転生したけど、転生特典は一部遅れて与えられるらしい (五段活用)
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転生自覚したから魔法使ってみたけど、喉が渇いた

 

「残念ながらあなたは死んでしまいました」

 

 

 目が覚めると白い部屋にいた。そして目の前には1人の少女。訳分からん。

 

 

「はい??」

 

 

 なにそれ新手のドッキリ?こんな一般人攫ってまですることじゃねえだろうが。

 

 

「残念ながらドッキリではありませんよ。あなたは眠った後に家に押しかけてきた2人組の強盗に殺されてしまったのです」

 

 

 え、なに?なんであんた俺の考えてること分かんの?テレパシー?

 

 

「ええ。わたしこれでも神様なんですよ?」

 

 

 どゆこと?訳分かんないんだけど。

 

 

「まあいきなり神様を名乗る少女に死んだと言われても混乱しますよね。でも話を進めさせていただきます」

 

 

「は、はぁ……」

 

 

「まず、あなたは死んでしまいました。ここまでは先程話しましたが、生前あなたが行ってきた善行に考慮して異世界に転生してもらうことになりました」

 

 

「え?」

 

 

 ちょっと何言ってるか分からないです。ハイ。

 

 

「だ、か、ら!あなたには異世界転生をしてもらうんです!これでちゃんと聞こえましたか?」

 

 

 いや、別に聞こえてなかったわけじゃないんだよ。

 

 

「あら、そうですか」

 

 

 そうだよ。聞こえてはいるけど理解がちゃんと出来なかっただけだから。

 

 

「なら大丈夫そうですね」

 

 

「ハイ」

 

 

「それであなたが異世界に行くにあたっていくつかの特典を授けることになりました。おめでとうございます」

 

 

「ということでこれをあの的に投げてください」

 

 

 音も立てずに的が現れる。そしてデカいダーツの矢を渡された。

 

 

「いやなにこれ」

 

 

「??ダーツの矢ですが?」

 

 

 いやそれは分かるよ。でもこれデカいし絶対投げにくいしあそこに当てる自信ないんですよ。分かります?この気持ち。

 

 

「大丈夫ですよ。外れても当たるまで何回投げても構いませんから」

 

 

「あ、そうですか……」

 

 

「ちなみにこれの他に2本同じものを投げてもらいますからね。今のうちに慣れておいてくださいね。ということで、1本目どうぞ投げてください」

 

 

 よし、俺の運命を決める一投、おりゃァァァァ!……当たった。

 

 

「お、これはこれは……魔法能力超強化!いいもの引きましたねぇ……では2本目どうぞ」

 

 

 よし、もう一丁!おりゃァァァァ!……当たった。

 

 

「お、これは良い家柄!これも使えますよ!では最後の矢をどうぞ」

 

 

 最後の矢……おりゃァァァァ!……当たった。

 

 

「あ……これは武器2つ!これは私が作った武器をあなたにプレゼントするようですね。何か欲しい武器はありますか?」

 

 

 欲しい武器って言われても……まあ刀と拳銃?それ以外使えそうにないし。特に槍とか薙刀とか。

 

 

「ふむふむ……刀剣と拳銃ですか。分かりました。また作ってあなたに送りますので……では特典も決まったことですし、早速転生させますね」

 

 

 あ、もう転生の時間なのね……早いなぁ。

 

 

「新しい人生を楽しんできてくださいね!」

 

 

 バチン!

 

 

 あれ、目の前が暗くなって……

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「はっ??」

 

 

 

 

 10歳の誕生日、こんなやりとりと俺に前世があったことを思い出した。そして前世の記憶、26年分の記憶が10歳の俺の脳に流れ込んできた。もちろん俺の脳がそれを処理しきれるわけなく、3日間高熱が続いた。

 

 

 

 

 

 朝起きると熱が引いていた。布団から降りてトイレに行こうとしたら、ベッドの上に紙があった。

 

 

「ん?なんだこれ」

 

 

 さっきまで俺が寝ていた布団の上にあるのは不思議だが、とりあえず読んでみる。

 

 

 

 

拝啓 岩槻 慧様

 

 

 あなたを転生させた神です。元気ですか。私はあなたがいた時と変わらない生活をしています。

 

 

 さて、この手紙があなたのもとに届いたということはあなたが前世を思い出し、私が授けた能力が使えるようになったということです。

 

 

 あなたを転生させる前に伝え忘れていたのですが、あなたの転生特典の『魔法能力超強化』は5回ほどに分けて贈られます。『良い家柄』は既に発動しております。『武器2つ』は次の機会に贈ります。それまでお待ちください。

 

 

 この手紙はあなたが読み終われば溶けてなくなります。

 

 

 それでは2度目の人生をお楽しみください。

 

 

神より

 

 

 

 

 

「神様からの手紙かよ……」

 

 

 読み終われば、手紙は書いていた通りに溶けてなくなる。

 

 

「とりあえず、居間に行こ」

 

 

 

 

 

「あっ!サトイ様!」

 

 

 今世でも俺の名は変わらない。ただ容姿は大きく変わった。銀髪に碧眼。まるでラノベの登場人物のようなものだ。

 

 

「……ユナ」

 

 

 ユナは俺の世話役を務める女性である。俺の父は上流貴族だが、ユナはその館で俺の母に仕えていたらしい。そして母が他界して父に俺の世話役を務めるように言われ、帝都から離れたここ、カーレ村で俺と生活をしている。

 

 

「熱は……もう大丈夫なのですか?」

 

 

「……もう大丈夫。心配かけた」

 

 

「それなら良かったです……あ、サトイ様何か食べられます?」

 

 

「いや、やめとく。今からちょっと出かけたいから……」

 

 

「なるほど……途中で体調や気分が悪くなれば、私に《テレパシー》を送ってくださいね」

 

 

 直方体のキューブ……スマホ擬きを渡される。これは人と離れていても意思疎通を可能にするものである。

 

 

「ウン」

 

 

 土間で草履を履く。

 

 

「では。行ってらっしゃいませ」

 

 

「……行ってきます」

 

 

 

 ということで家の外に出たのだが、家の裏には森林がある。その森林の中には木も生えていない開けたところがある。俺はそこで魔法を試したい。理由は誰にも見られたくないから。

 

 

「んー……移動に使える魔法……あ、これ使えそう。《天翔(アマカケル)》」

 

 

 《天翔(アマカケル)》は背中に魔力の翼を生やして魔力を放出して飛ぶ魔法である。転生特典で使えるようになったものである。

 

 

 

 

 

 とりあえず飛んでいる間に俺の技能について確認する。《亜空間物質収納術(アイテムボックス)》、《亜空間武器庫(アーセナル)》、《テレパシー》、《テレポート》……その他にも《鑑定》やら色々あるな、ハイ。

 

 

 そんなことをしているうちに目的地についた。着陸する。

 

 

「っと、到着」

 

 

 鳥やら虫やら色々いる。

 

 

「ふぅ、とりあえず休憩」

 

 

 切り株に腰を下ろす。そして飛んでいる間に出来なかった今世について整理する。

 

 

 まず、俺は転生特典のおかげか、上流貴族の子として産まれた。しかし母が俺を産んだことで病気にかかり、それが治ることなく死んでしまう。父は母に仕えていたユナに俺を何らかの理由で暮らしていた帝都から離れた片田舎、カーレ村で育てるように命じた。ここまでは2年くらい前、俺が記憶を思い出す前にユナが俺に話してくれた内容だ。

 

 

 ここからは俺の体験だが、俺はこの銀髪碧眼の容姿から鬼の子と言われカーレ村の人々から避けられ、後ろ指をさされる存在である。そして村の教会での子供たちの魔力測定が行われた時、俺は魔法を使えない上に魔力が全くないと分かった。村の子供たちはそれを見て俺を虐めるようになった。

 

 

 要するに俺はいじめられっ子なのだ。まあ色々思い出した俺からしたらそんなのガキの遊びだし。別に気にしない。それに今は魔法も使えるし、やられそうになったら先にやればいいだけだから。

 

 

 ということで整理タイム終了。そろそろ魔法を試そうかな。

 

 

 と、その前に一言。

 

 

「喉渇いた……」

 

 

 そう、喉が渇いた。夏の炎天下で飛んでた上に日陰じゃない切り株に腰を下ろしていたから、結構な量の汗をかいた。そりゃあ喉渇くよね。水分飲まないと熱中症で倒れるかもしれないが、家から飲み物持ってきてない。

 

 

 どーしようかな……あ、確か前に森林の奥に歩いて行った時に湖あったからそこの水を飲むかぁ……。

 

 

「《天翔(アマカケル)》」

 

 

 もう1度飛ぶことにした。魔力を放出して飛び上がる。湖は確か家と真反対の方向にあったような……。

 

 

 そして30分(笑)後……。

 

 

 湖が見えた。湖畔に着陸する。あれ、でもこれ……。

 

 

「水だ水……」

 

 

 でも湖の水は茶色く濁っている。飲料水には程遠い水である。このまま湖の水を飲んだら多分死ぬ、俺のサイドエフェクトがそう言っている。ということで水を《鑑定》します。

 

 

「《鑑定》」

 

 

 ピピピピピピ……デン!

 

 

 鑑定結果が出ました!

 

 

【カーレ湖の水】

【詳細:トクシックトカゲの毒等3種の毒に汚染されたカーレ湖の水。飲むと死に至る可能性高】

 

 

 やっぱり鑑定して正解だ。猛毒水を飲まなくてよかった。これ飲んでたら死んでた(可能性が高い)からな。

 

 

 だがこの水を飲めないとなれば近くの商店に寄って……いやこんな森にそんなのないな。家に帰って……は遠いから帰ってる途中に倒れるな。もう1回飛んで川か湖を見つける……のも他にあるか分からんし。

 

 

 ということは……。

 

 

「どうにかしてここの水を飲むしかないのか……」

 

 

 いやキッツ!

 

 



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ただ水が飲みたかっただけなんです

 

「さて、どーしようか……」

 

 

 とりあえず湖の水を飲むには毒を取り除かないといけない。今の俺には毒を無効化できる魔法がないからだ。というか治癒魔法を使えない。

 

 

 ということで現在、毒を取り除くのに使えそうな魔法を探している。

 

 

「爆裂……冷却……音破……分離……分離?」

 

 

【分離】

【対象から特定の物質とそれ以外の物質、または特定の性質を持つ物質と持たない物質を分離する。そしてどちらか一方を魔力を使って操る】

 

 

 これは使えそうだ。これを使って毒とそれ以外の物質に分けて《亜空間物質収納術(アイテムボックス)》に毒をしまい込めば水は飲めるはずだ。

 

 

 やり方は決まったし、後はやるだけだ。

 

 

「……対象:カーレ湖の水、分離対象:有毒物質。分離、発動」

 

 

 湖の水の茶色い濁りはだんだん俺の足下に集まってきた。何かドロドロしている。これが毒なのか。毒よりヘドロって感じだな。

 

 

「《亜空間物質収納術》」

 

 

 毒の塊を収納する。

 

 

「《鑑定》」

 

 

 湖の水に《鑑定》を使う。毒はないといえども、念のために。

 

 

 ピピピピピピ……デン!

 

 

【カーレ湖の水】

【綺麗な透き通った水。野生動物を引き寄せる力を持つ】

 

 

 へえ、ここの水ってそんな能力あったんですか。知らんかったわぁ……とりあえずここの水は危険じゃないことが分かったし、飲もう。

 

 

 両手で水を掬って、口元に持ってくる。

 

 

「おお……!美味い!」

 

 

 やばい、水がめっちゃ美味い。村の井戸水なんかと比べものにならんくらい美味い。もう1度水を掬って、飲む

 

 

「これは毒取り除いた甲斐あったなぁ……」

 

 

「ウォン!ワォン!」

 

 

「!?な、なんだ」

 

 

 いつの間にか横に結構大きな狼がいた。そして身体を擦り付けてくる。ちょっとこいつが何をしたいのか分かりません。ハイ……《テレパシー》を使ったらこいつと意思疎通出来るかな……。

 

 

『あ、あ……君、聞こえる?』

 

 

『おう、聞こえるぜ』

 

 

 あ、聞こえるんだ。《テレパシー》って動物にも使えるのね、理解理解。

 

 

『なら良かった。ちょっと聞きたいことがあるんだけどさ、なんで君さっきから身体を俺に擦り付けてんの?』

 

 

 そう、こいつは俺が《テレパシー》を使おうとした時からずっと身体を俺に擦り付けているのだ。

 

 

『ん、ああそれはな……特に理由はないぜ』

 

 

 いや、ないんかい。

 

 

『それにしてもあんたすげぇな!』

 

 

『え、何が?』

 

 

『ここの水の毒取ってくれただろ!前にミヤコってとこの人間が来たんだけどな、何も出来ずに帰ったんだ』

 

 

『へえ、そいつは余程使えねえやつなんだな』

 

 

 実際は結構強い人かもしれないけど。魔法能力超強化された俺がレベチなだけかもしれないけど。

 

 

『ハハッ!あんたおもしれぇな!ミヤコの軍のセイエーを使えねえって!』

 

 

『てかミヤコってどこ?』

 

 

『……あんた、国の首都も知らねえのか!?ハハッ!』

 

 

 ん?ミヤコって国の首都で、そこの軍の精鋭が出来なかったことを俺がやっちゃったってこと?要するに……。

 

 

 

『俺って結構強い?』

 

 

『ハハッ!あんた自覚なかったのか!』

 

 

『ハイ……』

 

 

 まさか一段階目の強化がこんなに強力だと思わなかったんですよ。

 

 

『俺、あんたのこと気に入ったぜ!』

 

 

 狼がそう言ってくっついてくる。ということで、さっき遭遇した狼に気に入られました。パチパチパチ。絶対こいつ熱血だよなぁ……。

 

 

『お、おう。そうか……ちょ、分かったから離れてくれ。暑い』

 

 

『わりぃわりぃ。あ、そういえば名前言ってなかったな。俺、オーカって言うんだ。あんたの名前は?』

 

 

『サトイ』

 

 

『サトイ、か。良い名前だな』

 

 

 前世から変わらない名前ですよ、とは言わない。

 

 

『あ』

 

 

『?どうした』

 

 

『仲間連れてくるわ。すぐ戻ってくるからあんたはここで待っててくれ』

 

 

『唐突だな……』

 

 

 そうして狼、もといオーカは森の奥に走り去って行った。これから少しはひとりの時間だ。何をするか……。あ、さっき取った毒出すか。

 

 

『《亜空間物質収納術》』

 

 

 漆黒の空間から毒を取り出す。漆黒の空間というのは亜空間のことだ。

 

 

『《鑑定》』

 

 

 ピピピピピピ……デン!

