈夫だ。」

 

 アースも彼女らの水着姿を想像して顔を赤くさせていた。

 

 『はぁ、お主にはあの神に負けず劣らずのエルフがいるだろ。』

 

 「アミクスのことか? あいつはそんな目で見れねぇよ。」

 

 『はぁ~まぁ、童も年頃の男子だからのう。』

 

 師匠であるトレイナも弟子に対して苦笑するしかない。

 

 しかし、水着に着替えている際に事件は発生した。

 

 なんとヘスティアの水着がはじけ飛んだ。

 

 「このカップで入らないとは・・・」

 

 「相変わらず我儘ですね。」

 

 「仕方ないじゃないか!!」

 

 予備の水着などないし、ヘスティアはどうしようかと困っているときに、アスフィが名案を出す。

 

 本職ではないが、鍛冶師ということもあって手先が器用なヴェルフにダンジョンの素材を使用して、水着を改良してもらったのだ。

 

 水色のビキニに緑の葉の水着は、清楚ながらもどこか野性味あふれるエロ・・・もとい、ヘスティアを美しく見せたのだった。

 

 「どうだい二人とも? 似合ってるかい?」

 

 「はい、似合ってます神様!」

 

 「よく似合ってると思うぜ。」

 

 そんなヘスティアに二人は褒める。ベルに至っては完全に見惚れていた。

 

 『やれやれ、男子というのは、単純だな。』

 

 





 いつしか、エスピやスレイヤも連れてきてベル君と会わせてみたいと思っています。

 一体どんな修羅場になるのか・・・


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

堪能しました


 今回で温泉回は終わりです。


 

 なんだかんだとありつつも、ようやく温泉を堪能できると一行が楽しみにしていると・・・

 

 「皆さん、着替えはよろしいですね。」

 

 温泉ガチ勢の命によって温泉に入る前の作法を習っていた。

 

 「自分がその作法の一部をお教えしたいと思います。」

 

 「なぁ、トレイナ。温泉に入る前に作法なんかいるのか?」

 

 『余に聞くな。だがまぁ、ここは異世界だからのう。あっても不思議ではない。』

 

 「それもそうか。」

 

 「まず二礼。二拍手。一礼。そしてお賽銭もいれます。」

 

 「ちょっと待てッ!!」

 

 「なんだいお賽銭って!?」

 

 「おッしッずッかッにッ!! 正式な作法です。」

 

 とまぁ、雲行きが怪しくなってきたところで、すかさずヴェルフとヘスティアが止めにかかる。

 

 だが、温泉ガチ勢の命に強制的に黙らされてしまう。このときの命はミノタウロスの放つ咆哮にも負けていなかった。素晴らしい咆哮だ。

 

 そしてなんやらお祓いをしだした・・・

 

 「おいおい、本当にこんな作法があるのか?」

 

 『・・・余も少し心配になってきたぞ童。』

 

 異世界の作法に対してアースたちも不安になってきたようだ。かの大魔王トレイナも頭を痛めている。

 

 「極東ならではの風習か。面白いね。」

 

 ヘルメスはというと、こんな状況であっても興味深そうにしていた。流石は旅の神ヘルメスだ。

 

 「すみません。極東とか関係なく、あいつだけの風習でして・・・」

 

 桜花までもがすまなそうに肩幅を狭くしている。

 

 千草も苦笑している。

 

 「それではぁ~手首足首を回してぇ・・・いざッ温泉へッ・・・ぴょおおおおおん。」

 

 そしてようやく入れる・・・

 

 「いや、掛け湯はしないのかよッ!!」とアースが突っ込む。

 

 たとえ別世界であっても、掛け湯の概念は変わらずあるようだ。

 

 桜花と千草がただひたすらに頭を下げ続ける。

 

 「「すみませんすみません。」」

 

 

 

 

 

 

 

 

 「ふぅ~たまにはこういうのも良いものですね。あとはヘルメス様さえ大人しくしてくれていれば・・・」

 

 「やっぱり温泉は最高だねぇ。長年続いていたなぞの肩こりが解けていくようだよ。」

 

 「それは謎じゃありません。」

 

 アスフィとヘスティアの持つ胸を見て千草が落ち込む。ぷかぷかと温泉に浮かぶ胸は男性陣の劣情を誘うであろう。

 

 命とリリは温泉でお湯を掛け合って遊んでいる・・・おい命さんや。プールじゃあるまいし、お湯を掛け合う方が無作法なのではないのかい?

 

 しかし、楽しそうなのも事実。この尊い空間を眺めていたいという男性陣のことを考慮し、多めに見てあげましょう。

 

 そんなアヴァロンの片隅で男性陣は仲良く四人並んで温泉を楽しんでいた。

 

 「終わったんだなぁ~俺達は生きている・・・」

 

 「元はと言えば、お前のせいだからな。大男・・・」

 

 「分かっている。だが後悔はしていない。」

 

 ヴェルフと桜花が感慨深げに話していた。

 

 この様子を見たら、十八階層でベルたちに謝罪していたときから大分関係が改善されたように思われる。

 

 「アースさんはさっきから何をしているんですか?」

 

 「ん?あぁ、ストレッチだ。温泉で暖まった筋肉を解してるんだよ。ベルもやってみたらどうだ?怪我しにくくなったりといいこと尽くしだぞ。」

 

 アースはというと、トレイナの指導の下、ストレッチを行っていた。

 

 アースにとってゴライアスとの戦いは、そこまで疲労にはなっていないものの、こういったときに体の調子を整えるということも、大事なのはトレイナから学んでいた。

 

 「い、いてててて。」

 

 アースに指導されながらストレッチを行うベルは、普段からあまりやっていなかったのか痛そうに顔を歪ませていた。

 

 「よし、痛いところまで伸ばしたら、ゆっくり深呼吸するんだ。限界まで伸ばしてから、吐き出す際にゆっくりと、更に前に体を倒す。」

 

 「いてて、すぅ~、はぁ~。」

 

 「そうそう、それで伸びた所でまた、止まっておく。痛みに慣れろ。」

 

 「は、はい。」

 

 十分ほどストレッチを行ったところで、アースは体を起こす。

 

 「ふぅ、こんなもんだろ。どうだベル?最初に比べて大分柔らかくなっただろ。」

 

 「はい、すごいです。」

 

 「これを毎日続けることだ。出来れば風呂上りとかがいいらしい。」

 

 「わかりました。やってみます。」

 

 元気よく返事する弟分に対してアースは微笑んだ。

 

 「ベルは確か十四歳だったよな?」

 

 「そうですけど、アースさんはいくつなんですか?」

 

 「俺は十五だ。そうだな、俺のことは兄ちゃんとでも呼んでくれていいぞ。」

 

 そしてアースは思い出す。自分のことを兄と慕ってくれる三人と弟と妹の姿を・・・

 

 「お兄ちゃんですか・・・アース兄ちゃん?」

 

 「グハッ・・・お、おうベルよ。俺が兄ちゃんだぞ。」

 

 「僕もアース兄ちゃんみたいに強くなれますか?」

 

 「勿論だ!! 帰ったら一緒にトレーニングするか。」

 

 異世界に来て、新しい弟が出来たアースは誰から見ても上機嫌に見える。

 

 

 

 

 

 とある世界の弟と妹たち・・・

 

 「なんか今、お兄ちゃんを誑かす何かを感じた。」

 

 「奇遇だねエスピ。僕もお兄さんがよからぬことをしているように感じた。」

 

