もう一人の悪魔 (多趣味の男)
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解説編
解説編プロローグ Lの来客
「ここどこよ?」
京水は周りを見渡しながら呟く。
何故なら、辺り一面真っ白な空間が広がっていたからだ。
何故、自分がここにいるのか皆目見当がつかない。
「もう!本当に何なのよここ!
何にもないじゃない!誘拐?アタシが美しいから誘拐されたの?」
『何かめっちゃ喧しいですね。』
「そうそう私って喧し....って誰がよ!誰かいるなら姿現しなさいよ。」
その願いが届いたのか一冊の本が現れる。
表紙には『Writer』と書かれていた。
そして、その本が話し始める。
『ほら姿を現しましたから落ち着...』
「ぎゃぁぁあ!本が喋ったぁぁ!」
「てか、何で本が喋るのよ何?ハイテクなわけ?そう言う仕様なの?てかこの場所何?私をどうす....」
『うっせぇぇぇぇ!だから今から説明しようとしてるだろう!
本編みたいにアドリブかましてくんなや!』
本からの怒号により京水は冷静になる。
『はぁはぁ...良いですか。
僕はこの物語を書いている"筆者"です、
そしてここはそんな僕が作り出した空間...言わばイメージの世界です。』
「イメージの世界?」
『ここには時間、事象の概念はありません。
考えた事が現実になりメタい話や第四の壁を越えた話も出来るわけです。
理解できますか?』
「..........?」
『"デットプール"の設定がそのまま踏襲されたと思えば良いです。』
「あぁ、何だそう言うことね!」
『何でこれで分かるんですか(困)』
「話は分かったけど何でこの世界に私がいるのよ?」
『呼ぶ人のアンケートを読者にとったら圧倒的に京水さんが人気だったんですよ。』
「あんらぁぁ!読者の皆さん見る目あるじゃなぁい。
そんな皆が大好きよ!
そう言えば"第三の壁"を越えられるってアンタ言ったわよね。
つまり、読んでいる読者の前に現れて良い男ならハグしてキ....」
『おい、そこまでだ。
お前、この作品をR-18指定させるつもりか?
てか、京水が現れてホモられるとか一種のホラーじゃないか。』
「誰がホラーよ!失礼しちゃうわね。
アンタ、レディに対しての礼儀足りてないんじゃないの?」
『はぁ、まぁ良いです。
兎に角、読者の皆さんが京水さんを使って解説編を作って欲しいと言う要望があったのでお呼びしたそう言う次第です。』
「成る程ね、大体理解したわ。
それで解説って言うけど具体的に何をするの?」
『僕の書いているこの作品"もう一人の悪魔"に登場するガイアメモリやドーパント、後は登場したシステムの解説や裏話を乗せるつもりです。』
「アタシはそれにツッコミを入れたりしたら良いわけね?」
『まぁ、概ねそんな感じです。』
「良いわねぇ!ちょっと楽しくなってきたわ。
それで今回は何を解説するの?」
『そうしたいのは山々ですが、もう文量が1000文字を越えてしまったので次回から解説を行います。』
「あら?そんなに喋ったかしら私?
アンタの説明が下手なだけなんじゃないの?」
『本当に何で京水を選んだんですか!読者の皆様!お陰で1本目の話なのに解説どころかコントになっちゃってますよ!』
「人のせいにしないの!.....それよりも言いたいことがあるんじゃなくて?」
『あぁ、そうでした。
本作品を読んでくださっている読者の皆様、
この作品を読んで感想を書いたり評価してくださって誠にありがとうございます。
書いているこちら側も大変励みになっています。
皆さんの楽しんでいる感想を見るのが好きですので、
感想書いたこと無い人も良ければ書いてくださると幸いです。
それでは次からはちゃんとした解説を投稿いたしますのでお楽しみにお待ちください。』
「私からも言うことがあるわ。
今回は解説役に私、泉 京水を選んでくれてありがとうね。
皆の事、大好きよ!....克己ちゃんの次にね。
これからの解説も楽しみにしててね。」
『それでは』
「皆!」
『「またね。」』
次回予告
『今回解説するメモリは.....』
「あら?そんな設定があったのね。」
『お願いですから話をぶち壊さないでください(泣)』
「男も女も度胸よ!」
『まともな解説がしたぃぃぃ!』
次回、LとGとDの来訪
お楽しみに!
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解説編 第一話 LとGとDの来訪
『どうも皆さん!好きなライダーは仮面ライダーローグの筆者です。』
「......は?」
『では、進めていきましょう今回解説するメモリは?』
「ちょっと待ちなさいよ!何その入りそんな始まり方するの?」
『え....いや普通にやるのもつまらないかなと思って』
「そう言うのは先に言いなさいよ全くまぁ良いわ。
それで今回解説するメモリは何?」
「あっはい、こちらです。」
「
「
「
「あらっ、三人の幹部のメモリね。」
『はい、やっぱり最初はこのメモリからかなと
でもストーリーの展開上話せない能力もあるのであくまでガイアドライバーⅡを手に入れた直後の能力を解説していきますね。』
『先ずはレオメモリからいきましょう。』
《レオメモリ》
身長:213cm
体重:120kg
"獅子座の記憶"を内包したメモリ。
自信のプライドを力に変えて引力と斥力を操る。
その力をフルで使えば星を降らせることも出来る。
(イメージ)
仮面ライダー電王のレオイマジン。
「レオメモリってライオンの記憶じゃなかったの?」
『それは読者のミスリードを誘うためにそう書きました。
最初から重力系統の技が使えたのも星が関係していたからです。』
「因みにエターナル編で獅子神ルートを選んだらこの能力の解説とロイドとの死闘を描く筈だったわ。」
『まぁ、ロイドには悲しい結末でしたけどね。
降ってくる星を彼は能力で止めようとした結果、炭化して死んでしまったので』
「ここまで、話せば察しのいい人なら分かるかもだけど電磁パルスの装置を破壊したのも獅子神ちゃんの力よ。」
『まぁ、これも獅子神の適合率が上がったお陰で使えるようになった能力ですので最初の頃、無名と戦ったときは使えませんでした。
さて、次解説するのはゴーゴンメモリです。』
《ゴーゴンメモリ》
身長165cm
体重210kg
"ゴーゴンの記憶"を内包したメモリ。
視界に入れた対象を石化させることが出来る。
また、付近の石を操り流動化させて操作することも可能。
その流動化した石にも石化能力を付与できる。
そして、怪力の持ち主。
(イメージ)
仮面ライダーZOの蜘蛛女に蛇の髪と二足歩行に体を変えた感じ
「えっ、強すぎない?ゴーゴンメモリ。」
『はい、ゴールドメモリクラスの中でも破格の能力を持っています。』
「この流動化した石を操るって言うのがゴーゴン姉妹の能力な訳?」
『内訳で言えば、メデューサ=石化、エウリュアーレ=石の流動化、ステンノー=怪力って、感じです。』
「こっわ!このドーパントこっわ」
『まぁ、でも強い分弱点もあります。
それもいつか話で出ると思いますがね。
では、最後はデーモンメモリです。』
《デーモンメモリ》
身長181cm
体重85kg
"魔神"の記憶を内包したメモリ。
黒炎を操りその炎に包まれた物は消滅する。
この炎には物体や事象を消滅させる力がありそれを使うことで炎を設置した場所へ瞬間移動することが出来る。
また、炎を収束することで武器を生成でき刀や槍等の近接武器を作り出せる。
また、翼を使った飛行も可能。
(イメージ)
牙狼で登場した神牙のホラー態。
「は?記憶の名前が読めないわよ?」
『これはまだ明かせない情報何ですよ。
だからこれが現段階の全てです。』
「何よ!ケチ臭いわね男も女も度胸よ!
取っ払っちゃいなさいよこのモヤ」
『だから駄目ですって!言うこと聞いてください京水さん!』
「まぁ、初回の解説だし勘弁して上げるわ。
それで三人の裏話って無いの?」
『ありますよ。
当初はゴールドメモリに選ばれるのはデーモン以外は別のメモリだったんです。
けど、話の流れやキャラクターの性格からレオとゴーゴンに決定しました。』
『そして、能力もレオとデーモンが最初に決まりゴーゴンだけは悩みましたね。
前の二人を強くしすぎちゃったのもあって二人に対抗するために色々と調べたらゴーゴンって三人姉妹だと知って二人の能力を考えて付け加えたって感じです。』
「へぇ、そんな設定があったのね。
なかなか面白かったわ。」
『京水さん的にはどのメモリが脅威ですか?』
「うーん、全部危険だけどやっぱり私はレオかしらね。
使い方を間違えたら地球すら破壊しちゃいそうだしゴーゴンも危険は危険だけど視界に入らなければ脅威は無いのかしら?
デーモンは今の段階では何とも言えないわね。」
『..........』
「何よ?」
『いや、ちゃんと真面目に解説してくれるんだなぁと思って』
「失礼しちゃうわね!
そんなに暴走がお好みならこの場で"全裸"になってやるかよぉ!」
『すいません!僕が悪かったですから話をぶち壊さないで下さいお願いします。』
「ふん!分かれば良いのよ分かれば
それで次は何の解説をするの?」
『次の解説も次回予告風に作りましたのでそちらもご覧ください。』
「じゃあ、これで今回は終りね?
あー疲れたわぁ、ちょっとアンタボーッとして無いでお茶とお菓子出しなさいよ。
ここはアンタの空間なんでしょ?」
『......はい』
次回予告
『今回のメモリはこれです。』
「うーん、正に謎ね。」
『これ作るの大変だったんですよ!』
「中々、面白いやつじゃない!」
次回、Wとシステム
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解説編 第二話 Wとシステム。
『どうも、好きなメモリはアームズの筆者です。』
「どうもぉぉ!好きなメモリはルナとエターナルの京水よ!」
『始まりました第二回の解説ここではメモリ1つとこの世界に誕生した新しい発明やシステムを解説します。』
「それじゃあ、ビンビンに張り切っていくわよ!
さぁ、今回解説するメモリは何?」
『(....絶対にツッコまないぞ。)今回のメモリはこちら』
「
「あらっ!これって園咲家の執事が使っているメモリよね?」
『はい、師上院 享次郎の使うメモリを解説していきます。』
《ワードメモリ》
身長:185cm
体重:19.3kg
"文字の記憶"を内包したメモリ。
肉体から文字を生成しそれを使って作った制約は、
強力な力を発揮する。
制約を破ると設定した罰が相手に施行される。
これはワードメモリを使ってなくても続く。
契約対象との取引内容は対価の価値により比例し強い制約には強い対価が必要となる。
(イメージ)
文字が重なりあい人の姿をした怪物。
「何だかややこしい能力ね。
複雑すぎて私には使える自信がないわ。」
『まぁ、説明が難しいメモリなのは間違いないですね。
簡単に言えば相手が合意した契約に強制的に従わせる力を持ったメモリで契約内容により対価の重さも変わります。』
『相手の命に関わる契約の場合、それ相応の対価を支払う必要があります。
だからこそ、琉兵衛は三人の願いを1つだけ何でも叶えると言う破格の提示をしたわけです。』
「そう言えばこのメモリって戦闘は出来るの?」
『能力を応用すれば可能ですがまぁ、三人の幹部のメモリと比べると圧倒的に弱いですね。』
『このメモリは特殊能力特価の性能ですから』
「それにしてもこの作品って取引とか制約とかそう言う言葉を良く使うわよね?
これも筆者の考えから?」
『はい、意図的に多く使っています。
主人公である無名のメモリにも関係していきますのでそこも気にして見ていただけると幸いです。』
『では、次はこの作品に登場するアイテムについての解説です。
先ずはこちら』
「これって私達が使っている酵素じゃない。
これを解説するの?」
『はい、この再生酵素から無名の研究者の歴史は始まりましたのででは、解説スタート!』
《再生酵素》
大道マリアが作った酵素にメモリーメモリの能力が付与された特殊酵素。
内部に生体ナノマシンが入っており、NEVERの身体に入るとナノマシンがメモリーメモリの記憶を注入し記憶の保持と復元を可能にした。
『劇場版で仮面ライダーコアを生み出した一端のメモリなのでこれぐらいの性能はあっても良いと思い作りました。
能力的にはNEVERのメンバーとメモリを擬似的に繋いでいる状況です。
メモリーメモリのデータバンクにデバイスであるNEVERが接続をすることで記憶と言うデータを呼び出せる訳です。』
「これのお陰で私の記憶もバッチリ甦ったのよねぇ、ナイフでお腹刺された時を思い出したときは興奮したわぁ!
痛いけど....嫌いじゃないわっ!。」
「欲を言えば克己ちゃんに刺されて果てたかっ....」
『解説進めまーす。
そして、大道マリアとの共同研究により"改良型生体フィルター"と"簡易型生体コネクター"が完成するのです。』
《改良型生体フィルター》
ガイアメモリの毒素を除去するフィルター。
遺伝子工学の権威であるマリアの助力により、
従来のフィルターの毒素除去率を大幅に上回る結果を得た。
《簡易型生体コネクター》
ガイアメモリの使用に必要なコネクターを改良して生まれた試作品。
従来のコネクターは埋め込む関係上、手術する手間があったがこのコネクターは使用するメモリに嵌め込み差すだけで使うことが出来た。
しかし、簡易性を重視しすぎた結果、コネクターの品質が落ち改良前のコネクターレベルの性能しか出せない。
サラがその結果を琉兵衛に報告したことで計画は凍結された。
『そして、その開発の裏で無名はガイアドライバーの開発も行っていました。』
《試作ガイアドライバー》
改良型生体フィルターとガイアドライバーの設計データをを用いて作り上げた試作ドライバー。
性能はガイアドライバーと同等にまでなったが連続稼働時間は15分と短いものだった。
その後、ドライバーでの実戦データが揃い30分迄は時間を伸ばすことが出来た。
形はガイアドライバーrexに近くメモリの装填方法も同じ。
『そしてエターナル編でロストドライバーを手に入れた無名はそれを研究することでガイアドライバーⅡを開発するのでした。』
《
ロストドライバーの研究と共に完成したガイアドライバーの完成品。
制限時間もなくなり、コストも前のドライバーより抑えられた影響で複数台作ることが出来た。
様々なタイプのドライバーがあり用途により性能も変わる。
ロストドライバーを横にしたようなデザインでスロットを斜めに上げてメモリを装填し倒すと変身できる。
『ここからはタイプ別によるドライバーの説明です。』
《αtype》
ゴールドメモリの使用を前提に製作された幹部用ドライバー。
性能も高くそれぞれの幹部によってカスタマイズが違いそれぞれに合うような改造も無名が施した。
《βtype》
シルバーメモリの使用を前提とした部下用のドライバー。
性能はαtypeより少し劣るが従来のドライバーよりも高い。
内部に発信器がついており幹部が位置を常に把握できる。
メモリスロットが真ん中に付いた形状のドライバーで装填して変身出来る。
《γtype》
無名の実験の成果であるギジメモリを使ったドーパント強化システムである"アクセサリーシステム"用のドライバー。
ギジメモリのデータとガイアメモリのデータを繋ぐシステムが入っておりこれにより安全にアクセサリーシステムを使用できる。
ギジメモリ専用デバイスでありギジメモリしか差し込めない。
腕時計の様についておりそこにギジメモリを挿して発動する。
「種類多いわね。
獅子神ちゃんが使うのがαtypeで美頭ちゃんが使うのはβtype、そして黒岩ちゃんが使っているのがγtypeね。」
『はい、合ってます。』
「それにしてもメモリの挿し方まで変わるなら何で書かないのよ?」
『戦闘をメインで書きたかったので本編では最初以外は省略されてます。』
「因みに裏話的な話はあるの?」
『そうですね。
再生酵素の話を書く際、元の酵素の名前を調べたのですが見つからず何て書けば良いのかそして改良した酵素を何て呼べば分かりやすいかで悩みました。
再生酵素以外に候補として回復や記憶保持など名前に入れるか悩みましたがまぁ、シンプルで良いかなと再生酵素になりました。』
「そうなのね。
それじゃ、今回の解説はこれまでね?」
『あれ?それ決めるの僕じゃ....』
「それと活動報告には書いたけど今後はリクエストは感想欄ではなく活動報告で受け付けるらしいわ。
作者のガバだけど許してちょうだいね。」
『ちょ、それ僕のセリフ....』
「それと暫く、解説編に動きがあるか分からないわ。
このアホが本編の方に書きたいことが増えたみたいだからこの解説編を楽しみにしていたのならごめんなさいね。
ほらっ!アンタも謝りなさいよ!」
『あっ、はい本当にすみません。』
「それでも許してくれると嬉しいわ。
それじゃ、次回また会いましょうねバイバーイ!」
『......やっぱ乗っ取られたぁぁぁ!』
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本編
第一話 Dの始まり/無くした記憶
目を覚ますとそこは見慣れないコンクリートで
囲まれた空間だった。
倒れている自分の身体を起こし異常がないか確認する。
先ず服が違った。よく手術で患者の着る様な服を着ており、それ以外の物は何もなかった。
辺りを確認するように見ていると空から声が聞こえた。
「目覚めたかね?」
その声のする方に顔を向けるとコンクリートの一部分に窓ガラスがはめ込まれている事に気付いた。
そして、そこに立っている人物に僕は心当りがあった。
ワインレッドの高級な服に身を包みサングラスをかけている初老の男性......
仮面ライダーWと言う作品で、
メインヴィランとして君臨した男である。
そんな男が僕に向かって話しかけてくる。
「今から君に"メモリ"を渡す。
好きなものを使ってみたまえ。」
すると、地面から謎の怪人..."ドーパント"が
アタッシュケースを持って現れた。
驚く僕に興味が無いらしく、気にする素振りも無く
アタッシュケースを開き僕に見せた。
中には三本のメモリが入っていた。
骨がメモリを包み込んでいる様なその形は、
普通のUSBメモリとは程遠い見た目をしている。
それも当然だ。
これは"ガイアメモリ"。
地球の記憶を内包したデバイスで
これを身体に刺すことでメモリに入っている
記憶が人間をドーパントと言う怪人に変えるのだ。
それが目の前にあることにも驚いたが
それよりも僕が驚いたのは...
("ゴールドメモリ"...何でこれを?)
ガイアメモリには内包する記憶の強さによりランクが分かれており金色に塗装されたメモリは最上位に位置する能力を誇っていた。
故に原作でもゴールドメモリを所持できたのは、
園咲家の一族と財団Xの人物だけであった。
しかし、僕の目の前にあるメモリは三本とも確かに
金色でゴールドメモリだと言うことが分かる。
そして、僕はメモリを細かく見ていく。
三本ともメモリに記載されているイニシャルが別だから違う記憶を宿しているのだろう。
「L」「G」「D」....3つのメモリに記載されている
イニシャルを見てもどんなメモリなのか僕には分からなかった。
何故なら、原作でも登場しないメモリだったからだ。
(何で知らないメモリがあるんだ?
そもそも僕は何故、メモリのことを知っているんだ?)
僕は目を覚ましてからこれ迄に到るまでの記憶が無い。
ただ、知っているのは"仮面ライダーWの物語"とそれに付随する"ガイアメモリに関する知識"だけであった。
自分が誰なのか分からないのにその知識だけはくっきりと残っている事に恐怖を抱きつつも
僕は目の前のメモリに釘付けになっていた。
正に"魅入られている"。
そんな感情が起こる中で僕は1つのメモリを手に取った。
明確な理由はない....
ただ、このメモリを自分が求めていると感じたのだ。
そしてメモリ自分の前に向けると"起動"した。
Another side
園咲 琉兵衛が自らの野望の為に作り出した
組織"ミュージアム"...風都と言う街でガイアメモリを売り捌く。
その組織のトップである園咲 琉兵衛はとある実験の為
ミュージアムの運営する実験施設へと足を運んだ。
研究員が琉兵衛を中に通すと一つの部屋へと案内する。
そこでベッドに横たわる青年を見つけると
研究員に話しかける。
「彼で、何人目かね?」
「はっ....はい
現在の被験者を合わせると"13人目"になります。」
琉兵衛の問いに怯えながらも研究員は答えた。
「ふむ.....やはりそうそう上手くは行かないか。」
ガイアメモリを開発する上でネックとなるのが、
それを使用する"人間との相性"である。
ガイアメモリを使用しドーパントになると毒素が身体に回り限界を超えると暴走....
もっと悪いと使用者が死を迎えることとなる。
その毒素もメモリのランクが上がる事に高くなる。
故にゴールドメモリを使う者は一般の生体フィルターではなく専用のドライバーを使うのだ。
誤算があったとすればそれは"文音"の存在だろう。
琉兵衛の妻であり子供達の母でもある。
そして、ガイアメモリの開発と研究を任せていた。
毒素を取り除くフィルターとドライバーを
作ったのも彼女だ。
だが、今はもうここにはいない。
私の計画に異議を唱え反抗した為だ。
その際、メモリとドライバーの研究データを持って
逃亡されてしまった。
おかげで二つの開発に
かなりの遅れが出てしまっている。
だからこそ、私は一つの決断をした。
自分の"家族以外"にゴールドメモリを渡し
駒として使うことに.....
勿論、危険も伴うだろうがこのままでは研究も進まず、
ガイアメモリの流通にも問題が生じるのは
目に見えていた。
そこで私はゴールドメモリに適合する可能性の高い人間を集めてこうして秘密裏に実験をしている訳だ。
問題は適合するものが少ない点だろう。
"ゴールドメモリをドライバーを介さず"に使える人間は少ない。
13人もの失敗を重ねているのが良い例だ。
(今回は上手く行ってくれると良いのだが.....)
そんな考えをしていると
眠っていた被験者が目を覚ました。
そんな考えなど悟られないように
私は穏やかな声で話しかける。
不定期更新ですがご了承下さい
by 作者
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第二話 Dの始まり/始まりの三人
"黒い炎"の間から現れる姿.....
正しくそれは"悪魔"と呼ぶに相応しい者だった。
目を覚ましてからいきなり
メモリを使うよう強要され、
しかも"適合"してしまった記憶喪失(原作知識あり)の人間である僕だが、
どうやら園咲 琉兵衛に気に入られたらしく、
今現在、園咲家の屋敷にある部屋で
身仕度を整えている。
僕がドーパントになった瞬間、笑いながら
園咲 琉兵衛の事だから何かしらの裏があることは
読めるのだが、余計な勘繰りをして
死にたくはなかったので、従順に従っていった。
その過程でガイアメモリについての知識を学んだ。
ガイアメモリとは地球の記憶を内包した装置であり、
それを普及させて人類を新たな存在へと進化させる事
それこそがミュージアムの目的であると
原作の知識がある僕からすれば
その裏の"真意"や"結末"が分かる為、
それを真面目に語っている
少しだけ同情の目を向けた。
彼の持っているメモリは"マスカレイド".....
原作でも雑魚キャラとして仮面ライダーにボコボコにされていた印象の強いメモリだ。
そして、このメモリの恐ろしい所はメモリが破壊されると自爆する機能が備わっていることだ。
つまり、負けたら最後"死ぬ未来"しかない。
毎回思うのだがガイアメモリを買う客よりもミュージアムのメンバーの方が扱いが酷くなるのは何故なのだろう?
まぁ、確かに敵に捕まってミュージアムの情報を話される危険はあるかもしれないが、それにしても酷すぎないか?
一回のミスで死ぬとか
そこら辺のブラック企業顔負けの業務内容だと思う。
これならミュージアムのメンバー等より、ガイアメモリを買える一般人の方が数段良い。
そんな事を思いながら数ヵ月の時を過ごす中、
突如、屋敷の大広間に集まる様に
告げられた僕はスーツに
着替え、直ぐに向かうのだった。
大広間に着くとそこには園咲 琉兵衛と
"知らない人物が三人"いた。
一人は執事服を来た初老の男性。
もう一人は何処か目付きの悪い大柄の青年。
最後の一人は、ドレスに身を包んだ美少女。
全員集まったのか園咲 琉兵衛が、
僕達に向けて話し始めた。
「全員、揃った様だね。
では、改めておめでとう。
君達は我がミュージアムによって
選ばれた有望な若者達だ。
君達にはこれから我がミュージアムの為に働いて貰うことになるわけだが....今回はその為の顔合わせだ。
これから"仲間"となるのだ。
是非、交流を深めてくれたまえ。」
「それと紹介しよう。
彼は
代々、園咲家の為に働いて貰っている執事であり、
私の右腕と言っても良い存在だ。」
そう言うと執事が僕達に向かい礼をした。
だが、それは形式的な礼であり直ぐに身体を戻す。
信用されてない事がありありと伝わる中、
大柄の男が僕に声をかけてきた。
「おい!テメェが"噂の名無し"だな?」
(ここに来てから名前がない為"名無し"と呼ばれることはあったが噂になるほどの事か?)
僕は疑問に思いながらも答える。
「噂が何なのかは知らないけどここで名前が無いのは僕だけだろうから名無しは僕で間違いないと思うよ。」
その返答を聞くと、
大柄の男が服に掴みかかりながら怒鳴る。
「舐めた態度しやがって!
少しばかり気に入られてるからって
調子に乗るんじゃねぇ!