 

 

【毒の混合物】

【主成分はトクシックトカゲの毒。水溶性。触れるとその箇所を痺れさせる。表面麻酔などに使われる。成人男性の摂取致死量35グラム】

 

 

 ふむふむ、これは使えそうだ。これを純粋なトクシックトカゲの毒に分離すれば麻酔の原材料として売れる。見た感じ結構量あるしこれは金がガッボリ稼げそうだ。

 

 

『おーい、連れてきたぞー』

 

 

『はや、もう来たのかよ。というか数多くねえか?』

 

 

『すげぇだろ?俺こいつらの族長なんだよ』

 

 

『へえ……あ、これ片付けないとな。《亜空間物質収納術》』

 

 

 触れたら身体を痺れさせる毒、これをあの狼たちが触れたら拙いからな。危険物は触れさせない。

 

 

『なあ、今したんだ?そこにあった物が黒いやつに吸い込まれて消えたけど』

 

 

『ただの収納魔法だよ。ちなみにさっき収納したの湖の毒な』

 

 

『なに、さっきの茶色いものが毒?土にしか見えなかったが……』

 

 

『うん、まあそんなもんだよ。主成分はトクシックトカゲの毒だし』

 

 

『トクシックトカゲ……ああ、あの水辺にいる毒トカゲか。俺たちのいい栄養素だったが最近いなくなったんだよなぁ』

 

 

 要するに食い尽くしたってことか……。でもこれで湖に毒が大量混入することはなさそうだな。

 

 

『というか後ろの狼たちめっちゃ暇そうにしてるぞ。放っておいていいのか?』

 

 

『あ……お前ら!待たせてすまん!でもちょっと俺の話を聞いてくれ!』

 

 

 あ、やっぱり忘れてたのね……。こんなのが族長で大丈夫なんですかね?

 

 

『お前らに紹介したい人がいる。俺の前にいるこの男。名をサトイという。湖を汚染してた毒をたったひとりで取り除いた』

 

 

『俺はこのサトイを俺たちの頭にしたい。お前らはそれでもいいか?』

 

 

 え、そんなの聞いてないんですけど。

 

 

『え、湖の毒をひとりで?すげぇ人じゃん!』

『アニキが頭にしたい人ならいいぜ!』

『いいに決まってんだろ!』

 

 

 あれ、オーカって意外と慕われてんのか?

 

 

『……この中でサトイを頭にするのが嫌なやつはいるか?』

 

 

 しーん。

 

 

『そうか。なら俺たちはサトイを頭にする。決定だ!ということでサトイ、何か言いたいことはあるか?』

 

 

 おいおい、急に俺に振るなよ……。というかなんで俺がこいつらの頭になることに……?まあいいか。

 

 

『あ、えーと、よろしくお願いします?』

 

 

 あ、疑問形になっちゃった。隣にいるオーカが笑い出した。

 

 

『ハハッ!なんで疑問形なんだよ!とりあえずここにいる全員あんたの部下だから。これからよろしく頼むぞ、ボス?』

 

 

 はあ、ボス……ね。

 

 

『まあ、なるようになるか。じゃあ、解散!』

 

 

『え?』

 

 

『解散。集まってもらったけど、俺家に帰りたいし』

 

 

 あまりに遅いとユナを心配させるし。魔法は……そんなに使えなかったけど。

 

 

『あ、ちょっと待ってくれ!』

 

 

『ん?どうした』

 

 

『主従関係の契約をしておきたいんだ』

 

 

『いいけど……お前契約魔法使えるのか?俺多分使えないぞ』

 

 

 主従関係や眷属関係の契約には契約魔法を使う。でも1回目の超強化にはこれはなかった。

 

 

『俺は使えるんだ!いいなら始めるぞ!《誓約(プレッジ)》』

 

 

 俺とオーカの足下に魔法陣ができる。そしてそのまわりに狼たち。いやお前らまだ帰ってなかったんかい。

 

 

『我、オーカは汝、サトイに主従関係の契約を申し込む』

 

 

『受託する』

 

 

 足下の魔法陣が光りだしてそこから出る白い魔力が俺たちを包む。しばらくすると魔力は消えて魔法陣も消える。

 

 

『……なあ、これで終わったのか?』

 

 

『ん、ああ。終わったぜ』

 

 

『そうか。じゃ、また近いうちに来るから。《天翔(アマカケル)》』

 

 

 魔力で翼を作り、翼をはばたかせる。

 

 

『うおっ、でけえ翼だな』

 

 

『あ、これ小さく出来るぞ。ほら』

 

 

 流す魔力の量を調節して翼を小さくする。そしてまた大きくする。

 

 

『すげぇな!やっぱりあんたをボスにして正解だった!』

 

 

『そうかい……じゃあな』

 

 

 翼から魔力を地面方向に噴出して飛ぶ。ある程度の高さに来たら魔力噴出を横方向に切り替える。

 

 

 それにしても今日は色々濃い1日だったな。起きたら神様からの手紙であと4回強化を残してることが分かったし、水飲みたくて湖の水を綺麗にしたらなんか狼たちの頭になるし……。

 

 

 さっきまでずっと寝てたけど、今日はぐっすり眠れるような気がするわぁ……。



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やはり転生特典は偉大であった

 

ガラガラガラガラ……ピシャン。

 

 

「あっ!サトイ様、おかえりなさい」

 

 

「ただいま」

 

 

 草履を脱いで居間に上がる。

 

 

「どちらに行かれてたのですか?」

 

 

「カーレ湖」

 

 

「か、カーレ湖ですか!?あそこは徒歩で1時間半以上かかるはず……移動系の魔法を使えば確かに往復できるかもしれませんが」

 

 

「俺、魔法使えるようになったんだ」

 

 

「……え?」

 

 

「なんか魔法使えるようになったんだ。ほら」

 

 

 手の上に《亜空間物質収納術(アイテムボックス)》を出す。

 

 

「えっ、あ、ほんとだ。でもどうして……」

 

 

「分かんないけど……神様が魔力なしの俺を哀れんでこの力を与えくれたんだ。きっと」

 

 

 実はぼくの転生特典なんです。でもこれ、あながち間違ってはないよな。魔力なしの俺を哀れんだわけではないけど。なんか良いように理由を取り繕えた気がする。

 

 

「神様が……そうかもしれませんね。しかしサトイ様、この力を使う時は気をつけてください。この力で人や動物を傷つけてはいけませんから。サトイ様が危ないと思われたらその時は自分で判断して使ってください」

 

 

「もちろんそのつもり」

 

 

「ふふ、さすがサトイ様。理解が早くて助かります」

 

 

「もともとそれは考えてたから。別に理解が早いわけじゃないよ」

 

 

「まあ!サトイ様そんなところまで頭が回るなんて!」

 

 

 うん、まあ前世で30年近く生きてたわけだし。見た目10歳だけどさあ。

 

 

「……ちょっと部屋で読書してくる。夕飯の時に声掛けて」

 

 

 読書というか……世界の魔法や技能、スキルが書いてある本で調べ物をする、調べ物だな。ハイ。

 

 

「分かりました」

 

 

 この家、というかこの村の家はすべて日本のような和風建築である。もちろん部屋も和室である。

 

 

「《ステータスオープン》」

 

 

ステータス

名前:サトイ  男  10歳

天職:魔法師

称号:なし

魔力:10000

技能:風属性適正・闇属性適正・魔力感知・第六感・空間識覚・体術・言語理解・鑑定・環境適応・火炎耐性

スキル:『会心の一撃(クリティカル・ショット)』『魔力特性付与:分解』

加護:『神の加護』

 

 

 これが俺の現在のステータスである。まず天職というものがあるのだが、これは生まれつき決まっているものらしい。

 

 

 次に称号。これは二つ名のことである。ほとんどは名前だけだが、中には称号保持者にバフを与えるものもあるらしい。

 

 

 魔力、これの平均値は50らしい。つまり俺の魔力はかなり高い数値であることが分かる。ちなみに村の教会での魔法・スキル測定のとき、数値は0だった。

 

 

 技能、これは習得している技能のうち常時発動している、または魔力を消費せずに使える技能のことである。

 

 

 スキル、これは魔力を消費して発動する技能のことである。その分強力なものが多いと言う。ちなみに俺は前までスキルを『会心の一撃』しか持っていなかったからこれも転生特典の超強化に含まれているようだ。

 

 

 加護、これは神様や精霊やドラゴンなどの上位魔族などから与えられるものである。加護は魔力の増化、身体能力の向上などの恩恵を受けられる。『神の加護』は多分転生特典のことだろう。

 

 

 こうしてステータスを見たのは理由がある。俺の持っている技能、スキルが帝国が監修している本、『魔法技能スキル大全』という本なんだけど、これに載っているのかを確認するためだ。

 

 

 そして1時間後……。

 

 

 五十音順に並んでる訳でもなく、しかも載っていない可能性もあるから探すのに時間がかかった。というか技能とスキルのところを全部読んだ。技能はすべて乗っていた。『会心の一撃』も載っていた。しかし『魔力特性付与:分解』は載っていなかった。スキルは種類が多いとは言うが、やっぱり神様からの贈り物かだからか。

 

 

『会心の一撃』

『物理攻撃の威力を上げる。消費した魔力量が多いほど威力が上がる』

 

 

『魔力特性付与:分解』

『魔力に分解属性を付与する』

 

 

 ハイ、やっぱり強いですねぇ。さすが神様、強いスキルありがとう。

 

 

「あ゙〜疲れた」

 

 

 ずっと座ってたからね。あとずっと本見てたから目がしょぼしょぼする。どうやら魔法技能は超強化されても目は強化されていないようだ……。ちなみに身体はずっと同じ体勢で、それから急に動いてもすんなり動く。

 

 

「サトイ様。夕飯できましたよ~」

 

 

「ん、すぐ行く」

 

 

 ユナの作るご飯は美味い。これこそ前世のファミレスと比べものにならないくらい。俺の母に仕えてた時は料理番をしていたらしい。まあそりゃあ美味いよね。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 夕飯も食べて休憩して体力も回復した。ということで読書再開。

 

 

 次は魔法について調べる。主に風属性魔法と闇属性魔法だ。理由はさっき俺にこのふたつの属性の適正があると分かったから。ちなみに技能に〇属性適正というものがあるが、適正がない属性の魔法は使えないか、使えても限りなく弱い。俺が湖で使った分離などの無属性魔法は頑張れば誰でも使える。そう、頑張れば。

 

 

 『魔法はイメージだ』

 

 

 本の目次に載っていた著者の言葉だ。著者は帝国軍の魔法師とプロフィール欄にあるので嘘ではないのだろう。しかし、この本は魔法について、1番簡単な初級魔法以外、魔法の名前しか載っていない。昔の俺は魔法が使えなかったから別に良かったけど、今は使えるようになったから魔法の説明も要るんだよなぁ。

 

 

 これは近くの町に出て新たな本を買うしかなさそうだ。村の本屋にはなかったはずだから。明日にでも行こうかな。

 

 

 さっきも言った通り、初級魔法の説明は載っているのでそれを見る。

 

 

「《強い風(ストロング・ブリーズ)》……」

 

 

 風属性の初級魔法だ。相手に風をぶつけて吹き飛ばす魔法である。とりあえずこれが使えないと多分これより強い魔法が使えない。道中で魔物が出たり変な輩に絡まれたら試せるな。もしそれがなかったら……カーレ湖で試すか。まわりの奴ら巻き込まないように。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 翌日。朝、ユナに町に行くと伝えると銀貨を3枚くれた。昼食と欲しいものを買う資金だ。銀貨は銅貨10枚分の価値がある。銀貨の上の貨幣に金貨があるが、銀貨10枚分の価値がある。

 

 

 そして俺はこの銀貨3枚を持って家を出た。町は森とは反対の方向なので、昨日とは逆の方向に歩いて向かう。飛んで行ってもいいが、歩いていないと魔物に遭遇するか誰かに絡まれることもないからな。そうなると《強い風》を試せない。カーレ湖で試す方法はあるけど、必ずしも魔法に誰も巻き込まないというわけじゃないからあんまりしたくない。

 

 

「あれぇ〜?これはこれは鬼の子のサトイ君ではありませんかぁ〜?こんなところで何してるの〜?」

 

 

 ガキ大将とその取り巻きの登場だ。今まで俺を事ある毎にからかってきた奴らだ。名前は覚えてない。ひょっとして、これ魔法試すチャンスでは?

 

 

「もしも〜し、聞こえてますか〜?あ、もしかしてオレたちに会って嬉しくて声も出ない感じ?どんだけオレたちのこと好きなんだよ〜」

 

 

 ガキ大将が俺の肩にポン、と手を置く。ギャハハ、と取り巻きが下品に笑う。あ゙〜ウザいわぁ。

 

 

「ブヘッ!」

 

 

 あ、裏拳綺麗に決まっちゃった。鼻血出てるねえ。俺そんなに強くやってないけど……。ガキ大将はふらついてるけど、すぐに体勢を立て直した。さすがガキ大将、タフだなぁ。

 

 

「あ、反射でやっちゃった。力入れてないけど……大丈夫?」

 

 

「っ、お前オレのことナメてんのか!?やっちまうぞ?」

 

 

「え、何するの。今から家に帰って鼻血の治療?」

 

 

「やっぱお前オレのことバカにしてるよなぁ!?いいぜ、そんなに死にてえんならやってやるよ!《熱拳(ヒーティング・フィスト)》!」

 

 

 お、これは……。魔法を試す機会が与えられたようだ。ガキ大将は感情的になってるから動きが単純だ。なのでたとえ魔法を使っていても避けやすい。避けて懐に手を置く。

 

 

「《ストロング・ブリーズ(強い風)》」

 

 

「は、ウワァ!?」

 

 

 ゴン!

 

 

 ガキ大将は吹き飛ばされて結構遠くにある木の幹に衝突して気絶した。アレ?初級魔法ってこんなに威力出るものなの?

 

 

「てめぇ……ケンちゃんに何しやがった!」

 

 

「魔法使った」

 

 

「は、てめぇが魔法なんか使えるわけ」

 

 

「《ストロング・ブリーズ(強い風)》」

 

 

「ウワァァ!」

 

 

 取り巻き全員まとめて吹き飛ばす。そうすると全員遠くの木に衝突して気絶した。

 

 

 ……やっぱり威力おかしくない?