 「ぷんっぷんっ!!」

 

 

 

 

 

 

 「ベル君、アース君! この奥にまだ進めそうなところがあるんだ。一緒に云ってみよう!」

 

 するとヘスティアが岩の向こうから顔を覗かせて、二人にそういった。

 

 「はい、神様。」

 

 「探検か。おもしれぇ。」

 

 そういって、二人はすぐにヘスティアのところへと向かった。

 

 「役得か・・・」

 

 「仕方ねぇ。リトル・ルーキーだからな。」

 

 あとに残された二人はアースたちのことを羨ましそうにしながら、腕を組んだ。

 

 「お、桜花、命が温泉の噴き出し口を見つけたの。そこに居た方が怪我の治りも早いかもって・・・一緒に行こ?」

 

 ちょこんと首をかしげる仕草を見せた少女。髪の間からは普段隠れている瞳が露わになり、表情も温泉に浸かっているせいか頬も紅潮している。ヘルメスお墨付きの可憐なくびれは男が抱きしめると折れてしまいそうに儚く、美しかった。

 

 「お、おう。」

 

 思わぬ誘いに桜花も気恥しそうにしながら、答えた。

 

 「・・・ちくしょう。」

 

 女っ気のない鍛冶師の男はリア充を恨む。

 

 「一人の時間もときには必要です。」

 

 そこへ現れたのは我らの疾風であった。

 

 葉っぱの上に乗りながら釣り糸を垂らす姿は、なかなかシュールである。その上に載っているリューの表情も真顔のため、更にシュールさに力が加わる。

 

 「孤独はいい。何かを見つめなおすことができる・・・」

 

 「何かを見つめなおす・・・うっ。」

 

 そしてヴェルフはリューのブルマ姿に何かを見出したようだ。

 

 

 

 

 

 

 「神様、ここダンジョンの中なんですよね。すごいな。」

 

 「そうだね。」

 

 「にしてもなんでもありだな。」

 

 三人が進む先には洞窟が広がっており、壁から見える鉱石が光源の光を受けて、煌めき神秘的な空間を創り出していた。

 

 『ふむふむ、やはりダンジョンというものは素晴らしいな。』

 

 「あぁ、そうだな。」

 

 アースがトレイナと会話していると、突然ベルが進んできた道を折り返していった。

 

 「あれ、ベル?」

 

 「もうっ! ベル君の馬鹿ああああ。」

 

 ヘスティアの叫びが洞窟に響いた。

 

 「・・・元気だせよ。」

 

 「うぅ、ありがとうアース君。」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 「なんだこれ・・・まさかっ!?」

 

 「皆さん、温泉から上がってください!!」

 

 アースのマジカルレーダーに何かが反応した。その正体に気付くと同時にリューが、全員に声を掛ける。

 

 温泉がたちまち赤く染まると、それに伴い女性陣の水着が解けていく。

 

 「おうおう、なんだいこれは?」

 

 「「「「・・・・・・」」」」

 

 「がはっ。」

 

 何かを感じ取ったのかヘルメスが現れて、肌をあらわにした女性陣を見つめるが、即刻リューとアスフィたちに絞められた。哀れ。

 

 「モンスターだ。」

 

 「クラネルさんと神ヘスティアが危ない!?」

 

 アースはレーダーを使って、二人の位置を調べる。

 

 「こっちだ。」

 

 アースが全員を誘導して、二人の元まで進んだ。

 

 「見つけたっ!」

 

 案の定、二人はモンスターに囲まれていたが、リューが疾風の名に恥じぬ動きで、殲滅した。

 

 「ご無事でしたか。」

 

 「間に合った。」

 

 間一髪のところで二人の救出に成功する。

 

 だがしかし、モンスターの親玉と思われる存在が姿を現した。

 

 『これはあんこうに似ているな。』

 

 「なんだそれ?」

 

 『深海魚に分類されるそれは、頭についた提灯(ちょうちん)で獲物をおびき寄せて、襲うのだ。』

 

 「なるほど。」

 

 アースも戦いに参加するために、ファイティングポーズをとるが・・・

 

 「大丈夫です。僕がやります。」

 

 そういってベルが突き進む。

 

 襲い来る触手たちを躱して、本体に走り寄る。

 

 跳躍し、攻撃をしようとしたところで、モンスターは口を広げて落ちてくるベルを食べようとした。

しかし、その口にベルが収まることはない。何故なら・・・

 

 「ファイアボルトオオオオオオオ。」

 

 英雄願望(アルゴノゥト)によってチャージされた魔法が放たれたからだ。

 

 雷の如き炎が炸裂し、モンスターを消し飛ばした。

 

 

 

 

 

 

 『ふむ、今まで発見されなかったのは、発見した冒険者たちはあのモンスターに襲われたためか。』

 

 「やっぱりダンジョンは危険に溢れているってことか。」

 

 『これもいい経験になっただろう。』

 

 「そうだな。」

 

 こうして、一行は地上へ向けて進むだした。

 





 アース君の戦闘を早く書きたいです!!

 次回はおそらく、ロキ・ファミリアに訪問します。

 まさかのあのキャラが・・・次回もお楽しみに


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

お久しぶりです先生!


 今回はアースの先生が出てきます。


 

 無事に地上へと帰ってくることができたアースたちは、しばしの休息をとることになっていた。

 

 アースも久しぶりに過ごす教会での生活に安らぎを感じていた。

 

 だがしかーし、アース・ラガンの朝は早い。

 

 太陽が昇るよりも早く起床したアースは、オラリオの街中を走り出した。

 

 『この風景も懐かしく感じるな、童よ。』

 

 「そうだな。空気も綺麗だ。走り込みするのも気持ちいぜ。」

 

 『ペースを上げるか童。』

 

 「あぁ。」

 

 オラリオにいた頃もこうして、毎朝走り込みをしていたアースの姿は、街の住人からは名物として親しまれていた。

 

 「おっ!? 坊主じゃねぇか。久しぶりだな。帰ってきてたのか。」

 

 走り込みをしていたアースに声を掛けたのは、これからダンジョンに潜るであろう冒険者だった。

 

 この冒険者はアースとは、何度か酒場で飲んだ(アースは果実水〉仲であり、毎朝走るアースとも交流があった。

 

 「おう、また飲みに行こうぜ。」

 

 アースも嬉しそうに走り続けた。

 

 『意識しろよ。これまでは人型を意識していたが、ダンジョンに潜る際には人型よりも異形のモンスターが多い。一匹一匹、イメージを大切にシャドーをするんだ。』

 

 「押忍ッ!」

 

 かなりのハイペースで走り続けるアースは額に汗を浮かばせ始めた。そこへ更に追い打ちをかけるかのようにシャドーを行う。

 

 トレイナのアドバイスを的確に反映し、人型のモンスターは勿論、インファイト・ドラゴンや、ハードアーマード、アルミラージといった人型ではないモンスターとの戦闘も意識して、拳を振るう。

 

 空を切った拳は汗を飛ばす。

 

 そこへ爽やかな風が吹きつけた。

 

 「ふぅ、更にペースを上げるか。」

 

 これまでも十分ハイペースだったアースは、更にペースを上げた。

 

 「水抜きのときに比べたら、大分楽だな。」

 

 『ならば、また水抜きをやってみるか?といっても、あそこまで命がけでやるわけではなく、体をリセットするという目的でやっても、いいかもしれないぞ。』

 

 「そうなのか? 俺としては、もうやりたくないんだけどな。」

 