"強さ"でなら俺が一番なんだよ!」
そう言いながら「L」のイニシャルが入っている
ゴールドメモリを見せてくる。
その間に少女が話に割って入る。
「止めなさい"獅子神"!
琉兵衛様がおっしゃっていた筈よ。
仲間になるのだから交流を深めろと....」
「うるせぇぞ"サラ"!
指図するんじゃねぇ!
邪魔するならテメェから消してやろうか?」
獅子神と呼ばれた男は、
サラと呼ぶ少女にも敵意を向ける。
サラは「仕方ないわね」と言うとメモリを取り出し向ける「G」のイニシャルが入ったゴールドメモリだ。
一触即発の空気が流れる中、
僕は園咲 琉兵衛に声をかける。
「琉兵衛様...お聞きしても宜しいでしょうか?」
「何かね?」
「僕達にミュージアムの為に働く様にとおっしゃいましたが、具体的に何をするのでしょうか?」
「何故、そんな事を聞くのだ?」
「今いるこの三人は"系統"が違いすぎます。
例えば、獅子神と呼ばれた男は
明らかに武闘派に思えます。
僕達が同じ職種の仕事につけるとは
思えないのですが?」
この状態を全く考慮しない名無しの質問に獅子神は怒りを露にしているが、そこに琉兵衛の笑い声が重なる。
「あっはっはっは君の懸念は最もだ。
安心したまえ。これまでの教育の過程で測った其々の適正に適う仕事を振り分けるつもりだ。」
その言葉を聞き僕は安心した。
流石に獅子神と言う男にラボをメチャクチャにされては敵わないと思ったからだ。
「なら、安心しました。」
そのやり取りを呆気に取られながら聞いていた獅子神だったが苛立ちの顔を僕に向ける。
「てめぇふざけてるのか!
俺は.....」
「"どうでもいい"。」
「あ?」
「君が僕を敵視している理由も意味も"興味"がない。
琉兵衛様に言われた通り仲間としては行動するが
それ以上を僕は求めない。
そして、君も求める必要はない....違うか?」
その問いに答える前に獅子神の表情が抜ける。
「もういい....死ね。」
そう言いメモリを起動しようとすると
「いい加減にしなさい。」
穏やかであるが冷たい声色が広間に響く。
琉兵衛が僕達に向かって言った。
「少しはしゃぎ過ぎではないかね獅子神くん?」
「もっ.....申し訳ありません。」
その声に獅子神は顔を俯け謝罪する。
「まぁ良い、君達はまだ子供だ。
これから学んでいきたまえ。
今日はこれで終わりだ皆、自分の部屋に戻りたまえ。」
その声に従う様に部屋を出ようとすると琉兵衛に呼び止められる。
「あぁ、そうだ伝え忘れていた。
何時までも名無しでは不便だろう?
この際、名前をつけようと思うのだが構わないかね?」
「はい、構いません。」
「そうか、では君の事は今後.....」
「
another side
広間での集まりを終えた琉兵衛は自室でミックを撫でながら寛いでいた。
そこに師上院が現れる。
「宜しかったのですか琉兵衛様?」
獅子神が無名に突っかかったのは、
琉兵衛の策略であった。
意図的に獅子神に
無名を贔屓にしていると言う情報を流したのだ。
「獅子神くんは向上心はあるのだが自制心に欠けるね。
だからこそ、無名くんを対抗馬として宛がった方が良いと思ったのだよ。」
「"欲望や怒り"はメモリを成長させるからね。」
使用者の感情や欲望にガイアメモリは反応し引き合う。
そうすることでメモリの力を引き出し
新たなレベルへと至る。
琉兵衛はその実験をあの場所でも行っていたのだ。
(最悪、"壊れて"しまっても構わない。
全ては我ら"家族の為"にあるのだから....)
「それにしても面白いね無名くんは...」
琉兵衛の言葉に師上院が答える。
「両親共に不明....
孤児だった彼をミュージアムが引き取り
今に至るのですがその記憶は無くなっています。
詳しく検査しましたが本当に記憶を無くしている様で
ミュージアムの事や孤児院の記憶もありませんでした。」
「謎は深まるばかり...と言う所か。」
「如何しましょう?もし不都合があるのならば今の内に消しておくのも手ではありますが」
「いや、その心配は無いだろう。
君の"メモリ"の力もある。
今は様子見で構わない。」
「畏まりました。」
そう言って師上院は部屋を出ていった。
琉兵衛はパソコンを開き画面のデータを確認する。
そこには先程の三人のデータが書かれていた。
そこには使用するメモリと"適合率"
詳しい生い立ちが書かれていた。
「
〈使用メモリ〉◯◯◯〈適合率〉75%
獅子神家で育てられた養子。
その生い立ちの結果、
幼い頃から貪欲な向上心がある。」
「
《使用メモリ》◯◯◯〈適合率〉70%
両親に借金の返済金代わりに売られ
暫し転々とした後ミュージアムに買い取られる。
コミュニケーション能力の高さはその環境が起因してると思われる。」
「
〈使用メモリ〉◯◯◯〈適合率〉99%
出自や経歴その一切が不明。」
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第三話 Lとの交錯/互いの思惑
広間での挨拶が終わり僕達三人はそれぞれミュージアムに指定された部門へと配属されることになった。
獅子神は戦闘関係、サラは販売関連
そして僕は研究関連に配属された。
原作の仮面ライダーWでは、
そこまで描写されることの無かった(小説や漫画版を除いて)ガイアメモリの研究施設。
ここで僕がやりたいことは主に3つある。
一つ目が"ガイアドライバー"の改良と量産。
ぶっちゃけこれ何とかしないと普通に詰む。
ゴールドメモリを手に入れたは良いけど
毒素で死ぬとか笑えない事は御免だ。
原作でも
ドライバーを介しても強い毒素に肉体が耐えられず、
無事に"奥さん"から粛清されて消滅した。
そんな運命にならない為にも
自分用のドライバーは作っておきたい。
二つ目は新システムの開発だ。
僕自身、原作を知っている身ではあるが別に
正義の味方になるつもりはない。
正義感と言うか道徳的な感情が欠如しているのだろう。
それがメモリのせいなのかそれとも元々の性格なのかは分からないが......
三つ目は原作キャラの生存または救済だ。
これは完全なる僕の我が儘で死なせたくないキャラや
バッドエンドの結末を変える為に、
色々と奔走しようと思う。
その為にも先ずはドライバーの開発だ。
現状、これを何とかしないと先には進めない。
しかし、いくら原作を知っているからと言って
ドライバーを一人で作れるなんて思ってはいない。
現在はシュラウドと名乗っている彼女に手伝って貰えるのならば簡単なのだがそうも行かないだろう。
彼女の望みは息子である
僕が彼女に会いに行ったら夫婦両名から
ボコボコにされるに決まっている。
ならば、どうするか....
僕は原作でも登場した一人の研究者をスカウトしてこの問題を解決する策を取った。
何故ならその研究者の弱点を知っているからだ。
彼女が協力してくれるのならドライバーの開発がより良くなるそう思った僕は園咲 琉兵衛に連絡を取るのであった。
無名から提案を受けた琉兵衛は電話越しで悩んでいた。
「君の言い分も分かるがそんなに重要な研究者なら力付くでこちらに連れてきても良いのではないか?」
琉兵衛らしくない提案に自分ながら呆れるがその言い分も予測していたのだろう無名は反論する。
「確かに連れてくる事だけを見れば問題ないでしょう。
しかし、先を見据えての場合こちらに不利益が起こる可能性があります。
今は私達のガイアメモリの研究が勝ってはいますが、ドライバーの開発が進まなければ何れ頭打ちになります。
そうなる前に彼女を手元におければドライバーの開発と相手の研究を潰す両方の成果が得られます。」
「ですのでどうかあの"メモリ"の使用許可をお願い致します。」
少しの沈黙の後、琉兵衛が結論を出す。
「良いだろう。
あのメモリの使用と研究者の勧誘どちらも認めよう。
....だが、それには"条件"がある。」
そうして琉兵衛の出した条件を聞いた無名は、
悩むことなく承諾するのだった。
夜の風都の港で無名はある人物を待っていた。
暫くするとそこに待ち人が現れる。
「あ?何でテメェがここにいるんだ?」
獅子神が無名に話し掛ける。
「琉兵衛様から連絡が来ただろ?
"港にいる人物と戦ってこい"と......
今回の相手は僕だってことだよ。」
「成る程な...最近、湿気た相手としか戦ってこなかったからちょうど良いぜ。
お前には色々とムカついてたんだ。」
そう言うと獅子神は服の内ポケットから
メモリを取り出す。
「ここでテメェを殺してやるよ。」
「
メモリから独特な
メモリが肉体に入ると身体を変異させていく。
強靭な筋肉に装甲と身体も大きくなり顔も獅子の怪物の様な姿へと変貌する。
僕も相手をするためにメモリを出し起動する。
「
首にメモリを差すと身体に取り込まれ周囲に黒い炎が巻き上がる。
炎の中から二つの角と醜悪な顔を隠すようにつけられた仮面が印象的な漆黒の怪物へと姿を変えた。
お互いの変身が終わると獅子神は大きく口を開けて巨大な咆哮を上げる。
それだけで地面を抉りながら無名に向かってくる。
無名はそれを避けると後ろのコンテナが粉々に砕けるのだった。
「随分と手荒い歓迎だな?」
無名の言葉に獅子神は皮肉気味に笑う。
「はっ!避けた癖によく言う。
まぁでもこれは挨拶代わりだ。
こっからはガチで殺してやるよ!」
獅子神はその巨体を使って正面から攻めてくる。
その攻めに合わせて無名が手を振るうとそこから"黒炎"が現れて獅子神を飲み込んだ。
デーモンメモリの能力の1つである"黒炎の操作"を使う。その黒炎に触れた者は今までどんな者でも燃やし尽くす事が出来た。
獅子神は炎を消すために海の水を巻き上げて身体に浴びせるが黒炎がその程度で消えることはない。
「ガッ!....んだこの炎は!?」
「これは僕の能力で作り出した炎だ。
消すも強くするも僕次第....こんな風にね。」
無名が、そう言うと炎の勢いが強くなる。
「ぐぉおあああ!」
獅子神の絶叫が聞こえる。
これが普通のドーパントとの戦いならこの一撃で決着が着く筈だった。
しかし、相手のメモリもゴールドクラス....
ここで、獅子神のメモリの力が発動する。
「こんな炎に"俺が負ける"かぁぁぁ!」
気合いと共に身体に覆われていた炎が吹き飛ぶ。
レオメモリの能力は使用者の"自尊心を力に変えられる"つまり"自分が負けない"と思えばその通りになるのだ。
炎を吹き飛ばした獅子神はその勢いのまま無名に殴りかかる。
無名も腕でガードするが衝撃に耐えられず後方に大きく吹き飛ばされた。
「持ち主の自尊心を力に変えるメモリか.....
中々に厄介な能力だな。」
痺れている腕を降りながら無名は言う。
「はっ、余裕もって耐えといてよく言うぜ。
だが、お前のメモリも上等な物だからな。
こんな攻撃じゃ効きもしねぇか。」
「なら....今の"とっておき"をくれてやるよ!」
獅子神はそう言うと両腕にエネルギーを貯める。
金色をした球状のエネルギー弾を生成すると左腕を地面に叩きつける。
すると、地面のコンテナや無名が急に"浮き上がった"。
「このレオメモリは引力と斥力を操作できてな使い方を変えるとこんなことも出来るんだよ!」
すると、獅子神は残った腕のエネルギー弾を無名に向かって放つ。
そしてその弾は無名の前に着くと停止する。
「その弾は周囲に"強烈な引力"を働かせるように作った。」
そこで獅子神の思惑が分かる。
「スクラップにしてやるよ。」
その獅子神の言葉を合図に無名の周りで漂っていたコンテナやコンクリートの残骸が一斉にその球体に集まり始めた。
無名もそれに巻き込まれ取り込まれていく。
何とか足掻こうと黒炎を周りに撒き散らす。
「無駄だ!その引力は高層ビルを"テニスボールサイズ"にまで圧縮出来る力がある。
そんなちゃちな炎じゃ逃げることは出来ねぇ。」
周囲の物質を取り込み終わったのか"巨大な玉"となった球体に獅子神が合図を出すと一瞬の内に"ビー玉"サイズまで縮小し地面に転がった。
戦いの終わりを確信した獅子神は能力を解除しメモリを身体から排出した。
突如、獅子神は片膝をつき荒い息をし始める。
「ハァハァ...ハァ、やっぱりこの技は使うのがキツいな。」
ゴールドメモリであるレオの力は強大ではあるが、
その分毒素も強い。
たった数分間の戦闘であったがそれだけでも獅子神は一歩も動けない程疲労していた。
「だが、これで目障りだったあの男も死んだ....
これからは俺が!」
「"興味深い能力"だったよ。」
「なっ!」
後ろから忌々しい男の声が聞こえると思ったら後ろから組伏せられた。
メモリを持った腕も抑えられている事から変身することも出来ない。
「無名.....テメェ何で生きてやがる!
あの時、確かに潰した筈だ!」
そこにはドーパントの姿のまま獅子神を見下ろす
名称:レオドーパント
身長:213cm
体重:120kg
ゴールドメモリであるレオメモリを使い
変身したドーパント。
能力は自分の自尊心を力に変えて強化することが出来る。
強化の限界はなく自尊心が強ければ強いほど強大な力を発揮する。
引力と斥力を操作することも可能。
レオイマジンをドーパントにした見た目
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第四話 Lとの交錯/手に入れた成果
自分を押さえつけ見上げている無名に獅子神は怒りを露にする。
「テメェ!何で生きていやがる!
あの時にお前は死んだ筈だ。」
「確かに強力な能力だった。
引力に巻き込まれた時は死ぬしかないと感じたよ。
だから、"保険"をかけたんだ。」
「保険?」
「僕のデーモンメモリが生成する炎は燃やすこと以外にも、場所と場所を繋ぐ"ゲート"の様な役割に使うことが出来てね。
潰される前に撒いた炎をゲートとしてその場所から逃げたんだ。」
(まぁ、あまり多用出来ない能力なのだがな。)
そんな真実を獅子神に伝えることはせず押さえつけながら話す。
「これで"データ"は揃った。
"琉兵衛様"もお喜びになられるだろう。」
「なっ!....まさか」
「そうこの戦いを仕組んだのは琉兵衛様だ。
僕達二人のメモリの特性、相性、進化、そして弱点があるのかどうかテストしたかったらしい。」
「データ上ではレオメモリは自尊心を力にする以外の能力の記載が無かったからその重力を操る力は新しい能力と言うことだね。」
「これは良い報告が出来そうだ。
だが、同時に毒素のダメージも大きい。
早急に改善案を用意しなければな。」
そう言うと無名は獅子神から離れる。
その光景に獅子神は驚く。
「テメェ、どういうつもりだ?
何故、トドメを指さない!」
「君は話を聞いていなかったのか?
今回の目的は"メモリの能力調査"だ。
殺し合いじゃないしましてや君を殺すつもりもない。」
「データも手に入れた。
もう用は済んだ。」
無名は黒炎を背中に出現させるとそのまま翼の形に変化させる。
「それじゃあ、失礼するよ。」
そう言い残すと無名は夜の空へと消えていった。
残ったのはレオメモリを握り締めながら怒りの表情をしている獅子神だけであった。
レオとの戦闘データを渡す為、屋敷に行くとそこには先客がいた。
オールバックに白い服装、黒いスーツケースを持った無表情な人。
どうやら、打ち合わせが終わったのかあちらは帰るようだ。
そんな中、僕の姿を見た男は話し掛けてくる。
「おや?...貴方は見ない顔ですね?
園咲家の方ですか?」
「えぇ....そう言う貴方は"ミュージアム"関係でこちらに?」
ミュージアムの名前を出したことで僕が此方の世界の人間だと理解したのか少し雰囲気が変わる。
「えぇ、その通りです。
申し遅れました私、財団Xの
財団X....平成仮面ライダーの世界で暗躍する組織であり大抵の事には関わっている。
そんな組織が初めて姿を現したのがこの仮面ライダーWでありこの加頭はWの世界でミュージアムの出資を担当している男だ。
そして、Wが最後に相手をする強敵でもあるのだが....
「無名と申します。」
そう言って手を出して加頭に握手を求める。
加頭も不思議がりながらも握手にこたえた。
その名前を聞いた加頭は思い出したかのように語る。
「あぁ、貴方が琉兵衛さんの言っていた部下の方でしたか。
頑張ってくださいね。
ガイアメモリの研究が進むほど我々、財団Xの利益となりますので」
そう笑顔で言うと加頭は屋敷を後にした。
(財団Xの加頭...Wの世界で幾つもの暗躍をしていた張本人。
この人がどんな動きをするのか予想が出来ない。
しかし、まだ"never"になっていないのは良かった。)
無名はそう思うと琉兵衛のいる部屋へと向かうのだった。
部屋に着くと琉兵衛が執事を控えさせてティータイムを取っていた。
「では、無名くん。
"実験結果"を報告してもらおうか?」
「はい、やはり琉兵衛様のお考え通りガイアメモリの適合率と毒素の影響量は比例するようです。」
そう言うと無名は手元のタブレットの琉兵衛に差し出す。
そこには獅子神との戦闘の映像が写し出されていた。
「獅子神が新たな能力を使い動けなくなる程疲労したのに対して僕が使ったゲートの能力では疲労はあっても動くことは可能でした。
僕の身体に付けた毒素の計測を行う装置でも適合率の差による現象だと言う結論に至りました。」
琉兵衛に出された条件は「獅子神と戦いメモリの能力を把握すること」と「適合率と毒素の関係性を調べる」事だった。
そして、その二つを完璧にこなしたデータを見て琉兵衛は満足したように言った。
「素晴らしい。
満足の行く結果だったよ。」
「では、約束の物は?」
「良いだろう。
君の願いは叶えよう...このメモリをどう使うかは君の自由だ。」
そう言って琉兵衛は机から1つのメモリを取り出す。
"薄緑色のガイアメモリ"を見た無名は自分の求めていたメモリだと理解し受け取った。
「ありがとうございます。」
「しかし、"そのメモリ"を一体どうするつもりかね?」
琉兵衛の問いに無名は答える。
「これはある意味"人質"です。
とある"研究者"と"兵士"を手に入れる為の.....」
Another side
風都の町が見えるレストランの最上階で、
とある青年と母親が食事をしていた。
そこに少年が割ってはいる。
「失礼...."大道マリア"さんでよろしいでしょうか?」
その名を呼ばれた母親は驚きながらその少年の顔を見る。
その少年どうみても成人していないそれどころか自分の息子よりも幼く見えた。
「貴方は誰?
子供がこんな時間に一人で危ないんじゃないかしら?」
その問いに少年は笑顔で答える。
「その心配は無用です。
確かに僕は年齢は子供ですがこれでも"ミュージアム"の末席にいる人間ですので....」
ミュージアムの名前を聞くと母の向かいに座っていた青年が少年の胸ぐらを掴む。
「俺達の
獰猛な殺意を向けてくる青年に怯えること無く話す。
「貴方が
死者蘇生兵士
「!?」
自分の事を予想よりも知られていることに克己は無名への警戒を強くする。
「僕の目的はプロフェッサーマリアの知識です。
遺伝子工学の権威である貴方の力を貸していただきたい。」
「その代わりと言っては何ですがこちらにも提示できる報酬があります。」
そう言うと無名は上着のポケットからガイアメモリを取り出す。
「それは?」
克己の質問に無名が答える。
「これは"メモリーメモリ"と呼ばれるガイアメモリですこれには"記憶の知識"が内包されています。」
「話が見えねぇな...これの何処が報酬なんだ?」
克己は挑発的な態度を示しているがプロフェッサーマリアは冷静にこのメモリについて考えていた。
その姿を見た無名は自分の思惑が伝わっていることを理解する。
暫く考えた後マリアは口を開く。
「大変、魅力的な提案ね。
NEVERの弱点である記憶の忘却をメモリの力で抑制するつもり?」
「正確には失う筈の記憶をメモリと同期させることで、保存しておこうと思っています。」
NEVERと呼ばれる不死の兵士は特殊な酵素を定期的に身体に打ち込むことで延命を続けている。
そして、この酵素を打ち続ける限り死ぬ心配は無いが、過去の記憶がドンドン失われていく。
思うにこの酵素の働きは"死ぬ細胞を強制的に再生"させる力があるのだと思う。
在り来たりな例えで言えば穴の空いたコップに水を加え続ける様なものだ。
前の水は穴の中へと流れ落ちてしまうがコップに水が加わる限りは無くなることはない。
つまり、流れる水が"記憶"で"穴の空いたコップ"が死んでいる身体と言うことだ。
ならどうすれば良いのか?
コップの下をホースで繋いで上から落ちる筈だった水を流し込んでやれば良い。
そうすれば水は循環し続ける。
このホースの役割を果たすのがこのガイアメモリだ。
無名の計画を聞いた二人はさっきまでとうってかわり黙ってしまう。
当然だろう大道 マリアからすれば自分の愛した息子の記憶を保持できる可能性があり大道 克己は過去失う恐怖と怒りから解放される。
少しの時間が流れた後、マリアが口を開く。
「NEVERのメンバーと相談するわ。
もし坊やの言っている事が実現可能なのだとしたらこちらも貴方の出した条件飲むわ。」
「分かりました。
では、数日待ちましょう。
良い返事をお待ちしております。」
そう言うと少年はレストランを後にした。
無名がいなくなった後、克己がマリアに問いかける。
「どうする?お袋。」
「もし、さっきの事が事実なら受けるべきだと思うわ。NEVER唯一の弱点を克服する機会ですもの....けど」
「坊やはミュージアムのメンバーだと言っていた。
それはつまり園咲 琉兵衛の息がかかっていると言う事.....油断して良い相手じゃないわ。」
「ふん...まぁ良いじゃねーかお袋。
要はこっちの条件を早くやらせれば後はどうでも良い。
所詮、ガキだ戦場で生きてきた俺達NEVERが、負ける道理はねぇよ。」
それから数日後、マリアが無名との取引を了承する事となる。
その時の条件が"まず先に自分達の酵素の改善を行う事"で無名もそれを了承した。
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第五話 Nとの邂逅/実験結果
だが、もし悪魔同士が取引を行う事があるとしたら
それは一体何を目的としたことなのだろう。
大道 マリアから良い返事を貰えたのは良いものの条件がどう見ても怪しいものとなっていた。
"先ずは自分達NEVERの研究を先に完成させろ"...か裏の思惑が透けて見える。
恐らくは自分の研究が完成したら僕との取引を有耶無耶にするつもりなのだろう。
恐らく、僕を只のミュージアムの構成員だと思っているのも大きい。
良いだろう。
その"提案"に乗ってやる。
どちらにしても"結末"は変わらないのだから....
大道 マリアとの合同研究が始まり、
メモリーメモリの能力を酵素剤に掛け合わせる研究は思ったより簡単に成功した。
元々、地球の記憶をメモリと言う形に封じ込めていたのだから当然ではあるがミュージアムの技術力は一介の科学者では勝てない程、高度なものとなっていた。
新たな酵素...."
その実験を行うためミュージアムの実験施設にNEVERのメンバーが集められた。
大道 克己、泉 京水、芦原 賢、堂本剛三の四名が実験施設に集められた。
マリアにも確認したがどうやらこの4人が今のNEVERのメンバー全員だと言う。
(羽原レイカがいないと言う事は、今の時間軸はVシネ"エターナル"が始まる前と言う事だな。)
園咲 琉兵衛の屋敷にいる時、今の時間軸がどの辺りなのか調べようとしたが詳しく断定出来るほどの情報がなかった。
思わぬ情報を手に入れたと考えていると克己が無名に話し掛ける。
「本当に完成したんだな?」
「えぇ、プロフェッサーマリアの御墨付きも得ていますよ。」
「なら良い。
始めてくれ。」
その言葉を聞いた無名は
新しい酵素は深い赤色をしておりまるで血の様であった。
「克己ちゃん...これ大丈夫なの?」
京水が克己に問いかける。
「さぁな。
だが、お袋が問題ないと言ったんだ大丈夫だろ。
それに俺達は"死人"だ。
失敗したところでこれ以上悪くなることはない。」
その言葉に納得したのか全員、渡された酵素入りの注射器を身体に刺し射ち込んだ。
酵素を全て射ち終わると身体の状態を確認する。
「これで終わりか?」
克己の問いに無名は答える。
「えぇ、直に新しい酵素が身体に周ります。
そうすれば記憶が戻ってくる筈です。」
すると、NEVER4人が頭を抑えだす。
「うっ!....これは」
それに合わせて無名が一人ずつ話をする。
「
それに合わせて剛三も話し出す。
「そうだ。
俺は山での違法なゴミの不法投棄をする会社に抗議して..それで....」
「
だが、ある事件の解決の為に突撃した現場で....」
「...."仲間"に裏切られて殺された。」
「
「私....ナイフで刺されちゃったのよね。」
「そして、大道 克己。
これが何か分かりますか?」
そうして無名はマリアから預かったハーモニカを渡す。
すると克己はとある曲を吹き始める。
自分を落ち着けてくれる曲を......