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思わぬ出会い

 

 村の悪ガキ共に絡まれてから2時間ほど経った。あれからずっと歩いているが、見える景色はずっと草原、ときどき民家である。しかし今、やっと光を発する高い建物を筆頭に建物が見えたのだ。ということは……。

 

 

「あれが町……?」

 

 

 歩いてもっとそれらに近づくと、検問所とそこに並んでいる人が見えた。つまりそこが町の入口なんだろう。そしてなぜか並んでいる人たちにめっちゃ見られた。それを気にせずにその最後尾に並ぶ。

 

 

「ねぇねぇ君、どこから来たの?」

 

 

 前に並んでいた金髪のお姉さん系の女性か話しかけてきた。

 

 

「……カーレ村です」

 

 

「へー、あんな田舎にこんなカッコイイ子がねぇ……」

 

 

「そ、そうですか?」

 

 

「そーだよ。都会にいてもお目にかかれないくらいの美男子だよ、君は」

 

 

「そ、そんなにですか?」

 

 

 ぶっちゃけ異世界だからイケメン貴公子なんていっぱいいるだろうと思ってたわ。そんなことないんだね〜。

 

 

「ウン。あたしヒューベルンターゼに住んでるんだけど、君みたいな美男子なんて見たことないよ。だからこの町でも注目の的になるよ〜」

 

 

「あの、ヒューベルンターゼ?ってどこですか?」

 

 

「ん?聞いた事ない?武装都市『ヒューベルンターゼ』って。西のほうにある帝国騎士団の基地があるところなんだけど」

 

 

「知らなかったです」

 

 

「覚えといたら将来役に立つよ……あ、あたしの番だ。あたしニーナって言うの。将来ビッグになったらお姉さんのところに来てね〜」

 

 

 女の人、基ニーナさんは門兵のいるところに向かって行った。あ、本屋の場所聞いとけばよかった。まあ自分で探すかぁ。

 

 

「次の人、どうぞ」

 

 

 門兵に呼ばれたので門の方向に向かう。門の前まで来たが、門兵が俺を見て固まった。

 

 

「?何かしないんですか?」

 

 

「あ、ああ。君、冒険者タグ持ってるかい?」

 

 

「持ってないです」

 

 

「冒険者タグは町の冒険者ギルドで冒険者登録をすれば貰えるよ。これがあれば入門税が免除されるよ。次はここに手をかざして」

 

 

「はい」

 

 

 アーティファクトに手をかざす。

 

 

「名前はサトイ、10歳……え!?じゅ、10歳!?」

 

 

「?そうですよ」

 

 

「おいお前!何騒いでんだ!……10歳なら入門税は要らないよ。あの門に入れば『アルーナ』の町だ。あとこれ入門許可証な。ここから出る時に門兵に見せてくれ」

 

 

「分かりました」

 

 

 門兵の居場所を通って門をくぐる。門をくぐると綺麗な道と建物が見える。さて、この中から本屋を見つけないとな……。あと冒険者ギルドも。冒険者登録しておきたいから。

 

 

「というかめっちゃ見られてる……」

 

 

 さっきのニーナさんの話にあった通り、珍しいのか可笑しいのか分からないけどめっちゃ見られる。本当に過ごしずらい。

 

 

「あ、冒険者ギルドあった」

 

 

 『アルーナ冒険者ギルド』。まさかこっちの方が早く見つかるとは思わなかったわ。にしてもこれがラノベで見た冒険者ギルドか。胸が熱く……はならないけどなんか凄いな(語彙力不足)。

 

 

 中に入るとまたしても注目の的になる。視線が俺に釘付けである。俺は早く用事を済ませて帰らなければならないと分かった。じゃないと俺の精神が持ちません、ハイ。

 

 

「今日はどのようなご用件で?」

 

 

「冒険者登録をしたいんですけど……」

 

 

「はい、冒険者登録ですね。少々お待ち下さい」

 

 

「……この申込書の技能、スキル以外の場所に記入を。代筆は必要ですか?」

 

 

「大丈夫です」

 

 

 受付嬢からペンと紙をもらう。名前はサトイ、年齢は10歳、出身地は……ミヤコでいいよね?天職は魔法師、技能スキルは空けて……と。

 

 

「書けました」

 

 

「ありがとうございます……ってあなた10歳!?」

 

 

「?そうですよ」

 

 

「……ごめんなさい。ちょっと見えなくて驚いてしまったわ。10歳なら冒険者登録は出来るわね……次はこのアーティファクトに手をかざして下さい」

 

 

「はい」

 

 

「……えーと、技能は魔力感知、第六感、空間識覚、体術、言語理解、鑑定、環境適応、火炎耐性。スキルは『会心の一撃(クリティカル・ショット)』と『魔力特性:分解』ね……整理券を渡しておきます。この番号が呼ばれたらあちらの窓口で冒険者タグをお受け取り下さい」

 

 

 渡された番号は5番。

 

 

「分かりました」

 

 

 待ち時間ができたので近くの椅子に座る。が、それもまわりの人に見られている。ほんと、他にやることないんですかねぇ……?

 

 

「整理券番号5番でお待ちの方、どうぞ」

 

 

 いやはっや!俺座ってから1分も経ってないと思うんだけど。冒険者タグってそんなに簡単に作れるものなのか……。

 

 

「これが冒険者タグです。あそこの掲示板に貼っている依頼書を持って受付でこれを見せると依頼を受理してもらうことができます。ただし、冒険者ランクに見合ったランクの依頼しか受理できませんのでご了承ください。最初は特段の理由がない限りFランクからのスタートです。そして15歳未満の方は依頼の受理に保護者のサインが必要です」

 

 

「なるほど……あ、ちょっと聞きたいことがあるんですけど、いいですか?」

 

 

「はい。私で分かることなら答えますよ」

 

 

「魔法の書を売ってる本屋ってありますか?」

 

 

「魔法の書を売っている本屋ですか。それはここを出て左に行った先にありますよ」

 

 

「ありがとうございます。ほんと助かります」

 

 

「いえ、お気になさらず」

 

 

 緑のタグ付きのカードを受け取る。ただのタグ付きのカードにしか見えないけどこれが身分証の役割をするんだよなぁ。

 

 

 さて、ここを出て左に行ったら本屋があるらしいが。

 

 

「おいおい、あいつらDランクパーティの<風の渦(ハリケーン)>じゃねぇか!?」

 

 

 なんかチンピラ3人に女の子が絡まれている。多分あれはどっかに連れて行かれるパターンだろうなぁ……。

 

 

「可哀想に……あんなヤツらに絡まれて」

「あ、亜麻色の髪の女の子がリーダーみたいなやつにビンタした!」

「馬鹿だねぇ……どうせ助けてもらえないのに自分から首突っ込むなんて」

 

 

 どうやら男3人に割って入った勇者がいるらしい。

 

 

「その子から手を離して下さい!」

 

 

「あ゙?なんだてめぇ」

 

 

「だから、その子から手を離して下さい!怖がってます!」

 

 

「ふーん、そう。じゃあ君がコイツの代わりになってくれよ」

 

 

「アニキ、コイツ上玉ですぜ」

 

 

「なら、コイツの方がいーや。お前邪魔だ!あっち行け!」

 

 

「きゃ!」

 

 

「早く逃げて!」

 

 

 元々絡まれてた女の子はリーダー格に押されて尻餅をついた。そして逃げ出して行った。

 

 

「近くで見たらかわいーな。反抗心あるから調教のしがいありそーじゃね?」

 

 

「じゃ、行こーぜ。俺たちがイイコトしてやんよ」

 

 

「い、いやです……」

 

 

「いや拒否権なんてねーから」

 

 

 あ〜勇者の女の子可哀想だな〜。正義感強そうな子だけど後先考えずに首突っ込むのはダメだね〜。というかあの男3人

 

 

「気持ちわる……」

 

 

「おい!誰だ俺たちのこと気持ち悪いって言ったヤツ!」

 

 

 いや地獄耳かよ!俺結構後ろらへんにいるし誰にも聞こえないくらいで呟いた独り言だぞ。なんで聞こえんだよ。

 

 

「確かここらへんから聞こえたんだよなァ」

 

 

 俺のいるあたりを指さしてそう言う。

 

 

「もし言ったヤツ正直に言わなかったらそこらへんのやつ全員ボコす」

 

 

「嘘だろ!?」

「なんで知らねえやつの責任をおれたちが取らなきゃいけねえんだ!」

「もう誰でもいいから言ったって自白してくれ!」

 

 

 ごめんね、俺のせいでこんなことになるなんて思わなかったんだ。

 

 

 でもこれ、正直に俺が言ったって言えばあいつらにスキル《会心の一撃(クリティカル・ショット)》試せるじゃん。あの娘も助けられるし、まわりの人も安心するだろう。

 

 

「ん、俺だけど」

 

 

「ちょっとアンタ!大丈夫なのかい?」

「アンタ救世主か!」

「あいつらをやっちまってくれ!」

 

 

 どうやらまわりの人たちは俺が言ったと分かっていないみたいだ。ウン、よかったぁ。

 

 

「イケメン君、君自分が言ったことは責任取ってもらうよ~!」

 

 

「現実逃避したいだけだろ。俺の言ったことが図星だったから」

 

 

「てめぇ!俺たちのことバカにしてんのか!?」

 

 

「そうだよ」

 

 

「生意気なガキめ……潰してやゴハッ!」

 

 

 なんとスキルなしのただの蹴りでリーダー格を沈めてしまった。こいつ貧弱だね……。え、ほんとにこれでDランクですか……?こいつにスキル使って殴ったら内臓破裂とかしそうな気がする。

 

 

「アニキ!てめぇ……よくもアニキを!」

 

 

 ただ正面から殴りかかって来るだけなのでそれを避けてスキル《会心の一撃(クリティカル・ショット)》発動。ほんの少しだけ魔力を消費して軽く殴る。するとなんということでしょう。地面をバウンドして転がっているではありませんか!

 

 

 

「く、くそぉ!もうヤケクソだぁ!」

 

 

 最後の1人はその言葉通りに突進してきたので回し蹴りでぶっとばした。

 

 

「ハイ、終わり」

 

 

 あたりがシーンと静まった。まわりの人も女の子も固まっている。少し時間が経つとまわりが賑やかになった。

 

 

「おおおおお!すげぇ!」

「3人を一発で沈めたぞ!」

「あんなん惚れてまうやろ……」

 

 

 まわりが騒がしいけど、とりあえず本屋に……

 

 

「あの!助けていただいてありがとうございます!」

 

 

「ん、別に俺は自分の尻拭いをしただけだし」

 

 

「それでも私とあの子は助かったんです!」

 

 

「そ、そうか」

 

 

「本当にありがとうございます!」

 

 

「そんなに言わなくていいよ……というかなんで君はあの揉め事に首突っ込んだの?」

 

 

「あの子、私の友達なんです。それであの子を絶対助けなきゃって思ったら身体が勝手に動いて……」

 

 

「でもあの子君見捨てて逃げてったけど」

 

 

「あれは私が逃げてって伝えたんです」

 

 

「ふーん……あ、やべ」

 

 

 衛兵が来た、という言葉は抑えられた。聞かれたら何か拙いことがあると誤解されるからな。

 

 

「これはどういう状況だ、ってサラ!?」

 

 

「お父様!?どうしてここに!」

 

 

「今日はアルーナの町の視察ということで衛兵の任務に同行していたんだ……サラはこの男たちについて何か知っているか?」

 

 

「この人たちに私の友達が連れていかれそうになって……私が助けようとしたんですが今度は私が連れていかれそうになって。この方に助けてもらったんです」

 

 

「ふむ、君がサラを助けてくれたのか。私はこの町の領主をしているルベルト・フォン・グリンファルド辺境伯だ。この度は私の娘、サラを助けていただきありがとうございます」

 

 

 そう言ってルベルト辺境伯は俺に頭を下げた。へえ、この女の子サラって名前なのか。

 

 

「そんな、頭を上げてください」

 

 

「……本当にありがとう。君の名前は……」

 

 

「サトイです」

 

 

「サトイ君か。君にお礼がしたい。ウチの屋敷に来てくれないか」

 

 

「行ってもいいんですか、俺みたいな平民が」

 

 

「平民かどうかだなんか関係ない。君はサラを助けてくれたんだ。それに君は……」

 

 

「俺は……?」

 

 

 俺はワケありなのか……。まさか俺が貴族の息子と知っているのか?

 

 

「いや、なんでもない。衛兵長、この男たちを連れて行ってくれないか。この2人の調書は後で私から送るよ」

 

 

「はっ!了解致しました!」

 

 

「今から馬車を呼ぶから来るまで役場で待っていよう。2人とも、着いてきてくれ」

 

 

 そうして俺は貴族の屋敷に行くことになった。まさか自分の親の屋敷よりも早くに上流貴族の屋敷に行くとはな……。びっくりだよ。

 



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貴族の屋敷にお邪魔した

 ルベルト辺境伯か馬車を呼んだが、すぐに来るわけではないのでアルーナの町役場で馬車の到着を待っている。

 

 

「サトイ君、君何歳なんだい?」

 

 

「10歳です」

 

 

「えっ!?てっきり15歳くらいだと思ってたよ」

 

 

 よく言われるよ。俺身長180弱あるし、こんな容姿だし。ちなみにこの世界の人は日本人よりも肉体の成長速度が1.5倍ほど早い。だから10歳男子の平均身長は160弱である。まあ俺はその中でも飛び抜けてるけどな。

 

 

 そう言うことがあるから、冒険者登録が10歳で出来て成人年齢が15歳となっているのだろう。

 

 

「ということは……私と同い年ですね」

 

 

「あ、同い年なんですか」

 

 

「ははは、これならサトイ君にならサラを任せていいかもな」

 

 

「ちょっとお父様!?」

 

 

「まあまあルベルト辺境伯、ちょっと気が早くないですかね」

 

 

「サトイ君は絶対にモテるからね。今のうちに申し込んでおかないと。サラは奥手たから取られないようにしないとな。あと私のことはルベルトさんでいいよ」

 

 

「な、何言ってるんですかお父様!サトイ様も初対面の女と婚約なんて言われたら嫌でしょう!」

 

 

「はははは……そんなことないよ。サラみたいなかわいい女の子なら、ね」

 

 

「ふえっ!?か、かわいいなんてそんな……」

 

 

 サラは顔を赤くして身体をくねくねさせる。

 

 

「サトイ君、君は大物になるだろうね……」

 

 

 ルベルト辺境伯……いや、ルベルトさんは遠い目をしてそう言う。よく分からんな。ただ女の子を褒めただけで大物になるって……。

 

 

「?ありがとうございます……?」

 

 

「辺境伯さま!馬車が到着致しました!」

 

 

 おお、助かった。2人がトリップしてるカオスな状況だったからどうしようかと思ったよ。ナイスタイミングですよ、そこのあなた。

 

 

「お、それでは表に出ようか」

 

 

 町役場の外には馬車と馬が止まっている。止まっているのだが……。

 

 

「馬車が2台しかない……」

 

 

「申し訳ありません!てっきり御館様とお嬢様だけだと思っていまして!お2人の専用の馬車しか用意しておらず……」

 

 

「どうするのですか?」

 

 

「むむむ、こうなったらサトイ君にサラが同じ馬車に乗ってもらうしかないな」

 

 

「サトイ様はお客様なのですよ?私なんかと同じ馬車に乗られるなんて」

 

 

「別に俺はいいよ」

 

 

「サトイ様!?よろしいのですか?」

 

 

 嬉しそうな顔をするサラである。

 

 

「うん。でも君が俺と様付けしないで話してくれないとなあ……ルベルトさんと同じ馬車に乗るかなぁ」

 

 

 ニヤリ、と口角を上げてそう言う。するとルベルトさんも俺と同じように口角を上げる。サラは愕然とした顔をする。え、そんなに?そんなに俺と一緒に馬車に乗りたいの?

 

 

「うう、でもサトイ様は私の恩人で……」

 

 

「でもさっき君は俺にさん付けなしで話してって要求に応えたよね。だから君も俺に様付けはやめて話してよ。ああ、別に俺と一緒に馬車に乗りたくないのならそのままでいいんだよ?」

 

 

「お、私は大歓迎だよ」

 

 

 ニヤニヤしながらそう言うルベルトさん。この人ノリいいな。

 

 

「ダメ!サトイ様は私と……」

 

 

「そんなに一緒に乗りたいの?なら様付けはやめよ?」

 

 

「……わ、分かりました。さ、サトイ君?これでいいですか?」

 

 

 か、かわいい!思わずニヤけてしまうところだった。

 

 

「うんうん。よし、じゃ、一緒に乗ろっか」

 

 

 ニヤけそうなのを誤魔化すために軽く笑顔を作ると顔を赤らめるサラ。笑顔見ただけで顔赤らめるなんて純情だねぇ、俺にもこんな時期があったのかな……?