 水抜きとは、アースがかつて、消費した魔力を回復する技法である魔呼吸を習得する際に行ったトレーニングである。その内容は文字通り、トレーニング中は一切の水分を取らないというものだ。その過酷なトレーニングのせいで、アースの頬は骨が浮かび、目は死人のようだったと、見ていた者は語る。なにより、アースは、そのときずっと走り込みをしていたのだ。時には人々の行き交う街中を、時には足場の悪い砂浜を・・・結果として、トレイナ以外は誰も習得することの出来なかった魔呼吸を習得することができたアースだったが、一歩間違えると死んでいたかもしれない。

 

 二時間にわたる走り込みを終えたアースは冒険者たちが利用する公衆浴場にて汗を流し、ホームへと帰ってきていた。

 

 「おはようございますアース兄ちゃん! どこか行ってたんですか?」

 

 ホームには既に身支度を終えたベルが朝食の準備をしてた。

 

 「ちょっと走り込みをな。ヘスティア様は?」

 

 「バイトに行きました。なんでも、ダンジョンに潜るために休暇を取っていたみたいで・・・」

 

 「なるほどな。あとで顔出すかな。」

 

 「アース兄ちゃんはこのあと何かするんですか?」

 

 新しくお兄ちゃん呼びをしてくれるベルにアースは癒された。

 

 「まぁな。ちょっとロキ・ファミリアのホームへ顔を出そうと思って。」

 

 「アイズさんたちのとこへですか?」

 

 「ベルも着いてくるか?」

 

 アースに誘われたベルは考えるが、断った。どうやら先約があるらしい。

 

 「そうなのか? なら仕方ないな。」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 「ヘスティア様。」

 

 「あれ、アース君。どうしたんだい?」

 

 朝食を終えたアースはヘスティアの働くじゃが丸くんの屋台へと顔を出していた。

 

 「あら、アース君じゃない!」

 

 更にそこへ、じゃが丸くんの屋台で働くおばさんがやって来た。

 

 「うちの神様をあまりいじめないでやってくれよ。」

 

 苦笑しながらアースがそういうと、おばさんは豪快に笑った。

 

 「大丈夫よ。私は神様だろうと、子供だろうとビシバシ働かせるから。」

 

 「全く、下界の子は怖いモノ知らずなんだから。それでどうだいアース君。じゃが丸くんはいるかい?」

 

 おばさんの態度にヘスティアは呆れるが、アースへじゃが丸くんをすすめた。

 

 「これからロキ・ファミリアに顔を出そうと思ってたところなんだ。プレーンと小豆クリームと抹茶クリームをそれぞれ三十個ずつくらい貰えるか?」

 

 「そ、そんなにかい!? 持って行けるのかい?」

 

 「いいトレーニングになるだろ。」

 

 

 

 

 

 

 

 

 大量のじゃが丸くんを抱えたアースはロキ・ファミリアのホーム。黄昏の館の前に着いた。

 

 「アースさん! 久しぶりです。」

 

 アースの姿を見た門番の冒険者はすぐに頭を下げた。

 

 「あれ、ロットじゃねぇか。お前、門番係は卒業したんじゃなかったのか?」

 

 この門番をしている冒険者はロットといい、過去にアースにダンジョンで命を救われているのだ。

 

 アースが元の世界に戻る前には門番係を卒業し、ロキ・ファミリアの二軍の下っ端として活動するという話を聞いていた。

 

 「実は、前まで門番をしていた奴が、ファミリアに入団希望でやって来た人たちを勝手に追い返してたみたいで・・・今日はたまたま俺の番ということになってるんですよ。」

 

 「なるほどな。」

 

 アースは知らないが、実はベルもオラリオに来て、ヘスティアと出会う前に様々な探索系のファミリアへ顔を出していたのだ。その中には当然、ロキ・ファミリアも存在しており、それを知ったフィンたちによって門番をしていた男性は・・・これ以上考えるのはやめておこう。フィンではないが、アースの親指が震えた。

 

 「これ、差し入れのじゃが丸くんなんだが、どれがいい?」

 

 「いいんですか? じゃあ、プレーンをください。」

 

 「あい、じゃあちょっとお邪魔するな。」

 

 「はい!」

 

 本来なら、他派閥のホームへ入るのはタブーなのだが、アースは色々あって黄昏の館へ入ることを許可されている。

 

 その理由の一端にロットも関わっている。

 

 「アース!!」

 

 広いホームを進んでいると真っ先にアースの元へやってきたのはティオナだ。

 

 「よう、ティオナ。先生はいつものとこへいるか?」

 

 「うん、いると思うよ。それってじゃが丸くんだよね?」

 

 アースの質問に答えたティオナはアースの持つじゃが丸君を見て引いていた。

 

 「ばっかお前!! 流石に一人でこんなに食えるわけないだろ。差し入れだよ差し入れ。みんなで食ってくれ。」

 

 アースがそういうと、ティオナはなるほどと首を振る。

 

 「仲良く分けて食えよ。」

 

 するとティオナは成長した弟を見る姉の様な眼差しを見せた。

 

 「な、なんだよ・・・」

 

 「ううん、アースも成長したんだなって。」

 

 「うるさいなッ!!」

 

 持っていたじゃが丸くんをティオナに渡し、アースは目的の人物へ会うために黄昏の館の中を歩く。

 

 「ねぇ、アース。このあと時間ある?」

 

 そこへティオナが忘れていたとばかりに、アースに尋ねた。

 

 「まぁ、先生への挨拶が終わったら帰ろうと思ってたけど。」

 

 「その、さ、良かったら、デートしない?」

 

 「デ、デート!? まぁ、いいけど。」

 

 「ほんと!? やった。」

 

 嬉しそうにはしゃぐティオナを尻目に、アースは今度こそ、先生に会うために進んだ。

 

 

 

 

 

 

 コンコン

 

 「入ってもいいぞ。」

 

 「おはようございます先生!!」

 

 「ふっ、そうか。お前が来たか。久しぶりだなアース。」

 

 「久しぶりです先生。」

 

 「十八階層では、私も仕事があって顔を合わせることは出来なかったが・・・更に漢らしくなったんじゃないか?」

 

 そういってニヤリと笑う人物はロキ・ファミリアの幹部にしてレベル6の冒険者。二つ名は「九魔姫(ナインヘル)」。エルフの王族であるハイエルフのリヴェリア・リヨス・アールヴだ。

 

 この人物がアースが先生と呼ぶ人物だった・・・

 

 

 





 アースが何故リヴェリアを先生と呼ぶのかは・・・次回のお楽しみです。


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

教えて!! せんせー!!