「その"曲"は?」
「これは...俺がまだ生きていた頃、
聞いていたオルゴールの曲だ。
お袋が眠れない俺のために買ってくれて寝る時は何時も流してくれた。」
その言葉を聞いたマリアは涙を流す。
真実だったのだろう。
そして、それは彼等の記憶が正常に戻っている証しでもあった。
「実験は成功ですねプロフェッサーマリア。」
無名は笑顔で彼女に告げる。
その顔は打算など無い心の底から出たものだった。
そして、克己に顔を向けると頭に"衝撃"を受ける。
無名はそのまま地面に倒れた額に穴を1つ開けて...
克己はそんな無名を見ながら笑顔で告げた。
「本当にありがとう。これで"用済み"だ。」
Another side
マリアは新たな酵素を打たれている息子を神に祈る様に見ていた。
自分の技術では身体の蘇生は出来ても"記憶"や"人間性"を戻すことは出来なかった。
だが、無名という少年が持ってきたメモリにより全てが変わった。
酵素を改良しメモリのデータと肉体を同期させる。
無名曰く、"脳だけドーパントになる"状態を作り上げたのだ。
そして、完成した新たな酵素が今彼等と息子の身体に入っていく。
酵素の注入が終わると無名が一人一人に話を聞いていく。
すると、全員が死んだ時の情報を鮮明に思い出すことが出来た。
克己に至ってはあのオルゴールの曲についてまで思い出してくれた。
私は余りの嬉しさで涙を流す。
やっと、"息子を甦らせる"ことが出来た。
克己が事故で死んだことを聞いた時、
私は自分の魂を悪魔に売り渡す覚悟で自分の研究成果を息子に使った。
全ては息子の死を覆すため...そして今、それが叶ったのだ。
「実験は成功ですねプロフェッサーマリア。」
無名が私に向かい笑顔でそう告げた。
あまり、優しい笑顔に私は戸惑う。
.......何故ならここで、彼を殺してしまうからだ。
そして、克己は隠していた銃を抜き無名の額を撃ち抜いた。
それに呼応するように周りのメンバーも研究員を殺害する。
この酵素を作る際、私はあえて人間性の欠如を治さなかった。
そして、この実験を小規模なものにしたいと言う私の提案を受けてくれたおかげでここにはミュージアムのメンバーと無名と数名の研究者しかいなかった。
私は額を撃ち抜かれた無名に向かって告げる。
「本当にごめんなさい....けど貴方がミュージアム、いえ園咲 琉兵衛の部下である以上、生かしておくのは危険なのよ。」
息子を救うためなら私は"悪魔"にだってなってみせる。
全ては子への愛ゆえの行動.....
だが、マリアは大事なことを忘れている。
本当の悪魔には愛等と言う感情はなくそして
「額を一発とは流石、傭兵として生きていた事だけはありますね"大道 克己"。」
悪魔は銃弾程度で死ぬ存在では無いことを....
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第六話 Nとの邂逅/死人のダンス
額を撃ち抜かれた無名が立ち上がり話し掛けてくる光景に皆が騒然としていると京水が克己に尋ねる。
「どう言う事、克己ちゃん?あの子もNEVERだったの?」
その問いに無名が答える。
「いえ、僕は歴とした人間ですよ。
死体じゃないし、酵素も打ってません。」
「なら、どうして?
あんた!頭に穴が開いてるのよ!」
「穴?...あぁ"これ"の事ですか?」
すると、無名の頭に黒い炎が現れ消えると頭の傷や血まで無くなっていた。
「あっ.....がっ....」
京水の顎が外れるかと思う程、大きく開けて驚いていると無名が説明をする。
「ガイアメモリの強さはメモリの品質以外にも使用者との適合率が大きく関係してきます。
そして、適合率の高いメモリを使い続けると身体も変異し能力に目覚める"個体"も出てくる。」
「貴方の恐れている人物が良い例ではありませんか?」
園咲 琉兵衛はメモリとの適合率の高さからメモリを使用しなくても相手に恐怖の感情を植え付けて洗脳する事が出来たりなど出来る。
「まぁ、ガイアメモリの副作用とでも考えてください。」
「それで....生き返ったお前はどうする?
また俺達に殺されるか?」
克己は警戒しながら尋ねるとキョトンとした顔を無名はする。
「僕を"殺せる"とまだ思っているんですか?
それどころか"自分達"がこのまま無事でいられると?
.......あははははははは!」
無名の笑いが部屋に木霊する。
自分以外の仲間が全員殺されたと言うのに笑う無名に恐怖にマリアは恐怖を覚えた。
無名はポケットからメモリを出すと起動する。
「
そして、メモリを刺し怪人へと姿を変える。
「良いでしょう死ぬことを拒絶する愚かな死人達よ。 精々、楽しく踊ってください。」
無名はNEVERに悠然と向かっていくのだった。
芦原が持っていた銃で無名に発砲するが全くダメージが無いことか分かると、今度は堂本が金属の棒で打ちすえようとする。
それを最小限の動きでかわすと棒を掴み堂本を持ち上げ地面に思いっきり叩きつけた。
堂本の首が折れているのだろうが呻きながらも無名を睨み付けている。
「話には聞いてましたが本当に死ねないんですね。
.....でも"意識"を失わせれば人間と変わりませんよね?」
そう言って堂本の頭を踏みつけて意識を奪う。
「お痛が過ぎるわよ。
そんな子にはお仕置きよ!」
その光景を見た京水が憤慨し持っていた鞭で無名を狙うが逆に鞭を捕まれて引き寄せられるとその鞭で縛り上げられてしまう。
「あん!....随分と強引な"攻め"をするのね。
でも嫌いじゃなっ!」
最後まで話す前に顔面に一撃、京水は沈黙した。
「すいません。
"キャラ"的には好きなんですけど目の前で言われるのは中々、キツかったです。」
原作の記憶がある無名故の謝罪を意識の無い京水に言うが、そこを芦原の放った銃弾が襲う。
しかし、今度は黒炎を放ち放たれた弾ごと芦原を包み込む。
炎を消そうと転げ回るが消える気配はない。
「その炎はいくら動いても消えませんよ。
"痛み"だけ残る様に調整したので早く気絶することを勧めます。」
いくら、不死のNEVERと言えど永続的に続く激痛に肉体は耐えられても精神は耐えられず意識を失い動かなくなった。
そして、それを確認すると芦原を包んでいた炎が消える。
「後は貴方だけですね大道 克己。」
傷1つ無く自分以外のNEVERを制圧した無名に銃では対応できないと使い慣れたナイフに持ち替える。
「俺も大概だが、お前程の怪物は流石に反則だろ?」
「では、降参していただけますか?
そちらの方がこっちも助かりますが...」
「はっ!嘗めるな。
俺はお袋の作った最高傑作の兵士だ。」
「"知らない雑魚"がやられたところで問題はない。」
そう言うとナイフを逆手に持ち克己は無名へと向かっていくのだった。
Another side
無名がガイアメモリを使い怪人の姿に変貌すると次々とNEVERのメンバーを無力化していき残ったのは息子の克己ただ一人となっていた。
克己はナイフを使い果敢に攻めていくが無名はそれを避けるばかりで一向に反撃しようとしなかった。
その行動にマリアは疑問を持ったがその答えは克己の異常で分かることになる。
克己の動きが止まり頭を抑え出した。
「克己!どうしたの?」
私の声に克己は振り向くと
「"あんた"....誰だ?」
予想外の言葉に頭が空っぽになる。
「え?」
「思ったより早く"効果"が出ましたか。」
無名の台詞にマリアは飛び付いた。
「どう言う事!克己に何をしたの!」
絶叫に近い声で無名に尋ねると彼は平然と答えた。
「メモリとの"同期"を切っただけですよ。」
「前に穴の空いたコップで説明しましたよね?
落ちる
「僕が頭を撃たれる前に時間差でメモリとの同期が切れるように細工をしておいたんです。」
説明された内容を理解したマリアは疑問に思った。
同期を切ると言う事は昔と同じ酵素の効果に戻るだけなのに克己は自分が何者なのか理解出来ないでいたのだ。
「それだけじゃないでしょう?
克己のあの状態は同期を切っただけでは説明がつかないわ。」
「流石は研究者ですね。
視点が素晴らしい。
その通りです同期を切ったのは"克己さん"だけです。
そして、他の方の同期は切っていない。」
ガイアメモリは普通のUSBと違い容量が桁違いに高い。
その中でもメモリーメモリは記憶を力を内包しているため容量は強化されていた。
(劇場版でラスボスを生み出せたメモリだ。
何故、ここまで強力なプロダクトメモリなのか恐らくこの力がミュージアムの目的とは噛み合わなかったからだろう。
だからこそ琉兵衛もそこまで気にすること無くメモリをくれたのだろうが)
話を戻すと、今回の実験においてNEVER全員の記憶をメモリ一本に集約しそこから分けて同期をしている。
つまり、同期を切っても記憶の伝達は続いているのである。
「つまり、今の克己には他三人の記憶が絶え間なく流れている状態なのね?」
「えぇ、それも記憶を失いながらね。」
先程、メモリは水を送るホースだと言ったが正確には味の違う飲み物を分けて流しているホースなのだ。
その仕組みを切るとどうなるか。
色々な味の
コップの容量を無視して絶え間なく.....
例え穴から抜けていくにしても限度がある。
ここで言う限度とは大道克己を形成する人格の耐久力を意味する。
事態を理解したマリアは無名に詰め寄る。
「同期を切るのを止めてこのままだと克己が克己で無くなってしまうわ。」
「僕を裏切った貴方達がそれを言いますか?」
「....本当にごめんなさい。
謝って済むことではないわ。
貴方の研究には全面的に協力する...だから」
「それを信じろと?」
「貴方にNEVERの"研究データ"と"酵素"も全て提供するわ。
それでも足りないのなら"NEVER"を貴方の好きに使って良い...だからお願い息子を私から奪わないで!」
傲慢で狂気に満ちた愛情...だからこそ大道克己はNEVERとなり"仮面ライダーエターナル"...風都最大の犯罪者と呼ばれることになったのだろう。
克己を見ると膝から崩れ落ち口からヨダレを流している。
恐らく記憶と人格の大きさに脳がオーバーヒートを起こしたのだろう。
(これ以上は危険だな。)
無名は身体からメモリを抜くとマリアに話し掛ける。
「マリアさん改めて取引をしましょう。
こちらの要求は僕の研究への全面協力、NEVERのデータと酵素の譲渡、そして傭兵集団NEVERへの優先取引権...取り敢えずこれだけで充分です。」
「代わりに此方はNEVERの記憶が入ったメモリーメモリを貴女に渡しましょう。
同期を切れる装置は僕の手にあるままですが、少なくとも園咲琉兵衛の手に渡さないことは約束します。」
無名から提示された条件をマリアは断る術を持っていなかった。
実質、自分の全てを差し出す契約.....
だが、それでも愛する息子を守るためには仕方がない。
正しく"悪魔との取引"だ。
そして、無名は
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第七話 Wの契約/恐怖との邂逅
無事に大道マリアを
だが、結論から言うと無理だった。
"生体フィルター"の改良までは上手く行ったのだが、ドライバーの開発に難航し数ヶ月間、手詰まりの状況が続いていた。
(そう言えばシュラウドはWに関連するほぼ全てのアイテムを作り出したんだっけ?
生半可な天才だとは思ってなかったけど....
大道マリアの手を借りてもまだ足りないかぁ。
せめて"ガイアドライバー"があれば研究が進むんだけど)
そんな開発の日々を送っていると琉兵衛から屋敷への招待状が研究室に届いた。
要件は書いてないが急いで来て欲しいらしい。
その事をマリアさんに伝えると...
「分かったわ。
こっちの研究は正直、私だけでは務まるとは思えない。
だから、貴方が帰ってくるまで少し別の実験をしたいのだけれど構わないかしら?」
「実験ですか?酵素以外に何をするんですか?」
「知ってると思うけどNEVERは傭兵としても活躍してて今、仕事が立て込んでいるのよ。
おかげでメンバーも皆、てんてこまいの状況。
だから、新しい"仲間"を増やすのよ。
克己も新しい仲間を欲していたしね。」
(これは丁度良いタイミングだな。)
無名は机から資料を取り出しマリアに渡す。
「これは?」
「近日、死ぬ可能性のある人間のリストです。
ミュージアム経由で手に入れたので信頼できます。
どうせ仲間にするなら能力が高い者の方が良いでしょう?」
原作と違う結果が次々と起こっているこの世界で備えておいた布石を取り出す。
勿論、この中には羽原レイカのデータも入っている。
「貴方の言う事だから信用した方が良さそうね。
ありがたく受けとるわ。」
「そう言えば、克己さんは?」
「貴方にやられてから各地の紛争に参加して強くなろうとしてるわ。
ドーパントの強さが相当、衝撃的だったのでしょうね。」
そんな会話が終わりマリアさんと別れると僕は研究用の服から上等なスーツに着替えると園咲家の屋敷へと向かうのだった。
屋敷につくと、獅子神とサラが先についていた。
サラは僕に手を降り獅子神は露骨に不機嫌な顔になる。
サラが僕に近寄り話し掛ける。
「久し振りね無名。
屋敷に殆ど来なくなったって聞いたけど何してたの?」
「ちょっと研究に忙しくてね。
ミュージアムの施設にほぼ缶詰めだったんだ。」
「それは大変ね。
けど、聞いたわよNEVERの事、それに"生体フィルター"の改良についてもね。」
「前のコネクタと比べて毒素を50%もカット出来てしかも任意で消すことも出来るようにしたらしいじゃない。」
ガイアドライバー製作の副産物ではあるが大道マリアのお陰で生体フィルターの改良が成功した。
メモリの毒素を50%までカットし性能はそのまま、
そしてメモリを刺す時だけコネクターが出現するようにも改良できた。(原作後半のコネクターに毒素半分カットが付いた仕様)
この事はどうやらミュージアム内でも噂になっているらしく部下の研究者づてで話を聞いていた。
「それに"テスター"だったかしら?
ガイアメモリの"実験用素体"あれも人気みたいね。」
テスターは再生酵素が出来た時、にナノマシンの比率を弄って作り上げた僕の最新の研究成果だ。
ガイアメモリのテスト用に毒素を測る装置を取り付けた死体で、酵素を打ち込むことで命令に合わせた行動を行わせられる。
因みに犠牲になった遺体は再生酵素実験の際にNEVERに殺害された研究者だ。
どうせ捨てるなら有効活用しようと決めて、テスターを作り上げた。
倫理観に反してると言われるかもしれないが僕個人に正義感も倫理観も希薄だ。
救いたいものが救えれば他はどうでも良い。
因みにNEVERのメンバーは僕が救いたいと思っていた人達だったのであんな脅しはしたが本当に殺すつもりはない。(まぁ、元々死んでいるけど)
しかし、この精神状態がメモリの副作用からなのかそれとも元からなのか全く分からない。
知りたいとも思ってはいないが...
そんな風にサラと談笑していると、この場に園咲 琉兵衛と執事の師上院が現れる。
「よく集まってくれた。
ミュージアムの誇る若き才能達よ。」
「今回来て貰ったのは他でもない。
君達、三人の功績は聞き及んでいる。
充分な実績を積んだ君達を正式に"幹部"として迎え入れようと思う。」
ミュージアムの幹部、それの意味する所は園咲家の家族と同等の地位を得ると言う事.....
だが、家族至上主義な園咲 琉兵衛がそんな簡単に幹部として僕達を認めることに違和感を覚えた。
しかし、サラと獅子神はその話を聞いて喜んでいる。
特に獅子神なんて琉兵衛の見る目が歓喜で輝いていた。
「幹部となるにあたって君達に私の"本当の目的"を伝えよう。」
琉兵衛は手に持っていたガイアドライバーを腰に付けると右手に持ったゴールドメモリを起動する。
「
腰のガイアドライバーに恐怖の記憶を司るガイアメモリが装填される。
琉兵衛の周りに恐怖をエネルギー化した粘着質な黒いエネルギーが現れる。
周りの空気が冷え、意識が変わる。
獅子神もサラもその恐怖に呑まれて顔が歪む。
黒い身体に青色の独特な装飾がなされた頭、
そしてそこから靡く裏地が金色の黒いマント。
テレビの中で見た園咲 琉兵衛のドーパント体である。
"テラードーパント"が目の前に立っていた。
そして、告げる。
自分の目的である"ガイアインパクト"について....
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第八話 Wの契約/縛られる悪魔
そして、地球の記憶に"アクセス出来る人間"に地球の膨大な記憶を繋ぐことで人類を強制的に進化させる計画。
その計画のために我々、家族は存在する。
我々は地球に選ばれた家族なのだ。
原作で知っていた僕はそこまで驚くことはなかったが、
獅子神とサラは驚愕の表情をしていた。
「地球の全ての記憶を一人の人間に繋ぐ.....
そんな事が本当に出来るのですか?」
獅子神の問いに琉兵衛は答える。
「出来る。
私の息子である
やはり、今の時間軸はビギンズナイトよりも前で、来人がミュージアムに囚われていた時らしい。
あまりにもスケールの大きな話に二人が面を食らっていると琉兵衛が語る。
「幹部になると言う事はこの計画にも勿論、参加して貰う。
だが、君達の中にいる聡い者はこう思うだろう。」
「"何故、この話をしたのか?と"」
園咲 琉兵衛は自分の家族しか信じない。
だからこそ、幹部やゴールドメモリは家族の者にしか渡してこなかったのだ。
逆に家族になれば飼い猫ですらメモリを使えるわけだが、このルールが適応されているのなら僕ら三人が園咲家の面々になる(霧彦ルート)しかないがどうやらそう言う訳ではないらしい。
「話していなかったが、執事である師上院もガイアメモリを有している。
そのメモリはかなり特殊なものでな。
これを使うことで家族でない君達を"信頼"したいと思う。」
師上院は懐から一本の"ゴールドメモリ"を取り出す。
起動するとメモリコネクターが右手の平に浮かび上がりそこに差し込む。
メモリが入ると身体が複数の文字に変わり周囲に浮かび上がると身体を形成していく。
様々な文字が重なりあい人型の形を形成すると変異が終わった。
変身が終わると琉兵衛は話す。
「師上院は、ドーパントの姿だと言葉を話せないので私が代弁させて貰うがワードメモリの能力は"契約と制約"だ。
彼の作り出した契約は必ず履行される。
勿論、破ったらそれ相応の罰が下ると言う訳だ。
このメモリの利点はドーパントとも契約を行え如何なる存在もこの契約から抗えないと言う点だ。」
「故にこの契約を結ぶことが家族になるのと同等の責任を果たした事になると思っている。」
「では、契約内容の確認をしようか。」
園咲 琉兵衛が提示した内容は以下のものだ。
1.園咲家の者に対する危害や敵意の一切を禁ずる。
2.ガイアインパクト成功のため最大限の協力を行う。
3.ミュージアムの情報や園咲家のガイアメモリに関する情報の口外を一切禁ずる。
これが破られた場合は契約者の命をもって清算される。
要は、園咲家の事は話してもダメ。傷付けてもダメ。
ガイアインパクトに関わることは全て協力。
破ったら死ぬ。
こう言うことだ。
ヤクザに借金するよりあこぎな契約だ。
だが、ここで琉兵衛が付け加える。
「勿論、このままでは君達に何の利益もない契約だ。
だからこうしよう。
この契約を交わしてくれるのなら君達の願いを"1つ"叶えよう。
こうすることで契約は"成立"される。」
どうやら、望みを1つ叶える代わりにこの契約が出来るようだ。
メモリの能力の癖にここだけフェアにしようとしてるのが面白い。
そんな事を考えていると獅子神が琉兵衛に話し掛ける。
「俺の願いは"獅子神家の当主"となることです。
それを叶えてくれるのならこの契約を結びます。」
獅子神家....たしか財閥の名前で聞いたことのある。
この男はそこの御曹司だったのか。
園咲家と比べると小さいがそれでもかなりの私財を持っていると聞く。
獅子神が願いを言い終わると次はサラが話し始めた。
「私の願いは"私の安全を常に保証してくれる"こと...
それが叶うのなら契約しますわ。」
サラの願いは安全の保証....随分と後ろ向きな願いだと思うが過去に何かあったのだろうか?
「無名くん、君の願いは何かね?」
琉兵衛が僕に聞いてくる。
「僕の願いは"ガイアドライバー"を一つ頂きたいです。」
現段階でもっとも欲しいガイアドライバーを要求する。
「ガイアドライバーかね?
だが、これは予備が今のところ"存在"しない。
残念だがその願いは叶えられないな。」
(やはりそう来たか。
ガイアドライバーはゴールドメモリを安全に使う上で最も重要なアイテムだ。
この契約で裏切りの可能性が無いとしても気になるのだろう。)
「では、ガイアドライバー開発の際に
使われた研究データを頂きたい。
それで如何でしょうか?」
無名の妥協案に琉兵衛は少し悩む。
「良いだろう。
それで"契約"としようではないか。」
琉兵衛のその言葉を合図に師上院がメモリの力で空中に契約の内容を書き記すと文字が鎖の様に繋がり三人の胸へと入り込む。
痛みは無いが何かに縛られた感覚が心臓に付けられた。
「これで我々は"本当の意味での同志"だ。
共にミュージアムを発展させて行こうではないか!」
そう笑いながら琉兵衛が僕達に告げるのだった。
名称:ワードドーパント
身長:185cm
体重:19.3kg
ゴールドメモリであるワードメモリで変身したドーパント。
文字を固めて人型になった見た目をしている。
能力は契約を作りそれを施行出来る事、
一度、契約が為されればメモリが破壊されない限り永久的に支配が続く。
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第九話 Tとの接触/優秀な女性
ワードドーパントを介した契約が終わった三人は早速、幹部としての仕事を本格的に任されるようになった。
獅子神はその戦闘力を生かしてミュージアムと敵対する組織の壊滅を任され、サラは風都以外の町でメモリを販売するコネと組織作りを任された。
そして、僕にはガイアメモリに関する研究と風都で行われるメモリ実験の監督を任された。
実質、園咲文音の後釜として据えられた訳だ。
そして、その過程で園咲来人との謁見を映像ではあるが許された。
まぁ、孤島でメモリ開発をしている現状そんな簡単に会いに行けないのは当然なのだがそんな彼だが僕の顔を見ると興味がないように開発したメモリの情報だけを喋り始めた。
「今回、作ったメモリはこの二本だ。
もう、"検索"も終わって興味がない。
好きに使いたまえ。」
そういうとメモリのデータが送られてきてそのまま通信が切れた。
残った画面には、"ジーンメモリ"と"バイラスメモリ"が映し出される。
(また、随分と極端な能力を持つメモリが来たな。)
ジーンとバイラス...どちらも能力が特殊で扱いづらいメモリだ。
テストする場所も限られてくるだろう。
面倒な事が増えたが良いこともあった。試作型ではあるが文音の残した初期型ガイアドライバーの研究データと設計図(琉兵衛が大事に保管していた。)を元に新たなドライバーが完成したのだ。
大道マリアと開発した生体フィルターをベースにガイアドライバーの能力を合体させた新型のドライバー。
利点としては製造コストが少しだが抑えられた点と、
ガイアドライバーと同等クラスの毒素の除去を行えた点だ。
だが、デメリットとしてシステム面のデータが不足していた為、稼働時間に限界が出来てしまった。
ダメージ関係なく連続稼働は15分が限界で、
それを過ぎると強制的に変身が解除される。
また、時間を過ぎると次の再変身まで8時間のクールタイムが必要となっていた。
まぁ、それでも十分すぎる性能がありテストとして四基製作し、僕、獅子神、サラ、そして琉兵衛の要求により師上院にもこのドライバーを渡した。
戦闘データが集まれば稼働時間の延長も可能になるだろう。
そして、琉兵衛からの提案で僕達の下に"直属の部下"を付けることになった。
部下とは言うが自分の好きに選んで良いと言われたのでとあるミュージアム関連のつてから探していると懐の携帯が鳴る。
画面を見ると園咲冴子の文字が書かれている。
僕が電話を繋ぐと聞きなれた声が聞こえてきた。
「この前の"パーティー"以来ね無名。」
ワードドーパントによる契約の後に園咲家のパーティが行われ、そこで園咲家の家族に僕達は紹介された。
そこで一悶着あったのだが、その一件があり園咲冴子に気に入られてしまったのだ。
「えぇ、冴子様も御元気そうで何よりです。」
「お世辞は良いわ。
本題に入りましょう。」
「来人からメモリのデータは送られてきた?」
「はい、ジーンとバイラスのデータが」
「なら、話が早いわね。
メモリの実験場所として"風都"の施設が選ばれたの。
だから、風都を管轄してる私に話が回ってきた。」
僕達三人は琉兵衛により意図的に風都と関わらない場所へと配属されている。
その理由は不明だがそのせいで僕が風都に行けたのは大道親子をスカウトした時だけであった。
「成る程、ではテストするメモリも冴子様がお決めに?」
「いえ、それは貴方が決めるようにとお父様から言われているわ。」
その言い方に僅かながらの不満の感情を感じとる。
園咲冴子は劇中、琉兵衛を越える野望を持ちその理想の為に準じ死んだ女性だが、その根幹は父親に認められたい欲求と妹である若菜の方が父に期待されていることを知ったジェラシーでガチガチに固まった人物なのだ。
それ以外に関しては相当優秀なのが分かる。
ガイアメモリ販売を裏で行うIT企業であるディガルコーポレーションの経営を完璧にこなしつつ、表と裏の世界で完璧な活躍をしている。
トラブルに対する対応も的確で抜け目がない。
正直、あんなに冷遇しなくても良いくらい優秀な人だと思う。
(まぁ、あの一家は良くも悪くも家族関係では目が曇るからな。)
そんな事を考えながら話を聞いていたが冴子から尋ねられる。
「それで?