 

 

「ん、よいしょ……っと」

 

 

 馬車、意外と座り心地いいんだね。専用の馬車って言ってたしそこらへんはちゃんとしてんのかな。

 

 

「おとなり、失礼します」

 

 

「うん」

 

 

「それでは、出発致します」

 

 

 馬がヒヒーンと鳴くと同時に馬車は動き出した。なんか前世で人力車に乗った時と似てるな。

 

 

「あの、何かお話しませんか?」

 

 

「うん、いいよ。何の話がしたいの?」

 

 

「えーと……魔法の話がしたいです」

 

 

「魔法ね。サラは何属性魔法を使えるの」

 

 

「火属性と光属性です。最近は上級魔法の練習をしてるんです!」

 

 

 この歳で上級魔法をか。上級魔法は宮廷魔術師でも使いこなすのはやっとって言うくらいだから、凄いな。転生者ならやりかねないけど。

 

 

「へえ、てことは魔力保有量って結構多い?」

 

 

「はい。確か前測った時は1000だったはずです。宮廷魔術師10人分?って言われました。サトイ君はどうなのですか?」

 

 

「あー、俺?俺は10000あったね」

 

 

「い、いちまん!?それ本当ですか!?」

 

 

「ほんとだよ。ほら」

 

 

 《ステータスオープン》。そして具現化。サラにも見えるようにする。

 

 

「え……本当だ。って神の加護!?これ何ですか!」

 

 

「あーこれ?これはつい最近俺に付いた加護だよ。多分これのおかげでこんなに魔力があるんだ。昔魔力測った時魔力0だったから」

 

 

「ええっ!?サトイ君昔魔力なかったのですか!?」

 

 

「うん。まあそれでも普通に生活できるし気にしなかったけど」

 

 

「……サトイ君の話に驚いてばっかりです」

 

 

「次はサラの話を聞かせてくれないか?」

 

 

「いいですよ!最近帝都で私のお披露目会が行われたんですよ」

 

 

「ふむふむ」

 

 

「そのお披露目会で公爵様のご子息が私のことを好きだ!かわいい!とおっしゃられて……」

 

 

「よかったじゃん。公爵様の息子に褒められて」

 

 

「褒められたのは素直に嬉しかったんですが、その後公爵様からご子息様と私と婚約の打診があったらしくて」

 

 

「ふむふむ」

 

 

「私、お父様の面目を潰さないためにも婚約を受けると言ったほうがよいのでしょうか?」

 

 

 ちょっと大人すぎない?10歳でそんなこと考えられんのかよ。この世界って精神の発達も早いのか?

 

 

「……サラはその話受けたいの?」

 

 

「う、受けたくないです」

 

 

「ならいいでしょ。君はまだ子どもなんだからわがまま言ってもいいんだよ」

 

 

「そ、そうですか?」

 

 

「うん。親はだいたい子どもの意志を尊重したいはずだからね」

 

 

「……お父様に今度言ってみます」

 

 

「うんうん、それがいいよ」

 

 

「……サトイ君は頼りになるお方ですね」

 

 

「そう?これでも君と同い年なんだよ」

 

 

「高身長で容姿も良くて、非の打ち所のないお方です」

 

 

「そんな、非の打ち所がないわけじゃないよ?」

 

 

「だから決めました!私サトイ君と結婚します!」

 

 

 チョットナニイッテルカワカラナイデス。結婚?え、結婚?もしかして初対面の子にプロポーズ(?)されてる?

 

 

「……え、いやいやいや!俺たち初対面だよ?もっと内面見てから決めた方がいいよ?それにもっと魅力的な人もいるだろうし」

 

 

「それはありえません!」

 

 

「そ、そうかい……とりあえず友達から始めない?俺たちお互いに自分のこと知らないし」

 

 

「そうですね!私のことサトイ君にもっと知ってもらって必ず惚れさせてみせます!」

 

 

「あ、うん……」

 

 

 何と言えばいいか分からない状況である。前世は女の子に求婚されることなんてなかったから。ハハハ……。そんなことを考えていると、馬車が止まった。

 

 

「屋敷に到着致しました」

 

 

 横を見ると洋風の大きな屋敷。全く気付かなかった。後に乗ったサラが降りたので俺も降りる。案内してもらって屋敷内に入る。

 

 

「ここがサラの家……大きいねぇ」

 

 

「使用人の方々も住んでおられますし、それに来賓の方用の部屋もありますので」

 

 

「ふむふむ。貴族の屋敷ってこんな感じなのね」

 

 

「おや、随分仲が良さそうだね。何かあったのかい?」

 

 

 さっき1人で馬車に乗ったルベルトさんである。

 

 

「ええ。彼女と友達になりました」

 

 

「それは本当かい!?サラにとって初めての男友達なんだ。優しくしてやってほしい」

 

 

「え、俺が初めての男友達……?お披露目会で友達作らなかったの?」

 

 

「女友達は作ったみたいなんだけど、男の子は怖いらしくてね。サトイ君は大丈夫だったんだね。まさかサラ、サトイ君のことす」

 

 

「お父様!サトイ君の前で言わないでください!」

 

 

 いや君、俺にプロポーズ(?)したよね?何を俺の前で今更恥ずかしがってんのよ……。あ、ルベルトさんにそれを言われるのが嫌ってこと?

 

 

「そういえば馬車でサラに上級魔法まで使えると聞いたんですけど、ルベルトさんも魔法使えるんですか?」

 

 

「私は昔、宮廷魔術師をできるくらいだったんだ。でも最近魔法は使っていないからね。結構衰えてるよ……っと、この部屋だな」

 

 

 ルベルトさんが2階のとある部屋の扉を開けると、部屋の長テーブルには取手付き宝箱があった。

 

 

「さ、2人とも適当なところに座ってくれ」

 

 

 ルベルトさんが座った向かい側に座る俺とサラ。

 

 

「サトイ君、君にはお礼がしたい。これを受け取ってくれ」

 

 

「中身を確認してもいいですかね?」

 

 

「もちろん」

 

 

 中身は大量の金貨だった。それを見て箱をゆっくりと閉じた。

 

 

「どうしてこれを?」

 

 

「君はサラを助けてくれた。だからお礼の気持ちを示さなければならない。受け取ってくれ」

 

 

「分かりました、受け取ります。でもこの箱はお返しします」

 

 

 箱を開けて《亜空間物質収納術(アイテムボックス)》に中の金貨をしまう。すると2人は驚いた顔をする。

 

 

「《アイテムボックス》まで使えるのですね」

 

 

「しかしこんな《アイテムボックス》見たことないな……」

 

 

「《アイテムボックス》にも違いがあるんですか?」

 

 

「ああ。私の見たことのある《アイテムボックス》の使用者は物に手をかざしたりするとそれが消えたようになくなるんだ」

 

 

 まさかの特別仕様?これも魔法超強化のおかげだな。別にうれしくはないけど。

 

 

「ああ、話が逸れてしまったね。何か欲しいものはないかい?私たちで用意できるものなら用意するよ」

 

 

 え、そんな話だったっけ?まあいいや。使えるものは使おう。

 

 

「風属性魔法の書が欲しいです」

 

 

「風属性の魔法の書ね……分かった。君が帰るまでに用意させるよ」

 

 

「?帰るまで?」

 

 

「ああ。もう昼食にはいい時間だからね。君にはウチで昼食を食べてもらいたいんだ」

 

 

「え、いいんですか?」

 

 

 異世界の貴族が食べる料理、是非食べてみたい。

 

 

「もちろん。あ、嫌いな食べ物はないかい?」

 

 

「ないですね」

 

 

「そうか。なら楽しみにしておいてくれ。ここの料理人の腕は帝国でもトップクラスだからね」

 

 

 ほう、それは期待できそうな。不味いことはないだろうし、貴族の食べる料理だからね。

 

 

 

 

 

 

 

 もぐもぐもぐ。ごくん。

 

 

「おお!これは美味い!」

 

 

 うん、正直びっくりだよ。まさかこの世界にも地球とほぼ同じなチャーハンがあるとは。しかも前世で食べていた時よりも材料が良いし料理人も良いからすごく美味い。さすが貴族の料理人が作る料理だ。

 

 

「はは、そうだろう?足りなかったら言ってくれ。追加で作らせるからね」

 

 

「あ、大丈夫です。今あるだけで足りますから」

 

 

 前世の俺は体育会系でもないインドア派人間だったためか食べる量はそんなに多くなかった。それが今世にも引き継がれているのか、俺はそんなに食べない。だからおかわりをできるほどではないのだ。

 

 

 それはそうとお2人さん、食べてる俺をじっと見るのやめてくれませんかね?恥ずかしいし食べずらいんで。

 

 

「いやぁ〜食べてるところも様になるねぇ」

 

 

「さすがサトイ君です!」

 

 

「あの、食べずらいんで見るのやめてくれません?」

 

 

「ああすまない。つい様になっていたから見入ってしまったよ」

 

 

「やっぱりサトイ君はかっこいいです……」

 

 

 この身体に転生させてくれた神様には感謝するよ(白目)。珍獣を観察してるみたいに見られるのがこの身体の弱点(?)だね。

 

 

「サラ……サラ!」

 

 

「はっ!私は何を……」

 

 

 2人が親子漫才をやっている間に食べ終わった。え、食べ終わるの早いって?そんなことないよ。見られてるの我慢して食べてた時間が長かったから話が短くても食べ終えられるんだよ。

 

 

「ごちそうさまでした」

 

 

「お、食べ終わったね」

 

 

「し、しし失礼いたしましゅ!」

 

 

 噛み噛みのメイドさんは食器類を配膳車に乗せて部屋の奥に消えた。

 

 

「?」

 

 

「やはり君の容姿は凄いねぇ……」

 

 

「自覚はしています」

 

 

「これは早々に身分を用意して囲わないと手遅れになりそうだ……」

 

 

「ははは、そうですかね……?」

 

 

「ああ。この話は置いておいて……そろそろ来るはずだ」

 

 

 コンコンコン。ガチャ。

 

 

「失礼致します。書の用意ができましたのでお持ち致しました」

 

 

「ありがとう。テーブルの上に台ごと置いてくれ」

 

 

「承知しました」

 

 

「サトイ君、君が欲しかったものがこれで間違いないか中身を見て確認してほしい」

 

 

 表紙からペラペラとページをめくる。

 

 

「はい。間違いないです」

 

 

「それは良かった。これは君が自由に使ってくれ」

 

 

 それは受け取ってくれってことだよね?《亜空間物質収納術(アイテムボックス)》。黒い空間が書を飲み込む。

 

 

「私たちが渡すものは渡した。サトイ君、ここでゆっくりしていくかい?」

 

 

「お気遣いありがとうございます。でも俺も家に帰らないといけないので」

 

 

「うむ、そうか。暇な時はいつでも来てくれて大丈夫だからね。サラの初めての男友達なんだ、これからもよろしく頼むよ」

 

 

「まあ、はい」

 

 

「馬車を用意しようか。君の家はカーレ村だったね、送らせるよ」

 

 

「あ、大丈夫です。飛んで帰るので」

 

 

「飛んで帰るって……飛行魔法が使えるのかい?」

 

 

「はい。じゃ、また来ますので」

 

 

 近くの窓を開けて《天翔(アマカケル)》。魔力を噴射して飛行する。空を飛ぶのは気持ちいいなぁ。

 



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さあ、旅の始まりだ

 俺が記憶を取り戻してからきっちり5年、つまり俺は今日15歳になったわけだ。そんなメモリアルな日の今日、やっと2回目の転生特典が来た。それが分かった理由は布団の横に刀と銃、そして手紙があったから。

 

 

 驚きで目がぱっちりと覚めた俺はとりあえず刀と銃を《亜空間武器庫(アーセナル)》にしまった。そしてその次はステータスの確認。

 

 

「《ステータスオープン》」

 

 

ステータス

名前:サトイ  男  15歳

天職:魔法師

称号:なし

魔力:100000

技能:全属性適正・魔力感知・第六感・空間識覚・体術・言語理解・鑑定・環境適応・火炎耐性・慧眼・回復パワーアップ・体得

スキル:『天上天下唯我独尊』『会心の一撃(クリティカル・ショット)』『魔力特性付与:分解』

加護:『神の加護』

 

 

 何か色々と増えてますね。まず魔力。これは10倍になっているぐらいだ。技能については全属性適正になった。つまり全属性の魔法がきちんと使えるよ兎になったということだ。他にも回復パワーアップと慧眼と体得いうものが増えている。

 

 

 回復パワーアップ、これはいわば某戦闘民族の持つ能力だ。慧眼、これは本当は見えない魔力や魔法を捉えることのできる特殊な目のことである。手から魔力を出してみたら本当に見えたよ。体得、これは自分が受けた魔法を使えるようにする技能だ。

 

 

 次にスキルだが、『天上天下唯我独尊』というものが追加されている。名前が凄いねぇ。

 

 

『天上天下唯我独尊』

『命の危機に陥った時、1秒に5%の確率で身体の損傷、欠損部位の修復、魔力回復などの効果を得られる』

 

 

 まあ保険みたいな物だよね。死にかけてもなんとか息してたら生き返る可能性があるよって言う。きっとこれは使う機会はないだろうね(フラグ)。

 

 

 次は手紙の確認だ。

 

 

 

 

 

拝啓 岩槻 慧様

 

 

 神です。お元気ですか、あなたもそろそろ異世界の生活に慣れてきたはずです。私は以前と変わらない平凡な日々を過ごしております。

 

 

 さて、この手紙が届いたということは2回目の特典があなたの手に渡ったということです。ちゃんと能力は増えているので安心してください。

 

 

 刀と銃ですが、名前はありません。あなたが付けてあげてください。名前を付けると好きな時に自分の手に呼び寄せることができる能力が付きますので。それらの能力は《鑑定》で見てください。きっとあなたの生活の役に立ちます。

 

 

 この手紙はあなたが読み終わり次第溶けてなくなります。

 

 

神より

 

 

 

 

 

 刀と銃、そんな便利な機能あるんだね。名前は後でじっくり考えて付けることにした。起きてすぐは頭が働かないからね。とりあえず居間に行く。

 

 

「サトイ様、誕生日おめでとうございます。これ、サトイ様宛のお手紙です」

 

 

「ん、ありがと」

 

 

 包みの紙を開くと手紙がある。中身は1枚だけだった。

 

 

 

 

サトイ・フォン・ミナリアス様へ

 

 

 15歳の誕生日おめでとうございます。私も会って祝いたかったのですが、会えないのでこうして手紙を送りました。

 

 

 さて、突然ですが私はサーレル・フォン・ミナリアスと申します。あなたの父です。言い訳がましくなるのですが、今まであなたに会えなかったのもカーレ村という辺境で暮らしてもらっているのにも理由があります。それも含めて会って話せたらと思います。

 

 

 本題に入りますが、あなたがしたいことがあれば、何も気にせずしてください。あなたの世話係を任せているユナさんにですが、一生働かずに暮らせるほどの資金と家を用意しております。お迎えも送りました。手紙が着いた日の夜には着くので伝言よろしくお願い致します。

