ありふれない錬成師は最高最善の魔王の力で世界最強を超越する (天元突破クローズエボルハザード)
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ビギンズタイム~祝え!新たなる時代の始まりを!~
00.始まりの(とき)


ハジメさんになる前の前日譚になります。
1からハジメさん視点で始まります。

転生前の主人公の名前はありません。
もし、コメント欄で「名前が欲しい」というコメントが多かった場合のみ、転生前の名前を考えようと思います。

それでは、ごゆっくりどうぞ!


✕(主人公)「…ここは、どこだ…?」

 

ふと、目を開けたら、そこは真っ白な世界だった。

 

✕「…ハッ!そういえば、さっき俺は…」

???「死んだよ。」

✕「!?」

 

後ろを振り返ると、見知らぬ巨乳美人がいた。

 

✕(こ、こいつ!いつの間に!?)

???(ベタな展開ありがと♪)

✕(!?ちょ、直接脳内にまで…)

 

???「おっと、自己紹介がまだだったね。

私は、ミライ。あなたの世界の担当者なの。

早速で悪いんだけど、あなたには転生してもらいたいの。」

 

✕「?どういうことだってばよ?それにここは一体…」

 

ミライ「そうね、あなたの質問に全部答えましょう。

ここは、転生の間。死んだ者がその後何処へ行き、どのようにするのかを伝え、その先に進んでもらう場所です。」

 

✕「…地獄行きとか嫌がるやつとかに襲われない?」

ミライ「お気遣いどうも☆でも大丈夫♪

私、ここでは絶対に負けないし、ここでは私以外の能力・戦闘能力は封じられるから♪」

✕(可愛い見た目で、えげつねぇ…)「ところで、俺は結局どうなるんだ?死んだときの状況も教えてほしいんだが…」

ミライ「はーい♪まっかせて!お姉さんになんでも聞いちゃってね☆」

 

✕「……可愛い。」(結婚しよ)

ミライ「ふぇ///!?」

 

だって可愛いんだもん。

顔はキレイだし、黒髪ロングのポニーテールで、ボンキュッボン!

しかも、背が高いし、性格的に甘えさせてくれそう!

フッ、全国のブラザー、俺は今、お前らの理想を叶え「ないからね!?」なん…だと…!?

 

ミライ「そ、そんなこと言っても、ダメなものはダメですゥ!

そりゃあ、私だってぇ、イケメン彼氏と結婚したいしぃ、明るい家庭計画も築きたいしぃ、でも、でもぉ…///」

 

✕「大丈夫です!幸せにして見せます!」

ミライ「ひゃう///!?ちょ、ちょっと待って!」

✕「!?もしや、神様と転生者は結婚してはいけないと!?」

 

ミライ「いや、うん、でも、そうじゃなくてぇ。」

✕「?」

ミライ「い、今から説明するから、その話は後で、ね?」

✕「…分かりました。」

ミライ「うん!じゃあ、説明行くよ?

まず、あなたの死因は、新しく買った時計を自慢げに翳していたら、どこからともなくとんできた雷に打たれて、そのまま亡くなっちゃった、ってところかな?」

✕「ダニィ⁉」

 

あの時計が原因だとぉ!?

あれ、結構高かったんだぞ!?

しかも、20個しかない限定物で、やっとの思いで手に入れた、最後の一個だったんだぞ!?

そういえば、今日は夕立に気を付けてとか、天気予報でやっていたような…

 

ミライ「そのまさかだよ。」

✕「Oh...」

ミライ「それで、あなたには、この先のある世界を救ってもらいたいの。」

✕「?何か転生先で問題でもあったんですか?」

ミライ「えぇ。何者かの介入によって、本来の主人公や周りの人たちが、不幸な末路を辿ってしまう結果となってしまいそうなの!」

✕「な、なんだってぇー!?」

ミライ「あなたには、その世界で悪さをする者を倒してほしいの。このままでは、他の世界にも奴は浸食し、物語の結末は、バッドエンディングだらけになってしまうの!どうか、お願い!」

 

オイオイ、いきなりスケールのでかい話になっちまったなぁ…

どうしよ…?

 

✕「えっと、あの~、因みに、その世界って、どこですか?」

ミライ「「ありふれた職業で世界最強」よ。奴は舞台となる異世界へ逃げ込んだわ。」

 

あ!あの世界かぁ~!行ってみたいと思っていたんだよなぁ!

個人的趣味で、色々と不憫な登場人物達を、出来るだけ救済できるような展開の二次創作作っていたなぁ!

 

✕「えっと、じゃあ!特典とかはありますか!?」

ミライ「あるにはあるけど…」

✕「?」

ミライ「ガチャガチャじゃないとダメみたい…」

✕「運試しかよぉ!?」

 

クソォ、こうなったら、すごいもん引き当ててやる!(グルグル)

出来ればこう、時を止めたり、空を飛んだり、カッコいいバイクで爆走したり…(ゴトゴトゴトゴトッ!)

なんか、仮面ライダーみたいなのがいいなぁ…(キィィィィィィンンン!)

一番のお気に入りはやっぱり…(シュゥゥゥ…)

 

 

「「オーマジオウ…(かなぁ…)(ですって…!?)」」

 

 

…ん?

あれ?なにこの凄そうな玉?

なにか書いてあ…

()()()()()()

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

…え?

ちょ、え…?

 

ミライ「ひ、引き当てちゃった…

これまで誰も引き当てられなかったのに…」

✕「…ミライさん。」

ミライ「!な、何かな…?」

✕「…これって、マジですか…?」

ミライ「…うん。」

 

………。

よし、やるか!

✕「ミライさん!俺、やるよ!世界、救ってきます!」

ミライ「!?ほ、ホント!?ありがとうございます!」

✕「だから…」

ミライ「?」

 

✕「元凶ぶっ飛ばしたら、結婚してください!」

ミライ「ホントあなたブレないね!?」

✕「本気ですから!」

ミライ「うぅ…///わ、わかった!分かったから…お願いするね?」

✕「ハイッ!!」

 

ミライ「それじゃ、転生の儀を開始するよ。」(パァァァァァ)

 

とうとう行くのか、あの世界へ!

いやぁ、オラ、ワクワクすっぞ!

 

ミライ「あ…」

 

✕「あ?」

 

ミライ「先に言っておきます。」

✕「え、ちょ、あの、いったい何g」

ミライ「ごめんなさい。」

✕「…え?」

 

その瞬間、俺の意識は途切れた。

 

 

 

ミライ「まさか、このようなことになるとは…」

 

ミライが転生の儀で浮かび上がった結果を見て、苦笑していた。

 

ミライ「上が勝手に記憶や性格まで操作しちゃうなんて…例外中の例外ってことか。

しかもその分、チートじみた修行とか出会いとかする確率が高いからなぁ…どうなるんだろ?」




もし、お気に召しましたら、高評価・コメント・宜しければ推薦のいずれかをしていただけると、幸いです。

因みに、ミライちゃんは独身ですが、これに関しては、後ほど説明いたします。
今後出てくるかは、まだ未定です。


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0.王の魂が宿る(とき)

前日譚その2です。
今回は、ハジメさんのキャラについて、重要な場面が出てきます。

それと、ミライちゃんの正体についても、ヒントが出てきます。


~??????~

???「ふむ、この人間が、オーマジオウの運命をつかみ取ったか。はてさて、どこまでが偶然で、どこまでが必然なのだろうな?」

 

一人の老人の声が、何もない空間に木霊した。

 

その者は、齢19にして王となり、

 

戦においては無敗にして無敵であり、

 

政治の手腕は右に出る者はおらず、

 

敵対者はことごとく全滅し、

 

芸術・文化においても頂点を誇り、

 

数々の世界を巡っては、その世界を平定し、

 

全世界の覇者となった男である。

 

人は彼をこう呼んだ。

 

「最低最悪の魔王<オーマジオウ>」と。

 

彼は、ある青年が自身の力を身に着けることを察知し、自らの終わりを感じ取った。

彼は、無数にある並行世界においてただ一人、「オーマジオウ」になる資格を得た青年であり、彼は王になった時にこう考えたのだ。

 

「最も優れた王、即ち天上天下唯我独尊にして、真に王道と覇道を併せ持つ、強欲にして誠実なる者である」と。

 

彼は、自らの力を並行世界の自分や、経験の浅い我が子たちに譲ろうとはしなかった。

自らの力が失われることで、大切な民を守ることが出来なくなるのではないか、と不安に駆られ、苦渋の末下した決断だったのだ。

それを託せるのは、何度も一巡を繰り返す、この永遠の輪の中で、次に王となる資格を得た者だと、彼は確信していた。

そして、態々転生を司る部署に頼み込んでまで、自らの力と王の魂を宿す、「魔王の器」を準備していたのだ。

 

オーマジオウ「…ウォズ。」

ウォズ「ハッ、ここに。」

 

どこからともなく表れた黒いマフラーの人物。

それは先程、転生者を送り出した人物、ミライであった。

 

彼女こそ、オーマジオウ唯一の忠臣にして、数少ない理解者である、「ウォズ」なのだ。

尚、この「ウォズ」という名前は、オーマジオウに代々仕える親衛隊「クォーツァー」の首領が襲名する名であり、ウォズと呼ばれた彼女も、本名はウォズではない。

最も、初代ウォズは、オーマジオウが国家を形成するのを見届けた後、静かに息を引き取ったという。

 

オーマジオウ「あの青年に告白された時、中々に良い反応をしていたな。」

ウォズ(ミライ)「!?み、見ていらしたので!?///」

オーマジオウ「呵々、とても愛らしかったぞ?まるでそう、私に初めて思いを伝えに…」

ウォズ(ミライ)「あ、あの時の話はもういいでしょう!?///それよりも、先程の件についてなのですが!」

オーマジオウ「嗚呼、手筈は整っているようだからな。人格形成は既に完了したとのことだ。」

ウォズ(ミライ)「!では…!」

オーマジオウ「嗚呼、とうとう来たのだよ。私という、時代の終わりが。」

 

オーマジオウがそういうと、彼の体が粒子に包まれていった。

 

ウォズ(ミライ)「!我が魔王!」

オーマジオウ「心配しなくてもいいよ。」

ウォズ(ミライ)「!」

オーマジオウ「いずれ来るとわかっていたさ、この世界に永遠や絶対はない。終わりがあるからこそ、始まりがある。時計の針だって、進めなきゃいけない時が、きっと来るんだ、って。」

ウォズ(ミライ)「…陛下。」グスッ

涙ぐむ彼女に、オーマジオウは魔王としてではなく、一人の仲間として話した。

 

オーマジオウ「ねぇ、ミライ。」

ミライ「!ハイッ!」

 

オーマジオウ「今までありがとう。とっても楽しかったよ。」

 

ミライ「!えぇ!こちらこそ、あなたのそばに居られて、とっても楽しかった!」

 

オーマジオウ「フフ、そうだね。ようやく笑ってくれたね。これで心置きなく、継承の儀に移れるよ。」

ミライ「!…そうね。」

オーマジオウ「ミライも、俺がいなくなった後は、ちゃんと大切な人を見つけないとね。」

ミライ「必要ないわ!私はこの先、あなた以外夫を取るつもりはないから!」

オーマジオウ「参ったなぁ…それじゃあ、ミライの今後が心配で、うっかり戻ってきちゃうかも。」

ミライ「変なこと言わないでくれるかしら!?なら、さっきの子にプロポーズでもするわ!それなら、大丈夫でしょう!?」

オーマジオウ「ハハハ…、あまり無茶はしないでよ?」

 

楽しそうに話す二人。その時の二人は、「世界をより良くする王様になる」という夢だけをもって、最後まで突き進んだ少年と、その傍に寄り添い、同じ景色を共に見つめ、同じ時を過ごし、同じ道を共に歩んだ、恋する少女のようだった。

 

ミライ「…そろそろ時間のようね。」

オーマジオウ「うん、それじゃあ、行ってくるよ。」

 

そういうと、彼は歩き出した。

その先にあったのは、黒い大渦だった。

この先に彼が進むことで、歴史の継承は完了する。

そして、彼がそこに足を踏み出した瞬間。

彼の姿は見えなくなった。

 

ミライ「…さようなら、ソウゴ。」

 

ミライはその背中があった場所を見ながら言った。

その瞳には、一筋の雫があった。

 

ミライ「…さてと、私もそろそろ準備をしないと。そうねぇ…ヒロインの一人に、黒髪ロングの突撃娘がいたから、彼女に接触してみようかしら?」

 

そう言って、ミライは向こうの世界へ行くための計画を立てていた。

気持ちを切り替えた彼女の眼には、後悔の念はなかった。

 

 

 

~継承の儀~

オーマジオウ(ソウゴ)「…涙を流したのはあの日以来か…」

 

真っ黒い空間の中で、ソウゴは呟いた。

消えゆく意識の中、様々なことが思い浮かんだ。

 

心に響いた、おじさんの言葉。

 

自分に王としての道を示してくれた、祝福を告げる忠臣。

 

王族でありながらも、ともに道を歩んでくれた、勇敢な少女。

 

最初は敵対心むき出しだったものの、ともに苦難を乗り越えた、ライバルである救世主にして大切な戦友。

 

そして、王としての厳しさと強さ、受け継ぐべき歴史の重み、自らが越えるべき指標にもなった、未来の王である自分。

 

ソウゴ「思えば、色々なことがあったものだ。ちっぽけな夢しか持たぬ小僧が、よくここまでこれたものだと、今尚思うことばかりだったなぁ。」

 

過去を懐かしむ魔王。

その体全体がついに光に包まれた瞬間。

彼は、大いに笑った。

 

ソウゴ「みんな、さよなら、そして、ありがとう。それと、頼んだよ、次の魔王。」

 

その瞬間、彼のオーマジオウとしての人生は幕を閉じた。

 

そして、世代は交代する!

 

その彼は…!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ハジメ「ダブッ?」

 

赤ん坊からのスタートになっていた…!

 

To Be continued...→




ここまで読んでくれてありがとうございます!
次回からいよいよ、ハジメさんのターンです!

ミライちゃんですが、やっぱりいいキャラだと思うので、今後は出せるように、話の構成を上手く合わせていきたいと思っております!

宜しければ、ご感想をどうぞ!


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原作開始前~ハジメさん、頑張る!~
1.生誕の軌跡


お待たせいたしました!
ハジメさん視点での始まり、本編第一話です!

何なりとお読みください。


うぅん…

ここはどこだろう…?

俺は…えっと、確か…

 

そうだ、俺は、最高最善の魔王になるんだ!

 

「ダブッ!」

 

…今、赤ん坊だけど。

 

目が覚めると、俺はこの場での現状を理解した。

俺の名前は南雲ハジメ。

この世界で、最高最善の魔王になることを目指すことにした、と思う。

あやふやだが、なんかならないといけない気がする。

そんな気がするのだ。

そういうわけで、俺は今、トレーニングをしている!

 

菫「あら、ハジメったら、もうハイハイが出来るのね!」

愁「しかもすごいスピードだ!流石は、俺たちの息子だな!」

 

…こちとら、好きでハイハイやっているわけじゃあない…

最初からダッシュで行ったら、間違いなく事故ってあの世行きだからだい。

それに、匍匐前進はこう見えて、体力や筋肉を使うのだ。

そう!これは匍匐前進の練習なのだ!

…ただ、高速のハイハイに見えるだけで、ちゃんとやっているのだ!

そうなのだから!

 

さて、なぜ俺がこうして高速ハイハイをしているのかというと。

それは、俺自身に問題があるからだ。

俺には、最高最善の魔王の力「オーマジオウ」になる資格がある。

しかし、俺という器は生まれたばかりで不安定な状態。

おそらくこのまま普通に育ったとしても、器として未完成の状態で受け継ぐことになる。

そうなった場合、魂が負荷に耐え切れず爆散。

最悪の場合、存在ごと消滅の危険がある。

このままのんびり育って、王の力に認められないなんてことになれば、異世界で死ぬだろう。

何のための力だったんだ、ってことになる。力が使えなけりゃあ、間違いなく詰む。

 

じゃあどうするかって?

鍛えて強くなりゃあいいのよ。

心も体も頭も成長した上で、王の力と向き合えば、きっと大丈夫だろう。

強靭な肉体と強く正しい心、物事を冷静に判断できる頭脳こそが王の器。

もちろん、これよりも一番大切なのは、「自分の民を絶対に守り抜く」という信念だ。

そのためには、日ごろから取り組む姿勢を身につけなければならない。

早いうちから身につけておけば、いついかなる時にあっても、遺憾なく力を発揮できる。

今はまだ、読書による勉強はできない。

まずは、筋トレによる王としての肉体の完成を急ぐ。

それ故に、ハイハイを高速で行うことで、赤子の時から筋力を鍛えることにしたのだ。

 

しかし、ここで早速問題が発生した。

この体、すごぶる燃費が悪い。

一ハイハイにつき、二時間は睡眠をしなければならない。

精々一日4回、それも、母さんや父さんがあまり困らない7時~22時辺りにしておこう。

 

それはさておき、睡眠時間が長いのだ。

まぁ、睡眠は成長を促進するから、沢山寝ることは悪いことではない。

原作よりも背が短いと、いろんな場面で恰好が付かないだろう。

 

とはいえ、食事とお風呂、トイレとハイハイ以外は寝ることしかできないのは正直キツイ。

しかも、脳内に「おおきくなぁれ~、おおきくなぁれ~」なんて聞こえる上に、子守唄ときた。

眠らざるを得ない。決して、だらけたいという気持ちの表れではない。

良い睡眠は、己の体を強くするものだ。だから決して、この状況に甘んじているわけではない...Zzz

 

因みに、トイレの時は、お尻をたたいて鳴らし、食事の時は手をたたくといったサインで伝えようとしてみたら、二人とも何故か喜んでいた。

きっと、「うちの子は賢いなぁ!」くらいにしか思っていないとは思うが。

 

愁「どうやらハジメはトイレとご飯をすでに理解しているみたいだぞ。泣きながら手で表現していたし。」

菫「不思議ね。しかも夜泣きも少ないし。もしかして私たちの状況を理解して、気を使っているのかしら?」

愁「ハッ!もしや、中身は現代から転生したテンプレ主人公なんじゃないか⁉実は、赤ん坊のころからしっかりとした意識があって、きれいなお姉さんのハーレムでも築こうとしているんじゃないか!?」

菫「きっとそうね!もしかしたら、中身はおっさんの魂が宿っていたりするのかもしれないわ!さっすがハジメ!私たちの息子ね!」

…鋭いんだか、ふざけているんだか、どっちなのか分からないんだよなぁ、この二人。

そんなこんなでの俺の成長記録、いきなりダイジェスト!(メメタァ!)

 

1歳児

少しずつではあるが、いくらか話せるようになったこの頃。

今日は絵本を読んでもらうことにした。

文字や漢字の予習が出来ればと思ったが、生憎俺は一歳児。

精々絵本がいいところだろう。が、最近は飽きてきた。

 

かと言って、父さんが作成中のエロゲ画面を見るのもどうかと思う。

とりあえず、母さんの職場にお邪魔してみますか!

…直ぐに捕まって、移動させられた。ただ、漫画から字の予習がしたいだけなのに…

後、アシスタントの皆さんは美人ぞろいだった。

 

 

2歳

この頃から、テレビ番組を見て、文字を学ぶことにした。

もちろん字幕付きで。

やっぱり朝の番組は仮面ライダーで決まりだなぁ!

スーパー戦隊やウルトラマンもいいが、ライダーには勝てんよ!

だが、スーパーヒーロータイムは大好きだ!

ウルトラマンとスーパー戦隊は見られるときに見ているが、ライダーは全話制覇するつもりでいる。

因みに、スーパー戦隊は海賊と警察、ウルトラマンは三人組と0がそれぞれお気に入りだ。

ストーリーも負けてはいないが、仮面ライダーの方が歌に熱いんだよなぁ!

 

そうそう歌と言えば、最近音楽に触れる機会が漸くできたのだよ!

試しに好きな歌を一回歌ってみた。

結果は…聞かないでくれ。

いずれコンサートが開けるくらいには上手くなって見せるさ。

そして、仮面ライダーだけでなく、スーパー戦隊やウルトラマンの力も、継承してみせる!

…ウルトラマンは時間帯違うからわからんが。

 

 

3歳

ついに来た。

ようやく外に出られる。

今までは、外は危険すぎるから、家中を元気いっぱい走り回っていたものだなぁ。

だが、これで外でのトレーニングが出来るようになったというわけだァ!

ついでに周りの地形、民家、地図との照らし合わせもしておきたい。

ただし、歩道からは一歩も出ない。

出るとしても、歩道の内側に近い場所しか歩かない。

念願の娑婆に出て、いきなり親が事故死なんざ御免だね。

 

そういえば、後6年であのキャラのターニングポイントになるんだったな。

せめて3年はトレーニングをしておきたいな。

 

 

4歳

保育園に通うようになってからは、トレーニングの時間が段々減っていくのがわかった。

というより、自分の部屋でのトレーニングがまだできない…

保育園では、一人で色々出来るから、他の園児からは慕われるわ、保母さんからは不思議がられるわ、色々大変だ…。

これじゃ、トレーニングどころじゃない。

精神的疲労がヤバい。

 

なので、計画表を立てることにした。

9歳になる時には、肉体の方は万全にしておきたい。

高校前には帝王学をマスターせねば。

考えるだけで、白紙だった紙が埋まってしまいそうだ。

 

 

5歳

父さんがライダーベルトを買ってくれた。

テンション上がるなぁ!

しかし、とうとう俺も、某町の防衛隊にでもなる時期が来たのか…

でも流石にケツ丸出しはなぁ…。

 

案の定、父さんが臭い靴下でネタを振ってきたので、予想通りの反応で返してやった。

うれしかったのか、試作ゲームをプレイさせてくれた。

結構楽しかったなぁ、ゲーム製作もいいけど、器造りがなぁ…

この時、絶対に王の器を越えてやる、と心に固く誓った。

 

 

6歳

餅は餅屋というわけで、八重樫道場に通うことにした。

これでやっと、肉体の土台である基礎体力作りに励めるぜ、グフフ…。

師範は俺を見て何を感じ取ったのか、面白そうなものを見る目をしていた気がする。

いずれにしろ、へっぽこ勇者と出会うんだ。

この際、先に中村を助けて、正しい行いの何たるかを教えてやるべきか。

雫は…後回しで!

恋心に関しては、もうちょっと大きくなってから踏み込もうと思う。

 

保育園ではとっくに人気者だ。

保母さんのお手伝いが功を奏したのか、不気味に見られた昔とは違い、親切な子としての印象が強くなっていた。

これで心労が減るぜ…フィ~。

もうてっぺんとったし、次は生徒会長でも目指すか。

 

そして、入学と同時に、俺は自己流トレーニングを開始した。

もちろん、二人には事前に許可をもらっているので、ノープロブレム!

内容としては、平和の象徴さん考案「アメリカンドリームプラン」にワンパンヒーローの修行メニューをミックスしたようなものだ。

これを毎日やりきるんだ。

たとえ、どんなに変わり果てたとしても!

 

 

そして、3年後…

俺の髪はまだ生存している。

ただ、脱色して白髪になっているが。

その代償あってか、俺は…

 

虎一「…まさか、ここまでやるようになるとは…」ボロッ…

鷲三「フッ、私もまだまだ、ということか…」ボロッ…

雫「変なこと言ってないで、さっさと手を動かす!」

光輝「ど、道場が…」(一部が半壊した道場を見て唖然)

 

…俺は、強くなりすぎてしまったようだ。




今回はハジメさんの軌跡(生誕時~9歳ver)を描いてみました。
ハジメさん視点で、彼が如何にして強くなっていったかについて説明することにいたしました。

次回はハジメさんが強くなった後の話、タグにもあったあの子が登場します!
果たして、勇者君は彼女を正しく救う手段を見つけられるのか!?

宜しければコメントを宜しくお願い致します!

追記:晶彦さん、誤字報告ありがとうございました!


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2.少女の味方、王のやり方

今回は、タグにもあったヤンデレ少女、中村恵里について。
王としての威厳を発揮したハジメさんが、DQN母親の身勝手な思想に裁きを下す!

今回も、温かい目で見ていただけると幸いです。
それでは、ごゆっくり。


俺は…強くなりすぎてしまった。

たった三年でここまで強くなれるなんて、正直思ってもいなかった。

確かに、腕立て・腹筋・背筋・スクワットをそれぞれ100回+10kmランニングをワンセットとして、それを一日3セット行っていたからなぁ…

いや、近くの海岸に態々走って行って、不法投棄されていたものを全部公園に運び込んだやつか?

それとも、偶々こっちに来るひったくり犯や強盗を全員打ちのめしたからか?

 

…まぁ、いずれにしろ、俺はもう人間をやめているのかもしれない。

だがこれは必要なことなのだ。

魔王になるためには仕方がないことだったんだ…そう、自分に言い聞かす。

そう、これはいずれ訪れる危機から、大切な民を守るための…!

雫「南雲くん!あなたも手伝いなさい!」

ハジメ「…ハイ。」

…そう、守るための、教訓だ。

だから今日も俺は、大きな木材を運んでいる。、

 

なんで俺が怒られながら、大工の真似事をしているかというと、だ。

先日、虎一師範から、「一戦交えてはくれまいか?」と頼まれたので、組手をすることにした。

その時の俺は、とっくの昔に目標の三年を間近に控えていた。

修行の集大成にはちょうどいいかもしれない、そう思った俺は、その申し出を了承した。

 

その結果がこれだ。

何故かあちこちで倒れこんでいて、ぐるぐる巻きに縛られた忍者集団。

虎一さんを狙おうとしていた集団らしいが、勢い余った俺が、試合の一環と勘違いしてしまい、一緒に倒してしまったのだ。

 

それを見た鷲三さんから「私とも一戦願えるかね?」と言われたので、「もうどうにでもなれ!」とでも言わんばかりに、試合を開始した。

その結果、鷲三さんごと道場の一部を吹っ飛ばしてしまったのだ。

二人とも、何故今になって勝負を挑んできたのだろうか。

出来ればまだ、一年半辺りで来てもらいたかった。

というか、普通の人なら病院送りなのに、この二人は全治一日で済んでいる。

この二人も、実は人間を辞めているのでは?

 

そんなこんなで、俺は弁償代わりに、道場の立て直しの手伝いをしているところなのだ。

因みに、俺は師範二人を倒してしまったことから、表の道場(剣道)から裏道場(雑技集団)入りを果たしてしまったのだ。

正直、最近は物足りない相手ばかりで、手加減の調整が低くなっていたのだ。

一番強かった光輝との打ち合いも、相手の動きが遅くて暇だった。

 

それに裏道場の人たちも、死角からの攻撃は結構危なかった。

こちらは、試合のつもりで来ているのに、あっちはあっちで本気で殺す気だったと思う。

うっかり殺されてはいけないので、本気でやりました。

直ったばかりの道場どころか、母屋(八重樫宅)にまで被害が拡大しました。

正直向こうも子供一人に大人げないと思う。

ただ、ちょっと足に力を入れ過ぎたせいで、塀が一瞬でボロボロになってしまったことは、俺の責任だ。

だからといって、毒針や吹き矢、投げ苦無といった飛び道具は反則だと思います。

そもそも俺は忍者よりも魔王になるつもりなんですが。

そう言ったら、皆複雑そうな表情で頑張れとだけ言ってきた。

…魔王になったら、忍者集団結成は白紙にしてやるぅ。

 

雫さんとはあまり撃ち合いたくなかったなぁ。

だって彼女、もっと女の子らしいことしたそうだったし。

まぁ、「試合は受けるので、雫さんがもう少し素直になれるように気遣ってあげてください。」と言っておいたので、きっと大丈夫だろう。

そう思いながら、今日も今日とて、壁を塗りなおす俺であった。

 

そして後日…

ハジメさん「ん~今日もいいランニング日和だ。」

そう言いながら、川が流れる橋の近くにまで、日課のランニングをしていると、

橋の近くに同年代の女の子が、ってオイィィ!?

 

ハジメ「ちょっと待ったぁ!」

???「!?」

 

橋から飛び降りようとしていた彼女を、急いで引きはがした。

マジか!このタイミングでか!

ここで彼女と会うなんて!

 

???「ちょっと!お願いだから離して!」

ハジメさん「イヤだ!離してほしいなら、橋から飛び降りる訳を教えてもらう!」

???「あなたには関係のないことでしょ!ほっといてよ!」

 

ハジメ「なら何で泣いてんだよ!」

???「!」

ハジメ「なんか辛いことでもあったんだろ?誰にも言えない位、嫌な思い出もしたんだろ?」

???「ッ…」

 

ハジメ「だったら今ここで、全部吐き出しちまいなよ。どうせ死のうとするなら、最後だと思って色々言いたいこと言いきっちまえばいい。そうすりゃ、いくらかここ(胸を叩きながら)が晴れてくるだろ。」

???「…」

ハジメ「だからな?まずは色々教えてくれよ。俺は南雲ハジメ、いずれ王様になる男だ!」

???「…中村、恵里。」

 

そう、彼女は原作において、勇者(笑)との出会いのせいで、性格が豹変するほどのヤンデレになり、自爆という終わりを迎えてしまった少女、中村恵里である。

 

そもそも彼女を助ける時に、勇者(笑)がとった行動は、根本的解決にすら至っていない。

こういう時は、大人の手も借りて、恵里自身がもう一度明るくなれるように手助けする、というのが、本来差し伸べるべき手だったのだ。

それを勝手に自己満足なやり方だけで済まして、アフターフォローの一つもしていない。

その上、出会いについてもさっぱり忘れてモブ扱いとか、ホントどうかしているんじゃねぇのか。

全く、こうなったら変えてやるか。

勇者とは違うやり方、魔王のターンだ!

 

まずは、彼女から事情を包み隠さず聞き出す。

原作では、勇者(笑)は簡単に説明されただけで納得したが、俺は違う。

指摘する部分は指摘し、おかしいと思ったところはとことん問い詰める。

そうして、彼女の家の事情を聴きだした俺は、早速行動を開始した。

 

まず、道場で師範に事情を話し、彼女を匿ってもらうことにする。

このことについて、光輝には黙ってもらうことにした。

だって絶対やらかしそうだもん。

直接母親に文句とか言い出しに行きかねない。

彼への説明は、雫さんが請け負ってくれるそうだ。

いつもほんとお世話になってます。

 

次に、彼女の母親の虐待の証拠をつかむために、隠しカメラ、録音機等も用意してもらった。

これを仕込むために、一度彼女には家に戻ってもらう必要がある。

正直危険な賭けだったが、彼女にも変わるための覚悟を決めてもらった。

後、雫さんの友達の白崎さんが、隠しカメラの取り付け方を教えてくれた。

何で知っていたかはこの際置いておこう。取り付ける手際の良さも置いておこう。

 

最後にしかるべきところに連絡。

学校には、家庭内暴力による一時的避難についての事情説明を。

警察には、道場に通っている人に警察官がいるのでお任せする。

児童相談所にも一応声をかけておく。立派な証人になるはずだ。

物的証拠も揃ったら、後は仕上げだ。

 

恵里「…ッ」

ハジメ「心配すんな。いざとなったら、俺が盾になってやる。だからお前は、しっかり前だけ見て進め。」

恵里「!…うん。」

 

時刻は夜の七時。

直接ケリをつけるために、俺は恵里と共に、中村家へ向かった。

既に、児童相談所や警察官、師範たちも周りにスタンバイしている。

いざとなったら、彼らも協力して取り押さえてくれるだろう。

後は、現場さえ取り押さえちまえば、こっちのもんだ。

ここで終わらせてやるよ、コイツにまとわりつく悪夢ってやつを!

 

ピンポーン!

恵里が自らインターホンを鳴らした。

そして今、決戦を告げるチャイムが鳴らされた。

 

中村母「恵里!アンタまたッ…そちらの子は誰?」

ハジメ「彼女の友達の、南雲ハジメです。」

中村母「あら、そうなの。でも悪いけどもう遅いから、帰ってもらえるかしら?」

恵里「待って、お母さん!彼は…」

 

中村母「何?」ギロッ

恵里「ッ!」

ハジメ「そうですね。もう遅いですね。

 

あなたが母親としてやり直すには。」

中村母「は?」

ハジメ「これを聞いても、同じことが言えるんですか?」

そう言って俺は、ポケットから取り出した再生機で、恵里に対する母親の罵詈雑言を流した。

 

中村母〚全く、どうしてアンタはいつも私の邪魔になるようなことばかりするの!あのひとのことだってそう!アンタが代わりにいなくなって入れさえすれば良かったのよ!この疫病神!(家具が倒れる音がする)〛

中村母「!?ちょ、ちょっと!どういうことよ、これ!?」

ハジメ「どうもこうも、アンタが今まで彼女にしてきたことだろ。自覚しなよ、アンタは子供に暴力を奮う、母親失格な女だって。」

中村母「な!?ふざけるんじゃないわよ!恵里!アンタも何か言って…!」

恵里「…うるさい。」

中村母「…なんですって?」

 

恵里「うるさいって言ってんの!私はお母さんの道具じゃない!お父さんのことが好きだって言ったのに、別の男の人を連れてきておいて、その人に私が襲われそうになった時だって、助けてくれなかったくせに!」

中村母「な!?あれはアンタがあの人を…」

恵里「お父さんが死んだら、別の人に依存するわけ!?勝手にお父さんの人生引っ掻き回しておいて、自分は悪くない、生まれてきた娘の私が、お父さんを死に追いやったなんて言って!」

中村母「そうよ!アンタのせいで…」

恵里「私だって、お父さんを死なせたいなんて思ったことはないのに!それなのに、「アンタのせいよ」「アンタが代わりに死ねばよかった」なんて言って!お父さんが死んだときも、お母さんに悪く言われた時も、とても悲しかった!そんなことも知らなかったくせに、考えたこともなかったくせに、勝手に決めつけないでよ!」

中村母「な、なんて生意気なの!この!」

そういって腕を振り上げるDQNババァ。でもそうはさせない。

 

パァン!

恵里「!」

中村母「!?」

ハジメ「…」

 

恵里とアバズレの間に立ち、身を挺して恵里を庇った。

正直、この程度じゃ痛くもかゆくもないが、気に入らないので、少し脅す。

ハジメ「おい。

中村母「ヒィッ!?」

 

ハジメ

これ以上コイツに手を出してみろ、アンタを地の果てまで追い詰めてでも謝罪させてやる。

中村母「あ…あぁ…」ガクブル

 

DQNが怯えているうちに、スタンバっていた皆さんに出てきてもらい、証拠提示を行った。

後は、大人の人たちに任せておけば大丈夫だな。

さて、恵理の今後についてどうするか…

 

菫「というわけで、今日からこの子は家で養うわ!」

恵理「よろしくね、兄さん♪」

愁「まさか妹キャラを早速ゲットするとは、流石は俺の息子!」

 

…まぁ、いいか。

後は知識を身に着けるだけだからなぁ。

 

そしてさらに3年後…

 

チンピラ「グッ…ウゥ…」

ハジメ「ハァッ…ハァッ…ハァッ…!」

 

息を切らしながら、立っているのもやっとな状態。

周りには、ぶちのめしたチンピラ共が大勢。

 

俺は、強くなり過ぎた。

そして同時に、周りを危険にさらす愚かさを思い知った。




今回、なぜハジメさんがチンピラ共と戦うことになったかについては、次回解説いたします。

そして、何故ハジメさんが某一撃ヒーローのようになったかについても、次回の出来事が深く関わってきます。

勇者君は、この時は寝坊していたので、幸いにも気づかれずに、計画実行できました。

宜しければ、コメントをよろしくお願いいたします!

追記:晶彦さん、誤字報告ありがとうございました!


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3.代償といじめと貫く信念

今回、タグにもあったもう一人のキャラが登場します!
そして、今回のハジメさんには、危機が迫る!?

急展開の第三話、ごゆっくりどうぞ!


ハジメ「ゼェ…ゼェ…ハァッ…ハァッ…!」

何故俺がこうも息を切らしながらも、チンピラ共が周りに倒れているかというのには、少し長くなるが、経緯がある。

 

二年前…

ハジメ(10歳)「そろそろ体育祭の時期かぁ…」

俺は今週末に学校で行われるイベントに、「今年もアンカーかなぁ。」という感想を抱いていた。

何せ、運動能力チートの俺が出れば、

リレーは逆転間違いなし、綱引きも圧勝、大玉転がしも速攻ゴールになるわけなのだから。

が、玉入れや騎馬戦には向いていないので、結果としては五分が良いところだろう。

さて、どうやってフェアプレーを貫くか…

 

「も、もう止めてよ!」

?

何事かと見てみると…ってあいつは!?

 

ガキ大将「オラオラ、とってみろよ~」(ノートを上に掲げて振り回している)

???「うぅ、返してって!」

 

取り巻きどもがニヤニヤしているのが気に食わないなぁ。

よし、ここでひと悶着起こして、体育祭から外してもらおうっと。

 

早速間に入る俺。

ハジメ「あらよっと。」ヒョイ

ガキ大将「あっ!テメェ!」

ハジメ「こんな下らん事していないの。ホレ。」

ガキ大将じみた奴からノートを奪い、虐められていた男子生徒に返す。

???「!あ、ありがとう!」

 

ガキ大将「南雲!余計なことしてんじゃねぇよ!」

取り巻き1「そうだぞ!そんな根暗野郎の味方なんかすんな!」

取り巻き2「ソイツ、アニメオタクなんだぞ!気持ちわりぃったらありゃしねぇ!」

取り巻き3「なんだぁ?お前もいじめられたいのか?コイツみたいによぉ!」

 

ハジメ「ごちゃごちゃうるせぇ。

四人組「!?」

ハジメ「あんまり生意気ほざくなら、全員まとめて再起不能にしてやろうか?

四人組「ヒィッ⁉」

ハジメ「…失せろ。」

ガキ大将「お、覚えてろッ!」(取り巻きどもと逃げ出す)

 

威圧程度で逃げ出すとはな、所詮は雑魚か。

ハジメ「ふん!チンピラ崩れが。」

???「あの…さっきはありがとう。」

ハジメ「あぁ、良いって気にすんな。俺もあいつ等が気に食わなかったし。」

???「あ、あはは…」

ハジメ「俺は南雲ハジメ。王様になる男だ。お前は?」

???「僕は清水幸利。王様になるって、なんかすごいね。」

ハジメ「ヘへッ、まぁな。」

 

そう、この男は清水幸利。

ウルの町で大量殺戮を企て、愛子殺害を狙った結果、利用されつくされて死ぬという、悲惨な最期を迎えた人物だ。

 

コイツにも、恵理同様に理解者がいれば、少しは考えも変わっていったんじゃないか、と考えなくもなかった。

むしろ味方に引き込めば、魔物との戦いも幾分か楽になるかもしれなかっただろう。

正直、同じ学校じゃなかったら、コイツとの接点どうしよ、って思っていたから、ちょうどいいタイミングだった。

 

ハジメ「そうだ!お前、俺のダチになれ!」

幸利「えっ!?僕が!?」

ハジメ「あと、幸利じゃ呼びにくいから、トシって呼ぶわ。」

幸利「えっ!?ちょ、ちょっといいの?」

ハジメ「?なんら問題はないが?」

幸利「えっと…ハァ、わかったよ。」

ハジメ「おう、そいつはよかった。俺のこともハジメでいいからな。」

幸利「分かったよ。」

 

出だしは好調だな。

ってうん?この絵って…。

 

ハジメ「なぁ、この絵。」

幸利「!?な、何かな?」

ハジメ「父ちゃんのゲームのキャラクターじゃん!」

幸利「えっ!?あのゲーム、君のお父さんが作ったの⁉」

ハジメ「おう、今度職場に見学行くから、良かったら見に行くか?」

幸利「いいの⁉行く行く!」

 

こうして俺は、もう一人の不遇キャラの救済に乗り出し、ついでに友達もゲットした。

後、ゲーム製作の時に、キャラやストーリーでめっちゃ盛り上がった。

俺は声優さんがお気に入りだったが改めてキャラの性格と交えてみると、結構ハマった。

 

それから2年経ち、何事もなく平和に過ごしていた。

このまま、何事も起こらなければ良かったんだがなぁ…

 

ハジメ「トシがいない!?」

ある日、トシの親から、「ここに来ていないか?」と聞かれた俺は焦っていた。

ここ最近、あいつを虐めてくる奴らが妙に大人しいと思っていたら、まさかこんなことになるなんて。

早速虎一さんたちにも相談して、捜索を開始した。

一時間は探していただろうか、ふと俺は殴打の音が聞こえた方に向かった。

するとそこには…

 

金属バットやナイフを持ったチンピラ連中が大勢いて、

その中心に縛られて傷だらけのトシがいた。

それを見た瞬間、俺は頭が真っ白になった。

真っ白になって…

 

 

真っ赤な水たまりの中心にいた。

 

<トシ視点>

俺は、夢でも見ているんだろうか…

下校途中、急に意識を失ったと思ったら、目が覚めたら縛られていた。

周りには、如何にも不良です、っていう恰好の人がたくさんいて、その人たちに俺は殴られ続けた。

なんで、なんて訳を聞く暇さえ与えてくれなかった。

あまりにも理不尽なことの中、俺を虐めていた連中が思い浮かんだ。

あいつ等、俺が一人になったところを襲撃しようと…!

 

とはいえ、俺は逃げることすらままならない状態だった。

もうここで終わるんじゃないか、そう思っていたその時…

 

ザッ!

ハジメ!?何でここに!?

しかも一人なんて…!無茶だ!

そう思っていた次の瞬間…

 

 

目の前にいた不良の一人が吹っ飛んだ。

 

 

何を言っているのか、何を見ていたのか、自分でもわからなかった。

ただ、それを成した人物が、

 

 

今まで見たことのない表情で、相手に殴りかかっていたことだけはわかった。

 

 

そこから先は朧げにしか覚えていない。

最後に見たとき、アイツはチンピラ連中を一人残らず蹴散らしていた。

そして、血だまりの上に、一人で立っていた。

そして、こちらを向いて、「ごめん…な…」と言っていた。

 

その時のアイツの表情は、とても悲しそうだった。

 

その後、騒ぎを聞きつけた警官らしき人たちが、チンピラ連中を捕まえていった。

俺とハジメはその日のうちに病院に送られたが、二人とも大事には至らないそうだった。

ハジメはずっとすまなさそうにしていたが、俺は言った。

 

幸利「ハジメ、お前はすごいよ。たった一人であいつ等全員倒しちまうんだから。俺、あの時、お前がやられないか心配だったけどさ、同時にうれしかったんだ。お前が来てくれて。だからさ、いつもみたいに胸張ってくれよ、王様。」

 

そういうとハジメは、何かを決意したのか、真面目な表情でこう言った。

「お前がそこまで言ってくれるなら、俺は王様になるよ。だから、お前は俺の家臣になれ。いつか立派な国を作った時に、自慢できるような家臣に。俺も、お前が誇れるくらいの、最高最善の王様になって見せるからさ。」

 

その時のハジメの表情は、いつも見ていた笑顔だった。

 

 

<トシ視点終わり>

 

まぁ、こういったことがあってだ。

俺は息を切らしながらも、チンピラ相手に完勝した。

正直、トシに恐れられたんじゃないか、嫌われたんじゃないかっていう気持ちがあった。

それもとんだ杞憂だったみたいで、アイツは俺のダチでいてくれるみたいだった。

 

いや~ほんと良かった…

もしここで失敗していたら、チンピラ連中のバックにいる奴ら、全員血祭りにあげてもスッキリしていなかったぜ。

さてと、俺もケジメをつけるか。

 

虎一「…本当に良いのかね?」

ハジメ「はい、後悔は微塵もありません。大切な友を助けるためです。代償としては、安いものですよ。」

虎一「そうか…分かった。

 

 

君を、破門とする。」

 

そう、俺は道場を辞めることにした。

俺の力は異質だ。

それがチンピラ連中との戦いのせいで広まりつつある。

そうなれば、道場にも不信感がやってくるに違いない。

そう考えた俺は、自ら道場を去り、責任を取るという形で、出ていくことにした。

 

道場の皆は強く引き留めてくれた。

光輝なんて、わざわざ正当防衛を訴えようとしてくれたくらいだ。

だが、これは俺の問題だ。

ここまで来たら、流石にみんなにまで迷惑はかけられない。

 

師範と話をつけた俺は、門を通り過ぎようとしていた。

すると待っていたかのように、雫が門の陰から出てきた。

 

雫「…行ってしまうのね。」

ハジメ「あぁ。これも皆の名誉のためさ。それに、トレーニングはいつだって出来るんだ。まだ、終わっちゃあいないさ。」

雫「そう…分かったわ。あなたが決めた道だもの、せめてもの応援はするわ。」

ハジメ「おう、ありがとな。あ、あとこれ。」

そういうと俺は、雫に似合いそうな、桃色の髪留めを渡した。

 

雫「これは?」

ハジメ「今まで世話になった礼さ。まぁ、安物だし、自分でじゃなくて、恵理に選んでもらったから、あまりうれしくないと思うが…」

雫「フフッ、もしかして意外と、恥ずかしがりなのかしら?」

ハジメ「…うるせぃやい。」

雫「まぁ、ありがたく貰っておくわ 」

ハジメ「そっか、そりゃあ良かった。大事にしてくれよ?それ、お小遣い一年分だから。」

雫「ブフッ、何その例えwサラリーマンのプロポーズじゃないんだから。」

そう笑いつつも、彼女は髪止めを大事そうに握りしめていた。

 

後日、髪止めを着けて嬉しそうにしている雫の姿を、道場の門下生が目撃したとか。

同時に、下手人不明の襲撃への対応が、俺の日常に加わった。

ナズェダ…

 

道場というトレーニングの隠れ蓑を自ら出ていき、襲撃者を撃退し続けなければいけないという高い代償を払うこととなったが、それでも舞台は良い方向へ進んでいる。そう感じている。

 

たとえ異世界に行っても、なんか、行ける気がしてきた!




以上、ハジメさんの無双パート1でした。

この先、俺TUEEEな展開が多くみられるかもしれません。
もちろん、オーマジオウというチートキャラが出てくるものなので、致し方がないものかと思われます。
ですが、力を受け継ぐ以上、ハジメさんもちゃんとそれ相応の力を身につけなければいけません。
だからこそ、ワンパンマンやオールマイトのような超人的肉体を身に着ける必要があったのです。

それに、ここはまだ、序盤中の序盤なのです。
むしろ異世界こそが、ン我が魔王の快進撃の始まりなのです。
なので、暖かい目で見守っていただけると幸いです。

ここまで読んでいただき、誠にありがとうございます。
宜しければ、高評価・コメントを宜しくお願い致します!


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4.特攻服のSecret!

あの「ハジメさん無双事件」より二年後からのスタートです。
今回は雫視点からスタート。

何故雫視点からなのかは、タイトルと今回の話から察してあげてください。
それでは第4話、どうぞ~!


<雫視点>

学校からの帰り道、今日も幼馴染の香織と一緒に歩いていると、突然香織が急にたずねてきた。

 

香織「ねぇ、雫ちゃん知ってる?」

雫「?何かしら、香織?」

香織「台風番長の噂だよ。ほら、皆も話していたじゃん。」

雫「あぁ、あの噂ね。」

 

なんでも最近、素行の悪い人物に手当たり次第喧嘩を吹っかけては、一方的にボコボコにして回っているという、暴れん坊な人物のことが話題になっているらしい。

現れる場所も時間もバラバラで、その神出鬼没性から、不良の間では「台風番長」とよばれているとのことだ。

私自身、最初は辻斬りかなと思っていたのだけど、どうやら違うみたい。

なぜなら、物騒な噂が立つ一方で、喧嘩以外の場所でも見かけられるとのことだからだ。

ある時は、子供の風船を取りに行ったり、ある時は足を怪我した主婦の代わりにバーゲンセールに行ったり、ある時は火災現場から要救助者を助け出したりと、喧嘩以外でも無茶苦茶な行動が目立つ。その一方で、本人は人を助けたらお礼ももらわず、さっさと立ち去ってしまうこともあって、その素早さから子供たちの間でもヒーロー扱いされてる。

善行を隠れ蓑にして、悪いことを裏でやっているという見方もあるが、私は正直分からない。本当に悪い人だったら、何故何でも屋のようなことを行っているのか。まるで、自分の正体を知られたくないというような気持ちなのでは、と思ったからだ。

 

雫「それで、その台風番長?がどうしたの?」

香織「うん!それが…!」

「だ~か~らぁ~!さっさと弁償しろっつてんだよ!」

 

ふと、大声がした方向を見てみると、スーパーの駐車場で、数人の不良がお婆さんと小さな子供に詰め寄っていた。

不良A「そこのガキのせいで、俺の新品の服が台無しになっちまったんだよ!」

不良B「どうすんだよオイ!一点ものだから高いんだぞ!」

不良C「さっさと金払いやがれや!このクソババァ!」

お婆さん「あ、あの…お金は…」

不良D「あぁ⁉払えねぇってのか!?」

不良E「仕方がねぇ、ちょっと裏までついてきてもらうか。」

不良F「痛い目見ねぇと、坊主だって分かんねぇようだしなぁ…」

 

完全に難癖をつけて、あの二人を脅している。

この状況は、あの男の子が持ってたアイスクリームが、不良の一人にぶつかって、ズボンにかかってしまったことから、金銭による弁償を要求しているようね。

しかも向こうは財布まで取り上げようとしている始末。

やっていることは強盗まがいのチンピラ行為じゃないの!

 

香織「どどど、どうしよう、雫ちゃん!?このままだとあの二人が…!」

雫「落ち着きなさい、香織。分かっているわ。さすがに止めなきゃ…」

そう言いながら思考を巡らせようとしたその時…

 

「おい、何弱いもんいじめしてんだ。」

「!」

不良A「あぁ⁉」

 

そこにいたのは…

黒の特攻服に身を包んだ、白髪の番長風の男だった。

 

不良A「なんだテメェは!関係ねぇ奴はすっこんで…」

???「うるせぇ。」ドガッ!

不良A「ガッ!?」

 

番長らしき男は目にも止まらぬ速さで不良の一人に迫り、すごい勢いで殴り飛ばした。

殴られた不良は、壁にぶつかって気絶した。

その壁も少しへこんでいるようだった。

 

不良B「なっ!?テメェ!」

???「あん?やんのか、チンピラ共?」

不良B「この野郎!ぶっ殺してやる!」

 

そう言って一斉に襲い掛かってきた不良共を、番長らしき男は、

???「邪魔だ。」ドゴーン!

不良共「グワァー!?」

一撃で蹴散らしていった。

 

香織「!ねぇ、雫ちゃん!あの人って…!」

雫「何!?あの人を知っているの!?」

香織「番長だよ!噂の台風番長だって!」

雫「えぇ!?あの人が!?」

 

確かに番長っぽいが、本当にそうなのかしら?

そう思っていると、番長は落ちていた財布をお婆さんに渡した。

 

???「ホラ。婆さん、早くお孫さんと買い物行ってきな。こいつらは俺がシメておくから、な?」

お婆さん「は、はいっ!ありがとうございます!」

???「良いって、気にすんな。それと坊主、アイスは兄ちゃんが奢ってやるから、次からはちゃんと周りを見ような?」

男の子「うん!番長のお兄ちゃん、僕とお婆ちゃんを助けてくれて、ありがとう!」

お婆さん「すいません、態々お金まで出してもらって…」

???「だから気にすんなってば。俺の自己満足だから、ホレ、早くしないとタイムセールが始まっちまうだろ。」

 

そう言っている番長の肩には、「バーゲンセール代行」と書かれたタスキがかけられていた。

なるほど、確かに風貌は台風番長のそれと一致しているわね。

 

お店の人「お~い、番長君!そろそろ始まるぞ~!」

???「ヤベッ!それじゃ、俺行ってくるから!」

 

そう言って、お婆さんにお金を渡すと、彼はスーパーの中に駆け込んでいった。

…お店の人にも番長って呼ばれている以上、間違いなく台風番長のようね。

 

香織「ねぇ、雫ちゃん。」

雫「何かしら、香織。もしかして、あの人と話したいのかしら?」

香織「うん、確かめたいことがあって。」

雫「確かめたいこと?」

 

香織は一体何を思ったのかしら?

もしかして、彼の正体に心当たりが?

イヤイヤ、そんなまさかね。

 

そんなわけで、バーゲンセールから帰ってきた彼を、こっそりつけることにした香織を放っておけず、私も監視目的でついていくことに。

 

彼の後をつけること10分ほど、やがて、一軒の家にたどり着いた。

何の変哲もない普通の家だけど、ここが彼のお家なのかしら?

 

香織「雫ちゃん、あの人ってやっぱり…!」

雫「香織、そろそろ誰に心当たりがあるのか教えてくれないかしら?」

そうこう話しているうちに、番長がインターホンを鳴らした。

するとなんと、小学生ぐらいの子が出迎えてきた。

 

もしかして、妹さんかしら?

そう考えていると、番長は幾度か言葉を発し、そのまま家に上がっていった。

やっぱり、あそこは番長の自宅なのかしら?

そう思っていると、家に入ったはずの番長が急に出てきて、鋭い雰囲気で言った。

 

???「そこにいんのはわかってんだよ。さっさと出てきやがれ。」

香織「!」

雫「!」

 

やっぱり…気が付いていたようね。

とりあえず訳を説明して誤解を解かな「ハジメくん、だよね?」い…と…?

 

???「…は?」

香織「やっぱり!ほら見て雫ちゃん!番長の正体はハジメくんだったんだよ!」

雫「ちょ、ちょっと香織!あなた、急に何を言っているの!?」

 

番長の正体がハジメ君ですって!?

あの、人がよさそうな、南雲ハジメ君でしょ!?

中学では如何にも「僕、がり勉です。」って感じの風貌の、ハジメ君ですって!?

 

香織「ほんとだもん!試しに雫ちゃんも言ってよ!」

雫「いや、この状況で何を言えっていうの!?いくら何でも、無理があるわよ!?」

???「おい、さっきから人様の家で騒がしいたらありゃしな…」

 

香織「ハジメ君の中二病な言動ランキングとか?」

???「グフッ!?」ドサッ

香織の言葉を受けて、番長さんがその場でうずくまる。

雫「ちょッ、香織!?番長さんも大丈夫ですか!?」

???「…す。」

雫「え?」

 

???「俺が…番長です…」グスッ…

雫「…え、えぇ…」(唖然)

香織「やっぱり!」

あっさりとばらしちゃった…

 

とりあえず事情を聴くために、家に上がらせてもらうと…

女性「すいません、番長さん。態々ご飯の用意までしてもらって…」

ハジメ「気にすんなって。この町の笑顔を守るのが、俺の役目なんだからよ。いっぱい食って、いっぱい寝て、子供たちに元気な姿を見せてやってくれや。」

女性「ハ、ハイッ!」

 

どうやら、体調を崩した母親の代わりに、子供たちにご飯を作ってあげているようね。

それによく見ると、さっきまであったタスキが「家事代行番長」に代わっているし。

もしかして、さっきのタイムセールも、この家の夕飯のためかしら?

 

香織「雫ちゃん!こっちの食器は洗い終わったよ!」

雫「そう、じゃあこっちの食器をテーブルに並べてあげて。もうそろそろ料理も出来るみたいだから。」

香織「うん!ハジメくんの料理、楽しみだね!」

ハジメ「いっとくが、俺が作ったのは、この家の夕飯分だけだぞ?飯ぐらい、自分家で食う。」

雫「だって。残念だけど、またの機会になるみたいね。」

香織「えぇ~そんなぁ~」

ハジメ「わかったわかった。今度食わしてやるから、ちゃっちゃと手伝ってくれ。」

香織「ほんとに!?ハジメくん、ありがとう!」

 

雫「なんか、ごめんなさいね?香織の我儘につき合わせちゃって。」

ハジメ「気にすんな。あいつの突撃癖は今に始まったもんじゃねぇ。」

雫「あら、よくわかっているわね。」

ハジメ「あぁ、過去に色々あってな。」

香織「あ~。雫ちゃんへのプレゼント選びの時だね!」

ハジメ「ちょ、おま、馬鹿!?」

雫「!?ど、どういうことかしら!?」

ハジメ「…後で話す。」

雫「…絶対よ?」

香織「?」

 

もやもやした空気の中、家事の手伝いを終えると、私たちは帰路につくことにした。

雫「それで?さっきのはどういうこと?」

香織「あのね。ハジメ君、前から雫ちゃんに迷惑かけていたこと、申し訳なく思っていたの。それで、道場を辞める時に、せめてお詫びの品ぐらいは用意しないと、ってハジメ君は思っていたの。」

ハジメ「ただ、雫には何送っていいかが分かんなかった。だから、まぁ…」

雫「香織に聞いたわけね。」

ハジメ「あぁ、そしてその代償に俺は…」

香織「二人でデートに行ったんだよね!」

雫「!?初耳なんですけど!?」

 

ハジメ「そりゃあ、プレゼント一緒に選んで、それを秘密にする代わりに、なんでも言うこと聞いてやる、って言っちまったし…」

雫「…ハジメ君、私が言うのもなんだけど、安請け合いはダメよ。」

ハジメ「ハハッ、もう充分身に染みたよ。親御さんからは殺気が飛ぶわ、香織からは般若のスタンドが出てくるわ、あの一日中は、心が休まらなかったなぁ…」

雫「…そう、お疲れ様。」

香織「もう!酷いよ、二人とも!私そんなに考えなしに動いていたわけじゃないもん!」

雫「逆よ、香織。あなた、色々先回りしすぎなのよ。」

香織「えぇ?そうかなぁ?」

ハジメ「事前に建てられたスケジュール表を持参しているだけじゃなくて、手錠で手をつなぐ小学生のカップルが、一体どこにいるっていうんだ…」

雫「香織…」

香織「ち、違うんだって!ほら、迷子にならないように、ロープでお互いをつないでおく感じだよ!だから…」

ハジメ「トイレの時、外してもらえなくて居心地悪かった俺の扱いは?」

香織「あっ、あれは、ハジメ君だってついてこようとしたじゃん!そのことについては同罪だよ!」

ハジメ「お前が鍵を持っていなければな!?俺、あの日トイレずっと我慢しっぱなしだったんだぞ!?デートから帰ってきた時も、最初殺す気で睨んでいた親父さんに、なんか生暖かい目で迎えてもらった俺の気持ちがわかるかぁ!?」

雫「香織、あなたねぇ…」

香織「ち、違うんだって!これは、その…」

私は香織の肩に手をそっと置いた。

 

雫「分かっているわ、だから自首して。」

香織「雫ちゃん!?」

これは流石にフォローできない。

というか、そんな状態で一日耐えてきたハジメ君も十分すごいわね…

 

雫「まぁ、香織の性癖は置いといて…」

香織「置かないで!?違うからね!?私はただ…」

ハジメ「香織、待て。」

香織「ワンッ!」

雫「…ハジメ君、あなたも楽しんでないかしら?」

ハジメ「冗談でも勘弁してくれ。」

とりあえず、香織が我慢できるうちに、だ。

 

雫「どうして、台風番長なんてやっていたのかしら?言いたくないなら別にいいけど…」

ハジメ「なに、最初は単なる思い付きに過ぎねぇよ。」

雫「?どういうことかしら?」

ハジメ「そうだな、先ずは…ッ!隠れてろ。」

 

その時、前方から殺気がいくつも飛んできた。

それと同時に、ハジメ君が駆け出した。

香織「!?ハジメく…」

雫「シッ!香織、隠れて!」

香織を連れて身を隠すと、ハジメ君は前方の集団との戦闘に入っていた。

よく見ると、スーパーにいた不良もいたわね。

先ほどの仕返しにでも来たのかしら。

相手は高校生以上の男性が大勢いる。しかも、武器まで持ち出している。

これは危険だ。そう思ったけど、それは間違いだった。

なぜ、ハジメ君が番長とよばれているか、私たちは思い知ることとなったのだ。

 

<雫視点終わり>

 

<ハジメ視点>

殴りかかってきた一人を勢いよく蹴り飛ばし、後ろから来た二人を裏拳で沈め、パンチで三人を一気にノックアウトする。

こちらも幾度か攻撃を受けるものの、二年前に比べれば、まだまだ余裕の範囲内だ。全く効いていないような素振りで、相手にカウンターを叩き込む。

 

何故俺が、正体を隠してまで番長をするのか。

その理由はただやってみたかったというのが動機だ。

正体を隠しながらも、正義の鉄拳で不良共をぶっ飛ばす。

そんな学園漫画に影響された結果、やってしまったのだ。

自作で学ランを作ってしまい、マスクまで着用したのだ。

 

そうして俺は気の向くままに歩いて行った。

見た目はどっからどう見ても不良だが、ぶつかったりガン見されても、俺は怒らないから大丈夫。

だから坊主、泣いてないで五段アイスでも買ってこい。金やっから。

 

もちろん、見た目で判断してきて、喧嘩吹っかけてくる奴もいたので、遠慮なくやってやった。

後、出かける度に見かける素行の悪い不良共には、事情があるかもしれないので一応注意で済ますつもりだったが、相手が手を出してくる以上、こちらは正当防衛である。

その場合は拳による話し合い(こちらからの一方的殴打)が行われた。

そうこうしているうちに、台風番長なんてあだ名を付けられた。

…この時から、正体がバレたら即、やめにしようと思っていた。

 

ただ、普段の生活から、喧嘩ばかりじゃいざと言う時に大変かもしれないと思った俺は、代行ボランティアを決行した。

最初は、自分から動いて、人助けをしてはいたが、段々と噂が広まっていったのか、次々と依頼が増えていった。

特に「家事代行番長」「バーゲンセール代行」といった、日常生活肩代わりシリーズは好評だった。

依頼内容的にも、一日一名限定で請け負っていくうちに、店員さんとも仲が良くなり、タイムセールの時間帯まで、詳しく教えてもらえるようになったのはありがたかった。

 

ただ、そろそろ閉店にした方がいいのでは、とも考えていた。

だって、来年は受験で忙しいし、独学の時間もあるからなぁ…

なんて思っていた矢先だった。

 

香織に正体がバレた。

気迫で誤魔化そうとしたら、痛い所を突かれた。

別に上手いことを言った訳じゃあない。

ただ、俺にとっては、大ダメージだっただけだ。

まぁ、人手が増えたのでオッケーとしよう。

ただし香織、もうデートはごめんだからな。

あれ以来、手錠見るとトラウマが蘇るから。

 

手伝いも終わった帰り道、二人に事情説明をしようとしたその時だった。

どうやらさっきのチンピラ連中が、お仲間を連れてやってきたようだな。

しゃあなし、二人には隠れてみてもらうことにしてと。

さぁ、始めようか!

 

とまぁ、息巻いて突撃したはいいものの、正直相手にならんな。

適当に気絶させといて、とっとと帰るか。

チンピラA「オイ!こいつらがどうなってもいいのか!?」

そんな声が聞こえたがスルーした。

チンピラB「オイ、聞いてんのかテメェ!?」

…少しうるさいなぁ。そう思って振り向くと、

 

香織「ちょっと!放してください!」

雫「クッ…触らないでよ…!」

 

…よし、本気で殺るか!

そう思って俺は、

 

 

ハジメ「飛んでいけー!!」

近くの不良をぶん投げた。

チンピラA・B「「なァ!?」」

香織・雫「「えぇー!?」」

 

そう、お前らは避けるという行動に数秒使う。

チンピラA「こ、このっ!?」ドサッ

チンピラB「なっ!?きょ、きょうd」ドサッ

その数秒が、俺にとっては十分な時間なんだよ。

 

香織「あわわわわ…」

雫「す、凄い…」

ハジメ「オラ、さっさと離れてろ。こっから先はR指定になるから。」

香織「えぇ!?」

雫「それって…!」

 

俺は不良どもの方へ、もう一度踏み出そうとすると、

香織「男の人同士でするの!?」

ハジメ「そっちじゃねぇ!」

ほんと、調子狂うわマジで。

 

まぁ、とりあえず奴らを適当にボコってと。

後は警察に任せて…

光輝「香織!雫!」

ゲッ!?ヤバい!さっさと隠れねば!

 

光輝「!?今の奴は!?もしかしてこいつらの…!」

香織「ち、違うよ!あの人は!」

雫「私たちを助けてくれたの。ほら、あの台風番長って噂の人よ。」

 

光輝「台風番長?あぁ、あのとんでもない不良か。アイツめ、二人を巻き込んで…!」

香織「だからぁ!違うってば!」

雫「私たちは、そこの不良どものせいでトラブルにあっただけよ。番長さんは悪い人じゃないわ。」

光輝「なんでそう言い切れる?番長ということは、不良のボスなんだろ?」

香織「うぅん、きっと違うと思うよ。」

雫「そうね。態々タスキを忘れていくなんて、そんな間抜けな不良のボスはいないわよ。」

光輝「は?タスキ?」

そういった雫の手には、「家事代行番長」のタスキがあった。

 

 

ハジメ「クソォ…なんであのタイミングなんだ?あそこで出てくるなんて、嫌がらせの一種だろォ…。」

 

そういって帰る俺は、「如何にもがり勉です」というスタイルで帰っていた。

もしあそこで光輝にまでバレたら、絶対に面倒なことになる。

アイツ、正義に過剰に敏感すぎるんだよなぁ。

矯正できないわけではないが、今後の展開が大きく変わってしまう可能性は高い。

もちろん、今更ではあるが。

だが、光輝の場合、真っ先に教会の奴らに担ぎ上げられなければ、こちらが不審がられてしまう。

最悪の場合、行ってすぐに全滅の可能性も考えられる。

 

そういうわけで、アイツにはしばらく道化を演じてもらう。

正直昔から稽古してきた仲なので、騙すことに罪悪感を感じるが、仕方がない。

これも世界のためだ、後でしっかりフォローするから。すまん、光輝。

 

さて、二人にはまた今度訳を話すとするか。

今は、王にふさわしい知力をつけるべきだ。

まぁ、高校に入ったら、「代行番長」は再開しようとは思っている。

受験に関しては、内容は本能と体に染み込ませている。

 

だからまずは、王の心構えとして「帝王学」と、歴代の王政に関する「歴史学」、それに物事の見方を考える「宗教学」「哲学」、人事掌握のための「心理学」「交渉術」を頭に刻み込まれなければ。

既に国家運営のための「経営学」「地理学」、社会発展の「機械科学」「情報学」、建築センスの「芸術学」「文化学」は学習済みだ。

「帝王学」「歴史学」の後は、医療分野の「薬学」「医学」、法律を作るために「法学」「倫理学」、第一印象で大事な「礼儀作法」「魅了術」「メイクアップ」を学ばないといけない。

字面だけでも正直気が狂いそうだ。

一日に多くの予定を詰め込み過ぎて、自分でもいつ寝ているんだ、睡眠時間どうなっているんだって話だ。

 

でもやるしかないんだ。

弱いままじゃ、みんなを守れない。

たとえ体がボロボロになったとしても、心が壊れかけて無表情になっていたとしても、どんなに変わり果てたとしても、俺は、最高最善の魔王になって、世界を救って見せる。

もう、後戻りはできない。

俺は進み続ける、先の見えない道を、ただただ歩き続け、今という瞬間を必死に走り抜け、たどり着いた場所こそが、誰も想像できない景色が広がる、最高に笑顔になれる未来なのだから。

 

運命の時まであと三年…

それまでに、俺は自分という器を完成させなければならない。

俺には、たった三年しか残されていないんだから。

 

だから…

ハジメ「ミィィィツケタァァァ!!!」

???「ぎゃあぁぁ!?だ、誰ェー!?」

ハジメ「俺、ハジメ。王に、なる。」

???「な、何で片言なんだ?」

ハジメ「俺のお供になれ、杏寿郎ゥ!」

???「浩介です。てか、お供って何!?」

ハジメ「よし!これで、お前とも縁ができたな!」

浩介「いや、意味が分からないンですけど!?」

 

俺は、この影薄そうな男を家臣にせねばならないのだァ!

 

 

そして三年後…

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

オーマジオウ!

 

ハジメ「ついに、手に入れた…!これが…魔王の力…!」

 

俺は、魔王になった。

王の器として認められ、その力を手にした。

 

準備は整った。

さぁ、始めようぜ!

魔王の救世伝説ってやつを!




ここまで読んでいただき、誠にありがとうございます。

遂にハジメさんが魔王になりました!
因みに番長ネタは、今年の春に実写化した青春学園ドラマに影響されて、書き込みました。
ただただ、頭と指先が導くままに!

光輝くんには残念ですが、ご都合主義のままでいてもらいます。
ですが、だいぶ後でちゃんと勇者としての出番はあるので、楽しみに待っていてください!

そして、終盤に出てきたあのキャラこそ、みんな知ってる「フッ」の人です!
彼も更にパワーアップしていくので、お楽しみに!

そして次回から、原作第一巻からのスタートになります!
こうご期待を!

宜しければ、高評価・コメント、宜しくお願い致します!

追記:荒魂マサカドさん、晶彦さん、誤字報告ありがとうございました!


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原作第1巻トータス~オルクス大迷宮編:2068/ウェイクアップ、マイロード!
5.異世界行くかい?居心地どうだい?


お待たせ致しました!
ついに原作開始にして、魔王ハジメの物語がスタート致します!

因みに、前回書き連ねていた学問は、コンプリート済みです。
どうやったかって?執念ですよ。
その分、凄いことになっていますがw

それでは第一章一話、どうそ!

追記:8/15 17:36 ラストがちょびっと変わっています。
前の方が面白かったという方は、コメントでお願いします。


トレーニング開始から苦節十年。

ついに俺は、次代のオーマジオウとして認められ、その力を無事譲渡された。

肉体にかかる負荷については、全くなかった。

正直、色々高い代償は払ったが、俺はスタート地点に立つことに成功したのだ!

 

とはいえ…

恵理「兄さん、今日もクマ凄いね。」

ハジメ「ハハッ、一生とれないかもな…」

これじゃまるで、パンダみたいだなぁ…。

あだ名も、シェンシェンとか付けられたし、笹の葉とか渡されたときは、どう反応すればいいか全くわからなかった。

とりあえず齧ったけど、すげぇ苦かった。

 

幸利「おう、南雲。今日もブフッ、凄い…なw」

ハジメ「やぁ、わが友トシよ。笑いたいならはっきり笑えばいいじゃあないか。君と私の仲なのだから。」

幸利「そんな顔で言われても、殺意だだもれじゃ意味ないぞ。」

親友にまで笑われる始末だよチクショウ!

いや、まだコイツは良い。

だが陰で笑っている奴ら、特にそこの四人組だけは後でボコす!

 

それと遠藤、隠れて笑ってんじゃねぇ!

ここぞというときに、影の薄さ利用してんじゃねぇぞ!

なんでわかったって?魔王だからさ!

 

香織「おはよう、ハジメくん!今日もなんか眠たそうだね?」

チッ、今日はここまでにしといてやる。

だがいつか覚えていやがれ。

 

ハジメ「おはよう、白崎さん。この前はネズミカチューシャをどうも。おかげで、より一層パンダらしさが増しました。」

「「「ブフォッ!?」」」

よーし、今日は一発本気でぶちかますか!

香織「そう?ハジメくんはハジメくんだよ?ほら、こんなに人気なんだし。」

ハジメ「そういう問題じゃない。」

この子のド天然さにも困りもんだが。

 

雫「ちょっと、どうしたのかおブフッ!?

光輝「二人とも、いくら何でもしつれブフォッ!?

龍太郎「おい、光輝。お前も人のことブハッ!?

鈴「もう、龍太郎くんはデリカシーがククッ!?

ハジメ「お前等も大概じゃねぇだろうがぁ!笑うならコソコソしてんじゃねぇぞ!

他の奴らもわかっているからな!?そこに隠れている遠藤もだぞ!」

遠藤「!?な、何でわかるんだ!?」

ハジメ「王様になる男だから。」

遠藤「訳が分からん!」

 

ほんと、どうしてこうなったのだろうか。

まぁいい、とりあえず、人間関係としてはこんな感じだ。

 

 

トシとは今でも親友の間柄だ。高校に入ってから、恵理といい感じになり、最近付き合い始めている。

彼女の生い立ちについて話した時には、自分のことのように怒ってくれていた。

なんでも、自分も家族と仲が悪く、ゲーム会社関係者の子供の俺らを快く思っていないことから、今でも喧嘩中だとか。

 

正直、ビフォーアフターが激しいのはコイツなんじゃないかって思う。

まぁ、やっぱり信頼できる友がいるのは正直うれしい。

でも、この前まで兄さん大好きっ子だった恵理が、最近はトシと過ごすのが少し寂しい。

フッ、これが、若さってやつか。

 

香織は相変わらずだな。

昼食を食べに行けばついてくるし、放課後にはずっとついてくるし、きわどい格好で誘って、クラスメイトの男子どもをメタモルフォーゼさせたりと、一番手のかかる奴だった。

 

この前なんて雫を連れて、ゲームショップのアダルトコーナーに突撃していたところに遭遇したな。

あれはある意味凄かった。

辺り一帯血だらけだったし。

俺が出てきてフォローしようとしたら、顔を真っ赤にしてぶっ倒れるし。

雫もマジで泣きそうだったから、ホント大変だった。

 

ほんとこの子、どっかの紅魔族や魔猪の氏族みたいな感じだな。

体型については…あえて言わないでおくが。

だから香織さん、その手錠を懐から出すのはやめなされ。

 

雫も相変わらず苦労人だ。

突撃娘、妖怪正義感、筋肉バカ、小さいおっさん使い、未確認危険生命体ソウルシスターズ、八重樫雑技団…数を上げたら暇がないなぁ。

 

え、俺?す、少なくとも処方箋やカウンセリングは行っているつもりだ。

最近は、家族が忍者であることを隠さなくなってきているとかで、さらに心労が増えたとか。

早く香織とくっついてとも言われたが、それだけは勘弁してくれ。

もう、拘束や監禁は嫌なんだよ!

 

光輝に至っては…特にないか。

いつも通り、真面目なイケメンですって感じだし。

 

でもまぁ、俺に対する扱いはそこまで酷くはない。

でもやっぱり、価値観の違いで度々衝突しちまうから、あんま変わらねぇか。

 

龍太郎に関しては、筋トレで知り合った仲だ。

アイツはハートマン軍曹派だが、俺コマンドーしか知らないんだよなぁ。

 

この前、アメリカンドリームプランを有言実行した体験談を話したら、「負けていられねぇ!」とか言い出して、本気でやろうとしていた。正直、サイタマ式トレーニングを教えなくてよかったと思う。

 

鈴は、恵理の大親友とのことだ。

ただ、傍から見れば、恵理が介護しているお手伝いさんで、鈴は見た目は幼女、中身はおっさんのエロじじぃみたいだからなぁ。

 

しかも、香織や雫に余計なエロ知識を植え付けようとしているので、油断ならないったらありゃしないぜ、全く。

 

浩介は、中学二年の終わりにようやく見つけた右腕である。

コイツの影の薄さのおかげで、安全にパーティー行くこともできたし(一緒に参加した)、忘れ物を取りに行っても気づかれない、鬼ごっこでも鬼になったら、間違いなく逃げる側全滅するな。ある意味凄いよホント。

 

因みに、八重樫雑技団の皆さんには教えない。確かにリアル忍者になれそうだけど、コイツには平穏な人生を送ってもらいたい。そう、せめて異世界に行くまではッ!

(異世界に行ったら良いのかよ!?)

…幻聴か、気のせいみたいだな。

 

 

そして俺は、クラスの珍獣、「ハジメパンダ」として扱われている。

慣れたのかって?ンなわけあるかぁ!

 

誰がパンダだァ!?

誰が珍獣だァ!?

誰が、ゆるキャラグランプリ最下位だァ!?

何も言わないからって言いたい放題…!

俺ァ、好きでパンダみたいになったわけじゃねぇんだぞ、ゴルァ!

 

とまぁ、騒がしくも平穏な日常に身を置いている。

もしかしたら、異世界行きフラグはなくなっていて、俺はこのまま平穏に暮らすのだろうか。

 

 

そう思っていた時が俺にもありました。

 


 

そう、それはお昼時のことだった。

今日も今朝自作したお弁当を食べる俺。

フッフッフッ、伊達に王様候補やっていないんでなぁ。

朝早起きした時の暇つぶしに、よくやっていたことが身についたことには驚きだが、自炊能力はありがたい。

今回は一番自信があるから、楽しみにしていたんだよなぁ。

 

しかし当然のように、恵理、トシ、香織、雫、光輝、龍太郎、鈴、浩介といった面々が周りに集まる。

正直、食べづらい。

そう思いながらも、最初の一口を食べようとした瞬間だった。

 

足元に魔法陣が浮かび上がった。

そして、確信した。

俺の、魔王としての戦いの始まりを。

 

 

魔法陣は直ぐに広がり、教室を包み込んだ

そして教室の中にいた俺たちは、異世界へと召喚させられたのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

光が収まり、ようやく視界が晴れたと思ったら、なんとそこは異世界でしたってか?

品性のない壁画、大理石の無駄遣いな大広間、台座の周りに巣くうウジ虫共…

それを見て、納得した。

俺たちは異世界、ナルシスクソ野郎エヒトの庭「トータス」に来たのだ。

 

恵理「に、兄さん、これって…」

トシ「なぁハジメ、こいつは…」

ハジメ「分かっている、異世界テンプレートってやつだろ?」

 

とりあえず、状況確認は良しとして…

おっと、教皇のクソジジィがやって来やがった。

ここは如何にも無知な感じを装って、と。

つか、シャラシャラうるせぇ。

顔も厳ついし、もうちょい柔らかそうな適任者いなかったのかよ。

 

???「ようこそ、トータスへ。

勇者様、そしてご同胞の皆様。歓迎いたしますぞ。

私は、聖教教会にて教皇の地位についておりますイシュタル・ランゴバルトと申す者。

以後、宜しくお願い致しますぞ。」

 

早速連れていかれる俺たち。

とりあえず真ん前に行くか。

このままだと全員強制参加になりそうだし。

 

しかし、メイドか…

子供の教育係、潜入調査、護衛、即興の余興、エトセトラ…

うん、俺の配下にするなら、最低でも護身術と家事は必須だな。

とりあえずみんな落ち着いたようだし、そろそろか。

 

まぁ、簡単に話をまとめるとだ。

北一帯の人間、東の樹海の亜人、南一帯の魔人の三種族に分かれていて、人間VS魔人の大戦争が現在勃発中。

魔人族が魔物を使役しているので、人間側が大ピンチ。

そこで、神託による異世界から勇者と愉快な仲間達の召喚で、助けてもらおうって魂胆だ。

 

イシュタル「あなた方を召喚したのは"エヒト"様です。

我々人間族が崇める守護神、聖教教会の唯一神にして、この世界を創られた至上の神。

おそらくエヒト様は悟られたのでしょう。

このままでは人間族は滅ぶと。

それを回避するためにあなた方を喚ばれた。

あなた方の世界はこの世界より上位にあり、例外なく強力な力を持っています。

それも、この世界の人間よりも優れたお力を、です。

召喚が実行される少し前に、エヒト様から神託があったのですよ。

あなた方という"救い"を送ると。

あなた方には是非その力を発揮し、エヒト様の御意思の下、魔人族を打倒し我ら人間族を救っていただきたい。」

 

恍惚な顔がキメェ…

つか、色々穴だらけ過ぎるだろ、その神託。

別の世界とか、唯一神とか、至上の神とか、どう考えても、異世界から俺TUEEEしに来た、頭のおかしいロリコンストーカー野郎しか、思い浮かばねぇ。

そもそも、なんで学生を選んでんだ。

普通は成人男性だろ。

子は宝って概念、あのノータリンにはないんか。

 

なんて思いながら、無表情で聞いていると、

???「ふざけないで下さい!結局、この子たちに戦争をさせようとしているってことでしょう!そんなの許しません!ええ、先生は絶対に許しませんよ!私達を早く帰してください!きっと、ご家族も心配しているはずです!あなた達のしていることはただの誘拐です!」

 

…愛ちゃん先生、広い目で見ればあっているけど、ここ地球じゃないからね?

警察もいない、訴訟もできない、魔法と魔物がうじゃうじゃのファンタジー100%の異世界ですよ?

それに、こういうパターンは行きしか切符がないと思う。

そんなことを考えている俺に気づかないのか、じじぃは続けた。

 

イシュタル「お気持ちはお察しします。しかし、あなた方の帰還は現状では不可能です。」

うん、知ってた。期待してないから。

愛子「ふ、不可能って……ど、どういうことですか!?喚べたのなら帰せるでしょう!?」

無理じゃね?アイツ腐ってやがるし。

イシュタル「先ほど言ったように、あなた方を召喚したのはエヒト様です。我々人間に異世界に干渉するような魔法は使えませんのでな、あなた方が帰還できるかどうかもエヒト様の御意思次第ということですな。」

愛子「そ、そんな…」

アレにそんな気持ちは微塵もない。むしろ邪魔する気満々だろ。

まぁ、呼び出した時点でソイツは無能だとわかっていたよ。

と、俺は達観できるからいいが、ほかの連中はというと…

 

「うそだろ?帰れないってなんだよ!」

「いやよ!何でもいいから帰してよ!」

「戦争なんて冗談じゃねぇ!ふざけんなよ!」

「なんで、なんで、なんで…」

 

うん、見事にパニクッているな。

とりあえず落ち着け。

騒いでばっかりだと、余計混乱するだろうが。

 

後クソじじぃ、本音駄々洩れてるぞ。

顔に「神に選ばれておいてなぜ喜べないのか」って書いてあるから。

勝手に価値観押し付けないでくれねぇかなぁ。

と、その時だった。

 

光輝がテーブルを叩き、皆の注目を集めてこう言った。

光輝「皆、ここでイシュタルさんに文句を言っても意味がない。彼にだってどうしようもないんだ。…俺は、俺は戦おうと思う。この世界の人達が滅亡の危機にあるのは事実なんだ。それを知って、放っておくことなんて俺にはできない。それに、人間を救うために召喚されたのなら、救済さえ終われば帰してくれるかもしれない。…イシュタルさん?どうですか?」

イシュタル「そうですな。エヒト様も救世主の願いを無碍にはしますまい。」

光輝「俺達には大きな力があるんですよね?ここに来てから妙に力が漲っている感じがします。」

イシュタル「ええ、そうです。ざっと、この世界の者と比べると数倍から数十倍の力を持っていると考えていいでしょうな。」

光輝「うん、なら大丈夫。俺は戦う。人々を救い、皆が家に帰れるように。俺が世界も皆も救って見せる!」

 

…うん、何言ってんだこいつ等。

光輝、力があればいいってもんじゃねぇぞ。

力を持つ=何かをする義務があるってことはないし、どこにも大丈夫って言える根拠がねぇぞ。

 

そもそも、教皇は「凄い力を持っていると考えていい」って言っただけで、数十倍でも絶対に負けないってわけじゃねぇよ。

まず、戦闘経験があったとしても、相手は命を奪い慣れてる魔物と、それを使役するより強い魔人共だぞ。

簡単に救うって言える状況じゃないのに、何言ってんだこいつ。

 

つか、勝手に人様の戦争に乗り込んだら、色々危険だぞ。

もしかしたら、向こうに帰るための手段があるかもしれないのに、話すら聞かずにぶった切るってなったら、アカンやろ。

まぁ、多分持ってないけどな。

 

龍太郎「へっ、お前ならそういうと思ったぜ。お前一人じゃ心配だからな。…俺もやるぜ?」

光輝「龍太郎…」

雫「今のところ、それしかないわよね。…気に食わないけど……私もやるわ。」

光輝「雫…」

香織「え、えっと、雫ちゃんがやるなら私も頑張るよ!」

光輝「香織…」

 

いや、何言ってんのあんた等!?

まず、何も考えずにさっさと賛同してんじゃねぇよ、脳筋バカ!

ホラ、苦労人の八重樫さんと、皆のマドンナまで賛同するから、ほかの奴らも調子づいちゃったし!

愛ちゃん先生泣いてんぞ、誰か一人慰めに言ってやれよ!

あ~もう!仕方がねぇ!やっぱこうなるのか!

 

ハジメ「ヘイヘイヘイヘイちょいお待ち!」

光輝「どうしたんだ南雲。怖いのはわかるが…」

ハジメ「だまらっしゃい!この暴走特急!」

光輝「!?」

 

ハジメ「あのなぁ…まずお前ら、ここ、異世界だぜ?

とりあえず、ファンタジーに浸っている馬鹿ども、全員戻ってこい。

マジに一回地球の常識で考えてみなよ。

 

あのね、さっきの光輝みたいに「俺が世界も皆も救う」って言っていたけどさぁ…あれ、いらない。

ゲームでなら間違いなく主人公が冒険に旅立つときにいうセリフだけどさぁ…いらないから。

確かにドラマとかでなら言ってみたいセリフだけどさぁ、これ、現実だぜ?

 

まず、戦争ってことは、間違いなく誰か死んだり殺されたりするぞ。

相手だって生きていて言葉を話す種族だぜ?

戦況を見て、仲間の死を悲しんで、殺した相手を憎む…その連続ループになるぞ。

間違いなく、戦争続くぜ?

 

それに魔人だって名前に人ってあるから、見た目が人と同じの可能性高いぜ?

それに、相手を殺すってことは、自分が死ぬ覚悟も必要だぜ?

そんな覚悟もなく、いざ殺し合いなんて事態に遭ったら、早速死ぬぞ?

お前ら、まさかそれすら考えてなかったのか…?」

 

…全員黙り込んじゃったじゃねぇか。

ホラやっぱり、考えなしに「僕達、これから殺し合いに行ってきます!」って意気揚々に行くバカなんて、いるわけないでしょうが。いや、ここにもいるけどさぁ!

 

光輝「南雲!皆の不安を煽るんじゃない!」

ハジメ「俺ァ、物事を冷静に考えて判断しただけだ。

大体、相手が涙ながらに命乞いしてきたら、お前、間違いなく殺せないだろ?

戦争ってのはどんな汚い手を使っても、勝てば全部許される世界だ。

そんな世界に堂々とほかの奴らを巻き込むお前の考えの方が、扇動に近いと思うが。」

光輝「違う!そんなつもりは…!」

ハジメ「わかっているさ。だが、後先見ないで発言することは、時に命取りになる。

それを覚えておいた方がいい。じゃねぇとこの先、足元掬われて死ぬぞ。

 

お前とは昔道場で打ち合った仲だ。

だから、これだけは注意しておく。

それとイシュタルさん?でしたか…戦争参加には条件を付けて貰えませんか?」

イシュタル「ふむ、内容にもよりますが、出来うる限りお受けいたします。」

ハジメ「それじゃあまず、一つは実戦投入前の適切かつ入念な訓練の実施です。

俺たちは、戦いとは程遠いほどの平和な世界から来ました。

なので、戦争経験といったものもなければ、魔法というものも存在していません。

いくら能力があったとしても、使い方等の知識や感覚を覚える経験がなければ、宝の持ち腐れです。

 

それと、二つ目は戦争参加は個人の意思による志願制にしてほしいのです。

性格や能力によっては、戦争に不向きな人もいます。

この二つでどうでしょうか?」

 

光輝「おい南雲、勝手に話を進めるな!」

ハジメ「光輝、ブーメランって知ってるか?

大体、お前も少しは考えてから相談をだなぁ…」

と、俺と光輝が言い合いをしていると、ようやくクソジジィが答えた。

 

イシュタル「分かりました。

一つ目に関しては、既に訓練していただく準備が整っておりますので、問題ありません。

ただ、二つ目の志願制に関しては、半数以上は必ず参加して頂く内容でよろしいでしょうか?

流石に不参加の方が多いのは…」

南雲「(まぁ、妥当なところだな。だが…)

懸念していることは分かります。その内容で構いません。

ただ、念のため、書類で残していただけますか?

後々内容破棄なんてことになったら、そちらへの信用が揺らいでしまう可能性があるので。」

イシュタル「…承知致しました。」

 

ふぅ、とりあえず、何とかなったな。

クソジジィに目をつけられたが、それはどうでもいいや。

さて、次は王族への謁見だな。

ブラック王女リリィとの顔合わせでもあるが、はてさてどうなることやら。

そんなことを考えながら、涙目になっている愛ちゃん先生を元気づける俺であった。

 


 

またもやイシュタルに連れられて、神山からハイリヒ王国に移動した俺たち。

頂上からの景色は綺麗だったけど…アイツの支配下だからなぁ…気が落ち着かん。

そして、安っぽい手品のように動く台座程度ではしゃぐ馬鹿どもと、到着時の作られた感満載の演出。

うん、うさんくせぇ。

 

王宮につくと、立ったままの国王のおっさんがいて、そのそばに優しそうな王妃様、失恋王子ランデルくん、そして我らがワーカーホリックアイドル、リリアーナ姫がいた。

後、ほかにも騎士や文官がいっぱい。

そして一目見て、この国が宗教政治国家だとわかった。

王様っていうのは本来、神託よりも民の声を聞くことが義務なんだけどなぁ…

まぁ、アイツが主神だから、このザマァか。

 

それとランデルくん、めっちゃ香織見ているし。

おいやめろ、そいつは天然ヤンデレ失恋製造機「香織13」だぞ。

お前の心が砕け散るぞ!?

 

異世界料理はおいしかったが、寿司やラーメンが恋しい。

まぁでも、しばらく魔物肉食いまくることを考えれば、まだマシか。

あと、教官の紹介もあったが、メルド団長以外わからん。

さっさと、部屋で寝るか。

 

部屋に一人きりで誰も周りにいないことを確認すると、俺はオーマジオウの力の一端を使ってみた。

 

ハジメ「ダメか…流石に共通のもの、それも仮面ライダー同士の世界みたいじゃなきゃ、移動は出来ないか。

まぁいいか、どうせあいつを倒せば、全部丸く収まるし。」

とりあえず、運命の場所ホルアドに行くまでの間、やることを考えた俺は、天蓋付きベッドでぐっすり眠った。

 

これが俺の異世界一日目の出来事。

明日から特訓開始ZOY!

…でも、今日のお弁当、特に卵焼きは自信作だったのになぁ…

とりあえず、弁当の恨みだけは、アイツにぶつけてやると誓った俺であった。




ここまで読んでいただき、ありがとうございます!
今回からとうとう、異世界トータス編が始まります!

ハジメさんがパンダになった理由ですが、前回話した学問の勉強を徹夜でやり続けた結果です。
クマが目の下だけに収まりきらなくなり、上や周りに広がったことから、香織さんが「パンダみたいでかわいい」と言ってしまったのです。
そうして広まりました。
本人は気にしていません。
えぇ、本当ですとも。

因みに、光輝に「怖いのはわかる」と言われたとき、「誰が戦争なんか、戦争なんかこわくねぇ!野郎ゥ、ぶっ殺してやるぅ!」と内心叫びたかったハジメさんですが、空気を読んで説教をしました。

宜しければ、高評価・コメント宜しくお願い致します。

追記:荒魂マサカドさん、晶彦さん、誤字報告ありがとうございました!


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6.なぜ俺のステータスはバグっているのか

お待たせいたしました。
第一章第2話です。

ステータスに関しては、10年分の努力の賜物だと思ってください。
それでは、start our engine!


翌朝、朝食後の訓練と座学が始まった。

そして来た、運命のステータスプレートが!

後メルドさん、短い間ですが、お世話になります。

でも部下の副団長さんたちのことも、少しは気遣ったげて。

 

メルド「よし、全員配り終わったな?このプレートは、ステータスプレートと呼ばれている。文字通り、自分の客観的なステータスを数値化して示してくれるものだ。最も信頼のある身分証明書でもある。これがあれば迷子になっても平気だからな、失くすなよ?」

 

…アンタは俺らのオカンか何かか。

まぁ、フランクな話し方は、正直好印象だ。

仲良くなるには、空気づくりが大事だしな。

原作でメルドが出迎えていたら、アイツのヤバさに気づけずじまいだったんじゃないかなぁ?でも無理か、あのジジィがでしゃばること間違いなしだから。

 

メルド「プレートの一面に魔法陣が刻まれているだろう。そこに、一緒に渡した針で指に傷を作って魔法陣に血を一滴垂らしてくれ。それで所持者が登録される。"ステータスオープン"と言えば表に自分のステータスが表示されるはずだ。ああ、原理とか聞くなよ?そんなもん知らないからな。神代のアーティファクトの類だ。」

光輝「アーティファクト?」

多分…魂魄魔法と生成魔法、情報開示の昇華魔法が使われているんじゃないかなぁ?

 

メルド「アーティファクトって言うのはな、現代じゃ再現できない強力な力を持った魔法の道具のことだ。まだ神やその眷属達が地上にいた神代に創られたと言われている。そのステータスプレートもその一つでな、昔からこの世界に普及しているものとしては唯一のアーティファクトだ。普通は、アーティファクトと言えば、国宝になるもんなんだが、これは一般市民にも流通している。身分証明に便利だからなぁ。」

 

或いは、教会による監視をより強固にするためだろうな。

ステータスが異常であれば、異端審問か魔人族による殺害で済ませられるし。

さて、俺も血を垂らしてと…

 

プレートの色が白銀の縁に黒の枠、真ん中から金色に染まった。

そしてステータスは…!

 


南雲ハジメ 17歳 男 レベル:1

 

天職:錬成師・???

 

筋力:100000(?)

 

体力:60000(?)

 

耐性:90000(?)

 

敏捷:80000(?)

 

魔力:150(?)

 

魔耐:150(?)

 

技能:

錬成・全属性適性・全属性対応・全属性耐性・複合魔法・縮地・瞬動・先読・予測領域拡大・剛力・金剛・物理耐性・高速魔力回復・気配感知・魔力感知・限界突破・言語理解・抜刀術・剛腕・戦闘続行・早読・未来予知・加減上手・プラスウルトラ・最強王者・無限の成長・地球の記憶・地球の本棚・モーフィングパワー・音撃打・クロックアップ・ワープドライブ(宇宙)・黄金の果実・オールエンジン・無敵化・浄化作用・時間操作・剣術・クロックダウン・ライダーサモン・アイテム操作・ゲームエリア展開・ブラックホール・聖剣創造・コズミックエナジー・無限の思い・七つの大罪・メダルコンボ


 

ハジメ「…ぶっ壊れすぎじゃね?」

まず、魔力と魔耐以外おかし過ぎんだろ。

トレーニングのし過ぎか?そしてやっぱり、オーマジオウの力はぶっ壊れている。

早くも限界突破とかあるし、ほとんど光輝が持っている技能だし、てかこの(?)何?

ツッコミどころ満載だな…。

これはさっさと隠匿しないと…。

とりあえず、ステータスは全部150で、技能もライダー関連とあといくつかは隠してっと。

 

メルド「全員見られたか?説明するぞ?まず、最初に"レベル"があるだろう?それは各ステータスの上昇と共に上がる。上限は100でそれがその人間の限界を表す。つまりレベルとは、その人間が到達できる領域の現在地を表しているというわけだ。レベル100ということは、自分の潜在能力を全て発揮した極致ということだからな。そんな奴はそうそういない。」

 

すいません、メルドさん。俺、既に武の極致に片足突っ込んでいるかもしれません。

潜在能力はまだわかりませんが、少なくとももう人間じゃないかもしれない…

 

メルド「ステータスは日々の鍛錬で当然上昇するし、魔法や魔法具で上昇させることもできる。また、魔力の高い者は自然と他のステータスも高くなる。詳しいことは分かっていないが、魔力が体のスペックを無意識に補助しているのではないかと考えられている。それと、後で、お前等用に装備を選んでもらうから楽しみにしておけ。何せ救国の勇者御一行だからな。国の宝物庫大開放だぞ!」

 

メルドさん、俺、既に魔法具らしきもの持ってます。

この世界のアーティファクトすら超越するくらいのヤバいベルト。

 

メルド「次に"天職"ってのがあるだろう?それは言うなれば"才能"だ。末尾にある"技能"と連動していて、その天職の領分においては無類の才能を発揮する。天職持ちは少ない。戦闘系天職と非戦闘系天職に分類されるんだが、戦闘系天職は千人に一人、ものによっちゃあ万人に一人の割合だ。非戦闘系も少ないと言えば少ないが…百人に一人はいるな。十人に一人という珍しくないものも結構ある。生産職は持っている奴が多いな。」

 

メルドさん、俺、天職多分魔王です。

万人どころか億か兆位の中から一人の割合での天職です。

一応、非戦闘系でもありますが…

 

メルド「後は……各ステータスは見たままだ。大体レベル1の平均は10くらいだな。まぁ、お前らならその数倍から数十倍は高いだろうがな!全く羨ましい限りだ!あ、ステータスプレートの内容は報告してくれ。訓練内容の参考にしなきゃならんからな。」

 

メルドさん、俺、魔法系の訓練でお願いします。

戦闘だと多分、修理代が高くつきそうなんで。

さて、とりあえず隠匿は完了した、っと。

他はどんな感じかなっと。

 


 

天之河光輝 17歳 男 レベル:1

 

筋力:100

 

体力:100

 

耐性:100

 

敏捷:100

 

魔力:100

 

魔耐:100

 

技能:全属性適性・全属性耐性・物理耐性・複合魔法・剣術・剛力・縮地・先読・高速魔力回復・気配感知・魔力感知・限界突破・言語理解

 


 

う~ん、やっぱそうなるわな。

メルド「ほお~流石勇者様だな。レベル1で既に三桁か……技能も普通は二つ三つなんだがな……規格外な奴め!頼もしい限りだ!」

光輝「いや~あはは……」

すまん光輝、オレお前よりも全ステータス高いわ。

しかもメルドさんの二分の一(え?筋力100000?なにそれおいしいの?)。

 

その後も天職紹介が続いた。

香織が治癒師、雫が剣士、龍太郎が拳士、鈴が結界師、トシが闇術師、恵理が降霊師…

浩介に至っては暗殺者とかいう、ベストマッチな組み合わせだし。

さて、俺のステータスをみてどう反応するか。

 

ステータスプレートを受け取ったメルドさんは、最初職業を見て苦い顔をしていたが、下のステータスや技能を見ると驚いた顔をした。

そりゃあそうだろう、俺のステータスは色々規格外なんだから。

 

メルド「職業が錬成師と見た時は外れかと思ったが、ステータスや技能は素晴らしいな!若干、この?の部分が気になるが、全ステータスが勇者の光輝を上回っている!というかなんでこの技能で錬成師なのか全く分からん!」

ハジメ「すいません、?の部分は俺にも分からないんです。表示されたらそのまま出てきたので。」

メルド「む、そうか?必要なら取り換えるが…」

ハジメ「いえ、その分は他にもステータスプレートを必要とする市民の皆さんにお願いします。?の部分が分からなくても、俺は戦えるので。」

メルド「そうか、分かった。ならそうすることにしよう。」

 

ふぅ、とりあえずこれで良しと。

因みに先生のステータスはこうだった。

 


 

畑山愛子 25歳 女 レベル:1

 

筋力:5

 

体力:10

 

耐性:10

 

敏捷:5

 

魔力:150

 

魔耐:10

 

技能:土壌管理・土壌回復・範囲耕作・成長促進・品種改良・植物系鑑定・肥料生成・混在育成・自動収穫・発酵操作・範囲温度調整・農場結界・豊穣天雨・言語理解

 


 

生産職最強の食の神、狙われること間違いなし。

 

それにしても、一体いつから非戦闘系は戦えないと錯覚していたんだ、この国は?

やりようによっては、俺の錬成師、先生の作農師、香織の治癒師だって、ある意味戦闘向きだ。

香織の場合、「過治癒(オーバーヒール)」による体の壊死。

先生の場合、可燃性ガスによる大爆破。

 

そして俺の場合は言わずもがな。

その気になれば、ガラスやダイヤモンド、純度100%の鉄だって作れるようになる。

地形や屋内だって思いのまま。

オスカーだって町工房出身から、解放者になれる位だったんだ。

考えようによっちゃあ、奇策による逆転だって可能だ。

それを、戦闘系じゃないだけで切り捨てちまえば、いつか問題が起きた時に、対策が後周りになるぞ。

そう考えながら、今後の作戦を考える俺であった。

とりあえず、愛ちゃん先生には、頑張ってもらおう。

後で時間があったら、人目を盗んで接触して、作戦を伝えねば。

 

さて、今俺達はアーティファクトが入った宝物庫前に来ていた。

正直、錬成用アーティファクト以外は要らね。

武器、めっちゃあるし。

 

メルド「これから自分たちの職業にあったアーティファクトを選んでもらうぞ。戦闘系の職業の者は、自分に合っているなと思ったアーティファクトを持って行ってくれ!安心しろ!好きなものを持って行っていい!国庫大放出だからな!それと、光輝、ハジメ、愛子は俺のところに残ってくれ。お前達のは俺と宮廷魔法使いで選ばせてもらうからな!」

マジか…嵩張らないものがいいな。

 

他はというと、恵理は魔力による制御補助のステッキ、トシは闇魔法と相性がいい短剣、遠藤は苦無っぽいナイフ、香織は治癒能力を増幅させる杖、雫は直剣じゃなくて曲刀、龍太郎は篭手、鈴は鉄扇と、様々だった。

皆が出ていくと、早速俺らの装備選定が始まった。

 

メルド「光輝は鎧と頭飾りと…この聖剣だな!うん、よく似合っているじゃないか!」

光輝「そ、そうでしょうか…」

 

いちいち照れないの。

シャンとせい。

 

そう思う俺は、錬成補助の手袋と上質な素材の杖だった。

さてと、とりあえずこの世界の本を読んでみるか。

あと、時間があったらあれをやってみようかな?




ここまで読んでいただき、ありがとうございます。

ハジメくんのステータスも十分おかしいですが、某一撃ヒーロー本家の主人公なら、この十倍は軽く言っていると思った上で設定足致しました。

さて、ハジメくんのいっていた「あれ」とは一体?
詳しくはまた次回!

宜しければ、高評価・コメント、宜しくお願い致します。


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7.前・座・遊・戯

お待たせいたしました。
第一章第三話です。

今回もハジメさんが自分の強さに苦労するお話です。
ついでにあの四人も出てきます。

それでは、青春スイッチ、オン!


ハジメ「ふぅ、ここ最近暇だな…」

そう言って施設内を歩きながら、右手で魔力の球でお手玉を、左手でその辺で拾った石ころを錬成し、手の中で転がしている俺。

そう、俺が思いついたこととは、並列思考による物事の処理。

つまり、右と左で違ったことをしながらも、どちらも続けることが出来る、ということだ。

そうなれば、同時に二つのことを鍛えられる。

そう考えた俺は、早速試すことにしたが…

 

ハジメ「あっという間に終わっちゃったよ…」

そう、オーマジオウの力で、ライダー関連の技能もあるから、その中の高速演算処理機能まで出てくるものだから、簡単にできてしまった。

仕方がないので、魔法の練習がてら属性付き魔力お手玉をすることにした。

後、ガラスやダイヤモンド作成、更に砂鉄から鉄のみを取り出し、それを集めて延べ棒に変えてしまうという離れ業もやってのけた。

ありがとう、錬金兄弟とランドリー竹林さん。

俺、今一番錬成ライフ楽しんでいるよ。

 

さて、あれから二週間経ったわけだが、図書館の本も閲覧完了してしまった。

地球の本棚さん、なんでこっちでも機能しているんだ。

おかげで、夢の中で寝ながら学習なんて、器用な真似ができるようになっちまったもんだから、本に載っている魔法使いまくりだよチクショウ!

しかもインフィニティースタイルのおかげで、魔力が直ぐに戻ってくるし。

実質、自動連射型魔導砲搭載タンクだよ、これじゃあ。

 

因みに、これが今の俺のステータス。

 


南雲ハジメ 17歳 男 レベル:10

 

天職:錬成師・???

 

筋力:100000(?)

 

体力:60000(?)

 

耐性:90000(?)

 

敏捷:80000(?)

 

魔力:600(?)

 

魔耐:500(?)

 

技能:

錬成[+鉱物系鑑定][+精密錬成][+鉱物系探査][+鉱物分離][+鉱物融合][+複製錬成][+圧縮錬成][+遠隔錬成][+自動錬成][+構造把握][+イメージ補強力上昇][+消費魔力減少][+並列処理思考]・全属性適性・全属性対応・全属性耐性・複合魔法・縮地・瞬動・先読・予測領域拡大・剛力・金剛・物理耐性・高速魔力回復・気配感知・魔力感知・限界突破・言語理解・抜刀術・剛腕・戦闘続行・早読・未来予知・加減上手・プラスウルトラ・最強王者・無限の成長・地球の記憶・地球の本棚・モーフィングパワー・音撃打・クロックアップ・ワープドライブ(宇宙)・黄金の果実・オールエンジン・無敵化・浄化作用・時間操作・剣術・クロックダウン・ライダーサモン・アイテム操作・ゲームエリア展開・ブラックホール・聖剣創造・コズミックエナジー・無限の思い・七つの大罪・メダルコンボ


 

ステータスは魔力と魔耐以外は変わっていないが、全ステータスがメルドさん越えになっちまった…。

錬成の腕も、今じゃ構造把握まで覚えちまったし…

戦闘訓練では、開始早々にメルドさんノックアウトしちまったし…

もうほとんどやることないんだよなぁ…

手持無沙汰もある意味困ったものだ。

 

王都外で魔物相手に無双してしまった時には、流石にやり過ぎてしまったと思った。

後で、大量の良質な魔石が町中にばら撒かれた、って噂が立ったが俺ではない。

断じて、持っていくの面倒だし、路銀は十分稼いだから、いっそのこと処分しちまおう、なんて思ってやってないから。

 

とはいえ、このままだらけているのも、どうかと思う。

仕方がない、癪だがあの愚者共で遊んでやるか。

ちょうど、後ろからつけてきているようだし、な!

魔力を即座に解き、後ろから来た攻撃を躱した。

 

???「痛ってェ⁉」

???「おいおい、何やってんだよ大介!」

???「手加減しすぎだろ!」

???「う、うるせー!」

???「てか、あいつよそ見しているのに、なんで避けたんだ?」

???「そんなん知らねぇよ!」

 

ハジメ「おう、雑魚山くんたちじゃないか。どうせならまとめてかかって来いよ。遊んでやるから。」

檜山「誰が雑魚だ!この野郎、これでもくらえ!」

そう言いながら攻撃してくるが…正直遅い。

ストップモーションのように遅いので、楽にかわして簡単に反撃できてしまう。

でもそれじゃつまんないので、スタミナ切れまで躱し切る。

 

中野「ハァッ…ハァッ…クソ!なんで当たんねぇんだ!」

斎藤「こっちは、ハァッ…四人がかりだぞ!」

ハジメ「もういいかな?そろそろ恵理たちの様子見に行きたいし。」

近藤「クソが…なめやがって!これでもくらえ!」

そう言って武器を振り下ろしてくるが…

 

ハジメ「遅い。」ゲシッ!

近藤「へ?ブガッ!?」

振り下ろされた剣を受け流し、あっさりカウンターを叩きこんだ。

どうせならそのまま気絶してもらうか、面倒だし。

 

檜山「な!?テメェよくも!ここに焼撃を望む、"火球"!」

中野・斎藤「「ここに風撃を望む、"風球"!」」

室内で攻撃魔法を使うんじゃあない…。大体そういうのは、防ぐのは簡単なんだよ。

 

ハジメ「ホイっと!」

ハイ、オーロラカーテンでお空へGO!

 

檜山「なっ!?何をしやがった!?」

ハジメ「もういいや、さっさと倒すから。」

檜山「な、何言って(バキッ)!ブゲェ!?」

中野「な!?だいs(ドガッ!)グボォ!?」

斎藤「ヒッ!?や、やm(ドゴォ!)グギャア!?」

 

ハジメ「全く、手間かけさせんなっての。」パンッパンッ

愚か者四人の処理が終わると、人がやってくる気配がしたので、さっさと退散した。

 

後になって、四人が口をそろえて「南雲にやられた」と言ってきたが、俺がいたという証拠もない上、普段の態度から、ちょっかいをかけようとしたが、あっさりあしらわれたのではと、簡単に論破してやった。

正直、録音なども簡単に出来たが、面倒なのでやめといた。

 


 

晩飯時になって、メルドさんから連絡がきた。

メルド「明日から、実践訓練の一環として【オルクス大迷宮】へ遠征に行く。必要なものはこちらで用意してあるが、今までの王都外での魔物との実戦訓練とは一線を画すと思ってくれ!まぁ、要するに気合い入れろってことだ!今日はゆっくり休めよ!では、解散!」

 

ついに、か…

今日の夜は、どこかの突撃娘が来そうなので、浩介たちに声かけておこうっと。

二人きりだと何されるかたまったもんじゃないからな。




ここまで読んでいただき、ありがとうございます。

とうとうハジメさんは強くなった後の壁にぶち当たってしまいました。
成長って、思春期の男子にとっては必要なものなんですが、今作の主人公であるハジメさんは、そういったものを全部小さいころにこなしてしまったので、若干迷い気味にあります。
そこがどんな危険を招くのやら…

宜しければ、高評価・コメント、宜しくお願い致します。

追記:晶彦さん、誤字報告ありがとうございました!


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8.月下で語らう、ひとときの会合

お待たせいたしました。
ハジメさんの運命の日前夜のお話です。
今回、雫ちゃんの気持ちが少し現れてきます。
それと、少し原作と違ってきます。

それでは、第一章四話、抜刀!


【オルクス大迷宮】

それは、全百階層からなると言われている大迷宮である。

七大迷宮の一つで、階層が深くなるにつれ強力な魔物が出現する。

にもかかわらず、この迷宮は冒険者や傭兵、新兵の訓練に非常に人気がある。

それは、階層により魔物の強さを測りやすいからということと、迷宮の外に出現する魔物に比べ遥かに良質の魔石を体内に抱えているからだ。

出現する魔物に比べ遥かに良質の魔石を体内に抱えているからだ。

 

魔石とは、魔物を魔物たらしめる力の核を言う。

強力な魔物ほど良質で大きな魔石を備えており、この魔石は魔法陣を作成する際の原料となる。

魔法陣はただ描くだけでも発動するが、魔石を粉末状にし、刻み込むなり染料として使うなりした場合と比較すると、その効果は三分の一までに減退する。

まぁ、俺の杖には高品質な魔石が使われているが。

 

要するに魔石を使う方が魔力の通りがよく効率的ということだ。

その他にも、日常生活用の魔法具などには魔石が原動力として使われる。

魔石は軍関係だけでなく、日常生活にも必要な大変需要の高い品なのである。

 

ちなみに、良質な魔石を持つ魔物ほど、強力な固有魔法を使う。固有魔法とは、魔力はあっても詠唱や魔法陣を使えないため多彩な魔法を使えない魔物が使う唯一の魔法である。

一種類しか使えない代わりに、詠唱も魔法陣もなしに放つことが出来る。

魔物が油断ならない最大の理由だ。

 

因みに俺は、皆が寝た深夜にこっそり抜け出して、よく狩りをしていた。

正直王都周辺の魔物はそこまで強くなかったが、魔石が大量に確保できてしまったときは流石に焦った。

しまう時間もなかったし、ばら撒いておいてよかったよホント。

オルクス大迷宮はきっとさらに強いやつがいる。

ベヒモスとも一回バトルしてみたかったところだ。

オラ、ワクワクすっぞ!

 

そんな物騒なことを考えていた俺含む勇者一行は、メルドさん率いる騎士団と共に、"オルクス大迷宮"へ挑戦する冒険者のための宿場町"ホルアド"に到着した。

新兵訓練によく利用するようで王国直営の宿屋があり、そこに泊まることとなった。

 

さて、部屋に行く前に事前に何人かには声をかけておいた。

後は、彼女が来る時を待つだけだ。

そう考えていると、ドアをノックする音が聞こえた。

 

香織「ハジメくん、起きてる?白崎です。ちょっと、いいかな?」

ハジメ「ハイハーイ!今開けるから!」ガチャッ

 

ドアを開けると、そこには煽情的な格好をした香織がいた。

字面だけなら大丈夫なんだが、実際に見るとなぁ…

 

香織「?どうしたの?」

ハジメ「香織、夜にその恰好はダメだって。不審者に襲われたら大変でしょうが。」

香織「お、おそっ!?で、でも、ハジメくんなら…」

ハジメ「バカ言っていないで、早く入りなよ。お茶入れるから。」

香織「う、うん!」

 

やれやれ、先が思いやられる。

ベッドの下にいるように頼んだ、雫の苦労が分かるなぁ…

あと浩介、変なポーズとらないの。

隠形使えるからって、好き勝手やらないの。

あと恵理、もう少しだけ我慢してくれ。

クローゼットは狭いと思うが。

 

さて、トシもそろそろスタンバイする頃だろうしな。

そう思いながら、紅茶もどきを彼女に渡す俺であった。

 

香織「ありがとう。」

 

…ッ、アカンアカン!

見惚れている場合じゃない。

とりあえず、本題に入らないと。

 

ハジメ「それで?今日はどうしたんだ?寝付けないなら、子守歌でも歌おうかい?」

あの日から特訓を重ねた俺だ。今なら三時間ぶっ通しライブだって行けるさ。

そう思っていたが、「ううん。」と言われた。

それと同時に、さっきまでの笑顔が嘘のように思いつめた様な表情に変わった。

 

香織「明日の迷宮だけど……ハジメくんには町で待っていてほしいの。」

ハジメ「いやだ。」

香織「即答!?」

ハジメ「そもそも何故俺が?何かやらかしたか?」

香織「いえ、そうじゃないの。」

 

ハジメ「いきなり襲い掛かってきたあの四人をボコったことか?

夜中に狩りしまくって、とった魔石町中にばら撒いたことか?

それとも、純度100%の鉄を売りさばいたり、ガラスやダイヤで荒稼ぎしたことか?」

香織「最初のはともかく、あとの二つはヤバすぎない!?」

やべぇ、墓穴掘った。そう思っていると…

 

ゴンッ!

雫「痛っ!?」

香織「え!?今、雫ちゃんの声が…」

ハジメ「…よし、ネタバラシといこう。皆、カモン。」

ガチャッ、ササッ、

 

俺がそういうと、隠形を解いた浩介、ドアを開けて入ってきたトシ、クローゼットの中から転がりだしてきた恵理、そしてベッドの下から頭を押さえて、涙目の雫が這い出てきた。

香織「えっ!?どどど、どういうこと!?」

 

ハジメ「最初、二人きりになるとき、実力行使に移らなきゃいけない場面になるかもしれないって考えたが、俺ァ不器用だからうっかり傷つけちまうかもしれない、って思ってな。

穏便に事を済ませられるよう、念のため待機してもらっていた。

まぁ、杞憂だったようだが…」

雫「その前にハジメ君!?さっきの話はどういうことかしら!?」

ハジメ「どうもこうも、全部真実だが?」

浩介「どうりで、夜中コソコソしていると思ったら…」

ハジメ「起きていたのか、浩介。」

浩介「うん。」

マジか…コイツ、マジで俺を暗殺できる奴かもしれねぇ…

仲間に引き入れておいて、ホントよかったわ。

恵理「まぁ、兄さんが規格外なのはいつものことだから。」

ハジメ「恵理や、兄さんの扱い酷くないか?」

トシ「まぁまぁ、落ち込むなよ、義兄さん。」

ハジメ「まだその呼びは許してないッ!」

 

香織「もう、酷いよハジメくん!私そんなことしないもん!」

ハジメ「わかってるって、冗談だよ。それで、どうして明日、俺に残ってほしいんだ?」

香織「それは…」

ハジメ「あぁ、言いたくないなら聞かないよ。無理に言わなくてもいい。」

香織「違うの!大丈夫、ちゃんと言えるから!」

雫「香織、一旦落ち着きなさい。ハジメ君も急ぎ過ぎないの。」

ハジメ「ヘイヘイっと。」

さて、どんな夢になったことやら。

 

香織「あのね、何だか凄く嫌な予感がするの。さっき少し眠ったんだけど……」

雫「けど?」

香織「夢を見てね……ハジメくんがいたんだけど……」

恵理「兄さんが?」

香織「なにか、よくわからないものと戦っていて……」

ハジメ「ほう。」

香織「声をかけても全然気が付いてくれなくて……」

トシ「そりゃ変だな。」

香織「走っても全然追いつけなくて……それで最後は……」

浩介「最後は?」

 

香織「……私の手が届かなくなって……消えてしまうの……」

ハジメ「……そっか。」

まぁ、そりゃあ不安になるわな。でも…

 

ハジメ「心配すんな、香織。

確かに俺よりステータスは低いが、それでも他の奴らは、揃いも揃ってチートの連中だぜ?

それに、メルドさん達という戦いのプロもいる。」

香織「それは…そうだけど…」

ハジメ「何より…」

香織「?」

ハジメ「俺は王様になる男だ。大事な民草残してポックリ逝くほど、軟な体しちゃあいねぇよ。

たとえ、死に目に会っても、自力で這い上がって空を飛んで帰ってきてやるさ。」

香織「!」

というか、オーマジオウの力の一端には、不死の奴らもいるからなぁ…

多分、大丈夫だろ。

 

恵理「フフッ、兄さんならやりそう。」

トシ「だな。こいつに不可能の三文字は似合わないだろ。」

浩介「むしろ、コイツは死んでも閻魔に文句言って帰ってきそうだからな。」

ハジメ「お前等、少し言い方ってものがあるんじゃねぇのか…?終いにゃ泣くぞ、俺?」

まぁ、確かに否定は出来んが…

閻魔よりも補佐官の方が怖いんだよ、俺ァ。

もしドS補佐官だったら、間違いなく帰ってこれない。

オーマジオウでも全く勝てる未来が見えない。

止まった時の中でも普通に動けそうだから。

 

雫「大丈夫よ、香織。ハジメくんなら、絶対生き残れるわ。こんなに強い心の持ち主なんだし。」

恵理「雫ちゃんも、兄さんのこと好きだもんね?」

雫「なっ!?わ、私は違っ…」カアッ

トシ「ハジメェ…」

ハジメ「やめろ、増殖するS(ソウルシスターズ)には追いかけられたくない。」

浩介「あぁ、ウチの妹もその類だったしなぁ…」

恵理「じゃあ、雫ちゃんのことは?」

雫「ちょっと、恵理!?」

香織「あ!私も気になる!」

雫「香織!?」

ふぅむ…まぁ、第一印象なら…

 

ハジメ「そうだな、笑顔が似合ういい女だとは思う。

特に、可愛いものを抱きしめているときの表情がいい。」

雫「そ、そう…///」ポォ~

トシ「マジか…一回でいいから見てみたいわ…」

浩介「なぁ、ハジメ。その時の写真があったら、見ていいか?」

ハジメ「フッ、友達だからな。さっさと帰って、見に来るか?」

雫「!?そ、それはダメよ!肖像権の侵害よ!」

ハジメ「何を言っとるんだお前は。とまぁ、気は晴れたか、香織?」

よく見ると、楽しそうに会話に加わる香織の姿がある。

話題をそらして落ち着かせる作戦は成功したようだな、ナイス恵理!

香織「!う、うん!だから!」

ハジメ「?」

 

香織「だから、私にハジメくんを守らせて!」

ハジメ「いやだ。」

香織「まさかの二回目!?」

ハジメ「俺はただ守られるのは性に合わねぇ。だが…」

香織「だが…?」

ハジメ「今、ここにいる奴らには、安心して背中を預けられる。それは香織、お前も一緒だ。」

香織「!そ、そっか!」

ハジメ「まぁ、そういうわけだ。

一人で背負いこむより、数人で背負った方が、幾分か楽になんだろ。」

香織「フフッ、そうだね。」

たく、世話かけさせやがって。

ま、やっぱ香織には笑顔が一番ってこった。

 

ハジメ「わりぃな、勝手に巻き込んで。」

雫「気にしてないわ、香織の突撃癖はいつものことだし。」

恵理「うん、それだけ兄さんが好きなんだよね。」

トシ「ま、俺等も大概だけどな。さっきの言葉は正直うれしかったし。」

浩介「だな。こっちも王様になる奴に背中任されちゃあ、断れないに決まってんだろ。」

ハジメ「お前等…」

ほんと、最高の仲間たちだぜ…

 

ハジメ「うし!今日はもう遅いし、明日に備えてたっぷり栄気を養っておかないとな!」

香織「うん!」

雫「えぇ!」

恵理「うん!」

トシ「あぁ!」

浩介「おう!」

ハジメ「それじゃ、解散とするか!」

「「「「「おー!!」」」」」

会合も終わり、次々と皆部屋を出ていく。

 

さてと、俺も寝るか。

と、その前に…

ハジメ「一応伝言を残しておくか。」

俺は最後の仕上げに取り掛かった。

一応、布石はいくつか打ったが、ここは異世界。

何が起こるか分かったもんじゃない。

念には念を、だ。

 

浩介「…ハジメ、死ぬなよ…!」

そういう浩介のポケットの中には…何故か携帯のような銃が入っていた。

 

そして次の日…

俺たちは運命の場所、オルクス大迷宮へ向かったのだった。




ここまで読んでいただき、ありがとうございます。

今回は香織だけでなく、他の仲間たちとも語らうことで、彼女の不安を少しだけでも和らげようとしました。

因みに、クズ山も物陰から見ていましたが、部屋から他にも人が出てきたので、少し混乱気味ですが、それでもハジメさんに対する敵意は変わっていません。
なので、原作通り攻撃してきます。

さて、ラストの遠藤君のセリフの意味とは!?
詳しくは、待て次回!

宜しければ、高評価・コメント宜しくお願い致します。

追記:リースティアさん、刻乃時王さん、晶彦さん、誤字報告ありがとうございました!


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9.Oの迷宮/悪意の末路

お待たせいたしました。

今回、ハジメさんがとうとう大迷宮へ。
そして、凶悪な魔獣ベヒモスと世紀の対決へ!
そして、遠藤だけが知るハジメの秘密とは!?

それでは、第一章第5話、どうぞ!


翌朝、早朝から早速迷宮の入り口に集まっていた俺達。

それにしても、全然秘密のダンジョン感が全くないな。

博物館みてぇな入場ゲートもどき、受付窓口の制服お姉さん、所狭しと並ぶ露店…

ここ、大迷宮なんだよな?なんで、こんなバラエティ感満載な入口なんだよ!?

こんなんじゃ、魔物に対する危機感が全くもって感じられないじゃねぇか!

実戦訓練兼ねているんだよな!?なら、もうちょい相応しい雰囲気って奴があるだろ!?

これじゃ、どっちかっていうと、体験型アトラクションに見えて仕方がないぞ!?

ここ、本当にクリアさせる気あんのか!?

 

…いかん、ついダンジョンについて熱くなってしまった。

まぁ、誰もこの大迷宮の本当の恐ろしさを知らないんだ。

当然っちゃあ、当然か。

まぁ、犯罪防止・死亡率低下の一環にもなっているっていう理由は納得できるし、そりゃあ、王様なら国の安寧や民の安全も大事だしなぁ…

とはいえ、気を引き締めていかねぇと…

素材の売買所?…後で寄ってみよう。

 

さて、やっと迷宮内に潜った俺達。

とうとう冒険が始まるんだ!

何だかスッゲェワクワクしてきた!

 

入口とは違って、迷宮はまさしくザ・ダンジョンって感じだ。

縦横5m以上ある通路は明かりも無いのに薄ぼんやり発光しており、松明や明かりの魔法具が無くてもある程度視認が可能だ。

緑光石という特殊な鉱物が多数埋まっているらしく、【オルクス大迷宮】はこの巨大な緑光石の鉱脈を掘ってできているようだな。

隊列を組みながら進むと、8m位の高さがあるドーム状の広間に出た。

お、デカい鼠が出てきたみたいだ。

 

メルド「よし、光輝達が前に出ろ。他は下がれ!交代で前に出てもらうからな、準備しておけ!あれはラットマンという魔物だ。すばしっこいが、大した敵じゃない。冷静に行け!」

ローテーションかぁ、まぁいいか。

にしても、暇だな。騎士さん、魔物パス早く。

とか思っているうちに、戦闘は終わった。

うん、明らかにオーバーキルだな。

後で、とってある魔石幾つか差し入れておくか。

 

さて、そんなこんなで、ようやく20層についた。

トラップは構造把握があるので、あまり怖くはない。

まぁ、フェアスコープもあるんだ。何とかなるだろ。

 

メルド「よし、お前達。ここから先は1種類の魔物だけでなく複数種類の魔物が混在したり連係を組んで襲ってくる。今までが楽勝だったからと言ってくれぐれも油断するなよ!今日はこの二十階層で訓練して終了だ!気合を入れろ!」

因みに俺はパーティーを組んでない。

せっかく一人で遠近両方とも対応出来るのだ、他パーティーの出番を奪ってしまってはいかんだろうと思い、ソロで行くことにしたのだ。

決して、黒の双剣士に憧れたわけではない。

 

そうしていると、香織と目が合った。

俺が強く頷くと、香織はまるで花でも咲いたかのような笑顔を向けてきた。

嬉しいっちゃ嬉しいが、視線が辛い。

雫は目が合うとすぐにそらす。

別に自分に素直になったっていいのに。

多分、香織も雫なら一緒に、って考えていそうだし。

 

それにしても、このねちっこい視線、マジでうぜぇ。

言いたいことがあんなら、正面から堂々言ってこいやって話だ。

 

さて、ようやく二十階層の一番奥、鍾乳洞っぽいところにきた。

よし、後は二十一階層に行けば、今日は終了だな。

それにしても、神代魔法がただの転移って…

あれだけさんざん余裕ぶっていたくせして、ホントは解放者の後継者が怖いんだな、アイツ。

 

メルド「擬態しているぞ!周りをよ~く注意しておけ!」

っと、岩ゴリラを発見したみたいだな。

うわ、ホントにカメレオンっぽい岩のゴリラなんだな。

美食家の漫画で見た厳つい顔の奴にそっくり。

え~と、違法マンモスだったっけ?

そん時ぐらいに…

 

メルド「ロックマウントだ!二本の腕に注意しろ!剛腕だぞ!」

おぉ、近くで見ると怖いな。

さて、そろそろ女子たちの方に向かっていくか。

十分距離を取って、と。

岩ゴリラ「グゥガガガァァァァアアアアーーーー!!」

咆哮にいち早く備えた俺はセーフだったが…

 

「ぐっ!?」

「うわっ!?」

「きゃあ!?」

やっぱそうなるよね…って、ヤバいヤバい!

 

俺は素早く女子たちを庇うように立ち、迎撃態勢をとった。

それと同時に、岩ゴリラがもう一匹の岩ゴリラを投げてきた。

しかも鼻息が荒いル○ンダイブときた。

どうするかって?もちろん!

 

ハジメ「向こういけぇー!」ズガァーン!

岩ゴリラ「グゥォォォオオオーーー!?」

勢いよく力を込めてぶん殴った。

正直ちょっと痛かったが、奴をぶっ飛ばすことには成功した。

幸運なことに、投げてきた奴の方に向かっていったので、まとめて粉砕出来た。

良かったぁ…って、何みんな茫然としているんだ。

戦場だぞここ。

 

ハジメ「…み、みんな…俺よりもあいつ等に目を…」

メルド「ハッ!?こらこら、戦闘中に何やってる!」

メルドさんの言葉でようやくみんな動き出した。

つかなんで、岩ゴリラまで固まっていたんだよ。

 

ハジメ「…い、痛い…」

香織「は、ハジメ君!?大丈夫!?」

ハジメ「異世界の岩ってマジで固ェ…

でも大丈夫だ。これぐらいなら全員ぶっ飛ばせる。」

恵理「兄さん、やせ我慢はダメ…」

ハジメ「…ごめんなさい、マジで痛いです。回復オナシャス。」

鈴「認めるの早っ!」

とりあえず、治療を…ってうぉい!?

 

光輝「貴様…よくも香織達を…許さない!」

ハジメ「光輝!ここで撃ったら、天井が崩れる!もう少し威力抑えろ!」

光輝「南雲は黙ってろ!こいつ等だけは絶対に…!」

あ~もう!仕方がねぇ!

 

岩ゴリラ「グゥォオー!?」グチャアッ!

光輝「!?」

コイツが技を放つ前に、全員ぶっ飛ばす!

そう決めた俺は、目にもとまらぬ速さで岩ゴリラ共を粉砕した。

あまりの速さに皆ポカンとしていたが、関係ない。

むしろ、動かれると邪魔だ。

そうして一分後には、岩ゴリラの死体の山が出来上がっていた。

 

ハジメ「フィ~、全く、あんな威力のデカい技放ったら、こっちまで生き埋めになるやろがい!少しは冷静にだな…」

光輝「いや、それ以前にお前非戦闘系職だったよな!?」

ハジメ「鍛えただけだ。至って以前の生活と変わっていない。」

光輝「それでもおかしいだろぉ!?」

ハジメ「いいんだよ、細かいこたぁ。」

質問攻めしてくる光輝を無視して、メルドさんに向き直る。

 

ハジメ「メルドさん、とりあえず、崩落の危険性はなくなりましたね。」

メルド「え?あ、あぁ、そうだな!光輝、気持ちはわかるがな、こんな狭いところで大技を放つのは危険だ。さっきの技を使う際には、なるべく広いところでやるんだぞ?」

光輝「…メルドさん、さっきの南雲の行動はどうなんですか?」

メルド「…さぁ、先を急ごう!」

光輝「メルドさん!?」

うん、これでよかったんだよ、きっと。(バラッ)

って、うん?

壁が崩れて…

 

香織「…あれ、何かな?キラキラしてる…」

…オイオイ、よりにもよって罠じゃねぇか。

てか、フェアスコープは?ここは真っ先に出すだろ、普通。

 

メルド「ほぉ~、あれはグランツ鉱石だな。大きさも中々だ。珍しい。」

ハジメ「メルドさん、見惚れるのはいいですけど、まずはトラップか確認しましょうよ。」

メルド「おぉ!そうだな、スマンスマン!」

ふぅ、危険は去った…

 

檜山「だったら俺らで回収しようぜ!」

うん、知ってた。バカだからね、仕方がない。

メルド「こら、勝手なことをするな!安全確認もまだなんだぞ!」

いや、実力行使で止めましょうよ。こいつ等に聞くという知能はないんですし。

 

騎士A「団長、トラップです!」

メルド「ッ!?」

やれやれ、結局はこうなるのか。

ま、単独行動が出来るという点では、チャンスだな。

 

メルド「くっ、撤退だ!早くこの部屋から出ろ!」

皆急いで外に向かうが…間に合わないだろうな。

そしてまた転移する羽目になった俺達。

 


 

転移後、無事着地した俺は、周りを見渡して思った。

これ、魔物に殺される以前に、転落死の可能性、高くね?と。

とりあえず、注意喚起はしておくか!

 

ハジメ「光輝、皆に橋の真ん中に寄るよう言ってくれ。

俺よりもお前が頼んだ方が、皆応じやすいだろう。」

光輝「あ、あぁ。皆、落ちないように真ん中に寄るぞ!」

よし、とりま転落死の可能性は低くなった。あとは…

 

ハジメ「メルドさん、何か来ます!」

メルド「あぁ、お前達、すぐに立ち上がって、あの階段の場所まで行け。急げ!」

そうは問屋が卸さないってやつだな。もう既に魔法陣が出てきやがった。

前方のベヒモス、後方のトラウムソルジャー、か。

なんて呑気に言ってる場合じゃない!

 

メルド「まさか……ベヒモス……なのか……」

ハジメ「メルドさん!」

メルド「!?」

俺が次の言葉をかけようとしたその時…

 

ベヒモス「グルァァァァァアアアアアッ!!」

ハジメ・メルド「「!」」

マズい!

 

メルド「アラン!生徒達を率いてトラウムソルジャーを突破しろ!

カイル、イヴァン、ベイルは全力で障壁を張れ!ヤツを食い止めるぞ!

光輝、お前達は早く階段へ向かえ!」

光輝「待って下さい!メルドさん!

俺達もやります!あの恐竜みたいなヤツが一番ヤバいでしょう!俺達も……」

ハジメ「ナマ言ってんじゃねぇ!!」

光輝「!?」

俺は光輝の胸ぐらを掴み、強い口調で諭した。

 

ハジメ「最初に言ったろ、どんなに力が強くても、知識や経験がなきゃダメだって。メルドさんはあの魔物がどんなにヤバいかを知っている。だからこそ、俺達を逃がそうとしているんだ。国の命運を背負った、俺達を。」

光輝「ッ!でも!」

カイル、イヴァン、ベイル「「「全ての敵意と悪意を拒絶する、神の子らに絶対の守りを、ここは聖域なりて、神敵を通さず、"聖絶"」」」(メリメリッ!)

後ろで騎士さん達が障壁を張るが、衝撃波により他の奴らがパニクッている。

 

ハジメ「今やるべきことを考えろ!お前は皆も世界も救う、そう言ったな。

だったら、ここにいるクラスの皆を助けに行け!

あれを見ろよ!あいつ等パニックで何もできないでいるんだぞ!

このままじゃ犠牲者が出る、それでもお前は良いのか!」

光輝「!」

光輝を離すと、一人の生徒に迫っていたトラウムソルジャーを、クウガのモーフィングパワーで焼き払った。

 

ハジメ「後で技能も話すし、文句だって聞いてやる。

だから、皆を導き、守り抜け!それが勇者であるお前の使命だろ!」

光輝「ッ!分かった!すまない、南雲!」

ハジメ「今は良い、皆を頼む!」

光輝「!?南雲!?」

光輝に皆を任せると、俺はベヒモスの方に向かった。

 

聖絶がそろそろ持たない!

しょうがねぇ!全力開放だ!

ハジメ「みなさん、伏せて!」

メルド「!?ハジメ!?」

俺は騎士たちを飛び越え、ベヒモスの眉間に素早く近づき、

ハジメ「オルゥアアア!!!」ドゴォ!!

思いっきりぶん殴った。

ベヒモス「グルァァァァァ!?」

…チッ、流石に本調子じゃねぇか、少し後退させるだけか、だがこれでいい。

 

ハジメ「メルドさん!光輝!助けに来るのは、皆が正気になってからでいい!

俺が時間を稼ぐ!それぐらいは大丈夫だ!」

メルド「待て!そいつ六十五階層の魔物、ベヒモスなんだぞ!」

ハジメ「そんなのどうでもいい!」

メルド「!」

ヤツが立ち上がった。そろそろ来るな。

 

ハジメ「アイツが光輝やあんた等より強いのは百も承知だ。でも、だからこそ、俺を信じろ。」

メルド「!」

俺は再びこぶしを構え、奴に向けて走り出した。

みんな、光輝の補助、頼んだぞ!

 

さて、啖呵切って威勢よく飛び出したはいいものの、だ。

コイツ相手にどれぐらい持つかな?

金剛、剛力、剛腕があるとはいえ、正直キツイし、このままじゃジリ貧だ。

こうなったら、奥の手だ。

一瞬だけでいい、一部だけ魔王の鎧を具現化させる。

それならいける!

 

ベヒモス「グルァァァァァアアアアア!!」

ヤツがまた突進してきた。

俺は素早く、奴の腹と地面の間に滑り込み、

ハジメ「ウォラァァアア!!」ドガァァァァァン!!!

右足を具現化させ、奴のどてっ腹にキックを叩きこんだ。

ベヒモス「グルォォォオオオ!?」

奴は勢いよくひっくり返った。

チャンスだと思った俺は、そのまま尻尾をひっつかんだ。

 

ハジメ「回れぇ!」ブンブンブンブンッ!

ベヒモス「グォォォオオオ!?」

必死にぶん回し、

 

ハジメ「ぶっ刺されぇ!」グサァッ!

ベヒモス「グギャァァァアアア!?」

壁に向かってぶん投げた。

角が勢いよく、壁にぶっ刺さるように。

ざまぁみやがれ。

さぁて、どうやら向こうも決着ついたみてぇだな。

 


 

ベヒモスが壁に刺さる少し前…

 

増加するトラウムソルジャーに対して、窮地に陥っていた生徒は少なくはなかった。

しかし、逆に冷静になって反撃している生徒たちも中にはいた。

 

恵理「ッ!こいつ等、数だけは多いね!」

トシ「白崎さん!騎士団の皆さんを!」

香織「うん!天の息吹、満ち満ちて、聖浄と癒しをもたらさん、"天恵"!」

的確に敵を分析し、サポートしてくれる騎士たちのサポートに回る恵理、香織、幸利。

 

雫「龍太郎!そろそろ光輝が来るわ!」

龍太郎「おう!十分持たせられるぜ!」

浩介「うわ!メルドさんも凄いけがじゃねぇか!白崎さん、こっちもお願い!」

光輝やメルドといったリーダー格が戻るまで、時間を稼ぐ雫、龍太郎、浩介。

 

そして、その甲斐もあり…

光輝「皆!助けに来たぞ!道は俺達が切り開く!"天翔閃"!」

メルド「お前達!今まで何をやってきた!訓練を思い出せ!さっさと連携を取らんか!馬鹿者共が!」

二人のリーダーが到着し、士気を立て直した。

治癒魔法が使える者、攻撃魔法が使える者、戦闘職である者と、次から次へと立ち上がり、その実力を発揮していく。

 

そしてついに、魔法陣による召喚速度を超え、それを合図に突撃した。

そしてハジメ以外の全員が、包囲網を突破した。

 

その後、リスポーンしたトラウムソルジャーにより、橋への道が塞がれるが、光輝が魔法を放ち蹴散らす。

クラスメイト達が訝しげな表情をするが、恵理、幸利、浩介、雫、龍太郎といった面々もそれを援護している。

香織「皆、待って!ハジメ君を助けなきゃ!ハジメ君がたった一人であの怪物を抑えているの!」

香織のその言葉に困惑するクラスメイト達。

しかし、橋の方を見ると、そこには壁にぶっ刺さったベヒモスの姿があった。

 

「嘘だろ!?あんなデカいやつを投げたのか!?」

「あの魔物、角が刺さって抜けない!?」

次々と驚愕と疑問の声を漏らす生徒達にメルド団長が指示を飛ばす。

メルド「そうだ!坊主がたった一人であの化け物を抑えているから撤退できたんだ!前衛組!ソルジャー共を寄せ付けるな!後衛組は遠距離魔法準備!もうすぐ坊主がこっちに戻ってくる。それを合図に、一斉攻撃であの化け物を攻撃するんだ!」

その声によって、気を引き締めなおした生徒達。

中には階段の方向を未練がましく見ている者もいる。

無理もない。ついさっき死にかけたのだ。一秒でも早く安全を確保したいと思うのは当然だろう。

しかし、メルド団長の「早くしろ!」という怒声に未練を断ち切るように戦場に戻った。

 


 

その中には檜山大介もいた。自分の仕出かしたこととはいえ、本気で恐怖を感じていた檜山は、直ぐにでもこの場から逃げ出したかった。

しかし、ふと脳裏にあの日の情景が浮かび上がる。

 

それは、迷宮に入る前日、ホルアドの町で宿泊していた時のこと。

緊張のせいか中々寝付けずにいた檜山は、トイレついでに外の風を浴びに行った。

涼やかな風に気持ちが落ち着いたのを感じ部屋に戻ろうとしたのだが、その途中、ネグリジェ姿の香織を見かけたのだ。

初めて見る香織の姿に思わず物陰に隠れて息を詰めていると、香織は檜山に気が付かずに通り過ぎて行った。

気になって後を追うと、香織は、とある部屋の前で立ち止まりノックをした。

その扉から出てきたのは……ハジメだった。

檜山は頭が真っ白になった。檜山は香織に好意を持っている。

しかし、自分とでは釣り合わないと思っていた。

それでも、光輝のような相手なら、所詮住む世界が違うと諦められた。

しかし、ハジメは違う。自分より劣った存在(檜山はそう思っている)が香織の傍にいるのはおかしい。

それなら自分でもいいじゃないか、と端から聞けば頭大丈夫?と言われそうな考えを檜山は本気で思っていた。

それに加えて、その部屋にハジメの親友の幸利が入っていった。

その後部屋から出てきたのは、香織と幸利に加えて、ハジメの妹の恵理、香織と同じく人気の高い雫と来た。(…俺は?)

それを見て檜山は、幸利のようなオタクまで楽しそうに会話していたのだ。

なぜ自分はダメなんだ、あんなオタクでもいいなら自分の方がいいのに、と端から聞いたら、一回病院行けとまで言われる始末の考えを、檜山は本気で思っていたのだ。

唯でさえ溜まっていた不満は、既に憎悪にまで膨れ上がっていた。

香織が見惚れていたグランツ鉱石を手に入れようとしたのも、その気持ちが焦りとなって表れたからだろう。

その時のことを思い出した檜山は、たった一人でベヒモスを圧倒するハジメを見て、今も祈るようにハジメを案じる香織を視界に捉え……仄暗い笑みを浮かべた。

 


 

……やれやれ、ようやくその気になってきたか。

ハジメ「うっし、俺も向かうか!」

そう言って皆の所へ走り出したその時、

ドシーン!

ハジメ「!?オイオイ、嘘だろ!?」

あのデカブツが壁から角を外すことに成功していた。

俺は全速力で逃げた!

それはもう風みたいに。

それと同時に、あらゆる属性の魔法攻撃が殺到した。

もちろん、それも全力でよけながら、走った。

 

……まぁ、そう上手くはいかないんだろうけどな。

唐突に軌道を変えた火球がこっちに来たが、難なくはじく。

それと同時に、下手人の姿をとらえる。

檜山「ッ!?」

ハッ、やっぱ小物は小物か。

そんな侮蔑を含んだ笑みを、わざと奴に向けた。

檜山「クソがァ!」

そう言いながら、無茶苦茶に撃ってくるバカ。

おかげで、ベヒモスにダメージが蓄積されていくぜ。

そうして余裕で向こうに着くと思ったその時、

 

ハジメ「!?」(ッ!オイオイ、この感覚は!)

まるで時を歪められたかのように、一瞬行動に揺らぎが生じた。

その一瞬が俺の命運を分けた。

檜山「死ね死ね死ねェー!!」

そういって魔法を狂ったように撃ちこむ檜山。

揺らぎによってバランスが崩れた俺は、その内の一つに当たり、後方へ吹っ飛ばされてしまう。

衝撃自体は大したことはないが、未来予知でその結果を知ってしまった。

そのタイミングを見計らっていたかのように、橋に亀裂が走った。

メキメキと橋が悲鳴を上げる。

そして遂に……橋が崩壊を始めた。

 

しょうがねぇ、ここは…

ハジメ「必ず戻る!」

香織「!」

ハジメ「俺を、信じろ!」ヒュウゥゥゥ……

そういって、俺はベヒモスと共に、奈落へ落ちていった。

 


 

ハジメ「あ、そういえば、ベヒモスって食えるかな?」ジュルリ…

ベヒモス「グルァア!?」ビクゥッ!

ハジメ「よし、焼いて食うか。では、いただきます!」ガブリンチョッ!

ベヒモス「グルァァァァァアアアアア!?」ジタバタ

うん、しばらくは大丈夫そうだな!

 


 

香織「…ハジメ君…」

香織はハジメが落ちた穴を見つめながら、悲しげに呟いた。

雫「…大丈夫よ、香織。ハジメくんだもの、きっとすぐに帰ってくるわ。」

香織「…うん!」

雫に元気づけられ、香織が奮起したその時、

 

「グアァァァァ!?」

突然辺りに響く絶叫。

更に他のクラスメイトの悲鳴も聞こえる。

そちらを見ると、幸利、恵理が檜山に詰め寄っていた。

檜山はどうやら斬りつけられたようで、腕から血が流れている。

 

恵理「このクソ野郎!よくも、よくも兄さんを…!」

檜山「な、何言って…」

トシ「しらばっくれてんじゃねぇよ!分かんねぇとでも思ったのか!?

テメェが死ねっていいながら、ハジメに向かって魔法を当てたのを、しっかり見ていたんだよ!」

 

慌てて、止めに入った騎士団に抑えられながらも、二人は声を上げて言った。

その言葉に、クラスメイト達が驚いた顔で檜山を見る。

 

檜山「で、でたらめだ!アイツが死んだからって勝手に…(死ね死ね死ねェー!!)!?」

突如聞こえてきた自分の声に振り替えると、携帯らしきものを持っていた遠藤がいた。

そしてその画面には、自分がハジメに対して殺意を持った攻撃の決定的瞬間が映っていた。

浩介「…これで十分だろ。犯人はお前だ、檜山。」

檜山「な…テメェ…!」

メルド「やめろ!今は言い争っている場合じゃない!!」

論争はメルド団長の一喝で一旦収まる。

 

メルド「とにかく、今は迷宮から抜けるのが最優先だ。遠藤、恵理、清水、先程言っていた件については脱出してから話をしっかり聞く。だから今は抑えてくれ。」

恵理「ッ!……分かり、ました。」

トシ「……分かりました。」

メルド団長の言葉で一旦冷静になった二人は、それが正論だと理解した。

一方の浩介も、音声を発した携帯のような銃を見て、あの日の出来事を思い出した。

 


 

ハジメ「浩介、ちょっといいか?」

浩介「?どうしたんだ、ハジメ。」

ある訓練後の夜、ハジメから相談事を受けた浩介。

 

ハジメ「…実はな、俺、もうすぐ大変なことに巻き込まれるかもしれないんだ。」

浩介「ハァッ!?どうしてそうなるんだよ!?」

ハジメ「詳しくは分からんが…このままだと皆にも危害が及ぶかもしれない。

だから…」

浩介「だから?」

 

ハジメ「これを秘密裏に、預かっていてくれ。」

そういってハジメが懐から取り出したのは、携帯のような銃だった。

浩介「1?こ、これは何だ!?」

 

ハジメ「ファイズフォンマークXだ。普通の携帯としての機能も一応使える。

生憎電話は使えんが。」

浩介「こ、これを俺に!?責任重大すぎるだろ!?」

ハジメ「分かっている。無理を重々承知で頼む。そいつは銃としても使用可能だ。

いざとなったら、そいつを使え。

それと、出来ればコイツのことは他言無用で頼む。」

浩介「…お前がマジに頼むってことは、相当ヤバいんだな。」

ハジメ「あぁ、でも俺は必ず生きて帰る。だから、俺を信じてくれ!」

 

浩介「…分かったよ。でも、死ぬんじゃねぇぞ。王様。」

ハジメ「おうよ!少なくともお前以外に殺されるビジョンは見えねぇよ。」

浩介「…それ、褒めているんだよな?」

ハジメ「あぁ、俺を唯一殺せる、最高最善の暗殺者、だろ?」

浩介「なんだそりゃ。」

そう言って他愛のない話をしていたが、浩介は胸騒ぎを感じていた。

 


 

浩介「まさか、こんな形でバラしちまうとはな…わりぃ、ハジメ。

直ぐに知られちまった…。」

ハジメから渡されたファイズフォンマークXを握りしめながら、今なお生きているはずの友に向けて、浩介は謝罪した。

 


 

その後、映像という決定的証拠に加え、不用意に皆を危険にさらしたことから、檜山はクラスメイトから大反発を受けた。

当然、わざとじゃない、魔が差したと光輝の前で土下座した。

ハジメに向かった火の玉は自分の放ったものではあるが、ただ制御を誤ってしまったのだという。

そして、ハジメから挑発的な視線を送られ、またバカにされたと思ってつい、というのが檜山の言い訳。

自分の中では、檜山達はつい最近ハジメから不当な暴力を受けたことになっている光輝は檜山を許そうと言い出した。

こうして反省しているんだ、だから許してやろうと。だが、誰も了承しなかった。

当然である。映像という現代では決定的証拠に加え、自分たちの仲間が殺されたかもしれないという現実を突き付けられたのだ。憤慨するに決まっている。

それを突き付けられた光輝も、ばつが悪くなったのか何も言い返せなかった。

 

勇者一行の一人が殺人などと、悪いイメージを持つことを恐れたイシュタルは、彼らを説得し無罪にしようとしたが、王宮の侍女やコック、庭師などが反発。

実は、彼らはハジメによって、助けられたことがあるのだ。

それも、ハジメが自分でこっそり貯めていた貯金を全部使いきってでも、助けようと奔走していたのだ。

本人は魔力増加、自己満足のつもりでやっただけだから、と言っていたものの、彼らは何も恩を返せていないことから、今回の件で反発に名乗りを上げたのだ。

 

更には、つい最近女性の方から求婚したという新婚夫婦の貴族を筆頭に一部の貴族、それにリリアーナ王女も抗議。

実をいうと、作り過ぎてしまった高級ダイヤを売りさばくために、王都在住の貧乏貴族に無償配布したり、装飾品に困っていた貴族に格安で譲ったりと、色々貢献してきたハジメさんであった。

 

因みに、リリアーナには、王族に好印象を与えたいと思っただけで、恋愛感情といったものはなかった。

だが、リリアーナの意見を聞いて製作していくうちに、我が家で鍛えられた「最高の品を送り届けたい」というクリエイター魂に火が付き、結果として少し派手になってしまった。

それがリリアーナにとってはうれしかった。たった一人の男性が、自分のために文句ひとつ言わず、素敵な贈り物をくれたことに、少しときめいてしまったのだ。

 

と、こうしてハジメが自己鍛錬、自己満足の理由の下に行動してきた結果がこれである。

正直、その功績を聞いた者たちのほとんどが初耳であり、香織達も驚いていた。

同時に、ハジメが本当に王様になって帰ってくるんじゃないか、という安心感まで生まれた。

 

そういうわけで、檜山の有罪が決まったが、本来は幽閉されるところを、なんと無罪となったのだ。

しかし、これには訳がある。

 

無罪を申し出た幸利曰く、「勝手に脱獄されても困るだろ。どうせなら、監視付きで行動させた方がいい。こっちも直ぐに実力行使に出られるし。」とのこと。

こうして、檜山は他のクラスメイトから白い目で見られながら、迷宮攻略に参加することとなったのだ。

正直、本人にはこちらの方が辛いだろう。

仲間だと思われていたクラスメイトから、殺人者を見るような目で見られるのだから。

 

尚、浩介が証拠として提出した、ファイズフォンマークXは魔道具として扱われ、国に献上してほしいとまで言われたが、浩介は「友人からの大切な贈り物だ、譲るわけにはいかない。」と言って拒否した。

更に、「もし盗もうものなら、全員で勇者一行に殺人鬼がいることをバラす」とまで言われ、やむなく断念したとのこと。

 

同時に、南雲ハジメは「無能の皮をかぶった化け物」「ベヒモスを圧倒した異常者」「王様になりたがった狂人」と、聞こえは悪いが十分に恐れられる人物として扱われることとなった。

後にハジメは、「どうしてこうなった…」と嘆いていた模様。




長文失礼いたしました。
ここまで読んでいただき、ありがとうございます。

さて、とうとうハジメ君が奈落へ旅立ちました。
でも、大丈夫。彼、魔王だから。
次回から、魔王の本気で無双が始まります。
こうご期待を!
尚、ハジメさんの二週間の行動については、幕間で語らせていただきます。

そして、勇者一行の仲について。
遠藤くんが何故、ファイズフォンマークXを託されたのか。それは彼が深淵卿だから!
今後のヒロイン'sや仲間たちの行動についても、しっかり描いていきます!

それと、檜山の扱いは終始底辺です。
正直、乗っ取りクソ野郎と同じ位のクズですから。

宜しければ、高評価・コメント宜しくお願い致します。

追記:リースティアさん、あかさたなはまやさん、荒魂マサカドさん、晶彦さん、誤字報告ありがとうございました!


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10.ナラクウィズライダーキング

ドウモ、ハジメマシテ。クローズエボルハザードデス。
今回は記念すべき十話目なので、別作品風タイトルにしてみました。
おのれ、ディケイドォ!

奈落に落ちたハジメさん、彼の運命は如何に!?

それでは、第一章第6話、どうぞ!


一方、奈落に落ちたハジメはというと…

 

ハジメ「不味い!不味い!不味い!死ぬほど不味いZOY!」

周りには凍らせた魔物の死骸、その中心に焚火があり、それを囲むように俺ともう一匹、ウサギのような魔物が肉を食っていた。

 

さて、何でこうなったかというとだ…

 


 

ハジメ「ふぅ、腹は膨れたが、やっぱり不味いな。」

毒もヤバかったし、原作主人公はどうやってこれを食ったのだろうか?

ん?原作主人公ってなんだ?

てか、俺以外に誰かいたっけ?ま、いっか。*1

 

奈落に落ちた俺は、先程食い終わったベヒモスについての感想を述べた。

八重樫雑技団でも、毒物摂取による対毒訓練もやったっちゃあやった。

でも、少量だったからあんまり効かなかった。

なので、あまり毒に対する耐性が付いたとは思っていなかった。

 

それに加えて、この異世界はどうだろう。

魔物の猛毒は自身に対して容赦なく襲い掛かってくる。

訓練用に薄められた毒なんて比べ物にならない。

 

痛みで、体がぐちゃぐちゃにぶっ壊れそうだった。

毒素が全身を駆け巡った時、自分がまだ生きているという、刺激的な実感を味わった。

字面だけでは変態に見えるが、切り替えたのだ。真実と幻想を。

ここはいつ死んでもおかしくない、夢と希望、苦痛と絶望の両方が渦巻く、異世界というファンタジーでありながらも、五感と感覚が実際にある現実なのだ。

 

もちろん、流石にこのままでは死にかねないので、浄化作用を発動した。

ただ、いきなり全部浄化するのでは、毒耐性の訓練にならない。

なので、少しずつ弱める。

それにより、自身を極限まで追い詰め、技能の獲得・成長に繋げなければならない。

全てをオーマジオウの力に頼るということは、先程の下手人に力を奪われたときに対応することが出来ないだろう。

 

あれは檜山の仕業じゃない。

もう一人の誰か、それもおそらく高位のタイムジャッカー。

その人物の狙いはおそらく、自分の抹殺、世界の混乱、そして新しい傀儡の王の擁立。

そんなことは絶対に阻止しなければ。

最高最善の魔王を目指す者として、絶対に看過できない行為である。

 

そんなわけで、少しずつ毒素に慣れていく俺であったが、ベヒモスという巨体を一気に腹に収めたのだ。その分の毒素だって半端ない。

正直本当に死んでもおかしくないレベルであった。

体を極限まで鍛え、精神力を高めていた俺でさえ、ギリギリ耐えきることに成功していたのが奇跡だと言える位のヤバさだった。

その甲斐あってのステータスがこれである。

 


南雲ハジメ 17歳 男 レベル:測定不能

 

天職:錬成師・最高最善の魔王

 

筋力:530000(魔王時:測定不能)

 

体力:370000(魔王:測定不能)

 

耐性:178000(魔王:測定不能)

 

敏捷:490000(魔王:測定不能)

 

魔力:260000(魔王:測定不能)

 

魔耐:162000(魔王:測定不能)

 

技能:

錬成[+鉱物系鑑定][+精密錬成][+鉱物系探査][+鉱物分離][+鉱物融合][+複製錬成][+圧縮錬成][+遠隔錬成][+自動錬成][+構造把握][+イメージ補強力上昇][+消費魔力減少][+並列処理錬成][+整地][+高速錬成]・全属性適性・全属性対応・全属性耐性・複合魔法・縮地・瞬動・先読・予測領域拡大・剛力・金剛・物理耐性・高速魔力回復・気配感知・魔力感知・限界突破・言語理解・抜刀術・剛腕・戦闘続行・早読・未来予知・加減上手・プラスウルトラ・最強王者・無限の成長・地球の記憶・地球の本棚・モーフィングパワー・音撃打・クロックアップ・ワープドライブ(宇宙)・黄金の果実・オールエンジン・無敵化・浄化作用・時間操作・剣術・クロックダウン・ライダーサモン・アイテム操作・ゲームエリア展開・ブラックホール・聖剣創造・コズミックエナジー・無限の思い・七つの大罪・メダルコンボ・魔力操作・毒耐性・赤熱化・危機察知・胃酸強化・恐慌耐性・威圧


 

…正直、もう化け物でもいいんじゃないかなと、人間として疑わしく思い始めている自分がいる。

この前見たステータスでさえ、平均の一万倍とか言う、頭おかしいレベルだったのに、それが全部倍以上って…

しかもオーマジオウになったら、測定不能って、どんだけヤバい力なんだよ!?

怖いわ!俺、もう魔王一択しか道がねぇじゃん!

まぁ、もとよりそれ以外目指す気ないけどさぁ!

 

さて、技能については魔力操作や毒耐性は当然として、ベヒモスの赤熱化まで発現させることが出来たのは嬉しい。

ただ、正直使いづらい。

熱耐性を取得していないせいで、使った後に腕が融解しかけた。

あれ以来、オーマジオウ状態じゃない限り、使用しないと思った。

でも、お風呂を沸かすときには結構便利かもな。水が一気にお湯になってしまうが…

 

まぁ、そんなわけで次なる獲物を探しに言った俺は、適当にその辺を散策していた。

一応、暗い場所にも慣れるよう、目は鍛えていたので、なんとか視認は出来る。

まぁ、近くに河があったおかげで、水分補給という重要な目的は果たせている。

あとは、適度な食事を…?

ふと、気配を感じた俺は、物陰に隠れた。

念のため、錬成で後ろのガードも固める。

 

あ!あれは蹴りウサギ!

早速出てきたのか。ということは…

「グルゥア!」

二尾狼も来たか!後は爪熊だが、さてどこにいるやら。

 

おぉっと!?

ウサギ選手、その場で飛び上がり、くるりと一回転!

回し蹴りが決まりましたァ!

狼選手、ノックダウン!

しかし、ウサギ選手は止まらない!

そのまま回転し、逆さまの状態で天井を踏み込んだ!

そして、これはァ!かかと落としだァ!

狼選手二世、ノックダウン!

 

あぁっと!?

狼三世選手と、狼四世選手による、まさかの不意打ちだァ!

ここで、あぁっと!?

ウサギ選手、ウサミミで逆立ちしたァ!?

そしてまさかの、ブレイクダンスだァ!

ヴォーパルバニーによる、血の竜巻が吹き荒れる!

狼三世選手、狼四世選手、両者ともにノックダウン!

 

そしてラストウルフ選手、ここで雷を纏ったァ!

十八番の固有魔法「纏雷」だァ!

ラストウルフ「グルゥア!」

あぁっと!

ウサギ選手目掛けて、電撃が乱れ飛ぶゥ!

しかし、ウサギ選手はこれを難なく、躱す!躱すゥ!

あぁっと!これはァ!?

電撃の途切れた瞬間を狙った、サマーソルトキックだァ!

ラストウルフ選手、ノックアウトォ!

勝者、蹴りウサギィ!

 

おっと、つい熱くなって実況してしまった。

さて、俺も乱入するか。

そう言って物陰から出た俺は、ウサギに対して構えた。

ウサギも俺に気づいたのか、赤い瞳で俺を捉え、こちらを向いた。

互いに、勝負は一瞬で着く、そう感じていた。

 

そして、同時に踏み出した瞬間、

凄まじい轟音と共に、俺とウサギは激突した。

 

俺は拳を、ウサギは前足を互いに繰り出し、相手の攻撃にぶつけあった。

ドガッ!バキッ!ゲシッ!ガスッ!ガッ!ドゴォ!ズガァ!ズシィン!

激しい戦いの音が洞窟内部に響き渡る。

 

ハジメ「お前、中々やるな!」

ウサギ「ギュゥウ!」(お前もなぁ!)

両者ともに、相手を強者として認めた。

その事実に、楽しそうな表情を浮かべる俺。

しかし、そんな戦いに水を差すように、乱入者が現れたようだ。

 

爪熊「……グルルル。」

チッ、これからがいいところだっていうのに。

ウサギの奴、完全に怯えてやがる。

しょうがねぇなぁ、俺がやるよ。

 

ウサギを庇うように立ちふさがる俺。

それに困惑するウサギ。

そして、俺を忌々しく見つめる熊公。

その空間だけ、時が止まったようだ。

 

そして、どこがで物音が鳴った瞬間…

爪熊「グルァァアア!!」

熊公がこちらに向かって腕を振り下ろした。しかし、

 

ハジメ「……この程度か?」パシッ

爪熊「!?」

その腕を難なく受け止めた俺は、奴の鼻っ面に向けて、

 

ハジメ「ウラァ!」ドゴォ!

爪熊「グルゥゥウウ!?

遠慮なく拳を振り上げ、吹っ飛ばした。

 

ウサギは唖然としており、カウンターを喰らった熊公は、よろよろと起き上がった。

自身の攻撃をいとも簡単に受け止められた挙句、吹っ飛ばされたことに恐怖したのか、熊公は戦闘を躊躇っていた。

しかし次の瞬間、なんと熊公は猛スピードでこちらへ向かってきた。

 

俺には敵わないと悟ったのだろう。

俺よりも弱い、ウサギに迫ろうとする熊公。

だが、それは無理だ。

 

ハジメ「よそ見すんなぁ!」ズパァン!

俺がその速度を利用し、奴の体を一刀両断したからだ。

得物は、ベヒモスから採取した牙を、錬成で扱いやすくした物だ。

それを即座に取り出し、振り抜いたのだ。

勢いよく向かってきた熊公は、そのまま真っ二つになってこと切れた。

 

茫然としているウサギを尻目に、俺は構造把握であるものを探した。

そう、みなさんご存じ"神結晶"である。

早速反応があった場所を、"錬成"によって掘り進める。

すると、バスケットボール位の大きさの青白く発光する鉱石が見つかった。

間違いない、コイツが"神結晶"だ。

 

下にたまった水を、岩で作った水筒に入れた俺は、"神結晶"を「コネクト」でしまった。

もと来た道を戻り、立ち尽くしていたウサギに近寄る。

俺を視認したウサギは、熊公より上位の存在である俺に恐怖したのか、慌てて逃げ出そうとした。

だがしかし、逃がすわけにはいかない。

 

ウサギは何が起こったのかわからないようだな。

実は俺が時を止め、ウサギをこちらに引き寄せただけなのだ。

何が起こったのか全く分からないことに、怯えて動けなくなってしまったウサギを前にした俺は…

 

先程汲んだ水が入った、石の皿を差し出した。

ウサギ「…キュ?」

ハジメ「飲め。

威圧も含んだ言霊を使い、ウサギに水を飲んでもらう。

ウサギは怯えつつも、従わなければ殺されると、本能で理解したのか、指示に従った。

すると…

 

ウサギ「キュ!?」パァァァ

ハジメ「お~、これが"神水"の力かぁ。」

そう、この水こそが"神水"である。

回復アイテムの中でもチート級の飲み物、この世界における霊薬でもある。

そして、これを飲んだウサギは知能が付くはず…

 

ウサギ「キュ、キュウ?」

ハジメ「あぁ、お前へのプレゼントだ。ただし、これを飲んだからには…」

ウサギ「…キュ?」

 

ハジメ「俺のお供になってもらう!どうだ?悪くはないだろう?」

ウサギ「!キュゥウ!」ビシッ!

やったー!とでもいうように、ウサギは前足を上げて喜んでいた。

そうか、仲間になってくれるのか。

良かったぁ~もしダメだったら、別のウサギを探していたぜ…

それじゃあ早速…

 

ハジメ「よし!今日からお前はイナバだ!俺はハジメ!魔王になる男だ!」

イナバ「!キュゥウォオ!!」ビシィッ!

うわぁ、コロンビアのポーズまでやっているなぁ、てか何でコイツこんなにサブカルチャー詳しいの?

 

イナバ「(王様、今時から宜しくお願いいたしやす!)」

ハジメ(!?こ、こいつ、直接脳内に!?)

よく見ると、俺の技能にも念話があった。

さっき、神水を飲んだおかげか、よりパワーアップした模様だな。

…いや、それでもコイツも念話使えるの、おかしくねぇ!?

 

まぁ、多少のイレギュラーはあったものの、イナバという心強い仲間を手に入れた俺は、先へ進むことにした。

道中でも、大量の魔物に出会った。

ある時は二尾狼、ある時は石化魔法を使ってくる蜥蜴、ある時は羽を弾丸のように飛ばしてくる梟、六本足の猫に、タールの中からやってくる鮫…

毒の痰を吐き出してくる2mの虹ガエル、麻痺の鱗粉を撒き散らす蛾、巨大なムカデと何でもござれだった。

 

ただ、トレントの赤い木の実はおいしかったので、一番最後に残し、神水をあげて仲間にしようとしたが、パワーアップしたからか、逆に攻撃してきた。

とりあえず一刀両断して、種だけ回収した。

悲しそうな顔をする俺を慰めようと、イナバが頭をなでてきた。

優しさが辛い…

 


 

そして、現在に至る。

せっかく進んだのだ、この先に備えて腹ごしらえをすることにした。

ただ焼くだけでは物足りないので、"錬成"で作った調理器具や滝から汲んだ水で、蒸し焼きや鍋にしてみて食ってみた。

が、所詮は魔物肉。不味いものは不味い。

 

イナバは嫌そうな顔一つせずに食っていたが、ホントすげぇな。

でもまぁ、奈落だからかな?

いつ死ぬかわからない世界なんだ、食い物にだって困るかもしれない。

そんなこともあるのだろう、正直選り好みは出来ない。

そう考えると、俺もまだまだだなと実感した。

*1

(この時、ハジメの精神はオリジナル、つまり転生して憑依する前の魂、原作通りのハジメの魂、オーマジオウとしての魂が混ざり合い、全く別の新しい魂として成り立っていることに、ハジメ本人は全く気付いていない。

それもそうだろう。

彼は、南雲ハジメであり、オーマジオウでもある。

それが彼にとっての、自身の情報であったからだ。)




ここまで読んでいただき、ありがとうございました。

ここでまさかのイナバさんが登場!
(知らないお方は、小説11巻とweb版をチェック!)

そして悲報、ハジメさん、人間をやめた模様。

さて、そろそろメインヒロインの一人目とのご対面です!
この後に地上編を挟むのでその次になる予定です。
乞うご期待を!

宜しければ、高評価・コメント宜しくお願い致します。


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11.驚愕!女神との会合!

お待たせいたしました。
今回は地上組のお話。
第三人称からの開始です。
そしてなんと、前日譚で登場したあのキャラが登場します!

彼女から話を聞いた少年少女たちは、何を思うのか。
第一章第七話、それでは、どうぞ。


ハジメが奈落に落ちてから数日…

 

ハイリヒ王国王宮内、召喚者達に与えられた部屋の一室で、5人の男女が話し合っていた。

 

クラスのマドンナ、白崎香織。

皆のオカン兼姉、八重樫雫。

ハジメの妹、南雲恵理。

ハジメの大親友、清水幸利。

そして、影の薄い暗殺者、遠藤浩介である。

 

雫「そう、ハジメくんがそう言っていたの…。」

浩介「…あぁ。あいつ、珍しくマジな表情だったからさ。一目見て、ヤバいことを掴んだんじゃないかって。」

恵理「ねぇ、その携帯には何か手掛かりはない?」

浩介「いくつかはあった。ただ、場所を示すものばかりだったな。」

トシ「ってことはだ、そこに手がかりがあるってことか。」

香織「ハジメくん…そこまで、考えていたんだ…」

 

浩介は、以前部屋に集まっていた面子を秘密裏に集め、ハジメから事前に話されていたことを打ち明けた。

正直、最初は信じられなかったが、ハジメはこの状況に対する違和感に真っ先に反応しており、時には光輝に頼みながらも、状況の改善を図ろうとしていた。

 

また、メルドからもハジメの話について聞いており、彼が戦闘訓練に参加しなかった本当の理由を教えてもらった。

その理由とは、彼が無能だったからではない、彼が強すぎたからなのだ。

近接戦なら間違いなく、人間相手に勝てる者はいないだろう。

その証拠に、ロックマウントやベヒモスといった魔物をいとも簡単に圧倒して見せた。

 

また、魔法についても詳しく、個人的な用事の合間にも、各々の魔法についてもアドバイスを受け付けており、それによって魔法技術が上昇した者もいた。

本人に関しても、あらゆる属性の魔法を使い、お手玉を披露して見せたくらいなのだ。

治癒魔法だって使える彼のその才能には、何か恐怖を感じる者もいたほどだ。

 

しかし、ハジメはその力を決して私利私欲のために利用してはいなかった。

(本人は私欲たっぷりのつもりだったが)

むしろ他者を助け、手を差し伸べる程の聖人っぷりまで見せているのだ。

ハジメが密かに成した偉業だって、その秘密を知りたがる者までいる程だ。

 

だが、そのハジメがいなくなってしまったのだ。

既に大半が死んでしまったと思い込んでおり、原因である檜山に嫌悪の視線を向けている。

それ以外の少数は、きっとまだ生きている、と信じている者達だ。

香織達もそのグループである。

 

あの日、迷宮で死闘と喪失を味わった日から既に5日が過ぎた。

あの後、宿場町ホルアドで一泊し、早朝には高速馬車に乗って一行は王国へと戻った。

とても迷宮内で実戦訓練を続行できる雰囲気ではなかったし、無能扱いしていたとはいえ勇者の同胞が死んだ以上、国王にも教会にも報告は必要だった。

 

それに厳しくはあるが、こんな所で折れてしまっては困るという騎士団側の意図もあった。

致命的な障害が発生する前に、勇者一行のケアが必要だと判断されたのだ。

 

王国への帰還を果たし、ハジメの死亡が伝えられた時、王国側の人間は誰もが愕然とした。

何せハジメの優秀さは、メルドや宮廷魔術師、使用人やコック、果ては一部の貴族やリリアーナにまで称賛されていたのだから。

 

だが、錬成師という戦えない生産系職業に対する意識は低く、やれ「落ちたのは仕方がない」だの、「優秀なくせに使えない」だの、「神の使徒でありながら簡単に死ぬなんて、とんだ無能だ。」などと、言いたい放題に言っていた。

 

が、それを聞いて真っ先に飛び出した光輝や、ハジメの努力を良く知っている香織達が激しく怒り、罵った人物に対して抗議した上、勇者一行の中に犯人がいたことを攻めようとしない無能さをついて、一触即発の状態にまで陥ってしまったのだ。

 

流石に、悪い印象を持たれるのはマズいと思った王国側も、罵った人物達に処分を下し、ハジメに対するイメージ改善を図った上、主犯の檜山に対する判決を有罪とした。

最も、敢えて無罪にすることこそ罰になる、というトシの妙案によって、それも変更されるのだが。

 

そして現在、ハジメの部屋に再び集合した香織達。

彼の荷物は自分たちが整理しておく、と使用人たちに伝えた彼らは、早速捜索を開始した。

すると…

 

恵理「!これ見て!」

トシ「どうした!?」

ベッドの下に張り付けてあった紙に、こう書いてあった。

 

今日

 回帰

 煮出汁」

 

雫「これって…」

浩介「なにかの暗号か?」

香織「…!これもそうかも!」

そういって香織が広げた紙には、こう書いてあった。

 

起床

 汚名

 津々浦々」

 

香織「引き出しの裏にあったの!これも同じかな?」

恵理「…共通点は、なさそう。」

トシ「これも併せて読んでみるか。」

そういって幸利が取り出した紙には、こう書いてあった。

 

経由

 濾過

 

 ハ↓

 ジ

 メ 」

 

トシ「アイツ、椅子の裏にまで張り付けていたよ…いつの間に…」

雫「これ、縦に読むのかしら?」

浩介「えぇ~と、きょう、かい、に、き、お、つ、けい、ろく?なんだこれ?」

試しに浩介が読んでみた。すると、

 

恵理「!教会!教会だよ!」

香織「えぇ!?分かったの⁉」

恵理「うん、兄さんはきっと、教会に何か裏があるって感づいたんだよ。」

 

トシ「なるほどな、確かに胡散臭いもんな。あの爺さんとか。」

雫「えぇ、でも気を付けた方がいいわ。どこかで聞いているかもしれないのだから。」

浩介「どうやら、それだけじゃないみたいだぜ。」

雫「!?」

 

そう言って、浩介が引き出しを開けると、こんな紙が入っていた。

『時間がないので、端的に述べる。

俺はしばらく単独行動をする。

皆といれば、教会のジジィ共が嗅ぎつけてくるに違いない。

俺に緊急の連絡がある場合、555でダイヤルをかけてくれ。

幸運を祈る ハジメ』

 

浩介「ハジメは最初から、一人で調べ物をした方が気づかれない、と考えたんだろう。それに、番号まで残しているってことはだ。」

香織「ハジメ君は、無事ってこと?」

浩介「おそらくな。にしてもアイツ、他にも隠していそうだな。」

恵理「ねぇ、浩介。どうやってそれを?」

恵理は、浩介が手紙を見つけたことを不思議に思って聞いてみると、

 

浩介「さっきのと同じだよ。これ全部、上から読んだ場所に隠している。」

トシ「!ってことは、次は、しょう、めい、つ?」

雫「分かったわ!きっと、照明裏よ!」

そういって照明裏から見つかった手紙を見ると、

 

『この前、がっぽり稼いだと言ったな。あれは嘘だ。

全部ギャンブルで使ってしまったよ。

まさか、相手がイカサマしてくるなんて…

愛ちゃん先生に、醬油を作ってくれるよう、伝えてくれ。

世の中回るは飯と金だからな。

繁盛を祈る ハジメ』

 

香織「フフッ、照れくさくて嘘ついてる。」

恵理「兄さん、醤油で荒稼ぎって…」

浩介「その内、サウスクラウド商会って名前で店出しているかもな。」

雫「あ~、やりそうよね。彼、ああ見えて博識だし。」

トシ「なんでも、王様に必要な知識全部を一気に詰め込んだとか…ホントすげぇわ、アイツ。」

そう言いながら、彼の生存が現実的に感じられてきた一行。

最後の手紙に着いても見てみると…

 

トシ「最後のは…ゆ、か、だけか?」

恵理「床って言っても、一体どこの…?」

と最後の場所を探そうとすると、

 

香織「ここだよ!」ガララッ!

香織がまさかの隠し扉を見つけていた。

雫「!?何で!?」

香織「え?だって普通に、床、下、じゃないの?」

浩介「あの矢印かぁ!」

早速最後の手紙を見ると…

 

『今朝、見た夢をここに書き記す。

奈落の結晶、谷底の鉄人、火山の蛇、海の暴食、山の人形、大樹の虫、雪原の龍。

これらを見ている間、とある声が聞こえてきた。』

香織「声?」

 

『声は言った。「全ての試練を踏破したその先に、大いなる願いの道は開かれる。同時に、神代に終末の楔を打つ者とならん。」』

恵理「大いなる、願い…」

トシ「神代に…終末の楔ィ?」

 

『「邪なる者討ち果たせし時、世界に平穏が訪れん。自由の先導者、或いは彼らが残せし場所を探せ。」と。』

雫「邪なる者?これが黒幕ってことかしら?」

浩介「自由の…先導者?」

 

『これはおそらく、俺達チート軍団に向けた挑戦状だろう。だから俺はそこを辿る。

もし、お前たちが俺を追うならば、知識の宝物庫を辿れ。その中に答えがある。

これらの手紙は読んだ後、直ぐに焼却してくれ。頼んだぞ、みんな。 ハジメ』

 

香織「知識の宝物庫…きっと、図書館だよ!ハジメくん、図書館で何かを見つけたんだ!」

雫「落ち着きなさい、香織。でも意外ね、まさか身近なところに答えがあるなんて。」

恵理「でも、なんでこの手紙を燃やすのかな?見られちゃマズいのは分かるけど…」

トシ「盗まれるって可能性もあり得るな。しかし、奈落ねぇ…」

浩介「!まさかアイツ、わざと落っこちたっていうのか!?」

???「それはないわ。あれは別の誰かの妨害によるものよ。」

恵理「そうだよ!きっと、誰かがあのクズに加担したんだよ!」

トシ「なるほどな、たしかにその可能性はある。」

浩介「候補としては、奴と一緒にいた三人だな。」

雫「そうね、もしかしたら、しらを切っていた可能性だって…」

香織「一体、誰がハジメ君を…」

そこまで言って、全員違う誰かの声を聞いて、ギギギと振り返った。

 

???「あら、ごめんなさい。お気になさらず。」カチャ

そこには、呑気に紅茶もどきを飲んでいる見知らぬ女性がいた。

雫「!?だ、誰!?」

敵襲と判断した全員が、咄嗟に戦闘態勢に入ろうとするが、

 

???「シッ!騒がないの。私が結界張っているから、教会の犬や犯人たちに盗み聞きされなくて済んでいるんだから。」

そういって、自分には戦闘意思はないと両手を広げる謎の女性。

浩介「そ、そんな証拠…」

???「そうね、証明するには術を解かなくてはいけないわね。」

こちらから手を出すわけにもいかず、かといってこのままにも出来ない状況の中、恵理が切り出した。

 

恵理「…兄さんを、知っているの?」

トシ「!?恵理!?」

???「…そうね、自己紹介が遅れたわ。

私はミライ、魔王に妻として仕えるために、ここにやってきた女神よ。」

香織「め、女神様!?」

 

まさか相手が女神様とは思わず、敵意を持ってしまったことに焦りを感じるが、ミライ本人はいたって気にしていない様子で言った。

ミライ「そう気を張り詰めないで。出来れば、フレンドリーにしてもらいたいなぁ~って、私は思うの。」

雫「ふ、フレンドリー?」

ミライ「そうねぇ…あ!コイバナはどう?さっきのハジメ君って人との思い出とか聞きたいわ!」

香織「えぇ!?ちょっ、いきなりですか!?」

 

なんというか、本当に敵なのかわからなさそうな感じの女性であった。

浩介「えぇっと、ミライさんは「ミライちゃん。」…ミライちゃんは、何が目的なんですか?」

ミライ「言ったはずよ。私は魔王に仕える女と。だから…」

そういって香織を見つめる。

香織「?私が何か?」

 

ミライ「ちょぉ~っと、お邪魔しまぁーす!」ニュルン

彼女の中に幽霊のように入り込んだ。

「「「「「えぇっ!?」」」」」

ミライ「わぁっ、凄いわ、あなたの深層世界!あの人の写真でいっぱいじゃない!」

香織「ちょっ、ちょっと!何を勝手に…」

焦る香織、しかし、浩介はある言葉が気になった。

 

浩介「ん?あの人?白崎さんの好きな奴って言ったら…」

ミライ「!そう、彼が…。」

ミライはそれを聞くと、黙り込んでしまった。

 

恵理「えぇっと、ミライちゃんは、兄さんを知っているの?」

ミライ「……いいえ、彼とは面識すらないわ。でも…」

トシ「でも?」

 

ミライ「あの顔は…私が仕えた王様に、瓜二つなの。」

「「「「「!?」」」」」

ミライ「私、決めたわ。私は彼に、南雲ハジメに仕えるわ。それも、一人の女として。」

「「「「「!?!?!?」」」」」

次々と衝撃発言をするミライ。驚きのあまり、固まってしまう一行。

 

ミライ「その上でお願いがあるわ。彼を、南雲ハジメくんを、助けてあげて。お願いします!」

そう言って頭を下げるミライ。それを見た香織が、彼女に近づきながら言った。

香織「…言われなくても、分かってます。」

ミライ「!」

 

香織「でも!ハジメくんはただ守ってもらうのは性に合わないって言ってました。だからお願いがあります。」

ミライ「!?な、何?」

お願いした方からお願いが来るとは思っていなかったミライは、驚きながらも内容を聞いた。

香織「私たちを、鍛えて貰えませんか?」

雫「!?ちょっ、香織!?」

ミライ「!それは構わないわ。あなた達は彼にとって大切な存在だもの。いきなり死んでしまっては困ります。」

トシ「いいのか?」

ミライ「えぇ。ただし、私が鍛えられるのは精神世界の中だけよ。それ以外は、敵の目も合って出来ないわ。」

恵理「?どういうこと?」

ミライ「要するに、あなた達が全員寝ている間じゃないと、修行を付けられないってこと。」

浩介「ってことは、夢の中で修行するってことですか?」

ミライ「えぇ、それとそろそろ敬語はやめてほしいわ。私のことも呼び捨てでいいから。」

香織「は…うん!分かったよ、ミライちゃん!」

困惑しつつも、ミライに修行を付けて貰うことにした一同であった。

 

ミライ「それじゃあ早速、敵の目を欺くためにも、誰かの深層世界に入らせてもらいまーす!」

雫「!?ふ、普通に香織深層世界のでいいんじゃないかしら!?」

ミライ「ふっふっふっ、よいではないかー!」ニュルン

雫「ちょっ!?や、やめてぇー!」

ミライ「!?い、意外に乙女チック!?しかも、ハジメくんの写真もいっぱいあるし!」

雫「イヤァー!?」

香織「し、雫ちゃん落ち着いてぇ!」

雫「殺してぇー!いっそのこと、殺してよぉー!」ブンブンッ!

恵理「え~と…そうだ!誰か来る前に、手紙を早く燃やさないと!」ボオッ!

香織「ちょっ、恵理ちゃん!?」

その後なんとかミライを説得し、香織の深層世界に押し込めた雫であった。

 

トシ「…ハジメも十分、罪な男だよなぁ…」

浩介「アイツ、将来干からびるかも知れないなぁ…」

親友はおそらく、ミイラになって帰ってくるんじゃないかと、気が気でない男二人であった。

 

しかし、その数日後…

恵理「え!?先生についていく!?」

トシ「あぁ、急で悪いが、さっき話を聞いてな…。俺は良いから、修行は皆で進めてくれ。」

なんと、幸利は愛子の護衛として、旅立つことを決意したのだ。

 

ミライ「あなたがそう決めたなら、私は何も言わないわ。」

トシ「そうか。悪いな、もしかしたら、護衛先でハジメに会えるんじゃないかって思ったらさ…」

香織「!そ、そうだよね!それなら仕方ないね!」

雫「香織…あなたねぇ…。」

浩介「まぁ、確かにその可能性は高いかもな。トシ、頼んだぞ。」

トシ「おう、任せとけ!ミライも良かったら、何か…」

ミライ「私はいいわ。ただ、これだけは伝えておいて。」

真剣な表情で、ミライは言った。

 

ミライ「奴らが、動き出したと。」

トシ「奴ら?まぁいい。しっかり伝えておくよ。それと浩介、今俺以外に男子はお前だけなんだ。しっかり守れよ。」

浩介「オイオイ、そりゃあ光輝とかの役目だろうに。まぁ、出来るだけやるさ。」

その後は軽く談笑しながらも、残りの時間を過ごしていった。

 

そして数日後、トシ含む愛子とその護衛を乗せた馬車が、早朝に王都を旅立ったのであった。




ここまで読んでいただき、ありがとうございます。

まさかの再登場を果たしたミライちゃん。
なんと、素直になれないサムライガールの秘密を暴露しちゃいました。
香織は彼女の気持ちにも気が付いており、一緒になら貰われても大丈夫と思っている模様。
ハジメさん、将来は夜の生活で苦労する模様。

さぁて、次回はとうとうあのキャラの登場です!
彼女との出会いは一体どうなるのでしょうか!?
待て次回!

宜しければ、高評価・コメント宜しくお願い致します!

追記:晶彦さん、誤字報告ありがとうございました!


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12.封印のヴァンパイアプリンセス

お待たせいたしました。
遂にメインヒロインの一人が登場します!

そしてラストには、次回の伏線が!
今回は次回予告もつきます!

怒涛の第一章第8話、どうぞ!


ハジメ「さて、大分深くまでやってきたものだなぁ。」

イナバを伴い、先を急ぐ俺。

そして先程の魔物どもを食った結果がこちら。

 


南雲ハジメ 17歳 男 レベル:測定不能

 

天職:錬成師・最高最善の魔王

 

筋力:555000(魔王時:測定不能)

 

体力:380000(魔王:測定不能)

 

耐性:300000(魔王:測定不能)

 

敏捷:500000(魔王:測定不能)

 

魔力:280000(魔王:測定不能)

 

魔耐:200000(魔王:測定不能)

 

技能:

錬成[+鉱物系鑑定][+精密錬成][+鉱物系探査][+鉱物分離][+鉱物融合][+複製錬成][+圧縮錬成][+遠隔錬成][+自動錬成][+構造把握][+イメージ補強力上昇][+消費魔力減少][+並列処理錬成][+整地][+高速錬成]・全属性適性・全属性対応・全属性耐性・複合魔法・縮地・瞬動・先読・予測領域拡大・剛力・金剛・物理耐性・高速魔力回復・気配感知・魔力感知・限界突破・言語理解・抜刀術・剛腕・戦闘続行・早読・未来予知・加減上手・プラスウルトラ・最強王者・無限の成長・地球の記憶・地球の本棚・モーフィングパワー・音撃打・クロックアップ・ワープドライブ(宇宙)・黄金の果実・オールエンジン・無敵化・浄化作用・時間操作・剣術・クロックダウン・ライダーサモン・アイテム操作・ゲームエリア展開・ブラックホール・聖剣創造・コズミックエナジー・無限の思い・七つの大罪・メダルコンボ・魔力操作・毒耐性・赤熱化・危機察知・胃酸強化・恐慌耐性・威圧・天歩[+空力][+豪脚]・風爪・夜目・遠見・麻痺耐性・石化耐性・念話・纏雷


 

因みに、天歩は別のウサギを食って手に入れた。

言っておくが、仕留めたのは俺じゃない。イナバだ。

アイツ、「同門のよしみで見逃してやってくだせぇ!」ってお願いしておきながら、相手が攻撃をしてきたら、即「死ねぇー!」って言って、撲殺しに行ったし…

食う時視線に困らなかったことが、唯一の良かったところかな。

 

もちろん、ただ食っていただけじゃない。

構造把握で貴重な鉱石を取ることにも成功したのだ。

道中においても、凄い発見ばかりだった。

 

まず、緑光石。こいつは照明としてだけでなく、閃光玉代わりにもなる。

イナバに試しに使わせてみたら、石つぶてで割るという芸当をやってのけた。

コイツはまぁ、いざというとき以外はライト変わりだな。

取り扱い注意、と。

 

次に、燃焼石。火薬代わりにもなる、貴重なアイテム。

まぁ、遠距離武器は一応あるんだけどね。

それでもやっぱり、作ってみたいちゃあ作ってみたい。

そんなわけで作ってみました。ドンナーが出来ました。

 

更に、タウル鉱石という鉱石も見つけ、創作の拡張性もだんだん上がっていった。

フラム鉱石も上手く活用できれば、強力なダイナマイトが出来上がりそう。

 

そして、今俺達の目の前には、如何にも何かありますというデカい扉があった。

とりあえず、横の石像は破壊しておくか。

そういって早速近づくと、いつも通り「コネクト」で武器を取り出した。

 

そう、実は「コネクト」でライダーの武器を取り出せるのだ。

遠距離はペガサスボウガンやトリガーマグナム、中距離はガシャコンキースラッシャーやフルボトルバスター、近距離は刃王剣十聖刃やオストデルハンマーで対処していた。

 

今回取り出したのは、破壊力抜群のドッガハンマー。

これを一気に振りぬいて!

ハジメ「オラァア!」ドッガァーン!

同化していた壁ごと粉砕してやった。

よし、まずは一つ!

 

その時、片方がやられたことを察知したもう片方の巨人が動いたが…遅いんだよなぁ。

ハジメ「あらよっと。」プットッティラ~ノヒッサァ~ツ!

メダガブリューのストレインドゥームで、一気に肉塊に変えてやった。

 

さてと、今の奴の魔石と、イナバが代わりに取って来てくれた魔石をはめてと!

あ、ついでにブラックホールでサイクロプスの肉取り込んでおいてと。

一応、イナバ用に残しておくか。

 

パァァァ

ッ!?び、びっくりしたぁ!

と、とりあえず、開けるか。

肉を回収し終えた俺は、早速扉を開け放った。

 

中はまるでこの前の大聖堂みたいだった。

そして部屋の中央には巨大な立方体があり、そこに何かが生えていた。

俺はその物体に早速近づいた。すると…

 

???「……誰?」

掠れて弱弱しい、女の子の声が聞こえた。

そして、"生えていた何か"がユラユラ動き出した。

その正体は女の子だった。

首辺りから下と両手を埋めたまま顔を出しており、長い金髪が垂れ下がっていた。

そして、その髪の隙間から低高度の月を思わせる紅色の瞳が覗いている。

その目を見た時、確信した。

この子は、助けを求めている、と。

 

???「誰か……いるの?」

ずっとこの空間で独りぼっちだったのだろう。

随分やつれている上、よく見ると体が震えている。

助けねば、たとえ罠であろうとも助けねばならない。

そう、自分の中で何かが叫んだ。

 

ハジメ「俺は南雲ハジメ。アンタの敵じゃない。だから…」

???「……けて」

ハジメ「!」

???「助けて…!」

瞬間、俺は立方体に手を触れた。

 

ハジメ「待ってろ、今助けてやる!」

???「!?うん!」

俺は少女を安心させるために声をかけると、即座に錬成を始めた。

 

ッ!抵抗が強い!でも…

 

ハジメ「負ぁけぇるぅかぁー!」バチバチバチィ!

 

俺の前に立つのなら…!

 

ハジメ「ウォラァァァアアア!!」ビリビリビリィ!!

 

全力を持って…!

 

ハジメ「いけぇえええ!!!」ズァァァアアア!!!

 

叩き潰す!

 

俺はより多くの魔力を放出し、立方体を融解させた。

そして、囚われていた少女も解放された。

 

ハジメ「ハァッ…ハァッ…ざまぁ、みやがれ…!」

俺は忌々しそうに立方体を見つめ、その残骸を右足で粉砕した。

 

っと!いけねぇ、少女の介抱が先か。

そう思って振り向くと、裸体の少女が…

ハジメ「ッ!」

俺は即座に羽織っていた上着を、少女にそっとかぶせた。

かける時に上を向いていたからきっとセー…

???「ハジメのエッチ。」

…ちゃうねん。はぁ、まぁいいや。

 

???「でも…」

?

俺が困惑していると、少女は俺の手を握って、震える声で小さく、しかしはっきりと告げた。

 

???「ありがとう。」

 

ッ!ああもう!何でこうも儚げなの、この子は!

ハジメ「き、気にすんな!俺がやりたいって思ってやったことだ、別にこの程度どうってことねぇ!」

…荒い息吐いておいて、何言っとるんだコイツは。

格好がつかない状態で、見栄張って気障なセリフを吐いた自分に、変人を見るような感想を述べる俺。

そんな俺に気づかずに、少女は近寄って抱き着いた。

???「ん~!」ヒシッ!

…何このかわいい生き物。

そんな少女を可愛がろうとしたその時…イナバが念話で知らせてきた。

 

イナバ「(王様ァ!上から来ます!気ぃつけてぇ!)」

………ぶっ潰すか。

そう思って、右手にマグマナックルを装着した俺は、少女を左手で大事に抱えて、

 

ハジメ「ウォラァア!!ボルケニックナッコー!

思いっきり真上に飛び、上方向に右腕を振りぬいた。

その時に、剛力、剛腕、エナジーアイテム「マッスル化」を一気に使った。

その瞬間、マグマの龍が上に向かって飛び、上から降ってきた魔物を一直線にぶち抜いた。

某2D格闘対戦ゲームの技みたいだった。

 

降ってきたサソリもどきの魔物は、顔面にまで風穴を開けられたせいか、そのままこと切れていた。

まぁ、このまま下敷きになるのは嫌なので、即座に時を止めて少女を抱えながら、その射線上から脱出した俺であった。

……とりあえず、茫然としているユエを何とかするか。

 

さて、邪魔者もいなくなったことだ、状況確認といこう。

ハジメ「ところで、君、名前は?」

???「……名前、付けて。」

ハジメ「?何か明かせない理由でもあるのか?」

???「うぅん、もう、前の名前は要らない。……ハジメの付けた名前がいい。」

ハジメ「……簡単に言ってくれるなぁ、まぁ、今決まったけど。」

???「ん、教えて。」

あ~ヤバい、俺、もしかしなくてもロリコン気質があるのかもしれん。

とりあえず、気を取り直して、と。

 

ハジメ「ユエって名前はどう?俺の世界にあった国の言語で、月を表す言葉なんだけどね。最初、君を見た時、その金髪や紅い眼が月みたいだったことからつけてみたけど…どうかな?」

正直、自分で言っておいてなんだが、ネーミングセンスの無さに絶望しかけている。

後、何でか名前を考えようとした瞬間、その名前が最初に浮かんだんだよなぁ。何でだろ?

 

???「……んっ。私、今日からユエ!ありがとう。」

ハジメ「おう、気に入ってもらえたなら何よりだ。」

さて、後はサソリの素材を回収し…?

ユエ「?ハジメ?」

ハジメ「ユエ、ちょっとそこからどいてくれ。下に気になる反応があってな。」

そういうと俺は、ユエが封印されていた場所を調べた。すると、

ハジメ「?何かが埋まっているな。それに、ペンダントらしきものをはめるような穴もある。」

コイツぁ一体なんだ?とりあえず、下からも確認してみよう。

そう考えた俺は、錬成で下に掘って前の部分を調べると、何か柱のようなものがあった。

 

中に何かが入っている。おそらく、ユエ関連の何かだろう。

早速、ディメンションキャブで取り出しを試みた。

すると、

ハジメ「?なんだこれ?」

ピンボール位の大きさの鉱石を手に入れた。

これが何かは分からんが、一度上に戻って検証してみるか。

そう考えた俺は、心配するユエが待つ上へと昇った。

これが、ユエにとっての大切なものであったとは知らずに。




ここまで読んでいただき、ありがとうございます!

ハジメさんの敵対者に対する容赦のなさ、これはある意味原作通りですねぇ。
そしてそれに感化されたのか、イナバさんも容赦なし。

遂にユエさん登場、原作とは違う形でハジメさんメロメロ。
ユエさんもハジメさんにメロメロ。
相思相愛~

さて次回は、ユエさんの秘密と下にあった鉱石の真実について。
因みにあと2,3回で、ハジメさんに異変が!?
詳しくは今後のお楽しみ。

宜しければ、高評価・コメント宜しくお願い致します。

追記:晶彦さん、誤字報告ありがとうございました!

次回

ユエ「…おじ、さま?」
隠された叔父のメッセージ!

???『君を取り巻く世界のすべてが、幸せでありますように。』
真実の愛と悲しみの涙!

ハジメ「俺の気に入らねェもんは全部、敵だ!」
怒れる魔王は、決意する!

ウェイクアップ!運命(さだめ)の鎖を、解き放て!


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13.ラブソング/真実の愛と憤怒の王

お待たせいたしました。
今回はユエの過去に触れるお話です。
叔父の真実の愛に気づき、ユエが涙を流す時、
邪神の所業に、ハジメが怒りを爆発させる!

大波乱の第一章第9話、それでは、どうぞ!


早速、拾った鉱石を調べてみることにした俺だったが、ふと気になったので聞いてみることにした。

ハジメ「そういえばユエ、良かったら教えてくれないか?君が何者なのか、それにどうしてここに封印されていたのかを。言いたくないなら、構わないが…」

ユエ「ん、大丈夫。」

そう言って、ユエは話し始めた。

 

ユエ「私は、先祖返りの吸血鬼。」

ハジメ「!?」

マジか、こんな可愛い吸血鬼がいるのかよ。

そういえば、吸血鬼族は三百年前に滅んだはずだが…

まぁ、いいか。

 

ユエ「十二歳の頃に"先祖返り"で力に目覚めて……その時からずっとこの姿。」

ハジメ「この世界にもあるんだ、"先祖返り"。」

ユエ「十七歳の時には吸血鬼族の王位に就いてた。」

ハジメ「マジか…凄いな、ユエ。」

しかし、ユエの表情は暗かった。

 

ユエ「…でも、二十三歳のある日、突然叔父様が王位に就くことになって、私は化け物として処刑されることになった。」

ハジメ「!?処刑!?なんでだよ!?」

ユエ「家臣の皆が、お前はもう必要ないって……叔父様……これからは自分が王だって……。」

ハジメ「……もういい、ユエ。これ以上は、君が辛くなる。」

しかし、ユエは続けた。

 

ユエ「私、それでもよかった。でも、凄い力があるから危険だって……」

ハジメ「もういいって!」

ユエ「……殺せないから、封印するって。」

ハジメ「……そうか、辛かったな。」

そう言って頭をなでるが、少しひっかっかった。

 

ハジメ「ん?死なないってどういうことだ?真祖か何かか?」

ユエ「真祖?」

ハジメ「俺の世界では、吸血鬼は真祖と死徒の二種類いる。

日の光や聖水、十字架やニンニクに弱いのが死徒、それらが全く効かず、ほぼ不死身なのが真祖だ。」

ユエ「私、どっちでもない。」

ハジメ「……そうか。」

ユエ「でも、私は特別。」

ハジメ「?そりゃ、どういうことだ?」

ユエ「"再生"で勝手に治る。怪我してもすぐ治るし、首を落とされてもそのうち治る。」

ハジメ「……マジか。」

うん、コイツもある意味チートじゃねぇか。

 

ユエ「他にも、魔力を直接操れるし、魔法も全属性に適性があって、詠唱や魔法陣なしで使える。」

ハジメ「魔法使いとしてスゲェ有能じゃねぇか!?まぁ、俺も同じだけどさぁ!」

ユエ「!?は、ハジメも!?」

ハジメ「おう、だけど基本、拳や武器使っているから、魔法は任せるぜ。何事も適材適所ってのがあるし。」

ユエ「んっ、わかった。」

妙に嬉しそうだなぁ。

にしても、コイツを敵に回すとか、当時の王って奴ぁどうかしてんじゃねぇのか。

っと、いけねぇ。この鉱石を早速調べるか。

 

ハジメ「?コイツぁ、映像記録用のアーティファクトっぽいな?心当たりはないか?」

ユエに聞いてみるが、知らないと首を横に振る。

ハジメ「う~ん、とりあえず、魔力流してみるか?」

そういって、魔力を流してみると…

 

緑光が部屋中を照らし、宵闇色交じりの黄金の光で土塗された。

そして、映像が再生されたのか、人のようなものが映し出された。

すると、ユエが驚いたように目を見開き、茫然としていた。

ユエ「…おじ、さま?」

ハジメ「!?」

叔父様って…たしか、ユエを封印したっていう…!

 

映し出されたのは、初老位の金髪紅眼の美丈夫だった。

すると、映像の人物はゆっくりと話し始めた。

 

『…アレーティア。久しい、というのは少し違うかな。

君は、きっと私を恨んでいるだろうから。いや、恨むなんて言葉では足りないだろう。私のしたことは…あぁ、違う。こんなことを言いたかったわけじゃない。

色々考えてきたというのに、いざ遺言を残すとなると上手く話せない。』

…アレーティア、それがユエの過去の名前か。

それにしてもこのおっさん、ユエにしたことを謝りに来たのか?

だとしても、ユエがそれを知らないのは一体…

 

『そうだ。まずは礼を言おう。…アレーティア。きっと、今、君の傍には、君が心から信頼する誰かがいるはずだ。少なくとも、変成魔法を手に入れることができ、真のオルクスに挑める強者であって、私の用意したガーディアンから君を見捨てず救い出した者が。』

あのガーディアンはこのおっさんが作ったのか…

それにしても、変成魔法や真のオルクスって、何だ?

 

『…君。私の愛しい姪に寄りそう君よ。君は男性かな?それとも女性だろうか?

アレーティアにとって、どんな存在なのだろう?恋人だろうか?

親友だろうか?あるいは家族だったり、何かの仲間だったりするのだろうか?

直接会って礼を言えないことは申し訳ないが、どうか言わせて欲しい。

…ありがとう。その子を救ってくれて、寄り添ってくれて、ありがとう。

私の生涯で最大の感謝を捧げる。』

!?最初から、誰かがユエを助けることを見抜いたうえで、こいつを隠していたのか!?

それにしても、なぜ感謝?邪魔だと思っていたはずなのに?

そんな俺の疑問の答えを、映像の人物は語り始めた。

 

『アレーティア。君の胸中は疑問であふれているのだろう。

それとも、もう真実を知っているのだろうか。

私が何故、あの日、君を傷つけ、あの暗闇の底へ沈めたのか。

君がどういう存在で、真の敵が誰なのか。』

そこから語られたのは、衝撃的な真実だった。

 

なんと、ユエは神子と呼ばれる存在として生まれ、あの"エヒト"に狙われていたのだと言う。

それに気が付いたユエの叔父が、欲に眼の眩んだ自分のクーデターにより、アレーティアを殺したと見せかけて奈落に封印し、あの部屋自体を神をも欺く隠蔽空間としたとのことだった。

そして、ユエの封印も、僅かにも気配を掴ませないための苦渋の選択であったのだ。

 

証拠になるものなんて何もなかったが、俺は忌々しい奴の名を聞き、体中に虫唾が走った。

同時に、この映像の男性の眼を見て確信した。

この人の言っていることは真実だと。

 

この人は、自分が無力だったせいで、ユエに悲しい思いをさせてしまったことを悔やんでいた。

本当はずっと傍にいて、守ってあげたかった。だけど、出来なかった。

彼女を魔の手から遠ざけることで精一杯だった。そのせいで、彼女を苦しめてしまった。

だからせめて、このアーティファクトに真実を残すことで、彼女とその仲間に願いを託したのだ。

この世界を支配する、悪辣な邪神を討ち果たしてほしい。

そして、たった一人の大切な姪を救ってほしい、と。

そんな眼をしていたのだ。

 

『君に真実を話すべきか否か、あの日の直前まで迷っていた。だが、奴らを確実に欺くためにも話すべきではないと判断した。私を憎めば、それが生きる活力にもなるのではとも思った。』

封印の部屋にも長居するべきではなかったのだろう。

だから、王城でユエを弑逆したと見せかけた後、話す時間もなかったに違いない。

その選択が、どれほど苦渋に満ちたものだったのか、映像の向こうで握り締められる拳の強さが、それを表していた。

 

俺は同時に、この人の強さも感じた。力ではなく、心の。

確かに、この人は奴の野望を食い止めることはできなかった。

だが、それが出来る者が、大切な姪をきっと助けてくれる。

そう確信していたからこそ、悪を演じきったのだ。

自身が憎まれることも承知の上で、奴からユエを遠ざけようとしていたのだ。

 

『それでも、君を傷つけたことに変わりはない。今更、許してくれなどとは言わない。

ただ、どうかこれだけは信じてほしい。知っておいてほしい。』

 

彼の表情が苦しげなものから、泣き笑いのような表情になった。

それは、ひどく優しげで、慈愛に満ちていて、同時に、どうしようもないほど悲しみに満ちた表情だった。

 

それはおそらく、自身がもうこの後生きられないことを悟っており、生きているうちに本心を打ち明けることが出来なかったことへの悲しみであろう。

俺もユエも、ただただ彼の話を聞き続けた。

 

『愛している。アレーティア。君を心から愛している。ただの一度とて、煩わしく思ったことなどない。

ーー娘のように思っていたんだ。』

ユエ「…おじ、さま。ディン叔父様っ。私はっ、私も…」

 

父のように思っていた。その想いは、ホロホロと頬を伝う涙と共に流れ落ちて言葉にならなかった。

だが、俺の手を強く握り締めながら、一生懸命に伝えようとするその姿が、何より雄弁に伝えている。

 

その姿を見て、俺の心の中には、何かどす黒いものが沸き上がっていた。

言葉では言い表せない位、黒く、紅く、そして熱く燃え滾る、何かが。

 

『守ってやれなくて済まなかった。未来の誰かに託すことしか出来なくて済まなかった。

情けない父親役で済まなかった。』

ユエ「…そんなことっ」

 

目の前にあるのは過去の映像で、ユエの叔父の遺言に過ぎない。でも、そんなの関係ない。

叫ばずにはいられないだろう。

彼の目尻に光るモノが溢れる。だが、決して、それを流そうとはしなかった。

ぐっと耐えながら、愛娘へ一心に言葉を紡ぐ。

 

そして俺は、心の中にあったモノの正体にやっと気づいた。

それは怒り。この二人の親子の繋がりを、私利私欲がために引き裂いた、あの神言詐欺のクズ野郎に対する、憎しみとも似て似つかない程、煮えたぎった黒い感情。

彼が言葉を紡ぐたびに、それはだんだん強くなっていく。

だが…

 

『傍にいて、いつか君が自分の幸せを掴む姿を見たかった。

君の隣に立つ男を一発殴ってやるのが密かな夢だった。そして、その後、酒でも飲み交わして頼むんだ。『どうか娘をお願いします。』と。アレーティアが選んだ相手だ。

きっと、真剣な顔をして確約してくれるに違いない。』

 

夢見るように映像の向こう側では彼は遠くに眼差しを向ける。

もしかすると、その方向に、過去のユエがいるのかもしれない。

 

俺も、喉元まで登っていた黒い感情を収め、彼の言葉に向き合う。

そして思った。自分も彼女の叔父に会ってみたかった、彼の密かな夢にも付き合ってやりたかった。

それと同時に、こんなに素晴らしい親父さんに、挨拶の一つや二つもできないことが、とても悔しかった。

 

『そろそろ、時間だ。もっと色々、話したいことも、伝えたいこともあるのだが……私の生成魔法では、これくらいのアーティファクトしか作れない。』

ユエ「!やっ、嫌ですっ。叔父さ、お父様!」

 

記録できる限界が迫っているようで苦笑いする彼に、ユエが泣きながら手を伸ばす。

叔父の、否、父親の深い愛情と、その悲しい程に強靭な覚悟が激しく心を揺さぶる。

言葉にならない想いが溢れ出す。

 

それを見ていた俺は、ただ彼女を優しく抱きしめることしか出来なかった。

そんな自身も腹立たしかった。だが、今この場に黒い感情は似合わない。

直ぐにそれを収め、ユエの叔父、否、この場合は父親の言葉に耳を澄ます。

 

『もう、私は君の傍にいられないが、たとえこの命が尽きようとも祈り続けよう。アレーティア。

最愛の娘よ。君の頭上に、無限の幸福が降り注がんことを。

陽の光よりも温かく、月の光よりも優しい、そんな道を歩めますように。』

ユエ「…お父様っ。」

 

彼の視線が彷徨う。それはきっと、ユエに寄り添う物を想像しているからだろう。

俺はその視線に向き合い、彼の願いを聞き届けようと決意した。

 

『私の最愛に寄り添う君。お願いだ。どんな形でもいい。

その子を、世界で一番幸せな女の子にしてやってくれ。どうか、お願いだ。』

ハジメ「…あぁ、もちろんだとも。あんたの愛と覚悟に敬意を表して、必ず幸せにする。

そして、最高最善の魔王の名に懸けて、誓おう。彼女を、奴の呪縛から解き放つことを。」

 

俺の言葉は届いたわけではないだろう。だが、確かに、彼は満足そうに微笑んだ。

きっと遠い未来で自分の言葉を聞いた者がどう答えるか確信していたのだろう。

いろんな意味でとんでもなく、強く、そして、愛情深い人だ。

 

映像が薄れていく。彼の姿が虚空に溶けていく。

それはまるで、彼の魂が召されていくかのようだった。

 

そして…最後の言葉が響き渡った。

 

『…さようなら、アレーティア。君を取り巻く世界の全てが、幸せでありますように。』

 

 

封印部屋に泣き声が木霊する。

 

悲しくはある。けれど、決してそれだけではない、温かさの宿った感涙にむせぶ音だ。

 

俺はそんな彼女を優しく抱きしめ、ただただ彼女の感情を受け止めていた。

大切な人を失ったことへの悲しみ、慕っていた人から告げられた愛情への喜び、

当時何も知らず、何もできなかった自分や、自分の大切な人を奪った者に対する怒り…

いろんな感情が流れ込んできた。

 

そうしてどれくらい経っただろうか。

やがて、涙で濡れた顔をそっと上げたユエ。その頬を優しく拭い、俺は問うた。

 

ハジメ「ユエ、お前はこれからどうしたい?どんな決定でも、俺は受け入れる。」

ユエ「…たい。」

ハジメ「!」

ユエ「叔父様のッ…仇をッ!取りたいッ!!

ユエは涙ぐみながらも、固い決意を口にした。なら俺も、それに応える以外ないな。

ハジメ「…そうか。なら、さっさとここを抜けて、あのクソ野郎の面、思いっきりぶん殴ってやれ。

俺がアイツ引きずりおろして、お前の前に持ってきてやるから。」

ユエ「…ハジメ、協力して、くれるの?」

ハジメ「当たり前だ、お前のおやっさんに誓ったんだ。こちとら魔王の看板背負ってんだ、一度掲げた誓いは、何が何でも投げ出さねぇ!それに…」

ユエ「?」

 

ハジメ「あのナルシス粘着ストーカー野郎は、俺を不快にさせた!俺は奴が気に入らねぇ!

ユエ「!」

ハジメ「俺の気に入らねぇもんは全部、敵だ!元の世界に帰る前にぶっ殺さねぇと気が済まねぇ!

ユエ「ハジメ…。」

ハジメ「行くぞ、ユエ。一日でも早くぶっ飛ばして、あの野郎の首を墓前に供えてやらねぇとな!」

ユエ「…ん!」

ハジメ「そんで!」

ユエ「?」

俺は、もう一つの果たすべき誓いを大声で叫んだ。

 

ハジメ「お前を俺の故郷に連れて行って、俺の家族にする!もう二度と、悲しい想いをさせないために!世界で一番、幸せな女の子として、お前が笑えるように!」

ユエ「!…うん!…ハジメ。」

ハジメ「うん?」

ユエ「…ありがとう。」

ハジメ「気にすんな、俺だって偶然見つけただけだ。ま、真実を知っちまった以上、俺たちは共犯者だがな。」

ユエ「ん!ハジメと、お揃い!」

ハジメ「…まぁ、お前が嬉しいなら何よりだ。」

俺は早速ユエを大事そうに抱きしめながら、封印の間を後にした。

 


 

封印の間を出ると、空気を察していたのか、イナバが外で待っていた。

ハジメ「悪ぃな、イナバ。待たせちまって。」

イナバ「…きゅ。」

イナバは悲しそうな顔でユエを見つめ、擦り寄ろうとした。

ユエが手を伸ばすと、イナバは自分からその手に擦り寄った。

 

ユエ「…!ふわふわ…!」

嬉しそうにイナバをなでるユエ。

あまりの触感に微笑んでいる彼女は可愛い。

やっぱり、別嬪さんには笑顔が一番だ。

 

ハジメ「…ありがとな、イナバ。」

イナバ「きゅ!」

イナバはとても賢い。空気も読めるのはすごい発見だ。

コイツは絶対に強くなる。うん、間違いない。




ここまで読んでいただき、ありがとうございました!

ハジメさん、自称神(笑)のクソ野郎にガチギレ。
遂に奴の殲滅を決意。

ユエも叔父様の真実を知ったので、アルヴが出て来ようとも、一瞬動揺すれど、直ぐに見抜くでしょう。
氷雪洞窟の試練も、鋼メンタルで乗り越えそう。

そしてラストのイナバさん、クールな男は空気を読むと言わんばかりの行動でした。

さて、今回は十三話。
後二話で、ハジメさんの変身を入れたいと思っております!
香織さん達の修行の成果は、その後に発表しようかと。

宜しければ、高評価・コメント宜しくお願い致します。

追記:リースティアさん、晶彦さん、毎度の誤字報告、ありがとうございます!


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14.食事と過去と荒れる炎

お待たせいたしました。
今回は百階層前までのお話です。
ユエさんの食事事情、ハジメさん放火魔事件の二本立てです。

それでは、第一章第10話、どうぞ!


さてと、とりあえず腹ごしらえにするか。腹が減っては戦が出来んからな。

…あっ、ユエの食事、考えてなかった…。

そういえば、ユエの好物聞いてなかったな。そう思って、彼女に聞いた。

 

ハジメ「ユエ、何か嫌いなものとかあるか?食べたいものでもいいんだが…」

ユエ「んっ!」

そう聞くとユエは、勢いよく俺を指さした。

ハジメ「……え?俺?」

ユエ「ん。ハジメの血、欲しい。」

ハジメ「…ああ、そっちか。いいけど、一応気を付けとけよ?」

ユエ「ん?どういうこと?」

 

ハジメ「俺の血には、力を受け継いだ戦士たちの力も入っている。

中には、猛毒を宿した戦士もいる上、即死毒まで持ち合わせている奴もいる。

浄化作用の力で毒は弱めておくから死にはしないけど…結構痛いぞ。それでもいいか?」

ユエ「…頑張る。」

ハジメ「そうか…」

そう言って気合を入れたユエ。まぁ、とりあえず、エボルの即死毒は絶対に外して、と。

その後、案の定激痛でのたうち回るユエに、必死に浄化作用や回復系技能を使う俺であった。

…イナバに呆れられていた…解せぬ。

 

さて、イナバと魔物肉を食いながら、錬成でユエの補助魔導具を作っていると、ふと聞かれた。

ユエ「ハジメ、どうしてここにいる?どうしてイナバと、魔物と仲いいの?どうして、あんなに強い?」

ハジメ「お、落ち着けって。一つずつ、ゆっくり話していくから。」

そう言って、ここまでの経緯を話すと、ユエの方からグズッと洟を啜るような音が聞こえだした。

不思議に思ってみてみると、ユエがハラハラと涙をこぼしている。…イナバ、お前もか。

とりあえず、二人の涙を拭きながら、聞いてみた。

 

ハジメ「どうしたんだ、二人とも?ユエの過去程そんなに辛くは無いと思うんだが…」

ユエ「……ぐす……ハジメ……つらい……私もつらい……。」

イナバ「……きゅぅう……。」

……うん、思いっきり同情されているな。

ハジメ「気にすんな。俺だって単独行動で色々調べたいこともあったし、この程度で辛いなんて言っちゃ、民の悩みなんて解決できないよ。」

ユエ「……ほんと?」

ハジメ「あぁ、もちろん。」

決してやせ我慢じゃないぞ。だからイナバ、擦り寄らなくていい。

 

ハジメ「そう言えば、ユエの両親はどうだったんだ?あまり、話してなかったが…」

ユエ「……傀儡のようだった。」

ハジメ「……宗教関連か。」

ユエ「……ん。」

……ヤベェ、一気に空気が…。

 

ハジメ「そ、そういえば、さっき倒した蠍の魔物なんだが…奴の甲殻がなかなかいい素材でなぁ。」

そうなのだ。シュタル鉱石といって、魔力との親和性も高く、魔力を込めた分硬度を増す鉱石で、より素晴らしい武器が作れそうなのだ。

ハジメ「もしかしたら、ユエの武器は魔法を打ち出す魔導銃に出来るかもしれないからなぁ~。

楽しみにしていてくれ。」

ユエ「……ん!」

ホッ、どうやら話題をそらすことには成功したようだな…。

 

因みに、ユエは食事でも栄養は取れるが、血の方が効率的らしい。

あの後、何度か血を飲んできたが、その度に苦しがっていた。

これも全部、エボルトって奴の仕業なんだ。

とか思っていたら、何回か吸っている内に抗体を獲得したようだ。

何種類もの野菜や肉をじっくりコトコト煮込んだスープのような濃厚で深い味わい、熟成された味、とのことだった。俺はワインか何かか。

 

後、イナバがまたレベルアップしたらしい。

神水飲んだせいか、何故か魔物肉を食うたびに進化していってる。

もうコイツ、一人で爪熊の巣に特攻出来るんじゃねぇのかなぁ。

そう思いながら、今日の飯を喰らう俺であった。

 


 

翌日…

ハジメ「野郎、ぶっ殺してやるぅー!!」ゴォォォォォ!(右手にヒーハックガン、左手にタジャスピナーエタニティを装備し、周りの木々を焼き払っている。)

ユエ「はっ、ハジメェ!落ち着いてぇ!?」(水魔法で消火に専念)

イナバ「(王様ァ!お気を確かにぃ!)」

さて、何でこんなことになっているのかというと…

 

 

俺たちは睡眠をとった後、次の場所へ進むことにした。

すると、そこはなんとお花畑だった。

もちろん、比喩だ。こんな奈落の底に花畑なんてあるわけない。

代わりに、花を頭につけた魔物が大量にいた。

 

まず、見えたのは樹海だった。10m以上の木々が鬱蒼と茂っており、空気はどこか湿っぽい。

まぁ、前の熱帯林よりかは熱くない。

でも、雑草まで160㎝以上も生い茂っているのは、正直ウザったい。

 

そして出てきた魔物も同じようなもんばっかり。

もう飽きるな…

ユエがまた魔法で一掃しているが…

作った武器、全然使ってくれない…

やっぱり、最初から足技用ブーツはダメか。

 

…ユエ、別に魔法がダメってわけじゃない。

むしろユエの魔法は強力だから、それだけに頼りすぎるのはどうか、って思っただけだ。

だからまぁ、そんな悲しそうな顔をすんな。

十分役に立っているんだし、存分に胸張っていいから。

それに、魔法に関しては、俺やイナバよりも扱いにたけている、適材適所って奴だな。

せっかくだからお手本見せてくれよ、ユエ先生。

 

…先生付けただけでこんなに威力上がるんか。

さっきより倒した敵が多い…

ユエって、実は褒めれば伸びるタイプなんだな。

 

とまぁ、次から次へとやってくる奴らを、ある時は魔法で、ある時は物理で、そしてある時はブラックホールで殲滅したりしていた。

そうして、花を媒介として他の魔物に寄生している本体へ、早速奇襲を仕掛けることに。

 

縦割れの洞窟を進んでいると、大広間に出た。

さて、中央まで進もうとすると、未来予知で次の攻撃を察知した。

ハジメ「全員、全方向注意!乗っ取られるなよ!」

ユエ「ん!」

イナバ「きゅ!」

 

全方位から、緑のピンポン玉らしきものが飛んできた。

俺はオーロラカーテン、ユエは魔法、そしてイナバはベヒモスの素材で作った得物で、それぞれ防いでいる。

さて、そろそろ攻撃が止んできた、と思った矢先だった。

 

ハジメ「!」

攻撃の気配を察知した俺は、その場から飛びのいた。

すると、その先には…

ユエ「に、逃げて、ハジメ!」

イナバ「き、きゅ、きゅぅう!」

二人まとめてか!やってくれるじゃねぇか!

 

俺は二人を傷つけないよう、攻撃を避けつつ受け流し、防いでいると、アルラウネっぽい奴が現れた。

二人を盾にしようと、前に突き出してきた。

そっちが卑怯でいくなら、こっちはチートでやってやるァ!

(ザ·ワールドッ!)

 

ユエ「…え?」

イナバ「…きゅ?」

二人とエセアルラウネは驚いたようだな。

そりゃそうだ。

時間停止という技なんて持っている奴、俺か黒幕ぐらいだろうに。

時を止めて、二人の頭上に有った花を枯らし、そのまま二人に被害が及ばぬよう焼き切った。

そして、奴の目の前で武器を用意し、時を動かした。ただそれだけだがな。

 

さてと、よくも好き勝手やってくれたなぁ、この草人間もどきが。

そう思って俺は、ヒーハックガンとタジャスピナーエタニティを奴の体に押し付け、

ハジメ「フタエノキワミァァァアアアーーー!!!」ボォォォォォォ!!!

一気に放火した。ついでに口からも鬼火を吐いて、一気に消し炭にしてやった。

が、まだどこかに同個体がいるかもしれないので入念に周りも焼く。

うぉー!汚物は消毒じゃァー!

 

 

そして、現在に至る。

俺達の周りはほとんどが火の海になっており、魔物どもに至っては焼死している。

ユエ「ハジメ、ストップゥ!」

ハジメ「え?もっとやってくれ?」

ユエ「全然違ぁう!?」

イナバ「(王様ァ!このままだと俺らも焼け死んじまいます!)」

ハジメ「…しょうがねぇなぁ、分かったよ。チッ、命拾いしたなぁ、草人間共。」

イナバ「(どんだけ怒っていたんですか…?)」

 

ユエ「それよりもハジメ、さっき何をしたの?」

ハジメ「うん?あぁ、二人には言ってなかったが、俺、時間操れるんだ。」

ユエ「んん!?」

イナバ「きゅう!?」

その後説明して分かってもらったが、すっごい驚いていたなぁ。

大丈夫、悪戯とかには使わないって。

精々敵のど真ん中にグレネードをこっそり置くだけだから。

 

その後、焦げた魔物は俺が処理し、魔石や素材、食料を回収しながら進んでいった。

さて、とうとう百階層近くまで来た俺達。

いよいよ奈落を抜ける時が来たというわけだ!

…あれ?なんか忘れているような?




ここまで読んでいただき、ありがとうございます。

ユエさんにとって、ハジメさんの血は某美食アドベンチャーの一世紀スープに匹敵する模様。
それに加えて、イナバさんの強化が凄まじい…

ハジメさんエセアルラウネに激おこ。
放火武器は、個人的に印象深かったものから選びました。

さて、次回はとうとう百階層のボスと対決!
そして遂に、ハジメさんが本気を出す!?
次回もお楽しみに!

宜しければ、高評価・コメント宜しくお願い致します。
それでは、次回予告をどうぞ!
追記:リースティアさん、晶彦さん、毎度の誤字報告、ありがとうございます!



次回予告

イナバ「(王様ッ、姐さんッ、こいつはヤバいッ!)」
遂に百階層入り、迷宮ボスと対面!

ハジメ「それじゃ早速、迷宮攻略といきますか!」
ハジメ達に、最後の試練が牙をむく!

ユエ「……ハジメ……私……」
涙を流すユエ、彼女の身に一体何が!?

ハジメ「貴様だけは、私が葬る。」
怒れるハジメ、遂に変身!

ハジメ「変身ッ!!!」
絶対なる最強王者、仮面ライダーオーマジオウ!

次回「変身」デデンデンデデン!
目覚めろ、その魂!!!


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15.変身

お待たせいたしました。
ハジメさん初変身回です!

今回は百階層ボス、ヒュドラに挑みます。
少女が涙を流す時、魔王が遂に腰を上げる!

最強王者降臨の第一章第11話、それでは、どうぞ!


百階層前の部屋にて…

ユエ「ハジメ…いつもより慎重…」

ハジメ「まぁな、次がボス戦だと思うからな。

万が一のためにも、備えておいて損はないって奴さ。」

そういって、装備の点検をしている俺と、それを見つめるユエとイナバ。

 

ここがおそらく、ユエのおやっさんが言っていた、真の大迷宮のゴール手前。

ここには、先程までの奴らとは一味も二味も違う奴がいるに違いない。

二人とも無事で踏破したいからな、念には念をだ。

因みに、今の俺のステータスはこう。

 


南雲ハジメ 17歳 男 レベル:測定不能

 

天職:錬成師・最高最善の魔王

 

筋力:555000(魔王時:測定不能)

 

体力:380000(魔王:測定不能)

 

耐性:300000(魔王:測定不能)

 

敏捷:500000(魔王:測定不能)

 

魔力:280000(魔王:測定不能)

 

魔耐:200000(魔王:測定不能)

 

技能:

錬成[+鉱物系鑑定][+精密錬成][+鉱物系探査][+鉱物分離][+鉱物融合][+複製錬成][+圧縮錬成][+遠隔錬成][+自動錬成][+構造把握][+イメージ補強力上昇][+消費魔力減少][+並列処理錬成][+整地][+高速錬成]・全属性適性・全属性対応・全属性耐性・複合魔法・縮地・瞬動・先読・予測領域拡大・剛力・金剛・物理耐性・高速魔力回復・気配感知・魔力感知・限界突破・言語理解・抜刀術・剛腕・戦闘続行・早読・未来予知・加減上手・プラスウルトラ・最強王者・無限の成長・地球の記憶・地球の本棚・モーフィングパワー・音撃打・クロックアップ・ワープドライブ(宇宙)・黄金の果実・オールエンジン・無敵化・浄化作用・時間操作・剣術・クロックダウン・ライダーサモン・アイテム操作・ゲームエリア展開・ブラックホール・聖剣創造・コズミックエナジー・無限の思い・七つの大罪・メダルコンボ・魔力操作[+魔力放射][+魔力圧縮][+遠隔操作]・毒耐性・赤熱化[+熱耐性]・危機察知・胃酸強化・恐慌耐性・威圧・天歩[+空力][+豪脚]・風爪・夜目・遠見・麻痺耐性・石化耐性・念話・熱源感知


 

技能も充実してきたことだし、そう簡単に負けることはないが、油断は禁物だ。

なにより、二人にも無事で踏破してもらいたい。念には念を入れなければ。

っと、ようやく準備が終わったな。早速俺達は、下の階層へ乗り込んだ。

 

そこは、無数の強大な柱に支えられた広大な空間だった。

柱の一本一本が直径5mはあって、一つ一つに螺旋模様と木の蔓が巻き付いた様な彫刻が彫られている。

柱も規則正しく一定間隔で並んでいて、まるで人為的に創られた場所なのではと錯覚してしまうほどだ。

天井まで30mはあるし、地面も荒れてなくて平らで綺麗だ。なんか、荘厳さを感じるなぁ。

 

俺達が足を踏み入れると、全ての柱が淡く輝き始めた。

一瞬警戒するが、その光が俺達を起点に奥へ続いていくことがわかると、俺は警戒を解くことにした。

今はまだ、敵が現れる気配はないと悟ったからだ。

二人が俺の行動を不思議に思っていながらも、俺はついてくるよう二人を促した。

 

200mも進んだ頃、遂に行き止まりに達した。

それもただの壁ではない、巨大な扉だ。

全長10mはある巨大な両開きの扉で、これまた美しい彫刻が彫られている。

特に、七角形の頂点に描かれた何らかの文様が特徴的だ。

これは、真のオルクスを表す何かなのでは?と、俺は疑問に思った。

 

ユエ「……反逆者の住処?」

ハジメ「?反逆者ァ?そりゃ一体なんだ?」

どうやらただの文様ではないようだ。ユエは何か知っているようだが…

ユエ「神代に神に挑んだ神の眷属。世界を滅ぼそうとしたと伝わっている。」

ハジメ「だが、あのクソ野郎のことだ。どうせ都合のいいように書き換えたんだろう。」

ユエ「ん。私もそう思う。」

イナバ「きゅ。」

イナバもそう思うのか。

アイツ、本性知られた奴から、どんだけ嫌われているんだ…ま、どうでもいいか。俺も嫌いだし。

 

ユエ曰く、反逆者は、神に反逆して世界を滅ぼそうと画策した七人とされている。

だが、その目論見は破られ、世界の果てに逃亡した。

その果てというのが、現在の七大迷宮、この【オルクス大迷宮】もその一つと言われている。

なんでも、奈落の底の最深部、この扉の先には反逆者の住まう場所があるとされているのだとか。

 

ハジメ「正しい歴史があるとすれば、その七人は奴にとっての不都合を起こした。

或いは、奴にとって不利な情報を手に入れ、それによって奴を倒そうとした。

この二つの理由から、奴は民衆を操って彼らを悪者に仕立て上げた。

この推測が正しければだが、反逆者は俺らと同志とも言えるな。」

ユエ「ん!でも、試練は受けなきゃダメみたい。」

ハジメ「そりゃそうだ。俺だって簡単に強くなったわけじゃあない。」

ユエ「え?そうなの?」

イナバ「きゅ?」

…お前ら、人を一体何だと…、まぁ、いっか。

 

ハジメ「おう、6つの頃から筋トレを三年。それも、傍から見れば頭がおかしくなりそうなレベルの。

その後、建国から王の治世までに必要な学問を、9年で全部頭に詰め込んだな。

これぐらいやらなきゃ、皆を守れないんじゃないかって思って。」

……黙り込んじゃったよ。流石に引くよな…

ユエ「…い。」

ハジメ「え?」

 

ユエ「ハジメ、凄い!」

イナバ「きゅ!」

ハジメ「!?」

まさか褒められるとは思っていなかったよ。イナバも拍手しているし。

ユエ「ハジメ、きっといい王様になれる!エヒトの奴が、霞んでチリになるくらいの!」

ハジメ「褒めてくれるのは嬉しいが、奴が比較対象なのは勘弁してくれ。

あんなサイコパスと比べられるのは、最高最善の魔王の名に傷がつく。」

ユエ「ん…ごめんなさい。」

あ~…しょんぼりさせちまったな。そういうつもりじゃなかったんだが。

 

ハジメ「謝らなくていい。全部エヒトのクソ野郎が悪いんだから。」

ユエ「まさかの責任転嫁!?でも、そんな優しいハジメも大好き!」

ハジメ「それは素直にうれしいな。さて、そろそろ進まねぇとな。」

ユエ「ん!」

イナバ「きゅ!」

先へ進もうと、扉へ近づくために柱の間を超えた瞬間…

 

扉と俺たちの間の30m程の空間に巨大な魔法陣が現れた。

赤黒い光を放ち、脈打つようにドクンドクンと音を響かせる。

って、あの時の魔法陣じゃねぇか!?しかもあの時よりデカいし、構築された式も複雑で精密だ。

ハジメ「面白れぇ、どんな奴が相手だろうと、突破してやらぁ!」

ユエ「ん!大丈夫、私達、負けない!」

イナバ「きゅ!きゅぅう!」

二人もやる気満々だな、さて、一体何が出てくるか。

 

魔法陣はより一層輝くと遂に弾けるように光を放った。咄嗟に腕を翳し、目を潰されないようにする俺達。

光が収まった時、そこに現れたのは…

 

体長30mの体に六つの頭と長い首、鋭い牙と赤黒い眼の化け物。例えるなら神話の怪物ヒュドラの様だな。

 

「「「「「「クルゥァァアアン!!」」」」」」

……六つもあると、うるせぇな。

って、いきなり炎の洗礼か!

 

イナバ「(!王様ッ、姐さんッ、こいつはヤバいッ!)」

ハジメ「わかってる!ハァッ!!」

そっちが炎なら、こっちはボルケーノだ!

腕から放ったマグマで、炎を首ごと溶かした。

へっ、ざまぁみやがれ!

 

「クルゥアン!」リザレクショーン

……再生しやがった。野郎、「ねぇ、今どんな気持ち?」って面で見てきやがる。

上等だ、再生したがらなくなるまで、ボッコボコにしてやんよ!

ハジメ「それじゃ早速、迷宮攻略といきますか!」

ユエ「おー!」

イナバ「きゅぅう!」

 

と、意気込んだはいいものの、他の首は絶対白いのを庇う。

貴重なヒーラーだもの。誰だって守るし、相手は攻める。なら、壁ごと攻撃すればいい!

ハジメ『二人とも、俺は他の頭を引き付ける。隙を見つけて、白い奴を叩け!』

ユエ・イナバ『『了解!/きゅ!』』

"念話"で密かに作戦を伝えると、俺は右手に機召銃マグナバイザー、左にトリガーマグナムの二丁拳銃スタイルになり、トリガーマグナムで首を弾き飛ばしながら、マグナバイザーで『鋼の巨人マグナギガ』を呼び出した。

その背中のジョイントにマグナバイザーの銃口を接続し、引き金を引いた。

《final bent》ズドドドドドドド!!!

これが、マグナギガの切り札「エンドオブワールド」だ。

 

ハジメ「ついでにコイツもくらいな!」

そういうと俺は、トリガーマグナムの代わりに、携行用多目的巡航4連ミサイルランチャー『ギガント』を取り出すと、間髪入れずに発射した。

ユエも魔法を、イナバも俺のドンナーで援護射撃を行う。

近代兵器の嵐が、蛇共に襲い掛かる!

 

「クルゥアン!」リ,リザレクショーン…

チッ、そう簡単にはクリアできないか。

だが、何割かはダメージを喰らっている。今がチャンスだ!

よし、ここは一気に…!

ユエ「いやぁああああ!!!」

ハジメ「!?ユエ!」

咄嗟に時間停止でユエに駆け寄り、近くにいた黒頭と青頭を吹っ飛ばすと、イナバも抱えて柱の陰に移動した。

 

ハジメ「ユエ、しっかりしろ!」

ユエ「……」

クソッ!厄介な状態異常かけやがって!

"念話"で激しく呼びかけ、エナジーアイテムや神水も同時に使う。

イナバも必死に擦り寄っていた。

 

暫くすると、虚ろだったユエの瞳に光が宿り始めた。

ユエ「……ハジメ?」

ハジメ「あぁ俺だ。大丈夫か?一体何をされた?」

ユエは何かに怯えているようだった。正直、考えたくもないが予想はつく。

何度も触れて確認しているんだ。野郎、場合によっちゃあ……

 

ユエ「……よかった……見捨てられたと……また暗闇に一人で……」

ハジメ「!…やっぱ、そのパターンかよ、クソッたれ…!」

やっぱり精神に対する揺さぶり、それも彼女のトラウマを掘り起こすようなものだったのだろう。

話を聞くと、突然強烈な不安感に襲われ気がつけば俺やイナバに見捨てられ再び封印される光景が頭いっぱいに広がっていたという。

そして、何も考えられなくなり恐怖に縛られて動けなくなったと。

 

ハジメ「本ッ当にムカつくなぁ…無駄にバランス持ちやがって」

ユエ「……ハジメ」

イナバを抱きかかえながらも、不安そうな瞳を向けるユエ。

余程恐ろしい光景だったのだろう。

いくら真実を知ったとはいえ、見捨てられるかもしれないという不安は残る。

自分と共に道を歩んでくれる人がいなくなるというのは、とても悲しいことだろう。

俺だって、想像しただけで心が締め付けられる想いだ。

そんな悪夢を見せつけるなんて……

ユエ「……私……」

泣きそうな、不安そうな表情で震えるユエ。

 

プッッッツンッッッ!!!

 

その瞬間、俺の、"私の"中で何かが切れた。

そして、今まで溜め込んでいたどす黒いものが、一気に溢れ出した。

 

服の裾を思わず掴み、震えているユエの頭を撫で、その小さな体を抱きしめた。

ユエ「……あ」

ハジメ「……ユエ、イナバを連れて隠れていて。直ぐに、終わらせて来るから。」

それだけ言うと、再び時を止め、奴の前に移動した。

 

「「「「「クルゥァァアアン!!!」」」」」

身の程知らずの侵入者に対する脅しだろうか。

だが、相手が悪かったな。身の程知らずは…貴様らの方だ。

 

瞬間、俺は尋常ではないほどの怒りを、奴にぶつけた。

ハジメ「先ほどから喧しいわ、ヒュドラもどきが…!」ズァァァアアア!!!

「「「「「!?」」」」」

この体から、膨大な魔力が放射されていくのを感じる。

足を強く踏み込んだ地面にひび割れが起こり、その凄まじさが全体に伝わる。

でも今は、そんなものどうでもいい。

 

今この場で、涙を流す少女を救えなくて…!

何が最高最善の魔王だ!

何が仮面ライダーだ!

私を、誰だと思っている!

 

ハジメ「貴様は大罪を犯した、私のユエを、傷つけたことだ…!」ゴゴゴゴゴゴゴ!!!

ユエ「!」

ハジメ「よって、貴様だけは、私が葬る…!」ドドドドドドド!!!

そう告げると、私はドライバーを呼び出した。

 

腰に稲妻が走り、精緻な装飾が施された黄金のベルト『オーマジオウドライバー』が出現する。

そして私は腕を交差させると、感情を吐き出すように咆哮した。

ハジメ「ウオァァァァァァァッ‼‼‼」ビリビリビリビリビリ!!!

 

瞬間、奈落の世界に魔王の覇気が木霊した。

 


 

ミライ「!?」

雫「?どうしたの、ミライ?」

特訓中、急にミライちゃんの動きが止まった。

皆不思議に思ったから、雫ちゃんが代表して聞いた。

ミライ「…今のは、彼の…!?」

恵理「彼?…もしかして!」

!?ハジメ君が!?でも一体、何の力なんだろ?

ミライ「えぇ、そのまさか!彼が、ハジメ君が今、力を使った!」

トシ「?力ってなんだ?」

ミライ「…そうね、彼の持っている力について、あらかじめ話しておくべきね。」

そう言ってミライちゃんは、真剣な顔で語った。

 

ミライ「彼が使ったのは、王の力よ。」

浩介「王?まさしくアイツにピッタリな能力じゃあ…」

ミライ「ただの王じゃないのよ!」

「「「「「!」」」」」

ミライ「彼が持つ力、それは究極の時の王の証。

時空を超越し、全ての世界を平定することのできる、唯一無二にして絶対なる魔王。」

香織「ま、魔王…?」

ハジメ君には、魔王っていうよりも、優しそうな王様が似合いそうだけど…

その力って一体…?

ミライ「その王の名は…」

 


 

ユエ「ハ、ハジメ……!?」

イナバ「きゅ……きゅう!?」

空も無いのに、曇天で雷が荒れ狂うように、場の空気が一色に染まった。

 

絶対的な力。

それに相対し、圧倒されるような感覚。

それは、たった一人の男が、それを成している。

 

ひび割れた地面からマグマがせり上がり、赤黒く燃え盛る大時計を形成・≪10時10分≫という時を刻む。

煉獄の焔が形を変え、文字となって浮かび上がる。

そして私は、王の鎧を纏うに相応しい、あの言霊を発する。

 

ハジメ「変身ッ!!!」

 

ドライバーの両端にある"オーマクリエイザー"と"オーマデストリューザー"に触れ、私は真の姿を解放した。

それと同時に、浮かび上がっていた『ライダー』の文字が天空に上り、変身の鐘の音が終末を告げた。

 

ゴォーン!!!

 

『祝福の刻!』

 

"オーマジオウマトリクス"により、私の理想が理論によって具現化され、鎧となって私の体に装着されていく。

浮き出た歯車や文字盤が私を包み、≪2019≫の時を映し出した王の真名を告げる。

 

 

『最高!』(より良く!)ガチャッ!ガキンッ!

 

 

『最善!』(より強く!)ゴキッ!ゴキンッ!

 

 

『最大!』(より相応しく!)シュルルルル!シュパンッ!

 

 

『最強王!!!』(仮面ライダー!)パァァァ!ガチーン!

 

 

『≪オーマジオウ!!!≫』ドガァァァァァン!!!

 

 

雷が轟き、焔が猛り、空気が震え、森羅万象全てが、王の祝福を祝い、その雄姿にひれ伏す。

そして、天から降りてきた≪ライダー≫の文字が、王の鎧の顔にはめ込まれ、生誕の儀は完了した。

 

絶対なる最強王者、仮面ライダーオーマジオウが今、ここに降臨した。

 

そして私は、魔王としての第一声を上げた。

武を弁えぬ愚か者への、裁きを告げるがために。

大切なものに「大丈夫」と笑顔で言うために。

 

オーマジオウ「王の判決を言い渡す、死だ…!」

 


 

ミライ「その王の名は、オーマジオウ。全ての時空を司り、全ライダーの力を使える、最強の王よ。」

ミライちゃんは自慢げに、そして悲しそうに語っていた。




オーマジオウ「祝え。」

うp主「え?」

オーマジオウ「祝えと言っている。」

うp主「祝え!全ライダーの力を司り、時空を超え、
過去と未来を知ろ示す究極の時の王者、その名も仮面ライダーオーマジオウ!
この世界に、最高最善の魔王が誕生した瞬間である!」


というわけで、遂に降臨しちゃいました、我が魔王。
今回はユエさんを泣かせたヒュドラ君に、そしてそれを未然に防げなかった、情けない自分自身にも怒り、変身を決意いたしました。
次回が戦闘シーンとはいえ、ここまでの変身で気合を入れ過ぎて、「ヤベェ…なんか、とんでもない魔王様生み出してしまった…」と作った後に思いました…

因みに、ハジメさんは迷宮に潜ってまだ5日しか経っていません。
一日目でイナバと会い、
二日目で鉱石集め、
三日目でユエと出会い、
四日目で樹海を焼け野原に、
そして、仮眠をとった五日目の夜、ハジメさんが魔王になりました。

ミライちゃんがハジメさんの変身を感知したのは、彼女も我が魔王に仕えていたからです。
何故、悲しそうなのかは次回語ります。

ここまで読んでいただき、ありがとうございます!
宜しければ、高評価・コメント宜しくお願い致します!
それでは、次回予告をどうぞ!

追記:晶彦さん、N.jpさん、誤字報告ありがとうございました!

次回予告

オーマジオウ「侮ったな、私の、魔王の力を。」
遂に変身、オーマジオウ!

ハジメ(悲しいものだな、強さっていうのは。)
その力は、圧倒的過ぎて!?

ミライ「お願い…彼を導いてあげて…!」
ミライの涙が意味するものとは!?

ハジメ「俺は誓うよ。君と、最後まで一緒にいるって。」
ハジメ、新たなる誓い!

次回「2019/サイキョーオウジャ!」
全てを破壊し、全てを繋げ!


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15.2019/サイキョーオウジャ!

お待たせいたしました。
今回は我が魔王の初戦闘と、香織達の会話です。
最強王者の裁きが今、奈落のボスに鉄槌を下す!

祝え!最高最善の魔王の降臨を!

怒涛の展開の第一章第12話、それではどうぞ!


<香織視点>

香織「オーマ、ジオウ…!?」

それって…たしか!

恵理「それ…兄さんの一番お気に入りの仮面ライダー、だったよね?」

トシ「あぁ、アイツ、ドライバー買ってもらった時の反応、凄い嬉しそうだったよなぁ。」

浩介「あ~、あと小遣い足りなくて武器買えなかった時があって、アイツ一時期凄い量のお手伝いしまくってたよなぁ。」

雫「…ハジメくん、そんなにそのライダー好きだったんだ。」

香織「もちろんだよ!だって、ハジメ君と同じ、最高最善の魔王なんだよ!?」

雫「え…あ~、そ、そうね。そうよね!」

香織「お誕生日会で高い方の武器プレゼントした時、すっごく喜んでいたよね~。」

雫「…そうね。」

あの時の嬉しそうな顔、一生忘れられないなぁ…。

 

ミライ「…そうね、彼の持つ魔王の力は誰もが憧れる。

それこそ、世界を思うがままにしたい、なんて野望を持った人物にも狙われかねない。

でもね、そんな人物程その資格からは遠ざかるのよ。

当然よね、何の努力もしないで、力だけゲットなんて、そんな甘い話はどこにもないわ。」

…ミライちゃんは、どうしてさっきから悲しそうに話しているんだろ?

もしかして、ハジメ君が最高最善の魔王じゃなかったの!?

ミライ「その反面、彼はその資格に適合していた、いえ、適合しすぎていたのよ。」

「「「「「?」」」」」

適合しすぎ?それって、一体…?

 


 

<オーマジオウ(ハジメ)視点>

さて、どうやってこやつに天罰を下すか。

私にこの鎧を着せたのだ、楽には逝かせん。

ボォォォォォォ!!!

そう考えていると、奴が不敬にも火を放ってきた。

 

ユエ「ッ!ハジメェ!」

ユエ、そんな悲痛な叫びを上げてくれるな。

そう思いながらも、ノーガードでブレスを受けきる。

そもそもだ、この鎧はこの雑種にはもったいない代物だ。

だが、これは私の沽券にかかわる問題だ。

私の甘さが、彼女を傷つけてしまったのだから。

ならば、見せねばなるまい。最高最善の魔王の力を!

 

オーマジオウ「不遜よなぁ。」シュゥゥゥ…

「「「「「「!?」」」」」」

驚いている奴の攻撃をものともせずに、私は近づいた。

私が近づいてくることに焦りを感じたのか、他の首も攻撃を始めた。

だが、所詮は児戯だな。まだダグバやエボルの方が強い。

さて、そろそろ攻撃を受け続けるのも飽きてきたな。

 

オーマジオウ「もう終わりか?」パンッパンッ

「「「「「「!?!?!?」」」」」」

奴らが動揺している内に、私は反撃を開始した。

 

ゴォッ!ガキンッ!ドガァァン!ギュルォォオオ!

赤頭にはマグマを、青頭には絶対零度を、黄頭には爆雷を、緑頭には暴風を、

それぞれプレゼントしてやった。

 

あまりの一瞬の出来事に、首たちは反応できなかったのか、固まっていた。

ガッ!

その隙に、白頭の首根っこを引っ掴み、咆哮が出来ないようにしてやった。

慌てた黒頭が魔法を使うが、私はそれを待っていた。

 

オーマジオウ「お返しだ。」カキーン!

黒頭「!?クルゥァァアア!?」

エナジーアイテム「反射」の効果で、奴のトラウマを掘り起こし、私に恐怖するようにしてやった。

錯乱状態の黒頭は、なんと自ら首を嚙み千切った。

バカな奴め、そう思った私は、時間を巻き戻し、黒頭を錯乱状態で再生させた。

黒頭は死んだはずの自分が生きていることに驚き、より錯乱していた。

そのせいか、他の首の根元から自分の体に潜り込み、隠れていた首を呼び起こす始末だ。

最後の首は悪あがきのつもりなのか、ユエ達の方向へ攻撃をしようとしていた。

 

まぁ、させんがな。

銀頭「クルゥァア!?」ドガッ!

オーマジオウ「どうした?私と遊んでくれるのではないのか?」

そう言いながら、奴に攻撃を仕掛けると、いつの間にか復活していた他の首たちも、攻撃を仕掛けようとしていた。

少々厄介だな、なら仕方がない。

 

直ぐに終わらせよう。

そう思った瞬間、私は光の速さを超えた。

ボトボトボトッ!

それと同時に、白頭以外の首が落ちた。

 

白頭「!?」

オーマジオウ「あぁ、安心してくれ。また再生してやるからな。何せ、

 

 

私の大切な存在を傷つけたのだからなぁ?楽に死ねると思うなよ?

せいぜい私の憂さ晴らしのためだけに、生きて死ね。」

あり得ないほどの理不尽を突き付け、私は蹂躙を再開した。

 


 

<ユエ視点>

なんなの…あれ…?

ハジメがいきなり鎧を纏ったと思ったら、あの魔物を赤子同然に扱っている様を見て、私は愕然としていた。

幻覚の影響で心が壊れそうだったので、うろ覚えだったが、ハジメの顔を見た時、震えも言葉も止まった。

だって、その顔はいつものように、笑っていなかったから。

 

そして、ハジメが魔物と相対した時、空気が変わったのを感じた。

 

同時に、ハジメからとてつもない程の力の奔流を感じた。

あれがきっと、ハジメの真の力なんだろう。

 

それだけではない。ハジメは言ってくれた。「"私の"ユエ」と。

私はハジメの背中が、とても大きく見えた。一瞬だけ、ディン叔父様の背中と重なったようにも見えた。

 

ハジメが咆哮を上げた瞬間、力がハジメに集まっているのを感じた。

まるで、世界の全てが、ハジメに従うかのように。

 

そして、変身したハジメの姿を見て分かった。

ハジメは、既に王様になっていたんだ。

仇であるあのエヒトすらも凌駕するであろう、最高最善の魔王に。

 

その強さは歴然だった。

魔物の攻撃をものともせず、一瞬のうちに返り討ちにしてしまう程。

しかも、攻撃されていても、私を第一に庇ってくれている。

 

そのあまりの強さに、私は最初は怖いと感じていた。

でも同時に、その強さに希望を感じた。

この人となら、叔父様の仇を打てるんじゃないか、と。

 

何より、私のために怒り、ハジメがその力を使ってくれたことが、一番嬉しかった。

あぁ、ハジメ。私の王子様。

あなたはどうして魔王なの?

どうしても魔王でありたいのなら、どうか私を攫って~!

そう思いながら、柱の陰でイナバをモフる。

私はユエ、最高最善の魔王の妻になる女!

 


 

<オーマジオウ(ハジメ)視点>

ハジメ(悲しいものだな、強さっていうのは。)

魔王に変身する中で、俺は意識が"高校生の南雲ハジメ"に戻っていた。

俺はオーマジオウの力を手に入れた影響なのか、感情が一定の位まで高まると、一人称が変化し、相手に対して無慈悲になることがある。

 

昔の因縁で、ぶちのめした不良グループの奴らが、やられた腹いせに、たまたま近くにいたクラスメイトの一人に手を出そうとしていた時、病院送りになるまでボコボコにしてやったことがある。

その男がどうなったかは知らないが、俺が孤立する一因にもなってしまった。

腹いせに奴の学校に乗り込み、一日で全員制圧・再教育を開始した。

学校側からは何故か感謝状を贈られ、警察からも表彰状までもらったなぁ。

 

っと、話がそれたな。

まぁ、何が言いたいかというとだ。

俺には二つの人格がある。

一つは普段の俺。王道を行く仮面ライダーの部分のハジメ。

もう一つは、魔王の俺。覇道を歩む、オーマジオウの部分のハジメ。

この二人が混ざり合って、今の俺はいる。

 

さて、そろそろコイツを再生しながら無限にボコる遊びももう飽きた。

ここらで終わりにするか。

そう思った俺は適当にヒュドラもどきをポイ捨てし、ユエの方へ向かった。

良かった、イナバのおかげで大分癒されているようだな。

元気そうに走り寄ってくるユエに、思わず抱き着こうとしたその時。

 

ドォォォオオオン!!!

…来たか。

その後ろでは、ヒュドラもどき共が全ての首を集めて、俺に全放射を行おうとしていた。

なら、これで終いにしよう。

そういって、俺及び"私"は、"オーマクリエイザー"と"オーマデストリューザー"を押し込み、魔王最強必殺のカウントダウンを開始した。

 

ゴォーン!!!

 

『≪終焉の刻!≫』

 

ハジメ「ユエ、巻き込まれるといけないから、もう少し下がっていて。」

ユエ「!んっ!」

…何故かうれしそうだな。まぁ良いか。

 

足元に大時計が浮かび上がり、足先に力が集約される。

そしてヒュドラもどきはそれを見たのか、全力のブレス一斉放射を行った。

 

『≪逢魔時王必殺撃!!!≫』

 

オーマジオウ(ハジメ)「ハァァァアアア!!!」ズガァァァアアアン!!!!!

それに対するように、俺は回し蹴りによるカウンターで、ブレスもろともキックで消し飛ばしてやった。

直前まで迫っていた光は、俺が叩き込んだ回し蹴りによって、技の持ち主へと帰っていった。

威力はもちろん、私のキックの分まで一緒に。

 

オーマジオウ「侮ったな、私の、魔王の力を。」

「「「「「「クルゥァァァァアアアア!?!?!?」」」」」」チュドォォォオオオン!!!!!

そんな私の呟きと共に、ヒュドラもどきは爆散した。

 


 

ミライ「彼は確かに、最高最善の魔王になるには十分すぎる逸材よ。

でも、誰よりも優れた才能というのは、その人にとって枷にもなりうるのよ。」

えっと…どういうこと?

恵理「それってつまり…兄さんにとって、その力は障害にもなり得るってこと?」

ミライ「そうね。たとえ力があったとしても、その人が力を使いたいとは思っていなかったり、才能自体を忌み嫌っていたら、それこそ不必要な力なのよ。まぁ、彼の場合、本当に魔王一直線みたいだから、あまりそういった心配は必要なさそうだけどね。」

トシ「あ~、アイツ、学校の進路相談でも王様になるって、大々的に書いていたからなぁ…」

うんうん、皆にもわかるように大きな字で書いていたからねぇ~。

 

ミライ「フフッ、でもそれはおそらく、それ以外の道を選ぶことが出来ないからなのよ。」

浩介「?それは、ハジメは王様以外にはなることが出来ないってことか?」

ミライ「えぇ。それは王様になる以外の選択肢、逃げ道がないってことなの。

もし、いざという時に心が折れてしまって、王道以外の拠り所が無くなってしまった時、彼の心は死んでしまうかもしれない。そうなったら、彼は自身の思う最高最善の道を見失ってしまうわ。」

雫「それって…!自分の理想の王様になれなかったら、彼は危険な存在になるってことなの!?」

ミライ「…可能性としては、考えたくないわ。でも…」

香織「大丈夫だよ。」

ミライ「!」

確かにそれは怖い、でも…!

 

香織「ミライちゃんの心配は分かるよ。でも、私は信じている。

ハジメ君は、どんなに理不尽な目に遭っても、絶対にくじけない強い心があるから!」

ミライ「!香織…」

香織「だから、お願い。ハジメ君を、私たちの王様を、信じてあげて…!」

ミライちゃんはしばらく考えるようにして、何かを決めたように言った。

 

ミライ「そうね!私も魔王に仕える女よ!自分の王様一人信じられなくて、何が忠臣なのかしら!

やってやろうじゃない!彼が道を踏み外すなら、全力で引き戻してやるって!だから!」

?どうして、泣いているの?

ミライ「お願い…一緒にハジメ君を…彼を、導いてあげて…!」

香織「!うん!やろう、一緒に!」

 

雫「ちょっと、二人だけの世界に浸らないの。」

香織「えぇ!?そ、そんなつもりじゃ…」

恵理「香織ちゃん、真剣に話している女子友と一緒にいると、なんかそういう感じっぽいよね。」

香織「そういう感じって何!?」

トシ「あ~、なんとなくわかった…。そういうことか。」

浩介「ハジメがいたらきっと、「百合の花キマシタワー!」って言いそうだな。」

香織「は、ハジメ君はそんなこと言わないって~!」

私が誤解を解く中で、ミライちゃんは微笑ましそうにこちらを見ていた。

 

 

ミライ「あなた達なら、変えてくれるかもね…彼の、運命を。」

 


 

フィ~、ようやっと終わった。

そう思った俺は、変身を解いた。

やっぱ、無闇に変身するのはダメだな。

ダメージは皆無のはずなのに、どっと疲れた感じがする。

 

さてと、俺は柱の陰にいるユエとイナバに駆け寄った。

ハジメ「二人とも、終わったよ。」

イナバ「(お、王様…)」

?怯えさせちゃったのかな?

二人とも震えているし…

 

ユエ「ハジメェ!」

ハジメ「うぉっ!?」

いきなりユエが抱き着いてきた。

ハジメ「ユエ、落ち着いて。あんなの程度に負けないから。傷もないし、ちょっと疲れただけだって。」

ユエ「ハジメ、ハジメ…!」

ハジメ「あ~わかった、わかったから。いったん落ち着け?」

とりあえず、泣き続けているユエを泣き止ませようとしていると、イナバが尊敬の眼差しで話しかけてきた。

 

イナバ「(王様、マジスゲェっすわ!あんなに凄いなんて!

俺、王様が戦っている間、凄すぎて動けませんでしたわ!)」

ハジメ「そうだったの?てっきり、ユエにモフられて動けなかったのかと…」

イナバ「(姐さんも俺をわしゃわしゃしながら、王様を凝視していましたで。

まるで、運命の王子様を見つけた、って感じの眼で見つめていました。)」

ユエ「グスッ…ハジメ、私の王子様…」

ハジメ「俺、魔王なんだけどなぁ…まぁ、いいか。」

と、ユエの前に跪き、俺は誓いを立てた。

 

ユエ「?ハジメ?」

ハジメ「ユエ、今この場で、俺は誓うよ。」

ユエ「?」

ハジメ「たとえ何を敵に回したとしても、どんな理不尽に打ちのめされようとも、君の傍にい続けるよ。」

ユエ「!」

ハジメ「必ず約束する。君と、最後まで一緒にいるって。」

ユエ「…うんっ!」

そういうとユエは、再び俺に抱き着き、しゃくり始めた。

俺はしばらく、彼女のしたいようにさせた。

その後、泣きつかれた彼女をお姫様抱っこしながら、イナバと前に進むと…

 

 

イナバ「(王様、扉が!)」

ハジメ「あぁ、どうやらこの先が、真のゴールって奴みたいだな。」

俺たちは光に照らされた、扉の先へ進んだ。

こうして俺達は、たったの5日で【オルクス大迷宮】を攻略した。




ここまで読んでいただき、ありがとうございます!
いや~、やっぱり、オーマジオウは強すぎますね。
歩くゲームオーバー感が否めません…
でも仕方がない、だって最高最善の魔王なんだもの。
是非もナイヨネ!

さて、そんな我が魔王ですが、実は王の道以外を歩めない宿命にあるんですよねぇ…
最強王者なんていうとんでもない力を持つ以上、歩むべきは修羅の道しかないんですよねぇ…
そんなハジメさんに対し、仲間たちはどう動くのか!?
お楽しみにしていただきたいと思っております。

そして最後に、重要な誓いを立てるハジメさん、マジ王様なんですよねぇ~。
これはケジメでもあり、自身に対する戒め、そして、託された少女との契約でもあるので、ハジメさんは全力で守り抜くつもりです。
まぁ、ヤンデレ化は避けますけどね。

宜しければ、高評価・コメント宜しくお願い致します。

追記:晶彦さん、誤字報告ありがとうございました!


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17.トラウマを越えるfighters!

お待たせいたしました。
今回は、香織達サイドのお話です。
三人称で進めていこうと思います。
さぁ、修行の成果は如何に!?
そして、ランデル君の恋はいつ玉砕するのか!?

驚愕の第一章第13話、それではどうぞ!


ハジメ達が迷宮のボスを攻略してから時間が進み…

 

光輝達勇者一行は、再び【オルクス大迷宮】にやって来ていた。

但し、訪れているのは光輝達勇者パーティーと小悪党組、それに永山重吾という大柄な柔道部の男子生徒が率いており、浩介が所属している男女5人のパーティーだけだった。

 

理由は簡単だ。

話題には出さなくとも、ハジメの死が多くの生徒達の心に深く重い影を落としてしまったのである。

"戦いの果ての死"というものを強く実感させられてしまい、真面に戦闘などできなくなったのだ。一種のトラウマという奴である。

 

ハジメが危惧した通り、嫌でも思い知らされることになったのだ。

戦争の悲惨さや死と隣り合わせの世界を実感させられてしまった。

当然、聖教教会関係者はいい顔をしなかった。

実戦を繰り返し、時がたてばまた戦えるだろうと、毎日のようにやんわり復帰を促してくる。

時には、帰れなくなると脅したり、甘言による説得をしたりと、手段はさまざまであった。

 

しかし、それに猛然と抗議した者がいた。愛子先生だ。

 

愛子は当時、遠征には参加していなかった。

作農師という特殊かつ激レアな天職のため、実戦訓練よりも教会側としては農地開拓の方に力を入れてほしかったのである。

愛子がいれば、食糧問題は解決してしまう可能性が限りなく高いからだ。

そんな愛子はハジメの訃報を知るとショックのあまり寝込んでしまった。

自分が安全圏でのんびりしている間に、生徒が死んでしまったこと、その犯人が同じ生徒の一人だったという事実に、全員を日本に連れて帰ることが出来なくなったということに、責任感の強い愛子はショックを受けたのだ。

 

そんな愛子の元に幸利が訪れて、彼からの伝言を伝えた。

「俺を、信じろ。それと、出来たら醤油を作ってほしい。」と…

そして、こう言った。

「アイツは生き残れる自信があったから、こんな伝言まで出来る余裕があるんです。きっと大丈夫ですよ。アイツ、王様になる男なんですし。先生もアイツを、一人の生徒を信じてやって下さい。」と。

 

その言葉で目が覚めた彼女は、生徒達のために立ち上がったのだ。

 

愛子の天職は、この世界の食料関係を一変させる可能性がある激レアである。

その愛子先生が、不退転の意思で生徒達への戦闘訓練の強制に抗議しているのだ。

関係の悪化を避けたい教会側は、愛子の抗議を受け入れた。

 

結果、自ら戦闘訓練を望んだ勇者パーティーと小悪党組、重吾のパーティーのみが訓練を継続することになった。そんな彼らは、再び訓練を兼ねて"オルクス大迷宮"に挑むことになったのだ。

今回もメルド団長と数人の騎士団員が付き添っている。

 

今日で迷宮攻略6日目。

現在の階層は60層だ。確認されている最高到達階数まであと5層である。

しかし、光輝達は現在立ち往生していた。

正確には先へ行けないのではなく、何時かの悪夢を思い出して思わず立ち止まってしまったのだ。

 

そう、彼らの目の前にはいつかの物とは異なるが、同じような断崖絶壁が広がっていたのである。次の階層へ行くには崖にかかった吊り橋を進まなければならない。それ自体は問題ないが、やはり思い出してしまうのだろう。

そんな中、進める者を筆頭に勇者一行は進んでいく。

その中には、勇者パーティーの香織、雫、恵理、そして永山パーティーの浩介もいた。

 

香織「この先にきっとハジメ君が…」

雫「えぇ、いるはずよ。」

恵理「トシくん、大丈夫かなぁ。」

浩介「まぁ、ハジメなら何だかんだで生きていそうだしなぁ…」

とまぁ、ハジメの生存が分かっているが故の会話をしながら、先頭をグングン進んでいる。

 

光輝「お、おい!あまり前に進み過ぎるな!」

龍太郎「アイツら、なんか機嫌よくなってねぇか?」

鈴「エリエリ、お兄さんが死んだはずなのに…」

永山「浩介!?いつの間に!?」

他の勇者パーティー団員は唖然としているが。

 

一方、犯罪者檜山を筆頭とした小悪党組はというと…

近藤「お、おい、大介…」

檜山「あぁ?なんだよ?」

中野「オイオイ、急にキレるなよ。」

檜山「…うるせぇ。」

斎藤「俺らはただ、ペースを気にしていただけで…」

檜山「…分かってる。」

案の定、ギクシャクしていた。

無理もない。自分の親友がクラスメイトを殺してしまったのだから。

殺されたはずの本人は未だに旅を続けているが。

 

さて、ここまで一行は問題も無く、遂に歴代最高到達階層である65層にたどり着いた。

メルド「気を引き締めろ!ここのマップは不完全だ。何が起こるか分からんからな!」

付き添いのメルドの声が響く。光輝達は表情を引き締め未知の領域に足を踏み入れた。

暫く進んでいると、大広間に出た。何となく嫌な予感がする一同。

 

その予感は的中した。

広間に侵入すると同時に、部屋の中央に魔法陣が浮かび上がったのだ。赤黒い脈動する直径10メートルほどの魔法陣。

それは、とても見覚えのある魔法陣だった。

 

光輝「ま、まさか、……アイツなのか!?」

光輝が額に冷や汗を浮かべながら叫ぶ。他のメンバーの表情にも緊張の色がはっきりと浮かんでいた。

龍太郎「マジかよ、アイツは死んだんじゃなかったのかよ!」

竜太郎も驚愕を露わにして叫ぶ。それに答えたのは、険しい表情をしながらも冷酷な声音のメルド団長だ。

メルド「迷宮の魔物の発生原因は解明されていない。一度倒した魔物と何度も遭遇することも普通にある、気を引き締めろ!退路の確保を忘れるな!」

 

いざという時、確実に逃げられるようにまず退路の確保を優先する指示を出すメルド。

それに部下が即座に従う。だが、光輝がそれに不満そうに言葉を返した。

光輝「メルドさん。俺たちはもうあの時の俺達じゃありません。何倍も強くなったんだ!

もう負けはしない!必ず勝って見せます!」

龍太郎「へっ、その通りだぜ。何時までも負けっぱなしは性に合わねぇ。ここらでリベンジマッチだ!」

竜太郎も不敵な笑みを浮かべて呼応する。

メルドはやれやれと肩をすくめ、確かに今の光輝達の実力なら大丈夫だろうと、同じく不敵な笑みを浮かべた。

そして、遂に魔法陣が爆発したように輝き、かつての悪夢が再び光輝達の前に現れた。

 

「グゥガァアアア!!!」

咆哮を上げ、地を踏み鳴らす異形。ベヒモスが光輝達を壮絶な殺意を宿らせた眼光で睨む。

全員に緊張が走る中、4人の男女が前方に飛び出した。

光輝「香織!?」

龍太郎「雫!?」

鈴「恵理!?」

重吾「浩介!?」

 

そう、ミライから手解きを受けた我が魔王の仲間たちである。

雫「私がカウンターを叩きこむわ、香織は回復とエンチャントをお願い!」

香織「分かったよ、でも私も戦うから!」

恵理「私も魔法で威力を抑えるから、存分にやっちゃって!」

浩介「詰めは我が担当しよう。全力で行かれよ、姫君達よ!」

…若干、一人だけ口調が変だが、決して中二病ではない。

特訓の末、こうなってしまったのだ。

決して、彼自身の心の中にそう言った一面があったわけではない。

四人は役割分担を済ませると配置につき、迎撃態勢を整えた。

 

まず、香織が付与魔法を発動させた。

香織「エンチャント<筋力強化><耐性強化><体力増加><自動回復><魔力増加>!」

全員にすぐさま効果が発揮され、ステータスが一時的に飛躍した。

メルド「!?無詠唱、しかも同時に5つだと!?」

メルド団長は香織の技術に驚いていた。

 

まず、彼女は治癒魔法が得意な治癒師であって、付与魔法が使えるわけではなかった。

それに、無詠唱で魔法が使え、同時に5つも強化できるなんて、いくら彼女がチートでも信じられなかった。

それにここまでのパワーアップが出来ることにも、驚愕の連続であった。

しかし、他の者達が見ていないところで特訓を重ねていた彼女たちにとって、この程度は出来て当たり前であった。

 

他の者達が唖然としている間に、ベヒモスが雄たけびを上げながらこちらに向かってきた。

「グゥガァァアア!」

しかし、そのベヒモスに立ちはだかる影が一つ。

いつの間にか手に入れていた刀を持ちながら、抜刀の構えをとった雫である。

 

光輝「!下がれ、雫!」

光輝が慌てて制止しようとするが、ベヒモスは直ぐそこまで迫っていた。

光輝が咄嗟に駆け寄り、彼女の盾になろうとしたその時、

雫「虚空陣奥義"雪風"ッ!」

 

光輝がふと気がつくと、いつの間にか雫はベヒモスの後ろに立っており、納刀の構えになっていた。

刀が鞘に納まった瞬間、ベヒモスの4つの足が包丁で切った野菜のように切れた。

ベヒモス「グゥォォォオ!?」

しかし、勢いまでは流石に止まらなかったようだ。

その時、魔力をためていた恵理が魔法を放った。

 

恵理「マスタースパーク!」

様々な属性を掛け合わせた、それも無詠唱の閃光が、ベヒモスの額に命中した。

「グゥルァァアア!?」

その威力に押されたのか、段々減速していった。

そして、そのスピードがだんだん収まって行った瞬間…

 

何所からともなく現れた、巨大な風球がベヒモスを押しつぶし、角をへし折った。

「グゥガァァアア!?」

苦しみだすベヒモスの頭上に、何かがいるようだった。

そこに現れたのは、黒装束の浩介であった。

 

流れるような連携、まるで計算されたような怒涛の攻撃だった。

それに唖然としている他のメンバー、それを見た香織は彼らを 咤した。

香織「皆!今のうちに攻撃を!」

光輝「!あ、あぁ!永山たちは左から、檜山達は背後を、メルド団長達は右側から!後衛は魔法準備、上級を頼む!」

光輝が矢継早に指示を出す。メルド直々の指揮官訓練の賜物だ。

 

メルド「ほぅ、迷いなくいい指示をする。聞いたな?総員、光輝の指揮で行くぞ!

香織達もいいな?」

メルドが叫び騎士団員を引き連れベヒモスの右サイドに回り込むべく走り出した。

それを機に一斉に動き出し、ベヒモスを包囲する。

弱ったベヒモスに周りから攻撃を加え、逃げられないように剣と魔法で防衛線を張る。

更に、香織の付与魔法もあってか、全員の攻撃が増加していた。

立ち上がることもままならないベヒモスは、ただ攻撃を受け続けるだけであった。

 

「グゥルァガァアアアア!!!!」

そして遂に、ベヒモスの断末魔が広間に響き渡った。

やがて、その叫びは少しずつ小さくなり、消えていった。

そして、後にはベヒモスの死骸が残った。

 

「か、勝ったのか?」

「勝ったんだろ……」

「勝っちまったよ……」

「マジか?」

「マジで?」

全員、まるで夢でも見ているかのようだった。

同じく、茫然としていた光輝が、我を取り戻したのかスッと背筋を伸ばし聖剣を頭上へ真っ直ぐに掲げた。

光輝「そうだ!俺達の勝ちだ!」

 

キラリと輝く聖剣を掲げながら勝鬨を上げる光輝。

その声にようやく勝利を実感したのか、一斉に歓声が沸き上がった。

男子連中は肩を叩きあい、女子達はお互いに抱き合って喜びを表にしている。メルド達も感慨深そうだ。

そんな中、香織達4人も1か所に集まり、特訓の成果を実感していた。

 

香織「えっと~その…」

恵理「何というか、ねぇ…」

雫「遠藤君、大丈夫かしら…?」

浩介「グスッ…何だよあれ。完全に痛い奴の発言じゃねぇかよぉ…」

訂正。一人だけ口調が変わっていた男、浩介を慰めていた。

何というか、改めて聞くと確かに変だった。

そんな彼を、女子達は痛ましいものを見るような目で、男子達は羨ましそうな目で見ていた。

 

メルド「あ~何というかだ。その、素晴らしかったぞ!

恵理はあんな凄い魔法を放つし、雫もあっという間に敵の後ろにまわっていたし、香織もいつの間に付与魔法を覚えたのかは分からんが、中々の腕じゃないか!

お前達、いつの間にそんなに強くなったんだ!?」

香織「あ、ありがとうございます!それで、遠藤君なんですが…」

メルド「お、おう!凄かったな、浩介!

魔物に気づかれずにあんな大技を放てるなんてな!」

浩介「…すいません、メルド団長。

今の俺、賛辞を受けても立ち上がれる状態じゃないので…」

メルド「そ、そうか…まぁ、強く生きろ。」

皆の団長でも、彼の心の傷のケアは流石に無理だった模様。

 

光輝「二人共、無事か?香織、最高の付与魔法だったよ。

雫もいつの間にか凄い技を放っていたし、恵理も凄い魔法だったな。

皆がいれば、怖いものなしだよ。」

爽やかな笑みを浮かべながら香織と雫、恵理を労う光輝。

雫「ええ、大丈夫よ。光輝は……まぁ、大丈夫よね。」

香織「うん、平気だよ、光輝くん。皆の役に立ててよかったよ。」

恵理「まぁ、これ位しないと、兄さんには「まだまだだな」って言われそうだし。」

同じく微笑みを持って返す3人。

 

光輝「これで少しは、南雲も檜山を許してくれるだろう。

アイツがいなくても十分戦える位、俺達は強くなれたんだから。

きっとそう思っているはずだ。」

「「「……」」」

勝手に殺さないでほしいし、代弁しないでほしいなぁ、と心では思いつつも、敢えて言わない3人であった。

 

永山「浩介、この"深淵卿"ってのは何だ?」

浩介「お願いですそれだけは何が何でも聞かないで下さいお願いです」(早口で繰り返している)

野村「ほ、ホントにどうしたんだ、浩介?」

こっちはこっちで爪痕がデカかったようだ。

兎にも角にも、少年少女達は過去のトラウマを乗り越えたのだった。

 


 

更に時間は飛んで…

 

勇者一行は、一時迷宮攻略を中断してハイリヒ王国王都に戻っていた。

道順の分かっている今までの階層と異なり、完全な探索攻略であることから、その攻略速度は一気に落ちたこと、また魔物の強さも一筋縄では行かなくなってきたためメンバーの疲労が激しく一度中断して休養を取るべきという結論に至ったのだった。

 

尤も、休養だけなら宿場町ホルアドでも良かった。

王宮まで戻る必要があったのは、迎えが来たからである。

なんでも、今まで音沙汰の無かったヘルシャー帝国から勇者一行に会いに使者が来るのだという。

光輝達の脳裏に「何故、このタイミングで?」という疑問が浮かんだのは当然だろう。

 

勇者召喚の際に同盟国である帝国の人間が居合わせなかったのは、エヒト神による"神託"がなされてから光輝達が召喚されるまで殆ど間がなかったために同盟国である帝国に知らせが行く前に勇者召喚が行われてしまい、召喚直後の顔合わせが出来なかったのが理由である。

 

尤も、仮に勇者召喚の知らせがあっても帝国は動かなかったと考えられる。

何故なら、帝国は300年前にとある名を馳せた傭兵が建国した国であり、冒険者や傭兵の聖地ともいうべき完全実力主義の国だからだ。

突然現れ、人間族を率いる勇者と言われても納得は出来ないだろう。

聖教教会は帝国にもあり、帝国民も例外なく信徒であるが、王国民に比べれば信仰度は低い。

大多数の民が傭兵か傭兵業からの成り上がり物で占められている事から信仰よりも実益を取りたがる者が多いのだ。

尤も、あくまでどちらかと言えばという話であり、熱心な信者であることに変わりはないのだが。

 

そんな訳で、召喚されたばかりの頃の光輝達と顔合わせをしても軽んじられる可能性があった。

もちろん、教会を前に、神の使徒に対してあからさまな態度は取らないだろうが。

王国が顔合わせを引き伸ばすのを幸いに、帝国側、特に皇帝陛下は興味を持っていなかったので、今まで関わることがなかったのである。

 

しかし、今回の【オルクス大迷宮】攻略で、歴史上最高記録である65層が突破されたことに加え、無詠唱かつたった4人でベヒモスを圧倒した者達がいるという情報により、帝国側も光輝達に興味を持つに至った。

帝国側から是非会ってみたいという知らせが来たのだ。

王国側も聖教教会も、いい時期だと了承したのである。

そんな話を帰りの馬車の中でツラツラと教えられながら、光輝達は王宮に到着した。

 

因みに、本で帝国について知ったハジメさんは、帝国には絶対に行かないと決めていた。

当然である。

なにせ、いきなりステータスが100,000なんて馬鹿げた数値を持っていることが知られたら、皇帝は何が何でもハジメを配下に引き入れようとしていただろう。

その時は、帝国が魔王の国に変わるだけだとは思うが、当時のハジメさんはそんなこと微塵も考えていなかった。

 

馬車が王宮に入り、全員が降車すると王宮の方から一人の少年が駆けて来るのが見えた。

十歳位の金髪碧眼の美少年である。

光輝と似た雰囲気を持つが、ずっとやんちゃそうだ。

その正体は、ハイリヒ王国の失恋王子ことランデル・S・B・ハイリヒである。

ランデル殿下は、主人に駆け寄る愛犬のような雰囲気で駆け寄ってくると大声で叫んだ。

 

ランデル「香織!よく帰った!待ちわびたぞ!」

もちろんこの場には、香織だけでなく他にも帰還を果たした生徒達が勢揃いしている。

その中で、香織以外見えないという様子のランデル殿下の態度を見れば、どういう感情を持っているかは容易に想像つくだろう。

実は、召喚された翌日から、ランデル殿下は香織に猛アプローチを掛けていた。と言っても、彼は十歳。

香織から見れば小さい子に懐かれている程度の認識であり、その思いが実る気配は微塵もない。

生来の面倒見の良さから、弟のようには可愛く思ってはいるようだが。

 

香織「ランデル殿下、お久しぶりです。」

パタパタ振られる尻尾を幻視しながら微笑む香織。

そんな香織の笑みに一瞬で顔を真っ赤にするランデル殿下は、それでも精一杯男らしい表情を作って香織にアプローチをかける。

ランデル「ああ、本当に久しぶりだな。

お前が迷宮に行ってる間は生きた心地がしなかったぞ。

怪我はしてないか? 余がもっと強ければお前にこんなことさせないのに……」

ランデル殿下は悔しそうに唇を噛む。

香織としては、自分の身位は守れるのでそんなことは必要ないが、少年の微笑ましい心意気に思わず頬が緩む。

 

香織「お気づかい下さりありがとうございます。ですが、私なら大丈夫ですよ?

自分で望んでやっていることですから。」

ランデル「いや、香織に戦いは似合わない。

そ、その、ほら、もっとこう安全な仕事もあるだろう?」

香織「安全な仕事、ですか?」

ランデル殿下の言葉に首を傾げる香織。ランデル殿下の顔は更に赤みを増す。

となりで面白そうに成り行きを見ている雫は察しがついて、少年の健気なアプローチに思わず苦笑いする。

恵理はというと、玉砕する彼の未来を予想して、可哀想なものを見る目で見ている。

 

ランデル「う、うむ。例えば、侍女とかどうだ?

その、今なら余の専属にしてやってもいいぞ。」

香織「侍女ですか?いえ、すみません。私は治癒師ですから……」

ランデル「な、なら医療院に入ればいい。

迷宮なんて危険な場所や前線なんて行く必要ないだろう?」

医療院とは、国営の病院のことである。王宮の直ぐ傍にある。

要するに、ランデル殿下は香織と離れるのが嫌なのだ。

しかし、そんな少年の気持ちは鈍感な香織には届かない。

 

香織「いえ、前線でなければ直ぐに癒せませんから。

心配して下さりありがとうございます。」

ランデル「うぅ…」

ランデル殿下は、どうあっても香織の気持ちを動かすことができないと悟り小さく唸る。

そこへ空気を読まない厄介な善意の塊、勇者光輝がにこやかに参戦する。

 

光輝「ランデル殿下、香織は俺の大切な幼馴染です。俺がいる限り、絶対に守り抜きますよ。」

光輝としては、年下の少年を安心させるつもりで善意全開に言ったのだが、この場においては不適切な発言だった。

恋するランデル殿下にはこう意訳される。

〝俺の女に手ぇ出してんじゃねぇよ。俺がいる限り香織は誰にも渡さねぇ! 絶対にな!〟

親しげに寄り添う勇者と治癒師。実に様になる絵である。

ランデル殿下は悔しげに表情を歪めると、不倶戴天の敵を見るようにキッと光輝を睨んだ。

ランデル殿下の中では二人は恋人のように見えているのである。

尤も、魔王の傍らに佇む黒い天使の方が、彼女に似合いそうだが。

 

ランデル「香織を危険な場所に行かせることに何とも思っていないお前が何を言う! 絶対に負けぬぞ!香織は余といる方がいいに決まっているのだからな!」

光輝「え~と……」

ランデル殿下の敵意むき出しの言葉に、香織はどうしたものかと苦笑いし、光輝はキョトンとしている。

雫はそんな光輝を見て溜息だ。

 

浩介は感じた。

雫がいなかったら、このパーティーは内ゲバで崩壊していただろう、と。

後、香織さんは魔王の傍に行きたがっているので、二人ともそろそろ諦めろ。

そう言いたかった。

ガルルと吠えるランデル殿下に何か機嫌を損ねることをしてしまったのかと、光輝が更に煽りそうなセリフを吐く前に、涼やかだが、少し厳しさを含んだ声が響いた。

 

リリアーナ「ランデル。いい加減にしなさい。香織が困っているでしょう?

光輝さんにもご迷惑ですよ。」

ランデル「あ、姉上!?……し、しかし。」

ランデル殿下の姉、王女リリアーナが現れ、ランデル殿下を諫める。

リリアーナ「しかしではありません。

皆さんお疲れなのに、こんな場所に引き止めて……

相手のことを考えていないのは誰ですか?」

ランデル「うっ……で、ですが……。」

リリアーナ「ランデル?」

ランデル「よ、用事を思い出しました!失礼します!」

 

ランデル殿下はどうしても自分の非を認めたくなかったのか、いきなり踵を返し駆けていってしまった。

その背を見送りながら、王女リリアーナは溜息を吐く。

 

リリアーナ「香織、光輝さん、弟が失礼しました。代わってお詫び致しますわ。」

リリアーナはそう言って頭を下げた。美しいストレートの金髪がさらりと流れる。

香織「ううん、気にしてないよ、リリィ。

ランデル殿下は気を使ってくれただけだよ。」

光輝「そうだな。なぜ、怒っていたのかわからないけど……

何か失礼なことをしたんなら俺の方こそ謝らないと。」

香織と光輝の言葉に苦笑いするリリアーナ。

姉として弟の恋心を察しているため、意中の香織に全く意識されていないランデル殿下に多少同情してしまう。

後、光輝は行かない方がいい、絶対ややこしくなるから。

他の皆が激しくそう思った。

 

まして、ランデル殿下の不倶戴天の敵は別にいることを知っているので尚更だった。

ちなみに、ランデル殿下がその不倶戴天の敵に会ったとき、一騒動起こすのだが……それはまた別の話。

 

リリアーナ姫は、現在十四歳の才媛だ。

その容姿も非常に優れていて、国民にも大変人気のある金髪碧眼の美少女である。

性格は真面目で温和、しかし、硬すぎるということもない。

TPOをわきまえつつも使用人達とも気さくに接する人当たりの良さを持っている。

 

光輝達召喚された者にも、王女としての立場だけでなく一個人としても心を砕いてくれている。

彼等を関係ない自分達の世界の問題に巻き込んでしまったと罪悪感もあるようだ。 

そんな訳で、率先して生徒達と関わるリリアーナと彼等が親しくなるのに時間はかからなかった。

特に同年代の香織や雫達との関係は非常に良好で、今では愛称と呼び捨て、タメ口で言葉を交わす仲である。

 

後、我らが魔王ことハジメさんにホの字のお方でもある。

罪づくりな魔王様はというと、現在放浪の旅に出られているとか何とか…(香織談)

後、雫が彼に相応しいであろう中二ネームを考えている…らしい。

 

リリアーナ「いえ、光輝さん。ランデルのことは気にする必要ありませんわ。

あの子が少々暴走気味なだけですから。

それよりも……改めて、お帰りなさいませ、皆様。

無事のご帰還、心から嬉しく思いますわ。」

リリアーナはそう言うと、ふわりと微笑んだ。香織や雫といった美少女が身近にいるクラスメイト達だが、その笑顔を見てこぞって頬を染めた。

リリアーナの美しさには二人にない洗練された王族としての気品や優雅さというものがあり、多少の美少女耐性で太刀打ちできるものではなかった。

 

現に、永山組や小悪党組の男子は顔を真っ赤にしてボーと心を奪われているし、女子メンバーですら頬をうっすら染めている。

異世界で出会った本物のお姫様オーラに現代の一般生徒が普通に接しろという方が無茶なのである。

昔からの親友のように接することができる香織達の方がおかしいのだ。

 

光輝「ありがとう、リリィ。

君の笑顔で疲れも吹っ飛んだよ。俺も、また君に会えて嬉しいよ。」

さらりとキザなセリフを爽やかな笑顔で言ってしまう光輝。

繰り返し言うが、光輝に下心は一切ない。

生きて戻り再び友人に会えて嬉しい、本当にそれだけなのだ。

単に自分の容姿や言動の及ぼす効果に病的なレベルで鈍感なだけで。

浩介は理解した、ハジメが光輝の舵取りに苦労していたことを。

 

リリアーナ「えっと、そうですか?それはよかったです、ね!」

王女である以上、国の貴族や各都市、帝国の使者等からお世辞混じりの褒め言葉をもらうのは慣れている。

なので、彼の笑顔の仮面の下に隠れた下心を見抜く目も自然と鍛えられている。

それ故、光輝が一切下心なく素で言っているのがわかってしまう。

そういう経験は家族以外ではほとんどないので、つい頬が赤くなってしまうリリアーナ。

また、たまにオロオロとしてしまうというギャップもまた、彼女の人気の一つだったりする。

まぁ、彼女が本当に照れている理由は、脳内で光輝はハジメさんに変換されているからなのだが…

 

光輝は相変わらず、ニコニコと笑っており自分の言動が及ぼした影響に気がついていない。

それに、深々と溜息を吐くのはやはり雫だった。

苦労性が板についてきている。本人は断固として認めないだろうが。

浩介は思った。ハジメ、早く帰って来てくれ。

じゃないと八重樫さんが過労死するから。と。

 

リリアーナ「えっと、とにかくお疲れ様でした。

お食事の準備も、清めの準備もできておりますから、ゆっくりお寛ぎくださいませ。

帝国からの使者様が来られるには未だ数日は掛かりますから、お気になさらず。」

どうにか体面を立て直したリリアーナは、光輝達を促した。

 

光輝達が迷宮での疲れを癒しつつ、居残り組にベヒモスの討伐を伝え歓声が上がったり、これにより戦線復帰するメンバーが増えたり、愛子先生が一部で"豊穣の女神"と呼ばれ始めていることが話題になり彼女を身悶えさせたりと色々あったが光輝達はゆっくり迷宮攻略で疲弊した体を癒した。

 

一方、我らが切り札、遠藤君はというと…

アビスゲート「フッ、今日も行くぞ、吾輩よ!」

浩介「イヤァァァアアアッ!?」

…今日も今日とて、死闘を繰り広げていた。




ここまで読んでいただき、ありがとうございます!

さて、遂に香織達の修行の成果が公開されました。
因みに、使われた技は知る人ぞ知る名作からとっています。
後、雫は真っ白仮面よりも、髪色変えた同じ属性のキャラが似合いそうですね。

ランデル君がフラれるまで、後5章…
リリアーナは既にハジメさんに惚れているので、光輝の気障なセリフにもちゃんと対応しています。

後、彼女にも香織経由でハジメさんの生存が知られています。
(ちゃんと誰にも言わないよう約束した。)
なので、ハジメさんは女性関連で色々苦労します。

宜しければ、高評価・コメント宜しくお願い致します。
追記:リースティアさん、晶彦さん、毎度の誤字報告、ありがとうございます!


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18.時巡る光

お待たせいたしました。
今回も地上組サイドのお話。
皇帝との会談、そして新キャラがまさかの登場!
ミライちゃんの過去の秘密が語られる!?

波乱の展開の第一章第14話、それではどうぞ!


それから三日経ち、遂に帝国の使者が訪れた。

現在、光輝達、迷宮攻略に赴いたメンバーと王国の重鎮達、そしてイシュタル率いる司祭数人が謁見の間に勢ぞろいし、レッドカーペットの中央に帝国の使者が五人ほど立ったままエリヒド陛下と向かい合っていた。

 

エリヒド王「使者殿、よく参られた。

勇者方の至上の武勇、存分に確かめられるがよかろう。」

???「陛下、この度は急な訪問の願い、聞き入れて下さり誠に感謝いたします。

して、どなたが勇者様なのでしょう?」

エリヒド王「うむ、まずは紹介させて頂こうか。光輝殿、前へ出てくれるか?」

光輝「はい。」

陛下と使者の定型的な挨拶のあと、早速、光輝達のお披露目となった。陛下に促され前に出る光輝。

召喚された頃と違い、まだ二ヶ月程度しか経っていないのに随分と精悍な顔つきになっている。

尤も、香織さんや雫さん、リリアーナにとっては、ハジメさんの方がいい顔をしている認識だが。

 

ここにはいない、王宮の侍女や貴族の令嬢、居残り組の光輝ファンが見れば間違いなく熱い吐息を漏らしうっとり見蕩れているに違いない。

光輝にアプローチをかけている令嬢方だけで既に二桁はいるのだが……

彼女達のアプローチですら「親切で気さくな人達だなぁ。」としか感じていない辺り、光輝の鈍感は極まっている。

まさに鈍感系主人公を地で行っている。

 

因みに我らが魔王も、例の件によってアプローチは一時期光輝よりも多かった。

しかし、彼の訃報を受けた一部の者は、死人のハジメから生者の光輝に鞍替えした。

それによって、派閥抗争が起きたこともあったらしいが…

それはさておき、光輝を筆頭に、次々と迷宮攻略のメンバーが紹介された。

 

???「ほぅ、貴方が勇者様ですか。随分とお若いですな。

失礼ですが、本当に六十五層を突破したので?

確か、あそこにはベヒモスという化物が出ると記憶しておりますが……」

使者は、光輝を観察するように見やると、イシュタルの手前露骨な態度は取らないものの、若干、疑わしそうな眼差しを向けた。

使者の護衛の一人は、値踏みするように上から下までジロジロと眺めている。

その視線に居心地悪そうに身じろぎしながら、光輝が答える。

 

光輝「えっと、ではお話しましょうか?

どのように倒したかとか、あっ、六十六層のマップを見せるとかどうでしょう?」

光輝は信じてもらおうと色々提案するが使者はあっさり首を振りニヤッと不敵な笑みを浮かべた。

???「いえ、お話は結構。それよりも手っ取り早い方法があります。

私の護衛一人と模擬戦でもしてもらえませんか?

それで、勇者殿の実力も一目瞭然でしょう。」

光輝「えっと、俺は構いませんが……」

 

光輝は若干戸惑ったようにエリヒド陛下を振り返る。

エリヒド陛下は光輝の視線を受けてイシュタルに確認を取る。イシュタルは頷いた。

神威をもって帝国に光輝を人間族のリーダーとして認めさせることは簡単だが、完全実力主義の帝国を早々に本心から認めさせるには、実際戦ってもらうのが手っ取り早いと判断したのだ。

エリヒド王「構わんよ。光輝殿、その実力、存分に示されよ。」

???「決まりですな、では場所の用意をお願いします。」

こうして急遽、勇者対帝国使者の護衛という模擬戦の開催が決定したのだった。

因みに、我らが魔王ハジメさんならこの時点で怪しみ、実際に65層に連れていって倒して見せる、という強引だが確実な方法で黙らせるつもりである。

まぁ、実力を隠して戦うのであれば、錬成によるトラップで翻弄するか、拳で分からせるかの二択であるが。

十分にチートとかそういうものから逸脱している。

 

光輝の対戦相手は、なんとも平凡そうな男だった。

高すぎず低すぎない身長、特徴という特徴がなく、人ごみに紛れたらすぐ見失ってしまいそうな平凡な顔。

一見すると全く強そうに見えない。

刃引きした大型の剣をだらんと無造作にぶら下げており、構えらしい構えもとっていなかった。

これをハジメが見たら、警戒心高めで相手をしなければいけないと思うだろう。

見た目が平凡であるほど、実力が読めないのだから。

それに加えて、一見無造作に見える構えも、本人にとっては、直ぐに刃を振るうことのできる構えであることを予想し、その軌道を読むべきだと考えるべきなのだ。

尤も、これは戦闘経験豊富な軍人や、歩くゲームオーバーなハジメだからこそ、見抜けるものなのだ。

 

そうとは知らない光輝は、舐められているのかと些か怒りを抱く。

最初の一撃で度肝を抜いてやれば真面目にやるだろうと、最初の一撃は割かし本気で打ち込むことにした。

光輝「いきます!」光輝が風となる。

"縮地"により高速で踏み込むと豪風を伴って唐竹に剣を振り下ろした。

並みの戦士なら視認することも難しかったかもしれない。

もちろん、光輝としては寸止めするつもりだった。だが、その心配は無用。

むしろ舐めていたのは光輝の方だと証明されてしまう結果となった。

 

光輝「ガフッ!?」バキィ!!

吹き飛んだのは光輝の方だった。

護衛の方は剣を掲げるように振り抜いたまま光輝を睥睨している。

光輝が寸止めのため一瞬、力を抜いた刹那にだらんと無造作に下げられていた剣が跳ね上がり光輝を吹き飛ばしたのだ。

光輝は地滑りしながら何とか体勢を整え、驚愕の面持ちで護衛を見る。

寸止めに集中していたとは言え、護衛の攻撃がほとんど認識できなかったのだ。

護衛は掲げた剣をまた力を抜いた自然な体勢で構えている。

そう、先ほどの攻撃も動きがあまりに自然すぎて危機感が働かず反応できなかったのである。

 

???「はぁ~、おいおい、勇者ってのはこんなもんか?まるでなっちゃいねぇ。やる気あんのか?」

平凡な顔に似合わない乱暴な口調で呆れた視線を送る護衛。その表情には失望が浮かんでいた。

確かに、光輝は護衛を見た目で判断して無造作に正面から突っ込んでいき、あっさり返り討ちにあったというのが現在の構図だ。

光輝は相手を舐めていたのは自分の方であったと自覚し、怒りを抱いた。今度は自分に向けて。

 

光輝「すみませんでした。もう一度、お願いします。」

今度こそ、本気の目になり、自分の無礼を謝罪する光輝。

護衛は、そんな光輝を見て、「戦場じゃあ"次"なんてないんだがな。」と不機嫌そうに目元を歪めるが相手はするようだ。先程と同様に自然体で立つ。

 

光輝は気合を入れ直すと再び踏み込んだ。

唐竹、袈裟斬り、切り上げ、突き、と〝縮地〟を使いこなしながら超高速の剣撃を振るう。

その速度は既に、光輝の体をブレさせて残像を生み出しているほどだ。

しかし、そんな嵐のような剣撃を護衛は最小限の動きでかわし捌き、隙あらば反撃に転じている。

時々、光輝の動きを見失っているにもかかわらず、死角からの攻撃にしっかり反応している。

 

光輝には護衛の動きに覚えがあった。それはメルド団長だ。

彼と光輝のスペック差は既にかなりの開きが出ている。

にも関わらず、未だ光輝はメルド団長との模擬戦で勝ち越せていないのだ。

それは偏に圧倒的な戦闘経験の差が原因である。

おそらく護衛も、メルド団長と同じく数多の戦場に身を置いたのではないだろうか。

その戦闘経験が光輝とのスペック差を埋めている。

つまり、この護衛はメルド団長並かそれ以上の実力者というわけだ。

 

???「ふん、確かに並の人間じゃ相手にならん程の身体能力だ。

しかし、少々素直すぎる。

元々、戦いとは無縁か?」

光輝「えっ? えっと、はい、そうです。俺は元々ただの学生ですから。」

???「……それが今や"神の使徒"か。」

チラッとイシュタル達聖教教会関係者を見ると護衛は不機嫌そうに鼻を鳴らした。

 

???「おい、勇者。構えろ。今度はこちらから行くぞ。気を抜くなよ?

うっかり殺してしまうかもしれんからな。」

護衛はそう宣言するやいなや一気に踏み込んだ。光輝程の高速移動ではない。

むしろ遅く感じるほどだ。だというのに、

光輝「ッ!?」

気がつけば目の前に護衛が迫っており剣が下方より跳ね上がってきていた。光輝は慌てて飛び退る。

しかし、まるで磁石が引き合うかのようにピッタリと間合いを一定に保ちながら鞭のような剣撃が光輝を襲った。

 

不規則で軌道を読みづらい剣の動きに、"先読"で辛うじて対応しながら一度距離を取ろうとするが、まるで引き離せない。

"縮地"で一気に距離を取ろうとしても、それを見越したように先手を打たれて発動に至らない。

次第に光輝の顔に焦りが生まれてくる。

そして遂に、光輝がダメージ覚悟で剣を振ろうとした瞬間、その隙を逃さず護衛が魔法のトリガーを引く。

???「穿て――"風撃"」

呟くような声で唱えられた詠唱は小さな風の礫を発生させ、光輝の片足を打ち据えた。

 

光輝「うわっ!?」

踏み込もうとした足を払われてバランスを崩す光輝。その瞬間、壮絶な殺気が光輝を射貫く。

冷徹な眼光で光輝を睨む護衛の剣が途轍もない圧力を持って振り下ろされた。

刹那、光輝は悟る。彼は自分を殺すつもりだと。実際、護衛はそうなっても仕方ないと考えていた。

自分の攻撃に対応できないくらいなら、本当の意味で殺し合いを知らない少年に人間族のリーダーを任せる気など毛頭なかった。

例えそれで聖教教会からどのような咎めが来ようとも、戦場で無能な味方を放置する方がずっと耐え難い。

それならいっそと、そう考えたのだ。

 

しかし、そうはならなかった。

???「ガァ!?」ズドンッ!!

先ほどの再現か。今度は護衛が吹き飛んだからだ。

護衛が、地面を数度バウンドし両手も使いながら勢いを殺して光輝を見る。

光輝は全身から純白のオーラを吹き出しながら、護衛に向かって剣を振り抜いた姿で立っていた。

護衛の剣が振り下ろされる瞬間、光輝は生存本能に突き動かされるように"限界突破"を使ったのだ。

これは、一時的に全ステータスを三倍に引き上げてくれるという、ピンチの時に覚醒する主人公らしい技能である。

だが、光輝の顔には一切余裕はなかった。恐怖を必死で押し殺すように険しい表情で剣を構えている。

そんな光輝の様子を見て、護衛はニヤリと不敵な笑みを浮かべた。

 

???「ハッ、少しはマシな顔するようになったじゃねぇか。

さっきまでのビビリ顔より、よほどいいぞ!」

光輝「ビビリ顔?今の方が恐怖を感じてます。

……さっき俺を殺す気ではありませんでしたか?これは模擬戦ですよ?」

???「だからなんだ?まさか適当に戦って、はい終わりっとでもなると思ったか?

この程度で死ぬならそれまでだったってことだろ。

お前は、俺達人間の上に立って率いるんだぞ?その自覚があんのかよ?」

光輝「!それ、は……」

光輝はハジメが言っていたことを思い出す。

それは、個人としての光輝に言った訳ではなく、人の上にたつ立場の光輝に向けて言ったものだったのだ。

たった今それを理解した光輝は、護衛の言葉に答えを返した。

 

???「傷つけることも、傷つくことも恐れているガキに何ができる?

剣に殺気一つ込められない奴がご大層なこと言ってんじゃね…「わかっています。」あ?」

光輝「確かに、俺はどっちも怖い。

でも、誰かの助けになれるなら、張り子の虎でも構わない!

それが、俺の信じる正義です!」

???「…ハッ、威勢だけは一丁前のようだな。

おら、しっかり構えな? 最初に言ったろ?気抜いてっと……死ぬってな!」

護衛が再び尋常でない殺気を放ちながら光輝に迫ろう脚に力を溜める。

光輝は苦しそうに表情を歪めた。しかし、護衛が実際に踏み込むことはなかった。

何故なら、護衛と光輝の間に光の障壁がそそり立ったからだ。

 

イシュタル「それくらいにしましょうか。

これ以上は、模擬戦ではなく殺し合いになってしまいますのでな。

……ガハルド殿もお戯れが過ぎますぞ?」

???「……チッ、バレていたか。相変わらず食えない爺さんだ。」

イシュタルが発動した光り輝く障壁で水を差された〝ガハルド殿〟と呼ばれた護衛が、周囲に聞こえないくらいの声量で悪態をつく。

そして、興が削がれたように肩を竦め剣を納めると、右の耳にしていたイヤリングを取った。

すると、まるで霧がかかったように護衛の周囲の空気が白くボヤけ始め、それが晴れる頃には、全くの別人が現れた。四十代位の野性味溢れる男だ。

短く切り上げた銀髪に狼を連想させる鋭い碧眼、スマートでありながらその体は極限まで引き絞られたかのように筋肉がミッシリと詰まっているのが服越しでもわかる。

その姿を見た瞬間、周囲が一斉に喧騒に包まれた。

 

「ガ、ガハルド殿!?」

「皇帝陛下!?」

そう、この男、何を隠そうヘルシャー帝国現皇帝ガハルド・D・ヘルシャーその人である。

まさかの事態にエリヒド陛下が眉間を揉みほぐしながら尋ねた。

エリヒド王「どういうおつもりですかな、ガハルド殿。」

ガハルド皇帝「これは、これはエリヒド殿。ろくな挨拶もせず済まなかった。

ただな、どうせなら自分で確認した方が早いだろうと一芝居打たせてもらったのよ。

今後の戦争に関わる重要なことだ。無礼は許して頂きたい。」

謝罪すると言いながら、全く反省の色がないガハルド皇帝。

それに溜息を吐きながら「もう良い」と頭を振るエリヒド陛下。

 

光輝達は完全に置いてきぼりだ。

なんでも、この皇帝陛下、フットワークが物凄く軽いらしく、このようなサプライズは日常茶飯事なのだとか。

どっかの王様志望の男を思い浮かべた者も、何人かいた。

それを見抜いていたのか、ガハルド皇帝は言った。

ガハルド皇帝「ところで、ベヒモスを圧倒したという4人は何方に?

出来れば、そのお力も見せていただきたいものだが…」

「「「「!」」」」

 

香織(どどど、どうしよう!?)

雫(ご指名のようね…)

恵里(やるしかない。)

浩介(マジか…)

指名された4人は、皇帝に実力を見せるのがとても嫌そうだった。

当然である。あのハジメが絶対に行きたくないと言っていたのだ。

それ程までに、帝国は優秀な人材を欲している。

今ここで実力を見せてしまえば、面倒ごとに巻き込まれること間違いなしである。

そうなっては、ハジメ捜索どころではない。それだけは嫌だったのだ。

そう言った訳で、香織達は実力を見せることを渋った。因みに、浩介のみ技能を行使した時の代償が大きいからである。

戦いたがらない4人に対し、戦いたい気持ちが逸ったガハルド皇帝は、言ってはならないことを言ってしまった。

 

ガハルド皇帝「そういえば、風の噂で聞いたのだが、勇者一行の一人が死亡したとか。」

「「「「!」」」」

「何でも、ベヒモスをたった一人、それも生産職である錬成師が圧倒した、という話を小耳にはさんだのでね、是非とも会ってみたかったのですがねぇ…」

「「「「……」」」」

もう一押しとでも思ったのか、ガハルド皇帝は続けた。

ガハルド皇帝「その人物はたしか、王様になるとか言ってましたか。技能は素晴らしいようですが、本当に王になる気が合ったのだろう…か!?」ジャキッ

瞬間、四人が同時に寸止めで攻撃を加えた。

 

香織は縛光刃を編み込んだ光の刃を、雫は研ぎ澄まされた刀を、恵理は魔力で編んだ刃を、浩介は幾重にも分身して周りを囲い込み、鋭い苦無をそれぞれ突き付けた。

あまりの速さと殺気に全員動けなかった。襲撃を受けたガハルド皇帝でさえもだ。

香織「皇帝陛下、あまり不用意なことをおっしゃらないで下さい。」

雫「死人に口なしとは言いますが、それでも限度があると思います。」

恵理「それに、私たちの実力を見たいがために利用されるとあっては、流石に怒りを抑えきれません。」

浩介「ご理解いただけたなら、どうか先程の言葉をお取り消しを。」

四人は鋭い殺気を放ったまま、冷酷にガハルド皇帝に言った。

 

ガハルド皇帝「分かった分かった!今のは俺が悪かった!ちょっと試してみただけなんだっての!」

ガハルド皇帝がそう言うと、四人は得物を下ろし殺気と分身を解いた。

雫「ご理解いただけたようなら何よりです。」

四人を代表して雫がそう告げた。

ガハルド皇帝「ったく、こんなとんでもない連中に慕われているって、一体どんな奴だったんだ…?

そもそも、本当に錬成師だったのか?実は、バリッバリの前衛職だったんじゃ…」

???「それは違いますわ、ガハルド皇帝陛下。」

そう言って現れたのは、王女リリアーナだった。

 

エリヒド王「!?リリアーナ!どうしてここに!」

リリアーナ「国王陛下、何も告げずにこちらへ参ったことをお許しください。

何でも、皇帝側の護衛の方が光輝様と模擬戦をするとのことなので、心配になって見に来てしまいました。」

尤もらしいセリフを言ってごまかすリリアーナ。

それを信じたらしいエリヒド王に一礼してから、ガハルド皇帝の方へ向き直った。

ガハルド皇帝「リリアーナ王女、違うとはどういうことだ?」

リリアーナ「国王陛下が、ご説明いたしますことを許可して頂けるのであれば。」

ガハルド皇帝「とのことだ。エリヒド王、どうであろうか?」

エリヒド王「構わない。説明しなさい、リリアーナ。」

リリアーナ「ご許可して頂いたこと感謝いたします、国王陛下。それでは、説明いたします。」

リリアーナは、ハジメが王宮の使用人たちの手伝いを細かい所までこなしたこと、一人で王都外の魔物を壊滅させたこと、一部の貴族令嬢や貧乏貴族、更には自分にまでも、純正ダイヤで造った装飾品を送ってくれたことに加え、純度100%の鉄の錬成に成功したことまで説明した。

 

ガハルド皇帝は最初、ベヒモスをたった一人で圧倒したことなど半信半疑であった。

それに加えて、その男の天職はなんと「錬成師」。本来、戦闘には不向きな職業である。

しかし、話を聞いていくうちに、彼がベヒモスをステータスだけで圧倒したという可能性が浮かんだ。

それを確かめるべく、ガハルド皇帝は聞いてみた。

ガハルド皇帝「話は分かった。時に、エリヒド王。彼のステータスプレートはないのかね?

もしよろしければ、拝見したいのだが…」

エリヒド王「申し訳ない。

生憎死体がまだ見つかっていないこともあって、ステータスプレートは今手元にはないのだ。

見つけ次第、そちらに連絡いたしましょう。」

ガハルド皇帝「そうか、それは助かる。」

ガハルド皇帝は内心で、件の彼が戦争の抑止力になり得ることを念頭に、どうやって彼の素性を確かめるか考えを巡らせることにした。

 

ガハルド皇帝「まぁ、例の4人の実力も見せていただいたので、本日はここまでといたしましょう。

もし、件の彼が存命していたのであれば、ご連絡して頂けると幸いだ。」

エリヒド王「そうですね、そちらも情報提供をしていただけるなら構いません。

一部の職人や令嬢達が彼の作品を見て"この作品の作成者はどこにいる!?"と詰め寄って来ておりまして…」

ガハルド皇帝「それは大変だ。是非とも見つけねばなるまいな。」

そう言っているガハルド皇帝の顔は、まだ見ぬお宝に好奇心を揺さぶられる子供の様だった。

こうして、なし崩しで模擬戦も終わり、その後に予定されていた晩餐で帝国からも勇者を認めるとの言質をとることができ、一応、今回の訪問の目的は達成されたようだ。

 

しかし、その晩、部屋で部下に本音を聞かれた皇帝陛下は面倒くさそうに答えた。

ガハルド皇帝「ありゃ、ダメだな。ただの子供だ。

理想とか正義とかそういう類のものを何の疑いもなく信じている口だ。

なまじ実力とカリスマがあるからタチが悪い。自分の理想で周りを殺すタイプだな。

"神の使徒"である以上蔑ろにはできねぇ。取り敢えず合わせて上手くやるしかねぇだろう。」

部下「それで、あわよくば試合で殺すつもりだったのですか?」

ガハルド皇帝「あぁ?違ぇよ。少しは腑抜けた精神を叩き治せるかと思っただけだ。

あのままやっても教皇が邪魔して絶対殺れなかっただろうよ。」

 

どうやら、皇帝陛下の中で光輝達勇者一行は興味の対象とはならなかったようである。

無理もないことだろう。彼等は数ヶ月前までただの学生。それも平和な日本の。

歴戦の戦士が認めるような戦場の心構えなど出来ているはずがないのである。

しかし、香織達のことについては、違うようだった。

 

ガハルド皇帝「だが、あの四人だけは他の奴らとはまるで違う。

あの四人の強さは間違いなく、報告書にあったものだ。」

ガハルド皇帝がそういうと、部下たちも口々に彼女たちについて意見を述べた。

 

「治癒師香織は付与魔法の同時発動、それも無詠唱で一気に五つだ。まず間違いなくヤバい。」

「剣士雫はベヒモスを一刀両断できる程の筋力があるだけでなく、素早さや剣技も折り紙付きと来た。

もし戦ったのが勇者じゃなくて彼女だったら、危なかっただろう。相手は手加減するかもしれないが。」

「降霊師恵理も無詠唱で上級より更に上の魔法をぶっ放したと聞く。

何より、件の少年の妹と来た。手を出せば間違いなく、奴の怒りに触れるだろうな。」

と、ここまでは冷静に語っていたが…

 

「そして唯一の男性、遠藤という暗殺者だが…彼は一体何者なんだ!?」

「何で素顔も不明なのだ!?これでは対策もままならない!」

「それに加えて、あの技能は何だ!?大量の彼が陛下を囲っていたぞ!?」

「何故黒い眼鏡をしながら、奇妙なポーズをとっていたのだ!?何かの暗示か!?」

そう、うっかり深淵卿が顔を出してしまっていたのだ。

その言動や奇行は、何も知らない皇帝の護衛にとっては理解し難く、より恐ろしいものだったのだ。

おかげで、我らが遠藤君は部屋で黒歴史に悶え苦しんでいるが。

 

ガハルド皇帝「お前ら落ち着け。確かに俺も、攻撃されるまで奴の気配に全く気配が気がつかなかった。

しかもあの動きだけじゃない。奴等まるで、本当に人を殺った奴のような眼をしていた。

最小限の動きであそこまで速く動けるなんざ、誰かに手解きを受けたに違いない。」

部下「もしや、その者こそが、件の少年なのでは!?」

ガハルド皇帝「それが本当だったら、末恐ろしいものだな。行きつく先は伝説か、化け物しかないが。」

冷静に判断していながらも、内心では焦っていたガハルド皇帝。

後に、ハジメさんの民に手を出したせいで、嫌でもその力を思い知ることになるのだが…

 

ガハルド皇帝「まぁ、魔人共との戦争が本格化したら変わるかもな。見るとしてもそれからだろうよ。

今は、小僧どもに巻き込まれないよう上手く立ち回ることが重要だ。教皇には気をつけろ。」

部下「御意。」

そんな評価を下されているとは露にも思わず、光輝達は、翌日に帰国するという皇帝陛下一行を見送ることになった。

用事はもう済んだ以上留まる理由もないということだ。本当にフットワークの軽い皇帝である。

 


 

そしてその早朝…

他の皆が寝静まる中、香織達は日課である特訓に勤しんでいた。

香織は二刀流、雫は抜刀術、恵理は体術と魔法を駆使した戦法で、それぞれ立ち合い稽古を行っていた。

夢の中でも訓練はしていたが、それだけでは心許ないと思い、始めることにしていたのだ。

因みに、浩介は未だに夢の中である。アビスゲートに追いかけられ続けているのだろう。哀れなり、遠藤。

そして、キリの良い所で一息入れることにした三人。そこへ…

 

???「ほお、これは中々の腕だな。」

雫「!皇帝陛下…!」

彼女たちに声をかけたのは、ガハルド皇帝だった。

雫「何か御用ですか?」

ガハルド皇帝「なに、偶々近くを通りかかったときに剣撃が聞こえていたのでな。見学させてもらった。昨日は聞きそびれたが、お前等、名は?」

恵理「南雲恵理です。」

雫「八重樫雫です。」

香織「白崎香織です。」

ガハルド皇帝「そうか…、気に入った。三人とも、俺のあ…「「「お断りします。」」」…思っていたより早い返事だな。」

速攻で断られるも、面白そうに笑うガハルド皇帝。

 

ガハルド皇帝「どうやら好いた男でもいるようだな。まさかとは思うが、件の錬成師か?」

香織「そうだとしても、貴方に答える義理はありません。」

雫「そういう関係だとしても、貴方には関係ありません。」

恵理「私も、彼氏がいるので。ごめんなさい。」

ガハルド皇帝「…つれねぇなぁ。」

一国の皇帝に対する無礼な物言いでも、あまり腹を立てないガハルド皇帝。

と、その時だった。

 

???(あら、中々面白い子たちね。)

雫「ッ!?だ、誰!?」

何所からともなく聞こえてきた声に、驚く一同。

すると、ガハルド皇帝の服の中から、魔力反応があった。

ガハルド皇帝が慌ててその反応があるものを取り出してみると、アメジストの様なネックレスがあった。

ガハルド皇帝「!?なんだ、この宝石は!?いつの間にこんな…」

その瞬間、ネックレスが光りだし、光の玉のようなものが飛び出した。

「「「「!?」」」」

 

その光の玉は、猛スピードで雫に迫った。

雫「!?」

雫は刀を構えるも、それをすり抜けて、体の中に潜り込んだ。

香織「雫ちゃん!?」

その瞬間、雫の眼の色が変わり、彼女とは違う女性の声が発せられた。

 

???「『あら、中々動きやすいわね。これならあの子を探し出せるかも。』」

香織「!?だ、誰な「(香織!)」!?(ミライちゃん!?)」

ミライ「(少しだけ変わってくれる?彼女、もしかしたら知り合いかもしれないの。)」

香織「(わ、分かったよ。)」

念話でやり取りをし、身体の主導権を交代した香織とミライ。

すると、雫?は彼女を見て、その名を呼んだ。

 

???「『!ミライ…!やっぱり貴女も、ここに…』」

ミライ「『その反応、その喋り方、間違いないわね。久しぶり、って言った方がいいのかしら、ヒカリ?』」

ヒカリと呼ばれた少女は、雫の体で会話を続けた。

ガハルド皇帝はさっぱり訳が分からなかったようで、恵理に聞いてみるが「…タダノ降霊術デスヨー?」とだけ返されて、不思議な感じで話に耳を傾けていた。

 

ヒカリ「『えぇ、懐かしいわね。貴女とはよくあの御方の隣で戦ってきたもの。忘れるはずもないわ。

あの御方が居なくなってからというものの、過ごしている日々の色彩が失われたような感覚だったわ。

貴女なら何か知っているんじゃないかって思ってきたんだけど…どうなのかしら?』」

ミライ「『そうね、王様本人はいないけど…彼に似た人はいたわ。』」

ヒカリ「『!そう…。それなら、その人はどこに?』」

ミライ「『今はここにはいないわ。でも、彼が力を使った以上、生きていることは分かるわ。』」

ヒカリ「『それが分かっただけでも十分ね。本当は今すぐお会いしたいのだけど…仕方がないわね。』」

ヒカリは残念そうに呟くと頭を下に向けると、もう一度顔を上げた。

その目はいつもの雫だった。どうやら、身体の主導権を雫に返したようだ。が…

 

ヒカリ「(!?な、何ここ!?王様に似た男の人、しかも半裸の写真ばっかり!?)」

雫「キャアァァァ!?ちょっ、ちょっと!?勝手に覗かないでくれる!?」

ヒカリ「(凄いわ…!ここはまさしく、パラダイスよ!決めたわ、私ここに住む!)」

雫「そ、それは分かったからこれ以上はやめてぇ!」

香織「雫ちゃん、ハジメ君のどこの部位がいいの?私は鎖骨がおすすめだよ!」

雫「香織!?」

どうやら、愛しのハジメの肉体美が脳裏に残っているらしく、その写真でいっぱいの部屋に偶然ヒカリが入り込んでしまったようだ。

ミライは自然に香織に主導権を返し、面白そうだと反応を見ていた。

 

ミライ「(ヒカリ、この子たちと後二人、彼の仲間がいるのだけど…特訓に協力してくれないかしら?)」

ヒカリ「(乗ったわ。彼の役に立てば、あの肉体美が生で見られるのでしょう?やらない理由なんてどこにもないわ!)」

ミライ「(え、えぇ。そうね。でも、彼は私達のことは覚えていない様だから…)」

ヒカリ「(問題ないわ。また刻み込めばいいもの。)」

ミライ「(…それと、そこのおじさんだけど…)」

ヒカリ「(部外者は去れェー!)」

ミライ「(…そ、そういうわけだから、よろしく頼むわね~!)」

どうやらヒカリは筋肉フェチのようだ。

そういうわけで、二人とも引っ込んでいった。

 

恵理「え~と、そういうわけなので、どうぞ。」

ガハルド皇帝「え、あ…お、おう。邪魔したな。」

何とも言えない空気の中、恵理に促されたガハルド皇帝は、微妙な空気からその場を後にした。

 

浩介「…何があったんだ?」

死闘(本人にとってはある意味)を制した浩介が着いた時には、顔を真っ赤にした雫と、それを必死になだめる香織と恵理の姿があった。

事情を知らない彼には、現状がよく呑み込めなかった。

こうして、ヒカリという新たな指南役を加えて、彼らの特訓はより過酷なものへと変わっていった。




ここまで読んでいただき、ありがとうございます!

新オリヒロイン、ヒカリちゃんが登場しました!
念の為言っておきますが、モ〇ドや邪神は関係ありません。
そしてまさかの筋肉フェチ、どっかのモグモグ騎士ちゃんみたいですね。

因みに、デザインとしては金髪碧眼のツインテールな美女です。
年代としては、ミライとほぼ同い年です。

さて、次回からようやくハジメサイドに移ります。
解放者の真実、そして新たなる旅立ちへ!
次回もお楽しみに!

宜しければ、高評価・コメント宜しくお願い致します。

追記:不死身の機動歩兵隊さん、晶彦さん、誤字報告ありがとうございました!


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19.New 「D」eparture

お待たせいたしました。
今回からハジメさんサイドのお話です。
反逆者の正体は、真実を知らせようとしたレジスタンス"解放者"だった!
"神代魔法"という新しい力を持って、ハジメ達は更に前へ!

新しい朝日昇る、第一章第15話、それではどうぞ!


一歩踏み出すと、そこは楽園でしたってか?

広大な空間に住み心地の良さそうな住居があった。

早速安全確認を済ませると、ユエをそっとベッドに寝かせることにした。

このまま一緒に連れて行っても良かったけど、疲れているだろうしなぁ…

 

ハジメ「イナバ、どこかに女性用の服があったら持ってきて。」

イナバ「きゅ!」

イナバに探索を任せ、俺はユエの傍に寄り添った。

本当は探索したい気持ちでいっぱいだけど、起きたらいきなり独りぼっちという展開は、ユエの過去や先程の戦闘のこともあり、流石にそれはどうかと思って留まった。

それにしても、だ。

ハジメ「こりゃあ凄いな。まるで天然の隠れ家じゃないか。」

周囲を見渡しながら、俺は感想を口にした。

 

まず、地下に太陽があるということ。

もちろん本物ではないが、それでも陽の光があることは嬉しい。

心地よい水の音も響いている。

ちょっとした球場くらいの空間、奥にある滝や川、マイナスイオン溢れる清涼な風が気持ちいい~。

畑や家畜小屋もあるし、反逆者ってのは、本当にここで暮らしていたんだなぁ…

 

ユエ「ん…んぅ…」

おっと、ようやく起きたかな?

ユエ「……ハジメ?」

ハジメ「おう、ご存じハジメさんだ。」

それにしても、寝心地凄い良さそうだな、このベッド。

 

ユエ「……ハジメ、あの後一体……」

ハジメ「あぁ、それはね……」

俺が簡単な説明をすると、納得したのかユエが頭を押し付けてきた。

アカン、これ猫そのものじゃないか。

撫でたい衝動を抑えながらも、俺はユエが満足するまで好きなようにさせた。

 

その後、服を持ってきてくれたイナバと合流し、隣接した建築物、というか岩壁を加工した住居の探索を開始した。

石造りの住居は全体的に白く石灰の様な手触りだ。

全体的に清潔感があり、エントランスには温かみのある光球が天井にあり、照明代わりになっていた。

どうやら三階建てのようだ。

 

まずは一階。人の気配はないのに、家具は全て長年放置されていた感がない。

まるで、旅行帰りの気分だ。

さらに奥へ進むと、なんと露天風呂が!

ユエも女の子だし、身だしなみは大事だからなぁ。

まぁ、俺も疲れたし、後で入るか。

 

そんな俺の心を読んだのか、ユエがとんでもないことを言い出した。

ユエ「……入る?一緒に……」

ハジメ「……今回は一人でゆっくりさせてほしいんだけど…」

ユエ「むぅ……」

……襲われる前に、せめて息抜きだけでもしておくか。

次に二階を探索しようとしたが、開かなかったので諦めた。

 

さて、三階の奥の部屋へ向かったが、どうやらここが重要な地点らしい。

部屋の中央には直径7,8mの精緻かつ繊細な魔法陣が刻み込まれていた。

その奥には、見事なローブを羽織っていた白骨遺体があった。

ユエ「……怪しい……どうする?」

ハジメ「……行ってみるしかねぇな。」

早速中央に踏み出す俺達。するとその時…

 

カッ!

「「「!」」」

魔法陣が淡く輝き、太陽のごとき純白の光が爆ぜ、部屋を真昼の様に神秘的な光で埋め尽くした。

眩しさに目を閉じると、頭の中に何かが刻み込まれるような感覚に襲われた。

まるで走馬灯のように今までのことが脳裏を駆け巡った。

やがて、光が弱まってきたようなので、目を開けてみると…

 

ハジメ「…誰?」

見知らぬ男性がいた。

そしてよく見ると、後ろの遺体と同じ服装を着ていた。

恐らくこれは記録映像であり、遺体の人物が彼なのでは、と俺は考えた。

 

???『試練を乗り越えよくたどり着いた。私の名はオスカー・オルクス。この迷宮を創った者だ。

反逆者と言えばわかるかな?』

「「「!?」」」

なんとまさかの反逆者本人、しかも【オルクス大迷宮】創設者からのメッセージであった。

さて一体どんなことを残したのやら。

 

オスカー『ああ、質問は許して欲しい。これはただの記録映像のようなものでね、生憎君の質問には答えられない。だが、この場所にたどり着いた者に世界の真実を知る者として、我々が何のために戦ったのか……

メッセージを残したくてね。このような形を取らせてもらった。どうか聞いて欲しい。

……我々は反逆者であって反逆者ではないということを。』

そうして始まったオスカーの話は、俺が考察したことやユエの親父さんから聞いたこととあまり変わらなかった。

 

それは狂った神とその子孫達の戦いの物語。

神代の少し後の時代、世界は争いで満たされていた。

人間と魔人、様々な亜人達が絶えず戦争を続けていた。争う理由は様々だ。

領土拡大、種族的価値観、支配欲、他にも色々あるが、その一番は〝神敵〟だから。

今よりずっと種族も国も細かく分かれていた時代、それぞれの種族、国がそれぞれに神を祭っていた。

その神からの神託で人々は争い続けていたのだ。

だが、そんな何百年と続く争いに終止符を討たんとする者達が現れた。

それが当時、"解放者"と呼ばれた集団である。

 

彼らには共通する繋がりがあった。それは全員が神代から続く神々の直系の子孫であったということだ。

そのためか"解放者"のリーダーは、ある時偶然にも神々の真意を知ってしまった。

何と神々は、人々を駒に遊戯のつもりで戦争を促していたのだ。

"解放者"のリーダーは、神々が裏で人々を巧みに操り戦争へと駆り立てていることに耐えられなくなり志を同じくするものを集めたのだ。

彼等は、"神域"と呼ばれる神々がいると言われている場所を突き止めた。

"解放者"のメンバーでも先祖返りと言われる強力な力を持った七人を中心に、彼等は神々に戦いを挑んだ。

 

しかし、その目論見は戦う前に破綻してしまう。

何と、神は人々を巧みに操り、"解放者"達を世界に破滅をもたらそうとする神敵であると認識させて人々自身に相手をさせたのである。

その過程にも紆余曲折はあったのだが、結局、守るべき人々に力を振るう訳にもいかず、神の恩恵も忘れて世界を滅ぼさんと神に仇なした"反逆者"のレッテルを貼られ"解放者"達は討たれていった。

最後まで残ったのは中心の七人だけだった。

世界を敵に回し、彼等は、もはや自分達では神を討つことはできないと判断した。

そして、バラバラに大陸の果てに迷宮を創り潜伏することにしたのだ。

試練を用意し、それを突破した強者に自分達の力を譲り、いつの日か神の遊戯を終わらせる者が現れることを願って。

長い話が終わり、オスカーは穏やかに微笑む。

 

オスカー『君が何者で何の目的でここにたどり着いたのかはわからない。

君に神殺しを強要するつもりもない。ただ、知っておいて欲しかった。

我々が何のために立ち上がったのか。……君に私の力を授ける。どのように使うも君の自由だ。

だが、願わくば悪しき心を満たすためには振るわないで欲しい。話は以上だ。聞いてくれてありがとう。

君のこれからが自由な意志の下にあらんことを。』

そう話を締めくくり、オスカーの記録映像はスっと消えた。

同時に、脳裏に何かが侵入してくる。

即座にそれを解析し、とある魔法を刷り込むためのものだと理解したので大人しく耐えた。

そして俺は、オスカーの遺体の前に進み出た。

 

ハジメ「遠い時代の戦友よ、ありがとう。これで俺達は更に前へ進める。

その不屈であり誇り高き精神に敬意を示そう。

だから安心して見ていろ、あのクズ野郎は俺がぶちのめしてやるからよ。

あんた等は精々、あの世で酒に酔いながら、奴が落ちぶれる様でも見て大笑いするといい。」

そういって俺は、彼の遺体に手を翳した。

すると、ゴーストのアイテムである「眼魂」のような物体が出てきた。

俺はそれを手にし、黙祷をささげた。

ユエとイナバも同じように祈った。

 

ハジメ「さてと、早速準備しないと。保険はいくつあっても困らないだろうからな。

他の大迷宮攻略もあるだろうし。」

ユエ「ん!頑張る!」

イナバ「きゅぅう!」

意気込む二人。さてと、ステータスプレートは…

 


南雲ハジメ 17歳 男 レベル:測定不能

 

天職:錬成師・最高最善の魔王

 

筋力:666666(魔王時:測定不能)

 

体力:666666(魔王:測定不能)

 

耐性:666666(魔王:測定不能)

 

敏捷:666666(魔王:測定不能)

 

魔力:666666(魔王:測定不能)

 

魔耐:666666(魔王:測定不能)

 

技能:

錬成[+鉱物系鑑定][+精密錬成][+鉱物系探査][+鉱物分離][+鉱物融合][+複製錬成][+圧縮錬成][+遠隔錬成][+自動錬成][+構造把握][+イメージ補強力上昇][+消費魔力減少][+並列処理錬成][+整地][+高速錬成][+鉱物分解][+集束錬成][+想像構成]・全属性適性・全属性対応・全属性耐性・複合魔法・縮地・瞬動・先読・予測領域拡大・剛力・金剛[+部分強化][+集中強化][+付与強化]・物理耐性・高速魔力回復[+魔素集束]・気配感知[+特定感知]・魔力感知[+特定感知]・限界突破[+覇潰]・言語理解・抜刀術・剛腕・戦闘続行・早読・未来予知・加減上手・プラスウルトラ・最強王者・無限の成長・地球の記憶・地球の本棚・モーフィングパワー・音撃打・クロックアップ・ワープドライブ(宇宙)・黄金の果実・オールエンジン・無敵化・浄化作用・時間操作・剣術・クロックダウン・ライダーサモン・アイテム操作・ゲームエリア展開・ブラックホール・聖剣創造・コズミックエナジー・無限の思い・七つの大罪・メダルコンボ・魔力操作[+魔力放射][+魔力圧縮][+遠隔操作]・毒耐性・赤熱化[+熱耐性]・危機察知・胃酸強化・恐慌耐性・威圧・天歩[+空力][+豪脚][+瞬光]・風爪[+三爪][+飛爪]・夜目・遠見・麻痺耐性・石化耐性・念話・熱源感知[+特定感知]・魔王変身・技能融合・コネクト・憤怒・幻惑魔法・極光・纏雷[+雷耐性][+出力増大]・追跡・気配遮断[+幻踏]・魔力変換[+体力変換][+治癒力変換][+衝撃変換]・生成魔法


 

どうやら、心身ともに本格的に魔王になったようだな。錬成の技能も最終系までいったようだ。

正直負ける気はしないが、念には念を、だ。

…って、ん?

生成魔法…?

 

ハジメ「そういうことか!」

ユエ「!?ハジメ?」

俺はようやく理解した。

ユエの親父さんが言っていた「真のオルクス」とは先程のヒュドラもどきとの戦いの先、つまりこの世界の真実を残したオスカーの隠れ家だったのだ。

そして、彼の言っていた「生成魔法」。これが神代魔法であり、迷宮攻略の御褒美であるのだ。

つまり、だ。

 

ハジメ「迷宮攻略を進めれば、その分だけ規格外の神代魔法が手に入るってことか。」

ユエ「!それって!」

ハジメ「あぁ、あのクソ野郎をぶちのめす切り札が増える、もしくはより強大なものになるか、だな。」

そう言って俺は、未知なる力への期待を膨らませた。

ハジメ「それにこの神代魔法、生成魔法はどうやら俺にベストマッチの魔法のようだな。」

ユエ「?どういうこと?」

イナバ「きゅ?」

不思議そうにする二人のために、俺は早速解説した。

 

ハジメ「俺の力は歴代の戦士の力を受け継いでいる。

その鎧の構造をデータとして把握すれば、それに使われている素材を具現化させることもできる。

例えば、俺の魔王の鎧に使われている、鋼鉄の1200倍硬い"ザバルダストグラフェニウム"と、重量と密度を自在に変えられる"ダークマターインゴット"。

この二つも生成することが出来、更に魔法を付与して強化させることが可能になる。

この魔法は、アーティファクトを創る上で重要になる。何より俺は、錬成師。

これ以上に会う組み合わせはない。」

ユエ・イナバ「「!」」

 

ようやく気付いたようだな。正直、最初の神代魔法がこれだったのはありがたい。

これさえあれば、今の装備も更に強化させることだってできる。

新しく作るものだって、これまでとは比較にならないほどの威力を誇るであろう。

投薬武器として考えていた鉱石も、使いようによっては武器に転用が可能だ。

他の技能もパワーアップしており、特に"コネクト"が指輪なしで使えるのは正直ありがたい。

早速俺は、前々から作りたかったものを生成魔法で創ることにした。

 

ハジメ「よし出来た。イナバ、これをつけてみろ。」

イナバ「きゅ?」

乳白色の鉱石がついたペンダントを、イナバがつけてみると…

イナバ「(え~と、王様?こいつは…って、あれ!?)」

ユエ「!これって、念話…?」

ハジメ「フッ,やっと気づいたか。この念話石に。」

そう、イナバに贈ったのは、技能無しでも会話可能な念話石だったのだ。

これでようやく、会話らしい会話が出来るってもんだ。

 

実験を終えた俺達は、立派な棺を創り、その中にオスカーの遺体を入れて埋葬した。

ちゃんと上に墓石もおいた。

「偉大なる解放者が一人、オスカー・オルクス、ここに眠る。」と、彫っておいたものを。

さてと、オスカーの遺体にあった指輪だが…

別に墓荒らしとかじゃねぇぞ?ただ、遺品を受け取っただけで、強奪じゃねぇからな?

それに、同じ紋様の場所もいくつかあったから、そこを調べる為のものであって、断じて泥棒ではない。

 

まずは書斎。

施設の設計図や清掃用ゴーレム、アーティファクトに素材まであった。

後の二つはありがたく頂戴する。決して盗みではない。

良い素材をここで腐らせたくないと思っただけである。

ユエ「!ハジメ、これ!」

ハジメ「うん?」

どうやらオスカーの手記の様だ。これはありがたい。

…どんな魔法かは分からなかったが、仲間の名前からして、俺が目星をつけていた場所と一致していた様だ。

良い指標になりそうだ。

 

その後、工房にも寄ったが、正しく錬成師にとっての楽園であった。

それを見て俺は、逸る気持ちを抑え、今後について考える。

ユエ「……どうしたの?」

ハジメ「一旦ここに留まろうと思う。早く外に出たいって気持ちはあるけど…

この先、他の大迷宮を巡る以上、出来るだけの準備はしておきたい。どうかな?」

ユエ「ん。ハジメと一緒ならどこでも良い。」

イナバ「(自分も同じでっせ、王様。)」

ハジメ「……そうか、分かった。」

取り敢えず、今後の準備をここですることとなった。

それに、新兵器や秘密の切り札も必要だし、生活用品も作成せねば。

早速俺は作業に取り掛かることにした。

 


 

ハジメ「フィ~、生き返るゥ~♪」

やっぱり風呂は命の洗濯なり。

王宮やホルアドにも風呂はあったが、やはり貸切露天風呂というものは、至高である。

こんなに風情ある場所で、一句読みたくなるものだなぁ。

……と、感傷に浸っているとだ。

ユエ「んっ……気持ちいい……」

またこの子は……ってお前もかいイナバァ!?

イナバ「きゅふぅ~♪」

なんてこった、温泉は魔物でさえも虜にしてしまうのか…!

って、呑気に言っている場合じゃない!

 

ハジメ「……ユエ、何で一緒に入っているんだ?」

ユエ「……そこにハジメがいるから。」

ハジメ「……少しは恥じらいなさい。タオルで前隠して。」

ユエ「むしろ見て。」

ハジメ「なんでさ。」

一体何をどうしたらそうなるんだ。

そもそも、婚前の女性を抱く気は未だにない。

 

ハジメ「あのねぇ、ユエ。そーいうのは……」

ユエ「……私、好みじゃない?」

ハジメ「そうじゃない、むしろ好きな方さ。でもね…」

次の言葉を言う前に、ユエが徐に立ち上がり、正面に立った。

ユエ「……ん。嬉しい。全部、ハジメのだから。いっぱい、見て?」

ハジメ「ちょぉお!?」

このままではアカンので、さっさと飛び出す。

 

ユエ「逃がさない!」

ハジメ「だが、断る!」

飛びつこうとするユエを時間停止で避け、気絶させてからゆっくり浸かった。

それとイナバ、後でしっかり洗おうな?

イナバ「きゅ!?」

 

この後、起き上がったユエに、「結婚前にそう言ったことはしない」と告げると、少し不満げな表情であったが、納得してくれたようだった。

が…

ユエ「……プロポーズ?」

ハジメ「何故そうなる…いや、今更だな。おやっさんに頼まれちまっているし。」

ユエ「ん、ハジメに永久就職する。」

ハジメ「永久就職って…まぁ、少なくとも奴をぶっ殺してからな。」

ユエ「ん!」

 


 

それからというものの、だ。

俺達は装備の作成・手入れ・点検の傍ら、自らの鍛錬を開始した。

まず俺は、ドンナーとシュラークの魔改造に乗り出した。

この二丁拳銃は本来シュタル鉱石を使うが、俺は生成魔法で作り出した鉱石を使った。

"ダークマターインゴット"と"ザバルダストグラフェニウム"をメインとし、"ディアマンテゴールド"、"ヒヒイロノオオガネ"、"魔皇石"、"アダマントストーン"、"飛電メタル"といった、歴代ライダー最強フォーム等に使用された、高性能かつ凄い強度を誇る鉱石(命名「逢魔鉱石」)をふんだんに使用しているので、極光が来ようと傷一つつかないだろう。

もちろん、これらの鉱石は他の装備にも活かした。だが、強化した部分は装甲だけではない。

 

ウィザーソードガン、ペガサスボウガン、トリガーマグナム、バッシャーマグナム、エイムズショットライザー、ブドウ龍砲、火縄大橙DJ銃、ヒーハックガン、トレーラー砲といった、各ライダーの銃撃・砲撃武器の要素も載せた、正にオールライダーダブルガンである。

正直、宇宙警察の合体二丁拳銃や、全力全開な戦隊キャノンみたいなのも作ってはみたいが、今はまだ無理だ。

しかし、それがなくとも十分な物量ではあるが。

後、弾丸は自動リロード式中折型である。何でかって?男のロマンだからさ!

 

移動手段用には、各ライダーのバイクやビークルを改良させてもらった。

こちらも、逢魔鉱石を使用して強度を引き上げており、新ウェポンもいくつかつけさせてもらった。

後、デンライナーは一両まるごと生活空間にリフォームした。

いわゆる寝台列車って奴だ。素敵な女性を乗せた銀河鉄道は、ロマンも載せているのさ。

もちろん、動力は全て魔力で動くようにした。

だって、いきなり石油や電力でやっても、上手くはいかないでしょ。

異世界とファンタジーの夢のコラボ、う~んナイスマッチ!

 

他にも、ガトリング「メツィライ」、対物ライフル「シュラーゲン」、ロケットランチャー「オルカン」も作った。

特にオルカンは、ギガントやサイドバッシャー、GXランチャーをリスペクトした。

メツィライも、ホークガトリンガーやケルベロスをモチーフにしてリメイクした。

 

シュラーゲンは、より遠くを狙えるように、レンズに自作の複合魔石を使った。

"魔宝石"、"賢者の石"、"アマダム"、"太陽・月・地の三つのキングストーン"に神結晶の一部を組み合わせ、生成魔法で生み出した鉱石(命名「境界結石」)を使い、これに感知系技能や"遠見""透視""先読"等の技能を付与することで、障害物があろうとも寸分たがわず打ち抜くことが可能だ。

 

なんか遠距離ばっか作っているのも飽きてきたので、思い切って剣を作ってみた。

刀タイプと、バスターソードタイプ、長剣タイプの三つから作ってみた。

刀身は逢魔鉱石なので、切れ味は抜群だろう。むしろ、切れすぎてヤバくなるかも。

 

そして、これらの武器製作で生み出した鉱石を使って、ユエ達の武器も創ることにした。

まず、ユエには小型の魔導二丁拳銃「カストロⅠ」「ポルクスⅡ」を創った。

炉心に境界結石を使用しており、魔法との親和性がよくなるようにした。

また、こちらには合体機構があるので、小型ライフルとしても使える。

まぁ、初心者仕様になってしまったが、本人が嬉しそうだったので良しとしよう。

 

イナバには、逢魔鉱石を使った「如意棒もどき」を創った。

これには、"伸縮化"や"鋼鉄化"といったエナジーアイテムの効果を付与しており、使い心地としては中々の者だろう。

因みに俺も気に入ったので、自分用に一本創った。

イナバは早速ぶん回し、相手が泣くまで魔物を屠っていた。エグイわ。

まぁ、気に入ってくれたのなら、背中につけられるようにベルトぐらい創るか。

そういって、サメの素材から二人の武器収納ベルトを創る俺であった。

 

最後に"神水"だが、正直あんま使っていなかった。

まぁ、せっかくなので"神結晶"の一部を指輪に加工した。

魔力貯蔵もできるし、エリクサー並の霊薬もある。いいことづくめだな。

早速ユエに渡すと、それはもう凄い喜びようだった。

そんなに嬉しいのか。使える魔力が増えるのが。

後、"宝物庫"もあったが、これはユエに渡すことにした。

回復薬とか、生活用品とかを入れてもらい、俺は移動用ビークルや武器をコネクトで収納した。

 


 

……とまぁ、開発に手を入れ過ぎて、結局は一か月も居座っちまった。

もう十分に準備は出来たことだし、そろそろ二人に外の世界を見せる時か。

そう思った俺は、二人を連れて三階の部屋へ向かった。

 

ハジメ「二人とも、俺らの力は地上では異端だ。教会の狂信者共や各国が黙っちゃいないだろう。

アーティファクトの要求や戦争参加の可能性もある。だが、正直俺にとっては些細なことだ。

敵対者は全員まとめて蹴散らしてやる。相手が国だろうと神だろうと世界だろうと。」

ユエ「んっ!ハジメが一緒なら、絶対負けない。」

イナバ「(王様、自分は覚悟できてまっせぇ!)」

二人とも強い返事だった。ならばァ、答えは一つゥ!

 

ハジメ「よし、いくぞ!」

ユエ「おー!」

イナバ「(イエッサー!)」

そういって俺達は、魔法陣を起動させ、外の世界へ第一歩を踏み出した。




ここまで読んでいただき、ありがとうございます!
これで、第一章は終了です。
次章から、バグウサギとの出会い~ライセン大迷宮までのお話を投稿する予定です。
それまでに、いくつか幕間のお話を入れられたらいいなぁ、と思っています。

さて、今回は美味しくいただかれるのは防いだハジメさん。
今作の彼は、「婚礼前の女性に手を出すことはしない」といったポリシーを掲げており、そういった関係を持つのは、面倒ごとを片付けてからと決めています。
後、誤解のないように言っておきますが、婚礼後なら誰でもいい訳ではありません。
ちゃんと自分とおつきあいしている女性を指しています。

そして今回は武器の作成。
ドンナー・シュラークも強化されています。
名称としては、「ドンナーX」「NEOシュラーク」ですかね?
他のも上げるとすれば、「メツィライ・カタストロフ」、「タイラント・オルカン」、「ホークアイ・シュラーゲン」だと思います。

ベルトの位置としては、イナバが某地獄の辛味噌ウサギみたいな感じで、ユエさんが生足の太ももにかけるような感じです。
女性ガンマンっぽいし、ハジメさん自身も似合いそうだと思ってやっています。

それでは、次回をお楽しみに!

追記:評価してくださった方々、お気に入りしてくださった方々、誠にありがとうございます!
始めたばかりとは言え、ここまで評価して頂けるなんてとてもうれしいです!
これからも頑張って投稿していきたいと思っておりますので、何卒宜しくお願い致します!

リースティアさん、晶彦さん、N.jpさん、誤字報告ありがとうございました!


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幕間物語
ハジメさん日誌①


お待たせいたしました。
今回は幕間のお話で、今までの補足です。

それでは、どうぞ!


異世界一日目

今日から備忘録を付けていく。

何かいろいろ忙しくなりそうだし、書き留めておきたいと思ったからな。

さて、今日の内容は…妖怪恍惚爺、傀儡の王室、張り子の勇者…以上だな。

それ以外は特にないや。しいて言うなら、ベッドがふかふかだった。

 

 

異世界二日目

なんか親しくなれそうな団長が来た。止まるんじゃねぇぞ、マジで。

そして俺のステータス、最初っからクライマックスだった件。

貰ったアーティファクトについては、手袋は嬉しいが、杖は正直嵩張るから要らん。

なので、"コネクト"でしまっておく。

 

 

異世界三日目

特訓が始まった。早速座学だが、正直暇だ。

昨日"地球の本棚"に入れることが分かってしまったから、睡眠学習が可能になってしまった。

おかげで、授業を受けても学べることがないので、居眠り状態が続いている。

戦闘訓練?早速メルドさんノックアウトして出禁くらったよ。

 

 

異世界四日目

図書館で知恵をつけることにし…"速読"とかいう技能が身に着いた。

早速一日で図書館中の本を読み切ってしまったようだ。

おかげで、現在判明している全属性の魔法の知識が身に着いた。

戦闘訓練が免除になったので、夜の狩りに出かけることにした。

要らない魔石は全部王都にばら撒くことにした。処理がめんどい。

 

 

異世界五日目

せっかくの休日なので、錬成の練習をすることにした。

まずは、砂鉄を大量に用意してもらって、と。

次に、汚れてもいい場所で実験を開始する。

さて、前に読んだ本を使って、行くぞ!"錬成"!

 

……実験は成功したようだ。鑑定してもらうと、純度100%だった。

ただ、この鉄の処遇はどうするかというと、だ。

早速買い手が大量についたが、俺は砂鉄と場所を用意してくれた王宮に寄付することにした。

せっかく作ったのにいいのかって?まぁ、スポンサーは国なんだ。持ちつ持たれつって奴さ。

後日、行方を聞くと、鍛冶場にご神体として飾られていた。

今すぐ神山に乗り込んで、クソジジィどもを血祭りたい気分だった。

 

 

異世界六日目

次は砂を大量に集めてもらい、ガラスの作成に着手することにした。

興が乗ったのでつい、ガラス細工の置物を創ってしまった。

しかも、グラフィックセンスマシマシの俺が作ったせいか、出来栄えがとんでもないものになってしまった。

買い手が大量についたので、いくらか王宮に献上、残りは貴族や民間に格安で売却した。

 

さて、手元に入った金だが、この前メイドの皆さんが化粧品を欲しがっていることを小耳にはさんだので、早速買い込んでそっと差し入れた。

皆喜んでいたなぁ…やっぱ。こっちでも大商会のブランド物は人気なんだな。

皆には内緒にしていたが、結局速攻でバレて、香織から般若が出ていた。他意は無いのに…

 

 

異世界七日目

ついに、ダイヤモンドの作成に成功した。しかし、ここで問題が発生してしまった。

要領を掴むことが出来たのが嬉しくてつい、大量に作ってしまった。正直、使い道がないので困っている。

さて、流石に民間へ流すにはマズい。なので、ここは勇者御一行の地位を活かすとしよう。

というわけで、天之河とリリィに頼み、実家があまり良い状況でない貴族令嬢の皆様に献上することにした。

それでも余ったので、他の貴族令嬢方に格安で売ることにした。

意外に結構売れた。せっかくなので、使うことにした。

 

王都にも裏の顔があるようだ。賭け事を行う場があった。さぁて、一稼ぎ一稼ぎ♪

早速、イカサマをしてきたので、一回だけサービスで引っかかってから巻き上げるか、ニシシ!

その後、その場にいた全員からイカサマがあるなしに関わらず、根こそぎ奪い取った。

いやぁ~大量大量♪おかげで、財布の中が金貨でいっぱい。キャリーオーバーってやつだァ!

 

上機嫌な俺は、コックに相談して手料理をふるまうことに。

フフフ、異世界だろうとサバイバルでの生存方法を読み漁ってきた俺がいる限り、食で退屈させるなんてことはない。

皆はもちろん、手伝ってくれた料理人たちにもふるまった。好評だったようだ。やったぜ。

後、最近不機嫌気味だった香織も、ようやく和らいだ。ホッ。

 

 

異世界八日目

姫さんから秘密裏に呼び出された。

何でも、友達に送りたいものがあるのでお願いしたい、とのことだった。

その顔を見て俺はすぐさま、「この子も欲しかったんだなぁ。」と察した。

そういう訳で早速作成に取り掛かった。

 

さて、姫さんの要望を早速聞いてはいたが、何か遠慮気味だったので、もうちょい大まかに変更してもいい、と伝えた。

やっぱり遠慮していたのか、最初はおずおずと言ってはいたが、段々と楽しそうに言ってきた。

結局、完成したのはその日の夜だった。姫様も夢中になって時間を忘れていたらしい。

偶には、時間や責務を忘れて、普通の少女としてもふるまってもいいのに、と思った。

それにしても、だ。結構苦労したし、考えていたものよりも少し大きくなってしまった。

後日、作り直すことを伝えたが、本人はこのままでよいと言っていた。

なんか、頬が赤くなっていたのは気のせいだよな?

