腹ペコ探偵 (燈葱)
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腹ペコ探偵【娘】

 

 

 

桂木ユウ(わたし)はいつだって腹ペコだ。

 チャレンジメニューを3皿完食したところで、ホテルビュッフェを半分以上食らいつくし途中退場されられたところで、この飢えが消えることはない。

 一度だけ母に相談したところその食欲は私に似たんだと思うと申し訳なさそうに諭されたが、"飢えている"のは父の血を引いているからだとも言われた。

 幼少からあまり顔を合わせていない父に対して思うところはあまりないが、私という存在が異質であるということは理解している。

 母親似でも父親似でもある以上、私はこのどうしようもない飢えと戦っていくしかないのだろう。

 

 そして今日も今日とて腹の虫は元気よく、グゥゥウと巨大な音が授業中に響き渡ったのだ。

 

「桂木ぃ」

「すいません先生、お腹すいたのでパン食べます」

 

 と当たり前のように鞄から菓子パンを取り出しパクつく。

 今ではこの光景に慣れたものだが、入学当初は酷いものであった。初めて会う人間には朝食はキチンと食べてこいと責められるし、授業中に食べ物を取り出すなんてと当たり前のように叱られた。だが何か食べるまで私の腹は鳴り響くし、一週間とすれば先生方から食ってもいいから鳴らすなと許可が降りたのである。

 先生方もクラスメイトも私の腹事情など知る由もなかったのだが、そこは中学からの友人三人が走り回ってくれた結果ともいえて感謝の念を抱かずにいられない。

 

「ほんっと、アンタの腹はどーなってんのよ?」

「さぁ? 私にも分かりかねます?」

 

 茶髪カチューシャの友人は鈴木園子という財閥のお嬢様で、時折差し入れと言ってデパ地下惣菜をご馳走してくれる。いつもそんなものは要らないと言っているのだけれども、私が美味しそうに食べる姿が好きだからと金銭を受けとってくれたことはない。代わりと言ってはなんだが、彼女の買い物の荷物持ちや力仕事が必要な時には率先して手伝うようにしている。

 

「あ、そういえばコンビニで新発売の飴買ったんだけどあげるね!」

「バナナミルクパンケーキ味? 中々愉快な味がしそうだね」

 

 二人目は真面目な綺麗系美人と見せかけた、空手部主将なお手羽娘毛利蘭。彼女も彼女で買ったお菓子があればみんなで食べよう!と買ってきたり、休みの日に作ってきたお菓子をくれたりすることが多い。そのお礼にお菓子を作り返したり、母からもらった海外土産をおそそわけすることも多々ある。

 

「ったく、お前の体の構造がマジで知りてぇ。ぜってぇ胃袋じゃないところに収まってんだろ」

「それな」

 

 最後にブスくされている少年、工藤新一。

 彼は私に食べ物を恵んでくれことはないがとある時期から何故か私をライバルと定め、今ではよく謎解きバトルをする仲だ。

 謎解きといってもそんじょそこらのクイズなんてものでなく、警察からお呼び出しされたりたまたま事件に出会ってしまったりする時の犯人探しである。

 何も知らない人からすればそんなことで勝負をするなんて不謹慎だと思われるだろうが、謎が解けるならば良くない?と私は思っているわけで。

 きっと人が死んだり傷付いたりするのを見るのが嫌な人が多いと思ってはいるが、私や彼は家庭の事情である程度のものは見慣れてしまっているのだ。

 私の祖父なんて警察にぶっ殺されているし、母とそこから事件ラッシュに突入し今の仕事にまで至っている。父はまぁ、全ての元凶だからもう何も言うまい。

 

 

 そんなこんなで異常な腹の虫を持つ私であったが、中学からはこの三人がいたおかげで周りから浮くことはなくなりつつあり、今日に至るまである程度のシアワセには生きてはいる。

 あまり日本に帰ってこない母からもいい友達ができてよかったね、これで少しは安心したと気が遠くなるような瞳を向けられていたのも事実ではあるが、そこそこヒトとしては充実した毎日を過ごしたいのである。

 

 

 

 はてさて、そんな日常生活はさておき。

 私のもう一つの腹ペコ要因をそろそろ説明しておかなくてはなるまい。

 説明?誰にするん?なんてどこからツッコミが入りそうだが、まぁあれだ、私だって母にそう告げられた時んなことあるんかい!と珍しく突っ込んだものだもの。心の中でイマジナリーフレンドと語り合ってもいいじゃない。

 じゃないと自分の存在をドン引きしたくなるのだから。

 