 

 

 最後に、あなたの16歳の誕生日までに帝都『ミヤコ』のミナリアス公爵家屋敷にお越しください。あなたに会える時を楽しみにしております。

 

 

サーレル・フォン・ミナリアスより

 

 

 

 

 

「……ユナ。これ見てみて」

 

 

「はい。えーと……なるほど」

 

 

「あれ、驚かないの?」

 

 

 手紙の一部を指さす。

 

 

「サトイ様の世話係に任命された時にこの条件は言われてましたから」

 

 

「ふーん。なら驚かないのも無理はないね」

 

 

「ところで、サトイ様は何かしたいことはございますか?」

 

 

「うーん、やっぱり旅したいかな?」

 

 

 異世界と言ったら旅だよなぁ。せっかくの異世界だし定住するよりも旅をした方が楽しい気がする。

 

 

「いつからされるかのご予定は……?」

 

 

「ないけどできるだけ早くやりたいとは思ってる」

 

 

「では明日から行かれてはどうですか?」

 

 

「へ、明日?どうして」

 

 

「サトイ様の願望ができるだけ早く叶ってほしいからですよ。あ、今日はサトイ様の誕生日ですからここにいてくださいね」

 

 

 旅の準備は服を《亜空間物質収納術(アイテムボックス)》に詰めるだけだし、出ようと思ったらすぐに出られるな。

 

 

「……ん?」

 

 

 

 外がなにかの鳴き声やら人の声やらで騒がしい。

 

 

 コンコンコン。

 

 

「ちょっと行ってくるよ」

 

 

 玄関の戸を開ける。するとサラ、後ろに馬と護衛の兵士がいた。

 

 

「サトイ君!誕生日おめでとうございます!」

 

 

「ああうん、ありがと。さ、上がって」

 

 

「お世話になります!」

 

 

 

「なるほど……サトイ君は旅がしたいのね」

 

 

「ついてくる?」

 

 

「え、いいの?」

 

 

「俺はいいよ。ちゃんとルベルトさんが許可してくれたらな」

 

 

「分かった。お父様になんとかして許可をとってきます!」

 

 

「ユナは……ミヤコに戻らないといけないんでしょ?」

 

 

「はい。ですので私は旅についていくことはできません」

 

 

「そっかぁ……でも今日の晩に迎えが来るならサラも泊まるんだし2人で見送れる」

 

 

 そう、サラは俺の誕生日はウチに泊まっていくのが恒例だったのだ。まあそれも今回で終わりっぽいな。

 

 

「ふふ、それは嬉しいです」

 

 

「……今日が最後なんだね」

 

 

 めっちゃ急だけどユナとここの家で暮らすの今日で最後なんだよね。前世と今世の合計で歳(精神年齢)30超えてるからか涙脆いんだよね。

 

 

「サトイ様、まだあと1日一緒に過ごせます」

 

 

「……そうだね」

 

 

 この日はいつも通り過ごした。夕食はサラが用意してくれたチキンとケーキを食べた。楽しい時間は過ぎるのが早く感じると言うが、まさにその通りだった。

 

 

「……行かれるのですね」

 

 

「はい。兵士の方々を待たせてるのは悪いですし」

 

 

「おれっ、絶対会いに行くから」

 

 

 やっぱり別れって悲しいよね。今、涙が溢れてるもん。前世合わせたらもうおじさんの歳だからかね。というかこれめっちゃ主人公とヒロインが生き別れになる瞬間に似てね?ヒロインは存在しないけどな。

 

 

「っ、ふふ、その時を楽しみにしておきますね」

 

 

「ユナ様、そろそろ出発致します」

 

 

「はいっ。サトイ様、サラ様。どうかお元気で」

 

 

「っ、ああ」

 

 

 ユナの乗った馬車は兵士に守られたまま出発した。うん、ちゃんと予定通りに帝都に着いてくれたらいいなぁ。今までお世話になったから是非とも平穏な日々を過ごしてほしいものだ。

 

 

「さて、戻りますかね……サラ?」

 

 

「……サトイ君も泣くことあるんですね」

 

 

「そりゃあね、俺も人間だから」

 

 

「ふふ、なんですかそれ」

 

 

 とまあこんな風に、ユナを見送った。その後は旅に持って行く荷物を《亜空間物質収納術(アイテムボックス)》にしまった。

 

 

「ということで、行きますか」

 

 

 翌日の朝、きっちり睡眠をとってから出発する。

 

 

「え、そっちは森だよ?それに背中に翼が生えて……」

 

 

 《天翔(アマカケル)》を発動させると翼が生える。

 

 

「飛ぶよ」

 

 

 サラを抱き抱える。いわばお姫様抱っこというものだ。

 

 

「え……キャアアァァ!と、飛んでる!こ、怖いぃぃ!」

 

 

 そういえば君、飛ぶの初めてだったね。なら高速で飛行してるのを怖がるのも無理はないか。

 

 

「あ、安心して。絶対落とさないから」

 

 

「安心出来ないよおぉぉ!」



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旅の始まりの前に

 

「ここがサトイ君の行きたかった場所?」

 

 

「そうだよ」

 

 

「綺麗な湖……こんな場所にあるなんて」

 

 

「普通こんな森の中にあるのは気付かないよね」

 

 

「どうやって見つけたの?」

 

 

「適当に森の上を飛びまわってたら見つけたんだ」

 

 

『お、ボスじゃねーか!最近森に来ねえから心配してたんだぞ?』

『ボスだ!久しぶりの生ボスだ!』

『オレコミュニティの奴ら呼んでくるわ!』

 

 

 よく知っている個体の狼が複数いた。いや二番目の君、生ボスって……。俺アイドルじゃないんだしさ。あとコミュニティってのはこの狼たちと同じく俺の部下になった奴らの総称だ。5年間に色々あったんですよ。

 

 

「お、おおお、狼!?こ、怖い!」

 

 

 そう言って俺の後ろに隠れるサラ。まあ普通の個体よりだいぶおっきい奴らだからね。

 

 

「あー、サラ。大丈夫だよ、こいつら俺の下僕だから」

 

 

『下僕じゃねえよ、部下だからな』

 

 

「な、なら大丈夫なの?」

 

 

「うん。あ、こいつモフってみたら?」

 

 

 今いる奴らの中で1番デカいリーダーオーカを指さす。

 

 

「わぉん」

 

 

「いいの?」

 

 

「わふっわふっ」

 

 

「……わっ!やわらかい!」

 

 

 オーカがやわらかいのを確認してから身体をオーカにうずめるサラ。幸せオーラが感じられる。

 

 

『わお〜ん(ボス!お久しぶりです!)』

 

 

 一番前にいる狼からテレパシーを受け取る。名前は炎帝。狼たちの四天王的な立ち位置の奴で火属性の魔法を使う奴だ。その後ろには大勢の狼。多分一族郎党全員連れてきたんだろうな。

 

 

『それって全員?』

 

 

『はい!フェザー・ホーネット集団に声をかけてきたのでそいつらももう少しで来るはずです……ところでアニキに埋まってる女は知り合いですか?』

 

 

 フェザー・ホーネットというのは羽毛のような毛に覆われたハチのことである。ミツバチのように蜜も作るし、スズメバチのように毒も持っている。いわば万能バチだ。

 

 

『そうそう。サラって言うんだ。ちょっと俺サラ止めてくるわ』

 

 

「サラさ〜ん?そろそろ元に戻ってくれないかい?」

 

 

「はっ!私は何を……」

 

 

「そこの狼を全力でモフってたんだよ」

 

 

「あ、狼さんごめんなさい」

 

 

『気にすんな。ボスが気を許した方なら全然オッケーだぜ』

 

 

「サトイ君、信頼されてるね」

 

 

「あ、ああ……サラ、こいつの声聞こえるの?」

 

 

「はい。心に語りかけてくるような感じで」

 

 

 へえ、サラも《テレパシー》使えんだね。

 

 

「サトイ君の後ろにいる子たちも仲間なの?」

 

 

「そうだよ……あ、新しいのが来た」

 

 

 空間識覚でこちらに向かってくる飛行体を複数確認した。

 

 

『キィィィ!(ボス!お久しぶりです!)』

 

 

「えっ!?フェザー・ホーネットまで従えてるの!?」

 

 

「あ、うんそうだよ」

 

 

 《テレパシー》で1番前のやつに話しかける。

 

 

『調子どう?ヒメさんもみんなも元気かい?』

 

 

 ヒメというのはフェザー・ホーネット軍団を従える女王バチのような存在だ。

 

 

『はい!みんな元気に甘い蜜を作ってますよ』

 

 

『元気なら良かった』

 

 

『ところで情報収集の依頼はないですかね?』

 

 

 フェザー・ホーネットは素早く飛ぶことができる。また、温厚な気性をから、人は彼らに対してほとんど脅威認定していない。そのため近くの魔物の湧き場である迷宮や村の様子を観察してもらったりしていた。

 

 

『今のところはないね……』

 

 

『あ、あと俺この子と旅に出ることにしたからさ。しばらくここには来ないよ』

 

 

『なるほど……しばらく会えないのですね』

 

 

『ま、なんかあったら《テレパシー》送って俺んとこに来て。位置は分かるだろうから』

 

 

『了解、ヒメにもそう伝えておきます』

 

 

『頼んだ。じゃ、俺たちもう行くから』

 

 

「サラ、屋敷に旅の許可取りに行こうか」

 

 

「……また飛ぶ?」

 

 

「いや。こいつらのうちの誰かに乗って行く。サラはこいつに乗ったら?」

 

 

 サラのモフりから解放されたオーカを指さす。

 

 

「こ、この子に?いいの?」

 

 

『ということで、頼んだオーカ』

 

 

『あいよ!お嬢は俺に任せとけ!』

 

 

 いや、オーカよ。お嬢ってヤクザかよ。

 

 

「いいってさ。乗っていいよ」

 

 

「お、お邪魔します……?」

 

 

「わぅんわぅん」

 

 

「ちゃんと乗れた?」

 

 

「うん」

 

 

「落ちるかもしれないからちゃんと掴まっときなよ〜」

 

 

『……炎帝。乗ってもいい?』

 

 

『じ、自分ですか?』

 

 

『あ、乗られるの嫌だった?』

 

 

『そんなことありません!自分では役不足かな、と思いまして……』

 

 

 いや、君が役不足ならリーダーのオーカ以外全員役不足ってことになるからね。

 

 

『いやいや、それはないから安心して。じゃ、乗るよ?』

 

 

『は、はい!』

 

 

 んー、相変わらずフカフカだねぇ。

 

 

『ん、よし……じゃあ、村の方に向かって』

 

 

『了解です!』

 

 

 炎帝は走り始めた。どんどん加速していくが、木にはぶつからないように上手く走っている。俺も最初は木にぶつかるんじゃないかとヒヤヒヤしてたがこいつらは上手く全部避けるし、この運転(?)に慣れた。

 

 

「えっ、木にこれぶつからないよね……キャアアア!」

 

 

 これ俺が飛んで抱えてるほうがましだったかな……。判断ミスったな。

 

 

 

 

 

 

 

 

「もう声枯れそう……」

 

 

「ははは、そりゃああんなに叫んだらね」

 

 

 途中の町で時々休憩を挟みながらなんとか昼前にグリンファルド家の屋敷に着いた。

 

 

『お疲れ様』

 

 

 手の上に直径1メートルほどの円形の亜空間を出現させる。《亜空間物質収納術(アイテムボックス)》の応用版で亜空間と現実世界を繋ぐ魔法だ。そしてそれを地面に触れるように置く。

 

 

『この中に新鮮な生肉あるから。食べ終わったら出口の輪っかが見えるはずだからそこから出て』

 

 

『本当ですか!?』

 

 

『それはありがてぇな』

 

 

 そうして2匹は素早く輪に入っていった。急がなくても肉は逃げないのになぁ。

 

 

「ごめん、待たせたね」

 

 

「う、うん……い、いまのって」

 

 

 まるで信じられないものを見たかのような表情をしているサラ。

 

 

「ワープできる穴?みたいな物だね」

 

 

「ワープ……まさか空間転移魔法!?」

 

 

「まあ……そうだね」

 

 

 厳密に言えば輪のある地点と特定の地点を亜空間を通して繋げる、というものである。亜空間内でいる間は現実世界で時間が経たないため、ある意味テレポートと同じことになる。

 

 

「あら、お嬢様。それにサトイ様まで。旦那さまは執務室にいらっしゃいますよ」

 

 

 結構な回数この屋敷にお邪魔してるから1部のメイドさんには認知されてるんだよね、俺。今話しかけてきたのはルベルトさんの側近のメイドさんだ。

 

 

「そうなのね。今お邪魔しても?」

 

 

「確か今休憩されているので……」

 

 

「ならお邪魔させていただくわ。行こ、サトイ君」

 

 

「あ、ああ」

 

 

 あっさり面会OKである。

 

 

 コンコンコン。

 

 

「お父様、私です」

 

 

「入ってくれても大丈夫だ」

 

 

「失礼します」

 

 

「ああ、サトイ君。いつもサラを送ってくれてありがとう」

 

 

「あたりまえのことをしただけです」

 

 

「はは、紳士だね……ところでサラ、何かあったのかい?」

 

 

「……サトイ君、これから帝都を目指して旅をするんです」

 

 

「そうなのか」

 

 

「はい。少し帝都に用事ができまして」

 

 

「その旅に私もついて行きたいんです!」

 

 

「……そうか」

 

 

「その許可をいただきたいんです」

 

 

「サラが自分のしたいことを言うなんて、久しぶりだな」

 

 

 サラ、欲あんまり出さないもんね。

 

 

「サトイ君。サラを頼むよ」

 

 

「ということは、いいのですか!?」

 

 

「ああ。ただし、サトイ君もだが危険な場所には行かないことが条件だ」

 

 

「やった〜!これでサトイ君について行ける!」

 

 

 嬉しいのは分かるけれども抱きつかないでくれませんかね。ルベルトさんの視線が痛いんでね。

 

 

「そ、そうだけど……離れてくれ」

 

 

「あっ、ごめんなさい」

 

 

「ん"、う"う"ん"!ふたりとも、旅の前にご飯を食べていきなさい」

 

 

 このあとめっちゃ食べました。もちろん美味しかったです。



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新しい都市でも楽しもう

「ここが最大都市『グリンファード』か」

 

 

 あれから屋敷を出て1時間。グリンファルド家領最大都市と名高い都市『グリンファード』に着いた。検問所もアルーナの町とは桁違いに大きく、衛兵も多い。

 

 

 検問所を通り抜けて入場するとまず人の多さが目につく。これもアルーナの町とは比べものにならないくらいの人の多さだ。活気がすごい。

 

 

「とりあえず宿を決めないとね……」

 

 

 そう、泊まる場所を決めなければいけない。ほぼ無料で泊まれる冒険者用の宿舎はあるが、そこには泊まりたくない。汚くはないけど狭くて、部屋によっては窓がないらしい。閉鎖感のある場所で長時間過ごすのは俺にとって苦痛だからそれだけは避けたい。

 

 

「あ、それならいい宿あるよ。1回泊まったことある宿なんだけど」

 