 

後日、リリアーナ王女が、作者不明のブローチをつけていたことがニュースになっていた。

王女は、送り主については誰にも言わず、そのブローチを満足そうに見つめていた。

そして何故か、香織が般若になり、雫からも修羅が出てきた。どうしてこうなった。

両隣にはクラスの二大マドンナ、周りには頬を赤らめる女子、うっとおしい視線を向けてくる男子、陰から見てくるランデル君、そして全然助けてくれない家臣たち…

そんな気まずい空気の場所から逃げ出すように、掃除の手伝いをする俺であった。

 

 

異世界九日目

ようやく時間が作れたので、愛ちゃん先生と密会する。

そこで、彼女自身の天職の強み、立場の活かし方、そして異世界で起こす食の大革命について説明した。

最初は彼女自身が前線に出られないことに難色を示していたが、生徒の助けになるとわかるが否や、身を乗り出してまで相談してきた。

とりあえず、落ち着いて。ちゃんと教えるから。

 

さて、何故「作農師」がそこまで出来るのかには理由がある。

一つは、彼女の天職「作農師」はレア中のレアだからだ。

これは兵糧の安定化や食文化の発展を促すことが出来る反面、その天職が出る確率がめっちゃ低い。

具体的に言えば、宝くじを買って一等が出る確率位、全然出てこない。

しかも、彼女のスキルには"品種改良"というものまであるので、場合によっては、食糧市場を牛耳ることだってできかねない。

まぁ、先生は優しいからそんなことしないが。

何より彼女は、たった一人で農業に必要なことをやりこなせる逸材なのだから。

荒れた土壌を改善、耕して種を植え、肥料や水をやり、温度の調節に発酵操作、自動で収穫まで、たった一人で可能だ。

これは強いだろう。生きとし生ける者にとっては、食とは生命線なのでから。

 

というわけで、先生にはそれを活かした戦法、つまり動かざる戦力としての戦い方を教えることにした。

まずは強みを生かした立場の形成。

それがだんだん確立されたら、地球の調味料や料理の再現によって、資金・文化の流れ・胃袋をがっちり掴む。

後は、やってくる敵を権力でなぎ倒す、といった方法で、教えておいた。

後日、先生が"豊穣の女神"と呼ばれていることに気づき、やっちまったと思った。

 

 

異世界十日目

今日も今日とて、朝学習・昼錬成・夜魔物狩りの連続だった。

暇だったので、指輪魔法"コネクト"で何か取り出してみることにした。

すると何と、ファイズフォンマークXが出てきたじゃありませんか。

今のところ使い道はないが、設定だけしておくことにした。

俺へのダイヤルコードは555っと。

 

休憩時、あまりにも暇だったので、庭師さんのお手伝いをすることにした。我ながらうまくいったと思う。

後日、王宮の庭にある芝が、まるで彫刻のような出来栄えになっていたことが大々的に報じられた。

芸術家や貴族の方々がそれはもう大勢やってきたそうな。

俺、ちょっとした遊び心入れただけなんだが…どうしてこうなった。

いやまぁ、確かに天元突破や機動戦士な巨大ロボ、果て無き冒険スピリッツや名前を呼んでほしい光の巨人、リリカルな魔法少女にハートキャッチな少女戦隊、ドラゴンに乗ったスライムや骨の魔王、銀色のもじゃもじゃ…

うん、完全に地球の文化入れ過ぎたな。おかげで、クラスメイトから揶揄われたし。

別にそれは気にしていない。だからお前ら、そんな生暖かい視線でこっちを見るな。

え、リクエスト?しょうがないなぁ…ハッ!?お前ら、俺にやらすなぁ!

 

その夜、画材セットを報酬としてもらった俺は、早速絵を描いた。

後日、その絵はオークションで破格の値段だったとか。

因みに、その絵には俺の知る限りの地球文化を詰め込めるだけ詰め込んだ。

おかげで、昨日の視線がさらに生暖かいものになった。なんでさ。

もう芸術の腕は発揮しないと誓った俺であった。

 

 

異世界十一日目

お手伝い代行、始めました。

もうそろそろ飽きてきたので、地球でやっていたこと、やってみた。

勇者一行という肩書のせいで、全然声かけてくれなかった。

それどころか、もう少し世界を救う心構えをだの、喧しかったので止めた。

そんなに言うなら別にいいもん。もう困ってもぜってぇ助けないから。

 

雫が大声で呼んでいたの出てみると、香織がメイド服で雫を追いかけていた。

アイツ等、何やってんねん。てか、なんでメイド服?走りづらそうじゃん。

どうやら話を聞くと、俺に見せたかったようだ。そういうコスプレは帰ってからにしなさい。

……何故か顔を赤らめて怒っていた。なんでさ。そう言った風に考えてんのか?

俺は、地球に帰ってから好きな人の前で披露しなさいって意味で言ったんだが…

……しゃがみこんじゃったよ。どうしてそんなにピンク思考なんだ、お前は。

後、他の奴らも。俺を一体何だと思っているんだ。何?妖怪天然人たらし?

O.K.よろしいならば戦争だ、じわじわとなぶり殺しにしてくれる!

午後の訓練は鬼ごっこになりました。いやぁ~楽しかった。

 

そういえば、龍太郎が何人かの男子を巻き込んで乱闘していたな。

一体何があったのかを聞くと、何故か全裸で廊下を爆走していたとのこと。

ホントに何やってんだか。とりあえず、本人にも事情を聴いてみることにした。

……スチュワート大佐の真似って…。何も知らない人から見たら奇行だぞ。

その夜、光輝も決め台詞と共にポージングを取っていたらしい。中学生かあんた等は。

でも気持ちは分からなくもないので、そっと慰めることにした俺であった。

……別に同じ黒歴史を持つものとしてではない。ホントだからな。

 

 

異世界十二日目

ファイズフォンマークXの改造も終わったので、浩介にこれを託すことにした。

正直、他の人でも良かったが、浩介には何故か絶対の信頼感があった。

目星をつけていた時からそうだったが、コイツには何か凄い縁があるやもしれん。

そう思っていたその日の夜、ポージングを取りながら、六人の女性に囲まれているわが友の夢を見た。

……一人、幼女がいたけど、そういう趣味じゃないよな、浩介?

 

今回のお手伝いは権力行使で無理やりやることにした。

ベッドメイクは序の口であった。他の清掃も細かい所までやってやったぜ。

後、洗剤の知識も調べておいたので、「異世界でも簡単に作れるから大丈夫!清掃一本これ一つ!」的な洗剤の作成にも成功した。

後日、その製法が広まったのか、俺の元に使用人の人達がやってきた。

せっかくなので、清掃の仕方や洗剤の作り方をレクチャーした。

後、リリィに頼んで天職が無かったりあまり腕が振るわない人たちの働き口として、そう言った小道具の工場を作ってもらえないか検討した。

最初は渋い顔をしていたが、疫病防止や死亡率・病床使用率低下のメリットを説くと、早速設立を約束してくれた。

 

人件費の削減、浮浪者の激減、生産体制の確立…いいことづくめばかりなんだよなぁ。

やっぱ、国を創る上で持つべきものは民と土地と使える人材だな。

アイツじゃ絶対に無理だな。そもそも学んできた知識の種類と量が違うと思うんだよなぁ。

俺は初っ端から王様志望で、知識も鍛錬も積んできたから、その辺のところは理解しているけど。

まぁ、洗剤の製法には、地球の本棚を使ったが。ほんと、知識の本棚ってスゲェー!

 

 

異世界十三日目

今回は光輝の夢だったようだ。

光輝の周りに、似たような顔の姉妹?と、女騎士っぽい人、後なんか変な雰囲気の出ている女性二人が殴り合っていた。

……光輝、俺が言うのもなんだが、もう少し付き合う女性を選んではどうだ?

後、いつもの癖を直した方がいいぞマジで。将来苦労するから。

 

さて、今日は特に何をしようかは決めていなかったので、王都を歩き回ってみるか。

そしたら案の定、お供達(いつもの面子)がついてくる。休日なので別に構わないが…

正直周りの視線がうぜぇ…。え?何か言って来たら、全力で怒るから大丈夫?…そういう問題じゃない。

まぁ、そんなわけで王都観光に向かった俺達であった。道中、出店で食べ歩きをした(全額俺持ち)。

香織達は女の子なので、スイーツが多かったなぁ。間接キスは流石に危なかった…。

指摘していなかったら、多分そのままやっていたんだろうなぁ…。顔が真っ赤になっていたが。

途中で、チラチラ見てきた他の奴も何人かついてきたので、その分まで払うことになった。

後、王宮の使用人の人達や先生、お世話になっているメルドさんやリリィへのお土産も買っておいた。

おかげで、せっかくこっそり貯めていた財布の中身がすっからかん。トホホ…。

 

まぁ、財布へのダメージはデカかったものの、別にお返しがなかったわけじゃない。

今日の夜はなんと、実家が喫茶店をやっている園部さんが、特別に料理を作ってくれた。

彼女も昼間の食べ歩きでおごってもらった一人で、全員で何かお返しをと思った結果らしい。

料理の腕はというと、正直、俺が危機感を覚えるくらいのレベルの上手さだった。

実家でも手伝いをしているらしいが…やはり、餅は餅屋ってことか。

いいだろう、今回はこれで見逃すとしよう。そう思って料理を完食する俺であった。

 

 

異世界十四日目

とうとう異世界で二週間が経った。意外と早いものだな、時の流れというものは。

さて、最近久しく電源を入れていなかったスマホを、ようやく起動させた。

因みに、登校時は充電100%の状態で、学校に着く前に切っていたので、そこまで減ってはいなかった。

その中には、父さんと母さんが勝手に送って保存していたのか、妙なファイルがあった。

"厳選心得七ヶ条~異世界編~"と書いてある。せっかくなので、読んでみることにした。

 

1.複数人召喚の場合、一見無能な奴がいたら仲間にせよ!ソイツ、絶対に強い! …仲間はもういるが。

2.気をつけろ!召喚側の王女は大体腹黒い!頼るなら別国の王女にせよ! …どうやってやるんだ。

3.急いで左腕を封印しろ! …俺の腕は鬼でも封印されているのか。そもそも包帯がない。

4.謎の声には素直に従え!精霊的な何かだ!大体強力な味方になるぞ! …十分強い味方もういるから。

5.冒険者ギルドに登録したい! …願望じゃん。気持ちは分からなくもないけどさぁ。

6.暗殺者は早めに仲間にせよ!大体強キャラだぞ! …うん、世界最強の暗殺者、もう仲間になってる。

7. ヤバいと思ったら逃げること!自分の命を最優先に!汚いことをしても生き延びろ!父さんと母さんが許す!諦めるな!絶対に帰ってくること!いつも他人優先で無茶をするんだから、少しは自重しろ!

…ホント、敵わねぇな。あの人たちの息子だから、俺はいつでも笑って、前に進むことが出来る。

改めてそう実感したよ。そう思いながら、俺はそっと電源を切った。

 

たとえ、最低最悪の未来になったとしても、俺は諦めずに突き進むことが出来る。

俺自身が止まれなくなってしまったも、止めてくれる人たちがいる。

俺が世界と戦うことになっても、背中を預けられる仲間がいる。

俺が王になれるのは、力があるからじゃない。支えてくれる大切な民がいるからだ。

それを忘れないよう、深くこの日記に刻み込むことにした。

 

 

異世界十五日目

今日は変な夢を見た。多分、未来の俺のようだが…何か、違う感じがしている。

正直、外見の特徴は全くと言っていいほど似ても似つかない。多分、IFの俺の姿ではあると思うが…

眼帯、黒いコート、義手になった左腕、懐から取り出した銃を構えている、赤雷が走っている…

アカン、完全に厨二スタイルや。これがもし未来の俺の姿であるならば、正直黒歴史モンだ。

何が何でも、絶対に消去せねばなるまい。これは、未来をかけた戦いである!

 

だが、それよりも気になって仕方がないことがあるぞ、未来の俺(仮)よ。

お前の周りにいる、その大勢の女性たちは一体、何なんだァ!?

一体何がどうなってドン・ファンみたくなってんだァ!?

てかなんで、香織に雫、リリィに愛子までいんの!?後、他の女性人はどんな関係だよ!?

金髪ロリ、ウサミミ痴女、ハァハァ言ってる着物の女性、親子らしき女性と幼女…。

おい、二名ほどアウトじゃな…金髪の子が高校生位になった。訳が分からないよ。

後、幼女に「パパ」って呼ばれているが、もしかしてその女性に産ませたのか!?

いや、だとしても、他の女性人も同じ位の年で、母親似の子がいるはずだが…

ダメだ、これ以上考えたらきっと頭が痛くなる。そう思って直ぐに寝ることにした。

 

翌朝、何故か同じ夢を見た。内容は若干変化していたので、おそらくこっちが未来の俺だと思われる。

ただ、何故か知らない女の子がさらに二人も増えていた。なんでさ。

だが、恰好は正しく王の気風が漂う服装だった。まるで、全世界を治める魔王の様だった。

魔王、か。俺の持つ力はまさしくそれだが、夢の中にいる俺は、本当に最高最善の未来にいるのだろうか。

そう思いながら、また目を覚ます俺であった。今日はこれだけで頭がいっぱいだった。

 

 

異世界十六日目

暇つぶしの鍛錬をしながら歩いていると、クズ共が攻撃を仕掛けてきたので、難なく躱して気絶させた。

こいつらのせいで時間がかかってしまい、恵理達の様子を見に行くことが出来なかった。

なので、腹いせにこいつらの口にしこたま辛い調味料をぶち込んでやった。

まぁ、胃が大変にならない程度の量にはしておいた。この世界、ウォシュレット無いからキツイだろうし。

 

さて、ここまでの日々のことをまとめてはみたが、正直ツッコミどころの多い出来事もあった。

思えば、俺はそういう星の元に生まれてきたのやもしれん。

生まれながらにして王を目指し、齢六歳で鍛錬を始め、その三年後には知識の吸収に明け暮れ、全てを終えるころに行きついたのは、生きとし生ける者から恐れられるべき存在、魔王だった。

俺の力ははっきり言って異常だ。魔王の力を手にした時点で、俺は人間の限界を超えてしまった。

……いや、若干途中から人間やめてる感はあったけどさぁ、まだあの頃は誤差の範囲でしょ!?

てか、異世界に来てから皆ハッチャけすぎなんだよなぁ。

ある者はポージングやコスプレ、ある者はメイドをナンパ、ある者は魔法に興奮しまくっている…

ホントに大丈夫か?こんな調子で、戦争に行っても勝てる実感がわかないんだが…

 

因みに、香織や雫はリリィとお茶会、恵理は鈴のストッパー、トシは同じく図書館で本を読んでいたが…

浩介、お前はどこで何をしていたんだ?全く見つからなくて、探すの苦労したぞ。

あ、後明日からとうとう大迷宮に潜るらしい。最近、王都周辺の奴らじゃ物足りなかったんだよなぁ。

これでようやくスランプ気味から抜け出せる。あ、おやつはいくらまで買っていいか聞くの忘れていた。

しょうがないので、明日聞くことにした俺であった。

 


 

ハジメ「……ふぅ、ざっとこんなもんか。」

そう言いながら、日課で記録していた備忘録を読み終えた俺であった。

この備忘録には、俺がどのような日々を送っていたかを書き記すために、わざわざリリィにお願いしてまで、取り寄せたものだった。

そういった意味では貴重品だったが、奈落に行く前日に制服ごとおいていってしまっていたのだ。

息抜き序に"コネクト"を使って、早速取り寄せることにした俺であった。

案の定、無事ではあったものの、花のしおりが挟まっていた。

……後でこっそり、制服の中に入れておくことにした俺であった。




ここまで読んでいただき、ありがとうございます。

今回は、ハジメさんのこれまでを振り返ってきました。
もう少し掘り下げて解説してほしいという方は、是非コメント欄へどうぞ!
そして、今回からちょっと次回予告を変えてみました!
それでは、どうぞ!

追記:ヴァントールさん、N.jpさん、誤字報告ありがとうございました!

ジーカイ!

???「私の家族を助けてください!」
ウサ耳少女現る!?

ユエ「お祈りは済んだ?」
ユエさん、まさかのマジ切れ!?

ハジメ「一気に飛ばすよ、しっかり掴まっていて!」
全てを振り切り、風になれ!

第20話「お助けウサギ娘」

ハジメ「ド派手にいくぜ!」


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100話記念:ハジメさん日記②

ハジメ
「お待たせいたしました!今回は100話記念の日記口調説明補足回だ!
……と言っても、他の特別編に熱を注ぎ過ぎたせいで、オリジナルストーリーを考えられなかった結果なんだけどな。
でも、ラストにはちょっとしたサプライズも入っているから、出来たら最後まで読んでいってくれ!
それでは、どうぞ!」


一号の日(奈落生活一日目)

 

今現在、俺は奈落にいます。原因は檜山とタイムジャッカーです。そして隣にはウサギがいます。

今日はこれで終わり。取り敢えず、神水見つけたので寝る。

 

イナバが仲間になった!ハジメは神水を手に入れた!

 

クウガの日(奈落生活二日目)

 

今日は鉱石を取れる分だけ乱獲しまくります。解放者の資産で食う飯はうまいぜ。へっへっへっ……。

途中、タールシャークやコカトリザード、エレキモスにヴェノムトード、クリーピーセンチピードにスイートレントと、色んな魔物に出会いました。(命名:俺)

特にスイートレントの木の実はとても甘く、手懐けることができれば食糧危機にも備えられるんじゃないかなぁ?と思った。

 

ゼロワンの日(奈落生活三日目)

 

今日はある美少女と、運命的な出会いを果たした。

彼女の名は、アレーティア・ガルディエ・ウェスペリティリオ・アヴァタール……

いや、今はユエと名乗っている。

まさか全裸かつ四肢拘束で捕まっているだなんて予想だにしなかった。

流石に封印するにしても、もう少しやり方があったのではないかと思ってしまった。

 

まぁ、それはさておき……彼女の叔父が残したメッセージは、この世界の常識を揺るがすほどの真実であった。

なんかきな臭いとは思ってはいたが、やはり神とやらは腐っていやがった。

しかも齢17の少女を勝手に器に決めつけた上、300年もの間孤独の闇に押し込めたことは非常に腹立たしい。

エヒト、テメェは俺を怒らせた。よって、俺が貴様を殺す。目の前で泣いている彼女の為にも。

彼女を託してくれた叔父殿の為にも。そして、この世界に生きる民達の為にも。

 

ユエが仲間になった!

 

ディケイドの日(奈落生活4日目)

 

獄炎。ただそれだけだった。

後、ユエから聞いた話では、叔父殿は旅も料理もする人だったらしく、ユエは叔父殿の作った料理が好きだったようだ。

どれも旅路で食べるような手軽なものばかりだったが、そこには確かな家族の愛情が籠っていただろう。

ただ、それらの味までは保証されていなかったようだ。

叔父殿自身は"割といける"と思っていたらしいが……流石に、ユエも不器用さんじゃないよな?ないよね?

 

ジオウの日(奈落生活5日目)

 

今日は私が初めての変身を成した日であった。即ち、今日をオーマの日として制定する。異論は認めん。

取り敢えず、あのヒュドラ擬きが再びリスポーンした時は、間髪入れずに真っ二つにしてやる。

そして辿り着いた場所で、俺達は大迷宮の真実を知ることができた。

オスカー・オルクス。アンタには感謝してもしきれない。本当に、ありがとう。

 

アンタのくれた生成魔法は、この異世界で俺が装備を充実させるのに最も必要な魔法だった。

オーマジオウの力を持っている以上、ライダー達のスーツに関する物質に関しても、知識がみるみる入ってくるものなのだ。

おかげで、"宝物庫"には今でも大量の鉱石が入っている。

それも、生成魔法と魔王の力が合わさったことで作り上げることができた、最強のマテリアルたちが。

これで装備方面は当面の間、充実することだろう。食糧方面は問題が残っているが。

 

その上、今後の仲間に女性が増えるのであれば、今回のユエのように(性的に)襲ってくることも考えられる。

その対策もしなければいけない。やることが山積みになった日でもあった。

そして、地上に残してきた仲間たちの心配もしつつ、今日はもう寝ることにしたのであった。

 

ハジメ達は生成魔法を覚えた!

 

ビルドの日(奈落脱出後初日)

 

今日は色んなことが起こり過ぎて、もう疲れたよ。

奈落を出た初日に、大量のウサミミに会うわ、山賊共で初めての人殺し実験をするわ、何かと突っかかってくる猫をぶっ飛ばすわ、熊男をワンパンするわ、エルフの様な森人族に興奮する父さんと母さんの幻影が見えてしまったわ、最初に出会ったウサミミ娘(シア)に懐かれるわ、亜人族の故郷の光景に魅了されるわ……

 

結構、濃いなぁ。さて、どうやってハウリア達を鍛え上げてやろうか。

取り敢えず、隠密能力が高そうだし、後はメンタルさえ仕上げてしまえば、どうとでもなりそうだ。

しかし、もし亜人族が魔法使えるようになったら、他の国は一体どうするつもりなんだ?

ただケモミミとか生えているだけで迫害とか……器が知れるぞ。

俺はどうなのかって?勿論、ケモミミシッポは大好きだ。モフモフなら尚良し!

 

アルファの日(樹海生活12日目)

 

俺は今日という日を激しく後悔している。何故って?ハウリア達、鍛えすぎちゃったからだよ……。

まさか、あんなにまで強靭(狂人)になるなんて思わなかったんだよ。

まぁ、途中からノリノリになっていた俺とイナバも悪いんだけどね……

いや、終始ノリノリだったイナバの方が悪質か。

でもまぁ、それも今日で終わりだ。魔力強化が使えるようになった以上、油断さえしなけりゃ大丈夫だろ。

それはそれとして、シアに告白されたわけだが……精力剤、作れるなら作っておいた方がいいかな?

今度、アルフレリックに相談してみることにした。

 

シアが仲間になった!

ハウリア族が配下になった!

 

オメガの日(樹海生活終了&ブルック0日目)

 

樹海の大迷宮攻略には、再生に関するものを含む神代魔法を4つ揃えなければいけないようだ。

なので一旦、ハウリア達には樹海の護衛を、イナバにはメッセンジャーをそれぞれ頼んだ。

二人を連れて向かった、ブルックの町は何というかカオスだった。

ムッツリーな宿屋の娘、凄腕な世話焼きマダム、町中の変態共……なんかデジャブを感じるなぁ。

 

そんなことを思いつつも、次の迷宮攻略の準備を進める俺であった。

そしてまたもや、夜這い問題についても直面したのであった。

今回は人数が増えたので負担も倍だった……。

 

BLACK RXの日(ライセン一日目)

 

今日は久々にもかかわらず、二回もキレちまったよ……。

一回目は迷宮の鬼畜使用に、二回目は下種野郎の悪辣なその鬼畜な所業に。

取り敢えずストレス発散がてら、奴のいる神域(笑)とやらに、ドでかいのをぶち込んでやった。

それにしても、この世界いくらなんでも歪みすぎだろ……ホント、到達者共何やらかしてくれてんの?

開拓したところまではまだいい、でもよりにもよって、何で最後に厄災(アレ)おいていきやがったんだって言いたい。

 

いや、既に亡くなった奴等に愚痴吐いても仕方がないか。

彼等とて元は人間、数千年も見守り続けてきた以上、疲弊だってする。

自分たちがいなくても大丈夫、この世界の人類に未来を託せると思ったからこその、延命の中断なのだろう。

それをただ一人、理解することの出来ていなかったヤツだけが、異常なだけだったのだ。

 

一先ず、俺がこの世界で王様になったら、第一歩としてやるべきことは決まった。

魔人、亜人、人間、種族・年齢・身分に関係なく手を取り合える場所を作ることだ。

ミレディに見せてもらった、"解放者達の集合写真"のように。

 

解放者ミレディと解放者オスカー(魂)が仲間になった!

ハジメ達は重力魔法を覚えた!

 

フォーゼの日(ウル0日目)

 

ライセンから帰って暫くした後、フューレン移動序に護衛依頼を受けた。

商人のモットーとやらは、少し目をつけておくか。

さて、問題のフューレンだが、早々に変な奴に絡まれたせいで観光が全然できなかった。

あの雑種、後で毒殺しておくか。そう思った。

 

その後、ギルドカードの問題が、まさかキャサリンさんの手紙で乗り切れるとは思っていなかった。

あの人の昔の姿にも驚いたが……王都で受付嬢を担当していたとはな。

まぁ、写真を見る限りでは、確かに別嬪さんではある。ああなったのは幸せ……いや、何でもない。

彼女にも事情はあるのだ。余計な詮索はノーだ。

 

それにしても、ここでウルに行くことになるとはな……前々からお米関連で気にはなっていたのだ。

よもや、先生や一部のクラスメイトとも再会できるとは思ってもいなかった。

てか、愛ちゃん先生が逆ハー状態になっていたことにも衝撃的だったが、香織達の無双っぷりにも驚きだった。

え?騎士たちの洗脳?はじめ、なんのことかさっぱりわからない。

 

そんなことより、我が友トシの安否が心配だ。

イルワさんの探し人も北の山脈にいるらしいが……何だろうな、とてつもなく嫌な予感がする。

一先ず、大人数で移動する以上、デンライナーゴウカの整備をしておかねば。

 

電王の日(北の山脈捜索)

 

空は絶好の散策日和……ドラゴンや魔物の大群、冒険者達の遺品さえなければ。

取り敢えず、ウィル坊は何とか無事だった。そして、襲ってきた黒龍はまさかの竜人族だった。

気絶しているとはいえ、彼女の過去を勝手に見てしまったことは反省だ。

辛い記憶を本人の許可なく見てしまった以上、その使命を背負う責任が、俺にはできた。

 

それにしても、この世界にもタイムジャッカーがいたとはな……

よりにもよって、トシのアナザーライダー、いや、ライダーではないから、並行世界の虚像(アルターホロウ)とでも名付けておくか。

今度は、トシのアルターホロウ迎撃と、我が友トシの救出がミッションか。

久々に私の秘密兵器が火を噴くなぁ……。そう思いながら、蹂躙の準備を開始したのであった。

 

ウィザードの日(ウルの町戦線&ウルからの旅立ち)

 

今日の天気は、虚空時々拳骨流星。

アルターホロウをぶっ飛ばして、トシを解放した。

序に、下種野郎に今までの苛立ちも込めて八つ当たりした。そしたらなんか、片腕もぎ取っていた。

いらないけどなんか対策立てられそうだったので、厳重封印を施しておいた。

ガッチガチにしておいたので、魔法の起点にされたりすることはないだろう。

 

まぁ、そんなどうでもいいことはおいといて、とうとう懸念事項が当たってしまった。

ティオのお眼鏡に適ってしまった俺は、吸血鬼、兎人、龍人の3種族から代表の娘を娶る立場になった。

それは別に構わない。ただそうなると、今のこの世界の価値観では生きにくくなる。

第一目標は教会の殲滅だな。全ては、この世界の安寧、そして俺の望む未来の為に。

 

ティオ、トシが仲間になった!

 

ドライブの日(フューレン二回目)

 

折角のデートがおじゃんになった。なんと、海人族の女の子が衰弱していたのだ。

前々からこちらの様子をうかがっていた犯罪組織共の仕業のようだ。ぜってぇ許さねぇ!

この際なので、O☆SO☆U☆JIしてしまうことにした。これは子供達のため、そしてユエ達の為だ。

なので、後悔も反省もない。たとえ、冒険者たちから変な二つ名をつけられたとしても、だ。

 

他に捕まっていた奴隷たちも開放し、売人やクズ貴族共は躊躇なくボッコボコにしてやった。

その後の事後処理は面倒だったので、イルワさんとクリスタベルさんに任せておいた。

まぁ、あの二人なら何とかするだろう。こちとら折角のダブルデートに水を差されたのだ。

この位の負担は受けてもらわねば、こちらも割に合わないからな。

 

そして娘ができた。名前はミュウ。……母親も嫁に来そうな未来が見えた気がした。

気のせいだと信じたい。ミュウの話では、父親はミュウが物心つく前に、既に他界しているそうだ。

むぅ、これは母親の女性は苦労しそうだな。

娘に真実を伝えられないが故の葛藤、夫への未練、突然現れた男への不信感、攫われてしまった娘の心配等々……色々とケアが必要だろうな。

 

ミュウが娘になった!

 

ブレイドの日(ホルアドへの帰還&再会、そして出発)

 

久々にホルアドに帰ってきた。ギルド内の奴らは躾がなっていなかった。

なので、全員漢女送りにしてやった。後悔はない。うちの娘を怖がらせたあいつ等が悪いのだ。

そんなことよりも、漸く香織達と再会できた。そして香織がついてくることになった。

その件で光輝と揉めたのでわからせておいた。そしてリリィに告られました。

 

奥さんに人間族と幼馴染追加ァ!教会が余計に邪魔になってきやがった。

そうそう、邪魔といえば帝国の皇帝だな。いきなりやってきて、こっちに因縁つけてきやがった。

樹海攻略を進める上で、帝国も障害になるかもしれんな。まぁ、そうなればどちらも潰すがな。

それはそれとして、態度がムカついたので、適当にボッコボコにしておいた。

 

雫たちも変わりなかったが、何故か恵理の眼に何かしらの違和感を感じた。

なんて言うか、いつもと違って何か嫌な感じがするんだよなぁ……何故だろうか?

とはいえ、流石にこれはトシに相談できない上に、雫は聡いのでその辺りに気づく可能性は高いだろう。

一応、メルドさんに何かしら護身用アイテムでも持たせておくか。

 

それと、あの雑種にも警戒しておくべきだろう。

幾ら雑魚同然の下っ端風情とはいえ、あの異常なまでの執着心はある意味面倒だ。

タイムジャッカー共にとっては、私の妨害にうってつけな神輿だろうな。

いや、私としては寧ろやりやすい方なのだがな。奴なんぞより、光輝が狙われないことを祈ろう。

今の光輝ははっきり言って危うい状態だ。その辺りは雫にどうにかしてもらう必要がある。

面倒事を背負わせてしまったものだな。埋め合わせは必ずせねばな。

 

それと、浩介には王都に来るであろう先生の護衛を依頼した。

理由としては、俺たちが今後、その異常な力を危惧されて、異端認定される可能性が高いからだ。

それに伴い、説得を試みる先生が真っ先に狙われるだろう。

そうなれば、教会の総本山にして狂信者共の巣窟、神山に監禁されることになる。

 

木偶人形共も多数配置されることになるだろう。加えて、タイムジャッカーの妨害だ。

人質救出は困難を極めるだろう。だからこその、浩介の出番なのだ。

あいつの影の薄さは、それこそ非常識レベルだ。というか、あいつだけ人間で人外になっている件。

まぁ、問題はどうやって王都から抜け出すかだが……これは正直、賭けだ。

 

昔一度だけ、浩介の存在感が増した日があったらしい。それも、俺と初めて出会った日だ。

本人曰く、あの時は失恋で心が折れていた、らしい。

なんでも、ずっと隣の席だった女子に告白したものの『えっと、何組の人?』と返されてしまい、当時は部屋に引き籠りかけていたらしい。

 

そしてあの日は、たまたま気分転換でコンビニに行こうとしていたところを、俺が発見したらしい。

あの日が運命のターニングポイントであったのだろう。

でなければ、これまでの旅は更にハードになっていた可能性は高い。

この旅の影の功労者は、間違いなく雫と浩介だろうな。そう確信できる日だった。

まぁ、あいつの心が折れるような出来事と言えば、メルドさん狙い位だろうな。

その辺りの対策も考えておこう、そう思いながら俺達は西へ向かったのであった。

 

香織が仲間になった!イナバが再び合流した!

 

エグゼイドの日(アンカジ)

 

赤銅砂漠横断の途中、目的地のアンカジ公国でオアシスの汚染が起こり、それによって人々が苦しんでいることを聞いた俺達は、早速解決に乗り出すことにした。

案の定、魔物の仕業だったので、即退治した。

患者への対応は、ライダーとスーパー戦隊の力で何とかした。

 

それにしても、折角のフルーツパラダイスを台無しにするとは……

魔人族は占領した後のことまでしっかり考えているのかね?

浄化するための策もなしに、こんなことをしてみろ。無駄な領地が増えるだけであろうに。

いや、トップが下種野郎の手駒だから何とも言えないか。そう思いながら、大火山に備える俺達であった。

 

龍騎の日(大火山)

 

今日は怒涛の連続だった。今回の大迷宮はとにかく暑い、ただただ暑かった。

それでも暑さに耐えては進んだ。途中、何人かが暑さで混乱していたが。

というか、マグマ系の魔物多すぎだろ……。でも、マグマの川下りは楽しかったな。

そうして進んだ先での試練は、マグマ蛇100匹組手だった。一人でやったらRTAできそう。

 

そんな折に現れたのは、魔人族の将軍フリードだった。

最初は惨殺確定だったが、見下ろしているうちに冷静になったこともあって、何とか殺さずに済んだ。

よくよく考えたら、戦争後の復興で魔人族にも、信頼の強い強い指揮系統が必要になるだろう。

それもあってギリギリ踏みとどまった。今思えば、ここで踏みとどまれたことは英断だっただろう。

 

案の定、洗脳をされていたので解除。その上でドンパチを開始した。

アナザーウォッチを持っていたことは何となく感づいてはいたが、やはり相手が好敵手でもウォッチの破壊を最優先にするべきだろう。

今回のことで、ティオに負担をかけてしまったからなぁ……。埋め合わせしなきゃ。

 

さて、アンカジの救援体制は整ったわけだし、明日からいよいよエリセンへと向かうことにした。

ミュウの母親の安否が心配だな……ミュウの為にも一刻も早く送り届けてあげなければ。

それに、これからの旅に巻き込んでしまうのは、俺としても心苦しい。

安全な場所に避難してもらった方がいいだろう。とはいえ、ミュウにはどう説明するべきだろうか。

そのことで頭を悩ませる俺であった。

 

ハジメ達は空間魔法を覚えた!

解放者ナイズ(魂)が仲間になった!

 

オーズの日(エリセン)

 

遂にエリセンへ到着した俺達。

ミュウの母親、レミアさんの足の怪我も治し、漸く二人が笑顔になった。

とはいえ、いきなり現れた男を、娘がパパと慕っているのは流石に複雑だろうな……。

夜風に当たっていたら、レミアさんも起きていたようなので、話を聞くことにした。

 

エリセンは漁師の町、というだけあって、海難事故も覚悟の上、なのだろう。

ただ、妻を一人残して逝ってしまったことは、流石に無念だろう。

残されたレミアさんも、失った悲しみを一人で耐えてきた辺り、強い女性だな。

 

それでも人は、泣きたい時には泣いてもいいんだ。

生まれて一度も泣いたことのない人間なんて、この世に一人としていないのだから。

まぁ、彼女は海人族だけど、そこは気にすることはない。

見た目が違うだけで、皆同じ命なのだから。

 

そうして泣き崩れてしまったレミアさんを慰めているうちに、何だか態度が変わったような気がした。

しかも敬語なし・名前呼び捨てでいいって……アレ?俺、レミアさんをいつの間にか口説いていた!?

俺としては、この先も強く生きられますようにって思って、話していただけなのに!?

まぁ、でもその方がいいかもしれない。レミアさんの為にも、ミュウの為にも。

 

とはいえなぁ……ここに置いて行ってしまうことへの躊躇いが増えてしまった。

これも運命(さだめ)なのだろうか?レミアさんはその辺り理解してくれるとは思うが……

だからこそ、置いて行ってしまうことに罪悪感が半端ない。憂鬱だ……。

せめてそれまでの間だけでも、彼女達には楽しい思いをしてもらわねばな。そう決意した俺であった。

 

そして出発までの間、エリセンの町の人と交流し、邪魔な男共をはっ倒し、奥様方の下世話を交わし、女性陣の誘惑を何とか避けつつも、着々と準備を進めて行った。

だが、ここで問題が発生した。なんと、メルドさんが襲撃にあったのだ。

幸いにも、依然渡したオルクスへの転移用アーティファクトがあったおかげか、何とか避難には成功したようだ。

 

そして事情を聴けば、やはりあの雑種がタイムジャッカー共と組んでいたようだ。

それだけにあらず、恵理の力を使ってくるとは……何と下劣な屑共であろうか。

一先ず、メルドさんにはハウリア達に預け、安全を確保する。

俺達は一刻も早く、再生魔法の取得に動き出さねばならない。やれやれ、全く面倒な事態になったものだ。

そんなことを思いながら、ミュウとレミアに見送られていく俺達であった。

 

ゴーストの日(メルジーネ&悪食討伐)

 

今回は精神的に来たかもしれん。

前半の海底遺跡探索まではよかった。そう、まだ入り口の辺りまではよかったんだ……。

よりにもよって全身溶解液の魔物"悪食"に遭遇するとは思ってもいなかった。

後から聞いた話だが、あの辺りには元々いたらしく、掃討するのが面倒だったのでそのままにしていたらしい。

何とも適当な、と言いたいが、あの強力な酸性の前では、流石になぁ……。

 

そして過去の光景の疑似体験。

あれは迷宮のコンセプトなので仕方がないものの、想像以上の悲惨さと異常さだった。

あのような光景は忌むべきものだ。この世界の者達が見れば、殆どが正気を失うであろう。

このような混乱を避けるためには、やはり教会は邪魔だ。この手で潰さねばならない。

そうすれば奴の力も削げるだろう。その上で、この南雲ハジメが直々にぶちのめす。

 

そう思ってはいたものの、その後の香織の対応に困ってしまった。

何せ香織は、地球にいた頃からお化け屋敷が苦手なのだ。

よく護衛役を雫が買って出てくれたものだ。俺?塩対応し過ぎで出禁喰らったよ。

今回は俺が護衛をしたが……雫、結構苦労しただろうなぁ……。

 

まぁ、それも過ぎて漸く再生魔法を手に入れた。序にメイルも仲間になった。

その喜びも束の間、まさかのラスボスが出てきやがった。それも悪食の祖先、"悪母"が。

流石に今回はヤバいと思ったので、初めて限界突破"覇潰"を使った。

それとトシにも協力してもらった。……初変身だからか、やけにテンション高かったが。

その甲斐あって、地上や海上には被害はなかった。そう、地上や海上、には。

何故か、神域(笑)に爆散した破片が降り注いで、甚大な被害を及ぼしていた。

全員アフロになっていたのが意味不明だったが、下衆野郎が酷い目にあっていたので若干スカッとした。

 

ハジメ達は再生魔法を覚えた!

メイルが仲間になった!

 

ガッチャードの日(輝く海の奇蹟&エリセン旅立ち)

 

そろそろ旅立つ日が近いので、ミュウとレミアとの思い出作りのため、"輝く海の意思"というものを探しに行った。

しかし、そこで謎の現象に巻き込まれ、散り散りになりかけてしまった。

幸いにもレミアはすぐに見つかり、ユエ達も無事だった。

 

そして驚くことに、なんと並行世界のミュウがやってきたのだ。

並行世界のミュウが言うには、違う世界線の錬成師が、それぞれの世界で2人必要らしい。

更にはなんと、オスカー達が生前の姿に戻っているではないか。

そのせいか、オスカーとメイルが段違いにテンション上がっていた。

 

にしても……向こうの俺達、濃いなぁ……。

俺―恰好が厨二、ユエスキー、ドSの鬼、

ユエ―向こうの俺を捕食済み(意味深)、叔父殿の真実を知らない模様、香織相手に大人げない

シア―ちょっと不憫、ちょいムッツリ?

ティオ―ドМ

香織―魔力操作が使えず、双剣術も習っていない

トシ、イナバ―確認できず

解放者ズ―時代が違った模様。向こうはまだ全員揃っていない時のようだ。

 

まぁ、なんだかんだで事態の解決に成功したよ。

あっちの俺達も、これからのこともなんだかんだ乗り越えていくだろう。

とはいえ、流石にミュウとレミアとの一時の別れは辛い。

でも、二人とも見送ってくれることはもう決めているしなぁ……。

そんな二人の為にも、一刻も早く下衆野郎をぶちのめすことを決意した俺であった。

 

それにしても、まさかミュウがあんなことを宣言するとはなぁ……。でも、なんか行ける気がする。

だって、俺達の娘だから。血の繋がりがなくても、そう思える。

だから、二人が俺の故郷を見た時の反応を、楽しみにしている。

勿論、自力で世界を超えてくる娘の雄姿も、ね!

 

ダブルの日(アンカジ二回目)

 

二人との辛い別れを終えて、俺達はアンカジに戻ってきた。

土壌は香織が再生し、作物はユエとティオに任せた。

途中、教会の邪魔が入ったものの、アンカジの民達が味方してくれたおかげで、行動しやすかった。

序に、アンカジに教会による被害が及ぶといけないので、建物諸共糞爺共を消し飛ばしておいた。

 

そして今回は久々の無茶をしてしまった。

"その時、不思議なことが起こった!"、この技能はある意味使いどころを考える必要がある。

とはいえ、エネルギーのチャージ持続ができる技能が手に入ったのは嬉しい。

これもアンカジの意思、のおかげか。

これさえあれば、腹も魔力も満たせるという優れものだ。しかも燃費も抑えられて、威力はそのままだ。

これで漸く、動き出せる。伝統のドレス衣装に関しては、また今度ということで。

 

その後、暫しアンカジで休息をとった俺達は、一度フューレンのギルドによった。

すると、なんと先生とリリィがいたではないか。勿論、護衛の浩介も一緒だ。

早速三人を連れて、事情を聴くことにした。さて、一体どうなっていることやら。

 

セイバーの日(王都事変)

 

我々は激怒した、必ずかの邪智暴虐にして卑劣漢なる外道共を滅ぼさねばならぬ、と。

どうやら木偶人形がミュウとレミアを拉致したようだ。十中八九、神山にはタイムジャッカーもいる。

皆の所にも救援に行きたいが……やはりミュウとレミアのことも心配だ。

だが、たとえ罠だとしても、俺は行く。俺は、ミュウの父親でレミアの夫、そして最高最善の魔王だから!

 

そんな訳で、浩介の気配遮断に望みをかけて、神山へ侵入した。

するとなんと、フリードが奇襲を仕掛けているではないか。

当然、タイムジャッカーの首領らしき男は、時間停止を使う。俺はそれを待っていた。

 

時間停止というものは、本来一人しか使用してはならない。

二人以上が使用する場合、後から使用したものから優先的に行動ができるものなのだ。

ジオウ本編では勿論、某その血の運命でもあった展開だ。なのでそれに倣い、私も時間を止めた。

結果は当然、私だけの世界だ。この止まった世界の中で、私以外に動ける者はいない。

 

その後はアナザーウォッチ(ミュウとレミアの分、ダミー含めて私の分)を破壊し、老害共の無力化、そして判決・私刑"逢魔轟拳乱打"を執行し、再び時は動き出す。

そして二人を抱きしめ、周りの屑共を威圧で吹っ飛ばした。二人を助けられて、本当に良かった。

その点で言えば、MVPはフリードだろう。彼がいなければ、この作戦はここまで上手くいかなかっただろう。

 

本人の性格も印象も悪くない。

正直、魔国の代表としての彼と、背中合わせで共闘できたら、と思えたほどだ。

が、最悪なことにタイムジャッカー(ゴミムシ共)はしぶとかったようだ。

更には、速度重視とはいえ俺の斬撃に耐えうる障壁を張ったのだ。

念の為に、警戒レベルを数段上げておくべきだろう。

 

と、呑気に考えている内に、巨大なアルターホロウ……

いや、もう誰の虚像なのかすらも見分けがつかんから、デカブツでいいか。

デカブツが現れたので、引火大爆発にキングギリギリスラッシュを添えて、神山の試練をクリアした。

まぁ、生き埋めになりかけたので、今後は気を付けよう。

 

兎にも角にも、魂魄魔法を手に入れたものの、フリードの部下が樹海に侵攻していると聞いた途端、脳裏にハウリア達が浮かんだので、ダッシュで樹海へと移動した。

が、時すでに遅し。あいつ等、魔人族全滅させていやがった……

また"不思議なことが起こった"を使う羽目になった……。

 

その後、火花を散らしている二陣営を何とか説得したものの、何故か魔人族の軍隊が俺の配下になるということで落ち着いてしまった。

戦力は多いに越したことはないけどさぁ!それでもタイミングってものがあるでしょ!?

まぁ、その問題はさておき、今は香織達のことを優先しようとした……ある声が聞こえるまでは。

 

声の元へ向かってみれば、恵理がアルターホロウにされていた。

全く、奴等はどれだけ私を怒らせれば気が済むのだ?不敬極まりなさ過ぎて、呆れしか出てこない。

間一髪、恵理の危機には間に合ったようだ。あと一歩遅かったら……想像したくもないな。

そうなってしまっては、トシには勿論、父さんと母さんにも顔向けできんからな。

 

道中、おんなじ顔ばかりのマトリックス擬き共(木偶人形)の入れ食いを速攻で済ませ、王宮へ向かってみれば、なんと光輝が既に虫の息ではないか。

取り敢えず、やかましい上に気配もバレバレな愚者を返り討ちにし、メイルとティオに光輝やみんなの治療を任せた。

 

その後、目の前のアルターホロウから魂を分離し、恵理の肉体を取り戻した。

そしてその正体は、何時ぞやのDQNクソババアだった。異世界に来てまで面倒な〈ピー〉だ。

まぁ、俺よりキレているのはトシなので、ここは譲った。

しかし、王都の結界が破られてしまったのは流石に予想外だった。

 

だがここで、頼もしく成長した光輝がその防衛を引き受けたのだ。

今のままでは流石に1分が限界だろうが、光輝なら限界突破があるから、何とか3分は引き延ばせるはずだ。

とはいえ、そこでくたばってしまっては、そこまでなんて言えないだろう。

香織達は勿論、俺も悲しむので、念の為に浩介をサポートに送った。

 

さて、クラスメイト達にはユエ達もついているから、これで遠慮なく檜山をぶちのめせる。

当然、偽骸の傀儡王程度に、最高最善の最強王者が負けるはずもなく、あっという間に完封大勝利してやった。

所詮は、勘違い嫉妬塗れの下衆・屑・雑魚の悪評三拍子がそろった、不細工面で癇癪バカの無能野郎。

生まれながらの王である私に、適うとでも思っていたのか?

 

まぁ、そんな奴のことはどうでもよかったが、屑オブザ屑でも一応クラスメイト。

流石に死んだら先生が悲しむので、四肢を破棄・魂魄を眼魂にして拘束で済ませた。

後、ホルアドで殺した魔人族の女、カトレアとやらの恋人であるミハイルくぅんをぶっ飛ばした。

これで漸く王都で起こったクーデターは鎮圧されたものの、被害は甚大だった。

いくら狂信者だったとはいえ、リリィにとっては血の繋がった親だからなぁ……。

やれやれ、これしか思いつかないが……やるしかないか。これもリリィの為だ。

 

ハジメ達は魂魄魔法を覚えた!

解放者ラウス(魂)が仲間になった!

解放者メイル(魂)は解放者メイルに進化した!

フリード達魔人族軍部の一部を配下にした!

 

オーマジオウの日(即位の日)

 

拝啓、地球で帰りを待っている父さん、母さんへ。いかがお過ごしでしょうか?

俺は今、異世界で国王の座についています。突然何を言っているんだとお思いでしょうが、真実です。

まぁ、話せば長くなるのですが……。取り敢えず、口調を戻して話そう。

 

先代国王亡き今、現状での最高権力は王妃ルルアリア殿だろう。

だが、貴族の中にはまだ男尊女卑の思想を持つ輩も少なくはない。

それに教会の真実を伝えてしまっては、混乱とともにリリィ達王族の立場が危うくなる。

だからといって、何も真実を話さないのはより不信感を集めるだろう。ではどうするのかって?

 

負のイメージを払拭できるほどのインパクト、奇跡の光景を見せつけることが必要だろう。

俺にはそれが出来る力がある。今回は犠牲者蘇生と時間逆行でいいか。

それと、元教会の暴徒達への対策も施すことにした。

 

自分達の掲げていたものの真実を伝えられた時、大体の者たちは発狂するだろう。

だが中には意地汚い者もおり、賊として略奪の道に走るものも少なくはないと思われる。

ならどうするのか?答えは簡単だ。炙り出しをすればいい。

先ずはデモンストレーションとして、適当な場所の教会を消し飛ばせばいいか。

 

その後の報酬は俺謹製のアーティファクトの類でいいか。

神水もちょっとだけ出せば、大半の冒険者や研究者が食いつくことだろう。

ただ、流石に大量生産には時間を要した。そして疲れた。帰りはミュウとレミアに奉仕した。

あんな怖い思いをさせてしまったからなぁ……いくら疲れていようとも申し訳なさの方が勝る。

 

約束もあるが……流石にタイムジャッカーの存在が表に出てきた以上、警戒レベルはMaxだ。

なので一緒についてこないかと提案してみた結果、二人とも快諾してくれた。

というか、一緒についていけるのが嬉しそうだった。まぁ、二人が嬉しいならいいか。

 

そしてこの提案を皆に説明した時に、地球の本棚で調べていたことも話した。

当然、光輝は食って掛かってきたが、光輝の性格とこの世界の現実の2点を指摘して論破した。

甘いところはまだあったが……処刑に関して最後までゴネなかった辺り、成長を感じた。

今後連れて行くメンバーの中心でもあるからなぁ……。

他の面子?雫・恵理・浩介の修練者3人と、鈴・龍太郎の勇者パーティーコンビだけど?

 

とまぁ、こうして俺はハイリヒ王国の玉座につき、圧倒的な奇策で国民達の心を鷲掴みにしたという訳だ。

序に異端審問の問題も解決できたし、メルドさんの王国騎士団引退も免れた。

そしてリリィ達元王族も責を逃れることもできた上に、特務公爵として引き続き公務に取り掛かることができる。

それにしても……まさかオスカーの義妹とラウスの息子の子孫だったとはねぇ……世界は広いなぁ。

まぁ、後は防衛面をしっかりしておくだけだな。

 

そうそう、そういえば香織が木偶人形のボディに肉体を乗り換えたんだよなぁ。

元の魂だと仏頂面だったから可愛げがなかったけど、香織が乗り移ればあら不思議。

やっぱり中身が美少女だからか、元の持ち主がマネキンに思えてきた。

マネキンを大量に従える詐欺師……字面だけなら、衣装店やっていたら訴訟起こされそうなイメージだな。

 

こうして、期間限定ではあるものの、俺は自分の国を建てることに成功した、という訳だ。

さて、今後の政策と光輝達の特訓メニュー、王都の結界装置の修復に冒険者ギルドへの顔出し、エトセトラエトセトラ……。

 

ハジメはハイリヒ王国国王になった!

ミュウ、レミアがついてくることになった!

香織は使徒ボディを手に入れた!

 

V3の日(王都での準備)

 

王都での視察は大体こんな感じだ。

冒険者ギルド:依頼達成を知らせに来ただけなのに、面倒な成金に絡まれて、漢女2号が襲来して、身バレして説教しようとしたら、ユエが成金にスマッシュをかまして漢女生産。

結界修復:職人達に群がられ、その場は気絶させて脱出するが、次から次へとやってくるので警備隊をわざわざ出動させた。

 

そして王宮に戻れば、義弟ランデル君に絡まれ、旧政権支持者を返り討ちにし、香織がランデル君の初恋を真っ二つにへし折った、なんて珍事に見舞われた。

その後、リリィから即位時から進めていた政策について報告を聞いたところ、順調そうだ。

即位前に作っておいた、炙り出し&誓約破棄防止アーティファクトが功を奏したようだ。

 

シモンのじいさんも、ナイズのことについて話せば、その趣旨を理解してくれたようだ。

まぁ、いきなり教皇は大変だとは思うが……

解放者の子孫が先頭に立つことで、下衆野郎の信仰心を一気に削ぎ落とし、大樹の女神の信仰力を上げることができる。

そうなれば、聖剣に宿る女神も本来の力を取り戻しやすくなり、上手くいけば再顕現も可能になるだろう。

 

それにしても……俺には、周りに女性が集まる相でもあるのだろうか?

ただでさえ現状、吸血っ娘、ウサミミ娘、龍人女性、人妻人魚&娘、突撃娘、異世界王女……濃い面子だな。

そこへ更に、ツンデレ撫子にミニ先生まで加わるのだ。しかも、精神体とはいえ後二人いるらしい。

……王位継承権、どうしよう。どこぞの超人みたく血で血を洗う様な真似はしたくないしなぁ……。

とまぁ、そんな感じで王都の体制が漸く整った、という訳だ。

 

そして、特訓について。

雫の技量がとんでもないくらいに跳ね上がっていた件。

これ、タイマンならアルターホロウ相手でもタメ張れそうだなぁ……。

でも、まだまだ気持ちに素直になれていないせいか、少々剣筋が乱れている。

やれやれ、氷雪洞窟に頼むしかないか……。

 

光輝のきょう……せん……ちょう……方向修正は何とか上手くいったようだ。

いやぁ……こっそりエナジーアイテム仕込んだせいで、闇落ち寸前まで行っちまいそうだったなぁ……。

何を仕込んだのかって?"挑発","闇落ち","憤怒"の3つだったと思う。

まさかあそこまで闇抱えていたとは思っていなかった……。

 

ここである程度吐き出させて、ガス抜きさせてよかったと思う。

もし旅の途中で爆発したら、その隙をタイムジャッカーに付け込まれかねない。

流石に二度も光輝をアルターホロウにさせるわけにはいかんからなぁ……。

とはいえ、ユエ達の呼び捨ては流石に許せなかったので、一回ぶっ飛ばした。

 

まぁ、俺も途中からおふざけを入れてしまったことは反省しよう。

思わず"二指真空把"を使ってみたくなってしまったのだ。なので後悔はしていない。

でも、途中で黄色い吸血鬼が乗り移りかけた時は本当に危なかった……。

思わずロードローラーを取り出してしまうところだった……。

何はともあれ、遠征組は全員、魔力捜査を手にできるレベルにまで心身共に成長できたという訳だ。

 

ライセンでフリードと合流し、オルクス以外で簡単そうなメルジーネから行くことにした。

試練の内容は色々濃厚すぎたので割愛させてもらう。

まぁ、一言いうとすれば……うちの娘、マジパネーイ、かな……。

ライセンでは悪癖が暴走してしまったせいか、皆に怒られちゃった。反省はする、後悔はしない。

そして神山で魂魄魔法を手に入れ、これで漸く全員が神代魔法使いになった。

さぁ、樹海に向けて、東に面舵いっぱい!

 

光輝、雫、恵理、浩介、龍太郎、鈴が仲間になった!

光輝、雫、恵理、浩介、龍太郎、鈴、フリード、ミュウ、レミアは再生魔法を手に入れた!

光輝、雫、恵理、浩介、龍太郎、鈴、トシ、フリード、ティオ、香織は重力魔法、魂魄魔法を手にいれた!

 

鎧武の日(樹海への移動)

 

まさか帝国がここまでやらかしてくれるとは思っていなかったよ。

奴等、樹海に火を放ってフェアベルゲンまで侵攻しやがったようだ。

まぁ、俺がいなくともハウリア達が迎撃で損害をもたらしたようだが。

 

とはいえ、勝手にシマに入った以上、落とし前はつけさせてもらおうか。

その脅しも含めた書状をリリィに届けてもらうことにし、俺達は一晩樹海で獣人達の体制を整え、明日からの帝都視察に向けて準備を進めるのであった。

 

リバイスの日(帝都)

 

帝都、名前に相応しい場所だった。力こそが全て、正に無法者の国であった。

まぁ、傭兵が建てた国だけあって、軍隊の統率は取れてはいるようだが……

個体戦力ならうちのハウリア達の方が強いな。

取り敢えず、女性陣に下卑た視線を送ってこっちに絡んでくる奴をぶっ飛ばしては、獣人達の扱いに心を痛め、ギルドに情報収集へと向かった。

 

酒場のマスターは中々粋なセンスを持っていた。

思わずネタに走ってしまったものの、マスターからは上手く情報を聞き出すことに成功したようだ。

まぁ、ユエが尋問の時に暴走してスマッシュしてしまったことは、ある意味悲しい事件だったが。

 

その夜、俺はユエとシアとともに帝城に潜入し、囚われたハウリア達を助けに行ったものの……

あいつ等、以外と元気だった。カムに至っては放送禁止用語連発しまくっているし……。

取り敢えず、帝都で何かしたそうだった光輝達には、戦隊戦士の仮面をプレゼントしてあげたので、今頃正体不明の仮面戦士達が、帝都の下賤な輩達に恐怖を刻み込んでいることだろう。

尤も、有名になってしまったのは仮面ピンクだけだったが……。

 

そして帰り道序に、リリィの所に顔を出しに行ったのだが……とうとうガハルドも仕掛けてきやがった。

野郎、アナザーウォッチをこれ見よがしに見せつけやがって……!

とはいえ、交渉役のリリィに迷惑はかけられない。それでも、勝手な婚約など絶対に許さん!

何が両国の関係強化だ。あくまでそちらが上ということにしたいのであれば、いいだろう。

身の程ってものを教えてやるヨォ……!

 

というわけで、兎人族の未来の為に戦うハウリア達を支援することにした。

対外的にはあくまでガハルドへの嫌がらせ、ということで。

それに、シアの笑顔を曇らせた罪は重い。何より、リリィにあんな悲しそうな顔をさせてしまったのだ。

助けてやらなきゃ、最高最善の魔王の名が廃るだろ!さぁ、始めようか、ガハルド。

私と貴様の化かし合い(ゲーム)を!

 

アマゾンの日(帝城&パーティー)

 

さぁ、始まってまいりました!今回はハウリアVS帝国の実況をさせていただきまーす!

こっちが勝ったも同然の試合だけどな!だって今回は本気の嫌がらせだし。

早速帝城への正面突破を試みれば、かつて俺に歯向かってきた雑兵共の親玉が出てきたようだ。

シアに不快な視線を送っていたので、散々煽ってぶっ飛ばした。国家間問題?知らんな。

先に仕掛けてきたのはそちらなのだ。文句はあるまい。

 

帝城に入り、リリィとの情報共有を済ませた後は、ガハルドと口先での殴り合いに入った。

しかしまぁ、護衛達の気配遮断が全くなっていない。強さも、技量も、そして情熱も足りなぁい!

そんなことはさておき、乱入してきたトレイシーは、性格はアレだがそれ以外は中々優秀そうだ。

最近計画している特殊新鋭部隊に組み込んでみるか。それはそれで面白そうだし。

 

それにしても……帝国の皇族とやらは野蛮なるものが殆どのようだ。

危うくリリィが心に一生残る傷を刻まれてしまうところだった。

正直、スマッシュする価値すらないと思ったので、ハウリア達に真っ先に殺すよう命じておいた。

さて、駒の配置は完了、役者は全員出揃ったようだ。それでは早速、OPEN THE GAME!

 

一先ずはハウリア達の通信を聞きながら様子見。

パーティーで皆とダンスを踊り、食事に舌鼓を打ち、帝国貴族の誘いを躱し、リリィを元気づけながら過ごした。

そして漸くガハルドが号令をかけたので、こちらも反撃の狼煙を上げた。

 

ハウリア達が全ての照明を落とし、帝国の野蛮人共に次々と襲撃をかけて行った。

流石にガハルドは一筋縄ではいかなかったものの、数の暴力と新調したアーティファクトで制圧しきったようだ。

そして問題のアナザーウォッチも、浩介が見事に回収してくれた。

これで安心して帝国とO☆HA☆NA☆SHIできるねぇ。

まぁ、件のタイムジャッカーには逃げられてしまったものの、当初の目的が達成できただけでも良しとしよう。

そう思いつつ、シアが無双している轟音を聞きながら、パーティー会場へと戻ったのであった。

 

遂にガハルドが降伏宣言をした。側近や後継ぎの他にも、一般帝国民まで人実にとって漸くか。

戻ってきたシアも、家族の勝利に喜び、思わず涙していた。

後から聞いたが、シアの相手は例の門番(笑)の部隊だったようだ。

まぁ、シアにとっては敵ですらない雑魚の集まりだ。流石俺のシア、ナイス蹂躙。

 

それと、リリィの婚約(非公認)もご破算となり、これでやっと迷宮攻略に専念できるという訳だ。

さて、首輪や監視カメラは引き続きハウリア達が使用するとして、と。

トレイシーの扱いに関しては……まぁ、下衆野郎ぶちのめした後辺りでいいか。

帝国民への説明?ガハルドの敗北とこの世界の真実、後折角なので聖剣の女神の信仰力上げの為に、一芝居うつことにした。

それにしても、家に帰る、かぁ……。父さんと母さん、元気にしているよね?

俺もいつか、皆と一緒に。そう思いながら、俺は逢魔号を進めるのであった。

 


 

???「へぇ~、お父さん達凄いことやっていたんだね!」

???「この後から更に凄かったんだよね!?早く、続き続き!」

???「みゅ!こっからがパパのハイライト、なの!」

昔書き続けていた日記を、娘達が読んでいた。あの頃のことは、ミニ黒歴史なんだが……まぁ、よいか。

現に、これまでの旅路を再現したゲームの販売も既に委託済みだし、今更だろう。

そんなことを思いながら、俺は先程入れたコーヒーを口にし、娘達の微笑ましい光景を眺めていた。

 


 

これは、何時かの未来での日常の一コマ、なのかもしれない。

 




ここまで読んでいただき、ありがとうございます!

さて、何故100話記念がまた日記なのかというと、冬のイベントの為のお話にかかりっきりで時間がなかったからです!
自分自身、オリジナル展開は頭の中で思い浮かんではいるのですが、如何せん筆を進める速度やモチベーションはその日によって異なるものなので、今回はかなり前書きと後書きを端折っております。

それと、残念なお知らせですが、来年から投稿頻度が落ちるかもしれません。
ここから先、結構オリジナル展開を入れまくるので、もしかしたら毎週日曜から第2・第4日曜になるかもしれません。
筆の進みがめっちゃ遅くなった場合は、一か月に一回の投稿も怪しいかもしれませんので、ご了承下さい。

それでは、次のクリスマス回でお会いしましょう。Merry Christmas!


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ハロウィン特別編:ハジメさんの奇妙な体験?

ハジメ
「ハロウィン……それは、子供たちにとってはお菓子を貰える楽しみな日。

ハロウィン……それは、パリピな者達による仮装の大披露宴でもある日。

ハロウィン……それは、恋人たちが悪戯に交わり、お菓子より甘いものを食らう日。

ハロウィン……それは、幽霊・亡者達が現世に入り混じり、常世に現身を降ろす日。

ハロウィン……それは、人ならざる者がこの世界に降り立ち、夢幻を見せてはその反応を楽しむ日。

ハロウィン……それは、とある男にとっての、恐怖の一日でもあった……。

今回は、そんなハロウィンに俺がかつて体験した、とある出来事を並べていく。
こっちでもあっちでも、ハロウィンの魔力は恐ろしいものだ……。

それでは、ハロウィン特別編、どうぞ!」


-学校のハロウィン~嗚呼、逃走中~-

 

香織「えっと、その……どうかな?ハジメ君。」

ハジメ「そうだねぇ、似合っているよ……出来れば露出は抑えて欲しかったけど。」

騒がしい放課後の教室の隅っこにて。

話しかけてきた香織に俺がそう言うと、当の本人はぽわっと頬を赤らめた。

 

今の香織がどんな格好かって?そんなん決まってるだろ。

ミニスカ浴衣に猫耳尻尾、擬人化猫又のお色気verだよ。

しかも太ももまで出して……風邪ひいちゃうでしょうが。え?問題はそこじゃない?

いや、だって今秋で涼しくなっている季節の変わり目だぜ?体調を崩しやすいじゃん。

低レベルポンコツボディのうp主も、この時期は警戒しているし。

 

そして、雫と並んで学校の二大女神と呼ばれていた美少女が、そんな恰好で頬を染めて嬉しそうにもじもじすれば、男子共は誰だって恋に落ちるであろう。

しかも、今はケモミミ尻尾で相乗効果もある。最早凶器レベルだ。

現に半数の男子が幸福の水たまりに沈められては、女性陣から極寒の視線を向けられていた。

 

さて、何故こうなったかと言えば……原因は言わずもがな、この二人にある。

ハロウィンと言えば仮装だ。であれば、美少女の仮装は二人のファンにとっては眼福であろう。

その結果、妹を名乗る不審者共(ソウルシスターズ)や青春男子達が張り切ってしまい、今回に至る訳だ。

そして、学校でハロウィンパーティーが開催された。

 

少し離れたところでは、雫がドラキュラの恰好で自称妹達(ソウルシスターズ)に熱いアプローチを受けて、口元を引き攣らせている。

因みに、光輝は狼男、龍太郎はフランケン、鈴はキョンシー、トシはジャック・オー・ランタン、恵理は死神コスだ。

浩介は……どこかにいるはずだ。お化けに仲間だと思われて連れ攫われてはいない筈だ。

うん、きっとそうだ。そうだと信じたい。

 

そして俺はというと、某天才外科医の仮装をしている。

最初はド○○ドかカ○○ルにしようとしたら、父さんと母さんに止められた。

なので、次はマ○オやミ○○ーといったキャラクターにしようとしたら、即座に止められた。

本当なら段ボールでオーマジオウの鎧を作成するつもりだったが、子供たちの仮装用お面に段ボールを全部使用してしまったので、断念したという訳だ。

そんな中、怪物の仮装をした大半の男子共が正に怪物の様な形相でこちらを睨んできた。

やれやれ、面倒なことこの上ない。

 

香織「あのね、ハジメ君。

パーティーのあと雫ちゃんの家で二次会をしようって話になっているんだけど……。」

ハジメ「途中参加でもいい?孤児院の子供達にお菓子配ってこなきゃいけないからさ。」

まぁ、俺も幼馴染だし、パーティー参加は当然だから文句は無いだろ。

だからきっと、怪物共の視線が更に濃くなったのは気のせいだろう。気のせいでなければ、凄い面倒だ。

 

香織「そっか……わかった。それじゃあ、パーティーの間は一緒に行動しようよ。折角だし、ね?」

ハジメ「ただでさえ怪物共が鬱陶しいんだが……まぁ、いいよ。

そんな中に別嬪さん一人放り出すわけにもいかんからな。」

香織「別嬪さんだなんて……そんな……。///」

全く、両手を合わせて小首をかしげながらおねだりとは……狙っているのかと思うほどのあざと可愛さだ。

 

香織「あ!じゃあ序に写真も撮ろうよ!ほら、一緒に!」

ハジメ「わかった、わかったから。そんなに急がないの。俺は逃げも隠れもしないから。」

香織「うん!そ、それじゃあ、失礼します……。」

……何故自分から誘っておいて、そんな風に恥ずかしがっているんだ。そして何故腕を組む。

さっきから腕になにか当たっているんだが!?柔っこい何かが!?いい香りもするけども!?

香織だけにってかって?喧しいわ!その時、周りから殺気を感じ取った俺は即座に判断した。

 

ハジメ「よし、逃げるか。」

香織「へ?ひゃあっ!?」

言うと同時に香織を姫抱っこし、俺は化け物共の群れから脱出した。

教室を飛び出し、片手で香織を抱えては、もう片方の手で脱出ルートを切り開いていく。

 

その後ろから、ドドドドッ!と音を立てて怪物共が追ってきてはいるが、絶対に振り返らない。

「もう我慢ならねぇっ!何でアイツだけぇ!」

「がるるっ!」

「南雲ォ!今、絶対、当たってただろうっ!柔らかったのかクソがッ死ねぇっ!」

「アオーンッ!」

……たとえカオスに塗れた咆哮が轟いていたとしても、だ。

てか嫉妬に塗れすぎだろ、テメェ等。何人か人間辞めかけている奴もいるし。

 

香織「え!?み、皆一体どうしちゃったの!?」

ハジメ「原因香織なんだけどねぇ……自覚のないエロスって恐ろしいね。」

香織「エロッ!?ひっ、酷いよ、ハジメ君~!」

ハジメ「事実でしょうが。現に後ろ、見て見なよ。もうあれ、人がしていい表情じゃないぜ?」

俺がそう言って後ろを向くよう香織に促せば、香織はそれに振り向く。

そして何かを見たのか、「ヒッ!?」と悲鳴を上げてサッと俺の首元に顔を埋めて来た。

 

香織「来るぅ!なんか来てるぅ!四つん這いで走っている人もいるよぉ!」

ハジメ「……そういや香織、この手のホラー系は苦手だったな。」

アイツ等、次の日からは怖がられ続けるんだろうな。あんな思いさせたんだし……当然の報いだろう。

そんなことを思いながら、俺は香織を連れて非難したのであった。

てか香織、顔が近い。前が見えないし、胸が余計に押し付けられて、感触がダイレクトにくるから。

 


 

-不思議な10/31~何故、俺にだけ普通のハロウィンはこないのだろうか~-

 

これは、さっき話した出来事の続き、俺が出張代行をしていた時のことであった。

いつもの如く、俺は孤児院や代行事業で会った子供たちにお菓子を配っていた。

そして全員分に漸く行き渡ったものの、今回は多く作り過ぎてしまったようだ。

仕方がないので、パーティーで香織達に配ろうか。そう考えていたその時であった。

 

ハジメ「……?」

ふと、何か気配を察知したので、後ろを振り返る。しかし、そこには誰もいない。

今はまだ日が落ちる前なので、お化けが出る訳でもない。

かといって、ストーカーだとかそう言った類でもなさそうだ。何故わかるのかって?

普段から学校で襲撃を嫌というほど受け続けていれば、そりゃあ幾らか耐性つくさ。

 

ハジメ(……気のせいか?)

そう思って前を向いたその時、周りの景色がどこかおかしいことに気づいた。

何故って?影がどこにも映っていないからさ。普段ならまだ日は傾きかけてはいるが、影は出ている筈だ。

しかし、今はどこにもそれが無い。動物の影は勿論、建物や電柱などの影すらも。

まるで別世界だな、なんて思いつつも警戒して、一歩を踏み出そうとしたその時だった。

 

???「もし、そこの色男なあんさん。」

ハジメ「!?」

突然、声を掛けられたので振り返れば、そこには豪華そうな着物を着た女性がいた。

しかも花魁が持つような傘を日傘代わりにしていて、何故か婚礼衣装でもないのに角隠しまでしている。

それでも伸びる黒髪や済んだ瞳はどこか神秘的で、つい見入ってしまいそうだ。

真白い肌に京都弁なのもあって、その姿は一輪の花のようだ。

 

女性?「少し、道を教えとぉくれやす。」

ハジメ「は、はぁ……道、ですか?」

先程まで気配を感じなかったとはいえ、敵意や悪意は感じられなかった。

なんか、浩介みたく影が薄いわけでもなければ、こう、霞のように傍にいたって感じだったな。

しかし、道かぁ……一体この人はどちらに行こうとしているんだ?

 

女性?「このねきにある、古い祠を知らしまへんか?」

ハジメ「祠?う~ん、ここらで言ったら……山奥にあったあれかな?」

そう、俺の住んでいる町には、昔からポツンと立っている祠がある。

それも鳥居とお地蔵さんがセットになっていて、まるでミニ神社の様なのだ。

 

しかし、その存在を知っている人を、俺は聞いたことが無い。

何故かって?俺はその神社を見たことがあるからだ。それも一人で。

以前からやっていたランニングで、ある日山の頂上に昇ってみようと思ったのだ。

しかし当日、山に上る途中で濃い霧に包まれて迷ってしまったのだ。

電波もつながらなければ、天気で方位を図ることも出来ない。

かと言って無暗に進むことも出来ず、八方ふさがりだったその時、それは現れたのだ。

 

???「おやおや、これは若い方が来ましたのぅ。」

ハジメ「えっと……お坊さん?」

そう、何故か濃い霧の中からお坊さんが現れたのだ。

一瞬、怪異の類かと疑ったが、それにしては気配が澄んでいた。

 

お坊さん「ここまで来たのも難です。どうぞこちらへ。」

そう言って案内されていくと、その先にはお寺があった。

山奥にお寺があるなんて話、聞いたことが無いのに、だ。

益々怪しく感じたが、お坊さんの親切を無碍に断る訳にも行かないので、俺はお寺に入ることにした。

 

中はいたって普通のお寺に見えた。ただ、どこか落ち着かなかった。

何というか、お寺の放つ何かが体中を包んでいるような気がして、どうにもくすぐったい。

そんな俺を微笑ましそうに見ながら、お坊さんはお茶を淹れてくれた。見た感じ、抹茶っぽかった。

早速、俺はお礼を言ってお茶を飲んだ。すると、自然と心が落ち着いてきた。

まるで、今まで溜まっていた疲れが全部削ぎ落されていくような感覚だった。

そのせいか、自然と瞼が下りていき、気が付いて目を凝らした。すると、

 

ハジメ「!?」

次に目を覚ませば、そこは元の山の中だった。だが、何かが違った。

何故なら、目の前にあったのは先程言った祠だったのだ。

とりあえず、鳥居の前で一礼してから端っこから入って、祠にあった祭壇にはポケットに入れていた昼食の鮭おにぎりを供えておいた。

ありきたりっちゃあありきたりだけど、何もないよかマシだろうと思った。

 

後、お地蔵さんにはいつの間にか持っていた編み笠を被せておいた。

多分、さっきのお坊さんが持たせてくれたんだろうけど……名前聞いておけばよかったかな?

とりあえず「この山に会ったお寺の住職がくれました」と言っておいた。

きっとお地蔵さんもお坊さんに感謝してお礼を持って行ってくれるだろう。

そう思って鳥居の前で再び一礼してその下を潜ると、なんといつの間にか山の麓に転移していたのだ。

 

この出来事について、先生や父さんたちに聞いてみたものの、誰一人としてその祠については知らなかった。

それどころか、山奥にあったお寺のことすら文献にもなかった。

まるで狐にでも化かされたような気分だった。

そんな祠のことを聞いてくるあたり、この女性はあの場所の関係者か何かだろう。

 

ハジメ「向こうの山奥にあると思います。そこのお寺の住職が、そこから先は知っていると思います。」

女性?「そうどすか。教えてくれておおきに。」

ハジメ「あぁ、でもそろそろ遅いし、今から行くなら、良かったらついていきましょうか?

お嬢さん綺麗だし、夜道に一人だと襲われるかもしれないし。こう見えて腕は立つ方なんで。」

そう言って力こぶを見せる俺。すると、そんな俺が可笑しかったのか、女性は微笑みを浮かべた。

 

女性?「心配してくれはるなんて、お優しいんどすなぁ。

そやけど、心配はいらしまへんよ。」

そう言うと、女性は懐からお札の様なものを取り出し、空に掲げた。すると突然、一陣の風が吹き出した。

その一瞬の間だけだったが、女性の下半身から、狐の尻尾の様なものが見えた。

それと同時に、大量の紅葉が風に乗って飛んできたので、思わず顔を腕で覆った。

 

女性?「素敵なあんさん、あんさんに素敵なご縁巡ってくるように。」

その声が響いた直後、眼を開けて腕を解けば、女性は既にいなくなっていた。

その直後、日が沈んでいった。全く、何とも不思議な体験であったものだ。

角隠しならぬ耳隠しだったとは……いや、この際それは良いか。

そう割り切って、俺は香織達の下へと向かったのであった。

 

後日、孤児院の前に大量の作物や魚が備えてあったらしい。

また、二次会会場だった八重樫道場の前に、高級抹茶の茶葉が箱に詰められて贈られてきたらしい。

そして俺の所には、机の上に一枚のお札が置かれていた。あの女性からだろうか?

作物はお地蔵さんだとして……何故あの住職まで?俺はただお茶をご馳走になっただけなのに。

そう思いながらも、女性がくれたであろうこのお札は、きっと何かの役に立つだろうと思い、異世界にいる今でも持ち歩いている。

 


 

-異世界の覇狼院~お前もか、レッドピーク~-

 

シア「へぇ~、ハジメさんの故郷には面白いお祭りがあるんですねぇ。

自分から怪物の仮装をするなんて、こっちでは考えられませんよ。

聖教教会から異端認定されちゃいます。」

ミレディ「でも面白そうだよね!お菓子くれなきゃ悪戯しちゃうぞ~、って言って回るの楽しいかも!」

オスカー『ミレディ……君、悪戯がしたいだけだろ?それもお菓子貰ったうえで。』

 

さて、何故シア達がハロウィンを知っているのかというと、原因は俺の目の前にある料理だ。

そう、宿の食堂で出されたのは、カボチャに似た食材を使った料理、それもジャック・オー・ランタンそっくりに加工されていたからだ。

店長曰く、"遊び心"とのことらしい。因みに、今日はトータスの祭日ではない。

とまぁ、その料理を見て、ふと俺はハロウィンを思い出し、それをみんなに話した、という訳だ。

 

ユエ「……ん。ある意味、自由なところ。でも、そんなことより重要なのは……

ハジメが他の女にハァハァしていたという事実。」

シア「ハッ!?そうでした!ネコミミやキツネミミに言いようにやられるなんて情けないですよ、ハジメさん!

ウサミミに勝るケモミミなど存在しないんですから!」

ハジメ「二人とも、謂れのない風評被害は止めたまえ。どっちもそんな雰囲気じゃなかったでしょうに。」

過去の想い出という藪から蛇が飛び出した。それとハァハァは決してしていない。

なので他の野獣共と一緒にはしないでほしい。そんな念も込めてハロウィンの補足をした。

 

ハジメ「まぁ、仮装も大事だが、メインとしてはハロウィンでは子供達が小さな怪物に扮して、"お菓子をくれなきゃいたずらするぞ~!"って言いながら近所の家を回るんだ。

子供にとっては、お菓子を山ほど手に入れられる嬉しいイベントなんだよ。

まぁ、年齢に関係なくお菓子を強請ったり、悪戯をしに行く人もいるけど。」

それを聞いて、ユエが「ほぅ。」と呟いた。そして、シアとミレディに何やらゴニョゴニョと耳打ちする。

 

十中八九ユエとシアは性的な悪戯を仕掛けに来るだろう、そう思った俺はトラップの用意を予定に入れた。ユエ達は密談を終えると、俺に地球の怪物や妖怪について怒濤の質問をしてきた。

言ってくれれば作ってあげるのにと思ったが、それを言う前にあっという間に何処かに行ってしまった。

あんまり遠くに行って欲しくないんだけどなぁ……。クズ野郎やタイムジャッカーへの警戒もあるし。

取り敢えず、先に宿を取った俺は、オスカーと一緒に3人を迎え撃つ準備を進めていった。

そして遂に、3人が戻ってきた。部屋の外に気配を感じる。一拍おいて開かれた扉の向こうからは、

 

ユエ「……ん。ハジメ、お菓子をくれなきゃ、いたずらするぞ~。」

シア「あぅ~、この格好凄く恥ずかしかったですぅ。それはそうと、いたずらするぞぉ。ですぅ!」

ミレディ「お菓子くれてもくれなくても、悪戯してやるぞ~!」

ハジメ「そう来ると思っていたよ。それにしても……なんてこった。」

オスカー『ホントに、なんてこっただねぇ……。』

本当に、いろんな意味で"なんてこった"だった。3人とも衣装はあまりに凶悪だった。

 

ユエは、再現度の高い白いミニスカ浴衣を着用しており、細く白い生足が惜しげもなく晒されている。

紅い帯に合わせた紅い下駄が白い足に艶やかさを与えていた。

煽情的な足元に反して長めの振袖からはちょこんと小さな指先だけが覗いており、それをお化けのように前に垂らす姿は愛らしさの極致だ。

周囲に冷気と氷の結晶を浮かべていることから、おそらく雪女に扮しているのだろう。

 

その右隣で、両手を上げながら「がおぉ~!」なんて言っているシアは、全身が包帯のみに覆われていた。

ウサシッポの場所は巻き方が甘いのか、お尻の割れ目が少し見えてしまっており、まるで誰かの恨みでも込められたはじようにきつ~く締め上げられた胸元は、今にも弾け飛んでしまいそうになっている。

細身でありながらむっちりしたシアの体が、真っ白な包帯によって殊更強調されていて、エロ可愛さが尋常ではない。

 

そして反対側のミレディは、とんがり帽子の魔女っ娘スタイルだ。

ただ、どこか衣装が違うような気がする。何というか、服だけメイドっぽいような……そういうことか。

道理でオスカーが感嘆の笑みを見せている訳だ。しかもロングスカートとは……目の付け所がいいな。

何故って?端っこ持ってくるっと回った時が、なんかいいじゃないか。

 

言っておくが俺はオスカーの様なメイドスキーではない。くるっと回るアレが好きなだけだ。

まぁ、それはさておいて。ここで上手い感想を返せない程、俺達は鈍感ではない。

なので、俺とオスカーは困ったように笑って言った。

 

ハジメ「また凶悪な怪物がいたもんだね。でも残念なことに、お菓子の準備は既に万全さ。」

オスカー『貰った上で悪戯してもいいのは、悪戯される覚悟のある奴だけだよ?さぁ、どうする?』

その言葉に、3人は顔を見合わせると、嬉しそうに頰を染めてハイタッチ、直後には一転してニヤリと笑みを浮かべ合う。

その何とも妖しい笑みに、こちらもどうやって迎え撃とうかと、思案していたその時。

ユエがペロリと舌舐めずりしながら、妖艶さ全開で宣言。

 

ユエ「……お菓子をくれてもくれなくても、絶対にいたずらするぞ~性的に。」

ハジメ「だと思ったよ!」

思わず頰が引き攣った。

咄嗟にオスカーをミレディへと投げつけ、身体強化全開のシアを部屋の隅にぶん投げ、その隙に忍び寄ってきたユエを弱めのチョップで止める。

 

この後、用意しておいたお菓子でミニパーティーをすることで、何とか手打ちになった。

しかし翌朝、顔に落書きされて鏡を見るまで気づかなかったのは、言うまでもない。

異世界でもハロウィンに、俺の安寧の場所はどこにもなかったのであった。

 


 

-???~それは、遥か未来に手紡がれる縁となるだろうか?~-

 

???「……ふぅ、これで異世界にあのお方がおっても、うちとの縁は途切れなおすなぁ。

それにしても、まさかあの二人まであっちに来とったなんて……

ほんまに運命とはわからへんものどすなぁ。」

何もない虚空に、京都弁の女性の声が響く。

 

その場所は、世界のどこにもない場所にあった。そこには時間の流れも無ければ、重力や空気も無かった。

更には、光も無ければ色も無く、正に「無」を現したような空間だった。

いや、そもそもこの場所を空間と呼んでいいのかすらも怪しい。

そんな生物が存在しているのかすらも怪しいこの場所に、その女性はいた。

 

艶やかで流れるような金色の髪を簪で結い、頭部にある狐耳をぴょこぴょこと忙しなく動かし、SF作品に出てくるようなサングラスをかけ、眼前の空中ディスプレイのようなものに映し出される情報を、驚くほどの速度でテキパキと捌いている。

その様はさながら出来るキャリアウーマン、いや、叩き上げのワンマン女性社長と言った方が正しいだろう。

 

尤も、白銀の着物を(はだ)けさせた状態で、その暴力的に豊満なお胸と相まって非常にけしからん状態でなければ、の話だが。

既に巻かれているさらしが意味を成しておらず、本当に隠す気あんのかゴルァ!?と、持たざる者から厳しい視線が向けられるであろう大きさだ。

しかも下半身は何故か褌という、意中の殿方を堕とすどころか逆に押し倒しそうな雰囲気だ。

そんな色々と危ない格好の女性は、目的の物を見つけると蕩けさせた。

 

???「あぁ、逢魔のあんさん。あんさんの復活を今か今かと心待ちにしてます。

幾星霜もの次元を超えて、漸くあんさんに出会えた……!

あの時の感動言うたら、もう……!

一瞬でもええ、早う会いとおす!愛おしおしてたまらしまへん!

そやさかい、逢魔のあんさん!その御身の帰還の際にどうか、うちを……!」

 

その女性は身を悶えさせつつも、どこか寂しげな表情で空中ディスプレイの一点を見つめた。

そこに映っていたのは、フェアベルゲンへと逢魔号を進めているハジメ達であった。

そして、女性が熱の籠った視線で見つめていたのは……当然、ハジメさんであった。

さて、このスケコマシ、一体何人女性を娶るつもりなのだろうか?

いや、もしかしたら本人の知らない内に、既に外堀だけ埋まっている状態なのかもしれない。

 


 

ヒカリ・ミライ『!?』

ヒカリ『……この気配って、まさか……。』

ミライ『あの人も来ていたようね……ハジメが干からびないか心配になって来たわ。』

同時刻、女性の気配を感じたのか、ヒカリとミライがため息をつきながら、頭を抱えていた。




!ここまで読んでいただき、ありがとうございます。

さて、今回のハロウィン特別編いかがだったでしょうか?
1つ目と3つ目のお話は原作書籍にもあった"HALLOWEEN?"が元になっております。
2つ目と4つ目のオリキャラについては、まだまだ登場は先になります。是非お楽しみに!

因みに、ハジメさんがブラックジャックの仮装なのは、黒コート繋がりです。
本家と区別できるように、原作ありふれ宜しく眼帯もつけています。
知らないうちに次々と外堀が埋まっていく、我等がハジメさんの運命や如何に!?
まぁ、トータス編が終わればアフターや他作品とのクロスも進めるつもりなので、どう足掻いてもハーレムからは逃げられませんけどね。

次回の特別編はクリスマスと年末年始ですので、そちらもお楽しみに!
それでは、また次回!


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クリスマス特別編::ホーリーナイトは眠れない

ハジメ
「クリスマス……それは、子供達がプレゼントを楽しみにする日。

クリスマス……それは、人々が様々な形のサンタに会える日。

クリスマス……それは、リア充と非リアの命運を分ける日。

クリスマス……それは、救世主生誕の日。……俺、魔王だけどね。

クリスマス……それは、イルミネーションが町中で光り輝く日。

クリスマス……ケーキやチキンをお腹いっぱい食べられる日。一部では何故か鮭もだけど。

クリスマス……それは、雪夜に紛れて不思議な現象が起こりだす日。

クリスマス……それは、ある男にとっては激闘の一日であった。

今度は、俺がクリスマスに体験した出来事を話そう。
それにしても……どうして俺は普通に年間のイベントを過ごすことができないのだろうか?

まぁいい、それじゃあクリスマス特別編、どうぞ!」


異世界ミニスカサンタ~TPOって大事だよね~

 

香織「そういえば……そろそろクリスマスの時期かな?」

偶然立ち寄った小さな町で昼食を取っていると、香織がそんなことを呟いた。

「クリスマスって何かしらん?」と小首を傾げるユエ達異世界組とは異なり、俺とトシは「……あぁ、そういえば。」と頷く。

 

トシ「確かに、地球だとそろそろだったかな?中坊になってからは結構楽しかったな。」

ハジメ「俺はバイトにサンタ役までやって疲れてマスだったけどな。

それでもダッシュで間に合ったのはホントに奇跡だよ、聖夜だけに。」

香織「ふふ、去年の学校でのクリスマスパーティー、楽しかったね。

ハジメくんはちょっとしか参加してくれなかったけど、一緒に写真撮ったり、プレゼント交換したり……。」

 

懐かしそうに目を細めて、香織はふわりと微笑む。

俺もトシも同じように懐かしそうな表情になった。そんな俺達にユエは眉をぴくっ。

シアは「むむむっ。」。ティオは「ほぅ。」。ミレディとオスカーは「『へぇ~。』」。

ミュウはきょとんだ。

 

ハジメ「そうだねぇ……。

雫と結託して逃げ道を塞いで、蠱惑的なおねだりで写真を撮って聖夜の怪物(嫉妬塗れの獣)を量産したり、ランダム交換会だったはずなのに俺にだけプレゼントを渡してきて聖夜の怪物達を進化させ(ブラックサンタを量産し)たり、交換会に出すはずだった俺のプレゼントをさりげなく強奪したり、そのあと皆の前でプライベートのクリスマス会に誘って聖夜の怪物を限界突破させたり(血の惨劇序章開幕宣言をしたり)……

あぁ、懐かしくも恐ろしいクリスマスだったなぁ。」

香織「なんか想い出が違う!?」

 

香織が目を剝く。だが、事実だ。

あの日はサンタのバイトがあった上に、孤児院の皆にプレゼントを配らなきゃいけない日だったのに、よりにもよって、嫉妬に狂い聖夜の怪物と化した男子生徒達(非リア共)と大死闘血祭ブラザーズをする羽目になったのだ。

 

まぁ、ハジメサンタは人間で人外なので、一直線に向かってくる敵をぶっ飛ばしては武器にして、全員蹴散らしていったが。

と、ユエが俺の服の端をくいくいっと引っ張った。

 

ユエ「クリスマスって、なぁに?」

ハジメ「そうだねぇ……

簡単に言ってしまえば、年末まであと一週間の時に来るお祭り、みたいなものかな?

起源としては、元の世界における聖人の誕生日だけど……

こっちにはミレディ達解放者位しか当てはまるのはいなさそう。」

 

ミレディ「えぇ~?ちょっと複雑だなぁ……。だって神がアレだし。」

ハジメ「アレを神と呼ぶなら、肥溜めを崇める方がマシだろ。」

オスカー『水で流せるからかい?』

ハジメ「オスカー上手いね~、座布団一枚あげるよ。」

トシ「いや、そこはIPONN!だろ。」

オスカー『何の話だい?』

やってみたかったんだよなぁ、これ。

 

ハジメ「まぁ、要はサンタクロースっていう赤い服のおじいさんが、子供たちにプレゼントをばら撒く日だよ。

勿論、家族だけでも楽しめるし、友達ともワイワイ楽しめる。

それと、気分的にケーキが食べたくなるかな?」

そんな簡単な説明をすると、香織が「もうっ!」と頰を膨らませる。

 

香織「そうじゃないでしょ、ハジメくん。ほら、もっとこう、あるじゃない。

こ、恋人達が愛情を深め合う日、とか。ね?」

ハジメ「まだミュウに恋人は早い。もしそんな相手が他にいたら、即座に血祭確定だ。」

トシ「落ち着け親バカサンタ。そもそも俺等以外にこの世界でクリスマスを知る奴いないだろうが。」

ちょっと恥ずかしそうにそんなことを言った香織に、ユエ達が「ほぅ。」と目を細めた。

 

ユエ「……ハジメ。香織と何かしたの?恋人同士のような何かをしたの?」

ハジメ「いや、まだ俺等は学生だよ?今からそんなことしたらその先が大変になるからやってないよ。

それに、もし香織とクリスマスの夜に二人っきりになろうものなら……

俺は香織に毎日"愛してる"って言い続けるまで洗脳されていたかもしれないからねぇ。」

香織「ひ、ひどいよ、ハジメくん~。」

真っ向からのトラブルメイカー呼ばわりに、香織は涙目になった。

だがそんな保護欲をそそるだろう香織の本性を知る俺としては、物申したい所があるのだ。

 

ハジメ「いや、流石にあの衣装はないと思うんだけど?クリスマスに俺を誘ったのはいいとして……

あの時の恰好は"あぁ、智一さんもこの道を通ったんだなぁ……。"って思わざるを得ない恰好だったよ。

男子を一人残さず殺しにかかっているようなデザインだったし。」

香織「あ、あれは鈴ちゃんから聞いただけだからね!?」

当時を思い出したのか、香織は真っ赤になって答える。

その服装が気になったのか、ミュウが聞きだした。

 

ミュウ「香織お姉ちゃんは、どんな服を着ていたの?」

香織「え、えっと……サンタさんの格好だったと思うんだけど……。」

そう、香織はクリスマス会において、サンタコスをしていたのだ。

とは言っても、クリスマスにサンタコスというのはそれほど珍しくはない。

が、当時の格好を答えるのが恥ずかしいのか、香織は気まずそうに答える。

そんな香織に代わって、溜息を吐きながら俺は答えた。

 

ハジメ「あの時、もじもじしながら迫って来る香織は確かに可愛かった。

勿論、サンタ服も似合っていた。でもね……流石にエロサンタコスはどうかと思ったよ。

聖夜を性夜にでも変えるつもりか!?って思わず内心でツッコんだよ。」

香織「エ、エロ!?あの時そんなこと思ってたの!?」

 

ハジメ「そりゃ誰だって思うでしょ。

太もも丸見えの長さ数㎝という、もうそれほぼ下着だよね!?ってツッコミたくなるような超ミニスカート、ハート形にくり抜かれて谷間が見えた胸元、真冬にもかかわらずノースリーブ……

風邪引かないように予備の上着掛けておいてホント良かったよ。

あれ、全体的に小さいサイズだったのかやたらと体のラインが出ていたし……知ってた?

実は何人か理性飛ば(蒸発)して野生に帰ってい(本能覚醒して)てさぁ、それをこっそり雫が締め落としていたんだよ?」

 

聞きたくなかった事実を聞いてしまったのか、香織は両手で顔を覆ってしまった。

耳や首筋まで真っ赤に染まっている。

香織曰く、あの時は、クラスの女子(主に鈴)の甘言――

「これを着てれば、どんな男子もカオリンの言いなりだよ!」に乗せられてしまった、とのこと。

全く、なんつー余計な事吹き込んでくれてんだか。それに乗せられる香織も香織だが。

 

「は、ハジメくんが、私の言いなり?」と妄想を膨らませた香織は、羞恥心を脇へと追いやったらしい。

今更ながらに当時の自分の、大胆を通り越して過激ともいえる服装を思い出して身悶える香織。

そんな香織に、女性陣からのちょっと冷めた言葉が投げつけられる。

 

シア「あざとい、流石、香織さん。実にあざといです。そんな露出度の高い服でハジメさんに迫るなんて。

香織さんは天然エロテロリストですぅ!」

いや、シアも露出度と天然エロに関しては人のこと言えないでしょ。

香織もシアにだけは言われたくないだろうな。

 

ミレディ「む、胸元がくりぬかれてって……ほとんど丸見えじゃん!カオリンのムッツリさん!」

ミレディ、顔を赤くして言っても説得力はないぞ?

それとオスカー、向こうの世界にはサンタメイドなるものがあってだなぁ……。

 

ティオ「ふむ。そんな際どい格好じゃったとは……

香織、お主あわよくばご主人様に独占してもらうつもりじゃったのか?

そしてその光景を妄想して興奮しておったわけか。このアブノーマルさんめっ!」

ティオ、お前俺達についていくときに言った事覚えている?

服従云々言ってた人にだけは、香織も言われたくないでしょ。

 

ミュウ「香織お姉ちゃん、お顔まっかぁ~。なんだかかわいいの~。」

そしてミュウはいつもと変わらず、通常運転。可愛いのオアシスだ。

現に先程までめった刺しになっていた香織の心が、段々癒されていっているし。

そうして最後に、瞳に轟々と燃え盛る対抗心を宿したのか……

ユエは無言で立ち上がり、香織の首根っこを摑み、ずりずりと引きずりながら出口へと歩き出した

 

香織「ユ、ユエ?どこに行くの?っていうか引きずらないでよぉ。離してえ!」

ユエ「……·服用の布を買いにいく。エロにはエロを、サンタコスにはサンタコスを。

エロサンタが香織の専売特許でないことを教えてあげる。」

香織「専売特許じゃないよ!私、エッチじゃないからね!ユエと一緒にしないで!」

ユエ「……ふっ。」

香織「!?今、なんで鼻で笑ったのねぇ、聞いているのユエ!」

聞く耳持たないなオイ。それとユエ、それは誇っていい事じゃない気がする。

 

シア「流石ユエさん·真っ向勝負というわけですね!

ミレディさん、ティオさん、ミュウちゃん、私達も行きましょう!」

ミレディ「うぇぇ!?み、ミレディさんも着るの!?流石に恥ずかしすぎるよぉ~!

あっ、待って!?引っ張らないでぇ~!」

ティオ「さんたこす、とやらには妾も興味があるぞ。ご主人様よ、支払いは任せた。」

ミュウ「え~っと、行ってきますなの!」

何をするのか察したらしいシアとティオは不敵な笑みを見せつつ、同じく察して顔を赤くして慌てているミレディと、戸惑っているミュウを連れてユエ達を追いかけていった。

 

ハジメ「いや、言ってくれれば作るのに……まぁ、いいけどさ。」

トシ「難儀だなぁ、色男。」

オスカー『ミレディ!メイドサンタになってくれー!』

後に残された俺達男性陣はというと、トシは言外に"ドンマイ苦労人"とでも言っているかのような慰めを俺に送り、オスカーは願望を叫び、俺はこの後の展開を予想して苦笑いを浮かべざるを得なかった。

 

そうして、その夕方。俺達の目の前には6人のサンタが出現した。

2人を除いて、いずれもミニスカ、胸元開き、ノースリーブの過激なサンタだ。

尤も、その2人のうち1人はサンタとメイドを足したような感じだが。

 

ユエ「……ん。どう、ハジメ?」

ユエがしゃららんと一回転·際どい感じにスカートが翻る。

それを皮切りに、シアやティオも胸元を強調するような挑発的なポーズを取った。

なるほど確かに素晴らしい光景だ。TPOを弁えていたならば。

 

ハジメ「勿論似合っているさ……場所を弁えていればね。

往来でその恰好は、色々と教育に悪いと思うよ。」

ユエ・シア・ティオ「「「!?」」」

ビシリッと固まるユエ、シア、ティオ。

三人揃って、もじもじと体を手で隠している香織に、ギギギッとぎこちない動作で視線を向けた。

香織はふいっと視線を逸らす。ミレディは顔を真っ赤にしてその場に蹲ってしまった。

 

ユエ「……おのれ。謀ったな、香織。」

香織「私やめとこうって言ったよね!?やるにしてもせめて宿でって!聞かなかったのはユエ達でしょ!

私まで引きずって……うぅ、恥ずかしいよお。町の人達に見られてるよぉ~!」

ミレディ「は、ハジメン達の故郷って、変態さんが多いんだね……///」

ミレディ、それは風評被害だ。一部の人は正解だが、俺はいたってノーマルだ。

 

ユエ「……問答無用。ハジメに呆れられた八つ当たりを、存分に味わうがいい!」

あっ、コラ!ユエ、風魔法は止めなさい!

ただでさえ防御力の低い香織のミニスカートに、容赦ないパンチラをさせようとするんじゃない!

 

香織「やめてぇ。見えちゃうっ、見えちゃうってばぁっ。くっ、もう怒ったよ!

そっちがその気なら私だって!―"縛煌鎖"っ!」

うわっ!香織、お前も街中でそんな魔法ぶっ放すんじゃない!

内股になりながら発動したとはいえ、光の鎖って結構痛いんだぞ!?

そしてお前も、ユエのスカートを狙うんじゃない!どこの深夜番組だよ!?

 

ユエ「……甘いっ。ティオバリア!」

ティオ「なんじゃとっ。あぁっ、絡みついてくるぅ!?くっ、体に食い込むのじゃあ……!」

ちょっとユエ!?咄嗟にティオを盾にするんじゃないよ!?

光の鎖は容赦なくティオをぎゅぅううっと縛り上げ、そのむっちむちボディを殊更強調……って拙い!

恥ずかしそうな表情と合わさって、年齢制限がかかる奴だコレ!?

 

そんな奇抜な格好をした美女·美少女達を引き連れていた俺達に、注目していた町の人達もギョッとしている。

「お母さん、あのお姉さん····」「シッ、見ちゃダメよ!」という定番のやり取りもなされている。

アカン、このままじゃ変態集団というレッテルを張られかねん。急いで阻止せねば!

って、ユエ!いい加減周りを見なさい!カウンターで香織のスカートを捲ろうとするんじゃない!

 

香織「させないっ。シアバリアーッ!」

シア「うえぇちょっ、香織さん!?」

オイ―!?香織、お前もかい!?

そんな香織の放った"縛煌鎖"がシアに絡みつき、一気に引き寄せて突風の盾とした。

ってヤベェ!?シアのスカートが盛大にまくれ上がっている!

慌てて布をかけてガードしたものの、むっちりした太ももとお尻が一瞬あらわになってしまった。

 

シア「香織さぁん!恥ずかしいですぅ!これ解いてくださいよぉ」

香織「大丈夫だよ!シアの格好は、いつもだいたい恥ずかしいから!」

シア「おいこら、それどういう意味ですかこの野郎っ。ハウリア族の衣装に何か文句がおありで!?」

ユエ「……んっ、シア、よくやった。そのまま香織を押さえつけて。」

………(# ゚Д゚)

 

ハジメ「いい加減に……しなさーい!」

膂力のみで魔法の鎖を引き千切り、香織に襲い掛かるシアと、それに乗じて香織のスカートを捲ろうとするユエ、それを"縛光刃"のガトリングで迎え撃つ香織に、俺は怒って拳骨をかました。

因みに、先程まで縛られていたティオは、顔を赤くしたままのミレディが避難させていた。

 

ユエ「うぅ……ハジメ、邪魔をしないで。」

ハジメ「周りを見ないか、このバカチンが!往来で女の子同士でセクハラ合戦とか、野郎しか喜ばんわ!」

その言葉に冷静さを取り戻したのか、漸くユエ達は落ち着いた。

何だろう……あの時以上にどっと疲れた気がする。

 

トシ「まぁ、なんだ……おつかれさん。」

オスカー『バッド辺りは喜んで飛びつきそうだけどね……ここに彼がいないのは正解だったよ。』

ハジメ「……おう。」

そんな慰めか労いか分からない言葉を、トシとオスカーから掛けられる俺であった。

 

ミュウ「パパー。これ、もふもふでふかふかなの~。」

ただ一人、もこもこサンタ服に身を包んだミュウだけが、気持ちよさそうに目を細めている。

実に癒やされる。

 

ハジメ「……ミュウ。お願いだから……ミュウは純粋なままでいてくれよ……。

パパからの切実なお願いだよ……。」

きょとんとしている愛らしい娘の頭を撫でながら、俺は死んだ目でそう呟くのであった。

 


 

不思議な聖夜の夜~ブラックサンタ(泥棒サンタ)VS魔王(サタンクロース)

 

これは、俺がクリスマスの帰りに会った出来事だ。

この日も俺は、サンタのバイトに孤児院へのプレゼント配りを終え、帰路につこうとしていた。

今年も香織のサンタコスにやられた魔獣共をぶっ飛ばし、俺は孤児院の皆と一緒に二次会に参加した。

勿論、雫が道場を貸してくれたおかげで、忍者の皆さんの素敵な手品に皆大いに盛り上がった。

 

そしてプレゼントに関しても、バイト先の皆さんが「持って行ってあげて」と態々費用を奮発してくれたのだ。

おかげで、最近人気のホビーやアクセサリーも無事にプレゼント出来たよ。

まぁ、そのせいで帰る頃には深夜を迎えてしまったわけだが。と、その時。

 

???「コラー!待ちなさーい!」

???「HO-HO-HO-!」

何か声が聞こえたので、ふとその方向を見れば、赤いサンタコスの金髪の女の子がソリに乗って、ソリっぽい何かに乗っている黒いサンタコスのサムシングを追っかけていた。

しかも、黒サンタ擬きはプレゼントの入っている袋らしきものを持っている。

 

成程、察するにあれはサンタにとってのアナザーライダー、ブラックサンタクロースか。

あの女の子は今年のサンタで、皆に配る筈のプレゼント袋を奪われてしまったという訳だ。

てか、あのブラックサンタのソリ、トナカイの代わりが何でカラスなんだ?

まぁいい、どっちにしろぶっ飛ばすだけだ。何故かカラスは好かんからな。

 

それに……ネットでこんな噂を聞いたことがある。

ブラックサンタは、良い子に配られるはずの幸福なプレゼントを奪い去り、代わりに生ゴミや空き缶など子供たちが悲しむものを枕元に置く、と。

ふざけんじゃねぇぞと言いたくなるくらいの外道である。

 

そんなクソ野郎、最高最善の魔王として見逃すわけねェだろ!

恵まれない子どもたちの為のプレゼントを、テメェ如きの欲望の為に汚させてたまるかよ!

何より、子供たちの為に頑張ってきた親御さんや大人の皆さんの為にも、貴様はここでぶっ潰す!

そんな怒りの炎を心の中でメラメラさせた俺は、強く踏み込んだ。そして、

 

ハジメ「だらしゃあぁいッ!!!」

サンタっ娘「えぇ!?」

ブラックサンタ「HO!?」

ソリのど真ん中をぶち抜き、ブラックサンタを更に上空にぶっ飛ばした。

しかし奴もしぶといのか、ご丁寧に袋を持ったまま吹っ飛んでいやがる。

そこへ、ソリに繋がれていたカラス共が一斉に向かっていく。このまま逃げる気か!

 

ハジメ「させてたまるかぁ!!!」

そう叫んで俺は、真ん中がぶち抜かれたソリを足場代わりにして跳躍、一匹のカラスに括り付けられていたロープを掴むと、そのロープを引いてカラスを引き寄せ、カラスを足場に跳躍、更に別のカラスを引き寄せての繰り返しで、ブラックサンタに追いついた。

 

ブラックサンタ「HO!?」

ブラックサンタは慌てたのか、自分を運ぶカラスに進むように急かしている。だが、魔王からは逃げられん!

ハジメ「これで……どうだぁ!」

俺は懐から、ケーキ用に持ってきておいたナイフを投擲、纏まっていたロープを狙い撃ち、全て切り裂いた。

 

ブラックサンタ「HO-!?」

結果、ブラックサンタは空を飛べずに地上に落ちていった。しかし次の瞬間、奴は驚きの行動に出た。

サンタっ娘「!?ダメェー!」

サンタの女の子が必死に止めようと向かうが、時既に遅し。

何とこともあろうに、奴は大口を開け、プレゼント袋を呑み込んでしまったのだ。

 

ハジメ「それは……食いもんじゃねぇぞぉぉぉ!!!」

そう叫んで俺は、落ちていくブラックサンタに向けて高速で飛びかかった。しかし、

ブラックサンタ「HO-!」

流石に見え見えだったのか、華麗によけられてしまった。だが、それでいい。

 

ハジメ「必殺、オーマシリーズ。」

サンタっ娘「え?」

ブラックサンタ「HO?」

屋根に着地した俺は、即座に右腕に力を集中。そして、直線状に奴が入った瞬間。

 

ハジメ「逢魔時殴り。」

ブラックサンタ「H…!?」

勢いよく振り抜かれた一撃は、ブラックサンタの脳天を粉々に粉砕し、カラスの群れを黒から赤一色に染め上げた。

そして、頭部が吹き飛んだことで死んだのか、ブラックサンタの肉体が消滅し、プレゼント袋が落ちてきた。

 

ハジメ「これがホントの血のクリスマスってやつだ、覚えとけや。」

そう言って落っこちてきたプレゼント袋をキャッチする。

幸いにも袋が丈夫かつ開けられていなかったおかげか、中身のプレゼントは無事だったようだ。

が、流石にカラスの血がかかるといけないので、慌てて袋の口を締めておいた。

 

サンタっ娘「嘘……ブラックサンタがあんな簡単に!?」

ハジメ「あ~と、大丈夫ですか?」

サンタっ娘「へ?ひゃ、ひゃい!?大丈夫でしゅ!」

ハジメ「落ち着いてください。噛んじゃっているから。」

そういってプレゼント袋を、唖然としていたサンタちゃんに返しておいた。

 

サンタっ娘「と、とりあえず、ありがとうございました。

今年はおじいちゃんがぎっくり腰になっちゃったので、代わりに私がやることになったのですが……。」

ハジメ「運悪くさっきの真っ黒デブ助がやってきて、プレゼント袋をとられてしまったと。

災難でしたね、こんなに寒い中だったのにそんな恰好で……。」

サンタっ娘「アハハ、もう慣れていますから……。」

そうは言いつつも、どこか死んだ目になっているサンタちゃん。

とはいえ、いくら上下共に冬仕様とはいえ、流石にこの雪の中じゃ寒いだろう。なので、

 

ハジメ「取り敢えず、これ。クリスマスプレゼントってことで。」

サンタっ娘「え?……ふぇぇっ!?」

首に巻いていたマフラーをサンタちゃんの首に巻いてあげて、余っていたプレゼントのお菓子袋を手に持たせた。

サンタちゃんは最初唖然としていたが、即座に気が付くと急に顔が赤くなった。風邪かなぁ?

 

ハジメ「寒い中なので、良かったら手伝いましょうか?

こんな夜道だと、アナタみたいな可愛い女の子に、変な輩が付かないか心配なので。」

サンタっ娘「か、可愛いっ!?いえっ、別にそんな……///

あっ、でも折角なので、手伝ってもらえると助かりましゅ!」

また噛んじゃっている……取り敢えず、父さんたちには明日の朝には帰るとメッセージをしてっと。

 

ハジメ「それじゃあ、行きましょうか。レディ・クリスマス?」

サンタっ娘「い、イヴ……。」

ハジメ「へ?」

サンタっ娘「名前……イヴ、です。」

サンタでイヴ……なんか、益々クリスマスっぽいな。

 

ハジメ「では、イヴお嬢様。エスコートはお任せを。」

イヴ「ふぁ、ふぁいっ!お願いいたしましゅっ!」

また噛んでしまったようですね……お可愛いこと。

そう思いながら、私は彼女をソリに乗せ、自らは走ってソリと並走していった。

 

そうして彼女の手伝いをして暫したった頃、漸くプレゼントを配り終えることが出来たようだ。

さて、流石にこのまま「サンタの家」まで行く度胸は今はないので、夜明け前にイヴさんとは別れた。

途中、彼女が名残惜しそうにしていたのは気のせいだよね?気のせいだと信じたい俺であった。

その翌日、「他の女の子の匂いがする」と、香織が不機嫌であった。何でさ。

 

そういえばあの赤鼻のトナカイ、何で俺を睨んでいたんだ?

他のトナカイもそうだったが、アイツだけ「コイツ、何してくれとんのじゃワレェ!」って言いたげな様子だった。

目線も何故か血走っていたし。とまぁ、そんな不思議な聖夜の夜であった。

 


 

魔王に恋する聖母~血祭りサンタ爆誕~

 

???「い、イヴ……お主、今、何と……?」

イヴ「で、ですから!私……殿方に恋をしてしまったのかもしれませんと言いました!」

そう言って頬を赤らめながらモジモジするサンタっ娘ことイヴ(本名:イヴマリア・セント・ホーリークロス)。

その彼女が発した言葉は、聞いていた者達を戦慄させる程の衝撃であった。

 

ブラックサンタ事件から数日経ち、漸くイヴの祖父、ニコラス・セント・ホーリークロスのぎっくり腰も漸く完治した。

そのお祝いとして、忘年会も兼ねたパーティーが「サンタの家」で開かれた。

そこでイヴは、あの時感じていた気持ちについて、村の皆に告白したのだった。

 

その事件の内容については、赤鼻のトナカイ"コードネーム:ルドルフ"(本名:雪之真(ゆきのしん))から伝わっている。

何でも、今年の聖夜にブラックサンタが強襲してきたことが発端だとされている。

本来、ブラックサンタは4年に一度邪魔をしに来る程度で済んでいたのだが、今年は何とプレゼント袋を盗んで、自分の腹に収めようとしたのだ。

 

流石に前例のない事態に、「サンタの家」のサンタ達は動揺を隠せなかった。だが、更に衝撃的なことがその後伝えられた。

何と、そのブラックサンタを一撃でぶっ飛ばし、プレゼントを取り返そうとした親切な青年が現れたのだ。

そしてその少年は、ブラックサンタの脳天を消し飛ばし、取り込まれたプレゼント袋を見事キャッチ。

無事、良い子のみんなにプレゼントを配り終えることが出来たという。

 

それを聞いて一同は安堵した。だが、それだけで済めばよかったのだ。

そうはならなかったことを、ルドルフは残念そうに語った。

そう、この後が今回の問題発言に繋がったのだ。

その青年は、イヴを口説き落として、一緒にプレゼント配りを手伝ったのだ。

 

そしてその時のイヴの表情が、既に恋する乙女の顔だったことをルドルフは忘れもしなかった。

その青年を威圧を込めて幾ら睨んでも、相手は全く臆することなく、それどころかそよ風程度にしか感じていないのか、イヴにこれでもかと距離を詰めていたのだ。

尚、ハジメさんは全くの無自覚で、距離を無意識に詰めていたある。爆ぜちまえ。

 

その証拠に、イヴが帰ってきた時、彼女の部屋に出所が分からないマフラーがかけられており、更には誰かのお手製であろうお菓子を、美味しそうに頬張っていた彼女も目撃されている。

村の女性陣は「とうとうイヴちゃんにも春が!?」とラブコメ展開に興味津々になり、対照的に男性陣は「なん……だと……!?」と雷に打たれたかのような衝撃を受けた。

 

そして今回のパーティーにて、イヴがそのことについての報告で、その青年に対する気持ちを告白してしまったのだ。

そして冒頭に至る、という訳だ。告白したイヴ本人は顔を赤く染めて、両手で頬を抑えている。

「あ、これマジな奴だ……。」と全員が察した。ルドルフは「両手が人間だったら……。」と後悔した。

 

ニコラス「そ、そうかそうか……。それはよかったのう。話は後でゆっくり聞くでの。

先ずは、食事を先に済まそうか。このままでは冷めてしまうのでな。」

イヴ「は、はい!」

ニコラスの一声で皆我に返り、パーティーは再開された。そして、イヴが自室で眠りに入った頃……。

男性陣は一つの部屋に集まっていた。そして暗闇の中、ニコラスはルドルフに問うた。

 

ニコラス「先程の話だが……ルドルフ、それは真か?」

ルドルフ『グー!グー!グーグーグー!』

(あぁ、間違いねぇぜ大旦那。少し前に、既にプレゼントが配られていた孤児院があったろ。

あそこに奴はプレゼントを置いてったらしい。それも自腹を切って。全く、とんでもねぇ天然ジゴロだぜ!)

今更の疑問だが、何故このトナカイは短い鳴き声で、こんな長い文章を言い表しきれるのだろうか?

 

ニコラス「成程……出自は両親に恵まれていて、虐待を受けていた子供を義理の妹に。

いじめっ子が仕向けた刺客を小学6年にして全員病院送り。

その後は台風番長を名乗り、地域の家庭や店舗、学校のボランティアに励んでいる……か。

確かにこれだけなら、どこにでもいる好青年に見受けられる。」

その出自を聞いて、皆同感なのか一斉に頷く。が、それとこれとは話は別のようで……。

 

ニコラス「じゃがな……それでもじゃ!イ…イヴはまだ15じゃぞ……!

そ…それを無神経にもたぶらかしよって……!顔も知らぬド畜生めがァァァ!!!」

イヴ父「お、お義父さん落ち着いて!」

ニコラス「まだその呼び方は許しとらんぞォ!」

錯乱状態に陥ったのか、ニコラスは怒り狂った。

それを止めようとする男性サンタ(イヴの父:マックス・セント・ホーリークロス)にさえ食って掛かるほどだ。

 

余程の親バカ&孫バカなのだろう。それに反して、マックスは落ち着いているように見える。

実際には、彼も複雑な気持ちではあるものの、義父の暴走っぷりに逆に冷静になってしまっただけだが。

しかし、マックスとて引くに引けない。

何せ妻から「くれぐれも頼みますね、ア・ナ・タ?」とお願い(命令)されてしまったのだから!

 

サンタの村は男性が7割弱を占めている。そのせいか、女性の扱いは非常にデリケートなのだ。

勿論、出生率は男女半々だが、何分育児に家事が忙しい故にストレス値も激しい。

その理由としては、世界中からくるであろうリクエストに応じたプレゼントを、何時でも取り揃えられるよう、男性陣が働き出に行っているからだ。

 

男性サンタ達は、サンタの会社と呼ばれる企業で働き、社会の中に溶け込みながら、最近のブームを調査しつつ、ニーズに合ったプレゼントを分析することを基本としている。

地域によっては夏と冬で違うクリスマスにも対応できるよう、サンタ服の脱着は腕輪によって瞬時に行われる。

 

勿論、休日はあるにはあるのだが、地域によっては「サンタの家」まで間に合わないという世知辛さもある。

リモートだけでは、子供に注げる愛情が乏しいのだ。キャッチボールやおままごとだって出来ない。

他の子供達は幸せなのに、自分の子供にだけ寂しい思いをさせるのは、サンタにとっての恥なのだ。

なので、そう言った場合にも対応できるよう、腕輪にテレポート機能が近年、漸く搭載されたのだ。

 

これこそが、子供の為を思った父親サンタ達の努力の結晶なのだ。

その分帰りが少なくなって、奥さんたちに説教されたが。

まぁ、要するに「サンタの家」における女性の権利は、世界規模で圧倒的に優遇されているのだ。

奥さんのいない若いサンタは、外部から女を作って連れてくることもザラだ。

 

そして女性は権利が優遇される代わりに、島から出られる機会が圧倒的に少なくなる。

その上、食料はほぼ自給自足で補うので、現代人の殆どには厳しいだろう。

まぁ、要は「外出しにくくなるけど、男性から手厚いサポートを受けられるようになるよ!」という訳だ。

勿論、こういった制度を利用しようとした悪女も少なくはない。

 

以前、ある女がプレゼントに使う費用の一部をネコババし、勝手に使ってしまったことがあった。

その結果、その女性は村八分でいづらくなり、逃げだそうにも外部への道は限られている。

それに狭い地域での噂は直ぐに知れ渡る。顔を知られた以上、女は何処に行っても後ろ指差され放題だ。

その後どうなったかというと、その女性の行方は当時を知る者達以外誰も知らない。

 

とまぁ、こういったこともあってか、最新型セキュリティを常に導入し、サンタの長が代々その鍵となるものを継承するわけだが、それは勿論秘密だ。

さて話は逸れたが、この「サンタの家」では、女性は子育てと家事という仕事を、家庭内で一番多くやっていることから、家庭内ヒエラルキーは一番高い。

そのせいか、結構勝気だ。夫婦喧嘩じゃ亭主の勝率は、半分どころか2割も無い。大体ボッコボコだ。

 

それ故、マックスも他のサンタ達も奥さんには頭が上がらない。勿論、ニコラスも大概ではない。

だが、咎める女性がいない今だからこそ、こんな物騒な発言も出来るという、何ともいえない亭主の意地がそこにはあった。

 

ニコラス「皆の衆、分かっておるな?イヴに近づく若い男を監視しろ。

次にイヴに近づこうものなら、毛髪一本残さずこの世から消し去ってしまえェェェ!!!」

『応!』

この「サンタの家」にとって、イヴは可愛い看板娘として育てられてきた、云わば箱入り娘のような存在だ。

 

勿論、他の同年代の娘達も同様に大事な存在だが、それはそれ、これはこれ。

そんなイヴが恋をしたとあれば、正に大事件なのだ。

取り敢えず、イヴが惚れた相手を一回殺さないと気が済まない。

というか、死んでも生き返るレベルじゃないと受け入れられない。

そんな物騒な思想を持つおっサンタ共であった。一部、過去に同じ経験をしたものも何人かはいるが。

尤も、それで家出する娘の方が圧倒的に多いので、最終的に折れるのはおっサンタ共であるが。

 

マックス「あぁ、もう駄目だ……ノエルに殺される……。」

ルドルフ『グー……。』(旦那、今日は飲みやしょう。付き合いやすぜ。)

いきり立つ男性陣を前に、マックスはこの後の未来に絶望し、それを慰めるかのように、ルドルフが前足を肩に置いたのであった。

 

因みに、別室で男性陣の話を傍聴していた女性陣は、ニコラスに「折角いい所なんだから邪魔すんなジジイ!」とでも言いたげな視線を送っている。

ニコラスの妻のミーシャに至っては、既に撲殺用のバットを構えている。

そしてマックスの妻でイヴの母ノエルは、その場に崩れ落ちる夫の姿を見て「あの頃はシャッキリとしていたのに……。」と残念そうに呟いていたのであった。

 

しかし、彼等は知らなかった。イヴが惚れてしまったのは、最高最善の魔王を目指す少年であったことを。

その件の少年が、異世界転移事件に巻き込まれ、1年の間手掛かりが全く掴めなくなることを。

そして、帰ってきたその少年が、何人もの女性(一人は娘のよう)を引き連れていることを。

なんにせよ、今夜のサンタさんたちは非常に荒れていた。除夜の鐘の音すら響かない程に。

そんな彼等の来年の抱負は、「イヴちゃん死守!」となったのは、別のお話である。




ここまで読んでいただき、ありがとうございます。

さて、今回のクリスマス特別編いかがだったでしょうか?
1つ目のお話は原作書籍にもあった"ミニスカサンタは異世界で踊る"が元になっております。
他二つに出てきたオリキャラについては、ハロウィン同様まだまだ登場は先になります。是非お楽しみに!
因みに、お爺さんの元ネタはキョウリュウジャーのドクターがヒントです。分かる人には分かるはずです。

さて、聖夜が性夜に変わる日もだんだん近づいてまいりましたねぇ~。
トータス編の終わりは……今後の筆の進み具合次第ですかね。
この先から結構オリジナル展開が増し増しなので、そこを考える時間が……。
それに加えて、今回含む特別編の投稿で時間が大分削られてしまったので、投稿頻度は落ちるかもしれません。
その辺りのご了承をお願いいたします。

次回の特別編は年末年始立て続けに投稿しますので、そちらもお楽しみに!
それでは、また次回!


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大晦日の年越しカウントダウン記念:愛と魂と初日の出(ライジング・サン・シャイニング)

ハジメ「俺はハジメ!俺は今、最高最善の魔王を目指して、仲間達と共に旅を続けている。
異世界で神を騙る外道の悪行を阻止すべく、俺達は神代魔法の獲得に向かっていた。
道中、穀物地帯や砂漠のオアシスの危機だったり、更に別の世界に飛ばされたり、王国が決戦の舞台になりかけたり、帝国とドンパチしたりと、色々あったけど、俺達は順調に進んでいる。
先代の反逆者"解放者"の面々を生き返らせたり、光輝達を新たに旅の面子に迎え入れたり、魔人族の一部を味方に引き込んだり、兎人族(ハウリア)を魔改造しちゃったり、果ては俺自身が臨時とはいえ王様になったりと、事態が進んだこともあった。
しかし、未だにタイムジャッカーの魔の手がどこに潜んでいるかもわからない。
それに……俺自身の問題もまだ山積みだしな。本来ならもっと語りたいが……うp主の馬鹿がトチってな。
ここから先を騙るのは、だいぶ先になりそうだ。それまでみんな、ここまでのお話を見返して行ってくれ。
勿論、今回のお話も見て言ってくれ!それでは、どうぞ!」



ハジメ「……噛まずに言えた。」
うp主「お疲れ。」
ハジメ「フンッ!」
うp主「Door!?」


ハジメ達も手助けをした、ハウリア達が帝城へ襲撃をかけた日の丑三つ時、帝国近くの岩場ににポツンと一人の人影があった。

まだ夜明けにもなっていないというのに、その人物は両手に武器を携えていた。

そして静寂に包まれた場所で、彼は目を瞑ったまま、深呼吸すると、

 

ハジメ「ハッ!せいっ!ゼアァッ!」

両手の武器を構え、虚空に連撃を放つかのように振るっていた。

最初は二刀流で、次に二丁拳銃、それから大鎌と戦槌、薙刀と大盾、鉄扇に仕込み杖、投げ苦無にトンファーガン、メリケンサックにスパイクフットでの格闘技と、次々と戦い方を変えては即座に次の戦い方へと切り替えていく。

これを何回も繰り返すのが、異世界でできた彼の日課だった。

 

ハジメ「ふぅ~、そろそろ大樹の迷宮に向けても、準備を進めておかないといけないしなぁ……。

ガハルドのせいで予定が遅れたら、あいつの頭皮全部燃やし尽くしてやろうかな?」

既に両手で数えきれない回数をこなした頃、漸く一区切りついたのか、ハジメは汗をタオルでふき取っていた。

その際に、とんでもないことを口走ってはいたものの、冗談のはずだろう……多分。

 

ハジメ「そういえば、これを開くのも久しぶりか。」

体も心もすっきりさせたハジメは、そんなことを呟きながら、ある一冊のノートを取り出した。

そのノートには「備忘録・夢」と書かれていた。

ハジメは、これまで見た夢のことを思い出しながら、近くに会った切り株に腰掛け、皆が目を覚ますまでそれを読むことにしたのだった。

早速、日記帳の冒頭のページを開いた。

 


 

英雄の日

 

なんかよく分からん戦場にいた。

すると突然、破壊光線らしきものが飛んできたので、拳で相殺した。

 

そして周りを見たら、女性が怪我をしていたので治してあげた。

取り敢えず、襲い掛かってきた能面男をぶっ飛ばした。

うっかり腹に風穴開けてぶん殴ってしまったが、まぁ正当防衛になるだろう。

 

その次の日辺りからだったか、数日間は何故かこの夢に出てきた女性やその仲間達のお手伝いをしていた。

紅白髪の一家の家族関係改善とか、能力関連で迫害されたり、生い立ちが酷かったりした子供達の保護・社会復帰と更生とか、後女性の弟子とかいう男性や、その弟子の弟子を鍛えたり……

まぁ、特に大したことはしていないな。

 


 

……どう見てもどこぞの有精卵達が思い浮かぶのは気のせいだろうか?

が、それに対しハジメは「弟子の男性、どっかで見たような気がするんだよなぁ……。」と朧気だった。

記憶の混濁による影響のせいか、どうやらその辺りの元ネタに関しては曖昧なようだ。

 

ページをぺらり。

 


 

星空の日

 

次はどこかのアパートにいた。

すると、どこからか子供の泣く声が聞こえてきたので、そこへ行ってみれば、なんと腹から大量出血している母親に泣きつく子供がいたではないか。

慌てて母親の女性を治療したことで、何とか一命はとりとめた。

気絶している女性が目を覚ますまで、子供達を慰めつつ、事情を聴くことにした。

 

話では、女性はアイドルで今日はドームライブだったらしい。

しかし、突然現れたストーカーにナイフで刺され、今に至るらしい。

そして双子の内の兄の考察では、そのストーカーにこの場所を教えたのは、自分たちの父親、つまり女性の交際相手ではないか、とのことだ。

 

成程、聞くにつれて腹立たしいものだ。

自らの手を汚さず殺人をするどころか、自分の愛する人を殺し、子供たちを悲しませようとするなんて、父親どころか男の風上にも置けないクズ野郎だと見た。

折角なので、二度と悪さできないようぶちのめすことにした。

 

まず、女性の名前と子供達の生まれた場所と時間を聞き、そこにいた人物を片っ端から洗い出した。

すると、一緒に名前を聞いたストーカーの人物に接触した人物がいた。

しかもコイツ、重度のサイコ野郎だった上に、双子の母親以外にも関係を持った女性がいるとのことだ。

更に、その女性との関係を勘繰られないよう、托卵相手と夫婦心中という行動をとらせたらしい。

 

調べるにつれて腹が立ってきたので、居場所を特定して血祭確定にした。

するとその時、漸く母親が目を覚ましたのか、子供達が泣きながら抱き着いていった。

女性は最初、何が起こったかわからないといった様子だったが、子供達から事情を聴くと、俺にお礼を言った。

俺としてはやりたいようにやっただけなので、別にお礼を言われる筋合いはないのだがな。

 

取り敢えず、双子の兄と考察して調べ上げたことについて説明すると、女性は衝撃を受けたのか口元を抑えていた。

そして、今後こう言った悲劇が起こらないよう、元凶を潰しに行ってくる趣旨を説明すると、女性はしばし瞑目していたが、子供達をじっと見つめると覚悟の籠った眼で「お願いします。」とだけ言った。

 

その後、彼女は双子に向けてこう言った。

「愛してる。あぁ、やっと言えた。この言葉だけは絶対、嘘じゃない。」と。

その表情は長年抱えていた葛藤から解放されたような顔に見え、漸く欲しかったものを手に入れることができたような顔にも見えた。

それを聞いた二人も、泣き笑いしながらも「自分達も愛してる。」と返した。

とても微笑ましい光景だった。この笑顔を守れてよかった、心からそう思えた。

 

その後、女性の関係者が家を訪ねてきたので事情を説明し、成り行きで俺も警備につくことにした。

既に相手の顔は把握しており、何処へ逃げようとも必ず追い詰める自信はあった。

念の為、女性と双子には護身用アーティファクトをつけておいた。

何時襲撃を受けても大丈夫なように、魔力なしでもバリアを張ることができる上に、見た目はアクセサリーだから怪しまれない。

 

関係者ゾーンの前で一旦、彼女たちと別れると、透明化で観客の中を探った。

本棚のデータによれば、件の犯人は「"自らが価値を見出した存在が滅びゆく様"に悦びを感じる」という、マジキチ級のド変態サイコキラーらしく、女性の死亡報道が出ずにライブが開催される以上、自ら次の手を打ちに来るだろうと思い、こうして張り込むことにしたというわけだ。

 

そして予想通り、犯人(ホシ)は来ていた。フードで顔を隠したつもりだろうが……バレバレだぞ?

既に貴様は我が審判の下に裁かれる身だ。今すぐ諦めれば長生きできたものを。

そんなことを思いながら、会場周りに分身を配置させた。これで奴は、何処へも逃げられない。

 

その本人はというと、未だ涼しい顔で会場内にまだいた。ククク、愚か者め。

既に貴様はチェスで言うチェックメイトにはまったのだ!そんな中、遂にライブが始まった。

女性含むアイドルユニットたちは歌い、観客達は盛り上がっている。

って、あの双子は何でオタ芸やってんの!?しかもキレッキレ!?まるで長年やってきたような雰囲気だぞ!?

……あの二人のことも、少々調べ上げなければならない。そう思っていた、その時。

 

突然、天井から物音が響いたかと思えば、照明器具が一気に落下し、歌い手たちに向かって落ちてきた。

が、それくらいは予測済みだ。

サッと重力操作を発動すれば、それらは彼女達にぶつかる前に上空で止められ、浮遊しだした。

その後、時間操作で巻き戻って浮き上がった照明具を、天井裏に潜んでいた分身達に錬成魔法で固定させた。

 

歌い手たちは驚いているものの、助けた女性は俺を見て微笑み、ファンの皆を安心させるように笑顔を振りまいた。

その行動に触発されたのか、他のメンバーも同じように笑顔を振りまいたことで、ファンも先ほどの出来事を「演出の一環」と捉えたのか、会場は更に盛り上がりを見せた。

 

双子も俺に視線を向けてサムズアップをしてきたので、俺は頷きで返し、サイコ野郎を見た。

ハハハ、奴め、すっかり動揺していやがる。すると奴は焦ったのか、咄嗟に身を翻した。

無駄なことを、ここで引導を渡してやる。そう思った俺は、奴の後を追った。

その背後では、あの時の女性の言葉をもとに、作詞・作曲してもらった曲が流れていた。

 

直ぐにサイコ野郎に追いついた俺は、即座に相手を気絶させて拘束した。

そして社長夫妻の前に突き出すも、奴は自分の行動に対して平然としていた。

どうやらこの期に及んで、自分は法の裁きだけで助かるとでも思いあがっているのだろう。

なので、恐怖を刻み込んでやることにした。

 

そうして、俺考案"逢魔の裁き"(カニに生きたまま食われる悪夢→

カイザギアによる灰化現象+因果律操作で巻き戻し→体がボドボドになる幻覚→

ガイアメモリの副作用で苦しむ→テラーメモリの力で恐怖に苛まれる→尻に剣を刺されて振り回される→

ラフレシアバイスタンプで臭いと幻覚のコンボ→バグスターウイルスとネビュラガスを尻から注入→

アークによる悪意の波とヘルライズを交互にして心身共にズタボロにする→

爪先から生きたまま食われ続ける悪夢)が執行された結果、廃人寸前まで逝った。

まぁ、精神回復系エナジーアイテムで無理やり回復させたのもあるか。同情も反省もせんが。

 

その後、サイコ野郎の記憶を消した上で猛毒を注入し、海上に放り込んでおいた。

これで、このライブの関係者は誰も関与の疑いを向けられない。奴は自殺したことになったのであった。

そして、双子について調べると、なんと二人とも前世は今世で生まれた病院にいたらしく、兄の方はなんと女性の担当医でもあったのだ。

 

犯人候補を調べていた時に上がっていたが、既に死亡していたこともあって候補から外していたが……

成程、道理で子供らしからぬ洞察力と思考だ。そして妹の方は、その医者の担当した患者だった。

……流石に12の少女に求婚されたことについては言及しない。武士の情けだ。

すると、とある一文が気になり、俺は宮崎県高千穂へと向かったのであった。

 

双子の兄の前世の遺体がある山につくと、何処からか嫌な視線が向けられた。

その方向を見れば、カラスを大量に引き連れた少女、らしき何かがいた。

一旦区切った理由は、普通の少女は空中に浮かないし、カラスを手懐けることもできないし、抑々こんな山奥に一人、少女がここまで来れるわけないのだ。

何より……雰囲気が人間の放つそれでもない上に、ゲロ以下の臭いがプンプンするぜェ―!

 

そして奴は、余計なことをするな、とほざいてきやがった。

どうやら、あの親子の不幸を楽しむ為だけに、あのサイコ野郎を仕向けたらしい。

成程、どっかの未来人じみた屑だな。吐き気を催す邪悪とはこのことか。

正直、神様なんて碌でもない奴しかいないんじゃないかと思うこの頃であった。

 

しかし、所詮は唯のヘボ神風情。魔王()に敵う訳もなかったので、一方的に嬲り殺しにしてやった。

時間操作が神系統に効かない?なら物理でねじ伏せればいいだけだ。相手は見た目幼女?

知るか、そんなこと。

ユエみたいな美人やミュウの様な美少女ならともかく、顔を殴るのは止めておくつもりだったが……

そこまで美人でもない上に性悪だったので、躊躇なくボコボコにした。

後悔も反省も遠慮も、微塵もなかった。あるのはたった一つ、満足感だけよ!

絵面や……体面なぞ……、どうでもよいのだァーッ!!!

 

序に、周りにいた烏共が襲ってきたので、纏めて灰にした。どうせこんなのに仕えているんだ。

性格も飼い主に似て性悪だろう。まぁ、折角なのでその灰をヘボ神の口に無理やり詰め込んでやった。

そして怯んだところにウォッチで権能を剝奪してやった。

尤も、コレの権能なんていらなかったので、即座に消してやったが。

 

すると、奴の体はボロボロと崩れ去ってきていた。

が、コレにかける慈悲もないので、"逢魔の裁き"と"ソウル・イレイサー"で現世から消滅させてやった。

これで漸く片が付いただろう。だが、油断は禁物。第2第3の疫病神が現れないとも限らない。

なので、二度と復活できないように、この餓鬼が祀られているであろう祠らしき何かも粉々に砕いておいた。

 

まぁ、流石に代わりがないとダメかと思ったので、新しく作り直して九尾の狐神社風に仕上げておいた。

これで観光客も参拝客も安心、彼等の願いも叶えられるだろう。

きっと、新しい芸能の神様が何とかしてくれるだろう。

どこかの創世の神様とか、果物とダンスの神様とか、パンツの神様とか。

勿論、土管や本から生えてきたり、顔がカミツキガメみたいな奴はノーサンキューで。

 

その後、男性の遺体を発見したことを匿名で通報した。

一応、社長夫妻にも連絡を入れておき、悪質ストーカー野郎は証拠隠滅の為に毒殺しておいた。

これでもう安心だろう。後は、女性自身が頑張っていけば何とかなるだろう。

そういえば、彼女の名前を聞いたはずなんだが……

何故かノイズが走って聞き取れなかったんだよなぁ……。何でだろ?

 


 

ハジメ「あれ以来、あの夢に関することは見ていないけど……きっと、大丈夫だよね?」

そんなことを呟くハジメ。しかし、彼は知らなかった。この出来事が、正夢になるということを。

そう書いたら、なんか書けそうな気がした上に原作がハッピーエンドになってくれるんじゃないだろうか、と思ったうp主であった。

 

ページをぺらり。

 


 

無限の日

 

今度は告白シーンらしき場所に遭遇した。

かと思ったら、告白していた女の子が急に頭を撃ち抜かれた。

慌てて蘇生させたので事なきを得たが、撃った奴だけは許さん。

なので、取り敢えず彼氏らしき青年に少女を任せ、ヤの付くところにいそうな男と殴り合った。

相手も中々のパワーだったが、それ以外は特筆するものもなかったので、あっさり倒せた。

 

すると、なんか目が逝っている青年がヤバそうな技を発動してきたので、慌てて避けた。

喰らっていたら致命傷だったかもしれない。喰らった男は死んでしまったが。

その後、ヤバそうな青年がこっちに敵意を向けてはきたが、もう一人の青年が説得してくれたので事なきを得た。

もし彼と戦いになっていたら、時間停止使っても勝てなかっただろう。そう思えた。

マジで危なかったかもしれん。

 

その後、何日かくらい戦う夢を見た。

何故かメロンパンみたいな奴や、ガラの悪そうな少年少女に乗り移っていた何かが襲い掛かってきた上に、能力ヤバそうだったので、それが発動できないように時間停止中に処理した。

そしたら何故か、ヤバそうな白髪の青年が唖然としていた。俺、何かやっちゃったっけ?

 

後は、ゴリラみたいな男子学生とアイドルの握手会に行ったり、パンダ手懐けたり、姉妹喧嘩の仲裁したり、アンドロイドの魔改造したり、白髪の青年とその愉快な仲間達と一緒にバカやったり……

アレ?なんか、忘れているような気が……?

 


 

ハジメ「う~ん、領域何とかってのは覚えているんだけどなぁ……。」

ほぼ答えを言っているにも拘らず、全然元ネタが分かっていないハジメ。

流石にハジメでも、不敵な笑みのディフェンダーには……ってこれ違う五条だった。

 

ページをぺらり。

 


 

紅蓮の日

 

今度は、昔の時代にやってきてしまったようだ。何故なら、今いる場所が武家屋敷のような場所だからだ。

そして目の前には、細身で顔が花から上が火傷の跡のように爛れている男性がいた。

なんか、見覚えあるような気がするけど……気のせいだよね?

 

その後は何故かとんとん拍子に進んでいった。何でさ。

俺は唯、薄ら笑いが気持ち悪い氷鬼を真っ二つにして、襲われていた女性の治療をし、目が六つある落ち武者を宇宙へ放逐し、バトルジャンキーをうっかり粉々にしてしまい、不細工な壺を壊したら中身が魚の化け物だったので証拠隠滅の為に焼き尽くしたり、豆粒みたいな何かをうっかり潰してしまったり、遊郭で何故か襲ってきた兄妹を返り討ちにしてしまっただけなのに……。

 

後、顔面傷だらけの兄弟の仲裁をしたり、デカい目と声の親子の仲裁をしたり、死んだ魚の目をした男性のコミュ障を何とかしようとしたり、桃髪の女性に対して奥手な蛇使いの男性のフォローをしたり、ボーッとしていた少年に懐かれたり、ほんわかした姉妹に慕われたり、派手好き忍者と意気投合したり、三白眼の男性と修行したりしたくらいかな?

 

因みに、最初に会った男性の顔の火傷を治したら、皆からめっちゃ感謝された。何でだろ?

それと、不思議な耳飾りをつけた兄妹の世話をしたり、イノシシの被り物をした少年の相手をしたり、タンポポみたいな髪で奇声を上げる少年を、その兄弟子らしき青年諸共鍛え上げたり……くらいかな?

 

そんなある日、髪がワカメみたいで顔以外残念そうな奴がやってきてこちらを煽り倒してきた。

なんかムカついたので、四肢を切断してブラックホールに放り込んだ。

それでもギャーギャーうるさいので、猿轡噛まして簀巻きにして、首切り飛ばしてサッカーした。

そしたら見覚えのある一本角の補佐官殿がやってきて、その汚物を引き取っていってくれた。

何でか、一緒にいたかっこいい侍から感謝されていたが……はて?どこかで会ったっけ?

 


 

ハジメ「あの補佐官様、目が完徹2000年はあったような目だった……怖かったなぁ~。」

当時の様子を思い出しながら、ハジメはブルッと少し震えた。

そのころ地獄では、その補佐官殿がワカメ男をしばき倒しながら、くしゃみをしたそうな。

 

ページをぺらり。

 


 

聖剣の日

 

気が付いたら、またもや異世界に来ていたらしい。そこで金髪の少女に匿われ、暫くの間一緒に過ごした。

彼女は本が好きだった。地球の本棚を特別に見せてあげれば、彼女は大いに喜んでいた。

彼女は両親を愛していた。周りの人たちも、雨だれの音も、彼女は好きだった。

 

しかしある日、大勢の軍隊が彼女のもとへ押し寄せ、多くの人が殺されていた。

俺は即座に変身し、その大軍を蹴散らすと、真っ先に少女の元へと向かった。

だが、彼女の姿はとうに無く、彼女の家族の遺体があっただけだった。

幸いにも、死んでまだ数分以内だったのもあって、彼等を即座に蘇生し、この場から避難した。

 

隠れた先で、彼等から話を聞くと、少女に背負わされたものに対し、俺は憤慨した。

この星の抑止力?とやらは、どうにも杜撰過ぎるようだ。

特に、何故そんなろくでなし共に聖剣作成なぞ命じたのだ?大神と巫女には同情はするが……

いずれにせよこんな世界、忘れたほうがいい。故に、俺がこの時空を、破壊する。そう決めた。

 

少女の家族に幾つかアーティファクトを上げ、彼等だけでも生活できそうになった頃、俺は少女の元へと向かったのであった。

そのころ少女は、行く先々で人を救い、仲間を作り、鐘を鳴らしては、怪物共を一掃していた。

けれども、誰一人称賛を向けるどころか、彼女達を元凶扱いしては石を投げてきたりした。

 

そんな目に合っても旅を続ける彼女に、未来の自分を重ねるように見た俺は、少女の家族から預かった手紙とともに、彼女の元へと向かった。

久しぶりに出会った少女は、何処か危うげだった。心が何かの重みに耐えきれなさそうに見えた。

それでも、家族の無事を知ることができたのか、少女は涙ぐみながらもお礼を言ってきた。

しかし、その眼には安堵と切望、悲しみといった感情が入り乱れていた。

 

ある日、彼女の仲間が王様になると聞き、その式典に参加することにした。

少女はとても嬉しそうだった。まるで、恋人の誇らしい姿が見られることを期待しているかのように。

その顔は、あの国で本を読んでいた時の彼女の顔だった。争いなど知らない、お人好しな少女の顔に。

だが、俺には嫌な予感がしてならなかった。そしてその予感は、不運にも必中した。

 

式典は惨状と化していた。

少女の仲間達が次々と殺され、最愛だったと思われる少年も毒殺されてしまっていた。

少女は泣きながら何度も少年の名を呼ぶが、返事はない。

その様子を見ながら彼女を嘲笑う愚か者共。そして僅かながら、少女の心が壊れ始める音が聞こえた。

同時に、私の中で何かがキレた。

 

その後のことは朧気だった。

ただ鮮明に覚えているのは、少年は何とか蘇生に成功し、一命をとりとめたこと。

少女が泣きながら、私に何度も「ごめんなさい。」と繰り返していたこと。

この二つだけだった。後のことは何も入ってこなかった。

 

ただ、周りを見ればなんとなく察した。

どうやらあの時、怒りで我を忘れた私は、あの愚か者共を蹂躙しつくした挙句、少女とその仲間達以外を全て破壊しつくしてしまったようだ。

その証拠に、さっきまで襲撃者だったものが辺り一面に積み重なっている。

全員、紅い肉片を、まき散らしながら血を滝のように流していた。だが後悔はない。

あんな悪意に満ちたものなど、滅んでしまえばいいのだから。

 

その後、落ち着きを取り戻した私は少女に、「壊れかけた心を癒すため、暫くは仲間達と共に隠れて過ごしてみてはどうか」と提案してみるも、少女はそれを否定し、「自分は、救世主だからこの国を救わなければならない」と、それでも旅を続ける意思を示した。

だが、それではまたあの悲劇によって、心が壊れてしまう可能性も少なくはなかった。

なので、手荒だが少々きつい物言いで言い放った。

 

「なら、こんな世界の為に、お前は仲間や恋人を犠牲にするつもりか?

彼等を危険に晒してまで、守るべき価値などないというのに。」と。

しかし、それを聞いても尚、彼女は意思を曲げなかった。そしてこう言った。

「私はただ、自分の故郷(くに)を失いたくないだけなんです」と。

 

その眼には確かな覚悟が宿っていた。

自身が壊れかけようとも使命を成すと覚悟していたのか、ここで折れたら全てが水の泡になることを悟っていたのか、いずれにしろ彼女はもう後に引く選択を失ってしまったようだ。

もっと自分に力があれば、そんな考えが頭を過った。

 

すると、少女がその考えを読み取ったのか、少し寂しそうな目で微笑みかけて言った。

「それでも、貴方は私の為に手を尽くしてくれた。それだけでも嬉しいんです。」と。

しかしその笑顔とは裏腹に、心が締め付けられる音が聞こえた。

このままでは、彼女は心が壊れても進み続けるしか選択肢がなくなってしまうだろう。

 

だが、現実は非常にも襲い掛かった。ふと、私の体が光の粒子に包まれていった。

なんとなく、夢から覚める感覚に似ていた。ならば、せめて彼女の心だけでも救わねば。

そう思った私は、彼女にブランクウォッチを渡し、「君がまた危機に陥った時、必ず助けに行く」と言った。

そして言い終わったと同時に、私は……目が覚めていなかった。

 

どうやら、先程とは別の時代に飛ばされたようだった。それもどこかの城の大広間に。

すると目の前では、反乱らしき出来事が行われていた。

見れば、どこか胡散臭そうなジジイが、手足が腐り落ちた紅い髪の少女を人質に、女王らしき女性を痛めつけていたようだ。

周りの奴らは、突然現れた不審者に驚いているようだったが、どうでもよかった。

 

その時だった。何やら不快な声が響き渡り、目の前の女性が全ての元凶だと決めつけていた。

――あぁ、そういうことか。漸く理解したよ。目の前にいる女王は、お前だったんだな。

"トネリコ"。その名前をふと呟いたのが聞こえたのか、女王はこちらを向いた。

俺は彼女に頷いた。するとあの時の少女は、堪えていた涙を流すように、掠れた声で零した

――助けて、と。

俺は無言で頷き、王の力を解放した。

 

結論から言えば、口ほどにもなかった。ただの広範囲爆破だけで消し飛ぶとは……脆いものよな。

そんな雑兵共から、人質と思われる少女を奪い返し、即座に治療を開始した。

どうやら手足が腐り落ちたのは何かの代償のようだが……

その術を行使する前に戻してしまえばよかろうなのだぁッー!!!序に、女王の傷も癒しておいた。

 

その後、二人を安全圏まで連れて行き、かつて使用されていたと思われる棺に二人を収容した。

空間魔法で広げてあるので、二人なら広すぎるくらいだろう。

女王をエナジーアイテムで眠らせ、この世界ではない場所の未来へと飛ばした。

同じブリテンなのだ。今度こそ、両手に抱えきれないほどの幸福を、あの日の君に。

そう、切に願うのであった。

 


 

ハジメ「……この夢はここで終わってしまったが……彼女は元気にしているだろうか。」

そう思いながら、空を一度仰ぐハジメさんであった。

余談ではあるが、二人が飛ばされた先では、何故かブリテンが日本を植民地にしていたりする。

後、去った後の世界では、ハジメさんがうっかりセットしてしまった"ブラックホール爆弾"で、厄災諸共元凶を飲み込んでしまったとさ。

めつぶしめつぶし。

 

ページをぺらり。

 


 

王鎧の日

 

何か知らない平原にいた。

すると、何やら口論が聞こえていたので、その方向へと向かった。

見れば、姉妹と思われる少女達が、ガラの悪い傭兵達に引き離されようとしていたところだった。

 

取り敢えず、姉妹以外は全員ぶっ飛ばした。ボスと思われる男も攻撃してきたが……

貧弱すぎて話にならなかった。何やら暗部だのなんだのと聞こえたが……

ハウリア一人でも瞬殺可能なレベルじゃ、石仮面使っても勝てなさそうだな。

 

その後、助けたからか懐かれた姉妹を、適当に狩った近くの魔物たちの肉で餌付けしていると、兵隊達と偉そうな軍人がやってきた。

あの軍人は先程の男以上にはできそうだ。獲物にも電気が宿っている。

姉妹からはこの世界についてあまり聞けなかったので、折角だから色々聞くことにした。

まぁ、いきなり襲い掛かってきたもんだから、時間停止で武装を取り上げ、無力化してから聞き出した。

 

曰く、この世界は中国が領土を広げまくったような感じで、周辺各国と戦争を繰り広げているそうだ。

んで、軍人が持っている武器を"帝具"と呼んでいるそうだが……正直どれも微妙に思える。

先程の軍人が持っていた槍ですら、威力特化で燃費が悪い。これでは一撃しか放てない。

そんなんだと無力化された時に反撃が全くできない。なので、取引を持ち掛けてみた。

 

彼等の持つ"帝具"を、俺の生成魔法で強化する代わりに、彼等の国である程度の自由を認めるよう、交渉してみた。

相手方も最初は渋ってはいたが、吞めなければ全員を殺し、国の首都を国民諸共滅ぼすと脅されれば、流石に本気だと理解したようだ。

 

将軍と呼ばれた軍人は最後まで反対してはいたが……

彼の反応が3秒遅れるごとにブラックホールを近くに発生させれば、力の差を理解してくれたのか、条件を吞んでくれたようだ。

序に、懐いていた姉妹も家臣として連れて行くことにした。文句はあるまい。

 

さて、その道中、この国がいかに腐敗しきっているかが理解できた。

売春、薬物、恐喝、汚職、裏工作、悪政、暗殺、冤罪、貧困……どれもこれも悪意に満ちた光景だ。

それについて質問すれば、皆一様に気のせいだと言うが……その程度で誤魔化せるとでも思っていたのか?

 

そして、国の首都にある宮殿では、ちょうど裁判、否、それとは名ばかりの濡れ衣着せが行われていたようだ。

その証拠に、糾弾されていた文官が今まさに連れて行かれそうになっていた。

正直、道中でも目を背けていた兵隊共にも呆れてはいたが……ここまでとはな。

流石に気分が悪かったので、文官の連行を阻止した。

 

すると何やら、玉座に座っている貴族の餓鬼がこちらに向かって怒り、その隣にいる豚がキィキィ言ってきた。

他の奴等も敵意を剝き出しにしてきたが……こちらも結構きていたので、遠慮なく威圧で黙らせた。

そして、皇帝と呼ばれた餓鬼に、この国の現実について突き付けてやった。

 

が、なんと皇帝はそのことについては全く知らなかったようだ。

隣の豚が必死に否定してきたので、道中で撮影してきた映像を見せてやった。

しかも、その中には豚の配下にと思われる文官まで映っていたこともあり、こちらの信憑性が増したようだ。

なので俺は、遠慮なく宣言した。

 

「この国は腐敗し過ぎた。故に私は思うのだよ、この国における正義など、紙屑未満の価値なのだと。

貴様等姦物共の語る正義などくだらん、つまらん、気に食わん!

幼き皇帝を誑かし、口八丁に丸め込んでは騙し欺く。それを正義と呼ぶのであれば……

私は、そのまやかしだらけの正義を打ち崩す悪になってやろう!恐怖し、おののき、平伏するがいい!

容赦も慈悲もなく、虫を踏み潰すが如く、貴様等を討ち滅ぼす者の名は、オーマジオウ!

最高最善の魔王である!」と。

まぁ、最近始まったスーパー戦隊のこのセリフが妙に印象的だったから、つい言ってみたくなっただけなので、自分なりのアレンジも加えてみただけだが。

 

その後、隻眼で片腕義手の如何にも厨二っぽいファッションの女性率いる部隊(メンバーがホモ疑惑のリーゼント、糸使いのムッツリ少年、猫みたいな桃髪の少女、ドジっ子なメガネっ娘、獣人っぽい呑兵衛の女性)に、飴ちゃん好きなJKっぽい少女、妄信的正義少女、マスクのデザインに反して優しげな男性、オカマだけど中々やる博士、元教師の復讐者、何気に磯の臭いがする青年、ダンディーな髭の初老の男性、角を生やした大男、後その辺から引っ張ってきた少年少女3人組に、改心した皇帝くんと将軍、最初に出会った姉妹をお供にし、国家改革を開始した。

 

途中、豚が勝手に改造した巨大兵器を起動させ、国民を犠牲にしようとしてきたので、こちらも巨大ロボで対抗した。

降臨せよ!神の名を冠する王の巨人!ランク20……おっと、言ったら言ったで出てきそうなんだよなぁ。

あの二人の後輩だし……。

 

兎にも角にも、その巨大兵器を停止させ、豚を処刑し、皇帝くんが国民に改めて謝罪し、また一から国を立て直す宣言をしたところで、俺はその場を去ることにした。

後のことはまぁ、皆がいれば大丈夫だろ。幼くても、体に宿るブレイブは人一倍なのだから。

 

余談だが、最後まで抵抗してきた氷使いの将軍には、年上キラーと呼ばれた少年を差し出して、従ってもらった。

少年の運命?なんとかなるでしょ、多分……。

 


 

ハジメ「どうして、キラメイ以降の戦隊って濃いんだろうなぁ……。やっぱり、ゼンカイが原因か?」

的外れなことを呟きだしたハジメさん。

というかそれ以前に、夢でゴッドキングオージャーを召喚する奴がいてたまるか。

しかも実質王一人なので、よく動かせたなと思いたい。

 

ページをぺらり。

 


 

黄金の日

 

次は元の世界の外国に来たみたいだ。

辺りを見てみれば、近くで、なんか物凄いスピードで飛び回っている神父がいたので、その場所へ近づいてみた。

すると、その神父が何人かの男女を襲っているようだった。しかも、子供までいるじゃないか。

 

その時、帽子を被った男性が時を止めたので、更に時を止めて事情を聴いてみることにした。

いきなり現れた上に時間を止めた俺を、男性は警戒してはいたが、こちらに敵意がないことを示せばわかってくれたようだ。

 

彼が言うには、神父は男性の先祖から続く宿敵の仲間らしく、その宿敵の敵討ちに来ていたそうだ。

その為に、男性の娘である女性に、無実の罪を着せて投獄させたらしい。

どっちの方を持つのかって?当然、男性の方だ。俺も父親だし。

 

まぁ、向こうも止まった時の中で何やら言ってきていたが、ウォッチで能力を封じておいた。

男性から聞いた話では、時間を際限なく加速させる能力らしい。

尤も、俺自身出来そうなのであまり面白みがなさそうに聞こえるが。

神父は最後まで「覚悟が~」とか言っていたが、長くなりそうなので端折った。

その後、何故か変わった髪の外人に絡まれた。ギャングのボスらしいが……俺、何かした?

え?石の矢じりを預かってって?俺、ロッカーボックスじゃあないんだけどなぁ……。

 


 

ハジメ「あの後から、なんか女性陣の背後に何かが見えるようになったんだよなぁ……。」

絶対違う、とハジメさん以外で知っている人がいたらツッコむだろう。

ハジメ「そういえば、向こうではコロネやハンバーグの様な髪型でも流行っているのかな?」

そんな流行あってたまるか。というか、本人たちの前でよく言わなかったなオイ。

 

ページをぺらり。

 


魔竜の日

 

何故かまた戦場に転移させられていた。しかも両隣にでっかいドラゴンがいるし。

取り敢えず、色々五月蠅かったので全員纏めてぶっ飛ばした。久しぶりに"限界突破"使った気がする。

その後、比較的話が出来そうな陣営に話を聞くことにした。

なんか、悪魔と天使と堕天使で争っていたら、ドラゴンが乱入して収集つかなくなったらしい。

ドラゴンは半ば八つ当たりじみた動機だったので、お説教しておいた。

 

それで、講和会議の場に何故か呼ばれた上に、勝手に議長扱いされた。

それに加えて、襲撃犯が次から次へとやってきたので、流石に面倒になった。

なので、そこら辺の隕石をブラックホールで消し飛ばして見せた。

それと、分身系統の技能をフルバーストした結果、全員が静かにするまでかかった時間は実に10分。長い。

 

その後、適当に会議を切り上げて、面倒に巻き込まれる前に退散する途中、助けを求める女性の念が聞こえたので、その方向へと向かった。

なんか、研究施設っぽいとこから聞こえてきた。すると、先程の念はどうやらその奥から聞こえていたようだ。

 

その奥の部屋には、蠢く肉塊がすすり泣いているような声を発していた。

なんか可哀想だったので、再生魔法と因果律操作で戻してみた。

結果、肉塊が美人な女性に変わった。いや、戻ったというべきか。その女性はリリスと名乗っていた。

取り敢えず、なんかやってきた悪魔どもを蹴散らし、彼女にDVを働いていた夫をボコボコにした。

 

そうして進み続けていると、今度は銀髪の女性が何人かに襲われていたので、助けることにした。

さて、二人を連れて冒険する気はないので、この先にあるという銀髪の女性の味方の屋敷に行くことにした。

そこで二人を預け、俺は立ち去ることにした。これで縁も終わった、はずだったんだがなぁ……。

 

数日間、これに関連するであろう夢を見た。

虐待されていた母子を助けたり、襲われていた姉妹やら母子やらを道すがらで助けたり、人体実験施設を破壊して少年達を助けたり、迫害されていた吸血少年を保護したり、なんか不気味な雰囲気の幼女に懐かれたり、フェンリルやケルベロスに懐かれたり、雌ドラゴンに追い掛け回されたり、リリスに襲われかけたり、堕天使の総督と発明関連でわちゃわちゃしたり……。

もうお腹いっぱいなのでこれ以上は勘弁してもらいたい。そう願うのであった。

 


 

ハジメ「あの時はマジで貞操の危機を感じたなぁ……女性って怖い。」

非リアが聞いたら、間違いなく血の涙を流すであろう発言である。

が、ハジメさんには既に吸血っ娘と幼馴染という、ヤンデレが二人いるので十分重みがある。

後、トータスでも地球でもモテてはいたので、お疲れ気味なのだろう。精神的に。

 

ハジメ「それにしても……自分で言うのもなんだが、濃いな……。」

正直、眠っている間に自分だけ別世界で冒険を繰り広げていたのでは?と幻視するほどの内容だった。

実をいうと他にも、リリカルな魔法少女達、素晴らしきナマクラ共、黒と光の剣士カップル(ソードラヴァーズ)、ゲームの世界の次元女神、神喰いの戦士達、麦わら帽子の似合う少年、てぇんさいな兎少女、ラスボスっぽい骸骨、不幸を叫ぶ少年に、宇宙から来た戦闘民族と、様々な人物たちとの冒険談もあったのだが、元ネタが多すぎる上にうp主の筆が追い付かないのと、読者にこれ以上くどくど説明させて飽きさせたくないので、ここでは割愛する。

 

ハジメ「さて、そろそろ皆の所に行きますか、っと!」

そう言って腰を上げたハジメは、タオルと日記帳を宝物庫へとしまうと、仲間達の元へと向かうのであった。

しかし、ハジメさんは知らなかった。

後に、彼自身がこれらの世界にて怒涛のスペクタクルを繰り広げることを。

と言ったら、最終回までなんとなく続けられそうかなと思ったうp主であった。




ここまで読んでいただき、ありがとうございます!

今回のお話は、短編集でもあります。
本作のハジメさんが別世界に行ったら?というIFをいくつか思いついた結果、こうして抜粋してみました。

1.ヒロアカの原作前、志村菜奈が殺される時間軸です。
まぁ、こちらのハジメさんは実質ワンパンマンとオーマジオウとかいう、頭おかしい組み合わせなので、アナザーウォッチでもない限り、この時点でのAFOに勝ち目はなさそうですけどね。
他にも轟一家にヴィラン連合面々の中から数人、勿論オールマイトに主人公のデク君とも色々あったらいいなとは思います。

2.推しの子、ドームライブの日です。
原作を見てすぐに思いました、「この子を救わねば!」と。なので後悔もないし、弁明もしません。
批判もノーサンキューです。だって自分、最終的にはハピエン主義ですしおすし。
これが本来の正しい歴史、これでよかったんだと、うp主は思っております。

ストーカーは勿論、元凶や疫病神にはその代償に消えてもらいました。だって面倒で邪魔だし。
その後の関わりも書きたかったんですが……時間かかりそうだったのでカットしてしまいました。
まぁ、葛葉さん家や浮世さん家の神様辺りが、その辺りを引き継いでくれることを信じて、祈りましょう。

3.呪術廻戦、理子ちゃん射殺の場面です。
ファンの皆様にとっては不満囂々かと思われますが、うp主はにわかなのでどうかご了承いただきたい……!
とはいえ、時間停止なんて概念、寄生脳味噌(パラサイト・ブレイン)や宿儺辺りが至るとは思えないので……。
因みに、最後のはイナズマイレブンネタですw

4.鬼滅の刃です。時間軸は原作より前です。後、手鬼も錆兎や真菰より先に倒しちゃっています。
有一郎くんもちゃっかり生きています。鬼殺隊陣営の主軸殆どが死を回避しているという、ご都合展開。
まぁ、鬼陣営の元凶が全部悪いんですけどね。わしゃあ悪くねぇ、半天狗のせいだ。
流石に糸工場さんのコミュ障は無理そうですが……。御館様が元気になったので、許してください。
ワカメは補佐官様に任せました。これには縁壱さんもニッコリ。

5.FGO,妖精國のトネリコ時代です。
雨の魔女時代から描いた理由?推しだから。以上!
原作でのお話が書き終わり次第、今作のハジメさんとも絡ませるつもりですので、末永くお楽しみに!
後、最後のブリテンには厨二の魔眼を持った家庭教師さんがいるので、退屈はしないでしょう。
向こうにもフィジカルギフテッドがいますし、ガードは万全……のはず。

カルデア勢はコヤンの機転でギリギリ脱出しました。
勿論、記憶云々は世界の意思ですり合わせが行われるはずなのできっと大丈夫です。
ハベにゃんやキャストリア、ノクナレア陣営にムリアン、他の妖精騎士にオベロンもちゃっかり生きていますのでご安心を。
ベリル?他の妖精?記憶にございませんね。

6.アカメが斬る!零、アカメの過去です。
二次創作から来たので色々あやふやですが、代わりにオネストに飲まず食わずの肉体労働をさせますのでお許しを。
何故ゴッドキングオージャー!?と思われた方々もいらっしゃることでしょう。
理由は丁度良かったからです。だって、国と反逆がテーマで王様だし。
それに、ギラの名台詞がうp主の中で何故かしっくり来たので、つい。
まぁ、これだけの有能かつ誠実な部下たちなら、今後の国政も何とかなるでしょう。
タツミ君の運命は……お察しください。

7.ジョジョ6部、メイドインヘヴンです。
ハジメさんは時の王者なので、加速も停止も思いのままです。DIO様涙目。
しかも未来予知もできるので、ボスが恐怖します。
ボス「Non avvicinarti a meー!?(俺の傍に近寄るなああーッ!?)

8.ハイスクールD×D、時間軸はバラバラです。
取り敢えず、リリスが可哀想だったので救済してみました。
会議で皆さんが先生の話を聞くまでに10分かかりました。
ヒロイン、仲間、ライバルまでちゃっかり助けるわ、でんじゃらす幼女に使い魔共に懐かれ、挙句の果てに堕天使総督とやらかしまくるハジメさん……
これ、本当はクローズエボルで書くつもりだったんですけどね……。

他にも書きたかったものですが、時間を作ってはスピンオフ作品の方で書いてみます。
リリなの、このすば、IS、ねぷねぷ、ゴッドイーター、ONE-PIECE、OVERLOAD、ドラゴンボールにとあるシリーズ……既にSAOはアインクラッド編でストックが出来ておりますので、お楽しみに!

さて、今回が今年最後の投稿となります。なので、カウントダウンで新年を迎えましょう!
そして、明日の00:00からは、新しくスピンオフを別の作品で投稿しますので、是非お楽しみに!
原作は"色々"で設定してあります。探すのが面倒な方は、うp主の作品欄から飛んでください。
スピンオフ作品は、1作品にまとめておくつもりなので。それでは皆様、良いお年を!


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節分特別編:えんのおむすび

ハジメ
「よい子の皆~、今年の節分は東北東だ!笑う門には福来る!悩みなんざぶっ飛ばせ!
そしてこの小説を読んだお前たち!これで皆、縁ができたな!
ハーハッハッハッ!!!



【やろうか、節分!】

 

『節分?』

ハジメ「あぁ、豆をまいて邪気を払い、福を引き寄せるイベントだ。

それと恵方巻っていう縁起物の食べ物を食べながら、願い事がかないますようにって願うんだ。」

ハルツィナ樹海に旅立つ前のある日、俺はユエ達に節分という行事について話していた。

とは言っても、本来は新しい季節の節目という意味なのだがな。

 

香織「豆をまくときは、鬼は外ー!福は内ー!って言うんだよ。」

ユエ「……私、外?」

ハジメ「大丈夫だから!吸血鬼はノーカンだから!」

ここでいう鬼とは、「人間の心にある5つの煩悩の象徴」であり、決して鬼族は関係ない。

 

ハジメ「そんなわけで、だ。先生、お願いします!」

愛子「任せてください!福豆もお米もたっくさんあります!」

先ずは、福豆と恵方巻用の米の確保は完了した。次は……

 

ハジメ「レミア、海藻類で乾燥させて何かを巻く奴ってあるかな?」

レミア「そうですね……もしかして、ウミノリのことでしょうか?」

ハジメ「ウミノリ?」

レミアが言うには、この世界には2種類の海苔があるらしく、それも海と山に生えているそうだ。

 

一つは大陸の北にあったとされるヤマノリ、こちらは大陸の南側――

魔人族領に生えていたらしいが、今はどうなっているのかは不明らしい。

生えていたとしてもどうやって取りに行くかが問題だな、こっちは取りやめてもう一つの方にしよう。

 

そのもう一つは海の中に生えている海藻を乾燥させた、ウミノリというものだ。

ただ、その海藻は基本海の中には腐るほど生えているらしく、網に引っかかったとしても大体が捨てていくパターンらしい。

なので自前のお金である分をお値打ち価格で買い取り、早速海苔づくり開始だ!

 

摘んだのりを、全形一枚分の量に分けて御簾の上にのせ、四角いのりの形にすき、形を整える。

次に水分をとって温風にあてて乾燥させ、ちょうどいいサイズにカットしていく。

とここで、生海苔ではお腹を壊す人もいるかもしれないので、表面にしょうゆをベースにした和風タレを塗り込み、更に過熱して安全面にも配慮する。

何でそんなことをするかって?焼き海苔にするからに決まってんだろ!

 

海鮮丼の刻み海苔としても使いたいしな!後、美味しくて食べやすいし。

それに焼き海苔の方が香りも香ばしいので、初めて食べる皆にとっても良い印象になるだろう。

これも国家権力のおかげだな。これで恵方巻に必要な土台は揃った。

っと、そういえば巻きすも必要だな……しまった、肝心の竹がない。

プラスチックやシリコンでも代用はできるらしいが……初心者には厳しすぎる。というわけで、

 

ハジメ「すいません、先生。竹をお願いいたします。」

愛子「わ、わかりました!出来るかどうかはわかりませんが……やってみます!」

そんなわけで、作農師としての技能を先生がフルに活用してくれた結果、ある土地の一角で竹の栽培には成功した。

そう、成功はしたのだ……。

 

愛子「お、大きく育て過ぎました……。」

ハジメ「……まぁ、これからじゃんじゃん使って行けばいいんですよ。」

とにもかくにも、先生のおかげで巻きすの材料は確保できた。今回のMVPは間違いなく先生だろう。

竹を切るのは戦闘系職業の男どもに任せ、他は竹を編んで紐で結び、巻き簾を作っていく。

女性陣には予め用意しておいた余りの紙で、折り紙を披露してもらっている。

鬼の仮面も作ってもらっているので、ちょっとしたお祭りになりそうだ。

 

よし、次は恵方巻の具材作りだ!

今回はシア・クラスの料理好きに加えて、王都の料理人たちも集合している。人手は十分だ。

先ずは定番のかんぴょう、しいたけ、卵焼き、ウナギやアナゴ、エビ、きゅうり、桜でんぶ……

かんぴょう、こっちの世界にあったっけ?しいたけは北の山脈に生えていたもので代用するとして……

ウナギはこっちでは食わないらしいし、エビも基本は取れる。卵にキュウリは大丈夫だろう。

 

となると、残り二つ……アナゴはともかく、桜でんぷは無理だろ……。

食紅、こっちでもあるかわかんないし……あ、錬金術で色素だけ取り出して付着させればいいか。

最悪、出来なくてもお刺身で代用すればいいし。

とはいえ、穴子はマスオさんがいないし、ここはかまぼこで代用しよう。

というわけで、エリセン産のタラやカニに似た海洋生物を使い、かまぼこづくりを進める。

 

先ず、頭と内臓だけを取り除き、残った部分を水で丁寧に洗う。

この時、泳がせるように洗うのがポイントだ。洗ったら、身と皮と骨を分け、身は適切な時間でさらす。

さらし終わったら、魚の身をミンチして練っていく。身がぬくらないよう、ゲームエリア「雪原」で。

序に氷系技能も併用して極限まで温度管理を徹底、どれも身が真白くて美味しそうだ。

後は形を整えて蒸して冷やすだけだ。おっと、かにかまには食紅で使った色素で色付けしてっと。

 

さて、お残しは厳禁だ。先ずは、先程余った頭と骨は叩き潰し、内臓と皮は擂り砕く。

丁度残っていたいくつかの野菜と共に練り上げ、油で揚げる。尚、この時の余った部分も活用する。

野菜の皮には豊富な栄養素が詰まっているって聞いているしな、有効活用しなくちゃ。

 

あ、そういえばカツも欲しいって言ってた奴もいたから肉も使ってたっけ。

脂身が残っていたから、貝殻でだしをとったスープと絡めよっと。

後はブロッコリーの芯をドレッシングにすれば、和洋折衷で行けるか。

 

さて、これで料理の準備は整いそうだ。この量なら一人一本でも大人は大丈夫そうだ。

まさか元の世界で呼んでた漫画の料理を披露する機会がここで出てくるとは、誰が予想できただろうか。

……流石におはだけは勘弁願いたいが。さて、子供たちの為にも更にひと手間加えますか!

 

流石に食べるだけでは喉が渇くし、冬を越すにはちと栄養が足りない。そこで今回はけんちん汁も作る。

主な具材は、大根、にんじん、ごぼう、里芋、こんにゃく、豆腐だ。

けんちん汁自体精進料理だから、肉や魚といった動物性食品は使わないんだよなぁ。

肉とかダメな宗派の人にとっちゃ旨い汁ものだろう。こっちじゃ宗教一度崩壊したけどな!俺のせいで!

 

ブラックジョークはさておき、先ずは豆腐の水気をきる。

大根、にんじんは3~4mm幅のいちょう切りにして、ごぼうはささがきに、5分ほど水にさらしてから水気をきる。

こんにゃくは塩少々でもみ、水洗いする。水からゆで、沸騰したら5分ほど中火でゆでて水気をきる。

 

次に、鍋にごま油を中火で熱し、豆腐以外の材料を入れて油がまわるまで炒める。

そこに昆布やキノコでだしをとったものを加え、煮込む。煮立ったら灰汁をとってふたをする。

10分ほど煮込んだら、一口大に切った豆腐をしょうゆ・塩と共に入れる。

後は味を調えて、小ねぎを散らせば……!

 

ハジメ「完成だ。」

取り敢えず一通りの見本は完成した。

やり方もシアや園部さんを中心に広がっていったので、問題はないだろう。あるとすれば……

 

ハジメ「ユエ、どうしてここにいるのかな?」

ユエ「……ハジメの、お手伝い。」

ハジメ「ユエには折り紙をお願いしたはずなんだけど……料理には手を加えていないよね?」

ユエ「……シアに、阻まれた。」

まぁ、そりゃそうなるわな。そう思いつつ、後ろ手でシアにサムズアップを送る。

 


 

ハジメ「待たせたな、皆!今日は準備、お疲れ様!頑張った自分に、盛大にご褒美を!

それじゃ、かんぱーい!」

『かんぱーい!!!』

時刻は既にもう夜8時だ、なので全員集合して節分の開始だ。

 

『鬼は外ー!』

『福は内―!』

『悪い子はいねがー!』

『悪い子はとってくっちまうぞー!』

うむ、鬼役も投げる子供たちも楽しそうだ。とはいえ……ちょっと投げる豆、多くね?

鈴「そういえば、年の数だけ豆を食べるんだよね?」

あっ……

 

ユエ「年の……。」←323

ティオ「数だけ……。」←563

ミレディ「豆を……。」←数千年前?

メイル「食べる……。」←上に同じく

ハジメ「み、見た目の年齢で行こうか……。」

流石に今回ばかりは香織もユエにイジりはかけな「ユエは323個だよね!」おい……。

この後、めっちゃ止めるのを頑張った。

 

優花「えっと、巻き簾はツルツルした方が上で、糸の結び目が奥になるようにおいてください!

焼きのりはザラザラした方を上にして、縦長においてね!ご飯も縦長に伸ばして、具をのせて巻いてね!」

皆への説明は、いつの間にか大人気になっていた園部さんに任せることにした。

 

優花「あ、後願っている間は一言もしゃべっちゃだめだよ!食べ終わってからなら話していいからね!

二本目用の具材や米も今作っているから、焦らずじっくり願って、ゆっくり味わって食べてね!」

おっと、なら俺もすぐに食べて手伝いに向かわねば。さて、東北東東北東……

こうして、異世界初の節分は大成功を収めたのであった。今度はカムやフリード達ともやりたいな。

 


 

全員の願い(一部抜粋)

 

ハジメ『皆の願いが叶いますように、全種族が手を取り合えますように、

そして最高最善の魔王になれますように』

 

ユエ『ハジメとの間に赤ちゃんができますように』

 

シア『ハジメさんに私の処女をもらってもらえますように』

 

ティオ『ご主人様に抱いてもらえますように』

 

香織『ハジメ君から襲ってもらえますように』

 

ミュウ『ぱぱやまま、おねえちゃんたちのおねがいがかないますように、なの!』

 

レミア『またあの人に会って、ハジメさんのお話ができますように』

 

トシ『ハジメが無茶しすぎませんように』

 

恵理『無事に皆で帰れますように』

 

浩介『存在感と彼女が欲しい』

 

光輝『ハジメが最低最悪の魔王になるのを止められるくらい強くなれますように』

 

雫『ハj……んんっ///元の世界に帰れますように』

 

龍太郎『ユエさんに振り向いてもらえますように』

 

鈴『ユエお姉様に膝枕してもらえますように』

 

愛子『皆さんと無事に元の世界に帰れますように。それと……///』

 

リリアーナ『ハジメさん達がこの世界を救えますように、それと、普通の女の子のような恋がしたいです』

 

妙子『素敵なペット……もとい、彼氏が見つかりますように』

 

昇『運命の出会いがありますように』

 

健太郎『綾子と堂々と付き合えますように』

 

綾子『健太郎と堂々とイチャイチャできますように』

 

信治、良樹、礼一『彼女ができますように』

 

優也・加奈『友人達がもう少しマシになりますように』

 

利香・某女騎士『お姉様が私と恋仲になりますように』

 

ヘリーナ『我が魔王に幸運を』

 

ランデル『打倒魔王』

 

デビッド、チェイス、クリス、ジェイド『女神がこれからも微笑んでいられますように』

 

オスカー『マフラー撲滅』

 

ミレディ『クソ野郎を今度こそ倒して、皆で笑えますように』

 

ナイズ『スーシャとユンファに、また会いたい』

 

メイル『世界中の妹たちとくんずほぐれつできますように』

 

ラウス『今度こそ、エヒトを打ち倒す』

 


 

【桃の仙人?】

 

ハジメ「……ここは、桃園か?」

はて、おかしいな……?

俺は確か、近くに住んでいる爺さんから桃の木の手入れをしてほしいって頼まれて、桃がたくさんなっている木々の中にいたはずなんだが……

この先に会ったのは原っぱと大きな山だけだったはず、なのだが……。

 

ハジメ「ありゃあ……滝か?山の中に滝なんてなかったはずだが……

ハロウィンの時とおんなじパターンか?」

それになんだか空や雲の色がカラフルで、どうみても異常なしとは言い難い。間違いなく、神隠しだろう。

とは言っても、自分から迷い込んでしまった場合、どんな扱いになるかは知らないが。

 

ハジメ「取り敢えず一旦引き返せば……。」

と思って振り返れば、後ろにあったはずの桃の木々がいつの間にか巨大になっており、知らない間に急成長を遂げてしまったようだ。

これはまずい、本格的に迷子になってしまったと焦り始めた俺は、一先ず滝の方へと向かうことにするのだった。

 

ハジメ「!あれは……。」

少し近づいてみると、滝の方から何やら煙が上がっていた。もしかしたら人が住んでいるのかもしれない。

しかし、こんな不思議な場所に住んでいる以上、人ではないかもしれないので用心しておく。

そうして用心しながら進んで行き、ついに滝壺の見えるところまでたどり着いた。それにしても……

 

ハジメ「これ、温泉か……?」

凄い煙と共に熱気が漂ってきていた。それに何やら桃の香りがする。まるで山奥に佇む秘湯だ。

ロマンと風情があって、中々いい。今すぐにも入ってみたいが……着替えがないからなぁ。

なんてことを思いながら、手で煙を払いのけていると、何やら人影が……。

 

???「……。」

ハジメ「……。」

……凄く気まずい場面だった。目の前にいるのは全裸の美女、それも豊満な肉体の、だ。

傍から見れば、女湯をうっかり覗いてしまった哀れな男、という図だろう。

 

???「……、……!~~~!」///

あっ、やべ。咄嗟に目を逸らし、身をかがめる。そして更に嫌な予感を感じ、岩場を転がり落ちる。

すると次の瞬間。

 

ドッゴーン!!!

 

ハジメ「……あっぶねぇ……!」

ものすっごい勢いで桶が飛んでいったかと思えば、俺が先程まで立っていたであろう岩を粉々に粉砕していた。

マジでやばいぞ、これは……。上手く女性を宥めなければ最悪の場合……死ぬ!

……いや、よくよく考えれば、帰った後香織に感づかれたらどっちにしろ殺されるし、今更か。

 

???「どこ行きやがった、変態ヤロー!さっさと出てきやがれー!」

っと、女性が怒鳴り声をあげだした。仕方がない、こうなったらあれしかない……!

決心した俺は立ち上がり、その声の方へと向かう。そして女性の影をとらえた瞬間……

 

ハジメ「まっことにぃ!申し訳ぇ、ございませんでしたぁーーーー!!!」

そんな物凄い声量の謝罪の言葉が、芸術的とすら言える土下座を添えて響き渡った。

これぞ、かつて父さんが披露したと言われている、南雲家に伝わる最終奥義"DOGEZA"だ。

???「んなっ!?」

いきなり土下座されたことに思わず驚いた女性。だがまだだ、ここから更に畳みかける。

 

ハジメ「まぁこぉとにぃ!まっことにぃ!申し訳ぇございませんでした!偶然にもぉ!

迷い込んだだけだとしてもぉ!貴女様の入浴の場を目にしてしまったことはぁ!

決して許されない所業ぉですぅうう!まさにぃ、神をも恐れぬ悪行ですぅううう!」

恥も外聞も捨てて、世界に響けと叫び出した。もう俺の頭にはこれしか策はなかった。

 

???「お、落ち着けって……何もそんな大げさに思わなくてもいいだろ?」

本当なら今すぐ顔を上げてこの場を収められないか思案するが、生憎相手はバスタオル1枚。

何かの拍子にずり落ちてしまったら……考えたくもない。間違いなく1回ずつ殺される。

ならばここは、ひたすら謝って有耶無耶にして、さっさと逃げるしかねぇ!

 

ハジメ「本来ならぁ!あの時避けたりなどせずにぃ!この場で命を以て償わなければならないところぉ!」

???「ちょっ、誰がそこまでやれって言ったんだよ!?バカなのか!?」

俺のとんでもない発言で女性が慌てている。よし、場のペースはこっちが優勢だ!ここで更に追い謝罪!

ハジメ「どうか、寛容をもってお許しいただきたく!どうか、どうか、ご慈悲をぉおおおおっ」

絶叫が響き渡る中……正気になって思った。何やってんだろ、俺。

 

???「だーもう!わぁーったよ!あたしの負けだ!だから、もうやめろー!」

よし、言質はとった!……ここからどうやって顔を上げればいいかが問題だが。

ハジメ「あ、あの……お、お話がしたいのですが、どちらで待っていればよろしいでしょうか?」

???「あん?……そこで待ってろ、ぜってぇ顔上げんなよ?いいな?」

ハジメ「アイアイマム!」

そして土下座状態で固まること数分、女性から顔を上げていいとのお達しがあったので顔を上げる。

 

ハジメ「……桃の、精霊さん?」

???「んなっ……おまっ、いきなり何言ってんだ!」///

そう言って頬を赤く染める女性。ふと、彼女の髪の色を見て言ったのが不味かったのだろうか。

とてもきれいな桃色の長髪で、三つ編みのおさげが感情を表すかのように激しく揺れている。

 

ハジメ「気に障ったようならすいません、あまりにも綺麗な方だったのでつい……。」

???「き、綺麗っ!?アタシが綺麗だなんて、お前変わってんな……。」

そういう女性の服装は白のオフショルダーシャツと、だぼっとしたもんぺのようなズボンといった服装だが、神聖な空気を纏っているのがわかる。

 

???「まぁ、どっちかというと……仙人みたいなもんさ。」

ハジメ「仙人、ですか……?」

???「あぁ、つってもそんなアタシも柄じゃねぇからな。それにこんな女が仙人気取りなんて……

笑いもんだろ?」

そう言って自虐するかのように聞いてくる女性。俺にはそうは思えないんだけどなぁ。

 

???「お前も幻滅したろ?アタシも自分ではわかってんだ。」

ハジメ「何がですか?」

???「何がって、そりゃあ「別に仙人が美人の女性でもいいじゃないですか。」びっ、びじっ!?」

女性が何やら動揺しているが、俺はさらに続ける。

 

ハジメ「だって、貴女からは暖かいくて綺麗な何かを感じます。

それはきっと、貴女がいい人だって証ですよ。もし悪い人なら、暖かさなんて微塵もないでしょうから。」

???「そ、そうか?」

俺がそう言うと、女性の口元が少し緩んできたのでここでもう一押し。

 

ハジメ「それに、さっきの慌てている様子も、可愛らしかったですし。」

???「かっ、かわッ!?」///

?女性の顔が急に真っ赤に染まってしまった。流石に早まったか?

 

???「そ、そこまで言うんなら……信じてやるよ。お前、名前は?」

ハジメ「南雲ハジメです。」

???「そうか。ところでハジメ……その……。」///

ハジメ「?」

何やら女性が急にもじもじしだしたので、何事かと聞こうとしたその時。

 

パアァァァ……

 

ハジメ「!体が……。」

???「あ~……もうお別れっぽいな。多分、元の場所に戻んだろ。」

ハジメ「そうですか……また会えたらいいですね。」

???「……取り敢えず、これ食ってけ。」

そう言って女性は、服のポケットから取り出した何かを、こちらに投げつけてきた。

 

ハジメ「へ?うわっ!?……って、桃?」

慌ててそれをキャッチすれば、それは何やら神々しい何かが入っているような桃だった。

???「……まー、だいじょぶだろ。それを食ったっつーことはよぉ、"縁ができた"ってことになるだろ。」

ハジメ「!……そうですね、またどこかで!」

そう言って俺は桃をひと齧り「一気に食え!また会いたきゃな!」

……囃し立てられたので慌てて食い切った。

 

ハジメ「ごっくん……ごちそうさまでし、た……?」

そして再び顔を上げれば、そこは元の桃園だった。またしても何とも不思議な体験だった。

取り敢えず収穫した桃が入ったかごを背負い、手伝い完了の報告に向かうのであった。

しかし、この時の俺は気づいてはいなかった。

その桃を食べた時から、異様に体がカッチカチになったことを。

 


 

【おむすびむすび縁結び】

 

???「何しに来たん、飛鳥?」

???「お前こそ何でこの世界にいんだよ、雲雀。」

それは、正しく「無」を体現した場所。そこで二人の女性が話していた。

一人は桃色の髪に翡翠の瞳、もう一人は金髪に青い瞳、そして狐耳が生えていた。

 

雲雀「うちは気になる方の様子を見てるだけどす。そっちは?」

飛鳥「アタシはただの暇つぶしだよ。しっかし、お前あいつのことが好きだったんじゃねぇのか?」

雲雀「フフフ、ほんまになんも知らへんのどすなぁ?」

飛鳥「あん?どういう意味だよ?」

訝しげに聞く飛鳥に、雲雀はある場面を映したディスプレイを見せつける。

 

飛鳥「なんだこれ……ってハジメ!?」

そう、そこに映っていたのはまたしても、我等がハジメさんであった。

哀れにもまた一人、未来の魔王の虜になってしまっていた。

……いや、猛獣達(女性陣)の前に差し出された生贄(ハジメ)か。

 

雲雀「なんや、あんたも既に会うとったんどすか。」

飛鳥「アンタもって……お前もか!?何時から!?」

雲雀「はろうぃん?っちゅうお祭りの日に縁ができたみたいで……あんたも会うたのやろう?」

飛鳥「あ!そういやあの日は節分だったか……よりにもよって鬼関連かよぉ~!」

そう言って頭を抱えだす飛鳥。

 

雲雀「あと、あの二人も既に向こうにおるらしいわ。」

飛鳥「?あぁ、あいつ等か……でも一体何でお前がハジメと……。」

雲雀「あんたも既に分かってるんちゃうん?逢魔のあんさんに似たなんか、感じひんかった?」

飛鳥「!……やっぱりそれか。」

そう言って飛鳥は、ポケットから一枚の写真を取り出した。

 

雲雀「それ、まだ持っとったんや。」

飛鳥「……まぁな、あの頃が懐かしいな……。」

そう言って二人は、視線をハジメたちへと戻した。

二人の女性の目に映るのは、過去への恋慕か、未来への期待か。それは、恋する乙女のみぞ知る。




ここまで読んでいただきありがとうございます!
今回は急ピッチで仕上げたため、仕上がりが稚拙な部分が見られますが、暖かい目で見ていただけると幸いです!

今回出てきたオリキャラの服装は、とある東のプロジェクトのキャラをモチーフにしてみました。
性格としては、ハジメハーレムに無かった、男勝り系女子です!名前は(仮)です。
最初は俺っ娘にしてみようかと思いましたが、時間がなかったので一人称はアタシです。
次は僕っ娘にでも挑戦してみましょうかねぇ……?後、桃だけにグンバツボディです。
ドンブラ要素も盛り込んでみました、文字通り「縁ができたな!」です。

因みに、2/14のヴァレンタインにも投稿いたしますので、お楽しみに!


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0214:惨劇♥ファニーデイズ

ハジメ
「バレンタインデー……それは、女の子たちが想い人に恋心を伝える日。

バレンタインデー……それは、まさにチョコの祭典の始まりの日。

バレンタインデー……それは、チョコの数を競う男たちの戦いの日。

バレンタインデー……それは、甘くてほろ苦い冬の日。

バレンタインデー……それは、お父さんが愛娘から貰えるチョコを楽しみにしている日。

バレンタインデー……それは、夫婦の愛を確かめる日。

バレンタインデー……それは、一歩だけ勇気を踏み出す日。

バレンタインデー……それは、ある男にとって天国と地獄であった。

今回はバレンタイン、一気に3本立てだ。ただ……
今回はまだ投稿できていない分の最新話に関する情報もあるから、ネタバレされたくない人はブラウザバック推奨だ。
それでもいいって方だけ、このまま読み進めて行ってくれ。

それじゃあバレンタイン特別編、どうぞ!」


~異世界のばれんたいんで~

 

ハジメ「こいつぁ、何かの催しか?」

とある街道沿いの小さな町。

特に何があるわけでもないその町は、現在、妙に浮ついた空気に満たされていた。

旅の途中で偶然立ち寄ることになった俺達は、なんだか甘いような、そわそわするような落ち着かない雰囲気に何事だろうと首を傾げる。

 

ハジメ「すいません、今日は何かお祝い事でもあるんでしょうか?」

ハジメが、近くでお花を販売していたマッチョなスキンへッドのおっさんに尋ねると、

花屋のおじさん「んん?なに言ってんだ、冒険者さんよ。今日は、"フリスの日"じゃないか。

別嬪さん3人も連れて、すっとぼけやがってよぉ。」

そんな答えが返ってきた。どうやら、今日は誰もが知っている祝日らしい

 

詳しく聞いてみれば、なんでも"フリスの日"とは、異性に愛を告白する日とのこと。

フリスという白い花を持って異性に告白し、受け取ってもらえれば永遠に結ばれるのだとか。

周囲を見てみれば、確かにあちこちの店で白い花が売られており、その花束の前では若い女の子達がきゃっきゃっと騒いでいる。

 

ハジメ「なるほど。細かいところは違うが、日本のバレンタインみたいなものか……」

ユエ「……ん?ばれんたいん?」

シア「なんですか、それ?」

ミレディ「ハジメン達の世界にも似たようなイベントがあるの?」

オスカー『ちょっと気になるね、どういったイベントなんだい?』

皆興味津々のようだ、というわけでバレンタインデーについて解説しよう!

 

そもそもバレンタインデーの起源は諸説はあるが、ウァレンティヌス(ヴァレンタイン)という司祭の命日が有名だ。

決して遺体を集める大統領でも、3人くらい妹のいる戦闘型アンドロイドでもない。

後はギリシャ神話のヘラと同一視されるユーノー(ジュノンとも呼ばれる)の祝日でもあるらしい。

 

西暦269年、当時のローマ皇帝、クラウディウス2世(薔薇の皇帝の後継者ではない、苗字は似ているけども)が、「若者が戦争に行かないから、心残りになる家族や恋人を作るのを禁じる。」と命令したが、当時のヴァレンタイン司祭がそれを可哀想に思い、若い兵士の結婚式を内緒で執り行ったという。

 

当然、それを知った皇帝は激怒、命令に背いたヴァレンタインを処刑してしまった。

若い恋人たちの為に自らの命の危険も顧みなかった彼を讃え、以後ローマの国民は彼の命日である2/14をお祈りの日と定めたのであった。

 

そして時は流れ、14世紀頃。

2/14=バレンタインデーとして、恋愛に結びつけられるイベントがスタートしたらしい。

最初はカードだけを渡すだけだったものも、19世紀頃になるとチョコの詰まったボックスを渡すようになったそうだ。

一部では花束を贈る地域もあるそうだ。

 

そこからは各地域で様々な様式美に変化していった。

日本では基本、女性から男性にチョコを渡すことになってはいるが、地域によっては男性から女性、男女ともに渡しあうといった場合もある。

まぁ、日本の場合はマーケティング戦略も兼ねているという説もあるらしいが。

 

因みに、バレンタインデー自体にもバリエーションがあるようで、

一か月後が男性から女性へのお返しを渡す"ホワイトデー"(3/14)、

恋人同士でオレンジを送りあう"オレンジデー"(4/14)、

別れ話を切り出す"メイストームデー"(5/13)に"セプテンバー・バレンタイン"(9/14)、

女性に下着を送る"メンズバレンデインデー"(9/14)に、

何ももらえなかった非リア達が集まって炸醤麺やブラックコーヒーを口にする"ブラックデー"(4/14)

等がある。

 

まぁ、簡単に言えば恋する女の子たちにとって、最大級の告白イベントということだ。

男子にとっても、チョコ一つだけで圧倒的なマウントが取れる日でもあり、若者にとっては重要な日だ。

しかし同時に、狂戦士達の血濡れた惨劇の日でもあり、対イケメン達専門の呪詛師が大量発生する日でもある。

 

現に俺も、小学校の頃からドンパチを繰り広げてきた。偶に捕まってはいけないになったけどな。

最近は懐にも余裕ができたから、クラスの女子達全員に行き渡るようにチョコを作って配ったものだ。

何でお前が配るんだって?男性から渡すのが主流だと思ったからだけど。

まぁ、先手を打つという意味でもあるけどね。

 

ユエ「……ん。つまり、ハジメは、どこかの女から愛の告白を受けていた、と。

ハジメ、その女の容姿と名前を教えて?さぁ、早く教えて。」

シア「えぇっ、ハジメさん、他にも女がいるんですかぁ!?私はいったい何番目の女なんですかぁ~。」

ハジメ「君たち、往来でなんてこと言ってんのさ……。」

大体、俺はまだ学生だ。そういうのはまだ早すぎる……説得力がないが。

 

しかし、これはまずい。光の消えた瞳で迫る美貌の吸血姫と、半泣きになりながら縋り付く可愛い兎っ娘。

周囲から、「まぁ!修羅場だわ!」とか、「あの男、愛人が何人もいるらしいわよ」とか、「弄ぶだけ弄んでポイ捨てするのね!鬼畜よ、鬼畜ぅ!」とか、「目を合わせちゃダメ!妊娠しちゃう!」とか、姦しい声が響いてくる。

その反応にミレディとオスカーが苦笑いしてこちらを見ていた。

 

取り敢えず、ざわざわと人が集まってきたのでいたたまれなくなり、ユエとシアを抱えて迅速な離脱を図るのであった。

しかし、ふむ……こちらでもチョコがあればよかったんだが……ない以上は花束で代用するか。

そんなわけで、俺もフリスの花束を2つ購入することにしたのであった。

 

そしてその夜、町に寄った目的である買い物のため一時的に別行動をとった俺達は、宿の食堂で夕食にありつこうとしていた。

窓際の席に座り、俺は頰杖をつく。ミレディは相変わらずオスカーと談話しており、ユエは俺の膝の上だ。

シアはどうしても自分で作りたいものがあると言って厨房を借りている。

 

シア「お待たせしました~。シア印の特別料理ですよぉ~。」

お、漸くできたようだ。こちとら腹を空かせて待ちわびていたんだよなぁ……ん?

ハジメ「ねぇ、シア。これって、もしかしてだけど……。」

そこにあった料理は、もう故郷に帰るまでは絶対に目にするはずのないものだった。

 

シア「はい、"にくじゃが"ですよ!まぁ、本物を知らないので、あくまでモドキですが。」

成程、そういえば料理が得意なシアに、日本料理について教えたことがあったっけ。

こっちの世界でも味や素材は似たようなものも多いので、俺自身も何度か試そうとは思っていたが、装備の新調などで時間がなかったからなぁ……。

それをまさかシアが最初に作り出すとは……やりおる。

 

シア「それではハジメさん……パクッと行っちゃってください。」

ハジメ「ありがたくいただくよ、それじゃあ早速……。」

いただきますをして、パクリと口にする。そして思わず、「おぉ」と感嘆の声を上げた。

まったく同じとは流石にいかないが、それでも確かに肉じゃがと感じる再現率だ。

 

ユエ「ハジメ?」

シア「ハジメさん!?」

ハジメ「え……あ、あれ?」

何故だろう、いつの間にか涙が出ていた。上手かったからとか、暖かかったとかそれもあっただろう。

でも一番は……懐かしい故郷を思い出してしまったからなのかもしれない。

 

ハジメ「ぐすっ……ごめん、あまりにもおいしくてつい……。」

シア「……それはよかったです、頑張った甲斐がありました。」

慌てて涙を拭う俺、しかしシアは既に察していたのか優しい笑顔で返してくれた。

なのでこちらもお礼にと、「ありがとう。」と言って頭を撫でる。

シアのウサミミが嬉しそうにうっさうっさする。すると、ユエがくいくいっと袖を引っ張ってきた。

 

ハジメ「?どうしたの、ユエ?」

ユエ「……ん。」

ユエが窓の外を指さしたので、その方向へ視線を向ける。するとそこにあったのは……

 

ハジメ「これって……雪?」

チラホラと夜空から舞い散る白いもの、それはまさしく雪だった。

ユエ「……ん。北大陸に雪は降らない。

でも、ハジメの故郷では、ばれんたいんでーの頃は冬で雪が降ってる。だから、魔法で頑張ってみた。」

成程、シアが料理ならユエはシチュエーションということか……泣かせてくれるじゃねぇか。

 

ミレディ「二人とも、ハジメンの話を聞いてた時からいっぱい考えていたもんね!

ミレディさんもサポートした甲斐があったよ!」

そうか、ミレディも手伝ってくれたんだな……ホント、ありがたすぎる限りだ。

 

ユエ「ミレディはオスカーに何か送らないの?」

シア「私たちも手伝いますよ!今からでも遅くはないので準備しましょう!」

ミレディ「ふぇ!?ちょっ、ちょっと待って~~~!」

叫びも虚しく、ユエとシアに連行されていくミレディであった。

 

オスカー『ハハハ、君たちといるとあの頃の賑やかさを思い出すよ。』

ハジメ「そうか、因みにオスカーは何が嬉s「メイドかな!」即答かい。」

その後、突然の冷たくも寒くもない雪にざわつく町の一角で、俺達は最高にフリスの日を楽しんだのであった。

 


 

~思い出の刃煉断院照威(バレンタインデー)

 

ハジメ「う~ん……漸く終わった……ってもう朝か。」

家の台所にて、この日の為に作っていたものがようやく完成した俺は、窓に差し込む朝日を見てそう呟いた。

まぁ、このくらいいつも通りではあるがな。さて、皆の分の朝飯も作るか。

 


 

恵理「おはよ~……って、もう出来てるし。」

ハジメ「おはよう、恵理。今日はあの日だからな、張り切って準備してきたか?」

そう言いながら、俺はトーストにマーガリンを塗る。今日はハムエッグトーストだ。

 

愁「ハジメの方が張り切っていたけどな、今日はバレンタインだからか?」

ハジメ「うん、皆にクッキーを配りに行くんだ。」

菫「あら、先手を打つつもり?お母さん、本命はお父さんだけのつもりなのだけど?」

ハジメ「何でそうなるのさ……ほら、地域によっては男性が渡す側になる場合もあるじゃん。」

因みに、父さんの会社の社員さんや母さんのアシさんたちの分もとっくに作ってある。

後はまぁ、ご自由に食べてほしいくらいだ。そう思いながら、俺は学校に向かう準備を進めるのであった。

 


 

ハジメ「全く……お前ら、揃いも揃って見苦しいぞ。折角お前等に渡す分も持ってきたというのに……。」

「野郎から貰っても……嬉しくねぇんだよぉ……。」

「どうせなら、カワイ子ちゃんから貰いたかった……。」

「リア充め、爆発しろ……。」

「モテ男に呪いあれ……!バレンタインに厄災あれ……!」

……ホント、毎年毎年めんどくさすぎる奴らばかりだ。こっちは苦労して作ってきているというのに。

何があったのかって?決まってんじゃん。嫉妬した非リアに襲われたから返り討ちにしただけだよ。

 

香織「おはよう、ハジメくん!今日は大荷物だね、中は全部チョコ?」

ハジメ「あぁ、こっちがクラスの皆にあげる用。

こっちは前に助けた人たちから貰ったやつで、学校が終わり次第父さんと母さんの職場の人たちに、後孤児院の子供たちやスタッフさんにも、それぞれ届けに行く予定さ。」

そう言って俺は持ってきた包みをそっと下し、片方を机の上に乗せた。

 

ハジメ「今回は皆の顔をプリントしたクッキーにしてみた。因みに、アタリは苺のジャム入りだよ!」

そう言って包みを開け、中に入っていた箱のふたを開ける。

そこには昨夜から焼き上げ、ナイフで丁寧に顔をプリントしたクッキーが入っていた。

女子は勿論、男子に先生の分もある。

 

「わっ!皆の顔が書いてある!」

「しかもそっくり!それに美味しい!」

「ホントにこれ一人で作ったの!?」

ハジメ「あ、顔のイラストはないけど追加分ならあるよ。いr『いる!』早いな……。」

女子からは出来栄えに大絶賛のようだ。上手くできてよかった。

 

「くっ……悔しいが、旨い……!」

「これが……モテ男の常識ということか……!」

ハジメ「いや。普通は女子にしか作らないでしょ。

俺はもらえてない人たちが悲しい思いをしないようにって思ってやっただけで、基準にしちゃダメな奴だから。」

トシ「寧ろ自覚ある方がおかしいと思うんだが。」

男子たちも思うところはあるものの、気に入ってくれたようだ。

 

ハジメ「……まぁ、一番の理由は浩介の為なんだけどね。

また義理チョコも0ってことになったら存在ごと気配を消しかねなさそうだから。」

浩介「どうしよう、ハジメの気づかいに思わず泣きそうだ……。」

俺の発言に思わず落ち込む浩介、それに心当たりがある永山君と野村君は何処か気まずげだ。

 

俺も本人から聞いたことだが、小学生&中学生時代、浩介はクラスで一人だけチョコがもらえなかったらしい。

それも本命だけでなく、クラス全員に配っていた分すらもらえていなかった。

それに気が付いた永山君と野村君がチロルチョコを半分だけあげたことが印象的だったそうだ。

聞いた当時は、あまりにも可哀そうすぎて同情を禁じえなかったくらいだ。そんな浩介に、幸あれ。

 

愛子「お、遅くなりました~!」

おっと、漸く愛ちゃん先生も来たようだ、こっちにも渡すとしますか。

……そういえば、なんか忘れているような気がするが……。

 

愛子「あ!これ、中に苺のジャムが入ってますね!」

……忘れてた。そういえばそうだった。

クッキーの絵は焼いた後に彫ったから、どれがイチゴジャム入りかは俺も知らなかったが……

まさか先生がそれを引くとは。

 

ハジメ「……先生、それアタリ。」

愛子「え?アタリって……えぇぇっ!?」

この後、何を勘違いしてしまったのか、「ダメ!ダメです!南雲君!南雲君は生徒で、私は教師なんですぅ!

だからそれは……それだけはイケナイことなんですぅぅぅ!」と叫んで走り去っていってしまい、この後、弁明に追われる羽目になってしまったのであった。

香織を説得するのが一番大変だった。

幸いにも後日、チョコパーティーを開くことで手打ちにしてもらったが……どうしてこうなった。

 


 

~ハッピー・バレンタイン・ドリーム~

 

ハジメ「……ここは?」

ふと目が覚めると、そこは桃色が大半を占めていた空間だった。

はて、確かフェアベルゲンでシアに膝枕をしてもらっていたはずなんだが……

そう思って状況把握をしていたその時であった。

 

???「あっ、いたいた!お~い!」

ハジメ「うん?」

何処からか呼びかける声が聞こえてきたので、ふとその方向を見れば、紫がかった黒髪のロングヘアーと、星状のハイライトが入った藍色の瞳の色が特徴的な美少女がこちらに向かってきていた。

 

???「やっと会えた!もう、急にいなくなっちゃったから心配したんだよ?」

……何故だろうか、何処かであったような気がするが……靄のようながかかっていて思い出せない。

彼女とは一体、何処であったのだろうか……?

 

???「全く……妻の顔を忘れるなど、冗談にしては悪趣味ですよ、我が夫。」

そう言って現れたのは、青地に白と黒のドレスを着た白銀の髪の美女だった。

彼女にもどこかで面識があった気がするのだが……如何せん名前が出てこない。というかそれ以前に、だ。

 

ハジメ「夫?俺が?」

まだ誰とも結婚式は挙げていないんだが……いや、それよりもこの二人とは何処で出会ったんだ?

昔の俺の行動でそういった経験はなかったはず、なら二人とはどういった面識なんだ?

ダメだ、情報が少なすぎるどころか全くないからさっぱりわからん!

 

???「……成程、そういえば名を忘れていましたね。私はモルガン、妖精國元女王であり、貴方の妻です。」

モルガン、ね……最後のはほっておくとして、妖精國か……なんとなく聞き覚えがあるような気がする。

???「じゃあ、次は私だね!私はアイ、星野アイだよ!アイドルやってて、ドームライブの時に会ったよ!

それで双子の母親やってるんだ☆」

ん?ドームライブ……双子……アイドル……

何だ、この記憶のピースが合わさりそうなのに手がおぼつかなくてうまくかみ合わないような違和感は……?

 

ハジメ「……二人とも、俺と会った時に関すること、何でもいいから一つずつ言ってほしい。

もしかしたら、思い出せるかもしれない。」

モルガン「いいでしょう、ですが覚悟してください。私と貴方は1万年と2千年前から出会っています。」

ハジメ「創聖合体かよ。」

アイ「私も、六兆年前からいっぱい思い出あるから!ぜぇーんぶ、聞かせてあげる!」

ハジメ「せめて3回くらい前の前世にしてくれ。」

そこから俺は二人から関する情報の収集を開始した。

 

モルガン「雨だれの音、私の故郷(くに)、6つの鐘、血染めの円卓……」

ハジメ「!なんか薄っすらと見えてきたような……。」

アイ「えっと……アクアとルビー、ストーカー、高千穂、佐藤社長……」

ハジメ「う……あ、なんかあともう少しな気がする!」

すると二人は、俺の耳元でこう囁いた。

 

アイ「……愛してる。」

モルガン「……助けて。」

ハジメ「!」

 

 

――愛してる。あぁ、やっと言えた。この言葉だけは絶対、嘘じゃない。

 

 

――ハジメ……助けて……!

 

 

ハジメ「あーっ!思い出した!」

そうだ、不思議な夢を見るたびにつけていた備忘録でおんなじことがあったような気がする。

内容をよくよく思い返してみれば、二人の言っていたことと合致する箇所が多い。

 

アイ「思い出した?」

ハジメ「あぁ、アイ、だったか。確か出会った時は大量出血していたよな……あの後、大丈夫だった?」

アイ「うん、ハジメ君のおかげでね!アクアもルビーも会いたがっていたよ!」

そうか……あの双子も元気にしているのか。それは良かった。

 

ハジメ「それと……久しぶりだな、モルガン。いや、トネリコの方がいいか。」

モルガン「!えぇ……今だけは、その名で呼んでもらっても構いません。」

そう言ってモルガンことトネリコは、最初に出会ったあの時のような柔らかい笑みを浮かべた。

そのいつまでも変わらない笑顔を、微笑ましく思った。可愛いなぁ、と。

 

モルガン「か、可愛いは余計です……。」///

アイ「照れているところも可愛いよね♪」

ハジメ「勿論、いつでも可愛いさ。」

モルガン「なっ!」///

思わず顔を赤らめて、照れるトネリコ。はぁ~、心が癒される……。

 

ハジメ「ところで、二人はどうしてここに?」

アイ「ハッ!そうだった、忘れちゃうところだった!」

モルガン「そうですね、では本題に入りましょう。」

そう言うとモルガンは魔術でゲートのようなものを開き、そこから2つの何かを取り出した。

 

モルガン「たしか、当世では"ばれんたいん"なる行事があったはずです。

そちらの世界ではすでに終わってしまったかもしれませんが……。」

アイ「これは、私たちが一生懸命考えて作ったプレゼントだよ!受け取ってくれるかな?」

そう言って二人は、アイは赤色の箱を、モルガンは青色の箱をそれぞれ差し出してきた。

 

ハジメ「!それはとても嬉しいな、ありがとう!開けて見てもいい?」

アイ「勿論!」

モルガン「えぇ、似合うと思いますよ。」

二人から返事をもらった俺は、二つの箱を同時にあけた。そこに入っていたのは……。

 

ハジメ「これは……腕輪だ。それに両方ともデザインが綺麗だね。」

赤の箱には、ルビーとアクアマリン、そしてダイヤモンドの原石が埋め込まれた、クラダという両手で冠をかぶったハートの意匠が施されている腕輪が入っており、青の箱には、全体がティールサファイアで出来ているハボタンの中心に、パライバトルマリンが埋め込まれた腕輪が入っていた。

早速両方とも左腕につけてみる。右腕は殴り合いで使い過ぎるので止めておいた。

 

ハジメ「おぉ~、しっくりくるなぁ。二人ともありがとう!」

モルガン「フフッ、どういたしまして。」

アイ「こちらこそ、喜んでもらえて何よりだよ!」

そう言ってほほ笑む二人の笑顔は、何処までも眩しかった。

 

モルガン「さて、そちらへのプレゼントは済ませたことなので……メインと行きましょうか。」

……あの、モルガンさん?何故、腕をつかんでというか力強っ!?

アイ「そうだね~……ここでめいいっぱい、おもてなししてあげないとね♪」

アイさん?君も何故腕にしがみついているんだい?というか「当てているんだよ♪」思考読まないで!?

 

モルガン「バーヴァン・シーにもそろそろ妹か弟が必要になるときでしょう。

なので今から子作りを始めます。」

モルガンさん!?いきなり何故そんなことを!?

アイ「私も、ルビーをお姉ちゃんにしてあげたいなぁ。

アクアとユニットデビューもさせたいし、男の子がいいかな?」

アイさん!?貴女アイドルですよね!?そんなポンポン作るのはまずいんじゃないですかね!?

 

モルガン「心配しなくとも大丈夫です、私たちは経験者ですので手取り足取り優しく教えてあげます。」

そういう問題じゃないから!てか悪いか、未経験で!?

アイ「安心して、私達だけ見ていればすぐに終わるから。ベッドもシャワーも用意してあるし。」

そこでもないから!?後、子供たちからの同意は!?

 

アイ「二人ともOKだって!」

じゃあ目の星が黒色なのはなんでなんだよぉぉぉ!?そして心を読むなぁ!

モルガン「焦らずともよいではないですか、時間はたっぷりとあります。夫婦仲を深め合いましょう。」

ダメだこいつら、話が全く通じねぇ……!そして変身用の両腕を封じにきてやがる……!

って、あれ?時間停止もライダーの力もなんでか使えない……これ、詰んでね?

 

モルガン「さぁ、私たちと一緒に……」

アイ「一つに、なろ?」

ハジメ「ちょっ、ホントに待って!話を聞い、あ、やめ、アーッ!!!」

抵抗もむなしく俺は押し倒され、そして二人が覆いかぶさり……

 


 

シア「……てください、起きてください!ハジメさん!」

ハジメ「ウワァァァァァッ!?」

シア「わわっ!?ど、どうしたんですか、もう……。」

はぁっ……はぁっ……夢、だったのか?

 

ハジメ「ご、ごめん。ちょっと悪い夢を見ちゃって……。」

いやぁ、マジで危なかった……かかった吐息の熱を感じた辺りで目が覚めて本当に助かった……。

起こしてもらうのがもう少し遅かったら、この作品が色々と危うかったな……。<メメタァ!

そして起きた後も……いや、考えたくもない。きっととんでもない目に遭うのは間違いないだろう。

 

シア「って、あれ?ハジメさん、その腕輪は?」

ハジメ「へ?……これは。」

シアに指摘されて腕を見れば、夢の中でもらった腕輪があった。それも両方とも。

そういえば"そちらへの"って言ってたような……もしかしてこっちの世界に送ったってことか?

だとしたら……それはそれで嬉しいかな。そう感じて思わず表情が緩んだ。

 

シア「じ~~~……。」

……やってしまった、シアがいることを忘れてた。

シア「……ハジメさん、後で皆さんと一緒にお話ししましょうか?」

ハジメ「……はい。」

あぁ、これはもう長い夜になりそうだな。そう思った俺であった。

 

その後、シアと共に戻って来た俺は、ユエ達に早速説教を食らうことになった。

腕輪に関しては、俺が必死の交渉を重ねた結果、何とか処分されずには済んだ。

が、序に発見されてしまった俺の備忘録を音読されてしまい、羞恥心のあまり赤面したことは言うまでもない。

つくづく自分がこんなにもモテることに胃痛がしたことはない俺であった。




ここまで読んでいただき、ありがとうございます。

さて、今回のバレンタイン特別編いかがだったでしょうか?
1つ目のお話は恒例通り原作書籍にもあったお話"異世界のばれんたいんで~"が元になっております。
他二つはオリジナル展開です。今回はオリキャラなし他作品キャラありにしてみました。

時系列としては、2つ目は異世界転移前、もう一つは原作124話"フェアベルゲンの夜"です。
因みに、何故モルガンと星野アイなのかと言うと、口調が書きやすかったのと、アンケートで人気があったからです。

次回の特別編はもしかしたら4/1に投降するかもしれませんので、お楽しみに!それでは、また次回!


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特別編:新番組予告集+設定&物語の流れについて

うp主
Ladies&Gentlemen!お待たせいたしましたァ!
ハジメ
喧しい!うっとおしいぞこのダボがァ―!!
うp主
「ふぉお!?」
ハジメ
「序に、KO☆RO☆SU。」(メツィライ・カタストロフを構えて)
うp主
「はい死んだー!」ズダダダダダダダン!!!」
ハジメ「というわけで、今回は俺とうp主の二人で進めていきたいと思っている。
オラ起きろ。」
うp主
「うぅ……こんなハジメさんファイッ嫌「フンッ!」Door!?
ハジメ
「んなことよりさっさと進めろ、茶番が長いと読者さんも飽きるだろうが。」
うp主
「……ならせめてこれだけ言わせてくれ。
ククル姐の鍛えられたボディ、目に刺さるニャン!おっp「始まるよー。」マッテッテバッ!?」
ハジメ
「取り敢えず、阿保主はほっといてくれても構わん。
存分に読み進めて言ってくれ。」
うp主
「チョーユルサン!チキショーメー!〈ガピー〉……アレ?まさか……!?」
ハジメ
「いい加減黙りやがれ。」
うp主
「ぐぉぉぉ……自分の作品に殺されるとは……
これもうp主の運命(さだめ)か……。腐フ、あなたもどうぞ?」
ハジメ
「さっさと逝け。」
うp主
「エェ!?マテマテマテヲ……。」


新番組その1

 

かつて、鬼達に「最強の柱」と恐れられていた男がいた。

男の名は「継国縁壱」。別名を、始まりの呼吸の剣士。

 

彼の道は、志半ばで尽きてしまう運命にあった。人の身であるが故に、限界があった。

しかし、何の因果だろうか。もし彼を生かそうとするものが、この世にいたならば……

 

もし彼が、友の子孫が戦い抜く時代に、タイムスリップしてしまった時……

果たして無残は、どのような生き恥を晒すのだろうか!?

 

これは、運命の悪戯によって現代に舞い戻り、更なる強さを得た一人の男による、復讐と正義の戦いの物語である!

 

「火之神は、弐度舞う。」

 

"鬼滅の刃-赫刀乱舞-"

 

 

新番組その2

 

皆大好きな正義のヒーロー、孫悟空。

ドラゴンボールにとっては無くてはならない、主人公のサイヤ人。

そんな彼がもし、無印本編前からとんでもない修業をこなしていたら……?

これは、後に"宇宙最強の男"と呼ばれるサイヤ人の、もしもの冒険譚である。

 

「オッス、オラ悟空!オラ、もっとつえぇ奴に出会いてぇぞ!」

 

"ドラゴンボール One Dream"

 

 

新番組その3

 

クォーツァーを倒し、世界と平成を救った常盤ソウゴ。

しかし、クォーツァーが起こした事象改変の影響は、時空に歪を起こしてしまった。

 

そこに吸い込まれ、目が覚めたソウゴがたどり着いたのは、2030年。

とある科学者によって作られた、機体が空を舞う世界だった……。

 

これは、最高最善の魔王と、その愉快な仲間達による、新たな冒険譚である!

その愉快な仲間に選ばれたのは……!

 

「祝え!」忠実なる側近(祝福の鬼)

 

「お会いできて、光栄の極み!」新しき時代から来た科学者(ライダーオタク)

 

「ここからが、ハイライトだ。」2000年を生きたスター(・オブ・ザ・スターズ・オブ・ザ・スター)

 

「やはり私はァ、不滅だぁー!!」神を名乗る不審者(ゾンビ)

 

「大丈夫さ、明日のパンツがあるから。」パンツ一丁の(OOO)

 

……これ、大丈夫か?

「なんか、いける気がする!」

 

"インフィニット・ジオウ~瞬瞬必生~"

 

 

新番組その4

 

かつて、この大いなる海にて、「究極」とされる悪魔の実があった。

それは、この世の支配者にして大いなる神の化身が宿っているとされている。

そして、それに選ばれた者は、天龍すらも地に落とす力を手にするであろう。

 

その実の名は、「ハキハキの実」。またの名を、「ヒトヒトの実:モデル・覇神バロール」。

その実を食べた男が一人、この大海賊時代で大暴れする!

 

これは、ロジャー海賊団にて一度は船員(クルー)だった男、"ハルト・D・アークライト"による、世紀のショータイムである!

 

「新時代を作ってこい!若造共!」

 

"その男、海賊に付き。"

 

 

新番組その5

 

ある日の夜、宇宙(ソラ)から降ってきた一匹の龍と、記憶喪失の少年が出会った。

この日、運命の歯車が動き出した。

 

様々な種族が潜む町、駒王町。

そこに佇む一軒の孤児院にて働く少年、万丈辰巳。

そして、その横で飛び回る機械の龍、"青龍神"エボルト。

 

これは、一人と一匹が紡いだ、奇跡の激闘譚である。

その拳に、絆と闘志を宿して、共に歩むは、修羅の道。

その果てしない道にあるのは、希望か、絶望か。

 

Are you ready?

 

「今の俺達は、」

「負ける気がしねぇ!」

 

"ハイスクール・Cross-ZEvol"

 

 

新番組その6

 

三度の飯より麻婆好き、でもそれよりも麻婆好き。

そんなキチガイじみた座右の銘を持った男、泰山辛三(しんぞう)

 

そんな彼が、何の手違いか人類最後のマスターとして選ばれてしまった!

これは、そんな男が描いた、唐辛子たっぷりな激辛ストーリーである!

 

ストーリー?何それ辛くておいしいの?感動の別れ?そんなので喉潤せるの?

運命なんて赤一色に染めてやる、神だろうと獣だろうとまとめて麻婆食わしてやる。

そんな麻婆狂な男の人理修復譚である。

 

「そんなことより、麻婆食おうぜ。」

 

"Fate/Grand Ma-bo"

 

 

新番組その7

 

帰り道にて、犯罪者に襲われそうになった子供を庇った主人公、村上刀真。

そんな彼は、異世界転生によってゲイムギョウカイへと転生することに。

 

これは、そんな彼が、愛する女神たちと、ドタバタしながらも絆を紡ぎ、

そしていずれ愛に発展し、その想いが奇跡を起こす、激闘と共に紡いだ、大いなる冒険譚である!

 

10の龍が集い、聖剣が光り輝く時、そこに希望の戦士が生まれるであろう。

15の女神の想いが重なる時、永遠に紡がれる物語が生まれるであろう。

 

「物語をハッピーエンドにするのは、俺だ!」

 

"超次元剣聖伝クロスセイバー"

 

 

新番組その8

 

ディオの策略によって、エリナに悲しい思いをさせてしまったジョナサン・ジョースター。

そんな彼は一念発起し、己を鍛えることにしたのだった。

 

そしてそれから7年後、彼は"進撃の紳士"と呼ばれるようになっていた!

これは、そんな彼とディオの、奇妙な友情を描いた、勇気の冒険譚である!

 

そして、その迸る筋肉、圧倒的なパワー、常識破り過ぎる力は、世代を超えて受け継がれる……!

目撃せよ、その血の運命(さだめ)!

 

「僕が今まで食べたパンの枚数は、712枚(ナイフ)だァ―!!!」

「WRyyyyy!?」

 

"ジョジョの奇妙な冒険~アルティメットマッスル~"


 

うp主「以上が、書きたいと思っている作品の内容です!」

 

ハジメ「結構あるな……どれも怖いもの見たさでは面白そうだな。」

 

うp主「因みに、うp主がこの中で一番強く書きたいと思っているのは、5のクロエボだ。

理由としては、前々から構想自体が出来上がっていたからだ。」

 

ハジメ「ISも構想はいくつかあったんじゃなかったっけ?」

 

うp主「私、束推しなんですよね。だから他よりも作品の系統がちょっと特殊というか……。」

 

ハジメ「俺の作品も十分異色だと思うぞ。んで、どんな感じのがあったんだ?」

 

うp主「ほぼ仮面ライダーとのクロスオーバー。ゲンムになって悪役ムーブかますのもある。

それ以外だと、主人公がゾンビみたいな感じになって束に復讐しようとしたり、逆に異世界から帰って来てイチャラブしたりする奴。」

 

ハジメ「設定濃いなオイ。てか、他のヒロインとかもあったでしょうに……。」

 

うp主「原作ヒロインは原則主人公とくっつけたい主義なので。」

ハジメ「本音は?」

うp主「主人公が天然ジゴロ過ぎるから、荒治療してでも気づかせないといけないから。

ハジメ「下世話か。

 

うp主「まぁ、ヒロインにするとしたら、シャルたんかたてなっしーですかね。」

ハジメ「その理由は?」

 

うp主「声とキャラと位置づけがしやすい。前者は正直箒よりヒロインしていた時期あったし……

後者は演技とはいえお色気展開が多かったからかな。まぁ、嫁にするとしたらシャルたんだな。」

ハジメ「お前にそんな未来はない。」

うp主「夢見たっていいじゃない。人間だもの。みつを。」

ハジメ「誰がみつをだ。

 

うp主「因みに、クロスオーバー予定だったのはビルド、ゼロワン、リバイスだったかな?」

ハジメ「どれも科学による発明が進んだ作品だな。理由は?」

うp主「ビルドは他の作者様からの着想を経て、思えばここからが始まりだったんだよなぁ~。

個人的にはクロエボが大好きだから、束によくビルドに変身させていた。」

 

ハジメ「どちらかと言うと、エボルの方が似合っていそうだぞ?

人工エボルラビットだなんて一部で呼ばれているし。」

うp主「だまらっしゃい。ハザードトリガーつけるぞ。

ハジメ「ハザードレベル1.0が抜かしおる。

 

うp主「ゼロワンは如何にも合いそうだったから、02出てきてから大幅修正したけど。

前までは設定書きなぐっていたけど、今じゃクロエボの方が書きたい欲強いかな?

なんか……色々、増えているじゃん。主にアークのせいで。

(滅亡迅雷、サウザー、ローンウルフ、ゲンム……)」

 

ハジメ「アイツに関してはもう諦めろ。てか、その設定だけでも載せないのか?」

うp主「めんどい上に、内容ほぼ忘れた。だから書けない。」

ハジメ「コイツ……サボりたいだけだな。」

 

うp主「リバイスはボルケーノ辺りからかな?個人的にはサンダーゲイルとエビリティライブがピンと来た。

最初は、オリ転生者に対する復讐もの路線だったけど、バイスのノリからふとしたきっかけでパターンもありかな?って思った。」

ハジメ「あぁ、そういえばOPのダークな感じ好きそうだったよな。」

 

うp主「正直、ゼロワンとセイバーのOPが明るくてなかなかいいものだったから、ちょっと衝撃受けた。

でもなんだかんだハマった。今作のギーツも同じ感じでハマった。」

ハジメ「OP曲で大体決めているよなお前。因みに、一番好きなOPは?」

 

うp主「う~ん、令和は4作とも好きだな。

平成はアギト、ブレイド、電王、ディケイド、ダブル、ビルドかな。」

ハジメ「ジオウを入れろジオウを。

 

うp主「ジオウはなんか、ミステリアス過ぎて……それにあれ魔王専用曲みたいなものだし……。」

ハジメ「言わんとしとることは分かるが……ギーツもそんな感じじゃなかったか?」

うp主「あっちは復讐系物語のOPにしてもよさそうだったから。

ハジメ「お前一回カイザギアつけろ。

 

うp主「後一時期、ワンパンマンとリリカルなのはのクロスオーバーにもハマっていた。

境界線上のホライゾンとジオウのクロスオーバーものも考えていた。」

ハジメ「そっちはどんな感じだったんだ?」

うp主「前者は設定がごっちゃになった上に、他作者様から着想得たから被るのが怖かった。

後者はストーリーがあんま分からん。精々英国上陸の所まで。

こっちも他作者の作品見ながら考えていた奴だし。」

 

ハジメ「自分で買ったらどうなんだ。」

うp主「巻数多い上に、クロエボよりも書きたい欲ないからパス。」

ハジメ「ハイスクールD✖Dの方が巻数多い上にややこしいだろうが。」

 

うp主「正直ハイスクールD✖Dは、他作者のを読んでいた上に、図書館でも読んでいたから京都辺までは覚えている。

文化祭辺からはうろ覚えで、11巻からはもうストーリーの概要しか分からん。」

ハジメ「何でそんな状況で書きたい欲高いんだ。」

うp主「オリ主とメインヒロインのストーリー掘り下げている内に、概要から章の設定とかオリジナルフォームとか思い浮かんだから。

ハジメ「何でそんなオリジナル展開望んでいるんだ。

 

うp主「だって、クロエボ登場終盤にしたいし、それまでに既存フォームじゃ尺足りないじゃん。」

ハジメ「ビルドを使えビルドを。」

うp主「この作品はあくまでクロエボ主体だから、ビルドは出さないつもりなんだよ。

出すとしてもハザードレベル上げの特訓時ぐらい。

まぁ、オリジナルフォームは他の特撮からとっているのがほとんどだ。」

ハジメ「まぁ、それならドラゴン系とかで思い浮かびそうだしな。」

 

うp主「後、クロエボじゃなくてキバのパターンもいいかなって。

数人の他作者様が書いていたから自分も書いてみようかな?って思って。」

ハジメ「ほぅ、そっちは?」

うp主「クロエボ程設定が出来ていない上に、書きたい欲がそこまでないから……。

それに6巻辺りで、主人公がヒロインと一夜明かすとこまで考えた時点で、力尽きた。」

ハジメ「なんでそこで力尽きるんだよ……。

 

うp主「まぁ、オリジナルフォームは考えてはいたんだけどね。

やっぱりヒロインのCVをセキレイの結ちゃんにしたからかな?」

ハジメ「性癖詰め込んだだけじゃねぇか。

 

うp主「まぁ、原典のヒロインだったら、イリナかロスヴァイセさんですかね?」

ハジメ「さっきのヒロイン云々はどうした。」

うp主「部長とかオカ研初期面子のヒロインは、あまり手を出したくないというか……。

それに二人が堕天した時の姿も見てみたいなぁって。」

ハジメ「ギフスタンプ押してやろうか。

 

うp主「ドラゴンボールはブロリーが好きだな。MADでも人気だし、強くてかっこいいから。」

ハジメ「じゃあオーマジオウとどっちが好きだ?」

うp主「俺に破壊か創造のどちらかを選べと!?

ハジメ「誰もそんな大層なこと聞いてねぇ。

うp主「だってこれさぁ、子供にお寿司かハンバーグのどっちが好きか聞くようなもんじゃん。」

ハジメ「そんな年じゃないだろうに。」

 

うp主「鬼滅は狛治さんがいい人過ぎる……。縁壱さんに至っては、人間やめていると思う。」

ハジメ「俺は?」

うp主「魔王。

ハジメ「即答かい。」

うp主「ヒロインは皆くっついているからパス。それよりも無残ボコしたいかな。」

ハジメ「まぁ、あそこはカップリング率激しいからなぁ……。」

 

うp主「ONE PIECEは最初、ヒロインでピンとくる子がいなかったから、そこまで決めていなかったな。」

ハジメ「ヤマトが来てからだったよな、お前が書こうと思った時って。」

うp主「鬼っ娘、巨乳、純粋、僕っ子、CV桜井さん……どれをとっても最上級じゃないですか。」

ハジメ「ストーリーじゃないんかい。

うp主「それもある。でも親父、戸愚呂じゃん。」

ハジメ「確かに筋骨隆々だけども。

 

うp主「ネプテューヌは、女神化抜きならノワール。

女神状態ならパープルハート、アイリスハート、オレンジハートだな。」

ハジメ「全員巨乳なうえに、女神化面子プラネテューヌ勢じゃないか。」

うp主「因みにベールを抜いた理由は、一瞬姉なる者がよぎったから。」

ハジメ「どこの水着聖女だ。

 

うp主「FGOは最初、CCCの動画から興味を持ち始めたかな。

そこからキャス狐が好きになって、声優についても知るきっかけになった。」

ハジメ「成程、原典ということか。」

うp主「そこからFGOにも興味を持っていったなぁ。

因みに、FGOで最初に好きになったのは、沖田オルタちゃんだな。」

ハジメ「いやでもお前確か、新宿後から調べたんじゃなかったか?」

 

うp主「正直、チラ見するレベルだったからなぁ……。

でも確かに、下総の挿入歌や女性鯖に興味はあった。」

ハジメ「そう言えばその時、和楽器のグループにもハマっていたんだったな。」

うp主「あぁ、そして2018年、ジオウの始まりの年。

俺はFGOを始めた。そして同年10月にデータが飛んだ。」

ハジメ「スマホ容量しっかりしろ。

 

うp主「当時はスマホゲー=課金系統しか知らなかったからなぁ……。

その後、アズレンで指揮官やったけど容量関係で止めちゃったし。

そしてクラッシュフィーバーで、スマホデータ諸共クラッシュした。

ハジメ「散々だなオイ。

 

うp主「正直アズレンはまだ続けたかったなぁ……。折角エンタープライズと結婚できたのに……。」

ハジメ「今からやればいいんじゃないか?」

うp主「今やっているゲームだけでも、もう手一杯なんだが。

ハジメ「そこは嫁への愛を貫け。

 

うp主「そこから他のゲーム、特にハマったゲームをやり続けていたんだが……。」

ハジメ「うん?どうした?」

うp主「そのゲームに課金したにもかかわらず、1年位で終わった。つまりは唯の無駄な散財になった。

泣きたくなるぜはっはっはっ(涙)」

ハジメ「涙拭けよ。……因みに、アズレンは他に誰が好きだったんだ?」

 

うp主「そうだな、当時だったらロイヤルはベルファスト、ユニオンはエンタープライズ一択だった。」

ハジメ「アニメでバディゴーしていた二人か。」

うp主「重桜は当時ヤバい奴のイメージが強かったからなぁ……でもケモ耳は大好きだったし。

しいて言うなら、高雄や時雨、蒼龍が良かったな。特に高雄のツンデレはたまらん。」

ハジメ「お前ツンデレポニテ本当に好きだなオイ。

うp主「鉄血はオイゲン、ツェップ、ビス子の3タテだったかな?特にオイゲンはエロかった。」

ハジメ「そう言う奴ほど弄られやすいことに何故気づかん。」

 

うp主「それで、現在のverについて調べた結果、ユニオンはニュージャージーやクリーブランドもいいと思ってしまった。」

ハジメ「堂々と浮気かオイ。

うp主「後は、北方のソビエツカヤ姉妹だな。特にベラルーシの下乳がたまらん。」

ハジメ「変態だな。

 

うp主「重桜は信濃もグッと来た。赤加賀よりも落ち着いていそうだから。」

ハジメ「ほぅ、意外だな?」

うp主「うん?どういうこと?」

ハジメ「どうせ樫野の乳に挟まれたいとか言い出すかと思っていた。

うp主「ぶっ飛ばすぞ。

 

ハジメ「ところで、最初の二人が好きな理由は?」

うp主「声、銀髪巨乳、戦い方、性格、服装……数を上げたらきりが無いな。」

ハジメ「ガチ惚れじゃねぇかオイ。

 

うp主「FGOは段々と推しが増えていったな。

第一部は、きよひー、アタランテ姐さん、スカサハ師匠、エレちゃん、ティアママ……。」

ハジメ「人類悪まざってんぞ。

うp主「1.5部からは巴さん、千代ちゃん、武蔵ちゃん、団蔵ちゃんの下総4人娘だな。」

ハジメ「なんか他の男にとられそうな4人だな。

うp主「止めろ!そんなこと言うんじゃあない!

ハジメ「ハイハイ分かったから。」

 

うp主「第2部は今の所、オルタンテ姐さん、スカディ様、良ママ、コルデー、伊吹ちゃん……。」

ハジメ「さっきから巨乳が多いんだが。」

うp主「そしてククル姐さん、登場後から独走状態のモルガン陛下くらいだ。」

ハジメ「一人だけ向けている情熱の量が違うことだけは良く分かった。だから落ち着け。

 

うp主「イベントは沖田オルタちゃんを始め、セイバーリリィ、頼光ママ、メルト、水着ニトクリス……。」

ハジメ「おっと、ここでばらつきが出て来たな。」

うp主「ブラダマンテ、式部さん、魔王ノッブ、景虎さん、バニ上、水着御前、ミス・クレーン……。」

ハジメ「あ、やっぱ固まってきた。

うp主「卑弥呼ちゃん、ゼノビアさん、コヤン、水着スカディ様、水着伊吹ちゃん、水着ワルキューレ…。」

ハジメ「2022の水着多いな。」

うp主「壱与ちゃん、駒姫ちゃん、悔しいがレディ・アヴァロンだな。」

ハジメ「出たな女体版ろくでなし。

 

うp主「因みに、アルトリアはランサー版の方がくっころ感出ていそうだと思うのは、俺だけだろうか。」

ハジメ「薄い本の読み過ぎだ、馬鹿垂れ。

うp主「カーマちゃんに入れたら、なんか堕落しそうだからやめた。」

ハジメ「それ自分がダメ人間宣言していることになるぞ?

 

うp主「後、パールヴァティーやフランちゃんも入れたかったけど、彼氏さんが睨んでいるからやめた。」

ハジメ「他の鯖にも旦那さんがいるんだが?」

うp主「そんなこと言ったらおしまいやろがい。結婚しても平気で浮気しそうな尼僧もいるからいいだろ。」

ハジメ「あれが男と子を成すとは思えない。それ以前に、年齢的に無理があるだろ。

 

うp主「男性鯖はじぃじが一番だな。あんなに強くてかっこいいアサシンは二人といないだろう。」

ハジメ「気持ちは分かる。だが、ウチの遠藤も負けてはいないぞ。」

うp主「後、村正、言峰、アーサー、一ちゃん、山南さん、シャルル、アチャ男、良く死ぬランサー……。」

ハジメ「結局イロモノかい!

うp主「坂本さん、征服王、金時(ライダーか平安京霊衣)、アキレウス、賢王様、ジーク、斬ザブロー…。」

ハジメ「一人だけロボじゃねぇか!?

うp主「小太郎、燕青、以蔵さん、土方さん、項羽さん、エドモン位か。以上だ。」

ハジメ「う~ん、見事にバラバラでぐだぐだですなぁ。」

うp主「瞬瞬必生だから、是非もないネ!」

ハジメ「そう言ったら纏められると思うな。」

 

うp主「とまぁ、裏話としてはこんな感じです。設定としては簡単にこうです。」

 


 

設定

「ネタバレ注意!!!原作のネタバレもしてほしくない方はブラウザバックをどうぞ!!!」

 

 

 

 

Are you ready?

 

 

 

 

~鬼滅~

神無月紫苑:鬼殺隊の当時の柱格であり、元神社の巫女だった女性(オリキャラ)。

鬼と死闘を繰り広げている中で縁壱と出会い、彼に一目ぼれする。

妻子がいたこともあってか、彼に配慮してその気持ちを打ち明けずにいた。

 

しかし、当時鬼になって産屋敷の血筋を絶やそうとした黒死牟から、当時の親方様を守るために致命傷を負ってしまう。

死の間際、縁壱に時間が無いことを悟った彼女は、一族に伝わるおまじないを縁壱にかけ、思いを伝えて息を引き取った。

 

そのおまじないこそ、もう一度現世に舞い戻ることが出来るおまじないであった。

この行動により、縁壱は因縁に決着をつけることに!

 

~ドラゴンボール~

悟空が幼いころから筋トレを続けた結果、一撃ヒーロー見たくなってしまうおはなしです。

祖父の孫悟飯は、悟空が月を見て大猿にならなかったので、生存です。

 

後、早い段階で超サイヤ人に目覚めます。

ラディッツやナッパといった、原作死亡キャラも生存させる予定です。

 

そしてベジータ涙目確定。プライドが最初っからズタボロ状態。

多分ブロリーが来たら、諦めて自殺特攻するかもしれない。数秒後、岩盤にクレーターが……。

 

~IS~

ソウゴは2年前の誘拐現場に、同時間にウォズは篠ノ之宅に、映司と英寿は1年前のフランス、狩崎は更識宅、黎斗のみ亡国企業にそれぞれ転移する。

 

理由としては以下の通り。

ソウゴ、ウォズ=Over Quartzer後、ソウゴは歪に吸い込まれ、ウォズは序に生き返った。

映司=復活のコアメダル後、死んだはずだが生き返る。紅いメダルを手に握り締めたまま……。

英寿=本編前のデザグラ中に巻き込まれた。因みに、ブーストは何回でも使用可。

黎斗=アナザーエンディング後、∞残基を引っ提げて復活。幻夢無想ガシャットも手元に。

狩崎=本編(ベイルドライバー改造中)で実験中に飛ばされる。ジュウガドライバーとバイスタンプが何故か手元に。

 

~ONE PIECE~

ハルト・D・アークライト:

主人公にしてオリキャラ。赤子の時に無人島に捨てられ、猛獣たちに育てられる。名前は自分でつけた。

その後、ロジャーと出会って旅に出る。その際に、「ハキハキの実」を食べるが能力を使えず。

 

実は天竜人の血を引いており、母親はDの名を持っていた。

邪魔になったハルトを消すために、父親が追っ手を差し向けた際、その憎しみから能力覚醒&暴走する。

その場はロジャーが収めるも、自身の能力に恐れを抱く。

しかし、ロジャー達の言葉によって立ち直り、自身は武者修行の旅に出る。

 

その後、本編より35年前……。

二人は再びであった、運命の島"ゴッドバレー"にて。

 

~Cross-Z✖EVOL~

万丈辰巳:

主人公。16歳。幼い時から親を亡くし、孤児院にて住み込みで働いている青年。

ひょんなことからエボルトと出会い、仮面ライダークローズに変身する。

原作開始2年前に彼女を亡くして以来、女性への興味が薄れている。

家事全般は孤児院の従業員の皆さんに教わったので、結構得意。

筋トレとプロテインが大好きで、暇さえあれば学問より筋肉の脳筋バカ。誕生日9/6

神器:ビルドドライバー,クローズドラゴン,アックスカリバー,激龍剣

禁手:クローズ 覇龍:エボル

 

エボルト:

今作における相棒。色々あって地球に流れ着き、万丈と行動を共にする陽気な宇宙人。

かつてはドライグ、アルビオンと並んで三極龍と呼ばれたが、実は彼だけドラゴンではなく、星狩り星人のブラッド族の元・王族。

基本は、万丈の体を借りてブラッドスタークに変身する。

家事は得意だが、コーヒーだけはくそマズイ。八本足の生き物が嫌い。

誕生日5/6 神器:エボルドライバー,エボルトリガー,パンドラボックス 禁手:エボル

 

トール:

言わずと知れたメイドラゴン。本作のメインヒロイン。

かつてはグレートレッドと腕を競い合ったとされる「終焉帝ダモクレス」の娘。

かつての大戦で、聖剣を突き刺され、瀕死の重体に陥るも、偶々近くにいた幼少期の万丈が聖剣を砕いたことによって解放される。

以後、万丈に一目惚れし、居候として孤児院で働いている。

 

※ネタバレ注意のプロット

1:旧校舎のwake up 2:戦闘校舎のスターク 3:月光校庭のカイザードラゴン 4:停止教室のクリムゾン

5:冥界のトリニティ 5.5/01:悲しみのエボリューション 5.5/02:復活のプリミティブ

6:体育館裏のスクラッシュ 7:放課後のエレメンタル 8:修学旅行のブルードラゴン

9:学園祭のグレートドラゴン 10:進級試験のDoblue Action 11:補習授業のマグマフィスト

12:進路指導のドラゴンナイト 13:課外授業のブラックホール 14:教員研修のダイナソー

15:生誕祭のBe The One 16:総選挙のブリザード 17:進路相談のスパイダー

18:自由登校のマッスルギャラクシー

 

~FGM~

泰山辛三:主人公。三度の飯より麻婆好き。

人の不幸を見て食べる麻婆はもっと好き。

いつか自分の店を持ち、激辛ブームを起こそうと夢見ていた。

 

因みに実家は、中華料理店を経営しており、看板メニューはやっぱり麻婆。

初代から長く続いており、祖父はなんとあの言峰とも認識がある。

妹の辛子(からし)は大食い系Youtuberとして活躍している。

 

妹と共に人理修復に巻き込まれたが、持ち前の装甲メンタルで柔軟に対応。

そして何故か、様々な麻婆を生み出せるようになってしまう。

攻撃用、回復用、蘇生用、概念書き換え用……用途は多岐にわたる。

違いは香辛料の種類の数とそれぞれの多さ。

 

辛三「死亡キャラ?鬱展開?そんなもの、ウチにはないよ……。

そんなものを欲しがるというのなら、お前も麻婆にしてやろうか?

後、辛子を嫁に欲しいなら、俺の最強の麻婆を完食して見せるがいい。」

 

~セイバー~

村上刀真:主人公。幼くして両親を失い、祖父の残した古本屋を切り盛りする青年。

よく子供達相手に、絵本の読み聞かせや紙芝居の演技をしていた。

クリスマスには、態々自腹を切ってプレゼントを買い、孤児院の子に配っていた。

 

ある日、クリスマスイブのデパートにて、子供達へのプレゼントを買う途中、突如店に押し入った強盗から子供を守るために、自ら盾となって強盗に立ち向かった。

結果、刀真以外はけが人はなし。強盗は確保されるも、刀真は致命傷を負い、そのまま気絶してしまう。

 

そして、彼が次に目を覚ました時、そこはまさに異世界だった。

その世界の名は"ゲイムギョウカイ"。4人の女神が、それぞれの国を治める世界であった……。

 

~ JOJO~

1部:ジョナサンがワンパンマン見たくなる。ジョナサンは勿論、ツェペリも生存。

DIOはジョースター卿の死後、その遺体を譲り受ける。

ジョナサンが強すぎるので敵対したくない。

 

2部:シーザー生存フラグ。ジョセフもジョナサンから常識破りを受け継いでいる。

ワムウ以外柱の男達涙目。あんまりだ。ジョナサンは相変わらずの化け物ぶり。

 

3部:DIOはジョースター卿の肉体を乗っ取る。

尚、旅の目的は、産ませた子全員認知&ホリィ、仗助の治療。

正直、承太郎とジョナサンでほぼ全員倒せるという無茶苦茶ぶり。

 

4部:グレート過ぎる仗助爆誕。死亡キャラも何人か生存。

多分吉良さんは、平穏を求めようとするのを止めた方がいいと思う。

 

5部:日光を克服したDIOが大暴れする。ジョナサンも旅行気分で羽目を外す。

承太郎に至っては、家族を連れて本場のピッツァ作りにハマる。仗助もトニオさんの故郷巡りへ。

ジョルノは父や兄弟、神父と出会って色々混乱する。死亡キャラ生存あり。

但しディアボロ、テメーはダメだ。




うp主
「ここまで読んでいただき、ありがとうございます!」
ハジメ
「クズがぁ……まだ生きていたのかぁ……。」
うp主
「お待ちください!只今読者の皆様にオチを提供しております!もうしばらくお時間を!」
ハジメ
「……いいだろう。所で、何でクロエボしかプロットが無いんだ?」
うp主
「この作品と同率で書きたい欲が高かったから。」
ハジメ
「なら何で俺達の作品を書いたんだ?」
うp主
「下地が出来ていたからやりやすかったのと、書きたくてたまらなかったこと。
後、原作小説が買ってあったから。」
ハジメ
「確かにWeb原作あるけどさぁ……。
まぁ、書きたくてたまらなかったっていうのは、自分としても嬉しいが……。」
うp主
「正直、今の所書きたい欲あったやつの予告は終わったから、今後は質問返答とか幕間とかくらいしか出来なさそう。」
ハジメ
「まぁ、そこはうp主としての腕の見せ所だろ、頑張れ。」
うp主
「そう思うなら大砲に詰めないでくれないかなぁ……どうせこの後飛ばすんだろ?」
ハジメ
「勿論だ。そして、さらば。星になれ、うp主。」
うp主
「やられるなら、メイちゃんが良かったなぁ……。
あ、後NGシーンは時間やリクが少なかったので、中止になりました。」
ハジメ
「よし逝ってこい、シリアナへ。」
うp主
「リクエスト自体への返答は活動報告でやりますので、今後とも何卒宜しくお願い致します~!」(早口ながらも噛まずに言い切るが、言い終わった瞬間に飛ばされた。)


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ゲリラ投稿!ハジメさんがサーヴァントになったら!(ネタバレ注意)

うp主
「祝!小説創作開始一周年!」
ハジメ
「いきなりだなオイ。」
うp主
「いやなんか……最近日曜投稿でマンネリ化が起こっているだろうからさ。」
ハジメ
「メタいなオイ。」
うp主
「そこで今回は2番目に多かったFGOとのクロスオーバーを投稿します!」
ハジメ
「何で1番目じゃないんだよ……。」
うp主
「ただでさえ投稿事情カツカツな上に、原作とのオリジナルクロスオーバーまでやって過労死しろと?
もうそーいうのはこの前の軌蹟の邂逅で十分でしょ……。」
ハジメ
「要はめんどいだけだろ。まぁ、何はともあれ楽しんでいってくれ。」


ATTENTION!

まだ最終章まで読んでいない方にとっては、ここから先はネタバレを含みます!

まだそこまで書かれていない間は、誰でも読んでも構いませんが、最終章が書かれ次第、ぼかし部分が解除されるので、それでもよろしい方だけこの先にお進みください。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

Are You Ready?

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

南雲ハジメ:ZIO

 

【召喚】

 

「本来はグランドクラスだけど……アンタのために調整してきたぜ!

ライダー、南雲ハジメだ!魔王さんやオーマでもいいぞ!」

 

【基本データ】

 

クラス:ライダー

ランク:☆5

天地人:天

属性:混沌・中庸

 

パラメータ(通常時):

筋力・B

耐久・B

敏捷・B

魔力・E

幸運・C

宝具・EX

 

(逢魔憑鎧時)

筋力・S+

耐久・S+

敏捷・S+

魔力・A++

幸運・A+

宝具・EX

 

(???????)

筋力・???

耐久・???

敏捷・???

魔力・???

幸運・???

宝具・???

 

【宝具】

最高最善の魔王による最高最善の政治(オーマ・オールオーバー・ザ・ワールド)

 

ランク:EX

種別:対界宝具

レンジ:世界一つ分(最大)

最大捕捉:自分がいる世界の中なら幾らでも。

 

彼が鎧を纏う時、最高最善の魔王の判決が下される。

ある者には栄光・豊穣の恵みを、ある者には絶望・裁きの鉄槌を。

何人たりとも、魔王からは逃れられない。たとえ、世界の裏側にいたとしても。

 

???(最終章直前まで秘密)

 

ランク:???

種別:???

レンジ:???

最大捕捉:???

 

このマテリアルが読まれる時、彼の真の歴史が読み解かれる。

 

【スキル】

世界の抑止力EX:

世界を司るものが乱心した時、裁きを下すために彼は降臨する。

たとえ相手がORTや聖杯の泥、獣であろうと、ましてや星そのものであろうとも。

仲間達のいる世界の為に、其の王は立つ。

 

魔王のカリスマEX:

どんなに衝突しようとも、その在り方を受け止め、いつの間にか仲間にしてしまう、天性の人たらしである証拠。

彼曰く、「マスターも大概だぜ?」とのこと。

 

???

(最終章直前までロック)

 

???

(最終章直前までロック)

 

???

(最終章直前までロック)

 

【個人的プロファイル】

 

好きなもの:

「勿論、俺の民だよ!ここにいる仲間も、そしてマスター、あんたも、俺にとっては守るべき民だ。

だから、安心して背中は任せておけ!」

 

嫌いなもの:

「民を害するものだな。まぁ、それが、自然の摂理であれば甘んじて受けよう。

だがな、己の悦楽の為だけに民を苦しめるものであれば、私は、世界を滅ぼしてでも止めてやる。」

 

聖杯に願うこと:

「そうだな……俺自身、もう願いは叶っているからな。

折角だから、マスターのこれからが明るい未来になりますように、って願おうかな?」

 

【性格】

「ありふれた職業で世界最強」の主人公、南雲ハジメに、現代一般人の魂が入り込み、魔物の毒によって混ざり合ってできた、第3の魂。

それが彼の本質にして、彼が最高最善の魔王になった理由である。

そして彼自身、本来の南雲ハジメとは違い、誰にでも気さくに話し、いつの間にか仲間にしてしまう、変わった王様なのだ。

 

カルデアにおいても、その化け物じみたコミュ力は発揮され、いつの間にか溶け込んでいるという現象が起こっている。

そして、彼を語る上で外せないのは、何時如何なる時でも奇跡を起こしてきた、ということだ。

 

冬木にて呼び出された彼は、なんと、カルデアスに飲まれてしまったオルガマリーの魂を回収し、別の肉体へと移し替えることで、彼女を蘇生させたのだ。

これだけでも当時のカルデア職員たちは開いた口が塞がらなかったそうだ。

だが、彼の快進撃はここからが本番だった。

 

オルレアン:ファフニールを一刀両断してBBQ、

セプテム:ネロとエリザのボイトレ&ライブでアルテラを説得、

オケアノス:嵐を光線銃で吹っ飛ばし、

ロンドン:霧ごと雲を消し飛ばし、子供サーヴァントを手懐けて、ソロモンとステゴロバトル、

アメリカ:ラーマにかかった呪いをゲイボルグの呪い諸共消し飛ばしてクーフーリンオルタに跳ね返し、

エルサレム:山の翁と一騎打ち(互いに腕試しのつもり)にギフト持ち円卓騎士相手に無双、

バビロニア:一人でゴルゴーンを相手に大立ち回り、ティアマト戦ではケイオスタイド諸共太陽光線で蒸発させた。

VSソロモン:ここの情報は最終章直前でないと駄目なようだ……。

 

ここを見るだけでも頭が痛くなるほどの偉業を成し遂げており、最早この人一人でいいのでは?と思う者も少なくはない。

が、彼自身これだけのことが出来るのは、マスターという特異点との契約があってこそ、らしい。

しかもレムナントオーダーや異聞帯でも彼は大暴れしており、これから先のオーディール・コールにおいても、台風の目となり得るであろうことが懸念されている。

 

実際、レムナントでは、

新宿:黒幕のいるビルをいきなり爆破(バズーカで爆撃して)、理由としては「面倒だから」とのこと。

アガルタ:巨大化して大陸を持ち上げてぶん投げた。彼曰く、「勝てばよかろうなのだ。」らしい。

下総:剣豪化した英霊達を洗脳から解除しては霊核ごと修復、戦力を増加させた。

道満は徹底的に本体をボコった。

セイレム:ギリギリのタイミングでラヴィニアを治療、アビゲイルを元に戻すための大きな手柄を上げた。

と、普通じゃありえないことだらけ。

 

そして問題の異聞帯攻略においても

ロシア:雪山爆破して雪崩を起こし、異聞帯に大損害を与えた。(本人曰く「雑にやった」らしい。)

北欧:スルトと魔眼のラインを切断、即座にオフェリアを治療し、生還させた。

中国:項羽諸共別空間に移動、殴り合いの末に説得し、彼を2足歩行形態に変形できるよう改造した。

それによってヒナコと交渉し、空想樹との対決を回避させた。

インド:カルナVSアルジュナVSオーマジオウの上映

オリュンポス:海上戦にてポセイドン諸共的勢力を消し飛ばし、他の神々との戦いにおいても無双。

更に流浪状態の武蔵の身を案じ、彼女を一旦別世界に避難させた後にこの世界にフォーマット。

彼女の代わりにカオスをゲート諸共消滅させ、異星の神とも激闘を繰り広げた。

妖精國:彼が一番キレた場所。所業を連ねれば……

バゲ子をワンパン、メリュ子を叩き落とし、トリ子を締め落とした・

ベリルをレクイエムった・マーリンをストレス発散序に殴った・アルトリアの代わりに聖剣を作成・

村正を買収した・マーリンをボコった・モルガンと互いに死力を尽くした・

全力の戦いの末に彼女を説得、襲撃してきたクズ共

(ハジメ本人曰く"吐き気を催す邪悪な阿婆擦れ"が唆したらしい)を元凶諸共血祭りにあげた・

モルガンと一緒にマーリンをシバいた・ヌンノスを太陽光線で蒸発、下にいた元凶諸共焼き尽くした

異常である。

ミクトラン:単騎でORTと死闘を繰り広げた。そして犠牲者0で勝利を収めた。

彼曰く、「久しぶりに本気で相手をした。」らしい。

 

ここまでみれば、彼は異常な存在であることが確認できる。

更に彼自身も、「今ここにいる俺は俺であって俺でないんだよねぇ~分かるかな?」と言っていた。

恐らく、今ここにいる彼は分体であって、本体は途方もない強さを誇っていると思われる。

果たして、カルデアの未来はどうなるのだろうか。

 

【対人関係】

アルトリア:

「騎士王、俺はアンタを笑うまいよ。

幾ら信頼を置いた部下であっても、ボタンの掛け違いなんていつ起こるかなんてわからねぇよ。

君が間違った点を挙げるとすれば……マーリンのせいだな、うん。」

 

イスカンダル:

「征服王、アンタのその生き方は認めよう。でも、走り続けた先に、アンタの隣に友が立っているのか?

もしかしたら、走り過ぎておいて行ってしまうかもしれないと思ったことはないか?

友を案じるならば、時には歩みを止めることも一つの手だ。それは決して、敗北なんかじゃない。」

 

ギルガメッシュ:

「英雄王、アンタのその宝物庫には、本当に全てが入っているのか?

この世の全ての財を手にしたとアンタはいうが、本当にそれは至宝足り得るものか?

俺は全世界を周ったことはあるが、かけがえのない至宝はいつでもそばにあったよ。仲間や、家族が。」

 

項羽:

「おぉ、項羽の旦那か。どうした?今度はどんな改造を……えっ?違う?」

 

武蔵:

「こりゃ!待たんか武蔵の嬢ちゃん!折角チューニングしたばっかりなんだから、まだ無茶はするな!

……全く、アンタへの思いがそうさせるのかね、マスター?」

 

モルガン:

「妖精女王陛下……いや、ここではモルガンと呼べばいいか。俺はアンタの在り方を否定しないよ。

アンタは頑張ったんだから、ここでは幾らでも報われていいんだよ。

俺は、俺達は覚えている。アンタが魅せた、あの国一番の輝きを、絶対に忘れない。」

 

山の翁

「うん?何故翁殿には敬語なのかって?そりゃあおめぇ……死後の世界の存在でもあるからなぁ……。

勝てなくはないが……頭を下げざるを得ないオーラが漂っているんだよなぁ……。

気配遮断はギリギリ見抜けるよ。ウチの部下には常時気配遮断の奴もいたし。」

 

コヤンスカヤ:

「コヤンスカヤか、また商談か?悪いが俺の作成する武器は、この世界では有り余る。

俺は破壊兵器製作なんぞに手は出さん。そんなものよりも……この〇ーヴギアを売るつもりはないかね?」

 

キアラ:

「マスター、何でアレはここにいるんだ?大丈夫なのか、人理?召喚条件緩すぎない?……えっ?今更過ぎる?」

 

トラロック:

「マスター、少し彼女を改造してもいいだろうか?なに、ただクリエイターとしての血が騒いでいるだけだ。」

 

道満:

「マスター、また道満がトチッたぞー。どうする?処す?処す?」

 

LA:

「女になったら余計にうぜぇな、このろくでなし。どうせマスターを幼くしてやらかす気だろうに。

大体、妹でお姉さんって……キャラブレブレじゃねぇか。キャラメイクするなら、しっかり最後までやれ!」

 

マーリン:

「取り敢えずぶん殴る。理由?ムカつくから。」

 

オジマンディアス:

「太陽王、アンタすげぇわ。他の王様が経歴に一癖二癖もあるのに……何でそんな順風満帆なの?

ファラオだから?……まぁ、それでいいや。そんなアンタにプレゼント、ハイ。太陽光線発射衛星~。」

 

BB:

「あのさぁ……毎回毎回トラブル解決するこっちの身にもなってほしいんだけど?

そろそろ本気でお仕置きしてもいいなら続けてもいいけど?どうする?」

 

エミヤ:

「聖人君子や正義の味方を気取るつもりはない。人は皆、己の正義を持って闘争に身を投げるのだから。

たとえどのような形であれ、アンタは人を救おうとした。それだけは確かなことだ。

ところで……お前もライダーになってみないか?おすすめはコレだ。」〈マイティクリエイターVRX!〉

 

ティアマト:

「地母神殿か、ここでの生活は慣れ…えっ?敬語はやめて?……じゃあ、母さんで…何で泣いてんの!?

……嬉し泣きかぁ、ビビった。」

 

ドラコ―:

「なんだい、ドラコー?俺に何か……は?自分は俺にとって害するものか?

……同じマスターの下にいる以上、俺達は仲間だ。今のところ、お前は守るべき民の一人だ。

もしお前が改めて人類に牙を剥いた時には、遠慮なくぶっ飛ばしてやるよ。

だからまぁ、今を楽しみなよ。」

 

加藤段蔵:

「おや、飛び加藤のお嬢さんか。今日はどういった改良を?……ナノマシンの肉体のスペアかぁ……

ストックあったかな?」

 

果心居士:

「果心居士ちゃんや、下総で勝手に改造したことは……え?娘を助けてくれて、ありがとう?

……まぁ、小太郎のこともあったからな。///」

 

高杉晋作:

「こらぁッ!高杉ィ!勝手に装置を弄るんじゃねぇ、このヴァカがぁッ!そっちも漁るな!今崩れやす……はぁ、ホントこいつ疲れるわ。」

 

アーキタイプ:アース:

「真祖の姫君か……実を言うと、ウチの奥さんの一人にも、真祖吸血鬼がいてね!それがもう可愛くてさぁ!(この後長々と早セリフで語られること数時間)」

 

シャルルマーニュ:

「シャルルのあの宝具、すげぇイカすなぁ!なんか、キュウレンジャー一気見したくなってきた!」

 

沖田総司〔オルタ〕:

「抑止の剣士か、本来彼女と俺は相容れない筈なんだが……なぜ彼女は俺の隣でおでんを食べているんだ?

なんか、彼女の剣が物申したいって念が出ているような気がするんだが……。」

 

ミス・クレーン:

「君が機折り鶴か。ちょうど娘たちの衣装制作を頼みたくてだね……写真は全部とっておきだ。

報酬はもっと弾むぜ?……うん?俺の衣装も?なら、今度のライブ、VIP席開けとくから、見に来てね☆」

 

ガラテア:

「ガラテアの肉体には興味はあるが……彼女の意思と恋心を尊重するさ。

いくら人形とはいえ、思い人がいる女性の躰を弄るほど、俺はマッドじゃない。

……うん?どうしたマスター?なんか、卑猥なことでも浮かべていたのか?俺は改造の話をしたんだが?」

 

伊吹童子:

「伊吹童子……知り合いに一人鬼を嫁にした奴がいてな……彼女、その嫁の鬼とよく似ているよ。

まぁ、あっちは体ごとバクバクいっちゃうけどね。」

 

ヴリトラ:

「ヴリトラのことをどう思うか、だと?

……確かに、彼女は己の悦楽を満たそうとはしているが、己を悪だと自覚しているから嫌ってはいない。

俺が忌むべき悪は、自らの悪事を正当化・悪とすら思わず、相手の苦しむ姿だけを楽しむクズ野郎だ。

まぁ、彼女も"おいた"が過ぎたら適当にシバいておくが。」

 

グレゴリー・ラスプーチン:

「言峰をどう思うかって?アレの愉悦は最早不治の病だろう。

正直、ヴリトラとどっこいどっこいだと思って……いや、やっぱ言峰の方が悪質だな。

あんな真っ赤な劇物食って喜ぶ変態なんて、地球上捜してもアイツくらいだろ。」

 

卑弥呼:

「邪馬台国の女王か、彼女も元は、一人の女の子だったのだなぁ……。

マスター、彼女がこれからもそうであれるように、頑張らないとな?責任重大だぞ?」

 

鬼女紅葉:

「紅葉さんと何かあったのかって?

いや、嫁の一人が人から龍になる種族でな、彼女のことを思い出していた。聞きたいか?」

 

ボイジャー:

「彼、ボイジャーを見ると、何でか少し泣けてくる。俺にもあんな時期あったなぁって、時々思うよ。」

 

ロムルス=クィリヌス:

「……ローマは概念か何かか?」

 

オデュッセウス:

「その木馬、さらに改良したいとは思わんかね?」

 

アルトリア・ルーラー:

「ウサミミが好きなのかって?ちげーよ、好きだが一番は嫁のウサミミだ。因みに、本物だ。

獅子王さんよぉ、マスターをおとすなら……寂しいアピールが一番だぜ?」

 

刑部姫:

「刑部姫と仲がいいのかって?まぁ、俺両親がサブカルチャーの発信源だったし。

父さんがゲーム制作会社で、母さんが人気漫画家だから。」

 

戦闘狂系サーヴァント:

「だぁーっ!面倒だから、全員纏めてかかってこいやぁ!」

 

アスクレピオス:

「薬師センセ、これが頼まれていた"神水"だ。これで研究はちったぁ捗るかい?……そうかい。」

 

紅閻魔:

「紅閻魔殿、そちらの補佐官殿は息災か?

いやなに、彼もこの世界にいれば、まさに敵無しなんだけどなぁって思っただけさ。」

 

シグルド:

「彼、シグルドの叡智、一度構造を確かめてみたいな……。」

 

始皇帝:

「始皇帝、彼の技術には少し興味はあるが……真なる王は、見せびらかすより民に与えるものなのだよ。」

 

ジーク:

「何でジークを見ているのかって?いや、本当にあのファフニールなのかと……

言っておくが食べないからな?それくらい弁えとるわ!てか、嫁の一人がおんなじ感じだったし!」

 

両儀式[剣]:

「アンタの魔眼で、俺に線は見えるか?あったら教えてほしい。

死ぬのは怖くはないが……仲間や民たちが心配なので、な。」

 

水妃モルガン:

[第1再臨]「あれが……トネリコ、か。あぁ……ガイアに殺意が沸いてくる……。

何故、あんなにも優しくて、臆病な子を孤独な旅に出させたのだ……。

裁かれるのははじまりのろくにんだけではない、お前たち(ガイア)もそのはずなのだ……。

あぁ、トネリコ……どうか、幸せに、なってくれ……。」

[第3再臨]「とうとう、この姿に至ってしまったか……

いや、存外嬉しそうなのはお前のおかげなのかもな、マスター。

それはそうと、だ。

高級ホテルのスイートルームのペアチケットがここにあるんだが……

分かるよな?分かるよね?それじゃ朝まで、ごゆっくり。」

 

【各英霊の反応】

エミヤ:

「南雲ハジメ……彼を見ていると、昔の自分を思い出したような気分だ。

それはそれとして、彼の武器やベルトはいいと思う。出来れば実物に触れてみたいが……良いのか!?

ではこのドライバーで……変身!」

〈天地創造の力!ゲットメイク!未来のゲーマー!マイティクリエイターVRX!〉

 

アルトリア:

「いえ、流石に全てがマーリンのせいではないのです……マーリンを殴るのは大いに賛成ですが。」

 

モルガン:

「ハジメ……いえ、恐らくは他人の空似でしょう。それでも……時々"彼"を重ねて見てしまう。

貴方はどう思うのでしょうね……"ソウゴ"。」

 

アーキタイプ:アース(第3再臨):

「時の王、かぁ……そう言えば、彼の奥さんも私と同じみたいなんですって!

いいなぁ……私も早く会いたいよ……"  "。」

 

コヤンスカヤ:

「いえ、私が言いたいのはそうではなくてですね……って聞いております!?

しかもそれとなくとんでもないものを押し付けないでくれませんか!?訴えられますよ(著作権的に)!?」

 

BB:

「きゃ~、せんぱ~い!ハジメさんがイジメてきますぅ~!たすけてくださ……

えっ?マスターから許可は貰っている?……ごめんなさい先輩!マジでピンチなので助けてください!(泣)」

 

道満:

「ンンンンン!拙僧、何故かかの御仁から嫌われている模様!今現在も大砲に詰め込まれております!

ますたぁ、これは事案なのでは?……自業自得?ンンンンン、辛辣ですなぁ!」

 

ミス・クレーン:「くぁwせdrftgyふじこlppぉきjhygtfrですぁq!?!?!?」

(余りの尊さに意識が吹っ飛んだ。)

 

イスカンダル:

「時の王よ。真なる友というのはな、たとえどんなに離れようとも互いに信頼しあえるものだ。

貴様にもその覚えがあるだろう?……そうだ、余はその繋がりがあるからこそ、進み続けるのだ!」

 

ギルガメッシュ:

「ハッ、新参者が。たかだか継承しただけの者が、我に説法など無礼極まりないわ!

だが……貴様のその持論は悪くない。それに、我の宝物庫にもない至宝もある。

それらはな、手に入らぬからこそ価値があるのだよ。分かったか、魔王とやら?」

 

武蔵:

「マスター、私ね。

ハジメ君がいなかったら、こうしてマスターの隣にいられなかったんじゃないかって、時々不安になっちゃうんだ。

今でも、時々夢に……ッ!?なっ、何で急に抱きしめッ!?……ふぇ?ハジメ君がこうしたらいいって?

~~~!///マスター、ちょっと彼に説教してくる!」

 

マーリン:

「ちょっ、あいたっ!?出会い頭に乱暴すぎないかい!?えっ?自業自得?反省するまで殴る?

……勘弁してもらえないかな~?なんて、ね……。」

 

LA:

「私、彼に何かしたのかな……?

さっき、ハジメ君に出会い頭で説教されて……キャラ製作がなってないって……。

妹でお姉さんって……変なのかな?」

 

オジマンディアス:

「フハハハハハ!そう褒めるな、時の王よ。それはそれとして、疑似太陽の創造か……。

中々に面白いが……真なる太陽とは、余であることを忘れるなよ?」

 

ククルカン:

「オーマジオウ……彼の持つ強さは、ORTとは別次元のステージにあるものだと思われます。

もし、彼の本体が敵であったら……なんて、考えたくもありません。

そんな彼ですが……何故彼はここで雑用じみたことを?最高最善の魔王だから、ですか?

成程、それが彼の在り方なのですね。だからこそ、彼は私達と共に戦ってくれるのですね。」

 

ティアマト:

「あの子……ハジメは、本当に、人類、なのでしょうか?それに、あの子は、多くを背負い、過ぎている。

マスターと、同じ位。いつか、その重みに、潰されてしまわないかが、心配……え?一人じゃ、ない?

そう、ですね。ハジメは、一人、じゃない。母も、一緒、ですよ。」

 

トラロック:

「私に触れていいのは、我が愛しきトラマカスキだけです。貴方の手は借りません。借りません、が……

空中神殿なるものについては、技術提供を要請します。えぇ、全ては我が愛しきトラマカスキの為です。」

 

ドラコー:

「マスター、時の王などと宣うあの男には、注意した方がよいぞ。

あ奴は、仲間を守る為なら非情となり、お主の意にそぐわぬ行動すら起こしかねん。

……それでも何とかしてくれるだと?ハァ、貴様も奴と同類か。このお人よしめ。」

 

グレゴリー・ラスプーチン:

「おや、これはこれは魔王殿。此度は一体どういったご用件で?何?

"笑っちゃアカンで!1日カルデアス"の試聴会、ですか?キャストは……

ほぅ、是非とも参加させていただきましょう。元同僚たちの晴れ舞台、ですからね。」

 

ヴリトラ:

「あの男、時の王だったか。わえのことをあまりよく思っておらんと聞いておったが……

ただの悪戯好きの愉快犯だと思っておる節があるな。何?わえよりも酷い悪を見てきたと?

頑張りすら否定するクズ共ばかりであった?……成程な、確かに、それらと同類は心外よな。

そして、改めて自重した過去のわえ、グッジョブ!あ奴と戦えば、主も危ないからな……。」

 

シャルルマーニュ:

「マスター、マスター!ハジメの武器、すっげぇかっけぇよな!

なんつーか、ロマンがギッシリ詰まっているって感じで!しかもそれが大量にあるって!

かぁーっ、たまんねぇ―!アイツの鎧も超イカすしよぉ!なんかワクワクしてきたなぁ!」

 

沖田総司〔オルタ〕:

(煉獄)「なぁ、主のマスター。あの時の王はヤバいって。アイツ、幾つか世界吹っ飛ばしたらしいぜ。

もしアレが暴走したら……流石に笑えねぇぞ?」

(沖田オルタ)「大丈夫だ、煉獄。ハジメは優しい。この前も子供たちに、お菓子を配っていた。

子供じゃないけど、魔人さんにもくれた。おでんを。」

(煉獄)「あぁ、うん。主が大丈夫っていうならまぁ……大丈夫か。大丈夫だよな?」




うp主
「ここまで読んでいただき、ありがとうございました!
さて、何故今回は暫定2位のFGOにしたかというと、冒頭の理由以外にも、僕自身興味が大ありだったからです。」
ハジメ
「成程な、でもそれだと最近は推しの子に……。」
うp主
「あっちは作るとしたら最初からガッツリ作らなきゃアカン。
クロスオーバーさせるとしても帰還後になると思う。」
ハジメ
「そんなにか。」
うp主
「だってアイに救いがなさすぎだろ!?俺、アニメ一話の結末トラウマになったからな!?」
ハジメ
「まぁ、見る人によっちゃあな……。てか、そうなるとこの作品はどうなるんだ?」
うp主
「取り敢えず書ききるか、創作意欲が切れるかで、一旦打ち止めかな?
それまでは出来るだけ書き上げるつもりさ。」
ハジメ
「そうか、てっきり未完のまま別作品に逃げるのかと思っていたよ。」
うp主
「かぁん違いするな。他の書きたい作品は設定を乗せてしまえばいい、という訳だぁ!」
ハジメ
「他力本願過ぎるわ。」
うp主
「そういう訳で、まだまだハジメさん達の旅は、これから続きますので!
皆さん、これからの塔作品をお楽しみに!」
ハジメ
「次回もまたよろしくな~。」


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原作第二巻~ライセン大峡谷編:2069/無法の兎(アウトレイジ・ハウリア)
20.お助けウサギ娘


お待たせいたしました。
第二章第一話です!
今回から、ケモ耳フレn…ヒロインが登場します!

奈落から踏み出したハジメ一行。
少女シアの依頼にこたえるため、彼らは樹海へ!

それでは、どうぞ!


さて、光が晴れたと思っていたら、また洞窟だった。なんでさ。

普通は外に出るもんでしょうに…まぁ、いっか。

そう思って気を取り直し、ライトフルボトルの能力を使い、ユエに魔法で道を照らしてもらいながら進むと…

 

ハジメ「ん?あれって…」

オスカーの紋章があった。ということは、だ。

早速指輪を翳してみると、ゴゴゴッと音が鳴り、扉が開いた。

奥に通路があったので、進みながら封印付き扉やトラップも指輪で解除していると、ようやく光が見えてきた。

それを見つけた俺達は、顔を見合わせると猛ダッシュした。

まるで、砂漠のど真ん中で綺麗な水があふれ出るオアシスを見つけた探検家のごとく。

そして遂に…!

 

ザッ…

ハジメ「出たぁーー‼」

ユエ「んっーー‼」

イナバ「きゅぅう‼」

俺達はほぼ同時に叫びながら飛び出し、地上へ出ることに成功した。

まぁ、外は断崖絶壁の大迷宮、【ライセン大峡谷】なんだが。

 

西に【グリューエン大砂漠】、東に【ハルツィナ樹海】、その谷底の洞窟の入り口に俺達は立った。

久しぶりの青空に輝く太陽を仰ぎ見ながら、俺達は風と温かさを感じていた。

ハジメ「……やっと、始まったんだな。」

ユエ「ん!ここから、始まる。」

イナバ「(うぉぉ!これが外の世界って奴ですかぁ!)」

それぞれ感傷に浸りながら、その場に立ち尽くしていると…

 

ハジメ「……」ギリッ

ユエを舐めまわすような視線を感じた俺は、忌々しそうに虚空を睨みつけ…

 

 

─────失せろ

 

 

……チッ、この程度で逃げんのか。張り合いのねぇ。

ユエ「ハジメ?どうしたの?」

ハジメ「気にすんな。邪魔ものを追い払っただけだ。」

ユエ「?」

話題をそらすように、ユエの頭を撫で、俺は新兵器の試し撃ちをすることにした。

取り出したのは、メガランチャー:タイラント・オルカンことオルカン君である。

 

ハジメ「そういえば、ユエ。ここでは魔力の分解作用があるが、どれくらい消費するんだ?」

オルカン君を構えながら、俺はユエに聞いてみた。

ユエ「……ん……十倍くらい。」

ハジメ「……十倍はデカいな。一旦ここを抜けるまでは、俺とイナバに任せとけ。」

ユエ「……んぅ……そうする。」

イナバ「(王様が強すぎるので、自分の出番ないかもしれやせん…)」

まぁ、せっかく外に出たのに活躍できないのはなぁ…

今度、魔力に頼らない武器でも作ってやるか。あんま、重量がないものがいいな。

 

さて、早速オルカン君の試射でもしてみますか。

ハジメ「ド派手にいくぜ!」ズガガガガガガァァン!!!

掛け声とともに引き金を引き、オルカン君の多弾頭ミサイルをぶっ放した。

ミサイルは幾重にも分かれ、隠れていたり逃げようとしていた魔物を、片っ端から粉砕した。

ふっふっふっ、ミサイルの先端には、感知系の技能をつけてあるのさ。

何所まで逃げようとも無駄なのだァ!見ろぉ、魔物どもがゴミの様だぁ!

 

ハジメ「……ん?」

ユエ「……どうしたの?」

ハジメ「いやな、迷宮近くの魔物だし、相当凶悪な奴らばかりだって聞いていたんだが…

呆気なすぎて、別の場所に出てしまったんじゃないかって。」

イナバ「(……王様、さっきの奴らも十分な強さはあったはずです。王様が強すぎるだけなんです…)」

ハジメ「……否定が出来ないのが辛い。」

まぁ、奈落の魔物が強すぎるのが悪いってことで。さて、ここからどうするかな。

 

ハジメ「この岩壁を上るのはたやすいが……面倒だな。樹海方面に探索でもするか。」

ユエ「……なんで、樹海側?」

ハジメ「何の準備もしてないのに、いきなり砂漠はきついでしょ?

樹海側なら、町が近いかもしれないし。」

ユエ「……ん。確かに。」

イナバ「(王様、一応自分、魔物なんですが…)」

ハジメ「大丈夫、見た目唯のウサギだから、いざ町に行ってもペットっていえばごまかせる。」

イナバ「(ふ、複雑でさぁ…)」

さて、移動用手段を早速使いますか!そういって"コネクト"でバイクを取り出した。

 

動力源に「コアドライビア」や「クラインの壺」、「AB-27Eアトミックブラスト」「SOL3000-N」等を使用し、外部装甲に「スペースヒデンアロイ」「BT鋼」の上から「逢魔鉱石」で薄くコーティングした、俺だけの専用バイク。

その名も、「オーマストライカー2068」!

変形機構や合体機構はもちろんのこと、「アッセンブルギア」による武装格納もバッチリ。

もちろん、魔力で走ることだって可能な、男のロマンをぎっしり詰め込んだ、夢のライダーマシンさ!

後、座席は広めに作ってある。三人でも乗れそうなのがいいかな~って思ったから。

「シャドウベール」で衝撃緩和もあるから、安全運転をするだけだ。

今までデンライナーの近くで練習した、俺の運転の腕を見せる時がついに来たようだなァ!

 

ハジメ「よし、行くか。」

そう言って、俺はストライカーの運転席に乗り込み、ユエは後ろに座り、イナバは俺の懐に潜り込んだ。

後、俺とユエはヘルメットをかぶっている。ここは異世界だが、交通ルールは守らないと。

因みに、ストライカーのタイヤには、歴代ライダーのバイクの車輪を基にした素材が使用されている。

どんな悪路だろうとも、走破出来る性能を誇っている。

 

ハジメ「ふぃ~、この風が心地いいなぁ。」

ユエ「……ん。すごく。」

イナバ「(自分は感じられませんが、なかなかいい心地でさぁ。)」

風を切り、太陽の光の温かさと土の匂い混じりの空気を存分に堪能し、疑似的ドライブを楽しむ俺達。

暫くストライカーを走らせていると、魔物の咆哮が響き渡った。

どうやらさっきの奴らとは違うようだな。カーブして回り込むと…

 

ハジメ「!?人が逃げているのか!?」

ユエ「……兎人族?」

ハジメ「兎人族って、谷底にいたんだっけ?」

ユエ「……聞いたことない。」

イナバ「(王様、どういたしやすか?)」

さて、とりあえずあの魔物は邪魔になるから、殺すとするか。

と、その時。追いかけられていたウサ耳少女が俺らを発見したのか、こちらを凝視して向かってきた。

 

???「みづげだぁ!やっどみづげまじだよぉ~~!だずげでぐだざ~い!ひぃいいい、死んじゃう!

死んじゃうよぉ!だずけてぇ~、おねがいじますぅ~!

……色々、忙しそうな感じだなぁ。しゃあない、助けを求められた以上、民を助けるのも王の役目だ。

ハジメ「二人とも、ちょっと助けてくるから待ってて。」

ユエ「……ん。」

イナバ「(……わかりやした。)」

若干不服そうだなぁ…俺、なんかした?そう思いながら、俺は少女の元へ向かった。

 

俺は、ホークアイ・シュラーゲンを構えながら、念話で彼女に警告を送った。

ハジメ「(耳を塞いでその場に伏せろ!)」

???「ふぇ!?」ドパァンッ!ドパァンッ!

驚きながらも彼女が頭を伏せたその瞬間、二つの閃光が魔物の首を二つとも打ち抜いた。

頭を撃ち抜かれた魔物は絶命し、その場に倒れ伏した。

その振動と音にウサ耳少女は思わず「へっ?」と間抜けな声を出し、後ろを見て驚いたようだ。

 

???「し、死んでます…そんな、ダイヘドアが簡単に…」

……そんなに強かったのか、コイツ。まだ、イナバの方が強いぞ。

ハジメ「あ~怪我はないか?」

???「…!はい!助けて頂きありがとうございました!私は兎人族ハウリアの一人、シアと言います!

お願いです!お願いします!私の家族を助けてください!」

ハジメ「ハイハイ、分かったからとりあえず落ち着け。そして、事情を説明してくれ。

家族が心配なのはわかるが、事情もわからない状態じゃ対処のしようもないだろ。」

家族が心配なのか、シアと名乗った少女は焦りながら話していた。

シア「でも早くいかないと!間に合わなくなるんでアダッ!?」

ハジメ「急がば回れっていうでしょ。

それに、このストライカーなら光の速さでもすっ飛ぶことが出来るから、焦らずちゃんと説明してよ。」

忙しそうにする彼女にデコピンを喰らわせ、一旦落ち着かせる。

 

シア「うぅぅ…い、いきなりデコピンするなんてぇ…こんな幼気な美少女に何てことしやがるですかぁ!」

ハジメ「……そういうのは自分で言わない方がいいと思う。その性格でないなら、躊躇しそうだけども。」

後、何気に気になってはいたが…何故、初対面のはずの俺達を知っていたんだ?

そう思って話を聞こうとすると…

 

イナバ「(ワレェ、王様が落ちつけっつたら落ち着けや、この駄兎がぁ!)」

シア「ヒィッ⁉ま、魔物がしゃべったァ!?」

……うん、恐喝やめぃ。余計ややこしくなるから。と、止めようとしていたその時…

シア「なんですか二人して!そっちの子みたいなぺったんこがいいんですか!?」

 

―――――ぺったんこがいいんですか!?

―――――ぺったんこがいいんですか!?

―――――ぺったんこがいいんですか!?

 

……峡谷に命知らずな発言が響き渡った。哀れなり、残念な兎娘よ。正直惜しい命だったとは思う。

そんなことを思いながら心の中で合掌する俺と、即座に向こうを見つめるイナバであった。

そして、比較されていた本人(いつの間にかバイクから降りて来ていた)はというと……

体中から魔力が溢れ出していた。アカン、あれ、俺がキレて魔王になったくらいのレベルありそうだぞ!?

驚愕しながらユエを見つめ、この後の末路を予知した。

因みに俺は、胸より心を重視している。尻と乳とタッパのデカい女が好きな呪術師とは合わなさそうだが。

 

ユエ「お祈りは済んだ?

シア「あ、謝ったら許してくれたりは……」

ユエ(魔力をためて、上級魔法で吹っ飛ばすつもり)スッ

シア「イヤァー!死にたくなぁい!」

ユエ「――嵐帝。」

シア「アッ――――!!

……きりもみ回転しながら落下していったな。ありゃあもう助からねぇな。

そう思いながらバイクに戻り、ヘルメットをかぶる俺であった。

 

ユエ「……おっきい方が好き?」

ハジメ「そのようなことがあろうはずがございません!女性は体より心重視です!」(早口)

何か、有無を言わせない圧力があった。イナバも汗だくになりながら首を前に振っているし。

ユエ「……………………ん。」

ホッ、どうやら地雷は回避できたみたいだ。そもそもユエは絶壁じゃあないんだが…

「うぅ~、ひどい目に遭いました。こんな場面見えてなかったのに…」

ハジメ「ウォッ!?」

い、生きていただと!?コイツの体は超合金か何かか!?てか、這いよってくる姿が地味に怖ぇ…。

ハジメ「え~と、落ち着いたなら、事情を説明してくれる?」

シア「!ハ、ハイッ!実は……」

 

話を聞くと、彼女の一族は亜人族の集落で暮らしていたらしい。

基本的に温厚な彼らは、他の亜人よりも身体能力が低い分、仲間意識が強いそうだ。

そんなある日、亜人が持つはずのない魔力を有した子が生まれてしまった。

その上、直接魔力を操れたり、とある固有魔法まで覚えていた。

それが彼女、シアだったらしい。当然、一族の彼らは困惑したが、彼女を見捨てられなかった。

しかし、他の亜人たちはそれを良しとしておらず、彼女が十六の時にその存在に気づいた。

そのために、ハウリア族は一族ごと樹海を出た。

しかし、その道中で魔物や帝国兵に追われてしまい、気づけば半数以上が囚われてしまっていたらしい。

それに加えて、峡谷の魔物や帝国兵の策略もあって、もはや40人ほどしかいないそうだ。

 

……話だけ聞くと胸糞悪ぃ。どこの世界でも差別ってのはなくならないもんだなぁ。

しかし、隠密能力かぁ…。欲しいな、諜報部隊。よし、ここは一肌脱ぐかぁ。

シア「このままでは全滅です。どうか助け「いいよ。」早っ!?」

ハジメ「ただ、さっきの“見つけた„っていうのは、固有魔法か何かかい?」

シア「あ、はい。"未来視"と言いまして、仮定した未来が見えます。

もしこれを選択したら、その先どうなるか?みたいな。

……あと、危険が迫っているときには勝手に見えたりします。

まぁ、見えた未来が絶対というわけではないですけど……」

ハジメ「なるほど。それで俺達がお前さんの家族を助ける未来が見えた、と。」

シア「は、はい!そうなんです!だから私、役に立ちますよ!

"未来視"があれば危険とかも分かりやすいですし……」

確かに筋は通ってはいる。だが……

 

ハジメ「そんなに凄い魔法なら、何でバレたんだ?

危険を察知できるなら他の奴らにもバレなかったはずだし。」

そう聞くと、シアは不思議な表情をして答えた。

シア「……未来は、一生懸命頑張れば変えられます。少なくとも、私はそう信じています。

でも、頑張りが足りなくて、変えられなかった未来も……いつも後になって思うんです。

私が本当に変えたいと願った未来が変えられなかった時、もっともっと頑張っていればよかったのにって……」

ハジメ「……そっか。」

まぁ、確実な未来が何時如何なる時も見られる訳では無いからなぁ。

 

ハジメ「なら、今から変えに行こうか。」

シア「!」

ハジメ「未来は誰にもわからない。瞬間瞬間必死に生き抜くしかないんだよ。

君の家族が瞬間瞬間を必死に生きているなら、きっと間に合うさ。」

シア「ハ、ハイ!」

うん、いい笑顔じゃねぇか。ユエといいこの子といい、美人には笑顔がぴったりだなぁ。

 

ハジメ「あ~そういう訳なんだが……悪ィ、勝手に決めちまって。」

ユエ「……ん、大丈夫。樹海への案内にピッタリ。」

イナバ「(……まぁ、えぇですわ。王様はそういう性格ですし。)」

ハジメ「お、おう。二人とも意外にドライだなぁ……」

まぁ、兎にも角にも、ハウリアを助けることに決まったわけだ。

早速、ストライカーから予備のヘルメットを取り出し、シアに渡す。

 

ハジメ「それはめたら、さっさと後ろに乗って。なるべく早くいくから。」

シア「あ、ありがとうございます!」

ハジメ「礼は後!ほら、早く!」

シア「ハイッ!うぅ~、よがっだよぉ~ほんどによがったよぉ~」

オイオイ、いくらなんでも泣きすぎでしょうに。

 

シア「それで、皆さんのことは何と呼べば……」

ハジメ「あ、忘れていた。俺の名は南雲ハジメ。最高最善の魔王だ。」

ユエ「……私はユエ。魔王の妻になる女。」

イナバ「(ワイはイナバ。王様の第一家臣や!敬語使ぇや、新入り!)」

……二人とも、色々勝手な名乗りだなぁ。てか、普通に紹介しなよ。

シア「ハジメさんと、ユエちゃん、イナバ君ですね。」

……シア、お前も随分図太いな。てか、なんで俺だけさんなんだ。

 

ユエ「……さんを付けろ、残念ウサギ。」

イナバ「(オイ新入りィ、ここではテメェが一番下だ。全員にさん付けしろや、このドアホ!)」

シア「ふぇ!?」

……ほんと、大丈夫かなぁ、この先。てか、こんなコントしている場合じゃないと思うんだが……

ハジメ「とりあえず、早く乗れ。ユエはちょっと詰めてくれるといいんだが…」

そういうと、ユエは俺の前、イナバは定位置にそれぞれ潜り込んだ。……そんなにあの感触が嫌なのか。

そう思いながらハンドルを握り、運転前の確認をする。背中に当たる凶器には反応していない。

 

ハジメ「よし、それじゃあ、出発するよ!」

ユエ「ん!」

イナバ「きゅ!」

シア「ハ、ハイ!」

……全員掴まったのを確認した俺は、ストライカーのエンジンを起動させた。

 

シア「あ、あの。助けてもらうのに必死で、つい流してしまったのですが……この乗り物?

何なのでしょう?それにハジメさんもユエさんも魔法使いましたよね?ここでは使えない筈なのに……」

ハジメ「常識とは常に塗り替えるものだ。まぁ、道中で話そう。だから、舌噛まないようにッ!」

そういって、俺はストライカーを一気に加速させて発進した。

後ろでシアが叫び声をあげるが気にせず進む。最初は怖がっていたようだが、次第に慣れたみたいだな。

もう既に大はしゃぎしているし。とまぁ、そろそろいい頃合いなので、俺の武器や乗り物、ユエが魔法を使える理由、イナバが喋れる理由、これらを簡単に説明すると……

 

シア「え、それじゃあ、三人とも魔力を直接操れたり、固有魔法が使えると……」

ハジメ「まぁ、そんなところだよ。」

ユエ「……ん。」

イナバ「(つまり、自分らとアンタじゃ格が違うってことさぁ!)」

……イナバ、そこまで嫉妬する必要はないでしょうに。

と、イナバを叱ろうとすると、シアが急に泣き出した。

 

ハジメ「……いきなりどうしたの?なんか谷底で変なものでも食べたの?」

ユエ「……手遅れ?」

イナバ「(王様、コイツはもう……)」

シア「手遅れって何ですか、手遅れって!私は至って正常ですぅ!

……ただ、一人じゃなかったんだな、と思ったら……何だか嬉しくなってしまって……」

「「「……」」」

……何か、深い闇を感じた気がする。この娘もこの娘で抱えているもんがデカいな…

ユエもユエで思うところがあるみたい。多分、あの時のことを思い出してしまっているんだろうな。

そう思いながら俺は、ユエを気遣うように頭をそっと撫でた。

イナバは……ガチ泣きしてんじゃねぇか。さっきの態度はどこ行った。

 

ハジメ「ま、誰かが傍にいてくれるのって、確かにいいよね。

俺も一人で王になれるって思っていないし。」

ユエ「え?」

イナバ「きゅ?」

シア「そうなんですか?」

……王とは孤高なりって風潮、こっちでもあるんか。

 

ハジメ「そりゃあそうさ。

どんなに広くて豊かな土地を持っていても、支えてくれる家臣や民、そして家族がいないなら、それはただ王を自称するだけの、力を振りかざすしか能のない馬鹿だよ。

俺は王様になるとき、出来るだけ多くの民が笑顔になる国にしたいからさ。

今だってまだ、その道の途中に過ぎないんだよ。

だからそれまで、皆にいっぱい助けてもらっているんだ。」

そう、俺がオーマジオウになれたのは、ただ修業しただけではない。

それを支えてくれた両親や恵理、応援してくれた友、そして、その道の途中であった多くの人達に、俺は支えられてきたんだ。

だからこそ、俺は王の力を手にした。そしてここからが本番なのだ。

俺の望む王の道は、仲間と友に歩む道であるべきなのだ。

だからこそ、多くの人に支えて貰わないといけない状態に、俺はいる。

そんな中でも出会いはある。どんなに残念な性格をしていても、俺の仲間だから。

 

と、俺が王の道筋について話していると……

シア「っ。ハジメさん!もう直ぐ皆がいる場所です!あの魔物の声……

ち、近いです!父様達がいる場所に近いです!」

ハジメ「分かっているから、落ち着いて。一気に飛ばすよ、しっかり掴まっていて!」

俺がストライカーを更に加速させ、最後の大岩を越えると……

今正に襲われようとしている数十人の兎人族たちがいた。

空を迂回している魔物に狙われているようだな。

 

シア「ハ、ハイベリア……」

なるほど、コイツは確かにマズいかもな。このままじゃジリ貧だ。

などと、冷静に考えていたその時……

6匹の内の一体が尻尾で岩を殴りつけた。岩は破壊され、下から二人の兎人族が這い出てくる。

それを「待ってました」とばかりに狙おうとする、ワイバーンもどき。

まぁ、させないけどね。

ハジメ「……クロックアップ。」

(Clock Up)

 

その瞬間、世界がスローモーションになった。

それと同時に、俺はストライカーの武装Part1を起動させた。

俺が運転席のボタンを押すと、後ろのタンクが開き、中から出てきたものが展開される。

さしずめ、簡易オルカンといったところか。

俺は、親子に食いつこうとしたワイバーンもどきの頭蓋をドンナーXで撃ち抜くと、照準をワイバーンもどき共に合わせ、簡易オルカンを発射した。

ミサイルは他のワイバーンもどきの眉間や翼をぶち抜き、それらを一気に肉塊に変えた。

それを確認した俺はストライカーのスピードを落とし、ゆっくりと止まった。

 

(Clock Over)

グチャッ!ゴシャアッ!ズガッ!ドゴーン!ズシーン!

「!?な、何が……」

……そりゃあ、驚くだろうな。同時に6匹倒されているんだし。

ユエ「……ハジメ、何したの?」

ハジメ「なに、ただ高速で倒しただけさ。」

イナバ「(全然見えへんかったんですが!?)」

そりゃそうだ、タキオン粒子並みの速さじゃないと。

シア「み、みんな~、大丈夫ですぅ!助けを呼んできましたよぉ~!」

俺の行動に困惑しながらも、仲間を安心させるために、シアが兎人族達に呼びかけた。

 

「「「「「「「「「「シア!?」」」」」」」」」」




ここまで読んでいただき、ありがとうございます!

さて、今回ようやく出せました!
今作ハジメさんのオリジナルビークル、オーマストライカー2068!
実はウォッチからも変形が可能な、持ち運びOKな便利バイクなんです!
因みに、簡易オルカンはサイドバッシャーのミサイルランチャーみたいな感じです。

そして次回、ハジメさんは樹海に突入します!
待ち受ける帝国兵、敵対する亜人族、ハウリアの運命は一体!?
次回もお楽しみに!

宜しければ、高評価・コメント宜しくお願い致します。

ヴァントールさん、誤字報告ありがとうございました!

次カイ予告

ハジメ「俺の民に、手出しはさせない。」
ハジメ、王として敵を倒す!

シア「皆さんの旅に着いていきます!」
シア、勇気の決意!

ハジメ「ここが、フェアベルゲン……」
樹海の奥で見たものとは!?

第21カイ「敵がいっぱい、危険な樹海!」ダッチュン!


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21.敵がいっぱい、危険な樹海!

お待たせいたしました。
第二章第二話です。

今回は、ハジメさん初めての人殺し、フェアベルゲンへと入るの二本です。
卑劣な帝国兵に、魔王の裁きが下される!
そして、獣人達とのファーストコンタクトは、一体どうなる!?

それでは、どうぞ!


???「シア、無事だったのか!」

シア「父様!」

初老の男性がシアに駆け寄ってきた。どうやら彼女の父親らしい。

シアと一言二言話をすると、俺の方に向き直った。

 

???「ハジメ殿で宜しいか?私は、カム・ハウリア。シアの父であり、ハウリアの族長をしております。

この度はシアのみならず我が一族の窮地をお助けいただき、何とお礼を言えばいいか。

しかも、脱出までご助力下さるとか……父として、族長として深く感謝いたします。」

そう言って、カムと名乗った族長は深々と頭を下げた。後ろにいた他の者達も同じように下げていた。

 

ハジメ「礼は受け取っておくよ。でも、樹海の案内は忘れないでよね?

後、簡単に信用する所は、直した方がいいと思うよ。その手で騙してくる奴もいるかもしれないから。

それに、亜人も人間もお互いに対して、あまりいい感情を持っていないみたいだし…。」

しかし、カムは苦笑いで返した。

 

カム「シアが信頼する相手です。ならば我らも信頼しなくてどうします。我らは家族なのですから……」

う~ん……これは、教育が必要だな。よし、とりあえず、フェアベルゲンとやらで、修行させるか。

というわけで、早速出発する俺達とハウリア42人。

道中の魔物は召喚したライダーに任せたり、俺自身の兵装で蹴散らしたりしていた。

魔物の素材はきっちり回収していくが。

 

兎人族の者達は唖然としながらも、俺に畏敬の視線を向けてくる。

悪い気はしないけど、もう少しフレンドリーにさぁ……魔王だから、仕方がないか。

子供たちはなんか、ヒーローを見るような視線だ。う~ん、これは流石に照れる。

シア「ふふふ、ハジメさん。ちびっ子たちが見つめていますよ~。手でも振ってあげたらどうですか?」

ハジメ「そういうのは慣れていないんだよ。というか……」

さっきからウザ絡みしてくるシアの頭を乱暴に撫でた。

どちらかというと、擦るような感じだけど。

シア「あわわわわわわわっ!?」

ハジメ「……構ってほしいからって、ウザ絡みしないの。」

それを見て呆れるユエとイナバ。カムは苦笑いしながらとんでもないことを言った。

 

カム「はっはっは、シアは随分とハジメ殿を気に入ったのだな。そんなに懐いて……

シアももうそんな年頃か、父様は少し寂しいよ。だが、ハジメ殿なら安心か……」

このおっさん、娘の嫁入り時みたいな感想言ってやがる。

ハジメ「……何でそうなるのさ。」

ユエ「……ズレてる。」

イナバ「(……阿保ちゃうんか?)」

他の奴らも同じような視線……ホントこの先、大丈夫かぁ?

 

そうこうしている内に、ようやく【ライセン大峡谷】の出口に着いたが……

いるよなぁ、帝国兵。絶対、待ち伏せしている。帝国は亜人奴隷が多いって聞いているし。

正直、行きたくない場所なんだよなぁ…無理矢理引き抜きしに来たら、帝国乗っ取るか。

シア「帝国兵はまだいるでしょうか?」

ハジメ「いようといまいと関係ないね。どちらにしろ蹴散らすだけだし。」

シア「あ、相手は同じ人間なんですが……」

ハジメ「一時的とはいえ、俺の民に手出しするんだ。

死ぬ覚悟もないなら、とっとと土に還るべきだろう。」

シア「……元の場所には、帰さないんですね…」

ハジメ「俺、魔王だからね。挑戦者は無に帰してくれるわ、って言ってみたかったんだ。」

シア「い、言ってみたかっただけって……」

 

正直、他にも言ってみたい魔王あるあるなセリフはまだある。

「世界の半分をくれてやる」とかはまだ、無理だけど……

カム「はっはっは、分かりやすくていいですな。樹海の案内はお任せくだされ。」

快活に笑うなぁ。まぁ、信頼されているってことでいいか。

と、呑気に階段を上っていくと、崖の所に敵はいた。

 

帝国兵A「おいおい、マジかよ。生き残っていやがったのか。

隊長の命令だから仕方なく残ってただけなんだがなぁ。こりゃあ、いい土産が出来そうだ。」

……全部で30人か。馬車は貰っていくとしよう。

帝国兵B「小隊長!白髪の兎人もいますよ!隊長が欲しがってましたよね?」

帝国兵A「おお、ますますついてるな。年寄りは別にいいが、あれは絶対殺すなよ?」

帝国兵C「小隊長ぉ、女も結構いますし、ちょっとくらい味見してもいいっすよねぇ?

こちとら何もない所で三日も待たされたんだ。役得の一つや二つあってもいいでしょう?」

帝国兵A「ったく。全部はやめとけ。二、三人なら好きにしろ。」

帝国兵D「ひゃっほ~、流石、小隊長!話が分かる!」

……下衆が。まぁ、これから死にゆく馬鹿に何言っても無駄か。

 

帝国兵A「あぁ?お前誰だ?兎人族……じゃあねぇよな?」

ハジメ「見て分かるでしょうに。人間だよ。」

帝国兵A「はぁ~?何で人間が兎人族と一緒にいるんだ?しかも峡谷から。

あぁ、もしかして奴隷商か?情報掴んで追っかけたとか?そいつぁ商売魂がたくましいねぇ。

まぁいいや、そいつら皆国で引き取るから、置いて行け?」

ハジメ「は?嫌に決まってんじゃん。」

俺のこの馬鹿どものあまりの無能さに、怒りすら通り越して呆れを感じながら即答した。

 

帝国兵A「……今、なんて言った?」

ハジメ「耳悪いの?いや、頭が悪いのか。嫌だって言ったんだよ。こいつらは一応とはいえ、俺の民だ。

勝手にもの扱いした挙句に、人を奴隷商だとか抜かす間抜け共に、民を渡す馬鹿なんていないでしょ。

諦めてさっさと国に帰れ。」

馬鹿の隊長が睨んでくるが、ベヒモスの方がまだ強い。

帝国兵A「……小僧、口の利き方には気を付けろ。俺達が誰だかわからないほど頭が悪いのか?」

ハジメ「いや、初対面の人にいきなり上から目線で、「置いていけ」とか言ってくるアンタらの神経の方が疑わしいんだけど。

てか、帝国っていうのは、他国の王族すら見分けられないほどの無能なの?

あぁ、皇帝が野蛮だから、下っ端風情まで山賊みたいななりなんだ。」

売り言葉に買い言葉。俺は口の進む限り、相手を罵倒しつくす。

後、後ろのユエをじろじろ見てきたのでその分も。

 

帝国兵A「あぁ~なるほど、よぉ~く分かった。てめぇが唯の世間知らずな糞ガキだってことがな。

ちょいと世の中の厳しさってやつを教えてやる。ククッ、そっちの嬢ちゃんえらい別嬪じゃねぇか。

テメェの四肢を切り落とした後、目の前で犯して、奴隷商に売っぱらってやるよ。」

その瞬間、俺は加速技能を発動した。

ハジメ「―<トライアル>―、―<フォーミュラー>―、―<リアライジング>―。」

帝国兵A「あぁ!?まだ状況が理解できてねぇのか!てめぇは、震えながら許しをこッ―――」

その言葉を言い切る前に、馬鹿どもの隊長の首が宙を舞った。

それを合図に、ものすごい速さで次々と首なし死体が出来上がっていった。

反撃しようとする者もいたが、あまりの速さに追いつけず、そのままやられた者もいた。

それもそうだろう。

まるで生き物のように動く雷光が、自分たちに襲い掛かってくると錯覚してしまう程なのだから。

30秒もしないうちに、帝国兵共は全滅した。

 

ハジメ「ふん、所詮は下級兵士。この程度か。」

俺は屍の山の上に立ち、愚者共の骸を見下ろしていた。

シア「あ、あのっ、……今のは、全員殺す必要はなかったのでは?」

俺はその能天気すぎる発言に溜息をつくと、「うっ」と唸るシア。

が、その時……

ユエ「……一度、剣を抜いた者が、結果、相手の方が強かったからといって見逃して貰おうなんて都合が良すぎ。」

シア「そ、それは……」

ユエ「……そもそも、守られているだけのあなた達がそんな目をハジメに向けるのはお門違い。」

シア「……」

ユエ、気持ちは嬉しいけど、セリフ取らないで……。

 

イナバ「(姐さんの言う通りや。そも、王様の道を塞いだ奴らが悪い。

それに、姐さんに下卑た視線向けていたことも、王様にとっちゃあ大罪やで。)」

イナバ、ちょい辛辣すぎ…、後罪状としては「俺の民に手を出そうとした」がいいと思う。

カム「ふむ、ハジメ殿、申し訳ない。別に、貴方に含むところがあるわけではないのだ。

ただ、こういう争いに、我等は慣れておらんのでな……少々、驚いただけなのだ。」

シア「ハジメさん、すみません。」

ハジメ「あ~、気にすんな。最初っから殺しに慣れろって強制はしないからさ。」

俺は早速、無傷の馬車や馬の所へ行き、ハウリア達を馬に乗る者と馬車に乗る者に分けることにした。

ストライカーで馬車をけん引し、樹海へと進むことにした俺達であった。

帝国兵共は……イナバが残らず食い尽くした。アイツ、段々たくましくなってんなぁ……。

 


 

少しずつ【ハルツィナ樹海】に近づいていることが分かってきた。

若干不機嫌なユエと上機嫌なシアに挟まれながら、俺はストライカーで馬車をけん引していた。

ユエ「……ハジメ、どうして一人で戦ったの?」

イナバ「(あ~確かに。一応同族でしたが……よかったんですかい?)」

ハジメ「別にそれは大丈夫。理由としては、ムカついて体が直ぐ動いちゃったからかな。

まぁ、初人殺しとはいえ、もうちょい手加減するべきだったか。

本当は銃撃実験もしてみたかったけど……。」

ユエ「……そう……大丈夫?」

ハジメ「あぁ、別に収穫がなかったわけじゃあない。拳の威力も測ることが出来たし。」

と、他愛のない話をしていると……

 

シア「あの、あの!ハジメさん達のこと、教えてくれませんか?」

ハジメ「?俺らの生い立ちとか?」

シア「はい、能力とかは先程聞かせてもらったので……だ、ダメですか?」

ユエ「それを聞いて、どうするの?」

ユエがそう聞くと、シアはちょっぴり恥ずかしそうに答えた。

シア「どうするというわけではなく、ただ知りたいだけです。

……私、この体質のせいで家族には沢山迷惑をかけました。小さい時はそれがすごく嫌で……

もちろん、皆はそんな事ないって言ってくれましたし、今は、自分を嫌ってはいませんが……

それでも、やっぱり、この世界のはみ出し者のような気がして……だから、私、嬉しかったのです。

ハジメさん達に出会って、私みたいな存在は他にもいるのだと知って、

一人じゃない、はみ出し者なんかじゃないって思えて……

勝手ながら、そ、その、な、仲間みたいに思えて……

だから、その、もっとハジメさん達のことを知りたいといいますか……何といいますか……。」

……なるほど、たしかにまぁ、言っていなかったしなぁ。

そういう訳で暇つぶしがてら語り始めた。すると……

 

シア「うぇ、ぐすっ……ひどい、ひどすぎまずぅ~、ユエさんががわいぞうですぅ~。

そ、それに比べたら、私はなんで恵まれて……うぅ~、自分がなざけないですぅ~。」

案の定、号泣した。

凄い量の涙を流しながら、「私は、甘ちゃんですぅ」とか「もう、弱音は吐かないですぅ」とか言ってる。

後、さりげなく俺の服で顔を拭こうとしたので、宝物庫から取り出したタオルで拭いてもらうことにした。

まぁ、ユエの境遇はめっちゃ大変だったからなぁ……後、あのクソ野郎はぜってぇ潰す。

暫くメソメソしていたシアだが、突然決然とした表情でがばっと顔を上げると拳を握り元気よく宣言した。

 

シア「ハジメさん!ユエさん!イナバさん!私決めました!皆さんの旅に着いていきます!

これからは、このシア・ハウリアが陰に日向に皆さんを助けて差し上げます!

遠慮なんて必要ありませんよ。

私たちはたった四人の仲間。共に苦難を乗り越え、望みを果たしましょう!」

……おいおい、現在進行形で守られている奴のセリフじゃないぞ、それ。

ハジメ「それはいいけど……想像以上に厳しいよ?場合によっては死ぬことだってあり得るし。」

シア「うっ、で、でもハジメさんがいれば……」

ハジメ「……もしかして、単純に一人旅が嫌なの?」

シア「!?」

驚くシアを横目に、俺は続けた。

 

ハジメ「一族の安全さえ確保できれば、離れる気だったんでしょ?

そこに上手い具合に"同類"の俺達が現れたから、これ幸いに一緒に行くってことかい?

そんな珍しい髪色の兎人族なんて、一人旅できるとは思えないだろうし。」

シア「……あの、それは、それだけでは……私は本当にハジメさん達を……」

図星か、まぁ、家族を思う気持ちはわかる。俺が一緒なら一族の説得は出来るだろうし。

それでも、彼女はこの旅には向いていない。

 

ハジメ「別に、責めているわけじゃあない。

ただ、さっきも言った通り、七大迷宮の攻略はとてつもなく険しい。

化け物揃いのそんな場所に行っても、君だとすぐに瞬殺される。だから、同行許可は出来ない。」

シア「……」

…少し言い過ぎたか。まぁ、後でフォローを入れるとしよう。

 

そんなこんなで進んでいき、【ハルツィナ樹海】と平原の間に着いた俺達。

カム「それでは、ハジメ殿、ユエ殿、イナバ殿。中に入ったら決して我等から離れないで下さい。

御三方を中心にして進みますが、万が一逸れると厄介ですからな。

それと、行先は森の深部、大樹の下で宜しいのですな?」

ハジメ「あぁ、それで構わない。聞いた通りじゃ、そこが本当の大迷宮と関係していそうだし。」

"大樹ウーア・アルト"、それが俺達の最終目的地である。

すると、周囲のハウリア達が俺達の周りを固めた。

 

カム「ハジメ殿、出来る限り気配は消してもらえますかな。

大樹は、神聖な場所とされておりますから、あまり近づく者はおりませんが、特別禁止されているわけでもないので、フェアベルゲンや、他の集落の者達と遭遇してしまうかもしれません。

我々は、お尋ね者なので見つかると厄介です。」

ハジメ「分かった。幸いにも、全員隠密行動は可能だ。」

そう言って、"気配遮断"を使う俺。ユエとイナバも俺が教えた方法で気配を薄くした。

 

カム「ッ!?これは、また……ハジメ殿、出来ればユエ殿やイナバ殿くらいにしてもらえますかな?」

ハジメ「すまん、ミスった。知り合いにとんでもなく気配の薄い暗殺者がいたものでな……」

シア「その人、一体何者なんですか!?」

ハジメ「分からん。だが、俺を殺せる可能性を持っている最強の暗殺者だ。」

「「「「「「「「「「!?」」」」」」」」」」

……そんなに驚くことか?アイツ、全然気づいてもらえないっていう致命的な弱点があるんだが……

 

兎にも角にも、俺達は気配を消しながら進むことにした。

道中で出てきた魔物どもは纏めて始末していった。対して強くもなかったが。

しかし、樹海に入って数時間後…今までにない無数の気配に囲まれ、歩みを止めざるを得なくなった。

数も殺気も、連携の練度も、今までの魔物とは比べ物にならない。

突然、忙しくなくウサミミを動かしながら索敵していたカム達が、苦虫を噛み潰したような顔になった。

シアに至っては、顔を蒼褪めさせている。その相手の正体とは……

 

???「お前たち……何故人間といる!種族と族名を名乗れ!」

虎の獣人か。しかも、周りに数十人くらいはいる。

カム「あ、あの私達は……」

カム、言っても無駄だ。こういう奴らは直ぐ実力行使に出てくる。

???「白い髪の兎人族…だと?……貴様等、報告にあったハウリア族か!亜人族の面汚し共めっ!

長年、同胞を騙し続け、忌み子を匿うだけでなく、今度は人間族を招き入れるとはっ!反逆罪だ!

もはや弁明など聞く必要もない!全員、この場で処刑する!総員「長いわ!」かッ!?」

あまりのセリフの長さに突っ込みながら、速攻で取り出したドンナーXで虎男の頬近くを撃ち抜く。

さて、落ち着いたようなので、話でもするとしよう。"威圧"を放ちながら、俺は話しかけた。

 

ハジメ「今の攻撃は、刹那の間に数百単位で連射可能だ。周囲を囲んでいる奴らも全員把握済みだ。

アンタ等がいる場所全て、俺の間合いの一部にすぎん。」

虎男「な、なっ……詠唱がっ……」

動揺しているようだが、これだけではない。俺はクラックを開き、無数の武器を展開した。

その先には、虎男の同胞と思わしき者達がいる場所だった。

ハジメ「戦うのなら容赦はしない。一時契約とはいえ、こいつ等は俺の民だ。

それだけで守る理由は十分だ。たとえ相手が誰であろうとも、俺の民に手出しはさせない。

もしやるというのなら、生きて帰れるとは思わないことだ。」

獣人達はものすごく動揺しているようだが、俺には関係ない。そのまま、一歩を踏み出す。

ハジメ「まぁ、大人しく引くなら何もしないけど。敵対しないなら無闇に殺す必要はないし。

さぁ、どっちにする?大人しく家に帰るか、敵対して全員ここで死ぬか。」

するとしばらくして、手前にいた虎男が口を開いた。

 

虎男「……その前に一つ聞きたい。……何が目的だ?」

……それを一番に聞いてほしかったんだけどなぁ。

ハジメ「樹海の深部、大樹ウーア・アルトの下へ行きたい。」

虎男「大樹の下へ……だと?なんのために?」

あれ?もしかして……

ハジメ「そこに、本当の大迷宮への入り口があるかもしれないからね。

俺達は七大迷宮の攻略を目指して旅をしている。ハウリアは案内のために契約を結んだ。」

虎男「本当の大迷宮?何を言っている?七大迷宮とは、この樹海そのものだ。

一度踏み込んだが最後、亜人以外には決して進む事も帰る事も叶わない天然の迷宮だ。」

……やっぱりな。

ハジメ「それは違うよ。」

虎男「何だと?」

 

ハジメ「まず、大迷宮というには、ここの魔物は弱すぎる。

少なくとも、【オルクス大迷宮】の魔物の方が強い。」

虎男「……弱い?」

ハジメ「それに、大迷宮っていうのは、"解放者"達が残した試練なんだ。

亜人族が簡単に深部へ行けるのなら、試練にはなっていない。

だから樹海自体が大迷宮っていうのは間違っている。」

虎男「……」

……"解放者"も知らないみたいだな。さて、どうするべきか。と、その時…

 

虎男「お前が、国や同胞に危害を加えないというのなら、大樹の下へ行く位は構わないと、私は判断する。

部下の命を無意味に散らす訳には行かないからな。」

ホッ、どうやら話の分かる者だったらしい。良かったぁ…

虎男「だが、一警備隊長の私如きが独断で下していい判断ではない。本国に指示を仰ぐ。

お前の話も、長老方なら知っているお方がおられるかもしれない。

お前に、本当に含む所が無いというのなら、伝令を見逃し、私たちとこの場で待機しろ。」

なるほどそう来たか。中々いい判断だ。是非とも引き抜きたい人材だなぁ。

 

ハジメ「賢明な判断だ、いいだろう。その代わり、さっきの言葉を一文字でも曲解して伝えたら……」

虎男「無論だ。ザム!聞こえていたな!長老方に余さず伝えろ!」

???「了解!」

気配が一つ遠のくと、俺は威圧を解き、展開していた武器を収めた。空気が一気に弛緩した。

ハジメ「今なら殺せると思っているなら、全員まとめて相手してやろうか?」

虎男「……いや、だが下手な動きはするなよ。我等も動かざるを得ない。」

ハジメ「もちろん。」

 

そうして、一時間後……

右でユエを、左でシアを愛でていると、急速に複数の気配が近づいてきた。場に緊張が走る。

現れたのは複数の亜人たちであった。中心には長老と思わしき森人族がいた。

???「ふむ、お前さんが問題の人間族かね?名は何という?」

基本的に名を名乗るのは自分からなんだけど…まぁ、いいか。

ハジメ「南雲ハジメ、最高最善の魔王だよ。」

周りが憤っているが…いきなり殺気を向けておいてその態度はどうかと思うよ?

???「私は、アルフレリック・ハイピスト。フェアベルゲンの長老の座を一つ預からせてもらっている。

さて、お前さんの要求は聞いているのだが……その前に聞かせてもらいたい。"解放者"とは何処で知った?」

ハジメ「オルクス大迷宮の奈落の最奥、解放者の一人、オスカー・オルクスの隠れ家で知った。

そうだね……論より証拠か。この指輪や魔石を見てもらった方が早いな。」

そう言って俺は、オルクスで取れた魔石や、オスカーの指輪を見せた。

 

アルフレリック「こ、これは……こんな純度の魔石、見たことが無いぞ……それに、この紋章は…!」

どうやら、彼は"解放者"について知っているらしい。

アルフレリック「成程……、確かにお前さんはオスカー・オルクスの隠れ家にたどり着いたようだ。

他にも色々気になるところはあるが……よかろう、とりあえずフェアベルゲンに来るがいい。

私の名で滞在を許そう。ああ、もちろんハウリアも一緒にな。」

……周りは猛然と抗議しているが。

アルフレリック「彼等は、客人として扱わなねばならん。その資格を持っているのでな。

それが、長老の座に就いた者にのみ伝えられる掟の一つなのだ。」

……泊まる方向で話が進んでいるので、一旦止めさせてもらう。

 

ハジメ「え~と、アルフレリック、さん?でよかったかな?

俺等、大樹に行きたいだけで、フェアベルゲンに用はないんだけど……」

アルフレリック「いや、お前さん。それは無理だ。」

ハジメ「?どゆこと?」

邪魔するならば、と考えたが、返ってきたのは意外な答えだった。

 

アルフレリック「大樹の周囲は特に霧が濃くてな、亜人族でも方角を見失う。

一定周期で霧が弱まるから、大樹の下へ行くにはその時でなければならん。

次に行けるようになるのは三月半後だ。……亜人族なら誰でも知っている筈だが……」

……初耳なんだが?そう思ってカムの方を向くと……

カム「あっ。」

あっ、じゃねぇよ。忘れんな、そんな重要なことぉ!

 

ハジメ「オイオイ、色々あったからって、報連相は忘れちゃダメだろ……」

カム「も、申し訳ありません…。」

何というか、残念なものを見るような視線が彼らに集中していた。

殺気も薄れているし……ある意味一種の才能かもしれない。

ホラ、さっきの虎男(後に教えてもらったが、ギルという名前らしい。AUOかな?)も疲れたような感じだし。

とまぁ、そんなグダグダな空気の中、進む事にした俺達であった。

後、ザムっていう人、すんごい急いでいたんだなぁ。結構遠い。

 

そうしてまた一時間ほどが経過……

突如霧が晴れた場所に出た。なんか霧のトンネルっぽいな。

それに、霧の侵入を防ぐ鉱石を使用しているみたい。

アルフレリック「あれはフェアドレン水晶というものだ。

あれの周囲には、何故か霧や魔物が寄り付かない。

フェアベルゲンも近辺の集落も、この水晶で囲んでいる。まぁ、魔物の方は"比較的"という程度だが。」

ハジメ「確かに。流石に霧ばっかりは嫌だろうなぁ。なんか、ありがとね。助かるよ。」

流石の俺も、霧の中を三ヶ月は無理だ。正直、泊まれるのは嬉しい誤算だ。

 

そうこうしている内に、目の前に巨大な門が見えてきた。

太い樹同士が絡み合ってアーチを作っていて、そこに10mの木製両開き扉があった。

天然の樹で作られた防壁は高さが最低でも30mはありそうだ。

亜人の"国"というに相応しい威容を感じる。

ギルが門番らしき亜人に合図を送ると、ゴゴゴと重そうな音を立てて、門が開いていった。

視線が鬱陶しいが我慢我慢。そして、門をくぐると……!

 

ハジメ「これが、フェアベルゲン……!」

正にそこは別世界だった。

直径数十m級の巨大な樹がいっぱいあり、その樹の中に住居があるようだ。

ランプの明かりが、樹の幹に空いた窓と思しき場所から溢れている。

人が優に数十人規模で渡れるであろう極太の樹の枝が絡み合い空中回廊を形成している。

樹の蔓と重なり、滑車を利用したエレベーターのような物や、樹と樹の間を縫う様に設置された木製の巨大な空中水路まである。

樹の高さはどれも二十階くらいありそうだ。

 

俺達がその光景に見蕩れていると、咳払いが聞こえた。つい、立ち止まってしまったようだ。

アルフレリック「ふふ、どうやら我らの故郷、フェアベルゲンを気に入ってくれたようだな。」

皆嬉しそうだなぁ。まぁ、確かにそうだが。

ハジメ「あぁ、こんなに綺麗な街を見たのは初めてだ。空気もうまいし、自然と調和した見事な町だね。」

ユエ「ん……綺麗。」

イナバ「(こらたまげた。森ってこんなに綺麗なものやったんや。)」

……皆、そっぽ向いていても、尻尾でバレバレだよ。




ここまで読んでいただき、ありがとうございます!

イナバさんがとんでもない位野性的になってしまった…
これは私の責任だ……だが、私は謝らない。
そして、知らないところで株が上がる遠藤君…

さて、次回は長老方との対話です!
それでは、次回予告をどうぞ!

宜しければ、高評価、コメント宜しくお願い致します。

次回予告

ハジメ「私は民を、絶対に見捨てない。」
ハジメ、決意表明!

???「大樹の下への案内を拒否させてもらう。」
長老たちとまさかの衝突!?

ハジメ「俺の民を傷つけたな?なら戦争だ。」
ハジメ、二度目のブチ切れ!?

ブレイブ22「大噴火!?荒れる樹海の大魔王」
荒れるぜ、止めてみな…!


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22.大噴火!?荒れる樹海の大魔王

お待たせいたしました!
今回はハジメさんが大暴れします!
後、少しグロ表現があるので、心臓の弱い方はブラウザバック推奨です。

亜人たちの理不尽な行動に、魔王ハジメが遂にキレる!
フェアベルゲンとハウリアの運命は如何に!?
聞いて、驚け!

怒涛の第二章第三話、それでは、どうぞ!


アルフレリック「……なるほど。試練に神代魔法、それに神の盤上か……。」

案内された俺達は現在、アルフレリックと向かい合って話をしていた。

内容としては、オスカーやユエのおやっさんの記録映像の内容、そして、俺自身が異世界の人間であること。

アルフレリックは奴の話を聞いてもあまり驚かなかった。

不思議に思って聞いてみると、「この世界は亜人族には優しくはない、今更だ。」という答えが返ってきた。

 

そりゃあいくらなんでもあんまりだと思う。

どうやらあのクソ野郎は擬人化やケモ耳が嫌いらしい。

宜しいならば戦争だ、この世から抹消してくれる。そう思った。

後、アルフレリックがフェアベルゲンの長老の座に就いた者に伝えられる掟を話した。

何でも、迷宮攻略者(攻略の証を持っている)が現れたら、どんな奴でも敵対せず、気に入ったら望む場所に連れていく、という適当すぎる口伝だった。

【ハルツィナ樹海】大迷宮創設者("解放者"だと思われる)リューティリス・ハルツィナが、仲間の名前と共にフェアベルゲン創設前に伝えたものだという。

もう少し前半に解説入れてくれても……と思った俺であった。

 

ハジメ「それで、俺は資格を持っているという訳か……。」

とりあえず大体の話は分かった。

でも、他の亜人はおそらくだが理解していない、というか信じていないだろう。

すると案の定、下が騒がしくなった。俺は早速そこへ向かった。

そこで見たのは……

多くの亜人たちがハウリア族を囲んで睨みつけている光景だった。

よく見ると、皆怪我をしている。どうやらこいつ等にやられたようだな……。

そこへ、アルフレリックが来ると、他の亜人共がこっちを向いた。

 

???「アルフレリック……貴様、どういうつもりだ。なぜ人間を招き入れた?

こいつら兎人族もだ。忌み子にこの地を踏ませるなど……

返答によっては、長老会議にて貴様に処分を下すことになるぞ。」

熊男がアルフレリックに何か言ってきた。どうやら何も知らない無能のようだな。

他の奴等も睨んできてはいるが、当の本人はどこ吹く風である。

正直どうかと思うが、肝っ玉が据わっている事だけは分かった。

 

―――まぁ、そんなことはどうでもいいが。

 

アルフレリック「なに、口伝に従ったまでだ。

お前達も各種族の長老の座にあるのだ。事情は理解できるはずだが?」

熊男「何が口伝だ!そんなもの眉唾物ではないか!

フェアベルゲン建国以来、ただの一度も実行されたことなどないではないか!」

アルフレリック「だから、今回が最初になるのだろう。それだけのことだ。

お前達も長老なら口伝には従え。それが掟だ。

我等長老の座にあるものが掟を軽視してどうする。」

熊男「なら、こんな人間族の小僧が資格者だとでも言うのか!

敵対してはならない強者だと!」

アルフレリック「そうだ。」

熊男はどうやら族長の一人らしい。

口伝を軽視している辺り、よほどの愚か者と見た。

 

熊男「……ならば、今、この場で試してやろ「おい。」ッ!?」

俺は熊男をはじめとした、ハウリア族とアルフレリック以外の亜人に対し、殺気を放った。

向こうは驚いているようだが、知ったことではない。

ハジメ「お前等、俺の民を傷つけたな?

殺気を向けられた亜人共は震え上がっている。

それに構わず、俺は足を一歩前に出し、宣言した。

 

ハジメ「なら戦争だ。

今、"私"は機嫌が悪いのだ。それ故この愚か者共は、"私"が滅ぼそう。

そう思った私は、ドライバーを身に着け、あの言葉を口にした。

 

ハジメ"変身"

 

ゴォーン!!!

 

『祝福の刻!』

 

室内であるにもかかわらず、その場にだけ曇天が舞っているような空気に変わった。

それと同時に、私の背後に大時計が浮かび上がり、ライダーの文字を浮かび上がらせた。

そして、黄金の光が我が身を包み、王の鎧を形成した。

 

『最高!』(より良く!)ガチャッ!ガキンッ!

 

 

『最善!』(より強く!)ゴキッ!ゴキンッ!

 

 

『最大!』(より相応しく!)シュルルルル!シュパンッ!

 

 

『最強王!!!』(仮面ライダー!)パァァァ!ガチーン!

 

 

『≪オーマジオウ!!!≫』

 

変身完了と共に、何者をも寄せ付けぬ圧が辺り一面に迸る。

亜人共があまりの重圧に地に伏す中、たった一人そこに私は立っていた。

漆黒と黄金に包まれ、赤雷奔るオーラを纏った魔王が今、降臨した。

ハジメ「殺したいほど人間が憎いか?ならばよかろう、余興として遊んでくれる。」

熊男「な、なに……を……!?」

そういうと、熊男の頭を掴んで無理やり立たせ、見下すような視線を向けた。

 

ハジメ「ほぅら、貴様が望んだ丸腰の状態だぞ?力を試すとな?面白い。

ならば、存分に測って見せよ。出来るものなら、な?」

熊男「!き、貴様ぁ!」

この男、どうやらおつむも小さいなら、器も狭いようだな。

本当になぜ、こんな愚者を族長に任命したのだろうか。

そう思っていると、熊男が攻撃を仕掛けてきた。だが……

 

ハジメ「……今、何かしたか?

これが全力というのであれば、拍子抜けもいい所だが……」

熊男「な、なにぃ!?」

この程度、避ける必要も受け止める必要もないな。それにしても、不遜よなぁ。

それに加え、本当に弱っちいものだ。もういい、退屈になったのでさっさと終わらせる。

そう思って、熊男の片腕を左手で引きちぎる。

熊男「ッ!?」

悲鳴を与える隙も与えず、私はもう片方の拳を構えた。

ハジメ「よかろう。無知故の無礼の代償は、貴様の身をもって償ってもらおう。」

 

―――ゴシャァッ!

 

肉を潰すかのような音と同時に、私の腕が熊男の腹をぶち抜き、風穴を開けた。

そして、零れ落ちた臓物を引っ掴み、勢いよく腹から腕を引き抜いた。

 

―――ブチッ!ブチブチブチィッ!!

 

その瞬間、熊男の血管が無理やり引きちぎられ、大出血となった。

私は掴んだ臓物を無造作に投げ捨てると、時を戻して熊男を治した。

「「「「「「「「「「!?」」」」」」」」」」

全員何が起こったか理解できていないようだが、それを無視して唖然としている熊男の前に立ちはだかる。

ハジメ「これが私の力だ。まだ文句があるのであれば、さっさとかかってくるがよい。」

熊男「!?」

熊男は未だに驚いているが、構わず私は続ける。

 

ハジメ「安心しろ。たとえ何度貴様が壊れようとも、態々元に戻してやるのだ。

それをありがたく思いながら、本気でかかってくるがよい。さもなくば……」

それを聞いている熊男は、もはや強者を前にして怯える賊風情の様だった。

 

ハジメ「―――死ぬぞ。」

 

その瞬間、フェアベルゲンという小さな世界の時が止まったかのように音が消え、その直後……

ズアッ!!!

どす黒い感情を煮詰めたような、膨大なオーラが放出された。

周りにいたものはもちろん、フェアベルゲン全体に広がった波動は、目の前にいないにも関わらず、亜人達を震え上がらせた。

そしてそのオーラは樹海全体に伝わったのか、樹海にいた魔物たちが次々に逃げ出していった。

これが、後にとんでもない二つ名の要因になるのだが、それはまた別のお話。

 

そのオーラを真面に喰らった熊男は、腰が抜けたのか動けないようだ。

全く情けないと言ったらありゃしないものだ。

私は熊男に詰め寄り、威圧を込めた上で言い放った。

ハジメ「理解したのであれば、――とっとと消え失せろ。

熊男「!?!?!?」

即座に逃げ出すように出ていった熊男。フン、威勢しか取り柄の無い大馬鹿者めが。

先人の言い伝えはよく吟味しろと伝えてこなかったのか。本当に腹立たしいものだ。

ハジメ「それで?次はだれが相手になるのだ?言っておくが、もう先程の様に手加減はせんぞ?

何度もやるのは面倒だからな。まぁ、一つ賢くなった代償とでも言っておくか。

――身の程を知った上で、相手に対する不敬を働いたことを認知したのだからなぁ?」

その言葉に誰もうなずく者はいなかった。まぁ、当然と言えば当然か。

 

その後、アルフレリックが執り成したことでこの場は収まった。

あの後、熊男がどうなったかは知らんが、手加減してやった上に生かしてやったのだ。

もう二度と威張り散らすことすら出来んだろうな。まぁ、どうでもいいが。

 

私は不快な表情で椅子に座りこむと、前にいる獣人共を睨みつける。

先程の威圧で委縮しているのか、文句を言ってくる者はいないようだ。

ようやく身の程を知ったようだな。その畏敬の視線こそ、王たる私に相応しいものだ。

さて、前にいるのは当代の長老衆のようだ。

虎男のゼル、鳥女のマオ、狐小僧のルア、髭面男のグゼ、そして、アルフレリックの五人だ。

私はユエとイナバ、シアとカム、そしてハウリア一同を引き連れ、向かい合っていた。

 

ハジメ「それで?まだ何か言いがかりでもつけるつもりか?私は大樹の下へ行きたいだけだ。

これ以上私を不快にさせるのであれば、種族の一つや二つを消さねば気が収まらんものだが?」

フン、この程度でその表情か。有象無象の親玉が、虚勢を張るでないわ。

グゼ「こちらの仲間に重傷を負わせておいて、第一声がそれか……それで友好的になれるとでも?」

……本当に無知で不遜な無能どもよなぁ。立場が理解出来ん者がまだいるようだな。

ハジメ「そちらはいきなり襲ってきたことへの謝罪も無しで、こちらの非を認めろと?

そもそも殺さないでおいてやったのだ。感謝こそされども、否定される謂れなど無いな。」

グゼ「き、貴様!ジンはな!ジンは、いつも国のことを想って「どうでもよいわ。」な!?」

 

ハジメ「元はといえば口伝を軽視し、物事一つ理解出来ん貴様等が悪い。

国のため?そんな理由で殺しが許されるのであれば、私も民のために貴様らを滅することすら厭わんわ。

大体、私の民に手を出しておきながら、その態度は一体何だ?

よもやとは思うまいが、先程の態度が正しいと思っているのではあるまいな?

そうであれば、救いようのない愚者と見受けられる。

教育が行き届いていないのなら、私が教えてやろうか?」

私は嘲笑交じりに呟くと、長老共を一瞥した。すると…

 

ルア「……確かに、この少年は、紋章の一つを所持しているし、その実力も大迷宮を突破したと言うだけのことはあるね。

僕は、彼を口伝の資格者と認めるよ。」

どうやら知者はいるにはいるようだ。それに続いて、他の者達も同意を示した。

 

アルフレリック「南雲ハジメ。我らフェアベルゲンの長老衆は、お前さんを口伝の資格者として認める。

故に、お前さんと敵対はしないというのが総意だ。

……可能な限り、末端の者にも手を出さないように伝える。……しかし……」

ハジメ「絶対ではない……と?」

アルフレリック「ああ。知っての通り、亜人族は人間族をよく思っていない。

正直、憎んでいるとも言える。血気盛んな者達は、長老会議の通達を無視する可能性を否定できない。

特に、今回再起不能にされたジンの種族、熊人族の怒りは抑えきれない可能性が高い。

アイツは人望があったか「知らんな、そんなこと。」……」

ハジメ「結論からして何が言いたい。最初からはっきり言うがよい。」

するとアルフレリックは、覚悟の籠った視線を向ける。

 

アルフレリック「お前さんを襲った者達を殺さないで欲しい。」

ハジメ「……全ては許容出来ん。が、狙いを私に限定する場合のみ、良しとしてやろう。」

アルフレリック「!?そ、そうか……!」

何だ?私が殺戮を好む者だとでも思っているのか?まぁ、先程の行動は少し感情的になり過ぎたが……

ハジメ「ただし、あまりに頻度が多かったり、人質や報復と称してハウリア族や仲間たちに手を出すのであれば、その者の一族郎党に拘わらず、その者の種族を駆逐しつくす。

それと、殺し合いを自ら望む者の生死までは保証できん。私が譲歩できる部分はここまでだ。

これ以上を望むのであれば、土下座の一つや二つでもするがよい。」

我ながら、これ以上にない条件だと思う。そう思ったその時であった。

 

ゼル「ならば、我々は、大樹の下への案内を拒否させてもらう。

口伝にも気に入らない相手を案内する必要はないとあるからな。」

……せっかく良い気分で終わろうとしていたものに水を差しおって……無粋よなぁ。

ゼル「ハウリア族に案内してもらえるとは思わないことだ。そいつらは罪人。

フェアベルゲンの掟に基づいて裁きを与える。

何があって同道していたのか知らんが、ここでお別れだ。

忌まわしき魔物の性質を持つ子とそれを匿った罪。フェアベルゲンを危険に晒したも同然なのだ。

既に長老会議で処刑処分が下って「長いわ。」ガッ!?」

……ギンという奴といい、虎人族は話が無駄に長いのか?

そう思いながら、奴の会話を鉄拳で強制的に終わらせた私は、虎の長老を睨みつけた。

 

ハジメ「そもそも勘違いしているようだが、ハウリア族は既に我が民であって、貴様等亜人の法なぞとうの昔に適用外だ。

貴様らがいくら処刑すると宣おうが、私がそうさせるわけなかろう。

ましてや、私の道を勝手に決めるな。この猫風情が。」

ゼル「なッ!?き、貴様ッ!」

ハジメ「何だ?今度は全員でかかってくるか?それなら兎人族以外を滅ぼすしかあるまいな。」

そう言って立ち上がろうとしたその時、

 

アルフレリック「双方とも落ち着いてほしい。ゼル、その決議については少し待て。」

アルフレリックが間に割って入った。

ゼル「なっ!?し、しかしアルフレリック!」

アルフレリック「少し黙っておれ。南雲ハジメ、お前さんもあまり皆を刺激するようなことは……」

ハジメ「なら、私が出す条件を全て飲むがよい。それさえ飲めばさっさとここを出てやろう。」

そう言って、慌てる亜人共にかまわず、私は条件を出した。

 

ハジメ「一つは大樹の下へ行くまでの周辺の滞在許可。一つは私に情けをかけられた熊男の末路の周知。

そして一つは、ハウリア族の処刑無効、及び我が民となったことの許容。以上だ。」

アルフレリック「そ、それは「もし一つでも飲めないというのであれば、破った条件一つに着き二つの種族を滅ぼす。」!?」

正直、やり過ぎ感が否めないが、これくらい脅しておかねば、またはぐらかされるに違いない。

さぁ、どう出る?

 

アルフレリック「……一つ聞いても良いだろうか?」

ハジメ「……何だ?」

アルフレリック「なぜ、彼等にこだわる。大樹に行きたいだけなら案内人は誰でもよかろう?」

……思っていたことより簡単なものであったか。

ハジメ「簡単なことだ。我が民である、それ以外に理由など要らん。私は民を、絶対に見捨てない。

たとえ相手がどこぞの神を名乗るストーカーであろうともな。

何より、私自身が王であるから尚更だ。貴様等が何を言っても私の決意は揺るがん。

どうしてもというのであれば、覚悟を決めるがよい。仁義一つ通せん輩に、私の前に立つ資格などない。」

すると、しばらく黙っていたアルフレリックは、何所か疲れた表情で言った。

 

アルフレリック「……分かった。

ハウリア族は忌み子シア・ハウリアを筆頭に、魔王南雲ハジメの身内と見なす。

そして、資格者南雲ハジメに対しては、敵対はしないが、フェアベルゲンや周辺の集落への立ち入りを禁ずる。

以降、南雲ハジメの一族に手を出した場合は全て自己責任とする……以上だ。何かあるか?」

ハジメ「結構だ。私としてもこれ以上はやりすぎだと思うのでな。」

だからイナバ、その如意棒をさっさとしまえ。ユエも詠唱をやめよ。他の者共が怯えているであろう。

 

ゼル「あ、アルフレリック!しかし…!」

ハジメ「くどいな。そうまでして威厳を保ちたいのか?その無駄な行動ほど愚かしいものはないぞ?」

ゼル「き、貴様ッ。先程から好き勝手にいわせておけば……!」

ハジメ「フン、頭の固いだけの老害が。力に屈した時点で、貴様等が何かを言う資格はない。

大体魔力操作なぞ私やユエも使えるし、このイナバに至っては魔物から進化した魔獣にすぎん。

そのような者を通す以上、シア一人許可することと同義であろう。それでもまだ文句があるのか?」

……どうやら渋々了承したようだ。他の者達もヒソヒソ話し合っている。

 

アルフレリック「……では、早々に立ち去ってくれるか。

ようやく現れた口伝の資格者を歓迎できないのは心苦しいが……」

ハジメ「構わん。最低限の保証は出来ているのだ。それだけでも十分だ。

後、大樹の近くに拠点を張る故、その場所とフェアドレン水晶は貰っていく。」

……まぁ、図々しいのは承知の上だ。それ故何も言わないでおこう。

 

ふぅ、ようやく終わったか。そう思った"俺"は変身を解除した。

同時に張り詰めていた空気も霧散し、この場にいた全員が肩の力を一気に抜いた。

さて、こんな居心地の悪いとこ、さっさと出て行ってやるとするか。

そう思った俺は、ユエやイナバ、ハウリア達を促して立ち上がり、颯爽と出ていった。

が、何故かハウリア達は茫然としていた。オイオイ、気持ちは分かるが、早く目を覚ませ。

 

ハジメ「お~い、早く行くぞ~?」

ようやく意識を取り戻した者からついて来たハウリア達。……老害共も一緒か。

シア「あ、あの、私達……死ななくていいんですか?」

唐突にシアが聞いてきた。まぁ、実感がないっちゃあ当然か。

ハジメ「たとえ信じられなくても、これは間違いなく現実だ。反応に困っているなら、ただ素直に喜べ。」

ユエ「ん。ハジメに救われた。それが事実。受け入れて喜べばいい。」

イナバ「(王様の決定は絶対。相手が誰であろうと、それは決して覆らない。)」

……こっちを向いてきたが、まぁそうだな。

 

ハジメ「俺、王様だからさ。民との約束は絶対守るから。」

シア「ッ……」

あれ?これなんかデジャヴを感じるような?

シア「ハジメさ~ん! ありがどうございまずぅ~!」

ハジメ「うおっ!?もう……いきなりどうしたのさ?」

ユエ「むぅ……」

イナバ「(!?この駄兎ィ……まぁ、今回はえぇか。)」

それを皮切りに、他のハウリア達も喜びだした。

ま、一件落着ってことでいいか。




ここまで読んでいただき、ありがとうございます!

今回のハジメさんの変身は、後の伏線にもなってきます。
因みに、いつもの状態であれば原作に近い雰囲気で対話していましたが、今回は民が傷つけられたということで、暴君モードで相手することになりました。
後、ゼルに関しては、まだ何か言ってくるようものならジンと同じ目に会わすかと考えていました。

さて、次回はとうとうハウリア達がバーサークいたします!
そして、シアの気持ちの行方は一体!?
それでは、次回をお楽しみに!

宜しければ、高評価・コメント宜しくお願い致します。

追記:リースティアさん、誤字報告ありがとうございました!

次回予告
修行その23

ハウリア達が決意の特訓!
しかしその性格にハジメがキレる!?
はたして彼らは、強くなれるのだろうか!?

第23話「バキバキ!樹海のランボーラビット!」
「「「「「「「「「「殺せ!!殺せ!!殺せ!!」」」」」」」」」」


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23.バキバキ!樹海のランボーラビット!

お待たせいたしました!
今回は色々と残酷描写が多いのでお気をつけて!
後、ハジメさんが悪乗りしまくってしまいます。

自分たちの身を守れるように、強くなりたいと決意するハウリア達。
その決意を固めるために、ハジメは修行の鬼となる!

波乱の第二章第4話、それではどうぞ!


ハジメ「さて、突然だけども特訓だ。」

早速置いた拠点にて、第一声を上げる。皆ポカンとしているが……

シア「え、えっと……ハジメさん。特訓というのは……?」

ハジメ「勿論そのままの意味だよ。どうせまだ時間はたっぷりあるんだし。

時間の有効活用ってやつだよ。

俺が居なくても自分の身は自分で守れる位に、強くなってもらわないと困るからね。」

シア「な、なるほど……。」

まぁ、唐突に言われても……ってやつか。

 

ハジメ「そもそもだ。俺の加護で今生きている以上、俺がいないときの場合も考えておかなきゃいけない。

フェアベルゲンという隠れ蓑もなくなった以上、魔物も人も全てが敵だ。

皆容赦なく襲ってくる。

そんな中で弱いままだと、あっという間に全滅だ。

それでも弱いままでいいのかい?」

「「「「「「……。」」」」」」

黙り込んだってことは、事の重大さを理解できたってことだな。

 

ハジメ「俺の民である以上、簡単に死なれてもらっちゃあ困るんだよ。

俺だってせっかくできた民衆第一号を失っちゃうのは嫌だし。

それに、ただ奪われるっていうのは気に食わない。アンタ達もそう思うでしょ?」

俺が問うと、しばらく黙り込んでいたハウリアであったが、誰かがポツリと漏らした。

「そうだ……ただ奪われて終わるなんて、良いわけが無い。」

 

ハジメ「そうだとも!誰にだって何かを持つ権利はある!

相手がそれを奪うのであれば、逆に奪い尽くせ!

強者となって、あらゆる障害を蹂躙しつくせ!

自らの手で、明日をつかみ取ればいい!」

カム「……ですが、私達は兎人族です。

虎人族や熊人族のような強靭な肉体も翼人族や土人族のように特殊な技能も持っていませ「知るか、そんなこと。」…え?」

ハジメ「俺が生まれた時から、強かったとでも?

否、俺は死に物狂いで鍛えただけにすぎん。

それに、何もなかった俺に比べて、生まれた時からお前達には我が友と同じ、暗殺者の素質がある。

奇襲と連携によるヒット&アウェイ戦法さえ極めれば、他の種族や帝国兵なんてどうってことないね!」

カム「!」

ようやく気がついたか。さて、どうする?

 

シア「やります。私に戦い方を教えてください!もう、弱いままは嫌です!」

シアが名乗りを上げると、他の者達も続々と立ち上がった。

カム「ハジメ殿……宜しく頼みます。」

…どうやら、覚悟は決まったようだな。

 

ハジメ「いいだろう。覚悟しとけよ?

ただし、貧弱な心意気で、そう簡単に強くなれることとは思わないことだ。

この特訓の間、お前たちは修羅の道に入るということを、しっかりとその身に刻んでおけ。

精々足搔いて生き残って見せろよ?

でなくば、骸となって犬死に等という残酷な運命しかないのだから。」

こうして俺は、ハウリア一同を鍛えることにした。

尚、シアはユエに鍛えてもらうことに。イナバは俺の補佐ということで。

 


 

……とまぁ、錬成で試作した武器を渡し、特訓開始してみたはいいものの、だ。

兎人A「ああ、どうか罪深い私を許しくれぇ~」

兎人B「ごめんなさいっ!ごめんなさいっ!それでも私はやるしかないのぉ!」

カム「ふっ、これが刃を向けた私への罰というわけか……当然の結果だな……」

兎人C「族長!そんなこと言わないで下さい!罪深いのは皆一緒です!」

兎人D「そうです!いつか裁かれるときが来るとしても、それは今じゃない!

立って下さい!族長!」

兎人E「僕達は、もう戻れぬ道に踏み込んでしまったんだ。

族長、行けるところまで一緒に逝きましょうよ」

カム「お、お前達……そうだな。こんな所で立ち止まっている訳にはいかない。

死んでしまった彼(小さなネズミっぽい魔物)のためにも、この死を乗り越えて私達は進もう!」

「「「「「「「「族長!」」」」」」」」

 

ハジメ「……」

イナバ「(#^ω^)」

訓練2日目でこれだもの。という訳で全員一回ずつ拳骨ね?

 

ハジメ「あのさぁ……マジでふざけんなよ?

お前等、何特訓ほっぽり出してミュージカルやってんだ?おん?俺言ったよな?

修羅の道に入るって。マジで生きるってこと舐めんなよ?」

「そうは言っても……」とか「だっていくら魔物でも可哀想で……」とか聞こえてくるが、無視する。

イナバ「(王様、こいつら一回半殺しにした方がいいんじゃないですかい?)」

ハジメ「それは良さそうだけど……治すのがめんどいから却下で。」

そう言って前に出ると、ハウリア一同に向き直り、ちょっとした荒治療を始める。

 

ハジメ「それなら、これも見ても同じことが言えるのかい?」

そう言って俺は、未来予知を発動した。

最も、シアの持つものとは違い、IFの世界を映し出したものだが。

そして、そこに映っていたものとは…

 

――周りには多くの兎人族の死体。そして今も尚その身を蹂躙されつくされている兎人族が幾人か。それを見て下卑た笑いを浮かべる帝国兵共がいた。

 

「なッ!?」

「これは…」

「なんてひどい…」

「こんなの、嘘だろ…?」

「なんで…なんで帝国兵が来ているのだ!?」

そう、これは帝国兵がハウリア一同を奇襲し、兎人族の者達が惨い扱いを受けている映像であった。

男共は労働力として働かされるか、殺されるかの二択。

女共は娼婦として一生慰み者になるか、あまりの惨さにこと切れるかの二択。

少々残酷ではあるが、もしもの未来をこいつ等に叩きつけた。

 

ハジメ「これはもしもの未来だ。お前らが弱いままで取り残された場合の、な。」

『『『『!?』』』』

驚く一同に構わず、俺は続けた。

ハジメ「この未来は絶対ではないが、絶対にないとも言い切れない。

魔物に食い千切られるか、帝国兵に好きなようにされるか。

このままだとその二択だけになるぞ?

お前らはそれでいいのか?

自分たちの生きたいように生きるという、第三の選択肢が欲しくはないのか?」

俺がそういうと、それに反応したのか次々と立ち上がった。

 

「そんなの、いい訳がない!」

「このままでなんて、終われない!」

「せっかく生き残ったんだ!こんなところで死んでたまるか!」

「人間はもちろん、魔物にだって、これ以上怯えてたまるものか!」

「私達の道は、私達が決める!あんな奴らに好きにされてたまるものですか!」

どうやら、作戦は成功したようだ。が、ついでにダメ押しで追加だ。

 

ハジメ「いや、無理だろ。

お前等、最初っからシアに助けてもらえば、って思っているようだし。」

カム「……ハジメ殿。今、なんと?」

おっ、効いてきたようだな。

イナバ「(王様、悪趣味すぎへんですかい?)」

いいや、むしろここからが本番さ。

どうせなら、デカい目標を狙ってもらおうじゃあないか。

 

――俺という、遥か彼方に聳え立つ氷山を。

 

ハジメ「お前たちは他の命を奪うことを躊躇している。

そんな奴らがこの先、どうやって何かを守るなどとデカい口を叩けるというのだ?

それにシアだって自分のことをこう思っているはずだ。

『自分は家族に迷惑をかけているようなものだから、見捨てられてもかまわない』とな。

分かるか?

今の弱っちいお前等如きに、化け物のアイツの故郷を守る力などあるわけないだろう?」

俺は捲し立てるようにハウリアを挑発した。すると、拳を固く握り始めた。

あと少しか。

 

カム「……口が過ぎますぞ、ハジメ殿。

私達がシアと共に樹海を出たことをお忘れか?」

ハジメ「よく言うよ、アイツの心に傷を作っただけの癖に。

力ある者に怯えて、怒ることすら忘れた奴らに、文句を言われる筋合いはないね。」

カム「……黙れ。」

ハジメ「あぁ、別に罵倒しているわけではない。

今の時点がお前たちの限界だっただけに過ぎないだけさ!

それにしてはよく頑張ったと褒めてやっているんだ!素直に喜んだらどうだ?

シアのことなんか忘れてさぁ!

それに厄介者が自分から出て行ってくれるんだ!さっさと喜んだら――」

カム「黙れと言ったぞぉおおおおおおっ!!

 

カムが血走った目で俺に突進し、初めて自ら攻撃した。

よたよたした動きの無様な突撃だったが、俺は避けることも反撃することもしなかった。

胸ぐらを掴んでくるカムを、冷徹な目でただただ見下ろしていた。

カム「馬鹿にするな!シアは私の子だ!私達の家族だ!大切な大切な家族だ!忘れることなどできるものか!一人になどするものかぁああああっ!

 

弱々しい拳が俺の頬に当たる。

だが、その弱い拳に反してカムの瞳は気炎に満ち満ちていて、何かが変わったのがよく分かった。

そしてそれは、俺という理不尽に対する怒りへと変わり、他の奴らを奮い立たせる要因となった。

カム「立て、お前達!このガキに教えてやれ!兎人族は絶対に家族を見捨てないのだと!こんな訓練くらいなんでもないと!

他のハウリアも老若男女関係なく、瞳に気概と怒りを宿して立ち上がっていく。

カム「シアに、私達の家族にっ、縁を切らせるなぁっ!!

『『『『『オォオオーーーーッ!!』』』』』

樹海に、初めて兎人族の雄叫びが響き渡った瞬間だった。

 

ハジメ「それで?結局どうするんだい?このまま訓練続行ということでいいのかな?」

カム『そうだ!地獄でもなんでも持ってこい!

全て乗り越えて、二度とふざけたことが言えないようにしてやるっ』

ハジメ「いいぜ、上等だ。ならまずは、俺が用意した魔物を、一匹残らず駆逐して見せろ!」

『『『『『望むところだ!!』』』』』

一斉に散っていくハウリア達。その後ろ姿を見ながら、一拍。

 

ハジメ「(――計画どぉり!)」

イナバ「(王様!?マジで悪党みたいな顔してまっせ!?)」

ハジメ「魔王だからね☆」

イナバ「(そういうことじゃありやせん!)」

こうして、ハウリア達は自ら修羅道に飛び込み、打倒魔王を胸に掲げ特訓に臨むのであった。

そんな彼等の姿を観察しながら、今後の計画について確認する俺であった。

あ、あと特訓内容はダイジェストで。

 

3日目

「オラァッ!死ねッ!死ねッ!」

「さっさと死にやがりなさい!この「プログライズ!」が!」

「オイオイ、何とか言ったらどうなんだ、あぁ!?」

……死に体の魔物にオーバーキルな攻撃を仕掛けまくるハウリア達。

見違えるように強くなったなぁ、っとぉ!

俺が身を翻すと、さっきまでいた場所に投擲武器が投げられていた。

フッ、そう来なくては特訓にならないからなぁ。

そう思いながら、特訓レベルの引き上げを行う俺であった。

 

4日目

ハジメ(分身体)『『『『オラオラァ!昨日までの威勢はどうしたァ!?この<カモンザチェンジ!>共がァ!』』』』

ハウリア達『『『『うっせぇぞ、この<セイザチェンジ!>野郎!』』』』

非常にエキサイトな鬼ごっこをして楽しんでいた。

向こうは殺す気満々、それに対して俺は攻撃を避け続け、相手を打ちのめすだけ。

時には間合いの調整をし、様々な助言をした。

 

『俺の動きを分析しろ!癖を見極めろ!』

『知恵を絞れ!毒花の知識はあるんだろう!なぜ使わない!』

『手段を選ぶな!罠を張れ!係して誘導しろ!』

『ここはどこだ!お前達のテリトリーじゃないのか!』

とまぁ、こんな助言をしたおかげか、半日でその技能を磨いてみせていた。

 

5日目

今回も鬼ごっこだが、昨日以上に気配操作が洗練されている。

あぁ、これだから誰かを指南するのはやめられないのだ。

が、ただ罵倒だけでは気が滅入るので、方針転換を行った。

 

ハジメ「カム!今のは良い指示だ!惑わされたぞ!」

カム「えっ、あ、ありがとうございます?」

ハジメ「パル!ちびっ子のくせに良い根性だ!お前は漢だな!」

パル「エッ、は、はい!僕は、いえ、俺は漢です!」

ハジメ「ネア、いいぞ!お前は視野が広い!対応力はお前が一番だ!」

ネア「ふぇ!?わ、私が一番?あ、ありがとうございましゅっ!」

 

と、このように飴と鞭を置くことで、互いの競争力と戦闘意欲、そしてなによりモチベーションを高めることが出来る。

これにより、この日は捕まったものは一人もおらず、全員合格となった。

そのご褒美として、俺特製の逢魔鉱石使用の武具を授けてやった。

 

6日目

『『『『オラオラァ!さっさとくたばったらどうなんだァ⁉この<レッカバットウ!>共ぉ!』』』』』

『『『『それはこっちのセリフだ!<バディアップ!>のくせに、生意気なんだよクソがァ!』』』』』

 

この日から二陣営に分かれて、暗殺合戦を始めることにした。

因みに、武器はゴムナイフのようなものの先端に、良く見える塗料を塗り付けた物だ。

暗殺教室みたく、実際にどこにナイフを突きつけたのかが良く分かり、どこが敵の急所かがはっきりする。

それを確認した俺は、早速それを記録し数を知らせ、その者自身が何に向いているかを示す。

同時に、脳内でシミュレーションを行いながら、その者に合った戦略をさり気なく伝える。

さて、そろそろ俺自らが出てやっても良いか。流石に指南役ばかりでは体が鈍るからなぁ。

と、こっそり奇襲を仕掛けてきたハウリアの攻撃を躱しながら、彼らの成長にほくそ笑む俺であった。

 

7日目

今日も暗殺合戦だ。

それにしても、たったこれだけの日にちでここまで進化するとは……

こいつ等に明日、ハウリア全員VS俺の仕上げに入ることを伝えると、全員待ってましたと言わんばかりに雄叫びを上げた。

そんなに嬉しいのか、それとも俺が憎いのか、はたまた楽しみなのか。

彼らの良く分からない行動が理解できずにいたが、やる気になってくれていることには変わりないので、早速明日に向けての準備を互いに進めるのであった。

 

8日目

午前0時、早速奇襲を開始した俺。誰が朝からやるなんて言った?俺は昨日、明日と確かに言った。

今ちょうど、その明日に変わったのさ!だからセーフ!

と、子供じみた屁理屈だったが、ハウリア達は文句を言わず迎え撃ってきた。

敵がわざわざ自分から乗り込んできた。それだけで彼等にはチャンスだったのだろう。正直、驚いたぜ。

以前までなら、ただその場で動けなかったものを、少し驚いたものの、直ぐに迎撃態勢に移っていた。

あらかじめ罠を張って待ち構えている者や、毒花を使用してデバフをかけようとしていた者たちまでいた。

 

卑怯?戦場では勝った者こそが正義であり、そこに立場も能力も関係ない。

そう教えてきた甲斐があったものだと、感慨じみた感想を抱きながら、次々と向かってくるハウリア共を迎え撃つ俺であった。

 

9日目

今度は向こうから攻めさせてやった。ただし、俺の寝床には大量にトラップを仕掛けておいてあるが。

案の定、何人かが引っかかるも、直ぐに解除して俺の方へ向かってくる。

時には打撃、時には切り付け、時には銃撃で傷を負わせようとするハウリア。

だがそれでも、結局俺には一撃も当てられなかった。だがまぁ、正直よく頑張ったと言ってやりたい。

訓練が終わる頃でも、俺には傷一つついていなかった。が、彼らの顔は晴れやかであった。

 

ハジメ「お疲れ様、皆よくやった。明日は最終試験をやるから、今日はゆっくり休め。」

ハウリア達『『『『『Sir,Yes,My lord!!魔王陛下、自主練の許可を願いますッ!!』』』』』

ハジメ『あ、うん、好きにしていいよ。』

ハウリア達『『『『『ありがとうございますッ、魔王陛下ッッ!!!』』』』』

……なんか、やり過ぎてしまった感が……。きっと気のせいだな、うん。

 

そして、運命の10日目……

ハジメ「……。」

俺は目の前に聳え立つ、魔物の死体の山に唖然としていた。

…うん、やり過ぎてしまったな。明らかに指定した量をオーバーして、…いや、倍以上かもしれない。

その理由は、その山を作り上げた張本人たちが横にいるからだ。

尤も、理由としては彼らの状態や言動なのだが。

 

カム「魔王陛下、お題の魔物共、きっちりと狩って来やしたぜ?」

ハジメ「……俺、一匹で良いって言ったんだけど……これは流石に多すぎない?」

カム「ええ、そうなんですがね?殺っている途中でお仲間がわらわら出てきやして……

生意気にも殺意を向けてきやがったので丁重にお出迎えしてやったんですよ。なぁ?皆?」

ハウリア1「そうなんですよ、陛下。こいつら魔物の分際で生意気な奴らでした。」

ハウリア2「きっちり落とし前はつけましたよ。一体たりとも逃してませんぜ?」

ハウリア3「ウザイ奴らだったけど……いい声で鳴いたわね、ふふ。」

ハウリア4「見せしめに晒しとけばよかったか……。」

ハウリア5「まぁ、バラバラに刻んでやったんだ、それで良しとしとこうぜ?」

……もうこれ、シルバニアというよりも死弄刃仁唖だなぁ……。

 

カム「イナバ将軍閣下!目標の魔物100体、確かに狩って来やした!」

イナバ「(うむ、ご苦労!これでお前たちも、晴れて我らが王の配下である!)」

ハジメ「ちょっ、イナバ!?」

コイツ、勝手になんてこと言ってくれているんだ!?てか、魔物の数が多いのお前の仕業かぁ!

……後輩ができてうれしいのか、ちょっと調子に乗っている部分が見受けられる。

後で一回お説教だな。そう思っていると……

 

パル「魔王陛下!手ぶらで失礼します!報告と上申したいことがあります!発言の許可を!」

ハジメ「えっ?あ、あぁ、構わないけど……。」

パル「はっ!課題の魔物を追跡中、完全武装した熊人族と虎人族の集団を発見しました。

場所は、大樹へのルート。おそらく我々に対する待ち伏せかと愚考します!」

ハジメ「……そう。あくまでそう来るのか。ならやるべきことは一つだな。」

そう言って、俺はハウリア一同に命じた。

 

ハジメ「俺に歯向かう愚か者共を、全員無力化して連れてこい。あぁ、死なない程度でな。

死んでいては、族長共に貸しを作れん。敢えて生かして帰せば、実力差を見せつけられるからな。」

カム「おぉ!流石は陛下!我々とは考え方が一味も二味も違う!」

……ただ単に、お前等の暴走が心配なだけなんだが。

だがまぁ、予行演習にはちょうどいい。俺は壇上に立つと、高らかに発言した。

 

ハジメ「聞け!ハウリア族諸君!勇猛果敢な戦士諸君!今日を以て、お前達は糞蛆虫を卒業する!

お前達はもう淘汰されるだけの無価値な存在ではない!

力を以て理不尽を粉砕し、知恵を以て敵意を捩じ伏せる!最高の戦士だ!

私怨に駆られ状況判断も出来ない<カモーン!>な熊共にそれを教えてやれ!

奴等はもはや唯の踏み台に過ぎん!唯の<エンゲージ>野郎どもだ!

奴等の屍山血河を築き、その上に証を立ててやれ!生誕の証だ!

ハウリア族が生まれ変わった事をこの樹海の全てに証明してやれ!」

ハウリア達「「「「「「「「「「Sir,Yes,My Lord!!」」」」」」」」」」

 

ハジメ「答えろ!諸君!最強最高の戦士諸君!お前達の望みはなんだ!」

ハウリア達「「「「「「「「「「殺せ!!殺せ!!殺せ!!」」」」」」」」」」

ハジメ「お前達の特技は何だ!?」

ハウリア達「「「「「「「「「「殺せ!!殺せ!!殺せ!!」」」」」」」」」」

ハジメ「敵はどうする!?」

ハウリア達「「「「「「「「「「殺せ!!殺せ!!殺せ!!」」」」」」」」」」

 

ハジメ「そうだ!殺せ!お前達にはそれが出来る!自らの手で生存の権利を獲得しろ!」

ハウリア達「「「「「「「「「「Aye,Aye,Sir!!」」」」」」」」」

ハジメ「いい気迫だ!では、ハウリア族諸君!俺からの最初の命令だ!

敵に屈辱というものを、身の程を持って刻み込んでやれ!!征くぞ!!」

ハウリア達「「「「「「「「「「YAHAAAAAAAAAAAAAAAAAA!!!!!」」」」」」」」」」

……うん。もうこの際、悪ノリで乗り切っちゃおう!

すまない、シア。後でちゃんとケアするから。修行の成果次第ではちゃんと連れて行くから。

 


 

そして様子を見に行った結果、これである。

ハウリア1「ほらほらほら!気合入れろや!刻んじまうぞぉ!」

ハウリア2「アハハハハハ、豚のように悲鳴を上げなさい!」

ハウリア3「汚物は消毒だぁ!ヒャハハハハッハ!」

ハウリア4「どうした<トライアル!>野郎共!この程度か!この根性なしが!」

ハウリア5「最強種が聞いて呆れるぞ!この<バーニングディバイド>共が!それでも<スキャニングチャージ!>付いてるのか!」

ハウリア6「さっさと武器を構えろ!貴様ら足腰の弱った<ν-Ω>か!」

……お前等、俺は生け捕りにしろって言ったんだが?完全に殺す気満々じゃねぇか。

 

熊人族A「ちくしょう! 何なんだよ! 誰だよ、お前等!!」

熊人族B「こんなの兎人族じゃないだろっ!」

熊人族C「うわぁああ! 来るなっ! 来るなぁあ!」

って、ん?よく見ると、熊人族しかいない。…まさか!

 

ハジメ「本命はユエ達か!いいだろう、もはや話し合いは(ドガァン!!)ふよ…う…?」

……ん?何故、虎人族が飛んできた?イナバかと思ったが、どうやら違ったみたいだ。

だってその先にいたのは……

 

シア「やりましたぁ!ユエさん!私、やりましたよ!」

ユエ「ん。シア、グッジョブ!」

何故か互いにガッツポーズしている、ユエとシアの二人だった。

……大量に気絶している、虎人族を引きずって来た。ホント何してんの!?




ここまで読んでいただき、ありがとうございます!

まさかの10日間でバーサーク化。
ハジメさんの指導に熱が入り過ぎて、
原作並みのスピードで強くなってしまうハウリア達。
そして、原作以上に煽られたことから、報復に出た虎人族。
しかし、今作のシアは一味違っていた!?

次回は三人称でシアの修行風景から始まります。
それでは、次回をお楽しみに!

宜しければ、高評価・コメント宜しくお願い致します。

追記:晶彦さん、誤字報告ありがとうございました!

次回予告

ユエ「ハジメは、誰よりも凄い人。」
特訓中に、秘密の女子会!?

シア「ハジメさんの傍に居たいからですぅ!」
シア、決意の告白!

ハジメ「お前にそれが、出来るか?」
ハジメの問答とは一体!?

Epic24「恋するウサギは止まらない」
シア「未来は絶対じゃあないんですよ?」


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24.恋するウサギは止まらない

お待たせいたしました。
今回はユエとシアがここに来るまでの経緯と、襲撃者への処罰です。
前半は第三人称で始まります。

ユエとの特訓の中で、ハジメに対する思いを自覚するシア。
彼女が出した答えとは!?
そして、ハジメが亜人たちに下す裁きとは!?

急展開の第二章第5話、それではどうぞ!


<三人称視点>

ハジメがハウリア達の狂化に成功してしまう9日前……

 

ユエはシアに、魔力操作と身体強化のやり方について教えていた。

ユエ「……ほら、早く身体強化して。早くして!」

シア「む、無理ですよぉイタッ。いきなり身体強化って言われてもぉヘブッ!?」ペチンッペチンッ

ユエ「……できないなら顔面ぷくぷくウサギになるしかない。ほらっ、ほらっ!」パシッパシッ

シア「ひぃっ、痛いっ。痛いですよぉっ。」ヒリヒリ

樹海に木霊する軽快な音。

正座するシアにひたすら往復ビンタするユエだが、これは決して体罰ではない。

シアのほっぺが既に真っ赤になっていて、瞳のダムが今にも決壊してしまいそうだとしても、だ。

 

ユエ「……訓練するにも身体強化できなければ意味がない!やる気だせ!女は度胸!」

シア「あうっ、わかってますぅ。」

ユエ「……その語尾はあざとい!あとハジメにベタベタひっつきすぎ!このエロウサギ!このっこのっ!」

シア「これ絶対に私怨入ってますよね!?」

ユエ「……私はユエ。下心スケスケウサギに私怨を隠さない女!」

シア「やっぱりただの私怨じゃないですかぁ!」

訂正、ちょっぴり嫉妬していたユエさんであった。

 

ユエ「……むぅ。固有魔法は使えているくせに、魔力を身体強化に使えないとはどういうこと?」

シア「そう言われましても……。」

ユエ「……魔法としてではなく、体内の魔力を直接操作しての身体強化なら誰もが無意識レベルでしているもの。

実際、シアは他のハウリアより明らかに身体能力が上。

無意識に強化できているんだから意図してできないはずがない。」

シア「ユ、ユエさんが長文をしゃべりました!」

ユエ「……ふんっ。」ペチンッ

シア「あふんっ。」

余計なことを言って飛んで来たビンタに、涙目で頬を押さえるシア。

すんすんっと鼻を鳴らすシアの手を、ユエは溜息交じりに取った。

両手でそれぞれの手を掴み、腕で円を作る。

 

ユエ「……魔力を直接操作する感覚は既にあるはず。強化するという感覚が分かっていないだけと見た。

私がやるから感じ取って真似して。」

シア「は、はいです!」

そんな感じで最初こそ苦労したようだが、半日もするとシアもコツを掴んだようだった。

派生技能に目覚めた時と同じ、壁を越えた感覚にハッと目を見開き、ユエの手を離しても自分で魔力を循環させ肉体強度、膂力を増大させていく。

 

シア「やりましたよ、ユエさん!」

喜色をあらわにして、シアがユエに視線を向けた瞬間、

ユエ「……ふんっ」パァンッ

シア「ひぃっ、いたっ――くない?」

ユエが、今までで一番、渾身の力を込めて繰り出したビンタがシアの頬を打つ。

が、響いた派手な音に反して、シアはきょとんとするのみ。なんの痛痒も感じていないようだ。強化成功の証である。

ユエ「……ん、んんっ。う、上手くできてる。この調子。」

シア「おぉっ、すごいです!ありがとうございます、ユエさん!」

ユエ「……ん。」

 

わぁい!わぁい!とぴょんぴょん跳ねながら大喜びするシア。

それに、ユエはなぜかそっと背を向けて、何やら小声で呟き出した。

ユエ「……い、痛いよぉ。手首おれちゃった……。なんなのアイツ。

なんでいきなり、あんな固くなるの?」ヒリヒリ

油断して〝自動再生〟の派生である〝痛覚操作〟の発動が甘かったらしい。

直ぐに再生されたが、ちょっと涙目で手首をふぅ~ふぅ~している。

 

そんなこんなで、修行を続けている中……

休憩がてら二人はプチ女子会をしていた。

会話内容については、ユエはハジメとの思い出、シアは修業後のこれからについて話していた。

 

シア「ふわぁ……ハジメさん、そこまでユエさんのために?」

ユエ「ん。ハジメはとても優しくて、すっごく強い。でも、それ以上に…」

シア「え!?まだあるんですか!?」

ユエ「ハジメは、誰よりも凄い人。

王様になりたいっていう夢を叶えるために、小さいころからずっと自分を鍛え続けていた。

どんなにつらくても、苦しくても、弱音一つ吐かず、最後までやり遂げた。

だからハジメは、私にとっての憧れ。王子様のような存在。」

シア「う、羨ましいですぅ……」

ユエ「……この修業をクリアすれば、シアも一緒に……」

シア「!ユエさぁん!」

ハジメへの恋バナをしている内に、いつの間にか仲が良くなっている二人であった。

 

ユエ「どうしてシアは、辛いことでも必死になれるの?以前なら諦めそうだったのに……」

シア「諦めるための理由を、ハジメさんとユエさんがぶっ壊してくれたからです!!

私、お二人と一緒にいたいんです!」

ユエ「んっ。か、家族を捨てる気?」

シア「家族を守る気です。よわっちぃ今の私じゃあ家族の傍にいられません。

誰が傍にいていいと言っても、私が許せないんです。

私が傍にいなければ、長老衆の決定に納得のいかない人達も一族には手を出さないでしょう。

お二人との旅で強くなれば、いつか戻っても力で押し通れます」

何より、旅の中で恩人であるお二人に恩返しもできます!!」

ユエ「……本当は、ハジメに惚れてるからでしょ?」

シア「そ、それは確かにそうですけど……ユエさんも一緒じゃないと意味ないですよ?

そ、その……お、お、お友達になりたいっていうかぁっ!」

ユエ「……友達……。」

 

思えば、ユエ自身幼いころから国政に関わっていたため、友と呼ぶ存在を作る時間すらなかった。

なので、こういった普通の形で友達を持つことは初めてであった。

ユエ「……ん。考えておく。」

シア「!ホ、ホントですか!?ありがとうございますぅ!私、やり遂げて見せます!

応援してくれるユエさんのためにも!」

ユエ「んっ。その調子で、ファイト!」

そして、運命の10日目……

 

ズガンッ!ドギャッ!バキッ!バキッ!バキッ!ドグシャッ!

樹海の中で、凄まじい破壊音が響く。

野太い樹が幾本も半ばから折られ、地面には隕石でも落下したかのようなクレーターがあちこちに出来上がっており、更には、燃えて炭化した樹や氷漬けになっている樹まであった。

この多大な自然破壊はたった二人の女の子によってもたらされた。

そして、その破壊活動は現在進行形で続いている。

 

シア「でぇやぁああ!!」ズドォンッ!

裂帛の気合とともに撃ち出されたのは直径一メートル程の樹だ。

半ばから折られたそれは豪速を以て目標へと飛翔する。

確かな質量と速度が、唯の樹に凶悪な破壊力を与え、道中の障害を尽く破壊しながら目標を撃破せんと突き進む。

 

ユエ「……"緋槍"。」シュインッ!

それを正面から迎え撃つのは全てを灰塵に帰す豪炎の槍。

巨大な質量を物ともせず触れた端から焼滅させていく。

砲弾と化した丸太は相殺され灰となって宙を舞った。

 

シア「まだです!」

"緋槍"と投擲された丸太の衝突がもたらした衝撃波で払われた霧の向こう側に影が走ったかと思えば、直後、隕石のごとく天より丸太が落下し、轟音を響かせながら大地に突き刺さった。

バックステップで衝撃波の範囲からも脱出していた目標は再度、火炎の槍を放とうとする。

しかし、そこへ高速で霧から飛び出してきた影が、大地に突き刺さったままの丸太に強烈な飛び蹴りをかました。

一体どれほどの威力が込められていたのか、蹴りを受けた丸太は爆発したように砕け散り、その破片を散弾に変えて目標を襲った。

 

ユエ「ッ!"城炎"!」ゴオッ!

飛来した即席の散弾は、突如発生した城壁の名を冠した炎の壁に阻まれ、唯の一発とて目標に届く事は叶わなかった。

しかし……

 

シア「もらいましたぁ!」ダッ!

ユエ「ッ!」

その時には既に影が背後に回り込んでいた。

即席の散弾を放った後、見事な気配断ちにより再び霧に紛れ奇襲を仕掛けたのだ。

大きく振りかぶられたその手には超重量級の大槌が握られており、刹那、豪風を伴って振り下ろされた。

 

ユエ「"風壁"。」ギュルゥッ!

大槌により激烈な衝撃が大地を襲い爆ぜさせる。砕かれた石が衝撃で散弾となり四方八方に飛び散った。

だが、目標は、そんな凄まじい攻撃の直撃を躱すと、余波を風の障壁により吹き散らし、同時に風に乗って安全圏まで一気に後退した。

更に、技後硬直により死に体となっている相手に対して容赦なく魔法を放つ。

 

ユエ「"凍柩"。」

シア「ふぇ! ちょっ、まっ!」カキーン!

相手の魔法に気がついて必死に制止の声をかけるが、聞いてもらえる訳もなく問答無用に発動。

襲撃者は、大槌を手放して離脱しようとするも、一瞬で発動した氷系魔法が足元から一気に駆け上がり……頭だけ残して全身を氷漬けにされた。

 

シア「づ、づめたいぃ~、早く解いてくださいよぉ~、ユエさ~ん。」

ユエ「……まだまだ詰めが甘い、要精進するべし。」

そう、問答無用で自然破壊を繰り返していたこの二人はユエとシアである。

二人は、修業を始めて十日目の今日、最終試験として模擬戦をしていたのだ。

内容は、シアがほんの僅かでもユエを傷つけられたら勝利・合格というものだ。その結果は……

 

ユエ「……でも、一先ずは合格。よく頑張りました。」

ユエの頬には確かに小さな傷が付いていた。

おそらく最後の石の礫が一つ、ユエの防御を突破したのだろう。

本当に僅かな傷ではあるが、一本は一本だ。シアの勝利である。

 

シア「ホ、ホントですか!」

ユエ「ん。……後はハジメに報告して、認めてもらうだけ。」

それを聞いて、顔から上だけの状態で大喜びするシア。体が冷えて若干鼻水が出ているが満面の笑みだ。

ウサミミが嬉しさでピコピコしている。無理もないだろう。

何せ、この戦いには訓練卒業以上にユエとした大切な約束事がかかっていたのだ。

シア「よかったぁ~、これで私も仲間入りです!ユエさんが認めてくれたんです!

ハジメさんだってきっと……ところで、そろそろ魔法解いてくれませんか?

さっきから寒くて寒くて……あれっ、何か眠くなってきたような……。」

ユエ「んっ!?しまった、忘れてた!」

先ほどより鼻水を垂らしながら、うつらうつらとし始めるシア。寝たら死ぬぞ!の状態になりつつある。

その様子を見て、慌ててユエは魔法を解いた。

 

シア「ぴくちっ!ぴくちぃ!あうぅ、寒かったですぅ。危うく帰らぬウサギになるところでした。」ブルブル

ユエ「……ん。面目ない。」

可愛らしいくしゃみをし、近くの葉っぱでチーン!と鼻をかむと、シアは、その瞳に真剣さを宿してユエを見つめた。

ユエは、その視線を受けて、我が子を見るように微笑んでいた。

 

シア「ユエさん、私、勝ちました。」

ユエ「ん。」

シア「約束しましたよね?」

ユエ「ん。」

シア「もし、十日以内に一度でも勝てたら……ハジメさんとユエさんの旅に連れて行ってくれるって。そうですよね?」

ユエ「ん。約束だから。」

シア「……!ありがとうございますぅ!ユエさぁん!」ガバッ!

ユエ「んぅ!?ちょ、ちょっと…。」

感極まったシアにいきなり抱き着かれて、困惑するユエ。

 

実を言うと、ユエは、シアと一つの約束をした。

それは、シアがユエに対して、十日以内に模擬戦にてほんの僅かでも構わないから一撃を加えること。

それが出来た場合、シアがハジメとユエの旅に同行することをユエが認めること。

尚、これについては、前日にハジメさんと相談した結果である。

 

シアは、本気でハジメとユエの旅に同行したいと願っている。

それは、これ以上家族に負担を掛けたくないという想いが半分、もう半分は単純にハジメとユエの傍にいたい、もっと二人と仲良くなりたいという想いから出たものだ。

そこで、シアが考えたのが、先の約束という名の賭けである。

シアとしては、ハジメは何だかんだで仲間に甘いということを見抜いていたので、外堀から埋めてしまおうという思惑があった。

 

何より、シアとて女だ。ユエのハジメに対する感情は理解している。

自分も同じ感情を持っているのだから当然だ。ならば、逆も然り。

だからこそ、まず何としてもユエに対してシア・ハウリアという存在を認めてもらう必要があった。

シアは、何もユエからハジメの隣を奪いたいわけではない。そんなことは微塵も思っていない。

ハジメへの想いとは別に、ユエに対しても近しい存在になりたいと本気で思っているのだ。

それは、この世界でも極僅かな〝同類〟であることが多分に影響しているのだろう。

つまり、簡単に言えば〝友達〟になりたいのだ。想い人が傍にいて、同じ人を想う友も傍にいる。

今のシアにとって夢見る未来は、そういう未来なのだ。

 

そんなシアの心情を汲み取ったのか、ユエも全力でそれを応援しようと思っていた。

その理由の二割は、やはりシンパシーを感じたことだろう。ライセン大峡谷で初めてシアの話を聞いた時、自分とは異なり比較的に恵まれた環境にあることに複雑な感情を覚えつつも、心のどこかで〝同類〟という感情が湧き上がったことは否定できない。

僅かなりとも仲間意識を抱いたことが、シアに対する"甘さ"をもたらした。

そして、八割の理由は……ハジメのこれからについてである。

ハジメ自身はあまり気づいていないであろうが、彼の性格がだんだん魔王状態に引っ張られかけているのだ。

それはつまり、守る者のためなら何者の排除すら厭わない、正しく「魔王」と呼ぶべき存在だろう。

恐らく自分だけでは、彼が道を誤った時に、止めることが出来ないだろう。

しかし、ハジメのためにひたむきに頑張るシアを見て、彼女となら一緒にハジメの道をただすことが出来る"戦友"になれるのでは、と思ったのだ。

 

そろそろ、ハジメのハウリア族への訓練も終わる頃だ。

満足そうなユエと上機嫌なシアは、二人並んでハジメ達がいるであろう場所へ向かおうとしたその時…

ユエ「!……周りに誰かいる。」

シア「!ウサミミにも来ています!あれは……虎人族!?」

二人が一斉にある方向を向くと、ぞろぞろと虎人族がやってきた。

尤も、彼らが申し訳なさそうな表情をしながらでなければ、即座に戦闘態勢になっていたが。

 

ギル「……突然のことで本当に申し訳ない。だが、族長が「奴らに目にもの見せてやれ!」と煩くてな……

正直、彼の仲間の君たちに手を出して、怒りを買いたくはないのだが……」

シア「うわぁ……ユエさん、どうします?」

ユエ「……やるしかない。」

どうやら、族長のゼルが無理難題を部下たちに押し付けてきたようだ。

ハジメの実力はもちろんのこと、その強さや逆鱗についても良く知っているギルたちからすれば、「ふざけんな!」といいたい命令であった。

連日徹夜で、上司の無茶な要望に答え続けている、仕事終わりのサラリーマンのような彼を見て、微妙な表情を浮かべながらも、戦闘態勢に入る二人であった。

 

ギル「そういうわけでだ……悪いがあまり抵抗してくれるなよ?」

シア「何だか申し訳ありませんが……簡単に捕まるわけにはいかないので!」

ユエ「ん。来るがいい。全員まとめて、ぶっ飛ばす。」

その会話を合図に、虎人族が二人の周りを取り囲んだ。

しかし、戦闘が始まった結果……

 

シア「シャオラァ!」ドゴォンッ!

虎人族A「グアァァァ!?」

シアの鉄拳を喰らい、吹っ飛んでいく虎人族。

ユエ「"嵐帝"。」ブワァッ!

虎人族「「「「うわぁぁぁ!?」」」」

ユエの魔法で、吹っ飛ばされる虎人族達。

 

ギル「……だから、嫌だって言ったのに……。」

この様である。

かつて、"忌み子"と呼んでいただけの兎人族の娘がここまで強くなっているのは予想外であったが、やはり件の彼の仲間である以上、その力は自分たち以上であることは分かり切っていたことだ。

それをたかが威厳のために、態々敵対するような姿勢をとる族長に、もはや呆れすら感じるギルであった。

 

シア「ふぅ……これでほとんど片付きました。」

ユエ「ん。後は、貴方だけ。」

ギル「……降参しよう。だからもう、いっそのこと一思いにやってくれ……。」

死んではいないが、辺りに倒れている仲間を見て、もはや戦いにすらならないだろうと薄々感じていたギル。

その表情は、やっとデスマーチから解放される会社の重役の様であった。

 

シア「うわぁ……凄くやりづらいですぅ……。」

ユエ「……ん。手加減はする……多分。」

その表情を見て、色々と複雑ではあったものの彼を倒し、ハジメ達の下へ急ぐ二人であった。

尚、道中で他の虎人族が捨て身の特攻で向かってきたものを、返り討ちにすることも何度かあった。

 

<三人称終わり>

 


 

<ハジメさん視点>

 

ハジメ「それで今に至ると……なんか、申し訳ないなぁ……。」

ユエ「ん。罪悪感、たっぷり。」

シア「アハハ。まぁ、ちょっとやりすぎちゃいましたね……。」

疲れ切った表情で語る二人を労いながら、俺は虎人族のギルを叩き起こした。

 

ギル「グッ!?こ、ここは……。」

ハジメ「よう、久しぶり。」

ギル「!あ、あんたは……!」

なんか、怯えているようだが……別に殺す訳じゃあないんだが……。

 

ハジメ「とりあえず、全員の身柄を拘束させてもらうよ。

処罰については、族長の奴らも一緒にいるところでやるから。」

ギル「た、頼む!俺の命だけでいいから、同胞たちは「待て待て待て。まだ何も言っていない。」し、しかし……。」

ハジメ「そりゃあ、正直デカい代償になるだろう。だがな、タダほど安いものはない、と言うだろう?」

ギル「!?」

驚く彼を横目に、熊人族を拘束しているハウリアの方を向いた。

 

ハジメ「お前等、こいつ等全員フェアベルゲンに連れていくぞ。全住民の前で、奴等に代償を払わせる。」

「「「「「「「「「「Sir、Yes、My lord!!!」」」」」」」」」」

シア「!?ちょっとぉ!?ハジメさん、皆に何をさせたんですかぁ!?」

ハジメ「……説明と謝罪は後でめっちゃする。だから今は、勘弁して。」

シア「ホントに何をしたんですか!?」

うん、まぁ、あれは流石に反省する。まぁ、それはそれとして……。

 

ハジメ「兎に角、ユエの試験はクリアできたようだね。」

シア「!ハイ!そうなんです!私、ユエさんに勝ちました!」

ハジメ「そう、良かったね。ユエ、シアはどうだった?」

ユエ「ん。魔法の適正はないけど、身体強化が凄い。大体6000ぐらい。」

ハジメ「そうか、そりゃあ今後が楽しみだなぁ。」

まぁ、ユエも自慢げにしているってことだし。仲良くなれたってことでいいのかな?

 

シア「ハジメさん。私をあなたの旅に連れて行って下さい。お願いします!」

ハジメ「それはいいけど……いくつか聞いていい?」

シア「!な、何でしょうか?」

そう畏まらなくてもいいのに……いや、場合によっては、そうなるか。

 

ハジメ「全員連れてくるつもりじゃないよね?流石にそれは多いんだけど…?」

カム「よし、お前たちは全員残れ。」

ハウリア1「ちょっとぉ?なぁに勝手に決めているんですか族長?」

ハウリア2「それを言うなら、一族を守るために族長が残りやがったらどうです?」

ハジメ「お前らちょっと黙ってろ。今、シアが話していて大事なとこなんだから。」

「「「「「「「「「「Sir、Yes、My lord!!!」」」」」」」」」」

……忠実すぎるのも考え物だなぁ……。

 

シア「ち、違いますよ!今のは私だけの話です!ていうか、父様達には修行が始まる前に話をしたはずですよね!?。」

カム「ぶっちゃけシアが羨ましいのだ!」

シア「ぶっちゃけちゃった!ぶっちゃけちゃいましたよ!ホント、この十日間の間に何があったんですかっ!」

……お前らは子供か。ホラ、イナバがちゃんと見張れって言っているから、さっさと戻りなさい。

 

ハジメ「じゃあ、俺達に付いて行きたいっていう理由は?」

シア「その……私自身が、付いて行きたいと本気で思っているなら構わないって……。」

ハジメ「そうだね。だから、君の本心が聞きたいんだけど?」

シア「で、ですからぁ、それは、そのぉ……。」

ハジメ「その?」

暫くもじもじしていたが、ようやく決心したのか、シアは大声で言った。

 

シア「ハジメさんの傍に居たいからですぅ!しゅきなのでぇ!」

ハジメ「……そうか。」

まぁ、薄々感づいてはいたが……一応聞いておくか。

 

ハジメ「状況につられているわけじゃないってことだよね?」

シア「……状況が全く関係ないとは言いません。

窮地を何度も救われて、同じ体質で……

長老方に啖呵切って私との約束を守ってくれたときは本当に嬉しかったですし……

ただ、状況が関係あろうとなかろうと、もうそういう気持ちを持ってしまったんだから仕方ないじゃないですか。

私だって時々思いますよ。どうしてこの人なんだろうって。

それでも!ちゃんと好きですから連れて行って下さい!」

……そうか、それなら、あとこれだけか。

 

ハジメ「危険だらけの旅になるよ?」

シア「化物でよかったです。御蔭で貴方について行けます。」

ハジメ「望み通りにはならないかもよ?」

シア「知らないんですか?未来は絶対じゃあないんですよ?」

……ハッ、ここまで言えるなら、問題はないな。

 

ハジメ「よし、分かった。シア、俺達に付いて来い!」

シア「!やった。やりましたよ!ユエさん!」

ユエ「ん!よく頑張った!」

……何気に俺より感極まっている二人。あれ?なんか周りに百合の花が……?

イナバ「(……ま、ユエの姐さんと王様が認めている以上、文句はありやせん。)」

ハジメ「そうか、それならいいんだ。」

 


 

とまぁ、そんなこんなでシアを連れていくことにした俺達は、熊人族と虎人族を連行し、再びフェアベルゲンに殴りこんだ。

勿論、オーマジオウに変身した状態で。

ハジメ「それで?この落とし前はどうやってつけるつもりだ?この痴れ者どもが。」ドドドドドドド

アルフレリック「……申し訳ない。同胞たちが迷惑をかけたようだ。」

ハジメ「御託はいい。それで処罰の件だが、やはり襲撃した二種族は滅ぼすことにした。」

アルフレリック「!?」

まぁ、驚くのも無理はない。だが、これは決定事項だ。

 

アルフレリック「ま、待ってくれ!せめて、謝罪だけでも!」

ハジメ「どうせまた愚行を繰り返すだけの馬鹿どもの謝罪など要らん。

そもそも、熊人族はまだしも、虎人族の首領は相当な大馬鹿者のようだな?

あの場で聞いていたにもかかわらず、それを無視して部下に押し付けるなど……

群れの長としての自覚すらないようだな?」

ゼル「き、きさm「黙れ。」!?」

また騒ぎ出しそうだったので、重力系技能で黙らせた。

 

ハジメ「私が譲歩したにも関わらず、恩を仇で返す様な輩にやる情けなど、私は持ち合わせていない。

だがそうだなぁ……一つ、余興をすれば許してやらんこともない。」

アルフレリック「そ、そうか……では何をすればよい?」

ハジメ「あぁ、早速だが、一番広い場所に亜人族全員を集めてこい。

引きこもっている熊人族の長も忘れずにな?」

そういうと私は、老害猫の髪を掴み、そのまま引きづって言った。

 

ゼル「グアッ、は、放せっ!」

ハジメ「黙ってついてくるといい。それにどちらにしろ、貴様には罰を下すつもりだ。」

ゼル「何!?どういうことだ!?」

ハジメ「さぁ?どうであろうなぁ?だがそうだな、ヒントをやるとすれば……」

そういうと私は、老害猫の方を向いた。

 

ハジメ「仲間のために恥をさらす。お前にそれが、出来るか?




ここまで読んでいただき、ありがとうございました!

遂にシアが仲間入りしました。
ですが、これでハウリア強化計画はまだ終わってはいません。
まだまだ期間があるので、更に強化していきます。

そして原作でも本作でも苦労人のギル。
一応、ハジメさん自身も手心は加えるつもり。
まぁ、どちらにしろゼルには重い罰ですけどね。

さて次回は、そんなハジメさんによる公開処刑と、ハウリアの強化計画再始動のお話です。
是非、お楽しみに!

宜しければ、高評価・コメント宜しくお願い致します。
追記:リースティアさん、毎度の誤字報告ありがとうございます!

さて次回!

ハジメ「さぁ、早くしたらどうなんだ?」
ハジメの出す刑罰とは!?

カム「これより我らは、独立する!」
まさかの独立宣言!?

ハジメ「これが最後の特訓だ。耐えきって見せろ!」
ハウリア達は限界に挑む!

第二十五幕「樹海兎超進化」
ハジメ「いざ、参る!ってね。」


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25.樹海兎超進化

お待たせいたしました。
今回は、ハジメさんによる公開処刑と、ハウリア魔改造の二つです。
はたして、ハジメさんはどのような罰を下すのか!?
そして、二種族の族長の判断とは!?
そして、ハウリア達は、己の限界を超越する!

驚愕の第二章第6話、それではどうぞ!


ハジメ「さて、そろそろか……。」

ぞろぞろと集まる亜人達。その視線の先には、老害猫を組み伏せる私の姿があったからだ。

老害猫は抵抗を試みているようだが、実力差で言えば、蟻がドラゴンに挑むようなものだ。

無駄な行動としか言えない。

 

ゼル「き、貴様ッ…!俺にこのような仕打ちをしてタダで済むとグエッ!?」ドゴッ!

もはや説教する気すらないわ。さてどうしたものかと考えていると、こちらへ向かっている気配があった。

どうやら熊人族の長が来たようだ。相当に怯えているようだが?

ハウリアが連行しているからか。あ奴等、やり過ぎるなとあれほど言ったというのに……

まぁ良い。役者はそろったので、粗末な茶番を始めるとしよう。

 

ハジメ「聞くがよい!フェアベルゲンの民達よ!私の名は南雲ハジメ。

この地にやってきた、最高最善の魔王である。

この度は、無謀にも私に歯向かった愚か者共の処刑を行うことにした。

これより、熊人族と虎人族の公開処刑を行う!」

案の定騒ぎ出したか。中には私に敵意を持つ視線をぶつけてくる者までいる。

だが、族長が組み伏せられている以上、誰も手出ししてこないようだが。

 

ハジメ「この二種族は、私が譲歩してやった条件を身勝手にも破り、禁を犯した。

本来ならば、この場でこの二種族を老若男女問わず、子供であろうとも一人残らず滅ぼすところである。」

「「「「!?」」」」

事情を知らない者達が息を飲んだ。だが、これで終わりではない。

ハジメ「だが、私自身それではつまらんと思ったのだ。そこでだ。」

そう言うと、熊人族と虎人族のそれぞれの長を一瞥し、再び民衆の方へ向き直った。

 

ハジメ「この二種族の長が、お前たちの前で平伏し、私に許しを請うのであれば、殲滅は取り下げてやることにした。

どうだ?この二人が頭を下げるだけで、同胞が死なずに済むのだ。悪くはない話であろう?」

「「!?」」

驚きを隠せない二人の長。これこそが、私の望んだ展開だ。

果たしてこの者達に、配下を思う気持ちがあるだろうか?

プライドをとるか、それとも仲間の命をとるか。私であれば迷わず後者をとるが。

さて、どう動くのだろうか?

 

ゼル「ふ、ふざけッ「おっと、どうやら虎人族は滅ぼさなければならないようだな?」グッ…!」

ハジメ「どうした?先ほどまでの威勢は?黙り込んででも、威厳が惜しいのか?」

ジン「ま、待ってくれ!ハジメ殿!」

ハジメ「む?」

老害猫を踏みつけていると、熊人族の長が声を発した。

その方向を見ると、熊人族の長は意を決したように、地面に頭を擦り付け、平伏した。

そう、熊人族の長が、人間に対して、土下座をしたのだ。

 

ジン「これまでの無礼狼藉、誠に済まなかった!

貴殿にはもちろん、配下であるハウリア達にまで酷いことをしたこと、非常に申し訳ない!

しかし、処刑するのであれば、私だけにしてもらいたい!無礼は承知の上だ!

私一人の命で、貴殿の怒りが収まるかはわからないが、せめて同胞の命だけは助けてほしい!

頼む、この通りだ……!」

ハジメ「……。」

フン、どうやら相当に思い知ったようだな。まぁ、流石にもう死に戻りは嫌か。

 

ハジメ「いいだろう。お前のその誠意に免じ、熊人族の処刑は白紙とする。ただし…」

ジン「!分かった。私の命を「違うわ。」……な、何?」

ハジメ「お前達の命は保証してやる。無論、お前自身の命も、だ。」

ジン「!?ど、どういうことだ!?」

そう、ここからなのだ。今、この瞬間からが、交渉スタートなのだ。

 

ハジメ「私とその仲間、配下たちに無礼を働いた、お前達熊人族の命を助けてやると言っているのだ。

それはつまり、お前達フェアベルゲンは、私に借りが出来たことになる。もう言わずともわかるな?」

ジン「!……ま、まさか!」

ハジメ「あぁ、そのまさかだ。貸し一つ、という奴だ。」

その言葉に、全体がどよめいた。今から行うことに関係ないが。

 

ハジメ「正直、お前が頭を下げてくれたことは助かるのだ。無益な殺生をせずに済むのでな。

それ故、こんなにも安い代償で済ませてやるのだ。助かるに越したことはないだろう?」

ジン「ッ……、た、確かにその通りだ……。」

ハジメ「安心しろ、そちらが侵攻しないことを確約するのであれば、無闇に命を失うこともない。

場合によっては、同盟だって結んでやらんこともない。いずれ危機が訪れた時のための、な?」

ジン「!」

そう、これは相手側にデメリットだけを与えるわけではない。

相手側から歩み寄れるきっかけとして、不可侵条約の締結という、破格の条件まで出してやるのだ。

同盟がある以上、帝国や魔人族の侵攻にも備えることが出来る。

私としても、かなり譲歩した意見である。

 

ふと、他の族長共の顔を見ると、一同安堵した顔になっておった。

アルフレリックの奴め、それが分かると否や、胃薬を飲んでおった。

そこまで同胞に悩みを持つのであれば、ハウリアを数人貸し出すか?

実力行使で黙らせることだって可能なのだ、そう簡単にやられるわけでもない。

だがどうやら、それを良く思わないのか、老害猫は激しく抗議した。

 

ゼル「ジン、貴様!我ら亜人族の誇りを失ったのか!それでも貴様は「黙れ!」!?」

ジン「元はといえば、口伝を無視した我々の自業自得にすぎん。

本来なら、同胞諸共絶滅しなければなくなる運命であった。

それをこの御仁は、我ら族長が頭を下げ、謝罪の意を告げることで、その罪をお許しになるのだ!

分かるか!?今貴様は己の下らんプライドのせいで、同胞達を危険に晒しているのだぞ!

それすらも理解せずして、何が族長か!」

……流石にそこまで代弁されると、私としても語りづらいのだが。まぁ良いか。

 

ハジメ「そういうわけだ。さぁ、早くしたらどうなんだ?

まさかとは思うが、我が身大事さに同胞を見殺しにするような男なのか?

そうであれば、余程の根性なしと見受けられるが?」

ゼル「!貴様ぁ!」

そう言うと逆上したのか、拘束を振りほどいて襲い掛かってきた。だが……

 

ハジメ「……やれやれ、ギンのこともあるので少しは大目に見てやろうとでも思ったが……

やはり馬鹿は死なねば治らんということか。」

ゼル「な、何を「刑を執行する。」」ズパァン!

その瞬間、老害猫の首がはじけ飛んだ。しかしその直後に時を戻す。

 

ゼル「!?」

ハジメ「さて、後何回持つ?私の気が済むまで、簡単に死んでくれるなよ?

その後、蹂躙を開始した。

途中で奴が何度か「もうやめてくれ!」だの「助けてくれ!」だのと宣っていたが、そんな戯言に耳を貸さず、そのまま殺しては戻し、殺しては戻しの繰り返しを行う私であった。

 

そして、どれくらい時間が経っただろうか。

老害猫は既に気絶しており、あまりの恐怖に全身が白くなっているように見える。

よく見れば、体中から液体が駄々洩れており、不快な悪臭までしていた。

勿論、死んだわけではないが。そんな状態のまま、私の足元にいた。

ハジメ「……どうやらこの男には、自分の権力に固執しすぎたようだな。見るが良い。この無様な姿を。」ガッ!

そう言って、老害猫の頭を引っ掴み、その顔を民衆の前にさらした。

その顔はまさに死への恐怖に歪んでおり、哀れな亜人の末路を示していた。

 

民衆たちはあまりの恐怖で黙り込み、族長共も蒼褪めていた。

唯一経験者であるジンは、耐えきっていたようだが。

逆にイナバとハウリア達は歓声を上げた。シアが頭を抱え、ユエが彼女を慰めている。

まぁ、ここらでデモンストレーションは終いとするか。

ハジメ「さて、これをもって、虎人族の処刑を終いとする。

これ以降、虎人族の長……何と言ったかな?

まぁよい、その者は同じ亜人族であるハウリア、更には人間にすら負けた敗北者として、その汚名を残すであろう。

これに異議がある者は申し出るとよい。遠慮なく返り討ちにしてくれよう。」

その後に異議を申す者はいなかった。

 

ハジメ「そもそも、お前達は忌み子を生んだハウリアを非難しているが、それはお門違いというものだ。

例えば、ジン。お前に倅が生まれたとする。

その倅は髪が白く、本来あるはずのない魔力と固有魔法を有していた。

その場合、どうするつもりだ?」

ジン「それは……」

ハジメ「無論匿い、場合によっては、戦ってでも守るであろう。家族とはそういうものだ。」

ジン「……あぁ、そうだな。私もきっとそうするであろう。」

そう言うと、ジンはハウリア達の方へ向き直り、再び頭を下げた。

 

ジン「本当にすまなかったっ!!

我々は一方的にシア・ハウリアを忌み子として迫害したばかりか、共に過ごしてきた同胞達であるハウリア族の皆にすらも酷いことをした!

とても許されることではないことは分かっている!貴殿らの苦しみを理解したなんて言うつもりはない!

だが、謝罪だけはさせてほしい!本当にすまなかった!」

……こやつも変わったものよなぁ。変えたのはおそらく私ではあるが。

 

カム「それについては気にしていない。何せ守られるだけでの弱い我々にも、責任はあるのだ。

それに何より、我らが魔王陛下がお許しになられたのだ。文句はあるまい。

だが、そうだな。その誠意に免じ、今後同盟についての話し合いをしてやらんでもない。」

ジン「!それは誠か!かたじけない!」

カムよ、勝手に決め……いや、別に良いか。

 

ハジメ「そういうことだ。ただ他と違うからという理由だけで罪だなどと、おかしいにも程がある。

他と違うのは当然だ。違うからこそ、個人が個人である証拠に他ならん。

そういった子が生まれようとも、お前達がその子の人生を勝手に決めていい訳ではない。

たとえ見た目が醜悪であろうと、他にはない異質な力を持っていたとしても、生まれた子に罪などない。

それを大人が勝手に決めてよい訳がない。子供は大人の道具ではない。

ハウリア達は、自分たちの子供に生きてほしいと願っただけだ。

その行動と願い自体に、一体何の罪があるというのだ?お前達も我が子や家族を思う気持ちはあろう。

それと同じだ。そのことについて深く考え、しっかりと反省するがよい。」

そう言うと、何故か亜人たちが一斉にハウリア達に謝りだした。

流石に一斉に謝られると困惑したのか、落ち着かせに言ったハウリア達であった。

 

ジン「……その……勝手に言ってしまったが……」

アルフレリック「……構わんよ。私とて一人の娘を持つ身だ。気持ちは痛い程にわかる。」

ルア「僕も問題ない。彼の話を聞いていると、だんだんわかって来たよ。」

グゼ「儂もだ。何より、他ならぬジンがそういうのだ。

聞いてわかることもあるのだな、と思い知らされたわ。」

マオ「右に同じよ。それに、ハウリア達との交流の懸け橋もできたし。ゼルも納得するでしょう。」

ジン「ッ……かたじけない……ッ」

どうやら、長老衆とのわだかまりもなくなったようだな。

さて、そろそろ手打ちとしよう。そう思ったその時……

 

カム「聞くがよい!フェアベルゲンの同胞達よ!」

……待てカム、貴様一体何をするつもりだ?

カム「今日この日この瞬間をもって、フェアベルゲンの我等ハウリアは同盟関係となった!

よって、これより我らは、独立する!

ハジメ「…………………………………………………………………………………………………は?」

今何と言った?ここでいきなりの独立宣言だと?

 

シア「何言ってやがるんですかこの馬鹿父様ぁー!!!」ドガァッ!!

カム「グオォッ!?」

あぁ、もう。収拾がつかん……。

ハジメ「すまん、アルフレリック。民衆への説明を頼む。」

アルフレリック「あ、あぁ…。

ハウリア族の罪については帳消しとし、他の亜人族と同じ同胞として扱うことにする。以上だ。」

アルフレリックの宣言に民衆が歓喜する中、私達はハウリア達を連れて、即座に退場した。

 


 

ハジメ「それで?ホント何してくれようとしていたの?」

カム「い、いやぁ~ハハハ……本当に申し訳ありません……。」

取り敢えず、盛り上がっていたハウリア達にお灸をすえた俺達は、拠点に戻っていた。

ハジメ「シア、大丈夫だ。その場の勢いで言っただけってことにしてもらったから。」

シア「そういうことじゃないんですぅ~!もう、恥ずかしい…///」カァッ~

あ~あ、ウサミミガード発動しちゃったよ。後でしっかりケアしないとな……。

 

ハジメ「兎にも角にも、お前達は戦いに勝利した。それは喜んでもいい。よくやった。」

ハウリア達「「「「「「「「「「ハッ、ありがたき幸せ!!!」」」」」」」」」」

やれやれ、色々と疲れるぜ。だが、これで終わりではない。

ハジメ「そういう訳で、だ。お前達全員に最後の特訓を課す。」

シア「え!?これ以上おかしくなるんですか!?」

ハジメ「違うって。いや、うん。確かに色々逸脱しちゃう意味ではあってるけど。」

シア「本当に大丈夫なんですか!?」

……正直、今までよりもシンプルなんだが……。

 

ハジメ「その訓練内容だが……こちらだ。」

そう言って俺が手を向けた先には……イナバとユエが狩った魔物の死体の山が並んでいた。

シア「あの~、ハジメさん?これを一体どうすr「食え。」……はい?」

ハジメ「食えと言ったんだ。魔物の肉を喰らい、その力を得る。それが特訓内容だ。」

……全員唖然としているな。まぁ、無理もないか。

 

ハジメ「魔物の肉を喰らうということは、その魔物の固有魔法を使えるようになるということだ。

現に俺も、そうして強くなった。だから、お前達にも出来ることだ。

だがもちろんのこと、魔物の肉はマズいし、毒による副作用だって相当キツイ。

それでも、戦う覚悟を知った今のお前達なら、乗り越えられないことはない!そうだろう?」

ハウリア達「「「「「「「「「「Sir,Yes,My Lord!!」」」」」」」」」」

依然としてやる気満々のハウリア共。こいつ等、下手したら今のシアとタメ張れる位になるんじゃ…?

 

シア「えぇ!?食べなきゃダメなんですかぁ!?毒があるんですよね!?」

ハジメ「でぇじょうぶだ、浄化作用で弱めるから。」

シア「そういう問題じゃないんですが!?」

ハジメ「まぁ、シアは受けなくてもいいが。もう魔力操作は持っているみたいだし……。」

シア「!……やります。私もその試練、やります!ハジメさんやユエさんのために、強くなります!」

ハジメ「そうか。ただ、めっちゃ激痛走るから、やめるなら今の内だぞ?」

シア「大丈夫です!ユエさん、私、行ってきます!」

ユエ「ん!シア、ファイト!」

……だからさぁ、何で俺よりも絆深まってんの。

 

ハジメ「さぁ、これが最後の特訓だ。お前達が俺の臣下であるならば、この程度の試練、耐えきって見せろ!

耐えきった奴には、俺が一人一人に合わせたオーダーメイドウェポンを贈呈してやる!

勿論、今までのとは違って、俺の直筆サイン入り!しかも、性能だってさらに上げてやる!

最優秀者には、イナバの持っている武器と同じ最強の素材で作成してやる!」

せっかく最後の試練なのだ。ここで報酬大解放してやろう。すると……

 

カム「聞いたか、お前達!魔王陛下が一人一人に合わせた武装を贈呈してくれるそうだ!

これは是非とも受けねばなるまい!そうだろう、我が同胞達よ!」

ハウリア達「「「「「「「「「「ウォォォオオオオオオ!!!」」」」」」」」」」

わぁお。ここまでやる気上がるんか。よし、じゃあ準備しますか。

ハジメ「試練は一人ずつ行う。一列に並んで、横入りなしだ。

順番はまぁ、じゃんけんやくじで決めてくれ。喧嘩になったら、即失格にするからな?

後、今回の試験の挑戦権は一人一回だけだ。後で失格になっても駄々こねるなよ?」

ハウリア達「「「「「「「「「「Sir,Yes,My Lord!!」」」」」」」」」」

そう言うと一斉に整列した。さて……

 

ハジメ「一応、毒は弱めてやる。それでも、死ぬほど痛いから覚悟しとけよ?」

カム「何をいまさら。魔王陛下の特訓を受けた時から、既に覚悟は決まっています。」

ハジメ「そうか。じゃあ、いくぞ!」

カム「ハッ!」

気合いの一声と共に、カムは用意された魔物肉に喰らいつき、神水が少量入った水を飲みほした。

すると……

 

カム「グッ!?ガギャアアアアアアアアアアア!!!!????」ビキビキビキッ!!

シア「父様!?」

即座に浄化作用を発動する。しかしそれでも、全身を激しい痛みが襲っているようだ。

身体全体がドクンッ、ドクンッと脈打ち、ミシッ、メキッという音が聞こえてくる。

絶叫を上げながらも、浄化作用の発動のために腕を掴まれているため、のたうち回ることが出来ず、必死に俺の腕を叩きながらも、頭を何度も激しく振り、終わりのない地獄を見ているかのようだった。

 

だが、その地獄もようやく終わったようだ。そして、カムの姿には変化があった。

髪は色が抜け落ち、筋肉や骨格が太くなった。体の内側には薄らと赤黒い線が幾本か浮き出ている。

それを見て、他のハウリアも恐怖半分、期待半分で見つめていた。

ハジメ「よく耐えきった。これで試験はクリアだ。早速、先陣を切ってくれたな。よくやった。」

カム「ハッ!お褒めに預かり、光栄の極みです!」

ハジメ「さて、他の皆は……やる気十分か。よし、お前等!

俺の臣下であるならば、地獄の一つや二つ、越えて見せろ!

お前達の根性を、三途の川で待ち受けている連中に見せつけてやれぇ!」

 

その日は一日中、兎人族達の叫び声が響き渡った。

それは苦痛に耐えるようで、己の限界を打ち破るような叫び声であった。

そして、全員終わったころには……

ハジメ「皆、よく耐えきった!その根性を吟味した結果、全員に最優秀賞を授ける!」

ハウリア「「「「「「「「「「ウォォォオオオオオオ!!!」」」」」」」」」」

さて、早速皆の武器を作りますか!あ、シアの武器は一番最後で。

だって、旅の仲間だし。一番重要な装備だからこそ、一番時間をかけたいから。




ここまで読んでいただき、ありがとうございます!

この後、目が覚めたゼルはしばらくの間、恐怖のあまり引きこもってしまいました。
他の族長達から、ハジメの意見について話そうとしましたが、ハジメの名前を聞いただけで白目をむいて気絶してしまいました。
なので、ハジメさんが「族長全員で考え直したこと」と称して説明させるよう、提案しました。
その後、自身の行いの愚かさに気がつき、申し訳なさのあまり、自ら族長の座を降りようとしました。
まぁ、部下の虎人族から「責任があるなら、最後までやり遂げてください。」と言われたので、族長は続けています。
それでもやはり、ハジメさんが相当のトラウマなのか、ハウリアが同盟について話しに来た時、真っ先に気絶してしまいました。
以後、処方箋を所望するようになったらしい……。

そして、熊人族もハウリアに負けたことは周知されているものの、ハウリアとの同盟の懸け橋を作ったこともあって、逆に称えられるように。
尚、当の本人であるジンは「こんなつもりじゃなかったんだが……。」とコメントしている。
後日、何気にシンパシーを感じたギルと飲み交わす姿が目撃されたらしい。

そしてついに、最後の魔改造「魔物肉を食う」が終わりました!
後は、武器を作成するだけで、残りはアーティファクト作成に注ぎ込みます。
勿論、シアにはあの後、家族の件についてめっちゃ土下座しました。

さて、次回はみなさんご存じ「ドリュッケン」の登場です!
そして遂に、大樹ウーア・アルトとご対面!?
それでは、次回もお楽しみに!

宜しければ、高評価・コメント宜しくお願い致します。

次回予告

シア「これが……私の武器……!」
ハウリア達は力を手にする!

ハジメ「これがウーア・アルトか!」
遂に大樹に到達!

シア「皆、行ってきます!」
シア、樹海を旅立つ!

エピソード26「大樹の先に突っ走れ」
次回も、キラメこうぜ!!


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26.大樹の先に突っ走れ

お待たせいたしました。
今回は、大樹の下への出発、樹海からの旅立ちです。
ブルックの町については、また次回。
少し短めですが、楽しんでみてもらえると、幸いです。

遂に大樹の下へたどり着いたハジメ達。
そこでハジメ達が見たものとは一体!?
そして、遂に樹海から旅立つとき!

再スタートの第二章第7話、それではどうぞ!


あれから予定の三ヶ月半が経とうとしていた。その間にもいろいろなことがあった。

 

同盟を結んだフェアベルゲンの戦士たちが俺に教えを乞うてきたり、

 

試練達成の御褒美としてハウリア達の武器を作ったり、

 

霧を抜けるためのスカウターもどきの作成にも取り掛かったり、

 

心を落ち着かせるためにユエとシアを愛でたり、

 

同胞の暴走に悩まされているアルフレリックの胃腸薬の調合をしたり、

 

なんか最近苦労しているギルとジンに差し入れ持ってきたり、

 

シアの母親譲りの女子力に驚いたり、対抗したユエが謎の物質を生成したり、

 

暇になったイナバが樹海の魔物相手に無双を始めたり、

 

ドワーフのグゼと鍛冶仕事で話が合って、なんかヤバイもん作っちゃったり、

 

交流の一環で開いたボードゲーム大会で、狐人族のルアと決勝で対決したり、

 

パパラッチ記者のマオの取材を受けて、都合の良い改変がないか校閲したり、

 

アルフレリックの娘アルテナを紹介されて、婿入り話をさり気なく勧められたり、

 

暇つぶしがてらシアと一緒に座禅していたら、二人そろって気功術使えるようになっていたり……

 

 

……うん。まぁ、なんだ。その、色々あったなぁ……。

なんか、三ヶ月半のはずが、丸一年過ごしたような気分だった。

ハウリア達も次々と技能の腕をメキメキと上げているし。

しかも最近じゃあ、ハウリア・ブートキャンプなんてものまで始めたものだから、もう収集つかねぇ……。

そして何故か、これが大人気。しかも、全員ノリノリで参加してくるという狂気の沙汰。

恐らく、次に来る頃には、愛玩奴隷であるはずの亜人族が、全員筋肉モリモリのマッチョになっていて、帝国兵が逆に襲われる事態になっているかもしれない……。

皇帝、きっと涙目だろうなぁ。ま、いっか。俺には関係ないし。

 

まぁ、別に悪いことだらけじゃない。ハウリア達全員の武器を作り終えた俺は、早速作業を開始した。

そう、この武器こそ一番大事なものなのだ。

全体に逢魔鉱石を使用しており、叩きつける時には重量感が増大するにもかかわらず、

普段持ち運ぶときには、まるでおもちゃのピコハンを持つような軽さを追求してみた。

更には内部に「アッセンブルギア」を応用した、小型ミサイルタンクを内蔵しており、

モードチェンジによる砲撃モードで、様々な砲撃が可能となる。

 

勿論それだけではない。

柄部分に境界結石を使用し、魔力回路代わりにすることで、数種類のモードチェンジが可能になる。

戦槌にもなれば、大盾にもなり、ハルバード、両手剣、マジックボウ、といったチェンジが可能だ。

これがシアの武器となる、魔導戦槌。名付けて、「ドリュッケンSH-2068」!!

今回の仕上げで、ようやく完成した。後は、名前を彫ってと。

……せっかく頑張ったので、俺の名前の隣にシアの名前も彫っておいた。

 

早速出来上がったドリュッケンをシアに渡しに行くと……

何故かイナバとタイマンで殴り合っていた。ホント何してんの。

なんか、摩訶不思議なアドベンチャーの戦闘シーンみたいだなぁ……。

というか、ここ最近シアもだんだん脳筋になりかけているのは気のせいか……?

今度、ステータスプレートを作ってもらったら、ちゃんと見てみるか。

シア「あっ!ハジメさん!来ていたんですか?」

ようやく気付いたか。てかどんだけ戦いに集中していたんだ……。イナバも今気づいたようだし。

ハジメ「うん。ついさっき、シアの武器が完成したから、渡しに来たんだ。」

シア「本当ですか!?ありがとうございます!」

早速武器を手に取ってもらうと……。

 

シア「!これが……私の武器……!」

ハジメ「"魔導戦槌ドリュッケンSH-2068"。

魔力を流すと、スロットで変化する数種類のモードチェンジに加えて、内部に四次元変形機構も兼ね備えているから、そこまで無茶な使い方でもしない限り、簡単には壊れないよ。」

……って、全然聞いてねぇ。夢中になるのは分かるけどさぁ……。

シア「ハジメさん!ありがとうございます!私、この子を一生大事にします!」

ハジメ「お、おう。気に入ってもらえたなら、何よりだ。」

まぁ、いいか。喜んでもらえることは、職人冥利に尽きるし。

 

イナバ「(王様、この兎、ホントにあのランボー共の同類なんですかい?)」ゼェ…ゼェ…ハァ…ハァ…

ハジメ「……何でそんなに息切らしているのさ。今のお前さんなら、まだシアより上だろうに。」

イナバ「(せやったんやけど……アイツ、戦うたびに強くなっていきおってからに……。

しかも、ユエの姐さんまで味方するもんだから、更に動きがはようなって……。)」

ハジメ「あぁ……。あの二人、急激に仲良くなっていたからなぁ……。」

何というか、乙女同盟は伊達じゃないってことかぁ。

 

ハジメ「まぁいい。早速だけど、これから大樹へ向かおうと思う。

もうハウリアの皆には伝達してあるから、今から準備してね。」

シア「はい!」

イナバ「きゅ!」

そう、遂に霧が弱まっていったのだ。後は大樹へ行けば、大迷宮に挑むだけなのだ。

俺は未知なる迷宮に思いをはせながら、迷宮攻略の準備を進めていた。

 


 

深い霧の中、俺達は大樹に向かって歩みを進めていた。

先頭をカムに任せ、これも訓練とハウリア達は周囲に散らばって索敵をしている。

尤も、魔物たちはこの三ヶ月の間にほとんど狩りつくしてしまっていたが。

言っておくが絶滅したわけではない。ただ数が激減しただけだ。だから決して乱獲と言ってはいけない。

そして歩くこと15分後、俺達は遂に大樹の下へ到達した。

 

ハジメ「おぉ……、これがウーア・アルトか!」

と、俺の第一声が響き渡った。まぁ、実際に見た大樹は何故か枯れていたが。

直径は50mはあるだろうが、何故かこの一本だけ枯れているということは謎である。

カム「大樹は、フェアベルゲン建国前から枯れているそうです。しかし、朽ちることはない。

枯れたまま変化なく、ずっとあるそうです。

周囲の霧の性質と大樹の枯れながらも朽ちないという点からいつしか神聖視されるようになりました。まぁ、それだけなので、言ってみれば観光名所みたいなものですが……。」

ふむ?それはおかしいな。俺が早速因果律操作で戻そうと試みようとするが……

 

ハジメ「……ダメだ。年月が経ちすぎていて、いつものなんて比じゃない位の魔力を消費する。

それに多分、これだけじゃ足りないと思う。もう少し探索してみよう。」

そう言って、早速目の前の石板を調べる。そこには……

 

ハジメ「これって……オスカーの所の!」

ユエ「……ん、同じ文様。」

イナバ「(ほな、てことは……!)」

石版には七角形とその頂点の位置に七つの文様が刻まれていた。

オルクスの隠れ家の扉や、洞窟の出口に刻まれていたものと全く同じものだ。

しかも裏には、小さな窪みがちょうど7つあった。

早速オルクスの指輪を取り出し、オルクスの指輪をはめ込んでみる。

すると……

 

パァァァァァァ!!

「「「「!」」」」

石板が淡く輝きだした。

何事かと、周囲を見張っていたハウリア族も集まってきた。

しばらく、輝く石板を見ていると、次第に光が収まり、代わりに何やら文字が浮き出始める。

そこにはこう書かれていた。

 

"四つの証"

"再生の力"

"紡がれた絆の道標"

"全てを有する者に新たな試練の道は開かれるだろう"

 

ハジメ「成程、大体わかった。」

シア「えっ!?もうわかったんですか!?」

ハジメ「つまり、4つ以上の迷宮攻略者、それも再生に関する神代魔法獲得者であり、亜人との絆を深めた者だけが、この先に挑めるってことだよ。多分。」

シア「多分って……。」

正直分からないのだ。何故か一度も見たことが無いはずなのに、直ぐにわかったのだ。

 

ハジメ「でもこれって、今すぐには挑めないってことかぁ。

仕方がない、一番近くの【ライセン大峡谷】から挑もうか。」

ユエ「ん……。」

シア「はい。」

イナバ「きゅう……。」

まぁ、くよくよしても仕方がないか。気持ちを切り替え、ハウリアの方へ向き直る。

 

ハジメ「いま聞いた通り、俺達は、先に他の大迷宮の攻略を目指すことにする。

大樹の下へ案内するまで守るという約束もこれで完了した。

お前達なら、もうフェアベルゲンの庇護がなくても、この樹海で十分に生きていけるだろう。

そういう訳で、だ。お前達に最重要任務を与える!」

ハウリア達「「「「「「「「「「!!!」」」」」」」」」」

皆、最重要任務と聞いて真剣な顔になり、身を引き締めていた。

 

ハジメ「お前達には、フェアベルゲンの警護に当たってもらいたい。

この地は既に俺の領地同然でもあるが、俺自身ここにだけ留まるわけにはいかない。

だからこそ、この地を守る代行者が必要になってくる。そこで、お前達の出番だ!

俺の課した厳しい特訓を乗り越えた、諸君の実力と精神を信頼し、この地を任せたい!

完遂した暁には、クソ神退治のお供に命じてやる!受けてくれるな?我が民よ!」

ハウリア達「「「「「「「「「「Sir,Yes,My pleasure!!」」」」」」」」」」

ハジメ「よし、では任せたぞ!俺達の留守は頼むぞ!ただし、無茶をし過ぎるのは厳禁だ!

俺の配下であるならば、泥水を啜ろうとも、誰一人かけることなく、生き残って見せろ!」

ハウリア達「「「「「「「「「「Sir,Yes,My Lord!!」」」」」」」」」」

俺は今、王としての第一歩をまた踏み出した。そんな気がした。

 

ハジメ「というわけでだ。ユエ、シア。行くぞ!」

ユエ「んっ!」

シア「はい!」

イナバ「(え!?王様、自分は!?)」

そういえば、言っていなかったな。今回はイナバもお留守番組なのだ。

何せ、今度はホルアドからは離れていくものなのだ。迷宮攻略中の香織達とすれ違っては流石にマズい。

なので……

ハジメ「そのことなんだが……お前にも最重要任務を与えたい。」

イナバ「!?」

 

ハジメ「【オルクス大迷宮】の上層部に、俺の仲間がいるかもしれない。

彼等にもし会ったら、俺の無事を教えてほしい。一応、写真も渡しておく。

後、この眼鏡をかけている女の子が、俺の妹だ。」

イナバ「(お、王様の!?分かりやしたぁ!このイナバ、全身全霊をかけて、妹君を捜索いたしやす!)」

……そこまで重圧をかけてはいないんだが……。まぁ、やる気が出たなら、何よりだ。

とまぁ、そういう訳で、俺達は樹海を後にすることにした。

 

カム「シア、我々の分まで魔王陛下のお役に立てるよう頑張るのだぞ。

その為にも、身体には気を付けなさい。」

シア「はい、父様!それでは皆、行ってきます!」

親子の感動の別れかぁ……。ウルっと来るなぁ。

あぁ…そういえば父さんと母さんに「行ってきます。」って言えなかったなぁ……。

今すぐにでもあって言いに行きたいな……。

なんて、感傷に浸っていると、ユエが優しく手をにぎにぎしてきた。

アカン、あまりの気づかいで涙出そう。ユエの方が辛いのに、こんな様じゃいけねぇか。

 

カム「魔王陛下、至らないところはありましょうが本人の意気込みは十分かと。

どうか娘を宜しくお願い致します。」

ハジメ「任せておけ。相手が神でも遠慮なく返り討ちにしてやんよ。」

シア「フフ、ハジメさんなら本当にやりそうですね。」

ユエ「ん、ハジメは無敵。誰にも負けない。」

こうして、俺達は亜人族の送迎と共に、樹海を抜けるのであった。

後、イナバをオーロラカーテンで、オスカーの隠れ家まで運び、再び旅路へと戻った。

 


 

風を押しのけて進むストライカー。

ユエ、俺、シアの順で乗るバイクは、人数が増えても全く遅くならない。

シア「ハジメさん。そう言えば目的地は大迷宮だったはずなんですが……道、逆じゃありません?」

風を受けて、耳をパタパタさせていたシアが急に聞いてきた。

ハジメ「いや、合っている。

前に地図で見た時、この先に町があるみたいだから、そこで最終点検をするよ。

流石に未だ文無しは困るし、素材の買取でもしてもらおうかな?って。」

シア「なるほど……。」

 

ハジメ「まぁ、本当の理由は、普通の料理が恋しいなぁ…って思ったからだけどね。

そろそろまともな料理をしないと、腕が鈍っちゃいそうで。」

シア「思っていたよりシンプル!?でもよかったです。

てっきりハジメさんは、大迷宮でも魔物肉をバリボリ食べちゃうのかと。」

ハジメ「……俺だって好きで魔物肉を食っていたわけじゃあない。

それしか食えるもんが無かっただけだ。

唯一旨かった木の実は、トレントを捕獲し損なったから、生産体制が確保できなかったけど……。」

シア「まさかの魔物で農作!?というか、なんでそれを思いついたんですか!?」

ハジメ「俺だって、肉以外も食いたいよ!」

シア「そういう問題ですかぁ!?」

だって、栄養が偏って体に良くないじゃん。脂肪がつきやすくなっちゃうし、顎が疲れる。

 

ハジメ「それに、そろそろユエにも血以外の食事させたげないと……。」

シア「あぁ~、確かに。」

ユエ「?私は大丈夫だけど?」

ハジメ「そうかぁ……、ユエの手料理も食べてみたかっ「ん!ハジメの好物、覚える!」……早ぇよ。」

シア「ハジメさんハジメさん。私は?」

ハジメ「勿論楽しみにしているよ。」

とまぁ、他愛のない会話をしていると町が見えたので、早速対策アイテムを取り出した。

 

ハジメ「あ、そういえばシア。一応人攫いの可能性も警戒したいから、この首輪をつけておいて。

それさえあれば、"この兎人族は俺の連れだ"、って証明できるから。」

シア「は、はい……。でも、もし変な気を起こした人がいたら、どうします?」

ハジメ「大丈夫!その時は話し合いもすっ飛ばして、そいつら全員、"血祭りにあげてやる"。」ドドドドドドド

シア「ユエさん!?ハジメさんの後ろに、デカい大猿の化け物がァ!?」

ユエ「……私は何も見ていない。」

シア「思いっきり体が震えていますけど!?」

そして俺達は町の関所に近づいていった。




ここまで読んでいただき、ありがとうございます!

前半の出来事については、またいつか解説を入れていきたいと思っております。
まぁ、帝国編でも少しだけ触れるつもりですので、お楽しみに!

イナバさんは一旦ここでフェードアウトします。
また後程登場しますので、イナバファンの方々はもうしばらくお時間を。

最後のハジメさんは某伝説の超サイヤ人みたいな感じで締めてみました。
きっと帝国編でもこういうでしょう。
「お前達が亜人族を解放する意思を見せなければ、俺はこの国を破壊しつくすだけだァ!!」と。

さて、次回はいよいよブルックの町です。
お楽しみに!

宜しければ、高評価・コメント宜しくお願い致します!

Next stage

???「面白そうな連中だね……」
久しぶりの町、満喫中!

ユエ・シア「「ハジメ(さん)より、カッコいい人なんていない(いません)!」」
早速トラブル発生!?

ハジメ「さしずめ、【ライセン大迷宮】って言ったところか…。」
まさかの大迷宮発見!?

Stage27「ブルックの魔王~ゴール・ゴル・マジェンド~」


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27.ブルックの魔王~ゴール・ゴル・マジェンド~

お待たせいたしました。
今回はブルックの町での出来事を一気に詰め込んでいるので、ちょい長めです。
後、ライセンの直前まで行きます。

遂に初めての町に到着した一行!
そこで待ち受ける意外な制度や文化とは一体!?

ほんわかな日常の第二章第8話、それではどうぞ!


そこは、周囲を堀と柵で囲まれた小規模な町だった。

街道に面した場所に木製の門があり、その傍には小屋もある。

おそらく門番の詰所だな。小規模といっても、門番を配置する程度の規模はあるようだ。

それなりに、充実した買い物が出来そうなので、楽しみである。

さて、ストライカーをしまってと。

 

門番「止まってくれ。ステータスプレートを。あと、町に来た目的は?」

規定通りの質問なのか、門番の詰所らしき小屋から出てきた門番が、どことなくやる気なさげに聞いてきた。

ハジメ「食料の補給がメインだ。旅の途中でね。」

俺は、門番の質問に答えながらステータスプレートを取り出した。

勿論、偽装は忘れていない。

 

門番「ほぉ~、その年で傭兵か。しかもレベルも中々高いじゃないか……。それで、そっちの二人は?」

ハジメ「俺の連れだよ。魅力的なのは分かるけど、あんまりじろじろ見ないでもらいたいなぁ?」

俺の言葉に少しビクッとなり、門番は苦笑いで了承したらしい。

門番「ハハ、いやぁ、悪い悪い。通ってもいいぞ。」

ハジメ「ああ、どうも。……ところで、素材の換金場所って何処にあるか知らない?」

門番「あん?それなら、中央の道を真っ直ぐ行けば冒険者ギルドがある。

店に直接持ち込むなら、ギルドで場所を聞け。簡単な町の地図をくれるから」

ハジメ「おぉ、これは態々親切だね。ありがとう。」

そう言いながら、彼の懐にこっそりと、チップ代わりの余り物ダイヤを忍ばせる俺であった。

 

門番から情報を得た俺達は、門をくぐり町へと入っていく。

門のところで確認したがこの町の名前は【ブルック】というらしい。町中は、それなりに活気があった。

かつて見たオルクス近郊の町【ホルアド】ほどじゃないけど、露店も結構あって、呼び込みの声や、白熱した値切り交渉の喧騒が聞こえてくる。

いやぁ~、なんか帰ってきた感が半端ない。

こう、ヤバいラスボス倒して何年かぶりに戻ってきたら、思っていた以上に時間がたっていた、的な。

ユエも久しぶりの町なのか、楽しげに目元を和らげており、

シアは初めての町に興味津々といったご様子で、目をキョロキョロと忙しなく動かしている。

やっぱり、冒険ってどこかの町から始めた方がいいと思うんだ、俺。

 

因みに、シアの首輪には、念話石と特定石を組み込んでいるので、通話が可能だ。

後、ちゃんと外せる仕様になっているので、束縛系男子にはならないのだ。

まぁ、もし許可なく触れてくる野郎が居たら、その場で私刑執行するけど。どれにしようかな?

そんな風に仲良くメインストリートを歩いていき、一本の大剣が描かれた看板を発見する。

かつてホルアドの町でも見た冒険者ギルドの看板だ。規模は、ホルアドに比べて二回りほど小さい。

看板を確認した俺は、重厚そうな扉を開き中に踏み込んだ。

 

ギルドって言ったらやっぱりこんな感じかぁ、と清潔さが保たれた場所を見て、感心する俺であった。

入口正面にカウンターがあり、左手は飲食店になっているようだ。

何人かの冒険者らしい者達が食事を取ったり雑談したりしている。

誰ひとり酒を注文していないことからすると、元々、酒は置いていないのかもしれない。

酔っ払いたいなら酒場に行けということだろう。

まぁ、流石に昼間っから飲んだくれている奴は、評判に響くだろうからなぁ……。

 

俺達がギルドに入ると、冒険者達が当然のように注目してくる。

最初こそ、見慣れない三人組ということでささやかな注意を引いたに過ぎなかったが、彼等の視線がユエとシアに向くと、途端に瞳の奥の好奇心が増した。

中には「ほぅ。」と感心の声を上げる者や、門番同様、ボーと見惚れている者、恋人なのか女冒険者に殴られている者もいる。平手打ちでないところが冒険者らしい。

テンプレ宜しく、ちょっかいを掛けてくる者がいるかとも思ったが、意外に理性的で観察するに留めているようだ。

足止めされなくて幸いだと思った俺は、二人を連れてカウンターへ向かう。

 

カウンターには恰幅のいい女性がいた。ニコニコと人の良さそうな笑みを浮かべていた。

恐らく、彼女は責任者あたりの人間だろう。正直実を言うと、ちょっとだけ夢は見ていた。

トシと話した異世界テンプレというものが魂に刻まれているのか、両親の教育という名の布教によるものなのか、はたまた自分がそういう男だったのか、それはわからない。

まぁ、それは重要じゃないし、どちらかというと、やってみたかった感の方が強いからなぁ。

そこまでダメージはない。カウンターを見た瞬間に時を止め、顔の筋肉は整えておいた。

だから二人共、気づいてはいないようだ。なので早速、カウンターの女性に話しかけた。

 

ハジメ「あの~、ちょっといいですか?」

???「あら、いらっしゃい。冒険者ギルド、ブルック支部にようこそ。

両手にとびっきりの綺麗な花を持って登場なんて、一体どこのお坊ちゃんだい?」

ハジメ「ハハハ、俺はただの通りすがりだよ、レディ。

彼女たちは旅のお供さ。まぁ、綺麗だと褒められるのは、仲間である自分も嬉しいよ。」

???「あらやだ~、レディだなんて。口が上手いわね、アンタ?その年で中々やるね。」

ハジメ「フッ、そちらこそ。

俺の予測だけどさ、ここの冒険者たちが大人しいのって、多分貴方の腕が関係しているんじゃないかなぁ、って。」

???「いやいや、あたしは一介の受付人、キャサリンって者さ。」

……交渉術と心理学は正しかった。彼女の言葉尻が随分軽くなっているのが分かる。

 

ハジメ「ご紹介ありがとう。俺はハジメ。こちらの二人がユエとシア。宜しく。」

キャサリン「これは礼儀正しいね。そういう純粋な子は嫌いじゃないよ。」

そりゃあ挨拶は基本のきの字だしな。それにここでワンクッション挟むのがポイントなのさ!

キャサリン「あらやだ、つい話が弾んじまったね。ご用件は何かしら?」

ハジメ「あぁ、素材の買取をお願いしたい。途中に町が無かったものでね、大量にあるんだ。」

キャサリン「素材の買取だね。じゃあ、まずステータスプレートを出してくれるかい?」

ハジメ「?買取にステータスプレートの提示が必要なの?」

俺の素朴な疑問に「おや?」という表情をするキャサリンさん。

 

キャサリン「あんた冒険者じゃなかったのかい?

確かに、買取にステータスプレートは不要だけどね、冒険者と確認できれば一割増で売れるんだよ。」

ハジメ「へぇ~、そうだったんだ。最近、冒険を始めたばっかりで知らなくてさ。」

キャサリンさんの言う通り、冒険者になれば様々な特典も付いてくる。

生活に必要な魔石や回復薬を始めとした薬関係の素材は冒険者が取ってくるものがほとんどだ。

町の外はいつ魔物に襲われるかわからない以上、素人が自分で採取しに行くことはほとんどない。

危険に見合った特典がついてくるのは当然だった。

 

キャサリン「他にも、ギルドと提携している宿や店は一~二割程度は割り引いてくれるし、移動馬車を利用するときも高ランクなら無料で使えたりするね。

どうする? 登録しておくかい? 登録には千ルタ必要だよ。」

ルタって言うのは、この世界トータスの北大陸共通の通貨だ。

ザガルタ鉱石という特殊な鉱石に他の鉱物を混ぜることで異なった色の鉱石ができ、それに特殊な方法で刻印したものが使われている。

青=1、赤=5、黄=10、紫=50、緑=100、白=500、黒=1000、銀=5000、金=10000(ルタ)といったところだ。

 

ハジメ「じゃあ折角だし登録しておこうかな。悪いけど、困ったことに持ち合わせが全く無くてさ。

買取金額から引いて貰えない?勿論、最初の買取額はそのままでいいよ。」

キャサリン「ほ~ん、そうかい。ならさっきのお世辞の礼も兼ねて上乗せさせてもらうよ。」

俺は有り難く厚意を受け取っておくことにして、ステータスプレートを差し出す。

 

キャサリンさんは、ユエとシアの分も登録するかと聞いてきたけど、それは流石に断った。

まず二人は、そもそもプレートを持っていないので発行からしてもらう必要がある。

でもそうなったら、ステータスの数値も技能欄も隠蔽されていない状態で他の人の目に付くことになる。

俺としても、二人のステータスを見てみたい気もあったけど、技能欄にはばっちりと固有魔法とかあるだろうし、それを知られること考えると、まだ俺達の存在が公になっていない段階では知られない方が面倒が少なくて済むだろうし、今回は諦めることにした。

 

戻ってきたステータスプレートには、新たな情報が表記されていた。

天職欄の横に職業欄が出来ており、そこに〝冒険者〟と表記され、更にその横に青色の点が付いている。

青色の点は、冒険者ランクだ。上昇するにつれ赤、黄、紫、緑、白、黒、銀、金と変化する。

……おわかりいただけただろうか。そう、冒険者ランクは通貨の価値を示す色と同じなのだ。

つまり、青色の冒険者とは「お前は一ルタ程度の価値しかねぇんだよ、ぺっ!」と言われているのと一緒ということだ。

きっと、この制度を作った初代ギルドマスターの性格は捻じ曲がっているに違いない。

テンプレでも極稀にある、主人公を虐めようとするチンピラっぽい感じだろうな、と俺は思った。

 

ちなみに、戦闘系天職を持たない者で上がれる限界は黒だ。

辛うじてではあるが四桁に入れるので、天職なしで黒に上がった者は拍手喝采を受けるらしい。

天職ありで金に上がった者より称賛を受けるというのであるから、いかに冒険者達が色を気にしているかがわかるだろう。

まぁ、俺は魔王とか言うチート過ぎる戦闘系天職でもあるから、金にはなれるだろうな。

後、色でランク付けるなら、白銀とか虹、子供や初心者用に桃色とか入れてみたい。

 

キャサリン「男なら頑張って黒を目指しなよ?お嬢さん達にカッコ悪いところ見せない様にね。」

ハジメ「勿論!肝に銘じているさ。それで、買取はここでいい?」

キャサリン「構わないよ。あたしは査定資格も持ってるから見せてちょうだい。」

どうやら彼女は受付だけでなく買取品の査定もできるらしい。優秀な人材だ。

俺は、あらかじめ"宝物庫"から大きめの袋に入れ替えておいた素材を取り出す。

品目は、ハウリア達が献上してきた、大量の魔物の毛皮や爪、牙、そして魔石といったものの一部だ。

流石に全部は無理だろうなと思い、バッグよりちょっと多めに入れておいた。

残りは、何らかの事情で帝国に乗り込んだ序にでも、建て替えるとしよう。行きたくないけど。

カウンターの受け取り用の入れ物に入れられていく素材を見て、再びキャサリンさんが驚愕の表情をする。

 

キャサリン「こ、これは!」

恐る恐る手に取り、隅から隅まで丹念に確かめる。

息を詰めるような緊張感の中、ようやく顔を上げたキャサリンさんは、溜息を吐き俺に視線を転じた。

キャサリン「とんでもないものを持ってきたね。これは…………樹海の魔物だね?」

ハジメ「うん、ここに来る前に採って来たんだ。」

 

流石に、奈落の魔物の素材なんて出したら一発で大騒ぎだ。

樹海の魔物の素材でも十分に珍しいだろうと思ったので、今回はやめておいた。

オルクスの素材は、また今度ホルアドに行ったときに出すことにした。

キャサリンさんの反応を見る限り、やはり樹海の物でも珍しいようだ。

後、こういうテンプレもあったような、と頭の片隅に思い浮かべた俺であった。

まぁ、鍛冶場の爺さんとか、偶々パーティを組んだメンバーとかのパターンもあったような気がするので、そこまで気にはならないが。

 

キャサリン「樹海の素材は良質な物が多いからね、売ってもらえるのは助かるよ。」

ハジメ「やっぱり珍しいんだ。」

キャサリン「そりゃあねぇ。

樹海の中じゃあ人間族は感覚を狂わされるし、一度迷えば二度と出てこれないハイリスクな場所だからね。

好き好んで入る人はいないのさ。

亜人の奴隷持ちが金稼ぎに入ることもあるけど、そんな亜人族の神経を逆撫でするようなことしていたら、それこそ命がいくつあっても足りないよ。

それに、売るならもっと中央で売るさ。幾分か高く売れるし、名も上がりやすいからね。」

そう言ってキャサリンさんはチラリとシアを見る。

恐らく、シアの協力を得て樹海を探索したのだと推測したのだろう。

樹海の素材を出してもシアのおかげで不審にまでは思われなかったみたい。

代わりに、「若いのに無茶をして。」という心配そうな顔を向けられちゃった。

 

……実は【フェアベルゲン】に乗り込んだ挙句、ハウリアの魔改造、族長二人をノックアウトし、全種族に自身の存在の大きさを教え込んだ上に、志願者全員に修行をつけたら、その実力を崇められて、樹海盟主とでも呼ばれるんじゃないかって位、色々やらかしていたってこと教えたらどうなるんだろ?

なんて、とんでもないことが頭をよぎる俺であった。

 

それからキャサリンさんは、全ての素材を査定し金額を提示した。買取額は537000ルタ。意外と多いな。

キャサリン「これでいいかい?中央ならもう少し高くなるだろうけどね。」

ハジメ「いや、この額で問題ないよ。」

俺は56枚のルタ通貨を受け取る。

この貨幣、鉱石の特性なのか異様に軽い上、薄いので五十枚を超えていてもあんまり重くない。

まぁ、いざとなったらコネクトや宝物庫があるし、大丈夫だな。

 

ハジメ「ところで、門番の人にこの町の簡易な地図を貰えるって聞いたんだけど……。」

キャサリン「ああ、ちょっと待っといで……ほら、これだよ。

おすすめの宿や店も書いてあるから参考にしなさいな。」

手渡された地図は、中々に精巧で有用な情報が簡潔に記載された素晴らしい出来だった。

広報部に一人、欲しくなるくらいの出来だったのが惜しい。

しかもこれが無料というある意味とんでもない逸材である。

 

ハジメ「おぉ…本当にいいの?こんな立派な地図を無料で。十分お金とれる位の出来だけど……?」

キャサリン「構わないよ、あたしが趣味で書いてるだけだからね。

書士の天職を持ってるから、それ位落書きみたいなもんだよ。」

ハジメ「そっか、これで落書きかぁ……。まぁいいや、ありがたく貰っておくよ。」

キャサリン「いいって事さ。それより、金はあるんだから少しはいい所に泊りなよ。

治安が悪い訳じゃあないけど、その二人ならそんなの関係無く暴走する男連中が出そうだからね。」

ハジメ「ハハッ、誰が来ても返り討ちにするつもりだけど、心もしっかり休ませたいし、そうするよ。」

 

キャサリンさんは最後までいい人で気配り上手だった。

俺は苦笑いしながら返事をし、入口に向かって踵を返した。ユエとシアも頭を下げて追従する。

食事処の冒険者の何人かがコソコソと話し合いながら、最後までユエとシアの二人を目で追っていた。

 

 

キャサリン「ふむ、いろんな意味で面白そうな連中だね……」

そんなキャサリンの楽しげな呟きがあったことを、俺達は知らなかった。

 


 

そんなわけで、最早地図というよりガイドブックにも等しいものを見て、俺達が決めたのは"マサカの宿"という宿屋だった。

紹介文によれば、料理が美味く防犯もしっかりしており、何より風呂に入れるというのだ。

最後のは正直助かる。二人とも女の子なんだし、お風呂には入りたいよなぁ。

まぁ、その分少し割高だけど、金はあるから問題ない。後、マサカというワードには反応してはいけない。

 

宿の中は一階が食堂になっている様で、複数の人間が食事をとっていた。

俺達が入ると、お約束の様にユエとシアに視線が集まる。

それらを無視してカウンターらしき場所に行くと、十五歳くらい女の子が元気よく挨拶しながら現れた。

???「いらっしゃいませー、ようこそ"マサカの宿"へ!

本日はお泊りですか?それともお食事だけですか?」

ハジメ「宿泊だよ。このガイドブックを見て来たんだけど、記載されている通りでいい?」

俺が見せたキャサリンさん特製地図を見て、女の子は合点がいった様に頷く。

???「ああ、キャサリンさんの紹介ですね。はい、書いてある通りですよ。何泊のご予定ですか?」

ハジメ「一泊でいいよ。食事付きで、あとお風呂もお願い。」

???「はい。お風呂は十五分で百ルタです。今のところ、この時間帯が空いてますが?」

女の子が時間帯表を見せてくれたので、男女で分けて一時間ごとでとるか。なるべくゆっくり入りたいし。

 

ハジメ「男女で一時間ずつ確保したいから、二時間でお願い。」

???「えっ、二時間も!?」

……勘違いしているみたい。てか、俺最初に"男女で分けたい"って言ったよね!?

???「え、え~と、それでお部屋はどうされますか??二人部屋と三人部屋が空いてますが……?」

ちょっと好奇心が含まれた目で俺達を見る女の子。そういうのが気になるお年頃なのは分かる。

でも流石に、周囲の食堂にいる客達まで聞き耳を立てるのは勘弁してもらいたいなぁ……。

ユエもシアも美人とは思っていたけど、想像以上に二人の容姿は目立つみたいだし。

どうやら、出会い方が出会い方だったのと、美男美女を見慣れている俺の感覚が麻痺していたようだな。

 

ハジメ「男女で分けたいし、二人部屋二つで。"男女で分けたい"から、二人部屋二つ。いいね?」

念のために、二回言っておく。これで少しは間違いに気づくはず……そう思っていると。

ユエ「……ダメ。三人部屋一つで。」

ハジメ「ちょっ、ユエ!?」

何故そこでそっちを選ぶ!?敢えて勘違いさせるようなことを言うんじゃない!

ホラ、周囲の男連中も絶望と嫉妬の混ざったような視線向けてくるし!

女の子に至っては完全に頬を赤らめて、盛大に勘違いしているし!

 

ハジメ「あのねぇ……、少しは恥じらいを持ちなよ。しかも、シアまで巻き込んで……。」

シア「私は構いませんよ?それに、こちらの方が安く済みますし。」

ユエ「……ん。それに、スキンシップの時間確保。致し方無し。それに、約束のこともある。」

ハジメ「……はぁ、分かったよ。」

まぁ、傍にいた方が何かあった時にすぐ対処できるし、その方がいいか。

 

ハジメ「……ごめん。変更して、三人部屋一つにするけど……いいかな?」

???「!は、はい!三人部屋ですね!分かりました!」

……これ絶対に勘違いしているな。誤解はもう解けなさそうだ。

なのでさっさと手続きを終わらせて、部屋に上がり込むことにした。

部屋に入った俺達は、早速ベッドインした。タイマーはセット済みだ。

 

数時間後……

目が覚めると夕食の頃合いだった。

まだ寝ているユエとシアを起こし、二人を伴って階下の食堂に向かった。

何故かチェックインの時にいた客が全員まだいたことには、流石に頬が引き攣りそうになった。

まぁ、注文した料理は確かに美味かった。美味しかったけれども!

せっかく久しぶりに食べた真面な料理は、もう少し落ち着いて食べたかったなぁ……。

 

風呂は風呂で、男女で時間を分けたのに結局ユエもシアも乱入してきたり、背中を流し流されたり、一緒に入ったり、その様子をこっそり風呂場の陰から宿の女の子が覗いていたり、女の子が覗きがバレて女将さんに尻叩きされていたり……

夜寝る時も、結局一緒のベッドで寝ることになった。もう少し、羽伸ばしたかったなぁ……。

 


 

翌日、旅に必要な物の買い出しに出た俺達。

取り敢えず、昼食後にはここを出て、【ライセン大峡谷】へ向かわねば。

まず、買わねばいけないものは、食料品関係とシアの衣服、それと薬関係だ。

今のシアの装いは、樹海に居た時のままのものなので、目には毒だ。

露出度の高い水着の様な兎人族の民族衣装に、俺が掛けた外套を羽織っている状態だ。

引き締まった腹部や、長くしなやかな生足が惜しげも無く晒されている。

このままでは、野郎共が寄ってたかってくるに違いない。

もっと旅に向いた、丈夫で露出の少ない衣服を揃えようかと思った訳なのだ。

因みに、武器・防具類は俺がいるので必要なし。

 

町の中は、既に喧騒に包まれていた。

露店の店主が元気に呼び込みをし、主婦や冒険者らしき人々と激しく交渉をしている。

飲食関係の露店も始まっている様で、朝から濃すぎない?と言いたくなる様な肉の焼ける香ばしい匂いや、タレの焦げる濃厚な香りが漂っている。

美味しそうな匂いに思わず、涎が出てしまう俺であった。

 

道具類の店や食料品は時間帯的に混雑している様なので、俺達はまずシアの衣服から揃える事にした。

キャサリンさんの地図には、きちんと普段着用の店、高級な礼服等の専門店、冒険者や旅人用の店と分けてオススメの店が記載されている。

やはりキャサリンさんは出来る人だ。痒いところに手が届いている。国に何人かは欲しい人材だ。

俺達は早速、とある冒険者向きの店に足を運んだ。ある程度の普段着も纏めて買えるという点が決め手だ。

その店は、流石はキャサリンさんがオススメするだけあって、品揃え豊富、品質良質、機能的で実用的、されど見た目も忘れずという期待を裏切らない良店だった。

ただ、そこには……

 

???「あら~ん、いらっしゃい❤️カッコいいお兄さんに可愛い子達ねぇん❤️

来てくれて、おねぇさん嬉しいぃわぁ~❤️た~ぷりサービスしちゃうわよぉ~ん❤️」

……謎の生物がいた。

詳しい詳細はあえて省くが、2m越えで筋肉モリモリのごつい顔のおっさんが、女装をしていた。

某海賊漫画でも見たことあるような光景だけど、流石にこれは一瞬固まった。

 

ユエとシアは硬直していて、シアに至っては既に意識が飛びかけていて、粗相までしている。

ユエも奈落の魔物以上に思える化物の出現に覚悟を決めたような目をしてるし…。

仕方がない、ここは俺が行こう。王たるもの、民の趣味嗜好も受け入れる心の広さが必要だ……。

ハジメ「えぇ~と、初めまして。俺はハジメ。冒険者をやっている者だよ。

こっちの二人は俺の連れの、ユエとシア。」

???「あぁら~ん、これは態々ご丁寧に❤️礼儀正しい子は好印象よぉ~ん❤️

あたしはここの店長をやっている、クリスタベルよぉ~ん❤️よ・ろ・し・く・ねぇ~ん❤️」バチコーン☆

ウインクまでしてきた……。正直ぶっ倒れたい気持ちもあったが、何とか耐えきった。

 

???「それでぇ?今日は、どんな商品をお求めかしらぁ~ん?」

ハジメ「……実を言うと、シアの衣服を探していてね。

キャサリンさんの紹介でここをお勧めされたから来たんだ。」

まぁ、根は良さそうだし、もしかしたらセンスも抜群かもしれないし。

実質、今彼女?が着ている服も、ユエやシアが着たら間違いなく似合う組み合わせだし。

 

シアはもう帰りたいのか、俺の服の裾を掴みふるふると首を振っているが、クリスタベルさんは「任せてぇ~ん❤️」と言うやいなやシアを担いで店の奥へと入っていってしまった。

その時のシアの目は、まるで食肉用に売られていく豚さんの様だった。

結論から言うと、やはりクリスタベルさんの見立ては見事の一言だった。

店の奥へ連れて行ったのも、シアが粗相をした事に気がつき、着替える場所を提供する為という何とも有り難い気遣いだった。

まぁ、シアの服装は露出具合はあまり変わっていないけど……可愛いから良いか!

 

俺達は、クリスタベルさんにお礼を言い店を出た。

その頃には、店長の笑顔も愛嬌があると思える様になっていたのは、彼女(?)の人徳故だろう。

シア「いや~、最初はどうなる事かと思いましたけど、意外にいい人でしたね。店長さん。」

ユエ「ん……人は見た目によらない。」

ハジメ「……まぁ、あの手の人は初対面だとちょっと怖いけど、仲良くなってみればそうでもないからねぇ。」

シア「ですね~。」

ユエ「ん。」

 

そんな風に雑談しながら、次は道具屋に回る事にした俺達。しかし、唯でさえ二人は目立つ様だ。

すんなりとは行かず、気がつけば数十人の男達に囲まれていた。

冒険者風の男が大半だが、中にはどこかの店のエプロンをしている男もいる。

その内の一人が前に進み出た。

冒険者A「ユエちゃんとシアちゃんで名前あってるよな?」

ユエ「?……合ってる。」

何の用だと訝しそうに目を細めるユエ。

シアは、亜人族であるにもかかわらず"ちゃん"付けで呼ばれた事に驚いた表情をしている。

ハァ……これ絶対に面倒ごとだよなぁ……。

 

ユエの返答を聞くとその男は、後ろを振り返り他の男連中に頷くと覚悟を決めた目でユエを見つめた。

他の男連中も前に進み出て、ユエかシアの前に出る。そして……

「「「「「「ユエちゃん、俺と付き合ってください!!」」」」」」

「「「「「「シアちゃん! 俺の奴隷になれ!!」」」」」」

うん、知ってた。つまりはまぁ、そういう事だ。

ユエとシアで口説き文句が異なるのはシアが亜人だからだろう。

奴隷の譲渡は主人の許可が必要だが、昨日の宿でのやり取りで俺達の仲が非常に近しい事が周知されており、まずシアから落とせば俺も説得しやすいだろう……とでも思ったのかもしれない。

 

因みに、宿での事は色々インパクトが強かったせいか、奴隷が主人に逆らうという通常の奴隷契約では有り得ない事態についてはスルーされている様だ。

でなければ、早々にシアが実は奴隷ではないとバレている筈である。

契約によっては拘束力を弱くする事も出来るが、そんな事をする者はいないからだ。

まぁ、俺とユエにとっても、シアは仲間の一人だからなぁ。

奴隷とか言う身分は実質お飾りみたいなもんだし。

で、告白を受けたユエとシアはというと……

 

ユエ「……シア、道具屋はこっち。」

シア「あ、はい。一軒で全部揃うといいですね。」

ハジメ「いや、せめて一言断っておこうよ。いくら面倒とはいえさぁ……。」

何事も無かった様に歩みを再開した。

「ちょっ、ちょっと待ってくれ! 返事は!? 返事を聞かせてく「断る。(お断りします。)」……ぐぅ…、即答……だと……?」

まぁ、そりゃそうなるわな。出会い頭にそんなこと言ってくる奴なんざ唯の変態にしか見えないし。

大体、二人の事情も知らないくせに、図々しいにも程があるのだが?

 

正に眼中にないという態度に男は呻き、何人かは膝を折って四つん這い状態に崩れ落ちた。

しかし、諦めが悪い奴はどこにでもいるようだ。まして、ユエとシアの美貌は他から隔絶したレベルだ。

多少暴走するのも仕方ないといえば仕方ないかもしれない。

モブ1「なら、なら力づくでも俺のものにしてやるぅ!」

暴走男の雄叫びに、他の連中の目もギンッと光を宿す。

二人を逃さない様に取り囲み、ジリジリと迫っていく。

―――まぁ、させないけどね?

 

ハジメ「……一つ、いいかな?」

モブ1「何だ!お前には関係の「ア˝ァ˝?」ヒッ!?」

俺はモブ男共の態度にいい加減に切れ、膨大な魔力と共に威圧を放った。

正直、自分でも許容した範囲だ。それを越えたこいつらが悪い。

ハジメ「黙ってさっきから聞いていれば……

二人の意思を無視した挙句、好き勝手しようとしやがって……

モブ1「あ……あぁ……。」

ハジメ「そんなに痛い目を見たいのなら……

 

―――全員纏めて、腹に収めてやろうか?

 

その瞬間、俺達を取り囲んでいた野郎どもは、無様に気を失った。

その結果、また二つ名が増えてしまうことを、今の俺は知る由もなかった。

そして、その二つ名が冒険者ギルドを通じて王都まで響き、冒険者共が震え上がることも知らなかった。

そんなことを知る由もない俺は、ユエとシアを抱き上げ、野郎共を踏みつけながら、その場を後にした。

正直、こんな下卑た奴等に二人が触れることも嫌だった。

そんな俺の気持ちを察していたのか、二人は強く抱きついて来た。

……二人ともいい香りだった。後で、怖がらせちゃったお詫びに、化粧品でも買っていくか。

 

後、何故か女の子たちが「お兄様……。」とか呟いて、熱い視線を向けていた気がした。

もうこれ以上妹は増やしたくないんだが……。どこぞの劣等生じゃあるまいし。

それと二人とも、俺はシスコンじゃあない。だから機嫌を直してくれ。

ハジメ「そのさ、こういうのを俺がしていたらいいな、っていうスタイルとかあるかもしれないし……。

もしかしたら、俺よりもカッコいいかもよ……?」

ユエ・シア「「ハジメ(さん)より、カッコいい人なんていない(いません)!」」

ハジメ「即答かい。まぁ、凄い嬉しいけどね。ありがとう。」

と頭を優しくなでていたら、二人とも機嫌が直っていったようだ。

その後、俺の威圧が聞いたのか、余計な邪魔もなくなったので、さっさと残りの物も買い揃えることにした俺達であった。

 


 

昼食後、チェックアウトを済ませた俺達は、ストライカーで【ライセン大峡谷】を突っ走っていた。

道中の魔物共は轢き殺したり、武装で爆散させたりしているので、依然問題なし。

ただ、流石にこのままというのは暇なので、いくらか進んだところをキャンプ場とすることにした。

必要な野営道具と調理器具は俺が作った。正直、デンライナーで過ごしてもいいけどロマンがない。

因みに、入口自体は構造把握で発見済みだ。なので後はそこへ行って入るだけだ。

まぁ、今日はもう疲れたし、明日に備えて栄気を養う目的でいるけど。

 

今日の夕食はクルルー鳥という、空飛ぶ鶏のトマト煮だ。

肉の質や味はまんま鶏だし、この世界でもポピュラーな鳥肉みたい。

一口サイズに切られ、先に小麦粉をまぶしてソテーしたものを各種野菜と一緒にトマトスープで煮込んだ料理のようだ。

肉にはバターの風味と肉汁をたっぷり閉じ込められたまま、スっと鼻を通るようなトマトの酸味が染み込んでおり、口に入れた瞬間、それらの風味が口いっぱいに広がる。

肉はホロホロと口の中で崩れていき、トマトスープがしっかり染み込んだジャガイモ(擬き)はホクホクで、人参(擬き)や玉葱(擬き)は自然な甘味を舌に伝える。

旨みが溶け出したスープにつけて柔くしたパンも実に美味しい。

 

ハジメ「う~ん、やっぱりシアはいいお嫁さんになれるねぇ~。」

ユエ「……ん。文句のつけようなし。」

シア「えへへ、ありがとうございます。」

大満足の夕食を終えて、その余韻に浸りながら、いつも通り食後の雑談をする俺達。

テントの中にいれば、強化された気断石で魔物が寄ってこないので比較的ゆっくりできる。

偶然通りがかる魔物は、俺が呼び出したライダーや疑似ライダーで処理する。

しかも、テントの中にはふかふかの布団があるので、野営にもかかわらず快適な睡眠が取れるのだ。

 

そして翌日……

しっかり睡眠をとった俺達は、大迷宮の入り口らしき場所の前に立っていた。

巨大な一枚岩が谷の壁面に凭れ掛かる様に倒れていて、壁面と一枚岩との間に隙間が空いている場所だ。

そしてその隙間に入ると、壁面側が奥へと窪んでおり、意外な程広い空間が存在した。

ハジメ「さしずめ、【ライセン大迷宮】って言ったところか…。」

その内部構造を見ながら、俺は呟いた。




ここまで読んでいただき、ありがとうございます!

本作のハジメさんは、原作ほどオタク文化に傾倒してはいません。
せいぜい、体験できたらいいな位にしか思っていません。

何とかベルの一族に気絶しなかったハジメさん。
実は内心、襲われたらひとたまりもないと思っています。

そしてまさかの、ハジメさんverソウルシスターズ発生の恐れあり。
ハジメさん自身妹は一人で十分と考えているので、はてさてどうなるのか……。

さて次回は、ハジメさん一行サイドと香織達サイドの二本立てです!
是非、お楽しみに!

宜しければ、高評価・コメント宜しくお願い致します。

追記:晶彦さん、誤字報告ありがとうございました!

じかーいじかい

???「おいでませ!ミレディ・ライセンのドキワク大迷宮へ♪」
遂に突入、ライセン大迷宮!

浩介「ハハッ、俺もうダメかもしれねぇ……。」
香織達の修行は更に過酷に!?

ハジメ「それじゃ、いっきまーす!」
ハジメさん、早速迷宮踏破!?

ドン28話「めいきゅうだいぼうけん」というおはなし。


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28.めいきゅうだいぼうけん

お待たせいたしました。
今回は二本立てで行きます。
香織達サイド
過酷な修行を続ける香織達。その内容とは一体!?
そして、浩介君の存在や如何に!?

ハジメさんサイド
遂に大迷宮に挑戦!しかし、その内部は罠だらけで……!?
その時、ハジメさんが取った奇策とは!?

急展開の第二章第9話、それではどうぞ!


<香織達サイド>

ハジメ達が【ハルツィナ樹海】にて温和で優しい兎達を悪鬼羅刹の如き殺し屋軍団に魔改造している頃、天之河光輝率いる勇者一行は【オルクス大迷宮】近郊にある宿場町【ホルアド】にて一時の休息を取っていた。

実戦訓練を兼ねて攻略に勤しんでいた【オルクス大迷宮】も遂に七十階層に突入し、魔物の量・質共に著しく向上した為に、一度準備と休息を十分に取ってから挑もうという事になったのだ。

 

メルド達王国騎士団達が光輝達の戦闘に付いて来られなくなった為、それより先には光輝達だけで進まなければならないという事もあり一度落ち着いて心の準備をするという意味もあった。

何より大きいのは、七十階層で三十階層への転移魔法陣が発見された事だ。

いいタイミングだったとメルドが強く勧めたのである。

そんな訳で二、三日程度ではあるが光輝達は宿場町にて、今度は頼れるメルド団長抜きで新たなステージへ挑戦する為思い思いに心身を休めていた。

 

そんな中、【ホルアド】の町外れにて剣戟の音が響き渡っていた。

しかし、それにしては町の人々にはその音が聞こえていないのか、やけに静かだった。

それもそうだろう。何せ、その場所には謎の結界が張られており、その音も遮断されているのだ。

そして、その結界内では激闘が繰り広げられていた。

 

香織「でやぁっ!ハァッ!」ヒュンッ!ヒュンッ!

ミライ「まだまだ遅いわ!もっと、風を切るように!」ヒョイッ!ヒョイッ!

雫「疾ッ!」ズアッ!

ミライ「ホラ、今度は剣筋がズレているわよ!より正確に!」スラッ!

ミライが香織と雫の相手をしており、たった一本の木刀で二人の剣を捌きながら、圧倒している。

その近くでも、戦闘が行われていた。

 

恵理「メラゾーマ!」ドガァッ!

ヒカリ「甘いわ!第四波動!」ギュルゥッ!

浩介「流砂瀑流!」ザァァァッ!

ヒカリ「ものをよく見なさい!反射(リペル)!」キュイン!

ヒカリが恵理と浩介の相手をしており、二人の技をあっさりと受け流している。

それも近くにいる香織達や町に飛ばないように、である。

 

そう、香織達は準備がてらミライとヒカリによる特訓を受けていたのだ。

四人とも、既に無詠唱で技を即座に放てるとはいえ、まだ油断を許さない状況らしい。

何せ、ハジメはこれらの技を簡単に無力化できるのだ。それに加え、時間操作というチート能力がある。

ハジメの傍に立つ以上、彼と肩を並べる程の実力でなければならないのだ。

勿論理由はそれだけではない。それは先日、ヒカリとの初会合の翌日であった。

 


 

ヒカリ「そういえば、ミライ。少しいいかしら。」

ミライ「? どうしたの?」

精神世界の中で二人きりの状態であったミライは、急にヒカリから話しかけられた。

ヒカリ「あの御方がいなくなる前、何か不穏な気配を感じたのだけど……貴方は?」

ミライ「! ……もしかして、あの時の!?」

ヒカリ「心当たりがあるの?」

ミライ「えぇ……といっても、彼から聞いただけなんだけどね。」

ミライは先代のオーマジオウとの会話を思い出していた。

それは、彼が力の譲渡を行う前のことだった。

 

 

ミライ「ハイパー、タイムジャッカー……!?」

先代『あぁ、どうやら奴等、単体で私に敵わないと知るや、力の集約を行ったようだ。

その結果、時間操作能力を向上させ、異世界との交信ができるようになったらしい。

まぁ、それでも私には遠く及ばないが。いずれ脅威にはなり得る存在であろう。』

そう、当時のオーマジオウは、絶対にして最強、無敵にして無敗、唯一無二の頂に立つ魔王であった。

その強さは言葉ですらも表し難い。ただ、一言で表すのであれば、全能の王、である。

そんな彼に挑む者がいるとすれば、勇気をもって挑む挑戦者か、野望がために挑む愚か者くらいだろう。

 

ミライ「では、我々が討伐を……「その必要はない」!?ど、どういうことですか!?」

先代『どうやら、私の力を譲渡する者の世界に行くようなのでな。

どうせなら試練の一つとして、任せてみることにした。』

ミライ「!お待ちを!いくらなんでも危険すぎます!それも力を継承したばかりの者に!」

ミライは慌てて止めようとした。彼は次代の王にその討伐を課すというのだ。

それはつまり、もしその者が敗北すれば、譲渡されし力を奪われる危険性もあるのだ。

先代『慌てることなど無かろう。敗れれば所詮はその程度、王の力というものは、人を選ぶものなのだ。

それに、タイムジャッカーごときが手にできる程、私の力は安くはない。』

ミライ「!し、しかし……」

 

先代『何より、その者が負けると決まった訳でもなければ、力を継承したばかりの時期に来るわけでもない。

ましてや、その者が次代の王を察知できるとは到底思えんがな。』

まるで、その不届き物の実力を実際に見たかのようだ。

それはつまり、彼の王はその存在の詳細を把握している、ということだ。

ミライ「……分かりました。では、そのように致します。」

先代『すまんな。

私としても、後世に問題はあまり残したくはないが、あまり平和すぎるのも考え物故な。

継承者については後日、追って秘密裏に連絡する。』

ミライ「ハッ!」

 

 

ミライ「……なんてことがあったの。」

ヒカリ「そう……それなら一刻も早く、件の彼に接触しないとね。」

ミライ「えぇ。その為にも、香織達には悪いけど……。」

ヒカリ「明日からの訓練は厳しめで行くことになるわね。心が折れなければいいけど……。」

ミライ「縁起でもないこと言わないの!」

何て言いながら、今後のスケジュールについて画策する二人であった。

 


 

そんなこともあってか、香織達は厳しい特訓を乗り越え、確実に強くはなっていた。

勿論、タダで強くなれるわけではない。

香織「ちょっ、ミライちゃん!?そこは、ア˝ッ!?」

恵理「あぁ~!待って、そこを押すのは、ギッ!?」

雫「待って!その手にあるのは何!?なんで私だけそんな、ン˝グゥッ!?」

変な声が上がっているが、決してやましいことではない。

訓練後のおまじない、という名のマッサージである。

 

一見いかがわしいように聞こえるが、マッサージ自体には効果はある。

血流の促進、保湿・美肌ケア、姿勢矯正、疲労回復、精神安定、安眠効果、代謝促進、髪質上昇、etc……と、様々な効果が着くのだ。

因みに、二人もこのマッサージを先代オーマジオウに毎回行ってもらっており、そのおかげで押すべきツボや必要な効果のある場所を覚えることが出来たのだ。

尤も、このマッサージには致命的な弱点がある。それは、微力ながらの発情効果である。

常人でも耐えられる程度の量であり、痛覚を和らげるための物ではあるが、それでも出てくる声は何所か艶やかだ。

 

しかし、彼女たちよりもダメージを負っている者が一人。

浩介「ハハッ、俺もうダメかもしれねぇ……。」

そう、我らが切り札、遠藤浩介君である。

彼はつい先ほどまで、もう一人の自分との鬼ごっこを繰り広げていたが、ミライたちの悪乗りによって、大量の敵との逃走中を繰り広げることになってしまい。途中で自身も感染しかけていたことに絶望し、その場に倒れこんでいるのだ。

しかも、女性陣がマッサージ中でも追いかけられ続けており、終いには発情効果が完全になくなるまで続けさせられたのだ。

それはもう、どこぞの魔王に挑もうと思うくらいの気概で走りぬいた。

そして今、真っ白に燃え尽きていたのだ。

 

訓練後、他の三人が普通に戻っているにも拘らず、浩介だけが気絶していることに気づいていなかった。

尚その後、ようやくその存在に気づいたヒカリが彼の体を使用し、分身によって運んだ後、ベッドにの上に無造作に放り投げられた。

その夜、浩介の枕は湿っぽかった。

時折「シクシク」と聞こえてくるすすり泣きに、怪異の仕業か何かと勘違いされた時には、ベッドまで濡れていた。

後にハジメさんが、色々苦労を掛けたお詫びとして、彼の願いを出来るだけかなえようとするのはまた別のお話。

尚、ハジメさん曰く「雫の胃痛も心配だけど……浩介の扱いも同じくらい心配なんだが……。」と言っていた。

上司からも心配される男、遠藤浩介君の運命の相手は何処か。それこそ正しく、神のみぞ知る。

(神といっても、ここの自称神(笑)ではない。ちゃんとした恋愛の神様である。)

 

<香織達サイド終わり>

 


 

一方その頃……

<ハジメサイド>

 

ハジメ「よぉ~し、そろそろかな?二人とも、準備はいい?」

ユエ「ん!バッチコイ!」

シア「はい!いつでもやっちゃってください!」

そう返事するユエとシアは、可変式自立型大盾"アイディオンズィーガー"の陰から顔を覗かせていた。

一方の俺は、オーマジオウに変身し、パーフェクトゼクターに魔力を注ぎ込んでいた。

さて、どうしてこんなことになっているかというと、だ。

 


 

それは、迷宮内部の光景が始まりであった。

其処には壁を直接削って作ったのであろう見事な装飾の長方形型の看板があり、それに反して妙に女の子らしい丸っこい字でこう掘られていた。

"おいでませ!ミレディ・ライセンのドキワク大迷宮へ♪ "

……"!"や"♪"のマークが妙に凝っている所が何とも腹立たつなぁ。

ハジメ「……ここで合っているよね?ドッキリ大迷宮とかじゃないよね?」

シア「あわわ、ハジメさんがあまりの不可思議さにテンパっていますぅ!」

ユエ「ハ、ハジメ、落ち着いて!確かに意味不明な看板だけどもぉ!」

とまぁ、軽く混乱はしたものの、文章の人物のファーストネームからして、やはりここが正解なのだろう。

こんな見た目とはいえ、ここは大迷宮、いつどこから罠が飛んでくるかはわからない。油断は禁物だ。

 

と、意気込んでは見るものの、流石大迷宮。オルクス同様厄介な場所であった。

まず最初に看板があった窪みの奥を調べると、そこには忍者屋敷の仕掛け扉の様な入り口があった。

しかも回転式という、ある意味ロマンがあった。まぁ、先にはトラップがあるけどね! 

 

ハジメ「危ねぇッ!」シュパパパパパッ! 

全く光を反射しない、無数の漆黒の矢が早速のお出迎えだ。

俺は二人に当たらないように、即座に矢を払い落とした。

すると明かりがつき、中央の石板に文字が浮かび上がった。

"ビビった?ねぇ、ビビっちゃった? チビってたりして、ニヤニヤ。"

"それとも怪我した?もしかして誰か死んじゃった?……ぶふっ。"

ハジメ「……。」

大丈夫、全然気にしていないから。だから二人とも、そんなにくっつぎ過ぎないの。

 

悲報:構造把握が使えなくなりました。そして、次は複雑怪奇な空間に出ました。

階段や通路、奥へと続く入口が何の規則性もなくごちゃごちゃにつながり合っていて、まるでレゴブロックを無造作に組み合わせて出来た様な場所だった。

一階から伸びる階段が三階の通路に繋がっているかと思えば、その三階の通路は緩やかなスロープとなって一階の通路に繋がっていたり、二階から伸びる階段の先が、何もない唯の壁だったり、本当に滅茶苦茶だった。

でもこれって、いかにもThe・迷路って感じだなぁ。ここだけは評価しよう。こういう構造は嫌いじゃない。

むしろなんか、燃えて来た! 

 

ハジメ「取り敢えず、進んでみようか!」

ユエ「ん。考えても仕方ない。」

シア「ですね。」

早速、入口に一番近い場所にある右脇の通路に適当に傷をつけて目印とし、進んでみる事にした。

通路は幅二メートル程で、レンガ造りの建築物の様に無数のブロックが組み合わさって出来ていた。

やっぱり壁そのものが薄ら発光しているので視界には困らない。

緑光石とは違う鉱物の様で薄青い光を放っている。試しに"鉱物鑑定"を使ってみると、"リン鉱石"と出た。

どうやら空気と触れる事で発光する性質を持っているみたい。

最初の部屋は、恐らく何かの処置をする事で最初は発光しない様にしてあったのだろう。

どこかの天空の城を思い出す……この世界なら龍の巣もあるかもしれないなぁ……。

 

そんな事を思い浮かべながら長い通路を進んでいると突然、音がした。

ハジメ「……あ。」ガコンッ! 

どうやら、俺の足が床のブロックの一つを踏み抜いてしまったようだ。

そのブロックだけ俺の体重により沈んでいる。嫌な予感がしたその瞬間、

シャァアアア!!嫌な音を響かせながら、左右の壁のブロックとブロックの隙間から高速回転・振動する円形でノコギリ状の巨大な刃が飛び出してきた。

右の壁からは首の高さで、左の壁からは腰の高さで前方から勢い良く迫ってくる。

 

ハジメ「そう来るよねぇー!」

俺は慌てながらも時を止め、二人をディメンションキャブで罠より前に移動させ、俺自身もリキッドで難を逃れる。

ふぃ~、危なかった……と思った次の瞬間、謎の悪寒を感じた俺は、咄嗟に二人を抱えてその場から離れた。

直後、頭上からギロチンの如く無数の刃が射出され、まるでバターの如く床にスっと食い込んだ。

やっぱり、先程の刃と同じく高速振動している。

 

思わず冷や汗を流す俺。ユエとシアは硬直しているようだ。

ハジメ「完全な物理トラップかぁ……。マジに殺しにかかって来てんなぁ……。」

さっきまで油断は禁物とか言っていた自分が恥ずかしい。穴があったら、入りたい!(デデドン!)

シア「はぅ~、し、死ぬかと思いましたぁ~。

ていうか、ハジメさん!あれくらい受け止めて下さいよぉ!何のための鎧なんですかぁ!」

ハジメ「いやぁ、出来るだけ温存しておきたいなぁ、って思っていて……。ごめん。」

シア「温存って……、死ぬところだったんですがっ!?」

ハジメ「大丈夫、時を戻せば対処は直ぐに出来る。」

シア「そういう問題じゃありませんが!?」

掴みかからんばかりの勢いで問い詰めようとするシアに、笑って対処する俺。そんな俺を見て、ユエが溜息をついていた。

 

まぁ確かに、シアが言った通り、オーマジオウならさっきの刃も砕くなり受け止めるなりで止められただろう。

服装自体にも、極薄くではあるが「逢魔鉱石」をコーティングしてある。あの程度なら傷一つないだろう。

しかし、先程のトラップは唯の人間を殺すには明らかにオーバーキルというべき威力が込められていた。

並みの防具では、歯牙にもかけずに両断されていただろう。

俺の様に、武装に使用された合成鉱石を用いた武器防具でも持っていなければ回避以外に生存の道はない。

 

ハジメ「でもまぁ、あの程度なら問題ないか。」

と、独りごちる俺。どれだけ威力があっても、並大抵の物理トラップならどうってことない。

ユエも"自動再生"があるから、トラップにかかっても死にはしない。

となると……必然的にヤバイのはシアだけだ。ユエもそれに気づいたようだ。

その事に気がついているのかいないのか分からないが、シアのストレスが天元突破するであろう事だけは確かだった。

シア「あれ?ハジメさん、ユエさん、何でそんな哀れんだ目で私を……?」

ハジメ「強く生きて、シア……。」

ユエ「……ん。ファイト。」

シア「え、ええ?なんですか、いきなり。何か凄く嫌な予感がするんですけど……?」

 

俺達は、トラップに注意しながら更に奥へと進む。それにしても、なぜ魔物が出てこないのだろうか? 

今のところ、トラップとしてすらも来ないことに違和感を感じていた。

そんなことを考えていると、俺達は通路の先にある空間に出た。その部屋には三つの奥へと続く道がある。

取り敢えず目印だけつけておき、俺達は階下へと続く階段がある一番左の通路を選んだ。

シア「うぅ~、何だか嫌な予感がしますぅ。こう、私のウサミミにビンビンと来るんですよぉ。」

階段の中程まで進んだ頃、突然、シアがそんな事を言い出した。

言葉通り、シアのウサミミがピンッと立ち、忙しなく右に左にと動いている。

ハジメ「ちょっ、変なフラグ立てないでよ!? 

そういうこと言うと、大抵、直後に何か『ガコンッ!』……ごめん。」

シア「わ、私のせいじゃないですぅッ!?」

ユエ「!?……バカシアッ!」

 

シアが話している最中に、またもやトラップを踏み抜いてしまった俺。

嫌な音が響いたかと思うと、いきなり階段から段差が消えた。

かなり傾斜のキツイ下り階段だったのだが、その階段の段差が引っ込みスロープになったのだ。

しかもご丁寧に地面に空いた小さな無数の穴からタールの様なよく滑る液体が一気に溢れ出してきた。

ハジメ「その系統は勘弁してぇ~!」

俺は即座に舞空術を発動、それと同時に二人をしっかりと抱き抱え、滑り落ちない様に引き上げる。

ハジメ「ギ、ギリギリ間に合ったぁ……。」

シア「た、助かったですぅ……。」

というかシア、君も舞空術使えるんだし、それで浮けばよかったんじゃあ……。

と、心では思っていても、敢えて言わないでおく俺であった。

その後、俺達は元々進んでいた方向へ下っていき、そのまま長いスロープを抜けて広い空間に出た。

そして、何気なく下を見て盛大に後悔した。

 

カサカサカサ、ワシャワシャワシャ、キィキィ、カサカサカサ

そんな音を立てながら夥しい数の蠍が蠢いていたのだ。体長はどれも10cmくらいだろう。

嘗ての蠍擬き程じゃないが、生理的嫌悪感はこちらの方が圧倒的に上だ。

即座に浮遊しなければ蠍の海に飛び込んでいたかと思うと、全身に鳥肌が立つ思いである。

ユエ・シア「「……。」」

ハジメ「流石に、これは……。」

思わず黙り込む二人と、同じく黙りたいが気持ちを抑え、蠍の海に炎弾を投げる俺。

蠍達の断末魔を聞きつつ、何気なく天井に視線を転じると、何やら発光する文字がある事に気がついた。

"彼等に致死性の毒はありません。"

"でも麻痺はします。"

"存分に可愛いこの子達との添い寝を堪能して下さい、プギャー!!"

 

態々リン鉱石の比重を高くしてあるのか、薄暗い空間でやたらと目立つその文字。

それは正しく、穴に落ちた者に対する死体蹴りのような文章だった。

ユエ・シア「「……。」」

ハジメ(アカン……二人の精神衛生上これは良くない。)

また違う意味で黙り込むユエとシアと、「無視しよう」と二人に言い聞かせる俺。

何とか気を取り直すと周囲を観察する。

ユエ「……ハジメ、あそこ。」

ハジメ「うん?」

すると、ユエが何かに気がついた様に下方のとある場所を指差した。

そこにはぽっかりと横穴が空いている。

ハジメ「横穴かぁ……どうする?元の場所に戻る?それとも、あそこに行ってみる?」

シア「わ、私は、ハジメさんの決定に従います。」

ユエ「……同じく。」

ハジメ「シア、"選択未来"は使える?」

シア「うっ、それはまだちょっと。練習してはいるのですが……。」

 

"選択未来"はシアの固有魔術だ。

仮定の先の未来を垣間見れるけど、一日一回しか使用できない上、魔力も多大に消費するのであまり使えないらしい。

シアの強みは身体強化であるので、少し心配だ。まぁ、魔力がなくとも、そう簡単に死なないけどね。

一応日々鍛錬によって、消費魔力が少しずつ減ってきているらしいが……

使いこなすにはまだまだ道のりは遠そうだ。

ハジメ「まぁ俺が使ってもいいけど、それじゃ面白くないからねぇ……よし、横穴に行くか。」

ユエ「ん。」

シア「はい。」

俺は二人を抱えて移動し、横穴へと辿り着いた。

 

リン鉱石の照らす通路はずっと奥まで続いている。

特に枝分かれの通路がある訳でも無く、見える範囲ではひたすら真っ直ぐだ。

今までのミレディの罠の配置からして、捻りの無さは逆に怪しい。

警戒しつつ、道なりに先へと進む俺達。

流石に、代り映えのしない規則正しい石造りの通路にいることは、微妙に距離感を狂わせるようだ。

数100m進んだ辺りで、同じ場所をずっと歩き続けている様な錯覚に陥っていた。

 

何となく気分が悪くなりそうな俺達だったが、まるでそんな心情を見越した様に変化が現れた。

前方に大部屋が見えたのだ。何かありそうだと思いつつも、俺達は躊躇わず部屋へと飛び込んだ。ガコンッ! 

……直後、お馴染みになった音が響く。またしてもトラップにエンカウントしてしまった。

……俺にだけ、トラップが反応するのは気のせいだろうか? 

ハジメ「上からくるぞ、気を付けろぉ!」

ユエ「シアっ!」

シア「は、はいですぅ!」

全員が頭上に注意を向けた瞬間、俺の言葉通り天井が降って来た。

何とも古典的なトラップであるが、魔力行使が著しく難しいこの領域で範囲型のトラップは反則だ。

 

もし通路から部屋を見ていた者がいたのなら、きっとズシャッ! という音と共に部屋が消えて通路が突然壁に覆われた様に見えただろう。

通路の入口を完全に塞ぐ形で天井が落ちて来たんだ。

後に残ったのは、傍から見れば一瞬で行き止まりとなった通路だけ。

一見すれば、部屋全体を押し潰した天井により中にいた俺達も圧殺されたとしか思えない状況だ。

しかし、落ちてきた天井の隙間から液体状の何かがニュルゥと這い出てきた。

 

それらはやがて人の形を形成し、元の姿に戻っていった。

ハジメ「……ほんとごめん」

ユエ「……ん、ギリギリセーフ」

シア「いやいや、普通に死ぬところでしたからね!? というか、今のは何ですか!?」

ハジメ「エナジーアイテム"液状化"。さっき使った"リキッド"みたくなれるアイテムだよ」

シア「それでももう少し早く教えてくれませんか!? ハジメさんも予知使えるんですし!」

ハジメ「……未来ってさぁ、絶対じゃないんだよ」

シア「まさかのセリフ返し!?」

 

逃げ場は無く、奥の通路までは距離がありすぎて普通に走れば間に合いそうにない。

かといって時止めばかりでは芸がない。ならばどうするかって? 

簡単さ、敢えて潰されればいい。ただし、液体状になっている身体でなぁ! 

俺は咄嗟に二人に"液状化"のエナジーアイテムを与え、"リキッド"で自身も液状になり、窮地を脱したのだ。

安堵した表情で冷や汗を拭うユエとシアを立ち上がらせつつ、作り置きしてあったサンドイッチを取り出して簡易的なエネルギー補給をする俺達。

そうして気合を入れ直し前を向いたその時、再び例のウザイ文を発見した。

"ぷぷー、焦ってやんの~、ダサ~い。"

 

どうやらこのウザイ文は、全てのトラップの場所に設置されているらしい。

ミレディ・ライセン……嫌がらせに努力を惜しまないヤツである。

シア「あ、焦ってませんよ! 断じて焦ってなどいません! ダサくないですぅ!」

俺の視線を辿り、ウザイ文を見つけたシアが「ガルルゥ!」という唸り声が聞こえそうな様子で文字に向かって反論する。

シアのミレディに対する敵愾心は天元突破しているらしい。ウザイ文が見つかる度に一々反応している。

もしミレディが生きていたら「いいカモが来た!」とほくそ笑んでいる事だろう。

ハジメ「言わせておけばいいんだよ、こういう奴は関わるだけ無駄だから。早く先を急ごう」

ユエ「……思うツボ」

シア「うぅ、はいですぅ」

 

その後も進む通路、辿り着く部屋の尽くで罠が待ち受けていた。

突如全方位から飛来する毒矢(ブラックホールで消し飛ばした。)、

硫酸らしき物を溶かす液体がたっぷり入った落とし穴、(舞空術で飛び越えた。)

アリジゴクの様に床が砂状化しその中央にワーム型の魔物が待ち受ける部屋(ボムで始末した。)、

そしてウザイ文。シアのストレスはマッハだった。

その後も暫く歩き、この迷宮に入って一番大きな通路に出た。幅は6,7mといったところだろう。

結構急なスロープ状の通路で緩やかに右に曲がっている。恐らく螺旋状に下っていく通路なのだろう。

俺達は警戒する。こんな如何にもな通路で何のトラップも作動しないなど有り得ない。

 

そして、その考えは正しかった。もう嫌というほど聞いてきた「ガコンッ!」という何かが作動する音が響く。

既に、スイッチを押そうが押すまいが関係なく発動している気がする。

スイッチの意味よ、と思った俺だったが、きっとそんな思いもミレディ・ライセンは織り込み済みなのだと捉える。

今度はどんなトラップだ?と周囲を警戒する俺達の耳にそれは聞こえてきた。

ゴロゴロゴロゴロゴロゴロゴロゴロ

明らかに何か重たいものが転がってくる音である。

ハジメ・ユエ・シア「「「……」」」

三人が無言で顔を見合わせ、同時に頭上を見上げた。

スロープの上方はカーブになっているため見えない。

異音は次第に大きくなり、そして……カーブの奥から通路と同じ大きさの巨大な大岩が転がって来た。

岩で出来た大玉である。全くもって定番のトラップだ。

きっと、必死に逃げた先には、またあのウザイ文があるに違いない。

 

ハジメ「ハン!ただの岩ならどうってことないなぁ!」

俺はその場で腰を軽く落として左手を真っ直ぐに前方に伸ばした。

掌は大玉を照準する様に掲げられている。

俺は轟音を響かせながら迫ってくる大玉を真っ直ぐに見つめ、右手を強く引き絞った。

ハジメ「"豪腕"、"マッスル化"、"衝撃変換"、"剛力"、普通のパンチ!」

強化された腕が放つ圧力が、俺の言葉と共に一層激しさを増す。そして……

 

ゴガァアアン!!! 

凄まじい破壊音を響かせながら大玉が木端微塵に弾け飛ぶ。

俺は拳を突き出した状態で残心し、やがてフッと気を抜くと体勢を立て直した。

腕の強化を解除し、二人の方へ振り返った。

シア「ハジメさ~ん!流石ですぅ!カッコイイですぅ!すっごくスッキリしましたぁ!」

ユエ「……ん、すっきり。」

ハジメ「ハッハッハッ!!この程度、どうってことないさ。これで少しは進みやすくな──」

ゴロゴロゴロゴロゴロゴロゴロゴロ

ハジメ「……。」

聞き覚えのある音を聞き、俺はギギギと油を差し忘れた機械のようにぎこちなく振り返った。

笑顔で固まるシアと無表情ながら頬が引き攣っているユエも、締め切りを迫られる小説家の様に背後を振り向いた。

そんな俺達の目に映ったのは……

 

───黒光りする金属製の大玉だった。

ハジメ「……うそん。」

思わずそんな声が出てしまった。

シア「あ、あのハジメさん。

気のせいでなければ……アレ、何か変な液体撒き散らしながら転がってくる様な……?」

ユエ「……溶けてる。」

そう。事もあろうに金属製の大玉は、表面に空いた無数の小さな穴から液体を撒き散らしながら迫ってきており、その液体が付着した場所がシュワーという実にヤバイ音を響かせながら溶けている様なのである。

これは流石にヤバいと俺も思った。

 

ハジメ「と思っていたのか?」

俺は大玉に向けて灰色のオーロラを出現させる。

そのまま大玉の方へ進ませると、オーロラは液体ごと大玉を飲み込んで消えた。

ハジメ「フッ、ミレディよ。

このまま俺達の無様な様子を楽しめるだなどと、その気になっていたお前の姿はお笑いだったぜ?」

そう聞こえているであろう迷宮の主に向けて、俺は堂々と言い放った。

その後、唖然としている二人も気がついた様なので、さっさと進む事にした。

途中に溶解液のプールがあったが、難なく飛んで乗り越え、次の部屋に乗り込んだ。

 

その部屋は長方形型の奥行きがある大きな部屋だった。

壁の両サイドには無数の窪みがあり、騎士甲冑を纏い大剣と盾を装備した身長二メートル程の像が並び立っている。

部屋の一番奥には大きな階段があり、その先には祭壇の様な場所と奥の壁に荘厳な扉があった。

祭壇の上には菱形の黄色い水晶の様な物が設置されている。

ハジメ「如何にもな扉だなぁ。ミレディの住処にしては、なんか妙だね。ボスとも遭遇していないし。

周りの騎士甲冑が飾りじゃなきゃいいけど。」

ユエ「……大丈夫、お約束は守られる。」

シア「それって襲われるって事ですよね!?全然大丈夫じゃないですよ!?」

そんな事を話しながら俺達が部屋の中央まで進んだ時、確かにお約束は守られた。

毎度お馴染みのあの音である。

 

ガコンッ! 

ピタリと立ち止まる俺達。内心「やっぱりなぁ~。」と皆思った。

周囲を見ると、騎士達の兜の隙間から見えている眼の部分がギンッ! と光り輝いた。

そしてガシャガシャと金属の擦れ合う音を立てながら、窪みから騎士達が抜け出てきた。

その数、総勢50体。

騎士達はスっと腰を落とすと、盾を前面に掲げつつ大剣を突きの型で構えた。

窪みの位置的に現れた時点で既に包囲が完成している。

 

ハジメ「やれやれ、ちゃちゃっと倒しますか。ユエ、シア、行くよ!」

ユエ「んっ」

シア「は、はい!」

俺は右手にフルボトルバスター、左手に刃王剣十聖刃を装備し、即座に構えた。

ここまで数々のトラップを処理してきた俺だが、やっぱりこういう場面にこそ、俺の本領は発揮される。

久しぶりの戦いに、思わずワクワクしてしまう俺。

 

ユエは俺の言葉に気合に満ちた返事を返した。

この迷宮内では、自分が一番火力不足である事を理解しているようだ。

まぁ、足手纏いとは思ってはいないけどね。それでも頑張ろうとするのは、女の意地だろうか。

この程度の悪環境如きで後れを取る訳にはいかない、って気張っているんだろうなぁ。

まして今は、共に歩む友もいるのだから余計無様は見せられないのだと思う。

一方のシアは、少々腰が引け気味だ。

この環境で影響無く力を発揮出来るとは言え、実質的な戦闘経験はかなり不足している。

真面な魔物戦は樹海や谷底の魔物だけで、ユエとの模擬戦を合わせても半年にも満たない戦闘経験しかない。

元々ハウリア族という温厚な部族出身だった事からも、戦闘に対して及び腰になるのも無理はない。

寧ろ、気丈にドリュッケンを構えて立ち向かおうと踏ん張っている時点でかなり根性があると言えるだろう。

ま、彼女も自分を奮い立たせているようだし、ここは……。

 

ハジメ「シア!」

シア「は、はいぃ!な、何でしょうハジメさん。」

緊張に声が裏返っているシアに、俺は声をかけた。

ハジメ「お前は強い、俺達が保証してやる。こんなガラクタ如きに負けるわけねぇよ。

だから下手な事は考えず好きに暴れろ、危ない時は任せとけ!」

ユエ「……ん、弟子の面倒は見る。」

シア「!はい!お二人が認めてくれたんです!こんな奴等、ウッサウサにしてやんよ、ですぅ!」

……ウッサウサとは? という疑問を頭に残した俺は、両手の武器を構えた。

ユエも大量の魔力をため、シアは全身に身体強化を施し、力強く地面を踏みしめた。

そして三人とも、真っ直ぐ前に顔を向けて騎士達を睨みつける。

 

シア「かかってこいやぁ!ですぅ!」

ユエ「……だぁ~。」

ハジメ「無に帰してやろう、鉄屑共。」

五十体のゴーレム騎士を前に、最初っからクライマックスな俺達。

そんな俺達の様子を知ってか知らずか……ゴーレム騎士達は一斉に侵入者達を切り裂かんと襲いかかった。

 

ゴーレム騎士達の動きは、その巨体に似合わず俊敏だった。

ガシャンガシャンと騒音を立てながら急速に迫るその姿は、装備している武器や眼光と相まって凄まじい迫力である。

まるで四方八方から壁が迫って来たと錯覚すらしそうだ。

そんなゴーレム騎士達に向けて肉薄した俺は、両手の武器を一気に横薙ぎにする。

握り締めた至高の一振りが、神すら置き去りにする速度と威力を以てゴーレム騎士達に放たれた。

ズパァン!! 

風を切るような音とともに、2体のゴーレム騎士が真っ二つになって倒れた。

自身の駆けた勢いでパズルの様に崩れて散らばる騎士達、それを踏み越えて後続の騎士達が俺達へと迫る。俺は即座にそれを蹴飛ばし、かかって来いと後続に手招きする。

そんな俺に対し、「上等だゴルァ!」とでも言わんばかりに向かってくる数体の騎士。

 

だがそこは、青みがかった白髪を靡かせ超重量の大槌を大上段に構えたまま飛び上がっていたシア・ハウリアのキルゾーンだ。

限界まで強化したその身体能力を以て遠慮容赦の一切を排した問答無用の一撃を繰り出す。

シア「でぇやぁああ!!」ドォガアアア!! 

気合一発。

打ち下ろされた戦槌ドリュッケンSH-2068は、凄まじい衝撃音を響かせながら一体のゴーレム騎士をペシャンコに押し潰した。

一応騎士も頭上に盾を構えていたのだが、その防御ごと圧壊されたのである。

地面にまで亀裂を生じさせ、めり込んでいるドリュッケン。

渾身の一撃を放ち死に体となっていると判断したのか、盾を構えて衝撃に耐えていた傍らの騎士が大きく大剣を振りかぶりシアを両断せんと踏み込む。

シアはそれをしっかり横目で確認していた。

柄を捻り、ドリュッケンの頭の角度を調整すると柄に付いているトリガーを引く。

 

ドカンッ!! 

そんな破裂音を響かせながら地面にめり込んでいたドリュッケンが跳ね上がった。

シアの脇を排莢されたショットシェルが舞う。

跳ね上がったドリュッケンの勢いを殺さず、シアはその場で一回転すると遠心力をたっぷり乗せた一撃を、今正に大剣を振り下ろそうとしている騎士の脇腹部分に叩きつけた。

シア「りゃぁあ!!」

そのまま気迫を込めて一気に振り抜く。

直撃を受けた騎士は、体をくの字に折り曲げてまるで高速で突っ込んできたトラックに轢かれたかの様にぶっ飛んでいき、後ろから迫って来ていた騎士達を盛大に巻き込んで地面に叩きつけられた。

騎士の胴体は、原型を止めない程拉げており身動きが取れなくなっている。そこへ、

 

ヒュンッヒュンッ! 

そんな風切り音がシアのウサミミに入る。

チラリと上空を見ると、先程のゴーレム騎士が振り上げていた大剣がシアに吹き飛ばされた際に手放された様で、上空から回転しながら落下してくるところだった。

シアは落ちてきた大剣を跳躍しながら掴み取ると、そのまま全力で迫り来るゴーレム騎士に投げつけた。

大剣は尋常でない速度で飛翔し、ゴーレム騎士が構えた盾に衝突して大きく弾く。

シアはその隙を逃さず踏み込み、下段からカチ上げるようにドリュッケンを振るった。

腹部に衝撃を受けた騎士の巨体が宙に浮く。

騎士が苦し紛れに大剣を振るうが、シアはカチ上げたドリュッケンの勢いを利用してくるりと回転し大剣をかわしながら、再度今度は浅い角度で未だ宙に浮く騎士にドリュッケンを叩きつけた。

先のゴーレム騎士と同様、砲弾と化してぶっ飛んだゴーレム騎士は後続の騎士達を巻き込みひしゃげた巨体を地面に横たわらせた。

 

シアの口元に笑みが浮かぶ。戦いに快楽を覚えたからではない。

自分がきちんと戦えている事に喜びを覚えているのだ。

自分はちゃんと俺達の旅に付いて行けるのだと実感しているのだ。

その瞬間、ほんの少しだけ気が抜ける。

戦場でその緩みは致命的だった。気がつけば視界いっぱいに騎士の盾が迫っていた。

なんとゴーレム騎士の一体が自分の盾をシアに向かって投げつけたのである。

流石ゴーレムというべきか、途轍もない勢いで飛ばされたそれは身体強化中のシアにとって致命傷になる様なものではないが、脳震盪位は確実に起こす威力だ。

そうなれば、一気に畳み込まれるだろう事は容易に想像できる。

 

まさか盾を投げつけるなどといった本職の騎士でもしなさそうな泥臭い戦い方をゴーレム騎士がするとは思いもしなかったシア。

最早「しまった!」と思う余裕も無い。せめて襲い来るであろう衝撃に耐えるべく覚悟を決める。

だが盾がシアに衝突する寸前で銃撃が飛来し盾に衝突、破壊しその破片を撒き散らす。

破片はシアの頭部のすぐ脇を通過し、背後のゴーレム騎士に突き刺さる。

 

ユエ「……油断大敵。後でお仕置き。」

シア「ふぇ!? 今のユエさんが?す、すみません、ありがとうございます!ってお仕置き!?」

ユエ「ん……気を抜いちゃダメ」

シア「うっ、はい!頑張りますぅ!」

ユエに「メッ!」という感じで叱られてしまい、自分が少し浮かれて油断してしまった事を自覚するシア。反省しながら気を引き締めなおす。

改めて迫って来たゴーレム騎士を倒そうとして、後方から飛んできたゲリラ豪雨の様な銃撃が、密かにシアの背後を取ろうとしていたゴーレム騎士をドパンッと焼断したのを確認した。

 

ユエが自分の背中を守ってくれていると理解し心の内が温かくなるシア。師匠の前で無様は見せられないと、より一層気合を入れた。

その後も、暴れるシアの死角に回ろうとする騎士がいれば同じ様に弾丸が飛び、最早撃ち抜くというより焼き払っていく。

ユエは両手に、盾とガトリング銃が組み合わさった様な武器を持っていた。

両肩には小型砲台の様な物を纏っている。

これらは俺が貸し与えた武器、斬月の"ウォーターメロンガトリング"とゾルダの"ギガキャノン"だ。

ユエが引き金を引けば銃弾が、撃つと頭で思う度に砲弾が飛び出し敵を粉砕していく。

シアの爆発的な近接攻撃力と、その死角を補うように放たれるユエの砲銃火。

騎士達は二人のコンビネーションを破る事が出来ず、いい様に翻弄されながら次々と駆逐されていった。

 

そんな素晴らしい連携を披露するユエとシアを横目に俺は呟く。

ハジメ「フッ、コイツぁ、俺も本気みせてやらねぇとなぁ!」

そんな風に気合を入れ、ゴーレム騎士達を片付けていく俺。

騎士の振り下ろした大剣を蹴り飛ばし、十聖刃を振るう。

盾ごと両断される騎士には目もくれず、そのまま振り向かずに背後の騎士をフルボトルバスターで打ち抜く。

横凪に振るわれた大剣を強化した足で蹴り砕き、砕け散る大剣には目もくれず騎士達を倒していく。

そうやって、次々とゴーレム騎士達を屠っていったが……

 

ハジメ「……おかしい。一向に減らないな……。」

ゴーレム騎士達の襲撃を真っ向から反撃しながら、俺は訝しそうに眉を寄せた。

というのも、先程から相当な数のゴーレム騎士を破壊しているはずなのだが、迫り来る彼等の密度が全く変わらないのだ。

その疑問は、ユエとシアも感じたらしい。

そして、よくよく戦場を観察してみれば、最初に倒したゴーレム騎士の姿が何処にもない事に気がついた。

 

ユエ「……再生した?」

ハジメ「みたいだな。こりゃあ厄介だな。」

シア「そんな!?キリがないですよぉ!」

そう、ゴーレム騎士達は破壊された後も眼光と同じ光を一瞬全身に宿すと瞬く間に再生して再び戦列に加わっていたのである。

シアが、迫り来るゴーレム騎士達を薙ぎ払いながら狼狽えた声を出した。

どれだけ倒しても意味がないと来れば、そんな声も出したくなるだろう。

だが、それに反して俺とユエは冷静なまま、特に焦った様子もなく思考を巡らしながらゴーレム騎士達を蹴散らしている。

まぁ、この辺りは経験の差というやつだろう。

この程度、正直どうってことはない。むしろ、オルクスの頃より遥かに強くなった今は余裕すらある。

 

ユエ「……ハジメ、ゴーレムなら核があるはず。」

ハジメ「いや、多分核じゃないと思う。どうやらこの床や鎧の素材が原因みたい。」

ユエの言う通り、ゴーレムは体内に核を持っているのが通常であり、その核が動力源となる。

核は魔物の魔石を加工して作られている。オスカーのお掃除ゴーレムの設計書にもそう記されてあった。

しかし、それは不可能だった。何故なら、再生の原因は床や騎士たちに使われていた鉱石であったからだ。

 

その鉱石は感応石と言って、魔力を定着させる性質を持つ鉱石らしい。

同質の魔力が定着した二つ以上の感応石は、一方の鉱石に触れていることで、もう一方の鉱石及び定着魔力を遠隔操作することができる物なのだ。

この感応石で作られたゴーレム騎士達は、何者かによって遠隔操作をされているということだろう。俺達が再生だと思っていたのも、鉱石を直接操って形を整えたり、足りない部分を継ぎ足したりしているだけのようだ。

再生というより再構築といった感じだろう。

よく見れば、床にも感応石が所々に使われており、まるで削り出したように欠けている部分が見られる。ゴーレムの欠けた部分の補充に使われたに違いない。

操っている者を直接叩かないと本当にキリがないようだ。

 

ハジメ「ユエ、シア。こいつらを操っている奴がいる。強行突破に作戦変更だ!」

ユエ「んっ」

シア「と、突破ですか?了解ですっ!」

俺の合図と共に、ユエとシアが一気に踵を返し祭壇へ向かって突進する。

俺は即座にサイキョージカンギレードを構え、進行方向の騎士達を蹴散らし隊列に隙間をあけつつ、後方から迫ってきているゴーレム騎士達に向かってギガントをぶち込んだ。

背後で大爆発が起こり、衝撃波と爆風でゴーレム騎士達が次々と転倒していく。

シアも、俺の空けた前方の隙間に飛び込みドリュッケンを体ごと大回転させて周囲のゴーレム騎士達を薙ぎ払った。

技後硬直するシアに盾や大剣を投げつけようとするゴーレム騎士達にユエの銃撃が飛来し粉砕していく。

 

俺は殿を務めながら後方から迫るゴーレム騎士達に火縄大橙DJ銃を連射した。

その隙に一気に包囲網を突破したシアが祭壇の前に陣取る。

続いてユエが、祭壇を飛び越えて扉の前に到着した。

シア「ユエさん!扉は!?」

ユエ「ん……やっぱり封印されてる。」

シア「あぅ、やっぱりですか!」

見るからに怪しい祭壇と扉だ、封印は想定内。だからこそ、最初は面倒な殲滅戦を選択したのだ。

扉の封印を落ち着いて解くために。シアは、案の定の結果に文句を垂れつつも、階段を上ってきた騎士を弾き飛ばす。

 

ハジメ「封印の解除はユエに任せる。俺もちょっと本気で行くよ!」ジクウドライバー!オーマジオウ! 

そう言って俺は、ジクウドライバーとオーマジオウライドウォッチを取り出し、腰に装着した。

それと同時に、殿を務めていた俺はシアの隣に並び立った。

俺の言う通り、錬成で強引に扉を突破することは、もしかすると可能かもしれないが、この領域では途轍もない魔力を消費して、多大な時間がかかることだろう。

それなら、せっかく如何にもな祭壇と黄色の水晶なんて物が置かれているのだから、正規の手順で封印を破る方がきっと早い。

俺はそう判断して、戦闘では燃費の悪いユエに封印の解除役を任せる。

 

ユエ「ん……任せて。」

ユエは、二つ返事で了承し祭壇に置かれている黄色の水晶を手に取ったようだ。

さっきチラッと見たが、その水晶は、正双四角錐をしており、よくみれば幾つもの小さな立体ブロックが組み合わさって出来ているみたいだ。

それを見た俺は、ドライバーにウォッチをセットし、変身の構えをとった。

シア「?ハジメさん?」

不思議がるシアを横目に、俺は"ジクウサーキュラー"を回転させ、あの言霊を発した。

 

ハジメ「変身!

その言葉と同時に、オーマジオウと同じようで少し違った変身シークエンスに移った。

キングタイム!」ゴォーン!

ベルトが音声を発すると同時に、鎧が形成され、もう一つの王の姿が映し出された。

 

仮面ライダージオウ!オーマ!

シュウゥゥゥ……

 

本来の俺の力には劣るものの、その力は2068のオーマジオウを凌ぐともいわれている形態。

それがこの、仮面ライダージオウ・オーマフォームだ。

この前、念のためにとジクウドライバーを生成しておいて正解だった。

ハジメ「悪いけど、本気で行かせてもらうよ!」

シア「あれ!?ハジメさん、口調が変わっていませんよ!?」

ハジメ「……あの形態でも一応、普通の口調で話せるよ?」

ユエ「……二重人格?」

ハジメ「やめてくれ、二人共。そんな心配そうな目でこっちを見ないでくれ。」

そう言って俺は、ゴーレム共に向かっていった。

 

早速俺を迎え撃とうとする騎士ゴーレムたち。だが今回は、相手が悪かったな。

俺は即座に時間停止を発動し、ゲームエリアを展開した。

全騎士ゴーレム達が入ったのを確認した俺は、サイキョージカンギレードで纏めて細切れにした。

その斬られた部分の感応石を分離し、コネクトで奪取する。泥棒だって? そこに素材を置くのが悪い! 

あ、後序に遠透石とか言う鉱石も貰っておくね。ってこれ、監視カメラみたいな感じの奴じゃん。

そして時は動き出す。それと同時に、ゴーレム達が糸の切れた人形のように倒れ伏す。

シア「え!?ハジメさん、今、何したんですか!?」

ハジメ「ふっふっふっ、残念だったなぁ、秘密のトリックだよ。」

安心してくれ、ミレディ。アンタのゴーレムは有効活用させてもらうから。

 

さてと、早速ユエの方へ駆け寄ると、正双四角錐を組み換えていた。背後の扉には三つの窪みがあった。

どうやら、窪みに三つの立方体をはめれば開くようだ。

と、扉の仕組みに感心していると、急にユエから怒気が溢れ出していた。

ハジメ「ユエ、どうしたの?」

ユエ「……ん。」

ユエは怒った様子で扉の窪みを指さした。

そこには、よく観察しなければ見つからないくらい薄く文字が彫ってあることに気がついた。それは……

"とっけるかなぁ~、とっけるかなぁ~?"

"早くしないと死んじゃうよぉ~。"

"まぁ、解けなくても仕方ないよぉ!私と違って君は凡人なんだから!"

"大丈夫! 頭が悪くても生きて……いけないねぇ!ざんねぇ~ん!プギャアー!"

何時ものウザイ文だった。

 

ハジメ「ユエ、手を貸そうか?」

ユエ「……必要ない。」

ハジメ「……分かった。よし、シア。この部屋の床を全部はぎ取ってあげなさい。」

シア「合点承知ですぅ!」

"念話"でこっそりヒントを与えつつ、ユエにパズルを任せた俺とシアは、感応石のある床を全部はぎ取っていった。

流石に全ての床を穴だらけにするのはいけないと思うので、生成魔法で創った鉱石で穴は埋めておいた。

 

数分後……

鉱石をとりつくした俺とシアがユエの下に向かうと……

ユエ「……開いた。」

ハジメ「早かったね、よし、進むぞ!」

シア「はいっ!」

部屋の中は、遠目に確認した通り何もない四角い部屋だった。

てっきり、ミレディ・ライセンの部屋とまではいかなくとも、何かしらの手掛かりがあるのでは? と考えていたので少し拍子抜けする。

ハジメ「これは、あれか?これみよがしに封印しておいて、実は何もありませんでしたっていうオチか?」

ユエ「……ありえる。」

シア「うぅ、ミレディめぇ。何処までもバカにしてぇ!」

三人が一番あり得る可能性を浮かべていると、突如もううんざりする程聞いているあの音が響き渡った。

 

ガコンッ! 

ハジメ・ユエ・シア「「「!!」」」

仕掛けが作動する音と共に部屋全体がガタンッと揺れ動いた。そして、俺達の体に横向きのGがかかる。

ハジメ「!この部屋自体が移動してるのか!?」

ユエ「……そうみたッ!?」

シア「うきゃ!?」

俺が推測を口にすると同時に、今度は真上からGがかかる。

急激な変化に、ユエが舌を噛んだのか涙目で口を抑えてぷるぷるしている。

シアは転倒してカエルの様なポーズで這いつくばっている。

 

咄嗟にフォーゼのマグネットステイツの力を応用し、俺達にかかるGを軽減しようとする。  

部屋は、その後も何度か方向を変えて移動しているようで、約四十秒程してから慣性の法則を完全に無視するようにピタリと止まった。

ハジメ「ふぅ~、ようやく止まった……二人共、大丈夫?」

ユエ「……ん、平気。」

シア「な、何とか……。」

重力操作を解除して立ち上がって周囲を見るが特に変化はない。

先ほどの移動を考えると、入ってきた時の扉を開ければ別の場所ということだろう。

そして、やっぱり何もないようなので扉へと向かった。

 

ハジメ「さて、何が出るかな?」

ユエ「……操ってたヤツ?」

シア「ミレディぶっ殺しますぅ!」

ハジメ「落ち着けェ!?ミレディは死んでいるはずだし、別の誰かかもしれないでしょ!?」

シア「……じゃあ一体誰が、あのゴーレム騎士を動かしていたんですか?」

ユエ「……何が出ても大丈夫。私達は、最強。」

そんな掛け合いをしながら、扉の下へ向かった。

扉の先は、ミレディの住処か、ゴーレム操者か、あるいは別の罠か……

俺達は「何でも来い!」と不敵な笑みを浮かべて扉を開いた。

そこには……

 

ハジメ「……あれ?何か見覚えない?この部屋。」

ユエ「……物凄くある。特にあの石板。」

扉を開けた先は、別の部屋に繋がっていた。その部屋は中央に石板が立っており左側に通路がある。

見覚えがあるはずだ。なぜなら、その部屋は、

シア「最初の部屋……みたいですね?」

シアが、思っていても口に出したくなかった事を言ってしまう。

だが、確かに、シアの言う通り最初に入ったウザイ文が彫り込まれた石板のある部屋だった。

よく似た部屋ではない。それは、扉を開いて数秒後に元の部屋の床に浮き出た文字が証明していた。

 

"ねぇ、今、どんな気持ち?"

"苦労して進んだのに、行き着いた先がスタート地点と知った時って、どんな気持ち?"

"ねぇ、ねぇ、どんな気持ち?どんな気持ちなの?ねぇ、ねぇ?"

俺・ユエ・シア「「「……。」」」

俺達の顔から表情がストンと抜け落ちる。能面という言葉がピッタリと当てはまる表情だ。

三人とも、微動だにせず無言で文字を見つめている。すると、更に文字が浮き出始めた。

"あっ、言い忘れてたけど、この迷宮は一定時間ごとに変化します。"

"いつでも、新鮮な気持ちで迷宮を楽しんでもらおうというミレディちゃんの心遣いです。"

"嬉しい?嬉しいよね?お礼なんていいよぉ!好きでやってるだけだからぁ! "

"ちなみに、常に変化するのでマッピングは無駄です。"

"ひょっとして作ちゃった?苦労しちゃった?残念!プギャァー!"

ユエ「フフフフ……。」

シア「フヒ、フヒヒヒ……。」

ハジメ「……。」

 

ユエとシアの壊れた笑い声が辺りに響く。俺は俯いて黙ったままだった。

その後、迷宮全体に届けと言わんばかりの絶叫が響き渡ったのは言うまでもない。

二人の絶叫が止んで少しして、俺はこの部屋に戻ってから初めて言葉を発した。

ハジメ「ねぇ、二人とも。俺にいい考えが有るんだけど……いいかな?」

二人は後に語る。

"その時ハジメが浮かべていた笑顔は凶悪な物だったのに、何故か私達の胸は甘くキュンキュンとしていた"と……。

 


 

そして冒頭に戻る。

俺のいい考え、それはつまり、超威力によるごり押しだ。

究極の脳筋作戦ではあるが、構造に関係なく攻略が可能ではある。

オーマジオウのパワーを集約した、パーフェクトゼクターの超必殺「マキシマムハイパーサイクロン」なら、いかに迷宮の壁が堅かろうとも、どんなに入り組んでいる迷路だろうと、関係なく突き破れるだろう。

因みに、二人に瓦礫が飛んでこないよう、アイディオンで防いでもらっている。

 

ハジメ「おぉ!こっちも準備が完了したみたいだ。それじゃ、カウントダウンいっくよ~!」

ユエ「ん!3数える!」

シア「分かりました!それじゃあ、1!」

ハジメ「1だね!それじゃ、いっきまーす!」

俺は二人のゴーサインを受け、マッピングから予測されるゴール地点を見据えながら、パーフェクトゼクターを構え、引き金に指をかけた。

するとその時、奥の道から予備の個体であろう甲冑騎士ゴーレムがやってきた。

 

ハジメ「誠に残念だが、もう止められぬぅ!だが、私は謝らない!よって吹っ飛べ!」

俺はその登場を待たずに、引き金を引いた。

??? 「ちょっ、待っ、「Maximum Hyper Cyclone!」」ズガガガガガガァァン!!! 

その瞬間、轟音と共に一筋の閃光が通り抜けた。

その閃光は後にとある場所に撃ちこまれたとのことだが、それはまた別のお話。




ここまで読んでいただき、ありがとうございます!

さて、香織達は模擬戦をしていました。
そして今回、ハイパータイムジャッカーという存在が初めて明かされました。
お察しの通り、今作におけるオリ敵です。
登場はまだまだ先ですが、次章ではそれを示唆する敵が登場いたします。
是非お楽しみに!

今回のハジメさん、大迷宮を破壊する。
流石にもう一度やれと言われたら、キレました。
その結果、原子レベルの破壊砲で風穴を開けることに。
ミレディさんの運命や如何に!?

宜しければ、高評価・コメント宜しくお願い致します。

追記:あかさたなはまやさん、晶彦さん、N.jpさん、誤字報告ありがとうございました!

Task29

トシ「先生はやっぱり人気者だな。」
愛子、いざウルの町へ!

???「もう嫌だよ、こんな寂しいの…。」
少女が流す涙の意味とは!?

ハジメ「まだ終わっていない。ここから始まるんだ。」
ハジメ、クソ神にガチギレ!?

次回「天翔ける閃光」
ハジメ「久々だなぁ……こんな感情はァ。」


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29.天翔ける閃光

お待たせいたしました。
今回は愛ちゃん先生サイドのお話が中間に挟まっています。
次回でライセン編は終了です。

居残り組の優花たちが出した答えとは?
そして、少女ミレディの涙に答えるべく、ハジメさんが心火を燃やす!

怒涛の第二章第10話、それではどうぞ!


<ハジメさんサイド>

ハジメ「……やべぇ。威力調整ミスった……。」

それが俺の第一声であった。

俺達の目の前に広がっているのは、ライセン大迷宮であったはずの場所だった。

元々大迷宮自体、洞窟内の広い空間を利用した物らしく、壁や天井が剥き出しになり、辺り一面には迷宮を構成していたであろう残骸が積み上がっている。

大迷宮が緩衝材となった為か、洞窟が崩落する様子はないみたいだ。

 

シア「あ、あわわわわ。これ、どうしましょう。」

ユエ「……流石ハジメ、私達に出来ない事を平然とやってのける。」

シアは迷宮の有り様に戸惑い、ユエは俺のやったことにボケなのか素なのか分からないボケを出してきた。

やかましいわ、という気力も俺にはなかった。

ハジメ「……取り敢えず魔法陣探そうか。せめて神代魔法だけでも手に入れて帰ろう。」

ユエ「……ん。」

シア「そ、そうですね。」

 

如何にも微妙な空気で再開された(故)迷宮探索。

しかし、そうは言ったものの、この広い空間に積み上がった瓦礫の中から魔法陣を探すのは、流石に骨が折れる。

取り敢えず、何かないか魔力を探ってみることにした。

ハジメ「……ん?」

ユエ「……ハジメ?」

シア「どうしたんですか?」

ハジメ「いや、奥の方から魔力反応があるみたい。もしかしたらガーディアンが生きているのかも。」

シア「でもまだ分解作用はありますよね?」

ユエ「……ん。消費も激しい。」

ハジメ「まぁ、取り敢えず行ってみようか。」

ユエ「ん!」

シア「はい!」

 

俺達は、警戒しながら空間の奥を目指す。すると、そこには……

???『うぅ……ヒック……ヒック……こんなのってぇ……ヒック……こんなのってないよぉ……。』

華奢なボディのゴーレムが泣いていた。

乳白色の長いローブを身に纏い、白いニコちゃんマークだったらしき仮面を付けている。

仮面はさっきの一撃のせいか歪んでいて、悲壮な表情になっていた。

恐らくではあるが、彼女がこの迷宮の主であるのだろう。

 

???『……ヒック……ッ!?ヒイィィィ!?』

そして俺の存在に気が付き、怯えた様子で後退る。何だろう……この罪悪感は……。

ハジメ「えぇ~と……ユエ、シア。俺はちょっと外すから、あの子を落ち着かせて、話を聞いてあげてもらえる?」

ユエ「……ん、任せて。」

シア「分かりました。」

二人が頷くのを見て、俺はその場を離れる。

何とも締まりの悪い攻略になってしまったものだと、ため息を吐いて頭を抑えた。

 

<ハジメさんサイド一旦終了>

 


 

<愛子先生サイド>

 

【ハイリヒ王国】の王宮の一角には、この世界に召喚された異世界の生徒達専用に開放された食堂兼サロンがある。

生徒一人一人に専属の侍従が付けられており、このサロンに来て生徒達が視線を彷徨わせれば、それだけで要望有りと判断して彼等が傍に寄って来る。

そうして飲み物でも食べ物でも、頼めば洗練された仕草と共に直ぐに用意してくれるのだ。

部屋に関しても生徒達には一人一人に専用の部屋が与えられているのだが、異世界の地で一人部屋に引き籠るのは酷く寂しく強い孤独を感じてしまうせいか、一部の例外を除いて大抵はこのサロンで雑談やら何やらで時間を潰す日々を送っていた。

 

勿論、彼等がこの世界に招かれたのは無為な時間を過ごす為ではない。

魔人族という人間族の怨敵と戦争をし勝利する為だ。

では何故そんな彼等彼女等の大半が、日も高い日中にサロンで雑談に時間を浪費しているのかというと……

有り体に言って、心が折れたからだ。

生徒達は数ヵ月前に、死を目の当たりにした。【オルクス大迷宮】という陽の光が届かない地の底で、慈悲など欠片も持たない魔物の殺意を叩きつけられ、誰もが己の死を幻視する程追い詰められ、実際に一人のクラスメイトが死に誘われて消えてしまった。

 

──剣と魔法のファンタジー

夢と希望の詰まった心躍るそのイメージは、圧倒的な現実の非情さと予想を軽く超えて来る不条理の前にあっさりと砕け散った。

戦場に出れば死ぬ。

そんな当たり前の事を、彼等は大きすぎる代償と共に骨身に刻み込まれてしまったのだ。

意気揚々と魔法を練習し、己の天職が示す才能に一喜一憂し、魔物を屠る快感に酔いしれる。

そんな気持ちは既に微塵も湧き上がりはしない。

 

どんな人間でも死ぬ時は死ぬ。

それを真に理解した彼等は戦えなくなったばかりか、王都の外に出る事が出来なくなった。

当然、王国や聖教教会上層部はそんな生徒達を戦いへと促した。

強引な手法を取った訳ではない、あくまで言葉による説得だ。

だがそれでも、ただでさえ追い詰められていた生徒達の心はその説得の言葉に更に追い詰められる事になった。

従わなければ、ここを追い出されるのではないか?

そうなれば誰の庇護も無いまま、この命が酷く軽い世界に放り出されるのではないか? と。

 

そんな時だ。

その有する天職の希少性と特性から、生徒達とは別行動で各地の食料問題を解決する為に遠征していた

──畑山愛子教諭が帰還したのは。

帰還した愛子は帰らぬ人となった少年の事を聞き、激しく取り乱した。

しかし愛子は、一見して分かる程追い詰められている生徒達を見ると直ぐ様立ち上がった。

毅然とした態度と不退転の意志、そして自分の希少性すら利用した交渉で上層部からの戦線復帰を促す説得を止めさせたのだ。

結果、生徒達は戦いに出る必要も無く、愛子の庇護の下王宮での暮らしを確約されこうしてサロンで身を寄せ合って雑談しているのである。

 

「なぁ聞いたか?天之河達、遂に七十階層に到達したんだってさ。」

「マジかよ。ついこの間、未踏区域の六十六階層の攻略に入ったばっかじゃん。」

「流石勇者パーティってか?俺達みたいな凡人とは出来が違うんだよな。」

肩を竦めて、すまし顔でそんな事を言った男子生徒の一人──玉井淳史は、しかしその表情に何とも言えない複雑な表情を浮かべていた。

一番強いのは羨望だろうか。九死に一生を得て、それでも尚前人未到の魔境へ挑み続けている光輝達に、それが出来ている事に羨む気持ちを持たずにはいられない様だ。

同時に、自分に対する情けなさと、その事実から目を逸らしている事の気まずさ、それでもあの日の事を思い出せば不可避的に湧き上がる根源的な恐怖の色がチラついていた。

 

それは淳史に限った事ではなく、今このサロンにいる居残り組の大半も同じ気持ちだった。

日本に、家に帰りたい。

その為には魔人族との戦争に勝利して、自分達をこの世界に召喚した聖教教会の信仰する創世神エヒトの力を借りなければならない。

そう分かっていても、心は奮い立たない。恐怖の黒が、意志の白を塗り潰してしまう。

 

「そうだよね。やっぱ香織ちゃんとか雫っちとか、ああいう特別っぽい子じゃないとねぇ。」

「そうそう。雫とかマジ格好良かったもんね。私、うっかり惚れちゃいそうになっちゃったよ~。」

「あはは、なにそれ~。百合は鈴だけで十分だって!」

「えっ、鈴ちゃんってガチなの!?」

「いや、あれは中身がオッサンなだけっしょ。」

淳史達男子と同じく、女子達も表面上は明るくお道化る様に、されどどこか羨望と後ろめたさを宿した表情で上滑りの会話を続ける。

そこへ男子達も参加して、何の意味も無い虚しく乾いた会話が続いていく。

まるで会話が途切れる事を恐れる様に。

 

そんな彼等彼女等の様子を、サロンに控える侍従達も露骨な視線を向ける者は皆無であったものの、様々な目で見ていた。

神に選ばれておきながら、或いは仲間が今も戦っているというのにこんな所で何を無意味な時間を過ごしているのかという冷ややかなもの、生徒達の心に巣食った恐怖を察し、そして故郷に帰れない現状に憐憫を宿したもの、ただの学徒だった彼等をここまで追い詰めてしまった事に対する申し訳なさそうなもの、既に見切りをつけたのか、何の感情も浮かんでいない無関心なもの……。

 

侍従達の垣間見せるそれらは、そのままこの国の貴族達や聖教教会関係者が居残り組に向ける感情だった。勿論、所属によって比率は変わるが。

そして居残り組も、何となく自分達に向けられる感情の空気は感じ取っていた。

それがまた、彼等の現実逃避と傷の舐め合いに等しい乾いた会話へ傾いていく。

そこへ、ポツリと小さな呟きが零れ落ちた。

 

???「……雫様とて、女の子である事に変わりはないでしょうに……。」

それは誰に聞かせるでもない、本当に思わず漏れ出た独り言だったのだろう。

だがタイミングが悪かった様で、丁度会話が途切れた直後に放たれたその言葉はサロンの全員に届いてしまった。

生徒達がハッとした様に呟きを漏らした侍従──普段は雫の専属をしているニアへ視線を向けた。

ニアは、明らかに余計な事を口走ったと言いたげな様子で直ぐに頭を下げるが……

 

淳史「……何だよ、何か文句でもあんのかよ。」

淳史が眉根を寄せて、低く唸る様な声音をニアへ向ける。

剣呑な雰囲気を発してはいるものの、しかしその視線は斜め下へ逸らされている。

それがニアへの反応が半ば八つ当たり的なものであると如実に示していた。

ニア「いえ、文句などではありません。申し訳ありませんでした。」

再度ニアは、生徒達に向けて深々と頭を下げる。

しかし淳史は、そんなニアの殊勝な態度が癇に障った様で、尚言い募るべく口を開いた。

 

淳史「誰も謝れなんて言ってねぇだろ、馬鹿にしてんのかっ!?

八重樫さんだって変わんないって……

つまり変わらないのに俺達だけ戦わないのが情けないって、そう言いたいんだろうが!

はっきり言ったらどうだよ!!」

昇「お、おい。淳史、それくらいにしとけって。」

明人「メイドさんに当たってどうすんだよ。」

癇癪を起した子供の様に怒声を上げる淳史に、友人の相川昇と仁村明人が宥める様に声を掛ける。

淳史「うるせぇよ、俺はただっ……ただ……、くそっ。」

「淳史……。」

「玉井くん……。」

 

言葉にならない鬱屈した感情が渦巻いて、苛立たし気な様子を露わにする淳史。

傍らの昇と明人が何とも言えない表情で淳史から視線を逸らし、女子生徒の何人かも淳史に声を掛けようとしては口を紡ぐ。

全員分かるのだ。

淳史の言葉に出来ない、まるで蜘蛛の巣にでも搦め捕られたかの様な重く粘ついた心情を。

俯いて表情を隠す淳史に、ニアが一歩進み出る。

ニア「淳史様。ご気分を害する様な発言をしてしまい、誠に申し訳ありませんでした。

ただ決して、淳史様を含め皆様に皮肉を申し上げた訳では無いのです。どうか、それだけは……。」

淳史「ニアさん……、いやその、俺の方こそ……すみません……。」

 

改めて深々と頭を下げながら、確かに誠意を感じる態度と声音で謝罪するニアに淳史は気まずそうに視線を逸らしながらも、少し気持ちが落ち着いた様で謝罪を返す。

実際のところ、悪い所が無い女性に癇癪を起した挙句頭を下げさせているのだ。

居た堪れない事この上ない。

そんな淳史にニアは僅かに微笑むと、今度は流さず自分の発言の真意を伝えようと口を開く。

ニア「皆様も。先程の私の不用意な発言でご気分を害されたのなら謝罪致します。

しかし、私は雫様付きの侍従として、いえ……一人の友人として思うのです。

雫様もまた、時には誰かに守られ、頼り、甘えるべき女の子であるべきだと。」

奈々「……でも、雫っちは超強いし。何時だって頼りになるし……

正直、弱っちい雫っちなんて想像出来ないんだけど。」

妙子「そうだよね……。」

居残り組の女子──宮崎奈々が苦笑いを浮かべながらそう言い、友人である菅原妙子が同意する。

 

ニア「確かに、雫様に付いてお世話をしていても彼女が弱みを見せたところなど見た事がありません。

ですが、完璧な人間などいる筈がありません。

雫様もまた、少し前まではただの学徒でしかなかった十代の女の子です。ならば今は大丈夫でも……

やっと生還したこの王宮で、心安らぐ暇も無く皆様の"雫様なら出来て当然"というお気持ちが彼女を追い詰めていくのではないかと、私はそれを危惧しているのです。」

「ニアさん……。」

想像以上に雫の事を考えての発言だった事に、奈々達や淳史達が僅かに動揺した様に身動ぐ。

 

雫の専従として任じられたニアは、騎士の家系の出だ。

幼い頃から父や兄達に囲まれて剣術を嗜んでおり、同じく幼少の頃より剣術を習ってきた雫とはお互いのよく似た家庭環境等が相まって直ぐに打ち解けた。

最初は神の使徒に対する世話という重圧に終始緊張しっぱなしだったニアだったが、今では友人であると抵抗無く言えるくらいである。

だからこそ前人未到の階層に挑んでいる異世界の友人の事を本心から心配しており、故にこそ、居残り組の雫達を特別扱いする発言に心が波立った。

大きすぎる期待が、雫の心を擦り減らしてしまうのではないかと。

 

その時、このサロンにいながら特に会話には参加せず、どこか遠い目をして静かに座り込んでいた女子生徒の一人がポツリと呟きを口にした。

???「皆……変わらない、か……」

妙子「優花? どうしたの、大丈夫?」

奈々「ひ、久しぶりに優花っちが喋った……マジで大丈夫?」

妙子と奈々が少しの驚きと心配を含んだ様子でもう一人の友人──園辺優花へ注意を向ける。

 

二人の驚きと心配は尤もだった。

なにしろあの日、九死に一生を得て生還した日から、優花はまるで生気を失くした様に無気力状態に陥っていたのだ。

本来なら、少し勝気な言動が目立つ良くも悪くもパワフルな少女なのだが、口数は激減して友人達が連れ出さなければ一日中自室の椅子に腰かけ、外をボーっと眺めているだけという重症振り。

居残り組の中でも一際精神的ダメージが深い者として認識されていた訳であるから、そんな優花が自主的に話し出した事は確かに驚くに値する出来事だった。

しかし当の本人はそんな友人二人の様子にも気が付かない様子で、虚空を見つめたまま言葉を続ける。

 

園部「……そうだよね。

雫だけじゃない、香織ちゃんや坂上くんも、恵理ちゃんや遠藤くんも、永山くん達も、檜山達も、きっと天之河くんだって……変わらない。

でも、彼は違う……。天之河くんだって、同じなのに……、なら……もしかして……。」

意味を成さない言葉の羅列。誰に聞かせるでもない、心情の吐露。

ずっと塞ぎ込んでいた優花の中で、何かが動き出した。

 

園辺優花。

──あの日、【オルクス大迷宮】で暗闇へと消えたハジメに、トラウムソルジャーの凶刃から間一髪で救われた女子生徒こそ、彼女だった。

何も知らない者がいれば、その関係を邪推していただろう。

しかし、優花の回答と表情を見れば、ハジメに対し恋慕とまでは言わずとも複雑な想いを抱いているのは明らかだった。

 

優花としては、自分の言葉に偽りは無かった。ただ、本当に無駄にしたくなかったのだ。

救われた自分の命も、ハジメの選択も。彼は自分達を進ませる為にあの時あの選択をしたのだ。

なのに救われた自分が立ち止まっているなんて、彼に対する酷い裏切りに思えて。

そんな自分にだけは成り下がりたくなかった。

そんな優花の脳裏に浮かぶのは、ただ一人巨大な敵に対して立ち向かい、仲間の道を切り開かんとする"彼"の背中。

それはまるで、物語に出てくる騎士王の様で……。

 

一人ブツブツと呟く優花に心配そうな表情を深める奈々と妙子だったが、虚空を見つめる優花の瞳が少しずつ光を取り戻していく様を見て、互いに顔を見合わせる。

優花の様子に何事かと注目していた他の生徒達も、互いに顔を見合わせて困惑の表情を浮べている。

園部「ニアさん、愛ちゃん先生の出発って何時でしたっけ?」

ニア「愛子様ですか?確か……明日の朝には出ると聞き及んでおりますが。

行先は湖畔の町ウルですので、帰還には二~三週間かかると思います。」

園部「うわぁ、明日か……うん、逆に良いかな。こういうのは時間を置くと萎えちゃうし。」

 

ニアの返答を聞いた優花は苦笑いしつつ、勢いよく椅子から立ち上がった。

その躍動感と力強さを感じる動きに、奈々と妙子は思わず瞠目する。ここ最近全く見なかった友人の姿だ。思わず奈々が問う。

奈々「ちょっ、ちょっと優花っち。いきなりどうしたの?訳わかんないんだけど。」

優花「うん、なんていうか……いい加減じっとしてられないなって思ってさ。

だから私、明日の愛ちゃんの遠征に付いて行くよ。」

さらりと告げられた優花の決断に、奈々や妙子だけでなく居残り組全員がポカンと間抜け面を晒す。

それも当然だろう。優花こそ、心折られた生徒の筆頭という有様だったのだ。

空虚な瞳と無気力な態度、時折恐怖に顔を歪める……。

王国に帰還してから、ずっと優花が見せていた姿だ。

それがいきなり元に戻った様で、奈々達は困惑せずにはいられなかった。

 

淳史「お……おい、園辺。マジでどうしたんだよ?何かお前、おかしいぞ?ちょっと落ち着けって。」

我に返った淳史が、何やら焦った様子で窘めの言葉を送る。

「私は落ち着いてるわよ淳史くん。それにいきなりじゃないし。

……ずっと、このままじゃいけないとは思ってた。

"彼"が死んで、怖くて、訳わかんなくて、頭の中グチャグチャで……でも、何かしなきゃって思ってた。

それは淳史くんも、皆も一緒なんじゃない?」

「っ……。」

優花の言葉に、淳史は息を呑む。同時に、言葉も飲み込んでしまったかの様に口を閉ざした。

他の居残り組は、総じて気まずそうに視線を逸らしている。

 

そんな仲間の姿に、しかし優花は何を言うでもなく、寧ろどんな気持ちなのかはよく分かっていると言いたげに肩を竦めると、サロンの扉に向かって歩き出した。

淳史「ま、待てよ園辺!本当に行く気か!?今度こそ本当に死ぬかもしれないんだぞ!

ここは漫画の世界でも映画の世界でもないんだっ、ご都合主義なんて起こらないんだぞ!

だから……だからアイツは死んじまったんじゃねぇか!

誰よりも強かったのに馬鹿やらかして、あっさり死んじまったじゃねえかっ!!俺は!

俺はアイツみたいな馬鹿にはなりたくない!園辺……お前も早まるなよ。」

激しい剣幕で叫んだ淳史だったが、次第に力を失って俯きながら優花を引き留める。

そんな淳史に……否、居残り組の仲間達に、優花は振り返らず静かな声音で答えた。

 

優花「……でも、その"馬鹿な人"に私は救われた。……ううん、私達皆が救われた。」

淳史「それはっ」

優花「別にさ、淳史くん達もついて来いなんて言わないよ。ただ、私は無駄にしたくない、それだけ。

勿論、一緒に行ってくれる人が多いなら嬉しいけどね。」

肩越しに振り返り少し強張った表情で、それでも笑みを浮かべる優花に淳史は開いた口が塞がらない。

だがやはり言葉は出ず、そのまま糸の切れた人形の様に椅子へ腰を落とした。

 

???「そうか、それなら許可をもぎ取っておいて正解だったな。」

「「「「「「!」」」」」」

黙り込んでいた空気の中、優花を含めた居残り組は突如響いた声の主の方へ視線を向けた。

優花「清水くん?どういうこと?」

トシ「ふっふっふっ、お前らのことだ。

どうせ外に出ないと何も変わらないだろうと思っているけど、死ぬのが怖いから迷宮へはいけない。

なら、比較的安全な先生の護衛ならいけるかもしれない、って考えると思ったからさ。」

扉の先の壁に寄りかかっていた人物、我らが魔王の参謀、清水幸利が意味ありげに笑みを浮かべ、彼らに話しかけていた。

 

淳史「清水、お前も行く気か?もしかしたら、本当に死ぬかもしれないんだぞ?」

淳史が焦った様子でトシを引き留めようとする。しかし、それを気にせず幸利は続けた。

トシ「俺も本当なら迷宮に潜りたいがな、あまり一か所に留まるのもどうかと思ったんだ。

それに、もしハジメが生きていたら、迷宮とは別の場所で会えるかもしれないからな。

そういうわけで、迷宮攻略は遠藤達に任せた。なら俺は、俺にできることをやった方がいいだろう?」

淳史「……で、でもっ「俺だって死ぬのは怖いさ。」!なら、何で……。」

トシ「それを覚悟した上で、俺は先生の護衛についていく。

たった一人で立ち向かったアイツの様に、死ぬ気で覚悟決めねぇと、この先に未来なんてねぇよ。」

その目は何かを決意していた目だった。優香以外の居残り組はその視線に何も言い返せなかった。

 

幸利は、死ぬ危険性も承知の上で遠征についていくことを決めたのだ。それは優花も同じだ。

トシ「そういう訳で、だ。

先生には予め事情は話してあるし、他にも名乗り出るかもしれないことも伝えてある。

後は、お前ら次第だ。ここで腐っているか、それとも自ら変わろうとするか、二つに一つだ。」

優花「そう、わかった。私も行くよ。」

優花も賛成し、そのまま部屋を出ていこうとしたその時……。

 

淳史「ま、待てよ!」

トシ「?」

淳史「だったら、俺も行ってやる!俺だってやれるところを見せてやる!」

なんと、さっきまで否定的だった淳史が、自ら参加を名乗り出た。それには、他の居残り組も驚いていた。

トシ「……そうか。それで、他の奴はどうする?」

幸利は改めて彼らの方を向いた。

 

それに影響されたのか、他の者達も参加表明を出した。

明人「な、なら俺も行くぞ!淳史だけにカッコつけさせるか!」

昇「お、俺もだ!別に一人が怖いからじゃないからな!」

奈々「優花っちがアイツに救われた事を無駄にしたくないなら、私だって優花っちに救われた事を無駄にしたくないし。

優花っちが行くなら、私も行くよ~。」

妙子「うん。優花だけ見送るなんて出来ないよね。

それに私も、無駄にしたくないって想いは同じだから。」

 

ハジメに助けられた優花は、恐慌状態に陥っている周囲を正気に戻し、一部の生徒達の態勢を整えて仲間を守った。

その一部の生徒には、他の面々も含まれていたのだ。

優花によって正気を取り戻せた事が自分達の命を繋いだ事を、彼等も分かっていた。

だから優花が立ち上がるというのなら、彼等にも留まるという選択肢は無かった。

優花「皆……。

ふふっ、それじゃあ愛ちゃんを魔物と教会から派遣されるイケメン護衛騎士達から守る旅に、一緒に行こうか。」

トシ「よし。それじゃあ早速、遠征の準備しないとな。明日は早いし、寝坊するなよ!」

「「「「「「お~!!」」」」」」

 

朝靄のかかる日の出前の早朝。薄らと白み始めた東の空と、朝のキンとして清涼な空気が程よい目覚ましとなっている。

しかし、そんな絶好の旅日和を約束した様な空気の中で、一人ムスッとした表情を晒す人物がいた。

畑山愛子教諭、本日の主役だ。

 

愛子「……皆さん、やっぱり考え直しませんか?先生の護衛なら騎士さん達がキチンとしてくれますから。」

優花「いいえ愛ちゃん先生、寧ろその騎士連中こそ危険なんです。

愛ちゃんを引き込みたい教会が送り込んだハニートラップなのは明らかなんですから。」

奈々「そうだよ愛ちゃん先生。揃ってイケメンだからって、ふらついちゃ駄目だよ?」

妙子「まぁ、どちらかと言うとミイラ取りがミイラになった感はあるけどね。

それでも愛ちゃん先生は私達の愛ちゃん先生だから、用心に越した事は無いし。」

昨夜の内に準備を済ませ、愛子に付いていく事を宣言した優花、奈々、妙子の言葉に愛子はガクリと肩を落とした。

既に幸利と話をした時に危険だからと散々した説得は全て空振りだったのだ。

最早何を言っても無駄なのは明白である。

 

因みに、優花の言う様に教会が愛子に対してハニートラップを仕掛けているというのは邪推ではない。

愛子の王国各地の農地改革・開拓の遠征には神殿騎士の護衛隊が付いているのだが、それが揃いも揃ってイケメンばかりであり愛子にアプローチをかけているのだ。

それもこれも、この世界の食料事情を一変させる可能性を秘めた愛子を繋ぎ止める為。

尤も、妙子の言った様に生徒達が愛子に好意を寄せるのと同じ理由で、今やイケメン騎士軍団は愛子信者になりつつある。

愛子本人は乙女ゲームの主人公の様に気付いてないが。

愛子は自分を心配して、或いは慕って付いて行きたいと言ってくれる事や、もう一度頑張りたいと奮い立ってくれた事に嬉しく思いつつも、やっぱり危険性を否定できない旅の同行に複雑になる頭を抱えていた。

 

トシ「まぁ、先生。先生がみんなに好かれていることは今に始まった事じゃないでしょう。」

愛子「それは……少し複雑な感じですね。」

淳史「ま、俺達もこのままじゃなんだかなぁ、って思ってな。」

昇「万が一騎士たちが強硬姿勢でも取ったら、女子だけじゃ大変でしょう?」

明人「そういう訳なんで、よろしくお願いしま~す!」

男子達も意思は揺るがない様だった。

 

「愛ちゃん護衛隊ここに結成!」と号令が飛べば、皆緊張と恐怖を表情に浮かべながらも元気よく「応っ!」と返す。

その後、神殿騎士達と小さな衝突を繰り返しつつ一行は農地改革・開拓の遠征へと出発した。

"もう一度"と、決意を胸に秘めて。

愛子「うぅ、また流されてしまいました……。生徒一人説得できない、私はダメな先生です。ぐすっ。」

馬車に揺られながらしょげる愛子。

その様子にイケメン騎士達が身悶えているのは言うまでも無く、手を出そうとする彼等へ優花達が「ガルルッ!」と唸り声を上げたのは言うまでもない。

 

トシ「フフッ、先生はやっぱり人気者だな。」

道中、絶えず愛子を挟んで火花が散り、護衛対象である筈の愛子の胃がマッハでダメージを受けていたのだが……幸利以外それに気付く者はいなかった。

幸利は思った。もうちょい、静かな人に声かければよかったかなぁ、と。

 

<愛子先生サイド終わり>

 


 

<ハジメさんサイド第二ラウンド>

 

ハジメ「え~と、ごめんね?せっかく作った迷宮を壊しちゃって。後で時間巻き戻して治すからさ。」

???『……いいよ、謝らなくて。……私もやり過ぎた感が否めないし。

……それにユエ姉やシアちゃんから聞いた話だと、ぶっ殺してくれるんでしょ?あのクソ野郎を。

……実力も十分すぎるから、神代魔法もあげる。』

どうやら許してもらえたようだ。

よかった~、もし迷宮直しても許してもらえなかったら、南雲家秘伝奥義"必殺土下座"をやらねばいけなかった。

唯なんだろう、若干やけくそ感がするなぁ……。一応、迷宮は治していくとして。

 

ハジメ「改めまして、俺は南雲ハジメ。

最高最善の魔王になる男にして、偉大なる先達オスカー・オルクスの遺志を継ぐ者だよ。

それで君は……ミレディ・ライセンで合っているよね?」

???『……そうだよ。私がこの迷宮の主、ミレディさんだよ。』

やはり、このゴーレムに魂を移していたのだろう。

それにしても、生きている解放者に合えたことは非常に運がいい。

色々と聞きたいことがあったんだ。

 

ハジメ「そういえば、どうして君はゴーレムの体になっているの?

オスカーの手記には人間だったことが書いてあったけど……。」

ミレディ『……そうだね、しいて言うなら別の神代魔法かな?後は自分で探して。』

ハジメ「……そっか。」

まぁ、簡単に教えてはいけないものだろうしなぁ……。

出来ることなら、再生に関係する神代魔法のことも聞きたかったけど……この状態じゃ無理そうだなぁ。

そこでふと、気になった質問を上げてみた。

 

ハジメ「そういえば、君はこれからどうするの?あのクソ神がいなくなった後とかのことも考えていたりするの?」

ミレディ『……そうだね、どうしよっか?

正直、君たちがクソ野郎を消すまで暇だし……

その後のことなんて、考えもつかなかったからなぁ……。』

ハジメ「……。」

俺にはわかっていた。この子はきっと、あのクズ野郎が死んだ後、仲間の下へ旅立つのだと。

でもそれって、何か後味が悪いよね。

 

ハジメ「そっか。

それなら君がうっかり死んじゃっても、君の仲間は文句を言えないよね。」

ミレディ『……何が言いたい訳?』

俺のわざとらしい挑発に、目論見通りミレディが乗ってきた。なら後は……彼女が素直になるだけだ。

ハジメ「いやなに、君を遺して死んでいった仲間たちが、神が討ち果たされた後の世界を教えてほしいとか、自分たちの分まで生きてほしいとか、生きている君にしか託せない願いがあったとしても、それを簡単に踏みにじることのできる権利は、君にあるんだからね。

誰も責めやしないさ!って言いたかったんだよ。」

ミレディ『……るな。』

ハジメ「ま、所詮はその程度の絆だったんだ。

さっさとそんな奴らのことなんて忘れて、自分のしたいようにすればいい!

さぁ、喜べよ!これが今まで望んでいた自由──」

ミレディ『それ以上語るなぁ──!!!』ガッ!

 

俺の挑発にキレたのか、ミレディがとびかかってきて、俺を押し倒した。

ミレディ『さっきから聞いていれば勝手なことばっかぬかしやがって!

ミレディさんがいつ、皆の願いを踏みにじった!?皆との絆がこの程度なんて言った!?

ふざけるなよ!

私だって、皆の分まで生きたいし、クソ野郎がいなくなった後の世界のことも話したいよ!』

それは決壊したダムの水の如く、止まることのない慟哭だった。

 

ミレディ『……それでも、私にそんな資格はないよ!私がもっと頑張っていれば、皆も死なずに済んだのに!

一矢報いることも叶わないで!守ろうとした人達からも追われるようになって!

それなのに……自分一人だけ平和な世界でのうのうと生きていけるわけないじゃないか!

せっかく未来へ繋ぐ決意までして!たった一人で頑張ってきた私の気持ちが、君に分かるわけないでしょ!』

ハジメ「……。」

胸ぐらを掴んでまで吐き出してきたその言葉に、俺は淡々と返した。

 

ハジメ「……分からないよ。寂しい時に寂しいって言えない人の気持ちなんて。」

ミレディ『!』

ハジメ「ホントはどうしたかったの?君にはどんな願いがあったの?

それを素直に言えない人の気持ちなんて、分かるわけがないよ。」

俺が質問を投げかけた時、ミレディは俺の胸ぐらから手を放し、俯いたまま涙をこぼしていた。

 

ミレディ『……いよ。』

ハジメ「?何ていった?」

ミレディ『寂しいに決まっているじゃん!皆がいなくなっていく度に、涙が止まらない位悲しかったよ!

今だって、たった一人でここにいて、辛いと思ってもやめられないことに苦しいって思ったよ!

私だって、皆と生きて掴み取りたかったよ!自由な意思の下にある未来を!』

それは、解放者としてのミレディではなく、たった一人の少女のミレディとしての願いだったのだろう。

嗚咽しながらも必死に紡いでいたその言葉は、決して嘘偽りのない心からの叫びであった。

 

ミレディ『もう嫌だよ、こんな寂しいの……。』

ハジメ「……そっか。」

そういうと、ミレディをどかして立ち上がり、俺はドライバーを出現させた。

ハジメ「じゃあ、叶えに行くか。その願い。」

ミレディ『………………え?』

そんなミレディを横目に、俺はドライバーの両端に触れ、あの言霊を発した。

 

ハジメ「"変身"。」

 

ゴォーン!!!

 

『祝福の刻!』

 

『最高!』(より良く!)ガチャッ!ガキンッ!

 

 

『最善!』(より強く!)ゴキッ!ゴキンッ!

 

 

『最大!』(より相応しく!)シュルルルル!シュパンッ!

 

 

『最強王!!!』(仮面ライダー!)パァァァ!ガチーン!

 

 

『≪オーマジオウ!!!≫』

 

変身が完了した私は、オーロラゲートを開いた。

ハジメ「ついてくるといい。いいものを見せてやろう。」

そう言って私は、オーロラゲートを通り、とある場所に出た。

そこは、【ライセン大迷宮】の真上にある荒野で、周りに何一つない場所であった。

ミレディとユエ、シアが来たのを確認した私は、彼女たちを下がらせ、再びパーフェクトゼクターを構えた。

すると、どこからともなく全ゼクターが飛んできた。

 

ザビ―・ドレーク・サソードの三匹はいつも通りの位置に着いた。

二匹のホッパーゼクターはドレークの羽の上に位置し、カブト・ガタックは裏の部分に合体した。

そして、ケタロス、ヘラクス、コーカサスの三匹はカブトゼクターの両脇とパーフェクトゼクターの先端にそれぞれ合体した。

これこそが真なるパーフェクトゼクター・All Zector Combine verである。

それを一旦下に下げた私は、ドライバーの両端に触れた。

 

『≪終焉の刻!≫』

 

その音声が鳴ったと同時に、先程迷宮を貫いた閃光とは比べ物にならないほどの魔力が、パーフェクトゼクターに流れ込んだ。

ハジメ「久々だなぁ……こんな感情はァ。」

そう呟きながら、私はそれを天に掲げ、照準をねちっこい視線へと定めた。

そしてそれを捉えた瞬間、引き金を引いた。

 

『≪逢魔時王必殺撃!!!≫』

 

 


 

その日、世界から一瞬音が消え、【ライセン大峡谷】から一筋の閃光が上がった。

その近くにいた魔物たちは、その轟音と込められた魔力に慄き、その場からの離脱を図った。

そして、その閃光は空へと昇っていき、とある場所へと到達した。

そこは"神域"と呼ばれており、堅牢なる結界によって守護された神の聖域とされていた。

そこにいた一つの影が、とある人物を忌々しそうに睨みつけ、そのそばにいる少女に向けていやらしい視線を向けていた。

 

???「……フン、駒風情が。まさかまだ生きていたとはなぁ、その執念にはもはや経緯を抱きたいものだ。」

そんなことを思ってすらいないくせに、わざとらしく言い募る影。

この影こそ、全ての元凶であり、存在してはならない悪神エヒトである。

エヒト「しかしまぁ、あのイレギュラーは面倒だ。早々に消してしまった方が良いかもしれんなぁ。

よし、折角だ。ここにいる使徒たちにでも始末させるか。」

そう言って、使徒達の保管装置の方を向いた瞬間であった。

 

エヒト「!?こ、この魔力は!?」

慌てて下を向くと、件のイレギュラーが鎧を纏い、ごつい形の銃をこちらに向けていた。

エヒトはそれが自身を狙ったものだと思ったが、直ぐに落ち着きを取り戻した。

エヒト「フン、何をするかと思えば。そんなものがこの神域に届くわけが無かろうに。

本当に愚かなものだなぁ、人間とは。」

届かないと知るや、いきなりふんぞり返るこの自称神。

……我らがハジメさんがいたらこう呟くであろう。「と思っていたのか?」と。

 

ズガガガガガガァァン!!!

その瞬間、その閃光は神域に張り巡らされていた結界をぶち抜いた。

エヒト「!?なっ、何ィ!?」

エヒトは咄嗟に瞬間移動技能"天在"を使用し、それを避けて見せた。

エヒトは焦っていた。

いとも簡単に"神域"に対して攻撃を仕掛けられるものがいるとは夢にも思わなかったのだから。

しかし、降りかかった不幸はそれだけではなかった。

 

それは、その閃光が通り過ぎ、衝撃によって起こった霧が晴れた頃であった。

エヒト「ハァッ……ハァッ……。まさか、ここまでの脅威であったとは。

これは一刻も早く消さねば!こうなったらここにいる全ての使徒たちを向かわ……せ……」

何故、エヒトが黙ってしまったのか、それはコイツの視線の先の光景が原因である。

そう、エヒトがいた場所は、保管装置の近くであり、その閃光は装置を巻き込むほどの大きさだったのだ。

気づいた時には既に遅し。装置は中の使徒ごと閃光に飲み込まれ、きれいさっぱりなくなっていた。

 

エヒト「い、イレギュラァァァァァ!!!」

エヒトの怒声が"神域"に響き渡った。そして忘れていることがもう一つ。

"神域"の壁が破壊されていることで、その絶叫が下の世界に響いている事なのだ。

尤も、コイツにそれを確認する余裕すらも頭の片隅にはなかったようだが。

エヒト「エーアスト!エーアストはいるかぁ!」

エヒトは自分の使徒の一人を呼び出した。あのイレギュラーに目にもの見せてやろうと。

しかし、コイツは喧嘩を売る相手を間違えてしまっていたのだ。

何せ相手は、最高最善の魔王の力を持った天災であるからだ。

 


 

空に昇って行った閃光を見つめながら、唖然としているユエ、シア、そしてミレディ。

そんな彼女に向けて、私はこんな言葉を送った。

ハジメ「時に、ミレディ・ライセンよ。

お前の戦いは既に終わったような雰囲気を醸し出していたようだが、それは違うぞ。」

ミレディ『!』

ハジメ「まだ終わっていない。ここから始まるんだ。

お前達の時計の針は、たった今動き出したのだから。」

ミレディ『……。』

ハジメ「いい光景であろう。

これからは、胸糞の悪い空に風穴を開けることも、偽神を脅かすことも可能なのだ。

これこそが、お前達の求めていた、真の自由の第一歩である。」




ここまで読んでいただき、ありがとうございます!

何故トシが特訓に参加できなかったか、それについては、第三章で明らかに致します。

そしてミレディさんの涙を見た我らが魔王、今回もマジギレです。
マキシマムハイパーサイクロンを思いついた時から、この展開は立てていました。
本当は奴本体にぶっ放しても良かったのですが、それは最終章で思いっきりぶん殴ってもらう予定なので、とっておきました。
まぁ、神の使徒が激減したことにはさすがにキレるでしょう。ザマァ。

次回で第二章は終了です。その結末を、お楽しみに!
宜しければ、高評価・コメント宜しくお願い致します。

追記:リースティアさん、刻乃時王さん、オロゴンさん、晶彦さん、誤字報告ありがとうございました!

Episode30

???「あなた方をここで排除いたします。」
神の使徒、襲来!

ミレディ「私、前に進むよ!」
ミレディ、決意表明!

ハジメ「これは……本当なのか?」
ハジメが見たものとは一体!?

「リスタート・フリーダム」
君のハートに、TargetLock!


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30.リスタート・フリーダム

お待たせいたしました。
今回でライセン編はおしまいです。
それと、色々原作のネタバレもあるので、なろう原作を見ていない人はブラウザバックを推奨いたします。
それと、今話は小説13巻発売前に投降したものなので、そちらをご覧になっている方はごゆっくりどうぞ!

迫る神の使徒に対し、ハジメさんが出た行動は!?
また、ミレディの隠れ家にて語られる真実とミレディの夢、その意外な展開とは!?
そして、ハジメさんが知った真実とは一体!?

驚愕の第二章第11話、それではどうぞ!


空に穴が開いた。それを成したのは他でもない、私だ。

それをただポカンと見つめているユエとシア。

そして、私を見ながらも、空を睨みつける少女、ミレディ・ライセン。

そんな空気の中、空から耳障りな怒声が響いてきた。

 

???「い、イレギュラァァァァァ!!!」

ハジメ「ほう、どうやら打ち抜いたのは空ではなく、奴の逆鱗であったようだな。」

シア「ブッ!」

ユエ「ククッ!?」

ミレディ『アーハハハッ!ちょ、それ、面白すぎっ!』

三者三様の笑いようであった。我ながらうまくいったものだ。

 

ミレディ『イーヒヒヒッ!聞いた?あのクソ野郎の怒りよう。

あんなの聞いたの初めてだよ!前までミレディさん達にデカい顔晒していたくせにさぁ!あの慌てようだよ!?あ~、今すぐ目の前に言って挑発しまくりたいなぁ!あ~、お腹痛い。』

ハジメ「気持ちは分かるな。なぁ、今どんな気持ちだ?

届かないと思っていた攻撃が届いた時の気持ちは?とでも聞いてやるとするか。」

ミレディ『おぉ!さっすがハジメン!メル姉並みのドSセンスだよ!』

ハジメ「褒めても試作アーティファクトしかやれんぞ。

まぁ、お前の気が晴れたならいいが。」

と、先程までの涙が引っ込んだくらいの笑顔になったミレディを見て、ようやく上を向いたか、と思う私であった。

 

ミレディ『それにしても、さっきの奴がミレディさんに撃ちこまれていたとしたら、ぞっとしちゃうなぁ……。』

ハジメ「安心しろ。迷宮に撃ったのは単なる突貫工事が目的だ。

先程のは魔力に加えて、怒気と殺意を乗せた必ず殺す一撃、必殺撃であったからな。

あの程度の壁、破ることなぞ容易いことよ。まぁ、いつでも開くのは無理だが。」

そう、先程の一撃は貯めこまれた怒りを一気に爆発させたものなのだ。

何度も打てるわけではない。何時かは直ぐに乗り込めるようにして見せるが。

 

ミレディ『フフッ、確かにこれはいいもの見ちゃったかもね。

ありがと、ハジメン♪』

ハジメ「まぁ、先程の挑発の詫びも込めてな。

本心を聞きたかったとはいえ、心にもないことを言ってすまなかった。」

そう言って私は頭を下げた。ミレディは一瞬驚いたが、直ぐに表情を戻した。

ミレディ『いいよ。

私も本当は、自分の本心を誰かに聞いてもらいたかったのかもしれないから。

それに、色々吐き出したおかげで、何だか前よりもすっきりしちゃったかも!』

 

そういって嬉しそうに、私の周りで回っているミレディ。

先程から蚊帳の外だった二人も、笑いが収まったのかこちらに近づいてきた。しかし、その時だった。

ハジメ「!上だ!避けろ!」ササッ!

突然飛んできた殺意に対し、一同は咄嗟に回避した。

その直後、全員がさっきまでいた場所に銀翼が刺さっており、地面を崩落させていた。

ハジメ「まるで、分解でもしたようなものだなぁ?」

???「ご名答です、イレギュラー。」

ただの独り言に耳障りな声音が上から返ってくる。その声の主の方を忌々しく見上げると、そこには……。

 

???「……今のを避けるとは。やはりあなたは危険すぎる。我らが主が敵として認識しただけはあります。」

まるで戦乙女の仮装でもしたような、銀髪碧眼の女が立っていた。背中には一対の銀翼が生えている。

先程の攻撃は、あの羽を飛ばしたようだ。

人形のような目をしながら、両手に大剣を携え、こちらを見下ろしている。……不遜よなぁ。

ミレディ「!コイツは!」

ハジメ「さしずめ、神の使徒とやらか?」

ミレディ「そう!あのクソ野郎の駒だよ!」

???「お久しぶりですね、ミレディ・ライセン。そして、初めまして、イレギュラー。

"神の使徒"が一人、エーアストと申します。主の命により、あなた方をここで排除いたします。」

 

……は?

ハジメ「貴様、今何といった?私の排除、といったのか?」

エーアスト「そういったのですが、何か?」

神の木偶は顔色を変えずに言った。その言葉に思わず私は笑いを堪え切れなかった。

ハジメ「クッ、クッフッフッフッ、ハーハッハッハァ!」

急に私が笑い出したことに、不思議がるユエ達。目の前の人形風情も同様だ。

エーアスト「……何がおかしいのですか。」

ハジメ「いやぁ、すまないすまない。何せ、そんな冗談を聞いたのは久しぶりなのでなぁ。」

そう言葉を発した瞬間、私の姿が掻き消えた。逃げたわけではない。何故なら―――

 

エーアスト「ガハッ!?」グチャッ!

私の腕は既に、奴の心臓をぶち抜いているのだから。

ハジメ「―――私を倒したいのであれば、せめてもう一人、私を連れてくるべきだったなぁ?」

エーアスト「ッ!い、いつの間に……!」

人形が大剣を横薙ぎにふるうが、無駄だ。即座に裏拳で粉砕する。

エーアスト「!?」ガキィンッ!

ハジメ「この程度か?よもや私に鎧を着せておいて、この様とは……。

貴様らの崇める主とやらは余程の役立たずなのであったのだなぁ。」

エーアスト「ッ!主の侮辱は許しませんよ!イレギュラー!」

 

そういって、銀翼をこちらに向けてくるが、それも無駄だ。

ハジメ「この世で絶対なる物を、お前は知っているか?」

エーアスト「……急に何をッ!?」ドゥンッ!

人形が我に返ると、見る見るうちに地面に落下していった。その理由は私の手の中にある。

エーアスト「ッ!?羽が!?」

ハジメ「技能を発動していなければ、所詮は唯の羽よ。あの程度一瞬で消せる。」

時を止め、奴の背後に回った私は、削いだ羽をブラックホールに飲み込ませて、再び時を動かしたのだ。

そうして落ちていく人形を見下しながら、私は続けた。

 

ハジメ「それと、先程の質問の答えだが、それは"須臾"だ。

尤も、それが何なのかを理解できるかは、お前達の知能次第だが……。

あの程度の腰抜けが主であるならば、結果は知れたことか。」

エーアスト「ッ!!イレギュラー!」

ハジメ「それとだが、先程の会話はよく聞こえていたぞ?

どうやら貴様の同胞の大半を消し飛ばしてしまったようだなぁ?いやぁ、すまない。本当にすまない。」

そう言いながら、わざとらしく謝罪をする私。尤も、奴が気を付けるべきは下なのだが。

 

ミレディ「"禍天"。」ドゴォンッ!

エーアスト「ッ!?ミレディ・ライセンッ!」

ミレディが重力魔法によって木偶を叩き落とす。だがそれだけではない。

シア「シャオラァァ!!」ドガシャァッン!!

ドリュッケンを構えたシアが跳躍し、木偶に向けて叩き落す。

エーアスト「ガッ!?この威力は、一体!?」

ミレディの魔法の威力と合わさったのか、更に威力が上がっているようだ。

ユエ「"破断"。」ズパァン!

ユエの魔法により、腰から真っ二つになる木偶。その頭部に対し、私はドンナーXを構え、こう言った。

 

ハジメ「他の木偶に言い残しておけ。私達には勝てない、と。」

エーアスト「ッ…!」

ハジメ「それともう一つ、貴様等の主とやらの命、近いうちに取り立てに行く、ともな。」パァンッ!

そう言って引き金を引いた。

それにより打ち出された弾丸は、木偶の頭部を撃ち抜き、その機能を停止させた。

 


 

ハジメ「さて、余計な邪魔が入ったけど、ゆっくりお話ししようか。」

俺がそう言うと、ユエ・シア・ミレディは頷いた。

因みに今、迷宮内部(俺が直しました。)の最深部の部屋に、俺達はいた。

あの後、うっとおしい視線に対して散々挑発した後、こと切れた木偶を回収した俺達は、神代魔法の獲得がまだだったので、もう一度さっきの部屋に移動したのだ。

 

ミレディ「それじゃ、これがクリアの証だよ!」

ハジメ「おぉ、二つ目の証か。」

ライセンの指輪は、上下の楕円を一本の杭が貫いているデザインだった。

どっかの釘メーカーのロゴみたいだと思ったことは言わないでおいた。

だって、折角のファンタジーにいきなり現代チックなものを混ぜたらダメでしょ?

 

ミレディ「そしてこれこそが、ミレディさん秘伝の神代魔法だよ!」

ハジメ「ほぉ~、さっき見せていた"重力魔法"って奴かな?」

ミレディ「ピンポ~ン、だいせいかぁ~い!シアちゃんは体重の増減くらいなら使えるんじゃないかな?

ユエ姉は修練すれば十全に使いこなせるようになるよ。

ハジメンは……うん、論外だね。」

ハジメ「どういう意味かな!?」

ユエは頷き、シアは打ちひしがれ、俺だけ論外って何!?とミレディに迫った。

 

ミレディ「だって、自在にブラックホールやマグマを作り出せる時点で、とっくに使いこなしているようなものじゃん。」

ハジメ「それはそうだけどね!?せめて言い方は変えてほしかった!」

オーマジオウの力がまさかここまで影響を及ぼすなんて……。

ハジメ「まぁいいや。それでミレディ、何かやりたいことは見つかった?」

ミレディ「うん!たった今見つかったよ!私、前に進むよ!」

その目はさっきまでの涙と後悔に満ちた目ではなかった。

むしろ真逆の、希望と期待に満ちていた目だった。

 

ハジメ「そっか。それはよかった。」

ミレディ「だから私、ハジメン達に付いていくからね!」

ハジメ「………え!?」

ユエ「んん!?」

シア「ハイ!?」

まさかの予想外な方向だった。何とミレディは、何故か俺達と一緒に行くと言い出したのだ。

 

ハジメ「えぇ~と、訳を聞いてもいいかな?俺は構わないけど……二人の判断もあるし。」

ユエ「……私は構わない。」

シア「私も賛成ですぅ!あんな酷い奴らがいるのに、ミレディさんを一人残してなんて行けません!」

ハジメ「そう……それでミレディ、訳だけ聞かせてもらってもいい?」

そう聞くと、ミレディは少し頬を赤らめてこう言った。

 

ミレディ「………実を言うと、さっきのハジメンの行動を見て、私も見たくなっちゃったんだよ。

かつて望んでいた、自由の意思の下にある世界っていうのをさ。」

そう語る彼女の姿は、ちょっぴり恥ずかしがり屋な、大きな夢を語る少女だった。

ハジメ「そうか、なら連れて行かない理由は無いな!行こう、ミレディ!神殺し、第二ラウンドだ!」

ミレディ「うん!オーちゃんたちの分まで、あのクソ野郎の面、思いっきりぶん殴ってやるんだから!」ガチャッ

そう言うと、ミレディは旅立ちの準備をするのか、自分の住処らしき場所の入り口を開けた。

 

部屋の中は殺風景というほどではないが、あまり生活感を感じさせない様相だった。

人の生活であれば本来必要なものが欠如していることが、余計にその印象を与えるのだろう。

一番目に付くのは書棚だ。

壁そのものをくり抜いて作られた天井までの書棚に、ぎっしりと古めかしい書物が収まっている。

朽ちた様子がないのは、魔法で保護しているからか。

ハジメ「天然の本棚かぁ、ちょっとロマンチック。」

ミレディ「ふっふっふっ、これぞミレディさんとオーちゃんの愛の結晶だよ!」

 

ベッドは簡素だ。人の身を包むものではないから、布団もない。ゴーレムの体を横たえる場所なのだろう。

するとシアが、声を上げた。

シア「ミレディさん、この写真って……。」

ミレディ「うん。昔のミレディさんと皆だよ。」

せり出した壁の棚に写真立てが並んでいた。

どの写真も笑顔ばかりだ。大勢の人達と、いろんな場所で、とびっきりの笑顔と共に映っている。

そしてその中心には、必ず一人の少女がいた。

ユエと同じ綺麗な金髪に、シアそっくりの蒼穹の瞳を持つ少女が。

 

 

ハジメ「おぉ~、中々の別嬪さんじゃないか。こりゃあオスカーがメイド趣味に目覚めるわけだ。」

ミレディ「オーちゃんがメイド趣味なのは知っていたけど、何でそこでミレディさんが出てくるの?」

ハジメ「工房に有った作りかけのメイドゴーレムがそっくりだったから。」

ミレディ「オーちゃん!?」

そう、写真の中の少女、ミレディによく似ていたのだ。

アイツ、嫁をメイドにするという欲張りセットを考え付くとは……やりおる。

 

ユエ「……ハジメ、あそこの写真。」

ハジメ「うん?あぁ、あれは……」

その中に、一際輝いて見える一枚があった。七人が集まった集合写真だ。

真ん中で、眼鏡の青年――オスカーが、ミレディに腕を引かれて慌てている。

その二人を包み込むように、無表情の赤錆髪の青年、不敵な笑みを浮かべるエメラルドグリーンの髪の女性、呆れた表情の魔人族らしき青年、厳めしい顔付きの聖職者らしき男性、妖艶な雰囲気の森人族の女性が映っていた。

てんでばらばらの表情で、種族も生まれも別々なのに……見れば分かった。

誰もがどこか楽しげで、誰もがミレディに温かな心を向けていて、心が彼女を中心に一つだということが。

 

ハジメ「……会って見たかったなぁ。」

ミレディ「……そうだね。ミレディさんもハジメン達を紹介したかったなぁ……。」

そんな感傷に浸っていた時、ふと別の写真を目にした。そこには幼いミレディと謎の女性がいた。

ハジメ「ミレディ、あの女性は君のお姉さん?」

ミレディ「ううん、彼女はベル。私の家庭教師で、とっても大切な人なんだ……。」

そういうミレディの顔は、どこか寂しそうだった。

 

ハジメ「……良かったら聞かせてくれない?そのベルさんのお話。」

ミレディ「!うん!ハジメン達だけに特別に教えちゃうよ~!」

そう言って俺達は話を聞いていた。すると……

シア「え!?ミレディさんのウザさって、ベルさん譲りなんですかぁ!?」

ユエ「……しかも、そのウザさに参っていたなんて……!」

ハジメ「二人とも、そこは置いておこうよ……。」

ミレディ「アハハ、ミレディさんも当時は他のことは知らなかったし、当然と言えば当然かな?」

何というか、締まらない感じだった。だが、ベルという女性のことには正直驚いた。

 

ハジメ「まさか、教会のシスターだったけど、クズ野郎に殺されかけたから、"解放者"を結成したって……ベルさん、メンタル強靭過ぎない?」

ミレディ「アハハ、そうかもしれない。

あ!でも、ベルが盗み食いしていたスイーツを、目の前で食べてやった時は絶望していたなぁ。」

ハジメ「……元から素質があったんじゃない?」

そう、彼女こそが全ての始まり。

"解放者"を創設し、処刑以外頭になかったミレディを変え、自由を求めた人物だったのだ。

 

ハジメ「……でも確かに、強い女性だったんだね。」

ミレディ「うん!私にとって自慢の家族だもん!」

そう言って胸を張るミレディ。ベルさんが彼女に残したものが、今の時代まで時を紡いだのだ。

ハジメ「……ん?」キィィン、キィィン、

ミレディ「どうしたの、ハジメン?」

ハジメ「いや、懐が何か強く光っているよう気がしてね……。」

そう言って、コネクトでその何かを取り出してみると、それはオスカーの眼魂であった。

 

ハジメ「……共鳴している?」

ミレディ「?ハジメン、なんかミレディさんも光っているような感じがするんだけど?」

ハジメ「!?てことは、まさか……?」パァァァァァァ

俺がミレディの方へ手をかざすと、ミレディの眼魂らしきものが飛び出してきた。

それ、ミニ・ミレディゴーレムがその場に倒れた。

シア「!?ミレディさん!?」

ユエ「!?ミレディ!?」

ハジメ「待って。」

 

慌てる二人を制止させると、俺はコネクトであるものを取り出した。

シア「……あの~、ハジメさん?つかぬことをお聞きしますが……それは?」

ハジメ「?さっきぶっ殺した木偶人形だけど?」

ユエ「……それをどうするつもり?」

ハジメ「取り敢えず、ミレディの眼魂ぶち込んで、こっちに移し替えようかな?って。」

シア「やっぱりィ!」

だって、手っ取り早いじゃん。ミレディも戦える肉体の方が都合がいいだろうし。

 

ユエ「……でも、出来るの?」

ハジメ「分からん。まぁ、コアになんかの石が使われていたっぽいし、物は試し様だよ。」

シア「それは……そうですけど……。」

ハジメ「人生とは命を掛け金とした、ギャンブルなんだよ!やるなら度胸!」カチャリ

そう言って、外面だけ治しておいた木偶人形に、ミレディの眼魂を格納し、しっかり塞いだ。

 

ハジメ「……お~い、ミレディさんや~い。」

ミレディ「……う、う~ん?」

一応生存確認のために声をかけると、目が覚めたようだ。

ミレディ「ん~、ハジメン?」

ハジメ「お、気がついたか。新しい体の調子はどうだい?」

ミレディ「?新しい体ァ?ミレディさんはミレディさんだけどぉ?」

どうやら寝ぼけているようなので、コネクトで鏡を取り出し、彼女の前に翳した。

 

ミレディ「!?な、何これェ!?」

シア「ホラ!やっぱりいきなり肉体が変わったから混乱して―――」

ミレディ「胸がッ……重いっ!?」ドォン!

シア「そっちぃ!?」

……この手の問題は流石に触れられない。だからユエ、そんな目で俺を見ないでくれ。

 

ミレディ「ふっふ~ん♪しかも背が高いし、見た目のわりに結構軽いから動きやすいね~♪」

ユエ「……。」

シア「あ、あのユエさん?」

ユエ「……何?」ズズズ…

シア「ヒッ!?な、何にもありません!」

……これは流石に止めねばなるまい。おそらくここが、最終決戦になり得る可能性がある。

 

ハジメ「ミレディ、何か肉体に作用する魔法とかないのか?髪色を変えるとか、身長を伸ばすとか。」

ミレディ「えへへ~、そうだねぇ~。あるよ!」

ユエ「……どこにあるの?」

ミレディ「え、あの、ちょっとユエ姉近くない?あと何でそんなに怒って―――」

ユエ「どこに、あるの?ねぇ、ねぇ?」ドドドドド

ミレディ「ヒッ!?調子に乗ってごめんなさい!相手が男性だったから私も頼めなかったの!」

……頼めなかった?するってぇと、つまり……

 

ハジメ「ユエ、その辺にしてあげて。ミレディ、それは神代魔法なのか?」

ユエ「……ミレディの裏切り者。」

ミレディ「うぅ……ごめんってばぁ!その魔法は変成魔法っていうの!」

ハジメ「変成魔法……ん!?ちょっと待て!それって、ユエのおやっさんが使っていた奴じゃねぇか!」

ユエ「!?そ、そういえば!」

そう、かつてユエのおやっさんが使っていたとされる変成魔法、それがまさかこんな形で知ることになるとは。

 

ハジメ「ミレディ、俺達が今のところ目星をつけていたのは、【グリューエン大火山】、【氷雪洞窟】、【ハルツィナ樹海】の三つだったんだが……、後の二つはどこにあるんだ?

それと、変成魔法の場所についても知っていたら聞きたいんだが……。」

ミレディ「そうだねぇ……。後は【神山】と【メルジーネ海域】かな?変成魔法はヴァン君の所かな?」

ハジメ「ヴァン……ヴァンドゥル・シュネーか。となると……魔人領に近い【氷雪洞窟】か。

やれやれ、とんでもないことになりそうだ。」

どうやら、迷宮攻略は道中も危険なようだ。特に【神山】と【氷雪洞窟】は一番の難関だろう。

戦争中の魔人族の領地と、邪神崇拝の総本山なのだ。正直、行きたくはないが……行くしかないか。

 

ハジメ「所でミレディ、一応治しては見たが、どこか不備はないか?

レディの体とはいえ、元は機械じみた人形だ。ミスがあっては命取りになる。」

ミレディ「う~ん、そうだねぇ。今のところは絶好調だ…よ……。」

?急に顔が青ざめているが、一体どうしたんだ?

ミレディ「お、オーちゃん……!?」

ハジメ「?」

不思議に思い、後ろを振り返ると……

 

オスカー『やぁ。』

ハジメ「!?」

何故かオスカーがそこにいた。いや、正しくはオスカーの魂が乗ったパーカーだが。

ハジメ「……ここでも出てくるのかよ……。」

ユエ「?ハジメ?ミレディ?」

シア「え~と、お二人とも?一体どうしたんですか?」

どうやら二人には見えていないようなので、クモランタンを生成し、二人に渡した。

 

シア「わっ!?この人誰ですかぁ!?」

ユエ「……オスカー……オルクス!?」

オスカー『おや、どうやら覚えていてもらえたようだね。初めまして、というべきかな?』

ハジメ「……できればもう少し早いタイミングが良かった。てかいつから意識があったんだ?」

オスカー『もちろん、最初からだよ。それと、君たちの活躍も見させてもらっていたから。』

おいおい、ってことは全部知っていて黙っていたってことか。……うん?

 

ハジメ「オスカー、あんたはどこら辺まで覗いていたんだ?

まさかとは思うが風呂の時も覗いていたりはしていないよなぁ?」

オスカー『心外だ!僕だって紳士さ。そう易々と女性の裸体を見るなんてこと「オーちゃん、ミレディさんのセクシーボディ見ていたよね?事故とはいえ。」……。』

おっと、コイツ自身にも女難の相ありと見た。

 

ハジメ「まぁいい。この際細かいことは置いておくが……どうだった?あの能無しの怒り様は。」

オスカー『……そうだね。とってもすっきりしたよ。

叶うことなら自分の拳で奴に一発かましてやりたいが、それが出来ないのが残念かな?』

ハジメ「根性あるなぁ……やっぱり神殺し企てただけあって、メンタルが強靭なんだなぁ。」

オスカー『ハハハ、ミレディに付き合っていたらいつの間にか慣れていたよ。』

ミレディ「ちょっとオーちゃん!?今のは聞き捨てならないよ!

私がトラブルメーカーとでも言いたげなようだけど!?」

オスカー『……自分の行動を振り返ってみたら?』

ミレディ「ちょっ、折角の再会なのに辛辣すぎィ!」

 

なんて、いがみ合いつつもどこか楽しそうな二人を見つめながら、俺はとあるドライバーを生成していた。

恐らくではあるが、二人とも感動の再会が出来たはいいが、そのままの空気だと湿っぽいので、わざと明るくふるまっているのだろう。

そんな先達の微笑ましい姿を見ているユエとシアも、何所か嬉しそうだった。

ハジメ「よし、ミレディ。これ、プレゼント。」

ミレディ「?これなぁに?ハジメンの使っていたベルトっぽい奴に似ているけど?」

 

ハジメ「それはゴーストドライバー。

君の持っている眼魂を使って変身、特殊な鎧を纏う感じかな?それによって戦えるようになるアーティファクト的なものだよ。

まぁ、先達からの貰いもんだよ。このクモランタンも、それと同じ先達から譲り受けたんだ。」

ミレディ「ハジメンの……先達……。」

まぁ、これ以上は流石に頭がこんがらがるだろうし、説明はこれくらいでいいk…

 

オスカー『ハジメ君と言ったかい?君の使っている鉱石について詳しく教えてもらえると嬉しいんだけど……ダメかな?』ズイッ!

ハジメ「……構わないけど……触れないよ?」

オスカー『グッ!?しまったァ!こんなことなら僕もゴーレムに魂を移しておけばァ!』

……この前までのイメージを返して欲しい。

ミレディ「ハジメン、オーちゃんはいつもこんな感じだよ。」

ハジメ「……まじかぁ。まぁ、それは置いといて、だ。」

 

俺はブランクの眼魂を生成し、ミレディに渡した。

すると、それはミレディの瞳と同じ色の眼魂に変わった。

ハジメ「それを使えば、君自身の眼魂を取り出さなくても、変身が可能になるよ。

武器も自動生成されるから、遠近両方バッチこいだよ!」

ミレディ「ふっふ~ん♪ねぇ、オーちゃん、今どんな気持ちィ?」

オスカー『……野郎、ぶっ殺してやるぅ!』

ハジメ「少しは聞いてくれ……」

とまぁ、なんともしまらない結果にはなったが、二人の解放者を加え、俺達は旅を続けることにしたのだった。

 

旅立ち前夜……

シア「へぇ~!じゃあそのキアラちゃんって子も兎人族だったんですね!何だか親近感を感じますぅ!」

ミレディ「アハハ、ミレディさんは今のウサギさんにびっくりしているなぁ……。

まさか、たったの10日で暗殺者顔負けの殺戮集団に変貌するなんて……。」

ユエ「……宿屋のむっつりさんに、そっくり。」

ミレディ「……覗かれないよね?」

女性陣は寝る前のガールズトークに花を咲かせていた。因みに、オスカーは既にぐっすりしている。

 

その頃、俺は一人、地球の本棚にて、ある調べ物をしていた。

ハジメ「……それにしても、まさかブルックにミレディたちの関係者がいたなんてな。

上手い具合に生き残って、解放者の存在を隠したんだなぁ………。」

誰に語るでもない独り言が、真っ白な空間に響き渡った。

俺自身、解放者についての情報を自身でも調べており、その痕跡が現世でも残っているのでは?と思い、調査を始めた次第だ。

 

「それにしても、」と呟きながら、俺は最も分厚い一冊を手に取った。

ハジメ「これは……本当なのか?」

その本にはこう書かれていた。「トータス創成記」と。

この本には、何故トータスという世界が生まれたのかについて書かれており、その中にはエヒトが何故神として崇められていたかについても書かれていた。

 

ハジメ「まさか……奴も異世界人だったとはな……。

しかも一人ではなく複数人で移動している辺り、ここへ来たのは偶然だろうな。」

そう独りごちながらも、俺は更にページを進めていた。

ハジメ「しかも……今使われている魔法も、異世界から伝えられた技術が変化したものであって、伝えた奴等は皆、神として崇められていた、と。

まぁ、当時の状況がより過酷だったとはいえ、まさかこうなるとはなぁ……。」

 

そう、かつてのトータスは、特殊な力を持った強大な生物が蔓延る世界であり、人類は穴蔵のような自然の影に隠れながら細々と生活していたのだという。

そんな中、エヒトを含めた"到達者"というグループが現れ、太古の怪物共を駆逐し、原住民達に叡智を与えたのだ。

そうして国が出来た頃、彼等は既に神として崇められており、信仰心を力に変換し、魂魄の強化・昇華を行ったらしい。

それから数千年、この世界はよく発展し、"到達者"達は自らの役目を終えたかのように一人、また一人とこの世を去っていったらしい。

だが、エヒトは自らの死を恐れたのか、一人だけ死を超越した状態を維持していた。

他の者達と一緒に逝ってしまえばよかったものを……。

 

しかし、これだけでも衝撃的であったが、さらに衝撃的なことが書かれていた。

ハジメ「それに加えて、魔人族や亜人族、龍人族や海人族までもが元人間だったなんてな……。

それらを生み出したのがよりにもよってアイツとは……心底腹立たしいものだ。」

なんと、今ある人間族以外の人種は、エヒトが暇つぶしがために作り出した生物であったことが書かれていた。

恐らくではあるが、自身が下界に降りるための依代を必要としていたのだろう。

しかし、300年前にその策は潰えた。それ故にアヴァタールという国が存在しないのだろう。

 

ハジメ「……ユエの国についても知ることが出来たが……この事実は伝えない方がいいな。

もし今伝えたら、皆正気を失ってしまうだろう。」

そういう訳で、トータスの真実については、己の胸の内にしまっておくことにした。

序に、もう一つのことも……。

 

ハジメ「……ユエが知ったら、悲しむだろうな。」

そう、ユエのおやっさん、吸血鬼の国アヴァタール王国の宰相であった、ディンリード・ガルディア・ウェスペリティリオ・アヴァタールは、その肉体をアイツの眷属に乗っ取られているのだ。

その眷属であるアルヴという神は、魔人族に崇拝されている神らしく、人間族と魔人族が戦争を続けるきっかけは、この二人が作っているのだろう。

盛大なマッチポンプという奴だ。道理で長年、戦争が続いているわけだ。

それに加えて、この者は、その肉体を利用して、魔人族の国【ガーランド】の現魔王の座についているらしい。

 

ハジメ「……もし奴を下した後、時間さえあれば作ってみようかな、俺の国。」

俺は手にしていた本を本棚にしまい、意識ごと現実世界に戻っていった。

この先の旅路は、恐らく険しいものになるだろう。

いくらオーマジオウの力が万能だとはいえ、流石に限度がある。

一刻も早く神代魔法を手にし、その修練を行わなければならない。

だが、余計な焦りは要らぬ面倒を生むだろう。なので敢えて奴の思惑通りに進んでやる。

 

恐らくではあるが、全ての神代魔法を獲得した時に、奴はユエの体を狙ってくるだろう。

その時までに、俺も仲間たちも強くなればいいのだ。

俺達の歩みを止めるということは、ユエを強化させることが出来なくなることと同義であるのだ。

いくら奴が阿保とはいえ、そこまでは考えていないとは限らないだろう。

それに、あの時使徒の大半を消し去ったとはいえ、恐らく奴はまだ使徒を作り出す手段を遺している。

それを突き止めた上での対策を行わなければなるまい。やることがいっぱいで目が回りそうだ。

 

ハジメ「やれやれ。

この戦い、どれだけ多くの味方を残し、相手戦力をどれだけ削れるかにかかっているな。

そのためにも、奴の思惑の裏を突いた作戦も考えなきゃな。」

そう呟きながら、俺は仲間たちの元へ戻った。それにしても、ユエの本名って結構長いんだなぁ。

 

そして翌日、薄っすらと輝く夜明け頃、皆既に出立の支度を終えていた。

ハジメ「よし、それじゃ行くか!自由を取り戻す旅に!」

ユエ「んっ!エヒト死すべし、慈悲はない!」

シア「ハイ!遠慮なくウッサウサにしてやるですぅ!」

ミレディ「うん!今ならなんか、行ける気がする!」

オスカー『あぁ!ここまで楽しい旅立ちはいつ以来だろうなぁ!』

各々の思いを掲げ、俺達は【ライセン大峡谷】を後にした。




ここまで読んでいただき、ありがとうございました!

ミレディさんとオスカー君がまさかの仲間入り。
しかもミレディさんはナイスバディの使徒ボディにチェンジしちゃいました。
この先、ハジメさん達はクズ野郎の計画を真っ向から叩き潰すために、様々な出来事に巻き込まれていきます。
まぁ、相手が誰であろうと関係なくぶっ飛ばしていきますが。

ハジメさん、世界の真実を知ってしまう。
その結果またもや、フラストレーションがたまっていっている模様。
各地方の明日は何処か!?

そして、次回からは新章突入です!
果たしてハジメさんは、駄龍さんに対してどのようなお仕置きをするのか!?

宜しければ、高評価・コメント宜しくお願い致します。

追記:晶彦さん、誤字報告ありがとうございました!

次回予告

新たな仲間を迎えたハジメ一行。
神殺しの準備をするため、一同は大都市フューレンへ向かうことに。
その道中、護衛任務を受けたハジメは、自身の異名について知ることになる。
一方、愛子等を乗せた馬車は湖畔の町ウルへとたどり着く。
しかしその裏で、恐ろしい計画が始まろうとしていたのだった!

次回「はたらく王様」
この次も、サービスサービス!


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原作第三巻~湖畔の町ウル編:2070/怒りマシマシ龍とお米
31.はたらく王様


お待たせいたしました。
今回よりウルの町編が始まります。

今回は前半から三人称でお送りいたします。
愛子たちは湖畔の町ウルへ到着するが、そこでまさかの事態に遭遇する。
彼らの運命や如何に!?
一方のハジメ一行は、フューレンへ移動するために、護衛依頼を受けるが果たして?

始まりの第三章第一話、それではどうぞ!


畑山愛子、25歳。社会科教師。

彼女にとって教師とは、専門的な知識を生徒達に教え学業成績の向上に努め、生活が模範的になる様指導するだけの存在ではない。

勿論それらは大事な事ではあるのだが、それよりも"味方である"事、それが一番重要だと考えていた。

 

具体的に言えば、家族以外で子供達が頼る事の出来る大人で在りたかったのだ。

それは彼女の学生時代の出来事が多大な影響を及ぼしているのだが、ここでは割愛する。

兎に角、家の外に出た子供達の味方である事が愛子の教師としての信条であり矜持であり、自ら教師を名乗れる柱だった。

 

それ故に、愛子にとって現状は不満の極みだった。

いきなり異世界召喚などというファンタジックで非常識な事態に巻き込まれ呆然としている間に、クラス一カリスマのある生徒に話を代わりに纏められてしまい、気がつけば大切な生徒達が戦争の準備なんてものを始めている。

何度説得しても、既に決まってしまった"流れ"は容易く愛子の意見を押し流し、生徒達の歩みを止める事は叶わなかった。

 

ならば、せめて傍で生徒達を守る!と決意したにもかかわらず、保有する能力の希少さ、有用さから戦闘とは無縁の任務──農地改善及び開拓を言い渡される始末。

必死に抵抗するも生徒達自身にまで説得され、愛子自身適材適所という観点からは反論のしようが無く引き受ける事になってしまった。

 

毎日遠くで戦っているであろう生徒達を思い、気が気でない日々を過ごす。

聖教教会の神殿騎士やハイリヒ王国の近衛騎士達に護衛されながら、各地の農村や未開拓地を回り、漸く一段落済んで王宮に戻れば、待っていたのはとある生徒の訃報だった。

 

この時は愛子は、どうして強引にでもついて行かなかったのかと自分を責めに責めた。

結局、自身の思う理想の教師たらんと口では言っておきながら自分は流されただけではないか!と。

勿論、愛子が居たからといって何か変わったかと言われれば答えに窮するだろう。

だが、この出来事が教師たる畑山愛子の頭をガツンと殴りつけ、ある意味目を覚ますきっかけとなった。

 

"死"という圧倒的な恐怖を身近に感じ立ち上がれなくなった生徒達と、そんな彼等に戦闘の続行を望む教会・王国関係者。

愛子は、もう二度と流されるもんか!と教会幹部、王国貴族達に真正面から立ち向かった。

自分の立場や能力を盾に、私の生徒に近寄るなとこれ以上追い詰めるなと声高に叫んだ。

 

結果、何とか勝利を捥ぎ取る事に成功する。

戦闘行為を拒否する生徒への働きかけは無くなった。

だが、そんな愛子の頑張りに心震わせ、唯でさえ高かった人気が更に高まり、戦争なんてものは出来そうにないが、せめて任務であちこち走り回る愛子の護衛をしたいと奮い立つ生徒達が少なからず現れた事は皮肉な結果だ。

 

「戦う必要は無い。」

「派遣された騎士達が護衛をしてくれているから大丈夫。」

そんな風に説得し思い止まらせようとするも、そうすればそうする程一部の生徒達はいきり立ち、「愛ちゃんは私達/俺達が守る!」と、どんどんやる気を漲らせていく。

そして結局押し切られ、その後の農地巡りに同行させることになり、「また流されました。私はダメな教師です……。」と四つん這い状態になってしまった事は記憶に新しい。

 

因みにこの時、愛子の護衛役を任命された専属騎士達が生徒達の説得を手伝うのだが、何故か生徒達を却って頑なにさせたという面白事情がある。

何故、生徒達が彼等護衛達に反発したのか。それは生徒達の総意たるこの台詞に全てが詰まっている。

「愛ちゃんをどこの馬の骨とも知れない奴に渡せるか!」

 

生徒達の危機意識は、道中の賊や魔物よりも寧ろ愛子の専属騎士達に向いていた。

その理由は、全員が全員凄まじいイケメンだったからだ。これは、愛子という人材を王国や教会に繋ぎ止める為の上層部の作戦である。

要はハニートラップみたいなものだ。

それに気がついた生徒の一人が生徒同士で情報を共有し「愛ちゃんをイケメン軍団から守る会」を結成した。

 

だがここで、生徒側に一つ誤算が生じていた。

それは、"ミイラ取りがミイラになっていた"という事を知らなかった事だ。

その証左に、生徒達を説得した神殿騎士のデビッド、チェイス、クリス、ジェイドの言葉を紹介しよう。

 

デビッド「心配するな、愛子は俺が守る。傷一つ付けさせはしない。

愛子は…俺の全てだ。」

チェイス「彼女の為なら、信仰すら捨てる所存です。

愛子さんに全てを捧げる覚悟がある。これでも安心できませんか?」

クリス「愛子ちゃんと出会えたのは運命だよ。運命の相手を死なせると思うかい?」

ジェイド「……身命を賭すと誓う。近衛騎士としてではない。一人の男として。」

 

この時、生徒達は思った。

「一体何があった!?こいつら全員逆に堕とされてやがる!」と。

つまり、最初こそ危機意識の内容は愛子がハニートラップに引っかかるのでは?だったのだが、このセリフを聞いた後では「馬の骨に愛ちゃんは渡さん!」という親的精神で、生徒達は愛子の傍を離れようとしなかったのである。

 

尚、彼等と愛子の間に何があったのかというと……

話が長くなるので割愛するが、持ち前の一生懸命さと空回りぶりが、愛子の誠実さとギャップ的な可愛らしさを周囲に浸透させ、"気がつけば"愛子の信者になっていたという、そんな感じの話だ。

語り出せば新たな物語が出来てしまうくらい……色々あったのだ、色々。

 

そんなこんなで現在では、【オルクス大迷宮】で実戦訓練を積む光輝達勇者組、居残り組、愛子の護衛組に生徒達は分かれていた。

「愛ちゃんをイケメン軍団から守る会」改め「愛ちゃん護衛隊」には、前々から愛子の予定を整理・調整していた清水幸利こと我らがトシを筆頭に、先陣を切った園辺優花を実質的な副リーダーとして、友人の宮崎奈々、菅原妙子。そして玉井淳史、相川昇、仁村明人の男子陣を加えた総勢七名が各々トラウマを抱えたまま参加している。

ハイリヒ王国に帝国の使者──という名の皇帝一行が来訪して二ヶ月と少し。

王都を出発した彼等は現在、新たな農耕改善の地──【湖畔の町ウル】への途上にあった。

 

ガタガタゴットンズッタンズタンとサスペンションなど搭載されていない馬車が、中々の衝撃で現代地球っ子達の尻を襲っている。

デビッド「愛子、疲れてないか?辛くなったら遠慮せずに言うんだぞ?直ぐに休憩にするからな?」

愛子「いえ、平気ですよデビッドさん。というかついさっき休憩したばかりじゃないですか。

流石にそこまで貧弱じゃありません。」

広々とした大型馬車の中、愛子専属護衛隊隊長のデビッドが心配そうに愛子に話しかける。

それに対する愛子の返答は苦笑いが混じっていた。

チェイス「ふふ、隊長は愛子さんが心配で堪らないんですよ。

ほんの少し前までは一日の移動だけでグッタリしていたのですから。

……かくいう私も貴方が心配です。本当に遠慮をしてはいけませんよ?」

愛子「その節はご迷惑をお掛けしました。馬車での旅なんて初めてで……

でも、もう大分慣れましたから本当に大丈夫です。心配して下さり有難うございます。チェイスさん。」

当初、馬車での移動という未知の体験に色々醜態を見せた愛子は、過去の自分を思い出し僅かに頬を染めながら護衛隊副隊長チェイスにお礼を言う。

頬を染める愛子に、悶える様に手で口元を隠したチェイスは、さり気なく愛子の手を取ろうとして……

「ゴホンッ!」という咳払いと鋭い眼光にその手を止められる。

 

止めたのは愛子の斜め前に座っている女子生徒の一人園部優花である。"愛ちゃんをイケメン軍団から守る会"の会長だ。他にも数名のメンバーが乗り込んでいる。

一応、優花達も勇者と共に異世界から召喚された"神の使徒"という事になっているので、生徒達専用の馬車も用意されているのだが、馬車の中という密室にイケメン軍団と愛子だけにしていては何があるか分からないと半ば無理矢理乗り込んだのだ。

優花はセミロングの髪を染めて淡い栗色にしており、美人系の顔立ちなので目つきもやや鋭い。

別に日本にいた時も不良という訳では無く、どちらかと言えば真面目な方なのだが、ファッション等の好みがその系統に近い事や、性格が割とサバサバしている事から誤解されがちな女子生徒だ。

そんな彼女が眉間に皺寄せてギンッと目を吊り上げていれば……中々に迫力があった。

少なくとも、同乗していた淳史が思わずスッと視線を逸らす程度には。

因みに、この馬車は八人乗りである。外には一個小隊規模の騎士達が控えているが、隊長と副隊長が揃って馬車の中にいていいのかというツッコミは既に為された後だ。なんだかんだと理由を付けてイケメン達も乗り込んでいる。余程愛子から離れたくないらしい。

 

チェイス「おやおや、睨まれてしまいましたね。

そんなに眉間に皺を寄せていては、折角の可愛い顔が台無しですよ?」

そう言ってイケメンスマイルで微笑むチェイス。何故か無駄にキラキラしている。普通の女性なら思わず頬を染めるだろう魅力的な笑みだ。

だがそれに対する優花の反応は、今にも「ペッ!」と唾を吐きそうな表情である。

優花「愛ちゃん先生の傍で、他の女に“可愛い”ですか?愛ちゃん先生、この人きっと女癖悪いですよ。

気を付けて下さいね?」

優花は細やかな反撃の言葉を吐き出した。惚れた女の前で他の女に"可愛い"なんて言葉を使う奴は碌でもない、というのが優花の持論だ。

ましてや、己のハニートラップ的役割を十分に理解しているらしい彼等が敢えて自分の容姿を活かした言動を取れば、優花的にはもう質の悪いただのナンパ野郎にしか見えないのである。

 

愛子「そ、園部さん。そんなに喧嘩腰にならないで。

それと、折角“先生”と呼んでくれる様になったのに"愛ちゃん"は止めないんですね。

……普通に愛子先生で良くないですか?」

優花「ダメです。愛ちゃん先生は"愛ちゃん"なので、愛ちゃん先生でなければダメです。

生徒の総意です」

愛子「ど、どうしよう、意味がわからない。しかも生徒達の共通認識?これが、ゆとり世代の思考なの?

頑張れ私ぃ、威厳と頼りがいのある教師になる為の試練よ!何としても生徒達の考えを理解するのよ!」

トシ「落ち着くんだポルナレフ。」

愛子「誰ですかポルナレフって!?」

一人で「ふぁいとー!」する愛ちゃん先生に、優花とチェイスのやり取りでギスギスしていた空気がほんわかする。

それこそ愛子が“愛ちゃん”たる所以なのだが、愛子は気がつかない。威厳のある教師の道は遠そうである。

そんな彼女を落ち着かせようとするトシにとっては、異世界における日常茶飯事であったが。

 

それから更に馬車に揺られる事四日。

イケメン軍団が愛子にアプローチをかけ、愛子自身やけに彼等が積極的なのは上層部から何か言われているのだろうなぁと流石に察していたので普通にスルーし、実は本気で惚れられているという事に気がついていない愛子に、これ以上口説かせるかと優花達が睨みを効かせ、度々重い空気が降りるなか、やはり愛子の言動にほんわかさせられ……という事を繰り返して、遂に一行は【湖畔の町ウル】に到着した。

町の宿で旅の疲れを癒しつつ、ウル近郊の農地の調査と改善案を練る作業に取り掛かる。その間も愛子を中心としたラブコメ的騒動が多々あるのだが……それはまた別の話。

 

そうしていざ農地改革に取り掛かり始め、最近巷で囁かれている"豊穣の女神"という二つ名がウルの町にも広がり始めた頃、再び愛子の精神を圧迫する事件が起きた。──なんとトシが行方不明になってしまったのだ。

愛子は奔走する。大切な生徒の為に。

その果てに、衝撃の再会が待っているとも知らずに。

 


 

???「ふふっ、あなた達の痴態、今日こそじっくりねっとり見せてもらうわ!」

上弦の月が時折雲に隠れながらも、健気に夜の闇を照らす。

今もまた、風にさらわれた雲の上から顔を覗かせその輝きを魅せていた。

その光は、地上のとある建物を照らし出す。

もっと具体的に言えば、その建物の屋根からロープを垂らし、それにしがみつきながら何処かの特殊部隊員の様に華麗な下降を見せる一人の少女を照らし出していた。

 

スルスルと三階にある角部屋の窓まで降りると、そこで反転し、逆さまになりながら窓の上部よりそっと顔を覗かせる。

???「この日のためにクリスタベルさんに教わったクライミング技術その他!

まさかこんな場所にいるとは思うまい、ククク。

さぁ、どんなアブノーマルなプレイをしているのか、ばっちり確認してあげる!」

 

ハァハァと興奮した様な気持ちの悪い荒い呼吸をしながら室内に目を凝らすこの少女、何を隠そうブルックの町『マサカの宿』の看板娘ソーナちゃんである。

明るく元気で、ハキハキした喋りに、くるくると動き回る働き者。美人という訳ではないが野に咲く一輪の花の様に素朴な可愛さがある看板娘だ。

町の中にも彼女を狙っている独身男は結構いる。

そんな彼女は現在、持てる技術の全てを駆使してとある客室の"覗き"に全力を費やしていた。

その表情は、彼女に惚れている男連中が見れば一瞬で幻滅するであろう……エロオヤジのそれだった。

 

ソーナ「くっ、やはり暗い。よく見えないわ。もう少し角度をずらして……。」

???「……こうかい?」

ソーナ「そうそう、この角度なら……それにしても静かね?もう少し嬌声が聞こえるかと思ったのに……。」

???「遮音や遮光の手段なら結構あるよ?」

ソーナ「はっ!?その手があったか!くぅう小賢しい、でも私は諦めない!

その痴態だけでもこの眼に焼き付け………………。」

繰り返すが、ここは三階の窓の外。

ソーナの様に馬鹿な事でもしない限り、間近に声が聞こえる事など有り得ない。

ソーナは一瞬で滝の様な汗を流すと、ギギギという油を差し忘れた機械の様にぎこちない動きで振り返った。

そこには……

空中に仁王立ちする、薄ら寒い笑みを浮かべたハジメがいた。

 

ソーナ「ち、ちなうんですよ?お客様。これは、その、あの、そう!宿の定期点検です!」

ハジメ「へぇ~、こんな夜中に?」

ソーナ「そ、そうなんですよ~。

ほら、夜中にちゃちゃっとやってしまえば、昼に補修しているところ見られずに済むじゃないですか。

宿屋だからガタが来てると思われるのは、ね?」

ハジメ「成程、確かに評判は大事だよね?」

ソーナ「そ、そうそう!評判は大事です!」

ハジメ「ところで、この宿で最近覗き魔が出る様だけど……そこについてどう思う?」

ソーナ「そ、それは由々しき事態ですね!の、覗きだなんて、ゆ、許せません、よ?」

ハジメ「うん、その通りだね。覗きは許せないよねぇ?」

ソーナ「え、ええ、許せませんとも……」

 

ソーナはハジメと顔を見合わせると「ははは」と笑い始めた。

但し、小刻みに震えながら汗をポタポタ垂らしているという何とも追い詰められた様な笑いだったが。

ハジメ「お仕置きだべぇ~!」

ソーナ「ひぃーー、ごめんなざぁ~い!

ハジメがソーナの顔面にアイアンクローを決め込む。メリメリと音を立ててめり込むハジメの指。

空中でジタバタともがきながらソーナは悲鳴を上げ、必死に許しを請う。

 

ソーナは一般人の女の子だ。

それに対するお仕置きにしては、少々やりすぎなのではと思うレベルで力を入れるハジメ。

これが初犯なら、まだもう少し手加減くらいしただろう。

しかし、【ライセン大迷宮】から帰還した次の日に再び宿に泊まった夜から毎晩、あの手この手で覗きをされればいい加減配慮も薄くなるというものだ。

因みに、それでもこの宿を利用しているのは飯が美味いからである。

 

既にビクンビクンしているソーナをぶん回し、内蔵と脳をシェイクさせてから脇に抱え直すハジメ。

ソーナは脳震盪で目を回しつつ、漸く解放されたとホッと安堵の息を吐く。

しかし、ふと見た下には……鬼がいた。満面の笑みだが、眼が笑っていない母親という鬼が。

ソーナ「ひぃ!!」

ソーナが気がついた事に気がついたのだろう。ゆっくり手を掲げると、おいでおいでをする母親。

まるで地獄への誘いだった。

 

ハジメ「……今回は、尻叩き百発じゃすまないかも。まぁ、頑張れ。」

ソーナ「いやぁああーーー!」

ハジメがポツリとこぼした言葉に、今までのお仕置きを思い出して悲鳴を上げるソーナ。

きっと、翌日の朝食時には、お尻をパンパンに腫らした涙目のソーナを見る事ができるだろう。

毎晩毎朝の出来事に溜息を吐くハジメであった。

 


 

<ハジメさん視点>

 

そんな宿屋の娘、ソーナを彼女の母親に引渡し、宿の部屋に戻った俺は、そのまま両手を広げて仰向けになり、ベッドにドサッと寝転んだ。

ユエ「……お疲れ様。」

シア「おかえりなさいですぅ。」

ミレディ「やっぱり……血筋なのかなぁ?」

 

そんな俺に声を掛けたのは、勿論ユエとシア、ミレディだ。

窓から差し込む月明かりだけが部屋の中を照らし、三人の姿を淡く浮かび上がらせる。

対面のベッドの上で女の子座りしているユエとミレディ、浅く腰掛けたシア。

三人共ネグリジェだけという何とも扇情的な姿だ。

三人の美貌と相まって、一枚の絵画として描かれたのなら、それが二流の書き手でも名作と謳われそうだ。

ハジメ「かもしれないね。……それにしても一体何があの子を駆り立てるんだか。

屋根から降りてくるなんてどこのBIG BOSSだよ。

流石に、いくら飯が美味くても別の宿を探すべきかもね。」

呆れた様な口調でそう話す俺に、シアはクスリと笑って立ち上がり、俺のベッドに腰掛ける。

ユエとミレディもいそいそと立ち上がるとハジメのベッドに移動し、横たわる俺の腕を自らの頭の下に入れた。

所謂腕枕である。

 

シア「きっと、私達の関係がソーナちゃんの女の子な部分に火を付けちゃったんですね。

気になってしょうがないんですよ。可愛いじゃないですか」

ユエ「……でも、手口がどんどん巧妙になってるのは……心配」

ハジメ「全くだ。昨日なんて、シュノーケルを自作して湯船の底に張り込んでたからね……

水中から爛々と輝く眼を見つけた時は、危うく凍らせかけちゃったよ。」

シア「う~ん、確かに宿の娘としてはマズイですよね…一応、私達以外にはしてない様ですが……」

ミレディ「アハハ、ミレディさん達も昔はキーちゃんによく部屋をのぞかれたなぁ……。」

オスカー『そうだね。ミレディも無類の男好きとして見られていたからねぇ……。』

ミレディ「おいオスカー、誰のせいでそうなったかお忘れか?

まだ初夜すら迎えていない清純なミレディさんを、とんだビッチみたいに吹聴しやがってからに。」

オスカー『……清純?』

ミレディ「O.K.よろしいならば戦争だッ!オーちゃんなんかこんな風にしてやるぅ!」

オスカー『こら、やめるんだミレディ!あっ!ちょっ、目の部分は繊細なんだよ!』

ソーナの奇行について雑談しながら、じゃれあう二人の解放者を見る俺達。

 

シア「……なんていうか、楽しそうですよね。お二人とも、久しぶりの町に大興奮していましたし。」

ユエ「……ん。町巡りの時も、とても楽しそうだった。」

ハジメ「まぁ、鬱陶しい視線は増えたけど、この笑顔のためなら安い代償か。

それにしても、まさかクリスタベルにも縁があったなんてなぁ……。」

そう、【ライセン大峡谷】を後にした俺達は、次の町へ行くための補給と休養のために、一旦ブルックに戻っていた。

凡そ数千年ぶりとなる街に二人は大はしゃぎしていた。

ただ、オスカーは眼魂状態なので、他の人からは見えない。

なので、男共から嫉妬の視線を向けられることになったが、この前の脅しですっかり大人しくなったのか、至って平和だった。

尤も、俺は大丈夫じゃなかったが。その理由はまた明日説明しよう。

因みに、二人の痴話喧嘩でソーナちゃんの誤解とか好奇心とか妄想とかが更に深まり、やたらと高い潜入スキルを持つ宿屋の看板娘が爆誕するらしいが……これはまた別の話。

 


 

カランカラン……と、そんな音を立てて冒険者ギルド【ブルック支部】の扉は開いた。

入ってきたのは、ここ数日ですっかり有名人となった俺、ユエ、シア、ミレディの四人だ。

ギルド内のカフェには、いつもの如く何組かの冒険者達が思い思いの時を過ごしており、俺達の姿に気がつくと片手を上げて挨拶してくる者もいる。

男は相変わらずユエ、シア、ミレディに見蕩れ、ついで俺に羨望と嫉妬の視線を向けるが、そこに陰湿なものはない。

ブルックに滞在して一週間、その間にユエ達を手に入れようと画策した者は今や一人もいない。

何故かって?それは俺に原因があるからだ。

 

以前、情報収集がてらギルドに寄ると、冒険者たちのヒソヒソ声が聞こえてきた。

気になったので、聴覚強化を行って聞いてみると、とんでもないことを聞いてしまった。

冒険者A「おい、またアイツが来たぞ。」

冒険者B「!例の"無双覇王"か。」

冒険者C「あぁ。なんでも、ブルック中の男達の心をへし折って来た、歩く天災とのことだ。」

冒険者D「アイツの周りにいる女の子たちに手を出した奴は、軒並引きこもっているようだぞ。」

冒険者E「しかも、キャサリンさんの情報だと、【ライセン大峡谷】でも大暴れしたそうだぞ。」

冒険者F「何ィ!?あの死の谷でもだとぉ!?ヤツは不死身か!?」

冒険者G「触らぬ神に祟りなし、とは聞くが……

彼はもしかしたら、中に鬼神でも飼っているのかもしれない……。」

 

……………………………………え?何その異名。てかなんでライセンに行ったことがバレているんだ!?

情報のことが気になった俺は、慌ててキャサリンさんに聞きに行くと……

キャサリン「なんだい、知らなかったのかい?アンタ、町の男共を軒並み気絶させたそうじゃないか?

その余波がこの町全体に響いていたことから、"無双覇王"っていう仇名がついたんだよ。」

ハジメ「Oh,Jesus………。」

何ということでしょう。

あの時はただ、マナーのなっていない男共を懲らしめただけなのに、まさかここまで事態が大きくなるなんて……。

 

キャサリン「後、あんたにお近づきになりたいっていう女の子も沢山いるようだね。

そんなに若くて、美人三人を連れているっていうのに、まだ足りないのかい?」

ハジメ「そんなことはない!てか、その話初耳なんだけどぉ!?」

キャサリン「そうかい?何でも、「お兄様の妹になりたい!」っていう娘が多くてねぇ……

本家ソウルシスターズなんてものが生まれたくらいだよ。」

ハジメ「Oh,My God!

なんてことだ。とうとう雫と同じ立場に立ってしまうとは……。

しかも俺にはとっくの昔に義理の妹がいるというのに、ここで大量増殖してしまうなんて……。

 

キャサリン「後アンタ、樹海や峡谷でも派手に暴れたそうじゃないか。

おかげで魔物たちが大量に出現したからとても大変だったんだよ?」

ハジメ「い、いやぁ~、これにはどうしても引けない理由がありまして……。」

まさか樹海の実質的支配体制の確立に加え、信仰されている神様の家に風穴開けて来たなんて、誰が言えるというのだ……。

キャサリン「ま、大方仲間の嬢ちゃん達のためだろうが……あまり無理はするんじゃないよ?

アンタは若いんだから、まだまだこれからなんだよ?」

ハジメ「ハハハ……肝に銘じておくよ。」

 

後から聞いたが、俺が樹海や峡谷で色々やらかしていた時に、【樹海事変】と【峡谷事変】なる魔物の大量発生事件が起こったらしい。

やらかしたと思っていたが、まさかこんなことになるとはなぁ……。

あんまり怒りやすいのもどうかと思った俺であった。

ユエ達にソウルシスターズ共が何か仕掛けていないかが心配だったが、杞憂だったようで何も起こってはいなかったようだ。

後日、全裸の女性が亀甲縛りで吊るされていたと聞いたが、一体誰の仕業なのだろうか?

 

とまぁ色々あったが、俺だけ二つ名持ちはちょっと目立つので、ギルドでパーティー名の申請・登録をした。この名前を決める時には相当悩んだ。

他の皆は俺が決めていいと言ってくれたので、胸の奥にあった厨二心をちょこっとだけ解放した。

そんな訳で、俺達のパーティー名は「マッハ・ワイターズ」となった。

進み続ける者、という意味のドイツ語から取った名だ。我ながら少し恥ずかしいが、皆には好評だった。

正直「デウス・マールス・スレイヤーズ」(邪神を討ち果たす者)とか、「フラッグ・デア・フライハイト」(自由の御旗)とかも良かったけど、長すぎて言いにくそうなので止めておいた。

因みに、皆からは何故か「ワイターズ」呼びされている。

 

キャサリン「おや、今日は四人一緒かい?」

俺達がカウンターに近づくといつも通りキャサリンさんがいて、先に声をかけてきた。

キャサリンさんの声音に意外さが含まれているのは、この一週間でギルドにやって来たのは大抵、俺一人かユエ達女性陣だからだ。

 

ハジメ「うん。明日にはもう町を出るから、貴方には色々お世話になったし、挨拶していこうかなって。

序に、目的地関連で依頼があれば受けておこうって思ったんだ。」

因みに、世話になったっていうのは、俺がギルドの一室を無償で借りていたことだ。

せっかくの重力魔法なので生成魔法と組み合わせを試行錯誤するのに、それなりに広い部屋が欲しかったから、キャサリンに心当たりを聞いたところ、それならギルドの部屋を使っていいと無償で提供してくれたのだ。

後、ユエとシアはミレディというエキスパートの教師を交えて、郊外で重力魔法の鍛錬をしていた。

たまに俺も混じったけど、ちょっとやり過ぎちゃうことがほとんどだった。

 

キャサリン「そうかい、行っちまうのかい。

そりゃあ寂しくなるねぇ、あんた達が戻ってから賑やかで良かったんだけどねぇ~。」

ハジメ「……アレのどこを賑やかと言えるのさ。

どう見たって、変態共の集会に放り込まれた感じだったよ。

宿屋のむっつりさんに、ユエに踏まれたい・シアの奴隷になりたい・ミレディに罵られたいとか言って町中で突然土下座してくる変態共、"お兄様ぁ"とか連呼しながら俺をストーキングしてくるソウルシスターズ……完全にカオスしかないよ。

まぁ、悪くはなかったけどね。」

そう苦笑いを浮かべる俺の表情に嘘は無い。

どこもかしこもおかしな奴ばかりではあったが、吐き気を催す邪悪が感じられなかっただけでもマシである。

 

また、ブルックの町には四大派閥が出来ており、日々鎬を削っているらしい。

一つは「ユエちゃんに踏まれ隊」、一つは「シアちゃんの奴隷になり隊」、一つが「ミレディちゃんに罵られ隊」、そして最後が「お兄さまの妹になり隊」である。

其々文字通りの願望を抱え、実現を果たした隊員数で優劣を競っているらしい。

 

あまりにぶっ飛んだネーミングと思考の集団にドン引きの俺達。

町中でいきなり土下座すると、ユエに向かって「踏んで下さい!」とか絶叫するのだ。もはやギャグである。シアに至ってはどういう思考過程を経てそんな結論に至ったのか理解不能だ。亜人族は被差別種族じゃなかったのかとか、お前らが奴隷になってどうするとかツッコミどころは満載だが、深く考えるのが面倒だったので出会えば即刻排除している。

その上、ミレディに至っては、オスカーが物に取り付いて、不慮の事故でも起こしそうな様である。

最後は言わずもがな、女性のみで結成された妹を名乗る秘密結社ソウルシスターズ。

最近は鳴りを潜めているようだが……正直心配だ。

 

キャサリン「まぁ、楽しかったならなによりだよ。で、何処に行くんだい?」

ハジメ「取り敢えずはフューレンに行くつもりだよ。」

そんな風に雑談しながらも、仕事はきっちりこなすキャサリンさん。

早速、フューレン関連の依頼がないかを探し始める。

【フューレン】とは、中立商業都市の事だ。

俺達の次の目的地は【グリューエン大砂漠】にある七大迷宮の一つ、【グリューエン大火山】である。

その為大陸の西に向かわなければならないのだが、その途中に【中立商業都市フューレン】があるので、大陸一の商業都市に一度は寄ってみようという話になったのである。

尚、【グリューエン大火山】の次は大砂漠を超えた更に西にある海底に沈む大迷宮【メルジーネ海底遺跡】が目的地だ。

 

キャサリン「う~ん……おや、いいのがあるよ。商隊の護衛依頼だね。

丁度空きが後一人分あるよ、どうだい?受けるかい?」

キャサリンにより差し出された依頼書を受け取り内容を確認する俺。

確かに、依頼内容は商隊の護衛依頼の様だ。中規模な商隊の様で、十五人程の護衛を求めているらしい。

ユエ達は冒険者登録をしていないので、俺の分で丁度だ。

 

ハジメ「連れの同伴は大丈夫かな?」

キャサリン「ああ、問題ないよ。

あんまり大人数だと苦情も出るだろうけど、荷物持ちを個人で雇ったり、奴隷を連れている冒険者もいるからね。

まして、ユエちゃん達も結構な実力者だ。一人分の料金でもう三人優秀な冒険者を雇える様なもんだ。

断る理由も無いさね。」

ハジメ「そっか、まぁ決めるのは三人の返答次第だけど……。」

俺は問いかける様に皆の方を振り返った。

正直、飛んで行った方が早いけど、いきなり襲撃されることもあるしなぁ……。

 

ユエ「……急ぐ旅じゃない。」

シア「そうですねぇ~、偶には他の冒険者方と一緒というのも良いかもしれません。

ベテラン冒険者のノウハウというのもあるかもしれませんよ?」

ミレディ「私も、今の外の世界を知るのにちょうどいい機会だからいいと思う。」

オスカー『同感だ。急がば回れ、とも言うだろうからね。』

ハジメ「……それもそっか。よし、その依頼を受けるよ!」

 

俺は皆の意見に頷くとキャサリンさんに依頼を受ける事を伝える。

ユエの言う通り、七大迷宮の攻略には確固たる目的は無い。『急いては事を仕損じる』とも言うし、シアの言う様に冒険者独自のノウハウがあれば今後の旅でも何か役に立つ事があるかもしれない。

それにミレディとオスカーにとっては久々の外なのだ。十分満喫してもらいたい。

何より、世間の情勢を知ることも重要だ。あのクズのことだ。俺達を早速異端認定してくるに違いない。

そういった情報は早めに収集しておくに限るというものだ。

 

キャサリン「あいよ。先方には伝えとくから、明日の朝一で正面門に行っとくれ。」

ハジメ「分かった。」

俺が依頼書を受け取るのを確認すると、キャサリンがハジメの後ろのユエ達に目を向けた。

キャサリン「あんた達も体に気をつけて元気でおやりよ?この子に泣かされたら何時でも家においで。

あたしがぶん殴ってやるからね。」

ユエ「……ん、お世話になった。ありがとう。」

シア「はい、キャサリンさん。良くしてくれて有難うございました!」

ミレディ「ホントにありがとね!最初に来た町がここでよかったよ!」

 

キャサリンさんの人情味あふれる言葉に皆の頬も緩む。特にシアとミレディは嬉しそうだ。

この町に来てからとうもの自分が亜人族であるという事を忘れそうになる。勿論、全員が全員シアに対して友好的という訳では無いが、それでもキャサリンを筆頭にソーナやクリスタベル、ちょっと引いてしまうがファンだという人達はシアを亜人族という点で差別的扱いをしない。

土地柄か、それともそう言う人達が自然と流れ着く町なのか。

それはわからないが、いずれにしろシアにとっては故郷の樹海に近いくらい温かい場所であった。

ミレディとオスカーも、かつては"反逆者"として迫害されていたこともあって、こんなにも気分がいい旅は久しぶりなのだろう。

まぁ、異端認定されようとも、神山諸共教会を消し飛ばせばいいだけだ。

……この時の俺はそう思っていたが、まさかあんな事態が起こっていたなんてこと、俺には知る由もなかった。

 

キャサリン「あんたも、こんないい子達泣かせんじゃないよ?精一杯大事にしないと罰が当たるからね?」

ハジメ「勿論さ。俺にとって、仲間は大事な家族みたいなものだからね。

どんなことが起ころうとも、必ず大事にするさ。」

キャサリンさんの言葉に真摯で返した。

すると、キャサリンが一通の手紙を差し出す。片眉を上げてそれを受け取った。

ハジメ「これは?」

キャサリン「あんた達、色々厄介なもの抱えてそうだからね。町の連中が迷惑かけた詫びの様なものだよ。他の町でギルドと揉めた時は、その手紙をお偉いさんに見せな。少しは役に立つかもしれないからね。」

 

バッチリとウインクするキャサリンさんに、思わず苦笑する。

手紙一つでお偉いさんに影響を及ぼせるアンタは一体何者だ?という疑問がありありと表情に浮かんでいる。

キャサリン「おや、詮索は無しだよ?いい女に秘密はつきものさね。」

ハジメ「ハハハ、それもそうか。それじゃ、ありがたく受け取っておきます。」

キャサリン「素直でよろしい!色々あるだろうけど、死なない様にね。」

ハジメ「そう簡単に死ぬほど軟じゃないよ。それに、夢を叶えるまでは死にきれないさ。」

 

謎多き片田舎の町のギルド職員・キャサリンさん。

俺達はそんな彼女の愛嬌のある魅力的な笑みと共に送り出された。

その後、ハジメ達はクリスタベルさんの場所にも寄った。

ミレディにも素敵な服装を見繕ってもらったことも含めて、改めてお礼を言いに行った。

……若干オスカーが震えていたが、恐らく気のせいだろうな。

クリスタベルさんの俺を見つめる目が情熱に満ちているのもきっと気のせいだ。

だからそんな目で、俺の傍に近寄るなァ――!!!

 

そして最後の晩と聞き、三人そろって堂々と風呂場に乱入。

そして部屋に突撃を敢行したソーナちゃんがブチギレた母親に、亀甲縛りをされて一晩中宿の正面に吊るされるという事件の話も割愛だ。

何故母親が亀甲縛りを知っていたのかという話も割愛だ。




ここまで読んでいただき、ありがとうございます!
本来であれば、ホルアドリターンズまで第三章は描きたかったのですが、
どうせなら10章分のお話にしてみようと思い、変更致しました。

さて、何故トシが特訓に参加できなかったかというと、愛ちゃん先生の身の回りの管理が色々大変だったからです。
だって愛ちゃん先生は、食糧問題を一気に解決できる貴重な人材なんですよ?
そんな人が応対や身の回りのことでストレスを抱えていたら大変でしょう。
そこで我らがトシ君の出番なんです。
まぁ、ちょっとフェードアウトしますが、後からしっかり出てきますのでこうご期待!

そしてハジメさん、ここでも異名を持ってしまう。
きっとフューレンかウルでも、己につけられた二つ名を知って悶絶すること間違いなしでしょう。
それに加えて、ソウルシスターズの出現という………ハジメさんにとってのダブルパンチが来てしまいました。

後、ハジメさん達のパーティー名ですが、変な名前を付けられる前につけておこうと思いました。
ただ、これ考えるのには結構苦労しました。
何せ、ハジメさんにちなんでドイツ語にするか、オーマジオウにちなんでラテン語にするか、それとも無難に英語や日本語、大穴でイタリア語訳をそれぞれ考えるのには、流石に骨が折れました。
もし、こっちの名前がいいという方がいましたら、候補を上げて戴けると幸いです。

さて次回は、ハジメさん達初のお仕事!
果たして、何事も問題なくフューレンまでたどり着けるのか!?

宜しければ、高評価・コメント宜しくお願い致します。

追記:リースティアさん、晶彦さん、誤字報告ありがとうございました!

次回予告

中立商業都市【フューレン】へ向かうため、護衛依頼を受けることにしたハジメ達。
その道中、彼らは様々な出来事に巻き込まれることになるのであった。

ハジメ「次回、ありふれない錬成師は最高最善の魔王の力で世界最強を超越する。
「護衛任務 ハジメ一行は容赦しない」
最高最善の魔王に、俺はなる!」


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32.護衛任務 ハジメ一行は容赦しない

お待たせいたしました。
今回はフューレンまでの道中の様子について描いていきます。

フューレンまでの道のりを行く間、護衛任務を受けることにしたハジメ一行。
その道中、彼らは冒険者の常識や世間の噂について知ることに。
果たして、何事もなく依頼を達成できるのか!?

ゆったりめの第三章第二話、それではどうぞ!


翌日の早朝。

そんな愉快?なブルックの町民達を思い出にしながら、正面門にやって来た俺達を迎えたのは商隊の纏め役と他の護衛依頼を受けた冒険者達だった。