 私は大食漢の母の血を受け継ぎ、これまた大食いなのは知る人ぞ知る遺伝とも言える。母は全国各地に出禁の店があるし、過去のネット情報を探れば画像付きで出てくることあるほど有名人。警察の手伝いをしながらも何十万分のカツ丼を食らったとう伝説を残すほどに、母はよく食べる人であった。

 

 別の意味でも有名人であったが、それは私の"父親"とされるヤツのせいともいえる。

 

 ぶっちゃけ、私の父親は人間ではない。

 人の形をしたナニかである。

 ソイツは"地上"にある謎を喰らい己の食欲を満たしていたのだ。勿論母を使って。

 そのため母は初代高校生探偵と言われ、今でも父に引きずられ世界各地の謎を求めて旅をさせれているのである。

 

 そして私にはこの父の、人の形をしたナニの血が流れている。

 今でさえ何故ゾウリムシやナメクジと母を例える父が私という存在を生み出したのが私にとって一番の謎ではあるが、それはひとまず置いておこう。

 

 私が腹ペコの原因はこの父の血のせいであり、私も"謎"を好物としているそうなのだ。

 初めて母にそんなことを聞かされた時は遂に父とのやりとりの後遺症で母の頭が逝かれたのかと思ったのだが、そうではなかったのだ。

 一度目の前で事件を解いて見せた母の隣にいた父が、目には見えない何かを食らっていたのだから。

 

 確かに言われてみれば私は何故が謎を解くと満足感が得られ、心なしか飢えが満たされている気もする。

 つまり私は、謎を喰う事が飢えを満たすための必須条件なのである。

 

 

 そしてその結果私も母と父に習い謎解きをする事になったわけだが、そこで出てくるのが工藤新一という友人の一人だ。

 

 彼は彼でミステリー作家の息子ということもあり、幼少期から謎を解くのが得意であったそうな。

 しかし腹ペコと飢えに耐えきれなかった私は、ある時期から彼が解こうする事件を端から端まで奪い取り飢えを満たす迷惑行為を繰り返し、いつのまにか私は二代目女子高生探偵と、そして"東"の高校生探偵と呼ばれ始めていたのである。

 

 蘭ちゃん曰く、工藤はものすごく憤慨していたらしい。

 私がいなければ彼が東の高校生探偵と呼ばれていたに違いないと。

 けれども誇らしそうに、それでこそ俺のライバルだとも胸を張っていたと。

 

 私からすれば推理する際に父から受け継いだ力の一部を使っているので、純粋な推力は彼の方があると思っている。

 それにぶっちゃけて言えば彼のそばに居て彼が事件を解けばその"謎"の成分を私が喰らえるので解かなくてもいい気もしている今日この頃。

 最近は工藤くんに譲るように犯人を誘導し美味しいモノだけ頂いているのだが、たまに俺を誘導するなと怒られるのが辛い。

 

 いやだって、私働くの本当は嫌いなんだってば。

 父の血のせいでこの地上での生命活動に若干の苦しさもあるらしいし。とは言っても魔界に行けば母の血のせいで体が捻れ切れて臓物撒き散らすらしい、どないしろっちゅうねん。

 

「ユウ! 目暮警部からメールが来た!」

「うぇーぃ、じゃあ行こかー」

 

 いってらっしゃいと私を見送る友人二人に手を振り、工藤くんと私は走り出す。

 

 工藤くんはどんな事件だろうかと悩んでいるようだが、私もどんな味がするのだろうかと一人考えていた。

 

 

 

 

 今日も誰かの不幸で私の腹ペコは満たされる。

 事件の多い米花町万歳。

 

 



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腹ペコ探偵【友】

勢いで書いて、なんかできてた二話


 

 

「犯人は貴方ですよね」

 

 そう言った桂木ユウの顔は、ささやかに微笑んでいたように見えた。

 

 工藤新一にとって桂木ユウは可も不可もないただのクラスメイトである。否、クラスメイトであった。その認識が変わったのは今さっき、食堂で話し合っている撮影クルーの一人を指先してそう発言した時だ。

 食堂にいた人たちも撮影クルーも、犯人呼ばわりされた男も一瞬ぴたりと動きを止め、その後は何を言っているんだと皆が首をかじけている。

 

 新一(ともう二人ほど探偵もどきが居たが今はひとまず置いておこう)もその人物が犯人である可能性を見つけてはいたが、その証拠とトリックの一部が未だ判明しておらず、目の前でさもあたり間のように言ってのけた桂木ユウに目を奪われていた。

 