 

「お……そこ、ひとり1泊どれくらいか分かる?」

 

 

「うーん、確か最低で金貨5枚くらいだったかな……」

 

 

 はい、そんな宿泊まれません!1泊ふたりで金貨10枚とかそんなこと泊まれる金銭的な余裕僕たちにはありません。一応金貨90枚くらいあるけど、これから旅をしていくうえで貴重な資金を浪費はしたくないからね。

 

 

「そこは泊まれそうにないね。さすがに高すぎるから他を探そう」

 

 

「冒険者ギルドに行ったら宿の情報教えてくれるかな……?」

 

 

「ああ、それは考えてなかった。ギルドに行こうか」

 

 

 金を稼ぐために依頼も受けないといけないからね。良さげな依頼があれば受けようかな。

 

 

「うん。ギルドの位置は知ってるからついてきて」

 

 

 サラについていってしばらくすると、一帯の中でも突出して大きな建物があった。

 

 

「ここがグリンファード冒険者ギルドだよ」

 

 

「おお、すごい大きさだね」

 

 

 カランコロン。

 

 アルーナの町でも見なかったくらいの大きさである。3階以上はありそうだ。

 

 

「おう、見ねえ顔だなお前さん。かわいー子連れてんじゃねえか」

「室内で帽子被ってて暑くねえのか?」

 

 

 俺は銀髪は目立つから隠すために大きいベレー帽みたいなものを被っている。半分程隠せていないが帽子が珍しいのか珍しいらしい銀髪を隠す(?)ことができた。

 

 

「サラ、聞いてくるからそこの待ち合いで待ってて」

 

 

 冒険者ギルドには街のインフォメーションセンターのような場所がある。アルーナの町にもあるが、それはここに比べると小さなものだった。まあ大きいので待ち時間はほぼなく、俺の番が来た。

 

 

「ご用件は何でしょうか」

 

 

「えーと……グリンファードの都市マップってありますか」

 

 

「都市マップですね。ございますよ」

 

 

 机の下から1枚の紙を出す受け付けの女性。

 

 

「これが都市マップです」

 

 

 都市マップには飲食店や宿、役所などの施設が載っている。

 

 

「ありがとうございます」

 

 

「お役に立てて、何よりです」

 

 

 貰ったマップを持って少し離れた位置にある待ち合いに向かう。

 

 

「だから、私は待ってる人がいるんです!」

 

 

「こんなにかわいー子を待たせる男なんかぜってーしょうもねえ男だから。オレたちといた方が楽しいぜ?」

「色々世話してやっから」

「ぜってー楽しーからオレたちと行こーぜ、な?」

 

 

 異世界人すごいメンタル強いんだね。人目のあるところで大声でナンパできるなんて。俺にはこんな芸当到底できないよ。

 

 

「お待たせ、サラ」

 

 

「そんなに待ってはないけど……」

 

 

 ナンパ男3人衆に対して目線を向ける。

 

 

「なあなた兄ちゃん。この子借りてもいいよな?」

 

 

 リーダー格の男が威圧してくる。そんなの答えは決まってる。

 

 

「うん、無理」

 

 

「あぁ"?てめえみたいなブスに拒否権はねえんだよ!」

 

 

 この顔でブスなら君たちはもう醜いレベルだと思うけどね。でも言われっぱなしは嫌だから帽子をとる。周りがざわめいている。

 

 

「はは。ごめんね、俺あんたらと同類じゃないんだ」

 

 

 3人衆は固まっている。格下だと見下していた俺がこんな美青年()だとは思わなかったのだろう。

 

 

「あとこれ俺の持論なんだけどさ、女に断られても粘着する男はしょうもないよ」

 

 

「じゃ、サラ。行こっか」

 

 

「う、うん!」

 

 

 そう言って俺の腕に抱きつくサラ。あれ、なんか距離感近くないですかね。

 

 

「ちょ、ちょっと待てや!」

 

 

「オレたちCランクパーティ《一撃槍》を馬鹿にしてタダで帰れると思うなよ!」

「オレたちと決闘しろ!」

「ボコボコにしてやる!」

 

 

 これは俺が受けないと騒ぎ続けるやつだね。別に逃げれるけどこれは金を稼げるチャンスかもしれない。

 

 

「あー……はいはい。分かったから。あんたらは俺に勝ったらこの子を好きにしていいよ」

 

 

「え!?」

 

 

「その代わり俺が勝ったらあんたらの所持金全部もらうから」

 

 

 こうやって言えばこいつらも受け入れるだろうな。これが無理だったら逃げます。

 

 

「いいぜ!受けてやる!」

「ボコボコにしてやんよ!」

「受けたことを後悔するんだな!」

 

 

 笑い声をあげながら地下にある闘技場に向かう三人衆。彼らが地に伏すまであと5分()。

 

 

 

 

 ギルドの地下闘技場は基本的に自由に使えるものだ。祝日には冒険者同士の戦闘や魔物と冒険者の戦闘などのイベントが行われているらしい。ステージの周りの観客席もほぼ満席になるくらい人気のあるイベントらしい。

 

 

 冒険者同士の決闘も、イベントのない日にはできるらしい。現に今、それを有観客で始まろうとしているわけだが。

 

 

「おいおい、お前素手なんかで大丈夫なのかぁ?」

「負けた理由の言い訳作りにしては早すぎんなぁ!」

「そんな実力でよく決闘しようだなんて思ったな!」

 

 

 武器出さなかっただけでそんなに言う?素手で大丈夫だけど、そんなに言うんだったら使ってあげようかな……昨日の朝に貰った(?)刀剣!

 

 

「《亜空間武器庫(アーセナル)》」

 

 

 黒い空間から刀剣の柄が現れ、しばらくして刀身のすべてが現れる。

 

 

「おい!今のは何だ!?」

「何もないところから刀を出したぞ!」

「こいつ、すげーやつなんじゃ……」

「もしかしたら、《一撃槍》を倒しちまうんじゃねーか!?」

 

 

「力を借りるぞ」

 

 

 ついでにこれからよろしくお願いします、と。

 

 

『うんうん、こちらこそよろしくね〜』

 

 

 神から貰った(?)刀剣に挨拶したら挨拶が返された件。いや、そんなわけないか。さすがに俺の空耳ーーー

 

 

『空耳じゃないよ〜』

 

 

 こいつ、直接脳内にーー!?

 

 

『ま、テレパシーみたいなものだからね〜。そうとも言えるかも。あと喋らなくても言いたいことを念じたらあたしに届くよ』

 

 

 あ、そうなんだ。それは便利な機能だ。町中で1人で話しててたら周りの人に不審がられるからね。ちなみに俺はその目が軽蔑させる次に嫌だ。

 

 

『そぉでしょ?これからこうやったらあたしと簡単に会話できるよ。あ、ちょうど前に実験体があるし、説明してくよ〜』

 

 

「行くぞぉぉ!」

 

 

 リーダー格が雄叫びをあげて向かってくる。剣を持って。なんか全然強そうじゃない。あと槍は使わないんだね。

 

 ……で、君はどんな能力なんですかね。早く教えてくれないとうっかり倒しそうになるからさ。

 

 

『んもう、そんなにあたしのことが知りたいのぉ?』

 

 

 そうだからさ、勿体ぶらずに言ってくれ……。もうこいつの攻撃避けるのも面倒になってきたんだ。

 

 

『仕方ないなぁ。あたしの能力は相手の攻撃の威力を自分で処理して相手に返す能力だよ』

 

 

 んん?それは要するにオートカウンターみたいなものってこと?

 

 

『そうだよ。あたしは基本的にどんな攻撃でも破壊できないしマスターが攻撃の衝撃に耐えられたら隙を作れるかもね〜』

 

 

 へえ、要するに俺次第ってことか……。よし、じゃあ早速試してみようかな。

 

 

「おらぁ!避けてばっかりじゃあ勝てねぇぞぉ!」

 

 

「はいはい」

 

 

 ギィィン……バキリ!

 

 刀剣で相手の攻撃を受け止めると、相手の剣は刀剣に触れていた場所から真っ二つに折れた。

 

 

「は……ブヘッ!」

 

 

 剣が折れたのを見てフリーズしているところを魔力をこめて殴りとばす。

 

 

「わあああ!すげえ一撃だ!」

「くっそ……こうなるんだったら《一撃槍》に賭けるんじゃなかった……」

「でもまだ2人残ってんだ!それに賭けるしかねえだろ!」

 

 

「あ、アニキ……!?て、てめぇ!」

「こ、こうなったらアレを使うしかねぇ!」

 

 

「やるぞ!《大渦(タイフーン)》!」

「《大火球(ビッグファイヤーボール)》!」

 

 

「「合成魔法《火炎の大渦(ファイヤートルネード)》!」」

 

 

 炎が混ざった竜巻は熱を得て大きくなっていく。

 

 ちなみにこの世界は地球と同じ物理法則があり、暦の数え方も現代日本と同じなのである。

 

 

「《冷凍風吹(フローズン・ブロー)》」

 

 

 小さな氷の粒を多く含んだ風が竜巻に接触する。するとやがてうずめるの中の火は消え、竜巻は消滅した。

 

 

「き、消えた……?」

「ばかなっ……!これはBランク査定のマンティコアを倒した魔法だぞ!?なぜ打ち消せる!」

 

 

 なぜって言われてもね……。ただ俺の使った魔法が強かっただけだろう。……神様、俺に力を与えてくれてほんとにありがとう。

 

 

「話はいいから。さっさと来なよ」

 

 

「く……もうヤケクソだ!」

「くらえっ!」

 

 

 1人ずつ剣を受け止めると、やはり剣は受け止めた場所から真っ二つになった。

 

 

「ガッ!」

「かはっ……」

 

 

 急所に拳を叩き込み、気絶させる。

 

 

「ふぅ、これで終わりっと。じゃ、約束通り所持金全部もらいま〜す」

 

 

 倒れている人の懐に手を入れれば……ほらあった、財布。決闘前に懐に財布入れといてって言ったことを律儀に守ってくれてたんだろう。やってることはチャラ男みたいなことなのにこういうところはちゃんとしてんだね、正直意外だわぁ。

 

 まあそれは置いといて。3人の財布の中身を貰った(ちゃんと許可は得てる)額は金貨4枚と銀貨15枚、銅貨8枚だった。まあ、今の俺のランクの依頼を受けた時の報酬よりは持ってるね。

 

 ちなみに俺の今のランクはEランクである。アルーナの町である程度薬草採取をしてたらいつの間にかランクが上がってたってわけだ。

 

 よし、ここに用はもうないから上に戻りますかね。サラも待たせてるし、宿も探さないといけないし。

 

 

 

 

 あれから、何とかリーズナブルな宿で2部屋確保できた。しかも夕食付きで。これから服やら装備やら諸々を買う金を考えたら出費を抑えられて嬉しい限りである。

 

 今は夕食を食べ終わって部屋にいる。

 

 

「《亜空間武器庫(アーセナル)》」

 

 

 昼に使った喋る(テレパシーで)刀剣を取り出す。

 

 

『マスター。あたしに何か用かな〜?』

 

 

 うん。君に名前を付けなきゃいけないなって。

 

 

『名前?確かにないと不便だねぇ〜』

 

 

 神様曰く、君に名前付けてその名前を呼んだら俺の手元に来るんだって。ならこの性能を利用する以外の手はないと思ってさ。

 

 あ、でもその前に。

 

 

「《鑑定》」

 

 

 昨日の朝、気になって《鑑定》使っても詳細不明としか出てこなかったんだよね。さて、今はどうだろうか。

 

 ピピピピピピピ……デン!

 

 

 

【聖剣】

【名も無き聖剣。詳細不明】

 

 

 

 あ、今日もだめなんですね。

 

 

『マスター、《鑑定》使えないの?』

 

 

 そうだよ。なぜか使えないんだ。まさか神が作ったものだから人間ごときが《鑑定》できると思うなよっていう神のメッセージ……?

 

 

『あはは!それはないよ!あの方は人というものが好きだからね〜』

 

 

 そうですか。でもまあ能力は教えてもらったし。こいつに《鑑定》を使えなくても大丈夫か。

 

 

『あ、ならあたしがあの方に言っておこうか?《鑑定》があたしに使えない不具合が発生してます〜って』

 

 

 不具合かは分かんないけど……え、そんなことできるの?

 

 

『ウン。テレパシーを送って、ね』

 

 

 あ、じゃあそれは頼みますわ、はい。

 

 

『あとさ、あたしさっき言った能力のほかにまだ能力あるよ』

 

 

 もう何を聞いても驚かんぞ。神との交信能力を聞いたんだからな。これに勝る驚きを与える能力はないだろう。

 

 

『あたしの中に内蔵されてる魔力を使って斬撃を放ったり……人化もできるよ』

 

 

 ひ、人化……?まじで?

 

 

『なんなら実演するよ。《人化の術》!』

 

 

 刀剣は光を出しながら大きくなり、人型になる。

 

 いや、ほんとになれるんかい。



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新たな名前と技能

「え……信じてなかったの?」

 

 

「……ふつう喋る剣に『私人になれます』って言われても信じられないからね?」

 

 

 そもそも喋る剣って時点で普通じゃないから。

 

 

「むぅ……マスターはあたしのこと信じてくれないんだ」

 

 

 頬を膨らませる少女。色白の綺麗な肌、赤みがかった黒髪をツインテールでまとめている彼女がそれをやれば当然……。

 

 

「かわいい」

 

 

「なっ……!べ、別にそんなこと言われたってうれしくないんだからねっ!」

 

 

 目に見えてうれしそうだけど。照れ隠しがテンプレすぎるぅぅ!