どうやら俺達が最後の様で、纏め役らしき人物と十四人の冒険者が、やって来た俺達を見て一斉にざわついた。

「お、おい、まさか残りの四人ってあの"ワイターズ"なのか!?」

「マジかよ!嬉しさと恐怖が一緒くたに襲ってくるんですけど!」

「見ろよ、俺の手。さっきから震えが止まらないんだぜ?」

「いや、それはお前がアル中だからだろ?」

 

ユエ達の登場に喜びを顕にする者、手の震えを俺達のせいにして仲間にツッコミを入れられる者など様々な反応だ。

俺が面白いものを見たような表情をしながら近寄ると、商隊の纏め役らしき人物が声をかけた。

???「君達が最後の護衛かね?」

ハジメ「ああ、これが依頼書だ。」

俺は、懐から取り出した依頼書を見せる。

それを確認して、纏め役の男性は納得した様に頷き自己紹介を始めた。

 

???「私の名はモットー・ユンケル。この商隊のリーダーをしている。

君達のランクは未だ青だそうだが、キャサリンさんからは大変優秀な冒険者と聞いている。

道中の護衛は期待させてもらうよ。」

ハジメ「……もっとユンケル?……商隊の長も大変なんだね……。」

日本の栄養ドリンクを思い出させる名前に、俺の眼が同情を帯びる。

何故そんな眼を向けられるのか分からないモットーさんは首を傾げながら、「まぁ、大変だが慣れたものだよ。」と苦笑い気味に返した。

まぁ、なんだかんだ面白そうな人だなぁ。

 

ハジメ「まぁさておき、期待は裏切らないよ。

俺はハジメ、こっちは俺の仲間達、ユエ、シア、ミレディだよ。」

モットー「それは頼もしいな……ところで、この兎人族……売るつもりはないかね?

それなりの値段を付けさせてもらうがッ!?」

モットーの視線が値踏みする様にシアを見てきた。兎人族で青みがかった白髪の超がつく美少女だ。

商人の性として、珍しい商品に口を出さずにはいられないという事か。首輪から奴隷と判断し、即行で所有者たる俺に売買交渉を持ちかけるあたり、きっと優秀な商人なのだろう。

 

だが、それはあまりにも危険な判断だった。何故なら―――

ハジメ「すいません、先程金で仲間を売れ、なんて趣旨の言葉が出てきたものなので、つい。」

―――それは、俺の逆鱗を踏み抜く言葉でもあったからだ。

モットー「ッ……!ど、どうやら随分と大切にされているようで……、割に合わない取引でしたな……。」

首筋手前に添えられた俺の威圧付き手刀が効いたのか、モットーはシアのことを諦めたようだ。

ハジメ「今回は初犯だから見逃します。でも、次はありません。

相手が神であろうとも触らせることすらさせないので。」

モットー「……私も耄碌したものだ。まさか、欲に目がくらんで龍の尻を蹴り飛ばすとは……。」

 

そう言うとモットーは、俺にもうじき出発する事と詳細はリーダーに聞くよう告げると、すごすごと下がり、商隊の方へ戻っていった。

正直、自分でも早とちりしすぎてしまったとは思うが、一回目で強く断っておかないと、後からしつこく寄ってきそうなタイプみたいだったから、ついやってしまった。

一般的な認識として樹海の外にいる亜人族とは即ち奴隷であり、珍しい奴隷の売買交渉を申し出るのは商人として当たり前の事なのは分かっている。

モットーが責められる謂れは無いのは確かだが、流石に露骨にそういった態度を出されてしまうと、条件反射でこちらも動いてしまうものなのだ。

 

因みに、"竜の尻を蹴り飛ばす"とはこの世界の諺で、竜とは竜人族を指すらしい。

彼等はその全身を覆う鱗で鉄壁の防御力を誇るが、目や口内を除けば唯一尻穴の付近に鱗が無く弱点となっているとのことだ。

防御力の高さ故に眠りが深く、一度眠ると余程の事が無い限り起きないのだが、弱点の尻を刺激されると一発で目を覚まし烈火の如く怒り狂うという。

昔何を思ったのか、それを実行して叩き潰された阿呆がいたとか。

そこから因んで、手を出さなければ無害な相手に態々手を出して返り討ちに遭う愚か者という意味で伝わる様になったという。

 

尚、竜人族は、五百年以上前に滅びたとされている。

理由は定かではないが、彼等が"竜化"という固有魔法を使えた事が魔物と人の境界線を曖昧にし、差別的排除を受けたとか、半端者として神により淘汰されたとか、色々な説がある。

まぁ、どうせあのクズ野郎のことだ。碌な理由じゃないのは確かだ。ホント要らないことしかしねぇな。

ま、そんなどうでもいいことはおいといて、だ。

 

流石にやり過ぎたかな?と思っていた俺だが、周囲が再びざわついている事に気がついた。

「すげぇ……女一人の為に、あそこまで言うか……痺れるぜ!」

「流石、無双覇王と言ったところか。自分の女に手を出すやつには容赦しない……ふっ、漢だぜ。」

「いいわねぇ~、私も一度くらい言われてみたいわ❤️」

「いや、お前男だろ?誰がそんな事……ッあ、すまん、謝るからっやめっアッーーー♂!!」

 

……ここまで好評だと、一周回って逆に恥ずかしい。

ハジメ「あ~、その、なんだ。え~と……。」

ユエ「ん。今のはカッコよかった。」

シア「私も嬉しかったですぅ!」

ミレディ「うんうん。それに堂々と奴への敵対宣言までしていたからね!」

オスカー『ハハハ、流石は魔王で僕の弟子だ。レディへのマナーを良くわきまえている。』

ハジメ「……やめておくれ。このパターンはかえって恥ずかしくなるものなんだ……。」

 

そんな雰囲気の俺をよそに、右にユエ、左にミレディ、後ろからシアが抱き着いてくる。

早朝の正門前、多数の人間がいる中で、背中に幸せそうなウサミミ美少女をはりつけ、両手には金髪美女を二人も侍らせる俺。

商隊の女性陣は生暖かい眼差しで、男性陣は死んだ魚の様な眼差しでその光景を見つめる。

俺に突き刺さる煩わしい視線や言葉は、きっと自業自得である。正直何も言い返せねぇ……。

 


 

ブルックの町から中立商業都市【フューレン】までは馬車で約六日の距離だ。

日の出前に出発し、日が沈む前に野営の準備に入る。それを繰り返す事三回。

俺達は、フューレンまで三日の位置まで来ていた。道程はあと半分だ。

ここまで特に何事もなく順調に進んで来た。俺達は隊の後方を預かっているが、実に長閑なものだと思う。

 

この日も、特に何もないまま野営の準備となった。

冒険者達の食事関係は自腹だ。

周囲を警戒しながらの食事なので、商隊の人々としては一緒に食べても落ち着かないのだろう。

別々に食べるのは暗黙のルールになっている様だ。

そして、冒険者達も任務中は酷く簡易な食事で済ませてしまう。

ある程度凝った食事を準備すると、それだけで荷物が増えていざという時邪魔になるからなのだという。

代わりに、町に着いて報酬をもらったら即行で美味いものを腹一杯食うのがセオリーなのだとか。

そんな話を、この二日の食事の時間に俺達は他の冒険者達から聞いていた。

 

俺達が用意した豪勢且つ上品な食事に舌を踊らせながら。

「カッーー、うめぇ!ホント美味いわぁ~、流石旦那!もう俺を家来にしてくれよ!」

「ガツッガツッ、ゴクンッ、ぷはっ、てめぇ、何抜け駆けしてやがる!旦那、俺の方が役に立つぜ!」

「はっ、お前みたいな雑魚が何言ってんだ?身の程を弁えろ。

ところで旦那、シアちゃんも。町についたら一緒に食事でもどう?勿論俺のおごりで。」

「な、なら、俺はユエちゃんだ!旦那、ユエちゃん、俺と食事に!」

「ミレディちゃんのスプーン……ハァハァ。」

 

うまうまと俺やシアが調理したシチュー擬きを次々と胃に収めていく冒険者達。

初日に、彼等が干し肉や乾パンの様な携帯食をもそもそ食べている横で、普通に宝物庫から取り出した食器と材料を使い料理を始めた俺達。

いい匂いを漂わせる料理に自然と視線が吸い寄せられ、俺達が熱々の食事をハフハフしながら食べる頃には全冒険者が涎を滝の様に流しながら血走った目で凝視するという事態になり、物凄く居心地が悪くなったシアがお裾分けを提案した結果、今の状態になった。

 

当初、飢えた犬の如き彼等を前に、俺も彼等に倣って携帯食を食べるつもりだった。

しかしシアやミレディを仲間に加えてから、俺は育ち盛りの女子二人を抱えいつまでも自分の趣味で粗雑な食事に付き合わせるのもどうかと思った。

そこで俺は、遅ればせながら歓迎の意味も兼ねて自分で料理を振舞う事にしたのだ。

幸い、俺の料理スキルは自前の腕に加えて、先達のヘルズキッチンの教えも取り込んでいる。

それに、調味料という料理のパーツも揃った今、俺にできない料理はない。

そこへ物欲しそうな冒険者達の姿が目に入り、これから六日も顔を会わせるのだから縁を作るのも悪くないかと卓に招いたのだ。

 

それからというもの。

冒険者達がこぞって食事の時間にはハイエナの如く群がってくるのだが、最初は恐縮していた彼等も次第に調子に乗り始め、事ある毎にユエ達を軽く口説く様になり、俺に雇ってくれとアピールする様になったのである。

ハジメ「どれだけ食べてもいいけど……あんまり調子に乗るようなら、刻むよ?」

ぎゃーぎゃー騒ぐ冒険者達に、俺は白紙に滲む墨汁の様にポツリと呟く。

熱々の料理で体の芯まで温まった筈なのに、一瞬で芯まで冷えた冒険者達は蒼褪めた表情でガクブルし始める。

俺は口の中の肉を飲み込むと皿に向けていた視線をゆっくり上げ、やたら響く声で言った。

ハジメ「黙って食事を続ける?それとも、俺の腹の中で最後の晩餐でも迎える?」

「「「「「調子に乗ってすんませんっしたー!!!!!」」」」」

 

見事なハモリとシンクロした土下座で即座に謝罪する冒険者達。

自分の連れを褒められるのは嬉しいが、流石にしつこいのなら話は別だ。

彼等も流石に俺を敵に回すことは避けたいようだ。

命知らずでありながら、何よりも生に貪欲であり死に敏感なのか、俺の脅しの意味を正確に理解したようだ。

 

シア「もう、ハジメさん。折角の食事の時間なんですから、少し騒ぐ位いいじゃないですか。

そ、それに……誰がなんと言おうと、わ、私はハジメさんのものですよ?」

ハジメ「当たり前……いや、違うな。俺の"物"ではない、俺の"人"だ。」

シア「はぅ!?」

正直、自分でもクサいセリフだと思うが、これくらいは言っておくのが男の筋ってもんだろう。

そんなことを思っていた矢先だ。

 

シア「……あ~ん。」

シアが頬を染めながら上手に焼けた串焼き肉を、俺の口元に差し出す。これは、アレか。

恋人同士でやるあ~ん、か。一体どこでこんなことを覚えて来たのか。イケない子だ。

ってユエもミレディもかい。オスカー、そんな目で見るんじゃあない。

いつかカッコイイゴーレム作ってあげるから。

冒険者達の視線を感じながら、俺は溜息を吐くとシアに向き直り口を開けた。シアの表情が喜色に染まる。

シア「あ~ん。」

ハジメ「ん…。」モグモグ

差し出された肉をパクッと加えると無言で咀嚼する俺。シアはほわぁ~んとした表情で俺を見つめている。と、今度は反対側からも串焼き肉が差し出された。

 

ユエ「……あ~ん。」

ハジメ「ん……。」

再びパクッと咀嚼。するとミレディも串焼き肉を差し出してきた。

ミレディ「はい、あ~ん♪」

ハジメ「ん……ムグゥ……。」

また、反対側からシアが「あ~ん♪」パクッ。ユエが「あ~ん♪」パクッ。ミレディが「あ~ん♪」パクッ。

……周囲の目が痛い。「頼むから爆発して下さい!!」とでも言っているかのようだった。

ちょっと申し訳なく思っていたが、直ぐに忘れて目の前の肉にかぶりついた。うん、美味い!

 


 

それから二日。残す道程があと一日に迫った頃、遂にのどかな旅路を壊す無粋な襲撃者が現れた。

最初にそれに気がついたのはシアだ。

街道沿いの森の方へウサミミを向けピコピコと動かすと、のほほんとした表情を一気に引き締めて警告を発した。

 

シア「敵襲です!数は100以上、森の中から来ます!」

その警告を聞いて、冒険者達の間に一気に緊張が走る。

現在通っている街道は、森に隣接してはいるがそこまで危険な場所ではない。

何せ、大陸一の商業都市へのルートなのだ。道中の安全はそれなりに確保されている。

なので魔物に遭遇する話はよく聞くが、せいぜい20体前後、多くても40体くらいが限度の筈なのだ。

???「くそっ、百以上だと?最近、襲われた話を聞かなかったのは勢力を溜め込んでいたからなのか?

ったく、街道の異変くらい調査しとけよ!」

 

護衛隊のリーダーであるガリティマという人が、そう悪態をつきながら苦い表情をする。

商隊の護衛は、全部で15人。ユエ達を入れても18人だ。この人数で、商隊を無傷で守りきるのはかなり難しい。単純に物量で押し切られるからだ。

まぁ、俺等が本気で行けば速攻で終わらせることのできるレベルだが。

因みに、温厚の代名詞である兎人族であるシアを自然と戦力に勘定しているのは、【ブルックの町】で「シアちゃんの奴隷になり隊」の一部過激派による行動にキレたシアが、その拳一つで湧き出る変態達を吹き飛ばしたという出来事が、畏怖と共に冒険者達に知れ渡っているからだ。

本来なら俺がしばき倒してやろうとしていたが、シアが自ら修業の成果という形で名乗り出たので、試しにやらせてみた結果がこれなのだ。

さて、それは置いといて。今はまず、撃退をしなければ。

 

ハジメ「俺らが片付けようか?」

ガリティマ「えっ?」

正直、この程度じゃおつかいレベルだ。

しかし、ガリティマは俺の提案の意味を掴みあぐねて、つい間抜けな声で聞き返した。

ハジメ「だからさ、敵が多すぎるんでしょ?それなら俺達が相手するって言ったんだけど?」

ガリティマ「い、いや、それは確かに、このままでは商隊を無傷で守るのは難しいのだが……

えっと、出来るのか?この辺りに出現する魔物はそれ程強い訳では無いが、数が……。」

ハジメ「舐められてもらっちゃあ困るな。数なんてどうでもいい、すぐ終わらせるよ。ユエがね?」

俺はそう言って、すぐ横に佇むユエの肩にポンッと手を置いた。

ユエも特に気負った様子も見せずに、そんな仕事ベリーイージーですと言わんばかりに「ん…。」と返事をした。

 

ガリティマさんは少し悩んでいたようだが、どうやら作戦は決まったようだ。

ガリティマ「わかった。初撃はユエちゃんに任せよう。

仮に殲滅できなくても数を相当数減らしてくれるなら問題ない。

我々の魔法で更に減らし、最後は直接叩けばいい。皆、わかったな!」

「「「「了解!」」」」

ガリティマさんの判断に他の冒険者達が気迫を込めた声で応えた。

どうやら、ユエ一人で殲滅出来るという話はあまり信じられていないらしい。

俺は内心「そんな心配はいらないけどね。」と思いながら、百体以上の魔物を一撃で殲滅出来る様な魔術士がそうそういないというこの世界の常識からすれば、彼等の判断も仕方ないかと肩を竦めた。

 

冒険者達が、商隊の前に陣取り隊列を組む。緊張感を漂わせながらも、覚悟を決めた良い顔つきだ。

食事中などのふざけた雰囲気は微塵もない。

道中ベテラン冒険者としての様々な話を聞いたのだが、こういう姿を見ると成程、ベテランというに相応しいと頷かされる。

商隊の人々はかなりの規模の魔物の群れと聞いて怯えた様子で、馬車の影から顔を覗かせている。

俺達は、商隊の馬車の屋根の上だ。

 

ハジメ「ユエ、一応詠唱しておいて。後々面倒になるから。」

ユエ「……詠唱……詠唱……?」

ミレディ「……ユエ姉、もしかして聞いたことない?」

ユエ「……大丈夫、問題ない。」

ハジメ「……そう。」

シア「接敵、十秒前ですよ~。」

周囲に追及されるのも面倒なのでユエに詠唱をしておく様に告げる俺だったが、ユエの方は元々詠唱が不要だったせいか頭に“?”を浮かべている。

無ければ無いで、小声で唱えていたとでもすればいいので大した問題ではないのだが、返された言葉に俺が溜息を吐いた。

そうこうしている内に、シアから報告が入る。

ユエは、右手をスっと森に向けて掲げると、透き通る様な声で詠唱を始めた。

 

ユエ「彼の者、常闇に紅き光を齎さん、古の牢獄を打ち砕き、障碍の尽くを退けん、

最強の片割れたるこの力、彼の者と共にありて、天すら呑み込む光となれ、"雷龍"!」

ユエの詠唱が終わり、魔術のトリガーが引かれた。

その瞬間、詠唱の途中から立ち込めた暗雲より雷で出来た龍が現れた。どちらかと言えば、大雷蛇に近い。

「な、何だあれ……。」

それは誰が呟いた言葉だったのか。

目の前に魔物の群れがいるにも拘らず、誰もが暗示でも掛けられた様に天を仰ぎ激しく放電する雷龍の異様を凝視している。

護衛隊にいた魔術に精通している筈の後衛組すら、見た事も聞いた事も無い魔術に口をパクパクさせて呆けていた。

 

そして、それは何も味方だけの事ではなかった。

森の中から獲物を喰らいつくそうと殺意にまみれてやって来た魔物達も商隊と森の中間あたりの場所で立ち止まり、うねりながら天より自分達を睥睨する巨大な雷龍に、まるで蛇に睨まれた蛙の如く射竦められて硬直していた。

そして、天より齎される裁きの如く、ユエの細く綺麗な指に合わせて、天すら呑み込むと詠われた雷龍は魔物達へとその顎門を開き襲いかかった。

 

ゴォガァアアア!!!

「うわっ!?」

「どわぁあ!?」

「きゃぁあああ!!」

雷龍が凄まじい轟音を迸らせながら大口を開くと、何とその場にいた魔物の尽くが自らその顎門へと飛び込んでいく。そして、一瞬の抵抗も許されずに雷の顎門に滅却され消えていった。

更にはユエの指揮に従い、雷龍は魔物達の周囲を蜷局を巻いて包囲する。

逃走中の魔物が突然眼前に現れた雷撃の壁に突っ込み塵となった。逃げ場を失くした魔物達の頭上で再び、落雷の轟音を響かせながら雷龍が顎門を開くと、魔物達はやはり自ら死を選ぶ様に飛び込んでいき、苦痛を感じる暇も無く荘厳さすら感じさせる龍の偉容を最後の光景に意識も肉体も一緒くたに塵へと還された。

雷龍は全ての魔物を呑み込むと最後にもう一度、落雷の如き雄叫びを上げて霧散した。

 

隊列を組んでいた冒険者達や商隊の人々が轟音と閃光、そして激震に思わず悲鳴を上げながら身を竦める。漸くその身を襲う畏怖にも似た感情と衝撃が過ぎ去り、薄ら目を開けて前方の様子を見ると……

そこにはもう何も無かった。

敢えて言うなら蜷局状に焼け爛れて炭化した大地だけが、先の非現実的な光景が確かに起きた事実であると証明していた。

ユエ「……ん、やりすぎた。」

ハジメ「お~、なんか見たことない魔法だな。合成魔法かな?」

シア「ユエさんのオリジナルらしいですよ?

ハジメさんから聞いた龍の話と例の魔法を組み合わせたものらしいです。」

ミレディ「ふっふーん、どう?ミレディさんの授業の成果は?」

ハジメ「元より文句なしの実力だよ。ところで、さっきの詠唱は?」

ユエ「ん……出会いと、未来を詠ってみた。」

ハジメ「……壮大な計画が立てられていそうだなぁ。」

 

無表情ながらドヤァ!という雰囲気で俺を見るユエ。

我ながらいい出来栄えだったという自負があるのだろう。

俺は、苦笑いしながら優しい手付きでユエの髪をそっと撫でた。

わざわざ詠唱させて、面倒事を避けようとしたことが全くの無意味だったが、自慢気なユエを見ていると注意する気も失せた。

 

ユエのオリジナル魔術"雷龍"。

これは"雷槌"という空に暗雲を創り極大の雷を降らせるという上級魔術と重力魔術の複合魔術である。本来落ちるだけの雷を重力魔術により纏めて、任意でコントロールする。

この雷龍は、口の部分が重力場になっていて、顎門を開く事で対象を引き寄せる事が出来る。

魔物達が自ら飛び込んでいた様に見えたのはそのせいだ。

魔力量は上級程度にも関わらず威力は最上級レベルであり、ユエの表情を見ても自慢の逸品のようだ。

態々俺から聞いたことのある龍を形作っている点が何ともユエの魔法に対するセンスを感じさせる。

 

と、焼け爛れた大地を呆然と見ていた冒険者達が我に返り始めた。

そして、猛烈な勢いで振り向き俺達を凝視すると一斉に騒ぎ始める。

「おいおいおいおいおい、何なのあれ?何なんですか、あれっ!」

「へ、変な生き物が……空に、空に……あっ、夢か。」

「へへ、俺、町についたら結婚するんだ。」

「動揺してるのは分かったから落ち着け。お前には恋人どころか女友達すらいないだろうが。」

「魔法だって生きてるんだ!変な生き物になってもおかしくない!だから俺もおかしくない!」

「いや、魔法に生死は関係ないからな?明らかに異常事態だからな?」

「なにぃ!? てめぇ、ユエちゃんが異常だとでもいうのか!? アァン!?」

「落ち着けお前等!いいか、ユエちゃんは女神。これで全ての説明がつく!」

「「「「成程!」」」」

 

ダメだコイツら……完全に壊れていやがる……。まぁ、気持ちは分からなくもない。

それ程ユエの魔術が衝撃的過ぎたのだ。

何せ、既存の魔術に何らかの生き物を形取ったものなど存在しないのだ。

まして、それを自在に操るなど国お抱えの魔法使いでも不可能だろう。

雷を落とす"雷槌"を行使出来るだけでも超一流と言われるのだから。

壊れて「ユエ様万歳!」とか言い出した冒険者達の中で唯一真面なリーダー・ガリティマさんは、そんな仲間達を見て盛大に溜息を吐くと俺達の下へやって来た。

 

ガリティマさん「はぁ……まずは礼を言う。ユエちゃんのお陰で被害ゼロで切り抜ける事が出来た。」

ハジメ「なぁに、気にしなくていさ。今は仕事仲間なんだし。」

ユエ「……ん、仕事しただけ。」

ガリティマさん「はは、そうか……で、だ。さっきのは何だ?」

ガリティマさんが困惑を隠せずに尋ねる。どうやら、気になっていたようだ。

ユエ「……オリジナル。」

ガリティマさん「オ、オリジナル?自分で創った魔法って事か?上級魔法、いや、もしかしたら最上級を?」

ユエ「……創ってない。複合魔法。」

ガリティマさん「複合魔法?だが、一体何と何を組み合わせればあんな……。」

ユエ「……それは秘密。」

ガリティマさん「ッ……それは…まぁ、そうだろうな。

切り札のタネを簡単に明かす冒険者などいないしな……。」

 

深い溜息と共に、追及を諦めたガリティマさん。ベテラン冒険者なだけに暗黙のルールには敏感らしい。

肩を竦めると、壊れた仲間を正気に戻しにかかった。

このままでは"ユエ教"なんて新興宗教が生まれかねないので、ガリティマさんには是非とも頑張ってもらいたい等と他人事の様に考える俺。

流石にユエには、俺と同じ目に合っては欲しくないからなぁ……。

商隊の人々の畏怖と尊敬の混じった視線をチラチラと受けながら、一行は歩みを再開した。

 


 

ユエが全ての商隊の人々と冒険者達の度肝を抜いた日以降は特に何事もなく、俺達は遂に【中立商業都市フューレン】に到着した。

フューレンの東門には六つの入場受付があり、そこで持ち込み品のチェックをするそうだ。

俺達もその内の一つの列に並んでいた。順番が来るまで暫くかかりそうである。

馬車の屋根でユエとミレディを膝枕して、シアを侍らせながら座り込んでいた俺の下にモットーがやって来た。

何やら話がある様だ。

若干呆れ気味に俺を見上げるモットーに軽く頷いて、屋根から飛び降りた。

モットー「まったく豪胆ですな。周囲の目が気になりませんかな?」

モットーの言う周囲の目とは、毎度お馴染みの俺に対する嫉妬と羨望の目、そしてユエ達に対する感嘆と厭らしさを含んだ目だ。

それに加えて今は、シアに対する値踏みする様な視線も増えている。

流石大都市の玄関口、様々な人間が集まる場所ではユエもシアも単純な好色の目だけでなく、利益も絡んだ注目を受けている様だ。

 

ハジメ「有象無象の反応なんてどうでもいい。言いたいことがあるならさっさと言ったらどうなの?」

そう俺が言い切ると、モットーは苦笑いだ。

モットー「いやなに、売買交渉ですよ。貴方達のもつアーティファクト、やはり譲ってはもらえませんか?

商会に来ていただければ公証人立会の下、一生遊んで暮らせるだけの金額をお支払いしますよ?

貴方のアーティファクト、特に"宝物庫"は、商人にとっては喉から手が出る程手に入れたいものですからな。」

"喉から手が出る程"ねぇ……。そう言いながらもモットーの笑っていない眼をみれば"殺してでも"という表現の方がぴったりと当て嵌まりそうだ。

商人にとって常に頭の痛い懸案事項である"商品の安全確実で低コストの大量輸送"という問題が一気に解決するのだ。

無理もないだろう。

野営中に宝物庫から色々取り出している光景を見た時のモットーの表情と言ったら、砂漠を何十日も彷徨い続け死ぬ寸前でオアシスを見つけた遭難者の様な表情だった。

 

ハジメ「う~ん、宝物庫に関しては、今はまだ無理かな?他のも量産体制がないから無理だし。」

モットー「……そうですか。それは残念で「でもまぁ、そうだね。」?」

ハジメ「あんたの今後の行動次第じゃあ、いくつかあげてもいいかな?

宝物庫も、アンカジで必要な物が揃ったら、作れそうだし。

その時なら商談は乗ってやってもいいかも。一応考えておくだけだけど。」

モットー「!……何卒、良しなに。」

そういうと気を良くしたのか、モットーは意外な忠告をしてきた。

 

モットー「そう言えば、ユエ殿のあの魔法も竜を模したものでしたな。

詫びと言ってはなんですが、あれが竜であるとはあまり知られぬがいいでしょう。

竜人族は、教会からはよく思われていませんからな。

まぁ、竜というより蛇という方が近いので大丈夫でしょうが。」

ハジメ「ほぅ?」

中々豪胆な人物だ。いや、神経が図太いと言った方がいいのだろうか。

モットー「人にも魔物にも成れる半端者、なのに恐ろしく強い。

そして、どの神も信仰していなかった不信心者。

これだけあれば、教会の権威主義者には面白くない存在というのも頷けるでしょう。」

ハジメ「成程……しかし随分な言い様だね、不信心者と思われるよ?」

 

モットー「私が信仰しているのは神であって、権威を笠に着る"人"ではありません。

人は"客"ですな。」

ハジメ「ハハハ、そりゃあ言えているね。アンタ、根っからの商人だな?

道理で、コイツを見て暴走するのも頷けるよ。」

モットー「以前はとんだ失態を晒しましたが、ご入り用の際は我が商会を是非ご贔屓に。

貴方は普通の冒険者とは違う。

特異な人間とは繋がりを持っておきたいので、それなりに勉強させてもらいますよ。」

ハジメ「……商魂ここに極まれり、だねぇ。

ま、調味料とか女性用生活用品を多めに、後できれば海の幸、それもできるだけ新鮮なものをお願い。

俺は過酷な環境下で生きる術を身に着けているけど、彼女たちにはそこまで辛い思いをしてほしくないからさ……ね?」

モットー「ハハハ、最初に欲するのが食糧の類なあたり、他とは何もかもが違うようだ。」

そう笑いながら、「では、失礼しました。」と踵を返し前列へ戻っていくモットー。

 

ハジメ「……さてと。」

そこで俺は、周囲に目を向ける。

ユエ達には未だ、寧ろより強い視線が集まっている。

モットーの背を追えば、早速何処ぞの商人風の男がユエ達を指差しながら何かを話しかけている。

物見遊山的な気持ちで立ち寄ったフューレンだが、どうやら思っていた以上に波乱が待っていそうだ。




ここまで読んでいただき、ありがとうございました!

流れとしてはほぼ原作通りですが、モットーへの釘差しが早めになっています。
さて次回は、フューレン到着後からギルド長の依頼を受ける所まで行きます。
是非お楽しみに!

追記:リースティアさん、毎度の誤字報告ありがとうございます!

次回予告

ハジメ「遂に目的のフューレンに辿りついたハジメ一行。
そこでも案の定トラブルに巻き込まれ、意外な展開に!?
「トラブル続出!?中立商業都市フューレン」
次回も、楽しさてんこ盛りだよ!」


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33.トラブル続出!?中立商業都市フューレン

お待たせいたしました。
今回は初めてのフューレンでの出来事です。
家畜野郎と黒の傭兵との激突、そして、ギルド支部長からの依頼とは!?

今回も急展開の第三章第三話、それではどうぞ!


【中立商業都市フューレン】

高さ20m、長さ200kmの外壁で囲まれた大陸一の商業都市だ。

あらゆる業種がこの都市で日々鎬を削り合っており、夢を叶え成功を収める者もいれば、あっさり無一文となって悄然と出て行く者も多くいるらしい。

観光で訪れる者や取引に訪れる者等出入りの激しさでも大陸一と言えるだろう。

その巨大さからフューレンは四つのエリアに分かれている。

 

この都市における様々な手続関係の施設が集まっている中央区、娯楽施設が集まった観光区、武器防具は勿論家具類等を生産・直販している職人区、あらゆる業種の店が並ぶ商業区がそれだ。

東西南北にそれぞれ中央区に続くメインストリートがあり、中心部に近い程信用のある店が多いというのが常識らしい。

メインストリートからも中央区からも遠い場所は、かなり阿漕でブラックな商売、言い換えれば闇市的な店が多いとのことだ。

その分、時々とんでもない掘り出し物が出たりするので、冒険者や傭兵の様な荒事に慣れている者達がよく出入りしている様だ。

ちょっぴり興味はあるが、奴を消してからだな。

 

そんな話を、中央区の一角にある冒険者ギルド

──フューレン支部内にあるカフェで軽食を食べながら聞く俺達。

話しているのは"案内人"と呼ばれる職業の女性だ。

都市が巨大である為需要が多く、案内人というのはそれなりに社会的地位のある職業らしい。

多くの案内屋が日々顧客獲得の為サービスの向上に努めているので信用度も高い。とのことだ。

 

俺達はモットー率いる商隊と別れると、証印を受けた依頼書を持って冒険者ギルドにやって来た。

そして宿を取ろうにも何処にどんな店があるのかさっぱりなので、冒険者ギルドでガイドブックを貰おうとしたところ案内人の存在を教えられたのだ。

そして現在、案内人の女性

──リシーと名乗った女性に料金を支払い、軽食を共にしながら都市の基本事項を聞いていたのである。

 

リシー「そういう訳なので、一先ず宿をお取りになりたいのでしたら観光区へ行く事をオススメしますわ。中央区にも宿はありますが、やはり中央区で働く方々の仮眠場所という傾向が強いので、サービスは観光区のそれとは比べ物になりませんから。」

ハジメ「成程ね、なら素直に観光区の宿にしておこう。どこか贔屓の宿はありませんか?」

リシー「お客様のご要望次第ですわ。様々な種類の宿が数多くございますから。」

ハジメ「そっか、じゃあそうだねぇ……食事が美味く、後は風呂があればいいかな。

立地は考慮しなくていい、後は……責任の所在が明確な場所がいいな。」

リシーは、にこやかに俺の要望を聞く。

最初の二つはよく出される要望なのだろう、「うんうん。」と頷き早速脳内でオススメの宿をリストアップした様だ。

しかし、続く俺の言葉で「ん?」と首を傾げた。

 

リシー「あの~、責任の所在ですか?」

ハジメ「あぁ。

例えば、何らかの争い事に巻き込まれたとして、こちらが完全に被害者だった時に"宿内での損害について誰が責任を持つのか"、という事だね。」

リシー「え~と、そうそう巻き込まれる事は無いと思いますが……。」

困惑するリシーに俺は苦笑いする。

ハジメ「まぁ普通はそうなんだけど、連れの子達が目立つからね。

観光区なんで羽目を外す輩も多そうだからね、商人根性の逞しい者が強行に出ないとも限らないし。

まぁあくまで"出来れば"だよ。難しければ考慮しなくていいし。」

 

俺の言葉に、リシーは俺の近くに座りうまうまと軽食を食べるユエ達に視線をやる。

そして納得した様に頷いた。確かに、この美少女三人は目立つ。

現に今も、周囲の視線をかなり集めている。特に、シアの方は兎人族だ。

他人の奴隷に手を出すのは犯罪だが、しつこい交渉を持ちかける商人や羽目を外して暴走する輩がいないとは言えない。

 

リシー「しかし、それなら警備が厳重な宿でいいのでは?

そういう事に気を使う方も多いですし、いい宿をご紹介できますが……。」

ハジメ「う~ん、それでもいいけど、欲望に目が眩んだ奴等は、時々とんでもない事をするからねぇ。

警備も絶対でない以上は最初から物理的説得を考慮した方が早いんだよ。」

リシー「ぶ、物理的説得ですか……成程、それで責任の所在なわけですか。」

完全に俺の意図を理解したリシーは、あくまで"出来れば"でいいと言う俺に、案内人根性が疼いた様だ、やる気に満ちた表情で「お任せ下さい。」と了承する。

そしてユエ達の方に視線を転じ、三人にも要望が無いかを聞いた。

出来るだけ客のニーズに応えようとする点、リシーも彼女の所属する案内屋もきっと当たりなのだろう。

 

ユエ「……お風呂があればいい、但し混浴、貸切が必須。」

シア「えっと、大きなベッドがいいです。」

ミレディ「それと防音や覗き対策もあったらいいな。前の宿で色々あったし……。」

少し考えて、それぞれの要望を伝えるユエ達。

なんて事無い要望だが、ユエが付け足した条件とシアとミレディの要望を組み合わせると、自然ととある意図が透けて見える。

リシーも察した様で、「承知しましたわ、お任せ下さい。」とすまし顔で了承するが、頬が僅かに赤くなっている。

そしてチラッチラッと俺とユエ達を交互に見ると更に頬を染めた。

別にそんな考えはないんだが……。どこの場所でもむっつりはいるんか。

 

因みに、すぐ近くのテーブルで屯していた男連中が「視線で人が殺せたら!」と云わんばかりに俺を睨んでいたが、チラッと視線を向けると、皆借りてきた猫の様に大人しくなった。

それから他の区について話を聞いていると、俺達は不意に強い視線を感じた。

特に、ユエ達に対しては今までで一番不躾で、ねっとりとした粘着質な視線が向けられている。

視線など既に気にしないユエ達だが、あまりに気持ち悪い視線に僅かに眉を顰める。

俺がチラリとその視線の先を辿ると……豚がいた。

 

体重が軽く100kgは超えていそうな肥えた体に、脂ぎった顔、豚鼻と頭部にちょこんと乗っているベットリした金髪。

身なりだけは良い様で、遠目にも分かるいい服を着ている。

その豚がユエ達を欲望に濁った瞳で凝視していた。

俺が「うぜぇ……。」と思うと同時に、その豚は重そうな体をゆっさゆっさと揺すりながら真っ直ぐ俺達の方へ近寄ってくる。

丁度いい。周りの奴等にも叩き込んでやるか、俺の常識って奴を。

 

リシーも不穏な気配に気が付いたのか、それとも豚が目立つのか、傲慢な態度でやって来る豚に営業スマイルも忘れて「げっ!」と何ともはしたない声を上げた。

豚は俺達のテーブルのすぐ傍までやって来ると、ニヤついた目でユエ達をジロジロと見やり、シアの首輪を見て不快そうに目を細めた。

そして今まで一度も目を向けなかった俺にさも今気がついた様な素振りを見せると、これまた随分と傲慢な態度で一方的な要求をした。

 

豚「お、おい、ガキ。ひゃ、100万ルタやる。

この兎を、わ、渡「ア゛ァ゛!?」!?ヒィッ⁉」

ドモリ気味のキィキィ声でそう告げてきた豚を威圧する。

それと同時に、その場に凄絶な殺意が降り注いだ。

周囲のテーブルにいた者達ですら顔を青褪めさせて椅子からひっくり返り、誰一人例外無く気絶している。

直接その圧を受けた豚は、情けない悲鳴を上げると尻餅をつき、後退る事も出来ずにその場で股間を濡らし始めた。

序にどうやら心臓も止まったらしく、数秒痙攣した後に脈拍と呼吸の音が途絶えていた。

 

ハジメ「場所を変えるか。ここは臭くてたまらん。」

汚い液体が漏れ出しているので、俺は皆に声をかけて席を立つ。

本当は即ぶっ殺したかったのだが、流石に声を掛けただけで殺されたとあっては、俺の方が加害者だ。

殺人犯を放置する程都市の警備は甘くないだろう。なので圧も甘めにした。

まぁその度に目撃者ごと消すなり記憶だけ消すなりしてもいいのだが、基本的に手間が掛かる。

今後正当防衛という言い訳が通りそうにない限り、都市内においては殺しを工夫しなければと俺は考えていた。

 

席を立つ俺達に、リシーが「えっ?えっ?」と混乱気味に目を瞬かせた。

リシーが俺の殺気の効果範囲にいても平気そうなのは、単純にリシーだけ"威圧"の対象外にしたからだ。

リシーからすれば、豚が勝手な事を言い出したと思ったら、いきなり尻餅をついて泡を吹き股間を漏らし始め、序にビクビクと痙攣しだしたのだから混乱するのは当然だろう。

因みに、周囲にまで威圧をぶつけたのは態とだ。

目撃者を無くす為もあるが、周囲の者達もそれなりに鬱陶しい視線を向けていたので、序に理解させておいたのだ。

"手を出すなよ?"と。周囲の男連中が気絶したところから判断するに、実力的に無用だった様だが。

 

だが直後、今まで建物の外にいた大男が俺達の進路を塞ぐ様な位置取りに移動し仁王立ちした。

あの豚とは違う意味で100kgはありそうな巨体だ。

全身筋肉の塊で腰に長剣を差しており、歴戦の戦士といった風貌だ。

その巨体が目に入ったのか、いつの間にか息を吹き返した豚が再びキィキィ声で喚きだした。

 

豚「そ、そうだ、レガニド!そのクソガキを殺せ!わ、私を殺そうとしたのだ!嬲り殺せぇ!」

???「坊ちゃん、流石に殺すのはヤバイですぜ。半殺し位にしときましょうや。」

豚「やれぇ!い、いいからやれぇ!お、女は、傷つけるな!私のだぁ!」

???「了解ですぜ。報酬は弾んで下さいよ。」

豚「い、いくらでもやる!さっさとやれぇ!」

どうやらレガニドと呼ばれた巨漢は、豚の雇われ護衛らしい。

俺から目を逸らさずに豚と話し、報酬の約束をするとニンマリと笑った。

珍しい事にユエ達は眼中にないらしい。見向きもせずに貰える報酬にニヤついている様だ。

所謂守銭奴にカテゴリーされる部類の人間らしい。

 

ならず者「おう坊主、わりぃな。俺の金の為にちょっと半殺しになってくれや。なに、殺しはしねぇよ。まぁ嬢ちゃん達の方は……諦めてくれ。」

ならず者はそう言うと、拳を構えた。長剣の方は、流石に場所が場所だけに使わない様だ。

それに加えて、闘気も噴き上がる。どっちもどっちで鬱陶しいなぁ……。

そう思って消し飛ばそうと腕を上げた瞬間、意外な場所から制止の声がかかった。

 

ユエ「……ハジメ、待って。」

ハジメ「?どうしたのユエ?」

ユエはシアとミレディを連れて行くと、俺の疑問に答える前に俺とならず者の間に割って入った。

訝しそうな俺とならず者に、ユエは背を向けたまま答える。

ユエ「……私達が相手をする。」

シア「えっ?ユエさん、私達もですか?」

ミレディ「まぁ、そうなるよね。」 

シアの質問に対し、ユエの代わりに答えるミレディ。

ユエの言葉に、俺が返答するよりも、ならず者が爆笑する方が早かった。

ならず者「ガッハハハハ、嬢ちゃん達が相手をするだって?中々笑わせてくれるじゃねぇの。

何だ?夜の相手でもして許してもらおうって「……黙れ、ゴミクズ。」ッ!?」

 

下品な言葉を口走ろうとしたならず者に、辛辣な言葉と共に、神速の風刃が襲い掛かりその頬を切り裂いた。

プシュと小さな音を立てて、血がだらだらと滴り落ちる。かなり深く切れた様だ。

ならず者は、ユエの言葉通り黙り込む。ユエの魔法が速すぎて、全く反応できなかったのだ。

心中では「いつ詠唱した?陣はどこだ?。」と冷や汗を掻きながら必死に分析している。

まぁ、その程度の実力なら見抜くことすら難しいだろうが。

 

ユエは何事も無かった様に、俺と未だユエの意図が分かっていないシアに向けて話を続ける。

ユエ「……私達が守られるだけのお姫様じゃない事を周知させる。」

シア「ああ、成程。私達自身が手痛いしっぺ返し出来る事を示すんですね。」

ミレディ「そ♪折角だから、アレを利用しない手はないってね!」

ミレディがそう言って、先程とは異なり厳しい目を向けているならず者を指差した。

ハジメ「まぁ、言いたい事は分かった。ただ、あまりやり過ぎないように、ね?

アレもそこまで強くないから、かる~く捻るだけにしておきなよ。」

ユエ「ん。任せるが宜し。」

俺はユエの言葉に納得して、手加減するよう言っておくと、もう一度圧を放ち、気絶している奴等を目覚めさせた。

途端、彼等はテレビの電源を入れるかの様に意識を取り戻し、目覚めた途端目の前に広がっている光景に俄かに騒ぎ始める。

 

「お、おい、あれ、レガニドじゃないか?」

「レガニドって……"黒"のレガニドか?」

「"暴風"のレガニド!? 何であんな奴の護衛なんて……。」

「金払いじゃないか?"金好き"のレガニドだろ?」

周囲のヒソヒソ声で大体目の前の男の素性を察した俺。

天職持ちなのかどうかは分からないが、冒険者ランクが"黒"ということは上から三番目のランクという事であり、この世界基準では相当な実力者という事だ。

まぁ、さっきの攻撃を見切れないレベルなら程度の低さが知れたものだが。

 

ユエは俺が下がったのを確認すると、隣のシアに先に行けと目で合図を送る。

それを読み取ったシアは、背中に取り付けていたドリュッケンに手を伸ばすと、まるで重さを感じさせずに一回転させてその手に収めた。

ならず者「おいおい、兎人族の嬢ちゃんに何が出来るってんだ?雇い主の意向もあるんでね。

大人しくしていて欲しいんだが?」

ユエとミレディから目を離さずにならず者は、そうシアに告げる。

しかし、シアはならず者の言葉を無視する様に逆に忠告をした。

 

シア「腰の長剣、抜かなくていいんですか?手加減はしますけど、素手だと危ないですよ?」

ならず者「ハッ、兎ちゃんが大きく出たな。坊ちゃん!わりぃけど、傷の一つや二つは勘弁ですぜ!」

ならず者はシアを大して気にせずユエとミレディに気を配りながら、未だ近くでへたり込んでいる豚に一言断りを入れる。

流石にユエ相手に無傷で無力化は難しいと判断した様だ。どうやら、察しの悪い男だったようだ。

常識的に考えて、愛玩奴隷という認識が強い兎人族が戦鎚を持っている事の違和感に、相当の実力が垣間見える俺とユエの二人が初手を任せたという意味に、いち早く気付くべきだというのに……。

ま、いっか。俺には関係ないし。

既に言葉は無いと、シアはドリュッケンを腰溜めに構え……一気に踏み込んだ。

そして、次の瞬間にはならず者の眼前に出現する。

 

ならず者「ッ!?」

シア「やぁ!!」

可愛らしい声音に反して豪風と共に振るわれた超重量の大槌が、表情を驚愕に染めるならず者の胸部に迫る。

直撃の寸前、ならず者は、辛うじて両腕を十字にクロスさせて防御を試みるが、それも無駄だろう。

踏ん張る事など微塵も叶わず、咄嗟に後ろに飛んで衝撃を逃がそうとするも、スイングが速すぎて殆ど意味はなさない。

その結果、グシャッ!という生々しい音を響かせながら、ならず者は勢いよく吹き飛びギルドの壁に背中から激突した。

 

轟音を響かせながら、肺の中の空気を余さず吐き出したならず者は、揺れる視界の中に、拍子抜けした様なシアの姿を見ていた。

どうやら、もう少し抵抗があると思っていたらしい。

冒険者ランク"黒"にまで上り詰めた自分が、まさか兎人族の少女に手加減までされて尚拍子抜けされたという事実に、ならず者はもはや笑うしかないだろう。

痛みのせいで顰めた様にしか見えない笑みを浮かべ、立ち上がろうと手をつき激痛と共にそのまま倒れこんだ。

激痛の原因に視線を向ければ、拉げた様に潰れた自分の腕が見えたようだ。

 

幸い、潰されたのは片腕だけだった様で、痛みを堪えながらもう片方の腕で何とか立ち上がろうとする。

視界がグラグラ揺れているようだが、何とか床を踏みしめる事が出来たようだ。

殆ど意味は無かったと言えど、咄嗟に後ろに飛ばなければ、立ち上がる事は出来なかったかもしれない。

しかし、立ち上がった事は果たしていい事だったのか……。

半ば意地で立ち上がったならず者だったが、ユエが氷の如き冷めた目で右手を突き出している姿を見て、絶望したかのような表情を浮かべた。

直後、ならず者は生涯で初めて"空中で踊る"という貴重で最悪の体験をする事になった。

 

ユエ「舞い散る花よ 風に抱かれて砕け散れ "風花"。」ギュルゥッ!

ユエのオリジナル魔法第二弾、"風花"。風の砲弾を飛ばす魔法と重力魔法の複合魔法だ。

複数の風の砲弾を自在に操りつつ、その砲弾に込められた重力場が常に目標の周囲を旋回する事で全方位に"落とし続け"空中に磔にする。

そして打ち上げられたが最後、そのまま空中でサンドバックになるというえげつない魔法だ。

因みに例の如く、詠唱は適当である。

 

まるで空中での一方的なリードによるダンスだ。

だがどうやらならず者の受難はまだ終わっていなかったようだ。

何故かって?ミレディが重力魔法を構えているからだよ。

空中ダンスを終えたならず者が落ちてくると、そこへミレディが魔法を発動させた。

 

ミレディ「ハイッ!黒渦~♪」ズォッ!

ミレディの魔法により、一緒に撃ちあがってきたその辺の物を、上と下の二方向から同時にぶつけられ、ならず者はそのままグシャッと嫌な音を立てて床に落ち、ピクリとも動かなくなった。

実は最初の数撃で既に意識を失っていたのだが、知ってか知らずか二人共その後も容赦なく連撃をかましていた。

やり過ぎないように、って言っておいたんだけどなぁ……。まぁ死んでいないし大丈夫か。

 

あり得べからざる光景の三連発。そして容赦の無さにギルド内が静寂に包まれる。

誰も彼もが身動き一つせず、俺達を凝視していた。

よく見れば、ギルド職員らしき者達が争いを止めようとしたのか、カフェに来る途中で俺達の方へ手を伸ばしたまま硬直している。

様々な冒険者達を見てきた彼等にとっても衝撃の光景だった様だ。

 

誰もが硬直している中、俺は豚の処刑執行を開始した。

豚「ひぃ!く、来るなぁ!わ、私を誰だと思って「うるせぇ。」ガッ!?」

ハジメ「俺の連れに手を出そうとしたんだ。精々死にざまで詫びでも入れるがいい。」

キィキィ喚く豚の言葉をぶった切り、火球の中に閉じ込めてやった。

 

豚「ギャァァァアアアアアア!!?」ジュゥゥゥウウウ!!!

絶叫しながらその汚い体を炎に晒していく豚。正直、触れるだけでも不快感が増す。

ハジメ「これだから嫌いなんだよ。権力を笠に着るクズ野郎は。」

そう愚痴りながら、奴の焼ける様を見ていた。

そして20秒ほど経ったか、俺が火球を解除すると、豚は黒焦げになっていた。

まぁ、死なない程度に手加減はしてやった。後のことは知らんが。

 

俺は興味をなくした様子で豚から目を離すと、気を落ち着かせる様に息を吐いてからユエ達の方へ歩み寄る。

三人は微笑みで俺を迎えた。そして俺は、すぐ傍で呆然としている案内人リシーに笑いかけた。

ハジメ「さて、リシーさん。場所を移して続きをお願いできるかな?」

リシー「はひっ!い、いえ、その……私、何と言いますか……。」

俺の笑顔に恐怖を覚えたのか、しどろもどろになるリシー。

その表情は明らかに関わりたくないと物語っていた。それくらい俺達は異常だったようだ。

俺も何となく察しているが、また新たな案内人をこの騒ぎの後に探すのは面倒なので、リシーを逃がすつもりは無かった。

俺の意図を悟って、ユエとシアがリシーの両脇を固め、ミレディが背後から忍び寄る。

「ひぃぃん!」と情けない悲鳴を上げるリシー。

と、そこへ彼女にとっての救世主、ギルド職員が今更ながらにやって来た。

 

ギルド職員A「あの、申し訳ありませんが、あちらで事情聴取にご協力願います。」

そう俺に告げた男性職員の他、三人の職員が俺達を囲む様に近寄った。

尤も、全員腰が引けていたが。もう数人は、豚とならず者の容態を見に行っている。

ハジメ「そう言われてもねぇ、あれが俺の連れを奪おうとして、それを断ったら逆上して襲ってきたから返り討ちにしただけだよ?

それ以上説明しようがないし、そこのリシーさんや、周囲の冒険者達も証人になるよ。

特に、近くのテーブルにいた奴等は随分と聞き耳を立てていた様だからねぇ?」

 

俺がそう言いながら周囲の男連中を睥睨すると、目があった彼等はこぞって首がもげるのでは?と言いたくなる程激しく何度も頷いた。

ギルド職員A「それは分かっていますが、ギルド内で起こされた問題は、当事者双方の言い分を聞いて公正に判断する事になっていますので……

規則ですから冒険者なら従って頂かないと……。」

ハジメ「当事者双方……ねぇ。」

俺はチラッと豚とならず者の二人を見る。ならず者は当分目を覚ましそうになかった。

ギルド職員が治癒師を手配している様だが、あの豚は恐らく間に合わないだろう。

 

ハジメ「あれが目を覚ますまで、ずっと待機していろと?被害者の俺達が?

……面倒だね、いっそのこと町ごと更地にした方が早いかな?」

俺が責める様な視線をギルド職員に向ける。

典型的なクレーマーの様な物言いにギルド職員の男性が、「そんな目で睨むなよぉ、仕事なんだから仕方ないだろぉ。」という自棄糞気味な表情になった。

そして、ボソリと呟かれた俺の最後のセリフが耳に入り、職員だけでなくこの場にいる全員が「ひっ!?」と悲鳴を漏らした。

そんな訳で俺が腰元に手を翳そうとした瞬間、突如として凛とした声が掛けられた。

 

???「何をしているのです?これは一体何事ですか?」

そちらを見てみれば、メガネを掛けた理知的な雰囲気を漂わせる細身の男性が厳しい目で俺達を見ていた。

ギルド職員A「ドット秘書長!いいところに!これはですね……。」

職員達がこれ幸いとドット秘書長と呼ばれた男性のもとへ群がる。

ドットという男性は職員達から話を聞き終わると、俺達に鋭い視線を向けた。

どうやら、まだまだ解放はされない様だと俺達は内心溜息を吐いた。

 

そんな俺達に、ドット秘書長と呼ばれた男性は片手の中指でクイッとメガネを押し上げると落ち着いた声音で俺に話しかけた。

ドット「話は大体聞かせてもらいました。証人も大勢いる事ですし嘘はないのでしょうね。

やり過ぎな気もしますが……まぁ、まだ死んでいませんし許容範囲としましょう。

取り敢えず、彼らが目を覚まし一応の話を聞くまでは、フューレンに滞在はしてもらうとして、身元証明と連絡先を伺っておきたいのですが……

それまで拒否されたりはしないでしょうね?」

言外にこれ以上譲歩はしませんよ?と伝えるドット秘書長に俺は肩を竦めて答えた。

 

ハジメ「それは構わないよ。

それに、そこの家畜がまだ生きていた様なら、寧ろ連絡して欲しいくらいだよ。

態々あの世まで言って礼儀を説く程、俺も聖人じゃあないし。」

俺はそんな事をいい、ドットさんに冷や汗を掻かせながらステータスプレートを差し出す。

ハジメ「連絡先は、まだ滞在先が決まっていないから……そこのリシーさんにでも聞いて。

彼女の薦める宿に泊まるだろうし。」

俺に視線を向けられたリシーはビクッとした後、「やっぱり私が案内するんですね。」と諦めの表情で肩を落とした。

ドット「ふむ、いいでしょう……"青"ですか。向こうで伸びている彼は"黒"なんですがね……

そちらの方達のステータスプレートはどうしました?」

 

俺の偽装されたステータスプレートに表示されている冒険者ランクが最低の"青"である事に僅かな驚きの表情を見せるドットさん。

しかし三人の女性の方がならず者を倒したと聞いていたので、彼女達の方が強いのかとユエ達のステータスプレートの提出を求める。

「あ~……こっちの彼女達はステータスプレートは紛失していてね、再発行はまだしていないよ。

高いだろうからね。」

さらりと嘘をつく俺。

三人の異常とも言える強さを見せた後では意味が無いかもしれないが、それでも第三者にはっきりと詳細を把握されるのは出来れば避けたい。

 

ドット「しかし、身元は明確にしてもらわないと。

記録を取っておき、君達が頻繁にギルド内で問題を起こす様なら、加害者・被害者のどちらかに関係なくブラックリストに載せる事になりますからね。

よければギルドで立て替えますが?」

ドットさんの口ぶりから、どうしても身元証明は必要らしい。

 

しかしステータスプレートを作成されれば、隠蔽前の技能欄に確実にユエとシアの固有魔法が表示されるだろう。

それどころか今や、神代魔法も表示される筈だ。大騒ぎになる事は間違いない。

ミレディに至っては"反逆者"の一人として伝えられているので、教会への対応が本当に面倒くさくなる。

まぁ、騒ぎになっても、俺達を害そうとするのなら全部ぶっ飛ばせばいいと思う。

ただ、それじゃ滞在の度に記憶操作の手間が付いて回る。

何だか色々面倒になってきたので破壊しつくすか。

そんな物騒なことを思っていた俺に、ユエが話しかけた。

 

ユエ「……ハジメ、手紙。」

ハジメ「?……あぁ、あの手紙か。」

ユエの言葉で、俺はブルックの町を出る時にブルック支部のキャサリンさんから手紙を貰った事を思い出す。

ギルド関連で揉めた時にお偉いさんに見せれば役立つかもしれないと言って渡された得体の知れない手紙だ。

駄目で元々、場合によってはこの場の全員を消す事も想定に入れ、俺は懐から手紙を取り出しドットさんに手渡した。

 

ハジメ「身分証明の代わりになるかわからないけど、知り合いのギルド職員に、困ったらギルドの上層部に渡せと言われてたものがあるんだけど……これでいいかな?」

ドット「?知り合いのギルド職員ですか?……拝見します。」

俺達の服装の質から、それ程金に困っている様に思えなかったので、ステータスプレートの再発行を拒む様な態度に疑問を覚えるドットさんだったが、代わりにと渡された手紙を開いて内容を流し読みする内にギョッとした表情を浮かべた。

そして、俺達の顔と手紙の間で視線を何度も彷徨わせながら手紙の内容を繰り返し読み込む。

目を皿の様にして手紙を読む姿から、どうも手紙の真贋を見極めている様だ。

やがてドットさんは手紙を折り畳むと丁寧に便箋に入れ直し、俺達に視線を戻した。

 

ドット「この手紙が本当なら確かな身分証明になりますが……

この手紙が差出人本人のものか私一人では少々判断が付きかねます。

支部長に確認を取りますから少し別室で待っていてもらえますか?そうお時間は取らせません。

十分、十五分くらいで済みます。」

ハジメ「?まぁ、それ位ならいいよ。早めにしてほしいけど……あんまり急ぎ過ぎないようにね?」

ドット「職員に案内させます。では後程。」

ドットさんは傍の職員を呼ぶと別室への案内を言付けて、手紙を持ったまま颯爽とギルドの奥へと消えていった。

指名された職員が俺達を促す。

俺達がそれに従い移動しようと歩き出したところで、困惑した様な、しかしどこか期待した様な声がかかった。

 

リシー「あの~、私はどうすれば?」

リシーさんだった。ギルドでお話があるならお役目御免ですよね?とその瞳が語っている。

明らかに厄介の種である俺達とは早めにお別れしたいという思いが滲み出ている。なので俺は言った。

ハジメ「もちろん!ちゃぁ~んと、案内してくれるんだよね?」

リシー「……はぃ。」

ガックリと肩を落としてカフェの奥にある座席に向かうリシー。

その背中には嫌な仕事でも受けねばならない社会人の哀感が漂っていた。

まぁ、酷ではあるけども、正直拠点は一番大事なところだからなぁ……。

 


 

俺達が応接室に案内されてからきっかり十分後。遂に扉がノックされた。

俺の返事から一拍置いて扉が開かれる。

そこから現れたのは、金髪をオールバックにした鋭い目付きの三十代後半くらいの男性と、ドットさんだった。

???「初めまして、冒険者ギルドフューレン支部支部長イルワ・チャングだ。

ハジメ君、ユエ君、シア君、ミレディ君……でいいかな?」

簡潔な自己紹介の後、俺達の名を確認がてらに呼び握手を求める支部長イルワさん。

俺も握手を返しながら返事をする。

 

ハジメ「構わないよ。名前は手紙に?」

イルワ「その通りだ。先生からの手紙に書いてあったよ。

随分と目をかけられている……というより注目されている様だね。

将来有望、但しトラブル体質なので出来れば目をかけてやって欲しいという旨の内容だったよ。」

ハジメ「トラブル体質……ね。確かにブルックではトラブル続きだったけどね。

ま、それは置いといて、肝心の身分証明の方はどうなの?それで問題ない?」

イルワ「ああ、先生が問題のある人物ではないと書いているからね。あの人の人を見る目は確かだ。

わざわざ手紙を持たせる程だし、この手紙を以て君達の身分証明とさせてもらうよ。」

 

どうやらキャサリンさんの手紙は本当にギルドの上層部相手に役立に立った様だ。随分と信用がある。

キャサリンさんを"先生"と呼んでいる事からかなり濃い付き合いがある様に思える。

俺の隣に座っているシアは、キャサリンさんに特に懐いていた事からその辺りの話が気になる様で、おずおずとイルワさんに訪ねた。

シア「あの~、キャサリンさんって何者なのでしょう?」

 

イルワ「ん?本人から聞いてないのかい?

彼女は王都のギルド本部でギルドマスターの秘書長をしていたんだよ。

その後、ギルド運営に関する教育係になってね。

今各町に派遣されている支部長の五、六割は先生の教え子なんだ。

私もその一人で、彼女には頭が上がらなくてね。

その美しさと人柄の良さから、当時は僕らのマドンナ的存在、あるいは憧れのお姉さんの様な存在だった。その後結婚して、ブルックの町のギルド支部に転勤したんだよ。

子供を育てるにも田舎の方がいいって言ってね。彼女の結婚発表は青天の霹靂でね。

荒れたよ。ギルドどころか、王都が。」

 

シア「はぁ~そんなにすごい人だったんですね~。」

ユエ「……キャサリンすごい。」

ミレディ「只者じゃないとは思っていたけど……思いっきり中枢の人間だったなんてね。

ミレディさんもびっくりだよ!」

ハジメ「まぁ、あの能力はそう簡単に身に着くものじゃないとは思っていたけどね……。

まさか、そんなに人気者だったとはね。」

聞かされたキャサリンの正体に感心する俺達。想像していたよりずっと大物だったらしい。

 

ハジメ「まぁそれはそれとして、問題が無いならもう行っていい?」

元々、身分証明の為だけに来たので、用が終わった以上長居は無用だと俺がイルワさんに確認する。

しかしイルワさんは瞳の奥を光らせると、「少し待ってくれるかい?」と俺達を留まらせる。

イルワさんは、隣に立っていたドットさんを促して一枚の依頼書を俺達の前に差し出した。

イルワ「実は、君達の腕を見込んで、一つ依頼を受けて欲しいと思っている。

取り敢えず話を聞いて貰えないかな?聞いてくれるなら、今回の件は不問とするのだが……。」

 

それは言外に、話を聞かなければ今回の件について色々面倒な手続きをするぞ?という事だ。

周囲の人間による証言で、俺達が豚共にした事に関し罪に問われる事は無いだろうが、些か過剰防衛の傾向はあるので正規の手続き通り、当事者双方の言い分を聞いてギルドが公正な判断をするという手順を踏むなら相応の時間が取られるだろう。

結果は俺達に非が無いという事になるだろうが、逆に言えば結果の判りきった手続きを馬鹿みたいに時間をかけて行わなければならないという事だ。

そして、この手続きから逃げるとめでたくブラックリストに乗るという事だろう。

今後町でギルドを利用するのに面倒な事この上無い事になるのだ。

まぁ、それは流石に避けたいし、俺も冒険者としての立場を活かしたいこともあるからねぇ……。

 

ハジメ「……まぁ、内容によるかな。後、さっきの豚とならず者についてなんだけどさぁ……。」

イルワ「?」

ハジメ「二人共揃いも揃って、裏で相当胸糞悪いことしていたっぽいよ?

悪事の証拠とかが残っている場所を記した紙があるんだけど……気を付けた方がいいよ?」

イルワ「ッ!?」

……何故か脅されているような状況に陥った感じの目になったイルワさん。

別にコイツは脅しの道具じゃあない。ただ単に、そう言った輩に気を付けてほしいと言っただけなのに。

因みに情報については本当は調べたくもなかったが、親豚が報復に出ないとも限らないので、対策を考えるついでで検索していただけだ。

それに待っている間、暇だったし。

 

イルワ「すまない!聞く聞かないに関係なく、今回の件は不問にする。

だが、話だけでも聞いてくれないだろうか?」

ハジメ「それは別に構わないよ。まず、話を聞かないことには、何も始まらないし。

後、さっきのは脅しのつもりで言った訳じゃないからね?ただ単に気を付けてくださいって話だから。」

イルワ「そ、そうか。忠告ありがとう。」

……最近、俺の評価がどうなっているかがすごく気になってきたよ。

もしかしたら、もう取り返しのつかない位、有名になってしまっているのでは?と思ってしまうこの頃だった。

まぁ、それはさておき、イルワさんの話を要約すると、つまりこういう事だ。

 

最近、北の山脈地帯で魔物の群れを見たという目撃例が何件か寄せられ、ギルドに調査依頼がなされた。

北の山脈地帯は一つ山を超えると殆ど未開の地域となっており、大迷宮の魔物程ではないがそれなりに強力な魔物が出没するので高ランクの冒険者がこれを引き受けた。

ただ、この冒険者パーティに本来のメンバー以外の人物がいささか強引に同行を申し込み、紆余曲折あって最終的に臨時パーティを組む事になった。

この飛び入りが、クデタ伯爵家の三男ウィル・クデタという人物らしい。

クデタ伯爵は、家出同然に冒険者になると飛び出していった息子の動向を密かに追っていたそうなのだが、今回の調査依頼に出た後息子に付けていた連絡員も消息が不明となり、これはただ事ではないと慌てて捜索願を出したそうだ。

 

イルワ「伯爵は家の力で独自の捜索隊も出している様だけど、手数は多い方がいいとギルドにも捜索願を出した。

つい昨日の事だ。

……最初に調査依頼を引き受けたパーティはかなりの手練でね、彼等に対処できない何かがあったとすれば並みの冒険者じゃあ二次災害だ。相応以上の実力者に引き受けてもらわないといけない。

だが、生憎とこの依頼を任せられる冒険者は出払っていてね。

そこへ君達がタイミングよく来たものだから、こうして依頼しているという訳だ。」

ハジメ「?どうしてそこで俺達が?ランクだってまだ駆け出しの"青"だし……。」

すると、イルワさんが「それはどうかな?。」と言いたげな笑みを浮かべた。

 

イルワ「さっき"黒"のレガニドを瞬殺したばかりだろう?それに……

【樹海事変】と【峡谷事変】の張本人である"無双覇王"を相応以上と言わずして何と言うのかな?」

ハジメ「グホァッ!?」

な、なぜその二つ名を……。まさかここまで知れ渡っていたというのかぁ……。

思わず机に突っ伏す俺を慰めようとするユエ達。

そんな様子を見て苦笑いしながら、イルワさんは話を続けた。

イルワ「生存は絶望的だが、可能性はゼロではない。

伯爵は個人的にも友人でね、出来る限り早く捜索したいと考えている。

どうかな、今は君達しかいないんだ。引き受けてはもらえないだろうか?」

 

懇願する様なイルワさんの態度には、単にギルドが引き受けた依頼という以上の感情が込められている様だ。

伯爵と友人という事は、もしかするとその行方不明となったウィルとやらについても面識があるのかもしれない。

個人的にも、安否を憂いているのだろう。

イルワ「報酬は弾ませてもらうよ?依頼書の金額は勿論だが、私からも色をつけよう。

ギルドランクの昇格もする。君達の実力なら一気に"黒"にしてもいい。」

ハジメ「う~ん、生計はまだ大丈夫だし、ランクもどうでもいいかなぁ。」

イルワ「なら今後、ギルド関連で揉め事が起きた時は私が直接君達の後ろ盾になるというのはどうかな?フューレンのギルド支部長の後ろ盾だ、ギルド内でも相当の影響力はあると自負しているよ?

君達は揉め事とは仲が良さそうだからね。悪くない報酬ではないかな?」

ハジメ「……大盤振る舞いだね。友人の息子相手にしては入れ込み過ぎじゃない?」

俺の言葉に、イルワさんが初めて表情を崩す。後悔を多分に含んだ表情だ。

 

イルワ「彼に……ウィルにあの依頼を薦めたのは私なんだ。

調査依頼を引き受けたパーティーにも私が話を通した。

異変の調査といっても、確かな実力のあるパーティーが一緒なら問題ないと思った。

実害もまだ出ていなかったしね。ウィルは、貴族は肌に合わないと昔から冒険者に憧れていてね……

だが、その資質は無かった。

だから強力な冒険者の傍で、そこそこ危険な場所へ行って、悟って欲しかった。冒険者は無理だと。

昔から私には懐いてくれていて……だからこそ、今回の依頼で諦めさせたかったのに……。」

……成程ねぇ。そんなイルワさんの独白を聞きながら、どこかの甘ちゃん勇者を思い浮かべる俺。

どうやら俺が思っていた以上に、イルワさんとウィルの繋がりは濃いらしい。

すまし顔で話していたが、彼の内心は正に藁にも縋る思いなのだろう。

生存の可能性は、時間が経てば経つ程ゼロに近づいていく。

無茶な報酬を提案したのも、彼が相当焦っている証拠なのだろう。

 

俺としても、町に寄り付く度にユエ達の身分証明について言い訳するのは面倒だし、この先名のある権力者に対する伝手があるのは、町の施設利用という点で便利だ。

何せ聖教教会や王国に迎合する気がゼロである以上、何時異端の誹りを受けるか判らない。

その場合、町では極めて過ごしにくくなるだろう。個人的な繋がりでその辺をクリア出来るなら楽だ。

まぁ、神託による異端認定なら、証拠不十分で突き返せるけどね。

なので大都市のギルド支部長が後ろ盾になってくれるというなら、この際自分達の事情を教えて口止めしつつ、不都合が生じた時に利用させてもらおうと俺は考えた。

クデタ伯爵とは随分懇意にしていた様だから、仮に生きて連れて帰ればそうそう不義理な事もできないだろう。

 

ハジメ「……二つ条件がある。」

イルワ「条件?」

ハジメ「あぁ、そんなに難しい事じゃないから。

ユエ達にステータスプレートを作って欲しい。そして、そこに表記された内容について他言無用を確約する事が一つ。

ギルド関連に関わらず、アンタの持つコネクションの全てを使って俺達の要望に応え便宜を図る事。

この二つだね。」

イルワ「それはあまりに……。」

ハジメ「安心して、そんなに無茶な要求はしないから。

ただ俺達は少々特異な存在だから、確実に教会から目をつけられると思うから、その時の伝手があった方が便利だと思っただけだよ。

面倒事が起きた時に味方になってくれればいいから。」

イルワ「ふむ、キャサリン先生が気に入っているくらいだから悪い人間ではないと思うが、個人的にも君達の秘密が気になって来たな。

……そう言えば、そちらのシア君は怪力、ユエ君とミレディ君は見た事も無い魔法を使ったと報告があったな……

その辺りが君達の秘密か……そして、それがいずれ教会に目を付けられる代物だと……

大して隠していない事からすれば、最初から事を構えるのは覚悟の上という事か……

そうなれば確かにどの町でも動きにくい……故に便宜をと……。」

 

流石大都市のギルド支部長、頭の回転は早い。

イルワさんは暫く考え込んだあと、意を決した様に俺に視線を合わせた。

イルワ「犯罪に加担する様な倫理に悖る行為・要望には絶対に応えられない。

君達が要望を伝える度に詳細を聞かせてもらい、私自身が判断する。

だが、できる限り君達の味方になる事は約束しよう……これ以上は譲歩出来ない。どうかな?」

ハジメ「むしろ十分すぎるところだよ。報酬は依頼が達成されてからでいいよ。」

俺としては、ユエ達のステータスプレートを手に入れるのが一番の目的だ。

この世界では何かと提示を求められるステータスプレートは持っていない方が不自然であり、この先、町による度に言い訳するのは面倒な事この上ない。

 

問題は、最初にステータスプレートを作成した者に騒がれない様にするにはどうすればいいかという事だったのだが、イルワさんの存在がその問題を解決した。

ただ、条件として口約束をしてもやはり密告の疑いはある。

いずれ俺達の特異性はバレるだろうが、積極的に手を回されるのは好ましくない。

なので俺は、ステータスプレートの作成を依頼完了後にした。

どんな形であれ、心を苛む出来事に答えをもたらした俺をイルワさんも悪いようにはしないだろうという打算だ。

 

イルワさんも俺の意図は察しているのだろう。

苦笑いしながら、それでも捜索依頼の引き受け手が見つかった事に安堵している様だ。

イルワ「本当に、君達の秘密が気になってきたが……それは、依頼達成後の楽しみにしておこう。

ハジメ君、ユエ君、シア君、ミレディ君……宜しく頼む。」

イルワさんは最後に真剣な眼差しで俺達を見つめた後、ゆっくり頭を下げた。

大都市のギルド支部長が一冒険者に頭を下げる、そうそう出来る事ではない。

キャサリンさんの教え子というだけあって、人の良さが滲み出ている。

 

そんなイルワの様子を見て、俺達は立ち上がると気負いなく答えた。

ハジメ「あぁ、出来る限り力を尽くすよ。」

ユエ達「ん。任せるがいい。」

シア「分かりました!」

ミレディ「まっかせて!」

その後、支度金や北の山脈地帯の麓にある湖畔の町への紹介状、件の冒険者達が引き受けた調査依頼の資料を受け取り、俺達は部屋を出て行った。

 


 

バタンと扉が締まる。その扉を暫く見つめていたイルワは、「フゥ~。」と大きく息を吐いた。

部屋にいる間、一言も話さなかったドットが気づかわしげにイルワに声をかける。

ドット「支部長……よかったのですか?あの様な報酬を……。」

イルワ「……ウィルの命がかかっている。彼等以外に頼める者はいなかった、仕方ないよ。

それに彼等に力を貸すか否かは私の判断で良いと彼等も承諾しただろう。問題ないさ。

それより彼らの秘密……。」

ドット「ステータスプレートに表示される"不都合"ですか……。」

イルワ「ふむ。ドット君、知っているかい?

ハイリヒ王国の勇者一行は皆、とんでもないステータスらしいよ?」

 

ドットは、イルワの突然の話に細めの目を見開いた。

ドット「!支部長は、彼が召喚された者……"神の使徒"の一人であると?

しかし、彼はまるで教会と敵対する様な口ぶりでしたし、勇者一行は聖教教会が管理しているでしょう?」

イルワ「ああ、その通りだよ。

でもね……およそ四ヶ月前、その内の一人がオルクスで亡くなったらしいんだよ。

奈落の底に魔物と一緒に落ちたってね。」

ドット「……まさか、その者が生きていたと?

四ヶ月前と言えば、勇者一行もまだまだ未熟だった筈でしょう?

オルクスの底がどうなっているのかは知りませんが、とても生き残る事など……。」

 

ドットは信じられないと首を振りながら、イルワの推測を否定する。

しかしイルワは、どこか面白そうな表情で再びハジメ達が出て行った扉を見つめた。

イルワ「そうだね。でももしそうなら……何故彼は仲間と合流せず、旅なんてしているのだろうね?

彼は一体、闇の底で何を見て、何を得たのだろうね?」

ドット「何を……ですか……。」

イルワ「ああ。何であれ、きっとそれは教会と敵対する事も辞さないという決意をさせるに足るものだ。

それは取りも直さず、世界と敵対する覚悟があるという事だよ。」

ドット「世界と……。」

イルワ「私としては、そんな特異な人間とは是非とも繋がりを持っておきたいね。

例え彼が教会や王国から追われる身となっても、ね。

もしかすると、先生もその辺りを察して態々手紙なんて持たせたのかもしれないよ。」

ドット「支部長……どうか引き際は見誤らないで下さいよ?。」

イルワ「勿論だとも。」

スケールの大きな話に目眩を起こしそうになりながら、それでもイルワの秘書長として忠告は忘れないドット。

しかしイルワは、何かを深く考え込みドットの忠告にも、半ば上の空で返すのだった。




ここまで読んでいただき、ありがとうございます!

という訳で、クズ貴族への罰は「こんがり丸焼きの刑」でした。
そして冒険者相手でも容赦なしのドS三人娘でした。
後、クズ貴族の実家はその家の者全員の罪が改めて調べ上げられ、有罪となりました。

さて次回はいよいよウルに着きます!
愛ちゃん達との待望の再会は、はたしてどうなる!?

宜しければ、高評価・コメント宜しくお願い致します。

リースティアさん、毎度の誤字報告ありがとうございました!

次回予告
オーマジオウ「
イルワの依頼を受けたハジメ一行は、北の山脈地帯に近い湖畔の町ウルへ向かうことに。
そこで彼らは、意外な面々との再会を果たす。
次回、ありふれない錬成師は最高最善の魔王の力で世界最強を超越する
「まさかの再会、湖畔の町ウル」
君は、小宇宙を感じたことがあるか!?」


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34.まさかの再会、湖畔の町ウル

お待たせいたしました。
今回は少し長めです。
湖畔の町ウルについたハジメ達。
そこで出会ったのはなんと、愛ちゃん先生とクラスメイト達だった!
そして、トシの行方を知ることに!

驚愕の第三章第4話、それではどうぞ!


〈ハジメさんサイド〉

 

広大な平原のど真ん中に、北へ向けて真っ直ぐに伸びる街道がある。

街道と言っても、何度も踏みしめられる事で自然と雑草が禿げて道となっただけのものだ。

この世界の馬車にはサスペンションなどという物は無いので、きっとこの道を通る馬車の乗員は目的地に着いた途端、自らの尻を慰める事になるのだろう。

そんな整備されていない道を、有り得ない速度で爆走する影が複数あった。

それは何かって?勿論俺達ですが何か?

 

シア「ヒャッハー!ですぅ!」

ユエ「んー!気持ちいいー!」

ミレディ「ワオ!二人とも凄いアクロバットだね!私達も負けていられないよ、オーちゃん!」

オスカー「フッ、いいだろう。今まで精神世界で練習してきた僕のバイクテクニックをとくと見るがいい!」

ハジメ『……楽しそうだねぇ~。』

 

ユエはマシントルネイダー・スライダーモードを乗りこなし、シアはダンデライナーでウィリーやジャックナイフ、バックライドなどの技を披露している。

そして俺はというと、先日の護衛で「あ~ん。」された時のお詫びとして、オスカーに一旦体を貸している。

当のオスカー本人は未知の技術に興味津々で、オーマストライカーを分解しようとしたのは流石に止めた。

まぁ、せっかくなので、乗り方を俺が教えながら、ミレディを後ろに乗せ、目的地まで疑似バイクデートの体験をしてもらっているところだ。

因みに今乗っているのは、バイスのプテラゲノムだ。

 

天気は快晴で暖かな日差しが降り注ぎ、絶好のツーリング日和と言える。

それにしても、シアは一体どこでそんな高等テクニックを身につけたんだか……。

ハジメ『まぁ、このペースなら後半日というところだし。さっさと行っちゃおうか。』

俺の言葉通り、俺達はウィル一行が引き受けた調査依頼の範囲である北の山脈地帯に一番近い町まで後半日程の場所まで来ていた。

このまま休憩を挟まず一気に進み、恐らく日が沈む頃に到着するだろうから、町で一泊して明朝から捜索を始めるつもりだ。

急ぐ理由は勿論、時間が経てば経つ程ウィル一行の生存率が下がっていくからだ。

すると、何時になく他人の為なのに積極的な俺に、ユエが上目遣いで疑問顔をする。

 

ユエ「……積極的?」

ハジメ『ああ、生きているに越した事は無いからね。その方が感じる恩は大きい。

これから先、国やら教会やらとの面倒事は山程待ってそうだからね、盾は多い方がいい。』

ミレディ「そうそう!それにこういうところで出来るだけ恩を売っておくのは大事だよ!

後々その恩が有効に働くことだってあるんだからさ!」

オスカー「そうだね。僕達も、意図していない恩のおかげで助かったこともあるからね。」

シア「ほぇ~、お二人の旅も命がけだったんですね。」

 

流石解放者筆頭であるオスカーとミレディは、こういうことの大切さを知っている。

実際、イルワさんという盾がどの程度機能するかはわからないし、どちらかといえば役に立たない可能性の方が大きいけど保険は多い方がいい。

それに、ほんの少しの労力で獲得出来るならその労力は惜しむべきではないだろう。

 

ハジメ『それに聞いたんだけどね、これから行く町は湖畔の町で水源が豊からしいんだ。

そのおかげか町の近郊は大陸一の稲作地帯なんだって。』

ユエ「……稲作?」

ミレディ「お米だね!」

ハジメ『そう、俺の故郷の主食であり、ソウルフードの一つでもある米だ。

こっちに来てからというものの、一度も口にしていないからね。早く食べたいなぁ……。』ジュルリ

懐かしき故郷の味に思いをはせ、思わず涎が出てしまう俺。

 

オスカー「ハハハ、どうやら余程思い入れがあるみたいだね。」

ハジメ『勿論だとも!折角だ、米を使った俺の故郷の料理を語ろうじゃあないか!』

ミレディ「おぉ!ハジメンの故郷の味かぁ……ちょっと楽しみ!」

ユエ「…ん、私も食べたい。」

シア「私もですぅ!ハジメさん、その町の名前は!?」

 

ハジメ『湖畔の町ウルだよ。』

 

〈ハジメさんサイド一旦終了〉

 


 

〈愛ちゃんサイド〉

 

愛子「はぁ、今日も手掛かりはなしですか。……清水君、一体何処に行ってしまったんですか……?」

悄然と肩を落とし、【ウルの町】の表通りをトボトボと歩くのは召喚組の一人にして唯一の教師、畑山愛子だ。

普段の快活な様子が鳴りを潜め、今は不安と心配に苛まれて陰鬱な雰囲気を漂わせている。

心なしか、表通りを彩る街灯の灯りすらいつもより薄暗い気がする。

 

優花「愛ちゃん先生、あまり気を落とさないで下さい。まだ何も分かっていないんですよ?

部屋だって荒らされてなかった訳ですし、自分で何処かに行った可能性の方が高い位です。

だから、あまり思い詰めないで下さいね。」

デビッド「そうだぞ愛子。こういう時に悪い方にばかり考えては駄目だ。

気が付くべき事や、為すべき事を見落としてしまいかねないからな。それに、幸利は優れた術師だ。

仮に何か不測の事態に遭遇したのだとしても、そう簡単にやられはしない。

彼の先生である愛子が、自分の生徒を信じてやらなくてどうするんだ?」

元気の無い愛子に、そう声をかけたのは優花とデビッドだ。

周りには他にも、毎度お馴染みの騎士達と淳史達がいる。彼等も口々に愛子を気遣う様な言葉をかけた。

 

愛ちゃん護衛隊の一人、清水幸利ことトシが失踪してから既に二週間と少し。

愛子達は八方手を尽くしてトシを探したが、その行方は杳として知れなかった。

町中に目撃情報は無く、近隣の町や村にも使いを出して目撃情報を求めたが、全て空振りだった。

当初は事件に巻き込まれたのではと騒然となったのだが、トシの部屋が荒らされていなかった事、トシ自身が"闇術師"という闇系魔術に特別才能を持つ天職を所持しており、他の系統魔術についても高い適性を持っていた事から、そうそうその辺のゴロツキにやられるとは思えず、今では自発的な失踪と考える者が多かった。

 

だが、トシは愛ちゃん護衛隊を引っ張ってきた人物であり、黙ってどこかに行ってしまう程身勝手な行動をとる人物ではなかった。

それに彼はいつも北の山脈地帯を眺めており、もしやそこに行ったのではないかと思う者もいるのだ。

しかし、その時は毎回帰ってきており、長期間留守にすることはなかったのだ。

何より彼自身が、「俺よりも先生が心配だ。何時か心労でぶっ倒れそうだ……。」と呟いていたこともあって、自分よりも愛子を気にかけてほしい、と言っていた程、愛子の疲労が心配でならなかったのだ。

 

そんな訳で、既に愛子以外の生徒はトシの安否より、それを憂いて日に日に元気が無くなっていく愛子の方が心配だった。

護衛隊の騎士達に至っては言わずもがなである。

因みに王国と教会には報告済みであり、捜索隊を編成して応援に来る様だ。

トシも魔術の才能に関しては召喚された者らしく極めて優秀なので、ハジメの時の様に上層部は楽観視していない。

捜索隊が到着するまであと二、三日といったところだ。

 

次々とかけられる気遣いの言葉に、愛子は内心で自分を殴りつけた。

事件に巻き込まれようが、自発的な失踪であろうが心配である事に変わりはない。

しかしそれを表に出して、今傍にいる生徒達を不安にさせるどころか気遣わせてどうするのだと。

「それでも自分はこの子達の教師なのか!」と、愛子は一度深呼吸するとペシッと両手で頬を叩き気持ちを立て直した。

 

愛子「皆さん、心配かけてごめんなさい。そうですよね。悩んでばかりいても解決しません。

清水君は優秀な魔法使いです。きっと大丈夫。今は、無事を信じて出来る事をしましょう。

取り敢えずは、本日の晩御飯です!お腹いっぱい食べて、明日に備えましょう!」

無理しているのは丸分かりだが、気合の入った掛け声に生徒達も「は~い。」と素直に返事をする。

デビッド達はその様子を微笑ましげに眺めた。

 

カランカランッと音を立てて、愛子達は自分達が宿泊している宿の扉を開いた。

【ウルの町】で一番の高級宿だ。名を"水妖精の宿"という。

嘗て、【ウルディア湖】から現れた妖精を一組の夫婦が泊めた事が由来だそうだ。

なお【ウルディア湖】は、【ウルの町】の近郊にある大陸一の大きさを誇る湖だ。

大きさは日本の琵琶湖の四倍程である。

 

"水妖精の宿"は一階部分がレストランになっており、ウルの町の名物である米料理が数多く揃えられている。

内装は落ち着きがあって、目立ちはしないが細部まで拘りが見て取れる装飾の施された重厚なテーブルやバーカウンターがある。

また、天井には派手過ぎないシャンデリアがあり、落ち着いた空気に花を添えていた。

"老舗"──そんな言葉が自然と湧き上がる、歴史を感じさせる宿だった。

 

当初、愛子達は高級過ぎては落ち着かないと他の宿を希望したのだが、"神の使徒"、或いは"豊穣の女神"とまで呼ばれ始めている愛子や生徒達を普通の宿に泊めるのは外聞的に有り得ないので、騎士達の説得の末【ウルの町】における滞在場所として目出度く確定した。

元々王宮の一室で過ごしていた事もあり、愛子も生徒達も次第に慣れ、今ではすっかりリラックス出来る場所になっていた。

農地改善やトシの捜索に東奔西走し疲れた体で帰って来る愛子達にとって、この宿で摂る米料理は毎日の楽しみになっていた。

 

全員が一番奥の専用となりつつあるVIP席に座り、その日の夕食に舌鼓を打つ。

優花「ああ、相変わらず美味しいぃ~。異世界に来てカレーが食べれるとは思わなかったよ。」

淳史「まぁ、見た目はシチューなんだけどな……。いや、ホワイトカレーってあったけ?」

優花が心の底から出た様な声音で宿の料理を絶賛すれば、同じ異世界版カレーを注文した淳史が記憶を探りつつ同意した。

それに対し昇が、ホクホクのご飯の上に載った黄金でサックサクの衣を纏った各種揚げ物と、香ばしいタレで彩られた自らの料理を行儀悪く箸で指しながら感想を述べる。

 

昇「いや、それよりも天丼だろ? このタレとか絶品だぞ? 日本負けてんじゃない?」

妙子「それは玉井君がちゃんとした天丼食べた事無いからでしょ? ホカ弁の天丼と比べちゃ駄目だよ。」

明人「俺は炒飯擬き一択で。これやめられないよ。」

奈々「餃子っぽいのとセットメニューってのが何とも憎いよね。このお店開いた人、絶対日本人でしょ。」

 

その感想に苦笑いを浮かべながら妙子が反論し、明人が炒飯擬きで頬をパンパンに膨らませ、その隣で餃子擬きを頬張っていた奈々が何とも疑わしい視線を店の奥に向ける。

極めて地球の料理に近い米料理に、毎晩優花達のテンションは上がりっぱなしだ。

見た目や微妙な味の違いはあるのだが、料理の発想自体はとても似通っている。

素材が豊富というのも、【ウルの町】の料理の質を押し上げている理由の一つだろう。

米は言うに及ばず、【ウルディア湖】で取れる魚、【北の山脈地帯】の山菜や香辛料等もある。

 

そんな美味しい料理で一時の幸せを噛み締めている愛子達の下へ、六十代くらいの口髭が見事な男性がにこやかに近寄ってきた。

???「皆様、本日のお食事は如何ですか? 何かございましたら、どうぞ遠慮なくお申し付け下さい。」

愛子「あ、オーナーさん。」

愛子達に話しかけたのは、この"水妖精の宿"のオーナーであるフォス・セルオである。

スッと伸びた背筋に、穏やかに細められた瞳、白髪交じりの髪をオールバックにしている。

宿の落ち着いた雰囲気がよく似合う男性だ。

 

愛子「いえ、今日もとてもおいしいですよ。毎日癒されてます。」

愛子が代表してニッコリ笑いながら答えると、フォスも嬉しそうに「それはようございました。」と微笑んだ。

しかし次の瞬間には、その表情を申し訳なさそうに曇らせた。

いつも穏やかに微笑んでいるフォスには似つかわしくない表情だ。

何事かと食事の手を止めて、皆がフォスに注目した。

フォス「実は、大変申し訳ないのですが……香辛料を使った料理は今日限りとなります。」

優花「えっ!? それって、もうこのカレー擬き(ニルシッシル)を食べれないって事ですか?」

カレーが大好物の園部優花がショックを受けた様に問い返した。

 

フォス「はい、申し訳ございません。何分材料が切れまして……

いつもならこの様な事が無い様に在庫を確保しているのですが。

……ここ一ヶ月程北山脈が不穏という事で、採取に行く者が激減しております。

つい先日も、調査に来た高ランク冒険者の一行が行方不明となりまして、ますます採取に行く者がいなくなりました。

当店にも次にいつ入荷するかわかりかねる状況なのです。」

愛子「あの……不穏っていうのは具体的には?」

フォス「何でも魔物の群れを見たとか……北山脈は山を越えなければ比較的安全な場所です。

山を一つ越える毎に強力な魔物がいる様ですが、態々山を越えてまでこちらには来ません。

ですが、何人かの者が居る筈の無い山向こうの魔物の群れを見たのだとか。」

愛子「それは心配ですね……。」

 

愛子が眉を顰める。他の皆も若干沈んだ様子で互いに顔を見合わせた。

フォスは「食事中にする話ではありませんでしたね。」と申し訳なさそうな表情をすると、場の雰囲気を盛り返す様に明るい口調で話を続けた。

フォス「しかしその異変も、もしかするともう直ぐ収まるかもしれませんよ。」

愛子「どういう事ですか?」

フォス「実は、今日の丁度日の入り位に新規のお客様が宿泊にいらしたのですが、何でも先の冒険者方の捜索の為北山脈へ行かれるらしいのです。

フューレンのギルド支部長様の指名依頼らしく、相当な実力者の様ですね。

もしかしたら異変の原因も突き止めてくれるやもしれません。」

 

愛子達はピンと来ない様だが、食事を共にしていたデビッド達護衛の騎士は一様に「ほぅ。」と感心半分興味半分の声を上げた。

フューレンの支部長と言えばギルド全体でも最上級クラスの幹部職員である。

その支部長に指名依頼されるというのは、相当どころではない実力者の筈だ。

同じ戦闘に通じる者としては好奇心をそそられるのである。

騎士達の頭には、有名な"金"クラスの冒険者がリストアップされていた。

 

愛子達がデビッド達騎士のざわめきに不思議そうな顔をしていると、二階へ通じる階段の方から声が聞こえ始めた。

男の声と少女三人の声だ。随分と仲が良いようで、和気藹々と会話を楽しんでいる。

それに反応したのはフォスだ。

フォス「おや、噂をすれば。彼等ですよ、騎士様。

彼等は明朝にはここを出るそうなので、もしお話になるのでしたら、今のうちがよろしいかと。」

デビッド「そうか、わかった。しかし随分と若い声だ、"金"にこんな若い者がいたか?」

デビッド達騎士は、脳内でリストアップした有名な"金"クラスに今聞こえている様な若い声の持ち主がいないので、若干困惑した様に顔を見合わせた。

 

そうこうしている内に、四人の男女は話ながら近づいてくる。

愛子達のいる席は三方を壁に囲まれた一番奥の席であり、店全体を見渡せる場所でもある。

一応カーテンを引く事で個室にする事も出来る席だ。

唯でさえ目立つ愛子達一行は、愛子が"豊穣の女神"と呼ばれる様になって更に目立つ様になった為、食事の時はカーテンを閉める事が多い。

今日も、例に漏れずカーテンは閉めてある。

そのカーテン越しに、若い男女の騒がしめの会話の内容が聞こえてきた。

 

ミレディ「えぇっ!?ハジメンの故郷って魚を生で食べるの!?」

ハジメ「まぁ、一応殺菌処理はしてあるみたい。それでも食中毒とか注意の必要な物もあるけどね。」

シア「そういえば、こちらの町では売っているんですかね?その、"醤油"っていう調味料は。」

ハジメ「あぁ、出来ることなら味噌も欲しい。久々に南雲家特製味噌汁をふるまいたいものだ。」

ユエ「…ん、ハジメの故郷の食べ物、楽しみ。」

その会話の内容に、そして少女達の声が呼ぶ名前に。

愛子の、そして優花達の心臓が一瞬にして飛び跳ねる。

彼女達は今何といった?少年を何と呼んだ?少年の声は、"彼"の声に似てはいないか?

愛子の脳内を一瞬で疑問が埋め尽くし、金縛りにあった様に硬直しながら、カーテンを視線だけで貫こうとでも言う様に凝視する。

 

特に直接命を救われ、あの出来事に最も深く心を折られた優花の受けた衝撃は尋常ではなかった。

カランッとスプーンを落とした音にも気付かない様子で、唯々呆然としている。

優花を含め淳史達生徒の脳裏には、およそ四ヶ月前に奈落の底へと消えていった"彼"の姿が浮かび上がっていた。

自分達に"異世界での死"というものを強く認識させた少年。消したい記憶の根幹となっている少年。

良くも悪くも目立っていた少年……。

 

尋常でない様子の愛子と生徒達に、フォスや騎士達が訝しげな視線と共に声をかけるが、誰一人として反応しない。

騎士達が一体何事だと顔を見合わせていると、愛子がポツリとその名を零した。

愛子「……南雲君?」

無意識に出した自分の声で、有り得ない事態に硬直していた体が自由を取り戻す。

愛子は、椅子を蹴倒しながら立ち上がり、転びそうになりながらカーテンを引き千切る勢いで開け放った。

シャァァァ!!

 

存外に大きく響いたカーテンの引かれる音に、ギョッとして思わず立ち止まる三人の少女と、呑気に椅子を引いて座り込む少年。

愛子は、相手を確認する余裕も無く叫んだ。大切な教え子の名前を。

愛子「南雲君!」

ハジメ「あれ?愛ちゃん先生?それにみんなまで……どうしてここに?」

愛子の目の前にいたのは、意外そうな顔をしている、記憶と寸分違わぬ白髪の少年だった。

 

しかし雰囲気は大きく異なっている。

愛子の知る南雲ハジメは、どこか自分を抑え込んでいたような場面がみられていたものの、穏やかで明るい性格の少年だった。

実は、苦笑いが一番似合う子と認識していたのは愛子の秘密である。

だが、目の前の少年は以前とは違い、どこか血塗られたような感覚が体中を走っている感じがした。

話し方も変わった訳でもないのに、まるで遠くに行ってしまったような存在に感じてしまうのだ。

 

だが、目の前の少年は自分を何と呼んだのか。そう、"先生"だ。愛子は確信した。

雰囲気も話し方も大きく変わってしまっているが、目の前の少年は、確かに自分の教え子である"南雲ハジメ"であると!

愛子「南雲君……やっぱり南雲君なんですね?生きて……本当に生きて…。」

ハジメ「先生。俺があの程度で死ぬわけないでしょう。俺は先生の教え子で、王様になるんだから。」

死んだと思っていた教え子と奇跡の様な再会。感動して、涙腺が緩んだのか、涙目になる愛子。

今まで何処にいたのか、一体何があったのか、本当に無事でよかった、と言いたい事は山程あるのに言葉にならない。

それでも必死に言葉を紡ごうとする愛子を見て、困ったような笑みを浮かべながら、彼女の頭に手を置いて、優しく語り掛けるハジメ。

 

ハジメ「まぁ、なんだ。いろいろ言いたいことはあるだろうけれども……これだけ言っておくよ。

―――ただいま。」

愛子「!な゛く゛も゛く゛ぅ゛ん゛!

ハジメの無事を改めて認識したのか、今まで溜め込んでいたものが一気に涙となって溢れ出す。

愛子は涙声になりながら彼を抱きしめた。尤も、傍から見れば抱き着いているようにしか見えないが。

が、愛子の泣き声がレストラン中に響き渡っていることに気づいたハジメは、慌てて彼女を宥めた。

 

ハジメ「あ~……先生。ここは一応店内だからさぁ……。一旦、落ち着こうか?」

愛子「!……はい。///」

自分がどういう体勢なのか自覚した愛子は、頬を赤らめながらもいそいそとハジメから離れた。

生徒達はハジメの姿を見て、信じられないと驚愕の表情を浮かべている。

それは、生きていた事自体が半分、雰囲気の変貌が半分といったところだろう。

だがどうすればいいのか分からず、ただ呆然と愛子とハジメを見つめるに止まっていた。

 

ハジメ「さて、話したいことはいっぱいあるけれども、ここまですっ飛ばしてきたからね。

取り敢えず、腹ごしらえから済ましてもいいかな?」

愛子「それは構いませんが……こちらの女性達はどちら様ですか?」

そう言って、自分を温かい目で見守っていたユエ達に視線を向ける。

愛子の言い分はその場の全員の気持ちを代弁していたので、漸く俺が四ヶ月前に亡くなったと聞いた愛子の教え子であると察した騎士達や、愛子の背後に控える生徒達も皆一様に「うんうん。」と頷きハジメの回答を待った。

 

ハジメ「あぁ、紹介するよ。俺が旅先で出会った「「「女(ですぅ!)(だよ!)。」」」仲間……え?」

愛子「お、女?」

愛子が若干どもりながら「えっ?えっ?」とハジメと二人の美少女を交互に見る。

上手く情報を処理出来ていないらしい。後ろの生徒達も困惑したように顔を見合わせている。

いや、男子生徒は「まさか!」と言った表情でユエとシアを忙しなく交互に見ている。

徐々に、その美貌に見蕩れ顔を赤く染めながら。

 

ハジメ「ちょっと!?そこは仲間でしょ!?なんでそこで女なのぉ!?」

自分の言いたかったこととは違う言葉が三人の口から出てきたことに動揺するハジメ。

ユエ「……ん。でもプロポーズされた。」

シア「私も、「俺の人だ。」なんて言われましたし、実質俺の女宣言ですよ!」

ハジメ「二人の言い分は分かるが、なぜミレディまで!?」

ミレディ「えぇ~?だって、中身がオーちゃんでも、身体はハジメンだから実質正解みたいなものじゃん?」

ハジメ「そんなことがあって「南雲君?」……先生、誤解なんだ。」

愛子の様子がおかしくなったことに気づいたハジメは、慌てて誤解を解こうとするが、時既に遅しだった。

今の愛子の頭の中では、ハジメが三人の美少女を両手に侍らして高笑いしている光景が再生されている様だった。

表情がそれを物語っている。

 

顔を真っ赤にしてハジメの言葉を遮る愛子。

その顔は、非行に走る生徒を何としても正道に戻してみせるという決意に満ちていた。

そして、"先生の怒り"という特大の雷が【ウルの町】一番の高級宿に落ちる。

愛子「さ、三股なんて!直ぐに帰ってこなかったのは、遊び歩いていたからなんですか!?

もしそうなら……許しません!ええ、先生は絶対許しませんよ!お説教です!そこに直りなさい、南雲君!」

きゃんきゃんと吠える愛子を尻目に、どうしてこうなった……と思わず天井を仰ぐハジメであった。

 

〈愛ちゃんサイド終了〉

 


 

〈ハジメさんサイドリターン〉

 

散々愛ちゃん先生が吠えた後、他の客の目もあるからとVIP席の方へ案内された俺達。

そこで俺は、食事をしながらこの世界の真実について語った。

愛子「……で、では、私達はその"神を自称するエヒト"の遊戯の為だけに、人間族側の駒として召喚されたというのですか?」

ハジメ「あぁ、でも大丈夫だ。今俺達は、元の世界へ帰る術を身に着けるための旅に出ている。

まぁ、そのついでにクズ野郎はぶっ飛ばしておく。だからそれまで生き残ってほしい。」

愛子「!?帰る術があるんですか!?」

 

先程の絶望とは一転、元の世界へ帰還できることを聞き、希望を見出したかのように迫ってきた。

ハジメ「今はまだそれは出来ないよ。どれくらい時間がかかるか分からないからね。」

愛子「そ、そうですか……。」

またもや落ち込んでしまう愛ちゃん先生。はて、どうしたものだか、と思っていると……。

 

デビッド「貴様!先程から黙って聞いておれば、戯言を抜かしおって!この背信者が!」

さっきから何故か一緒にいた騎士たちが怒り出した。しかも剣まで抜いている。

ミレディ曰く、神殿騎士と言って、聖教教会や国の中枢に近い人間らしい。

なんでそんな奴等と愛ちゃん先生が一緒にいるんだか……作農師だからか。

 

ハジメ「信じる信じないはアンタ等の勝手だ。だが、その剣を納めないというのなら……。」

そう言って立ち上がり、威圧と魔力を放出した。

ハジメ「―――ここで貴様等を腹に収めてやろうか?」ズアッ!

デビッド「!?」

自分達とは桁違いの魔力と圧を受け、思わず後ずさる騎士達。だが、俺はそれを緩めるつもりはない。

折角だ。憂さ晴らしの一環に、外に打ち上げてやろう。そう思い、拳を構えようとすると……。

 

愛子「……ッ!待って……!」

ハジメ「!」

愛ちゃん先生の苦しそうな声を聞き、改めて周りを見る俺。

すると、放っている圧の影響か、他の皆も苦しそうにしていた。こりゃあいけない。

どうやら魔力が多すぎたみたいだ。慌てて俺は威圧と魔力を収める。

それを見て力が抜けたのか、騎士達がその場にへたり込んだ。

 

ハジメ「いやぁ、ごめんごめん。

食事中に物騒なことしようとする礼儀知らずがいたものだから、つい……。」

愛子「……先程のハジメ君の方が物騒な気がしますが……。」

そう言って再び座ると、食事を再開する俺。う~ん、久しぶりのカレーはうまいな。

 

ハジメ「んで?先生、何でこいつらが一緒なの?説明するときに色々面倒なんだけど。

邪魔だからぶっ飛ばしてもいいよね?シアのことも悪く言いそうな阿保共だし。」

愛子「ちょっと!?そんなことをしてはいけませんよ!?」

思わずイラついたので、怒気を発しながら騎士共を睨みつける俺。

 

デビッド「貴様!我々に向かって何と「デビッドさん、少し静かにしていてもらえますか?」うっ……承知した……。」

……ホント、俺がいない間何があったんだよ。そんな風に騎士を抑える先生を見て唖然とする俺。

ハジメ「先生、あんたいつの間に騎士達を手懐けたんだよ……。」

愛子「!?ち、違いますからぁ!デビッドさん達も、いつもこういった感じなので、つい!」

……マジで何があったんだ……。気になったので、近くにいた生徒の一人に聞いてみようとすると……。

 

ハジメ「あれ?園部さんじゃん。君もここに?」

優花「!」

迷宮に行く前に、料理を作ってもらった園部さんだった。

そういえば、オルクスでも似たような子を助けたなぁ。もしかして、園部さんだったのかな?

ハジメ「まぁ、なんだ。元気そうで何よりだよ。それで、愛ちゃん先生の状況について、教えてくれない?」

優花「え、えぇ。」

何所か戸惑った様子でありながらも、先生が今置かれている状況について教えてもらった。

 

ハジメ「……先生、異世界で逆ハーレムって、相当ポテンシャル高かったんだね。流石"豊穣の女神"。

なんか、これを題材にしたギャルゲーが一つ作れそうだね。」

愛子「!?そ、それはいけませんよ!著作権の侵害ですよ!」

ハジメ「でぇじょうぶだ、売るのはそこの騎士達だけにするから。」

愛子「そんなのダメです!ダメったらダメェ!」

慌てまくる愛ちゃん先生をおちょくりながらも、俺は騎士共をどうやって納得させるかを考えることにした。

正直、実力行使が一番早いが、ここ店内だしなぁ……。それに依頼を受けている身だし。

なんてことを考えていると、愛ちゃん先生が「お返しだァ!」とでも言わんばかりの目になった。

 

愛子「そ、そういう南雲君だって、王宮でなんて呼ばれているか知っていますか!?」

ハジメ「うん?」

そう言えば、王宮ではどんな扱いになっている事やら。他の皆の安否も心配だしなぁ……。

愛子「"無能の皮をかぶった化け物"、"ベヒモスを圧倒した異常者"、"王様になりたがった狂人"、なんて呼ばれているんですよ!?」

ハジメ「…………………………はい?」

今、なんて言った?てか最後のは完全に嫌味だよね!?なんでそんなにヤバそうな名前つけられてんの!?

 

デビッド「……聞いたことがある。

かつて、王宮の使用人の大半に恩恵を施し、王女様にも気に入られた錬成師がいると……。」

ハジメ「……ソソソソウナンデスカー。」

思いっきり身に覚えのある事ばかりであったため、何も言えなかった。

でもどうやら、ギルドでのあだ名はまだバレていないみたいだ。良かったぁ……。

 

ハジメ「まぁいいや。っと、そういえばあんた等に聞きたいことが出来たな。」

そう言って俺は、騎士たちの方に向き直る。

デビッド「!?な、なんだ?」

ハジメ「なぁに、そんなに難しいことじゃあない。

もし教会上層部が、愛ちゃん先生を殺せと命じたら、あんた等はどっちをとるのかなぁ?ってだけだよ。」

デビッド「何ッ!?」

愛子「!?」

 

自分でも直球過ぎる質問だが、愛ちゃん先生の影響力は、教会にとっては脅威になるだろう。

魔人族に殺させるか、異端審問で濡れ衣を着せるかの二択になる。

果たしてそんな中でも、こいつ等は信仰をとることが出来るのだろうか?と考え、聞いてみることにした。

案の定、騎士達は黙り込んでしまった。それもそうか。ならここは、背中を押してやるとしよう。

 

ハジメ「まぁ、選べないのは分かる。

だがな、種族が違うからと言って差別したり、教えに背いたからと言って迫害するような奴を、俺は神とは呼ばない。

教えは倣うものであって、尊守するものではない。

誰かのために教えに背くことが罪というのなら、俺が破戒してやるさ。」

デビッド「なっ!?き、貴様、神が恐ろしくないのか!?」

焦るように言うデビッドという騎士。だが、その程度では俺は曲げられない。

 

ハジメ「お山の上でふんぞり返るだけの能無しなんざ、怖くもなんともないな。

ま、奴への信仰程度で揺らぐものなら、アンタ等の愛ちゃん先生への気持ちは、そんなもんってことさ。」

デビッド「そ、そんな訳があるか!」

よぉし、ここまで追い詰めれば、後は誘導するだけか。

ハジメ「じゃあ、どっちを信仰するのかはもうわかるでしょ?」

愛子「な、南雲君?」

オロオロしだす愛ちゃん先生を尻目に、それはもういい笑顔で俺は言った。

 

ハジメ「だって、もう一人いるじゃん。

謙遜していて、民のためにひたむきで、尊敬される女神さまが。

そう、"豊穣の女神"である、愛ちゃん先生が!」

「「「「ッ!」」」」

愛子「南雲くーん!?」

これが俺の作戦、愛ちゃん先生を現人神として、新宗教を起こしてしまおうという魂胆なのだ。

これなら騎士達との衝突も軽減されるし、愛ちゃん先生の発言力もアップするし、俺は面倒ごとを回避できる。

皆Win-Winの作戦、というわけだァ!

 

ハジメ「今こそ目を覚ますべきだ!あんた達が信じるべきものとは何だ!?」

俺の言葉に、ハッとなったような騎士達。そして、目を覚ましたかのように、口々に言葉を漏らした。

チェイス「そうだ……そうに決まっている!」

クリス「俺達が信じるべきもの……最初から答えはあったということか。」

ジェイド「……なんだ、簡単なことじゃないか!なぜ今まで気づかなかったのか!」

デビッド「……まさか、お前にそれを気づかされるとはな……フッ、俺もまだまだということか。」

愛子「ちょっと!?皆さん、正気に戻ってください!南雲君も変なこと言わないで!」

異常事態に気づいた愛ちゃん先生が慌てて止めに入ろうとするが、もう既に遅い。

畳みかけるように、俺は騎士達に大声で問いかけた。

 

ハジメ「さぁ、答えろ!あんたたちの信じるべきものの名は!?」

「「「「愛子!愛子!愛子!」」」」

ハジメ「剣を捧げるべき相手は誰だ!?」

「「「「愛子!愛子!愛子!」」」」

ハジメ「教会のシンボルに尤も相応しいのは!?」

「「「「愛子!愛子!愛子!」」」」

俺の問いに答える騎士達。なんか既視感がありまくりだが、俺は悪くねぇ。全部、クズ野郎のせいだ。

 

ハジメ「もう、迷う必要がないなら、どうするべきか分かるよね?」

優しく諭すように問いかけると、騎士達は憑き物が取れたかのような表情になり、愛ちゃん先生の前に進み出る。

愛子「で、デビッドさん、チェイスさん、クリスさん、ジェイドさん!皆さん、正気に戻ってください!」

デビッド「大丈夫だ、愛子。心配することなど何もないさ。俺達は今正に、正気に戻ったんだ。

むしろ今までの自分達こそが、正気ではなかったんだ。」

そう言うと、デビッド含む騎士達は、皆抜き身の剣を床に立て、右手でそれを持ったまま、静かに跪き頭を垂れた。

デビッド「だからこれからも、我々を導いてほしい。我らが"慈愛の女神"、愛子よ。」

 

まぁ、なんだろう。今更だけど、ちょっとやり過ぎたかな?

そう思って、愛ちゃん先生を見てみると、白目をむいて気絶していた。

ハジメ「……やっべ。」

「「「「「「愛ちゃん先生!?」」」」」」

「「「「愛子!?」」」」

流石にこのまま放置はダメなので、エナジーアイテム「目覚まし」を使い、起こすことにした。

 

目を覚ました愛ちゃん先生は、早速俺に説教をかました。まぁ、その姿を騎士達は拝んでいたが。

その後、最近の状況について話すと、愛ちゃん先生は何かを言いたそうな感じだったので、聞いてみることにした。

ハジメ「そういえば、他の皆は元気?俺が落ちた後、誰も死んでいないよね?」

愛子「えぇ、誰も死んではいません。

香織さん達も順調に迷宮攻略をしていますので、近いうちに合えると思います。ただ……。」

?どうしたのだろうか?

 

愛子「南雲君にお願いがあります。一緒に清水くんを探してもらえないでしょうか?」

ハジメ「!?アイツに何かあったのか!?」

ユエ「ハ、ハジメ?」

シア「ハジメさん?」

ミレディ「ハジメン?」

仲間の一人であるトシの名を聞き、思わず動揺してしまう俺。

ユエ達には、「一番信頼できる仲間の一人」と説明しておいた。

 

詳しく話を聞くと、前々から予定調整や身辺整理の手伝いをしてもらっていたようだ。

アイツめ、中々の立ち位置にいるじゃあないか。となれば、ニアミスしてしまったようだな。

因みに、他の生徒達を率いていたのもトシだという。ホントいい立ち回りしているぜ。

が、二週間前にパッタリと姿を消してしまったようだ。近隣の町や村でも目撃されていなかったらしい。

となれば、考えられるべき場所は一つ、北の山脈地帯だろうな。

何か異変を感じて一人で調査しに行った可能性は高かったが、流石に連絡もなしに行くような男じゃない。

きっと、何かを見つけた途中でトラブルに巻き込まれたのだろう。何者かによって不都合な、何かを。

 

ハジメ「……なるほどな。確かに俺達は北の山脈地帯に行くが……相当危険だぞ?」

愛子「それでも、私は先生ですから!生徒を無事親御さんの元に帰すのが、先生の役目です!」

その目は信念の籠った強い瞳だった。参ったなぁ、これは流石に断りにくい。

優花「だったら、私達も行きます!愛ちゃん一人を行かせるわけにはいきません!」

デビッド「俺達も同じだ!いざとなったら、俺達が愛子の盾になる!」

愛子「えぇ!?さ、流石にそんな人数では南雲君たちにも負担がかかってしまいますし……。」

どうやら、他の奴等もセットになってついてくるらしい。……はぁ、仕方がないかぁ。

 

ハジメ「……明日の夜明けに全員集合。遅れたら即おいていくからね?」

愛子「!ありがとうございます!」

全く、自分でも甘くなったものだなぁ。まぁ、この際だし、色々恩を売っておくのも悪くはないか。

ハジメ「まぁ、そういう訳なんだけど……ごめんね?勝手に決めちゃって。」

ユエ「……ん、以前問題なし。」

シア「そうですよ!それにハジメさんのお仲間さんにもあってみたいですし!」

ミレディ「それに、愛ちゃんのケアもしっかりしてあげないとね!」

ハジメ「……はい。」

とまぁ、彼らを同行させることになった俺であった。まぁ、それはさておき。

 

ハジメ「ところで先生、トシがいたってことは、俺の伝言はもう受け取っているの?」

愛子「……………あ。」

ハジメ「えぇ……………?」

どうやら、みそ汁や海鮮丼はまた今度になりそうだ。

 


 

その夜、俺は愛ちゃん先生の部屋を訪れた。

部屋の前にいた騎士さんには「先生に用がある。」というと、快く取り次いでくれた。

愛子「それで南雲君、話というのは?」

ハジメ「あぁ、夕食のときに言った帰還手段の当てについて、だよ。後、あの時はごめんなさい。」

そう言って頭を下げると、愛ちゃん先生は慌てて声を上げた。

 

愛子「あ、頭を上げてください!あの時の行動は南雲君なりの考えがあったことなんでしょうから!」

ハジメ「……そう言ってもらえると、助かるよ。」

正直、色々と申し訳なかったからなぁ……。

ハジメ「それで、帰還手段の当てっていうのは、この世界にある七大迷宮のクリア報酬"神代魔法"を全部集めることで使うことのできる"概念魔法"というものなんだよ。」

愛子「な、七大迷宮ですか?」

 

ハジメ「あぁ、かつてあのクズに立ち向かった、解放者という先人達が残した試験場と言えるものだ。

それをクリアすれば、"神代魔法"を託すに値すると認められ、その魔法を手に入れることが出来る。

因みに、俺は今二つ持っている。」

愛子「それなら、後5つ集めれば帰れるんですよね?」

ハジメ「どうだかね。あのクズ野郎の妨害が無いとも限らない。

それに今の光輝達じゃあ、オルクスの攻略でも難しいと思う。まぁ、こっちは俺が何とかするよ。

先生は先生で出来ることをお願いするよ。」

それに、香織達のこともあるからな。アイツ等、まだ奈落についてなきゃいいんだけど……。

 

愛子「分かりました。危険なところを生徒に任せるのは気が引けますが、お願いします。

先生もできる限り動きますので。」

ハジメ「そう、ならよかった。そういえば、皆の様子は?」

愛子「えぇ、白崎さん達はすごいですよ。たった四人でベヒモスを圧倒していましたし。」

ハジメ「そうか…………ん?4人?」

てっきりとどめを刺したのは光輝だと思っていたんだが……どういうことだ?

 

愛子「はい、白崎さん、八重樫さん、恵理さん………あ!後、遠藤君です!」

ハジメ「今サラッと、浩介のこと忘れていなかった?てか、何であいつ等そんなに強くなってんのさ……。」

愛子「詳しいことは分かりませんが……

見たこともない魔法や技能でベヒモスを圧倒していたみたいです。」

ハジメ「……そっか。まぁ、元気にやっているなら何よりだよ。」

そう言うと、愛ちゃん先生はまた暗い表情になった。今度はどうしたというんだ?

 

愛子「……それで、南雲君は、やっぱり許せませんか?」

ハジメ「うん?騎士さんたちならとっくの昔に……。」

そう言うと愛ちゃん先生は首を横に振り、意外な人物の名前を上げた。

愛子「檜山君のことです。事故とはいえ、南雲君が危険に晒されたわけですから……。」

ハジメ「……あぁ、何だアイツか。」

正直、今一番どうでもいい奴の名前だった。

 

愛子「!?気にしていないんですか!?」

ハジメ「別に奴が謝ろうが知ったこっちゃあないね。そんなことに構っている暇はないし。」

愛子「そんなことって……恵理さん達はとても怒っていましたよ?」

ハジメ「そうか……そいつは悪いことをしたね。」

正直、そこまでは考えていなかったからなぁ……。後で謝っておかないとな。

 

ハジメ「それじゃ、夜分遅くにごめんね?明日は早いから、そろそろ行くよ。」

愛子「はい、おやすみなさい……。」

?随分落ち込んでいたように見えたけど……何か拙いこと言っちゃったのかな?

なんて呑気なことを思っていた俺は気づいていなかった。

明日の捜索が、とある因縁を生むことになろうとは……。




ここまで読んでいただき、ありがとうございます!

全員でまさかのレース。しかも全員エアライドという。
オスカーが何故ハジメに乗り移れるかは、仮面ライダーゴーストを参照して頂けると幸いです。

愛ちゃん、まさかの神格化。
愛ちゃん先生には悪いですが、騎士達との衝突は後々面倒なので、ごり押しで解決させていただきました。
尚、醤油や味噌の発酵は忘れ去られていた模様。

ハジメさんにとって、檜山は正直どうでもいい存在です。
歯向かってきたり、大切な人たちに危害を加えるなら、全力で血祭りにあげてやる、程度にしか思っていません。
まぁ、今作ではただのモブキャラで終わるわけではありませんが。

さて、次回はいよいよ三人目のヒロイン初登場!
果たして、ティオさんの貞操や如何に!?

宜しければ、高評価・コメント宜しくお願い致します。

次回予告

オッス!オラ、ハジメ!
朝早くから大人数で、北の山脈地帯を散策することになったオラ達。
そこで見たものとは壮絶な戦いの後だった。
おぉ?なんか強そうなドラゴンが来たぞ!オラ、ワクワクしてきたぞ!

次回 ありふれない錬成師は最高最善の魔王の力で世界最強を超越する
「黒龍現る!北の山脈大捜査線」
ぜってぇ見てくれよな!


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35.黒龍現る!北の山脈大捜査線

お待たせいたしました。
今回は北の山脈地帯の捜索に向かいます。
ラストにはあのキャラも登場!?

急展開の第三章第5話、それではどうぞ!


翌日の夜明け。

月が輝きを薄れさせ、東の空が白み始めた頃。

俺達はすっかり旅支度を終えて"水妖精の宿"の直ぐ外にいた。

手には移動しながら食べられる様にと握り飯が入った包みを持っている。

極めて早い時間でありながら、嫌な顔一つせず朝食にとフォスさんが用意してくれたものだ。

流石は高級宿、粋な計らいだと感心しながら俺達は遠慮無く感謝と共に受け取った。

 

ウィル達が北の山脈地帯に調査に入り、消息を絶ってから既に五日。生存は絶望的だ。

正直、彼等が生きている可能性は高くないと考えているが、万一という事もある。

生きて帰せば、イルワさんに良い印象を残せるし、この町の香辛料もいくらか譲ってもらえるかもしれない。

そういう訳で、出来るだけ急いで捜索するつもりだ。幸いな事に天気は快晴。搜索にはもってこいの日だ。

 

朝靄が立ち込める中、俺達は【ウルの町】の北門に集まった。

ハジメ「よし、全員揃ったね?それじゃ、行きますか。」

そう言って門を出ようとする俺。

その手ぶらな様を見て困惑する愛ちゃん先生やクラスメイト、騎士達一同。

優花「えぇ~と、南雲?もしかしてアンタ、走っていくつもり?仮に本当にそうだとしたら……

昨日の威圧感といい、どこまで人間辞めてるのって感じなんだけど?」

 

なんてことを言うのでしょうこの子は。俺がそんなに脳筋に見えるのかい。

まぁ、いいだろう。せっかくなのでお披露目としますか。

ハジメ「ここだと狭すぎて出しにくいんだよ。馬よりも早くて楽だから、とりあえず繋いできてよ。」

そう言って俺は、皆の連れて来ていた馬を馬舎に繋がせた。

そうして門に出ると、俺はコネクトである乗り物を呼び寄せた。

 

すると突然、向こうの空に謎の空間が広がった。

優花「!?ちょっ、何アレ!?」

ハジメ「心配しなくてもいいよ。あれが今から乗る物だから。」

俺がそう言うと、その空間から大きな列車が出てきた。

その名も、"デンライナーゴウカ"。俺が奈落で旅客車を寝台列車風に改造した、大型列車だ。

 

デビッド「な、何だこれは!?」

初めて見る列車に驚く騎士達。オスカーも目をキラキラさせている。折角だ、後で運転させてあげよう。

淳史「お、おい南雲!これって列車だよな!?なんでこんなの持ってんだよ!?」

デンライナーを見て驚く玉井君。どうやら異世界でもお目にかかるなんて思ってもいなかったのだろう。

ハジメ「ホラ、早く探しに行くよ。もたついていると、あっという間に暗くなって、捜索できなくなるよ?」

そう言って彼らを急かし、デンライナーに乗せる俺。ユエ達も初めての列車に興味津々のようだ。

 

さてと、今回俺は昼食を作らなければならない。というわけで。

ハジメ「誰か、男でこの人に体貸してくれない?デンライナー運転してもいいからさ。」

オスカー『やぁ、初めまして。僕はオスカー・オルクス。解放者の一人だよ。』

「「「「「「「キェェェェェェアァァァァァァシャァベッタァァァァァァァ!!!???」」」」」」」

ハジメ「静かに。」

予想通りの反応ではあったが、もう少しボリュームは抑えてほしい。

その後、じゃんけんで決めることになった結果、玉井君にやってもらうことになった。

 


 

前方に山脈地帯を見据えて真っ直ぐに伸びた道を、デンライナーが爆走する。

サスペンションは勿論だが、自前で線路を生成してその上を走っているだけなので、皆も特に不自由さは感じていない様だった。

 

前方の運転車両にはオスカーが憑依した玉井君が乗り、愛ちゃん先生は護衛の騎士達に囲まれている。

ユエとミレディは女子達とトークに花を咲かせている。

因みに、シアは俺のいる厨房に避難している。

まぁ、流石にあんなに視線を集めてたら、居心地よくないからねぇ……。

 

とまぁ、そんなこんなで昼食用のお弁当作りをしていた俺とシア。途中で園部さんが助っ人に来てくれた。

そのおかげで予定よりも早く済んだので、玉井君と交代する。

オスカーが随分と楽しみまくっていたようだ。

やれやれ、ミレディが我が子の困った行動を見る母親のような顔をしているぞ。

これから正体不明の異変が起きている危険地帯に行くとは思えない、何とも和やかな雰囲気が流れていた。

 

【北の山脈地帯】

 

標高1000mから8000m級の山々が連なるそこは、どういう訳か生えている木々や植物、環境がバラバラという不思議な場所だ。

日本の秋の山の様な色彩が見られたかと思ったら、次のエリアでは真夏の木の様に青々とした葉を広げていたり、逆に枯れ木ばかりという場所もある。

また、普段見えている山脈を越えてもその向こう側には更に山脈が広がっており、北へ北へと幾重にも重なっているとのことだ。

現在確認されているのは四つ目の山脈までで、その向こうは完全に未知の領域らしい。

 

何処まで続いているのかと、とある冒険者が五つ目の山脈越えを狙った事があるそうだが、山を一つ越える度に生息する魔物が強力になっていくので、結局成功はしなかった様だ。

因みに、第一の山脈で最も標高が高いのはかの聖教教会の本部が存在する【神山】、あのクズ野郎を祭っている面倒な場所である。

魂魄魔法を手に入れるためとはいえ、正直ゴキブリ退治に行くような感覚だ。

 

今回俺達が訪れた場所は、神山から東に1600km程離れた場所だ。

紅や黄といった色鮮やかな葉をつけた木々が目を楽しませ、知識ある者が目を凝らせば、そこかしこに香辛料の素材や山菜を発見する事が出来る。

ウルの町が潤う筈で、実に実りの多い山である。

折角なので、少し持っていこうとしたのは秘密だ。

 

俺達はその麓にデンライナーを止めると、暫く見事な色彩を見せる自然の芸術に見蕩れた。

女性陣の誰かが「ほぅ。」と溜息を吐く。

俺自身ゆっくり鑑賞したい気持ちを押さえてデンライナーを見送ると、代わりにとある物をコネクトで取り出した。

それは、全長50cm程のケースがいくつかと音叉、一台の自動販売機であった。

ハジメ「それじゃ、捜索の準備でもしますか。」

 

そう言って俺はケースを片っ端から開けていった。中身はてんでバラバラな物ばかりだった。

まぁ、これだけあれば、二人ぐらいは簡単に見つけられるだろう。

そう思いながら、俺は音叉を軽く弾いて音を鳴らした。

するとキィィーーンという甲高い音が響き、それが伝播する様に数種類のディスクが震え始める。

途端、ディスクは赤青緑と様々な色に変わっていき、そのまま独りでにケースから飛び出した。

そのディスク群は生物の形に変形していき、其々が鳴き声を上げながら四方八方に散っていった。

 

愛子「あの、あれは……。」

鳥や狼、猿、蟹、蛇、蛙と多種多様な生物に変形し遠ざかっていくディスク達を見ながら、愛ちゃん先生が聞いてきた。

ハジメ「あぁ、まだ他にもあるから。」

そう言って俺は、ゼクターとメモリガジェットを飛ばし、自動販売機のボタンを押しまくった。

すると、如何にも当たりを引き当てたような音声と共に、大量の缶が転がり落ちてきた。

「「「「「「「!?」」」」」」」

ハジメ「あ、それ全部開けといて。今こっちも調整中だから。」

そう言いながら、プラモンスター達やシフトカーを使い、人海戦術をさらに広げる俺であった。

 

ハジメ「さて、後はこれをかけてっと。」

捜索用のアイテムを全部放出した俺は、コネクトで取り出したVRゴーグル擬きを装着した。

実はこれ、さっき飛ばした奴の映像を処理するために開発したものである。

昇「!?おい南雲!それ、VRゴーグルじゃねぇか!?」

明人「マジか!?まさか、この世界にゲームを持ち込めただなんて……!」

……ふざけて作ったんじゃあない。それにこの形なら情報がちゃんと処理されて頭に入ってくるからだ。

後、ちゃんと現実の映像もしっかり見えるので、つけながらでも歩行は可能だ。

 

俺達は、冒険者達も通ったであろう山道を進む。

魔物の目撃情報があったのは、山道の中腹より少し上、六合目から七号目の辺りだ。

ならばウィル達冒険者パーティも、その辺りを調査した筈である。

そう考えて、俺達は先程放った偵察部隊をその辺りに先行させながら、ハイペースで山道を進んだ。

凡そ一時間と少し位で六合目に到着した俺達は、一度そこで立ち止まった。

理由は、そろそろ辺りに痕跡が無いか調べる必要があったのと……

 

愛子「ハァハァ、きゅ、休憩ですか……ケホッ、ハァハァ。」

「ゼェー、ゼェー、大丈夫ですか……愛ちゃん先生、ゼェーゼェー。」

「ウェップ、もう休んでいいのか?ハァハァ、いいよな?休むぞ?」

「……ヒュウーヒュウー。」

「ゲホゲホ、南雲達は化け物か……。」

デビッド「ゼェ……ゼェ……。大丈夫か、我が女神。」

 

ハジメ「……やれやれだぜ。」

予想以上に愛ちゃん先生達の体力が無く、休む必要があったからである。

勿論、本来愛ちゃん先生達のステータスはこの世界の一般人の数倍を誇るので、六合目までの登山如きでここまで疲弊する事は無いはずだ。

神殿騎士の人達も、この世界では上位のレベルに入るから、そこまでヘボくはないはずだ。

ただまぁ、俺達の移動速度が速すぎて殆ど全力疾走しながらの登山となり、気がつけば体力を消耗しきってフラフラになっていたのである。

 

四つん這いになり必死に息を整える愛ちゃん先生。

相川君と二村君は仰向けに倒れながら今にも死にそうな呼吸音を響かせていて、宮崎さんは少しばかり女子として見せてはいけない顔になっている。

意外にも倒れ込んでいないのは園部さんと菅原さんだ。

二人共近くの木に寄りかかり、相当きつそうな表情ではあるが倒れ込む様な気配は無い。

二人共にどちらかと言えば前衛職の天職である事が関係しているのだろう。

 

それぞれ"投術師"と"操鞭師"だからかな?

前者は投げナイフやダーツ等投擲技術の才を、後者は鞭は勿論としてロープ状の物を操る技術の才を発揮する。

見た目ちょっと不良っぽい園部さんが投擲用ナイフを手慰みにジャグリングしたり、おっとり系ギャルの菅原さんが鞭を巧みに振り回したりする姿は……

生徒達の間でもとびっきりシュールという意見と、何だか凄く似合っているという意見が半々だったらしい。

 

後者に至っては隠れサドなんじゃないかと俺は思った。

尚、玉井君と相川君も一応前衛職なのだが体力で負けているという点は、指摘してはいけない。

そんな事をすれば、今度こそ彼等の心はポッキリと逝っちゃうから。

騎士さん達は普段から鍛えているだけあって、まだまだ余裕はありそうな感じだが。

 

まぁ、どちらにしろ詳しく周囲を探る必要があるので、休憩がてら近くの川に行く事にした。

ここに来るまでに、伝達用アイテムからの情報で位置は把握している。

未だ荒い呼吸を繰り返す彼等に場所を伝え、俺達は先に川へと向かった。

ウィル達も休憩がてらに寄った可能性は高いだろうし。

ユエ達を連れて山道から逸れて山の中を進むことに。

シャクシャクと落ち葉が立てる音をBGMに木々の間を歩いていると、やがて川の(せせらぎ)が聞こえてきた。

耳に心地良い音だ。シアの耳が嬉しそうにピッコピッコと跳ねている。

 

そうして俺達が辿り着いた川は、小川と呼ぶには少し大きい規模のものだった。

索敵能力が高いシアが周囲を探り、俺も念の為偵察部隊を幾つか呼び戻し周囲を探るが魔物の気配はしない。

取り敢えず息を抜いて俺達は川岸の岩に腰掛けつつ、今後の捜索方針を話し合った。

途中、ユエが「少しだけ。」と靴を脱いで川に足を浸けて楽しむという我儘をしたが、皆はまだかかりそうだし良いか。

シアとミレディも便乗してきた。

俺はというと、川沿いに上流へと移動した可能性も考えて、偵察部隊を上流沿いに飛ばしつつ、ユエ達がパシャパシャと素足で川の水を弄ぶ姿を眺めることにした。

シアは素足を水につけているだけだが、川の流れに攫われる感触に擽ったそうにしている。

 

するとそこへ、漸く息を整えた愛ちゃん先生達がやって来た。

置いていかれた事に思うところがあるのかジト目をしている。まぁ、正直すまんとは思っている。

が、男子三人が素足のユエ達を見て歓声を上げると「ここは天国か。」と目を輝かせ、女性陣の冷たい眼差しは矛先を彼等に変えた。

騎士さん達は愛ちゃん先生にくぎ付けみたいだが。強いなぁ……。

身震いする男衆。その視線に気がつき、ユエ達も川から上がった。

 

愛ちゃん先生達が川岸で腰を下ろし水分補給に勤しむ。

先程から男衆のユエ達を見る目が鬱陶しいので軽く睨み返すと、ブルリと震えて視線を逸らした。

そんな様子を見て、愛ちゃん先生達が俺に生暖かい眼差しを向ける。

特に、園部さん達は車中でシアから色々聞いたせいか実にウザったらしい表情だ。

愛子「ふふ。南雲君は、ホントにユエさん達を大事にしているんですね。」

愛子が微笑ましそうに、優花達に聞こえない様に小声で言う。

ハジメ「まぁ、俺にとって仲間は第二の家族みたいなものだからね。相手が神でも負ける気しないから。」

愛子「フフッ、何だか南雲君一人いるだけで頼もしく感じますね。」

ハジメ「そりゃあ俺、最高最善の魔王だからね。民の安全を守るのが務めだし。」

 

そんな会話をしていると、ユエがそれを行動で示してきた。

当然だと言う様に俺の右太ももの上にポスッと腰を落とす。

そして、柔らかなお尻をふにふにと動かしてベストポジションを探る。

ユエ「……ん。」

そして満足のいくポジションを見つけ、そのまま俺に寄りかかり全体重を預けた。

それが信頼の証だとでも言うように。

 

それを見てシアとミレディも示してきた。ミレディはユエと同じように左太ももに腰を落とした。

シアは俺の背後からヒシッと抱きつく。柔らかい……お餅が……。

突如発生した桃色空間に愛ちゃん先生と園部さんは頬を赤らめ、宮崎さんと菅原さんはキャーキャーと歓声を上げ、男子三人はギリギリと歯を噛み締めていた。

騎士さん達は未だに愛ちゃん先生に夢中。ここまでくると尊敬するわ。

 

ハジメ「!これは!?」

ユエ「ん……何か見つけた?」

急遽、気になる情報が入ったので、早速その場所を特定することにした。

急に驚いた俺に、ユエが確認する。その様子に、愛ちゃん先生達も何事かと目を瞬かせた。

ハジメ「川の上流……これ盾かな?それに鞄もまだ新しいし……当たりかもね。皆、行くよ。」

ユエ「ん……。」

シア「はいです!」

ミレディ「うん!」

俺達が阿吽の呼吸で立ち上がり、出発の準備を始めた。

 

愛ちゃん先生達は……仕方がないか。そう思うと、複数の飛行用アニマルやバイクを取り出した。

『ドラゴニックナイト!』『ランプドアランジーナ!』『Attack ride, Booster Tridoron!』

愛ちゃん先生たち女性陣は魔法の絨毯に、男子三人はブレイブドラゴンの背中に、騎士さん達は少し狭いが、ブースタートライドロンに乗ってもらうことにした。

尚、制御方法は一緒に渡したライドブックと、ビルドフォン擬きで行う。

俺達はというと、ユエ達はアドベントで呼びだしたドラグレッダーに乗って進み、俺は走ることにした。

 

俺達が到着した場所には、偵察部隊で確認した通り小ぶりな金属製のラウンドシールドと鞄が散乱していた。

但しラウンドシールドは拉げて曲がっており、鞄の紐は半ばで引き千切られた状態でだ。

俺達は注意深く周囲を見渡す。すると、近くの木の皮が禿げているのを発見した。

高さは大体2m位の位置だ。何かが擦れた拍子に皮が剥がれた、そんな風に見える。

高さからして人間の仕業ではないだろう。

俺はシアにウサミミ探査を指示しながら、感知系能力をフルにして、傷のある木の向こう側へと踏み込んでいった。

 

先へ進むと、次々と争いの形跡が発見できた。

半ばで立ち折れた木や枝。踏みしめられた草木、更には折れた剣や、血が飛び散った痕もあった。

それらを発見する度に、特に愛ちゃん先生達の表情が強張っていく。

特に、死の恐怖に一度は心を折られた園部さん達は【オルクス大迷宮】で死にかけた時の事を思い出したのか、一見して分かる程顔色を悪くしている。

震えそうになる身体を必死に抑えようとしているのが分かった。

そんな彼等を騎士さん達に任せ、争いの形跡を追っていくと、シアが前方に何か光るものを発見した。

 

シア「ハジメさん、これペンダントでしょうか?」

ハジメ「ん?あぁ……遺留品かも。確かめようか。」

シアからペンダントを受け取り汚れを落とすと、どうやら唯のペンダントではなくロケットの様だと気がつく。

留め金を外して中を見ると、女性の写真が入っていた。恐らく、誰かの恋人か奥さんと言ったとこかな。

大した手がかりではないが、古びた様子はないので最近の物……冒険者一行の誰かの物かもしれない。

なので一応回収しておく。

 

その後も、遺品と呼ぶべき物が散見され、身元特定に繋がりそうな物だけは回収していく。

どれ位探索したのか、既に日は大分傾きそろそろ野営の準備に入らねばならない時間に差し掛かっていた。

未だ野生の動物以外で生命反応はない。

ウィル達を襲った魔物との遭遇も警戒していたのだが、それ以外の魔物すら感知されなかった。

位置的には八合目と九合目の間と言った所。

山は越えていないとは言え、普通なら弱い魔物の一匹や二匹出てもおかしくない筈なんだけどなぁ?

そんな環境の中、俺達は安堵どころか逆に不気味さを感じていた。

暫くすると、再び偵察部隊が異常のあった場所を探し当てた。

東に300m程いった所に大規模な破壊の後があったようだ。俺は全員を促してその場所に急行した。

 

そこは大きな川だった。上流に小さい滝が見え、水量が多く流れもそれなりに激しい。

本来は真っ直ぐ麓に向かって流れていたのであろうが、現在その川は途中で大きく抉れており、小さな支流が出来ていた。

まるで、横合いからレーザーか何かに抉り飛ばされた様だ。

その様な印象を持ったのは抉れた部分が直線的であったとのと、周囲の木々や地面が焦げていたからである。

更に、何か大きな衝撃を受けた様に何本もの木が半ばからへし折られ、何10mも遠くに横倒しになっていた。

川辺のぬかるんだ場所には、30cm以上ある大きな足跡も残されている。

 

ハジメ「ここで本格的な戦闘があった様だね……この足跡、大型で二足歩行する魔物……

確か、山二つ向こうにはブルタールって魔物がいたね。でもこの抉れた地面は……。」

因みにブルタールとは、RPGで言うところのオークやオーガの事だ。

大した知能は持っていないが、群れで行動する事と固有魔術"金剛"の劣化版"剛壁"の固有魔術を持っている為、中々の強敵と認識されている。

普段は二つ目の山脈の向こう側におり、それより町側には来ない筈の魔物だ。

それに、川に支流を作る様な攻撃手段は持っていない筈なのだ。

 

俺はしゃがみ込みブルタールのものと思しき足跡を見て少し考えた後、上流と下流のどちらに向かうか逡巡した。

ここまで上流に向かってウィル達は追い立てられる様に逃げてきた様だが、これだけの戦闘をした後に更に上流へと逃げたとは考えにくい。

体力的にも、精神的にも町から遠ざかるという思考が出来るか疑問である。

なので、念の為偵察部隊を上流に向かわせながら下流へ向かう事にした。

ブルタールの足跡が川縁にあるという事は、川の中にウィル達が逃げ込んだ可能性が高い。

ならきっと、体力的に厳しい状況にあった彼等は流された可能性が高いと考えたのだ。

俺の推測に皆も賛同し、今度は下流へ向かって川辺を下っていった。

 

すると今度は、先程のものとは比べ物にならない位立派な滝に出くわした。

俺達は、軽快に滝横の崖をひょいひょいと降りていき滝壺付近に着地する。

滝の傍特有の清涼な風が一日中行っていた探索に疲れた心身を優しく癒してくれる。

すると、そこで俺の"気配感知"に反応が出た。

 

ハジメ「!これ、川の中か?」

ユエ「……ハジメ?」

ハジメ「さっき、滝壺の奥に反応があった。多分、生存者だよ。」

シア「本当ですか!」

シアの驚きを含んだ確認の言葉に、俺は捜索隊をしまいつつ頷いた。

人数を問うユエに「一人だよ。」と答える。

 

愛ちゃん先生達も一様に驚いている様だ。それも当然だろう。

生存の可能性はゼロではないとは言え、実際には期待などしていなかった。

ウィル達が消息を絶ってから5日は経っているのである。もし生きているのが彼等の内の一人なら奇跡だ。

ハジメ「それじゃミレディ、お願い。」

ミレディ「りょーかい!まっかせて―!」ザァァァッ!

 

滝壺を見ながら、ミレディに重力魔法をお願いした。

快く返事をしたミレディが右手をふるうと、滝と滝壺の水が紅海におけるモーセの伝説の様に真っ二つに割れ、水滴一つ飛び散らず綺麗に割れ始めた。

ミレディ十八番の重力魔法の腕前だ。まぁ、本当はもっと凄いんだが。

詠唱をせず陣も無しに、見たこともない魔法を応用して行使した事に愛ちゃん先生達は、もう何度目かわからない驚愕に口をポカンと開けていた。

なんか、嘗てのヘブライ人達みたいな顔だなぁ……。

 

そんな彼等を促し、滝壺から奥へ続く洞窟らしき場所へ踏み込んだ。

洞窟は入って直ぐに上方へ曲がっており、そこを抜けるとそれなりの広さがある空洞が出来ていた。

天井からは水と光が降り注いでおり、落ちた水は下方の水溜りに流れ込んでいる。

溢れない事から、きっと奥へと続いているのだろう。

 

その空間の一番奥に、横たわっている男を発見した。

傍に寄って確認すると、二十歳位の青年とわかった。

端正で育ちが良さそうな顔立ちだが、今は蒼褪めて死人の様な顔色をしている。

だが大きな怪我は無く、鞄の中には未だ少量の食料も残っているので、単純に眠っているだけの様だ。

顔色が悪いのは、彼がここに一人でいる事と関係があるみたい。

気遣わし気に愛ちゃん先生が容態を見ているが、早く依頼達成をしたいので、青年の正体を確認する為上体を起こし、頬を軽くペチペチ叩く。

 

???「んっ、んんぅ……。」

呻きながら目を覚まし、右へ左へと視線を彷徨わせる青年。

愛ちゃん先生達がホッと安堵の溜め息を漏らす。

俺はそんな彼等をスルーして、未だ夢現の青年に近づくと端的に名前を確認する。

ハジメ「君がウィル・クデタ?クデタ伯爵家三男の。」

???「いっっ、えっ、君達は一体、どうしてここに……。」

状況を把握出来ていない様で目を白黒させる青年に、もう一度質問した。

ハジメ「き・み・が・ウィル・クデタ?

???「えっと、うわっ、はい!そうです!私がウィル・クデタです!はい!」

 

一瞬青年が答えに詰ったので、つい眼をギラリとさせてしまったのか、それに慌てた青年が自らの名を名乗った。

どうやら本当に本人の様だ。奇跡的に生きていたらしい。

ハジメ「そう。俺はハジメ、南雲ハジメだよ。

フューレンのギルド支部長イルワさんからの依頼で捜索に来たんだ。どうやら間に合ったようだね。」

ウィル「イルワさんが!?そうですか、あの人が……また借りができてしまった様だ。

……あの、貴方も有難う御座います。イルワさんから依頼を受けるなんて余程の凄腕なのですね。」

尊敬を含んだ眼差しと共に礼を言うウィル。もしかすると、案外大物なのかもしれない。

何でこういう人ばかりじゃないんだろうなぁ……。そんなことを残念に思う俺であった。

それから各人の自己紹介と、何があったのかをウィルから聞いた。

 

要約するとこうだ。

ウィル達は5日前俺達と同じ山道に入り、5合目の少し上辺りで突然10体のブルタールと遭遇したらしい。

流石にその数のブルタールと遭遇戦は勘弁だとウィル達は撤退に移ったらしいのだが、襲い来るブルタールを捌いている内にどんどん数が増えていき、気がつけば6合目の例の川にまで追い立てられていた。

そこでブルタールの群れに囲まれ、包囲網を脱出する為に盾役と軽戦士の二人が犠牲になったのだという。それから追い立てられながら大きな川に出たところで、前方に絶望が現れた。

 

漆黒の竜だったらしい。

その黒竜はウィル達が川沿いに出てくるや否や特大のブレスを吐き、その攻撃でウィルは吹き飛ばされ川に転落。

流されながら見た限りでは、そのブレスで一人が跡形もなく消え去り、残り二人も後門のブルタール、前門の竜に挟撃されていたという。

ウィルは、流されるまま滝壺に落ち、偶然見つけた洞窟に進み空洞に身を隠していたらしい。

 

ウィルは、話している内に、感情が高ぶった様で啜り泣きを始めた。

無理を言って同行したのに、冒険者のノウハウを嫌な顔一つせず教えてくれた面倒見のいい先輩冒険者達、そんな彼等の安否を確認する事もせず、恐怖に震えてただ助けが来るのを待つ事しか出来なかった情けない自分、救助が来た事で仲間が死んだのに安堵している最低な自分、様々な思いが駆け巡り涙となって溢れ出していた。

 

ウィル「わ、わだじはさいでいだ。

うぅ、みんなじんでしまったのに、何のやぐにもただない、ひっく、わたじだけ生き残っで……

それを、ぐす……よろごんでる……わたじはっ!」

洞窟の中にウィルの慟哭が木霊する。誰も何も言えなかった。

顔をぐしゃぐしゃにして、自分を責めるウィルに、どう声をかければいいのか見当がつかなかった。

クラスメイト達や騎士さん達は悲痛そうな表情でウィルを見つめ、愛ちゃん先生はウィルの背中を優しく摩る。

ユエは何時もの無表情、シアとミレディは困った様な表情だ。

 

尤も、俺はその発言に不満マシマシなんだが。

俺はツカツカとウィルに歩み寄ると、その胸倉を掴み上げ、彼に対し怒鳴った。

ハジメ「ふざけたこと抜かしてんじゃねぇぞ!

ウィル「!」

ハジメ「生き残ったならその喜びをかみしめて、自分の盾になってくれた奴の分まで生きる。

それが残された奴のやるべきことだ。そんなこともしないで死のうとするなんて、弱い奴のやることだ!

ウィル「ッ……!」

 

少し収まってきたのか、手を放してウィルを下ろした。

ハジメ「お前には帰るべき場所がある、帰りを待つ家族がいる、そして何より生き延びる理由があるだろ。

男なら強く生きて見せろ。お前を守った冒険者達はまだ死んじゃいない。

お前が生き続ける限り、覚えていて語り継いでいる限り、そいつらは死なねぇよ。

それが今、お前のやるべきことだ。」

ウィル「……生き、続ける。」

 

涙を流しながらも、俺の言葉を呆然と繰り返すウィル。

俺は「ちょっと外見てくる。」と言って、滝の外に一人で出た。

後から見た自分の行動だが……ホント何やってんの俺!?

なんか、昔の恵理に似たような部分が垣間見えたからつい、説教臭くなってしまった……。

それに言ったことがほとんど海賊漫画のオマージュだし!俺、もうダメかもしれねぇ……。

 

なんてことを思いながら頭を抱えていると、ユエ達がこっちに来ていた。

ユエ「……大丈夫、ハジメは間違ってない。」

ハジメ「そうじゃあない。俺にも帰りを待つ両親がいるのに、人のこと言えないなぁ……ってね。」

シア「えぇ~と……それって同族嫌悪って奴ですか?」

ハジメ「ちょっと違うかな?俺の方がタチ悪いし。」

ミレディ「もう!ハジメンは自分を卑下しすぎ!もっと胸張ってもいいんだよ?」

ハジメ「……それが出来たら苦労しない。」

何というか、色々と調子が狂う出来事だった。さて、後はウィルをフューレンへ送って、と!?

 

ふと、上にある気配を感じ取った俺達は即座に戦闘態勢に入った。

「グゥルルルル……。」

低い唸り声を上げ、漆黒の鱗で全身を覆い、翼を羽搏かせながら空中より金の眼で睥睨する……

それはまさしく"竜"だった。




ここまで読んでいただき、ありがとうございます!

大人数での長距離移動と言えば、やっぱりデンライナーが一番だと思い、登場させました。
人海戦術でも、歴代ライダーの使用していたサポートモンスター達を使用しました。
因みに、VRゴーグルの耳のあたりには、情報を瞬時に解析し、即座にまとめる機能が搭載されています。

そして次回はティオ戦と山脈の異変について。
真に戦うべきものとは一体!?

宜しければ、高評価・コメント宜しくお願い致します。

追記:リースティアさん、誤字報告ありがとうございました!

次回予告

オーマジオウ「私こそが、最高最善の魔王オーマジオウである。
どうやらハジメ達が出会った竜は、かつて滅ぼされた竜人族だったらしい。
その上、山脈の向こうからは魔物の大群が迫っているようだ。
全く、物騒な物よな。」
ハジメ「そんなことより!
「ハジメ、ドラゴンを拾い、現状を知る。」ってことでどう?」
フロッグポッド「ケッケーロー♪」


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36.ハジメ、ドラゴンを拾い、現状を知る。

お待たせいたしました。
今回はティオ戦とウルの町防衛線の準備です。
後、ティオの過去とある人物が登場します!

黒竜と対峙するハジメ一行。
その中で、恐ろしい計画が明らかになっていく!
果たしてハジメ達は、無事に帰還できるのだろうか!?

怒涛の第三章第6話、それではどうぞ!


その竜の体長は7m程。

漆黒の鱗に全身を覆われ、長い前足には五本の鋭い爪がある。

背中からは大きな翼が生えており、薄らと輝いて見える事から魔力で纏われている様だ。

そのせいだろうか、空中で翼を羽搏かせる度に、翼の大きさからは考えられない程の風が渦巻く。

だが何より印象的なのは、やはり夜闇に浮かぶ月の如き黄金の瞳だろう。

爬虫類らしく縦に割れた瞳孔は、剣呑に細められていながら、なお美しさを感じさせる光を放っている。

 

その黄金の瞳が、スッと細められた。低い唸り声が、黒竜の喉から漏れ出している。その圧倒的な迫力は、かつて【ライセン大峡谷】の谷底で見たハイベリアの比ではない。

ハイベリアも、一般的な認識では厄介な事この上ない高レベルの魔物であるが、目の前の黒竜に比べればまるで小鳥だ。その偉容は、正に空の王者というに相応しい。

まぁ、俺の前では関係ないけどね。

 

その黒竜は、俺達の姿を確認するとギロリとその鋭い視線を向けた。

そして、その場にいる人間達を前に、徐に頭部を持ち上げ仰け反ると、鋭い牙の並ぶ顎門をガパッと開けてそこに魔力を集束しだした。

恐らくブレスを吐くつもりだろうが……行動が遅い!

 

黒竜「!?」

ハジメ「そういう攻撃はね、いつでも放てるように準備しておくのが道理だよ。」ドガァッ!

そう言って俺は、ちょっと強めのアッパーで、黒龍の顎をぶん殴った。

黒竜「グゥルァアアア!?」

いきなりの攻撃に驚いたのか、黒龍は悲鳴を上げて後退した。その影響か、ブレスは空に向かっていった。

だが、まだ俺のバトルフェイズは終了していないぜ!

 

黒竜「クルゥッ!?」

ハジメ「そのまま吹っ飛びなぁ!」ドッガァァン!!

そう言って、死なない程度に力と多めの魔力を込めた正拳突きを、竜のどてっ腹に向けて撃ちこんだ。

黒竜「グルゥウォォォオオオ!!??」バビューン!!

黒竜はそんな悲鳴を響かせながら、膨大な魔力に包まれて向こうの林に落っこちていった。

 

ハジメ「あ、やり過ぎた。」

実はもうちょい近くまで飛ばすつもりが、うっかり更に向こうの場所まで飛ばしてしまったようだ。

ハジメ「……取り敢えず、皆に説明お願い。俺はさっきの竜を見に行ってくる。」

ユエ「……ん、了解した。」

シア「ア、アハハ……。竜も倒しちゃうなんて、さっすがハジメさんですね!」

ハジメ「……シア、君から見た俺は一体どんな風に映っているんだ……。」

ミレディ「……ねぇ、ハジメン。私もちょっと確認したいこともあるから、一緒に行っていいかな?」

ハジメ「?あぁ、そういうことね。わかった。」

 

そんな訳で、黒龍が落ちたと思われる当たりの場所を訪れると、そこに黒竜の姿はなかった。

見間違いか?と思い、感知技能を使ってみると、同じものと思われる反応があった。

その場所を覗いてみると、黒髪の女性が倒れていた。

恐らく彼女が先程の黒龍であったのだろう。そのせいか周りにクレーターが出来ている。

見た目は二十代前半くらい、身長は百七十センチ近くあるだろう。見事なプロポーションを誇っており、黒い着物に対象で身を包んでいる。

……言っておくが、胸元は見ていない。だからミレディ!そんなニヤニヤした目でこっちを見るなぁ!

これは不可抗力なんだよ!だから無効だよ!無効!それにしても……

 

ハジメ「やっぱり彼女は竜人族のようだね。」

ミレディ「うん、昔、ヴァンちゃんも氷の竜を従えていたし、竜人の血もあるって言っていたからね。」

ハジメ「……そうか。」

まぁ、細かいことはさておいて、俺はその美女を抱えると、ミレディと一緒に皆の元へ戻っていった。

最初は見知らぬ美女を連れていたことに驚いていたが、「ボロボロな状態で近くに倒れていた。」とだけ説明して納得させた。

 

「なんてこった……こいつは凶悪だ。」

「これが、これがふぁんたずぃ~かっ。」

「くそっ、起きろよ!起きてくれよ俺のスマホっ!」

……この阿保共。てか騎士さん達もかい!あんた等、女神愛は何所行ったァ!?

思春期真っ只中とはいえ、今はふざけている場合じゃn……ウィル、お前もかいィ!?

あぁ、もう女性陣の目がゴキブリを見るような目だよ。後、ユエ達にはミレディが事情を説明してくれた。

 

その一方で、俺は彼女の記憶に触れていたので、事態の詳細について考察していた。

彼女はティオ・クラルスという名前で、予想通り竜人族でクラルス一族というところのお姫様らしい。

その記憶の中は壮絶だった。各地に上がった炎と、犠牲になってしまった者達ので赤く染まる彼女の故郷。

かつて木と水に囲まれた美しい王国、その光景は見る影もなかった。

幼い彼女は血が出る程唇をかみしめていた。

己の無力さと未熟さ、そして何もできない事への悔しさが伝わってきた。

 

そして、何より俺が怒りを覚えたのが、彼女の両親についてだった。

彼女の母親は見せしめの如く(はりつけ)にされ、父親はもう既にボロボロでありながらも、娘のことをずっと気にかけていた。

ティオは母親の無残な姿を見た時、怒りで我を忘れそうになっていた。

それを止めたのは他でもない彼女の父親だった。

小さくも透き通るような声で彼女に竜人族の教えを語り継ぎ、彼女を憤怒の渦から解き放った。

 

『――我等、己の損ずる意味を知らず。』

『この身は獣か、あるいは人か。世界の全てに意味あるものとするならば、その答えは何処に……。』

『答えなく幾星霜。なればこそ、人か獣か、我らは決意もて魂を掲げる。』

『竜の目は一路の真実を見抜き、欺瞞と猜疑を打ち破る。』

『竜の爪は鉄の城壁を切り裂き、巣くう悪意を打ち砕く。』

『竜の牙は己の弱さを嚙み砕き、憎悪と憤怒を押し流す。』

『仁、失いし時、我等は唯の獣なり。されど、理性の剣を振るい続ける限り――我等は竜人である!』

強く、優しく、高潔であれ、か。真に尊敬に値する者とは、こういう人たちのことを言うのだろう。

そして、戦場に愛する女性を残していけないという彼女の父親に、少し憧れを感じた。

 

そんな彼女も成長したある日、彼女の祖父がカルトゥスという人物に呼び出されたらしい。

何でも、教会が異質な存在――恐らく俺達のことだろう――その者達を呼び込んだことを認識したとのことだった。

その中でも一際大きな力を持つ者は、稀代の"錬成師"とのことだ。しかももう一つ、天職があるらしい。

…………思いっきり俺じゃねぇか!?ここに来た時から既にロックオンされていたってことかよ!?

他にも"勇者"という聞いたこともない称号を持つ者(光輝の事だろうな)もいたので、調査することになったらしい。

ティオは世界が動く予感を感じ取り、その調査を自ら名乗り出たそうだ。

まぁ、神域に風穴開けてきた奴がここにいるからなぁ。後、樹海で色々やらかしたし。

特にバーサークラビット共を量産してしまったことかな?

これ、帝国が攻めた時にどうなっているのか、全然分からないや……。

 

里を出る時も多くの人達に引き留められていた。それだけ彼女は愛されていたのだろう。

周りはまるで、両親を失った彼女の悲しみを、少しだけでも和らげようとしていたのだろう。

その温かさは記憶を読んでいる俺にも伝わってきた。

それにしても、自分よりも強い人を伴侶にする、かぁ……。……俺は範囲外だよね?

何かが変わる、そう感じた彼女は育った故郷を旅立ち、この北の山脈地帯まで来たらしい。

 

本来なら山脈を越えた後は人型で市井に紛れ込み、竜人族である事を秘匿して情報収集に励むつもりだったようだが、その前に一度しっかり休息をと思いこの【北の山脈地帯】の一つ目の山脈と二つ目の山脈の中間辺りで休んでいたらしい。

当然周囲には魔物もいるので、竜人族の代名詞たる固有魔術"竜化"により黒竜状態になって。

暫くして。睡眠状態に入ったティオの前に、黒いローブを頭からすっぽりと被った一人の男が現れた。

その男を見て、俺は息を飲んだ。何故なら……

 

 

――――――その男は、トシだったからだ。

 

 

だが、どこか様子がおかしかった。

目に生気がないようで、今までの明るかった雰囲気が微塵も感じられなかった。

まるで、誰かに操られているような……ッ!?まさか……!そんなことがあるのか?

驚く俺を横目に、トシは眠るティオに洗脳や暗示等の闇系魔術を多用し、徐々にその思考と精神を蝕んでいった。

 

当然、そんな事をされれば起きて反撃するのが普通だ。だが、ここで竜人族の悪癖が出る。

そう。例の諺の元にもなった様に、竜化して睡眠状態に入った竜人族は、まず起きないのだ。

それこそ尻を蹴り飛ばされでもしない限り。

それでも竜人族は精神力においても強靭なタフネスを誇るので、そう簡単に操られたりはしないそうだ。

では何故、ああも完璧に操られたのか。

それは恐らく……トシが闇系統の魔法のエキスパートだったからだ。

 

丸一日もかけて、アイツはティオを洗脳下に置くことに成功していた。

まぁ、海を越えて飛んできたせいか割と消耗していたのと、任務の事もあり短時間での回復を図る為に普段より深い眠りに入っていたことも、一つの要因でもあるようだ。

そして、何故丸一日かけたと知っているのかという事については、洗脳が完了した後も意識自体はあるし記憶も残っていたところ、トシが「丸一日もかかるなんて……。」と愚痴を零していたのを聞いていたからだそうだ。

 

その後トシに従い、二つ目の山脈以降で魔物の洗脳を手伝わされていたのだという。

そしてある日、一つ目の山脈に移動させていたブルタールの群れが山に調査依頼で訪れていたウィル達と遭遇し、目撃者は消せという命令を受けていた為これを追いかけた。

だがここで、トシが急に苦しみだし、命令を躊躇っているように見えた。

……間違いない、トシを操っている誰かがいる。候補を上げるとすれば、魔人族か使徒共あたりか。

だが、それも収まったのか、淡々と命令を下していった。

うち一匹が報告に向かい、万一自分が魔物を洗脳して数を集めていると知られるのは不味いと万全を期してティオを差し向けたらしい。

そうしてウィルを探していたら、思わぬ存在──俺にぶっ飛ばされてしまったということだ。

 

そんな彼女の記憶を見て入手した情報を基に、二つ目の山脈より向こうを偵察部隊で見る。

彼女の記憶では、トシは魔物を洗脳して大群を作り出し町を襲う気らしい。

その数は、既に3000~4000に届く程の数だという。

何でも、二つ目の山脈の向こう側から、魔物の群れの主にのみ洗脳を施す事で、効率良く群れを配下に置いているのだとか。

魔物を操ると言えば、容疑者の一人である魔人族の新たな力が思い浮かぶ。

 

そんなことを思い出しながら、偵察部隊から送られてきた映像を見ると、その数はとんでもないものになっていた。

ハジメ「これはマズいね。一気に魔物が増えている。多分5万は行くと思う。」

「「「「「「「5万!?」」」」」」」

皆目を見開いて驚く。無理もないだろう。しかもこっちに向かってきているみたい。

……このまま折角のお米地帯を潰させるわけにはいかない。

 

ハジメ「あっちから魔物の大群が迫ってきている。皆、直ぐに戻るから一か所に集まって!」

そう言って皆を集めると、オーロラカーテンで直ぐに北門の近くに移動した。

とても近い距離だったので、走ったら皆すぐについた。俺はジャンプ一回で着いたけどね。

っとそういえば、このロケットペンダントについても聞かなくちゃ。

 

ハジメ「そういえばウィル、これ誰の持ち物か知らない?」

そう言って、取り出したロケットペンダントをウィルに放り投げた。

ウィルはそれを受け取ると、マジマジと見つめ嬉しそうに相好を崩す。

ウィル「これ、僕のロケットじゃないですか!失くしたと思ってたのに、拾ってくれてたんですね。

ありがとうございます!」

ハジメ「え?君の?」

ウィル「はい、ママの写真が入っているので間違いありません!」

ハジメ「…マ、ママ?」

まさかのマザコンかよぉ……。

 

写真の女性は二十代前半と言ったところなので、疑問に思いその旨を聞くと、「折角のママの写真なのですから若い頃の一番写りのいいものがいいじゃないですか。」と、まるで自然の摂理を説くが如く素で答えられた。

その場の全員が「あぁ、マザコンか。」と物凄く微妙な表情をした。女性陣はドン引きしていたが……。

正直、折角戦の準備をするのにこのままじゃ雰囲気が崩れる……。

 

後、余談ではあるが、犠牲になってしまった護衛の冒険者の名前はそれぞれ、ゲイル、ナバル、レント、ワスリー、クルト、とのことだ。

しかもゲイルという男は、「この仕事が終わったらプロポーズするんだ。」なんていう如何にもフラグじみたセリフをかましていたらしい。

……死因、もしかしたらティオ関係なくねぇか?

その上何と、ゲイルとやらの相手は"男"らしい。

そして、ゲイルのフルネームはゲイル・ホモルカというそうだ。

名は体を表すとはよく言ったものだが……ここまでくるといっそ恐怖を感じる。

 


 

早速町に着いた俺達は、この町の防衛作戦会議をすることにした。

デビッド「早くするんだ、ハジメ!ここで悠長に作戦会議なんてしている場合じゃないぞ!」

ウィル「そうですよ!一刻も早くみんなに知らせないと!」

ハジメ「気持ちは分かる。だがな、行き当たりばったりで凌げるほど、事態は楽じゃないんだよ。

それにだ、腹が減っては何とやらだ。正直ウィルをさっさと避難させたいが、時間がない。

俺達も手を貸すから、少しは落ち着け。」

そう言って逸る奴等を落ち着かせる。俺達は今、"水妖精の宿"で再び食事をしていた。

正直、作戦会議が出来る場所がここ意外に思いつかなかったからだ。

場所を提供してくれたオーナーには感謝してもしきれない位だ。

 

愛子「南雲君、貴方達ならどうにかできるんですか?」

ハジメ「出来るよ。だけどよりスムーズに済ませるためには、皆の助けが必要になってくる。

だから、協力してくれる?」

そういう俺の言葉に、頷かない者はいなかった。

ハジメ「よし、取り敢えず先生と騎士さん達は町民の皆に説明を。

それが済んだら他の皆は避難経路への誘導を頼む。

俺は外壁を立てて、迎撃準備を済ませてくるよ。折角だ、今回はド派手にいくぜ!」

「「「「「「「はい!(うん!)(応!)」」」」」」」

早速作戦を立てた俺達は、腹を満たしつつ英気を養った。

 

その夜遅く、俺は未だに眠っているティオの部屋に来ていた。

未だに目が覚めない彼女の様子を見に来たのだ。すると……。

ティオ「ん……う、むぅ~。」

どうやらちょうど今起きたようだ。何所か艶めかしい声であったが、今はそれに構っている場合じゃない。

取り敢えず寝ぼけているであろう彼女に声をかけてみた。

 

ハジメ「え~と、今起きたのかな?」

ティオ「む?ここは……?」

ハジメ「俺達が泊っている宿だよ。安心して。」

ティオ「お主はあの時の……。」

ハジメ「俺はハジメ。南雲ハジメだ。いきなりだけど……少し話さない?」

ティオ「うむ、どうやら助けられた様じゃの。礼を言う。」

ハジメ「今はいい、あのクズ野郎を消した後でいいよ。竜人族のティオ・クラルスさん。」

ティオ「!?」

 

どうやら意識ははっきりしてきたようだ。なので、話を続けさせてもらう。

ハジメ「あんたを運んでいる間、少しだけ記憶に触れたんだ。だから全部、知っているんだ……。」

ティオ「……そうか。ならば話は早いのう。」

そう言っているティオの眼差しは、どこか悲しみを帯びていた。

恐らく、辛い過去を今も覚えているのだろう。

 

ハジメ「まぁ、勝手に記憶を覗いたことは謝るよ。断りもなく人の記憶を覗いちゃったし。」

ティオ「……それは構わんよ。それより、お主は見たのじゃな?あの光景を。」

ハジメ「……あぁ、正直(はらわた)が今も熱を抑えようとしている。

俺の仲間にも、故郷と家族、それに仲間を滅ぼされた子が二人いるからね。」

ティオ「!そうか……。」

ハジメ「それに……俺自身あのクズが気に入らないんだよ。

人の思いを平然と踏みにじり、何でもかんでも思い通りにしようとする、あの虫ケラが。」

 

俺の神をも恐れぬその発言に、ティオが思わず目を見開いた。

ティオ「お主、本気で神とやりあうつもりか……?」

ハジメ「元からそのつもりさ。この前だって、奴のいる場所に風穴を開けてきたからな。」

ティオ「!?お主、今何と言った!?神のいる場所を攻撃したのか!?」

?そこまで驚くことか?俺としては、普通にムカついたから全力ブッパしてやっただけだが……?

ハジメ「そうだねぇ……あの場にいたらアイツの無様な叫びが聞こえて来たんだけどね。

録音しておけばよかったかな?」

ティオ「む、そうか……。」

落ち着いて呟きつつも、その顔には薄っすら笑みを浮かべていた。

どうやら、少しは見所があると思ってくれているみたいだ。

 

ハジメ「……まぁ、なんだ。取り敢えず、さっきの悲しそうな表情じゃなくなって良かったよ。

正直、アンタみたいな別嬪さんに、そんな顔は似合わなかったし。」

ティオ「フフフ、世辞が上手いな、ハジメ殿は。」

ハジメ「ハジメで良い。敬語はあんま慣れていないんだ。」

ティオ「ふむ、そうか。では、よろしく頼むぞ。ハジメよ。」

ハジメ「こちらこそ、よろしくね?ティオ。」

そう言ってお互いに握手をする俺達であった。

 

ハジメ「さて、今この町に起ころうとしている事は分かっているんだよね?」

ティオ「うむ。お主はあの魔物の大群を止めるつもりじゃな?」

ハジメ「……一人じゃないよ。俺には頼れる仲間がいるから。まぁ、その一人がちょっと危ういけど。」

ティオ「フフフ、それは頼もしいのぉ。」

そういって微笑みを浮かべるティオ。何故だろう。月夜のせいだろうか?

そういえば、ユエと出会った時の空はどんな月だっただろうか?満月ならロマンチックなんだが。

 

ハジメ「まぁ、見ていてよ。俺があのクズを天から墜とす様を。」

ティオ「ほぅ、それはそれは、この戦いが楽しみになってきたの。」

ハジメ「この戦いだけじゃない。これからの道にも、意味はあるさ。」

ティオ「フフフ、随分と自信家なんじゃな。」

そんな軽口を叩き合いつつ、やるべきことの説明をした。

 


 

そして翌日……

北に【山脈地帯】、西に【ウルディア湖】を持つ資源豊富な【ウルの町】は現在、つい昨夜までは存在しなかった"外壁"に囲まれて、異様な雰囲気に包まれていた。

勿論、製作者は俺だ。

ガタキリバのブレンチシェイドや4コマ忍法刀といった分身技能を使い、土系統や錬成の技能を使用しながら、表面を逢魔鉱石でコーティングした。

更に、モーフィングパワーによる材質変換も行っているので、そう簡単に傷がつくとは思えない。

 

町の住人達には、既に数万単位の魔物の大群が迫っている事が伝えられている。

魔物の移動速度を考えると、夕方になる前位には先陣が到着するだろうと。

当然、住人はパニックになった。

町長を始めとする町の顔役たちに罵詈雑言を浴びせる者、泣いて崩れ落ちる者、隣にいる者と抱きしめ合う者、我先にと逃げ出そうとした者同士でぶつかり、罵り合って喧嘩を始める者。

明日には、故郷が滅び、留まれば自分達の命も奪われると知って冷静でいられる者などそうはいない。

彼等の行動も仕方の無い事だ。

 

だが、そんな彼等に心を取り戻させた者がいた。そう、我らが愛ちゃん先生だ。

漸く町に戻り、事情説明を受けた護衛騎士達を従えて、高台から声を張り上げる"豊穣の女神"。

恐れるものなど無いと言わんばかりの凛とした姿と、元から高かった知名度により、人々は一先ずの冷静さを取り戻した。

愛ちゃん先生、アンタ光輝よりも勇者していない?終いにゃ、アイツ泣くぞ?

 

冷静さを取り戻した人々は、二つに分かれた。

即ち、故郷は捨てられない、場合によっては町と運命を共にするという居残り組と、当初の予定通り、救援が駆けつけるまで逃げ延びる避難組だ。

居残り組の中でも、女子供だけは避難させるという者も多くいる。

愛ちゃん先生の魔物を撃退するという言葉を信じて、手伝える事は何かないだろうかと居残りを決意した男手と万一に備えて避難する妻子等だ。

深夜をとうに過ぎた時間にも拘らず、町は煌々とした光に包まれ、いたる所で抱きしめ合い別れに涙する人々の姿が見られた。

 

避難組は、夜が明ける前には荷物を纏めて町を出た。

現在は日も高く上がり、せっせと戦いの準備をしている者と仮眠をとっている者とに分かれている。

居残り組の多くは"豊穣の女神"一行が何とかしてくれると信じてはいるが、それでも自分達の町は自分達で守るのだ!出来る事をするのだ!という気概に満ちていた。

何というか、ホントに愛されてんなぁ……。

この人のためにも、俺はアイツと話を付けなければならない。

そう、これは俺自身が行かなければいけない問題だ。友として、王として。




ここまで読んでいただき、ありがとうございました!

今回のティオ戦は拳ですっ飛ばしました。
まさかのゴーストの能力で、記憶を読み取ることに成功してしまいました。
香織達サイドは次回載せます。

そして遂にトシの行方が明らかに!
はたして彼を操っているのは一体!?
詳しくは次回をお楽しみに!

宜しければ、高評価・コメント宜しくお願い致します。

追記:エンダー・ニルさん、N.jpさん、誤字報告ありがとうございました!

次回予告
オーマジオウ「ウルの町に迫る魔物の大群。
友の真意を聞くため、ハジメ達の戦いが、遂に始まる。
次回「爆誕、湖畔の魔王!ウルの町防衛線!」爆鎮完了で楽しみにな。」


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37.爆誕、湖畔の魔王!ウルの町防衛線!

お待たせいたしました。
今回は香織達サイドとハジメさんサイドのお話です。

香織達は順調に迷宮を攻略中。
しかし、何も問題が起こらない訳でもなく……!?
一方のハジメさんは、ウルの町を守るために、決戦の準備を開始する!
果たして、ハジメさんの秘策とは!?

怒涛の第三章第7話、それではどうぞ!


〈香織達サイド〉

 

香織「ハジメ君、見つからないね……。」

雫「無理もないわ。大迷宮って呼ばれているくらいだし、別のルートに入っちゃったのかもね。」

恵理「もしかしたらもう外にいるかも。兄さん、案外サバイバル力高いし。」

浩介「……俺を野性の勘で見つけようとしたときには、正直ビビったなぁ。」

緑光石の明かりがほんのりと道を照らす薄暗い坑道の様な場所──

【オルクス大迷宮】の一角に、そんな会話が響いていた。

 

そんな会話をしている4人

──勇者パーティの雫、香織、鈴、そして斥候役の浩介は、歩幅を皆に合わせながらも呑気に考えていた。

何せ心配している相手は、神すらなぎ倒す最強王者なのだ。そう簡単に死ぬことなんて考えられない。

光輝「何だか香織達、日に日に強くなってきてないか?」

龍太郎「あぁ、もう今すぐ先に進みたい感が出てきているしな。」

鈴「鈴は、そんなカオリン達に捜索されている南雲君が心配だよ……。」

重吾「何だか、浩介がいる理由に納得してきたような感じがする……。」

そんな会話が他の面子から聞こえてくることも頭にはなかった。

 

この70台も後半の階層──

第78階層を探索する光輝達の傍に【ハイリヒ王国】の騎士団長、皆の頼れる兄貴分メルド・ロギンスの姿は無い。

メルド率いる王国騎士の最精鋭達は、70階層で待機中だ。

存在しないと思われていた大迷宮内のショートカットである転移陣が70階層と30階層で発見され、メルド達は70階層側の転移陣の警護に当たっているのである。

彼等は確かに王国の最精鋭ではあるし、光輝達と大迷宮の未踏破区域を進む中でその実力を更に伸ばしていったのだが、流石に70階層の後半ともなれば付いていけなくなった為、退路の確保に就いているのである。

 

遂に騎士達の庇護を離れ自分達だけで大迷宮に挑む事になった光輝達に、メルドはそれはもう「お前は母親か。」というツッコミが入る程大迷宮でのノウハウを繰り返し言い聞かせた。

最終的には「ハンカチは持ったか?拾い食いはするなよ?変なモン食べたらすぐにペッしろよ?」と、大迷宮とは無関係な注意をし始め、更には「そんな装備で大丈夫か?」などと言い出す始末。

聖剣を始め、最高位のアーティファクトを指して"そんな装備"呼ばわりするメルドの心配は止まる事を知らなかった。

「王国から譲り受けた至宝でしょうが!?」と光輝達がツッコミを入れたのは言うまでもない。

 

そんな訳で、香織達を含む光輝達は騎士団なしで迷宮攻略を進めていた。

尤も、香織達なら既に奈落にも踏み込めるレベルには達していた。がそれが出来ない理由が二つある。

一つは、ついてくる勇者達のレベルの低さ。正直言って彼らは弱すぎる。

修業の鬼であるミライとヒカリの猛特訓を受けたおかげで、香織達4人は十分なレベルに達している。

しかし、それを受けていない者達、その中でも一番の光輝でさえ、彼らの実力にはまだまだ及ばない。

そんな状態で行っても被害が増えるだけである。

なのでここは、彼らが成長するのを待つべきだということに決まった。

そしてもう一つの理由は……。

 

浩介「フッ、我らが王は未だ無敗、たかが魔物風情に後れを取ることなど……ごめん、また出て来たわ。」

雫「……香織、貴方の魔法で何とかならない?」

香織「多分……無理だと思う。状態異常に含まれない類みたいだし。」

恵理(兄さん、早く帰ってきて。じゃないと浩介が死んじゃうから。)

これである。

 

そう、浩介の中にいる(?)深淵卿(アビスゲート)が技能の発動あるなしに関わらず出てくるのである。

そしていつもの如く、ハウリアが興奮しそうな口調で話し出すのだ。

しかも戦闘時にも勝手に出てきては、たった一人で無双してしまうものだから、色々マズいのだ。

そのせいで浩介は常時情緒不安定、それに比例して存在感が増し、浩介は毎晩こっそり泣いた。

まぁ、おかげで浩介の周りに女性陣がいるのは、「情緒が不安定すぎるから。」という理由で収まったのだ。

正直、対処法が不明なので解決策も見当たらない。なので、ハジメに何とかしてもらう形で落ち着いた。

 

と、そんな浩介に憐れむような視線が増える中、先頭を行く光輝が不意に立ち止まった。

光輝「皆、警戒してくれ。この先に何かいる。"気配感知"に掛かった、反応は一つだ。」

浩介「先行して確認してこようか?」

龍太郎「魔物が一体だけだろう?遠藤が確認するまでもねぇ、速攻で袋叩きにしてやりゃいいじゃねぇか。」

 

通常、魔物に見つかるより先にその存在を感知した場合は、浩介が先行して隠密技能を駆使しながら敵戦力の程度を測る。

なので浩介は一歩前に出ながら提案したのだが、それを龍太郎が拳を打ち鳴らしながら否定した。

確かに、これまでも魔物の数が少ない場合は浩介が確認するまでもなく戦闘に入った事は何度もある。

なので光輝は、龍太郎の意見を採用してそのまま全員で進む事にした。

やがて、薄暗い通路の先に見えてきたのは……

 

光輝「え……人?」

光輝の愕然とした呟きに、他のメンバーも目を丸くして前方を見やる。

その視線の先には、確かに人らしきものがいた。

尤も、壁に体の半分以上を埋め込まれているという捕捉が付くが。

髪が長く項垂れている為、表情どころか生死の確認も出来ないが、華奢な体つきから女性の様に見えた。

光輝「た、大変だ!早く「待って。」雫!?」

もしや上層で魔物に攫われたか、或いはトラップに掛かった冒険者が捕らわれているのではと考えた光輝だったが、それを雫は制止した。

 

雫「いくらなんでも不自然すぎるのよ。こんな所で上層に餌を求める魔物はいなかったはずよ。

それに、トラップに引っかかったとしても、ここまでは簡単に来れるわけはないわ。

近道の転移陣にはメルドさん達がいるし、直接来たとしても、あのベヒモスを倒した後で夜通しここを進まなければならないわ。

そんなことをする人間、いると思う?」

ハジメ「へっくしょい!」

……奈落を制覇した魔王のくしゃみが響き渡ったそうな。

 

浩介「取り敢えず、罠があるか確認しておく。行くのはその後でもいいだろ。」

そう言って浩介は分身を出し、先行させる。すると……。

分身A「!?」

その瞬間、分身の足がズブリと地面に沈んだ。直ぐに分身は解除され、その床の様子がよく見えた。

いつの間にかそこは硬い地面ではなくぬかるんだ泥沼の様になっていた。

直後、その泥が一気にせり上がると、一瞬で人型に変形する。

泥で出来た人型の人形──クレイゴーレムだ。しかも、光輝達の周りにも大量に出現する。

 

そのクレイゴーレム達は、これまた一瞬で両腕を鋭い鎌に変形させると、光輝達に襲い掛かろうとした。

反撃しようとした光輝達だが、その時クレイゴーレムが変形した。

光輝「ッ!し、雫!?」

そう、ゴーレム達は顔を変形させ、相手をかく乱しようとしてきたのだ。

流石にこれはマズいと皆思っていた。――香織達以外は。

 

光輝「か、香織?雫?」

鈴「え、エリエリ?」

重吾「こ、浩介?」

そう、四人とも無表情で黙々とゴーレムを撃破して行っているのだ。

まるで親の敵にでもあったかのような表情で。

 

香織「ねぇ、どうしてハジメ君はいないの?ねぇ?」ドスッ!

雫「ちょっと?ハジメ君はそんなに不細工じゃないわよ?もう少し真面目にやったら?」ズバッ!

恵理「ふざけているの?トシ君の顔も全く似せていないし。舐めてんの?」ドカンッ!

浩介「その顔を、アイツ(深淵卿)の顔をやめろぉ!」バギィッ!

……若干一人情緒不安定ではあるが、次々にゴーレムは粉砕されていった。

しかし、次々とクレイゴーレムは湧いてくるばかりであった。

 

恵理「魔石パターンか。面倒だね。」

浩介「野郎、こうなったらぶっ飛ばしてやる!行くぞ、深淵卿(アビスゲート)lv2!」シュインッ!

香織「遠藤君……。」

雫「……光輝、私が本体を叩くわ。相手の注意を引いてくれる?」

光輝「!あぁ、分かった!」

浩介が負の黒歴史を生産するという代償を払ったおかげで、クレイゴーレムの包囲網からは何とか抜け出せそうだ。

そう考えた雫は、本体である人形を叩くため、光輝との連携で仕留めることにした。

 

浩介「見よ!我が秘儀、深淵魔境をご覧あれ!(アビスゲート・ガーデン・ショウタイム!)」ババッ!

瞬間、浩介の分身があっという間に増えていった。

某忍漫画の多重陰分身みたいな感じで、分身が次々と分身を発動させていった。

が、浩介の普段の衣装と相まって、黒いものが大量増殖しているかのような図が出来上がってしまい……。

 

雫「!?ご、ゴキブリ!?」

香織「雫ちゃん!?」

光輝「落ち着け、雫!あれは遠藤だ!」

雫「どっちも一緒よ!」

恵理「落ち着いて雫ちゃん!錯乱しているのは分かるけど違うからね!?」

雫「黒くて、いっぱい、嫌!」

鈴「シズシズが幼児退行した!?」

そう、アレに見えてしまうのだ。内心で浩介君は泣いてもいいと思う。

実を言うと他の女性陣や男子の何人かも引いていた。

 

分身した浩介達は他の分身達を足場にしながらも、部下クレイゴーレム達を撃破しては分身し、親玉への道を開いてはいたのだ。

それなのにこの言われ様なのだ。

実を言うとこれを使った後、浩介は一種の戦闘不能状態になってしまうのだ。

実力に関わらず、あんまりいい風に見られていないことに、密かに泣く浩介君であった。

そんな彼の心の中の涙が見えたのか、雫も錯乱状態から立ち直ったようだ。

 

光輝「行くぞ、雫!」

雫「えぇ!香織、サポートお願い!」

香織「分かった!エンチャント〈筋力強化〉〈敏捷強化〉〈剣戟強化〉!」

香織の付与魔法によって、より素早く動けるようになった二人は、早速反撃を開始した。

まず、光輝がボスゴーレムの方へ突撃し、泥の鎌を破壊しては受け流していった。

香織の強化も相まって、つばぜり合いは拮抗しているかのように見えていた。

 

しかし、光輝がその場を離れた瞬間、ボスの形が崩れた。その理由は足元の魔石にあった。

その魔石は真っ二つに割れていた。雫が後ろに回り込み、光輝が離れたと同時に魔石を切ったのだ。

ボスがやられた影響なのか、周囲のクレイゴーレム達も形を崩していく。

光輝「やったな雫!」

雫「えぇ。中々にッ!?」

咄嗟に殺気を感じた雫は、即座に光輝の方へ向かい、彼の襟首を引っ掴むと、その場を離脱した。

光輝「ぐえっ!?」

そんな声を上げる光輝だったが、その直後、先程まで彼らがいた場所に、毒々しい液体が滴る鋭い爪のついた足が突き刺さった。

 

光輝「!?」

慌てて上を警戒する一同。するとそこには、天井から糸を垂らし宙に浮かぶ大蜘蛛の姿があった。

恵理「"バインドチェーン"。」グサグサグサッ!

尤も、直ぐに恵理の放った魔法で動けなくなり、そのまま圧縮されていったが。

本来、捕縛系統の魔法には殺傷能力は無いのだが、恵理は力を籠めれば拷問にも使えるのではと考え、ヒカリに相談した結果、このような残酷な処刑法が生まれてしまったのだ。

 

恵理「?どうしたの?早く進もうよ。」

その処刑法を成した本人は、ドン引きされていることに気がついていないようだが。

浩介「……どうせ、俺なんて……。」

何所かの地獄ブラザーズが来そうなセリフを吐きながら、己の活躍について誰も言ってくれないことを嘆く浩介君であった。

その後の道中、やたらと吶喊しようとする脳筋、隙あらばセクハラ発言を量産するちっこい結界師、檜山パーティの自信過剰や楽観視、浩介のメンタル回復等々、色々あったものの一行は先を急ぐことにしたのだった。

 


 

俺はすっかり人が少なくなり、それでもいつも以上の活気がある様な気がする町を背後に即席の城壁の上にて、山脈の向こうからやってくる大軍を睨みつけていた。

正直、今の俺はとても気が立っている。

竜人族の過去、冒険者達の死、町の存亡、そして我が友トシの行方……今も気が気でならない。

傍にいるユエ達も俺を心配しているのか、傍に寄り添ってきた。

 

そこへ愛ちゃん先生と園部さん達、ティオ、ウィル、護衛騎士さん達がやって来た。

それに気がついた俺は、警戒を解いて向き直った。

愛子「南雲君、準備はどうですか?何か必要なものはありますか?」

ハジメ「問題無いよ、皆のおかげで予定よりも早く準備は済んだし。

先生は心配せずにドンと構えていればいいよ。」

愛子「そうですか……。」

?何で残念そうにしているんだ?まぁ、取り敢えず伝えておくべきことは伝えておくか。

 

ハジメ「愛ちゃん先生、今回の件にはトシも巻き込まれている可能性が高い。」

愛子「……え?ど、どういうことですか!?」

ハジメ「ティオ……俺が保護した女性の話では、北の山脈地帯で日本人と思われる特徴を持った黒ローブの人物が、魔法で群れの主に当たる魔物に洗脳を施し、大群を作っていたのを見たそうなんだ。

運悪く見つかり追っ手を掛けられたものの、彼女自身が手練れなのもあって逃げ切ることは出来たみたい。でも魔力切れを起こしちゃって、倒れていたところを俺が偶然見つけたんだって。」

愛子「そ、それじゃあ……!」

愛ちゃん先生は最悪の事態を予想しているらしい。だが、少し違うのだ。

 

ハジメ「ただ、こんな風にも言っていた。

まるで何かに抗うように、何回か命令の途中で苦しんでいたって。

多分だけど、今回の事件はトシを表の張本人に仕立て上げようとしている黒幕がいるみたい。

俺の予想では、魔人族辺りが怪しいと睨んでいるよ。」

愛子「!じゃあ清水君は操られているということですか!?」

ハジメ「確証はないよ。それを確かめるために、直接会って話を付けてくる。

だから信じてくれ、俺とアイツを。」

そう言って愛ちゃん先生の方へ真剣に向き合った。

 

愛子「……当然です!生徒のことを先生は信じていますから!だから南雲君、清水君をお願いします!」

ハジメ「あぁ、ぶん殴ってでも連れて帰ってくるさ!アイツは俺の親友だからね!」

そう言うと、俺は山脈の方へ向き直った。どうやら、大群がもうそこまで来ているらしい。

戦闘準備のために俺はスッと立ち上がり、状況確認を開始した。

 

それは、大地を埋め尽くす魔物の群れだった。

ブルタールの様な人型の魔物の他に、体長3、4mはありそうな黒い狼型の魔物、足が六本生えている蜥蜴型の魔物、背中に剣山を生やしたパイソン型の魔物、四本の鎌をもった蟷螂型の魔物、体の至る所から無数の触手を生やした巨大な蜘蛛型の魔物、二本角を生やした真っ白な大蛇──

大地を鳴動し、土埃が雪崩の如く巻き上がり、蠢く群れの光景は宛ら黒き津波の様。

猛烈な勢いで進軍する悪鬼羅刹の群れは、その土埃の奥から赤黒い殺意に塗れた眼光を覗かせる。

その数は、山で確認した時よりも更に増えている様だ。

目算で5万、或いは6万に届こうかという大群である。

更に、大群の上空には飛行型の魔物もいる。敢えて例えるならプテラノドンだろうか。

飛竜型の魔物に比べれば、その体躯は小さく見劣りするものの、体から立ち昇る赤黒い瘴気と尋常でない雰囲気が、嘗て見た【ライセン大迷宮】の飛竜ハイベリアよりは強力だろうと伺わせる。

そして。そんな何十体というプテラノドン擬きの中に一際大きな個体がいる。

その個体の上には薄らと人影の様なものも見えた。恐らく、黒ローブの男――トシだろうな。

 

ユエ「……ハジメ。」

シア「ハジメさん。」

ミレディ「……ハジメン。」

ティオ「……ハジメよ。」

どうやら皆も迎撃態勢はバッチリみたいだ。俺は見たものを愛ちゃん先生達に伝える。

ハジメ「来たよ。予定よりかなり早いけど、到達まで30分位だ。数は6万弱。複数の魔物の混成だよ。」

魔物の数を聞き、更に増加していることに顔を青ざめさせる愛ちゃん先生達。

 

ハジメ「安心してよ。ここにいるのは最高最善の魔王なんだよ?

たかが魔物の軍勢程度片手で吹っ飛ばして来るよ。」

そう言って皆を落ち着かせようとした。

すると、愛ちゃん先生が少し眩しいものを見る様に目を細めていた。

 

愛子「分かりました……君をここに立たせた先生が言う事ではないかもしれませんが……

どうか無事で……。」

ハジメ「おう、ついでにトシも連れて帰ってくるからさ。説教の準備も忘れずにね?」

愛子「!はい!」

愛ちゃん先生はそう言うと、ウィルと騎士さん達を連れて、町中に知らせを運ぶべく駆け戻っていった。

 

園部さん達も、愛ちゃん先生に続いて踵を返し駆け戻ろうとする。

が、数歩進んだところで園部さんが立ち止まった。

何かに迷う様に難しい表情をして俯き気味に突っ立っている。

園部さんが一緒に来ていない事に気が付いた宮崎さんが、玉井君達にも声を掛けて立ち止まった。

そして訝しそうな表情をしながら、彼女の名前を呼ぶ。

しかし当の本人は彼等達の呼び掛けに応じず、何かを振り切る様にグッと表情に力を入れると顔を上げ、踵を返し駆けだした……何故か俺の方に。

 

優花「あ、あのさ!南雲!」

ハジメ「うん?」

少し言葉に詰まりながら、それでも大きな声で俺に呼びかける園部さん。

気になったので、そちらを振り返る俺。ユエ達も、何事かと振り返っている。

 

首をかしげて用件を問う俺の視線に、園部さんは少したじろぐ様な様子を見せたていたが……

直後には、何故かキッと眦を吊り上げて俺を睨む様な眼差しで、

優花「あ、ありがとね!あの時助けてくれて!」

と言ってきた。

なんだか表情といい口調といい声量といい、傍から見ると喧嘩を売っている様にも見えるけど……

まぁ、なんとなく気持ちは伝わったよ。

 

優花「あの、えっと、その……それで……」

再び言葉に詰まる彼女だったが、一つ大きく深呼吸すると、

優花「無駄にしないから!あの時助けられた命、絶対無駄にしないから!」

そう叫んだ。

このままではいけないと、心折れたままではいけないと、そう決心して再び立ち上がったあの日の想い。

自分達が無能だと思っていた錬成師が、自分達の脅威を必死に食い止めていたから、今自分達は生きている。

 

救ってくれた事。クラスメイトを逃がす為に、隠していた力を振るってくれた事。

決して無駄にはしない。たとえ、俺と比べるべくもない程弱くても。

そうだとしても、立ち止まる事だけはしない。

見れば、少し離れた場所にいて彼女の言葉を聞いていた玉井君達も、俺を真っ直ぐに見ながら深く頷いている。

気持ちは同じ、か……。でもね、少し違うかな?

 

ハジメ「まぁ、その礼は半分だけ受け取っておくよ。もう半分はそうだね……元の世界に帰った時に、ね?」

そう訂正しておいた。実際、俺がいなくなった後も、彼らは死に物狂いで頑張って生き延びてきたのだ。

俺だけが頑張ったんじゃあない。皆も頑張ったんだ。それぐらいは誇ったっていい。

ハジメ「あ、後園部さん。」

優花「!?」

俺が声を掛けると、何故か園部さんは、その場でリアルに小さくピョンッと跳ねた。驚かせちゃったかな?

玉井君達もか。まぁいい、このまま続けるか。

 

ハジメ「君、根性あるよね。ここまで皆を奮い立たせてくれたし。」

同じ世界の出身とはいえ、だ。

戦いとは縁の無い世界に生まれ、トラウムソルジャーに文字通り真っ二つにされかけるという想像もしたくない殺され方一歩手前を経験しておきながら、彼女はその後他のクラスメイト達を助ける為に直ぐ駆け出していた。

今尚トラウマに囚われている程の恐怖を抱えながら、それでも駆け出したのだ。

 

優花「え、えぇっと……?」

意図が分からないのか、俺の言葉に園部さんは戸惑った様に視線を彷徨わせている。

なので、はっきり言っておいた。

ハジメ「君は死なないよ。なんか、そんな気がする。」

優花「……。」

 

園部さんは言葉も無く、まじまじと俺を見つめる。我ながら、傍から見ると随分軽く聞こえる言葉だった。

が、彼女にとってはその言葉が欲しかったとでもいうような表情をしていた。

まるでこびり付いて取れなかったヘドロを吹き飛ばされたかの様な、そんな晴れやかな表情だった。

皆にとっても俺は『死』を認識させた核だ。

だからこそ、その俺から「君は死なない。」と言われたら、心を揺さぶられない訳が無かったようだ。

 

優花「……ありがと。」

風に攫われる程小さな、囁きの様な礼の言葉。

優花は苦笑いにも似た笑みを俺に向けると、スッと踵を返して駆け出した。

迎える玉井君達は何とも言えない表情をしているが、そんな彼等に「行くわよ!」と元気に声を掛ければ

──根性のある愛ちゃん護衛隊の副リーダーの号令だ。玉井君達は「応!」と強く返し、一緒に駆け出した。

その応えは、今までより少し力強さを増している様だった。

 

そうこうしていると、遂に肉眼でも魔物の大群を捉える事が出来る距離になってきた。

"壁際"に続々と弓や魔法陣を携えた者達が集まってくる。

大地が地響きを伝え始め、遠くに砂埃と魔物の咆哮が聞こえ始めると、そこかしこで神に祈りを捧げる者や、今にも死にそうな顔で生唾を飲み込む者が増え始めた。

さて、ようやくか。そう思った俺は上空に飛び上がり、あの言霊を発した。

 

ハジメ「"変身"。」

 

ゴォーン!!!

 

『祝福の刻!』

 

 

『最高!』(より良く!)ガチャッ!ガキンッ!

 

 

『最善!』(より強く!)ゴキッ!ゴキンッ!

 

 

『最大!』(より相応しく!)シュルルルル!シュパンッ!

 

 

『最強王!!!』(仮面ライダー!)パァァァ!ガチーン!

 

 

《vib:1》『≪オーマジオウ!!!≫』

 

その姿が露わになった時、周囲の者達は言葉を失った。戦ったことのあるティオでさえ、驚愕していた。

尤も、ユエ達は一度目にしていたので何ともないが。

民草は皆全ての感情を忘却の彼方に捨てたように、私から目を離さなかった。

本能に忠実な魔物共も、その威に恐れを成したかのように、その場に立ち尽くしていた。

さぁ、開戦の合図だ!

 

ハジメ「美しき【ウルの町】の諸君、御機嫌よう。

私はオーマジオウ、只今を以てこの町を統治する事になる者だ。」

その場で先生が「えっ!?」と驚いた顔をしていたようだが、説明は後にする。

ハジメ「本来であれば、この地を通り過ぎるつもりではあったが、お前達の信仰する"豊穣の女神"が、態々私に頭を下げて頼んできた故な。

その民を思う気持ちに応えることにした。」

 

その言葉を聞き、皆一斉に先生の方を向いた。またもやギョッとしてはいたが、それは後回しだ。

私が振り返ると、魔物どもはその覇気を感じ取ったのか、洗脳が解けた者達までいた。

だがもう遅すぎる。本来ならば我が友の場所までの道を開ければよいものを……。

一列に並ばれるとかえって鬱陶しいわ。なので、清掃を開始することにした。

 

ハジメ「よって先ずは今この町に迫る脅威を退け、私が皆の安心出来る強き王である事を証明しよう。」

そう告げた私は、全分身技能を発現させた。

あぁ、因みに数えるのが面倒だとは思うが一応比率を書き記しておいた。(メメタァ!)

 

『TRICK VENT』(5倍)[5人]

『STRANGE VENT』(5倍)[25人]

『GEMMNI』(2倍)[50人]

『ATTACK RIDE ILLUSION』(6倍)[300人]

『"ブレンチシェイド"』(50倍)[15,000人]

『"スーパーブランチシェード"』(100倍)[1,500,000人]

 

『"デュープ"』(5倍)[7,500,000人]

『"イリュージョン"』(6倍)[45,000,000人]

『"ジェミニ"』(2倍)[90,000,000人]

『"ミッドナイトシャドー"』(5倍)[450,000,000人]

『"ロビン眼魂"』(6倍)[2,700,000,000人]

『"闘魂ロビン魂"』(6倍)[16,200,000,000人]

 

『エナジーアイテム「複製」』(2倍)[32,400,000,000人]

『エナジーアイテム「ガタキリバ」』(50倍)[1,620,000,000,000人]

『エナジーアイテム「増殖」!』(50倍)[81,000,000,000,000人]

『エナジーアイテム「ジェミニ」』(2倍)[162,000,000,000,000人]

『エナジーアイテム「デュープ」』(5倍)[810,000,000,000,000人]

『エナジーアイテム「分身」』(10倍)[8,100,000,000,000,000人]

 

『"分身の術!"』(6倍)[48,600,000,000,000,000人]

『"子豚三兄弟!"』(3倍)[145,800,000,000,000,000人]

『"シノビ!"』(30倍)[4,374,000,000,000,000,000人]

『"ギファードレックス!"』(50倍)[218,700,000,000,000,000,000人]

 

総勢2垓1870京の私が、ここに君臨した。もはや空すらも既に覆いつくしているかのようだ。

現に大気圏外まではみ出した分身までいるのだから。神域とやらを目撃した分身もいるようだ。

とはいえこの程度の魔物の数にはいささか不相応か。仕方がないので少しだけ分身技能を解除した。

まぁ、それでも魔物どもの10倍の数にはなるが。

 

ハジメ「さぁ、蹂躙を開始しよう。」

そう言って私は一歩前進した。分身達も同様に前進した。

その圧倒的な数を前に魔物共は震え上がったまま動かず、民達は歓喜の声を上げた。

これが後の世で語られる「魔王の初陣」になることを、私は知る由もなかった。




ここまで読んでいただき、ありがとうございます!

早くも深淵卿の弊害が出てしまった、我らが浩介君。
彼の明日は一体どこにあるのでしょうね?
そして仲間からも人外扱いされるハジメさん……まぁ、ドンマイ。
どうやら浩介の分身殺法は、明るい服じゃないと閉まらないみたいです。
世知辛いですねぇ……。

そしてハジメさんの全力の分身、これある意味とんでもない威力なんですよねぇ……。
正直、一人で最終決戦行けるんじゃないかっていうくらいの戦力ですし。
まぁ、流石にハジメさんも一人でぶっ飛ばしに行くのは寂しいので、断念しましたが。

さて、次回は無双開始です!因みに、第3章最終話です!
果たして、トシの行方は、そして、黒幕の末路は!?

宜しければ、高評価・コメント宜しくお願い致します。

追記:リースティアさん、毎度の誤字報告ありがとうございます!

次回予告

オーマジオウ
「遂に始まったウルの町の戦い。
果たしてハジメは、トシを、ウルの町を救い出すことが出来るのか。
次回「怒り爆発!?進撃!オーマジオウ」爆裂的に鎮火する故、楽しみにな。」


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38.怒り爆発!?進撃!オーマジオウ

お待たせいたしました。
今回で第3章は終わりです。

町に迫る大軍をいきなり圧倒するハジメ。
彼の次の一手とは!?そして、トシは、ウルの町は、一体どうなる!?
今回もキレたハジメさんの一撃が、不届き物に裁きを下す!

急展開の第三章第8話、それではどうぞ!


ハジメ「さて、まずは仕分けと行くか。」

私はそう言うと、分身達を魔物共の周りに配置した。

いきなり周りに敵が現れたことに、魔物共は驚いた。が、判断が遅い。

ハジメ「貴様等にはこれがお似合いだ。"暴食の黒天窮(グラトニーホール・カタストロフ)"。」

分身を含めた私が一斉に呪文を唱えた。その瞬間、重力を帯びた黒球が魔物共を一体ずつ包んだ。

魔物共は藻掻き苦しみ、悲鳴を上げながら抜け出そうとしたが、無駄なことである。

 

ハジメ「あぁ、言っておくが藻掻けば藻掻く程、その魔法は底なし胃袋へと通じるようになっている。

精々、今この瞬間を大事そうに味わうがいい。」

重力魔法の"黒天窮"の引力を強化し、対象の身を捉える魔の大口だ。

そう簡単に抜け出せるはずもない。安心しろ、その身全てが私の糧となるのだから。

 

ハジメ「さてと、他は分身達に任せて、我が友の目を覚まさせて来るとするか。」

そう言って私は、乗っていた魔物を消され、地に落ちた黒ローブの男の元へ行った。

彼はあまりの理不尽に癇癪でも起こしているのか、ジタバタしながら喚いていた。

流石に見苦しいので、一気に背後に回ると、黒ローブの男は驚いて振り返った。

 

???「何だよ!何なんだよ!ありえないだろ!本当なら、俺が勇者ガッ!?」ドサッ!

ハジメ「少し待っているがよい、我が友よ。元凶を始末した後、直ぐに目を覚まさせてやろう。」

そう言うと、気絶した黒ローブの男の顔を覗き、改めてトシであったことを確認した。

そして、その懐にエナジーアイテム「目覚まし」を忍ばせると、後ろから狙ってきていた水魔法を弾き飛ばした。

 

ハジメ「そこか、ちょうどよかったところだ。」

トシをオーロラカーテンの中に放り込み、宿のベッドに移動させると、私はこの事件の黒幕の元へ向かった。

そこには、一匹の大型の鳥のような魔物の上に、トシのような見た目をした歪な異形がいた。

胸元には数字は描かれていないものの、「Shimizu」とローマ字で書かれていた。

言うなれば、「アナザー清水幸利」といったところか。全くもって腹立たしい……。

 

アナザートシ「ッ!?き、貴様はッ!?」ドゴォッ!

奴が何か言葉を発する前に天高く打ち上げる。ついでに魔物にも"暴食の黒天窮(グラトニーホール・カタストロフ)"を打ち込んで消し飛ばした。

そのまま奴を追いかけて引っ掴むと、オーロラカーテンで外壁の上に移動した。

 

アナザートシ「!?」

ドガァッ!バギィッ!ドゴッ!ズガッ!

そのまま地へ叩き伏せ、力の限り殴り続けた。

たとえ相手の変身が解除されようともお構いなく、死んだのであれば時を戻して再開し、相手が何かを発することも技能を発動することも許さず、ただただ殴り続けた。

我が友を利用し、罪を擦り付けようとしたのだ。この程度で済ませるわけがないだろう。

 

だが約1時間後、流石に飽きたので奴を一旦気絶させ、能力をブランクウォッチに封じ込めた。

正体はやはりというか、分かってはいたが魔人族であった。

もう興味もわかないので、その場に放り投げた。

分身達の方へ眼を向けると、もう既に魔物共は全滅していた。

何人かは山に香辛料や山菜を取りに行ったり、川魚や野生の熊などを狩りに行っているようだ。

終いには、自分たちで麻雀やドンジャラ、オセロやチェス、UNOにポーカーまで始めようとしている者までいる始末だ。

 

折角勝利を収めたというのに、我ながら何をやっているんだと思ってしまった。

取り敢えず、遠くに行っていた分身達を招集して解除する。

採取したものはコネクトでしまっておく。後で、村の倉庫にでも送っておくか。

まぁ、いくつかは貰っておこう。料理の幅が広がるのでな。

 

幸いにも民衆にその様子は気づかれてはいなかった。まぁ、ユエ達にはバッチリみられていたが。

ハジメ「……どうやら、分身達が上手く心のバランスを保ってくれたようだな。」

シア「いや、ハジメさん。あれ、完全に遊んでいるだけですよね!?」

ハジメ「……気のせいだ。」

ミレディ「まぁ、あれが無かったらさっきよりも酷い惨状になっていたかもね。」

ユエ「……ん。町の人達も、発狂していた。」

ハジメ「……善処しよう。それと、まだ終わってはいないぞ。」

ユエ・シア・ミレディ・ティオ「「「「!?」」」」

驚くユエ達を尻目に、私はサイキョージカンギレードを呼び出し、ドライバーの両端に触れた。

 

『≪終焉の刻!≫』

 

その音声と共に、サイキョージカンギレードを手に取ると、そのまま天に向けて構えた。

ハジメ「折角の機会だ、この落とし前は貴様がつけるがよい。」

そう言うと、私はサイキョージカンギレードのトリガーを引いた。

すると、以前放った閃光と同格の魔力が、先端に込められた。

 

ハジメ「王の裁きを喰らうがいい……

"天魔龍王翔覇斬(オーバーヘヴン・ドラグナイズ・インパクト)"!!!

その剣技の名を言霊として発すると、込められていた魔力が形を成した。

以前ユエが使っていた"雷竜"とは違った、日本神話に出てくるであろう"龍"の形をしていた。

 

『≪逢魔時王必殺撃!!!≫』

 

その音声と共に、私は天に向かってサイキョージカンギレードを突き付けた。

すると、剣に纏っていた龍が、空へ登らんとするが如く翔け出した。

それはまるで、この町の守り神が天へと昇っていったかのようだった。

まぁ、胴体に「ジオウサイキョウ」などと描かれていれば、流石に戸惑うであろうが。

 


 

それは唐突であった。空に向けて一匹の龍が舞い上がったのだ。

その龍は、膨大な魔力で構成されており、同時に怒りの感情も含んでいるかのようだった。

その龍はかつてハジメが一撃を与えた、"神域"の防護壁を突き破ろうとせんと言わんばかりに迫っていた。

まるで、主の怒りを体現したかのように、その龍は咆哮を轟かせながら、邪神の住まう地へと突き進んだ。

 

エヒトは恐怖していた。何故、あのイレギュラーは死なないのだと。

アルヴヘイトに魔人族を仕向けさせ、人間族と魔人族による盤上の遊戯を行うつもりが、たった一人のイレギュラーによって全てひっくり返されてしまったのだ。

しかも、今回の黒幕であった魔人族が操っていたのは、よりにもよって件のイレギュラーの仲間だと思われる者なのだ。

結果、その魔人は惨敗。操っていた者も奪い返され、魔物共に至っては全滅。

その上、以前「私はあなた方の協力者です。」などと言ってやってきた、謎のローブの男が献上してきた、未知なるアーティファクトも意味をなさず、その場で砕かれていった。

それだけ、あのイレギュラーの怒りは計り知れなかったのだろう。

 

恐らく次は自分に向けてやってくるに違いない。そう思ったエヒトだった。

―――まぁ、もう既に遅すぎたのだが。

次の瞬間、「グルゥウォォォオオオ!!!

という咆哮が轟きわたり、かつての閃光の様に、神域の結界を破壊しつくした。

しかも以前とは違って、一直線上ではなく滅茶苦茶に進んでは、辺りを破壊しつくしていった。

 

ズガガガガガガァァン!!!

エヒト「!?まさか!?」

それを見たエヒトは驚きの余り、"天在"を発動することすら忘れていた。完全に不意打ちだったのだ。

その龍はエヒトを見つけるや否や、目にも止まらぬ速さでその場所に迫った。

エヒト「う、うわぁぁぁぁぁぁぁ!?」

そんな情けない悲鳴を上げながらも、実に醜い生存本能故か、"天在"を咄嗟に発動させ、直撃は免れた。

……かに思われた。

 

エヒト「ハァッ…ハァッ…イレギュラーめ!もう許さん!使徒共!今すぐ奴を……!」

そう言いかけたエヒトだったが、ふと己の左半身が軽いことに気づく。そこに目をやると……

無かったのだ。左腕が。左肩ごとざっくり持っていかれていた。

過ぎ去って言った龍の方を見ると、ところどころ返り血があり、その口にはなんと……

 

己の左腕だったものが銜えられていた。

 

それを見たエヒトは、あまりの激痛と恐怖に満ちた声で、下界にも聞こえているにも拘らず、悲鳴を上げた。

エヒト「ア゛、ァ゛ァ゛ァ゛、ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ッッッ!!!???

それはまさしく、今まで苦しめられてきた者達の怒りを代弁したかのような一撃だった。

それはまさしく、「これがお前の行ってきたことへの報いだ。」と言わんばかりの一撃であった。

それはまさしく、最高最善の魔王による、神への殺害宣言であった。

まるで自分は、いつでもお前を殺せる、とでも言っているかのような一撃であった。

 

この時、エヒトは生まれて初めて後悔というものを覚えた。

自分は手を出してはいけない相手に手を出してしまったのだ、と。

その強さは正しく"王"でありながらも、神すら凌駕する力であった。

恐らく以前のように、異端者認定によって民衆を差し向けたとしても、彼は動じないだろう。

全ての敵を蹂躙しつくし、この世界を破壊しつくすまで止まることはないだろう。

そう感じさせられるほどに、あのイレギュラーは圧倒的だったのだ。

 


 

我ながら先程の一撃は素晴らしいものだと思った。画竜点睛とはこういったことだな。

あれだけ激しい音が鳴っているのであれば、"神域"とやらもただでは済まないだろう。

いやはや、先程吸収した魔物共のエネルギーに加え、爆発一歩手前まで溜め込まれた怒りを込めたのだ。

吐き出した後はやはり、爽快感しか残らない。まぁ、燃費が悪い上に、一回きりなのがネックだが。

 

ハジメ「む?何だあれは?」

先程撃ち出した龍が、口に何かを加えてやって来ていた。

それは、人の腕の形を模した光であった。

尤も、光というにはあまりにも汚すぎて逆に赤黒いヘドロのように見えた。

 

ハジメ「ふむ……触れるのは流石に御免被りたいな。とはいえ折角持ってきてくれたのだ。

凍らせてケースに入れてから、じっくり観察するとしよう。」

そう言って、そのヘドロ擬きを凍らせ、錬成で作った即席ケースに入れて、観察した。

ハジメ「……!」

ユエ「ハ、ハジメ?」

不思議がっていたユエが恐る恐る聞いてきたが、今はそれどころではない程に、私は込上げてくる笑いを抑えきれなかった。

 

ハジメ「クッ、クックックッ、クッフッフッ、クッハッハッハッハッハッハッハ、ハーハッハッハァ!!

余りにも愉快すぎて、笑わない方がおかしい位だった。何故ならその腕は、あのクズの物だからだ。

その証拠に、ホラ、奴の悲鳴が聞こえてきた。

エヒト「ア゛、ァ゛ァ゛ァ゛、ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ッッッ!!!???

ユエ・シア・ミレディ・ティオ「「「「!」」」」

そのことにようやく気付いたのか、ユエ達も驚いた表情で私を見てきた。

ウルの民や先生、クラスメイトや騎士達までも驚いていた。

そんな彼らの様子も気にせず、私は戦利品のケースを高々と掲げ、未だ茫然としている民衆に向けて勝利を宣言した。

 

ハジメ「諸君に告げる!此度の戦は、我々の勝利だ!

この事件の主犯格である魔人族は既に無力化して捕らえた!

そしてこの腕と先程の声は、この町を脅かそうとした黒幕の物である!

故に、この左腕を罰として抉り取ってやった!これこそが、私の真の力である!」

 

最初、ウルの民達はその宣言の内容があまり入ってはいなかったようだった。

それでも人々は現実とは思えない"圧倒的な力"と"蹂躙劇"に湧き上がった。

町の至る所から「ワァアアアアアツーーー!!!」と歓声が上がる。

町の重鎮やデビッド達騎士は、初めて見る私の力に魅了されてしまったかの様に狂喜乱舞していた。

 

クラスメイト達は改めてその力を目の当たりにし、自分達との"差"を痛感して複雑な表情になっている。

本来、あの様な魔物の脅威から人々を守る筈だった、少なくとも当初はそう息巻いていた自分達が、ただ守られる側として町の人々と同じ場所から"無能"と見下していたクラスメイトの背中を見つめているのだ。

複雑な心境にもなるだろう。

先生は、目的であったはずのトシが見つからないことに少し焦りを感じているようだな。

 

ハジメ『先生よ。我が友ならば、先程宿の部屋に移しておいた。

じきに目を覚ますであろうから、事情を聞いてやって欲しい。』

愛子「!?わ、分かりました!」

一応、念話で我が友の行方については知らせてはおいた。

まぁ、アナザーライダーが倒された以上、元に戻るはずだ。

さて、そこに倒れている魔人族を拘束してと……。

 

ハジメ「よって、明日の正午!主犯である魔人族の公開処刑を行う!

これは、此度の事件の黒幕に対する、宣戦布告である!」

民衆「ウォォォオオオッ!!!

クックックッ、やはり人民の心を掴む事とは、とても良いものだ。我ながらとても運が良い。

残すは後処理のみなので、私は変身を解除した。

 

ハジメ「フィ~、すっきりした~。」

ようやく片が付いたので、肩の力を抜いた。今回は疲れたなぁ~。

ユエ「……ハジメ、それって……。」

ハジメ「うん。汚染されし左腕。」

シア「どこかで聞いたような名前ですね!?」

ハジメ「ユエ達は手袋の上から触った方がいいよ。これ、結構汚いし。」

ミレディ「あのクソ野郎が汚物扱いwww」

ハジメ「え?これ生ごみじゃないの?」

ユエ・シア・ミレディ・ティオ「「「「ブフォッ!?」」」」

 

?アレの腕を汚物扱いして何か違うのかな?だって、壊すしか能のないだけの腕だし。

ハジメ「まぁ、これでしばらくは手出ししてこないだろう。

異端認定されようものなら、またぶっ放すだけだし。」

ティオ「フフフ、流石ご主人様じゃ。神すら取るに足らないとは、正に王の中の王じゃな。」

ハジメ「あぁ、俺は最高最善の魔王だからね!民を傷つける奴は神であろうとも、容赦なく倒すよ。」

そうティオに対して返答する……ん?

 

ハジメ「ちょっとごめん、今俺の事なんて言った?」

ティオ「ご主人様じゃが?」

ハジメ「なんでさ。

まさかのご主人様呼び。幸いにも、他の面々は勝利の余韻で気づいていないみたいだが。

 

ティオ「妾をこのようにしてしまったのは他ならぬご主人様なのじゃぞ?責任はとって貰うからの。」

ハジメ「責任て……。そもそもどうしてそうなったんだ。」

ティオ「ホホホ、妾の記憶を一度覗いたのじゃ。答えはもうわかっておるのじゃろう?」

ハジメ「……自分より強い男を、伴侶にする……まさか!?」

その考えに至り、ふと彼女を見ると、その顔はまさに恋する乙女の顔だった。

 

ティオ「洗脳されていたとはいえ、妾を圧倒しつくしておったのじゃ。それに加えて先程の一撃!

あの神が悲鳴を上げる程の一撃だったのじゃぞ!?惚れぬ女などおらぬ!

それにご主人様自身も、敵には容赦なくありつつも、その心は仲間を思う気持ちでいっぱいなのじゃろう。

そして何より、あの覇気!服従したいと思わぬ者の方がおかしいのじゃ!」

……ある意味暴論っちゃあ暴論だけど、確かに筋は通っているからなぁ……。

 

ハジメ「それじゃあ、竜人族のお目かけには叶ったってことでいいのかな?」

ティオ「正確には妾の、じゃがの。しかし、族長の孫である妾が見初めたのじゃ。心配は要らんよ。」

ハジメ「そう、それなら良かった。」

ティオ「じゃからご主人様よ、妾を連れて行って欲しいのじゃ!」

ハジメ「?元から連れていくつもりだよ?俺達、もう仲間(なまか)だし。」

シア「ハジメさん、仲間ですよ?」

……やっぱり元ネタが分かるツッコミ役一人連れていくか。

そんなことを思いながら、戦利品を持って戦場を後にする俺達であった。

 

ユエ「……これ、本当に竜人族?」

ハジメ「……伝承にも食い違いはある。でもティオは、ちゃんとした竜人族だよ。」

ティオ「む、むぅ……ご主人様に言われると何かこそばゆいのう。

それにユエよ。竜人族は高潔で精錬であると同時に、強き力を持つ種族じゃ。

それ故女は心身ともに強い男を求むのじゃ。

お主らもご主人様に独占されたいと思っておるのではないかのう?」

ユエ・シア「「!……//////」」

う~ん、身体はともかく、心はまだそんなに強くないと思う。

その理由を、俺は誰にも言わなかった。……あの時までは。

 


 

トシ「う……うぅ……ん~?」

朝日が昇り、民達が農作業の準備に取り掛かる頃の時間帯、宿のベッドの上で、幸利は目覚めた。

トシ「!ここはッ!?それに今って、いつ……ん?」

ふと、足に違和感があったので見てみると……

愛子「スゥ……スゥ……。」

看病を自ら請け負った愛子が、疲れてしまったのか幸利の足に覆いかぶさってしまっていた。

 

ハジメ「……ん。ようやく目覚めたか、我が友よ。」

トシ「ハジメ!?おまっ、何でここに!?」

ハジメ「シッー、ゆっくり話すから落ち着け。先生起きちゃうし。」

そう言ってハジメは、自分がこの町に来た経緯、この世界の真実、昨晩の戦況について話した。

 

ハジメ「とまぁ、そんな感じだ。アナザーライダーは倒したから、技能とかは戻っている筈だが……。」

トシ「!ほ、ホントだ!元に戻ってる!よかったぁ……。」

自分の技能がしっかり使えるようになったことに安堵する幸利。そして改めて、ハジメに向き合う。

トシ「ハジメ、迷惑かけて済まねぇ。それと、ありがとうな。助けてくれて。」

ハジメ「気にするな、俺達親友で仲間(なまか)だろ?それに、俺自身にも原因はあるしな。」

トシ「?どういうことだ?」

ハジメ「……気にするな。ただの独り言だ。」

そう言うとハジメは、愛子の体を揺すって起こすことにした。

 

愛子「う~ん……ハッ!?清水君は!?」

トシ「先生、落ち着いてください。俺はここですから。」

愛子「!目が覚めたんですね、清水君!」

トシ「はい、随分と心配と迷惑をかけてしまったようで……ホントすいません。」

そう言って頭を下げる幸利に動揺する愛子だったが、ハジメの言葉を思い出し、真剣な表情になる。

愛子「……本当に心配したんですよ。清水君、貴方の身に一体何があったのか聞かせて貰えますか?」

トシ「分かりました。これは、俺がみんなの元を離れる前の事なんですが……。」

そう言って話し始めた幸利の話の内容は、半分がハジメが予想していたことだった。

 

それは、幸利がいなくなる2日前の事だった。

幸利は、鍛錬も兼ねて一段目にて魔物の調査に出かけていた。その時はちゃんと置手紙も置いていった。

しかし、魔物たちの強さや様子がおかしいことに気が付き、もしかしたら何か不吉なことが起こるのでは、と考えたのだ。

ここは騎士団を動かしたかったが、町が手薄になるのは避けたい。

かといって、他のクラスメイトを危険に晒す訳にもいかず、どうにかして探らなければと思った幸利は、2週間前に北の山脈地帯へ独自の調査を開始した。

 

しかし、それが間違いだった。何と、彼の元に魔人族が現れたのだ。

その魔人族は、ストップウォッチらしきアーティファクトを幸利の方へ向けると、その力をそのストップウォッチ擬きに封じてしまい、己の体内に取り込んでしまったのだ。

取り返そうとするも叶わず、洗脳によって操られてしまった、というのが今回の事件の真実だったのだ。

 

ハジメ「……無茶しすぎだよ。いくら何でもあぶねぇだろうが。」

話を聞いたハジメは、怒ったような悲しいような表情をしていた。それを見て苦笑いを浮かべる幸利。

トシ「まぁ、正直俺一人でどうにかなるわけでもない、っていうことは分かっていた。でも……。」

そう言って一旦区切ると、幸利はハジメの方を向いた。

トシ「ハジメが助けに来る。なんか、そんな感じで助かる気がしちゃってさ。」

ハジメ「……お前なぁ……。」

そう言いつつも満更ではない表情になったハジメであった。

 

ハジメ「まぁ、迷惑かけたんなら、早速体で支払ってもらおうか。」

愛子「!?い、いけませんよ、南雲君!?そんな、男の人同士でなんて……!」

トシ「あ~、先生。多分違うと思いますよ?肉体労働とかそんな感じだろ?」

思わず赤くなる愛子をスルーし、話を続けるハジメと幸利。

ハジメ「合ってるっちゃ合ってるよ。俺達の旅に着いてきて欲しい、ってなだけで。」

トシ「……それ、罰になるのか?」

ハジメ「俺としても、男の頭数が増えるのは正直ありがたいんだよ……。」

トシ「……分かりたくないような感じだが、なんとなく分かった。」

そう言って、早速旅立ちの準備をする幸利。未だに愛子は顔を赤くしたままであった。

 

ハジメ「あ、そうそう。12時から主犯の魔人を処刑するから、良かったら見に来る?」

幸利「……殴っちゃダメか?操られた腹いせや鬱憤もあるんだが……。」

ハジメ「処刑前ならいくらでも構わん。欲しかった情報も全部引き出したし、後は始末するだけだ。」

幸利「了解、っと。しっかし、お前ホント容赦ねぇな。能力と情報奪った上に殺すなんて……。」

ハジメ「俺の大事な親友兼家臣に手ぇ出したんだ。この程度で済む方がまだマシだろ。」

幸利「ハジメェ……。」

愛子「南雲君……。」

敵に対して容赦のないハジメに、思わず呆れてしまう幸利と愛子であった。

 


 

とまぁ、そんなこんなでトシの容態も回復したので、早速処刑を開始する。

魔人族「クソ!忌々しい人間共め!貴様等に我らが神の裁きg「喧しいわ、負け犬!」ガッ!?」

ハジメ「全く、本当に面倒なものだな。さっさと処刑してしまおうか。」

ウィル「ハジメ殿……もう少し容赦があっても良いのでは……?」

トシ「ガチギレしているコイツに何言っても無駄だと思うよ。口調も変わっているし。」

余りにも煩い上に恨み言を宣う愚か者を踏みつける私を見て、愚か者を気の毒気に見るウィルと、呑気に話す我が友トシ。

目の前には私が作ったギロチンが置いてある。

 

ハジメ「では、やってしまおう。早くイルワにも報告がしたいのでな。」

ウィル「まさかの理由がただの報告!?」

ハジメ「お前も両親を一刻も早く安心させたいのだろう?」

ウィル「!そ、それは……。」

トシ「なぁ、ハジメ。お前その姿だと口調が変わるの?」

ハジメ「ハハハ、まぁ、一種の仕様だと思えば慣れるものだ。

……一応、普通には話せるけど空気としてはこっちかなぁって。」

トシ「急に戻すな。ビックリするから。」

と、小声でそんな会話をしていると、民達が集まってきたようなので、口調を戻して宣言をする。

 

ハジメ「ではこれより、この町に被害を及ぼそうとした罪人の処刑を開始する。

罪状は、殺人、大量殺戮未遂、犯人詐称、不敬罪、以上の罪を持って死刑とする。

処刑方法は斬首。何かを言い残す時間も与えん。さぁ、始めるがよい。」

そう言って、この町の重鎮のリーダー格を促し、刃につながっているロープを引かせる。

因みに、件の愚か者には猿轡を嚙ませてある。喚かれても面倒だしな。

 

そして私がパチンッ!と指を鳴らした瞬間、ロープが勢いよく引っ張られ、落ちた刃がズパンッ!という音を響かせながら、罪人の首を見事に刈り取った。

それを確認した私は、民達に向けて高らかに言った。

ハジメ「諸君、これは私だけの勝利ではない。

これは、この町に住む君たちの、願う気持ちによる勝利でもあり、"豊穣の女神"による勝利でもある!

この勝利は、この町にとっての誇りとなり得るであろう!盛大に誇るが良い!」

「「「「「「「ワァアアアアアツーーー!!!」」」」」」」

民衆は大いに喜んでいた。

それは、自分たちの努力によって、魔物の軍勢を退けることが出来たという事実に、打ち震えているようだった。

 

ハジメ「……さて、やることもやったから、フューレンに行くか。」

町中が勝利の熱で冷めない夕方、俺達は町の外まで来ていた。

トシ「そういう訳で皆には悪いが、俺はハジメについていくことにしたよ。」

優花「そう。精々頑張りなさい。南雲がいれば大丈夫そうだし。」

淳史「そうだ!ここで迷惑かけた分、いっぱい強くなって返しに来いよ!」

なんか、一生の別れみたいになっているけど……違うからな?

 

愛子「南雲君、神代魔法のことは南雲君たちに任せます。どうか、お気をつけて。」

ハジメ「あぁ、愛ちゃん先生も、"先生"であり続けてくれ。

それが愛ちゃん先生だけが持っている強さだから。後……。」

そう言って、偶々錬成の練習の一環で作った、ブローチを渡した。

因みに、自作ダイヤも埋め込んでいる。

 

愛子「綺麗……。」

ハジメ「まぁ、お守りの一種だと思ってもらえればいいよ。先生たちも無事でいてよ?」

愛子「あ、ありがとうございます!」

ハジメ「うん。それじゃあ行くよ。今度は醤油や味噌、忘れないでね!」

愛子「ハイ!とびっきりおいしいものを持ってきます!」

コネクトでデンライナーゴウカを呼び出し、早速乗り込む俺達。

 

ハジメ「あ、これ園部さんの分。」

優花「へ?わわッ!?」

俺が急に投げたブローチを、慌てながらも見事キャッチした園部さん。

ハジメ「ごめんごめん。気休めにしかならないと思うけど……折角だからあげるよ。」

優花「!だ、大事にするから!」

……園部さんや、そのセリフは勘違いされるって。

 

まぁ、そんなこんなで俺達はウルの町を後にするのだった。

町の事後処理に関しては、愛ちゃん先生達に任せることにした。

正直、面倒だと思ってしまったのもあるが、何故か早く行かねばという予感がしたのだ。

きっと何か良くないことが起こる前兆かもしれないので、早急に出立することにしたのだ。

この判断が、フューレンで正しかったと思うとは、まだ誰にもわからなかった。

 


 

トシ「しかし、ホントにオーマジオウになっちまったとはなぁ……俺は驚きで一杯だよ。」

ハジメ「そう?あ、後この先迷宮攻略2つ一気にやるから、2つともクリアしたら、トシにもライダーの力あげるよ?」

トシ「マジで!?そいつは楽しみだ!しかし二つかぁ……。この状態でも大丈夫かなぁ?」

ハジメ「大丈夫さ。俺考案ヘルライジング・パワーアッププランがあるから。」

トシ「名前からしてヤバそうな雰囲気なんだが!?」

帰りのデンライナーにて、そんな会話を繰り広げる俺とトシ。

そんな俺達に、皆して生暖かい視線を何故か向けてくる。

 

ユエ「……ん。ハジメ、楽しそう。」

シア「ですねぇ。なんか、息の合った友人が見つかってホッとしているような感じですよね。」

ミレディ「それにしても、後の2つかぁ……。メル姉のは絶対にヤバいって。」

ウィル「あ、あの~……話が見えてこないんですが……?」

ティオ「安心せい、ウィル坊。お主はまだ知らなくてもよい。

気になるのであれば、お主なりの方法で調べる方が良いのじゃ。」

ウィル「?は、はぁ……。」

なんか、向こうも向こうで楽しそうだな。まぁでも、ウィルに聞こえるのはちょっとなぁ……。

なので一応、遮音結界を張っておく。

 

ハジメ「取り敢えず、魔物の肉食って魔力操作覚えようや。話はそこからだ。」

トシ「ハァ!?魔物の肉って食えるのか!?てか何でそんなことだけで魔力操作が覚えられるんだよ!?」

ハジメ「詳しいことはトレーニングが始まり次第教えるよ。後、魔物肉はクソ不味い上に毒がある。」

トシ「やっぱりヤバい奴じゃねぇか!?なんでいきなり毒入り肉を食べなきゃいけないんだよ!?」

ハジメ「安心しろ、抗体や解毒、浄化技能は俺が持っているから。死にはしない。」

トシ「そ、そうか。それなら……「まぁ、死ぬほど痛いけどな☆」オイ!?」

ハジメ「シアの家族もそうやって強くなったんだ。

それにお前にはあの魔人から奪った技能で、水魔法も使えるんだ。強くなる分には問題ないだろう?」

トシ「……一応聞いておくが、他に副作用はないんだよな?」

ハジメ「……タブンダイジョウブダヨー。」

トシ「嘘をつけェ!」

何というか、また騒がしくも楽しい旅になりそうだ。そんなことを感じた俺であった。




ここまで読んでいただき、ありがとうございました。

今回出てきたオリジナル技は、ライダーの技とトータスの魔法、ハジメさんの腕前が合わさった技です。
因みに、最初のオリジナル魔法で始末された魔物たちは、ハジメさんの胃袋に送られました。
その結果が、第二撃の威力です。
後、クソ野郎の腕は、厳重に消毒・ケースで密閉した上で、コネクトでしまいました。
エヒト菌が移るので、絶対に解凍しません。

黒幕は予告した通り、アナザーライダーでした。
変身者であるレイス君には残念ですが、ここで退場してもらうことにしました。
だって、後々生かしておいたら面倒だし。技能はしっかり再利用するのでご安心を。

そしてティオさん、ハジメさんにゾッコンに。
ドМにならなかっただけ、里の男衆のショックが減ったのでこれはこれで良いかと思います。
まぁ、それでも彼女が隠れマゾなのは変わりませんけどね!
ティオ「!?」

さて今回で、第三章が終わり、旅の仲間にトシとティオが加わりました。
次章では更に増えます!あのキャラやあのキャラとか!乞うご期待を!

宜しければ、高評価・コメント宜しくお願い致します。

次回
オーマジオウ「今までこの作品は、他作品の次回予告を真似ていたが、次回からはキャラによるトークとなった。理由は言わずもがな、ネタ切れだ。
何?メタ発言は禁止だと?今更何を言うか。
大体、BGMも無いのに、なぜ最後がカービィ風なんだ。
そこはスポンサー的にポワトリンだろうに。」


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原作第4巻~ホルアドリターンズ編:2071/人魚と兎と突撃娘
39.つかの間の休息


うp主
「読者の皆様、この度は大変お待たせいたしましたこと、お詫び申し上げます。」
ハジメ
「今回からはこう言ったキャラトークによる語りから始まるから、ちょっと違和感あるかもしれないけど、最後まで温かい目で見てもらえたら嬉しいな。」
うp主
「正直、初の試みで内心ドキドキしているよ。だからハジメ君、あらすじお願い!」
ハジメ「はいはい、前回までの俺達は、ウルの町の異変を解決して、ティオとトシの二人を仲間に加えた、くらいかな?」
うp主
「しかしこの先で、ハジメ達は運命の出会いに直面するのであった!」
ハジメ
「勝手に語らないの。それにそういうのは、あの子が出てきてからにしてよ。」
うp主「ヘイヘイっと。それでは、第四章第1話!」
うp主・ハジメ「「どうぞ!」」


〈三人称視点〉

 

【中立商業都市フューレン】

 

あらゆる物と人と思惑が入り混じる世界最大の商業都市は、相も変わらず盛大な活気で満ち溢れていた。

都市の周囲を丸ごと囲む高く巨大な壁の向こうからは、まだ相当距離を隔てて尚都市内の喧騒が外野まで伝わってくる。

門前に出来た、最早【フューレン】の名物と言っても過言ではない入場検査待ちの長蛇の列──

その列に並ぶ観光客や商人、冒険者達はその喧噪を耳にしながら気怠そうに、或いは苛ついた様に順番が来るのを待っていた。

 

そんな入場検査待ちの人々の最後尾に、実にチャラい感じの男がこれまた派手な女二人を両脇に侍らせて、気怠そうにしながら順番待ちに対する不満をタラタラと流していた。

取り敢えず、「何か難しい言葉とか使っとけば賢く見えるだろう。」という浅はかさを感じさせる雰囲気で、順番待ちをさせる【フューレン】の行政官達の無能ぶりをペラペラと話す姿に周囲の商人達が鼻をピクピクさせながら笑いを堪えている。

だが、彼自身も女達も気が付いてはいない様だ。

 

と、そんな無自覚に周囲へ失笑を提供しているチャラ男の耳に突如聞き慣れない、まるで蒸気を噴き出す様なキィイイッ!という甲高い音が微かに聞こえ始めた。

最初は無視して傍らの女二人に気分よく持論を語っていたチャラ男だが、前方の商人達や女二人が目を丸くして自分の背後を見ている事と、次第に大きくなる音に苛ついて「何だよ!」と文句を垂れつつ背後の街道を振り返った。

 

そして、見た事も無いほど巨大で、赤い魔物の顔の様な物体が、猛烈な勢いで砂埃を巻き上げながら街道を爆走してくる光景を目撃して、「おへぇ!?」と奇妙な声を上げながらギョッと目を剥いた。

俄かに騒がしくなる人々。「すわっ魔物か!」と逃げ出そうとするが、その物体の速度は彼等の予想を遥かに凌駕するものであり、驚愕から我に返った脳が手足に命令を送った時には、既に直ぐそこまで迫っていた。

チャラ男が硬直する。列の人々が「もうダメだ!」とその瞳に絶望を映す。

 

爆走してくるその物体があわや行列に衝突するかと思われたその時、その物体はキキッー!という音を立て、彼らの目の前で急停止した。

停止した巨大な物体──キングライナーを凝視する人々が「一体何なんだ?」と混乱が広がる中、そのドアが開いた。

 

ハジメ「ふぅ~。ようやっと着いた。それにしても凄い行列だね。」

ユエ「……ん、仕方ない。」

ビクッとする人々の事など知った事じゃないと気にした風もなく降りてきたのは、当然ハジメとユエだ。

続いてシア、ミレディ、ティオ、トシ、微妙に頬を引き攣らせたウィル・クデタが現れる。

 

ハジメ達は数日前に、冒険者ギルド・フューレン支部の支部長イルワ・チャングから【北の山脈地帯】の調査依頼に出たウィルを捜索してほしいとの指名依頼を受けた。

そして魔物や操られていた竜化状態のティオからどうにか生き延びていたウィルを保護し、こうして無事に戻ってきたところなのである。

行列の人々の注目に対し、「お騒がせしてすみません!」と貴族らしからぬ腰の低さを見せて謝罪するウィルだったが、人々の視線が自分に向いていない事に直ぐに気が付いた。

 

人々の注目の対象は、視線の先で「う~ん。」と背伸びしている美女・美少女達らしい。

未知の高速移動する巨大な物体も、そこから人が出てきた事も、まるで些事だと言わんばかりに目が釘付けになっている。

ユエ達が動く度に、「ほぅ。」と感心やらうっとりとした溜息がそこかしこから漏れ聞こえた。

 

が、直ぐにその視線は収められた。何故かというと、ハジメが一睨みしたからだ。

その凍てつく視線は、ユエ達を凝視していた者達を震え上がらせ、まるで「道を開けよ!」とでも言われたかのように、一直線に道を開けていった。

ユエ達に声をかけようとしていたチャラ男に至っては、他より強めにやったからかその場で失神していた。

ハジメ「ごくろーさん。

ちょっとギルド長からの緊急以来の成果を伝えたいから、先に行かせてもらうね。」

そう言うとハジメは、コネクトから取り出した鉱石の床にユエ達を乗せ、自分はそれを担いで歩き出した。

 

実を言うと、ハジメはかなりイラついていた。

ただでさえ、魔人族やアナザーライダーのことだってあったのに、この視線だ。

ウザったいと言ったらキリがない。特にチャラチャラしていた男の目線が不愉快だった。

こういうタイプは自分に自信があるからか、不用意にナンパをしようとしてくる。

それが嫌だったので敢えて威圧を放ち、道を開けさせた。まぁ、門番達の顔も引きつっていたが。

ウィルは周りにペコペコ頭を下げてはいたが、トシは気にせずに歩いていた。

ハジメに至っては、周りに殺意に近い圧を放ち、道を綺麗に開けさせていた。

と、終始そんな感じではあったものの、自分達を思っての事だと嬉しく思ったユエ達が、ハジメの頭を撫でたりしたことで、段々と収まって入った。

 

そうして門の前まで来たので、ユエ達を下ろしていると、シアがふと疑問を顔に浮かべてハジメに尋ねた。

シア「あの、ハジメさん。キングライナーで乗り付けて良かったんですか?

出来る限り隠すつもりだったのでは……。」

ハジメ「どうせバレるんだ。ならド派手に宣伝してやればいい。俺の仲間に手を出すなってね。

まぁ、ぶっちゃけ隠すのが面倒になっちゃっただけなんだけどね☆」

ユエ「……ん、本当の意味で自重無し。」

シアの疑問に、ハジメはおちゃめな感じで返した。

 

今までは、僅かな労力で避けられる面倒なら避けておこうという方針だったが、【ウルの町】での戦いは瞬く間に各方面へ伝わる筈なのでその様な考えはもう無駄だろう。

なのでユエの言う通り、自重無しで行く事にしたのだ。

シア「う~ん、そうですか。

まぁ、教会とかお国からは確実にアクションがありそうですし、確かに今更ですね。愛子さんとか、イルワさんとかが上手く味方してくれればいいですけど……。」

ハジメ「なぁに、いざとなったら王都にカチコミに行けばいいだけさ。

まぁ、そう言った事態が起こらない方がいいんだけどね。無いよりはマシだと思うよ。

所でシア、そろそろ奴隷の振りはやめてもいいよ?首輪もきつかったら外してもいいんだし。」

 

イルワや愛子という教会や国関係の面倒事への布石は、あくまで効果があればいい程度の考えだったので、ハジメは大して気にした様子を見せない。

ハジメはその話は早々に切り上げ、シアにも奴隷のフリは止めていいと首輪に触れながら言う。

手を出されたらその場で返り討ちにしてやれ、もう面倒事を避ける為に遠慮する必要は無いと暗に伝える。

しかしシアはそっと自分の首輪に手を触れて撫でると、若干頬を染めてイヤイヤと首を振った。

 

シア「いえ、これはこのままで。一応、ハジメさんから初めて頂いたものですし……

それにハジメさんの"人"という証でもありますし……最近は結構気に入っていて……

だから、このままで。」

ハジメ「……往来で恥ずかしいセリフを言うんじゃあない。こっちまで照れてくるでしょうが。」

そんな事を言うシア。ウサミミが恥ずかしげにそっぽを向きながらピコピコと動いている。

目を伏せて、俯き加減に恥じらうシアの姿はとても可憐だ。

ハジメの視界の端で男の何人かが鼻を抑えた手の隙間からダクダクと血を滴らせている。

ハジメ本人も、これには流石に赤面せざるを得ないようだった。

 

トシ「モテる男は辛いな、ハジメ。」

ハジメ「黙らっしゃい。人を天然誑しみたいに呼びおってからに。

とはいえだ、シアがそう言うならその意見を尊重するよ。でも、見栄えはよくしておかないと、ね?」

シア「は、ハジメさん?」

ハジメは横を向くシアの顎に手を当てるとそっと上を向かせた。その行為に、益々シアの頬が紅く染まる。ついでに男連中の足元の大地も赤く染まる。

ハジメは宝物庫から幾つか色合いの綺麗な宝石類を取り出しつつ、シアの着けている首輪──正確には取り付けられている水晶に手を触れる。

 

シアの首輪は、シアがハジメの奴隷である事を対外的に示す為に無骨な作りになっており、デザイン性というものを無視した形で取り付けられている。

元々、町でトラブルホイホイにならない為に一時的な物として作ったので、オシャレ度は度外視なのだ。

しかし、シアが気に入ってずっと付けるというのなら少々無骨に過ぎると言うものだろう。

なので、ハジメはシアに似合う様に仕立て直そうと考えたのだ。

 

結果、黒の生地に黄金の装飾が幾何学的に入っており、且つ正面には神結晶、魔皇石と自作ダイヤの欠片を加工した僅かに淡青、真紅、透明色に発光する小さなクロスが取り付けられた神秘的な首輪……

というより地球でも売っていそうなファッション的なチョーカーが出来上がった。

もう、唯の拘束用の犬の首輪という様な印象は受けない。

 

ハジメはその出来栄えに満足していた。

時折首を撫でるハジメの指の感触にうっとりしていたシアは、ハジメから鏡を渡されてハッと我に返った。そして、いそいそと鏡で首元のチョーカーを確かめる。

そこには、神秘的で美しい装飾が施されたチョーカーが確かにあった。

神結晶がシアの蒼穹の瞳と合っていて実に美しい。

更に魔皇石の真紅の輝きが反対色として青を引き立て、ダイヤモンドの光が色白の肌と白みがかった青髪をより輝かせる。

シア「ほぁ~。私、こんなに綺麗な装飾品を身に着けたのは初めてですぅ。」

シアは指先でクロスをツンツンと弄りながら、ニマニマと口元を緩ませた。

 

樹海から出た事が無いどころか、集落からさえ殆ど出なかったシアにとって、宝飾の類というのは無縁の存在だ。

しかし、シアとて年頃の女の子。

遠くから見た【フェアベルゲン】の同性が樹海で採れる水晶等を加工した装飾品で着飾ったりしているのを見て、羨ましいという想いをした事は一度や二度ではない。

 

故に、初めて身に着けた煌めく宝飾に自然心が躍る。しかも、その贈り手は自分の懸想する相手なのだ。

ウサミミは既にワッサワッサとピーン!を繰り返して喜びを露わにしている。

シア「ありがとうございますハジメさぁんっ!!」

シアは躍る心のままにハジメの腰に抱きつくと、にへら~と実に幸せそうな笑みを浮かべながら額をぐりぐりと擦りつけた。

序にウサミミもスリスリとハジメに擦り寄り、ウサシッポも高速フリフリしている。

シアの幸せそうな表情に、ハジメは照れ隠しなのか顔を赤くしながらそっぽを向き、ユエも僅かに口元を緩めながら擦り寄るウサミミをなでなでしている。

 

ミレディ「いいなぁ~、ミレディさんもオーちゃんから貰いたいよ~。」

トシ「ウィル、あぁいうのを天然たらしっていうんだ。」

ウィル「は、はぁ……。」

ティオ「うぅむ、ご主人様の錬成の腕は聞いてはおったが……よもやここまでとはのぅ。」

ミレディは素敵なアクセサリーを送ってもらったシアを羨ましく思い、トシはウィルにハジメの人柄を教え、ティオはハジメの錬成師としての腕に感嘆していた。

因みにこの後、前もって作っておいたユエ達の分も渡したハジメであった。

 

いきなり出来上がった桃色空間に、未知の物体と超美少女&美女の登場という衝撃から復帰した人々が、今度はハジメ達に様々な感情を織り交ぜて注目し始めた。

女性達はユエ達の美貌に嫉妬すら浮かばないのか、熱い溜息を吐き見蕩れる者が大半だ。

一方男達は、ユエ達に見蕩れる者、ハジメに嫉妬と殺意を向ける者、そしてハジメのアーティファクトやシア達に商品的価値を見出して舌舐りする者に分かれている。

だが、直接ハジメ達に向かってくる者は未だいない様だ。

まぁ、あれ程の圧を向けられれば当然ではあるが。

 

とその時、門番の一人がハジメ達を見て首をかしげると、「あっ。」と声を上げて思い出した様に隣の門番に小声で確認する。

何かを言われた相手の門番が同じ様に「そう言えば確かに。」と呟きながらハジメ達をマジマジと見つめる。

門番1「……君達、君達はもしかしてハジメ、ユエ、シア、ミレディという名前だったりするか?」

ハジメ「うん、ギルド長の依頼の帰りだよ。イルワさんから何か連絡が?」

ハジメの予想通りだった様で、門番の男が頷く。

門番は直ぐに通せと言われている様で、順番待ちを飛ばして入場させてくれるらしい。

尤も、先程の圧のせいで順番待ちもへったくれもないが。

ハジメはユエ達を連れて門番の後を着いて行く。

列に並ぶ人々の何事かという好奇の視線を尻目に悠々と進み、ハジメ達は再び【フューレン】へと足を踏み入れた。

 


 

〈ハジメさん視点〉

 

【フューレン】に入ってすぐ、俺達は冒険者ギルドにある応接室に通されていた。

差し出された如何にも高級そうなお茶と茶菓子を皆に与えながら、地球の本棚で調べ物をする事五分。

部屋の扉を蹴破らん勢いで開け放ち飛び込んできたのは、俺達にウィル救出の依頼をしたイルワさんだった。

イルワ「ウィル!無事かい!?怪我は無いかい!?」

以前の落ち着いた雰囲気でないせいか、視界にウィルを収めると挨拶も無く安否を確認するイルワさん。

それだけ心配だったのだろう。

 

ウィル「イルワさん……すみません。私が無理を言ったせいで、色々迷惑を……。」

イルワ「何を言うんだ……私の方こそ、危険な依頼を紹介してしまった……本当によく無事で……

ウィルに何かあったらグレイルやサリアに合わせる顔がなくなるところだよ……

二人も随分心配していた。早く顔を見せて安心させてあげるといい。君の無事は既に連絡してある。

数日前からフューレンに来ているんだ。」

ウィル「父上とママが……わかりました。直ぐに会いに行きます。」

イルワさんが、ウィルに両親が滞在している場所を伝えると会いに行く様に促す。

ウィルはイルワさんに改めて捜索に骨を折ってもらった事を感謝し、次いで俺達に改めて挨拶に行くと約束して部屋を出て行った。

俺としては依頼を守っただけなんだが……まぁいいか。あぁいう律儀な奴は嫌いじゃあない。

 

ウィルが出て行った後、改めてイルワさんはこちらを向き、穏やかな表情で微笑むと、深々と頭を下げた。

イルワ「ハジメ君、今回は本当にありがとう。

まさか、本当にウィルを生きて連れ戻してくれるとは思わなかった。感謝してもしきれないよ。」

ハジメ「まぁ、生き残っていたのはウィルの運が良かったからだよ。俺はただ見つけただけだし……。」

イルワ「ふふ、そうかな?確かに、それもあるだろうが……

何万もの魔物の群れから守りきってくれたのは事実だろう?"魔王陛下"殿?」

ハジメ「ウゴォッ!?

 

にこやかに笑いながら、俺が【ウルの町】で呼ばれていた二つ名を呼ぶイルワさん。

またもや痛い所を突かれた俺が机に突っ伏すと、トシが追い打ちをかけるように言った。

トシ「八重樫さん辺りが広めそうだな、その二つ名。」

ハジメ「止めろぉ、止めてくれぇ!」

正直恥ずかしすぎて生きていけねぇよ、そんなの。もうこれ以上、二つ名は要らないって。

女性陣に生暖かい目で見られながらも、慰められる俺であった。

 

ハジメ「そ、それにしても、情報の伝達が中々に早いね。」

イルワ「ギルドの最上級幹部専用だけどね。長距離連絡用のアーティファクトがあるんだ。

ウル支部の支部長は持っていないから、私の部下が君達に付いていたんだよ。

……彼の泣き言なんて初めて聞いたよ。

フューレンを出て、数分で君達を見失ったって涙声で通信してきたんだから。」

そう言って苦笑いするイルワさん。

もしかしたら俺達を尾行して、序に秘密の一つでも知ろうと思ったのかもしれない。

 

それが彼の指示か、それともその部下の独断かは知らないけど、追随しようとした直後に置いて行かれたその人の焦燥を思うと、なぁ……。

そして、恐らく何とか【ウルの町】に到着した直後、数万の魔物VS一人という非常識極まりない戦場に遭遇し、更にその後も夕方までは残ってはいたものの、それを無かったかのようにするほどの速さで帰られてしまい、今も必死に馬を駆って戻って来ているだろう事を思うと……ちょっとやり過ぎたかなぁ。

監視についてはそこまで咎めるつもりはない。それよりも、イルワさんの腕に感心したくらいだ。

 

イルワさんが「こほんっ!」と咳払いして、部下の焦燥と困惑と精神的疲労を脇にポイして話を進めた。

イルワ「それにしても、大変だったね。まさか、北の山脈地帯の異変が大惨事の予兆だったとは……

二重の意味で君達に依頼して本当によかった。数万の大群を殲滅した力にも興味はあるのだけど……

聞かせてくれるかい?一体、何があったのか。」

ハジメ「いいよ。でもその前に、ユエ達のステータスプレートだ。ティオとトシのもお願い。」

イルワ「確かに、ステータスプレートを見た方が大群を退けたという話の信憑性も高まるか……

分かったよ。」

イルワさんはユエ達の他に、新しく俺達一行に加わっているティオとトシについても"何か"あるのだと察して、若干表情を変えつつ職員を呼んで新しいステータスプレートを5枚持ってこさせた。

結果、ユエ達のステータスは以下の通りだった。

 


ユエ 323歳 女 レベル:???

 

天職:神子

 

筋力:350

 

体力:1000

 

耐性:300

 

敏捷:350

 

魔力:53000

 

魔耐:45000

 

技能:

自動再生[+痛覚操作]・全属性適性・複合魔法・魔力操作[+魔力放射][+魔力圧縮][+遠隔操作][+効率上昇][+魔素吸収]・想像構成[+イメージ補強力上昇][+複数同時構成][+遅延発動]・血力変換[+身体強化][+魔力変換][+体力変換][+魔力強化][+血盟契約]・高速魔力回復・気配感知・魔力感知・限界突破・毒耐性・危機察知・胃酸強化・生成魔法・重力魔法


シア・ハウリア 16歳 女 レベル:???

 

天職:占術師

 

筋力:6000[+最大35000]

 

体力:7500[+最大35000]

 

耐性:6500[+最大35000]

 

敏捷:8000[+最大35000]

 

魔力:16000

 

魔耐:18000

 

技能:

未来視[+自動発動][+仮定未来]・魔力操作[+身体強化][+部分強化][+変換効率上昇Ⅱ][+集中強化]・高速魔力回復・気配感知・魔力感知・限界突破・毒耐性・危機察知・胃酸強化・纏雷[+雷耐性]・天歩[+空力][+縮地][+豪脚][+瞬光]・風爪・夜目・遠見・気配感知[+特定感知]・魔力感知[+特定感知]・気配遮断[+幻踏]・麻痺耐性・石化耐性・恐慌耐性・全属性耐性・先読・金剛[+部分強化][+集中強化][+付与強化]・豪腕・念話・魔力変換[+体力変換][+治癒力変換][+衝撃変換]・重力魔法


ミレディ・ライセン 19歳 女 レベル:???

 

天職:大魔導師

 

筋力:5200

 

体力:5500

 

耐性:5300

 

敏捷:5000

 

魔力:38000

 

魔耐:28000

 

技能:

重力魔法[+発動速度上昇][+効果上昇]・魔力操作[+魔力放射][+魔力圧縮][+遠隔操作][+効率上昇]・想像構成[+イメージ補強力上昇][+複数同時構成][+遅延発動]・分解能力・全属性適性・複合魔法・毒耐性・危機察知・胃酸強化・限界突破・天歩[+空力]・夜目・遠見・気配感知[+特定感知]・魔力感知[+特定感知]・気配遮断・恐慌耐性・全属性耐性・高速魔力回復[+魔素集束]・魔力変換[+体力変換][+治癒力変換]


ティオ・クラルス 563歳 女 レベル:???

 

天職:守護者

 

筋力:1800[+竜化状態18000]

 

体力:3000[+竜化状態30000]

 

耐性:2800[+竜化状態28000]

 

敏捷:1500[+竜化状態15000]

 

魔力:35000

 

魔耐:32000

 

技能:

竜化[+竜鱗硬化][+魔力効率上昇][+身体能力上昇][+咆哮][+風纏][+痛覚変換]・魔力操作[+魔力放射][+魔力圧縮]・火属性適性[+魔力消費減少][+効果上昇][+持続時間上昇]・風属性適性[+魔力消費減少][+効果上昇][+持続時間上昇]・複合魔法・毒耐性・危機察知・胃酸強化・高速魔力回復・気配感知・魔力感知・限界突破


清水幸利 17歳 男 レベル:???

 

天職:闇術師、魔王の忠臣

 

筋力:9500

 

体力:10000

 

耐性:9500

 

敏捷:8000

 

魔力:15000

 

魔耐:12000

 

技能:

全属性適正・全属性耐性・複合魔法・縮地・先読・剛力・金剛・物理耐性・高速魔力回復・気配感知・魔力感知・限界突破・言語理解・剛腕・魔力操作[+魔力放射][+魔力圧縮][+遠隔操作]・毒耐性・危機察知・胃酸強化・恐慌耐性・天歩[+空力][+豪脚]・夜目


 

俺には遠く及ばないものの、他のクラスメイトなら少人数では相手にならないレベルのステータスだった。

光輝が"限界突破"を使っても及ばないだろう。この世界の通常の戦闘系天職と比べれば、正に異常な値だ。

何より、ユエ達の本質を示す固有魔術や技能を見た、冒険者ギルド最上級幹部であるイルワさんですらその口をあんぐりと開けさせ絶句しているからだ。

 

まぁ、無理もないと思う。

何せ"血力変換"と"竜化"はとある種族しか持たない筈の特異な固有魔術であり、既にその種族は何百年も前に滅んだ筈なのだから。

何百年経とうとも聖教教会を通して伝説の一つとして伝えられる、神敵にされてしまった種族の証なのだから。

正直、ステータスも異常だが……これは俺の責任だ。

 

ユエは血を吸ってパワーアップし、シアたちは魔物肉や俺の特訓でさらに強くなった。

もう神の使徒が来ても全員で無双できる位だと思う。

そして俺のステータスは言わずもがな。その本来のステータス値は、ユエ達の10倍はいっている。

彼女たちの強さを山と例えるなら、俺は正に月レベルだろう。

子供のころから続けていたトレーニングが、まさかここまで来るとは俺自身思ってもいなかった。

 

イルワ「いやはや……何かあるとは思っていたけれど、これ程とは……。」

冷や汗を流しながらいつもの微笑みが引き攣っているイルワさん。

まぁ、信じてはもらえないかもしれないが、一応事の顛末は話しておいた。

普通に聞いただけなら、そんな馬鹿なと一笑に付しそうな内容でも、先にステータスプレートで裏付ける様な数値や技能を見てしまっているので信じざるを得ないだろう。

イルワさんは全ての話を聞き終えると、一気に10歳くらい年をとった様な疲れた表情でソファに深く座り直した。

 

イルワ「……道理でキャサリン先生の目に留まるわけだ。ハジメ君と清水君が召喚された者の一人だという事は予想していたが……実際は、遥か斜め上をいったね……。」

ハジメ「そう?ところで、アンタはどうするの?危険分子だと教会にでも突き出す?」

そんな冗談を言うと、イルワさんは非難する様な眼差しを俺に向けると居住まいを正した。

イルワ「冗談がキツいよ。出来る訳が無いだろう?

君達を敵に回す様な事、個人的にもギルド幹部としても有り得ない選択肢だよ。

……大体、見くびらないで欲しい。君達は私の恩人なんだ、その事を私が忘れる事は生涯無いよ。」

ハジメ「そう、それならいいや。ちょっと心配したから試しちゃったよ、ごめん。今後ともよろしく!」

そう言って、右手を差し出した。イルワさんも右手でその手を握った。いわゆる握手というやつだ。

 

イルワ「私としては、約束通り可能な限り君達の後ろ盾になろうと思う。

ギルド幹部としても、個人としてもね。

まぁあれだけの力を見せたんだ、当分は上の方も議論が紛糾して君達に下手な事はしないと思うよ。

一応後ろ盾になりやすい様に、君達の冒険者ランクを全員"金"にしておく。

普通は"金"を付けるには色々面倒な手続きがいるのだけど……事後承諾でも何とかなるよ。

キャサリン先生と僕の推薦、それに"魔王陛下"という名声があるからね。」

ハジメ「……アンタはいちいち俺を仇名でいじらないと気が済まないのか?正直、泣くよ?」

 

と、そんなコントを繰り広げたものの、イルワさんの大盤振る舞いにより、他にも【フューレン】にいる間はギルド直営の宿のVIPルームを使わせてくれたり、イルワさんの家紋入り手紙を用意してくれたりした。

何でも、今回のお礼もあるがそれ以上に俺達とは友好関係を作っておきたいという事らしい。

ハジメ「ありがたく受け取っておくよ。手札は多ければ多い程、戦略が立てやすいし。

態々ウルの町まで行って良かったよ。」

イルワ「そう言ってもらえると、私も嬉しいね。

……しかしステータスプレートを見せずとも、彼女達の正体が露見するのは時間の問題だよ?

正直私程度の援護では、最上級魔法を紙切れで防御しようとする様なものだと思うのだけど……。」

 

カリカリと頬を掻きながら苦笑いを見せるイルワさんに、横からトシが口をはさむ。

トシ「イルワさん、コイツの辞書に自重という言葉はありませんよ。

気に入らない者はぶっ飛ばし、助けたいものは必ず助ける、そんなトンデモ大魔王ですから。」

ハジメ「ハハハ、まぁ、紙切れも使いようによっちゃあ武器にもなる。

アンタの厚意と後ろ盾は、存分に活用させてもらうよ。」

イルワ「そうかい?」

ハジメ「あぁ。それに、捜索依頼をした時に自分で言っていたでしょ?」

イルワ「?」

ハジメ「『最初から、全て覚悟の上だ』ってね。」

イルワ「……成程、そうだったね。」

 

イルワさんの後ろ盾に関係なく、あればあったで適当に役立たせよう位のものだから、無くても俺達の歩みを止める事なんて不可能だ。

ただあるがままに往き、進み続け、目の前に立ちふさがる物全部ぶっ飛ばしていくだけだ。

俺の在り方と、それに寄り添う不安も心配も欠片も抱いていない様子のユエ達を見て、イルワさんは口元に浮かび上がる笑みを堪える事が出来なかったようだ。

訳も無く気分が高揚しているみたい。

それはまるで、幹部職員を目指して我武者羅に頑張っていた若い頃の気持ちを取り戻したかの様だった。

 

きっと、感じているんだろう。

目の前にいる聖教教会の敵とも言える一行が、世界を変えるかもしれないという予感を。

勿論、現状に不満がある訳ではないと思う。

イルワさんは間違いなく成功者であり、この世界で正しく生きている人間だ。

変わらない事が、寧ろイルワさんにとっては正しい事であり、望むべき事だろう。

だがしかし、それでも期待と少しの恐怖と、湧き上がる高揚感を否定出来ないのは、

──イルワ・チャングという人間が、冒険者・・・ギルドの幹部だからなのだろう。

 

イルワ「君達の旅路が、最高に厄介で素敵な冒険となる事を祈っているよ。」

ハジメ「ハッハッハッ!まぁ、愉快な旅になることは間違いなしだよ!」

イルワさんの最上級の送り言葉に、俺もそうなってほしいと思い大笑で返した。

そんな俺を見て、イルワさんもここ数年多忙に呑まれて見せる事の無かった、心からの快活な笑い声を上げたのだった。

 

その後イルワさんと別れた俺達は、【フューレン】の中央区にあるギルド直営の宿のVIPルームへとやってきた。

20階建ての建物で、俺達の部屋は最上階。窓からは観光区の様子を一望出来る。

部屋も立派な造りであり、広いリビングの他に個室が4部屋あって、その全てに天蓋付きベッドが備え付けられている。

ソファも絨毯もフカフカで、触れた瞬間一級品である事が分かった。

 

俺はソファに腰掛けながら、窓から景色を見ていた。

その隣にはユエが寄り添い、シア達は「ほぉほぉ。」と物珍し気に部屋を探検している。

すると、ウィルの両親であるグレイル・グレタ伯爵とサリア・グレタ夫人がウィルを伴って挨拶に来た。

かつて、この国の王宮で見た貴族とは異なり随分と筋の通った人の様だ。

ウィルの人の良さというものが納得できる両親だった。

 

グレイル伯爵は、頻りに礼をしたいと家への招待や金品の支払いを提案したきたが、俺はこう返した。

ハジメ「俺達はただ、依頼を達成したにすぎません。報酬なら既にギルドから貰っているので十分です。

それよりも、ウィルに色々何かを学ぶ機会をあげた方がいいと思います。

なんか彼、大きくなりそうな気がしますから、ね?」

そう言うとクデタ伯爵は、今後困った事があればどんな事でも力になると宣言した。

正直、手札が増えるのはありがたいので、ありがたく受け取っておいた。

 

クデタ家の面々が帰った後、俺は再びリビングのソファに体重を預け、リラックスした様子で深く息を吐いた。

ユエがいつもの様に俺の膝に頭を預け、シアは隣に腰掛けた。トシは早速瞑想鍛錬を始めている。

ティオとミレディは部屋の探検を続行する様だ。

一々家具や調度品を見たり触ったりしては、感心したり首を捻ったりしている。

昔と今の様式の違いでも考察しているのかもしれない。

そんなものかと思いつつ、俺はゆっくりしていた。

 

ハジメ「そう言えば、皆は明日どうする?俺は散策がてら、食糧の買い出しにでも行くけど……。」

俺がそう聞くと、シアがウサミミをピンと立てて、勢いよく言った。

シア「あ!それなら私、ハジメさんと一緒に水族館に行きたいです!」

ミレディ「あぁ~、観光区のとこだよね?ミレディさんもちょっと見てみたいなぁ~?」

ハジメ「それは構わないけど……食糧の買い出しもあるから、時間はそこまで……。」

正直、俺自身も異世界の水族館にはちょっと興味がある。

だが、流石に準備もなしに、というのは危険すぎる。ここは石橋をたたいて渡らねば。

ユエ「……買い物は私達がしておく。だからハジメは、二人と、ね?」

おっとここで援護射撃か。まぁ、時間が増えるに越したことはないからいいが。

 

ハジメ「分かった。トシ、悪いけど二人と食糧を頼むよ。」

トシ「おう。にしても、お前が先に男の夢を実現するとはな……流石魔王になる男だ。」

ハジメ「嫌味か!?学生のハーレムは理性と本能の大戦争時代なんだぞ!?それに夜は……。」

トシ「……そうか、まぁ頑張れ。お前なら、なんかいける気がするし。」

ハジメ「そのセリフは今聞きたくはなかった!なんかこう、最終決戦みたいなとこで行ってほしかった!」

ティオ「ご主人様よ、それはまるで妾達が子種を求める獣の様に聞こえるのじゃが?」

ハジメ「……俺がどんなに戦闘で強くとも、そっち方面は未だ経験なしのチェリーボーイなのさ。」

トシ「それは誇っていいことじゃあないだろ。」

と、そんなコントをしつつも、俺達は今後のことについて話し合い、和やかな空気のまま眠りについた。




うp主
「ここまで読んでいただき、ありがとうございます!」
オーマジオウ
「ふむ、第一回のゲストは私か。」
うp主
「そうでございます、ン我が魔王!」
オーマジオウ
「……まぁ、良い。ところで、何故ネタ切れになってしまったのだ?
もう少し探せば、幾らでもあったはずだろうに。」
うp主
「……いちいち検索して動画見つけるまでに、結構な時間と労力持っていかれるんで。」
オーマジオウ
「死ぬ気でやれ。」
うp主
「/(^o^)\ナンテコッタイ」
オーマジオウ「さて、次回予告と行こうか。」
うp主「あ、はい。」

次回予告
うp主
「さぁ、次回は観光区で両手に花ですよ!クゥ―、羨ましい!」
オーマジオウ
「貴様の私情など知らん。そんなことよりも、私はシーメン擬きが気になるな。」
うp主
「えぇ……よりにもよってそこですか?もうちょっと他にあったのでは?」
オーマジオウ
「そうさな、海の呼び声が聞こえてくるだろう。」
うp主
「そこは助けを求める声の方がいいんじゃ……。」
オーマジオウ
「私自身、あの子の潜在能力を測りかねておるのでな。」
うp主
「つまり、次回も気になるってことですね!それじゃあこの辺で!」


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40.海人の娘ミュウ

ハジメ
「今回からうp主に変わって、進行を務めさせていただきます。
うp主に変わって、お待たせいたしました。」
ユエ
「ん。私、参上!」
ハジメ
「おう、今日のオープニングゲストはユエだ。勿論、他の皆も出すよ。」
ユエ
「ん!それじゃあ、前回のあらすじ。」
ハジメ
「あぁ。
さて、前回の俺達は、ようやくフューレンについて、一息ついていたところだな。」
ユエ
「ん。ハジメの独占欲マシマシだった。だがそれがいい!」
ハジメ
「……そして、皆のステータスも開示されたね。さてこの後は……どうなるかな?」
ユエ
「ん!あの子が登場!」
ハジメ
「それじゃ、第4章第2話。」
ハジメ・ユエ「「それでは、どうぞ!」」


シア「ふんふんふふ~ん、ふんふふ~ん♪いい天気ですねぇ~♪」

ミレディ「うん!今日は、絶好のデート日和だね♪」

【フューレン】の街の表通りを、上機嫌のシアとミレディがスキップしそうな勢いで歩いている。

 

シアの服装はいつも着ている丈夫で露出過多な冒険者風の服と異なり、可愛らしい乳白色のワンピースだ。肩紐は細めで胸元が大きく開いており、シアの豊かな胸が歩く度にプルンッ!プルンッ!と震えている。

腰には細めの黒いベルトが付いていて引き絞られており、シアのくびれの美しさを強調していた。

豊かなヒップラインと合わせて何とも魅惑的な曲線を描いている。

膝上15cmの裾からスラリと伸びる細く引き締まった脚線美は、弾む双丘と同じくらい男共の視線を集めていた。

 

ミレディも白いワンピースに身を包み、くるくる回りながら歩いていた。

シアほどではないとは言え、豊満なお餅がプルンッ!プルンッ!と激しく主張していた。

シアとお揃いのコーデにしたのか、それとも俺の"人"アピールをしに来たのか、どっちなのかは分からない。

 

尤も、何より魅力的なのはその纏う雰囲気と笑顔だろう。

頬を染めて「楽しくて仕方ありません!」という感情が僅かにも隠される事無く全身から溢れている。

亜人族であるとか、綺麗に装飾されているが一応首輪らしき物を付けている事とか、そんなのは些細な事だと言わんばかりに周囲の人々を尽く見惚れさせ、或いは微笑ましいものを見たという様にご年配方の頬を緩ませている。

ミレディも久しぶりにオスカーとのデートが出来るのが嬉しいのか、まるで昔からタイムスリップしてきた年頃の少女のような振る舞いだった。

オスカーが終始微笑みを浮かべているのがちょっと怖いが。

 

そんな二人に挟まれながら、俺"達"は街中を歩いていた。

なんだかんだで二人とも楽しみにしていたんだなぁ……。

オスカー「良かったのかい?別に僕自身、留守番していても良かったんだが……。」

ハジメ『それは流石に失礼でしょ。今日は折角なんだし、ダブルデートと洒落込もうじゃあないか。』

オスカー「……体は一つだから、実質二股状態だけどね。」

ハジメ『あ~んの時は交互に入れ替えればいい。体が一つでも、使いようでは2人分で味わえる。』

オスカー「……それもそうだね。」

 

そんな俺とオスカーの会話が聞こえていないのか、2人は初めてのフューレンにキャッキャッウフフしていた。まぁ、可愛いから許すけ、どぉ!

シア「わわっ!?」

ミレディ「おっととォ!?」

二人が服に足を引っかけて転びそうだったので、サッと両手で二人を抱きかかえる。

一応、圧も放っておいたので、変態共は視線を向けてはいないようだが。

 

ハジメ「2人とも、歩くときはしっかり前を見ようね?」

オスカー「もし君たちが怪我をしてしまったら、紳士の恥だからね。」

シア「な、なんでしょう……///。この、ドキドキする感じは……///。」

ミレディ「ふわぁ……///。何だか、恥ずかしい……///。」

咄嗟に抱きかかえられたせいか、2人とも頬を赤らめていた。

……周りが鬱陶しい。この際だから、もう一回強めの奴ぶっ放すか。

そんな物騒なことを思いながらも、俺達は周囲の視線を集めつつ、遂に観光区に入った。

 

観光区には、実に様々な娯楽施設が存在する。

例えば劇場や大道芸通り、サーカス、音楽ホール、水族館や闘技場、ゲームスタジオ、展望台、色とりどりの花畑や巨大な花壇迷路、美しい建築物に広場等様々である。

シア「ハジメさん、ハジメさん!まずはメアシュタットに行きましょう!

私、生きている海の生き物って見た事無いんです!」

 

ガイドブックを片手に、シアがウサミミを「早く!早く!」と言う様にぴょこぴょこ動かす。

【ハルツィナ樹海】出身なので海の生物というのを見た事が無いらしく、メアシュタットという【フューレン】観光区でも有名な水族館に見に行きたいらしい。

因みに樹海にも大きな湖や川はあるので、淡水魚なら見慣れているらしいのだが、海の生き物とは例えフォルムが同じ魚でも感じるものは違うらしい。

 

ミレディ「お~!好きな人と一緒に行くと、何だかいつもと違う感じがするね!」

ハジメ「そうだね。それにしても、内陸で海洋生物かぁ……。

管理・維持・輸送・費用・その他諸々大変そうだなぁ……。」

オスカー『……ハジメ君、そういうことではないと思うよ。まぁ、僕も水槽の材質が気になるけどね。』

ハジメ「いやぁ、つい……。でも異世界の水族館かぁ。なんか、面白そうな気がする!」

そんな感想を言いながら、俺達は手をつないで入り口から入場した。

 

途中の大道芸通りで、人間の限界に挑戦する様なアクロバティックな妙技に目を奪われつつ、辿り着いたメアシュタットはかなり大きな施設だった。

海をイメージしているのか全体的に青みがかった建物となっており、多くの人で賑わっている。

中の様子は地球の水族館に極めてよく似ていた。

ただ、地球程大質量の水の圧力に耐える透明の水槽を作る技術が無い様で、格子状の金属製の柵に分厚いガラスがタイルの様に埋め込まれており、若干の見難さはあった。

 

まぁ、二人はそこまで気にしてはいなかったみたい。

初めて見る海の生き物の泳いでいる姿に瞳をキラキラさせて、頻りに指を差しながら俺達に話しかけた。

すぐ隣で同じく瞳をキラキラさせている家族連れの幼女と仕草が同じだ。

不意に幼女の父親と思しき人と視線が合い、その目に生暖かさが含まれている気がしたから、何となく愛想笑いをしながら二人を促し、手を掴んでその場を離れた。

そんなこんなで一時間程水族館を楽しんでいると、突然シアとミレディがギョッとした様にとある水槽を二度見し、更に凝視し始めた。

 

そこにいたのは……シーマ○擬きだった。某ゲームの人面魚そっくりだった。

ハジメ「……まさか、ここでこんな場面に遭遇するなんてね。」

オスカー『おや?知っているのかい?』

ハジメ「似たような未確認生命体がいてね……。」

そう言うと、水槽の傍に貼り付けられている解説に目をやった。

ハジメ「何々……へぇ、会話が出来るんだ?」

 

それによると、このシー○ンは水棲系の歴とした魔物なのだが、固有魔術"念話"により、なんと会話が成立するらしい。

確認されている中では唯一意思疎通の出来る魔物として有名な様だ。

ただ、物凄い面倒臭がりの様で滅多に話そうとしない上に、仮に会話出来たとしてもやる気の欠片も無い返答しかなく、話している内に相手の人間まで無気力になっていくという副作用の様なものまであるので注意が必要との事だ。

序にお酒が大好きらしく、飲むと饒舌になるらしい。

但し、一方的に説教臭い事を話し続けるだけで会話は成立しなくなるらしいが……

因みに、名称はリーマンだった。

 

取り敢えず、話しかけてみることにした。

ただ、普通に会話しても滅多に返してくれないらしいので同じく"念話"を使ってみる。

ハジメ『えぇっと、アンタ、念話が使えるんだっけ?その、言葉とかは分かる?』

突然の念話に、リーマンの目元が一瞬ピクリと反応し、俺の方を見返した。

 

リーマン『……チッ、初対面だろ。まず名乗れよ。それが礼儀ってもんだろうが。

全く、これだから最近の若者は……。』

……おっさん顔の魚に礼儀を説かれてしまった。正論っちゃあ正論だけどね。

俺は苦笑しながら再度会話を試みた。

 

ハジメ『ごめんごめん、俺はハジメ。それにしても、本当に会話ができるんだ……。

リーマンって一体なぁに?』

リーマン『……お前さん。人間ってのは何なんだ?と聞かれてどう答える気だ?

そんなもんわかるわけないだろうが。まぁ、敢えて言うなら俺は俺だ。それ以上でもそれ以下でもねぇ。

あと名はねぇから、呼びたきゃ好きに呼んでくれ。』

……何だろう、このイケおじ風のリーマンは。

何か、セリフがいちいち常識的で、しかも少しカッコイイ。

そんなことを思っていると、リーさん(リーマンのままじゃなんかダメかと思ったから。)の方から質問が来た。

 

リーさん『こっちも一つ聞きてぇ。お前さん、なぜ念話が出来る?

人間の魔法を使っている気配もねぇのに……まるで俺と同じみてぇだ。』

ハジメ『う~ん、やっぱり魔物肉食ったからかな?

念話が使える魔物を喰って奪い取ったっていうのはダメかな?』

そんな説明をすると……。

リーさん『……若ぇのに苦労してんだな。よし、聞きてぇことがあるなら言ってみな。

おっちゃんが分かることなら教えてやるよ』

 

……同情されたよ、なんでさ。どうやら、魔物を喰うしかないほど貧乏だとでも思われたようだ。

今のそれなりにいい服を着ていて、女性二人を侍らせている姿を見て、「頑張ったんだなぁ、てやんでぇ!泣かせるじゃねぇか。」とヒレで鼻をすする仕草をしている。

実際、苦労したことは間違いないので特に訂正はしないけど、人面魚に同情される人生って……と若干ヘコんだ。

まぁ、気を取り直しつつ、色々聞いてみた。

 

例えば、魔物には明確な意思があるのか、魔物はどうやって生まれるのか、他にも意思疎通できる魔物はいるのか……

リーさん曰く、ほとんどの魔物は本能的で明確な意思はないらしい。

言語を理解して意思疎通できる魔物など自分の種族しか知らないようだ。

また、魔物が生まれる方法も知らないらしい。

他にも色々と話しているとそれなりの時間が経っていた。

傍目には若い男とおっさん顔の人面魚が見つめ合っているという果てしなくシュールな光景なせいか、人目につき始めていた。

 

シア「うぅ、ハジメさん。皆見てますよぉ。

私達とのデート中に何故おっさん顔の魔物と見つめあってるんですかぁ?

それをする相手は私やミレディさんじゃないですか?」

シアがウサミミをペタンと折り畳み、何だか恥ずかしそうにそわそわしながら服の裾をちょいちょい引っ張るので、会話を切り上げた。

実を言うと、正直会話が楽しかったので、出来ればもう少し話していたかったところなんだけどなぁ……。

 

リーさんも『おっと、デートの邪魔だったな。不粋なことをしちまった。』と空気の読める発言をしていた。

……なんだろう。このものすごく身に覚えのある既視感は。

そういえば、イナバは元気にしているのだろうか。

今頃、香織達と合流して意思疎通が出来ているのだろうか。

その後、「リーさん」「ハー坊」と互いに呼び合う仲になっていた俺は、最後にリーさんが何故こんなところにいるのか聞いてみた。

そして、返ってきた答えは……

 

リーさん『ん?いやな、さっきも話した通り、自由気ままな旅をしていたんだが……

少し前に地下水脈を泳いでいたらいきなり地上に噴き飛ばされてな……。

気がついたら地上の泉の傍の草むらに投げ出されていたんだよ。

別に、水中じゃなくても死にはしないが、流石に身動きは取れなくてな。

念話で助けを求めたら……まぁ、ここに連れてこられたってわけだ。』

ハジメ『へぇ~、それは災難だったね。それにしても何で吹っ飛ばされたんだろ?』

そんなことを話していると、ミレディが何故か冷や汗をかいていた。

ちょっと気になったので、オスカーに聞いてもらうことにした。

 

オスカー「ミレディ、どうかしたのかい?」

ミレディ「……えぇ~とね、あそこのリーさんが投げ出された原因、ミレディさんかもしれないんだ。」

オスカー「……はい?」

ミレディ「わざとじゃないの!ただ、挑戦者が池から吹き上がる罠の試運転をしていただけなんだよ……。

えっと、その……ごめんなさい。」

……幸いにも、俺が念話で会話しているせいか、2人の会話は聞こえてはいないようだった。

仕方が無いなぁ……。

 

ハジメ『リーさん、ここから出たい?』

『?そりゃあ、出てぇよ。俺にゃあ、宛もない気ままな旅が性に合ってる。

生き物ってのは自然に生まれて自然に還るのが一番なんだ。

こんな檻の中じゃなく、大海の中で死にてぇてもんだよ。』

……一々言葉に含蓄があるなぁ。ホント、どうなってんだろ?

 

ハジメ『じゃあ俺が近くの川に送り届けるよ。

どうやら、この状況は俺達の事情に巻き込んじゃったせいみたいだし。

突然景色が変わるから混乱するだろうけど、まぁそこは我慢してね?』

リーさん『ハー坊……へっ、若造が、気ぃ遣いやがって……

何をする気かは知らねぇが、てめぇの力になろうって奴を信用できないほど落ちぶれちゃいねぇよ。

ハー坊を信じてるぜ。』

これは正しく、漢と書いて(おとこ)と読むべきだろう。

オスカーまで「なんてハードボイルドなんだ……!」って言っているし。

 

そして俺達が水槽から動いた途端、その中からリーマンがいなくなっているという珍事が発生した。

リーマンの隠された能力かと【フューレン】の行政も巻き込んだ大騒ぎになったらしいけど……

まぁ良いか!

 


 

メアシュタット水族館を出て昼食も食べた後、俺達は迷路花壇や大道芸通りを散策していた。

シアの腕には、露店で買った食べ物が入った包みが幾つも抱えられていて、今はバニラっぽいアイスクリームを攻略中だ。

ミレディもクレープ擬きを美味しそうにパクついている。こういう笑顔、実は結構大好きなんだよなぁ。

オスカー『おや?ハジメ君、いっぱい食べる子は好きなのかい?』

ハジメ『いや、どちらかと言うと、笑顔で美味しそうに食べている子が好きかな?

俺、料理は結構大好きだし。元の世界でも、料理の手伝いはしていたからさ。』

オスカー『なるほどね、それは確かにいいことだ。』

そんな男二人の念話をしていると……

 

ハジメ「!」

シア「どうかしましたか、ハジメさん?」

ミレディ「どうしたの、ハジメン?」

ハジメ「……下に人の気配を感じる。しかも随分と小さい上に弱い……。

まさか子供か?しかも弱っているみたいだ!」

シア「えぇ!?」

ミレディ「それはマズいよ!」

ハジメ「二人とも、捕まっていて!」

 

そう言って二人を抱え、時を止めた状態で「ディメンションキャブ」の通り抜け能力で一気に下に出る。

そのまま水路の両サイドにある通路に着地し、水路に目を向けると、流されかけている子供の姿があった。

ミレディが重力魔法でその子を引き上げた。

シア「この子は……。」

ハジメ「まだ息はあるみたい……取り敢えずここから離れよう。

こんな場所に子供を、それも衰弱している子を長居させられない。」

 

引き上げられたその子供を見て、シアが驚きに目を見開く。

俺もその容姿を見て知識だけはあったので、内心では少し驚いていた。

しかし場所が場所だけに、肉体的にも精神的にも衛生上良くないと場所を移動する事にする。

子供の素性的に唯の事故で流されたとは思えないので、そのまま下水通路に錬成で横穴を開けた。

そして"宝物庫"から毛布を取り出すと小さな子供を包み、抱きかかえて移動を開始した。

 

とある裏路地の突き当たりに、俺達は移動していた。

俺は、改めて自らが抱きかかえる子供に視線を向けた。

その子供は、エメラルドグリーンの長い髪と、幼い上に汚れているにも関わずわかるくらい整った可愛らしい顔立ちをした、見た目3、4歳ぐらいの女の子だった。

そして何より特徴的なのは、その耳だ。通常の人間の耳の代わりに扇状の鰭が付いているのだ。

しかも、毛布からちょこんと覗く紅葉の様な小さな手には、指の股に折り畳まれる様にして薄い膜が存在していた。

 

ミレディ「この子、海人族の子だよね……どうして、こんな所に……。」

ハジメ「……恐らくは人身売買か何かだろうね。全くもって、腹立たしい……。」

海人族は、亜人族としてはかなり特殊な地位にある種族だ。

西大陸の果て、【グリューエン大砂漠】を超えた先の海、その沖合にある【海上の町エリセン】で生活している。

彼等はその種族の特性を生かして、大陸に出回る海産物の八割を採って送り出しているのだ。

その為亜人族でありながら【ハイリヒ王国】から公に保護されている種族なのである。

差別しておきながら使えるから保護するという何とも現金な話だ。

因みに、解放者の一人、「メイル・メルジーネ」も海人族の出身らしい。

 

そんな保護されている筈の海人族、それも子供が内陸にある大都市の下水を流れている等ありえない事だ。この事態は臭ぇ!ゲロ以下の犯罪臭がプンプンしているぜぇ!

とその時、海人族の幼女の小さな可愛らしい鼻がピクピクと動き始め、直後その目がパチクリと目を開いた。

最初は困惑した様に視線を泳がせていた海人族の幼女は、やがてその大きく真ん丸な瞳を俺にロックオンした。

無言で、只管ジィーッと俺を見つめ始める。

俺も何となく目が合ったまま逸らさずジーと見つめ返した。

見つめ合う。まだ見つめ合う。まだまだ見つめ合う。

 

シア「二人供、一体何をしているんですか……。」

ハジメ「いやぁ~、何でか見つめられているから、つい……。」

そんな会話をしていると、海人族の幼女のお腹がクゥ~と可愛らしい音を立てる。

どうやらお腹がすいていたようだ。

シアが露店で買った串焼きを右に左にと動かすと、まるで磁石の様に幼女の視線も左右に揺れる。

 

ハジメ「あ~、えっと、俺は南雲ハジメ。君、名前は言えるかい?」

地面をコンコンとつつき、彼女の注意をこっちに向けると、俺は名前を聞いた。

すると彼女は、突如地面が動き出し、四角い箱状の物がせり上がってくる光景に驚いた様に身を竦めた。

そして、俺から名前を聞かれて視線を彷徨わせた後、ポツリと囁く様な声で自身の名前を告げた。

 

???「……ミュウ。」

「そっか。じゃあミュウ、まずは体を洗おうか?

そのままだと病気になるし、ご飯はその後にお腹一杯上げるから、ね?」

ミュウ「……分かったの。」

俺は完成した簡易の浴槽に魔法で生成した清水を貯め、更に水温を調整し即席の風呂を用意した。

下水で汚れた体のまま食事を取るのは非常に危険だ。

幾分か飲んでしまっているだろうから、解毒作用や殺菌作用のある術も掛けておく必要がある。

 

俺はシアとミレディに薬やタオル、石鹸等を渡しミュウの世話を任せ、自らはミュウの衣服を買いに袋小路を出て行った。

……正直、変な目で見られないかが心配だったものの、時代を駆け抜けた先輩方のとある力を使わせてもらったおかげで、何とかなった。

それと同時に、思わぬ収穫もあったが、今はミュウの方が先決だ。

 

俺がミュウの服を揃えて袋小路に戻ってくると、ミュウは既に湯船から上がっており、新しい毛布に包まれてシアに抱っこされているところだった。

抱っこされながら、ミレディが「あ~ん。」する串焼きをはぐはぐと小さな口を一生懸命動かして食べている。

うん、やっぱり、子供は元気においしいものを笑顔で頬張る姿が良く似合う。

薄汚れていた髪は、本来のエメラルドグリーンの輝きを取り戻し、光を反射して天使の輪を作っていた。

 

シア「あっ、ハジメさん。お帰りなさい。素人判断ですけど、ミュウちゃんは問題ないみたいですよ。」

ミレディ「それにしても、色々買ってきたよね?そんな荷物で大丈夫?」

ハジメ「まぁ、収納するものは作っておくよ。それよりも、ミュウは元気そうだね。」

俺が帰ってきた事に気がついたシアが、ミュウのまだ湿り気のある髪を撫でながら報告してきた。

ミュウもそれで俺の存在に気がついたのか、はぐはぐと口を動かしながら、再びジーッと見つめ始めた。

良い人か悪い人かの判断中なのだろう。

俺は買ってきた服を取り出した。シアの今着ている服に良く似た乳白色のフェミニンなワンピースだ。

それにグラディエーターサンダルっぽい履物、それと下着だ。

もしそのまま行っていたら、子供用とは言え、店で買う時は店員の目が不審なものになっただろう。

 

俺はミュウの下へ歩み寄ると、毛布を剥ぎ取りポスッと上からワンピースを着せた。

序に下着もさっさと履かせる。そして、ミュウの前に跪いて片方ずつ靴を履かせていった。

更にドライヤー擬きを"宝物庫"から取り出し、湿り気のあるミュウの髪を撫でて乾かしていく。

ミュウはされるがままで未だにジーッと俺を見ているが、温かい手の気持ちよさに次第に目を細めていった。

 

ミレディ「……何気に、ハジメンって面倒見いいよね♪」

ハジメ「こう見えて、育児代行サービスもやっていたからね。

人生、どこで何が役に立つか分からないものだね。」

オスカー『……そうか。』

……ミレディからオスカーの生い立ちは大体聞いてはいる。

彼は出身の孤児院の皆を救い、守ろうとしていたのだ。

それを嘲笑い、踏みにじろうとしていた奴だけは、何が何でも滅さなければ。

 

ハジメ「それで、今後の事なんだけど……。」

シア「ミュウちゃんをどうするかですね……。」

俺達が自分の事を話していると分かっている様で、上目遣いで俺達を見るミュウ。

取り敢えず、ミュウの事情を聞いてみることにした。

結果、たどたどしいながらも話された内容は、俺が予想したものに近かった。

 

即ちある日、海岸線の近くを母親と泳いでいたら逸れてしまい、彷徨っているところを人間族の男に捕らえられたらしいという事だ。

そして砂漠越え等の幾日もの辛い道程を経て【フューレン】に連れて来られたミュウは、薄暗い牢屋の様な場所に入れられたのだという。

そこには、他にも人間族の幼子たちが多くいたのだとか。

そこで幾日か過ごす内、一緒にいた子供達は毎日数人ずつ連れ出され、戻ってくる事は無かったという。

少し年齢が上の少年が見世物になって客に値段をつけられて売られるのだと言っていたらしい。

 

愈々ミュウの番になったところで、その日偶々下水施設の整備でもしていたのか地下水路へと続く穴が開いており、懐かしき水音を聞いたミュウは咄嗟にそこへ飛び込んだ。

3,4歳の幼女に何か出来る筈が無いと思われていたのか、枷を付けられていなかったのは幸いだった。ミュウは汚水への不快感を我慢して懸命に泳いだ。幼いとは言え海人族の子だ。

通路をドタドタと走るしかない人間では流れに乗って逃げたミュウに追いつく事は出来なかった。

 

だが慣れない長旅に、誘拐されるという過度のストレス、慣れていない不味い食料しか与えられず下水に長く浸かるという悪環境に、遂にミュウは肉体的にも精神的にも限界を迎え意識を喪失した。

そして身を包む暖かさに意識を薄ら取り戻し、気がつけば俺の腕の中だったという訳だ。

ハジメ「……本当に胸糞悪い話だな。しかも、裏のオークションなんてな。ひでぇ話だ。」

シア「ハジメさん、どうしますか?」

ハジメ「そんなの、とっくに決まっている。」

シアのその言葉に応えるように、俺は立ち上がり、腰に手を翳した。

 

ハジメ「"変身"。」

 

ゴォーン!!!

 

『祝福の刻!』

 

『オーマジオウ!』

 

俺はオーマジオウに変身すると、オーロラカーテンを発動させた。

ハジメ「シア、ミレディ。二人は取り敢えず、ミュウの傍にいてあげて。俺は一仕事してくるから。」

シア「は、はぁ……。その姿で、ですか?」

ハジメ「?何か問題でも?」

ミレディ「えぇっと、一応、目星は突いているんだよね?」

ミレディにそう尋ねられた俺は、いくつか印のついている地図を取り出した。

 

ハジメ「実を言うと、さっき服を買いに行ったとき、偶然人身売買の連中と鉢合わせしてしまってね。

どうやらシア達のことも狙っていたみたい。しかも、ミュウのことも探しているようだから、ね?」

シア・ミレディ「「あっ……。」」

オスカー『行こう、ハジメ君。腐れ外道共蹂躙大会が、僕らを待っている。』

ハジメ「Yeah!ここはヒーローらしく、人海戦術と行こうじゃあないか!

まぁ、司令塔(ブレイン)役を一体、ギルドに置くつもりだけどね。

そういう訳で、だ。ミュウ、お姉ちゃん達と一緒にお留守番できるかい?」

俺はミュウにそう聞くと、ミュウは戸惑いながらも、ゆっくり頷いた。

 

ハジメ「よし、じゃあトシたちにも連絡するか。皆でミュウの護衛お願いね?」

オスカー『さぁ、正義を執行しよう。』

そういう俺達の姿を見たシアとミレディは、後にこう言った。

シア「これ、誘拐犯たちは無事じゃすまないですね……。」

ミレディ「オーちゃんの貴族嫌いが、再燃しちゃった……。」




ハジメ
「ここまで読んでいただき、ありがとうございます!
さぁて、今回のゲストは?」
ミュウ
「みゅ!ミュウなの~!」
ハジメ
「今回から登場の、不思議少女ミュウちゃんです!」
ミュウ
「ぱ……お兄ちゃん、ミュウはそろそろ本当の呼び方がしたいの!」
ハジメ
「ミュウ……ちゃん、気持ちは分かるけど、もう少し我慢できたら、ぱ……お兄ちゃん、嬉しいんだけどなぁ~。」
ミュウ
「お兄ちゃん、無理している感があるの。」
ハジメ
「コフッ!?さ、さぁて、気を取り直して次回予告だ!」
ミュウ
「ごまかさないの~!」
次回予告
ハジメ
「次回はとにかく大暴れするぜ!」
ミュウ
「一方的に蹂躙するの!」
ハジメ
「イルワさんのフォローもしっかりするよ!」
ミュウ
「保安局のおじちゃんにもなの!」
ハジメ
「そして俺がまさかの、」
ミュウ
「パパになるの~!」
ハジメ
「ミュウ―!?セリフ取らないでくれ!?」
ミュウ
「次回も見てくれると、嬉しいの!」
ハジメ
「決め台詞取られた!?」 

追記:リースティアさん、誤字報告ありがとうございました!


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41.魔王の娘、なの!

ハジメ
「お待たせいたしました!今回でミュウとの会合編は終わりです!
そして今回のオープニングゲストは……!」
シア
「どうも!ハジメさんの"女"のシアです!」
ハジメ
「……変なところを強調するんじゃあない。恥ずかしいでしょ。」
シア
「照屋さんですね、ハジメさん♪さて、前回のあらすじですぅ!」
ハジメ
「水族館でダブルデートを満喫中、リーさんに会った俺達。」
シア
「えぇっと、そこは別にいいんじゃないでしょうか?」
ハジメ
「一応、この後も出てくるから、ね?
そして食べ歩きをしている途中で、海人族の娘、ミュウに出会う。」
シア
「あの時のミュウちゃん、とっても怖がっていましたよね……。」
ハジメ
「違法奴隷として売られそうになったミュウを守るため、ハジメはオスカーと共に裏組織に殴りこむ!」
シア
「あ、今回私達はお留守番です。ハジメさん一人でオーバーキルなんで。」
ハジメ
「1人じゃない、2垓1870京だ。」
シア
「ハイハイ。それでは、第4章第3話、」
ハジメ・シア「「それでは、どうぞ!」」


ハジメ「とまぁ、そんなわけだから、ミュウをお願いね?」

トシ「今から裏組織一つ壊滅させてくる奴の言葉じゃねぇ!?」

ハジメ「そんなわけないでしょ?どうせなら全裏組織と取引相手を把握してくる。

そうすりゃあ、ちったぁ身の程ってもんが分かるでしょ。」

トシ「スケールがデケェ!?」

と、こんなコントを繰り広げている俺達は今、ギルドの応接室にいた。

 

ティオ「しかし、ご主人様よ。お主はそこにいた状態でよいのか?」

ハジメ「大丈夫。

俺はここで他の分身の操作に集中しなきゃいけないけど、周りにも念のための護衛も配備してあるから。

隕石が来ようが、纏めて木っ端みじんさ。」

ユエ「……明らかにオーバーキル。」

ハジメ「ハハハ、それじゃ、始めますか。」

そう言って、ユエ達との会話を一旦中断、意識を分身達の操作に切り替える。

 

意識の空間には、多くの画面が配備されていた。

俺は、その中心にある椅子に腰かけると、ヘッドギアを装着し、今回のミッション開始の合図を出した。

ハジメ「ゲームスタート。」

〈今回のメインターゲットは、フリートホーフ。

表向きは人材派遣だが、その裏では違法奴隷を売りさばいている外道共である。

また、他の裏組織の調査に加え、バイヤーの把握もしなければならない。

尚、民間への被害は出来るだけ最小限にとどめること。〉

 

オスカー「凄いね、まるで特等席で演劇を見ている気分だよ。」

ハジメ「良かったら、このゴーグル付けてみてよ。視点だけでも体験できるよ。」

オスカー「是非!」

ハジメ「言ったと同時にはめるのか。」

そんなワクワクが止まらないオスカーを放っておいた俺は、全分身を起動させた。

 

『TRICK VENT』(5倍)[5人]

『STRANGE VENT』(5倍)[25人]

『GEMMNI』(2倍)[50人]

『ATTACK RIDE ILLUSION』(6倍)[300人]

『"ブレンチシェイド"』(50倍)[15,000人]

『"スーパーブランチシェード"』(100倍)[1,500,000人]

 

『"デュープ"』(5倍)[7,500,000人]

『"イリュージョン"』(6倍)[45,000,000人]

『"ジェミニ"』(2倍)[90,000,000人]

『"ミッドナイトシャドー"』(5倍)[450,000,000人]

『"ロビン眼魂"』(6倍)[2,700,000,000人]

『"闘魂ロビン魂"』(6倍)[16,200,000,000人]

 

『エナジーアイテム「複製」』(2倍)[32,400,000,000人]

『エナジーアイテム「ガタキリバ」』(50倍)[1,620,000,000,000人]

『エナジーアイテム「増殖」!』(50倍)[81,000,000,000,000人]

『エナジーアイテム「ジェミニ」』(2倍)[162,000,000,000,000人]

『エナジーアイテム「デュープ」』(5倍)[810,000,000,000,000人]

『エナジーアイテム「分身」』(10倍)[8,100,000,000,000,000人]

 

『"分身の術!"』(6倍)[48,600,000,000,000,000人]

『"子豚三兄弟!"』(3倍)[145,800,000,000,000,000人]

『"シノビ!"』(30倍)[4,374,000,000,000,000,000人]

『"ギファードレックス!"』(50倍)[218,700,000,000,000,000,000人]

 

 

──────その瞬間、かつてウルの町を一瞬で覆いつくしていた、総勢2垓1870京人のオーマジオウが、フューレンに解き放たれた。

ある者は小さくなって忍び込み、ある者は透明になって後を付けたり、ある者は構成員に成りすましたり、ある者は霊体になって忍び込んだりと、様々な方法を用いて、裏組織の奴等を徹底的に調べ上げた。

奴等も、まさか十分な証拠やアジトの居場所が見つかるわけあるまい、とでも高を括っているのだろう。

まぁ、その想い上がりが後の惨劇につながるとは思いもしないだろうが。

 


 

〈報告書〉

 

その日、フリートホーフという組織が壊滅した。

通報を受けた保安局職員等が武装し、各拠点に乗り込んだものの、事態は既に解決していた。

構成員達は重傷の状態で縛られ、「自分たちは違法奴隷を売りさばいていました。」という看板を首から下げていた。

更に、抵抗した形跡はあったものの、壊れた武器の残骸や魔法の跡が、その無力さを物語っていた。

 

その上、違法奴隷として捕まっていた者達は既に保安局のフューレン支部に移動されており、身元確認に奔走することとなっていた。

幸いにも、全員怪我もなく、精々栄養失調位なものなので、医療班の負担が減ったようだ。

そして、構成員達に話を聞くと、とある人物がその解決者として挙がった。

 

構成員A「アイツは化け物だ……!一人でさえあんなに強いのに、それが大量に……!?ヒィィィィィ!!?

何故か証言の途中で全員、気絶してしまった。ただ、その人物の特徴は何とか聞き出すことに成功した。

黒と黄金の鎧に身を包み、紅い複眼は悪人共を震え上がらせ、どんな攻撃をも意味をなさない。

まるで、魔王のような男であった、というのが、得られた情報を纏めた結果である。

 

また、保護された者達の証言では、「けがを治してもらった。」「病気を治療してくれた。」「斬られた腕を治してくれた。」と、今の彼等からは想像もつかないほどの重傷を治療しきったという、神の御業ともいうべき所業を成し遂げたのだ。

そのこともあってか、子供達にとってのヒーローのような存在になっていたようだ。

 

尚、この件について冒険者ギルドフューレン支部長イルワ・チャング氏に話を聞くと、

イルワ「あぁ、彼は私のお抱えの金ランクでね。

今回の件も彼が独自に動いてくれたおかげで、直ぐに対処することが出来たよ。

その上、他の組織や取引相手のことまで既に調べがついているみたいでね。

全く、我ながら恐ろしい男を懐に抱え込んでしまったよ。

本人は「自分のやりたいようにやった、別に褒められたい訳じゃあない。」って言って聞かなかったけどね。」と述べていた。

 

どうやら件の人物は、孤高にして謙虚、強者でありながらも驕らず、ただ己の信ずる正義のままに突き進む、正しくヒーローと称えられるに相応しい存在だろう。

巷では、神の遣わした救世主ではないかとも考えられている。

後に、フリートホーフ同様に人身売買に手を出していた二大勢力や、彼等から違法奴隷を買い取っていた者達も、彼の提出したリストによって次々と検挙されていった。

 

そのことから彼は、「フューレン支部長の懐刀」「魔王顕現」「仮面ヒーロー」等々、様々な異名と共に今なお伝説として語り継がれている。

余談ではあるが、逮捕された者達は、件の冒険者がおススメしたという、ブルックのある服屋にて更生指導を受けているらしい。

何故か店主が筋骨隆々の女性ものの服を着た未確認生命体であったのかは謎ではあったが……。

 


 

イルワ「……とまぁ、以上が今回の事件の見解だよ。」

ハジメ「ハハハ、今回もド派手にやっちまったなぁ。」

イルワ「それにしても、まさか本当にフリートホーフの拠点全てを壊滅させるなんてね……。

しかも他の組織のことまで調べ上げた上に、組織と繋がりを持った貴族も検挙するのだから、驚いたよ。

その上、違法奴隷として捕らえられていた人たち全員を治療し、医療班も度肝を抜くレベルだった。

それで、何か言い訳はあるかい?」

ハジメ「そもそも、人身販売する人達や違法奴隷を買う人達が悪いと、僕は思いました。」

イルワ「はぁ~~~~~~~~~。」

 

冒険者ギルドの応接室で、報告書片手にジト目で俺を睨むイルワさんだったけど、出された茶菓子を膝に載せたミュウと分け合いながら、モリモリ食べている俺の姿と反省の欠片もない言葉に激しく脱力する。

それに元々、喧嘩を売ってきた時点でぶっ潰すつもりだったし、ミュウの様にまだ親の傍にいるべき幼子に手を出した時点で、完全にアウトなんだよなぁ……。

 

オーマジオウに変身した後、俺達は分身を使ってユエ達と合流すると、冒険者ギルドを訪れイルワさんとの面会を願い出た。

それを聞いて嫌な予感に駆られたのか、イルワさんは直ぐ様俺達と応接室で面会した。

俺は今連中を血祭りにあげていることを包み隠さずありのまま全部話した。

後、途中で纏めているリストを見せて、いろいろな方面に連絡を入れてもらった。

 

事情を聴いたイルワさんは直ぐ様保安局に連絡。

対人戦向けの冒険者達と共に、保安局は裏組織の拠点に押し入ったけど、結果はさっきの報告通り。

既に俺が全員に正義執行した後だった。それと連中の処分について、考えた。

このまま殺すのは容易い、だがただ殺すだけでは再犯防止率が低いままだろう。

そこで俺は、とっておきの処刑方法を思いついた。奴等が全員男だったのが幸いだった。

 

その処刑法は、クリスタベルさんの所で修行をしてもらう、ということだった。

それを聞いたオスカーは、俺を魔王を見るような恐怖の目で見てきた。そんなに褒めなくてもいいのに。

因みに、これを見た保安局の局長さんはすっごい笑顔でサムズアップしてきた。

そこまで奴等が憎かったのかは知らないが、こちらとしても事後処理を簡単に済ませられてよかった。

バイヤーの貴族の方はイルワさん達に任せた。まぁ、貴族の奴等も同じ道をたどるだろうが。

 

イルワ「まさかと思うけど……メアシュタットからリーマンが逃げたという話……関係無いよね?」

ハジメ「へぇ~そうなんだ。まぁそんなことより、ミュウちゃん、これも美味しいよ?食ベてみる?」

ミュウ「あ~ん。」

まぁ、俺が犯人ってことはなんとなく分かってはいると思う。

だって、それはもうとても深い溜息を吐いているもん。

片手が自然と胃の辺りを撫でさすっているし、秘書長のドットさんが気の毒そうな眼差しと共にさり気なく胃薬を渡した。

 

イルワ「まぁ、やりすぎ感は否めないけど、実際私達も裏組織に関しては手を焼いていたからね……

今回の件は正直助かったといえば助かったとも言える。

彼等は明確な証拠を残さず、表向きは真っ当な商売をしているし、仮に違法な現場を検挙しても蜥蜴の尻尾切りでね。

……はっきりいって彼等の根絶なんて夢物語というのが現状だった……

ただ、これで裏世界の均衡が大きく崩れたからね……

はぁ、保安局と連携して冒険者も色々大変になりそうだよ。」

ハジメ「あのリストがあるから大丈夫でしょ、死ぬ気でやれば。それに元々はアンタ等の管轄だし。

本来ならこれくらいはやれるはずなんだよ。要はアンタ等の平和ボケが原因ってことだよ。」

イルワ「……耳が痛いなぁ。」

 

苦笑いするイルワさんは、何だか20年くらい一気に年をとった様だ。

まぁ、俺だって手助けは出来る限りやったわけだし……。

ハジメ「それに、俺がギルド長お抱えの"金"になった以上、ここは俺のシマだ。

そう言ったアコギな商売で勝手する以上は、落とし前ってものを付けさせなきゃあならん。

その為に、態々ブルックまで行って、クリスタベルさんを連れてきたんだし、十分でしょ?」

イルワ「それは、まぁ……。彼女?のおかげで犯人たちもすっかり大人しくなったし……。

それによかったのかい?凄く助かるのだけど……そういう利用される様なのは嫌うタイプだろう?」

ハジメ「俺だって仮にも王様なんだ。信用できる人間とできない人間は目を見ればわかる。

それに、アンタにはこれからも世話になることがあるかもしれないし。これくらいはしないと、ね?」

 

後、大暴れした俺の処遇については、イルワさんが関係各所を奔走してくれたお陰と、意外にも治安を守る筈の保安局が正当防衛的な理由で不問としてくれたので特に問題は無かった。

どうやら保安局としても、日頃から自分達を馬鹿にするように、違法行為を繰り返す裏組織は腹に据えかねていたようだ。

挨拶に来た還暦を超えているであろう局長さんは、実に男臭い笑みを浮かべながら俺達にサムズアップして帰っていった。

心なし、足取りが「ランランル~ン♪」といった感じに軽かったのがその心情を表している。

 

後、俺の考えた再犯防止のための罰が効いたのか、裏組織の連中が情けなく叫びながら逃げ回っている姿を、爆笑しながら見ていたらしい。

職員共々、あんなに笑ったのは久しぶりだと言っていた。正直俺もスカッとした。

クリスタベルさんをブルックまで送り届けなきゃいけないのが問題なんだけどね……。

まぁ、そこはイルワさん達が請け負ってくれるそうで……。ホント助かります。

因みに、行きは時を止めて、錬成で作ったケース(汗飛び散り防止用)に入れて運んだ。

それにしても、あの人がまさかの元"金"ランクだったとは……。マジで何があったんだよ。

 

イルワ「それで、そのミュウ君についてだけど……。」

イルワさんがはむはむとクッキーを両手で持ってリスの様に食べているミュウに視線を向ける。

ミュウはその視線にビクッとなると、不安そうに俺達を見上げた。

イルワ「こちらで預かって、正規の手続きでエリセンに送還するか、君達に預けて依頼という形で送還してもらうか……

二つの方法がある。君達はどっちがいいかな?」

その問いに、俺は迷う事無く答える。

 

ハジメ「ミュウがそれを望むのなら、俺が責任をもって送り届けるよ。

それに俺も、力を受け継いだだけとはいえ、仮面ライダーの端くれだからね!

このまま子供を独りぼっちにするなんて真似、家臣や先輩達にも顔向けできないよ。

だからミュウちゃん、安心してお兄ちゃん達に任せておきなさい!」

ミュウ「お兄ちゃん!」

 

一部よく分からない言葉があったものの、満面の笑みで喜びを表にするミュウ。

【海上の都市エリセン】に行く前に【グリューエン大火山】の大迷宮を攻略しなければいけないけど、その辺は何とかするさ。

ハジメ「それにしても、お兄ちゃんかぁ……。何だか、懐かしくもあって、くすぐったいなぁ。」

と、そんな独り言が聞こえたのか、ミュウは何かに納得したように頷き……

その場の全員の予想を斜め上に行く答えを出した。

 

ミュウ「……パパ。」

ハジメ「………………え、えぇっと、ミュウちゃん?今なんて……。」

ミュウ「パパ!」

ハジメ「パっ、パパァ!?」

思わず驚いて大きな声が出てしまう。他の皆も驚いている。

 

ハジメ「えっと、ミュウちゃん?訳を聞いてもいいかな?どうして、"パパ"?」

そう聞くと、ミュウは頷いて話してくれた。

ミュウ「ミュウね、パパいないの……ミュウが生まれる前に神様のところにいっちゃったの……

キーちゃんにもルーちゃんにもミーちゃんにもいるのにミュウにはいないの……

だからお兄ちゃんがパパなの。」

……そっかぁ。ならばァ、答えは一つゥ!

 

ハジメ「よし分かった!ミュウ、今日からミュウは、パパの娘だ!」

俺はミュウを抱き上げると、その場でくるくる回った。

ミュウも「うきゃー!」と喜びの声を上げて笑顔になった。

その様子を、俺とミュウ以外のその場の全員が唖然とした表情で見ていた。

 

トシ「……良いのか?そんな簡単に決めちまって。」

ハジメ「この子に辛い思いはさせられないよ。

それに、パパは正義のヒーローだって言ってもらうの、なんか良いなぁって。」

トシ「お前なぁ……。」

ハジメ「それに、また攫われたりしないよう、俺が抑止力になってやらないと。

ミュウのお母さんのこともあるからね。」

トシ「……そうか。まぁ、お前が決めたんなら何も言わねぇよ。

にしても、とうとう父親になっちまったのかぁ……。」

ハジメ「あぁ、何だか、一気に2年経った感じがするよ。まるでシャボン列島に行くような感覚だ。」

トシ「どこの海賊王だ。大体、仲間があと2人足りないだろ。」

 

とまぁ、そんなコントを繰り広げつつも、俺達はミュウを送り届けることにした。

イルワさんには折角なのでと、ホルアドの冒険者ギルドに推薦状を持って行って欲しいと依頼された。

しかし、ホルアドかぁ……。皆、元気してっかなぁ?

そして宿に戻ってからは、誰がミュウに"ママ"と呼ばせるかで紛争が勃発した。

結局、"ママ"は本物のママしかダメらしく、女性陣は"お姉ちゃん"で落ち着いた。

トシは"お兄ちゃん"と呼ばれることはむず痒いようだ。まぁ、慣れてもらうしかないな。

そして夜、ミュウたっての希望で全員で川の字になって眠る事になり、ミュウがハジメと誰の間で寝るかで再び揉めたので、くじ引きで決めてローテーションしてもらうことにした。

 

そして、ミュウが寝た頃……

ユエ「……ハジメ、赤ちゃん、欲しい。」

ハジメ「……元の世界に行ったらね?」

シア「私も欲しいです!」

ハジメ「分かった、分かったから。」

ミレディ「み、ミレディさんも……。」

ハジメ「無理しなくていいって!オスカーが怖いから!」

ティオ「ご主人様、妾も覚悟は出来ておる。」

ハジメ「せめてそれは、まだ先でしてほしかった。」

 

案の定、女性陣が子供を欲しがった。気持ちは分かるが、今じゃないって。

トシ「一人ぐらい、こさえても文句は言わないぞ?」

ハジメ「俺が構うわっ!」

正直、誰か何とかしてくれと言いたい気分だった。

 

翌日、イルワさんや保安局の人達、そしてクデタ伯爵家の見送りを受けた俺の肩には、ちょこんと座るミュウの姿があった。

幼女を肩車し、落ちない様に足を支える俺と、そんな俺の頭にひしっと抱き着くミュウの姿は、確かに父娘に見えた。

この日確かに俺は、最高最善の魔王でパパになった。

これより、子連れ魔王の旅が始まる!

 


 

ハジメ「……それにしても、不吉な予感がするなぁ。」

俺はキングライナーを勢い良く走らせながら、そんな独り言をつぶやいた。

ユエ達は仮眠室でぐっすり眠っている。このペースならフューレンから1日で着くだろう。

そんなことを思いながら、俺は昨夜トシの言っていたことを思い出した。

 


 

トシ「なぁ、ハジメ。ホルアドまでなら、どれぐらい早く着けるんだ?」

ハジメ「どうしたんだ、藪から棒に?」

急にそんなことを聞いてきたトシに、少し困惑する俺。

幸いにも、ユエ達はミュウを寝かせに行っているから、今は俺達以外はいないが……。

 

トシ「……その、何だかな、嫌な予感がして……。」

ハジメ「?それはここでトラブルが起こるってことか?それとも、アイツ等に何かあったかもしれないのか?」

トシ「……多分、後者だと思う。何か、胸騒ぎがしてよく眠れねぇんだ。」

ハジメ「……そうか。まぁ、安心しろ。最速でなら1日もかからねぇよ。」

トシ「そうか、1日もかからないのか……は?」

?1日よりも早く着いたらいけなかったのか?それとも、遅すぎたのか?

 

トシ「……お前、マジで言っているのか?」

ハジメ「俺が寝ずにデンライナーかっ飛ばせば、いけると思う。」

トシ「……そ、そうか。それなら大丈夫か……。」

ハジメ「因みに聞くが、その嫌な予感だと、何かは何日後に起こると思うんだ?」

トシ「う~ん、多分3日後だと思うな。だからあと2日以内につけば多分間に合うと思う。」

ハジメ「なら、善は急げだ。1日で向こうに着く。皆にも伝えておくよ。」

トシ「お、おう……。」

これで良し、と。ふと、気になったことがあったので、トシに聞いてみた。

 

ハジメ「なぁ、そう言えばさ。香織達が急に強くなったらしいけど、何か知らないか?」

トシ「!……お前に似た奴のことを知っている協力者がいるんだが……どうだろうな。

お前に伝えてもいいかは分からないが、少なくとも敵じゃないと思う。」

ハジメ「俺に似たぁ?」

トシ「あぁ、何でも、前世からの付き合いらしい。」

ハジメ「前世で縁のあった協力者、ねぇ。まぁ、トシがそう思うならいいか。お前、悪意には敏感だしな。

お前が言うなら悪い奴じゃあないってことだろうし、信頼のおける仲間みたいなもんってことだろ?」

トシ「……まぁ、そうだな。後、さっきの予感にもちょっと関わっていてな……。」

?どういうことだってばよ?

 

トシ「その人が伝えて来たんだ。3日後に、アナザーライダーが来る予感がするって。」

ハジメ「……それ、信憑性はあるのか?」

トシ「一応、未来予知に近いものが使えるらしいけど……ハジメは出来ないのか?」

ハジメ「ちょい待ち。え~と、どれどれ?」

そう言って3日後を覗くと、俺が女の魔人族と対峙している姿があった。

その後ろには、ボロボロになっている香織達の姿があった。

 

ハジメ「!……どうやら、あながち間違いじゃあないみてぇだ。どうにもきな臭い。」

トシ「な、何が見えたんだ?」

ハジメ「嫌な予感が的中した未来だ。明日、全力ですっ飛ばす。さっさと行って早く合流しねぇとな。」

トシ「!分かった。こっちも恵理達に気を付けるように、伝令を飛ばしておく。」

ハジメ「おう。ところで、その協力者に俺も会えねぇか?出来れば礼を言っておきたいんだが……。」

トシ「どうだろうな?取り敢えず、それも含めて連絡しておくよ。」

出来ればいい返事をもらいたいものだ……。

そしてこの出会いが、後に影響を及ぼすことを、今の俺は知らなかった。

 


 

ハジメ「まぁ良いか、久しぶりに皆に会いたかったし。

それにそろそろ顔ぐらいは出してやらないと、心配するだろうからなぁ……。」

そう呟きながら、俺はキングライナーのスピードをさらに上げた。

はてさて、この行動が吉と出るか凶と出るか、それは作者のみぞ知る。(メメタァ!)

え?そこは神のみぞ知る?アレだけ知っているとかマジで嫌なんだが。




ハジメ
「ここまで読んでいただき、ありがとうございます!さて、今回のゲストは!」
ミレディ
「やほ~☆、はじめまして!みんな大好きミレディさんだよぉ~♪」
オスカー(ハジメに憑依)
「零のメインヒロイン、ミレディ・ライセンだぁ!」
ミレディ
「おぉ!オーちゃんも登場なんだね!」
ハジメ
『まぁ、ミレディの相方=オスカーの感じだしなぁ……。
うp主曰く、他の解放者とも組ませてみたいと思っているらしいよ。』
ミレディ
「お~、それはすっごく楽しみだね!」
オスカー
「あぁ、それでは、次回予告に移ろう。」
次回予告
ミレディ
「遂に懐かしの町"ホルアド"に帰ってきたハジメ。
旅で出来た仲間たちと共に、今一度かつての仲間に会いに行くのであった。
果たして、彼らの運命や如何に。」
ハジメ
『!?ちょっ、そんなシリアス感丸出しの台本だったっけ!?
ここは気軽に次回の感想を交えたトークで行くでしょ!?』
オスカー
「いやぁ、折角零のコンビがいるから、変えてみようかなぁって。」
ハジメ
「……まぁ、いいや。次回はハジメサイドと香織達サイドで行くから、よろしく!」
ミレディ
「後、ギルドでも問題が起こるかもね♪」
オスカー
「ミレディ、ネタバレ禁止だよ。」
ハジメ
「……じ、次回もお楽しみに!」


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42.今は懐かしホルアド

ハジメ
「大変お待たせいたしました!
この度は投稿が遅くなってしまい、誠に申し訳ございません!」
ティオ
「ご主人様よ、流石に土下座をせんでもよいのではないかのぅ?」
ハジメ
「だって、うp主の馬鹿が体調崩しちまったせいで、大幅に遅れちゃったんだよ!?
流石にこれくらいはやらないと、読者の皆さんに失礼でしょう!?」
ティオ
「う、うむ。気持ちは伝わったと思うのじゃ。
じゃからそろそろ前回のあらすじをのぅ……。」
ハジメ
「おっと、そうだった。その前に、今回のゲストは竜人族のお姫様!」
ティオ
「うむ!クラルス一族の末裔、ティオ・クラルスなのじゃ!」
ハジメ
「さぁて、前回は裏組織と関わりを持った奴等が一網打尽になったよ。」
ティオ
「うむ、ご主人様大暴れじゃったのぅ!ウルの町に続いて、伝説となったのじゃ!」
ハジメ
「そしてミュウが、とうとう俺の娘になったよ!」
ティオ
「じゃが、何やら不穏な空気が漂っておったようじゃが……。」
ハジメ
「まぁ、それはまた後でわかってくるよ。それじゃ、第4章第4話、」
ハジメ・ティオ
「「それでは、どうぞ(なのじゃ)!」」


左手側の【ライセン大峡谷】と右手側の雄大な草原に挟まれながら、キングライナーが太陽を背に西へと疾走する。

その速さはいつもとは違って、とても急いでいるように見えた。

シア「わわわ!?ハジメさん、今日は飛ばし過ぎじゃありませんか?」

ハジメ「ちょっと嫌な予感がするからね、そろそろ着くから準備しておいて。」

 

俺が内心焦るのは、昨夜トシの話を聞いたからであった。

流石に今までのスピードでは、3日後には間に合わないだろうと思い、ペースを上げたのだ。

皆には起きた時に事情を説明しておいた。ミュウは新しい街に興味津々だった。

ユエ達も、俺達がいた街にちょっと興味があるらしい。

まぁ、シアはバイクに乗りたがっていたし、睡眠をとったら付き合ってあげるか。

そんなことを思いながら、俺達は【宿場町ホルアド】に到着した。

 

俺は懐かしげに目を細めて、【ホルアド】のギルドを目指して町のメインストリートを歩いた。

俺に肩車してもらっているミュウが、そんな俺の様子に気が付いた様で、不思議そうな表情をしながら俺のおでこを紅葉の様な小さな掌でペシペシと叩く。

ミュウ「パパ?どうしたの?」

ハジメ「ん?いや、前に来た事があってね。それにしても、まだ4ヶ月なんだなぁ……。」

トシ「そう言えば、お前が落ちたのもそれくらいの時期か。」

ハジメ「あぁ、だけど何年も経った感じがする。皆元気かなぁ?」

ミュウの疑問に簡潔に答える俺とトシ。それと同時に、久しぶりに会う仲間たちとの再会に思いをはせる。

 

ティオ「ふむ。ご主人様は、やり直したいとは思わんのか?元々の仲間がおったのじゃろ?

ご主人様の境遇はある程度聞いてはいるが……トシの様に大切な仲間もおるのじゃろう?」

ハジメ「う~ん、仲間のことは心配だけど、やり直したいとは思わないかな?

多分、同じことを繰り返していたと思うし。」

ティオ「ほぅ、なぜじゃ?」

ハジメ「皆がいるから。」

そう即答し、ユエ達を真っ直ぐに見つめる。その視線にユエ達は思わず頬を赤くする。

 

ハジメ「皆がいたから、ここまでの旅は楽しかったんだ。

多分、俺一人だったら、気に入らない物全部ぶっ飛ばすだけの旅になっていたと思う。

そうならずに済んだのは、皆と出会って、一人じゃないって思えたからだよ。

ユエも、オスカーも、シアも、ミレディも、ティオも、トシも、そしてミュウも、皆、俺の仲間だ。

誰一人として、無くてはならない存在なんだ。だから俺は後悔しないよ、皆と会えたこと。」

ユエ「ハジメ……。」

シア「ハジメさん……。」

ミレディ「ハジメン……。」

ティオ「ご主人様……。」

ミュウ「パパ……!」

トシ「……全く、セリフがクサいぜ?」

オスカー『フフフ、頼りにされているとあっては、こちらも嬉しいね。』

 

ハジメ「そういう訳で皆、これからも宜しくね!」

ユエ「ん!」

オスカー『あぁ!』

シア「はい!」

ミレディ「うん!」

ティオ「うむ!」

トシ「おう!」

ミュウ「みゅ!」

 

そのまま人通りの多い道を歩いていると、最早お馴染みの羨望と嫉妬の視線が突き刺さったが、いつもの如く圧を飛ばして、視線を散らす。

そのまま俺達は、冒険者ギルドのホルアド支部に到着した。

相変わらずミュウを肩車したまま、俺はギルドの扉を開ける。

他の町のギルドと違って、ホルアド支部の扉は金属製だった。

重苦しい音が響き、それが人の入ってきた合図になっている様だ。

前回ホルアドに来た時は、冒険者ギルドに行く必要も無かったので中に入るのは今回が初めてだ。

なので、ちょっとした冒険気分で入った。

ホルアド支部の内装や雰囲気は、最初俺が連想していた冒険者ギルドそのままだった。

 

壁や床は所々壊れていたり大雑把に修復した跡があり、泥や何かの染みがあちこちに付いていて不衛生な印象を持つ。

内部の作り自体は他の支部と同じで入って正面がカウンター、左手側に食事処がある。

しかし他の支部と異なり、普通に酒も出している様で昼間から飲んだくれた野郎達が屯していた。

二階部分にも座席がある様で、手すり越しに階下を見下ろしている冒険者らしき者達もいる。

二階にいる者は総じて強者の雰囲気を出しており、そういう制度なのか暗黙の了解かはわからないが、高ランク冒険者は基本的に二階を使う様だ。

 

冒険者自体の雰囲気も他の町とは違う様だ。

誰も彼も目がギラついていて、ブルックの様な仄々した雰囲気は皆無だった。

冒険者や傭兵など、魔物との戦闘を専門とする戦闘者達が自ら望んで迷宮に潜りに来ているのだから、気概に満ちているのは当然といえば当然なのだろう。

しかし、それを差し引いてもギルドの雰囲気はピリピリしており、尋常ではない様子だった。

明らかに、歴戦の冒険者をして深刻な表情をさせる何かが起きている様だ。

 

俺達がギルドに足を踏み入れた瞬間、冒険者達の視線が一斉に俺達を捉えた。

その眼光のあまりの鋭さに、ミュウが「ひぅ!」と悲鳴を上げ、ヒシ!と俺の頭にしがみついた。

はぁ~、また嫉妬か。面倒だな。益々震えるミュウを肩から降ろし、片腕抱っこに切り替えた。

ミュウは俺の胸元に顔を埋め、外界のあれこれを完全シャットアウトした。

 

血気盛んな、或いは酔った勢いで席を立ち始める一部の冒険者達。

奴等の視線は、「ふざけたガキをぶちのめす。」と何より雄弁に物語っており、このギルドを包む異様な雰囲気からくる鬱憤を晴らす八つ当たりと、単純なやっかみ混じりの嫌がらせである事は明らかだ。

単なる依頼者であるという可能性もあるだろうに……それすらも考えられんのか、この馬鹿どもは。

 

ドゴォッ!!!

 

そんな音が聞こえてきそうな程濃密にして巨大且つ凶悪なプレッシャーを、俺達を睨みつけていた冒険者共に情け容赦一切なく叩きつけた。

先程冒険者達から送られた殺気が、まるで子供の癇癪に思える程絶大な圧力。

既に物理的干渉力に等しいそれは、未熟な冒険者共をあっという間に気絶させる。

三途の川を渡りかけている者もいるようだが……どうでもいいか。

ギルドの建物も軋んでいるようなので、この辺で止めておく。

その代わりに、目覚めてまた余計なことをしないよう、重力魔法で全員隅っこにぶっ飛ばしていた。

 

ハジメ「ほ~らミュウ、もう怖い奴はいないよ?」

俺は、顔を埋めるミュウにもう大丈夫だと声を掛ける。

それでミュウも安心したのか、再び肩車を強請って俺の首に跨る。よし、これでいい。

そう思った俺は、ユエ達を連れてカウンターへと歩いて行き、辿り着いたカウンターの受付嬢に要件を伝える。

 

因みに、受付嬢は可愛かった。シアと同じ年くらいの明るそうな娘だ。テンプレはここにあったらしい。

尤も、普段は魅力的であろう受付嬢の表情は恐怖と緊張でめちゃくちゃ強張り、今にも泣き崩れそうだったが。

仕方がない、ここは愛娘の力を借りますか。

ハジメ「え~と、ミュウ、お願いできるかな?」

ミュウ「みゅ?……!はいなの!」

 

すると、怯えていた受付嬢の手に、小さな手が重ねられた。

思わず「ひっ!?」と悲鳴を上げる受付嬢だったが、その手が、ミュウのものだと分かるとキョトンとする。

そんな店員さんに、ミュウはほわりとほほ笑むと…

ミュウ「お姉ちゃん、大丈夫なの~。」

受付嬢「あ、はい、し、失礼しましゅた。」

流石、ミュウ。一撃だった。落ち着きを取り戻した受付嬢は、何とか気を正常に保った。

 

重要なことなので、もう一度言おう。流石はミュウ、俺の娘。

そんなミュウに感謝と感心と称賛を込めてナデナデした。

ミュウはえへへ~と笑いながら、俺に抱き着いた。全く、可愛いなぁ~。

さてと、受付嬢さんも落ち着いたことだし、要件を話すか。

 

ハジメ「支部長さんはいる?フューレンのイルワさんから手紙を預かっているんだけど……

本人に直接渡せって言われていてね。」

俺はそう言いながら自分のステータスプレートを受付嬢に差し出す。

受付嬢は、緊張しながらもプロらしく居住まいを正してステータスプレートを受け取った。

受付嬢「は、はい!お預かりします。え、えっと……イルワ様、というと……

フューレン支部のギルド支部長様からの依頼……ですか?」

普通、一介の冒険者がギルド支部長から依頼を受けるなどという事はありえないので、少し訝しそうな表情になる受付嬢。

しかし、渡されたステータスプレートに表示されている情報を見て目を見開いた。

 

受付嬢「き、"金"ランク!?」

冒険者において、"金"のランクを持つ者は全体の一割に満たない。

そして"金"のランク認定を受けた者についてはギルド職員に対して伝えられるので、当然この受付嬢も全ての"金"ランク冒険者を把握していると思うけど、どうやら俺達のことはまだ伝わっていなかったみたい。

その声に、復活したギルド内の冒険者も職員も含めた全ての人が受付嬢と同じ様に驚愕に目を見開いて俺を凝視する。

建物内が俄に騒がしくなった。

 

受付嬢は、自分が個人情報を大声で晒してしまった事に気がついてサッと表情を蒼褪めさせる。

そして、ものすごい勢いで頭を下げ始めた。

受付嬢「も、申し訳ありません!本当に、申し訳ありません!」

ハジメ「気にしなくていいよ。取り敢えず、ここの支部長に取り次いで。後、焦り過ぎないように、ね?」

受付嬢「は、はい!少々お待ちください!」

放っておけばいつまでも謝り続けそうな受付嬢に、注意を促す。

正直、このまま暴れまくった方が早いと思い始めた今日この頃であった。

 

子連れで美女・美少女ハーレムを持つ、見た目青年の"金"ランク冒険者にギルド内の注目がこれでもかと集まるが、いつものことなのでスルー。

注目される事に慣れていないミュウが、居心地悪そうなので全員であやす。

そうこうしていると、ギルドの奥から60歳過ぎ位のガタイのいい左目に大きな傷が入った迫力のある男性が来た。

その眼からは、長い年月を経て磨かれたであろう深みが見て取れ、全身から覇気が溢れている。

 

ハジメ「アンタがギルド長だね?俺はハジメ。イルワさんのおつかいで来たよ。」

???「ご紹介どうも。俺はホルアドギルド支部長のロア・バワビスだ。

早速だが、応接室に案内しよう。ここではとても話ができる状況じゃないみたいだからな。」

ハジメ「そうだね。子連れ相手に大人げない奴等がいるところじゃ、安心して話が出来ないもんね。」

ロア「……そいつらを気絶させた本人がそれを言うのか……。」

とまぁ、そんなコントをしつつ、俺達は応接室に案内され、話を始めた。

 

ロア「さてハジメ。イルワからの手紙でお前の事は大体分かっている。随分と大暴れした様だな?」

ハジメ「まぁ、成り行きでこうなっちゃったけどね。」

成り行き程度の心構えで成し遂げられる事態じゃないっていうツッコミはなしだ。

そんな様子の俺に、ロアさんは面白そうに唇の端を釣り上げた。

 

ロア「手紙には、お前の"金"ランクへの昇格に対する賛同要請と、出来る限り便宜を図ってやって欲しいという内容が書かれていた。

一応、事の概要くらいは俺も掴んではいるが……

たった一人で6万近い魔物の殲滅、半日でフューレンに巣食う裏組織の壊滅……

俄には信じられん事ばかりだが、イルワの奴が適当な事を態々手紙まで寄越して伝えるとは思えん……

もう、お前が実は魔王だと言われても俺は不思議に思わんぞ。」

……え?

 

ハジメ「もしかして知らないの?ちょっと、俺の天職欄を見てくれる?」

ロア「ん?どれどれ……。」

そう言って俺のプレートを覗き込んだロアさんは、直後その天職を見て硬直する。

ハジメ「俺、錬成師でもあって、最高最善の魔王なんだ。」

ロア「……マジかよ。」

まぁ、唖然としたい気持ちは分かる。イルワさんもそんな感じだったし。

 

とまぁ、そんなこんなで話は終わり、俺達は休息をとるために宿に行った。

ハジメ「……マジでねみぃ。」

ミュウ「パパ~、大丈夫なの?」

ハジメ「だいじょばないかも、一刻も早く寝ないと。」

ユエ「……ハジメ、飛ばし過ぎ。」

そんな感じの俺は、シアとミレディに支えられていた。ミュウはティオが抱いている。

トシには、一足先に香織達と合流してもらうように頼んだ。

いきなり俺が行ったら、未来が変わってしまう可能性があるからな。

 

そうして部屋についた俺は、真っ先にベッドに身を預けた。

ハジメ「あ~、オスカー、ミレディとデートしたかったら体使ってもいいからぁ~。」

オスカー『……何だかハジメ君、他人のために労力使い過ぎじゃないかい?』

ハジメ「王様は多数幸福主義なのぉ~Zzz……」

そう言って俺の意識は深い眠りの中に落ちていった。

後、ミュウも寝っ転がっていた俺にもたれかかっていたけど、俺よりも早く眠りについていた。

 

ティオ「あっという間に寝おったのぅ……。」

シア「まぁ、ハジメさんの無茶は今に始まったことじゃなさそうですからねぇ……。」

ユエ「ん。いつ寝ているのか分からない時もあった。多分、相当無茶している。」

ミレディ「もぅ、ハジメンたら……。ま、それはそれで折角だし、オーちゃん、デートに誘って!」

オスカー『それは本人に言うことじゃないだろう……

まぁ、本人から許可は貰っているし、行こうか、マドモアゼル?』

ミレディ「ブフッw、オーちゃんwwその口調はwwダメだってwww」

オスカー『むぅ、やはり慣れない口調で言うのはダメか。では、行こうか、ミレディ。』

ミレディ「うん!それじゃ、ちょっと行ってくるね!」

ユエ「ん。いってらっしゃい。」

シア「いってらっしゃいですぅ。」

ティオ「気を付けてのぅ。」

 


 

ハジメが運転の疲れを癒すために休みをとっている頃……

トシはロアに教えてもらった、光輝達の止まっている宿にいた。

トシ「やれやれ、アイツ無理しすぎなんだよなぁ……。何時か過労でぶっ倒れるぞ。」

そんな独り言を言いながら、ここにはいない香織達の帰りを待っていた。

宿に来た当初は、髪の色や服装が変わっていたこともあって、勇者パーティーの一員とは信じてもらえなかったが、ステータスプレート(隠匿済み)を見せて、ようやく信じてもらえた。

 

暫くすると、表が騒がしくなってきた。どうやら、勇者御一行の帰還のようだ。

入り口を見ると、遠目からでも仲間たちの姿が確認できた。

恵理「あれ?トシ君?」

光輝「!?清水、お前、先生の所に行ったはずじゃなかったのか!?」

トシ「おう、久しぶり。ちょっと色々あってな。」

最初に気づいた恵理と、その次に気づいた光輝の大声に気づいたのか、他の面々もトシの存在に気づく。

 

トシ「何か、影の薄い浩介並みの視線だなぁ……、そう言えば、アイツは何所だ?」

浩介「……俺、最初からここにいるんだが……。」

「「「「「「「「「「うわっ、いつの間に!?」」」」」」」」」」

浩介「だから最初だと…フッ、我を認識できぬのであれば、まだまだ索敵が…まただよ……。」

トシ「……何があったんだよ、お前。」

浩介「気にしないでくれ、ただの発作だ……。」

浩介はやはり、浩介であった……。

 

そんなこともあったが、トシは仲間達(香織達)に自分の近況を報告した。

雫「そう、既に魔人族が動き始めているのね……。」

トシ「あぁ、しかもこっちの技能を封じるアイテムまで持ち出してくるあたり、相当ヤバい。

アイテムの方はハジメが対処してくれるらしいが……そっちは黒幕がいるみたいだ。」

香織「……ねぇ、それってハジメ君が落ちた原因と関係あるの?」

トシ「……ハジメ曰く、神と同様にケジメつけなきゃ気が済まないらしい。

アイツ、仲間に手を出された以上、辺りが見えなくなるからなぁ……。」

恵理「兄さんらしいや、それで兄さんたちは迷宮攻略を?」

トシ「おう、俺も2つクリアすれば、ライダーに変身できるらしい。

ハジメ達が持っている奴も十分ヤバい奴ばっかだけどな。」

浩介「マジかよ!?羨ましいぜ……俺も早く鬼ごっこから解放されてぇ……。」

 

ここはオルクスに初めて挑んだ前夜に、皆で集合した部屋である。

今回は誰かが盗み聞きしている事にも気を配り、防音・除き防止の結界を張ってある。

恵理「でも一番驚いたのは、兄さんがハーレムを築いていたことかなぁ?」

トシ「あ~、アイツ、頼られると拒みにくいからなぁ……、おまけに拾った子を娘にするし。」

香織「ハジメ君、子供には優しいもんね。それに、女性にも気を配るし。」

雫「そうね。

しかも気に入らないって理由だけで、悪い神様の腕1本持って行っちゃうんだから、猶更よね。」

トシ「あぁ、アイツはマジでなるつもり、いやなる男だよ。最高最善の魔王に。」

浩介「フッ、流石は我が心の友!そうでなくては鍛えがいが…スマン、また出た。」

トシ「……その発作については、今度相談してみるか。」

 

浩介の苦労が痛いほどわかるトシであった。

彼等の名誉のために言っておくが、別に上手いことを言った訳ではない。

香織「それでそれで!ハジメ君は明日会いに来てくれるの!?」

トシ「あ~、何でも、奈落に残してきた部下にも会いに行くって言ってな。」

浩介「奈落って……落ちた先で何があったんだよ……。」

トシ「長くなるから、それはまた今度な。取り敢えず明日は……。」

恵理「うん、敵の襲来に備える、だよね?」

トシ「あぁ、ハジメから試作武器も預かっている。一応、全員分あるみたいだ。」

雫「わぁ……この刀、刀身が凄く綺麗……銘柄まである!」

トシ「あぁ、それ自信作みたいだぜ。刀打つのは初めてだ、って言ってた割には楽しそうだったけどな。」

 

各自、ハジメから送られた武器の凄さに感心しつつ、その実感を確かめる。

因みに、全部に逢魔鉱石が使用されている。最高級の固さに加えて、切れ味や鋭さも抜群だ。

後、魔力主体戦用に境界結石を使用しており、シアのドリュッケン作成時のノウハウを生かした仕組みになっている。

香織は、当初杖の方がいいかと思ったが、トシの意見により柄に境界結石を付けた双剣に、

雫は、柄と鞘の両方の底に、境界結石を置いた日本刀に、

恵理は、仕込み杖になったステッキ(上の先端に境界結石、分離すると2本の短剣に)、

浩介は、手裏剣や苦無に加え、柄に境界結石を置いた小太刀と、様々であった。

因みにトシは、以前渡された短剣を改造したものと、魔人族に持たされた猛毒針を応用したダガーの2刀流だ。

 

それとは別に、ブラックシューターと言う遠距離武器も貰ってはいる。

これは、ハジメが考案したトシ専用武器の一つで、名前の通り黒が主体になっており、水色と赤の2本のラインが入っている。

銃口は金色の枠に覆われており、両方の背面には魔力を充填するタンクがある。

上にはコンテンダーがあり、実弾を装填することも出来、魔力を込めることも可能。

闇魔法と相性が良く、デバフ系統の魔力弾の威力をアップさせる。

水魔法はまだ練習中なので、バッシャーマグナムで代用している。

 

そんな彼等の賑やかそうな会話を静かに聞いている2人がいた。ミライとヒカリだ。

ミライ『トシの通信でビックリしたけど……とうとう彼が来るのね。』

ヒカリ『そうね、しかもアナザーライダーまで来る……まるで、仕組まれていたような感じね。』

ミライ『えぇ、それに彼は正史とは違った道を歩んでいる。その影響で死の運命を変えられた人もいる。』

ヒカリ『でも逆に、死の運命をたどる人や、運命を避けられなかった人もいる。』

ミライ『運命は時に残酷で、時に人に微笑む。人の事情など気にも留めずに。』

ヒカリ『それはまるで、気まぐれな神様の仕業。或いは、邪神の謀略の様。』

ミライ『彼は……運命に打ち勝てるのよね?』

ヒカリ『……おそらくね、あの神を存在ごと利用すれば、或いは……。』

二人はただ、ハジメが運命に勝つことを願っていた。それは後に対面する、ハジメ自身の弱さに。

そしてそれは、意外な形を持って成立する。勿論それはまだまだ先のお話。

 

翌日の早朝……

そんな彼女たちの会話も知らない光輝一行は、ホルアドの宿を旅立ち、オルクス大迷宮へと向かったのであった。

その中には香織達も勿論おり、その中に新たにトシが加わった。

しかし、彼等でさえも知らなかった。ミライとヒカリの会話のことも、この先に待ち受ける強敵のことも。

そして、そんな窮地に陥った時に現れる、最高最善の魔王を目指す少年の、余りにも規格外すぎる強さも、今の彼らには知るよしもなかった。




ハジメ
「ここまで読んでいただき、ありがとうございました!
さて、今回のゲストは!」
トシ
「清水幸利だ!トシでも構わないぜ!」
ハジメ
「我が心の友、魔王の参謀TOSHIだァ―――!」
トシ
「YOSHIKIみたいに言うな!?てか、参謀は確定なのか!?」
ハジメ
「当然だとも!原作で浩介が右腕ならば、No.2である左腕はトシ以外おらんだろ!」
トシ
「そこは天之河じゃないんだな……。てか当然なのか……。」
ハジメ
「光輝はまだ、展開的にね?
それに、3人になったら、某海軍の大将になっちゃうし……。」
トシ
「胃痛の原因になりそうなやつが何言ってんだ。
そんなことより、早く次の予告するぞ。」
ハジメ
「おぉ、そうだな。それじゃ、次回予告!」
次回予告
ハジメ
「遂にオルクス90層に突入した光輝達!」
トシ
「だがそこには、恐ろしい策略の罠が待ち構えていた!」
ハジメ
「その時、研ぎ澄まされた刃を磨く、白き魔獣が目を覚ます!」
トシ
「見た目は可愛いけどな?勿論、香織達も大暴れだ。」
ハジメ
「そして遂に、私が来たァ!」
トシ
「次回は皆と合流するぞ、お楽しみに!」

リースティアさん、誤字報告ありがとうございました!


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43.Plus Ultra!

うp主
「どうも皆様、お久しぶりです「じゃねぇだろォォォ!!!」クソマァ!?」
ハジメ
「おいクソ主ィ、テメェ何でこんなに投稿遅れとんのじゃァ!」
うp主
「そ、それには訳があって……」
ハジメ
「ほう?訳とはなんだ?」
うp主
「リアルがガチで忙しくなって時間が無くなった。資格勉強とかもあって。」
ハジメ
「メメタァ……まぁ、それならしょうがないけど。」
うp主
「まぁ、正月からモンカニばっかやっていたんだけどね☆」
ハジメ
「KO☆RO☆SU」(メツィライ・カタストロフを構えて)
うp主
「はい死んだー!」ズダダダダダダダン!!!
ハジメ
「……という訳で、だ。今回は俺達と香織達の合流するお話だ。まぁ、最後まで楽しんでいってくれ。」
うp主
「これからも不定期更新になるかもしれませんが、温かい目で見て戴けると幸いです。」ヒョコッ
ハジメ
「ウォッ!?」


淡い緑色の光だけが頼りの薄暗い地下迷宮に、激しい剣戟と爆音が響く。

その激しさは苛烈と表現すべき程のもので、時折姿が見えない遠方においても迷宮の壁が振動する程だ。

銀色の剣閃が虚空に美しい曲線を無数に描き、炎弾や炎槍、風刃や水のレーザーが弾幕の如く飛び交う。

強靭な肉体同士がぶつかる生々しい衝撃音や仲間への怒号、裂帛の気合を込めた雄叫びが、本来静寂で満たされている筈の空間を戦場へと変えていた。

 

光輝「万象切り裂く光、吹きすさぶ断絶の風、舞い散る百花の如く渦巻き、光嵐となりて敵を刻め!

"天翔裂破"!」

聖剣を腕の振りと手首の返しで加速させながら、自分を中心に光の刃を無数に放つのは、天職"勇者"を持つ天之河光輝だ。

今正に襲いかかろうとしていた体長50cm程の蝙蝠型の魔物は、10匹以上の数を一瞬で細切れにされて碌な攻撃も出来ずに血肉を撒き散らしながら地に落ちた。

 

「前衛!カウント10!」

「「「了解!」」」

ギチギチと硬質な顎を動かす蟻型の魔物、宙を飛び交う蝙蝠型の魔物、そして無数の触手をうねらせる磯巾着型の魔物。

それらが直径30m程の円形の部屋で、無数に蠢いていた。

部屋の周囲には8つの横穴があり、そこから魔物達が溢れ出しているのだ。

 

場所は【オルクス大迷宮】の89層。

前衛を務めるのは"勇者"光輝の他、幼馴染である"拳士"坂上龍太郎、"剣士"八重樫雫、そして"重闘士"永山重吾、"軽戦士"檜山大介、"槍術士"近藤礼一だ。

更に、どこかで遊撃を務めている"暗殺者"遠藤浩介がいる。

 

なんとか後衛に襲い掛かろうとする魔物達を、鍛え上げた武技を以て打倒し弾き返していく彼等に、後衛からタイミングを合わせた魔術による総攻撃の発動カウントが告げられる。

厄介な飛行型の魔物である蝙蝠型の魔物が前衛組の隙を突いて後衛に突進するが、頼りになる"結界師"が城壁となってそれを阻む。

 

鈴「刹那の嵐よ、見えざる盾よ、荒れ狂え、吹き抜けろ、渦巻いて、全てを阻め──"爆嵐壁"!」

天職"結界師"を持つ谷口鈴の攻勢防御魔術が発動する。

呪文を詠唱する後衛達の一歩前に出た彼女の突き出した両手の先に微風が生じた。見た目の変化はない。

蝙蝠型の魔物達も鈴の存在など気にせず、警鐘を鳴らす本能のままに大規模な攻撃魔法を仕掛けようとしている後衛組に向かって襲いかかった。

 

しかしその手前で、突如魔物の突進に合わせて空気の壁とでも言うべき物が大きく撓む姿が現れる。

何十体という蝙蝠擬きが次々と衝突していくが、空気の壁は撓むばかりでただの一匹も通しはしない。

そうして突進してきた蝙蝠擬き達が全て空気の壁に衝突した瞬間、撓みが限界に達した様に凄絶な衝撃と共に爆発した。

その発生した衝撃は凄まじく、それだけで肉体を粉砕された個体もいれば、一気に迷宮の壁まで吹き飛ばされてグシャ!という生々しい音と共に拉げて絶命する個体もいる程だ。

 

鈴「ふふん!そう簡単には通さないんだからね!」

クラスのムードメーカー的存在である鈴の得意気な声が、激しい戦闘音の狭間に響く。

と同時に、前衛組が一斉に大技を繰り出した。敵を倒す事よりも衝撃を与えて足止めし、自分達が距離を取る事を重視した攻撃だ。

光輝「後退!」

光輝の号令と共に、前衛組が一気に魔物達から距離を取る。

 

次の瞬間、完璧なタイミングで後衛6人の攻撃魔術が発動した。

巨大な火球が着弾と同時に大爆発を起こし、真空刃を伴った竜巻が周囲の魔物を巻き上げ切り刻みながら戦場を蹂躙する。

足元から猛烈な勢いで射出された石の槍が魔物達を下方から串刺しにし、同時に氷柱の豪雨が上方より魔物の肉体に穴を穿っていく。

自然の猛威がそのまま牙を向いたかの様な壮絶な空間では、生物が生き残れる道理などありはしない。

ほんの数十秒の攻撃、されどその短い時間で魔物達の9割以上が絶命するか瀕死の重傷を負う事になった。

 

光輝「よし!いいぞ!残りを一気に片付ける!」

光輝の号令で前衛組が再び前に飛び出していき、魔術による総攻撃の衝撃から立ち直りきれていない魔物達を一体一体、確実に各個撃破していった。

全ての魔物が殲滅されるのに、5分もかからなかった。

 

戦闘の終了と共に、光輝達は油断なく周囲を索敵しつつ互いの健闘を称え合った。

光輝「ふぅ、次で90層か……この階層の魔物も難無く倒せる様になったし……

迷宮での実戦訓練ももう直ぐ終わりだな。」

雫「だからって気を抜いちゃダメよ、この先にどんな魔物やトラップがあるかわかったものじゃないんだから。」

龍太郎「雫は心配しすぎってぇもんだろ?

俺等ぁ、今まで誰も到達した事の無い階層で余裕持って戦えてんだぜ?

何が来たって蹴散らしてやんよ、それこそ魔人族が来てもな!」

感慨深そうに呟く光輝に雫が注意をすると、脳筋の龍太郎が豪快に笑いながらそんな事を言う。

そして、光輝と拳を付き合わせて不敵な笑みを浮かべ合った。

 

その様子に溜息を吐きながら、雫は眉間の皺を揉み解した。

これまでも、何かと二人の行き過ぎをフォローして来たので苦労人姿が板に付いてしまっている。

まさか皺が出来たりしてないわよね?と最近鏡を見る機会が微妙に増えてしまった雫。

それでも結局、光輝達に限らず周囲のフォローに動いてしまう辺り、真性のお人好しである。

 

浩介「なぁ、トシ。ハジメはまだなのか?このままだと、八重樫さんが過労死しちまうぞ?」

トシ「そろそろ来るから、気長に待ってろ。後、お前は自分の心配をした方がいいぞ。」

心配そうに雫を見る浩介。そんな彼の方がある意味重傷だと、トシは指摘する。

そんな二人の会話をよそに、恵理はとある場所を見ていた。

その目はある人物を捉えており、ゴミを見るような目だったが。

 

香織「檜山君、近藤君、これで治ったと思うけど……どう?」

周囲が先程の戦闘について話し合っている傍らで、香織は己の本分を全うしていた。

即ち"治癒師"として、先程の戦闘で怪我をした仲間を治癒しているのである。

一応迷宮での実戦訓練兼攻略に参加している15名の中には、もう一人"治癒師"を天職に持つ女子がいるので、今は二人で手分けして治療中だ。

 

檜山「……ああ、もう何ともない。サンキュ、白崎。」

近藤「お、おう、平気だぜ。あんがとな。」

香織に治療された檜山が、ボーっと間近にいる香織の顔を見ながら上の空な感じで返答する。

見蕩れているのが丸分かりだ。近藤の方も、耳を赤くし言葉に詰まりながら礼を言った。

前衛職である事から、檜山達は度々香織のヒーリングの世話になっている筈なのだが……

未だに香織と接する時は平常心ではいられないらしい。

 

近藤の態度はある意味思春期の子供といった様子であり、微笑ましいとも言える。

しかし檜山の香織を見る目は……普通ではなかった。

瞳の深い所に、暗いヘドロの様な澱みが溜まっていた。

それは日々色濃くなっているのだが……

近藤の他、仲の良い筈の中野信治や斎藤良樹を含め、気がついている者はそう多くはなかった。

 

尤も、香織本人は気づいた上で接しているが、内心は凄い嫌がっていた。それはそうだろう。

自分の想い人が落ちる原因を作った奴の治療を何故しなければいけないのか、と普通は思うだろう。

しかしそれでも、表面上はこれまでと変わらずに接していた。

態度を変えると何をしでかすか分からないからだ。これは、雫たちにも相談済みである。

 

二人にお礼を言われた香織は「どういたしまして。」と微笑むと、スっと立ち上がり踵を返した。

周囲を見渡せば、少し離れた場所でもう一人の"治癒師"、いつも髪留めで立派なおでこを出している辻綾子が、丁度永山の治療を終えているところだった。

その巨体を以て仲間の盾となる事が常である永山の治療は中々骨が折れる様で、おでこに掻いた汗を「ふぅ。」と息を吐いて拭っている。

後衛の"土術師"野村健太郎や、"付与術師"吉野真央にも怪我は無い様だ。永山パーティも全員無事の様だ。

そんな仲の良い永山パーティに微笑みつつ、香織は他に治療が必要な人がいない事を確認すると、目立たない様に小さく溜息を吐いた。

そして、迷宮の天井を、何かを切望するような目で見つめていた。

 

香織「……。(ハジメ君、まだかなぁ?)」

その様子に気がついた雫には、親友の心情が手に取る様に分かった。

香織の心の内は今、ハジメ一色なのだ。

トシから連絡を受け、彼の無事も確認できた上に、今日は彼が態々顔を出しに来てくれるのだ。

内心では今すぐにでも、会いに行きたい気持ちで一杯なのだろう。

自身のアーティファクトである白杖を、ギュッと抱きしめる香織の姿を見て、雫は声をかけようとした。

と、雫が行動を起こす前に、ちみっこいムードメイカーが、香織の心情など知った事かい!と言わんばかりに駆け寄ると、ピョンとジャンプし香織の背後からムギュッと抱きついた。

 

鈴「カッオリ~ン!!そんな野郎共じゃなくて鈴を癒して~!ぬっとりねっとりと癒して~!」

香織「ひゃわ、鈴ちゃん!どこ触ってるの!っていうか、鈴ちゃんは怪我してないでしょ!」

鈴「してるよぉ!鈴のガラスのハートが傷ついてるよぉ!だから甘やかして!

具体的には、そのカオリンのおっぱおで!」

香織「お、おっぱ……ダメだってば!あっ、こら!やんっ!雫ちゃん、助けてぇ!」

鈴「ハァハァ、ええのんか?ここがええのんか?お嬢ちゃん、中々にびんかッへぶ!?」

雫「……はぁ、いい加減にしなさい鈴。男子共が立てなくなってるでしょうが……。」

恵理「鈴、少しは自重しよ?雫ちゃんが介抱することになって、光輝君も勘違い起こしちゃうから。」

 

ただのおっさんと化した鈴が、人様にはお見せできない表情でデヘデヘしながら香織の胸を弄り、雫から脳天チョップを食らって撃沈した。

序に、鈴と香織の百合百合しい光景を見て一部男子達も撃チンした。

頭にタンコブを作ってピクピクと痙攣している鈴を、いつもの様に恵里が苦笑いしながら介抱する。

香織「うぅ~、ありがとう、雫ちゃん。恥ずかしかったよぉ……。」

雫「よしよし、もう大丈夫。変態は私が退治したからね?」

涙目で自分に縋り付く香織を、雫は優しくナデナデした。最近よく見る光景だ。

 

雫「大丈夫、彼ならすぐ来てくれるわよ。信じて待ちましょう、香織。」

香織「うん。ありがとう、雫ちゃん。」

雫が香織の肩に置いた手に少々力を込めながら、真っ直ぐな眼差しを香織に向ける。

香織もそんな自分に活を入れるため、両手で頬をパンッと叩くと、強い眼差しで雫を見つめ返した。

雫の気遣いがどれだけ自分を支えてくれているか改めて実感し、瞳に込めた力をフッと抜くと目元を和らげて微笑み、感謝の意を伝える香織。

雫もまた目元を和らげると、静かに頷いた。

……傍から見ると百合の花が咲き誇っているのだが本人たちは気がつかない。

光輝達が何だか気まずそうに視線を右往左往させているのも、雫と香織は気がつかない。

だって、二人の世界だから。

 

香織「今なら……守れるかな?」

雫「そうね……きっと守れるわ。あの頃とは違うもの、レベルだって既にメルド団長達を超えているし。

……でも、フフ、彼はもっと強くなっているかもしれないわね?

あの時だって結局、私達が助けてもらったのだし。」

香織「ふふ、もう。雫ちゃんったら……。」

ハジメの傍にいられるよう、今度こそ守れるだろうかと今の自分を見下ろしながら何となく口にした香織に、雫は冗談めかしてそんな事をいう。

実はそれが事実であり、後に色んな意味で度肝を抜かれるのだが……その事を知るのはもう少し先の話だ。

 

尚、メルド団長率いる王国騎士達が実力的にリタイアし、30階層へ繋がる70階層の転移陣の警護を務める様になってから、自分達の力だけで完全踏破目前まで来た光輝達だが、その実力はこのトータスにおいて(人間にしては)最高位と称すべき段階にまで至っている。

 


天之河光輝 17歳 男 レベル:72

 

天職:勇者

 

筋力:880

 

体力:880

 

耐性:880

 

敏捷:880

 

魔力:880

 

魔耐:880

 

技能:

全属性適正[+光属性効果上昇][+発動速度上昇]・全属性耐性[+光属性効果上昇]・物理耐性[+治癒力上昇][+衝撃緩和]・複合魔法・剣術・剛力・縮地・先読・高速魔力回復・気配感知・魔力感知・限界突破・言語理解


坂上龍太郎 17歳 男 レベル:72

 

天職:拳士

 

筋力:820

 

体力:820

 

耐性:680

 

敏捷:550

 

魔力:280

 

魔耐:280

 

技能:

格闘術[+身体強化][+部分強化][+集中強化][+浸透破壊]・縮地・物理耐性[+金剛]・全属性耐性・言語理解


八重樫雫 17歳 女 レベル:--

 

天職:剣士

 

筋力:4500

 

体力:5000

 

耐性:4200

 

敏捷:8000

 

魔力:5400

 

魔耐:4700

 

技能:

剣術[+斬撃速度上昇][+抜刀速度上昇][+斬神][+全集中・常中]・縮地[+重縮地][+震脚][+無拍子]・先読・気配感知・隠業[+幻撃]・言語理解


白崎香織 17歳 女 レベル:--

 

天職:治癒師

 

筋力:4500

 

体力:4700

 

耐性:4600

 

敏捷:4000

 

魔力:9200

 

魔耐:8300

 

技能:

回復魔法[+効果上昇][+回復速度上昇][+イメージ補強力上昇][+浸透看破][+範囲効果上昇][+遠隔回復効果上昇][+状態異常回復効果上昇][+消費魔力減少][+魔力効率上昇][+連続発動][+複数同時発動][+遅延発動][+付加発動]・光属性適性[+発動速度上昇][+効果上昇][+持続時間上昇][+連続発動][+複数同時発動][+遅延発動]・高速魔力回復[+瞑想]・双剣技[+二天一流]・言語理解


南雲恵理 17歳 女 レベル:--

 

天職:降霊師

 

筋力:4350

 

体力:4500

 

耐性:4400

 

敏捷:4150

 

魔力:8500

 

魔耐:7400

 

技能:全属性適性・複合魔法・魔力操作[+魔力放射][+魔力圧縮][+遠隔操作][+効率上昇][+身体強化]・降霊術[+死霊術]・想像構成[+イメージ補強力上昇][+複数同時構成][+遅延発動]・高速魔力回復・言語理解


遠藤浩介 17歳 男 レベル:--

 

天職:暗殺者

 

筋力:5200

 

体力:4850

 

耐性:4300

 

敏捷:7300

 

魔力:5200

 

魔耐:4800

 

技能:

暗殺術[+短剣術][+隠蔽][+追跡][+投擲術][+暗器術][+伝振][+遁術][+深淵卿(lv1~3)]・気配操作[+気配遮断][+幻踏][+夢幻Ⅲ][+顕幻][+滅心]・影舞[+水舞][+木葉舞]・遁術[+風遁][+火遁][+水遁][+木遁][+土遁][+雷遁]・魔力操作・言語理解


 

中でも、香織達4人の成長はすさまじく、ハジメに迫らんとする程の実力を身に着けている。

それもこれも、ミライとヒカリによるスパルタ訓練が実を結んだ結果である。

全ては再び帰ってくる友の、兄の、そして想い人の隣にいられるようになる為だ。

 

光輝「そろそろ、出発したいんだけど……いいか?」

光輝が、未だに見つめ合う香織と雫におずおずと声をかける。

以前、香織の部屋で香織と雫が抱き合っている姿を目撃して以来、時々挙動不審になる光輝の態度に、香織はキョトンとしているが、雫はその内心を正確に読み取っているのでジト目を送る。

その目は如実に「いつまで妙な勘違いしてんの、このお馬鹿。」と物語っていた。

雫の視線に気づかないふりをしながら、光輝はメンバーに号令をかける。

既に89層のフロアは9割方探索を終えており、後は現在通っているルートが最後の探索場所だった。

 

出発してから10分程で、問題無く一行は階段を発見した。

トラップの有無を確かめながら慎重に薄暗い螺旋階段を降りていく。そうして体感で10m程降りた頃、遂に光輝達は90階層に到着した。

一応、節目ではあるので何か起こるのではと警戒していた光輝達。

しかし見たところ、今まで探索してきた80層台と何ら変わらない造りの様だった。

早速マッピングしながら探索を開始する。

迷宮の構造自体は変わらなくても、出現する魔物は強力になっているだろうから油断はしない。

警戒しながら、変わらない構造の通路や部屋を探索してく光輝達。

探索は特に問題無く、順調に進んだ。

……進んだのだが、やがて、一人また一人と怪訝そうな表情になっていった。

 

光輝「……どうなってる?」

かなり奥まで探索し大きな広間に出た頃、遂に不可解さが頂点に達し表情を困惑に歪めて光輝が疑問の声を漏らした。

他のメンバーも同じ様に困惑の表情を晒しつつ、光輝の疑問に同調して足を止める。

光輝「……何で、これだけ探索しているのに唯の一体も魔物に遭遇しないんだ?」

既に探索は、細かい分かれ道を除けば半分近く済んでしまっている。

今迄なら、散々強力な魔物に襲われてそう簡単には前に進めなかった。

ワンフロアを半分ほど探索するのに平均2日はかかるのが常であったのだ。

 