「単純なトリックです。それにそのトリックを使えば四年前の事件も他殺になりますね」

 

 珍しくにっこりと笑ったその少女はこの雪山で起きた殺人事件の詳細を淡々に語り、少しづつだが確実に犯人を追い込んでいく。新一が予測した通りの犯人の行動と気づいていなかったトリックを明かされてしまえば新一だけではなく誰しもが頷くしかないし、それは犯人にも言えること。

 大衆の前で己の罪を暴かれてしまった男はただただアイツが悪いんだとつぶやいた。

 

「先輩のためにもオレがやらなきゃならなかった! それにアイツはきっとまた同じことをしでかすに違いない。オレがやらなきゃ──っ」

「それが、人を殺す理由になるとでも?」

 

 犯人の自白も虚しく、桂木ユウの発言でまたもや時が止まったかのようであった。

 

「先輩の為って言ってもそれはもう死んでる人間でしょ? その人が仇討ちを願うかなんて誰も解りゃしない。それを一方的に決めつけて殺したんだよあんたは。先輩を理由にして殺したんだよあんたは。綺麗事言ってなんになるの? 正直に気に食わなかったから殺した、知り合いが殺された腹いせで殺したって言えばいいのに」

「──違う!オレはっ」

「何が違うの。死人に口なし、殺して欲しいと言われたわけでもなければ枕元に立たれてそう願われたわけでもない。貴方は自分の思い込みで人を殺したんだ。貴方が殺した人がそうしたように、自分勝手な感情で自己満足で殺したんだ。それなのになんで被害者ぶるの?」

 

 桂木ユウは心底理解できないと言う顔でため息をつき、一度だけ腹をさする。

 新一やその他群衆も彼女の言い分を聞き入れはしたが、僅かに犯人への同情もいだいた。人を殺すと言うことがただの自己満足と言われてしまえば、同情しても仕方がないだろう。

 犯人とされた男も彼女の言葉を聞きオレは違うと繰り返し口に出していたが、確かにそう言われてしまえばその通りなのだと思わずにいられなかったのである。

 

 桂木ユウはあとは捕まえるなりなんなりすれば、との言葉を投げ捨ててその場から移動し、少し離れた席へ荷物を置きくともう関係ありませんと言わんばかりに食券を手に未だ沈黙する列に並ぶ。もとより並んで人たちは彼女に順番を譲り、数分しないうちに四、五人前ありそうな食事を手にして彼女は席についた。

 今ここで起きたことなど気にするそぶりもなく、もう既に犯人たちを見ることもなく黙々と食べ進めるその姿に、どれだけの人間が恐怖にも似た感情を抱いたのだろう。

 少なくとも自分より事件を自分より早く解いた桂木ユウという存在に、工藤新一(とその他一名)は思わずに対抗心を燃やす結果となったようだった。

 

 

 

「桂木っていったか? おめぇももしかして探偵めざしてんの?」

「──いや別に?」

 

 それから工藤新一と桂木ユウが初めて対話をしたのは翌々日のことである。

 スキー教室を終えたその時から新一は桂木ユウについて調べ始め、有難いことにクラスが同じであったことがわかった。ついでに言えば父親である工藤優作は彼女の"母"が誰であるかを知っており、それ故に推理能力が高いのだろうとも新一に助言もしている。

 優作としては息子の同級生よりも、過去最大最長の事件と定められたあの"時期"にあらわれた初代高校生探偵の方が気になっているのだが、そこは息子の働きに期待している。彼女の娘である桂木ユウと仲良くなればあの事件の詳細を聞けるかもしれないなんて、それを題材にして小説を書けるかもしれない、ほんの少ししか思っていなかったのだ。

 だがその考えも虚しく、桂木ユウとある程度な仲良くなった息子が彼女を自宅へ招いたが何一つも過去話なんて出てくることはなく。

 

「──たまに工藤さんみたいな方に母の話を聞きたいと詰め寄られるのですが、私が話せることなんて多くはないんです。母は成り行きでそうなっただけだと言うし、吾代さん、えっと、母の知り合い?の方はそうさせられたとおっしゃるし。まぁなんとなく事情は察してるのですが、私からその当時のことを話せることなんてないんですよ。すいません」

「……いや、こちらこそ悪かったね」

 

 とまぁこのように、桂木ユウらひたすらお菓子を食べるだけで語ることはない。

 ただ一つ彼女の口から"父親"の話が出てこないのも謎ではあったが、息子の友人の家庭事情に首を突っ込むのは憚れた。

 