 

 黄昏の館の一室で、書類作業を行るリヴェリアの元を訪れたアース。

 

 「お前がオラリオを離れて二年が経つが、中身はあまり変わってないようだな。」

 

 「まぁな。先生も相変わらず美人だと思うぜ。」

 

 「女性の褒め方は勉強してきたようだな。」

 

 「あぁ、旅先で色々な人に世話になったからな。」

 

 アースがリヴェリアを先生と呼ぶのには深い理由がある。

 

 オラリオに来たばかりのアースはダンジョンに潜って過ごしていた。それからおよそ、一ヵ月が経過したころ、アースは中層にまで進出していた。

 

 中層からは、厄介なモンスターが出てくる上に、ダンジョン内でのギミックなどもある。例を挙げると、霧などだ。

 

 マジカルレーダーもあったアースは、たとえ霧の中でも視界に困ることはなかった。ところが、アースはマジカルレーダーに冒険者を捉えた。ダンジョン内なら冒険者と遭遇して、そのまま先頭に発展することもあるそうだが、そのときのアースは、冒険者たちの動きがおかしい事に気づき、向かったのだ。

 

 そのときに出会ったのが先ほど会ったロットを含めた五人ほどのパーティだった。

 

 ロットたちはインファイト・ドラゴンの強化種と遭遇し、命からがら逃げてきたというのだ。

 

 ポーションなども切らしていた彼等は、困り果てていた。それをアースが助けたのだ。

 

 アースが先頭に立って、地上まで向かう。しかし、そこへ現れたのがインファイト・ドラゴンの強化種だった。

 

 強化種ということもあり、アースも苦戦したが、それまでに六覇やジャガーノートなどのモンスターと戦ってきたアースだ、多少のかすり傷はあったが、一人でインファイト・ドラゴンに勝利し、ロットたちを地上へ送り届けたのだ。

 

 その際に、レベルアップを果たしレベル2となった。

 

 後日、アースの元へ、ロキやフィンとリヴェリア、ガレスを含めたロットたちが、あの教会にやってきて感謝したのだ。

 

 「うちの子たちが世話になったお礼に、うちらに出来ることやったら、なんでもしたるで。」

 

 ロキの提案で、なんでもしてくれるといわれたアースとヘスティアは話し合った。

 

 「お金がいいかい?」

 

 「いや、お金は大事だが、それよりも大切な物がある。」

 

 「なんだいそれは?」

 

 「知識だ。俺はこの世界に来てから、ダンジョンの恐ろしさというものを嫌ってほど、思い知らされた。」

 

 「なら、アース君の望むようにお願いしたらいいと思うよ。」

 

 ヘスティアも了承してくれたため、アースはロキにこう頼んだ。

 

 「誰か、俺にダンジョンについての知識を授けて欲しい。」

 

 「ほう、なんでや?」

 

 「ヘスティア・ファミリアには眷族が俺しかいない。他に教えてくれる先達もいなければ、知識がなければ、ダンジョンで生き残ることもできない。」

 

 アースが淡々と述べるとロキは勿論、フィンたち幹部や、助けたロットたちでさえも驚いていた。

 

 「なんや自分。てっきりなんでもかんでも突っ込んでいく猪みたいな奴やと思ったら、めっちゃ頭もキレるやん。」

 

 「それって俺のこと馬鹿にしてますよねロキ様?」

 

 「アッハッハッハ、悪い悪い。ええよ。勿論や。自分はこれから、うちの下級冒険者たちと一緒にリヴェリアたんの講義を受けることを許可したる。」

 

 こうして、アースはリヴェリアが行っているというダンジョンに関しての講義に参加することを許可されたのだ。

 

 元の世界で通っていたアカデミーでは、常に上位の成績を収めていたアース。実は戦闘だけではなく、勉強面に関しても努力を怠らなかった秀才なのだ。

 

 その点に関しては六覇のハクキも舌を巻くもので、数々の強敵と戦う中で、更に磨かれてきたのだ。

 

 リヴェリアの講義を受ける冒険者たちの中でもアースはトップを勝ち取った。

 

 リヴェリアの教えがいいということもあるが、勿論それだけではない。復習、予習は当たり前。それどころか、ダンジョン内で、自身がもしもこのような場面に陥ったときのパターンを数百種類も考えて、自分で解決法を考える。それでも分からない場合、普段ならばトレイナに頼ればいいのだろうが、トレイナも流石に異世界の知識は知らないようで、リヴェリアに質問していたのだ。

 

 その普段の姿からは考えられない、隠れた所での努力を欠かさないアースにリヴェリアは好感を持つどころか、ある種の好意まで抱くようになっていた。

 

 アースが現れるまで、自分の講義を真面目に聞いていた冒険者は、わずかしかいなかった。レフィーヤですら、質問に来ることはあまりなかった。

 

 (レフィーヤがあまり質問に行かなかったのは、気まずかったから。)

 だが、アースは質問を講義が始まる前と終わったあとに必ず一個か二個はするのだ。

 

 何がいいたいのかというと、リヴェリアから見てアースは可愛くて可愛くて仕方がないのだ。

 

 

 

 

 

 「それでどうしたんだ? また質問でもあるのか?」

 

 リヴェリアは手に着けていた書類作業を一度やめて、アースにお茶を出しながらそういった。

 

 「お茶なんて出してくれなくても良かったんだぞ先生。」

 

 「気にするな。久々に会った生徒に、お茶を出すくらい当然だ。」

 

 「質問は・・・特にないな。でも強いて、いえば俺がオラリオから出て行ったあとに、何か新しく学ぶべきことを増えたか?」

 

 「・・・あぁ、先日の遠征で、私たちは新種のモンスターと遭遇した。詳細はまだあまり分かっていないが、そのモンスターは芋虫のような姿をしており、体液が腐食作用を持つということだ。」

 

 すると先ほどまで生徒との再会に嬉しそうにしていたリヴェリアの表情は一転し、深刻そうな表情へと変わった。

 

 「そのモンスターは十八階層にまで登ってきた。」

 

 「それってヤバくないか?」

 

 「あぁ、私はそのモンスターは何か人工的に造られたのではないのか?と考えている。」

 

 紅茶を口に含み、背もたれに背を預けたリヴェリアはため息を吐いた。

 

 「闇派閥が何かを企んでいるかもしれん。」

 

 「それって・・・」

 

 「あぁ、七年前にオラリオを襲った連中だ。お前はそのとき、オラリオにはいなかったのだろう。」

 

 アースは頷く。

 

 「奴らは残虐非道の限りを尽くす。人の命を弄ぶ。自爆なんて当然かのように戦う。」

 

 「・・・」

 

 リヴェリアの表情が怒りで歪む。

 

 「あっ、すまない。せっかくの再開だというのに、このような話になってしまって・・・」

 

 「先生は悪くねぇよ。お茶、ごちそうさまでした。美味しかったです。それじゃあ、俺はもう行くぜ。差し入れにじゃが丸くんも買ってきてるから、あとで食べてくれ。」

 

 「あぁ、いただくとしよう。」

 

 「先生。次の講義はいつだ?」

 

 「今日の夜だ。来るなら歓迎する。」

 

 アースが去り際にリヴェリアに向けて放った言葉は、先ほどまで暗い表情を浮かばせていた彼女の表情をあっという間に明るく、美しいモノへと変えてしまった。

 

 「あぁ、じゃあ今日もたっぷり教えてもらうことにするぜ。」

 

 

 

 

 

 

 

 黄昏の館を出たアースは、ティオナと合流する。

 

 「アースったら遅いよ!」

 

 アースが出てくるのをホームで待っていたらいいものを、ティオナはアースと出かけるのが楽しみで仕方なかったのか、外で待っていたようだ。

 

 「悪い悪い、先生と長話しちまった。」

 

 アースとリヴェリアの仲を知っているティオナは仕方ないなぁ~とでもいいたげに、こういった。

 

 「お詫びに何か奢ってよね。」

 

 「さっきじゃが丸くんあげたじゃねぇか!!」

 

 「それはそれ、これはこれ。」

 

 アースと出会うまでは、かなりざっくばらんとした性格だったティオナだが、アースと出会ってからは小悪魔属性を習得しつつあった。

 

 「仕方ねぇな・・・いっとくが、今はあまりお金ないぞ。」

 

 「大丈夫大丈夫。アースは私のことをどんな風に思ってるの!」

 

 「姉に全てを奪われた者。」

 

 「殺すッ!!」

 

 「うわああああやめろやめろ。悪かった。」

 

 「処すから。」

 

 このやり取りを見ていた周りの冒険者たちからは・・・

 

 「久しぶりに見たと思ったが、相変わらず大切断(アマゾン)熱血鉄拳(ハート・パンチャー)は夫婦仲がよろしいことで・・・」と思われているとかいないとか・・・

 

 「「誰が夫婦だ!!」」



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

親友とのお出かけはデートに入るだろうか?