にも拘らず、光輝達がこの90層に降りて探索を開始してからまだ3時間程しか経っていないのに、この進み具合。

それは単純な理由だ。未だ一度も、魔物と遭遇していないからである。

最初は、魔物達が光輝達の様子を物陰から観察でもしているのかと疑ったが、彼等の感知系スキルや魔術を用いても一切索敵にかからないのだ。魔物の気配すらないというのは、いくら何でもおかしい。

明らかな異常事態である。

 

龍太郎「………なんつぅか、不気味だな。最初からいなかったのか?」

龍太郎と同じ様に、メンバーが口々に可能性を話し合うが答えが見つかる筈も無い。

困惑は深まるばかりだ。

雫「……光輝。一度戻らない?何だか嫌な予感がするわ。

メルド団長達なら、こういう事態も何か知っているかもしれないし。」

雫が警戒心を強めながら、光輝にそう提案した。

 

雫の提案に、光輝は逡巡する様子を見せた。何となく嫌な予感を覚えているのは光輝も同じだ。

慎重を期するなら、確かに一度戻るのがベターだろう。

しかし何らかの大きな障害があったとしても、何れにしろ打ち破って進まなければならず、漠然とした不安感だけで撤退するのには僅かな抵抗感があった。

また、89層でも余裕のあった自分達なら何が来ても大丈夫ではないかとも思う。

そうして光輝が迷っていると、不意に周囲を注意深く探っていた浩介が、緊張を滲ませた声を上げた。

 

浩介「これ……血だ。」

地面に這わせていた指先を見せながら、そう言った浩介。

光輝達はその言葉に、地面や壁を注意深く観察し始めた。すると、

重吾「薄暗いし壁の色と同化してるから分かりづらいが……あちこち付いているな。」

健太郎「おいおい……これ……結構な量なんじゃ……。」

険しい表情で警戒感を露わにする永山と、引き攣り顔で周囲に視線を巡らせる野村。

他のメンバーも、今更ながらに気付いた周囲に飛び散る夥しい量の血痕に、顔色を青くする。

 

浩介「天之河、八重樫さんの提案に従った方がいい。……これは魔物の血だ、それも真新しい。」

指に付いた血を擦ったり嗅いだりして分析していた浩介が、普段に無い強い口調で訴えた。

光輝は少し唸りながら小さな反論をする。

光輝「そりゃあこれだけ魔物の血があるってことは、この辺りの魔物は全て殺されたって事だろうし、それだけ強力な魔物がいるって事だろうけど……。

いずれにしろ倒さなきゃ前に進めないだろ?」

 

光輝の反論に、首を横に振ったのは永山だった。

永山は、龍太郎と並ぶクラスの二大巨漢ではあるが、龍太郎と違って非常に思慮深い性格をしている。

また、浩介とは付き合いも長く親友であるが故に、その言葉には大きな信頼を寄せていた。

故に、浩介の発する極度の緊張と言葉から即座に事態を読み解き、同じ様に臨戦態勢になりながら、光輝に自分の考えを告げた。

 

重吾「天之河、よく聞いてくれ。魔物は何も、この部屋だけに出る訳ではないだろう。

今まで通って来た通路や部屋にも出現した筈だ。

にもかかわらず、俺達が発見した痕跡はこの部屋が初めて。それはつまり……」

雫「……何者かが魔物を襲い、その痕跡を隠蔽したって事ね?」

 

後を継いだ雫の言葉に永山が頷く。

光輝もその言葉にハッとした表情になると、永山と同じ様に険しい表情で警戒レベルを最大に引き上げた。

光輝「それだけ知恵の回る魔物がいるという可能性もあるけど……人であると考えた方が自然って事か。

……そしてこの部屋だけに痕跡があったのは、隠蔽が間に合わなかったか、或いは……」

???「ここが終着点という事さ。」

 

光輝の言葉を引き継ぎ、突如聞いた事の無い女の声が響き渡った。男口調のハスキーな声音だ。

光輝達はギョッとなって、咄嗟に戦闘態勢に入りながら声のする方に視線を向けた。

コツコツと足音を響かせながら広い空間の奥の闇からゆらりと現れたのは、燃える様な赤い髪をした妙齢の女。

その女の耳は僅かに尖っており、肌は浅黒かった。

光輝達が驚愕した様に目を見開く。女のその特徴は、光輝達のよく知るものだったからだ。

実際には見た事は無いが、イシュタル達から叩き込まれた座学において、何度も出てきた種族の特徴。

聖教教会の掲げる神敵にして、人間族の宿敵。そう……

 

「……魔人族。」

誰かの発した呟きに、魔人族の女は薄らと冷たい笑みを浮かべた。

光輝達の目の前に現れた赤い髪の女魔人族は冷ややかな笑みを口元に浮かべながら、驚きに目を見開く光輝達を観察する様に見返した。

瞳の色は髪と同じ燃える様な赤色で、服装は艶のない黒一色のライダースーツの様なものを纏っている。

体にピッタリと吸い付く様なデザインなので彼女の見事なボディラインが薄暗い迷宮の中でも丸分かりだ。

どこか艶かしい雰囲気と相まって、そんな場合ではないと分かっていながら近藤や中野、斎藤等は頬が赤く染まるのを止められなかった。

 

魔人族「勇者はアンタでいいんだよね?そこのアホみたいにキラキラした鎧を着ているアンタで。」

光輝「ア、アホ……う、煩い!魔人族なんかにアホ呼ばわりされる謂れは無いぞ!

それより、何故魔人族がこんな所にいる!」

あんまりと言えばあんまりな物言いに軽くイラっと来た光輝が、その勢いで驚愕から立ち直って魔人族の女に目的を問い質した。

しかし魔人族の女は、煩そうに光輝の質問を無視すると呆れた様に頭を振った。

魔人族「なんとまぁ直情的な……これが勧誘対象の勇者様?本当に有用なのかねぇ……。

まぁ、命令がある以上是非も無いんだけど。」

そして、どこか物凄く嫌そうな雰囲気を漂わせつつ、意外な言葉を放った。

 

魔人族「アンタ。そう、無闇にキラキラしたアンタ。アタシ等の側に来ないかい?」

光輝「な、何?来ないかって……どう言う意味だ!」

魔人族「呑み込みが悪いね。そのまんまの意味だよ。勇者君を勧誘してんの。

あたしら魔人族側に来ないかって。色々優遇するよ?」

光輝達としては完全に予想外の言葉だった為に、その意味を理解するのに少し時間がかかった。

そしてその意味を呑み込むと、クラスメイト達は自然と光輝に注目し、光輝は呆けた表情をキッと引き締め直すと魔人族の女を睨みつけた。

 

光輝「断る!人間族を……仲間達を……王国の人達を裏切れなんて、よくもそんな事が言えたな!

やはり、お前達魔人族は聞いていた通り邪悪な存在だ!態々俺を勧誘しに来た様だが、一人でやって来るなんて愚かだったな!多勢に無勢だ、投降しろ!」

光輝の啖呵が響き渡る。そこには些かの揺るぎも無かった。

しかし、断固拒否の回答を叩きつけられた当の女魔人族は僅かに目を細めて観察する様な眼差しを向けただけで、特に気にした様子も無かった。

それどころか、更に譲歩した条件を提示する。

 

魔人族「一応、お仲間も一緒でいいって上からは言われてるけど?それでも?」

光輝「答えは同じだ!何度言われても、裏切るつもりなんて一切無い!」

やはり微塵の躊躇いも無く光輝が答える。

そして、そんな勧誘を受ける事自体が不愉快だとでも言う様に、聖剣に光を纏わせた。

これ以上の問答は無用、投降しないなら力づくでも!という意志を示す。

 

トシ(コイツ……マジで言ってんのか?頭おかしいんじゃねぇの?)

浩介(マズいな……ハジメが来るまで何とか持ちこたえさせねぇと……。)

恵理(……これだから妖怪正義感は……。)

香織(光輝君……。)

雫(ハァ、仕方がないわね……。)

そんな光輝の行動に焦りを見せたのは女魔人族ではなく、寧ろ永山と香織達だった。

雫と永山は内心で舌打ちしつつ、女魔人族より周囲に最大限の警戒を行う。

香織はエンチャントの遅延詠唱を、恵理は攻撃魔法のチャージをそれぞれ行い、トシはブラックシューターを手にし、浩介はグラサンをこっそりかけた。

 

彼らは皆、場合によっては一度嘘をついて女魔人族に迎合してでも場所を変えるべきだと考えていた。

しかし、その考えを伝える前に光輝が答えを示してしまったので、仕方なく不測の事態に備えているのだ。

普通に考えて、いくら魔術に優れた魔人族とはいえ、こんな場所に一人で来るなんて考えられない。

この階層の魔物を無傷で殲滅し、剰えその痕跡すら残さないなどもっと有り得ない。

そんな事が出来るくらい魔人族が強いなら、ハナから人間族は為す術無く魔人族に蹂躙されていた筈だ。

加えて、この階層に到達出来る程の人間族15人を前にしても、魔人族の女は全く焦った様子が見られない。

戦闘の痕跡を隠蔽した事も考えれば、最初に危惧した通りここで待ち伏せしていたのだと推測すべきで、だとしたら地の利は彼女の側にあると考えるのが妥当だ。

 

──自分達は今、大迷宮にいるのではない。敵のテリトリーにいるのだ!

そんな雫達の危機感は、直ぐに正しかったと証明された。

魔人族「……そう。なら、アンタに用はない。言っておくけど、アンタの勧誘は絶対って訳じゃないよ。

命令は"可能であれば"だ、状況によっては排除の命令も出てる。

殺されないなんて甘い事は考えない事だね。ルトス、ハベル、エンキ、餌の時間だよ!」

香織「ッ!遅延発動!<耐性超強化><筋力超強化>!」

 

女魔人族が三つの名を呼ぶのと、香織がエンチャントをかけるのと、バリンッ!という破砕音と共に雫と浩介が敵を迎撃するのは同時だった。

雫「ッ!虚空陣奥義"雪風"!」

浩介「忍法"身代わり粉塵"!」

 

二人を襲ったものの正体は不明。

女魔人族の号令と共に、突如光輝達の左右の空間が揺らいだかと思うと、"縮地"もかくやという速度で"何か"が接近し、光輝と女魔人族のやり取りに意識を囚われていた後衛組に襲いかかったのだ。

最初から最大限の警戒網を敷いていた香織達と永山だけが、その奇襲に辛うじて気がつき、その中でも察知能力が高い雫と浩介の二人が迎撃に成功していた。

雫は揺らぐ空間に対して高速の居合を放ち、浩介は分身を盾にして爆破することで威力の相殺を行った。

そのおかげか、襲撃者は後方へと下がっていったようだ。

 

硝子が割れる様な破砕音は、鈴が本能的な危機感に従って咄嗟に展開した障壁が砕け散った音だ。

場所はパーティの後方。

そこに"何か"あると感じた訳では無く、何となく香織達の位置からして自分は後方に障壁を展開するべきだと、これまた本能的、あるいは経験的に悟ったのだ。

その行動は、結果的に極めて正しかった。

鈴の障壁がなければ、三つ目の空間の揺らめきは容赦なく辻や吉野達を切り裂いていただろう。

 

だが味方を見事に守った代償に、障壁破砕の衝撃をモロに浴びて鈴もまた後方へ吹き飛ばされた。

運良く後ろに恵里がいて受け止める事に成功した為に事無きを得たが、衝撃に痺れる鈴の体は直ぐには言う事を聞いてくれない。

三つの揺らめきが、間髪を容れず追撃にかかる。

それを防ぐために、トシや恵理といった無事な面々が反撃を試みようとした――その時。

 

???「きゅうぅぅ!(何してくれとんのじゃワレェ!)」

「「「「「「「「「「………え?」」」」」」」」」」

突如として響いた謎の音声と共に、白い毛玉が飛び出してきた。

それは、ウサギの姿をした魔物であった。尤も、魔物にしては何所かが変だったが……。

 

まず、魔物が念話を使えること自体が驚きであり、人の言葉で話すことなど不可能であるはずなのだ。

しかし、目の前にいるウサギはそれだけでなく、首元や手に見たこともないアーティファクトを持っているのだ。

それは流石に驚くのも無理はないだろう。

しかしそれ以上に驚いたことは、そのウサギが三つ目の揺らぎに対して攻撃をし、その頭部を弾けさせたことなのだ。

しかも手にはそれによって撲殺したと思われる凶器(鉄の棒らしきもの)が握られており、血の跡がついていた。

 

そのウサギ擬き――イナバは鼻を鳴らすと、他の揺らぎに対しても殴り掛かり、あっという間に撲殺してしまった。

「「「「「「「「「「………えぇぇぇぇぇ!?!?!?」」」」」」」」」」

余りの一瞬の出来事に、その場にいた全員が思わず叫んでしまった。

 

イナバ「きゅふぅ……きゅ、きゅきゅぅ!(ふぅ……遅れてすいやせん、妹君。このイナバ、王様の命でお助けに参りやしたぁ!) 」

「「「「「「「「「「い、妹君!?」」」」」」」」」」

光輝達は勿論、魔人族も驚いていた。

こんな強力かつ言葉を話す魔物を従えた者がいるだけでなく、その妹がここにきているということに。

その事実に全員が、否、一部を除いて全員が驚いていた。

 

惠理(妹……王様……察した。)

トシ(そういえば、言っていたなぁ……家臣て、コイツかい。)

浩介(ハジメ、なぜ兎にしたんだ……?)

雫(見た目はちょっと可愛い?かも……。)

香織(ハジメ君の……)

何というか、色々カオスであった。すると、その時……

 

???「―――呼ばれて飛び出てぇー!」ビキビキィ!

突如、謎の大声が響いたかと思うと、

???「わぁたぁしぃがァ―――!!!」バキィィィン!!!

何かが叫びながら天井をぶち抜いて来た。そしてそのまま、

来たァァァァァ!!!!!

落ちてきた。

ズガァァァン!!!

 

「「「「「「「「「「!?!?!?」」」」」」」」」」

イナバ「きゅ、きゅぅ……!(そ、その声は……!)」

その何かが轟音とともに着地した瞬間、その衝撃で周りにいたであろう魔物たちをあっという間に肉塊に変えてしまった。

香織「ハジメくん……!」

何かを感じ取った香織がそう言う。

土煙が晴れた場所には……

 

ハジメ「俺ェ!参上!!!」ビシィッ!

ミュウ「参上なの!」ビシッ!

幼女を背負った魔王がいた。しかも、二人そろってノリノリで名乗りを上げて。




ハジメ
「ここまで読んでいただき、ありがとうございました!
さて、今回のゲストは!」
恵理
「じゃんけん「ちょっとォ!?」冗談だよ。どうも、魔王の妹の恵理です!」
ハジメ
「今作におけるトシのヒロイン、南雲恵理だァ!」
恵理
「そう言えば兄さん、うp主死体にして操っていい?ストーリー早く進めたいし。」
ハジメ
「気持ちは分かるが、止めとけ。碌なことにならない。」
恵理
「そうだね。じゃあトシ君に頼んで……。」
ハジメ
「そういう問題じゃないんだって。それよりほら、次回予告するよ。」
恵理
「はぁ~い。」

次回予告
ハジメ
「ようやく再開した俺達。ここまで半年近くかかっている件。」
恵理
「正直、兄さん一人でも片付きそうなんだけど……」
ハジメ
「いや、それだと物語のコンセプト的に、ねぇ……?」
恵理
「急にメタい話になったね。まぁ、未来の義姉さんに挨拶しないとね。」
ハジメ
「それじゃあ次回も、Are you ready?」
恵理
「お~ば~ふろぉ~。」

リースティアさん、誤字報告ありがとうございました!


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44.進撃の時王

ハジメ
「前回はどうも、ウチのうp主が大変お見苦しい所をお見せいたしました……。
さて、本来は前回登場するはずだった、今回のオープニングゲストは……!」
香織
「どうも!ハジメ君の"初めて"の!"女性"の!香織です!」
ハジメ
「言い方!……ハァ、取り敢えず、前回の紹介お願い。」
香織
「うん!ハジメ君が助けに来てくれたんだよね!」
ハジメ
「もっと他にもあるでしょ……イナバやカトレア(魔人族)のこととか。」
香織
「そう、それもあったね!後ハジメ君のポーズが……。」
ハジメ
「よし分かった。そろそろ尺が無くなるから、言っちゃって!」
香織
「えぇ、もう!?うぅ……それじゃあ、第4章第6話」
ハジメ・香織
「「それでは、どうぞ!」」


昨日ぐっすり睡眠をとった俺はユエ達を連れ、光輝達が入っていった後から距離を置き、見つからないように続いた。

勿論、ミュウも一緒だ。護衛も無しに攫われるのは嫌だし。

途中で65階層までショートカットしたまでは良かったが、まさか70階層に転移陣があって、メルドさん達がいたとは思わなかった。

幸いにも、気配遮断で上手く誤魔化せたが……。

 

そんなこんなで進んでいると、トシに預けた発信機代わりの鉱石の反応が、急に止まったじゃありませんか。

早速、ピーチエナジーの能力で耳を澄ますと、魔人族がいることが分かった。

そしてそこにイナバが向かっていることも。

丁度いい機会だ。折角だし、登場はド派手にいくか。

 

ハジメ「ミュウ、今から一緒に真似してほしいものがあるんだけど……いいかな?」

ミュウ「みゅ!わかったの!」

そんなやり取りを、他の女性陣に温かい視線で見守られながらも、俺達は練習した。

そして、練習も終わった所でちょうどタイミングが良かったので、突入を開始した。

早速、下につながる道を拳で開通していった。

流石に攻略したとはいえ、迷宮内は危険だらけなので、オーマジオウ状態だけど。

因みに、ユエ達は重力魔法で降りることにした。さぁ、蹂躙を始めよう。

 

そして現在に至る。

恵理「このノリ……この感じ……間違いない!」

浩介「話に出ていた通りっていうか、まんまオーマジオウじゃん!」

トシ「こうなると思っていたよ……。」

雫「何というか、大胆よね……。」

香織「ハジメ君……!」

イナバ「きゅぅう!!(王様、お元気そうで何よりです!)」

 

ハジメ「おう、皆久しぶり。それと……ただいま。」

懐かしい面々の反応に、短くも優しく返した。てかイナバ、やり過ぎだって。俺の出番全く無いじゃん。

そんなことを思いながら、俺はミュウを肩から降ろすと、雫の傍に移動させた。勿論、時間停止中に。

ハジメ「ミュウ。ちょっと危なくなるから、このポニーテールのお姉さんに、しっかり守ってもらうんだぞ。」

ミュウ「はいなの!」

雫「!?」

 

いきなり名指しされてビックリしている雫に、ミュウを預けた俺は、イナバに念話で指令を送った。

ハジメ「(イナバ、予め周りの警戒を頼む。敵の奇襲も捨てきれない。)」

イナバ「きゅ!(了解でさぁ!)」

さてと、これでよし。そう思った俺は、魔人族の方を向いた。

服装は……扇情的と言えば聞こえはいいが、敵である以上痴女にしか見えん。

そこの男共(ザク)とは違うのだよ、男共(ザク)とは!

 

ハジメ「さて、俺の仲間に手を出したんだ。精々、楽に死ねると思うなよ?」

魔人族「……何だって?」

……全く、どうやら思考だけでなく耳も悪いようだな。

ハジメ「何故貴様等はこうも、私の邪魔ばかりするのだ?

「目障りだからとっとと失せろ、私の機嫌が悪くないうちに。」と言っているのだが、それすらも分からんとはなぁ……。」

そんな挑発に乗ったのか、女魔人族はスッと表情を消し、

魔人族「殺れ。」

私を指差し魔物に命令を下した。

 

ハジメ「不遜よなぁ。」

私がそう呟いたのと同時に、揺らめく空間が襲いかかってこようとした。が、

シア「シャオラァ!!」ドゴォッ!

シアの振り下ろしたドリュッケンによって、粉砕された。文字通りの肉片(ミンチ)だ。

正直、迎撃も容易かったが、敢えて皆に任せることにしたのだ。

いつの間にか復活していた他の魔物たちも、我々に向かってきたが……無駄なことだ、無駄無駄無駄。

 

ユエ「"蒼龍"!」ゴォッ!

ミレディ「"黒玉連弾"!」グワッ!

ティオ「"龍の息吹"!」ボオッ!

ユエ、ミレディ、ティオの魔法エキスパート勢によって、次々と撃破されていった。

勿論、私とてただ守られているわけじゃあない。

右手にドンナー、左手にシュラークを呼び出し、蹂躙を開始した。

 

ドパンッ! ドパンッ!ドパンッ! ジュッ!

まず、後ろから来た黒猫の眉間をドンナーで打ち抜いた。それも前を見たまま、だ。

その次には、四つ目狼が左右から同時に飛び掛かるが、飛んで火にいる夏の虫だな。

そう思いながら、両手の銃で頭を弾き飛ばした。

その後ろからまた黒猫が来るが、遅すぎる。触手諸共、自然発火能力で焼き払った。

 

「グルァアアアアアッ!」「オォオオオオオッ!」

雄叫びを上げて、左右からブルタール擬きが挟撃を仕掛けてくるが……正直、喧しい。

 

ズパァンッ!

 

なので、武器を刃王剣十聖刃(はおうけんクロスセイバー)に持ち替え、そのまま真っ二つにしてやった。

すると今度は、黒猫八体が同時攻撃を仕掛けてきた。全く、芸のない奴等だ。

 

バサッ!バサッ!

 

そう思いながら、アタッシュカリバーとプログライズホッパーブレードの二刀流で、一気に掻っ捌いてやった。

 

そろそろ飽きて来たな……。そう思っていると、四つ目狼とキメラ擬きが突進してきた。

 

ドゴォッ!

 

しかし結果は言うまでもない。ブーストで巨大化させたギガントハンマーで、纏めて肉塊に変えてやった。

それを好機とでも思ったのか、踏み込んできたブルタール擬き二体がメイスを振りかぶる。

 

バキィィィン!!!グチャッ!

 

それを剛腕を乗せたローリングバイスタンプで、ブルタール擬き諸共粉砕してやった。

さてと、復活されては面倒なので、な!

 

ジュッ!

魔人族「!?」

ハジメ「悪いな、その手の魔物とはとっくに出会っている。それ故先に潰させてもらうぞ。」

気配感知で回復役の魔物に狙いを定め、因果律操作で内部から破壊した。

相手からすれば突然、自分の肩に留まっていた魔物がはじけ飛んだことに、驚きを隠せない様子だった。

だが、そんな隙だらけな時でも、私は容赦しない。

 

先程から、後ろでエネルギーを溜めていた、亀のような魔物にサイキョージカンギレードを構え、

ハジメ「遅い。」ズパンッ!

そのまま一刀両断した。

魔人族「ッ!?畜生!」

敵が悪態をつくが、そんな余裕があったら魔法でも繰り出せばよいものを。

 

光輝「何なんだ……彼は一体、何者なんだ!?」

……えぇ?さっき言っていたはずなんだけど……声だけじゃあわかんないか。

ハジメ「俺が道場辞めた時、必死に止めようとしてくれたのは誰だっけ?」

光輝「道場?……まさか、南雲か!?」

それで思い出すんかい。

 

ハジメ「まぁ、そういうことだ。悪いが、口調の方は気にするな。この鎧の仕様故な。」ズパンッ!ドガッ!

そう言って陰に潜んでいた魔物を斬殺し、そのまま蹴りで前の魔物を吹き飛ばした。

檜山「う、嘘だ。南雲は死んだんだ。そうだろ?皆見てたじゃんか。生きてる訳ない!

適当な事言ってんじゃねぇよ!」

……はて、コイツは誰だったか?まぁ、どうでもよいか。

 

バッシャアンッ!

……ユエが騒いでいた奴に水をかけて黙らせた。しかも冷水で。

ハジメ「……ユエ、いきなり水をかけてはダメだろう?それも小規模の滝レベルで。」

ユエ「……邪魔だったから、つい。」

ハジメ「……まぁ、良いか。大人しくなったようだしな。」

さてと、他はどうかな?

 

シア「ハジメさぁ~ん、こっちは片付きましたよぉ~!」

ミレディ「こっちも片付いたよ!案外呆気なかったし。」

ティオ「うむ、ご主人様の修行の賜物じゃな!」

ハジメ「……早いなぁ。」

もう少しぐらい残っているかと思ったんだが……と、その時、

 

魔人族「チィッ!なら……コイツはどうだい!?」

そう言うと奴は、アナザーウォッチを起動させた。

≪AIKO≫

……まぁ、このまま相手してやっても良いが、面倒だからな。

 

魔人族「!?」

ハジメ「コイツは本来あってはならない故な、破壊させてもらうよ。」パラパラ……

そう言った私の手中にあったのは、さっきまでアナザーウォッチだったものだ。

時間停止中に奴から奪い、そのまま砕いた。

魔人族「ホントに……なんなのさ。」

ハジメ「そうだな、最高最善の魔王、とでも言っておくか。」

力無く呟く敵の言葉をバッサリ切り捨てる。すると今度は、魔法を発動してきた。これは……"落牢"か。

 

ハジメ「やれやれ、余計な仕事を増やすでないわ。」

そう言って、オーロラカーテンで別の場所に飛ばしてやった。

今頃は、大迷宮の魔物にでも当たっているだろう。

魔人族「はは……既に詰みだったわけだ。」

ハジメ「寧ろ逃げられるとでも思ったのか?」

乾いた笑い声を上げる女魔人族。さて、こ奴はどれくらいの階級だろうか。

 

魔人族「……この化け物め。上級魔法が意味をなさないなんて、アンタ、本当に人間?」

ハジメ「何度も言わせるな。最高最善の魔王だと言っているだろう。」

そんな軽口を叩きつつも、しっかりと歩み寄る。あぁ、念には念を入れるか。

パァンッ!パァンッ!

魔人族「グゥッ!?」

ハジメ「悪いな、逃げられてもこちらとしては困るのだよ。」

両足を撃ち抜きながらそう言う。序に、魔法対策のために腕も潰しておくか。

 

ハジメ「さて、遺言くらいは聞いてやるというのが定石だが……生憎とそんな暇はないのでな。

必要な情報だけ貰っておこうか。」

魔人族「あたしが話すと思うのかい?」

ハジメ「知らんな、そんなどうでもよいこと。」

そう言って奴の頭を掴み、その記憶を読み取ると……。

 

ハジメ「……ウルの町で始末した奴と、情報はさほど変わらんな。」

魔人族「ッ!そうか、アンタがレイスを……」

ハジメ「あぁ、別に貴様等が魔人族だから、というわけではない。貴様等が敵であるが故、殺しただけだ。

貴様も奴も、私の仲間に手を出したのだからな。それが断罪の理由だ。」

そう言うと、私はサイキョージカンギレードの切っ先を、敵の首に添えた。次は貴様の番だ、と。

魔人族「……なら、もういいだろ?ひと思いに殺りなよ。アタシは捕虜になるつもりはないからね……。」

ハジメ「そうか。では、敗者に相応しいエンディングを見せてやる。」

そう言うと、私は懐から取り出した、一つのライドウォッチを起動した。

 

≪ハザード!≫

その音声と共に、一人のライダーが召喚された。

Uncontrol Switch! Black Hazard!ヤベーイ!

召喚されたのは、黒一色のボディに、赤と青の複眼の戦士。

仮面ライダービルド・ラビットタンクハザードフォームだ。

 

トシ「オイオイ、まさか……。」

ハジメ「そのまさか、だ。」

そう、今から行う処刑方法は、その名も「ハザードはとまらない」だ。

文字通り、相手を破壊しつくすまで止まらない、地獄への超特急だ。

まぁ、拷問され続けるよりはマシだろう。精々、散り様で楽しませて見せろ。

 

そんなことを考えていると、敵の魔人族が道半ばで逝く事の腹いせにと、負け惜しみをぶつけた。

魔人族「いつか、アタシの恋人がアンタを殺すよ。」

ハジメ「ほぅ?それは怖いな。まぁ、式場はあの世でよいか。では……」

そう言って、処刑を開始しようとしたその時、

 

光輝「待て!待つんだ、南雲!彼女はもう戦えないんだぞ!殺す必要はないだろ!」

ハジメ「……ハァ。」

全く、ここでも貴様は邪魔をするつもりか。

悪いが貴様の倫理観動向に付き合っている暇なぞ、こちらには毛頭ないというのに。

そんな私の気も知らずか、奴は私の方に近づきながら声を張り上げた。

光輝「捕虜に……そうだ、捕虜にすればいい。

無抵抗の人を殺すなんて、絶対ダメだ。

俺は勇者だ。南雲も仲間なんだから、ここは俺に免じて引いてくれ。」

やれやれ、面倒だが……説教でもしておくか。

 

ハジメ「それならば、先程の魔物を一瞬で殺せるのか?それが出来るのなら、吞んでやってもいいが。」

光輝「!そ、それは関係ないだろ!それに彼女はもう……!」

ハジメ「ならこ奴を生かしたとしよう。

それによって不利益が生じる可能性があり、場合によってはお前達にも危害が及ぶやもしれんのだぞ?

それでも貴様は、この愚か者を生かすつもりか?それ相応の責任をとることが出来るのか?」

光輝「グッ……で、でも!」

ハジメ「出来んのなら口出しするな。実力もない者に免じる程、私は甘くはない。殺れ、ハザード。」

私の命令を聞いたハザードビルドは、魔人族を持ち上げると、処刑を開始した。

 

光輝「!ま、待っグアッ!?」バキィッ!

またもや何か要らんことをしようとしたので、その辺に吹っ飛ばしておく。

手加減はしてやったから、まぁ、大丈夫だろう。

だがまぁ、一応香織達の方に目を向けた。

 

視線に気づいたのか、雫と恵理は頷き、香織は黙って見ていた。浩介は……どこかにいるだろう。

浩介「同じところにいるわ!?」

トシやユエ達は動じていない。ミュウ、お前も見るのか。思った以上に、心が強いな。

他はまぁ、良いか。そう思いながら、ハザードビルドの処刑劇を見ていた。

 

ビリリィッ!Max Hazard On!

 

まず、トリガーのスイッチを押し、リミッターの解除ボタンを起動した。

 

ガタガタゴットン!ズッタンズタン!ガタガタゴットン!ズッタンズタン!

 

ドライバーのレバーを回すと、強化剤が一気に体中に巡り、その危険性をさらに高めた。

 

Ready Go!

 

そして、オーバーフローモードへの移行が済んだ音声が鳴り、処刑劇第一幕が開演した。

 

Overflow!ヤベーイ!ズオォォォ!!!

 

大量の強化剤が溢れたのか、ハザードビルドの体中からどす黒いオーラが噴出した。

 

魔人族「ガアァァァァァ!?!?!?

魔人族の女は苦しそうに藻掻く。だが、その程度ではハザードビルドは振りほどけない。

やがて、全身に電流が回ったのか、魔人族が力なく膝をつくと、ハザードビルドは容赦なく次の段階に移行した。

 

ガタガタゴットン!ズッタンズタン!ガタガタゴットン!ズッタンズタン!

 

再びレバーを回すと、右足に装甲破壊エネルギーが溜められ、死へのカウントダウンが始まった。

ハザードビルドの色合いと言い、先程のオーラと言い、まるで死神だな。

そんな呑気なことを思いながら、私は終幕劇を見ていた。

 

Ready Go!

 

終わりを告げる声が響き渡ると、ハザードビルドは敵へと狙いを定め、右足を振り抜いた。

 

Hazard Finish!

 

ハザードビルド「!!!!!」

無情にも放たれた蹴りは、剝き出しの肉体を貫き、骨や内臓といった、肉体内部から崩壊させていった。

その威力は、かつて超強化人間兵器(ハザード・スマッシュ)が喰らった時とは、比べ物にならないレベルだ。

 

魔人族「──────ッッッ!!?!?───……──……─………。」

声にならない断末魔が室内に木霊し、その後魔人族の女は倒れ伏した。そして静寂が空間中に走った。

たった今、この魔人族は亡き者となった。あっけないと言えばそれまでだろうが……黙っておくか。

死人に口無しとは言うが、言わずにおいても構わんだろう。

 

光輝「何故、何故殺したんだ。殺す必要があったのか……。」

ハジメ「殺さねば殺される、それが戦場の鉄則だ。無力化が出来ん時点でそれしかあるまいよ。

精神的に追い詰めて投獄するという手もあるが……どちらにしろ地獄には変わりあるまい。」

傍から見れば、無情にも突き放すような発言ではあるだろうが、生かしていたら反撃の機会を与えてしまう可能性がある。

それに、仲間の命が何よりの優先事項だ。たとえ外道と言われようとも、これを曲げるつもりは毛頭ない。

 

さてと、変身を解除して、と……?

 

流石の俺もこれには驚いた。何故なら、急に香織が抱き着いてきたのだから。

香織「ハジメぐん……生きででくれで、グスッ、ありがどうッ。

あの時、守れなぐて……ひっく……ゴメンねッ……グスッ。」

……そんなに泣くことかい?一応、生存報告はしたはずなんだが……まぁ、いいか。

 

光輝「おい、南雲。なぜ「ハジメぐぅぅぅん!」彼女、を……」

……こりゃあしばらくはこのまんまか。雫は……助けてくれねぇ。さっきからミュウを抱きしめている。そんなにかわいいもの好きだったのか……。

浩介「今はそっとしておこうよ。愛し合う二人の再会(ロマンシア・リターンズ)なのだから……ごめん。」

お前はどうしてそうなったんだ、浩介ェ……。

 

ハジメ「あぁ~香織?俺はこの通りピンピンしているから、ね?」

そう言いながら抱きしめ、頭を撫でながら落ち着かせる。

恵理「何というか……想像以上に魔王していたよね。」

雫「えぇ、全くよね。まさかここまで強くなっているなんて……。」

トシ「いずれは俺らもあのレベルにさせられるんだろうなぁ……ウッ、トラウマが。」

イナバ「きゅふぅ……。(あんさん、アレを受けたんですか……。)」

君等、見ているなら助けてくれんかね。こちとら女性陣のジト目が厳しくて辛いんだが。

 

ユエ「……ハジメ、私も撫でる。」

シア「私もですぅ!」

ミレディ「ミレディさんもナデナデを所望するよ!」

ティオ「右に同じくじゃ♪」

ミュウ「ミュウも!ミュウもなの!」

ハジメ「分かった、分かったから。」

あぁ、ホントに体が5,6個位欲しい……。

 

ハジメ「あ~、えと、香織、さん?そろそろ……。」

香織「……もう少しだけ、ね?」

ハジメ「……オイオ~イ。」

てか、さっきから何で匂い嗅いでんの!人前で、はしたないでしょ!

 

光輝「……香織は本当に優しいな。……でも、南雲は無抵抗の人を殺したんだ。話し合う必要がある。

もうそれくらいにして、南雲から離れた方がいい。」

……ハァ、やっぱりこうなるのか。

永山パーティから「お前、空気読めよ!」という非難の眼差しが飛んでいるが……見えてねぇようだなぁ。

 

雫「ちょっと、光輝!ハジメ君は私達を助けてくれたのよ?そんな言い方はないでしょう!?」

光輝「だが雫、彼女は既に戦意を喪失していたんだ。殺す必要は無かった。

南雲がした事は許される事じゃない。」

雫「あのね光輝、いい加減にしなさいよ?大体……」

やれやれ……面倒な言い合いだ。

さっさと帰って、ミュウとの時間に旅のしたくもしなきゃいけないのに……。

 

ハジメ「言い争っている場合があるなら、一旦外に出ようよ。

魔人族を倒したとはいえ、安全ってわけじゃないんだし。」

光輝「待ってくれ。こっちの話は終わっていない。南雲の本音を聞かないと仲間として認められない。」

……何を言っとるんだ、このおバカは。はぁ、仕方がないか。

 

ハジメ「……光輝。前々から口を酸っぱくして言っておいたはずなんだが……

どうやら指摘が甘かったみたいだな。この際はっきり言わせてもらおうか。」

光輝「指摘だって?俺が、間違っているとでも言う気か?俺は、人として当たり前の事を言っているだけだ!」

人として当たり前、ねぇ……。全く、本当に手のかかるガキだ。

 

ハジメ「お前、殺し合いの意味を本当に理解していたのか?

この期に及んで人の死に目を見るのが嫌だとか、無抵抗だから殺しちゃダメだとか……

甘すぎるにも程があるぞ?そもそも助けに来た奴に対して、八つ当たりをする方が言語道断だろうが。

いい加減、そのご都合主義も大概にしやがれ。自覚のない行動程質の悪ィもんはねぇぞ。」

光輝「ち、違う!勝手な事言うな!お前が無抵抗の人を殺したのは事実だろうが!」

ハジメ「敵を殺すことの何が悪い?仲間を守るためなら、俺は世界を破壊することも辞さないぞ?」

光輝「なっ!?何がって、人殺しだぞ!悪いに決まってるだろ!」

ハジメ「……戦争中の相手に殺人罪が適用されるとでも?ここは戦場だ。そんな下らんルールなどない。

敗者は全てを失い、勝者こそが全てを手にする。生き残るためなら、他の命を喰らうのも当たり前。

それがここの掟だ。それすらも否定する上で、俺の邪魔をするのなら……」

 

ブンッ!ブワァッ!

拳を振り抜き、光輝の顔面手前で寸止めする。

光輝「!?」

視認できない速度で、一瞬の内に距離を詰められたのだ。

驚くのも無理はないが、今はそんなことどうでもいい。

俺は"威圧"も込めた上で、光輝に言い放った。

 

ハジメ「たとえお前が仲間であろうとも、容赦するつもりはない。」

光輝「お、おま、え……」

ハジメ「これで話は終わりだ。他の奴等も分かったな?俺達はもう行く。

これ以上文句を垂れる奴がいるなら、一生そこでグチグチ言ってろ。後は知らん。

勝手に野垂れ死ぬなり、ついてくるなり、好きにしやがれ。」

 

それだけ言うと、何も答えず生唾を飲む光輝をひと睨みし、踵を返した。

"威圧"も解かれたのか、他の奴等は複雑そうな眼差しで俺を見ている。

が、そんなことも気にせず、俺はユエ達を連れて、帰る事にした。

勿論、香織達もついていくので、他の奴等も一緒だ。

 

地上へ向かう道中、精神面で疲れたので、イナバや召喚したライダーたちに魔物たちの相手を任せた。

途中、鈴の中のおっさんが騒ぎ出しユエ達にあれこれ話しかけたり、俺に何があったのか質問攻めにしたり、4人が余り相手にしてくれないと悟るとシアの巨乳とウサミミを狙いだしたりして、雫に物理的に止められたり、男子どもがユエ達に下心満載で話しかけて完全に無視されたり、それでもしつこく付き纏った挙句、無断でシアのウサミミに触ろうとしてきたので、俺自ら制裁(歯を全部へし折ったり、顔面が膨れ上がるまでボコボコにしたり、本気の殺気をぶつけたり……)して恐怖を刻み込んだり、遠藤のケアをしたり、香織を慰めたり、雫の相談に乗ったり、恵理とトシがいちゃついたり、ミュウにハァハァしていた男子を血祭りにあげたり……道中の方が疲れた気がする。

 

そして、70階層にて。

ハジメ「メルドさん、これはどういうことなんです?何故、戦争で人を殺す覚悟が、彼等にないんですか?」

メルド「それは……。」

俺はメルドさん達に早々に説教をかましていた。

勿論生きていたことに驚いてるうちに、有無を言わさずに、だ。

光輝が何やら言いたげな顔をして寄ってきたが、すかさず"威圧"で黙らせる。

 

ハジメ「本来なら、もう既に賊程度殺してもおかしくない強さです。

それなのに、何故それをしていないんです?

もし、躊躇している間に殺されたら、どう責任をとるおつもりなんですか?」

メルド「……弁解のしようも無いな。」

まぁ、色々世話に放っているからこのくらいにはしておくが。

 

ハジメ「……まぁ、貴方の人柄から見るに、迷っていたんでしょうね。

教会の人間に比べれば、まともそうですし。何より、初対面の俺等に優しかったのですから。」

メルド「そこまで看破しているとはな……恐れ入った。」

ハジメ「貴方には迷宮前では大変お世話になりましたから。だからせめて、今後からはお願いします。

魔人族がすでに迷宮にいた時点で、近いうちに大きな戦争が起きるかもしれないことが予想されます。」

メルド「!あぁ、早急に対処することにする。それと、すまない。」

部下の人達も同じ気持ちか……どうしてこんなにいい人達が少ないんだろうか。

 

まぁ、色々あったものの、俺達は無事迷宮を脱出した。

さて、明日はいよいよグリューエンに出発だ!




ハジメ
「ここまで読んでいただき、ありがとうございました!さて、今回のゲストは!」
浩介(卿)
「我だ。」
ハジメ
「お前かい。」
浩介
「暇を持て余した。」
ハジメ
「神々の、遊び……じゃねぇんだわ。浩介、卿はしまいなさい。」
浩介
「いやぁ、一回出しとかないとまたうっかり出てきそうで……」
ハジメ
「お前も難儀だなぁ……。まぁいい、今作のお前は原作よりも優遇されるはずだ……多分。」
浩介
「そうか……。なら、希望を抱いて、次回予告に行くか。」

次回予告
ハジメ
「ようやく出発のときになったなぁ。そんな時に、香織からの告白が!」
浩介
「そこへ何故か割り込む勇者。KY発言の連発。」
ハジメ
「そして、戦いにすらならないであろう決闘が今、始まろうとしていた!」
浩介
「頼むから、トラウマ刻み付けるような真似だけは止めてくれ。」
ハジメ
「失礼な、ただボコるだけだ。あと、意外なゲストも登場するぞ。」
浩介(卿)
「皆、運命の時を待つがよい!……やっぱり、ダメだったよ……。」

ユウレンさん、リースティアさん、誤字報告ありがとうございました!


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45.ハジメ、キレる

ハジメ
「お待たせいたしました!さぁて、今回のオープニングゲスト、Come On!」

「ハジメ君、毎回このノリで行くのね……。どうも、八重樫雫です。」
ハジメ
「ツンデレポニテ侍恋愛思考ヒロインという、属性マシマシな苦労人!八重樫雫さんだァー!」

「ハジメ君……?」
ハジメ
「ごめんなさい……ノリで紹介したかったんです……。」

「……ハァ、まぁいいわ。それで、え~と、前回のあらすじだったわね。」
ハジメ
「ハザードは止まらなかった。以上。」

「貴方が止めなかっただけでしょ。それじゃ、第4章第7話」
ハジメ・雫
「「それでは、どうぞ!」」


そして翌日の早朝……

俺達はホルアドの郊外にまで来ていた。そろそろ出発しないといけないからな。

そんな俺達の後ろには、香織達がついてきていた。……しかも全員で。

見送りにしては少しは多いな……。香織に至っては大荷物だし。

 

と、呑気に思っていると、前方に悪意のある集団の気配を感じた。

10人程の男共が進路を塞ぐ様に立ちはだかっているな。

ならず者A「おいおい、どこ行こうってんだ?

俺らの仲間ボロ雑巾みたいにしておいて、詫びの一つもないってのか?アァ!?」

 

薄汚い格好の武装した男が、厭らしく顔を歪めながら俺達を見てそんな事を言う。

ハジメ「はて、あんた等のような連中と面識なぞなかったはずだが……?」

ならず者A「テメェ…!ギルドで仲間を吹っ飛ばしてくれやがったくせに…!」

あぁ、あの時の奴等の……ただの言いがかりだな。つかその下卑た視線が不愉快だな。

すると何を勘違いしたのか、ならず者共は増長して、好き勝手言い始めた。

 

ならず者A「ガキィ、わかってんだろ?死にたくなかったら、女置いてさっさと消えろ!

なぁ~に、きっちり詫び入れてもらったら返してやるよ!」

ならず者B「まぁそん時には、既に壊れてるだろうけどな~。」

……耳障りだな。しかもミュウにも手を出そうとは……。

 

ハジメ「不遜よなぁ。」

ならず者A「アァ!?なんd「"堕天潰"」グペッ!?」ドゴォッ!

抗議の声を上げる間もなく、愚か者共は地面のシミとなった。……が、敢えて時間を戻した。

 

ハジメ「……死ね、害獣共。」

―――アッー♂!?

―――モウヤメテー!?

―――オカァチャーン!?

全員の股間に"堕天潰"を喰らわせた。

せっかくだ、クリスタベルのところにでも持っていくか。

 

ハジメ「全く、この世界の男共はこんな奴等ばかりなのか?

これでは、サキュバスが来たら全滅だな。……ミュウ、もう大丈夫だぞ。」

ミュウ「パパかっこいいの~!」

他の奴等がドン引きしているが……どうでもよいな。

そもそもこんなのが冒険者だというのが不快だ。

纏めて洲巻にした後、時間停止中に連続オーロラカーテンを使い、ブルックに放り込んだ。

 

ティオ「また容赦なくやったのぅ、流石ご主人様じゃ。

女の敵とはいえ、少々同情の念が湧いたぞ?」

ハジメ「文句ならあのクズ共に言って。俺は罰を下しただけだし。」

シア「いつになく怒ってましたね~。やっぱり、ミュウちゃんが原因ですか?

過保護に磨きがかかっている様な……。」

ユエ「……ん、それもあるけど……私達の事でも怒ってた。」

ハジメ「当たり前だ。勝手に人の女や娘に手を出そうとしたんだ。

これ位当然だろう?」

トシ「まぁ、当然と言えば当然だな。」

イナバ「きゅふ。(自業自得でさぁ。)」

オスカー『右に同じく。』

ミレディ「オーちゃんまで……。」

 

と、そんなやり取りをしていると、香織が歩み寄ってきた。

これは……一緒に行きたいのかな?

香織「ハジメくん、私もハジメくんに付いて行かせてくれないかな?

……ううん、絶対付いて行くから、よろしくね?」

決定事項かい……まぁ、それはいいが。

 

ハジメ「……一つ聞いてもいい?」

香織「!な、何かな?」

ハジメ「ついていく理由だけ、教えて欲しい。香織の口から、俺は聞きたい。」

俺がそう言うと、香織はまるで祈りを捧げる様に両手を胸の前で組み、頬を真っ赤に染めて大きく息を吸った。

深く長い深呼吸の後、その言葉は告げられた。

 

香織「貴方が好きです。」

ハジメ「……分かった。」

香織の覚悟が籠った告白に対し、俺は簡単にそう告げた。

別に興味がなかったわけじゃあない。ただ単に、顔を合わせ辛かっただけだ。

理由?

前々から気付いていたとはいえ、口ではっきり言われるとこっぱずかしいんだよ!

あ~俺の馬鹿。何が「香織の口から、俺は聞きたい。」だ、バカヤロー!

 

するとそんな俺の心情を察したのか、ユエ達は温かい視線で次々に言ってきた。

ユエ「ハジメ……照れてる。」

シア「自分で言って照れちゃうなんて……ビックリです。」

ティオ「うぅむ、じゃが言われてみたいセリフでもあるのぉ。」

ミレディ「あっれれ~?もしかしてハジメン、意外と初心(ウブ)?」

ミュウ「照れてるパパ、可愛いの~。」

もうやめてくれ……俺の体はボロボロだ……。

 

イナバ「きゅふぅ!(流石王様、あんな気障なセリフを言うなんて!痺れます!)」

オスカー『大丈夫だよ、僕も何度かそう言うのあったから。』

トシ「言ってる本人が照れてちゃ、隠す意味もねぇな。」

ハジメ「……うるせぃ。」

そんな俺達のやり取りが聞こえていた香織に至っては、顔が真っ赤になっている。

 

ハジメ「ま、まぁ、そういう訳でだ!新しい仲間も加わったんだ。皆宜しく頼む!」

ユエ「……ん。正妻の座は譲らない。」

シア「また一人、恋のライバルが増えましたね~!」

ミレディ「でも、回復役が増えるのは結構いいからね♪」

ティオ「うむ、神代魔法の幅も広がるからのぅ!」

ミュウ「香織お姉ちゃん、よろしくなの~。」

トシ「あぁ、また一人犠牲者が……。」

何人か違う感じの声が聞こえたが……まぁいいか!と、その時だった。

 

光輝「ま、待て!待ってくれ!意味がわからない。香織が南雲を好き?付いていく?えっ?どういう事なんだ?

なんでいきなりそんな話になる?南雲!お前、いったい香織に何をしたんだ!」

ハジメ「どうしてそうなった。」

当然の如くこれかい。てかなんで、俺が原因確定なんだ。

 

雫「光輝、ハジメ君が何かする訳無いでしょ?冷静に考えなさい。

あんたは気がついてなかったみたいだけど、香織はもうずっと前から彼を想っているのよ。

それこそ、日本にいる時からね。どうして香織が、あんなに頻繁に話しかけていたと思うのよ。」

光輝「雫……何を言っているんだ……

あれは、香織が優しいから、南雲が一人でいるのを可哀想に思ってしてた事だろ?

協調性もやる気もない南雲を、香織が好きになる訳無いじゃないか。」

……野郎、ぶっ殺してやるぅ。そう思っている俺を、浩介と恵理が押さえつけて来た。

 

そこへ、光輝達に気づいた香織が、自らケジメを付けるべく光輝とその後ろの仲間達に語りかけた。

香織「光輝くん、皆、ごめんね。自分勝手だってわかってるけど……

私、どうしてもハジメ君と行きたいの。だから、パーティは抜ける。

本当にごめんなさい。」

そう言って深々と頭を下げる香織に、女性陣はキャーキャーと騒ぎながらエールを贈り、永山パーティの男性陣も気にするなと苦笑いしながら手を振った。

しかし当然、光輝(このおバカ)は納得しない。

 

光輝「嘘だろ?だって、おかしいじゃないか。香織は、ずっと俺の傍にいたし……

これからも同じだろ?香織は、俺の幼馴染で……だから……

俺と一緒にいるのが当然だ。そうだろ、香織。」

オイ、俺はいない者扱いかコノヤロー。

香織「えっと……光輝くん。確かに私達は幼馴染だけど……

だからってずっと一緒にいる訳じゃないよ?

それこそ、当然だと思うのだけど……。それに、ハジメ君も幼馴染だし……。」

雫「そうよ光輝、香織は別にあんたのものじゃないんだから、何をどうしようと決めるのは香織自身よ。

いい加減にしなさい。」

幼馴染の二人にそう言われ、呆然とする光輝。その視線が何故か俺の方に向く。

そこで何故俺を見る。すると光輝は、とんでもないことを言い出した。

 

光輝「香織。行ってはダメだ。これは、香織の為に言っているんだ。

見てくれ、あの男を。女の子を何人も侍らして、あんな小さな子まで……

しかも兎人族の女の子は奴隷の首輪まで付けさせられている。

黒髪の女性もさっき彼の事を『ご主人様』って呼んでいた。

きっと、そう呼ぶ様に強制されたんだ。

南雲は、女性をコレクションか何かと勘違いしている。最低だ。

人だって簡単に殺せるし、強力な武器を持っているのに、仲間である俺達に協力しようともしない。

何より、"魔王になる"が口癖の南雲だ。

きっと碌でもないことを考えているに違いない。

香織、あいつに付いて行っても不幸になるだけだ。

だから、ここに残った方がいい。いや、残るんだ。

例え恨まれても、君の為に俺は君を止めるぞ。絶対に行かせはしない!」

光輝の余りに突飛な物言いに、香織達が唖然とする。

てか碌でもないとは何だテメェ。後、ミュウは俺の娘だ。

しかもヒートアップしているのか、ユエ達にまで話しかけてきた。

 

光輝「君達もだ。これ以上、その男の元にいるべきじゃない。

俺と一緒に行こう!君達程の実力なら歓迎するよ。共に人々を救うんだ。

シア、だったかな?安心してくれ。

俺と共に来てくれるなら直ぐに奴隷から解放する。

ティオも、もうご主人様なんて呼ばなくていいんだ。」

そんな事を言って爽やかな笑顔を浮かべながら、ユエ達に手を差し伸べる光輝。

 

雫は顔を手で覆いながら天を仰ぎ、香織は開いた口が塞がらない。

浩介も「ダメだこりゃ。」と呟いた。

恵理は呆れてものも言えないという風で、隣にいるトシと顔を合わせ、溜息をついた。

そして、光輝に笑顔と共に誘いを受けたユエ達はというと……

 

ユエ・シア・ティオ・ミレディ「「「「……。」」」」

もう、言葉も無かった。光輝から視線を逸らし、両手で腕を摩っている。

よく見れば、ユエ達の素肌に鳥肌が立っており、気持ち悪そうに俺の影にそそくさと退避していた。

ある意味結構なダメージだったらしい、ティオでさえ「こんな勇者は嫌じゃ……」と眉を八の字にして寒そうにしている。

そんなユエ達の様子に、手を差し出したまま笑顔が引き攣る光輝。

しかし、そこへ更なる追撃が。

 

ミュウ「パパ~、あのお兄ちゃん、なんか気持ち悪いの~。」

光輝「なッ!?」

ハジメ「ミュウ!?」

流石にこれは俺も驚いていた。ミュウがそこまで言うって、光輝お前……。

当の本人は、幼女に言われたのか相当落ち込んでいる様子だ。

流石に幼女の一撃は重かったか……。

 

そんな光輝を憐れむような目で見ていると、何故か怒った様子で俺を睨みながら聖剣を引き抜いた。

光輝は、もう止まらないと言わんばかりに俺に向けてビシッと指を差し宣言した。

光輝「南雲ハジメ!俺と決闘しろ!真剣勝負だ!

俺が勝ったら、二度と香織には近寄らないでもらう!

そして、そこの彼女達も全員解放してもらう!」

……仕方がない。受けてやるか。

 

ハジメ「いいよ。メルドさん、審判お願いします。」

メルド「う、うむ、分かった。」

さて、どうやって懲らしめて「待ってくださぁ~い!」や……?

声の向く方を見ると、高級そうな馬車がやってきた。

いけない、通行の邪魔だったか?

そう思っていると、意外な人物が馬車から降りてきた。

 

リリィ「ゼェ……ゼェ……ま、間に合いました……。」

香織・雫・光輝「「「リリィ!?」」」

そう、この国の王女様、リリアーナ王女が出てきた。しかも焦った様子で。

その姫様は、何故か俺の方へ向かってきた。……まさか。

 

リリィ「お久しぶりですね、ハジメさん!」

ハジメ「えっ、あ、あぁ、久しぶり、かな?」

いきなりすぎる展開だったので、ちょっと返事が遅れた。というか、何故ここに?

リリィ「ギルド経由でハジメさんの情報を集めていたら、凄い実力の錬成師が冒険者にいると聞きましたので、フューレン支部のギルド長にお話を聞き、ここへ来ました!」

しまった、俺の馬鹿。よりにもよってか!恨むぞ、イルワさん。

てか、ナチュラルに心を読むの止めてくれ。

 

光輝「南雲、お前まさか、リリィにまで手を出しているなんて……!」

ハジメ「誤解だ、俺は無実だ。

告白されてもいない相手と付き合おうだなんて思っていな「私もハジメさんが好きです!」早いなオイ……。」

最早弁解の仕様が無くなったよ、チクショウ……。

雫たちへ助けを求めると……首を横に振っている。四面楚歌か、これはキツイ……。

 

光輝「リリィまでこんなことを言うなんて……やっぱりお前が原因か!」

ハジメ「頼むから話を最後まで聞いてくれ。そして周りを見てくれ。」

光輝「前から"魔王になる"なんて言ってばかりだから、おかしいと思っていたんだ!」

おかしい……コイツ、まだ言うか。

 

光輝「覚悟しろ、南雲!お前の様な最低な奴に、香織達は渡さない!」

ハジメ「別にお前の物になった訳でもないんだが。後、誰の夢がおかしいだコラ。」

光輝「当たり前だろ!"魔王になる"なんてこと自体おかしいに決まっている!

そんな危ない奴に、香織達を傷つけさせたりさせない!」

ハジメ「……(#^ω^)」ビキビキ…

……どうやら、死にたいようだな。丁度いい、ここらで一度お灸をすえてやろう。

 

ハジメ「いいだろう、この際殺す気でかかってこい。

弱っちい貴様にはちょうどいいハンデだろう?」

光輝「何だと!」

ハジメ「……リリィ、ミュウを連れて下がっていろ。

血が飛んで汚れては困るだろう。」

光輝「ッ!行くぞ、南雲!」

リリィとミュウを香織に預けている私の返事も聞かず、光輝は聖剣を抜いて、猛然とこちらに向かってきている。

なので、こちらも遠慮なく蹂躙を開始した。

 

ハジメ「フン。」バキィッ!

光輝「ガッ!?」

まず、すれ違いざまに鳩尾にストレートを食らわし、

ハジメ「ドラァ。」ドカッ!

光輝「グアッ!?」

回し蹴りで吹っ飛ばす。光輝は何度か転がるものの、体勢を立て直している。

だが、そんな暇は与えん。

 

ハジメ「ハッ!」ブゥンッ!

光輝「!?な、なんだこガアァッ!?」バチバチバチィッ!!!

魔力を紋章の形へと変化させ、光輝を縛り付けた。

ハジメ「フンッ!」ズドッ!

光輝「グオッ!?」

光輝を引き寄せ、タイミング良く蹴る。するとそのまま紋章にぶつかる。

光輝「グアァッ!?」バチバチバチィッ!

そしてまた引き寄せては蹴り、引き寄せては蹴りを繰り返す。

これぐらいがちょうどいいだろう。

 

香織「ハジメ君ストップ!もう光輝君のライフはゼロだよ!?」

雫「流石にそれ以上は止めてあげて!?

光輝が考えるのをやめたような顔になっているから!」

浩介「相変わらずえぐいなオイ!」

恵理「これは酷い。」

向こうで何やら言っているようだが……死んだら時間を戻せばよいだけだろう。

とはいえ、何度かやっていると流石に飽きたので、一旦解除して光輝を回復させた。

 

光輝「グッ……ウゥ……。」

ハジメ「どうした?貴様本当にやる気があるのか?

これならイナバの方がまだ強いぞ?」

光輝「ッ!煩い!」ブンッ!

そう言って聖剣を振り回すが、遅すぎてあくびが出そうだ。

そのまま掴んで固定する。

 

光輝「クッ!天爪流雨ッ!」ドォンッ!

ハジメ「ほぅ、そう来たか!少しだけ褒めてやろう。」ヒョイ

そう言って体をそらし、砲撃を避ける。勿論、剣は掴んだままだ。

 

光輝「なっ……!」

ハジメ「さて、そろそろ終わらせようか。これ以上は虐めになるのでな。」パッ

そう言って私は"錬成"を発動し、聖剣を放して光輝を押した。

すると当然後ろに倒れるわけで……。

 

ズボッ!

光輝が地面の中に埋まった。いわゆる落とし穴だ。

その中には片手間で作った閃光手榴弾と衝撃手榴弾、麻痺手榴弾と催涙手榴弾が入っている。

もう一度錬成で空気穴以外を塞げば、このとおり。

勇者(笑)(フリージア)の出来上がりだ。

止めに"錬成"で底の地面を勢い良く浮き上がらせ、光輝を打ち上げた。

 

ドシャッ!

そして落ちてきた光輝を、衝撃緩和の名目で蹴り飛ばした。

倒れた様はまさにヤムチャのようだ。

ハジメ「さてと、そう言えば何と言っていたかな?」

そう言いながら、私は冷たい視線で光輝を見下ろした。

 

ハジメ「実力すらない愚か者が、誰に勝つだと?」

そう言うと、死なない程度に回復して、後はすっ転がした。

ハジメ「それで?まだ文句がある奴はいるのか?いるならさっさと来たらどうだ?」

気絶している光輝の頭を踏みつけながら、私は周りを見渡した。

 

檜山「ま、待ってくれ!いくら何でも白崎がいなくなるのはマズいだろ!

白崎が抜けたら、今度こそ死人が出るかもしれない!なぁ、わかるだろ!?」

……昨日騒いでいた奴か。面倒この上ない。

ハジメ「おい餓鬼。そんなに死ぬのが怖いのなら、必死に修練でもしたらどうだ?

どうせ碌に研鑽せずに楽観視していただけだろう?

それで死のうが、貴様等の自業自得だ。」

私が冷たくそう突き放すと、そいつは私の方へ向き、何を血迷ったのかこんな発言をした。

 

檜山「ッ!……だったら!南雲が残ってくれよ!今までのことは謝る。

これからは仲よくしようぜ、な?」

……………………………………………………………………………………………………………………は?

浩介(檜山……。)

恵理(このクズ……。)

トシ(救いようがねぇな……。)

何やらトシ達が睨んでいるようだが、一つ言わせてもらおう。

 

ハジメ「貴様は誰だ?

私の記憶に、貴様の様な矮小な餓鬼と知り合った覚えはないが……?」

檜山「な!?何言ってるんだよ!?ホラ、お前を落とした……!」

ハジメ「……あぁ、道理で小物のような印象だったなぁ。」

私がそう言うと、奴は苦虫を嚙み潰したような顔になるが、構わず言い放った。

 

ハジメ「だが、貴様のした事を私は覚えていないのだよ。

生憎、覚えるだけ無駄な記憶故な。覚えてない以上、謝られても困る。」

檜山「!なら……!」

ハジメ「あぁ、勘違いするなよ?私は貴様の願いを聞く道理もないと言ったまでだ。

香織が行くと言った以上、その決定は覆らん。諦めて死ぬ気で鍛えなおしてこい。」

檜山「なッ!?ガッ!?」

驚く奴が何か言おうとしたが、その言葉を紡ぐ前に、私は奴の首を掴むとこう言った。

 

ハジメ「それともう一つ、私が気に入らないからと言って、他の者や私の仲間に手を出してみろ。

この世から貴様の存在が無くなるまで、地獄を見せてやる。助かるだの逃げられるだのなどと思うなよ?」ゴゴゴゴゴゴゴ

その瞬間、膨大な圧がこの場に降り注いだ。但し、対象は一人に集中していた。

その圧を向けられた者は、恐怖のあまり気絶しながら崩れ落ちた。

よく見れば失禁までしている。

全く、品が無い。そう思いながら、奴を投げ捨てた。液体が飛び散って汚いな。

 

ハジメ「私は今、とても機嫌が悪い。

これ以上無駄に時間をとらせるのであれば、それ相応に覚悟しておけ。」

そう言い放つと、キングライナーを召喚し、ユエ達を先に乗せた。

香織に残ってもらおうと、擦り寄ってきた男子どもは"威圧"で黙らせた。

 

さて、そろそろ出発するかと思ったその時だった。

???「クククッ、さっきの容赦のなさといい、言動といい、本当に魔王みたいなやつだなぁ。」

雫・メルド・リリィ「「「!」」」

……ハァ、またか。最早相手するのも面倒だというのに。

 

雫・メルド・リリィ「「「ガハルド陛下!?」」」

ガハルド「おぅ、久しぶりだな。俺の女になる気になったか、雫?」

雫「……前言を撤回する気は全くありません。

陛下の申し出はお断りさせて頂きます。」

ガハルド「つれないな。だが、そうでなくては面白くない。

元の世界より、俺がいいと言わせてやろう。

その澄まし顔が俺への慕情で赤く染まる日が楽しみだ。」

見れば、髭面の男が雫を口説いていた。

何故だろうな、見ているだけでとてもイラつく。

すると、何故か私の方を向き、こちらにやってきた。

 

ガハルド「お前が例の錬成師、南雲ハジメか。」

ハジメ「さぁな?

少なくとも、いきなりやって来て名乗らん阿呆に答える義理は無い。」

リリィ「ハジメさん!?」

何やらリリィが焦っているようだが、光輝より強い程度ではどうにもなぁ……。

 

ガハルド「フン、見かけによらず豪言不遜な奴だな。

そんな態度が許されると思っているのか?」

ハジメ「いきなりやってきた挙句、女を口説きに行く奴に言われても、説得力がまるでないな。

大体、礼儀どうこういうのであれば、貴様自身が先に名乗れ。

用事はそこからだろう。」

この男とは何かが絶対に相いれない。そう確信した。

 

メルド「ハジメ!そのお方は、帝国の皇帝陛下だ!

いくら何でも、その態度はいかんぞ!」

帝国……。

ガハルド「オイ、帝国って聞いた途端に、露骨に嫌そうな顔をするな。」

ハジメ「道理で相容れないと思っただけだ。それよりさっさと要件を言え。

こっちは忙しいのだ。」

ガハルド「チッ、愛想のねぇガキめ。まぁいい、ちょうど聞きたいこともある。」

そう言うと、奴は真剣な表情で馬鹿馬鹿しいことを聞いてきた。

 

ガハルド「お前、俺の雫はもう抱いたのか?」

「「「「ぶふぅーー!?」」」」

ハジメ「貴様は猿か?常時盛っているなら、妓楼にでも行って鎮めてこい。

そもそも、付き合ってすらない女性を自分の者のように扱う間抜けに、答える義理もない質問だな。」

私が冷たく返すが、奴は表情を変えていない。

面倒だな……ミュウが風邪をひかぬよう空調を付けておくか。

 

ガハルド「なに、以前雫がお前の「ワー!ワー!」オイ、雫。いくら恥ずかしいからって遮るな。」

雫「陛下!いい加減にしてください!ハジメ君も少しは答えてあげなさい!

面倒なことを言われる前に!」

むぅ……先程の話は初耳だったので少し気になるが……仕方がない。

これも雫の心労軽減のためだ。

ハジメ「私自身、自分から好意を素直に伝えてくれる女性しか抱かないと、心に決めている。

雫からそう言った返事は来ていないのでな。これで満足か?」

私がそう返すと、ガハルドはニヤリと笑みを浮かべた。気持ち悪いなコイツ。

 

ガハルド「そうかそうか、なら雫は俺の妻になる「それは無いな、間違いなく。」……何?」

またもや話が長引きそうだったので、即座に否定して話をぶった切る。

ハジメ「そもそも貴様は、恋の駆け引きというものがなっていない。

しつこいアプローチは、逆に嫌われるぞ?

勿論、これは人事に関しても同じことは言える。

大方、私を引き抜きに来たつもりだろうが、貴様の軍門に下るつもりは毛頭ない。

諦めて国に帰れ。」

私がそう言うと、奴は車内から覗いていたシアを見て、私の逆鱗を踏み抜く発言をした。

 

ガハルド「ほぅ?理由はあの兎人族か?あれくらいの女なら妾nガハッ!?」ドゴォッ!

奴が何かほざいたのでとりあえず殴る。

後退ろうと関係なく殴り飛ばし、容赦なく蹴り潰す。

ドガァッ!ゲシィッ!ズドォッ!バキィッ!

ガハルド「ガッ!?グペッ!?ゲホッ!?グアッ!?」

その不快な目といい口といい、いい加減我慢の限界だ。

よってここで殴殺す「落ち着けって!」!

 

浩介「落ち着けよハジメ。ムカつくのは分かるけど、幾らなんでもやり過ぎだ。」

ハジメ「……。」

分身体で押さえつけてきた浩介の呼びかけで、冷静になった私は皇帝を見た。

……原形が無い位に全体が腫れているな……成程、これはいかん。

 

ハジメ「……悪ぃ。ちょっと八つ当たり気味だったかも。

死なない程度に直しとくわ。」

そう言って、周りを見ると皆ドン引きしていた。

……あちゃ~、これはやっちまったな。

仕方がない、いざとなったら帝国潰して乗っ取ろう。

そう思いながら皇帝を治す俺であった。

すると、恵理がこのタイミングでさらに追撃をかました。

 

恵理「そういえば、私と香織ちゃんのことも口説いていたよね。」

雫「恵理!?何でこのタイミングで!?」

ほぅ……。トシ、やってしまいなさい。

トシ「もうとっくにかけた。水虫が出来て、脇香が酷くなる状態異常だ。」

ハジメ「上出来だ、我が友よ。」

幾分かすっきりしたので、これ位にしておくか。

 

ガハルド「グッ……ったく、ここまでやるか普通?お前、相当な欲張りだな。」

ハジメ「伊達に最高最善の魔王を自負しているわけではないのでな。

民のことを思えば、王はいくらでも強欲になれるものだ。

後、私の仲間は一人として貴様にやらん。」

ガハルド「……何が望みだ?言ってみ「物で釣れると思うな、戯け。」……チィッ。」

さてと、傷はもう直したし、さっさと帰ってもらおうかな。

 

ガハルド「ならせめて、その乗り物に乗せろ。

女もいいがこっちも気になっていたんだ。」

ハジメ「……どうして貴様はそうなのだ。

女好きのダメ人間か、ピュアな少年のどちらかにしておけ。

それにもう出発する故、乗せることは出来ん。諦めろ。」

ガハルド「そう言うなって。何ならこれと同じのをくれ。言い値を払うぞ!」

ハジメ「くどい。金なぞその気になればいくらでも稼げる。さっさと失せろ。

次はないぞ?」

ガハルド「ぬぅ……。それなら何が望みなんだ?」

ハジメ「今の貴様では到底叶えられんな。それだけは言える。話は終わりだ。

行け。」

俺はそう言うと、皇帝をメルドさんに渡した。

終始不機嫌そうだったが、自業自得だ。

 

雫「南雲くん……やっぱり貴方。」

ハジメ「うん?どうかした?」

雫「いぇ……何でもないわ。」

?恵理も浩介も何神妙な顔してんだ?まぁいいや。

 

ハジメ「まぁ、そういう訳で、だ。

また行先で会うかもしれないから、それまで皆を頼む。」

雫「えぇ、分かったわ。それと、出来るだけ、香織の事も見てあげて。」

ハジメ「勿論、出来る限り答えるつもりさ。

そっちも、妹を名乗る不審者(ソウルシスターズ)の相手を頑張って。」

雫「……大きなお世話よ。そっちこそあまりやり過ぎないようにね?

もしまた問題があったら……。」

な、何をする気だ……?

 

雫「貴方に相応しい二つ名を送ってあげるわ。」

ハジメ「出来れば最高最善の魔王に因んだものにしてくれ。

もう既に称号は腹いっぱいだ。」

恵理「兄さん……一体どんな旅を送ってきたの?」

浩介「えっと……色々あるんだよ、きっと。」

浩介、お前だけが俺の味方だ……!

 

とまぁ、そんなこんなでドタバタしていたが、ようやく出発の時だ。

願うことなら、邪魔ものが今度こそ出てこないことを切に願う。

リリィ「あ、あの……!」

うん?リリィ、どうかしたのか?

 

リリィ「いえ、その……もう少しお話だけでも出来たらなって……すみません。」

う~む……これは彼女にも贈り物をしておくべきか。

ハジメ「そうだね、今度王都にもよるつもりだし……その時にゆっくり話そうか。」

リリィ「!ハイ!」

さて、ブローチは送ったから……そうだな、これにしよう。

 

ハジメ「ちょっといいかな?」

リリィ「へ?は、ハジメさん?」

俺はリリィに近づき、ティアラをそっと手に取ると、"錬成"を施した。

フューレンでシアに送った首輪のように、綺麗な宝石と装飾で彩ったティアラに、浄化作用を付与した。

王宮っていうのは、何かと物騒だからなぁ。

一応、毒殺も視野に入れておかないとね。

 

そうして出来たティアラを、そっとリリィに被せる。

ハジメ「念のために、おまじないをかけておいたよ。

これでよければ、受け取ってくれるかい?」

リリィ「!ありがとうございます!」

うん、やっぱり女の子の嬉しそうな顔は最高だ。

ふぃ~、さっきまでのストレスが緩和されていく……。

 

こうして俺達は、旅の仲間に香織を加え、途中から復帰したイナバを連れて、【宿場町ホルアド】を旅立った。

目指すは【グリューエン大火山】近くの【アンカジ公国】だ。

Go West!




ハジメ
「ここまで読んでいただき、ありがとうございます!
さて、今回のゲストは……!」
光輝
「どうも、ご都合解釈勇者です……。」
ハジメ
「元入れなさいよ……。今回散々だったとはいえ、これは「ワー!分かったから!普通にやるからそれ以上は言うな!」お、おぅ……。」
光輝
「どうも、勇者の天之河光輝です!」
ハジメ
「さて、今回で48話になったこの作品。
後2回の投稿が終わったら、50話記念企画をやるらしいぞ。
活動報告欄で聞きたいこともドシドシ送ってくれ!」
光輝
「俺が気絶していた間のことはスルーか……。まぁ、記念企画は楽しみだな。
それじゃ、次回予告だ。」

次回予告
ハジメ
「次回俺いないから、後宜しく。」
光輝
「もっと他にあるだろ!?」
ハジメ
「月下の問答と、愛子誘拐ぐらいでしょ。」
光輝
「何か忘れているぞ!?」
ハジメ
「まぁ、今回は散々だったけど……頑張れ。」
光輝
「そう思うなら、せめて最後まで真面目にやれ!」
ハジメ
「後、終盤でお前もライダーになるから、そこんとこ宜しく!」
光輝
「え!?ちょっ、おまっ!?」

リースティアさん、誤字報告ありがとうございました!


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46.蠢く悪意

ハジメ
「お待たせいたしました!さて、今回のオープニングゲストは、こちら!」
愛子
「えっと……どうも!畑山愛子です!」
ハジメ
「豊穣の女神、AIKOだァー!」
愛子
「ハジメ君!その名前で呼ばないで下さいって言ったじゃないですか!」
ハジメ
「ごめんて。さてそれじゃ、前回のあらすじ!
香織とイナバが加わったから、グリューエンに出発だ!」
愛子
「ハジメ君、天之河君や皇帝陛下にも暴力奮ってましたよね?」
ハジメ
「人聞きの悪いこと言わないでよ。俺はただ、懲らしめてやっただけだって。」
愛子
「限度があります!せめて今度からは、自重してください!」
ハジメ
「へいへい。それじゃ、第4章第8話、」
ハジメ・愛子
「「それでは、どうぞ!」」


檜山「くそっ!くそっ!何なんだよ!ふざけやがって!」

時間は深夜。

【宿場町ホルアド】の町外れにある公園、その一面に植えられている無数の木々の一本に拳を叩きつけながら、押し殺した声で悪態を吐く男が一人。

軽戦士(笑)、檜山大介である。

檜山の瞳は、憎しみと動揺と焦燥で激しく揺れていた。

それはもう、狂気的と言っても過言ではない醜く濁った瞳だった。

 

???「おやおや、思っていた以上に荒れているね……。まぁ、無理もないか。

愛しい愛しい香織姫が、目の前で他の男に掻っ攫われたのだからねぇ?」

檜山「!?だ、誰だ!?」

檜山が聞き覚えのない声の方へ振り向くと、そこにはローブを被った謎の人物がいた。

 

???「なに、私は怪しい者じゃあない。君の協力者だよ。」

檜山「な、何を言って……!」

???「南雲ハジメが、あの男が憎いのだろう?」

檜山「!……」

檜山のその表情を見たのか、ローブの男はほくそ笑み、さらに続けた。

 

???「恐らくまた会った時には、あの男は更に強くなり、より彼女も彼に惚れこむことになるだろう。

それに対し、今や君の立場は、崖っぷちに等しいままだ。君はそれでいいのかい?」

檜山「ッ!それは……。」

するとローブの男は、懐からある物を取り出した。

それは、ハジメの使うライドウォッチに似ているが、造型が悍ましく禍々しいオーラを纏っていた。

 

???「もし君が力を望むのなら、私がその力を授けよう。

その代わり、君にはあの男を苦しめてほしい。あぁ、肉体面でなくとも構わない。

精神面で自分から死を望むように仕向けてもいい。どうだい?

この取引が成立すれば、君は想い人を手に入れ、私は目的を達成する。

お互いにメリットがある話だとは、思わないかね?」

男の言葉に檜山は、汚泥の様に濁った暗い瞳を爛々と輝かせていた。

 

檜山「……本当に、俺の望みが叶うのか?」

???「勿論だとも。あの男さえ排除してくれれば、後は好きにしてくれてもいい。

それこそ、魔王にだってなることも可能だよ。さぁ、どうする?」

男の言葉に対し、檜山は冷酷に返答した。

 

檜山「……わかった。その力を俺に寄越せ。」

???「いいとも。あぁ、それと。

この力を使う時はなるべく、人にバレないようにね?

何せ、相手は時の王だ。念には念を入れておかなくては。」

檜山「……分かっている。」

もう後戻りはできない。檜山は男からある物を受け取った。

そこに書かれていたのは、歪に書かれた文字と数字だった。

 

《Grand Zi-o》《2019》

 

???「ククク……後はお膳立てをするだけだね。

事を起こすタイミングは、こちらから知らせるよ。

連絡が取りたくなったら、そのウォッチに話しかけてくれ。」

檜山「……あぁ。」

そう答える檜山を見るローブの男の目には、どす黒い悪意が宿っていた。

 


 

一方、町外れの広場で怪しげな会談が行われていた頃、別の場所でも二人の少年少女が月明かりに照らされて佇んでいた。

一方の密談場所とは異なり、その場所は、小さなアーチを描く橋の上だった。

町の裏路地や商店の合間を縫うように設けられた水路に掛けられたものだ。

水路は料理店や宿泊施設が多いことから必要に迫られて多く作られており、そのゆるりと流れる水面には、下弦の月が写り込んでいて、反射した月明かりが橋の上から水面を覗き込む少年の整った顔を照らしていた。

 

もっとも、正確には覗き込んでいるのではなく〝項垂れている〟の方が相応しい表現であり、また、整った顔は暗く沈んでいて普段の輝きからは程遠い有様だった。

そんな、まるで会社が倒産した挙句、多額の借金を背負ってしまった零細企業の元社長が今後の人生に絶望しつつ橋の上で遠くを見ながら黄昏ている姿にそっくりな様相の少年は、我らの勇者天之河光輝である。

 

光輝「……何も言わないのか?」

光輝が、水面の月から目を逸らさずに声をかけた。

その相手は、十年来の幼馴染、行ってしまった女の子の片割れ、八重樫雫だ。

雫は、光輝とは違って橋の欄干に背を預けながら、少し仰け反るように天を仰ぎ空に浮かぶ月を眺めていた。

欄干の向こう側に、トレードマークのポニーテールが風に遊ばれるようにゆらりゆらり揺れている。

視線を合わせない幼馴染の言葉に、雫もやはり視線を合わせず、月を見つめたまま静かに返した。

 

雫「何か言って欲しいの?」

光輝「……。」

何も答えない、いや、答えられない光輝。水面に映る月を眺めていても、頭に浮かぶのは香織が想いを告げたときの光景。

不安と歓喜を心の内に、祈りを捧げるように告げられた想いは、その表情と相まって嘘偽りではないのだと、病気レベルで鈍感な光輝を以てして確信させるものだった。

 

光輝は、香織とは10年来の付き合いがあるが、未だかつて、あれほど可憐で力強く、それでいて見ているこちらが切なくなる、そんな香織の表情は見たことがなかった。まさに、青天の霹靂とはこのことだった。

その表情を思い出す度に、光輝の胸中に言い知れぬ感情が湧き上がってくる。

それは暗く重い、酷くドロドロした感情だ。

無条件に、何の根拠もなく、されど当たり前のように信じていたこと。

香織という幼馴染は、いつだって自分の傍にいて、それはこれからも変わらないという想い。

もっと言えば、香織は自分のものだったのにという想い。つまりは、嫉妬だ。

 

その嫉妬が、恋情から来ているのか、それともただの独占欲から来ているのか、光輝自身にもよく分かっていなかったが、とにかく〝奪われた〟という思いが激しく胸中に渦巻いているのだった。

しかし、〝奪った〟張本人であるハジメ(本人は断固否定するだろうが)と共に行くと決めたのは香織自身であり、また、ハジメという存在そのものと、有り得ないと思っていた現実を否定したくて挑んだ決闘では完膚なきまでに叩きのめされ、自分の惨めさとか、ハジメへの憤りとか、香織の気持ちへの疑いとか、色々な思いが混じり合い、光輝の頭の中はぶちまけたゴミ箱の中身のようにぐちゃぐちゃだった。

 

だから、いつの間にか隣にいて何も言わずに佇んでいるもう一人の幼馴染の女の子に水を向けてみたのだが……返答は、実に素っ気無いものだった。

続く言葉が見つからず、黙り込む光輝。

雫は、そんな光輝をチラリと横目に見ると、眉を八の字に曲げて「仕方ない。」といった雰囲気を醸し出しながら口を開いた。

 

雫「……今、光輝が感じているそれは筋違いというものよ。」

光輝「……筋違い?」

雫から、思いがけず返ってきた言葉に、オウム返しをする光輝。

雫は、月から視線を転じて光輝を見やりながら言葉を続けた。

 

雫「そう。香織はね、最初からあんたのものじゃないのよ?」

光輝「……それは……じゃあ、南雲のものだったとでも言うのか?」

ズバリ、内心を言い当てられ瞳を揺らす光輝は、苦し紛れに、ほとんど悪態ともいうべき反論をした。それに対して雫は、強烈なデコピンでもって応えた。

「いづッ!?」と思わず額を抑える光輝を尻目に、雫は冷ややかな声音で叱責する。

 

雫「お馬鹿。香織は香織自身のものに決まっているでしょ。

何を選ぼうと、何処へ行こうと、それを決めるのは香織自身よ。

当然、誰のものになりたいか……それを決めるのもね。」

光輝「……いつからだ?雫は知っていたんだろ?」

〝何を〟とは問わない。雫は、頷く。

 

雫「小学校の時からね……。

まぁ、ハジメ君はその時は筋トレのことしか頭になかったみたいだけど……。」

光輝「……何だよ、それ。どういうことだ?」

雫「それは、いつか香織自身から聞いて。

私が、勝手に話していいことではないし。」

光輝「じゃあ、本当に、教室で香織が何度も南雲に話しかけていたのは……

その……好きだったから……なのか?」

雫「ええ、そうよ。」

光輝「……。」

 

聞きたくない事実を、至極あっさり告げる雫に、光輝は、恨めしそうな視線を向けた。

もっとも、雫はどこ吹く風だったが。

その態度にも腹が立ってきたのか、光輝は駄々をこねる子供のように胸中の思いを吐き出した。

 

光輝「……何故、南雲なんだ。

日本にいたときのアイツは、オタクだし、やる気はないし、将来は王様になるなんて言ってたおかしな奴じゃないか……。

……俺なら、香織をおざなりに扱ったりはしない。

いつも大切にしていたし、香織のためを思って出来るだけのことをして来たのに……

それに、南雲は、あんな風に女の子達を侍らせて、物扱いまでしてる最低な奴なんだぞ?

それだけじゃない、アイツは人殺しだ!無抵抗の女性を躊躇いなく殺したんだ。

どうかしてるよ!

そうだよ、あんな奴を香織が好きになるなんて、やっぱりおかしい。

何かされたに違いなッ『ズビシッ!』グハッ!?」

 

話しているうちにヒートアップして、ハジメの悪口どころか勝手な事実を捏造し始めた光輝に、再度、雫のデコピン(無拍子ver)が炸裂した。

何をするんだ!と睨む光輝をさらりとスルーして、雫は呆れた表情を見せる。

因みに、陰でこっそり聞いていた浩介は、「もし光輝にボロクソ言われたら?」と、ハジメに聞いたところ、「オカマの群れに放り込む。」と即答していたので、さっきのことについては言わないことにした。

 

雫「また、悪い癖が出てるわよ?

ご都合解釈は止めなさいと今までも注意してきたでしょうに。」

光輝「ご都合解釈って……そんなこと。」

雫「してるでしょ?光輝が、ハジメ君の何を知っているのよ?

日本での事も、こっちでの事も、何も知らないのに……

あの女の子達だって楽しそうな、いえ、むしろ幸せそうな表情だったわよ?

その事実を無視して勝手なこと言って……

今の光輝は、ハジメ君を香織にふさわしくない悪者に仕立てあげたいだけでしょうが。それを、ご都合解釈と言わずして何て言うのよ?」

 

光輝「だ、だけど……人殺しは事実だろ!」

雫「……あの時、私は、彼女を殺すつもりだったわ。

私だけじゃない、清水君も、恵理も、遠藤君も……そして香織も。

これから先も……同じ事があれば、私はきっと、殺意を以て刀を振るう。

生き残るために。

私自身と大切な人達のために。本当に出来るかは、その時になってみないと分からないけどね……

一応、殺人未遂なわけだけど……私のことも人殺しだと軽蔑する?」

 

光輝は、雫の告白に絶句する。

幼馴染が、面倒見がよく責任感と正義感も人一倍強い雫が、本気で殺意を抱いていたと聞いて、急に遠い存在に思えてしまった。

しかも、香織も殺意を抱いていたことにも、ショックを受けてしまっていた。

しかし、雫の苦笑いの中に、人を害することへの憂いと恐怖の影がチラついている気がして、光輝は頭を振った。

 

そんな光輝を見つつ、雫は、独白とも言える話を続けた。

雫「確かに、今朝の彼の変貌には驚いたけどね……

日本にいた時の彼の性格を考えると、別人と言っても過言じゃないもの……

まぁ、香織はそれでも彼を思っていたみたいだし、全てが変わったわけではないのでしょうけど……

忘れてはならないのは、彼が、私達を助けるために彼女と戦って、私達の代わりに殺したんだってことよ。」

 

光輝「……殺したことが正しいっていうのか。」

雫「正しくは……ないのでしょうね。人殺しは人殺しだもの……

正当化は出来ないし、してはならないのでしょう。」

光輝「だったら……。」

雫「それでも、私達にハジメ君を責める資格はないわ。

結果を委ねてしまったのは、他ならない私達なのだから……。」

 

要するに、文句があるなら、自分でどうにかすればよかったということだ。

望んだ結果を導き出すことが出来なかったのは、単純にそれだけの実力がなかったから。

他人に、全てを任せておいて、その結果にだけ文句を言うなどお門違いもいいところである。

 

言外に、そう言われたことに気がついた光輝は、ハジメが無双している間、何も出来ずに動けなかった自分を思い出し、反論出来ずにむっつりと黙り込んだ。

その表情には、「でも人殺しが間違っているのは事実だ!」という不満が、ありありと浮かんでいる。

そんな頑固な光輝に、雫は諭すような口調で、今までも暗に忠告して来たことを、この世界に来て自分自身感じた事を交えて語った。

 

雫「光輝の、真っ直ぐなところや正義感の強いところは嫌いじゃないわ。」

光輝「……雫。」

雫「でもね。

もうそろそろ、自分の正しさを疑えるようになってもいいと思うのよ。」

光輝「正しさを疑う?」

 

雫「ええ。確かに、強い思いは、物事を成し遂げるのに必要なものよ。

でも、それを常に疑わず盲信して走り続ければ何処かで歪みが生まれる。

だから、その時、その場所で関係するあらゆることを受け止めて、自分の想いは果たして貫くことが正しいのか、あるいは間違っていると分かった上で、〝それでも〟とやるべきなのか……

それを、考え続けなければならないんじゃないかしら?

……本当に、正しく生きるというのは至難よね。

この世界に来て、魔物とはいえ命を切り裂いて……そう思うようになったわ。」

それに、と雫は続けた。

 

雫「私達がこの世界に来た初日、ハジメ君が言っていたこと、覚えている?」

光輝「……何?」

どうやら忘れてしまっているようだ。そんな光輝に溜息をつくも、さらに続ける。

雫「"戦争である以上、間違いなく誰かが死んで、誰かに殺される。"

"戦争はどんな汚い手を使っても、勝てば全て許される世界。"

彼が言ったこの二つの言葉の意味、分かっているのよね?」

光輝「!それ、は……。」

 

雫「彼はこの世界に来ていた時点で、戦争というのを理解していた。

もし彼がそれに気づかせてくれていなかったら、私達は人を殺す覚悟のないまま、戦場に駆り出されていたのかもしれないのよ?

そんな状態で行っても、直ぐに殺されていたかもしれない。

……今でも時々、戦場で自分が殺される夢を見てゾッとするわ。」

 

雫が、魔物を殺す時やこの世界に来た時、そんな事を考えていたとは露知らず、光輝は驚きで目を丸くした。

雫「光輝。

常にあんたが正しいわけではないし、例え正しくても、その正しさが凶器になることもあるってことを知ってちょうだい。

まぁ、今回のご都合解釈は、あんたの思い込みから生じる〝正しさ〟が原因ではなくて、唯の嫉妬心みたいだけど。」

光輝「い、いや、俺は嫉妬なんて……。」

雫「そこで誤魔化しやら言い訳やらするのは、格好悪いわよ?」

光輝「……。」

 

再び俯いて、水面の月を眺め始めた光輝。ただ、先程のような暗い雰囲気は薄れ、何かを深く考えているようだった。

取り敢えず、負のスパイラルに突入して暴走という事態は避けられそうだと、幼馴染の暴走癖を知る雫はホッと息を吐いた。

そして、今は、一人になる時間が必要だろうと、もたれていた欄干から体を起こし、そっとその場を離れようとした。

そんな踵を返した雫の背に光輝の声がポツリとかかる。

 

光輝「雫は……何処にも行かないよな?」

雫「……いきなりなによ?」

光輝「……行くなよ、雫。」

雫「……。」

 

どこか懇願するような響きを持った光輝の言葉。

光輝に惚れている日本の生徒達や王国の令嬢達が聞けばキャーキャー言いそうなセリフだったが、生憎、雫が見せた表情は"呆れ"だった。

香織がいなくなった喪失感に弱っているのかもしれないが……

雫はチラリと肩越しに揺らめく月を見やった。

先程から、光輝がずっと眺めていた水面の月だ。

 

雫「少なくとも私はその"月"ではないけれど……縋ってくるような男はお断りよ。」

それだけ言い残し、雫は、その場を後にした。

残された光輝は、雫が消えた路地をしばらく見つめたあと、再び、水面の月に視線を移す。

そして、先程の言葉の意味に気がついた。

 

光輝「……水月……か。」

鏡花水月。

それは、鏡に映る花や水に映る月のように、目に見えれど手に取ることが出来ないものを差す言葉。

無意識に眺めていた水面の月を香織とするなら、確かに手に取れないものなのかもしれない。

あの時の、ハジメに想いを告げた時の香織の表情を見るならば。

 

雫は、自分を"水月"ではないと言った。手に取れる可能性があるのだ。

だが、そのあとの言葉は痛烈だ。思わず、光輝は苦笑いする。

幼馴染の女の子に自分は何を言っているんだと。

光輝は、幻の月を眺めるのは止めて、天を仰いだ。

手を伸ばせば無条件に届くと信じて疑わなかった"それ"が、やけに遠く感じる。

光輝は、深い溜息を吐きながら、厳しくとも優しい幼馴染の言葉をじっくり考え始めた。

変わるのか、変わらないのか……それは光輝次第だ。

*1

 


 

時間は少し進む。

光輝達が、【宿場町ホルアド】にて、再会によって受けた衝撃と別れによる複雑な心情を持て余していた夜から三週間程経った。

現在、光輝達は王都に戻って来ていた。

理由は唯一つ。光輝達の致命的な欠点──"人を殺す"事について浅慮が過ぎるという点を克服する為だ。魔人族との戦争に参加するなら、"人殺し"の経験は必ず必要となる。

克服できなければ、戦争に参加しても返り討ちに遭うだけなのだから。

 

尤も、考える時間はもうあまり残されていないと考えるのが妥当だ。

【ウルの町】での出来事は既に光輝達の耳にも入っており、自分達が襲撃を受けた事からも、魔人族の動きが活発になっている事は明らかだ。

それはつまり、開戦が近いという事。

故に光輝達は出来るだけ早く、この問題を何かしらの形で乗り越えねばならなかった。

 

そんな光輝達はというと、現在只管メルド率いる騎士達と対人戦の訓練を行っていた。

龍太郎や近藤達、永山達も、ある程度の覚悟はあったものの、実際ハジメが女魔人族を殺す瞬間を見て、自分にも出来るのかと自問自答を繰り返していた。

時間は無いものの、無理に人殺しをさせて壊れてしまっては元も子も無いので、騎士団員達も頭を悩ませている。

 

一方、雫、恵理、浩介の三人は至って平然としており、それはそれでどうなのかと、思う騎士団員もいるとかなんとか。

またどういった風の吹き回しか、光輝も雫やメルドに対人戦を時々申し込んでいる。

勇者としての自覚か、それとも自分を打ちのめした魔王に対する対抗心か……

そんなある意味鬱屈した彼等に、その日ちょっとした朗報が飛び込んできた。

 

愛子達の帰還だ。

普段なら光輝のカリスマにぐいぐい引っ張られていくクラスメイト達だったが、当の勇者に覇気がないので誰もがどこか沈みがちだった。

手痛い敗戦と直面した問題に折れてしまわないのは、雫や永山といった思慮深い者達のフォローと鈴のムードメイクのおかげだろうが、それでも心に巣食った深い靄を解決するのに信頼出来る身近な大人の存在は有難かった。

誰もが、いつだって自分達の事に一生懸命になってくれる先生にとても会いたかったのだ。

 

愛子の帰還を聞いて、真っ先に行動したのは雫だ。

雫は、色々相談したい事があると先に訓練を切り上げた。

ハジメに対して何かと思うところのありそうなクラスメイト達より先に会って、愛子が予断と偏見を持たない様に客観的な情報の交換をしたかったのだ。

 

ハジメから譲り受けた漆黒の鞘に収まる、これまた漆黒の刀身に片刃造りの妖刀を腰のベルトに差して、王宮の廊下を颯爽と歩く雫。

そんな彼女の姿に、何故か男よりも令嬢やメイドが頬を赤らめている。

世界を超えても雫が抱える頭の痛い問題だ。

自分より年上の女性に「お姉様ァ」と呼ばれるのは本当に勘弁して欲しいのだ。

まぁ、リリィ経由で聞いた「お兄様の妹になり隊」の存在もあるので、幾分かはマシだが。

当の本人は頭を抱えているが、それは雫の知るよしもないだろう。

 

雫は【ウルの町】で、ハジメが色々暴れた事を聞いていたので、愛子からハジメについてどう思ったかも直接聞いてみたかった。

愛子の印象次第では、今も考え込んでいる光輝の心の天秤が、あまり望ましくない方向に傾くかもしれないと思ったからだ。

どこまでも苦労を背負い込む性分である。

 

雫「きっと、ウルでも無茶苦茶して来たのでしょうね……こんな刀をポイッとくれちゃうくらいだし……。何というか、ある意味で魔王に相応しいかもしれないわね。」

そんな事を独り言ちながら、そっと腰の刀に手を這わせる雫。

愛子の部屋を目指しながら、この刀のメンテナンスについて相談する為、国直営の鍛冶師達の下へ訪れた時の事を思い出す。

 

この刀、雫は単純に“黒刀”と呼んでいるが、黒刀をこの国の筆頭鍛冶師に見せた時の事。

最初は“神の使徒”の一人である雫を前に畏まっていた彼だったが、鑑定系の技能を使って黒刀を調べた途端、態度を豹変させて雫の肩を掴みかからんばかりの勢いで迫って来たのだ。

そして、どこで手に入れたのか、誰の作品なのかと、今までの態度が嘘の様に怒涛の質問、いや、尋問をして来たのである。

目を白黒させる雫が、何とか筆頭を落ち着かせ、何事かと尋ね返した。

 

すると彼曰く、これ程の剣は王宮の宝物庫でも見た事が無く、出力や魔力を受けるキャパシティ、武器としての機能性、作りの精密性等、全ての点において聖剣すら軽く凌駕する代物だったのだという。

そして詳しく調べた結果、黒刀は魔力を流し込む事で何かしらの仕掛けが発動するという事が分かった。

また、鞘の方にも仕掛けがあるらしい事も分かった。

刃の部分は、少なくともアザンチウムが含まれているのでまず欠ける事も無く、メンテナンスも殆どいらないという。

 

ただ問題があるとすれば、魔力を流し込む為の魔法陣が無い事である。それも当然だ。

ハジメが直接魔力を操れる事もあるが、元々製作段階で雫以外が使えない様ロックが掛かっているのだ。

尚、その問題に関しては実は解決済みである、

出発前夜、ハジメは外付け用の魔法陣を作成しており、これをブレスレットに付与、身に着けることで武器に流れ込むという仕組みなのだ。

その上、高速魔力回復機能も宝石にあるため、ちょっとの間に魔力補充が可能なのだ。

 

そして、これだけ専門家の自分達が全力を尽くしても一割も解析出来ないという不可解な黒刀に、王国直属の鍛冶師達は闘志を燃やした。

同時に、製作者であるハジメの神格化が起こった。……どこかで魔王が身震いしたそうな。

*1
尚、ハジメさんの場合、こう言っていただろう。

ハジメ「誰しも心には、自分なりの正義がある。俺にも、お前にも。

そこに曲げられないものがある以上、お前がそれについてとやかく言えるもんじゃあない。

昨日の魔人族に対しても、だ。お前の正義を、他人に押し付けるな。

正しさを説くだけじゃ、何も変えられないんだよ。」

 

ハジメ「それとだ、たとえ間違ったとしても、後戻りできないとか思うな。

生きている限り、やり直せる機会なんざ幾らでもあるんだ。

それが出来ないっていうなら、まずは自分を許してやれ。

弱い自分も、嫉妬している自分も、俺を憎いと思っている自分も、だ。

それで前に進めるのなら、俺はいくら憎まれてもいい。

だからお前は、自分が本当に何をするべきなのか、よく考えてくれ。」




ハジメ
「ここまで読んでいただき、ありがとうございます!さて、今回のゲストさん、いらっしゃい!」
龍太郎
「おう!筋トレ大好き、坂上龍太郎だ!」
ハジメ
「さて今回は、俺は名前しか出てこなかったわけだが……光輝、相当言っていたなぁ。」
龍太郎
「オイオイ、その話はもういいだろ。それより、俺等はいつ強化されるんだ?」
ハジメ
「まだ先だよ。少なくとも、浩介よりちょっと後かな?」
龍太郎
「そっか。まぁ、気長に待つか。それじゃ、次回予告!」

次回予告
ハジメ
「前回、次回は愛子誘拐といったな。あれは嘘だ。」
龍太郎
「いきなりコマンドーかよ……じゃあ記念企画は次の次か?」
ハジメ
「あぁ、折角だし第2クールに合わせる。」
龍太郎
「じゃあ、次の記念は神山後かぁ。」
ハジメ
「次回、愛子の運命や如何に!?」
龍太郎
「エイドリアーン!」


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47.動き出した者達

ハジメ
「お待たせいたしました!さぁて、今回のオープニングゲスト、どうぞ!」
リリィ
「初めまして、皆さま!リリアーナ・S・B・ハイリヒです!」
ハジメ
「異世界の王女リリアーナことリリィだ!さてこの世界の彼女は、社畜道を避けることが出来るのだろうか!?」
リリィ
「社畜道って……いやですねぇ、ハジメさん。私は唯……。」
ハジメ
「ハイ、横道逸れる前に、前回のあらすじ言っちゃおうか!」
リリィ
「……そうですね。前回は光輝さんと雫の問答でしたね。」
ハジメ
「裏でコソコソ動き回っていやがるウジ虫もいたみてぇだが……はてさてどうなることやら。」
リリィ
「フフッ、ハジメさんなら、"なんかいける気が"しますね。第4章第9話、」
ハジメ・リリィ
「「それでは、どうぞ!」」


愛子が帰ってきたのは、それから30分程してからだった。

廊下の奥からトボトボと、何だかしょげかえった様子で、それでも必死に頭を巡らせているとわかる深刻な表情をしながら前も見ずに歩いてくる。

そして、そのまま自分の部屋の扉とその横に立っている雫にも気づかず通り過ぎようとした。

雫は、一体何があったのだと訝しそうにしながら、愛子を呼び止めた。

 

雫「先生……先生!」

愛子「ほえっ!?」

奇怪な声を上げてビクリと体を震わせた愛子は、キョロキョロと辺りを見回し漸く雫の存在に気がつく。

そして雫の元気そうな姿にホッと安堵の吐息を漏らすと共に、嬉しそうに表情を綻ばせた。

 

愛子「八重樫さん!お久しぶりですね。元気でしたか?怪我はしていませんか?他の皆も無事ですか?」

今の今まで沈んでいたというのに、口から飛び出るのは生徒への心配事ばかり。

相変わらずの“愛ちゃん先生”の姿に、自然と雫の頬も綻び、同時に安心感が胸中を満たす。

暫し二人は再会と互いの無事を喜び、その後情報交換と相談事の為愛子の部屋へと入っていった。

 

雫「ハジメ君、そんなに日本食食べたかったんですね……。」

雫と愛子、二人っきりの部屋で、可愛らしい猫脚テーブルを挟んで紅茶を飲みながら互いに何があったのか情報を交換する。

そして、愛子から【ウルの町】であった事の次第を聞き、雫が最初に発した言葉がそれだった。

 

雫「それにしても、やっぱりハジメ君は凄いですね。

清水君や先生達だけじゃなく、ウルの町まで救っちゃうなんて……

彼には本当に感謝ですね。」

愛子は微笑みかけてくる雫に、同じく微笑みを返した。

愛子「そうですね。再会してからも皆を気にかけていましたし……。

八重樫さん達を助けに来てくれただけでなく、小さな子の保護まで……

ふふ、頼もしい限りです。」

 

そう言って遠い目をする愛子の頬は……何故か薄らと染まっている。

雫は「一生徒を思い出すにしては、何だか妙な雰囲気じゃない?」と訝しみ、「ふふっ」と時折思い出し笑いをする愛子を注視した。

 

その視線に気がついた愛子が「コホンッ!」と咳払いをして居住まいを正す。

しかし取り繕った感は消せなかったので、何となく感じる嫌な予感に頬を引き攣らせつつ、雫は少し踏み込んでみる事にした。

まさか、いくらなんでもそれはないだろうと半ば自分に言い聞かせながら。

雫「そう言えば先生、そのブローチ、綺麗ですね。誰かからの贈り物ですか?」

愛子「えっ!?えぇ、ハジメ君から……。」

 

愛子が首から下げていたブローチを見て、それが原因ではないかと当たりをつけていたが、あえて知らないフリをして聞いてみた。

すると、先程よりも一層、頬を赤らめ始めた愛子。

視線は泳ぎまくり、ゴニョゴニョと口ごもって中々話しだそうとしない。

……実に怪しい。

雫は剣士らしく、一気に切り込んだ。

 

雫「……先生。ハジメ君と……何かありました?」

愛子「あ、ありませんよ?な、何かって何ですか?

普通に、私と彼は教師と生徒ですのよ!」

雫「先生。落ち着いて下さい。口調がおかしくなってます。」

愛子「!?」

激しく動揺している愛子。必死に「私は教師、私は教師……」と呟いている。

本人は心の中だけで呟いているつもりなのだろうがダダ漏れだ。

雫は確信した、程度はまだ分からないが、愛子がハジメに対して他の生徒とは異なる特別な感情を抱き始めている事に!

 

雫(ハジメ君!貴方って人は!愛ちゃんに何をしたのよ!)

最早誰が見てもわかるくらい頬を引き攣らせた雫は、心の中で絶叫する。

もうハジメもフラグ建築については光輝の事を言えないレベルだ。

光輝と異なるのは、相手の好意に対して鈍感という訳ではなく、はっきり答えを出すところなのだろうが……愛子に関してはそれも微妙だろう。

というか、ハジメの場合は家臣や妹が増えたりと、ある意味光輝よりも酷いレベルだろう。

 

思わぬところに親友のライバルが潜んでいた事に、雫は引き攣る頬を手で隠しながら天を仰いだ。

何だか無性にハジメの事が憎らしくなり、いっそ何かしら間接的な仕返しをやろうかと危険な考えが過ぎったが……魔王の必至な叫びが聞こえたので、何とか思い止まる。

因みに当の本人は、「二つ名、もう嫌だ……。」と言って震えている。こんな魔王で大丈夫か?

 

愛子と雫は二人して咳払いを繰り返して気を取り直すと、先程のやり取りなど何も無かった様に話を続けた。

雫「それで、先生。陛下への報告の場で何があったのですか?随分と深刻そうでしたけど。」

雫の質問に愛子はハッとすると共に、苦虫を噛み潰した様な表情で憤りと不信感を露わにした。

愛子「……正式に、ハジメ君が異端者認定を受けました。」

雫「!?それは!……どういう事ですか?いえ、何となく予想は出来ますが……それは余りに浅慮な決定では?」

 

ハジメの力は強大だ。たった一人で六万以上の魔物の大群を殲滅した。

ハジメの仲間も、通常では有り得ない程の力を有している。

にも関わらず、聖教教会に非協力的で場合によっては敵対する事も厭わないというスタンス。

王国や聖教教会が危険視するのも頷ける。

 

しかしだからといって、直ちに異端者認定するなど浅慮が過ぎるというものだ。

異端者認定とは、聖教教会の教えに背く異端者を神敵と定めるもので、この認定を受けるという事は何時でも誰にでもハジメの討伐が法の下に許されるという事だ。

場合によっては、神殿騎士や王国軍が動く事もある。

 

そして、異端者認定を理由にハジメに襲いかかれば、それは同時にハジメからも敵対者認定を受けるという事であり、あの容赦無く苛烈で理解不能な攻撃が振るわれるという事だ。

その危険性が上層部に理解出来ない筈がない。

にも関わらず、愛子の報告を聞いて、その場で認定を下したというのだ。雫が驚くのも無理はない。

尤も、ハジメの実力からして「異端認定?上等だ、寧ろ大義名分じゃねぇか!」と言って、教会を殲滅する様子しか見えないだろう。

 

雫がそこまで察している事に、相変わらず頭の回転が早い子だと感心しながら愛子は頷く。

愛子「全くその通りです。

しかも、いくら教会に従わない大きな力とはいえ、結果的にウルの町を救っている上、私がいくら抗議をしてもまるで取り合ってもらえませんでした。

ハジメ君は、こういう事態も予想してウルの町で唯でさえ高い"豊穣の女神"の名声を更に格上げしたのに、です。」

 

愛子は一度言葉を切ると、悩まし気に頭を振った。

愛子「護衛隊の人に聞きましたが、"豊穣の女神"の名と"魔王陛下"の名は、既に相当な広がりを見せているそうです。

今彼を異端者認定する事は、自分達を救った"魔王陛下"と"豊穣の女神"そのものを否定するに等しい行為です。

私の抗議をそう簡単に無視する事など出来ない筈なのです。でも彼等は、強硬に決定を下しました。

明らかにおかしいです。

……今思えば、イシュタルさん達はともかく、陛下達王国側の人達の様子が少しおかしかった様な……。」

 

雫「……それは、気になりますね。彼等が何を考えているのか……

でも取り敢えず考えないといけないのは、唯でさえ強いハジメ君に"誰を"差し向けるつもりなのか?という点ではないでしょうか。」

愛子「……そうですね。恐らくは……。」

雫「ええ。私達でしょう……まっぴらゴメンですよ?私は、まだ死にたくありません。

ハジメ君と敵対するとか……想像するのも嫌です。」

雫がぶるりと体を震わせ、愛子はその気持ちは分かると苦笑いする。

尤も、ハジメさんからすれば当身で十分な気がするが。

 

そして、国と教会側からいい様に言いくるめられてハジメと敵対する前に、愛子は光輝達にハジメから聞いた狂った神の話を話す決意をした。証拠は何もないので、光輝達が信じるかは分からない。

なにせ今まで、魔人族との戦争に勝利すれば神が元の世界に戻してくれると信じて頑張ってきたのだ。

実はその神は愉快犯で、帰してくれる可能性は極めて低く、だから昔神に反逆した者達の住処を探して自力で帰る方法を探そう!等といきなり言われても信じられるものではないだろう。

光輝達が話を聞いた後、戯言だと切って捨てて今まで通り戦うか、それとも信じて別の方針をとるか……

それは愛子にも分からないが、とにかく教会を信じすぎない様に釘を刺す必要はある。

愛子は今回の事で、それを確信した。

 

愛子「八重樫さん。ハジメ君は、自分が話しても信じないどころか、天之河君辺りから反感を買うだろうと予想して、私にだけ話してくれた事があります。」

雫「狂った神の話、ですね?」

愛子「!知っていたのですか!?」

雫「えぇ、清水君から聞きました。光輝には言わないようにと、ハジメ君が言っていたようです。」

愛子「そうですか……。」

愛子はこれから話そうとしていたことを、雫が知っていたことに驚いたのと同時に、ハジメ本人が光輝に言わないよう、釘を刺していたことに疑問を感じた。

 

これにはちゃんとした理由がある。まず、信じなかった場合はハジメさんとの敵対が予測されるだろう。

そこに関しては、ハジメさんは死なない程度にやり過ごせるので問題はないだろう。

しかし、その逆で信じてしまったり、そのことを教会関係者に聞きに行ったりする方が、余程問題なのだ。

もしそうなれば、教会関係者又は神の使徒によって、彼等に危害が及ぶかもしれない。

そう考えた結果、ハジメはこの話を光輝達に秘密にしたのだ。彼らを守るために。

 

愛子「確かに、証拠は何も無い話ですが……とても大事な話なので今晩……

いえ夕方、全員が揃ったら先生からお話したいと思います。」

雫「それは……いえ、分かりました。なんなら今から全員招集しますか?」

愛子「いえ、あまり教会側には知られたくない話なので自然に皆が集まる時、夕食の席で話したいと思います。

久しぶりに生徒達と水入らずで、といえば私達だけで話せるでしょう。」

雫「成程……分かりました。では、夕食の時に。」

その後、雫と愛子は雑談を交わし、程よい時間で分かれた。夕食の約束は守られないと知る由も無く……

 

時刻は夕方。

鮮やかな橙色をその日一日の置き土産に太陽が地平の彼方へと沈む頃、愛子は一人誰もいない廊下を歩いていた。

廊下に面した窓から差し込む夕日が、反対側の壁と床に見事なコントラストを描いている。

夕日の美しさに目を奪われながら夕食に向かう愛子だったが、ふと何者かの気配を感じて足を止めた。

前方を見れば、丁度影になっている部分に女性らしき姿が見える。

廊下のど真ん中で、背筋をスっと伸ばし足を揃えて優雅に佇んでいる。服装は、聖教教会の修道服の様だ。

 

その女性が美しく、しかしどこか機械的な冷たさのある声音で愛子に話しかけた。

???「はじめまして、畑山愛子。あなたを迎えに来ました。」

愛子はその声に何故か背筋に氷塊でも放り込まれた様な気持ちを味わいながらも、初対面の相手に失礼は出来ないと平静を装う。

 

愛子「えっと、はじめまして。迎えに来たというのは……これから生徒達と夕食なのですが。」

???「いいえ、あなたの行き先は本山です。」

愛子「えっ?」

有無を言わせぬ物言いに、思わず愛子が問い返す。

そこで、女性が影から夕日の当たる場所へ進み出てきた。その人物を見て、愛子は息を呑む。

同性の愛子から見ても、思わず見蕩れてしまうくらい美しい女性だったからだ。

 

夕日に反射してキラキラと輝く銀髪に、大きく切れ長の碧眼、少女にも大人の女にも見える不思議で神秘的な顔立ち、全てのパーツが完璧な位置で整っている。

身長は女性にしては高い方で170cmくらいあり、愛子では軽く見上げなければならい。

白磁の様に滑らかで白い肌に、スラリと伸びた手足。

胸は大きすぎず小さすぎず、全体のバランスを考えれば正に絶妙な大きさ。

 

ただ残念なのは、表情が全くない事だ。無表情というより、能面という表現がしっくりくる。

著名な美術作家による最高傑作の彫像だと言われても、疑う者はいないだろう。

それくらい、人間味のない美術品めいた美しさをもった女だった。

 

その女は、息を呑む愛子ににこりともせず淡々と言葉を続けた。

???「あなたが今からしようとしている事を、主は不都合だと感じております。

あなたの生徒がしようとしている事の方が"面白そうだ"と。

なので時が来るまで、あなたには一時的に退場していただきます。」

愛子「な、何を言って……。」

 

ゆっくり足音も立てずに近寄ってくる美貌の修道女に、愛子は無意識に後退る。

刹那、修道女の碧眼が一瞬輝いた様に見えた。途端、愛子の意識に霞が掛かる。

思わず本能的な危機感から、魔法を使う時の様に集中すると弾かれた様に霞が霧散した。

???「……成程、流石は主を差し置いて"神"を名乗るだけはあります。私の"魅了"を弾くとは。

仕方ありません、物理的に連れて行く事にしましょう。」

愛子「こ、来ないで!も、求めるはっ……うっ!?」

 

得体の知れない威圧感に、愛子は咄嗟に魔法を使おうとする。

しかし、詠唱を唱え終わるより早く、一瞬で距離を詰めてきた修道女が迫る。と、その時だった。

ボゥンッ!モワモワ~

???「!?」スカッ!

突如、謎の煙幕が辺り一面を包み、愛子の鳩尾に撃ちこまれるはずだった、修道女の拳は空を切った。

 

それと同時に、どこからか現れた複数の気配が、彼女に組み付いて地面に固定した。

???「ッ!このっ!」

すぐさま振り払い、どこからか出した大剣によって一刀両断するものの、そこからは何も飛び出してこなかった。

血飛沫とか、臓物とかといったものもなく、斬られた遺体はそのまま煙になって消えていった。

 

???「クッ……。何者ですか?」

体勢を立て直した修道女がそう問うものの、返事は煙の中からは帰ってこない。

すると、修道女は魔法で煙を払った。そこには、誰もいなかった。

???「……逃げられましたか。一生の不覚です。」

 

すると、ふと廊下の先に意識を向けて探る様に視線を這わせた。

暫くじっと観察していた修道女は、徐に廊下の先にある客室の扉を開く。

そして中に入り部屋全体を見回すと、わざとらしく足音を立てながらクローゼットに近寄り、勢いよく扉を開けた。

しかし中には何もなく、修道女は再度首を傾げると再び周囲を見渡し、あちこち見て回った。

やがて、開いていた窓からどこかへ逃げたのではと結論づけたのか、踵を返して部屋を出て行った。

部屋の中には誰もいない。

しかし、何処かに遠ざかる足音がほんの僅かに響き、やがて、完全に静寂を取り戻した。

 

数分後、そんな静寂の戻った部屋の中、その部屋の一角にて誰かが出て来た。

先程誘拐されかけた、愛子本人だ。その後ろからは……。

浩介「……どうやら、危機一髪みたいだったな。」(小声)

愛子「……はい、助かりました。遠藤君、ありがとうございます。」(小声)

 

そう、我等が陰の立役者、遠藤浩介である。

実はというと、雫が愛子に話をしに行った時、一緒に来たものの存在を忘れ去られていたのだ。

その悲しさのあまり、泣きそうになったものの、ハジメからとある任務を課せられていることを思い出した。

 

それは"愛子の緊急時の護衛"である。

もし愛子が攫われそうになった場合、上手く逃げるか、最悪の場合時間稼ぎをハジメに頼まれたのだ。

結果は、相手の攪乱に成功はした。

しかしその後どうしたものかと考えていた時、近くの部屋の主に導かれ、この部屋にあった隠し通路に、愛子共々上手く逃げ込んだのだ。

 

浩介「俺が出来たのは、精々時間稼ぎだけだよ。俺よりもリリィに感謝してくれ。」

リリィ「いえ……愛子さんが無事だったのは、間違いなく浩介さんのおかげですよ。」

その部屋の主は、この国の王女リリアーナであった。

実は彼女も、王宮の異変について相談するべく、悄然と出て行った愛子を追いかけ自らの懸念を伝えた。

すると愛子から、ハジメが奈落の底で知った神の事や旅の目的を夕食時に生徒達に話すので、リリアーナも同席して欲しいと頼まれたのだそうだ。

 

愛子の部屋を辞したリリアーナは、夕刻になり愛子達が食事をとる部屋に向かい、その途中、廊下の曲がり角の向こうから愛子と何者かが言い争うのを耳にした。

何事かと壁から覗き見れば、愛子を連れた浩介が、銀髪の教会修道服を着た女から逃げている様子が見えた。

 

それに気づいたリリアーナは慌てて二人に手招きし、すぐ近くの客室に3人で入り込むと、王族のみが知る隠し通路に入り込み息を潜めた。

銀髪の女が探しに来たが、結局、隠し通路自体に気配隠蔽のアーティファクトが使用されていたことに加え、浩介の自前の影の薄さもあり気がつかなかったようで、3人を見つけることなく去っていった。

 

そうして現在、難を逃れた3人は、今後について相談した。

浩介「リリィ、先生、俺はこの通路から王都を出ようと思う。」

リリィ「ハジメさんに会うんですか?」

浩介「現状それしかない。商隊に紛れ込めば、追跡は躱せると思うが……二人はどうする?」

浩介の頭には、先程の修道女すら軽く圧倒するであろう、最高最善の魔王が浮かんでいる。

 

愛子「ここはもう危険ですしね……生徒を置いていくのは心苦しいですが、仕方がありません。」

リリィ「私も同感です。それでは、急ぎましょう。」

浩介「おぅ、さっさと離れるか。また奴が戻ってこないとも限らないし。」

そうして、彼らは王都から脱出した。その商隊がハジメに縁のある者の所とは知らずに……。

 


 

荘厳な往生の広い廊下を、一人の男が歩いていた。

カッ、カッ、と乱暴に踏み鳴らされる足音と男の険しい表情に、すれ違った者達はギョッとした表情をしている。

???「フリード様ッ!」

荒れ狂う内心を自覚無く垂れ流していた男に、張り詰めた様な声が掛かった。

 

フリード「ミハイルか。」

ミハイル「フリード様ッ!カトレアが……カトレアがやられたと!

任務から戻ったら、他の連中が話していて!……嘘ですよね?

カトレアが死んだなんて、そんなのある訳が無い!

だって、アイツにはフリード様のアハトドだってついて───」

フリードと呼ばれた男は取り乱した様子の部下──ミハイルの肩に手を置いた。

ぐっと、何かを堪える様な力強さで。それだけでミハイルは悟った。

【オルクス大迷宮】への任務に旅立った大切な存在が、永遠に帰らぬ人になったという事を。

 

ミハイル「何故……そんな。勇者は、それ程に強力だったのですか?

あれ程の魔物を従えても歯が立たない程に?そんな事が……。」

フリード「落ち着けミハイル、事前の調査に間違いは無い。

今の勇者にカトレアを退ける程の力は無い筈だ。」

ミハイル「ではっ、では何故ッ!」

瞳に絶望を映し、フリードへ掴みかからんばかりの勢いで尋ねるミハイル。

フリードは頭を振ると、徐に関係無さそうな、されど重大な問題を口にした。

 

フリード「ウルの町での任務が、失敗に終わった。」

ミハイル「なッ!?……それはやはり、対象の力が未熟だったと?」

フリード「いや、そうではない。

作戦は成功し、6万の魔物がウルの町ごと豊穣の女神を蹂躙する筈だった。

だが──イレギュラーに潰されたのだ。」

ミハイル「イレ、ギュラー?」

何の事だと首を傾げるミハイルに、フリードはまるで見えない敵を睨みつけるが如く、虚空へ鋭い視線を向けた。

 

フリード「たった一人に、魔物の軍勢を殲滅されたのだ。

おまけに、任務に当たっていたレイスも、堂々と処刑された。」

ミハイル「馬鹿な、レイスまで……。

それにフリード様の強化を受けていない魔物とはいえ、その数をたった一人で?

有り得ない……、それは一体の冗談ですか?」

慄く様にふらついたミハイルへ、フリードは視線を戻す。

 

フリード「冗談であれば良かったのだがな……。

どうやらその怪物、ウルの町を去った後オルクス大迷宮に駆け込んだらしい。

丁度、カトレアが勇者と接触する頃だ。」

ミハイル「ッ!では、カトレアはソイツに……!」

ポタリと、廊下に真っ赤な水滴が落ちた。それは、ミハイルが握り締めた拳より流れ落ちたもの。

湧き上がる憤怒の発露。

 

フリードはミハイルの肩に手を置きつつ、鋭い声音で口を開いた。

フリード「敵は想像以上に強大だ。私はこれより、大火山に向かう。

新たな神代魔法を手に入れ、更に力をつける。何としてもだ。」

ミハイル「フリード様……。」

自分達が信頼する最強の将が、そこまで言う相手。

戦慄を隠せないミハイルに、フリードは味方をして心胆寒からしめる眼差しを向けた。

 

フリード「全ては我等が陛下の為、そして我等の信ずる神の為。

留守を任せるぞミハイル、決戦の時は近い。私がいない間、憤怒を以て牙を研ぎ澄ませておけ。」

ミハイル「ッ、了解です。カトレアの仇は必ず討ちます。」

決然と頷くミハイルに頷き返したフリードは、サッと踵を返した。

背後でミハイルが敬礼するのを感じながら、相棒が待機している場所へと向かう。

 

部下の前故に、抑えられていた感情が徐々に溢れ出す。

その表情は既に、狂気を感じさせる程に歪んでいる。

フリード「我が神より賜った崇高な使命の悉くを潰してくれた代償──高くつくぞ、まだ見ぬ敵よ。

私と相対したその時が、貴様等の終わりだ。異教徒共に、この世界で生きる資格は無い。」

憎悪と憤怒に彩られたフリードは怨嗟にも似た呟きを残し、一刻後夥しい数の魔物を従えて国を後にした。

魔人族の王国──魔国ガーランドを。

 

人間と魔人の戦力的均衡をたった一人で崩した最強の魔人。

奇しくも向かった先は、最高最善の魔王と同じ場所。

果たしてフリードは、無常なる王の裁きを逃れることは出来るのだろうか……。




ハジメ
「ここまで読んでいただき、ありがとうございます!さて、今回のゲストは、もちら!」

「どうも!皆のアイドル、鈴ちゃんだよ~☆」
ハジメ
「小さいおっさん、谷村鈴さんね。」

「……南雲君は鈴のこと嫌いなのかな?」
ハジメ
「アイドルはミュウしか勝たん。」

「……あ、相変わらずの親バカだね。」
ハジメ
「当然だ、ミュウは俺より強い奴にしか嫁にやらんつもりだ。」

「絶対無理な条件だよ!それよりもほら、次回予告行っちゃうよ!」

次回予告
ハジメ
「アニメ第2クール、グリューエンでの道のりだな。」

「ところでこの作品、R-18とかないの?」
ハジメ
「ありません!」

「そんなスペシャルウィーク並に凄まなくても……。」
ハジメ
「因みにうp主はウマ娘やっていないが、バクシン、ダイス、ベガ、キタサン、ネイチャが推しらしい。」

「次回予告と微塵も関係ないよね!?」
ハジメ
「アズレンもやっていたみたいだけど、一番キャラ覚えやすかったのはFGOらしい。記憶力ねぇなコイツ。」

「南雲君、もう止めて!?うp主のライフはもう0だよ!えぇ~と、次回もお楽しみに!」

リースティアさん、誤字報告ありがとうございました!


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原作第5巻~二大迷宮攻略編:2072/襲来のF/親子の絆
48.砂・塵・異・変


ハジメ
「お待たせいたしました。
今回からは他のキャスト陣も加えた会話を盛り込んでいきたいと思っております。
さて、今回の記念すべきトップバッター、カモン!」
優花
「えぇ~と、どうも。」
ハジメ
「雫以上のガチガチツンデレこと園部優花さんです!」
優花
「ちょっと!?どういうこと!?」
ハジメ
「どういうことも何も、ねぇ……?あ、前回のあらすじお願い。」
優花
「その意味深そうな表情は何かしら!?後、質問に答えなさいよ!」
ハジメ
「3つの出来事があったな。
一つ、ハイパータイムジャッカー、やっと登場。
二つ、魔人族の将軍、遂に動く。
そして三つ、愛子、リリィ、浩介の三人が王都からの脱出を試みる!」
優花
「しかも、もう終わり!?…ハァ、まぁいいわ。それじゃ第5章第1話、」
ハジメ・優花
「「それでは、どうぞ!」」


赤銅色の世界。

【グリューエン大砂漠】は、正にそう表現する以外にない場所だった。

砂の色が赤銅色なのは勿論だが、砂自体がキメ細かいのだろう。

常に一定方向から吹く風により易々と舞い上げられた砂が大気の色をも赤銅色に染め上げ、360°見渡す限り一色となっているのだ。

 

また、大小様々な砂丘が無数に存在しており、その表面は風に煽られて常に波立っている。

刻一刻と表面の模様や砂丘の形を変えていく様は、砂漠全体が"生きている"と表現したくなる程だ。

照りつける太陽と、その太陽からの熱を余さず溜め込む砂の大地が強烈な熱気を放っており、40度は軽く超えているだろう。

舞う砂と合わせて、旅の道としては最悪の環境だ。

尤も、それは"普通の"旅人の場合である。

 

現在、そんな過酷な環境を知った事ではないと突き進む赤い巨大な乗り物──

"キングライナー"が、砂埃を後方に巻き上げながら爆走していた。

道なき道だが、そんなの知ったこっちゃない。

 

シア「……外、凄いですね……普通の馬車とかじゃなくて本当に良かったです。」

ティオ「全くじゃ。この環境でどうこうなる程柔い心身ではないが……

流石に、積極的に進みたい場所ではないのぉ。」

ミレディ「ミレディさん達も、こういうの欲しかったね……。」

オスカー『ミレディ、これを作るとなると一ヶ月はかかると思うよ……。』

いや、これを1ヶ月で作れる時点で相当だと思うんだが。

車内で窓にビシバシ当たる砂と赤銅色の外世界を眺めながらシア、ティオ、ミレディ、オスカーがしみじみした様子でそんな事を呟いた。

 

ミュウ「前に来たときとぜんぜん違うの!とっても涼しいし、目も痛くないの!

パパはすごいの!」

香織「そうだね~。ハジメパパは凄いね~。ミュウちゃん、冷たいお水飲む?」

ミュウ「飲むぅ~。香織お姉ちゃん、ありがとうなの~。」

窓際の席で香織の膝の上に抱えられる様にして座るミュウが、以前誘拐されて通った時との違いに興奮した様に万歳して、快適空間を生み出した俺にキラキラした眼差しを送る。

まぁ、当然か。

 

海人族であるミュウにとって、砂漠の横断はどれ程過酷なものだったか。

4歳という幼さを考えれば、寧ろ熱中症や栄養失調で衰弱死しなかった事が不思議なくらいだ。

そんな環境を耐えてきたミュウからすれば、ギャップも相まって驚きも一入だろう。

なにせこのキングライナー、冷暖房は勿論、ホテルにゲーセン、レストランまである超有能列車なのだから。

それはさておいて、と……。

 

ハジメ「香織、流石に同級生からパパって言われるのは、むず痒いからやめてほしいんだが……。」

香織「?でも、ミュウちゃんには普通に呼ばれてるよね?」

ハジメ「いや、ミュウは俺の娘だし……。同級生、それも女の子からだと、ね?」

トシ「要は照れ臭いんだろ、お父さん。」

ハジメ「その呼び方もやめなさい。」

ハァ、しばらくはこれで弄られるんだろうなぁ。

 

香織「そう?なら呼ばないけど……でも、私もいつか子供が出来たら……

その時は……。」

ユエ「……残念。先約は約束済み。」

香織「えっ!?」

ハジメ「いや、順番で喧嘩するくらいなら、全員一度に相手するよ?過負荷全力で。

後、ミュウもいるからこの話はおしまいね?」

まだミュウが知っちゃいけない領域なんだよ!この手の話は!

 

ティオ「ん?何じゃあれは?ご主人様よ、三時方向で何やら騒ぎじゃ。」

ユエと香織の仲裁をしていると、ティオが注意を促した。窓の外に何かを発見したらしい。

言われるままにそちらを見ると、どうやら右手にある大きな砂丘の向こう側にサンドワームと呼ばれるミミズ型の魔物が相当数集まっている様だった。

砂丘の頂上から無数の頭が見えている。イナバも耳をピンと立たせながら警戒している。

 

このサンドワームは平均20m、大きいものでは100mにもなる大型の魔物だ。

この【グリューエン大砂漠】にのみ生息し、普段は地中を潜行していて、獲物が近づくと真下から三重構造のズラリと牙が並んだ大口を開けて襲いかかる。

察知が難しく奇襲に優れているので、大砂漠を横断する者には死神の如く恐れられている。

幸いサンドワーム自身も察知能力は低いので、偶然近くを通る等不運に見舞われない限り、遠くから発見され狙われるという事は無い。

なので、砂丘の向こう側には運の無かった者がいるという事らしいけど……

 

ハジメ「?何であんな動きしているんだろ?」

そう。ただサンドワームが出現しているだけなら、ティオも疑問顔をして注視させる事はなかっただろう。

そもそも奇襲なら十分警戒しているし、キングライナーの速度なら十分攻撃範囲から抜け出せる。

異常だったのは、サンドワームに襲われている者がいるとして、何故かサンドワームがそれに襲いかからずに様子を伺う様にして周囲を旋回しているからだ。

 

イナバ「きゅ、きゅう。(奴等、まるで食うのを躊躇っているようでっせ。)」

ハジメ「確かに……あれって雑食じゃなかったっけ?」

ティオ「うむ、妾の知識にあのような事例は無いのじゃ。獲物を前にして躊躇う事は無い筈じゃが……。」

まぁ、自分から行くことはないから大丈夫そうだけど……一応距離をとって、ッ!

ハジメ「皆、捕まって!」

 

そう叫んで一気にキングライナーを加速&空へ上昇させる。直後、砂色の巨体が後方より飛び出してきた。

大口を開けたそれは件のサンドワームだ。こっちもハズレか!

上昇中も襲ってくるサンドワームを、ハンドルテクで何とかかわす。

香織「きゃぁあ!」

ミュウ「ひぅ!」

シア「わわわ!」

ッ!ミュウは……シアが受け止めたようだ。下敷きになっているトシは……ドンマイ。一方の香織は……

 

ハジメ「ちょっと香織!?何でそこにしがみついているの!?」

香織「危ないから!危険が危ないから!しがみついてるの!」

ユエ「……おのれ香織、私を下敷きにして奇襲とは……やってくれる。」

言ってる場合か!てか股間に顔埋めないで!吐息、吐息がかかる!位置的に色々マズいから!

 

何とか敵が届かない位置まで上昇したので、香織を元の位置に……なんで簀巻きにされてんねん。

香織「わ~!ごめんなさい!決してエッチな目的があった訳じゃないの!

ただ、ちょっと、抱きついてみたかったというか!」

ユエ「……そして、あわよくば、そのままハジメを堪能しようと?」

香織「うん、そうなんだ……って違うよ!私は、ユエみたいにエッチじゃないよ!」

ユエ「……私をエッチと申したか……確かに、ハジメと二人っきりだと否定は出来ない。」

ハジメ「少しは危機感持ってくれませんかねぇ!?」

そう言いながら、下の地面諸共爆撃する準備をする俺であった。

 

ハジメ「今までの分だ、残すなよ?」

そう言って、ギガントの大群を下のサンドワームに向けて放った。序に、圧烈弾もお見舞いしてやった。

するとどうだろう。さっきまでサンドワームだったものが肉塊に変わり、辺り一面を赤く染めた。

まるで、血で出来た砂漠だな。すると、他のサンドワームもやってきた。今度は速度重視か。

ならこっちはこれで行くか。そう思った俺は、他のライナーを召喚・連結させた。

 

ハジメ「ライナーフルバースト!」

全ライナーの武装を展開、膨大な質量の攻撃で逃げ場すら封じる大技だ。

後は這い出てきたところへ爆弾投下するだけだ。圧烈弾の効果で誘爆も可能だ。

その結果、数分も経たずにサンドワームは全滅した。さて、もうそろそろ進もう「ハジメくん!あれ!」うん?

 

ユエ「……白い人?」

香織が指を差した先には、ユエが呟いた様に白い衣服に身を包んだ人が倒れ伏していた。

恐らく先程のサンドワーム達は、あの人物を狙っていたのだろう。

しかし何故食われなかったのかは、この距離からでは分からず謎だ。

 

香織「お願い、ハジメくん。」

ハジメ「合点承知。」

さて、原因は一体なんだろな?そんな訳で、倒れている人の近くまでやって来た。

その人物は、ガラベーヤ(エジプト民族衣装)に酷似した衣装と、顔に巻きつけられるくらい大きなフードの付いた外套を羽織っていた。

顔は分からない。うつ伏せに倒れている上に、フードが隠してしまっているからだ。

キングライナーから降りた香織が、小走りで倒れる人物に駆け寄り仰向けにした。

 

香織「!……これって……。」

フードを取り露わになった男の顔は、まだ若い20歳半ばくらいの青年だった。

だが、香織が驚いたのはそこではなく、その青年の状態だった。

苦しそうに歪められた顔には大量の汗が浮かび、呼吸は荒く脈も早い。

服越しでも分かる程全身から高熱を発している。

しかも、まるで内部から強烈な圧力でもかかっているかの様に血管が浮き出ており、目や鼻といった粘膜から出血もしている。

明らかに尋常な様子ではない。ただの日射病や風邪という訳ではなさそうだ。

 

まるでウイルスのようだが……それなら浄化作用が働いている筈だしな。

餅は餅屋というので、香織に任せることにした。香織は"浸透看破"を行使する。

これは魔力を相手に浸透させる事で対象の状態を診察し、その結果を自らのステータスプレートに表示する技能だ。

 

ハジメ「どうだった?」

香織「う、うん。これなんだけど……。」

そう言って香織が見せたステータスプレートには、こう表示されていた。

状態:魔力の過剰活性、体外への排出不可

症状:発熱・意識混濁・全身の疼痛・毛細血管の破裂とそれに伴う出血

原因:体内の水分に異常あり

 

香織「恐らくだけど、何かよくない飲み物を摂取して、それが原因で魔力暴走状態になっているんだと思う。

……しかも外に排出できないから、内側から強制的に活性化・圧迫させられて、肉体が付いてこれてない……このままじゃ、内蔵や血管が破裂しちゃう。出血多量や衰弱死の可能性も……。"万天"。」

香織はそう結論を下し、回復魔法を唱えた。使ったのは"万天"。

中級回復魔法の一つで、効果は状態異常の解除だ。しかし……

 

香織「……殆ど効果が無い……どうして?浄化しきれないなんて……それ程溶け込んでいるという事?」

ふむ……ではこれでいくか。そう思い俺は、とあるライダーの力を発動した。

ハジメ「"彼の毒が全て俺の体内に転移する"。」

香織「!?」

 

すると、俺の中に猛毒が流れ始めたのか、少々痛みが走った。……最初の時に比べればそれ程じゃないな。

体内で毒を浄化しながら、分析を開始する。すると……

ハジメ「……どうやら、人為的に生み出された毒じゃねぇようだ。

それも誰かが手を加えたような魔物の毒っぽいな。」

トシ「そこまで分かるのか。てか、身体は何ともないのか?」

ハジメ「若干痛ぇが、それ以外は何ともないな。肉体もいざとなったら、ヘルライジングで「それは止めとけ。」……おぅ。」

 

取り敢えず、毒による暴走は収まった。後は、体内の魔力を何とかするだけか。

ハジメ「香織、お願いできる?」

香織「うん、任せて!"廻聖"!」

光系の上級回復魔法"廻聖"。これは、一定範囲内における人々の魔力を他者に譲渡する魔法だ。

基本的には自分の魔力を仲間に譲渡する事で、対象の魔力枯渇を一時的に免れさせたり、強力な魔法を放つのに魔力が足りない場合に援護する事を目的とした術だ。

 

また、譲渡する魔力は術者の魔力に限らないので、領域内の者から強制的に魔力を抜き取り他者に譲渡する事も出来る。

謂わばドレイン系の魔法としても使えるのだ。

但し、他者から抜き取る場合はそれなりに時間が掛かり、一気に大量にとは行かず実戦向きとは言えない。

尤も、香織はトシ同様俺の特訓を受けているので、無詠唱で使用が可能だ。

相当疲れていたが、翌日にご褒美デートに誘ったら、一気に回復した。愛の力って凄ぇな。

 

白菫色の光が青年を中心に広がり、蛍火の様な淡い光が湧き上がる。神秘的な光景だ。

目を瞑り、青年の胸に手を起きながら意識を集中する香織の姿は、淡い光に包まれている事もあって、どこか神々しさすら感じる。

ミュウはシアに抱っこされながら、「きれい……。」とうっとりした表情で香織を見つめている。

香織は青年から取り出した魔力を、俺が送った神結晶の指輪に収めていった。

どうやら、上級魔法による強制ドレインは有効だった様だ。

 

すると徐々に青年の血色が良くなり、脈動が正常なものへと変化していた。

呼吸も安定し、傍目から見ても健常者がただ眠っている様に見える。

身体の赤みも薄まり、出血も収まってきたようだ。

香織は"廻聖"の行使をやめると、初級回復魔法"天恵"を発動し青年の傷ついた血管を癒していった。

 

ユエ「そう言えばハジメ、さっきのは何?」

さっきの?あぁ、あれか。

ハジメ「ライダーの能力の一つだよ。

正直、初見殺しに等しいレベルの切り札だから、あまり使わないけどね。」

ティオ「ほぅ、一体どんな能力なのじゃ?」

ハジメ「簡単に言うと、言ったことが現実になる能力。」

シア「反則過ぎません!?」

まぁ、言われてみればそうか。

 

ハジメ「正確には未来を決める能力なんだけどね。絶対に起こらないことは無理だけど……

ほら、もしかしたら状態異常を移す魔法とかもあるだろうし……。」

オスカー『成程、仮定によって未来の予言をする、ということかな?』

ハジメ「正解、他にもやり方はあったけど、これが一番手っ取り早いかなって。」

ミレディ「そういえばハジメン、時の王だったね……。」

正直、歩くゲームオーバーレベルだからなぁ……。

 

そうこうしていると、青年が呻き声を上げてその瞼がフルフルと震えだした。

ゆっくりと目を開けて周囲を見わたす青年は、自分の間近にいる香織を見て「女神?そうか、私は召し上げられて……」などと口にした。

そして今度は違う理由で体を熱くし始めたので、正気になれという意味を込めて、香織に手を伸ばそうとしている青年の頭にサッカーボール大の水球をぶつけた。

 

???「わぶっ!?」

香織「ハ、ハジメくん!?」

砂漠のど真ん中でびしょ濡れになるという珍体験をした青年と、驚いた様に声を上げる香織を尻目に、俺は青年に何があったのか事情を尋ねる。

青年の着ているガラベーヤ風の衣服や外套は、【グリューエン大砂漠】最大のオアシスである【アンカジ公国】の特徴的な服装だったと、俺は記憶している。

王国に滞在していた時、気分転換に調べていた。

青年がアンカジで何かに感染でもしたのだというなら、これから向かう筈だった場所が危険地帯に変わってしまう。

是非ともその辺の事を聞いておきたかった。

 

先程の水球で正気を取り戻した青年は、自分を取り囲む俺達と背後の見た事も無い赤い物体に目を白黒させて混乱していたが、香織から大雑把な事情を聞いている内に冷静さを取り戻した様だ。

???「最早私も公国もこれまでかと思ったが、どうやら神はまだ私を見放してはいなかったらしい……。」

青年がそう呟く。その神が碌でもないクズ野郎なんだけどねぇ……。

 

取り敢えず、暑い中での話し合いは危険なので、青年をキングライナーに招いた。

招かれた青年は、車内の快適さに思わず「やはり神の領域か!?」と叫ぶ。

先程まで死にかけていたというのに案外元気なものだ。てか、俺王様なんだけど。

尤も、冷たい水を飲んで一息つくと自分が使命を果たせず道半ばで倒れた事を思い出した様で、直ぐに表情を引き締めた。

 

???「まず、助けてくれた事に感謝する。

あのまま死んでいたらと思うと……アンカジまで終わってしまうところだった。

私の名は、ビィズ・フォウワード・ゼンゲン。

アンカジ公国の領主ランズィ・フォウワード・ゼンゲン公の息子だ。」

ウィ!驚いた事に、ビィズと名乗った青年はとんだ大物だったらしい。

 

【アンカジ公国】は【海上の町エリセン】より運送される海産物の鮮度を極力落とさないまま運ぶ為の要所だ。

そして、エリセンからの海産物の供給量は北大陸全体の8割に及ぶ。

つまり、北大陸における一分野の食料供給において、ほぼ独占的な権限を持っているに等しいという事だ。単なる名目だけの貴族ではなく、【ハイリヒ王国】の中でも信頼の厚い屈指の大貴族という事である。

 

ビィズの方も、香織の素性("神の使徒"として異世界から召喚された者)や俺達の冒険者ランクを聞き、目を剥いて驚愕を露わにした。

そして「これは神の采配か!我等の為に女神を遣わして下さったのか!」といきなり天に祈り始めた。

この場合、女神とは当然香織の事なのだが、当の本人はキョトンとしている。

話が進まないので"威圧"で急かすと、ビィズは冷や汗を流しながら咳払いしつつ語りだした。

 

ビィズ曰く、こういう事らしい。4日前、アンカジにおいて原因不明の高熱を発し倒れる人が続出した。

それは本当に突然の事で、初日だけで人口27万人のうち3000人近くが意識不明に陥り、症状を訴える人が1万人に上ったという。

直ぐに医療院は飽和状態となり、公共施設を全開放して医療関係者も総出で治療と原因究明に当たったが、進行を遅らせる事は何とか出来ても完治させる事は出来なかった。

 

そうこうしている内にも、次々と患者は増えていく。

にも関わらず、医療関係者の中にも倒れるものが現れ始めた。

進行を遅らせる為の魔法の使い手も圧倒的に数が足りず、何の手立ても打てずに混乱する中で、遂に処置を受けられなかった人々の中から死者が出始めた。

発症してから僅か2日で死亡するという事実に絶望が立ち込める。

 

そんな中、1人の薬師がひょんな事から飲み水に"液体鑑定"をかけた。

その結果、その水には魔力の暴走を促す毒素が含まれている事が判明したのだ。

直ちに調査チームが組まれ、最悪の事態を想定しながらアンカジのオアシスが調べられたのだが、案の定オアシスそのものが汚染されていた。

 

当然、アンカジの様な砂漠のど真ん中にある国においてオアシスは生命線であるから、その警備・維持・管理は厳重に厳重を重ねてある。

普通に考えれば、アンカジの警備を抜いてオアシスに毒素を流し込むなど不可能に近いと言っても過言ではない程に、あらゆる対策が施されているのだ。

一体どこから、どうやって、誰が……。

首を捻る調査チームだったが、それより重要なのは、2日以上前からストックしてある分以外使える水が失くなってしまったという事だ。

そして結局、既に汚染された水を飲んで感染してしまった患者を救う手立てが無いという事である。

 

ただ、全く方法が無いという訳では無かった。1つ、患者達を救える方法が存在していたのだ。

それは、"静因石"と呼ばれる鉱石を必要とする方法だ。

この"静因石"は、魔力の活性を鎮める効果を持っている特殊な鉱石で、砂漠のずっと北方にある岩石地帯か【グリューエン大火山】で少量採取できる貴重な鉱石だ。

魔法の研究に従事する者が、魔力調整や暴走の予防に求める事が多い。

この静因石を粉末状にしたものを服用すれば体内の魔力を鎮める事が出来るだろう、という訳だ。

 

しかし、北方の岩石地帯は遠すぎて往復に少なくとも1ヶ月以上はかかってしまう。

また、アンカジの冒険者、特に【グリューエン大火山】の迷宮に入って静因石を採取し戻ってこられる程の者は既に病に倒れてしまっている。

生半可な冒険者では、【グリューエン大火山】を包み込む砂嵐すら突破できないのだ。

それに。仮にそれだけの実力者がいても、どちらにしろ安全な水のストックが圧倒的に足りない以上王国への救援要請は必要だった。

 

その救援要請にしても、総人口27万人を抱えるアンカジ公国を一時的にでも潤すだけの水の運搬や、【グリューエン大火山】という大迷宮に行って戻ってこられる実力者の手配など容易く出来る内容ではない。

公国から要請と言われれば無視する事は出来ずとも、内容が内容だけに一度アンカジの現状を調査しようとするのが普通だ。

しかし、そんな悠長な手続きを経てからでは遅いのだ。

なので、強権を発動出来るゼンゲン公か、その代理たるビィズが直接救援要請をする必要があった。

 

ビィズ「父上や母上、妹も既に感染していて、アンカジにストックしてあった静因石を服用する事で何とか持ち直したが、衰弱も激しくとても王国や近隣の町まで赴く事など出来そうもなかった。

だから私が救援を呼ぶため、一日前に護衛隊と共にアンカジを出発したのだ。

その時症状は出ていなかったが……感染していたのだろうな、恐らく発症までには個人差があるのだろう。家族が倒れ、国が混乱し、救援は一刻を争うという状況に……動揺していた様だ。

万全を期して静因石を服用しておくべきだった。

今こうしている間にも、アンカジの民は命を落としていっているというのに……情けない!」

 

力の入らない体に、それでもあらん限りの力を込めて拳を己の膝に叩きつけるビィズ。

アンカジ公国の次期領主は、責任感の強い民思いな人物らしい。

護衛をしていた者達もサンドワームに襲われ全滅したというから、その事も相まって悔しくてならないのだろう。

僥倖だったのは、サンドワーム達が恐らくこの病を察知して捕食を躊躇った事だ。

病にかかったが故に力尽きたがそれ故にサンドワームに襲われず、結果俺達と出会う事が出来た。

人生、何が起きるかわからないものである。万事塞翁が馬とはよく言ったものだ。

 

ビィズ「……君達に、いや、貴殿達にアンカジ公国領主代理として正式に依頼したい。

どうか、私に力を貸して欲しい。」

そう言って、ビィズは深く頭を下げた。

領主代理がそう簡単に頭を下げるべきでない事はビィズ自身が一番分かっているのだろうが、降って湧いた様な僥倖を逃してなるものかと必死なのだろう。

十中八九、魔人族の仕業で間違いないだろう。さっきの毒も魔物由来だと考えれば、妥当だろう。

さてと、まずは作戦を立てなきゃな。

 

ミュウ「パパー、たすけてあげないの?」

ハジメ「うん?いやぁ、作戦を考えていただけだよ。どのみちアンカジには行くし、勿論助けるさ。」

物凄く純真な眼差しで言ってくるミュウに、俺はいつものように笑顔で返す。

ハジメ「そういう訳だから、戦艦に乗ったつもりでいるといいよ。」

トシ「そこは大船でいいだろ。いや、コイツの場合はマジで空飛びそうだな。」

トシや、少し失礼じゃないか?俺は相転移砲なんて作れないぞ?

 

ビィズ「ハジメ殿が"金"クラスなら、このまま大火山から静因石を採取してきてもらいたいのだが、水の確保の為に王都へ行く必要もある。

この移動型のアーティファクトは、ハジメ殿以外にも扱えるのだろうか?」

ハジメ「生憎自動操縦は今は無理だ。まぁ、まずは飲み水の確保と患者の治療を優先しよう。

そっちからの方がやりやすい。」

ビィズ「やりやすい?それはどういう事だ?」

まぁ、当然の疑問だろう。だがここにいるのは、常識知らずのチート軍団だ。

 

ユエとミレディの二人で新たにため池を作り、シアと香織は患者の応急手当、ティオ、トシ、イナバの三人はミュウの護衛、俺はちょっとした奥の手を使って毒の浄化という作戦が、既に頭の中で出来上がっている。

その辺りの事を掻い摘んで説明すると、最初は信じられないといった様子のビィズだったが、どちらにしろ今の自分の状態では真面に王国まで辿り着けるか微妙だったので、"神の使徒"たる香織の説得も相まってアンカジに引き返す事を了承した。

さぁて、さっさと国を救っちゃいますか!




ハジメ
「ここまで読んでいただき、ありがとうございます!
さて、ここで登場するゲストは……この人だ。」
ビィズ
「ハロー!ニューワールド!!」
ハジメ
「真面目にやれ。初めての人が混乱するでしょうが。」
ビィズ
「ハッ!どうも、聖女様の忠実なる下僕、ビィズ・フォウワード・ゼンゲンです。」
ハジメ
「余計なものを付け足すな。もう一度やり直しなさい。」
ビィズ
「それにしても思い返せば、ここから私の新世界が始まったとも言えますね。」
ハジメ
「話聞けよ。まぁいい、次の予告だ。」
ビィズ
「承知いたしました、聖王様!」
ハジメ
「それも止めろォ!」

次回予告
ハジメ
「次回はアンカジの異変解決に乗り出すぞ。」
ビィズ
「遂に我等が香織様の御活躍がみられるのですね!」
ハジメ
「言っておくが、メインは俺だぞ。そも、主人公が俺だし。」
ビィズ
「ですが、香織様の雄姿こそ聖女の名にふさわしい。聖王様もそうお思いでしょう?」
ハジメ
「その呼び名止めろって。後、オアシスの異常を調査だ。」
ビィズ
「するとそこから女神が!」
ハジメ
「現れません!ちょっとお前黙ってろ。」
ビィズ
「是非、ご覧あれェ!」
ハジメ
「もしもしランズィ公?お宅の息子ちょっとシバかせてもらうわ。」

リースティアさん、誤字報告ありがとうございました!


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49.Oasisを取り戻せ!

ハジメ
「お待たせいたしました!
前回からお気づきの方がいるとは思いますが、オープニングゲストは暫くクラスメイト達でお送り致します。
さて、今回のオープニングゲストは……こちら!」
奈々
「ども~!あなたのハートをロックオン!宮崎奈々です!」
ハジメ
「愛子の護衛女子の中じゃ、一番モテそうな子が来たなぁ~。」
奈々
「そう?私的にはロマンチックな出会いがいいんだけど。例えば、南雲君とユエさんの出会いとか……。」
ハジメ
「まぁ、確かにそりゃあロマンティックかな?さて、前回のあらすじだ。」
奈々
「えぇっと、アンカジの問題児って……一応次期領主だよね、この人?」
ハジメ
「こういうタイプは悪気が無くて俺等に好印象だからやり辛ぇんだよ。正直、まいってる。」
奈々
「あ、アハハ……王様も大変だね……。それじゃ、第5章第2話!」
ハジメ
「「それでは、どうぞ!」」


赤銅色の砂が舞う中たどり着いたアンカジは、【中立商業都市フューレン】を超える外壁に囲まれた乳白色の都だった。

外壁も建築物も軒並みミルク色で、外界の赤銅色とのコントラストが美しい。

ただフューレンと異なるのは、不規則な形で都を囲む外壁の各所から光の柱が天へと登っており、上空で他の柱と合流してアンカジ全体を覆う強大なドームを形成している事だ。

時折何かがぶつかったのか波紋の様なものが広がり、まるで水中から揺れる水面を眺めている様な、不思議で美しい光景が広がっていた。

 

どうやら、このドームが砂の侵入を防いでいる様だ。

月に何度か大規模な砂嵐に見舞われるそうだが、このドームのお陰で曇天の様な様相になるだけでアンカジ内に砂が侵入する事は無いという。

ミレディ曰く、【グリューエン大火山】と【神山】の解放者の使用する魔法が組み合わさったものと同様らしい。

 

俺達は、これまた光り輝く巨大な門からアンカジへと入都した。

砂の侵入を防ぐ目的から、門まで魔法によるバリア式になっている様だ。

門番はキングライナーを見ても少し目を見開く程度で、大した反応を見せなかった。

アンカジの現状が影響しているのか暗い雰囲気で気迫も無く、どこか投げやり気味だ。

尤も、キングライナーの窓から次期領主が顔を出した途端、直立不動となり兵士らしい覇気を取り戻したが。

 

アンカジの入場門は高台にあった。

ここに訪れた者がアンカジの美しさを最初に一望出来るように、という心遣いらしい。

確かに美しい都だと、俺達は感嘆した。

太陽の光を反射してキラキラと煌めくオアシスが東側にあり、その周辺には多くの木々が生えていてい非常に緑豊かだった。

オアシスの水は幾筋もの川となって町中に流れ込み、砂漠のど真ん中だというのに小船があちこちに停泊している。

町のいたる所に緑豊かな広場が設置されていて、広大な土地を広々と利用している事がよく分かる。

 

北側は農業地帯の様だ。

アンカジは果物の産出量が豊富という話を証明する様に、俺達の目には多種多様な果物が育てられているのが分かった。

実を言うと、この国の果物に関しては密かに楽しみにしていたので、台無しにしてくれた魔人族には、ヘルライズをオーソライズしてプログライズして、文字通りの地獄を味合わせてやると、心に決めた俺であった。

 

西側には一際大きな宮殿らしき建造物があり、他の乳白色の建物と異なって純白と言っていい白さだった。他とは一線を画す荘厳さと規模なので、あれが領主の住む場所なのだろう。

その宮殿の周辺に無骨な建物が区画に沿って規則正しく並んでいるので、行政区にでもなっているのかもしれない。

砂漠の国でありながら、まるで水の都と表現したくなる……【アンカジ公国】はそんな所だった。

 

ハジメ「これはまた……フェアベルゲンとは別種の美しさがあるね。」

ユエ「……ん。綺麗な都。」

思わず感嘆が漏れた俺に、ユエが同意する。

他のメンバーも気持ちは同じ様で、「ほぅ……。」と息を漏らしている。

ミュウ「でも、なんだか元気がないの。」

ポツリと呟いたのはミュウだ。

 

その言葉通り、その壮観さに反してアンカジの都は暗く陰気な雰囲気に覆われていた。

普段はエリセンとの中継地である事や果物の取引で交易が盛んであり、また観光地としても人気のある事から活気と喧騒に満ちた都なのだが……

今は通りに出ている者は極めて少なく、殆どの店も営業していない様だった。

誰もが戸口をしっかり締め切って、まるで嵐が過ぎ去るのをジッと蹲って待っているかの様な、そんな静けさが支配していた。

 

ビィズ「……使徒様やハジメ殿にも、活気に満ちた我が国をお見せしたかった。

すまないが、今は時間がない。都の案内は全てが解決した後にでも私自らさせて頂こう。

一先ずは、父上の下へ。あの宮殿だ。」

ビィズの言葉に頷き、俺達は原因のオアシスを背にして進みだした。

最高最善の魔王の名に懸けて、この異常事態を解決してみせる!

 

ビィズ「父上!」

ランズィ「ビィズ!お前、どうして戻ってきた!?」

ビィズの顔パスで宮殿内に入った俺達は、そのまま領主のランズィ公の執務室へと通された。

衰弱が激しいと聞いていたのだが、どうやら治癒魔法と回復薬を多用して根性で執務に乗り出していたらしい。

そんなランズィ公は、一日前に救援要請を出しに王都へ向かった筈の息子が帰ってきた事に驚きを露わにする。

 

俺達によって病原を取り除かれたお陰で、確りと自身の足で立って事情説明を手早く済ませるビィズ。

話はトントン拍子に進み、あっという間に俺達の出番がやってくる。

ハジメ「それじゃあまずは、抗体の散布だね。今回は、コイツを使わせてもらおうか!」

そう言うと俺は、とあるライドブックを取り出し、その中身を開いた。

 

〈スーパーヒーロー戦記!〉

 

音声と共に、ライドブックから複数の光が飛び出し、人型の形へと姿を変えていく。

そこに現れたのは、数人の仮面ライダーに、彼等同様世界を救った戦士達、「スーパー戦隊」の面々だった。

その中でも俺は、毒の浄化・治療に特化したエキスパートを召喚した。

 

猛る烈火の天空勇者、ウルザードファイアー。

モヂカラ侍、ハイパーシンケンレッド。

宿命の騎士、ゴセイナイト。

魔法=「マジで凄い方法」、ゼンカイマジーヌ。

 

超越肉体の金、仮面ライダーアギト グランドフォーム。

治療ならお手の物だ、仮面ライダーフォーゼ メディカルステイツ。

最後の希望の魔法使い、仮面ライダーウィザード インフィニティースタイル。

めっちゃ痛いけど腕はピカ一、仮面ライダードライブ タイプテクニック マッドドクター。

 

デカくて硬くて強い奴、仮面ライダーエグゼイド マキシマムゲーマー lv.99。

完全無欠のボトルヤロー、仮面ライダービルド ジーニアスフォームwithハザードトリガー。

君の未来に光あれ、仮面ライダー最光。

 

そして俺も変身する。

ハジメ「変身。」

〈祝福の刻!〉

〈オーマジオウ!〉

それらを纏める最高最善の魔王、仮面ライダーオーマジオウ。

 

トシ「……なんか、多くねぇか?ライダー以外もいるし……。」

ランズィ「ハジメ殿、一体何を?」

ハジメ「ちょっとした下準備だよ。香織の治療を円滑にするためのね。」

そう言って俺は、呼び出した戦隊&ライダー達に、作戦を伝えた。

 

ハジメ「まず、俺の中にある抗体を、マキシマムで変容させる。

魔力の活性を鎮める効能にリプログラミングして、それをウィザードの魔法で風に乗せて運ぶんだ。

念のために、アギトと最光の治癒能力を、その抗体にウルザードの魔法でエンチャントしてくれ。

届かないところには、マッドドクターの能力を付与した、メディカルステイツ製のカプセルに入れて、飲み薬にして配布するぞ。

シンケンレッド、ゴセイナイト、マジーヌ、ジーニアスの4人は、毒の浄化だ。」

俺の作戦を聞き、彼等は頷いた。早速俺は抗体を能力で複数個取り出し、エグゼイドに預けた。

 

まずエグゼイドが必殺技を発動させた。

〈Maximum Mighty Critical Finish!〉

放たれた光線により、抗体が最適化されていく。

 

〈"ルーマ・ゴンガ・ルジュナ"〉

次に、ウルザードファイアーが、アギトと最光の治癒能力を、抗体に付与した。

〈"ウィンド プリーズ"〉

ウィザードが魔法によって、出来上がった抗体の半分を、国へと散布した。

その効果は直ぐに表れたのか、ランズィ公達の症状が軽くなったように見える。

 

残り半分の抗体をカプセルに詰めると、俺は仲間たちと作戦その2を開始した。

ハジメ「香織はシアと一緒に、患者の元へ行って治療をお願い。魔晶石も全部持って行って。

イナバはミュウの護衛。それ以外は水の確保と浄化だ。

ランズィ公、最低でも200m四方の開けた場所はありますか?」

ランズィ「む?うむ、農業地帯に行けばいくらでもあるが……。」

農業地帯か……尚のこと都合がいいな。

 

ハジメ「ならそこにしましょう。シアは魔晶石が溜まったら、そこへ来て。皆、頼んだよ!」

ユエ「ん!」

シア「はい!」

ミレディ「うん!」

ティオ「うむ!」

トシ「おう!」

ミュウ「はいなの!」

香織「うん!」

イナバ「きゅう!」

俺の号令に、全員が元気よく頷いた。さぁて、作戦開始だ!ん?他のライダー達はって?それはここからさ。

 

現在、ランズィ公と護衛や付き人多数、そして俺、ユエ、ミレディ、ティオ、ミュウ、トシ、イナバはアンカジ北部にある農業地帯の一角に来ていた。

200m四方どころかその3倍はありそうな平地が広がっている。

普段は、とある作物を育てている場所らしいのだが、時期的なものから今は休耕地になっているそうだ。

 

未だ半信半疑のランズィ公は、この非常時に謀ったと分かれば即座に死刑にしてやると言わんばかりの眼光で俺達を睨んでいた。

まぁ、疑うのも無理はない。百聞は一見に如かずというやつだな。

尤も、その疑いを孕んだ眼差しはユエとミレディが魔法を行使した瞬間驚愕一色に染まったが。

 

ミレディ「──"壊劫"。」

行使されるのは神代の魔法。一切合切を圧壊させる超常の力。

スッと伸ばされた白く嫋やかな手の先、農地の直上に黒く渦巻く球体が出現する。

その球体は農地の上で形を変え薄く四角く引き伸ばされていき、遂に200m四方の薄い膜となった。

そして一瞬の停滞の後、音も立てずに地面へと落下し、そのまま何事も無かったかの様に大地を圧し潰した。

凄まじい圧力により盛大に陥没する大地。局地的な地揺れが発生し地響きが鳴り響く。

それは宛ら、大地が上げた悲鳴の様だ。

 

一瞬にして超重力を掛けられた農地は200m四方、深さ5mの巨大な貯水池となった。

そしてチラリとランズィ公達を見ると、護衛も含めて全員が顎が外れんばかりにカクンと口を開けて、目も飛び出さんばかりに見開いていた。

誰もが衝撃が強すぎて声が出ていない様だが、全員が内心で「なにィーー!?」と叫んでいるのは明白だな。

 

さて、お次は俺の番だな。

そう思った俺は、ミレディの作った貯水池を生成魔法と錬成でコーティングした。

勿論、素材は逢魔鉱石だ。一応、鉱物分離で土中の鉱物をあらかじめ取り除いてあるので、大丈夫だろう。

そして、コーティングを終えると、ユエが早速魔法を行使した。

 

ユエ「"虚波"。」

水系上級魔法の一つで、大波を作り出して相手にぶつける魔法だ。

普通の術師では、大波と言っても、せいぜい10から20m四方の津波が発生する程度だが、ユエが行使すると桁が変わる。

横幅150m高さ100mの津波が虚空に発生し、一気に貯水池へと流れ込んだ。

 

この貯水池に貯められる水の総量は約200,000tだ。

途中で魔力が切れてしまったものの、俺とトシ、他の戦士たちの力で残りをやった。

一応、魔力譲渡もあったけど、ここでも活躍しておかなきゃね。

 

ランズィ「……こんな事が……。」

ランズィ公は有り得べからざる事態に呆然としながら、眼前で太陽の光を反射してオアシスと同じ様に光り輝く池を見つめた。

最早言葉も無い様だ。

 

ハジメ「取り敢えず、これで当分は保つでしょう。

後はオアシスを調べてみて……何も分からなければ、稼いだ時間で水については救援要請しましょう。」

ランズィ「あ、ああ。いや、聞きたい事は山程あるが……ありがとう。心から感謝する。

これで、我が国民を干上がらせずに済む。オアシスの方も私が案内しよう。」

ランズィ公はまだ衝撃から立ち直りきれずにいる様だが、それでもすべき事は弁えている様で俺達への態度をガラリと変えると誠意を込めて礼をした。

 

そのままオアシスへと移動した俺達。

オアシスは相変わらずキラキラと光を反射して美しく輝いており、とても毒素を含んでいる様には見えなかった。

しかし……

 

ハジメ「……感知系技能にしっかり気配があるな。しかも取り込んだ毒と同じ魔物だ。」

トシ「この下に元凶がいるってことか。」

ランズィ「何だと!?」

おっと聞こえていたか……まぁ、仕方がない。

 

ハジメ「ランズィ公、調査団はどの程度まで調べましたか?」

ランズィ「……確か、資料ではオアシスとそこから流れる川、各所井戸の水質調査と地下水脈の調査を行った様だ。

水質は息子から聞いての通り、地下水脈は特に異常は見つからなかった。

尤も、調べられたのはこのオアシスから数十mが限度だが。オアシスの底まではまだ手が回っていない。」

じゃあそこに付け込まれたってことかな?しかし、なぜ底だけ?

 

ハジメ「オアシスの底には、何かアーティファクトでも沈めてあるんですか?」

ランズィ「いや、オアシスの警備と管理にとあるアーティファクトが使われているが、それは地上に設置してある。

結界系のアーティファクトでな、オアシス全体を汚染されるなどありえん事だ。

事実、今までオアシスが汚染された事など一度も無かったのだ。」

ふむ……さっきのドームに似たような物みたいだね。

 

恐らく、砂の侵入を阻み、空気や水分等必要な物は通す作用がある便利な障壁なのだが、何を通すかは設定者の側で決める事が出来る、ってことだと思う。

そして、単純な障壁機能だけでなく探知機能もあり、何を探知するかの設定も出来る。

その探知の設定は汎用性があり、闇属性の魔法が組み込まれているのか精神作用も探知可能だろう。

つまり、"オアシスに対して悪意のあるもの"と設定すれば、"真意の裁断"が反応し設定権者であるランズィ公に伝わるというわけだ。

勿論、実際の設定がどんな内容かは領主にしかわからないだろう。

因みに、現在は調査などで人の出入りが多い上既に汚染されてしまっている事もあり警備は最低限を残して解除されているそうだ。

 

ハジメ「じゃあサクッと退治してきます。」ジャポンッ!

そう言って俺は液状化を使い、オアシスの中へ潜ると、反応のあった場所を探した。すると……

ハジメ「!」

シュバッッ!

風を切り裂く音と共に、水が無数の触手となって俺に襲いかかってきた。

 

しかし、水中で遅くなるほどオーマジオウは軟じゃない。あっさり避けて、時を止める。

丁度赤黒い魔石があったので、それを引きずり出し、地上へ帰還する。

時間停止を解除すると、慌てた魔物が触手を飛ばすが、俺はサッと避けて離脱した。

 

ザッパァン!

俺がオアシスから飛び出すと同時に、その魔石の主が姿を現した。

何かに引っ張られる様に水面が突如盛り上がったかと思うと、重力に逆らってそのまませり上がり10m近い高さの小山になったのである。

ランズィ「何だ……これは……。」

ランズィ公の呆然とした呟きが、やけに明瞭に響き渡った。

 

その正体は、体長約10m、無数の触手をウネウネとくねらせており、その姿はスライム……

そう表現するのが一番分かりやすいだろう。

だが、サイズがおかしい。通常、この世界のスライム型の魔物はせいぜい体長1m位なのだ。

また、周囲の水を操る様な力も無かった筈だ。

少なくとも触手の様に操る事は、自身の肉体以外では出来なかった筈である。

 

ハジメ「やっぱり魔人族が絡んでいたみたいだな。まぁ、コイツはもう片付いたが。」

そう言って魔石を握りつぶすと、バチェラム擬きは一瞬にしてただの水へと戻った。

ドザァー!と大量の水が降り注ぐ音を響かせながら、激しく波立つオアシスを見つめるランズィ公達。

ランズィ「……終わったのかね?」

ハジメ「えぇ、魔物は仕留めたました。ですがここからが本番です。さぁ、毒の浄化を始めよう!」

そう言うと俺は、4人の戦士達と共に、浄化を開始した。

 

マジーヌ「ぬぬぬマジーヌ!」

マジーヌがそう唱えると、オアシスに魔法がかかった。今回は毒の浄化を促進する魔法みたいだ。

シンケンレッド「フッ!」〈浄化〉

ゴセイナイト「天装!」〈purification!ナイティックパワー!〉

ビルド「ハアッ!」〈オールサイド!ジーニアスフィニッシュ!〉

シンケンレッドのモヂカラ、ゴセイナイトの天装術、そしてビルドジーニアスの浄化能力が合わさり、オアシスを光で満たした。

 

そのあまりの眩しさに、ランズィ公達は目を覆うが、俺は気にせず浄化の詰めを行った。

まず、水中に潜って水質を鑑定・通常のイオン水と比較して、マキシマムゲーマーの力を応用する。

そのまま、毒だけを召喚した戦士たちのいる場所へ向け、隅々まで調査・浄化しながら、毒を一点集中させた。

後はそのまま毒素を追い詰め、原子レベルで浄化するだけだ。

 

しばらくして、オアシス全体の水質が正常化したのを確認した俺は、オアシスから出てきた。

ハジメ「ランズィ公、ご確認を。」

ランズィ「!あ、あぁ!鑑定を頼む!」

ランズィ公は、部下に命じて水質の調査をさせた。

部下の男性が慌てて検知の魔法を使いオアシスを調べる。

固唾を呑んで見守るランズィ達に、検知を終えた男は信じられないといった表情でゆっくりと振り返り、ポロリとこぼすように結果を報告した。

 

部下「……戻っています。」

ランズィ「……もう一度言ってくれ。」

再確認の言葉に部下の男は、息を吸って、今度ははっきりと告げた。

部下「オアシスに異常なし!元のオアシスです!完全に浄化されています!」

その瞬間、ランズィ公の部下達が一斉に歓声を上げた。

手に持った書類やら荷物やらを宙に放り出して互いに抱き合ったり肩を叩きあって喜びをあらわにしている。

ランズィ公も深く息を吐きながら感じ入ったように目を瞑り天を仰いでいた。

 

ハジメ「まだ安心はできません。オアシスが元に戻ったとはいえ、やるべきことはまだあります。」

ランズィ「あぁ、だがオアシスが元に戻ったのは、貴殿等のおかげだ。

これでこの国も、元に戻るだろう。」

俺の言葉で気を持ち直しながらも、復興に向けて意欲を見せ始めたアンカジの民。

ランズィ公を中心に一丸となっている姿から、アンカジの住民は皆がこの国を愛しているのだという事がよく分かる。

過酷な環境にある国だからこそ、愛国心も強いのだろう。

 

ミレディ「あの~、作物のことなんだけど、ね。」

?どうしたんだ?まさか……当てがあるのか?

オスカー『そのまさか、さ。メイルの持つ"再生魔法"なら、それが可能なんだよ。』

まさかの情報だった。となると、まずは【グリューエン大火山】の攻略を進めねば。

幾ら抗体があるとはいえ、またいつ発症するかもわからない。抗体のストックも補填しておかなければ。

 

ランズィ「……しかし、あのバチュラムらしき魔物は一体なんだったのか……。

新種の魔物が地下水脈から流れ込みでもしたのだろうか?」

一方、気を取り直したランズィ公が首を傾げてオアシスを眺める。まぁ、原因は大体予想がつく。

ハジメ「恐らくですが……魔人族の仕業だと思われます。」

ランズィ「!?魔人族だと?ハジメ殿、貴殿がそう言うからには思い当たる事があるのだな?」

俺の言葉に驚いた表情を見せたランズィ公は、しかし直ぐ様冷静さを取り戻し続きを促した。

水の確保と元凶の排除を成し遂げた俺達に敬意と信頼を寄せている様で、最初の胡乱な眼差しは最早微塵もない。

 

ハジメ「推測できる手掛かりはいくつかあります。

まず、他の地域でも新種の魔物が確認されていることです。

あまり知られてはいませんが、【ウルの町】や【オルクス大迷宮】でも、そう言った事例が確認されています。」

ランズィ「何と!?愈々本格的に動き出したという事か。……ハジメ殿、貴殿は冒険者と名乗っていたが……

その見識といい、強さといい、やはり香織殿と同じ……。」

ハジメ「まぁ、色々事情がありますが正解です。それに、一か所じゃ得られない情報もあるので。」

俺がそう言うと、ランズィ公はそれ以上の詮索を止めた。なので話を続けた。

 

ハジメ「恐らく魔人族の魔物の軍備は既に整いつつあります。

今回も、危険や不確定要素、北大陸の要所に対する調査と打撃を行ったのでしょう。

豊穣の女神や勇者達を狙ったのがいい証拠です。

そしてここ、アンカジは、エリセンから海産系食料供給の中継点であり、果物やその他食料の供給も多大である事から食料関係において間違いなく要所であると言えます。

しかも襲撃した場合、大砂漠のど真ん中という地理から救援も呼びにくいので、魔人族が狙うのもおかしな話ではないでしょう。」

 

それを聞いたランズィ公は、低く唸り声を上げ苦い表情を見せた。

ランズィ「成程……魔物の事は聞き及んでいる。こちらでも独自に調査はしていたが……

よもや、あんなものまで使役できるようになっているとは……見通しが甘かったか。」

ハジメ「まぁ、仕方がありませんよ。王都でも恐らく新種の魔物の情報は掴んでいないでしょうし。

何せ、勇者一行が襲われたのもつい最近です。今頃あちこちで大騒ぎでしょうからね。」

俺がそう言うと、ランズィ公を含め彼等の部下達が深々と頭を下げた。

 

ランズィ「……ハジメ殿、ユエ殿、ミレディ殿。

アンカジ公国領主ランズィ・フォウワード・ゼンゲンは、国を代表して礼を言う。

この国は貴殿等に救われた。」

う~ん、領主たる者がそう簡単に頭を下げるべきじゃないんだけどね……。

まぁ、愛国心が並々ならぬものだということは伝わった。

だからこそ、周囲の部下達もランズィが一介の冒険者を名乗る俺達に頭を下げても止めようとせず、一緒に頭を下げているのだ。

この辺りは、息子にもしっかり受け継がれているのだろう。仕草も言動もそっくりである。

 

ハジメ「そうですね、お礼はもう少し後でお願いします。

それと、ご子息から死者が出ていると聞きましたが、その死体はもう埋葬しましたか?」

ランズィ「……は?」

ハジメ「もしかしたら、生き返らせることが可能かもしれないんです。お願いします。」

ランズィ「!?それは誠か!?」

実をいうとこの策は、ミレディ達から再生魔法について聞いた時に思い付いたものだ。

正直、魂魄魔法もあった方がやりやすいだろうが、生憎ない物ねだりは出来ない。

だが、それもライダーの力が合わされば、どうとでもなるはずだ。

 

ハジメ「……断定はできません。ですが、条件がそろえば、全員を理論上蘇生可能です。」

ランズィ「そうか……

その時点では魔法が原因だと判明していなかったから、未知の病である可能性も考慮して弔いも出来ていない。」

ハジメ「分かりました。その死体を、一か所に集めて下さい。

出来るだけ死体が傷まない場所が好ましいでしょう。」

ランズィ「了解した。……それで、アンカジには未だ苦しんでいる患者達が大勢いる……

それも、頼めるかね?」

一先ず落ち着いたランズィ公は、感染者たちを救う為、"静因石"の採取を俺達に改めて依頼した。

 

ハジメ「元々、【グリューエン大火山】に用があったので構いません。静因石に詳しい人もいますし。

ただ、どの程度採取する必要がありますか?」

あっさり引き受けた俺にホッと胸を撫で下ろし、ランズィ公は部下に資料を持ってこさせ、現在の患者数と必要な採取量を伝えた。

……こりゃ、相当な量が必要そうだ。

 

ランズィ「かなりの量が必要だ、荷物持ちぐらいならこちらから出すが?」

ハジメ「いえ、この量ならアーティファクトで運搬は可能です。」

ランズィ「……もう何でもありだな、これも神の御導きか。」

ランズィ公は最早呆れ顔だ。まぁ、俺達チート軍団だし、何より俺魔王だし。

 

そんなこんなで医療院へ行くと、とんでもない光景が広がっていた。

ハジメ「えっ、ちょっ、えっ!?思ったよりも早ェ!?」

シアを伴った香織は、獅子奮迅の活躍を見せていた。

緊急性の高い患者から魔力を一斉に抜き取っては魔晶石にストックし、半径20m以内に集めた患者の病の進行を一斉に遅らせ、同時に衰弱を回復させる様回復魔法も行使する。

その手際のいいこと早いことよ。これ、再生魔法手に入れたら、回復系で俺とタメ張れるんじゃ……。

 

一方のシアは、動けない患者達をその剛力をもって一気に運んでいた。

馬車を走らせるのではなく、馬車に詰めた患者達を馬車ごと持ち上げて、建物の上をピョンピョン飛び跳ねながら他の施設を行ったり来たりしている。

緊急性の高い患者は、香織が各施設を移動するより集めて一気に処置した方が効率的だからね。

尤もこの方法、非力な筈のウサミミ少女の有り得ない光景に、それを見た者は自分も病気にかかって幻覚を見始めたのだと絶望して医療院に駆け込むという姿が多々見られたので、余計に医療院が混乱するという弊害もあったらしい。

 

医療院の職員達は、上級魔法を連発したり複数の回復魔法を当たり前の様に同時行使、それも無詠唱でやり切る香織の姿に驚愕を通り越すと深い尊敬の念を抱いた様で、今や全員が香織の指示の下患者達の治療に当たっていた。

そんな彼等も、俺達が来たと知るや否や、医療院のスタッフや患者達が一緒にやって来たランズィ公に頭を垂れようとした。

 

それを手で制止しながら、ランズィ公は彼等の前に出ると、

ランズィ「皆の者、聞け!

たった今、オアシスを汚染していた原因が排除され、オアシスは完全に元に戻った!

水の確保も成った!救援が来るまで十分に保つ量だ。

更に、ここにいる金ランクの冒険者達が静因石の採取依頼を引き受けてくれた!後数日だ、踏ん張れ!

気力を奮い立たせ、この難局を乗り切ろう!」

耳に心地よいランズィ公のバリトンボイスが響く。

流石は北大陸の要所を治める貴族と言うべきか、その演説には力があった。

 

誰もが一瞬、何を言っているんだろうと戸惑った様に硬直していたが、領主の晴れやかな表情で言葉の意味が浸透したのだろう。

次の瞬間、建物が震える程の大歓声が上がった。

多くの人が亡くなり、砂漠の真ん中で安全な水も確保できず、絶望に包まれていた人達が笑顔を取り戻し始める。

患者やその家族達は互いに抱き合い、安堵に涙し、医療院のスタッフは仲間と肩を叩きあい気合を入れ直している。

うん、やっぱり笑顔が一番だ。

 

その時、ランズィ公がチラリと俺を見た。逃亡を恐れているのか?

ハジメ「……舐められたものだね。

この程度の問題、解決できないだの面倒だので投げ出す程、矮小なわけないでしょう。

それに、既に解決策は見えている。後はその術を身に着けてしまえば、万事解決は確定だ。」

ランズィ「!……失礼した。」

さも当然の事の様に告げる俺にランズィ公は目を見開く。

 

俺はランズィ公から視線を外し、香織に声を掛ける。

ハジメ「香織、何か手伝えることはあるかい?回復は勿論、分身や抗体生成なら、任せてくれ!」

香織「!うん!ハジメ君、お願い!」

なんかさっきより顔色良くなってないか?やっぱり愛の力かこれ?

 

その日は患者の治療に専念し、俺達は一夜を過ごした。

そして翌日……。

俺達一行は【グリューエン大火山】へと出発するのだった。

念のため、ミュウもつれていく。勿論、全身には、体温調節用のアーティファクトを身につけさせている。

誘拐の懸念もあるが、万が一の事態に、アンカジの民に危害が及んではいけないと思った俺の判断だ。




ハジメ
「ここまで読んでいただき、ありがとうございます!さて、今回のゲストは、こちらの方!」
ランズィ
「お呼びに預かり、光栄です。どうも、アンカジ公国領主、ランズィ・フォウワード・ゼンゲンです。
以前は愚息がご迷惑をおかけいたしました。」
ハジメ
「ホントだよ、前回は大変だった……。お宅の息子どうなってんの?」
ランズィ
「……領主としても、父としても頭が痛いものだ……。」
ハジメ
「……とても苦労している事だけはしっかり伝わった。アイリ―ちゃんの為にも、何とかしようか?」
ランズィ
「お気遣いありがとうございます。ですがこれは我が国の問題、貴殿の手を煩わせるまでもない。」
ハジメ
「真面目なこって。それじゃあ気分転換に。」
ランズィ
「うむ、次回予告、だったかな。」

次回予告
ハジメ
「遂に【グリューエン大火山】へと出発した俺達。静因石を採る上で様々な試練が立ちはだかる!」
ランズィ
「よもやここまで険しい環境だったとは……改めてハジメ殿に依頼してよかったと思う。」
ハジメ
「そろそろ火山の観光区でも設置しようかな?サンドワームと砂嵐が鬼門だけど。」
ランズィ
「……貴殿にとって、この世界の自然は観光で済むのかね……?」
ハジメ
「俺だけ例外なのでご安心を。そして冒険者達の未到達領域へ足を進める!」
ランズィ
「まさかさらに奥がこのようになっていたとは……マグマすらコントロールするものもあるのか……。」
ハジメ
「敵はマグマばっかり、熱気で皆汗だく、俺達どうなっちゃうの!?」
ランズィ
「それではどうか、次回をお楽しみに。」


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50.灼熱!脱水必死の大火山!

ハジメ
「お待たせいたしました!さて、今回のビックリドッキリオープニングゲスト、カモン!」
妙子
「どこのロボワンコ!?あ、どうも!趣味は鞭の手入れ、菅原妙子です!」
ハジメ
「何気に怖い情報入れるのは止めてくれ。」
妙子
「そう?南雲君もてっきりやっているのかと……。」
ハジメ
「する趣味もされる趣味もない!ホラ、さっさと前回のあらすじ!」
妙子
「ハイハイ、前回はアンカジで治療と浄化、だったよね?」
ハジメ
「ようやくスーパー戦隊の力を発揮できたよ。正直、ウルトラマンの力も使えそうで怖い。」
妙子
「へぇ……あ、第5章第3話」
ハジメ・妙子
「「それでは、どうぞ!」」


【グリューエン大火山】

それは【アンカジ公国】より北方に進んだ先、約100kmの位置に存在している。

見た目は直径約5km、標高3,000m程の巨石だ。

普通の成層火山の様な円錐状の山ではなく、所謂溶岩円頂丘の様に平べったい形をしており、山というより巨大な丘と表現する方が相応しい。

その標高と規模が並外れているだけで。

 

この【グリューエン大火山】は七大迷宮の一つとして周知されているが、【オルクス大迷宮】の様に冒険者が頻繁に訪れるという事は無い。

それは内部の危険性と厄介さ、そして【オルクス大迷宮】の魔物の様に魔石回収の旨みが少ないから……

というのもあるが、一番の理由は、まず入口に辿り着ける者が少ないからである。

その原因が……

 

ハジメ「これは……龍の巣か!」

香織「お父さんの言っていた通りだね!」

トシ「いや、この先にラ○ュタはねぇからな?」

余りの光景に、異世界出身の俺等にしか分からないトークをかました。他はポカンとしている。

 

そう。【グリューエン大火山】は巨大積乱雲の様に、巨大な渦巻く砂嵐に包まれているのだ。

その規模は【グリューエン大火山】をすっぽりと覆って完全に姿を隠す程で、砂嵐の竜巻というより流動する壁と行った方がしっくりくる。

しかも、この砂嵐の中にはサンドワームや他の魔物も多数潜んでおり、視界すら確保が難しい中で容赦なく奇襲を仕掛けてくるというのだ。

並みの実力では【グリューエン大火山】を包む砂嵐すら突破できないというのも頷ける話である。

 

シア「つくづく徒歩でなくて良かったですぅ。」

ユエ「……ん、お肌に悪い。」

ティオ「流石の妾も、生身でここは入りたくないのぉ。」

オスカー『ナイズを追いかけた時も、ここまでじゃなかったけどなぁ……。』

ミレディ「大丈夫!これもナッちゃんの迷宮のコンセプトの一つだからさ、多分!」

ミュウ「パパ~、お外ビュウビュウ言っているの!」

イナバ「きゅきゅう……(これは流石の自分も遠慮したいですわぁ……)。」

そんなことを言いながら、皆このビークルの存在にありがたみを感じているようだ。

 

そんな俺達が現在乗っているのは、キングライナー……ではなく、今回こんなこともあろうかと思って開発した装甲車、GトレーラーMAX type.99だ。

何故、キングライナーじゃないかというと、それは砂嵐に原因がある。

この砂嵐によって発生する乱気流が非常に厄介で、キングライナーがいくら線路を引いても、強風で車輪がズレてしまう恐れがあるからだ。

それに小回りも効かない上、上空への避難もできない状況だ。

 

その為、急遽別のビークルを製作したのだ。

このGトレーラーMAX type.99は原作のものとは違い、中にはメンテナンス工場だの司令部だのと言ったものはなく、大人数での移動を想定した仕様になっている。

内部には、キッチンやベッド、シャワー室といった簡素だが実用性のある設備が揃っている。

勿論武装も取り付けてあるため、サンドワーム程度ならどうってことない。

 

今回は悠長な攻略をしていられない。

ミレディとオスカー曰く、表層部分では静因石はそれ程採れない為、手付かずの深部まで行き大量に手に入れなければならないらしい。

だが、深部まで行ってしまえば、今迄と同じ様に外へのショートカットが有る様だ。

それで一気に脱出してアンカジに戻る算段だ。早速、巨大砂嵐に突入した。

 

砂嵐の内部は、正しく赤銅一色に塗り潰された閉じた世界だった。

【ハルツィナ樹海】の霧の様に殆ど先が見えない。物理的影響力がある分、霧より厄介かもしれない。

ここを魔法の障壁なり体を覆う布なりで魔物を警戒しながら突破するのは、確かに至難の業だろう。

 

太陽の光も殆ど届かない薄暗い中を、ヘッドライトが切り裂いていく。

時速は120km程度、事前の情報からすれば約15秒で突破出来る筈だ。

無駄な戦闘を避けるため、クロックアップも発動してあるおかげか、サンドワームの襲撃も軽々避け、速攻で返り討ちにした俺達は、数多の冒険者達を阻んできた巨大砂嵐を易々と突破したのだった。

 

「ボバッ!」とそんな音を立てて砂嵐を抜け出た俺達の目に、まるでエアーズロックを何倍にも巨大化させた様な岩山が飛び込んできた。

砂嵐を抜けた先は静かなもので、周囲は砂嵐の壁で囲まれており直上には青空が見える。

まるで竜巻の目にいる様だ。

 

【グリューエン大火山】の入口は頂上にあるとの事だったので、進める所まで坂道を上がっていく。

露出した岩肌は赤黒い色をしており、あちこちから蒸気が噴出していた。

活火山であるにも関わらず一度も噴火した事が無いという点も、大迷宮らしい不思議さだ。

やがて傾斜角的にトレーラーでは厳しくなってきたところで、俺達は徒歩で山頂を目指す事になった。

 

シア「うわぅ……あ、暑いですぅ。」

ユエ「ん~……。」

香織「うぅ……ちょっとキツイ……。」

ミレディ「ナッちゃん、ハードル上げ過ぎだよぉ~……。」

イナバ「きゅ…きゅぅ……(これはあかんわ……このままじゃ自分、蒸し焼きになってまう……。)」

既にイナバと女性陣がティオ以外ピンチだ。ミュウは大丈夫なのかって?

心配することはない。何故なら……。

 

ミュウ「パパ~、ミュウのお洋服、お姉ちゃん達にあげるの……。」

ハジメ「大丈夫だ、ミュウ。ユエ達の心配はいいから、自分の体調を大事にしてくれ。」

トシ「お前ホント過保護だよなぁ……まぁ、仕方がないけどさ。」

オスカー『僕は眼魂だから大丈夫だけどね。』

そう、ミュウにはとあるライダーのスーツ素材に似た服を着せている。

若干、コスプレ感漂う見た目だが、性能は抜群だ。

 

ティオ「ふむ、妾は寧ろ適温なのじゃが……

それにしてもご主人様は流石じゃのぉ、汗一つ掻いておらん。」

ハジメ「こう見えて、灼熱の中トレーニングを続けた経験があるからな。

それに、この鎧ならマグマの中だろうと、耐えることなんてわけないさ。」

そう、奇襲を警戒しているので、俺は既に変身済みだ。

 

時間が無いので暑い暑いと文句を言う女性陣を急かしながら素早く山頂を目指し、岩場をひょいひょいと重さを感じさせずどんどん登っていく。

結局俺達は、10分もかからずに山頂に辿り着いた。

頂上は無造作に乱立した、大小様々な岩石で埋め尽くされた煩雑な場所だった。

 

尖った岩肌や、逆につるりとした光沢のある表面の岩もあり、奇怪なオブジェの展示場の様な有様だ。

砂嵐の頂上がとても近くに感じる。そんな奇怪な形の岩石群の中でも群を抜いて大きな岩石があった。

歪にアーチを形作る全長10m程の岩石である。

俺達はその場所に辿り着くと、アーチ状の岩石の下に【グリューエン大火山】内部へと続く大きな階段を発見した。

 

俺は階段の手前で立ち止まると、肩越しに背後に控える仲間の顔を順番に見やり、澄ました表情で大迷宮挑戦の号令をかけた。

ハジメ「よし、行くぞ!」

ユエ「んっ!」

シア「はいです!」

ミレディ「うん!」

ティオ「うむっ!」

トシ「おう!」

ミュウ「はいなの!」

香織「うん!」

イナバ「きゅう!」

 

【グリューエン大火山】の内部は、【オルクス大迷宮】や【ライセン大迷宮】以上にとんでもない場所だった。

難易度の話ではなく、内部の構造が、だ。まず、マグマが宙を流れている。

亜人族の国【フェアベルゲン】の様に空中に水路を作って水を流しているのではなく、マグマが宙に浮いてそのまま川のような流れを作っているのだ。

空中をうねりながら真っ赤に赤熱化したマグマが流れていく様は、まるで巨大な龍が飛び交っている様だ。

また当然、通路や広間のいたる所にマグマが流れており、迷宮に挑む者は地面のマグマと頭上のマグマの両方に注意する必要があった。

しかも……

 

シア「うきゃ!」

ハジメ「大丈夫?」

シア「はぅ、有難うございますハジメさん。いきなりマグマが噴き出してくるなんて……

察知出来ませんでした。」

シアが言う様に、壁のいたる所から唐突にマグマが噴き出してくるのである。

本当に突然な上に、事前の兆候も無いので察知が難しい。正に天然のブービートラップだった。

 

俺自身、未来視が使えるとはいえ、ここまで厄介なものはなかった。

ノベルゲーマーの能力を使っても良かったが、それでは味気が無い。

それに神代魔法を手に入れるのは当たり前なので、そこまで頼る物じゃないからなぁ。

 

そして何より面倒なのが、茹だる様な暑さ──基熱さだ。

通路や広間のいたる所にマグマが流れているのだから当たり前ではあるのだが、まるでサウナの中にでもいる様な、或いは熱したフライパンの上にでもいる様な気分である。

【グリューエン大火山】の最大限に厄介な要素だった。

 

ユエ達がダラダラと汗をかきながら天井付近を流れるマグマから滴り落ちてくる雫や噴き出すマグマを躱しつつ進んでいると、とある広間であちこち人為的に削られている場所を発見した。

ツルハシか何かで砕きでもしたのかボロボロと削れているのだが、その壁の一部から薄い桃色の小さな鉱石が覗いている。

どうやら砂嵐を突破して【グリューエン大火山】に入れる冒険者の発掘場所の様だ。

 

ハジメ「オスカー、あれが静因石?」

オスカー『あぁ、間違いないが……。』

ユエ「……小さい。」

シア「他の場所も小石サイズばっかりですね……。」

ユエの言う通り、残されている静因石は殆どが小指の先以下の物ばかりだった。

殆ど採られ尽くしたというのもあるのだろうが、サイズそのものも小さい。

やはり表層部分では回収効率が悪すぎる様で、一気に大量に手に入れるには深部に行く必要がある様だ。

 

二人曰く、ナイズがいた時にはもっと巨大なものがあったらしい。

それも、50年に一度起こる噴火を防ぐことが出来る要石レベルの。

尤もそれは、空間魔法を使用できるナイズだからこその神業だが。

ミレディの魔法も中々ぶっ壊れだが、この空間魔法に至ってはチートの域を逸脱していると思う。

そう思いながら俺は、一応他の静因石の有無を調べ、簡単に採取できるものだけ"宝物庫"に収納するとユエ達を促して先を急いだ。

 

暑さに辟易するユエ達を促しながら、7階層程下に降りる。

記録に残っている冒険者達が降りた最高階層だそうだ。

そこから先に進んだ者で生きて戻った者はいないらしい。

気を引き締めつつ、8階層へ続く階段を降りきった。

その瞬間。強烈な熱風に煽られたかと思うと、突如俺達の眼前に巨大な火炎が襲いかかった。

オレンジ色の壁が螺旋を描きながら突き進んでくる。

 

ハジメ「炎はマグマの下位互換じゃけぇ。」

トシ「どこの海軍元帥だ。」

そんなコント挟みつつ、太陽レベルの高温を持った熱線を放つ。

すると、迫りくる炎は一瞬にして蒸発した。序にその奥にいた牛ごと溶けていった。

 

その後、階層を下げる毎に魔物のバリエーションは増えていった。

マグマを翼から撒き散らす蝙蝠型の魔物や壁を溶かして飛び出てくる赤熱化したウツボ擬き、

炎の針を無数に飛ばしてくる針鼠型の魔物、

マグマの中から顔だけ出し、マグマを纏った舌を鞭の様に振るうカメレオン型の魔物、

頭上の重力を無視したマグマの川を泳ぐやはり赤熱化した蛇等……。

 

生半可な魔法では纏うマグマか赤熱化した肉体で無効化してしまう上に、そこかしこに流れるマグマを隠れ蓑に奇襲を仕掛けてくる魔物はユエ達にとっては厄介極まりなかっただろう。

何せ、魔物の方は体当りするだけでも人相手なら致命傷を負わせる事が出来る上に、周囲のマグマを利用した攻撃も多く、武器は無限大と言っていい状況。

更に、いざとなればマグマに逃げ込んでしまえばそれだけで安全を確保出来てしまうのだ。

 

たとえ砂嵐を突破できるだけの力をもった冒険者でも、魔物が出る8階層以降に降りて戻れなかったというのも頷ける。

しかもそれらの魔物は、倒しても魔石の大きさや質自体は【オルクス大迷宮】の40層レベルの魔物のそれと対して変わりがなく、貴重な鉱物である静因石も表層の物と殆ど変わらないとあっては、挑戦しようという者がいないのも頷ける話だ。

そして何より厄介なのは、刻一刻と増していく暑さだ。

 

シア「はぁはぁ……暑いですぅ。」

ユエ「……シア、暑いと思うから暑い。流れているのは唯の水……ほら、涼しい、フフ。」

香織「そうだね……折角だし水浴びでもしようか……フフフ。」

ミレディ「ワァ、大変!?ユエ姉とカオリンが壊れかけちゃってる!」

ティオ「これはマズいのぅ。目が虚ろになっておる!」

とうとう女性陣にも限界が来たか……こちらもイナバがもう限界そうだ。

 

トシ「イナバァ!気をしっかり持てェ!そっちは唯のマグマだ!」

イナバ「きゅっふっふっ……(ヘへッ、自分はもう、手遅れなんでさぁ……。)」

オスカー『ダメだ、正気じゃない。』

ミュウ「パパッ!皆が大変なの!」

よし、休憩しよう。

 

広間に出ると、マグマから比較的に離れている壁に〝錬成〟を行い横穴を空けた。

そこへユエ達を招き入れると、マグマの熱気が直接届かないよう入口を最小限まで閉じた。

更に、部屋の壁を"鉱物分離"と"圧縮錬成"を使って表面だけ硬い金属でコーティングし、ウツボモドキやマグマの噴射に襲われないよう安全を確保する。

 

ハジメ「後はこれで良しっと。しばらく、休憩しよう。まずは暑さに体を慣らさないと。」

鎧の能力でフィールドを展開・温度を調整する俺の言葉に、皆が一斉に頷く。

シア「はぅあ~~、涼しいですぅ~、生き返りますぅ~。」

ユエ「……ふみゅ~。」

香織「ふぅ~、死ぬかと思ったよぉ~。」

タレ女子3人組の出来上がりか。

そんな彼女たちを見ながら、俺は"宝物庫"からタオルを取り出すと全員に配った。

 

ハジメ「皆、汗くらいは拭いておくように。冷えすぎると動きが鈍るし、風邪ひくからね。」

ユエ「……ん~。」

シア「了解ですぅ~。」

香織「はぁ~い。」

間延びした声で、のろのろとタオルを広げる3人。イナバはミュウにつつかれている。汗を拭きなさい。

 

ティオ「ご主人様は、まだ余裕そうじゃの?」

ハジメ「心頭滅却すれば火もまた涼しっていうからね。これも鍛錬の一つに加えてみようかな?」

トシ「死人が出るからやめておけ。てかそんなんで生き残れるのは俺等ぐらいだからな?」

ミレディ「確かに……今思えば火山に住んでいたナッちゃんって……。」

オスカー『ミレディ、それ以上はいけない。』

まぁ、これも大迷宮のコンセプトの1つなのだろう。

 

俺達が最初に行った、オスカーの【オルクス大迷宮】は、数多の魔物とのバリエーション豊かな戦闘を経て経験を積む事。

ミレディの【ライセン大迷宮】は魔法という強力な力を抜きに、あらゆる攻撃への対応力を磨く事。

そして、この【グリューエン大火山】は暑さによる集中力の阻害と、その状況下での奇襲への対応といったところだと思われる。

しかし……目のやり場に困るな。主に女性陣の。

俺等男性陣は密かに、ここでも試練を課されることとなったのだった。

 

【グリューエン大火山】、恐らく50層辺り。それが現在、俺達のいる階層だ。何故"恐らく"かって?

宙を流れる大河の如きマグマの上を、赫鉄色の逢魔鉱石で出来た小舟の様な物に乗ってドン!ドン!ドン!ドンブラコ!と流されているからだ。

 

ハジメ「気分は暴太郎だな。これでこの火山とも縁が出来たな!」

トシ「こんな危ないとこにくる桃太郎があってたまるか。そこはルパン三世だろ、あばよとっつぁ~ん!」

香織「えぇ!?そこはインディさんじゃないかな……?」

ここでも意見が分かれる模様だ。何でこんな状況になっているかというと……ちょっとした冒険だ。

 

というのも、少し前の階層で攻略しながらも静因石を探していた俺達は、相変わらず自分達を炙り続けるマグマが時々不自然な動きを見せている事に気がついた。

具体的には、岩等で流れを邪魔されている訳でも無いのに大きく流れが変わっていたり、何も無いのに流れが急激に遅くなっていたり、宙を流れるマグマでは一部だけ大量にマグマが滴り落ちていたりというものだ。

 

大抵それは通路から離れたマグマの対岸だったり、攻略の障害にはならなかったので気にも止めていなかったのだが、偶々探知の効果範囲にその場所が入り、その不自然な動きが静因石を原因としている事が判明したのだ。

マグマそのものに宿っているらしい魔力が静因石により鎮静されて、流れが阻害された結果だった。

 

俺達は、「ならばマグマの動きが強く阻害されている場所に"静因石"は大量にある筈」と推測し探した結果、確かに大量の静因石が埋まっている場所を多数発見した。

マグマの動きに注意しながら相当な量の静因石を集めた俺達は、予備用にもう少しだけ集めておこうととある場所に向かった。

 

そこは宙に流れるマグマが、大きく壁を迂回する様に流れている場所だった。

俺が錬成を使って即席の階段を作成して近寄り、探ってみれば充分な量の静因石が埋まっている事が分かった。

早速分解系の技能を使い静因石だけを回収する俺だったが、余裕からか壁の向こう側の様子というものに注意を向けていなかった。

 

静因石を宝物庫に収納しその効力が失われた瞬間、静因石が取り除かれた壁の奥からマグマが勢いよく噴き出した。

咄嗟に飛び退いた俺だったが噴き出すマグマの勢いは激しく、まるで亀裂の入ったダムから水が噴出し決壊する様に穴を押し広げて一気になだれ込んできた。

 

まぁ、時間を止めて何とかなったが、もしかしたら川の道中にもあるかもしれないと思った俺は、生成魔法で熱に強いVer逢魔鉱石を使用した小舟を作り、皆でそれに乗り込んだわけだ。

そして流されるままにマグマの上を漂っていると、いつの間にか宙を流れるマグマに乗って階段とは異なるルートで【グリューエン大火山】の深部へと時に灼熱の急流滑りを味わいながら流されていき現在に至るという訳だ。

 

オスカー『う~ん、ナイズもこう来るとは思ってもいなかっただろうねぇ……。』

ミレディ「まぁ、ハジメン達は異世界人だし、仕方がないよね!」

……後ろで解放者たちの呟きが聞こえる。大丈夫、ここはライセンの二の舞にはならない筈だ……。

ミュウはというとアトラクション気分で楽しんでいる。将来大物になること間違いなしだな、こりゃ。

 

シア「あっ、ハジメさん。またトンネルですよ!」

ティオ「そろそろ標高的には麓辺りじゃ、何かあるかもしれんぞ?」

シアが指差した方向を見れば、流されているマグマが壁に空いた大穴の中に続いていた。

マグマ自体に照らされて下方へと続いている事が分かる。

今までも洞窟に入る度に階層を下げてきたので、普通に階段を使って降りるよりショートカットになっている筈だ。

 

ティオの忠告に頷きながら、いざ洞窟内に突入する。

マグマの空中ロードは、広々とした洞窟の中央を蛇の様にくねりながら続いている。

すると暫く順調に高度を下げていたマグマの空中ロードだが、カーブを曲がった先でいきなり途切れていた。

否、正確には滝といっても過言ではないくらい急激に下っていたのだ。

 

ハジメ「また!?全員しっかり掴まって!」

俺の言葉にユエ達も頷き、小舟の縁や俺の腰にしがみ付く。ミュウは中心でヒシっと抱き着いている。

ジェットコースターが最初の落下ポイントに登るまでのあのジワジワとした緊張感が漂う中、遂に小舟が落下を開始した。

 

轟々と風の吹き荒れる音がする。

途轍もない速度で激流と化したマグマを、重力魔法で制御しながら下っていく。

マグマの粘性など存在しないとばかりに、速度は刻一刻と増していった。

勿論、直ぐに迎撃できるよう警戒済みだ。何故ならこういう時に限って……

 

ハジメ「チィッ、面倒な時に来やがって!」

俺は舌打ちすると同時にドンナーXを抜き、躊躇いなく引き金を引いた。周囲に轟く炸裂音。

それが3度響くと共に3条の閃光が空を切り裂いて目標を違わず撃破する。

俺達に、襲いかかってきたのは翼からマグマを撒き散らすコウモリだった。

 

このマグマコウモリは、一体一体の脅威度はそれ程高くない。

かなりの速度で飛べる事とマグマ混じりの炎弾を飛ばす位しか出来ない。正直、雑魚以下の強さだ。

だがマグマコウモリの厄介なところは、群れで襲って来るところだ。

「1匹見つけたら30匹はいると思え」というゴキブリの様な魔物で、岩壁の隙間等からわらわらと現れるのである。

 

今も3羽のマグマコウモリを瞬殺した俺だったが、案の定激流を下る際の猛スピードが齎す風音に紛れて、夥しい数の翼が羽搏く音が聞こえ始めた。

ハジメ「俺は正面と制御をやる。他、頼めるか?」

ユエ「……ん、後ろと左、任せて。香織、防御は任せた。」

香織「勿論!エンチャントもしておくから!」

トシ「なら俺は相手へのデバフだな。右はどうする?」

ミレディ「ならここはミレディさんに任せてもらおうかな!」

ハジメ「助かる。シア、ティオ、イナバ、ミュウをお願い。」

シア「はいです!」

ティオ「うむ。」

イナバ「きゅ!」

作戦決定直後、マグマコウモリの群れがその姿を見せた。

 

それはもう、一つの生き物といっても過言ではない。

夥しい数のマグマコウモリは、まるで鳥類の一糸乱れぬ集団行動の様に一塊となって波打つ様に動き回る。その姿は、傍から見れば一匹の龍の様だ。

翼がマグマを纏い赤く赤熱化しているので、さながら炎龍といったところだろう。

 

一塊となって俺達に迫ってきたマグマコウモリは途中で二手に分かれると、前方と後方から挟撃を仕掛けてきた。

いくら一体一体が弱くとも、一つの巨大な生き物を形取れる程の数では、普通は物量で押し切られるだろう。

だが、残念だったな。ここにいるのはチート集団。

単純な物量で押し切れる程甘い相手でない事は、【ウルの町】で俺に喰われた魔物達が証明済みだ。

 

ハジメ「炎には、熱と水、そして氷だ!」

俺は、一気に複数のライドウォッチを起動、その力を行使する。

〈タテガミ!〉〈バッシャー!〉〈ウォータードラゴン!〉〈コズミック!〉〈ブリザード!〉〈プトティラ!〉

まず、"タテガミ氷獣戦記"を読み込んだ"水勢剣流水"が振るわれ、氷属性が付与されたバッシャーマグナムとランチャーモジュールの射撃が放たれる。

更にそこへ、氷で出来た機械の豪腕と、欲望すら凍てつかす氷の吐息が迫っていった。

その結果、木っ端微塵に砕かれたマグマコウモリの群れは、その体の破片を以て一時のスコールとなった。

 

後方から迫っていたマグマコウモリも同じ様なものだ。

香織「エンチャント〈氷属性付与〉〈水属性付与〉〈魔法強化〉!」

トシ「デバフ付与〈混乱〉〈筋力低下〉〈体力低下〉」

ユエ「"嵐龍"!」

ミレディ「"凍龍"!」

香織が三つのエンチャントをユエとミレディに、トシが敵に対して3つのデバフ付与をし終わると同時に、二人の魔法が発動した。

ユエは緑色の豪風を、ミレディは水色の氷塊を、それぞれ球体にして、一匹の龍へと変貌させた。

緑色の風で編まれた"嵐龍"と、水色の氷で編まれた"凍龍"は、マグマコウモリの群れを一睨みするとその顎門を開いて哀れな獲物を喰らい尽くさんと飛びかかった。

 

当然マグマコウモリ達は炎弾を放ちつつも、二匹の龍を避ける様に更に二手に分かれて迂回しようとした。

しかしこの"龍"は、その全てが重力魔法との複合魔法。作成者と基礎の理解者の腕は伊達じゃない。

ユエの"嵐龍"は唯の風で編まれただけの龍ではなく、風刃で構成され自らに引き寄せる重力を纏った龍であり、一度発動すれば逃れる事は至難だ。

ミレディの"凍龍"も、ユエの"龍"をヒントに編み出したものであり、僅かに風魔法も組み込まれているので、相手を凍てつかせ、鈍った所を仕留めることが出来るのだ。

 

マグマコウモリ達はいつか見た"雷龍"や"蒼龍"の餌食となった魔物達の様に、抗う事も許されず二匹の龍へと引き寄せられ、風刃の嵐に肉体を切り刻まれて血肉を撒き散らしたり、凍える風に動きを止められそのまま氷の牙で噛み砕かれたりされて、四散した。

因みにユエが"雷龍"や"蒼龍"を使わなかったのは、マグマコウモリが熱に強そうだった事と、翼を切り裂けば事足りると判断した為である。

最後に二匹の龍は群れのど真ん中で弾け飛ぶと、その体を構成していた幾百幾千の風刃と、身を凍てつかせるほどの冷気を全方向に撒き散らし、マグマコウモリの殲滅を完了した。

 

ティオ「う~む、ご主人様とユエ、それにミレディの殲滅力は、いつ見ても恐ろしいものがあるのぉ。」

シア「流石ですぅ。」

ミレディ「カオリンとトッシーのおかげでもあるよ!流石にあれは焦ったからね!」

トシ「俺、この世界で初めて闇魔法が役に立ったと思う。今まで使ってなかったし……。」

ユエ「……それ無しで無双するハジメ、カッコよし!」

香織「甘いよ、ユエ!ハジメ君はいつでもカッコイイんだから!」

いや君たち、まだ終わった訳じゃないからね?確かに凄かったけれども。 

 

オスカー『!ハジメ君、また来るぞ!』

ハジメ「またァ!?」

わちゃわちゃしている間に、今まで下り続けていたマグマが突然上方へと向かい始めた。

勢いよく数十mを登ると、その先に光が見えた。洞窟の出口だ。

だが問題なのは、今度こそ本当にマグマが途切れている事だ。

 

ハジメ「掴まれ!」

俺の号令に再び小舟にしがみつくユエ達。

イナバ「きゅ、きゅきゅう!(お嬢、ご無事でしょうか!?)」

ミュウ「みゅ!ぶっちぎっていくの!」

……ミュウ、お前メンタル強すぎひん?パパ、日に日に心配なんだが……。

 

小舟は激流を下ってきた勢いそのままに猛烈な勢いで洞窟の外へと放り出された。

襲い来る浮遊感に、即座に小舟の造形を変えながら素早く周囲の状況を把握する。

すると、俺達が飛び出した空間は、嘗て見た【ライセン大迷宮】の最終試練の部屋よりも尚広大な空間だった。




ハジメ
「ここまで読んでいただき、ありがとうございます!さて、今回のゲストは……こちら!」
アイリ―
「初めまして、アンカジ公国公女、アイリ―・フォウワード・ゼンゲンです。」
ハジメ
「しっかり者の公女さんだねぇ。まぁ、お兄さんがあれだからかなぁ……。」
アイリ―
「魔王陛下、ハッキリと仰ってください。兄が異常だと。」
ハジメ
「ハッキリ言うなぁ……でもね、俺も諦めかけてんだよ。ああいうタイプの矯正。」
アイリ―
「では、洗脳道具を幾つか。私が立派に調きょ、んんっ、矯正いたしますので。」
ハジメ
「今調教って……まぁいいや。それじゃ早速、次回予告といこうか。」
アイリ―
「はい!読者の皆様、ありがとうございます。それでは、次のお話です。」

次回予告
ハジメ
「次回はいよいよ、火山の最終試練だ。いやぁ~、腕が鳴るねぇ。」
アイリ―
「まさか、こんなにも過酷だったとは……魔王陛下と皆さまはお強いのですね。」
ハジメ
「俺等は基準にしちゃダメ。そもそも鍛え方がヤバいから。」
アイリ―
「はぁ……所でミュウは無事なのですよね?」
ハジメ
「一応襲撃もあったけど、万事オールライトだよ?」
アイリ―
「……そう言えば、そうでした。ミュウのことが心配でつい……。」
ハジメ
「妹が出来たからって気持ちは分かる。まぁ、これからも仲良くね?」
アイリ―
「……はい///それでは、また次回!」


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51.邂逅N/愚者への鎮魂歌(レクイエム)

ハジメ
「お待たせいたしました!さて、今回のオープニングゲスト、いらっしゃ~い。」
淳史
「…なぁ、南雲。司会役って毎回お前なのか?」
ハジメ
「だって俺、主人公で魔王だし。直談判ならうp主に言ってよ。」
淳史
「いやだって、いきなりここで男キャラ出して大丈夫なのか?」
ハジメ
「そんなこと言ったら、後書きどうすんじゃい。まぁ、キャラのネタ切れが原因らしいが。」
淳史
「思ったより深刻なメタ情報!?」
ハジメ
「まぁ、それはさておき、前回は火山の中で大冒険だったなぁ……。」
淳史
「(…女性陣の恰好については言わないでおこう。)そ、そうだな。それじゃあ、第5章4話」
ハジメ・淳史
「「それでは、どうぞ!」」


今回入ったこの部屋は、【ライセン大迷宮】の部屋と異なり球体ではなく、自然そのままに歪な形をしている。

その為正確な広さは把握しきれないが、少なくとも直径3km以上はあるだろう。

地面は殆どマグマで満たされていて、所々に飛び出した岩石が僅かな足場となっている。

 

周囲の壁も大きくせり出している場所もあれば、逆に削れている所もある。

空中にはやはり無数のマグマの川が交差していて、その殆どは下方のマグマの海へと消えていっている。

グツグツと煮え立つ灼熱の海と、フレアの如く噴き上がる火柱。

まるで地獄に来たようだ、とごく自然にそんな感想を抱いた俺達だった。

 

だが何より目に付いたのは、マグマの海の中央にある小さな島だ。

海面から10m程の高さにせり出ている岩石の島。

それだけなら他の足場より大きいというだけなのだが、その上をマグマのドームが覆っている。

まるで小型の太陽の様な球体のマグマが、島の中央に存在している異様は、誰からしても目を奪われるであろう光景だ。

 

ミレディ「オーちゃん、あれって……!」

オスカー『あぁ、恐らく僕同様に、ナイズもあの中に……。』

そりゃあ気になるか。

何せ、もう一度会えるだなんて思っていなかったみたいだしな……。

飛び出した勢い小舟がでひっくり返りそうになるが、持ち前の重力操作で難なく制御すると、誰一人落とす事無く小島近くの空中で停止させた。

 

ユエ「……あそこがゴール。」

トシ「階層の深さ的にも、そう考えるのが妥当だな。……てことは。」

ティオ「最後のガーディアンがいる筈……じゃろうなぁ。」

シア「ショートカットして来たっぽいですし、とっくに通り過ぎたと考えてはダメですか?」

香織「私もそう思いたいけど……ハジメ君、どうかな?」

う~ん、楽観論が上がっているけど無理そうだよねぇ。

 

ハジメ「多分、裏道で正規ルートをスルーできたくらいだと思う。

マグマの空中ロードに乗ってきたとしても、最終試練は受ける必要がありそうだよ。だって……ホラ!」

話の途中だが、いきなりマグマが飛び出してきた。

 

ティオ「むっ、任せよ!」

ティオの掛け声と共に魔法が発動し、マグマの海から炎塊が飛び出して頭上より迫るマグマの塊が相殺された。

しかし、その攻撃は唯の始まりの合図に過ぎなかった様だ。

ティオの放った炎塊がマグマと相殺され飛び散った直後、マグマの海や頭上のマグマの川からマシンガンの如く炎塊が撃ち放たれたのだ。

 

ハジメ「全員退避!」

近くの足場に散開する様に指示を出した俺は、ミュウを抱えて頭上に巨大な氷塊を放った。

そのおかげで、全員が避難しきるまでの時間は稼げた。

 

俺達は其々別の足場に着地し、尚追ってくるマグマの塊を迎撃していった。

迎撃そのものは切羽詰るという程のものでは無かったのだが、いつ終わるともしれない波状攻撃に、皆鬱陶し気な表情を見せる。

それはマグマの海の熱せられた空気により、景色が歪んでいる事も原因だろう。

 

なのでこちらも対応策を入れることにした。

ハジメ「アブソリュート・ゼロ・ストリーム!」

俺の持つ氷系技能を暴風に乗せ、炎塊を薙ぎ払った。

 

そんな俺の意図を読み取ったのか、ユエとミレディは、一瞬出来た隙をついて重力魔法を発動させる。

ユエ・ミレディ「「──"絶禍"!」」

響き渡る術名と共に俺達の中間地点に黒く渦巻く球体が出現し、飛び交うマグマの塊を次々と引き寄せていった。

 

黒き小さな星は、呑み込んだ全てを超重力のもと押し潰し圧縮していく。

吹雪と二人の魔法により炎塊の弾幕に隙ができ、俺は"空力"で宙を駆けると一気にマグマドームのある中央の島へと接近した。

 

俺達を襲う弾幕で一番厄介なのは、止める手段が目に見えない事だ。

場所的に明らかに【グリューエン大火山】の最終試練なのだが、今までの大迷宮と異なり目に見える敵が存在しないので、何をすればクリアと判断されるのかが分からない。

本来なら、迷宮政策に最も携わっているであろう人物、オスカーに聞くことも可能だが、それではどうにもロマンにかける。

その為最も怪しい中央の島に乗り込むのが一番だ。

 

俺は、加速系技能を使い、一直線に中央の島へ迫った、とその時。

「ゴォアアアアア!!!」

そんな腹の底まで響く様な重厚な咆哮が響いたかと思うと、直下から大口を開けた巨大な蛇が襲いかかってきた。

 

全身にマグマを纏わせているせいか、周囲をマグマで満たされたこの場所では熱源感知にも気配感知にも引っかからない。

また、マグマの海全体に魔力が満ちている様なので魔力感知にも引っかからなかった事から、完全な不意打ちとなった巨大なマグマ蛇の攻撃。

 

ハジメ「"ドッガ・アイシクルスラップ"!」

まぁ、即座に凍らせて砕いちまえば、どうってことない。が……。

ハジメ「オイオイ、マジかよ……。」

しかし、驚いたことに、マグマ蛇は確かに弾け飛んだのだが、それはマグマの飛沫が飛び散っただけであり、中身が全くなかったのだ。

 

今までの【グリューエン大火山】の魔物達は基本的にマグマを身に纏ってはいたが、それはあくまで纏っているのであって肉体がきちんとあった。

断じてマグマだけで構成されていた訳ではない。

どうやら、このマグマ蛇は、完全にマグマだけで構成されているらしい。

ハジメ「遠隔操作系か……少々厄介だな。」

そう思っていたその時、

 

ミュウ「パパ!あそこ!」

ハジメ「?どうしたッ!?」

ミュウが何か言いかけたその時、マグマの海からマグマ蛇が次々と飛び出し、その巨大な顎門をバクンッ!バクンッ!と閉じていった。

 

慌てて回避しながら、ミュウの要件について聞く。

ハジメ「ミュウ、何か見つけたのかい?」

ミュウ「みゅ!あそこの壁が光っていたの!」

壁?不思議に思いながらも、"念話"で皆に尋ねる。

 

ハジメ『皆!光る壁に何かヒントがあるみたい!どこかにないかなッ!?』

途中で何体か奇襲をかけて来たので、時間停止を使いながら次々に倒していく。

近くの足場に着地すると、皆もやってきた。どうやら炎塊はやり過ごしたようだ。

トシ「ハジメ、光る壁ってどんな感じだ?」

ハジメ「分からん、ミュウが気づいたらしいが……。」

 

そんな呑気な会話をしていると、ザバァ!と音を立てながら次々とマグマ蛇がやってきた。

ティオ「やはり、中央の島が終着点の様じゃの。通りたければ我らを倒していけと言わんばかりじゃ。」

ミュウ「でもさっきハジメさんが潰したのに、すぐに補充されてますよ?倒しきれるんでしょうか?」

ハジメ「魔石パターンかもしれない。核ごと破壊できる範囲攻撃で攻めよう!」

俺の言葉に全員が頷くのと、総数20体のマグマ蛇が一斉に襲いかかるのは同時だった。

 

マグマ蛇達はまるで、太陽フレアの様に噴き上がると口から炎塊を飛ばしながら急迫する。

20体による全方位攻撃だ。普通なら逃げ場もなく大質量のマグマに呑み込まれて終わりだろう。

ティオ「久しぶりの一撃じゃ!存分に味わうが良い!」

そう言って揃えて前に突き出されたティオの両手の先には、膨大な量の黒色魔力。

それが瞬く間に集束・圧縮されていき、次の瞬間には一気に解き放たれた。竜人族のブレスだ。

 

恐るべき威力を誇る黒色の閃光はティオの正面から迫っていたマグマ蛇を跡形も無く消滅させ、更に横薙ぎに振るわれた事によりあたかも巨大な黒色閃光のブレードの様にマグマ蛇達を消滅させていった。

一気に八体ものマグマ蛇が消滅し、それにより出来た包囲の穴から俺達は一気に飛び出した。

流石に跡形もなく消し飛ばされれば、魔石がどこにあろうとも一緒に消滅しただろうと思われたが、そう簡単には行かないのが大迷宮クオリティーだ。

 

俺達が数瞬前までいた場所に着弾した12体のマグマ蛇は、足場を粉砕しながらマグマの海へと消えていったものの、再び出現する時にはきっちり20体に戻っていた。

ミュウ「!パパ!あそこの壁なの!」

ハジメ「!あれか!」

その光は中央の島にあった。確かに岩壁の一部が拳大の光を放っていた。

オレンジ色の光は先程までは気がつかなかったが、岩壁に埋め込まれている何らかの鉱石から放たれている様だ。

 

早速確認してみると、保護色になっていて分かりづらいが、どうやらかなりの数の鉱石が規則正しく中央の島の岩壁に埋め込まれている様だと分かった。

中央の島は円柱形なので、鉱石が並ぶ間隔と島の外周から考えると……

ざっと百個の鉱石が埋め込まれている事になる。

そして現在、光を放っている鉱石は9個……俺とティオが倒した数の合計と同数だ。

 

オスカー『どうやら、試練の内容が分かったみたいだね。』

ハジメ「知ってて教えなかったの?ちょっとあくどいよ?」

俺の苦言に対し、苦笑いするオスカー。ミレディも悪戯好きな笑みを浮かべている。やれやれ……。

香織「……確かに、この暑さで、あれを百体相手にするのは、迷宮のコンセプトにも合ってるよね。」

ただでさえ暑さと奇襲により疲弊しているであろう挑戦者を、最後の最後で一番長く深く集中しなければならない状況に追い込む。

大迷宮に相応しい嫌らしさと言えるだろう。

 

確かにユエ達は相当精神を疲労させている。

しかしその表情には疲労の色はなく、攻略方法を見つけさえすればどうとでもしてやるという不敵な笑みしか浮かんでいなかった。

そうして全員がやるべき事を理解して気合を入れ直した直後、再びマグマ蛇達が襲いかかった。

マグマの塊が豪雨の如く降り注ぎ、大質量のマグマ蛇が不規則な動きを以て獲物を捉え焼き尽くさんと迫る。

 

俺達は再び散開し、其々反撃に出た。

ティオが竜の翼を背から生やし、そこから発生させた風でその身を浮かせながら真空刃を伴った竜巻を砲撃の如くぶっ放す。

風系統の中級攻撃魔法"砲皇"だ。

 

ティオ「これで9体目じゃ!今のところ妾が一歩リードじゃな。

ご主人様よ!妾が一番多く倒したらご褒美を所望するぞ!勿論二人っきりで一晩じゃ!」

9体目のマグマ蛇を吹き飛ばし切り刻みながら、そんな事を宣うティオ。オイオイ、ここでそれは……。

 

シア「なっ、ティオさんだけ狡いです!私も参戦しますよ!ハジメさん、私も勝ったら一晩ですぅ!」

ユエ「……ん!私も一晩!二人っきりデート!」

香織「私も!ハジメ君と二人きりで過ごすんだから!」

……時すでに遅しだったか。

 

ミレディ「ふっふっふっ、それじゃあミレディさんも参戦しようかな~?」

トシ「俺もだ。ハジメ、これでお前に勝ったら、俺にもドライバーくれ!」

オスカー『ほぅ?それなら僕も知恵を貸そう!思う存分暴れるぞ~!』

イナバ「きゅ!?きゅきゅう!(なんやて!?ほならワイもや!王様にええとこ見せたるで~!)」

あ~もうしゃあない。こうなったらド派手に暴れるか!

 

シアは跳躍した先にいるマグマ蛇の頭部にドリュッケンを上段から振り下ろし、魔力の衝撃を放つ"魔衝波"で次々と倒している。

しかも、特訓で習得した"月歩"や"文曲"等の空中移動手段もあるので、中々厄介だ。

 

ユエも楽しみという雰囲気を醸し出しながら、しかし術についてはどこまでも凶悪なものを繰り出した。

最近十八番の"雷龍"である。

熟練度がどんどん上がっているのか、出現した"雷龍"の数は8体。

それをほぼ同時に、其々別の標的に向けて解き放った。雷鳴の咆哮が響き渡る。

ユエに喰らいつこうとしていたマグマ蛇達は、逆にマグマの塊などものともしない雷龍の群れに次々と呑み込まれ、体内の魔石ごと砕かれていった。

 

香織はどこからか取り出した二振りの剣に、属性付与のエンチャントをかけたのか、次々と斬撃を飛ばして魔石を砕いている。

そういえば、どこぞのショタコン剣士見たくなっていたなぁ……。

トシは、オスカーが時々乗り移っては、生成魔法を使用している。

アイツ等、ご褒美がチラつくとやる気になりやがって……まぁ、やる気が出るのは嬉しいが。

 

そしてミレディはというと、正に無双の嵐だった。

ミレディ「"星天・氷嵐刃"!"天翔閃・千翼"!」

一気に2つも強力な魔法が放たれた。

氷柱・風刃・天翔閃の雨が次々と降り注ぐ。オーバーキルも良い所だなオイ。

それをいとも簡単に下から打ち返して、キル数を稼ぐイナバ。もう何でもありだな。

 

その光景を見た他の面々も、其々焦りの表情を浮かべて悪態を吐きつつ、より一層苛烈な攻撃を繰り出し、討伐数を伸ばしていった。

まぁ、俺も負けるつもりはないんだけどね。

 

ハジメ「ミュウ、ちょぉ~とこの中に入っていてね?」

ミュウ「みゅ?はいなの。」

ミュウを一旦、デンライナーゴウカに避難させると、俺はマグマの中に潜り込んだ。

何をするかって?元から叩くんだよォ!

 

マグマの中では、マグマ蛇が再生途中だった。勿論構わず、俺は攻撃を放った。

ハジメ「ズウェイヤァ!!!」

放たれた技は"グランド・オブ・レイジ"。勿論、氷と水の2属性付きだ。

横薙ぎに放たれた必滅の斬撃は、一振りで部屋全体に及ぶ大破壊を齎し、現出している20体のマグマ蛇全てを、マグマ諸共凍らせては、魔石ごと消滅させる。

 

ユエ「……反則過ぎる。」

シア「一番の強敵はハジメさんでしたぁッ!!」

ティオ「いきなり難易度上がり過ぎではないかのッ!?」

トシ「てかそんなのありかよ!?」

香織「これ私達の分が無くなるよね!?」

ミレディ「ハジメンそれ禁止~!」

イナバ「きゅぅう!(王様ァ!容赦なさすぎでっせ!)」

オスカー『それ君にしかできないよねぇ!?』

皆の方がチートじみているでしょ……なら俺も敢えて言おう!勝てばよかろうなのだァー!!

 

気が付けば中央の島の岩壁、その外周に規則正しく埋め込まれた鉱石はその殆どを発光させており、残り8個というところまで来ていた。

本格的な戦闘が始まってからまだ3分も経っていない。

【グリューエン大火山】のコンセプトが悪環境による集中力低下状態での長時間戦闘だという推測が当たっていたのだとしたら、俺達に対しては完全に創設者の思惑は外れてしまったと言えるだろう。

 

俺は十分キル数を稼げたので、一度マグマから上がり、ミュウがやけどしない位の温度に鎧を冷まし、現在再びミュウを抱えながら迎撃をしている。

もう既に残りの7体が皆の攻撃でフルボッコ状態だ。……若干涙目になってないか?

すると、遂に最後の一体となったマグマ蛇が、直下のマグマの海から俺に奇襲をかけた。

 

勿論、喰われる前に喰うのが俺の信条だ。なので、ドンナーXを構え、狙いを定めた。

因みに、抱きかかえられているミュウも、ミニガン「どんなぁ・ぷらす」を構えている。

何でそんなもの持っているのかって?……聞かないでくれ。ミュウの未来が心配なんだよ俺は。

 

ハジメ「チェックメイトだ。」

ミュウ「これで決まり、なの!」

決め台詞を決めながら、俺達は最後の一発を放った。

 

──刹那、

ズドォオオオオオオオオ!!!!

頭上より、極光が降り注いだ。

 

ミュウ「ヒィッ!?」

……怯えるミュウを即座にデンライナーに転送、ブラックホールでその攻撃を吸収した。

ユエ「……は、ハジメ?」

……全く、興醒めも良い所だ。

 

トシ「ッ!上かッ!」

トシの警告と同時に無数の閃光が豪雨の如く降り注いだ。それは、縮小版の極光だ。

先程の一撃に比べれば十分の一程度の威力と規模、されど一発一発が確実にその身を滅ぼす死の光だろう。

皆が迎撃態勢に入っているが……そこまで警戒する必要はない。何故か?

 

 

──私が滅ぼすからだ。

 

 

即座に暗闇と最光を手元に呼び出し、異空間ゲートを開いた。

その途端、閃光はまるで吸い寄せられる様にゲートに殺到し、その大口に飲み込みこまれていった。

光を飲み込めば飲み込む程、私の魔力が上がるのを感じている。

 

10秒か、それとも1分か。

永遠に続くかと思われた極光の嵐は最後に一際激しく降り注いだ後、漸く終わりを見せた。

周囲は一切変化は無い。全て喰い尽くしたようだ。

皆呆気に取られているが……この程度出来て当然だ。

 

すると、上空から感嘆半分呆れ半分の男の声が降ってきた。

???「……看過できない実力だ、やはりここで待ち伏せていて正解だった。

お前達は危険過ぎる。特にその男は……」

私達はその声がした天井付近に視線を向ける。そしてユエ達が驚愕に目を見開いた。

何故ならいつの間にかそこには夥しい数の竜と、それらとは比べ物にならない程の巨体を誇る純白の竜が飛んでおり、その白竜の背に赤髪で浅黒い肌、僅かに尖った耳を持つ魔人族の男がいたからだ。

 

???「まさか、私の白竜(ウラノス)がブレスを直撃させてもものともせんとは……

おまけに報告にあった強力にして未知の武器に加え、

……まさか総数50体の灰竜の掃射を耐えきるなど有り得ん事だ。

貴様等、一体何者だ?いくつの神代魔法を修得している?」

 

ティオに似た黄金色の眼を剣呑に細め上空より睥睨する魔人族の男は、警戒心を露わにしつつ睨み返すユエ達にそんな質問をした。

全く、そんな下らん考えに応える道理などあるわけなかろう。

魔人族の男に対し私は、溜息を一つ吐いた後に呟いた。

 

ハジメ「……不意打ちに関しては何も言うまい。文句を言うのは三流のする事だからな。だがな……」

その瞬間、体の中から凄まじい程の殺意が込みあがり、それが一気に放出された。

それに構わず、私は奴に言霊を叩きつけた。

 

 

ハジメ「我が子に危害を加えただけでなく、王たる私を見下ろす等、頭が高いにも程があるわ。身の程を弁えろ、雑種。

 

 

???「うぐぉっ!!?!?」

私がそう告げた途端、灰竜と呼ばれた小型竜やウラノスと呼ばれた白竜ごと、魔人族の男が吸い寄せられる様に下方へ叩きつけられた。

灰竜とその背に乗っていたらしい亀型の魔物は、私が発動した"暴食の黒天窮(グラトニーホール・カタストロフ)"により悉く糧となった。

白竜も魔人族の男も張り付いた様に地面から動けない。

 

ハジメ「私の機嫌が悪いのが、目に見えぬのか?まぁ、貴様程度に割いている時間はないのだがな。」

つまらなそうな視線を魔人族の男に向けると、魔人族の男は端正な表情に憤怒を表して怒鳴る。

???「これも神代魔法かっ!?貴様、一体何をしたぁ!!」

ハジメ「カカカッ、何もしておらんよ。ただ貴様の不敬不遜を無礼だと思っただけだ。

それよりも……そんな様で凄んでもただ滑稽にしか映らんぞ?

まぁ、所詮はこの程度でしかあるまいか。なぁ、"自称神の使徒"のフリードとやら?」

フリード「ッ!?貴様、何処でそれを!?」

 

怒鳴る魔人族の男……フリードと反対に、私は嘲笑混じりに揶揄う様な言葉をぶつける。

序に名前を呼んでやれば、動揺した様に語気を強めるフリード。浅黒い肌を真っ赤にして吼える。

ハジメ「さぁな?貴様の忠犬共から情報を抜き出したが……まさかこの程度だったとは。

拍子抜けにも程があるな。」

フリード「それはカトレアの事か!!それに、【ウルの町】でレイスを殺したのも貴様だな!?」

ハジメ「一々殺した奴の名など知らん。

私にとっては、今まで食べた食事の数を、種類ごとに覚えるような面倒故な。」

 

そう言って、奴を煽り続ける。因みにこの男、魔人族の総司令であり、【シュネー雪原】の攻略者である。

まぁ、どうでも良いか。

ハジメ「まぁ良い、どのみち私の機嫌を損ねたのだ。そこの蜥蜴風情諸共、処断してくれよう。」

フリード「貴様ァッッ!!」

 

そこまで言われて遂に火事場の馬鹿力でも発揮したのか、フリードは四肢に力を込めて立ち上がる。

しかし即座に私は移動し、奴を蹴り飛ばす。

ハジメ「折角だ、貴様にはこれが良かろう。」

そう言って私は両腕の拳に、黄金の魔力を込めると……

 

ハジメ「貴様の死をもって断罪としよう。」

即座に奴目掛け、拳を連打した。

ハジメ「無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄!

無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄!

無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄

無駄無駄無駄無駄無駄無駄!

無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄!

WRYYYYYYYYYYYYYYYYYYYYYY!

無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄!

無駄アァーーー!!!!!」

フリード「ドゥォワァァァ―――!?!?!?」

拳を受けたフリードはそのまま吹っ飛ばされ、マグマの中に消えていった……。

 


〈フリード視点〉

 

!?私は確か……奴に殺されたはず……

それなのになぜ、生きているの「無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄!無駄ァ!!!」グアァァァッ!?

 

……いきなり変な髪形の金髪の人間に、殴られたかと思っていたら、次は暗い所にいた。

一体ここはど……こ……ッ!?

ホームレス「このダボがァ!良くも俺のコートを盗もうとしやがって!」

グアァッ!?こ、こんな、バカなッ!?こんな所で、私、が、こんな、人間、に……

 

!?また違う場所に!?おかしいぞ!?一体何がどうなって……ッ!?

おい女!一体何をやって!?まさか……ッ!?

グアァァァ!?わ、私は……解剖、されている……のか!?何故、私の体は動かないッ!?

それにこの、痛みはッ!う、うわぁぁぁぁぁぁぁ!?!?!?

 

!?今度は何所なのだ!?何なんだこれは!?

犬「バウバウッ!」

さ、さっきから変だッ……!なッ!?何故、こんなくだらないことで!?

 

……

 

クッ、ハァ…ハァ…クゥ………、ハァー

 

???「おじちゃん、どこか具合が悪いの~?」

 

 

わ、私は何回死ぬんだ!?次はど……どこから……い…いつ襲ってくるんだ!?

 

 

 

ヒイッ!?く、来るな!

 

来るな……

 

私の……

 

私のそばに近寄るなあァーッ!!!

 


 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

トシ「……なぁ、ハジメ。本当にこれでよかったのか?」

ハジメ「あぁ……生かしておく価値があるとはいえ、徹底的に心を折っておかねば気が済まんのでな。」

トシ「前から思っていたけど……お前ホント容赦しねぇな。」

ハジメ「それが俺のやり方だ。ミュウ~、ごめんね~。怖かったよね~。」

ミュウ「みゅ……でも、パパかっこよかったの!」

う~ん、この可愛さ!正にグランドタイム級!

 

そう、今まで読者の皆様にとっては茶番が始まったと思っている事だろう。

だが残念なことに違う。さっきまでの光景は、俺がトシと一緒に奴にかけた幻術だ。

現に、本物のフリードは俺達の目の前に倒れている。

多少ボロボロだが、どこにもマグマで溶けた痕はない。

 

奴にかけた幻覚は、「終わりがないのが終わり」だ。

文字通り、死に続ける悪夢を五感付きで見せられるのだ。

かけられた時の光景は想像を絶する事であろう。

さてと、奴が苦しんでいる間に、さっさと神代魔法を覚えに行くか。




ハジメ
「ここまで読んでいただき、ありがとうございます!さて、今回のゲストさん、どうぞ~!」
イルワ
「どうも初めまして。冒険者ギルド、フューレン支部支部長イルワ・チャングだ。」
ハジメ
「今回何故関連していないイルワさんが出ているのか、それは……言えない。」
イルワ
「ネタバレ防止かい?」
ハジメ
「それを言わんで欲しかったんだけど……まぁいいや。」
イルワ
「それにしても、アンカジを救った挙句、大火山を突破するとは……凄いとしか言いようがないな。」
ハジメ
「そんなイルワさんに問題。上は大火事、下は洪水、火山で起こったアクシデント、な~んだ?」
イルワ
「ふむ……そうだね。次回予告の後にしようか。」

次回予告
ハジメ
「次回は遂に解放者ナイズ・グリューエンが登場!
いやぁ~、ミレディの所からちょっと時間かかっちゃったなぁ。」
イルワ
「そうなのかい?私は君たちがどれだけ旅をしてきたかは知らないが……。」
ハジメ
「まぁ、それはまたいずれ。そして、魔将軍フリードとの対話。」
イルワ
「ここでもハジメ君は、相手をすぐに殺すと思っていたんだけど……どういう風の吹き回しだい?」
ハジメ
「まぁ、それも次回説明するので。
後、オリジナル展開なので、原作好きの方はブラウザバッグを推奨します。」
イルワ
「おや?もしや、君が敗北する、とでも?」
ハジメ
「冗談よしてくれ。ただ、会話内容が少しあれなだけだ。」
イルワ
「そう言うことにしておこう、それではまた次回。」

リースティアさん、誤字報告ありがとうございました!


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52.二人は何故、戦わなければならなかったのか

ハジメ
「お待たせいたしました。さぁて、今回のオープニングゲスト、カモン!」

「なぁ、前回淳史の説明がなかったんだが……。」
ハジメ
「……正直、女性陣のキャラが強すぎるんだよ。」

「メタいな!?流石にもうちょっとあるだろ!?」
ハジメ
「えぇ~と、投擲の的、丼好き、異世界マジシャンの三人組としか……。」

「最後のは別作品だろ!?てか何で淳史だけ"投擲の的"!?」
ハジメ
「茶化すからでしょ。
さて前回は、キル数稼ぎとゴールド・エクスペリエンス・レクイエム(終わりがないのが終わり)だったね。」

「割とえげつないんだよなぁ、アレ……。それじゃあ、第5章第5話」
ハジメ・昇
「「それでは、どうぞ!」」


再び島の中央へ向かうと、そこには最初に見たマグマのドームは無くなっていて、代わりに漆黒の建造物がその姿を見せていた。

その傍らには、地面から数cm程浮遊している円盤がある。

天井の穴がショートカット用出口だったので、本来はこれに乗って地上に出るのだろう。

 

一見扉など無い唯の長方体に見えるが、壁の一部に毎度お馴染みの七大迷宮を示す文様が刻まれている場所があった。

俺達がその前に立つと、スっと音もなく壁がスライドし、中に入ることが出来た。

中に入ると、再びスっと音もなく閉まる。

 

ハジメ「これで3つ目か。はてさて、どんな神代魔法だろうな?」

ミュウ「みゅ!楽しみなの!」

そんな俺達の前には、複雑にして精緻な魔法陣があった。神代魔法の魔法陣だ。

俺達は互いに頷き合い、その中へ踏み込んだ。

 

【オルクス大迷宮】の時と同じ様に、記憶が勝手に溢れ出し迷宮攻略の軌跡が脳内を駆け巡る。

そしてマグマ蛇を全て討伐したところで攻略を認められた様で、ミュウとオスカー以外の脳内に直接神代魔法が刻み込まれていった。

 

ハジメ「ほぅ、空間操作系の魔法か。これは使えそうだね。」

どうやら、【グリューエン大火山】における神代魔法は"空間魔法"らしい。

俺達が空間魔法を修得し、魔法陣の輝きが収まっていくと同時にカコンと音を立てて壁の一部が開き、更に正面の壁に輝く文字が浮き出始めた。

 

『人の未来が 自由な意思の下にあらん事を 切に願う。──ナイズ・グリューエン』

 

ハジメ「……シンプルだなぁ。」

ミレディ「なんというか、これはこれでナッちゃんらしいや。」

オスカー『あぁ、出会った頃を思い出すね。あの時は大変だった……。』

二人の会話も気にはなるが、折角だし本人に聞くことにしようか。

周囲を見渡せば、【グリューエン大火山】の創設者の住処にしてはかなり殺風景な部屋だと気が付く。

オスカーの住処の様な生活感がまるで無い。本当に魔法陣しかないようだ。

 

ユエ「……身辺整理でもしたみたい。」

シア「ナイズさんは術以外、何も残さなかったみたいですね。」

ティオ「そういえば、寡黙な男だったと聞いておるが……実際の所はどうじゃったのかのぅ?」

オスカー『そうだねぇ……アンディカのカジノに来たときは興味津々そうだったけどなぁ。』

カジノかぁ……。行ってみたいけど、聞いたことない場所だなぁ。

 

トシ「今行ってみたいとか思っていただろ。」

ハジメ「心を読むんじゃあない。それに聞いたことが無い場所だ、行こうにも…。」

ミレディ「もう、アンディカはないからね……。」

そうか、奴が……今は我慢だ、ミュウもいるところでブチギレるわけにもいかない。

 

香織「そ、そういえばハジメ君!ナイズさんはここにいるのかな!?」

イナバ「きゅ、きゅきゅう!(まずはご本人からお話を聞きやしょうや!)」

……気を遣わせちまったか。よし、呼び出すとするか。

俺達は拳サイズに開いた壁の所に行き、中に入っていたペンダントを取り出した。

今まで手に入れた証と少々趣が異なる意匠を凝らしたサークル状のペンダントだ。

 

さてと、早速俺が手をかざすと、眼魂が現れた。

???『……むぅ?これは……。』

どうやら成功したようだ。

ミレディ「やっほ~、ナッちゃんお久~!」

オスカー『いきなり混乱するだろうけど……久しぶりだね。』

ナイズ『!その声は……ミレディとオスカーか!?』

 

眼魂から現れた男性は、赤錆色の短髪に、鷹のように鋭く、髪と同じ色の瞳だった。

身長は2m位の筋肉質な大男で、20代くらいだろう。

彼こそが、この【グリューエン大迷宮】の主にして、"空間魔法"の使い手。

解放者"ナイズ・グリューエン"だ。

 

ミレディ「かくかくしかじかで~。」

オスカー『丸々うまうまでね。』

ナイズ『エヒトくたばれということか。』

うん、感動の話と再会時の状況整理は済んだようだな。

 

ナイズ『改めて初めまして。自分はナイズ・グリューエンだ。

自分に出来ることが何かは分からないが、戻ってきた以上力にはなりたいと思っている。

どうか、宜しく頼む。』

ハジメ「こちらこそ、頼もしい限りだよ。宜しく、ナイズ。」

そう言って、俺はナイズと手を握り合う。霊体なのに?ってツッコミはなしな。

 

さてと、静因石と空間魔法はゲットしたし、後は……コイツの対処だな。

ハジメ「取り敢えず、オーロラカーテンで治療組と護衛組を先に送るよ。俺はコイツと話を付けておく。」

トシ「……どうするつもりなんだ?」

ハジメ「見たところ、高い地位にいるみたいだからな。

神代魔法を習得している以上、下衆野郎の悪事は分かっているんだろう。

それについて色々聞かせてもらう。最悪、説得が無理なら殺すが。」

 

そういうと俺は、オーロラカーテンを出現させた。

以前までなら、クロックアップの連続使用でしか即座に移動できない距離も、空間魔法を習得した今の俺なら、これ一つで移動可能だ。

しかも前者と違って、大人数でも即座に移動が出来る優れものだ。

 

更に、オスカーから聞いた話によると、乗り物系アーティファクトの内部拡張が出来るらしい。

これなら、トライドロンでも皆の移動が可能になる。

正直、毎回デンライナーとか出すの、面倒だったんだよなぁ……。

今後は大人数でも中型ビークルで移動できるし、宝物庫も生産可能なんだよなぁ……。

ホント、ナイズと空間魔法様様だわ。

 

ハジメ「解放者にも魔人族はいるみたいだし……どうにかできないかやってみるよ。」

ミレディ「ハジメン……。」

それに、戦後復興で魔人族だけ仲間はずれなのはかわいそうじゃん。

ハジメ「香織、向こうの治療は頼んだ。用が済み次第、直ぐに帰ってくる。」

香織「うん……気を付けてね、ハジメ君。」

……何だろう、この戦地に夫を送り出す妻のような雰囲気。

 

ハジメ「取り敢えず、だ。最優先するのはアンカジの民達だ。

俺の抗体でどれだけ進行が遅れたかは分からないから、もし急を要するならすぐ言ってくれ。」

ユエ「……ん、こっちはまかせて。」

シア「そうですよ!私達もできるとこ見せてあげませんと!」

ティオ「うむ!ご主人様は気にせず、その男と話を付けるのじゃ!」

イナバ「きゅ、きゅぅう!(王様、留守は任せてください!)」

……頼もしいな、皆。

 

トシ「まぁ、お前が負けることなんてそうそうないと思うが……気を付けろよ?」

ハジメ「勿論だとも。そっちもナイズの体担当宜しく。ミュウ、いい子で待っているんだぞ~?」

ミュウ「はいなの!パパ、行ってらっしゃいなの!」

うん、やっぱりウチの娘は可愛い。さてと、さっさと済ませて母親に合わせてあげなくちゃな。

 

ミレディ「そう言えば、ナッちゃんのお嫁さんについて、聞きたくない~?」

ナイズ『オスカー、コイツを一回泣かした方が良くないか?』

オスカー『ダメだよナイズ、ハジメ君が変成魔法と木偶人形を手に入れるまでの辛抱だ。』

……う~ん、こっちはこっちでぐだぐだですなぁ。

そう思いながら、俺は皆をアンカジへ送っていった。

 


 

ハジメ「さてと……デバフ解除っと。」

早速この男、フリードを起こすことにした。まずは悪夢のデバフ解除、その後水球をぶつけた。

フリード「ブハッ!?こ、ここは……!?」

ハジメ「おはようさん。随分苦しんだようだね。」

フリード「ッ!貴様は!」

目を覚ましたフリードは、俺を見るなり鋭い目で睨んできた。自業自得だろうに。

 

ハジメ「あぁ、言っておくが無駄だぞ。お前の技能は封じてある。

空間魔法も通じないし、相棒の龍はこの様だ。」

そういって宝物庫から一つの檻を取り出す。

そこにはさっき、俺に光線を放ってきた白竜が閉じ込められていた。

まぁ、技能をウォッチに封じた上で、魔法で小さくしただけだが。

 

フリード「!?貴様ァ、よくもウラノスを!」

敵にしちゃあ名前のセンスいいなオイ。でも一文字惜しい。

ハジメ「まぁ待て。俺の話をちょっと聞いてけ。

その後に質問に答えてもらえるなら、直ぐに開放するさ。」

フリード「誰が貴様の言うことなど!「じゃあここで野垂れ死ぬか?」ッ……!」

俺の問いに、フリードは焦るような目をするが、直ぐにこちらを睨んだ。

 

フリード「……ならば、貴様諸共道連れにしてくれるッ!」

そう言ってフリードが、何やら詠唱をした直後……

ゴゴゴゴゴゴゴゴゴッ!!!ゴバッ!!!ズドォン!!

空間全体、いや、【グリューエン大火山】全体に激震が走り、凄まじい轟音と共にマグマの海が荒れ狂い始めた。

 

ハジメ「!?何をした!?」

突如、下から突き上げるような衝撃に見舞われるも、即座に体勢を立て直す。

激震は刻一刻と激しさを増し、既に震度で言えば確実に七はあるだろう。

マグマの海からは無数の火柱、いや、マグマ柱が噴き上がり始めている。

ふと足場の淵を見れば、マグマの海がせり上がってきていた。

 

ハジメ「重力魔法、ってわけでもなさそうだな……。となると……要石か。」

フリード「ご名答だ。このマグマを見て、おかしいとは思わなかったのか?

【グリューエン大火山】は明らかに活火山だ。にもかかわらず、今まで一度も噴火したという記録がない。それはつまり、地下のマグマ溜まりからの噴出をコントロールしている要因があるということ。」

 

ハジメ「あぁ、特大の静因石でそれをコントロールしていた解放者から聞いている。

しかし良いのか?俺は逃げられるが、お前は……。」

フリード「敵に温情をかけられてたまるものか!同胞達の様に情報を抜き取れると思うなよ!

神代魔法を同胞にも授けられないのは痛恨だが……貴様をここで足止めできるなら惜しくない対価だ!」

……めんどくせぇなコイツ。しょうがないか。

 

ハジメ「ちょっと待ってろ。今止めてくるから。」

そう言ってオーマジオウドライバーを出現させると、俺は両手をベルトに翳した。

 

ハジメ「"変身"。」

 

ゴォーン!!!

 

『祝福の刻!』

 

『オーマジオウ!』

 

そしてマグマに、ぴょーん!

フリード「ハッ!助からないと悟って自殺し「勝手に殺すな!」なッ!?」

ハジメ「馬鹿め!マグマにも耐えられるボディだ!溶けるものか!」

そう言って更に奥深く、要石があった場所らしきところまで潜る。

 

ハジメ「よし、この辺でやるか。」

そう言って俺は、因果律操作を行った。

すると、周辺から欠片の様なものが集まっていき、一つの大きな岩となって、マグマの流れていた穴に突き刺さった。

恐らくこれが要石だったのだろう。まぁ、これで噴火の心配はなくなったようだな。

 

ハジメ「ふぃ~、いい湯だったわ。あ、要石は治し終わったぞ。」

フリード「なァッ!?バッ、バカなッ!?」

まぁ、信じられないのも無理はない。だが、現在進行形でマグマの噴火が収まってきているんだ。

信じざるを得ないだろう。

 

ハジメ「さてと、噴火の心配もなくなったんだ。早速話をしよう。」

フリード「フン!私がそう簡単に口を割るとでも思っているのか?」

ハジメ「いや、今回は魔人族の情報より、アンタ自身についてなんだが。

そもそもあんた等の意思に関係なく情報位引き出せるぞ。」

フリード「何だとッ!?」

取り敢えず話が進まないので、リアクションは無視してさっさと話し始めることにした。

 

ハジメ「取り敢えず、だ。アンタが迷宮踏破者である以上、あの下衆野郎の所業ぐらいわかってんだろ?

奴だけじゃない、アルヴとかいうドカス野郎の正体も、とっくに気付いているんじゃないのか?」

フリード「きっ、貴様ァ!アルヴ様を愚弄する気かァ!」

ハジメ「知るか。下衆野郎に従うクズ共は、纏めて駆逐するだけだ。」

激高するフリードに対し、冷徹に返す。更に話を続けた。

 

ハジメ「大体、そのアルヴはクソエヒトの配下であって、この戦争自体マッチポンプによる出来レースなんだ。

俺達異世界人が呼び寄せられた理由はほかでもない。アンタが神代魔法を手にしたせいだ。

それで部下が死のうが、それは俺の責任じゃあない。文句ならテメェの親擬きに言いやがれ。」

フリード「なッ、何だとッ!?」

衝撃の事実に驚いているようだが……論より証拠ということわざがあってだな……。

 

ハジメ「信じられない、って顔をしているな。なら、お前達が敬愛する魔王とやらの名でも当ててやろうか?

何も知らない、人間で異世界人の俺が知っていれば、信じるを得ないだろう?」

フリード「ハッ!人間如きに我等が王の名を答えられるものか!適当なことを……。」

絶対的な自信を持っているようだが……残念だがお前達の王は偽物なんだよ。

 

ハジメ「確か、ディンリード・ガルディア・ウェスペリティリオ・アヴァタール、だったかな?」

フリード「!?」

ハジメ「何故知っている!?って顔をしているな。まぁ、知らんのも無理はない。

その名前は昔滅んだ、吸血鬼の国の宰相の名だからだよ。

お前等の王は、その皮を被っているだけにすぎん。」

フリード「う、嘘だ!そんなことが……!」

フリードの動揺も気にせず、間違った考えをそのままバッサリと切り捨てる。

 

ハジメ「そもそも、何故お前達は見た目が違っている奴を魔王と仰いでいる?

普通は追い出すはずだろう。それをしない時点で、矛盾があることに何故気付かない?」

フリード「それ、は……。」

ハジメ「何より、そいつはユエと同じく金髪紅眼だろう?それが何よりの証拠だ。」

フリード「……ッ!」

反論できなくなるフリード、だが俺はさらに畳みかける。

 

ハジメ「信じきれないのも無理はない。だが、これを見てもまだ同じことが言えるか?」

フリード「何ッ!?」

俺は"コネクト"でとある水晶を取り出した。映像記録用のアーティファクトだ。

それはかつてオルクス大迷宮の奈落……ユエが封印されていた場所で見つけたものだった。

俺が魔力を流すと、アーティファクトが輝き、ふっと映像を映し出す。

 

フリード「なッ!?ま、魔王陛下……!?」

そこから出て来た人物の姿に、思わず驚くフリード。

自分が良く知っている人物に似た者が出てきたのだ。動揺するのは当たり前だ。

だがな、お前達が見ていた魔王を名乗る奴はな、ただの虚像なんだよ。

 

そんなことも気にせず、映像の人物――

ユエのおやっさん、ディンリードさんが、ゆっくりと話し始めた。

ディンリード『……アレーティア。久しい、というのは少し違うかな。

君は、きっと私を恨んでいるだろうから。いや、恨むなんて言葉では足りないだろう。

私のしたことは…………あぁ、違う。こんなことを言いたかったわけじゃない。

色々考えてきたというのに、いざ遺言を残すとなると上手く話せない。』

 

フリード「遺言……だと……!?」

ハジメ「……。」

あの時の感情が蘇ってくるが、二回目なので耐えられる。

もう既にこの人はこの世にはいない。そしてその遺体は下衆野郎共の手中にある。

 

ディンリード『そうだ。まずは礼を言おう。……アレーティア。

きっと、今、君の傍には、君が心から信頼する誰かがいるはずだ。

少なくとも、変成魔法を手に入れることができ、真のオルクスに挑める強者であって、私の用意したガーディアンから君を見捨てず救い出した者が。』

 

フリード「……ッ!」

ハジメ「そんな凄んだ顔で睨まれてもな。そもそもあの程度で勝てる程大迷宮は甘くはない。

お前とてそれは一番わかっているだろう?」

殺された女魔人族のことを思い出したのか、こちらを睨むフリード。

でもな、こっちは逃げる機会をくれてやったんだよ。実力を図れないアイツが悪い。ただそれだけだ。

 

ディンリード『……君。私の愛しい姪に寄り添う君よ。君は男性かな?それとも女性だろうか?

アレーティアにとって、どんな存在なのだろう?恋人だろうか?親友だろうか?

あるいは家族だったり、何かの仲間だったりするのだろうか?

直接会って礼を言えないことは申し訳ないが、どうか言わせて欲しい。……ありがとう。

その子を救ってくれて、寄り添ってくれて、ありがとう。私の生涯で最大の感謝を捧げる。』

 

フリード「魔王陛下にご息女はいない筈……隠し子か!?」

ハジメ「阿呆。そんなわけあるか。大体それなら映像の人物は魔人族やろがい。」

フリードの妄信なのか天然なのかわからんボケに、思わずツッコミを入れてしまう。

てか、さっきのことやっぱり信じていなかったんかい。

 

ディンリード『アレーティア。君の胸中は疑問で溢れているだろう。

それとも、もう真実を知っているのだろうか。

私が何故、あの日、君を傷つけ、あの暗闇の底へ沈めたのか。君がどういう存在で、真の敵が誰なのか。』

 

フリード「真の敵……だと!?」

ハジメ「……。」

?解放者の歴史を知らないだと?まさか……。いや、今は後だ。

そしてそこから語られた話は、俺達が既に知っていた事実だ。

 

ユエが神子として生まれ、エヒトルジュエに狙われていたこと。

それに気がついたディンリードが、欲に目の眩んだ自分のクーデターにより、ユエを殺したと見せかけて奈落に封印し、あの部屋自体を神をも欺く隠蔽空間としたこと。

ユエの封印も、僅かにも気配を掴ませないための苦渋の選択であったこと。

 

ディンリード『君に真実を話すべきか否か、あの日の直前まで迷っていた。

だが、奴等を確実に欺く為にも話すべきではないと判断した。

私を憎めば、それが生きる活力にもなるのではとも思ったのだ。』

 

フリード「……これは、真実……なのか……!?」

ハジメ「嘘なら自分の頭でも殴って見ろ。」

俺は冷徹に返して、フリードを黙らせると、そのまま映像を続けた。

そこからはユエに残した言葉と、その傍に寄り添う者、俺に対するメッセージがあった。そして…

 

ディンリード『……さようなら、アレーティア。君を取り巻く世界の全てが、幸せでありますように。』

とうとう映像が終わりを告げた。そこにしばしの静寂が流れていた。

だが、これで終わるわけにはいかない。俺はオーマジオウの力の一端を使い、ある映像を流した。

 

フリード「なッ!?これはッ!?」

ハジメ「嘗てはこんな時代もあった。魔王という存在も、魔人族の姿だった。」

それは、ミレディ達の記憶を読んだ際に流れ出て来た映像だった。

ミレディ達の時代にも、魔人族の王である魔王はいた。勿論、その姿は魔人族だ。

何処にも金髪紅眼の美丈夫はいない。その玉座についていたのは魔人族の男性であった。

 

20代位で、艶やかなロングストレートの赤髪に浅黒い肌。切れ長の目奥には月のような赤い瞳。

……左耳元で揺れる、妙に可愛らしい短い三つ編みについてはスルーするが。

???『初めまして、神代魔法の担い手達。私はラスール。ラスール・アルヴァ・イグドール。

この国の王――つまり、魔王さ。』

 

ハジメ「氷雪洞窟の解放者は魔人族、お前等の同胞でもあり、魔王の弟だった男だ。

映像に移る、その兄は金髪紅眼か?俺にはどう見ても、魔人族にしか見えないが?

それに昔の魔国はイグドールという名だった。その証拠に彼の名にその地名が入っている。

今の魔王に滅びた国、それも多種族の国の名が入っているのはどう考えてもおかしいだろう。」

フリード「馬鹿な……そんな、はずは……。」

真実を聞いたフリードは愕然としているが、まだ何かが引っ掛かっているようだ。

まるで、靄のようなものが。なので、その靄を何とかすることにした。

 

ハジメ「ほいッ、エナジーアイテム〈正常化〉。」

フリード「!?ぐうぅッ!?」

どうやら記憶が戻るとき特有の頭痛があったようだ。少ししてそれは収まったようだ。

フリード「い、今の記憶は……!」

ハジメ「やれやれ、やっぱり精神操作か。」

どうやらこの男も、奴等に踊らされた被害者のようだ。まぁ、敵なので同情はしないが。

 

ハジメ「それで?正気に戻った気分はどうだ?今でもお前は、神とやらを信じるのか?」

俺がそう問うと、少し間をおいてからフリードは言葉を発した。

フリード「……確かに、先程までの私は正気ではなかった。それは認めよう。だが……」

それと同時に、俺の方へ先程よりも鋭い視線を向けた。

 

フリード「それを知った所で、私の答えは変わらない。貴様に下るつもり等毛頭ない!

何より、これまで散っていった同胞達に顔向けできん!このまま終わってなるものか!

この意思を捻じ曲げられるものならやって見せるがよい!」

……ほぅ、意外にも武人らしい答えだ。ならば、こちらも戦ってやらねば不作法というものだ。

 

ハジメ「……いいだろう、幸いにもここには誰一人邪魔者はいない。

お前のその覚悟、この私に見せてもらおうか!」

そう言うと私は、空間魔法による特殊フィールドを展開した。

特殊と言っても、精々元の場所に被害が及ばない程度だが。

 

ハジメ「さぁ来い、魔将軍フリード・バグアー。この最高最善の魔王が、直々に相手をしてやろう!」

フリード「抜かせ!私が認める魔王は、ただ一人!貴様はここで消えろ、イレギュラー!」

相対するは、魔人族将軍にして神代魔法の使い手と、異世界から来た最高最善の魔王。

今ここに、戦士としての誇りをかけた、一大決戦が始まろうとしていた。




ハジメ
「ここまで読んでいただき、ありがとうございます!さて、今回のゲストは皆さん待ちわびていた、この人!」
ナイズ
「初めまして……で合っているだろうか。自分は解放者の一人、ナイズ・グリューエンだ。」
ハジメ
「解放者で一二を争うレベルの苦労人、ナイズ・グリューエンさんです!」
ナイズ
「その呼び名は少し反応に困るな……。」
ハジメ
「じゃあ砂漠の「どこでそれを聞いた?」…ミレディ達から昔話を少々……。」
ナイズ
「まさかとは思うが、ユンファのことも……。」
ハジメ
「大丈夫、幼女から好かれるだけならロリコンとは言わないと俺は思うから!」
ナイズ
「そう思ってもらえると助かる……では、次回予告だな。」

次回予告
ハジメ
「次回はフリードとの一大決戦!オリジナル展開のバトルシーン満載だ!」
ナイズ
「しかし良いのか?相手はアナザーウォッチを持っているらしいが……。」
ハジメ
「今回は相手が正統派だからノーカン。ノーカウントなんだ!」
ナイズ
「何故二回言った?」
ハジメ
「大事なことだから。」
ナイズ
「……そうか。」
ハジメ
「後、今度他の解放者とも一緒に撮るから、そこんとこ宜しく!」
ナイズ
「分かった分かった。それでは、次回もよろしく頼む。」


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53.ストラグルソング/ぶつかり合う二匹の龍

ハジメ
「お待たせいたしました。では、今回のオープニングゲスト、じゃらじゃらポン!」
明人
「なんか、ガチャガチャみたいな感じだな……。」
ハジメ
「まぁ、実質作者のきb……」
明人
「メタいって、それ!?色々大丈夫か!?」
ハジメ
「今更だ、さて前回のあらすじといこう。」
明人
「切り替え早ッ!?えぇ~と、前回は空間魔法を手に入れたんだっけ?」
ハジメ
「その後フリードとの対話、そして戦闘だな。
まぁ、戦闘描写がそこまで上手くないので、それが嫌な方はブラウザバック推奨だ。」
明人
「それでもいいって人だけどうぞ、ってことか。それじゃあ、第5章第6話」
ハジメ・明人
「「それでは、どうぞ!」」


人一人いない不毛の大地にて、私は目の前の男と睨み合っていた。

男の名はフリード。魔人族の将軍にして、同じ神代魔法習得者だ。

しばし睨み合っていると、ふと忘れかけていたことを思い出した。

 

ハジメ「と、そう言えば決戦前になんだが。」

フリード「?どうした、怖気づいたのか?」

ハジメ「抜かせ。お前の力を封じたままだったのでな。

白竜ごと返してやろうと思っただけだ。」

そう言って私は、フリードと白竜の力を封じたウォッチと、白竜の入った籠を、そのままフリードに渡した。

 

フリード「フンッ、随分と余裕のようだな?

言っておくが、先程の様な不甲斐ない姿は見せん。全力を持って、貴様を潰す!」

そう言うと、フリードはウォッチを起動、本来の力を取り戻す。

白竜も檻から出ると元の大きさへと戻り、フリードの渡したウォッチを飲み込んで力を取り戻した。

 

ハジメ「ハッ、本来ならばとことん追い詰めた上で敵を殺すのが私の流儀だが……

お前は武人として私に歯向かってきた。なればこそ、それ相応の相手の仕方があるだろう?」

フリード「ほぅ?同胞を二人殺した奴の言葉とは思えんな?だがその心意気は認めてやる。

貴様が死ぬ前に、名前だけは聞いておくことにしよう。」

そう言うと、フリードは白竜ウラノスの背に乗り、飛翔した。

 

ハジメ「南雲ハジメ、最高最善の魔王である。これでよいか?」

フリード「……ふざけた名乗りだ、我が力の前にひれ伏すがよい、南雲ハジメ!」

ハジメ「そう上手くいくといいがな。さぁ来い、魔将軍フリード・バグアー!」

そう言って互いに空へ登った。ある程度の高さまで行くと止まり、また睨み合う。

 

フリード「ウオァァァァァ!!!」

ハジメ「ハアァァァァァ!!!」

互いに雄叫びを上げながら、相手に向かって突撃した。

フリードが白竜の頭突きを喰らわせてくるのに対し、俺は拳で迎え撃った。

力が拮抗したからか、両者ともに後ろにのけ反る。

 

フリード「私が手にした神代の力、受けてみよ!」

そう言うと、フリードは極度の集中状態に入り、微動だにせずにブツブツと詠唱を唱え始めた。

手には、何やら大きな布が持たれており、複雑怪奇な魔法陣が描かれているようだ。

恐らく空間魔法だろうな。本来であれば速攻で潰しにかかるが……まぁ、待ってやるとするか。

 

暫くして、フリードの詠唱が完成した。

フリード「"界穿"!」

最後の魔法名が唱えられると同時に――フリードと白竜の姿が消えた。

正確には、光り輝く膜のようなものが出現し、それに飛び込んだのだ。

最も……

 

ハジメ「遅い。」バキィ!

フリード「グオッ!?」

私には未来予知がある上に、時間停止もある。不意打ちをするなら時間対策でもしなければ無理だろう。

我ながら反則もいいところだ。

 

が、相手もタダではやられない。

私の裏拳を喰らったフリードは、そのまま大口を開けた白竜に攻撃を命じた。

白竜の口内には、既に膨大な熱量と魔力が臨界状態まで集束・圧縮されている。

私が振り返るのと、ゼロ距離で極光が放たれるのは同時だった。

 

ドォゴォオオオオ!!!

ハジメ「ッ!少しは効くな……。」

轟音と共に、肉体にダメージが入る。まぁ、鎧のリジェネ効果で即座に回復するが。

極光が晴れると、フリードは直ぐ様追撃に入ったようだ。

 

命令を受けた白竜が、光弾を無数に放つ。まるでオルクスのヒュドラにそっくりだ。

だが、奴よりもこの白竜は強い。極光や光弾の威力も侮ることは全く出来ん。

神代魔法の使い手とのコンビネーションも相まって厄介さは格段に上だ。

今の私でなければ簡単には太刀打ちできんだろうな。

 

ハジメ「オラオラオラオラオラオラオラァ!!!」

どこぞの白金流星宜しく、高速のラッシュで迎え撃つ。

拳に当たった光弾はそのまま弾け飛び、霧散してゆく。

 

フリード「流石は魔王を自称するだけはあるようだな!ここまでやるとはな!ならば、これならどうだ!?」

フリードは、私のしぶとさに歯噛みすると同時に驚嘆の眼差しを送った。

そして、白竜を高速で飛ばしながら、再び、詠唱を唱え始めた。

 

ハジメ「自惚れるな、この程度まだまだ序の口に過ぎん!今度はこちらから行くぞ!」

私はそういうと、オーロラカーテンを出現させ、そこに飛び込んだ。

フリードは自分と同じ神代魔法か!?と警戒しているようだが……少し違うのだよ。

 

ハジメ「こっちだ!」

フリード「なッ!?グアッ!?」

これまた流星十字軍からとった、逆さ吊りの鏡男戦法だ。

相手を映すものがあれば、それを起点に移動・攻撃が可能になる能力だ。

まぁ、本当は龍騎の能力を応用し、何もない所からの攻撃でそれっぽくして見せただけだが。

 

私に吹き飛ばされ、白竜にしがみつきながら思わず詠唱を中断してしまったフリード。

が、直ぐに体勢を立て直し、それと同時に事前に命令を受けたのか、白竜が極光のブレスを放った。

ウラノス「ゴォガァアアアア!!」

ハジメ「まだまだだ!」

 

それに対し、ジャックリバイスの様な黒の閃光を放ち、相殺を試みる。

黒と白の閃光が両者の間で激突し、凄絶な衝撃波を撒き散らす。

ここまでくれば、後は向こうの魔力切れを待てば良い。普通の魔物相手であれば、の場合だがな。

 

フリード「"界穿"!」

ハジメ「ッ!?」

まさかの行動につい驚き、反撃をし損ねてしまった。

なんと、白竜のブレスを防いでいる私の背後に、"単体で"移動したのだ。

そしてそのまま、私に組み付いてきた。死なば諸共ということか!面倒なことをしてくれる!

 

ハジメ「ハッ!」

咄嗟に障壁を張り、極光を防ぎながら、フリードを別方向へと投げ飛ばした。

こうすれば、フリードに向かって白竜が飛んでいくだろう。そう思った矢先だった。

 

ウラノス「クルルァァァァン!!!」

ハジメ「チィッ!お前もか!」

まさかの特攻だったが、身をひるがえし対処する。

そうして白竜の方を向くと、背中にはフリードが乗っていた。

 

ハジメ「成程な、空間魔法があればそうするのが筋だろうな。

だが、そんな調子で魔力の貯蔵は十分なのか?見たところ、随分消耗しているようだが……。」

フリード「ハァッ……ハァッ……ほざ、け……。この程度……どうってことないわ!」

どうやら、ここで魔力操作の有無の差が出てきたようだ。

まぁ、こちらには魔力の回復機能もあるのだ。無理もないだろう。とはいえ、今更手加減はできん。

既に引き金は引かれたのだ、後はただどちらかが倒れるまで戦い続ける、それが"喧嘩"というものだ。

 

ハジメ「そうか、では少しギアを上げていくとしよう。」

フリード「ッ!本当に化け物だな、貴様!」

ハジメ「誉めても容赦せんぞ、生き残って見せよ!」

そう言うと一瞬でフリードに迫り、"風爪"を放った。

最も、万が一で死ぬと面倒なので、気づかれぬ程度で浅く放つことにした。

 

フリード「ガァア!?」

間一髪、後ろに下がることで両断されることは免れたが、フリードの胸に横一文字の切創が刻まれる。

勿論、攻撃の手は緩めない。

そのままくるりと回転し、"魔力変換"による"魔衝波"を発動させながら後ろ回し蹴りを放った。

ドガッ!!

 

フリード「グゥウッ!!」

辛うじて両腕でガードしたようだが、その程度では勢いは殺せないので、腕を粉砕されて内臓にもダメージを受けながら、フリードは白竜の上から水平に吹き飛んでいく。

主がいなくなったことに気がつき、気を逸らした白竜にも追撃を忘れない。

 

ハジメ「よそ見は厳禁だ!」バキィッ!

ウラノス「ルァアアアアン!!?」

数秒の間、巨大化させた腕でそのまま白竜を殴り飛ばす。

悲鳴を上げて吹き飛んだ白竜は、ふらつきながらも空中で何とか体勢を立て直し、そのまま墜落中のフリードを間一髪加えることに成功したようだ

 

ハジメ「ほぅ、見事な執念だ。やはりここで死なすには惜しいな。」

顎に手を当てながら感心する私を、ボロボロな状態のフリードは殺気を込めて睨みつける。

フリード「グッ……ハァッ……ハァッ……まさか、これでも本気じゃないとでもいうつもりか?

貴様がこれほどであれば、その仲間の実力も尋常ではないな……。

神代の力を使ってなお、届かぬというのか……。」

 

既に満身創痍でありながら、フリードと白竜の眼にはまだ闘志が宿っていた。

そうでなくてはな、でなければ不敬罪で殺してしまうところであった。

ハジメ「確かに本気には至らぬが……そういうお前はどこか嬉しそうだな?

まるで、頂の見えぬ壁に意気揚々と挑む、恐れ知らずの挑戦者のような顔だな。」

フリード「ハッ……ぬかせ……それなら貴様は何か?その挑戦者を叩き潰す門番とでも言いたいのか?」

ハジメ「フッ、それはどうだかな?いずれにしろ、互いにこれから、というようだな。」

 

互いに相手からは視線を一度も外してはいない。

それは即ち、死んでも相手に喰らいついてやる、という信念を持った目をしていた。

フリードは、一度目を伏せると決然とした表情で再び私を睨みつける。

 

フリード「あの男から渡されたこれだけは使いたくはなかったがな……

だがそれ以上に、貴様に全力をぶつけたくなった!」

そう言って取り出したのは、やはりアナザーウォッチだった。

ハジメ「そうか、やはり貴様等のバックにはタイムジャッカーがいたか。

本来なら不敬罪で即座に殺してやるが……偶然だろうか、私も貴様を全力で叩きのめしたくなった!」

 

そう言って不敵に笑うと、一瞬呆気にとられたフリードも、不敵な笑みを返した。

フリード「ハハッ、そうか!互いに同じか!ならば、相手にとって不足はない!」

ハジメ「あぁ!お前のような奴ばかりであったら、どれだけ戦が楽しかったことだろうな!」

フリード「褒めても何もせぬぞ?では……行くぞ!」

 

そう言ってフリードは、アナザーウォッチを起動させた。

〈THIO・KRARUS〉

ハジメ「ッ!よりにもよってそれか!」

私が悪態をつくのも気にせず、奴はウォッチを体に押し込んだ。

 

フリード「ウオォォォォォ!!!」

その瞬間、フリードが白竜ごと黒い光に包まれた。

黙ってその光が収まるのを待ち続けていると、ようやく光が収まった。

そこにいたのは……

 

フリード「これが私の、いや、我々の全力だ!どうだ、イレギュラー!?」

何ということだろう。

白竜も混ざったせいか、その鱗の光沢が増し、より大きな翼を翻した、一匹の大きな黒龍がいた。

ところどころ白い鱗も混ざっているのもあって、より荘厳に見える。

 

アナザーウォッチを使ったにも拘らず、歪な形をしていないとは……。

むしろ白竜との融合で更に力を付けたか。それとも奴本来の心の表れだろうか……

いずれにしろ面白くなってきたことに変わりはない。

アナザーライダー戦だというのに、ここまで心が躍るとは思ってもみなかったものだ。

 

ハジメ「面白い!お前達の龍の力、存分に見せてみるがいい!」

そう言うと、私も龍を召喚した。折角だ、全員で遊んでやろう。

そう言って呼び出したのは、ドラグランザー、キャッスルドラン、ウィザードドラゴン、ドラゴナイトハンターZ、ブレイブドラゴンの5体だ。

 

ハジメ「さぁ、始めようか!互いに戦士としての意地をかけて!」

フリード「勝つのは我々だ!我が同胞たちのために、ここで死ねぇ!!」

そう言ってブレスを吐いてくる。私が即座に躱すと、ものすごい速度で突っ込んできた。

 

ハジメ「その程度かァ!」

そう言ってくるりと躱し、竜の背に乗ろうとしたその時、つこうとした手が空を切った。

フリード「甘い!」

その声がする方を向くと、背後からフリードがブレスを吐いてきた。

 

ハジメ「だからどうした?」

奴が空間魔法で移動したように、私も空間魔法を応用し、奴の攻撃をそらした。

フリード「ほぅ?やはり貴様も習得していたか!」

ハジメ「当然だ、使えるものは使うのが流儀なのでな!人材活用と同じことよ!」

フリード「尤もらしいことでも言ったつもりか?否、我ら魔人族こそ至上である!」

 

互いに牽制しあいながらも、確かに攻撃を加えては相手が躱す。

中々悪くないものだな、限られた実力で戦うことは!だが折角だ、追加で余興も願おうか!

ハジメ「そろそろ、私のドラゴンたちとも遊んでもらおうか!」

そう言って、召喚した5体のドラゴンを向かわせた。

 

まず、ドラゴナイトハンターZが真正面から突っ込んで、フリードの顔にしがみつく。

フリード「クッ、離れろッ!このっ!」

ハジメ「そらっ!よそ見は禁物だ!」

私はそう言いながら、他のドラゴンに命令を下した。

 

ドラグランザー、ブレイブドラゴン、ウィザードドラゴンの三体が、フリードの周りを取り囲むと、一斉にブレスや火球を放つ。

それに合わせて、ドラゴナイトハンターZが上へと飛び上がり、巻き込まれないように避ける。

そこへ更に、前方からシュードランと合体したキャッスルドランが、集中砲火を放った。

 

フリード「それで勝ったつもりか!」

そう言うと、フリードはドラゴナイトハンターZを追いかけるようにして、上へと高速移動を図った。が……

ハジメ「そう簡単には逃げられんよ!」

先回りした私が、かかと落としで直ぐに撃ち落とす。

 

フリード「グッ!"界穿"!」

ハジメ「ほぅ!やはり無詠唱か!」

流石にティオの歴史を吸収しただけあってか、空間魔法を無詠唱で発動し、集中砲火による被害を軽減させたようだ。

 

フリード「ハァ……ハァ……魔王を名乗るだけあってやるではないか……!」

ハジメ「そう言うお前こそ、アナザーウォッチの力があるとはいえ、ここまでやりあえることには驚いたぞ。」

互いに相手の実力を認めつつも、譲らない状況が続いていた。

流石は魔人族最強とされる男、油断ならぬ相手だ。

 

フリード「やはりこの形態では無理がある様だな……ならばこれでどうだ!?ハアァァァ!!!」

するとまたもや、フリードの肉体が光に包まれた。しかも今度は何かが違う。

今までの姿は西洋の(ドラゴン)であったが、今の姿は蛇を思わせるように長い躰。

まるで東洋の龍……いや、何かが違う?

 

フリード「ウオォォォォォアァァァァァ!!!!!」

龍の額から人型の何かが出て来た。恐らくはフリードであろう。それも異形の形となっている。

腕は大きな鱗に覆われ、5本の指は禍々しい鉤爪に変貌しており、背中からは(ドラゴン)の翼が生えている。

その額からは2本の角、いや水晶のようなものも合わせれば3本か。胸からも生えている。

まるでどこかの作品のラスボスのようだな。

 

フリード「どうだ、これでもまだ勝ち誇るか!?魔王ハジメ!」

ほぅ、ようやく私を魔王と呼ぶか……面白い!

ハジメ「あぁ!勝ちは譲らないとも!ここからが互いに本番だろう?そうでなくては面白くない!」

なればこそ、私も本気で戦うとしようか!そう思い、呼び出した5体を戻すと、力の一端を解放した。

 

ハジメ「龍身一体とは、こういうことよ!」

そう言う私の鎧には、龍の翼と尾と爪、そして胸部に龍の頭が装備された。

ウィザードのオールドラゴンのようなものか。尤も、オリジナルとは違うが。

翼は7色に輝いており、爪と尾は金色に、頭は白金になっている。額の水晶は透き通るような色だ。

 

フリード「まだ力を隠していたか!面白い!」

ハジメ「呵々、お前も興が乗ってきたようだな!やはり、お前は面白いな、フリード!」

互いに口元に笑みを浮かべながら、最初の様に対峙した。

しかし、当初のような睨み合いはなく、両者共に相手と戦うことを楽しむ顔になっていた。

 

ハジメ「ハアァァァ!!!」

フリード「ウオォォォ!!!」

互いに雄叫びを上げながら相手に向かって突貫していき、勢いよく打ち出された拳同士がぶつかり合う。

先程の戦い同様、力の差は歴然としている筈なのに、それと同様に力が拮抗しているかのようだった。

次の拳が相手から放たれればそれを躱し、時には足や角、翼や尾で相手に反撃し、それを防いでは隙をつく。

そして、魔法を駆使しては相手をかく乱し、己の限界ぎりぎりまで力を引き絞っていく。

互いに一歩も譲れない状況の戦いとなっていた。が、その時……。

 

ユエ『ハジメ!ティオが!』

ユエからの念話が脳内に響き渡った。それは無情にも、この男との対話の終わりを告げる瞬間でもあった。

 


 

ハジメとフリードが互いに死力を尽くした決闘をしている一方、オーロラカーテンでアンカジに移動していたユエ達は、香織主導のもと患者の治療にあたっていた。

オスカーから聞いた話では、"静因石"を液状化させることで症状の度合いに合わせて量を調整・節約が可能らしいが……

それが出来る件の錬成師は絶賛対話(物理)中なので、今回は粉末状にして患者達に配っている。

 

因みにミュウとイナバは、宮殿で領主の娘であるアイリー(14歳)に構われている。

ミュウは海人族ではあるが、"神の使徒"たる香織の連れである事と少し関われば分かってしまうその愛らしさに、アンカジの宮殿にいる者達はこぞってノックアウトされていたらしく、特にアイリーに至っては病み上がりで外出禁止となっている事もあり、ミュウを構い倒している様だ。

尤も、ミュウを見る目が若干危ない気もするが……。

 

と、そんなこんなで治療を開始しようとしたその時であった。

ティオ「グッ!?これ、は…?」

突如、移動中だったティオが急に膝をついた。

ユエ・シア・ミレディ・香織・トシ・ミュウ「「「「「「ティオ(さん)(姉)(お姉ちゃん)!?」」」」」」

 

ティオ「むぅ…すまぬ。少し力が入らなくなってしもうてな……。」

トシ「ッ!それ、マズいぞ!アナザーウォッチの影響かもしれない!」

香織「!?どういうこと!?」

トシ「俺も一度やられたからな……取り敢えずティオさんを安静にしないと!」

経験者なだけあって、トシの判断は迅速だった。直ぐにティオが空き部屋のベッドに移動される。

が、その少しあと、事態は急変した。

 

シア「!?ティオさん、身体が透けて見えませんか……!?」

そう、アナザーウォッチの影響が強まったのか、本来の歴史、つまりティオが消えかけているのだ。

ティオ「むぅ……流石にこれはマズいのぅ。ユエ、すまぬが……。」

ユエ「んっ!ハジメに連絡!」

患者やティオの治療を香織達に任せると、ユエは空間魔法を行使してハジメのもとへ向かった。

尚、ハジメはフリードと共に、ゲームエリアにいるようなので、念話で状況を伝えた。

 


 

ユエ『ハジメ!ティオが!』

ハジメ「ッ!」

どうやら、ここらで終いのようだな……。ティオ、あと少しだけ待っていていくれ……!

 

ハジメ『直ぐに片を付ける。ティオを頼む。』

ユエ『……んっ!』

そう言うと私は、フリードの方へと向き直った。

ハジメ「フリード、お前に出会えて少しは楽しめた。

だが残念なことに、お前との戦いはここまでのようだ。」

フリード「何?」

 

ハジメ「この一撃を以って、お前を倒させてもらおう。私の仲間の為故な。」

その直後、私はベルトの両端を押し込み、戦いの終わりの合図を告げた。

 

ゴォーン!!!

 

『≪終焉の刻!≫』

 

フリード「いいだろう、貴様が消えるか、貴様の仲間が消えるか、どちらが先か決めてやろう!」

フリードはそう言って腕の間と龍の口に、膨大な魔力を溜め始めた。

どうやら大技で仕留めるつもりのようだ。額の角がまばゆい光を纏い始める。

先程の極光なぞ比べ物にならん威力であろう。だが……私は負けるわけにはいかない。

 

ハジメ「抜かせ、どちらも生き残るわ!何故なら、私が勝つからだ!」

私は更に上空へ飛びあがると、そのままとび膝蹴りの態勢に入った。

既に右足には強大な力が収束されている。避けられるものなら避けてみるがいい!

 

フリード「塵一片ごと感光するがいい!"極光・黒御雷"!!!

凄まじい熱量を持ったブレスが、フリードの龍の口から放たれた。

恐らく、空間魔法のゲートを応用し、複数の鏡で極光を反射・威力と熱量を高めたのだろう。

凝縮された魔力が込められたそれは、太陽光レーザーにも匹敵するであろう威力だ。

地上で放たれれば、島一つは消し飛ぶやもしれない。流石は魔人族最強の将軍と褒めてやろう。

だがな……それで私は止められん!

 

『≪逢魔時王必殺撃!!!≫』

 

オーマジオウ(ハジメ)「ハァァァアアア!!!」ズガァァァアアアン!!!!!

 

フリードの放った極光を、私は魔王の一撃で迎え撃った。

そして、二つの技がぶつかり合ったその瞬間、世界が光に包まれた……。




ハジメ
「ここまで読んでいただき、ありがとうございます!
さて、今回のゲストさんは、こちら!」
メルド
「どうも、王国騎士団団長、メルド・ロギンスだ!」
ハジメ
「いやぁ、来ましたね。皆の兄貴分、メルドさん。」
メルド
「兄貴分か…ハジメはどう思っていたんだ?」
ハジメ
「そうですね……
第一印象は悪い人ではなかったので、少なくとも教会の糞坊主(ゴミクズ)共よりは信頼できると思っていました。」
メルド
「それはそれで反応に困るんだが……。」
ハジメ
「今更故人に何言っても無駄だと思いますが。そんなことより、次回予告しちゃいましょう!」
メルド
「あ、あぁ…そうだな。それでは次回のお話は、こちら!」

次回予告
ハジメ
「次回、アンカジ編一旦終了!あと2話出したら、漸くエリセンに行ける……。」
メルド
「確か、ご息女の故郷だったか……。」
ハジメ
「メルドさん、呼び方戻っているから。ここでは原作の方の接し方で。」
メルド
「え!?あ、すまん……何だか、恐れ多くてな。」
ハジメ
「いいんですよ、そのままで。それに今回、メルドさん出したの作者の急な路線変更ですし。」
メルド
「それは初耳なんだが!?私本来今話で出なかったのか!?」
ハジメ
「いえ、ただ単に次回のゲストがそっちの話に合うから、ってだけです。」
メルド
「そ、そうか……さて、二人の決着はいかに!?次回もお楽しみに!」


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54.二人交わす、ソノ月(アカ)

ハジメ
「お待たせいたしました。今回のオープニングゲスト、ポーン!」
重吾
「なんか……だんだん適当になっていないか?特に男性陣。」
ハジメ
「そう?あ、今回は"最強のお巡りさん"、永山重吾君に来てもらいました。」
重吾
「最強のお巡りさんて……いや、いいのか?」
ハジメ
「さて、紹介も済んだし前回のあらすじと行こうか。」
重吾
「おう、確かフリード首相との一騎打ち、だったか?」
ハジメ
「思えばあの時から、"縁ができた"のかもね。」
重吾
「さいですか……。それじゃあ、第5章第7話」
ハジメ・重吾
「「それでは、どうぞ!」」


ハジメとフリードの技がぶつかり合ったその頃……

アナザーウォッチの影響で、存在が消失しかけて苦しんでいたティオに、またもや異変が起こった。

ティオ「うぅ……むぅ?急に楽になったのぅ?」

シア「!ティオさんの体が……!」

ミレディ「元に戻っている……ってことは!」

 

そう、突然存在の消失が止まったかと思えば、先程まで透けていたティオの体が徐々に戻りつつあった。

それはアナザーウォッチが破壊されたこと、即ちハジメが敵を倒したということだ。

しかし、当の本人は何故か直ぐに帰ってきていない。

トシ「ユエさん、ハジメはどうしている?アイツに限って万が一はないとは思うが……。」

ユエ「……ん、まだ連絡なし。でも、ハジメだから大丈夫。」

香織「そうだよね、だってハジメ君だからね。」

 

ユエ達はハジメの安否を心配をしながらも、引き続き患者の治療に当たった。

それから暫くして、患者の治療がひと段落ついて、ティオの容態も快方に向かっていたその頃であった。

ハジメ「ただいまー。」

ユエ・シア・ティオ・香織・トシ・ミレディ「「「「「ハジメ(さん)(君)(ン)!」」」」」

ミュウ「パパ!」

イナバ『王様!』

 

先程まで死闘を繰り広げていたであろう、ハジメ本人がようやく帰ってきた。

ユエ達はハジメに駆け寄り、その生還を喜んでいた。が、当の本人は少し申し訳なさそうな顔で答えた。

ハジメ「先ずは、ごめんね、ティオ。

俺がもたついていたせいで、苦しい思いをさせちゃったみたいだし……。」

ティオ「そう気に病むことではあらんよ、ご主人様。

ご主人様ならきっと何とかしてくる、そう信じておったのじゃから。」

 

ハジメ「そう……じゃあお詫びと言っちゃあなんだけど、膝枕とかどう?」

ミレディ「あっれぇ~?もしかしてハジメン、照れてるゥ~?」

ハジメ「……うるせぃ。」

若干頬を赤らめながら反論しても、全く説得力のない魔王であった。

皆の目が温かい視線になる。耐えられなくなったハジメがティオに助けを求める視線を送る。

 

ティオ「ふぅむ……妾としては添い寝が良いかの。それも耳元で愛の言葉つきでの♪」

ハジメ「俺を恥ずか死させる気か!?」

トシ「それで済むなら安いもんだろ。」

ハジメ「ぐぅ…分かっているよ。折角だ、両方やったらァ!……ユエ達にも後でやったげるから。」

ティオ「フフ、大盤振る舞いじゃの。」

 

ティオの優しい返事に、ようやくハジメも元の調子に戻ると、先程までのことについて説明した。

魔人族のフリードとの対話内容、神による精神干渉、そして背後に潜むタイムジャッカーの存在について、ハジメはユエ達に話した。

尚、ディンリードのことについては、ユエのことも考えて伏せておいた。

自分の敬愛する叔父が、肉体を乗っ取られていると知ったら、彼女は更に悲しむだろう。

そんな顔、守ると誓った魔王としてさせたくない。そう思ったハジメだった。

 

ハジメの話を聞いていたユエ達だが、ふとシアが気になったことを尋ねた。

シア「そう言えばハジメさん、あのフリードとかいう魔人族はどうなったんですか?」

ハジメ「……死んだよ。ウォッチの副作用に耐え切れなかったみたい。」

ユエ「……そう。」

ハジメの言葉に、何かを察したユエ。しかし、敢えて何も言わなかった。

 

その後、ハジメはランズィ達のもとへ向かい、とある提案をした。

ランズィ「ギルドに救援を依頼、ですとな……?」

ハジメ「えぇ。王国への救援要請も一応一緒に出しますが、それもいつ来るかは分かりません。

幸いにも俺達は商業都市のギルド支部長や、ユンケル商会のお偉いさんとも知合いですし、俺がゲートで彼等を運べば、道中の危険はないでしょう。

それに、こちらには彼等が欲しがる報酬がありますし。」

 

良い笑顔で提案するハジメ。確かに、救援物資は重要だが、それには準備が必要になってくる。

水源が確保されているとはいえ、まだ土壌自体は危険なのだ。その為、相手を選んでいる暇はないのだ。

ランズィ「分かった。こちらも書状を書き次第、貴殿に伝令を頼みたい。」

ハジメ「分かりました。こちらも向こうへの話を、予め通しておきます。」

そう言ってハジメが最初に向かった場所は……

 

 

ハジメ「……という訳なので、ギルドの一部を入り口として使用させてもらえませんか?」

イルワ「まさかそんな依頼をされるとは思ってもいなかったよ。それも、いきなり窓からきて。」

商業都市フューレンのギルド支部、イルワの所だ。

ハジメはまず、アンカジの現状と魔人族の侵攻度合いについて説明し、そのための対策を講じたのだ。

 

イルワ「……しかし、商人たちも馬鹿ではないからね。そう易々と商談に乗るとは思わないよ?」

ハジメ「そう?これが報酬だって聞いたら、全員飛びつくと思うけど?」

イルワ「……い、一体何を報酬にするつもりなんだい?」

ハジメ「宝物庫だけど?まぁ、量産型だから小屋一軒分しかないけどね。」

簡単に言ってのけるハジメに、思わず頭を抱えたくなるイルワ。

 

確かに"宝物庫"が貰えると聞いたなら、商人たちは迷わず飛びつくだろう。

何せ、神代のアーティファクトなのだ。

商人にとって常に頭の痛い懸案事項である商品の安全確実で低コストの大量輸送という問題が一気に解決、それも全商会に配布……間違いなく志願者が殺到すること間違いなしだ。

 

ハジメ「一応、ギルドにもアーティファクトを幾つか提供するつもりだけど……ダメかな?」

イルワ「……ハァ、分かったよ。こちらから商人たちに話は通しておくよ。だから……。」

ハジメ「あぁ、"宝物庫"の量産自体は完了しているよ。後、ユンケル商会にも勧誘お願い。」

イルワ「手が早いなぁ……。あぁ、それと一応君の名を使わせてもらうよ?」

ハジメ「二つ名無しでお願いね。まぁ、違法商人がいたらこっちでシバいておくよ。」

イルワ「フフ、楽しくなりそうだね……。」

イルワとの話を済ませると、早速作成しておいた宝物庫を一応多め(余ったらギルドに寄付する分込み)に渡し、アンカジへといったん戻り、次の場所へと向かった。

 

 

ハジメ「……という訳で、こちらがその救援依頼です。宜しくお願い致します。」

メルド「まさかいきなり窓からきて、そんなことを言いに来るとは思っていなかったぞ……。」

次に向かった場所は王宮、それも騎士団長であるメルドの部屋だ。

本来ならリリアーナに渡した方が一番手っ取り早いのだが、何かを察知したハジメが、急遽変更したのだ。

 

ハジメ「そう言えば、何だか王宮内に変な気を感じたんですが……異常とかはありませんでしたか?」

メルド「……相変わらず鋭いな。そうだなぁ、お前になら相談できるかもしれない。」

そう言うとメルドは、ここ最近起こっている不可思議な現象について話した。

メルド「……ここ最近、数人の者に"虚ろ"という奇妙な現象が起こっているんだ。」

ハジメ「……"虚ろ"?」

 

話を聞くとこうだ。

最初は下級の兵士や騎士等に表れた症状で、簡単に言えば無気力症候群と言うべきか。

仕事はキチンと果たすし受け答えもするのだが、以前に比べると明らかに覇気に欠け笑う事が無くなり、人付き合いも最低限となり部屋に引き籠る事が多くなる。

その症状は徐々に広がりつつあるらしい。

 

ハジメ「……何かの精神干渉の類ですかね。或いは……いや、そんなはずはない。」

メルド「何か心当たりがあるのか!?」

ハジメ「確証はありませんが……恵理の使う死霊術に、それに関連するかもしれない魔法がありました。」

メルド「何ッ!?」

ハジメはホルアドを発つ前のことを思い出しながら、事の顛末を搔い摘んで話した。

 


 

それは、ハジメがホルアドを旅立つ前。宿に香織達が来た時だった。

勿論、浩介の影の薄さを利用してお忍びで。

ハジメ「そう言えば、皆は修業をつけて貰ったらしいけど……どれぐらい凄くなったの?」

香織「えへへ~、それはもうとっても強くなったよ!」

雫「もう、香織ったら…ハジメ君に会えてうれしいのは分かるけど、浮かれすぎでしょ。」

クラスの二大マドンナに囲まれ、桃色空間に包まれつつも、ハジメは香織達のステータスプレートを見ていた。

 

ハジメ「……うん?恵理、この死霊術はどれぐらい使えるんだ?

流石に妹がリッチじみた行為をしているとなると、兄さんどうすればいいか分からないんだが。」

恵理「流石に酷くない!?それに、死霊術と言っても、死体だけを操れるわけじゃないんだよ?」

トシ「そうなのか?てっきりそう言った系統の魔法が多そうだと思ったんだが?」

その問いに恵理は首を振り、修行中に聞いたことを話した。

 

恵理「死霊術と一口に言っても、最初から死体しか操れない訳じゃなくてね……。

中には、相手を強制的に死なせてから操る魔法や、魂に干渉する魔法もあるって、ヒカリちゃんから聞いたの。」

彼女曰く、キョンシーやネクロマンサーといった死霊術を使うには、そもそも魂に干渉する必要があり、その魂の操り方によっては、死体が生きているように動かして見せる術や、自身や他の生者を死霊に変える術、死体に空の魂を乗り移らせる術等々、用途によっては相手の生気をなくすことも可能だと言う。

 

浩介「それ、敵に回ったら間違いなくヤバいよな……。」

ハジメ「お前の深淵卿に比べたらマシだろうに。」

浩介「それを言うなぁー!」

微妙な空気になりつつも、その後は門限まで談笑を楽しんだ一行であった。

 


 

メルド「……つまり、恵理がその魔法を知っている可能性がある、ということか?」

ハジメ「それは……分かりません。

でも、それが使えるとしても、アイツはあんなことをする奴じゃないんです。」

ハジメは迷っていた。今すぐにでも恵理に聞きに行って、真相を確かめたかった。

しかし、血は繋がっていないとはいえ、数年家族として一緒に暮らした仲だったのだ。

そう簡単に自分の仲間を、ましてや妹を疑いたくない。そんな思いが彼を鈍らせていた。

 

メルド「そうか…分かった。

こちらは取り敢えず、闇属性の魔法に精通している者を集めて、"虚ろ"の正体を探る。

もし対抗策が見つかったら、協力してくれ。」

ハジメ「えぇ、一応精神干渉をとく術はありますが……

もし死霊術なら、効果がないないかもしれません。気を付けてください。」

ハジメの言葉に強く頷くメルドだが、また難しそうな顔になった。

 

ハジメ「まだ何か問題でも?……もしかして、皆に何かあったんですか?」

メルド「いや、そう言ったものはなかったが……それよりもマズいことになってな。」

ハジメ「?どういうことですか?光輝達は無事ですよね?」

メルド「いや、問題になったのはな…ハジメ、お前達のことなんだよ。」

ハジメ「?」

意味が分からない、といった顔をするハジメに、メルドは意を決したように答えた。

 

メルド「お前達が、"異端認定"を受けるかもしれないんだ。」

ハジメ「あぁ、そんなことですか。それよりも物資の支援についてですが「待て待て待て!?」何か?」

メルド「あのなぁ、これは由々しき事態なんだぞ?教会からは勿論、王国からも狙われるんだぞ?」

ハジメ「そんなこと言ったって、こちとら正当防衛で神の使徒一体始末したので今更だと思いますが?」

平然と返すハジメに、メルドは驚きつつも頭を抱えたくなった。

 

リリアーナから情報を聞いたとはいえ、自分の教え子同然の少年が異端認定を受けることは、メルドにとってはショックだった。

しかし当の本人は、「寧ろドンと来いよ、全員纏めて返り討ちにしてやるからよぉ!」とでも言わんばかりの態度なのだ。

その実力も本物なので、余計に敵対したくないし、年端も行かぬ少年に同胞殺しはさせたくはないのだ。

 

ハジメ「あぁ、心配は無用です。光輝達が来ても、当身で済ませられそうですし。

メルドさん達やリリィにもそこまで酷いことはしませんよ。ただし、教会及びその勢力は別ですけどね。」

メルド「そう来たかァ……。」

もうこの際、コイツの好きにやらせておいた方が、人類にとっていい方向に進むかもしれない。

そんな考えが頭に浮かぶメルドであった。

 

ハジメ「それじゃあ俺はそろそろ……あぁ、忘れていた。」

戻ろうとしてゲートを開こうとしていた手を止め、"コネクト"で二つのアーティファクトを取り出した。

ハジメ「この指輪、浩介に届けておいてください。それとこっちは、メルドさんに。」

そう言ってハジメは、乳白色の鉱石に小さめの魔晶石が埋め込まれているペンダントを渡した。

 

メルド「お、俺にか!?浩介は分かるが……何故俺に?」

ハジメ「……何か、嫌な予感がしてならないんです……。念のため、逃走用のアーティファクトです。

それに魔力を送れば、安全地帯に転移できます。ただ、一回しか使えないので、お気をつけて。」

メルド「嫌な予感、か……分かった、大切に使わせてもらう。」

 

その後、アンカジからの救援要請の書類をリリアーナに届けてもらい、一旦ホルアドで素材の換金をした後、フューレンに立ち寄るハジメであった。

ギルドにて依頼を見て殺到した商人たちをさばいて送り、"朝の7時と夜の9時にそれぞれ転移する"という約定を取り付け、一緒にアンカジに転移し、後は残っている患者たちの治療補助をユエ達と行った。

 

そうして自分達がいなくても十分な位になった翌朝、ハジメ達は海上の町エリセンへ向かった。

その先に待ち受ける、運命的な出会いを、彼等はまだ知らない……。

 


 

……ここ、は……

 

……私は……一体……

 

――ま!――様!

 

……誰、だ……?私を……呼んでいる、のは……

 

???『フリード様ッ!』

 

ハッ!?

……私が目を覚ますと、そこにいたのは、私の顔を覗き込んでいたウラノスだった。

ふと周りを見ると、ウラノス以外には誰もいなかった。

……おかしい、先程女の声が聞こえたはずだが……。

 

???『あぁ、良かった!ご無事で何よりです!』

ッ!?また聞こえてきただと!?いや待て!声の聞こえる方にはウラノスしかいない!

他には誰も……誰、も……

 

???『……どうかなされましたか、フリード様?』

フリード「……。」

……いかん、どうやら余りの出来事に驚きすぎて放心していたようだ。

幻聴の類だろうか、ウラノスが念話を使えるようになるなどと……

ウラノス『もしや、先程の戦のダメージがまだ残っているのですか!?』

慌てながら私の周りをまわるウラノスがいる……私は深呼吸をして大声で言った。

 

フリード「一体何がどうなっているんだウラノスゥ―!?」

 

 


 

時はハジメとフリードの技がぶつかり合った時まで遡る……。

 

二人の技のぶつかり合いによって発生した、世界を包むほどの光がだんだんと収まってゆき、土煙がそこら中から湧き上がっていた。

そして、そんな煙の中に、佇む一つの影がいた。そして煙が晴れ、現れたのは……。

 

ハジメ「敵ながら見事だったぞ、フリード・バグアー。

私はお前という存在を、記憶の中にとどめておくだろう……。」

堂々とそこに立つのは、最高最善の魔王。我等がハジメさんである。

そして、フリードはというと……

 

フリード「ハ、ハハハ……まさか、ここまで実力差がはっきりしていたとはな……

ハァ…ハァ…全く……私もまだ未熟者だった、ということか……。」

敗北したにも関わらず、清々しい表情を浮かべ、大の字に倒れ伏していた。

相棒のウラノスはその近くに横たわっており、息をしてはいるものの気絶していた。

 

ハジメ「確かに、実力としては私には及ばないだろう。

だが、同胞を想うその心意気は、私にも劣らぬ気高さがあったぞ。

現に私も、自分が殺したお前の部下の名を、覚えておこうと思う程に心を動かされたのだからな……。」

そう言いながら、手を差し伸べるハジメ。その声色は、とても優しそうな雰囲気であった。

 

ハジメ「認めよう、フリード・バグアー。お前は間違いなく、魔人族における勇敢な戦士だと。」

フリード「ハァッ…ハハッ…最高最善の魔王とやらに、そう思ってもらえるとはな……。」

自分が絶対に追い付けないであろう相手からの賛辞に、諦め半分と嬉しさ半分で答えるフリード。

そんなことを同胞以外から言われるとは思ってもいなかった。それも同胞を殺した相手から、だ。

 

目の前の相手は、自分達を一方的に嬲り殺せる力を持っている。それも圧倒的な力で。

それにも関わらず、相手を一人の敵として相対し、最期の時まで戦争相手の魔人族として扱い、彼等の死後を決して嗤うことはなかった。

 

そして不遜にも立ち向かった自分を、一人の戦士として認めたのだ。

自身が殺した敵の名を覚えようと思うまでに、自分はこの男を動かしたのだ。

これ以上の成果はないだろう。これ以上はもう望めない。何故なら、自分は負けたのだから。

だがせめて、自分に最期まで寄り添ってくれた相棒には、この先も生き延びてほしい。

 

フリード「ガハッ……ハァッ……頼みを…聞い、て…くれるか……。」

ハジメ「?何だ?」

フリードは疲労困憊の体に鞭を打ちながらも、ウラノスを指さした。

フリード「ハァッ…大事な、相棒、を……たの…む…。」

そう言ってフリードは、意識を失い、その場に倒れた。

 

ハジメ「ハァ……やれやれ。全く、世話のかかる男だ。」

そう言いつつも、ハジメはウラノスの方へ向かった。

気がついたウラノスは近づいてくる相手に警戒心をむき出しにしつつも、主を守ろうとその体を動かそうとしていた。

 

ハジメ「心配しなくてもいい。このまま生かすつもりだ。お前も、お前の主もな。」

そう言ってハジメは、因果律操作でウラノスとフリードの傷を治した。

突然の行動に思わず困惑するウラノス、するとハジメさんは懐からある物を取り出した。

それは、一本の試験管だった。中身は勿論、神水だ。

 

ハジメ「こいつをくれてやる。私を楽しませた礼だ。」

そう言ってハジメが試験管を投げると、ウラノスは反射的に口に含んだ。すると……

ウラノス「ク、クルァ……?」

イナバの時と同様に、力が漲るウラノス。そして念話が使えるようになったのか、ハジメに話しかける。

 

ウラノス『何故……私とフリード様を、助けたのですか?』

ハジメ「そうさな……しいて言うなれば、その男が気に入ったというところだろうか?

まぁ、お前を生かす理由は唯一つだ。その男、絶対に死なせるなよ?殺すには惜しい男だからな。」

そう言うとハジメは、オーロラカーテンを出現させた。

 

ハジメ「この先はライセン近くの草原に繋がっている。

そこから国に帰るなり、どこかで隠れるなり、後は好きにしろ。」

そう言って、オーロラカーテンでフリードとウラノスを移動させたハジメ。

一人と一匹がいなくなった後、ハジメはつぶやいた。

 

ハジメ「全く……俺も甘くなったものだ。

敵をみすみす逃した上に、塩まで送ってしまったとあっては、光輝の事は言えんな……。」

自分を卑下していたその表情には、どこか嬉しそうなところが見られた。

正直、とても楽しかったのだ。

これほどまでに楽しい戦いは、特服で全国制覇を成した時以来だったからだ。

(尚、ついその気になってやってしまったので、後から辞退した。しつこい奴等は返り討ちにした。)

 


 

ウラノス『そうしてガーランドヘ移動した私は、フリード様が目を覚ますまで、周辺の警護をしておりました。』

フリード「……そうか……。」

理解し難い状況をウラノスから聞いた私は、一旦間を置き、状況を整理した。

 

ウラノスの言っていた通り、我が懐かしき故郷、魔国ガーランドの夜空が広がっていた。

向こうに氷雪洞窟が見えるのがその証拠だ。

ウラノスの先程の話が真実ならば、私は敵に見逃された、ということなのだろうな……。

そして大声で叫びたい気持ちを抑えながら、心の中で回想にツッコんだ。

 

いくらなんでも敵に塩を送りすぎだろ南雲ハジメェー!?

確かに相棒を強くしてくれたのは嬉しいがな!?認めたとはいえ敵にそこまでやるか普通!?

後ウラノスもウラノスだ!敵から貰ったものをいきなり飲むな!?毒かもしれないのだぞ!?

幸いにも、真逆の効果が出たがな!?反射的にとはいえダメだろ―!?

そしてなぜ嬉しそうに答えた私ィ―!?目の前にいる奴は、魔人族の宿敵になり得る男だろ―!?

 

ゼェ……ゼェ……ひとしきり心の中で叫んだ私は、ウラノスの方へ振り返った。

当のウラノスは私に見つめられていることに、キョトンとしている。

……ハァ、奴との戦いに生き延びたことを誇るべきだろうか、それとも生かされた己の不甲斐なさを恥じるべきだろうか……。

 

…いずれにしろ、部下たちや陛下にも報告せねばなるまい。

あの男は異常だ。私に友好的な印象を持ったとはいえ、奴は人間側。油断はできん。

恐らく、レイスやカトレアを葬った際にも、全く本気を出していないだろう。

そんな化け物と敵対すれば、多くの同胞達が危険に晒される。迂闊に手が出せんな……。

 

それに、進化した我が相棒のことも気になる。一体奴はウラノスに何を飲ませたのだ?

ただの水で念話が強くなったり、魔力量が上がるとは思えん。霊薬の類か?

とはいえ、気に入っただけであれ程の霊薬をいとも簡単に渡すとは思えん。

 

……ダメだ、情報が少なすぎる。奴はイレギュラーだなどという、容易い存在ではない。

では何と言えばいい?そんなことわかる訳がない。

得体のしれない何かが、奴の中に眠っているとしか言えない。

 

一先ずは、奴に好感を持たれてることだけでも収穫か。

上手くいけば、他の大迷宮や神代魔法について、聞き出せるやもしれん。

ククク……そう考えればこれは好機と言えるな。我ながら恐ろしい考えが浮かんだものだ。

そう思うことにしたおかげか、幾分か心労が減ったと思える。それにしても……

 

いやぁ~、ほんっとあっぶなかった……。最近、失敗続きのせいか胃痛が続いていたからなぁ……。

何故か、抜け毛も増えていたせいで、若ハゲも気になってきたから、ほんっとよかったぁ……。

これなら厳罰は下るかもしれないが、即「おかえり、死ね!」なんてことにはならないだろう。

後は僅かな情報で、どれだけ対策が立てられるかだ。それに私の命運がかかっている。

 

……ただ、陛下が本当に魔人族なのか、少し疑わしくなってきたがな……。

南雲ハジメが見せたあの映像……

本当に陛下は、アルヴ様が乗り移っただけの存在であって、肉体は吸血鬼なのか……?

……これは誰にも相談できんな……私自身の目で確かめろ、ということか。

やれやれ、生き延びたと思えばこんな悩みを持つとはな……難しいものだ。

そう思いながら、私は空を見上げた。

そこに移っていた月は、まるで鬼灯のように夜空に紅く輝いていた。

 


 

一方同じ頃、アンカジにて……

ハジメ「紅い月、かぁ……。まるで、鬼灯のような紅だなぁ……。」

ミュウ「みゅう……すぅ……。」

フリードと同じく、夜空に浮かぶ月を見上げるハジメがいた。

その腕にしがみついて寝ているミュウを抱えながら、その光景に感慨深く呟いた。

 

既に町では、商隊による支援が始まっており、徐々に回復の兆しを見せていた。

土壌や作物の回復はままならないものの、状況はよくなっているようだ。

商人達も報酬の"宝物庫"にニヤケ顔が止まっていない。以前出会ったモットーもその一人だった。

 

明日の明朝に出発するので、ユエ達はまだ眠っている。

深夜、急に目が覚めたハジメは、空を見ようとして外に出ようとしたはいいものの、腕枕で寝かせていたミュウが腕にしがみついてきたのだ。

まるで「パパから離れたくない!」と主張しているかのようで、「寝ていてもそれは変わらないのか。」と苦笑いしながら、風邪をひかぬ様暖かくしてそのまま連れてきたのだ。

 

同じ頃に違う場所で、同じ空を見上げる二人。相容れぬ筈の二人の道が交わる日は、来るのだろうか。

その答えを知るのは、ただ浮かんで見下ろすだけの、夜空の紅月(あかつき)のみである。




ハジメ
「ここまで読んでいただき、ありがとうございます!さて、今回のゲストはこちら!」
フリード
「魔国ガーランド首相、フリード・バグアーだ。この度は機会を頂き、感謝する。」
ハジメ
「おう、こっちこそオファー受けてくれてサンキュ!いやぁ~それにしても……。」
フリード
「?なんだ?」
ハジメ
「お前、あんな心境だったのか?若ハゲって……。」
フリード
「ストレス過多になるとそうなるのだよ!主に誰かのせいだったがな!」
ハジメ
「そうか、だが俺は謝らない。だって俺も肉体のストレスでハゲそうだし……。」
フリード
「……今のは聞かなかったことにしよう。それでは、次回予告だな。」

次回予告
ハジメ
「ハジメです。ここらで漸く(ミュウ)を母親のもとへ送り届けることができます。
少し王国の方が騒がしいので、残してきた皆が心配ではありますが……。
さて次回は、『雫、猫になる』『フリード、変成魔法でハゲを治す』『うp主、廃課金で破産する』の3本です。」
フリード
「いきなり違うものになっているではないか!?後、3つ目に至っては作品に関係ないものだろ!?」
ハジメ
「なんか……普通に予告するのに飽きちゃって。」
フリード
「せめて次回の内容だけでも触れろ!いきなり意味不明だと読者達が混乱するだろうがァー!」
ハジメ
「分かったよ。次回はしずにゃんとリリィの談笑だね。」
フリード
「お前、全然分かっ、て……。」
ハジメ
「うん?どした「しずにゃん、ねぇ……。」の……。」

「フフフ……。」(笑顔で愛刀構えながら)
ハジメ
「あっ……。(察し)」
フリード
「……それでは、次回も楽しみにしてくれ!」

リースティアさん、誤字報告ありがとうございました!


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55.秘密のガールズトーク

ハジメ
「お待たせいたしました。早速オープニングゲスト、complete!」
健太郎
「まさかのベルト音!?しかも何故にファイズギアなんだ!?」
ハジメ
「マンネリ回避らしい。あ、今回はヘタレ気味な野村君に来てもらいました。」
健太郎
「へ、ヘタレっていうな!俺は別に、その……。」
ハジメ
「もうどっちかが片方押し倒した方が早そう。それはさておき、前回のあらすじ。」
健太郎
「押しっ!?……んんっ、たしかフリード首相サイドが生きていたってことだったか。」
ハジメ
「あの時、生かしておいてよかったと心の底から思うよ。メルドさんのことも……。」
健太郎
「なんか、色んな意味で凄いな……それじゃあ第5章第8話」
ハジメ・健太郎
「「それでは、どうぞ!」」


ハジメ達が【海上の町エリセン】を目指して旅立った頃、【ハイリヒ王国】では光輝達が訓練に明け暮れていた。

と言っても、それは実力を向上させる為のものというよりは、【オルクス大迷宮】で突き付けられた現実的問題

──戦争に突入した場合に、果たして自分達は"人を殺す"事が出来るのか、という心の問題を解決する為の迷走じみた我武者羅なものだった。

 

実戦ですらない"訓練"如きでその様な大きな問題が解決する事など出来る筈も無く、当然の事として彼等のほとんどに進捗は見られなかった。

ある意味現実逃避とも言える事を、本人達も自覚している。

故に焦燥は募り、しかし踏み出す事も出来ず、彼等の心には鬱屈としたものが日々溜まっていく状態だ。

 

そんな暗い雰囲気の漂う王宮の片隅──

訓練時間も終わった上、普段から殆ど使用されていない別の訓練場に、短くも鋭い呼気が響いた。

雫「はっ、疾っ!」

 

併せて、宙に無数の剣閃が走る。

綺麗な黒色の円を描くそれは、しかし残像が消えるよりも早く微かな音と共に鞘へと納められる。

刹那、再び抜く手も見せずに抜刀される。

空間そのものを引き裂く様な鋭い斬撃。

それが振るわれる度に、少しだけひゅるんと揺れるのはポニーテールの毛先だ。

 

誰もいない訓練場でただ一人。

贈られた漆黒の刀を振り続けるのは、クラスの良心にして他の追随を許さない苦労人こと、八重樫雫その人だった。

雫は連続して繰り出していた抜刀術を止めると、一度ゆっくりと深呼吸して瞑目した。

 

脳裏に浮かぶのは仮想の敵、それも大量かつそれぞれ違った能力を持つ魔物に加え、相手にならないとはいえ八つ当たり気味に思い浮かべた、ガハルドが数人だ。

本来であれば、指南役であったミライに教えを請いたいものだが、当の本人は香織達の現状報告のため、ハジメ達と一緒にいる。

 

流石に何百㎞も西に離れた場所からでは、仮想空間は展開できない。

また、もう一人の指南役であるヒカリは、連絡係である浩介に付きっきりのため、指南してもらう時間が限られている。

それもあるのだがもう一つは……。

 


 

光輝「ハァッ!ヤァッ!」

メルド「どうした!まだまだ迷いが見えるぞ!?そんなものか!?」

光輝「いえ、もう一度お願いします!」

メルド「よし来い!」

これである。

 

数週間前……。

香織がハジメ達について行った後の夜の会話の翌日。

光輝が積極的に対人戦訓練の参加を申し出たのだ。

 

皆のやる気を引き出すためというのが建前ではあるが、本心は違うのだろう。

恐らくは、自分を一方的に叩きのめし、苦戦していたガハルドをボコボコに殴り倒した、件の彼を思い浮かべているのかもしれない。

彼に追いつき、自身の理想に胸を張って宣言するために、光輝はその剣をふるうのだろう。

 

最初は誰もが、ハジメに負けて以来沈んでいた光輝の変わりように驚いてはいたが、その真剣さが伝わってきてからは、光輝を応援する声も増えていった。

中には、光輝に対人戦を挑み、自信を鍛えようとする者もいた。

勇者としての責任もあってか、光輝は自身よりも強い(精神的・戦闘技能的にも)者に次々に挑んでいった。

 

その一人に白羽の矢が立ったのが、雫なのだ。

他の二人である恵理や浩介にも頼もうとしたらしいが、恵理は最近どこかへ行きがちで、浩介は単純に見つけにくいという理由で外されていたのだ。

どちらも聞いて呆れてしまう理由ではあったが、頷けるところもある。

 

本来、恵理は後衛職であって本格的戦闘はまだミライとヒカリに習っている最中である。

手加減できずにうっかりやってしまうこともあるかもしれない。

そして浩介に至っては、一度視界から外れれば数秒後には気配が消え、どこからともなく反撃を喰らい続けるのだ。

 

尚、この状態でさえ浩介は"気配遮断"の類の技能を一切使っていない。その上でこれなのだ。

勝負にならないのは明白だ。

ただし、本人は「俺、泣いていいよね?」と言っていたが、誰にも聞こえていないので、一人で静かに泣いたらしい…。

 

以上の理由から、雫にその相手役が押しつけ……(もとい)任命されたのだ。

なんとも微妙な理由ではあるものの、メルドや龍太郎、鈴に永山パーティ、他の強者等も入れ替わりで手伝ってくれるので、そこまで嫌というわけでもない。

それに、雫も幼馴染で弟弟子のような存在に手を焼きつつも、その成長は嬉しく感じた。

 

もし、光輝があのままハジメに対する負の感情を増大させ続けていたら、ハジメは最悪の場合光輝を見捨てるだろう。

既に檜山という前例がある以上、幼馴染をその被害にあわせたくはない。

そういった点では、光輝が変わろうとするさまは、見ていて心が軽くなるような感覚がした。

 

ただ、その模擬戦が少し面倒なのだ。

ルールとしては、いたって単純。

特殊な木剣で互いに打ち合い、相手の剣を弾き飛ばすか、反撃できない体制の相手の首に剣を近づけるか、となっている。

 

武器が剣以外の者が相手の場合、二人の周りを線で囲み、その線から出てしまった方が負け、というルールだ。

別にこれで致命傷を負ったりした者はいないが、問題は光輝がそれを行う回数である。

 

光輝自身、自分よりも強い相手からいろいろなものを学ぶチャンスであるからか、一回負けてもすぐ再戦を申し込み、回数と経験を重ねてその技能を吸収できるよう、一人につき必ず数回は挑むのだ。

相手にもスケジュールや体力の限界もあるので、そこまで無茶を敷いているわけではないが、最近の現状は光輝が「止め」と言い出すか、相手が「まいった」というかの、二択に陥っているのだ。

 

別に光輝の向上心を咎めるつもりはないものの、もう少し相手の状態を見極める方がいいのでは、と雫は思うのだ。

実は一回、帝国のガハルドにもその相手をお願いしようとしたのだが……

 

ガハルド「流石にそりゃあ勘弁してくれよ。

ただでさえ、お前の惚れ……んんっ、仲間である南雲ハジメに目ェつけられてんだ。

軟弱な勇者を鍛えるってのは悪くねぇが……それ相応の報酬が必要だろ?それも俺が喜ぶような。

そうなりゃあ、いい女を差し出すしかねぇだろうが……

お前等の場合、保護者(あの男)が黙っていねぇからな……。」

 

それならもっと別の物を望めばよいのでは、と思う雫だったが、ガハルドの性格上それしかないだろう。

それにあの時、ガハルドの迂闊な発言が原因とはいえ、先に手が出たのはハジメなのだ。

その上で厚かましくもお願いする以上、ガハルドにそういった報酬を払わなければいけない。

そうなればハジメが帝国を火の海にするのは確実だろう。流石にそれは避けたい。

そんな訳で、ガハルドへのお願いは断念。自分達で何とか相手することにしたのだ。

 

まぁ、熱血気質のメルドや龍太郎がクールダウンに付き合っているので、今のところ問題はない。

それに魔法方面にも講師がいるので、必ずしも一緒に行くわけではないので、自由時間はある。

しかし、そんな時にしかあまり休めないので、その時間を上手く使わなければならない。

なので、現在は自身の中で仮想の敵と戦う鍛錬を行っているというわけだ。

 


 

雫「ッ、ハアッ!!」

気合一発、殺意を乗せた斬撃が放たれる。イメージの中の敵が真っ二つになったのを、雫は感じた。

その直後、更に背後へ一閃。直ぐに体勢を立て直し、身を屈めて居合を放つ。

雫「セアァッ!!奔れ――"風爪"ッ!」

 

この黒刀を贈ってくれた男がこっそり仕込んだ機能――爪熊の技能"風爪"を放つ。

魔力の直接操作がまだ出来ない雫でもそれが使えるよう、王国の筆頭錬成師達が全員倒れるまで改良したので、使い手のイメージを忠実に綺麗な弧を描く。

そうして向かってくる仮想の敵を切り続ける事数十分、雫は刀を鞘に納めた。

 

雫「ふぅ……やっぱり自主練だとどうにも鈍るわね。

二人との鍛錬では確かな実感があったけど……これじゃあやらないよりマシなだけね。」

大きく溜息を吐くと、雫はそんな独り言を呟いて苦笑いを浮かべた。

そうして、水筒や用意してもらったサンドイッチが置いてある木陰へと歩きだす。

訓練場の外れに並んだ木の根元に腰を下ろし、先ずは水を一杯。

しっかり冷やしてある水が、火照った体をさっぱりとさせてくれる。

 

雫「はぁ……。」

知らず溜息が漏れる。視線は陽の落ちかけている西の空を見上げている。すっかり夕暮れ時だ。

雫「ハジメ君が言っていたわね……。

日の落ちる夕暮れ時は、人ならざる者達が現れる、不思議も怪異も、地に紛れる落陽を門にやって来る。

その時間が確か……"逢魔ヶ時"だったかしら?」

 

その時、不意に鳴き声が響いた。

???「にゃ~。」

雫「え?」

驚いて視線を落とせば、そこにはいつの間にか栗毛色の猫がいた。

姿形は地球と同じ。トータスにも存在する普通の猫だ。

 

雫「あなた、何処から入って来たの?」

ここは王宮。高い壁と堀、そして背後の山が鉄壁を約束する場所。猫の子一匹入れる筈が無い。

雫がそっと手を伸ばしてみれば、猫は警戒する様子も見せずされるがままに撫でられる。

栗毛は艶やかで、よく手入れされているのが分かった。

 

雫「どこかの貴族の飼い猫かしらね。ご主人のところから逃げて来たの?」

猫「うにゃぁ~。」

首筋をなでなで。猫はゴロゴロと喉を鳴らして雫に擦り寄った。雫の"撫で"がお気に召したらしい。

自分に甘えてくる栗色の猫に雫は、

雫「……か、可愛い。」

 

だらしなく頬を緩めた。

先程までの殺伐とした空気も沈んだ気持ちも霧散し、"ごろにゃ~ん"する猫に夢中になる。

疲れているのだろう。

クールビューティで通っており、貴族の令嬢からは"お姉様"等と呼ばれる雫は──禁忌に手を出した。

 

雫「可愛いにゃ~♪

でも、飼い主さんから逃げてくるなんていけない子にゃ、そんな子は、雫さんがお仕置きしちゃうにゃぁよぉ~♪」

そう、禁忌"猫語で会話しちゃう"だ。

 

格好いい雫しか知らない令嬢達が今の雫を見たら、きっと己の正気を疑うか……

鼻から幸福感を垂れ流して血の海に沈む事だろう。

"動物会話"のスキルがある訳でもないのに、にゃんにゃん言いながら人懐っこい猫を愛でに愛でまくる雫。

大切な事なのでもう一度。──雫は、疲れているのだ。

 

暫く撫でられるままだった猫は徐に歩き出すと、サンドイッチが入ったバスケットに鼻をつけてふんふんと嗅ぎ出した。

雫「どうしたのにゃ?サンドイッチが欲しいにゃ?」

猫は視線で訴える。「超欲しいにゃ」と。

 

可愛らしいおねだりに、雫はデレる。デレデレにデレる。勿論拒否などしない。

ただ用意したサンドイッチは、そのままでは大きすぎて猫が食べるには適さない。

雫「ちょっと待つにゃ~、今雫さんが切り分けてあげるにゃ~♪」

 

手で千切れよ、とツッコミを入れる者はこの場にいない。

サンドイッチを片手に、腰を落として抜刀体勢になったことにも、想像とはいえ人を斬った刀で食品を切ろうとする事にもツッコむ者もいない。

三度目だが敢えて言おう、しずにゃんは疲れているのだ。

 

雫「奔れ――"風爪"ッ!」

きっと製作者のハジメが見たら、「そのための機能じゃねぇからな!?」と、想像だにしない使われ方に思わずツッコむであろう使われ方をした黒刀が、空中に投げられたサンドイッチをなでる。

原形を留めたままポトリと雫の掌に帰還したサンドイッチは、雫が器用にも片手で抜刀した瞬間、パラリと形を崩して1cm角切り分けられた。

 

猫さんにいいところを見せちゃった、と思っているらしい雫はキメ顔で言った。

雫「また、つまらぬ物を斬ってしまったにゃ。」

そしてキメ顔のまま振り返り──

 

リリィ「……。」

雫「……。」

目が合った。猫とではない、生暖かい眼差しをした……リリアーナ王女と。

キメ顔のまま固まる雫。無言の王女様。静寂が場を支配する。

いつの間にかサンドイッチが一つ無くなっていて、猫の姿も無い。

ひゅるりと風が吹き、そして沈黙が破られた。

 

リリィ「……つまらぬ物を、斬ってしまったですにゃ?」

王女様が尋ねる。しずにゃんの返答は、

雫「う……うにゃああああああああああああっ!?」

勿論、猫語の絶叫だった。

 

 

この時、雫は気づいていなかった。先程の猫がいつの間にか、その目を紅く変化させていた事に。

二人は気づかない。その猫が鼠に姿を変え、僅かな隙間から何処かへ行ったことを。

 

 

雫「見ないでぇ、こんな私を見ないでぇ!いっそ殺してぇ!」

リリィ「ま、まぁまぁ。いいじゃないですか……フフ、とっても可愛かったですよ雫。」

訓練場の片隅で、羞恥で崩れ落ちている雫。

リリアーナはそんな彼女の傍らに腰を落とし、クスクスと笑いながら慰めている。

 

雫の復活には暫く時間がかかった。

どうにか精神を立て直した雫は、少し恨めしそうな眼差しでリリアーナに尋ねる。

雫「それで?リリィはどうしてここに?

こんな人気の少ない訓練場に態々来るなんて、私に用があったのでしょう?」

その言葉に、リリアーナは少し表情を引き締めて口を開いた。

 

リリィ「用があったのは確かですが、……光輝さん達の傍に姿が見えなかったもので。」

どうやら、仲間と一緒にいなかった事で心配をかけたらしい。雫はリリアーナの心遣いに笑みを浮かべる。

雫「心配してくれたのね、ありがとうリリィ。でも、私は大丈夫よ?」

リリィ「ですが……どうしてこんな所で、それも一人で……。」

無性に一人になりたい時がある──そんな言葉を、雫は悟られぬ様グッと呑み込んだ。

だが、幼い頃から権力者同士の権謀術数を相手取ってきたリリアーナ相手には誤魔化し切れなかったらしい。

 

リリィ「雫、貴女は無理をし過ぎです。

国の為に頼っている私が言うのは、烏滸がましいかもしれませんが……。」

雫「烏滸がましいなんて思ってないわよ。

私達の為にリリィがどれだけ心を砕いてくれているか、私達はよく知っているんだから。

それに、私も無理なんてしてないわ。

ただ……私自身こうして自主的に鍛錬でもしていないと腕が鈍りそうで怖くて、ね?」

リリアーナには、その言葉が全てだとは到底思えなかった。

だが「大丈夫」と笑顔で言い切る雫に、これ以上は逆に困らせるだけかと思い話題を転換する事にした。

 

リリィ「やはり、光輝さん達は相当参っていますか?」

雫「そうね、オルクスでの経験はそう簡単に割り切れないでしょう。

特に光輝に関しては、香織の事もあるけど……今のところは大丈夫そうよ?」

想い人と旅立っていった親友を想い、雫は西の空を眺める。

リリィ「寂しいですか?」

雫の横顔に寂寥を感じた訳ではない。

ただなんとなく、その眼差しに感じるものがあってリリアーナはそう尋ねた。

 

雫「別に、寂しくはないわよ?ここにいなくても香織とは繋がってる、そう信じているし。

……それに、こうして探しに来てくれる心配性なお姫様もいるしね?」

ちょっと悪戯っぽい笑みを浮かべながらそんな事を言った雫に、リリアーナは思わず雫の"妹"を自称する者達と同じ様に頬を染めてしまった。

 

リリィ「流石、皆のお姉様。」

そう言った途端、雫がリリアーナの頬をむにぃと摘んだ。お姉様呼びに対するお仕置きらしい。

きっと自称"妹"達からすればご褒美だろう。

リリアーナの耳に「妬ましいィ!羨ましいィ!」という令嬢達の怨嗟の声が響いた。

 

雫「それで?肝心の用の方は何だったの?」

自分の話題はもう十分だと、雫がリリアーナに当初の用件を尋ねる。

頬摘みの刑を受けたリリアーナは、先程とは別の意味で頬を染めながら答えた。

リリィ「魔人族の変化と、ハジメさんの事です。」

雫「やっぱりその話ね。それで、陛下や教会側は何て?」

 

【オルクス大迷宮】より帰還してから今まで、王宮は相当荒れていた。無理もない話だ。

雫達の報告によれば、魔人族は強力無比な魔物の軍勢を保有しつつあり、まともにやりあえば勇者パーティが一度は敗北したかもしれないというのだ。

人間族滅亡の危機である。

 

同時に、人間族の希望となる筈だった勇者をして追い詰められた相手を理不尽とも言うべき圧倒的な力を以て駆逐したハジメの事も、王国と教会を騒がせた原因だった。

早馬により、【ウルの町】での事件については簡単な報告はなされている。

だが、事が事だけに誰もが半信半疑だったのだ。

【オルクス大迷宮】での事件は、その疑いを晴らすに足るものだった。

 

かつて"無能"と呼ばれていた男の圧倒的な力の秘密も、"聖剣"を容易く凌駕する未知のアーティファクト群も、魔人族の脅威から人間族を救い得る可能性が多分にある。

興味を抱かずにはいられないもの。

にも拘わらず、当の本人は帰還するどころか独自に行動しており、剰え自分の意にそぐわないなら教会を滅ぼすと脅したという。

 

当然、上層部からすれば面白くないどころか腸の煮えくり返る話であり、その処遇についてどうするべきかはここ数日の話題の種だった。

正に『会議は踊る、されど進まず』という状態だったのだ。

そんな状況にも遂に終わりが来て何らかの結論が出たのと期待した雫だったが、リリアーナは珍しくも溜息を吐きながら頭を振った。

 

リリィ「結論という程のものは何も出ていません。魔人族に関しては、一刻も早く勇者──

光輝さん達に対抗出来る力をつけさせろとか、魔物の大群を操れる生徒がいたなら他にもいるかもしれないから天職を調べ直そうと、そういう話ばかりです。

……問題は実力よりも心の方にあるというのに、教会の方々はそれが分からないのです。

『神の使徒に選ばれておいて、何故敵を討つ事に悩むのか?』、

『何故与えられた使命に喜びを感じないのか?』と。」

 

リリアーナとて聖教教会の敬虔な信者だ。

その彼女が教会の人間に対しその様な物言いをする事に、雫が不思議そうな表情をする。

雫の疑問を察して、リリアーナは苦笑いを浮かべた。

リリィ「現実的問題に対して、思想や感情を切り離すのは得意ですから。」

 

王女の神髄此処に見たり。まだ十四歳という年齢を考えると、雫としては微妙な表情をせざるを得ない。

リリィ「まぁそうは言っても、教会の方々も以前はここまで極端ではなかったと思うのですが……

やはり、余裕が無くなってきているのかもしれませんね。

兎に角、教会側から無理のあるアプローチがなされるかもしれません。

光輝さん達が不安定な今、何が切っ掛けで危ない方向へ転がるか分かりませんから、一応事前に話しておこうと思った訳です。」

雫「そういう事ね……うん、分かったわ。ありがとうリリィ。」

 

心構えが有るのと無いのでは全く違う。

事前に知っていれば、何か吹き込まれてもある程度は受け流して自分の頭でしっかり考えられるだろう。

雫「それで……ハジメ君については?」

雫の質問に、リリアーナは一瞬だけ言葉に詰まった。雫の中に嫌な予感が過る。

そして、その予感は当たっていたらしい。

 

リリィ「ハジメさんに、異端者認定の話が出ました。」

雫「……冗談、ではないのね。」

リリアーナの言葉に、雫は思わず天を仰いだ。何なら両手で顔を覆ってしまった。

 

──異端者認定。

全ての人間に、法の下の討伐が許されるという教会の有する強力な権力の一端。

神敵であるが故に、認定を受けた者に対しては何をしても許される。

また、認定を受けた者に対する幇助目的の一切の行為が禁じられる。

それは即ち、この世界で生きる事を許さないという決定だ。

以前されたその説明を思い出し、雫は思わず背筋が凍り付いた。

 

それはつまり、あの南雲ハジメに、勇者である光輝をただの遊び感覚で倒したあの男に、正当防衛という名の反撃の口実を与えるという事だ。

もし本当に異端者認定されたなら、討伐隊も派遣されるだろう。

そうなればその急先鋒に抜擢されるのは十中八九自分達だ。

つまり、あの圧倒的な力が一切容赦無く自分達に向けられるという事だ。

それを思い、雫は無意識の内に全身の血の気が引くのを感じた。

 

最も、ハジメさんにとっては、そうなった場合に他人を三つのグループに分けて対応を考えてあるらしい。

「手のかかる奴らだが一応命だけは助けてやる」がクラスメイト達、リリアーナやメルド含む良識人達。

「今は無視しておくが、敵対する素振りなら即滅ぼす」がその他王国や他国関係者、そして魔人族。

最後に「敵対以前に血祭り確定」が檜山、エヒト、教会、アルヴ、タイムジャッカーである。

 

リリィ「あくまでそういう話が出たというだけです、まず認定が下される事はありませんよ。

『教会に従わないから』なんて理由で発令される程、軽い認定ではないのです。

ただ、人の口は決して閉ざせないもの。

会議の中での勢い余った発言であったとしても、一度そういう話が出たという噂は流れるかもしれません。そして異端者認定の候補に挙がったというだけで、ハジメさんに対する認識はあまりいいものにはならないでしょう」

雫「……つまり、"流されるな"と言いたいのねリリィは。」

 

頭の中を駆け巡る最悪の未来を片隅に追いやり、雫は冷静に返す。

リリィ「はい。人間族存続の危機ですから、発言が過激になるのはやむを得ない面もあります。

そのせいで、そういう話が出たというだけです。

雫達がこの話を耳にしても、どうかそれぐらいの認識でお願いしますね。

ハジメさんに対してどういう方針を取るべきかは、愛子さん達が帰ってきて報告を聞いてからになります。」

 

真剣な眼差しでそう忠告するリリアーナの真意を、雫は正確に読み取った。

リリアーナは、ハジメが戻ってきた時の居場所を守ろうとしているのだ。

ハジメのことは勿論、リリィ自身の為という事もあるだろうが、一番は彼に付いていった香織の為だろう。

親友の下に戻っても、そこに想い人の居場所が無いというのは、きっと辛い事だ。

まぁ、あのハジメなら寧ろ力づくで居場所を作る事も出来るだろうが。

 

それはさておき。

雫「本当に、ありがとうリリィ。」

雫は親愛の情をたっぷりと込めて礼をした。

リリィ「……神の御意志とは言え、こちらの事情に巻き込んでいるのです。

出来る事ぐらいはしませんと、それこそ神に顔向け出来ません。

それに……雫も香織も、私の大切なお友達ですから。」

そう言ってリリアーナは、少し照れた様に顔を背けた。

雫は思わずリリアーナを抱き締めて、「お友達じゃなくて親友でしょ!」と訂正する。

リリアーナの頬は真っ赤に染まった。

 

その後、話し合う事を話し合った二人は、ガールズトークへと突入した。

王女という立場のリリアーナと、クラス一の苦労人という立場の雫は、互いに気苦労が絶えない。

それ故に、友達同士の何でもないお喋りの時間というのが何よりも心癒す一時だったのだ。

 

但し。二人が楽しむ代償として、幾人かの尊厳が犠牲になっていたりする。

例えば、香織に恋心を抱いていたランデル殿下がショックで寝込んだ挙句、ここ最近は毎晩リリアーナに泣きついてくるという話。

そのランデル殿下が復活したと思ったら、いきなり光輝の下へ行き「香織を取られるとは何たる体たらく!男として恥ずかしくないのか!?」などと叫び、光輝が胸を押さえて四つん這いになった話。

自分の言葉がブーメランになって返り、同じ様に四つん這いになったランデル殿下の話。

いずれも本人達が聞いたら、数日は寝込むだろう黒歴史な話。

 

そしてハジメや香織の話。

日本においてハジメが起こした出来事や彼の対人関係、香織がゲームショップで起こしてしまった悲しい事件(笑)等々。

二人が聞いたら香織は慌てて弁解するだろう。ハジメは笑って詳細を話してくれるはずだ。

そんな二人を想像した雫は思わず笑いが込み上げる。

 

生のガールズトーク。

それは、古来よりこの世の知るべきではない事柄の一つ。

男子禁制の秘密の花園アンダーローズなのだから。

 

リリィ「それでは雫、私は戻りますね。本当に無理をしては駄目ですよ?」

雫「えぇ、分かってるわ。今日は私も部屋に戻る。色々ありがとう、リリィ。」

日もとっぷりと暮れ、夜の帳が降り始めた頃。

漸く犠牲を強いるお喋りに区切りをつけた二人は、互いに少しはストレスが発散された様な朗らかな笑みを浮かべ合った。

 

廊下の分かれ道まで来て、自室へ戻るリリアーナの背を見送る雫。

暫く、異世界で出来た優しい親友の王女様を見つめる。

そしてどこか暖かい気持ちを抱きながら、雫自身も別の廊下へと一歩を踏み出して——

 

雫「ッッッ!!?」

一瞬、背筋に氷塊を流し込まれた……様な気がした。

黒刀に手をかけ、抜刀体勢で振り返る。

油断無く視線を巡らせるが、そこには王宮の明かりと薄暗い廊下しかない。

雫「気のせい、かしら……?」

息を殺して気配を探るが、結局周囲には何も無い様だった。

 

警戒態勢を解いた雫は、「リリィの話で私も少しナーバスになっているのかも……」と自己診断して溜息を吐いた。

踵を返して雫は歩みを再開する。仲間の下へと戻るその足は、いつもより少し足早だった。

まるで、何かに追い立てられる様に。




ハジメ
「ここまで読んでいただき、ありがとうございます!それじゃあゲストさ「お姉様!?お姉様は何処に!?」……ハァ。」
女騎士(ソウルシスター)
「南雲陛下、雫お姉様をどこへ隠しやがったのでありますか!?」
ハジメ
「雫は今、地球で休日を満喫中だ。さっさと業務を果たせ、穀潰し(奇行種)。」
女騎士(ソウルシスター)
「図りやがったでありますか!?後誰が奇行種でいやがりますか!」
ハジメ
「うるせぇ。そして面倒くせぇ。」
女騎士(ソウルシスター)
「こうしちゃいられない!お姉様ァー!今そちらに――!」
ハジメ
「お前じゃ出来ねぇよ。さっさと次回予告やるぞ。」
女騎士(ソウルシスター)
「否!お姉様への愛さえあれば世界の一つや二つゥ……!」メキャリッ!

次回予告
ハジメ
「次回から漸くエリセンとメルジーネ海底遺跡編だ。いやぁ、長かった……。」
女騎士(ソウルシスター)
「」チーン
ハジメ
「うん?どしたの、クゼリー?え?コレをどうするのかって?」
女騎士(ソウルシスター)
「」チーン
ハジメ
「まぁ、取り敢えずこのままにしとこうかなって。静かでやりやすいし。」
女騎士(ソウルシスター)
「」チーン
ハジメ
「さてと、次回もお楽しみに!……やっぱり、砂漠辺りに捨てておくか。」ボソッ
女騎士(ソウルシスター)
「……ォ……オネェサマァ……。」ガクッ


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56.舞台は大海、親子の再会!

ハジメ
「お待たせいたしました。今回と次回はちょっとクラスの皆にはお休みしてもうよ。今回は……!」
ミュウ
「みゅ!読者の皆さん、久しぶりなの!」
ハジメ
「我が愛娘ことミュウに来てもらったよ。
今回で俺以外、しかもゲストで初の、オープニングとエンディングに出演した人物になるね。」
ミュウ
「パパ、ミュウ、偉いの?」
ハジメ
「そうだね~ミュウは偉いね~♪この調子で前回のあらすじも行こうか~。」
ミュウ
「はいなの!えっと~この前は雫お姉ちゃんとリリィお姉ちゃんのお話なの!」
ハジメ
「雫、リリィ、サンドイッチ、風爪、猫、ウッ、頭が……。」
ミュウ
「とっても可愛かったの!それじゃあ、第5章第9話」
ハジメ・ミュウ
「「それでは、どうぞ(なの)!」」


見渡す限りの青。

空は地平の彼方まで晴れ渡り、太陽の光は燦々と降り注ぐ。

しかし、決して暑すぎるという事は無く、気候は穏やかで過ごしやすい。時折優しく吹く微風が何とも心地いい。

 

ただ、周囲をどれだけ見渡しても何一つ"物"が無いのは少々寂しいところだ。

尤も、それも仕方の無い事だろう。何せ、ここは大海原のど真ん中なのだから。

そんな大海原のど真ん中を進むのは誰であろう、俺達だ。

 

ハジメ「ミュウ~、あと少しだからね~。あともう少しでエリセンにつくよ~。」

ミュウ「みゅ!ママが待っているの!」

現在俺達は、オルクスで作った潜水艇「ビリオンスターズ号」で、ミュウの故郷であるエリセンに向かっている。

勿論、潮風で喉がやられないよう、シャドーベールでしっかり防護する。

 

ここに来るまでの道中、海の魔物達が襲い掛かってきた。

体長30mはありながら30本以上の触手を持つ巨大な烏賊擬きに、水の竜巻を纏う鮫擬きの群れ、角が回転する速いカジキマグロに、機雷の様に糞を撒き散らす亀等。

 

いずれも一流の冒険者でも苦戦する魔物だったのだろうが、生憎目の前にいるのは"最高最善の魔王"とその仲間達。

出てきた瞬間即座に解体されては部位を剝ぎ取られ、食料になったけどね。

 

そんな感じで時折襲ってくる魔物を腹に収めつつ、進む事丸一日。

満天の星の下走り抜け朝日が世界を照らす頃、遂に視界に陸地を捉えた。

昨夜に見た星の位置からすれば、今いる場所はエリセンの東だ。

なので後はこのまま真っ直ぐ西へ向かえば、エリセンの港が見えてくる筈だ。

進行方向を微調整しつつ、俺たちは西へ進み、エリセンへ近づく。

 

そして太陽が中天を越えた頃。

ハジメ「もうちょい時間があれば魚醤が出来るんだけどなぁ……。」

ユエ「魚醬?」

ハジメ「調味料の一つ。ウルの町で言っていた醤油の魚バージョン。」

俺達は傷まない様凍らせていた魚を解凍調理し、波に揺られながら昼食をとっていた。

 

シア「醤油って……たしか、ハジメさん達の世界の調味料でしたよね?」

ハジメ「あぁ、豆腐や魚の肉にかけると旨いんだよな~。」

香織「でもお醤油って大豆で作るんじゃなかったっけ……?」

ふっふっふっ……そう思うじゃん?

 

ハジメ「大丈夫だ、地球(ほし)の本棚がある。それに、愛ちゃん先生から塩麴は貰って来てある。」

トシ「なんか……クックパッドみてぇだな。てかいつ貰ったんだよ?」

ミレディ「トッシーが眠っている間に貰っていたやつかな?ハジメン、凄い嬉しそうにしていたし。」

ハジメ「Exactly!因みに、味噌の麹菌も貰ってあるから、後は待つだけなんだよな~。」

 

そう、次はいつ会えるかも分からないので、この機会にと貰っていったのだ。

ティオ「ご主人様よ、醤油の麹とやらは貰えなかったのかえ?」

ハジメ「まぁ、流石にそっちは無理そうだったし……餅は餅屋ってことで。」

愛ちゃん先生が作った方が美味しそうだし……こっちはまぁ、急ごしらえってことで。

 

そんなやり取りをしながら、魚料理を楽しんだ。毒があるかないかはしっかりチェックした。

塩焼きや干物も美味しかったが、やはり醤油が恋しい……。

幸いにも暇な時は釣りや素潜りで取りまくっていたので、魚はまだある。

いつか、寿司や海鮮丼を食べるために!

 

するとその時、物足りなさを覚え始めた魚の丸焼きを食べ終わり、串の回収をしていると、不意に魚や魔物とも違う気配を感じた。

直後、小舟を囲む様にして複数の人影が現れた。

「ザバッ!」と音を立てて海の中から飛び出した人影は、三叉槍を突き出して俺達を威嚇する。

 

ふむ、数は20人程、その誰もがエメラルドグリーンの髪と扇状の鰭の様な耳を付けていた。

どう見ても海人族の集団だな、警備隊かミュウの捜索隊か、それとも……。

彼らの目は、いずれも警戒心に溢れ剣呑に細められている。

その内の一人、俺の正面に位置する海人族の男が槍を突き出しながら問い掛けた。

 

海人A「お前は何者だ?何故ここにいる?それにこの乗り物はなんだ?」

質問が多いなぁ……。そういうのは自分から先に名乗るもんなんだけどねぇ……?まぁ、別にいいけどさ。

ハジメ「俺は南雲ハジメ。金ランクの冒険者でミュウを送り届けに来ただけだよ。」

海人A「何ッ!?」

 

海人族の男は驚きつつも、俺の膝の上でキョトンとしているミュウに漸く気付く。

ハジメ「あ、後これ。」

序にステータスプレートと依頼書、事の経緯が書かれた手紙を提示し、誤解を解いてもらう。

海人A「……なになに……本物の〝金〟ランクだとっ!?

しかも、フューレン支部長の指名依頼!?」

 

これらの書類はエリセンの町長と目の前の駐在兵士のトップに宛てられたものだ。

まぁ、今出しておいた方が証人が出来るのでより信頼を得られるだろう。

それを食い入るように読み進めた男は、ミュウの無事に安堵したのか息を吐くと、警戒を解くよう周りの海人族に言った。

 

海人族「……依頼の完了を承認する。南雲殿。」

ハジメ「疑いが晴れたようで何よりだよ。取り敢えず、立ち話も難だし上がりなよ。

一応、スペースは十分あるし。」

そんな訳で海人族の彼等を乗せ、エリセンへ再び潜水艇を進めた。

 

道中、事の経緯について詳しく説明(ミュウの可愛らしい感想も交えて)、お手製料理を添えると、こちらを信じてくれたのか、向こうの事情も聞かせてもらえた。

なんでも、ミュウ誘拐の折、母親が負傷したこともあって余計感情的になっていたようだ。

 

そうして海の上を走る事一時間弱。

シア「あっ、ハジメさん!見えてきましたよ!町ですぅ!

やっと人のいる場所ですよぉ!」

ハジメ「分かったから、珍しいからってはしゃがないの。」

シアが、瞳を輝かせながら指を指し【エリセン】の存在を伝える。

ユエ達の目にも、確かに海上に浮かぶ大きな町が見え始めたようだ。

 

俺達は桟橋が数多く突き出た場所へ向かう。

そして、見たこともない乗り物に乗ってやってきた俺達に目を丸くしている海人族達や、観光やら商売でやって来たであろう人間達を尻目に空いている場所に停泊した。

 

すると、すぐ傍に来た事で完全武装した海人族と人間の兵士が詰めかけてきた。

まぁ、一緒に乗ってきた海人族の人達に事情を説明してもらったので、事なきを得たけどね。

その後、兵士たちのリーダーであろう男性がこちらにやってきた。

彼の胸元のワッペンには【ハイリヒ王国】の紋章が入っており、国が保護の名目で送り込んでいる駐在部隊の隊長格であると推測出来る。

 

隊長さん「依頼の完了を承認した。感謝しよう、南雲殿。」

ハジメ「当然のことをしただけだよ。それよりもまず、この子と母親を会わせたいんだけど……いいよね?」

隊長さん「勿論だ。しかしあの船らしきものは、王国兵士としては看過できない。」

あちゃ~、それ聞くか普通?

 

ハジメ「まぁ、時間が出来たら話すよ。

どっちにしろ暫くエリセンに滞在する予定だし。

まぁ、この潜水艇に関してはメルドさんやリリィ辺りは知っていると思うけどね。」

隊長さん「むっ、そうか。兎に角話す機会があるならいい。

その子を母親の元へ……その子は母親の状態を?」

 

ハジメ「いや、まだ知らないがいいと思う。

話は聞いているけど……ミュウを心配させたくないし。」

隊長さん「そうか、わかった。では、落ち着いたらまた尋ねるとしよう。」

そうしてサルゼと名乗った隊長さんは、野次馬を散らして騒ぎの収拾に入った。

海洋警察らしく、中々職務に忠実な人物だねぇ。

 

ミュウを知る者達が声を掛けたそうにしていたが、そうすれば何時まで経っても母親の所へ辿り着けそうになかったので、そっと視線と念話で優しく制止した。

ミュウ「パパ、パパ。お家に帰るの。ママが待ってるの!ママに会いたいの!」

ハジメ「フフッ、そうだね。早く会いに行こうか。」

 

俺の手を懸命に引っ張り、早く早く!と急かすミュウ。

まぁ、ミュウにとっては約2ヶ月ぶりの我が家と母親だから、無理もないよね。

道中も俺達が構うから普段は笑っていたけど、夜寝る時等にやはり母親が恋しくなる様で、そういう時は特に甘えん坊になっていたし……。

 

ミュウの案内に従って彼女の家に向かう道中、顔を寄せて来た香織が不安そうな小声で尋ねる。

香織「ハジメくん。さっきの兵士さんとの話って……。」

ハジメ「いや、命に関わる訳じゃないみたい。ただ、怪我が酷いのと精神的なものらしい。

精神の方はミュウがいれば問題ない、怪我の方はお願いするよ。時間がかかりそうなら手伝うし。」

香織「うん。任せて!」

そんな会話をしていると、通りの先で騒ぎが聞こえだした。若い女の声と、数人の男女の声だ。

 

海人族B「レミア、落ち着くんだ!その足じゃ無理だ!」

海人族C「そうだよ、レミアちゃん。ミュウちゃんならちゃんと連れてくるから!」

???「いやよ!ミュウが帰ってきたのでしょう!?なら私が行かないと!迎えに行ってあげないと!」

 

どうやら家を飛び出そうとしている女性を、数人の男女が抑えている様である。

恐らく、知り合いがミュウの帰還を母親に伝えたのだろう。

そのレミアと呼ばれた女性の必死な声が響くと、ミュウが顔をパァア!と輝かせた。

そして玄関口で倒れ込んでいる20代半ば程の女性に向かって、精一杯大きな声で呼びかけながら駆け出した。

 

ミュウ「ママーーッ!!」

レミア「ッ!?ミュウ!?ミュウ!」

ミュウはステテテテー!と勢いよく走り、玄関先で両足を揃えて投げ出し崩れ落ちている女性

──母親であるレミアさんの胸元へ満面の笑顔で飛び込んだ。

 

もう二度と離れないという様に固く抱きしめ合う母娘の姿に、周囲の人々が温かな眼差しを向けている。

レミアさんは何度も何度も、ミュウに「ごめんなさい」と繰り返していた。

それは目を離してしまった事か、それとも迎えに行ってあげられなかった事か、或いはその両方か。

 

娘が無事だった事に対する安堵と守れなかった事に対する不甲斐なさにポロポロと涙をこぼすレミアさんに、ミュウは心配そうな眼差しを向けながらその頭を優しく撫でた。

ミュウ「大丈夫なのママ、ミュウはここにいるの。だから大丈夫なの。」

レミア「ミュウ……。」

まさかまだ4歳の娘に慰められるとは思っていなかったのか、レミアさんは涙で滲む瞳をまん丸に見開いてミュウを見つめた。

 

ミュウは真っ直ぐレミアさんを見つめており、その瞳には確かにレミアさんを気遣う気持ちが宿っていた。

攫われる前は人一倍甘えん坊で寂しがり屋だった娘が、自分の方が遥かに辛い思いをした筈なのに再会して直ぐに自分の事より母親に心を砕いている。

驚いて思わずマジマジとミュウを見つめるレミアさんに、ミュウはニッコリと笑うと今度は自分からレミアさんを抱きしめた。

体に、或いは心に酷い傷でも負っているのではないかと眠れぬ夜を過ごしながら自分は心配の余り心を病みかけていたというのに、娘は寧ろ成長して帰って来た様に見える。

 

その事実にレミアは、つい苦笑いを溢した。肩の力が抜け涙も止まり、その瞳にはただただ娘への愛おしさが宿っている。

ハジメ「(強くなったね、ミュウ。)」

トシ「(念話使ってまでいうことがそれかい。)」

ハジメ「(娘の成長はいつ見てもいいものだ。)」

トシ「(さいですか……。)」

 

再び抱きしめ合ったミュウとレミアだったが、突如ミュウが悲鳴じみた声を上げた。

ミュウ「ママ!あし!どうしたの!けがしたの!?いたいの!?」

どうやら、肩越しにレミアの足の状態に気がついたらしい。

彼女のロングスカートから覗いている両足は包帯でぐるぐる巻きにされており、痛々しい有様だった。

 

これがサルゼさんが言っていた事か。

ミュウを攫った事もだが、母親であるレミアさんに歩けなくなる程の重傷を負わせた事も、海人族達があれ程殺気立っていた理由の一つだったのだろう。

その気持ちは痛いほどにわかる。

俺も大切な者がどんな酷い目に遭わされているのかを考えると……思わず怒りでブチギレそうになるね。

 

ミュウはレミアさんと逸れた際に攫われたと言っていたが、海人族側からすれば目撃者がいないなら誘拐とは断定できない筈。

彼等がそう断言していたのはレミアさんが実際に犯人と遭遇したかららしい。

なんでも、レミアさんは逸れたミュウを探している時に、海岸の近くで砂浜の足跡を消している怪しげな男達を発見したらしい。

嫌な予感がしたものの、取り敢えず娘を知らないか尋ねようと近付いたところ……

いきなり襲われたそうだ。

 

彼等がミュウを拐かしたのだと確信したレミアさんは、襲撃を必死に搔い潜りどうにかミュウを取り戻そうと何度も名前を呼んだ。

しかし戦う術を持たない彼女がそう長く逃げられる筈も無く、遂には男の一人が放った炎弾の直撃を足に受けてそのまま海へと吹き飛ばされたのだという。

レミアさんは痛みと衝撃で気を失い、気が付けば帰りの遅い二人を捜索しに来た自警団の人達に助けられていたという訳だ。

 

一命は取り留めたものの時間が経っていた事もあり、レミアさんの足は神経をやられもう歩く事も今迄の様に泳ぐ事も出来ない状態になってしまった。

当然娘を探しに行こうとしたレミアさんだが、そんな足では捜索など出来る筈もなく、結局自警団と王国に任せるしかなかった。

 

そんな事情があり、レミアは現在立っている事も儘ならない状態らしい。

レミアさんはこれ以上娘に心配ばかりかけられないと笑顔を見せて、ミュウと同じ様に「大丈夫」と伝えようとした。

しかしそれより早く、ミュウはこの世でもっとも頼りにしている"パパ"に助けを求めてきた。

 

ミュウ「パパぁ!ママを助けて!ママの足がいたいの!」

レミア「えっ!?ミ、ミュウ?今、なんて……?」

ミュウ「パパ!はやくぅ!」

レミア「あら?あらら?やっぱり、パパって言ったの?ミュウ、パパって?」

混乱し、頭上に大量の“?”を浮かべるレミア。

 

周囲の人々もザワザワと騒ぎ出した。

あちこちから「レミアが……再婚?そんな……バカな!?」

「レミアちゃんにも、漸く次の春が来たのね!おめでたいわ!」

「ウソだろ?誰か、嘘だと言ってくれ……俺のレミアさんが……。」

「パパ…だと!?俺の事か!?」

「きっとクッ○ングパパみたいな芸名とかそんな感じのやつだよ、うん、そうに違いない。」

「おい、緊急集会だ!レミアさんとミュウちゃんを温かく見守る会のメンバー全員に通達しろ!こりゃあ、荒れるぞ!」等、色々危ない発言が飛び交っている。

 

どうやらレミアとミュウは、かなり人気のある母娘の様だ。

レミアはまだ20代半ばと若く、今はかなり窶れてしまっているがミュウによく似た整った顔立ちをしている。

復調すればおっとり系の美人として人目を惹くだろう事は容易く想像できるので、人気があるのも頷ける。

ただ……ちょっと喧しいので黙らせるか。

 

ハジメ「静かにィー!!!」

その一瞬で喧騒が収まり、俺の方に視線が向いた。

ハジメ「皆さんが落ち着くまで2分かかりました!さてと……。」

そう言って、ミュウのもとへ向かう。

ミュウ「パパぁ!はやくぅ!ママをたすけて!」

ミュウの視線ががっちり俺を捉えているので、その視線を辿りレミアも周囲の人々も俺の存在に気がついたようだ。

 

ミュウ「パパ、ママが……。」

ハジメ「大丈夫、心配しなくてもちゃんと治るさ。

だからミュウ、そんな悲しそうな顔をしないでくれよ。」

ミュウ「はいなの……。」

泣きそうな表情で振り返るミュウの頭を撫でながら、俺は視線をレミアさんに向ける。

 

レミアさんはポカンとした表情で俺を見つめていた。

無理もないかと思いつつも、さっきまで収まっていた騒ぎが益々大きくなってきたので、治療の為にも家の中に入る事にした。

ハジメ「失礼。」

レミア「え?ッ!?あらら?」

うぉっ!?軽いな……。

 

そのままレミアさんを抱き上げ、ミュウに先導してもらいレミアさんを家の中に運び入れた。

レミアさんを抱き上げた事に背後で悲鳴と怒号が上がっていたが無視だ。

当のレミアさんは、突然抱き上げられた事に目を白黒させている。

 

さて、家の中に入るとリビングのソファーが目に入ったので、レミアさんをそっと下ろした。

そしてソファーに座り、目をぱちくりさせながら俺を見つめるレミアさんの前に傅き、香織に見せる。

ハジメ「どう?いけそうかな?」

香織「ちょっと見てみるね……レミアさん、足に触れますね。痛かったら言って下さい。」

レミア「は、はい?えっと、どういう状況なのかしら?」

 

突然攫われた娘が帰ってきたと思ったら、その娘がパパと慕う男が現れて、更に見知らぬ美男に美女・美少女が家の中に集まっているという状況に、レミアさんは困った様に眉を八の字にしている。

そうこうしている内に香織の診察も終わり、レミアさんの足は神経を傷つけてはいるものの香織の回復魔術で一応治癒出来る事が伝えられた。

 

香織「ただ、少し時間が掛かるみたいで……

後遺症無く治療するには、三日位掛けてゆっくりやらないと駄目みたい。」

ハジメ「なら俺の出番だね。任せてよ!」

香織の報告を受け、俺は少し離れるとベルトを出現させ、その両端に触れた。

 

ハジメ「"変身"。」

 

ゴォーン!!!

 

『祝福の刻!』

 

『オーマジオウ!』

 