「でもなぁ、オレも"桂木弥子"については知りてぇんだけどなぁ。やっぱりお前も母さんの血ぃ引いてるから謎解きが好きなわけ?」

「いや? 私は最近まで謎解きなんて興味なかったよ。マ、なんというか、必要に迫られてやっただけで。やらなくていいならやらないけど、やった方がいい的な?」

「……なんだそれ?」

「私にも色々あるんだよ」

 

 そう言って桂木ユウは遠い目をして腹をさする。

 新一はある程度彼女が大食いであることを調べていた為新たに菓子を差し出して、彼女もまたそれを躊躇いもなく受け取り食らった。

 

 

 桂木ユウはあの時の一件から度々事件を解決するようになり、中学3年の夏には最年少探偵と名前を広めることとなった。事件が起こりそれを解決するたびに新一が彼女に対して競争心を抱くようにもなるのだが、ユウは全くもって新一にも事件を起こした犯人にも感情が揺らぐことはない。

 ただ彼女が事件を解決するたびに満足そうに笑い腹をさする仕草が目撃されている。

 

 新一もまたその行動を不思議に思っていたのだが、何度それに対して問いかけても満足したからとしか返ってこない。故に新一は自分のことを棚にあげて、彼女のことを謎解きジャンキーなどと比喩することもある程だ。

 それくらい彼女は"謎"を求めていた。

 

 

 

 

 

 そしてそんなある日の事、工藤新一と桂木ユウが出会っておおよそ3年後。

 新一は彼女の謎への執着を知ることとなる。

 

 

 

「ねぇねぇ工藤くん、なぜ体が縮んでるの? そこにはどんな"謎"があるの? ねぇねぇ工藤くん、君は本当に謎の申し子だね?」

「──なん、で?」

「なんで? どうして見た目が変わったくらいで気づかないと思ったの? だって君は君じゃないか。体が小さくなるくらいどうとでもなるじゃない」

「っなんねぇよ! そんな簡単に縮んでたまるか!?」

「でも縮んでるよ?」

「そうだけどもっ!?」

「大丈夫だよ工藤くん。私がその謎を解き明かしてあげるからね」

 

 

 だってとても──が唆られるのだもの。

 

 桂木ユウがつぶやいた言葉は、風に流されて工藤新一に、江戸川コナンに届くことはなかった。

 

 

 

 




そこに需要はあるのだろうか


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腹ペコ探偵【謎】

なんか続いた。ご都合主義マシマシ注意。


 目の前にいるちびっ子は、どうにも私の同級生に似ている。

 いや、似すぎている。

 匂いもさながら色彩の色や指紋まで、全てが私の知るところの工藤新一と同じであった。

 

「──なるほど。黒づくめの男達の取引を目撃ししまい薬を飲まされ目が覚めていたら体が縮んでいた、と」

「そう、だけども。……信じんのかよ?」

「マ、事実は小説より奇なりっていうしね。それに何よりもっと奇怪な存在もこの世にはあることだし」

 

 例えば私の父だとか。母の腹の容量だとか。

 体が縮むのかまだマシだと思えることは多々あるわけで。

 

「それで今は蘭ちゃんのところに身を寄せてるってことね、うん了解。なんか私がすることとかある?」

「別にすることはねぇけど、まぁ、可能であれば味方でいて欲しいっつぅか、協力者になってほしいっつぅか……」

「その体じゃできること限られるしね。いいよ、私にできることは協力する。工藤くん、あー、コナンくん?はまず元に戻ることだけを考えなよ」

「──ありがとよ」

 

 工藤くんもといコナン君は安心した方に微笑み、そのまま毛利家へと帰っていく。いくらなんでもあの年からやり直しで、それと好きな女の子の家に住まなきゃならないなんてある意味地獄でもあろう。一応私と住むかと聞いてはみたが二人暮らしになるし、碌な生活はできそうにもないと断られた。もしかして私は碌でもない生き方をしているとでも思われているのか?