 トレイナが空気過ぎて辛い。


 

 「それじゃあ、何見ようか?」

 

 黄昏の館を出た二人が向かった先はオラリオの市場だ。

 

 「そうだなぁ~まだ腹は減ってないだろ? さっきじゃが丸くんを食べてたみたいだし。」

 

 「うん、あっ、あそこ行こうよ。」

 

 そういってティオナが指さした店は雑貨屋だ。

 

 『ほう、なかなか雰囲気のあるいい店ではないか。』

 

 店内は雑貨屋というだけあって、色々な物で溢れかえっているが、商品の一つ一つをうまく並べており、トレイナも褒めるほど雰囲気のある店となっていた。

 

 「俺がオラリオを出る前に、こんな店あったか?」

 

 「いや、なかったよ。ここ半年くらい前に出来たんだって。私も何回かアイズやティオネと来てるけど、いつも新しい商品が並んでて面白いんだよね。」

 

 そういってティオナが手に取った物は、しおりだった。

 

 「このしおり可愛いね。」

 

 まるでステンドグラスのようにカラフルかつ、小鳥や草花といった物が描かれたしおりは、まるで英雄譚のワンシーンを表しているかのようだった。

 

 「いいんじゃないか。あとはお姫様が居れば、完全に英雄譚のワンシーンだな。」

 

 「お姫様ならここにいるよ。」

 

 相変わらずひまわりの様な満開の笑顔を自分に向けてくるアースは、たじたじになってしまう。

 

 「アハハ、冗談だよ。冗談。私はお姫様には向いてないよね。」

 

 するとティオナはそういって、しおりを元の場所へ戻した。

 

 「そんなことないと思うけどな。」

 

 「えっ?」

 

 心のどこかではお姫様に憧れを持っているティオナに対してアースはそういった。

 

 「ティオナがお姫様に向いてないなんてことはないって、俺は思うぞ。」

 

 「な、なに急に?」

 

 そのときのアースが何を想っていたのかは知らないが、ただこれだけは言えよう。アースはティオナの表情が曇ることを望んでいなかった。いつも無邪気に、明るく、元気溢れる彼女のことをアースは好きだったのだ。それが恋愛的なモノなのかは、まだ定かではないが、アースは間違いなくティオナのことを好きだったのだ。好きな女の子の悲しい表情なんて見たくないアースは、とにかくティオナに笑顔になって欲しかったのだろう。

 

 「いやな、俺の知り合いの話なんだが、そいつの友達にお姫様がいたんだよ。そいつは成績優秀で勉強に関しても、戦闘に関しても、俺の友達より上でな。」

 

 アースが語り出したのは自分の友人の話だという。それが本当にアースの友人なのかはアースのみぞ知るが、懐かし気な表情で語りだした。

 

 「俺の友達も、ガキの頃はそのお姫様とも仲が良かったみたいで、いわゆる幼馴染って関係らしかったんだが、成長するに連れて開く、姫と自分の才能って奴にうんざりしてたみたいなんだ。」

 

 ティオナはアースの話にくぎ付けにされた。

 

 「それで、俺の友達とお姫様の関係はいつしか、幼馴染から知り合いって感じになっちまった。お姫様もお姫様で不器用な奴でな、俺の友達に事あるごとにお節介を焼いて、その度に友達に煙たがられるんだよ。」

 

 「今はどうなの?」

 

 「今は・・・多分、いい友人関係なんじゃないか?」

 

 「そうなんだ・・・」

 

 「まぁ、何がいいたいかっていうとな。不器用なお姫様もいるんだから、多少お転婆なお姫様がいたとしてもおかしくないだろっていいたいんだ。」

 

 その言葉はアースが自分なりにティオナを励まそうとしたモノだと、ティオナは気づいていた。それが、どうしようもなく嬉しかったティオナの表情に、再びひまわりが咲き誇る。

 

 「えへへ、ありがとアース。」

 

 「お、おう。気にすんな。」

 

 

 

 

 

 

 

 雑貨屋から出た二人の手には一つずつ小袋が握られていた。

 

 あのあと、二人そろって同じしおりを買ったのだ。なんでも、親友との再会の記念という建前で、デートの思い出として購入したのだ。

 

 「えへへ、アース。」

 

 すると、ティオナはアースの腕に抱き着いた。

 

 「ちょ、離れろって。人が見てるだろ。」

 

 ティオナを強引に引き剥がそうとするが、そこは腐ってもレベル5として活躍するオラリオでも屈指の女傑の一人だ。離れない。

 

 「いいじゃんいいじゃん。」

 

 「はぁ、仕方ない。」

 

 スリスリと自分の腕に抱き着いて離れないティオナを見て、アースは諦めた。

 

 周りの冒険者や市民からは微笑ましそうな表情で見られていた。

 

 普通ならば嫉妬する人間の一人や二人はいるだろうが、そういった視線を放つ者はいなかった。代わりにいるのは、憐れむような人たちだ。何故なら、ティオナは先ほど説明したように、オラリオの有名人だ。しかも二つ名は大切断(アマゾン)と、自分も真っ二つにされるのでは?と恐れている人間もいるため、ティオナに抱き着かれているアースに憐憫の視線を送る者がいた。

 

 『余もいるんだが・・・』

 

 そんな弟子の姿を見てトレイナは「またか・・・」と落ち込む。これが大魔王とは誰も思わないだろう。

 

 どこかの天空族の神官「神を愚弄するなああああああああ!!」

 

 「ッ~~~」

 

 「どうしたのアース?」

 

 「いや、何でもない。ちょっと寒気がしてな。そ、そういえば、ティオナは門限とかあるか?」

 

 「特にないよ。」

 

 「そうか、俺は今夜、先生の講義を受けることになってるから、一回、ホームに勉強道具取りに行ってから、送ることになりそうだけどいいか?」

 

 旅先で出会った数々の女性との経験で、アースはなんと紳士に成長していた。女性の送迎は当たり前だ。

 

 「うわ、真面目・・・私は別にいいけど。」

 

 「そっか、ならそれまで思いっきり遊ぶか!!」

 

 「うん!!」

 

 

 

 

 

 

 

 それからアースとティオナは一時間ほど市場を探索した。

 

 アースのことを知っている市場の人間は、ティオナとのデートを見て、たっぷりサービスしてくれた。

 

 ティオナもアースが街の人から慕われていることは知っていたが、まさかここまでとは思っていなかったため、驚いている。

 

 すれ違う人の大半がアースに挨拶をして、アースもまた挨拶を返している。

 

 母親に連れられた子供もまた、アースと遊んだことがある子ばかりで、「また遊んでね。」とという。

 

 「すごいね。アース。」

 

 「なにがだ?」

 

 「こんなにたくさんの人に慕われてるんだもん。まるで英雄みたい。」

 

 「ハハハ、だったらいいけどな。そうだ、本屋に行こうぜ。」

 