変身した俺は、香織と入れ替わる様に今度はハジメがレミアさんの足に触れる。

そうしてオーマジオウの十八番能力(時間操作)を発動した。念入りにゆっくりと、痛くないように。

何故変身したのかって?神経まで傷ついているんだ!やるなら万全の状態でやらないと!

もし失敗したらどうするんじゃい!能力の無駄遣いだと言いたいなら好きに言え!一向に構わん!

 

そうこうしてる間に1分くらいかな?漸く終わったと思い、変身を解除する。

ハジメ「ふぃ~、これでいいと思う。香織、念のために見ておいて。

大丈夫そうだったら、レミアさんも足を動かしても構いませんよ。」

香織「うん。……ホントだ、傷ついていた神経が元に戻っている!」

レミア「……!」

香織の言葉に驚きながら、レミアさんは確かめる様に足を動かす。

 

無事動かせるようになったのか、レミアさんは頭を下げた。

レミア「あらあら、まあまあ。もう歩けないと思っていましたのに……何とお礼を言えばいいか……。」

ハジメ「構いませんよ、ミュウの母親ですから。」

レミア「えっと、そういえば皆さんは、ミュウとはどの様な……

それにその、……どうしてミュウは、貴方の事を“パパ”と……?」

 

レミアの当然と言えば当然の問いかけに、俺達は経緯を説明する事にした。

フューレンでのミュウとの出会いと騒動、そしてパパと呼ぶ様になった経緯など。

全てを聞いたレミアはその場で深々と頭を下げ、涙ながらに何度も何度もお礼を繰り返した。

 

レミア「本当に、何とお礼を言えばいいか……娘とこうして再会できたのは、全て皆さんのおかげです。

このご恩は一生かけてもお返しします。私に出来る事でしたら、どんな事でも……。」

ハジメ「二人の笑顔だけで十分ですよ。それじゃあ俺達はこの辺で「でしたら!」うん?」

今晩の宿を探しに行こうと思っていたら、レミアさんから呼び止められた。

 

レミア「でしたらせめて、我が家をお使いください。

エリセンには暫く滞在なさると聞きましたので、これ位はさせて下さい。

幸い家はゆとりがありますから、皆さんの分の部屋も空いています。

エリセンに滞在中は、どうか遠慮なく。それにその方がミュウも喜びます。ね、ミュウ?

ハジメさん達が家にいてくれた方が嬉しいわよね?」

ミュウ「?パパ、どこかに行くの?」

 

レミアさんの言葉に、レミアさんの膝枕でうとうとしていたミュウは目をぱちくりさせて目を覚まし、次いでキョトンとした。

どうやらミュウの中で俺が自分の家に滞在する事は物理法則より当たり前の事らしい。

何故レミアさんがそんな事を聞くのか分からないと言った表情だ。

 

ハジメ「まぁ……折角だしお言葉に甘えさせてもらいます。」

レミア「はい、どうぞ存分に。」

ハジメ「それで、ミュウのことなんですが……。」

レミア「はい、この先の旅は過酷で危険だからエリセンに留まる様に、ですよね?」

そう、この先俺達は教会や魔人族とも事を構えなければならない。

そうなった以上、ミュウに危険が及ぶかもしれない。それだけは避けなければならないのだ。

 

ハジメ「えぇ、あの年頃の子は母親と共にいるのが一番ですから。

まぁ、別れの日までは"パパ"でいるつもりです。」

レミア「うふふ、別にずっと"パパ"でもいいのですよ?先程"一生かけて"と言ってしまいましたし……。」

ちょっ……そんなこと言わないで下さいよ、急に!?

 

少し赤く染まった頬に片手を当てながら「うふふ♡」と笑みを溢すレミアさん。

おっとりした微笑みは、普通なら和むものなんだろうけどね……。

あぁ、周りの気温が下がっているのを感じる……トシ、その苦労人を見るような眼をやめい。

 

レミア「あらあら、おモテになるのですね。ですが、私も夫を亡くしてそろそろ五年ですし……

ミュウもパパ欲しいわよね?」

ミュウ「ふぇ?パパはパパだよ?」

レミア「うふふ、だそうですよ。パパ?」

ブリザードが激しさを増す。

 

冷たい空気に気が付いているのかいないのか分からないが、おっとりした雰囲気で、冗談とも本気とも付かない事をいうレミアさん。

「いい度胸だ、ゴラァ!」という視線を送るユエ達にも「あらあら、うふふ。」と微笑むだけで、柳に風と受け流している。

意外に大物なのかもしれない。……ただ、なんだろうな。この違和感は……。

 

取り敢えず言葉に甘え、レミアさん宅に世話になる事になった。

部屋割りで「夫婦なら一緒にしますか?」と言うレミアさんとユエ達が無言の応酬を繰り広げたりしたが、「パパとママと一緒に寝る~♪」というミュウの言葉に賛成し、俺はレミアさんと共に寝る事にした。

明日からは大迷宮攻略に出航、捜索をしなきゃいけない。

暫く離れる事になるミュウとの時間も蔑ろには出来ないしなぁ……。

そう考えながら、ベッドに入った俺の意識はまだ見ぬ海底遺跡に向いていた。




ハジメ
「ここまで読んでいただき、ありがとうございます。さて今回のゲストは……コイツだ!」
イナバ
『逢魔親衛隊が一人ィ!殺戮兎因幡之守たぁ、自分のことやァッ!』
ハジメ
「ほんと、何で今まで出さなかったんだアイツ。こいつ俺の第一家臣だぞ?それを今更ここでって……。」
イナバ
『王様、自分は出られるだけでも嬉しいでさぁ!王様と共演できるなんて夢のようっす!』
ハジメ
「……そうか。まぁ、お前が嬉しそうなら構わんが……。そう言えば、魔物では初だな。」
イナバ
『そうっすね。自分以外だと、リーの旦那にウラノスの嬢ちゃん位でさぁ。それ以外は知りやせんし。』
ハジメ
「そうだねぇ……後は氷雪洞窟のアイツくらいだし……。」
イナバ
『?よく分かりやせんが、次回予告といきやしょうや。』

次回予告
ハジメ
「次回は、うp主が話の都合合わせと書きたい欲を満たすためのオリジナル展開だ。」
イナバ
『具体的にはどんな感じなんですかい?』
ハジメ
「まぁ、しいて言うならレミアの前の旦那について、かな?」
イナバ
『あ~、確かにそれは原作では描かれていやせんでしたし。』
ハジメ
「うp主曰く、"折角だしここで親密度上げておいた方が、後々楽だしこうしよっと思って。"らしい。」
イナバ
『フェーゲラりやすか?』
ハジメ
「既に裏で殺ってきた。次の次から"メルジーネ海底遺跡!"の攻略だ!」
イナバ
『それでは皆さん、お楽しみに!』

ヴァンアストさん、誤字報告ありがとうございました!


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57.月が照らす、過去と未来

ハジメ
「お待たせいたしました。さぁ、今回はやっと登場!原作ヒロインズ最後の一人、Ready GO!」
レミア
「はじめまして、妻のレミアです♡」
ハジメ
「苦節半年以上……漸く来たよここまで。ほんっと待たせてごめん。」
レミア
「確かに待ち侘びていましたが……うp主さんの事情もありますし……。」
ハジメ
「それに関しては、あいつのスケジュール管理ミスだから気にしなくていい。
そんなことより前回のあらすじだッ!」
レミア
「あらあら、容赦ないですね。前回は私が初登場でしたね、あ・な・た?」
ハジメ
「あぁ、今回はレミアとの関係についてだが、うp主の勝手な創作によるオリジナル展開だから、原作派な人はこの辺でブラウザバックを推奨するぞ。
まぁ、俺としてはレミアとの馴れ初めを見てほしいけどね!」
レミア
「あらあら、うふふ。それでは、第5章第10話」
ハジメ・レミア
「「それでは、どうぞ!」」


深夜、ふと目が覚めた俺は夜風を浴びに少し外に出た。

夜空には満天の星と大きく輝く月があった。確か、海底遺跡には月の光がカギになるんだったな。

恐らくは大迷宮が近くにある場所で、月に向けてかざせば反応するはずだ。

取り敢えず、更に西の辺りを探してみるか。そう考えていると、そっと家のドアが開いた。

 

レミア「あらら?ハジメさん?」

ハジメ「あぁ、ちょっと眼が冴えちゃって。レミアさんは?」

レミア「ウフフ、私も目が覚めちゃいました♪」

ハジメ「……そうですか。」

……ハァ、やっぱり言わなきゃダメかな?

 

ハジメ「レミアさん、あの時"何でもする"って言ってくれましたよね。

そのお願い、聞いてもらってもいいですか?」

レミア「?は、はぁ……何でしょうか?」

ハジメ「ミュウの父親…いえ、レミアさんの旦那さんについて、教えてくれませんか?」

レミア「!?」

 

正直、これを切り出すかは迷っていた。でも今しか言えないと思う。

ミュウが寝ている今、レミアさんの本心を聞けるのはこの先ほとんどない筈だ。

もし、ミュウが俺と一緒に日本に行きたいって言いだしても、レミアさんは心から喜べないだろう。

だからといって、内心余り乗り気でないレミアさんも連れていくのは、俺の信条に反する。

 

レミア「……気づいていたんですね。」

ハジメ「別に咎めるつもりはありませんよ。無理もないに決まってます。

いきなりやってきた見知らぬ男を好きになれだなんて。

ミュウを騙しているようで辛い点は、俺も同じですから。」

 

そう、レミアさんは別に本心を口にしなかったわけじゃない。出来なかっただけだ。

初対面の男を、いきなり夫などと思うことも、ましてや一目惚れなんてことも。

でもミュウは俺をパパと呼んでいる。だから言えない、ママはあの人と一緒になったりしない、なんて。

かと言って、ユエ達の前で本気だと嘘をつくのも失礼だ。だから雰囲気でごまかしていたのだろう。

 

レミア「そこまで分かっていらっしゃったなんて……かないませんね。」

ハジメ「一応、これでもミュウのパパですから。それに……。」

俺は一呼吸置くと、レミアさんに向き直り、優しく告げた。

ハジメ「たとえ形だけの夫でも、貴方には心から笑顔でいてほしいから。」

レミア「!」

 

ハジメ「ここにいるのは、恋愛経験もなければ子育て経験もないただの餓鬼ですが……

貴方がため込んだ思いを、好きなだけ吐き出して楽になれるなら、俺はどんな言葉でも受け止めます。」

レミア「……ハジメさん。」

俺はミュウの父親であると同時に、レミアさんの夫(仮)でもある。

だからこれは、俺が向き合わなきゃいけないことなんだ。

 

レミアさん「ハジメさん、今から言うことは独り言ですので、聞き流してもらっても構いませんよ。」

ハジメ「はい。」

そこからレミアさんはぽつぽつと語り始めた。

 


 

レミアさんの旦那さん、ミュウの本当の父親は自警団の団長を務めていたらしい。

エリセン周辺の海域を魔物や密猟者から守り、町の皆からは絶大な信頼を受けていた。

当時、王国から派遣された町長達人間族側の役人たちと、海人族側との調整などを行う部署に所属していたレミアさんと出会い、互いに一目惚れしたそうだ。

まぁ、当時からレミアさんは大人気だったらしく、彼女を狙うライバルは大勢いたらしい。

 

ここで、解説を一つ。

海産物の効率的な獲得に有用であるが故に、特別に管理された亜人族。

それがこのトータスにおける海人族の立ち位置だ。

当然、その人口も管理されていた。

それも、減りすぎてはいけないし、反乱ないし種族全体での逃亡が可能な数にもしてはいけない、といったふうに。

 

ここだけ聞くと、あのクズ野郎がどれだけクソッたれなのかが浮き彫りになる。

人口まで管理するなど、まるで動物の様な扱いではないか。

たとえ人種が違おうとも、誰にだって人権は与えられるべきだ。

この制度に関しては、光輝が怒っても咎めないと決めた俺であった。

 

そして、いくら海の申し子といえど亜人である以上は魔法が使えず、海棲の魔物相手には死亡率も決して低くないという事情もある。

だからこそ、お互いの相手を上層部が決めているそうだ。

……レミアさん、よく上層部に無理やり結婚とかさせられなかったなぁ……。

 

旦那さんは、決められた相手ではあったものの、幼い頃から兄のように慕っていた人だったそうだ。

当然、レミアさんも家族となるのに抵抗はなかったそうだ。

まぁ、このエリセンの住人は一つの家族のようなものらしく、顔を知らぬ者などほとんどおらず、同世代の者達はずっと一緒に育ってきた兄弟姉妹も同然だそうだ。

 

立派でカッコいい旦那さんと、おっとりふわふわな癒し系幼妻。

二人はあっという間に、仲睦まじいおしどり夫婦として注目されたらしい。

最も、そのせいで町の男どもがやけ酒するわ、現実逃避するわで色々大変だったらしい。

兎にも角にも二人の新婚生活は始まったばかりだった。あの日までは……。

 

ある日、旦那さんは仲間たちと共に、海に漁へと向かった。

後から聞いた話では、それ相応の覚悟が必要になることだったらしい。

その話の通りなのか、その日は酷い嵐に見舞われたそうだ。

雨風が吹き付ける上に、小さな渦潮もいくつか発生したと記録されている。

 

そしてその日、漁に出て帰らぬ人となった人達がいた。

レミアさんの旦那さんもその一人だった。

それを聞いたレミアさんも当初は、旦那さんが亡くなったことで相当辛い思いをしたものの、気にかけてくれる町の人達の応援もあり、何とか持ち直したそうだ。

 

その後は強く生きることを決心し、「せめてお腹の中にいるこの子だけでも、幸せにしてあげなければ。」という母の気持ちが強くなり、ミュウを出産・二人で強く生きてきたそうだ。

直ぐに立ち直れる辺り、やはり母親は強いのだな、という思いを実感させられたよ。

 


 

レミア「ミュウが生まれる前に、あの人が言っていたんです。

もし、子が生まれる前に自分が海から帰らないことがあれば、会えない父親の話なんてしなくていい。

父親の代わりになってくれるやつならたくさんいるんだから、寂しい思いをさせるくらいなら、そいつらに甘えさせてやってくれ、と。」

曰く、それは特別な話ではなく、漁に出る海人族の中での風習的なものらしい。

男女に関係なく、海に出て漁をするということは、それだけ覚悟の必要なことだったようだ。

 

レミア「あの人と結婚したことを後悔したことはありません。

優しい人でしたし、何よりミュウを与えてくれましたから。」

ハジメ「そうですか……良い旦那さんだったんですね。」

俺の言葉に、レミアさんは「えぇ。」と微笑んで返すが、直ぐにその表情は曇っていき、次第に何かを押しとどめるような表情になっていた。

 

レミア「でも、時々思うんです。

もし、あの人が生きていてくれたら……

ミュウの成長した姿を見せられたんじゃないかって……!

あの日、嵐が収まっていたら、あの人は死ななくて済んだんじゃないかって……!

ずっと……ずっと……悔やんでも悔やみきれなくて……!

今でも、これから先、ミュウを守れるのか、不安になって……!

もっと……私が……!」

 

話している途中で当時を思い出し、思わず涙が込み上げたのか、嗚咽と共に吐き出された。

レミアさんがあの日からずっとため込んでいた、誰にも言えなかった本音を。

思わず膝から崩れ落ちそうになっていたので、ゆっくりと支える。序にそっと涙をハンカチで拭う。

 

ハジメ「今は辛くてもいいんです。沢山泣いたってかまわないんです。

誰しも後ろを向きたくなる時や、後悔したくなる時は幾らでもあります。

でもその分だけ前に進めるなら。、人ってどんなに弱くたっていいんです。

弱くても立ち直ろうとする、それが人の強さですから。

だから、泣いて、泣いて、それだけ前に進められればいいんです。」

 

レミア「……ハジメさん。」

ハジメ「それに俺、思うんですよ。レミアさんは弱くない、寧ろ強い女性だって。」

レミア「!」

 

ハジメ「大事な人失って、それでも前を向いて、ミュウを産んで、育てて、今日まで見守っていたんです。

それを強いって言わないでなんて言うんですか?俺だったらきっと一人じゃ折れています。

まぁ、男の俺がそういってもあんまり実感ないですけどね。」

レミア「フフッ……そうですね。」

想像したのか、思わず噴き出したレミアさん。少しずつ涙も収まっているようだ。

 

ハジメ「だから大丈夫です。ミュウはどんな苦境に立たされても諦めなかったんですから。

それはきっと、こんなに強い両親から勇気をもらったからだと思います。

もしそれでも前へ進むことが怖くなったら、いつでも頼ってください。

俺が前を歩いて、立ち塞がる壁なんて片っ端からぶっ壊してやりますよ。」

レミア「……ハイ。」

レミアさんの手を取り、そっと立ち上がらせる。

月明かりに照らされたその表情は、先程までの曇りが亡くなっていた。

 

ハジメ「俺でよければ、貴方とミュウの盾になります。

この先どんな障害も跳ねのけて、二人の道を照らす、太陽の盾に。」

レミア「ウフフ、お日様の盾、ですか……。とても眩しくて、暖かいんでしょうね……。」

涙はもう収まったようだ。ちょっと跡がついているから、後でそっと直しておこうっと。

序に、着ていた上着をそっとかけてあげた。

 

レミア「!」

ハジメ「夜風に当たりすぎて、体が冷えちゃったでしょう。ちょっと男臭いかもしれませんが……

よかったらどうぞ。気に入らなければ、他の物を出すので。」

レミア「……いえ、このままで、お願いします。」

そう答えるレミアさんの声色は、先程までとは違っていた。

 

ハジメ「そう、ですか……。それじゃあそろそろ行きましょうか。」

レミア「え、えぇ……。その……。」

ハジメ「うん?どうかしました?」

不思議に思い、レミアさんを見ると、気のせいか顔がほんのり赤みを帯びていた。

 

レミア「……!」

ハジメ「うぉっ!?れ、レミアさん!?」

なんと、急に抱き着いてきたのだ。流石にこれには驚いた。

レミア「……少しだけ、このままで。このままでいさせてください……。」

ハジメ「……えぇ、気のすむまで、いくらでも構いません。」

そういってそっと、優しく包み込むように抱きしめる。

 

レミア「……ありがとうございます、ハジメさん。」

ハジメ「当然のことをしたまでですよ。だって俺、王様ですから。」

レミア「王様、ですか……?」

ハジメ「はい。世界をより良くして、皆の明日と笑顔を作る。

そんな最高最善の魔王、それが俺のあるべき道です。

俺が、旦那さんの分まで、貴方もミュウも、そして二人の笑顔も、しっかり守ります。」

レミア「…ウフフ、そうですね。」

夜も更けていく月明かりの下、いつのまにか俺達は談笑していた。

 

レミア「そうなんですか、それは大変でしたね……。」

ハジメ「えぇ、あの時ばかりは"酒は飲んでも飲まれるな"を思い出しましたよ……。

ホントやばかったわ、マジで……。」

レミア「あらあら、まぁまぁ。」

花見の時、ミュウと俺以外が酒に酔ってしまった時の話、

 

ハジメ「まさか、ユエがあそこまでの劇物を入れようとしていたとは思っていませんでしたよ……。」

レミア「"悪魔の実"でしたっけ?そんなに危険なんですか?」

ハジメ「寧ろ怒った時のシアの機嫌直しが大変でしたよ……。

実を言えば、ちょっと怖かったんです……。」

ユエが料理の件でシアに説教された時の話、

 

レミア「えぇ~と、ユエさんの話が結構多いですね……。」

ハジメ「イナバに次ぐ古参メンツですからねぇ……。何故にこう、不器用なのか……。

まぁ、それ抜きでも可愛いからいいんです。」

レミア「あらあら、お熱いんですね。」

ハジメ「ミレディの説明は分かりやすかったのに……何ででしょうかね?」

ユエの魔法教室で、シア達のメンタル破壊の時の話、

尚、何故かそれで香織は魔法を習得した。喧嘩するほど息ピッタリじゃないか、君等。

 

レミア「ミュウったら……余程興味津々だったんですね。」

ハジメ「良かったら、見てみますか?ちょうど写真とかもあるんで、どうぞ。」

レミア「あらあら、ミュウったら、もう可愛いんだから♪」

女性陣の衣装交換の時の話、

 

レミア「サンタクロース、ですか……?」

ハジメ「まぁ、元居た世界の常識なので、あまり深く考えなくてもいいですよ?」

レミア「そうですか……ハジメさんが喜びそうなら私も……。」

ハジメ「取り敢えずデザインについては要相談でお願いします!」

何故かサンタコスをした女性陣の話、

因みに俺等はトナカイの服を着てみた。ミュウは可愛かった。

 

レミア「ハジメさん……?」

ハジメ「俺は基本肉弾戦でいっているんですけどね……。

何故かミュウが興味を持ってしまったみたいで……。すみません、止められませんでした……。」

レミア「……ハァ、仕方ありません。

取り敢えず、安全な使い方を心掛けるように言わないといけませんね、あなた?」

ハジメ「……ハイ。」

ミュウがスナイプに興味を持ってしまった時の話、

後でレミアさんと試射会をやってみたら、彼女はガトリングを気に入っていた。

やっぱり、銃火器好きは血筋じゃないだろうか……。

因みに、旦那さんは基本的に肉弾戦と槍術で戦っていたそうだ。どうなってんだ……?

 

とまぁ、これまでミュウと辿った旅の行き先々での出来事を、レミアさんに話していたわけなんだが……

何だろう、この別に険悪な状態ってわけでもないのに、寒気を感じるのは……。

そう思って横目にドアの方を見ると……。

 

ユエ・シア・ミレディ・ティオ・香織・トシ・イナバ・オスカー・ナイズ「「「「「「『『『ジィー……。』』』」」」」」」

……後で構ってやるから!あっち行ってなさい!ムードぶち壊しやろがい!

 

レミア「あらあら、皆さん起きていらっしゃいましたか。」

ハジメ「……ハァ、全く……いつから聞いていたんだ?」

ユエ「……ん、ハジメがレミアを抱きしめていた辺りから。」

うぉい、別に深い意味はないぞ?何でそう、疑わしい視線を向けるんじゃい!?

 

ハジメ「あのねぇ、全員で来たらミュウが心配になるでしょうが。というか、ミュウはどうしているんだ?」

トシ「パパがママといちゃついているって言ったら、"分かったの!"って言ってすぐ寝たぞ。」

ハジメ「言い方ァ!後何でミュウはそれを理解して寝ちゃうのさ!?」

ティオ「大方察しておったんじゃろ、ご主人様は行く先々で女性にモテるしのぅ。」

ハジメ「……好きでモテているわけじゃあない。俺にだって選ぶ権利はある。」

 

イナバ『にしても、シアの嬢ちゃんがそこまで怖かったとは……姉御と呼ばせてもらっても?』

シア「不本意すぎる経緯ですぅ!後ユエさんの料理はマネしちゃダメですよ、絶対!」

ユエ「……そっちの方が不本意。後ハジメ、ユエさんは不器用じゃない。皆が理解できていないだけ。」

香織「そうだよ!私もそこまで仲良しじゃないからね!?」

ハジメ「香織、それを世間ではツンデレというんだ。ユエも香織に対してはそうだし。」

ユエ・香織「「全然違う(からね)!?」」

 

ミレディ「ミレディさんはレミちゃんにSの片鱗を見た気がするんだけど……。」

ハジメ「そんなことはない……多分。」

オスカー『確信が持てていなさそうな返事だね。』

ナイズ『お前も女難のそうだったか……。』

ハジメ「失礼だけど、少なくともナイズさんには言われたくない!」

 

レミア「フフフッ。」

ハジメ「レミアさん?」

何とかユエ達を落ち着かせようとしていると、レミアさんがどこか嬉しそうに笑っていた。

 

レミア「ありがとうございます、ハジメさん。こんなにも笑ったのは、久しぶりかもしれません。」

ハジメ「これからですよ、まだまだ心の底から笑えることが待っています。

だから楽しみにしていて下さい、きっと驚きますよ。」

レミア「えぇ、勿論。楽しみにしています。」

取り敢えず、レミアさんのメンタルケアは何とかなったか……。よし、それじゃあもう寝るか……。

 

レミア「あの……一つだけ、我儘を言ってもいいでしょうか?」

ハジメ「うん?なんですか?」

レミア「その……敬語だと他人っぽく聞こえるので、普通にしていただけると嬉しいのですが……。」

……あぁ、まぁ初対面だったからつい……。

 

ハジメ「分かりました、えぇっと……これでいい、レミアさん?」

レミア「レミア。」

ハジメ「……これでいい、レミア?」

レミア「えぇ、あ・な・た♪」

何というか、吹っ切れたら吹っ切れたで大胆だなぁ……これが大人の魅力ってやつか……!

そんなレミアの一面に驚きつつも、俺はその手を優しく包み、家の中に戻っていった。

 

後ろのユエ達の視線が辛いが……また後で構うから勘弁してくれぃ。

部屋に戻ると、ミュウは既にぐっすりしていた。やれやれ、明日はミュウのために時間を割くか。

ハジメ「お休み、レミア。」

レミア「えぇ、お休みなさい。あなた。」

何というか、本当に夫婦になったみたいで思わずドキドキしてしまう俺であった。

 


 

それから2日後。

妙にレミアとの距離が近い俺のことが気に食わないのか、海人族の男連中が嫉妬で目を血走らせては、しょうもない悪戯を仕掛けようとすることも多々あった。

別に俺にだけ被害が及ぶならいいが、運悪くミュウが引っ掛かってしまいそうになったこともあったので、全員を並ばせては強制尻叩き100回を一人ずつ行って、その後お空にぶん投げた。尚、着地面は海面だ。

 

全く……いい年した大人が揃いも揃って横恋慕って……恥ずかしいとは思わないのかね?

大体、橋に細工をした時も、ミュウが落ちてけがしたらどう責任取ってくれんのじゃワレェ!?

水着に穴開けられても直せば問題ないしどうってことないが……

もしユエ達女性陣(特にレミアとミュウ)の水着に細胞一片でも触れてみろ……神罰執行す(レクイエム)るぞ?

後、食べ物を粗末にしちゃいけません!

せっかくの新鮮で美味しい魚を、態々嫌がらせのために腐らせてしまうこと自体、俺ァ怒ってんだゴルァ!

……はぁ、敗北者共のことはもういい。

どうせ懲りないだろうし、今度またやったら次の刑罰実験に付き合ってもらおうっと。

 

流石にミュウとレミアの故郷で金的は避けようと思ったのだが、意外にも尻叩きは精神的にくるものがあったらしく、暫くは静かだった。

ご近所達の奥様方が「馬鹿共にはいい薬になった。」って顔しているけど……一応あいつ等、あんた等の知り合いや身内なんですけどォ!?

 

まぁ、俺とレミアの仲を盛り上げてくれるのは嬉しい。ただ、まだ俺とレミアはそんなに進んでいない。

二人目って……気が早いっちゅーに。後レミア、お前もその気にならなくていいから!

そしてユエ、シア、ティオ、香織!お前等も対抗しなくていいから!ミュウが真似したらどないするねん!

トシ、ミレディ、笑っていないで少しは止めてくれよ!?イナバは……無理そうだな。

オスカーとナイズも戦力外……孤立無援か。

 

とまぁ、道中騒がしかったものの、準備を万全にした俺達は遂に【メルジーネ海底遺跡】の探索に乗り出すことにした。

因みに、俺は朝と夜の9時にはアンカジに向かい、そこからフューレンを行き来しては商人たちを運ぶという依頼もあったので、今回は色々大変だった。

 

家にお風呂や便利家具の設置、マッサージグッズに俺の知っている魚の調理方法等の実演・それをレミアを始めとした主婦の皆様にレクチャー、そして安値で販売したり、ミュウのお友達にせっかくなので自作玩具(安全仕様)を配布したり、ミュウにも特注品の玩具(何故か俺やユエ達のお人形、勿論ミュウとレミアのも作った。)をあげたりと、色々あったなぁ……。

 

まぁ、一番のことはメルドさんが襲撃されたことか。

商人達をフューレンとアンカジの行き来させた際に、序で代わりにオルクスの整備や王宮の様子を見に行ったりしていたのだ。

ただその日は、何か嫌な予感を感じて深夜を少し回った時間にオルクスに行った。すると……。

 

メルド「……。」

ボロボロの状態のメルドさんが倒れていた。しかも出血がひどい状態で。

ハジメ「ッ!メルドさん!」

俺は咄嗟に因果律操作とエナジーアイテムで回復を図る。

万が一死んでしまった場合でも、眼魂を使えば何とかなりそうだが……使わないことを祈ろう。

 

精神面は強そうな人だし、肉体さえ何とかできれば大丈夫かもしれない。

そう思い、夜明けまで治療を行った。そのおかげか……

メルド「グッ……ウゥ……。」

ハジメ「メルドさん!」

どうやら、何とか持ち直したようだ。

 

メルド「ハァ……ハァ……は、ハジメか……?」

ハジメ「はい、俺です。嫌な予感が当たったみたいなんですが……一体何があったんですか!?」

メルド「それがな……どうやら、してやられてしまったようだ。」

メルドさんの話を要約するとこうだった。

 

メルドさんは引き続き"虚ろ"の調査に当たっていたが、国王からはあまりいい返事は貰えなかったみたいだ。

なので、独自に仲間たちと調査をしていたある日、部屋に裏切り者が入ってきた。そう、あの檜山(雑魚)だ。奴は操られた騎士団の兵たちと共に、メルドさんを騙し討ちしようとした。

奴の発言から、どうやらこの件に恵理が関わっているようだ。

死んでも止まらないってことは既に死んでいるからなぁ。正直、信じたくはなかったが……。

 

ただ、これで確信に変わった。俺が落とされたもう一人の犯人、それがタイムジャッカーだということに。

そう考えると、恵理の死霊術が使われていることにも納得だ。

適当な奴にウォッチを渡し、アナザーライダーにすればいいだけなのだから。

正直、恵理の様子も見に行きたかったが、何か嫌な予感を感じてそれを避けていたのだ。

まさかそれがこんな形で功を成すとは……もし会っていたらどうなっていたことやら。

 

そして何とか窓に逃げたメルドさんだったが、そこにも敵はいた。そう、木偶人形共だ。

奴らの内の一体がメルドさんを警戒、襲撃時の逃亡封じとして送り込まれていたようだ。

が、そこでも俺の直観による策が功を成したようだ。

逃走用の魔法に使おうとした魔力を、咄嗟に俺が渡したアーティファクトに流したメルドさんは、間一髪逃げ延びることに成功したようだ。

 

そうして逃げ延び、オルクスの隠れ家についたことに安堵したのか、そのままぶっ倒れていたらしい。

もし来るのが少しでも遅れていたら、どうなっていたことやら。

まぁ、取り敢えず無事でよかったよ。さてと、メルドさんをどこに避難させようか。

 

アンカジは教会の手が伸びている可能性あり、そうなるとフューレンやホルアドもダメそうだな。

俺一人なら難なく対処可能だが……商人達との契約もある以上、持ち場を離れられないし。

後はブルックかウル、もしくはハウリアに任せるか……。取り敢えず、メルドさんにも聞くことにした。

 

ハジメ「とまぁ、この三つの拠点が隠れ家になりそうですが……どうしますか?」

メルド「亜人族にはいい印象は持って貰えないだろう……王国は教会の思想に染まっているからな。

事情があるとはいえ、彼等に迷惑はかけられない。かといって他の地域の者にもなぁ……。」

ハジメ「メルドさん、うちの部下はそんな軟じゃありませんよ。

寧ろ木偶人形程度なら、リンチでボコボコにするでしょうし。」

メルド「な、成程なぁ……それは心強いだろうなぁ……。」

 

そんなこんなで、メルドさんをハウリアに一旦預けることにした。

序なので、魔力操作修行に参加させた後、アンカジに行く際に引き取っていく趣旨を告げておいた。

本人は魔物肉の毒のショックでぶっ倒れていたが……流石に早かったか。まだ病み上がりだったし。

折角なので、ハウリアの武器も強化しておいた。重力魔法付きの靴に、空間魔法付きの罠とか。

 

まぁ、この事は皆にも相談したけどね。魔力操作修行と聞いて、何故かトシがビクッっとしたが……

そんなにキツかったかなぁ?後シア、親父さんたちの暴走についてはもう諦めようや。

だってあいつ等、いつの間にか二つ名まで名乗りだし……ああっ!?気を確かに!?

一応、アルフレリック達族長勢にも許可は貰った。猫男は終始ビクついていたが……どうでもいいか。

 

そして、出発の朝。少しとはいえ、暫しの別れに、ミュウが物凄く寂しそうな表情をしていた。

ミュウ「ぐすっ……パパ、ほんとに行っちゃうの?」

レミア「ミュウ……パパにはやらなきゃいけない事があるの。」

ハジメ「ミュウ、そんな顔しないでよ。必ず戻ってくるから、ね?」

優しく語り掛け、頭を撫でてあげると、ミュウは頷いて目を腕でこすり、笑顔で言ってくれた。

 

ミュウ「パパ、いってらっしゃいなの!」

グッ……やはりこの魅力は……遺伝ッ…!

レミア「いってらっしゃい、あ・な・た♡」

ハジメ「あぁ、行ってくるよ、レミア。」

レミア「!はい!」

 

レミアの言葉に敢えて乗って、頬を撫でながら返すと、頬が紅く染まった笑顔で返してくれた。

うん、これは遺伝だわ。二人が人気な理由がめっちゃ分かる。それにしても……

傍から見れば仕事に行く夫を見送る妻と娘そのままだな、これ。まぁ、本当のことだし別にいいか。

周囲の海人族から鋭い視線が飛んでくるが、サクッと無視する。

 

宝物庫から「ビリオンスターズ号」を取り出し、海面に浮かべて乗り込んだ。

騎士さん達に関しては、メルドさんを一旦呼び寄せて事情を説明してもらったから問題ない。

さぁ、"メルジーネ海底遺跡"へ向けて、出航だぁー!!!




ハジメ
「ここまで読んでいただき、ありがとうございます!さて、今回のゲストは……この方!」
クゼリー
「初めまして、騎士団特務部隊「(くれない)」団長、クゼリー・レイルです。」
ハジメ
「役職はまだ出来れば言って欲しくなかったんだけどね……まぁいいや。
今回はクゼリーさんに来てもらったよ。」
クゼリー
「お呼びに預かり光栄です。しかし、何故今回私は呼ばれたのでしょうか?」
ハジメ
「それがうp主曰く"アカン、イナバ使っちゃったで残りほぼイロモノや関係ない奴ばっかだ!どうしよ!?
……そうだ!折角だし、この前の奇行種の関連でクゼリーちゃん出しちゃえ!"らしい。」
クゼリー
「理由が理由で申し訳ございません!あいつがまた何かやらかしたと思うと……!」
ハジメ
「大丈夫、暴走する前に気絶させといたし、最悪秘密兵器で心ごとへし折ればいいさ♪」
クゼリー
「さ、左様で……ハッ!?そ、それでは次回予告でしゅ!」

次回予告
ハジメ
「次回は遂に"メルジーネ海底遺跡"に突入!海中戦も見どころだぞ!」
クゼリー
「(か、噛んでしまった……///)は、はいっ!確か深海にあるとのことですが……。」
ハジメ
「最近は海底トンネルのおかげで観光地扱いだからねぇ~。まぁ、当時を知らないのは分かるよ。」
クゼリー
「は、はぁ……。それにしても、潜水艇、ですか……。」
ハジメ
「今じゃ海底調査用に量産しているし、これはいわばプロトタイプみたいなもんだよ。」
クゼリー
「成程!当時から量産の目途があったということでしょうか!?」
ハジメ
「いや、全く。それよりもここにはね、幽霊が出るみたいだよ~。」
クゼリー
「幽霊ですか……聖騎士達との連携がカギですね。それでは、次回もお楽しみに!」


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58.深き海

ハジメ
「お待たせいたしました。本日のオープニングゲスト、Ready Fight!」
綾子
「いや、なんでいきなり戦闘!?」
ハジメ
「最近、変身音が乏しいこの頃、変身アイテム強盗にはご用心を。」
綾子
「何の宣伝!?というか、私の説明は!?」
ハジメ
「もういっそのこと、君から彼氏を押し倒しなよ。それじゃ前回のあらすじ。」
綾子
「押しっ!?ちょっ、ちょっとぉ!?」
ハジメ
「前回はレミアの過去について、そして海底遺跡への出発だ。」
綾子
「しかも早っ!?ハァ…まぁいいわ。それじゃあ、第5章11話」
ハジメ・綾子
「「それでは、どうぞ!」」


【海上の町エリセン】から西北西に約300km。

そこが、ミレディから聞いた七大迷宮の一つ【メルジーネ海底遺跡】の存在する場所だ。

ただ、詳しい場所は折角なので手探りで探すことにした。だってその方が冒険感あるし。

 

そんな訳で俺達は、取り敢えず方角と距離だけを頼りに大海原を進んできた。

昼間の内にポイントまで到着・海底を探索したが…やっぱり月の光がないとダメみたいだな。

周囲100kmの水深に比べるとポイント周辺の水深が幾分浅い様に感じたし、多分このあたりであっている筈だ。

 

なので探索を切り上げ、月が出る夜を待つ事にした。今は丁度日没の頃。

地平線の彼方に真っ赤に燃える太陽が半分だけ顔を覗かせ、今日最後の輝きで世界を照らしている。

空も海も赤と山吹に染まり、太陽が海に反射して水平線の彼方へと輝く一本道を作り出していた。

どこの世界でも、自然が作り出す光景は美しいな……。

停泊させた「ビリオンスターズ号」の甲板で、沈む太陽を何となしに見つめながらそんな事を思う。

 

香織「どうしたの?」

そんな俺の様子に気がついて声を掛けてきたのは香織だった。

先程まで艦内でシャワーを浴びていた筈で、その証拠に髪が湿っている。

その後ろには、ユエやシア、ティオにミレディもいる。

 

全員、俺が設置しておいた船内シャワーを浴びてきた様で、頬は上気し湿った髪が頬や首筋に張り付いていて、実に艶かしい姿だ。

備え付けのシャワールームは天井から直接温水が降ってくる仕様なので、最大10人までは入れるからね。

因みにトシは、船底につけておいた海中調査用の窓から、釣り糸を垂らして釣りをしているらしい。

イナバは素潜りに挑戦し、オスカーとナイズはパーカー体になって空を飛んでいる。

今晩は野菜もあるので、シーフードサラダでも出そうかな?なんて思った俺であった。

 

と、そんなことを思い出しつつ、香織の質問に答えた。

ハジメ「うん?ただ、どこの世界でも夕暮れは綺麗だねって思っただけだよ。」

香織「……そっか。うん、そうだね。」

ハジメ「なんか、故郷を思い出しちゃいそうで……ちょっと不安だけどね。」

香織「ふふっ、そうなんだ。確かに、まだ半年も経っていないのに、懐かしく思うよね。」

ハジメ「多分、こっちの世界でのことが濃密すぎるだけだと思う。」

隣に座った香織と共に、日本で過ごしてきた日々を懐かしむ。

 

そんな、俺等異世界人にしか通じない話題に寂しさを感じたのか、ユエは火照った体でトコトコと俺に歩み寄ると、その膝の上に腰を下ろし背中を俺の胸元に凭れかけさせ、真下から上目遣いで見つめ始めた。

その瞳は明らかに、自分も話に入れて欲しいと物語っている。

寂しさと同時に俺の故郷の事を聞きたいという気持ちがある様だ。

 

すると今度は、反対側にシアが寄り添いその目をキラキラさせる。明らかに構って欲しいという合図だ。

背中には、ティオが凭れかかった。体重のかけ具合から心底リラックスしている事が分かった。

ミレディも、いつの間にか降りてきたオスカーとナイズと一緒に、聞きたそうな目でこっちを見ている。

まぁ、少しくらいはゆっくりしていってもいいか。

 

広大な海の上、皆と小さく寄り添い合いながら、夜天に月が輝き出すまでの間、暇潰しに故郷のことを話し始めた。

途中で漁を終えたトシとイナバも入れて、故郷であったことを話し出した。

ユエ達は興味津々に相槌を打ち、香織がにこやかに補足を入れる。

そんな和やかな雰囲気を楽しんでいると、あっという間に時間は過ぎ去り、日は完全に水平線の向こう側へと消え、代わりに月が輝きを放ち始めた。

 

よし、そろそろ頃合かな?

そう思った俺は懐から【グリューエン大火山】攻略の証であるペンダントを取り出した。

サークル内に女性がランタンを掲げている姿がデザインされており、ランタンの部分だけが刳り抜かれていて穴開きになっている。

 

ハジメ「そう言えば、これってデザインはヴァンドゥル・シュネーかな?

それにこの女性のモチーフは多分だけどナイズの『それ以上はよしてもらおう。』お、おう……。」

少々気になったが……まぁ仕方がないか。さてと、それよりもペンダントだな。

既に場所の関係は検証済みだ。ペンダントを月に翳すと、丁度ランタンの部分から月が顔を覗かせている。

そうして暫くすると……。

 

シア「わぁ、ランタンに光が溜まっていきますぅ。綺麗ですねぇ。」

香織「ホント……不思議ね。穴が空いているのに……。」

ミレディ「ふっふーん!どう?ミレディさん達のロマンの遺物は?」

シアが感嘆の声を上げ、香織が同調する様に瞳を輝かせ、ミレディが嬉しそうに感想を求めてくる。

 

彼女達の言葉通り、ペンダントのランタンは少しずつ月の光を吸収する様に底の方から光を溜め始めていた。

それに伴って、穴開き部分が光で塞がっていく。ユエ達も興味深げに俺が翳すペンダントを見つめた。

 

ハジメ「いいねぇ、このRPG感。男の子にとっては代表的なロマンだね~。」

トシ「ほんとそれな。なんかイベントアイテムみたいな感じの演出だしな。」

オスカー『RPG?やイベント?が何かは分からないけど……楽しんでもらえて何よりだよ。』

ナイズ『そうだな……おっと、そろそろ溜まりきるぞ。』

 

ナイズの言った通り、ランタンに光を溜めきったペンダントは全体に光を帯びると、その直後ランタンから一直線に光を放ち、海面のとある場所を指し示した。

"月の光に導かれて"という何ともロマン溢れる道標に、ユエ達が「おぉ~。」と感嘆の声を上げた。

いいねぇ、なんかテンション上がってきちゃうなぁ!オラ、ワクワクしてきたぞ!

 

ただ、ペンダントのランタンが何時まで光を放出しているのか分からなかったので、俺達は早速「ビリオンスターズ号」の船内に戻り、導きに従って潜航を開始した。

夜の海は暗い、というよりも黒いと表現した方がしっくりくるだろうか。

海上は月明かりでまだ明るかったが、導きに従って潜行すればあっという間に闇の中だ。

「ビリオンスターズ号」のライトとペンダントの放つ光だけが闇を切り裂いている。

因みに、ペンダントの光は、「ビリオンスターズ号」のフロントガラスならぬフロント水晶(境界結石の透明ver)越しに海底の一点を示している。

 

その場所は、海底の岩壁地帯だった。無数の歪な岩壁が山脈の様に連なっている。

昼間にも探索した場所で、その時には何もなかったのだが……

「ビリオンスターズ号」が近寄りペンダントの光が海底の岩石の一点に当たると、ゴゴゴゴッ!と音を響かせて地震の様な震動が発生し始めた。

 

その音と震動は、岩壁が動き出した事が原因だ。

岩壁の一部が真っ二つに裂け、扉の様に左右に開き出したのである。

その奥には冥界に誘うかの様な暗い道が続いていた。

 

ハジメ「お~如何にもファンタジーだねぇ。こういうの俺大好きなんだよなぁ。」

トシ「俺も同じだよ。それにしても、まさかこんな海底にまであるなんて誰も分からないだろうなぁ。」

ユエ「ん……でも暇だったし、楽しかった。」

香織「そうだね。異世界で海底遊覧なんて、貴重な体験だと思うよ?」

 

早速「ビリオンスターズ号」を操作し、海底の割れ目へと侵入していく。

ペンダントのランタンはまだ半分程光を溜めた状態だが、既に光の放出を止めており暗い海底を照らすのは「ビリオンスターズ号」のライトだけだ。

ティオ「う~む、海底遺跡と聞いた時から思っておったのだが、この"せんすいてい"?がおらねば、「"ビリオンスターズ号"。」「そこはこだわらなくていいだろ。」……まず平凡な輩では迷宮に入る事も出来なさそうじゃな。」

 

ミレディ「そもそも、ハジメンみたいに態々乗り物で行ける人はいないと思うよ?」

オスカー『確かに。僕もこれと同じようなものは作ったことはあるけど……

まさか似たような思考を持つ者、それも同じ"錬成師"が現れるとは思っていなかったよ。』

ハジメ「え、ちょいまち!?オスカーも作ったんか!?こんな感じの潜水艇を!?」

オスカー『いや、どちらかと言えば、水陸両用かな?

まぁ、潜水兼航海専用のアーティファクトで、ここまでの物はできなかったけどね。』

ぐぬぬ……なんかそれはそれで悔しい。

 

ナイズ『まぁ、当時の移動型拠点を参考にしただけなのだがな。巨大戦艦型の。』

オスカー『ナイズ、シッ!確かにあれから着想は得たけど、言わなきゃかっこよく思われたのに!』

ハジメ「いや待て、その原型云々以前に巨大戦艦の方が気になるんだが!?」

そんなものまであったのかよ!?あんた等、魂は記憶がないだけのSF人なんじゃねぇのか!?

 

トシ「まぁ、基本は思いつかねぇよこんなもの。この世界の挑戦者だと、どう挑むんだろうな?」

ユエ「……強力な結界が使えないと駄目。」

ティオ「他にも空気と光、後は水流操作も最低限同時に使えんと駄目じゃろう。」

シア「でもここにくるのに【グリューエン大火山】攻略が必須ですから、大迷宮を攻略している時点で普通じゃないですよね。」

香織「もしかしたら、空間魔術を利用するのがセオリーなのかも!」

 

道なりに深く潜行しながら、潜水手段が無い場合の攻略方法について考察するユエ達。

確かにファンタジックな入口に感心はしたのだが、普通に考えれば超一流レベルの魔術士が幾人もいなければ侵入すら出来ないという時点で、他の大迷宮と同じく厄介な事この上ない。

でも今はそれよりも、異世界の巨大戦艦の方が気になる!だって男の子だもん!

 

オスカー『まぁ、試練では一定時間生き残れば、クリア報酬としてそのアーティファクトがゲットできるから、一旦落ち着こうか。』

ハジメ「ッシャア!行くぞぉぉぉ!!!」

ナイズ『……切り替えが早いな。』

だって男の子ですから!さぁ、行くぞ!ロマンが俺を、待っている!

気を引き締め直し、「ビリオンスターズ号」の目から送られる映像越しに見える海底の様子に更に注意を払った。

とその時、

 

ゴォウン!!

ハジメ「ッ!?」

トシ「うぉっ!?」

ユエ「んっ!」

シア「わわっ!」

香織「きゃっ!」

ティオ「何じゃっ!?」

ミレディ「あッ!?」

オスカー『これは…。』

ナイズ『あぁ、違いない。』

イナバ『はいぃ!?』

 

突如横殴りの衝撃が船体を襲い、「ビリオンスターズ号」の鳴き声と共に一気に一定方向へ流され始めた。

咄嗟に重力系技能で相殺し、船体を安定させる。

ハジメ「何かの海流かな?まぁ、取り敢えず進むか。」

フロント水晶から外の様子を観察し、流されるまま進む。

暫くそうしていると、船内レーダーの索敵範囲内に生物が引っ掛かったのか、接近を知らせるアラームが鳴り響いた。

 

ハジメ「ここにも魔物か……。」

ユエ「……殺る?」

俺がそう呟くと、隣の座席に座るユエが手に魔力に集めながら可愛い顔でギャングの様な事をさらりと口にする。

 

ハジメ「いや、折角だしこの船の力を見せつけてあげようじゃないか。」

そう言ってギミックをさっそく展開する。既に海中戦の実験は済んでいる。ゲームエリアでな!

ギガント(海中戦ver)は2門だけだが、GX-05〈ケルベロス〉にギガランチャー、ギガキャノン、ギガントブラスターといったトンデモ兵器に加え、ウォーターメロンガトリングにトレーラー砲、NSマグネットキャノンを搭載済みだ。

 

それに加えてアームにはカイゾクハッシャ―、フルボトルバスター、オーソライズバスターが使用されており、採掘・深海漁も可能だ。

更には船内の宝物庫には、特製荷電粒子砲"ダイダロス"やファイズブラスター(FFR(ファイナルフォームライド)版)、ガイアキャノンといった秘密兵器がギッシリ。

 

今のところ、負ける気がしないな!と、その前に、ゼクトマイザーならぬオーママイザーを使ってと。

こいつには、ペットボトル位の大きさの魚雷を発射する機能があってな。

この激流内は推進力と流れがある程度拮抗するから……

結果、機雷のようにばら撒かれる状態になるってことさ。

 

やがて、赤黒い魔力を纏って追いかけてくる魔物──

トビウオの様な姿をした無数の魚型の魔物達に、科学の暴力が襲い掛かる。

ドォゴォオオオオン!!!

盛大に爆発が発生し、大量の気泡がトビウオ擬きの群れを包み込む。

そして衝撃で体を引きちぎられバラバラにされたトビウオ擬きの残骸が、赤い血肉と共に泡の中から飛び出し、文字通り海の藻屑となって激流に流されていった。

 

ハジメ「どうよ?これでもまだ序の口だぜ?」

オスカー『武装に関しては気になるが……僕等の潜水艇、大丈夫だよね?』

ハジメ「………………。」

オスカー『ちょっと!?そこでなぜ黙るんだい!?』

…まぁ、少なくとも対決は下衆野郎抹殺した後にかな?

 

シア「うわぁ~、ハジメさん。今、窓の外を死んだ魚の様な目をした物が流れて行きましたよ。」

ティオ「シアよ、それは紛う事無き死んだ魚じゃ。」

香織「改めて思ったのだけど、ハジメくんのアーティファクトって反則だよね。」

トシ「そういえば、トビウオって食えるのか?」

ハジメ「上の方で取ろうや。魔物は魔石があるし、普通の新鮮な方が旨いぞ?」

イナバ『王様達の世界では、こっちで食べないものでも、何でも食ってたんですね……。』

 

それから度々トビウオ擬きを容易く蹴散らし先へ進み、どれ位たっただろうか。

変わり映えの無い景色に違和感を覚え始めた頃、周囲の壁がやたら破壊された場所に出くわした。

よく見れば、岩壁の隙間にトビウオ擬きの千切れた頭部が挟まっており、虚ろな目を海中に向けている。

 

ハジメ「あるぇ?ここ、さっき来た場所か?」

ユエ「……そうみたい。ぐるぐる回ってる?」

あちゃ~、どうやら、円環状の洞窟を一周してきたみたい。でも何か気になるんだよね……うん?あれかな?

手がかりらしきものを見つけた俺は、皆と相談して散策を開始した。その結果、

 

香織「あっ、ハジメくん。あそこにもあったよ!」

ハジメ「これで五ヶ所目、場所を結ぶと……五芒星だな。」

洞窟の数ヶ所に、50cm位の大きさのメルジーネの紋章が刻まれている場所を発見した。

メルジーネの紋章は五芒星の頂点の一つから中央に向かって線が伸びており、その中央に三日月の様な文様があるというものだ。

それが、円環状の洞窟の五ヶ所にあった。ということは……?

 

早速、首から下げたペンダントを取り出し、水晶越しに翳してみた。

すると案の定ペンダントが反応し、ランタンから光が一直線に伸びる。

そしてその光が紋章に当たると、紋章が一気に輝きだした。

香織「これ、魔術でこの場に来る人達は大変だね……直ぐに気が付けないと魔力が持たないよ。」

トシ「そもそもこの構造、俺等と同じ傷を持った『それ以上は止めてくれ。』おいおい……。」

 

香織の言う通り、この様なRPG風の仕掛けを術で何とか生命維持している者達にさせるのは相当酷だろう。【グリューエン大火山】とは別の意味で限界ギリギリを狙っているのかもしれない。

まぁ、俺も同じ考えが思い浮かびそうだし……トシ、とりまダメージ受けているオスカーを頼むわ。

その後更に三ヶ所の紋章にランタンの光を注ぎ、最後の紋章の場所にやって来た。

ランタンに溜まっていた光も、放出する毎に少なくなっていき、丁度後一回分位の量となっている。

 

ペンダントを翳し最後の紋章に光を注ぐと、遂に円環の洞窟から先に進む道が開かれた。

ゴゴゴゴッ!と轟音を響かせて、洞窟の壁が縦真っ二つに別れる。

特に何事もなく奥へ進むと、真下へと通じる水路があった。

「ビリオンスターズ号」を進ませていると突然、ハジメ達を浮遊感が襲い掛かった。

 

ハジメ「またかい!?」

トシ「うわっ!?」

ユエ「んっ」

シア「ひゃっ!?」

ティオ「ぬおっ」

香織「はうぅ!」

ミレディ「おっと!」

オスカー『僕等浮いてるから大丈夫だね。』

ナイズ『イナバはどうやっているんだ?その体勢。』

イナバ『こ、これが修行の成果でさぁ…!』

 

それぞれの悲鳴が上がる中、ミレディは重力魔法で相殺、イナバは何故か耳で柱につかまっている。

取り敢えず、俺も重力操作で持ち直して、と。

直後、ズゥゥゥゥン……と小さくも重い音を響かせながら「ビリオンスターズ号」が硬い地面に着陸する。僅かながら衝撃が船内に伝わるが、全員無事だ。

 

外を見ると、先程までと異なり外は海中ではなく空洞になっている様だった。

取り敢えず、周囲に魔物の気配がある訳でも無かったので外に出ると、大きな半球状の空間にいた。

頭上を見上げれば大きな穴があり、どういう原理なのか水面が揺蕩っている。

水滴一つ落ちる事無くユラユラと波打っており、どうやらそこから落ちてきた様だ。

 

ハジメ「空間魔法で海水の侵入を防いでいるのかなぁ?

ま、それはさておき……、どうやらここからが本番みたいだな。海底遺跡というより洞窟だけど。」

ユエ「……全部水中でなくて良かった。」

「ビリオンスターズ号」を宝物庫に戻しながら、洞窟の奥に見える通路に進もうとユエ達を促す……

寸前で手で制す。

 

ハジメ「ッ!"高熱化"、刃王爆炎紅蓮斬!」

咄嗟に刃王剣十聖刃を呼び出し、エナジーアイテム"高熱化"で火力をアップ・即座に頭上へ斬撃を放った。

刹那、頭上からレーザーの如き水流が流星宛らに襲いかかる。

圧縮された水のレーザーは、直撃すれば容易く人体を穿つだろう。

が、その水自体を蒸発させる程の熱を持った斬撃は、レーザーを真っ二つにし、霧散させる。

他の皆にもあたるといけないので、分身技能で全部真っ二つにした。

序に何かが感知系技能に引っかかったので、十中八九魔物の仕業だろうと思い、時を止めて天井に自然発火を使った。

 

すると、ボロボロと攻撃を放っていた原因が落ちてきた。

それは、一見するとフジツボの様な魔物だった。

天井全体にびっしりと張り付いており、どうやらその穴の空いた部分から水系中級魔術"破断"を放っていた様だ。

中々に生理的嫌悪感を抱く光景だと思う。

水中生物であるせいかやはり火系には弱い様で、自然発火や炎系の技で纏めて黒焦げにした。

 

フジツボ擬きの排除を終え、奥の通路へと歩みを進める。

通路は先程の部屋よりも低くなっており、足元には膝位まで海水で満たされていた。

ハジメ「よっと…ユエ、天井にぶつからない?」

ユエ「そ、それはないけど……これは流石に、ちょっと恥ずかしい……!」

ハジメ「そう?可愛いからいいと思うけど……。」

ユエ「むぅ……。」

 

窮屈なせいか、身長の低いユエは腰元まで浸かっており相当歩き辛そうだった。

なので、俺はユエを肩車することにした。ユエが羞恥で頬を染めているが……可愛いからこのままで!

チラリとシア達を見てみれば、そこにあるのは羨ましいというよりも、どちらかと言えば微笑ましいという感情に見える。

言ってくれれば後でやるけど……視線が生温かいせいか、ユエは益々恥ずかしそうに小さくなった。

中々レアな光景かもしれないね。

 

シア「うっふっふっ、ユエさん、なんだか可愛いですよ~?」

ティオ「最近のミュウのポジションじゃしなぁ。」

トシ「リリィが近くにいたら、姉妹に見えそうだな。」

ナイズ『ハジメ、お前もか……。』

オスカー『ナイズ、やめてあげよう。』

イナバ『ナイズはん……。』

おい、どういう意味だナイズ?場合によっちゃ、お前の嫁さんのことを聞くぞ?

 

ミレディ「あっれれぇ~?ユエ姉、照れてるぅ~?」

香織「もう、ミレディったら分かっているでしょ。顔が赤いんだから照れてる照れてるぅ~♪」

ユエ「……う、うるさぃっ。」

益々シア達の視線に頬を染めるユエはそのままにして、先を急ぐことにした。

だがそんな余裕ある和気藹々とした空気も、直後には魔物の襲撃により集中を余儀なくされる。

 

現れた魔物は、まるで手裏剣だった。高速回転しながら直線的に、或いは曲線を描いて高速で飛んでくる。ハジメ「魔王ビーム。」

変身状態なので、目からビームで纏めて沈める。

体を真っ黒に染めて、プカーっと水面に浮かんだのは海星らしき何かだった。

更に足元の水中を海蛇の様な魔物が高速で泳いでくるのを感知し、ユエが氷の槍で串刺しにする。

 

ハジメ「……なんか、他よりも弱くない?」

ミレディ「うん……ちょっとこれはおかしいかもね。」

大迷宮の敵というのは基本的に単体で強力、複数で厄介、単体で強力かつ厄介というのがセオリーだ。

だが海星にしても海蛇にしても、大火山から海に出た時に襲ってきた海の魔物と大して変わらないか、或いは弱い位である。

 

とても大迷宮の魔物とは思えなかった。

解放者組も疑問に感じているので、恐らくは外的要因が関係している。

ならば答えは一つ、この先にいる何かが迷宮に干渉しているということだ。

フリード辺りがあり得そうだが……アイツがここまでたどり着いた痕跡はなさそうだ。

となれば、野良の魔物か。でもそんな奴いたっけ?

 

ミレディ「……まさかとは思うけど、あれじゃないよね?」

オスカー『アレ?……あぁ、そういえばアイツも海の魔物だったか……。』

ナイズ『アイツか……まぁ、ハジメ達なら何とかなるやもしれん……と思いたい。』

オイオイ、オスカーとナイズは兎も角、ミレディまでそんなことを言わせる奴っていったい何なんだ!?

その答えは非常にも、通路の先にある大きな空間で示されることを、今の俺達には知る由もなかった。




ハジメ
「ここまで読んでいただき、ありがとうございました!さて、今回のゲストはっと!」
モットー
「どうも。ユンケル商会会頭、モットー・ユンケルでございます。」
ハジメ
「いや~、まさかこんなに早く来るとはねぇ……うp主、キャラ集めに苦労してんなぁ。」
モットー
「?何やらわかりませんが、何か問題でも?」
ハジメ
「いや、こっちの話。それより、最近の売り上げは?追加してほしい商品案とかある?」
モットー
「あぁ、はい。こちらの商品についてご相談していただきたく……。」
ハジメ
「ほぅ?……あ~、これか。よし、取り敢えずさっさと次回予告だけ済ましておくか。」
モットー
「分かりました。迅速な情報は信頼にも値しますからね。」

次回予告
ハジメ
「次回、怪物の襲来。
大迷宮のコンセプトが、猛威を振るう!」
モットー
「例の"アレ"ですか……小耳に挟んだ程度ではありますが、中々に壮絶な戦いだったと聞いております。」
ハジメ
「まぁ、当時は壮絶っちゃ壮絶だったな。製作者が意地悪だったのもあったし。」
モットー
「それはまぁ……何と言いますでしょうか……。」
ハジメ
「さっ、予告終わり!それでこの、"ウォシュレット"についてだったね。」
モットー
「え、えぇ。そちらの商品が女性陣に人気でして……。」
ハジメ
「そうだね~、まずは魔石コストについて相談しようか。ゆくゆくは公衆トイレにも設置したいし。」
モットー
「えぇ、是非とも!それでは、次回もお楽しみに。」


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59."悪食"

ハジメ
「お待たせいたしました。今回のオープニングゲスト、ピッコロリン。」
真央
「ここ最近、私の天職のイメージが薄れている件について。」
ハジメ
「いや、付与術師も錬成師より幅が利くところもあるよ?
それに、生成魔法の適正ない人だっているし……。」
真央
「あぁ~、確かに。じゃあ職場紹介して。」
ハジメ
「ハングリーだな、おい。取り敢えず今回のバイトやっちゃおうや。」
真央
「りょーかいっと。前回は海底遺跡へ入ったんだよね?」
ハジメ
「そこで魔王探検隊が見たものとは!?」
真央
「答えはCMの後で!それじゃあ、第5章第12話」
ハジメ・真央
「「それでは、どうぞ!」」


ハジメ「あれは……何だろ?」

俺達がその空間に入った途端、半透明でゼリー状の何かが通路へ続く入口を一瞬で塞いだ。

シア「私がやります!」

ハジメ「いや、ちょっと待って。」

咄嗟にその壁を壊そうとしたシアを制し、グレネードを数発放つ。すると……

 

ジュゥゥゥ……

何と、グレネードは不発になった上にどんどん溶かされていったのだ。

シア「えッ!?なんですかこれ!?」

ハジメ「気をつけろ!強力な分解作用があるみたいだぞ、コイツ!」

 

警戒してゼリーの壁から離れた直後、今度は頭上から無数の触手が襲いかかった。

先端が槍の様に鋭く尖っているが、見た目は出入り口を塞いだゼリーと同じようだ。

ってことは溶解作用付きか!面倒この上ないなオイ!

 

正面の触手を自然発火と炎、両側から迫る触手を雷と氷で迎撃する。

更にユエとミレディが氷を、ティオが炎を繰り出して触手を排除しにかかった。

すると、触手側に何かしらアクションがあると思ったが、ただ凍って焼かれてとやられるままだった。

……おかしい、ミレディ達があんなに焦るならこの程度じゃない筈だ。

きっと、まだ何かがあるに違いない。

 

ユエ「む?……ハジメ、このゼリー、魔法も溶かすみたい。」

ユエのその言葉に視線を向けてみれば、ユエ達の放った魔法が悉く直撃と同時に分解される様に消えていくのが分かった。

ティオ「ふむ、やはりか。先程から妙に炎が勢いを失うと思っておったのじゃ。

どうやら、炎に込められた魔力すらも溶かしているらしいの。」

ティオの言葉が正しければ、このゼリーは魔力そのものを溶かす事も出来るらしい。

中々に強力で厄介な能力だ。正に大迷宮の魔物に相応しい。

そんな感想を抱いていると、遂にその主が姿を現した。

 

天井の僅かな亀裂から染み出す様に現れたそれは、空中に留まり形を形成していく。

半透明で大雑把な人型、但し手足は鰭の様で全身に極小の赤いキラキラした斑点を持ち、頭部には触覚の様な物が2本生えている。

まるで宙を泳ぐ様に、鰭の手足をゆらりゆらりと動かすその姿はクリオネの様だ。

尤も、全長10mのクリオネはただの化け物だが。

 

ミレディ「やっぱりィ!悪食だぁ!」

ハジメ「やっぱ知っていたのか。それで、対処法は「ない!」……え゛?」

ミレディ「アイツ、魔法だろうと何だろうと溶かすんだよ!?それに強い魔力に惹かれる習性があるし!

今のハジメン達、絶好の餌だよ!?」

……/(^o^)\ナンテコッタイ。

 

ハジメ「オスカー、ナイズ。」

オスカー『僕等も酷い目に遭ったからね……。』

ナイズ『逃げるしかあるまいな……。』

ハジメ「……チクショウめ。」

嘘だと言ってくれという俺の言葉は、即座にかき消された。しかも目が死んでるから説得力が凄い。

他の皆も「噓でしょ……?」って顔しているし……

なんて思っていると、当の悪食が何の予備動作も無く全身から触手を飛び出させ、同時に頭部からシャワーの様にゼリーの飛沫を飛び散らせた。

 

ハジメ「ユエ!香織!合わせるぞ!」〈刃王必殺リード!既読十聖剣!刃王必殺読破!刃王クロス星烈斬!〉

ユエ「んっ!香織!」

香織「うんっ!」

「「"聖絶"!」」

 

香織とユエが"聖絶"を発動、俺も刃王剣十聖刃で結界を創り出す。

三重の巨大バリアにより、流石の溶解作用もこちらには届いていない。

ティオは火炎を繰り出し、シアもドリュッケンを砲撃モードに切り替え、焼夷弾を撃ち放つ。

折角なのである作戦を試す。片手間にある鉱石を加工してっと!

 

ハジメ「トシ!これを撃ってくれ!」

トシ「分かった!」

早速できたそれをトシに渡し、ブラックシューターで悪食に撃ってもらう。

当然、奴はそれを取り込むが……

 

ドカァン!

炎に着弾し、普通の炎よりも多めに爆散した。

ハジメ「ビンゴ!やっぱり分解作用にも限界はあるみたいだな!」

トシ「タールでも凝縮したのかって位の威力になったなオイ。」

折角なので圧裂弾でも追加しようかなと思ったその時であった。

 

なんと四散した筈の悪食が1/10サイズではあるが瞬く間に再生した。

しかも、よく見ればその腹の中に先程まで散発的に倒していた海星擬きや海蛇がいて、ジュワー……と音を立てながら溶かされていた。

野郎、舐めやがって……。

 

ハジメ「メイルってドSだって聞いたけど、ここまで苛烈なの!?」

ミレディ「うぅ~、メル姉のドS!がさつ!そんなんだから生涯独身だったんだよぉ!」

オスカー『ちょっ!?ミレディ、それを言ったら大変なことになるぞ!?

もしかしたらあの物体Xが飛んでくるかもしれないんだぞ!?』

ナイズ『オスカー、お前も人のことは言えんぞ。

というか、謎の物体の毒味をさせられたことが余程のトラウマなのか?』

あんた等余裕だなオイ!?てか、メイルって料理という名の劇物(ダークマター)生成者だったんかい!?

 

オスカー『因みに、彼女は吸血鬼の血も交じっている。』

ハジメ「その情報は今聞きたくなかった!てか、何故今言ったァ!?」

ユエがなぜ料理で不器用を発揮したのか、その理由があまりにも悲惨すぎるので何とか忘れようとした。

が、本人には聞こえていたようで……。

 

ユエ「フフフ……私はユエ、料理において兵器を鋳造する者ッ!」

香織「ユエ!?大丈夫!?目が死んでいるんだけど!?」

ホラこうなるじゃん!何なんだこのカオス!

ティオ「ふむ、どうやら弱いと思っておった魔物は本当に唯の魔物で、此奴の食料だった様じゃな……

ご主人様よ、無限に再生されては敵わん。魔石はどこじゃ?」

ハジメ「冷静だなオイ!てか、コイツに魔石があったら、とっくの昔にオスカー達は攻略しているよ!」

 

こんな状況の最中、冷静に推測するティオにツッコミつつも、魔石がないことは確認済みだということを告げる。

そんな中、今度は触手とゼリーの豪雨だけでなく、足元の海水を伝って魚雷の様に体の一部を飛ばしてきてもいる。

 

ハジメ「いやらしいことこの上ないなオイ!」

そう悪態をつきながらも、咄嗟に時間停止で奴の動きを止める。

ハジメ「そんなに腹が減ったなら、これでも食っていやがれ!」

そう言って作戦を開始する。

 

まず、悪食本体や触手・飛沫には火炎系攻撃、周囲の"壁"には威力重視の熱・炎系以外の攻撃を、それぞれ仕掛けた。

しかも野郎、擬態能力まであるのか、何の変哲もないと思っていた壁にもいやがった。

まぁ、止まった時の中じゃ溶解作用も働かないから無駄だけどな。

壁そのものが悪食じゃないだけでも良しとするか。が、どうやら本体はまだまだ大きくなるようだ。

その証拠に、燃やしても燃やしても壁の隙間や割れ目から際限なく出現し、遂には足元からも湧き出した。

 

靴底がジューッと焼ける様な音を立てる。

悪食も愈々本気になってきたのか壁全体から凄まじい勢いで湧き出してきた。

しかもいつの間にか水位まで上がってきており、最初は膝辺りまでだったのが、今や腰辺りまで増水してきている。

ユエに至っては、既に胸元付近まで水に浸かっていた。チィッ、こうなったら!

 

ハジメ「オスカー!正規ルートは一旦諦める!まずは下の空洞へ逃げ込むけどいいよね!?」

オスカー『それしかないだろう!寧ろこの状況じゃ皆きついからね!』

ハジメ「皆聞いたな!?そんな訳で、下へ避難するぞぉ!」

即断即決、早速下への入り口を作る準備をする。

 

ユエ「んっ!」

シア「はいですぅ!」

ティオ「承知じゃ!」

香織「わかったよ!」

トシ「了解した!」

イナバ『ヘイッ!』

ミレディ「うぅ~、仕方がないけど潜水艇はまた今度!」

全員の返事を受け取り、襲い来るゼリーを焼き払いながら、ドリルで渦巻く亀裂に風穴を開ける。

 

次の瞬間、貫通した縦穴へ途轍もない勢いで水が流れ込んでいった。

腰元まで上がってきていた海水がいきなり勢いよく流れ始めたので、シャウタのタコ足吸盤で皆をキャッチする。

オスカーとナイズは宝物庫に避難済みだ。

 

ハジメ「あばよ悪食ィ!俺のプレゼント、せいぜいしっかり喰らっておけい!」

そういうと俺は秘蔵兵器"圧裂弾"をぶっ放す。

時間経過とともに、体内にばらまかれたタールがヤツを黒く染める。後はもう、わかるよな!?

 

ズガガガガガァァァン!!!!!

ハジメ「ひゅ~いい音鳴ったなぁおい!」

トシ「言ってるセリフはマッドサイエンティストのそれだけどな。」

トシの冷静なツッコミをよそに、背後でくぐもった爆音が響き、悪食の追撃が無くなった事を確認すると、下の様子を確認する。

 

落ちた場所は巨大な球体状の空間で何十箇所にも穴が空いており、その全てから凄まじい勢いで海水が噴き出し、或いは流れ込んでいて、まるで嵐の様な滅茶苦茶な潮流となっている場所だった。

その激流を時間停止でやり過ごし、皆を一か所にまとめる。

序に、流されて離れないようルナメモリの能力で左腕を伸ばし、皆を抱えた。

流されている間、右手で岩壁やら流れる障害物やらをやり過ごし、流が弱まったところで上方に光が見えたので、一気に浮上した。

 

そこには真っ白な砂浜が映っていた。

周囲にはそれ以外何もなく、ずっと遠くに木々が鬱蒼と茂った雑木林の様な場所が見えていて、頭上一面には水面が揺蕩っていた。

広い空間だなぁ……。

 

ハジメ「皆~生きてる?」

ユエ「ん………なんとか。」

シア「し……死ぬかと思いました……。」

ティオ「……一瞬、父上が慌てて手を振る光景が見えた気がしたのじゃ……。」

香織「それ確実に三途の川渡りかけてるよね!?大丈夫!?」

トシ「あ、危うく迷宮の養分になるところだった……。」

ミレディ「うぅ~、メル姉の馬鹿ぁ……。」

イナバ『じ、自分はもう、限界でふ……。』

……若干一名、溺れかけたせいで真ん丸になってしまっているが……まぁ、大丈夫だろう。

 

少し休憩して。

真っ白な砂浜をシャクシャクと踏み鳴らしながら暫く進み、俺達は密林に入る。

鬱蒼と茂った木々や草を、バッサバッサと切り裂いて進む。

途中、手の平にすっぽり収まる程度の大きさで、合計12本の足をわしゃわしゃと動かし紫の液体を滴らせている蜘蛛に遭遇した。

足は通常のものと背中から生えているものがあって、「両面どちらでもいけます!」と言いたげな構造で激しく気持ち悪かった。

まぁ、直ぐに消し炭になったので問題はないが。

 

そんな密林地帯を抜けると、その先は……

ハジメ「こいつぁ……船の墓場か?」

ユエ「……すごい。」

シア「いっぱいありますね……。」

ティオ「うぅむ、今では見られぬ大きさじゃのう……。」

香織「なんか……こういった光景をどこかで見たような……?」

トシ「白崎さん、その光景は多分船が沈んだやつだ。」

イナバ『帆船ってやつぁ、こんなデカいんすか…?』

ミレディ・オスカー・ナイズ「『『……。』』」

 

密林を抜けた先は岩石地帯となっており、そこには夥しい数の帆船が半ば朽ちた状態で横たわっていた。

そのどれもが、最低でも100mはありそうな帆船ばかりで、遠目に見える一際大きな船は300m位ありそうだ。

思わず足を止めてその一種異様な光景に見入ってしまった。ただ、オスカー達はどこか複雑げだ。

十中八九アレの仕業だな。よし、迷宮攻略したら、景気づけに一発ぶち込むか。

そんなことを考える俺であった。

 

しかしいつまでも見入っている訳にも行かない。気を取り直し、船の墓場へと足を踏み入れた。

岩場の隙間を通り抜け、或いは乗り越えて、時折船の上も歩いて先へと進む。

どの船も朽ちてはいるが触っただけで崩壊する程では無く、一体何時からあるのか判断が難しかった。

ハジメ「それにしても……戦艦ばかりだな。重巡や軽巡も無いって……製作費ケチったんか?」

トシ「お前は何を言っとるんだ。大体、ここには深海生物も宇宙からの敵もいないだろ。」

香織「あ、アハハ……でも、あの一番大きな船だけは客船っぽいよね。装飾とか見ても豪華だし……。」

 

墓場にある船には、どれも地球の戦艦(15,6世紀、所謂大航海時代のそれ)の様に横腹に砲門が付いている訳では無かった。

しかし、それでも戦艦と断定したのは、どの船も激しい戦闘跡が残っていたからだ。

見た目から言って、魔法による攻撃を受けたものだろう。

スッパリ切断されたマストや焼け焦げた甲板、石化したロープや網等が残っていた。

大砲という物が無いのなら、遠隔の敵を倒すには魔法しかなく、それらの跡から昔の戦闘方法が想像出来た。

 

そしてその推測は、俺達が船の墓場の丁度中腹に来たあたりで事実であると証明された。

──うぉおおおおおおおおおおおおおおお!!!!

──ワァアアアアアアアアアアアアアアア!!!!

ハジメ「うるさいな。」

トシ「言っとる場合か!?」

香織「ハジメくん!周りがっ!」

 

突然大勢の人間の雄叫びが聞こえたかと思うと、周囲の風景がぐにゃりと歪み始めた。

俺達が何事かと周囲を見渡すが、そうしている間にも風景の歪みは一層激しくなり──

気が付けば、大海原の上に浮かぶ船の甲板に立っていた。

そして周囲に視線を巡らせば、そこには船の墓場などなく、何百隻という帆船が二組に分かれて相対し、その上で武器を手に雄叫びを上げる人々の姿があった。

 

ハジメ「はぁ……そういうことかよ。」

俺はあることを察した。道理でミレディ達の顔が浮かないわけだ。

そうこうしている内に大きな火花が上空に上がり、花火の様に大きな音と共に弾けると何百隻という船が一斉に進み出した。ハジメ達が乗る船と相対している側の船団も花火を打ち上げると一斉に進み出す。

そして一定の距離まで近づくと、そのまま体当たりでもする勢いで突貫しながら、両者とも魔法を撃ち合いだした。

 

ハジメ「アブねっ!?」

轟音と共に火炎弾が飛び交い船体に穴を穿ち、巨大な竜巻がマストを狙って突き進み、海面が凍りついて航行を止め、着弾した灰色の球が即座に帆を石化させていく。

俺達の乗る船の甲板にも炎弾が着弾し、盛大に燃え上がり始めた。

船員が直ちに魔法を使って海水を汲み上げ消火にかかる。

 

戦場──文字通り、この夥しい船団と人々は戦争をしている。

放たれる魔法に込められた殺意の風が、ぬるりと肌を撫でていく。

まぁ、俺等にとっては見慣れた光景だけどね。

その様子を呆然と見ていると、背後から再び炎弾が飛来した。放っておけば直撃コースだ。

 

最初はそのまま打ち返そうと思ったが、何か嫌な予感を感じ、咄嗟によけた。

同時に、後ろ手に通り過ぎた魔法に銃弾を放つが……そのまま通り過ぎた。

ハジメ「嫌な予感の正体はこれか……ってことは。」

次に飛んでくる魔法に、魔力を込めた鉄拳で応戦する。すると今度は、あっさりと弾け飛んだ。

 

ハジメ「成程、魔力が籠っていれば大丈夫ってわけか。」

そんな考察をしていると、すぐ後ろで「ぐぁああっ!」と苦悶の声が上がった。

何事かと振り返ると、年若い男がカットラスを片手に腹部を抑えて蹲っていた。

見れば足元に血溜りが出来ており、傍らには血濡れの氷柱が転がっている。恐らく被弾したのだろう。

 

香織が「大丈夫ですか?」と声を掛けながら近寄り、回復魔法を行使した。

彼女の放つ白菫の光が青年を包み込む。香織の"治癒師"としての腕なら瞬く間に治る……

こともなく、淡い光となって霧散してしまった。

香織「え?どうして?」

ユエ「……バカオリ。魔力が籠っているから、回復も攻撃判定に入る。」

ユエの説明が入ると、香織も「あッ!」と気づき、そのまま回復を続けた。

 

他の皆もサクサク魔力攻撃で倒して言ってるので、大丈夫かな?と思ったその時。

不穏な気配を感じて周囲を見渡せば、いつの間にかかなりの数の男達が暗く澱んだ目で俺達の方を見ていた。

その直後、俺達に向かって一斉に襲いかかってきた。

 

「全ては神の御為にぃ!」

「エヒト様ぁ!万歳ぃ!」

「異教徒めぇ!我が神の為に死ねぇ!」

うわぁ……狂気マシマシに充血オメメ、唾液を撒き散らしながら絶叫を上げる口元。

どっちがバケモンかわからねぇなオイ。

 

圧倒的な狂気に気圧される……訳でもなく全員鬱陶しそうに攻撃を続けていた。

オスカーとナイズまで攻撃に加わっているし……あいつ等、ここでは攻撃できるんかい。

そして人間ですらないイナバに至っては、霧散する前に喰らいつくしている。完全にホラーだなオイ!?

ただ、このままだと取り囲まれそうなので、重力操作で全員を浮かび上がらせる。

 

下方で、狂気に彩られた兵士達が血走った眼でこちらを見上げている。

今の今まで敵国同士で殺意を向け合っていたというのに、どういう訳か一部の人間達が俺達を標的にしている様だった。

しかも、こっちを狙う場合に限って敵味方の区別なく襲ってくる。

その数も、まるで質の悪い病原菌に感染でもしているかの様に次々と増加していく。

 

一瞬前まで目の前の敵と相対していたというのに、突然動きを止めるとグリンッ!と首を捻ってこっちを凝視し、直後に群がって来る光景は軽くホラーだ。

現にホラーが大の苦手な香織は、俺にヒシッとしがみついたままだ。手も少し震えている。

落ち着かせようと手を握ると、一瞬ビクッとなってから顔を上げ、俺を見て安心したような顔になる。

 

ハジメ「そういえば香織、この手のお化け屋敷とか苦手だったよね。よく俺や雫の手を握っていたし。」

香織「そ、それは今別にいいよね!?よね!?」

ハジメ「そう?でもあの時の香織も可愛くて俺は好きだよ?」

香織「そ、そんなこと言って誤魔化さないの!もう、ハジメ君ったら!」

怒っても可愛い香織を少し弄って和むと、周囲を見回し出口を探る。

 

ハジメ「船は見た感じ、大体600隻かな?一つ一つ探すのは面倒だし、戦争ごと終わらせるか。」

トシ「本音は?」

ハジメ「すっげぇ暴れてぇ!」

トシ「だと思った。」

そんなコントを繰り広げつつ、俺は戦場を見下ろしつつ、オーマジオウのとある能力を発動する事にした。

 

下ではそこかしこで相手の船に乗り込み敵味方混じり合って殺し合いが行われていた。

甲板の上には誰の物とも知れない臓物や欠損した手足、或いは頭部が撒き散らされ、かなりスプラッタな状態になっていた。

誰も彼も、「神の為」「異教徒」「神罰」を連呼し、眼に狂気を宿して殺意を撒き散らしていた。

正直気持ち悪かったので、ササッとお掃除(殲滅)するか。

 

そう思って発動した能力は、"絶対境界波動「セパレートサージ」"。

半径4km圏内の物を任意で異次元に送る、オーマジオウが最強と呼ばれる由縁の一つだ。

ユエ達以外の兵士達を、異次元へと葬り去る。それでも4kmより外にいる敵は無傷なので、もう一つ能力を解放した。

 

"視覚装置「エクスプレッシブフレイムアイ」"。

この目は視野角270°のセンサーが付いている上に、常に1000~1200℃で赤熱しているので、出力次第では目からビームを出せるのだ。、

なので遠慮なく熱線を放ち、周囲の船諸共爆発四散させた。

 

ハジメ「そして、誰もいなくなった……。」

トシ「お前が消し飛ばしたんやろがい。」

あっさりと片付いたので少し拍子抜けしてしまった。

すると再び周囲の景色がぐにゃりと歪み、気が付けば元の場所に戻っていた。

 

ちょっと精神的疲労に来そうな光景だったので、少し休憩することに。

"宝物庫"から取り出したリンゴジュースの様な飲み物を全員で飲みながら、談笑することで心身の疲れを癒していった。

それにしても、あれが昔ミレディ達が死闘を繰り広げた奴等かぁ……俺もまだまだだな。

 

ハジメ「"クズ野郎の所業を知れ"か……。」

香織「?」

そんなことを呟きながら、先程までの光景――狂信者共の言動を思い出し……

気持ち悪いと思ったので即座に辞めた。

 

だってアレ異常の塊だぞ!?

狂気の宿った瞳で体中から血を噴き出しながらも哄笑し続ける奴、

死期を悟ったからか自らの心臓を抉り出し神に捧げようと天に掲げる馬鹿、

俺達を殺す為に弟ごと刺し貫こうとしたクソ兄と、それを誇らしげに笑うゲス弟。

戦争っていうのはいつもこんな感じだとはわかっているけど……ここまではねぇだろ、普通。

 

そんなことを思いつつ、気を取り直す。

そして全員のコンディションが万全なことを確認し、一番遠くに鎮座する最大級の帆船へと歩みを進めた。

俺達が見上げる帆船は、地球でもそうそうお目にかかれない規模の本当に巨大な船だった。

 

全長300m以上、地上に見える部分だけでも10階建て構造。

そこかしこに荘厳な装飾が施してあり、朽ちて尚見る者に感動を与える程の豪華客船。

"木造の船でよくもまぁ、これ程の船を仕上げたものだ"と、半分感心しつつも、"見た目だけのハリボテで、暗殺現場には如何にもって位、あってそうな場所だな。"と半分呆れていた。

 

俺達は一旦飛び上がり、豪華客船の最上部にあるテラスへと降り立った。

すると案の定、周囲の空間が歪み始める。

ハジメ「またかよ……まぁ、碌な光景じゃないってことは分かっているんだ。皆、気をしっかりね。」

俺の警告に皆が頷くと同時に、周囲の景色がまた変化していった。




ハジメ
「ここまで読んでいただき、ありがとうございます!それじゃ、今回のゲストを呼びまして。」
サミーア
「どうも。サミーア・ユンケルと申します。」
ハジメ
「さて、今回はどの商品について話したいのかな?」
サミーア
「えぇ、今回は"たぴおかみるくてぃー"なるものについてご相談が。」
ハジメ
「まさかこっちでも女性人気が出るとはねぇ……恐るるべきはインスタ映え、というやつだね。」
サミーア
「?よく分かりませんが、問題がおありでしたか?」
ハジメ
「いや、こっちの話。まずは次回予告済ませちゃおうか。」
サミーア
「かしこまりました。」

次回予告
ハジメ
「次回は前半がちょっときついかも。まぁ、次の次もヤバかったけどね。」
サミーア
「例の"怪物"でございましたか……
今のロード「その呼びはまだやめて。」ハジメ殿であれば勝算は幾らおありでしょうか?」
ハジメ
「う~ん、またやるとすれば10割かな。そんなことより新作スイーツについてだったよね。」
サミーア
「ハッ、試食・試飲は我々にお任せを!」
ハジメ
「切り替え早ッ!まぁ、タピオカは喉に詰まらせないよう、注意書きが必要だけどね。」
サミーア
「そうですね。そう言えば、菫先生の新作はいつ頃こちらに?」
ハジメ
「母さん、最近時間の許す限り書いているからねぇ……。多分、あと数日で来ると思うよ。」
サミーア
「ありがとうございます!それでは皆様、また次回。」

リースティアさん、誤字報告ありがとうございました!


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60.悪夢と亡霊とドS女帝

ハジメ
「お待たせいたしました。今回のオープニングゲスト、タイキック。」
信治
「いきなりすぎるだろ!?てか何で!?」
ハジメ
「安心しろ、ただのゲストコールだ。実際にやったりはしないさ。」
信治
「いや、でも今回のタイトル……。」
ハジメ
「前回は悪食との初遭遇だったなぁ……。樹海の奴等よりはましだったけど。」
信治
「えッ!?樹海にアレよりヤバいのいたのかよ!?」
ハジメ
「まぁ、それはまた今度ってことで。さて、今回は船の中からお送りするよ。」
信治
「絶賛彼女募集中!可愛いお姉さん連絡お願いします!」
ハジメ
「ダイレクトマーケティングやめい。ほら、第5章第13話、早くいくよ!」
ハジメ・信治
「「それでは、どうぞ!」」


今度は海上に浮かぶ豪華客船の上にいた。時刻は夜で、満月が夜天に輝いている。

豪華客船は光に溢れキラキラと輝き、甲板には様々な飾り付けと立食式の料理が所狭しと並んでいて、多くの人々が豪華な料理を片手に楽しげに談笑をしていた。

 

ハジメ「……どう見ても惨劇前の現場にしか見えねぇ。」

トシ「言いたいことは分かる。」

香織「そ、そうかなぁ?」

予想した様な凄惨な光景とは少々違うものの、どう考えてもこの後惨劇が起こることは間違いないだろう。

その煌びやかな光景を、俺達は船員用の一際高い場所にあるテラスらしき場所から、巨大な甲板を見下ろす形で眺めていた。

 

すると俺達の背後の扉が開いて船員が数名現れ、少し離れた所で一服しながら談笑を始めた。

休憩にでも来たのだろう。

その彼等の話に聞き耳を立ててみたところ、どうやらこの海上パーティは終戦を祝う為のものらしい。

長年続いていた戦争が、敵国の殲滅や侵略という形ではなく、和平条約を結ぶという形で終わらせる事が出来たのだという。

船員達も嬉しそうだ。

よく見れば、甲板にいるのは人間族だけでなく、魔人族や亜人族も多くいる。

その誰もが、種族の区別なく談笑をしていた。

 

シア「こんな時代があったんですね。」

ティオ「うむ、終戦の為に奔走した者達の、血と努力の結晶というやつじゃろう。

終戦からどの程度経っているか分からぬが……。」

香織「きっと、あそこに居るのは、その頑張った人達なんじゃないかな?

皆が皆、直ぐに笑い合えるわけじゃないだろうし……。」

 

ハジメ「……だといいけどね……ここで本当に戦争が終わっていたなら、の話だけど……。」

ユエ「……ん、油断は禁物。」

イナバ『な~んか、鼻に臭うんすよねぇ……。』

トシ「ゲロ以下の臭いとかか?」

 

シア・ティオ・香織が、楽しげで晴れやかな人々の表情を見て、自然と頬を緩ませる中、俺・ユエ・イナバ・トシは警戒を続けた。

だって、ミレディ達ずっと黙ったままで、辛そうな顔しているし。

そんなミレディ達の様子に気づいたのか、シア達も漸く周りを警戒し始める。

 

暫く眺めていると、甲板に用意されていた壇上に初老の男が登り、周囲に手を振り始めた。

それに気がついた人々が、即座におしゃべりを止めて男に注目する。

彼等の目には一様に、敬意の様なものが含まれていた。

 

初老の男の傍には側近らしき男と、何故かフードをかぶった人物が控えている。

時と場合を考えれば失礼に当たると思うのだが……しかし、誰もフードについては注意しない様だ。

そして時間停止でそのフードを覗くと……やっぱりな。木偶人形の顔があった。

 

やがて、全ての人々が静まり注目が集まると、初老の男の演説が始まった。

どっかの偉い人「諸君。平和を願い、その為に身命を賭して戦乱を駆け抜けた勇猛なる諸君。

平和の使者達よ。今日この場所で、一同に会す事が出来た事を誠に嬉しく思う。

この長きに渡る戦争を私の代で、しかも和平を結ぶという形で終わらせる事が出来た事、そしてこの夢の様な光景を目に出来た事……私の心は震えるばかりだ。」

そう言って始まった演説を誰もが身動ぎ一つせず聞き入る。

 

演説は進み、和平への足がかりとなった事件やすれ違い、疑心暗鬼、それを覆す為にした無茶の数々、そして道半ばで散っていった友……

演説が進むに連れて皆が遠い目をしたり、懐かしんだり、目頭を抑えて涙するのを堪えたりしている。

どうやら初老の男は、人間族のとある国の王らしい。

人間族の中でも、相当初期から和平の為に裏で動いていた様だ。人々が敬意を示すのも頷ける。

 

演説も遂に終盤の様だ。どこか熱に浮かされた様に盛り上がる国王。場の雰囲気も盛り上がる。

でもなぁ……こちとら聞けば聞くほどムカついてくるんだよ、その上っ面な三文芝居が。

その薄汚い目からもう読めてんだよ、この先の結末が。

そんなことを思っていると、国王の次の言葉が紡がれる。

 

国王(案山子)「──こうして和平条約を結び終え、一年経って思うのだ。……実に、愚かだったと……。」

国王(案山子)の言葉に一瞬、その場にいた人々が頭上に"?"を浮かべる。

聞き間違いかと隣にいる者同士で顔を見合わせる。その間も、国王(案山子)の熱に浮かされた演説は続く。

 

国王(案山子)「そう、実に愚かだった。獣風情と杯を交わす事も、異教徒共と未来を語る事も……

愚かの極みだった。分かるかね、諸君。そう、君達の事だ。」

魔人族「い、一体、何を言っているのだ!アレイストよ!一体、どうしたと言う──ッがはっ!?」

アレイストとかいう国王(案山子)の豹変に、一人の魔人族が動揺した様な声音で前に進み出た。

そしてアレイスト王(狂信者)に問い詰めようとして……結果、胸から剣を生やす事になった。

 

刺された魔人族の男は肩越しに振り返り、そこにいた人間族を見て驚愕に表情を歪めた。

その表情を見れば、彼等が浅からぬ関係である事が分かる。

本当に、信じられないと言った表情で魔人族の男は崩れ落ちた。

場が騒然とする。「陛下ぁ!」と悲鳴が上がり、倒れた魔人族の男に数人の男女が駆け寄った。

 

国王(案山子)「さて、諸君。最初に言った通り、私は諸君が一同に会してくれ本当に嬉しい。

我が神から見放された悪しき種族如きが国を作り、我ら人間と対等のつもりでいるという耐え難い状況も、創世神にして唯一神たる"エヒト様"に背を向け、下らぬ異教の神を崇める愚か者共を放置せねばならん苦痛も、今日この日に終わる!

全てを滅ぼす以外に平和などありえんのだ!

それ故に、各国の重鎮を一度に片付けられる今日この日が、私は堪らなく嬉しいのだよ!

さぁ、神の忠実な下僕達よ!獣共と異教徒共に裁きの鉄槌を下せぇ!

ああ、エヒト様!見ておられま――」

 

その言葉を紡ぐ前に、俺は熱線で奴の頭を消し飛ばした。

そのせいで映像の中で何が起こっていようが知ったこっちゃねぇ。気に入らねぇんだよ、その腐った眼が!

怒りのままに、他の兵にも攻撃を放つ。いつの間にかユエ達も攻撃に加わっていた。

俺がキレたことで、皆も「やっちまうか。」という意見に賛成したらしい。

なら答えは一つ、ド派手にいくぜ!

 

そういう訳で周りの兵に攻撃をし続けた結果、再生の終わりを待たず、周囲の景色がぐにゃりと歪む。

どうやら先程の映像を見せたかっただけらしく、気が付いたら元の朽ちた豪華客船の上に戻っていた。

ミレディ「なんか……ゴメンね?分かっているとは思っていたけど……これも試練だったから……。」

ハジメ「大丈夫だ、八つ当たりは教会で済ませる。信仰心が無くなれば、アレを引き摺り下ろせるだろ。」

 

申し訳なさそうにするミレディ達を励ましつつ、教会潰す宣言をする俺。

この世界の人々はその殆どが信仰心を持っている筈であり、その信仰心の行き着く果ての惨たらしさを見せつけられては相当精神を苛むだろう。

そして、この迷宮は精神状態に作用されやすい術の力が攻略の要だ。

ある意味、【ライセン大迷宮】の逆。異世界人である俺達やそれに慣れたユエ達だからこそ、精神的圧迫もそこまでないのだ。

 

そんな訳で、唯一残っていた扉から船内へと足を踏み入れた。

船内は、完全に闇に閉ざされていた。

外は明るいので、朽ちた木の隙間から光が差し込んでいてもおかしくないのだが、何故か全く光が届いていない。

クモランタンとかライト系はあるので、大丈夫そうだが。

 

香織「さっきの光景……終戦したのに、あの王様が裏切ったっていう事かな?」

ティオ「いや、どちらかと言えば洗脳の類じゃろうて。

あの目はどう考えても先程友好的な発言をした者の目ではないからのぅ。」

シア「ですねぇ……ハジメさん達は何ともなさそうですけどね。」

 

ハジメ「単にあのおっさんの目が気持ち悪かっただけだよ。

なんか教皇みてぇに背中を這いまわる様な不快感があったし……。」

ユエ「両親がとっくに狂信者だったから。」

トシ「大体読めてたからな。悪意がこれでもかという位滲み出ていたし。」

イナバ『自分、人間じゃないんで。』

シア「り、理由がとんでもねぇですぅ……。」

何を今更、ミレディ達だって耐えたんだ、俺等が耐えなきゃ誰が耐えるんじゃい。

 

ハジメ「それに、フードの奴がいる時点でおかしいだろ。正体も例の木偶人形だったからな。」

シア「!あの時のですか!?」

ユエ「ん……恐らくは同一個体、或いは後継機。」

ティオ達は遭遇していないのでわかっていないようだ。

折角なので、ミレディ達の当時の感想も含めて解説する。

 

ティオ「成程のぅ……

噂には聞いておったが、ミレディの肉体がその者から奪ったものだったとは、驚きじゃ。」

香織「だよね、しかもハジメ君はそれを利用して、他の解放者も乗り移らせようとしているし……。」

トシ「お前……恵理と同じ位の死霊術でも使えるんじゃないか?」

ハジメ「俺にキョンシーを操る技術はない。強いて操れてもゾンビが関の山だ。」

イナバ『いや、操れるだけでも恐ろしいんですがそれは……。』

 

ミレディ「ミレディさんも最初はびっくりしたよ。

まさかあんな簡単にアイツが倒されるなんて思ってなかったし。」

オスカー『まぁ、時間停止なんて神様でもないと無理そうだけどね。』

ナイズ『聞いた話では、奴はそれすら使えないのだろう?ならハジメの方が神に向いているのではないか?

実力や性格的に。』

 

ハジメ「え~、俺王様になっているから、神様はちょっと……。それにあんなのと一緒にしないでよ。

たかが神性に毛が生えた程度で、信仰心で成り上がっただけの三流詐欺師じゃああるまいし。」

ユエ・シア・ティオ・香織・トシ・イナバ・ミレディ・オスカー・ナイズ「「「「「「『『『え゛。』』』」」」」」」

ハジメ「あっ……。」

やっべ、言っちゃ拙い奴だったな……ま、いっか。

 

ハジメ「あ、後で話すから……先に行こうか!」

そう言って無理やり話題を変え、さっさと進むことにした。

皆もさっきの話は気になるものの、迷宮内部である以上警戒しないといけないので、納得してくれたようだ。

 

するとその時、ライトが何かを照らし出した。白くヒラヒラしたものだ。

足を止めて光度を少しずつ上げていくと、その正体は幼い少女だった。

白いドレスを着た少女が、俯いてゆらゆらと揺れながら廊下の先に立っていたのだ。よし、ぶっ飛ばすか。

そう思い、目から熱線を放つ準備をする。

するとその瞬間、少女がペシャッと廊下に倒れ込んだ。

そして手足の関節を有り得ない角度で曲げると、まるで蜘蛛の様に手足を動かし真っ直ぐ突っ込んで来た。

 

ケタケタケタケタケタケタケタッ!

奇怪な笑い声が廊下に響き渡る。

前髪の隙間から炯々と光る眼で俺達を射抜きながら迫る姿は、まるで王道の都市伝説の様だ。

香織「いやぁあああああああああああ!!!!」

ハジメ「香織、静かに。」

 

テンプレだがそれ故に恐ろしい光景に、香織が盛大に悲鳴を上げて俺にしがみついた。

こういうホラー系の場所で、耳元で叫ぶ香織は見慣れているので、気にせず熱線で敵を焼き払う。

怪異「ケギャッッッッ!?」

瞬く間に足元まで這い寄った少女は、奇怪な悲鳴と共に盛大に吹き飛び壁や廊下に数回バウンドした後、廊下の奥で手足を更におかしな方向に曲げて停止しそのまま溶ける様に消えていった。

 

さてと……

ハジメ「よし、このままさっさと進もうか。若干一名、大丈夫じゃなさそうだけど……。」

香織「だだだ、大丈夫…大丈夫だからぁ…。」

……目尻には涙が溜まっているし、口元はキュッと一文字に結ばれているし、マジビビリじゃん…。

本当に大丈夫か?仕方がないので、香織はしがみついたままでもいいので、敵に攻撃するように、と言っておいた。

 

その後も、廊下の先の扉をバンバン叩かれたかと思うとその扉に無数の血塗れた手形がついていたり、首筋に水滴が当たって天井を見上げれば水を滴らせる髪の長い女が張り付いて俺達を見下ろしていたり、ゴリゴリと廊下の先から何かを引き摺る音がしたかと思ったら、生首と斧を持った男が現れ迫ってきたり……

 

香織「やだよぉ……もう帰りたいよぉ……雫ちゃんに会いたいよぉ~。」

船内を進む毎に激しくなる怪奇現象に香織が幼児退行を起こし、俺の背に張り付いてそこから動かなくなった。

因みに雫の名を呼ぶのは、小さい時から光輝達に付き合わされて入ったお化け屋敷で、香織のナイト役を勤めていたのは雫か俺だったからだ。

雫の場合、決して百合百合している訳では無い。俺がお化けに通常対応し過ぎて出禁喰らったからだ。

 

ユエ「……バカオリ、この程度で情けない。」

ミレディ「メル姉がいなくてよかったね……いたら嗜虐心が疼いて大変なことになっていたかもよ?」

のんきだなオイ。てかユエ、少し辛辣過ぎだって。普通の感性を持つ人なら精神的にキツイんだから……。

俺に引っ付き半泣きになりながら、それでもどうにか怪奇を撃退していく香織と、それを見守る俺。

ユエ達は適度にボコっては追っ払っている。と、そうこうしている内に、遂に俺達は船倉まで辿り着いた。

 

重苦しい扉を開き、中に踏み込む。

船倉内には疎らに積荷が残っており、その積荷の間を奥に向かって進む。

すると少し進んだところで、いきなり入ってきた扉がバタンッ!と大きな音を立てて勝手に閉まった。

 

香織「ぴっ!?」

ハジメ「驚きすぎだって。」

香織がその音に驚いて変な声を上げる。

余りのビビりように溜息をするも、ビクつく香織の肩を撫でて宥めていると、また異常事態が発生した。

急に濃い霧が視界を閉ざし始めた……鬱陶しい。

 

そう思った瞬間、ヒュ!と風を切る音が鳴り霧を切り裂いて何かが飛来した。

咄嗟に左腕を掲げると、ちょうど首の高さで左腕に止められた極細の糸が見えた。

更に連続して風を切る音が鳴り、今度は四方八方から矢が飛来する

 

ハジメ「……後でメイルは泣かすか。」

そう言って因果律操作で難なく罠を捌く。

直後、前方の霧が渦巻いたかと思うと、凄まじい勢いの暴風が襲いかかった。

まぁ、今回は幽霊が出てきていないので、香織含め全員無事にやり過ごした。

そして、霧が晴れると、倉庫の一番奥で輝き始めた魔法陣があった。俺達は迷わずそこへ足を踏み入れた。

 

淡い光が海面を照らし、それが天井にゆらゆらと波を作る。

その空間は中央に神殿の様な建造物があり、四本の巨大な支柱に支えられていた。

支柱の間に壁は無く、吹き抜けになっている。神殿の中央の祭壇らしき場所には精緻で複雑な魔法陣が描かれていた。

 

また周囲を海水で満たされたその神殿からは、海面に浮かぶ通路が四方に伸びており、その先端は円形になっている。

そして、その円形の足場にも魔法陣が描かれていた。

その四つある魔法陣の内の一つに、俺達は転移したようだ。

 

ハジメ「……漸く終わりか。今回は精神的な搦手が多かったなぁ。」

香織「うん……怖かった……。」

ハジメ「オイオイ……。」

てか、早く降りてくれい。じゃないと、神代魔法手に入れに行けないから。

 

イナバ『でも、本当にクリアしたんですかね?

オルクスやグリューエンより手応えがあんまなかったんですが……。』

シア「いや、最初の海底洞窟は、潜水艇がなきゃ無理ゲーでしたからね?普通はそんなものありませんよ?」

ティオ「うむ、空間魔法などを行使するはずじゃからのぅ。

クリアするまでずっと沢山の魔力を消費し続けるはずじゃ。」

トシ「確かに。下手すりゃそのまま溺死か魔物の餌だろうな。

大量の亡霊みたいなのは物理攻撃が効かないから、また魔力頼りになるし。」

ユエ「ん……それに信仰心のある人間は、あの映像で心が折れる。」

ミレディ「手伝ったミレディさん達が言うのも難だけど……メル姉、鬼畜にし過ぎじゃない?」

オスカー『そうだね、それにしてもまさか悪食までいたとは……。』

ナイズ『あぁ、自分達が迷宮作りを行った時は、いなかったはずなのだがな……。』

……え?じゃあ悪食は野良ってことか?じゃあメイル冤罪じゃねぇか。悪食の件だけ。

 

そんなことを思いながら、祭壇に到着した俺達は、全員で魔法陣へと足を踏み入れる。

いつもの通り脳内を精査され、記憶の確認が終わり、無事に全員攻略者と認められたようである。

俺達の脳内に新たな神代魔法が刻み込まれていった。

 

ハジメ「成程な、西の果てに東の鍵があるってことか。」

ユエ「……見つけた、"再生の力"。」

手に入れた【メルジーネ海底遺跡】の神代魔法、それは"再生魔法"だったからだ。

 

思い出すのは、【ハルツィナ樹海】の大樹の下にあった石版の文言。

先に進むには確かに"再生の力"が必要だと書かれていた。

つまり、東の果てにある大迷宮を攻略するには、西の果てにまで行かなければならなかったという事であり、最初に【ハルツィナ樹海】に訪れた者にとっては途轍もなく面倒である。

最も、俺達の場合空間魔法を手に入れた時点で、距離的問題はどうとでもなるが。

その辺のことをティオ達に説明すると、納得の表情だった。

 

魔法陣の輝きが薄くなっていくと同時に、床から直方体がせり出てきた。小さめの祭壇の様だ。

その祭壇は淡く輝いたかと思うと、次の瞬間には光が形を取り人型となった。

どうやら、オスカーと同じくメッセージを残したらしい。

 

人型は次第に輪郭をはっきりとさせ、一人の女性となった。

祭壇に腰掛ける彼女は、白いゆったりとしたワンピースの様なものを着ており、エメラルドグリーンの長い髪と扇状の耳を持っていた。

彼女こそが、解放者の一人、"メイル・メルジーネ"だ。

 

さてと……。

ミレディ「あれ、ハジメン?まだメル姉のメッセージは始まっていないよ?」

ハジメ「知ってる。だからここで眼魂だけ出して、過去の自分の映像を見させる。お仕置きとして、ね?」

ナイズ『……ドSという点では、共通するものがあるかもしれないな……。』

失礼な、こちとら香織が耳元で「く、来るぅ!絶対来るよぉ!」って耳元で叫ばれて、耳が痛いんじゃい。

その仕返しがこれで済むんだし、安いものでしょ。

 

そう思いながら、眼魂を取り出して起動すると同時に、過去の映像が始まった。

彼女はオスカーと同じく、自己紹介したのち解放者の真実を語った。

おっとりした女性のようで、憂いを帯びつつも柔らかな雰囲気を纏っている。

やがて、オスカーの告げた内容と同じ語りを終えると、最後に言葉を紡いだ。

 

メイル『……どうか、神に縋らないで。頼らないで。与えられる事に慣れないで。掴み取る為に足掻いて。己の意志で決めて、己の足で前へ進んで。

どんな難題でも、答えは常に貴方の中にある。貴方の中にしかない。

神が魅せる甘い答えに惑わされないで。自由な意志のもとにこそ、幸福はある。

貴方に、幸福の雨が降り注ぐ事を祈っています。』

 

そう締め括り、過去の映像のメイル・メルジーネは、再び淡い光となって霧散した。

直後、彼女が座っていた場所に小さな魔法陣が浮き出て輝き、その光が収まるとメルジーネの紋章が掘られたコインが置かれていた。

俺はそのコインを手に取りながら、後ろでプルプル震えている人物に声をかけた。

 

ハジメ「"答えは貴方の中にある"、か……大迷宮のコンセプトを総じて語っているねぇ。」

メイル『あら、それに感動しているなら、お姉さんからの愛の鞭もしっかり受けてもらいましょうか?』

そう、霊体のまま額に青筋を浮かべているのは、"メイル・メルジーネ"本人だ。

先程の映像が始まった辺りから、過去の自分の映像を見せられるなんて所業、俺だったら耐えられないねぇ。

 

ハジメ「まぁ、これで迷宮のトンデモトラップの件はチャラということで。

改めて宜しく、メイル……お姉さん。」

メイル『……まぁいいわ。それで、どうして私やミレディちゃん達がいるわけ?』

ミレディ「それはかくかくしかじかでね。」

メイル『小心者ザマァってことね!大体わかったわ!』

……ホントかなぁ。まぁ、大丈夫か。

 

シア「証の数も4つですね、ハジメさん!これできっと、樹海の迷宮にも挑戦できます!」

ハジメ「あぁ、でも一旦王都に顔出しに行こうかなって思う。メルドさんの一件もあるし。」

トシ「だな、あいつ等無事だといいが……。」

まぁ、相手が誰であろうと全員纏めて叩きのめすだけだ。

たとえ相手が、タイムジャッカーだろうともな……。

そして証を仕舞った途端、神殿が鳴動を始めた。そして、周囲の海水がいきなり水位を上げ始めた。

 

メイル『もしかしなくとも貴方達、ズルしたわね?』

ハジメ「悪食相手にどうしろと。寧ろ悪食にガーディアン務めさせようとか思っていたんじゃない?」

メイル『ギクッ!?そ、そんなこと……ないわよ?』

ギルティ。やっぱもうひとお仕置き入れた方がいいか。

 

ハジメ「まぁ、流されたものはしょうがない。皆、掴まれ!」

そう言って穴に落ちた時同様腕を伸ばし、皆をしっかり抱き上げる。

序でに、流されかけていたメイルも"宝物庫"にしっかり収納する。

凄まじい勢いで増加する海水に、あっという間に水没していく。

 

その直後、天井部分が【グリューエン大火山】のショートカットの様に開き、猛烈な勢いで海水が流れ込む。

俺達もその縦穴に流れ込んで、下から噴水に押し出される様に猛烈な勢いで上方へと吹き飛ばされた。

押し上げられていくと、やがて頭上が行き止まりになっている事に気が付く。

俺が破壊しようとした瞬間、天井部分が再びスライドし俺達は勢いよく遺跡の外、広大な海中へと放り出された。

海中に放り出された俺達は、急いで「ビリオンスターズ号」を呼び出そうとする。

しかしその目論見は、直前で阻止される。俺達にとって、予想外で一番会いたくなかった相手によって。




ハジメ
「ここまで読んでいただき、ありがとうございます!さて今回の特別ゲストは、この人!」
メイル
「どうも、西の聖女とは私のこと、メイル・メルジーネです。」
ハジメ
「(普段これならいいのに……。)はい、今回は解放者のメイルお姉さんに来てもらいました!」
メイル
「ハジメ君、どうせならディーネやミュウちゃんに紹介してもらいたかったのだけど。」
ハジメ
「シスコンやめい。ほら、まだ見ぬ妹たちも見ているかもしれないでしょ?」
メイル
「それもそうね!今回の試練はいわば、過去の負の遺産の脅威を知るように、という意味だったの。
決してお姉さんがドSだったから、という訳ではないわ!」
ハジメ
「まぁ、悪食に関しては微妙なところだけどね。」
メイル
「あれは事故よ事故!それじゃあ、次回予告!」

次回予告
ハジメ
「次回はオリジナルの討伐方法で行くよ。良い子のみんなはマネしないように。」
メイル
「いや、出来るのハジメ君位でしょ。妹達の教育に悪いわよ?」
ハジメ
「そして遂に、トシが初変身!どんなフォームか予想してみてくれ!」
メイル
「興味ないわね。」
ハジメ
「どこの剣士だアンタは。後、討伐後にもサプライズがあるよ。」
メイル
「そこは是非とも必見ね!」
ハジメ
「食いつき方が真逆じゃねぇか。まぁ、次回もよろしく。」
メイル
「全国の可愛い女の子の皆!メイルお姉さんの応援よろしくー!」

リースティアさん、誤字報告ありがとうございました!


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61.ファイナリー2019

ハジメ
「お待たせいたしました。今回のオープニングゲスト、アイスタイキックチャレンジ。」
良樹
「おい!またこのくだりかよ!?」
ハジメ
「正直、もうそろそろゲストコール、ネタ切れしているんだよ……。」
良樹
「いや、そこで俺に言われても……。」
ハジメ
「取り敢えず前回のあらすじ。ハジメ達は再生魔法を手に入れた!」
良樹
「だから何でポケモン風!?さっきから俺ツッコミしかしてねぇじゃねぇか!?」
ハジメ
「こうでもしないと前回みたく、彼女募集の暴走が入るかもしれないし。」
良樹
「あれは信治が深刻過ぎるだけだからな!?それじゃあ、第5章第14話」
ハジメ・良樹
「「それでは、どうぞ!」」


俺達が海中に投げ出された瞬間、眼前を凄まじい勢いで半透明な黒色の触手が通り過ぎ、勢いよく横薙ぎを振るった。

メイル『あれは……悪食、なの!?』

ハジメ「何かが違うってことと、ヤバいってことだけは分かる!」

 

ティオ『どうするんじゃご主人様よ!』

ハジメ『一旦引くぞ!海中じゃ十分に動けないからね!』

念話石を使って通信してきたティオに即答し、オーロラカーテンで逃走を図る。

座標はエリセンの港だ。転移の準備をしていると、悪食?が攻撃を仕掛けてきた。

 

ユエ「"凍柩!"」

香織「"聖絶!"」

ユエが周囲の海水を球形状に凍らせて、氷の障壁を張る。

その上から香織が障壁を張り、衝撃の軽減を試みる。

直撃した触手により、衝撃を受けるものの、転移の時間は稼げた!

即座にオーロラカーテンを発動し、皆で海中から脱出した。

 


 

一方、エリセンの港にて。

ハジメ達が旅立った桟橋にて、小さな人影があった。

???「それでね、パパが「うおぉー!」って叫びながら、お姉ちゃんたちを必死に止めていたの!」

???『へっ、ハー坊の奴、まさかシアの嬢ちゃん以外にも女がいたとはなぁ……

中々やるじゃねぇか!』

 

可愛らしい海人族の幼子と、渋い男性の声の人面魚。

どう考えても似合わない組み合わせなのは確かだ。

しかし、とある人物が両者の話題となっている。

それは誰であろう……

 

ハジメ「っと!ってミュウ!?」

???「みゅ!?パパ!お姉ちゃん達!」

今転移してきたハジメとその仲間達だ。

突然戻ってきたパパとお姉ちゃん達にビックリしたのは、ハジメの娘ことミュウだ。

 

???『おう、誰かと思えばハー坊じゃねぇか!いきなり来てビックリしちまったぜ!』

ハジメ「うおっ、リーさん!?何でアンタもこんなところに!?」

そう、人面魚の正体は、かつてフューレンの水族館に捕獲されていた魔物、リーマン(ハジメは敬称としてリーさんと呼んでいる)だった。

 

突然の事態に、ユエ達も全く付いてこられていない。

リーマンの姿を見て、ユエ・ティオ・イナバ・ナイズ・メイルは目を丸くしているし、シア・ミレディ・オスカーは「「『あの時の!』」」と驚愕に目を見開いているし、香織に至っては「ひっ!?」と悲鳴を上げている。

トシは「オイオイ、リアルシーメンじゃねぇか……。」と感心半分に驚いている。

 

ハジメ「まぁいい、それよりも黒い悪食だ。」

リーさん『!?黒い悪食だぁ!?そんなもん見たことねぇぞオイ!?』

ハジメ「だろうな。あれはきっと、悪食に似て非なる何かだ。取り敢えず、ぶっ飛ばしてくるわ。」

ミレディ「策はあるの!?」

 

ハジメ「あるにはあるさ。それに、奴の弱点は最初の防衛戦で分かりきっている。」

ユエ「!炎系が、弱点?」

ハジメ「あぁ、こっちに来るといけないからな、先行って抑えてくる!」

そう言って即座に移動したハジメ。余程黒い悪食を警戒しているようだった。

 

ミュウ「パパ、行っちゃったの……。」

香織「大丈夫だよ、だってハジメ君だよ?」

シア「そうですよ、ミュウちゃんのパパなんですから!」

トシ「追いかけるにしても……ティオさんに龍化してもらうしかないぞ?」

ティオ「それに関しては今更じゃろう。妾はいつでも飛び立てるのじゃ。」

ユエ「んっ!ハジメの援護に向かう!」

そう言って、即座に準備に取り掛かるユエ達。

 

ミレディ「ハジメン、どうやってアイツを焼くつもりなんだろ?」

オスカー『……いや、まさかね?』

ナイズ『どうした、オスカー?何か心当たりでもあるのか?』

メイル『あら、メイルお姉さんも気になるわね。教えて頂戴な。』

オスカー『まぁ、これは仮説なんだけど……。』

そう言ってハジメの狙いを話し始めたオスカーに、話を聞いていたミレディとナイズは納得の表情を浮かべ、メイルは楽しそうな表情を見せた。

 

ミュウ「みゅ!お姉ちゃん達、パパをお願い、なの!」

メイル『ッ!?み、ミレディちゃん!?この子、私の妹にしてもいいかしら!?』

ミレディ「メル姉、そういうのは後にしようよ。」

ミュウの呼びかけに反応する、何処までもシスコンな姉に呆れるミレディであった。

 

リーさん『待ちな、嬢ちゃん達!俺もハー坊の助太刀に行くぜ!

俺達の種族が使う念話には、普通の海の生物をある程度操る能力がある。

ある程度は、作戦の時間稼ぎになるかもしれねぇ!

何より、助けられた恩をそのままにしておくなんざ、男の名が廃るぜ!』

シア「えッ!?流石に危険すぎま『わかりやす!』!?」

シアが止めようとしたその時、イナバが急に声を上げた。

 

イナバ『リーの旦那!王様のために駆け付けるその仁義、しかと受け取りやした!

このイナバ、リーの旦那の盾になってみせやしょう!』

リーマン『おぅ!お前も中々に男気があるじゃあねぇか!よぉし、いっちょ行ったるか、イナバ!』

イナバ『あい、分かりやした!』

何故かそこには、念話を持つ魔物同士の友情があった。

 

ユエ「……ん、仕方なし。」

シア「え!?結局連れて行くんですか!?」

ティオ「どちらにしろ急がねばならぬ!はよう乗らんか!」

香織「でもリーさん?はどうするの?流石に持ち上げたままだと死んじゃうかもしれないし……。」

トシ「それなら俺が水球を維持して、近くまで連れていく。さっさと行かねぇと、ハジメが危ないぞ!」

そういうことで、リーマンを含めた全員を乗せ、龍化したティオはハジメの元へ飛び立った。

ミュウ「皆、頑張ってなの~!」

ミュウの応援する言葉が潮風に乗り、耳に届くのを感じながら。

 


 

ハジメ「まさか悪食の親戚みたいなもんだったなんてなぁ……笑えねぇなオイ。」

移動途中、黒い悪食について調べていたら、候補に挙がった魔物がいた。

なんと、その魔物の名は"悪母"。

この世界に存在した太古の生物らしく、能力としては肉体の一部を他生物に同化する事らしい。

 

一見これのどこが危険なんだ?と思うだろうが、言ってしまえばこれは寄生だ。

しかも死体だろうがなんだろうが、生物であれば寄生可能。

一度一体化した細胞は対象先の性質に固定するので、その分体積は減るが、魔力によって復元可能のようだ。

悪食が他者を喰らうことで自己増殖する怪物なら、悪母は自らを喰わせて他者増殖する怪物だ。

 

その上、先程の悪母は、どうやら悪食の体質も受け継いでいるようで、逃走時に数発のグレネードでこっそり攻撃したのだが、逃走直前に見た時はそのグレネードが爆発しなかったのを見るに、より強力な溶解性を持っていると考えるのが妥当だろう。

ただでさえ悪食だけでも大変なのに、ここにきて+悪母とか、ふざけんなよマジで。

こちとら、さっさと帰ってミュウやレミアとの思い出作りを早くしたいんじゃボケェ!

 

悪態をつきながら悪母の元に向かうと、更にヤバいことになっていた。

さっきまで15m程度だったのが、いつの間にか30m級の化け物に変わっていた。

こりゃあ流石に不味いな……やってみるのは初めてだが、あれを使うか。

 

ハジメ「"限界突破――覇潰"!!!」

この世界に来て、初めて使った"限界突破"。幸いにも周りには誰もいないので、被害の確認の必要もない。

つまり、好き放題ぶっ放せるってわけだ!コード・イカロス、スタートアップ!

 

まず、並列思考で瞬時に秘密兵器を創り出す。

それは、フラム鉱石を凝縮したものに、圧裂弾を液状化させて暴発しないよう配合したものだ。

大きさとしては、石ころ一粒程度だが、俺にはこれがある。

 

ハジメ「エナジーアイテム"巨大化"!」

俺はエナジーアイテム"巨大化"を秘密兵器に混ぜ合わせる。するとどうだろう。

先程まで一粒だった石ころが、あっという間に50m級の大きさになった。

流石に自身をも凌ぐ大きさの物には警戒したのか、悪母が襲い掛かってきた。

だが残念だな、これも計画通りなんだよ!俺は迷わず、悪母の方へ秘密兵器を投げた。すると……

 

ブォンッ!

秘密兵器が一気に増えた。その数およそ10000発程。

実はこっそり分身系技能のエナジーアイテムを忍ばせておいたのだ。

幾ら融合して溶解性が上がったとしても、奴が溶かしきれないレベルの量で圧倒すればいい。

すると、その作戦が功を成したのか、奴の全身が先程より真っ黒になっていた。

 

悪母は慌てて俺ごと道連れにしようと襲い掛かってくる。

俺自身巻き込まれたくないのと、最後の詰めの準備があるので、咄嗟に避ける。

俺が上に逃れると、奴自身も海中へ逃げ込もうとする。だがな、それはとっくに読めてんだよ。

悪母は身動きが取れないことに戸惑っているようだが……下を見ればすぐわかる。

 

何故なら既に、奴の周りを凍らせてあるからだ。

タールの消化に気を取られ過ぎているうちに、時間停止で奴の近くに近づき、気づかれないよう分身で凍らせておいのだ。

とはいえ、流石に魔力を温存したいので、これ以上の追撃は無理そうかと思ったその時、念話が聞こえた。

 

ティオ『無事かの、ご主人様!?』

ハジメ「ナイスタイミングだ、アイツを炎系以外で攻撃してくれ。今ちょっと危ないから。」

オスカー『あぁ、やっぱり……君ならやると思ったよ。』

オスカーは察していたようだな、なら話が早くて助かる!

 

リーさん『オイオイ、ハー坊。これじゃあおっさんの出番がねぇじゃねぇかよ。』

リーさんも来ていたんか。まぁでも、流石にあれに巻き込みたくないしなぁ……。

ハジメ「折角来てくれたのにごめんよ、リーさん。訳はまた後で説明するから!

ナイズ、ユエ、香織、ちょっと手ェ貸してくれ!」

ユエ「んっ、任された!」

香織「わ、分かったよ!」

ナイズ『自分もか?しかしここからどうするつもりだ?』

ナイズの疑問に俺は即座に答えた。

 

ハジメ「いくらアイツでも、星レベルの炎は溶かせねぇに決まっている!なら後はそこにぶっ込むだけだ!」

香織「まさかのビッグバン!?」

ミレディ「は、発想のスケールで、負けた……!」

そう、今や奴の体は自分から焼かれに行く状態だ。それが太陽に引火すれば、ひとたまりもない。

たとえ元の星に戻ろうとしても、摩擦熱で溶けて消える。

太陽に至ってはいつまでも燃え盛るので、溶け続ける。

奴が死ぬまで終わらない、それがコード・イカロスの狙いだ。

 

メイル『あら、火炙りならぬ太陽炙りだなんて……鬼畜の所業だわぁ。』

シア「メイルさん、顔はとてもうれしそうなんですが……?」

トシ「しかし、オーロラカーテンじゃ狭くないか?流石に入らないだろ。」

ハジメ「いや、策はある。後お前にも手伝ってもらうぞ、ホレ。」

そう言って俺は、一つのアタッシュケースをトシに向かってぶん投げた。

トシ「うぉっ!?あぶねぇだろ!たくっ……ってこいつは!」

どうやら中身に気づいたようだな。そう、その中身は……

 

〈ビヨンドライバー!〉

 

仮面ライダーウォズ変身セット(ビヨンドライバーとミライドウォッチ4種)だ。

勿論、ギンガファイナリーにも変身可能だ。

ハジメ「神代魔法2つは習得したからな!短いがこれが初陣だ!ド派手にかませ!」

トシ「!あぁ、勿論さ!テンションフォルテッシモ!!!」

……どうやら、初めての変身にテンション爆上がりのようだ。

当の本人は早速ベルトを巻いて、ウォッチを起動した。

 

〈ギンガ!〉

右手のウォッチをドライバーにセット、ボタンを押してそのカバーを開き、

〈アクション!〉

右腕を大きく一周させ、お決まりのセリフを放ち、

 

トシ「変身!」

右手でビヨンドライバーのレバーを前に向け、トシの初めての変身が始まった。

折角の初変身なので、悪母のことは少しの間、放置してくれ。

 

〈投影!ファイナリータイム!〉

音声が鳴ると、小銀河(コズミック)が渦巻き、太陽系の惑星が投影され、トシを取り囲み、アーマーを形成する。

〈ギンギンギラギラギャラクシー!宇宙の彼方のファンタジー!ウォズギンガファイナリー!ファイナリー!〉

そしてここに、「仮面ライダーウォズ・ギンガファイナリー」が誕生した!

 

ハジメ「いわ「祝え!」……。」

…祝おうと思ったのに何故か即座にぶった切られた。まぁいいよ?別に。初変身だし。

トシ「灼熱の太陽・数多の星々・広大な宇宙の大いなる力を宿した、歴史の預言者!

その名も仮面ライダーウォズ・ギンガファイナリー!新たなる歴史の1ページである!」

うおぉ…自分で考えたのか、中々インパクトが強いな……これ、俺の変身の時もやるつもりか?

まぁいい、そんなことよりも変身は完了したので、悪母退治だ。

 

ハジメ「宇宙(に)行くー!!!」

イナバ『王様―!?』

そう叫んで俺は、悪母に向かって突っ込んでいった。そんなことして大丈夫なのかって?

だからこそユエと香織、そしてナイズに協力を仰いだのさ!

 

悪母「―――!?!?!?」

ハジメ「驚いただろ、あいつ等の防壁はなぁ、そんなちゃちいもんじゃねぇんだよぉ!!!」

俺は予め、ユエと香織に"聖絶"を張ってもらっていたのだ。

それをナイズの空間魔法で固定、そうすれば自動的に俺の周りには魔力の防壁が立つって寸法さ。

 

ハジメ「このまま、行っけェェェ―――!!!!!」

俺はパワー系技能も全力行使し、一気に悪母をゲートの向こう――大口を開けた太陽に押し出した。

そのままワープドライブによって、星から押し出された悪母は、宇宙空間へと放り出された。

触手をゲートに伸ばそうとするも、ユエ達の魔法により弾かれ、結局押し戻されていった。

 

ハジメ「よぉし!後は跡形もなく消し飛ばすだけだ!行くぞ、トシ!」

トシ「あぁ、中までこんがり焼いてくれるわ!」

そう言って俺達はゲートに飛び込んだ。ユエ達は残念ながら今回は留守番だ。

だって、宇宙で活動可能かつ炎系で高火力のライダー、あんまいないし……。

何より、ユエ達には必要ないんじゃないかと思うこの頃なんだよなぁ……。

 

そんなことを思いながらゲートを抜けると、迫ってきた悪母の触手を咄嗟に避け、ゲートを閉じる。

ハジメ「重力ならお前でも食べられないだろ!概念だからな!」

そう言って重力系技能で悪母を太陽近くまで押し飛ばす。その内にトシの用意も済みそうだ。

 

トシは、一度ギンガミライドウォッチをドライバーから外し、ウォッチのフォーム選択装置「レボリュートセレクター」をスライド、能力開放弁「ミライドスコープ」に太陽のマークを重ねた。

〈タイヨウ!〉

音声が鳴ると再びミライドウォッチをベルトにセットする。

 

〈アクション!〉

そしてまたレバーを前に向けて変身、今度は大きめの火球(太陽並みの熱さ)がアーマーを形成していく。

〈投影!ファイナリータイム!〉

頭部の情報集約ユニット「ウォーシグナル・ギンガ」が地球のマークから太陽のマークに、視覚装置「インジケーショントラックアイ」の文字が「ギンガ」から「タイヨウ」へと、それぞれ変化を遂げる。

 

〈灼熱バーニング!激熱ファイティング!ヘイヨー!タイヨウ!ギンガタイヨウ!〉

これこそ「これこそまさに情熱の火!祝え!その名も仮面ライダーウォズ・ギンガタイヨウ!」被せんなって!

そうこうしているうちに、悪母が太陽近くまで行ったので、ここで仕留める!

 

ハジメ「行くぞ!」

トシ「おぅ!」

そういって、俺はベルトの両端を押し込み、トシはまたレバーを起こして前に倒した。

 

ゴォーン!!!

『≪終焉の刻!≫』

〈ファイナリービヨンドザタイム!〉

 

トシは胸部から太陽並みの超高熱巨大火球を生成、それを悪母へと向ける。

それに合わせて、俺も火炎系能力を全開放する。

ギンガの太陽光線は勿論、クウガアルティメット(自然発火)、アギトバーニング、龍騎サバイブ、ジャックギャレン、装甲響鬼(鬼火)、ヒートメタルW、オーズタジャニティ、ファイヤーフォーゼ(withランチャー・ガトリング・フュージョンの三点セット)、ウィザードインフィニティー、メガマックスフレアドライブ、闘魂ブーストゴースト、クローズマグマ、シノビ忍法(火遁)、バーニングファルコン、クリムゾンセイバー、ボルケーノリバイス、ギーツブーストⅡの力を呼び出し、その力を合わせる。

更には、炎系の攻撃ができる武器も召喚し、バビロンの処刑のごとく悪母(罪人)へとその刃を向ける。

 

トシ「真っ黒に感光しな!」

ハジメ「塵すら残さず、消えるがいい!」

その言葉と共に、罪人への裁きが下された。

 

〈バーニングサンエクスプロージョン!〉

『≪逢魔時王必殺撃!!!≫』

 

トシの太陽玉に俺の極炎弾が合わさり、そこへ火炎武器の追撃がかかる。

そしてそれらが悪母へと触れた瞬間……って拙い!咄嗟にトシを連れて瞬間移動する。

その直後だろうか、悪母の悲鳴が一瞬聞こえたかと思えば、直ぐに激しい轟音によってかき消された。

 

そして海上へと帰還する。

ハジメ「し、死ぬかと思った……。」

トシ「火力、上げ過ぎたか……。」

反省しつつ、重力操作で皆の元へ戻る俺達であった。

 


 

所変わって神域(笑)にて。

海上を見つめる、否、海上のとある人物を見つめる者がいた。

エヒト「どうやら、流石の奴も悪母には無力のようだな!とても余裕があるとは思えん!」

そう、この駄神エヒトである。

 

悪母は元々、古代の生物であって本来この時代に存在することはないのだ。

しかし、エヒトが死蔵していたコレクションの一つに、とあるタイムジャッカーが手を加えた事により、この時代に蘇ることに成功したのだ。

その時ちょうど、ハジメ達が【メルジーネ海底遺跡】へ挑むのを確認すると、今まで散々な目に遭わされた報いとでも言わんばかりに、悪母を嫌がらせのつもりで解き放ち、あわよくば彼等の戦力減退を狙ったという訳だ。

 

が、当然予想通りに上手く行く訳も無く……

エヒト「!?奴等はどこへ行った!?悪母!悪母よ!貴様は今どこにいる!?」

ハジメさん達が宇宙へ奴を移動させる作戦に方向転換し、その姿が観測できなかったことに歯噛みしながらも、エヒトは次なる嫌がらせの一手を実行しようとしていた。

 

と、その時……

ヒュゥゥゥゥゥ……

エヒト「うん?なんだ?」

何かが落ちてくる音を聞いたエヒトが、思わず上を見上げると……

 

炎を纏った何かが大量に落ちてきていた。

エヒト「!?!?!?」

訳が分からず戸惑うエヒト。それもそうだろう。

何せこの大量の落下物は、ハジメさん達が倒した悪母の破片一つ一つなのだから。

 

あの時、ハジメさん達によって爆散させられた悪母は、帰巣本能故か神域に戻ろうとしていた。

恐らくは、飼い主(エヒト)の元に行けば直してもらえるのではないか、という一抹の希望を抱いたのだろう。

その結果、肉片サイズになったまま、燃えながら神域目掛けて落下を始めたのだ。

その数何と10000、何の皮肉かハジメさんがぶっこんだフラム鉱石と同等の数だった。

 

エヒト「ギャアァァァァァァァァァァ!?!?!?!?!?」

超高温の炎を纏いながら落ちてくるそれを、エヒトは受け止めざるを得なかった。

その結果、断末魔の様な悲鳴がまた、神域から挙がったという。

 

そしてその日、教会の狂信者達は大いに戸惑っていた。

何せ、信託を下す筈の神や使徒達が、全員揃って同じ髪型だったからだ。

それもこちらの世界ではとても奇抜な、ハジメ達の世界で言うボンバーヘア……つまりアフロだったのだ。

神域では未だに復興作業が進められており、その作業に当たる者の多くがアフロである。

傍から見れば異様すぎる光景だろう。実際、眷属のアルヴも驚いてしまった挙句、エヒトの髪型を見て思わず吹き出してしまったほどだ。

 

エヒト「おのれ……イレギュラーァァァ!!!!!」

自身の行ったことが墓穴になっているにも関わらず、責任転嫁でにっくきあのイレギュラーへと、見当違いな文句を垂れる哀れな神(笑)が、そこにいた。

因みに、髪型を笑ったアルヴも、道連れにアフロにされたらしい。

そして何故か神域の魔物間で、アフロが一時期流行したとかなんとか。

 


 

ハジメ「いや、そうはならんやろ!?」

トシ「どうした急に。」

ハジメ「いや……なんか、ツッコんでおかないといけないかなって。」

トシ「何にだよ。」

 

突如、何故か駄神から見当違いの逆恨みをぶつけられた挙句、神域のほとんどがアフロで埋め尽くされるという大珍事が、頭の中に流れ込んできたのだ。

正直「ザマァ」って思う光景だけどさぁ!?よりによって何でアフロなんだよ!?

アフロと言えば何かって?……マリモマンかな?

あの、冬島に出てきたプリンス・ヒポタマスの胡麻すり部下みたいな奴。

 

そんなことを思いながらトシと駄弁っていると、下にユエ達が見えた。

龍化したティオに乗っており、リーさんも一緒のようだ。俺達も早速下に降り、合流する。

そして俺とトシがいない間、何かあったか聞いてみた。

 

合流したユエ達曰く、突然太陽から眩しい光が出てきたかと思えば、轟音が鳴り響いていた、とのことだった。

どうやら、俺等の必殺技で悪母は跡形もなく消し飛んだようだ。

でもそれなら破片が落ちてくるはずだが……それもなかったってことはあの光景は本物だったようだ。

 

折角なので一度エリセンに戻り、近くの桟橋で先ほどの光景について話すことにした。

その結果、全員が困惑と爆笑の渦に巻き込まれたのは言うまでもない。

特にミレディ達解放者勢は、奴がアフロになったことが余程面白かったのか、先程から腹を抱えて笑っている。

俺がその光景を身振り手振りで再現すると、ユエ達も腹を抱えて笑い出した。俺も正直スカッとした。

 

さて、漸く樹海へ向かう準備ができたわけだが……王都に一度寄らなきゃな。

雲行きが怪しいみたいだし、あいつ等が心配だ。タイムジャッカーの動向も気になる。

ただなぁ……それって一時的にミュウとレミアとお別れしなくちゃいけないんだよなぁ……。辛い……。

でも、これからの旅と二人の安全を考えると……あぁ~辛いよォ~。

ハァ……仕方がない、こうなったら出来るだけ思い出作りに勤しむしかないか。

密かにそんな憂鬱な気持ちになる俺であった。




ハジメ
「ここまで読んでいただき、ありがとうございます!さて今回は、この人に来てもらったよ!」
リーさん
『おう!良い子のみんな、俺はリーマンのリーさんってんだ!顔覚えて行ってくれよな!』
ハジメ
「いやぁ~、うp主曰く今回まで溜めに溜めたらしいよ。リーさんはこの回だって。」
リーさん
『へへっ、専用回ってやつか。ちょっと嬉しいなオイ!』
ハジメ
「それまで他のキャラを出すこと数回、正直主要キャラのネタ切れが深刻化しているという問題に……。」
リーさん
『急に重い空気になったなオイ!?大丈夫か、ハー坊!?』
ハジメ
「俺は大丈夫、取り敢えず次回予告に行こうか。」
リーさん
『お、おぅ?あんま無理すんなよ?』

次回予告
ハジメ
「次回から、不思議な大冒険編をお送りするよ!輝く海の意思を捜しに、いざ出発!」
リーさん
『輝く海の意思、か……俺もガキの頃、聞いたことがあるな。』
ハジメ
「リーさんの子供の頃から!?逆にそっちが気になるんだけど!?」
リーさん
『なぁに、あの時はまだ(ケツ)の青い餓鬼だっただけだ。』
ハジメ
「いやにハードボイルドだな!?まぁ、俺も異世界来る前にブイブイ言わせていたことあったけど……。」
リーさん
『おっ、何だ?若気の至りってやつか?』
ハジメ
「そんなとこかな?まぁ、次回からの冒険は、ちょっとしたオリジナル展開があるから、必見だよ!」
リーさん
『そいつぁ楽しみだな!それじゃ、また次回!』

リースティアさん、誤字報告ありがとうございました!


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62.みゅうのぼうけん

ハジメ
「お待たせいたしました。さて今回は……何故かまた並行世界に……。」
Bミュウ
「みゅ?パパ、どうかしたの?」
ハジメ
「いや、大丈夫だよミュウ。ただちょいと色々混乱していただけさ。」
Bミュウ
「大丈夫なの!ミュウもよくわかっていないの!」
ハジメ
「それでいいんだ……えっと取り敢えず前回のあらすじだな。」
Bミュウ
「パパ~、これに話しかければいいの?」
ハジメ
「あっ、ちょっ、ミュウストップ。
ええっと、前回は悪母倒した!トシが初変身した!クソ野郎がアフロになった!解説以上!
ミュウ、この台本通りにお願いね?」
Bミュウ
「みゅ!えっと……第5章15話?なの!」
ハジメ・Bミュウ
「「それでは、どうぞ(なの)!」」


ゆるりと肌を撫でる潮風と、優しいさざ波の音がする。

まるで時間すら遠慮して、そろりそろりと遅く歩いているかのような平穏。

そんな光景の中で、俺は溜息を零していた。何でかって?決まっているだろ。

 

ミュウとレミアと別れるのが寂しいからに決まってんだろォーがァ!!!

今日でもう4日だぞ!?予定じゃもう残り2日しかないんだぞ!?

これじゃあ海鮮丼作りに間に合わないじゃねぇか!……まぁ、理由はそれだけじゃないんだけどな。

 

オスカー『流石だね、ここまでくるともう圧巻だよ。』

ハジメ「いや、まだまだだ。俺一人で使うなら十分だが、量産型となると制御面で不安が残る。

いずれは王都の防衛にもいくつか回しておきたい。」

オスカー『出力を落とせば、いくらかは制御ができるんじゃないか?

そのアーティファクト、使徒の大群相手を想定しているんだろう?』

ハジメ「敵はそれだけじゃない。タイムジャッカーの妨害もある以上、ある程度の出力は保っておきたい。

まぁ、飛空艇は要試運転段階を踏むだけどね。ゲートは魂魄魔法を手に入れてからってことで。」

 

その理由は、オスカーと錬成談義しながら作っているアーティファクトの量産について、だ。

飛空艇に関しては、既にゲームエリアで開発を進めており、後は試運転で飛ばすだけなのだが……

魂魄魔法がない今、超長距離移動用のゲートの開発は一時中断されており、肝心の課題である太陽光収束レーザーを装填した、自立作動型衛星アーティファクトは、量産時の出力について難航している。

 

俺自身が使用する分なら、申し分ない威力で運用できるのだが、他の人に渡して使わせるとなると、制御や付与された機能に必要な魔力量が半端ないのだ。

一応、地上で撃つレーザー砲型の物も作っては見たのだが、その余りの威力のせいか、狙撃手が踏ん張りきれないという問題点が残っており、これもどうにかしないといけないのだ。

 

先程オスカーが出力を落とせばいいと言っていたのだが、そうなると何かしら別の機能も追加しなければいけない。

神結晶を使った魔力タンクを取り付けるのもいいが……それだとその部分が執拗に攻撃されそうなのだ。

折角の神結晶なんだし、どうせなら長く使ってもらいたいんだよなぁ……。

とまぁ、そんなこんなで難航しているという訳だ。とそんな時だった。

 

ミュウ「パパぁ~、お昼ご飯なの~!!」

ザバァッと海中からトビウオの様に、ミュウが飛びあがって来た。

胸元へ飛び込んできたので、しっかりと抱き留める。

そのままぐりぐりと顔まで押し付けているのが可愛いが……

 

ハジメ「ミュウ、ちゃんと乾かさないと、ダメでしょ?」

ミュウ「ごめんなさいなの~?」

まぁ、まだ4歳位なのでゆるんゆるんで叱る。ミュウもゆるんゆるんに返す。

オスカーが親バカを見るような眼で見てくるが……

お前もさっさとミレディ押し倒していれば……分かったからその怖い顔止めろ、ミュウが怖がるだろ。

 

ハジメ「そう言えば、ユエ達は?」

ミュウ「先に行ってるの。ミュウはパパを呼びに来る任務を受けました!」

ぐふぅ、この可愛さこそ宇宙最大のお宝なryyy!

ハジメ「そうか~、ミュウは偉いね~、ありがとう~。」

そう言って優しく撫でる。ミュウも「うふふ~」とレミア遺伝のほわんほわんな笑顔を見せた。

 

……今思うと、レミアの子供時代もミュウみたいな感じだったんじゃないだろうか。

今度聞いてみるか、そう思っているといつの間にか立っていたミュウが、俺の手を引いた。

ミュウ「パパ、はやく!ママのごはんが冷めちゃうの!」

ハジメ「はいはい。抱っこ、する?」

ミュウ「……に、任務中なので!」

 

……ミュウもミュウなりに悩んでいるんだな。

これじゃあどうやって切り出せばいいのかがより分からなくなっちゃったなぁ……。

そんなことを思いながら、ミュウの小さな紅葉のような手に引かれながら、俺は食卓へと向かった。

 

そんな中での賑やかな昼食の一時。

何故か料理をやたらと露天風串焼きスタイルにしたがるミュウ。

あの時の串焼き、そんなに気に入ったのかな?今度、イルワさんと相談して幾つか取り寄せるか。

まぁ、割と口元を汚すのでそこらへん気を付けないとな。

 

ミュウの特等席は俺とレミアの間。

当然、レミアが「あらあら。」と困った表情で、俺が「よく噛んでから食べなよ。」と苦笑いして、交互にミュウの口元を拭っている。

何だか……こういうの、いい絵になるよね。微笑ましい三人家族の日常、って感じで。

 

香織「うぅ~、羨ましいなぁ。」

シア「むぅ。旅の間は、ほとんど私がレミアさんのポジションでしたのに……。」

ティオ「まぁ、それは仕方なかろう。幼子にとっては、肉親が一番じゃろうて。」

トシ「まぁ、向こう二人の光景がアレじゃあなぁ……。」

シア達が俺達の光景を羨ましがる中、トシが視線を向けた先には……

 

メイル『ハァハァ……ディーネが、二人……ハジメ君、そこチェンジで!』

ミレディ「メル姉、煩い。」

オスカー『その表情、子供の教育に悪いよ?』

ナイズ『二人が若干引いているぞ、正気に戻れ。』

メイル『メイルお姉さんはいつでも正気よ!』

オスカー・ナイズ『『手遅れだったか。』』

ミュウとレミアにハァハァしている、変態じみたメイル(シスコン)と、それに呆れる解放者ズ。

 

ユエ「子供欲しい子供欲しい子供欲しいハジメの赤ちゃん欲しい子供欲しい――」

イナバ『姐さん、落ち着いてくだせぇ!?』

願望が天元突破したが如しのユエ、それを慌てて介抱しようとするイナバ。

……吸血鬼に変人が多いっていうの、あながち間違っていないかもしれないな……。

 

レミア「あらあら……そう言えば皆さん。今日の冒険はどうでした?」

おぉ、流石は一時の母。これが幾つもの争いを止めたという"ゆるふわスマイル"か!

これには頭が上がらないな……母は強し、魔王以上に。

 

ミュウ「みゅう~、なんにもなかったの。」

ワイルドに串の魚肉を食い千切ったミュウは、いかにもがっかりした様子を見せる。

連日、ミュウ率いるユエ達冒険者パーティは、エリセン近海で冒険ごっこをしているのだが、今日も今日とて成果はなかったらしい。

 

ユエ「……ん。"エリセン建設時の隠し資金"は見つからなかった。」

ティオ「小さな洞窟は、幾つも見つけたんじゃがなぁ。」

香織「海底洞窟とか鍾乳洞とかは幻想的で良かったんだけどね。」

シア「これで"エリセン七大伝説"は六つ目まで空振りですね~。」

 

"エリセン七大伝説"とは!所謂《いわゆる》、地方の都市伝説だ。

今回の隠し資金の他にも、そういった都市伝説が幾つかあるのだ。

トシ「"幸福もたらす人面魚"は、絶対リーさんのことだよなぁ。」

メイル『お姉さんならワンチャン、"海賊王の遺産"あったと思うのだけどねぇ~。』

ナイズ『海底都市も恐らくはアンディカのことなのだろうが……もう数千年前程だからな。』

オスカー『海の亡霊に関しては、僕等も人のこと言えないからねぇ。実質、幽霊みたいな感じだし。』

ミレディ「ゴーストシップも見つからなかったよね。ミレディさん、悔しいなぁ……。」

 

まぁ、あくまで伝説。本職でも何も見つけていないんだ、空振りするのは当然だ。

ミュウ「みゅう~現実はいつだって非情なの。」

……今度からミュウの前では標準語だけを使っていこう、そう思う俺であった。

 

ハジメ「そんなに気を落とさないでよ、ミュウ。まだ後一つ、最後に残っているんでしょ?」

ミュウ「みゅ。"輝く海の意思"が残ってるの。」

"輝く海の意思"、いつ誰が言い始めたのかも、どこから伝わったのかもわからない、最古にして最も内容がはっきりしない海の伝説、らしい。

 

何でも、光の海が現れるらしい。

時間も場所も不明で、水平線の彼方まで光に溢れ、そこには"何か"がいて、その"何か"に遭遇したものの願いが叶うらしい、とのことだ。

如何にもロマンチックな光景だろう、出来る事なら写真も撮りたいが……見つかるといいなぁ。

 

ハジメ「午前中は一緒に行ってあげられなかったけど、午後からは大丈夫だよ。

折角の冒険だし、今回は思い切って夜の海にお泊りで行こうか!」

ミュウ「みゅ!お泊りで冒険!行きたいの!」

一瞬、何かを我慢するみたいに眉をキュッと寄せつつも、直ぐに満面の笑みを浮かべて賛同するミュウ。

レミアが愛おしそうに目を細めてミュウの頭を撫でる。

 

ハジメ「良ければ、レミアもどう?偶には家族サービスで、旅行にも連れて行ってあげたいんだけど……。」

レミア「勿論、是非お願いします。うふふ、家族旅行ですね、あなた?」

ハジメ「そうだね、初めての家族旅行!なんてね。」

レミア「あらあら、うふふ。」

俺が笑みを返すと、レミアもうふふスマイルで返す。さてと、護身用アーティファクトも出しておくか。

 

その夜。どよりと黒い雲が、無数に千切られた綿菓子のように浮かぶ夜空の下、俺達は緩やかに進んでいた。

今回の「ビリオンスターズ号MarkⅡ」には、自己修復機能や再生魔法付きシャワーが付いているので、以前よりも快適な航海を続けることが可能だ。

 

ハジメ「う~ん、何だろうな?」

ユエ「ハジメ?」

トングを片手に肉奉行しながら、ふと思った疑問を浮かべる俺に、ユエが聞いてくる。

 

ハジメ「いやなに、今回の冒険は飛空艇の試運転でも兼ねようかなと思ったんだけどね。

なんか……この先は潜水艇じゃないとダメな予感がして……。」

トシ「まぁた嫌~な予感か。流石にこれ以上の面倒は勘弁してくれよ?」

ハジメ「わぁ~ってらぁ。まぁ、雲海の旅は帰りにやるとするか。」

そんなことを呟いていると、飛空艇に関心を持ったのか、ミュウが聞いてきた。

 

ミュウ「パパ、"ひくうてい"ってなぁに?」

ハジメ「空を飛ぶ乗り物だよ。それにたっくさんの人や物が運べるんだ。」

ミュウ「町の人達みたいにお空を飛ぶの!?」

ハジメ「ミュウ、アレは飛んだんじゃあない。飛ばされたの間違いだよ。」

ティオ「綺麗な放物線を描いておったのぅ。」

俺がミュウの言葉に訂正をすると、ティオがしみじみと思い出した。

 

出発の際、家族旅行だとはしゃぐミュウに、微笑ましそうに次々と声をかける町の人々、ミュウのお友達、レミアのママ友達……そこまでは良かったんだけどねぇ。

俺への嫉妬に狂い、出発を阻止しようと襲い掛かってきた奴等がいたのだ。

しかも全員俺が懲らしめた筈の、密かにレミアを狙っていたハイエナ共だ。

 

ただでさえこっちは数少ない時間を家族サービスに割いているのに……

二人との思い出に水を差すとはなぁ……あまりに不遜だったので、今回は情けも容赦も遠慮も捨てた。

筆頭だった町長(王国貴族の人間の中年)や幹部勢は、全員ボコボコにして野晒しの刑にした。

特別に下げてあげた看板には、レミアとミュウに文字を書いてもらった。

 

『このおじさんたちはダメなひとたちなの!――ミュウ』

『ごめんなさい――レミア』

文章に関してはミュウのは俺がほぼ考えたが……レミアのは申し訳なさがあった。

まぁ、堂々とハイエナ行為するような奴とはいえ、家族同然に心配してもらっていたからなぁ……。

 

が、他の奴等にはメイルが担当、レミアの体を借りたせいか、鞭のキレが凄かった。

メイル「人の妹達に、汚い手で触るんじゃないわよ!この〈ピー〉共!!!」

……中身メイルだけど、レミアの見た目でそんなこと言われたらどうなるかなんて決まっている。

当然の如く、全員心がめちゃくちゃにへし折られて逝った。数人かは何かに目覚めたみたいだが……。

 

まぁ、一番のトドメはレミアの本心からの一言だろうな。

レミア「私は、ハジメさんのことを心から愛しています。あの人は私の全てを受け止めてくれました。

悲しみも怒りも恐怖も弱さも、全部優しくて暖かい気持ちで包み込んでくれたんです。

それだけじゃない、あの人は私のことを"強いお母さん"だと言ってくれました。

ミュウが今日まで笑っていられたのは、私のおかげなんだって、背中を押してくれたんです。

皆さんには今まで感謝しています。だから……

ハジメさんを、私の旦那様を悪く言わないでください。

どうか、笑顔で見送ってください。」

 

この一言でほとんどの奴等がノックアウトされたが、逆上した奴もいたので重力魔法で押さえつけた。

するとレミアが愚者の一人に近づき、往復ビンタをかましていった。それも襲おうとした奴等全員。

冷徹な目でビンタされたせいか、全員真っ白通り越して灰になりかけていやがった。

愚者共を連行しようとしていたサルゼさんが、思わず引き気味になっていたそうな。

 

この日からレミアを怒らせてはいけないというルールが、エリセンに追加されたらしい。

俺も正直ちょっと怖いと感じたが、お仕置きが終わって戻ってきたレミアが抱き着いてきた。

そして上目遣いの涙目で「怖かったです…。」と言ってきたので、「じゃあ仕方がないな。」と納得することにした。

てか、身内にしかこんな可愛い姿見せないとか、ズル過ぎんだろ。まぁ、可愛いから許すけどね!

だって俺、旦那さんだし!嫁のうっかりは笑って誤魔化すのが出来る夫の秘訣だからね!

 

とまぁ、そんな訳で男共はあっという間に懲らしめられていった。

今回はミュウにも「ダメなひとたちなの。」と真顔で言われたせいか、ゾンビみたいに去っていったなぁ……。

これでもう二度とこなきゃいいんだけどねぇ……懲りないならぶちのめすまでだし。

 

香織「レミアさんとミュウちゃんって、なんていうか街の人達から愛されてるよね……。」

シア「ハジメさんへの嫉妬の念が渦巻いていましたからねぇ……。

レミアさん、私と同じ亜人ですのに、人間族の殿方からもモテモテでしたし。」

ユエ「……ん。レミアは魔性の女。」

レミア「あ、あの、ユエさん?その言葉は少し語弊が……

お仕事柄、色々な人と接する機会が多いだけで……。」

 

まぁ、レミアは人間族と海人族にとっての緩衝材みたいなものだったしなぁ……。

でもレミアはあくまで平社員、もっと言えばパート位の立場なんだからさぁ……

あんまり負担増やすなって。まぁ、家族内紛争に関しては俺も文句は言えないが。

 

ハジメ「"一家に一人レミアちゃん"かぁ……まぁ、俺の奥さんだから他にはやらんが。」

レミア「ハ、ハジメさん。それは、その、恥ずかしいので言わないでください……。」

頬を染めつつも困った表情になるレミア。お前、一体幾つの可愛いの引き出しを隠し持っているんだ?

 

ミュウ「パパ、パパ。あと、"鉄壁のレミアちゃん"もあるの!」

レミア「ミュウ!?」

ハジメ「そういうミュウも"鉄壁のミュウちゃん"で、二人合わせて"鉄壁母娘"って呼ばれているじゃん。」

ミュウ「みゅ!?」

娘からの追撃を喰らうレミアと、俺からの追撃を喰らうミュウ。

あだ名に関してはまぁ、相手のアプローチの仕方が十中八九欲望駄々洩れだったからだと思う。

 

そんなこんなで、和やかに進む食事兼探索開始から数時間。そろそろ深夜に差し掛かる頃合いだ。

途中で何度か転移もしたし、【メルジーネ海底遺跡】は通り過ぎちゃったし、そこから北西へ100kmは行ったと思う。

大海原のど真ん中にて甲板で適当にくつろいで探索するものの……不可思議な現象は見当たらず。

その上、満腹感に心地いい揺れ、ゆるりとした涼風に穏やかな時間。ミュウの瞼が重くなっていった。

 

ハジメ「……ミュウ、そろそろ――「やっ、なの。」……。」

「絶対に最後の伝説を見つけたい」という一心で起きているようだが、体は既に睡眠を催促している様だ。

レミア「ミュウ?」

ミュウ「やっ。」

ハァ……こいつは困ったなぁ。絶対に寝たがらないなこれは。無理に寝かせたら絶対嫌われるし……。

かと言ってなぁ、幼いころから寝不足気味なのは親として心配だし……ホントどうしようか。

 

ハジメ「ミュウ、どうしてもダメなの?ダメならダメで、何がダメか教えてくれないか?」

ミュウ「……眠ったら、朝が来ちゃうの。」

ハジメ「……。」

ミュウ「最後の冒険、直ぐに終わっちゃうの。」

……そういうことか。

甲板の上で膝を抱え、月明かりだけの暗い海をじっと見つめ続けるミュウ。

その横顔に浮かんでいたのは、冒険のわくわくではなく、何かを繫ぎ止めようとする必死さだった。

 

ハジメ「ミュウ……。」

俺はミュウの柔らかなエメラルドグリーンの髪を優しく撫でた。

そしてレミアにちらりと目を向けると、「お任せします。」と微笑み返してきた。

ユエ達も悩んでいるからなぁ……今ここで、俺が言うしかないか。

 

ハジメ「ミュウ。」

ミュウは、ビクッと震えた。声音から何かを察したのか、恐る恐るといった様子で俺を見上げる。

同時に、拒否するかのように瞳を潤ませ始めた。……本当に聡いな、ミュウ。

俺はミュウを抱っこして膝の上に乗せ、遥か海へ視線を向けた。

 

ハジメ「綺麗だよね……。」

ミュウ「みゅ?」

ハジメ「ほら、月明かりが反射して、雲も海もキラキラだよ?」

ミュウ「……綺麗なの。」

中央に昇った月が、少し疎らになった雲を幻想的に照らし、或いは雲の隙間から月光の梯子を下ろして大海原を彩っている。

 

ハジメ「こんな綺麗な海、見たことがない。」

ミュウ「そうなの?」

意外そうな表情で俺を見上げるミュウ。

海で生まれ育ったミュウからすれば、見慣れた光景なのかもしれない。

でも俺達異世界人の世界、地球じゃ海関連の仕事をしている人位だろう。

それこそ、ただの高校生だった頃の俺であれば、滅多にお目にはかかれない筈だ。

 

ハジメ「ミュウのおかげだね。」

ミュウ「ミュウの?」

ハジメ「あぁ。ミュウが冒険に誘ってくれたから、こんなに綺麗な光景を見ることが出来たんだよ。」

ミュウ「……えへへ。」

もじもじと照れるミュウ。可愛い。

 

ハジメ「だから約束する。パパのやるべきこと全部終わったら、また一緒に見に行こう。」

ミュウ「……。」

再び、ミュウの表情は硬くなった。

嬉しい言葉の筈なのに、その聡明さが、言葉に含まれた意味を察してしまうから。

 

ミュウの言葉を、俺は少し待った。

「行かないで。」あるいは「連れて行って。」というミュウの気持ちを、しっかり受け止めてあげたくて。

受け止めた上で、言葉を返してあげたくて。

 

しかし、ミュウは何も言わなかった。

ただ、口元をぎゅっと引き結んで、目元に溜まった涙すら流さずに堪えている。

静かで、胸が締め付けられるような切ない時間が流れた。

俺は大きく息を吐き、己の気持ちを整理すると、その言葉を口に――しようとした、その瞬間。

 

ハジメ「――ッ!?今のは!?」

突如、謎の光景が頭に映ったかと思えば、何かの強大な気配を感じた。

その気配は皆も感じていたようで、全員が一瞬硬直する。

シア「ハジメさん!空が!」

 

シアの声に視線を上げれば、空が急速に閉じていく。否、そう錯覚する程に、急速に雲が溢れ出した。

月が吞み込まれていくように消えていく。

ハジメ「ミュウ、レミア、俺達の傍を離れないで。何かはわからないけど、何かが来る!」

二人は不安に瞳を揺らしつつも、しっかり頷いて俺の傍に近づいた。

 

香織「霧が凄い勢いで……これ、自然の物じゃないよね?」

ミレディ「ミレディさん達もこんな現象、初めてだよ。

でも自然現象じゃないってことは確かなんじゃないかな?」

ユエ「……ハジメの勘は?」

ハジメ「意図的なもの、の筈なんだけどねェ……。」

イナバ『どうかしたんですかい?』

 

ハジメ「なんか、潜水艇か飛空艇かで迷っていた時の感覚に、似ている気がするんだ。」

トシ「じゃあこの現象の原因も、悪い予感が関係しているってことか?」

ハジメ「今のところ、断定も否定も出来ないけどね。」

「ビリオンスターズ号」が濃霧に包まれた。

甲板上ですら、端と端では互いの姿が確認出来ないだろう深い霧だ。まるで【ハルツィナ樹海】の様だ。

 

全員でレミアとミュウを守るように円陣を組む。

シア「伝説のお出ましです?」

ハジメ「絶対違うと思う。輝いているように見えないもん。」

ティオ「ご主人様よ、見よ。来るぞ。」

ティオの目線の先に注目すると、"それ"は姿を見せた。

 

ハジメ「なんじゃこりゃあ!?」

濃霧の向こう側を横切っていく巨大な影。シルエットから判断するに体長は30m以上だろう。

にも関わらず、波音一つどころか、風も濃霧の乱れも無く、まるで"何もいない"ような感覚だ。

閉ざされた世界はただ静謐で、自分達の息遣いだけがいやに響いている。

 

香織「クジ、ラ?」

香織が掠れる声で呟いた。確かにそのシルエットには、見覚えのある尾びれのような部分がある。

静謐であっても、放たれる気配の強大さは確かであり、皆慄然とせずにはいられなかった。

まさかコイツがあの時の……考えすぎか。そう思ったその時、「ビリオンスターズ号」が激しく揺れた。

 

シア「ッ、ハジメさん!?着水させました!?流されてますよ!」

ハジメ「いや、どちらかというと引きずり込まれているみたい。」

轟ッと、遂に静寂が破られた。

穏やかだった海が突如牙を剝き、恐ろしいほど急速かつ強力な海流が発生する。

更に正体不明の"何か"に合わせて霧が竜巻の如く渦を巻き始める。

 

ハジメ「くっ!」

ミュウ「パ、パパ!ダメなの!」

ハジメ「!?」

迎撃しようと思ったその時、ミュウが抱き着くようにして制止した。

 

ハジメ「ミュウ、何かわかるの!?」

ミュウ「みゅ……えっと、上手く言えないけど……悪い子じゃないの!」

ハジメ「!そんな気がする、ってことか……。」

正体を知っている訳ではないが、ミュウはその"何か"から敵意を感じなかったようだ。

幼子の勘には、大人に見抜けない何かを感じ取る性質があると聞いたことがある。恐らくミュウもそれだ。

 

そうしている間にも、事態は加速度的に変化していく。

気が付いた時には濃霧が巨大な渦巻く壁を形成していて、まるで台風の目の中にいるような状況になっていた。

ただし、直上に空は見えず濃霧の天蓋で覆われていて、海水は巻き上げられるどころか逆に巨大クレーターを彷彿とさせる大渦を発生させている。

 

ティオ「海底に引き込む気かのぅ。」

ユエ「……変な感覚だけど、海と濃霧全体から魔力を感じる。」

シア「ハジメさん。一応、死ぬような未来は視えませんでしたよ!」

トシ「悪意とかそういった物とかは感じないな……。」

イナバ『あのクジラ擬き、なんか言ってるような気がしやす。』

ふぅむ、取り敢えずここはミュウの判断を仰ごうか。

 

ハジメ「ミュウ、あの子はなんて?」

ミュウ「助けてって言ってるの!」

?それって「――ォォオオオオオオオンッ」!?

突如、"何か"が吠えた。

それも獣の威嚇のような唸り声ではなく、もっと澄んだ管楽器の奏でる音色のような鳴き声で、だ。

 

同時に、俺達の体に光が纏わりつき、意識が一瞬で霞む。

ハジメ「取り敢えず皆、逸れない様しっかり掴まって!」

俺の号令で、ミュウとレミアを中心に全員が抱き合うように固まった直後、「ビリオンスターズ号」諸共、俺達の意識は海底へと沈んでいった。




ハジメ
「ここまで読んでいただき、ありがとうございます!今回は並行世界からお送りしまーす!」
Bハジメ
「いや、お前本当に俺か?どう見てもただの陽キャにしか見えないんだが……。」
ハジメ
「眼帯に義手付けたアンタに言われても「それは言うなッ!」必死過ぎるわ。」
Bハジメ
「てか何でそっちは自分から魔王名乗ってんだよ。絶対めんどくさくなるぞ。」
ハジメ
「なりたいと思ったから。」
Bハジメ
「ぶれないな……そっちのミュウが心配だな。」
ハジメ
「ほぅ?ならこっちは、ユエ第一主義に加えてティオの変態化について説教してもいいかな?」
Bハジメ
「……さぁて、次回予告だったな。」

ハジメ
「次回はミュウとレミアがまた離れ離れに……怪生物共マジ殺すべし。」
Bハジメ
「そう思うなら、これ(膝の上にある重り)外したりとかは「ダメ。」……デスヨネー。」
ハジメ
「全く……せめてシアと香織にはかまってあげなさい。後、いきなりのケツパイルは二度とやるな。
いいな?」
Bハジメ
「……ハイ、ハンセイシテイマス。」
ハジメ
「それと……雫に愛子、リリィのこともしっかり見るように!いいね?」
Bハジメ
「分かった分かったから!ったく、お前は近所のおばちゃんか!?」
ハジメ
「フッ、俺がどれだけ商店街でご婦人方のおもちゃにされたことか……お前にわかるか?」
Bハジメ
「……ドンマイ。それじゃ、また次回。」

リースティアさん、誤字報告ありがとうございました!


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63.遭遇!クジラと並行世界!

ハジメ
「お待たせいたしました。さて今回も……ってユエ。さっきから俺の血を吸うのをやめなさい。
毒抜いて飲めるようにしたからって飲み過ぎないの。」
Bユエ
「……んっ、あっちのハジメも、美味。」
ハジメ
「俺は高級食材か何かか!?まぁいい、先ずは前回のあらすじから……」
Bユエ
「クジラに巻き込まれた、以上。では、いただきます。」
ハジメ
「ちょおぉ―!?早い、早すぎる!てか何で押し倒そうとしてんの、この人!?」
Bユエ
「……ハジメのハジメは、私のもの!」
ハジメ
「オイ―!?向こうの俺、貞操観念しっかりしろォォォ!」
Bユエ
「むぅ……中々しぶとい。そんな中での第5章第16話。」
ハジメ・Bユエ
「「それでは、どうぞ!」」


レミア「ぅ、う、ここは……?」

頭をふるふると振って、レミアは目を覚ました。

何が起きたのかさっぱり分からず呆然とするが、それも一瞬のこと。

意識を失う前、確かに抱きしめた筈の娘の温もりが無いことに気が付くや否や、血の気の引く音を自覚する余裕もなく跳ね起きた。

 

レミア「ミュウ!ミュウどこなの!?返事をして!ママはここよ!」

レミアの絶叫の様な呼び掛けが木霊する。

だが、愛しい娘の声は……返ってこない。周囲を見回すも、ハジメ達の姿すらない。

猛烈な不安が込み上げた。

まるで心の奥底に氷塊を投げ込まれたようで、手足の先から凍えていくような気さえする。

二度と、もう二度と離れないと、そう誓った娘が傍にいない。

それは、レミアにとって決して許容できないこと。

娘がまた辛い目にあっているのではと思うと、胸が張り裂けそうになる。

 

レミア「……大丈夫。大丈夫よ。ハジメさん達もいるわ。だから大丈夫。」

しっかりしなさいっと、己を叱咤する。焦燥と悲観に囚われかけたレミアの瞳が、光を取り戻す。

一度、深呼吸をすれば幾分か落ち着きも取り戻す。

今度はゆっくりと周囲を見回す。視界に映るのは、ひび割れた石畳の道と半ば崩れた建物のみ。

どうやら、どこぞの町の裏路地辺りにでも放り出されたようだ。

とにかくミュウを捜さなければと、レミアは裏路地から抜け出した。

 

出てきたのは、どうやらメインストリートらしい。

幅20mはあり、見たこともないような大きな建物が並んでいる。

真っすぐ延びた道の一方は果てしなく、地平線が見えるほど。

逆方面の先には、目測で3km位の位置に巨大な城と天を衝くような円柱形の塔が見えた。

凄まじい跳躍力も、空を飛ぶ術も持たないレミアに、この場所の全体像を把握することは難しかったが、それでも、見えている範囲だけで、相当な技術力を有する巨大都市だった(・・・)ことが分かる。

 

そう、過去形だ。この都市、どこもかしこも見るに無惨に荒れ果て、酷く朽ちているのである。

周囲の建物も、どう見ても廃墟ばかり。人の気配も、まるでなし。

それどころか、上を見上げれば稲光が走る暗雲が広がっていて世紀末を彷彿とさせる荒れ具合。

都全体も黒い霧のようなものでうっすらと覆われていて、空気そのものが澱んでいるかのよう。

酷く不気味で、まるで人がいてはいけない領域に、踏み込んでしまったかのようにも感じる。

 

レミア「ここは、どこなのかしら……?」

海底に引き込まれた筈なのにと、わざと疑問を口に出して、纏わりついてくるような不気味さを誤魔化す。

キッと、誰もいない都を睨むようにしてレミアは走り出した。

レミア「ミュウ!ママよ!どこにいるの!返事をして!」

何度も何度も呼びかけながら、周囲に視線を巡らせる。

荒れ果てた道には瓦礫や亀裂が無数にあって、しっかりとした靴を履く習慣のない海人族にとっては非常に危険な道のりだ。

まして、娘を捜して足下などちっとも気にしていない今のレミアにとっては。案の定、

 

レミア「――ッ!」

防御力皆無のサンダルは、尖った瓦礫の角にぶつかった瞬間、早々に限界を迎えて紐を引き千切られてしまった。

レミアのほっそりとした素足に、一筋の血が流れる。

最早、つま先に引っかかっているだけの足枷となってしまったサンダルを、レミアは躊躇いなく脱ぎ捨てた。

 

そのまま構うことなく、裸足で娘を探し続ける。

あっという間に傷だらけになっていくが、足は一瞬も止まらない。

ただただ、必死に、世界で一番大切な存在を探し続けて声を張り上げた。

だが、娘を求める母の呼び声は……

 

レミア「え?……どちら様、でしょうか?」

別の、何か良からぬ者を呼び寄せてしまったらしい。いつの間にか、レミアの前方にいた。

否、人らしき"何か"だ。

一見すると黒いローブを頭からすっぽりと被った人に見えるが、顔の部分が不自然に暗く、口元すら全く見えない。

 

そのローブに見えるものも普通ではない。まるで流体だ。

敢えて言うなら黒々としたタールが纏わり付いている……という感じだが、なんとも表現し難い。

何より、レミアの本能がけたたましい程に警鐘を鳴らしていた。

あれはいけない。あれとは決して相容れない。今すぐ!全力で逃げろ!と。

 

けれど、この誰もいないゴーストタウンで初めて遭遇した存在であるが故に、"その可能性"が足を止めさせてしまう。

そう、"娘のことを知っているのではないか"という可能性が。

娘を思う母の強さが、本能をねじ伏せてしまった結果は……

 

レミア「あ、あの……小さな女の子を――」

見なかったでしょうか?と尋ねきる前に、おぞましい黒ローブにさざ波が走った。

かと思えば次の瞬間、うねりながら立ち上り、凝縮され、形を成した。禍々しい巨大な鎌の形に。

ずるりっと、黒ローブが迫る。その姿は、まるで伝承にある死神のよう。

レミアは顔面蒼白となって後退り、瓦礫に躓いて尻餅をついた。

人の生存本能を塗り潰すような殺意に覆われて、悲鳴すら上げられない。視線も逸らせない。

 

けれど、心の中でだけは、

――ミュウを捜さないとっ。母親でしょう!しっかりして!立ち上がって!

何度も何度も自分を叱咤する。生まれてこの方経験したことのない圧倒的な殺意を向けられて、体は凍り付いたみたいに言うことを聞かなくても諦めはしない。

諦められるわけがないのだ。だから、震えながらも、レミアは振りかぶられた大鎌()を前に、戦いを挑むようにキッと睨みを返した、その時。

 

 

 

―――おい

 

 

 

 

突如、目の前にあった死すら霞むような濃厚な殺気が死神にぶつけられ、その動きを止めたかと思えば、そのまま地面のシミへと変えてしまった。

「え?」と、金縛りが解けたみたいに間抜けな声を出すレミア。

その視界には、その流体を晒すかのように、黒いタールを地面にぶちまけた死神の姿が。

と同時に、同じ黒なのに温かさを感じる背中も見えた。最も、当の本人は――

 

 

 

――なに他人の女に、許可なく触れようとしてやがる。

 

 

 

めっちゃキレていた。それはもう、大火山でミュウが巻き込まれそうになった時並みに。

その濃厚すぎる殺気により、周りに潜んでいた死神擬き総勢30体が、一気にその体を融解させ始めた。

まるで、地獄の炎で裁かれる罪人の様に。それでも何匹かは何とか反撃しようと試みるが……

―――ァ「喧しい。」

悲鳴すらも上げさせる間も与えられない。それすらも贅沢だと思う位、ハジメさんはガチおこだった。

尚、レミアには簡易結界が張られているおかげか、その脅威は及ばなかった。

そしてハジメの蹂躙開始から少し、その異形達は完全に消滅、及び全滅した。

 

ハジメ「……全く、本当に不愉快な奴等だ。」

そう不機嫌そうに呟き、一旦変身を解くハジメ。そうしてレミアに振り返る。

ハジメ「大丈夫?レミアがケガしないようにしたんだけど……ちょっとやりすぎちゃったかな?」

ハジメは心配そうにレミアの顔を覗き込む。

そこには先程までの非情さはなく、いつもの優しい青年の顔があった。

 

レミア「え、あ、はい!おかげさまで。ちょっとびっくりしちゃいましたけど……。

助けていただきありがとうございます。」

ハジメ「夫だからね。まぁ、無事で何よりだよ。それにしても、ミュウの勇気はレミア譲りみたいだね。」

安堵したハジメは、レミアの足に再生魔法をかけ、元通りの状態にした。

 

レミア「いえ、さっきだってハジメさんが来てくれなかったらどうなっていたことか……。」

ハジメ「いいや、レミアが勇気を振り絞って、諦めなかったからだよ。

だからそんなに、自分を卑下しないでよ。俺だって奥さんには笑顔でいてほしいし……。」

そう言って頬を膨れさせるハジメに、思わず吹き出してしまうレミア。

 

ハジメ「再会できたところで悪いんだけど……ミュウはまだ見つかっていない。レミアが最初みたい。」

レミア「え?あ……そうですか。」

ミュウを捜していたと気づいていたようで、返答を聞いたレミアは表情に影を落とす。

ハジメ「この都市は相当にデカいみたい。さっき、空の上からも確認したけど、端が見えなかったよ。」

ハジメ曰く、高度からの計算した見通し距離からすると、最低でも30kmほどあるらしい。

 

ハジメ「多分、あの城がこの廃都の中心だと思う。

城を起点に東西南北に広い直線道路がずっと先まで延びているし。取り敢えず、あの廃城に向かおう。」

廃都を中心にした巨大な十字路。

そのメインストリートのどれかに出れば、ある程度距離があっても中心地が見える。

ならば必然、逸れた他の面々もそこを目指す筈だ、という判断だ。

 

尚、ハジメとレミアがいるこのあたり一帯は、"廃城の北側"になるらしく、必然、この大通りは"北のメインストリート"ということになるようだ。

というのも、レミアと合流するまでの間にハジメが発見した標識らしきものに、酷く掠れてはいたがそう書いてあったのだ。

"言語理解"がこんなところでも役立つなんてな、と思ったハジメであった。

 

ハジメ「後、でっかい壁が伸びていたからね。色々破壊して進もうと思う。」

レミア「は、破壊しながら、ですか?」

ハジメ「一応、さっきのも俺の位置を知らせるためでもあったけど……まぁ、念には念を、ね?」

そう、南北を分断するように、廃城を中心に東西へ巨大な壁が伸びていたのだ。

まるで万里の長城を、高さ200m程にスケールアップしたかのような巨壁が。

 

巨壁の目的は不明だが、遠目に見た限り南側には北側ほどの大きな建物が無いことは確認している。

用途の違いか、南が平民街又はスラムなのか……

兎にも角にも、その巨壁によって声が阻まれる可能性は十分ある。

最も、前回の大迷宮で危うく逸れそうになったこともあってか、ハジメさんもその辺の対策はしている。

 

ハジメ「そう言えばレミア、出発前にあげた"宝物庫"、持っているよね?」

レミア「は、はい。これがどうしたのですか?」

ハジメ「その中には、逸れた時用にアーティファクトを幾つか忍ばせているんだよ。

例えば、ほら。前に見せた……」

レミア「あぁ!あの時の。」

 

そう、実はミュウへのプレゼントとして、プラモンスターやカンドロイド等の各種小型端末をお披露目したのだ。

それをハジメさんは各々に渡した宝物庫に配備しており、これで幾らか索敵範囲や目印を絞れるという訳だ。

 

レミア「ですが、さっきのような"何かに"襲われませんか?」

ハジメ「大丈夫!全力全壊で血祭りにあげるから!」

レミア「……それもそうですね。」

あんまりにも軽い殺戮宣言に、レミアは考えるのをやめた。だって、夫が自分や娘のために必至だもの!

 

ハジメ「……そう言えば、レミア裸足だったね。サンダル、壊れちゃった?」

レミア「走るのに邪魔になったので……。」

ハジメ「今度から、しっかりとした靴も必要だね。取り敢えずっと。」

そういうとハジメは、"宝物庫"から椅子を取り出し、レミアをそっと座らせると、片膝立ちになり、レミアの足を優しく労るように手に取り、取り出したショートブーツをそっと優しく履かせる。

 

レミア「ミュウは……大丈夫ですよね?」

ハジメ「大丈夫に決まっている。だってレミアの子で、俺の娘だから!

それに、あの子には誰よりも強い母親から貰った、強い心がある。」

レミアの問いに即答するハジメ。その答えを聞いたからか、少し不安が和らぐレミア。と、その時。

 

〈ピィー!ピィー!〉

廃城方面から飛んできたタカカンドロイドが、ハジメ達を見つけると鳴き声を上げたのだ。

その羽には、ハジメとユエの顔に相合傘が書いてあった。十中八九ユエのものだろう。

ハジメ「おっ!あの目印はユエのか!もしかしたらミュウも一緒かもしれない!行こう、レミア!」

レミア「は、はい!」

レミアを即座に抱きかかえ、ハジメはその場所へと向かったのであった。

 


 

一方その頃、当のミュウはというと……

ミュウ「んみゅ……。」

とある裏路地の片隅で、大きな瓦礫の影に隠れるようにして小さくなっていた。

周囲には誰もおらず、一人ぼっち。

ゴーストタウンはひたすら不気味で、そこかしこから嫌な気配が漂ってくる。

幼子が突然こんな状況に放り込まれれば、怯えて動けなくなるのも当然で――

 

ミュウ「早くママを助けに行かないと。」

――はなかったようだ。ミュウは、そっと瓦礫から顔を覗かせた。周囲をきょろきょろ。

先程まで感じていた"嫌な気配"は薄れ、何かが潜んでいる気配もない。

深呼吸を一つ。ぐっと足に力を込めて立ち上がる。怯えていないわけではない。

その証拠に、ミュウの体は少し震えている。瞳にも、隠しようのない不安が広がっていた。

 

けれど、それでも、ミュウは一歩を踏み出した。ハジメが信じた通りの、強い心で前へと進む。

思い浮かべるのは、敬愛するパパの後ろ姿。その横で一緒に戦う仲間の人達。

そして、強く、優しく、格好いい、お姉ちゃん達に、大好きでずっと会いたかったママの顔だ。

短くも濃厚な旅で学んだものを総動員して、一歩一歩着実に。

 

そうして、裏路地の先に広い通り――恐らくメインストリートを発見した。

と言っても、巨大な瓦礫が幾つもあって、まるで岩石地帯みたいな状態だったが。

ミュウ「あれは……お城、なの?」

そのメインストリートの先に、かなりの距離で判然としないが、城らしき大きな建物と巨大な塔、そして真横に伸びる巨大な壁が見えた。

 

周囲の建物は軒並み崩壊してい(・・・・・・・・・・・・・・)て高層の建物はほとんどなく(・・・・・・・・・・・・・)、2~4階建てくらいのものばかり。

【中立商業都市フューレン】を知るミュウであるから、何となく、周囲の瓦礫の量から、本来の何倍も大きかったに違いないと想像できる。

 

ミュウ「……ママは、きっとミュウを捜してるの。」

誰ともなしに呟く。混乱しそうになる頭を必死に整理する。

ミュウ「探しても見つからなかったら……あのお城に行く?」

この廃都で一番の目印だ。城へ向かう可能性は確かにある。

 

ミュウ「パパたちは、絶対に行くの。」

確信にも似た推測。難しい言葉は分からずとも、ハジメ達の行動が、合理的であることを、ミュウは知っている。

ミュウ「近くまで行けば……タカカンドロイド(鳥さん)プテラカンドロイド(翼竜さん)が、きっとミュウを見つけてくれる。

そしたら、パパ達と一緒にママも捜せる。もしかしたら、もうママを見つけてくれてるかも?

嫌な感じはなんとなく分かるの。ゆっくり、少しずつなら……。」

 

うん!なんかいける気がするの!と、小さな両手をギュッと握りしめて「ふんすっ!」と鼻息荒く方針決定。

しんっとした薄暗い通りを前にすると、自然、足は竦むが、やっぱりパパ達を思い出して無理やりでもテンションを上げて、

ミュウ「大丈夫なの!パパ達も言ってたの!諦めたらそこで冒険終了だって!出来る出来る!

ミュウなら出来るの!」

 

言葉の意味はあんまり分かっていないけど!なんだか心に響くから口にする!パパの言葉で自分を鼓舞する!

ミュウ!最高最善の魔王の娘!いっきま~~~すっ!と出発する!

――こちらだ。

ミュウ「ひょふわぁ!?」

 

勇気を振り絞って裏路地から出ようとした瞬間、出鼻を挫くように響いた声に、ミュウは奇怪な絶叫を上げた。

慌てて両手で口を押さえ、転がるようにして瓦礫の影へ。心臓がばっくんばっくんと大暴れしている。

涙目になっちゃう。幼女だもの。

 

――こちらだ。海の幼子よ。

びっくんっと震えるミュウ。今度は根性で悲鳴を飲み込む。まるで、頭の中に直接響くような声音だ。

きょろきょろと周囲を見やるが、声の主がいる様子はない。

 

ミュウ「ど、どちら様ですか?」

ママの教育が生きる。

ミュウの丁寧な呼び掛けに、しかし、謎の声の主はただ「こちらだ。」と繰り返すのみ。

 

実に怪しい。だが、少し落ち着いて聞いてみると、何となくミュウはその声の雰囲気に既視感を覚えた。

ミュウ「……もしかして、あの"影"さんなの?」

恐らく自分達をここに連れてきたであろう、あの濃霧の向こうにいた巨大な"影"。

凄まじい存在感に反して、何故か、ミュウは危機感も覚えなかった。

寧ろ、まるで包み込まれるような安心感さえ覚えた。そう、まるで、海の中で泳いでいるときのように。

 

――急ぐのだ。海の幼子よ。危険が迫っている。

動かないミュウに業を煮やしたのか、言葉が少し具体的になった。それで、ミュウの決心も付いたらしい。

ミュウ「こっち、なの?」

何となく、導かれている方向が分かる。

 

――汝が同胞のもとへ。強き海の子の元へ。

ママのこと?と口に出すが返答はない。ミュウはグッと口元を引き締め歩き出した。

荒れた場所をひょこひょこと。踏む場所をしっかり確認しつつ、なるべく音を立てないように。

あちらだこちらだと誘導される不思議な感覚に従いながら、時折、危機の知らせに素早く従って息を潜め、よからぬ存在をやり過ごす。

 

心は落ち着いている。程よい緊張が、寧ろ頭と体の動きを冴えさせている気さえする。

薄暗く汚らしい場所を進むのは既に経験済みだからというのもあるだろう。

あの地下牢に囚われていた時に比べれば、道案内あり、救助の当てもあり、下水に飛び込む必要もないこの状況などずっとマシだ。

 

ミュウ「早くママを見つけてあげないと!」

何より、使命もある。自分と同じ戦う術を持たぬ母。

無茶をして、また怪我でもしていたらと思うと、居ても立っても居られない。

――すまない。

不意に、そんな謝罪の言葉が響いた。ミュウは思い出す。あの"影"が、切実に助けを求めていたことを。

 

ミュウ「影さん影さん。お名前は何ですか?何をしてほしいの?」

そう言えば名前も知らないと、ミュウは声を潜めながらも尋ねてみた。

しかし、返ってくるのは「すまない。」という申し訳なさそうな感情の波と、より強くなった助けを求める声ばかり。

 

どうやら"影"は、それほど明確な意思疎通ができるわけではないらしい。

感じた存在の強大さに比して違和感のある話だが、これまたなんとなく、ミュウには分かった。

ミュウ「影さん、弱ってるの……。」

或いは、ミュウ達を引き込んだ力が最後の力だったのか。

 

――求める。創造するもの。刻の証を遺す者よ。

ミュウに語りかけているというよりは、まるでうわ言。或いは独白。

どこかへ導かれながらも、しっかり耳を傾けていたミュウは、難しい言葉故に理解しきれずとも半ば確信していた。

きっとそれは、パパやオスカーお兄さんのことだと。だが、次ぐ"影"の言葉には困惑を隠せなかった。

 

――異なる刻に異なる世界、同じ場所に重なりし二組を。主と同位の者達を。我がもとへ。

ミュウ「ふ、二組、なの?二人じゃなくて?」

ただでさえ感覚的に推測していただけの言葉であるから、ミュウは訳が分からないと頭上に大量の"?"を浮かべずにはいられない。

 

ミュウ「う~、とにかく!今は進むの!」

疑問を振り払い、集中する。幾ら"影"が導いてくれるルートが、嫌な気配を上手く避けるルートばかりであっても余計な考え事は命取りだ。

と、その時、突然の轟音が。

 

ミュウ「みゃぁ!?」

地響きまで伝わってきて、ミュウは思わず飛び上がった。

轟音は一度ならず、二度、三度と響き激しさを増していく。戦闘音だ。方角はミュウの後方。

おそらく、二つ三つ向こう側の通り。徐々に近づいてきている。

廃城まではまだ遠い。ミュウの足では確実に追いつかれるだろう。

 

ミュウ「ッ!パパ達じゃないの!」

そういうとミュウは戦闘音に背を向けダッと走り出した。

ハジメ達が来ているなら、捜索用のアーティファクト類があるはずだからだ。

――急ぐのだっ、海の幼子よ!汝の同胞はすぐそこだ!

"影"の声で切迫感が増すのと同時に、"嫌な気配"が急速に集まりだした。

 

嫌な気配が、恐ろしい気配が、凄まじい勢いで迫ってくるのが分かる。

後方の戦闘のせいか、それとも単純に発見されただけか。

いずれにしろ、やり過ごしていたよからぬ存在が、ミュウを捕捉しているのは明らか。

 

ミュウは恐怖のあまり泣きそうになりながら、けれど、決して涙は流さず、歯を食いしばって必死に足を動かし続けた。

もう、荒れた地面を気にしている余裕もない。

レミアがそうであったように、ミュウの小さくか弱い足も、みるみるうちに傷を負っていく。

そうすれば、気持ちに反して足はもつれ……

 

ミュウ「あぅっ。」

ミュウは転倒してしまった。膝を強かに打って涙目になる。

必死に顔を上げれば、いつの間にか広場のような場所に飛び出していることに気が付く。

そして、自分の背後に"何か"がいることも。

 

起き上がって、女の子座りのまま振り返るミュウ。

その目に飛び込んできたのは、毛皮を持たぬ血肉が露出した巨狼だった。

ミュウ「ぅ、ぁ……。」

悲鳴も出ない。恐怖で凍り付く。

本能は動け逃げろと叫ぶのに、お尻は根が生えたみたいに地面に吸い付いたまま僅かにも持ち上がらない。

 

それほどまでに醜悪で冒涜的な生物だった。

その血肉の巨狼の後ろから、ぞろぞろ小型の眷属も姿を見せる。

周囲の廃墟からも、広場の向こう側からも。

ぽたりぽたりと血肉を滴らせる巨狼が、見せつけるように顎門(あぎと)を開いた。

そうして、小さな獲物に喰らいつかんと肉薄して――

 

その瞬間、光がミュウの視界を覆った。と同時に、血肉の巨狼が吹き飛ぶ。

ミュウ「ク、クジラさん?」

呆然と呟くミュウの言葉通り、間一髪でミュウを救ったのはクジラだった。

ただし、体長は2mくらいしかなく、何より宙を泳ぐ上に光の粒子でできた、という特異なクジラだが。

 

その光のクジラが、血肉の巨狼に体当たりをしたらしい。

吹き飛んだ血肉の巨狼は廃墟に激突して瓦礫に埋もれるも、直ぐに周囲を血風の暴風で吹き飛ばし、苛立ったように咆哮を迸らせた。

途端、小型の血肉狼共がミュウに殺到。光のクジラが滑り込んでくる。

 

すり抜けるようにしてミュウに重なる。まるで、身の内に抱き込むように。

そうすれば、突き立てられた無数の牙は。光の粒子に食い止められてミュウに届かず。

更には、一瞬の閃光と同時に弾き飛ばされる。

どうにか事なきを得たミュウだったが、安堵する余裕などなかった。

 

ミュウ「ぅ、うぅ……。」

殺意で溢れる戦場の風が、容赦なくミュウの精神力を削っていた。

震えが止まらず、ともすれば恐怖のあまり気を失ってしまいそうだ。

このまま、光のクジラに身を任せて恐怖から逃げてしまおうか。

そんな思いを一瞬抱いてしまうミュウだったが、そこでふと気が付いた。

 

ミュウ「……クジラさん、小さくなってる?」

気のせいなどではなかった。

ミュウ自身が小さいために未だすっぽり覆われてはいるが、確かに、光のクジラは小さくなっていた。

ミュウ「ミュウを、守ってくれてるから?」

返事はない。このクジラが何なのか、さっぱりは分からない。

 

けれど、自分を守った代償に弱ってしまったのは分かる。

自分を包み込む温かさが、あの"影"の声音から感じるものと同じだから……。

ミュウは、グッと歯を食いしばって、流れ落ちそうな涙を乱暴に拭った。

そして、体を凍てつかせる恐怖を勇気という名の剣で切り裂き、立ち上がった。

 

ミュウ「クジラさん。もう大丈夫なの!」

青ざめた表情。震える小さな体。どう見ても大丈夫ではない。

けれど、その言葉は信じるに値するほど力強い。

ミュウ「ミュウ、頑張って走るから。一緒に逃げるの!」

光のクジラが、僅かに輝きを増したような気がした。

まるでミュウの気概に力を分け与えられたように。

 

ミュウは、一番近くにある裏路地にチラリと視線を向けた。

狭い場所に逃げ込み、ハジメ達が助けに来てくれるまで時間を稼ぐつもりで。

絶対に、諦めない。それこそ、ハジメ達から教わった最たるもの。

そんなミュウの決意を嘲笑うかのように、血肉狼共が包囲網を形成する。

 

だが、それでも、ミュウは怯まず、ハジメから貰った"宝物庫"から専用武器"どんなぁ・ぷらす"と"しゅらーくぅ・まーくつぅー"を取り出し、両手に持って構える。

一応、殺傷性があるのでと、ハジメがかけておいたロックを外し、緊急実戦用モードに切り替える。

他にもまだ武器はある。お姉ちゃん達から教わった技術を生かしたアーティファクトもある。

 

ミュウはすぅっと大きく息を吸って、

ミュウ「やれるもんならやってみやがれっ、なの!」

心だけは負けるものかと雄叫びを上げた。さながらそれは、ママから受け継いだ勇気の象徴のように。

直後、幼子の思いを食い千切らんと巨狼率いる血肉狼共が一斉に躍りかかり……

 

 

???「あら。小さいのに、中々痺れる啖呵を切るわね?」

 

 

凄まじい激流が、全てを吞み込み浚って行った。

ミュウ「ふ、ふぇ?」

そうしている間にも、まるで生き物の如くうねった水流が血肉狼共を呑み込み、体内に侵入しては内側から食い破り、水圧で圧殺し、水のレーザーで細切れにしていく。

 

そんな激流の中にあって、しかし、ミュウは水の一滴すらかかっていなかった。

激流は常に、ミュウを守るようにして周囲を渦巻いている。まるで結界のように。

実際、あれほど恐ろしかった血肉狼共が一切、ミュウに近づくことすら出来ないでいた。

水流のベール越しに、あの強大なボスが血風の様なものを噴き上げているのも見えるが、それすらも莫大な質量の水が呑み込み、洗い流してしまう。

 

ミュウ「ク、クジラさんのお友達、なの?」

光のクジラに尋ねてみるが、答えは返らず。

けれど、もう大丈夫というかのように、ミュウから少し離れてしゅるりしゅるりと小さくなった。

そして、ミュウの頭の上にぽふっと乗って動かなくなる。

 

困惑するミュウに、先程の女性の声が再び届いた。

???「あら、変わったお友達を連れているわね?同族のお嬢さん?」

どこかおっとりしていて、未知の怪物と戦っている最中とは思えないほど緊迫感のない声音が上から降ってきた。

視線を上げたミュウの目に飛び込んできたのは……

 

ミュウ「メイルお姉さん!」

そう、水流のアーチに、優雅に腰を掛けて微笑みを浮かべていたのは、最近仲間に加わった、メイル・メルジーネお姉さんだった。

極度のシスコンで有名であり、ドS・大雑把・危険物(ダークマター)製造機と、見た目とは裏腹にトンデモ三拍子が揃っているとミレディお姉ちゃん達から説明された、あのメイルお姉さんだ。

 

メイル「あ、あら?どこかであったかしら?あ、ちょっと待ってね?」

というや否や、メイルお姉さんは腰から引き抜いたカットラスで飛び込んできた血肉狼を真っ二つにした。

更に、絶妙なタイミングで巨狼が反対側から飛びかかってくるが、勝手に砕け散ったカットラスはそのままに、"水流の鞭"を振るって迎撃。

 

その"水流の鞭"が当たった場所が、ごっそり削り取られている。

どうやら、水流の中に砕けた無数の刃が紛れているらしく、さながらチェーンソーのようになっているらしい。

抉られ、吹き飛ばされた巨狼は体勢を整えようとするが、

メイ「躾のなってない駄犬にはお仕置きが必要ね?――さぁ、豚の様な悲鳴を上げなさいな。」

そこへ"水刃鞭"の連撃が容赦なく殺到。悪夢のように血肉が飛び散り、巨狼から豚の様な悲鳴が溢れ出す。

説明通りのドSであった。

 

メイル「ごめんなさいね、話の腰を折って。それで、どうしてお姉さんのことを知っているのかしら?」

ミュウ「?前に会っていなかったの?」

メイル「えぇっと、ごめんなさい。会ったのは今日が初めて……だと思うわ。」

ミュウ「みゅ?」

メイルが自分のことを覚えていないことを疑問に思うミュウ。それはそうだろう。

 

ハジメ達が悪母討伐後に帰還して、冒険譚を聞いているときに、ママと一緒に顔合わせはしたのだ。

しかもその場で「お姉さんの妹にする!」と宣言していた程の印象なのだ。忘れるはずもない。

言った本人も同じ筈だが、目の前にいるメイルお姉さんは自分に初めて会った様子だ。

巨狼が肉塊になったので、次は血肉狼共の番、と言わんばかりに、メイルに片手間で倒される肉塊候補は無視し、取り敢えずミュウは確認のための行動をとった。

 

ミュウ「あの……助けてくれてありがとうなの。ミュウはミュウです!」

メイル「あら、ちゃんとお礼が言えて偉いわね。自己紹介もありがとう。」

にっこりうふふ。序に全方位へ激流。汚物を便器に流すが如く、残党共が流されていく。

それを確認して、メイルお姉さんは水流のアーチからミュウを守る水の結界の中へ飛び込んだ。

すると、水の結界が弾け、無数の水滴が浮かぶ中心で悠然と佇むメイルお姉さんは、弾けるような素敵な笑みで、話しかけた。

 

メイル「改めて初めまして、同族のお嬢さん。私はメイル。メルジーネ海賊団の、船長様よ。」

光のクジラが、ミュウを救うために導いた"強き海の子"とは、そう、遥か昔に生きた神代魔法の使い手にして、西の海を牛耳る最強海賊団の女帝だったのだ。

しかし何故、以前互いに会った筈のメイルお姉さんは、自分のことを覚えていないのか。

おそらく、その答えを知っているであろう光のクジラは、ミュウの頭の上に鎮座したまま反応なし。

どこかぐったりしているようにも見える。

 

しかし、聡明なミュウはふと思い出した。

光のクジラが言っていた"異なる刻に異なる世界、同じ場所に重なりし二組"。

これは恐らく、パパとオスカーお兄さん以外の誰か、それも二人と同じ凄腕の錬成師でなければならない。

そうなれば、答えは一つだ。以前、パパが話していたお話の中にこんなものがあった。

 

『人の生には無数の"もしも"がある。

それも行動の一つ一つの結果が枝分かれして、無数の宇宙のように広がっていて、今の自分達もその一つなのである。

たとえあり得ない選択肢を取っていても、同じ自分であることからは逃れられない。』と。

 

そこからミュウは至った。

自分は今、その"並行世界"という場所に飛ばされてしまったのでは、という考えに。

同時に、光のクジラの目的も、何となくではあるが分かった。

恐らくそれは、二つの次元、それぞれにいるパパとオスカーお兄さんにしか、この事態を解決できない、ということだ。




ハジメ
「ここまで読んでいただき、ありがとうございます!さて、今回のゲストはどこでしょうか?」
Bティオ
「ハァハァ……あっちのご主人様も中々の……」
ハジメ
「……答えは俺の下にいます。でも立て付け悪くなったんでやめます。」
Bティオ
「んんっ、い、椅子にしたのはご主人様なのに……飽きたとは……このご主人様めっ。たまらんっ!ハァハァ!」
ハジメ
「……どうしてこうなるまで放置したんだ、あっちの俺。」(死んだ目)
Bティオ
「あちらのご主人様よ、これが妾の本心じゃよ。」
ハジメ
「……まぁいい。もう諦めたよ。それじゃあ次回予告といこうか。」
Bティオ
「うむ、オープニングでユエに襲われかけたからか、疲れておるからのぅ。早う進めるかの。」

次回予告
ハジメ
「次回は漸く二つの世界が交わる。そして、時代と次元を超えた戦いが今、幕を開ける!」
Bティオ
「うむ、漸くこっちの妾達も登場するのぅ。」
ハジメ
「正直そっちの事情について聞いたときはマジでたまげたわ。
てか向こうの俺、ユエに依存し過ぎ。後、ドラゴン相手でもケツパイルはやり過ぎだって。」
Bティオ
「大丈夫じゃよ、向こうのご主人様よ。
最初は脳天を突き抜けるような痛みじゃったが、慣れればそれがまた得も言われぬ快楽に――」
ハジメ
「言わんでいい!後、少しは躊躇ってもんを覚えた方がいいって!その結果がこれだよ!?」
Bティオ
「んふっ、唐突の罵倒ッ!ありがとうございま……す?」
ハジメ
「全く…婚前の女性には優しくしろって、おばあちゃんに言われなかったのかな?
取り敢えず、さっき椅子になっていたから、はい。」(再生魔法と着替えの用意)
Bティオ
「くぅうう、このさりげない優しさが何ともっ!それでは、また次回なのじゃ。」


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64.同じ二人、二つの世界

ハジメ
「お待たせいたしました。さて、前回は大変なところをお見せいたしました……。」
Bシア
「アハハ…向こうのハジメさんも襲われたんですね……。」
ハジメ
「いや、なんとか回避したから大丈夫だからね?さて、前回のあらすじはっと。」
Bシア
「確か、そちらのミュウちゃんがこっちの世界に来たんでしたっけ?」
ハジメ
「あぁ、それで俺はレミアと合流、ユエ達のところに向かった、言う訳だ。」
Bシア
「それにしても驚きましたよ。変態じゃないティオさんに、ユエさんスキーじゃないハジメさんまで……。
まぁ、それでもミレディはコロシマス。」
ハジメ
「……あっちでも、ミレディはミレディしてんだなぁ……。まぁ、それはともかく、いってみようか!」
Bシア
「あっ、はい!第5章第17話」
ハジメ・Bシア
「「それでは、どうぞ(ですぅ)!」」


ハジメ「チィッ、次から次へと沸いてきやがる。この上なく鬱陶しいなっと!」

現在、俺はオーマジオウの能力で一気に怪物共を蹴散らしている。

それでも尚、怪物共は次から次へと出てきやがる。ただでさえ、こっちはミュウを捜しに行きたいのに!

近くの廃墟の屋上にいる、合流できた仲間の方を見る。

 

結界を張り、レミアを守るユエと香織。その前衛として敵を蹴散らすシアとイナバ。

そして"太陽熱線"と"龍の咆哮(ブレス)"で怪物共を焼き払うティオとトシ。

今のところ全員大丈夫だが、まだミュウとは誰も合流できていない。

 

それにオスカー達も何故か宝物庫にいない上、ミレディも行方不明。

しかも数の暴力のせいで、ミュウを捜すのに一苦労だ。クソッ、面倒ったらありゃしねぇ!

こちとら"並列思考"をフルに使っているのに、怪物共が視界に入って邪魔だ!

一応、俺はオーマジオウの鎧でノーダメージ、他の皆も掠り傷が少々程度だ。

こうなったら一か八かだ、"限界突破"でやるしかねぇ!そう思っていたその時。

 

ハジメ「ッ!!」

嫌な予感が走り、咄嗟に時間停止で皆を移動させる。

そして再始動直後、大きな揺れが起こった。重力操作で何とか持ち直すが、怪物共に気づかれる。

すると、廃城方面で大きな動きがあった。

 

暗雲が不気味に渦巻く廃城の、その傍らにそびえる塔が無数の亀裂に覆われ、今にも崩壊しそうになっていた。

加えて、その塔を中心に空間が歪んでいた。

ぐにゃりと捻られた、或いは無理やり引き裂かれようとしているかのように。

その直後、虚空に滲み出て、それらは顕界した。

 

人の苦悶という苦悶を集めてヘドロにし、それを纏ったような巨大な死神。

臓器が蠢き、血管の触手を体毛のように揺らす巨大な三つ首の血肉狼。

絶叫を上げる人の口と、血走った眼を何百と体に貼り付けた、濃緑の粘液に覆われた巨大カエル。

腐った肉体のあちこちから人の手足を生やし、腐食の霧を纏う竜。

 

どいつもこいつも、まるで当然のように人の正気を削り取る様な醜悪な姿だ。

そして何より、醸成された悪意と敵意に塗れている。

こいつ等は臭えッー!ゲロ以下、いやそれ以上に酷い臭いがプンプンするぜッーッ!

まぁ、香織の尊厳とミュウのためにもここで消えてもらうが。

すると奴等がこちらに気が付いたのか、ひりつくような悪意が肌を粟立たせた。

俺は大丈夫だが、他の皆はそうじゃないみたいだ。仕方ねぇ!こうなったら――

 

???「――"壊劫"。」

???「――"黒傘九式・天灼"。」

???「――"氾禍浪・大蛇"。」

???「――"震天"。」

 

聞き覚えのある声とともに、4つの魔法が親玉達に向けられた。

俺達を綺麗に避け、周囲の怪物だけを圧殺し、極大の雷砲撃と掘削機化した激流が巨大死神共を吹き飛ばす。

更にそこへ、天からの鉄槌と言わんばかりの空間破砕が奴等を木っ端みじんに打ち砕いた。

ここまで高位の魔法、内2つに神代魔法を使用する人物達と言えば……まさか!

 

???「ママ―――っ、パパ―――――っ!」

ハジメ・レミア「「ミュウ!?」」

なんと、黒々とした瘴気を吹き飛ばして、巨壁の向こうから飛び出してきたのはミュウだった。

レミアと二人で、どれだけ心細い思いをしているだろうか、怪我をしてやしないだろうか、と思いながら、きっと大丈夫だと信じていても、心配と焦燥ばかり募っていたというのに……。

思いっきり元気そうじゃねぇか!てかそれよりも……

 

ハジメ「その光ってるクジラっぽいのなぁに!?」

ミュウ「お友達なの!」

ハジメ「大丈夫なの!?色々!」

ミュウ「大丈夫なの!"えんぐん"もいるから~!」

もうツッコみきれねぇ!流石家の娘!

 

するとミュウは真っ直ぐ突っ込んできて、そのままぴょんっと光のクジラから飛び降り、向かってきた。

オーロラカーテンを開いて、さっと受け止める。

ハジメ「全く!レミア、やっぱりミュウは大物になるね!」

レミア「この子ったらっ、もう!本当にもうっ!どれだけ心配したと思って!もぉっ!」

ミュウをレミアに差し出すと、あまりのことに語彙力を喪失しつつ、泣きながら抱きしめた。

 

ミュウ「みゅ!?パパ、だよね……?」

ハジメ「……え?」

一瞬、ミュウが何を言っているのかが分からなかったが、まさかと思い聞こうとしたその時。

無数の殺気がやってきたので、対処しようと――

 

???「折角の家族の再会なんだ。邪魔をしないで上げてくれ。」

!?なっ、おまっ、どういうことだ!?

ハジメ「オスカー!?お前、何で顕界してんの!?」

オスカー「さぁ?それは僕にもわからない。それよりもまずは、状況確認と行こうか。」

 

そう言って眼鏡をくいっとし、「弐式・衝壁」と呟くオスカー。

黒傘が輝き、衝撃波で死神の大鎌を弾き飛ばす。勿論俺も反撃に転ずる。

オスカーと背中合わせになると、互いに黒傘とシュラーゲンで死神を打ち抜く。

さてオスカーもいるってことは……当然だよな!

 

大蛇の形をとった激流が巨大ガエルを削り殺したかと思えば、水流のアーチに腰掛ける女性。

更にふっと転移してきた男性が一人。

ハジメ「メイルにナイズもいるよなぁ。……ミレディはこの場合「天が呼ぶ地が呼ぶ人が呼ぶ!」……。」

このストロンガー風の自己紹介、間違いない。

 

???「世界が愛する超絶天才美少女魔法使い!」

天から自由落下で着地したミレディの姿は……

ミレディ「ミレディちゃぁ~~~~ん!参・上!」

以前写真で見た、金髪碧眼の美少女姿だった。

 

ハジメ「おいおい、こいつはとうとうクライマックスじゃねぇか!湧いて来たぜェ!」

頼もしすぎる援軍のおかげで、だんだん勝機が見えてきた。が、その前に。

ハジメ「ミュウ、幾つか質問するから、答えてくれるか?」

ミュウ「みゅ?」

取り敢えず、確認だ。もしかするとあれかもしれん。

 

ハジメ「以前、パパと出会ってからの出来事について、教えてくれるかい?簡単でいい。」

ミュウ「えっと……

パパとシアお姉ちゃんと出会って、お巡りさんに預けられて、悪い人に攫われて……。」

よし、分かった。これではっきりした。間違いない!

 

ハジメ「うん、分かったよ、ミュウ。ありがとう。」

ミュウ「みゅ?はいなの。」

レミア「えぇっと……何が分かったんですか?」

困惑するレミアに、言葉を選んで返した。

 

ハジメ「このミュウは、いわば別世界、そうだな……

俺が魔王にならないで異世界に来た世界のミュウ、つまりもう一つの世界のミュウ、だと思う。」

ミュウ・レミア「「もう一つの世界、(ですか)(なの)?」」

二人とも困惑しているな……どう説明すればいいか。

 

ハジメ「ミュウの知っているパパは、違う姿だったでしょ?ミュウにとってのパパはどんな格好だった?」

ミュウ「!パパは眼帯をしていて、左のおて手がカッチカチだったの!」

ハジメ「こっちのパパは眼帯もしていないよ。ほら、左手も普通だし。」

そう言って左腕だけ変身解除し、その様子を見せる。

 

ミュウ「みゅ!大体わかったの!パパはパパだけど、ミュウの知ってるパパとは別のパパなの!」

理解してくれたようだ。言い方は少し複雑だが……可愛いからよし!

ハジメ「レミアは分かった?要は、その人のもしもの姿、ってことだけど……どう?」

レミア「……何となくは理解できましたが……それなら私達の世界のミュウは?」

そう、問題はそこだ。俺の予想ならきっと大丈夫だ。何故って?

 

ハジメ「多分、こっちのミュウの世界に飛ばされたんだと思う。

それなら、こっちのミュウが、俺達の世界に飛ばされてきたことにも辻褄が合う。

それに、ミュウはあのクジラから何か聞いているんだろ?」

そう言って、別世界のミュウに聞いてみる。きっと、光のクジラから同じことを聞いている筈だ。

 

ミュウ「はいなの!異なる刻に異なる世界、同じ場所に重なりし二組を、なの!」

ハジメ「つまり、二つの世界にいる俺達が、力を合わせなきゃならないってことだ。

既に向こうも動いているに違いない。皆、一旦集まって作戦会議だ!」

そう言って皆を集める。同時に全員で結界を張る。

 

ユエ・ティオ・香織は空間遮断障壁や"聖絶"、ミレディ・オスカー・ナイズ・メイルも重力場や水流結界に空間遮断障壁、俺も刃王剣による結界を、それぞれ重ね掛けする。

最高クラスの7重結界には、流石の怪物共も形無しの様だ。

衝撃はこないものの、忌々しそうな怨嗟の叫びが煩いので、遮断する。

 

ハジメ「それで、ミュウ、そこのクジラの目的は?」

ミュウ「みゅ。このクジラさんがあの"影"なの。

クジラさんは、二つの世界のパパとオスカーお兄さんに助けてほしかったの。」

廃城に近づいたからか、少し力が戻ったらしき光のクジラ。

その意思疎通ができるのか、事情を説明するミュウが言うにはこうだった。

 

曰く、光のクジラはこの滅びた都の守護獣的存在だったらしい。

この都は遥か古代に滅びたらしく、その原因が今暴れている怪物共とのこと。

奴等は人工的に作り出された"古代の怪物"、あの悪食や悪母の同類みたいだが、そこまでは強くない。

海底遺跡の時に戦った悪母は、フィールドのこともあったがなかなか強かった。

だがその分、こいつ等は無限に沸いてくる以上奴等の方が厄介だ。

 

まぁ、要は自分達で作ったのに制御しきれなくて自滅したってわけだ。

だが古代人は最後で意地、或いは最低限の誠意を見せたのか、守護獣を要とした封印を施した。

それが今、遥かな時を経て破られかけているって訳だ。

もし、封印の要であり守護獣の本体でもある楔の塔が破壊されれば、あの怪物共は本格的にヤバくなるらしい。

それこそ時空を超えて悪さを働き、好きな時代、好きな場所で好き放題しまくるってわけだ。

そんなこと絶対させねぇ!何が何でも止めてやる!

 

ミュウ「クジラさんはずっと待ってたの。封印が破られていくのを耐えながら、強い力を持つ"錬成師"を!」

この滅びた都は、現世のどこにもないらしく、かつてあの海域に存在していたようで、封印の一つとして違う空間の狭間に消えたらしい。

言うなれば、都レベルの"宝物庫"、か。……うん?これってまさか?

ふとあるアイディアが思いついたが、今はミュウの説明が第一なので、頭の片隅にメモしておく。

 

そして、光のクジラもまた、強大なる古代の守護獣であるが故に、時空を超えられるようだ。

ただし、力が弱まったこと、楔の影響から、待ち人を引き込めるのは、あの海域に来た場合、それも一回だけらしい。

その一回で凄腕の錬成師を引き当て、封印の修復にあたってもらうってことか。

……中々に厳しい確率だな。正直、俺等が来なかったらどうなっていたことやら。

 

はたまた、これも偶然の重なり合いか。俺等が異世界に来てから、緊急事態多すぎじゃね?

魔力が無限でもない限り、再生魔法じゃキツそうだ。だからこその錬成師という訳だ。

封印を理解し、一からの修復が可能だからな。まぁ、生成魔法ないとダメそうだけど。

それも保有魔力量や技術的には二人以上は必要らしい。

 

ただ、気になったのは、何故二つの並行世界同士がリンクしているのか、だ。

ミュウの知っている向こうの俺達とは、かなりかけ離れている様子で、俺は隻眼義手らしい。

それでもってユエ第一で、シアや香織は認めてもらうために奮闘中、ティオに至ってはドМの変態になっていて、もう色々訳が分からなかった。

向こうの世界ではトシやミレディ、イナバが旅のお供になっていないという点でも、やはり違うようだ。

恵理が義理の妹だということも、向こうでは違うらしい。

やれやれ、向こうの俺はいったいどんな生活を送ってきたことやら。

 

その理由はというと、恐らく光のクジラの限界が近かったことが原因だと思われる。

その影響により、時空に乱れが生じ、歪みによってできたその穴に、それぞれの世界のミュウが入れ替わるように入ってしまい、こうして二つの世界で同時に直さなければならないという、本来よりもハードなミッションになってしまった、という訳だ。

 

ミュウ「違う時代で、でも、パパとオスカーお兄さんは重なった!向こうのパパとオスカーお兄さんも!

二つの世界にミュウがいて、同じ時、同じ場所にそれぞれ二人がいるの!奇蹟みたいに!」

守護獣らしきクジラの光が、ミュウを輝かせる。まるで、その思いを代弁する巫女のように。

まぁ、ここから出るためにも、さっさと済ませちゃいますか!

 

ハジメ「そういう訳で皆!今からもう一暴れするぞ!向こうの俺らも巻き込んでな!」

俺の掛け声に皆が「お~!」と返す。

まずは向こうの状況をこちらと共有するために、目的の場所へと向かう。

ナイズ「ミュウ、どこに行けばいい?」

ミュウ「あの塔の上なの!ナイズお兄さん!」

ナイズ「承知した。」

まずは、ナイズの空間魔法で移動する。俺の方が早いんじゃないかって?

……見せ場は大事でしょ?展開的に。(メメタァ!)

 

阿吽の呼吸でオスカーが"連鎖"を飛ばして全員を結び付ける。

途端、視界が切り替わった。視界に映ったのは眼下の塔。一瞬で全員を塔の頂上へと移動させたようだ。

ハジメ「おぉ~、やるじゃん。流石先輩方!」

オスカー「ハハハ、まぁ、これくらいはね。」

ナイズ「ハジメも出来そうな腕前だったが……そんなに凄かったのか?」

いやだって、俺より0.1秒早く展開していたじゃん。そりゃあ凄いって。

 

すかさずミレディが重力魔法で全員を浮き上がらせ、塔の屋上へと柔らかく着地させる。

直径10m程の円状の屋上には、その中央に1m程のオベリスクのみが存在していた。

酷くひび割れており、今にも崩壊しそうになっていた。

ミュウ「あれなの!あれを直せば塔も直るの!封印も力を取り戻すの!」

別世界ミュウ(以降はミュウB,俺等の世界のミュウはミュウAとする)がそう言った途端、怪物共が動き出した。

 

ユエ「……ハジメ、行って!ミュウとレミアはハジメの傍に!

香織は結界、シア・トシ・イナバは私とティオの防衛線を抜けた奴を潰して!」

ミレディ「オーくん、頼んだよ!メル姉は塔の上から援護!ナッちゃんは反対側お願い!」

二人の号令で他の皆がサッと動く。

 

俺とオスカーはオベリスクの前につくと、ミュウとレミアが光のクジラに寄り添うようにして俺の傍らに、そこへ香織が"聖絶"を張ると、死神の大鎌が薙ぎ払われた。

シア「シャオラアアアアアアッですぅ!」

が、それもシアの一撃によって死神ごと吹っ飛ぶ。

 

トシ「よっしゃあ!団体様、ご案内!」

早速トシもギンガの力で大暴れするようだ。今度はワクセイかな?

〈ワクセイ!〉

当たっていた。

〈アクション!〉

そしてまた変身と名乗りなんですね、分かります。

 

〈投影!ファイナリータイム!〉

今度は様々な惑星を模した光球群が、アーマーを形成していく。

〈水金地火木土天海!宇宙にゃこんなにあるんかい!ワクワク!ワクセイ!ギンガワクセイ!〉

トシ「祝え!数多の惑星の力を宿した預言者!その名も仮面ライダーウォズ・ギンガワクセイ!」

アイツ、だんだんノリノリになってきているなぁ……。

 

他の皆は……わお。

ユエとミレディの二人は高威力の魔法で殲滅しまくっている。

シアとイナバも次々に敵を屠っているし……ティオも龍化で大暴れしてる。

ナイズとメイルの二人も、それぞれの神代魔法で敵を駆逐している。

てかメイル、お前若干楽しんでいるだろ。

 

〈ファイナリービヨンドザタイム!〉

おっと、ここでギンガワクセイお得意の広範囲攻撃が来るぞ!

〈水金地火木土天海エクスプロージョン!〉

疑似惑星弾「エナジープラネット」が大量生成され、豪雨のごとく魑魅魍魎に降り注いだ。

 

皆ド派手にやってんなぁ!え?俺はって?高速で修復作業やってる途中だけど?

このオベリスク、魔法陣の多様さや精密さは今まで見た中で一番ヤバい奴だ。

しかもあの"封印石"以上に魔力が通りにくい。だがそれがどうした?俺達を誰だと思っている?

ここにいるのは、この世界最高の錬成師と、最高最善の大魔王だぜ?負けるわけねェだろ!

 

ハジメ「向こうは焦っているみたいだな。でもコイツはよく見れば、ただの結びの繰り返しだ。」

オスカー「そうだとも。ゆっくり着実に紐解き、美しく結び直せば良い。」

俺達はサクサクと進めていく。俺自身、オーマジオウの力に加え、並列思考能力もあるからな。

それこそ人工知能並みの。オスカーがなぜついてこられるのかって?理由はこれだ。

 

オスカー「この仮面ライダー、計算能力に特化しているのかい?

君がとても速いのに勝手についていく感じがするんだけど?」

ハジメ「当たり前だ。それはメカニックのスペシャリスト、言わば精密動作に特化した形態だぞ?

オスカーの頭脳と合わされば、俺とゼアの高速処理なんざすぐに追いつくに決まってらぁ。」

そう、互いにライダーの能力をフル活用しているからだ。

 

今、オスカーには仮面ライダードライブ・タイプテクニックのウォッチを渡し、変身してもらっている。

本当は仕組みを調べたい一心なんだろうが、耐えてもらった。

そうして俺が02の力で高速処理を行い、オスカーが出された結びを美しく直す。

この工程を繰り返しているおかげか、こちらでは結構余裕がある。

っと、そろそろ向こうにも動きがあったみたいだな。

 

ハジメ「オスカー、向こうも修復を開始したようだ。合わせるぞ!」

オスカー「承知した。タイミング合わせは頼むぞ。」

さぁ、向こうの世界の俺とオスカー!早く追いついて見せろォ!こっちはいつでも準備万端だ!

 


 

一方、原作世界(B世界)の少し前……

 

こちらのハジメ達は大いに困惑していた。

ミュウ曰く、違う世界の自分達と、自分達の世界のミュウが一緒にいるらしく、自分達の世界とは大いに違っている点が多々あるということに。

しかも一緒に現れたミレディ達解放者の面々とも何故か一緒らしく、なおさら自分達の世界とは違った世界になっていることに、とても驚いた。

まぁそれはそれとして、とミレディに制裁は加えるハジメ・ユエ・シアの三人であった。

 

そして現在、ミュウの指示の元、塔の修復に当たっている訳だが……

Bハジメ「おいおい、向こうの俺達、早すぎるだろ!?ほぼ完成形にまでなっていやがる!」

Bオスカー「これは凄いな、でもこちらもこのまま引き下がるわけにはいかない、だろ?」

Bハジメ「ハッ、当たり前だ。魔王になった俺だろうが、その技術ごとものにしてやるよ!」

Bオスカー「あぁ、伝説の錬成師として、負けられないからね!」

向こうのハジメさんとオスカーの二人の速度と精密さに嫉妬し、対抗心を燃やしながらも、その技術を超えてやると言わんばかりに、凄まじいスピードで追い上げを見せる。

 

Bミレディ「お~、やっぱり向こうでもオーくんは大活躍だねぇ!さっすがぁ~!」

Bユエ「……ふっ、やっぱりハジメが一番。向こうのハジメも凄いみたいだし。」

Bミレディ「ププッ!会話聞こえてなかったのぉ?オーくんがお・師・匠・様なんだよぉ~?」

Bユエ「……既にサポートする側が変わってますけど何か?」

こっちもこっちで無双の最中だった。

 

――ア˝ァ˝ア˝ア˝ア˝ア˝ッ

 

怪物共が悲鳴を上げた。どうやらここらでお終いのようだ。

香織とメイルのダブル再生魔法で全員回復し、シア・ティオ・ナイズの三人が迎撃を行う。

そして、だんだんと力が戻って来たのか、光のクジラから光が放たれた。

その光は、とある光景を映し出していた。

 

Aミュウ「みゅ!ミュウの世界のパパなの!」

Bハジメ「あれが、俺!?全身鎧とか羨ましいだろ!」

Bオスカー「……隣の僕も、随分楽しそうだなぁ。それはそれとして、あのアーティファクト、欲しい!」

色々カオスになっていた。

 


 

突如、光のクジラから光が飛び出したかと思えば、向こうの世界の俺達の姿が映し出された。

ハジメ「おっ!あれは向こうの俺か!」

オスカー「これならタイミングも合わせやすいんじゃないか?」

ハジメ「あぁ!おい、向こうの俺!聞こえるなら返事してくれ!」

早速、向こうへの呼びかけを試みる。すると……

 

Bハジメ『!そっちの俺か!?聞こえるぞ!』

Bオスカー『そっちの僕!それはどんなアーティファクトなんだい!?ずるいぞ、そっちは!』

どうやら聞こえているようだ。てかオスカー、ドヤ顔しないの。向こうにいるのもお前だからな?

ハジメ「よし、聞こえるな!こっちは後3手だ!同時に行くぞ!」

Bハジメ『ハッ、誰に言ってやがる!同じ俺だろうが!』

どうやら向こうの俺も、こっちに追いついてきている様だ。なら後は、最後にあれをするだけだ!

 

(A・B両方)ハジメ・オスカー「「『『――錬成ッ!!!』』」」

二つの世界が重なった瞬間のようだった。

最後の"錬成"は塔全体を照らし、傾いていた筈の塔が地響きと共に立ち直り、亀裂が嘘のように消えていく。

どうやら向こうも同じタイミングだったようだ。互いの世界の歪みが、どんどん修復されていってる。

 

――ォオオオオオオオンッ

力強く、清冽な咆哮が轟いた。

ミュウ「クジラさん!」

歓喜の声はミュウから。

違う世界とは言え、母親のレミアに抱きしめられながらも諸手を挙げて満面の笑みを咲かせる。

その視線の先で、光のクジラは燦然と輝きを増し――光で世界を満たした。




ハジメ
「ここまで読んでいただき、ありがとうございます!さて香織、その手に持っているものを出しなさい。」
B香織
「!?こっ、これはただの元気の出るお薬だよ!?」
ハジメ
「……向こうの俺、こうなる前に対処しなよ……。」
B香織
「どういう意味かな!?かな!?」
ハジメ
「いや、そっちでは普通かもしれないけど……俺からしたらそっちのティオ並の変態さんだよ?」
B香織
「ひ、ひどいよ、ハジメ君~(涙目)」
ハジメ
「むしろ当然だと思うが……まぁ、他の皆もそっちでは同じようだし、帰る時までは預けておくよ。」
B香織
「!う、うんっ!じゃあ、次の予告だねっ!」///

次回予告
ハジメ
「次回は二つの別れだ……憂鬱だ。」
B香織
「やっぱり、そっちでもミュウちゃんとは別れるんだね。」
ハジメ
「取り敢えず後悔しているのは、向こうの俺にもうちょい言っとけばよかったかなぁってことかな?」
B香織
「アハハ…でも、そっちでは私も気にしてもらえていてよかったよ。」
ハジメ
「まぁ、日本にいた時から好意は感じていたからね。告白の時は自分のセリフが恥ずかったなぁ……。」
B香織
「そう?私は聞いただけでも嬉しかったから、そっちの私はもっと嬉しかったと思うよ!」
ハジメ
「そ、そっか…///さ、さて!この章も今回含めて、残すところあと4回!楽しみにしてくれ!」
B香織
「それじゃあ皆さん、また次回!……こっちのハジメ君も凄かったなぁ……。」


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65.再開の約束~ゴール・ルーマ・ルジュナ~

ハジメ
「お待たせいたしました。さて、今日でエリセン滞在編もお終いか……。」
Bレミア
「あらあら、やっぱり名残惜しいものですか?」
ハジメ
「そりゃあ奥さんと愛娘残して、自分の目的のために旅に出るんだもん。気持ちが落ち込んで当然さ。」
Bレミア
「うふふ、そちらの私も素敵な旦那様に会えたんですね、あ・な・た?」
ハジメ
「……う~///はっ、早く前回のあらすじ、行くよっ!」
Bレミア
「えぇ、たしかそちらとこちらの私たちが合流したところでしたね。」
ハジメ
「さて、今回で並行世界版のあらすじ予告は終わりだ。最後まで楽しんでいってくれ!」
Bレミア
「はい!それでは、第5章第18話」
ハジメ・Bレミア
「「それでは、どうぞ!」」


光のクジラから放たれた光は、まるで打ち上げ花火のように空を駆け上り、渦巻く暗雲を円状に消し飛ばし、光のシャワーを廃都中に降り注がせる。

――ア˝ァ˝ア˝ア˝ア˝ア˝ア˝ア˝ッ

怨嗟と憎悪、悪意と敵意の断末魔が響く。それとともに怪物共が塵となっていく。

 

廃都を覆っていた黒霧が渦を巻くようにして塔へと吸い込まれていき、怪物たちはその渦に捕まった。

轟轟と唸る烈風は凄まじく、ユエ達も全員、塔の上へ移動してきた。

俺はオスカーと共に、ミュウとレミアを抱えて身を低くする。と、その時。

 

ハジメ「!?こいつは……!」

なんと、目の前の画面上に謎の穴が開いた。ちょうど子供一人分くらいの。

ってことは、だ。別世界の俺等とはお別れってことか。

おそらくこの穴の先には、こちらにいるミュウの世界だろう。

違う世界だとしても、安全に元の世界に戻してあげなければ。

 

ミュウ「パパ――!ママ――!」

……安全確認もまだなのに。家の娘は何というか……色々凄いや。

ってこっちのミュウもいつの間にか入っていってる。どうやら向こうも無事なようだ。

なら後は、言いたいことだけ言って帰るか!

 

ハジメ「おい、向こうの俺!そろそろお別れだから、これだけ言っとく!」

Bハジメ『あん?』

俺は息を強く吸い込むと、向こうの俺に言った!

ハジメ「偶にはユエ以外の皆も大切にしろよ!全員押し倒す位の、度胸は持っておけ!」

Bハジメ『何の話だ。』

だって、向こうのシア達かわいそうじゃん。

すると、ユエ達も向こうの自分達に思い思いの言葉を向けた。

 

ユエ「……ん、そっちの私。叔父様を信じてあげて。答えはオルクスにある。」

Bユエ『!?どういうこと!?』

向こうのユエは知らなかったみたいだ。まぁいつか、きっとわかる筈だ。

 

シア「そっちの私!めげずに押しまくるんですよー!」

Bシア『勿論ですぅ!いつか処女を貰ってもらいますから!』

向こうのシアは通常運転みたいだな。てかなんてことを言いだすんでしょうか。

 

ティオ「……そっちの妾よ、妾は変態色には染まらぬからの。」

Bティオ『!?ハァハァッ!別の自分からの視線、プライスレス!』

……何も言わないよ、ティオ。

こっちのお前はそんなんじゃないってわかっているから。だから……涙拭きなよ。

後、向こうの俺とティオにはあとで説教な?

こら!こっち向いてハァハァするんじゃあない!戻りなさい(ハウス)!

 

香織「そっちの私!ユエの悪戯に負けないように!」

B香織『うん!全力でやり返すから!少なくとも筋力で拮抗できるようになるから!』

おい、向こうのユエさんや。アンタ、どんだけ大人げないんだ。

 

ミュウ「そっちのミュウ!お元気で、なの!」

Bミュウ『みゅ!そっちもお元気で、なの!』

……何だろう。

ミュウの無邪気さのせいか、向こうの自分達への言葉、もうちょっと考えておけばよかったって思う。

 

Bレミア『……そちらのミュウも、しっかりしているみたいで安心しました。』

レミア「あらあら、うふふ。夫との英才教育の賜物ですから、ね?あなた?」

いや、教育に関してはレミアの方が上手だと思う。

俺、こっちの世界来てから、若干はっちゃけている感が否めないから。

 

オスカー「そっちの僕!こっちの世界は大丈夫だ!」

Bオスカー『!そうか……。』

ミレディ「私たちも今、自由の意思の下に、生きているから!」

Bミレディ『!そっか…よかった。』

未来の自分からのメッセージ、か……。

 

ナイズ「そっちの俺!二人にはしっかり愛を伝えるように!」

Bナイズ『勿論だ!後ろから刺されないように心掛けている!』

メイル「そっちの私!森の変態には気をつけなさい!」

Bメイル『どういうことかしら!?』

……さっきまでの感動を返してほしい。雰囲気が台無しじゃねぇか。

ほら、向こうの俺達も呆れ顔だし。

 

Bハジメ『そっちの俺!便所には流されなかったか!?』

ハジメ「お前もかい。こっちは迷宮ごとやっちゃったから、それはなかったよ。」

Bハジメ『よくやった!』

ハジメ「何がだ。」

そっちの俺、ミレディに何の恨みがあるんだよ……。

 

Bハジメ『ミレディ――っ、便所流しの恨みは必ず晴らすからなぁ!』

Bミレディ『また便所の話――――――!?』

Bハジメ『オスカーッ!てめぇ、ヒュドラはやり過ぎだろうがっ。

ちっとは自重しろ馬鹿野郎!』

Bオスカー『意味が分からない!?』

……もう色々カオスだよ。

 

オスカー「違うんだ!あれはヴァンへの嫌がらせも兼ねてやったんだ!

そっちの僕、今度会うマフラー野郎は遠慮なく殴り飛ばせ!」

ハジメ「十分大人げなさ過ぎるわ。てか余計なこと言わんでええ。」

Bオスカー『了解した!』

ハジメ「するな!」

全く……これじゃあおちおち別れも言えねぇじゃねぇか。

まぁいい。これだけでも言うか。

 

ハジメ「そっちの俺!帰る前に一回、クソ野郎ぶん殴って来い!

俺は奴をぶちのめした上で、帰ってみせるからよ!」

俺の力強い言葉に、向こうの俺は力強く頷いて返した。

Bハジメ『前に立ちふさがるってんなら、神だろうと蹴散らしてやるよ。

そっちもなってみせろよ、最高最善の魔王って奴に!』

互いの言葉に、俺達は同時に力強く返した。

 

(A・B両方)ハジメ「『当たり前だ、誰に物言ってやがる!』」

その言葉を聞いて、互いに不敵な笑みを浮かべる。

どんな世界だろうと、俺は、俺達は折れない。そうじゃなきゃ、自分じゃないだろ?

と、だんだん映像が途切れていった。どうやら時間切れのようだ。

 

すると、俺達の体も光の粒子が纏わりついていった。塔を中心とした光の渦から発せられているようだ。

同時に、強い眠気が意識を霞ませていく。あの時と同じ感覚だ。

……そうか、あの時俺を呼んだのは、あのクジラだったんだな。ようやく理解できた瞬間だった。

あの時の声は、この海の主からのメッセージだったということに。

そうして俺達は、意識が落ちる感覚と共に光に包まれていった。

 


 

ハジメ「ぅ、う~ん……んぁ?」

ふと目を覚ますと、俺達は「ビリオンスターズ号Mark-Ⅱ」の甲板上にいた。

ハジメ「元の世界、だな……。」

両手にミュウとレミアを抱きしめながら、俺は呟いた。

 

すると、皆も目が覚めたようだ。しかし……どうやらあの時の記憶がないみたいだ。

これはおかしいな?俺はしっかり覚えているのに……もう一つの世界の俺とも会ったし。

ティオ「むっ、ご主人様よ!見よ!」

不意に、ティオの驚愕の声に目を傾けると、海が燦然と輝き始めていた。

それも見渡す限り、大海原の全てが、水平線まで輝きに満ちていく。

 

ハジメ「これって……そうか!これが"輝く海の意思"か!」

ミュウ「みゅ!?」

俺は思わず大声を上げた。他の皆も突然のことに驚いているようだ。

それはそうだろう。俺だけしか覚えていないのだから。

すると、光の海が現出した。キラキラと輝く粒子が踊り、ふわりふわりと天に昇っていく。

それはまるで黄金の世界。或いは、星の海のようだ。

 

ミュウ「あ、パパ!お魚さんなの!」

ミュウの指さす先で、光の粒子が小さな魚へと形を成した。

その魚が輝く世界で宙を泳ぎ、瞬く間に大海原全てに広がっていく。

それこそ星の数ほどの多種多様な"光でできた海の生き物"が、気持ちよさそうに宙を泳ぐ。

俺達の体に当たっては、パッと弾けて、また形を作って、ふわふわと泳いでいく。

その光景はとても幻想的で、神秘的で、胸がいっぱいになりそうな光景だった。

 

――ォオオオオオオオンッ!

そうして光の海から飛び出すように現れたのは、あの時の"光のクジラ"だった。

春に差す木漏れ日のように温かい光が降り注ぐ。

それと同時に、言葉はなくとも深い感謝の念が伝わってきた。

 

ハジメ「……うん?なんだろ、頭に何か……。」

俺がそう言うと、大量の情報が頭の中に流れ込んできた。

見たこともない筈なのに、あたかも知っていたものを思い出したような感覚になった。

流石に少し動揺したが、「お礼なの。」というミュウの声で理解した。

 

ハジメ「……全く、やってくれるねぇ。

おかげで、サテライトレーザーや飛空艇の改良計画、一から見直さないといけないじゃないか。」

そう言いながらも、俺の表情は晴れやかだった。寧ろこれからのことにわくわくが止まらなかった。

すると、どうやら俺だけじゃなかったらしく、ユエ達も自分達を確認していた。

 

ティオ「む?何故か、魔力量が増えておらんかのぅ?」

香織「あぁっ!言われてみれば!」

シア「あの、魔力量以外にも、私、"未来視"の熟練度が上がった気がします。」 

ユエ「……ん。そう言えば、私も魔法技能が上がった気がする。」

トシ「俺も属性魔法の技術が上がった気がする。」

イナバ『自分はもう一段階強くなれた気がしやす!』

ミレディ「ミレディさんも……なんか懐かしい雰囲気になった気がする。」

オスカー『僕は変身していた記憶があったような……。』

ナイズ『自分も、久々に戦っていた感覚がするな……。』

メイル『お姉さんは天国にいた気がするわ。』

……う~ん見事にバラバラだな。

 

ミュウ「でも、なんだかとっても良いことがあった気がするの!素敵な人達と出会ったみたいに!」

素敵な人達、か……向こうの俺、絶対に生きて帰れよ。大切な人達と一緒に。

――魔王、か。悪くないかもな。

そんな声が返ってきた気がした。木霊かな?

 

そんな俺達を慈しむように、光のクジラは柔らかな鳴き声を上げて、優雅に身を翻した。

本物のクジラがそうするように背中から光の海へ。

キラキラ、キラキラ。光の海は舞い上がり、輝く海の生き物達が楽しげに踊る。

 

ミュウ「そうなの!パパ!お願いしないと!」

――輝く海の意思に、遭遇した者の願いは叶う。そう言えばそうだったな。

ミュウ「パパ達とずっと一緒にいられますように。」

可愛らしい願いだね……さてと、願わくば皆の願いが叶いますように。

俺個人としては、そうだな……ミュウに誇れる父親で、レミアに誇れる夫でありますように、かなぁ。

 


 

ミュウ「パパー!朝なのー!起きるのー!」

【海上の町エリセン】の一角にある家の二階、愛娘の声が響き渡る。

時刻はそろそろ早朝を過ぎて、日の温かみを感じ始める頃だ。

窓から本日もいい天気になる事を予報する様に、朝日が燦々と差し込んでいる。

 

ハジメ「ミュウ、朝から元気だね~。」

そんな朝日に照らされるベッドに腰掛けながら、俺は読書に耽っていた。

先日の冒険から帰った俺達は、一時の休息に身を預けていた。

まぁ、俺は帰った後即座に錬成しまくって、抱えていた仕事を片付けたんだけどね!

でもおかげで、ミュウとレミアとの時間を多く残せたから問題無し!

 

俺を呼びに来たミュウはベッドの直前で重さを感じさせない見事な跳躍を決めると、そのまま俺の膝の上に100点満点の着地を決めた。

ミュウ「パパ、おはようなの。ごはんなの。」

ハジメ「そっか。じゃあそろそろ行こうか。」

ニコニコと笑みを溢しながら、ミュウはその小さな紅葉の様な手で俺の頬をペチペチと叩く。

俺は本を閉じミュウに目を向け、優しくそのエメラルドグリーンの髪を梳いた。

気持ちよさそうに目を細めるミュウ。う~ん、これこそ至福の(とき)!

 

あの奇妙な冒険から2日、俺達は現在もレミアとミュウの家に世話になっている。

エリセンという町は、木で編まれた巨大な人工の浮島だ。

広大な海そのものが無限の土地となっているので、町中は、通りにしろ建築物にしろ基本的にゆとりのある作りになっている。

レミアとミュウの家も、二人暮らしの家にしては十分以上の大きさがあり、俺達が寝泊りしても何の不自由も感じない程度には快適な生活空間だった。

 

エリセンは海鮮系料理が充実しており波風も心地良く、中々に居心地のいい場所だったので半分はバカンス気分でもあった。

まぁ、醤油が無かったから海鮮丼とかは無理だったけどね……。

ただ、【メルジーネ海底遺跡】攻略からもう6日も滞在しているからねぇ……。

流石にそろそろと行きたいんだけど……辛いよぉ。

 

ミュウを、この先の旅に連れて行く事は出来ない。

幾ら可愛い愛娘とはいえ、4歳の何の力も無い幼女を東の果ての大迷宮に連れて行くなど以ての外だ。

まして、【ハルツィナ樹海】を除く残り二つの大迷宮は更に面倒な場所にある。

 

一つは魔人族の領土にある【シュネー雪原】の【氷結洞窟】。

しかもクソ野郎の配下が管轄していやがる場所だ。面倒なことこの上ない。

そしてもう一つの【神山】も、クソ野郎のお膝元ともいえる。絶対面倒ごとだらけ間違いなし。

そんな場所にミュウを連れて行くなど絶対に出来ない。

 

そういう訳でこの町で二人とお別れをしなければならないのだが、何となくそれを察しているのか俺達がその話を出そうとすると、ミュウは決まって超甘えん坊モードで「必殺!幼女の無言の懇願!」を発動するので中々言い出せずにいた。

 

ハジメ「それでも、いい加減行かないとダメだよね……。

何て言えばいいんだろう……泣かれるかな、泣かれるよね……憂鬱だよぉ~。」

俺は桟橋に腰掛けて海を眺めていた。こういう時どう言えと言うんだ……。

俺だって別れたくないし、正直バカンス気分でここにいたい。

でもなぁ……ハァ……行かないとなぁ……嫌だなぁ……うぅ……(泣)

ここ最近やってる、ストレス発散も兼ねた【神域】狙いの破壊光線乱れ撃ちも、最近気が乗らないし……。

 

視線を向ければ、海人族の特性を十全に発揮して、チートの権化達(ユエ、シア、ティオ、香織、ミレディ)から華麗に逃げ回る変則的な鬼ごっこ(ミュウ以外全員鬼役)を全力で楽しんでいるミュウがいる。

その屈託無い笑顔に、別れを切り出せばあの笑顔が泣き顔になるかと思うと自然と溜息が漏れる。

 

因みにイナバとトシは、ライセン大迷宮の一部を使って、療養後のメルドさんと模擬戦をしているらしい。

トシは変身無しでも戦える技術を勉強中だ。因みにメルドさんにも例の特訓は受けてもらった。

強くなっておくことに損はないだろうし……だからトシ、そんな目で俺を見ないでおくれ。

オスカー達パーカー組はというと、メイルが暴走しないかオスカーとナイズの二人体制で見張っている、らしい……。

 

とまぁ、そんな訳で悩みまくっているこの頃、という訳さ。

と、そんな俺の悩みを察した様に、桟橋から投げ出した両足の間から突然人影がザバッと音を立てて現れた。

海中から水を滴らせて現れたのは、ミュウの母親であり、俺の奥さんでもあるレミアだ。

 

レミアはエメラルドグリーンの長い髪を背中で一本の緩い三つ編みにしていて、ライトグリーンの結構際どいビキニを身に付けている。

ミュウと再会した当初は相当やつれていたけど、今は以前の健康体を完全に取り戻していて、一児の母とは思えない……いや、だからこその色気を纏っている。

 

町の男連中がこぞって彼女の再婚相手を狙っていたり、母子セットで妙なファンクラブがあるのも頷ける位のおっとり系美人だ。

ティオとタメを張る程見事なスタイルを誇っているし、体の表面を流れる水滴が実に艶かしい。

正直、前の旦那さんを尊敬するわな。こんなに綺麗で強い女性と相思相愛になったんだから。

 

そんなタダでさえ魅力的なレミアが、いきなり自分の股の間に出てきたのだ。

ミュウのことで頭を悩ます俺は、うっかり不意をつかれてしまった。

てかこの位置はアカン!しかもレミアは、俺の膝に手を掛けて体を支えている。これは拙い……。

しかし、肉体の放つ色気とは裏腹にレミアの表情は優しげで、寧ろ俺を気遣う様な色を宿していた。

 

レミア「有難うございます。ハジメさん。」

ハジメ「うん?何の事?」

いきなりお礼を述べたレミアに、思わずとぼける。

レミア「うふふ、娘の為にこんなにも悩んで下さるのですもの……

母親としてはお礼の一つも言いたくなります。」

ハジメ「"父親として"当然さ。それに、ミュウだけじゃなく、レミアとも離れたくないから。」

レミア「あらあら……ミュウは本当に素敵な人達と出会えましたね。」

 

レミアは肩越しに振り返って、ミュウの悪戯で水着を剥ぎ取られたシアが手ブラをしながら必死にミュウを追いかけている姿を見つつ笑みを溢す。

そして再度俺に視線を転じると、今度は少し真面目な表情で口を開いた。

 

レミア「ハジメさん。もう十分です。皆さんは、十分過ぎる程して下さいました。

ですから、どうか悩まずに、すべき事の為にお進み下さい。」

ハジメ「レミア……。」

レミア「皆さんと出会って、あの子は大きく成長しました。

甘えてばかりだったのに、自分より他の誰かを気遣える様になった……あの子も分かっています。

ハジメさん達が行かなければならない事を……まだまだ幼いですからついつい甘えてしまいますけれど……

それでも、一度も"行かないで"とは口にしていないでしょう?

あの子もこれ以上、ハジメさん達を引き止めていてはいけないと分かっているのです。だから……」

 

ハジメ「……敵わないなぁ……二人には。しかし…………ねぇ、レミア。」

レミア「はい、何でしょう?」

ハジメ「子供の成長って早いね。

俺が言うのも難だけど……いつの間にか、ミュウが少し遠くにいるような気分だよ。」

レミア「ふふっ。えぇ、まったくです。」

 

ミュウの無言の訴えが、行って欲しくないけれど、それを言ってハジメ達を困らせたくないという気遣いの表れだったと改めて言われ、ハジメは眩しいものを見る目でしみじみと呟く。

そんなハジメに、レミアは再び優しげな眼差しを向けた。

 

レミア「では、今晩はご馳走にしましょう。ハジメさん達のお別れ会ですからね。」

ハジメ「そうだね、楽しみにしているよ。」

レミア「うふふ、はい。期待していて下さいね、あ・な・た♡」

ハジメ「勿論!愛妻料理、楽しみにしているから!」

どこかイタズラっぽい笑みを浮かべるレミアに、俺も笑顔で返す。

そこへ、ブリザードの様な冷たさを含んだ声音が割り込んだ。

 

ユエ「……レミア、いい度胸。」

香織「レミアさん、いつの間に……油断も隙もないよ。」

ティオ「ふむ、見る角度によっては、ご主人様にご奉仕している様にも見えるのぅ。」

シア「あの、ミュウちゃん?お姉ちゃんの水着、そろそろ返してくれませんか?さっきから人目が……」

ミレディ「ハジメン、そろそろメル姉が暴走しそうだから何とかして。」

 

いつの間にか戻ってきていたユエ達が、半眼でレミアを睨んでいた。

てかミレディ、シスコンを今更どうしろというんだ。

あれは雫の妹を名乗る不審者(形容しがたい何か)と同じようなもんだし。

尚、4歳の幼女に水着を取られて半泣きのウサミミはスルーする。

一方、睨まれている方のレミアはというと、「あらあら、うふふ。」と微笑むばかりで特に引いた様子は見られない。

強かだねぇ……。それにしても皆、水着がよく似合っているなぁ。

 

ユエは黒のビキニタイプだ。紐で結ぶタイプなので結構際どい。

ユエの肌の白さと相まってコントラストがとても美しい。

珍しく髪をツインテールにしており、それが普段より幼さを感じさせるのに、水着は大人っぽさを感じさせるというギャップが、何とも……。

 

香織は恥ずかしいのか耳まで赤く染めながらも白のビキニから覗く胸の谷間に俺の腕をムニュと押し付けている。

この反応が可愛いからかな?ユエが香織をいじるのは。

更に、背後からはシアが、その自慢の双丘を俺の背中に押し付けながらもたれかかった。

未だ、ミュウに水着を取られたままなので、体を隠す意図もあるようだ。

ただ、これは流石に拙い……生理現象が。

 

ちょっと、レミアさん!?何故股間に近づいてくるのですか!?やめなされやめなされ!

ティオ、お前も何押し付けようとしてんの!?えっ、何この包囲網!?

ミレディ!お前は俺を弄るんじゃ……メイルを止めていたのか、疑ってゴメン。

 

そんな、美女・美少女に囲まれた俺のもとへ、ミュウが海中から浮かび上がってきた。

レミアと俺の間に割り込むように現れたミュウは、そのまま正面から俺に飛びつく。

咄嗟に抱きとめた俺に、ミュウは「戦利品とったどー!」とばかりにシアの水着を掲げ、それをパサッと俺の頭に乗せた。

娘からの贈り物は嬉しいが……何故にこれを選んだ!?

 

シア「ミ、ミュウちゃん!?なぜ、こんな事を……はっ!?まさか……ハジメさんに頼まれて?」

ハジメ「いや、違うからね!?下着泥棒じゃあるまいし!」

ミレディ「わぁ……///は、ハジメンったらもう!変態さんなんだから!」

顔赤らめても説得力無いぞ、むっつりミレディ!

 

シア「も、もうっ!ハジメさんたら、私の水着が気になるなら、そう言ってくれれば……いくらでも……。」

ハジメ「いや、そうじゃな「……ハジメ、私のもあげる。」「わ、私だって!ハジメくんが欲しいなら……あ、でもここで脱ぐのは恥ずかしいから……あとで部屋で、ね?」「妾のも、あげるのじゃ。ご主人様、待ってておくれ。」……全然聞いてくれねぇ。」

 

レミア「あらあら、じゃあ、私も……上と下どちらがいいですか?それとも両方?」

ハジメ「勘弁してくれー!!!」

頭に女物の水着を乗せ、四方から女に水着を献上される俺。

ポタポタとシアの水着から滴る水が、頬を引きつらせる俺の表情と相まって何ともシュールだった、とはトシの感想だった。

やかましいわ!こちとら好きで女物水着を頭に乗せてるわけじゃねぇ!

 

因みに、その光景を目撃して血の涙を滴らせた男共がとんでもない噂を広めてくれたので、後でO☆H☆A☆N☆A☆S☆H☆Iした。

誰の好物が脱ぎたての水着だゴルァ!?頭から被る事に至上の喜びを見出す変態だぁ!?

テメェ等にだけは言われたくねぇんだよこのすっとこどっこい!

 

その日の晩、夕食前に俺達はミュウに一時のお別れを告げた。

それを聞いたミュウは、着ているワンピースの裾を両手でギュッと握り締め、懸命に泣くのを堪えていた。暫く沈黙が続く中、それを破ったのはミュウだった。

 

ミュウ「……もう、会えないの?」

ハジメ「まさか。やること全部終えたら一番先にここに帰ってくるさ。」

ミュウの不安そうな言葉を、俺は優しく返す。

正直、いつ日本に帰れるかは不安だが、それでも二人には何度でも会いに行くさ。

 

ミュウ「……パパは、ずっとミュウのパパでいてくれる?」

ハジメ「勿論!ミュウがそれを望むなら、いつだってパパはパパだよ。」

そう答えるとミュウは、涙を堪えて食いしばっていた口元を緩めてニッと笑みを作る。

 

ミュウ「なら、いってらっしゃいするの。それで今度は、ミュウがパパを迎えに行くの!」

ハジメ「お~、ミュウから迎えに来てくれるのか?」

ミュウ「うん、パパが行けるなら、ミュウも行けるの。だって……ミュウはパパの娘だから!」

俺の娘たる自分が、出来ない事など無い。自信有りげに胸を張り、自分から会いに行くと宣言するミュウ。勿論ミュウは、俺達が世界を越えて自分の故郷に帰ろうとしていることを正確に理解しているわけではない。

まして、ミュウが迷宮を攻略して全ての神代魔法を手に入れ、世界を超えてくるなど有り得ない。

 

それ故に、それは幼子の拙い発想から出た、凡そ実現不可能な目標だ。

だが一体誰が、その力強い宣言を笑えるというのだろう。

一体誰が、彼女の意志を馬鹿馬鹿しいと切り捨てられるのだろう。出来はしない。してはならない。

何故ならそれは、他の誰でもない俺自身を否定する事になるからだ。

夢を掲げ、不可能を可能にしてきた俺にはわかる。

ミュウの瞳に確かな『覚悟』がある。その覚悟にこそ、凄味がある!

 

ハジメ「分かった。それじゃあミュウ、パパとの約束だ。」

ミュウ「みゅ?」

そう言って俺は、ミュウのために作っておいたあるものを取り出す。

それは、何の変哲もないライドウォッチだった。特別な力がある訳でもないが……まぁ、ただの願掛けさ。

 

ハジメ「このウォッチを、ミュウに預ける。

いつか、全部の神代魔法を手に入れたら、これを返しに来てほしい。」

俺の言葉と共にウォッチを受け取り、わなわなと瞼を揺らすミュウ。

俺は、そんなミュウの髪を優しく撫でる。

 

ハジメ「その時は、俺の故郷に連れて行ってあげるよ。

ビックリ箱みたいなところだからね、きっと驚くよ。」

ミュウ「!パパの生まれたところ?みたいの!」

ハジメ「楽しみ?」

ミュウ「すっごく!」

 

ピョンピョンと飛び跳ねながら喜びを表現するミュウ。やはり強いな、ミュウは。

俺とまた会えるという事に不安を吹き飛ばされ満面の笑みを浮かべるミュウは、飛び跳ねる勢いそのままに、俺に飛びついた。

しっかり抱きとめ、そのままミュウを抱っこする。

 

ハジメ「なら、いい子でママといるんだよ?

先ずは、ママの言うことをよく聞いて、お手伝いを頑張るんだよ?冒険はそこから始まりなんだから。」

ミュウ「はいなの!」

俺はそんな二人のやり取りを微笑みながら見つめていたレミアに視線で謝罪する。

「勝手に決めて済まない」と。

 

それに対し、レミアはゆっくり首を振ると、確りと視線を合わせて頷いた。

「気にしないで下さい。」と。

その暖かな眼差しには責める様な色は微塵もなく、寧ろ感謝の念が含まれていた。

そんな俺とレミアのアイコンタクトに気がついたのか、ミュウが俺とレミアを交互に見つつ、ウォッチを宝物庫に入れ俺の服をクイクイと引っ張る。

 

ミュウ「パパ、ママも?ママも一緒?」

ハジメ「勿論構わないけど……どう?」

レミア「はい。勿論、私だけ仲間はずれなんて言いませんよね?」

ハジメ「そっか、もう決めたんだね。」

レミア「あらあら。娘と旦那様が行く場所に、付いていかないわけないじゃないですか。うふふ。」

娘の頭を撫でる俺と、それに寄り添うレミアの図。傍から見れば、普通に夫婦だねぇ。

 

その後、それに嫉妬したのか香織達が割り込んで喧騒が広がった。

最初のしんみりした空気は何処に行ったのか。

香織達とレミアが女性陣トークを繰り広げていると、いつの間にか蚊帳の外に置かれた俺に、ユエがトコトコと歩み寄った。

 

ユエ「……連れて行くの?」

ハジメ「ダメ?俺としては、大切な人達に素敵なものを見せたいって思ったんだけど……。」

ユエの質問に俺がそう返すと首を振り、どこか優しげな眼差しで俺を見つめ返した。

ユエ「……それがハジメの決めた事なら。」

ハジメ「そっか、ありがとう。」

 

ユエ「……でも、タイミングを選べなかったら?」

ハジメ「出来るよ、なんかいける気がする。何度失敗しても、絶対に会える。そう思うから。」

ユエ「……ん。ハジメなら行ける気がする。」

そんなやり取りをしていると、ミュウは俺に再度抱っこを要求した。

再会の約束をしたとはいえ、暫くのお別れである事に変わりは無い。

最後の夜は精一杯甘える事にした様だ。

 

その翌日、俺達はミュウとレミアに見送られ、遂に【海上の町エリセン】を旅立った。

なんだか、数日いただけなのに、50日間いたような気分だなぁ……。

そして、二人の姿が見えなくなった後、恥も外聞も捨てて盛大に泣いた俺であった。

皆の慰めが余計に辛かった。後、メイルも同じくらい泣いていた。




ハジメ
「ここまで読んでいただき、ありがとうございます!
さて今回のエンディングは豪華に4人のゲストでお送りするぞ!」
Bオスカー
「どうも、オスカー・オルクスだよ。」
Bナイズ
「……ナイズ・グリューエンだ、よろしく頼む。」
Bメイル
「メイル・メルジーネお姉さんよ。よろしくね、まだ見ぬ妹の皆!」
Bミレディ
「そして天才美少女、ミレディ・ライセンさんだよっ!」
ハジメ
「もはやここまでくると壮観だなぁ……。
さて、今回はゲストも多いから一言ずつしかできないけど……感想をどうぞ!」
Bオスカー
「そうだね……向こうの僕たちも、笑顔で旅を送っているのは嬉しかったなぁ……。」
Bミレディ
「うん!ミレディさんもナイスバディになっていたし!」
Bナイズ
「いや、あの顔でいきなり現れたら驚くと思うぞ?まさか洗脳されたのか!?と。」
Bメイル
「お姉さんはあの時もっと二人にお近づきになりたかったわね~、
向こうの私が羨ましいわ……。」
ハジメ
「うん、見事にバラバラだな。でも、なんかいい感じだから、このまま次回予告で!」

次回予告
ハジメ
「またもやアンカジへと戻った俺達。そこでは、教会の犬どもが待ち受けていた!
ランズィ公等アンカジの意思や如何に!?」(光の粒子に包まれる)
Bオスカー
「おや、もう行くんだね。」
ハジメ
「おう、そろそろミュウが心配するだろうからね。次は家族でそっちにも合えたらいいね。」
Bナイズ
「……そうだな。それはそれで面白そうだ。」
Bメイル
「お姉さんはいつでもウェルカムよ!ディーネ()の間に挟まりたいから!」
ハジメ
「ぶれないな~、さてと……ミレディ。クソ野郎の"神言"には、気をつけてな。」
Bミレディ
「!うん!ありがとう!未来の後輩君!そっちの私達にもよろしくね!」
ハジメ
「おう、そんじゃ!またな!」(手を振りながら空に消えた)

リースティアさん、誤字報告ありがとうございました!


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66.異端認定魔王

ハジメ
「お待たせいたしました。さて今回から漸くオープニングゲストが、クラスの皆に戻ります!という訳で。」
礼一
「あーえっと……どうも。」
ハジメ
「うん?どったの、コンちゃん?」
礼一
「いや、ゴリラじゃないからな!?いやさ……俺、信治達のようにキャラの描写がさ……。」
ハジメ
「……前回は並行世界の俺達との別れ、そしてミュウとレミアとの別れだったなぁ。」
礼一
「オイ!当たり前のように現実逃避するなよ!?」
ハジメ
「正直そんなの後で考えりゃいいでしょ。二次創作なんだし。」
礼一
「過去一番のメタ発言過ぎるぞ!?ハァ……取り敢えず、第5章第19話」
ハジメ・礼一
「「それでは、どうぞ!」」


ミュウとレミアと別れて数時間。

俺達はオーロラカーテンでアンカジの入場門近くに転移した。

ギルド経由でもよかったけど……今回は業務じゃなくて依頼だからね。

そして現在、アンカジの入場門が見え始めた所なのだが、何やら前回来た時と違って随分と行列が出来ていた。

大きな荷馬車が数多く並んでおり、雰囲気からしてどうも商人の行列の様だ。

 

ハジメ「これって王国の救援かな?にしては随分と大規模だけど……。」

ユエ「……ん、時間かかりそう。」

香織「多分、物資を運び込んでいるんじゃないかな?」

香織の推測通り、長蛇の列を作っているのは【アンカジ公国】が【ハイリヒ王国】に救援依頼をし、要請に応えてやって来た救援物資運搬部隊に便乗した商人達だったらしい。

王国側の救援部隊は当然の如く先に通されており、今見えている隊商も余程アコギな商売でもしない限り、アンカジ側は全て受け入れている様だ。

 

まぁ、恐らくはギルド経由の転移の応募が、間に合わなかった者達なんだろうな。

でも流石にこんな数を待つのは面倒なので、門番さんに話を通してもらった。

最初は疑いの視線を向けられていたけど、奥の詰所から現れた他の兵士さんに説明してもらって通してもらった。

更に他の兵士に指示して、伝令に走らせた様だ。

 

門番「ああ、やはり使徒様方でしたか!戻って来られたのですね!」

兵士さんは香織の姿を見ると、ホッと胸をなで下ろした。

何せ、"神の使徒"の一人として、香織はアンカジで知れ渡っている。

俺もオアシスの浄化はしたけど、知名度は香織が一番なので、代表して前に出てもらう。

 

香織「はい。実は、土壌を再生できるかもしれない術を手に入れたので試しに来ました。

領主様に話を通しておきたいのですが……。」

門番「農地地帯を!?それは本当ですかっ!?」

香織「は、はい。あくまで可能性が高いというだけですが……。」

門番「いえ、流石は使徒様です。と、こんな所で失礼しました。既に領主様には伝令を送りました。

入れ違いになってもいけませんから、待合室にご案内します。

使徒様の来訪が伝われば、領主様も直ぐにやって来られるでしょう。」

 

やはり、国を救ってもらったという認識なのか兵士さんの俺達を見る目には多大な敬意の色が見て取れる。VIPに対する待遇だ。

俺達は好奇の視線を向けてくる商人達を尻目に、門番の案内を受けて再び【アンカジ公国】に足を踏み入れた。

領主であるランズィ公が息せき切ってやって来たのは、俺達が待合室にやって来て15分程だった。

随分と早い到着だ。それだけランズィ公達にとって俺達の存在は重要なのだろう。

 

ランズィ「久しい……という程でもないか。息災な様で何よりだ、ハジメ殿。

先日の静因石の件は、誠に助かった。」

ハジメ「国の一大事だからね。それよりも、漸く王国も動き出したみたいだね。」

ランズィ「ああ。

備蓄した食料と、ハジメ殿が浄化してくれたオアシス、それにユエ殿たちが作ってくれた貯水池のおかげで十分に時間を稼げた。

王国から援助の他、商人達のおかげで何とか民を飢えさせずに済んでいる。」

 

そう言って、少し頬がこけたランズィ公は穏やかに笑った。

アンカジを救う為連日東奔西走していたのだろう。

疲労が滲み出ているが、その分成果は出ている様で表情を見る限りアンカジは十分に回せていけている様だ。

 

今回は土壌の再生に来ており、、香織が今すぐ再生できる可能性があると伝えると、それを聞いたランズィ公の反応は劇的だった。

掴みかからんばかりの勢いで「マジで!?」と口調すら崩して唾を飛ばして確認するランズィ公に、香織は完全にドン引きしながらコクコクと頷く。

俺の影に隠れる香織を見て、取り乱したと咳払いしつつ居住まいを正したランズィ公は、早速土壌再生を頼んできた。

元よりそのつもりだと頷き、俺達一行はランズィ公に先導され農地地帯へと向かった。

 

農地地帯には、全くと言っていい程人気が無い。

普段は作物の収穫で賑わっているのだが……

その事を思い出し、ランズィ公が無表情ながらも何処か寂しそうな雰囲気を漂わせている。

そんな農地の端に立って再生魔法を行使するのは香織だ。

 

一番適性が高かったのは香織で、次がティオ、その次がユエだった。

ユエの場合、相変わらず自前の固有魔法"自動再生"があるせいか、任意で行使する回復作用のある魔法は苦手な様だ。

反対に、"治癒師"である香織は回復と"再生"に通じるものがある様で一際高い適性を持っており、より広範囲に効率的に行使出来る様だ。

 

因みにシアの場合、まともに発動できなくてもオートリジェネのような自動回復効果があるらしく、また、意識すれば傷や魔力、体力や精神力の回復も段違いに早くなるらしい。どんどん超人化していくシア。身体強化のレベルや体重操作の熟練度も上がっているようなので、自動回復装置付きの重戦車のようになって来ている。

 

イナバもシアと同じようで、どんどん蹴り兎の概念を超越していっている。

お前、一体どこを目指しているんだ?

トシもデバフとして、回復前に戻すという使い方で、腕を上げているらしい。

俺?元より時間操作は得意だから、香織よりも腕は上だよ?だって魔王だし。

 

と、そうこうしているうちに香織の再生魔法が発動する。

「──"絶象"!」

瞑目したままアーティファクトの白杖を突き出し呟かれた魔法名。

次の瞬間、前方に蛍火の様な白菫の淡い光が発生し、スっと流れる様に農地地帯の中央へと落ちた。

すると農地全体が輝きだし、淡い光の粒子が湧き上がって天へと登っていく。

それは、まるでこの世の悪いものが浄化され天へと召されていく様な神秘的で心に迫る光景だった。

誰もがその光景に息をするのも忘れて見蕩れる。

 

術の効果が終わり、農地地帯を覆った神秘の輝きが空に溶ける様に消えた後も、ランズィ公達は暫く余韻に浸る様に言葉も無く佇んでいた。

少し疲れた様子で額を拭う香織を労いつつ、俺はランズィ公を促す。

ハッと我を取り戻したランズィ公は、部下の人に命じて土壌の調査をさせた。

部下の男性が慌てて検知の魔法を使い農地地帯をくまなく調べる。

 

固唾を呑んで見守るランズィ公達に、検知を終えた男は信じられないといった表情でゆっくりと振り返り、ポロリと溢す様に結果を報告した。

検知官「……戻っています。」

ランズィ「……もう一度言ってくれ。」

ランズィ公の再確認の言葉に部下の男は、息を吸って今度ははっきりと告げた。

 

検知官「土壌に異常なし!元の土壌です!完全に浄化されています!」

その瞬間、ランズィ公の部下達が一斉に歓声を上げた。

手に持った書類やら荷物やらを宙に放り出して互いに抱き合ったり肩を叩きあって喜びを露わにしている。ランズィ公も深く息を吐きながら、感じ入った様に目を瞑り天を仰いでいた。

 

ハジメ「さてと、次は作物だね。ランズィ公、以前言った場所に?」

ランズィ「あぁ、勿論。貴殿に言われた場所にある。……まさか……それも?」

ハジメ「ユエとティオがいれば大丈夫ですよ。ね?」

ユエ「……ん、問題無い。」

ティオ「うむ。折角丹精込めて作ったのじゃ、全て捨てるのは不憫じゃしの。任せるが良い。」

 

俺達の言葉に本当に作物も復活するのだと実感し、ランズィ公は胸に手を当てると人目も憚らず深々と頭を下げた。

本来、領主がする事では無いが、そうせずにはいられない程ランズィ公の感謝の念は深かったのだろう。

公国への深い愛情が、そのまま感謝の念に転化した様なものだねぇ。

さて、早速作物のある方へ移動……こんな時にか。

 

ハジメ「やれやれ……面倒この上ない場面になったな。」

不意に感じた不穏な気配に、俺の呆れた様な言葉で皆がその歩を止められる。

視線を巡らせば、遠目に何やら殺気立った集団が肩で風を切りながら迫ってくる様子が見えた。

【アンカジ公国】の兵士とは異なる装いの兵士が隊列を組んで一直線に向かってくる。

どうやらこの町の聖教教会関係者と神殿騎士の集団の様だった。

 

俺達の傍までやって来た奴等は、直ぐ様俺達を半円状に包囲した。

そして神殿騎士達の合間から、白い豪奢な法衣を来た初老の男が進み出てきた。

物騒な雰囲気に、ランズィ公が咄嗟に男と俺達の間に割って入る。

 

???「ゼンゲン公……こちらへ。彼等は危険だ。」

ランズィ「フォルビン司教、これは一体何事か。彼等が危険?二度に渡り、我が公国を救った英雄ですぞ?

彼等への無礼は、アンカジの領主として見逃せませんな。」

フォルビン司教と呼ばれた糞爺は、馬鹿にする様にランズィ公の言葉を鼻で笑った。

 

糞爺「ふん、英雄?言葉を慎みたまえ。

彼等は既に異端者認定を受けている、不用意な言葉は貴公自身の首を絞める事になりますぞ。」

ランズィ「異端者認定……だと?馬鹿な、私は何も聞いていない。」

ハジメ「だろうな、王国でもそういった傾向になっていたみたいだし。」

 

俺の発言に糞爺が驚き、「何故それを!?」と言わんばかりの視線で見てくるが、無視する。

一方、俺に対する"異端者認定"という言葉に、ランズィが息を呑んだ。

ランズィ公とて、聖教教会の信者だ。その意味の重さは重々承知しているだろう。

それ故に、何かの間違いでは?と信じられない思いで糞爺に返した。

 

糞爺「当然でしょうな。今朝方、届いたばかりの知らせだ。

このタイミングで異端者の方からやって来るとは……クク、何とも絶妙なタイミングだと思わんかね?

きっと、神が私に告げておられるのだ。神敵を滅ぼせとな……これで私も中央に……」

おい、糞爺。下らない本音駄々洩れてんぞ。それよりも、どうしたものかねぇ?

正直、教会なんざどうでもいいが、アンカジの人達に迷惑はかけたくないしなぁ……。

 

どうやら俺が異端者認定を受けた事は本当らしいと理解し、思わず背後の俺を振り返るランズィ公。

取り敢えず視線で「どうします?」とランズィ公に問いかけてみる。

俺の視線を受けて眉間に皺を寄せるランズィ公に、如何にも調子に乗った様子の糞爺がニヤニヤと嗤いながら口を開いた。

 

糞爺「さぁ、私は、これから神敵を討伐せねばならん。

相当凶悪な男だという話だが、果たして神殿騎士百人を相手に、どこまで抗えるものか見ものですな。

……さぁさぁ、ゼンゲン公よ、そこを退くのだ。よもや我ら教会と事を構える気ではないだろう?」

ランズィ公は瞑目する。

まぁ、俺の力や性格、その他あらゆる情報からして、要は制御できない程強力な力が許せないだけだろう。

 

てか、今俺と戦うとか正気か!?とでも言いたくなる。だって魔人族との戦争真っ只中なんだし。

実際、俺フリード倒したし。

取り敢えず、オーロラカーテンやゲームエリアといった、市街地での戦闘用の隔離系技能はある。

後はランズィ公、貴方の決断だけだ。

 

するとランズィ公は目を見開くと、口元に笑みを浮かべた。

そして黙り込んだランズィ公にイライラした様子のフォルビンに領主たる威厳をもって、その鋭い眼光を真っ向からぶつけ、アンカジ公国領主の答えを叩きつけた。

 

ランズィ「断る。」

糞爺「……今、何といった?」

全く予想外の言葉に、糞爺の表情が面白い程間抜け顔になる。

そんな糞爺の様子に、内心聖教教会の決定に逆らうなど有り得ない事なのだから当然だろうなと苦笑いしながら、ランズィ公は揺るがぬ決意で言葉を繰り返した。

 

ランズィ「断ると言った。彼等は救国の英雄。例え、聖教教会であろうと彼等に仇なす事は私が許さん。」

糞爺「なっ、なっ、き、貴様!正気か!教会に逆らう事がどういう事か分からん訳では無いだろう!

異端者の烙印を押されたいのか!」

ランズィ公の言葉に、驚愕の余り言葉を詰まらせながら怒声をあげる糞爺。

周囲の神殿騎士達も困惑した様に顔を見合わせている。

 

ランズィ「フォルビン司教。中央は、彼等の偉業を知らないのではないか?

彼は、この猛毒に襲われ滅亡の危機に瀕した公国を救ったのだぞ?

報告によれば、勇者一行もウルの町も彼に救われているというではないか……そんな相手に異端者認定?

その決定の方が正気とは思えんよ。

故に、ランズィ・フォウワード・ゼンゲンは、この異端者認定に異議とアンカジを救ったという新たな事実を加味しての再考を申し立てる。」

糞爺「だ、黙れ!決定事項だ!これは神のご意志だ!逆らう事は許されん!

公よ、これ以上その異端者を庇うのであれば貴様も、いやアンカジそのものを異端認定する事になるぞ!

それでもよいのかっ!」

 

どこか狂的な光を瞳に宿しながら、糞爺はチンピラプリーストのような雰囲気で喚きたてた。

それを冷めた目で見つめるランズィ公。ちょっと心配になって問いかけた。

ハジメ「本当にいいの?王国と教会の両方と事を構える事になるよ?

領主として、その判断はどうかと思うけど……。」

ランズィ公は俺の言葉には答えず、事の成り行きを見守っていた部下達に視線を向けた。

俺も誘われる様に視線を向けると、二人の視線に気がついた部下達は一瞬瞑目した後、覚悟を決めた様に決然とした表情を見せた。

瞳はギラリと輝いている。明らかに「殺るなら殺ったるでぇ!」という表情だ。

 

その意志を糞爺も読み取った様で、更に激高し顔を真っ赤にして最後の警告を突きつけた。

糞爺「いいのだな?公よ、貴様はここで終わる事になるぞ。

いや貴様だけではない、貴様の部下も、それに与する者も全員終わる。神罰を受け尽く滅びるのだ!」

ランズィ「このアンカジに、自らを救ってくれた英雄を売る様な恥知らずはいない。神罰?

私が信仰する神は、そんな恥知らずをこそ裁くお方だと思っていたのだが?

司教殿の信仰する神とは異なるのかね?」

ランズィ公の言葉に怒りを通り越してしまったのか無表情になった糞爺は、片手を上げて神殿騎士達に攻撃の合図を送ろうとした。

 

と、その時。ヒュ!と音を立てて何かが飛来し、一人の神殿騎士のヘルメットにカン!と音を立ててぶつかった。

足元を見れば、そこにあるのは小石だった。

神殿騎士には何のダメージも無いが、なぜこんなものが?と首を捻る。

しかしそんな疑問も束の間、石は次々と飛来し、神殿騎士達の甲冑に音を立ててぶつかっていった。

 

何事かと石が飛来して来る方を見てみれば、いつの間にかアンカジの住民達が大勢集まり神殿騎士達を包囲していた。

彼等は農地地帯から発生した神秘的な光と、慌ただしく駆けていく神殿騎士達を見て何事かと野次馬根性で追いかけて来た人々だ。

 

彼等は神殿騎士が自分達を献身的に治療してくれた"神の使徒"たる香織や、特効薬である静因石を大迷宮に挑んでまで採ってきてくれた俺達を取り囲み、それを敬愛する領主が庇っている姿を見て、「教会の奴等乱心でもしたのか!」と憤慨し、敵意も露わに少しでも力になろうと投石を始めたのである。

 

糞爺「やめよ!アンカジの民よ!奴等は異端者認定を受けた神敵である!奴等の討伐は神の意志である!」

糞爺が殺気立つ住民達の誤解を解こうと大声で叫ぶ。

彼等はまだ、俺達が異端者認定を受けている事を知らないだけで、司教たる自分が教えてやれば直ぐに静まるだろうとでも思っているのだろう。

実際、聖教教会司教の言葉に住民達は困惑を露わにして顔を見合わせ、投石の手を止めた。

 

そこへ、今度はランズィ公の言葉が、威厳と共に放たれる。

ランズィ「我が愛すべき公国民達よ。聞け!彼等はたった今、我等の農地地帯を浄化してくれた!

我等のアンカジが彼等の尽力で戻ってきたのだ!そして、作物も浄化してくれるという!

彼等は、我等のアンカジを取り戻してくれたのだ!この場で多くは語れん。故に、己の心で判断せよ!

救国の英雄を、このまま殺させるか、守るか。……私は、守る事にした!」

糞爺は「そんな言葉で、教会の威光に逆らう訳がない」と嘲笑混じりの笑みをランズィ公に向けようとして、次の瞬間その表情を凍てつかせた。

 

──カンッ!カンッ!カンッ!カンッ!カンッ!カンッ!カンッ!カンッ!

 

住民達の意思が投石という形をもって示されたからだ。

糞爺「なっ、なっ……!?」

再び言葉を詰まらせた糞爺に住民達の言葉が叩きつけられた。

 

「ふざけるな!俺達の恩人を殺らせるかよ!」

「教会は何もしてくれなかったじゃない!なのに、助けてくれた使徒様を害そうなんて正気じゃないわ!」

「何が異端者だ!お前らの方が余程異端者だろうが!」

「きっと、異端者認定なんて何かの間違いよ!」

「香織様を守れ!」

「領主様に続け!」

「香織様、貴女にこの身を捧げますぅ!」

「冒険者さん!今の内に逃げて下さい!」

「おい、誰かビィズ会長を呼べ!"香織様にご奉仕し隊"を出してもらうんだ!」

 

う~ん、最後の団体についてはちょっと相談が必要だけど……

取り敢えず、住民の皆さんが俺達に深い感謝と敬愛の念を持っているってことだけは分かった。

信仰心を押しのけて、目の前のランズィ公と俺達を守ろうと気勢を上げた。

否、きっと信仰心自体は変わらないのだろう。

ただ自分達の信仰する神が、自分達を救ってくれた"神の使徒"である香織を害す筈が無いと信じている様だ。

要するに、"信仰心"が糞爺への信頼を上回ったという事だろう。まぁ、元々無かったと思うけど。

 

ミレディ達の時代にも、解放者じゃないとはいえ教会を非難する信者もいたにはいたとのことだ。

かつて聖剣"ウーア・アルト"を振るった、ラインハルト・アシエという男性もその一人らしい。

でもなんか聞いたことある様な苗字だな……王都辺りで聞いたような?

事態を知った住民達が、続々と集まってくる。

彼等一人一人の力は当然の如く神殿騎士には全く及ばないが、際限なく湧き上がる怒りと敵意に糞爺や糞坊主、木偶の坊共はたじろいだ様に後退った。

 

ランズィ「司教殿、これがアンカジの意思だ。先程の申し立て……聞いてはもらえませんかな?」

糞爺「ぬっ、ぐぅ……ただで済むとは思わない事だっ!」

歯軋りしながら最後に俺達を煮え滾った眼で睨みつけると、糞爺は踵を返した。

その後を、神殿騎士達が慌てて付いていく。

糞爺は激情を少しでも発散しようとしているかの様に、大きな足音を立てながら教会の方へと消えていった。

 

ハジメ「ハハハ、正直スカッとはしたけど……随分と思い切ったものですね?」

当事者でありながら、最後まで蚊帳の外に置かれていた俺が笑いながらランズィ公に問いかける。

一方香織達は、自分達のせいでアンカジが今度は王国や教会からの危機に晒されるのではと心配顔だ。

だがそんな俺達に、ランズィ公は何でもない様に涼しい表情で答えた。

 

ランズィ「なに、これは"アンカジの意思"だ。この公国に住む者で貴殿等に感謝していない者などおらん。そんな相手を、一方的な理由で殺させたとあっては……

それこそ、私の方が"アンカジの意思"に殺されてしまうだろう。

愛すべき国でクーデターなど考えたくもないぞ。」

ハジメ「成程。別にあの程度の連中程度返り討ちに出来るけど……

どうやら貴公は、確りと民の声を聴いているようですね。素晴らしい国だと改めて思いましたよ。」

ランズィ公の言葉に、機嫌がよさそうに俺がそう言うと、ランズィは我が意を得たりと笑った。

 

ランズィ「そうだろうな。つまり君達は、教会よりも怖い存在という事だ。

救国の英雄だからというのもあるがね、半分は君達を敵に回さない為だ。

信じられない様な魔法を幾つも使い、未知の化け物をいとも簡単に屠り、大迷宮すらたった数日で攻略して戻ってくる。

教会の威光を微風の様に受け流し、百人の神殿騎士を歯牙にもかけない。

万群を正面から叩き潰し、勇者すら追い詰めた魔物を瞬殺したという報告も入っている……

いや、実に恐ろしい。

父から領主を継いで結構な年月が経つが、その中でも一、二を争う英断だったと自負しているよ」

 

俺としては、ランズィ公が自分達を教会に引き渡したとしてもどうこうするつもりは無かったのだが、ランズィ公は万一の可能性も考えて教会と俺達を天秤にかけ後者を取ったのだろう。

確かに国の為とは言え、教会の威光に逆らう行為なのだ。英断と言っても過言ではないだろう。

 

ハジメ「そう思ってもらえるならば、こちらも返礼をしなければいけませんね。」

ランズィ「ハジメ殿?」

そんな事を言う俺に、ランズィ公は疑問を浮かべて問いかける。

その俺の視界の先には、教会がある。

 

ハジメ「俺は、いや、私はお前を、このアンカジを気に入った。

そして先程のお前の言葉と民達の勇気に応えて、褒美を出す事にした。」

その言葉と共に、腰に手を翳した。

 

ハジメ「"変身"。」

 

ゴォーン!!!

 

『祝福の刻!』

 

『オーマジオウ!』

 

オーマジオウになり、片手を教会へと向ける私。何をする気か、ユエ達は何となく予想がついているだろう。

何故なら、それと同時に私の手中に、何か巨大なエネルギーが溜まっていくのを感じたからだ。

ハジメ「今回の件でお前達が余計な面倒事に巻き込まれるのは気に喰わん。

よって、お前達の翻意が大本に伝わらん様口封じをするとしよう。」

その言葉と共に、私は魔力を解き放った。

 

ハジメ「──"涅槃(ニルヴァーナ)"。」

その言葉と共に、黒と白の閃光が教会を飲み込んだ。

それは、嵐のように吹き荒れたかと思えば、まるで蝋燭の火を吹き消すかのように、消えていった。

目の前でその光景を見ていたユエ達やランズィ公、いつの間にか合流していたビィズですら理解出来なかった様で、漸く理解した時には既に教会は底の見えない大穴に変わっていた。

 

トシ「おまっ、今どんな魔法を放ったんだ!?」

トシが驚きつつも、先程の魔法について聞いてくるので、遠慮なく答える。

ハジメ「私が毎度使っている"暴食の黒天窮(グラトニーホール・カタストロフ)"、それに空間魔法とフリードの白竜が使っていた極光を合わせた、複合魔法だ。」

ユエ「……反則過ぎる。」

"雷龍"を得意としているユエですら、呆然としたようだ。

 

ハジメ「罰だの裁きだのとほざく前に、経典を体中にでも書いてくるがいい。

そうでもしていれば、神罰とはこういう事を言うのだと、理解できたであろうに。」

教会跡地に向けて、そう言ってやった。そうして踵を返すと、ランズィ公を促した。

 


 

シア「ハジメさん、何だか最近鋭さに磨きがかかっていません?」

ティオ「うむ、先日の冒険で何かを得たり、という表情だったしのぅ。」

ミレディ「あれ、絶対喰らったらヤバいやつだよね……それに比べてクソ野郎は……。」

オスカー『言葉で焚き付けるしか、出来ないからねぇ。』

ナイズ『信に値するは、人の心だというのに。所でメイルはどこいった?』

ミレディ・オスカー「『あ。』」

この後、アイリーに引っ付くメイルが目撃されたらしい。

それと、イナバが害虫駆除に当たっていたのを皆が知るのは、この後だった。




ハジメ
「ここまで読んでいただき、ありがとうございます!さて今回もゲストに来てもらいました。」
ジェイド
「女神護衛隊近衛騎士、ジェイド。ただいまここに。」
ハジメ
面倒くせぇ……、さて今回は旧教会との決別の話だったな。」
ジェイド
「ハッ!それにしても当時でさえ、ここまでの実力とは……流石聖王様。」
ハジメ
「だからその呼び名やめい。聖王だと宗教っぽいから嫌なの!」
ジェイド
「?承知致しました。」
ハジメ
「はぁ……これ後3人もやるの?まぁいい、それじゃあ次回予告だ。」
ジェイド
「次回予告……何かの預言でしょうか?」
ハジメ
「違わい!」

次回予告
ハジメ
「次で二大迷宮編は終了だ。次の章はドンパチしまくるぞ~!」
ジェイド
「そして次回は我等が女神の再登場!待ち侘びておりました!」
ハジメ
「いや、リリィのこと忘れてんぞ……浩介もだったな。」
ジェイド
「しかし、王女殿下は既にこの章で登場しておられますが……?」
ハジメ
「細かいことはいいの、そして動き出す闇の軍勢……面倒事間違いなしだなこりゃ。」
ジェイド
「!もっ、もしやこれはあの……!」
ハジメ
「ストップ、そこから先はネタバレになるから。」
ジェイド
「女神のお説教事件の!」
ハジメ
「そっちかい!?まぁ、それでいいけどさ……次回もお楽しみに!」


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67.Aの奇跡/時代の動く場所

ハジメ
「うp主が最近、アイ生存IF推しの子二次創作にハマったせいで更新が遅くなった今日この頃。
今回からゲストさんはモブ9人衆書籍名簿順でお送り致します。」
優也
「いやモブ9人衆って……紹介雑だなオイ。」
ハジメ
「いやね、正直トップバッターが常識人でよかった!ホントマジで……!」
優也
「どんだけ苦労してんだよ……あ、どうも。苦労人狙撃手、鈴木優也です。」
ハジメ
「いやだって初っ端からイロモノはお腹にキツいでしょ?読者さんの眼にも優しく配慮しないと。」
優也
「……まぁ、確かにな(後ろの二人を見て)。」
ハジメ
「前回は旧教会への宣戦布告、さて今回はオッタマゲなことになるよ~!」
優也
「はいはい。それじゃ、第5章第20話」
ハジメ・優也
「「それでは、どうぞ!」」


老害共の処刑から数分後。

ランズィ「取り敢えず死者達はリストの並び通りにここに集めているが……どうするつもりだ?」

ランズィ親子によってアンカジの民衆は浄化された作物の周辺に留められ、今回の一件で亡くなった死者達の遺体も全てその近くに周辺に移送された。

人々はその中に家族や友人を見つけ、その胸に悲しみと寂寥感を思い出す。

 

その姿に心を痛めながら、ランズィは私の意図が読めず疑問符を浮かべている。ユエ達も同様だ。

私はランズィの問いに答えず、数歩前に踏み出す。すると案の定、人々の注目は私に集まる。

ハジメ「今から少し皆を驚かせるが、害の無い事は約束しよう。故に、静かに見ていてくれ。」

私はそう前置き、全ての魔晶石を地面に置き、"宝物庫"からあるものを取り出した。

 

オスカー『あれは……眼魂かい?』

ナイズ『それにしては……多くないか!?』

二人の言う通り、ここにいる遺体全員の眼魂だ。

いつ手に入れたのかだと?

ランズィから貰ったリストで死亡時期を特定し、その時間軸にてこっそり回収しただけだ。

それを全員分やったのだから、中々に堪えたがな。

 

そうして、ランズィのリストの順に、その眼魂を遺体の上に置く。

メイル『まさかと思うけど……あれで終わりじゃないわよね?』

当然だとも。そう返すように、私は笑みを浮かべる。

全ての眼魂を遺体に乗せ終わると、私は魔晶石の近くに立ち、奥義の一つを解放した。

 

ハジメ「ハァッ!!!」

("その時、不思議なことが起こった!")

途端、その場を眩い光が包み込んだ。それは暫く続くと、温かさを放って収まった。

先程とは何も変わっていないように見えるその光景に誰もが困惑の声を上げ……

次の瞬間には驚愕に固まった。

 

「……んぅ、あれ? 俺は……」

「私、何で……」

「おかあさん……?」

何と遺体が、先程まで遺体だった筈の人々が目を開けた。声を上げた。体を起こした。

ある程度の時間差はありつつも、皆炎が落ちて数秒後、まるでただ眠っていただけの様に起き上がった。

その姿からは、病に侵された弱った様子は一切無い。オアシスが汚染される以前の、健常な姿だった。

その光景を見た人々は数瞬の沈黙の後……

 

──歓声に包まれた。

 

皆、もう会えぬと思っていた大事な存在を抱き締め、涙を流している。

先程まで死んでいた者達もまた、自分達は死んだ筈という記憶と目の前の光景が嚙み合わず、何が何やら分からないながらも笑顔を浮かべて抱き返す。

 

ランズィ「こんな……こんな奇跡が!」

目の前で繰り広げられた有り得ない奇跡に、ランズィ達は驚愕で声を大に涙を流す。

これは夢ではない、夢の様な現実だ。神の所行とは、正しくこの様な事を言うのだ。

尤も、私は魔王なのだがな。

 

私が神に遣わされた救世主ではなく、正にアンカジを救う為に地上に立った神なのだと本気で思ったのか、民も、兵も、医者も、皆再会の喜びと共に私への感謝を口にする。

神だと崇めだす者も現れ始めたが、流石に勘弁してもらおうとしたその時。

 

ハジメ「ッ!!」

ッ……流石に……無茶、しすぎた、か……。

急激に力が抜けていくのと同時に、私は地面に倒れ伏していった。

意識を失う直前、ユエ達の声が響いていたことだけは、無意識だがなんとなく分かった。

 


 

ユエ「ハジメっ!!」

シア「ハジメさん!!」

ティオ「ご主人様っ!」

香織「ハジメくんっ!」

トシ「ハジメっ!!」

イナバ『王様っ!!』

ミレディ「ハジメン!!」

 

咄嗟に飛び出たユエ達がハジメの下へ駆け寄る。

先程正体不明の技能を使った後、急に意識を失い、倒れてしまったハジメに、ランズィ達やアンカジの人々も心配そうな表情で駆け寄る。

ランズィ「ハジメ殿っ!大丈夫か!?」

ランズィも呼びかけるが、反応がない。もしや、死んでしまったのでは!?と周囲が混乱する。

 

ティオ「皆の衆、落ち着くのじゃ!」

しかし、ティオの一声で騒然としていた場は何とか鎮まる。

それを確認したティオは、仲間や周囲に促す。

 

ティオ「先ずは、ご主人様を安静にせねばならぬ。領主殿よ、部屋を借りてもよろしいかの?」

ランズィ「勿論だとも!幾らでも使ってくれ!」

ランズィの快諾を受け、ユエ達はハジメを部屋まで運んだ。

そして、香織による診察の結果は……

 

シア「えッ!?ただの魔力切れ、ですか?」

香織「うん……ステータスプレートの魔力もさっき見た時だいぶ減っていたし……。」

何と、ハジメが倒れた理由は、急激な魔力枯渇による疲労だった。

その原因に肩を落としつつも、ホッとする一同。取り敢えず、命に別状はないようだ。

 

ミレディ「それにしても、さっきは凄かったね!

ミレディさん達も、あんな凄い蘇生術なんて見たことないよ!」

ユエ「……ん、でも眼魂はどうやって集めたか、分からない。」

ティオ「恐らくじゃが前々からではなかろうか。ご主人様は、やる時はとことん用意周到じゃからのぅ。」

トシ「……もしかしてさっきのやつ、大量に魔力を消費するんじゃないか?

だからさっき、魔晶石を地面に置いていたんじゃ……。」

 

イナバ『確かに……それほどの魔力を消費する秘術、ってことでしょうかね?』

メイル『……さっき、宝物庫にしまわれた魔晶石だけど……全部空になっていたわ。』

ナイズ『余程大量の魔力を消費するのだろう。

もしこれほどの魔力が無ければ、どうなっていたことやら……。』

オスカー『そうだ!そう言えば、神水があったはずだ!それで一旦魔力を回復させよう!』

と、オスカーの案で、神水を飲ませることになったものの、誰が飲ませるかでまた討論が始まったのは言うまでもない。

 


 

……ぅ、うぅ、う~ん……なんか、騒がしい……

そう思って目を覚ますと、ユエ達が驚いてこちらを覗き込んでいた。

ユエ・シア・ミレディ・香織・トシ「「「「「ハジメ(さん)(ン)(君)!」」」」」

ティオ「ご主人様!」

イナバ『王様!』

うぉっ……痛っう~、まだ頭が……

 

ユエ「!ハジメ、これ!」

ハジメ「うん?……あぁ、神水か。サンキュ。」

そう言って差し出された試験管一本分の神水を一気に飲み干すと、幾分か体が楽になった。

そう言えばあったなこれ、死蔵していたからかすっかり忘れていた……。

 

その後、香織がランズィ公を呼んできたので、早速事情を話すことに。

ハジメ「いやぁ、すいません。ご心配をおかけしたようで……。ちょっと無理し過ぎちゃいました。」

そう笑って言いながら、ベッドの上で横たわる俺。流石に無茶をし過ぎたと、自分でも思う。

一応、意識は回復したものの、今日は商隊の転移は無理そうだ。

ランズィ「それで、ハジメ殿。貴殿が発動した術はいったい……?」

まぁ、そりゃあ気になるか。よし、折角だから言っちゃうか。

 

ハジメ「あの術の名は、"その時、不思議なことが起こった!"。

技能名はヘンテコな風に聞こえるけど、本来は出来ない奇跡も術者の魔力量次第で実現させる、ある意味俺の最終兵器の一つだよ。」

全員「!?」

驚くのも無理はない。何せこれは、俺の持つ奥の手中の奥の手の一つ。

何が起こるかはほとんどランダムな上に、魔力量によっては別の方法になってしまう恐れもあるのだ。

だが逆に、その奇跡に足る以上の魔力があれば、確実に起こせるという、ある意味最強の魔法だ。

 

ランズィ「そんな凄い術が……。」

ハジメ「まぁ、今回は結構大人数だったからね。一応魔晶石を下に置いといてよかったよ。

もし魔力が足りなかったらどうなっていたことやら……正直起きた時には冷や冷やしたよ。

戻ってこなかった人はいないか心配だったし……。」

そんな民のことを優先的に考えている俺に、皆呆れつつも苦笑いしていた。

因みに、俺はあの時から丸一日眠っていたらしい。時間ロスしちゃったなぁ……。

 

そして、騒動から三日。

農作地帯と作物の汚染を浄化した俺達は、輝きを取り戻したオアシスを少し高台にある場所から眺めていた。

視線の先、キラキラと輝く湖面の周りには、笑顔と活気を取り戻した多くの人々が集っている。

湖畔の草地に寝そべり、水際ではしゃぐ子供を見守る夫婦、桟橋から釣り糸を垂らす少年達、湖面に浮かべたボートで愛を語らい合う恋人達。訪れている人達は様々だが、皆一様に笑顔で満ち満ちていた。

 

ハジメ「ふぃ~、風情だねぇ~。フルーツパラダイスはとても良かったなぁ。」

そう独りごとを呟く俺。

実を言うとあの後、俺が目を覚ましたのを聞きつけたのか、アンカジの皆が大量のお見舞いを持ってきてくれたのだ。

 

お守りやお人形などがあったが、一番多かったのは名産品のフルーツだった。

俺は皆の気遣いに感謝しつつ、出されたお膳を残さず平らげた。

そのおかげか、次の日にはもう完全に回復した。

それと同時に、技能欄にこんな技能が追加されていた。

 

――無限の胃袋(アンリミテッドハングリーワークス)

効果:その無限の胃袋は、満足や満腹というものを知らない。食べる事こそが、わが宿命にあり!

そうして蓄えた無数の命は、我が力へと変わる!……

 

厨二感があるだけじゃなく、人をブラックホール見たいに言いやがるこの説明文。

正直プレートをへし折りそうになったものの、その効果を要約するとこのようだ。

 

効果:食べた分だけ強くなり、魔力も回復、それらを蓄えることも可能なり。

その成長と容量は限界知らずである。

ただし、食への感謝を忘れるべからず。それを忘れること即ち、汝はただの畜生である。

 

つまり、「いくら食べても大丈夫!その分蓄えて強くなれるから!

ただし、いただきますとごちそうさまは忘れないように!」ってことだろう。

使いどころは分からんが、また魔力を大量消費する場合もあるのであるに越したことはないだろう。

 

という訳で、試しに死蔵しまくっていた魔物肉を、一個ずつ感謝しながら食いまくった結果……

先程まで空っぽだった魔晶石が、魔力で一杯になっても、まだ食べた分の半分以上は残った。

後何故か技能欄に"食没"が追加された。なんでやねん。

 

まぁ、燃費が10分の1くらいにまで抑えられるようにはなったようで、実験がてらちょっと小さめの魔力弾を空に撃ったら、大爆発が起こって驚いた。

他の技能も試そうと思ったけど、アンカジの皆さんの心臓に悪いのでやめておいた。

この前も新技披露したせいで、めっちゃ驚かれたし……フレンドリーだ、俺!

 

そんなこんなで、俺達は今日、アンカジを発つ。

すっかり回復した俺は、その後も収束錬成で砂金を集めて金塊を鋳造したり、魔法が付与された属性武器を兵士全員に配布して使い方を教えたり、ランズィ公にも特製アーティファクトをあげたりと色々サービスをして過ごした。

 

アンカジにおける俺達への歓迎ぶりは凄まじく、放っておけば出発時に見送りパレードまでしそうな勢いだったので、ランズィ公に頼んで何とか抑えてもらった程だ。

見送りは領主館で終わらせてもらい、俺達は自分達だけで門近くまで来て最後にオアシスを眺めているのである。

 

後、アンカジにおけるドレス衣装が贈られたが、所謂ベリーダンスで着る様な衣装だった。

チョリ・トップスを着てへそ出し、下はハーレムパンツやヤードスカートだ。

非常に扇情的で、小さなお臍が眩しい。この衣装を着て踊られたりしたら目が釘付けになる事請け合いだ。

領主の奥方からプレゼントされたユエ達がこれを着て披露した時、お腹冷やさないかな?と思ってしまったのは内緒で。

そんなことを思いつつもオーロラカーテンを開き、俺達はアンカジを後にした。

 

そして……

ハジメ「ごめんくださ~い。」

イルワ「……態々小さくなってまで来たのかい?」

取り敢えず最初にイルワさんのところへ行った。

 

今回の異端認定で、俺達の行動が制限される。

フューレンとアンカジを行き来する転移の休止について、報告をしなければならなかったのだ。

最初は神殿騎士達もこちらにやってきてはいたが、商人達がのらりくらりと巧みな話術で躱してくれたようだ。

 

"宝物庫"の配布は大きかったようだ。やはり商人との付き合いで大切なのは、"信頼"だろう。

何せ、"商品の安全確実で低コストの大量輸送"に加え、俺の開発した冷凍鉱石、通称「凍獄石」による異世界版冷蔵庫の存在もデカいのだ。

 

因みに、完成品第一号機はミュウとレミアの家に置いてある。

風呂上がりの牛乳をミュウが気に入ったらしく、お願いされたので備え付けておいた。

勿論、風呂も既に取り付けてある。レミアが一緒に入ってきたのは、最初は驚いた……。

ミュウにはまだ性知識は早いっちゅうに!いやマジで、本当に危なかった……。

 

ハジメ「とまぁ、話は以上です。長居すると怪しまれそうなんで、この辺で。」

と、俺がササッと出ていこうとすると、イルワさんから引き留められた。

イルワ「あぁ、少し待ってくれ。君に会いたいというお客さんがちょうどいてね。

是非会ってもらいたいんだ。言っておくが、教会関係者ではないから、安心してくれ。」

ハジメ「?よく分かりませんが、会ってはみます。」

 

そんな訳で、客間へと足を運ぶと……小柄で目深にフードを被っている二人組がいた。

見た目は物凄く怪しそうだけど……悪意とかは感じないし、大丈夫か。

そう思っていると、フードの二人は顔を上げてこちらを向いた。……ってその顔は!

 

リリアーナ「ハジメさん!」

愛子「ハジメ君!」

ハジメ「リリィ!それに愛ちゃん先生も!」

まさか二人が来ていたなんて……一体どうやって奴等の追跡を撒いたことやら。そう言えば浩介は?

アイツは中々の手練れだから心配はなさそうだが……外の警戒かな?

 

浩介「いや、俺もいるんだけど……。」

ハジメ「うおっ!?浩介!そこにいたのか!やっぱお前が護衛でホント良かったわ!」

浩介「それ、褒めてるのか?褒めてるんだよな?」

ハジメ「この上なく、最強の護衛だぞ!よく来てくれたな、友よ!」

イルワさん達も驚いてはいるようなので、改めて三人を紹介する。

 

イルワ「……ハジメ君はあまりにも規格外すぎるせいか、もうあまり驚かなくなったよ。」

ハジメ「ハハハ……まぁ、色々ありまして……。」

思わず苦笑いしてしまったイルワさんに、なんて返せばいいか分からなかった。

だって、王女様までお忍びで会いに来るんだぞ!?説明つかねぇよ!?

もし俺がイルワさんの立場だったら、胃が死ぬ。間違いなく。

 

ハジメ「まぁ、何はともあれ、だ。三人とも無事でよかったよ。

奴等の刺客が十中八九追ってくるかと思っていたんだが……

流石に浩介を把握することはできなかったか。うん、やっぱお前、人間で人外だわ。」

浩介「どういう意味だ、ゴラァッ!?」

いや、だって自動ドアも反応しない、出席はいつも忘れ去られる、修学旅行でも置いて行かれる、そんな人間居るか普通?

……いや、ここに一人いるけども。それって人間にカウントできるのか?

 

ハジメ「まぁ、積もる話もあるし。場所を変えよっか。」

そういう訳で、俺はこれまでのことを説明するため、後イルワさん達に迷惑をかけないためにも、オルクスの隠れ家に転移することにした。

ユエ達には先にそこで待っていてもらっているので、後は作戦会議だけだ。

さて、どうやって神山を攻略しようかと、呑気にそんなことを考える俺であった。

 


 

【ハイリヒ王国】の王宮敷地内にある騎士や兵士用の食堂に、どこかイライラとした雰囲気の女子生徒──園部優花の姿があった。

優花はただでさえ切れ長な目元をギンッと吊り上げながら、睥睨する様に食堂内を見渡す。

幾人かの兵士と思われる青年達が、そんな優花の視線を受けてビクッと体を震わせた。

 

優花「ここにもいない……か、あぁもうっ!アイツ等、肝心な時に限ってっ!」

栗色の髪を少々乱暴に掻き上げつつ、優花は苛立ちを露わにする。そして更に兵士達をビクッとさせつつ踵を返した。

 

優花「訓練場にも、隊舎にも、食堂にもいない。……やっぱり、街に出たって事?」

独り言を呟きながら、優花は王宮正門の門番詰所へと進路を取る。

ズンズンと音が聞こえてきそうな足取りだ。

奈々「優花っち!」

進撃するかの様な勢いの優花に声が掛けられた。パタパタと走って来たのは宮崎奈々だ。

 

奈々「こっちにはいなかったよ。そっちは?」

優花「食堂にはいなかったわ。さっき玉井くんと妙子にも会ったけど、やっぱりいないみたい。

二人共、他の施設を見に行ってくれてるけど……多分王宮内にはいないんじゃない?」

奈々「だよねぇ。私も相川君達とさっき会ったけど、やっぱりいなかったって。あぁもう!

こんな時にアイツ等、何処ほっつき歩いてんのかなぁ!愛ちゃん先生の護衛失格だよ!」

奈々が頭を抱えて「うがーっ!」と叫んだ。

 

二人──

正確には愛ちゃん護衛隊のメンバーが探しているのは、同じ愛子の護衛隊であるデビット率いる神殿騎士達だった。

3日前、生徒達との夕食の席に現れなかった愛子。

代わりにやって来た教皇イシュタルによれば、ハジメの異端者認定について「覆す事が出来るかもしれない。」と急遽本山に入ったのだと言う。

審議や手続き等で直ぐには戻れないが、2~3日もすれば顔を見せるだろう、と説明を受けた。

 

事前に愛子と接触していた雫から、愛子より重要な話があると聞いていたので当然優花達は訝しんだ。

取り敢えず愛子の所へ行こうと本山入りを訴えたのだが、異端者認定の対象である人間と親交のある者をこのタイミングで入山させる訳にはいかないと断られ、不安に思いながらも2~3日ならと待つ事にしたのだ。

 

しかし3日目の今日。既に昼を過ぎたこの時間になっても、愛子に関する情報が何も手に入らない。

本山行きのリフトは停止したままで、教会関係者も要領を得ない説明しかしない。

痺れを切らした優花達は一先ず、デビット達神殿騎士に現状を尋ねようとしていた訳だ。

しかし、昨日の夕方までは姿を確認していたデビット達まで今日の朝には姿を晦ませてしまった。

何処を探してもいないのだ。最早街に行ったとしか考えられないのだが、この状況で愛子溺愛者である彼等が街中をふらつくとも思えない。

 

優花「……嫌な、感じね。」

歯噛みしながら、優花はここ最近の王宮内の異様な雰囲気と、姿を消していく身近な人々を思い、まるで背筋に虫が這っているかの様な恐怖を覚えた。

するとそこへ、

 

雫「優花?それに奈々も……?」

やって来たのは雫だった。

優花達へ呼びかけながら、しかし誰かを探している様に周囲へチラチラと視線をやっている。

雫「デビットさん達は……その様子だと、まだ見つかってないみたいね。」

優花「うん。そっちも、団長さんとは会えなかったみたいだね。」

優花の言葉に、雫は憂いを帯びた表情で目を伏せる。

 

あの日から姿を見せなくなったのは愛子だけではない。

メルドやリリアーナを筆頭に、雫の専属侍女兼友人であるニアを始めとした幾人かの使用人達。

他にも訓練等で親しくなった騎士や兵士等も、何かと理由をつけて会えなくなっている。

 

奈々「ねぇ……優花っち、雫っち。……大丈夫、だよね?」

雫・優花「「……。」」

奈々が、どこか怯えた様子で問うた。だが二人共、いつもの様に「大丈夫!」と即答する事が出来なかった。

──何かが起きている。

漠然とした不安感が、二人から余裕を奪い去ろうとしていた。

 

雫(こんな時に、貴方がいてくれたら……)

優花(こんな時に、アイツがいてくれたら……)

 

無意識に、雫と優花は同じ方向を見た。

それは遥か西の空。思い浮かべた人物は同じ。

滅茶苦茶で理不尽で恐ろしいが、疑い無く頼りになる一人の王の背中だった。

 


 

浩介「そして俺はいないことにすら気づかれないのだった……ハハッ、笑えよ。」

ハジメ「どうした浩介?お前の影が薄いのはいつものことだろ?影のドンだし。」

浩介「大きなお世話だ、てか誰が影のドンだ。」

この時、ハジメ達以外に影の立役者がいないことには、誰一人気づいていなかった。

そして誰も知らなかった。この男こそが、最強の一人であることに。

 


 

暗い何処かの部屋。それなりの広さがあるその場所に、幽鬼の様に立つ無数の人影があった。

誰も彼も微動だにせず、ただ佇んでいる。

そんな人間味の無い集団が整然と並ぶ部屋の奥に、更に3人の人影があった。

こちらは生気に溢れ、間違い無く人間だと言える。

 

だが、"真面な"という形容詞をつけられるかと問われれば、答えは"否"だろう。

真面と言うには、瞳に宿る狂気の色が強過ぎた。

???「さて、漸く準備も整ったようだ。ククク……これで奴も一巻の終わりさ。

さぁ、始めようか。我々の神話を、ねぇ、我が王よ?」

 

哄笑が響き渡る。そこに込められたのは圧倒的なまでの悪意と嘲笑。

その様子を、隣の人影は冷めきった眼差しで見つめている。仲間意識が皆無なのは明白だ。

だが冷めていながらも口元にうっすらと浮かぶ笑みは、哄笑を上げる人影と同じくたっぷりの悪意と嘲笑に塗れていた。

そして、黙ったままのもう一人の口元にも、悪意と嘲笑が浮かんでいた。

 

同時刻。大陸の果ての王国にて、凄まじい光景が広がっていた。

圧倒的な数の魔物が、整然と並んでいるのだ。その数、裕に10万は超えているだろう。

どれもこれも【オルクス大迷宮】の深層レベルの力を有している事は、その身に纏う禍々しい気配が示している。

正に蹂躙という言葉が、形を持って顕現したかの様な光景だ。

 

驚いた事にその何体かには、人が騎乗している様だった。

この集まりが、単なるスタンピードでない事は明白だ。

???「神託が降りた。神の代弁者である我等の魔王陛下から、勅命が下った。──異教徒共を滅ぼせと。」

厳かで、しかし使命感を帯びた声音が地に降り注ぐ。

そして、爆発的で熱狂的な歓声と共に長と思しき者の声が響く。

 

???「知らしめてやろう。神意を、我等の強さを。

我が物顔で北大陸を闊歩する愚か者共に、身の程というものを!」

踏み鳴らされた大地が揺れ、狂気の絶叫が大気を震わせた。

――その長と思しき男が、密かに歯を食いしばっているとも知らずに。

 

奇しくも薄暗い部屋の人影と、南の果てで大群を統べる男が宣言したのは同時だった。

──さぁ始めよう!勝利は我々にこそある!今ここで、新しい歴史が始まるのだ!

──さぁ、雄叫びを上げろ!我等が神に勝利を!開戦の時だ!

 


 

この時、誰も知る由はなかった。既に事態は動き、歴史が定まっていったことに。

狂人も魔人も、教会も国も、果ては神を騙る者ですらも気づけなかった。

それを知るのは、ただ一人。

世界のどこでもない、何もない空白にポツンと佇む、荘厳な玉座に腰かける、孤高の王たる者だけである。

 

???「漸く、動き出したか……。さて、お前はどのようにして切り抜ける?若き日の、"私"よ。」

その王の視線の先には、最高最善の魔王を目指す少年がいた。

そしてその王の仮面の下では、少年の行く末が見えたかのような笑みが浮かんでいた。

 

最高最善の魔王を目指す、前世と今世の魂が混じり合った少年は進む。運命に導かれる様に。

仲間と共に、未来を切り開く為。

そして、神意と狂気と裏切りで彩られた陰謀を、信念と暴力を持って打ち砕き、己の望む結末を創る為に。




ハジメ
「ここまで読んでいただき、ありがとうございます!さて……今回も彼等の一人に来てもらいました。」
クリス
「女神護衛隊近衛騎士、クリス。只今ここに。」
ハジメ
「またかよ……まぁいい、今回は久々に他の面子も再登場だったな。」
クリス
「ハッ!我等が女神も漸く脚光を……!」
ハジメ
「あ、悪いけど愛子とリリィは次の章以降は、終盤近くまであまり出番無いぞ?」
クリス
「なん……ですと……!?」
ハジメ
「いや、リリィは帝国で出番あったな……あれ!?この作品の原作ヒロイン、一番不憫なの愛子じゃね!?」
クリス
「そっ、そんなことは!次回、次回できっと!」

次回予告

ハジメ
「次回から王国動乱編、そして旧教会RTAはっじまっるよ~!」
クリス
「りあるたいむあたっく?なるものは分かりませんが……あの"女神のお説教事件"ですか……。」
ハジメ
「だからそれをやめい……まぁ、次回は俺にとってはあまりよくない回だな。」
クリス
「い、一体旧教会は何を……!?」
ハジメ
「ネタバレになるから言えないけど……まぁ、この件でぶっ殺確定だったね☆」
クリス
「は、はぁ……それで、女神のご活躍はいつなのでしょうか?」
ハジメ
「あ、その回はデビッドにゲストやってもらうことになってるから。」
クリス
「グハァッ!?」(血を吹いて倒れる)
ハジメ
「……そんなに羨ましかったのかよ……それじゃ、次回もお楽しみに!」


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原作第6巻~王都動乱編:2073/真に勝利するのは誰か
68.憤怒


ハジメ
「お待たせいたしました!さて今回からゲストが……ゲストがなぁ……。」

「何だ?何が問題なんだ?」
ハジメ
「……まぁ、今は触れないでおこう。それじゃ、自己紹介どうぞ。」

「?おう、荒川直だ。それと綺麗なお姉さん!ぜひ俺を罵って……!」
ハジメ
「やめれ。読者の皆様が驚くやろがい。」

「ハッ!画面の向こうにも綺麗なお姉さん達が!」
ハジメ
「いないからな?いたとしても会えないから。さて前回は漸くアンカジから出発、愛子達と合流したな。」

「どうかぁ!もっと俺を楽しませてくれぇ!」
ハジメ
「帰れい!それじゃ、第6章第1話」
ハジメ・直
「「それでは、どうぞ!」」


さて、オルクスの隠れ家に転移した俺達はというと……

リリアーナ「ハジメさん、せめてメルド団長の生存報告だけでもしてほしかったのですが……。」

ハジメ「ゴメンよ、王宮にも奴等の手が回っているかもしれないって思ったから……

それに、敢えて隠しておいた方が敵の意表をつけるかと思って。」

まぁ、そりゃ行方不明で安否不明の人間がここにいたら流石に驚くよなぁ。

それに、俺の特訓で色々とんでもないことになっているし。

 

愛子「それにしても、まさか檜山君が……メルドさん、ごめんなさい。」

メルド「気にしないでくれ、愛子殿。我々が王宮の防衛態勢を過信した、そのツケが来ただけのことさ。」

愛ちゃん先生はショックを受けているようだが……檜山(あのカス)に反省の二文字は無いだろ。

現に、同じクラスになった時から知らんうちに敵意向けてきた位だし。てかそんなことより……

 

トシ「……。」

浩介「トシ、大丈夫か?」

トシ「……大丈夫だ、俺は至って正気だ。」

流石に彼女が悪事に加担しているって話を聞くと、なぁ……。

俺だって信じたくない。でも、バックにタイムジャッカーがいる以上、油断して足を掬われたくはない。

 

ハジメ「香織、雫は今どうしているかわかるかい?」

香織「ううん、タイムジャッカー?っていうのが動いているから、あまり連絡はできないみたい。」

成程、奴等もようやく本腰入れてきたってことか。さて、どうやって叩き潰すか。

 

――パパ!

 

ハジメ「ッ!?」

ユエ「ハジメ?」

ハジメ「……悪い、ちょっと外の空気吸ってくる。」

そう言って俺は、転移でエリセンへと向かった。

 

ハジメ「ミュウ!レミア!」

俺は悪寒を感じていた。あの時、ミュウの声が頭の中に響いた。

それはつまり、緊急事態が起こったということだ。

まさかとは思うが、攫われたりしていないよな?どうか無事でいてほしい。そんな俺の願いは……

 

ハジメ「……。」

絶望という形でへし折られてしまっていた。周りには男たちが倒れていた。

まだ死んで間もないようだ。直ぐに因果律操作で蘇生して、何があったかを聞き出す。

ハジメ「二人は?」

海人族A「!おっ、お前!「二人に何があった?言え、早く!」ッ!ぎ、銀髪の……。」

ハジメ「もういい。」

そう言って俺は男を放すと、オルクスへと戻った。

 

多分、今の俺はミュウには見せられないくらいの顔をしているだろう。

それほどまで俺はキレていた。

ユエ「は……ハジメ?」

ユエが俺に何か聞いている。内容は分からないので、取り敢えずこう返しておく。

 

ハジメ「俺、決めたよ。神山、消し飛ばしてくる。それでエヒトに与するクズ共全員、駆逐してやる。

この世からも、あの世からも、誰一人残さず。」

 

 

〈浩介視点〉

 

どうも、遠藤浩介です。えっ?誰って?……まぁ、覚えていないよな。

どうせ覚えられていないよな俺。うん分かっていたよ?だって影薄いし。

前回漸く出番貰えたくらいだし?全然気にしていないよ?ホントに。

さて、そんな俺が現在置かれている状況はと言いますと……

 

ハジメ「……。」ゴゴゴゴゴゴゴ

我らが魔王様が絶賛ブチギレ中なんだよなぁ……。

まぁ、ミュウちゃんに加えてその母親まで人質として攫われたってんだから、怒って当然なんだけど……

今動き出したら、目に付くもの全部破壊しかねなさそうな感じだからなぁ……。

 

ユエ「……滅ぼす。」

シア「これは処刑確定ですねぇ……。」

ティオ「最もじゃのぅ……。」

香織「フフフ……。」

ミレディ「よし、やっちゃおう☆」

メイル『あらあら、ミレディちゃんったら♪』

いつもは諫めてくれる女性陣も、訳を聞いたら即座に殲滅派に賛成だし……

こっちはそれに加えて、トシのケアもしてやらないとダメなんですけど!?

 

浩介(どうしましょう、メルドさん、先生、リリィ。

このままだとアイツが世界滅ぼしかねない感じなんですけど……。)

メルド(あぁ、早急に対処せねばなるまい。……愛子殿、大丈夫か?)

愛子(だ……大丈夫ですぅ……。)

何で先生が震えているのかって?……それは俺からは言えない。先生の尊厳に関わるから。

 

リリィ「まさか、そんな非道な手を使うなんて……教会も神も腐っています……!

こんなこと……心ある人間がやっていいことじゃありません……!」

リリィも先程の説明を聞いた上に、ミュウちゃん誘拐の知らせに関しては、怒っているようだ。

メルドさんが宥めてはいるが……じゃあハジメ達はどうしろと!?

ただでさえ、参謀も不調な上、頼みの綱のオスカーとナイズとイナバはだんまり……

いや、こっちも怒っている……もう駄目だ、お終いだ!

 

トシ「まぁ落ち着け、ハジメ。攫われたんなら、奪い返せばいいだけだ。」

浩介「うぉっ!?トシ、お前さっきまで思い詰めていたんじゃないのか!?」

トシ「……ハジメの怒り様に引いて、逆に冷静になった。」

浩介「あぁ~確かに。」

ハジメ「どういう意味じゃワレェ!?」

あっ、いつもの雰囲気に戻った。

 

ハジメ「確かにキレてはいたが、作戦を考えてもいたんだぞ?ホントに。」

愛子「あっ、あの!ハジメ君、やり過ぎないようにしてくださいね?」

ハジメ「勿論!それに、今回は一石二鳥のチャンスでもあるからね!勝利と大義名分は、我等にあryyy!」

……どうやら、いつもの調子に戻ったようだ。いや~ホントマジで危なかったわ。

取り敢えず王国は滅ばなさそうだし、大丈夫か。えっ?教会?俺の記憶にそんなものはない。

あってもすぐ忘れる。だって、目の前の魔王様がキレるのが目に見えてるからね!

 


 

ふぅ~、全く二人揃って俺をなんだと思っているんだか……まぁ、今はそんなことどうでもいい。

先ずは、作戦と配置の説明だな。

ハジメ「この作戦は三組に分かれるつもりだ。伝令、雫達の護衛、ミュウとレミアの救出の3班だ。

今からメンバーを言う。皆、頼むぞ!」

そう言うと皆が頷く。そして説明を続けた。

 

ハジメ「最初に、ミュウとレミア救出チーム。これは俺と浩介、ティオと愛ちゃん先生の4人で行く。」

浩介「おっ、俺ぇ!?」

愛子「私も!?」

ティオ「ふむ、理由を聞いてもよいかの?」

まぁ、驚くのも無理はない。だがな、このメンバー、特に浩介が最適なんだよ。

 

ハジメ「確か、愛ちゃん先生の技能には、"発酵操作"があったよね?

それで、神山周りの可燃性ガスとかを一点に溜め込めないかな?」

愛子「な、何でそんなことを……まさか!」

そう、そのまさかだ。

 

ハジメ「神山ごと聖堂を消し飛ばす。あぁ、安心してくれ。

糞坊主共は出来るだけ無力化した上で避難させる。先生に人殺しの片棒なんざ担がせねぇよ。

これは、俺に売られた喧嘩だ。なら相手を殺す権利は、俺にある。

先生に守ってもらってまで、好き勝手やるほど餓鬼じゃねぇよ。」

愛子「ハジメ君……。」

少し寂しそうな視線で俺を見る先生。

でもなぁ、正直これくらいしか、愛ちゃん先生に出来ることが見つからないんだよなぁ……。

 

ハジメ「まぁ、そういう訳で、ティオと愛ちゃん先生には、教会から少し離れた場所に待機してもらってほしい。

俺が合図を出したら、さっき言ったとおりに先生が"発酵操作"をして、ティオのブレスで焼き払ってくれ。」

ティオ「承知したのじゃ。して、ご主人様はどのようにして二人を助ける気じゃ?

敵もそう易々とは返すつもりはなかろうて。罠の可能性も捨てきれぬ。」

当然だ、後ろ盾にはタイムジャッカーまでいる。正面突破してもやられるだけだ。そこで、だ。

 

ハジメ「浩介の"気配遮断"に頼るしかない。ぶっちゃけ、奴等の目を欺くにはそれしか手が見つからん。」

浩介「俺任せかい!まぁ、やるだけやってやるよ。ミュウちゃんはお前の大事な娘なんだし。

レミアさんって女性も、ミュウちゃんのお母さんなんだろ?なら手伝うのに理由なんていらねぇよ。」

そう言って俺に頼もしい視線を送る浩介。やはり、俺の目に狂いはないな。こいつには、凄味がある!

 

ハジメ「ありがとう、友よ。いざとなったら分身で攪乱も頼むかもしれない。

きつかったら、後は何とかする。」

浩介「任せとけって、ちったぁ部下を信頼しな。何せ俺の上司は、最高最善の魔王、だろ?」

……言うようになったな。全く……本当に頼もしすぎる。

 

ハジメ「ミレディ、君には伝令を頼みたい。全体の様子を把握できるように、偵察機も貸すよ。

念話石もあるから、他2チームの状況について、報告してほしい。」

ミレディ「おっけい!ミレディさんがしっかり見ているからね!」

そう言っていつもの決めポーズ(片足をクイッと曲げ、左手を腰に、右手を横ピースで目元に添えて)でウインクするミレディ。

その眼にはいつものおふざけ感はなく、頼もしさが籠っていた。

 

ハジメ「イナバはここで、救出したミュウとレミアの護衛を頼む。

他の皆は、雫達の援護に向かってくれ。」

ユエ「んっ!」

シア「はい!」

香織「うん!」

イナバ『合点承知!』

力強く返事するユエ達。序にトシの方へ向き直って激励を飛ばした。

 

ハジメ「それとトシ、今回は手加減無用だ!全力で行け!」

トシ「!あぁ、勿論だ!手加減無用でやってやんよ!」

うっし、後は侵入経路だけだ!さぁてと、教会ぶっ潰すぞ大作戦、開始だぁ!

 


 

時間は少し進み、神山の大聖堂にて。

そこには、イシュタル率いる聖教教会の司祭達や神殿騎士達といった、教会関係者が大勢集まっていた。

そんな彼等の眼には、"主のお役に立てる"といった、狂信者特有の気持ち悪……恍惚とした表情が浮かんでいた。

 

そしてその目の前には、二つの磔台があった。そこに縛られているのは海人族の母娘、ミュウとレミアだ。

二人は、パパの帰りをゆっくり待とうとしていたある日、突如空から強襲した謎の銀髪の女性に攫われてしまったのだ。

周りにいた海人族の男性たちも自分達を守ろうとしたが、相手は中々の手練れでもあったので敵う筈もなく、抵抗虚しく連れられてしまった結果、現在に至るという訳だ。

 

そんな二人を「計画が上手くいった」かのような目で見ているのは、檜山にウォッチを与えたローブの男だった。

ローブの男「いやはや、まさかこうも手早く連れてくるとは……御見それいたしますなぁ。」

ローブを深めに被った男が、ニヤニヤを顔に出しながら、目の前の人物を称賛する。

その人物は、かつて愛子を攫おうとした修道女によく似ており、ハジメが倒したエーアストにも似ている。

 

???「元々は貴方の失態です。

あの時主のコレクションの一つを出さなければ、あのような被害が出なかったものを……。」

ローブの男「いやぁ~、あの時は本当にすみませんでした。何せ、こちらも予想外だったものでして。

……あんなの誰に予想しろってんだ。

小声で誰にも聞こえない愚痴を零しながらも、のらりくらりと躱す男。

その言葉には気づかないながらも、気色悪いものを見るような眼で、男を見る修道女。

 

その関係は、利害が一致しているので仕方なく協力している、と言ってもいいだろう。

実際、この男の本質は感情がなくとも警戒するべきだと、使徒の本能が知らせている。

うっかり背中を任せたら最後、何かされるに違いないと、修道女から思われていることを知らないローブの男は、その場にいたもう一人にも声をかける。

 

ローブの男「まぁ、流石のオーマジオウでも、泣き所を突かれてはひとたまりもないでしょうなぁ?

貴方もそう思うでしょう?フリード将軍。」

フリード「……フンッ。」

そう、なんと教会の総本山にも拘らず、魔人族であるフリードが、ここにいるのだ。

しかも周りには教会信者に加えて神の使徒、なのに誰もフリードへの敵意を持たない。その理由は……

 

ローブの男「何をそんなに不機嫌なのでしょうか?

貴方は雪辱を晴らせる上に、王の力を手にするまたとない機会ではありませんか。

そのために態々ツテを使ってまで、こうして舞台を整えたわけなのですから。」

そう、このローブの男こそがタイムジャッカーであり、フリード達魔人族陣営にアナザーウォッチを渡していた者なのだった。

その上、檜山にアナザーグランドジオウの力を与え、ハジメへの徹底的な嫌がらせが隠しきれていない。

 

フリード「……下らんな。急に王都侵攻の命令が出たかと思えば、私情を挟んだ謀略に付き合えと?

私の雪辱は私自身で晴らす。やりたければ勝手にやればいいだろう。」

ローブの男「そっ、そんなご無体な!?折角魔王様から名誉挽回のチャンスをもらえたというのに!?」

ローブの男のわざとらしい焦り様に、怒りを覚えながらも冷静に言い放つフリード。

 

フリード「魔人族は奴に敵視されてはいるが、私だけは例外のようだからな。

友好的態度を装ってから、奴から他の迷宮についての情報を聞き出す方が容易いだろう。

そもそもこの作戦は貴様の独断だろう。何故貴様の失敗が私の名誉にも影響する?」

ローブの男「おやおや、フリード将軍らしくないですなぁ。

いつもなら、あんな混じり者の醜い劣等種なぞ、微塵の慈悲もなく切り捨てるはずですのに……。」

舐めまわすようにねっとりとした口調に、思わずいきり立ちそうになる気持ちを抑え、フリードはローブの男を睨みつける。

 

フリード「……何が言いたい?

まるで私の元々の在り方を知っているかのような口調だが……貴様に測られる程、私は矮小ではない。

大体、何故貴様は人間族の教会にも顔が利くのだ?今まで魔人族についていた、貴様が?」

ローブの男「!?い、いや~、それはですね……。」

フリードの問いに思わずドキッとなりながらも、ローブの男が取り作ろうとした時。

 

???「それについては、私から説明させていただきましょう。」

そう言ってやってきたのは、口元を隠した壮年の男だった。

その身から放たれるオーラは、どう見ても正常なる者の放つオーラではない。

ローブの男以上、いやもしかしたらあのイレギュラーの仲間にも匹敵するのでは、と身震いするフリード。

 

ローブの男「ボ、ボス!?何故こちらに!?」

フリード「ボスだと?貴様等、一体何が目的だ?」

ローブの男はうっかり口を滑らせたとばかりに焦るも、必死にしらを切ろうとする。

その態度を益々怪しむフリード。となれば、この男も必然的に怪しい。

 

以前、あのイレギュラーから聞いた戦争の真実。

もし神々が遊戯感覚で自分達を弄んでいたとするならば、神の使徒は勿論、目の前の二人組にも、ここで消えてもらわねばならない。

全ては、己が最初に願った、「同胞達が何に脅かされることもない、安心できる国」の為。

それが今、自分の戦う理由であるが故に。

 

???「まぁまぁ、部下がとんだ無礼を働いたようで。

教会や使徒様へのお願いは、この私めが執り行わせていただきました。

戦力が多い方が、奴の手数も封じられるかと思ったのですが……どうしてもお一人で相手を?」

友好的な雰囲気を装いながらも、この男は何かがヤバい。

そう本能で感じ取るフリードは、咄嗟に曖昧な返事で躱す。

フリード「叶うことならな、だが今は王都侵攻作戦が先だ。奴の同胞もここにいると聞いている。

ならば、エサはそれで十分だろう?何故このような回りくどいことを?」

フリードの問いに、思わず苦笑いを浮かべながらも、壮年の男は淡々と返す。

 

壮年の男「それに関しては、貴方様が一番ご存じでしょう。あの男の力は強大過ぎる。

それもただの人間一人が持つには、ね。ならば、異端認定されてもおかしくはないのです。

つまり、あの男はいずれは人間族の脅威になりうるかもしれないのですよ。」

フリード「成程な、すると何か?私は反逆者を煽る為の御輿とでも言いたいのか?

貴様があのイレギュラー一人に、そうまでしなければならない程に、弱いとは思えんがな。」

フリードの鋭い考察に一瞬固まりながらも、壮年の男の男は続ける。

 

壮年の男「いえいえ、あの男を侮ってはいけませんよ。

貴方と戦った時でさえ、力の一端しかまだ出していないのですから。

奴には時を操る力があります。それをどうにかしないことには「どうでもいい。」……何ですって?」

フリード「結局は私を利用するだけして、貴様らは奴の力を奪いたい。ただそれだけだろう。

貴様ら人間族の諍いなぞ私には関係ないが、私の邪魔だけはするなよ?貴様もだ、木偶人形。」

フリードは修道女、否、神の使徒にもその鋭い視線を向ける。

 

使徒「我々は主の命に従っているだけです。

不満ではありますが、こうして貴方を招き入れたのも、主の意向なのです。

感謝こそされども、警戒は理解できません。」

フリード「フンッ、いずれにしろ奴は私の獲物だ。邪魔立ては許さんぞ。

もし横槍なぞ入れようものなら、その時は……。」

まさに一触即発の状況。そんな空気を察したのか、壮年の男は懐からあるものを取り出した。

 

壮年の男「では、これを信頼の証として貴方に。あの男のアナザーウォッチです。」

なんと、壮年の男は既にハジメのアナザーウォッチを形成していたのだ。

フリード「信用ならんな。

それが本物という証拠もない上、もし私が貴様らの意にそぐわなかった時のための拘束具としか思えん。

いい加減本音を言ったらどうなんだ?貴様等にとって、私はただの道具である、とな。」

 

しかしそれでも尚、フリードは警戒を緩めない。

あのイレギュラーによって精神操作の解除がされてから、判断思考能力が以前よりも上がっている上、周りで起こっている妙な出来事を察知できるようになってから、ローブの男が忙しなく報告を行っていることが分かった。

そのことから、上司であるこの壮年の男も神の盤上遊戯の関係者であることに違いない。

そう考えたフリードは、敢えて高慢かつ疑心的な態度でカマをかけてみたのだ。

 

ローブの男「ッ!さっきから言わせておけば!」

壮年の男「止めろ。」

ローブの男「しかし!」

壮年の男「くどいっ!」

ローブの男を制止する壮年の男。しかし、その腕がわずかに震えているのを、フリードは見逃さなかった。

 

壮年の男「ふぅ……先程から少し言葉が過ぎますよ、フリード将軍閣下。

私共は貴方方とは対等な関係でありたいと思っているのです。

勿論、このウォッチは正真正銘の本物ですとも。

何せ、滅びた並行世界から取り寄せた、南雲ハジメ本人から抜き取ったのですから。」

フリード「!……。」

滅びた並行世界、そう聞いたフリードは思考を巡らせた。

 

フリード(つまり……

あのイレギュラーが死んだ歴史も存在していて、その死体から力を抜き取った、ということか……

だがそれで本当に効力を発揮するのか?

……いや、我々が使っていたウォッチとやらと同じ世界やもしれん。先ずはそれを聞き出すか……

この男があのイレギュラーを目の敵にしているなら、私に本物を渡すとは思えん。

恐らくこれは代替品、万が一ウォッチを手放さなければならなくなった時のためのダミーだろうな。

私が奴なら、これを本物だと偽って、自分の手元にだけこっそりとウォッチを隠し持つだろう。

この男もそう考えているに違いない。ならば……!)

 

フリード「……いいだろう、その信頼の証を受け取ってやる。

ただし、私の邪魔をしたその時は……分かっているな?」

壮年の男「……勿論ですとも、ではこちらを。」

そう言って壮年の男からウォッチを渡され、フリードはその手の中の実感を確かめると……

 

フリード「所で話は変わるが、何故貴様たちは並行世界という言葉を知っている?

異世界からの者が何故、我々の事情を知っているのだ?まるで、未来を分かっていたような物言いだが?」

ローブの男「!?」

壮年の男「……。」

フリードの言葉にローブの男は驚き、壮年の男も表情は取り繕って入るものの、若干体がビクついていた。

更にそこへ畳みかけるように、フリードは追撃を進める。

 

フリード「あのイレギュラーのことに関してもそうだ。

あの男の愛娘のことはまだわかるが、何故母親の居場所まで分かったのだ?

まるでそこに絶対いるという確信を持ったような行動だったが……貴様もどうなのだ、木偶人形?」

使徒「余計な口は慎みなさい。いい加減にしないと、貴方を先に始末しますよ?」

使徒に睨まれても尚、フリードは怯まず睨み返す。

近くに集まっている司祭達や神殿騎士達も殺気を込めて睨みつけるものの、全く意に介さない。

 

フリード「まぁ、いずれにしろもうどうでもいいな。」

そう言ってフリードが踵を返した瞬間、

ズドォオオオオオオオオ!!!!!

教会上空より、極光が降り注いだ。

 

実はここに連れられてきた時、奇襲を警戒してウラノスを見張りとして、神山上空に待機させていたのだ。

が、それはただの建前で、本当の目的はこの場所への奇襲、つまりローブの男や使徒を一網打尽にするつもりだったのだ。

まさかあのイレギュラーの愛娘までいたのは計算外だったものの、それでも支障はなかった。

 

ローブの男「なっ!?」

使徒「ッ!」

壮年の男「チィッ!」

三者三様にその攻撃に焦りつつも、咄嗟に回避行動をとる。

となれば、残ったのは司祭達や神殿騎士、そして囚われたミュウとレミアだけになるが……

 

フリード「甘いっ!」

そう言ってフリードが繰り出したのは"界穿"。

しかも不思議なことに、空間魔法の腕は以前以上のパワーアップを遂げており、フリード自身も当初は驚いていた。

 

これは知らぬことだが、実は気絶していたフリードに、ウラノスがこっそり口づけを行っていたことにより、間接キスによる神水の摂取がされており、それによるパワーアップが施されたのだ。

その経緯を知らないものの、ウラノスは自慢げだった。

そして、その開かれたゲートは、ミュウとレミアのみを庇うよに展開され、もう一方のゲートの矛先には……

 

壮年の男「!?」

壮年の男のちょうど真後ろだった。しかも飛びのいた状態であるからか、体勢が崩れている。

普通なら避けることもままならない。そう、普通ならば、だ。

しかし極光が当たるその直前、周りの動きが一瞬にして停止した。

 

壮年の男「……まさか、このような形で反逆を起こすとはな。所詮は、敗北者という訳か。」

そう、この男もタイムジャッカーであり、ミライ達が危険視していたハイパータイムジャッカーなのだ。

その実力は勿論、時間停止能力も持っている。

しかもフィーニスやティード同様、周りの時間も止められるので、当然極光は止まったままだ。

 

壮年の男「やはり、事前にダミーとすり替えておいて、よかったよかった。

という訳で、残念だったなぁ?哀れな哀れなフリード坊や?

君の能力は高く買っていたつもりだったが……がっかりだよ。

精々、その偽のウォッチで、勝ったつもりで死んでくれ。」

そう言って壮年の男は、懐から本物の南雲ハジメアナザーウォッチを取り出した。

そのままフリードの方へ歩き出し、ウォッチを埋め込もうとしたその時。

 

壮年の男「ッ!?体が……!?」

突然、壮年の男の動きが鈍くなった。否、動かなくなった。

その事実に、今まで余裕の表情を浮かべていた壮年の男は焦った。

何故なら……こんなことが出来る人物は、この世界に一人しかいないからだ。

 

???「ほぅ、どうやら……欺く手間が省けたようだな?

まさか、こんなにも容易く時間停止を使ってくれるとはな……。

流石は、私の認めた男だと褒めてやりたいところだ。フリード、そして従者のウラノスよ……

いや、今は時間停止中だったな。」

大聖堂に突如響いた声と拍手、そして荘厳な足音。その方向へ意識を向けると……

 

ハジメ「いやはや、まさかこんな形で会えるとは……運命とはわからんものだなぁ?

貴様もそうは思わんかね、雑種?」

憤怒のオーラを纏った魔王がいた。

その怒気はまさに、天をも焼かんとする勢いだった。

 

王都近くにそびえたつ、教会総本山「神山」にて繰り広げられる、謀略と悪意の狂宴。

この出来事こそが、後に語り継がれる「教会事変の乱」の開幕になることは、まだ誰も知る由はなかった……。




ハジメ
「ここまで読んでいただき、ありがとうございます!そしてゲスト、漸く半分まで行ったよ……。」
チェイス
「どうも。女神護衛隊副隊長、チェイス=ルーティンです。」
ハジメ
「うん、もう長ったらしいけど自己紹介それでいいや。さて、今回も大波乱の展開だったねぇ。」
チェイス
「そうですね、まさか教会でこのようなことがあったとは……。」
ハジメ
「……実を言うとね、本気で神山ごと吹っ飛ばそうとしてたんだわ。」
チェイス
「何故今になってそんなことを!?」
ハジメ
「だって次回で解決しそうだしいいかな?って。」
チェイス
「さ、左様でございますか……。」

次回予告
ハジメ
「次回、神山飛ぶ。」
チェイス
「唐突過ぎませんか!?」
ハジメ
「だってすぐケリが付きそうだし……。」
チェイス
「身も蓋もないですね!?」
ハジメ
「そして愛子の説教事件の真相が、遂に明かされる!」
チェイス
「それは楽しみですね!」
ハジメ
「切り替え速いなオイ。さぁ、次回もご照覧あれ!」
チェイス
「是非、我等が女神のご活躍をご覧に!」
ハジメ
「主役は俺だがな!」


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69.しんざんばくさん

ハジメ
「お待たせいたしました……さて、今回もゲストが……ゲストのクセが凄いんじゃ……。」
翔太
「南雲様!自己紹介よろしいでしょうか!」
ハジメ
「その呼び方止めろォ!はよ自己紹介やれぇい!」
翔太
「どうも、森翔太っす!南雲ファミリーの鉄砲玉志望です!」
ハジメ
「せんでええ!はぁ、こいつだけ特にクセが強くて面倒なんだよなぁ……。」
翔太
「ッ!南雲様からの罵倒……!」
ハジメ
「面倒ごとになる前に前回のあらすじィ!俺、神山に乗り込む!以上!」
翔太
「次は放置プレイ、だと……!?」
ハジメ
「もうヤダこいつ……第6章第2話」
ハジメ・翔太
「「それでは、どうぞ(……)!」」

8/26
後のストーリー展開の都合で、ハジメのアナザーウォッチ関連の部分を変更いたしました。
大変ご迷惑をおかけしておりますが、当作品を御引見にしていただけると幸いです。


壮年の男(オッ、オーマジオウ……!)

ハジメ「さてと、まずこのウォッチは破壊させてもらおうか。」

そう言ってハジメは、自身のウォッチを壮年の男の手から奪い取り、即座に握り潰した。

結果は明白、アナザーウォッチは跡形もなく砕け散った。

 

ハジメ「よし、次はっと。」

そう言ってハジメはミュウとレミアのところへ向かった。

二人は依然として縛られたままだったが、時々ノイズのようなものが体に走っていた。

 

ハジメ「……アナザーウォッチまで埋め込むなんてね……余程俺に処刑されたいようだなぁ?

まぁ、いずれにしろ結末は変わらんがな。」

そう言ってハジメは二人からアナザーウォッチを抜き取ると、そのまま砕いた。

するとノイズの様なものは収まり、二人の体は正常に戻った。

 

ハジメ「折角だ、この老害共も無力化しておくか。」

そう言って一人ずつ丁寧に四肢の骨を滅茶滅茶に砕き、技能等をウォッチに封じ込め、そのまま暗黒空間に放り込んだ。

そしてミュウとレミアの拘束を解き、距離を置かせる。

 

ハジメ「おっと、フリードのウォッチも念のために回収してっと!

この木偶のコアも砕いておくか。」

フリードからダミーのアナザーウォッチを回収すると、そちらは迷わず砕いた。

使徒の体内にあるコアも同様に砕き、四肢を一旦砕いてこちらも"宝物庫"にしまった。そして……

 

ハジメ「さて……では処刑タイムだな。楽に死ねると思うなよ?」

そう言ってハジメは、両端に手を当てた。

 

ゴォーン!!!

 

『≪終焉の刻!≫』

音声が鳴ると同時に、ハジメは拳を構えた。勿論両手で、ヤバそうなオーラを纏ったまま。

そして息を大きく吸うと……

 

『≪逢魔時王必殺撃!!!≫』

 

ハジメ「オーッ!!!

オラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラ!!!

オラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラーッ!!!

オーッラアアアアアアアアァァァァァァ!!!オラオラオラ!!!

オラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラ!!!

オラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラ!!!

オラオラオラオラオラオラオラオラオラ!!!

オラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラ

オラオラオラオラオラオラーッ!!!

 

桁が振り切れるほどのラッシュが、壮年の男の体中に叩き込まれた。

そして一頻り打ち込むと、今度はローブの男へ近づき、またもや両端を押した。

 

ゴォーン!!!

 

『≪終焉の刻!≫』

そして先ほど同様、ラッシュを繰り出した。

 

『≪逢魔時王必殺撃!!!≫』

 

ハジメ「オーッ!!!

オラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラ!!!

オラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラーッ!!!

オーッラアアアアアアアアァァァァァァ!!!オラオラオラ!!!

オラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラ!!!

オラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラ!!!

オラオラオラオラオラオラオラオラオラ!!!

オラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラ

オラオラオラオラオラオラーッ!!!

 

まさに拳の暴風雨、しかも今回のハジメさんはいつも以上に本気だった。

実はトータスにくる以前、力を制御する方法を見つけるために、ある老師の下へ向かったことがあり、その老師から自身へのリミッターのつけ方と解放の仕方、そしてその開放度合いの調整について指南を一年ほど受けたのだ。

 

そして現在、そのリミッターが0.01%外されていた。

ハジメさんにとっては少しかもしれない。しかし、ハジメさんは気が付いていなかった。

無限の胃袋や魔物肉による身体強化により、限界にまで溜め込まれたパワーは、ほんのわずかな解除でも人間の肉体を原子レベルで崩壊させかねないくらいにまで急上昇していたことを。

 

そんなトンデモ威力のラッシュを終えると、ハジメさんは息を整えた。

最後に、ローブの男と壮年の男を、フリードのゲートに放り込む。そして……

ハジメ「そして時は……動き出す。」

その言葉と同時に、時間停止が解除される。

 

壮年の男「ぎょえっ!?たわば!?ちにゃ!?ヤッダーバァアァァァァアアアアア!?!?!?」

ローブの男「ぺぶしゃ!?とめった!?うわらば!?おわだぐでぃびひでぶー!?!?!?」

フリード「!?」

フリードは驚くしかなかった。

突然、相手がとてつもない威力のラッシュを喰らったかのように、顔面が変形した挙句、極光に自ら向かって吹っ飛んでいったのだ。

しかもそれだけではない。

 

「ぎゃああああ~~!?!?!?」

「ひぇおお~~!?!?」

「ひべべ~~!?!?」

「あがが~!?!?」

司祭達や神殿騎士達が一斉に悲鳴を上げたと思えば、その場に倒れこんでしまったのだ。

一瞬、何かの幻覚と思ったが、その疑問の答えは、それらよりも遠くの場所にあった。

 

ハジメ「……二人とも、遅くなってごめん。」

その声の主は、ミュウとレミアに優しく告げる。

それでいながら、二人には見えないよう周りに怒気を放っていた。

フリード自身はやはり来たのかという、呆れと奇妙な嬉しさを感じていた。

 

ミュウ「!パパ!」

レミア「ハジメさん!」

二人は懐かしさのある温もりを感じ、自分達を抱き留めている頼れる父親に気づく。

ハジメ「怖い思いをさせちゃったね。でも……もう大丈夫。」

そう言ってハジメは二人を強く抱きしめ……

 

 

ハジメ「私が来た。」

 

 

 

そう言うのと同時に、周囲に圧倒的な圧が放たれた。

それは以前、ライセンやブルックにて放たれたものの比ではなく、王都の外にまでも強く響いたのか……

「おっ、オイ!一体どうしたんだ!?」

「このっ!急に暴れるな!」

「コラッ!そっちは逆方向だぞ!?さっさと結界に攻撃せんか!」

「ダメです!こっちも全くいうことを聞きません!」

 

王都郊外にて待機していた魔人族の軍勢は、突然自分達の乗っていた魔物たちが急に暴れだしたかと思えば、一目散に逃げだそうとしたせいで、このまま攻め込むはずだったのに予定を狂わされ、一時の停滞を味わうことになっていた。

因みにこれを遠目に見ていたミレディさんはというと……

 

ミレディ「うわぁ……あの時のハジメン、こんな感じだったんだなぁ……。」

ちょっとドン引きしつつも、その凄まじさを実感していた。

王都に潜入したユエ達も、「あぁ、やっぱりこうなったな。」と思っていたそうな。

仲間達には感情が筒抜けなハジメさんであった。そんなハジメさんのいる大聖堂の中はもっと酷かった。

 

「「「「「「「「「「「「「「「「―――――!?!?!?!?!?!?!?!?」」」」」」」」」」」」」」」」

ハジメの"威圧"に耐え切れなかったのか、教皇含む教会勢は卒倒・失禁までしていた。

中には不快な排泄音も混じっていた。汚いことこの上なしである。

尚、フリードは対象から外されており、ミュウとレミアにも影響が及んでいない。

そして、その威圧をゆっくり収めると……

 

ハジメ「ミュウ、レミア、ここは危ない。今からイナバと一緒に待っていてほしい。

必ず、戻ってくるから。」

そう言って仮面ごしながら、二人を見つめるハジメ。すると……

ミュウ「!はいなの!パパ!いってらっしゃいなの!」

ミュウは力強く返事をし、

レミア「いってらっしゃい、貴方。」

レミアも力強く見つめ返し、頷いた。

そしてハジメはオーロラカーテンを開き、二人を隠れ家へと転移させた。

 


 

漸く二人の救出が済んだので、もう好きに暴れてもいい頃合いになった。まずは……

ハジメ『二人とも、こっちはもう大丈夫だ。作戦を始めてくれ。』

ティオ『承知したのじゃ!』

愛子『えっと……頑張ります!』

取り敢えず、先生はティオに任せておこう。次はユエ達にも、だな。

 

ハジメ『こちらハジメ。二人の救出を完了した。これよりD作戦に移行する。皆、好きに暴れろ!』

ユエ『んっ!』

シア『はいです!』

香織『うん!』

トシ『おう!』

ミレディ『りょーかい!』

これで伝達はOKだ。さて、こっちに戻るか。

 

ハジメ「さて……まさかお前に借りが出来るとはな。感謝するよ、フリード。」

フリード「勘違いするな、私は借りを返したにすぎん。貴様に生かされた借りを、な。」

!あの時のことが借り、か……益々面白いな!フリードのその言葉に、思わず嬉し笑いする俺。

フリード「何がおかしい?」

ハジメ「いやなに、やっぱ俺が見込んだだけはあるなって思ってさ。」

フリード「何を今更、私を誰だと思っている?貴様を倒すのは、この私だ。」

お前を倒すのは自分、か……全く、何故こうもクサいセリフが出てくるんだこの男は。

まぁ、俺自身そう言うの大好きな方なんだけどね!それにコイツ、段々ベジータっぽく見えてきたし。

 

ハジメ「やっぱお前……最高だぜ、フリード。

俺はこんなにも面白い好敵手(とも)を持ったのは初めてかもな!」

フリード「ハッ!魔王を自称する男の好敵手(ライバル)だ、これぐらい当然であろう?」

オイオイ、ノリまでいいとかホント最高だな!コイツは礼を奮発しとかなきゃあな!

なんて思っているその時、先程まで極光によって出た煙から悪意を感じ、さっと構えた。

フリードもそれに気づいたのか、直ぐ様白竜を近くに呼び寄せる。

 

壮年の男「ゼェッ……ゼェッ……オ゛ー゛マ゛ジオ゛ウ゛!」

先程まで余裕そうだった壮年の男は、俺のラッシュに加えて、フリードの白竜による極光を喰らったのか、見る影もなくズタボロになっていた。

その上、四肢の骨も滅茶苦茶に砕いたせいか、両腕はだらんと垂れ、上手く立ち上がれないようだ。

 

ハジメ「貴様が話に聞いたハイパータイムジャッカーとやらか。やれやれ……既に瀕死ではないか。

折角貴様の策に乗って、態々足を運んでやったというのに……これでは時間の無駄だったな。」

壮年の男「き゛さ゛ま゛ァ゛ァ゛ァ゛!!!」

うわぁ……両目が血走っているせいで、まるで悪霊に見えるな。フリードも引いているし。

 

ハジメ「まぁここに来た序だ、私自らが手を下してやろう。喜べよ、この〈ピー〉共?」

フリード「……もはやどちらが悪かわからんな……。」

ハジメ「人は大事なものの為なら狂的にも変貌するものだよ、ワトソン君。」

フリード「何の話だ!?」

あらま、ツッコミも出来るなコイツ。

二人でコントしてみたいな、なんて呑気に思いつつ、老害共をオルクスに転移させる。

四肢も砕いてあるし、技能も発動できないから大丈夫だろ。イナバもいるし、拘束用の鎖もあるし。

 

ローブの男「ボ……ボスゥ……」

チィッ!まだ息があったか!とっととくたばっていれば、無限地獄(レクイエム)されずに済んだものを……

壮年の男「……不本意だが、こうするしかないようだな。」

そう言う首領らしき男へ視線を向けると、先程までボロボロだった肉体が何事もなかったかのようになり、立ち上がっていた。

 

フリード「なっ!?馬鹿な!?先程まで「時間操作だよ。」何!?」

ハジメ「タイムジャッカーの上位に当たる、スーパータイムジャッカーにも何かしらの能力があったんだ。

そのさらに上位互換にも何かあるとは思ったが……どうやら相当消耗したようだな?」

壮年の男「チィッ!いい気になるなよ……たかが継承者の分際で!」

ハジメ「はて?選ばれなかったからタイムジャッカーになったのか?それこそ器の小ささが知れるものだな?

私であれば、より更に最高最善の魔王へとなるために鍛錬を積むが……貴様さては馬鹿だな?」

私に即座に反論された首領の男は、何やら顔を真っ赤にして怒りに満ちていた。

何故だ?本当のことを言ったまでなのに?

 

壮年の男「まぁいい……どうせお前はここで終わる。この力に押しつぶされてなぁ!」

そう言うと首領の男は、懐から何かを……ッ!大量のアナザーウォッチじゃねぇか!?

壮年の男「せめて俺の役に立てよ?"テムス"。」

ローブの男「!?ぐがあぁあぁあぁ!?!?!?」

テムスと呼ばれた男は、大量のアナザーウォッチを体内に埋め込まれると、苦しそうに藻掻き始める。

敵に同情するつもりはないが……気に食わんな。この男、スウォルツ以上の外道のようだな。

 

壮年の男「あぁ、冥土の土産に教えておきましょう。私の名は"エトス"、"エトス・N・エポッカ"です。

以後、お見知り置きを?」

ハジメ「失せろ。」ズパァンッ!

そう言ってサイキョージカンギレードを横薙ぎ一閃し、奴へと斬撃を飛ばした。

しかし、奴は咄嗟に障壁を張ったせいか、そのまま吹っ飛ばされただけだった。

 

ハジメ「逃がしたか……まぁいい。今はコイツだ。

フリード、周りに可燃性ガスがあるから、まだ極光は使うなよ?使ったら俺ら黒焦げだからな?」

フリード「ほぅ?最初からここを消し飛ばすつもりでもあったのか?あの二人を助け出してから、か?」

ハジメ「まぁね。本来ならもっと難しくなりそうだったけど……

誰かさんのおかげで楽に消し飛ばせるよ☆」

俺の返事に思わず苦笑するフリード。やっぱコイツしかいないな。

 

ハジメ「なぁ、フリード。俺がアルヴぶっ飛ばしたらよぉ……お前、ガーランドの王様になれよ。

そうしたら互いにもっと、助け合って、より発展できるんじゃないかって俺ァ思うんだが。」

フリード「フッ、そう簡単に割り切れるものではないが……

貴様があのお方を倒せたら考えてはおいてやる。」

その返答に思わず顔がくしゃっと笑顔になる。ホント、スゲェやつだよ、お前は。

 

そう思いながらも、即座にその場をオーロラカーテンでフリード&白竜諸共離脱する。

転移先は潜入時のルートの開けたところだ。ティオと愛ちゃん先生もそこにいた。

ティオ『む?ご主人様よ、何故フリードが一緒におるのじゃ?』

ハジメ「色々あってね、今は向こうが先だよ。」

俺がそう言って大聖堂を指さすと、それは姿を現した。

 

ドンガラガラドッシャーンッ!!!

大聖堂を破壊しながら現れた巨体には、幾つもの顔が付いており、まるで小さいお面屋さんのようだ。

尤も、そこに映っている顔が不気味で気色悪いものじゃなけりゃ、の話だが。

テムス「オマエサエイナケレバ……ボクガオウサマダッタノニィィィィィ!!!!」

……何を言っとるんだコイツは。というか、既に終わっているんだが。

 

ハジメ「愛ちゃん先生、もう十分に可燃性ガスは活性化しているんだよね?」

愛子「えっ?あっ、はい!言われた通りにしましたよ!ティオさんが風魔法であそこにとどめています!」

ハジメ「なら大丈夫だ、ティオ、フリード。風担当はやっとくから、やっちゃって☆」

ティオ「承知したのじゃ!」

フリード「……ウラノス、やってくれ。」

ウラノス『はい……。』

おいおい、何でそんなに暗そうなんだ?ここは盛大にパーってやればいいのに……。

 

そんなことを思いつつも、俺もサイキョージカンギレードを構えると……

テムス「シネエェェェェェ!!!」

奴が腕をこちらに振り下ろしてきた。が……そんなんで勝てるとでも。

ハジメ「甘い。」バキィンッ!

そう言ってサイキョージカンギレードを左腕で持ち、右腕で奴の腕を殴り返した。

序に豪腕と衝撃変換に加えて、100倍瞬間界王拳も上乗せした。結果……

 

テムス「グギャアァァァ!?!?」ドガァッ!

自分の腕が跳ね返り、自身の拳を顔面に喰らったアナザー……いや、キマイライダーでいいか。

勿論その隙を見逃すわけもなく、

 

ゴォーン!!!

 

『≪終焉の刻!≫』

『〈サイキョーフィニッシュタイム!〉』

ハジメ「取り敢えず、死んでくれ。」

即座にサイキョージカンギレードを奴へと振り下ろす。

 

テムス「ギィイィィィ!!!」

向こうは咄嗟に防ごうとしているが……足元がお留守だぜ?

ティオ『吹き荒べ、龍の息吹!!!』

ウラノス『裁きを受けよ、"極光"!!!』

二人のブレスが大聖堂へと向かい、その大気に触れた瞬間

 

ズドォオオオオオオオオオオオオオオオオオン!!!!!

テムス「グギャヘアァアァァ!?!?!?」

当然、足元から爆撃を喰らったせいで、抑えていた腕が緩む。そして、

 

『≪逢魔時王必殺撃!!!≫』

『〈キングギリギリスラッシュ!!〉』

 

ハジメ「ゼェェェリャアァァァァァ!!!!!」

俺は勢いよくサイキョージカンギレードを振り下ろした。

ズパアァァァァァン!!!!!!

テムス「ギィィィエアァァァァァ!!!!!」

耳障りな断末魔を上げたまま、奴は真っ二つになって爆散した。そして、神山一帯が光に包まれた。

 


 

ハジメ「……フィ~、危うく全員グツグツのシチューになるとこだった、痛ッ!?」

フリード「呑気に言えることではないだろうがァ!本気で死ぬところだっただろうが!」

小ボケをかましたら即座にツッコんでくれる……やっぱりコンビで、いやなんでもない。

愛子「アハハ…皆さんが静かになるまで2分かかりましたね……。」

ハジメ「先生、そのボケはシュールだからやめてくれ…w」

唐突に朝礼のネタをぶっこんで来る先生に思わずツッコんでしまった。

 

現在俺達は、綺麗に消し飛んだ大聖堂前にいる。さっきまで瓦礫の下に埋まりかけていたけどね。

あの後、まさかあんなに凄まじい爆発が起こるなんて思っていなかったからなぁ……。

咄嗟に錬成で穴を掘っていなかったら、全員生き埋めになっちまうところだった。

もう二度と、引火系爆発は勘弁だと思った俺であった。ボンバーヘアーは嫌だし。

 

フリード「それにしても……貴様どうやってここに入ってきたのだ?

この結界はウラノスの極光でもなければ破れぬ強度だぞ。」

ハジメ「いやぁ~、秘密兵器がこちらにはあるんでね……あ。」

アカン、浩介のことすっかり忘れてた!まさかとは思うが……あの中に!?

 

浩介『勝手に殺さないでくれませんかねぇ!?』

ハジメ「ふわぁっ!?」

思わず変な声が出てしまった。おいフリード、笑いたいなら堂々と笑えばいいだろうが。

ティオと愛ちゃん先生も、笑いこらえていないで……ウラノス、お前もか。

 

ハジメ『びっくりしただろ、浩介!今どこにいるんだ?』

浩介『お前が二人を取り返した時点で、もう下山しているよ。いまみんなのとこに行ってる途中。』

ハジメ『そうか……今から神代魔法の習得に行くからと思って、連絡したんだけど……。』

浩介『まぁ、それはまた今度の機会でいいさ。それよりも、皆のことが最優先だ。』

ハジメ『……悪ィ、頼んだ。俺もすぐ行くから。』

浩介『任された。』

そして念話を切ると……

 

ティオ「むっ?ご主人様よ。人がおる。明らかに、普通ではないようじゃが……。」

ティオのその言葉に、俺達が視線を向けると……

白い法衣の様な物を着た禿頭の男がおり、こちらを真っ直ぐに見つめていた。

しかし、その体は透けてゆらゆらと揺らいでいる。

 

ハジメ「……もしかして。オスカー、ナイズ、メイル、同胞さんみたいだよ。」

そう思って"宝物庫"からオスカー達を呼び出した。

オスカー『やはりか……彼はラウス。この神山の解放者だよ。』

フリード「何ッ!?ここは大迷宮だったのか!?」

まぁ、驚くのも無理はないか。俺だってそのコンセプトについて聞いた時は驚いたし。

 

ナイズ『神山の大迷宮には二つのルートがある。

この山頂以外に麓にも魔法陣があり、攻略の証を二つ以上持つ者なら転移で中に入れるのだ。』

メイル『まぁ、その場合は攻略の証がある部屋じゃなくて、別の場所に転移するけどね。

そこで過去の教会戦力の幻影と戦ってもらうことになるわ。』

そう、このトータスにおいて、狂信者共の総本山を世界最高峰たる霊峰の頂上に設けない等あり得ない。

故に、山頂は"現代の教会"打倒ルートであり、それを避けようとして麓の魔法陣を見つけた場合は、"過去の教会"打倒ルートになるということだ。

 

難易度の差は微妙なところらしい。

過去の騎士は全員が聖なる武具のレプリカを装備し、かつ強力な固有魔法持ちで、現代の騎士とはアリとゾウほどにも戦闘能力に差がある。

対して、現代の教会を相手にした場合、神代魔法使いなら蹴散らせる程度だろうが、現総本山への攻撃なのだから木偶人形の介入は必至だ。

神殺しのために神代魔法を求めることを前提とするなら、この山頂ルートは、その手段を手に入れる前に神の本拠地と決戦するようなものであるから、本来は麓のルートこそが正道なのだろう。

まぁ、ここには魔人族も龍人族もいるからそれがどうしたって話なんだけどね!俺も魔王だし!

 

と、そんな俺達を見ているラウスは、自分を認識した事に察したのか、そのまま無言で踵を返すと歩いている素振りも重力を感じている様子も無くスーッと滑る様に動いて教会の中へと移動した。

そして姿が見えなくなる直前で振り返り、俺達に視線を向ける。

 

ハジメ「この先にあるってことか。行こう。」

三人を促し、俺はラウスに追随した。

尚、白竜のみここでお留守番のつもりだったが、流石にここで丸裸は危険なので、小さくして連れていくことにした。

ラウスの幻影はその後も、時折姿を見せては俺達を誘導する様に迷路の様な内部を進む。

そして5分程歩いた先で遂に目的地に着いた様で、真っ直ぐ俺達を見つめながら静かに佇んでいた。

 

ハジメ「ここが終点?神代魔法はここに?」

ラウス「……。」

ラウスの幻影は俺の質問には答えず、ただ黙って指を差す。

その場所は何の変哲も無い唯の行き止まりだったが、男の眼差しは進めと言っている様だ。

沈黙を肯定と判断した俺達は、その瓦礫の場所へ踏み込んだ。

するとその瞬間、地面が淡く輝きだした。見れば、そこには大迷宮の紋章の一つが描かれていた。

 

そして次の瞬間には、俺達は全く見知らぬ空間に立っていた。

それ程大きくはない光沢のある黒塗りの部屋で、中央に魔法陣が描かれておりその傍には台座があって古びた本が置かれている。

どうやら、いきなり大迷宮の深部に到達してしまったらしい。

俺達は、魔法陣の傍に歩み寄った。

何が何やらと頭上に大量の"?"を浮かべている愛ちゃん先生の手を引いて、俺達は精緻にして芸術的な魔法陣へと踏み込んだ。

 

いつも通り記憶を精査されるのかと思ったら、もっと深い部分に何かが入り込んでくる感覚がして、思わず俺以外は呻き声を上げる。

俺はこれも試練の一環と思い、修行中に身に着けた金の心で見事に耐え抜いたが。

まぁ、あまりに不快な感覚に一瞬罠かと疑うも、次の瞬間にはあっさり霧散してしまった。

そして攻略者と認められたのか、頭の中に直接魔法の知識が刻み込まれる。

 

ハジメ「魂魄魔法、ゲット!これで漸く大量蘇生も楽になる……。」

ティオ「う~む。どうやら、魂に干渉出来る魔法の様じゃな……。」

オスカー『精神にも干渉は可能だよ。気持ちを落ち着かせたりすることもできるから、結構便利だよ?』

ナイズ『洗脳にも有効だな。フリード、ハジメがお前にやったようにな。』

フリード「!そうか……。」

まぁ、洗脳されている仲間を見たら、昔の自分を思い出すだろうからねぇ……。

 

まぁ、それはさておき。

いきなり頭に知識を刻み込まれるという経験に頭を抱えて蹲る愛ちゃん先生を尻目に、俺は脇の台座に歩み寄り安置された本を手にとった。

どうやら、中身は大迷宮【神山】の創設者であるラウスが書いた手記の様だ。

オスカーが持っていたものと同じで、解放者達との交流やこの【神山】で果てるまでの事が色々書かれていた。

 

 

そして最後の辺りで、迷宮の攻略条件が記載されていたのだが、以前聞いた通りラウスの映像体が案内に現れた時点で、ほぼ攻略は認められていたらしい。

というのもあの映像体は、『最低二つ以上の大迷宮攻略の証を所持している事』と、『神に対して信仰心を持っていない事』、或いは『神の力が作用している何らかの影響に打ち勝った事』という条件を満たす者の前にしか現れないらしい。

 