 否定はしないが、少しだけ悲しくはなった。

 

 ともかく、私は工藤くんの今後を考えてそこから自宅ではないある場所へと向かうことにした。

 そこは米花町のはずれではあるが、私にとっては自宅よりも馴染みのある場所。

 少し古ぼけたビルではあるがそこには"桂木探偵事務所"と大々的に看板が掲げられており、どこからどう見ても私の母の事務所。無論、高校生探偵とも呼ばれ始めた私のホームグラウンドでもある。

 調べ物をするならばとりあえずここにくるのが一番だと意気込み、ビルの一階に住んでいるゼラさんに声をかけてから事務所へと向かう。

 

 因みにゼラさんとはこのビルを母達から預かっている管理人なのだが、どうも私のに対して畏怖の視線を向けてくるのであまり得意ではない。が、父が対して低姿勢なので悪いヒトではないと思っている。

 

「さてと、"黒づくめの組織"ねぇ……? 検索して出るものか」

 

 事務所に備え付けであるパソコンで調べても見てもヒットするものはそれほどない。あったとしてもそれは小説や漫画の中の一節であり、目的ものではない。

 ならばとそちらに詳しそうな知人の一人に連絡を取ることにした。

 

「──もしもし吾代さん、今暇? え、忙しいの? ダメ、かな。…………あ、そう? んとね、"黒づくめ組織"的な感じの裏社会の住人知ってる? え、問題ことに首突っ込むんじゃないって? だって謎とかなきゃ私──。うん、うん。お願いね。じゃあまたねぇ」

 

 電話の相手は母の同僚(と言っていいものかわからないが)の吾代おじさん。よく父に逆らって酷い目にあっている哀れな人間の一人でもある。

 彼は彼でとある調査会社の福社長という忙しい立場ではあるが、何故だが父と私のお願いには弱いらしくあまり嫌と言われたことはない。まぁ、嫌味に違い『テメェはあのバケモンに似てんだよ、その目が』と言われたことは何度もあるのだが、化け物とはどちらのことを察しているのかよくわかっていない。

 一般的に母の方がまともにみえるが、あの人はあの人で鋼の胃袋を持っているし交渉人という立場ではあるし。

 子供の立場としては、どちらも化け物だと思うのだが?

 

 まぁそんなことは置いといて。

 

 一応そちら側の情報を吾代さんに集めてもらいつつ、私は私でやれるところまでやろう。

 父とは違い数分しか持たないだろうし、あの筺口さんがいるところにハッキングをかますなんて非常識でしかないのだが、ほんの少しでも情報は欲しい。

 てなわけで。

 

「魔界777ッ道具・【異次元の侵略者(イビルスクリプト)】」

 

 右手をデータ化しパソコン内部に侵入させ、そのまま警察内部の情報をゴソゴソとあさる。一分もしないうちにお腹は減ってくるし、情報も見つからない。やはりこんな能力を教えてもらったとこで、狙い目が分からない私では見つけるべき情報にたどり着くことも不可能に近い。

 

「こんな事があるのならば土下座で生活しながらでも教えて貰えばよかった。……おっと」

 

 ようやくソレに辿り着いたかなと思いきや、やはりというべきかハッキングされている事に気づいたであろう誰かにそれを阻害され始める。こんなヒト成らざるものの行為を邪魔できるのはきっと、それなりに頭の働きが良い人間。

 

「──ごめん、筺口さん。まじでゴメン」

 

 なんでかって、こちらは友人の命と恋路がかかっているのだから。

 シャットアウトギリギリのところで情報の一部を盗み取るに成功し、私はすぐさまそれを紙へと書き起こす。

 データ保存すればそれこそ彼のハッキングの餌食になりかねないし、いくら母の娘だからといっても厳罰ものに決まってる。そうならないためにも紙に書き込み、読んだら燃やして処分するのが一番だ。

 抜き取った情報を無心で書き出しその後読んでみれば、日本の警察も優秀な人間を既に何人か潜らせ済みだということがわかる。

 しかしまぁ、死んでる人間もいるようだし、まともな仕事ではないのは確かなのだろう。

 全くもって工藤くんは面倒な組織と関わりになったものだ。

 

「──もしもしクド、……コナンくん? ちょっと今から会えたりするー?」

 

 一時間ほど前に別れたばかりの友人に連絡をして、私は途方もない謎の気配に珍しく心を躍らせた。

 

 

 なにせ、初めて謎の気配だけで思わず涎が垂れていたのだから。

 

 

 




オマケ


「──オレも,協力してくれとは言った。言ったけどよぉ!?」
「いらん情報だった?」
「いるけど!? なんだこんな簡単に出てきたんだよオイ!」
「なんというか、教わったことを試したらでてきたてきな? あ、そのうちもうちょい裏情報に詳しいのも手に入るように手配してるけど、いらない?」
「いるけどぉぉおおお!? なんなのお前!?」
「──探偵?」
「なんか違ぇ! すげぇ腹立ってきた!」
「えー、なんかめんどくさ。あ、調べるのに体力使ったからなんか奢って?」
「──クソっ! てめぇの腹はみたせねぇかんなっ!」
「そんなのわかりきっている!」

たこ焼き10人前で手を打った。




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