どのメモリを試すつもり?」
(どうせなら、原作に無いことを試してみたいな。)
そう考えた無名は口を開く。
「二本とも試してみましょう。」
Another side
冴子は無名の計画を聞き電話を切ると改めて彼の考えに戦慄を覚えた。
「やはり、無名と言う男は"狂っている"。」
年は自分よりも数段若く、幼さが残ってはいるがその口から放たれる論理や会話はとてもその年齢とは不釣り合いに達観していた。
今回の話だってそうだ。
あくまでメモリの有効能力を調査すれば良いのに、それだけではなくあんなことまで提案してくるなんて....
だが、もし無名の想像通りの結果になるのなら、
お父様の予想すら越える結果を産み出すかもしれない。
聞けば彼がミュージアムに入ってから色々な恩恵がもたらされた。
生体フィルターとコネクターの改良、NEVERと言う怪物の集団を懐柔し自分の利益にした。
そして、極めつけはガイアドライバーの開発。
まだ試作品で私達の使うガイアドライバー程の性能はないらしいがそれでも強大な成果だと言うことには変わりがない。
そして、何よりあの男には倫理観や正義感....もっと言えば善意と呼ばれる感情を感じない。
まるで、"自分の生きている世界が虚構"だとでも思っているかのような行動をする。
まるで、悪魔が人の皮を被ったかのような存在。
彼ならいずれ"恐怖の帝王"すら越える存在に....
「全く、私ったら何を考えているのかしら。」
自分の考えを振り払いながら冴子は実験の準備を行うのだった。
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第十話 Tとの接触/始まる実験
Another side
ここは風都にあるビリヤード場"かもめビリヤード"。
その二階に事務所を構える男、
この街、風都を蝕む悪魔の道具であるガイアメモリ。
その道具に関わったせいで
ガイアメモリ犯罪に巻き込まれていくことになった。
暫く、センチメンタルな気分が抜けず仕事を休業していたがそんな俺をもう一度、立ち上がらせた人物がいる。
「おやっさん!頼まれてたもん買ってきたぜ。」
生意気に帽子を被り紙袋を抱えている短パンの青年、
だが、筋は良い...俺の探偵の技術はほぼ受け継いでいる。
(問題があるとすれば....)
荘吉は立ち上がると翔太郎の頭を叩く。
「あいたっ!」
「何度も言ってるだろう翔太郎。
お前に帽子は早すぎるってな。」
そう言うと荘吉は翔太郎の帽子をひったくり帽子掛けにノールックで投げ込み帽子をかけた。
その姿に「すげぇ!」と感動している翔太郎を見て溜め息をつく。
(まだ、"ガキ臭い"所が抜けてない所ぐらいか)
「帽子を付けたいならもっと大人になれ翔太郎。」
荘吉はそう言うと翔太郎から荷物を受け取り机に戻った。
「確かに、おやっさんに比べれば俺はガキっぽいかも知んないけど少しぐらい認めてくれても良いだろ?」
翔太郎の言葉に荘吉は反論する。
「そう言う文句を垂れる時点でまだ子供だ。
翔太郎、探偵と言うのは....」
「"我慢を貫く仕事"だろ。
耳にタコが出来る程、聞いたよ。」
殴られた頭を抑えながら翔太郎は自分の場所に戻ろうとすると思い出したように荘吉に話す。
「そう言えば面白い子供にあったんですよおやっさん。」
「面白い子供?」
「はい、おやっさんに頼まれた買い物の途中で、
ひったくりがあってソイツを追っかけてた時、
その子供がひったくりを捕まえるのを手伝ってくれたんです。」
聞けば、ひったくり犯に足を掛けて転ばせてその隙をついて翔太郎が取り抑えたらしい。
「その子にお礼を言うと「大したことはしてませんよ。」って言って去ろうとしたんです。」
「気になったんでその子の名前を知ろうと聞いても「名乗る名前を持っていませんから」って言って....」
「確かに今の時代にしちゃませた子供だな。」
「そうなんっすよ。
そして、去り際そいつ俺を見て言ったんです。」
「まるで"主人公の様な活躍"。
カッコ良かったですよって...」
夜の風都の工業地帯....ここはディガルコーポレーションが秘密裏に買い取った地域でもある。
そこに、テスターと浮浪者の様な見た目の男が立っていた。
「たっ....助けてくれ!頼む!」
男は、泣きながら何処かに向かい懇願しているがその願いが叶うことはない。
すると、マスクを付けた無名は現れて彼等に向かい話し出す。
「では、実験を開始します。
テスター、メモリを起動し身体に刺してください。」
その言葉に従うようにテスターはメモリを起動し身体に刺す。
「
身体が変異しテスターはバイラスドーパントへと変身する。
「さぁ、次は"貴方の番"です。」
そう言われた浮浪者は怯えながらメモリを握りしめている。
「言っておきますが貴方に拒否権はありませんよ。
貴方の犯した罪を揉み消す代わりに我々に協力する、そう言う契約の筈でしょう?」
そう言われた浮浪者は「でっでも...」と言いながら決断が出来ないでいた。
僕はそんな彼を見てテスターに追加の命令を行う。
「テスター、彼が戦う気力が出るよう死なない程度に痛ぶってください。」
その言葉に従いテスターは浮浪者を殴り蹴りを繰り返す。
バイラスメモリの能力から考えたら無駄な攻撃ではあるが臆病者に決心させるには充分な力を発揮した。
「うっ、うわぁぁぁぁぁ!」
「
メモリを起動し身体に刺すと右手が特徴的なコイル状の道具がついたジーンドーパントへと変身する。
「では、実験を始めましょう。
テスター、彼に触れなさい。」
その言葉に従うようにテスターはジーンドーパントに触れる。
すると、そこからウイルスが入り込みジーンドーパントは苦しみ出す。
「ぐぁぁぁぁぁあ!」
「死にたくないのならジーンの能力を使ってバイラスを改造しなさい。そうすれば生き残れる可能性がありますよ。」
ジーンドーパントは苦しみながらもその声に従い、コイルのついた右手でバイラスの遺伝子の改造を始めた。
細菌も大まかに捕えれば遺伝子の集合体。
ジーンメモリなら何かしらの変化を与えられると考えた。
(普通に使えば街一つをアウトブレイクに出来るバイラスメモリ...それがジーンメモリで改造されると一体、どんな変化を及ぼすのか興味深い実験になりそうだ。)
ジーンメモリの効果かバイラスとジーンを包むようにエネルギーが展開し二人の姿が見えなくなる。
この実験の結末を見ようとした時、
招かれざる来訪者が現れる。
「この街を泣かせる真似は許さん。」
白い帽子を被った鳴海 荘吉が僕にそう言い放ったのだった。
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第十一話 Sとの対峙/髑髏の戦士
目の前に現れた鳴海 荘吉に無名は内心で動揺していた。
(まさか、この場で出会うことになるなんて....
せめて、シュラウドと"接触"してから会いたかった。)
何故なら、今この場においてもっとも厄介な存在が鳴海 荘吉....仮面ライダースカルだと僕が思っているからだ。
彼の使うメモリであるスカルは"髑髏の記憶"を宿している。
映画ではそこまで語られなかったが漫画において能力が明かされた。
それは変身中、変身者の肉体を骸骨と同等にすること。つまり、一種の"不死状態"になることが出来る。
そして、もっとも厄介なのは生者でありながら死者となっていると言うこの現象そのものだ。
"生と死の境界線上にいるあやふやな能力"....
死と消滅を象徴する僕のデーモンメモリとの相性が悪かった。
荘吉は僕を見ると話し出す。
「子供がこんな所で何をしてるんだ?」
僕はその動揺が悟られないよう平静を保ち答える。
「単なる実験ですよ。ガイアメモリを使った」
ガイアメモリと言う言葉を聞いた荘吉は顔をしかめる。
「お前はそれの危険性を理解しているのか?
人間を悪魔に変える最悪の道具だぞ。」
「えぇ勿論、理解していますよ。
でも人間なんてメモリを使わなくても元々悪魔みたいな側面を持っている者でしょう?
ガイアメモリはそれを助長させる要因の一つにしか過ぎませんよ。」
「.....そうか。」
そう言うと荘吉は懐からドライバーを取り出す。
"ロストドライバー"、片方にメモリを入れるスロットを持つドライバーを荘吉は装着すると帽子を取り、
澄んだ色をした黒いメモリを起動する。
「
起動したメモリをドライバーに装填し倒す。
「変身」
その声と共に仮面ライダースカルへと姿が変わる。
額についた稲妻の傷を隠すように帽子を被り直すと、
僕を指差し告げる。
「さぁ、お前の罪を...数えろ。」
僕もそれに呼応するように試作ドライバーを付けてメモリを起動する。
「Demon」
そしてドライバーにメモリを装填すると、
身体が変異しデーモンドーパントへと変身した。
「"数える程の罪"なんて僕にはありませんよ。」
僕は荘吉にそう言い放つ。
夜の風都で
怪物同士の殺し合いが始まるのだった。
先手はスカルから始まった。
距離を積めて格闘をするつもりなのだろう。
無名は黒炎を作り、彼に放つ。
黒炎は、彼を燃やし始めるのだが気にする素振りも無く近付くと拳を突き出してきた。
その攻撃を腕で払うがスカルの追撃は止まること無く、そのまま回り蹴りを喰らい僕は吹き飛ぶ。
「くっ!....やはり効きませんか"僕の炎"は」
「そのようだな。」
この炎は生きている者を破壊し消滅させる力がある。
生と死の境にいるスカルにはやはり効果が薄いようだった。
そして、これも対峙して分かったが格闘能力も高い。
恐らく、獅子神よりも高く洗練されていた。
風都に現れるドーパントをこれまで倒してきた経験則から来る攻撃は、確実に僕の身体にダメージを与えていた。
(やっぱり"相性"が悪い。
獅子神の様に油断してくれれば良いがそんな可能性は皆無だろうな。)
ゲートで逃げようにもそんな時間を与えてくれるとも限らない。
仕方がない"アレ"を使うか。
僕はスカルの目の前に黒炎を放つ。
ダメージ目的ではない目眩ましの為だ。
何かするのを察し警戒した為か時間が出来る。
そこで僕は黒炎をイメージで型どっていく。
すると、黒炎が集束し"黒い刀"へと形を変えた。
完成した武器でスカルに斬りかかる。
スカルは回避しようとするが刃が伸びて胸の生体装甲に"一筋の傷"を付けることが出来た。
スカルは胸の傷を抑えている。
「その刀...普通の武器じゃないな?」
荘吉の問いに無名は答える。
「ご名答。
この武器は僕の使う黒炎を別の形に変えた物です。
正確には刀ではなく炎の塊です。
黒炎と違いがあるとすれば"純度"の差ですかね。
黒炎の力は"物体や事象の消滅"、
この刀はその中でも物体の消滅の力の純度を上げてあります。」
因みに獅子神との戦いで使ったゲートは事象の消滅の力を強く出しておりその力により移動にかかる事象を消していたのだ。
閑話休題。
この武器ならばスカルの不死性にも対抗できる。
不死だろうと肉体が無くなれば意味がない。
形があるから不死と言う概念が成り立つからだ。
「どうやら、手加減出来る相手では無さそうだ。」
そう言うとスカル専用武器であるスカルマグナムを取り出し僕に向けた。
これからが"第2ラウンド"だ。
Another side
仮面ライダースカルとデーモンドーパントの戦いを遠巻きで見ている女性がいた。
顔を包帯で巻き、ライダーススーツに短髪の黒髪に黒いサングラス。
仮面ライダーWに置いて物語を動かす重要なキャラクターであるシュラウド...園咲 文音だ。
彼女がこの戦いを見たのは単なる偶然だった。
風都でミュージアムがガイアメモリの実験を行う事を知り荘吉に知らせた。
それだけで終わりの筈だったが、
あの少年が取り出したドライバーにより話が変わる。
(あのドライバーは私の作った物とは"明らかに違う"。
一体、誰があれを作り出したの?)
彼女が園咲家を出る際に次世代ガイアメモリとドライバーの設計図と研究データを持ち去ったのは園咲 琉兵衛に勝つ糸口を残すのと旧世代のガイアドライバーにこれ以上の改良は出来ないと知っていたからだ。
それにコスト面から見ても量産は不可能だと判断したこともある。
だからこそ、旧世代のガイアドライバーのデータはミュージアムに残したままにしたのだ。
だが、あのドライバーは私の知らない技術が使われている。
ドライバーとしての完成度はお世辞にも高いとは言えないがそれでも出力だけで見れば私の作ったドライバーと同程度の力を出していた。
(これは"危険"かもしれない。
あの少年を放って置いたら何れ取り返しのつかないことなる。)
そんな感情をシュラウドは持っていた。
恐らく、彼が使っているメモリにも理由があるのだろう。
デーモンメモリ..."悪魔の記憶"を内包しているとデータでは書かれているがそれは調査が途中で断念されたからそう書かれたに過ぎない。
過去の実験でも被験者は皆、ドーパントになる前に黒炎に巻き込まれて死んでいる。
故に、ミュージアムやこの私でさえもこのメモリの力を、把握してはいない。
もしかしたらテラーよりも恐ろしい力を秘めているかもしれない。
...."保険"をかけておくべきだろう。
シュラウドはそう考えるとスタッグフォンを取り出し操作を行うのだった。
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第十二話 Sとの対峙/タイムリミット
スカルとの戦闘は膠着状態となっていた。
無名は生成した刀でスカルを斬りつけにかかるが、
当のスカルはマグナムを撃ちながらある程度の距離を保とうとしている。
「どうしました?
逃げているだけでは...勝てませんよ?」
スカルを挑発する無名だがそんな中で返ってくる返答。
「お前の能力が説明通りなら、銃や遠距離の武器を作れば良い。
それを、しないと言うことは出来ない理由があるのだろう?
オマケにその武器を作ってから攻め方が少し荒くなっている。
時間制限があると見たが....」
(ご名答...流石は鳴海荘吉、探偵らしい見事な慧眼だ。)
何故、無名がこの武器を早めに作らなかったのかと言えば長時間の生成が難しくまた武器もこの刀以外作ることが今の段階では出来ないからだ。
更にドライバーの制限時間も問題になってくる。
(連続稼働は最大で15分....戦い始めてもう10分は経過した。
後、5分でスカルをこの刀で倒すことは実質不可能だろう。)
ここで無名は自分の能力で出来る事を整理する。
(黒炎...ゲート...武器....翼?
空からの奇襲ならスカルの裏をかけるか?)
だが、ここでもう一つの問題が出てくる。
それは黒炎の生成量だ。
今の無名が使える黒炎の量では武器がある段階で翼を作り出すことはできない。
武器を一度消さないといけないのだ。
そんな隙をスカルには与えられない。
どうにか形勢を好転させないとそう考え攻めあぐねていると事態は更に悪化する。
突如、僕の付近に巨大な"エネルギー弾"が落ちてくる。
ギリギリで回避すると攻撃された方を向く。
そこには真っ黒で塗装されていない砲台があった。
(あれは、"ガンナーA"。アクセルのサポートドロイド。
まだ、アクセルは誕生していない。
だとすれば動かしているのは....)
「文音か...全く余計な真似を」
スカルも援護を受けた人物の正体が分かっているのか軽く悪態を突くがチャンスを棒に振る程この男は甘くない。
デーモンドーパントに生じた隙を付くように銃を撃ち、
刀を手から弾き落とした。
(不味い!?)
無名は戦闘で始めて焦りを覚えると武器に使った黒炎を解除し身体の付近に展開する。
スカルマグナムの弾もガンナーAのエネルギー弾も黒炎の状態ならある程度は耐えられると考えた為である。
しかし、そんな考えも見透かされているのかスカルは自分のメモリを抜き出すとスカルマグナムに装填する。
「
必殺技の待機状態に持っていくと、
銃口を僕に向ける。
(ヤバい...あれは耐えられない!)
絶体絶命の"ピンチ"....
だが、危機は誰にでも平等に訪れる。
それは実験の結果であってもそうだ。
繭のように覆われていたエネルギーが弾け飛び、内部にいたドーパントが姿を現した。
その姿はバイラスとジーン両方の性質を持っており二人だった身体は一つになっていた。
現れた新たな敵に危険性を感じたスカルは銃口をそのドーパントに向けると発射した。
髑髏の形をしたエネルギー弾がそのドーパントに触れるとエネルギーが色を変えて破裂し付近に散らばった。
散らばった先で当たった植物や木々が変異しバイラスドーパントへと変貌する。
「何だコイツらは?」
突然起こったトラブルにスカルとガンナーAが対応するのに精一杯な状況を見て、ここしかないと無名は展開していた炎を翼に変換するとその場から全速力で逃亡した。
風都の高速道路沿いを飛びながら今回の事態を考える。
(実験していたドーパントに救われたな。
恐らくはジーンメモリにより強化されたバイラスの細胞がジーンドーパントと肉体ごと融合したんだろう。
そして、スカルから放たれたエネルギーにバイラスが"感染"し破裂、撒き散らしたバイラスエネルギーが生物を取り込みドーパントとして復活した。)
(漫画で登場したブラキオドーパントのような召喚能力が出来たと考えられるな。)
パッと見ただけでも数十体のバイラスドーパントがあの場で生み出された。
スカルもガンナーAもその相手で忙しい筈だ。僕を追ってくる可能性は皆無だろう。
(だが、何処かでメモリを抜いて休まないと
後"1分"しかない。)
そう考え、近くのビルに下りようとした時、
道路で"何か"が落下し巨大な音を鳴らす物が僕を追ってきた。
後ろを振り返り正体を確認する。
(全く、本当にしつこいですね"貴女"は)
そこには僕を追ってくる"スカルギャリー"の姿があった。
そして、ベルトの稼働時間も"一分"を切っていた。
名称:バイラス+ジーンドーパント
身長190cm
体重150kg
バイラスドーパントがジーンドーパントの能力により肉体ごと融合した姿。
感染する細胞が増殖しバイラスドーパントとして変異する能力を新たに獲得したが、その分安全性が低く使用者の意識も残っていない。
変身者:浮浪者
ミュージアムに殺人事件の証拠を揉み消して貰う代わりにジーンドーパントとなる契約を交わした。
臆病であるため中々、ドーパントにもなれなかった。
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第十三話 Gの気まぐれ/死の恐怖
無名を後ろから追ってくる巨大な装甲車"スカルギャリー"。
どれだけ速度を上げても振りきれず炎を放っても避けながらこちらを捕まえようと追いかけてきた。
この中に、スカルはいないだろう。
遠隔操作で動かしている筈だ。
ではそれは誰なのか?
スカルは今、実験場で暴走したドーパントの相手をしている。
だとすれば該当するのは一人しかいなかった。
(シュラウド...本格的に敵として扱われてしまったみたいですね。)
恐らくは何処かで僕とスカルの戦いを見ていたのだ。
そして、自らの目的である園咲 琉兵衛の打倒に邪魔だと判断された。
ガンナーAを送るだけじゃ飽きたらずスカルギャリーまで出してくるなんて....
けど、不満を言っている場合じゃない。
もうドライバーの稼働限界が迫っている。
一分を切り、そう長くは変身していられない。
この状態でスカルギャリーを破壊して逃亡することは不可能。
逃げに徹したとしても恐らく逃げきれないだろう。
もうゲートを使う余力も残ってない。飛んでいるだけで精一杯だ。
仮に捕まったとしても僕にはワードドーパントとの契約がある。
ミュージアムの情報を話したら死ぬ事になる。
"打つ手無し"。
そんな絶望的な状況であった。
原作の知識を持ちながら始めて味わう苦難。
そして、"死への恐怖"。
僕の心は始めてここが自分の生きている
デーモンメモリを使い始めてから消えていた。
命への欲求が蘇る。
(死にたくない...生きていたい...まだやりたいことがある..こんな所で終わりたくない。)
そんな生への渇望が身体にあるメモリに変化を及ぼす。
それは"強烈な痛み"と"引き換え"に訪れた。
Another side
「さぁ、追い詰めたわよ坊や。」
スタッグフォンの画面に写るデーモンドーパントを見ながらシュラウドは呟く。
ここでこの少年を捕えられればミュージアムの情報を..."来人"の居場所が分かるかもしれない。
どうせなら、荘吉と共に捕まえた方が確実なんだろうがあっちはあっちで今は大変な状況だ。
数十体に分裂したバイラスドーパントをスカルと自動操縦モードにしたガンナーAだけで対処しているのだ。
こちらに時間を割く余裕など無いだろう。
だが、それも関係なさそうだ。
スカルギャリーに搭載された分析用センサーにより、
デーモンドーパントのエネルギーを測ったのだがかなり少なくなっていた。
この減少量は恐らくドライバーが影響しているのだろう。
変身ももう長くは続かない。
そんな状態の相手ならスカルギャリーでも十分に対応できる。
「さぁ、仕上げと行こうかしら...」
スカルギャリーの射撃武装による牽制で高速道路沿いにあるビルにデーモンドーパントを誘導する。
前にはビル後ろにはスカルギャリー...これで詰み。
そう確信した瞬間、デーモンドーパントはビルへと一直線に突っ込み、同時に身体が黒炎に変わってビルの中へと消えた。
「そんな....あり得ない!」
シュラウドは消えたデーモンドーパントを見つけようとセンサーを起動する。
センサーの反応を見るとビルの裏に移動していた。
そんな事が出来るなんて....
早速、デーモンドーパントを追いかけようとするがここでスカルギャリーにトラブルが発生する。
右側の車輪がいきなり全く動かなくなり、
慣性の法則に従い曲がれなかったスカルギャリーはビルへと激突し動きを止めた。
「一体どういうこと?何が起こったの?」
シュラウドは車のチェックを携帯を使い行うが、
車輪に全く反応がない。
まるで車輪全てが別の物質に変わってしまったかのようだ。
これでは追うことは出来ない。
むしろ、早く回収しないとスカルギャリーの存在が琉兵衛にバレたらまずいと考えたシュラウドは携帯を閉じると、道具をバイクに乗せてスカルギャリーの元まで向かうのだった。
Another side
ドライバーからメモリを引き抜くと、
怪人は人間の姿、サラへと戻った。
「無名くんがピンチだから助けてくれって冴子様に頼まれたのは良いけど随分と凄い奴に追われてたんだね。」
無名のいた上空を見ると人間の身体に戻って地面へと落下する無名の姿があった。
「あっ!もしかして気を失ってる?
まずっ!」
サラは抜いたメモリをもう一度起動する。
「
そして、メモリをドライバーに刺すと身体が変異し頭部に何百の蛇が髪のようについた怪人が姿を現す。
そして、その蛇を伸ばすと落下する無名を掴み、
地面へと優しく降ろした。
「ギリギリセーフ。
危なかったぁ。」
そう言うとサラは無名の安全を確認して携帯で冴子に電話をかける。
「冴子様、無名の身柄は無事に確保しました。」
「....そうご苦労様。
彼はこっちで回収するから貴女はもう帰って良いわよ。」
「承知しました。
では失礼します。」
そう言って電話を切りメモリを抜くとその場を後にした。
電話を戻した冴子は目の前に立つ園咲 琉兵衛に話を戻す。
「これでよろしかったのですか?お父様。」
「あぁ、これで良い。
詳しい報告は無名くんから聞くから冴子は別のプロジェクトを始めなさい。」
そう言うと冴子の会社を後にする。
(お父様は何故、無名にこだわっているの?)
父の謎の行動に疑問を浮かべつつも琉兵衛に言われた次の仕事にとりかかるのだった。
名称:ゴーゴンドーパント
身長:164cm
体重250kg
サラが、ゴーゴンメモリを使って変身した姿。
頭の蛇を自由自在に操ることが出来る。
そして、他にも能力が隠されているようだ。
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第十四話 見つめるT/目覚める記憶
周りに景色はなく白い空間で覆われている。
ここの事は知らない筈なのに不思議と落ち着く。
辺りを見渡すと一人の少年が倒れていた。
その子は起き上がると僕を向き言った。
「○○○は何故ここに来たんだ?」
僕は答えることが出来ない。
その答えを探すように意識を向けると足場が無くなり暗い世界へと落ちていく。
そして、そこにあったのは一つの"メモリ"だった。
悪夢から目を覚ました僕は辺りを確認した。
ここに見覚えがある。
園咲家の屋敷だ...だが、僕はシュラウドに追い詰められて....それで....