 

 

「はいはい。うれしくてもうれしくなくてもどっちでもいいからさ……。とりあえず君の名前を決めないとね」

 

 

「何か軽くあしらわれてる感がする……でも名前は大事だね〜」

 

 

 君、他人事みたいな感じだけど決めるのは君の名前なんだよね。

 

 

「……で、なんで俺を見てんの?」

 

 

「マスターが名前を決めてくれるのを待ってるの」

 

 

「……あ、俺?俺が決めていいの?」

 

 

「ウン」

 

 

 うーむ。そうは言っても難しいものだ。元は刀剣だし、人としてもおかしくない名前を付けないといけないからな。

 

 

「『ファネル』なんてどうだ」

 

 

 人の名前かつ刀剣の名前で通じる名前はこれしか思い浮かばなかった。

 

 

「ファネル……いい名前だね!」

 

 

「お、おう……気に入ってくれたんなら良かった」

 

 

「ほんとにありがとっ!」

 

 

「わっ!ちょ、抱きつくなって!」

 

 

 コンコンコン。

 

 

「サトイ君、入ってもいい?……サトイ君?」

 

 

 あ、これヤバいやつだ。この体勢をサラに見られるのはヤバいぞ。

 

 

「ちょ……お前離れるか剣に戻ってくれ……」

 

 

「え〜?どうしよっかな〜?」

 

 

「おい!まじで離れろ!」

 

 

「サトイ君?入るよ?」

 

 

 ガチャ。

 

 

「サトイ君だいじょ……な、ななな!」

 

 

「サトイ君が部屋に女の子連れ込んでる!?」

 

 

「ちょ、誤解だから!」

 

 

「サトイ君がそんな人だったなんて……!」

 

 

「ほんとに誤解だから!」

 

 

 

 

 

 

 

「な、なるほど。そちらのファネルさんは人化している刀剣なんですね……」

 

 

 今にも泣き出して走り出しそうだったサラを引き留めて何とか誤解を解いた。その代償にかなりの時間を使ったが。

 

 

「うん。こいつも初めての人化で俺との距離感が分からなかったんだろうね」

 

 

「これからは気をつけます……」

 

 

 ほんと頼むよ。君のせいで誤解されるのはもうこりごりだからね。

 

 

「でも、同世代の友達ができたはうれしいよ!」

 

 

「恋のライバルかもしれないよ……?」

 

 

「むむむ、それは考えてなかった……強敵の予感がする」

 

 

 何か俺が聞いてはいけない話をしているような気がするのは気のせいだろうか……?いや、気のせいじゃないな、うん。

 

 

「それはともかく、これからは旅の仲間としてよろしくね!」

 

 

「こちらこそ〜」

 

 

 出会いは最悪だったけど、穏便に終わって良かったよ。

 

 

「じゃ、ファネル。元に戻って」

 

 

「は〜い」

 

 

 ファネルの身体は光りだし、やがて小さくなる。そして光が収まり、光源には刀剣があった。

 

 

「《亜空間武器庫(アーセナル)》」

 

 

 それを拾って黒い空間に入れる。

 

 

「……いつ見ても規格外だね」

 

 

「でももう慣れただろう?」

 

 

「まあね。でもやっぱりサトイ君は凄いなぁって」

 

 

「……それ、いつも言ってくれるよね」

 

 

「うん。いつも見てることでも改めて見ると感心するの」

 

 

「そうかい」

 

 

「サトイ君の魔法だけだけどね。あ、もうこんな時間!」

 

 

「あらら。明日もあるし、もう戻った方がいいかもね」

 

 

「そうするね。じゃ、おやすみなさい」

 

 

「うん。おやすみ」

 

 

 ガチャ……バタン。

 

 あいつに名前は付けたし、やることはない。寝間着には着替えてるし、寝ますかね。

 

 あれ、なんだか目の前が暗くなってきた。せめて布団まで行きたかったけど無理そうだな……。

 

 

 

 

 

「はっ!」

 

 

「あら、やっと目を覚まされましたか」

 

 

 周りを見渡すと一面に白。そして見覚えのある少女。

 

 

「もしかして……俺を転生させた神様?」

 

 

「ええ。お久しぶりですね」

 

 

「うん。久しぶり。今回はどんな用件で?」

 

 

「あの子からの報告であなたの《鑑定》が神級……いわば魔神に対抗できる武器や装備や素材へ使えないようでしたので今回はその状態を改善するためにお呼びしました」

 

 

「ふむふむ」

 

 

「それと今回のお詫びに便利なスキルを付与しようと思いまして」

 

 

「え、お詫び?」

 

 

「はい。本来あなたに付与するのは《鑑定》は存在するすべてのものの能力が分かるものだったのです。しかしそれができていなかった」

 

 

「だからお詫びなの?」

 

 

「ええ。もしあなたがそれを受け取りたくないと言っても拒否権はありませんからね」

 

 

 そんないい笑顔しなくても俺はちゃんと受け取るからね?

 

 

「あ、そう。ありがたくいただくわ」

 

 

「ありがとうございます。それではあなたには《変装》を授けます」

 

 

「……これはどんなスキルなの?」

 

 

 一応聞いておかないとね。名前からして変装できるんだろうけどもしかしたら裏機能があるかもしれないしね。

 

 

「ふふふ、よくぞ聞いてくれました。このスキルは魔力を消費することで服装、容姿、声、性別などを一時的に変化させることができます」

 

 

 ふーん、チートじゃん。というかそんなスキル俺に与えても世界のバランス崩れないの?

 

 

「そこはちゃんと調整してありますのでご心配なく」

 

 

「なら大丈夫だね」

 

 

「他に質問はありませんか?なければ戻っていただきますが」

 

 

「ないよ」

 

 

「分かりました。ではあの世界にあなたを戻しますね」

 

 

 そのことばとともに視界は黒く染まっていった。

 

 

 

 

「……ん!……トイ…ん!サトイ君!」

 

 

 目に見えたのは亜麻色の髪の少女、サラだ。あれ、確かさっきまで神界(?)にいたはずだが……。

 

 

「ん……ぁ」

 

 

「起きて!もう朝食の時間になるよ!」

 

 

 え、もうそんな時間なの?これは寝過ぎたなぁ。

 

 

「あ、着替えるからあっち向いててくれる?」

 

 

 

 

 

 あの後俺はあまり朝食を食べられなかった。起きてすぐだったからね。ほんとバイキング形式でよかったよ。

 

 まあその話は置いといて。あれから宿をチェックアウトして向かうのは冒険者ギルド。冒険者なんだから冒険者らしく依頼を受けて稼がないとね。

 

 ということで手にはEランクのゴブリン討伐の依頼書。

 

 

「はい。依頼の受理ですね。冒険者タグをいただきます」

 

 

「はい。どうぞ」

 

 

「お預かりします……。Eランクのサトイ様でいらっしゃいますね」

 

 

「そうです」

 

 

「では……こちら、依頼カードです」

 

 

 依頼カード。これに素材買取所で対象物の交換数の印を押してもらい、受付でそれを見せることで初めて依頼達成料と達成実績がもらえるのだ。

 

 この達成実績をためていくと冒険者ランクをアップさせられる。ちなみに依頼には推奨ランクというものがあって、それはその推奨ランクの冒険者なら安定して依頼達成ができることを示している。

 

 あとランクに関わらず、何回も連続して依頼に失敗すると冒険者ランクをダウンさせられることがあるらしい。

 

 

「ありがとうございます」

 

 

 

 

 

 そして今度は昨日都市入りする前に見つけた森の前に来ている。実はこの森、グリンファード中心部から徒歩1時間の郊外からも離れた場所にある。

 

 人がほぼ住んでおらず、昨日ちょうどこのあたりでゴブリンを遠目に見つけた。ゴブリンは基本群れで生息しているらしいので、1体見つけると10数体はいるらしい。

 

 

「うう……ちょっと気分が悪いよ……」

 

 

「あたしも休憩しないとこれはきついな〜」

 

 

 ちなみにここまで亜空間を通って、さらに森の奥まで来たから初めて通った2人には来るものがあったのだろう。

 

 まあ亜空間は主に赤と黒からできてて、細長い目みたいなものがいっぱいあるからね。

 

 

「椅子出すからそこに座ってなよ」

 

 

 毎度お馴染みの《亜空間物質収納術(アイテムボックス)》。そこから出すのはキャンプの時に使うような椅子。

 

 

「ありがとうサトイ君」

 

 

「ありがと〜」

 

 

「ふぅ……俺も座ろっと」

 

 

 ここでゴブリンが出て来るか、2人の気力が回復するまで待機してようか……

 

 

「ギャァァァ!」

 

 

 な、と思ってたけど10数体ほどオークが出てきたので戦います。



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戦闘続きの日

 

「わわ、オークだ!」

 

 

「それにしても数多くない?」

 

 

「オークやゴブリンは群れでいるって言うけど……」

 

 

「ん〜、あたしがやって来ようか?」

 

 

「いや、気分悪いなら休んでな。俺がやってくるから」

 

 

「じゃ、お言葉に甘えて……」

 

 

「ちょっとやってくるわ。サラはグロいの無理なら見ない方がいいよ」

 

 

 さて、オーカ達魔狼族との戦闘訓練を除くと人生で2、3回目の対魔族戦闘だ。

 

 相手はオークなので魔法を遠くからぶっぱなしていればいずれ倒せるだろう。死体の状態を考えなければの話だけど。

 

 

「《風圧撃(エア・プレッシャー)》」

 

 

 《風圧撃(エア・プレッシャー)》は物質にぶつかる風圧を凝縮して放つ技だ。その威力は強力で、まず1体の四股が圧力でぶっとんだ。そのうちそいつは息絶えるだろう。

 

 間違っても顔面には当たらないようにする。顔面に当たったら顔面が破裂してグロい状態になるからね。俺は自分から進んでグロい死体を見たいわけじゃないので。

 

 しかしこれはとても効率が悪い。1体に4発、つまり10体に40発の《風圧撃(エア・プレッシャー)》を使わなければならない。それに死体の状態もあまり良い状態とは言えない。

 

 『魔力特性付与:分解』。自分の魔力に分解属性を付与するスキルだ。この状態の魔力を手刀に纏えばとても切れ味のいい防御不可能の強い武器の完成だ。《風圧撃(エア・プレッシャー)》より断然こっちの方が労力と魔力の消費が少ない。

 

 

「おお〜凄い手さばきだね〜」

 

 

 襲いかかってくるオークを避けて頸を撥ねる。オークは素早くないうえに物理攻撃しかしないので攻撃してきた隙をついてカウンターで仕留める。

 

 

「ふぅ、これで終わりっと」

 

 

 これを《亜空間物質収納術(アイテムボックス)》にしまって……っ!?

 

 

「ちぇ、外したかー」

「ま、こんだけのオーク倒してる奴だし……避けてもおかしくはないな」

 

 

「今日はボスがいるんだぞ!」

「なら今日は勝ったな」

「そうだ!元Aランクの冒険者のボスに敵う奴いない!」

 

 

 なんだコイツら。魔法も意図して撃ってきたみたいだし、盗賊か?

 

 

「な、なんですか貴方たち!」

 

 

「お、かわいい子いんじゃん!」

 

 

「え〜そう?ありがとねぇ」

 

 

「なあ君、今のうちにその女2人とオークの死体全部譲ってくれないか。そうすればおれたちは君に何もしない」

 

 

「あ、結構です。2人とも、離れときなよ?」

 

 

 《亜空間物質収納術(アイテムボックス)》にオークの死体をすべてしまう。

 

「なっ……死体が消えた?」

「ほう……ならおれたちも容赦なく行かせてもらう。行くぞお前ら!」

「オウッ!」

 

 

「《強い風(ストロング・ブリーズ)》」

 

 

 盗賊の半分は後ろに吹っ飛んでいった。

 

 やはり対人戦は加減が難しい。モンスターの時みたいに殺傷性のある魔法を使うわけにはいかないし。

 

 

「クッ、威力が強え!」

「半分はイッちまったか」

「怖気付くな!魔法を放て!」

 

 

「無駄だよ無駄」

 

 

 《魔力障壁(マナ・ウォール)》て魔法を防ぐ。ちなみに今もスキルの効果は続いているので、障壁としての防御能力が高くなっている(当社比)。

 

 

「くそ、防がれるか」

「おれが突っ込む。援護してくれ」

 

 

 ボスと呼ばれた男が剣を振るいながら向かってくる。

 

 剣が当たる寸前のところで軌道上に亜空間を展開。相手の剣を持つ方の肩の後ろに出口を設定する。

 

 イメージとしてはジャ〇ンバの空間を操る能力(語彙力不足)だ。

 

 

「ぐっ!何だのは!……ゴッ」

 

 

 スキルを解いた拳を亜空間を通じてみぞおちに当てる。

 

 

「厄介な……逃さんゴハッ!」

 

 

 顎あたりの位置に拳を置いておく。運悪くクリティカルヒットし脳震盪を起こしたのか、相手はその場で崩れ落ちた。ま、結構スピード出てたから当たったら痛いだろうね。

 

 

「ぼ、ボスー!」

「よし、やっと障壁を破れた!」

 

 

 とりあえず気絶した男を《亜空間物質収納術(アイテムボックス)》にしまう。意識のある人や動物はしまえないが、意識のないそれらはしまえる。

 

 

「ボスが消えた!?」

「てめぇ、ボスを返せ!さもないと……」

 

 

「いやさせねえからな?」

 

 

 2人くらいが群れを抜け出してサラとファネルのところに行こうとしてたのでとめる。

 

 

「ゴハッ……」

「グフォ……」

 

 相手も少なくなってきた。今2人落ちて、あと3人にまで減った。

 

 

「こ、こいつ強すぎる!」

「こんなの勝てるわけない!」

「お、俺たちだけでも逃げるぞ!」

 

 

「いや逃さねえからな?」

 

 

 この3人もさっきの2人と同じく、1発入れると気絶した。

 

 幸い、最初に飛ばした人間も同じようにまだ気絶しているので全員回収できた。

 

 

「はぁ……何かどっと疲れが来たわ」

 

 

「サトイ君怪我してない?」

 

 

「あ、怪我はないよ。もう気分は良くなったの?」

 

 

「私は大丈夫だけど……ファネルちゃんは?」

 

 

「あたしも大丈夫だよ〜」

 

 

「そっか。なら移動しよう。このあたりにはゴブリンはいなさそうだし」

 

 

 あくまで受けた依頼の内容はゴブリン討伐である。

 

 だからゴブリンを見つけて倒さないとここに来た意味がないのと同然だ。

 

 

「ゴブリンならさっき見たよ」

 

 

「え」

 

 

「さっきあっちの方向にいたよ」

 

 

「おお、それはありがたい。ちょっと行ってくるわ」

 

 

 この後、少し行ったところでゴブリンの群れを見つけた。ゴブリンはオークよりも弱い魔物なのであっさりと討伐できた。

 

 サラがゴブリンを見かけてなかったらいったい何時間かかっただろうか……。

 

 

「じゃ、今からまた亜空間移動になるよ」

 

 

「ええ〜、またアレ?」

 

 

「なら君はグリンファードまで1時間歩きますか?亜空間なら5分ほどで着くけど」

 

 

「亜空間でお願いします」

 

 

「なら行こっか。気分も大丈夫って聞いたし」

 

 

 手のひらから黒い空間を作り、身体2人分くらいの大きさまで広げる。そしてそれの中に入る。

 

 

「ひゃ、涼し〜」

 

 

「ここ、意外と過ごしやすいかも」

 

 

 亜空間内の温度や湿度は俺が自由自在で決められる。他にもこの亜空間では俺以外の者が魔法が使えなかったり、俺はこの亜空間を自由に切断したりできる。

 

 

「まあ目に見られてる感じは変わらないけどね〜慣れないや」

 

 

「私はもう慣れたよ」

 

 

「へえ、早いね。俺慣れるのに3日はかかったけど」

 

 

「サトイ君でもそんなに……」

 

 

「人には得意不得意があるからね〜。仕方ないよ」

 

 

「まあそれはそうだけど……。お前に得意不得意なんかあるの?一応今は人だけどさ」

 

 

「うん、あるよ〜。辛いものは苦手」

 

 

「はぇ〜。なら今度激辛グルメ食べに行こっか」

 

 

「無理!」

 

 

「俺も激辛は無理だよ」

 

 

「なら何で言ったの……」

 

 

 前世で激辛好きの友達と激辛担々麺を食べに行ったことあるけど、その時はひと口食べただけでギブアップした。残りは友達が美味しく食べてたよ。

 

 

「あ、出口あったよ」

 

 

「こんなところ早く出ちゃおう!」

 

 

「はいはい……」

 

 

 亜空間から出たところは道からそれた草木のある茂みだった。

 

 

「わっ、なにこれ!」

 