つまり【神山】のコンセプトは、『神に靡かない確固たる意志を有する事』の様だ。

恐らく愛ちゃん先生も攻略を認められたのは、長く教会関係者から教えを受けておきながら、それに微塵も影響される事も無く常に生徒達を想い続けてきたからだろう。

この世界の人々には実に厳しい条件だが、俺達には軽い条件だった。

漸く神代魔法を手に入れた衝撃から立ち直った愛ちゃん先生を促して、台座に本と共に置かれていた証の指輪を取ると、俺はいつもの眼魂入手でラウスを呼び起こした。

 

ラウス『……これは……一体。』

オスカー『やぁ、久しぶり。』

ラウス『オスカー!?何故ここにいる!?』

オスカー『色々あってね、こっちで話そうか。』

そんな訳で状況説明はいつもの解放者勢に任せることに。

 

フリード「まさか本当に解放者と旅をしているとはな……南雲ハジメ、貴様反則過ぎないか?」

ハジメ「最高最善の魔王だからね!それに、伸ばせる手は長い方がいいでしょ?」

俺の返答に苦笑いするフリード。心なしか白竜も唖然としていた。

 

ハジメ「さて……愛ちゃん先生、大丈夫?」

愛子「うぅ、はい。何とか……それにしても、すごい魔法ですね……

確かに、こんなすごい魔法があるなら、日本に帰る事の出来る魔法だってあるかもしれませんね。」

愛子が蟀谷をグリグリしながら、納得した様に頷く。

その表情はここ数日の展開の激しさに疲弊しきった様に疲れたものだったが、帰還の可能性を実感出来たのか少し緩んでいる。

 

ハジメ「さてと、俺達はユエ達と合流するが……フリード、お前はどうする?

このまま王都侵略でもするか?」

フリード「馬鹿を申せ。こんな状況で出来る訳なかろう。

ここは一旦預けてやる、我々は樹海にいる同胞と合流させてもらおう。」

…………………………………………………………………………………………………………………………え゛?

 

ハジメ「お前今……なんて言った?」

フリード「?樹海にいる同胞と合流すると言ったが?」

なんてこったい!

ハジメ「よし、ティオ。愛ちゃん先生とここにいてくれ。ちょっと止めてくる。」

ティオ「う、うむ。分かったのじゃ。」

俺の焦り様を察したのか、ティオが即座に了承してくれる。

それと同時に、オーロラカーテンでフリード諸共樹海へ行った結果……

 

???「このっ、外道がッ!」

カム「ボス以外に褒められても、嬉しくはない。」

カムのその一言で、隊長らしき魔人族の男の首が飛んだ。

 

ハジメ「……遅かった……。」

フリード「なっ、なっ!?」

余りの光景にフリードは驚き、俺は思わず頭を抱えた。ホント何してくれちゃってんのお互いに!?

カム「!ボス!いつここにいらっしゃったのですか!?しかも捕虜まで捕えているなんて!」

「「「「「「「「「「おおっ!流石ボス!やることのスケールが違う!」」」」」」」」」」

頼むからお前ら黙っててくれ……こちとら恥ずかしくて仕方がないんだ……。




ハジメ
「ここまで読んでいただき、ありがとうございます!さて、元神殿騎士のラストを飾るのは、このゲストだ!」
デビッド
「どうも、女神専属護衛隊隊長デビッド=マークです!」
ハジメ
「さて、今回は原作でもあった愛子の作戦を元に、神山吹っ飛ばしてみました!」
デビッド
「やはり我等が女神の力は偉大なのだなぁ……これこそまさに神の御業!」
ハジメ
「話聞いてねぇ……まぁ、縁の下の力持ちという意味では、これ以上にないサポートだと思うよ。」
デビッド
「やはり聖王様もそうお思いに……!流石我等が女神!」
ハジメ
「聖王言うなって……早く次回予告やるよ。」
デビッド
「ハッ!仰せのままに!」

次回予告
ハジメ
「前半は俺の視点だが、後半からはユエサイドと雫サイドに切り替わるぞ。」
デビッド
「我等が女神の出番は!?」
ハジメ
「いや、天職が天職だし、愛子は終盤まで戦闘シーン無いぞ?」
デビッド
「なん……だと……!?これがほんとの……」
ハジメ
「おいまて、そこから先は言うな。怒られるから。」
デビッド
「では、女神の戦いの時まで、我々は力を身に着けてまいります!」
ハジメ
「いやだから……まぁいいや。それじゃ、次回もお楽しみに!」
デビッド
「我等が豊穣の女神、愛子を宜しくお願い致します!」

ヴァンアストさん、リースティアさん、誤字報告ありがとうございました!


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70.ジュカイでカイギ⁉怒涛のテンカイ!

ハジメ
「お待たせいたしました!さて、前回はお見苦しい所をお見せいたしました……。」
芽依
「えっと……南雲、大丈夫?」
ハジメ
「あぁ、よかった……今回のゲストは比較的まともだ……。」
芽依
「前回一体何があったの!?あ、どうも!藤本芽依です!」
ハジメ
「アハハ……ちょっとね。さて、前回のあらすじといこうか。」
芽依
「う、うん……たしか、神山爆破して魂魄魔法ゲット!だったような?」
ハジメ
「大方あっているよ。さて、今回はうちの部下のやらかしの後始末からだね。」
芽依
「……社会人って大変だなぁ。第6章第3話」
ハジメ・芽依
「「それでは、どうぞ!」」


フリード「南雲ハジメ……貴様一体部下にどういった教育をしたのだ!?

あのひ弱そうな兎人族共が見る影もないではないか!?」

ハジメ「ハハハ……い、意識改革を少々……。」

目の前の光景を信じられなかったフリードが、思わず詰め寄ってきた。

まぁ、あの光景を信じろと言う方が無理だよなぁ……。

 

カム「ボスに何か用かな、魔人族の将軍殿?」

そう言ってカムがフリードの首筋にナイフを突き立てる。

他のハウリアも警戒態勢に移っているし……素早いのはいいんだけどもうちょい我慢をさぁ……。

ハジメ「お前ら落ち着け、こいつは客人だから。後、取り敢えず、死体全部こっちに集めてこい。

種族問わずだ。40秒でダッシュな?」

「「「「「「「「「「Sir、yes、sir!!」」」」」」」」」」

俺の命令に、ハウリア達は号令で返し、即座に散らばった。

 

フリード「……あれは意識改革の域を超えているだろう!?本当に何をしたんだ!?」

ハジメ「止めてくれ、これ以上の追及は俺の精神が死ぬ!」

だってこんなんになるまで酷くなるとは思っていなかったんだもん!

俺にだって予知できないことだってあるんだよ!

 

アルフレリック「……とんだ再会になったな、南雲ハジメ。

何故魔人族の将軍を連れているかは知らないが……引き渡してはくれんようだな。」

ハジメ「ゴメンよアルフレリック、今は人手が欲しいんでね。

まぁ、他の獣人たちも蘇生するから、それでチャラで!」

全く……運命の針はいつだって待ってくれないものだなぁ……。

 


 

ハジメ「それで……話を続けてもいいかな?これ以上の邪魔は勘弁願いたいものなんだけど。」

???「きっ、貴様!」

フリード「よせ、ダヴァロス!」

???「しかし!」

フリード「くどいっ!」

 

樹海襲撃部隊の奴等は蘇生された直後、俺やハウリアに襲い掛かろうとしていたが、フリードの一喝で全員が渋々矛を収めた。

獣人側も反対意見があったものの、俺自身が急いでいることもあったので、ハウリアを使って黙らせた。

やり方としては褒められたものではないが……こっちもこっちで緊急事態なんでね。

 

アルフレリック「それで……何故こちらへ来たのだ?まさかとは思うが……魔人族の命乞いの為か?」

アルフレリックが以前とは違った様子で見てくる。まぁ、そういう気持ちはわかるけどもね……。

ハジメ「正直、クソ野郎やタイムジャッカーとのドンパチには、出来るだけ戦力が欲しいからね。

それに、解放者は過半数が人間族とはいえ、そこに種族差別はなかった。

なら俺も、種族動向なんざ構っていられない。まぁ、こいつ等にしっかり罰は受けてもらうけどね。」

そう言って俺はダヴァロスと呼ばれた魔人族の隊長を一瞥する。

 

アルフレリック「それはいいが……どのような罰にするつもりかね?」

ハジメ「う~ん、樹海形式で行くならゴキブリ風呂とか?幻覚でやるけどいいよね?」

「「「「「「「「「「………。」」」」」」」」」」

俺の発案にドン引きしたのか、全員が押し黙った。なんでだろ?

 

ハジメ「そもそもだ。樹海の迷宮には条件があるってこと、お前ら知らないだろ。」

フリード「!やはり何かあったのか!?」

ハジメ「そう焦るな。先ずは……ホレ、ごめんなさいしようか。」

俺の言葉に、フリードが魔人族を促す。奴等は渋々といった様子で頭を下げていた。

 

ダヴァロス「大変……申し訳……なかった……!」

余程の屈辱なのか、歯ぎしりしている口の間から血が滴っていた。自業自得でしょうが。

ハジメ「さて……先ず前提として獣人達と友好的でなくてはいけない。

案内人を得てない時点でアウトだよ、そもそも情報も聞いていないのに皆殺しとか愚策でしょうに。」

ダヴァロス「!貴様ッ!」

俺の言葉に怒り立ったのか、席を立って襲い掛かろうとする部隊長。だが……

 

フリード「いい加減にしろ、ダヴァロス。」

ダヴァロス「しっ、しかし!?」

フリードから放たれた圧が、奴を立ち止まらせる。

フリード「これ以上話を長引かせるのであれば……私自らが手を下すことになるぞ?」

ダヴァロス「!?!?!?」

信頼していた将軍からの死刑宣告に、思わず戸惑う部隊長。

 

ハジメ「悪いね……態々憎まれ役を引き受けてもらって。」

フリード「いや、こちらこそ部下が失礼した。大変申し訳ない。」

そう言ってフリードは、頭を下げた。それも獣人側に向けて、だ。

フリード「誤って許されることでないのは承知している。

だがせめて……部下だけでも許しては貰えないだろうか。」

するとその姿勢に調子づいたのか、獣人側が大きく出てきた。

 

ゼル「取引できる立場だと思っているのか?貴様等は直ちにここで亡き者となるというのに!」

……面倒ごとばかり増やすなと言っているのに、どうしてどいつもこいつも……。

アルフレリック「よすんだ、ゼル。これ以上南雲ハジメに殺されかけたくはないだろう?」

おい族長さんや、何故そこで俺を脅しの道具に使う?そして猫野郎は何故即座に座り込む?

後ハウリア、お前等はちょっと黙っていてくれるか?

 

ハジメ「残り二つの条件は、再生に関する神代魔法含む4つの証が必要だ。

フリード、攻略可能なのはお前位だろう。場所は西の海にある。」

フリード「!?意外にあっさり教えてくれるものだな?いいのか?

私が裏切るという可能性もなくはないだろう?」

フリードのその問いに、思わず吹き出してしまう。

 

ハジメ「ならお前は何故俺の情報をあっさり信じる?それと同じことではないのか?」

フリード「!」

俺の言葉にハッとなった後、フリードは口元を緩めて大笑いした。

フリード「ハハハッ!そういう男だったなお前は!負けたよ、南雲ハジメ!約束通り、私はお前に下ろう!」

「「「「「「「「「「!?」」」」」」」」」」

……はい?

 

ハジメ「ちょい待ち!?何故にそうなる!?」

フリード「お前の民とやらになれば、仲間達も私も助かる。お前は戦力を手にする。

互いに利益はあるだろう?ならばこれが最善の策という訳だ!」

そう来たかぁ……いやまぁ嬉しいっちゃあ嬉しいけどさぁ……そいつらまだ洗脳中だぜ?

 

フリード「まぁ、どうしてもいうことを聞かない部下たちには……

お前が先程提案した幻覚とやらで……。」

魔人族の皆さん「「「「「「「「「「All hail My Lord!!」」」」」」」」」」

ハジメ「うぉい!?そんなに嫌なのか!?俺も嫌だけど変わり身早すぎるだろォ!?」

もうどうすんだよこれ……収集つかねぇよ……。

 

アルフレリック「……まぁ、お前さん預かりなら心配はなかろう。では頼むぞ。

私たちは生き返った者達への説明をせねばならんからな。」

ちょっと待ってェ!?お願い!神水あげるからさぁ!?クソッ、こうなったら……!

ハジメ「ハウリア!あいつらを逃がすなよ!まだ話は終わってな「「「「「「「「「「ウオォォォ!!!流石ボス!自分達にはできないことを平然とやってのけるッ!そこにシビれる!あこがれるゥ!!!」」」」」」」」」」」……もういいや。」

早く済みそうだったので、考えるのをやめた。

 

ハジメ「さて、俺の部下になった以上……特訓を受ける覚悟はいいな?」

魔人族の皆さん「「「「「「「「「「……え゛?」」」」」」」」」」

取り敢えず、訓練諸々は後でやることにして、魔人族達をライセンの隠れ家へと移送した。

序に洗脳も解いておいた。これで反逆の心配はなしッと!

 


 

ハジメ「……マジで恨むからな、フリード。お前は特訓の後迷宮行きな。」

フリード「フッ、そのくらいなら安いものだ。西の海にあるんだったな?」

ハジメ「あぁ……月の光と五芒星、そして攻略の証が鍵になる。

先に魂魄魔法手に入れてるなら試練の方は問題ないだろう。道中は保証できんが。」

そんな軽口をお互いに叩き合いつつ、俺達は王都の近くまで戻ってきた。

 

ハジメ「それじゃあ……他の魔人族への説明頼むぞ。ミハイル?だったか、そいつ以外の。」

フリード「任されたよ、我が魔王。」

ハジメ「その呼び方はやめろォい!」

俺は転移で神山へと向かい、フリードは郊外の仲間の下へと向かった。

 

ハジメ「ただいま、何か進展は?」

ティオ「お帰りじゃ、ご主人様よ。ちょうどユエ達が戦闘に入ったところじゃ。」

ハジメ「そうか、なら俺達も早く合流しよう。先生、ティオに乗ってくれ。」

愛子「はっ、はいっ!」

ただでさえ、あのタイムジャッカーの件もあるからな……皆の為にも……

 

――……、……

ハジメ「うん?」

ティオ「どうかしたかの、ご主人様?」

ハジメ「今何か、声が聞こえたような気がして……。」

 

――……て、…けて、助けて、

ハジメ「ッ!」

途切れ途切れではあるが聞こえる、しかも聞き覚えのある声だった。

ハジメ「……悪い、直ぐに追いつくから先に行ってくれ。ちょっと、やらなきゃいけないことができた。」

ティオ「……承知したのじゃ。先生殿、しっかり掴まっておってくれ。」

愛子「あっ、はい!ハジメ君もお気をつけて!」

そう言って二人は皆のところへ向かい、俺は声の聞こえた方向、神山麓へと向かった。

 


 

ハジメが神山で大暴れしていた頃……

ユエ達は夜陰に紛れて王宮の隠し通路を進んでいた。リリアーナを光輝達の下へ送り届ける為だ。

自分達がいない間に、光輝達が洗脳の類を受けていないか、彼等が安全と言えるかの確認が必要なのだ。

それに【神山】は文字通り聖教教会の総本山であり、ミュウとレミアの救出までは出来るだけ騒動を起こさない事が望ましいところ。

彼等に気付かれず愛子の監禁場所の捜索と救出を行う為にも、ハジメと浩介の方が都合が良かったのだ。

 

そんなユエ達が隠し通路を通って出た場所は、何処かの客室だった。

振り返ればアンティークの物置が静かに元の位置に戻り、何事も無かったかの様に鎮座し直す。

リリアーナ「この時間なら、皆さん自室で就寝中でしょう。

……取り敢えず、雫の部屋に向かおうと思います。」

闇の中でリリアーナが声を潜める。向かう先は雫の部屋の様だ。

 

リリアーナの言葉に頷き、索敵能力が一番高いシアを先頭に一行は部屋を出た。

殿をトシが務め、メルドも前で護衛を担当している。

雫達異世界組が寝泊まりしている場所は現在いる場所とは別棟にあるので、月明かりが差し込む廊下を小走りで進んでいく。

 

そうして少し進んだ時、ハジメから「二人の救出に成功、派手に暴れてくれ。」と連絡もあり、安心してこちらへ集中できると思い、更に進んだ時、それは起こった。

突如、窓の向こう(神山側)から激しい光が飛び、爆撃でも受けたかの様な轟音が王都を駆け抜けたのだ。

衝撃で大気が震え、ユエ達のいる廊下の窓をガタガタと揺らした。

 

シア「わわっ、何ですか一体!?」

ユエ「……ん、多分ハジメ。」

トシ「みたいっすね……うわ、神山崩壊しているし……。」

そう呟くトシの視線の先には、跡形もなく崩れた神山のなれの果てが映っていた。

 

ミレディ「皆!ハジメンがやらかしたみたいだよ!」

香織「ミレディさん!ハジメ君は!?」

ミレディ「多分大丈夫だと思う!オーちゃんと同じ錬成師だもん!」

ミレディがそう言うと、神山の頂上にて何かが地面から盛り上がる様な光景が見えた。

 

トシ「うん、マジで大丈夫そうだな。んじゃ行きましょうか。」

リリアーナ「そ、そうですね!」

メルド「とうとうやってしまったかぁ……」

メルドは頭を抱えながらも、もうこれでいいのかもしれないと思ったのであった。

 


 

同時刻、王宮の異世界組の寝室棟にて……

―――ズドォオオオオオオオオオオオオオオオオオン!!!!!

雫「ッ!?一体何っ!?」

激しい光と轟音に、自室で就寝中だった八重樫雫はシーツを跳ね除けて枕元の黒刀を手に取ると、一瞬で臨戦態勢を取った。

明らかに普段から気を休めず警戒し続けている者の動きだ。

 

雫「……。」

暫くの間、抜刀態勢で険しい表情をしながら息を潜める雫。

室内に異常がないと分かると次に窓の外を確認した。するとそこには……

雫「!?神山が消し飛んでる!?」

そう、愛子がいるはずの神山が消し飛んでいるのだ。

驚かずにはいられないだろうが、乱れる心を雫は何とか抑え込む。

 

雫がここまで警戒心を強めているのは、ここ数日顔を合わせる事の出来ない人達の事が引っかかっているからだ。

あの日。

【オルクス大迷宮】から出て、親友が再会した想い人と旅立ち、王国に帰還してから、少し経ってからだろうか。

何となく抱く様になった違和感。

"何が"と言われても明確な答えは返せないのだが、確かに第六感とも言うべき感覚が王宮内に漂う不穏を感じ取っていた。

 

言葉で表現出来ず、正体も分からず。或いは親友が傍らにいない事や魔人族の勢力が拡大した事実、"人を殺す"という覚悟の問題に直面した仲間、それらが積もり積もってナーバスになっているのだけなのではと思う事もあった。

だが勘違い等ではない、何かが起きている。そう確信したのは今日の事だ。

 

3日前、愛子が帰還した日に夕食時に重要な話があると言って別れたきり、その姿を消した。

夕食の席に現れなかったのだ。愛子の身に何か良くない事が起きているのではとも疑っていた。

おまけに、時を同じくしてリリアーナまで行方が分からなくなっていると側近や近衛、侍女達が慌てていた。

 

親しい二人が行方を晦ましたのだ、雫だけでなく光輝達は当然愛子の護衛を務めていた優花率いる愛ちゃん護衛隊のメンバーも探し回った。

そんな時だ。

優花達と同じく愛子の護衛をしていたデビッド達神殿騎士をも集めて、イシュタルが「愛子達は総本山で異端審問について協議している」という尤もらしい説明をしてきたのは。

 

当然「ならば自分達も」と言い募った雫達だったが、遂に直接会わせてもらう事は出来なかった。

【神山】山頂にある聖教教会総本山へ繋がるリフトも停止させられており、直接向かう事も出来なかった。

リリアーナの父親たるエリヒド国王へ直談判したが、3日もすれば戻るから大人しくしていろと言われればそれ以上騒ぐ事も出来ず、渋々ではあるが一先ず引き下がるしかなかった。

 

言いようのない不安感、訳も無く膨れ上がる焦燥感。

こういう時こそ頼りになるメルドと会えない事も、雫達の不安を強める要素だった。

だが3日だ。3日待てば、きっと……。そう思って迎えた3日目の今日の朝。

 

結局、愛子もリリアーナも戻ってはこなかった。

それどころか、王宮内からイシュタル達教会関係者の姿が消え、地上待機を命じられていた筈のデビッド達まで消息を絶った。

リフトが停止したままにも拘わらず。エリヒド国王も、宰相や側近達も面会すらしてくれなかった。

 

明日で愛子とリリアーナが消えて4日目、この件について明確な危機感を持っているのは雫以外では優花達だけだろう。

光輝も違和感は覚えており、表面上は楽観視していながらも、メルドや愛子がいないこともあり、少し警戒している。

ただ、皆に不安を与えないためにも"きっと大丈夫だ"としか言えないので、実質あてにはできない。

 

故に雫は、唯一危機意識を共有出来ている優花達と相談して決めていた。

今晩中に愛子達が戻って来なければ、自分達だけでも明朝より【神山】への登頂を開始しようと。

勿論、物理的にだ。しかし、その神山自体が爆破されてしまった以上、それも出来なくなってしまった。

 

雫「こんな真似が出来るのは魔人族以外……いえ、結界があるから無理ね。

だとすると……まさか、ハジメ君じゃないわよね?」

雫のその犯人と思われる人物に予想をつけていた。実質当たってはいるが。

雫「だとしても、愛ちゃんがいる筈の場所を何故……!そうだ、ヒカリちゃんなら!」

そう思って交信のためにと渡された指輪に念を送るが……

 

雫「……ダメね、全然繋がらないわ。本来なら遠藤君にも連絡してもらいたいのだけど……ッ!」

自分で言った言葉に漸く気付いた雫。そう、誰か一人足りないとは思ってはいたのだ。

雫「遠藤君!?遠藤君はどこ「……ここなんですが。」きゃあっ!?」

窓から聞こえた声に思わずビックリしてしまい、可愛らしい悲鳴を上げる雫。

自分でも予想外の声に顔を赤らめながらも、窓の方へ視線を向ける。すると……

 

雫「遠藤君……貴方いつの間に。」

窓に張り付いている人物、"最強の暗殺者"遠藤浩介がいたのだ。

浩介「まぁ、色々あってな……それより、ユエさんたちは来ていないのか?

後、中に入れてもらえると助かるんですが……。」

どういうことかと思い、雫は浩介を招き入れて事情を聴く。

 

雫「そう、愛ちゃんとリリィは無事なのね……にしても、教会はなんてことを……。」

教会の所業に思わず頭を抱える雫。とんでもない相手を怒らせていることに、思わず倒れそうになる。

浩介「まぁ、そっちはもう解決したらしいけどさ。こっちもこっちで危機的状況なんだけどな。」

そういう事情で、浩介自身もリフトからのフリーフォールで滑空し、こちらへと来たという訳だ。

 

雫「取り敢えず、先ずは香織達と合流しなきゃいけないわね……

問題は偽物の恵理の眼をどうやって誤魔化すか、ね。」

浩介「……俺がいれば何とかなると思う。だって俺影薄いし。」

雫「え、遠藤君……。」

浩介の身も蓋もない自虐に、思わず同情してしまう雫。

浩介は死んだ目で「大丈夫だ、問題ない。」と苦笑しながらサムズアップしているが。

 

そんな訳で雫は、気配遮断発動中の浩介の後ろに隠れて移動することにした。

今回の浩介さんは、最早情緒も羞恥心も投げ捨てているので、全力の気配遮断だが。

目指すは親友たちのいる場所へ、数秒で装備を整えて慎重に部屋の外へ出た。

──キィ、と。小さなドアノブを回す音が鳴り、雫は思わず身構える。

 

視線の先には、少し離れた部屋の扉が僅かに開き、そこから優花、妙子、奈々がまるでトーテムポールの様に縦に頭を並べて怖々と部屋の外を窺っている光景があった。

そんな中でも浩介は堂々としており、三人もその気配には気づかない。後ろに隠れている雫にも、だ。

 

浩介(……三人も連れていくか?俺の気配遮断がどれ位なのかはわからないが……。)

雫(……遠藤君、ごめんなさい。やっぱり皆が心配だわ。)

浩介(……了解した。行かれよ、大和撫子よ。)

雫(……深淵卿が出ているわよ。)

最後まで閉まらない浩介の影からそっと出て、優花達の方へ向かう。

 

奈々「あっ、雫っち!」

雫を発見した奈々が思わずといった様子で名前を呼ぶ。

途端、雫が黒刀の柄に手を掛けて身構えた為、「もしや廊下に不審者が!?」と考えた優花と妙子から「馬鹿!」「不用心!」と怒られながらペシペシと頭をはたかれる。

涙目で「ごめ~ん!」と謝る奈々の様子に良い意味で緊張感を削がれた雫は、大丈夫という意味を込めてパタパタと手を振った。

 

優花達がソロソロと部屋から出てくるのを尻目に、雫は直ぐに向かいの光輝達の部屋をノックした。

光輝「……誰ですか?」

雫「光輝、私よ。」

光輝「!雫か、入ってくれ。」

扉が開くと、光輝が聖剣を構えている様子が見えた。部屋の奥には龍太郎もいて、既に起きている様だ。

どうやら、先程の大音響で雫と同じく目が覚めたらしい。

 

光輝「雫、さっきの音だが……」

雫「えぇ、取り敢えず、皆を集めましょう。何か、大変なことが起きている気がするわ。」

雫の言葉に光輝は頷き、龍太郎を急かす。そのうちに雫は、優花達に視線を投げる。

それだけで意図を察した優花達は、手分けして他のクラスメイトを起こしに行った。

 

流石は前線組と言うべきか、重吾や健太郎、綾子、真央の永山パーティや、檜山、近藤、中野、斎藤の檜山パーティは既に準備を整えており、雫達の呼びかけと同時に廊下へ集まった。

淳史や昇、明人達残りの愛ちゃん護衛隊メンバーも呼びに行く前に廊下へと集った。

ただやはりと言うべきか、居残り組のクラスメイト達は未だ眠ったままの者達もいて、文字通り"叩き起こす"必要があったり、轟音に怯えて部屋から出るのを渋る者達もいて、集合には少し手間取ってしまった。

 

光輝「皆、寝ていたところを済まない!だが先程、何かが爆発した大きな音が響いたんだ。

王宮内は安全だと思うけど、一応何が起きたのか確認する必要がある!

万が一に備えて、一緒に行動しよう!」

不安そうに、或いは突然の睡眠妨害に迷惑そうにしながら廊下に出てきた居残り組に活を入れるべく、光輝が声を張り上げる。

 

部屋に残って、光輝達がいない間に何かあったら……

そう思った居残り組のクラスメイト達は、光輝の言葉で蒼褪めつつもコクリと頷いた。

と、その時。パタパタと軽い足音が廊下の奥から響いてきた。

何事かと雫達が視線を向けると同時に駆け込んできたのは、雫と懇意にしている専属侍女のニアだった。

以前燻っていた優花や淳史達に、雫に頼り過ぎないでほしいと諭した侍女だ。

 

雫「ニア!」

ニア「雫様……。」

呼びかけられたニアは、どこか覇気に欠ける表情で雫の傍に歩み寄る。

騎士の家系であり自身も剣を嗜むが故に、彼女はいつも凛とした空気を纏っているのだが……

いつものその雰囲気に影が差している様な、生気が薄い様な、そんな違和感がある。

友人の様子に眉を寄せる雫、先程浩介から聞いた"虚ろ"の症状に似ていることから、思わず警戒する。

 

ニア「神山が崩壊いたしました。魔人族の侵攻です。

大軍が王都近郊に展開されており、彼等の攻撃により大聖堂が破壊されました。」

雫「そんな……一体どうやって!?」

齎された情報が余りに現実離れしており、クラスメイト達は冷静さを失い、ざわざわと喧騒が広がった。

魔人族の大軍が、誰にも見咎められずに王都まで侵攻するなど有り得ない。

 

北大陸でもずっと上の方にあるこの王都まで、【魔国ガーランド】がある南大陸から一体どれだけの領と町、関所を通過しなければならないか。

加えて、何百年もの間、王都の守りを絶対たらしめてきた守りの要である大結界があるにも関わらず、教会の総本山である神山が、いきなり爆散したというのも信じ難い話だ。

雫は警戒していたものの、それを聞かされた光輝達は、冷静ではいられなかった。

 

光輝「……ニア、被害は大聖堂だけかい?」

険しい表情をした光輝がニアに尋ねる。

神山に襲撃があった以上、他の場所にも何かしらの異変があったに違いない。

ニア「はい、光輝様。今のところは、ですが。

……しかし、教皇様方は亡くなられてしまったと思われます。神殿騎士の皆様も恐らくは……。

このままでは、他に被害が出るのも時間の問題かと……。」

ニアの回答に頷いた光輝は少し考える素振りを見せた後、自分達の方から討って出ようと提案した。

 

光輝「俺達で少しでも時間を稼ぐんだ。

その間に王都の人達を避難させて、兵団や騎士団が態勢を整えてくれれば……」

光輝の言葉に決然とした表情を見せたのはほんの僅か。前線組と愛ちゃん護衛隊のメンバーだけだった。

他のクラスメイトは目を逸らすだけで、暗い表情をしている。

 

彼等は前線に立つ意欲を失った者達、心が折れたままなのだ。時間稼ぎとはいえ、とてもでないが大軍相手に挑む事など出来ない。

その心情を察した光輝は、仕方ないと目を伏せる。

そして、それならば俺達だけでもと号令を掛けようとして、意外な人物──恵里に待ったをかけられた。

 

恵理「待って、天之河くん。勝手に戦うより、早くメルドさん達と合流するべきだと思う。」

光輝「恵里……だけど。」

逡巡する光輝から目を逸らして、恵里はニアに尋ねた。

恵理「ニアさん、大軍って……どれ位か分かりますか?」

ニア「……ざっとですが、10万程かと。」

その数に、生徒達は息を呑む。ニアの言う通り、確かにそれは"襲撃"ではない。歴とした"侵攻"だ。

 

恵理「天之河くん、とても私達だけじゃ抑えきれないよ。数には数で対抗しないと。

私達は普通の人より強いから、一番必要な時に必要な場所にいるべきだと思う。

それには、メルドさん達ときちんと連携をとって動くべきじゃないかな……。」

普段の恵里らしくない控えめな言い方ではあるが、その瞳に宿る光の強さは、光輝達にも決して引けを取らない。

そしてその意見も、尤もなものだった。

 

鈴「うん、鈴もエリリンに賛成かな。さっすが鈴のエリリンだよ!眼鏡は伊達じゃないね!」

恵理「め、眼鏡は関係ないよぉ鈴ぅ。」

雫「……そうね、私も恵里に賛成するわ。少し冷静さを欠いていたみたい。光輝は?」

パーティの女子三人の意見に、光輝は逡巡する。

しかし、実力も高く一歩引いて物事を見ている恵里の判断を、光輝は結構信頼している事もあり、

 

光輝「そうだな。こういう時こそ焦って動かず、連携を取るべきだ。メルドさん達と合流しよう。」

結局、恵里の言う通りメルド達騎士団や兵団と合流する事にした。

重吾や檜山、優花等各パーティのリーダーも否は無い様だ。

光輝達は、出動時における兵や騎士達の集合場所に向て走り出した。

雫以外、すぐ傍の三日月の様に裂けた笑みには気づかずに……




ハジメ
「ここまで読んでいただき、ありがとうございます!さて、今回のゲストさんは、ってあれ?」
うp主
「すまん、ネタ切れした。なので自分が来た。」
ハジメ
「……ホセさんの予定だった筈じゃなかったっけ?」
うp主
「神殿騎士でも行けたから彼等でも行けるかな?って思ったんだけど……
思ったよりキャラが薄すぎてどうにもならなさそう。」
ハジメ
「いや、ひでーなオイ。」
うp主
「最悪、Yes,○○だけで統一しちゃおうかと思ったけど、カオス過ぎたからやめた。」
ハジメ
「その選択だけはグッジョブとだけ言っておく。」
うp主
「という訳で、次回予告行ってみよー!」

次回予告
ハジメ
「次回は雫サイドのお話になるな。」
うp主
「驚愕の裏切り、その正体は!?」
ハジメ
「香織達も向かっているから大丈夫だろ。」
うp主
「しかし、事態はハジメの予想を超えていたのであった!」
ハジメ
「いや、結末はお前次第なんだから適当言うなよ。」
うp主
「正直、話自体はストックがあるけど、前置きと後書きに手間取っている!」
ハジメ
「大声で言うことじゃねぇだろ!?てか今回メタすぎるわ!」
うp主
「次回、どうなるハジメk「怒られるだろうがー!!!」Door!?


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71.Traitorは誰⁉

ハジメ
「お待たせいたしました!さぁ、今回もじゃんじゃんゲスト出していくぞ!」
さくら
「どうも、相沢さくらです。宜しくお願い致します。」
ハジメ
「社長令嬢のおっとり系お嬢様……どこかのラノベでヒロインにありそうな属性だな……。」
さくら
「?よくわかりませんが、前回はどういったお話だったのでしょうか?」
ハジメ
「うん?あぁ、そうだったな。俺が魔人族の軍隊部下にして、浩介が雫と合流した辺りかな?」
さくら
「成程……ところで、ご両親は何か困っていることはありませんか?」
ハジメ
「そんなものがあったら俺はその解決を盾に、自重を促しているよ……。」(死んだ目)
さくら
「あ、あはは……それでは、第6章第4話」
ハジメ・さくら
「「それでは、どうぞ!」」


光輝達が緊急時に指定されている屋外の集合場所に訪れた時、既にそこには多くの兵士と騎士が整然と並んでいた。

前の壇上ではハイリヒ王国騎士団副長のホセが声高に状況説明を行っているところだった。

月光を浴びながら、兵士や騎士達は皆蒼褪めた表情で呆然と立ち尽くし、覇気の無い様子でホセを見つめていた。

士気の低さに思わず足を止めた光輝達だったが、それに気がついたホセが状況説明を中断して声を掛けた。

 

ホセ「……よく来てくれた。状況は理解しているか?」

光輝「はい、ニアから聞きました。えっと、メルドさんは?」

ホセの歓迎の言葉と質問に光輝は頷き、そして姿が見えないメルドを探してキョロキョロしながらその所在を尋ねた。

 

ホセ「団長は、少し、やる事がある。それより、さぁ、我らの中心へ。

勇者が我らのリーダーなのだから……」

ホセは、そう言って光輝達を整列する兵士達の中央へ案内した。

居残り組のクラスメイト達が「えっ? 俺達も?」と戸惑った様子を見せたが、無言の兵達が犇めく場所で何か言い出せる筈も無く、流されるままに光輝達について行った。

 

無言を通し、表情も殆ど変わらない周囲の兵士騎士達の様子に、雫は確信していた。

既に敵は襲撃の準備を始めており、ミュウ達を誘拐した時点でそれは始まっていたのだと。

現に、ここにいる兵士達や騎士達、先程のニアも"虚ろ"状態だ。無意識の内に、黒刀を握る手に力が入る。

 

優花「ねぇ雫、何だか……」

雫「えぇ、分かってる、気を抜かないで。何かが拙い予感がするわ。」

必死に不安を押し殺している様な表情の優花が小さく呟く。

雫は頷きつつも、この状況で拒否出来ないのは居残り組と同じであるが為にそう言うしかなかった。

 

──何かおかしい。

そう感じているのは他の前線組等も同じ様だ。だが誰もそれを言葉に出来ない。

流されるまま、光輝達は兵士と騎士達の中心へと辿り着いた。

そこでホセが演説を再開した。違和感は尚も膨れ上がる。

 

ホセ「皆、状況は切迫している。しかし、恐れる事は何も無い。我々に敵は無い。我々に敗北は無い。

死が我々を襲う事など有りはしないのだ。さぁ、皆、我らが勇者を歓迎しよう。

今日、この日の為に我々は存在するのだ。さぁ、剣を取れ。」

雫は行動できないことに歯噛みしながら、その演説を聞いていた。

因みに、ここにハジメさんがいたらこう思うだろう。

(……いや、あんた等既に死んでるからね?あともうちょい存在意義を高く持ちなさいよ。)

そして、兵士が、騎士が、一斉に剣を抜刀し掲げる。

 

その時、「え、あ、ちょっ……」という戸惑う様な声が聞こえた。雫を含め幾人かが其方を見やる。

視線の先では幾人かが、抜剣の際のさり気ない動きで仲間達の傍から押し出されていた。

更に「あ、あの?」という声がかかる。同じく優花達が隊列から少し離された。

それだけではなく、いつの間にかするりと生徒達の間に入り込んだ兵士や騎士達によって、幾人かの生徒──特に前線組や愛ちゃん護衛隊の前衛を担う者達が互いに距離を取らされ……

 

──囲まれている!

雫は総毛立った。本能がけたたましく警鐘を鳴らす。

雫「皆っ!伏せて!」

ホセ「始まりの狼煙だ。──注視せよッ!」

雫が警告の言葉を伝えると同時に、ホセが懐から何かを取り出し頭上に掲げた。

しかし、いきなり怒声じみた声音で注視を促され、更に兵士や騎士達が一斉に視線を其方に向けた為に、思わず誘導されて誰もが注目してしまう。

 

刹那……

光が爆ぜた。

ホセの持つ何かが閃光弾もかくやという光量の光を放ったのだ。

無防備に注目していた光輝達は其々短い悲鳴を上げながら咄嗟に目を逸らしたり覆ったりするものの、直視してしまった事で一時的に視覚を光に塗り潰されてしまった。

 

次の瞬間、肉を突き破る生々しい音が無数に鳴り……

「あぐっ?」

「がぁ!」

「ぐふっ!?」

次いで、あちこちからくぐもった悲鳴が上がった。

 

先程の光に驚いた様な悲鳴ではない、苦痛を感じて意図せず漏れ出た苦悶の声だ。

そしてその直後に、ドサドサと人が倒れる音が無数に聞こえ始める。

唯一「バキィンッ!」という硬質な音を奏でたのは、雫の持つ黒刀のみ。

光に紛れて襲い来た凶刃を、へし折って返り討ちにしたのである。

 

一瞬のうちに眼を瞑り、二人の師より教えてもらった見聞色の覇気に加え、研ぎ澄まさていた警戒感、積み上げてきた鍛錬の成果、踏み越えて来た経験、それら全てが目が見えない状況において襲撃を凌ぐという達人技を可能にしたのだ。

閃光が収まり眼を開いて周囲を見渡した雫が見たのは、刹那に過った最悪の光景そのまま。

クラスメイト達が全員、背後から兵士や騎士達の剣に貫かれた挙句、地面に組み伏せられているという光景だった。

 

雫「……やっぱり、こうなるのね……。」

想像はしていたが直ぐには切り捨てられなかった。

それでも時間は、立ち止まることを許してはくれなかった。友人達の呻き声が、苦悶の声が耳を突く。

今ので死んだ仲間がいるのではという最悪の想像も過ったが、光輝も龍太郎も鈴も、そして優花達も血に塗れた悲惨な状態ではあるが辛うじて生きている様だ。

 

その事に僅かに安心しながらも、最初に分断された前衛組は特に負傷の度合いが酷い様で、全く予断を許さない状況に冷や汗が噴き出た。

龍太郎や重吾、他のクラスメイト達も含めて、更に魔力封じの枷までつけられていく。

これでは回復魔術を使う事も出来ない。まさに四面楚歌状態だ。

さて、どうしたものかと焦燥を募らせる雫が周囲の兵士や騎士達に視線を巡らせる中、ある人物が声をかけた。

 

???「あらら~、流石というべきかな?……ねぇ、雫?」

雫「……さぁ?偶然かもしれないわよ?ハァ……やっぱり貴女の仕業なのね、恵理。」

そう。クラスメイト達が瀕死状態で倒れ伏す中たった一人だけ。

傷一つ負わず、組み伏せられる事も無く。平然と立っている生徒がいたのだ。

 

そう、その人物は、控えめで大人しく、気配り上手で心優しい、雫達と苦楽を共にしてきた大切な仲間の一人。

そして我等が魔王の妹にして、忠臣トシの彼女でもある……──中村恵里その人だった。

その様子は普段とはまるで異なる、どこか粘着質な声音で雫に話しかける。

余りに雰囲気が変わっている為、雫は即座に理解した。

この恵理は本物じゃない、アナザーウォッチを使って入れ替わった、別の誰かである、と。

 

そんなことを考えていると、再び雫の背後から一人の騎士が剣を突き出してきた。

雫「……遅いわ。」

そう言って剣諸共死霊となった騎士を真っ二つにする雫。

 

恵理?「これも避けるとか……ホント、雫って面倒だよね?」

雫「あら、偽物に褒められてもね……全然、嬉しくないわッ!」

更に激しく、そして他の兵士や騎士も加わり突き出される剣の嵐。その鋭さは尋常ではない。

或いは、普段よりも強力かもしれない。

 

しかし、そんな状況下でも尚、冷静な雫にとっては簡単に捌ける程度だ。

事前に浩介から"虚ろ"についての情報を聞いていたこともある上に、もうすぐ来る援軍のこともあるのだ。

とても頼もしい親友と、その仲間達。そしてそのリーダー格である最高最善の魔王が、もうすぐ来るのだ。

これ以上にない最高の援軍の為にも、雫は負けるわけにはいかなかった。

 

ニア「雫様! 助けて……」

雫「無駄よ、ニア。貴女の眼も、"虚ろ"だもの。」

騎士に押し倒され、馬乗りの状態から今正に剣を突き立てられようとしているニアが、雫の名を呼ぶ。

しかし、"虚ろ"状態で幾ら叫ぼうとも、雫には届かない。

そして余裕そうに話しながら、恵理らしき何かに問いかける。

 

雫「それで?貴女の目的は何?魔人族の侵攻の為?それともハジメ君が狙いかしら?」

雫は二つの予想をしていた。アナザーウォッチを使う者の特徴は二種類に分かれる。

一つは魔人族、王国を壊滅させるために送り込まれた刺客という線。

二つ目は以前聞いたタイムジャッカーという存在、オーマジオウの力を狙う組織という線だ。

 

恵理?「さぁ?どっちでしょうねぇ?当ててみたらどうかしら?」

雫「あら?素が出ているんじゃないの?口調がずれているわよ?」

恵理?「……本当に面倒ね、この小娘。」

雫「フフッ、なら貴女は相応の年なのかしら?私達、同年代の筈なのだけど?」

相手が挑発的な口調を繰り出しても、雫は隙を逃さず追及する。

その上で、相手へ挑発を返しながらも、死霊兵の軍勢を一気に捌いていく。

 

恵理?「……まぁいいわ、どうせ何もかも終わるんだもの。王都の結界だってじきに破られるわ。」

雫「!」(既にこちらが後手に回っていた、という訳なのね……流石に魔物の大群は不味いわ。)

衝撃のカミングアウトに一瞬動揺するも、剣筋はそのままに冷静に思考する。

 

何故、魔人族の将軍が大聖堂に侵入できた理由までは思い至らなかったが、大結界が簡単に破られたのは偽恵里の仕業だった様だ。

偽恵里の視線が、彼女の傍らに幽鬼の様に佇む騎士や兵士達を面白げに見ている事から、彼等にやらせたのだろう。

 

光輝「馬鹿な…何故そんなことを!?」

光輝が衝撃からどうにか持ち直し、信じられないと言った表情で呟く。

恵里は自分達とずっと一緒に王宮で鍛錬していたのだ。

大結界の中に魔人族が入れない以上、コンタクトを取る事など不可能だと恵里を信じたい気持ちから拙い反論をする。

しかし、偽恵里がそんな希望をあっさり打ち砕こうと、言葉を紡ごうとした時。

 

雫「大方、協力者が接触してきたんでしょ。その力も貰っただけでしょ?」

恵理?「……。」

いい所を邪魔されて不機嫌なのか、偽恵理は無言で手を振りかぶる。

更に襲い掛かってくる敵の数が増えるが、雫の剣は早さが落ちるどころか、寧ろ正確かつ迅速に相手を流しては捌き、武器諸共腕を切断していく。

 

雫(そう言えばこの前、"魂縛"っていうオリジナルの降霊術を生み出した、とか言っていたわね……

確か、魂から生前の記憶と思考パターンを抜き取って付加出来る魔法、だったかしら?)

敵の攻撃を躱しては反撃している最中でも、雫は冷静に分析を続けていた。

 

降霊術は、本来死亡対象の残留思念に作用してそこから死者の生前の意思を汲み取ったり、残留思念を魔力でコーティングして実体を持たせた上で術者の意のままに動かしたり、或いは遺体に憑依させて動かしたり出来る術である。

その性能は当然生前に比べれば劣化するし、思考能力など持たないので術者が指示しないと動かない。

勿論「攻撃し続けろ」等と継続性のある命令をすれば細かな指示が無くとも動き続ける事は可能だ。

 

つまりニアやホセが普通に雫達と会話していた様な事は、思考能力が無い以上降霊術では不可能な筈なのだ。

それを違和感を覚える程度で実現できたのは、恵里の"縛魂"という術が魂魄から対象の記憶や思考パターンを抜き取り遺体に付加できる術だからである。

 

これは、言ってみれば魂への干渉だ。

即ち恵里は、末端も末端ではあるが自力で神代魔法の領域に手をかけたのである。正にチート。

兄や大切な人のためにと積んだ研鑽、そして天才級の才能は驚愕に値するものだ。

尚、偽恵里が即座にクラスメイト達を殺さないのは、この"縛魂"が死亡直後に一人ずつにしか使用できないからである。

 

とは言え、これだけの兵士や騎士達を殺害し傀儡とするには相当の時間が必要な筈で、その間上の人間が何も気が付かなかったとは考え難い。

直ぐには死なない様な場所を狙われたのだろう。

重傷を負いながらも、苦悶の表情を浮かべて生きながらえている光輝達は、偽恵里を呆然とした表情で見つめている。

 

傍を通っていながら兵士や騎士達の誰一人として襲い掛からない事や、直立不動で佇んでいる事が、彼等が偽恵里の支配下にいる事を如実に示していた。

倒れ伏す重吾達や目を見開いている優花達を愉悦たっぷりの眼差しで見下ろしながら、現実を教え込むかの如くゆっくりと、コツコツと足音を鳴らして進んでいく偽恵里。

 

恵理?「文句ならあの糞餓鬼に言いなさい?アイツのせいで私は……あんな奴さえいなければ……!」

雫「どうしたのかしら?傀儡の動きが鈍いわよ?そんなんで倒せるわけないでしょ。」

恵理「煩いわよっ!ならこれでどう?」

そう言って偽恵理は、近くに倒れていた近藤に歩み寄る。

近藤は嫌な予感でも感じたのか、「ひっ」と悲鳴をあげて少しでも近づいてくる偽恵里から離れようとした。

当然完璧に組み伏せられ、魔力も枷で封じられているので身動ぎする程度の事しか出来ない。と、その時。

 

???「させないよ。」

そんな声が聞こえたかと思えば、近藤を押さえつけていた騎士達が、光の鎖によって拘束されたのだ。

当然、押さえつけられていた近藤はその場を即座に離れようと動いた。

そして雫は口元を緩めた。何故ならその声の主は――

 

香織「雫ちゃん!」

――雫が、その幸せを願った親友──香織の声だからだ。

更にその声と共に、いつの間にか展開されていた十枚の輝く障壁が雫を守る様に取り囲んだ。

そしてその内の数枚が騎士達と偽恵里の眼前に移動しカッ!と光を爆ぜた。

バリアバースト擬きとでも言うべきか、障壁に内包された魔力を敢えて暴発させて光と障壁の残骸を撒き散らす技だ。

 

恵理?「ッ!?」

咄嗟に両腕で顔を庇った偽恵里だが、その閃光に怯んでバランスを崩した瞬間に砕け散った障壁の残骸に打ち付けられて後方へと吹き飛ばされた。

他の騎士達も同様に後方へとひっくり返る。直ぐ様起き上がって近藤を拘束しようとするものの……

 

???「"風槌"!」

突如放たれた、圧縮された風の砲弾が彼等を吹き飛ばす。そしてその狙撃手も姿を現した。

光輝「ッ!?メルドさん!?」

メルド「すまない皆!遅くなったな、助けに来たぞ!」

そう、皆の頼れる兄貴分であり、父親のような安心感のある存在。

行方不明だった筈の王国騎士団団長、メルド=ロギンスその人だった。

そして更に、頼もしい援軍は続々と現れる。

 

リリアーナ「皆さん!ただいま戻りました!」

優花達愛ちゃん護衛隊を守るように、球状の障壁を張ったのはリリアーナだった。

香織「皆のことは任せて!雫ちゃんはゾンビさん達をお願い!」

雫「本当にゾンビになったわけではないけどね……分かったわ!」

リリアーナが障壁を張って騎士達を押し出し、香織が"聖典"によって負傷者の傷を癒す。

そして、騎士達を雫とメルドが抑え込んで枷を切ることで、続々とクラスメイト達に力が入る。

 

リリアーナはこの世界の術師として、相当優秀な部類に入る。

なので、たとえ騎士達がリミッターの外れた猛烈な攻撃を行ったところで、香織の治療が完了する迄持ち堪える事は十分に可能だった。

 

恵理?「ッ!?チィッ、アイツ等!全然使えないじゃないの!」

偽恵里が狂気を孕んだ表情で、周囲の騎士達に命令を下す。

香織の詠唱を止める為、騎士達が一斉に香織へと襲いかかった。

しかしそこへ更に、ダメ押しの援軍まで来ていることは予想外だった。

 

シア「シャオラァァァ!!!」

突如飛び込んできたシアが、ドリュッケンを振るい騎士達を薙ぎ払った。

重力魔法の上乗せもある上、シア自身の身体強化も相まって一撃一撃が暴風の如しだ。

勿論、喰らった騎士達は全員上半身がミンチになって吹っ飛ばされた。

勢いよく飛び散った肉片が、残りの騎士たちの武器をへし折っては、次々に粉砕していく。

 

状況は正に形勢逆転が似合うだろう。

既にリーダー格である光輝も立ち上がり、騎士達を押し出そうと奮迅している。

するとその時突如、リリアーナに騎士剣を振るおうとした騎士の一人が首を落とされて崩れ落ちた。

その倒れた騎士の後ろから姿を見せたのは──檜山大介だった。

 

檜山「白崎!リリアーナ姫!無事か!」

リリアーナ「檜山さん!?あなたこそ、そんな酷い怪我で!?」

リリアーナが檜山の様子を見て顔を蒼褪めさせる。

それもその筈、檜山の胸元は夥しい血で染りきっていたのだから。

どうみても、無理をして拘束を抜け出して来たという様子だ。

ぐらりとよろめき障壁に手をついて息も絶え絶えといった様子の檜山に、リリアーナは慌てて障壁の一部を解こうとしたその時…

 

???「三文芝居はその辺にしておけよ、キチガイストーカー野郎。」

突如、そんな声が響いたかと思うと、どこからか現れた謎の影が、檜山の横っ腹にドロップキックをかました。

檜山「グアッ!?」

突然の襲撃に反応しきれなかった檜山、その手から隠し持っていた短剣が零れ落ちる。

 

トシ「もう既に終わってんだよ、俺達が来た時点で。お前等の悪事はとっくにバレてんだよ、ばぁーか。」

その謎の影の正体は、我等が参謀、清水幸利だった。

檜山の香織が狙いであることはとっくに看破していたので、どうせそちらに向かうであろうことは察知していたのだ。

 

檜山「なっ、テメェ!俺がそんなこと…!」

トシ「じゃあ何でお前、傷を負ってもいないのに仮病なんて使ってんだ?

直ぐに立ち上がれるほど元気ってことは、重症じゃないんだろ?」

檜山「!?」

トシの鋭い指摘に、思わず顔色を青ざめさせる檜山。更にメルドから追撃が放たれる。

 

メルド「どうした大介、あの時私を騙し討ちした時の演技はしないのか!?」

檜山「うるせぇッ!余計なことを……ッ!?」

その指摘に思わず返してしまい、気づかずに自白していたことを漸く理解する檜山。

しかし、言い繕うにも既に答えは明白。檜山も主犯の一人であることは誰の目からも明らかであった。

そして檜山にとって執着の対象であった香織から、トドメの言葉が放たれた。

 

香織「檜山君、私はハジメ君のことがずっと好きだったの。同じクラスになるずっと前から。

私の気持ちは私だけのものだから、檜山君の決める事じゃないの。

ハジメ君は私の気持ちをしっかり受け止めてくれたの、今も昔も。

だからハジメ君に酷いことをする貴方を、私は許さない。

あの日、ハジメ君が奈落に落ちた時から、檜山君のことは嫌いだったの!

私の中では、貴方とハジメ君じゃ比べるまでもないの。それほどまでに私は、ハジメ君が好きだから!」

 

それはまさに、ハジメへの告白と檜山への否定が一緒になったようなものであった。

一部の者から「まさかの告白リターン!?」「この状況で!?」「南雲さんマジ羨ま。」なんて呑気な声まで聞こえてくるほどだ。

それほどまでに香織の治癒の腕が上達しているからだろう。

既に先ほどまでの絶望が嘘のように、居残り組達も次々に立ち上がっていく。

そして、香織から否定された檜山はというと……

 

檜山「――!クソッ!クソッ!クソがァァァ!!!」

地団太を踏んで悔しがっていた。完全に逆上していた。もはや救いようのないまでに墜ちている証拠だ。

共犯者である偽恵理からすらも呆れられている状況なのだ、最早これまでだろう。

ほとんどの誰もがそう思っていたその時。

 

檜山「ならテメェ等全員殺してやる!あの世で仲良く踊ってろ!」

そう言って檜山が懐からアナザーウォッチを取り出し、起動と同時に体に埋め込んだ。

檜山「ウ゛オ゛ォ゛ォ゛ォ゛!!!」

《Grand Zi-o》《2019》

そして音声と同時に、檜山の周りに黒々しい何かが現れ、檜山に纏わりついていった。

 

トシ「やっぱりアナザージオウかよ!面倒くせぇ!」

オーマジオウたる自分への嫌がらせであれば、アナザージオウ系統は確実と、ハジメには予想されており、もし交戦することになれば、トシたちは時間稼ぎに専念・力を奪われないよう命大事にを徹底している。

既にメルドの指揮や香織の指示に加え、シアと雫がさりげなく味方を一か所に纏めているので、いつでも逃げることは可能だ。

トシが早速、陰に隠れて様子をうかがうユエに、合図を送ろうとしたその時……

 

???「それは困るなぁ……?」

ふと、背筋を舐めまわされるような不快な声が響いたかと思えば、

光輝「グッ!?ガアァァァ!?」

雫「ッ!?光輝!?」

光輝が突如叫び声をあげた。その声に気づいた雫が見たものは……

 

光輝?「ア、アァァ……。」

《Kaori》

香織のような姿をした異形だった。言うなればアナザー香織というべきだろう。

そしてアナザー香織がいるということは当然、

 

香織「あっ……もう、少し、なのに……!」

力を奪われた香織は、その場に膝をついてしまう。

それと同時に、香織の張っていたエンチャントも効力が無くなってしまう。

それは即ち、相手に反撃の隙を与えてしまうことであった。

 

トシ「(不味いッ!)谷口、野村!今のうちに防壁を張ってくれ!敵はこっちで何とかする!」

鈴「えっ、でも!」

トシ「いいから早く!」

健太郎「~~!クソッ!」

トシの必死の呼びかけで、鈴と健太郎が防壁を張った。万が一のためにシアも護衛についている。

これで先ずは大半のクラスメイトを逃がすことに成功した。そちらはユエに任せれば大丈夫であろう。

そう思ったトシは、目の前の敵に集中することにした。

 

目の前にいるのは、アナザーウォッチの力に取り込まれた光輝と、それに相対しながら膝をついてしまっている香織を守るように、立ち塞がる雫。

メルドはリリィの護衛から外れることは厳しいようだ。

ならばアナザーライダーを相手できるのは、自分しかいないようだ。

 

檜山「ヒャハハハハハ!!!イイキミダゼ、シラサキィ!!!」

そんな観念したようなトシの感想を最後まで語らせてはくれないのか、とうとうアナザーグランドジオウは、汚らしい口調と共にその禍々しい姿を現した。

その異形は正に見てくれだけの王を体現したかのような、金メッキで飾られただけのアナザージオウと言っても過言ではない程に歪だった。

 

――こうして、それぞれの戦いの火蓋は切られたのだった。

後に"教会事変"と呼ばれるこの戦いにて、この光景が証拠となったのは言うまでもなかったのであった。




ハジメ
「ここまで読んでいただき、ありがとうございます!それで主、この後どうすんだ?」
うp主
「エントリーナンバー1番、"一番星の中の一番星にとっての一番星"さんからのお便りです。」
ハジメ
「まさかのお便りコーナーかい!?他の人と名前が被ったらどうするんだよ……。」
うp主
「"ハジメさんが家事代行の中で最も難的だったことを教えてください。"だってさ。」
ハジメ
「そんなもん決まっている、育児代行だ。全国のお母さん、ホントお疲れ様です!」
うp主
「イクメンの皆さんもお疲れ様です!そして絶賛イクメン中のハジメさんをよろしく!」
ハジメ
「てかこの質問の内容……お前が適当に考えたやつだよな?」
うp主
「……さぁ~て、次回予告だ。」

次回予告
ハジメ
「ホント今回だけにしてくれよ、こんな三流コントは。」
うp主
「後書きが次回予告も兼ねているから、つい……。」
ハジメ
「前みたく、タイトル以外も次回予告に寄せた奴に出来ないのか?」
うp主
「あぁ、あれね。やってもいいけど……こっちの方が人気ありそうで……。」
ハジメ
「今日一のメメタァだよ……次回も引き続き香織サイドだ。」
うp主
「まさかの乱入者によって、窮地に追い込まれてしまう香織一行!
果たして、彼等を救う者は間に合うのか!?」
ハジメ
「そして本物の恵理はどうなったのか。それも次回説明するぞ。」
うp主
「因みに、檜山はまだ死なないよ。この後の展開で色々あるから。」


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72.誰が真に英雄なのか

ハジメ
「お待たせいたしました!さぁ、今回のゲスト、入場です!」
利香
「お姉様の為ならたとえ魔王の居城でも!」
ハジメ
「せんでええ。」
利香
「どうも、三浦利香です!」
ハジメ
「さて、前回は香織達が雫達と合流、クズ共が反旗を翻したってとこかな?」
利香
「皆のために戦うお姉様……凛々しくて素敵!」
ハジメ
「はいはい、言ってろ。雫だって女の子なんだっちゅーに。」
利香
だからこそいいんじゃないですか!
ハジメ
「めんどくせぇな、こういう系譜。あ、第6章第5話」
ハジメ・利香
「「それでは、どうぞ!」」


エトス「多少予定は狂ったが……これで奴にも隙が出来るだろう。

ククク……今に見ているがいい、オーマジオウ!」

戦場の様子を上空から見下ろすハイパータイムジャッカーのエトス。

その体には、ハジメから受けたダメージが残っており、今だ消耗が激しい状態だった。

にもかかわらず、ハジメへの嫌がらせに専念する辺り、醜くも凄まじい執念であることが窺える。

 

そして、エトスが見下ろす戦場の様子は……

トシ「……しゃあねぇ、やるしかねぇな。」

そう呟くトシの視線の先では、今にもアナザーグランドジオウとなった檜山が、香織達に襲い掛かろうとしていた。

 

檜山「シネエェェ――!!!」

目の前でアナザーライダーとなってしまった光輝に集中していた雫は、一瞬判断が遅れてしまい、香織はアナザーウォッチの影響で動けないでいた。

しかしその時、驚くべきことが起こった。

 

光輝「グッ、ウゥ……ガアァァァ!!!」

檜山「グオッ!?」

「「「!?」」」

なんと、先程まで立ち尽くしていただけのアナザー香織、否、光輝が突然、周り一帯に"天翔裂破"と"天翔閃・嵐"を合わせたような攻撃を放ったのだ。

 

雫「ッ!虚空陣奥義"悪滅"ッ!」

咄嗟に香織を庇うように、雫はとっておきのカウンター技を放つ。

放たれる斬撃をいなしては弾き、後ろにいる香織を守るように刀を振るう雫。

それに加えて、そのカウンターによる斬撃も加わり、檜山を出来るだけ遠ざけようとする。

 

檜山「チィッ、ジャマヲスルナアァァァ!!!」

そう言って檜山は光輝に襲い掛かろうとするが、その斬撃の多さに上手く近づくことが出来ないでいた。

恵理?「ちょっと!?何でこっちにまで飛んでくるのよ!?しっかり迎え撃ちなさいよ!?」

偽恵理は飛んでくる斬撃に上手く対処できないのか、操っている兵士や騎士達を盾にしてやり過ごすしかなく、その場で動けないでいた。

 

トシ「!あの馬鹿ッ!まさかとは思うが、俺等を逃がそうとしてんのか!?」

何とか身体強化で避けているトシは、光輝のその行動の意図を予想する。

ただでさえパニック状態のクラスメイトが残っているというのに、まさかのリーダーがここで暴走したフリを演じるなどと、自殺行為じみた行動に思わず驚いたのだ。

 

トシ「クッ!考えても仕方がねぇ!」

そう言ってトシはドライバーを腰に巻き、ウォッチを起動・ドライバーにセットした。

〈シノビ!〉

〈アクション!〉

今回は能力よりも素早さを重視し、トシはシノビを選んだ。

 

トシ「変身!」

〈投影!〉

〈フューチャータイム!〉

〈誰じゃ?俺じゃ?忍者!〉

〈フューチャーリングシノビ!シノビ!〉

そして変身完了と同時に、ジカンデスピアーを構える。

 

トシ「っと!先ずはコイツで!」

〈分身の術!〉〈変わり身の術!〉

トシは斬撃を避けながら、分身の術と変わり身の術を駆使して、雫達の近くへ移動を開始する。

 

トシ「二人とも!天之河が暴走しているうちに、早く逃げるぞ!」

雫「そうはしたいけどッ!この様じゃ、ねッ!」

返事をしつつも、光輝の乱撃を防ぐのに加え、動けない香織を守るのに精一杯な雫。

 

トシ「クソッ!ハジメ、早く来てくれよ……!」

悪態をつきながら、頼れる親友の名を口にするトシ。

すると、そんな願いが通じたのか、援軍がやってきた。

 

ミレディ「わわっ、"星天・氷嵐刃"!」

突如、氷柱と風の刃が超大量に降り、光輝の放った斬撃を防ぐ盾となった。

香織「!ミレディ!ハジメ君は!?」

ミレディ「分からない、でもティオ姉はこっちに来ているって!」

そう言いながらミレディは香織を担ぎ上げる。それを確認したトシは早速移動を開始しようとしたその時。

 

エトス「困りますねぇ……ここで逃げられては。」

「「「「!」」」」

突如、頭上から背筋を舐めまわされるような声が響いた。

その方向へ顔を向けると、いつの間にか転移していたエトスがいた。

 

ミレディ「"天翔閃・千翼"ッ!」

雫「炎の呼吸・壱ノ型"不知火"ッ!」

その危険性を即座に感じ取った雫とミレディは、エトスに向かって攻撃を繰り出し、トシは香織を庇うようにして立ち塞がった。

 

エトス「おっと、それは流石にくらいませんよ?」

そう言ってエトスは即座にバリアを張り、二人の攻撃を防ぐ。

ミレディ「嘘ッ!?」

雫「ッ!」

斬撃を防がれた雫は、エトスに感じた異常性と本能で感じた危機から、即座にその場から飛びのく。

 

エトス「おや、どうやら紹介の必要はなさそうですね?」

香織「あいつが……タイムジャッカー……!」

雫「不味いことになったわね……ハジメ君、早く来て……!」

更にそれに追い打ちをかけるかのように、檜山が叫んだ。

 

檜山「クソッ!コイッ!オレノシモベドモッ!!!」

その声に呼ばれたかのように、次々とアナザーライダーが召喚された。

その数、ジオウの代わりにゼロワンを含めた20体。しかも本来の形態よりも歪で禍々しい。

恐らくは基になったライダー達の最終形態だろう。

 

檜山「コノサイカマワネェ!ゼンインコロシチマエ!!!」

檜山がそう叫ぶと、アナザーライダー達が一斉に襲い掛かってきた。

恵理?「こっちも出し惜しみはなしよ!行きなさい、獣共!」

更にそこへ、偽恵理が放った複数の種族の死骸を融合させた、異形達も加わっていく。

 

トシ「あぁもう!面倒事が次から次に!」

悪態をつきながら、トシは作戦を変更することにした。

トシ「ミレディさん!二人を連れて逃げてくれ!こっちで時間は稼ぐ!」

そう言いながら、ウォッチを起動し、機動力から戦闘力に方向転換するトシ。

 

〈タイヨウ!〉

〈アクション!〉

〈投影!ファイナリータイム!〉

〈ギンガタイヨウ!〉

 

トシ「これならどうだ!」

〈ファイナリービヨンドザタイム!〉

〈バーニングサンエクスプロージョン!〉

 

トシは太陽光の熱線で何とか状況打破を試みる。

あっという間に敵が呑み込まれていき、灰すら残さず塵となった。と思われた……

檜山「ヒャハハハハハ!ムダダ!ムダァ!」

やはりと言うべきだろうか、時間操作能力により、倒した筈の敵が蘇っていく。

 

トシ「クソッ!腐ってもグランドジオウの力もあるのかよ!」

流石に焦るトシ、しかし悪い状況はさらに続く。

雫「クッ!」

ミレディ「うわぁっ!」

香織「きゃあっ!」

後ろから悲鳴が聞こえたかと思ってみれば、三人がエトスと交戦していた。

 

エトス「おやおや、そんなに大事そうにお友達の前に立って……足手まといだとは思いませんか?」

香織「ッ!……。」

悔しそうにエトスを睨む香織。

しかし実際、力を奪われてしまっている以上、香織はここで戦うことが出来ない状況なのだ。

それは自分でも分かっている、だからこそ力強くエトスを睨むことしかできない自分に歯噛みしているのだ。

 

檜山「ジャマダァ!」

トシ「グアッ!?」

すると走り出した檜山が、直線状にいたトシを吹っ飛ばし、香織に迫っていった。

しかも、護衛のミレディと雫は、エトスの方へ意識が向いていたので、がら空き状態だったのだ。

 

トシ「ッ!拙い!」

ミレディ「!しまった!」

雫「逃げて、香織!」

香織「あっ…!」

気づいた時には既に遅く、凶刃がすぐそこまで迫ってきていた。

 

檜山「シネェ!シラサキィ!!!」

哄笑をあげながら、刃を振り下ろす檜山。それを見て勝利を確信するエトス。

ここで香織を殺せば、先程の屈辱を晴らせるだけでなく、ハジメの精神を揺さぶることが出来る。

その上、内部に宿っている初代オーマジオウの協力者を焙り出せる可能性もあった。

これで自分の価値は揺るがない、そう思っていたその時であった。

 

 

突如、謎の人影が、香織と檜山の間に立ちふさがった。

 

 

 

ザシュッ!!

 

 

 

香織「……え?」

檜山「ナッ!?テメェ!?」

エトス「何ィッ!?」

トシ「嘘だろ……!?」

ミレディ「そんな……!」

その人物の正体に誰もが驚き、雫だけが震えた声でその名を呼んだ。

 

雫「……光、輝?」

光輝「ウッ……ガフッ……。」

そう、なんと先程まで暴走していた光輝だったのだ。

そして香織を庇って檜山の一撃を受けたことで、変身解除と同時に崩れ去る光輝――が、その直前。

 

光輝「"光…爆"ッ!」

檜山「グガァッ!?」

檜山に対して聖剣を突き立て、ゼロ距離で光の砲撃を放った。

流石に衝撃は殺しきれなかったのか、檜山は後退りし、光輝は後ろに吹っ飛ぶ。

 

香織「ッ!光輝君ッ!」

それに伴い、アナザーウォッチが砕けたことで、力を取り戻した香織が即座に障壁を張り、檜山を押し出す。

檜山「グッ!ウゼェッ!」

それを檜山がいとも簡単に破壊すると同時に、光輝を抱えて横に飛ぶ香織。

ミレディと雫もエトスの前から飛びのき、立ち上がったトシと共にそこへ合流する。

 

エトス「チィッ!腐っても勇者か!使えない駒め!」

千載一遇のチャンスを逃したのか、普段の冷静さが無くなるエトス。

光輝「どう、だ……俺、だって……やれば、ゴフッ!」

香織「喋っちゃダメ!今治すから!」

先程の一撃のせいか全身ズタボロな上に、吐血する光輝。

香織が治療を試みるものの、先程まで限界状態であったせいか、上手く力が入らない。

 

そんな二人を守るように円陣を組む雫、トシ、ミレディ。

しかし、そうこうしているうちにも、偽恵理の死霊兵にアナザーライダー軍団も迫ってきており、壁際まで追いつめられる一行。

気配遮断で死角から狙おうとしていた浩介が、止む無く飛び出そうとしたその時であった。

 

 

――ドゴォォォンッ!!!

 

 

突如、何かがもの凄いスピードで突っ込んできた。

そしてその何かは、エトスへと接近し、速度を緩めずに突っ込み、吹っ飛ばした。

エトス「ゴッ!?」

そんな情けない声を上げ、エトスはその何かに吹っ飛ばされていった。

その威力は壁を突き破り、王都郊外の山脈にまで突き刺さるほどだった。

 

一瞬、何が起きたのかが分からない香織一行。敵の策かと思い見るも、檜山達も動揺している。

では誰が?するとその時、煙の中にいるその何かから声が響いた。

ハジメ「……ふぅ、どうやら間に合ったようだな……。さて、死ぬ覚悟は出来ているのだろうな?雑種。」

そう、我等が頼もしき最高最善の魔王、オーマジオウこと南雲ハジメの声であった。

 


 

ふぃ~、ちょっと大変なことがあったが、何とか切り抜けてきたぜ。

さて、こっちもこっちで危機的状況っぽかったようだな。

いやぁ~、何とか間に合ってよかったわ、マジで。

てか何で光輝死にかけてんだ!?俺のいない間に何が起こっていたんだよ!?

 

香織「ハジメ君!」

雫、トシ、浩介「「「ハジメ!」」」

ミレディ「もう!遅いよハジメン!」

光輝「なぐ、も……?」

香織達が最高の助っ人に喜び、俺に呼びかける。よかった、光輝はまだ息があるようだな。

 

檜山「ナァグゥモォオオオー!!!」

ハジメ「うるせぇ。」

檜山「ガッ!?」

後ろから向かってくる何かを裏拳で吹っ飛ばし、空間破壊&創造で時空の狭間に沈める。

 

ハジメ「取り敢えず状況は大体分かった。」

そう言ってギーツバスターQB9を右手に取り、ブーストチャージャーを引く。

〈BOOST CHARGE〉

そうして左手にガシャコンパラブレイガンを呼び出し、"麻痺"のエナジーアイテムを纏わせた。

ハジメ「だから……死ね。」

そして一閃、瞬間、周りの敵へと一撃必殺の銃弾が飛ぶ。

 

〈BOOST TACTICAL VICTORY〉

そして、周りのアナザーライダー共は塵と消えた。

それと同時に、糸が切れたように死霊兵共が倒れていった。

偽恵理「なっ!?」

一陣の風が吹けば、粉塵が舞い払われ、無傷の俺がそこに立っていた。

 

ハジメ「さて、後はそこの阿婆擦れを解決するだけか。」

そう言って俺は、恵理の皮を被ったクズを睨む。

偽恵理「ッ!こっ、この体の主がどうなってもいいわけ!?」

成程そう来たか、それで?

 

ハジメ「じゃあ元の体に戻せばいいだけだな。」

偽恵理「……へっ?」

そう言って俺は即座にクズの前に肉薄する。

相手は何が起こったのか理解できていないようだが、そんなのどうでもいい。

 

ハジメ「"ソウル・セパレーション"。」

俺が神山で手にした"魂魄魔法"を、ライダーの力で独自に昇華させたオリジナル魔法だ。

内容としては、ラウズの持つ、"衝魂"と"浄祓"を複合させ、ノータイムで同時行使する技だ。

まぁ、分かりやすく言えば、魔法によって抜き取る過程を、時間操作で一気に消し飛ばし、ただ魂が眼魂となって取り出された、という結果だけを残す、キング・クリムゾン擬きみたいなもんさ。

俺自身時の王だし、出来ちゃっても無理はナイヨネ!

 

偽恵理「ゴアッ!?」

そのまま魂が排出された衝撃で、眼魂となり吹っ飛ぶクズ。

俺は即座に、"宝物庫"からある眼魂を取り出し、魂の抜けた恵理の肉体に埋め込み、倒れそうになるのを受け止める。

 

恵理?「……あ、れ?私、元に……ッ!」

目が覚めて意識が戻ったのか、自分の体を確認する恵理。

ハジメ「どうやら、元に戻ったようだな。お帰り、我が妹よ。」

恵理「ッ!兄さん、皆……!」

恵理は涙を浮かべ、元に戻れた事実を受け止めることが出来たようだ。

 


 

さて、何故俺が恵理の眼魂を持っていたかって?

それは俺が神山からこっちに向かう途中で起きた出来事が関係している。それを今から話すことにしよう。

俺は先程聞こえた、助けを求める声の方へと向かっていった。

何故なら、その声に俺は聞き覚えがあるからだ。それももの凄く。

 

ハジメ「頼むから間に合ってくれよ……!」

そう言って神山麓にある、迷宮のもう一つの入り口へと向かえば、その声の主が見えた。

ハジメ「オイオイ、なんてこったい……!」

そして俺はその姿に驚愕した。何故かって?

 

その姿は、どこか恵理に似ていたものの、やはり歪な形をしており、禍々しいデザインだったからだ。

しかし、その体は既にボロボロであり、消耗しきっているようにも見える。

そして何より、同じ声が聞こえたということは、だ。

当たって欲しくない感が当たってしまったようだな……。

 

???「……ぁ、ぁ……!」

ハジメ「!"ソウル・リジェネレイト"!」

その声を聴き、咄嗟に駆け寄る。それと同時に再生魔法と魂魄魔法の複合魔法をかける。

魂も消耗しきっていたようなので、即座に回復させた。それも倍位の魔力量で。

 

???「にい、さん……!」

ハジメ「恵理!無事か!?」

アナザー恵理、否、この場合は本物の恵理と呼ぶべきだろうな。

恵理の意識が回復してきたのか、はっきりと話せるようになったようだ。

 

ハジメ「恵理、何があったかは聞かないよ。犯人の目星はついているから。」

恵理「……うぅ……。」

ハジメ「後は兄さんに、いや、俺達に任せろ。元凶共を、ぶっ飛ばしてくるからよ。」

恵理「!兄さんッ!」

涙ぐみながら、恵理は俺に抱き着く。う~ん、アナザーの状態で抱き着かれるとやっぱり違和感が……ッ!

 

ハジメ「ッぶねぇッ!」

咄嗟に恵理を抱えて迷宮内へ逃げ込む。すると、先程までいた場所に、銀色の羽が突き刺さった。

そう、忌々しいほどに見飽きてきた、あの銀翼だ。そしてそれにはもう一つ、効果がある。

銀翼の当たった場所は、砂より細かい粒子となり、夜風に吹かれて空へと舞い上がりながら消えていった。

 

ハジメ「……恵理、兄さんを信じて、お前は休んでいろ。"ソウル・アウト・スリーピング"。」

恵理「あぅ……。」

そう言って俺は、魂魄魔法とエナジーアイテムの複合魔法を発動する。

これは、相手の魂を取り出す魔法だが、事前に相手を一旦眠らせてからそっと取り出すタイプだ。

 

因みにこれは、さっきの"ソウル・セパレーション"とは違って、相手の魂をそっと眼魂として取り出す魔法だ。

なので、衝撃とかそう言ったものは全くないので、子供でも安心して使える魔法だ。

ただし、使用用途はしっかり守るように!魔王様との約束だぞ!

 

さて、取り敢えず眼魂状態の恵理と、魂の抜けたアナザー恵理の肉体をさっと"宝物庫"へとしまい、オーロラカーテンで神山上空へとワープする。

ハジメ「全く……羽虫風情が。空気というものが読めぬ輩程、目障りだと思うものはないな。」

そう言って私は、襲撃者を見下ろす。そこにはやはり、木偶人形共が散らばっていた。

 

???「目障りなのは貴方の方です、イレギュラー。」

そう言って木偶人形の一人が睨み返してくる。が、やはり虫は虫か。毛ほども気迫が感じられん。

そこへ、その横にもう一体、木偶人形がやってくる。……おんなじ顔ばっかで頭おかしくなんねぇのかな?

いや違うか、頭おかしいから慣れてんのか。

 

???「あの時の雪辱を果たしに来ましたよ、イレギュラー。」

ハジメ「同じ顔で言われても見分けがつかん。名を名乗れ、馬鹿者。」

私の言葉に一瞬、キョトンとしたものの、目の前の木偶……言いにくいので、木偶1にするか。

その木偶1は直ぐに無表情に戻る。

 

???「彼女は貴方に倒されたエーアストです。そして私の名は、ノイント。」

1と9、ドイツ語読みとはな……それならまぁ、名前程度は覚えられそうだが。

ノイント「そして右から順に、ツヴァイト、ドリット、フィーアト、フュンフト、ゼクスト、ズィーベント、アハト。

これが我々の最大戦力です。あなたとエーアストとの戦闘データは既に解析済みです。

二度も、我等に勝てるなどとは思わないことです。」

………………。

 

ハジメ「貴様等は馬鹿か?」

ノイント「どういう意味でしょうか?また後ろから不意打ちでも?」

……はぁ、面倒この上ないが……言ってやるとするか。

この際だ、折角なので思ったことを言うことにした。

 

ハジメ「どいつもこいつも似たり寄ったり、画一的、無個性、揃いも揃って同じ甲冑に同じ武器…………

つくかっ…!区別…!!」

使徒『……。』

ハジメ「大方、名前で呼ばれて返事をするから判別がつくのだろうが……見た目なんぞ髪型しか違わない。

そんな奴等が一斉に並べばどうなると思う?それは最早……マトリックス!」

ノイント「い、言ってる意味が分かりません……。」

 

そう、前々から思ってはいたが、こいつ等の判別がつかないという事実に気が付いてしまった。

声も顔も格好も、どれも同じなのだ。つくか、見分け。

その上、唯一違っているのは髪型位で、それすらも統一してしまえば最早マトリックスだ。

よくこんなコスパの悪い獅子身中の虫なぞ抱えて、現状維持できていたものだなと、いうのが率直な感想だ。

 

ハジメ「はぁ、まぁよい。いずれにしろ貴様等雑魚に構う暇など毛頭ない。そこをどけ。」

ノイント「主の命の邪魔はさせません。それと、私の前の肉体も、返してもらいましょう。」

ハジメ「ハッ、奪えるものならやってみせるがいい。」

そう言うと私は、大量のゲートを開き、武装を展開させた。

 

ハジメ「出来るものならな。」

そして腕を振り下ろした瞬間、質量の暴力という名の、兵器の雨が降り注いだ。

遠近両方の武装による一斉放射は、並大抵のものではハチの巣になるであろう。

そして、魂魄魔法を手にした今、もう一つの機能が発揮された。

 

ノイント「ッ!」

木偶人形共が銀翼を放った瞬間、私はそこから即座に移動し、降り注ぐ武装はそれを避け、敵へと一直線に向かった。

そう、まるで意思を持っているかのように動いて。

 

ノイント「!?」

ハジメ「自動追尾機能は、男のロマンだ。」

これがもう一つの機能、"自立思考遠隔操作"だ。

アーク、ゼア、ウィアといった人工知能衛星のノウハウを元に、ゴウラム・ミラーモンスター・オートバジン・ディスクアニマル・ゼクター・キバット、タツロット・メモリガジェット・カンドロイド・フードロイド・プラモンスター・シフトカーといった、自立型デバイスを参考にした魂魄を付与してある。

 

因みに、これは魂魄魔法と生成魔法の複合魔法でもある。

名づけるとすれば、"ソウル・エンチャント"でよいか。

と、そうこうしているうちに、奴等も反撃に出てきたようだな。であれば……殺すしかあるまいな!

 

ハジメ「"紅月白夜の閃光疾走(ブラッディムーン・オーバードライブ)"」

瞬間、武装の雨を伝うように私が通り、木偶人形共を一掃した。

奴等は何が起こったのか理解できていないようなので、先程の技を説明しておくことにしよう。

 

この技は、バイオライダーやシャウタの液状化の応用とも言える。

例えるとすれば、武器を電柱、私を電気として、武器と武器の間を光の速度で駆け抜けていくようなものだ。

簡単に言ってしまえば、武器を使った連続ショートカットの間に、敵に攻撃する技だ。

そしてこれで、奴等の核を破壊してしまえば、遺体のストックが増えるという寸法さ。

 


 

そうして物言わぬ遺体と化し、動かなくなった木偶人形だったものを、地面に落ちる前に全部"宝物庫"にしまい、先程の場所へと超スピードで向かったという訳だ。

そして現在に至る。

突っ込んだ際に、どうやら江頭とやらを吹っ飛ばしてしまったようだが……どうでもよいか。

さて、先ずは目の前の愚か者をどう処刑しようかな?




ハジメ
「ここまで読んでいただき、ありがとうございます!さて、今回こそ頼むぞ……。」
うp主
「今回の魔法講座~魂魄魔法編~。
1.ソウル・セパレーション。
これはアナザー恵理を出した時点で考えていた展開ですが、序でに編み出されたオリジナル魔法です。」
ハジメ
「今回は技解説か……。」
うp主
「2.ソウル・リジェネレイト。
これは本当は出すつもりはなかったけど、アナザーウォッチの影響を加味して作ったやつ。」
ハジメ
「今回の敵への対抗策、というわけか。」
うp主
「3.自動追尾システム。
シシレッドオリオンや極アームズを見て思いついた。いつエンチャントしたかについてはスルーで。」
ハジメ
「杜撰すぎるだろ。」
うp主
「以上、解説講座(という名の裏話)でした。それじゃ、次回予告。」

次回予告
ハジメ
「最後の波紋擬きは解説しなくていいのか?」
うp主
「俺にそんな技能はない。」
ハジメ
「そもそも技能ねぇだろうが。」
うp主
「まぁまぁ…次回から反撃開始なんだし、機嫌直せって。」
ハジメ
「でも俺が戦うのはその次なんだろ?」
うp主
「言わなきゃバレへんかったのに……。」
ハジメ
「次回はトシが前半大暴れだ!後半は誰かって?それはお楽しみに!」
うp主
「ヒント:そろそろ彼を活躍させないと、コンセプト崩壊するからね~。」


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73.過去と氷獣と祝福てんこ盛り

ハジメ
「お待たせいたしました!さて今回のゲストさん、来ちゃってください!」
加奈
「おう!どーも、横山加奈です!」
ハジメ
「さて、今回のゲストは主が一番口調に苦労した俺っ娘キャラだったわけだが……。」
加奈
「そんな余計な情報はいらねぇだろ!?」
ハジメ
「いや、最初のとこが一番の難関だっただけで、後はツッコミさえさせれば安定したらしい。」
加奈
「どっちにしろろくでもねぇなオイ!?そんなに難しいことか!?」
ハジメ
「ただ単に主の語彙力がないだけだよ。
さて前回はピンチで漸く俺が登場、恵理の肉体も無事奪い返せたという訳だ。」
加奈
「……はぁ、なんか疲れたからさっさと済ますか。それじゃ、第6章第6話」
ハジメ・加奈
「「それでは、どうぞ!」」


私が反逆者への刑罰を考えていたその時、声が上がった。

偽恵理「まっ、待って!」

突如、眼魂状態でクズが宙に浮いて叫んだ。

ハジメ「どうした?今更命乞いか?」

そう言って奴を睨めば、じりじりと後退りする。

 

偽恵理「わっ、私が本物なの!そっちは偽物なんだよ!」

ハジメ「………ハァ?」

恵理「………。」

何を言っとるんだこいつは?そんなことよりも香織達だ。このままでは光輝が危ういからな。

 

ハジメ「さて、回復は任せたぞ、"メイル"。」

その言い分をサクッと無視し、私は"宝物庫"から核が抜かれた木偶人形の遺体を取り出し、その穴を塞いで呼びかけた。

そしてその人形が動き出したその時。

 

メイル「お姉さん、復ッ活ゥ!妹達よ、私は帰って来たわッ!」

シスコンドS女帝、メイル=メルジーネの復活だ。え?何でいきなり復活したのかって?

そんなの簡単だ。事前にメイルの眼魂を埋め込んでおいたのさ。

ハジメ「悪いが時間がないから、はしゃぐのは後にしてくれ。」

メイル「はいはい、せっかちさんね。"絶象"!」

即座に再生の光が降り注ぎ、香織達へと降り注ぐ。

 

愛子「みなさ~ん!遅くなりましたぁ~!」

おや、今到着か。私が早く着きすぎてしまったか。

ティオ「おぉ、やはりさっきのはご主人様だったか。それで、敵は何処じゃ?」

ハジメ「あ~、来て早速だけど、光輝の魂を定着しといてくれ。」

ティオ「?承知したのじゃ。」

ふぅ、取り敢えずこれで光輝は大丈夫か。

 

トシ「!ハジメ!恵理の体が…!」

対象の魂が戻った影響か。だが……

ハジメ「計算の内だ、クイズのウォッチを貸してくれ。」

トシ「?分かった。」

トシからクイズのウォッチを受け取り、その力を魂魄魔法と合わせて発動する。

 

ハジメ「さて、では真実を見せてやろう。"トゥルーマインド・ミラー"。」

私がそう唱えると、浮いているクズの眼魂の前に、鏡のようなものが現れる。

偽恵理「なっ、何よこれ!?」

ハジメ「魂を映す鏡、とでも言っておこうかな?そこに映っているのが貴様の正体だ。」

私がそう言えば、奴の姿がだんだんくっきりしてきた。そこに映っていたのは……

 

『!?』

恵理「……やっぱり。」

やれやれ、口調と言い性格と言い、あのころから全くもって変わっていなかったようだな。

ハジメ「それで?これでもまだ自分が本物だと言い張れるのか?――"自惚れBBA"。」

そう、アナザー恵理本体の正体は、かつての恵理の母親――今は最早他人だが――だったのだ。

 

恵理母「なっ、あっ……!?」

ハジメ「そしてこれが、貴様の今の肉体って訳だなッと!」

そう言って奴へとアナザー恵理の肉体をぶん投げる。

すると、眼魂が吸い寄せられるように入ってゆき、そのまま肉体は床に叩きつけられた。

 

アナザー恵理「ガッ!?」

ハジメ「さてと……トシ、とどめは任せるぞ。」

トシ「応よ、こちとらやられっぱなしは性に合わねぇからな!」

そう言ってトシにクイズのウォッチを返すと、トシはシノビのウォッチを起動した。

 

〈シノビ!〉

〈アクション!〉

〈投影!〉

〈フューチャータイム!〉

〈フューチャーリングシノビ!シノビ!〉

 

トシ「とっておきを見せてやるぜ!」

〈分身の術!〉

そう言ってトシは7人に分身すると、それぞれウォッチを起動した。

 

〈ウォズ!〉

〈シノビ!〉

〈クイズ!〉

〈キカイ!〉

〈ギンガ!〉

〈タイヨウ!〉

〈ワクセイ!〉

 

そして一斉にセットして変身する。

〈投影!〉

〈アクション!〉

〈フューチャータイム!〉

〈ファイナリータイム!〉

 

〈スゴイ!ジダイ!ミライ!仮面ライダーウォズ!ウォズ!〉

〈誰じゃ?俺じゃ?忍者!フューチャーリングシノビ!シノビ!〉

〈ファッション!パッション!クエスチョン!フューチャーリングクイズ!クイズ!〉

〈デカイ!ハカイ!ゴーカイ!フューチャーリングキカイ!キカイ!〉

〈ギンギンギラギラギャラクシー!宇宙の彼方のファンタジー!ウォズギンガファイナリー!ファイナリー!〉

〈灼熱バーニング!激熱ファイティング!ヘイヨー!タイヨウ!ギンガタイヨウ!〉

〈水金地火木土天海!宇宙にゃこんなにあるんかい!ワクワク!ワクセイ!ギンガワクセイ!〉

 

……どれが本体なんだ?

トシ(ギンガファイナリー)「祝え!」

あっ、ファイナリーだったか。

トシ「これこそ祝福の化身オールスターズ!

今、真なる王が偽りの王を打倒し、この国を救う瞬間である!」

………俺のことかーい。

 

ハジメ「まぁいい、あっちは任せるとして…ッ!」

雫「ハジメ?どうしッ!?」

俺が何か嫌な予感を感じたその時、何かが割れる音が響いた。

 

パキャァアアアアン!!

 

恵理「今のって、まさか……!」

ハジメ「何が起こったんだ?」

恵理「王都の結界が破られたんだよ!きっとあの人が、私の技能を使って細工したんだよ!」

成程なぁ……ただでさえこちとら、ミハイルくぅんとゴミを片付けなきゃいけないのに……

 

ティオ「ご主人様よ、妾が一掃して来ようかの?」

ハジメ「……いや、ここで他種族の介入は戦争の火種を生みかねない。

かといって皆の守りを薄くするわけには…「ッ!だったらっ!」うん?」

ふと、声が上がった方を見れば、いつの間にか復活していた光輝が立ち上がっていた。

 

光輝「俺が…外の奴を止めに行く!」

雫「光輝!?」

香織「待って光輝君!まだ傷が癒えたばかりだよ!?」

ふぅむ……。

 

ハジメ「光輝、はっきり言うが今のお前では足手纏いだ。厳しく言うが、今のお前では時間稼ぎも怪しいぞ?

相手は人かもしれない。それでも行く覚悟はあるのか?」

光輝「……てる。」

ハジメ「あ?」

光輝「そんなの……誰よりも俺自身が分かっているッ!でもッ!」

そう言って一旦下がった顔を再び上げる光輝。その目には迷いなど一切なかった。

 

光輝「俺は、困っている誰かを見捨てられない。ここで立てなきゃ、俺はただの御輿だ。

だから俺は戦う!たとえ無力でも、誰かの盾にでもなってみせる!それが俺の使命だ!

お前が王として檜山を止めるなら、俺は勇者として人々を救う!文句あるか、南雲ハジメ!」

………。

 

ハジメ「クックックッ…フハハハハハ!!!」

光輝「何が可笑しい!」

ハジメ「いやなに、可笑しいから笑ったのではない。」

そう言って私は光輝を見ていった。

 

ハジメ「お前なりに足搔いた結果がそれならば、何も文句は言うまい。見ない間によく変わったものだな。」

光輝「お、おう?」

ハジメ「分かりやすく言ってやろうか?合格だ、と言っているのだよ。」

光輝「は、はぁ?」

混乱している光輝に、一つのウォッチを投げ渡す。

 

光輝「うおっ!?」

ハジメ「3分だ。それが今の貴様が、そのウォッチの力を使える限界だ。使いどころを、間違えるなよ?」

光輝「!ありがとう……!」

とはいえ、やはり心配になるな。

 

ハジメ『浩介、心配だから光輝の様子見に行ってくれ。アイツ、無茶やらかしそうで怖いから。』

浩介『了解っと。にしても意外だな、てっきり心へし折ってでも止めるかと思ったのに。』

ハジメ『どういう意味かなぁ?俺は努力した奴にはしっかりご褒美はあげるよ?』

浩介『……因みに、俺へのご褒美は?』

ハジメ『………ウサミミ美人お姉さん紹介じゃダメかな?』

浩介『任された。』

ハジメ『あっ、いいのね。』

なんてやり取りをして、準備を万全にする。

 

ハジメ「香織達と先生はそのまま他の皆と合流、ミレディ・メイル・ティオはその護衛にお願い。

俺は檜山とケリつけてくるから。」

ティオ「承知したのじゃ。」

メイル「え~……折角復活したんだし、一暴れしようと思ったのに……。」

ミレディ「メル姉、怖いこと言わないで。愛ちゃん怯えちゃってるじゃん……。」

愛子「はひっ!?せっ、先生は大丈夫ですのよ!?」

雫「先生、口調口調。」

……行っていいかな、いいよね?イッテイーヨって幻聴も聞こえてきたし……。

 

香織「ハジメ君!いってらっしゃい!」

ハジメ「!おう!」

香織、ここぞとばかりに……可愛いから許すけどね!

 

シア『ハジメさんハジメさん!私も一暴れしたいので、護衛変わってもいいですか?』

ハジメ『……ティオたちが来てからね?』

ユエ『…ん、任セロリン。』

ハジメ『……リリィ、そういう訳でごめんよ?

取り敢えずそっちは襲撃があっても大丈夫な助っ人が来るから。』

リリアーナ『アッ、ハイ。』

さてと、念話を終えた俺は強く踏み込み、空へと跳んだ。

 


 

≪ハジメと光輝の対話~空へ跳ぶまでの間の裏……≫

 

アナザー恵理「クソッ!クソッ!ふざけるんじゃないわよ!こんなのおかしいわよ!

何で私がこんな目に遭わなきゃいけないのよ!これもあれも全部あの餓鬼のせいよ!」

自分の正体を看破され、目論見を挫かれたのか、恵理の元母親は怒り狂っていた。

しかも清々しいまでの責任転嫁で。

 

トシ「テメェがただ単に捨て駒に向いていたってだけじゃねぇの?オ・バ・サ・ン?」

アナザー恵理「ッ!ぶっ殺してやるわよ、このクソガキィ!」

そんなアナザー恵理をトシが煽れば、挑発に乗って襲い掛かってくる。

が、既に彼女は詰んでいる。理由としては3つだ。

 

1つ、エトスがいなくなった時点で、指揮系統が無くなり、上手く行動できなくなったから。

何せ元はただの一般人、いきなり指揮をとれと言われても、やり方なんてわかる訳もなく、エトスがサポートしなければならない状態であった。

その上、自分の言うことを聞く=思い通りに行くと勘違いしてしまったせいで、往来の傲慢さが増し、このような油断を招いたのだから、出来ても強盗くらいだろう。

 

2つ、ハジメが来た時点で、この状況は好転しているから。

そもそもの話、ハジメさんが元の肉体に加え、始末していなかった自分の娘の魂まで持ってきてしまったのだ。

その時点で逆転されることなんて分かりきっていることだ。というかこの時点で既に詰み。

 

そして3つは……目の前にいる男が、静かにかつ業火の如くキレていることだった。

本来の歴史であれば、清水幸利という男は、狡猾な作戦を立てる悪役(ヒール)であるはずだった。

それも力の使い方を熟考していれば、ハジメさん達の脅威たる可能性もあったほどだからだ。

にも拘らず、愛子達との再会やティオとの出会いというイベントの踏み台になる、というあっけない最期であった。

 

その上、高校以前からイジメにあったり、引き籠ったり、家族から疎まれていたりと、あまりいい境遇ではなかったり、それによって性格がひねくれたりと、扱いとしては散々であった。

ここまで見れば、いいとこなしの彼だが、この世界ではどうなのか?と思うだろう。

既にプロローグから読んでいる皆様なら分かっていると思うが、超優遇されているのだ。

それも相方ポジレベルで。しかも今は自分の彼女が酷い目に遭っているので、ガチめにキレてる。

 

こちらの世界では、原作開始時点で

●ハジメさんと仲が良く、ゲーム関連でも愁の会社に見学に言ってる。

●同じく境遇が不遇だった恵理と恋仲。

●腕っぷしを鍛えるために八重樫道場の門をたたいたことがある。

●ハジメさん関連以外でも友達がいる。

●引きこもりなし。家族とは以前バチボコ状態なものの、原作よりはマシな状態。

と、最早原作の形何処言ったレベルで優遇されているのだ。そこへ、ダメ押しのライダーの力なのだ。

そんなチートじみた強化が施された彼と、ただのDQNでは圧倒的に前者の方が強いに決まっている。

現に今、そんなチート状態の彼の無双が始まった。

 

〈ビヨンドザタイム!〉

トシS(シノビ)「そらよっと!」

〈忍法 時間縛りの術!!〉

アナザー恵理「ガアッ!?」

アナザー恵理の前に飛びだしたフューチャーリングシノビが、ジカンデスピア・カマモードで敵を持ち上げ、その動きを止めた。

 

トシK(キカイ)「じゃあ俺はこっちだ。」

そう言ってフューチャーリングキカイは、次々と死霊兵にナノマシンを融合させ、支配から解放していっていき、

トシQ(クイズ)「それじゃあ俺はこれだな。」

〈フィニッシュタイム!不可思議マジック!!〉

アナザー恵理「ウガアァッ!?」

フューチャーリングクイズは、大量の"?"で敵を拘束、

 

トシN(ノーマルウォズ)「じゃあ俺達も行くか。」

通常のウォズがそう言えば、他の3人(S,Q,K)もジカンデスピアーを構え、それぞれの形態で必殺技を発動する。

因みに、通常版はSと同じ鎌だ。

 

〈〈〈〈フィニッシュタイム!〉〉〉〉

〈爆裂DEランス!!〉

〈〈一撃カマーン!!〉〉

〈不可思議マジック!!〉

アナザー恵理「ギャアァッ!?」

次々と必殺技を喰らい、一方的にフルボッコになるアナザー恵理。が、そこへ理不尽(ダメ押し)がやってくる。

 

トシ「じゃあ次はギンガ祭りだな。」

トシW(ワクセイ)「ワクセイマシマシ~。」

トシT(タイヨウ)「気温高めで。」

〈〈〈ファイナリービヨンドザタイム!〉〉〉

それぞれの形態による必殺技(圧倒的すぎる数の暴力)が、敵の頭上へと降り注いだ。

 

〈超ギンガエクスプロージョン!!〉

〈水金地火木土天海エクスプロージョン!!〉

〈バーニングサンエクスプロージョン!!〉

アナザー恵理「グベベベベベッ!?!?!?」

最早人の言葉すら発させてもらえないアナザー恵理。そして極めつけに……

 

トシ「アナザー恵理、仮面ライダーウォズ達の攻撃によって爆発四散する、っと。」

ミライノートによる予知、これによって相手は死ぬ。終わった、詰み、デッドエンド。

その死刑執行人である、7人の仮面ライダーウォズは一斉に飛び上がり、必殺技を発動した。

 

〈ビヨンドザタイム!〉

〈ファイナリービヨンドザタイム!〉

トシ×7『うぉらぁぁぁー!!!』

そして飛び膝蹴りの体制となり、7連ライダーキックを放った。

 

〈タイムエクスプロージョン!〉

〈フィニッシュ忍法!〉

〈クイズショックブレイク!〉

〈フルメタルブレイク!〉

〈超ギンガエクスプロージョン!!〉

〈水金地火木土天海エクスプロージョン!!〉

〈バーニングサンエクスプロージョン!!〉

 

アナザー恵理「ギャビグベガキアァァッ!?こんな……こんなことでェェェ……!?!?!?」パリィンッ!

そう言い残し、アナザー恵理は爆散した。

それと同時に、眼魂が排出され、アナザーウォッチ諸共砕け散った。

 

恵理「!体が!」

トシ「ギリギリ間に合ったか……よかった。」

そう言って恵理の方へと向かうトシ。

そしていつの間にか我等が魔王さんと勇者(笑)がいなくなっていることにも気づいたのであった。

 


 

そして場面は変わり、光輝はハジメから借りた三輪自動車"ライドガトライカー"で町中を駆けていた。

その眼前には、結界が破られた場所から這い出てこようとする魔物の姿が見えた。

その数はざっと見て100体ほどだろうか。既に人々が逃げまどい始めているのも見えている。

それを見た光輝はガトリングで魔物を狙い撃ち、人々に呼びかけた。

 

光輝「皆さん!助けに来ました!急いで王宮に向かってください!あそこなら安全です!」

そう言って、魔物へと攻撃を開始する光輝。近くに来た魔物には聖剣で迎撃する。

本当ならウォッチを使うべきなのだろうが、魔物を操る指揮官が見えない今、それは悪手だ。

しかし、そうこうしているうちにも、魔物達は迫ってきていた。

 

実はこの魔物達は、エトスがハジメへの嫌がらせにと配置していた魔物で、魔人族たちの所有する魔物よりもいくらか優れているものであった。

その上、「王都を滅茶苦茶にする」という命令一つで、自立思考稼働するので、魔人族の使役する魔物よりも厄介だ。

 

そして、光輝の視界の端に、逃げ遅れた一組の親子が映った。

どうやら子供が魔物に襲われそうになり、母親がそれを庇っているようだ。最早時間がない。

そう思った光輝は迷わず、ウォッチを起動して駆けだした。

 

〈タテガミ!〉

その音声と同時に、ライドブックが装填された聖剣ソードライバーが腰に巻かれ、待機音が鳴る。

光輝「変身!」

その掛け声とともに抜刀、親子の前へと飛び出した。

 

〈流水抜刀!タテガミ展開!〉

瞬間、牙を剥いた魔物が光輝に嚙みつこうとするも、大口を開けたまま氷像と化した。

バキャァーン!!

そしてそれが砕かれ、破片が魔物達を切り裂き、氷の剣士が姿を現した。

 

〈全てを率いし、タテガミ!氷獣戦記!ガオーッ!LONG GET!〉

 

これこそが、ハジメが光輝の為に選んだ仮面ライダー、"仮面ライダーブレイズ・タテガミ氷獣戦記"だ。

光輝「怪我はありませんか?」

母親「ハッ、はいっ!ありがとうございます!」

声をかけられて思わず焦る母親に、光輝は優しく言い聞かせる。

 

光輝「ここはもう危険です。お子さんと一緒に、早く向こうへ。」

母親「!わかりました!」

子供「勇者さんがんばってー!」

そう言って王宮へと向かう親子。

去り際の子供の声援に、思わず口角が緩むものの、光輝は直ぐに気持ちを切り替え、魔物達へと向き直る。

 

光輝「俺は……もう迷わない!」

そう言って光輝は、二振りの聖剣を手に駆け出した。

今ここに、自己解釈を振り切った少年が、本物の勇者となった。

 

「おぉ!勇者様が助けに来てくださったぞ!」

「俺達は助かるんだ!」

「急いで王宮に避難するぞ!」

それを見た人々は勇者の雄姿に目が釘付けになっていた。

それでも勇者の戦いを邪魔しないようにと、王宮へと走り出していった。

 

それを確認した光輝は、ライドブックのスイッチを押し込み、水勢剣流水を抜刀、そして光刃を発動した。

光輝「刃の如き意志よ、光に宿りて敵を切り裂け!」

〈必冊凍結!〉

それと同時に、二つの聖剣へ氷と光の二つの属性が付与された。

 

光輝「ブリザード・ホーリー・ブレイズ!」

〈流水抜刀!タテガミ氷牙斬り!〉

そして魔物の群れへと超スピードで突っ込み、すれ違いざまに切り裂いた。

するとその直後、魔物達は凍りつき、即座に砕け散った。

 

しかし、魔物達の中には空を飛ぶものもいたようだ。が、光輝はそれを逃がさない。

〈大空の氷獣!タテガミ大空撃!〉

光輝「レオ・ブリザード・スカイ!」

すると、タテガミブレイザーを氷の翼に変化させて飛翔し、光輝は聖剣を構え、氷柱を飛ばした。

氷柱によって撃ち落されるもの、光輝に翼を切り裂かれ地に落ちるもの、凍り付いて地面で粉々になるものと、次々と全滅させられていった。

 

そして、最後の一体である大型の魔物へと狙いをつけ、ライダーキックを発動した。

〈百大氷獣!タテガミ大氷獣撃!〉

光輝「レオ・ブリザード・カスケード!」

そして、氷晶型のエネルギーを展開し、それをくぐり抜けて飛び蹴りを叩き込んだ。

 

大口を開けてそれを喰らおうとする魔物。

しかし、覚悟を決めた光輝の一撃は、そんな隙を与える間もなく、魔物を貫いた。

そして光輝が魔物とすれ違った瞬間、魔物は巨大な氷塊となって砕け散り、その欠片が地上の魔物へと降り注いだ。

 

ほとんどの魔物がそれに撃たれてダメージを受けるも、一部の魔物は井戸を通って逃げようとしていた。

光輝「まだだ!」

〈大海の氷獣!タテガミ大海撃!〉

勿論、光輝はそれを見逃さない。

 

光輝「レオ・ブリザード・シー!」

タテガミブレイザーを氷の鮫に変化させ、井戸の中へとへサメの形をした氷塊を飛ばした。

すると、その氷のサメは井戸を通って下水道まで突き抜け、その射線上にいた魔物を全て凍りつかせた。

そして氷のサメが消えたその瞬間、下水道にいた魔物達は一匹残らず凍りつき、砕け散った。

それを感覚で確認した光輝は、地上に残っている魔物達へと視線を向けた。

 

まだ相当の数が残ってはいるものの、既に満身創痍がほとんどだ。

光輝「行くぞ!」

〈大地の氷獣!タテガミ大地撃!〉

光輝「レオ・ブリザード・グランド!」

光輝はタテガミブレイザーを腰まで長くさせ、水勢剣流水の剣先を地面に突き立てた。

 

すると、地上の魔物達は足元が凍結し、身動きが取れなくなっていった。

その間に光輝が走り出し、魔物達へと剣を振りかざした。

光輝「ウオォォォォォ!!!」

勢いよく走り抜け、人々を守るために剣を振るうその姿は、まさしく勇者そのものであった。

 

そうして、魔物達を一匹残らず切り砕くと、光輝はその場で膝をついた。

光輝「ゼェッ……ゼェッ……」

肩で息をしながら、聖剣を支えに何とか立ち上がる。しかし、その時。

 

「キャアァァァ!」

 

突然、女の子の悲鳴が聞こえた。

その方向へと視線を向ければ、魔物の討ち洩らしが、女の子へと襲い掛かろうとしていた。

慌ててそこへ向かおうと、光輝は走り出すが、

 

シュゥゥゥ……

光輝「ッ!グッ!こんな、時にッ!」

光輝の変身が強制的に解除され、一気に脱力感が体を襲った。

そう、先程の戦いで、既に変身可能時間の限界ギリギリだったのだ。

その上、無理をして変身した影響で体に負担がかかり、思うように体が動かせない。

しかし、そうこうしている間にも、魔物は女の子へと迫っている。

 

女の子「助けて……!」

女の子の悲痛な声が響く。

それを聞いた光輝は何とか立ち上がり、彼女だけでも守らねば、と走り出そうとした。その時であった。

 

???「任されよ。」

その声と同時に、魔物の首が宙を舞った。突然のことで、光輝も女の子も訳が分からなかった。

そして、魔物の体が地面に倒れ伏したことで、両者ともに意識が現実に戻ってきた。

 

浩介「やっべぇなぁ……俺、既に卿が勝手に出てくるのが当たり前になっているみたいだし……。」

光輝「遠、藤!?」

そう、魔物の首を撥ねたのは我等が深淵卿(アビスゲート)こと、遠藤浩介君であった。

ハジメに頼まれ、光輝の様子を見に行き、こうしてサポートをしていたのだ。

因みに、光輝が倒した数よりも、深淵卿(アビスゲート)の方が討伐数は多い。

 

浩介「ハジメから頼まれてな。光輝が無茶して逝っちまったら、アイツも悲しむだろうし。」

光輝「……ハハッ、敵わないなぁ……。」

自分がハジメの中では信頼半分心配半分だったこと、自分を心配できるほどの実力差があった事に落胆するも、救援を出してくれたことを嬉しく思った。

同時に、香織が何故ハジメを選んだのかも、理解できたような気がした。

 

光輝「取り敢えず……怪我はないかい?」

女の子「!はいっ!ありがとうございます!勇者様!それと……黒い人!」

浩介「……うん、まぁ、それでいいや。」

光輝「遠藤!?なんか投げやりになっていないか!?」

浩介の死んだ目に思わずツッコむ光輝。その背中には哀愁が漂っていた。

 

浩介「天之河、俺、思うんだよね。名前よりも、存在を認識してもらえる方が大事だって。」

光輝「悲痛すぎるだろ!?」

二人のやり取りに、女の子はついていけなかったが、何となく黒い人が悲しそうな気持ちになっていることだけは理解した。

こうして、光輝と浩介は互いにボロボロになりつつも、女の子を連れて王宮へと向かったのであった。




ハジメ
「ここまで読んでいただき、ありがとうございます!
さて今回も、主によるお茶濁しが始まりまーす。」
うp主
「エントリーナンバー2."結局あまり使われなかった……バリッとボルケーノ"さんからのお便りです。」
ハジメ
「偉く具体的なネーミングだなオイ!?というか、ボルケーノいじめやめい!」
うp主
「自分としましては、専用曲もあって好きな方なんだけどねぇ……
さてお題は、"どうして光輝がブレイズに変身しているんですか?"……。」
ハジメ
「俺はあいつを信じたからあのウォッチを渡しただけだ。何でゲイツじゃないかは主が答えろ。」
うp主
「好感度の問題があるから。」
ハジメ
「身も蓋もねぇ。」
うp主
「まぁ、第7章までには変身できるように仕上げておくからさ、期待しておいてくださいな。」

次回予告
ハジメ
「遂に檜山と直接対決だな。」
うp主
「ぶっちゃけハジメがジオウならかませのアナザージオウはこいつかなぁ、と。」
ハジメ
「抑々何であそこまで執着するのかがさっぱり分からん。告るなりなんなりすりゃあよかっただろうに。」
うp主
「そうしたくともできない男子は大勢いるのだよ、ポッター。」
ハジメ
「誰が予言の子じゃい。」
うp主
「そして後半にはあのキャラがようやく登場。王都編の敵キャラと言ったらこいつもおったなぁ……。」
ハジメ
「誰が相手であろうと、勝つのは俺だ!」
うp主
「いよいよ王都動乱編も大詰め、お楽しみに!」

リースティアさん、誤字報告ありがとうございました!


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74.激突!ジオウvs偽王

ハジメ
「お待たせいたしました!さて今回のゲストさ……どこ行った?」

「(*´Д`)ハァハァ……私は今、南雲様の椅子に……!」
ハジメ
「うおっ!?何やってんの!?早く立って!ほら、自己紹介!」

「ど、どうも。南雲家ペット志望、水島かおりです……ハァハァ…///」
ハジメ
「頬を赤らめるな!そして誤解を生むような名乗りを上げるな!」

「お願いです!チンチンも門番もやるので、是非ペットに……!」
ハジメ
「首輪とリードもったまま迫ってくんじゃねぇよ!?てかそんなの求めていねぇから!
今回久しぶりの俺の戦闘シーンなんだけど……こんなカオスでいいの、ねぇ!?」

「じゃあ、目の前でいやがりながら他の男に……!」
ハジメ
「一番駄目な奴じゃボケェ!……はぁ、それじゃあ第6章第7話」
ハジメ・栞
「それでは、どうぞ(…)(///)!」


降り立った場所は、王宮の城壁近くだった。

ハジメ「ウラァッ!!」

気合の掛け声とともに空間を破壊し、檜山を引きずり出す。

檜山「グオッ!?」

そうして一度変身を解除し、ジクウドライバーとウォッチを取り出し、起動・装着・セットする。

 

〈ジクウドライバー!〉

〈オーマジオウ!〉

 

そして勿論、お決まりの変身ポーズを添えて。

ハジメ「変ッ…身ッ!!!」

質問拒否系刑事風の掛け声とともに、、俺は"ジクウサーキュラー"を回転させた。

 

リンゴォーン!

キングタイム!仮面ライダージオウ!オーマ!

 

最終王者、参上っと。さて……

檜山「ゼェッ……ゼェッ……ナ゛グ゛モ゛ォ゛……!」

ハジメ「相変わらずの汚ねぇ面で安心したなぁ、この[ピー]。」

やれやれ、この場面は傍から見れば、仮面ライダージオウ・オーマフォームとアナザーグランドジオウ、真なる時王と傀儡の偽王の相対ってか?

 

檜山「オマ゛エェ!オマ゛エェザエイナキャ、ガオリハァ、オデノォ!」

ハジメ「何をやろうが上手くいかねぇよ、貴様みたいな下衆野郎は。

勝手に人のせいにしてんじゃねぇぞ、ゴミクズ。」

檜山「コロジテヤルゥ!ゼッダイニ、オマ゛エダケハァ!」

悲しいねぇ……人って堕ちるとこまで堕ちるとこうも醜くなるものなんだねぇ……。

最早神域にいる下衆野郎と大差ない程までのクズだな。

 

ハジメ「大体奴等から力は貰えたんだろ?ならそれでいいじゃないか。

お前も望んでなれたんだろ?ハリボテメッキの王様によぉ。」

檜山「ナ゛ァ゛グゥ゛モ゛ォ゛オ゛オ゛オ゛ー!!!」

ハジメ「さんをつけろや玉無し野郎!」

檜山「シ゛ネ゛ェ゛――――!!!!」」

そう叫んでアナザーライダー共を嗾け、自らも飛びかかってきた檜山を、俺は迎え撃つことにした。

 

ハジメ「雑魚はすっこんでろ。」

『〈サイキョーフィニッシュタイム!キングギリギリスラッシュ!!〉』

そう言ってサイキョージカンギレードを即座に横薙ぎ一閃、アナザーライダー共を撃破する。

相手にムテキやムゲン魂もいる?こちとら全ライダーだぞ、たかだかパチモン如きに遅れなんざ取らねぇよ。

すると、俺が横薙ぎ一閃を放つことを予想したのか、檜山が後ろに転移して切りかかってきていた。が……

 

ガキィン!

檜山「ナッ!?」

ハジメ「甘いんだよ、三下。そんな見え見えの予知、誰にだってわかりやすいだろうが。」

檜山の武器をライドヘイセイバーで受け止め、そのまま薙ぎ払ってサイキョージカンギレードで叩き切り、二刀流の連撃を加える。

 

ズバッ!ズバッ!

檜山「ギャグアッ!?コノオッ!!」

そう言って滅茶苦茶に剣を振り回してくるが……あまりにもへったくそで欠伸が出るほどすっとろい。余裕でひらりと躱せるなこりゃ。

ハジメ「ッラアァッ!!」パリィッ!

『〈キングギリギリスラッシュ!!〉』

まぁ、このままよけ続けるのも面倒なので、獲物からへし折るけどね。

 

檜山「グオッ!?チックショオォォォ!!」

そう叫んで檜山が殴りかかってくるがするりと躱し、ライドヘイセイバーにウォッチをはめて針を回した。

『〈フィニッシュタイム!ヘイ!仮面ライダーズ!ヘイ!セイ!ヘイ!セイ!ヘイ!セイ!ヘイ!セイ!ヘヘヘイ!セイ!ヘイ!セイ!ヘイ!セイ!ヘイ!セイ!〉』

騒がしい音声を聞き流しつつ、トリガーを引いてライドヘイセイバーを檜山のどてっ腹に突き出した。

 

ハジメ「ハァッ!!」

『〈ディディディディケイド!平成ライダーズアルティメットタイムブレーク!!〉』ズガガガガ!

檜山「グベェアッ!?」

押し出された檜山は、必殺技と同時に出現した、20枚〈ヘイセイ〉とライダーズクレストが描かれたカードをぶち抜いて吹っ飛んだ。

 

檜山「グゥッ……ナゼダァ!?オデハ……サイキョウノハズナノニィィィ!?」

やれやれ、そんなことも分からないとはなぁ……愚かすぎてものも言えない。

ハジメ「そんなの決まってんだろ、お前には守るべき民もいなけりゃ使命すらない。

俺には守るべき仲間も、民も、そして世界もある。その俺に、お前如きが勝てると思うな!」

檜山「ッ!ダマレェェェ!オマエサエイナケレバ……オレガサイキョウナンダァァァ!!!」

そう言って逆上し、アナザーライダーを呼び出す。だが無駄だ、そんなのじゃ俺には勝てない。

 

ハジメ「もういい、終わりにしよう。」

そう言って俺は、ウォッチのボタンを押した。

〈キングフィニッシュタイム!〉

 

音声を確認すると、ライドオンリューザーを押してジクウサーキュラーを回し、空へとジャンプした。

そして、檜山を上から見下ろし、飛び蹴りの体勢に移行した。

すると、俺の背後に全1号ライダーの最強フォームが集結し、全員ライダーキックの体勢となった。

 

リンゴォーン!

〈キングタイムブレーク!〉

 

ハジメ「ゼェェェリャアアアァァァ!!!!!」

俺は大声をあげて、ライダー達と共に、必殺のキックを放った。

折角なので、シリーズごとのロゴも背負ってキックした。

バールクスの時のように!バールクスの時のように!(重要なことなので2回言った。)

 

仮面ライダー×2(1号と2号)

仮面ライダーV3

仮面ライダーX

仮面ライダーアマゾン

仮面ライダーストロンガー

仮面ライダー(スカイライダー)

仮面ライダースーパー1

仮面ライダーZX

仮面ライダーBLACK

仮面ライダーBLACK-RX

真・仮面ライダー序章

仮面ライダーZO

仮面ライダーJ

仮面ライダークウガ(ライジングアルティメット五代)

仮面ライダーアギト(シャイニング)

仮面ライダー龍騎(サバイブ)

仮面ライダー555(ブラスター)

仮面ライダー剣(キング)

仮面ライダー響鬼(装甲)

仮面ライダーカブト(ハイパー)

仮面ライダー電王(ライナー)

仮面ライダーキバ(エンペラー)

仮面ライダーディケイド(コンプリート)

仮面ライダーW(エクストリーム)

仮面ライダーOOO(プトティラ)

仮面ライダーフォーゼ(コズミック)

仮面ライダーウィザード(インフィニティー)

仮面ライダー鎧武(極)

仮面ライダードライブ(トライドロン)

仮面ライダーゴースト(ムゲン)

仮面ライダーエグゼイド(ハイパームテキ)

仮面ライダービルド(ジーニアス)

仮面ライダージオウ←俺

仮面ライダーゼロワン(ゼロツー)

仮面ライダーセイバー(クロスセイバー)

仮面ライダーリバイス(アルティメットリバイ&アルティメットバイス)

仮面ライダーギーツ(ギーツⅨ)

仮面ライダーガッチャード

仮面ライダーTHE FIRST

仮面ライダーTHE NEXT

シン・仮面ライダー

仮面ライダーアマゾンズ(ニューオメガ)

仮面戦隊ゴライダー

仮面ライダーBLACK SUN

KAMENRIDER DRAGON KNIGHT

仮面ライダーBlack

仮面ライダーSPIRITS

仮面ライダーEVE

仮面ライダー1971-1973

仮面ライダーG

 

他には、仮面ライダーしん王に仮面ノリダー、仮面ライダーZもいるぞ。

あいつ等も立派なライダーの歴史の一部だからな。

え?正確にはライダーじゃない?……まぁ、細かいことは気にすんな、平成だもの。じおう。

 

ハジメ・主役ライダーズ『オールライダーキック!』

檜山「グガゴァガァァァ!?!?!?」

最強フォームのライダーキックを一斉に食らい、アナザーライダー軍団諸共檜山は爆散した。

そして地面に降り立つと、全員で決めポーズをとった。

すると、俺以外のライダーたちは、幻影となって消えていった。

 

それを見届けて後ろに振り返れば、ボロ雑巾のように転がっている檜山(ゴミ)と、砕けたアナザーウォッチが転がっていた。

檜山「ア゛……ア゛ァ゛……オ゛デノ゛……ヂガラ゛、ガ……。」

そううめきながら、檜山は気絶した。所詮は軽戦士(笑)、無様なもんだ。

 

ハジメ「たとえ仮初の力でも、正しく使えていれば王になれたかもしれないが……貴様にはわかるまいか。

ただの横恋慕、それも独善的で自己中な思考では尚のこと無理だろうな。」

私はそう呟き、奴の遺体を回収しようとした。が、その時。

ふと、殺気を感じてその場から飛びのけば、風刃が先程いた場所に突き刺さった。

因みに、そこで寝そべっていやがる檜山(ボロカス)は正直どうでもよかったので見捨てようかと思ったが、先生の為にどーしてもほんっとうに仕方がないのでオーロラカーテンで王宮に移動させた。

 

???「貴様等だけはぁ!必ず殺すっ!」

すると、そんな雄叫びを上げながら金髪を短く切り揃えた魔人族の男が、ただ仲間を殺された怒りだけとは思えない壮絶な憎悪を宿した眼で私を射貫きながら、突っ込んできた。

そうか、こいつがミハイルくぅんとやらか。

 

ハジメ「やれやれ、やるとするか。」

そう言って一旦変身を解除し、再びオーマジオウドライバーを展開する。

ハジメ「"変身"。」

ゴォーン!!!

 

『祝福の刻!』

 

『最高!』(より良く!)ガチャッ!ガキンッ!

 

『最善!』(より強く!)ゴキッ!ゴキンッ!

 

『最大!』(より相応しく!)シュルルルル!シュパンッ!

 

『最強王!!!』(仮面ライダー!)パァァァ!ガチーン!

 

『≪オーマジオウ!!!≫』

 

折角久しぶりに変身音を出すのだ。原初の如く、豪勢にしてみた。

 

ミハイル「そのヘラヘラとした態度、虫酸が走る!

四肢を引きちぎって、女共の眼前に引きずって行ってやろう!」

既に怒りのせいで呂律すら怪しくなっているミハイルくぅんは、僅かな詠唱だけで風の刃を無数に放った。

が、それほど早くもないので、ひょいひょいと難なく避ける。

 

読者の皆は既に忘れかけているかもしれんが……

目の前の彼は、【オルクス大迷宮】で私に殺された女魔人族、カトレアとやらが最後に愛を囁いた相手

──ミハイルくぅんだ。

何故、"くぅん"付けなのかだと?彼がまだ、坊やだからさ。

 


 

さて、そんなミハイルくぅんがどうしてここまでやってきたか、その過程を今から話すとしよう。

これは、ハジメがフリードと別れた後の魔人族勢の出来事であった。

 

ミハイルは打ち震えていた。漸くこの手で、カトレアの仇を討てる、と。それもそうだろう。

大火山から帰還したあの御方、敬愛する将軍フリードが手にした神代の力は、凄まじかった。

先程までガーランドにいた筈の軍隊を、あっという間に全軍ライセン近くへと移動させてしまったのだ。

その上、相棒のウラノスもより強力になっており、魔人族の勝利に益々期待がかかっていた。

 

そう、全てはあの報告を受けた日から、ミハイルなりの復讐が始まったのだ。

愛しのカトレアがホルアドの大迷宮にて、永遠に帰らぬ人となったあの日、彼は死に物狂いで鍛錬を続けた。

自分の婚約者を殺した、怨敵のイレギュラーを完膚なきまでに叩きのめし、殺すために。

 

しかし、気になる点が一つあった。それは、帰って来たフリードの様子だ。

以前の彼はまるで切り詰めたかのような空気を纏っており、その表情は敵を威圧する程であった。

勿論、今でも尚その覇気は衰えておらず、寧ろ更に重圧感が増したような気もする。

だが、何故か彼は、肝心なことを誰にも伝えようとはしなかった。

 

そう、あの忌々しきイレギュラーのことである。

聞いた話では、フリードは大火山にてあのイレギュラーと対峙し、死闘を繰り広げたらしく、その力がどれほどのものなのか、それをミハイルは聞きたがっていた。

それを聞いたフリードは、重い表情でこう告げた。

 

フリード「圧倒的、と言えば聞こえはいいのだろうな……まるで子供の様に弄ばれていた。

どれだけ魔法を放とうと、奴は難なく無効化してしまった。それだけではない。

配下の魔物達は、動くことすら出来ずに焼き殺され、ウラノスもたった一撃で沈んだのだ。

そして私は、生かされた。恥をもって伝えろ、自分の強さを、と言外に言っているようなものだった。

私は……ただ掌の上で転がされていたにすぎない……!それ程までに、奴の強さは、底が知れない……!」

 

ミハイルは驚愕した。それもそうだろう。

魔人族最強と謳われたかの将軍ですら、あのイレギュラーには届かないというのだ。

その上、子供のように転がされ、配下の魔物達も蹂躙されてしまったのだ。

当時の魔人族たちの衝撃は計り知れなかった。それ故に、フリードの次の言葉を信じた。

 

フリード「だが全てが悪いことばかりではない。奴はこう言っていた。"エヒトを殺す"と。

つまり、人間族が信仰する神とその信者である王国とは、奴は敵対しているということだ。

そこをうまくつけば、人間族の同士討ちによって奴を討ち取ることが出来るかもしれない。

まだ我々は敗北したわけではない!次の王都侵攻では、必ず奴を討ち取るぞ!」

 

その言葉に多くの魔人族が奮い立ち、ミハイルも俄然乗り気になった。

やはり魔人族こそが、神に選ばれし種族なのだと、確信したミハイルは、次の王都侵攻作戦に期待を寄せた。

そしてその決行日、フリードは(胡散臭いが一応、味方ではある)謎の魔術師を引き連れ、教会勢力と連携してイレギュラーを追い詰める作戦を提案し、外の軍隊の指揮をミハイルに託したのであった。

 

ミハイルは最早勝った気にすらなっていた。これであのイレギュラーも一巻の終わりだと。

しかし、フリードが神山にいって少し経った頃、なんと神山が爆発したのだ。

ミハイルは慌てた。もしや、作戦が失敗して、フリードはあのイレギュラーに殺されたのでは!?と。

では自分はこのままどうするべきか、その答えは一つだった。

 

ミハイル「全軍、結界を破壊せよ!」

そういってミハイルは他の魔人族や魔物に命じ、王都の大結界を破壊しようとした。

敬愛する将軍と、愛する婚約者の仇の為に。が、攻撃を続ける事1時間程であっただろうか。

ふと気配を感じて背後を振り向けば、同じ魔人族がこちらに向かってきていた。

それも見覚えのある白竜に乗った、討ち死にしたかに思われた人物。

 

ミハイル「フリード様!よくぞご無事で!」

フリード「…あぁ、指揮ご苦労だったな。だが今は、時を一刻も争う。」

フリードは険しい顔でそう言って、他の魔人族にも聞こえるように言った。

 

フリード「聞け!同胞たちよ!我々は今、人間族共の卑劣な策に嵌り、危うく全滅しかけるところであった!

奴等は教会とイレギュラーが仲違いしているというデマを流し、我々を油断させて壊滅させる腹積もりであったのだ!

現に先程、私はその策から逃れるために神山を破壊してきた!」

フリードの言葉に衝撃を受ける魔人族達。特にミハイルにとっては、非常にショックなことであった。

自分達の策が筒抜けどころか、利用されていたことにすら気が付いていなかったのだから、無理もあるまい。

 

フリード「それと、ダヴァロスの部隊から連絡があったが……

どうやら亜人族もこちらに向かっており、我々は挟み撃ちの状態に陥ってしまっているようだ。

故に、我々はこれより全速力で引き返し、体勢を立て直す!ミハイル、殿を頼むぞ!」

ミハイル「しっ、しかしっ!それでは、カトレアの仇が!「分かっている。」!?でっ、では何故!?」

唐突の撤退宣言に加え、殿を任されたことに困惑するミハイル。

するとフリードは彼の方を向き、こう言い聞かせた。

 

フリード「既にダヴァロス達の部隊は壊滅の危機にある。

どうやらあのイレギュラーが、今回のことを仕組んだようだ。

だが、幸いにも神山にて手にした神代の力が、こちらにはある。」

ミハイル「!でっ、ではその力で!」

そう強く懇願するミハイルだが、フリードは力なく首を振った。

 

フリード「既にイレギュラーもその力を手にしているのだ。

急ごしらえでは、奴に太刀打ちすることはできん。だが既に、奴はこちらへと向かってきている。

このまま負傷している同胞を、捨ておくことはできない。

しかし、奴は既に手負いだ。ミハイル、仕留めるなら今しかないぞ。」

ミハイル「!」

 

ミハイルにとってその言葉は、「婚約者の仇をとる好機だ、逃すなよ?」と言外に言っているようなものであった。

それはつまり、多くの同胞を逃がすという名分で残り、カトレアの仇を討つチャンスをもらったということだ。

ミハイルはフリードのその心遣いに感激し、少しでも彼を疑った己を恥じた。

 

ミハイル「…承知致しました!フリード様、どうかご無事で!」

フリード「あぁ、お前もな。奴の実力は未知数だ、気をつけろよ。

それと……たとえ仇を打てなくとも、必ず戻って来い。命をなくせば、次はないぞ。」

ミハイル「ッ!ハッ!」

そういってミハイルは、フリードの魔物達(ウラノス除く)を引き連れ、王都へと突撃していったのであった。

 

フリード「……許せ、ミハイル。」

そう言って振り返らずに、フリードはライセンへと向かった。

犠牲になったと思われるダヴァロス達がいる、解放者の隠れ家へと……。

そして数分後、王都・樹海侵攻に出陣していた魔人族の軍隊は、ほぼ全員が一人の魔王に忠誠を誓うこととなったのであった……。

 


 

ミハイル「よくも、カトレアを……

優しく聡明で、いつも国を思っていたアイツを「それがどうした?」な、何だと!?」

血走った目で恨みを吐くミハイルくぅんの言葉を、私はムードも関係なしにぶった切った。

 

ハジメ「貴様が女のことで怒ることは構わんが、私はあの女に"失せろ"と言ったのだ。

それで勝手に向こうが逆上して仕掛けてきた故、返り討ちにしたにすぎん。

大体、そんなに大事なら、首輪でも着けて鎖に繋いで監禁でもするくらいはしておけ。

で?貴様はなんだ?殺した相手の話など教えられても聞くのか?

私はそうだな……本来は聞く耳など無駄なものだが、あの男との約束があるのでな。

こうして聞いてやろうではないか?なぁ、ミハイルとやら?」

ミハイル「う、煩い煩い煩い!カトレアの仇だ!苦痛に狂うまでいたぶってから殺してやる!」

 

ミハイルくぅんは癇癪を起こした様に喚きたてると、騎乗する大黒鷲を高速で飛行させながら再び竜巻を発生させて私に突っ込んで来た。

どうやら竜巻はミハイルくぅんの魔法で、大黒鷲の固有能力ではないらしい。

騎乗のミハイルくぅんが更に詠唱すると、竜巻から風刃が無数に飛び出して、退路を塞ごうとした。

 

成程なぁ、避ければいつの間にか集まってきた黒鷲共に隙を与え、向こうに気が向けば竜巻を纏う大黒鷲がやってくる。

普通なら面倒だが……生憎、私は魔王なのでな!困難なぞ知ったことではないわ!

 

ハジメ「(Are you ready guys!?Here we go!)Let's paaaaartyyyyy!!!」

某独眼竜の如く、ハイテンションで背後の敵へと突貫した。両手にドンナー&シュラークを構えて。

すれ違いざまに乱射すれば、黒鷲共は羽に穴をあけて撃墜される。

すると、より上空にいた黒鷲部隊が石の針を一斉に射出した。それは正に篠突く雨の様。

 

ハジメ「石化の針か、いい考えだ。」

が、残念なことに私相手には全く効果がない。石化耐性に加え、オーマジオウの鎧で無効化される。

その上、再生魔法にエナジーアイテム、回復手段もあるので打つ手なしだろう。

だが、流石にやられっぱなしも面倒なので、適当に何匹かぶっ飛ばしておいた。

 

ミハイル「くっ、接近戦をするな!空は我々の領域だ!遠距離から魔法と石針で波状攻撃しろ!」

まるで子供のおもちゃの様に弄ばれていく部下の魔物に、接近戦は無理だと判断したミハイルくぅんは遠方からの攻撃を指示する。

再び四方八方から飛んできた魔法と石の針を、避けては対処し続ける。

更に中距離以上の敵には、自然発火能力で対応し、黒鷲の丸焼きを量産した。

 

ハジメ「どうした?恋人への思いとやらはその程度か!?」

ミハイル「おのれ奇怪な技を!上だ!範囲外の天頂から攻撃しろ!」

ミハイルくぅんが次々と殺られていく部下達の姿に唇を噛み締めながら指示を出し、自身は足止めの為に旋回しながら牽制の魔法を連発する。

が、やはり決定的な差がある以上、遅く見えるので軽く避けてしまう。

そうして最後の一撃を避けた直後、頭上より範囲攻撃魔法が壁の如く降り注いだ。

 

ハジメ「"暴食魔球(グラトニーボール)"。」

そう呟きながら、重力魔法と魂魄魔法の複合魔法を上へと放つ。

すると、頭上から降り注いだ強力無比な複合魔法にぶつかったその瞬間、極小のブラックホールによってそれらを呑み込んでいった。

 

ミハイル「貰ったぞ!」

頭上からの攻撃を防ぐ事に手一杯と判断したミハイルくぅんが、私に突撃する。

大黒鷲が桁外れな量の石針を風系攻撃魔法"砲皇"に乗せて接近しながら放った。

局所的な嵐が唸りを上げて急迫する。

 

ハジメ「風はライダーの専売特許なのでな。」

そう言って手をかざし、再び"暴食魔球(グラトニーボール)"をぶつけようとする。

すると、ミハイルくぅんは予想通りだと口元を歪め、その直後を狙って再度風の刃を放とうとした。

だが悲しいかな。私にそれは通用しない。

 

ハジメ「面倒だな、これでいくか。"陽炎玉(メルトボウル)"。」

私は蒼炎を纏うと、その身を球状に包んだ。

ミハイル「ハッ、自滅を選んだ「そんな訳なかろうが。」なっ!?」

全く、人をなんだと……いや、私の場合、素の状態でも人間に当てはまるのかすら怪しいが。

そんなことを思いながら"陽炎玉(メルトボウル)"を解けば、無傷の私がそこにいた。

"砲皇"に乗せられた石針も、高温の熱によって一片も残らず蒸発した。

 

ミハイル「おのれっ!」

ミハイルくぅんはまた悪態を吐きながら、苦し紛れに石針を内包させた風の砲弾をもう一度放った。

が、既に無意味だ。

ハジメ「くどい、"獄炎球(フレイムキャノン)"。」

先程発動した陽炎玉(メルトボウル)の一段下の技を、今度は纏うのではなく、一直線に向かって飛ばした。

すると風の砲弾とぶつかり、内包された針諸共爆散した。

 

因みに、黒鷲はコートリスという名の魔物らしく、その固有魔法は石化の石針を無数に飛ばす事らしい。

普通は状態異常を解く為に特定の薬を使うか、光系の回復魔法で浄化をしなければならない、とのことだ。

まぁ、石化程度では私は倒せんが。仲間たちの中であれば、ユエやシア、それに香織には無意味だな。

他の再生魔法を覚えた面子もだが、この3人だけは状態異常への対応力が違うのだから。

 

ハジメ「さて……そろそろ蹂躙を開始するか。」

そう言って圧を放てば、魔物どもが狼狽える。それと同時に、一匹また一匹と仕留めていく。

それに錯乱したのか、何匹か攻撃を仕掛けてきたが、難なくカウンターですり潰す。

愈々(いよいよ)ミハイルくぅん部隊の最後の一人が焼き鳥になったその時、急に月明かりが遮られ影が一帯を覆った。

上を仰ぎ見ると、暗雲を背後に上空からミハイルくぅんが降って来るところだった。

 

ミハイル「天より降り注ぐ無数の雷、避けられるものなら避けてみろ!」

ミハイルくぅんの叫びと同時に、無数の雷が轟音を響かせながら無秩序に降り注いだ。

それは宛ら篠突く雷。

本来は風系の上級攻撃魔法"雷槌"という暗雲から極大の雷を降らせる魔法なのだが、敢えてそれを細分化し広範囲魔法に仕立て上げたのだろう。

成程、フリードが信頼を置いているだけはある。

 

そんなことを思っていると、急降下してくるミハイルくぅんを追い抜いて雷光が私目掛けて降り注ぐ。

恐らく確実に仕留める為に、雷に打たれた瞬間に刺し違える覚悟で特攻する気なのだろう。

いくら細分化して威力が弱まっている上に私が超人的とは言え、落雷に打たれれば少なくとも硬直は免れない。

そして雷の落ちる速度は秒速150km。認識して避けるなど不可能だ。そう思っているのだろう。

ミハイルくぅんの眼にも、部下が殺られていく中只管耐えて詠唱し放った渾身の魔法故に、今度こそ仕留める!という強靭な意志が見て取れる。

 

だがな、私も民の為に負けるつもりは毛頭ないのだよ。

 

ハジメ「ラァイジィング、チャァァァジ、アァップ!!!」

私がそう叫んで上を真上に掲げれば、雷光がその身に吸い込まれてゆき、私の力となる。

ストロンガーの"チャージアップ"に、クウガのライジングマイティの応用を組み合わせてみたが……

意外と何とでもなるものだな。

 

ミハイル「何なんだ、何なんだ貴様は!」

ハジメ「ただの最高最善の魔王だ!」

全ての落雷を吸収しきった私は、突撃してきたミハイルくぅんを迎え撃つ。

 

ハジメ「返してやろう、"雷鳴昇竜拳"!」

先程纏った雷を乗せたアッパーが、大黒鷲諸共ミハイルくぅんを打ち抜いた。

ミハイル「グアァァァ!?」

拳の威力に加えて、先程自分の出した魔法をそのままくらったようなものなのだ。

たまったものではないだろう。既に大黒鷲に至っては、気絶寸前だ。

 

そうして私が拳を下ろすのと同時に、ミハイルくぅんは魔物と共に地面に叩きつけられた。

咄嗟に風の障壁を張って即死だけは免れた様だが、全身の骨が砕けているのか微動だにせず仰向けに横たわり、口からはゴボゴボと血を吐いている。

私はその傍らに降り立つと、身を屈めてその顔を覗き込む。

 

ミハイルくぅんは朦朧とする意識を何とか繋ぎ止めながら、虚ろな瞳を私に向けた。

その口元には仇を討てなかった自分の不甲斐無さにか、或いは百匹近い部下と共に全滅させられたという有り得ない事態にかミハイルくぅん自身にも分からない自嘲気味の笑みが浮かんでいた。

ここまで完膚なきまでに叩きのめされれば、もう笑うしかないという心境なのかもしれない。

自分を見下ろす私に、ミハイルくぅんは己の最後を悟ったのか、内心で愛しい婚約者に仇を討てなかった詫びを入れつつ、掠れる声で最後に悪態をついた。

 

ミハイル「……ごほっ、このっ…げほっ……化け物めっ!」

その言葉を聞き、私はこう返した。

ハジメ「向こうで見られるとよいな、婚約者のドレス姿を。」

ミハイル「!」

その言葉にハッとしたのか、こちらへ振り向くミハイルくぅん。

 

ハジメ「じっとしていろ、あの男との約束なのでな。

苦痛は与えん、晒し首にもせん故そっと逝くがいい。」

そう言ってサイキョ―ジカンギレ―ドを構えた。

 

ミハイル「は、ははっ……全てあの御方の言っていた通り、という訳か……。」

そんな自嘲じみたことを言ったかと思えば、ミハイルくぅんは「死後の世界があるならカトレアを探しに行かないとなぁ。」と、そんな事をぼんやり考えながら呟いた。

 

ハジメ「では……御免!」

そう言って勢いよく首を切り落とした。

そして、魂魄の昇天を確認すると、その遺体を再生魔法でつなぎ、"宝物庫"に回収した。

後でフリードのところへと送り届けてやらねばな、恋人と共に。

そんなことを思いつつ、私はその場を後にした。




ハジメ
「ここまで読んでいただき、ありがとうございます!
さて、いい加減別の企画を考えろと言いたい、主のお茶濁しです。」
うp主
「エントリーナンバー3."聖剣士聖刃(セイントセイバー)"さんからのお便りです。
今年の水妃モルガン&トネリコ、水着妖精騎士達実装について、ご感想をどうぞ。」
ハジメ
「オイ!これ訴えられるんじゃねぇのか!?色々アウトなところがあるぞこの名前!?」
うp主
「一言でいうなら、"遂に来た……長らくお待ちしておりました、腐フ☆"かなぁ。」
ハジメ
「スルーするなって……。」
うp主
「駄洒落か!?」
ハジメ
「違うわ!」
うp主
「誰じゃ!?俺じゃ!?ニンニンジャー!?」

次回予告
ハジメ
「シノビはまだ出ないからな?」
うp主
「既に変身者は決めてあるけどね。」
ハジメ
「さて、次回の内容についてだが……まぁ、事後処理だな。」
うp主
「そしてさらに衝撃展開が!ぜってぇ見てくれよな!」
ハジメ
「ヒントはこれだ。ハジメ、○○になる。」
うp主
「ほぼ正解言ってるようなもんだけどね。」
ハジメ
「そして次のペンネームは、"電飛蝗(デンバッター)"とみた。」
うp主
「デンガッシャーじゃないんだから、それじゃまた次回。」

混沌の子さん、誤字報告ありがとうございました!


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75.2018/Over Quartzerー即位之刻―

ハジメ
「さて、前回もお見苦しい所をお見せいたしましたが……今回で漸くクラスメイト編が終わりそうです。」
琴音
「そんな最後に呼ばれた私、星野琴音は南雲家のメイドを目指している!」
ハジメ
「募集していないしもう間に合っています。てか何でモブ9人衆大半がイロモノなの?」
琴音
「お願いです!どんなプレイでも応えてみせますので、夜伽のメイドに是非!」
ハジメ
「だーかーらぁ……そー言うのはお断りって言ってんでしょうがァァァ―!!!」
琴音
「そんな……じゃあどうやったら住み込みメイドになれるんですか!?」
ハジメ
「求めていねぇっつってんだろォ!ゼェゼェ……前回は漸く敵の掃討が完了したわけだが……。」
琴音
「ハッ!ご両親に直談判すればワンチャン……!」
ハジメ
「そんなことしたら予備メンバー募集の候補から省いておくから。それじゃ、第6章第8話」
ハジメ・琴音
「「それでは、どうぞ!」」


ミハイルくぅんの遺体を氷漬けにして"宝物庫"にしまった俺は、皆の所へと一旦戻った。

あのDQNBBAはトシが葬ったようだ。そして少し遅れて、光輝が浩介に担がれて戻ってきた。

光輝「南雲…俺は、やったぞ…!」

ハジメ「あぁ、お疲れさん。限られた時間内とはいえ、よくやった。」

そう言って互いにサムズアップする。

光輝はボロッボロではあったものの、その表情はやりきった感で溢れていた。

男子三日会わざれば刮目して見よとはいうが、いやはや頼もしくなったものだなぁ。

そして敵がいなくなったからか、他の避難していた皆もこちらに来ていた。

 

シア「ハジメさ~ん、こちらも皆さん無事です!」

ユエ「……ん、今回はあんまり出番無かった。」

ハジメ「おう、お疲れ。まぁ、次の迷宮まで取っておこうや。二人には期待しているからさ。」

あの時、エ何とか(名前忘れた)……エロスだったっけ?まぁいいや。

そいつ以外にもタイムジャッカーがいないか確認したけど、気配感知には引っかからなかったからなぁ。

俺の気配感知を欺くには、浩介レベルじゃなきゃ無理だし……。

 

香織「ハジメ君!」

ハジメ「うおっ!?香織!?」

急に香織が抱き着いてきた。驚いてそちらを向くと、少し体が震えていた。……まぁ、無理もないか。

何せアナザーウォッチで消えかけていたって話だったらしいからな、そりゃあ怖い思いをしただろう。

なので、「よく頑張りました。」の意を込めて、頭を撫でてあげる。

 

香織「ホントに……ホントに怖かった……。」

ハジメ「……あぁ、よく頑張った。」

全く、俺に惚れる女性って、手のかかるほど可愛く思えるのかなぁ?

…いや、元々俺が落とされているのか。それ程までに、大切に思える人達ってことだな。

 

ユエ「…どけ、バカオリ。」

香織「あぅ…。」

香織だけ撫でられていることに拗ねたのか、そう言ってユエが間にインターセプトしてきた。

でも頑張ったのは確かなので、撫でてあげる。すると直ぐに上機嫌になる。

 

シア「あー!ユエさんもずるいです!ハジメさん、私も撫でてください!」

ティオ「妾も撫でてほしいのぅ。先生殿をしっかり守ったのじゃからな。」

ミレディ「ミレディさんも撫でても―らおうっと!」

メイル「お姉さんはミュウちゃんになでなでしてもらいたいわぁ~。」

ホルアド同様、ナデナデの波が……後メイル、それは願望だ。まぁ、今から呼んでくるけど。

 

そう思ってオーロラカーテンを開き、オルクスの隠れ家へ転移する。

早速、ミュウとレミアを迎えに行こうと踏み出した先には……

イナバ『オルゥアァァァ!』

『グワーッ!?』

……老害共相手に無双しまくるイナバの姿があった。張り切ってんな、アイツ。

 

ミュウ「あ!パパー!」

っと、家屋の方からステテテテテーと、ミュウが駆けて来る。

そのままダイブしてくるのを、そっと受け止め、頭をナデナデする。

ハジメ「お~、ミュウ。いい子に留守番していた~?心配かけてごめんね~?怖くなかった?」

ミュウ「えへへ~、大丈夫だったの!」

あ゛ぁ゛~、クズ共を殺った後のこの笑顔は至高だなぁ……心が浄化されていくんじゃあ~。

 

レミア「あらあら、ミュウったら。本当にパパのことが大好きなのね~。」

そう言ってレミアも家屋からこちらに来る。勿論、空いている方へ抱き寄せる。

ハジメ「一先ず脅威は去ったよ、怖い思いさせちゃってごめんね。」

レミア「大丈夫です、きっと助けに来てくれるって信じていましたから。ね、ア・ナ・タ?」

ハジメ「その呼び方、なんだか落ち着くなぁ~。ワンモアプリーズ。」

レミア「あらあら、うふふ。」

そんなやり取りをしながらミュウとレミアを抱きしめ、その温もりを堪能する。

少し経ってからか、イナバの蹂躙も終わったようだ。

 

イナバ『王様!いらっしゃったのですか!ちょうど今しがた、任務を遂行いたしやした!』

ハジメ「おう、お疲れ。にしても……派手にやったねぇ。」

そう言って俺は狂信者共が山積みになった場所を見る。

全員イナバにボコボコにされ、四肢の骨が既にだらんとしている。

 

取り敢えず狂信者共は王宮の牢屋に檜山諸共ぶち込んだ。

そして皆の所へ戻れば、ミュウはユエ達に抱きしめられ、レミアはメイルに抱きしめられていた。

こらこら、ミュウがあっぷあっぷしているでしょうが。一旦落ち着きなさい。

そしてメイル、その危ない目をやめろ。色々と教育に悪い。

帰って来て早々このカオス……まぁ、悪くはないけどさ。

さて、一先ず襲撃自体はもうない筈だ。後はどうするかな……。

 

恵理「あの……兄さん。」

ハジメ「うん?どったの?」

何か言うのを躊躇っているような表情で恵理が話しかけてきた。

恵理「元の肉体に戻った時ね、あの人がやったことの記憶が流れ込んできたの。そしたら……。」

そう言って恵理は一旦口を噤むと、リリィをチラッと見てこう言った。

 

恵理「国王様や貴族の人達も……殺されていたの。」

リリアーナ「えっ、そ、そんな!?」

ハジメ「オイオイ……。」

なんてこった……それじゃあ上層部が機能しないわけだ。にしても不味いなそれは。

トップがいないと復興に遅れが生じる、それだけは何とか避けなければ。

だがどうする?代わりに誰か王様に……!これなら、いけるかもしれん!

 

ハジメ「リリィ、ちょっと頼みがある。」

リリィ「!…は、い……。」

力なく答えるリリィ。それもそうか、親が殺されてしまったのだから、そのショックは大きい筈だ。

ハジメ「一応、死んだ人達の蘇生はできる。少しばかり無茶をするが……必ず生き返らせるよ。」

リリアーナ「ッ……!ありがとうございます!」

そう言ってリリィは目をこすって、笑顔で答える。まぁ、別嬪さんには涙は似合わんからな。

 

リリアーナ「それで、頼みとは?」

ハジメ「あぁ、うん。頼みともとれるし、提案ともいえるかな。」

そう言って俺は息を吸うと、その考えを口にした。

 

ハジメ「王都が復興するまでの間、建前上だけでいい……。俺を――代理の王にしてくれ。」

リリアーナ「え!?」

『えッ―!?』

 


 

王都郊外より魔人族が撤退し、王都内に残っていた敵勢力も捕縛・始末された後。

リリアーナの陣頭指揮によって、大混乱の只中にあった王宮も夜が明けぬ内に態勢が立て直され、負傷者の搬送や状況の調査が速やかに行われた。

それによれば、アナザー恵里に傀儡兵化されていた兵士は500人規模に上ったらしい。

 

また、王都の近郊に幾つかの巨大な魔石を起点とした魔法陣が地中の浅い所に作られていた様で、それが魔人族軍の対軍用空間転移の秘密だった様だ。

恐らくアナザー恵里が傀儡を使って作らせ手引きしたのだと思われる。

そして国王を含む重鎮達は既にアナザー恵里の傀儡兵により殺害されており、現在【ハイリヒ王国】国王の座は空席になってしまっていた。

 

何より一番混乱に拍車を掛けているのは、聖教教会からの音沙汰が無い事だ。

王都が大変な事になっているというのに、戦時中も戦後も一切姿を見せない聖教教会関係者――特に教皇イシュタル、に不安や不信感が広がっている様である。

【神山】から教会関係が降りて来ないことを不審に思って、当然確かめに行こうとする者は多かった。

 

しかし、それを事前に見越していたハジメによってリリアーナが接近禁止令を出していた為、実際に登頂する者などいなかった。

仮にそれが無かったとしても、王都の復興やその他諸々のやらねばならないことが多すぎて、とても標高8000mを登山できるものなどいなかったであろう。

 

因みに直通のリフトは停止したままなので、未だ地道な登山しか総本山に辿り着く方法が無いからこそ有効な手段だと言える。

尤も普通に作動していた場合、恐らくハジメは破壊していただろう。

 

そうして色々な事が判明しつつ、陰謀渦巻く襲撃から夜が明けた。

前線組や愛ちゃん護衛隊のメンバーはハジメの実力を知っていたつもりだが、さらに強力な力で敵の軍勢を捻じ伏せる、圧倒的なその様を見せつけられ、改めて隔絶した力の差を感じて思うところが多々あった。

光輝達ですらそうなのだから、居残り組にとっては衝撃的な出来事だった。

帰還したメンバーからハジメの生存や実力の事は聞いていたが、実際のハジメの凄まじさは自分達の理解が億分の一にも達していなかった事を思い知ったのだ。

誰も彼も、ハジメの事やハジメの仲間の事が気になって仕方ないのである。

 

檜山の裏切りに、いつも一緒だった近藤達は引き籠りがちになり、居残り組は身内の裏切りにより疑心暗鬼が芽生えているらしく、以前に増して自室に籠る者が多くなった。

檜山の妄執と狂気が生徒達に齎した傷は、想像以上に深かったのだ。

それでも自暴自棄になったり深刻な程精神を病む者も無く、現実逃避的な意味が強いとはいえ王都復興に向けて動ける生徒達が多々いるのは、偏に愛子や優花達の存在あってだろう。

 

愛子も何か手伝える事が何かないかと思ったが、ハジメ達が復興の手伝いに回ると言い出したので、彼等に任せても問題ないだろうと判断したのだ。

なので、傷ついている生徒達のケアを優先することにして、持ち前の一生懸命さで生徒一人一人を鼓舞し、その心情を聞いて回った。

 

元より信頼を寄せる教師なのだから、生徒達の救いになったのは間違いない。

また優花達は元居残り組であるから、彼等の心情はよく分かった。

愛ちゃん護衛隊の精神的ケアは、居残り組にとって確かな支えになっていた様だ。

 

因みに少し話はズレるが、デビッド達愛子護衛隊の神殿騎士達は健在だったりする。

デビッド達は神殿騎士の立場を利用して何度も愛子との面会を要求したり、それが叶わないとみるや独自に捜索する等して教会上層部を相当辟易させた為、地上待機の命令──

基総本山への出入り禁止を喰らっていたところ、王都侵攻の明朝より姿を消していたのだが……

どうやらその間、とある場所にて拘束・監禁されていたらしい。

 

何故彼等が傀儡兵化や洗脳を免れたのかは分からないが、恐らくは後の"神の遊戯"に於いて駒として使うのにその方が都合が良かった、という理由も考えられるが、今となっては確かめる必要性は無い。

そんな彼等も、今のところ現実逃避の為王都復興に精を出している。

 

そんな訳で、誰もが半ば現実逃避で心の平穏を保っている中、ハジメが破壊したものとは別の訓練場において、王国騎士団の再編成を行う為各隊の隊長職選抜試験が行われていた。

因みに、暫定的な新騎士団長の名はクゼリー・レイル。

女性の騎士でリリアーナの元近衛騎士隊長である。

同じく暫定副団長の名はニート・コモルド。元騎士団三番隊の隊長である。

 

本来であれば、失踪したと思われていたメルドに引き続き団長の職務を続けてほしかったところであったものの、とある人物によってそれに待ったがかかったのだ。

そしてそんな事情を含んだ選抜試験における模擬戦で、騎士達の相手を務めていた光輝が練兵場の端で汗を拭っていると……

 

リリアーナ「お疲れ様でした。光輝さん。」

そんな労いの言葉が響いた。

光輝がそちらに視線を向けると、リリアーナが微笑みながらやって来るところだった。

光輝「いや、これ位どうって事無いよ。……リリィの方こそ、昨日の今日で殆ど寝てないんじゃないか?

ホントにお疲れ様だよ。」

光輝が苦笑いで返すとリリアーナもまた苦笑いを浮かべた。

 

リリアーナ「今は寝ている暇なんてありませんからね。……大変ですが、やらねばならない事ばかりです。泣き言を言っても仕方ありません。お母様も分担して下さってますし、まだまだ大丈夫ですよ。

……本当に辛いのは大切な人や財産を失った民なのですから……。」

光輝「それを言ったら、リリィだって……。」

 

光輝はリリアーナの言葉に、彼女もまた父親であるエリヒド国王を失っている事を指摘しようとしたが、言っても仕方の無い事だと口を噤んだ。

リリアーナは光輝の気持ちを察してもう一度「大丈夫ですよ」と儚げに微笑む。

 

ハジメ「少年少女がしていい雰囲気じゃないよ、二人とも。」

光輝・リリアーナ「「うわぁっ!!!??!?」」

そんな二人に声をかけたのは、ご存じ我等が魔王、ハジメさんだ。

 

ハジメ「リリィ、そろそろ例の準備は出来ている?」

リリアーナ「!はい。

今この場にいない騎士及び兵士、そして国民達には城下に集まる様に周知しています。」

ハジメ「ありがとう。こんな早くから民達が従うのは、リリィの人気の賜物だね。」

リリアーナ「ありがとうございます。」

 

『……。』

『?』

二人のそのやり取りに、光輝達異世界組以外の全員が疑問符を浮かべるが、二人はそれを気にせず会話を続ける。

 

ハジメ「じゃあ、後は宣言だけだね。」

リリアーナ「えぇ、後はそのように。」

ハジメ「では始めるとするか、"人の世"を。」

リリアーナ「……はい。」

短いやり取りと共に、ハジメはリリアーナを伴って歩き始める。

他の皆が呆然としている中、リリアーナに「ついてきて下さい」という言葉が告げられ、事情を知っている者達は昨夜の一件が脳裏を過ったのか、表情を硬くしながら後を追って歩き始めた。

 


 

たどり着いた先は、王都を一望出来るバルコニーの様な場所だった。

その眼下の広場には、リリアーナの言葉に集まったハイリヒ王国の国民達がいた。

そして彼等の眼の前には、大人2人分はあろう高さの柵が立っており、その内側には、今回の襲撃で亡くなった国民(アナザー恵里の傀儡となった人々、或いはその傀儡か魔物に殺されてしまった人達)の遺体が敷き詰められていた。

 

そして国民達は、やってきたリリアーナの姿を見て、「何事か!?」と騒ぎ出した。

しかし、彼女が「静粛に。」とでも言うかのように軽く手を翳すと、その意味を理解したのか、ピタリと喧騒が止んだ。

それを確認したリリアーナは、後から来た人物を前に出す様に恭しく頭を垂れて3歩下がる。

 

その人物は何と、ハジメであった。

既にオーマジオウに変身しており、その姿から威厳と圧が放たれている。

そして、リリアーナと入れ替わる様に前に出ると宙に手を翳し、空中に巨大なディスプレイを幾つか出現させる。

その様はまるでS・F作品のようだ。

 

国民達がそれに驚く中で、光輝達異世界組は「もう何でもありだなぁ……。」と今更感を感じながら他人事の様に思っていた。

そして、ハジメの宣言が始まった。

 

ハジメ『【ハイリヒ王国】、及びトータスに住む全ての民よ、ごきげんよう。

突然だが名乗らせていただく。私の名は南雲ハジメ。

勇者と共に喚ばれた異世界人であり───

今日この時を以て、この国の王座に就く、"最高最善の魔王"である。』

 

"この男は今何と言った?"

"勇者様と同じ異世界人?"

"この国の王座に就くって?"

いきなり告げられた宣言に、王国民全員が驚愕の喧騒に包まれる、

無理もないだろう。突然、見知らぬ人物が即位宣言をしても、混乱するだけだ。

当然、集まった国民達はザワザワと騒ぎ始めた。

 

ハジメ『まぁ、名も知らぬ男がいきなり王位につくなどと、信じがたい事態なのは承知している。

なので、私がこの国の王となった経緯を、皆に説明しよう。

我々人類が真に戦うべき、本当の敵についても、な。』

そう言ってハジメは語り始めた。

今まで攻略した5つの大迷宮、そして本人達から聞いた、反逆者と呼ばれた"解放者"達の歴史を。

そして地球(ほし)の本棚にて判明した、エヒトの正体・トータスの真の歴史・繰り返されてきた歴史の陰謀を。

 

………………

…………

……

 

ハジメ『───以上が、この世界で信じられてきた神、否、詐欺師エヒトが作り出した、三流もいい所の脚本だ。

そしてこれが、今現在のこの世界における真実である。

それを聞いて私は思った、このような矮小で下劣なる疫病神に、それを信仰し崇拝する教会の信徒達と先王の愚かさを放置すれば、遠くない内に多くの人々が混乱に陥る。

そこに、人間も亜人も魔人も関係なくな。

そして最悪の場合、この世界が崩壊の一途をたどり、奴によって弄ばれ続けては飽きられ、捨てられる運命にあるとな。』

 

その真実の数々はあまりも驚きに満ちていて、民衆達は大いに戸惑っていた。

何せ、自分達が崇め奉っていた神が、実は信仰心を昇華させた異世界人で、人間族以外の種族はエヒトが遊び半分で作っては、互いに人同士で争わせていた、などと聞けば、自分達は一体なんのために戦っていたのだ!?と思うだろう。

そんな民衆の不安・困惑を目にしたハジメは、そこで一度言葉を切り、握り拳を胸に当て、話を続ける。

 

ハジメ『……約束しよう!

私は無能な先王とは違う、確かな力と信念を以て、諸君らの安寧を守ろう!

神を騙る詐欺師等必要ない!信仰だけに縋る必要の無い、"人の為の統治"をここに!

神代は既に去った、今は人の世である!

一人一人が自らの力で以て時代を切り開くのだ!"人の時代"なのだ!』

 

その力の籠った宣言は、確かな人の未来を紡がんとする王の信念が、民衆達の耳に、眼に、心に、確りと届き、響き、刻まれたのだろうか。

リリアーナが制止する間もなく、喧騒はピタリと止み、再び民衆の視線はハジメに集められた。

 

ハジメ『私を王として仰いでくれるならば、諸君等に恩恵を与えよう。

この様に、な。』

そう言った直後、ハジメは天に手を翳した。

その瞬間、ハジメの掌から金色と白銀の光が波の様に放たれ王国全体を包んでいく。

すると空中に王都を包み込むほどの大時計が出現し、その針は遡る様に逆回転する。

 

その針が回るにつれ、崩れ去った筈の建造物が元の形を形成してゆき、驚いている聴衆達の傷を癒し、柵の内側の遺体、アナザー恵里によって傀儡になっていた騎士や兵士・国の重鎮等が、まるでビデオの逆再生のように激しく動き出したかと思えば、息を吹き返しては、自分が生きていることが信じられないのか、その感触を確かめては辺りを見回していた。

 

その光景に、事前に説明を受けていたとはいえ、光輝達異世界組は勿論、ハジメの実力を理解していた雫達やリリアーナですら、驚愕で開いた口が塞がらなかった。

それとは対照に、旅に同行していたユエ達はその光景を自慢げにし、ミュウに至っては「パパはとっても凄いの!」と、レミアに抱きしめられながら、はしゃいでいた。

 

そして、神すら及ばないであろうその所業がもたらした光景を見た国民達は、理解が追い付くまでの一瞬の沈黙の後――

その素晴らしき大偉業に、大歓声を挙げた。

 

 

「魔王陛下、万歳!」

「南雲ハジメ陛下、万歳っ!」

「ハイリヒ王国、万歳!」

「ハイリヒ王国に、栄光と希望を!」

「ハイリヒ王国に、大いなる幸福を!」

「貴方様に、永久の忠誠を誓います!!」

『我らが新しき最高最善の魔王、南雲ハジメ陛下に!万歳!!万歳!!万々歳!!!』

 

 

広場はまさに歓声の嵐。ハジメを称える声が湧き上がっては止まない。

それは民衆だけでなく、後ろに控えていた騎士・兵士達、生き返った国民達、そして巨大なディスプレイを通じて、その光景を目にした民衆達も、皆一様にハジメを称えては、興奮冷めやらぬ様子で周りの者達とその感動を享受する。

その光景に満足がいったのか、ハジメは再び手をかざし、歓声を制して尚も続けた。

 

ハジメ『我が誇らしき民達よ。諸君等の忠誠と心からの賛辞に、感謝する。

さて、諸君。話は変わるが……

此度の様な悲劇は、今まで諸君等の痛みを理解しようともしなかった、教会上層部に原因があると、私は考えている。

であれば当然、そのような事態が二度と起きぬ様、元凶は排除せねばならぬ。

諸君らもそう思うだろう?』

 

ハジメは話題を自身の統治から、教会の罪状へと切り替える様に、国民達に問いかけた。

民衆は、ハジメの言葉こそが正しいとでも言うかの様に、皆次々に首を縦に振る。

それを確認すると、ハジメ自身も国民達に頷きを返し、続けて宣言した。

 

ハジメ『であれば、やるべきことは二つだ!これより、私が行う政策を発表する!』

そう言うとハジメが腕を振り下ろせば、まるでディスプレイが真っ二つになったのように裂けたかと思えば、あっという間に先程までと同じ大きさのものが3つに増えていた。

内一つには勿論ハジメが映っており、その画面を確認すると、声を張り上げ宣言した。

 

ハジメ『一つ!

明日この広場にて、今回の襲撃事件を企てた主犯格2名を公開処刑とする!

勿論、この罪人達に加担した者達は勿論、どちらの一族郎党も同罪とする!』

その宣言に、国民達はまたも歓声を上げる。

 

それを確認すると、ハジメは空中のディスプレイに2人分の顔写真を映しだし、言葉を続ける。

ハジメ『此度の一件の元凶たる、罪人2人の人相だ。これよりその罪状を告げる。』

興味津々で耳を傾ける聴衆を確認し、ハジメは冷酷な声でその判決を告げた。

 

ハジメ『"元"聖教教会教皇、イシュタル・ランゴバルト。

本来国に仕えるべき聖職者の長という身分でありながら、邪教の使徒に唆され王国に混乱と反旗を齎した。

その上、神権政治と偽った傀儡政権による横領によって私腹を肥やし、更には詐欺師エヒトを支持し、多くの無辜の民を犠牲にしてきた、狂信者共の首領である!

よって罪状は死刑!遺体は全て虚数の海に落とし、二度と蘇生できぬようにする!』

 

告げられた判決に、国民からはハジメを称える声が上がり、同時にイシュタルへの罵倒が投げかけられる。

神殿騎士達は教皇が元凶の一因だった事に驚愕と失望を抱いていた。

リリアーナと異世界組は、それには動じておらず、ハジメも更に続けた。

 

ハジメ『そして、私や勇者と共に召喚された異世界人でありながら、己の欲望の為に仲間を裏切り、多くの者を手にかけた裏切り者、檜山大介!

この男は、此度の騒動の首謀者であり、詐欺師エヒトの配下と共に、王都を混沌と恐怖に陥れ、汚れた思想によって同郷の仲間ですらも駒として利用しようとしていた!

その罪は最も重く、死を持って償わせるべきだ!

よってこの者も同様に死刑、否、極刑である!』

 

その言葉によって、勇者パーティのメンバーであった檜山が、仲間を裏切って今回の騒動を実行し、自分達を危険に晒したという事実に、国民達からは驚愕の声が広がる。

無理もない筈だ。

自分達より圧倒的な力を持ち、人間族の希望だと思っていた筈の勇者一行から裏切り者、それも今回の出来事の首謀者が出た。

その事実は、国民達にとっては、とても衝撃的な内容であった。

 

ハジメ『我が民達よ、諸君等の不安は大いに理解できる。

この国のために戦うべき勇者一行から、このような罪人が出た以上、絶対的な信頼を置いていた彼等をもう一度信用することが難しい。

また期待を裏切られるのではないかと心配しているのだろう?』

その問いかけに、国民達は答えを口にはせずに、心の中で頷いていた。

 

信頼していた勇者の仲間がこの国を裏切った、その事実は民衆の不安を煽り、彼等にほんの僅かでも疑念を抱かせるには充分過ぎるのだ。

ましてや、その勇者一行の誰かが、また自分達に牙を向いたらと想像すれば……

考えたくもない事だろう。

 

──しかし、そんな彼等の思いも、その打開策も、全てはハジメの思い(描いたシナリオ)通り。

 

ハジメ『だが、案ずることはない!

何故ならば、我が同胞のリーダーでもある勇者が、皆の不安を払拭し、心からの安心をもたらすためにと、罪人達の処刑執行人をすると申し出たからだ!

決別と決意の表明として、自ら汚れ役を引き受けてくれた!それもたった一人で!

これは、非常に誇らしいとは思わんかね?私は讃えよう、あっぱれだ、勇者よ!』

 

その言葉に、民衆は安堵と共に深く頷き、期待の眼差しで光輝を見ていた。

最も、見つめられている光輝本人は、複雑な気持ちでありつつも、そこは笑顔で微笑みかけ、民衆を安心させようと手を振った。

それを見て「大丈夫そうだな。」と判断したハジメは、更に続けた。

 

ハジメ『次に。

私に忠義を捧げず未だ旧教会に与する者、及び詐欺師エヒトを支持する者についてだが……。』

ハジメはそう言うと掌に漆黒の球体を出現させ、天に向けて飛ばす。

漆黒の球体はとある町の教会へと降り注ぎ、着弾した瞬間白と黒の閃光となって天を裂き、狂信者諸共虚無に返した。

 

ハジメ『その様な輩は国家並びに世界への反逆者と看做し、指名手配とする!

無論、その者等を信仰を理由に匿った者達も同罪だ!

もし、教会の建造物に立て籠もろうものならば、先程のように諸共に吹き飛ばすまでだ!』

その光景は、この場にいながら僅かにハジメへ不信感を抱いていた聴衆の心をへし折るには充分だった。

そして突然の容赦も躊躇もない虐殺に誰もが息を呑み、一部の者達は泣き崩れた。

しかし、それも計算に入れていたハジメは、それに勝る報酬を発表した。

 

ハジメ『無論、諸君等に得の無い話では無い。

生死を問わず、捕らえた者及び捕縛に協力した者達全員に、国庫に眠るアーティファクトを褒賞として出そう!

勿論、神代の力を私が付与したものだ!

武具に防具は当然、持ち運びできる銭湯、食物を新鮮な状態に保つ宝物庫、そして馬よりも早く駆ける乗り物に、どんな毒でも癒す"神水"まであるぞ!

諸君の協力を、私は心待ちにしている!

我こそはと思う者達は、騎士団の詰所へと名乗り出るがいい!』

 

その報酬を聞いた瞬間、先程まで泣き崩れていた者達は、"神代のアーティファクト"という言葉に希望を持ったかのように顔を上げ、彼等を含む聴衆全員が歓声を挙げては狂喜乱舞した。

それ程までに神代のアーティファクトの力は凄まじいのだろう。

 

特に、その具体的な内容がハジメによって知らされたのだ。

どれも喉から手が出るほどに欲しい位の効果を有している。

それ程までに魅力的なのだ。

それも錬成師としても名高いハジメが手掛けたのであれば尚更だった。

 

そして、政策に満足の表情と自分を讃える歓声が聞こえたのを確認したハジメは、リリアーナ達を引き連れて踵を返した。

後には興奮で騒ぐ国民達だけが残され、彼等は一様に新しい時代の産声に歓喜した。

 

そんな彼等の様子を見ながら、ハジメは自分の物となったハイリヒの玉座に座る。

そのまま流れる様な動きで足を組んで頬杖をつけばそのままリリアーナが玉座の隣に侍り、ユエ達がその周りに(ミュウのみハジメの膝の上に座っている)立っていた。

今ここに、最高最善の魔王が、異世界の国家の玉座に君臨した瞬間であった。




ハジメ
「ここまで読んでいただき、ありがとうございます!さて、今回は「祝え!」早ェなオイ。」
ウォズ
「今ここに、南雲ハジメが王国の王座につき、また一つ覇道への道を歩み始めた瞬間である!」
ハジメ
「まさかの本家登場しちゃったよ……。いや、嬉しいけどさ。」
ウォズ
「別次元の我が魔王よ、心からの祝福を申し上げます。」
ハジメ
「あぁ、うん。ありがとね。さて、今回は祝福の鬼兼魔王の忠臣こと黒ウォズが来てくれました!」
ウォズ
「この世界でも、我が魔王が玉座に君臨することは絶対的な運命にあるのです。
他と比べるにはあまりにも尊く、その名声は遍く者達に響き渡るであろう!」
ハジメ
「うぉぉ……間近で本場の祝福聞くと照れるな……。それじゃあ、次回予告に行こうか。」
ウォズ
「了解したよ、我が魔王。」

次回予告
ハジメ
「次回は俺が玉座につくまでの解説をするよ。」
ウォズ
「つまり、我が魔王の道のりの総集編、ということでしょうか?」
ハジメ
「いや、今回の補足的なものかな?何の脈略もなく王様になったら、読者の皆も混乱するだろうし。」
ウォズ
「成程……流石は我が魔王。民のことを誰よりもお考えになるとは……!」
ハジメ
「それと、今回のお話で80話達成できたよ。あっという間にここまで来たねぇ~。」
ウォズ
「後20話……平成の時代……。」
ハジメ
「おっと、そろそろウォズが思考の海にダイブする前に、この辺で!」
ウォズ
「これは……次も祝わねばなるまい!」


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76.2019/.即位のウラガワ

ハジメ
「むかーしむかし、あるところにハイリヒ王国というくにがありました。

しかしそのくにには、わるーいうそつきがひとびとをあやつって、ほかのしゅぞくをいじめていました。

そんなある日、わるいうそつきをまつっていた山がばくはつし、それにしたがっていたひとはみーんな死んでしまいました。

とつぜんのことにおどろいてとまどうくにの人たちでしたが、そこにあるしょうねんが名のりでました。

そのしょうねんは、"最高最善の魔王になる"ことをもくひょうとしており、そのだいいっぽとしてこのくにをたてなおそうとしました。

そして、しょうねんとそのなかまたちのてによって、くにの人たちはよりあんしんしたくらしが出来るようになりましたとさ。」

うp主
「以上、ドンブラ風あらすじでした!「じゃねぇだろォォォ!?」Door!?」
ハジメ
「分かりづらいだろこんなの!幾らネタ不足で低迷しているとはいえ、適当過ぎるわ!」
うp主
「おい、メタはやめい。分かった分かった。真面目にやるから。」
ハジメ
「さて、さっきのあらすじからも分かる人がいるとは思うが……俺、王様になりました!」
うp主
「苦節1年で漸くな~長かった。」
ハジメ
「そして今回はここに至るまでの経緯を語らせてもらう。」
うp主
「因みに、次回からはローテーション形式で前書きと後書きはやります。それでは、第6章第9話」
ハジメ・うp主
「それでは、どうぞ!」


前回、ハイリヒ王国の王座に就いた、我等が魔王南雲ハジメ。

さて、何故こうなったかというと、時間は前回の夜まで巻き戻る……

 


 

ハジメ「王都が復興するまでの間、建前上だけでいい。俺を代理の王にしてくれ。」

リリアーナ「え!?」

『えッ―!?』

その言葉に驚愕に包まれる皆。まぁ、そうなるわな。

 

ハジメ「急にこんなことを言って混乱するのも分かる。でもな、それには訳があるんだ。

狙いは、大まかに分ければ二つある。」

そう言ってハジメは二本指を立てて説明する。

 

ハジメ「先ず、真実を明かすにあたって、確実な信頼を得ることが必要だからだ。

それに必要なのは、強大な力を持つ為政者。

それがたとえ見せかけであろうと、疲弊している民にとっては理想の賢王に足るものなんだよ。

この二つを確立するにあたって、その役目を俺が負った方が、民の聞き訳が良くなるだろうってね。」

俺がそう言うと、愛ちゃん先生が何かに気づいたようだ。

 

愛子「真実というと…神について、でしょうか?」

ハジメ「Exactly。折角だ、目障りな教会も潰したし、今からその情報についても説明しよっか。」

光輝「?どういうことだ?」

俺の言葉にふと気になったことがあったのか、光輝が訊ねてきた。

 

ハジメ「今から話すことは、奴等にとっては余程知られたくないことだからさ。

知った奴等は全員、こうだからな。」

『!?』

そう言って俺が首を切るような仕草を見せれば、皆もその意味を理解したのか一斉に顔を顰める。

更に俺は続けた。

 

ハジメ「真相を知って逃げた者達の殆ども、見つかって殺されるか、最後まで隠れきるかの2択だろう。

その証拠に、俺が道中で会った仲間達の殆どが、元からそれについて知っていたしな。」

そう言って、ミレディ達解放者ズとティオを見る。

そして、オルクスで見つけた記録水晶を見つめるユエにも目を移し、元に戻した。

 

ハジメ「先生が行方不明になったのもそれが原因だ。

まぁ、先生の場合、リリィと浩介がいたから何とかなったけどね。」

愛子「はい、本当に助かりました。」

愛ちゃん先生の当時を思い出した様子に説得力を感じたのか、皆俺に早くことの続きを教えてほしそうに見てくる。

 

ハジメ「そもそもだ、異端審問自体が元の世界における魔女狩りじみていることがおかしいんだよ。

どっちも教義に反した異端者を取り締まるだのなんだのとほざいてはいるが、奴等がやってきたことは邪魔な存在に濡れ衣を着せて、裁きの名目のもとに暗をする殺し屋ごっこさ。

というわけで、そんなクズ共がいなくなったわけだから話すとしようか。この世界の真実を。」

 

そう言って俺は語り始めた。

ミレディ達解放者の真の歴史、狂神(笑)の矮小にして滑稽な残念談、王都侵攻時の総本山での出来事、そして誰にも知らせていなかったこの世界における人の成り立ち、何故3つの種族が争うことになったかの原因を話し出した。

 

クラスの皆は勿論、ユエ達やリリィ、そしてミレディ達も多種族となった原因については、とても驚いていた。

正直、クズ野郎の裏の顔なんかよりも、こっちの方がうちあけ辛かった。

だってそりゃあ、今まで戦ってきた魔人族も、元は同じ人間だったなんて聞いたら、流石に困惑するだろう。

ミレディ達自身も、奴の犯してきた罪がここまでとは思ってもいなかっただろうしなぁ……。

そして全てを聞き終わり、真っ先に声を張り上げたのは光輝だった。

 

光輝「なんだよそれ……じゃあ俺達は、神様の掌の上で踊っていただけだっていうのか?

なら、なんでもっと早く教えてくれなかったんだ!オルクスで再会した時に伝える事は出来ただろう!?」

ハジメ「だーかーら、教会が邪魔だったんだよ。

メルドさん達が良識派とはいえだ、どこに監視の目があるかもわからん状況で、そう簡単にうちあけられるわけねェだろ。」

非難する様な眼差しと声音を諌め、俺は「それに、」と続けた。

 

ハジメ「俺がそれを言ったとしてだ。光輝、お前はそれを信じたか?」

光輝「なんだと?」

ハジメ「前々から思い込みとご都合解釈で何とかなってきたのは、お前がまだ餓鬼だったからだ。

もし俺が真実を伝えても、俺の知っているお前なら、大多数の人間が信じている神を"狂っている"と言われた挙句、自分のしている事は無意味だと言われれば、信じないどころか寧ろ俺に食って掛かっただろう?」

光輝「だ、だけど、何度もきちんと説明してくれれば……。」

ハジメ「そんな時間があったとでも?

こちとら一歩でもタイミングが遅かったら、アンカジが全滅寸前まで行ってたんだぞ。

それに、人殺しすら躊躇う今のお前等に言っても、ただただ騒ぎ立てるだけだろ。

だから出来るだけ最小限の人数に抑えて、真実は伝えた。愛ちゃん先生とその護衛、そして雫達にな。」

 

俺の鋭い指摘に、クラスメイト達はさっと目を逸らした。

愛ちゃん先生は何か言いたげな様子だったが、口ごもってしまっている。

すると、雫が急に口を開いた。

……それとユエ、「二度も救われておいて何だその態度は」と言いたげな目を光輝にしないの。

 

雫「ハジメ君の言う通りよ。

それにもし、光輝がそれを信じて国王陛下やイシュタル教皇に話していたら、攫われていたのは愛ちゃんだけじゃなかったかもしれないわ。」

光輝「なっ、そんなことは……。」

ハジメ「ないとも言い切れんだろう。

実際奴等はヤクでもキメていた眼をしていた、妄信とはそういうものだ。

崇める対象の為なら、どんな悪行だろうと正義とみなして罪を重ねる。

それがこの国に巣くっていた、倒すべき悪なのだよ。」

俺のあまりにも非情な物言いに、皆押し黙る。これぐらい当然だがなぁ……。

 

光輝「でも、これから一緒に神と戦うなら……。」

ハジメ「誰がいつ、一緒に戦うと言った?今のお前等じゃ、精々迷宮の魔物相手が関の山だ。

そんな程度で一緒に大迷宮を巡れと?悪いがそんな時間はないし、そこまでお人よしじゃない。」

その言葉に、光輝は目を大きく見開く。

 

光輝「なっ、まさか、この世界の人達がどうなってもいいっていうのか!?

神をどうにかしないと、これからも人々が弄ばれるんだぞ!放っておけるのか!」

ハジメ「あれは俺の獲物だ、勝手に手を出すならお前ごと屠るだけだ。

そもそも、今更真実を知ったお前が偉そうに語るな。

これ以上食って掛かるなら、この前以上に恐怖を刻み込んでやろうか?」

そう言って"威圧"を発動し、光輝を睨みつける。流石にこの前のが効いたのか、光輝はたじろぎ、俯いた。

 

ハジメ「とはいえ、だ。俺も鬼ではない。

この世界を守りたいという民の思いを無碍にするつもりは毛頭ないさ。」

そう言って"威圧"を収めれば、その言葉に光輝も希望を見出したような眼になる。

ハジメ「だが、今のお前等では実力が圧倒的に足りない。そこで、だ。」

俺は"宝物庫"からとある紙を取り出す。そこに書かれているものは、俺の計画だ。

 

ハジメ「俺が見込みのあると思った奴だけ鍛えなおして、選抜して連れていくことにした。

勿論、次の大迷宮に行く前に、これまでの神代魔法もいくつか覚えてもらうつもりだ。

まぁ、メンバーは王位につく理由の後で上げるが……光輝、一応お前も入っているから一旦落ち着け。」

そう言って光輝を諫め、続きを話すことにした。

 

ハジメ「まぁ、先程言った真実に信憑性を持たせれば、奴の力を削ぎ、王室の権威を高めることが出来る。そしてリリィ達への批判を最小限にする。それが目的の一つだ。

それに、この国は教会による宗教政治が主流だった。

ならそのイメージを払拭する上で、解放者や下衆野郎の真実を信じさせるためにも、これまでの王朝とは異なる、異世界人の王様が玉座につく必要があると思ったからね。

そんな訳で、俺は立場上だけなんだけども、この国の王になることにしたんだ。これがまず、一つ目。」

まぁ、本来はもうちょっと経験を積んでからにしたかったんだけどね……状況が状況だ、仕方がない。

 

"何かを守る為に、自ら重圧を背負う"という考えに、リリィや先生、雫達も理解が出来たようだ。

まぁ、先生も訳も分からず連れてこられた不慣れな地で、危険に晒された大事な生徒達を守る為に、自分の才能(作農師の技能)を盾に"豊穣の女神"という名声を得て、王国政府(という名の旧教会の傀儡)の圧力から皆を守ってきたしなぁ。

 

ハジメ「そして二つ目は……まぁ、これは俺の事情も絡んでいるんだけどね。」

光輝「?どういう事だ?」

俺の言葉に光輝が疑問符を浮かべると、リリィが何かに気づいたのか答えた。

 

リリアーナ「もしかして、異端者認定の一件でしょうか?」

その言葉を聞いて、雫や愛ちゃん先生も遅ればせながら思い至る。

その一方で、それ以外の者達は俺が異端者認定を受けていた事が初耳だったので、一様に驚愕の表情を浮かべていた。

 

ハジメ「そう、アンカジでも異端認定で教会と一悶着あったよ。

それに、そのまま事が進行していた場合、討伐隊に選ばれるのは……。」

雫「私達…ね。」

ハジメ「Exactly。

現状王国側で最高戦力であり、同郷でもある皆が、俺達の相手をする事になっただろう。

まぁ、一応死なないくらいに相手して、死んだように見せかけるつもりではあったけどね。

正直、それも面倒だったから、ここでその問題ごと教会を片付けちゃおうかなって思ってね?」

さらっと勝利宣言をする俺に唖然としたのか、皆驚いて開いた口が塞がっていない。

てか、恵理と浩介は事情が事情だったが雫、君は死んだふりぐらいはでき……いや、それも一つの悪手か。

なら、その反応であっているか。そう思いながら、俺は更に続けた。

 

ハジメ「それに、俺含めてお前等はこの【ハイリヒ王国】に召喚された。

つまり"別世界からの客人"であり、"国王の配下"ってことになる。

なら俺が国王になった今、皆は俺の指揮下に入ることになる。

それなら、国内での反発も抑え込むことが出来るという訳さ。」

俺がそう説明した途端、皆一筋の光明を得た様な表情を浮かべる。

特に居残り組や愛ちゃん先生等は嬉しさが前面に出ている。

 

ハジメ「あ、それと教皇のジジィとクズ山は処刑するから。光輝、首切り役はお前な。」

『!?』

唐突な物言いだが、これも民に安心感を持たせるためだ。

勇者自らが裏切り者を罰する事で"強い先導者"として印象付けられるからな。

そもそも荒療治の一環として、罪人の死刑執行をさせるという提案をメルドさんに打診していた。

人を殺せん様では戦士として話にならんからな。

 

それに、俺自身にも明確な人間側の指導者であるとして民衆の支持を確かなものに出来、それによって王国の隅々まで手が届くというメリットがある。

ここは脅させてでも引き受けてもらうぞ、光輝?さて、お前はどうする?

 

光輝「……本当に、必要なことなのか。」

ハジメ「そうだな。

クズ山は技能も封じて四肢を切り落とした上で、魂魄だけ眼魂にして取り出すけど……

それでも抜け殻の首はちょんぱしてもらう。民の安寧の為にな。ジジィはそのまま切ってもらうぞ。」

光輝「……分かった。」

意外にも素直に従ったな。てっきりもう少しごねるかと思ったが……ふむ、鍛えがいがありそうだな。

 

ハジメ「じゃあ最後に、リリィ。君に判断を委ねるよ。俺が御輿の王に相応しいか否かを。」

そう言ってリリィを真っ直ぐに見つめる。するとリリィは、少し考えてから口を開いた。

リリアーナ「……一つ、お願いがあります。

せめて王都の防衛体制が整うまでで構いません。ここに滞在して欲しいのですが……。」

なんだ、そんなことか。それくらいならお安い御用だ。というか……

 

ハジメ「どっちにしろそうするつもりだったから、そんなに思いつめなくていいよ。

それに、リリィにも危険な目には合って欲しくないからね。きっちりやっておくさ。」

リリアーナ「……!有難うございます!」

パァ!と表情を輝かせるリリィ。その顔はどこか赤みを帯びているような気がした。

……やっぱりそういうことか?

 

ハジメ「メルドさんはどうお思いですか?勿論、異論は認めます。」

メルド「…いや、私も姫様の意思に従おう。お前になら安心して預けられる。」

ハジメ「!ありがとうございます。」

その目は弟分の成長を見るようで、息子を見る父親のような雰囲気があった。

 

ハジメ「それじゃ、王位継承についてはおしまい。次は、さっき話した選抜メンバーについて。」

その言葉を聞くと、何故か皆緊張したような顔つきになっていた。なんでさ。

メンバーはもうとっくに決まっとるんだが。

 

ハジメ「今から名前を挙げる。雫、恵理、浩介、光輝、龍太郎、鈴、以上だ。」

俺がそう告げ終えると、名前を呼ばれなかった組の殆どは、ホッとしたような感じだった。

一方で、選ばれた面子の中で龍太郎と鈴はなぜ自分達が!?という顔になっているが。

理由をあげるとするならば……直感だ。

それにまぁ、二人とも面識が他のクラスメイトよりあるし、合わせやすいと思ったからね。

 

雫「それで、ハジメ君達はどこへ向かうの?西から帰って来たなら……樹海かしら?」

ハジメ「ああ、その予定だ。

フューレン経由で向かうつもりだったけど、諸々事情が重なって面倒になったからこのまま東に向かおうと思っている。」

雫の質問と申し出に其々返す俺の予定を聞いて、リリィが何か思いついた様な表情をする。

 

リリアーナ「では、帝国領を通るのですか?」

ハジメ「うん?まぁ、そうなるかな?」

リリアーナ「でしたら、私もついて行って宜しいでしょうか?」

ハジメ「いいけど……帝国に行くの?」

リリアーナ「えぇ、今回の王都侵攻で帝国とも話し合わねばならない事が山程あります。

これから使者と大使の方を帝国に向かわせますが、会談は早ければ早い方がいい。

ハジメさんの移動用アーティファクトがあれば恐らく帝国まですぐでしょう?

それなら、直接私が一緒に乗り込んで向こうで話し合ってしまおうと思いまして。」

ほぅ、中々に面白いことを考えるな。

 

ハジメ「いいねぇ、即断即決と熟考は良い政治の基本だからね。

折角だ、俺もガハルドに新国王として顔見せしておこうか?」

リリアーナ「ふふ、そこまで図々しい事は言いませんよ。送って下さるだけで十分です。」

俺の急な過保護発言に思わず苦笑いを浮かべるリリィ。

いや、ぶっちゃけどんな反応するか見てみたいだけなんだよね。

 

ユエ「……そういえばハジメ、ミュウとレミアはどうする?」

ハジメ「そうだな……出来る事なら一緒に行きたいが……本人達に判断を仰ごう。」

そう言って俺は二人にこれからのことについて聞いた。

 

ハジメ「……という訳なんだ。樹海は俺の部下もいるから安全だけど……一緒に来るかい?」

ミュウ「!一緒に連れてってくれるの!?」

ハジメ「まぁ、怖い思いさせちゃったからね……

それに折角ここまで来たんだし、一緒に行こうかなって。」

俺のその言葉を聞くと、ミュウは嬉しそうにガッツポーズを決めていた。……そんなに嬉しかったのか。

 

ハジメ「レミアも、来るよね?」

レミア「あらあら、娘と夫が一緒ですもの。どこまでもついていきますよ、あ・な・た❤」

ハジメ「そうか、俺も二人が傍にいてくれるのは嬉しいよ。今回は家族冒険だね!」

レミア「あらあら、うふふ。」

そう言って頬を紅く染めるレミア。そしてそれを見て鼻血を出すメイル。やれやれだぜ。

 

とまぁ、こうして俺はハイリヒ王国の王座に就いた、というわけだ。

そして序でに、新しい仲間達に解放者、ミュウとレミアを加えて旅立つことにした。

そしてそんな中で、香織からある提案があったので、それを受けることにした。それは……

 

ハジメ「う~ん、やっぱり残り二つの神代魔法もあった方がいいけどね……香織、素体の調子はどう?」

香織?「うん、歩行は問題なくできるけど……飛行は練習が必要かも。羽で飛ぶのは初めてだし。」

ハジメ「だよねぇ……にしてもまさか、こんなこと思いつくとは思ってもいなかったよ。」

そう言う俺の目の前には、他のとは違う雰囲気の木偶人形――否、木偶人形in香織が立っていた。

 

そう、香織の提案とは、人の身ならざる本当の"神の使徒"の強靭な肉体を自分の新たな肉体とする、というとんでもアイディアだったのだ。

最初は杞憂だったものの、その魂魄を"定着"させてみた結果、見事成功したのだ。

 

生憎、魔石に似た器官は、再生できても魔力の供給はピタリと停止していたので、賢者の石で代用した。

これなら半永久的に無限の魔力を扱えるだろう。

それに加えて、使徒の固有魔法"分解"や双大剣術、銀翼や銀羽も扱えるという、チートもいい所の性能になった。

 

どうやら、木偶人形の体がそれらの扱い方やこれまでの戦闘経験を覚えているようで、慣れない体故に未だ飛ぶこともままならないが、慣れれば"神の使徒"としての能力を十全に発揮できるだろう。

それどころか、従来の木偶人形(デッドコピー共)なんか容易く蹴散らせる位には強くなると思う。

再生と空間の二つの神代魔法も使えるのだ。それに香織自身も回復術師。

敵にとっては双剣を振り回しながら、軍勢を癒し、どこからともなく現れるという、恐怖の無限タンクヒーラーの出来上がりだ。

 

そして魂魄の定着が成功した後の香織の喜びようは中々に凄かった。

なにせ、クールビューティーな外見で、キャッキャッと満面の笑みで騒ぐのだから。

まぁ、中身が香織だったので可愛いで済んだが。

因みに、香織の本当の体は、ユエの魔法と俺の能力により凍結処理を受けて"宝物庫"に保管されている。

巨大な氷の中に眠る美少女といった感じで非常に神秘的だ。

……巨人に噛みつかれるって?顎が来たら即座にぶっ飛ばすさ。それに香織の場合は女型の方がいいだろ。

見た目クールビューティーだし。

解凍時に再生魔法で壊れた細胞も修復してしまえるので、戻ろうと思えば戻れる可能性は極めて高い。

 


そして、ハジメの即位宣言の翌日。聴衆の蔑視と罵倒に包まれながら、二人の罪人は処刑された。

イシュタルは最期までエヒトへの忠誠を叫び続けるも、ハジメが真実を明かせば面白い位に表情を変えてゆき、最後にはハジメへの憎悪の表情のままその首が舞った。

そして檜山も、眼魂のまま自分の肉体の首が飛ぶ姿を、ハジメの手の上で転がされながら見ることしかできないのであった。

その数時間後、ハジメの分身体と冒険者達によって、ハジメが神山に乗り込んだ際に捕えた司教達やイシュタルの血族・お触れに違反して彼等を匿っていた者達が、末端に至るまで捕縛・処刑され、主犯格のイシュタルを筆頭に全員が首のみで野晒しとなった。

 

そして、処刑と同時に様々な宣言がなされた。

一つ。王国騎士団"前"団長メルド・ロギンスの異動について。

アナザー恵里の謀略によって行方知れずとなり、既に亡くなっていたものと思われていたメルドが戻ってきた。

 

その知らせは、生徒達には安堵を、騎士達には驚愕と歓喜を招いた。

またそれに伴い、"現"団長に任命されたクゼリーが騎士団長の座を返還しようとしたが、それはメルド本人が辞退した。

その理由はハジメ曰く、

 

ハジメ「本当は御咎めなしがいいんだけどね……

策略を見抜けなかった以上、形式上だけでも受けてもらうよ。

処罰は【ホルアド】に2週間の間転勤、その後、近衛兵騎士団に新兵として入隊、一からだけど頑張ってもらうよ。

なぁに、きっとすぐに団長になるだろうさ。』

とのこと。

 

二つ。リリアーナ含むハイリヒ王族を今後どう扱うべきか。

結果から言えば、"王族"からの降格、これから多忙になるハジメに代わってハイリヒ王国の代理統治を行う"特務公爵"への任命が命じられた。

謂わば現状維持のお咎め無しだ。その宣言に、同席した召喚組一同も安堵していた。

 

ハジメが代理とはいえ国王の座に就いた時から、リリアーナの母である前王妃ルルアリアは、自分達"元"王族が平民や奴隷に落とされるか、或いは教皇達のように、無情にも処断されるか、いずれにしろ見て見ぬふりをしてきた自分達に、重い裁きが下されることを覚悟していた。

 

それは、ハイリヒ王家が教会信仰に関わっており、そのせいであまり良いイメージを持たれていないからだ。

そしてその場合、ルルアリアは自身の持つ全て(文字通り何もかも)を差し出し、せめて自らが腹を痛めて生んだ、大切な子供達の助命だけでも願おうと心に決めていた。

因みに、生き返った夫であるエリヒドも、最初は信じられないといった顔をしていたが、ハジメによる記憶再生に蘇生時の映像により、完全服従・何故かハジメを神と崇め始めた。

 

そして教皇達処刑の日。

いざ覚悟して彼女たちがその場に赴いてみれば、ハジメに告げられたことは、"特務公爵"としての立場、それも女性初の公爵としてルルアリアを頭首として認め、これから神代魔法や偽神狩りで忙しくなる自分の代わりに、この地を統治・自分の出した改革を進めてほしいという勅命のみ。

 

尚、エリヒド元国王は今後、国の政治に関わることは一切禁じられており、その妻であるルルアリアが、女性として初の公爵としての役目を果たすこととなった。

助かったにもかかわらず、余りにもあっさりとした結果に、ルルアリアは唖然としていた。

ハジメも彼女の考えを読んでいたのか、翌日、ルルアリアにこう答えた。

 

ハジメ「俺が傀儡共(旧教会一派並びにその一族)を始末したのは、奴等が死んでも全く影響が無くて、処刑する位しか利用価値がないからだよ。

貴女達が死んだら今後の国政にも響くし、罪人でもないのに有能な人材がいなくなるでしょ。

これからリリィにも帝国との会談で色々動いてもらうのに……

その人材を信仰云々程度で処断する程俺は愚かじゃない。

元国王については……リリィのこともあるしな。とはいえ、罰として奥さんである貴女の尻に敷かれてもらうよ。」

と、政治と女性の権利を建前に、ハジメは元国王を謹慎処分で済ませ、リリアーナ達の処遇を解決したのだった。

 

尚、実はもう一つ理由があり、なんとリリアーナ達ハイリヒ王家は、オスカーの妹コリンと、ラウスの息子シャルムの子孫だったのだ。

ハジメ達が地球の本棚でそれを知った時は、リリアーナ本人も驚いており、オスカーとラウスは自分達の家族がとても逞しく育ったことに感涙していた。

 

三つ。リリアーナ個人の今後について。

ハイリヒ"元"王族の立場の決定と共に、ハジメは彼等と親王族派閥を交えて、王女であることを差し引いても絶大な人気を誇る、リリアーナ個人についての対応を発表した。

何とリリアーナは、ハジメの許嫁として迎えられたのである。

 

これもまたハジメの判断であり、これによってルルアリア達元王族に恩を売る事が出来、同席していた親王族派を懐柔し取り込める。

また、リリアーナ自身の元々から高い人気をハジメに持ってくる事で、国民達に更なる安心と安寧をもたらすことが出来るのだ。

 

それに加え、リリアーナ達の身に何かあれば、ハジメが即座に問題を解決し、彼女達は神すらも凌駕するその力の恩恵を得られるのだ。

抑々リリアーナ自身もハジメに好意を持っていたこともあり、こちらに関してはスムーズに執り行われた。

以上をもって、ハジメはハイリヒ王国を統治するに至ったのである。




ハジメ
「ここまで読んでいただき、ありがとうございます!さぁて、今回で漸く主との虚無期間が終了する……。」
うp主
「あ、お便りシリーズは秘伝ホッパーさんがヘルライジングしているから、中止になったよ。」
ハジメ
「なにそれこわい。」
うp主
「やっぱり夏にヘルライズはキツかったか……。」
ハジメ
「熱中症待ったなし。」
うp主
「さて、今日から放送開始のガッチャード、どんな物語になることやら!」
ハジメ
「主題歌のフルバージョンも楽しみだな!」
うp主
「以上、新ライダー放送開始記念スペシャル、2話投稿でした!」

次回予告
ハジメ
「次回はちょっと時を進めるよ~。」
うp主
「原作でこの話を見た時、金的の恐ろしさを知ったよ……。」
ハジメ
「久しぶりに冒険者として、ギルドに顔を出しに行くぞ~。」
うp主
「でも一筋縄ではいかなくて……!?」
ハジメ
「まぁ……SAN値がヤベーイ!な人はブラウザバックをお勧めするぞ。」
うp主
「這いよる混沌、ニャルレッド!」
ハジメ
「いねーよ、そんな戦隊ヒーロー。」
うp主
「さぁ、STRAT NEW GENERATION!!!」


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77.金の玉砕

ハジメ
「お待たせいたしました!さて、今回から語り部形式であらすじを紹介していくぞ!」
ユエ
「最高最善の魔王を目指す少年、南雲ハジメは、遂にハイリヒ王国の王位につき、名実ともに王として君臨したのであった。」
ハジメ
「いやぁ~、ここから始まったんだよね。俺達の、本当の旅がさ。」
ユエ
「…ん、伝説の始まり?」
ハジメ
「いや、伝説は俺達がこの世界に来た時に始まったんだよ。
運命が動き出したのは、ユエと出会ってからだけどさ。」
ユエ
「運命……それ、良い!」
ハジメ
「さて、王都でやり残したこと、片付けちゃいますか!」
ユエ
「ん!それじゃあ、第6章第10話」
ハジメ・ユエ
「「それでは、どうぞ!」」


ガヤガヤ、ザワザワと王都は普段に増して喧騒に満ちていた。

あの日、俺が新国王就任から五日経った今も、人々の胸に去来する驚愕感や興奮は僅かな衰えもなく心に刺激を与えていた。

まぁ、あれだけの光景を見せられたら誰もが興奮するだろうなぁ。

 

そんな興奮の喧騒に満ちた王都のメインストリートを、大人買いしたホットドッグモドキ(ソーセージではない何かが挟まっているため)をモグモグと食べながら、俺達はギルド本部を目指して歩く。

もう片方の手にはミュウが抱きかかえられており、俺の傍らには、ユエと雫、レミアだけだ。

今回、依頼達成の報告をしておこうと思い、ギルド本部に行くことにしたのだ。

 

一応、フューレンにも連絡は入れてあるけど、折角だからという訳で、ギルド本部に顔を出すことにしたのだ。

因みにその後は、大結界の修復に行くので、そのアーティファクトの場所への案内を雫が買って出たという訳だ。

 

それと、シア達は王宮でお留守番だ。

今の王都で他種族が堂々と歩くのは無意味に人々を刺激する行為だと判断し自発的に居残ったのだ。

たとえ、王都の人々が、自分達を襲ったのは魔人族だと分かっていても、今は"人間族ではない"というだけで面倒事の対象になりかねないというわけだ。

 

え?じゃあなんでレミアとミュウは一緒なのかって?その訳は、二人が付けている指輪にある。

実はこれ、認識阻害用アーティファクトなのだ。これで二人と歩いても全く問題はない。

それに、二人とも大迷宮には入れないからせめて思い出作りだけでも、と思い連れ出したのだ。

尚、シア達にも後で埋め合わせはするつもりだ。

 

教会のお膝元である王都においては、奴隷の亜人族すら忌避されるくらいで、元々、人間族以外はほとんどいない。

まぁ、俺も監査した新しい教会では、奴隷制度に関して厳しく律することになるだろうからね。

そして今いない面子については以下の通りだ。

 

シア:クラスメイト女子達と恋バナ

ティオ:龍化による消費魔力充填のため睡眠中

香織・解放者ズ:見た目がただの人間ではないため、お留守番

愛ちゃん先生:リリィの手伝い(一応、俺も幾つか面倒そうなの片付けた筈なんだが……)

トシ:恵理とデート中

光輝達特訓組:浩介やメルドさん、クゼリーに頼んで修練中

 

とまぁ、そうこうしながらもホットドッグモドキを完食する頃、俺達は冒険者ギルド王都本部にたどり着いた。

フューレン支部ですら到底及ばない規模の歴史を感じさせる建築物だ。

その入口はオープンになっており、数多くの冒険者達が忙しそうに出入りしている。

王都侵攻に伴って依頼も爆発的に増えているのだろう。

 

俺達は、ギルド内に入ると10列以上ある巨大なカウンターへと赴いた。

冒険者でごった返していたが、流石、本部の受付というべきか素晴らしい手際で手続きをこなしていくので回転率が凄まじい。

とはいえだ、やはりブラック感が否めん。働き方改革も進めねば。

 

そして、受付が全員とても美人だった。ホルアド以上ではあったが、流石に3回目では動じない。

とても可愛い子もいたとしても、だ。だって娘や妻、嫁達の方が可愛いから。

そして受付にたどり着き、ステータスプレートを出しながら、ミュウをエリセンに送り届けた事を証明する書類(フューレンでコピーしてもらった)も取り出して提出した。

 

ハジメ「依頼の完了報告なんだけど、フューレン支部のイルワ支部長からの指名依頼でね。お願いできる?」

受付嬢「はい?……指名依頼……でございますか?すいません、少々お待ち下さい……。」

俺の言葉に、受付嬢が少し困惑したように首を傾げる。

ギルド支部長からの指名依頼など一介の冒険者にあることではないので当然の反応だ。

現に、俺の両隣りで手続きをしていた冒険者達がギョッとしたようにこちらを見ている。

 

受付嬢は、俺のステータスプレートを受け取り内容を見ると、澄まし顔を崩して冒険者達と同じようにギョッとした顔になった。

まぁ、現国王と同じ名前だしな。でもここはお忍び、ということで。

何度もステータスプレートと俺の顔を見比べる受付嬢に、俺は口に人差し指を当てて微笑みかける。

すると、その意図を察したのか、受付嬢もおちついたようだ。

 

受付嬢「申し訳ありませんが、応接室までお越しいただけますか?

お客様がギルドに訪れた際は、奥に通すようにと通達されておりまして……

直ぐにギルドマスターを呼んでまいります。」

ハジメ「わかった、でもこの後は大結界の修復に行く予定だから、出来るだけ早く、ね?」

受付嬢「は、はいっ!直ぐにギルドマスターを呼んでまいりますから、少々お待ち下さい!」

受付嬢は、それだけ言い残すと俺のステータスプレートと依頼完了の証明書を持ったままピューと音が鳴りそうな勢いでカウンターの奥へと消えていってしまった。

 

そんな彼女を、レミアと一緒にミュウをあやしながら待っていると、顎鬚をたっぷり生やした細目の老人が先程の受付嬢と共に現れた。

俺は、その老人を見て確信する。

絶対、「ふんぬぅあ!」とか雄叫びを上げて上半身の服を筋肉で弾き飛ばすシルバーマッチョの類であると。

その異様な覇気を纏った老人が案の定ギルドマスターらしく、登場した瞬間からギルド内がにわかにざわめきだした。

そして、ギルドマスターが俺に声をかけた時点で、騒ぎはギルド全体に広がった。

 

ギルドマスターの名はバルス・ラプタというらしい。……飛行石無くてよかったかもしれない。

まぁ、面倒事はなく、イルワさんから俺の事で連絡が来ていたので一目会っておきたかっただけらしい。

最近どこかの町に行く度に、何らかの事件に遭遇しているので今回は大丈夫だったか……

と思っていたんだけどなぁ……そうは問屋が卸さないようだ。

 

???「バルス殿、彼等を紹介してくれないか?

ギルドマスターが目を掛ける相手なら、是非、僕もお近づきになりたいしね?

特に、そちらの可憐なお嬢さん達には紳士として挨拶しておかないとね?」

そんなキザったらしいセリフと共に俺達の傍に寄って来たのは金髪のイケメンだった。

後ろに美女を4人も侍らしている。周囲の冒険者が彼を見てヒソヒソと囁きだした。

曰く、"金"ランクの冒険者でアベルというらしい。"閃刃"の二つ名で呼ばれているようだ。

 

バルスが、俺をアベルと同じ"金"ランクだと紹介すると、周囲のざわめきが一気に酷くなった。

正直面倒くさかったので、ユエ達を連れてさっさとギルドを出ようとした。

が、アベルとやらの興味は確実にユエ達女性陣に向いており、簡単に行かせるつもりはないようだ。

というか、雫が勇者パーティーの一人だと知らないのか?

そんなことを思う俺を尻目にアベルとやらは、見た目爽やかに笑いながら話しかけだした

 

アベル「ふ~ん、君が"金"ねぇ~。かなり若いみたいだけど……一体、どんな手を使ったんだい?

まともな方法じゃないんだろ?あぁ、まともじゃないんだから、こんなところで言えないか……

配慮が足りなくてすまないね?」

う~ん、まともかぁ……一応確認しておくか。

 

ハジメ「ウルの町で6万弱の魔物のソロ撃破&殲滅と、半日でフューレンの裏組織壊滅は

って、やっぱりまともじゃないよね?

他にも、アンカジの奇跡、だったっけ?それと、ホルアドで魔人族撃破……後何やったっけな?」

そう言って指折り数える俺の言葉に、何人かの冒険者が反応しだした。

 

冒険者A「ウルの町って……"魔王陛下"っていう伝説の冒険者か!?」

冒険者B「それって、ブルックの町の男共を軒並み気絶させた"無双覇王"と、同一視されているあの!?」

冒険者C「フューレンの裏組織壊滅ってことは……支部長お抱えの"金"か!?」

冒険者D「『魔王顕現』や『仮面ヒーロー』とか呼ばれているあの!?」

冒険者E「しかも、アンカジや"樹海事変"、【ライセン大峡谷】でも有名な奴じゃねぇか!?」

冒険者F「その上、帝国の皇帝も平気でボッコボコにしたっていう噂のアイツか!?」

冒険者G「間違いねぇ、金髪紅眼の少女に、エメラルドグリーン髪の幼女を連れていて、黒いコートに謎のアーティファクトが何よりの証拠だ…。」

 

『あの、"魔王ハジメ"だ!』

ハジメ「恥ずかしいのでやめてくれませんかねぇ!?」

意外にも過去のやらかしを指摘してくる冒険者が多すぎて、思わず顔が赤くなる。

 

レミア「あらあら、ハジメさんは大人気なんですね♪」

ミュウ「みゅ!パパはとってもすっごいの~!」

ハジメ「これは違うんだよ、二人とも!色々訳があってだね…」

ユエ「……本家ソウルシスターズという、ストーカーのようなファンもいる。」

ハジメ「ユエさん!?それは言わないお約束では!?」

雫「ハジメ君、あなた……。」

ハジメ「止めい!そんな同類を見るような眼をするな!俺ァ、そんな趣味はねぇ!」

益々カオスになってきた、というか俺のこれまでの偉業広まり過ぎだろォ!?

 

そしてそんな俺の偉業を聞いた金ランク(笑)のアべル一行は、その圧倒的な差に愕然としているのか、その場に立ちつくしていた。

さて、俺達の正体を知っているバルスも、顔を背けてプルプルと震えていることだし……

ネタ晴らしするか。

 

ハジメ「あ~実は俺「あらぁ~ん、そこにいるのはハジメさんとユエお姉様じゃないのぉ?」ッ!?」

不意に野太いのに乙女チックな声がかけられたかと思えば、正体不明の悪寒を感じた。

咄嗟にミュウを抱きしめ、恐る恐る振り向くと……クリスタベルに似た筋肉の塊がいた。

 

アベル「な、なんだ、この化け物は!?」

あっ、バカ!それは禁句だというのに!

???「だぁ~れがぁ、SAN値直葬間違いなしの名状し難い直視するのも忌避すべき化け物ですってぇ!?」

思わず叫んだアベルにカッ!と見開いた眼を向ける漢女。

劇画のような濃ゆい顔に二メートル近くある身長と全身を覆う筋肉の鎧。

なのに赤毛をツインテールにしていて可愛らしいリボンで纏めている挙句、服装がいわゆる浴衣ドレスだった。

フリルがたくさんついている。とってもヒラヒラしている。極太の足が見事に露出している。

 

アベル「ひっ、よ、寄るな!僕を誰だと思っている!"金"ランクの冒険者"閃刃"のアベルだぞ!

それ以上寄ったら、この場で切り捨てるぞ!」

???「まぁ、酷いわねん!初対面でいきなり化け物だの殺すだの……

同じ"金"でも店長やハジメさんとは随分と違うわぁ~。でも……顔は好みよん♡」

同じ"金"……そういえば、あの人も"金"だったなぁ……。

 

そしていつの間にか追い詰められているアベルくん。

彼女?はそこにいるだけなのだが、アベルくん的に見ているだけでSAN値がガリガリと削られているらしい。

まぁ、気持ちはわかるが……自業自得だ。初対面の女性?に化け物呼ばわりは戒律の一つだというのに。

思わず悲鳴を上げるアベルくんに呆れた表情を向ける彼女?だったが、そのルックスについては好みだったようで、ジリジリと近づいて行く。

獣のように眼をギラギラ光らせ、ペロリと舌舐りまでしながら。

 

アベル「来るなと言っているだろう!この化け物がぁ!」

アベルくんは得体の知れない恐怖に堪え切れず、遂に剣を抜いた。が、"未来予知"を使わなくともわかる。

漢女相手にそれは悪手だ。

残像すら発生させるスピードでアベルくんとの距離を一瞬で詰めた漢女は、片手でアベルの剣を弾き、そのまま組み付いたのだ。

 

いわゆるサバ折り体勢だ。某相撲ファイターを思い出す。

アベルくんの体からミシッメキッと音が響き、必死に逃れようとしている。

しかし、その程度では漢女からは逃げられない。

そして無謀にもジタバタともがいている内に、彼の悲劇タイムが始まってしまった。

 

???「ぬふふ、おイタをする子にはお仕置きよん♡」

アベル「よせぇ!やめっむぐぅう!?」

あっ……アベルくんがだんだんと干からびていっているように見える。

流石にあれはミュウの教育に悪いので、目と耳を塞いで情報をシャットアウトする。

 

そしてアベルくんがビクンッビクンッと痙攣し、しばらくしたあと、その手から剣がカランと音を立てて床に落ちた。

その様はまるで、一つの花が手折られたよう。

彼に侍っていた女達は、一斉に顔を青ざめさせて一目散にギルドから逃げようとした。

が、ただ睨んでくるだけで止めもしなかったので、オーロラカーテンで元の位置に戻し、バインドで拘束する。

 

後には、静寂に包まれるギルドと、ようやく解放されて床に崩折れるアベルくんの姿。

どう見ても、暴漢にあった被害者にしか見えない。

さて、折角だ。ここでもお仕事しよっか。そう思ってミュウをレミアに預け、俺は前に出る。

すると"金"ランク冒険者なだけはあるのか、アベルくんは残り僅かな意思を総動員し、キッと漢女を睨む。

……が、近寄る漢女に直ぐに萎えたのか、その視線を俺に向けた。

 

アベル「お、おい、お前!同じ"金"だろう!なら僕を助けろ!

どうせ、不正か何かで手に入れたんだろうが、僕が口添えしてやる!

お前如きがこの"閃刃"の役に立てるんだ!栄誉だろう!ほら、さっさとこの化け物をなんとかしろよ!

このグズが!」

……クズ山を彷彿とさせるほどのクズだな。はっきり言ってやんないとわかんねぇかな?

 

ハジメ「……バルス、もういいだろう。そろそろ私の仕事をやらせてもらうぞ。」

バルス「仰せの通りに。」

俺とバルスのやりとりに、アベルを始めとした冒険者達は疑問符を浮かべている。

が、そんなことは関係なしに、バルスが大声で話しだした。

 

バルス「控えおろう!この御方こそ、この度国王となられた、南雲ハジメ陛下であるぞ!

頭が高いわ、無礼者め!」

その言葉に冒険者ギルドは驚愕し、騒然となった。無理もないだろう。

何せ王様がお忍びで来ている上に、"金"ランクの冒険者だったことには驚きを隠せないだろう。

さて、そんな彼らを無視し、私は宣言する。

 

ハジメ「そういえば、アゲルだったか?貴様のさっきからの行動だが……

目に余るものが多いとは思わんかね?」

そう言って睨みつければ、アテルは委縮して目をそらし、女共は自分達にも非が及ぶのを恐れたのか、そそくさと離れようとしている。

 

ハジメ「この際だから言っておこう。私はな、このランク制度自体に制限を設けるべきだと思っている。

それは実力云々だけでなく、同じランクやそれ以外の冒険者に対する態度、生還率、学の広さ、その他諸々を加味する必要がある、ということだ。

分かるか?今の貴様達は、弱者にマウントをとって調子に乗っている餓鬼大将擬きの様なものなのだよ。

それこそが問題だと思っているのだ。故に、今までのように"金"だからで好き勝手出来ると思うなよ?」

俺の宣言に何人かが頷く。どうせこいつのことだ。今までも問題を何度か起こしていたのだろう。

 

抑々だ、こいつを"金"レベルというのであれば、この世界の程度の低さが知れているようなものだ。

富国強兵を進めるためには、今一度冒険者のランク制度自体の一新が必要になってくるだろう。

冒険者と騎士団の連携がうまくいけば、これまで以上に強い魔物や犯罪組織への対処が可能になる。

そのためにも、このような輩は徹底的に排除するべきなのだ。

と、私が今後の方針を考えていると、何故かユエが進み出た。

するとそれに勘違いしたのか、アセルとやらがほざきだした。

 

アベル「ああ、助けてくれる気かい?なら、今夜は君のために時間を……」

ユエ「……口を開くな。」

……あれ?ユエさんや……もしかして、お怒り?

そしてアケルの言葉を遮って、ユエは、仰向けた右手の掌に黒く渦巻く球体を出現させた。

 

ユエ「……生まれ直してこい"ピー"野郎。」

アベル「えっ?ちょっ!?やめっ、あ、あ、アッーーーーーーーー!!!」

この日、この世界からまた一人、男が消え去り漢女が産声を上げた。

 

満足気な表情で、男の象徴を圧殺してきたユエが俺の傍らに戻る。

周囲を見れば、男性冒険者が軒並み両手で股間を守りながら前屈みになって震えていた。

中には涙目になっている者もいる。見ているだけでダメージが入ったようだ。

 

冒険者H「お、おい、金髪紅眼の女の子と白髪黒コートの少年って……」

冒険者I「えっ?ま、まさか"股間スマッシャー"かっ!」

冒険者J「マジかよ……あの二人は"スマ・ラヴ"なのか……」

冒険者K「え?なんだよ、その恐ろしい二つ名。」

冒険者L「お前、知らないのか?数ヶ月前に彗星の如く現れた冒険者だよ。

"金髪紅眼の少女は薔薇の如く。その美貌に惑わされ、深みにはまれば待っているのは新世界。

彼女は美の女神にして息子殺しの魔王様"

"傍らには白髪黒コートの少年。理不尽の権化。奴に言葉は通じない。目を合わせるな。言葉を交わすな。

視界に入るな。まだ生きていたいなら"って、ブルックから流れてきた吟遊詩人が伝えたんだよ。

実際、フューレンやブルック、ホルアドでも息子を殺された奴や再起不能になるまでボコられた奴らが大勢いるらしいぜ?」

冒険者M「なにそれコワイ」

……そんなあだ名がつけられていたのか。まぁ、確かに何人かはスマッシュしたが。

 

大半は死なない程度にボコボコにしたんだけど……あまりにもしつこ過ぎた奴にはスマッシュしたっけな。

そして何故かそれを見たユエが、真似しだして止まらなくなったんだよなぁ……。

しかし吟遊詩人よ、なんつーことをひろめてくれてんのか。

そして周囲の冒険者達が、俺達を見て戦慄の表情を浮かべると共に、目を合わせたら殺られるぅ!と言わんばかりに股間を隠しながらジリジリと距離を取り始めた。

 

雫「貴方たち……一体、何していたのよ。」

ハジメ「向こうから襲ってきたから返り討ちにしてやった。後悔も反省もない。」

雫の呆れた視線に、目を明後日の方に向けて返す。ユエもどこ吹く風といった様子だ。

レミアは「あらあら、うふふ。」と微笑み、ミュウは「やっぱり二人とも強いの!」と無邪気に笑う。

すると、そこへ先程の漢女が声をかけてきた。

 

???「久しぶりねん?二人共、変わらないようで嬉しいわん。」

ハジメ「えっと……ごめん、どちらさま?クリスタベルさんの知り合い?」

ウインクする漢女に、警戒しながら尋ねる。実を言うと、漢女は少しトラウマなのだ。

改めて、近くでその異様を目の当たりにした雫とレミアも、普段の社交性は何処に行ったのか、思わず頬を引き攣らせながら、さりげなく俺を盾にするような位置に下がる。

ミュウは何故か俺の腕の中に戻っていった。……メンタルだけはミュウに敵わない、そう確信した。

 

???「あら、私としたことが挨拶もせずに……この姿じゃわからないわよねん?

以前、ユエお姉様に告白して、文字通り玉砕した男なのだけど……覚えているかしらん?」

ユエ「……あ。ホントに?」

どうやらユエに心当たりがあるらしく、驚いた表情で巨大な漢女を仰ぎ見た。

ユエが思い出したことに嬉しそうに笑う漢女。

 

自己紹介によれば、ブルックの町でユエに告白したがあっさり振られ、強硬手段に出たところで俺とユエに玉を一つずつ、見せしめとしてスマッシュされた元冒険者の男らしく、今は、クリスタベルの元で漢女の何たるかを学んでいるそうだ。

ちなみに、名前はマリアベル(クリスタベル命名)らしい。

 

マリアベル「あの時は、本当に愚かだったわん。ごめんなさいね?ハジメさん、ユエお姉様……。」

ハジメ「まぁ、うん。反省しているなら別にいいよ……。」

ユエ「……ん、立派になった。新しい人生、謳歌するといい。」

ユエ、頼むからあんま漢女を増やさんでおくれ。

スマッシュするなとは言わんが、それ以外の方法もやってくれ頼むから。

 

マリアベル「うふふ、二人ならそう言ってくれると思っていたわん。

そう言えば、最近、続々とクリスタベル店長の元に弟子入りを望む子達がやって来てるのよ。

確か、元"黒"ランクの冒険者や何とかっていう裏組織の子達やホルアドを拠点にしていた元傭兵の子達とか……あ!教会の司祭だったっていう子もいたわ!

それもあって、店長が店舗拡大を考えているのよねん。今日は、その下見に来たのよん。」

今何かとんでもないワードが……まぁいいか。旧教会の連中の末路なんざ、知ったこっちゃないね。

そこに逃げ込んだのが運のつきだ、精々第2の人生(漢女)を楽しんでいくがいいさ。

 

そして俺は知る由もなかった。

マリアベルは元々平均的な中肉中背の男だったらしく、それが僅か数ヶ月で急成長を遂げていたことを。

それを作ったクリスタベルさんの育成方法は、それ自体化け物レベルだということを。

比類なき巨大強力な漢女の軍団……敵にとっては悪夢だろうな。

運用する側もSAN値チェックが必要になるが……まぁ、そこは頑張ってほしい。

 

そんなことを思いながら、何故かマリアベルに気に入られたて盛大にハグを受け、顔を青ざめさせている雫を助けに行く俺であった。

そしてミュウ、頼むからお前までスマッシュを覚えんでくれ。パパ、心配だから。




ハジメ
「ここまで読んでいただき、ありがとうございます!
さて、今回の感想としてはやっぱり、"漢女、再び"かなぁ……。」
シア
「インパクト強かったですよね、クリスタベルさん……。
慣れた今でも、実はちょっと苦手ですぅ…。」
ハジメ
「気持ちは分かる。正直、俺も汗が顔面にびっしょり飛んできたら、その衝撃で白目向くかもしれん。」
シア
「なんか、とんでもない未来予知したような感想ですね!?」
ハジメ
「まぁね……それはともかく、今後の冒険者ランク制度は見直し必須だね。
色とかも、初心者は"桃色"で、国家からの表彰に当たる"金"は"白金"とか、数字に切り替えて、金=Sランクとかでもいいと思う。」
シア
「いいかもしれませんね!でもそれだと、ハジメさんはどうなるんですか?」
ハジメ
「色だと黒黄金か虹色かな?数字はZZZだと思う。」
シア
「成程!つまり最強ってことですね!」

次回予告
ハジメ
「さて、次回は大結界の修復に漸く取り掛かることが出来るよ。」
シア
「後、ランデル王子の失恋ストーリーもですよね!」
ハジメ
「そこは掘り返さないでおいてやってくれ、男の情けとして。」
シア
「?分かりましたです。そういえば、あとどれくらいで次の章になりますか?」
ハジメ
「そうだな……後2話+光輝の特訓と神代魔法獲得回入れてあと4話だな。」
シア
「4話ってことは後1ヶ月ですね!楽しみです!」
ハジメ
「今年の冬映画とギーツのVネクストも楽しみだな!どっちも待ちきれないな!」
シア
「はいです!それでは皆さん、次回もお楽しみに、ですぅ!」


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78.Kの政治/初恋、敗れて

ハジメ
「お待たせいたしました!それじゃあ、前回のあらすじ、ドーン!」
リリアーナ
「最高最善の魔王を目指す少年、南雲ハジメは、冒険者ギルドにて依頼達成を通達し、周りに傲慢な態度をとる金ランクを取り締まったのであった。」
ハジメ
「いや、まさかクリスタベルさんの影響力があそこまで凄いとはなぁ……敵だったら確かに怖いかも。」
リリアーナ
「彼女?達が王国民だったことが、不幸中の幸いでしたね……。
魔人族だったら、間違いなくハジメさん対策に前線に立たせていたでしょうし。
ハジメ
「それは流石に勘弁願いたいなぁ!?……さて、今回は結界修復とランデル君の失恋だ。」
リリアーナ
「アハハ……今もランデルは恋愛に関しては、茨の道まっしぐらですけどね……。」
ハジメ
「そもそも、ミュウと結婚したいなら、俺よりも強い最高最善の魔王にならないといけないんだけどね。」
リリアーナ
「させる気ないじゃないですか……あ、第6章第11話」
ハジメ・リリアーナ
「「それでは、どうぞ!」」


冒険者ギルドを後にした俺達は、雫の案内で大結界へと向かった。

案内されてやって来たその場所は、かなりの数の兵士によって厳重に警備されていた。

警備員達は近づく俺達に驚きの視線を向けた。しかし、傍らに雫がいるとわかると直ぐに目元を和らげる。

 

雫のお陰で殆ど顔パスで通った先には大理石の様な白い石で作られた空間があり、中央に紋様と魔法陣の描かれた円筒形のアーティファクトが安置されていた。

そのアーティファクトは本来なら全長2m程度あったのだろうが、今は半ばからへし折られて残骸が散乱している。

その周りには頭を抱えてうんうんと唸る複数の男女の姿があった。

恐らく、大結界修復にやって来た職人達なのだろう。

 

???「おや、雫殿ではありませんか。どうしてこちらに?」

その内の一人──

口髭をたっぷりと生やした、見るからに職人気質な60代位の男が雫を見つけるなり声をかけてきた。

どうやら雫とは顔見知りらしい。

 

雫「こんにちは、ウォルペンさん。私はただの案内兼護衛です。

大結界が修復できるかもしれない方をお連れしました。」

ウォルペン「なんですと?もしや……やはり新王陛下!?」

雫にウォルペンと呼ばれた男は、俺に視線を転じると途端に驚愕の眼差しを向けた。

事前に来訪を伝えられてない要人が来たとなれば、その反応もさもありなんと言えるだろう。

 

ハジメ「アンタは確か…筆頭錬成師のウォルペン、だったか。リリィから話は聞いている。

俺も同じ錬成師だから、この作業がどれだけ困難かはよーくわかっているさ。」

そう、大結界のアーティファクトは当然神代のアーティファクトであり、現代ではたとえ王宮の筆頭錬成師といえどもその修復は極めて困難だ。

その理由を教えるべく、俺はスタスタとウォルペン率いる職人達の間を通り抜けアーティファクトの残骸に手を当てる。

 

ハジメ「ふむふむ、成程なぁ……よく頑張ったものだ、お疲れさまとでも言っておくか。」

ウォルペン「お疲れ様……?ふん、新王陛下は随分と気楽なようで。」

いや、ただ労っただけでそんな風に思うか?まぁいいや、さっさと作業を済ませるか。

そう思った俺は、"錬成"を開始した。

 

紅と黄金のスパークが俺を中心に広がり、その手元にあるアーティファクトの残骸が次々と元の位置に融合されていく。

その錬成速度と精度に、ウォルペンのみならず彼の部下達が一斉に目を剥いた。

雫とレミアとミュウも、白い空間に舞い散る鮮やかな紅と黄金に目を奪われている様で、「綺麗……。」と呟いている。

 

ハジメ「素材は逢魔鉱石、いや、レジェンドキュービマテリアルも加えておくか。

結界も刃王剣やファンタジーの応用でやって……っと、これでいいか。」

僅か十数秒で神代のアーティファクトを改修し終えた俺は、序に魔力を注ぎ込み大結界を発動させてみた。

円筒形のアーティファクトは、その天辺から光の粒子を天へと登らせていく。

直後、外で警備をしていた兵の一人が部屋に駆け込んできて、第三障壁が復活し、更に障壁が倍の数に増した事を告げた。

 

ウォルペン「……なんという事だ……神代のアーティファクトをこうもあっさりと……。」

呆然とするウォルペンに雫が苦笑いしながら例の黒刀も俺の作品だと告げる。

瞬間、彼等の眼がギラリと獣の様に輝いた。

なんか面倒ごとっぽい感じがしたので、作業終了と言わんばかりに身を翻そうと歩き出す。

 

ウォルペン「待って下されぇーー!!弟子に!是非、我等を弟子にして下されぇーー!!」

ハジメ「だが、断る。」

ウォルペン足にしがみついて弟子入りを懇願しようとする。

が、そんな彼が飛びついてくることなどお見通しだったので、障壁を張って拒絶する。

更に、次々とウォルペンの部下の錬成師達が逃がしてなるものかと飛びかかろうとするが、結果は同じだ。

というか、そもそもこの中に武闘派でもいない限り無理に決まっているだろう。

 

ハジメ「あのさぁ……俺この後めっちゃ忙しいんだよ。だからそう言うのは後にしてくれる?

大体、弟子にしても教えられることなんて何もないんだよ。」

ウォルペン「ですが、アーティファクトをあっさり修復し、雫殿の黒刀まで手がけたと。

我等にはどうやったらそんな事が出来るのか皆目見当も付きませんぞ。それを教えていただければ……。」

ハジメ「無理だね。

オルクスの奈落で"生成魔法"を手に入れた上で、全ライダーの歴史を継承しないといけないし。

それか邪神狩りでも始めたら?適当に狩っていればこれくらいは簡単に身につくでしょ。」

ウォルペン「そんな……。」

 

俺の言葉にガクリと肩を落とすウォルペン達。

実際大結界のアーティファクトには生成魔法により空間魔法が付与されており、王都の結界は特殊な空間遮断型の障壁だったのだ。

普通の錬成師には修復出来ないわけだ。

まぁ、空間魔法は鉱石に付与されているので、地道に復元していけば、完全とは言えないまでもある程度の修理はできるかもしれなかったけど。

 

ウォルペン「それでも、貴殿の錬成技能が卓越していることに変わりはない!是非、弟子にぃー!!」

ハジメ「くどい!」

それでもしつこいので、思わず強い口調で否定し、威圧で職人たちを吹っ飛ばしてしまう。

 

ハジメ「あっ…ごめん、つい。」

一瞬で正気に戻り、周りを見れば……困った顔で「あらあら、うふふ。」と笑うレミア、ミュウの目と耳を塞いで教育を守るユエ、頭を抱える雫、そして死屍累々(死んではいないがぶっ倒れている)の職人たちだけであった。

やっちまったと思いつつも、俺はユエ達を連れてその場を後にした。

 

が、噂を聞きつけたのか、現場にいなかった職人達まで集まりだし、少しでも俺から技術を取り入れようと群がってきた。

なので衛兵を動員し、群がってきた全員に減給を叩きつけた。

後、俺の情報を職人たちに提供した、旧政権の貴族はO☆HA☆NA☆SHIしてやった。

 

そして騒ぎを収めて王宮に戻った俺は、玉座の間にも執務室にも戻らず、王宮に関わる人員なら自由に出入り出来るテラスルームで、ユエ、ミュウ、レミア、雫と共にティータイムと洒落込んでいた。

シアはまだ女子達と恋バナで盛り上がっており、ミレディ達も久しぶりに解放者トークを楽しんでいるようだ。

ティオは未だに睡眠中だったので、安眠用グッズを置いてきた。

 

ユエは俺のカップが空になった事を確認すると、即座に次のお茶を注ぐ。

レミアは俺がメイドに頼んだお茶請けをミュウの口に運び、ミュウはそれをモシャモシャと頬をリスのよう膨らませながら頬張っている。

そして当の俺は、分身と同期しながら各地の視察に赴いている。

休憩中じゃないのかって?お茶はユエが、お茶請けはレミアが口に運んでくれるから大丈夫。

そんな俺達の様子に「私はそろそろお暇しようかしら?」と思っているのか、雫が頬をヒクつかせていると、突然俺達のいる部屋の扉がノックもされずにバンッ!と音を立てて開け放たれた。

 

何事かとそちらに視線を向けた俺達の目に映ったのは、10歳程度の金髪碧眼の美少年がキッ!と俺を睨む姿だった。

しかも、両隣にユエとレミア、膝の上にミュウがいる事が気に食わないのか、一瞬ユエを見た後更に目を吊り上げ、怒りを倍増しで滾らせた様だ。

 

???「お前か!香織をあんな目に遭わせた下衆はっ!

し、しかも、香織というものがありながら、そ、その様な……許さん、絶対に許さんぞ!」

はて、こいつは誰だったか。そんなことを思っていると、当の少年は拳を握り締め「うぉおおおお!」と雄叫びをあげながら勢いよくこちらに向かって駆け出した。

殴る気満々のようだが……

 

何に怒っているのかがさっぱり分からん上に、愛娘とのティータイムを邪魔するのはどうかと思うけどなぁ。

そんなふうに思いながら、相手が面倒になったので、オーロラカーテンで城内の噴水に移動させた。

相手からすれば突然景色が変わったかと思えば、ずぶ濡れになるなんて不思議としか言えないだろうけど……どうでもいいか、と思っていたその時。

 

「で、殿下ぁ~!貴様ぁ~、よくも殿下ぉ~!」

「叩き斬ってやる!」

「覚悟しろぉ!」

今度はさっきの少年が開け放った扉から、彼を追いかけて来たらしい老人や護衛と思われる男達がいきり立ってこちらに飛びかかった。

 

先程の言動からして、彼は元王子か何かかな?そしてこいつらは恐らく旧王家の支持者……

というより、少年個人を支持する者達なのだろう。つまりは"不穏分子"か。なら遠慮はいらない。

そう思った俺は、またもやオーロラカーテンで彼等を飛ばした。

座標はエリセンの近海だ。鎧だの法衣だので着飾っていてはまともに動けんだろうが。

流石に死んだら後任考えるのが面倒なので、取り敢えずサルゼさんに連絡しておく。

 

そして静寂が戻った事を認識し、再びティータイムにしようと思っていたら、ドタドタという足音が聞こえてきた。

面倒な気配を察知して未来予知を使ってみれば、少年がまたこっちに向かってくるではないか。

2回目は面倒な上に、ずぶ濡れのままでは不快なので、姿が見えた途端に重力魔法で適当に空中で転がす。

 

雫が何か言いたそうにしていたが、ユエがミュウに飛びつくように命じて封じた。

そしてミュウがこの光景を食い入るように見ていたので、慌ててレミアがインターセプトした。

メイル見たくドSにならないようにしなければ、そう思って魔法を解除した。序に傷も治しといた。

そして漸く思い出した。リリィに弟がいて、この少年が件の弟であったことを。

 

確か名前は……エンゲ「ランデル王子よ。」あぁ、それだ。

雫の指摘のおかげで何とか思い出していると、突如室内にシクシクとすすり泣く声が聞こえ始めた。

ランデル君はまるで暴漢に襲われた女の子の様に両足を揃えてしなだれながら、床に顔を埋めてシクシクと泣き声を上げていた。

どうやら、俺の容赦ない迎撃に心が折れてしまったらしい。

床にある水溜まりは、ズボンを濡らした涙だと信じたい。

 

と、そこへタイミングよくリリィがやって来た。

やり過ぎだと叱る雫、俺の膝の上で平然と茶請けをもきゅもきゅと食べているユエとミュウ、その様子を「あらあら、うふふ。」と微笑ましそうに見て現実逃避するレミア、そして雫の注意を聞き流しながら紅茶に口をつける俺に、泣き崩れるランデル君。

リリィは、それらを見て状況を把握したのか片手で目元を覆うと天を仰いだ。

 

リリアーナ「遅かったみたいですね……。」

ハジメ「すまんね、リリィ。君の弟とはいえ、ティータイムを邪魔されたのでつい、ね?

取り敢えず、何でこうなったか知っていたら教えてくれないかな?」

リリィは「はい……。」と返事しながら、それはもう深い溜息をつきながらランデルを助け起こした。

 

話を聞くと、どうやらランデル君が突撃に至ったのは、香織の事が原因のようだ。

雫の補足によると、彼は香織に相当お熱だったそうで、それはまぁ何とも難儀な……と思ってしまった。

何せ香織の気持ちには前々から気付いていた俺からすれば、それは玉砕宣言の様なものだからだ。

そんなこととはつゆ知らず、以前とは変わり果てた香織に愕然としたランデル君は、どうしてそんな事になったのかと理由を問い詰めたらしい。

 

その結果、どうやら"ハジメくん"とやら、つまり俺が原因らしいと理解し、更にその香織が正に恋する乙女の表情で俺の事を語る事から、彼は真の敵が誰なのかを漸く悟ったようだ。

そして、「香織に元の体を捨てさせる様な奴は碌な奴じゃない!」と決めつけて突撃した先で、心から香織に想われておきながら他の女に囲まれている俺を目撃し、怒髪天を衝くという状態になったそうだ。

 

彼としては、まさに魔王に囚われたお姫様を助け出す意気込みで俺に挑んだわけだが……この始末☆だ。

殴るどころか近づく事すら出来ずに片手間で弄ばれて、情けないやら悔しいやら、遂にポロリと涙が出てしまったようだ。

リリィに抱き起こされ、つい「姉上ぇ~」と抱きついたランデル君。

その様を見て、公爵家の将来を不安に思う俺であった。そして何故か、雫から呆れの視線が突き刺さる。

だが、ランデル君にとって不幸はまだ終わっていない様だった。

彼がリリィの胸元に顔を埋めて泣きついた直後、香織が部屋にやって来たのである。

 

香織「あっ。ランデル殿下、それにリリィも。……って、殿下どうしたんですか!?そんなに泣いて!」

ランデル「か、香織!?いや、こ、これは……決して姉上に泣きついていた訳では……。

リリアーナからバッと離れて必死に弁解するランデル。

好きな女の前で、姉に泣きついて慰めてもらっていたなど男の子として口が裂けても言えない。

しかし香織は、ランデルが泣いている状況と俺の存在、雫とリリアーナの表情で大体の事情を察し、久しぶりに爆弾を落としていく。

 

香織「もう……ハジメくんでしょ?殿下を泣かしたの。年下の子イジメちゃだめだよ。」

ハジメ「その言い方もどうかと思うけど、こっちはちょっと遊んでやっただけだ。いじめじゃない。」

自分は真剣だったのに、俺からすれば撃退ですらなかった事にランデル君はショックを受けている。

でも実際、何とでもなったしなぁ。

 

しかし何よりダメージが深かったのは、自分が被害者側だと当然の様に判断された事のようだ。

胸を抑えて「ぐっ!」と呻くランデル君。

香織「もう!……ちゃんと"手加減"してあげたの?殿下はまだ"子供"なんだよ?」

好いた女から子供扱いされた挙句、手加減を前提にされる屈辱にランデル君が「はぅ!」と更に強く胸を抑えた。

 

ハジメ「重力魔法で浮かせて押しただけだ。赤くなっていたところもちゃんと治してあげたよ?」

香織「でもリリィに"泣きついて"いるじゃない……

それにほら額が赤くなってる。折角"可愛らしい顔"なのに……

殿下はちょっと"思い込みが激しくて"、"暴走しがち"だけど根は"いい子"だから、出来ればきちんと"相手をしてあげて"欲しいな……。」

 

自分がリリィに泣きついていた事をばっちり認識され、男なのに可愛いと評価された挙句、姉からもよく注意される欠点を次々と指摘され、更に追加の子供扱い。

ランデル君は遂にガクッと両膝を折って四つん這い状態に崩れ落ちた。

 

リリィとレミアは「あらら。」「あらあら。」と困った笑みを浮かべているが、雫は「もう止めてあげてぇ、殿下の心のライフは既にゼロよっ!」と内心で悲痛そうな声を上げていた。

そしてユエは我関せずの態度で、ミュウにお茶請けを頬張らせている。

しかし、香織は追撃の手を緩めない。崩れ落ちたランデル君を心配して駆け寄り身を案じる声をかけた。

 

香織「殿下、大丈夫ですか?やっぱり打ち所が悪かったんじゃ……。」

ランデル「……いや、怪我は無い。それより、香織……香織は、余の事をどう思っているのだ……。」

満身創痍のランデル君は、思い切って香織の気持ちを聞く。……何故自分から傷つきに行くのだろうか。

そんな憐れむ目で彼を見ても、結末は変わらなかった。

 

香織「殿下の事ですか?そうですね……時々、リリィが羨ましくなりますね。

私も、殿下みたいなヤンチャな弟が欲しいなぁ~って。」

ランデル「ぐふっ…お、弟……。」

……うん、まぁ、当然のコメントだと思うよ。俺も近所の弟分兼ガキ大将みたいな感覚で接していたから。

 

そして笑顔で落とされた爆弾によって、ランデル君に追加ダメージ。

雫が「何故自ら傷口に塩を塗るような真似をっ!」と泣きそうな顔になりながら、ランデル君に視線でもう止めるように訴える。

が、そこは男のプライドが許さないのか、彼は立ち止まらなかった。そう、進んでしまったのだ。

 

ランデル「では……あんな奴がいいというのか?あいつの何処がいいというのだ!」

そう言ってランデル君は俺を睨むが、俺の手はティータイムを止めない。

というか、ここまでくるともうさっさと玉砕してくれた方がいいのでは、と思い始めてきた。

 

そんな風に思っている俺をキッ!と睨みながら、言外に「目を覚ませ香織!余の方がいいに決まっている!」とランデル君は訴える。

が、香織の反応は分かりきったもので……

 

香織「え?な、何ですか殿下、いきなり……もう~、恥ずかしいですね。でも……ふふ、そうですよ。

あの人が私の大好きな人ですよ。何処がって言われたら全部、としか……ふふ。」

と、ランデル君に見事に止めを刺した。

 

再び俯いたランデル君は四つん這いのままプルプルと震えだす。

それを心配して香織が手で背中をさすりながら声を掛けるが、ランデル君はガバッ!と勢いよく起き上がると香織の手を跳ね除けて入口へと猛ダッシュした。

そして一度、扉のところで振り返ると、

 

ランデル「お前等なんか大っ嫌いだぁぁああああああ!!!」

と、大声で叫び走り去ってしまった。去り際に、彼の目尻がキラリと光ったのは気のせいではないだろう。遠くから「うぁああああああん!!」という泣き声か雄叫びかわからない絶叫が聞こえる。

 

ハジメ「……リリィ、彼には恋の駆け引きについて、講義を受けた方がいいんじゃないか?

あれじゃあ、彼の将来が心配だ。」

雫「ひ、他人事みたいに……貴方が泣かしたんでしょうが。」

ハジメ「止めを刺したのは香織だけど?」

雫「くっ、反論出来ない……。」

 

ランデル君が初恋を桜の花びらの如く散らせた後に駆けていったのを眺めながら、俺が呟き雫がツッコミを入れる。

香織は、一体ランデルはどうしたのかと追いかけようとしたが、それはリリィが止めた。

リリィは、遅かれ早かれランデル君の初恋は散ると分かっていたようなので、今夜は一緒に寝て弟を慰めるつもりだろう。

まぁ、彼はいずれ、この国の(俺の代理統治という実質の傀儡政権とはいえ)代表になる人間なのだ。

失恋の一つや二ついい経験だろうと肩を竦めていた。

 

リリィは開けっ放しの扉をしっかり閉めると、香織を伴って俺達の方へ歩み寄って行く。

どうやらランデル君を追いかけて来ただけでなく、俺達に話もあった様だ。

リリィは雫の隣の席に腰掛け、香織はユエを退けて俺の隣に座ろうとして……

ユエとプロレスで言うところの"手四つ"状態でギリギリと組み合っていた。

二人ともパワー自体は前から拮抗していたので、使徒の肉体で強化された香織は寧ろ押している様だ。

 

雫「香織……貴女、こんなに逞しくなって……。」

リリアーナ「いえ、雫。感心していないで止めましょうよ。」

どこか寂しげな表情でズレた発言をする雫に、リリィがツッコミを入れる。

というか、このままだとリリィの話が聞けないので、ユエをもう片方の膝に乗せ、空いた隣に香織を座らせた。

ハジメ「二人とも、ポジションでケンカしないの。ごめんねリリィ、話をお願い。」

溜息を吐きつつ二人を促すと、リリィは「コホン。」と咳払いして口を開いた。

 

リリアーナ「話と言うのはですね、ハジメさんが伝えたこの世界の真実についての国民の認識把握調査の事なのですが……

存外、正確に伝わっている様です。

やはり、"元"教皇イシュタルを始めとした、神山含む全主要都市の司教以上の階級者達を、一斉に拘束及び粛清したことで、事の重大さが伝わったのでしょう。」

 

ハジメ「そう。

保身目当てに自首してきた教会関係者の対応、報酬目当てで無実の者を貶めようとした馬鹿共の確認、それとこの前言った人物達は既に保護下に?」

リリアーナ「そうですね……

まず、出頭した方達には、踏み絵と信仰破棄の宣誓・署名を行った後に、隔離・面接・選別・判決といった順に進めています。

ハジメさんが設置したアーティファクトのおかげで、後から"やっぱり信仰する"等とは言えなくなっているので、全員こちらの命令に従順になっています。」

 

リリィが言った俺のアーティファクト――"真実の鏡(Mirage Of Truth)"。

これには、魂魄魔法と電王・ゴースト・クイズ・リバイスの力が備わっており、一度宣言したことは契約としてみなされ、たとえその場凌ぎで鞍替えしただけでも、後からそれを無かったことにはできなくなるのだ。

 

万が一、無理矢理なかったことにしようとすれば、契約の代償として魔物に貪り食われる幻覚を死ぬまでかけられ続けるので、実質命を握られているようなものだ。

実際、何人かがそれを試みようとした結果、地獄を見たことで、他の者達にもその危険性が伝わったようだ。

 

リリアーナ「濡れ衣を着せる様な方は今のところゼロです。

流石にハジメさん相手に嘘をつけば、以前壊滅させられた裏組織のようになることは明白なので、誰も逆らわないでしょうけど……。

それと、シモン司祭と一族の方々には、既に衛兵たちが護衛に回っております。

国王命令の証明書もあるので、勘違いする方はいないようです。

それにしても……見事な采配ですね。

これなら以前言っていた、万が一エヒトが攻めてきた時の対策にもなりそうです。」

ハジメ「ふふっ、リリィのアシストもあってこその結果だよ。それにまだ、問題は山積みさ。」

澄ました表情で報告するリリィに、そう返す。

すると、雫が「対策って何の事?」と首を傾げて説明を求める。

 

ハジメ「神っつーのはよぉ~、信仰がエネルギーになる分、それに比重を置きやすくなるもんだ。

それも歴史が古けりゃ古い程、それは強固になる。」

雫「あぁ、成程。この世界はエヒトの一神教だから……。」

ハジメ「Exactly!特にこのハイリヒ王国は、最も信者が多かった。

それが現在、俺の政策で信仰を捨て去るか、その場で死ぬかの2択を迫られている。

まぁ、大半が前者だとは思うが。そうなればどうなる?

最も多かった信者が国ごと離れることになって、奴の力は激減する。

それに、アンカジやエリセンでも、フューレンを通じて教会関係者への対応が進んでいるから、後は帝国での信仰を削げば、奴は丸裸も同然って寸法さ。」

 

それに、アンカジは既に教会とは決別済みであり、それもあってスムーズに教会関係者を選別している。

エリセンでは、出生率管理制度の撤廃、海産物貿易の拡大について、現在交渉を進めている。

まぁ、それでも根強い教会関係者は既に町の男たちによってボッコボコにされているようだが。

 

雫「なんていうか……前からとんでもない位の行動力を発揮するわよね。」

ハジメ「これでも先々を見越して動いているつもりなんだけどねぇ?

まぁ確かに大体は思いつきだし、脳筋っぽいけど……それも計算に入れてはいるんだよ?」

雫「ふふ、別に脳筋だなんて思ってないわよ。

頼りになるって言ってるの、褒め言葉として受け取っておいて。」

 

……やれやれ、これで素直だったら俺も嬉しいんだが……

光輝のこともあるからか、少し無理してる感があるな。今度何か埋め合わせしてあげなきゃな。

そんな風に雫を気遣う俺の様子に、ユエ達は気づいているような感じがした。




ハジメ
「ここまで読んでいただき、ありがとうございました!
さて、今回の感想はこれだな。"泣くな、ランデル"。」
ティオ
「いや、ご主人様が泣かせたんじゃろ?止めを刺したのは香織じゃが、それ以前に大人げ無さ過ぎぬか?」
ハジメ
「何を言っているのさ。貴族はプラナリア並みに強くなきゃあ、この先上手く生きていけないよ?」
ティオ
「何処のドS補佐官じゃ!?いや、それが出来るのはご主人様くらいじゃろ!」
ハジメ
「俺だって折れたい時もある。それでも強くいられるのは、皆がいるからだよ。」
ティオ
「いいこと言っておるつもりじゃが、どちらにしろご主人様じゃなきゃ無理じゃろ。」
ハジメ
「……さぁ~て、次回予告だ。」
ティオ
「誤魔化しおったな。」

次回予告
ハジメ
「次回は愛子の気持ちを受け止める回でもあり、これで原作第6巻の話はお終いだ。」
ティオ
「その次の回からは、おりじなる展開?じゃったかの。それが2つほど、と言っておったか。」
ハジメ
「あぁ、取り敢えずこの辺でメタは置いておくとして……
今回説明できていなかったけど、シモンおじいちゃんとも会談はしているよ。」
ティオ
「うむ、確かご主人様がリリィ経由で面会したのじゃったな。そして、ナイズの子孫じゃったのぅ。」
ハジメ
「そう、ナイズとスーシャの面影が二人にもあったからねぇ……
時代を超えて受け継がれるって素晴らしいね!」
ティオ
「そうじゃな……フットワークが軽すぎるのが玉に瑕じゃが。」
ハジメ
「それでも裏を返せば、親しみやすくていいってことだよ。
あ、でも仕事はちゃんとやってもらいたいね。」
ティオ
「じゃな。それでは、今回はここまでじゃ。また次回、よろしくのぅ。」


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79.心に秘めるラブアンドピース

ハジメ
「お待たせいたしました!早速前回のあらすじ、行ってみよう!」
愛子
「最高最善の魔王を目指す少年、南雲ハジメは、王都の大結界を見事に修復し、旧教会勢力の対処を迅速に進めていったのであった。」
ハジメ
「漸く次の大迷宮へ行くための準備が出来そうだよ。いや~、結構溜まっていたなぁ……。」
愛子
「ハジメ君、あまり根を詰め過ぎてはいけませんよ。
幾らハジメ君が凄くても、過労で倒れてしまったら元も子もありませんからね?」
ハジメ
「分かっているよ。さて、今回は愛子の気持ちについて、クローズアップしていくよ~。」
愛子
「うぅ……い、今でも思い出すと少し恥ずかしいです……。」
ハジメ
「そんな可愛い愛子だから、皆女神様扱いするんじゃないかなぁ?」
愛子
「か、可愛いって!もう、ハジメ君ったら!///そ、それじゃあ第6章第12話」
ハジメ・愛子
「「それでは、どうぞ!」」


夕方。

茜色の空が広がり人影が大きく薄く伸びる頃、王宮の西北側にある山脈の岸壁を利用して作られた巨大な石碑の前に人影が佇んでいた。

 

愛子「ごめんなさい……。」

そう呟く人影の正体は愛子だ。

忠霊塔前には、今回の騒動で亡くなった人々──

ハジメの改革に反発した結果、下された重い罰に耐え切れず死んだ貴族達等の遺品や献花が置かれている。

 

そんな遺品の中には、愛子にとって見覚えのある槍がそっと置かれていた。

それは、処刑されたことになっている愛子の生徒──檜山大介のアーティファクトである。

本来彼は国逆の大罪人としてイシュタルや司祭達と共に、ハジメが王都の外れに作った虚無の大穴(デッドホール)に埋葬される予定だった。

 

が、そこは流石にハジメも配慮したのか、檜山の肉体自体は王都の牢獄に氷漬けにされており、捨てられたのは四肢だけだ。

そして眼魂も、堅牢な箱に入れられ、「パンドラボックス(笑)」として、石碑の横に飾られているのだ。

だが彼が使っていた武具に関しては、元々国庫で保管されていたアーティファクト──

つまり国宝に等しい物であった為、リリアーナの嘆願により修復され特例として忠霊塔に置く事を許されたのだ。

 

愛子がポツリとこぼした懺悔の言葉は、一体何に対するものなのか。

檜山を五体満足で日本に連れて帰る事が出来なくなった事か、それとも自分の生徒達が起こした事で(蘇ったとはいえ)多くの人々が亡くなった事に対してか、或いは……。

 

愛子が悄然とした雰囲気で俯きながら何かを堪える様に立ち尽くしていると、「ザッ、ザッ」と足音が響いた。

やけに響くそれは、恐らく自分の存在を知らせる為に態と鳴らしたものだろう。

普段の彼は、そんな雑音を立てたりはしないのだから。

愛子がハッとした様に俯いていた顔を上げ、視線をそちらへ向けた。

 

愛子「ハジメ君……。」

ハジメ「ここにいたんだ、先生。」

愛子の視線の先にいたのはハジメだ。

夕日に照らされながらも、それを上回る様に輝く瞳を真っ直ぐ愛子に向けている。

その手には花が一輪、見るからに献花しに来たと分かる。その事に愛子は少し意外そうな表情をした。

ハジメは愛子の表情から何を考えているのか察し、苦笑いしながら献花台にパサリと花を置いた。

 

ハジメ「俺にだって、死者を悼む気持ちはあるよ?」

愛子「え?あっ、いや、そんな、私は別に……。」

如何にも心外そうな声音で愛子に話しかけたハジメに、愛子は動揺した様に手をワタワタと動かして誤魔化す。

ハジメは冗談だとでも言う様に肩を竦めると、無言で愛子の傍らに佇んだ。

愛子はチラチラとハジメを見るが、巨大な石碑を見上げるハジメは愛子の事を特に気にした様子も無く、話をする気配も無い。

無言の空間に何となく焦りを覚えて、愛子は仕方なく自分から話しかけた。

 

愛子「え~と、そのお花は……。」

ハジメ「今回の改革で締め上げ過ぎた貴族の人達にね。"やり過ぎてごめん。"って意味を込めて。」

愛子「……そう、ですか……。」

ハジメの言葉に、愛子はどこか優しげな表情になった。

敵とあらば容赦無く殺意を向ける印象のハジメだが、それでも人の死を悼む気持ちがちゃんとある事に愛子は嬉しくなったのだ。

態々お供えまで持参して来た事に自然と頬が緩む。

 

ハジメ「……責めないんですか?」

愛子「え?」

突然のハジメの言葉に、愛子は首を傾げる。

 

ハジメ「今回の事全部です。

俺自身、本当は嫌な予感がしつつも、ミュウやレミアのことを優先して、先生達をほったらかしにしていたんですよ?

……そして他のクラスメイトという餌を使い、クズ共をおびき出した。

結果的に助かったとはいえ、クラスメイトを政治の道具として利用したんだ。

先生なら説教の一つや二つぶつけてくるかなって思ったんだけど……。」

愛子「……。」

 

愛子は微笑みを消して、再び俯いてしまった。

ハジメは無言だ。返答を促す事はしない。

どれ位無言の時間が続いたのか……やがて、愛子がポツリポツリと言葉を溢す様に話し出した。

 

愛子「……正直、そう簡単には割り切れません。

檜山君が白崎さん達を殺そうとした事は許される事ではないけれど、出来る事なら無事に生きて罪を償って欲しかったという想いがあります。

ハジメ君も、事前に分かっていたなら未然に止めてほしかったと思っています。

……でも私には、ハジメ君を責める資格はありませんから。」

愛子は、両腕を組む様にして肩を震わせる。

 

ハジメ「……総本山での件は、俺に非がある。俺がうかつだったせいで、二人を危険に晒したんだから。

それに、まだ何か抱えているんじゃないの?偶には生徒を頼って、弱さをさらけ出してもいいんだよ?」

愛子「……。」

無言の肯定。

よく見れば目の下には化粧で隠しているが隈が出来ており、ここ数日眠れていない事が明らかだった。

もしかすると、悪夢でも見ているのかもしれない。

 

再び降りる静寂。

ハジメは何を言うでもなく無言のままだ。

場の空気に居た堪れなくなったのか、愛子が覇気のない声音でハジメに尋ねる。

 

愛子「……ハジメ君は……辛くないですか?」

ハジメ「人を殺す事?それがただの敵であるなら、何も思わないよ。

相手に何か思い留まらせるものがあれば別だけど……

それ以外で、俺の大切に手を出す奴に容赦なんて一切ないね。

それに殺したことを辛いと思うのは、我儘だと思うんだ。

それでも、目を背けずに向き合い続けて、背負い続けることこそが、俺の平和への覚悟だから。」

愛子「……。」

 

ハジメの言葉に、愛子が辛そうに顔を歪める。

その言葉には、国を纏める王としての確かな信念を覚悟が籠っていたのだから。

しかしその真っ直ぐな瞳は、愛子を更に締め上げる要因となった。

 

愛子「……誰も……責めないんです。」

愛子が、堪りかねた様に言葉を漏らした。

愛子「誰も、私を責めないんです。

クラスの子達の私を見る目は変わらないし、王国の人々からは、称賛じみた眼差しさえ向けられます。」

それは事実だった。

クラスメイト達はハジメの凄惨な政策の印象が強すぎて、愛子がそれを許容したという事に気づかず、寧ろ愛子は自分達の為に矢面に立って戦ってくれたという印象を抱いているし、王国の貴族や役人達は洗脳を解いてくれたと感謝している位だ。

 

愛子「デビッドさん達にも全て話しましたが、彼等でさえ『少し考えさせて欲しい』とその場を離れるだけで直ぐに責める様な事はしませんでした。

私は、彼等の大切なものを見殺しにしたというのにっ!」

噛み締めた唇から血が滴り落ちた。

 

愛子は、責めて欲しかったのだろう。人を殺すという行為は……重い。

狂人や性根の腐った者、或いは覚悟を決めたり割り切ったりした者でもない限り、普通は罪悪感や倫理観という名の刃によって己の精神をも傷つけるものだ。

そういう者にとって、責められる、罰を与えられるというのは、ある意味救いでもある。

愛子自身も、無意識にそれを求めたのだろう。しかし、それは与えられなかった。

 

ハジメ「責められて変わる、なんていうのは我儘ですよ。」

愛子「我儘……?」

そんな愛子を見て、ハジメは些か不思議な返答をした。疑問符の浮かぶ愛子にハジメはそのまま続ける。

 

ハジメ「今回直接手を下したのは全部俺だよ。

それに仲間達は罰を承知の上でついてきてくれた、リリィにメルドさん、先生だってそう。

でも、それで何かを背負うのであれば、それは俺だけだよ。

他の誰にも、背負わせるつもりはないさ。でもそうだね……先生が出来る贖罪があるとすれば……

"これからも先生であり続ける"ことだと思います。」

愛子「先生であり続ける、ですか?」

顔色も悪く今にも崩折れそうな愛子は、ハジメの口から飛び出した言葉に困惑するような表情となった。

 

ハジメ「ああ、それが先生への、"罰"だよ。」

そんな愛子に、ハジメは頷きながら石碑に向けていた視線を外して体ごと愛子の方を向き真っ直ぐに視線を合わせた。

自分を見つめるハジメの瞳に、どこか包み込むような温かさが宿っている気がして、愛子はまるで吸い寄せられるように見つめ返す。

ハジメは、愛子の瞳に自分がしっかり映っていることを確認すると、ゆっくりと言葉を紡ぐ。

 

ハジメ「正しく戦い、正しく背負って、正しく苦悩し、正しく弱音を吐く。

王としてはそうあるべきなんだけど、そうすることが出来ないことだってある。

そんな時程、それがとても人間らしくて、少し眩しく見えるんだ。

だから……俺が"人間らしさ"を忘れない良い見本になってほしいんだ。

俺はそんな人間らしい先生をしっかり見ているからさ。そうすれば俺も、人でいられる。

そんな気がするんだ。」

愛子「ハジメ君……。」

 

ハジメの言葉に、愛子が目を大きく見開く。

まさか、責めるでも慰めるでもなく、これからも苦悩の中で"先生"としていてくれと言われるとは夢にも思わなかったのだろう。

だが、愛子の心は、その我が儘で、ある意味、追討ちを掛けるような言葉にまるで暗雲を払われるような衝撃を覚えた。

 

自分のした決意と行動の結果を受け止めることは大変なことだ。ましてそれが痛みを伴うものなら尚更。

逃げてしまいたくなるし、折れてしまいそうになる。

生来の性格が、あるいは決意と覚悟がそれを許さないから余計に苦しい。

だが、そんな自分を見て、助けになるという人がいる。大切なものを失わずにいられる人がいる。

 

愛子は思った。

――ああ、本当に、何て、何て甘くて苦しい罰だろう。

愛子の頬を透明な雫がするりと零れ落ちた。

今まで、自分がやったことなのに泣くなんておこがましいと耐えてきたものがあっさり決壊してしまった。

ホロリホロリと涙を流す愛子に、ハジメが泣いている子供をあやすような眼で、その小さな体を抱き寄せる。

 

ハジメ「大人でも、どうしても、苦しくて苦しくて折れてしまいそうな時だってあります。

そんな時、他に誰もいなくて泣きたくなった時は……俺がそれを受け止めてあげます。

だって俺、先生の生徒で王様だから!大事な民の涙一つ、受け止めてみせるさ。」

愛子「っ……本当に……貴方という人は……。」

愛子が泣いていることに気がついてなんていませんよ?と言わんばかりに腕を広げるハジメに、愛子は、泣き笑いをしながら近寄ると、ポスっとその胸の中に顔を埋めた。

 

愛子「では……少しだけ、貸して貰いますね。」

ハジメ「……あぁ、幾らでも。」

優しく語り掛けるハジメに愛子は頬を緩めつつ、その身を預ける。

そして、溜め込んだものを吐き出すように涙を流しながら、改めて誓いを立てた。

彼等、少年少女達の教師で在り続けると。

どこかの我が儘で王様な教え子が見ていてくれるというのなら……頑張れそうな気がしたのだ。

 

二人の影が大きく東に伸びる。暫らくの間、日暮れの中ですすり泣く声が響いていた。

この後、ようやく泣き止んだ愛子と連れ立って王宮に戻ったハジメだったが、やたら頬を染めて恥ずかしげに俯きながら、そそとハジメの傍を歩く愛子に、「これ、ユエ達に誤解されないかな?」と思いながら歩いていた。

 

そして、案の定、ユエ達に気付かれて、部屋に連れ込まれたのも言うまでもない。

なお、デビッド達神殿騎士について、王宮に戻る途中で偶然出会った彼等だったが、愛子愛が圧勝したらしい。

元々、ウルの出来事もあり、価値観がさらに強固になりつつあった彼等だったが、王都に戻ってから愛子と強制的に引き離され、安否の確認も出来ないまま下山させられた事や、その時の教会関係者等の言動で不信感が募っていたらしい。

そこに聖教教会や世界の真実が重なって、相当ショックではあったものの、やはり愛子を憎むことは出来ないという結論に至ったようだ。

 

どこかやけっぱち感が漂っているような気がしないでもなかったが……

これからは、"豊穣の女神"を信仰しつつ、王国の一騎士として復興や守護に努めることにしたようである。一周回って、愛子への愛が変な感じに昇華されているような気がしないでもないが……

きっと彼等にも色々あるのだろう。

 


 

シア「まったくもう、ホントにもうっ!ですよっ!」

香織「ハジメくん……少し自重しようね?」

ティオ「ふふふ、流石ご主人様よ。ほんの少し目を離した隙に止めを刺すとは……」

レミア「あらあら、本当におモテになるのですね。」

ミュウ「みゅ、愛子お姉ちゃんも、女の顔をしていたの!」

ミレディ「とうとう愛ちゃんまで……ハジメン、一夫多妻制でも始めるつもりなの!?」

メイル「うふふ……まさかここまでスケコマシだったとはね……

お姉さん、ハジメ君にはちょっと教育が必要だと思うの。」

 

……どうしてこうなった。

王宮内の食堂にて、食卓を囲みながらシア達のどこか責める様な声が響く。

それを向けられている俺はというと、今夜の一品に手をつけられずにいた。

俺の右隣に座るユエは何も言わないが、どこか困った人を見る様な目を向けている。

 

そして他のクラスメイト達はそうもいかない様で、ある者は興味津々な様子で、ある者はどこか気まずそうに、またある者はどういう態度をとればいいのか分からないと戸惑った様にそわそわしている。

何故だ……。そして愛ちゃん先生、そのチラ見はなんだ。いや、まぁいいか。

 

トシ「ハジメが天然たらしだなんてこと、今に始まったことじゃないだろ。」

恵理「確かに。何でも屋やっていた時も未亡人の女の人にも何回か誘われていたし。」

雫「道理で香織をデートに誘う回数が多いと思ったら……そんな理由だったのね。」

浩介「もうこの際開き直っちまえよ、その方が皆にとってきっといいと思うぞ。」

君たち……他人事だと思って好き勝手言いおって……。おい光輝、同類を見るような眼をやめろォ!

俺は自覚ある分気まずいんだぞ!?お前はさっさと令嬢たち振ってビンタされて来いバーロー!

 

ハジメ「先生、例の"ブツ"はあるよね?」

『ブツ!?』

愛子「お醬油!お醬油ですから!持ってきていますから!」

そうか、フフフ……遂にこの時が来たか!

 

ハジメ「じゃあ今夜の一品は、海鮮丼と特製味噌汁だ!お供達、じゃんじゃん食って力をつけろォ!

ハーハッハッハッハ!!」

『どこの暴太郎!?でも久々の和食ー!』

俺の意気揚々とした掛け声に、戸惑いながらも日本人の血が騒ぐクラスメイトが湧いた。

 

そう、実は王都襲撃を鎮圧した後、先生に醤油と味噌を持ってきてもらったのだ。

これでかねてから楽しみにしていた、海鮮丼と味噌汁を振舞えるようになったというわけだ。

それだけじゃない、米・醬油・味噌の三品もあれば、他の物も欲しくなる。という訳で、だ。

 

ハジメ「先ずはこいつを食ってもらおうか、"鰻の天ぷら"だ!」

『おぉ―ッ!』

こんなこともあろうかと、魚の種類はよく調べ上げていたのだ。

そしてこの鰻擬き、やはり異世界では食さない傾向にあるので、それはもう大漁だった。

序に一緒にとれた鰌も、折角なので調理して、付け合わせとして置いてある。

勿論、侍女やシェフ達にも振舞った。大絶賛だったぜ。

 

香織「雫ちゃん!こっちこっち!」

雫「香織。隣いいかしら?」

香織「勿論だよ。」

ニコニコと使徒のクールフェイスで人懐っこい笑みを浮かべる香織に、雫も自然と頬を緩めて隣の座席に座った。

 

香織が体を変えたという信じ難い事実に最初は戸惑っていたクラスメイトも、その笑顔に香織の面影を見たのか僅かに場の雰囲気が和む。

体は変わっても、香織の持つ和やかな雰囲気はクラスメイト達の心を穏やかにする様だ。

寧ろ、俺が姿を消してピリピリとしていた頃に比べれば、以前の香織が戻ってきた様で嬉しそうにしているクラスメイトも多いらしい。

 

雫が座席に座ると、その隣に光輝が、向かい側に愛ちゃん先生が、その隣に鈴が座った。

愛ちゃん先生は丁度ユエの隣だ。続いてクラスメイト達が他の座席に座っていく。

鈴がユエを見て座る際、「お姉様のお側……し、失礼します!」と言いながら妙に緊張している姿が見られた。

ユエが、「……何故お姉様?」と首を傾げる。そりゃそうだろうね。

因みに、トシと恵理は先生の席の近く、浩介は……どこだ?「同じところだよ!」

 

とその時、ユエの頭越しに先生の視線が俺に向けられた。

チラリと視線をやれば、途端に先生の頬が薄く染まり、恥ずかしげに目が逸らされる。

それでもチラチラと俺を見た後、内緒話でもする様に声を潜めて声をかけた。

 

愛子「あ、あの、ハジメ君……、さっきのは……その、出来れば……。」

ユエは自分越しに話をされて若干居心地悪そうに身動きするが、恐らく教師でありながら俺に泣きついた事が恥ずかしくて口止めしたいのだろうと察し、何も言わなかった。

その愛子の様子に、雫達が俺へジト目を向けている。

幸い、他の生徒には位置的に死角となってバレていない様だが、比較的近くにいる前線組は訝しそうな眼差しを向けていた。

 

玉井君達愛ちゃん護衛隊の男子メンバーは「あいつ、とうとう愛ちゃんまで……」と畏敬と諦めの籠った視線を向けていた。

宮崎さんや菅原さんは苦笑い、園部さんは如何にも「興味ありません!」といった様子だが、その視線はもの凄い頻度でチラチラと俺に飛んでいる。

なのでここは全力ですっとぼけた。後が面倒なので。

 

ハジメ「何かあったっけ?」

愛子「ふぇ?」

ここは合わせて、と視線を送れば、先生はその態度に一瞬呆けるものの、秘密にしてくれるのだろうと察し苦笑いしながら「いいえ、なんでもありません。」と答えた。

頬が綻んでいるのも隠してほしいかなぁ……。女性陣からの視線が……。

唯一、ユエだけが俺の肩をポンポンと叩き、更に「あ~ん。」をしてきた。

 

ミュウ「パパ、ミュウはお腹がすいたの!」

ミュウ……!流石俺の娘!こんな空気でもサッと変えてくれる対応力はレミア譲りだ!

そう思いながら、ユエからの「あ~ん。」を受ける。

すると、逆サイドに座るシアがハジメの袖をクイクイと引っ張った。

 

シア「ハジメさん。あ~ん、ですぅ。」

どうやら恋敵が増えそうな事に憤るよりも、アピールに時間を費やすべきだと判断したらしい。

頬を染め、上目遣いでそそとフォークを差し出している。

その際、ウサミミをひっそりと俺に寄り添わせることも忘れない。素晴らしいあざとさだった。

すると、香織とティオも黙ってはいられないのか、二人も慌てて、料理にフォークを突き刺す。

 

香織「ハ、ハジメくん、私も、あ~ん!」

ティオ「ご主人様よ。妾のも食べておくれ。あ~んじゃ」

ハジメ「分かった分かったから!一斉に差し出されても口は一つしかないから!」

慌てて「あ~ん。」を捌く俺。そして4人の「あ~ん。」を捌き終えると……

 

レミア「はい、あなた。あ~ん♪」

ハジメ「……おう。」

タイミングを狙ったのか、レミアがフォークを差し出す。でも食いつく。据え膳食わねば何とやら、だ。

え?意味が違う?そっちの奴はまだ先だが?

 

雫「何、この空気……半端なく居心地が悪いのだけど……。」

雫、そんなこと言わんでおくれ。ただでさえこっちは大渋滞起こしているんだから。

それと先生、自分もすべきかとか考えなくていいし、やるとしても責めないから、一人ノリツッコミしないの。

 

ミレディと他の女子生徒は突然の甘い空気に先程までのぎこちない空気を霧散させて、俺達をチラ見しながらキャッキャッと騒ぎ始めた。

俺に対する何処か畏怖している様な目が一瞬で恋バナのネタを見る様な目に変わった。

奈落に落ちたあの日から、何があれば"あの彼"がこんなハーレムの主になるというのか……

なんて事前の説明も忘れ、女子達の目が好奇心に輝き俺を見つめる。

 

一方男子達も、女子と同じ様に一時的であれど畏怖の宿る目を向けなくなっていた。

但しそこにあるのは、メラメラと燃え盛る嫉妬と羨望の眼差しだ。俺でも分かる。

何せ俺を囲むのは、"絶世の"と称しても過言ではない美女・美少女達だ。

 

特にシアに多くの視線が集まっている。

やはり、ウサミミ少女というのはオタク的な趣味を持っていなくても男心を的確に擽るのだろう。

まして今のシアは、俺の隣で実に可憐な微笑みを振りまいており、時折ピコピコと動くウサミミは破壊力抜群である。

 

だがいくら嫉妬と羨望に身を焦がそうと、どれだけ異世界の美少女達と仲良くなる秘訣を聞き出したかろうと、何を言えるわけでもない。

だって俺国のトップで魔王だもん。文句なんて言ったら不敬罪みたいなもんだし。

まぁ、だからと言って厳しい罰なんてないけどさ。

 

するとそんな俺の側で、何故か頬を染めたままジッとフォークを見つめる香織の姿があった。

香織は少し目を泳がせると、何か決意した様に申し訳程度に料理を乗せてパクッとフォークを口にした。

そして再び頬を染める。いや、思春期か。すると、ユエの痛烈なツッコミが入った。

自分をジッと見つめるユエに気がついた香織が、目を合わせたと同時に解き放たれる言葉の矢。

 

ユエ「……変態。」

香織「!?ち、違うよ!何て事言うの!わ、私は普通に食事しているだけだし!」

ユエ「……と言いつつ、ハジメ様の味を堪能。」

香織「し、してないってば!だ、大体、そんな事言ったら、ティオこそ変態でしょ!

ほら、こんなに堂々とフォークを舐めてるんだよ!」

ティオ「レロレロレロ、んむ?」

 

顔を真っ赤にしてユエに反論する香織は、ビシッ!とティオを指差した。

その先では、普通にフォークを口に含んでモゴモゴレロレロしているティオがキョトンとしている姿があった。

如何にも「何か問題でも?」といった表情だが、それが問題なんですけどねぇ!?

 

ハジメ「ティオ、流石にそれはダメ。ミュウの教育に悪いよ。」

ティオ「むぅ、仕方なかろう。ユエ達もまだじゃが、ご主人様は未だに妾と口づけをしてくれんし。

こういう時に堪能しておかねば、欲求不満になるのじゃ。」

ハジメ「何の話だよ。」

何故か非難する様な眼差しを返されて、俺は怪訝な顔をする。

するとその時、ティオが何かを思い出した様に突然その瞳を輝かせた。

 

ティオ「そうじゃ!ご主人様よ、ご褒美を未だもらっていないのじゃ!妾は約束のご褒美を所望するぞ!」

ハジメ「そう言えばそうだったなぁ……まぁ、3日間はミュウとレミアが独占状態だったし、いいけどさ。」

ティオの言葉に、俺もそれを思い出して呟く。

何の話かわからない者達が首を傾げる中、シアが代表して尋ねる。

 

シア「ご褒美って……何の話ですか?」

ティオ「うむ。

総本山でな、先生殿を預けられた時に『最後まで無事ならご褒美をくれる』という約束を取り付けたのじゃ。

ぬふふふ……ご主人様よ、よもや約定を違えるような真似せんじゃろうな?」

 

シアや香織が「そんなのズルイ!」と騒ぐ中、ティオが妖しげに笑いながら約束の履行を迫る。

何となく皆の注目が集まる中、俺はその時のことを思い出した。

あれは神山突入前、ティオと先生が下準備を進めている中、木偶人形共の襲撃の危険性もあるので、先程言った約束を取り付けたのだ。

それにティオには、アンカジでも命の危機に晒してしまったので負い目もある。そう簡単には断れない。

 

ハジメ「あくまで俺の"出来る範囲"だよ?子作りとかは、まだ勘弁してね?」

ティオもその意図を察している様で、心得ているとでもという様に大仰に頷いた。

そして、ほんのり頬を染めてもじもじしながら要望を伝える。

 

ティオ「……前にシアにつけていた、首輪が欲しいのじゃ。」

両頬を手で挟んで、「きゃ!言っちゃった!」とでも言うようにイヤンイヤンするティオ。

……俺の物宣言でもしろと?

既に一度している事なのだから無茶ではなかろう?と、とんでもない要望を伝えてきた。

 

案の定、その発言はユエ達以外の全ての人間を激しく動揺させた。

俺に向けられる眼差しが、どこか犯罪者を見る様な目になっている。

……別に首輪の一つや二つ、どうってことないんだけどなぁ……。

 

ハジメ「それくらいなら、何時でも作ってあげるよ?他にない?例えば……もてなし執事コースとか。」

『!』ガタッ!

いや、君等(ユエ・シア・香織)じゃないんだよ。

後、クラスの女子達や愛ちゃん先生もステイ、雫は頬を赤らめないの。

 

ティオ「ほぉ~、ご主人様が執事……イイ!ぜひそれを所望するのじゃ!」

ハジメ「……分かった。」

まぁ、後日皆に埋め合わせしてあげるってことで許してもらおう、ッと。

そんなことを思いながら、俺は久々の海鮮丼に箸をつけるのであった。うん、旨いッ!!!




ハジメ
「ここまで読んでいただき、ありがとうございます!
さて今回の感想だけど、久しぶりの和食、美味しかったなぁ~。」
レミア
「あらあら、愛子さんのことについては触れないんですか?」
ハジメ
「もう今更だし……それに、今ここで語りきれなさそう。この時の心情、結構長いし。」
レミア
「め、メタい理由ですね……。でも、この時もハジメさんは誰よりも前にいたんですね。」
ハジメ
「自分の身を預けられる背中があるってさ、素晴らしいことだと思うんだ。
その人を信じて、また前に進めるようになれるからさ。」
レミア
「えぇ、そうですね。現に私も、前に進むことが出来ましたし。ありがとうございます、あなた。」
ハジメ
「夫として当然のことだよ、これからもよろしくね!」
レミア
「はい!それでは、次回予告ですね。」

次回予告
ハジメ
「次回は光輝の特訓回だな。ここはある意味重要なポイントでもあるからな。」
レミア
「そうなんですか?それってもしかして、あの時のことでしょうか?」
ハジメ
「多分その時で合っているよ。
光輝ファンの人たちにとっては、漸く光輝がクラスメイトから"仲間"になれた回でもあるから、必見だよ!」
レミア
「ハジメさんって、光輝さんととても仲がいいんですね……でも、あの本のことが心配です。」
ハジメ
「それは例の薄い本か!?この前全部回収したうえで、禁書扱いで燃やしたはずなんだけど!?」
レミア
「え、えぇ~と……てへ☆」
ハジメ
「……まぁいい、次回はオリジナル展開だから、原作派の人はブラウザバッグでも構わないよ。」
レミア
「うふふ、それでは皆さん、また次回。」


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80.真の強さ、信じる証

ハジメ
「お待たせいたしました!さて、早速前回のあらすじだ!」

「最高最善の魔王を目指す少年、南雲ハジメは、自責の念に苦しむ愛子を救い、次なる旅への準備を進めたのであった。」
ハジメ
「前から好意に関しては薄々感づいてはいたけど……ここがターニングポイントだったのかぁ。」

「全く……ハジメの天然たらしにも困った者ね。」
ハジメ
「雫にだけは言われたくない。
男女共に慕われて、妹を名乗る女の子を続出させているんだし、雫も同じじゃないか。」

「いや、私はそこまで酷くないわよ!?……ないわよね?」
ハジメ
「さぁ?さて今回は、光輝の特訓回だ。ここもある意味、ターニングポイントだ。」

「原作とは違ったやり取りを期待している人は必見ね!それじゃあ、第6章第13話」
ハジメ・雫
「「それでは、どうぞ!」」


ハジメの真王即位から2日後のある日、光輝達遠征メンバーは王国の訓練場に集められていた。

そんな彼等の前に、ハジメ達がやってきた。

光輝達がやってきたことを確認したハジメは、ゲームエリアを展開、より広い訓練フィールドへと全員を移動させた。

もう既に規格外な所を見せられているので、光輝達は「何でもありだなぁ。」と思っていた。

 

ハジメ「よく来たな、今日から早速特訓を開始するぞ!ただし光輝、今回はお前だけ俺とマンツーマンだ。」

光輝「?何で俺だけなんだ?」

ハジメ「色々と事情があるんだよ、今後のためにも。」

光輝「は、はぁ……。」

こっち(三次元)の話を勝手に持ってこないでほしい。

 

ハジメ「先ず鈴は香織と結界の応用について、龍太郎と浩介はシアと近接戦の特訓、恵理はそうだな……

トシに任せてもいいが、応用についてはユエやミレディ、ティオ辺りがいいだろう。

雫は……どうしようか。」

雫「私もハジメ君に挑んでみたいのだけど、ダメかしら?」

ハジメ「……いや、それもありか。よし、それじゃあ解散!」

そして各自それぞれの場所へと移動した。

因みにミュウとレミアはメイルに護衛を任せており、窓から訓練の光景を眺めている。

 

ハジメ「さて、先ずは雫。一回本気で打ち合ってみようか。」

ハジメがそう言うと、腰元にドライバーを呼び出し、その両端を押した。

 

ハジメ「"変身"。」

 

ゴォーン!!!

 

『祝福の刻!』

 

『オーマジオウ!』

 

雫「……えぇ、胸を借りるわ。」

変身したハジメの覇気を感じたのか、雫も抜刀の構えをとる。

光輝はその光景をじっと見ており、どのような戦いになるのかを考えていた。

そして一陣の風が吹いた瞬間、

 

雫「シッ!」

ハジメ「!」

雫の一閃がハジメの胴をとらえようとしていた。

が、ハジメも即座に反応し、予備用に作っておいた刀で受け止める。

 

ハジメ「今のは全集中の呼吸か……余程強力な使い手のようだね、お師匠さんは。」

雫「フフッ、そう言ってもらえるとあの子も嬉しいでしょう、ねッ!」

軽口をたたき合いながらも、互いに切りかかっては刀で受け止め、攻守の反転が見えない程に早い打ち合いであった。

 

それを見ていた光輝は驚愕に包まれていた。

タイムジャッカーによる王都襲撃時にも、雫の刀捌きは見ていたが、あの時は守りに徹していただけで、攻めに転じればこうも素早く、鋭く、しなやかで、そんな剣技を美しく思えるほど、雫の強さに見惚れていた。

 

それと同時に、それを難なく受け止め、捌ききるハジメの強さにも圧倒されていた。

雫が動による剣技であれば、ハジメは静、それもまるで凪の様に静かに返し、受け流す。

まるで、あるがままを受け入れる自然のように攻撃を受け止め、それでいて技能も使っていないのに、時を止めたかのように瞬時に怒涛の連撃を繰り出している。

その様は、まるで川と滝。二つの姿勢を瞬時に切り替えているようにも見えた。

 

二人の打ち合いに「こんなにも強くなれるのか。」という期待と同時に、「自分はまだここまでのレベルに達していない。」という劣等感を抱いてしまう光輝。

しかし、数分経った辺りで、二人は刀を止めた。光輝が「何故?」と不思議がっていると……

 

ハジメ「そろそろ本番と行こうか。技能無しでも十分楽しんだし。」

雫「そうね、折角だし、全力で行かせてもらうわ。」

そう言ってまた抜刀の構えをとる雫。それを無言で見据えると、刀を逆手に持ってハジメは駆けだした。

そして雫へと刀を振り下ろした瞬間、

 

雫「虚空陣奥義"悪滅"!」

雫のカウンターがハジメをとらえた、はずだった。

 

ハジメ「……!」

しかしハジメはそのまま刀を振り下ろし、雫の刀とそれが触れ合った瞬間だった。

 

雫「ッ!?」

咄嗟に雫が距離をとったと同時に、ハジメの刀が勢いよく振り下ろされ、地面にヒビを入れた。

 

光輝「!?」

一瞬の間ではあったが、ハジメ自身は隙だらけの筈だった。

そこへ雫が最大のカウンターを叩き込み、その一撃すら弾く筈であったのだ。

しかし、結果は御覧の通り。何が起こったのか分からずにいると、雫が呆れていった。

 

雫「ハジメ君……流石に負けず嫌い過ぎじゃないかしら?

あとちょっと遅かったら、刀が折れていたかもしれないわよ?」

ハジメ「……すまん、雫の本気を見てつい、"こちらも全力を出さねば、不作法というもの"って感じがして。」

雫「どこの兄侍よ……。」

そんな風に軽く話す二人を見て、光輝は唖然としていた。

 

雫の本気は前々からよく知っていた。それはこれまでの鍛錬の賜物なのだなと納得はしていた。

しかし、そんな雫ですら危機感を抱かせるほどに、圧倒的なハジメの強さを目の当たりにし、後頭部をガツンと殴られたような衝撃を受けてしまったのだ。

そんな光輝に、変身を解除したハジメが話しかける。

 

ハジメ「さてと、ウォーミングアップはここらでいいか。光輝、次はお前だ。」

光輝「ッ!……あぁ。」

思わず警戒してしまう光輝。それに気づいたハジメは溜息をつくと、光輝を諭した。

 

ハジメ「別に今すぐこのレベルになれって無茶は言わねぇよ。

今回の特訓はいわば、精神力を高めることにある。そこに肉体の強さ弱さの貴賤はない。」

光輝「?どういうことだ?」

ハジメ「この訓練で、光輝には生身の俺を切り殺せるレベルになれって意味だ。」

光輝「さっきと言ってることが変わってないんだが!?」

まさかの自分が殺害する側宣言に光輝は慌てるが、それを気にせずハジメは続ける。

 

ハジメ「生身と変身状態じゃ意味がちげーよ。

抑々だ、前回は殺しても憂いの無い奴だったから、お前も気が楽だっただろう。

だが、いずれどうしても相手を殺らねばならん時がある。

そのもしも、の時の為にこうして俺が相手になっているという訳だ。

安心しろ、再生魔法にアンデッドの技能もある。遠慮なく、かかって来い。」

光輝「い、言ってることは分かるが、手段が無茶苦茶だ……。」

だがいきなりやれと言われても、光輝は流石に躊躇ってしまう。

 

あの時、確かに信用してもらって、一時的にとはいえライダーの力を貰ったのだ。

そんな相手を不死身状態とはいえ、いきなり切り殺せと言われても"はい"とは言えない。

が、そんな光輝をじれったいと思ったハジメは、雫に念話で話しかけた。

 

ハジメ『雫、今からの俺と光輝の会話の内容について、お前は一切口を出さないでくれ。』

雫『それは……どういうことかしら?』

ハジメ『そのままの意味だ。それと……くれぐれも邪魔はするなよ?

これは、男の信念をかけた戦いになるだろうからな。』

そう言ってハジメは、光輝を叱咤するように言い放った。

 

ハジメ「何を躊躇ってる!お前には守るものがあるんじゃないのか!?

自分が信じる正義の為に戦うんじゃないのか!?あの時俺に啖呵を切ったのもその為なんじゃなかったのか!?それとも全部嘘だったのか!?」

何処の万丈構文だ。そして更に続ける。

 

ハジメ「そんなんじゃ何時まで経っても、お前は誰も救えないままだぞ!?いいのか!?

そんなんでいいのか!?いつまでも俺に助けられてばかりでいいのか!?」

光輝「……ッ!」

おや、光輝の様子が……?

 

ハジメ「お前が迷っている間にも、香織も、雫も、とっくに自分の道を決めているんだぞ。

そこにお前が映っていなくてもいいのなら、ここに残るか!?」

光輝「ッ!!」

ハジメがそう言った途端、返答の代わりに純白の輝きが大瀑布となって頭上から降り注いだ。

勿論、ハジメはそれをサッと避ける。

 

直後、今の今までハジメがいた場所を凶悪な斬撃が駆け抜けていき、轟音と共に氷の地面と壁に深い亀裂を作り上げた。

瞬く間に修復されていくものの、その破壊痕を見れば冗談抜きで相手が殺すつもりで攻撃したのだとわかる。

もっとも、その前に殺意や込められた魔力量から自明の理ではあったが。

 

ハジメ「……なんだ、やればできるじゃねぇか。青二才にしては。」

ハジメは怒りによって相手に殺意を持たせるように、光輝を挑発する。

その光輝は、地面をかち割り半ばまで埋もれたままの聖剣を握り締めながら、何かをブツブツと呟いている。

前髪が垂れて目元が隠れているので表情はよくわからないが、明らかに尋常な様子ではない。

 

光輝「……が…だ。……で、う……ら。」

ハジメ「ごちゃごちゃ言ってねぇで、さっさとかかってきな。直ぐに打ちのめしてやんよ。」

しかし、その言葉に光輝が過剰な反応を示す。

前髪の隙間から炯々と光る瞳が覗き、刺さったままの聖剣が強引に引き抜かれた。

聖剣を引きずりながら、血走った眼差しを向ける光輝。

 

光輝「…あぁ、終わらせるよ。お前なんかに一々言われなくても、全て終わらせてやるさ!」

そう絶叫するや否や、光輝は瞳孔の開ききった狂気を感じさせる眼差しでハジメに向かって突進した。

"爆縮地"で姿を霞ませながら一気に肉薄し、莫大な魔力を込めた光の斬撃を放つ。

 

ハジメ「ハハハ!いいねぇ、そう来なくちゃなぁ!もっと来いよ、勇者ァ!」

光輝「黙れ!お前が死ねば全て元に戻るんだっ!さっさと死ねぇえええ!!」

光輝は、そんなハジメの言葉など完全に無視すると、ただ我武者羅に殺意と憎悪を滾らせて最大威力の聖剣を振るった。

明らかにハジメを殺すつもりのようだ。

 

今の光輝は、言うなれば、以前、香織がハジメ達と旅立った夜に雫と話さなかった場合の光輝と言えるだろう。

あの夜、雫の言葉に含まれた重さに光輝は暴走を防がれた。

 

直ぐには考え方を変えられなかったし、ハジメに対して思うところは多々あった。

だから、度々突っかかってしまっていたわけだが、それでも、雫の言葉があったから完全な決別もなければ香織のことも口を出さなくなった。

 

しかし、それは言い換えれば雫が傍にいたから、だとも言える。

光輝の価値観や思考は多分に"子供らしさ"が含まれている。

幼少の時に根付いた"理想の正しさ"を現実の壁に阻まれることなく持ち続け、そのままこの歳まで来てしまったのだから当然と言えば当然だ。

 

そんな子供な光輝にとって、独占欲を向ける最後の幼馴染の女の子が奪われれば、これも当然の如く"癇癪"を起こすに決まっているのだ。

もっとも、勇者たる力を持つ光輝の癇癪は洒落にならないわけだが……

しかも、自分の非を認めたがらない"子供っぽさ"を持つ光輝は、これまでの出来事によって散々現実を突き付けられ追い詰められた。

ヒーローたる自分には相応しくない感情が心の内に溢れているのだと刃物で切りつけるように刻まれた。

 

必死に否定して、必死に目を逸らして、ギリギリのところで踏ん張っていたら、最後の砦である雫までもが目の前の男の隣で、他の男に対して明らかに見せてはいない幸せそうな表情で身を預けている光景を想像してしまえば、鈍感な光輝でも、それが何を意味するのか察することが出来る。

そして察することが出来たからこそ砦は崩れ去り、光輝の悪癖は追い詰められた心と相まって最悪の形で現出してしまった。

 

即ち、南雲ハジメは幼馴染や複数の女の子を洗脳し世界を救おうとする自分を邪魔する諸悪の根源である、と思い込むという形で。

手加減なしのご都合解釈である。

 

光輝「"天翔剣・嵐"!!」

そうして放たれたのは、広範囲に拡散する幾百の斬撃。

見える光の刃だけで100はあり、その影に潜むようにして300近い風の刃が追随している。

既に殲滅魔法レベルだ。

だが、そんな幾百の斬撃の嵐に対し、ハジメは冷静に抜刀の構えをとる。

 

ハジメ「覇王陣奥義"逢魔"。」

その瞬間、世界が制止したかのようにスローモーションになった。

そして光輝の斬撃が何かによって次々にかき消されていき、その何かの一つが光輝の足元にまで迫った。

それは、光輝の足元に刺さると盛大に衝撃波を撒き散らし、光輝を足元からひっくり返す。

そして、それと同時に光輝に肉薄したハジメは、まるでサッカーボールのように光輝を蹴り上げた。

 

光輝「ぐぁ!?」

呻き声を上げながら空中に投げ出された光輝に、ドンナー&シュラークを向ける。

咄嗟に"空力"で宙を蹴り付け射線から逃れようとする光輝だったが、二丁のリボルバーの銃口は光輝から微妙にずれて未来位置を狙っていた。

意図せず、光輝の表情が引き攣る。が、中身はゴム弾なので大したダメージもない。

なのでハジメは遠慮なく、蜂の巣にした。

 

ズダダダダダ!!!

光輝「ガッ!グッ!ゴアッ!?」

放たれたゴム弾は、空中の光輝を滅多打ちにした。

子供が繰る無様なマリオネットのように、ガクンガクンと体を揺らしながら放物線を描く光輝。

 

血飛沫を撒き散らしながら少し離れた場所にドシャ!と生々しい音を響かせて落下した。

傍から見れば何発もの銃弾に穿たれた死体に見えたかもしれない。

だが、そうでないことは、直後に光輝が動き出したことで否定された。聖剣を支えに直ぐに起き上がる。

 

肩、両腕、両足から血を噴き出し、口元からも血が滴り落ちているが、それも瞬く間に治っていった。

血走った瞳が狂気の色を添えられて、更に凶悪な様相になっている。

既に、人々の夢と希望が詰まった勇者の面影はない。

 

ハジメ「……"限界突破"を使ったか。流石に尚早だとは思わんのか?」

光輝「黙れっ!お前がっ、お前みたいな奴がっ、わかったような口を利くな!

雫と香織のことを本当にわかっているのは俺だっ。二人のことを誰よりも大切にしているのは俺だっ。

俺こそが二人と共にあるべきなんだっ。お前なんかじゃない!絶対に、お前みたいな奴なんかじゃッ!?」

光輝が喚くのを、ハジメはヤクザキックで容赦なくぶった切る。

 

ハジメ「さっきからうだうだ言い訳並べてんじゃねぇぞ、この餓鬼が!

俺に言いたいことがあるなら他を引き合いになんか出さねえで、テメェの言葉で語りやがれ!

今ここで雫や香織のことしか頭にねぇなら、テメェにアイツ等を守る力はねぇぞ!」

光輝「ッ!だったら遠慮なく言ってやる!俺はお前が大嫌いだ!」

そう言って両者はさらに激しく得物をぶつけ合う。

 

光輝「お前さえ、お前さえいなければ、全部上手くいってたんだ!香織も雫もずっと俺のものだった!

この世界で勇者として世界を救えていた!それを、全部お前が滅茶苦茶にしたんだ!」

ハジメ「ハッ、弱っちい甘ちゃんが!人一人殺すことすら出来なかった餓鬼が世界を救うだぁ!?

笑わせんじゃねぇぞ、三下ぁ!」

光輝「煩いッ!人殺しのくせにっ。簡単に見捨てるくせにっ。

そんな最低なお前が、人から好かれるはずがないんだ!」

ハジメ「オイオイ、人を見た目で判断してると、いつか痛い目見るぞ~?

大体俺が誰に好かれていようが、お前には関係ないことじゃないのか?」

光輝「黙れッ!お前が何かした以外に何がある!

香織も雫も、ユエもシアもティオもレミアもミュウもミレディもメイルも、みんな洗脳して弄んでいるんだっ。

どうせ遠藤や恵理、清水だって洗脳して、龍太郎や鈴だって洗脳するんだろう!?そうはさせない。

俺が勇者なんだ。みんなお前の手から救い出して、全部、全部取り戻す!お前はもう要らないんだよっ!!」

ハジメ「そんなことしたってなんにも取り戻せるわけねェだろ、バーカ。

そんなんで手に入んのは、仲間殺しの罪状ぐらいだっつーの。つーかさぁ……」

光輝の激しい罵りをのらりくらりと返し、攻撃を受け流し続けるハジメ。

が、光輝がユエ達を呼び捨てにしているのを聞くと……

 

ハジメ「貴様、誰の許可を得て私の仲間を、娘を、妻を、呼び捨てにしているのだ?雑種ゥ?」

光輝「ッ!?」

これまでにない威圧を放ち、光輝を圧倒する。直後、溢れ出す殺意の奔流。

大瀑布の水圧の如きプレッシャー。人と呼ぶには強大すぎるし、おぞましすぎる圧倒的な"力"の気配。

至近距離から化け物の本気の威圧を叩きつけられて光輝の体が意図せず硬直する。

しかし、そんなことを考慮するはずもなく、ハジメは蹂躙を開始した。

 

ハジメ「普通のパンチ。」

光輝「ふおぉっ!?」

その一撃は、光輝を1km後ろにあった岩盤に叩きつけた。

まさかただのパンチでここまで吹っ飛ばされるとは思わなかった光輝は、ハジメの強さに思わず戦慄する。

が、それだけではハジメさんは止まらない。

 

ハジメ「はい、しょーりゅーけーん(昇竜拳)。」

光輝「クソマァ!?」

岩盤から抜け出した直後に弱めのアッパーを繰り出し、光輝を天高く打ち上げる。

そして打ちあがった光輝にジャンプですぐ追いつき、

 

ハジメ「踵落とし。」

光輝「あばっふ!?」

ゆっくり下した踵で、エビ反り状態で打ち上がった光輝をくの字に叩きつけて、地上へ送り返す。

が、流石にこの高さからだと死ぬと思ったのか、慌てて光輝の鎧の襟を掴んで減速させる。

 

光輝「グエッ!?」

ハジメ「これくらい我慢しろ、男だろーが。」

そうして漸く地面の近くで勢いが殺せたので、そのまま先ほどの岩盤へ投げつけた。

が、先程のように直ぐには抜け出さず、頭が刺さった状態になってしまった。

 

ハジメ「……あ~、ちょいやり過ぎたか?」

雫「明らかにやり過ぎなのだけれど!?」

光輝の本心に唖然とはしていたものの、先程のハジメの蹂躙のせいでそれすらもさっぱり吹き飛ぶほどに衝撃を受けていた雫は、ハッ!と意識を取り戻し、苦労人の役割を果たす(ツッコミをする)

 

光輝「グッ……まだ、だ……!」

そのツッコミが聞こえたのか、何とか岩盤から抜け出す光輝。

今度はハジメも空気を読んで、態勢が整うまで待っていた。

が、それが光輝には、まるで相手にされていないかのような気になって光輝の中のドス黒い部分が更に湧き上がってきた。

 

光輝「これならどうだ、"覇潰"!!」

光輝から更に数倍の規模で魔力が噴き上がった。

全ステータスを5倍に引き上げる"限界突破"の最終派生"覇潰"。

が、それでもハジメは余裕そうにしている。

それが気に入らないのか、光輝は怒りの感情を聖剣に込めるように強く握った。

 

光輝「ぉおおおおおおっ!」

雄叫びをあげながら、光輝は溜めた力を解放するように爆発的な突進を行った。

正面から、迷いのない唐竹の一撃を繰り出す。

ゴゥ!と風を切る凄まじい音と共に光そのもので構成されているかのような聖剣の凄絶な一撃がハジメを襲う。

しかし、そんな致死の一撃を前に、ハジメは一歩も動かずスっと腕を掲げただけだった。

 

光輝「なっ!?」

雫「えっ!?」

ハジメ「……。」

その一撃は、ハジメの右手の指、それも人差し指と中指の2本によってあっさりと受け止められていた。

そのままハジメは、光輝に言った。

 

ハジメ「光輝、"覇潰"に至るまでのお前の努力は認めよう。

だが、その程度では俺の"二指真空把"は絶対に破れん。」

雫「貴方北斗神拳習っていないでしょ!?」

雫の細かいツッコミに、思わず目を逸らすハジメ。それを隠すように、聖剣を指から離して押し戻した。

 

光輝「……だったら、これならどうだ!ハアァァァ!!!」

そう言って光輝が雄叫びを上げて聖剣を掲げた。激しく渦巻く魔力の奔流。

余波だけで周囲の地面が吹き飛び天井が消滅していく。

膨大な魔力にものを言わせて"神威"を放つつもりのようだ。

 

ハジメ「なんだ、その緊張した構えは?まだやる気か?

あがいてもあがいても人間の努力には限界があるのさ!」

雫「いや、貴方も人間でしょ。」

雫のジト目とツッコミを、ハジメはスルーした。

 

ハジメ「派生形技能の修行努力など無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄ァーーーっ!!

モンキーが人間に追いつけるかーッ!お前はこの俺にとってのモンキーなんだよ光輝ィーーーッ!!」

最早別の時間操作キャラになりきっているハジメ。おふざけ全開感が否めない。

雫の呆れた視線が突き刺さる。だが、ハジメさんはキャラを止めない。

 

光輝「違う!信念さえあれば人間に不可能はない!人間は成長するんだ!してみせるッ!」

そんなハジメの事情なんて知ったこっちゃないと言いたいのか、それともシリアスに疲れたのか、こちらも何故か相対するセリフになる光輝。

雫の頭痛の種が一つ、増えた瞬間でもあった。

 

光輝「神意よ!全ての邪悪を滅ぼし光をもたらしたまえ!神の息吹よ!

全ての暗雲を吹き払い、この世を聖浄で満たしたまえ!神の慈悲よ!

この一撃を以て全ての罪科を許したまえ!――"神威"!」

そして持てる全魔力を注ぎ込み、最強の一撃を放つ光輝。

詠唱と共にまっすぐ突き出した聖剣から極光が迸る。

 

ハジメ「ならば知るがいい!最高最善の魔王の実力を!"世界(The・Worid)"!」

最早ネタに走る気満々のハジメさんである。そして瞬間、世界が制止した。

そしてハジメは、光輝の"神威"を……通り過ぎた。

 

ハジメ「んしょ、んしょ……ふぅ、大体このあたりか。」

そして何故かそこら辺にあった岩盤を適当に持ってきて、自分の後ろに積み重ねた。

ハジメ「負けフラグ立てたから、ここは勝たせてあげないとね。」

まさかのネタに沿った展開に方向修正しやがった。そして元の位置に戻った。

 

ハジメ「そして、時は動き出す。」

その言葉と共に、指を鳴らす。その瞬間、"神威"がハジメを呑み込んだ。

雫「ハジメ君!?」

光輝「!」

まさか何も起こらず直撃するとは思っていなかったのか、光輝は驚き、雫は思わず声を上げた。

 

光輝「は……はは……やった……やったん、だ……。」

ハジメを倒せたのかと勘違いした光輝は、魔力枯渇によってその場に倒れこんで気絶した。

雫「光輝!?」

ハジメ「ただの魔力枯渇だよ。ちょい休ませりゃ、ちったぁよくなるだろ。」

雫「!?」

慌てて雫が振り向けば、無傷のハジメがそこに立っていた。

 

ハジメ「まぁ、俺がまだ生きているって知ったら、また騒ぎ立てるかもしれんが……

ガス抜きにはちょうど良かっただろうな。これで漸くやりやすくなる。」

雫「ハジメ君……幾らなんでも危なすぎるわよ。それに光輝のことだってまだ……。」

ハジメ「俺はあいつを信じる。これは、あいつが自分で乗り越えなきゃいけないんだ。」

雫「!」

ハジメの言葉にハッとなる雫。これは元々、光輝の特訓であって、雫が口を出してはいけないのだ。

 

ハジメ「あいつが本当の勇者になれるまで、何度ぶつかってこようが受け止めてみせるさ。

それが俺の、魔王としての俺の役目だ。」

雫「……はぁ、分かったわ。でもあまり無茶はしないでよね?香織も心配するだろうから。」

ハジメ「そこらへんはどうとでもなるさ。さてと、先ずは光輝の回復待ちだな。」

そう言ってハジメは、訓練場の医務室へと光輝を運んだのだった。

 


 

そんな訳で光輝を待つこと数時間、既に夕暮れ時になってしまったその時であった。

光輝「……ここは……。」

ハジメ「ようやっと起きたか、お寝坊さんめ。」

光輝「!?南雲!?」

俺が生きていることに驚き、聖剣を構えようとするが、覇潰による肉体疲労のせいか、態勢を整えられないようだ。

 

ハジメ「さっきの攻撃、あの程度じゃ俺は殺れんぞ。

威力に技能、詠唱破棄、その他諸々、まだまだ鍛え上げなきゃいけない事は沢山あるからな。

これからもビシバシ行くから、今はしっかり休んでおけ。」

光輝「!で、でも俺はあの時……。」

どうやら先程の自分の言動を覚えているようで、罪悪感を抱いているようだ。

全く……本当に世話のかかる兄弟弟子だ。

 

ハジメ「さっきのは挑発した俺も悪いから五分五分だ。それでも罪悪感があるなら……一つ約束しろ。」

光輝「約束……?」

ハジメ「あぁ、俺が道を間違えた時、必ず殺すと。」

光輝「なっ!?何を言っているんだ!そんなの「約束だ。」ッ……!」

俺は本気だ。そしてこれは、周りに誰もいないからこそできる相談だ。

 

ハジメ「俺は最高最善の魔王になるって夢がある。だから、俺は自分の正しいと思う道をいく。

でも、もし俺が間違った道を選んで、最悪最低の魔王になるって確信したら、その時はいつでも倒してくれ。

これは、お前にしか頼めない。勇者であり親友のお前の判断なら、俺は信じられるから。」

光輝「……。」

それを聞いた光輝は少し考えこむように俯いたが、やがて顔を上げていった。

 

光輝「……分かった。」

ハジメ「おう、ありがとな。」

光輝「でも!」

ハジメ「?」

光輝「……絶対に、俺がさせないからな……!最低最悪の、魔王なんかに……!」

……そうじゃなきゃな。だからこそお前にしか頼めないんだよなぁ。

 

ハジメ「分かった。あ、それとさぁ……いい加減名字呼びはやめてくれねぇか?

そろそろ名前で呼んでくれたっていいじゃねぇか。」

光輝「えっ?あ、あぁ、そうだな……。」

とまぁ、こんな感じで俺は光輝との溝をどんどん埋めていくことにした。

 


 

光輝「ハァッ!せいッ!ヤァッ!」

ハジメ「よっと!そう、それでいい!もっと来い!」

翌日、俺と光輝は互いに木剣で打ち合っていた。とはいっても、先が尖っているので十分殺傷力はある。

今日は、光輝に昨日の殺意マシマシの感じを思い出すようにさせ、それを黒い気持ち無しでも扱えるように仕上げていくという訳だ。

 

その特訓も現在佳境に入っており、そろそろ魔物肉による強化を行ってもいい頃合いになってきた。

やはり心の内に眠っていたどす黒い気持ちを吐き出したおかげか、光輝の太刀筋は昨日よりも更に強くなっていた。

その証拠に、先程からの太刀筋に全くの躊躇がない。

そろそろ真剣でやってもいいかな。限界突破の連続使用による経験値も積ませたいし。

と、そんなこんなで時間が過ぎた、先生やクラスメイト達との食事会後の夜中……

 

ハジメ「魔物肉と神水(合格証書)だ、食え。」

トシ「まぁ、なんだ……頑張れ。」

光輝「……本当にこれを食えと!?」

恒例行事が始まった。勿論、他の面子(雫・恵理・浩介・龍太郎・鈴)も一緒だ。死なば諸共というやつだ。

 

ハジメ「魔力操作がねぇと、神代魔法の試練は厳しいぞ~?

詠唱時間も結構ロスになるし、この先あった方がいいと思うけどなぁ~?」

光輝「くっ!分かった!食うよ!食えばいいんだろ!」

ヤケクソ気味に魔物肉を口に入れ、神水で流し込む光輝。それを見て絶句する雫達。

自分達もこれをやるのか?という視線に、俺は頷いて言った。

 

ハジメ「安心しろ、香織の再生魔法でちったぁ痛みも収まるだろ。

俺も浄化作用使うから毒の心配はいらないぞ~……死ぬほど痛いけど。

雫「最後聞き捨てならないことが聞こえたけど!?」

そんな雫のツッコミをスルーして、俺は光輝の毒の浄化を開始した。

その夜、遠征組の叫び声が王宮にて響き渡り、ちょっとした騒ぎになった。




ハジメ
「ここまで読んでいただき、ありがとうございます!
さて、今回は語るにあらず。理由は今後の展開をお楽しみに!」
香織
「それも気になるけど……光輝君があんなに闇を抱えていたなんて……。」
ハジメ
「……ソウダネ。」
香織
「今の間は何かな!?かな!?」
ハジメ
「まぁ、アイツも今は自分の闇を受け止めて、前に進んでいるんだ。
過去のことは一切水に流そうよ。」
香織
「それもそうだね……それに、あの時ハジメ君を……。」
ハジメ
「おっと、そこから先はネタバレになるから、一旦お終いね。」
香織
「え、あ…う、うん。それじゃあ、次回予告だよ!」

次回予告
ハジメ
「漸くフリードと合流して、3大迷宮巡りが開始できるよ。そして次回で第6章はお終いだ。」
香織
「次回はライセンにも行ったよね……ハジメ君が手を加えた、ライセンに、ね?」
ハジメ
「あの時は俺だって悪乗りが過ぎたのは謝ったじゃん……
それとも、メルジーネ海底遺跡のお化け屋敷が嫌だったの?」
香織
「うっ……それもあるけど……でも、あのゴーレムは流石にやり過ぎだって!」
ハジメ
「いやぁ~、ミレディも留守にするだろうから、なるべく強力なガーディアンの方が安心して旅が出来るかなぁ?って思ってたらつい……。」
香織
「もう……でも、そんな優しい所も、おっちょこちょいな所も、私は好きだよ!」
ハジメ
「ありがとう、そして次章は帝国編。あの男がまさかの大活躍!?こうご期待を!」
香織
「それでは皆さん、次回もお楽しみに!」

リースティアさん、誤字報告ありがとうございました!


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81.王都F/進化する仲間達

ハジメ
「お待たせいたしました!さて、今回はあとがきで重大発表があるから、最後までよろしく!」
ミュウ
「最高最善の魔王を目指す少年、南雲ハジメは、心の底で確執を抱えていた勇者、天之河光輝の心の闇を受け止め、見事に仲間として迎え入れることに成功した。
そして今、【ハルツィナ樹海】へ向かうための最後の準備に乗り出したのであった、なの!」
ハジメ
「う~ん、最後までよく言えました!流石ミュウ、俺の娘!」
ミュウ
「えへへ~、これくらい朝飯前なの!」
ハジメ
「よしよし、今回はミュウが大活躍するシーンもあるから、必見だぞ!」
ミュウ
「みゅ!パパやお姉ちゃん、お兄ちゃん達の戦いも凄かったの!」
ハジメ
「あぁ、ここからさらにもっとすごい戦いが繰り広げられるから、楽しみにしていてくれ!」
ミュウ
「はいなの!それじゃあ、第6章第14話」
ハジメ・ミュウ
「「それでは、どうぞ(なの)!」」


あの後、俺達は一旦ライセンでフリードと合流し、先ずは再生魔法から受けようということで、メルジーネ海底遺跡に向かった。

因みに、海中からの道のりはショートカットした。理由としては面倒だったからだ。

ミュウとレミアも見学がてら連れて行ったおかげか、メイルが上手く大迷宮を調整してくれたので、いきなりシャットアウトなんてことはなかった。

 

道中も、空間魔法で障壁を張っているので、ずぶ濡れにはならなかった。

そして、以前悪食と遭遇した場所に着くと、そこには体長3mを超えるタコらしき魔物が鎮座していた。

足の数が16本あり、その半数の足先は明らかに金属製だった。

装備を纏っているのではなく、硬化しているというべきか。

金属足は、まるでカマキリの鎌のように折りたたまれる形になっている。

 

ハジメ「あれが本当のガーディアンのようだな。俺も戦いたいが……ここはお前等に譲るよ。」

メイル「ふふん、上手く対処できるかしら?」

何故か得意げなメイル、どうやら見た目以外にも一工夫加えられているようだ。

そして攻略の証をしまった瞬間――俺は即座に皆の前に出て、防御の構えをとった。

それと同時に、大砲の轟音が鼓膜をつんざいた。

 

ハジメ「ッ!」

思わず後退る。こいつ、中々やりやがる!

光輝「ハジメ!」

ハジメ「大丈夫だ!」

すると、俺も敵として認識したのか、巨大タコが襲い掛かってきた。

 

ハジメ「なめんなぁ!」

そう言って俺も加速系技能で巻き返し、超速で打ち込まれてきた金属足を撃ち返した。

その直後、無数の轟音と衝撃波が空間を襲った。超速度での殴打戦だ。

俺とタコの間に無数の衝撃の花が咲き、天井や壁から余波だけで砕けた破片が飛び散っていく。

 

トシ「……あれ、シャコなんじゃねぇか?」

フリード「シャコ?それはなんだ?」

トシ「たしか、小さなエビに似た海の生き物、だったような……

前脚で打撃を繰り出して餌を取るってあったはずだけど……。」

雫「香織に付き合って読んだ漫画で見たことあるわ……実際、水槽を砕いちゃうくらい威力があるのよね?」

浩介「つまり、タコの柔軟性と手数にシャコの打撃力を加えた魔物って訳か……。」

なにその凶悪な魔物……と言いたげに、ちょっと引き攣った顔で戦いを見守るトシ達。

成程、それならこっちも打撃でいくだけだ!

 

ハジメ「"世界(The・Worid)"!」

瞬間、俺は八撃同時殴打をかいくぐり、本体に拳を打ち込む。が……

ハジメ「!?衝撃吸収型か!」

それどころか、巨大タコが赤黒い光を纏った直後、一瞬で戻った8本の足から爆発な衝撃が放たれた。

 

ハジメ「ッ!ぶねぇッ!」

咄嗟に時間停止で避ける。直後、背後にあった壁が跡形もなく砕け散った。

ハジメ「あのタコ、どうやら衝撃を吸収した挙げ句、それを自分の殴打に乗せて放てるようだな……

この中だと、龍太郎だけ無理そうだな?」

龍太郎「俺だけかよ!?」

だって他の皆、魔法使えるし。シアは……そのまま粉砕しそう。

 

ハジメ「とはいえ、この先の試練もあるからな……一撃で片づける。」

雫「待ってハジメ君、ここは私たちに任せてくれないかしら?」

ハジメ「む……それもそうか。まぁ、いざとなったら洞窟ごとぶち抜いてぶっ飛ばすが。」

恵理「兄さん、それを脳筋っていうんだよ?」

妹のツッコミに思わず目を逸らす。とはいえ、これはあいつ等の試練だ。

ここで俺が手を出しては、元も子もない。なので、さっと後ろに下がる。

 

光輝「フォーメーションはどうする?俺の"神威"でどうにか吹き飛ばせるか?」

雫「それもありだけど……恵理、貴方の魔法は?」

恵理「あの強さだと、メラゾーマレベルじゃなきゃダメそう。ギガデインとかどうかな?」

鈴「じゃあ、エリエリと光輝君は私と坂上君で守ろうか!」

龍太郎「まぁ、それしかねぇか。」

浩介「なら俺も雷遁で援護するか。フリードは極光で敵を牽制してくれ。」

フリード「心得た。」

おやおや、どうやら作戦は決まったようだ。それじゃ、お手並み拝見と行こうか。

 

そうこうしているうちに、巨大タコの金属足が迫った。そこへ、雫が前に出ると、

雫「虚空陣奥義"雪風"!」

カウンター技で足を切り落とした。以前の黒刀は更に強化されているので、切れ味抜群だ。とそこへ、

恵理「"バインドチェーン"!」

浩介「"雷遁・虎鋏"」

恵理の拘束と浩介の雷遁が炸裂する。因みに、浩介曰く"影縛りの術"でもよかったらしい。

しかし、流石に向こうも再生能力を有していたのか、直ぐに足が再生し、恵理たちに襲い掛かる。

 

鈴「させないよ!"聖絶・界"!」

そこへ、鈴の多重結界が立ち塞がり、攻撃を弾く。更にそこへ、

龍太郎「"破拳"!」

龍太郎の拳が足を吹き飛ばした。

この技は空間震動によって 内部からの破壊に向いているので、吸収するポイントに発生するズレを突いた戦法だ。

光輝「充填完了だ!皆、下がってくれ!」

光輝がそう言うと、一斉に皆が下がり、光輝とフリードの大技が炸裂した。

 

光輝「"神威"!」

フリード「やれ、ウラノス!」

ウラノス『"極光"!』

二つの極光が、巨大タコを包んだ。

そして、ガーディアンは跡形もなく消え去り、光輝達はガッツポーズをした。

まぁ、これが本来のパーティー探索なんだろうけど。

 

その後も、正規ルートを進み、道中の魔物をやり過ごしつつ、しばらくして水の壁に行き当たった。

潜水艇が通れるほどの一面の水壁だ。あたかも水族館で巨大水槽の前にいるような感覚。

けれど、そこにガラスや壁はなく、手を差し入れれば無抵抗に水没する。

奥は不自然に暗く見通せないが、攻略の証がある以上、トラップや魔物に襲われることはないだろうと、潜水艇を出して乗り込み、そのまま水壁の向こうへ。

そうして、やってきた巨大な球体状水中空間で俺達を出迎えたのは……

 

ハジメ「成程……あれが例の……。」

オスカー『そうさ、あれが僕達の最高傑作、とも言えるかな。』

見るからに凶悪な、あらゆるアーティファクトで武装した潜水艦があった。

黒一色の中型クルーザー。

巨大球体空間の中心にぽつんと鎮座する潜水艇は、そう表現して問題のないフォルムであった。

 

普通にフロント部分には窓があって、船内も見える。舵輪もあれば座席もあり、普通の構造だ。

船体には無数の魔法陣が刻まれていて、その構成を読み取る限りだいたいが攻撃魔法。

戦闘目的で建造されたものであることは明白だった。

まさに、魔装潜闘艇とでも呼称すべき姿。だが、それ以上に特異な点が目に付く。

 

ハジメ「ほぅ、結界で水に触れないようにしている、という訳か。その発想はなかったな……。」

そう、この魔装潜闘艇、うっすらと輝く空気の膜が船全体を卵状に包み込んでおり、そもそも海水に触れていないのである。

その状態で宙に浮いているのだ。

 

ミレディ「ふっふ~ん、どう?凄いでしょ?アレ、空も飛べちゃうんだよ?」

ハジメ「水空両用か、面白い。」

まぁ、人が濡れずに水中活動するために作られたのが潜水系の乗り物だし、その乗り物自体を濡らさないという発想は、向こう(地球)の人間ではなかなか思い至らないだろう。

そう考えれば、船自体を密閉構造にするより魔法で水を寄せ付けなければいい、という方がファンタジー世界らしい発想だろう。」

 

ラウス『まぁ、これ自体はオスカーのオリジナルではなく、当時の我々の本拠地を参考にしただけだがな。』

ハジメ「寧ろそっちの方がバケモン過ぎると思うんだけど。」

確か、魔剣イグニスや魔喰大鎌エグゼス、だったか。

それらと同時代に作られた魔装巨大戦艦……ロマンの塊じゃねぇか、オラわくわくすっぞ!

 

ナイズ『まぁ、これ自体は制限時間内まで生き残ればいいだけだ。だからくれぐれも……。』

ハジメ「分かってるよ――でも技術対決はまた今度ね☆」

そう言って俺はゲームエリアを展開、魔装潜水艇は水中から地上へと放り出された。

 

解放者ズ『……え?』

ハジメ「こういうのはなぁ……勝てばよかろうなのだぁ――!!!」

現代組男子『やりやがったよコイツ!』

そのツッコミを無視して、俺は魔装潜水艇へと肉薄する。

攻略の証を使用せず急迫すれば、当然、魔装潜闘艇とて本来の役割を果たすべく反応する。

 

結界の作用か、直ぐに浮上し、一瞬のうちに時速50km近い速度に達する。

みるみるうちに迫ってくる魔装潜闘艇との正面切ってのチキンレースに、「ちょっとぉーー!?」「待て待て待てぇっ!?」と悲鳴じみた制止の声が上がるが、今の俺は止められん!

 

フリード「ダメだ、あの目は完全に戦闘態勢だ。間近でぶつかった私だからこそ分かる。」

メイル「そんな悟ったような眼で言われても困るのだけど!?」

そんなツッコミを無視し、俺はドンナ―&シュラークの二丁拳銃を撃ちまくる。

しかし、魔装潜闘艇は避ける素振りも見せず魔法陣の一つを輝かせた。

途端に、放たれた銃弾の進路がめちゃくちゃにずらされてしまう。

 

ハジメ「面白いッ!久々に燃えてきたぁ!」

恵理「あ、ダメだねこれ。完全にハイになっているし。」

トシ「まぁ、後で直させるよ。アイツ、時間操作もできたから大丈夫だよ、多分。」

引き続きツッコミを無視し、魔装潜水艇とすれ違った。

すると今度は、お返しとばかりに魔装潜闘艇から、レーザービームが飛んできた。

水中での使用も考慮したのか、そう見える光属性の砲撃魔法のようだ。

 

ハジメ「無駄無駄無駄ァ!そんなすっとろい攻撃で、この俺が焼かれるかぁっ!」

ユエ「……ハジメの悪癖?」

香織「そう、かもね……。」

雫「たまに常識の箍が外れるのよね、ハジメ君って。」

ジト目付きの呟きと一緒に、砲撃魔法を"暴食の黒天窮(グラトニーホール・カタストロフ)"でやり過ごす。

まぁ、流石にジト目はかき消せなかったものの、砲撃はいとも容易く防いで見せた。

 

ハジメ「残念だった、って何ィッ!?」

何と、いつの間にかいなくなっていた。迷彩機能か、空間移動のどちらかだろう。

落ち着いて精神を研ぎ澄ませる。そして魔力の反応のある方へ視線を向ければ……

ハジメ「そこかぁっ!」

さっと身を翻せば、さっきまでいた場所に雷撃が放たれた。

 

しかしその直後、俺の周囲一帯が凍てつき始めたので、火炎系技能で無効化する。

その仕返しとばかりに、エナジーアイテム"ポーズ"で位置を固定、直ぐ様"涅槃(ニルヴァーナ)"で反撃する。

これは流石に堪えたようで、煙が晴れた先では、遂に浸水防止結界が崩壊。

砲撃用魔法陣も半壊状態になり、転移用の魔法陣にもダメージが入ったのか、空間の歪曲が微かに起こるだけで"ゲート"は開かない。

しかし、最後の抵抗とばかりに、残った砲門から攻撃を放ち続ける魔装潜闘艇。

 

ハジメ「貰ったぜ、最終コーナーァ!!!」

時間停止で正面へ行き、サイキョ―ジカンギレ―ドを構え、振りかぶった。

『〈キングギリギリスラッシュ!!〉』

そして時が動き出せば、魔装潜闘艇は真っ二つに断たれた。

 

ハジメ「勝ryyyyyyyy!!!」

そのまま両手万歳スタイルでガッツポーズをして後ろを見れば、呆れの視線と苦笑が突き刺さった。

とはいえ、激闘を制したことに変わりはなく、ゲームエリアを解除すれば、それを認めるかのように輝く紋章の壁がゴゴゴッと四分割に開いていく。

 

ミュウ「あ、パパ……。」

ハジメ「うん?……は?」

ミュウを抱き上げようとした俺は、娘のぽかんっとした表情に動きを止め、その視線を辿った。

『あ……。』

多分、解放者ズ以外、皆同じ表情をしている。

だって、ボロボロな上にダメ押しで真っ二つにされた魔装潜闘艇が夕焼け色の輝きを帯びたと思ったら、次の瞬間、何事なかったみたいに復元したから。

マジで一瞬である。

こう、パシンッと両手を合わせるような気軽さで船体が一人でにくっつき、破損部分も結界も元に戻ったのだ。

 

メイル「あら、ごめんなさい?言い忘れていたけど、アレ、時間差で修復されるのよね。」

ハジメ「……。」

オスカー『ま、まぁ、流石に僕もあれが壊れるのは見たくないというか、つい……。』

ハジメ「……。」

ミレディ「ねぇ、ハジメン!今、どんな気持ち?

苦労して倒したのに、直ぐ修復された時って、どんな気持ち?NDK?NDK?残念!プギャァー!」

ハジメ「……。」プッツゥ〰ンッ!!!

コイツぁ、久々にキレちまったよ……。その瞬間、俺の表情が能面になる。

 

『All Zector Combine』

ハジメ「フフフ……。」

浩介「あ、ヤバい。これ、確実にキレてるな。」

パーフェクトゼクターを右手に、エボル・ブラックホールのウォッチを左手に、それぞれ持った。

 

ハジメ「なら、跡形もなく消せば、大丈夫だよね?」

解放者ズ『勘弁して!?』

この後、必死に暴れまわる俺と、それを止めようとする皆の騒ぎの中、魔装潜闘艇がその場で旋回して船首をこちらに向ける。

そうして、挨拶でもしているみたいに一瞬強く輝くと、そのまま後方に"ゲート"を出現させ、その向こう側へと消えていった。

 

そんなこんなで、巨大な紋章の奥へ進んだ俺達一行は、直ぐに海中から脱することができた。

来た時と同じで、門の向こうは直ぐに水の壁と綺麗に整備された通路となっていた。

その道を進むことしばし、現れたのはY字路だった。

 

ハジメ「どっちがどっちだったっけ?」

メイル「右じゃないかしら?」

そう言って俺達は右に進んだ。

そして後から確認したところ、左は俺達が最初に来た船の墓場だったらしい。

 

ついた先は廃都市だった。が、今回は幻影との戦いは避けた。

後から再度行った結果、種簇間戦争中、それも遙か過去に存在した国の末期を再現したような感じだった。

そして、二国の軍隊と都内で戦争することになった。

その都は人間族の都で魔人族の軍隊に侵略されている所だったらしく、以前と同じく両者から襲われた。

 

都の奥には王城と思しき巨大な建築物があり、軍隊を蹴散らしながら突き進むと、侵入した王城で重鎮達の話を聞く事になった。

何でも、魔人族が人間族の村を滅ぼした事が切っ掛けで、この都を首都とする人間族の国が魔人族側と戦争を始めたのだが、実はそれは和平を望まず魔人族の根絶やしを願った人間側の陰謀だったのだ。

 

気がついた時には、既に収まりがつかない程戦火は拡大し、遂に返り討ちに合った人間側が王都まで攻め入られるという事態になってしまった……という状況だった。

そしてその陰謀を図った人間とは、国と繋がりの深い光教教会の高位司祭だったらしく、この光教教会は聖教教会の前身だった様だ。

 

更に、奴等は進退窮まり暴挙に出た。

困った時の神頼みと言わんばかりに、生贄を捧げてクソ野郎の助力を得ようとした。

その結果、都内から集められた数百人の女子供が教会の大聖堂で虐殺されるという凄惨な事態となった。

その光景を見た俺は思わず、"涅槃(ニルヴァーナ)"を発動しかけた程に怒ったことは、別のお話。

 

そしてその幻影を飛ばした理由としては、あれは人を狂気に染める悪夢だからだ。

幾ら試練だとはいえ、ミュウとレミアまで巻き込んで見せるわけにはいかなかった。

それを理解していたのか、メイルも神代魔法の試練については、なんとかしてくれた。

誰もが狂って、命を踏み躙って、滅びるまで戦い続ける。無垢な子供達が残酷な結末を迎える。

そんな光景、試練でないなら見るべきじゃない。普通に生きる人が見てはいけない光景だ。

 

奴が作り出してきた地獄絵図は、常人を容易く狂気の世界へ誘ってしまうのだ。

とはいえ、流石に光輝達も受けないのは不味いので、この後その地点までショートカットして再度挑んだのは、またの機会に。

その後、ちょっとした悪戯心が働いたせいか、幽霊船の中で攻略の証を使わずに進んでしまった。

 

ハジメ「恐怖を煽って狂気を助長するための試練だからか、怪奇現象や魔物の類いは、危険度自体は大したことないものばかりだ。

ただ不気味さに特化しているだけでな。とはいえ、万が一はあるから一応、ユエ達も警戒と迎撃を頼むな?」

俺の指示に従って、レミア達を中心にして、ユエ達が周囲を警戒しながら早速進んで行く。

 

そうすれば、早々に現れる怪奇現象の数々。

当時は気が付かなかった精神的に恐怖や狂気を煽る魔法も確かにかかっていて、事前に渡しておいた精神保護のアーティファクトが輝きを帯びっぱなしになっていた。

レミアは度々悲鳴を上げては飛び上がっている。だというのに、

 

ハジメ「ミュウ、大丈夫?」

ミュウ「面白いの!」

レミア「嘘でしょ?ミュウ、ママは割と限界が近いのだけど……」

ミュウ「はい、ママ。お手々を繋いで?大丈夫、ミュウが守ってあげるの!」

レミア「た、頼もしい……」

ミュウは、どうやらホラー系に絶対の耐性を持っているらしい。

尚、怖がっているレミアを見て興奮している変態(メイル)はスルーした。

 

香織「く、クルよ!あいつがクルよぉ!」

ハジメ「香織、頼むから耳元で音程の狂った囁きをするのはやめて。今の香織の方が怖いよ?」

相変わらずおんぶ状態の香織が何かを感じ取ったようだ。

通路の奥に、かつて香織を震え上がらせた白いドレスの少女が現れたのだ。

 

恐怖を感じ取ったのか、少女の口元が三日月のように裂けた。

ガクッと糸を切られたマリオネットのように床へ身を投げ出し、手足があり得ない方向に曲がって蜘蛛のようになる。

そして、ケタケタケタッとSAN値を削るような、否、実際にそういう作用のある魔法が併用されているらしい奇怪な嗤い声が響き渡った。

香織から「いやぁあああああっ!?」と悲鳴が放たれる。

レミアもまた、思わずしゃがみ込んでミュウを抱き締める――前に。

 

レミア「あっ、ミュウ!?ダメよ!行っちゃダメぇ!」

ユエ「……レミア、落ち着いて!ちゃんとハジメが処理するから!」

恋人に捨てられた人のようにくずおれスタイルで片手を伸ばすレミア。

普段の余裕あるスマイルは欠片もなし。追いかけたいけど腰が抜けてしまっているらしい。

直ぐ様対処に移ろうと未来予知をしたら、とんでもない光景があったので思わず立ち止まってしまった。

何故ならーー

 

ミュウ「初めまして!ミュウはミュウです!貴女のお名前はなんですか!なの!」

ホラー的状況にまったくそぐわない、同年代の女の子を見つけたから声をかけてみた!くらいのノリで近づいていくミュウ。

直後、驚くべきことに、妖怪モドキは動きを止めた。

それどころか、ずんずんっと近寄ってくるミュウに、「え?なんで!?なんで近寄ってくるの!?そういうの困るんだけど!?」と言いたげに後退る始末。

 

ハジメ「もしかして…俺がよくやったあれかぁ!?

お化け屋敷のお化け役が嫌がるお客ナンバーワンのムーブを!?」

それが正しかったのか、結果的に言えば、妖怪モドキはジリジリと下がった後、そのままダッシュで去ってしまった。

明白に拒否られて落ち込みながら戻ってくるミュウに、香織が恐る恐る尋ねる。

 

香織「ミュウちゃん、怖くないの?」

心構えというか、その心理状態を知れば、自分の苦手意識も少しは治るのでは?と思ってした質問に、ミュウはキョトンとした後、なぜか物凄く大人びた表情になった。

そして、俺の腰に巻き付いたままの香織の足をぽんぽんしつつ、

 

ミュウ「人間より怖い存在なんていないの。そうでしょ?」

香織「あ、はい……。」

ハジメ「……そうっすね、ミュウさん。」

光輝「ハジメが敬語を使った!?」

いや、だってさぁ……。

ミュウは誘拐されて、人間が人間を売る場面を目の当たりにして、それに喜んで値段をつける人間を見てきたんだよ?

そしてそんな幼子の言葉には、それはそれは強い説得力があったのだった。

 

フリード「我が魔王……貴方のご息女は本当に義理の娘なのか?

とても血の繋がりが無いようには思えんが……。」

ハジメ「どういう意味かなぁ、フリードくぅん?俺も正直驚いているんだよ?

ミュウは時々、俺やレミアの予想外の成長遂げているから、制御が効かないんだよ……。」

フリード「……ご苦労お察しいたします。」

フリードに同情されたのか、思わず涙ぐみそうになったよ、ちくせう……。

 

だからだろうか。

誰も彼も、その後の怪奇現象にあまり反応しなくなったのは。

そんなわけで、その後はなんとなく世知辛い想いをスパイス代わりに、遊園地の一般的なホラー系施設程度の恐怖と驚きを味わいながら船倉までスムーズに進み、攻略の間へと足を進めた。

そこにはなんと……

 

ハジメ「お、お前……ここにいたのか!?」

十字型の通路と水に満ちた神殿造りの空間に感心しつつ、中央の魔法陣がある場所に入った直後だった。

ゴゴゴッと音を立てて水面の一部が渦を巻いて凹んでいき、そこからせり上がってきたのだ。

あたかも、SF映画などで湖の下の秘密基地から航空機が出てくるシーンのように。

そう、あの魔装潜闘艇が。

 

ミュウ「みゅ!パパ、普通に乗れるの!」

ハジメ「そっかぁ……。」

最後の戦いだ!というわけでは、やはりなかったらしい。

試しに魔力を注いでみれば、普通に操作できそうだった。

 

オスカー『もしよければ、あげるよ?このまま、ここに置いたままなのも流石にね……。』

ハジメ「……いいだろう、その言葉、後悔するなよ?」

そんなわけで、俺は新たに魔装潜水艇を手に入れたのであった。

そして光輝達も再生魔法の取得に成功したのであった。

 

その面子に何故、ミュウとレミアが入っていたのかは誰もツッコまなかった。

というかツッコめるか。俺にだって予想外過ぎる。だって、メイルも何もしていないって言ってたから。

そのうち、幽霊船の幽霊がもう来てほしくないからという理由で贈与したのでは?という仮説で落ち着いたのであった。

 


 

そして再びライセン大峡谷に戻り、試練のガーディアンであるゴーレムを出すことにした。その結果……

ハジメ「ホラホラ!さっさと攻撃しないと、スタミナを余計に消費するよ!」

光輝「そんなに言うなら少しは手加減しろォ!鬼!悪魔!魔王!」

トシ「遊び半分でこんなデカブツ作る奴の言うセリフじゃねぇ!?」

正に地獄絵図であった。

 

現在、俺は巨大ゴーレム「Maximum Powered Xeno 99」通称MPX99で光輝達に試練を受けさせていた。

何でかって?巨大ロボこそ男のロマンだったからさ!

因みにコックピットには、オスカーとナイズの眼魂が埋め込まれており、三人で動かしている形だ。

 

オスカー『ひゃっほーい!こんなにも自在に動くゴーレムは初めてだ!』

ナイズ『オスカー、キャラがぶれているぞ……。』

まぁ、無理もないわな。

いとも容易くピョンピョン跳ねては、挑戦者を潰そうと高速で動くゴーレムなんてこっちの世界じゃ無理そうだし。

 

ティオ『ご主人様、少し厳しすぎではないかの!?』

ハジメ「寧ろこれでも手加減したくらいだよ?

ホントはもうちょい武装もつけたかったけど、機動性重視にしたから止めたし。」

香織「初耳なんだけど!?」

フリード「ウラノス、大丈夫か!?」

ウラノス『な、なんとか……。』

 

そんなに厳しすぎたかなぁ?今もズドンズドンって轟音を響かせながら、辺りを跳ねまわっているけど……

それでもコックピット以外の装甲は、"神威"とかでやれば、何とか削れそうだけどなぁ……?

そんなことを思いつつも、結局は進撃を止めない俺であった。

 

鈴「うわぁ~ん、死んだら化けて出てきてやるぅ~!」

龍太郎「ていうか遠藤、遠藤はどこ行った!?タゲ集中はアイツの役目だろ!?」

ハジメ「あぁ、浩介なら今トラップ部屋で悪戦苦闘中だ。

なんか、浩介だけは一人でやらせた方が後々良さそうな気がして、ね?」

イナバ『何の話っすか!?』

恵理「兄さんの悪い癖がまた……でもこれで終わる筈……!」

 

まぁ、他のは俺の手を加えずともやべーのばっかりだしなぁ……。

今回は突貫工事で作ったゴーレムで試練を受けさせているが……

本来は迷路も突破しないといけないからな。それを省略できただけでも、マシだと思って欲しい。

浩介?アイツは迷路も攻略してもらったよ?俺達が過去に行ったのよりも簡単な奴だったけど。

 

流石におんなじ迷路を一人にやらせるのは、俺としても良心が痛んだので止めたが……

それでも試練のキツさは光輝達よりもでかい。その方がいい、という予感が俺の中に響いていた。

何故だろうか?もしや、浩介の嫁さんが無茶な条件でも出したとか?……流石にないか。

と、そんなことを考えている内に、そろそろ急ごしらえのゴーレムもボロボロになってきた。

 

ハジメ「面白い!ならばこれはどうかな?トランザム!」

俺がそう叫んだ瞬間、ゴーレムが紅く発光し、体が一回り縮んだ。

トシ「オイィィィ!?」

光輝「ちょっとぉ!?」

オスカー『Fooooo!!!』

三者三様の叫び声が上がる。そしてMPX99・トランザムverが火を噴いたのであった。

 

とまぁ、俺の暴走というアクシデントがあったものの、あの後いつの間にか迷路を突破してきた浩介が、コックピットに侵入してきたので、咄嗟にオスカーとナイズを連れて脱出した結果、企画時点で弾いておいた筈の自爆機能が何故か搭載されており、浩介はそれに巻き込まれる寸前で脱出したものの、ゴーレムが自爆してしまったので、試練続行が不可能になってしまった。

そして、自爆機能をゴーレムに搭載した犯人のミレディが必死に謝り、重力魔法の授与をすることでこの騒ぎは何とか収まったのであった。

 

その後、光輝達も魂魄魔法の習得に成功したので、リリィたちと合流した。

フリードと部下の魔人君達は、俺達がフェアベルゲンについた後で、ゲートで連れてくることにした。

一応、兵糧の補給もしておいたので、大丈夫だろう。

さぁ、向かうは樹海の大迷宮、"ハルツィナ大迷宮"だ!Go the East!!!




ハジメ
「ここまで読んでいただき、ありがとうございます!今回は俺一人で進めさせてもらうぜ!
さて、今後の前書きと後書きの方針についてだが……以下の通りになった。」

前書き……ヒロインズ+仲間達のローテーションによるオープニングトーク

後書き……うp主の感想と説明+次回予告(暫くRX風の語り、タイトルはまだ未定)

ハジメ
「ざっとこんな感じか。後何でRX風なのかはまぁ……うp主が気に入ったらしいからだ。
でもサブタイは平成・令和風で進めていくから、お楽しみに!
さて、次回予告と行くか!」

次回予告

ハジメ達は6つ目の神代魔法"昇華魔法"を手に入れるため、東の樹海の中にある【ハルツィナ大迷宮】へと向かい、樹海へとアーティファクトで歩みを進めていた。
だがそんな中、一行は衝撃的な光景を目撃する!
そしてこれが、後に歴史を動かす出来事の一つの始まりになるとは、誰も予想できないでいた!

次回、「見参!首狩り兎のハウリア!」
目撃せよ、歴史の始まり!

ハジメ「ぶっちぎるぜ!」

リースティアさん、誤字報告ありがとうございました!


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原作第7巻~帝国編:2074/帝都震わすVorpal Bunny!
82.見参!首狩り兎(ハウリア)!


ハジメ
「神を騙る悪が蔓延る異世界"トータス"にて、最高最善の魔王、南雲ハジメは、色々あってハイリヒ王国の玉座につき、仲間達の強化を行っていた。
そして遂に、全員が神代魔法の習得に成功し、樹海へと出発するのであった!」
シア
「今回は私の家族が久しぶりに出てきます!まぁ、アレなんですけどね……。」
ハジメ
「まぁ、気持ちは分かる。原因は俺にもあるけど……何故よりにもよって二つ名を……。」
シア
「ホントですよ!そう言うのはハジメさんの担当なわけですし。」
ハジメ
「でも一名、それに乗り気になっている奴もいるしなぁ……。」
シア
「まぁ、彼には是非頑張ってもらいたいですね。さて問題です!
私たちは今、どうやって移動しているでしょうか?」
ハジメ
「一応原作でも答えは出ているけど……正解はどうかな?」
シア
「答えはこの後すぐ、ですぅ!それでは、第7章第1話」
ハジメ・シア
「「それでは、どうぞ!」」


眼下の八雲が流れるように後方へと消えていく。

重なる雲の更に下には草原や雑木林、時折小さな村が見えるが、やはりあっと言う間に遥か後方へと置き去りにされてしまう。

相当なスピードのはずなのに、何らかの結界が張ってあるのか風は驚く程心地良いそよ風だ。

 

そんな気持ちの良い微風にトレードマークのポニーテールを泳がせながら、眼下の景色を眺めていた雫は、視線を転じて頭上に燦々と輝く太陽を仰ぎ見た。

雲上から見る恵みの光は、手を伸ばせば届くのでは?と錯覚させるほど近くに感じる。

雫は、手で日差しを遮りながら手すりに背中を預け、どこか達観したような、あるいは考えるのに疲れたような微妙な表情でポツリと呟いた。

 

雫「……まさか、飛空艇ならぬ飛行戦艦なんてものまで建造しているなんてね。

……もう、何でもありね。」

そう、雫が現在いる場所は、ハジメが作り出した飛行戦艦"逢魔号"の後部甲板の上なのである。

この逢魔号は、重力石と感応石を主材料に、その他諸々の機能を搭載して建造された新たな移動手段だ。

今まで使わなかったのは、ハジメ曰く"内部構造の問題"らしい。

 

重力石で物体を動かすこと自体は難しくなく、質量がどれだけ大きかろうとも、ハジメ自身鍛えているのでどうとでもなった。

が、デンライナーゴウカのように快適な旅を自分以外も送れるかと聞かれればそれは否だった。

そんな折、空間魔法・再生魔法といった二つの神代魔法の習得により、この逢魔号の開発は飛躍的に進み、魂魄魔法によってさらにアップグレードされたのだ。

 

王都から出発する際、馬車も魔力駆動車も用意せず王都近郊の草原に集合させたハジメを訝しむ皆の前で、逢魔号をお披露目したハジメは、ドヤ顔しながら

「RPGとかの旅の終盤で、飛行系移動手段を手に入れるのは常識でしょ?」

と、自信満々に語ったものだ。

 

この逢魔号は、全長150mの戦艦のような形をしており、中には前面高所にあるブリッジと中央にあるリビングのような広間の他、更にキッチン・バス・トイレ付きの居住区まである。

と言っても、帝国まで馬車で2ヶ月の道のりを僅か半日で走破してしまうので、どこまで活用されるかはわからない。

 

最も、一度行ってしまえばハジメさんのオーロラカーテンで一ッ飛びだが。

が、それでは風情とロマンがないので、というハジメさんの思惑があったことはここだけの秘密である。

とはいえ、空に浮かせているだけでも、結構な魔力を消費する。

なので現在、ハジメさんは常時変身状態なのだ。半永久機関が無ければ、長時間の使用など不可能である。

 

光輝「雫……ここにいたのか。」

雫「光輝……。」

ハジメのセリフを思い出して、一体どこの常識だと内心でツッコミを入れていた雫に声がかけられた。

雫がそちらに視線を向ければ、ちょうどハッチを開いて光輝が顔をのぞかせているところだった。

光輝は、そのまま雫の隣に来て、手すりに両腕を乗せると遠くの雲を眺め始める。

そして、ポツリと呟いた。

 

光輝「これ……すごいよな。」

雫「そうね。……もう、いちいち驚くのも疲れたわ。みんなは?」

光輝「龍太郎と近衛の人達はシアさんが作った料理食べてる。鈴はリリィと話してる。

清水は恵理と話していて、遠藤は……分からない。ハジメは未だ運転中だ。」

 

ハジメに付いて来たのは、帝国に送ってもらう約束をしたリリアーナ姫とその護衛の近衛騎士達数名、それに光輝達勇者パーティーwith恵理&浩介だけだ。

愛子は戦えない生徒達を放置することは出来ないと残り、永山達前線組も、光輝達がいない間王都の守護を担うと居残りを決意した。

 

因みに、イナバは魔人族達を鍛え上げるために、ライセンの隠れ家に残ることに。

フリードから聞いた話では、魔人族の一部が帝国にも侵攻していたらしく、その損害を補うために樹海に侵攻している可能性があるとハジメは推測していた。

と、その時、今まで一定速度で飛行していた逢魔号が急に進路を逸らし始めた。

帝国までは真っ直ぐ飛べばいいだけのはずなので何事かと顔を見合わせる光輝と雫。

 

光輝「?何かあったのか?」

雫「取り敢えず、中に戻りましょうか。」

二人は、一拍おいて頷き合うと急いで艦内へと戻っていった。

 


 

雫と光輝がブリッジに入った時には、既に全員が集まっており、中央に置かれている水晶のようなものを囲みながら、そこからSFよろしく出ている空中ディスプレイに映し出される光景を見ていた。

 

雫「何があったの?」

香織「あっ、雫ちゃん。うん、どうも帝国兵に追われている人がいるみたいなの。」

尋ねた雫に香織が答えた。

その香織が指差した空中ディスプレイには、峡谷の合間を走る数人の兎人族と、その後ろから迫る帝国兵のリアル鬼ごっこが映っていた。

 

この空中ディスプレイ付の水晶は、望遠鏡のような"遠見石"と、同質の魔力によって景色の中継が出来る"遠透石"を、"境界結石"と共に生成魔法で付加した水晶で出来ており、外部遠方の映像をブリッジに設置されている水晶を通じて、空中に映像を映すことができる。

 

簡単に言ってしまえば、トランスフォームしそうな地球外生命体がよく使う、通信用モニターのようなものだ。

勿論、普通の望遠鏡としても、しっかり使えるし、ア〇アンマンや〇走中に出てくる、3DCGホログラムモニターのようなものも使える。

そして、これらの機能を応用したものが各箇所に搭載されており、空中ディスプレイを操作することで、搭載された機能を簡単に扱えることが出来、より快適かつ柔軟な旅路を行くことが可能だ。

 

雫が、その空中ディスプレイを覗き込めば、確かに、水の流れていない狭い谷間を兎人族の女性が2人、後ろから迫る帝国兵を気にしながら必死に逃げているようだった。

だが、その足はふらついて遅く、馬に乗る帝国兵たちの速度とは比べ物にならない。

追いつかれるのは時間の問題に見えた。

 

加えて、帝国兵のずっと後ろには大型の輸送馬車も数台有って、最初から追って来たというより、逃がしたのか、あるいは偶然見つけた兎人族を捕まえようとしているように見える。

どうやら、ハジメ達は、この状況を見て逢魔号の速度を落としたようだ。

本来なら無視するところなのだろうが、シアが同族ということで酷く気にしたので向かっているところなのである。

 

光輝「不味いじゃないか!直ぐに助けに行かないと!」

ハジメ「まぁ待て、光輝。あいつ等は俺の部下だ、あの程度でやられるほど軟じゃねぇよ。」

光輝「!?で、でも…!」

しかし、焦る光輝に対してハジメは冷静に宥め、興味深そうに空中ディスプレイを眺めている。

 

そうこうしている内に、逃げていた兎人族の女性2人が倒れ込むようにして足を止めてしまった。

谷間の中でも少し開けている場所だ。

それを見て、ハッと正気に戻った光輝がブリッジを出て前部の甲板に出て行こうとする。

距離はまだあるが、取り敢えず魔法でも撃って帝国兵の注意を引くつもりなのだ。

 

ハジメ「行かない方がいいぞ、敵だと思われるから。」

光輝「なっ、何を言っているんだ!か弱い女性が今にも襲われそうなんだぞ!」

キッ!と苛立たしげにハジメを睨む光輝に、しかし、ハジメはニヤリと笑うと、空中ディスプレイを見ながらどこか面白げな様子で呟いた。

 

ハジメ「か弱い?まさか。あいつらは……"ハウリア"だぞ?」

何を言っているんだ?と光輝が訝しげな表情をした直後、「あっ!」と誰かが驚愕の声を上げた。

光輝が、何事かと空中ディスプレイに視線を向けると、そこには……

首を落とされ、あるいは頭部を矢で正確に射貫かれて絶命する帝国兵の死体の山が映っていた。

 

『……え?』

光輝だけでなく、ハウリア族を知らないその場の全員が目を点にする。

その間にも、輸送馬車から離れて兎人族を追っていた部隊が戻ってこない事を訝しんだ後続が、数人を斥候に出した。

 

そして、その斥候部隊が味方の死体の山を見つけ、その中央で肩を寄せ合って震えている兎人族の女2人に、半ば恫喝するように何かを喚きながら詰め寄った。

彼等も、普段ならもっと慎重な行動を心がけたのかもしれないが、いきなり味方の惨殺死体の山を目撃した挙句、目の前にいるのは戦闘力皆無の愛玩奴隷。

動揺する精神そのままに無警戒に詰め寄った……そう、詰め寄ってしまった。

 

斥候の一人が兎人族の女のウサミミを掴もうとした瞬間、どこからか飛来した矢がその男の背後にいた別の斥候の頭部に突き刺さった。

一瞬の痙攣のあと横倒しになった男の倒れる音に気がついて振り返る斥候。

 

その前で、恐怖に震えていたはずの兎人族の女が音もなく飛び上がり、いつの間にか手に持っていた小太刀を振るって、眼前の斥候の首をあっさり落としてしまった。

そして、もう一人の兎人族の女も、地を這うような低姿勢で一気に首を飛ばされ倒れる男の脇を駆け抜け、突然の事態に呆然としている最後の斥候の首を、これまたあっさり刈り取ってしまった。

 

まるで玩具のようにポンポンと飛ぶ首に、まだ人殺しに慣れ切れていない光輝達が「うっ!?」と顔を青褪めさせて口元を押さえる。

リリアーナ姫や近衛騎士達は、兎人族が帝国兵を瞬殺するという有り得ない光景に、思わずシアを凝視する。

特殊なのはお前だけじゃなかったのか!?と、その目は驚愕に見開かれていた。

 

シア「いや、紛れもなく特殊なのは私だけですからね?

私みたいなのがそう何人もいるわけないじゃないですか。彼等のあれは訓練の賜物ですよ。

……ハジメさんが施した地獄というのも生温い、魔改造ともいうべき訓練によって、あんな感じになったんです。」

ハジメ「人聞きの悪いことを言わないでよ。

俺は扇動しただけで、あそこまでなったのは彼等の本能が勝手に野生に回帰したからだよ。

ふむ……狙撃はパル、囮役はラナとミナか。アイツ等、前よりもできるようになったじゃねぇか。」

『十中八九原因お前だよ!(貴方でしょ!?)(兄さんだよね?)(ご主人様じゃろ。)(ハジメ君だよね!?)』

 

全員のツッコミが一斉にハジメに向けられる。

その間にも事態は最終局面を迎える。後続の輸送馬車と残りの帝国兵達が殺戮現場に辿り着いたのだ。

道を塞ぐようにして散らばる味方の変わり果てた姿に足が止まる帝国兵達。

まさか、何事もなかったように死体を踏みつけて先へ進むわけにはいかないし、何より動揺が激しいようでざわめいている。

 

そして、ハウリア族はその致命的な隙を逃さなかった。

いや、全ては、その隙を作るための作戦だったのだろう。相手の帝国兵は残り13名。

対して両サイドの崖から飛び出したハウリア族は、いつの間にか姿を消していた先程の女性2人を入れてもたったの6名。

しかし、帝国兵が、飛び出してきたハウリア族に対して明確な戦闘態勢をとったのは、4人の首が飛び、一人の眉間が矢で撃ち抜かれた後だった。

 

ハウリア族の猛攻は止まらない。流れる水のように、あるいは群体のように帝国兵に襲いかかる。

一人が正面から小太刀を振るい帝国兵が剣で受け止めた瞬間には、脇から飛び出した別のハウリア族があっと言う間に首を刈る。

帝国兵に正面から飛来する矢。

初撃とは比べ物にならないほど遅く山なりに飛んできたそれを、見え透いているとばかりに切り払った瞬間、その帝国兵の矢を追う視線を読んでいたように、別の兎人族が死角から滑り込んで首を刈る。

 

雄叫びを上げて迫る帝国兵に、刈り取った兵士の頭部を蹴りつける。

怒り心頭といった具合にその不埒なハウリアに視線が固定された瞬間、背後から突如現れた別のハウリアに首を刈られる。

右と思えば左から、後ろと思えば正面から、縦横無尽、変幻自在の攻撃に終始翻弄される帝国兵達。

彼等の首が余さず飛ぶまで……そう時間はかからなかった。

 

「こ、これが兎人族だというのか……。」

「マジかよ……。」

「うさぎコワイ……。」

逢魔号のブリッジでそんな戦慄を感じさせる呟きが響く。

 

ハジメ「おぉ~、この前も装備新調したから、練度が上がっているじゃん。でも……詰めが甘いね。

武器の力を過信しちゃあ、いけないよ。」

唖然呆然とする光輝達を放って、ハジメはこれまた新作兵器の対戦車ライフル型アーティファクト"タルタロス03-XZ"を取り出すと、器用に小さなオーロラカーテンを開いて、銃口をそこにつっこむと、立射の姿勢をとった。

現場まではまだ5km程ある。

ユエ達以外が目を丸くし、ミュウが「パパの本場の射撃なの!」と大興奮する中、ハジメは微動だにせずにスッと目を細めた。

そして、静かに引き金を引く。

 

ズガァァァンッッッ!!!

強烈な炸裂音と共にシュラーゲンから一条の閃光が空を一瞬で駆け抜けた。

そして、ちょうど馬車から飛び出てハウリア達を狙い魔法を発動しようとした帝国兵を一片も残さず消滅させた。

 

龍太郎「な、何で分かったんだ?」

鈴「南雲君、エスパー的な力もあったの?」

ハジメ「魔力のうねりがあったからね。そこさえわかれば、後はデストロイするだけさ。」

浩介「もうお前一人でも十分だろ。」

浩介の言葉に頷かない者はいなかったのであった。

 

空中ディスプレイに、驚いたような表情で消失した伏兵を見ているハウリア族が映っていた。

彼等は、すぐさま射線を辿って空高くを飛ぶ逢魔号に気が付く。

普通なら、正体不明の飛行物体と、そこからの攻撃に警戒心をあらわにするものだろうが……

次の瞬間には彼等の表情は喜色に彩られていた。

 

岩陰から飛び出てきたクロスボウを担ぐ少年などは何やら不敵な笑みを浮かべながらビシッ!とワイルドな敬礼を決めている。

彼等は閃光を放った者が誰なのか気がついたようだ。それも、当然といえば当然である。

紅と黄金の閃光は、彼等が敬愛する魔王の代名詞のようなものなのだから……

 

少年にならって惚れ惚れするような敬礼を決めるハウリア族達。

空中ディスプレイにデカデカと映ったその姿に、再びその場の全員がハジメに視線を向けた。

今度は、多分に呆れを含んだジト目で。

何をしたら温厚の代名詞のような兎人族があんなことになるのだと、光輝達の目が無言の疑問を投げかけていた。

 

シア「ハジメさん、ハジメさん。早く、降りましょうよ。

樹海の外で、こんな事をしているなんて……もしかしたらまた暴走しているんじゃ……。」

光輝達のジト目をスルーしてシアがハジメを急かす。

ハウリア族は明らかに作戦を練って帝国兵の輸送部隊を狙っていたため、どうやら、樹海の外まで出張って帝国兵を殺すほど、また戦いに酔いしれて暴走しているのではないかと心配なようだ。

 

ハジメ「……そうだね。もしかしたら、帝国でドンパチやっている可能性も捨てきれないし。」

ハジメは、彼等の様子から自己陶酔はないにしても、やはり樹海で何かがあったと察し、シアが憂い顔であったこともあり、逢魔号を操って谷間に着陸させた。

 

ハジメ達が谷間に降りると、そこにはハウリア族以外の亜人族も数多くいた。100人近くいそうだ。

どうやら、輸送馬車の中身は亜人達だったらしい。

兎人族以外にも狐人族や犬人族、猫人族、森人族の女子供が大勢いる。

手足と首には金属製の枷がつけられていた。

どうやら、輸送馬車は亜人奴隷を運ぶためのものだったようだ。

 

皆一様にハジメ達に対して警戒の目を向けると共に、見たことも聞いたこともない空飛ぶ乗り物に驚愕を隠せないようだ。

まさに未知との遭遇である。

と、そんな驚愕8割、警戒2割で絶賛混乱中の亜人族達の中からクロスボウを担いだ少年が颯爽と駆け寄り、ハジメの手前でビシッ!と背筋を伸ばすと見事な敬礼をしてみせた。

 

パル「お久しぶりです、魔王陛下!再びお会いできる日を心待ちにしておりました!

まさか、このようなものに乗って登場するとは……この必滅のバルドフェルド、改めて感服致しましたっ!

それと先程のご助力、感謝致しますっ!」

ハジメ「相変わらずの暴れっぷりだねぇ。まぁ、さっきのは気にしなくていいよ。

お前等なら、難なく対処できただろうし……でもこれだけいっておく。

"よくやったな、我が精鋭達よ。"」

 

ハジメがニヤリと口元に笑みを浮かべてそう言うと、唖然とする亜人族達の合間からウサミミ少年と同じく駆け寄ってきたウサミミ女性2人と男3人が敬礼を決めつつ、感無量といった感じで瞳をうるうると滲ませ始めた。

そして、一斉に踵を鳴らして足を揃え直すと見事にハモりながら声を張り上げた。

 

『恐縮でありますっ、My load!!』

谷間に木霊する感動で打ち震えたハウリア達の声。

敬愛する魔王陛下に、成長を褒められて涙ぐんでいるが、決して涙は流さない。

全員、空を仰ぎ見ながら目にクワッ!と力を込めて流れ落ちそうになる涙を堪えている。

若干、力を入れすぎて目が血走り始めているのが非常に怖い。

ハジメ、ユエ、シア、そしてミュウの4人は平然としているが、他の面々はドン引きである。

 

シア「えっと、みんな、久しぶりです!元気そうでなによりですぅ。

ところで、父様達はどこですか?パル君達だけですか?

あと、なんでこんなところで、帝国兵なんて相手に……。」

パル「落ち着いてくだせぇ、シアの姉御。一度に聞かれても答えられませんぜ?

取り敢えず、今、ここにいるのは俺達6人だけでさぁ。

色々、事情が込み入ってやして、詳しい話は落ち着ける場所に行ってからにしやしょう。

……それと、姉御。パル君ではなく"必滅のバルトフェルド"です。お間違いのないようお願いしやすぜ?」

シア「……え?いま、そこをツッコミます?っていうかまだそんな名前を……

ラナさん達も注意して下さいよぉ。」

 

相変わらずのパル君にシアが頭痛を堪えるようにこめかみをぐりぐりしながらツッコミを入れる。

しかし、場所を移すべきだという意見はもっともなので、取り敢えずそれ以上の追及はせず、シアは、ラナと呼んだハウリアの女性と他のメンバーにパルの厨二全開の名を改めさせるよう注意を促した。

だが、現実というのは常に予想の斜め上をいくものなのだ。

 

ラナ「……シア。ラナじゃないわ……"疾影のラナインフェリナ"よ。」

シア「!?ラナさん!?何を言って……」

ハウリアでも、しっかりもののお姉さんといった感じだったラナからの、まさかの返しにシアが頬を引き攣らせる。

しかし、ハウリアの猛攻は止まらない。連携による怒涛の攻撃こそが彼等の強みなのだ。

 

ミナ「私は、"空裂のミナステリア"!」

シア「!?」

ヤオ「俺は、"幻武のヤオゼリアス"!」

シア「!?」

ヨル「僕は、"這斬のヨルガンダル"!」

シア「!?」

リキ「ふっ、"霧雨のリキッドブレイク"だ。」

シア「!?」

 

全員が凄まじいドヤ顔でそれぞれジョ○的な香ばしいポーズを取りながら、二つ名を名乗った。

シアの表情が絶望に染まる。どうやら、ハウリアの中では二つ名(厨二)ブームが来ているらしい。

この分だと、一族全員が二つ名を持っている可能性が高い。

ちなみに、彼等の正式名は、頭の二文字だけだ。

 

久しぶりに再会した家族が、ドヤ顔でポーズを決めながら二つ名を名乗ってきましたという状況に、口からエクトプラズムを吐き出しているシアの姿は実に哀れだった。

なので、ハジメは、呆れ顔をしつつ程々にするようにと説教しようとした。

しかし、そこでパルの方から流れ弾が飛んで来た。

 

パル「ちなみに、魔王陛下は"紅き閃光の輪舞曲(ロンド)"と"白き爪牙の狂飆(きょうひょう)""黒き黄金の終焉(ラグナロク)"ならどれがいいですか?」

ハジメ「……なにそれ?」

パル「陛下の二つ名です。

一族会議で丸10日の激論の末、どうにかこの3つまで絞り込みました。

しかし、結局、どれがいいか決着がつかず、一族の間で戦争を行っても引き分ける始末でして……

こうなったら陛下御自身に再会したときに判断を委ねようということに。

ちなみに俺は"紅き閃光の輪舞曲"派です。」

ハジメ「どれでもないよ。俺は最高最善の絶対王者(オーバーロード)って決めているから。」

トシ「論争のスカイウォールに第4勢力介入させるな。」

訂正、原因はハジメさんにもあった。というか、コイツも大概であった。

と、その時、しっとりした声が響いた。

 

???「あの……宜しいでしょうか?」

ハジメに、そう声をかけてきたのは足元まである長く美しい金髪を波打たせたスレンダーな碧眼の美少女だった。

耳がスッと長く尖っているので森人族ということが分かる。

どこか、フェアベルゲンの長老の一人であるアルフレリックの面影があるな、とハジメは感じていた。

 

???「あなたは、南雲ハジメ殿で間違いありませんか?」

ハジメ「?確かにそうだけど……どっかで会ったっけ?」

ハジメが頷くと、金髪碧眼の森人族の美少女はホッとした様子で胸を撫で下ろした。

もっとも、細い両手に金属の手枷がはめられており、非常に痛々しい様子だった。

足首にも鎖付きの枷がはめられており、歩く度に擦れて白く滑らかな肌が赤くなってしまっている。

 

???「では、わたくし達を捕らえて奴隷にするということはないと思って宜しいですか?

祖父から、あなたの種族に対する価値観は良くも悪くも平等だと聞いています。

亜人族を弄ぶような方ではないと……。」