コン、コン、誰かが扉をノックすると入ってくる。
そこには師上院と数人のメイドが現れた。
「目が覚めたようだな無名。
ここがどこだか分かるな?」
「はい、園咲家のお屋敷ですよね。」
「分かっているのなら早く支度をしろ。旦那様がお前の報告を待っている。」
師上院はメイドに指示を出すと僕の身支度の準備をさせる。
僕は悪夢について一旦置いておくと、ベッドから起き上がり琉兵衛に会う準備を始めた。
準備が終わると師上院の案内で園咲家の家族が食事を行う部屋へと案内される。
「旦那様、無名が目を覚ましました。」
「おぉ、入りなさい。」
琉兵衛の許可が下り中に入ると、そこには琉兵衛と冴子、ミック、そしてまだ幼い園咲家の次女、
「あらっ、お父様この人は誰?」
「私の仕事を手伝ってくれている子だよ。」
まだ、若菜は中学生にも満たない子だ。
琉兵衛も詳しいことは話すつもりはないのだろう。
「お父様の仕事の手伝いをしている無名と申します。」
「むめい?珍しい名前なのね。
私は若菜、よろしくね。」
純粋な笑顔で挨拶をされる。
その事自体が稀なので僕が面を食らっていると冴子が若菜を叱る。
「若菜、無名はお父様に用があるのよ。
余計な口を挟まないで」
「....すいませんお姉さま。」
冴子の叱責で少し空気が悪くなったのを察した琉兵衛が話す。
「若菜、私と冴子は無名くんと大事な仕事の話がある。
ミックと一緒に遊んでおいで」
その言葉を聞くとミックが若菜の元により甘えだし、
さっきの暗い表情が嘘のように明るくなる。
「分かりましたわお父様。
行こうミック。」
そう言って若菜とミックは部屋から出ていった。
「では、何があったのか聞かせて貰おうかね?」
琉兵衛の言葉に僕はあったことを説明していく。
メモリの実験中に見たこと無い
そして、
「謎のドライバーとメモリ...か。」
琉兵衛は心当たりがあるのか顔をしかめているが冴子は全く分からない顔をしている。
(冴子はビギンズナイトで初めて次世代メモリとドライバーの存在を知るから無理もないか。
さて、琉兵衛はこの事実を素直に話すのかそれとも)
「兎に角、この風都には謎の敵勢力がいることは間違いなさそうだ。
冴子も気を付けるように」
(やはり、誤魔化したか。)
無名による説明が終わると今後の動きについての話が始まる。
「無名くん、君は身体の傷を治したまえ。
ドーパントから受けた傷は自然治癒でしか回復しないからね。」
どうやら、身体を回復する時間を貰えるようだ。
「なら、無名に割り振られていた仕事はどうしますか?」
冴子の質問に琉兵衛は悩む。
「ふむ...獅子神くんは研究者向きではないしサラくんも私の仕事をして貰っている。
兼業させられるほど簡単な仕事でもない。」
「ならば、私が無名の仕事を引き受けますわ。
先日の実験のお陰でデータは集まっていますから、
兼業しても問題なくこなせますわ。」
「では、頼むことにしよう。
話はこれで終わりだ...もう帰って休みたまえ無名くん。」
僕はその言葉に従い後ろを振り向き部屋を後にする。
何かのプレッシャーを感じたが、疲れているか気のせいだと思い出ていくのだった。
無名が出ていった後、冴子が琉兵衛に話しかける。
「お父様...最後のアレは一体?」
「何、無名くんの様子が変だったからね。少し試して見たのだ。」
琉兵衛がやったことは、恐怖のエネルギーを無名にぶつけることだった。
獅子神やサラならば、危機感から振り向くが無名はそうしなかった。
気づかない事はあり得ない。
何故なら、琉兵衛の放つ恐怖のエネルギーは長年テラーメモリを使うことで手に入れた。
人間の状態でも使える能力だったからである。
(やはり、"進化"しているな。)
適合率の高いメモリを使い続けるとユーザーの肉体にメモリの能力が付加される。
琉兵衛の様にテラーの力の一部を使えるのだ。
そして、無名の背後からも黒炎が微かに現れていた。
この短期間で何をしたのは分からないが、メモリとの適合率が上がっているのだろう。
実に興味深い"個体"だな。
琉兵衛はそう感じながら無名を今後どう扱うか考えるのであった。
Another side
鳴海探偵事務所で報告書を書いていた荘吉は、身体の痛みに一瞬顔をしかめる。
「ん?おやっさん。
どっか怪我してるのか?」
半人前の癖に洞察力が高い左に指摘される。
「何でもない気にするな。」
荘吉のその言葉に少し不安に思うものの左は従う。
荘吉が顔をしかめた原因は昨夜、戦ったドーパントとの傷が原因だった。
突然、繭から出て来たドーパントに攻撃した瞬間、何十体ものドーパントを生み出したのだ。
文音の持ってきたガジェットに助けられて何とか全員倒せたがそのドーパントを産み出した怪物は呻き声を上げて地面に倒れるとそのまま粒子となって消えた。
アイツが何なのかは分からないが少なくとも今まで戦ってきたドーパントとは明らかに様子が違う者だった。
戦いが終わった後、文音に連絡したら文音も詳しいことは分からないらしくあのデーモンドーパントが指揮をしているのだろうと言っていた。
(翔太郎よりも若い坊主があんな悪魔のような実験を....)
荘吉はこれから来るミュージアムとの壮絶な戦いをあの一戦で予感した。
「これから、"嵐"が来るな。」
荘吉は引き出しから取り出した資料を確認する。
そこにはとある孤島の地図とそこに連れて行かれる白いパジャマを着た少年の写真が写っていた。
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エターナル編
第十五話 Eへの介入/変わる展開
僕は今、身体のダメージを治すため園咲家の別荘の一つで療養生活を送っている。
身体にメモリが適合しているからか回復力も高く、一ヶ月と経たない内に肉体のダメージはほぼ回復した。
だが、琉兵衛からは、
「こちらが決めた休暇はまだ残っている。
この際だ少しゆっくりしていきたまえ。」
と言われた。その言葉を受けて僕の休みは延長しているわけだが、
何もしないと言うのは暇で仕方がない。
暇潰しになることを考えたが、
僕にはガイアメモリやドライバーの研究がその暇潰しだったことに気づき、改めてこの世界に来てからろくな生き方をしていないと自覚した。
だが、変える気もない。
この原作に入り込んだ異物として自ら求める結果を手に入れる。
それこそが僕のしたいことだったからだ。
そんなこんなで休みを利用して自分のメモリを研究していた。
あの一戦の後、僕のメモリは進化した。
正確には僕の身体も含めて変化したと言うのが正しい。
園咲 琉兵衛の様に人間の身体でも黒炎が扱える様になり、
身体能力も強化された。
そして、ドーパント体では黒炎の操作できる最大量が増えた。お陰で刀以外の武器や能力が使えるようになった。
だが、あのビルで使えた自らが黒炎になりすり抜ける技だけは使うことが出来なかった。
何かしらの条件でもあるのだろうか?
ドライバーの開発は難航している。稼働時間は伸ばすことが出来たが30分が限度であった。
やはり、シュラウドが作った現物のドライバーが必要だ。研究データではなく....
変化があったと言えばもう一つ。獅子神とサラ、そして僕は直属の部下を手に入れることが出来た。
まぁ、僕の場合は人間ではないのだが.....
別荘の木に登り景色を見ている"シルバーマーモーセット"と言う品種の猿、名前を"リーゼ"と言う。
それが僕直属の部下だ。
だが、ただの猿ではない。
"禅空寺家"が管理する実験動物の一体、それがリーゼだった。
ガイアメモリの研究で交流を持ち譲り受けた秘蔵の一体だ。
頭が良く暇な時はパズルをしている。
勿論、リーゼにも"ガイアメモリ"と"ドライバー"を渡している。
僕自身が調整したリーゼ専用のドライバーだ。
そして、メモリはシルバークラスが与えられた。
「リーゼ、帰ろうか。」
僕の言葉に反応し肩に乗っかる。
そのまま、別荘に戻ろうとすると携帯が鳴った。
画面には大道マリアの名前が表示されていた。
僕は通話ボタンを押し受けた。
「お久しぶりですねマリアさん。
今日は何の用で?」
大道マリアとは定期的に取引を行っている。
酵素を撃ち込む道具の改良や、武器や乗り物の斡旋。
他にも実験の協力など多岐に渡り協力して貰っている。
だが、通話に出たマリアの口調は焦りを覚えていた。
「貴方に頼みたいことがあるの。」
そこでマリアはいまおきている事を簡潔に話すが僕はこの問題を知っていた。
東南アジアで任務についていたNEVERが突如、超能力を持つ少女"ミーナ"に襲われる。
そして、大道克己はミーナと関わる中で、
永遠を求める地獄の悪魔へと変貌していく。
これはVシネ仮面ライダーエターナルのストーリーだった。
(もうそこに突入したのか。)
そして、マリアの話を聞く限り、酵素が入ったアタッシュケースを無くしてしまったらしい。
メンバーの持つ酵素は緊急用の臨時酵素一本しかなく克己も謎の組織にさらわれてしまったらしい。
あまり、時間がない状況だがその事を嘆いてもいられない。
折角、生き残らせる方向でNEVERに関わったのにここで勝手に絶望されてはこっちが困る。
それにこれはある意味、僕にとってはチャンスだ。
話を聞いた僕はマリアにとある提案をした。
最初は拒否反応を示したが時間がないので渋々了承するのだった。
そして、許可が取れると僕は電話を切り別の人物へとかける。
その方はワンコールで電話に出てくれた。
「琉兵衛様、無名です。
実は折り入ってのお話がございます。」
「"エターナルメモリ"...か。」
「はい、財団Xが製作しているメモリです。」
「君が何故、その事を知っているのかは問うまい。
そのメモリに君は何を気にしているのかな?」
「エターナルメモリの能力にガイアメモリの"機能を停止"させる力があります。
琉兵衛様の今後の計画を考えるとこちらで財団Xにバレず秘密裏に回収しておきたいのです。」
「成る程、確かに留意しておくべき内容だな。
宜しい、部下を連れて早速そこへ向かいたまえ。」
「ありがとうございます。
つきましてもう一つお尋ねしたいことが...」
「何かね?」
「"獅子神"と"サラ"は今何処にいるのでしょうか?」
Another side
マリアは無名に助けの連絡を送ると、
克己らNEVERを助けるための準備を行う。
緊急用の酵素を使っても耐えられる時間はそんなに長くない。
多く見積もって数時間が限度だ。
再生酵素の開発により、記憶の保持など能力は格段に上がったがそれでも効力に時間制限があることは変わらない。
何としても酵素が完全に切れる前に薬を届けなくては
私はミュージアムから買い取った軍用航空機に機材を詰め込む。
そんな中、青年と少女を連れた無名が現れた。
「坊や....」
「ミュージアムの決定を伝えます。
我々はNEVERが捕らえられている島に向かいそこにいる敵勢力の制圧を行います。」
「待って!克己達のことは...」
そんなマリアの言葉を青年が遮る。
「あ?あんな死体のなり損ないなど知ったことか。
俺達の目的とは関係ない。」
「そう言う訳にも行かないと思うがな獅子神。
NEVERのメンバーは琉兵衛様の求めるメモリの近くにいる可能性が高い。
だとしたら助けてメモリの場所を聞く必要がある。
違うか?」
「ちっ!」
無名の言葉に獅子神と呼ばれた青年は舌打ちするとマリアの並べていた道具の中でアタッシュケースを手に取る。
「この中に酵素って奴が入ってるんだろ?
死体もどきを動かすのに必要なんだってな。
俺は、"死体もどき"どもを探す。
お前達はどうする?」
「彼等が捕まっている孤島は大きい三人共別れて動いた方が良いだろう。」
「なら、全員、酵素を持っていた方がいいわね?」
「そうですねサラ。
そう言うことですので獅子神。
僕達にもそのアタッシュケースの酵素とインジェクターガンを分けてください。」
「.....テメェに言われるのは気に食わねぇが理に叶ってるな。」
そう言うと、アタッシュケースを開けてインジェクターガンを一人ずつ、そして酵素入りの瓶を一人3つずつ持った。
「プロフェッサーマリア。
彼等の酵素が切れるまでのタイムリミットは?」
「移動時間を抜いて1時間が限界ね。」
「分かりました。
では早く向かいましょう。」
無名の言葉を合図に三人は航空機に乗り込んだ。
原作では登場しなかった三人の援軍...これが物語にどんな変化を及ぼすのか誰もその答えは知らない。
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第十六話 Eへの介入/復活する死者
NEVERに新たな仲間が加わる場面まで
時間は遡る....
大道克己、大道マリア、泉 京水の三人は、
研究室の一室で一つの死体と対峙していた。
死体の名は
元連続強盗犯だったが捕まり死刑を宣告されていた。
だが脱走し逃げている最中、銃弾を浴びて死ぬこととなったのだ。
今彼女は、スポーツブラと布をかけられた状態で横たわっている。
そんな彼女を京水は嫉妬深い目線で見つめる。
「良い身体してるじゃない。
でも、私の方がおっぱいおっきいわ....。
私の方がおっぱいおっきいわ!....
何か気にくわないのよねぇ」
その京水の言葉を否定するようにマリアは言う。
「克己が欲しいと言うのなら与える。
それだけよ。」
それに克己も答える。
「あぁ、嬉しいぜお袋。
"コイツの目には生きたいっていう力があった。
こういう奴は強い。"」
その克己の言葉もあり京水が渋々納得すると、
マリアは彼女に再生酵素を注入する。
酵素が打ち込まれて暫くすると死体だった。
羽原 レイカは目覚めた。
「あんたら誰?ここは何処よ!」
「お前は一度"死んだ"。
覚えていないか?」
克己の言葉にレイカは思い出した。
逃げている最中、銃弾が身体を貫いたことを
しかし、レイカは自分の身体を確認するが傷一つ無かった。
「お前は不死身の兵士 NEVERになったんだ。」
「NEVER?」
「この再生酵素が貴女を生かしているの。
定期的に注射しなければ貴女直ぐ死体に逆戻りしてしまうわ。」
マリアの説明に自分の状態を正しく理解して呆然としていると克己が言う。
「それじゃあ、早速テストと行こう。
ついてこい。」
そう言うと克己と京水は部屋を出ていく。
レイカも置いていかれない様についていくのだった。
それから、NEVERの他のメンバーと会うといきなり戦場に連れてこられた。
戦場のど真ん中で克己はNEVERを鼓舞する。
「さぁ、踊るぞ!
死神のパーティタイムだ!」
それを合図に全員が敵に突撃していく。
敵の兵士は銃で武装しているがNEVERに意味はない。
芦原が敵をライフルで撃ち、撃ち漏らした敵を堂本の鋼鉄の棒で薙ぎ払う。
そして、克己は敵にナイフを持ったまま突撃し
それをサポートするように京水は鞭とプロレス技で敵を沈めていった。
完全に出遅れたレイカであるがそれを狙うように攻撃してくる兵士を蹴り飛ばしていく。
その身体能力の高さに自分も驚く。
「あたし、凄いじゃん。」
「飲み込みが早い、お前は"当たり"だ。」
克己はそうレイカを評するとドンドンと敵を潰していく。
全員潰し終わるのに時間はそこまでかからなかった。
そして、京水は皆を集めると薬の入ったインジェクターガンを渡してきた。
定期的に酵素を注射する必要があり、丁度その時間になったのだ。
酵素を注射すると京水が吠える。
「来たぁぁぁ♥️...非常に効きますね。」
「それにしてもあんたら随分と手慣れているのね。」
レイカの質問に芦原が答える。
「長いことNEVERで傭兵をやっているからな。」
「まぁ、今回の仕事も楽だったからな。
これでたんまり儲けられるぜ。」
堂本の言葉にレイカが答える。
「何だ、結局お金の為なんじゃん。」
その言葉に苛立ったのか京水がレイカのお尻を叩く。
「痛っ!何すんの!」
「素人はお黙り!アンタ何かに克己ちゃんの"思い"なんか分からないわっ!」
「最初っからそんなこと分かるわけ無いでしょ!
"変なおっさん"。」
「そう、変なおっさっ!?
変なおっさん!?言ったわね!アンタ、"レディ"に対して最大の侮辱をっ!」
「ムッキィィィィ!」
鼻から蒸気が出そうな程、怒る京水を見て堂本は爆笑し芦原は笑っているところを見られたくないのか顔を背けている。
「ちょっとアンタ達!何笑ってんのよ!」
そうして京水と堂本が喧嘩を始めるのを見ているレイカに克己が聞く。
「不思議そうな顔だな?
何でコイツらはこんな楽しそうにしてるのかって」
克己はナイフの手入れをしながら説明する。
「俺達を生かす酵素には弱点があってな。
人間的な感情を失わせ記憶がドンドン無くなっている副作用があったんだ。」
「え?」
その副作用にレイカは驚くが直ぐに訂正される。
「安心しろ。
もうとっくにそんな副作用は無くなった。
この再生酵素を打つ限りは記憶を失うことはない。」
「俺はこの酵素が出来たお陰で本当にやりたかったことを思い出した。
今はその為に金と力を溜めている...そんな所だ。」
そうやって笑う克己には悲壮感があったが、
それでも絶望している感じはしなかった。
そんな話をしている中、芦原が何かに気付き銃を構える。
「どうした?」
「あの建物に"誰か"いる。」
克己に端的に伝えると全員示し合わせた様に警戒しながら建物に入っていく。
中に入るとそこには白い服を着た少女が一人立っていた。
「貴様...何者だ?」
克己のその問いに答えること無く手を振りかざすと何かの力に押されるように全員の身体が吹き飛んだ。
「ぐっ!コイツやりやがったな。」
堂本が怒りながら棒を振り上げ近付くが、翳された手により身体の動きが止まり血を吐きながら吹き飛ばされた。
「堂本!」
芦原は少女に向かいライフルをフルオートで撃ち放つがその弾も手を翳す事で止められ寧ろこちらに弾かれた。
その弾をもろに浴びて芦原は地面に倒れ伏す。
近くの壁に隠れた克己、レイカ、京水だが、克己のハンドサインに従い京水は前に出て鞭で少女に牽制する。
しかし、その鞭も逆に奪われてしまいその鞭で京水はギチギチに縛り上げられる。
「あん!...気を付けて克己ちゃん。
こいつ強いわっ!特に...縛りがね。
嫌いじゃないわぁ~ん。」
少し、嬉しそうにしながら縛られている京水に変な目線を送る少女の背後に克己は近寄っていた。
ナイフによる攻防では流石の力も使えないらしくあっという間に組伏せられてしまった。
後は、止めを刺すだけなのだがここで克己の手が止まるそして少し考えるとナイフを閉まった。
「アンタ何してんの?」
レイカの質問に克己が、答える。
「コイツは戦いを望んでない。
そんな相手を殺す趣味はない。」
その克己の言葉に少女は驚く。
克己はその子に手を差し伸べながら聞く。
「お前、名前は?」
「....."ミーナ"。」
彼女の名を聞いた克己は不思議と嫌な気分がしなかった。
原作との違い
・記憶が残る為、NEVERの戦い方がワンマンプレイからチームでの戦いに変わった。
・それぞれが過去の記憶から元の性格を思い出している。
・克己は記憶を取り戻したことで別の野望が産まれた。
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第十七話 Eへの介入/超能力兵士
ビックリして飛び起きました。 笑
沢山、呼んでくださりありがとうございます。
by 作者
ミーナと打ち解けた克己は話しかける。
「こんなところでお前は何をしているんだ?」
「それは....」
ミーナが答えに戸惑っていると別の声が聞こえてくる。
「やっと見つけましたよミーナ。」
その声にミーナは警戒する。
すると、そこに同じような白い服を着た男女が現れた。
「貴様ら...何者だ?」
克己の問いに女性が答える。
「我らは"クオークス"、超能力兵士だ。」
「超能力?」
「そうこんな風になっ!」
男が口を開けるとそこから爆風が起き、克己は回避するが縛られたままだった京水はダメージを受ける。
「ブッ飛びぃぃぃい!」
その言葉通りに吹き飛ばされたのを見た克己は能力を理解する。
「成る程、"パイロキネシス"か。
お袋の研究資料で見たことあるぜ。」
「ふん、そう言うお前はNEVERか。
動く死体が俺らクオークスに敵うと思ってるのか?」
男が獰猛に笑いかける。
「やってみなきゃわかんねぇだろ?」
克己はナイフを片手に近寄ろうとするが女の超能力により阻まれてしまう。
「残念だがお前らゾンビ兵士とは格が違うのだよ。」
そして、そのまま男のパイロキネシスを喰らい燃やされてしまう。
だが、克己は"楽々"と立ち上がった。
「バカなっ!何故、この痛みに耐えられる。」
「もっとヤバい攻撃を喰らった事があるからな。」
克己は悠々と答える。
「ゾンビ兵士がぁ!」
そのまま、攻撃しようとした男をミーナが超能力で吹き飛ばし克己を連れて逃走した。
「お前っ!何を!」
「このままじゃ勝てない、今は逃げるの!」
ミーナの言葉に従いこの場を逃走するのだった。
二人に逃げられたクオークスの二人は追おうとするが、
通信が入り動きが止まる。
「はい、プロスペクト...ミーナが逃亡しました。
追撃は...いらない?何故?...あぁ、そう言うことですか分かりました。
"ヴィレッジ"に戻ります。」
そうして男の方が退こうとすると女が地面のアタッシュケースを見つめて止まる。
「何をしているシオン。」
「NEVERは確か酵素が無いと生きられないんだよな。
ならっこうしてしまえばっ!」
シオンと呼ばれた女性のクオークスがアタッシュケースを開くと中の酵素が入った瓶を一つ残らず割ってしまう。
「ははっ!最高だな!」
「行くぞロイド。
用は終わった。」
男性のクオークス、ロイドはそう呼ばれると共に戦場を後にするのだった。
そして、この戦いを隠れてみていたレイカは今の事態でどう動くべきか考えていた。
(あの、克己って奴がリーダーなら先ずはアイツを生かした方が良いのかしらね?)
これまで窃盗犯として生きてきたレイカは、誰につけば上手い汁が吸えるのか考える事を常に行ってきた。
だからこそ、強い奴が来たら隠れて敵の出方を見ていたのだ。
「まぁ、良いわ。
私は克己の方を追っかけよう。」
そう言うとミーナと共に消えた克己をレイカは追いかけるのだった。
そして、暫く立った後、ダメージが回復したのか京水、芦原、堂本が起き上がる。
「全く、酷い目に遭ったわ。」
京水は顔の汚れを取りながら答える。
「だが、どうする?
酵素はやられて克己も消えた。
早く次の行動を決めないと」
芦原の言葉に堂本も共感する。
「そうだぜ。
それにクオークスとか言ったか?
アイツらの事も何とかしねぇと」
案が纏まらなくなったのを察した京水は提案する。
「酵素が無いと克己ちゃんも私達も危険だわ。
状況が悪い今だからこそプロフェッサーマリアに報告して次の動きを決めるべきよ。」
その案に他が賛同すると京水は通信機を起動するのだった。
京水から連絡を受けた。
マリアは早速、救助用航空機の手配とクオークスについての調査を行った。
ミュージアムに降ったことにより無名経由でミュージアムのデータベースを使える彼女が調べると直ぐに答えが出てきた。
人間に備わる超常的な力、それを引き出す手術を受けて超能力に覚醒した兵士、クオークス。
形は違えど私の作り出したNEVERと同じく人間の業が産み出した悪魔の研究。
そして、それを指揮する男"ドクタープロスペクト"。
プロスペクトについて調べていくに連れて嫌な事実を知る。
「財団Xからの資金援助対象....厄介ね。」
財団Xが関わっているとなると下手するとスポンサーを敵に回す危険性がある。
そうなればミュージアムにいる坊やに不利益が起こってしまうだろう。
マリアはそう考えると坊やとの連絡を取ろうと電話を手にした。
ミュージアムの幹部である坊や、無名との出会いは最悪だった。
研究を進めて再生酵素は完成したが結局、克己の記憶を消されそうになり私とNEVERはミュージアムの傘下へと降ったのだ。(まぁ、最初に裏切ったのは私達だったけど)
しかし、共に研究をして行く上で無名自身は私達に好意的な印象を持っていると感じた。
NEVERへの装備や私の研究施設の設備に対する要望を全て、無名は快く叶えてくれた。
そして何よりも彼は私との約束を守り、このガイアメモリをちゃんと渡してくれた。
克己とNEVERのメンバーの記憶が入った大事なメモリ。
今ではお守り代わりに私が持っている。
だからこそ今回の件も何とかしてくれるだろうとマリアは思い彼に連絡をかけた。
彼に繋がり事情を説明すると彼の返答は予想通りのものだった。
「分かりました。
琉兵衛様に報告して何とか動いてみます。」
そして、電話を切るとマリアはNEVER達が打つ酵素の準備をし始めるのだった。
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第十八話 Eへの介入/赤き永遠
ミーナと共に逃げていた克己は自分達を運んできた輸送機に向かうが輸送機は完全に破壊されていた。
そして、そこに白い姿に赤い炎の様な紋様がついた仮面の戦士を見つける。
「これは、お前がやったのか?