 

「茂みの中だね〜よくこんなところに出られたね」

 

 

 茂みにいることがやはり嫌なのかすぐに動き出そうとする2人。

 

 

「ちょっと待って……よし」

 

 

 《亜空間物質収納術(アイテムボックス)》から盗賊のボスと取り巻き1人を取り出す。そして彼らの首根っこをつかむ。

 

 

「ごめん待たせたね。行こうか」

 

 

 と言ってももうすでにグリンファードの検問所と衛兵が近くに見えている。

 

 多分、いや絶対引き止められるでしょうね。

 

 

「そこの3人、止まってくれないか」

 

 

 遠目からでも男を2人持っているのは分かるみたいだ。検問所から離れているにも関わらず、衛兵に止められた。

 

 

「これは……どういう状態なんだい」

 

 

「近くの森でオークを倒していたら襲われまして。返り討ちにしたまでです」

 

 

「ふむ。ではそちらの2人。彼の発言に間違いはないかい?」

 

 

「ありません」

 

 

「ないよ〜」

 

 

「分かった。では申し訳ないが事情聴取のためについてきてほしい」

 

 

 そうして俺たちは衛兵についていく。

 

 

「その男2人は私が受け持とう。突然のことで疲れているだろうからね」

 

 

「ありがとうございます」

 

 

「礼には及ばんよ……ってこの男元Aランク冒険者のサオじゃないか!」

 

 

「え、Aランク冒険者?」

 

 

「そうだよ。この男はかつてこのグリンファード敏腕Aランク冒険者として名を馳せていたんだ」

 

 

 へー、そんな凄い人間だったんだね。

 

 

「へえ、そんな凄い人だったんだね〜」

 

 

「これは10年も前のことだから貴方たちはまだ若いから知らないだろう」

 

 

「しかしある時とある商人を殺して冒険者登録を抹消されて指名手配犯になったんだ」

 

 

「それからずっと捕まえられずに困っていたんだ。しかし今回、貴方たちが捕まえてくれた」

 

 

「え、僕たちは襲われたから返り討ちにしただけですよ?」

 

 

「それでも貴方たちが捕まえてくれたのには変わらない。本当にありがとう」

 

 

 彼からのお礼はきちんと受け取っておこう。でもやっぱり、人から感謝されるのっていい気持ちになれるな。

 

 

「っと、着いたな。こちらから入ってもらおう」

 

 

 裏口から案内されたのはふかふかのソファがある部屋だった。

 

 

「わぁ!ふかふかだぁ!こんなの初めてだよ!」

 

 

「ファネルちゃん!ソファで遊ばないで!」

 

 

「は〜い」

 

 

 ここだけ見ると何かサラがお母さんっぽいな。いや、ファネルが幼いからそう見えるだけか。

 

 

「ギルドマスターを連れてくるから少しの間寛いでいてほしい」

 

 

 え、ギルドマスター?あれ、もしかして今回俺とんでもない人物捕まえたんじゃ?

 

 もしそうなら報酬として結構な金もらえるかもしれないな。

 

 

「何か凄いことになっちゃったね」

 

 

「でも悪いことではないから……」

 

 

「旅資金をもらえるかもしれないね〜」

 

 

「そうだといいけど……」

 

 

 何がもらえるんだろうか。ちょっと楽しみになってきたわ。



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ゆっくりしてる暇はない

 

 コンコンコン。ガチャ。

 

 

「失礼します。ギルドマスターを連れて参りました」

 

 

 さっきの衛兵さんの後ろに金髪のまあまあ豪華な服装の青年がいる。アタッシュケースを持った男がそばにいる。ひょっとして、お金もらえる……?

 

 

「……こんにちは。ボ、私がギルドマスターのアークです。待たせてしまって申し訳ない」

 

 

「いえ、忙しい仕事の間に時間をとって頂きありがとうございます」

 

 

「これはこれはご丁寧に……では早速本題に入りますね」

 

 

「はい」

 

 

「まず、今回貴方がたが捕縛されたサオは殺人、強盗などの犯罪行為を行ったためギルドは冒険者登録抹消、そして懸賞金金貨75枚をかけておりました」

 

 

「その懸賞金金貨75枚をお持ちしましたので、お受け取りください」

 

 

 人の目を気にせず、《亜空間物質収納術(アイテムボックス)》にしまう。

 

 

「おお、貴方収納魔法の使い手なのですか?」

 

 

「ええ。便利なものですよ」

 

 

「それはなんとも羨ましい。ボクもそんな力があればなぁ」

 

 

「僕にこの力を与えてくださった創造神クリスティーナ様には感謝してもしきれませんよ」

 

 

「ははは、貴方はクリスティーナ様に選ばれし者かもしれないね……あ、そういえば名前やら何やらを聞いてなかった。冒険者タグを借りてもいいかい?」

 

 

「どうぞ」

 

 

「ありがとう……。サトイ殿だね。歳は、15!?い、Eランク!?どうしてAランク級の実力者がこのランクにいるんだ……」

 

 

「あ、僕今まで数回しか依頼受けたことなかったので」

 

 

「なるほど……隣のお嬢さんの冒険者タグ持ってる?」

 

 

「「持ってないです(よ〜)」」

 

 

「では名前を聞いてもいいかい?」

 

 

「私はサラと申します」

 

 

「あたしはファネルといいます」

 

 

「ふむ……サラ嬢とファネル嬢だね。冒険者タグ、今日作って行くかい?もしそうするのなら用紙は用意するよ」

 

 

「……う〜ん、どうしよ?」

 

 

「作ってもらったらいいんじゃない?折角の機会だし」

 

 

「分かった。なら用意させるよ……それにしてもEランクかぁ。ボクが特別に融通してAランクまで上げようかな……」

 

 

 ほう。ギルドマスターがこう言ってくれるのだからこれを利用しない手はないな。高ランクの依頼を受けると報酬も増えるしね。

 

 目立つこと以外、俺には利点しかないだろう。

 

 

「いいんですか?そんなことしてもらっても」

 

 

「大丈夫だよ。むしろ実力がランクに合わない方が問題だからね。サトイく……サトイ殿はAランク以上かもしれないけど、ここで我慢してほしい」

 

 

「上げてもらえるだけでもありがたいので満足ですよ……あ、砕けた口調で話してくださって大丈夫ですよ」

 

 

「ありがとう。そうさせてもらうよ」

 

 

 と、その時。地面がゴゴゴゴ、と重低音を立てて揺れた。

 

 

「な、なんだ?」

 

 

「地震か。最近多いよね」

 

 

「あ、昨日ここに来たばかりなんで分からないです」

 

 

「そうだったんだ……最近、ここグリンファードは地震が多いんだ」

 

 

「どうしてなんですか?」

 

 

「定かではないんだけど、ボクは魔物の大量発生<スタンピード>の前触れだと考えてるよ」

 

 

「<スタンピード>はダンジョンにある魔物の湧きスポットに魔力が異常に多く供給される現象なんだ。それだけなら別に問題はないんだけど、湧きスポットはそれを消費しようと大量の魔物を生み出すんだ」

 

 

「今回の地震はそれの前触れ、と?」

 

 

「そうなんだよ。これは昔の<スタンピード>の記録を掘り起こしてきて分かったんだけどね」

 

 

「それは……大変苦労されているようで」

 

 

「ほんと、それのせいでちょっと寝不足気味なんだよ……」

 

 

 ゴゴゴゴゴゴ……!

 

 

「わっ!」

 

 

「ま、また揺れてる!?」

 

 

「うーん、これはまずいかもしれないね。<スタンピード>がもうすぐ始まるかもしれない」

 

 

「都市防衛は大丈夫なんですか?」

 

 

「それがね……大丈夫じゃないんだよ」

 

 

 あれ……?この反応を見る限り結構ピンチじゃない?グリンファルド辺境伯家領壊滅のピンチ?

 

 

「今回<スタンピード>が起こるであろうダンジョンは街の外れにあるんだけど、昔に物理的に封鎖されたダンジョンなんだ。その理由は魔物のレベルが高くてその魔物を外に出さないため」

 

 

「<スタンピード>は物理的な封鎖でどうにかできない……のですよね」

 

 

「残念ながら。ギルドマスターの権限で緊急事態Cランク以上の冒険者を招集して<スタンピード>の鎮圧に行ってもらうようにできるんだけど、それと辺境伯に兵隊に協力を仰いでも戦力が足りなくてね……」

 

 

「他の都市から傭兵を雇うこともできるんだけど、それでは間に合わないかもしれない。そこで、なんだけどさ」

 

 

 これはもしや……戦闘へのお誘いか?

 

 

「<スタンピード>の鎮圧に協力、ですかね?」

 

 

「うん、その通り。ボクのポケットマネーからお金は出す。受けてもらえないだろうか」

 

 

 ポケットマネーって言われたら受け取るのは罪悪感が生まれちゃうんだよね。

 

 

「ええ?受けますけどお金は大丈夫なんで」

 

 

「ほんとかい?本当に受けてくれるのか!?」

 

 

 突然ギルドマスターに手を取られる。まあこの街にとって<スタンピード>の鎮圧は死活問題だもんね。戦力が多い方が助かるよね。

 

 俺に対して良くしてくれてるルベルトさんのところのピンチだからね。今回の件で少しでも恩返ししたい。

 

 

「はい。目の前に困っている人を放っておくことはできないので」

 

 

「ありがとう……!本当に助かるよ!」

 

 

「さ、サトイ君。<スタンピード>の鎮圧って大丈夫なの?」

 

 

「大丈夫でしょ。俺、まあまあ強いし」

 

 

 何と言っても神様が俺の魔法能力を超強化してくれてるんだからね。あと変身(強化)を3回残してるけど。

 

 

「あ、でもサラは街の安全なところでお留守番だよ?」

 

 

 たとえサラが上級魔法を使えたとしても<スタンピード>の防衛の前線は危険であることには変わりない。そんなリスクのあるところに大切な女の子を行かせるほど俺は馬鹿ではない。

 

 

「ま、マスターの実力なら心配はいらないだろうね〜」

 

 

「……マスター?君、そんな趣味が?」

 

 

 あ、やっべ。これ誤解されてるやつだ。こんなことなら外でのマスター呼び止めさせてたら良かった……。

 

 

「いやありませんから。罰ゲームでそう呼ばれているだけです」

 

 

「そ、そうなのか。でも衆人環視では悪い意味で目立つから止めておいた方がいいよ?」

 

 

「だってさ、ファネルさん?」

 

 

「う、何でそこであたしに振るのさ……」

 

 

 ジト目で見てくるファネル。ほんとごめん。

 

 

「君がそんな罰ゲームしたいって言ったからでしょ?」

 

 

「……じゃあマスター呼びは外では控えるよ」

 

 

 ふぅ、なんとか誤魔化せた。ファネルの機嫌を犠牲にしたけど。これは機嫌取りが必要だなぁ。

 

 外でのマスター呼びを間接的に辞めさせることができたのは良かった。あれ、意外と得たものは大きい……?

 

 

「話はまとまったかい?」

 

 

「見苦しいところをお見せしました……」

 

 

「ははは、君も苦労してるんだね」

 

 

「苦労というか、まあ……」

 

 

 何とも言えないものだ。サラは良い子だし、ファネルもまあ……良い子だ。だから苦労はしてないんだよね。

 

 

『…ス…………か!』

 

 

「ん?」

 

 

 幻聴か?昨日は早くに寝たわけでもないけど遅くに寝たわけではないし……。

 

 

『ボス……え…か!』

 

 

 うん?何か聞き覚えがある声だな……。

 

 

「どうかしたの?」

 

 

「声、聞こえない?」

 

 

「声?聞こえないよ〜」

 

 

「私も」

 

 

「ボクも、聞こえないよ?」

 

 

 どうやらこれが聞こえてるのは俺だけのようだ。

 

 

『ボス聞こえるか!』

 

 

「あっ!」

 

 

 これは狼一派のリーダー、オーカのテレパシーだ。テレパシーを送ってくるということは緊急事態ということか?それにテレパシーが掠れてしか聞こえないほど魔力を消費してるって……。何があったんだろうか。

 

 

「テレパシーだったわ……ちょっと今からそっちに集中するので」

『ごめん、今はっきり聞こえたよ』

 

 

『おおボスっ!今大変なことになってんだ!』

 

 

 やっぱり緊急事態か……。<スタンピード>が始まったのかな?

 

 

『ひょっとして……<スタンピード>が始まった?』

 

 

『<スタンピード>……そうだ、それだ!魔物がダンジョンから溢れ出して大変なんだ!』

 

 

 <スタンピード>が始まった、と。まだ人は知らないのかな。というか珍しいな、こいつらがカーレの森にいないって。

 

 

『みんなのまわりに人いる?』

 

 

『人はいねえな。ついでに魔物の軍勢にはオークの上位種が多いぜ。どうってことねえけどな!』

 

 

『どれくらい持ちこたえられそう?』

 

 

『まだまだいけるけど……魔力が足りなくなってきた』

 

 

 こりゃ最初から飛ばしてるな。最初に魔法使って殲滅しようって考えか。

 

 

『おおっ!魔力が復活した!』

 

 

『俺の魔力だ。足りなくなったらまた言ってくれ』

 

 

 契約を結んでいる使役獣に自身の魔力を渡すことができる機能がある。もちろん、逆にもらうことも可能だ。

 

 

『おう。みんなも喜んでるぜ』

 

 

『俺も今から向かう。場所を教えてくれ』

 

 

『カーレの湖から少し離れた開けたところだ。ダンジョンに近いところ』

 

 

 ん?さっきギルドマスターは街の外れって言ってたけど……。まさか違うところで複数の<スタンピード>が始まってる?

 

 

『……嘘じゃないよな』

 

 

『何でボスに嘘言わなきゃなんねえんだ。じゃ、俺戦線に戻るわ』

 

 

 その言葉以降、テレパシーは来なかった。とりあえずギルドマスターに知らせよう。

 

 

「終わりました」

 

 

「有益な情報はあったかい?」

 

 

「カーレの森のダンジョンで<スタンピード>が始まったみたいです」

 

 

「な、なんだって!?なぜそんなところで……」

 

 

 あれ、ギルドマスターは把握してない?

 

 コンコンコン……ガチャ!

 

 

「失礼します!ギルドマスター、街の外れの封鎖されているダンジョンで<スタンピード>が始まったようです!数は不明ですが、魔物の大群はグリンファードに向かっている模様です!」

 

 

「そっか……ではこれより早速冒険者緊急招集を行う。そう放送してくれ」

 

 

「わっ、分かりましたっ!」

 

 

 ガチャ……バタン。

 

 慌てて部屋に入ってきたギルド職員は慌ただしく部屋を出て行った。これを見てると緊急事態感がひしひしと伝わってくる。

 

 

「そこの君、辺境伯の屋敷で始まった、と伝えて来てほしい」

 

 

「は、はいっ!行って来ます!」

 

 

 ギルドマスターの近くにいた職員も慌ただしく部屋を出て行った。

 

 それにしても2箇所のダンジョンで<スタンピード>が始まってるのは確定か……。

 

 これは俺の力がどれほどのものなのかでこの街、いや人々の生死が決まるのかもしれないなぁ。もしかして俺、責任重大?



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