 ティオナが素直に自分のことを褒める為、気恥しくなったアースは話を逸らして、ティオナと初めて出会った本屋へと向かった。

 

 「懐かしいね。」

 

 「そうだな。」

 

 手に取った物語は「始まりの英雄(アルゴノゥト)」。ティオナがアースに一番最初に勧めた英雄譚だ。

 

 英雄に憧れる青年が、牛人によって迷宮へと連れ攫われた、とある国の王女を救いに向かう話だ。

 

 時には人に騙され。時には王に利用され。多くの者たちの塩飽に振り回される、滑稽な男の物語。

 

 友人から知恵を借り。精霊から武器を授かって。

 

 なし崩し的に王女を救い出してしまう、滑稽な英雄の物語だ。

 

 「俺の弟分は英雄に憧れてるらしいんだ。英雄になるためにオラリオに来たって・・・」

 

 「それって、アルゴノゥト君のこと?」

 

 「あぁ。俺は思うんだ。あいつなら英雄になれるって・・・近くで英雄を見ていた俺だから分かるけど、あいつの持つ雰囲気は、それにそっくりだ。」

 

 優しく話すアースの脳裏に浮かぶ英雄は、父の姿だった。七勇者ヒイロ。辺境の村出身の勇者で、魔法剣を使う。彼はいわゆる天才で、一度見た魔法はなんとなくだが、再現してしまうのだ。

 

 故に、アースは幼少の頃から父に憧れて剣を振るっていた。

 

 毎日、毎日、自分の初恋であるメイドの少女サディスが見守る中、アースは必死に剣を振るっていた。

 

 それでもアースは魔法剣で友たちに勝つことはできなかった。

 

 もちろん、そこら辺の兵士に比べれば、アースは余裕で勝つことの出来る。しかし、彼の友人で、父と同じ七勇者たちを親に持つ子たちとは才能という面で、圧倒的に劣っていた。

 

 いつしか、友人たちのリーダーとして前を突っ走ていたアースは、友人の後ろでついて行くような形になっていたのだ。

 

 今となっては、アースの力は世界最強クラスへと上り詰めたが、それでも自分の憧れの原点である父へは追いつけていないと思っている。

 

 だからこそ、アースにとっての英雄は父であるヒイロ・ラガンであり。尊敬する人物は大魔王トレイナなのである。

 

 「アースは英雄になりたくないの?」

 

 ティオナがどこか遠い目をしているアースに問いかけた。

 

 「英雄か・・・分からない。だけど、強くなりたいんだ。親父に『どうだ! 俺はこんなに強くなったぞ! 親父よりも強くなったぞッ!!』っていえるくらいにな。」

 

 「そうなんだ。アースのお父さんはすごいんだね。」

 

 「あぁ、すごいけど、駄目な人だよ。」

 

 苦笑しながらそういうアースにティオナは、不思議に思う。

 

 「まぁ、この話は、ここまでにしようぜ。もう暗くなってきたし。帰るか。」

 

 「そうだね。今日はありがとうね。アース。とっても楽しかった。」

 

 「ハハハ、そういってもらえるだけで十分だ。」

 

 

 

 

 





 今日は出来ればもう一話投稿したいと思っていますが・・・できるかなw

 ティオナが可愛すぎて辛いです。


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

あとちょっとの頑張りで・・・


 宣言通り、本日二話目です。というのも、明日投稿できるかわからなかったからです。もしかしたら、明日は投稿できないかもしれません。


 

 ティオナとのデートも終わりが見えてきた。

 

 アースはティオナを黄昏の館に送り届ける前に、一度ホームへと戻っていた。

 

 「アースさん!」

 

 ホームについたアースにベルが話しかけた。

 

 「おう、ベル。また出かけるのか?」

 

 「はい、リリとヴェルフと飲みに行くんです。アースさんもどうですか?」

 

 「悪い。これからちょっと勉強しに行くんだ。」

 

 「勉強!? あっ、もしかして、あのノートに書いてあった・・・」

 

 するとベルはボロボロの本棚に並べられている何冊ものノートを指差した。

 

 「ベルの役に立ったか?」

 

 「はい! どのページも綿密に書かれていたんですけど、とっても分かりやすく纏められていて、しかも終わりの方は応用編として、様々な場面での立ち回り方なんかも書いてあって、エイナさんも絶賛してましたよ。」

 

 ピョコピョコと跳ねるウサギの様に嬉しそうなベルはアースを癒した。

 

 「役に立ったなら、良かったぜ。それじゃあな。」

 

 「はい、頑張ってください。」

 

 そういってアースはホームを出て行った。

 

 「・・・アースさんは本当にすごいな。強くて、かっこよくて、優しくて、しかも勉強もできるだなんて・・・僕もいつか、アースさんみたいに慣れるかな。」

 

 誰もいなくなった教会の中心にてベルは呟く。

 

 静かで、お化けでも出てきそうな雰囲気の教会にベルの呟きが解けていくかのように吸い込まれた。

 

 しかし、それに反してベルの表情はどこか誇らしげだった。まるで、自分の兄貴分はとっても、素敵な人なんだぞ。とでもいいたげだ。

 

 

 

 

 

 

 

 「悪い。待たせたな。」

 

 「ううん、大丈夫だよ。ところで思ったんだけど・・・」

 

 「どうしたんだ?」

 

 二人で並んで歩いているとティオナが急にアースの前に回り込んだ。

 

 身長はアースの方が上と言うこともあって、自然に下からのぞき込むようにしてアースの顔を見つめるティオナにアースは少々、ドキッとした。

 

 「アースって実は良いところのお坊ちゃまだったりする?」

 

 「なっ!? ちげぇよ。なんでだよ。」

 

 「だって、ふとした時の仕草とか、リヴェリアに似てるんだもん。」

 

 どうしてこうも女性というのは勘が鋭いのだろうか。ティオナにしろ、リューにしろ、リヴェリアにしろ、オラリオの女性は何かスキルでもあるのだろうか?

 

 いや、思えば元の世界でもシノブ、クロンなんかも勘が鋭かったなとアースは思い返す。

 

 「た、多分、先生の講義を受けているからだと思うぞ。うん、きっとそうだ。」

 

 「えぇ~でも、私もリヴェリアの授業は受けたよ。」

 

 「いや、お前の場合は寝てただろ。」

 

 「あっ・・・アハハ、し、仕方ないよね。眠たくなるんだから。」

 

 痛い所を突かれたといわんばかりに、話を逸らそうと頑張るティオナ。

 

 「はぁ~多少は勉強しとけよ。将来どうなるかわからないんだからな。もしダンジョンで再起不能の怪我を負ったときとかどうするんだ? ファミリアに負担をかける訳にもいかないし、最低限どこでも働けるように勉強しとけよ。」

 

 するとアースの口から出た正論にティオナは黙ってしまうのを通り越して、関心すらしていた。

 

 「いや、まぁ、イシュタル・ファミリアが経営する娼館なんてものでアマゾネスの多くが働いてるって聞いたことあるけどよ、絶対に、俺はお前をそんなとこで働かせたりなんかさせないからな! いや、別に娼館で働くことが悪いっていうつもりはないけどよ・・・その、なんだ。あぁ! もう、だからな、つまり・・・わ、分からないことがあったら、俺が分かるまで教えてやるから、少しは勉強しろってことだ!」

 

 「・・・ぷっ、アハハハハッ!」

 

 長々と話すアースだったが、内容が内容だったため、ティオナは噴き出してしまう。

 