ベルトについているそれはガイアメモリか?」
その問いに仮面の戦士は答える。
「どちらの答えもyesです。
このメモリはエターナル、何れ全てのガイアメモリを支配する存在....」
仮面の戦士はベルトのメモリを撫でながら答える。
「つまり、俺の敵というわけか。」
しかし、その結論に克己自身が否定を加える。
(いや、違う。
このメモリは俺の敵じゃない。
こいつは....俺の....俺の!)
このメモリを自分が求めている。そう感じた克己は
呆然としながら近づきメモリに触れようとする。
その動きを仮面の戦士は止めるがその瞬間、メモリが誤作動を起こしてしまう。
「エターナル..エタ...エタ エターナル...」
メモリの起動音が数度なると機能を停止し変身が解除される。
そして、メモリをベルトから抜くと確認する。
「不調だな....
やはり、"T1メモリ"だと出力が安定しないか。」
白い服を着た財団Xの男である加頭はそう判断すると、
ドライバーとメモリを変える。
「仕方がない。
私のメモリで君を潰すとしよう。」
「
メモリを起動し離すと勝手にドライバーへと装填され、
加頭はユートピアドーパントへと変身する。
「くっ!ミーナ隠れていろ。」
克己はミーナにそう言うとナイフを手にし加頭に向かっていく。
克己からのナイフの一撃を片手で受けると杖で反撃を行う。
しかし、克己はそれを受け止められたナイフで滑らせる様に受けて回避した。
その行動に加頭は驚く。
「ほぅ...ドーパントと随分戦い慣れているのですね?」
「お前のようなヤバい相手とは何度か戦わせて貰う機会があってな。
お前からもそいつらと同じヤバい匂いがした。」
NEVERは無名経由で何度かドーパントとの模擬戦を行う機会がありその相手の中で異常に強かった金色のメモリを持っている奴等とこの男が同じだと克己は気づいた。
「素晴らしい。貴方はミュージアムの関係者だったのですね。
しかし、残念だがだからと言って助けるわけにはいかないのですよ。」
そう言いながら手を翳すと克己は謎の力で引き寄せられ加頭に首を捕まれる。
「ぐっ!それもメモリの力かっ!」
「いいえ、スポンサーとなっている研究は自分の身体でも試していましてね。
これはクオークスの力です。」
首を絞められて苦しそうにしている克己を見ながら加頭は話す。
「やはり、ユートピアメモリの力は"発揮"されませんか。
死人には"生きる希望"は生まれない。
良い結果を知れました。」
そう言うと克己を地面に叩き伏せた。
「NEVERである貴方は良いサンドバックになりそうだ。
ミーナと共に連れていってあげますよ。」
「"ヴィレッジ"までね。」
ヴィレッジと言う言葉を聞いた克己はそのまま意識を失うのだった。
克己がやられたことでミーナも大人しくなり財団の用意した飛行機に乗せられる。
そんな姿を見ていたレイカはどうするか考えていた。
あのドーパントとか呼ばれる怪物に自分が勝てるとは思えない。
だからと言ってこのまま克己を追っても自分が助かる保証は無い。
(でも酵素が無いとどっち道、死ぬんだっけ?)
元々、死んでいるのに死ぬと言う表現を使うのも可笑しいがまぁ、そこはどうでも良い。
レイカは窃盗犯として生きていた頃から身に付いた事が1つある。
それはどんな人間も必ず裏切ると言うことだ。
NEVERとか言われているコイツらも人間である以上、そこは変わらない。
そもそも、いきなり戦場に連れてこられて私は戦わされたんだ。
私が奴等を見限っても問題は無い筈だが、
レイカは克己の言っていた言葉が気になっていた。
(克己のやりたい事...それを聞いてからでも遅くはないか)
彼女はそう思うと克己が連れていかれた輸送機に潜入することに決めた。
Another side
路地裏を逃げる一人の男、そしてそれを追いかける三人の男達。
彼等の服装から堅気の人間ではない事が分かる。
逃げ場が無くなり男はそいつらに言う。
「テメェら...嵌めやがったな。」
「仁義はどうしたんだよ...仁義はどうしたんだよ!
あぁ!」
凄みを含んだ言葉で問いかけるが追いかけていた男の一人がドスを取り出し言う。
「この渡世に...そんなもん30年前からあるか」
そう言うと男はドスを真っ直ぐ腹へと突き立てる。
その一撃を受け出血しながら刺した男を睨み付けていると更に奥深くにドスが刺さり声が漏れる。
「アァン...あん。」
すると、後ろから現れた"イケメン"がドスを持った男をぶん殴り私を抱えてくれた。
「誰?...このイケメン。」
その問いに答えること無く私に彼は言ってくれた。
「こんな連中、忘れちまえ。」
「お前は"俺の物"だ。」
あの言葉に私の心は奪われた。
死ぬギリギリの時にイケメンからそんな言葉を貰い私の心臓はかつて無い程に高鳴る。
そして、そのイケメンは私を刺した男達に向かっていく。
「素敵っ....あぁ、」
遠退く意識の中で私は思った。
「貴方に..."刺された"かった。」
そして、私は命を終えた...あの時の克己ちゃんの姿と言ったらもう本当に
「す...て...きぃい!っヤバい!」
ここで、私は意識を取り戻した。
「私、人生振り返っちゃってるぅ!」
京水と芦原、堂本はマリアへの連絡が終わると輸送機へ向かったのだがそこには破壊された残骸しかなかった。
だから、救援が来るまで緊急用の酵素を打って休んでいたのだが酵素が足りなくなってきたのだろう。
一瞬、"死にかけて"しまったのだ。
「走馬灯だわこれ走馬灯!
これは酵素切れで死んでしまうんだわでも死んでいるのに死ぬってどゆこと?
デスとデスが重なってるの?デスがデス。
死んでしまうんでーす!」
「あーっもううるさい!
京水!頼むから黙っててくれよもう。」
休んでいた堂本は京水の騒音に怒るが起き上がる程の力は残っていない。
三人とも酵素が少なくなり何時、切れてもおかしくないからだ。
その言葉に京水は黙るが沈黙も不安になるのだろう。
堂本は芦原に話を振る。
「芦原っお前は何か話してくれ頼むからっ!」
芦原がそれに答えるように腕時計を見ながら話し始める。
「まだ、酵素が完全に切れるまで数十分は残ってる。
マリアへの連絡で援軍が来ると言っていた。
ここで俺らが喚いた所で現実は変わらない。」
「相変わらず、クールね貴方。
確か生きていた頃はSWATに入っていたんだっけ?」
「あぁ、仲間に裏切られて死んだんだがな。」
その芦原の答えに堂本が訪ねる。
「お前には家族がいたんだろ?
心配じゃないのか?」
芦原 賢はNEVERの中で唯一の"既婚者"で"家族"がいる。
とは言え生前ではあるが
「心配じゃないと言えば嘘になるが、
俺は死人だ...生きている者に会う資格はもう無い。
それに無名が俺の"家族の生活"を"保証"してくれているから問題ない。」
「確か、あんたの"知識"と交換に家族の生活を保証するんだっけ?」
「あぁ、生前の知識が役立って本当に良かった。」
少ししんみりとした空気になったのを感じたのか京水は立ち上がる。
「こんなんじゃダメよ。
勃たなくっちゃ! 勃たなっくちゃ! ビンビンに勃たなくっちゃっ!! 克己ちゃんと一緒にいるあの素人女じゃ不安よ! 全然期待出来ないわっ!!」
そんな言葉が届いたのか誰かがこっちに歩いてくるのが見えた。
酵素切れによる幻覚なのかと思ったが長い髪をしているのを見て京水は克己が助けに来たのだと思う。
「克己ちゃん!やっぱり生きていたのね。
と言うか来てくれたのね克己ちゃゃゃゃん!」
走り出す私の顔にその男の"右腕"がめり込んだ。
「あっごぉぉぉぉ!」
砂浜に頭から突き刺さる。
「何だテメェは?気安く近付いてくんじゃねーよ。」
そう言うと男は三人を見ると手に持っていた瓶とインジェクターガンを放り投げる。
「プロフェッサーから頼まれた酵素だ。
さっさと、打って敵の事について教えろ。」
暴虐な言い方だが、酵素自体は助かるので三人とも受け取ると酵素を注射する。
「あー、生き返ったわぁ!」
京水が酵素を撃ち込み一気に元気になる。
それを確認すると男は急かす様に訪ねる。
「終わったか?
それで敵の事について教えて貰おう。」
彼等から敵の情報について聞くが思った情報を得られなかったのか聞き終わった男は舌打ちをする。
「ちっ!使えねぇ死体どもだ。
もういい、お前達はハズレみたいだな。」
「ハズレ?どう言うこと?」
「敵についてこっちはもう情報を得てる。
居場所についてもな。
だからこそ他の有益な情報を期待してたんだが...」
「克己ちゃん達の居場所が分かってるのね。
なら、私達も連れていってくれないかしら?」
「あ?俺に指図する気か?」
「別に....ただ、その指示を出したのはもっと上の立場の人なんでしょ?
なら、私達を連れて帰ることも視野に入れているんじゃなくって?
なら、一緒に行った方が効率的でしょ。
私達はNEVERちょっとやそっとじゃ死にはしないわ。」
生前、京水は組の交渉役をになっていた。
腕っぷしも強く弁も立つそんな男だったのだ。
「ちっ!好きにしろ。」
「ありがとう。
じゃあ、貴方の名前を教えてくれるかしら?」
「獅子神だ。
そして俺はミュージアムの幹部だ。
あまり馴れ馴れしくすると殺すぞ。」
「そう、宜しくね獅子神様。」
そうして交渉をアッサリと成功させてしまう手腕を見て仲間ながら尊敬の念を送る他の二人。
彼がいなければNEVERの交渉ごとが上手くいくとは思えないやはり大事な仲間だと再認識した。
「さて、その前に獅子神様。
貴方に言いたいことがあるの。」
「まだ何かあるのか?」
その獅子神の問いに京水は答える。
「貴方の非情な言動とその拳.....
嫌いじゃないわぁぁぁ!」
そうして獅子神に抱きつこうとする。
「テメェ!何しやがる、」
「あらっ!その初な反応可愛いわぁ。
私が愛してあ...げ..るぶへぇ!」
獅子神の拳が京水の顔に突き刺さるが痛がる処か寧ろ喜んでいた。
「やっぱり嫌いじゃないわぁ!」
「本当に来るなこのクソヤロウがっ!」
((本当にその男好きが無ければ尊敬できるんだがな。))
堂本と芦原はその光景を見て京水への評価が下がるのだった。
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第十九話 Eへの介入/ヴィレッジ
加頭により捕えられた克己は気が付くと汚い廃村の地面に横たわっていた。
そんな克己を見下ろす男がいた。
「気が付いたかね?」
「....貴様は何者だ。」
克己はその問いに不快そうに答える
「ゾンビ風情が一端に吠えるじゃないか。
まぁ良い私の名は"ドクタープロスペクト"。
このヴィレッジを管理する"究極の監視者"だよ。」
「ふん!貴様こそ人間の分際で吠えるじゃないか。」
「生意気な事を言うね。
実験体のサンドバックとして考えていたが少し気が変わったよ。」
そう言うとプロスペクトは懐からメモリを取り出し起動する。
「
喉仏にコネクターが現れて刺すと、
アイズドーパントへと変貌した。
「貴様もドーパントなのか?」
「その通り、そしてこのヴィレッジの監視者としてこのメモリは一番ふさわしい。」
アイズドーパントが克己に攻撃を仕掛ける。
克己は回避するとそのまま、反撃を行うが簡単に回避されてしまう。
諦めず攻撃を続けるが全て回避され逆に反撃を受けてしまった。
「無駄だ。
ここには"私の目"が複数あってね。
その目に映る者の行動は全て分かってしまうのだよ。」
そう言うとアイズドーパントは克己のがら空きの腹に一撃加えて吹き飛ばす。
「グフッ!」
「克己!」
吹き飛ばされた克己を心配しミーナは叫ぶ。
「これでトドメだ。」
アイズドーパントは浮遊する眼を近くに呼び寄せるがそこで、思わぬ乱入者が現れる。バイクに乗った羽原レイカが二人の間に割り込んだのだ。
「お前っ...」
「助けが必要でしょ?」
そう言って乗るように促す。
「やはり、お前は"当たり"だ。」
そう言うとバイクに乗り込みその場を後にした。
追おうとするロイドをプロスペクトが止める。
「構わん。
良いことを思い付いた。
彼等には狩られる楽しみを味わって貰おう。」
そう言うとプロスペクトはメモリを抜くと懐から目薬を取り出し点眼するのだった。
逃げ延びたレイカと克己は遠くにある寂れた廃村に姿を現していた。
そこにいる住人は二人を見ると怯えながら家へと隠れていった。
昔の光景を思い出したのかレイカは苛立つ。
「コイツら何なの顔色伺ってムカつく。」
「ここはヴィレッジと言うらしい。
プロスペクトと言う奴の話ではクオークスを作っている実験場だそうだ。」
プロスペクトの名前が聞こえたのか隠れていた一人の老人が克己達に声をかける。
「お前ら、ドクタープロスペクトの仲間なのか?」
「いんや、俺達はミーナの仲間だ。」
ミーナの名前を聞くと隠れていた人達が続々と出てくる。
「彼女は無事なのか?」
その老人の問いに克己は答える。
「さぁな、今このヴィレッジにいる。
聞かせろミーナとお前らとの関係について」
ここで老人はこのヴィレッジについて話してくれた。
「超能力に覚醒させる手術をして失敗したらここに"捨てられる"...胸糞悪い話だね。」
レイカはそう吐き捨てた。
このヴィレッジには能力に覚醒した者と半端な覚醒した者が分けられておりこの廃村に住んでいるのは半端な能力しか目覚めなかった者らしい。
ミーナは元々この村の出身だったが全ての超能力を備えた個体だった為、プロスペクトに気に入られ村から強制的に引き離されたと言うのだ。
自分と同じ実験体だった過去を知りレイカと克己はミーナに同情する感情が湧く。
「てか、あんたらそれを黙ってみてたの?」
「ワシらだってそんな事はしたくなかった。
だが、ドクタープロスペクトは何時でもワシらを殺すことが出来るのじゃよ。」
「それってどういう...」
レイカがそう言いかけた時、村人が額を抑えだす。
そして、顔をあげるとそこには目のような模様が現れる。
その模様に村人は急に怖がりだす。
すると、空から声が聞こえてくる。
「諸君、ドクタープロスペクトだ。
今回は諸君らにちょっとしたゲームを用意した。
今、このヴィレッジに無粋な侵入者がいる。
NEVERと呼ばれるゾンビ兵士共だ。
ソイツ等を倒した者はこのヴィレッジの外へ出してやろう。
さぁ、狩りの始まりだ。」
自らの屋敷にあるマイクでの宣言を終えたプロスペクトはソファに腰かけた。
「宜しいのですか?
そんな約束をして」
加頭の言葉にプロスペクトは笑って答える。
「ははは、元々廃棄する筈だった者達です。
殺されたところで問題はありません。
......それに」
「それに?」
「どうせ、選別が行われれば不要な存在は皆、死にます。」
プロスペクトが言う選別とはヴィレッジにおいてある電磁パルスでこれを使うことで弱い能力しかないクオークスを一斉に処分していた。
この装置を使えば例えNEVERでも一溜まりも無いだろう。
そんな考えが読まれたのか加頭が声の抑揚をつけずに告げる。
「私、恐いです....とても」
だが、そこで発せられた笑顔は恐怖から来るものではないと誰から見ても明らかだった。
そして、この会話を超能力を使い聞いていたミーナは捕まっている部屋を飛び出した。
ミーナはプロスペクトのお気に入りだ。
連れて帰ってきても縛り付ける様なことはしない。
そんな必要はないと分かっているのだろう。
ヴィレッジにはアイズメモリで生成された目が常に徘徊している。
プロスペクトの目から逃れる術は無いのだ。
そんな事はミーナも分かっている。
だが、それでも克己を放っておくことは出来なかった。
彼に触れた時、超能力で見た彼の過去。
私と同じように実験体として過ごしていた日々、
だが、その中でも彼は心を失っていなかった。
その理由は分からないが彼ならきっと私達、クオークスを変えてくれるそう思えたのだ。
私は克己を能力を使い見つけ出すと、その場所まで走った。
背後から何者かが追っていることに気づかずに....
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第二十話 Eへの介入/絶体絶命
克己達は、襲ってくるヴィレッジの超能力者から逃げ続けていた。
「コイツら!何であんなヤツの言うこと聞いてるのよ。」
レイカが襲ってくる奴等を蹴って遠ざけながら叫ぶ。
「コイツらにとってプロスペクトと言う男はそれだけ恐ろしい存在なんだろう。
見ろ!コイツらの目には恐怖しか写ってない。」
克己も襲ってくる奴等を撃退しながらレイカに伝える。
いくら、襲ってくる奴等が超能力者でも廃村に住んでいる奴等は能力が弱くNEVERである自分等ならば充分に相手をすることができた。
だが、ここで二人の体に変化か起きる。
身体が重くなり細胞に違和感が出てきた。
「!?これって」
「酵素切れか...いよいよまずくなってきたな。」
二人に不調があったのがバレたのか超能力者達は一斉に攻めようとする。
しかし、それを追い付いたミーナが止めた。
「止めて皆!」
ミーナの姿を見た面々は皆、攻撃を止める。
「退くんだミーナ。コイツらを始末すればヴィレッジから出られるんだ。」
「そんなこと嘘よ。
プロスペクトは私達もヴィレッジから出すつもりなんて無い!
言っていたわもうすぐ"選別"を行うって...」
選別と言う言葉を聞いた者達は皆怯え出す。
どうやら、もう戦い処では無いようだ。
「ミーナ、その選別とは何だ?」
克己の問いにヴィレッジで行われていることや選別についての詳しい話がされるのだった。
「電磁パルスによって能力が弱い者を殺して選別するって....イカれてるわ。」
レイカの侮蔑を込めた言葉に克己も答える。
「俺達、NEVERでも電磁パルスを食らえば一たまりもないだろうな。
だが、効率的だ....家畜の選別としてはな。」
家畜と言う言葉にヴィレッジの超能力者が反応する。
「お前らみたいな傭兵に俺達の気持ちなんて分からない!」
その意見にレイカが反論する。
「戦おうともしないあんたらにうちらの事、批判されたくないんだけど」
「おっ、お前達はドクタープロスペクトの恐ろしさを知らないんだ。」「そっ、そもそもお前達が来なければこんなことに...」「俺は...死にたくない」
選別か行われる事実に皆がパニックになり始める。
「皆、落ち着いて!」
ミーナの声も届いていない。
その喧騒にレイカも巻き込まれ一触即発の危機に陥る中、何かの音が聞こえた。
音の方に顔を向けると克己がハーモニカを吹いていた。
その曲は不思議と落ち着き安らぎを与える音楽となっていった。
吹き終わると克己が話し出す。
「どうだ?良い曲だろ?
これはお袋が昔眠れない俺の為に用意してくれたオルゴールの曲だ。
名前は知らないがこれを聞くと落ち着くからお前らにも聞かせてやったわけだ。」
「俺はNEVERと呼ばれる化学の実験で生まれた化け物だ。
そこにどんな意図があったにしても俺が化け物である事実に代わりはない。
酵素が無ければ死人に戻り記憶を覚えておくためにもこの酵素が無いと何も出来ない。」
「死人である俺達は"過去"すら自分の物じゃないんだよ。」
新たに開発された再生酵素により記憶の保持と再生が可能になったが、それでもそれが無ければ記憶すら出来ず死体に戻ってしまう無力な存在なのだと
克己は誰よりも理解していた。
「だが、それでも俺は生きることを選んだ!
例え過去が自分の物じゃなくても未来....明日だけは自分の手で決めて手に入れることが出来る。」
「記憶が戻って俺には夢....いや野望が出来た。」
「俺達の様な実験体や化け物が明日を選び生きていける世界を作る!
俺はその為に足掻き続けるってな。」
「なぁ、死人である俺の方が明日と未来を求め続けているってのは一体、どういう了見なんだ?」
さっきまでの喧騒が嘘のように皆、静かになっている。
「おい、ミーナ。
プロスペクトってヤツを殺せばその計画は止まるのか?」
「え?....多分、プロスペクトがこのヴィレッジの全てを管理しているから」
「なら、決まりだな。
どうせ、このまま待ってても死ぬだけだ。
だったら、こっちから会いに行ってやるよ。」
克己がそう言い進もうとするとレイカが止める。
「待ちなよ克己....あんた勝算あるの?」
「そんな事を聞いてどうする?」
「別に....ねぇ、あんたの野望だけどそれには私達も入っているの?」
「当たり前だろう。
俺は誰一人見捨てるつもりはない。」
「....そっか。」
そう言うとレイカが懐から一本の注射器を取り出す。
それは緊急用に渡された携帯酵素だ。
そして、それを克己へと渡した。
「良いのか?」
その問いにレイカは笑って答える。
「私もアイツ気に食わなかったの。
私の分までぶっ飛ばして」
克己は自分とレイカの携帯酵素を手に取ると体に突き刺した。
そして、目を開けると覚悟を決めるのだった。
「ゾンビにしては優しい光景だなぁ。」
遠くから聞こえた声に振り返るとレイカが見えない力で遠くへ飛ばされる。
「レイカ!」
克己が追おうとすると付近の地面が爆発する。
そして、現れたのはロイドとシオンの二人だった。
彼等の横でレイカは捕まっている。
「道案内ありがとう。
貴方のお陰で簡単に見つけられたわ。」
自分がつけられていた事にミーナはショックを受けているがロイドは気にせず良い放つ。
「お前らとのゲームをもっと面白くしてやる。
プロスペクトからの粋な計らいだ。
この女を返してほしければ"西の研究所"に来い!
タイムリミットは1時間だそれ以上、時間かければこの女の命は無い...まぁ、もう死んでるけどな。」
そう言い終わると二人とレイカは超能力で空を飛びその場を後にするのだった。
「ぐっ!クソッ。」
そう言ってレイカを助けようとする克己をミーナが止める。
「待って克己!これは罠よ。
それに西の研究所には何もない。
電磁パルスの制御装置もプロスペクト本人も東の研究所よ。」
「どちらかを俺に見捨てさせるのが狙いか。」
プロスペクトの狙いが分かり顔を歪ませる克己に、先程、話していた老人が声をかける。
「君は、ドクタープロスペクトを殺せるのか?」
「おじさん、こんな時に...」
ミーナが静止しようとするが老人は止めない。
「頼む。答えてくれ!」
克己は深呼吸をし心を落ち着けると答える。
「.....俺は約束を破るつもりはない。
例え、死んだってプロスペクトを殺すさ。」
その言葉の熱意に老人は満足したのか答える。
「そうか....良し。
西の研究所に囚われたお主の仲間はワシらに任せてくれ。
必ず助け出してせる。」
「本当か?」
「あぁ、その代わりにプロスペクトを殺してワシらをヴィレッジから解放してくれ!」
「あぁ、わかった。」
そして、東の研究所には克己、
西の研究所にはミーナとヴィレッジの仲間がそれぞれ向かうのであった。
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第二十一話 Eへの介入/其々の戦い
意識を失っていたレイカが目を覚ますと両腕が鎖で繋がれて吊るされていた。
NEVERのジャケットと武器が奪われていた。
目の前にいる科学者が話しかける。
「ん?目が覚めたかゾンビ兵士。
全く、ドクタープロスペクトに逆らうとは愚かなことをお前もあの人に見初められればこんな結末を迎えずに済んだのにな。」
そう言いながらレイカの肌を触る。
その行動に不快感を表し蹴りを浴びせるが吊るされているため力が出なかった。
「きっ、貴様っ!ゾンビの癖に!」
そう言うと持っていた帯電バトンを彼女に押し付けた。
「グッ!....うっ」
悲鳴を出さないようにレイカが耐えるのを科学者は下卑た笑顔で見つめるのだった。
そんな事を知らず獅子神と合流したNEVERのメンバーは輸送機でヴィレッジのある島へと向かっていた。
輸送機の中で無名、獅子神、サラが会議をしている。
「なら、奴等がいる可能性が高いのはこの東と西の研究所のどちらかってことか?」
「えぇ、恐らくは」
マリアから提供された孤島の地図とミュージアム経由で手に入れた衛星写真を見つつ答える。
「なら、俺は西の研究所に行く....文句はねぇな。」
「えぇ、構いませんよ。
なら、NEVERの方々も連れて行ってください。」
「ふん!」
そう言うと獅子神はNEVERの元に向かい情報を共有するため二人の元を離れた。
そのタイミングでサラが話しかける。
「ねぇ、無名くん何を企んでいるの?」
「どういう意味でしょうか?」
「この衛星写真には機材やターゲットの顔が"西の研究所の方ばかり"写っているように見える。
ちょっと露骨すぎない?」
「....やはり、貴方にはバレましたかサラ。」
「伊達に、人付き合いしてないからね。
それで目的は?」
「恐らく、彼処でプロスペクトの研究成果であるクオークスとNEVERのメンバーが激突する可能性が高い。
だが、そこにはプロスペクトはいないでしょう。」
「彼は用心深い人物です。出来るだけ効率良く自分が手を汚さずに行動したいタイプに見えましたので、
彼の企みを砕くためにも僕が相手をしたいんですよ。」
「ふーん、でもそこまで話してくれて良かったの?