ハジメ「祖父?もしかして、アルフレリック?」

???「その通りです。

申し遅れましたが、わたくしは、フェアベルゲン長老衆の一人アルフレリックの孫娘アルテナ・ハイピストと申します。」

ハジメ「長老の孫娘が捕まるって……どうやら本当に色々あったみたいだね。」

 

長老の孫娘と言えば紛れもなく森人族のお姫様ということであり、当然、その警護やいざという時の逃走経路・方法もしっかり確立してあるはずだ。

それらを使用することもなく、あるいは使用しても捕まってしまったと言うなら、それだけ逼迫した事態に晒されたということだろう。

やはりあの後、帝国が何かやりやがったのかと、ハジメは顔を顰め、益々、パル達から詳しい話を聞く必要があるなと視線を鋭くし、ハジメはパル達に声をかける。

 

ハジメ「お前等、亜人達をここに全員まとめておいてくれ。序に樹海まで送ってあげるから。」

パル「Yes,Your highness!あっ、申し訳ないんですが、陛下。

帝都近郊に潜んでいる仲間に連絡がしたいんで、途中で離脱させて頂いてもよろしいですか?」

ハジメ「そう、それならちょうど、こっちも帝都に送る予定だった面子もいるから、帝都から少し離れた場所で一緒に降ろしてあげるよ。」

パル「有難うございますっ!おい、あんた達!我等が魔王陛下が樹海まで送ってくださるそうだ!

死ぬほど感謝しろ!さぁ、ついて来い!家に帰りたくないって奴ぁ別だがなぁ!」

 

現在、ハジメ達がいるのは帝都のかなり手前の位置だ。

そんな場所で亜人族達の輸送馬車がいたということは、この輸送は樹海から帝都へ行くものではなく、帝都から他の場所へ向かう途中だったということだ。

つまり、パル達は帝都に何らかの情報収集をしに行って、輸送の話を知り、追いかけてきたということだろう。

 

亜人族達が、パルの張り上げた声にビクゥッとなったが、家に帰れると言われれば不安と恐怖はあれど期待はしてしまうのか、不安そうにおずおずと歩き始めた。

それを見て、ハジメ達も逢魔号に戻る。

と、その時、ハジメの近くで「きゃ!」と可愛らしい悲鳴が上がった。

アルテナが、足枷の鎖のせいで躓いたようだ。

わたわたと両手が宙をかき、咄嗟に、近くにあったもの――すなわちハジメの背中にしがみついた。

 

亜人族達が一瞬で青褪めて硬直する。

帝国兵が相手だったなら、支え代わりにした瞬間、平手でも飛んでくるところだ。

「なに許可なく触ってんだ、薄汚い獣風情がっ!」とか何とか怒鳴りながら。

なので、アルテナもそうされるのではないかと、殴られる姿を幻視したのだろう。

が、ここにいるのは最高最善の魔王。そんな低俗なことをするはずもなく……

 

ハジメ「……一回帝国、乗っ取ってみようかなぁ。」

肩越しに振り返ったハジメは、自分の視線にビクッと身を竦ませたアルテナの手と足の枷を見て、「そりゃ歩きにくいわな。」と納得しつつ、物騒なことを呟きながらスッとアルテナの前に跪いた。

その事に、亜人族達がざわっと動揺したように騒めく。

 

アルテナ「あ、あの……。」

ハジメ「いいから、ジッとしていて。」

同じく、いきなり跪かれて動揺するアルテナだったが、次ぐ、ハジメの行為に更に動揺が激しくなった。

というのも、ハジメがアルテナの足に触れたからだ。正確には足枷だが、ビクンッと震えるアルテナ。

未だかつて、男に跪かれた挙句足に触れられたことなどないので、動揺のあまり硬直しつつも目が泳ぎまくっている。

箱入り娘同然だった彼女には無理もないだろう。と、次の瞬間には、驚きで目が丸くなった。

紅と黄金の魔力光が迸ったと思ったら、音もなく足枷が外れたからだ。

 

ハジメ「魔力の無い亜人族用なのが幸いだね。とはいえ、膂力で破壊できないようにしているみたい。

まぁ、こんなの俺には関係ないけど、ねッ!」

今度はアルテナの両手の枷を持つと、それをベキィッ!と砕いてしまった。

その光景に他の亜人族もびっくり仰天してしまった。

まぁ、そんなことできるの、この魔王ぐらいだろうしな。

その時点で、ハジメが何をしているのか理解したアルテナは少し落ち着きを取り戻した。

 

そして粉々になった手枷を放り捨てて、最後にアルテナの首筋に触れる。

奴隷用の首輪が着けられているからだ。

真剣な眼差しで、自分の首筋に手を這わせるハジメに、なぜかアルテナの頬が熱を持った。

 

再び迸った紅と黄金の輝きに、アルテナは目を奪われる。

音になるかならないかというほど小さな声で「綺麗……」と呟く。

最近、ハジメの魔力が研ぎ澄まされてきているのか、以前より鮮やかになっているようだ。

あっさり首輪を外したハジメは、外した枷を幾つもの鍵へと加工し直し、パルへと渡した。

 

ハジメ「多分、全員同じ鍵穴だと思うから、解いてあげて。」

パル「Yes,My load!お心遣い、感謝致します!」

パルの敬礼に頷くと、ハジメは踵を返し、ミュウの下へと向かったのであった。

 

亜人族達は、不思議な者を見るような目で、パル達ハウリアは誇らしげに、光輝達は苦笑し、そしてユエ達女性陣は、呆れと鋭さの両方を含んだ眼差しでそれを見つめていた。

その視線にハジメは、「他意はないから、とっとと行くよ。日が暮れると面倒だし。」といって適当にあしらったのであった。




ここまで読んでいただき、ありがとうございます!
さて、答えは「飛空艇"逢魔号"」による長距離高速飛行、でした。
この逢魔号、実はハジメさんが遊びがてらに作った戦闘機も幾つか搭載しており、それらにはAIも組み込まれているので無人操作も可能な代物です。

また、艦首にはドリルやブレード、電磁砲を仕込んであり、電磁砲の威力はマキシマムハイパーサイクロンには劣るものの、直線状の物体を全て虚数空間に叩き込むレベルの威力はあります。
他にも大砲の砲弾には、"暴食の黒天窮"や"涅槃"、"エレメンタル・キャノン"等のトンデモ魔法を付与してあり、両翼には高周波ブレード機能(カーズ様の輝彩滑刀みたいなものです)、2門の巨大ターボ(ワムウ様の神砂嵐をイメージしてもらえると。え?エシディシ様のはちょっと使いづらくて……。)、自動迎撃ファンネルにミサイルランチャー、それらを備え付けの専用宝物庫に搭載済みなので、迎撃用火力面に関してはばっちりです。

また、ファンネルは組み合わせてシールドになる機能もあり、逢魔号自体にも結界が貼ってあるので、防御面でもしっかりしています。
艦装甲は逢魔鉱石フル使用なので、隕石や核爆発があろうとも掠り傷一つつきません。

本来であれば、プールや露天風呂、レストラン街などの設置もしたかったハジメさんですが、今回は安全な空路の為、泣く泣く断念しました。
なので、そう言った機能に関しては、アフター辺りで語られそうです。

それにしても、ガッチャードのサブタイトルにはこれまで毎回ケミーの名前が出てきますが、やっぱりそう言う流れなんでしょうかね?
さて、今回は久しぶりのハウリア厨二解説でした。
しかし、事情が動やら込み入っているようで!?どうなる、次回!

次回予告

ハルツィナ樹海に到着したハジメ一行は、帝国の襲撃を迎え撃っていたハウリアたちと合流する。
そして、囚われていた大量の亜人族奴隷を連れ、フェアベルゲンへと向かう中、ハウリアたちの口から語られた、帝国の残酷な所業に、一同は衝撃を受けてしまう。
そんな中、家族を心配し、悩めるシアの為に、ハジメのとった行動とは!

次回、「急展開!ジュカイが樹海が大ピンチ!」
目撃せよ、歴史の始まり!

ハジメ「沸いてきたぜ!」


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83.ジュカイが樹海が大ピンチ!

ハジメ
「神を騙る悪が蔓延る異世界"トータス"にて、最高最善の魔王、南雲ハジメは、仲間たちと共に、樹海へと向かっていた。
その道中、帝国兵と戦闘していた部下のハウリア達と再会し、奴隷になっていた亜人達を解放する。
そして、新たに製作した飛空戦艦にて、樹海で何があったかを聞くことにしたのであった。」
メイル
「あらあら、ハジメ君ったら急に虚空に話しかけだすなんて……妹達に気味悪がられるわよ?」
ハジメ
「いや、お前はちゃんと仕事しろ。てか、お前の今の表情の方がヤバいぞ?ちょっと涎出ているし。」
メイル
「!?ジュル……何のことかしら?」
ハジメ
「いや、誤魔化しても無駄だからな!?全く……そんなに妹が欲しいなら、俺や雫のとこから……。」
メイル
「いや、アレを妹って呼ぶのは流石にお姉さんでも……というか、ただの厄介払いじゃないの?」
ハジメ
「?妹なら何だろうと構わず囲っちまうんだろ?」
メイル
「O.K.O・HA・NA・SHI(調教)が必要らしいわね?あ、第7章第2話」
ハジメ・メイル
「「それでは、どうぞ!」」


あの後、パル達によって全ての枷を外され、香織とメイルによって治療された亜人達が、逢魔号に度肝を抜かれながらも物珍しげにあちこちを探検し、子供たちが甲板で大盛況している頃、俺達はブリッジにてパル達ハウリアの話を聞いていた。

 

ハジメ「そう……あの後帝国の連中がやって来たのか。道理で、樹海が酷い有様だよ。」

パル「肯定です、陛下。折角補充してもらったトラップも、台無しにされてしまいました。

面目次第もございません。」

リリアーナ「そんな……樹海の攻略のためとはいえ、酷いことを……。」

 

因みに、王都での反乱の際の出来事だが、パル達曰く、樹海にも魔人族が魔物を引き連れてやって来たのが事の始まりだった。

まぁ、神代魔法の獲得を狙う以上大迷宮に行くのは当たり前だ。

当然、樹海に侵入した魔人族達を、フェアベルゲンの戦士達が許すはずもなく、最大戦力をもって駆逐しに向かった。

 

しかし、亜人族と樹海の魔物以外は感覚を狂わされ、視界を閉ざされる濃霧の中でなら楽に勝てると思われた当初の予想は、あっさり裏切られることになる。

魔人族はともかく、引き連れた魔物達は、樹海の中でも十全の戦闘力を発揮したのだ。

ほとんどの魔物が昆虫型の見たこともない魔物だったらしく、その固有魔法も多彩かつ厄介でフェアベルゲンの戦士達は次々と返り討ちにあってその命を散らしていった。

その死者達も俺が頑張って生き返らせたが。

 

そして魔人族は、瀕死状態の亜人族に、「大迷宮の入口はどこだ?。」と聞いて回ったが、彼等が敵に情報を教えるわけもなく、また、そもそも知らないこともあり、魔人族は、ならば長老衆に聞けばいいとフェアベルゲンに向かって進撃を始めたのだそうだ。

余りに強力な魔物の軍勢に、同胞を守るためにもフェアベルゲンの長老会議は、大樹の情報を教えることにした。

 

が、当時の魔人族の価値観は最悪だった。

曰く、この世界は魔人族によって繁栄していくべきであり、神から見放された半端者の獣風情が国を築いているという時点で耐え難い屈辱だということらしい。

その表情は自らの神を信望する狂信者のそれだったという。

そして、その魔人族は、その思いのままフェアベルゲンに牙を剥いた。

大迷宮に行く前に亜人共を狩り尽くしてやる、と。

 

しかし、そこで待ったをかけたのが我等が精鋭、ハウリアであった。

ただし、それはフェアベルゲンのためではなかった。

もちろん、フェアベルゲンにも同族である兎人族はいるので、助けたいという思いが皆無というわけではないが、何より、カム達が看過できなかったのは、攻めてきた魔人族の目的が大迷宮であるということだ。

 

万一、魔人族が大樹をどうにかしてしまったら……

自分達の王である俺がいずれ戻って来る以上、魔人族が何かしたせいで大迷宮に入れなくなっていたら目も当てられない。

敬愛する王の部下たらんとする自分達がいながら、みすみす王の望みが潰えるのを見逃したとあっては、もう胸を張って再会を喜ぶことなど出来はしないし、俺を王と呼ぶ資格もない!と、いうわけだったそうだ。

 

これもハウリアの矜持というやつか。

その結果、ハウリア族は「われぇ、なに陛下のシマに手ぇ出しとんねん、ア゛ァ゛!?

いてまうぞ、オ゛ォ゛ン!?」という心境で参戦を決意したらしい。

 

参戦したハウリア達は、まずフェアベルゲンの外側から各個撃破で魔物達を仕留めていった。

魔物達の動きと固有魔法を実地で確かめて戦略に組み込むためだ。

ハウリア族は魔物肉による改造で劇的にスペックも上がり、自らの種族の特性を上手く扱えるようになって、精神が戦闘を忌避しなくなったという三拍子の強化はあったのだ。

だが勿論、未知の敵と正面から戦うような愚は決して犯さなかった。流石は俺の忠臣達だ。

 

相手を決死の覚悟が必要な難敵と定めて、闇討ち、不意打ち、騙し討ち、卑怯、卑劣に嘘、ハッタリと使えるものは何でも使って確実に情報を集めた。

そして、配置が終わったチェスのように、一斉に攻勢に出たのだ。

濃霧の効果がなくとも、兎人族本来の巧みな気配操作によって確実に魔物を仕留めていった。

 

そのうち配下の魔物がいつの間にか相当減っていることに気がついた魔人族が、魔物を集め始めた。

各個撃破が出来なくなったハウリア達は自分達を囮にして、今度は新たな集落の周囲に設置しまくったトラップ地帯に誘導を開始した。

 

誘導は簡単だったそうだ。何せ、散々してやられたことで、魔人族は頭に血が上りまくっていたのだ。

そこで、ちょっと姿を見せて鼻で嗤ってやれば……十分である。

そして、ハウリアに若干の被害を出しつつも、遂に、魔人族の隊長格の首を落として、魔物の殲滅に成功した、といったところで俺がフリードを連れてやってきた、という訳だ。

 

しかし、今回はそれだけでは終わらなかった。

ハウリアにより窮地を救われ、俺によって死者や負傷者の蘇生&治療が行われ、復興が進んだフェアベルゲンだったがその3日後、隙を突くように今度は帝国兵が樹海へと侵入してきたのである。

それも力押し、なんと樹海に火を放ち、方向感覚を焼け跡で判断したそうだ。

 

目的は人攫いだったらしく、フリードから帝国にも戦力が向かったことも聞いたので、奴等の目的が労働力の確保と消費、否、亡くなった亜人族の代わりだと察しがついた。

ハウリアも戦後処理で集落に引っ込んでおり、気が付くのが遅れた結果、多数の亜人族が抵抗をする余裕もなく攫われてしまった。

カム達がそれに気がつき、帝国兵の一人を攫って尋問した結果、やはり俺の想像が当たっていた。

 

いやな予感がしたのか、カム達はハウリア族以外の兎人族の集落に急いで駆けつけたが、その時には既に遅く、女子供のほとんどを攫われてしまっていた。

非力な兎人族を攫う理由が労働力のためでないことは明らかだ。

襲撃を受けて高ぶっている帝国人を慰めるという目的以外には考えられない。何とも下衆な……。

 

流石に、同族の悲惨な末路を見過ごせなかったハウリア族は、仲間のほとんどを樹海の警備のためにおいて、カム率いる残り少数で帝都へ向かう輸送馬車を追ったのである。

しかし、そろそろ帝都に着いたはずというあたりで、カム達からの連絡が途絶えてしまった。

伝令役との待ち合わせ場所に、時間になっても姿を見せなかったのだ。

 

何かあったのではと考えて、じっとしていられなくなった樹海に残った者達は、何人か選抜して帝国へ斥候に出した。

結果、どうやらカム達は帝都に侵入したまま、出て来ないようだとわかったのだ。

 

その後、帝都に侵入してカム達の現状を知るべく、パル達が警備体制などの情報収集をしていたところ、大量の亜人族を乗せた輸送馬車が他の町に向けて出発したという情報を掴み、パル達の班が情報収集も兼ねて奪還を試みて、そこで俺達と合流したというわけである。

 

ハジメ「まぁ、大体の事情はわかった。

取り敢えず、お前等は引き続き帝都でカム達の情報を集めるんだね?」

パル「肯定です。あと、陛下には申し訳ないんですが……。」

ハジメ「わかってる。旅は道連れ世は情け、捕まってた人達は、樹海まで送り届けるよ。」

パル「有難うございます!」

パル達が一斉に頭を下げる。シアは何か言いたそうにモゴモゴしていたが、結局、何も言わなかった。

 

俺もそれに気がついていたし、シアが何を言いたいのかも察していたが、取り敢えず、シアが自分で言い出すのを待つことにして、やはり何も言わなかった。

最後に、パル達から樹海に残っている仲間への伝言を預かって、俺は帝都から少し離れた場所でリリィ達とパル達を降ろした。

 

その序でに、リリィにガハルドへの手紙を預けた。内容はこうだ。

『拝啓、ガハルド君へ。ウチのシマで勝手に誘拐しやがってコノヤロー。後で一回締めに行くから。

もしおいたが過ぎようものなら、息子スマッシュも辞さないからね?――by 魔王南雲ハジメ』

そして、俺達一行は【ハルツィナ樹海】に向かって高速飛行に入るのだった。

 


 

遠目に【ハルツィナ樹海】が見えてきた時、そこに残された爪痕を見て、シアは思わずといった様子で息を吞んだ。

無理もない。俺達は現在、帝国の進軍ルートを通っており、その被害を目の当たりにしているからだ。

 

香織「……酷い。」

ティオ「自然軽視の考えは、少々頭にくるものがあるのぅ。」

ミレディ「……メル姉。」

メイル「何も言わなくてもいいわ、お姉さんも分かっているから。」

 

炭化し、黒く染まった道筋。幅100m超の樹海の傷跡が続いている。

いい思い出ばかりではないとはいえ、生まれ故郷を破壊されてしまったのだ。

落ち込むシアの手を、ユエとミュウがそっと握る。

ハジメ「全く……忌々しいな、帝国は。」

俺の苛立った言葉に、アルテナが答えた。

 

アルテナ「疲弊していたとはいえ、流石にフェアベルゲンに直接手がかかるまで気が付かなかったという訳ではありません。

少数の戦士たちが迎撃に出た時点で、彼等は樹海へ火をかけるのを止めたのです。」

ハジメ「攫う奴まで焼いちまったら誘拐の意味がないからだろう。しかし、何故だ?

俺も防壁の修復はしたはずなのに。」

アルテナ「数日前の戦いの後が、外に晒されていたのでしょう。そこで気が付いたのかと思われます。」

ハジメ「成程……尚のこと不遜極まりないな。」

 

そんな愚痴を零しながら、俺は炭化した場所の霧がかかっている手前辺りに着陸した。

流石にこのまま行ってしまっては、いらぬ騒動を起こしてしまうからな。

囚われていた亜人の皆は、帰って来た喜びと惨状を目にした悲しみを浮かべていた。なので、

 

ハジメ「香織、メイル、殿をお願いできる?俺達が通った後を再生魔法で直してほしいんだけど……。」

香織「!うん!任せて!」

メイル「えぇ~?もうここで発動した方がいいんじゃないかしら?」

ハジメ「道が分からなくなるから却下。」

メイル「この子たち(亜人族)に案内してもらえばいいじゃな「メイルお姉ちゃん、お願いなの!」やってやろうじゃないの!お姉さんにまっかせなさい!」

……メイルマジちょれぇ。そしてミュウ、ナイス。

俺のサムズアップに、ミュウもニッコリ笑顔でサムズアップする。流石ミュウ、俺の娘!

 

そんなこんなで、俺達が再び足を踏み入れた【ハルツィナ樹海】は、以前となんら変わらず一寸先を閉ざすような濃霧をもって歓迎を示した。

やはり、亜人族がいなければ、人外レベルになった光輝達でも感覚を狂わされるようだ。

俺?いつでも帝国を迎撃できるように、オーマジオウ状態だから大丈夫だが?

 

偶にアルテナが俺の近くを歩きたがるようだったが、片手はミュウ、もう片方はシアで埋まっているので無理です。

そして進むこと一時間。傍らを憂い顔で歩くシアのウサミミがピコピコと反応する。

ハッと顔を上げたシアは、霧の向こうを見通すように見つめ始めた。

 

シア「ハジメさん、武装した集団が正面から来ますよ。」

シアの言葉に周囲の亜人族が驚いたようにシアの方を向いた。

その中には攫われていた兎人族も含まれており、どうやら自分達ではまるで察知できない気配をしっかり捉えているシアに驚いているようだ。

 

そのシアの言葉の正しさを証明するように、霧をかき分けていつか見たような武装した虎耳の集団が現れた。

全員、険しい視線で武器に手をかけているが、彼等も亜人族が多数いる気配を掴んでいたようで、いきなり襲いかかるということはなさそうだ。

彼等のうち、リーダーらしき虎人族の視線が俺達に止まった。直後、驚愕に目を見開いた。

 

ギル「お前達は、あの時の……。」

ハジメ「おぉ、ギル!息災だったか?」

ギル「こちらは別に……というか、一体、今度は何の……って、アルテナ様!?ご無事だったのですか!?」

アルテナ「あ、はい。彼等とハウリア族の方々に助けて頂きました。」

ギルは、俺に目的を尋ねようとして、その傍らにいたアルテナに気がつき素っ頓狂な声を上げた。

そして、アルテナの助けてもらったという言葉に、安堵と呆れを含んだ深い溜息をついた。

 

ギル「それはよかったです。アルフレリック様も大変お辛そうでした。

早く、元気なお姿を見せて差しあげて下さい。……少年。

お前は、ここに来るときは亜人を助けてからというポリシーでもあるのか?

傲岸不遜なお前には全く似合わんが……まぁ、礼は言わせてもらう。」

ハジメ「まぁ、人助けはポリシーだけどさ。今回も偶然だよ、偶然。」

何やら知り合いらしい雰囲気に、雫達が疑問顔になる。

シアが、こっそり何があったのかを簡潔に説明すると、シアが俺に惚れている理由も分かるというもので、皆、納得顔を見せた。

 

ハジメ「それより、フェアベルゲンにハウリア族はいる?あるいは、今の集落がある場所を知ってる奴は?」

ギル「む?ハウリア族の者なら数名、フェアベルゲンにいるぞ。

聞いているかもしれないが、襲撃があってから、数名常駐するようになったんだ。」

ハジメ「そりゃよかった。じゃあ、さっさとフェアベルゲンに向かおうか。」

そう言って俺はさっさと先を促す。

相変わらず態度がでかいなと再び呆れ顔をしながら、ギルは部下達に武器を収めさせて先導を務め始めた。

 

以前のような敵意を感じないのは、ハジメに鍛えられたハウリア族に救われたからなのか、あるいは長老衆から何か言われているのか、それともこの前の見せしめが効いているのか……

わからないが揉めなくて済むのは好都合だと大人しく案内を受けることにした。

辿り着いたフェアベルゲンは、大きく様変わりしていた。

 

まず、威容を示していた巨大な門が崩壊しており、残骸が未だ処理されずに放置されたままだった。

そして、俺をも魅了した幻想的で自然の美しさに満ちた木と水の都は、あちこち破壊された跡が残っており、木の幹で出来た空中回廊や水路もボロボロに途切れてしまって用をなしていなかった。

 

「ひどい……。」

誰かがそう呟いた。

全くもってその通りだ。

折角再生魔法を高速で使用して直したはずなのに、フェアベルゲンそのものも、どこか暗く冷たい風が吹いているようで、どんよりした雰囲気を漂わせている。

ガハルドめ……やっていい事と悪い事の区別すらつかんのか、あの戯け!

 

と、その時、通りがかったフェアベルゲンの人々がアルテナ達を見つけ信じられないといった表情で硬直し、次いで、喜びを爆発させるように駆け寄ってきた。

傍に人間族がいることに気がついて、一瞬、表情を強ばらせるもののアルテナ達が口々助けられた事を伝えると、警戒心を残しつつも抱き合って喜びをあらわにした。

連れ去られていた亜人達の中には、俺達に礼をいうと家に向かって一目散に駆けていく者もいる。

 

次第に俺達を囲む輪は大きくなり、気が付けば周囲はフェアベルゲンの人々で完全に埋め尽くされていた。しばらくその状態が続いたあと、不意に人垣が割れ始める。

その先には、フェアベルゲン長老衆の一人アルフレリック・ハイピストがいた。

 

アルテナ「お祖父様!」

アルフレリック「おぉ、おお、アルテナ!よくぞ、無事で……。」

アルテナは、目の端に涙を溜めながら一目散に駆け出し祖父であるアルフレリックの胸に勢いよく飛び込んだ。

もう二度と会えることはないと思っていた家族の再会に、周囲の人々も涙ぐんで抱きしめ合う二人を眺めている。

しばらく抱き合っていた二人だが、そのうちアルフレリックは、孫娘を離し優しげに頭を撫でると、俺に視線を向けた。

その表情には苦笑いが浮かんでいる。

 

アルフレリック「……またも思わぬ再会になったな、南雲ハジメ。

まさか、孫娘を救われるとは思いもしなかった。縁というのはわからないものだ。

……ありがとう、心から感謝する。」

ハジメ「俺は送り届けただけだよ。感謝するならハウリア族にしてよ。

俺は、ここにハウリア族がいると聞いて来ただけだし……。」

アルフレリック「そのハウリア族をあそこまで変えたのもお前さんだろうに。

巡り巡って、お前さんのなした事が孫娘のみならず我等をも救った。それが事実だ。

この莫大な恩、どう返すべきか迷うところでな、せめて礼くらいは受け取ってくれ。」

その言葉に俺は、若干困ったように頬を掻きつつも仕方なさそうに肩を竦めた。

そんなハジメを、皆が微笑ましげに見つめている。

 

アルフレリック「ハウリア族だが、タイミングが悪かったようだ。ちょうど都の外に出ていてな。」

ハジメ「なら少し待たせてもらおっか。まぁ、見返りは大きいから安心してよ。」

アルフレリック「?よく分からんが、待つくらいで見返りなんぞ求めんよ。

我が家に招待しよう。ハウリア族が戻り次第、知らせをよこすよう門の者にも言っておく。」

ハジメ「それは助かる。」

そういう訳で、俺達はアルフレリックの家でハウリアを待つことにした。

 

そして待っている間、頬を染めたアルテナが手ずから入れて差し出したお茶を一杯飲んでいると、そのアルテナが何故か俺の周囲をうろちょろ動き回っていた。

ほら、アルフレリックが難しそうな顔して誤解しちゃっているでしょ。戻りなさい。

そんな注意をしつつ、シアのウサミミを愛でていると、ハウリア族の男女が複数人、慌てたようにバタバタと駆け込んできた。

 

ハウリアA「陛下ァ!!お久しぶりですっ!!」

ハウリアB「お待ちしておりましたっ!!陛下ァ!!」

ハウリアC「お、お会いできて光栄ですっ!Load!!」

ハウリアD「うぉい!新入りぃ!陛下のご帰還だぁ!他の野郎共に伝えてこい!30秒でな!」

新入りハウリアE「りょ、了解でありますっ!!」

う~ん、このランボーラビット共め。

 

余りの剣幕に、パル達でハウリアの反応を予想していたはずの光輝達がブフゥー!とお茶を噴き出した。

ボタボタと垂れるお茶を拭いながら全員がそちらを見ると、複数の兎人族がビシッ!と踵を揃えて直立不動し、見事な敬礼を決めている姿があった。

見覚えのない奴が何人かいたし、さっきの言動も踏まえると、どうやらハウリアは他の兎人族の一族を取り込んで自ら訓練を施し勢力を拡大しているようだ。

 

ハジメ「あ~、うん、久しぶり。取り敢えず、皆がドン引いているから敬礼は止めよう、ね?」

ハウリア's「「「「「「「Yes,My,Load!!!」」」」」」」

樹海全体に響けと言わんばかりに張り上げた王への久しぶりの掛け声に、とても満足そうなハウリア族と、初めて経験した本物の掛け声に「俺達もついに……。」と感動しているハウリアでない兎人族達。

やっぱりハートマン軍曹式は不味かったか……。

 

ハジメ「ここに来るまでにパル達と会って大体の事情は聞いている。

カムたちのいない間、よく頑張った。」

ハウリア's「「「「「「きょ、恐縮でありまずっ!!」」」」」」」

最後が涙声になっているのはご愛嬌。

そんな感動に震えるハウリア達にパル達から預かった情報を伝える。

すなわち、カム達が帝都へ侵入したらしいという情報を掴んだ事と、自分達も侵入するつもりであること。そして、応援の要請だ。

 

ハウリアI「なるほど。……"必滅のバルドフェルド"達からの伝言は確かに受け取りました。

わざわざ有難うございます、陛下。」

ハジメ「うん………………君にも二つ名があったりするの?」

ハウリアI「は?俺ですか?……ふっ、もちろんです。落ちる雷の如く、予測不能かつ迅雷の斬撃を繰り出す!

"雷刃のイオルニクス"!です!」

ハジメ「……そう。」

やはりハウリア族はもう手遅れらしい。完全に感染してしまっているようだ。

必滅のバルドフェルドから発生したパンデミックを封じ込められなかった事が悔やまれる。

俺は、何とか気を取り直して"雷刃のイオルニクス"に尋ねた。

 

ハジメ「ハウリア族以外の奴等も訓練させていたみたいだけど、今、どれくらいいるの?」

イオ「……確か……

ハウリア族と懇意にしていた一族と、バントン族を倒した噂が広まったことで訓練志願しに来た奇特な若者達が加わりましたので……

実戦可能なのは総勢122名になります。」

随分と増加したものだと俺のみならずシアやユエも驚きをあらわにする。

俺は、質問の意図がわからず疑問顔を浮かべる"雷刃のイオルニクス"を尻目に一つ頷く。

 

ハジメ「それくらいなら全員一度に運べるね。イオルニクス、帝都に行く奴等を全員ここに集めて。

今すぐに。俺が全員まとめて送り届けてあげるから。」

イオ「は?はっ!了解であります!直ちに!」

一瞬、何を言われているのか分からなかったようで間抜け顔で聞き返す"雷刃のイオルニクス"だったが、直ぐに俺が帝都に同行してくれるという意味だと察し、敬礼をすると、仲間を引き連れて他のハウリア族を呼びに急いで出て行った。

 

"雷刃の……イオは、俺は大迷宮のために戻って来たのであって、自分達を手伝ってくれるとは思っていなかったのだろう。

意外すぎる言葉に動揺してしまったようだ。

そして、それは何もイオだけでなく、むしろ一番驚いているのは俺の傍らにいるシアだった。

その大きな瞳をまん丸に見開き、ウサミミをピンッ!と立ててこちらを凝視している。

 

シア「ハ、ハジメさん……大迷宮に行くんじゃ……。」

ハジメ「うちの部下が心配だしな。何より……。そんな無理した笑顔、シアには似合わないよ?」

シア「っ……それは……その……でも……。」

俺に図星を突かれて口籠るシア。

確かに目的は大迷宮だが、別に部下の捜索、それもシアの家族の行方くらい面倒でも何でもないしなぁ……。

自分達から向かった以上、自己責任であるものの、今回は俺達にも帝国に行かねばいけない理由がある。

 

抑々、別々の道を歩むと決めようとも、家族の行方が分からないと知れば、心配する気持ちは自然と湧き上がるもので、そう簡単に割り切れるものではない。

それが憂いとなって顔に出たために、俺にもユエ達にもシアの心情は筒抜けだった。

俺は、余計な手間を取らせていると委縮して口籠るシアの傍に寄り、そっとその頬を両手で挟み込んだ。

 

シア「ふぇ?」

突然の俺の行動に、シアがポカンと口を開けて間抜け顔を晒す。

そんなシアに、俺は可笑しそうに笑みを浮かべながら、真っ直ぐ目を合わせて言い聞かせるように言葉を紡いだ。

 

ハジメ「家族が心配な時くらい、大丈夫だなんて言わないで、ちゃんと心配だって言う!ね?」

シア「で、でも……。」

ハジメ「"でも"も"だって"もないよ。今更、遠慮なんてしなくていいよ。

いつもみたいに、思ったことを思った通りに言えばいいんだよ。

初めて会った時の図々しさはどこにいったのさ?第一、シアが笑ってないと、俺の……

俺達の調子が狂うでしょ?」

シア「ハジメさん……。」

 

これは紛れもなくシアを気遣う言葉、シアを想っての言葉だ。

それを理解して、シアは自分の頬に添えられた俺の手に自分のそれを重ねる。

瞳は、嬉しさと愛しさで潤み始めていた。

頬に伝わる優しくも熱い感触と、真っ直ぐ見つめてくる俺の眼差しに、シアは言葉を詰まらせつつも、湧き上がる気持ちのままに思いを言葉にした。

 

シア「ハジメさん……私、父様達が心配ですぅ。……一目でいいから、無事な姿を見たいですぅ……。」

ハジメ「そうだね。それじゃあ、会いに行こうか!」

シア「!はい!」

その瞳はキラキラと星が瞬き、頬はバラ色に染まっていて、恋する乙女を通り越して完全に愛しい男を見る女の顔だった。

贈られた言葉に、幸せで堪らないという気持ちが全身から溢れ出ている。

 

ユエ「……ん。シア、可愛い。」

ティオ「ふむ、これはこれでよいのぉ~。」

香織「うぅ~、羨ましいよぉ~。」

雫「まぁ、惚れた男にあんな風に言われれば嬉しいでしょうね……。」

ミュウ「シアお姉ちゃん、とっても可愛いの~!」

レミア「あらあら、おモテになる理由が分かりますね、ア・ナ・タ?」

恵理「兄さんは大体こんな感じだからね、ラブレターも毎日貰っていた時期もあったくらいだし。」

鈴「えぇ!?な、南雲君……小さい頃からドンファンだったの?鈴はびっくりだよ。」

メイル「あら?ミレディちゃん、顔が真っ赤よ?」

ミレディ「う…煩いよメル姉!」///

アルテナ「シアさん……妬ましい、私もハジメ様に……。」

 

女性陣のコメントに、ようやく周囲に大勢いることを認識したシアが、真っ赤になって両手で顔を隠してしまった。

しかし、羞恥以上に嬉しさが抑えきれないのか、ウサミミがわっさわっさ、ウサシッポがふ~りふ~りと動きまくり気持ちをこれでもかと代弁している。

 

その時、ちょうどいいタイミングでイオがやって来た。どうやらハウリア族の準備が整ったようだ。

滅茶苦茶迅速な対応である。

俺達は、アルフレリックとアルテナ達の見送りを受けながら樹海を抜け、帝都に向けて再び逢魔号を飛ばしたのであった。




ここまで読んでいただき、ありがとうございます!

今回はほぼほぼ説明だけだったので、あまり語れることはありません。
強いて言えば、原作にないシーンやセリフをどう表現するかで悩みました。
因みに、このお話が書き上がって投稿されている時点で、既に前書きと後書き以外は完成済みです。
なので、時々コメントが時系列とかみ合っていない場合もあるので、ご了承ください。

さて、今回カム達の安否が心配なシアの為に、帝国に乗り込むことを決めたハジメさん達。
次回、一体どうなる!?

次回予告

【ハルツィナ大迷宮】に挑む前に、カム達の安否を確認することにしたハジメ達。
そのために帝国の中心、帝都に乗り込み、視察がてら情報収集を開始した。
そこで見た光景は、王国以上に亜人に厳しい風潮だった。
そして、カム達の情報を得るためにハジメのとった作戦とは!

次回「帝都」
目撃せよ、歴史の始まり!

ハジメ「バリッと決めるぜ!」


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84.帝都

ハジメ
「神を騙る悪が蔓延る異世界"トータス"にて、最高最善の魔王、南雲ハジメとその仲間達は、ハウリア達と囚われていた亜人達の先導の元、帝国の襲撃を受けたフェアベルゲンへと向かった。
フェアベルゲンについたハジメ達は、帝国によって受けた被害を確認し、先に乗り込んだカム達の連絡が途絶えたことを知る。
それを聞いて、カム達のことを心配するシアの為に、ハジメ達は帝国の帝都に乗り込むことにしたのであった。」
恵理
「そう言えば、今回って確か……あの時だよね?」
ハジメ
「?……あ、多分その時だ。話の長さ的に。」
恵理
「あれは今でも衝撃的だったよ……ある意味で。」
ハジメ
「……まぁ、それはさておき。今回は帝都の視察も兼ねての潜入だ。」
恵理
「そう言えば、この前メイルさんとお話はしなかったの?」
ハジメ
「そう簡単に受けてたまるかっての。即座にわからせてきたから。」
恵理
「メイルさんでも兄さんには敵わなかったか……えっと、第7章第3話」
ハジメ・恵理
「「それでは、どうぞ!」」


雑多。ヘルシャー帝国の首都はどんなところ?と聞かれて答えるなら、その一言だな。

徹底的に実用性を突き詰めたような飾り気のない建物が並んでいる一方で、後から継ぎ足し続けたような奇怪な建物の並ぶ場所もある。

ストリートは、区画整理?なにそれおいしいの?と言わんばかりに大小入り乱れ、あちこちに裏路地へと続く入口がある。

 

雰囲気も、【宿場町ホルアド】のようにどこか張り詰めたような緊張感があり、露店を出している店主達ですら"お客様"という考えからは程遠い接客ぶりだ。

だが、決して暗く淀んでいるわけでも荒んでいる訳でもなく、皆それぞれやりたい事をやりたいようにやるという自由さが溢れているような賑やかさがあった。

何があっても自己責任、その限りで自由にやれ!という意気が帝都民の信条っぽいな。

まぁ、楽市楽座と似たようなもんか。

 

ヘルシャー帝国はかつての大戦で活躍した傭兵団が設立した新興の国で、実力至上主義を掲げる軍事国家と聞いている。

帝都民の多くも戦いを生業としており、よく言えば豪気、悪く言えば粗野な気質だ。

都内には大陸最大規模の闘技場などもあって、年に何度も種類の違う催しがなされており大いに盛り上がっている。

 

荒くれ者「おい、おまえ『ドガッ!!』ぐぺっ!?」

そんな帝都に入った俺達は現在、しきりにちょっかいを掛けられては問答無用に沈めるという事態に三度も出くわしていた。

今の3人目も、ニヤつきながら寄って来たので、強制的にトリプルアクセルさせた上、地面に濃厚なキスをさせたところである。

 

全く……

幾ら美女美少女を侍らせているのが羨ましいからとはいえ、少しは自重も出来んのか、この猿共は。

しかし、周囲はそんな暴力沙汰を特にどうとも思っていないようで、ごく普通にスルーしている。

この程度の"ケンカ"は日常茶飯事か。治安としては×だな。

そんなことを考えながら、面倒だと思ったので"威圧"を放ち、無理矢理道を開けさせた。

 

シア「うぅ、話には聞いていましたが……帝国はやっぱり嫌なところですぅ。」

香織「うん、私もあんまり肌に合わないかな。……ある意味、召喚された場所が王都でよかったよ。」

ティオ「まぁ、軍事国家じゃからなぁ。

軍備が充実しているどころか、住民でさえ、その多くが戦闘者なんじゃ。

この程度の粗野な雰囲気は当たり前と言えば当たり前じゃろ。妾も住みたいとは全く思わんがの。」

恵理「そういえば……ミレディちゃんも帝国出身だったっけ?」

鈴「エリエリ、ミレミレをちゃん付けで呼んでいるの?ちょっと意外……。」

ミレディ「う~ん、でも昔とは色々違い過ぎているから全然分かんないなぁ~。名前も変わっているし。」

メイル「そんなことより、こんな物騒なとこ、さっさと通り過ぎちゃいましょう。その方がいいわ。」

ミュウ「みゅ?パパがいれば安全だと思うの。」

レミア「あらあら、ミュウったら。パパの通った後が、死屍累々なのだけど……。」

 

どうやら、女性陣は帝都がお気に召さなかったようである。

無言ではあるが、ユエも同意するように頷いており、やはり女性には余り好かれない国なのかもしれない。特に、シアにとっては、目に入るものがいちいち心を抉るのだから尚更だろう。

男性陣もしきりに表情を歪めていることから、やはり満場一致で"嫌われている"ようだ。

 

ハジメ「シア、余り見ないほうがいいよ。今は耐えよう、ね?」

シア「……はい、そうですね。」

シアの目に入ってしまうそれは亜人族の奴隷達だ。

確かに、値札付きの檻に入れられた亜人族の子供達の姿は、見るに堪えない。

出来る事なら俺も何とかしてあげたいが、今はカム達を優先しなければ。

 

使えるものは何でも使う主義とはいえ、非常にもほどがあるだろうが。ガハルドの愚か者が。

表情を曇らせているシアの手を、傍らのユエが心配そうに握る。俺も、シアの頭を撫でてあげる。

すると、二人の暖かさが手と頬に伝わったのか、シアのウサミミが嬉しそうにパタパタと動いた。

 

光輝「……許せないな。同じ人なのに……奴隷なんて。」

ハジメ「リリィにも真実について伝えるよう言ってはおいたが……

ガハルドのことだ、どうせ聞く耳は持たんだろうな。気持ちはわかる、だから今は抑えろ。」

光輝「……あぁ。」

実際、歯噛みする光輝を宥めている俺も、今すぐ帝城に乗り込んでガハルドをぶん殴りたい気分なのだ。

だが、まだだ。色々後腐れがない状態でないと、あっちも何をしてくるか、わかったもんじゃない。

 

以前の【ハイリヒ王国】は、聖教教会の威光が強く、亜人への差別意識も高かった。

その分、亜人を奴隷として傍に置くという考え自体が忌避されがちな風習なので、光輝達も王都で奴隷の亜人を見る機会はなかった。

だから余計に心に来るものがあるのだろう。

ハァ……本当に面倒な時に面倒事を起こしてくれたものだ。

 

雫「そういえば、ハジメ君。具体的に何処に向かっているの?」

ハジメ「取り敢えず冒険者ギルドだね。"金"を利用すれば大抵の情報は聞き出せるし。」

雫「……ハジメ君は彼等が捕まっていると考えているの?」

ハジメ「あのガハルドのことだ。

獣人にしては、異常な戦闘力を持つウチの部下に興味津々なのは間違いねぇ。

一応、どこかに潜伏している可能性もなくはないが……

帝都の警備が厳戒態勢とまではいかないが異常なレベルである以上、入ったのはいいが出られなくなったって可能性も捨てきれないし。」

 

俺の言う通り、帝都の警備は過剰と言っても過言ではないレベルだった。

入場門では一人一人身体検査までされた上、外壁の上には帝国兵が巡回ではなく常駐して常に目を光らせていた。

都内でも、最低スリーマンセルの帝国兵が厳しい視線であちこちを巡回しており、大通りだけでなく裏路地までしっかり目を通しているようだった。

 

おそらく、魔物の襲撃があったことが原因で、未だ厳戒態勢とまではいかないまでも高レベルの警戒態勢を敷いているのだろう。

……まぁ、その魔物達を嗾けた犯人である魔人族の仲間を、俺は匿っているんだが。

え?帝国への裏切り?何それ美味しいの?

これは俺とフリードたちの間の問題であって、抑々帝国関係ないじゃん。

 

と、そんな帝都であるから、パル達も侵入には苦労していて未だ隙を窺っている状態だ。

奴隷でもない兎人族が帝都に入れるわけもなく、俺達の奴隷のフリをするのも限度がある。

そのため、一緒に運んできた増援部隊も、今は目立たないように帝都から離れた岩石地帯に潜伏中だ。

寧ろカム達がどうやって侵入したのか不思議なほどだ。

 

俺自身、間違いなくカム達は捕まっているのだろうと考えていた。

アイツ等は気配操作に関しては亜人族随一な上に、カム達はそれを磨き続けてきたのだ。

その上、魔力操作も会得しているので、その隠匿は折り紙付きだ。

人の出入りは厳しくとも、何らかの方法で外に伝言を送るくらいは出来るだろう。

にもかかわず、それすら出来なかったという事は、捕まっていて身動きがとれないと考えるのが自然だ。

 

勿論、冒険者ギルドにカム達の情報がそのままあるとは思っていない。

だが、それに関わるような事件や噂があるのではないかと考えたというわけだ。

傍らで、不安そうな表情をするシアにそっと手を伸ばし、ほっぺをムニムニする。

シアは、ウサミミを触られるのも好きだが、ほっぺムニムニもお気に入りなのだ。

俺は嬉しそうにしながらも若干、不安さを残すシアに冗談めかしていう。

 

ハジメ「捕まっているなら取り返せばいいだけだよ。安心して、シア。

いざとなれば、帝国潰して王国の領土にすればいいだけだから。」

ユエ「ん……任せて、シア。」

シア「ハジメさん、ユエさん……」

雫「いやいやいや、領土にしちゃダメでしょう?目が笑っていないのだけど、冗談よね?そうなのよね?」

香織「雫ちゃん、帝都はもう……」

雫「諦めてる!?既に諦めてるの、香織!?」

 

トシ「こいつはやると言ったらやる奴だ。昔からそうだったろ?」

雫「いや、それでも限度があるでしょ!?」

光輝「……そうだな、いっそのことハジメに何とかしてもらった方が……。」

雫「光輝!?貴方まで物騒な思考しないでくれるかしら!?冗談よね?そうだと言ってちょうだい!?」

光輝の奴、既に目が死んでいやがる……これは一刻も早くどうにかしてやらないと。

まぁ実際、俺達なら一国を滅ぼすくらいわけないし、俺に至っては世界も時空も破壊できるしなぁ……。

 

そんな冗談ともつかない冗談を言いながら、冒険者ギルドに向かってメインストリートを歩いていると、前方の街の様子が様変わりし始めた。

あちこちの建物が崩壊していたり、その瓦礫が散乱していたりしているのだ。

 

道中、耳に入ってきた話によれば、コロシアムで決闘用に管理されていた魔物が、突然変異し見たこともない強力かつ巨大な魔物となって暴れだしたらしい。

都市の中心部に突如出現した巨大な魔物(体長30mはあったようだ)に対して後手に回った帝国は、いい様に蹂躙されたようだ。

まぁ、フリードの変成魔法は俺も凄いと思うものがあるしな。

 

挙句、魔人族がその機に乗じて一気にガハルドに迫ったらしい。

とはいえ、そこは一応"帝国最強"。そのガハルド自らが何とか魔物も魔人族も返り討ちにしたらしい。

が、街の様子を見る限り代償は大きかったようだ。

その証拠に、コロシアムを起点に、数百m単位で放射状に町が崩壊している。

 

そんな瓦礫の山では、復興作業のために裸足の亜人奴隷達が大勢駆り出されていた。

冒険者ギルドは、その崩壊が激しい場所の更に向こう側にあるので否応なく通らなければならず、自然、彼等の姿を視界に入れることになる。

武装した帝国兵の厳しい監視と罵倒の中、暗く沈みきった表情で瓦礫を運ぶ様は悲惨の一言だった。

 

完全にとばっちりだな。

帝国の事情なんて知ったこっちゃないが、そのしわ寄せが亜人族に来ているとなると話は別だ。

こうして復興に役立てるとしても、もう少し配慮というものがあるだろうが……!

これでは亜人族が絶滅しかねんだろうが!本当に腐っていやがる!光輝が怒るのもよくわかるな。

"弱者が悪"だというのであれば、俺よりも弱い貴様等帝国こそ悪であるべきだというのに!

先刻、アルテナ達が他都市に輸送されたのも売上金を復興に当てたりするためなのだろう。

 

と、その時、俺達から少し離れたところで犬耳犬尻尾の10歳くらいの少年が瓦礫に躓いて派手に転び、手押し車に乗せていた瓦礫を盛大にぶちまけてしまった。

足を打ったのか蹲って痛みに耐えている犬耳少年に、監視役の帝国兵が剣呑な眼差しを向け、こん棒を片手に近寄り始めた。

何をする気なのかは明白だ。

 

光輝「おい!やめっ『クロックアップ。』」

(Clock Up)

光輝が、帝国兵を止めようと大声を上げながら駆け出そうとする寸前、クロックアップを発動する。

本当は時間停止でもよかったのだが、何処かにタイムジャッカーが潜んでいるとも限らん。

なのでここは加速系技能で、視認できないうちに解決してしまおうという訳だ。

 

そして加速した時の中で、一瞬で帝国兵の後ろに回り、後頭部に強い一撃をかましてやった。

それと、犬耳少年の怪我も一緒に治しておく。

一応、インビンシブルも使っているので、万が一の視認対策も完璧だろう。そして、時の流れは戻る。

 

(Clock Over)

 

それと同時に、帝国兵が勢いよくつんのめり顔面から瓦礫にダイブしたのである。

ゴシャ!と何とも痛々しい音が響き、犬耳少年に迫っていた帝国兵はピクリとも動かなくなった。

同僚の帝国兵が慌てて駆けつけて、容態を見たあと、呆れた表情で頭を振るとどこかへ運び去っていった。

犬耳少年のことは放置である。

 

犬耳少年は、何が起きたのかわからないといった様子でしばらく呆然としていたが、ハッとした表情で立ち上がると自分が散らかした瓦礫を急いでかき集めて、何事もなかったように手押し車で運搬を再開した。

呆然としているのは駆け出そうとして出鼻をくじかれた光輝も同じだった。

そこへ俺が声をかけた。

 

ハジメ「すまんな、今はカム達のことを優先したい。だからこういうのは、俺に任せてほしい。」

光輝「!今のはハジメが?」

俺が無言で頷くと、光輝も少し落ち着いたのか、顔を俯かせながらも進みだした。

 

帝国以外ではもう既に、奴隷制度の撤廃はされているというのに、帝国では未だに当たり前のことと決めつけている。

確かに酷い扱いではあるが、ここで奴隷にされている亜人族を助けては、面倒なことになる。

奴等にとってそれは一般的に"悪い"ことであり、他人の〝所有物〟を盗むのと同じだと認識している。

 

"それでも"と思うなら、相応の覚悟が必要だ。

それこそ、帝国そのものをぶっ潰す位の覚悟と、二度と亜人族を奴隷にさせない方法を確立させる方法が。でなければ、今、奴隷達を力尽くで助けても、後に帝国からの報復や亜人族捕獲活動が激化するという恐れがあり、そうなれば待っているのは更なる地獄だろう。

 

そんな雰囲気のなか、辿り着いた帝都の冒険者ギルドは、まんま酒場という様子だった。

広いスペースに雑多な感じでテーブルが置かれており、カウンターは2つある。

一つは手続きに関するカウンターで受付は女性だが粗野な感じが滲みでており、もう一方のカウンターは、完全にバーカウンターだった。

昼間にも関わらず飲んだくれ共があちこちにいる。いや、復興手伝えよ雑魚共。

貴様等がそんなんだから、ずっと人手不足なんだろーが、このヴァカがァ!

 

俺達が中に足を踏み入れると、もう何度目になるか分からない毎度お馴染みの反応が返ってくる。

が、いつものように"威圧"で返す。ユエ達に対する不躾で下卑た視線も、いい加減にしてほしいものだ。

そんなことを思いながら、〝威圧〟を初っ端から発動しつつカウンターへ向かう。

 

流石に飲んだくれていても軍事国家の冒険者であっても、俺の"威圧"には耐えきれなかったのか、全員気絶したようだ。

まぁ、今回は色々フラストレーションやストレスが溜まっていたしな。手加減が難しくなっている。

その証拠に、どうやらカウンターの受付嬢も、うっかり気絶させてしまったようだ。反省、反省。

 

ハジメ「あ~、情報をもらいたいんだが!ここ最近、帝都内で騒動を起こした亜人がいたりしなかったか?」

俺が大声でそう呼びかければ、気絶から復活した何人かが怪訝な表情を浮かべる。

亜人奴隷の情報が欲しいなら商人ギルドや何処かの商会にでも行けばいいし、帝都内で騒動を起こせる奴隷…などいはしない。

奴隷の首輪が大抵の反抗を封じるからだ。

そして、帝都内に奴隷でない亜人族などいない事から、俺の質問は有り得ない可能性を尋ねているのと変わらないのである。

とはいえ、先程の威圧の影響もあってか、受付嬢が青褪めた表情と震えた手でバーカウンターの方を指差す。

 

受付嬢「そ、そういう情報はあっちで聞いて!」

俺がそちらを見れば、ロマンスグレーの初老の男がグラスを磨いている姿があり、どうやら情報収集は酒場でというテンプレが守られているようだ。

受付嬢は、それだけ言うと自分の仕事はやり遂げたというように奥に引っ込んでしまった。

 

俺は肩を竦めると、皆を連れてバーカウンターの方へ向かう。

冒険者達は先程の"威圧"の影響もあってか、こちらに全く目を合わせようとしてこなかった。

そんなことを気にせず、俺はバーカウンターの前に陣取り、マスターらしきロマンスグレーの男に先ほど受付嬢にしたのと同じ質問をする。

しかし、流石は酒場のマスターなのか。俺の"威圧"から一早く立ち直り、こう告げた。

 

マスター「ここは酒場だ。ガキが遠足に来る場所じゃない。酒も飲まない奴を相手にする気もない。

さっさと出て行け。」

ほぅ、何ともテンプレな返答だ。少し機嫌が直った気がした。

既にピカピカのグラスしかないのに磨くのを止めないというのも高評価だ。

ここまで来れば、酒をがっぽり飲めば気を良くしてくれるに違いない。

そう思った俺は、納得顔でカウンターにお金を置いた。

 

ハジメ「それは御尤もだ。マスター、この店で一番キツくて質の悪い酒をボトルで。」

マスター「……吐いたら、叩き出すぞ。」

マスターは、俺の注文に一瞬、眉をピクリと動かしたものの特に断るでもなく背後の棚から一升瓶を取り出しカウンターにゴトリと音をさせながら置いた。

 

流石は酒場のマスター、他の奴等よりも肝が据わっている。

そんなことを思いながら、俺はボトルを手に取ると指先でスッと撫でるように先端を切断する。

その行為自体と切断面の滑らかさに周囲が息を呑むのがわかった。マスターですら少し目を見開いている。

封の空いたボトルからは強烈なアルコール臭が漂い、傍にいたシア達が思わず鼻を覆ってむせてしまった。

光輝達も「うっ」と呻きながら後退りする。が、トシが何故俺がこれを飲むのか、という理由を答えた。

 

トシ「味わう気もないのに、いい酒をがぶ飲みするのは、酒に対する冒涜ってか?」

ハジメ「Exactly!酒の味に敬意を抱かん阿保に酒を語る資格はない。そうだろ、マスター?」

そのやり取りにマスターの口元が僅かに楽しげな笑みを浮かべた。

やはりここでか!思った通りのタイミングでマスターの微笑みを頂いたのだ!

酒の味に敬意を向ける冒険者などそうそういないのかもしれない。

 

そんな考察をした俺は、「え~」と批判的な声を出すシア達を無視して、ほとんど異臭と言っても過言ではない匂いを発する酒を、飲むというより流し込むようにあおり始めた。

さぁ、マスター!しっかり見ておけよ!最高最善の魔王の雄姿を!

 

シーンとする店内にゴキュゴキュと喉を鳴らす音だけが響き渡る。

そして、一度も止まることなくものの数秒でボトル一本を飲み干してしまった。

俺は、手に持ったボトルをガンッ!とカウンターに叩きつけるようにして置くと、口元に笑みを浮かべながらマスターを見やる。

その目が「文句あるか?」と物語っていた。

 

マスター「……わかった、わかった。お前は客だ。」

マスターは両手を上げて降参の意を示すと苦笑いを浮かべた。中々、渋くて素敵である。

俺は、使い古されてはいるが心惹かれる"情報通のマスターとの一幕"を体験できて大変満足だった。

 

俺が飲んだ酒は、アルコール度数で言うなら95%という「もう飲み物じゃないよね?」というレベルのもので、品質も最低ランクのものだったらしく、まさにただのアルコールといった感じのようだ。

マスターとしても、それを一瞬で飲み干された挙句、顔色一つ変えない以上、"ガキ"扱いするわけにもいかなかったみたいだな。

 

因みに俺は、いくら飲んでも酔わない体質だ。その原因は"毒耐性"と浄化作用だ。

元々、日本にいた時も父さんに酒の美味しい飲み方というものを教え込まれていたので、それなりに好きな方ではあるのだがなぁ……まぁ、最悪ウォッチで封じればいいか。

 

ハジメ「それで?さっきの質問に対する情報はある?勿論、相応の対価は払うよ?」

マスター「いや、対価ならさっきの酒代で構わん。……お前が聞きたいのは兎人族のことか?」

ハジメ「!……情報があるようだね、詳しくお願い。」

どうやら、マスターは相応の情報を掴んでいるらしかった。

 

曰く、数日前に大捕物があったそうで、その時、兎人族でありながら帝国兵を蹴散らし逃亡を図ったとんでもない集団がいたのだとか。

しかし、流石に十数人で100人以上の帝国兵に帝都内で完全包囲されてしまっては逃げ切ることはやはり出来ず、全員捕まり城に連行されたそうだ。

それでも、兎人族の常識を覆す実力に結構な話題になっていたので、町中で適当に聞いても情報は集められたようである。

 

ハジメ「やはり城か……。」

そう呟きながら傍らのシアを見ると、やはりシアの顔色は曇っている。

果たして、帝都に不法侵入した亜人がどういった扱いを受けるのか……

少なくとも明るい未来は期待できないだろう。

 

だが、連行したという時点で、ガハルドがハウリア達の強化方法について、興味を持ったということが分かった。

であれば、カム達は未だ生きている可能性が非常に高い。

そんな意思を込めてカウンターの下でシアの手を握る。見れば、反対側の手はユエが握っている。

シアも、俺とユエの気持ちが伝わったようで、瞳に力を宿しコクリと頷いた。

 

マスターが、珍しい髪色の兎人族であるシアを意味深な眼差しで見やる。

捕まった兎人族達との関係をあれこれ推測でもしているのだろう。

折角なので、そんなマスターにあることを尋ねてみた。

 

ハジメ「マスター、言い値を払うといったら、帝城の情報、どこまで出せる?」

マスター「!……冗談でしていい質問じゃないが……

その様子を見る限り冗談というわけじゃなさそうだな……。」

俺は笑みを浮かべつつも、その全く笑っていない眼で真っ直ぐマスターを射抜く。

 

得体の知れない圧力に、流石のマスターも少し表情が強ばったようだ。

無理もないだろう。先程までやり取りを楽しんでいた少年が、いきなり魔王に早変わりしたのだから。

質問の内容も、下手をすれば国家反逆の意思を疑われかねないものだ。

尤も、ここは冒険者ギルドであり独立した機関であるから、帝国に対する"反逆"という観念自体がない。

俺も、その辺りを踏まえて、ワンクッション挟んだ上で尋ねたのだ。

 

ただ、いくらマスターが冒険者ギルドの人間であっても、自国の、それも本拠地内部の情報を売り渡したと知られれば、帝国の人間がただで済ますわけがないので安易に情報を渡すわけにはいかない。

お互いの深い部分に関しては、"見ざる聞かざる言わざる"が暗黙の了解なのだから。

かといって、目の前の魔王を相手に返答を渋っても碌な未来は見えない。

さて、どうするマスター?悪魔と相乗りする勇気、アンタにはあるかい?

 

マスター「……警邏隊の第四隊にネディルという男がいる。元牢番だ。」

ハジメ「ネディルね。わかった、訪ねてみるよ。ありがとう、マスター。」

俺自身、マスターがあっさり帝城内部、特に捕虜がいる場所を教えてくれるとは思わなかったし、知らない可能性も考えていたので、知っている人間を教えてもらっただけでも助かったと思っている。

俺があっさり引き下がってくれたことに、ホッとしているマスターに情報料に色を付けて渡し、冒険者ギルドを後にした。

そしてメインストリートを歩く中、シアが先程のやりとりについて尋ねてきた。

 

シア「あの、ハジメさん。さっき元牢番の人を紹介してもらったのは、もしかして……。」

ハジメ「ああ。詳しい場所を聞いて、今晩にでも侵入するつもりだ。

今から、俺とユエ、それとトシと恵理で情報を仕入れてくるよ。だから皆は、近くで飯でも食べていてよ。2,3時間で戻るから。」

シア「?何故ユエさんも?」

ハジメ「再生魔法で無理矢理聞き出すから。

香織にも任せてもよさそうだったけど……なんか嫌な予感がしたから止めておいた。香織の為にも。」

香織「?」

 

ネディルとやらが帝国兵である以上、帝城内の構造を教えてくれと言って素直に教えてくれるわけがない。つまり、"無理やり"聞き出すしかないのだ。

そして、再生魔法が有用というのは、いくらでも〝無理やり〟が出来るということであり、場合によってはユエのスマッシュを使用せざるを得ない場合も考慮し、それを察した雫が香織を宥めてくれた。

そうして俺達は、雑踏の中に消えていった。




ここまで読んでいただき、ありがとうございます!

今回はハジメさんがハジメさんしていました。
たとえお隣さんでも、仲間に危害を加えたり、不快な視線を向けたり、嫌な思いをさせる奴等は、ハジメさんがきちんとO☆SHI☆O☆KIしちゃいます。
でも、酒場のマスターには金と酒の楽しみ方で認めさせます。だってそこは、男の世界だもの。みつを。

そして原作と違う点としては、光輝が原作以上にある程度落ち着いていて、ハジメさんも内心怒っていることがわかったからその場は抑えた、所ですかね?
ここで対立させちゃうと、折角上げた好感度ゲージが無駄になってしまうので、邪魔などのマイナス言葉は使わず、ここは抑えてくれ、といった普通の言葉で宥めましょう。
因みに、好感度ゲージが0のままだと、最終決戦で敵対してしまうので要注意を。

さて、今回尋問確定となったネディル君の運命やいかに!?待て、次回!

次回予告

帝城の情報を入手したハジメ達。
カム達が捕まっている牢屋へと、ハジメ達は潜入&解放を計画し、別行動として、光輝達にあるお願いをする。
そして、ハジメ達が牢屋で見た光景とは!?
囚われのハウリア達、その命運や如何に!?

次回「何故ハウリア達の言動はおかしくなったのか」
目撃せよ、歴史の始まり!

ハジメ「燃えてきたぜ!」


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85.何故ハウリア達の言動はおかしくなったのか

ハジメ
「神を騙る悪が蔓延る異世界"トータス"にて、最高最善の魔王、南雲ハジメとその仲間達は、囚われたカム達ハウリア族の先発隊を救出するため、帝都へと乗り込む。
その冒険者ギルドにて情報を知る人物を教えてもらったハジメは、現在絶賛拷問執行中だった……。」
トシ
「いや、そんな死んだ目で語っても意味ないと思うぞ……?」
ハジメ
「そう言うトシこそ……てか、もう情報はあらかた聞き出せたんだが。」
トシ
「なら止めろよ!?お前の嫁だろォ!?」
ハジメ
「誠に残念ながら……ユエはスマッシュしだしたら、気の済むまで止めない。
俺の制止も無駄無駄無駄ァなんだよ……ハハッ。」
トシ
「なら何でこのまま放っておいたんだって話だ「アッー♂!?」……それじゃあ、第7章第4話」
ハジメ・トシ
「「それでは、どうぞ……。」」


ヘルシャー帝国の帝都。

その一角にある宿屋一階の食事処にて、俺とトシは項垂れていた。

恵理は顔を紅く染め、ユエはどこかすっきりしたといった表情であった。

その状況から、他の皆も事のあらましを察したようだ。

そんな微妙な空気の中、俺達は食事をとりながら、情報共有を開始した。

 

ハジメ「……取り敢えず、欲しい情報は得られたよ。

今晩、カム達がいる可能性の高い場所に潜入する。

警備は厳重そうだけど、カム達を見つけさえすれば、あとは空間転移で逃げればいいから、特に難しくもないね。

潜入するのは俺、ユエ、シアの3人で行くよ。

香織達は帝都の外にいるパル達のところにいて。直接転移するから。」

雫「……それはわかったけど……そもそも、その情報は正しいの?

ネディルって人が嘘を言っている可能性は……。」

そんな雫の問いに死んだ目でトシが答えた。

 

トシ「……自分の股間が目の前ですり潰された挙句、痛みで気を失う前に再生させられて、また潰されて……というのを何度も繰り返した男の言葉を疑えと?

あんなの……男に耐えられるもんじゃない!

洗いざらい吐かされた後、股間を押さえながらホロホロと涙を流すネディル君を見て、俺がどれだけ戦慄したことか!」

ハジメ「ホントゴメン、ユエがまさかここまで容赦ないとは思っていなくて……。」

ユエ「……ん、ナイススマッシュだった。」

 

ユエ、そこで誇らないで。ミュウが真似しちゃうでしょ!

俺とトシの証言を聞いて、雫は内心、香織に行かせなくてよかったとホッと胸を撫で下ろしオカンぶりを発揮している。

そして同時に、男の股間を何度もすり潰しておいて特に何とも思っていなさそうなユエを見て、王都に聞こえていた『股間スマッシャー『の二つ名は伊達ではないと、男性陣は戦慄しながらユエにだけは逆らわないでおこうと固く誓うのだった。

若干、テーブルの下で内股になりながら。

 

光輝「なぁ、ハジメ……今更だが、シアさんの家族が帝城に捕まっているんなら、普通に返してくれって頼めばいいんじゃないか?

今ならリリィもいるはずだし、俺は勇者だし……話せば何とかなると思うんだが……。」

ハジメ「お馬鹿。あれが対価もなしに要求に応じると思うか?

カム達は不法入国者な上に、帝国兵を殺したんだぞ?しかも、兎人族でありながら包囲されて尚、帝国側にダメージを与えられるという異質な存在だ。

そんな存在を無償で開放する程、奴は誠実じゃない。それに帝国にだって面子はある。

唯で済ますことは出来ないだろう。思いっきり足元を見た、ドでかい対価を要求するに決まっている。

何より……リリィの交渉にも影響が出る危険性もあるからな。」

光輝「それは、そうだけど……。」

 

その可能性は確かにあると、口をつぐむ光輝。

おそらく、折角来たのだから自分も何かしたいのだろう。

先程の亜人奴隷の事もあり、じっとしていられないようで何かを考え込み始めている。

まぁ、そんなことだろうと思っていたよ。なので、俺も一つ提案をすることにした。

 

ハジメ「だから光輝、お前にはそれとは別にやってほしいことがある。」

光輝「!それは一体どんなことだ!?」

ハジメ「陽動だよ。帝城に侵入するといっても警備は厳重すぎるくらい厳重だ。

だから、少しでも成功率を上げるために陽動役をやって欲しい。

さっきの犬耳少年のような亜人を助けるという建前で一暴れして帝国兵を引き付ける、みたいな感じで。」

 

もちろん、警備は厳重だろうが俺達に侵入できない訳が無い。

陽動も、あれば全く役に立たないわけではないだろうが、特に必要というわけでもない。

現にこちらには、タイムジャッカーすら存在を忘れているであろう、秘密兵器「浩介・E・アビスゲート」がいるのだから。

浩介「その呼び方止めろォ!」

でも折角なので、侵入以外にもこれくらいのアクションも起こした方がいいだろうと思って言ってみた。

 

光輝「陽動……あの子達……やる。やるぞ!ハジメ!陽動は任せてくれ!」

ハジメ「あ、あぁ、そうか……流石、勇者だね、うん。でも流石にこのままじゃ色々不味いから……

変装していこっか。」

そう言って俺は『宝物庫『から複数の仮面を取り出した。

 

ハジメ「光輝、お前には俺のお気に入りの仮面を進呈しよう。

デカマスターか、ホウオウソルジャーか、どっちがいい?」

雫「ハジメ君……何故仮面を被る必要があるのかしら?」

ハジメ「決まっているでしょ、正体を隠すためだよ。

それにこれ、ちゃんと留め金が付いていて、ちょっとやそっとでは外れない上に、衝撃緩和もしてくれるし。

更に、重さを感じさせないほど軽く、並の剣撃じゃあ傷一つ付かない耐久力も併せ持っているんだよ?

正体を隠すうえでこんなに優れたものはないと思うけど……?」

雫「……問題はそこじゃないと思うのだけど。」

そんな雫のジト目ツッコミを無視し、俺は続けた。

 

ハジメ「因みに、殆どが追加戦士だ。でだ、どっちにする?」

光輝「えっと……じゃあ、デカマスターで。小さい頃、よく真似していたから。」

ハジメ「そうか、じゃあ次に龍太郎。お前のは武闘派ということで、ゲキチョッパーにした。

本当はキングレンジャーでも良かったんだけど……イメージ的にもこっちの方がいいと思ったよ。」

龍太郎「お、おう?なんかよくわからんが、くれるってんなら貰っとくぜ」

 

ハジメ「そして鈴は……」

鈴「ピ、ピンクかな?かな?ちょっと恥ずかし……」

ハジメ「ズバーンだよ。なんか、鈴にはイロモノ系が何となく似合いそうだと思って。」

鈴「……ねぇ、南雲君って、もしかして鈴のこと嫌いなの?そうなの?」

ハジメ「いや、ただ単に直感だよ。因みに、トシはツーカイザーにしてある。」

トシ「いや俺もかい!?まぁ、いいけどさ。ツーカイザー好きだし。」

ハジメ「それと恵理、お前にはマジマザーをプレゼントしよう。」

恵理「兄さん、私とトシ君にストッパーをさせたいの?そうなの?」

 

ハジメ「そして最後に雫だが……。」

雫「待ちなさい、ハジメ君。私にまであるのかしら?……まさかよね?」

ハジメ「追加戦士でピンクが無かったから、リュウソウジャーかシンケンジャーのどっちかから選ばせてあげるよ。

あ、モモニンジャーでもいいよ?」

雫「嫌よっ!っていうか、仮面以外にも正体を隠す方法なんていくらでもあるでしょう?」

ハジメ「さっきの機能のどこに不満があるのさ。

それに、もう可愛い物好きなのは皆にバレバレなんだし、今更でしょ。」

雫「!?そ、それは……。」

 

浩介「あの~…俺の分は?」

ハジメ「お前の出番はまだ先だ、浩介。お前は云わばジョーカー、ワイルドカード的存在だ。

仮面被らなくても、正体隠せるだろ。」

浩介「……泣いていいよね?俺泣くよ?ねぇ?」

ハジメ「そういう訳で、だ。

雫、このまま渋るなら、香織達から聞いたお前の可愛い所を一個ずつバラシていくぞ~。」

そう言って俺は仮面を差し出した。話を聞いていたミュウ達も、優しい眼差しを雫に向ける。

 

雫「……なんなのよ、この空気。

……言っておくけど、私、ホントにピンクが好きなわけじゃないんだからね?

仕方なく受け取っておくけど、喜んでなんかいないから勘違いしないでよ?

あと、小動物が嫌いな人なんてそうはいないでしょ?

だから、私が特別、そういうのが好きなわけじゃないから……

だから、その優しげな眼差しを向けるのは止めてちょうだい!」

耳まで赤くなりながらも、雫は律儀に仮面を受け取った。因みに、選んだのはシンケンピンクだった。

家計の都合上、モモニンジャーでも良さそうと思ったが、口には出さずにおいた。

そして、恥ずかしいからなのか必死に否定するものの、シアがこっそり「雫さんなら少しくらいウサミミ触ってもいいですよ?」というとデレっと相好を崩したので虚しい努力だった。

 

ハジメ「あ、後光輝。聖鎧や聖剣もバレるから、着替え序でに『宝物庫』にしまっておけ。

代わりの奴をそっちに送っておくから。」

光輝「あぁ、任せてくれ!待っていてくれよ、皆!」

……ダメだこりゃ。完全に向こう側しか見えていねぇ。そんな光輝に呆れの視線を送る俺であった。

そして、ミュウとレミアをティオ達に預け、秘密の作戦を開始したのであった。

 


 

深夜。

光一つ存在しない闇の中に格子のはめ込まれた無数の小部屋があった。

特殊な金属で作られた特別製の格子は、地面に刻まれた魔法陣と相まって堅牢な障壁となり、小部屋にいる者を絶対に逃がさないと無言の意思表示をしている。

汚物や血などから発生する異臭で、何も見えなくとも極めて不潔な空間であることがわかる。

 

そんな最低な場所とは、もちろん囚人を拘束し精神的に追い詰めることを目的とした牢獄、それもヘルシャー帝国帝城にある地下牢であった。

流石、帝城の牢というべきか、地下牢を構成する金属鉱石の質もさる事ながら、至る所に刻まれた囚人を逃がさないための魔法陣が実に秀逸である。

 

脱獄を企てた者、または地下牢に忍び込んだ者それぞれに致死に至らない程度の、しかし極めて悪質な苦痛を与えるトラップが見えるところだけでなく壁の中にまで仕込まれており、トラップを解除する詠唱を正確に唱えない限り、まず勝手な行動は封じられていると見るべきだろう。

 

脱獄できる可能性など微塵もなく、光一つない世界で凶悪な異臭に苛まれつつ、小さな部屋に一人押し込まれていれば、常人なら一日と保たず発狂してもおかしくない。

看守とて唯一の入口である扉の直ぐ外にある詰所で待機しており、決められた時間に巡回するだけで地下牢の暗闇の中に長時間いたりはしないのだ。

だが、そんな最低の空間であるにもかかわらず、現在は、何故か余裕有りげな声音の話し声が聞こえていた。

 

ハウリアA「おい、今日は何本逝った?」

ハウリアB「指全部と、アバラが2本だな……お前は?」

ハウリアC「へへっ、俺の勝ちだな。指全部とアバラ3本だぜ?」

ハウリアD「はっ、その程度か?俺はアバラ7本と頬骨……それにウサミミを片方だ。」

ハウリアE「マジかよっ?お前一体何言ったんだ?

あいつ等俺達が使えるかもってんでウサミミには手を出さなかったのに……。」

ハウリアF「な~に、いつものように、背後にいる者は誰だ?

なんて、見当違いの質問を延々と繰り返しやがるからさ。……言ってやったんだよ。

『お前の母親だ。俺は息子の様子を見に来ただけの新しい親父だぞ?『ってな。」

ハウリアG「うわぁ~、そりゃあキレるわ……。」

ハウリアH「でも、あいつら、ウサミミ落とすなって、多分命令受けてるだろ?

それに背いたってことは……。」

ハウリアI「ああ、確実に処分が下るな。ケケケ、ざまぁ~ねぇぜ!」

 

聞こえてくるのは、誰が一番ひどい怪我を負ったかという自慢話。最低限の回復魔法を掛けられているので死にはしないが、こんな余裕そうな会話をしていても、声の主達はまさに満身創痍という有様だ。

それでもやせ我慢しつつ、軽口を叩く彼等の正体は、帝国に捕まったハウリア達である。

彼等が、重傷度で競い合っているのは、別に狂ったわけではない。既に覚悟を決めているのだ。

 

帝城の地下牢に囚われている以上、自分達はもう助からない。処刑されるか奴隷に落とされるか……

後者の場合は、それこそ全力全開で自害する所存なので、やはり命はない。

奴隷の首輪で強制的に同族と戦わされるなど悪夢なので、事前にそう決めていたのだ。

そして、助からない以上は、最後に一矢報いてやるつもりで生き長らえている。

 

帝国側は、ハウリアの実力が余りに常識からかけ離れていることから、彼等の背後に何か陰謀でもあるのではないかと疑っている。

また、そうでなくても、報告を受けた皇帝陛下がハウリア族を気に入り、帝国軍の手駒として使えないか画策しているようだった。

戦闘方法、持っていた武器、その精神性、温厚なハウリアを変えた育成方法、その他にも強者を好む皇帝陛下にとってハウリア族は宝箱のようなものだったのだ。

 

そんな帝国側の思惑を察しているハウリア達は、命尽きるその瞬間まで、帝国側を馬鹿にするように楯突いているのである。覚悟も決まっているから、重傷度で競い合うという阿呆な暇潰しも出来るのだ。

ちなみに、この地下牢に満身創痍で入れられて、それでも尋問という名の拷問のために牢から出された時、にこやかな笑みを浮かべるハウリア族は、既に関わる帝国兵のほとんどに恐怖を宿した目で見られている。

 

ハウリアA「今頃は、族長も盛大に煽ってんだろうな……」

ハウリアB「そうだな。……なぁ、せっかくだし族長の怪我の具合で勝負しねぇか?」

ハウリアC「お?いいねぇ。じゃあ、俺はウサミミ全損で」

ハウリアD「いや、お前、大穴すぎるだろ?」

ハウリアC「いや、最近の族長、ますます言動がキレた時の陛下に似てきたからなぁ。」

ハウリアE「ああ、まるで陛下が乗り移ったみたいだよな。あんな罵詈雑言を浴びせられたら……

有り得るな……。」

ハウリアF「まぁ、陛下ならそもそも捕まらねぇし、捕まっても即抜け出して帝国消滅させてきそうだしな!」

ハウリアG「きっと、地図から消えるぜ!」

ハウリアH「陛下は、容赦ないからな!」

ハウリアI「むしろ鬼だからな!」

ハウリアD「いや、悪魔だろ?」

ハウリアE「それを言うなら、魔王の方が似合う。」

ハウリアA「おいおい、それじゃあ魔人族の傀儡魔王と同列みたいじゃないか。

陛下に比べたら、あんなの魔王を騙るにすら値しねーよ。」

ハウリアG「なら……魔王級に神懸かってるってことで魔神王とか?」

ハウリア's「「「「「「「「「それだ!」」」」」」」」」

 

ハジメ「ほぅ……それで、随分と元気そうだな?この『ホシトナレー!』共……

久しぶりだというのに中々言うではないか?」

ハウリア's「「「「「「「「「……。」」」」」」」」」

暗闇の中で盛り上がっていた満身創痍のハウリア達に怒気を孕んだ声が響く。

随分と聞き覚えのある声に、ハウリア達が凍りついたように黙り込んだ。

暗闇の中、まるで肉食獣をやり過ごそうとしている小動物のように息を潜める。

 

ハジメ「おい、なにを黙り込んでいる?誰が鬼で悪魔で魔王以上の魔神王だと?」

ハウリアH「ハハハ、わりぃ、みんな。俺、どうやらここまでのようだ。

……遂に幻聴が聞こえ始めやがった……。」

ハウリアI「安心しろよ、逝くのはお前一人じゃない。……俺もダメみたいだ。」

ハウリアF「そうか……お前らもか……でも最後に聞く声が陛下の怒り声とか……。」

ハウリアB「せめて最後くらい可愛い女の子の声が良かったよな……。」

いるはずのない相手の声が聞こえて、いろんな意味で幻聴扱いするハウリア達。現実逃避とも言う。

 

そんな彼等に、声の主であるハジメは、現実を突きつける。

傍らのユエがパッと光球を出し、地下牢の闇を払拭した。

そして、帝城の地下牢にハジメの姿がはっきりと浮かび上がった。

 

ハウリア's「「「「「「「「「げぇ、陛下ァーーーー!!?」」」」」」」」」

ハジメ「静かにしろ、バレるだろうが。」

ユエ「……意外に元気?」

シア「見た目、かなり酷いんですが……心配する気が失せてきました。」

ハウリア族の面々は、見るも無残な酷い怪我を負いながら、薄汚い牢屋の奥で横たわり、起き上がる様子もないにもかかわらず、どこぞの武神にでも会ってしまったかのような素っ頓狂な声を上げた。

ハジメ、ユエ、シアは、そんなハウリア達に呆れ顔だ。

 

ハウリアA「な、なぜ、こんなところに陛下が……?」

ハジメ「詳しい話は後だ。取り敢えず、助けに来たよ。……全く、ボロボロなのにはしゃいじゃって。

タフになり過ぎだろ。」

ハウリアB「は、はは、そりゃ、陛下に鍛えられましたから。」

ハウリアC「陛下の訓練に比べれば、帝国兵の拷問なんてただのくすぐりですよ。」

ハウリアD「殺気がまるで足りないよな?温すぎて、介護でもされてるのかと思ったぜ。」

ハウリアE「まぁ、陛下の殺気は、それこそ大軍を一瞬で消し去るレベルだから仕方ないけどな。」

ゲフッゲフゥと血を吐きながら、なお軽口を叩くハウリア達とその言葉に、両隣のユエとシアから何とも言えない眼差しがハジメに向けられる。

 

ハジメはその視線を誤魔化すようにゴホンッと咳払いを一つすると、地下牢内のトラップを確認し、さっさとトラップの解除を始めた。

魔法陣によるトラップは、通常、正しい詠唱カギによってしか解除できない。

それは魔法陣に込められた魔力を詠唱によって操作し散らすというプロセスを経て無力化するからだ。

 

陣を壊すという方法もあるが、大抵、壊れた瞬間に発動するか、少なくとも壊れたことを他者に知らせる機能が付いていることから、実際には詠唱による解除が唯一なのである。

しかし、それは詠唱による魔力の操作しか出来ない場合の話だ。

逆に言えば、魔力の直接操作が出来る者なら、カギがなくても魔法陣に作用させることなく解除することが出来る。

あっさりと帝国が誇る絶対監獄である帝城地下牢を無力化したハジメは、錬成で次々と格子を開けていき、ユエの再生魔法でハウリア達全員を即座に完全回復させた。

 

ハウリアF「はぁ、相変わらずとんでもないですね。取り敢えず、陛下……」

ハウリア's「「「「「「「「「「助けて頂き有難うございましたぁ!」」」」」」」」」

ハジメ「あぁ、シアの為でもあるしな。気にしなくていい。それより……カムはどこにいる?」

ハウリアG「それなら……」

ハウリアの一人が言うには、どうやら今の時間はカムが尋問されているようで、詳しい尋問部屋の位置も教えてくれた。

 

彼等は、是非、自分達も族長救出に!と訴えてきたが、手伝ってもらう程のことでもなく、ここまで普通に侵入して来たハジメ達に任せるのが一番だと彼等も分かっていたのでハジメの言葉で大人しく引き下がった。

尤も、ハジメの『命令『に何故かゾクゾクと身を震わせているのが不思議であったが……。

ハジメは、何時ものようにオーロラカーテンを展開し、パル達のいる岩石地帯へと繋げた。

 

ハジメ「ここからなら、帝都から少し離れた場所にある岩石地帯に繋がっている。

パル達が待機してるから、先に待っていてくれ。」

ハウリアA「Yes,Your Majesty!陛下、族長を頼みます!」

目の前で起きた非常識に唖然とするハウリア達だったが、ハジメの言葉にハッ!と正気を取り戻すと、まぁ陛下だからな!と直ぐに納得し、惚れ惚れするような敬礼をした。

そして、躊躇いなくオーロラカーテンを通っていった。よく訓練されたウサミミ達だ。

 

一応、超長距離空間転移用の試作品もあったのだが、今回は安全性を考慮し、何時ものオーロラカーテンでいくことにしたのであった。

ハウリア達が転移したのを確認し、ハジメ達はカムの居場所に向かった。

厳しい警備を持ち前のスキルと魔法で突破して易々と目的の場所に辿り着く。

 

外の見張りをさくっと音もなく倒して扉の前に着くと、中から何やら怒声が聞こえてきた。

シアの表情が強張る。

中にいるであろうカムが酷い目に遭わされているのではないかと、軽口を叩きながらもボロボロだった先程の家族を思い出して心配する気持ちが湧き上がったのだ。

が、この先の未来が碌でもないことを予知で察したのか、微妙そうな表情でドアノブに手をかけたハジメの動きが、扉の向こうから微かに漏れてくる聞き覚えのある怒声により止まる。

 

カム「何だ、その腑抜けた拳は!それでも貴様、帝国兵かっ!

もっと腰を入れろ、この『インフェルノディバイダー!』するしか能のない『ヘルズファング!』野郎め!まるで『ガントレットハーデス!』している『ナイトメアエッジ!』のようだぞ!

生まれたての子猫の方がまだマシな拳を放てる!どうしたっ!悔しければ、せめて骨の一本でも砕いて見せろ!

出来なければ、所詮貴様は『デッドスパイク!』ということだ!」

帝国兵1「う、うるせぇ!何でてめぇにそんな事言われなきゃいけねぇんだ!」

カム「口を動かす暇があったら手を動かせ!貴様のその手は『カーネージシザー!』しか出来ない恋人か何かか?

ああ、実際の恋人も所詮『ブラッドサイズ!』なのだろう?『ディストラクション!』なお前にはお似合いの『ヤミニクワレロ!』だ!」

帝国兵2「て、てめぇ!ナターシャはそんな女じゃねぇ!」

帝国兵1「よ、よせヨハン!それはダメだ!こいつ死んじまうぞ!」

カム「ふん、そっちのお前もやはり『ジャヨクホウテンジン!』か。帝国兵はどいつこいつも『インフェルノクルセイダー!』ばっかりだな!

いっそのこと『ディバインスマッシャー!』と改名でもしたらどうだ!この『スレイプニール!』共め!

御託並べてないで、殺意の一つでも見せてみろ!」

帝国兵1「なんだよぉ!こいつ、ホントに何なんだよぉ!こんなの兎人族じゃねぇだろぉ!

誰か尋問代われよぉ!」

帝国兵2「もう嫌だぁ!こいつ等と話してると頭がおかしくなっちまうよぉ!」

*1

 

そんな叫びが部屋から漏れ聞こえてくる。

ハジメ達は全員無言だった。

ドアノブに手を掛けたまま、捕まって尋問されているはずのカムより尋問している帝国兵の方が追い詰められているという非常識に思わず顔を見合わせる。

 

ハジメ「……もう帰ってもいいかな?いいよね?」

シア「……いえ、すみませんが一応、助けてあげて下さい。自力では出てこられないと思うので……。」

シアが在りし日の優しい父親を思い、遠い目をしながらハジメに頼む。

実際、威勢はよくてもカムが自力で脱出できる可能性はないので助ける必要はあるのだろうが……

 

カム「ふん、口ほどにもないっ。

この深淵蠢動(しんえんしゅんどう)闇狩鬼(やみかりき)、カームバンティス・エルファライト・ローデリア・ハウリアの相手をするには、まだ早かったようだな!」

扉の向こうから、何か悪い意味で凄いのが飛んできた。

 

ハジメ「いや、長ぇよ。寿限無じゃないんだからさぁ……。」

ユエ「……考え過ぎて収拾がつかなくなった感じ。」

シア「うぅ……父様は私に何か恨みでもあるんでしょうか?娘を羞恥心で殺そうとしてますぅ。」

シアが顔を両手で覆ったまましゃがみ込んでしまった。ダメージは深刻らしい。

そして、ダメージの深刻具合は、尋問官達も同じだったようだ。

 

帝国兵2「だから、わけわかんねぇよ!くそっ、もう嫌だ!こんな狂人がいる場所にこれ以上いられるかっ!俺は家に帰るぞ!」

帝国兵1「待て、ヨハン!仕事だぞ!っていうか、何かそのセリフ、不吉だから止めろよ!」

ドタドタと扉に近づいてくる音が聞こえる。

ハジメは「やっぱ、色々やりすぎたかなぁ~。」と思いながら、扉の前で拳を振りかぶった。

 

そして、バンッと音を立てて扉が開いた瞬間、拳を突き出す。

ヨハンと呼ばれていた尋問官の一人が、一瞬「え?」という驚愕と困惑に満ちた表情をしたが、次の瞬間には顔面に鋼鉄の拳を埋め込まれて部屋の奥へと吹き飛ばされた。

 

ハジメは、そのまま部屋に踏み込み、一瞬でもう一人の尋問官に接近すると硬直しているのを幸いと同じく殴りつけて気絶させた。

そして、気絶した男二人をちょっとマズイ体勢で重ねて放置する。発見した人が色々誤解しそうな格好だ。

 

カム「まさか……陛下…ですか?」

ハジメ「あ~何というか、よくそんなボロボロであれだけの罵詈雑言を放てたな。

……色んな意味で逞しくなっちゃってさぁ……。」

取り敢えず、先程の色んな意味でぶっ飛んだ二つ名とか名前についてはスルーだ。

 

カム「は、ははは。どうやら夢ではないみたいですね……おぉ、ユエ殿にシアまで。」

一瞬、夢でも見ているのかと自分を疑った様子のカムだったが、先程のハウリア達以上にボロボロでありながら力のある声音でハジメ達に返答する。

思考力も鈍っていないようで、どうやらハジメ達が自分を助けに来てくれたのだと直ぐに察したようだ。

 

カム「いや、せっかくの再会に無様を晒しました。

しかも帝国のクソ野郎共を罵るのに忙しくて、気配にも気づかないとは……いや、お恥ずかしい。」

シア「……父様、既にそういう問題じゃないと思います。直ぐにでも治療院に行くべきです。

もちろん、頭の治療の為に……ていうか、その怪我で何でピンピンしているんですか。」

カム「気合だが?」

ユエ「……ハジメの魔改造……おそろしい。」

ハジメ「失礼な。ここまで進化するほど教えてはいないよ。」

 

拘束を解かれたカムは本当に恥ずかしそうに、折れてあらぬ方向を向いている指で頭をカリカリと掻く。

シアの辛辣なツッコミにも平然と非常識な返答をした。

再生魔法を掛けるユエが、むしろカムではなくハジメに恐ろしげな眼差しを向けている。

それに不本意だとハジメは反論するが、実際乗り気だったのは確かであった。

完全に回復して自分の体の調子を確かめるようにピョンピョン跳ねているカムを尻目に、ハジメはオーロラカーテンを再び開いた。

 

ハジメ「他の奴等は一足先に逃がした。さっさと行くぞ。」

カム「Yes,Your Majesty!あ、陛下、装備を取られたままなのですが……。」

ハジメ「どうせ向こうは魔力の直接操作も使えないんだ。機能なんて碌に使えんよ。

精々鈍器として使用できるのが関の山だ。

それに、高周波ナイフとか、レールガンとか、もっと性能のいいもんが大量にあるから、気にしなくていいさ。」

カム「おぉ!新装備を頂けるので?そいつぁ、テンションが上がりますな、ククク。」

 

怪しげな笑い声を上げるカムと、どこか達観した様子のシアを引き連れ、ハジメとユエもオーロラカーテンをくぐったのであった。

この後、帝城内から忽然と消えたハウリア族や帝都で暴れていた正体不明の仮面集団により、ヘルシャー帝国の夜は朝方まで大騒ぎになった事は言うまでもない。

*1
『』内にある言葉はあくまで代用の言葉です。内容が結構過激なので、ギャグテイスト仕様にいたしました。




ここまで読んでいただき、ありがとうございます!

やっぱり、今回もダメだったよ……ネディル君に、合掌。
そして仮面レンジャー、まさかのマジモン戦隊で構成。
因みに、最初のチョイスは私の好みです。

前者は上司になってほしい戦隊戦士で、鬼強クール剣士という、戦隊レジェンドの一角に位置しているからです。
後者はようつべ配信で見て、ストーリーと挿入歌、合わせて気に入りました。
キャラもボケとツッコミが中々テイストがあって大好きです。
他の候補としては、シンケンレッド、ゴセイナイト、ゴーカイレッド、キョウリュウゴールド、ガイゾーグ、ツーカイザー、ドンモモタロウ位ですかね?
因みに、鈴がズバーンなのは、某宇宙海賊の緑の人に似ていたからですかね?
勿論、雫はピンク確定です。

さて、ハウリア達に至っては、既に手遅れのようです。
行けるとこまで行ってしまったハジメさんにも原因がありますが、その後自分達で突き進んだ結果がこれなので、何とも言えません……。
後、今回"ピー"音を某2D格闘型対戦ゲームテイストにしてみました!
折角なので、以前の物や今後の物もそれに合わせるつもりですので、お楽しみに!

そして次回、光輝達はどうやって陽動をするのか、お楽しみに!

次回予告

カム達囚われていたハウリア族を脱獄させたハジメ達。
その一方、帝都では変装した光輝達が、陽動作戦を開始していた。
同刻、先に帝都に来ていたリリアーナは、皇帝ガハルドとの会談に臨んでいた。
しかし、既にハジメ達が動き出していたことを、彼女は知らなかったのであった。

次回「奇怪な仮面、話は難カイ!?」
目撃せよ、歴史の始まり!

ハジメ「ビリッと来たぜ!」


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86.奇怪な仮面、話は難カイ⁉

ハジメ
「神を騙る悪が蔓延る異世界"トータス"にて、最高最善の魔王、南雲ハジメは、囚われていたカム達ハウリア族を救出するために、帝城の地下牢に乗り込んだ。
そして、見事ハウリア族たちを救出し、帝城を後にする。
一方、自分達も何かを成したいと思った光輝達は、ハジメの提案で正体を隠したまま、陽動作戦を開始するのであった。」
光輝
「なぁ、ハジメ。何も本当に戦隊戦士の仮面じゃなくても良かったんじゃないか?」
ハジメ
「いや、今更だなオイ。だとしても、ライダーじゃおんなじだし、他に何かは……。」
光輝
「そうじゃなくて、シンプルにこう、地元起こしの特撮キャラみたいな感じなのはダメなのか?」
ハジメ
「インパクトが弱いからダ……そうか!インパクトだ!光輝、今度はミッ……。」
光輝
「言わせねぇよ!?それ、絶対怒られる奴だろ!?ハァ……あ、第7章第5話」
ハジメ・光輝
「「それでは、どうぞ!」」


一方、少し時間は戻って、ハジメ達が帝城に侵入した頃。

警鐘が鳴り響く帝都の夜に、突如、光が迸った。

光の奔流は闇夜を切り裂いて直進し、瓦礫撤去作業に従事していた亜人奴隷達が寝泊りしている掘っ立て小屋地区、そこにある帝国兵の詰所を吹き飛ばした。

最小限まで手加減していたらしく、建物が吹き飛んだだけで、中の帝国兵は無事なようだ。

ただし、大半が気絶しているが。

それをなしたのは月を背負って悠然と佇む6人の人影。

 

小隊長「何者だ、貴様等!帝国に盾突いてただで済むと思っているのか!」

その人影に向かって帝国兵の小隊長らしき人物が怒声を上げる。

と、それに返事をするかのように、黄金の戦士が名乗りを上げた。

正体は勿論、我等が参謀、トシである。

 

トシ「海賊のパワー!ツーカイザー!」

そして決めポーズをとると、他の面子にも名乗り口上を上げるよう、視線で促した。

その視線に戸惑いながらも、メタリックブルーの戦士、光輝が続いた。

 

光輝「百鬼夜行をぶった斬る‼︎地獄の番犬!デカマスター‼︎」

そして当然のように決めポーズ。

その意図を色々察した他の面子も、続くことにした。

尚、セリフに関しては、ハジメさんによる悪ふざけである。

 

恵理「煌く氷のエレメント!白の魔法使い、マジマザー!」

「だ、大剣人、ズバーン!」

龍太郎「才を磨いて己の未来を切り開く、アメイジング・アビリティ!

ゲキチョッパー!」

雫「……。」

そしてトリを務めるはずの雫は、用意されたセリフが恥ずかしいのか、自分だけオリジナル要素があるのが不満なのか、黙りこくっていた。

が、仲間の視線に耐え切れなかったのか、意を決して言い放った。

 

「揺らめく霞!仮面ピンク!」

そして全員が名乗り終えたのか、即座に一か所に集まって、またもや決めポーズをとった。

光輝「天下御免の精鋭部隊!」

『仮面レンジャー!見参!』

その名乗りと共に、背後で爆炎とカラフルな煙が上がったのは、きっと幻覚である。

 

仮面達の目的は、帝都で騒ぎを起こし、ハジメ達の帝城侵入を手助けすることなのだが……

それに、ヒートアップした帝国兵達が遂に「ふざけた仮面野郎共をとっ捕まえろ!」と襲いかかり始めた。

しかし、そこは異世界召喚チート組、それもハジメによって魔改造がなされた精鋭達だ。

並の兵士如きが敵うはずもなく、次々と蹴散らされていく。

 

帝国兵「ちくしょう!仮面のくせに強すぎる!」

帝国兵が地面に這いつくばりながら悪態と共に呻き声を上げる。

すでに3個小隊ほどが戦闘不能に追い込まれていた。堪りかねた指揮官が思わず叫ぶ。

指揮官「くそっ、お前等、一体何が目的なんだ!」

その質問に、デカマスターはピタリと止まり、溜まりに溜まった鬱憤を吐き出すかのように、声高に宣言した。

 

光輝「亜人奴隷達の待遇改善を要求する!」

指揮官「……はぁ?」

光輝「お前達の亜人族に対する言動は目に余る!むやみに傷つけるのは止めるんだ!」

帝国兵はまさかの要求に、「あいつ何言ってんだ?」という表情で顔を見合わせた。それもそうだろう。

仮面レンジャー達が昼間見た亜人奴隷への対応は、あれで常識なのだ。

それを目に余ると言われても何が言いたいのかピンと来ないのである。

 

光輝「くっ、何だ、その態度は……あんな仕打ちをしておいて……。」

雫「こう……デカマスター。非常識なのは、残念だけど私達の方よ。

私達の目的は陽動であることを忘れないで。」

光輝「わかってる!でも、せめて子供の亜人だけでも……。」

トシ「ダメだ、数が多すぎる上に、選別する時間も惜しい。後でハジメが策を考えてくれるはずだ。

だから今は……。」

光輝「……そうだな。」

デカマスターは、仮面越しでも分かるほど渋々といった感じで引き下がった。

 

仮面ピンクはそれを確認すると、仮面の側面をトントンッと指で叩いた。

すると、仮面の内側、目元の部分に魔力で光る文字が浮き出てきた。

ハジメが、「セリフ忘れたら、こうしてね。」と言って付けた機能である。

その浮かび上がった文章を、仮面ピンクは読み上げる。

 

雫「帝国兵、聞きなさい。私達の行動は帝都の現状を確認する事よ。

皇帝を討つには足りなかったけれど、随分と痛手を負った様ね!」

帝国兵たちがギョッとした表情になった。

帝国兵「まさか、まさか貴様等は魔人族!?そうか、帝国の被害状況を確かめに来たのか!」

帝国兵の勘違いを指摘せず、仮面ピンクはそのまま続ける。

 

雫「今回の件で、亜人奴隷に八つ当たりするのは止めておきなさい。もし、そんなことをしたら……。」

帝国兵「な、なんだっていうんだ……」

異様な雰囲気に恐れおののく帝国兵達へ、仮面ピンクは告げた。

 

雫「夜、シャワーを浴びている時その背後に、寝苦しさに目を覚ました時お腹の上に、誰もいないはずの廊下の奥に、デスクの下に、カーテンの隙間に、鏡の端に、夢の中に……仮面を見ることになるわよ。」

抑揚のない淡々とした語りは不気味の一言。帝国兵達は一斉に生唾を飲み込み、そして思った。

「こえぇ……」と。確かにホラーである。

 

仮面レンジャー達は、それで目的を果たしたとでもいうように「とぅ!」という感じで建物から裏路地に飛び降りた。

そして、慌てて帝国兵達が駆けつけた時には、まるで夢幻のように忽然と姿を消していたのだった。

後に、帝国兵の間で「仮面ピンクの恐怖~奴はいつも君を見ている」という都市伝説が広まるのだが、それはまた別の話。

なぜ、自分だけと……と、仮面ピンクの中の人が崩れ落ちたのも別の話である。

 


 

更に時間は戻る。

リリアーナが侍女や近衛達と共に帝都近郊に降ろされた夜、一行は逢魔号に積み込まれていた馬車と馬に乗って帝都へと入った。

一応、一緒に来た使者と大使、それに近衛騎士が先に先行し、先触れを出したものの、ほぼ同日だったのもあって、帝城の使用人や接待役の貴族達は大慌てだった。

 

ヘリーナ「厳戒態勢でございますね。」

馬車に同乗している侍女――ヘリーナが、小窓から外を覗きつつ言った。

リリアーナが痛ましそうな表情で答える。

 

リリアーナ「魔人族の襲撃のせいでしょう。

ハウリア族の話も聞きましたが、かなりの被害を受けたようですね。」

ヘリーナ「本当に、あの方がいて下さって幸いでした。本命でない帝国でこの被害です。

王国が助かる道はなかったでしょう。」

リリアーナ「そうですね……

ハジメさんが代理の国王として即位したのもあって、国民の皆様も安心していますからね……。」

そんなやり取りをしている間に、馬車は帝城へと辿り着いた。

 

突然の来訪に一悶着あったものの、リリアーナ達は無事に部屋へ通され、その日の夕刻にはガハルド皇帝陛下への謁見が叶うことになった。

リリアーナが、やってきた案内に従って謁見の部屋に行くと、そこには既にガハルドが実に楽し気な笑みを浮かべて待っていた。

 

ガハルド・D・ヘルシャー。

もうそろそろ50代を迎えそうな年齢にも関わらず、見た目は30代後半や、40代前半にも見える若々しさと猛々しい覇気を纏った男。

灰色に近い銀髪、狼のように鋭い目、服越しでも分かる極限まで引き絞られた肉体は些かの衰えも感じさせない。

 

当時の光輝達の実力を確かめるべく、ガハルドがお忍びで王国に来た時以来だが、数か月程度ではやはり変わりないらしい。

魔人族に襲撃されたと聞いていたので、或いは怪我の一つでもしているかと思えば、そんな様子も皆無である。

 

ガハルド「よく来てくれたな、リリアーナ姫。

随分と急な来訪だが、それだけの土産話があるのだと楽しみにしているぞ。」

リリアーナは「ご期待には添えないと思いますが……。」と前置きをし、まず王国で起きた事件のあらましを語った。

 

王国内に蔓延った恐ろしい浸食から始まった一連の出来事。魔人族による魔物の大群の侵攻。

"真の神の使徒"による暗躍と神の真意、聖教教会総本山の崩壊、檜山大介の裏切り、この世界の真実……

そして、南雲ハジメが臨時とはいえ王座に即位し、圧倒的な力と魅力的な政策で、混乱と不安に満ちていた国民の疑念を払拭し、民心をあっという間に鷲摑みにしてしまったこと。

 

ガハルド「……ちょっと待ってくれ、リリアーナ姫。」

リリアーナ「はい、お好きなだけどうぞ。」

口を挟まず黙っていたガハルドは、リリアーナが口を閉ざすと同時に大きく息を吐き、椅子に深く腰を預けると片手で顔を覆って天を仰いでしまった。

 

そして眉間を指でぐりぐりしながら、必死に聞いた内容を呑み込もうとしている。

豪放磊落な皇帝陛下をして、伝えられた事実の有様と真実の大きさには流石に動揺を隠せなかったらしい。

気持ちは分かると、リリアーナがお茶に口をつけつつ待つことしばし。

ガハルドは姿勢を戻し、リリアーナに視線を合わせた。

 

ガハルド「凄まじい状況だったようだな。よく伝えに来てくれた、リリアーナ姫……

いや、今は公爵令嬢だったか。」

リリアーナ「どちらでも構いません。それに、こちらも大変な状況だったようですから。」

ガハルド「しかし、そうか……教会は、神は……こりゃあとんでもない爆弾を落としてきたもんだなぁ。

南雲ハジメは。」

 

リリアーナ「その割には、陛下はそれほどショックを覚えていないようですが。」

ガハルド「いや、結構な衝撃だったぞ。生まれてより信仰していた対象がクソだったんだからな。

だが、まぁ、帝国は抑々実力至上主義。敵あらば殺す、欲しいものは奪う。

弱者は強者に従えってのが信条だ。

神の勢力がぶっ飛ばされたってんなら、そりゃあ、ぶっ飛ばされた方が悪い。

そんな相手を、何時までも崇めちゃいられんさ。」

リリアーナ「そ、そういうものですか……。」

 

帝国の実力至上主義は筋金入りだ。

何せ、王位継承問題すら決闘という対外的に分かりやすい方法で解決するくらいなのだ。

とはいえ、今まで信仰していた神に対してまで、その理念を適用するとは……

本当に、この国の人間は……と、リリアーナは表情を引き攣らせる。

ガハルドは気にした様子もなく、早くも気持ちを切り替えたようだ。

 

ガハルド「だが、それ以上に問題なのは南雲ハジメだ。

大勢の死者をたった一回の魔法で蘇生させるなんて所業、人間の躰で起こせるものじゃねぇ。

それに、同時に国民の傷と崩壊した建物も元通りにしちまうなんて魔法、聞いたことも見たこともない。

その上で、教皇の爺さんや裏切り者を処刑し、反対勢力を指名手配として国民に焙り出させ、洗脳や脅迫で屈服させる手腕……

アイツは本当にただの学生だったのか?どう考えても、政治の経験があるようにしか感じねぇぞ。」

ガハルドはハジメについて考察する。だが、知る由もないだろう。

 

この世界における南雲ハジメという男は、[原作という世界の"主人公"]と、[原作知識を持ちその結末を知っている"転生者"]、その二つの魂が混ざり合ってできた第3の魂、[王となるべくして研磨された"少年"]として存在していることに。

 

リリアーナ「ハジメさん曰く、"学を必死に積み、王としての器を仕上げた"とのことです。

恐らく、元の世界であるだけの知識を詰め込み、それを政治に生かしているのだと思われます。

その上、王国・帝国間をたった半日で移動するアーティファクトも作り出せる、稀代の錬成師です。

国民に配布するアーティファクトの製造ですら、即座に完遂させてしまうほどの技量を持っています。」

困ったような表情で微笑みながら断言するリリアーナ。ガハルドは眉間に深い皺を刻む。

 

リリアーナ「それと、ハジメさんから皇帝陛下宛に手紙を預かっております。」

そう言ってリリアーナはハジメから預かっていた手紙を渡した。尚、中身に関しては全く知らない。

そして、手紙を受け取ったガハルドがその内容を読み上げた。

 

『拝啓、ガハルド君へ。ウチのシマで勝手に誘拐しやがってコノヤロー。後で一回締めに行くから。

もしおいたが過ぎようものなら、息子スマッシュも辞さないからね?――by 魔王南雲ハジメ』

読み終えたガハルドはその後沈黙し、ハジメと敵対してしまったという事実に頭を抱えた。

リリアーナもリリアーナで「なんてことを書いてくれたんですか!?」と動揺し、頭を抱えていた。

そして少し時間をおいて、両者が立ち直り姿勢を直すと、ガハルドが口を開いた。

 

ガハルド「……一つ聞きたい、リリアーナ姫。南雲ハジメの部下に、亜人族はいなかったか?

特に兎人族、それもあまりに特殊な兎人族だ。」

リリアーナ「!?」

ぶわっと毛穴が開くような感覚。しかし、どうにか笑顔でそれを隠す。

が、僅かに呼吸が乱れたのをガハルドは見逃さず、そのまま続けた。

 

ガハルド「樹海の外だというのに、帝国の兵士とまともにやり合いやがった。

とても、兎人族とは思えん殺意と覇気を持ってな。」

リリアーナ「まぁ!温厚の代名詞の様な兎人族に、そのような部族もいるのですね。恐ろしい……。」

ガハルド「それだけじゃない。そいつらの装備がな、これまた凄かった。

見たこともない鉱石で構成されていて、手を加えることも出来なかった。

おかげで他に使い手が見つからねぇから、今も城の宝庫で眠っている。」

リリアーナ「フェアベルゲンの技術力も侮れませんね。」

ガハルド「そうだな。本当に、フェアベルゲンの職人が作ったんならな。

俺には、あんな大業物の装備を量産できるのはあの南雲ハジメ位だとしか思えない。」

リリアーナ「……。」

 

リリアーナは胃がしくしくするのを感じた。

今日の協議を終えたら、ヘリーナ特性のお腹に優しい紅茶を入れてもらおう、そうしよう。

リリアーナは心のヘリーナにお願いしたのであった。

 

ガハルド「……まぁ、それを今更姫に言っても、どうにもならんのは分かっている。

だからこの話題は一旦置いといて、協議の内容を聞こう。」

リリアーナ「……はい。端的に言えば、今後の連携について方針を固めたくまいりました。」

リリアーナはガハルドに同情されたことに内心泣きつつも、その心遣いには感謝したのであった。

因みに、本来であれば支援の要請も予定していたが、ハジメの即位宣言時にそれも解決してしまったので、今回の協議の重要点は、帝国との同盟強化位しかないのだ。

とはいえ、流石に一気に二人だけで決められることでもないので、今のところは概要と、各方面との具体的な協議内容の確認だけしておく。

 

ガハルド「まぁ、こんなところだろう。

後重要なのは、対外的に関係強化をどう示すかだが、それに関してはリリアーナ姫、一役買ってもらうことになるぞ。」

リリアーナ「!そのことなのですが……。」

リリアーナは現状、公爵家の令嬢でありつつもハジメの許嫁でもあるので、リリアーナの一存だけでは決められないのだ。

 

その趣旨について説明すると、ガハルドは「マジか……。」とまた天を仰いだ。

とはいえ、このまま何もなしに関係強化を発表しても、それをどう国民に伝えるかが問題になってくる。

かと言って、断りもなく婚約を進めてハジメの機嫌を損ねれば、最悪の場合帝国が滅ぶし、ガハルドもハジメのアーティファクトの恩恵を受けられなくなってしまう。

そんな訳で、婚約の話のみが進まないまま2日が立った夜、協議を重ねるガハルドとリリアーナのもとに、一報が飛び込んできた。

 

帝国兵「以上で報告を終わります!」

ガハルド「ご苦労、下がれ。」

帝国兵「はっ!」

ツカツカと規則正しい足音を響かせて部下が出て行った扉をしばらく見つめた後、ガハルドは、目の前で澄まし顔をしているリリアーナに視線を転じた。

 

リリアーナは、ガハルドの視線に気が付くと「大変そうですね?」と心配するような、困ったような微笑みを向けた。

隣国の王女として、先程報告された内容を憂いているような、されど口出しは余計だと弁えているような、そんな表情だ。

ある意味、見事な表情だと、ガハルドは思った。

 

ガハルド「全く、困ったものだ。

ふざけた強さの魔物の次はふざけた仮面を着けた、ふざけた強さの6人組の襲撃か……

この件、どう思う?リリアーナ姫。」

リリアーナ「……私には、わかりかねます。

やはり、魔人族の暗躍では?有り得ない魔物を使役するのですから、有り得ない人材もいるのでは?」

ガハルド「そうかもしれんな……。

何が目的かと尋ねたら亜人奴隷達の待遇改善だと抜かすのだから、意味不明すぎてとても恐ろしいと、俺も思う。」

リリアーナ「そう、ですわね。」

リリアーナの表情は崩れない。

 

ガハルドが面白そうにリリアーナを観察しているが、笑顔という名の仮面は鉄壁だ。

何せ、貼り付けたような笑顔ではなく、王族必須スキルであるその場の状況に応じて変幻自在に変わる笑顔なのだから。

しかし、僅かに呼吸が乱れた事をガハルドは見逃さなかった。

 

ガハルド「ところで、リリアーナ姫。」

リリアーナ「はい?」

ガハルド「確か勇者殿は、あの南雲ハジメと一緒に樹海に向かったのだったな?」

リリアーナ「……えぇ、その通りです。ですがそれが?」

ガハルド「いやなに、てっきり帝都に来ているのかと思っただけだ。

そして、どこかで奴隷解放でも詠っているのかとね。」

リリアーナ「あら、ガハルド陛下ともあろう御方が、推測と事実を混同なさっているのですか?

そのようなことありませんわよね?」

ガハルド「はっはっは、もちろんだ!根拠もない推測を事実のように語ったりはしない。」

リリアーナ「ふふふ、そうでしょうね。」

「ははは。」「ふふふ。」と皇帝陛下と王女の笑い声が応接室に響き渡った。

が、その時、再び扉がノックされた。

 

ガハルド「入れ。」

帝国兵「ハッ。失礼します。緊急ゆえ、報告をお許し願いたく!」

ガハルド「構わん、どうした?また仮面でも出たか?」

帝国兵「い、いえ。それが、そのーー地下牢のハウリア族が全員、脱獄した模様です!」

ガハルド「……。」

 

ガハルドの視線がリリアーナに向けられた。珍しく無表情だ。

無機質な目がじっとリリアーナに注がれている。

リリアーナは「あらまぁ、大変!」と言いたげな表情を見事に作り出す!

同時に、内心で絶叫した。

 

リリアーナ(来てる!あの人、絶対に来てるぅ!

帝城の地下牢から気付かれずに脱獄させるなんて、あの人にしか無理ぃ!

というか、これ絶対にバレていますって!もしかして、私も関与を疑われています?

いやぁっ、どうして私がこんな目に!皇帝陛下が未だかつて見たことない目で私を見てますよぉ!)

と、リリアーナが内心で絶叫していたその時。

 

プルルルル

リリアーナ「ひゃっ!?」

ガハルド「うん?リリアーナ姫、それはなんだ?」

ガハルドが指さした場所には、ハジメが以前プレゼントしたブローチがあった。

 

リリアーナ「へ?あ、あぁ~、これですね!ハジメさんから貰ったお守りですので、お気になさらず!」

実はこれ、リリアーナが気づかないうちにハジメさんが改造し、念話機能が魔力操作なしでも使えるよう、電池代わりの神結晶が埋め込まれた、簡易型魔導通信機である。

それが鳴っているということは、ハジメが何かを伝えに来たのだろうか。

ガハルドに見られて内心ビクビクしながらも、リリアーナは意を決してアーティファクトを起動した。

 

リリアーナ『も、もしもし。』

ハジメ『あ、リリィ。ちょうどよかった。今、帝城の上空にいるから、部屋教えて。窓から入るから。』

リリアーナ「何でそんなとこにいるんですかぁ!?」

思わず念話を解除する程、リリアーナは絶叫した。ガハルドが何事か、と見てくる。

 

ハジメ『いやなに。

ついさっき、カム達を近くにいる部下たちのとこに送り届けたし、折角だからリリィの様子見序でに、ガハルドに王様として顔見せに行こうかな?って思ってさ。』

リリアーナ『いや、あんな内容の手紙の後にですか!?このままだと戦争が……!?』

ハジメ『文句ならガハルドに言って。

俺はただ、自分の部下に手を出されたから宣戦布告と受け取っただけだし。』

リリアーナ『だからといって、流石に限度があります!』

ハジメの余りの図太さに、リリアーナは思わず胃と頭の両方を抱えたくなった。

しかし、そんな彼女に更なる追撃が。

 

ガハルド「リリアーナ姫、もしやとは思うが……会話相手は南雲ハジメか?」

リリアーナ姫「ふぇっ!?え、えぇ、まぁ……。」

それを聞いたガハルドは、実に楽し気な笑みを浮かべていた。

リリアーナは嫌な予感が過り、慌ててハジメとの念話を終了させようとしたが、時既に遅し。

 

ガハルド「そうかそうか、折角だ。リリアーナ姫、彼はどこに?

近くにいるのであれば、是非顔合わせをしたいものだが。」

リリアーナ「……はい。」

もうなるようになぁれ~、と言わんばかりにやけっぱちになったリリアーナは、ハジメに部屋の場所を教えた。

すると、直ぐに窓の外に人影が現れた。

 

ハジメ「あ~、もしかしてリリィ……今、タイミング悪かった?」

リリアーナ「遅すぎますよぉ!もっと!私を!労わってください!私!婚約者で!王女です!」

ハジメ「ゴメンゴメンって。後で埋め合わせするから。」

リリアーナの表情から何となく状況を察して宥めたハジメは、改めてガハルドに向き直る。

 

ガハルド「この度の国王ご即位、祝福を申し上げる。南雲ハジメ殿。」

ハジメ「ここは公式の場じゃないんだ、素でいい。寧ろ、そっちの方が気が楽だし。」

ガハルド「くく、そうか。俺も同じだ。その方が相手の成りを把握できるしな。」

両者共に、口元に笑みを浮かべながらも、目は全く笑っていなかった。

それがリリアーナにとっては恐ろしかった。

 

ハジメ「それで?協議についてはどうなったの?」

ガハルド「それなんだがな……うちの息子に、リリアーナ姫を嫁が『ドゴォン!』せ……。」

その言葉が出た途端、ハジメはガハルドの後ろにある壁を打ち抜いた。

拳の跡が壁に刻まれていた。リリアーナは慌てて宥める。

 

リリアーナ「は、ハジメさん!待ってください!どうか、落ち着いて聞いてください!」

ハジメ「……聞き間違いかな?

ウチのシマに手を出した挙句、俺に断りもなく、婚約者を奪うなんて……どういう了見だ?

事と次第によっては……この国、消えるかもしれんぞ?

その瞬間、凄まじい程の殺気が帝城を包み込む。それは正に、覇王の"威圧"だ。

 

ガハルド「ぐおぉっ!?」

その余りの気迫に、ガハルドは気を失いかけるも、何とか踏ん張り耐える。

しかし、念のために控えていた兵士たちは大半が気絶、そうでない者は錯乱し、中には発狂する者まで出る程だった。

 

部屋の柱もミシミシッという音が鳴り、罅が数か所に入ってしまっている。

後に、この事件は『魔王の怒り』という名の絵画として残されるようになった。

尚、その殺気に当てられたせいで、ハジメに興味を抱いてしまった皇女様がいた事には、誰も気がついていなかったのであった……。

 

リリアーナ「んっ!」

ハジメ「んっ。」

が、その殺気も長くは続かなかった。何故なら……リリアーナが咄嗟にハジメの唇にキスをしたからだ。

急な出来事で驚いたのか、ハジメは殺気を抑えてリリアーナに聞いた。

 

ハジメ「リリィ、落ち着かせるためとはいえ、いきなりキスしなくてもいいじゃないか。

気持ちは嬉しいが、一目があるだろ。」

リリアーナ「うぅ…///で、でもこうでもしないと落ち着いてくれないと思ってしまいまして……。」

弁明しつつも、自分の行動に思わず顔を真っ赤に染めるリリアーナ。

ここが帝城であり、皇帝の御前であることを忘れ、やってしまったと、顔を両手で覆った。

 

ガハルド「ハァ……ハァ……幾らなんでも、容赦無さすぎだろ……。」

ハジメ「チッ、殺気が足りなかったか……それで?死ぬ前に訳位は聞いておこうか?」

リリアーナ「ハジメさん?くれぐれもお願いします、ね?」

リリアーナは今すぐここから抜け出したい気持ちになるが、そうなるとハジメがガハルドを殺しかねないと思い、何とかハジメを説得する方向に切り替えたのであった。

 

ガハルド「なに、王国と帝国の関係強化の為だ。

それに、許可についてはお前とも話し合うつもりだったさ。

現に、それについての話し合いはまだ進んでいない。そうだろう、リリアーナ姫?」

リリアーナ「……えぇ。」

それを聞いたのか、ハジメの殺気も少し和らいだ。

 

ハジメ「なら何故その話題を持ち出した?俺が許可を出すとは思わないだろうに。」

ガハルド「まぁ待て。話はここからだ……。」

そう言ってガハルドは、自身の政務机の引き出しから、とある箱を取り出す。

その箱は、一辺が20㎝四方の正四角形だった。ガハルドはその箱を開け、中身を見せた。

 

ガハルド「こいつについて……何か見覚えはあるか?」

ハジメ「ッ!?」

ハジメは驚愕した。何故なら……そこにあったのは、ハジメのアナザーウォッチだったからだ。

王都事変の際に既に回収し、完全に砕いて消滅させた筈のアナザーウォッチが、目の前にあったのだ。




ここまで読んでいただき、ありがとうございます。
本当は浩介君も仮面レンジャーに入れたかったのですが、彼は単体の方が一番インパクトがありそうなので、断念しました。
もし戦隊戦士にするなら、忍者系ですかね?ライダーだとシノビ位しか思いつきません……。

さて、今回はとばっちりを受けてしまうリリィ。今回は苦労人でもあり、ヒロインでもあります。
ガハルドもガハルドでハジメさんから怒りの応酬を食らっていますからねぇ……。
流石にこのままでは終われません。勿論、ハジメさんとてそれは同じ。
アナザーウォッチを差し出してきたガハルド、その真意や如何に!?その時、ハジメさんは!?待て、次回!

次回予告

仲間達と合流したハジメは、樹海に集結したカム達ハウリアから、帝国の目的を聞かされる。
そして、ハウリア達は帝国に戦争を仕掛けることを決意する。シアはその答えを前に、迷いが生じてしまう。
その一方、ガハルドがアナザーウォッチを盾に、リリアーナと第一皇子の婚約を認めるように迫られたハジメは、事態を解決するため、ある作戦を思いつくのであった!

次回「樹海に木霊す、兎の咆哮」
目撃せよ、歴史の始まり!

ハジメ「ガッチャ!で行くぜ!」


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87.樹海に木霊す、兎の咆哮

ハジメ
「神を騙る悪が蔓延る異世界"トータス"にて、最高最善の魔王、南雲ハジメとその仲間達は、帝都にて一大作戦を行っていた。
光輝達は仮面で顔を隠し、亜人族から注意を逸らすことに成功するも、雫のみ精神的にダメージを負ってしまう。
一方、ガハルドと会談するリリアーナの所に乗り込んだハジメは、ガハルドから自分のアナザーウォッチを差し出されたのであった。」
龍太郎
「なぁ、南雲!お前は軍曹のどの名言が好きなんだ!?」
ハジメ
「いや、俺全身鉄鋼ジャケットはあまり知らないんだが。ランボードーなら思いつく限りはあるぞ?」
龍太郎
「そっちもいいよな!筋肉モリモリ!人間武器庫!怒りの肉弾頭!」
ハジメ
「個人的には〇ネットの迷言が好きなんだよなぁ……一回言ってみたい。」
龍太郎
「そっち!?てっきり下っ端を崖から突き落とす時の奴だと思っていたんだが……。」
ハジメ
「とんでもねぇ……トリックだよ。」
龍太郎
「どういう意味だよ……それじゃあ、第7章第6話」
ハジメ・龍太郎
「「それでは、どうぞ!」」


俺は驚愕に満ちていた。何故って?砕いたはずの俺のアナザーウォッチを、ガハルドが持っていたからだ。

入手経路は分かってはいるが……俺は敢えて殺気を放ち、奴を問いただした。

ハジメ「……これをどこで、誰から手にした?正直に言えよ?」

ガハルド「まぁ落ち着けって。そうだな……あれは協議前の昼時当たりだったか。」

そこからガハルドの話を要約するとこうだ。

 

ガハルドがどうやって関係強化の為の婚約の話を進めるかを考えていた時だった。

執務室にフードを被った謎の女がいたのだ。それも突然のことで、護衛の兵士たちも気づかなかった。

否、気づけなかった。何故なら、まるで自分とそのフードの女以外の時が止まったように見えたからだ。

十中八九タイムジャッカーだな。その女によって渡された、という訳か。

 

ガハルド「なんでも、このアーティファクトを使えば、お前の力を封じることも、奪い取ることも可能と聞く。

ま、そりゃあそんなこと聞かされちまったら、俺も喉から手が出るほどに欲しいさ。」

ハジメ「なら何故それを取り出して、態々俺に見せつける?脅迫でもするつもりか?

何時でも俺の力を奪えるぞ、だから俺の配下になれ、とでも言いたいのか?えぇ?」

そう言って更に殺気を強める。どうやらこの男を見誤っていたようだな。

帝国とはやはり、クズ共の集まりであったか。

 

ガハルド「ッ!だから落ち着けって!話はまだ終わっちゃいねぇ!

それに、そんなことしようとしたら、真っ先に俺がお前に殺されるっての!」

ハジメ「……。」

成程、どうやらこの男、私がタイムジャッカーを警戒していることは知らないようだな。

 

いや、そもそもその存在についてあまり知らないようだな。

リリィもそれを話さずにおいてくれたのか。そう思ってリリィを見れば、ウインクが返された。

やれやれ、流石は王女なだけはある。駆け引きはお手の物、か。

ならば、決めつけるのも早急か。そう思い殺気を解いた。

 

ハジメ「ではなんだ?これをやるから婚約について同意しろ、と?」

ガハルド「…あぁ。なんなら、姫から聞いたアーティファクトでもいいが。

話じゃ、王国~帝国間をたった半日で走破する空飛ぶ乗り物ってのがあるみてぇじゃねぇか。

ずりぃぞ、俺にも一機くれよ。」

……子供かアンタは。その言動に拍子抜けし、怒りが収まる。

 

ハジメ「悪いが、あれはまだ量産体制が整っていない。規模が規模なだけにな。

それこそ開発も半年位はかかる上に、魔力面、操作安定面、可用性、様々な面での問題もオールクリアしないといかん。

適当なもん作って即事故られちゃ、俺も錬成師としての面目が立たん。だから無理だ。」

それに、あれはこれからの旅で必須手段だ。氷雪洞窟に行くためにも、そう易々と手放すわけにはいかん。

 

ガハルド「そう言うなって。小さいのでもいいからよ。」

ハジメ「だ~か~ら~!サイズ変更しても、問題山積みなの!出せるとしても魔導バイクぐらいだ!

てか、そんなんで関係強化って言えるのか!?」

まさかとは思うがコイツ、そのためだけにアレを見せたのか!?だとしたら、考え物だぞ!?

 

ガハルド「何言ってんだ、婚約同意の序でに決まってんだろ。」

訂正、コイツも相当の山賊擬きであった。

ハジメ「なら交渉決裂か。今日が「待って下さい!」…リリィ、そこをどけ。」

ガハルドを殺そうと立つ俺の前に、急にリリィが立ち塞がった。

 

リリアーナ「……陛下は、これから大迷宮に行って、エヒトを倒すための手段を整えるのですよね?

であれば、私なんかの為に立ち止まらないでください!」

ハジメ「なんかなんて言うなよ……それくらいどっちも「時には!」…。」

リリアーナ「時には…どちらかを切り捨てなければいけません。だから、ハジメさん…。」

そう言うリリィの眼には、今にも零れ落ちそうな涙が溜まっていた。

それを必死にこらえるリリィを見て、俺は殺気を抑え、ガハルドを睨みつけた。

 

ガハルド「そう怖い顔すんなって。

婚約発表は近日に行うが、輿入れ自体はそのエヒト関連が終わってからにするからよ。」

そう言って不敵な笑みでこちらを見るガハルド。……そうか、それが貴様なりのやり方か。

いいだろう、ならばこちらも、こちらなりのやり方で潰させてもらおうか。

 

ハジメ「…許可しよう。リリィ、後は好きに進めるがいい。」

リリアーナ「!」

そう言って俺は、リリィに失望したと言わんばかり(に見える)の視線をちらつかせ、ガハルドの部屋を窓から勢いよく飛び出し、帝城を後にしたのであった。

さて、どうやって嫌がらせをしてやろうか?その婚約、台無しになる様子が実に楽しみだなぁ。

 

そうして不本意ではあったものの、ガハルドとの会談を終えた俺は、救出されたハウリアや先に戻っていたユエ達が待機している岩石地帯に転移すると、ハウリア達の熱狂的な歓迎に出迎えられた。

ハウリア達は、お互いに肩を叩き合い、鳩尾を殴り合い、クロスカウンターを決め合って、罵り合いながら無事を喜び合っている。

 

シア「ぐすっ、良かったですぅ。喜び合い方が可笑しいですけどぉ、みんな無事でよかったですぅ。

ハジメさん、ユエさん、ありがとうございますぅ。」

涙声で感謝するシア。そりゃあそうか……父さん、母さん、元気にしているよね?

俺、皆を連れて必ず帰るからさ、それまでどうか、折れずに、願っていて……。

 

そう思いながら、ユエにいい子いい子されているシアのウサミミを撫でる俺であった。

と、その時、耳に風切り音が響いたので、咄嗟に何かを受け止める。

そこには黒い鞘に収められた見覚えのある刀が片手白羽取りの要領で掴み取られていた。

 

ハジメ「……どうしたんだい、雫?何か不満でもあったのかい?」

鞘に収めた状態の黒刀で俺に殴りかかった襲撃者、雫は、片手で掴んでいるだけにもかかわらず、いくら力を込めてもビクともしない俺に舌打ちしながらも、尚、ギリギリと力を込めている。

が、昔からフィジカルモンスターの俺には、あまり効果がないんだよなぁ・・・・・・。

 

雫「……ストレス発散のためにハジメ君に甘えてみただけよ。大丈夫、私は、ハジメ君を信じているわ。

そのマリアナ海溝より深い度量で受け止めてくれるって……

だから大人しく!私に!タコ殴りに!されなさい!」

ハジメ「あのセリフが嫌だったのかい?

まぁ、俺も書いている途中で、謎の天啓が下りて来たから、つい書き上げちゃったけどさ……。」

雫「嘘おっしゃい!あなたの意図はわかっているのよ!絶対、悪ふざけでしょ!

何となく雰囲気に流されたけど!一発、殴らずにはいられない、この気持ち!男なら受け止めなさい!」

ハジメ「んな、理不尽な……。」

どうやら仮面ピンクのダメージが思ったより深かったらしい。

 

確かに、拒めばよかっただけなので、場の雰囲気や仮面自体の優秀な機能に流された雫の自業自得ではある。

しかし、そうとは分かっていても、明らかに悪ふざけが入っていた俺の言動のせいか、八つ当たりせずにはいられないのだろう。

尤も、実力差は天と地ほどなのであまり効力はない。すると、雫は黒刀の能力を一つ解放した。

 

雫「こんのぉ!"雷華"!」

ハジメ「ん?んん~。」

しかし、幾ら放電されようとも、俺にはただのマッサージにしか感じない。

それが気に食わないのか、雫は思わずツッコミを入れる。

 

雫「ちょっと、ハジメ君。電撃を流しているのに、なんで平気なのよ?」

ハジメ「鍛えてますから。それより、よくその機能を発動できたね。」

雫「くっ、仕方ないわね……今回は引くわ。でも、いつかその澄まし顔を殴ってやる。

それと、能力は王国錬成師達の努力の賜物よ。」

ほぅ、ウォルペン達が……少しだけ褒めてやるか。

 

すると、背後には目を丸くしている光輝達がいた。どうやら、ちょうど戻って来たところらしい。

思いがけない雫の行動に驚いているようだ。

香織とユエはどこかジト目で雫を見つめている。小声で「……雫ちゃんが八つ当たりするなんて……」「……甘えとも言う」と話し合っており、どうやら、俺達のやり取りはじゃれ合っているようにしか見えなかったようだ。

 

カム「陛下、宜しいですか?」

ようやく、ド突き合いを終えたらしいカム達が、こちらへ歩み寄ってきた。

真剣な表情であることから、唯の再会の挨拶というわけではなさそうだと察する。

宝物庫から玉座を取り出して腰掛け、他の皆にも長椅子を渡して座らせる。

 

カム「まず、何があったのかということですが、簡単に言えば、我々は少々やり過ぎたようです……。」

そう言って、始まったカムの話を要約すると、こういう事だ。

亜人奴隷補充の為に、疲弊した樹海にやって来た殿の帝国兵を、カム達ハウリア族は相当な数、撃破している。

それに加えて、本隊と合流できなかった兵士の数と生き残りの証言もあり、帝国兵をかなり警戒させたらしい。

 

その結果、"亜人族は樹海から出ない"という常識が疑われ、奪還に来る可能性を意識させてしまったようだ。

というのも、単なる戦闘の果ての撃破ではなく味方の姿が次々と消えていき、見つけた時には首を落とされているという暗殺に近い形だったからだ。

 

正体不明の暗殺特化集団という驚異を前に、帝国はその正体を確かめずにはいられなかった。

そこで一計を案じたらしい。それが帝都での包囲網だ。要は誘い込まれたということである。

カム達も、あっさり罠にはまるという失態を犯したわけだが、それは、帝国が直接樹海に踏み込んで来るというまさかの事態に対する少なくない動揺があった、としか言いようがない。

 

それだけでなく、攫われた大勢の亜人族が一か所にまとめられていたこともあり、厳重に厳重を重ねて構築された監視網に発見され、一時撤退を余儀なくされたらしい。

帝国の襲撃が、樹海を端から焼き払ったり、亜人奴隷に拷問まがいの強制をして霧を突破したりという、非道な方法だったというのも原因の一つかもしれない。

 

普段のフェアベルゲンなら、それでも組織的に動いて戦うことは出来ただろうが、おそらく、魔物の襲撃によって疲弊している情報も掴まれていたのだろう。

タイミングも絶妙だった。タイムジャッカーの裏工作の可能性も捨てきれんな。

まさに泣きっ面にハチ状態では、カム達も完全には冷静になりきれなかったのだ。

 

そして、帝国兵側も相当驚いたことだろう。

何せ、網にかかった正体不明の暗殺集団が温厚で争い事とは無縁の愛玩奴隷である兎人族だったのだから。

しかも、樹海の中でもないのに、包囲する帝国兵に対して連携を駆使して対等以上に渡り合ったのだ。

当然、その非常識は帝国上層の興味を引く。結果、

 

カム「我等は生け捕りにされ、連日、取り調べを受けていたわけです。

あちらさんの興味は主に、ハウリア族が豹変した原因と所持していた装備の出所、そして、フェアベルゲンの意図ってところです。

どうやら、我等をフェアベルゲンの隠し玉か何かと勘違いしているようで……

実は、危うく一族郎党処刑されかけた上、追放処分を受けた関係だとは思いもしないでしょうなぁ。」

 

尋問官に、自分達はフェアベルゲンと、むしろ敵対している関係だと何度も言ってやったそうだが、むしろ国のためにあっさり自分達を切り捨てた覚悟のある奴等だと警戒心を強めただけらしい。

特に、何度か尋問を見に来たガハルドに至っては不敵な笑みを浮かべながら、新しい玩具を見つけた子供のように瞳を輝かせていたという。

 

まぁ、アーティファクト自体使えていないようだしな。

あれには血液認証というシステムも組み込んでおいたんだ。

そう簡単に使用者変更が出来ないのもあり、帝国も実用化するのには時間がかかっているだろう。

 

ハジメ「それで?捕虜になった言い訳がしたいわけじゃないんでしょ?本題は何?」

カム「失礼しました、陛下。

では、本題ですが、我々ハウリア族と新たに家族として向かえ入れた者を合わせた新生ハウリア族は……

帝国に戦争を仕掛けます。」

ハジメ「……そう。」

カムの鋭い眼差しでなされた宣言に、その場の時が止まる。

 

そう錯覚するほど、ハジメと、カムを含めたハウリア族以外は、一切の動きを止めて硬直していた。

理解が追いついていないのか、あるいは驚愕の余り思考停止に陥ったのか。

周囲に静寂が満ちて、僅かに虫の奏でる鳴き声が夜の岩石地帯に響く。

その静寂を破ったのはシアだった。

 

シア「何を、何を言っているんですか、父様?私の聞き間違いでしょうか?

今、私の家族が帝国と戦争をすると言ったように聞こえたんですが……。」

カム「シア、聞き間違いではない。我等ハウリア族は、帝国に戦争を仕掛ける。確かにそう言った。」

僅かに震えながら、努めて冷静であろうとしたシアだったが、カムの揺ぎ無い言葉を聞いて血相を変えた。

 

シア「ばっ、ばっ、馬鹿な事を言わないで下さいっ!何を考えているのですかっ!

確かに、父様達は強くなりましたけど、たった百人とちょっとなんですよ?それで帝国と戦争?

血迷いましたか!同族を奪われた恨みで、まともな判断も出来なくなったんですね!?」

カム「シア、そうではない。我等は正気だ。話を……。」

シア「聞くウサミミを持ちません!復讐でないなら、調子に乗ってるんですね?

だったら、今すぐ武器を手に取って下さい!帝国の前に私が相手になります。

その伸びきった鼻っ柱を叩き折ってくれます!」

 

興奮状態で"宝物庫"から"ドリュッケンSH-2068"を取り出し、豪風と共に一回転させてビシッ!とカムの眼前に突きつけるシア。

その表情は、無謀を通り越して、唯の自殺としか思えない決断を下したカム達への純粋な怒りで満ちていた。

 

全身から淡青色の魔力を噴き出し物理的圧力をもって威圧するシアの迫力は、それこそ雫達を除く光輝達遠征達すら越えるものだ。

事実、いつも元気に笑っていて怒ると言っても何処かコミカルさがあるシアからは想像できない怒気と迫力に、光輝達は息を呑んでいる。

 

だが、そんな勇者達さえ怯む迫力で"ドリュッケンSH-2068"を突きつけられたカムは、凪いだ水面のように静かな眼差しで真っ直ぐに娘を見つめ返していた。

睨み合う、あるいは見つめ合う二人を誰もが固唾を呑んで見守る中、俺はシアのすぐ後ろに移動し、シアの毛玉のように丸くてふわっふわのウサシッポを鷲掴みにし、絶妙な手加減でモフモフした。

 

シア「ひゃぁん!?だめぇ、しょこはだめですぅ~!ハジメしゃん、やめれぇ~。」

実は、シアはウサミミを触られる気持ちよさとは別の意味で、ウサシッポを触られると"気持ちよく"なってしまうのだ。

シアは、早々に崩れ落ちると四つん這い状態になってハァハァと熱い吐息を漏らしつつ、恨めしげに俺を睨んだ。

触られるのは嬉しいが、時と場合を考えてほしい。そう視線で訴えているようにも見える。

が、その瞳も熱っぽく潤んでいて、艶姿を強調する以外の役割は果たしていない。

 

緊迫した状況が、次の瞬間にはピンクな空間に早変わりしたことに目を丸くする周囲の者達。

若干、前屈みになっている連中もいる。

そんな周囲を尻目に、俺は苦笑いを浮かべ、今度はシアのウサミミを撫でた。

先程のやたらとエロい手つきではなく、優しげで労わるような手つきで。

真剣なやり取りの最中にセクハラをカマしてきた俺を恨めしげに睨んでいたシアだったが、途端、気持ちよさそうに目を細めた。

 

ハジメ「どう、少しは落ち着いた?カムの話はまだ終わっていないんだし、ぶっ飛ばすのは全部聞いてからでも遅くはないでしょ?」

シア「うっ……そうですね……すいません。ちょっと頭に血が上りました。

もう大丈夫です。父様もごめんなさい。」

ウサミミをへにょんとさせて、シアは反省を示す。するとカムは、優し気に眼を細めて頭を振った。

 

カム「家族を心配することの何が悪い?謝る必要などない。

こっちこそ、もう少し言葉に配慮すべきだったな。

……最近どうも、そういう気遣いを忘れがちでなぁ。……それにしても、くっくっくっ。」

シア「な、なんですか、父様、その笑いは……。」

カム「いや、お前が幸せそうで何よりだと思っただけだ。……陛下には随分と可愛がられているようだな?

暫く見ない間に成長して……うん?孫の顔はいつ見られるんだ?」

シア「なっ、みゃ、みゃごって……何を言ってるんですか、父様!そ、そんなまだ、私は……///。」

 

カムにからかわれて、顔を真っ赤にしながらチラチラと上目遣いに俺を見るシア。

見ればハウリア達が皆、ニヤニヤとした笑みを浮かべている。

やれやれ、どいつもこいつも……ホント、いい性格になったものだ。

そんな事を思いながらシアに、「事後処理が終わったらすぐ、ね?」と小声で伝え、カムに尋ねた。

 

ハジメ「それで?俺にも参戦しろと?別にそれは構わん。俺にも、奴等を潰す動機が出来たのでな……。」

雫「!?どういうことかしら!?一体何があったのよ!?」

ハジメ「なに、ガハルドの阿呆がアナザーウォッチを盾に、リリィと第一皇子の婚約を認めろと。

言外に、今回の奪還は黙ってやるから、婚約を認めろとも言っているように見えたのでな。

今後のことも踏まえ許可は出したが……確定してない以上、機会はまだある。」

それを聞くと、皆とても驚いていた。まぁ、それもそうか。

 

光輝「そんな!お前はそれでいいのかよ!」

ハジメ「いいわきゃねーだろ。折角お前等が作戦の為に御膳立てしてくれたんだ。

だったら全員大団円で決まりだろ。それを邪魔する奴が国だろうが潰すだけだ。

つーわけで、だ。カム、今ならチート以上のアンタッチャブルが味方に付くぜ?どうする?」

そう言ってカムに視線を向ける。が、返ってきた答えは意外なものだった。

 

カム「ははっ、それこそまさかですよ。

ただ、こんな決断が出来たのも、全ては魔王陛下に鍛えられたおかげです。

なので、せめて決意表明だけでもと、そう思っただけですよ。」

カムが笑いながら俺の推測を否定する。どうやら本当に自分達だけでやるつもりのようだ。

 

しかしそうなると、本当に無謀としか言いようがない決断であり、その決断に至った理由が気になるところだ。

シアも、カム達が力をもって調子に乗っているわけでも、復讐心に燃えているわけでもなく本気で言っているのだと察し、表情を悲痛に歪めている。

 

ハジメ「理由は……同胞狩りか?」

カム「左様です。先程も言った通り、我等兎人族は皇帝の興味を引いてしまいました。

それも極めて強い興味を。帝国は実力至上主義を掲げる強欲な者達が集う国で、皇帝も例には漏れません。

そして、弱い者は強い者に従うのが当然であるという価値観が性根に染み付いている。

尋問を受けているとき、皇帝自らやって来て、"飼ってやる"と言われました。

もちろん、その場でツバを吐きかけてやりましたが……。」

ハジメ「ほぅ!よくやったな!流石は族長なだけはある。」

 

ガハルドの顔にツバを吐いたというカムの言葉に、ハウリア達は「流石、族長だぜ!」と盛り上がり、光輝達は「あの皇帝に!?」と驚愕をあらわにし、俺はその行動を称賛した。

無理もないだろう。

歴史上、ガハルドの顔にツバを吐いた者など亜人以外の種族も含めてカムが史上初かもしれんしな。

 

カム「しかし、逆に気に入られてしまいまして。

全ての兎人族を捕らえて調教してみるのも面白そうだなどと、それは強欲そうな顔で笑っていました。

断言しますが、あの顔は本気です。再び樹海に進撃して、今度はより多くの兎人族を襲うでしょう。」

う~ん、言っちゃあなんだが……新しい乙女ゲーのワンシーンみてぇだな。おっさん同士のBLものだけど。

 

カム「また、未だ立て直しきれていないフェアベルゲンでは、次の襲撃には耐え切れない。

そこで、もし帝国から見逃す代わりに兎人族の引渡しでも要求されれば……。」

ハジメ「なるほど。受身に回れば手が回らず、文字通り同族の全てを奪われる……

そのくらいなら、こっちから殺りに行くってことか。」

カム「肯定です。ハウリア族が生き残るだけなら、それほど難しくはない。

しかし、我等のせいで、他の兎人族の未来が奪われるのは……耐え難い。」

どうやら、思っていた以上に、カム達は状況的に追い詰められていたようだ。

 

カムの言う通り、ハウリア達だけが生き残ることは、樹海を利用しての逃亡とゲリラ戦に徹すればそれほど難しくはないだろうが、その代わりに他の兎人族が地獄を見ることになる。

彼等が "強い兎人族"という皇帝の望みに応えられなければ、女、子供は愛玩奴隷にそれ以外は殺処分になるのがオチだからだ。

 

ハジメ「それで?作戦はあるんだろ?」

カム「もちろんです。平原で相対して雄叫び上げながら正面衝突など有り得ません。

我等は兎人族、気配の扱いだけはどんな種族にも負けやしません。」

そう言って、ニヤリと笑うカム。

 

ハジメ「なら策は一つ、暗殺だな。」

カム「肯定です。我等に牙を剥けば、気を抜いた瞬間、闇から刃が翻り首が飛ぶ……

それを実践し奴らに恐怖と危機感を植え付けます。

いつ、どこから襲われるかわからない、兎人族はそれが出来る種族なのだと力を示します。

弱者でも格下でもなく、敵に回すには死を覚悟する必要がある脅威だと認識させさます。」

確かに有効っちゃあ有効か。だが……

 

ハジメ「奴等もただの阿呆でない。暗殺者に対する対策もあるぞ?」

カム「もちろんしているでしょうな。しかし、我等が狙うのは皇帝一族ではなく、彼等の周囲の人間です。

流石に、周囲の人間全てにまで厳重な守りなどないでしょう。

昨日、今日、親しくしていた人間が、一人、また一人と消えていく。

我等に出来るのは、今のところこれくらいですが、十分効果的かと思います。

最終的に、我等に対する不干渉の方針を取らせることが出来れば十全ですな。」

成程、何ともえげつない策だ。だが、皇帝一族を暗殺するなどと言うよりは、よほど現実味がある。

 

ただ、それだと、帝国側に脅威を感じさせるには必然的に時間が掛かってしまうので、大規模な報復行為に出られる可能性が高く、帝国側が兎人族の殲滅に出るか、それとも脅威を感じて交渉のテーブルに付くか、どちらが早いかという紛れもない賭けだ。

それも極めて分の悪い賭け。

それでもやらなければ、どちらにしろ兎人族の未来は暗いのだろう。既に全員、覚悟を決めた表情だ。

 

シア「……父様……みんな……。」

シアは、悄然と肩を落とす。

帝国兵を敵に回し、絶対監獄ともいうべき帝城の地下牢からも逃走を果たした兎人族を、ガハルドは私的興味と公的責務として見逃しはしないだろうと、彼女も察したのだ。

兎人族に残された道は、他の同族を見捨ててハウリア族だけ生き残るか、全員仲良く帝国の玩具になるか、身命を賭して戦うか、そのどれかしかないのだ。

 

カム「シア、そんな顔をするな。

以前のようにただ怯えて逃げて蔑まれて、結局蹂躙されて、それを仕方ないと甘受することの何と無様なことか……

今、こうして戦える、その意志を持てることが、我等はこの上なく嬉しいのだ。」

シア「でも!」

 

カム「シア、我等は生存の権利を勝ち取るために戦う。ただ、生きるためではない。

ハウリアとしての矜持をもって生きるためだ。

どんなに力を持とうとも、ここで引けば、結局、我等は以前と同じ敗者となる。それだけは断じて許容できない。」

シア「父様……。」

カム「前を見るのだ、シア。これ以上、我等を振り返るな。お前は決意したはずだ。

陛下と共に外へ出て前へ進むのだと。その決意のまま、真っ直ぐ進め。」

 

カムが、族長としてでも戦闘集団のリーダーとしてでもなく、一人の父親として娘の背中を押す。

自分達のことでこれ以上立ち止まるなと、共に居たいと望んだ相手と前へ進めと。

泣きそうな表情で顔を俯けてしまうシアに優しげな眼差しを向けたあと、カムは俺に視線を転じて目礼する。

娘を頼みますとでも言うように。

 

ハジメ「……ふざけているのか?カム。」

カム「!?」

が、その言葉を俺は一蹴し、"威圧"を放つ。

別にカム達のやろうとしていることを批判するつもりではない。

 

ハジメ「俺はお前達を無駄死にさせるつもりもなければ、見捨てるつもりもない。

ましてや相手が、あのクソッたれガハルドであれば尚更だ。

勝手に人の領地にずかずかと踏み込んで、好き放題荒らしまくった挙句、俺の大切なシアとリリィまで悲しませようとしている。

これを不遜と言わずして何というのだろうか?」

カム「し、しかし……!」

 

確かに、捕まったのは自分達のミスだ。

自分達のミスでまんまと敵の罠にはまり皇帝の目に止まってしまったことは自業自得と言える事態なのだ。

ここで、俺の力を当てにして解決を委ねるようでは、以前と何も変わらない。

カムが言ったように、この戦いは兎人族が掲げることが出来るようになった矜持を貫くための戦いなのである。

 

勿論、それは俺もシアも理解している。

シア自身、ただ逃げるだけしか出来なかったのは自分も同じであり、今は、俺達の仲間としての矜持がある。

だが、余りに分の悪い賭けを行おうとしている家族に心は否応なく痛んでいる筈だ。

なら、それを何とかするのが、俺の役目だろうが!

 

ハジメ「なぁ、カム。お前等は俺に参戦を申し出ない。そう言ったんだよな?」

カム「?左様ですが、それが?」

ハジメ「なら、俺がガハルドに個人的に嫌がらせをしても、それをお前等が勝手に利用しても、別に文句は言われないよな?」

カム「!?」

どうやら俺の意図に気づいたようだな。

先程まで俯いていたシアも、それを聞いて驚愕の表情でこちらを見る。

 

シア「ハジメさん……。」

ハジメ「俺が一緒に戦うのがダメなだけで、手伝いはそれに含まれないだろ。

今回の件は、ハウリア族が強さを示さなきゃならない。

容易ならざる相手はハウリア族なのだと思わせなきゃならない。

帝国が亜人差別を是とする以上、亜人族がやらねば、また同じことが繰り返されるだけだ。

何より、カム達の意志がある。だから、俺は一切、戦うつもりはない。」

そこで一旦言葉を区切り、シアの頬を撫でるとカムに視線を向ける。

 

ハジメ「だがな、うちの元気印が悲しそうな顔している上に、こっちの力やリリィまで人質にされてんだ。

黙って引き下がると思ったら大間違いだぞ?」

カム「し、しかし、陛下……なら、一体……。」

困惑を深めるカム達に、俺はニヤリと不敵な笑みを浮かべて宣言する。

 

ハジメ「カム、そしてハウリア族。シアを泣かすようなチンケな作戦なんぞ全て絶版だ。

お前達は直接、皇帝の首にその刃を突きつけるのだ。

髪を掴んで引きずり倒し、親族、友人、部下の全てを奴の前で組み伏せろ。

帝城を制圧し、助けなど来ないと、一夜で帝国は終わったのだと知らしめてやれ!

ハウリア族にはそれが出来るのだと骨の髄に刻み込んでやれ!

この世のどこにも、安全な場所などないのだと、ハウリア族を敵に回せば、首刈りの蹂躙劇が始まるのだと、帝国の歴史にその証を立ててやれ!」

辺りに静寂が満ちる。ゴクリッと生唾を飲み込む音がやけに明瞭に響いた。

俺は、周囲を睥睨しながら、スッーと息を吸うと雷でも落ちたのかと錯覚するような怒声を上げた。

 

ハジメ「返事はどうしたぁ!この"ケッボーン!"共!」

ハウリア's「「「「「「「「「ッ!?サッ、Sir,Yes,My load!!」」」」」」」」」

ハジメ「聞こえんぞ!貴様等それでよく戦争などとほざけたな!所詮は"ヨォー!"の集まりか!?」

ハウリア's「「「「「「「「「「Sir,No,Sir!!!」」」」」」」」」」

ハジメ「違うと言うなら、証明しろ!雑魚ではなく、キングをやれ!!」

ハウリア's「「「「「「「「「「ガンホー!ガンホー!ガンホー!」」」」」」」」」」

ハジメ「貴様等の研ぎ澄ました復讐と意地の刃で、邪魔する者の尽くを斬り伏せろ!」

ハウリア's「「「「「「「「「「ビヘッド!ビヘッド!ビヘッド!」」」」」」」」」」

ハジメ「膳立てはするが、主役は貴様等だ!半端は許さん!わかっているな!?」

ハウリア's「「「「「「「「「「Aye,aye,Sir!!!」」」」」」」」」」

ハジメ「宜しい!気合を入れろ!新生ハウリア族、122名で……」

ハウリア's「「「「「「「「「「……」」」」」」」」」」

ハジメ「帝城を落とすぞォ!」

ハウリア's「「「「「「「「「「YAHAAAAAAAAAAAAAA!!!!」」」」」」」」」」

ハジメ「WRYYYYYYYYYYYYYYY!!!!!」

 

今、ハウリア達の心は一つとなって、帝城落としへの闘志で燃え上がっていた。

当然だろう。自分達が陛下と慕う人物が、扉の鍵は開けてくれるというのだ。

ならば、その先で待っている障碍くらい斬り裂けなくては、新生ハウリア族の名折れである。

鍛えてくれた俺にも顔向け出来ない。

そして今、帝都から離れた岩石地帯に、闘志と殺意の雄叫びが響き渡った。

 

鈴「……うぅ~、シズシズ、エリエリ、あの人達こわいよぉ~。」

雫「大丈夫よ、鈴。私も怖いから……ていうかハジメ君の発想とノリも十分怖いけど。」

恵理「気持ちは分かるよ。兄さんって時々行動がぶっ飛んでいることあるから。」

トシ「ハジメ……お前、とうとう野蛮人(バーバリアン)になっちまったのかよ。」

浩介「……俺、ここから運命の人見つけるんだよな。なんか、段々不安になってきた……。」

龍太郎「南雲の奴……へへ、まさかハー○マン先生を取り入れていたとはな、やるじゃねぇか。」

光輝「龍太郎!?なんで、ちょっと親近感持ってるんだ!?どう見ても異常な雰囲気だろ!?」

雫達が、それぞれ唖然とした表情で異様な熱気に包まれるハウリア達の様子を眺めていた。

一名、俺が参考にした対象をリスペクトしていたようで、いい笑顔を浮かべていたが。

 

ティオ「う~む、すごいのぉ~。兎人族がここまで変わるとは。流石、ご主人様じゃ。

あっさり帝国潰しを目的にしよるし。」

ミレディ「ハジメンって、元から扇動者の素質合ったんじゃないかな?

もしミレディさん達の時代にいたら……。」

メイル「間違いなく軍隊一つはできるわね……それも高性能アーティファクトによる暴力の嵐付きの。」

 

香織「ねぇ、ユエ。シアの表情見てよ、蕩けてるよ。」

ユエ「……ん、可愛い。シアが泣かないためだから……嬉しくて当たり前。」

ミュウ「みゅ!シアお姉ちゃん、とっても可愛いの!」

レミア「あらあら、あの時の私もああいった表情をしていたのかしら?」

ユエ達の方は、蕩けた表情で俺を見つめるシアについて語り合っていた。

 

ユエは、最初からこうなると分かっていたのか、シアから暗さが払拭されたのを見て嬉しそうに目元を和らげ、香織の方は安心したような表情をしながらも、シアを羨ましげに眺めていた。

その後、帝城落としの詳細を詰めた俺達は、その時に備えて各々休むことになった。

序でに、アナザーウォッチとタイムジャッカー対策についても、切り札の詰めを行っていた。

 

シアは、しばらくの間、俺の傍を離れたがらなかった。

いつもの元気の良さは鳴りを潜め、しかし、決して暗く沈んでいるわけではなく、頬を薔薇色に染めてしずしずと俺の服の裾を掴んだまま寄り添うのだ。

ウサミミが時折、ちょこちょこと俺に触れては離れてを繰り返す。

その様は、ただただ、傍で俺を感じていたいという気持ちをあらわしているようだった。

 

一夜明けて、東の空が白み始める少し前、岩場のてっぺんに立ちながら、俺は腕を組み、帝都を睨みつけていた。

ハジメ「さぁ、私と貴様のゲームを始めようではないか、なぁ、ガハルド?」

この日、最高最善の魔王の秘策が、帝国の歴史を揺るがすことになろうとは、誰も知る由はなかったのであった。

東の空に上がる朝日と共に、新生ハウリア族の戦いの狼煙が、今、上がった。




ここまで読んでいただき、ありがとうございます。

実を言うと、ハジメさんのアナザーウォッチは全部で3つあります。
一つは既に破壊され、一つは前回より登場、残る後一つは後々登場いたしますので、お楽しみに。
そして遂に、ハジメさん帝国への宣戦布告を決意。全ては、大切な仲間であり愛しき人達の為に
同時にハウリア達も帝国へ戦争を仕掛けることに。全ては、大事な一人娘と同胞たちのために。
雫ちゃんの恋模様は第8章辺りで触れますのでお楽しみに!
さて、とうとう敗北までのカウントダウンを開始してしまった帝国。次回から一体どうなる!?

次回予告

帝国に囚われた亜人族と、望まぬ婚約をさせられたリリアーナを救うため、ハジメ達は帝城へと出向する。
そこで対面したのは、意外な関連のある人物であった。
そして、心配をするリリアーナをよそに、国の長同士としての対談に臨むハジメ。
ガハルドとの化かし合いの結末は、果たして!?

次回「回り始めたDICE!」
目撃せよ、歴史の始まり!

ハジメ「ハイライトだぜ!」


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88.回り始めたDICE!

ハジメ
「神を騙る悪が蔓延る異世界"トータス"にて、最高最善の魔王、南雲ハジメは、アナザーウォッチを盾に、リリアーナの婚約を迫るガハルドの野望を破るべく、宣戦布告を決意する。
一方、生還したハウリア達も、帝国の今後の方針に対抗すべく、帝城で暗殺計画の決行を決意していた。
それを聞いて心配するシアの為に、ハジメはガハルドへの嫌がらせという名目の下、彼等に協力するのであった、
そして現在、クソ長い橋の上で、俺達は待たされているのであった。」
ラウス
「今ここでやることか?あぁ、そう言えば申し遅れていたな。解放者が一人、ラウス・バーンだ。」
ハジメ
「何気に今回が初出演だよね?何だろう、もっとこう……。」
ラウス
「言っておくが、私にはミレディ達の様な変なこだわりはない。」
ハジメ
「……ソウダネ。」
ラウス
「おい、何故私の頭を一瞬見てから言った?」
ハジメ
「あ~、そろそろ番が回ってくるから締めよっか!」
ラウス
「誤魔化したか……まぁいい、第7章第7話」
ハジメ・ラウス
「「それでは、どうぞ!」」


ヘルシャー帝国を象徴する帝城は、帝都の中にありながら周囲を幅20m近くある深い水路と、魔法的な防衛措置が施された堅固な城壁で囲まれている。

水路の中には水生の魔物すら放たれていて城壁の上にも常に見張りが巡回しており、入口は巨大な跳ね橋で通じている正門ただ一つだ。

 

帝城に入れる者も限られており、原則として魔法を併用した入城許可証を提示しなけばならないらしい。

跳ね橋の前にはフランスの凱旋門に酷似した巨大な詰所があり、ここで入城検査をクリアしないと、そもそも跳ね橋を渡ることすら出来ないようだ。

不埒な事を考えて侵入を試みようものなら、魔物がはびこる水路にその場で投げ入れられるとか……

 

詰所での検査も全く容赦がない。

たとえ、正規の手続きを経て入場許可証を持っている出入りの業者などであっても、商品一つ一つに至るまできっちり検査される。

なので、荷物に紛れ込んでの侵入なども、もちろん不可能だ……俺達を除いて。

 

つまり、何が言いたいのかというと、普通は帝城に不法侵入することは至難中の至難であるということだ。

そんな今更な事実を、凱旋門の前で入城検査の順番待ちをしながらかる~く考えていた俺達は、堂々と正面突破するために、再び帝都に来て帝城へとやって来たのだ。

 

ちなみに、光輝達の陽動は外の部隊が担当し、わざわざ帝城内の部隊が出張ることなど有り得ないようで、ほとんど役に立っていなかった。

まぁ、多少、「何があったんだ?」と、動揺くらいはさせたかも、という程度のようだが……。

活躍はまだこの先の大迷宮でもある筈だ、きっと。

 

門番「次ぃ~……見慣れないな。……許可証を出してくれ。」

門番の兵士が私達を見て訝しげな表情になる。

帝城内に入ることの出来る者が限られている以上、門番からすれば大抵は知っている顔だ。

そして、たとえ初めての相手であっても帝城に招かれるような人物は大抵身なりが極めて整っているのが普通である。

 

本来であれば、私もそう言った正装をするつもりだが、今回は面倒になったので敢えていつもの装い(オーマジオウ)でやってきた。

なので、胡乱な目を向けてしまうくらいには目立つ。

が、それも想定内なので、ステータスプレートを提示した。

 

ハジメ「これ。」

門番「は?ステータスプレート?一体……って、王国の魔王陛下ぁ!?」

当然、こちらは誰一人として帝城に入るための許可証など持ってはいない。

許可証を持っていない時点で剣呑な目付きになった門番だったが、渡されたステータスプレートに表示された"ハイリヒ王国国王・最高最善の魔王"の文字に目を瞬かせ、何度もこちらの顔とステータスプレートを交互に見る。

その門番の様子に、周囲の同僚達が何事かと注目し始めた。

 

ハジメ「急ですまんな。こちらにいるリリアーナ姫と一緒に来たのだが、道中で野暮用があってな。

別行動をとらせてもらっていた。故に早く通すがよい。」

門番「は、はぁ……。」

門番の呟きに、同僚達が我々の正体を知ってにわかにざわつき始めた。

その表情は、当然のことながら、「なぜ、リリアーナ姫と別に来たのか?」「なぜ、事前連絡がないのか?」など疑問に溢れていた。

 

しかし、相手は同盟予定国の現国王であり、詮索は不要だと勝手に納得して、取り敢えず、上に取り次いでくれるようだ。

流石に、相手国の国王と言えど、入城者の予定表にない者を下っ端門番の一存で通すような勇気はないのか、待たせる失礼に戦々恐々としながら数人の門番が猛ダッシュで帝城の方へ消えていった。

 

私達は詰所にある待合室のような場所に通される。その時間、実に15分……遅いわ!

他国の官僚をもてなす迎賓館位立てておけ!

そんな苛つきを抱えていると、跳ね橋からドタドタと足音が聞こえ始めた。

 

???「こちらに魔王陛下御一行が来ていると聞いたが……貴方達が?」

ハジメ「そうだが?それにしては随分と待たせたものだな?

帝国では、国賓をもてなすために、わざわざせまっ苦しい場所に閉じ込めるのが、主流なのか?」

そう言って姿を見せたのは、一際大柄な帝国兵で、周囲の兵士の態度からそれなりの地位にいることが窺える。

が、遠慮なく私は挑発じみたジョークを返した。すると、その帝国兵の顔が一瞬強く歪んだ。

どうにか取り繕ってはいるようだが……苛立っているのがバレバレだぞ?

 

すると奴は、不敬にもこちらを無遠慮にジロジロと見ては、他のメンバーにも探るような視線を向け始めた。

その過程で、死角の位置にいたシアに気がつくと驚いたように大きく目を見開く。

そして、何が面白いのかニヤニヤと嫌らしい笑みを浮かべ始めた。

いきなり向けられた嫌な視線に、シアが僅かに身じろぐ。

全く、無礼極まりないな……ガハルド、貴様は部下の教育も出来んのか?

 

帝国兵「確認しました。自分は、第三連隊隊長のグリッド・ハーフ。

既に、魔王陛下御一行が来られたことはリリアーナ姫の耳にも入っており、お部屋でお待ちです。

部下に案内させましょう。……ところで、魔王陛下、その兎人族は?それは奴隷の首輪ではないでしょう?」

ハジメ「私の連れだが?何か文句でもあるのか?

さっきからじろじろ舐めまわすように見たかと思えば……何だ?その態度は?」

そう言って"威圧"を放つと、向こうもこの前の事件が身に染みているのか、たじろいだようだ。

 

ハジメ「それとも何か?シアが気になっているのは……貴様の部下とやらが返ってこない事か?」

グリッド「なっ!?」

その言葉に、グリッドは驚いていた。当然だろうな、何故それを知っているとでも言いたそうな顔だ。

実を言うと、結構どうでもよかったことだったので、頭の片隅(の端っこ、いわば角っこの埃レベル)にしか記憶していなかったが……ここでつながったとはな。

 

その言葉に、シアも直ぐに察したようで驚愕に目を見開いていた。

シアにとって直接関わりのあった帝国兵など限られている。

それは、当然、樹海から出たばかりの頃の自分達ハウリア族を散々追い詰めた連中だ。

大勢の家族を殺し、拉致し、奴隷に落とし、そして、シア達を【ライセン大峡谷】へと追いやった敵。

 

そして不敬にも、私に歯向かってきた愚か者共だ。もう既に、イナバの腹の中だがな。

一応帝国に関する情報も欲しかったので、記憶を読み取っておいたが、どうやら此奴は、かつて樹海から出てきたばかりのシア達を襲った部隊の隊長だったようだ。

 

シアの脳裏に、嬲るように襲い掛かってくる帝国兵達の表情と、家族が一人また一人と欠けていくというあの時の絶望感がフラッシュバックしたのか、無意識に呻き声を上げ表情を強ばらせながら、一歩、後退りしようとしていたので、その頬をちょいちょいと摘んであげた。

温かな感触を感じたのか、シアもハッとなり、苦笑いする。

そしてユエとミュウが両方の手を握る。そのおかげか、気がだいぶ楽になったようだ。

シアは、苦笑いしながら視線で「もう大丈夫」だと伝える。

いくらトラウマとも言うべき出来事だろうと、今のシアにとっては、既に過去の遺物。

大迷宮の化け物共すら打ち砕く力と気概を持った強者となった彼女に、たかだが帝国の雑魚程度敵う訳ねーだろバーカ。

それを確認した私は、ギュリット?とやらに言い放った。

 

ハジメ「あぁ、すまないな。どうでもよいことだったのですっかり忘れていたが……そうか。

あの無礼者共は君の部隊だったか、いやはや、道理で礼儀作法がなっていないと思ったよ。

本当にすまないなぁ、遺体さえあればなんとかなったのだが、既に魔物に食われているかもしれないな。」

グリッド「……こ、この糞餓鬼が……!随分と調子に乗ったこと言うじゃねぇか。」

ハジメ「ほぅ!ではそのクソガキとやらが国王になる前に、無礼を働いた君の部下は、さしずめ無能か。

それなら帰ってこないのも無理はないかもしれんな。大方、何人か逸れて迷ったのかもしれないしな。」

 

三下が剣呑に目を細めながら何かをほざいているが、それを挑発で倍返しにする。

その態度に青筋を浮かべて怒りに表情を歪めつつも、目の前にいるのは相手国の王族。

迂闊に反撃も出来ないだろう。が、そんな事情はどうでもいいのでさっさと終わらせることにした。

 

ハジメ「さて、そろそろ貴様のくだらない茶番にも飽きたな。黙って通してもらおうか。

散々待たされた故、娘が既に舟を漕ぎ始めているではないか。

こうして時間を作ってやっただけでも、感謝してもらいたいものだなぁ?なぁ、哀れな門番君?」

その言葉に三下の顔が真っ赤に染まる。怒りの余り、眼も血走り始めた。

 

それでも、連隊長として自制を利かせることは出来るようで、まさか他国の王族御一行に切り掛るわけにはいかないと、黙って背後の控えさせていた部下に視線で案内を促す。

が、血走った目で私を睨んでくるのが鬱陶しいので、強めの"威圧"で黙らせた。

そして、何事もなかったように詰所を後にし、青ざめた表情の案内役に従って巨大な吊り橋を渡っていった。

 


 

リリアーナ「それで?陛下達は何故こちらに?」

ハジメ「何、ちょっとした悪戯でもしようかと思ってな。」

帝城の一室に案内された俺達を待ち構えていたリリィからの第一声がそれだった。

まぁ、この前の一件で腹を立ててしまっている筈の俺が、仲間達を引き連れて態々帝城入りしたと聞いたら、そりゃあ驚くよな。

 

そして、矛先を向けられた俺はと言うと、シアを膝に座らせてウサミミを優しくモフモフしていた。

シアとは反対側の膝に座るユエは正面から両手でシアのほっぺをムニっている。

ミュウもレミアに抱っこされながら、シアのウサミミを優しくモフモフしている。

ふぅ、少しはこれで大丈夫そうかな?

 

ハジメ「何故シアをモフっているのかはまぁ、道中で不遜な輩にあってね。

今のシアは、ちょっと不安定なんだ。」

リリアーナ「不安定……ですか。それは……。」

リリィも察しがいいのか、その理由について心当たりがあったようだ。なのでその辺を搔い摘んで話した。

正直、あの三下の話なんぞしたくもなかったし、時間の無駄でもあったが、リリィへの説明の為にも話すことにした。

話を聞いて、リリィから心配するような視線を受けたシアは、先程からされていたモフモフとムニムニに表情を緩め始め、俯かせていた顔を上げると「大丈夫」というように笑顔を見せた。

 

シアの情緒が少し不安定なのは、溢れ出す殺意を抑えているからだ。

無理もないだろう。あの三下はシアの家族を大勢奪った憎き相手だ。

今のシアにとっては過去のトラウマなぞそよ風にも等しい。

そんなシアに残っているのは、強烈な殺意だけだ。

が、ここに来た目的を考えると、早々に殺してしまうわけにはいかなかった。

だから、必死に我慢していたのだ。

そして、それを察した俺達は、シアを甘やかすことで宥めていたのである。

 

因みに、光輝達にも道中で話しておいたが、皆一様に悲痛そうな表情になり、特に光輝は当然の如く憤り、今話を聞いたリリィは暗い表情で俯いてしまった。

まぁ、リリィとしては、亜人族の奴隷化はこの世界の常識であり容認して来たことなので、自分が憤るのは余りに筋違いだと思ったのだろう。

 

教会と神、そしてこの世界の真実を知った今、王国では彼等に対する偏見は急速に薄れている。

"亜人とは神に見放された種族"――

その神を名乗る三流詐欺師こそが、真の人類の敵であるのに、同じ人族を差別してしまっていたことに、一種の罪悪感を抱いてしまった者も少なくはなかった。

 

とはいえ、差別してきた過去が清算されるわけではない。だがそれでも、未来に針を進めることはできる。

現に、自分に何かを言う資格はないと判断したリリィにも、「大丈夫ですよぉ~」とシアはいつもの笑顔を振りまいているのだから。

そんなシアを眩しげに見つめながら、リリィは俺に話の続きを促した。

 

リリアーナ「それで、なぜこちらに来たのですか?

もうそろそろ、ガハルド陛下から謁見の呼び出しがかかるはずです。

口裏を合わせる為にも無理を言って先に会う時間を作ってもらったのですから、最低限のことは教えてもらいたいのですが……。」

ハジメ「まぁ、そう慌てないでよ。夜になれば全部わかる。

俺達のことは……リリィの婚約祝いとでも言ってくれればいいさ。

それならガハルドだって何も口出しはできんだろう。」

リリアーナ「そ、そんな適当な……夜になればわかるって、まさか、また仮面でも着けて暴れる気ですか?

わかっているのですよ!雫達に恥ずかしい格好をさせたのはハジメさんだって!」

ハジメ「あれはゲリラ戦法だから上手くいっただけで、二回目は流石にないよ。

それに、これ以上雫に黒歴史量産させるわけにもいかないし。」

 

そう言って、「恥ずかしい格好……」と呟きながら自らの黒歴史にどんよりする雫を見る。

うぅむ……流石に無理をさせ過ぎたか。まぁ、取り敢えず雫のケアもミュウにお願いしておいて……

問題はこの後、ガハルドとの対面だな。リリィも必要なら口裏合わせも協力もしてくれるそうだが……

14で国の舵取りをしている以上、重圧は相当だろう。これ以上、リリィには苦労はかけられない。

 

思えば、リリィは最初から俺達を"神の使徒"ではなく、この世界の事情に巻き込んでしまったと、出来る最大限で心を砕いてくれていた。

それだけでも、戸惑いの中にいた居残り組の皆も息が詰まらなくなっただろう。

そういうわけで、こちらの用事は自分達で何とかするから、とリリィを説得した。

 

それに現在、オーマジオウ状態で分身達を使い、帝城のトラップ全てを片っ端から半分解除の状態にして言っているので、もう既に一つは片付きかけてはいるのだ。

後はアナザーウォッチの強奪、既に秘密兵器は出動済みだ。

そして、リリィから、ある程度、帝国側との協議内容について聞いたところで部屋の扉がノックされた。

どうやら時間切れらしい。案内役に従って、俺達はガハルドが待つ応接室に向かうことになった。

 

そして道中にて、念のための保険をかけておくことにした。

第一皇子とやらが、強硬手段に及ばんとも限らん。そのための隠密機能も備え付けてある。

それに、万が一には奥の手も残してあるのでな。さて、化かし合いに赴くとするか。

 


 

通された部屋は、30人くらいは座れる縦長のテーブルが置かれた、ほとんど装飾のない簡素な部屋だった。

そのテーブルの上座の位置に、頬杖をついて不敵な笑みを浮かべるガハルドがいた。

その背後には二人、見るからに"できる"とわかる研ぎ澄まされた空気を纏った男達が控えている。

 

そして、部屋の中に姿は見えないが、壁の裏に更に2人、天井裏に4人、そして閉まった扉の外に音もなく2人か……ガハルドの背後に控える男二人程ではないが相当の手練のようだが……気配遮断がなってないな。

ウチの部下でさえ、この程度2秒で見抜けるぞ?

たとえ包囲された状態だろうと、この程度なら容易に反撃は可能だ。

 

ガハルド「この度は態々ご足労頂き、誠にありがたい。南雲殿?」

ハジメ「気色の悪い言い方は止めろ。この前も言ったであろう、普通にしろ、と。」

ガハルド「くくっ、それもそうだな。」

そう言いながら、互いに対峙する。互いに眼は笑ってはいない。俺は仮面被っているので見えないが。

 

そしてガハルドは当然のように、雫に目を向けニヤリと楽しげな笑みを浮かべた。

ガハルド「雫、そろそろ俺の妻になる決心は付いたか?」

ハジメ「体面上とはいえ人の部下をナンパするな、戯け。」

そんなガハルドに嘆息しながら、雫は澄まし顔をして答える。

 

雫「再三申し上げておりますが、陛下の申し出はお断りさせて頂きます。

私にも、帰るべき場所があるので。」

ガハルド「相変わらずつれないな。だが、そうでなくてはな。」

雫「抑々……皇后様はよろしいのですか?」

ガハルド「それがどうした?側室では不満か?ふむ、正妻にするとなると色々面倒が……。」

雫「そういう意味ではありません!皇后様がいるのに他の女に手を出すとか……。」

ガハルド「何を言っている?俺は皇帝だぞ?側室の10や20、いて当たり前だろう。」

ハジメ「……それ以前の問題だと何故気付かん。」

ガハルド「あ?」

ハジメ「うん?」

 

正直、長ったらしい口説きトークになりそうだったのが面倒だったので、勢い良くぶった切ったら、何故かガハルドに睨まれた。

俺、何かしちゃったっけ?大体、嫌がっている相手を何度口説いても無駄無駄無駄ァってわからないのかな?

そんなことを考えていると、何故か雫が俺を盾にするように後ろに隠れた。何でさ。

光輝には、雫がどっちを選ぶかは雫に決めてもらうって言っておいたが……これ、揉めないよね?

 

一応、聖剣の女神様が具現化できるよう、シモンおじいちゃんを通じて建てた新興協会で奉って、クズ野郎から奪った信仰心を使ってはいるけど……全くその素振りが見えない。

ただ、光輝曰く「時々黒髪の女性が夢に出てきて、抱きしめられたことがある」らしい……。

おめでとう、光輝。お前、女神様に好かれてんだよ。天職勇者で良かったな、一緒に墓場に潜ろうぜ!

 

ガハルド「……まぁ、神による帰還が叶わない以上、まだまだこの世界にいるのだろうし、時間をかけて口説かせてもらうとしようか。

クク、覚悟しろよ、雫。」

と、俺が考え事をしていると、ガハルドがまた何かほざきだした。

なので、この際気になったことを聞くことにした。

 

ハジメ「なぁ、ガハルド。この部屋の周りにいる者達にも出てきてもらえないか?

先程から視線が鬱陶しいので、不審者として焼き払ってしまおうかと思っているのだが……良いか?」

ガハルド「言い分けねぇだろ!?クソッ、何となく気づかれてはいると思ったが、無茶苦茶すぎるだろうが!

おい、お前ら!このままだとコイツに焼き殺されかねんぞ!早く出て来い!」

ガハルドの号令で、部屋の周りに潜んでいた奴の部下が、ガハルドの周りに整列した。

正直、3数える間に出てこなかったら、(ドタマ)ぶち抜いていたわ。

 

ガハルド「そういえば、南雲ハジメ。お前には聞きたいことが山ほどあるが……。」

ハジメ「雫は抱いてないが?貴様の聞きたいことはこれくらいで十分だろう?」

ガハルド「いや、そっちも重要だが……なら、雫のことはどう思っている?」

ハジメ「貴様にこたえる義理もないな。他にはないのか?」

ガハルド「チッ、相変わらず愛想のねぇガキだ。」

ハジメ「そのガキにボコボコにされた貴様が言うか。」

ガハルド「あ?」

ハジメ「お?」

雫「はいはい、二人とも抑えてください!ハジメ君、貴方も無暗に挑発しないで!」

……チッ、雫が抑えていなかったら、漢女送りにしてやったのに……まぁ、いいか。

 

ガハルド「ハァ……まぁ、いい。雫、うっかり惚れたりするなよ?お前は俺のものなのだからな。」

雫「だから、陛下のものではありませんし、ハジメ君に惚れるとかありませんから!

いい加減、この話題から離れて下さい!」

ガハルド「わかった、わかった。そうムキになるな。過剰な否定は肯定と取られるぞ?」

雫「ぬっぐぅ……。」

 

ハジメ『なぁ、光輝。こいつ、王都に来た時もこんな感じだったのか?

自意識過剰系俺様キャラは、あんまり好かれないのに……これでよく20人も落とせたなって思わない?』

光輝『いや、俺に聞かれても……じゃあハジメは何人落とすつもりなんだ?』

ハジメ『人数以前に、これ以上増やすつもりはねぇよ。

お前こそ、無自覚の内に何人か落としているんじゃないのか?』

光輝『ハジメにだけは言われたくない。』

雫『どっちもどっちでしょうが、このお馬鹿。』

念話でコントじみた会話をしていると、今度はガハルドがこっちに意識を向けた。

 

ガハルド「南雲ハジメ。お前も、雫に手を出すなよ?」

ハジメ「私は相手の気持ちを尊重するだけだ。そこに貴様の事情など知らん。無駄話はもうよいか?」

ガハルド「無駄話とは心外だな。新たな側室……あるいは皇后が誕生するかもしれない話だぞ?

帝国の未来に関わるというのに……まぁ、話したかったのは確かに雫のことではない。

わかっているだろう?お前の異常性についてだ。」

?何を言っているんだこ奴は?

 

ハジメ「今更過ぎるとは思わんかね?私は代理とはいえ、既に王位についている。

その恩恵を受けられる以上、そこに詮索は不要だろう?」

ガハルド「お前が大迷宮攻略者で、その大迷宮創造者と共に、そこで得た力を使って旅をしていた、ということについても、か?」

成程……狙いはミレディ達の知識について、か。

 

ハジメ「それで貴様に何か不利なことでも?

私はこの通り、仲間達と共に試練を乗り越え、こうして攻略を認められて、力を授かった。」

ミレディ「ミレディさんは迷宮ごと壊されちゃったけどね!」

ハジメ「ミレディ、そのことについては本当に申し訳なかったと思っている。

だから……そろそろ許してくれないか?」

というか、カッコよく決めていたところに、過去のネタ弄りはやめてほしい。

 

ガハルド「なら、そのアーティファクトを帝国に供与する意思はない、というのは真か?」

ハジメ「さぁな?その時の状況にもよる。まぁ、関係強化の際には何かしら記念に贈ってはやるさ。」

ガハルド「ほぅ!それは楽しみだ!」

どの口が言ってやがる。そんなに楽しみなら、ロマンたっぷりにしてやるよ!

こいつに贈るアーティファクトには絶対自爆機能をつけてやる、そう思った俺であった。

 

ガハルド「それにしても、お前が侍らしている女達もとんでもないな。おい、どこで見つけてきた?

こんな女共がいるとわかってりゃあ、俺が直接口説きに行ったってぇのに……

一人ぐらい寄越せよ、南雲ハジメ。」

ハジメ「殺すぞ?」

ガハルド「オイ!?冗談だっての!だからマジの殺気放つの止めろ!」

だったら言うな、この阿保。

 

ガハルド「ハァ…ったく、面倒この上ねぇ。

ところで、ハウリアの使っていたアーティファクトに、一体何をした?」

と、先程まで覇気を纏いつつもどこかふざけた雰囲気を含ませていたガハルドが、抜き身の刃のような鋭さを放ち、最大の疑問に切り込んできた。

が、それに動じることもなく、あっさり答えてやった。

 

ハジメ「血液認証だが?貴様等がいくら弄ろうとも使えんようになっているのでな。残念だったな?」

ガハルド「……そうかい。まぁ、そっちはいずれものにしてみせるさ。」

ガハルドがガリガリと頭を掻きながら悪態をつく。

しかし、その表情にはやはり何処か楽しげな表情が浮かんでいる。

自分に抗う相手というのが実に好みらしい。……少し変態っぽいと思ってしまったのは秘密だ。

そこで時間が来たのか、背後に控えていた男の一人が、そっとガハルドに耳打ちすると、ガハルドは一頷きし、おもむろに席を立った。

 

ガハルド「まぁ、最低限、聞きたいことは聞けた……というより分かったからよしとしよう。

ああ、そうだ。今夜、リリアーナ姫の歓迎パーティーを開く。是非、出席してくれ。

姫と息子の婚約パーティーも兼ねているからな。」

ハジメ「元よりそのつもりだ。遠慮なく楽しませてもらおうか、なぁ、ガハルド殿?」

互いに不敵な笑みを浮かべる。それは正に「勝つのは自分だ」という王者の絶対的自信であった。

 

と、その時、ドゴンッと轟音が響き、応接室の扉が吹き飛んだ。そして、

???「おーーほっほっほっほっほ!わたくし参上ですわ!

あの身を討ち震わせるような覇気を持つ御方はこちらにいらっしゃるのですね!?」

金髪縦ロールのゴージャス系美女が飛び込んできた。

どうやら、ただの会談では終わらなさそうだ。




ここまで読んでいただき、ありがとうございます。

ガリット君には漢女ルートも考えてはいたんですが……
ここはシアがフィニッシュ決めた方がいいと思ったので譲りました。
そして知らない間に話が進んで困惑するリリィ……おいたわしや、姫様。
とはいえ、原作よりは優しい対応なので、胃痛はマシになっている……筈。

ガハルドとの対談は通常運転です。だって今更なんだもの。
途中、松平のとっつぁんが出てきたのはご愛敬。だって魔王ですから。
さて、今回最後に出てきたのは、一体どこの戦闘狂皇女なんでしょうかねぇ?将来の夢はメイドさんかな?
それでは、次回もお楽しみに!

次回予告

ハウリア達の手助けと私的な嫌がらせの為、帝城に乗り込んだハジメ達。
その途中、ガハルドとの対談を終えた直後、突如乱入してきた人物によって、更なる波乱が巻き起こる!
そして、婚約準備を進めるリリアーナに、帝国の毒牙が襲い掛かろうとしていた。
果たして、彼女の運命は!?そして、ハジメの策とは!?

次回、「Rの思い/皇女の乱入」
目撃せよ、歴史の始まり!

ハジメ「フルスロットルで、行くぜ!」


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89.Rの思い/皇女の乱入

ハジメ
「神を騙る悪が蔓延る異世界"トータス"にて、最高最善の魔王、南雲ハジメは、自らの道を阻むガハルドをぶちのめすため、仲間達と共に帝城へと乗り込んだ。
道中、不敬極まった門番のせいで無駄な時間を取らされ、シアが不安定になるというアクシデントもあったが、そこは魔王らしくゴリ押しで突き破った。
そして、ガハルドとの対談を終えたその時、謎の人物が乱入してきたのであった。」

「ねぇ、ハジメ君。今回ってたしかリリィが……。」
ハジメ
「どうした?中身おっさんな鈴はこういうの大好きでしょ?」

「それはどういうことかな?一度、南雲くんとは私に対する認識について話し合う必要があるかな?」
ハジメ
「それはいいな。
以前から香織に余計な知識を植え付けたことについて、こちらもO☆HA☆NA☆SHIしたかったんだよねぇ。」

「…鈴は過去を振り返らない方がイインジャナイカナーとオモイハジメマシタ。」
ハジメ
「切り替わり早いなオイ。まぁ、そろそろ襲撃開始も近いし、切り上げようか。」

「う、うん……。それじゃあ、第7章第8話」
ハジメ・鈴
「「それでは、どうぞ!」」


突如、応接室に乱入してきた、いろんな意味で異様な人物。

え~と、金髪縦ロール系お嬢様、高笑い、語尾が"ですわ"系、吊り目のゴージャス系……

属性てんこ盛りだなオイ。そして何故か、ガハルドや近衛騎士らしき者達は頭が痛そうだ。

ああ、来ちゃったか……みたいな顔しているし。

 

リリアーナ「あ、あの、トレイシー皇女殿下。いきなり何を――」

ハジメ「?リリィ、知っているのか?」

リリアーナ「え、えぇ。

ガハルド皇帝陛下のご息女で、第一皇女のトレイシー・D・ヘルシャー皇女殿下です。」

……俺は一度ガハルドとトレイシーを交互に見てこう言った。

 

ハジメ「血は争えない、という訳か。」

ガハルド「どういう意味だ、こら。」

そのままの意味に決まってるだろ、という言外の声にガハルドはふんっと不機嫌そうに鼻を鳴らした。

その皇女殿下は、声をかけてきたリリアーナをチラッと一瞥すると、

 

トレイシー「まぁ、貴女もいたのね、腹黒姫。」

リリアーナ「誰が腹黒ですか!」

トレイシー「いつも、へらへらへらへらと笑って、腹の中では利益奪取の算段ばかり立てている貴女のことでしてよ。

以前から言ってますでしょう?わたくし、貴女が嫌いなのですわ!」

いや、それ面と向かって相手に言うことか普通?

 

リリアーナ「ト、トレイシー様も相変わらずストレートですね……。」

トレイシー「お兄様と結ばれて皇太子妃になったなら、率先して根性を叩き直してやろうと思っていますわ!覚悟しておきなさい!この国ではただ腹黒いだけでは生き延びていけなくってよ!」

トレイシーのストレートな物言いに、幼少期から式典やパーティーなどで面識のあるらしいリリィは、相変わらずだと馴れた様子で苦笑いを浮かべている。

 

しかし、「お兄様」か……恐らくはこいつの兄がリリィの婚約者だろう。

どのような人物か探す手間が省けるな。それだけでも、この皇女の登場には感謝する。

しかし、何だろうか……この、面倒くさいツンデレ感あるような雰囲気は。

後に、それについてガハルドに聞いてみたところ……

 

ガハルド「元々執着心が強くてな、リリアーナ姫にも執心していたそうだ。」

リリアーナ「え!?ちょっと待ってください、陛下。

あの時、面と向かって嫌いだと言われたんですが!?」

ガハルド「昔から口ではそう言ってたが、あいつ、姫のことめちゃくちゃ好きだぞ?」

リリアーナ「それなんてツンデレ!?

昔から会う度に腹黒とか笑顔が気持ち悪いとか散々言われてきましたけど!」

ガハルド「いや、嘘じゃない。

まだ小さい姫が、計算と笑顔を武器に大人と渡り合う姿を見てな、どうやらいたく感心したらしい。

あいつは、基本的に他人には無関心なんだ。気に入った相手じゃないと、いちいち絡んだりしない。」

とのこと。

 

まぁ、それはさておき、何故そんな彼女がここにやってきたのかが気になる。

と思っていると、件のトレイシーは何故か俺の方を向き……

 

その場に跪いた。

 

ハジメ「!?」

リリアーナ「ト、トレイシー皇女殿下!?」

ガハルド「……。」

その場にいた全員、ガハルド以外は驚愕に満ちていた。無理もないだろう。

現に俺も驚きを隠しきれないでいる。すると、トレイシーは口を開いた。

 

トレイシー「お待ちしておりました、我が魔王。」

ハジメ「……はい?」

思わず素の口調に戻ってしまうほどの衝撃であった。この子は今、何と言った?

我が魔王……?俺は思わずガハルドに「どういうこと!?」と視線を送る。

すると、ガハルドは不機嫌そうに、その訳を語った。

 

ガハルド「この前、お前が放った殺気が帝城を包んだだろ。

それに見せられた此奴は、ずっとお前を捜しまわっていたんだよ。」

ハジメ「あの時かぁ~……いや、それはそれでおかしいだろ!?」

まさかの俺自身の行動が原因と聞き、思わず頭を抱えたくなった。

いや、何故そこで第一皇女がこっち側に来るんだよ!?思わず、スパイ説を疑う程に衝撃的だった。

 

そして、事情を知らない面子がどういうことかと聞いてきたので、リリィが当時の出来事について説明した。

すると、全員が納得といった表情で俺を見た。何でさ!?

 

トレイシー「この度は是非、貴方様にお会いしたく馳せ参じました。どうぞ、よしなに。」

ハジメ「は、はぁ……理由はよく分からんが……目的はなんだ?」

流石に動揺していたとはいえ、そこで気を緩めるつもりはない。

このトレイシー、本当の目的はなんだ?ガハルドの娘だ、きっと腹に何か黒いものでも抱えているに違いない。

 

トレイシー「勿論、貴方様にお仕えさせていただくことですわ!殺気だけであの圧ですもの!

私、誰かに仕えられるのは飽きるほどしてまいりましたが、我が魔王にならばその逆がふさわしいと思いましてよ!

あぁ、今にもこの体が、この御方と死合って愛を確かめろと叫びたがっておりますわァ!!!」

うわぁ……よりにもよって戦闘マニアかよ。てかそもそも、俺に何のメリットもないんだが?

 

ハジメ「……ならば、メリットを示せ。言っておくが、自分を好きにできる等とほざくなよ?

私は、お前の父親のように、女なら誰彼構わず喰らいつく様な盛りの獣ではない。」

ガハルド「どういう意味だ!?てか、さりげなくディスってんじゃねぇよ!

女誑しなら、テメェの方が上手だろうが!」

ハジメ「心外だ、私は正直に自分の気持ちを伝えられて、地獄だろうと共に行く気概を見せる女性にしか手は出さん。

美人なら誰でも口説いて屈服させようとする貴様にだけは言われたくはない。」

ガハルド「その気もないのに自然に美人口説き落としているテメェにだけは言われたくねぇ!」

何だ、皆。その「五十歩百歩でしょ……。」と言いたげな目は。

 

トレイシー「メリットですか……では、こちらはいかがでしょうか?」

そう言って彼女が、ティオやレミアにも負けない豊満な胸の谷間から取り出したのは……

トレイシー「こちらの……不思議なアーティファクトでは不満でしょうか?」

……ガハルドが以前、これ見よがしに見せつけてきたアナザーウォッチだった。

 

ガハルド「うおぉい!?何でそれをお前が持っているんだよ!?」

トレイシー「陛下の部屋に突g…しのb…入って拾いましたわ!」

ガハルド「嘘つけ!あそこには見張りもいたし、鍵もかけてあったんだぞ!?」

トレイシー「軒並みなぎ倒(スマッシュ)してきましたわ!あの程度の守りでは、私の忠誠心は砕けませんわ!」

オイオイ、こいつはとんだじゃじゃ馬娘じゃねぇか……。

まさか、自分の父親だろうと平気で売り飛ばすとはなぁ……強かだねぇ。まぁ、気持ちは伝わった。が、

 

ハジメ「トレイシー皇女、お前の心意気は確かに伝わった。だが、それは真に本物か?」

トレイシー「勿論!陛下が大事そうにしまっていたものですわ!本物に間違いありません!」

ハジメ「それはどうかな?

ガハルド、私が貴様であるなら、そんな重要品、迂闊に盗まれるような場所にはおかないだろう。

あれがカモフラージュ用の偽物なら、本物は肌身離さず持っているのが常だ。そうであろう?」

ガハルド「チイッ、相変わらず勘のいい野郎だ。こうなること自体前から予想はしていたしな。」

 

そう、これが本物とは限らない。半分だけ力を宿した贋作(デッドコピー)の可能性もあった。

アナザーウォッチは、本来真偽は見抜けないのが当たり前だが、オーマジオウ状態の私にはわかる。

もしこれが偽物だった場合、本物も後から作動させれば本物だと信じ込ませることが出来る。

かといって、これが本物だった場合、起動すればすぐに包囲されかねん。

どちらにしろ面倒事にはなっていただろうな。

 

ガハルド「てか、トレイシー!何でお前がそれを持っているんだよ!?」

トレイシー「それ?"エグゼス"のでしょうか?」

ミレディ「え!?エグゼスってあのエグゼス!?バッドが使っていた"魔喰大鎌(まぐいたいれん)エグゼス"!?」

おや、どうやらミレディはあの鎌を知っているようだ。

というか、あんな禍々しいオーラを纏う大鎌、どこから取り出したのやら……スカートの中だったりして。

 

ハジメ「ほぅ……ガハルド。そのアーティファクトはいつ、どこで、誰が見つけた?

知らないのであれば、勝手に調べるが。」

ガハルド「あぁ?あれは、初代皇帝がウルの湖底で発見したんだよ。」

ウルの湖底だと?そういえば、"水妖精"の宿のオーナーから聞いたことがあるな。

古来から精霊のような"尊き何か"が宿っているという言い伝えがあり、宿の名も、その伝承からつけたらしい。

 

ハジメ「成程、初代皇帝は、余程の野心家だったと見受けられる。

傭兵団の身でありながら国を興しただけはあるな。そして、そんな伝承すら求めたわけか。

新たな力のために。」

ガハルド「おう。何が力になるか分からねぇからな。

何せ、腹の底では教会にすら支配欲を向けていたって話だ。」

ハジメ「カカッ、信仰心の薄さは血筋か。」

肩を竦めるガハルド。情報からして、ミレディ達解放者の後の時代に発掘されたという訳か。

 

ミレディ「そのエグゼスね……前の使い手――

バッドが"次の使い手が見つからなかったら、湖の底に沈めてくれ"って言っていたんだ。」

ハジメ「!そうか……偉大な戦士であったのだな。そのバッドという者は。」

ミレディ「うん……

生涯独身でリア充に殺意向けていたけど、解放者の副リーダーだった、凄い奴だったよ。」

ハジメ「……前半の説明のせいで、後半の説明が薄れているのだが。」

さっきまでの悲しそうな雰囲気が台無しだよ……ミレディ、狙ってやったな?いつか化けて出られるぞ?

 

ガハルド「話を戻していいか?

その湖底には小さな教会っぽい廃墟があるらしくてな、そこに石版と一緒にあれが安置されていたんだと。」

ハジメ「ほぅ、ではその石板には大方、神への反逆について書かれていたのではないか?」

ガハルド「鋭いな、その通りだ。石板にはこう書かれていた。

"――魔喰大鎌エグゼス。神に仇なす者へ捧ぐ。"とな。」

神に仇なす者、か……確かに我々に相応しいかもしれんが……それには致命的な弱点もあるな。

 

ハジメ「トレイシー嬢、それは一度触れれば、離れていても強制的に魔力を喰われる代物だ。

高速魔力回復でもない限り、お前では難しいぞ?」

ガハルド「ハッ、流石は最高位の錬成師。見ただけで分かるか。

因みにだが、建国以来、エグゼスの"使い手"と呼べるレベルで使いこなせたのは初代以外にはトレイシーしかいねぇ。」

 

成程、大鎌という武器自体、著しく扱いが難しいというのもあるが、それ以上に、要求される魔力量が、使用していない時でも尋常ではない。

それこそ、ユエ達クラスの魔力を保有しているか、死ぬまで戦い、魔力()を喰らい続けるか、の2択しかあるまい。

ある意味呪いの武器だな……意外にも、バッドのリア充爆発の呪いもあったりしてな。

トレイシーが平気なのは、使い手が女性だから、というのもあるのかもしれん。

 

ハジメ「まぁ、いずれにしろどちらも簡単には受け取れんが……そうだな。

エグゼスは私も改良してみたいのでな。メンテナンスがてら触らせてもらいたい。それではどうかね?」

トレイシー「まぁ!改良していただけるので?」

ハジメ「そうだな……砲撃や大剣に変形したり、可変して携行性が増したり、鎌の範囲内の敵を察知したり、伸縮自在の鎖鎌にしたり、高熱を発して敵を瞬時に焼き尽くしたり……

変成魔法習得できたら、阿修羅スタイルもありか。斬り口が薔薇の花びらみたいに散る機能もいいな。」

すると血筋なのか、ガハルドもトレイシーと一緒に身を乗り出してきた。

 

トレイシー「なんですの!なんですのっ、その素敵なオプション!スタイリッシュ!」

ガハルド「ホントだなオイ!阿修羅スタイルとか絶対カッコいい奴だろ!おい、南雲ハジメ!

トレイシーやるから、その阿修羅何とかのアーティファクト、よこせ!」

ハジメ「何故貴様にまで作ってやらねばならんのだ。抑々変成魔法は未収得だ、だからそれはできん。」

ホント、どうしてここだけは似ているのか。

もしトレイシー嬢が既に皇位を継いでいたら、求婚されかねなかったな……あぶねぇ。

 

ハジメ「まぁ、他にも破格のアーティファクトはあるが……

どうやらお前の父親に命を握られたも同然の様なのでな。このままでは夜も心配で手が付けられない。

果てさて、どうしたものかなぁ?」

ガハルド「オイオイ、そこで俺に責任転嫁かよ。それとトレイシー、それをこっちに向けるのを止めろ。」

トレイシー「いえ、この子ったら魔力を求めているようで……お父様、一回喰われてみません?」

ガハルド「食われてたまるかッ!そんなことしたら、コイツの飛空艇に乗れねぇだろ!」

乗る前提かい。乗せるとすら言ってないのに、勝手に決めやがって……まぁいい。

そんなに搭乗がお望みなら、遠慮なく載せてやろう……敗戦の証として、な。

 

ハジメ「まぁ、それについては今夜のパーティーの後で、詳しく語り合おう(面接しよう)ではないか。」

トレイシー「仰せのままに。」

リリアーナ「ハジメさん!?今何かとんでもないルビがあったのは気のせいですか!?」

ガハルド「おいっ、南雲ハジメ!勝手に人様の人材を引き抜くんじゃねぇよ!」

そんな二人のツッコミを無視して、私は皆を連れて応接室を後にした。さぁて、噓つきの時間の始まりだ!

 


 

ハジメ達が出ていき、雫達と二、三話をしたあと、リリアーナはパーティーの準備の続きをするため部屋に戻り、ヘリーナを筆頭に、帝国側の侍女達を交えてドレスの選別などに精を出す。

 

「まぁ、素敵ですわ、リリアーナ様!」

「本当に……まるで花の妖精のようです」

「きっと、殿下もお喜びになりますわ!」

既に何十着と試着を済ませた果てに選ばれたドレス候補の一つを試着して、姿見の前でくるりと回るリリアーナに、周囲の帝国侍女達がうっとりと頬を染めてお世辞抜きの賛辞を送る。

14歳という少女と女の狭間にある絶妙な魅力が、淡い桃色のドレスと相まって最大限に引き立てられていた。

侍女の一人が言ったように、まさに花の精と表現すべき可憐さだった。

 

ヘリーナ「ふっ、当然でしょう。」

リリアーナ「ヘリーナ、どうして貴女が胸を張っているのですか。」

何故かドヤ顔のヘリーナに小さく笑ってから、リリアーナ自身も納得したようで、一つ頷く。

いくらこれが政略結婚であり、皇太子であるバイアス・D・ヘルシャーが父親に似た極度の女好きで、過去何度か会った時も、まだ10にも届かない年齢のリリアーナを舐めるような嫌らしい視線で見やり、そのくせ実力は半端なく、王国に来た時も下級騎士を"稽古"と称して(いたずら)に嬲るという強さをひけらかす嫌な人間であったとしても、夫になる相手であることに変わりはない。

 

なので、パートナーとして恥をかかせるわけにはいかないし、自分の婚約パーティーでもある以上、リリアーナも最大限に着飾ろうと思っていた。

――ハジメへの思いを押し殺してでも、全ては国の為と割り切るように。

それでも尚、ハジメとの思い出が脳裏をよぎる。それはこの結婚に対する消しきれない不安のせいか。

 

リリアーナとて女の子だ。

ハイリヒ王国の才女と言われ多くの人々から親しまれようと、女の子らしい憧れくらいある。

ピンチの時に、颯爽と現れる王子様を夢見たこともあるし、偶然の出会いに惹かれあって、多くの障害を乗り越えながら結ばれるというラブストーリーを妄想したことだってある。

 

今回だって、きっとハジメが何とかしてくれる、そう思っていた。だが、それは有り得ない未来だ。

リリアーナは聡明であったが故に、幼い頃から自分に課せられた使命とも言うべき在り方を受け入れていた。

だから、心の底では嫌悪感を抱く相手であっても、立派な妻になろうという気持ちは本当であり、今夜のパーティーも立派に皇太子妃として務め上げようと決意していた。

 

と、その時、突然、部屋の外が騒がしくなった。

そして何事かと身構えるリリアーナ達の前でノックもなしに扉が開け放たれ、大柄な男が何の躊躇いも遠慮もなくズカズカと部屋の中に入ってきた。

リリアーナに付いてきた近衛騎士達が焦った表情で制止するが、その男は意に介していないようだ。

 

???「ほぉ、今夜のドレスか……まぁまぁだな。」

リリアーナ「……バイアス様。いきなり淑女の部屋に押し入るというのは感心致しませんわ。」

バイアス「あぁ?俺は、お前の夫だぞ?何、口答えしてんだ?」

リリアーナ「……。」

注意をしたリリアーナに、鬱陶しそうな表情と粗野で横暴な言葉で返したのはリリアーナの婚約相手であるバイアス・D・ヘルシャーその人である。

 

外見は父親であるガハルドに似ている。年齢は26歳。相も変わらず度の過ぎた横暴ぶりだ。

数年前と変わらない、粗野で横暴な雰囲気を纏い、上から下までリリアーナを舐めるように見る。

リリアーナの背筋に悪寒が走った。

これなら10人中10人が目の前の男よりも、誰にでも優しく接するハジメの方を選ぶだろう。

リリアーナだってそうしたいくらいだった。

 

バイアス「おい、お前ら全員出ていけ。」

バイアスは、突然、ニヤーと口元を歪めると侍女や近衛騎士達にそう命令する。

戸惑う彼女達に恫喝するように再度命令すれば、侍女達は慌てて部屋を出ていった。

しかし、近衛騎士達は当然渋り、ヘリーナなど露骨に不審と憤りを瞳に浮かべている。

それを見てバイアスの目が剣呑に細められたことに気がついたリリアーナは、何をするかわからないと慌てて近衛騎士達を下がらせた。

 

ヘリーナ「何かありましたら、必ず大声をお上げください。

ロード(陛下)も直ぐに駆け付ける事でしょう。」

去り際にヘリーナが小さな声で耳打ちする。リリアーナも小さく頷いた。

最後まで心配そうにしながら全員が部屋を出て扉が閉まる。

 

バイアス「ふん、飼い犬の躾くらい、しっかりやっておけ。」

リリアーナ「……飼い犬ではありません。大切な臣下ですわ。」

バイアス「……相変わらず反抗的だな?

クク、まだ10にも届かないガキの分際で、いっちょ前に俺を睨んだだけのことはある。

あの時からな、いつか俺のものにしてやろうと思っていたんだ。」

そういうと、バイアスは、顔を強ばらせつつも真っ直ぐに自分を見るリリアーナに心底楽しげで嫌らしい笑みを浮かべると、いきなり彼女の胸を鷲掴みにした。

 

リリアーナ「っ!?いやぁ!痛っ!」

バイアス「それなりに育ってんな。まだまだ足りねぇが、それなりに美味そうだ。」

リリアーナ「や、やめっ!」

乱暴にされてリリアーナの表情が苦痛に歪む。

その表情を見て、ますます興奮したように嗤うバイアスは、そのままリリアーナを床に押し倒した。

リリアーナが悲鳴を上げるが、外の近衛騎士達は気が付いていないようだ。

 

バイアス「いくらでも泣き叫んでいいぞ?

この部屋は特殊な仕掛けがしてあるから、外には一切、音が漏れない。

まぁ、仮に飼い犬共が入ってきても、皇太子である俺に何が出来るわけでもないからな。

何なら、処女を散らすところ、奴等に見てもらうか?くっ、はははっ!」

リリアーナ「どうして……こんな……。」

リリアーナが、これからされる事に顔を青ざめさせながらも、気丈にバイアスを睨む。

 

バイアス「その眼だ。反抗的なその眼を、苦痛に、絶望に、快楽に染め上げてやりたいのさ。

俺はな、自分に盾突く奴を嬲って屈服させるのが何より好きなんだ。

必死に足掻いていた奴等が、結局何もできなかったと頭を垂れて跪く姿を見ること以上に気持ちのいいことなどない。

この快感を一度でも味わえば、もう病みつきだ。リリアーナ。

初めて会ったとき、品定めする俺を気丈に睨み返してきた時から、いつか滅茶苦茶にしてやりたいと思っていたんだ。」

そう語るバイアスの表情には、言葉通りの醜さが滲み出ていた。

 

リリアーナ「あなたという人はっ……!」

バイアス「なぁ、リリアーナ。

結婚どころか、婚約パーティーの前に純潔を散らしたお前は、どんな顔でパーティーに出るんだ?

股の痛みに耐えながら、どんな表情で奴等の前に立つんだ?あぁ、楽しみで仕方がねぇよ。

例の婚約者だった、魔王とか言う餓鬼にも見せてやりたいなぁ?」

 

たとえ、嫌悪感さえ抱く相手だとしても、妻として支え諌めていけば、いつかきっと立派な皇帝になってくれる、いや、自分がそうしてみせると決意したリリアーナの心に早くも亀裂が入る。

リリアーナは悟ったのだ。

目の前の、今にもこぼれ落ちそうな涙を必死に堪えるリリアーナを見てニヤニヤしている男は、ある意味、正しく"帝国皇太子"なのだと。

 

バイアスに恥をかかすまいと選んだドレスが、彼の手により引きちぎられる。

シミ一つない玉の肌が晒され、リリアーナは羞恥で顔を真っ赤にした。

両手を頭の上で押さえつけられ、足の間にも膝を入れられて隠すことも出来ない。

 

バイアスは、ニヤついたまま、キスをするつもりなのか、ゆっくりと顔をリリアーナに近づけていった。

まるで、リリアーナの恐怖心でも煽るかのように目は見開かれたままだ。

片手で顎を掴まれているので顔を逸らすことも出来ないリリアーナは、恐怖と羞恥で遂にホロリと流れた自身の涙にすら気づかずに、ふと思った。

 

望んだ通りの結婚なんて有り得ないと覚悟はしていたけれど、こんなのはあんまりだと。

本当は、好きな人に身も心も捧げて幸せになりたかったと。

それは、王女という鎧で覆った心から僅かに漏れ出た唯の女の子としての気持ち。

だからこそ、リリアーナは心の中で叫んだ

 

――助けて、ハジメさん……!

 

と。

すると、その時。

 

ギュリリィィィ!!!

バイアス「!?うがぁっ!?」

突如、リリアーナの着替えの中から、高速で何かが飛び出したかと思えば、激しい音を上げてバイアスの股間へと体当たりを喰らわせた。

当然、バイアスはリリアーナにキスすることすら出来ずに、股間を抑えて倒れこもうとする。

 

ギュリギュリィィィ!!!

バイアス「ぐぶぉっ!?」

が、それすら許さんと言わんばかりに、いつの間にか高速移動したその何かは、バイアスの顎をかちあげ、後方へとぶっ飛ばした。

そうして、バイアスの上を通り過ぎる途中、その何かが何本かの針を撃ち出し、その首元へと突き刺した。

 

バイアス「いつっ!なんだ?今、くびにぃ……なんら?世界が、まわぁってぇーー。」

リリアーナが、呆然とその光景を見ていると、バイアスは、突然、目を瞬かせながら呂律が回らない様子になり、直後、そのままガクッと意識を失い、その場に倒れ込んだ。

 

リリアーナ「えっ?えっ?」

混乱するリリアーナの前に、その何かは姿を現した。その姿に、リリアーナは見覚えがあった。

それは、ハジメがガハルドとの会談のため、応接室に向かう途中のことであった。

 

ハジメ「そう言えば、リリィ。これ、お守り代わりに肌身離さず持っておいて。

何か、嫌な予感がするから。」

そう言って渡されたのは、ミニカーのようなものだった。

勿論、これもハジメオリジナルのアーティファクトである。

 

ミニカー型小型端末"シフトカー"。

リリアーナの持っているシフトカーは、ハジメが護衛用にタイヤカキマゼールで作成したもので、"ファンキースパイク・マッドドクター・ランブルダンプ・ディメンションキャブ・ミッドナイトシャドー・バーニングソーラー・スパーナF03"といった7つのシフトカーの性能を搭載した、云わばリリアーナ専用護衛マシンである。

因みに名前は、"ラムレイ666"。嵐すら切り裂く王の刃として、リリアーナを守護する、らしい。

 

そして、その性能は正に折り紙付き。

流石に使徒レベルとまではいかないが、アーティファクト武装の帝国兵であろうと難なくぶっ飛ばせる位の実力はある。

また、分身やゲート、眼眩ましに加えて、特殊な効果を持った針を飛ばせるといった、護衛に特化したシフトカーであることが見て取れる。

 

現に、バイアスに打ち込んだのは、"睡眠針・勃起不全針・治癒針・麻痺針"の4つであり、殺害にまでは至っていない。

それにリリアーナは嫌がっていたのに、バイアスは構わず襲い掛かっていたのだ。

なので、正当防衛である。そう押し通せる位の状況に出来てしまう程の優秀さだ。

 

そのラムレイ666は、「皇子(笑)、マジざまぁ!」とでも言うかのようにタイヤ音を上げると、そのままリリアーナの着替えの中へと戻っていった。

リリアーナは、ハッと我を取り戻すとバイアスから距離をとった。

そして、破れたドレスの前を寄せて肌を隠しながら女の子をしたまま、ラムレイの通った場所を見つめた。

 

すると、視線に気づいたラムレイは、赤と黄金の発光を上げた。

それはまるで、製作者の意思を反映しているかのようなサインでもあった。

リリアーナは、ようやく事態を把握して、微笑みを零しながらポツリと呟く。

 

リリアーナ「ありがとう……ハジメさん。」

リリアーナがバイアスの婚約者である以上、今、助けられたところで、それはその場凌ぎでしかないと分かっている。

だが、それでも、今この時、救いを求める呟きに応えてくれたことが、どうしようもなく嬉しかった。

胸元で破れた服を抑えてギュッと握られたリリアーナの両手は、あるいは、他の何かを握り締めているかのようだった。

 


 

応接室を出てお付のメイドに部屋へ案内された私達は、邪魔なメイド達を追い返し、ソファーに座り込んでいた。

そして現在、先程まで腕を組んでいた私がその姿勢を崩したのに気がついたユエが、声をかけた。

 

ユエ「……どう?ハジメ。」

ハジメ「……あぁ、罠の方はもう十分だ。リリィの方もトラブルはあったが……何とか無事だ。

さて、これで後は攻め入るのみか。ククク、楽しくなってきたなぁ。」

そう言って私は、無邪気で悪戯好きな子供のような笑みを浮かべた。

しかし、やはりトレイシー以外は野蛮で無礼極まりないな。

ここらでいっそのこと、恐怖政治でも行ってみるか?そんな物騒なことを思う私であった。

 

ハジメ「さて、気持ちを切り替えるとするか。皆、トレイシーから聞いたと思うけど……

全員真っ赤なドレスだね。何か、印でもつけておこうか?厄介貴族除け用に。」

香織「それいいかも!ハジメ君の女、って感じがしていいし!」

レミア「あらあら、大胆ですね。あ・な・た♡」

吞気かと思うが、実際既に打てるだけの手は打ったしなぁ……。後は時間を待てばいいだけだし。

 

ティオ「ふむ、今夜がパーティーというのは幸いじゃの。人が固まれば、色々動きやすいのじゃ。」

シア「最終的にはパーティー会場に集まることになりそうですね。……上手くいくでしょうか?」

シアが、少し不安そうな表情になる。

何せ、これから自分の家族の未来が決まる一世一代の大勝負が始まるのだ。

緊張しない方がおかしいだろう。

 

ミュウ「大丈夫なの!だって、シアお姉ちゃんの家族で、パパの部下なの!」

そんなシアを励ますように、ミュウが笑顔で答える。

それに同意するかのように、シアのウサミミを私がモフり、ユエが頬をムニり、ティオが髪をナデナデして、香織が手をギュッと握る。

 

微笑む仲間に、シアは込み上げるものを感じているようだった。しかし、涙は流さない。

たとえ、それが嬉し涙でも、まだまだ流すのは早いからだ。

代わりに、いつものようにニッコリと輝く笑みを浮かべた。自分は一人ではない。家族もいる。

恵まれすぎなくらいだと、その思いを隠さずあらわにした笑顔。それでこそ、私達が好むシアの魅力だ。

 

浩介『こちら、アビス。作戦予定配置についた。いつでもオーケーだ。どうぞ。』

ハジメ『!漸くか。ガハルドが本物を取り出したのは確かか?』

浩介『あぁ、序でに偽物もダミーにすり替えてきた。後は本物をどさくさに紛れて奪うだけだ。』

ハジメ『Good!流石は我が友!引き続き頼むぞ、この作戦の鍵はお前にかかっている。』

浩介『フッ、任されよ!我が雄姿、ラナインフェリナ殿にも届けてみせよう!』

ハジメ『……青春してんな~。まぁいい、ここで最大の戦果を挙げてみせろ、深淵卿(浩介)!』

浩介『Yes,My Load!浩介・E・アビスゲート、推して参る!』

 

さて、こちらもやっと手札が揃った。ガハルド、貴様は幾つ手札にカードを持っている?

私は既に債を投げた。もう誰も、このゲームからは降りられないぞ?

そうして、全ての準備とシアの笑顔を確認した私は、仲間達に力強く告げた。

 

ハジメ「さぁ、帝国ゲームを始めようか。手始めにまず、主役達のために舞台を整えるとするか。」

その言葉に、皆同じような笑みを浮かべて力強く頷いた。

それを確認し、私は皆を連れて運命のステージ、帝国主催パーティーの会場へと向かった。




ここまで読んでいただき、ありがとうございます。

戦闘狂皇女トレイシーさん、まさかの魔王に仕えます宣言。
まぁ、本作のハジメさんは面倒事諸共吹き飛ばすつもりで威圧を発動しているので、そりゃあ強さの格は段違いでしょう。
エグゼスの初代持ち主については、零書籍版を既読の方ならきっとわかる筈。
彼がどれだけ、婚活に真剣に向き合っていたのかが。

因みに、エグゼスの改良案につきましては、原作宜しく某武器マニアの薔薇娘に加え、恋愛クソザコ分隊長、閃光の友、おっぱい魔人エクソシスト、自称十刃最強、etc……ですかね?
そしてて、リリアーナ姫、未遂で終わったものの怖い思いをしてしまいましたね……。
その護衛を今回買って出たのは、オリジナルシフトカー"ラムレイ666"!
正直もうちょい機能を乗せたかったのですが、あんまり強化し過ぎると今後の製作アーティファクトにプレッシャーがかかるので断念しました。

さて、次回からとうとうハウリア達が大暴れいたします!いざ、首狩りだぁ!
その裏で、秘密の通信をとるハジメと浩介くん。アビスゲートはここからが本領じゃあー!
次回もお楽しみに!

次回予告

帝都の象徴"帝城"にて開かれる、リリアーナと第一皇子の婚約の饗宴。
煌びやかな舞台で、ハジメ達は他を圧倒する程の光景を見せつける。
その裏で、次々と刈られていく帝国兵。蠢くは、大量のウサミミ達。
掲げられる杯を合図に、ハウリア達の反撃が幕を開ける!

次回「謀略と殺戮のパーティー」
目撃せよ、歴史の始まり!

ハジメ「ショータイムで行くぜ!」


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90.謀略と殺戮のパーティー

ハジメ
「神を騙る悪が蔓延る異世界"トータス"にて、最高最善の魔王、南雲ハジメは、自らの道を阻むガハルドをぶちのめすため、仲間達と共に帝城へと乗り込んだ。
そこへ第一皇女トレイシーが乱入、ハジメへの忠誠を誓った。
一方、婚約準備を進めていたリリアーナは、傍若無人な第一皇子に襲われかけるも、それを警戒していたハジメのアーティファクトで、何とか事なきを得たのであった。
そして日が落ちた今、ハウリア達の逆襲の狼煙が上がったのであった!」
リリアーナ
「あの時は本当に命の危機を感じました……ハジメさんがいてくれなかったらどうなっていたことやら。」
ハジメ
「考えたくもないよそんなこと。第一、とっくにくたばった性犯罪者を今更思い浮かべてもねぇ……。」
リリアーナ
「よ、容赦がないんですね……でもまぁ、ハジメさんが助けに来てくれたのは本当に心強かったです。
ありがとうございます。」
ハジメ
「これくらい、未来の王妃の為なら当然のことさ。
それに、リリィにはやっぱり笑顔が似合っているから。」
リリアーナ
「ふふっ、そう言うことにしておきます♪それでは、第7章第9話」
ハジメ・リリアーナ
「「それでは、どうぞ!」」


日がすっかり落ち、辺りが暗闇で覆われた帝城の一角。

地下牢がある建物の外周を2人の帝国兵が、警備のため決められたルートを巡回していた。

その手には魔法的な火が燃え盛る松明のようなものが持たれており、不埒な侵入者の味方をする夜闇を懸命に払っている。

 

帝国兵A「はぁ、今頃、お偉方はパーティーか……美味いもん食ってんだろうなぁ……。」

帝国兵B「おい、無駄口叩くなよ。バレたら連帯責任なんだぞ。」

1人の兵士が遠くに見える明かりを眺めながら溜息混じりに愚痴をこぼした。

相方の兵士が顔をしかめながら注意するが、その表情の原因は言葉通りのものではないようだ。

どちらかといえば、"暑い時に暑いと言うと余計に暑い気がするから言うな"と言ううんざり気味の雰囲気が漂っている。

内心では、同じく愚痴を吐いていたらしい。

 

帝国兵A「だけどさ、お前も早く出世して、ああいうのに出たいと思うだろ?」

帝国兵B「……そりゃあな。あそこに出られるくらいなら、金も女もまず困らねぇしな……。」

帝国兵A「だよなぁ~。パーティーで散々飲み食いした後は、お嬢様方と朝までしっぽりだろ?天国じゃん。

あ~、こんなとこで意味のねぇ巡回なんかしてないで女抱きてぇ~。兎人族の女がいいなぁ~。」

帝国兵B「お前、兎人族の女、好きだなぁ。

亜人族の女は皆いい体してっけど、お前、娼館行っても兎人族ばっかだもんな。」

帝国兵A「そりゃあ、あいつらが1番いたぶりがいあるからな。いい声で泣くんだよ。」

帝国兵B「趣味わりぃな……。」

帝国兵A「何言ってんだよ。兎人族って、ほら、イジメてくださいオーラが出てるだろ?

俺はそれを叶えてやってんの。お前だって、何人も使い潰してんだろ。」

帝国兵B「しょうがねぇだろ?いい声で泣くんだから。」

2人の巡回兵は、顔を見合わせると何が面白いのか下品な笑い声を上げた。

 

帝国において、亜人は所詮道具と変わらない。ストレスや性欲を発散するための、いくらでも替えの利く道具なのだ。

故に、この2人が特別、嗜虐的な性格なのではなく、亜人を辱め弄ぶのは帝国兵全体に蔓延している常識と言ってよかった。

と、その時、片割れの兵士が建物の影に何かを見たのか警戒したような表情になって声を上げた。

 

帝国兵B「ん?……おい、今、何か……」

帝国兵A「あ?どうした?」

歩み寄りながら松明を前に突き出し、建物の影を照らしだそうとする兵士。

疑問の声を上げながらもう1人も追随する。

 

先行していた兵士は「誰かいるのか?」と誰何(すいか)しながら、ちょうど人一人がギリギリ通れる程度の建物と建物の隙間にバッ!と松明の火を向けた。

しかし、その先に人影はなく「見間違いだったか……」と呟きながら安堵の吐息を漏らす。

そうして、苦笑いしながら相棒を振り返った兵士だったが……

 

帝国兵B「悪い、見間違い……?おい、マウル?どこだ?マウル?」

そこに相棒の姿はなく、足元に彼が持っていたはずの松明だけが残されていた。

どこに行ったんだと、キョロキョロと辺りを見渡す兵士だったが、周囲に人影はない。

彼の背筋に冷たいものが流れる。

湧き上がる恐怖心を押し殺して、兵士は、咄嗟に落ちている松明を拾いながら、相棒に少し緊張感の宿った呼び声をかけようとして……

 

帝国兵B「おい、マウル。悪ふざけならッんぐっ!?」

その瞬間、誰もいなかったはずの建物の隙間からスッと2本の腕が音もなく伸びた。

闇の中から直接生えてきたかのような腕の1本には光を吸収する艶消しの黒色ナイフが握られており、片手が兵士の口もと塞ぐと同時に、1瞬で延髄に深く突き立てられる。

 

一瞬、ビクンと痙攣したあとグッタリと力を抜いた兵士は、そのまま2本の腕に引きずられて闇の中へと消えていった。

そして、いつの間にか、彼が拾おうとしていた松明も消え去り、後には何も残らず、ただ生温い夜風だけがゆるゆると吹き抜ける。

闇の中、風に紛れそうなほど小さな囁き声がする。

 

???「司令部(HQ)、こちらアルファ。Cポイント制圧完了。」

???『アルファ、こちら司令部(HQ)。了解。E2ポイントへ向かえ。歩哨4人。東より回りこめ。』

???「司令部(HQ)、こちらアルファ。了解。」

そんな囁きのあと、全身黒ずくめの衣装に身を包んだ複数の人影が足音1つ立てず移動を開始する。

 

顔面まで黒い布できっちり隠しているが、目の部分だけは視界確保のために空いており、そこから鋭い眼光が覗いている。

背中には小太刀が2本括りつけられている。

日本人がその姿を見たのなら間違いなく「あっ、忍者!」と言いそうな格好だ。

 

だが、個人の特定は出来なくとも、残念なことにその正体までは全く忍べていなかった。

なぜなら、覆面の頭上からはニョッキリとウサミミが生えていたからだ。

どこからどう見ても兎人族であり、ハウリア族であった。

 

彼等は、闇に紛れて建物の影に身を潜める。

そこからそっと顔を覗かせれば、報告通り4人の歩哨が2組に分かれて互いに目視できる位置に佇んでいた。

先程通信していたハウリア族の1人が背後に控える3人にハンドシグナルを送る。

それに頷いた3人はスッと後ろに下がると、まるで溶け込むように夜の闇へと姿を消した。

 

待つこと数秒。指示した場所から、歩哨の視線が逸れた隙にチカッ!と光が瞬く。

同じく、歩哨の視界に入らないように考慮して、ハウリアの1人がライターサイズの容器の蓋を一瞬だけ開けた。

これは、中に緑光石が仕込まれた簡易の懐中電灯のようなものだ。

合図を送ったハウリアは背後の2人を振り返るとハンドシグナルで指示を出しながら動き出した。

 

2組の歩哨が互いの姿を視界の外に置いた瞬間、気配を極限まで薄くして一気に接近し、1人が兵士の口と鼻を片手で覆いながら延髄を一突き。

帝国兵「――ッ!?」

もう1人も同じく、片手で拘束しながら別の兵士の腎臓を突き刺し組み倒す。

最後の1人は、歩哨が手放した松明を落ちる前にキャッチして火を消し、その他の痕跡が残っていないか確認する。

そして、一気に建物の影に引きずっていった。

 

しかし、流石に無音とはいかずもう1組の歩哨が「ん?」と視線を向けた。

その視線の先に先程までいた仲間の姿はない。松明の光もなく暗闇が存在するだけだ。

「あいつらどこに行ったんだ?」と、訝しみながら目を凝らす歩哨は、闇の中で微かに動く人影を捉えた。

何か大きなものを引き摺る姿だ。ぞわりっと危機感が背筋を駆け抜ける。

「何かヤバイ!」と、歩哨は、咄嗟に首元に下げた警笛を吹き鳴らそうと手を伸ばすが……

 

次の瞬間、その歩哨の首にナイフが突き立てられた。

歩哨は悲鳴を上げることも苦痛を感じる暇もなく、その意識を永遠の闇に沈めることになった。

警笛を握った歩哨の隣では、やはり相方の歩哨も同じようにナイフを突き立てられて絶命している。

同時に、松明の火が消されて建物の影に引き摺られていった。

 

現在、帝城の至るところで同じような殺戮が行われていた。

既に、複数の詰所に控えていた多くの兵士達が胴体と永遠のお別れを済ました後であり、兵舎で就寝中の兵士達は樹海製の眠り薬によって普段とは比べ物にならないほど深い眠りにつかされていた。

警報が鳴ったとしても、朝までぐっすり眠り、普段の疲れを存分に癒すことだろう。

 

今宵の空に浮かぶのは繊月。

別名"2日月"と呼ばれる新月の翌日に昇る見えるか見えないかくらいの極細の月だ。

それはまるで、悪魔が浮かべた笑みのよう。

実力至上主義を掲げた者達が最弱と罵った相手に蹂躙されるという、この月下の喜劇を嘲笑っているかのようだった。

 


 

司令部(HQ)、こちらアルファ。H4ポイント制圧完了。』

司令部(HQ)、こちらブラボー。全Jポイント制圧完了。』

司令部(HQ)、こちらチャーリー。全兵舎への睡眠薬散布完了。』

司令部(HQ)、こちらエコー。皇子、皇太孫並びに皇女2名確保。』

 

帝国内のパーティー会場は、流石はと言うべき絢爛豪華さだった。

立食形式のパーティーで、純白のテーブルクロスが敷かれたテーブルの上には何百種類もの趣向を凝らした料理やスイーツが並べられている。

装飾や調度品も中々のものだ……それも幾つ台無しになることやら。

 

そんな煌びやかなパーティー会場で、俺はオーマジオウのまま、話しかけてくる帝国貴族をやり過ごしつつ、次々と入ってくるハウリア達の報告を聞いていた。

参加している者は全員、帝国のお偉方だ。

ただ、煌びやかな衣装に身を包んでいても文官と武官ではその雰囲気からして丸分かりであり、実力至上主義という国柄からか偉ぶった武官と、どこか遠慮がちな文官達という構図が浮き彫りになっていて武官の方が立場は上のようだと実感できた。

 

そんな武官達から、俺達は今積極的に声を掛けられている。

何せ、全員が大迷宮攻略者で神代魔法の使い手だ。

俺とユエに至っては、【オルクス大迷宮】の完全制覇を成したこともあり、"強さ"が基準の彼等からすれば何とも興味をそそる存在なのだろう。

勿論、あわよくば個人的な繋がりを持ちたいという下心もたっぷりあるようだが……。

 

尤も、別の意味の不埒者もいるようだ。

なので、そう言った輩にはご退場願うという意味での"威圧"を喰らわせる。奴等の目的は言わずもがな。

パーティーが始まってから片時も俺達の傍を離れない美貌の女性陣にも強い興味があるようだった。

俺達に話しかけながらもチラチラと背後に控えるユエ達に視線が向いているのでバレバレである。

 

まぁ、それも無理のないことだろう。

リリィの歓迎と婚約祝いを兼ねたパーティーにおいて、ユエ達の存在は、花を添えるどころの騒ぎではなく、むしろ自分達こそこの会場の主役だと言わんばかりの存在感を放っていた。

 

シア「ほぇ~~。世の中には、こんな場所があるんですねぇ。樹海では考えられません。」

会場の豪華さにぽか~んとしっぱなしのシアは、ワインレッド色のミニスカートドレス姿だ。

そのスラリと長く引き締まった美脚を惜しげもなく晒している。

 

しかし、決して下品さはなく、ふんわりと広がったスカートと、珍しく楚々としたシアの雰囲気が彼女の可愛らしさをこれでもかと引き立てていた。

普段は真っ直ぐ下ろしている美しい髪を根元で纏めて前に垂らしている姿も、彼女に上品さと可愛らしさを与えている要因だろう。

 

ミュウ「みゅ!とってもキラキラなの!」

レミア「あらあら、ミュウったら。初めてのパーティーにはしゃいじゃって…。」

メイル「フフッ、ミュウちゃんもこういうところに来るのは初めてなんだし、良いんじゃないかしら?」

初めてのパーティーに興奮しているミュウは、シアと同じくミニスカート丈のドレスで、リボンやフリルがあしらわれていて全体的にふんわり可愛いデザインであり、活発で明るい女の子といった印象を与える。

 

そしてそんなミュウを微笑ましそうに見るレミアとメイルは、マーメイドラインのドレスだ。

スタイルの良さが浮き彫りになっているせいか、丈はロングだが薄いレース状なので奥のむっちりした美脚が見えており、ほんわかした雰囲気とはギャップのある色気が滲み出ている。

4人とも並ぶと、2組の姉妹みたいだ。

 

ティオ「料理も酒も一流じゃのぅ。今のうちに堪能しておかねばもったいない。」

ミレディ「もう、ティオ姉ったら!料理もお酒も逃げないから、しっかり味わおうよ!」

その横で、上品にワインを傾けるティオは、普段の黒い和装モドキと同じような黒いロングドレス姿だ。

しかし、体のラインが出るようなタイプのドレスなので、凹凸の激しいボディラインが丸分かりであり、更に、背中と胸元が大きく開けているので、彼女の見事としか言いようのない美しい双丘が今にもこぼれ落ちそうなほどあらわになっている。

 

会場の男性陣の視線が、動く度にいちいちプルンッ!と震える凶器に吸い寄せられ、パートナーの女性に嫌味を言われる姿が続出していた。

とはいえ、ベルトや装飾で締められた全体からは"できる大人の女"というイメージを想起させる。

美しいというより格好いいと表現したくなるようなドレスだ。

 

それに賛同するミレディは、以前カジノに行った際にお披露目した衣装に似ているものを着た、らしい。

いつもの、軽薄な雰囲気はどこに行ったのか、スッと背筋の伸びた美しい姿勢だ。

両手は普段のように振り回されることもなく、上品に体の前に軽く添えられている。

足音が鳴ることもなく、しずしずと歩く姿は気品に満ちている。

流石は元帝国令嬢、マナーは叩き込まれているという訳か。

 

トレードマークにもなっているポニーテールは下ろされ、豊かで細やかな金糸の髪がふわふわと舞う光景は幻想的ですらある。

ドレスはシンプルでありながら、裾のフリルや腰の後ろにあるワンポイントのリボンが何とも可愛らしい。

耳には真珠の様な真白の宝石が付いたイヤリング。首元には瞳と同じ蒼穹の宝石が付いたネックレス。

どちらも小さなものだが、それが逆に彼女の輝かんばかりの魅力を引き立てていた、と、オスカーがコメントしていた。

 

まぁ、確かにいつもと違って長いまつげを震わせながら少し目を伏せ、優美な淡い微笑みを浮かべているその姿は、帝国淑女をぶっちぎりで超えるお姫様レベルだ。

ベルさんの教育の賜物、らしい。成程、流石は初代解放者リーダー。

ファッションセンスは段違い、という訳か。

 

香織「うぅ。私達、すっごく注目されてないかな?」

恵理「無理もないかも。張り切っておめかししたのが仇になっちゃったかな?」

雫「レミアさんのファッションセンスが良いのもあるわね。あの人、楽しそうだったし。」

恥ずかしそうに頬を染める香織は、肩口が完全に露出したタイプのスレンダーラインのドレスを着ている。

ティオほどの激しいボディラインではないが、そのバランスはまさに神の造形。

チャイナドレスのように深いスリットが入った裾からふとした拍子にチラリと覗く美脚や、アップに纏められた銀髪の輝き、色気を感じさせる項は思わず視線を攫われてしまう。

 

その意見に苦笑している恵理は、アシンメトリーのデザインにフリルが施されたロングドレスを着ており、レミアのファッションセンスの良さに、感嘆する雫はワンピースの上に一枚羽織った少し落ち着きのあるデザインだ。

 

ユエ「……ん。」

そして、ユエは肩周りと正面のスカート部分が大きく露出しつつも小悪魔的な可愛らしさのあるドレスを纏っていた。

光沢のある生地で、肩口が露出しており、裾はフリルが何段も重ねられ大きく広がっている。

髪はポニーテールにしていて上品な白い花を模した髪飾りで纏められていた。

露出は1番少ないが、白く艶かしい首筋や、やけに目を引く赤いルージュの引かれた唇、そして僅かに潤んで熱を孕んだ瞳がどうしようもなく男の劣情を誘った。

いつもの、外見の幼さと纏う妖艶な雰囲気のギャップからくるユエの魅力が何十倍にも引き立てられている。

 

部屋で、ユエ達の着替えが終わるまで待っていた我々男性陣も、彼女達が入ってきた瞬間、その溢れ出る魅力にやられて完全に硬直したのも仕方のないことだ。

それに何より、皆ドレスにワンポイントの紋章が入っている。

 

雫には私と光輝を表す"剣と王冠"、恵理には"トシを表す予言書と杖"、鈴には"龍太郎を表すダンベルと鉢巻"、ミレディには"オスカー印の眼鏡"、メイルには"(ディーネ)の似顔絵"、そしてユエ達には当然私を表す"黒黄金で描かれた、不死鳥と無限龍"だ。

とにかく、「これ誰の婚約パーティーか理解してる?ねぇ?してる?」とツッコミを入れられそうなくらいユエ達は魅力的だった。

 

ちなみに、鈴も十分に着飾っていて、帝国の令嬢方に負けないくらいに華やかだったのだが……

流石に、ユエ達の原動力には数歩及ばず、どうしてもユエ達と比べると大人しい印象だったので、余り目立ってはいなかった。

 

そして肝心の男性陣はというと、光輝は帝国の貴族令状に群がられて姿すら見えていない。

龍太郎は花より団子、「うんめぇ!」と連呼しながら料理を貪っていて、それを諫めていた鈴も「あ、このケーキ美味し。」と割と貪っていた。

似たもの同士か、とツッコミを入れたくなってしまった。案外お似合いになりそうかもしれんな。

因みにトシは、恵理のガードに回っている。まぁ、そりゃあ過保護気味にもなるわな。

 

帝国貴族A「それにしても、南雲殿のお連れは美しい方ばかりですな。」

帝国貴族B「全くだ。このあとのダンスでは是非1曲お相手願いたいものだ。」

何をほざいておるのだこの豚共、誰一人貴様等に触れさせるとでも思っていたのか?

 

司令部(HQ)、こちらデルタ。全ポイント爆破準備完了。』

司令部(HQ)、こちらインディア。Mポイント制圧完了。』

そんな帝国貴族達の半ば本気の言葉を、耳から入る念話の報告を聞きつつ笑顔でかわしていると、会場の入口がにわかに騒がしくなった。

どうやら、主役であるリリィと第一皇子(発情ゴリラ)のご登場らしい。

文官風の男が大声で風情たっぷりに2人の登場を伝えた。

 

ザワッ……

大仰に開けられた扉から現れたリリィのドレス姿に、会場の人々が困惑と驚きの混じった声を上げる。

それは、リリィが全ての光を吸い込んでしまいそうな漆黒のドレスを着ていたからだ。

本来なら、リリィの容姿や婚約パーティーという趣旨を考えれば、もっと明るい色のドレスが相応しい。

 

その如何にも「義務としてここにいます」と言わんばかりの澄まし顔と合わせて、漆黒のドレスはリリィが張った防壁のように見えた。

パートナーの第一皇子(発情ゴリラ)も、どこか苦虫を噛み潰したような表情であり、どう見てもこれから夫婦になる2人には見えない。

まぁ、あんなことをしでかしたのだ。当然の対応であろう。

 

因みに、リリィが入場次第、睨みの一つでもくれてやろうと意気込んでいたであろう愛人共も、出鼻をへし折られたように呆然としていた。

会場は取り敢えず拍手で迎え入れたものの、何とも微妙な雰囲気だ。

 

そのまま、2人は壇上に上がる。

司会の男は、困惑を残したままパーティーを進行させた。

リリィと第一皇子(発情ゴリラ)の様子を見て、今にも笑い出しそうなガハルドの挨拶が終わると、会場に音楽が流れ始めた。

リリィ達の挨拶回りとダンスタイムだ。微妙な雰囲気を払拭しようと流麗な音楽が会場に響き渡る。

 

会場の中央では、それぞれ会場の花を連れ出した男達が思い思いに踊り始めた。

リリィと第一皇子(発情ゴリラ)も踊るが何とも機械的だ。主に、リリィの表情や纏う雰囲気が原因だが。

第一皇子(発情ゴリラ)が強引に抱き寄せても、旋律に合わせて気が付けば微妙な距離が空いている。

そうこうしている内に1曲終わってしまい、リリィはさっさと挨拶回りに進んでしまった。

 

イラついた表情で、しかし、挨拶回りは必要なので追随する第一皇子(発情ゴリラ)

微妙に股を気にしている様子だ。

実は、ついさっき目覚めたばかりの挙句、何があったのかリリィを問い詰める間もなくパーティーに駆り出されたとは誰も知らない……私以外は。

何故か感覚のない息子の復活(復活させられるであろう人物)を盾にされて、リリィに従うしかない状況に焦燥と苛立ちを感じていることも、誰も知らないだろうな。

 

司令部(HQ)、こちらロメオ。Pポイント制圧完了。』

司令部(HQ)、こちらタンゴ。Rポイント制圧完了。』

香織「何て言うか、リリィらしくないね。いつもなら、内心を悟らせるような態度は取らないのに……。」

香織が、特に笑顔もなく淡々と挨拶を交わすリリィを見てポツリと呟く。それもそうだろう。

 

未遂とはいえ、襲われかけたのだ。不満の一つ素直に表しても文句は言われんだろう。

それをガハルドも理解しているのか、笑いを堪えているのだろう。

てっきり、息子に恥をかかせたとか難癖付けて来るかと思ったが……そこはラインをわきまえていたか。

まぁ、だからといって許すつもりはないがな。

 

ハジメ「さて、我々も踊るとするか。そこのお嬢さん方、Shall We Dance?(一曲いかがかな?)

ユエ・シア・ティオ・レミア・香織「「「「「喜んで!」」」」」

雫「…まぁ、お願いしておこうかしら?」

ハジメ「オスカー、やるかい?分身一体位乗り移られても大丈夫だぜ?」

オスカー『では、遠慮なく。メイルは「ミュウちゃんのガードに回るわ!」……だそうだ。』

 

ダンスが始まってから散々ユエ達を誘おうと男連中がやって来たのだが、ユエ達は私以外の男と踊るつもりは皆無だ。

なので遠慮なく、"威圧"で追い払っておいた。

因みに、トシは既に恵理と踊っており、光輝は、半ば強引に淑女達に連れ出されて慣れないダンスを必死に踊り、龍太郎はひたすら食っている。

鈴は、どこぞのダンディーなおっさんと「ほぇ~。」と流されるままに踊っている。

 

そして私は当然の如く、分身能力で仲間達をガード。

ミレディは久しぶりにオスカーとダンスを踊っているせいか、とても嬉しそうだ。

メイルは……コメントしないでおく。

 

元々、王族としてダンスの嗜みがあるユエのリードに合わせて、軽やかに踊る私。

他の分身体も、パートナーに合わせて、流れるように踊る。

楽しげで、幸せそうな表情の美女・美少女たちを侍らせて踊るその姿は、正にハーレム。

それはまるで、星空に桜の花びらがくるくる待っているようであった。

 

どこかギスギスしていた空気に楽士達も場を盛り上げることだけに必死になっていたのだが、私達の雰囲気に気分が乗ってきたようで楽しげに演奏し始める。

今や、会場の主役は我々となり、誰もが幸せそうにくるくると踊る私達に注目していた。

 

それを微笑みながら見つめているリリィにも気づいたので、密かに分身体をもう一体出そうとする。

するとユエが視線で、「行ってあげて。」と呼びかけたので、ユエにもう一体分身体を出して、代わりに踊ってもらうことにした。

 

やがて演奏が終わり、分身達は一斉に仮面を解除、それぞれのパートナー(雫以外)と微笑み合いながら軽くキスを交わす。

その姿に帝国貴族達から盛大な拍手が贈られる。

彼等の瞳には、ただ純粋に称賛の気持ちがあらわれていた。

帝国貴族の令嬢達も「ほぅ」と熱い溜息をついてうっとりとしている。

贈られる拍手に、全員優雅に礼を返す。そして私は、

 

ハジメ「リリアーナ姫、一曲いかがでしょうか?」

リリアーナ「!えぇ、勿論。喜んで踊らせていただきます。」

そろそろ挨拶回りも大体終わったようなので、リリィに声をかけ、手を差し出した。

それに嬉しそうに返事をし、リリィはその手を取った。

 

折角注目を集めているので、ダンスホールの中央に導いた。

先程の、ユエ達とのダンスが脳裏に過ぎっているのだろう。

リリィの恥じらうような態度のこともあって注目度は高い。

 

ゆったりした曲調の旋律が流れ始める。

ゆらりゆらゆらと優雅に体を揺らしながら密着する私とリリィ。

私の肩口に顔を寄せながらリリィがそっと囁くように話しかけた。

 

リリアーナ「……先程は有難うございました。」

ハジメ「構わないさ、大事な婚約者の為なら。それに……今回の婚約は直ぐに破棄されるからな。」

リリアーナ「!やっぱりそうなるんですね……でも、それでは陛下の「大丈夫さ。」!」

ハジメ「リリィが信じ続けるなら、その夢をかなえてみせるさ。」

私がそう言うと、リリィは私の肩口から少し顔を離し、言葉通り嬉しそうな微笑みを浮かべた。

その笑顔は、先程まで第一皇子(発情ゴリラ)の傍らにいたときとは比べるべくもないリリィ本来の魅力に満ちたもので、注目していた周囲の帝国貴族達が僅かに騒めいた。

 

ハジメ「それと、やはり先程のドレスは惜しいな。あの性欲猿め……やはりガハルドの血筋だな。

トレイシーとは大違いだ。」

リリアーナ「あら、こちらのドレスは似合いませんか?」

ハジメ「勿論、似合っているとも。だが、折角だ。

どうせなら金色をワンポイントにいれても文句は言われんだろう。当てつけとしても、な。」

リリアーナ「ふふっ、そうですね。妻を暴行するような夫にはそれもいい薬になるかもしれませんね。

それより……やっぱりあのお守りを通して見えていたのですね。

……私のあられもない姿も……あぁ、もうお嫁にいけません。」

ハジメ「元々、私が貰うつもりだが?」

 

よよよっ!と、わざとらしく泣き崩れる振りをしながら再び私の肩口に顔を埋めるリリィを、優しく抱き留める。

第一皇子(発情ゴリラ)が凄い形相だが……どうでもよいか。

リリィはこう思われているのだろう。

今夜が終われば皇太子妃となり、近いうちに暴行されて、愛人達に苛められる哀れな姫。

女の子としてのリリィはもう見られない、と。だがな、貴様等は思い違いをしている。

 

――≪一体いつから、私がリリィのことを諦めたと錯覚していたのだ?≫

 

司令部(HQ)、こちらヴィクター。Sポイント制圧完了。』

司令部(HQ)、こちらイクスレイ。Yポイント制圧完了。』

曲はいよいよ終盤。

私の考えを察したリリィは、体を私に預けて、ただ今この瞬間のダンスを楽しむことにしたようだ。

その間にも、私はリリィのドレスに、先程ユエ達にも刻んだ紋章を金色で刻んでおいた。

 

そして、余韻をたっぷり残して曲が終わり、名残惜しげに体を離したリリィは、繋いだ手を離さずに少しの間、ジッと私を見つめて……「ありがとうございます。」と呟いた。

咲き誇る満開の花の如き可憐な微笑みと共に。

 

それは唯の14歳の女の子の微笑み。

余りに純粋で濁りのない笑みは、それを見た者全ての心を軽く撃ち抜いた。

そこかしから熱の篭った溜息が漏れ聞こえる。

そして、僅かな間のあと、先程のダンスに負けないくらい盛大な拍手が贈られた。

その後、リリィは、他の官僚と踊る必要があるようだったので、途中で分かれた私であった。

 

司令部(HQ)、こちらズールー。Zポイント制圧完了。』

『全隊へ通達。こちら司令部(HQ)、全ての配置が完了した。カウントダウンを開始します。』

ほぅ、漸くか。通信を聞いた私は、思わず口角が上がりそうになった。

他の面々にも緊張が走り、通信を聞いているシアは、瞑目して一度深呼吸し、一拍、スッと目を開けた。

その瞳に宿る戦意に、思わず誰もが息を呑んだ。

 

シア「ハジメさん、ユエさん。」

視線が巡る。香織達にも余さず。それに私は頷き、不敵に笑って言った。

ハジメ「あぁ、今からお前は…"ハウリア族族長の娘"だ。存分に暴れて来い!」

その言葉に、シアもまた不敵に笑うと、

 

シア「はい、行ってきます!」

そう言ってスゥっと気配を薄めていき、誰にも気づかれずに会場から出ていった。

その背を見送っていると、司会進行役の男が声を張り上げた。

ガハルドがスピーチと再度の乾杯でもするようだ。壇上に上がったガハルドが、よく通る声で話し始めた。

 

ガハルド「さて、まずは、リリアーナ姫の我が国訪問と息子との正式な婚約を祝うパーティーに集まってもらったことを感謝させてもらおう。

色々とサプライズがあって実に面白い催しとなった。」

そこでガハルドは意味ありげな視線を私に向ける。が、それに私は動じない。

それに益々面白げな表情になるガハルド。同時に、耳元の通信機器から決然とした声が響いた。

 

『全隊へ。こちらα1(アルファワン)

これより我等は、数百年に及ぶ迫害に終止符を打ち、この世界の歴史に名を刻む。

恐怖の代名詞となる名だ。この場所は運命の交差点。

地獄へ落ちるか未来へ進むか、全てはこの1戦にかかっている。遠慮容赦は一切無用。

さぁ、最弱の爪牙がどれほどのものか見せてやろう!』

 

ガハルド「パーティーはまだまだ始まったばかりだ。

今宵は、大いに食べ、大いに飲み、大いに踊って心ゆくまで楽しんでくれ。

それが、息子と義理の娘の門出に対する何よりの祝福となる。さぁ、杯を掲げろ!」

兎人族と人間族、二つの種族の長が重なるように演説する。

 

『10、9、8……』

私達と、蔓延るウサギ達にだけ響く運命のカウントダウン。

カム『魔王陛下。この戦場へ導いて下さったこと、感謝します。』

何も知らない帝国の貴族達。

 

ガハルドは、会場の全員が杯を掲げるのを確認すると、自らもワインがなみなみと注がれた杯を掲げて一呼吸を置く。

そして、息をスゥーと吸うと覇気に満ちた声で音頭を取った。

念話の向こうも、また、同じく。

 

『気合を入れろ!ゆくぞ!!!』

『「「「「「「「「「「おうっ!!!」」」」」」」」」」』

『4、3、2、1……』

そして、カウントダウンは遂に――

 

ガハルド「この婚姻により人間族の結束はより強固となった!恐れるものなど何もない!

我等、人間族に栄光あれ!」

「「「「「「「「「「栄光あれ!!」」」」」」」」」」

 

『ゼロ。ご武運を。』

その瞬間。

全ての光が消え失せ、会場は闇に呑み込まれた。




ここまで読んでいただき、ありがとうございます。

今回、一番苦労したのは恵理のドレス表現です。だって自分、ドレスなんて来たことも無いですしおすし。
正直、ここができなかった間、他が全く筆が進みませんでした。
その分、ここが終わってからはサクサク進みましたね。
因みにワンポイント紋章は、それぞれのパートナーの分です。
(一人だけまだ気持ちが確かではないので、二人分ですが。)

そして例の如く、始末される哀れな帝国兵達。まぁ、今まで好き勝手やって来たんです。
このくらいは当然だと思います。それに、生きたままスマッシュされ続けられるよかマシでしょう。
さて、次回はとうとうハウリア達がガハルドとの直接対決に向かいます!
そして、問題のアナザーウォッチをどう奪い取るのか、待て、次回!

次回予告

闇に吞まれた帝城のパーティー会場。そこに現れたのは、漆黒を身に纏った大量のウサミミ。
遂に始まったハウリア達の逆襲。その圧倒的アンサツ=ジツは次々と帝国の猛者を翻弄していく。
しかし、帝国最強としての面目があるガハルドの強さもまた、彼等との戦争をより激化させていく。
そして、帝城上空にて怪しく笑う影、その正体とは!?

次回「襲・撃・開・幕」
目撃せよ、歴史の始まり!

ハジメ「ハウリア・オンステージだぜ!」


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91.襲・撃・開・幕

ハジメ
「神を騙る悪が蔓延る異世界"トータス"にて、"最高最善の魔王"南雲ハジメは、ガハルドの野望を阻止すべく、仲間達と共に帝城の婚約パーティーに参加する。
その裏で、ハウリア達は着々と戦争の下準備を済ませていた。
そしてパーティーにて、ガハルドの宣言と同時に明かりが落とされ、遂にハウリア達の戦いが始まったのであった!」
浩介
「そして今ちょうど、一仕事終えてきたところだ。」
ハジメ
「早いな浩介!やっぱりお前に似合いそうなやつ、全部預けといてよかったよ。」
浩介
「いや、一部どう考えても酷すぎじゃね?って思うものもあったぞ?」
ハジメ
「でもそれ使っているキャラは大体鋼メンタルで乗り切っているぞ。
お前も男なら、それくらいやってのけてみせろ。」
浩介
「無茶苦茶な魔王だなぁ……だが、それでこそ我が主。乗り越え甲斐のあった試練とも言えよう!」
ハジメ
「深淵卿出てんぞ……まぁ、お前は何というかさ、色々とすげぇよ、うん。」
浩介
「それ褒めているんだよな?褒めているんだよね?……まぁいい、じゃあ第7章第10話」
ハジメ・浩介
「「それでは、どうぞ!」」


貴族A「なんだ!?なにが起こった!?」

貴族B「いやぁ!なに、なんなのぉ!?」

一瞬で五感の一つを奪われた帝国貴族達が混乱と動揺に声を震わせながら怒声を上げる。

 

「狼狽えるな!魔法で光をつくっがぁ!?」

「どうしたっギャァ!?」

「何が起こっていっあぐっ!?」

比較的冷静だった者が、指示を出しながら魔法で光球を作り出し灯りを確保しようとする。

が、直後には悲鳴と共に倒れ込む音が響いた。同時に、混乱する貴族達が次々と悲鳴を上げていく。

 

その異様な光景に再び場は混乱に陥った。

特に、令嬢方は完全にパニックに陥っており、闇雲に走り出したようで、そこかしこから転倒音や衝突音が聞こえ始める。

 

ガハルド「落ち着けぇ!貴様等それでも帝国の軍人かぁ!」

暗闇の中、ガハルドの覇気に満ちた声が響き渡る。

闇夜を払拭しそうなほど大音量の喝は暗闇と悲鳴の連鎖で恐慌に陥りかけた帝国貴族達の精神を強制的に立て直させた。が、その程度では、このゲームは攻略できない。

 

ヒュ!ヒュ!ヒュ!

ガハルド「っ!?ちっ!こそこそと鬱陶しい!」

そこでさらに指示を出そうとしたガハルド目掛け、連続した風切り音と共に闇の中から無数の矢が飛来する。

それも、通常では考えられないほど短いくせに驚く程の速度と威力を秘めた矢が四方八方。

 

その上、絶妙にタイミングをずらし、実に嫌らしい位置を狙って正確無比に間断なく撃ち込まれるので、さしものガハルドも防戦一方に追い込まれてしまったようだ。

とても態勢を立て直す為の指示を出す余裕はない。

それでも真っ暗闇の中、風切り音だけで矢の位置を掴み儀礼剣だけで捌いているのは流石というべきだろう。

怒声を上げるガハルドを中心にギン!ギン!ギン!ギン!と金属同士が衝突する音が鳴り響く。

 

次々と上がる悲鳴と物や人が倒れる音が響く中、ガハルドの喝と、そのガハルドが襲撃を受けていることから冷静さを取り戻した者達が灯りとして火球を作り出すことに成功した。

険しい表情で周囲を見渡しつつ衛兵を大声で呼ぶ彼等。

その視界の端に何か黒い影のようなものがヒュッ!と風を切りながら横切る。

 

貴族A 「ッ!?何者っげぶっ!?」

咄嗟に、その影に向かって火球を飛ばそうとした帝国貴族の男。

しかし、その寸前、彼の背後の闇から影が飛び出した。真後ろにいるのに、男はまるで反応しない。

そして、その無防備な項に、暗闇と同化したような黒塗りの小太刀が一閃された。

 

すると、まるで冗談のように、男の首が宙に舞った。

ポ~ンと首が飛びクルクルと回って生々しい音と共に地面に落ちる。

その頭は、どこかキョトンとしており、自分の首が刈り取られたという事に気がついていないかのようだった。

 

光に誘われる蛾のように火球を作り出した者のところへ向かっていた帝国貴族や令嬢達は、火球が消滅する寸前に垣間見えた影と、一瞬で人の首が飛ぶ光景を目の当たりにし、無様にも腰を抜かしていく。

気が付けば、周囲を照らしていた幾つかの火球は全て消えて、再び闇一色となっていた。

 

「ひっ、ば、化け物ぉ~!」

「し、死にたくないぃ~、誰かぁ!」

腰を抜かした者の多くは令嬢や文官達だったが、少なからず軍の将校もいる。

前線から退いて贅沢の極みを尽くしてきた彼等には死神の鎌に等しい暗闇と襲撃者の存在に精神が耐えられなかったのだ。

そんな彼等は、一人の例外もなく、何も出来ないまま、そしてしないまま、音もなく肉薄した黒装束達に手足の腱を切られて、痛みにのたうちながら倒れ伏すことになった。

 

そんな情けない者達もいるが、ここが実力至上主義を掲げる軍事国家である以上、いつまでも混乱に甘んじているわけがない。

ガハルドのように儀礼剣は持っていないが護身用の懐剣を頼りに何度か襲撃を凌いだ猛者達が、仲間の気配を頼りに集まり陣形を組みだした。

 

「くそっ、相当の手練れだぞ!気配がまるで掴めない!」

「愚痴ってる場合か!ローグ、テッド!視界確保を優先!他は防御に徹しろ!」

背中合わせになり、中央に術者を据えて詠唱を任せる。見事な連携だ。

ガハルドの比較的近くにいた者達(おそらく近衛であろう)も、直ぐに陣形を組んでガハルドの背後を守りだした。

 

注意すべき範囲が一気に半分になったガハルドに、もう矢による攻撃は通じない。

余裕が出来たガハルドは何十という数の矢を片手間に叩き落としながら詠唱を始め、同時に懐から切り札であるアーティファクト、ハジメのアナザーウォッチを取り出そうとした。が、

 

ガハルド(!?ない!?どこにもねぇ!?)

その手は何故か空を切っていた。否、取り出そうとしたはずのものがいつの間にか消えていたのだ。

確かに先程感触があったはずの、アナザーウォッチが消えていたのだ。

しかし、それに動揺しつつも冷静に考えるガハルド。こんな真似が出来る人物は、一人しかいない。

 

ガハルド(クソッ、やってくれるじゃねぇか。南雲ハジメ……。)

しかし、当の本人はどこにもおらず、仲間達は会場の端っこにおり、襲撃の邪魔にならぬようにと、ご丁寧に仲間達の周囲だけを覆う結界まで敷いている。

そして、先程まで近くにいたリリアーナを雫がいつの間にか抱きしめており、リリアーナを守護していますよ~、といったアピールまでしている。

 

ガハルド(そういうことかよ…あくまでこいつらは囮、本命はあのアーティファクトって訳か!)

なんて厄介なことしてくれたんだ!と、今すぐ相手に言いたかったガハルドだが、その隙を与えるほどハウリア達の猛攻は甘くはなかった。

しかし、そこは一国の長。動揺しつつも詠唱は途切れなかった。

 

その甲斐あって、とんでもない発動速度で瞬く間に作り出された10近い火球。

それは、一瞬で会場に広がり、始源の煌きを以て闇を払い始めた。

ガハルド「これ以上好きにさせるな!反撃開始だ!」

そう息巻いたガハルドだったが、直後、目の前に金属塊がコロコロと転がってくる。

 

側近「なんだ?これは……」

訝しみながらも正体を確かめようと接近するガハルドの側近を務める男。

それは、彼だけでなく離れた場所で灯りを確保した者達も同じだった。

猛烈に嫌な予感がしたガハルドは、咄嗟に制止の声をかける。

 

ガハルド「よせ!近づくなっ!」

側近「っ!?」

ガハルドの言葉に反射的に従って後ろに飛び退ろうとした側近だったが、その金属塊のもたらす効果からすれば無意味な行動だ。

それは、次の瞬間に証明された。

 

カッ!

キィイイイイイン!!

突然、金属塊が爆ぜたかと思うと、強烈な光が迸り、莫大な音の波が周囲を無差別に蹂躙したのである。

 

「ぐぁあ!?」

「ぐぅうう!」

「何がァ!?」

光が爆ぜた瞬間、咄嗟に目を瞑って腕で顔を庇ったガハルド達だったが、余りの不意打ちに完全には防ぎきれず、一時的に視力を失う程にきっちりと目を灼かれ、酷い耳鳴りによって聴覚も失う事になった。

そして、その絶好のチャンスを襲撃者たるハウリアが見逃すはずもない。

 

絶妙なタイミングで急迫した黒装束のハウリア達が極限の気配殺しで標的の懐に踏み込む。

そして、漆黒の小太刀を一閃、二閃。

五感の二つをいきなり奪われ、抵抗する余裕など微塵もない将校達の手足の腱は、あっさりと切り裂かれてしまった。

激烈な痛みに悲鳴を上げて倒れ伏す側近達。

 

直後、口にナイフを突き込まれて舌を裂かれる。詠唱封じの目的だ。

離れた場所でも同じように、反撃しようとしていた者達が次々と手足の腱を切られて舌を裂かれていく。

大きな魔術を行使しようとしていた者は容赦なく首を飛ばされている。

 

そんな中、ギンギンギン!と金属同士の激突音が響いた。

何と驚いたことに、ガハルドだけは、目も耳も潰された状態で、極限まで気配を殺したハウリア族二人の斬撃を凌いでいたのである。

これには襲撃しているハウリア族の二人も黒装束から覗く瞳を大きく見開いて驚きをあらわにした。

その一瞬の動揺を感じ取ったのか、隙を突いて気合一発、ガハルドは震脚の如き踏み込みによって衝撃を発生させる。

 

「「っ!」」

しかし、体勢を崩されつつも、二人のハウリアはその場からサッと退避する。

直後、先程まで二人がいた場所に、ガハルドが目も耳も使えない状態で、ゾッとする程正確な横殴りの斬撃を放つ。

鞭のようにしなっていると錯覚する程の特異な剣撃。

受け止めていれば、吹っ飛ばされてしまうことは確定だっただろう。

 

ガハルド「散らせぇ!"風壁"!」

そのタイミングを狙ったのか、凄まじい数の矢がガハルドを集中砲火するが、たった二言で発動した風の障壁によって、その全てはあっさりと軌道を逸らされてしまった。

 

ガハルド「撃ち抜けぇ!"炎弾"!」

そして再び二言で魔法を発動。

"火球"より威力のある"炎弾"を一度に10も作り出し、"風壁"によって感じ取った矢の射線に向かって一気に掃射する。

発動速度も威力も尋常ではないガハルド、それでもハウリアは動じない。

だって、自分達の王様に比べたら、明らかに遅いもん!

 

ガハルド「舞い踊る風よ!我が意思を疾く運べ、"風音"!」

ガハルドは次の魔法を行使する。風系統の補助魔法"風音"。

周囲の空気に干渉して音を増幅したり、小さな音を遠くに運んだり出来る魔法だ。

大音量に狂わされた聴覚を、この魔法で補助して僅かにでも取り戻そうというのだろう。

 

確かに、応用すれば"気配感知"の魔法バージョンと言えるかもしれない。

と言っても、結局は聴覚を通じて感知するので精度は下がるし、感じ取るのに集中力も必要で近接戦闘時に使うには不向きな魔法ではある。

基本は斥候や諜報員が使う連絡・諜報用の魔法なのだ。

 

しかし、ハウリア達はそれを待っていたと言わんばかりに、本気を出した。

遠距離部隊は武器を弓矢からスナイパーライフルに、近接部隊はただのナイフから高周波ブレードとトンファーガンに切り替えた。

完全に殺しにかかるスタイルだ。

 

ガハルド「ゼァアアアッ!!」

それに気づかないガハルドの裂帛の気合と共に、斬撃が鞭のようにしなりながら変幻自在に振るわれる。

それを難なく躱しつつ、気配に緩急をつけてガハルドの感覚を誤魔化し、連携で凌いでいくハウリア達。

勿論、"風音"のせいで気配操作が余り役に立っていないことも把握済みだ。

 

「上等。」

「なます斬りにしてやる。」

誰もがその口元に凄惨な笑みを浮かべた。

覆面の隙間から覗く瞳はギラギラと獰猛に輝き、一人一人から濃密な殺気が噴き出す。

その様は正に、某人口生命体並みの凶暴さだ。その内、「アマゾンッ!」とか言い出しかねない。

 

視覚を奪われながら、おそらく発動しても"気配感知"には程遠い効果しかないだろう連絡・諜報用の魔法に身を委ねて躊躇うことなく踏み込めるガハルドの胆力と凄絶な殺気の奔流。

これが皇帝。これが軍事国家の頭。力こそ全てと豪語する戦闘者たちの王。

だが、それでも自分達の魔王には到底及ばない。魔王には眼眩ましも耳鳴りも聞かないのだから!

そう心に言い聞かせ、気配操作が意味をなさないのなら、連携で仕留めてやんよぉ!と言わんばかりに、ハウリア達はまるで一つの生き物のように動き出した。

 

ガハルド「ククク、心地いい殺気を放つじゃねぇか!なぁ、ハウリアぁ!」

四方八方からヒット&アウェイを基本とした絶技と言っても過言ではないレベルの連携攻撃が殺到する。

その斬撃を独特の剣術で弾きながら、ガハルドは楽しげに叫んだ。

どうやら、とっくにハウリア族とばれていたようだ。

ハウリア達は、ガハルドの雄叫びを聞いても無言だ。ただ、ひたすら殺意を滾らせていく。

 

ガハルド「あぁ?ビビって声も出せねぇのか!?」

言葉からして、やはり、魔法のおかげで聴力だけは少し回復しているらしい。

そのガハルドの叫びに、一際強烈な殺気を振りまくハウリア――

カムが得物の二刀を振るいながら、その溢れ出る殺意とは裏腹に無機質な声をポツリと返した。

 

カム「戦場に言葉は無粋。切り抜けてみろ。」

ガハルド「っ!はっ、上等ぉ!」

暗闇に火花が舞い散り、更に激しさを増す剣戟は嵐の如く。

通常であれば、単体能力でガハルドが圧倒していただろう。

 

しかし、カム達はハジメ考案のヘルライジングトレーニングの第一被害者でもある。

その甲斐あって、身体強化付きならカム一人でもガハルドを相手取ることは可能だ。

しかし、ここにいるのはカムだけではない。卑怯上等のハウリア達なのだ。

当然、一騎打ちに持ち込ませるはずもなく……

 

ドパンッ!ドパンッ!

ガハルド「ぐぁッ!?テメェ…!」

剣と高周波ブレードがぶつかり合ったその絶妙な瞬間、放たれた弾丸は鎧を貫き、ガハルドの脹脛を深々と貫いた。

そこへ追い打ちと言わんばかりに、ガハルドにとって良くない事態が発生する。

 

ガハルド「っ!なんだっ?体が……」

ガハルドが突如ふらつき始め、急速にその動きを鈍らせたのである。

「待ってましたぁ!」と言わんばかりに、四方八方からハウリア達が飛びかかる。

辛うじて剣で受け止めるものの即座に腕の腱を切られ、ガハルドは遂に剣を取り落とした。

 

ガハルドは、瞬時に魔法を発動しようとするも、刹那のタイミングで交差するようにすれ違った二人のハウリア族が、戦闘中に確かめていた位置に小太刀を振るい、隠し持っていた魔法陣やアーティファクトを破壊または弾き飛ばす。

同時に、残りの腕と足の腱も切断した。

 

ガハルド「ッ――!」

迸る激痛に、しかし、悲鳴は上げないガハルドだったが、その体は意志に反してゆっくりと傾き、ドシャと音を響かせてうつ伏せに倒れてしまった。

静まり返るパーティー会場。誰も言葉を発しない。

 

それは、物理的に口を閉じさせられているからというのもあるが、きっと、たとえ口が利けたとしても、言葉を発する者はいなかっただろう。

ヘルシャー帝国皇帝の敗北。暗闇に視界を閉ざされていようが、理解できてしまう。

その事実は、人から言葉を、あるいは思考自体を奪うには十分過ぎる衝撃だった。

 


 

時間は少し遡る。

帝城の塔の屋根にて、パーティー会場を見下ろせる位置に、その人物はいた。

???「とうとう始まったね……ハウリア達の襲撃が。」

その人物はローブを被ってはいたが、声色で女性だと分かる。

そして彼女は、現在襲撃が行われている会場をただ見ていた。

 

ローブの女「皇帝くんに少し助力してあげたけど……そろそろウォッチを起動する頃かな?

折角だし、手助けでも「させると思うかい?」ッ!?」

ローブの女は、ガハルドを襲撃しているハウリア達の妨害をしようと、手に魔力を溜め始めようとした。

が、突如、背後から聞こえた声に思わずその場を飛びのき、その声の主を見て驚愕した。

 

ローブの女「オーマジオウ!?」

ハジメ「その名前で統一されているのか……初めましてかな?タイムジャッカーのお嬢さん。」

ローブの女、タイムジャッカーの後ろに立っていたのは、腕を組み、仁王立ちで不敵に笑うハジメであった。

 

ローブの女「そんな…アナザーウォッチを警戒していたんじゃないの!?」

ハジメ「ところがどっこい、こっちには秘密兵器がいるのでな。そうだろう……浩介?」

そう言って後ろに眼をやったハジメの背後から現れたのは、全身黒尽くめでお辞儀・合掌をする謎の男だった。

 

浩介「ドーモ、ハジメマシテ。タイムジャッカー=サン。コウスケ・E・アビスゲートデス。」

ローブの女「アイエエエ!?ニンジャ!?ニンジャナンデ!?」

そう、その恰好は正にニンジャ。その正体は何を隠そう、我等が深淵卿、遠藤浩介であった。

 

ローブの女「ッ!…新手ってこと?そんな奴、エトスからの報告にもなかったのに…。」

浩介「……うん、そうだよね。俺のことは忘れられているって、薄々気づいていたから。

別に何ともないよ、うん。」

ハジメ「そう言うな、浩介。逆に考えるんだ、相手が対策をとることが出来ない、と。」

そう言ってハジメは浩介を慰めた。その雰囲気に何故かローブの女は、思わず目元を拭いたくなってきた。

 


 

さて、何故ハジメと浩介が屋根の上にいるのかというと、時は樹海での作戦会議まで遡る。

ハジメ達は作戦会議にて、婚約パーティーの襲撃に関する打ち合わせをしていた。

そこで漸く襲撃の方針、作戦が決まったところで、雫がある不安を投げかけた。

 

雫「所でハジメ君、アナザーウォッチに関してはどうするの?

タイムジャッカーもいないとは限らないし、ガハルド陛下もあなたを警戒している筈よ。」

その言葉に、タイムジャッカーの強さを目の当たりにした面々も、顔を顰める。

しかし、それを問われたハジメはというと、得意げな顔で答えた。

 

ハジメ「ふっふっふっ…雫や、忘れてやいやしないかい?俺達には……最強の隠密機動がいることを!」

雫「隠密機動……それは一体?」

ハジメ「いや、一緒に来たでしょ……ねぇ、浩介?」

そう言ってハジメが振り返って呼びかけるも、返事は返ってこない。

 

ハジメ「……あれ?浩介はどこ行った?」

思わず周りを見渡すハジメ。すると、意外な人物が声をかけた。

ラナ「あの……陛下。それって、あちらにいる黒い人、でしょうか?」

その人物――ラナの指さした方向を一斉に向くと、先程呼ばれた遠藤浩介本人がいた。

 

浩介「もしかして……分かるんですか!?俺の居場所が!?」

ハジメ「マジかよ……俺でさえ確率は五分五分なのに……正確に当てた、だと……!?」

自分の存在を認知し、場所まで当てられたことに浩介は驚き、自分以上に浩介の察知が上手いラナに、思わず戦慄するハジメ。

浩介の存在の薄さを知っていた光輝達は勿論、それに漸く慣れたと思っていたユエ達や、自分たち以上に気配遮断が得意な奴がいたのかとハウリア達でさえ驚いていた。

 

ハジメ「さ、流石だな、ラナ。

こいつこそが秘密兵器、俺の友であり、唯一死角を取れるであろう男、遠藤浩介だ!」

浩介「またの名を深淵卿、浩介・E・アビスゲートと呼んでもらおう!」

そう言って決めポーズをとる浩介――深淵卿。最早心の中では羞恥心がMaxであろう。

 

「唯一死角を取れるって……あの時の!?」

「陛下が敵対を恐れたというあの!?」

「気配遮断の格が陛下よりも群を抜くというあの!?」

「それにしては何という決めポーズだ!」

「あぁ、なんて香ばしさだ!陛下が信頼を置くだけはある!」

それに相反して、ハウリア達の反応は良好、いや寧ろ大歓迎だと言わんばかりのムードだった。

 

浩介「……なぁ、ハジメ。ハウリアの人達ってこういうのが好きなのか?」

ハジメ「知らん。抑々勝手に進化しただけであって、俺はその辺全く仕込んでいないし。」

まさかの反応に死んだ目で尋ねる浩介に、自分が知らない間に別の意味での進化を遂げたハウリアを見て、遠い目で返すハジメ。

 

すると、そんな浩介に、ラナはにっこりと、何処か妖絶でいて可愛らしさが籠った微笑みを向ける。

その笑顔に、思わず浩介の頬が赤くなった。

元々、愛玩奴隷としては一番人気があっただけに兎人族は総じて整った容姿をしている。

そしてラナも、物凄く美人だった。当然、浩介の心臓は今にも飛び出しそうだ。

 

ラナ「君、気配操作がとっても上手ね。私じゃ敵わないかも。」

そう言って浩介に称賛を送るラナ。本来であれば照れるところなのだろう、が……

浩介「……ごめんなさい、これ、生まれつきなんです……。

別に"隠形"も、アーティファクトも使ってないっす。

昔から、親とか先生にも忘れられるくらいなんで……。」

浩介の放った自虐ネタに、思わず辺り一帯が静まり返る。同時に、多くの温かい視線が彼に向けられた。

そして褒めようとした筈のラナは、気まずそうに浩介を見ていた。

 

ハジメ「まぁ、そういうわけだ……でも、実力は保証するぞ!既に神代魔法を3つも持っているしな!」

浩介「ほぼハジメのサポートがあったからだよ……

何故かライセンだけ一人でトラップ地帯に放り込まれたけどな!」

ハジメ「悪かったって。それくらいした方が、深淵卿の制御に役立つかな?って思ってさぁ……。」

慌てて浩介のフォローにハジメが回る。そして、神代魔法保持者と聞き、ハウリア達に衝撃が走る。

 

ハジメのサポートありきとはいえ、目の前の男は神代魔法を獲得しているのだ。

しかも、ライセン大迷宮のトラップ地帯をたった一人で潜り抜け、その神代魔法を獲得したとあっては、実力は確かなものだ。

勿論、ラナもその実力に驚いていた。

が、流石にここでだんまりしていては、ハウリアの名折れ!とでも思ったのか、突然ポーズをとって名乗りを上げた。

 

ラナ「わ、私の名前は疾影のラナインフェリナ・ハウリア!

疾風のように駆け、影のように忍び寄り、致命の一撃をプレゼントする、ハウリア族一の忍び手!」

浩介「ら、ラナさん?」

ラナ「でも、君を見ていたら、この二つ名を名乗るのが恥ずかしくなっちゃたわ。

だから、悔しいけど"疾影"の二つ名は君に譲るわ。君は今日から"疾影"……

ううん、私を超えているのだから……"疾牙影爪のコウスケ・E・アビスゲート"と名乗るといいわ!」

何故か上から目線の二つ名譲渡。これには浩介もどう反応したらいいか分からなかった。が、その時。

 

ハジメ「何言ってんだよ、ラナ。此奴の二つ名は、"虚無葬送"だろ。

いつの間にか相手を無に帰す暗殺者、って意味の。」

まさかのハジメが二つ名論争に参戦。これには、流石のラナも退かざるを得ないかと思われた。

 

浩介「じゃあ"疾牙影爪"で!」

ハジメ「ナァズェダァァァ!?」

が、浩介にとっては綺麗なウサミミお姉さんからの名づけの方がよかったようだ。魔王、撃沈。

「ウゾダドンドコドーン!」と叫びながら落ち込むハジメを、ユエ達が温かい視線で出迎えた。

そして二つ名づけとはいえ、敬愛する魔王陛下を負かしたラナにハウリア達は驚愕する。

 

しかし、それと同時に、浩介がラナのつけた二つ名を選んだ理由を察した。

「こいつ、落とされていやがる!」と。だって、浩介のラナを見る目が熱を帯びているのだから!

その理由に漸く気づいたラナも、ちょっと頬を染めつつ、周囲のハウリア女性達からニヤニヤ笑いと冷やかしを受けていた。

勿論、我等が魔王もそれに気が付かない筈もなく。

 

ハジメ「ほうほう、それなら俺が負けても仕方がないねぇ~。お熱いことで。」

ラナ「!?」

浩介「ばっ、ハジメ!?おまっ、一体何言って!?」

ハジメ「とぼけんじゃないよ。俺がどれだけ女性陣に惚れられてきたと思ってんだ?

恋の始まりのサイン位、どうってことなく見抜けるわ!」

ハジメの鋭い指摘に、浩介は顔を赤く染めて俯き、ラナは頬をちょっと赤く染めてそっぽを向き、両者ともにその気持ちを誤魔化す。

が、分かりきった態度なので、周りからのニヤニヤ笑いが止まらない。

 

ハジメ「ねぇ、ラナ。どんな答えを出すかは君次第だけど、もう気持ちは――」

浩介「それ以上は止してもらおうか、南雲ハジメ。」

ハジメ「!」

作戦開始も近いので、苦笑いを浮かべながら助け船を出そうとしたハジメを、浩介の覇気のこもった声音が制止させた。

その声音は、ハジメに言葉を呑み込ませるに十二分の迫力があった。

思わず、誰もが視線を吸い寄せられる。

 

浩介「これは、俺の戦いだ。ここでお前にサポートされっぱなしじゃ、男として名が廃る。

俺自身の力で、勝ち取らなきゃいけないものなんだ。だから、お前は口を出すな。」

その迫力のある言葉には、確かな覚悟があった。

それを感じたハジメも、「承知した。」と頷き、その口を閉じた。

 

浩介「ラナインフェリナさん!」

ラナ「ひゃいっ!」

その覚悟の強さに思わず、声が上ずるラナ。しかし、浩介はそんな彼女に愛し気に眼を細めて言った。

 

浩介「どんなに残酷な答えでも、どんなに厳しい条件でも、構いません。

それが貴女の本心なら――俺はなんだろうと受け入れます!」

その雄叫びは、遠藤浩介の意地だった。

惚れた女性が敬愛を捧げる男を前に、貴女の気持ちを自分に向けさせて見せるという、一人の男としての意地だった。

 

その本気の気持ちに、ラナの顔がボバッと爆発したみたいに真っ赤に染まる。

ユエ達の『おぉ~。』という、なんか凄いものを見ている!という感嘆の声も上がった。

そして両者の上司であるハジメも、「いいねぇ~、これこそ青春だよ。」とご満悦な模様。

しかし、嬉しさと恥ずかしさで混乱したのか、赤面した表情でラナはとんでもないことを言い出した。

 

ラナ「……うぅ、そ、そんなに私がいいの?じゃなくて、ごほんっ!

そ、それほどまでにこの呪われた身を欲するとは……!

で、でも、私は陛下のものだし……じゃなくて、ごほんっ!あ、生憎だけど、我が身は既に"あの方"のもの!だから、ね?諦めて……じゃなくて、ごほんっ!か、影は影に、光は光に生きるのが定めというものよ!

で、でも、まぁ、陛下に傷の一つでもつけられるくらいなら……考えなくもない、かも?

じゃなくてっ、ごほんっ!

ふっ、そ、それでもこの身を欲するのならっ、最高最善の魔王に挑み、見事っ、勝ち取ってみなしゃいッ!」

 

もじもじ、そわそわしながらそんなことを早口で言ってしまったラナさん。

熱のせいか、眼がぐるぐる回っており、自分でも何を言っているのかが分かっていない状態だった。

その言葉を聞いていた周囲の者達の空気が、一斉に凍りつく。

さっきまで熱々ムードだったものが、恐怖の一言で冷め切ってしまっていた。

 

ハジメ「いや、なに言っちゃってんのォォォ!?」

何故か自分を試練の対象に組み込んだことに驚いたハジメの絶叫が、樹海に木霊した。

まさかの輝夜姫並みの難関に、自分の親友を飛び込ませるラナに思わず戦慄し、流石に止めさせようとした。

 

浩介「あい分かった!」

ハジメ「分からないで!?お前まで何言っちゃってんの!?ねぇ!?本気で俺がやったらマジでお前死ぬぞ!?

止めろよ!?俺、親友が玉砕する姿見たくねぇぞ!?帝国襲撃前なのに何覚悟完了しちゃってんのさ!?」

が、その言葉を聞いて既に覚悟を決めたのか、浩介は即座に力強く返答した。

既に彼の眼には【グリューエン大火山】以上の爆熱が籠っており、その本気度からハジメの焦り様が窺える。

実際、ハジメ以外に時間停止対策を持っている者はいないので、現状この中ではぶっちぎりにハジメは強い。

 

浩介「男の誓いに、訂正はないっ!!」

ハジメ「言っていることはカッコいいけど、タイミングってものがあるだろッ!?」

それでも浩介は止まらない。恋は盲目というが、この調子だと死の運命すら乗り越えそうなのが怖い。

が、その次の瞬間、ハジメの頬に微かな痛みが走った。それは……

 

浩介「吾輩は本気だぞ?我が魔王。」

浩介がいつの間にか持っていた小石で付けた傷であった。

どうやら、ハジメが焦って混乱している間に、小石で頬をかすめたようだ。

その本気と技量に、思わずハウリア達は勿論のこと、ユエ達もまさかの事態に驚愕する。

そして、僅かとは言え襲撃を喰らったハジメは……

 

ハジメ「……そこまで言うのならば、受けざるをえまい。」

そう言って沸き立つ面々を鎮めるかのように、覇気を出した。

ハジメ「良いだろう。本気でお前に相手をしてやる。生きて勝つ等と、甘い希望を持てると思うなよ?」

その圧は正に魔王そのもの、思わず光輝達も後退りしてしまうほどだった。

 

浩介「願っても無いこと!そうでなくては、彼女の思いにこたえられん!」

しかしそれでも尚、浩介の胸に宿る闘志は燃え盛っており、魔王の圧すら跳ねのける。

その結果、ハウリア達は浩介の実力に大興奮し、ラナに至ってはウサミミの先まで真っ赤に染まっていた。

それを見ていたユエ達は、「やれやれ。」といった表情で浩介を見ていたのであった。

 

その後、作戦優先ということで、ハジメと浩介の対決はまた後日ということになった。

そして今回の作戦の内訳を説明すると、こうだ。

1.ハジメ達が先に帝城へ先行、トラップの解除を密かにやる。

2.リリアーナにお守りをつけさせた上で、パーティーに参加。浩介のみ、別行動。

3.夜、ハウリア達は帝都並びに帝城に潜入、警備が手薄になる箇所があるので、そこから攻め入る。

4.警備兵達を始末しエリアの占拠が完了次第、照明を落とし、襲撃開始。

5.ハウリア達は帝国兵、特にガハルドを攪乱し、時間を稼ぐ。

その間に浩介がガハルドの懐からアナザーウォッチを盗み出し、その場から離脱する。

 

そして作戦の5.アナザーウォッチの奪取では、ハジメはチャンスは一度だと思ったのか、特製のゴーグルを開発し、エナジーアイテム『消失化』『紙一重』『豪運』とナーゴファンタジーのライドウォッチを、一緒に浩介に渡した。

このゴーグルには、ウォッチの放つ微弱な電磁波を察知する機能があり、それをつけた浩介は、ガハルドの

懐から正確にウォッチだけを特定できたのだ。

 

そして、技能とエナジーアイテムによって、極限まで気配を無くし、極薄の細さになってガハルドの懐へと侵入、そのままサッとウォッチを盗み出すことに成功した、という訳である。

豪運の効果に加えて、ファンタジーの透過能力もあり、被弾も無ければ途中で気づかれることも無かった。

正に気分は"成功確率0%なミッション"だった、とは浩介談。

 


 

ハジメ「という訳で、だ。お前さんの計画は全て、この通りだ。」

そう言って説明を終えたハジメは、浩介からアナザーウォッチを受け取ると、即座に握り潰した。

当然、アナザーウォッチは跡形もなく砕け散る。

 

ローブの女「ッ!…どうやら、今回はここまでのようだね……。」

ローブの女は苦い顔をして、手元から何かを取り出した。

ハジメ「逃がすと思うか?」

勿論、魔王様は逃がさない。即座に光線で手元の物を、女の腕諸共打ち抜いた。

 

ローブの女「チッ!これ、結構高かったのに……はぁ、割に合わない仕事だったなぁ~。」

すると、その打ち抜かれたものは謎の煙を発し、女の周囲一帯を覆いだした。

事前に未来予知でその危険性を察知したのか、加速技能で浩介と共にハジメはその場から退避した。

そして、一定の距離をとると、風魔法で煙を払ったが、既にそこに女の姿はなかった。

 

浩介「……逃げられたか。」

ハジメ「敢えて逃がしたのだよ。既にこちらは目的を達成した。

それに……向こうもそろそろ決着がつきそうだからな。早く戻ろう。」

この判断には理由がある。

もし、あの場所にとどまっていれば、またアナザーウォッチを生成されかねないからだ。

かといって、時間停止を使う訳にもいかなかったので、相手の逃亡を許すしか選択肢がなかったのだ。

それに、もうそろそろ下での戦闘も終わりそうだったので、ハジメは急いで浩介と共に戻ることにしたのであった。




ここまで読んでいただき、ありがとうございます。

遂に始まりました!ハウリアVS帝国が!
展開としては大体は原作と同じですが、アナザーウォッチ関連のことにつきましては、WEB原作には無くて書籍版にはあるといった感じの、云わば書き下ろしの段落になっております。
それだけあって、原作以上にハウリアが強化されていて、ガハルド涙目。
でもハジメさん脅迫したんだし、やられても是非もないよネ!

そして今回もMVPにして影の主人公、深淵卿こと遠藤浩介君が遂に参戦!
更にここでラナとの馴初め話も追加!魔王との一騎打ち、果たして浩介君の運命や如何に!?
後、忍殺ネタを入れたのは、彼が深淵卿だからです。だから私は謝らない。

それと、何故オンドゥルなのかというと、このお話を書き上げた時期がちょうど橘さんの叫び声のシーンが、ようつべで配信された日だからです。
因みに、女性タイムジャッカーの体系はウエスト以外、実に豊満であった。
さて、次回はハウリア達による交渉と、書籍版限定のシアの戦いから始まりますので、お楽しみに!

次回予告

暗闇の中、激闘の末に遂にガハルドを地に伏せたハウリア達。
その裏で、シアもまた家族の為に戦闘を開始したのであった。
全ては自分を家族として見守ってくれた皆の為、ウサミミ少女は戦槌を振るう!
そしてハウリアが帝国に叩きつける、その要求とは!

次回「襲撃Ⅹ/シア無双!」
目撃せよ、歴史の始まり!

ハジメ「シアのショータイムだぜ!」


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92.襲撃Ⅹ/シア無双!

ハジメ
「神を騙る悪が蔓延る異世界"トータス"にて、"最高最善の魔王"南雲ハジメは、ハウリアの襲撃と並行して行った奇策と、初恋に燃える浩介の活躍によって、見事ガハルドからアナザーウォッチを奪取する。
そしてハウリア達も、激闘の末にガハルドを地に伏せ、帝国最強の敗北を見せつけたのであった。
その裏で、最強のハウリアの戦いが、始まろうとしていた。」
ナイズ
「漸く戻って来たか……それで、相手は仕留めたのか?」
ハジメ
「いや、逃げられたよ。まぁ、今はこっちに集中したいからね。」
ナイズ
「む、そうか……。意外だな、お前が敵をとり逃すなんて。」
ハジメ
「煙幕の中で力奪われたら堪らんからな。まぁ、今はこっちの方が重要だし。」
ナイズ
「そうだな、そういえば……この後はどうするつもりだ?
目的のウォッチは回収済みだし、やることはもう……。」
ハジメ
「まだ、他に目的があるからな。取り敢えず、今はハウリアのターンだ。」
ナイズ
「それはまた……帝国も災難だな。では、第7章第11話」
ハジメ・ナイズ
「「それでは、どうぞ!」」


時間は少し遡る。

???「急げっ。パーティーで何かが起きている!一刻も早く陛下の下へ行け!」

しんとした帝城内に、焦燥の滲む怒声が響いた。

駆けながら声を張り上げたのは、ハジメにボロクソに言われた帝国軍第三連隊隊長グリッド・ハーフだ。

その後ろには、部下の兵士が20人ほど連なっている。

 

パーティー会場が暗闇に包まれたのとほぼ同時刻、彼等は帝城内にある宝物庫にて警備任務に就いているところだった。

宝物庫は帝城の地下深くにある。

そのため、彼等は地上で起きている異変から免れることができていたのだが……

警備の途中、突如異変を知らせる魔法具が反応し、慌てて出て来たのである。

 

この魔法具は、ガハルドが身につけている備えの一つだ。

起動した瞬間に、連動する他の魔法具の色が変わるというもので、具体的に何が起きているのかまでは分からない。

とはいえ、皇帝陛下自ら発する警告と緊急召集命令である。

何か異常で急迫した事態が起きているのは間違いない。

そして、その片鱗は、帝城内の異様な雰囲気が示していた。

 

帝国兵1「連隊長殿!どうなっているのですかないのですか他の部隊は!?何故誰もいないのですか!?」

そう、あちこちにいるはずの巡回も、同じく緊急召集を受けて飛び出してくるはずの詰め所の兵士達も、誰も合流しないのだ。

不安を隠しきれない部下の叫びに、グリッドもまた嫌な予感を覚えながら答える。

 

グリッド「とにかく、今は陛下の所へ急げ!勅命だぞ!」

やけに静かな帝城の敷地内。

途中、一時的に部隊から離れて、厠や食堂、資料庫などに行っていた者達が偶然にも合流していく。

彼等は一様に、グリッドの小隊を見つけてはホッとしたような顔を見せた。

 

最終的に30人程となったグリッド達は、帝城内部からの連絡路を通るルートで、パーティー会場のある建物へと飛び込んだ。

その直後、

シア「こんばんはです、帝国兵の皆さん。今夜はいい夜だと思いませんか?」

緊迫した状況に似合わない可憐な声が響いた。

 

グリッド「お前は……。」

グリッドが目を見開く。他の兵士達は息を呑んだ。

本来、使用人が忙しく行き交っているはずのエントランスは異様に静まり返り、そして、荘厳なシャンデリアと中央の階段の下にはただ一人、着飾った美少女がいたからだ。

 

モフモフなウサミミがぴこぴこと動き、一歩踏み出せばふんわり広がるワインレッド色のミニスカートドレス。

脚線美はもはや芸術的とすら言える。

にっこり微笑む美貌もさることながら、そのドレスとは正反対の淡青白色の髪が流れる様は神秘的だ。

愛玩用として人気のある兎人族の中でも頗る付きの上玉。

やって来たのがグリッドだと気が付いた直後から、顔を伏せて震えている姿も嗜虐心をそそる。

 

グリッド「チッ。構っている暇はない。行くぞっ!」

だがそこは連隊長。千を超える部隊を率いる権限を与えられた者だ優先すべきことを弁え、兎人族の少女--

シアを無視して会場へ行こうとする。

だが、その足は止まった。止められた。

 

シア「くふっ、ふふふっ、あはははははっ!」

震えていた理由が、恐怖ではなく、笑いを堪えるためだと分かったから。

グリッド「何がおかし--」

シア「なんという、なんという僥倖ですか!まさか、やって来るのが貴方だなんて!」

グリッド「……どういう意味だ?」

シア「嬉しい、という意味ですよ!」

シアに、会えて嬉しいと言われて悪い気のする男はいないだろう。

だが、この時ばかりは、グリッドは微塵もそう思わなかった。むしろ、肌が粟立った。

 

シア「今、私の家族が皇帝さんを襲撃しています。助けに行きたければ、私を倒すしかありません。」

帝国兵1「連隊長殿!いつまで足を止めておられるのですか!こんな兎人族如き、無視して行きましょう!」

じれた兵士の一人が、シアの言葉を戯れ言と切って捨てた。そして、さっさと進もうと駆け出す。

忠誠心の厚い彼は、一刻も早くガハルドのもとへ駆けつけたかったのだろう。

だが、シアの脇を抜けようとした彼は、

 

シア「私を倒すしかない。そう言いました。」

次の瞬間、姿を消した。直後、轟音が響いた。

グリッド達が、油を差し忘れた機械のようなぎこちなさで、音の発生源へと顔を向ける。

彼は、飛び散っていた。あたかも、泥団子を思いっきり壁にぶっけたかのように。

視線を戻せば、そこには拳を真横に突き出したシアがいる。

 

腰が入っているようには見えない。まして相手は非力な兎人族の、しかも少女だ。

なのに、ただ、無造作に突き出しただけの拳で、装備を身につけた大の男を、認識が追いつかないような速度で殴り飛ばした?

ごくりっと、生唾を呑み込む音がした。グリッドは、その一つが自分のものだと気が付けなかった。

気を、呑まれたのだ。あり得べからざる状況に。

 

シアは、微笑んだまま淡々と続ける。

シア「何故、私一人がここにいると思いますか?

会場に入るためには、絶対に通らなければならないこのエントランスで。」

言わずとも、先の部下を見れば分かる。駆けつけるだろう帝国兵を潰すためだ。

どれだけ事前に制圧戦を上手くやろうとも、取り零しは必ず出る。

ガハルドとの決戦中、ましてやハジメのアナザーウォッチ争奪中に乱入されるのは、たとえ小隊規模でも避けたいところ。

 

だから、ハウリア族は、単体最強戦力を一人、この場所に配置したのだ。

そう、族長の娘にしてハジメの仲間である、最強のハウリア――シアを。

キラリとシアの指輪が輝きを放つと、グリッド達がハッと我を取り戻す。

同時に、シアの手中には相棒の巨大戦槌"ドリュッケンSH-2068"が出現する。

 

その持ち手を握り込み、手首の返しだけで回転させる。それだけで轟々と風が吹き荒れ、衝撃が迸る!

その様は正に、暗黒の月夜に舞う首狩り姫――ウサミミの死神と言っても過言ではない。

因みに、後にそう呼ばれたことを聞いたシアは「不本意ですぅ!」と怒っていた。

尤も、ハジメさんは「奥様は死神、かぁ……俺、魔王だし良いと思うけどなぁ?」と言っていたが。

 

シア「貴方と貴方の部隊が相手なら、改めて名乗っておきます。

私はシア。シア·ハウリア。かつて貴方達が取り逃がしてしまった――

化け物です。」

にっこり笑い、誇らしげに名乗りを上げ、凶悪な戦槌を肩に担ぐ。

そして、誘うようにスッと片手を差し出して、たおやかな指先をクイックイッと曲げる。

誤解などしようもない。誰にだって分かる。すなわち、"相手してやるからかかってこい!"と。

言葉を失っていたグリッドの額に青筋がくっきり浮かび上がった。

 

グリッド「化け物、だと?兎人族如きが舐めた口をっ!」

確かに、普通の兎人族とは違う。だが、それでも所詮は兎人族。

魔法一つ使えない憐れな種族の、その中でも最弱だ。

そんな"兎人族如き"に気圧されていたという事実に、プライドを痛く傷つけられたらしいグリッドは咆えた。

 

グリッド「お前達っ、勅命の前だ!あの兎人族は殺して先へ進む!多少力が強かろうと所詮は亜人!

魔法で仕留めろ!」

即応したグリッドの部下が詠唱開始。部下数人が、今度は油断なくシアへ強襲をかける。

そんな彼等に、シアは招き手を握って逆さにすると指を下に突き下ろし、

 

シア「ウッサウサにしてやんよ、ですぅ!」

踏み込んだ。爆ぜる鉱石の床。刹那、吹き飛ぶ前衛。そして、シアの姿は後衛の目前に。

帝国兵2・3「「ッ!?」」

驚愕に目を見開く後衛二人。次の瞬間、横殴りの暴風により彼等の上半身だけが吹き飛んだ。

戦槌の常軌を逸したスイング速度と威力により、上半身だけ千切れ飛んだのだ。

更に、振り抜かれたドリュッケンSH-2068から衝撃が迸り、その余波だけで三人が内臓に致命傷を食らう。

一拍遅れて血のシャワーが降ってくるが、その時には、シアは既に先程強襲をかけて来た前衛二人の前にいた。

 

帝国兵4「しまっーー」

帝国兵5「なんだ、今の――」

ようやく起き上がった二人の頭部は、ドリュッケンSH-2068の一撃でピンボールと化す。

血の雨が降り注ぐ中、それを頭から被ったグリッドがようやく指示を出す。

 

グリッド「散開!散開だ!」

密集していては、まとめて薙ぎ払われる。シアの異常な膂力からそう判断したのだろう。

シアを中心にして周囲へ散らばる兵士達。

シア「うりゃ!」

可愛らしい掛け声とは裏腹に、凄まじい速度で投げられたドリュッケンSH-2068は、そのまま帝国兵一人を壁の染みにした。

 

武器を手放したと喜色を浮かべるグリッド達だったが、それは間違いだった。

シアが大きく腕を振ると、帝国兵の体にめり込んでいたドリュッケンSH-2068が引き寄せられるように飛び出した。

よく見れば、彼女の手元には柄の先端が握られており、その柄からはドリュッケンSH-2068側の柄へ鎖が伸びている。

手元の柄をパージして、特殊なフレイルのように変形する機構だ。

 

帝国兵6「今だっ!」

帝国兵7「死ねっ!」

完全に引き戻す前に!と帝国兵二人が襲いかかる。シアは手元の柄にあるトリガーを引いた。

その瞬間、空中にあるドリュッケンSH-2068から連続した炸裂音。

打撃面から放たれた弾丸が、迫っていた二人を背後から見事に撃ち抜く。

ドシャッと崩れ落ちる二人を飛び越えて、反動で宙を舞ったドリュッケンSH-2068を空中キャッチするシア。

即座に射撃モードで連続発砲。更に五人が血の海に沈む。

 

帝国兵8「このっ、食らえ!化け物め!」

仲間の死を見せつけられながらも完成した魔法"緋槍"10連。

散開した帝国兵達の絶妙な連携による包囲射撃。迫る炎の槍十本を前に、シアは――

 

シア「しゃらくせぇです!」

大回転一発。膂力と遠心力を最大限に生かした回転打撃。

衝撃と暴風が竜巻のように吹き荒れ、急迫した全ての"緋槍"を吹き飛ばす!

 

帝国兵9「馬鹿なっ!?」

帝国兵10「あり得ない!」

亜人に対する絶対的なアドバンテージ。その魔法が、まさに鎧袖一触。

思わず絶叫した兵士達だったが、次の瞬間、物言わぬ屍となった――

顔面に、拳大の鉄球がめり込んだために。

 

シアが"宝物庫"から虚空に取り出した鉄球を、ドリュッケンSH-2068で弾き飛はじばしたのだ。

あっと思った時には、更に二人、接近したシアの殴打を受けて体をひしゃげさせていた。

開戦してまだ一分も経っていない。なのに、戦力は既に半分以下。

 

グリッド「こんなこと、あってたまるかっ!」

己を奮い立たせるように雄叫びを上げて、グリッドが斬りかかる。

流石は連隊長というべきか。身体強化した踏み込み、斬撃は見事の一言。

シアが兵士の一人に攻撃を加えた後を狙うというタイミングも素晴らしい。

もっとも、それでもこのバグウサギには届きはしないのだが。

 

グリッド「なっ!?」

ガッと、斬撃が阻まれた。

ドリュッケンSH-2068を振り下ろした反動で跳ね上がった片足の、ヒ1ル部分と靴底の間で挟むようにして受け止められたのだ。

シアは剣を挟んだまま、体を一回転。グリッドは剣ごと巻き込まれるようにして体勢を崩した。

刹那、ズドンッと腹に衝撃。シアの拳がボディブローを決めていた。

 

グリッド「かはっ!?」

体をくの字に折り曲げ、よたよたと後退りするグリッド。

その腹に、今度はハジメ直伝のヤクザキックが炸裂。

グリッドは血反吐を吐きながら壁際まで吹き飛ぶ。手加減でもされたのか、即死はしなかった。

 

グリッドは、意識を辛うじて繋ぎ止めながら、激痛の中、部下が一人また一人と吹き飛んでいく光景を目の当たりにする。

……誰も動かなくなるまで、30秒もかからなかった。カッカッカッとヒールが床を打つ足音が響く。

目の前に、返り血一つ浴びていない化け物ウサギがいた。

 

グリッド「ま、まて……まってくれ……!」

血を吐きながらの命乞い。目の前の存在が理解できない。恐怖で体が震える。

自分は、あのとき、一体何を逃してしまったのか。

無防備にも樹海の外をうろついていた兎人族の群れを、これ幸いと追い回した。

絶望を与えるように、男や老人は目の前で殺してやった。

それで、最弱種族のウサギ共は心折れて屈服するはずだった。

 

【ライセン大峡谷】に逃げ込んでも生き残れる可能性などなく、逃げて疲れて、そうして最後には部下が捕らえてくるはずだった。

珍しい髪色の、とびっきりの上玉。蹂躙してやれば、どんな声で泣くか。

仲間に見せびらかしてやろうと思っていたのに……自分は、こんな化け物に手を出そうとしていたのか?

胸元を摑まれた。軽鎧とはいえ金属製のそれが、まるで粘土のようにぐしゃりとひしゃげる。

即席で摑みやすい形状が作られた。

 

グリッド「た、たのむっ。たすけてくれ!そ、そうだっ!あのとき、捕らえた連中の居場所を教えてやるっ!

俺を殺したら、取り戻せなく「もう、語るべき言葉は持ちません。」!?」

グリッドの命乞いをばっさり切るシア。片手で持ち上げ宙づりにする。

思うところが、ないわけではないのだ。恨み辛みはたくさんある。

 

だから、楽に死なせてやるものかと無意識の内に手加減してしまって、彼を最後に残すことになってしまった。

だが、復讐に身を焦がし我を失うようなことは、ハウリアとして、何よりハジメの仲間として、シア自身が許せない。

 

だから、この一撃。この一撃で、全てを打ち払う!

シア·ハウリアが、樹海に生まれた化け物が、また一歩、前に進むために!

グリッドを上に投げると同時に、大きくドリュッケンSH-2068を振りかぶる。

そして、ニッと、まるで愛しい彼のように不敵に笑ったシアは、

 

シア「月までぶっ飛びな!ですぅ!」

グリッド「やめっーー」

刹那、轟音が響くと同時に、ピンボールのように吹き飛んだグリッドは、そのままエントランスの天窓を突き破って外へと消えた。

 

破片振り散る天窓から見えるのは、今夜の月――繊月。

シアの言葉通り、グリッドは薄笑いする月に向かって消えていったのだった。

それを確認したシアは、轟ッと風を唸らせドリュッケンSH-2068を一振り。

 

シア「……みんな……少しは報いることができましたか?」

今はもういない、失った家族。シアのために、故郷すら捨てた大切な人達。

彼等を想い、シアは少しの間、瞑目した。

しばらくして、シアのウサミミがドタドタと駆けてくる複数の足音を捉えた。

どうやら、まだ少し取り零しの兵士がいるようだ。

 

スッと目を開いたシアは、神妙な表情を再び不敵なものへと変える。帝国兵が扉を開いてやって来た。

エントランスの惨状に息を呑んでいる。そんな彼等へ、シアは誇りを胸に宣戦布告した。

シア「覚悟はいいですか?目の前にいるウサギは····想像を絶するほど強いですよ?」

それからしばらく、念話で連絡が来るまで、樹海に生まれた化け物ウサギの無双劇は続いたのだった。

 


 

ガハルド「ッ!毒か……!」

パーティー会場に、ガハルドの苦悶の声が響く。

誰もが、帝国における不敗の象徴――皇帝ガハルドの敗北に呆然とする中、ハウリア族の一人が、倒れ伏すガハルドにスっと近寄る。

そして、視力と一応聴力を回復させる薬をガハルドに施した。これからの交渉に必要だからだ。

 

カム「ふん、魔物用の麻痺毒を散布してここまで保つとはな。」

ガハルド「くそがっ、最初からそれが狙いだったか……。」

衣服に仕込まれた魔法陣やアーティファクトも全て取り除かれ死に体となったガハルド。

視力と聴力が回復してきたところでカムから体の不調の原因を聞かされて悪態をつく。

 

そんなガハルドに、突如、頭上から光が降り注いだ。

ハウリア達の装備の一つでフラッシュライトのようなものだ。

それがまるでスポットライトのようにガハルドを照らしているのである。

 

リリアーナ『どどど、どういうことですか!?は、ハジメさん!これは一体!?』

ハジメ『言った筈さ、リリィ。これが俺達のやり方だよ。そして――あいつ等の目的さ。』

手足の腱を切り裂かれ、魔法陣の破壊の為にあちこち衣服を切り裂かれて、地に伏せるガハルドが光に照らされて現れたのを見て動揺するリリィを、浩介と共に戻ってきた俺は落ち着かせていた。

 

襲撃の際、皇太子バイアス(発情ゴリラ)の傍らにいたリリィを、襲撃と同時にユエがゲートで回収してくれたのだ。

因みにユエ達は、ハウリアの作戦の邪魔にならないよう、皆会場の隅に避難していた。

途中で俺と浩介は、野暮用がてら外出したが。

 

カム「さて、ガハルド・D・ヘルシャーよ。今生かされている理由は分かるな?」

ガハルド「ふん、要求があるんだろ?言ってみろ、聞いてやる。」

カム「……減点だ。ガハルド。立場を弁えてもらおうか。」

姿は見えず、パーティー会場全体に木霊するように響き渡るカムの声。

 

這い蹲るガハルドに声をかけたカムだったが、ガハルドは横柄な態度で返す。

その態度にどのような形で返してくるかも、ガハルドは知らずに。

そして、僅かな間の後、無機質な声音で忠告を発した。

 

突如、ガハルドから少し離れた場所にスポットライトが当たる。

そこには、ガハルドと同じく手足の腱を切られ、詠唱封じのために口元も裂かれた男の姿があった。

その男にスポットライトの外から腕だけが伸びてきて髪を掴んで膝立ちにさせたかと思うと、次の瞬間には、男の首が嘘のようにあっさりと斬り飛ばされた。

 

ガハルド「てめぇ!」

カム「減点。」

思わず怒声を上げるガハルド。生き残り達が悲鳴を上げ、息を呑む。

しかし、そんなガハルドの態度に返ってきたのは機械じみた淡々とした声。

そして、再び別の場所にスポットライトが降り注ぎ、同じように男の首が刈り取られた。

 

ガハルド「ベスタぁ!このっ、調子にのっ――」

カム「減点。」

側近だったのか、たったいま首を刈り取られた男の名前を叫び、悪態を吐くガハルドだったが、それに対する返しは、やはり淡々とした声音と刈り取られる男の首だった。

 

ガハルド「……。」

ギリギリと歯ぎしりしながらも押し黙り、それだけで人を殺せそうな眼光で前方の闇を睨むガハルド。

そんなガハルドに、やはりカムは淡々と話しかける。

 

カム「そうだ、自分が地を舐めている意味を理解しろ。判断は素早く、言葉は慎重に選べ。

今、この会場で生き残っている者達の命は、お前の言動一つにかかっている。」

その言葉と同時に、いつの間にかスポットライトの外から伸びてきた手が素早くガハルドの首にネックレスをかけた。

細めの鎖と先端に紅い宝石がついたものだ。製作者は誰かって?当然俺だが?何か問題でも?

 

カム「それは"誓約の首輪"。

ガハルド、貴様が口にした誓約を、命を持って遵守させるアーティファクトだ。

一度発動すれば貴様だけでなく、貴様に連なる魂を持つ者は生涯身に着けていなければ死ぬ。

誓いを違えても、当然、死ぬ。」

 

同時に、皇帝一族の人間は既に全員確保しており、同じアーティファクトが掛けられていると伝えるカム。

それを聞いたガハルドは、苦虫を万匹くらい噛み潰したような表情になった。

カムがガハルドの首にかけた"誓約の首輪"。

これは以前、旧教会の焙り出しに使った"真実の鏡(Mirage Of Truth)"を応用したもので、魂魄魔法を生成魔法によって付与した宝石と鉱石で作ったものだ。

こいつには、付与された魂魄魔法で、口にした誓約を魄レベルで遵守させる効果を持つ。

 

まぁ、具体的には、発動状態で口にした誓約が直接魂魄に刻まれ、誓約を反故にしたり"誓約の首輪"を外したりすれば魂魄自体が強制霧散、つまり消滅することになる。

また、"連なる魂を持つ者"――すなわちガハルドの一族に対しても効果があり、同じく"誓約の首輪"を着けなければ死ぬ事になる。

要するに、皇帝一族全員に、末代まで誓約を守らせるというアーティファクトというわけだ。

尚、姻族に対しては別途アーティファクトが必要だが。

 

ガハルド「誓約……だと?」

カム「誓約の内容は4つだ。

1つ、現奴隷の解放、2つ、樹海への不可侵・不干渉の確約、3つ、亜人族の奴隷化・迫害の禁止、4つ、その法定化と法の遵守。

理解したか?いや、理解しろ。そして、"ヘルシャーを代表してここに誓う"と言え。それで発動する。」

全く、樹海に攻め込んでいなければ、このような強引な手段を使わなくとも済んだものを……

無理に欲張るからこうなるのだよ。

 

ガハルド「呑まなければ?」

カム「今日を以て帝室は終わり、帝国が体制を整えるまで将校の首が飛び続け、その後においても泥沼の暗殺劇が延々と繰り返される。

我等ハウリア族が全滅するまで、帝国の夜に安全の二文字はなくなる。

帝国の将校達は、帰宅したとき妻子の首に出迎えられることになるだろう。」

はっはっはっ、中々面白い地獄絵図だな。まぁ、ガハルドはその程度で納得はしないだろうがな。

 

ガハルド「帝国を舐めるなよ。俺達が死んでも、そう簡単に瓦解などするものか。

確実に万軍を率いて樹海へ侵攻し、今度こそフェアベルゲンを滅ぼすだろう。わかっているはずだ。

帝国が本気になれば、それが可能だと。奴隷を使えば樹海の霧を抜けることは難しくない。

戦闘は難しいが、それも数で押すか、樹海そのものを端から潰して行けば問題ない。

今まで、フェアベルゲンを落とさなかったのは……。」

 

ハジメ(畑を潰しては収穫が出来なくなるから……か。)

カム「畑を潰しては収穫が出来なくなるから……か?」

成程、この上なく豪言不遜よなぁ……。人の領地を畑扱いとは……ならば貴様等は畑泥棒か。

道理でやり口が汚いわけだ。

 

ガハルド「わかってるじゃねぇか。今なら、まだ間に合う。

たとえ、奴の力を借りたのだとしても、この短時間で帝城を落とした手際、そしてさっきの戦闘……

やはり貴様等を失うのは惜しい。奴隷が不満なら俺直属の一部隊として優遇してやるぞ?」

もう面倒だな、コイツ。さっきから好き勝手に勧誘だのナンパだの……

こんなのがよくトップで持ったな、この国。

 

カム「論外。貴様等が今まで亜人にしてきた所業を思えば信じるに値しない。

それこそ"誓約"してもらわねばな。」

ガハルド「だったら、戦争だな。俺は絶対、誓約など口にしない。」

どうだ?と言わんばかりに口元を歪めるガハルドに、カムは、どこまでも機械的に接する。

 

カム「そうか。……減点だ、ガハルド。」

再度、その言葉が発せられ、降り注いだスポットライトに照らし出されたのは……

バイアス「離せェ!俺を誰だと思ってやがる!この薄汚い獣風情がァ!皆殺しだァ!お前ら全員殺してやる!

一人一人、家族の目の前で拷問して殺し尽くしてやるぞ!女は全員、ぶっ壊れるまでぇぐぇ――」

あっ、皇太子バイアス(発情ゴリラ)の首が飛んだ。




ここまで読んでいただき、ありがとうございます。

前半は書籍版であったシア無双です。シアの戦い方のスタイルとしては、以下の3つがあります。
拳撃型――文字通りのワンパン
戦槌型――ドリュッケンによるミンチ
気功型――かめ○め波みたいな感じ。
三つめは正直、氷雪洞窟でしか出せなさそうなので、基本的に2スタイルと思ってもらって構いません。

後半は最後が尻切れトンボになっていますが、残り2話で第7章は終わりです。
その残り2話で、ハウリアと帝国の交渉、その後のことについて進めていきますのでお楽しみに!

次回予告

遂に地に伏せられたガハルド。ハウリア達は同胞の為、とんでもない手段で要求を通そうと試みる。
果たして、その作戦とは!?それに対するガハルドの返答は!?そして、ハジメのもう一つの狙いとは一体!?
血の惨劇となった帝都で、陰謀の全てが明らかとなる!その結末は、勝利か、敗北か!?
これが、ハウリア達の集大成だ!

次回「かちどきうさぎ」
目撃せよ、歴史の始まり!

ハジメ「キバって行くぜ!」


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93.かちどきうさぎ

ハジメ
「神を騙る悪が蔓延る異世界"トータス"にて、"最高最善の魔王"南雲ハジメは、ガハルドからアナザーウォッチを見事奪取することに成功した。
そして現在、ハウリア達とガハルドの対話を聞いている所だ。
一方、別の場所で戦いに向かったシアは、かつての同胞たちの仇を見事討ち果たし、今も尚援軍相手に無双中である。」
オスカー
「あっ、今皇太子の首が転がっていったよ。」
ハジメ
「どうでもいいな、そんなこと。それよりもシアにそろそろ連絡入れるか。」
オスカー
「それもそうだね、欲深成金共がどうなろうと、僕等には関係ないし。」
ハジメ
「あぁ、話で聞いた奴等か。ああいうのは、末代まで祟られちまえばいいのにな。」
オスカー
「ハハハ、少なくともあっちで苦しんでいる頃だよ。こっちはこっちで謳歌させてもらうさ。」
ハジメ
「そりゃよかった。さて、シアもそろそろ片付くってさ。
取り敢えず、その辺の料理を保存食としてタッパーに詰めておくよ。」
オスカー
「吞気過ぎないかい?まぁ、いいけどね。それじゃあ、第7章第12話」
ハジメ・オスカー
「「それでは、どうぞ!」」


ガハルド「……。」

カム「あれが次期皇帝。お前の後釜か……見るに堪えん、聞くに堪えん、全く酷いものだ。」

ガハルド「……言ったはずだ。皆殺しにされても、誓約などしねぇ。怒り狂った帝国に押し潰されろ。」

ガハルドの表情に変化はないな……内心は知らんが、表面上は何も感じていないように取り繕っているな。

 

カム「息子が死んでもその態度か。まぁ、元より、貴様に子への愛情などないのだろうな。

何せ、皇帝の座すら実力で決め、その為なら身内同士の殺し合いを推奨するくらいだ。」

カムの言う通り、帝国では皇帝の座をかけた身内での決闘が認められている。

その決闘においてならたとえ相手を殺しても罪には問われない。

 

トレイシーからも聞いたが、強弱だけで決めたところで、政務方面が無能であればそれこそ愚の王朝だ。

それに、ガハルドには正妃の他にも側室が大勢おり、バイアスも正妃の息子というわけではなく側室の子ではあるが、決闘により実力を示したために皇太子となったそうだ。

まさに、実力至上主義、強い者に従え!というわけか。

 

元よりガハルドには、強いか弱いかが基準であり、息子娘に対して人並みの愛情は持っていないという噂があったりするらしく……

特に感情を押し殺しているようには見えないので、本当なのかもしれない。

むしろ、先程の側近の時の方が怒りをあらわにしたくらいだ。カムの言葉に、ガハルドは鼻を鳴らす。

 

ガハルド「わかってんなら無駄なことは止めるんだな。」

カム「そう焦るな。どうしても誓約はしないか?これからも亜人を苦しめ続けるか?

我等ハウリア族を追い続けるか?」

ガハルド「くどい。」

あ~あ……さっさと負けを認めておけば、被害がこの程度で済んだものを……。

そう思いながら、俺はカムに密かにサインを送った――存分にやれ、遠慮はいらない、と。

 

カム「そうか……残念だ。――"Δ1(デルタワン)、こちらα1(アルファワン)、やれ。"」

――α1(アルファワン)、こちらΔ1(デルタワン)。了解

突然、ガハルドにとって意味のわからないことを言い出したカム。

訝しそうな表情になるガハルドだったが、次の瞬間、腹の底に響くような大爆発の轟音が響き渡り、顔色を変える。

 

ガハルド「っ!?なんだ、今のは!」

カム「なに、大したことではない。奴隷の監視用兵舎を爆破しただけだ。」

ガハルド「爆破だと?まさか……!」

ほぅ、ここで爆発か……いいねぇ、爆発はロマンだ!そのまま連続爆破といこうか!

 

カム「ふむ、中には何人いたか……取り敢えず数百単位の兵士が死んだ。ガハルド、お前のせいでな。」

ガハルド「貴様のやったことだろうが!」

カム「いいや、お前が殺ったのだ、ガハルド。お前の決断が兵士の命を奪った。

そして……"Δ1(デルタワン)、こちらα1(アルファワン)、やれ。"」

清々しい程の責任転嫁をしたカムは再び、ガハルドにはわからない言葉を呟く。

するとガハルドは、その言葉に咄嗟に制止の声をかける。

 

ガハルド「おい!ハウリアっ!」

しかし、ガハルドの言葉も虚しく、二度目の轟音。帝城内ではない。帝都の何処かで大爆発が起きたのだ。

感情を押し殺した声音でガハルドが尋ねる。

 

ガハルド「……どこを爆破した?」

カム「治療院だ。」

ガハルド「なっ、てめぇ!」

カム「安心しろ。爆破したのは軍の治療院だ。死んだのは兵士と軍医達だけ……

もっとも、一般の治療院、宿、娼館、住宅街、先の魔人族襲撃で住宅を失った者達の仮設住宅区にも仕掛けはしてあるが、リクエストはあるか?」

いいねぇ、正に圧政への倍返し!それでこそ、我が忠臣達よ!

 

ガハルド「一般人に手を出してんじゃねぇぞ!堕ちるところまで堕ちたかハウリア!」

カム「……貴様等は、亜人というだけで迫害してきただろうに。

立場が変わればその言い様か……"Δ(デルタ)、やれ。"」

ガハルド「まてっ!」

亜人族を帝国全体で迫害しておいて、今更関係のない一般人はないだろう?と若干、呆れ気味の声を出すカム。

そして、容赦なく命令を下す。これはガハルドが悪い。

お前だってアナザーウォッチで脅してきたじゃねぇか。なら、やり返される覚悟もあるってことだよな?

 

そして、三度起きた爆音に、ガハルドは今度こそ、帝国の民が建物ごと爆破されたと思い込んで歯ぎしりをしていた。

もっとも、実際に爆破されたのは帝城に続く跳ね橋だったりする。

帝都で爆破事件が起きれば帝城に報告が来るのは必定なので、唯一の入城ルートを破壊しておいたようだ。

 

更に言えば、カムの言葉は半ばハッタリで、軍と関係のない場所に爆弾を仕掛けたりはしていない。

この爆弾は、遠隔爆破しているわけではなく、帝都に潜入しているハウリア族の部隊が手動で爆破しなければならないので、そんなに多くの場所には元より設置できなかったのだ。

まぁ、遠隔操作爆弾なんてライダーの中だと、グレア位しか思いつかんし……

 

それに、たとえ遠隔操作が出来たとしても、カム達はそれを選ばなかっただろう。

何故かって?"帝国と同じにはならない"っていう矜持があるからさ。

必要なら何でもする、そうでないなら嘘ハッタリ詐術でも、使えるものは何でも使って相手を討つ。

それが今のハウリア、我が精鋭たちなのだ。

 

カム「貴様が誓約しないというのなら、仕方あるまい。

帝都に仕掛けた全ての爆弾を発動させ、貴様等帝室とこの場の重鎮達への手向けとしてやろう。

数千人規模の民が死出の旅に付き合うのだ。悪くない最後だろう?」

とはいえ、傍から見れば言っていることが完全にテロリストだ。

俺ここまで仕込んだつもりはないんだけどなぁ……前に会った、別世界の俺が仕込んだのかなぁ?

 

そして、容赦ない要求に、即断できず沈黙するガハルド。

その頭の中は目まぐるしく状況の打開方法を探っているのだろうが、妙案は一向に出てこないだろう。

苦みばしった表情と流れる冷や汗が、追い詰められていることを如実に物語っていた。

そして、そんな状態でもカムは全く容赦しない。返答が遅いと言わんばかりに命令を下す。

 

カム「"Δ(デルタ)へ、こちらα1(アルファワン)、や――"」

ガハルド「まてっ!」

ガハルドが慌てて制止の声をかける。

そして、苛立ちと悔しさを発散するように頭を数度地面に打ち付けると、吹っ切ったように顔を上げた。

 

ガハルド「かぁーー、ちくしょうが!わーたよっ!俺の負けだ!要求を呑む!

だから、これ以上、無差別に爆破すんのは止めろ!」

カム「それは重畳。では誓約の言葉を。」

要求が通ったというのに、やはり淡々と返すカム。ガハルドは、もはや苦笑い気味だ。

そして、肩の力を抜くと、会場にいる生き残り達に向かって語りかけた。

 

ガハルド「はぁ、くそ、お前等、すまんな。今回ばかりはしてやられた。帝国は強さこそが至上。

こいつら兎人族ハウリアは、それを"帝城を落とす"ことで示した。民の命も握られている。故に――」

生き残り達が、ガハルドの言葉を聞いて悔しそうに震えている。

そんな彼等を目に焼き付けるように見て、ガハルドは声を張り上げた。

 

ガハルド「――"ヘルシャーを代表してここに誓う!全ての亜人奴隷を解放する!

ハルツィナ樹海には一切干渉しない!今、この時より亜人に対する奴隷化と迫害を禁止する!

これを破った者には帝国が厳罰に処す!その旨を帝国の新たな法として制定する!"」

誓約は今、ここになされた。首輪に施された宝石が輝きを放つ。

そしてガハルドは、最後に皇帝として宣言した。

 

ガハルド「この決断に文句がある奴は、俺の所に来い!俺に勝てば帝国をくれてやる!後は好きにしろ!」

亜人族を今まで通り奴隷扱いしたければ、ヘルシャーの血を絶やせ!受けて立つ!か。

成程、本当に実力至上主義を体現した男だ。

もちろん、この判断には、要求を呑んでも亜人と関わりがなくなるだけで帝国側に害はないという判断も含まれているのだろうが、やはり、直接の戦闘で負かされたというのが大きいようだ。

 

カム「ふむ、正しく発動したようだ。」

その言葉と共に、会場の一角に集められていた、皇帝一族にスポットライトが降り注いだ。

本来なら会場にいないはずのまだ幼い皇太孫もおり、一様に首から"誓約の首輪"を身に着けている。

……ってあれ?トレイシー……君まで何故、白目をむいたまま立たされているんだい?

しかも、エグゼス諸共鎖でグルグル巻きって……何やらかしたのさ……。

 

カム「ヘルシャーの血を絶やしたくなければ、誓約は違えないことだ。」

ガハルド「わかっている。」

カム「明日には誓約の内容を公表し、少なくとも帝都にいる奴隷は明日中に全て解放しろ。」

ガハルド「明日中だと?一体、帝都にどれだけの奴隷がいると思って「やれ。」くそったれ!

やりゃあいいんだろう、やりゃあ!」

明日か……やれやれ、文官たちは過労死必死だな。

 

カム「解放した奴隷は樹海へ向かわせる。ガハルド。貴様はフェアベルゲンまで同行しろ。

そして、長老衆の眼前にて誓約を復唱しろ。」

ガハルド「一人でか?普通に殺されるんじゃねぇのか?」

カム「我等が無事に送り返す。貴様が死んでは色々と面倒だろう?」

ガハルド「はぁ~、わかったよ。お前等が脱獄したときから何となく嫌な予感はしてたんだ。

それが、ここまでいいようにやられるとはな。

…………なぁ、俺が、あるいは帝国が、そこまで気に入らなかったのかよ、南雲ハジメ。」

ガハルドが闇を見通すように私のいる場所を睨む。

 

が、私はそれを無視して、ミュウとリリィの頭を撫でてあやしながら、"今回は直接は関わっていないぞ~。"というアピールをする。

今は、ハウリア族が主役を張る舞台の開幕中だ。なら、ここで私が出張っては意味が無かろう?

精鋭達の晴れ舞台なのだ、下準備位は別に構わんだろう?

そんな私の態度を、光がないので見えないにも関わらず、答える気がないと察したのか、ガハルドは盛大に舌打ちする。

 

カム「ガハルド、警告しておこう。確かに我等は、我等を変えてくれた恩人から助力を得た。

しかし、その力は既に我等専用として掌握している。

やろうと思えば、いつでも帝城内の情報を探れるし侵入もできる。寝首を掻くことなど容易い。

法の網を掻い潜ろうものなら、御仁の力なくとも我等の刃が貴様等の首を刈ると思え。」

ガハルド「専用かよ。羨ましいこって。

魔力のない亜人にどうやって大層なアーティファクトを使わせてんだか……。」

 

ガハルドが苦虫を噛み潰したような表情をするのも無理はない。

なぜなら、亜人と他種族に格差をもたらしているのが戦闘における魔法行使の可能不可能である以上、その前提を崩しかねない亜人によるアーティファクトの使用という事態は由々しきことなのだ。

まぁ、ここにいるハウリア達は全員、私の地獄の特訓を潜り抜けてきた猛者達だからな。

魔力操作が使える以上、そんなもの関係ないだろう。

 

しかし、だからといって止めさせる事など出来るはずもなく、せいぜい悪態を吐くことしか出来ないだろうな。

「全く、何てことしてくれたんだ!」と、ガハルドが怒鳴りたそうにしていたが……自業自得だろう。

それにしても、魔王の精鋭たるハウリア族が、何処にでも侵入して暗殺できるというのも凄まじく信憑性がある話だな。

 

抑々だ、私はアナザーウォッチによる存在そのものを人質に取られていたのだ。

その腹いせとして嫌がらせはしたが、ハウリアの襲撃とは全くの無関係だぞ?

全く……人を疑うのも大概にしてほしいものだなぁ。

因みに、常時オーマジオウ状態だったのは、ガタキリバで生み出した分身体を小さくして、魔法トラップの解除と、"遠透石"を使用したカメラの設置、侵入場所の映像を"水晶ディスプレイ"に送るためのビーコン設置を行っていたからだ。

 

ガッツリ関わっていたじゃないか、だって?とんでもない!

カメラやビーコンは嫌がらせ序でに置いて行ったにすぎない。

それを偶々ハウリア達が勝手に利用しただけだ。

そして、無数に設置された監視カメラの映像は、帝都の外にある司令部に設置されたいくつもの水晶ディスプレイに映し出されて、ハウリア族のオペレーター達が各部隊に"改良版念話石"で通信し、的確で効率的な制圧を可能にしたのだ。

 

そして、この"改良版念話石"こそ、ガハルドが歯噛みする亜人でも使えるアーティファクト一号だ。

原理は至って簡単だ。

まず、生成魔法により、緑光石や神結晶といった魔力を溜め込む性質の鉱石に"高速魔力回復"を付与、自動回復機能付き魔力タンクを組み込み、同時に"魔力放射"を付与することで常に自然の魔力の収集と放出を繰り返す。

 

そして、発動用魔法陣を敢えて一部欠けた状態にし、スライド式スイッチを動かすことで、欠けた魔法陣が完成・正しく魔法が発動する、というわけだ。

更に、魂魄魔法やステータスプレートの血に反応する機能を応用して、登録者の血にしか反応しないように出来ている。

 

これだけで、他の亜人族でも使用可能なアーティファクトが作成できるようになる。

因みに、これらはいわば試作品で、本命はミュウやレミア、それに愛ちゃん先生やリリィ達の為の護身アーティファクトだ。

王都では光輝達の強化に専念していたので、皆の専用武器を作るのをすっかり忘れていたからな……。

 

そして、これによりハウリア達は、帝都外に設置した司令部や各部隊と綿密な連携を取ることができるようになったというわけだ。

そのため、帝城侵入に際して、ハウリア族専用の隠しカメラも設置済みである。

更に極めて目立たない仕様になっているから、発見は困難だろう。

 

そして、また、同様の原理で作った、鍵型アーティファクト"ゲートキー"と鍵穴型アーティファクト"ゲートホール"も渡してある。

この2つは対になっていて、ゲートキーは、光沢のある灰色をした掌サイズの鍵状金属プレート、ゲートホールは同じ色合いのチャクラムの様な形状だ。

 

そして、まず手元の魔法陣に魔力を注いでゲートキーを空間に突き刺し、希望のサイズになったら文字通り鍵のように捻って"開錠"することで、あらかじめ設置しておいたゲートホールの場所に空間を繋げるゲートを開き、転移することが出来るというものだ。

 

勿論、これは空間魔法・生成魔法・そして魂魄魔法のコンボで作り出したものである。

ゆくゆくはこれを冒険者ギルドに設置し、被害の大きい地域の復興に、迅速に迎えるようにしたいものだ。

まぁ、まさかここで最初に使われるとは誰も思ってはいなかっただろうなぁ……。

因みに、ゲートホールはカメラと一緒に、私が至るところに隠蔽しながら設置しておいたので、ハウリアはいつでもゲートを開いて帝城内に侵入できる。

 

本当に、帝国側からしたら「何ということをしてくれたんだ!」という状態だろう。

まぁ、"気断石"という石ころ帽子擬きもあったから、それと魔力操作さえあれば、誰でも潜入できそうなので、そこらへんはなんとも言えん。

それに、ゴーグル型で魔法トラップを探査できるアーティファクト"フェアグラス"をハウリアに配備してあるので、魔力操作無しでも、回避は可能だ。

 

カム「案ずるな、ガハルド。ハウリア族以外の亜人族にアーティファクトが渡ることはない。

お前が誓約を宣誓したところで、調子に乗って帝国を攻めることなど有り得んよ。

もしそうなったら、我等ハウリア族の刃はフェアベルゲンの愚か者に振るわれるだろう。」

その言葉に、ガハルドは、ハウリア族がフェアベルゲンとも独立して、ただひたすら亜人族(実際には兎人族だが)の不遇改善と戦争の回避を望んでいると察したようだ。

まぁ、敗者だからと言って絞めつけ過ぎはよくないからな。

あまり追い詰めすぎると、何をしでかすかもわからん。

 

ガハルド「そうかい。よーくわかったよ。だから、いい加減解放しやがれ。

明日中なんて無茶な要求してくれたんだ。直ぐにでも動かなきゃ間に合わねぇだろうが。」

カム「……いいだろう。我等ハウリア族はいつでも貴様等を見ている。そのことをゆめゆめ忘れるな。」

その言葉を最後に、スポットライトが消え、会場を静寂が包み込んだ。

 

シア「ハジメさん。」

私が隣を見れば、シアが戻ってきていた。先程、決着がついたと念話で知らせておいたのだ。

どこか、雰囲気が変わったような、一皮むけたようなシアの微笑みに、俺は一瞬、見惚れてしまった。

シア「全部、終わりましたよ。」

その言葉に、どれほどの意味が含まれているのか正確な所は分からない。

それでも私は、ふっと笑い返して、言葉を贈った。

 

ハジメ「頑張ったね、お疲れ様。」

それを聞いたシアの笑顔がとびっきりに輝いた。

そして同時に、気配感知がハウリアの撤退を知らせ、念話石を通じて通信が入った。

 

カム『陛下。こちらα1(アルファワン)。全隊撤退します。

数々のご助力、感謝のしようもありません。』

その通信に、小さく笑って返す。

 

ハジメ『お前等は俺の民だからな。それに、シアのためでもある。気にする必要はない。

それと、、まだ全て終わったわけじゃない。気を抜くな。むしろ、これから先こそが本当の戦いだ。

"皇帝一族を排しても"等とほざく愚者がいないとも限らんからな。』

カム『心得てますよ、陛下。元より、戦い続ける覚悟は出来ています。

この道が、新生ハウリア族が歩むと決めた道ですから。』

覚悟と覇気に満ちたカムの言葉に、思わず口元が吊り上がる。

そして、混じりけのない純粋な称賛を贈った。

 

ハジメ『そうか。覚悟は決まったか……是非もなし。全ハウリア族へ告ぐ。』

一拍。

ハジメ『天晴なり、我が精鋭達よ!』

自分達を導いた敬愛する陛下の、掛け値なしの賛辞。

全ハウリア族のウサミミがピンッ!と毛を逆立てながら真っ直ぐ伸びた。噛み締めるような間が一拍。

次の瞬間には、念話石を通して、盛大な雄叫びが上がった。

 

『オォオオオオオオオオオオオ!!!!』

それは勝利の雄叫び。

数百年の間、苦汁を舐め続けた敗北者の中の敗北者が、初めて巨大な敵に一矢報いた歓喜の叫びだ。

正直なところ、この先、樹海への不可侵・不干渉や亜人の奴隷化・迫害禁止がどこまで守られるかは微妙である。

 

先程言った通り、皇帝一族を排してでも亜人の奴隷化を望む者達は出てくるだろうし、ただでさえ抽象的な誓約の穴を見つけ出して帝国が亜人族を再び虐げる可能性は大いにある。

だからこそ、ハウリア族の戦いはここからだというのが適切だ。

 

少なくとも、誓約を課すことが出来たことで、今すぐ、帝国が樹海に攻め入ったり、ハウリア族を追ったりすることはない。

この稼いだ時間で、ハウリア族は数と力を蓄えて、より高レベルの戦闘(暗殺)技能やゲリラ戦法を身に付ける必要がある。

それこそ、帝国が誓約を克服して万全の態勢になっても、容易に手が出せない程に。

 

そう、今回の作戦の要は、帝国のトップに首輪を着けて、ハウリア族が帝国に真の意味で対抗できる程に力を蓄える時間を稼ぐことが目的だったのだ。

よって、確かに、今回の戦いは亜人族最弱の種族である兎人族ハウリアの紛れもない勝利なのである。

さて、私もそろそろ政治の話をするか。

 

ハジメ「これで輿入れ話はおじゃんになるな。リリィ、これでもう大丈夫だよ。」

リリアーナ「!も、もしかして、ハジメさん……?」

そう、私の目的はもう一つ。リリィの輿入れ話の白紙撤回だ。

今回の出来事で、皇帝一族はハウリア達に命を握られたも同然となった。

そうなった以上、いつ死ぬかわからない者にこちらからリリィを嫁がせる、だなどと強気に出てくることも無い。

白紙撤回はやむなし、という結論に至るだろう。

 

それに加え、先程カムが誓約させた内容もまた、帝国にダメージを与えている。

全亜人奴隷(帝都以外も含む)の解放=帝国全体の労働力低下

ハルツィナ樹海への干渉禁止=奴隷輸入禁止

亜人に対する奴隷化と迫害の禁止=今後一切の亜人冷遇禁止

これらを法律化=取締体制の抜本的な改革と確実に執行される厳罰の体制、帝都以外の町法の周知徹底

 

以上のことから、帝国はてんてこ舞いになるだろう。

これでもう、王国にも樹海にも亜人族にも、マウントをとることはできない。

あちこち大騒ぎは必至だな。その辺りの対応と鎮圧にも人手を割かなければならない以上、帝国が王国に援助を求める形になるだろう。

 

ハジメ「まぁ、状況が落ち着いたら、改めてランデルに、皇女を嫁がせる形が最良だろうね。

これでやっと、邪魔はいなくなったよ……遅くなって、ごめんね?」

リリアーナ「!ハジメさん!貴方っていう人は……!」

そう言って私をポカポカするリリィ。それをすぐ傍で、シアとミュウが温かそうに見ている。

今の彼女の眼に浮かんでいるのは、きっと嬉し涙だろう。フッ、ここまで頑張った甲斐があったものだ。

 

ガハルド「くそっ、アイツ等、放置して行きやがったな。……誰か、光を……

あぁ、そうだ誰もいねぇ……って、ゴラァ!南雲ハジメ!てめぇ、いつまで知らんふりしてやがる!

どうせ、無傷なんだろうが!この状況、何とかしやがれ!」

……全く、少しは感傷に浸らせてもよかろうに。

 

こちらは通信越しに聞こえてくるハウリア達の歓声に目を細め、同じく作戦の成功に涙ぐみながら飛びついてきたシアを抱き締めて、ミュウとリリィと一緒にモフモフしているのに忙しいというのに……。

しかし……ククッ、転がり回っているガハルドの姿に、思わず笑い声が出そうになるのを耐えるので精一杯だ。

とはいえ、流石に明かりもなしでは話し合いも進められんか。

というわけで、しょうがないので、明かりを出してやることにした私であった。




ここまで読んでいただき、ありがとうございます。

遂に、ガハルドの敗北宣言が成されました。
因みに、トレイシーがこうなっている理由は、ハジメが彼女のことをハウリア達に説明していなかったことが原因です。
経緯としては、原作と違ってハジメさんという興味を引く人物が現れたので、パーティーにも参加しようとはしていました。
しかし、衣装選びの途中にハウリア達に襲撃され、後は原作通りです。
その後、部屋に置いてあったエグゼスによって、再び起き上がりそうなところを拘束され、現在に至ったという訳です。

そしてわざとらしくも被害者面をするハジメさん。
原作でも登場した魔力操作なしでも使えるアーティファクトに関しては、最初の訓練を受けた面子(地獄を潜り抜けてきた初期)以外の為の物となっています。
まぁ、いずれは全員にスパルタンレッスンをするつもりですが。
その上でちゃっかり、リリィの婚約破棄も達成するという完璧ぶり。

さて、次回はハジメさんのターンです。
昨夜の脅しのお返しも兼ねたハジメさんの要求に、ガハルドの決断は!?
そして、今後の帝国は一体どうなってしまうのか!?待て、次回!

次回予告



次回「解放と女神と故郷への思い」
目撃せよ、歴史の始まり!

ハジメ「これでClimaxだぜ!」


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94.解放と女神と故郷への思い

ハジメ
「神を騙る悪が蔓延る異世界"トータス"にて、"最高最善の魔王"南雲ハジメは、ハウリア達と協力して、ガハルドからリリィの婚約破棄と、亜人の待遇改善を勝ち取った。
そして、その感動を仲間達とともに分かち合い、今度は自分の番だとその一歩を踏み出したのであった。」
ミレディ
「ねぇねぇ、ハジメン。皇帝陛下がなんかゴロゴロ転がっているんだけど……。」
ハジメ
「あぁ、こういう魔物とか迷宮にいそうで面白くね?」
ミレディ
「いや、オーちゃんやリューちゃんの所じゃないんだから……。まぁ、面白いのは確かだけどね!」
ハジメ
「いつもの煽り、行っとく?」
ミレディ
「いや、やらないからね!?何、いつもの煽りって!?」
ハジメ
「まさか、無自覚だったの?もしかしなくても、ベルさんは遠縁の従姉だったのかもしれないね。」
ミレディ
「なんでそこでベルが出てくるのさぁ!?ハァ……もういいよ。じゃあ、第7章第13話」
ハジメ・ミレディ
「「それでは、どうぞ!」」


リリィにミュウを預け、片手でシアを抱き締めながら、私は"宝物庫"から緑光石を取り出し天井に飛ばした。

技能の一つ"光あれ"が付与された緑光石は、天井付近で浮遊すると一気に夜闇を払い、昼間と変わらない明るさをパーティー会場にもたらした。

 

全体が明らかになったパーティー会場は、まさに"凄惨"という言葉がぴったりな有様だった。

至る所におびただしい量の血が飛び散り、無数の生首が転がっている。

胴と頭がお別れしていない者でも無事な者は一人もおらず、全員が手足の腱を切られて痛みに呻きながら床に這いつくばっていた。

 

貴族の令嬢方は、恐怖と痛みで失禁しているものも少なくない。

明るくなって会場の惨状を見た瞬間、ショックで意識を失ったのは、ある意味僥倖だろう。

辛うじて意識を保っていた気丈な一部の令嬢達も、視界の端に映ったシアのウサミミを見た瞬間、声にならない悲鳴を上げて白目を剥きながら気絶した。

男でも少なくない者が失禁しながらシアに怯えた目を向けている。

 

どうやら、ハウリア族の恐怖はしっかりと刻み込まれたよう…いや、約一名、何かに目覚めてしまった者がいた。

トレイシーだった。

アイツ、何故かガハルドがハウリアに敗北宣言した辺りから、身を悶えさせていたし……。

そんな中、完全に無傷な我々は、明らかに浮いていた。

最後まで戦闘を行っていた者達は射殺しそうな程に憎しみの籠った眼で睨んできている。完全にグルだと思われているようだ。

濡れ衣も大概にしてほしいものだなぁ?私達は自分達の身を守るので精一杯だったというのに。

 

ガハルド「おい、こら、南雲ハジメ。いい加減、いちゃついてないで手を貸せよ。

この状況で女、しかも兎人族の女を愛でるって、どんだけ図太い神経してんだよ。」

ハジメ「なに、シアはか弱いウサギだからなぁ、さっきの襲撃で怯えてしまってな。可哀想に…。

本当に恐ろしい強敵であったなぁ?。私達も、身を守るので精一杯だったよ。」

そんな戯けた事を言いながら、わざとらしく肩をすくめてみせる。

勿論、シアは怯えているどころか、これでもかという位幸せそうな表情だ。

 

すると、ガハルドの額に青筋が浮かぶ。

詠唱封じに口を裂かれたため話せない者達も、倒れたまま「視線だけで殺してやる!」と言わんばかりの凶悪な眼差しを向けている。

そんな光景に仲間達からは、神経が太すぎると苦笑いを向けられていた。

 

ガハルド「いけしゃあしゃあと……とにかく、無傷であることに変わりねぇだろ。

お前等に帝国に対する害意がないってんなら、治療するなり、人を呼ぶなりしてくれてもいいんじゃねぇか?」

ハジメ「ほぅ?害意とな?そちらが勝手に我々を脅しては、因縁をつけてきたようにしか見えんが?」

ここで簡単に引き下がっては、奴に頭を下げさせることはできん。

さぁ、ガハルド。貴様の罪を自ら数え、謝罪するがいい。

 

ガハルド「だぁッ―畜生!分かったよ!

奇妙なアーティファクトで脅したり、リリアーナ姫を人質にとったのは謝ってやるから、さっさと治療しろ!」

態度がまだデカいのが減点対象だが……まぁ、ここらで良いだろう。

 

ハジメ「良かろう、ただし、貴様の部下達が、治療した瞬間に襲いかかってきそうな殺気を放っている故、その者達はそのまま殺させてもらうぞ?」

ガハルド「いいわけ無いだろ!?おい、お前ら!そこの化け物魔王と周りの奴等には絶対手を出すなよ!

たとえ、クソ生意気で、確実にハウリア族とグルで、いい女ばっか侍らしてるいけすかねぇクソガキでも無駄死には許さねぇぞ!」

生き残ったガハルドの部下達は自分達の主からの生き残れという命令に悔しそうに目元を歪める。

しかしまぁ……盛大に言ったものだなぁ?

 

ガハルド「ほれ、お前のことを殺したくても、実際に化け物の顎門に飛び込むような馬鹿は、ここにはいねぇ。

俺がさせねぇ。そろそろ出血がヤバイ奴もいるんだ。頼むぜ、南雲ハジメ。」

ハジメ「……はぁ、まぁいいだろう。後でスマッシュも追加しようとは思ったが……

向かってこないならやるに越したことはない。香織、手伝いを頼む。」

香織「うんっ、任せて……"聖典"!」

 

詠唱なし。魔法陣なし。

魔法名だけで即時発動した回復系最上級魔法の光り輝く波動が、パーティー会場全体に波紋する。

そして、傷ついた者達を瞬く間に治癒していった。

 

ハジメ「"光あれ"。」

私がそう手を翳せば、傷ついていた者達の体から、大量に出血した後がきれいさっぱりなくなり、青白く褪めた顔に、血色が戻っていった。

序でに、面倒だったが失禁の後も消しておいた。

 

ガハルド「回復まで化け物クラスかよ。……やってられねぇな。」

ガハルドが香織と私の回復魔法の尋常でない技量に、どこか疲れた表情でぼやいた。

みるみるうちに癒えていく体に、ガハルドの部下達も唖然としている。

最上級魔法の即時発動など、一般的な認識では不可能事なのだから当然だろう。

 

すると、回復しても意識を閉ざしたままの令嬢方や腰を抜かしたままの貴族達を尻目に、戦闘可能な者は即時にガハルドの周囲に固まり、こちらに向けて警戒心丸出しの険しい表情を向けた。

うん?なんだ?やるつもりか?お?お?

 

ガハルド「だから、よせっての。殺気なんか叩きつけて反撃くらったらマジで全滅すんぞ。」

部下1「しかし、陛下!アイツ等は明らかに手引きを!」

部下2「そうです!皇太子殿下まで……放ってはおけません!」

部下3「このままでは帝国の威信は地に落ちますぞ!」

面倒そうに嗜めるガハルドに部下達が次々と言い募る。

 

やれやれ、香織の規格外の回復魔法でその実力の一端を感じ取っていても、身の程を弁えんとはな……。

まぁ、私自身の実力を実際に目で見たわけではないとは思うが、これでもガハルドを半殺しレベルでボコボコにした覚えはあるぞ?

どうやら、彼等の何人かは、基準対象を王国でガハルドと模擬戦した光輝としており、"それならあるいは"と考えてしまっているようだ。

 

だが残念なことに、今の光輝はステータス面でも技能面でも、ガハルドを上回っている。

おまけに神代魔法も既に3つ取得している。タイマンなら負けるとは思わんな。

とはいえ、ハウリアがもたらした被害は甚大なのもあるか。

何せ、現皇帝とその一族に"呪い"をかけた上に、素行に問題は大ありだったとは言え、次期皇帝陛下の首を刎ね飛ばしたのだから。

 

彼等も容易には引けない。それは大いに理解できる。

だがな、こちらは婚約者を奪われそうになった上、領地に不法侵攻されたのだ。

この程度の報復で済ませてもらっただけでも、感謝してもらいたいものだがなぁ?

大体、威信なんぞで国が救えるとでも思ったか?貴様等が負ければ、尚のこと言われ放題だというのに。

そんな、息巻く彼等に説教をしようと思ったその時、ガハルドが嘆息しつつ覇気を叩きつけた。

思わず呻き声を上げてふらつく彼等に、ガハルドは彼等以外の会場にいる者達にも向けて威厳に満ちた声を発した。

 

ガハルド「ガタガタ騒ぐな!言ったはずだぞ、お前等を無駄死にさせるつもりはないと。

いいか、あのフルアーマーの魔王は正真正銘の化け物だ。

たった一人で世界一つ滅ぼすこと位躊躇なくできる、そういう手合いだ。……強ぇんだよ。

その影すら踏めないどころか、影で国を覆いつくせる程にな。

奴に従えとは言わねぇが、力こそ至上と掲げる帝国人なら実力差に駄々を捏ねるような無様は晒すな!」

ビリビリと震えるような怒声に、部下達も会場の貴族達もその身を強ばらせる。

 

ガハルド「それはハウリア族に対しても同じだ。

最弱のはずの奴等が力をつけて、帝国の本丸に挑みやがったんだ。

いいようにしてやられたのは、それだけ俺達が弱く間抜けだったってだけの話だろう?

このままで済ますつもりはねぇし、奴等もそうは思っていないだろうが……まずは認めろ。

俺達は敗けたんだ。敗者は勝者に従う。それが帝国のルールだ!それでもまだ、文句があるなら俺に言え!

力で俺を屈服させ、従わせてみろ!奴等がそうしたようにな!」

 

ガハルドの怒声がパーティー会場に木霊する。

腰を抜かしていた者達は視線すら向けられず、ガハルドの周囲の部下達は僅かに逡巡した後、ガハルドの前で頭を垂れた。

自分達が早々にやられた中で、最後まで戦い抜いたのはガハルドなのだ。

そのガハルドの言葉は、主であるという事以上に、重かったのだろう。

 

ハジメ「潔いな、それでこそ同盟相手だ。では、これにて一件落着ということで。」

私の満足気な言葉に、その場の全員が一斉にこちらを睨んできた。

その眼差しは、言葉にする以上に雄弁に物語っていた。すなわち「お前が言うなっ!この疫病神!」と。

心外だな、帝国は地図から消えず、樹海は同胞を取り戻し、我々王国は輿入れの白紙撤回とアナザーウォッチの回収、そして両国の同盟締結。

これ以上にない終わり方だというのに。そう思いながら、私は肩を竦めたのであった。

 


 

ハジメ達に対する敵対心を胸に秘めつつも、無駄死に確定の現実を前に手を出せず歯噛みする帝国の生き残り達が、ガハルドによって纏められ落ち着きを取り戻して少し。

破壊された跳ね橋に梃子摺ったものの何とか沈黙する帝城に乗り込んできた帝国兵達がパーティー会場に到着して再び色々騒動になりつつも、迅速に事態の収拾が図られた。

 

生き残りの重鎮達が集められ、夜中にもかかわらず急遽開かれた緊急会議で誓約を果たすための段取りが決められた。

途中、会場にいなかった重鎮の一人が誓約内容を聞いて何を馬鹿なと嗤ったのだが……

その瞬間、会議室の明かりが数瞬消えて、再び明かりが戻った時には反対した男の部下の生首がテーブルに乗っているというホラーが発生。

男は青褪めたままただ頷くしかなかった。他の重鎮達もパーティーの悪夢を思い出しガクブルと震える。

その後の話は実に迅速に纏まったようだ。

 

各所から被害報告を纏めつつ、亜人に対する法律を急ピッチで作成していく(草案はハウリア族の方で用意しておいた)。

この時点で、ガハルドは、実はハウリア族が一般人には手を出していないことを知った。

しかし、誰もいない公共施設が爆破解体されている事実から、いつでも爆破できるという無言のメッセージを受け取って、他にもどれだけの施設に爆発物が仕掛けられているのかと頭を抱えることになった。

 

そして、夜中の内に、爆発騒ぎで叩き起こされていた兵士達によって、個人所有の亜人奴隷達が、先の魔物騒ぎで更地となった場所に急遽立てられた無数の仮設テントへと案内されることになった。

復興に駆り出されていた亜人奴隷達が収容されている建物のすぐ隣だ。

 

当然、猛反発が起きるに決まっている。

夜中に突然叩き起されたかと思ったら、所有している奴隷を強制的に没収されるのだ。

特に、奴隷商会においては、商会が潰れるのと同義である。

金銭的補償は後からなされる上に、皇帝の勅命であるとはいえ、容易には納得できないことだ。

 

それでも、国からの命令である以上、最後は折れなければならないわけだが……

あの手この手で時間を引き伸ばし、駄々を捏ねる者もそれなりにおり、そういう者は大体、翌朝に生首で見つかることになった。

 

そして、約束の一日が過ぎた翌昼過ぎ、帝都中の亜人奴隷が一箇所に集まるという異常事態に何事かと集まる帝都民を前にして、帝国側からの発表がなされた。

それを聞いた民達には激震が走った。

何故なら、その内容は全亜人族の解放と今後の奴隷化の禁止、簡潔に言えば、そんな皇帝陛下の勅命が、全帝国民を対象に布告されたのだから。

個人所有も、奴隷商も関係ない。淡々と告げられる内容に、唖然とする帝都民達。それも当然だろう。

そしてそれは、ハウリアとの誓約の内容と、それに関して更に細かく定めた法の内容だった。

 

一切の例外を許さない強権の発動。

帝城の前は、突然の事態にどういいうことかと問い詰める民で溢れかえった。

今まで身近にあって当然の如く便利な道具扱いしてきたものが一気になくなるのだ。

 

しかも、今後、手に入れることも禁止される。正直、わけがわからないといった様子だった。

そのうち、当然と言えば当然だが文句を叫ぶ輩が出て、それが一気に伝播し猛反発のうねりとなった。

暴動になるのではと、亜人奴隷達を民衆から守る帝国兵達が冷や汗を流し始めた時、ハジメとガハルドが、帝城のテラスから帝国民達に姿をさらした。

そして、ハジメが圧倒的な圧を放てば、皆委縮して黙りこくった。

それを確認したガハルドは、微妙に引き攣った表情で叫んだ。

 

ガハルド「民達よ!此度の命令には、ハイリヒ王国新国王南雲ハジメ殿から重大な発表がある!

心して聞いてほしい!」

ガハルドの真剣な表情とその覇気に、国民達は国の存亡に関する事か!?と身構えた。

そしてハジメから語られたのは、王国で既に周知されたこの世界の真実。

 

反逆者と呼ばれた"解放者"達の歴史、エヒトの正体・トータスの真の歴史・繰り返されてきた歴史の陰謀、そして自分達が長い間奴隷扱いしてきた亜人族の根源について……。

どれもこれも信じがたいものばかりであった。

特に一番最後に至っては、帝国の在り方を疑わせるものだった。が、そこはハジメクオリティー。

 

すなわち、「その亜人族の中でも最弱の兎人族が、ガハルドにこうさせましたがなにか?」と、遠慮なくぶっ放した。

それを聞いた民衆は当然困惑、そして帝城の屋根に大量のウサミミが出現したことで、それが真実であることを彼等は突き付けられたのであった。

勿論、ハジメさんはアフターサービスも忘れない。

 

ガハルド「此度の亜人解放は、この世界の真の女神"ウーア・アルト"の神託である!見よ、帝国の民よ!

その女神様は、帝国に勇者様と使徒様を遣わされた!」

ガハルドがそう言った途端、空より無数の光が降り注ぎ、そこから銀の翼を広げた神の使徒(香織)が降臨し、ガハルドの隣に現れた光輝が、聖剣を掲げた。

 

すると、眩く輝きを放った銀の羽が、ふわりふわりと天上より落ちてくる。

世界が煌めき、温かい光の波紋(魂魄魔法と再生魔法の複合)が帝都を駆け巡り、人々はその余りの心地よさにうっとりと目を細めた。

更に、光輝の掲げた聖剣が、それに呼応するかのように、白く眩しい光を纏い、天空めがけて光の柱を放った。

これにより、その発表はこれでもかというほど信憑性を高めた。

 

ガハルド「亜人の解放は、帝国が更に繁栄するために必要なことだと女神様はおっしゃった!

困惑もあるだろうが案ずるな!奴隷を失った者には帝国より補償がある!

私は、帝国の皇帝として、帝国民の愛国心と信仰心を信じる!」

舞い落ちる女神の使徒の証――銀の羽。

それらを手にした帝都民は、一拍、歓声を上げて使徒と勇者と皇帝陛下を称えた。

補償のほどに不安の顔を隠せない者達もいたが、そこは今後のガハルド次第だろう。

 

ハジメ「うまくいったようだな……まぁ、この後も頑張れよ、皇帝陛下?」

引き攣った笑顔を浮かべるガハルドを、ハジメは小声で茶化したのであった。

そして、部屋の中にはユエ達もいる。香織を神々しく見せる演出要員だ。

世界は輝き、神の威光が降り注ぐ。"ハジメ監督の手によって"。

当然、ガハルドのセリフもハジメの台本だ。

 

昨夜の内に、軍部や執政部など、帝国の主要機関を担う者達には現状が伝達された。

ほとんどの重鎮がパーティーに出席していたので、情報の共有は速かった。

奴隷解放のためには、帝国民への命令と奴隷達を集める場所がいる。

帝都以外の町にいる奴隷は後々の対応になるにしても、帝都の奴隷だけは約定通り翌日には解放しなければ物理的に首が飛ぶのだ。

 

実は皇族の一人が、「そんな馬鹿な話があるか!俺は首飾りを外すぞ!」と喚き、本当に首飾りを外してしまい、その後、突然発狂して暴れまわった挙句、糸が切れたように絶命したという事実があり、これが彼等を必死にさせている原因の一つだったりする。

 

それ故、命がかかっているので、帝国上層部の対応は迅速だった。

とはいえ、問題はある。帝国民に、どう伝えるかだ。

いきなり、奴隷という財産を没収と言われれば、個人所有はともかく、奴隷商などは路頭に迷うことになる。

 

暴動が起きないとも限らないし、その過程で奴隷達が傷つけられる可能性もある。

そしたら物理的に首が飛ぶ。

頭を抱えるガハルド達に救いをもたらしたのは、さわやかな笑顔のハジメだった。

 

ハジメ「責任は全部クソ野郎に押し付けちまえばいい。

後、今回は大樹の女神様にも協力してもらうから。それでもダメなら、最終的に俺が分からせるよ。」

そんな恐ろしい発言をさらりとかまして、ハジメは"この世界の真実の伝達&本当の神様の使徒と選ばれし勇者様降臨!銀の羽あげるから奴隷を解放しようキャンペーン!"というシナリオを、ガハルド達に提示したのである。

 

帝国民も、まさか思いもしないだろう。

「ありがたや~!」と手にしている銀の羽が、実は使徒様の気持ち一つで全てを分解する最凶の兵器に変わるとは。

なお、先程の香織の回復魔法の波紋は、彼等を心地よくする以外に、心身共に傷ついているだろう亜人奴隷達をまとめて癒やすためである。

 

帝国兵達の手によって次々と回収され、奴隷の首輪を外されていく亜人奴隷達が、今この瞬間もコロシアム跡地の方に見える。

それを横目に、ガハルドはハジメの方へ振り返った。そして、

 

ガハルド「クソガキと言ったのは撤回する。お前は悪魔だっ!」

ハジメ「魔王だけど?」

テラスで聖剣をかかげたままの光輝を含め、龍太郎達も、それどころかユエ達も強く頷くのだった。

それに対して、天然なのか狙って言ったのかよくわからない返しをするハジメであった。

 

それから後、帝国兵総出で奴隷解放に当たったため、全ての亜人達から枷が外されるまで、さほど時間はかからなかった。

数千人規模の亜人達は、未だ何が起きているのか理解できない、理解できても信じられないといった様子だ。

ただ、呆然としたまま帝都の外に先導する光輝に従っている。

 

帝都の外に出ても、何度も帝都を振り返り、これは帝国側の新たな遊びか何かでは、逃げ出した途端、酷い目に遭うのではと、戦々恐々としている。

そんな亜人達の度肝を抜く事態が発生。

空から、巨大な船が降りてきた。巨大なコンテナが甲板に増設された逢魔号だ。

ポカンッと口を開けて硬直すら彼等は、直後、甲板の上で元気に手を振る一人の兎人族の少女を見た。

彼女――シアは、凜と響く声で、亜人達が心の奥で期待していた言葉を叫んだ。

 

シア「みなさぁ~~~ん!助けに来ましたよぉ!もうみんなは自由ですぅ!

みんなでっ、お家にっ、フェアベルゲンにっ、帰りましょう!」

癒やされた傷、背後の帝都、外れた枷、先導する勇者、未知の乗り物そしてそんな乗り物の上で、迎えに来たという同族の少女。

現実が、あり得ないと諦めたはずの未来が、彼等の心に押し寄せた。一拍。

 

『ワァアアアアアアアアアアッ!』

大地を揺るがすほどの大歓声が上がった。

晴れ晴れとした青空の下、帝都の外壁を背にしつつ、数千人に及ぶ亜人達が家路につく。

有り得ないと思っていた現実に、誰も彼もが涙を流し、隣の者同士抱き合って喜びをあらわにしている。

 

彼等の中には、心身共に酷い傷を負っている者も多くいたが、再生魔法と魂魄魔法によって大抵治っている。

記憶をピンポイントで消すような細かい事を数千人規模で行うことは流石にユエ達は勿論、ハジメですらそう簡単には出来ないので、酷い記憶との折り合いなどは周りの家族や友人による長期的なケアが必要だろう。

 

また、帝都以外の町にもまだまだ奴隷となっている亜人達はおり、彼等に対する治癒までは、残念ながらハジメ達は請け負えない。

ハジメ達にも迷宮攻略に割かねばならないという使命もあり、いつエヒトが仕掛けてきてもいいように備えておかなければならない。

だから彼等もまた、樹海に帰還した後、周囲の助けを借りて心身を癒していくしかない。

それでも、生きて再び故郷の地を踏める、生き別れた大切な人達と再会できる……

それはきっと"奇跡"と呼ぶに相応しい出来事だ。

 

ハジメ「家に帰る、か……。」

ブリッジで、ディスプレイ越しにその光景を眺めていたハジメが小さくつぶや呟いた。

その表情は、とても一言では表現できないものだった。羨望か、共感か、あるいは寂しさか……

なんであれ、それは魔王として過ごした中でも、とても人間味のある表情だった。

 

そんなハジメの手が、そっと握られた。隣には、ジッと優しげな眼差しで見つめるユエがいる。

膝の上にはパパを励まそうと、ミュウがヒシッと抱き着いている。

そんなハジメの背を、香織達はどこか温かい眼差しで見つめていた。

その優しさを感じ取ったのか、ハジメは小さく微笑むと、亜人達を迎えるため逢魔号の操縦に集中した。




ここまで読んでいただき、ありがとうございます。

これにて、第7章はおしまいです。次回からはいよいよ、運命の章―大迷宮攻略編が始まります!
ハジメさんはここで漸くガハルドの口から、リリィの婚約破棄の言質を取りました。
まぁ、互いに腹の探り合いをしていたとはいえ、タイムジャッカーと接触していたので、乗り物系のアーティファクトは暫くお預けですが。

そしてその周知方法も、「全部エヒトっていう詐欺師が悪いんだ!」という責任転嫁(自業自得)と、聖剣の女神復活のためのアピール、そして使徒様大作戦の3タテです。
今回は国外で急なのもあって、少々騙すような感じになってしまいましたが、ハジメさんにとっては「相手国だし今まで好き勝手やっていたんだし、同情の余地なし」といった感じです。
というか、もうハウリア達の手綱を引くのを、若干諦めかけている今日この頃です。

さて、次回からは予告とあらすじもリニューアルするつもりですので、お楽しみに!
それでは、そのリニューアル版予告のお試し版を、どうぞ!

次回予告

浩介「俺は浩介!遂に、帝国内でのゴタゴタが終わった俺達は、大迷宮に備えて準備を開始する!
その為に樹海に向かっているわけだが…ハジメがちょっときつそうだな。
まぁ、大量の亜人族輸送って、あいつにしかできなさそうだし。
次回「ストック貯まってから発表します!」……って、台本これだけかよ!?
しかも次回予告で言うことじゃねえ!?」


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