 「そっかそっか、アースは私が娼館で働いてほしくないんだ。」

 

 髪の毛の先をクルクルといじりながら、笑う。その耳が若干、朱に染まっているのは街灯の光によるものなのか、別の物なのかは・・・

 

 

 

 

 

 

 黄昏の館へ着き、アースはリヴェリアが講義を行う部屋に向かった。

 

 まだ誰もいない部屋で、アースは持ってきていたノートを開く。そのノートはアースが最後にリヴェリアの講義を受けた際の物で、懐かしいなとアースは思い返す。

 

 『余の部下にもリヴェリアの様な人材がいれば、余のストレスも軽くて済んだのだろうに。』

 

 「やめてやれよ。先生が死ぬだろ。」

 

 大魔王トレイナの元へ仕える六人の幹部。

 

 トレイナのことを神と崇め、この世界でいうとヘラに似た性格をしている天空族の暗黒の戦乙女ヤミディレ。

 

 魔界でも最低、最悪、最凶と名高い魔族からも嫌われている闇の賢人パリピ。

 

 人望はあったが、その、性癖が・・・非常に残念な、のじゃロリババアの幼女闘将ノジャ。

 

 アースもその漢気には魅せられた熱く固い魂を宿した魔巨神ゴウダ。

 

 トレイナの亡くなったあと、魔族を率いる気高き士官のライファント。

 

 そして、何度も殺されかけた、魔界最強の鬼・・・ハクキ。

 

 これらの個性的な人材を纏めたのはトレイナだからこそ出来たものだ。トレイナがいなければ、きっと魔界は混沌としており、人類との戦いも停戦がなく、どちらかが絶滅するまで続いてたいかもしれない。

 

 「もう来ていたのか。」

 

 「あっ、先生。」

 

 すると部屋にリヴェリアが入ってきた。

 

 「うむ、始まる五分前だというのに、他の連中は何をやっているんだか・・・」

 

 自分のファミリの団員に対して頭痛がする。

 

 『どうしてアースは、ロキ・ファミリアに来なかったのだろうか。はぁ~。』

 

 アースが居れば、周りの連中もやる気を出すと考えているリヴェリアからすると、アースほど仲間の着火剤になる存在はいないと確信している。

 

 「あれ、まだアースしかいないの?」

 

 そんな二人しかいない部屋に現れたのは、先ほどまでアースとデートをしていた少女ティオナだ。

 

 「ティオナが来るだなんて、明日はバベルの塔が崩れるかもしれないな。」

 

 冗談抜きで、大の勉強嫌いのティオナが自分が無理やり連れてくるわけでもなく、自分の意志でやってきたことに、リヴェリアは割とガチで心配した。

 

 「ひっどいリヴェリア!!」

 

 どうやら先ほどアースに言われた言葉が身に染みたようだ。ノートと筆記用具を抱えて、アースの隣の席へ座った。

 

 「アースが何かやったのか?」

 

 「まぁ、ちょっとな。」

 

 「私、ちょっとずつだけど勉強頑張るよ。アースもわからないところがあったら教えてくれるっていってるし・・・ね!」

 

 「おう、任せろ。」

 

 いつの間にか成長している自らの生徒にリヴェリアは感動する。

 

 「はぁ、本当にお前がロキ・ファミリアに来てくれていれば・・・」

 

 「どうしたのリヴェリア?」

 

 「ちょ、調子が悪いなら、今日の講義は休みでもいいぞ。な、なんなら、俺の学んだとこだったら、代わりに教えとくから。」

 

 普段から書類作業の大半を任せられているリヴェリアの体調を心配して二人が声をかける。

 

 「大丈夫だ。少し嬉しくてな。あれだけ嫌がっていたティオナが講義を受けにくるなんて。」

 

 「私も成長するんだよぉ~。」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 結局、今日の講義に集まったのはアースとティオナを除いて六人。その全員がレベル1の下級冒険者だ。

 

 アースのことは講義が始まる前に、リヴェリアが説明していたため、気にしていないようだ。

 

 逆にティオナが来ていることの方がおかしいとすら思われている。

 

 「じゃあまずは復習だ。大分前にやったダンジョンで休憩をとるときは、どのような場所で、どのようにして休憩を取るのか。分かる奴・・・ティオナは流石に分かっているはずだが?」

 

 「え、えっとぉ~確か、小さい部屋で壁を壊す?」

 

 「そうだ。そうすれば、大量のモンスターに襲われることはない。更に、壁を壊すとダンジョンは壁の修復に時間を掛ける為、モンスターが生まれることもない。」

 

 「えへへ。」

 

 問題にして初級の初級。だが、これをティオナに答えさせたのは正解することの楽しさを知るためであった。

 

 「では、講義を始める。」

 

 

 

 

 

 

 リヴェリアの講義は一時間ほどであるが、進むスピードが速く内容が濃い。必要な知識だけをぎゅっと詰め込んだ質のある講義内容のため、残り五分のときには他の冒険者たちはぐったりしていた。

 

 「であるからに、ダンジョン内にて・・・はぁ。」

 

 アースを除いた全員が精神枯渇(マインドダウン)のときのようにぐったりしているため、リヴェリアは再び額に手を当てる。

 

 「情けないぞお前たち。あと五分だから気張って見せろ。」

 

 普段は理論的なことを述べるリヴェリアだが、たまに精神論てきな意見も出す。それは彼女がお転婆だった時期があることも関係している。

 

 「おいティオナ。頑張れ、あと五分だ。」

 

 「うぅ~頑張ったよ。私、いつもなら始まって一分で寝てるけど・・・」

 

 確かに、今日のティオナはノートもしっかりとっており、普段の講義とは比べ物にならないほど頑張っているといえよう。

 

 「はぁ、なぁアース。こういうとき、お前はどうやってやる気を出すんだ?」

 

 そこでリヴェリアはアースに助けを求めた。自分がいうよりも、同じく講義を受けているアースの意見の方がティオナたちには共感できるものがあると考えたからだ。

 

 「そうだな・・・昔は、ただ認められたいって思ってた。親父に、お袋に、メイドに、『頑張ったな!』って褒めてもらいたい一心で頑張ってたな。」

 

 これにはリヴェリアも驚いた。あの真っすぐな少年が、心の底ではこのようなことを考えていたのかという思いと、少し悲し気に語る少年を見て、地雷を踏んだのかと後悔したからだ。

 

 「今でもな、やっぱり認めてもらうと嬉しいけどよ。なにより、自分の力になるのが楽しくて楽しくて仕方がないんだ。トレーニングだってそうだ。昨日は10キロしか走れなかったのに、今日は10,1キロ走れたって、そのわずかな成長が俺は楽しくて楽しくて、仕方がないんだ。」

 

 だが、悲し気な表情から一転して、いつも通り、力強い眼力を放つアースにリヴェリアは勿論、他の冒険者たちでさえ眩しく感じる。

 

 「だからな、今苦しくても、いつかその苦しみのおかげで、助かることがあるって考えたら、もうちょっとくらいなら頑張れる気がしないか? あとちょっと頑張れば、ダンジョンで生き残る可能性が増える。それだけで頑張るには充分だろ?」

 

 それを聞いた冒険者たちは、再びノートと教材に向き合った。顔はまだ疲れているが、それでも目は輝いていた。

 

 「ふっ・・・では、最後だ。今日はこれで終わるから頑張れよ。」

 

 

 

 

 

 

 

 

 