獅子神くん程ではないにしろ私にも功名心はある。
貴方を出し抜こうとするかもしれませんよ。」
「えぇ、ですから取引しませんか?
貴方の欲しい物を教えて下さい。
それを差し上げます。
その代わり貴方には西の研究所に行って欲しいんです。」
「大きく出たわね。
私の欲しいものを貴方が渡せるの?」
「正確にはプロフェッサーの私財からですか。」
そう言ってサラにスマホの画面を見せる。
「これは、彼の持つ財産の全てです。
この中で欲しい物を差し上げます。」
「成る程、悪くない提案ね。
そのファイルを見てから決めても宜しくて?」
そう言ってスマホの指差す。
「それは協力してくださると解釈しても?」
無名の言葉にサラは笑いながら答える。
「私は貴方を助けた借りがあるのよ、忘れたのかしら?
....まぁ、でもそれ込みで返してもらうわ。」
サラはそう言うと椅子に座り到着するまで眠りについた。
サラからの合意も得たことで無名は頭の中でこの後の動きを確認する。
簡単そうに見えるが一つでもタイミングを間違えたらアウトだ。
僕の求める結末を手に入れるため失敗は許されない。
僕はデーモンメモリとドライバーを見つめる。
今回の鍵はこの"二つ"だ。
(さぁ、
そう覚悟を決めると到着するまで時を過ごすのだった。
その頃、克己は東の研究所にある屋敷に着いていた。
レイカの事は心配だが彼等に任せたのだ...信頼しよう。
そう考えるとナイフを持って屋敷に突撃した。
そこにはドクタープロスペクトとこの前、
「ほぅ、仲間を見捨ててここに来たか。」
その言葉を無視して克己は話す。
「ここにあるんだろ?電磁パルスを放つ装置が....
これを壊せば奴等はお前の手から自由になるわけだ。」
「死人如きが私の箱庭を壊すだと?
良いだろうそんなに死にたいのなら二度目の死を与えてやる。」
「Eyes」
メモリを刺すとプロスペクトはアイズドーパントへと変身する。
そして、その強靭な爪で腹を突き刺す。
「ぐぁっ!....残念だがこれでは死ねないなぁ。」
克己は腹に爪が刺さったままナイフを振り下ろすがアイズドーパントの身体を傷つけることは出来ない。
「無駄だ、この身体をそんなちんけなナイフで傷つけることなど...」
そうして刺さった腕ごと克己を吹き飛ばした。
血が部屋を舞う。
地面に倒れ伏す克己を見下ろすプロスペクトと加頭だったが外から聞こえた爆発音が事態を変える。
「何の音だ?」
そう言ってプロスペクトが外を確認すると電磁パルスを照射する為に空中に作られたリング状の装置が燃えながら地面へと落下していった。
「どうなっている?
敵はゾンビ共だけじゃ無かったのか?」
プロスペクトは焦りながらも状況を確認するため外に向かおうとする。
だが、今、倒れている敵の事も忘れない。
「加頭殿、すみませんがこのゾンビの処理をお任せしても?」
「仕方ありませんね。
クライアントへのサービスです。」
加頭はドライバーを付けるとメモリを起動する。
「Utopia」
そして、ユートピアドーパントになると倒れている克己の首を捕まえて持ち上げる。
それを見るとプロスペクトは外へ向かうのだった。
加頭は苦しむ克己を見ながら言う。
「良いことを教えてあげましょう。
貴方が見たガイアメモリは今、風都で生産し実験されています。」
「俺の...故郷を...ガイアメモリの実験都市に?」
「どうせ死ぬんです。
少しぐらい真実を知って死んだ方が自分への無力感が強くなりますからね。」
そう言うと克己の身体を発火させ燃やす。
炎の中、苦しみながらも克己は答える。
「バカ言うな....これ以上、死ねるか。
俺は...生き続ける。
この世界に...俺達が生きていける場所を作るまで...
"永遠"に....」
すると、机に置かれていたアタッシュケースからいきなり光が漏れ始めた。
そこに気を取られた加頭に克己は反撃し手を離れると、そのアタッシュケースの中を開けた。
中には、白いメモリが1つとドライバーが入っている。
メモリを手に取り見つめる。
「永遠....エターナルっ!」
克己はこのメモリが自分の物だと直感した。
「バカなっ!壊れていた筈だ!」
その光景に加頭は動揺する。
克己はドライバーを着けるとメモリを起動した。
「
「変身」
克己はメモリをドライバーに装填すると勢い良く倒した。
克己の肉体に永遠の記憶が送り込まれ赤い炎を手に着けた白い仮面ライダーへと姿を変える。
その直後、メモリが反応し腕の炎が青色に変わると、
胸に黒いコンバットベルトとマントが出現した。
風都を地獄へ落とした蒼炎の死神が誕生した。
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第二十二話 Eへの介入/怪物の行進
西の研究所で研究していた研究員の一人は意気揚々としていた。
これまでクオークスの出来損ないでしか実験を出来なかったが今回は死体...しかもプロスペクトから好きにして良いと言うお墨付きも得ている。
研究員はその女を吊るしてある部屋へと入った。
グッタリと疲れた表情をしているが恐らく、酵素が無くなってきたからだろう。
「おやおや?さっきまでの威勢はどうした?」
そう言いながら身体を指で撫でる。
身体が冷たいその感触が彼女が死体であると教えてくれている。
喋る気力は無さそうだが睨むだけの力は残っているようで私を睨み付ける。
(あぁ、これだよこれ。
反抗心のある実験体を痛め付ける時程、楽しいことはない。)
そう考えて興奮しながら睨む彼女を見続けるのだった。
西の研究所にはロイド、シオンを含めたクオークス部隊が研究所を囲むように配置されていた。
普通ならばここを突破することは難しいだろう。
だが、ここにいるのはガイアメモリユーザーとNEVERだ。
正面から堂々と獅子神、京水、堂本が現れるとクオークスと対峙し始める。
正面でそんな戦いが起これば背後が疎かになるものだ。
研究所の背後にある緊急用のドアの警備が少なくなるのを待つと芦原が見張りをしていた者をムエタイの技で地面に沈めた。
「わぁ、スゴいわね貴方。」
サラがその芦原の手腕を誉める。
「見張りは制圧しました。
獅子神様が戦っているお陰で敵は我々の事は気付いていないでしょう。」
「潜入するなら今です。」
その芦原の意見をサラは採用する。
芦原の元SWATとしての知識を活かして内部に侵入していく。
音を出さない様に見張りの者や研究員を格闘で倒していく。
そうして進んでいくと何かが"感電"しているような音が聞こえた。
芦原がそこに向かうとレイカが研究員から拷問を受けていた。
芦原は研究員の持つ帯電バトンを腕ごと止めると組伏せながら腕を折った。
バギッ!「あがぁぁぁぁ!」
小気味良い音と共に腕が曲がってはいけない方向へ曲がる。
グッタリとしているレイカを見る限り、酵素が切れそうなのが分かる。
「サラ様、酵素を!」
芦原の言葉にサラは笑顔で酵素の入ったインジェクターをレイカに注入する。
ギリギリだったのだろう。
打たれて暫く経つと目を覚ます。
「あ....たし..は?」
「おはようレイカちゃん。
ギリギリだったけど間に合って良かった。」
「私はサラ、無名くんの仲間....貴女を助けに来たのよ。」
自分よりも幼い少女が助けに来たと言うことに違和感があるが、それよりも分からないことがあった。
「無名って....誰よ?
克己の仲間?」
「あれ?もしかして知らないの?」
サラの問いに芦原が答える。
「彼女は新入りでまだ無名様とは会ったことが無いんです。」
「あー、そうだったのね納得。
......さてと」
そう言うと芦原に指示を出して研究者を解放する。
折られた腕を押さえながら呻いている彼にサラは尋ねる。
「ここには何の設備があるのかしら?」
「おっ...お前ら一体何者だ?
こんなことをして只で済むと...」
「"もう1度だけ"聞くわね。
ここは何の設備があるの?」
これのトーンが1つ落ちた声で尋ねるが当の研究者はそんな事お構い無しだった。
「貴様らっ!私はドクタープロスペクトお気に入りなんだぞ!
こんなことが許されると...」
「はぁ...もう良いわ。」
サラはドライバーを腰に付けるとメモリを起動する。
「Gorgon」
メモリを挿入するとゴーゴンドーパントへ変身する。
サラの瞳が怪しく光ると研究者の腕が"石化"してしまう。
「うわぁぁぁ!」
自分の腕が石になり恐怖の顔に染まる。
「まだまだ、怖いのはこれからよ。」
そう言うとサラが石化した腕を思いっきり握り潰した。
「あがぁぁぁあ!」
研究者はあまりの痛みから身体が痙攣する。
「私のメモリは視界に入った相手を石化させる能力があるの。
しかも、ただ石になる訳じゃない。
身体の性質を残したまま、石に変える。
触覚や痛覚を残したままね。」
「ねぇ、"腕がバラバラに砕ける痛み"はどう?」
サラから種明かしを受けて研究者は顔をしかめる。
彼女の言っていることが本当ならそんな痛みにこれ以上、耐えられないと思ったからだ。
「なっ....何が知りたいんだ?」
「ここにある設備は貴方達の造り出した
「そっ....そうだ。
クオークスを作るのに使った、超常能力を増幅する細胞を処置するのに使う機材と薬剤がこの研究所には置かれている。」
「じゃあ、財団Xの人はここに来る?」
「だっ...誰の事だ?」
「知らないなら良いわ。
じゃあ、最後の質問。」
「この西の研究所に"貴方より"優秀な研究者はいる?」
「そ...."そんな者"はいない。
私はここの研究所を任されている。
ここの装置や実験についても私が一番知っている。」
「何だ良かった!」
サラの笑顔を見て研究者は自分が助かるのだと悟った。
(恐らく、このクオークスの知識を得るためにコイツらは襲ってきたんだ。
なら、その研究を一番している私は生き残れる。
やはり、私は優秀な....)
「それなら、"皆殺し"にしても問題ないわね。」
「....え?」
「私の仲間にはね
彼より優秀なら生かしても良いかと思ったけどその程度の人材なら要らないわ。」
「わっ...私は誰よりも優秀で....」
「NEVERという新たな知識の検体を得ながら、
自分の欲求のために傷つけるしか能が無い。
そんな"使えない屑"はミュージアムには要らない。」
すると、研究者の額から真っ直ぐ線を引いた。
「線を引いた部分を石化させたわ。
これから真っ二つに裂いて貴方を殺すけど、
多分、死ぬ程痛いから頑張ってね!」
「やっ、止め....あがぁぁぁぁ!」
そうしてサラにより真っ二つに引き裂かれて研究者は地獄を味わいながら死を迎えるのだった。
レイカを助け出した芦原とサラは研究所を出て外に向かった。
外は地獄絵図と言う言葉が相応しい惨状だった。
人が潰されトマトのように赤い塊となっており、
ロイドだった存在は身体が炭化しもう生きてはいなかった。
横ではシオンが絶望した顔でその光景を見ている。
「何故....我々....クオークスは最強な筈...」
しかし、現実は怪物によりクオークスは蹂躙され凄惨な光景を広げているだけだった。
背後には蛇を頭に着けた怪物もいる。
シオンは少しでも生き残る可能性を増やすため戦いを見た獅子神よりもサラに攻撃を加え逃亡するため向かっていった。
シオンの"サイコキネシス"がサラに当たるがダメージなど与えられる訳もない。
サラの瞳が光り、シオンの両足が石化する。
足が動かなくなり地面に倒れたシオンの足を砕く。
「あぁぁぁ、痛い!痛い!」
大粒の涙を流しながら足を抑える。
「攻撃してくるのが悪いのに何を考えているのかしら貴女は?」
「たっ...助けて、助けてください!」
全身で懇願する命乞いにサラは答える。
「死にたくない?」
「はい、死にたくないです。」
「"私もそうだよ"。」
「え?」
「私も死にたくない、苦しみたくない。
だから、絶対に決めたルールがあるの。
"敵対した相手には容赦はしないし、慈悲もかけない"って
貴女は私を攻撃したその段階でもう殺すことは確定してるのよ。」
「いっ、嫌」
ドスン!サラの足が石化したシオンの頭を砕いた。
それを合図に戦いが終わった。
芦原とレイカは他のメンバーと合流し交流を深めていた。
その光景を見ていたサラが獅子神に言う。
「中々、良い光景だね!
こんなに仲良い光景が見れるなら頑張った甲斐があったよ。」
「下らん。
大事なのは結果だ。
西の研究所は制圧できた...後はプロスペクトを始末するだけだ。」
「そうだね。
東の研究所にいるのかな?
だとしたら無名くんに先を越されるかもね。」
「そんな事は分かっている!
おい、お前ら!早く東の研究所に行くぞ!」
そう言って獅子神が先陣をきって東の研究所へ向かった。
それにNEVERのメンバーとサラはついていく。
(さてと、ここからどんなことをしてくれるのかな無名くん?)
彼の目的を考えながら東の研究所へと向かうのだった。
因みに助けに行ったヴィレッジの村人は獅子神の戦いに、呆気に取られていました。
京水と堂本はそんなヴィレッジのメンバーを守りながら戦った感じです。
獅子神ルートではロイドとの戦闘をメインに書いて終わる頃にサラがレイカと芦原を連れて現れる感じでした。
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第二十三話 Eへの介入/悪魔の謀
無名は輸送機を降り、東の研究所に向かうその途中で電磁パルスの装置を空中に見つけた。
(これを放置しておくと後々、面倒だな。)
そう考え破壊しようとすると、
巨大な流星が電磁パルスに当たり爆発し破壊されていった。
(この能力は、成る程、相変わらず容赦の無い人ですね獅子神は)
攻撃した相手の事を考えるとその轟音にアイズドーパントが屋敷の外へと出てきた。
(思ったよりも早く会えましたね。
ドクタープロスペクト。)
僕はメモリを起動しドライバーに装填する。
そして、黒い翼をはためかせアイズドーパントへと向かっていくのだった。
「全く、一体何が起こっているんだ!」
プロスペクトが外に出て能力で状況を確認しようとすると空中から何か黒いものが此方に襲いかかってきた。
あまりの速度に避けられず、首を捕まれる。
「なっ!貴様は!」
「確か、メモリは首に刺したんですよね?」
そう言うとプロスペクトの首に激痛が走る。
「がぁぁっ!はっ、離せ!」
そう言って拳で相手を殴り付けるが効いてはいない。
すると、屋敷から爆発が起きてユートピアドーパントが転がりながら現れる。
その後に続いて白い仮面ライダーも登場する。
私達も見るなりユートピアドーパントである加頭が言う。
「これは一体、どう言うことですか無名さん。
ミュージアムは財団Xを裏切るつもりだと解釈しても?」
「それはこっちのセリフですよ。
エターナルの事をどうしてミュージアムに話してくれなかったのですか?
琉兵衛様もその事についてさぞお怒りですよ。」
エターナルメモリの存在を琉兵衛にも知られている事実に加頭は驚く。
財団の研究でもトップシークレットだった情報だったこともあり知る人物は極僅かだったからだ。
それと共に今の事態を正確に理解した。
確かにミュージアムは財団Xの投資対象の1つではあるが組織に与える利益は計り知れない。
人類を簡単に怪物へと進化させる事の出来る力であるガイアメモリ。
それを開発できるミュージアムと袂を別つ。そんな重要な判断を加頭が決める権利も無かった。
加えてエターナルメモリの試運転を提案したのは自分だ。
これが、財団にバレれば自分の立場も危うくなる。
それは避けなければならなかった。
そんな二人のやり取りを見た白いライダーとなった克己が割り込む。
「コイツはお前の知り合いか無名?」
「えぇ、ですので彼の相手は"私が"しますよ。
それと、電磁パルスの装置はこちらで破壊しました。
敵となっているクオークスも私達の仲間が全滅させている筈です。」
「バカなっ!」
無名の言葉をプロスペクトが遮る。
「私の最高傑作であるクオークスが敗れたと言うのか!
.....ふっふっふっ、あっはっはっは!」
まるで、狂ったように笑うプロスペクトに皆、が顔を向ける。
「何が可笑しい?」
その行動に克己が尋ねる。
「お前達は、アイツらを救ったつもりだろうが違う!
殺す事になるのだよ!
全てはお前達の浅慮がもたらす愚かな行為さ。」
「...まさか!」
嫌な予感がした克己が西の研究所へと向かった。
プロスペクトも後を追いかける。
克己に自分の犯した結果を認識させて心を折るためだろう。
この場にいるのは僕と加頭だけになった。
加頭はメモリを抜く。
「おや?戦わないのですか?」
「分かって言っているのでしょう?
わが財団は利益追求の組織です。
貴方達と敵対することはそれに大いに反する。
それに、私の立場も危うくなっていますから....
これ以上、クライアントの機嫌を損ねる訳にはいきません。」
「....では、私と取引をしませんか加頭様。」
無名の提案に疑問を覚える。
「取引ですか....貴方の要望は?」
「あのドライバーの回収です。
恐らく、エターナルメモリは僕の使うメモリとも違う次世代型メモリなのではありませんか?」
「えぇ、私達は"T1ガイアメモリ"と呼んでいます。
まぁ、試作品ではありますが」
「あの、ドライバーのデータがあれば僕達の使うドライバーを完璧にすることが出来る。」
「....成る程、欲しいのはドライバーでしたか。」
「いいえ、"メモリ"も貰いますよ。」
「それは取引とは言えないのではないですか?」
「問題ありませんよ。
どちらにしてもあのエターナルメモリはもう長くありません。」
「....どう言うことですか?」
加頭の問いに無名は答える。
「あれは、メモリが大道克己と過剰に適合した故に起きている現象です。
常にメモリとドライバーに相当量のエネルギーが供給されている。
ドライバーは未だしも試作品であるメモリは耐えられない。
恐らく、変身解除と同時に壊れてしまうでしょう。」
「何故、そんな事が分かるのです?」
「ミュージアムはガイアメモリを主軸にした組織です。
いくら、次世代型のメモリでもガイアメモリには変わり無い。
性質も問題も我々が一番理解している...それだけです。
研究データも貴方達は別の媒体で取っているのでしょう?
琉兵衛様からしてもエターナルメモリは危険な存在です。
例え壊れていても回収したいと思う筈ですから...」
(逆に言えば壊れていても回収できれば、
琉兵衛率いるミュージアムとの仲もこれ以上壊れない...そう言う事ですか。)
「分かりました。
ドライバーは差し上げます。
メモリに関しても破壊された場合、好きにお持ちください。......その代わり」
「えぇ、私の方からも琉兵衛様に掛け合い財団とミュージアムの関係悪化を防ぐため行動させて貰いますよ。」
契約が成されたことで場の空気が柔らかくなる。
「やれやれ、まるで悪魔と取引しているような気分ですよ。」
加頭の言葉に無名は笑う。
「僕は"人間"ですよ。
これを使わなければね。」
そうして、抜いたメモリを見せた。
「デーモンメモリですか.....やはり、使用者とメモリは引き合う。
そう言う運命なのかもしれませんね。」
「では、私はこの場を去ることにします。
後始末はお任せしても?」
「えぇ、勿論です。」
こうして、財団Xは正式にクオークス....ドクタープロスペクトから手を引くのだった。
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第二十四話 Eへの介入/愚かな謀
「これは...どう言うことだ?」
西の研究所付近に到着した克己はその光景に愕然としていた。
自分が助けた筈のヴィレッジの者が倒れているからだ。
それにミーナも苦しんでいる。
その光景を追い付いたプロスペクトが笑いながら見つめる。
「私がコイツらに仕込んでいた仕掛けが作動したんだよ。
私の許可無く立ち去る者は、死ぬ事になる。君達の英雄的行動の結果がコレだ。やはり死人は知能が弱まる様だね。」
そう言うプロスペクトの前でミーナは克己に助けを求める。
「.....克己」
「ミーナ!」
そして、克己が手を触れた瞬間、ミーナの命は尽きる。
.......筈だった。
突如、プロスペクトの体内にあるメモリが不調を起こし始める。
その痛みにプロスペクトの顔が歪む。
「ぐおっ!...何だこれは!」
その瞬間、先程まで倒れていたヴィレッジの面々が起き上がりミーナも苦しみから解放される額の瞳も消えていた。
その光景を見て微笑を浮かべながら無名が現れる。
「やはり、予想通りでしたね。」
「貴様っ!何をしたぁ!」
プロスペクトの問いに無名はイタズラが成功した子供のように答える。
「僕のメモリには物体や事象を消滅させる力があります。
貴方のアイズメモリに他者の命を遠隔で奪う能力は無い。
色から見てもプロダクトメモリのようですし...」
"プロダクトメモリ"....ミュージアムが正式販売用として認めた一般販売のメモリ。
だが、その力はゴールドやシルバークラスのメモリには劣っていた。
「恐らく、貴方とメモリとの適合率の高さが、
その副次的能力を獲得する結果に至ったのでしょう。
ですので、貴方に触れた際、メモリが"発する波長"を消させて貰いました。
分かりやすく言うなら貴方がアイズメモリを使ってヴィレッジの者にかけていた呪いを根幹ごと消した訳です。」
メモリの波長とは使用者との適合以外にも相手にメモリの能力を与える際にも使われる。
そして、これはパスワードのような物だ。
相手に与えた能力を起動させるために絶対的に必要な存在。
それを消されると言うことは、パスワードがリセットされると言うこと。
アイズドーパント本人に害は無いがメモリの能力で縛っていた者達との繋がりは無くなる。
「貴方のことです。
目の前で彼等の命を奪い、その罪を背負わせるつもりだったのでしょうが....」
「そんな"三流仕掛け"に僕が気付かないとでも?」
自分の事を"三流"と言われプロスペクトは激怒する。
しかし、その攻撃は無名に当たることはない。
何故なら、プロスペクトの敵は僕ではないのだから
「余所見をするとは良い度胸だな!」
克己が攻撃を仕掛け、それにプロスペクトは吹き飛ばされる。
そして、それに呼応するようにNEVERのメンバーも克己のサポートへ向かった。
ここからは僕らの出番ではない。
僕は獅子神とサラのいる場所へと合流した。
アイズドーパントはNEVERメンバーの連撃を受けて満身創痍となっていた。
芦原の蹴りから流れる様に続く銃撃、堂本の棒術による破壊、京水による鞭の連打、そしてレイカによる蹴りの応酬、NEVERとしての身体能力をフルに生かした攻撃がプロスペクトを襲う。
「バッ...バカなっ!」
克己はエターナルメモリをスロットから抜くと専用武器であるナイフ"エターナルエッジ"のマキシマムホルダーへと装填する。
右足に青いエネルギーが集約する。
「お前の“ヴィレッジ”より面白いところなんざ、もう本当の地獄しかあるまい。先に逝って、遊んでこい。」
そう言うと克己はスロットを押し込み、必殺の一撃をアイズドーパントへ叩き込んだ。
余剰エネルギーが電気となり迸り、アイズドーパントは大爆発を起こした。
「さぁ、地獄を楽しみなぁ!」
克己のそのセリフにより戦いは終わりを告げるのだった。
メモリを砕かれたプロスペクトは目に隈を浮かべた這う這うの状態で立ち上がった。
「バカ...なっ...この..私..が..ゾンビ..どもに..」
そうして、身体に限界を向かえたのかプロスペクトは、命を失うのだった。
克己のメモリにも異常が起こる。
火花を散らしメモリにヒビが入り変身解除される。
メモリを抜いて手に乗せると砕けてしまった。
「....また会おうエターナル。」
親友との再開を願うように克己は砕けたメモリに言った。
完全勝利...その姿にNEVERやヴィレッジの面々は其々、歓びの言葉と実感を噛み締める。
そして無名も悲劇を回避し、求めた結果を手に入れた実感を味わうのだった。
Another side
克己がプロスペクトを倒したのを見た京水は喜びの余りレイカに抱きついた。
「やったわぁ!克己ちゃんが勝ったのよぉ!」
「ちょっと、止めてよ恥ずかしい!」
「良いじゃない、"女同士"何だから喜びを分かち合ったって!」
そこで京水は疑問に思った事をレイカに尋ねる。
「そう言えば芦原から聞いたわよ。
あんた助けられた時、相当ヤバかったって....