 アースのすごいところは、周りの人も鼓舞できる所ですよね。鼓舞するという点では、フィンさんにも負けていないと思います。

 リヴェリア先生に教えてもらえるなら、もっと勉強できる気がする・・・


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

豊穣の女主人にて


 久しぶりです。夏休みが明けてから、色々と忙しかったので、投稿するのが遅れました。

 また、ぼちぼちと投稿できたらなと考えております。


 

 アースが久しぶりにリヴェリアの授業を受けた夜、ヘスティア・ファミリアのホームでは怪我をしたベルたちがヘスティアに治療されていた。

 

 怪我を負った原因は、ベルたちが飲みに行っていた店でアポロン・ファミリアの団員がヘスティアを馬鹿にしたことがきっかけで、ベルがブちぎれた。ヘスティアを馬鹿にした団員はベルやヴェルフが痛い目を見させたが、同じくアポロン・ファミリア所属で、団長を務めているのレベル3の冒険者ヒュアキントスにボコられたというわけだ。

 

 「やるじゃないかベル君! ベル君がやんちゃで、僕は嬉しいような悲しいような・・・」

 

 「最近ベル様は性格が乱暴になっています! きっとヴェルフ様の影響を受けているんだと思います。」

 

 「いいがかりだろリリ助。それによ、乱暴というか、喧嘩みたいのなら、俺よりアースの方が好きそうだろ。」

 

 「確かに、アース様の影響もあるのかもしれません。」

 

 「いや、俺のせいかよ。」

 

 ヘスティアと一緒にベルたちの治療を手伝っていたアースにも飛び火が移る。

 

 『確かに、童は喧嘩や真向勝負が大好きだな。』

 

 「誰のせいだ!」

 

 かくいうアースも喧嘩やタイマン勝負が大好物である。拳には拳を、額には額を・・・といった感じで、かなり荒っぽく熱い性格と言ってよいだろう。

 

 つまり何がいいたいかというと、アースはベルたちを褒めた。

 

 自身の尊敬する主神ヘスティアを馬鹿にしたゴミに立ち向かったと。

 

 「君が僕のために怒ってくれるのは嬉しいよ。でも、それで君が危険な目に遭うことの方が僕は悲しいよ。だからね、今度は笑い飛ばしてくれよ。『僕の神様は、そんなことで怒るほど器の小さな神様じゃないって。』」

 

 ロり巨乳という幼い見た目でありながらも、慈愛に満ちた母の様な表情を浮かべて、ベルの心配をする様子はやはり、女神。しかも、とびっきりの善神である。

 

 「はい・・・次は我慢します。神様、ごめんなさい。」

 

 「よし、じゃあ俺は出かけてくるわ。」

 

 怪我の治療も終えて、ひと段落かと思ったところに、アースが外へ出ようとする。

 

 「どこへ行くんだい?」

 

 「ちょっと俺の弟分と主神を悲しませた野郎どもにカチコミに行こうかと思ってな。」

 

 「「やめてください!やめてくれ!」」

 

 翌日、ベルはギルドへ赴きアポロン・ファミリアと揉めたことを、アドバイザーであるエイナ・チュールへと報告していた。

 

 ハーフエルフの彼女の母は、かのロキ・ファミリアに所属し、アースの先生でもあるリヴェリア・リヨス・アールヴの従者だったという、当時お転婆だったリヴェリアと共にエルフの森を飛び出して、こうしてオラリオの地にて、彼女を産んだのだ。

 

 ギルドへの報告を終えたベルの元へ、アポロン・ファミリア所属のダフネとカサンドラが招待状を渡す。

 

 その招待状はアポロンからのもので、神の宴への誘いであった・・・

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 神の宴へはベルとヘスティアが参加することになり、アースは何をしているかというと・・・

 

 「っかあああッ。やっぱ走った後の果実水はうめぇな。」

 

 豊穣の女主人へと足を運んでいた。

 

 「ミアさぁ~ん、香草詰めチキンと、アクアパッツァ。」

 

 「あいよ。ったく、久しぶりに帰ってきたってリューから聞いたけど、また随分強くなったみたいじゃないか。」

 

 「へへ、まぁな。一日一日の積み重ねが、俺にとっては強くなるための道だからな。」

 

 「あんたみたいな元気のいい若者は、あたしも嫌いじゃないよ。」

 

 豊穣の女主人とは、リューが働く店の名であり店主は元フレイヤ・ファミリアの団長でレベル6の冒険者であったミア・グランド。オラリオにおいて、料理も酒もうまく、店員も綺麗どころしかいない、まさに冒険者にとって楽園のような店である。

 

 「にゃにゃ、元気にしてたかアース。」

 

 「おう、アーニャも元気そうだな。相変わらずドジ踏んでミアさんに怒られてんのか?」

 

 「にゃにおぉ~、アースの癖に生意気にゃ!」

 

 そういってアースの元へ料理を運んできた猫人の少女の名はアーニャ・フローメル。お馬鹿でドジなところが目立つ少女である。

 

 「ひっそり近づいて来ても、俺の尻は触らせないからな。」

 

 「にゃっ、バレたか。」

 

 そして、もう一人、アースの背後からアースの尻に手を持って行った黒い猫人の女性はクロエ・ロロ。

昔は依頼達成率100%を誇る凄腕の暗殺者だったが、ひょんなことから、今はこうして豊穣の女主人で働いている。

 

 「アーニャも、クロエも、アースさんを困らせては駄目ですよ。」

 

 そして更に現れた銀髪の美少女はシル・フローヴァといい、謎が多い少女である。

 

 彼女もまた、アースが以前ここに通っていたときからの付き合いであり、リューの大切な友人でもある。

 

 「ふふふ、リューが帰ってきて嬉しそうな顔をしていたから、何があったのか不思議でしたけど、アースさんが帰ってきていたのでしたら、納得です。」

 

 そういって微笑むシルに、アースも嬉し気に笑う。

 

 「みんな元気そうで良かったよ。それで、リューさんは?」

 

 「リューなら、もう少しで皿洗いが終わると思います。」

 

 「そっか、じゃあ、俺はまだまだ料理を楽しませてもらおうかな。」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 「お待たせしましたアース。」

 

 「よう、仕事は終わったのか?」

 

 「はい、ミア母さんから休憩をいただきました。」

 

 料理を完食したところで、リューはウエイトレス姿でアースの前に現れた。

 

 「ダンジョンでは弟分が世話になったな。」

 

 「いえ、クラネルさんはシルと仲がいいので、クラネルさんの身に何かあっては、シルが悲しみますから。」

 

 「相変わらずだな。」

 

 「えぇ、そういうあなたも相変わらずです。」

 

 果実水を手に持った二人は、竹馬の友と再会したかのように話をつづけた。

 

 周りの目を忘れて話続ける二人に、赤い髪の少女が割って入る。

 

 「珍しくリューが誰かと話してるかと思ったら、あなたアースじゃない!!」

 

 そう、この赤い髪の少女こそ、リューの所属するアストレア・ファミリアの団長にして、レベル5。二つ名は《|紅の正花(スカーレット・ハーネル)》ことアリーゼ・ローヴェルだった。

 

 





 次回、再会アストレア・ファミリア


目次 感想へのリンク しおりを挟む




評価する
※目安 0:10の真逆 5:普通 10:(このサイトで)これ以上素晴らしい作品とは出会えない。
※評価値0,10についてはそれぞれ11個以上は投票できません。
評価する前に
評価する際のガイドライン
に違反していないか確認して下さい。