携帯酵素はどうしたのよ?」
「アレ?克己に上げちゃった。」
「はぁ!このおバカ!あんた何してんのよ!死ぬかも知れなかったのよ!」
そうやって自分の身を案じて怒る事にレイカは驚きを感じた。
窃盗犯として生きていた彼女にとって他人に心配されることなど無かったからだ。
しかし、その後に京水は続ける。
「でも"嫌いじゃないわ"。
ガッツあるじゃない貴女」
この場所に来てから頑なにレイカを認めていなかった京水が自分の命すら克己に捧げるようなレイカの行動を受けて彼女をNEVERの仲間として認めたのだった。
レイカは気恥ずかしさからか少し笑いながら言う。
「おっさんに言われても嬉しくない。」
「また、言ったわね!」
しかし、その言葉に怒りは無い。
現にお互いに笑いあっている。
そんな穏やかな光景も終わりを告げる。
二人が、克己を見ると駆け寄ってくるミーナを抱き締めていた。
「はぁぁぁ!あの女、克己ちゃんに何してるのよぉ!」
京水、嫉妬大爆発である。
鞭をまるでハンカチのように食い縛りながらその光景を見ていた。
「あーぁ、これは克己に惚れちゃったねあの女。」
そんなレイカの言葉に京水は答える。
「はぁぁぁぁ?、何なのよ!次から次へと
克己ちゃんは私の者よ誰にも渡さないわぁ!」
そう言いながら克己の元へダッシュで向かう。
レイカはそんな光景を見ながら自分の手に触れる。
身体の冷たさが自分が死体だと認識させる。
けど、今はそんなに不快感がない。
答えはきっとこのNEVERがいるからだろう。
(コイツらとの人生も悪くないかもね。)
そう思うとそのままメンバーと合流し喜びを分かち合った。
余談だが、これ以降暴走する京水のストッパー兼ツッコミ役としての地位を確立していく。
本人曰く、「少ない"女の同僚"だから」だそうだ。
そして、克己とミーナは無事、恋仲となる。
その報告を受けて京水は嫉妬超爆発させるのだが、
恋の相手を獅子神に変更したらしくその事でこれから獅子神は苦労していくことになる。
エターナル編 完
青い炎を纏う死神の物語が終わりを告げる。
そして、遂に風都に現れる二人で一人の仮面ライダー
そんな彼等と物語の筋書きを知る悪魔が出会う時、
どんな結末を迎えるのかその答えは誰も知らない。
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原作開始
第二十五話 流れるT/始まる物語
エターナルの物語を無事、解決した無名はドクタープロスペクトが管理していた孤島をガイアメモリやドライバーの研究施設として運用していくことに決めた。
ミーナ達、ヴィレッジのメンバーは屋敷の使用人として雇い入れている。(ミーナもメイドとして頑張っている。)
そして、その施設の警護にNEVERを雇い入れた。
克己自身がそう願ったことにより話はとんとん拍子に進んだ。
琉兵衛もその結果に満足すると僕をここのメモリ研究のトップとして就任させた。
そして、獅子神とサラは其々風都以外の都市のガイアメモリ流通の責任者として選ばれた。(原作で言う冴子の立場)
元々研究用に多数の機材があり、ガイアメモリやドライバー研究に転用できる物もあったため研究は順調に進んでいった。
そして、財団製のロストドライバーを研究した結果、
遂に納得できるガイアドライバーが完成した。
名前は
メモリを横から装填し手で倒す事で変身できる。
(ロストドライバーと逆の変身手順)
性能も大幅にアップした。
先ずは稼働限界が無くなり、メモリの浄化率も初期のガイアドライバーを越える代物となった。
ドーパント版Wドライバーと言っても良い出来だ。
しかし、まだ試運転段階のため園咲家の面々は使わず僕ら幹部が使用している。(体の良い実験とも言えるが)
僕達がエターナル編を進めている間に原作も進んでいた。
何とビギンズナイトが、終わってしまったのだ。
結果は全く変わらず、鳴海 荘吉が死に、フィリップと左 翔太郎が文音の用意したWドライバーで変身して仮面ライダーWが誕生した。
そして、彼等は無事に冴子とミュージアムからの逃亡を成功させた。
結果、冴子は琉兵衛から叱責を受けたらしくその事で冴子から電話で愚痴を言われた。
そんな事もありつつ僕は孤島で研究三昧の生活を送っていた。
何故なら、琉兵衛により新たな命が下ったからだ。
来人がいなくなり新規のメモリが作れなくなったことの解決策の提案である。
地球の記憶と繋がれる存在である来人を失ったのは、ミュージアム側からしたら相当に重い出費だ。
何とか現状を打開したいのだろう。
そして、それは僕のしたいもう1つの研究にも関わっていたので解決策を模索した。
と言っても来人がいない以上、メモリ生産は絶望的だろう。
"星の本棚"と呼ばれる地球の記憶が集約された空間、そこに入ることが出来なければガイアメモリを新たに作ることなど不可能だからだ。
此方に関しては少し賭けの部分が大きい。
誰が協力してくれるのか分からないからだ。
ミュージアムのコネを使いその人物がいるのか調べ始める。
そして、それが終わるまでの間に
手に持つこの"メモリ達"を使うユーザーを探す。
結果からするとすぐに見つかったが問題があった。
その人物と会う手段が無いのである。
名前は分かるがその居所は一切不明だった。
その事を島を警備していたNEVERの一人である芦原に伝えると思わぬ答えが返って来た。
「昔のツテですが、もしかしたら会えるかもしれません。」
僕が探すように頼んだのは人物は裏社会の人間、殺し屋と呼ばれる存在だ。
名前は"
そして、彼は僕の持つ二本のメモリの適合者でもあった。
その一つ「C」のイニシャルを持つメモリ、そして最後は妙に機械的な見た目の「R」のイニシャルを持つメモリだった。
少しすると芦原が部屋にやってきた。
「失礼します無名様。
ご要望のあった男ですが会う約束を取り付けられました。」
「それは良かったです。
時間と場所は?」
「明日の夜、
水音町、風都の隣にある街でその広さと水の多さから"第二の風都"や"水の町"とも言われている。
「分かりました。
先方に了承の返事を送ってください。」
「分かりました。
では失礼します。」
そう言うと芦原は部屋を出ていく。
すると、部屋にリーゼが入ってきた。
「リーゼ....お前も行きたいのか?」
その問いにリーゼは鳴き声で答える。
(リーゼの力も見てみたいしここは連れていってみるか。)
僕はリーゼを連れて水音町に向かうのだった。
Another side
「俺と接触したい奴がいるだと?」
電話してきたのは仕事仲間である傭兵、芦原 賢だった。
何でも擬似的な不死を獲得した存在でとある戦場で共に仕事をした時も、その異質な強さには驚かされた。
久し振りの連絡で仕事の相談かと思ったら、会わせたい人物がいると言う話だったわけだ。
芦原が紹介したいと言う人間に興味があり普段は顔を会わせるなどしない俺はその提案を受け入れた。
「良いだろう場所は水音町のアクアタワー、時間は夜それでどうだ?」
「確認する。」
そう言うと電話が一度切れる。
俺は整備していたライフルにもう一度手を掛ける。
俺の仕事はスナイパーだ。
水音町を待ち合わせにしたのもターゲットがここに現れるからだった。
「しかし、殺し屋に会いたいとは一体どう言う了見なんだ?」
その疑問が解けない中、再び携帯が鳴る。
出ると芦原だった。
「こちらは問題ないそうだ。」
「そうか、それでは明日の夜を楽しみにしているよ。
...あぁ、そうだ。
会いたいと言うクライアントの名前は何と言うんだ?」
その問いに芦原は答える。
「無名と言う青年だ会えば分かる。」
そう言うと芦原の通話は切れるのだった。
「相変わらず、お喋りが嫌いな男だ。」
俺はそう思うとライフルの整備に勤しむのだった。
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第二十六話 流れるT/優しき提案
第二の風都と呼ばれる程、人と人工物が多い。
そんな町を象徴するのがこのアクアタワーだ。
塔の中央から四つの管が分かれておりそこから水が滝のように流れている。
黒岩が待ち合わせ場所として選んだのはこのアクアタワーの最上階よりも更に上、整備用に作られた屋上であった。
一応、気を利かせて屋上までのドアの鍵は開けてあるが俺に会いに来たクライアントには意味がなかった様だ。
空から黒い翼と捻れた二本の角を持つ禍々しい怪物が一人の青年を連れて現れた。
青年が地面に降り立つと言う。
「遅れてしまったかな?」
その堂々とした姿は悪魔を従える王のようにも見えた。
黒岩は目の前に現れた青年と怪物に最大級の警戒をしていた。
これまでも人の理を越えた奴等を殺してきたことはある。
でも、炎を出せたり物を手を使わずに動かせる人間相手だ。
まかり間違っても怪物を相手にしてきたわけではない。
そんな事を考えていると件の怪物から銀色のメモリが排出される。
すると、怪物の姿は成りを潜め小さな猿へと変わってしまった。
クライアントである男が"リーゼ"と呼んでいることから飼い主はこの男なんだろう。
「お前が俺に会いたいと言っていた無名と言う奴か?」
「そうです始めまして。
黒岩 幸太郎さん、お噂はかねがね伺っていますよ。」
「それで、俺に何のようなんだ?」
黒岩が無名に尋ねる。
「単刀直入に言います。
僕の部下になってくれませんか?」
「どういう意味だ?」
「僕はミュージアムと言う組織に所属しています。
そこではこんなものを作り、街にばら蒔いています。」
そうして、無名が取り出したのは、骨の様な紋様が入った紫色のメモリだった。
「ガイアメモリとか言う奴か。」
「よくご存じで」
「最近、風都のブローカーがこぞって集めだしてる代物だからな。
話はよく聞く。」
人間を越え超人になれる魔法の小箱。
その魔力にとりつかれた人間は多く、裏の取引を行うブローカーも積極的に入手しようとしていた。
しかし、黒岩にとって然したる興味もなかった。
「俺は"スナイパー"だ。
狙撃に必要なのは銃と腕、そして忍耐力だけだ。
ガイアメモリなんて言う訳の分からない力は必要ない。」
「芦原が紹介してくれた相手だ、無下にするのは申し訳ないが仲間になるつもりはない。
仕事なら受けても良いがな。」
「....そうですか"残念"です。
ですが、僕は暫くこの町に滞在しますので助けが必要なら言ってください。」
そう言うと懐からさっきの銀色のメモリを取り出し起動する。
「
そしてリーゼの背中にとりつけてある機械にメモリを差し込んだ。
メモリが身体に吸収されると先程の悪魔の姿になる。
リーゼに抱えられるように無名が座ると、翼をはためかせて水音町の夜へと消えていった。
夢でも見ているかのような錯覚を黒岩は味わったが顔に当たる夜風の冷たさがこれは現実だと教えてくれる。
本当に断って良かったのだろうか?
自分の選んだ選択に珍しく悩む黒岩であったが、
今回のターゲットに意識を向けるのだった。
ホテルについた黒岩はベッドの下に置いていた
ケースについているジッパーを開けて中から写真を取り出す。
この男が今回のターゲットだ。
女子学生を専門に狙うレイプ魔。
何故、コイツが捕まらないのかと言うと、
父親が有名な弁護士で常に彼の罪を不起訴としてきたからだ。
俺が受ける仕事の殆どはこう言うクズの始末だ。
こう言う奴等を一人でも多く地獄に送る事が、俺がライフルを撃ち続ける理由だ。
服の懐から一枚の写真を取り出す。
そこには黒岩と妻、そして娘の三人が笑って写っていた。
もうこの瞬間には戻れない.....
だからこそ、一人でも多くのクズを殺すことが俺の仕事なのだと思っている。
ターゲットの移動先を把握した俺は早速、予め分解してベッドの下に隠しておいたライフルのパーツを取り出し、組み立てていく。
この銃の名前は"レミントンM700"ずっと俺の仕事を片付けてくれている相棒だ。
組み立てが終わりスコープを取り付ける。
外の看板に銃を向け、スコープの調整を行う。それが完璧になると銃を持ってホテルの窓を開けた。
ここは、予め狙撃できるように周りの部屋を買い取っている。
音でバレる心配もない。
スコープを覗きターゲットを探す。
遠くの繁華街その路地裏に屯する集団...見つけた。
何をしているかは分からないが、何かを見せびらかしているらしい。
これ以上は距離が遠くて正確には視認できなかった。
だが、構うことはない頭が見えれば一発で終わる。
黒岩はライフルのボルトを開き弾を一発込める。
そして、頭に照準を付けるとゆっくり引き金を引いた。
ズドン!...空気を震わす音と共に弾丸が頭へと放たれる。
そして、ターゲットに着弾した。
ターゲットは大きく吹き飛ばされるが倒れない。
そして、スコープ越しに黒岩を睨むのだった。
another side
水音町の繁華街、そこで男は陽気に歩いていた。
周りには取り巻きの集団がいる。
その取り巻きの一人が声をかける。
「それにしてもまたヤッちまったのかよ。
これで何度目だ?」
「さぁね、数えてねぇわ 笑」
この男は事件を起こしても父親の力で何時も罪を免れていた。
それが普通だと思っているのか事件を起こす頻度も高くなっていった。
それに危ない連中との付き合いも増えた。
「そう言えば、本当に買ったのかよ噂の奴。」
取り巻きの問いに男は自慢するように懐から一本のメモリを取り出した。
「じゃーん!あったりまえだろ?
俺にかかればこんなもんよ。」
そして、懐から更に三本メモリが追加で出て来た。
「そんなに買ったのかよ 笑
結構、金使ったんじゃねーの?」
「こんなもん余裕だよ余裕。」
そうは言うがこのメモリは一本辺りの相場が高い。
安くても数百万、高いと何億もの金がかかるらしい。
「ホラよ。」
そう言うと男は懐の三本のメモリも取り巻きに渡した。
「おっ、サンキュー。」
「それにしてもこれってどう使うんだ?」
その問いに男が実践して見せる。
メモリの端子に"四角いコネクター"を取り付けると腕に押し付けた。
すると、四角いコネクターが割れて独特な紋様が腕に付くがすぐに消えた。
「このコネクターを自分の付けたいメモリにつけて押し付けると簡単に使えるようになるんだよ。」
そう言うと他の三人にもコネクターを渡す。
皆、思い思いの位置にコネクターを差し生体フィルターを刻み込んだ。
「なぁ、早速使ってみようぜ!」
取り巻きの言葉に男は意気揚々とメモリのスイッチを入れる。
「
そうして、メモリを突き刺した瞬間、額に衝撃が走る。
しかし、男はそれを耐えるとそれが襲ってきた方向を見る。
そこにはスコープ越しに俺を狙う男の姿があった。
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第二十七話 写し出すC/外道の流儀
「バカな!」
スコープ越しに起こったその事態に黒岩は悪態を付く。
弾が額に当たった筈なのにターゲットは生きているどころか此方を睨んでいた。
距離からして800mはある筈なのに正確に俺の場所を見つめていたのだ。
そして、その男の身体は変化すると大量の液晶が付いた人型の怪物へと変化した。
黒岩は直ぐにボルトを引き次の弾を込める。
しかし、敵はそれよりも早く黒岩の背後に現れた。
黒岩を後ろから押さえ付ける。
「ぐおっ!」
そうして、液晶に表情が投影される。
ソイツはとても下品な笑顔で見つめてきた。
「お前か?俺を撃ったのは」
「どうやって...ここに来た。」
「あ?知らねぇよ。
ただ、そこに行きたいと思ったらそこの"テレビの画面"から出てこれただけだよ。」
「それにしても本当にいるんだな殺し屋って奴。
誰が俺の殺しを依頼したんだ?」
「誰が、教えるか!」
「まぁ良いや....ん?これはお前の家族か?」
そう言うと男は黒岩の持っていた写真を取る。
倒された時に落ちたのだろう。
「....ははっ!こりゃ良いな。」
「何を言っている?」
「このメモリの凄さにだよ。
"写真"を見ただけでここが何処なのか一発で分かったぜ!」
「!?」
「そうだなぁ、良いこと思い付いたぜ。」
「おい、お前俺を殺そうとした奴を殺してこい!
それが出来ないならお前の家族を殺してやるよ。」
「ふざけるなよ!そんな事受けられるかっ!」
「断るのならそれでも良いぜ。
でも、少し自分の"立場"について考えてみろよ...な?」
そう言うと男は黒岩から離れるとテレビに吸い込まれていった。
それから数分後、病院から入院している娘と妻が消えたことを黒岩は伝えられた。
朝になり、無名はミュージアムから宛がわれた高級ホテルで目を覚ました。
横ではリーゼが器用にタブレットを使ってルームサービスを頼んでいた。
「君の悪知恵には悩まされそうだねリーゼ。」
しかし、そう言われたリーゼは知らん顔をしていた。
まぁ、僕の目的のために動いてくれるのならある程度は目を瞑ろう。
しかし、あのスナイパーは面白い人だった。
殺し屋ではあるが通すべき筋を自分で決めて持っている。そんな印象だった。
だからこそ"もっと詳しく"調べたのだが....
黒岩 幸太郎、元陸上自衛隊特殊作戦軍所属、
現役時代は狙撃手として数々の作戦に従事し活躍する。
彼の人生を変えたのは奥さんと娘さんが交通事故に会った時だろう。
轢いた犯人は官僚の息子で事件は揉み消されてしまった。
そして、娘は現状意識不明。
妻は脊髄に損傷を受け病院で寝たきりの生活を強いられている。
その後、自衛隊を除隊し殺し屋として生き稼いだお金を家族の治療費に充てている。
悲劇の主人公のような人生。
だからこそ惹かれるのかもしれない。
僕は悲劇が好きだ...何故なら悲劇は人の本性を剥き出しにさせる。
そして、その悲劇を糧に強く生きようとする人はもっと好きだ。
死者だろうと未来を求めた大道克己や、家族を奪われても復讐ではなく仕事として人を殺す黒岩幸太郎。
どちらも自らに振りかかった悲劇を糧に強い人間へと成長した。
そして、それはヒーローである"あの二人"にも言えるのだが....
そんな事を考えているとスマホから着信がある。
宛名は芦原だった。
「どうしましたか?芦原さん。」
「無名様、実は黒岩がもう一度会いたいと
しかも時間がないらしく今すぐに会うことが出来ないかと言ってきていますが。」
「今すぐですか...何かあったのかもしれませんね。
分かりましたホテルの名前と番号を言いますのでそこまで来るように言ってください。」
そうして芦原にホテルの情報を教えて暫く、待っていると待ち人が現れた。
彼を中に通すと胸に拳銃を突きつけられ椅子に座るよう促された。
「これは一体どういう事ですか?」
無名のその問いに黒岩はゆっくりと銃を下ろす。
「娘と妻が拐われた。
相手はガイアメモリを使っていた。
お前なら何か知っている筈だ。」
そう言う黒岩の目には余裕がなかった。
「ガイアメモリ関係の事件なら確かに僕の組織は関わっているかと思いますが私はその一件に関わっていません。
ですので、バイヤーの事も購入者の事も何も知りませんよ。」
黒岩はその言葉を信用できないのか銃を向けたまま動かない。
「それにここでそう言う"脅し"は止めておいた方がいい。
ここは、組織のメンバーが使うホテルですよ。」
そう言うと黒岩の首筋にナイフが当てられる。
ホテルのクロークの格好をした男の仕業だ。
何時もの冷静な彼なら気付ける状況だったが焦りがそれを無に帰していた。
観念したのか銃を下ろすがその目は諦めていない。
「頼む。
家族は俺の"唯一の宝"なんだ。」
(宝.....か。)
無名はクロークに引くように合図をするとナイフをしまいその場を立ち去った。
「メモリを使った相手の名前は分かりますか?
そうすればデータベースから相手を探れます。」
黒岩から名前を聞いた無名は早速、ミュージアムのデータベースから検索をかける。
対象はあっさりと見つかった。
(使用しているメモリは"コンピューター"か.....)
能力は電子回路の操作、そして"自らをデータ体"に変換できること、これを使って移動したのだろう。
しかし、欠点もあり先ず戦闘能力が無い。
ライアーやジーンのような能力メインのメモリであること.....
そして、変換できるデータ量と質が拙い。
フィリップのように無線で身体と精神を完全にデータ化する様な事はできない。
電流のパルスに身体を変換して有線で繋がった場所になら行けると言うだけだ。
まぁ、所詮はプロダクトメモリと言うことだろう。
手口が分かれば後は簡単だ。
無名は黒岩のいたホテルの電器系統のデータを確認する。
そこには、特徴的な跳ね上がりをした傾向が見えた。
(後は、これを追跡できれば......)
この結果を黒岩に伝える。
「貴方の家族を奪った犯人ですが追跡できる可能性があります。
しかし、それには貴方の協力が不可欠です黒岩さん。」
「分かっている。協力は惜しまない。」
「そして、これは確認なのですが犯人を見つけたらどうするんですか?」
「元々、その男を殺す依頼を受けていた。
失敗したのはガイアメモリだけでなく俺が油断した結果だ。
きっちりと依頼は果たす。」
「ならば、尚更このメモリが必要になりますよ。
ドーパントの肉体に普通の兵器は通り
ませんから...」
「だけど、このメモリなら彼を殺せます。
それでもメモリを使うのが嫌なのなら僕達が始末しても構いませんが....」
「いや、俺が奴を殺す....。
このメモリとやらを使ってな。」
「では、計画とメモリの使い方についてご説明しますよ。」
そう言うと生体コネクターを身体に刻む機械と"腕輪型の装置"を黒岩に渡した。
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第二十八話 写し出すC/三つの出来事
「そうか分かった。
君の好きにやりたまえ。」
そう言って通話を切る。
その会話を聞いていた師上院が話しかける。
「宜しかったのですが?
このままでは幹部二人が衝突してしまいますよ。」
「構わんさ。
若い者はお互いを意識し切磋琢磨しながら成長するものだろう?」
そうして二人の報告書を確認する。
「サラの方は"簡易型の生体コネクター"の実験として用意されたドーパントだったかね?」
「はい、大道マリアにより改良された生体フィルターを利用した物です。
これまでよりも簡単にコネクターを付けることが出来ます。」
「対する無名の研究はドーパントに新たなメモリを追加することで強化すると言うもの....」
「正に量と質の戦いだな。」
琉兵衛はそう言うとこれから起こる戦いを静観するのだった。
黒岩は水音町にある高層ビルの屋上に呼び出された。
相手は分からないが大方予想が付いた。
「へぇ、ちゃんと来たじゃねーか!」
そう言いながらコンピュータードーパントが屋上に現れる。
「どうやって、俺の連絡先を知った?」
「んなことどうでも良いだろ?
問題はそこじゃねぇ、俺の言うことを聞くか聞かないかだ。」
「お前の娘さん綺麗だか意識が無いのが残念だ。
さぞ、いい声で鳴いてくれるだろうに...」
大切な娘を侮辱されて怒りに支配されそうになるが、呼吸を整えて相手を見据える。
そして、無名に頼まれていた事を行う。
「妻と娘は無事なんだな?」
「あぁ、それは保証するぜ。」
「それを証明する物は?」
「随分と信頼してないんだな。
俺の能力なら誘拐できるって分かるだろ?」
「どうだろうな...お前にそんな度胸があるとは思えないが」
「....あ?」
「大方、仲間に誘拐させたんだろう。
だから、証明する物を出せない。」
挑発めいた言い方に普通の人間ならば気付くだろう。
だが、この男はドーパントとしての全能感から純粋にバカにされていると思ってしまった。
「上等だよ!...証拠持ってきてやるからここで待ってろ!」
そう言うとドーパントは屋上のケーブルからエネルギー体となって消えていった。
その行動を追っている人物がいるとも知らないで....
数分すると、コンピュータードーパントは屋上に戻ってきた。
その手には携帯が握られておりそれを見せられる。
そこには口を布で塞がれて恐怖に染まった妻と意識を失ったまま眠り続ける娘の二人が映っていた。
それを見た黒岩は決心すると携帯を返した。
「信じたか?なら、命令だ。
俺を殺すよう指示した奴を殺せ!」
俺を従えたかのようにそう命令する男にもう何も感じない。
今まで色んな人間を殺してきたがコイツはその中でもトップクラスのクソだった。
そして、黒岩の携帯に着信が入る。
画面を見るとショートメールで一言だけ書かれていた。
「"見つけた"。」
俺は携帯を閉じると懐から紫のガイアメモリを取り出した。
「なっ!何でお前がそれを持ってる?」
その問いに黒岩は答えメモリを起動した。
「俺もお前と"同じ様に"悪魔と契約したんだよ。」
「
黒岩の家族を捕えているビルの中で取り巻き三人は命令されて見張りをさせられていた。
「ったくあの野郎、金とコネがあるからって偉そうに!」
「でも、お陰でこのメモリをタダで貰えたんだ。
悪くはないだろ?」
「あー、早く使ってみたいぜこのメモリ。」
三人は同じイニシャルと色をしたメモリを持っている。
その横にはベッドに縛り付けられている人質の娘と妻がいた。
「それにしてもよ....この女良いスタイルしてるよな?」
「俺も思ったわ....意識の無い奴をヤっても興奮しないとか言ってアイツは手を出さなかったけどな。」
「俺はあの奥さんが良いなぁ...俺、年上がタイプだし」
まるで、獲物を前にして誰が食べるのか話し合う様な会話が続いていたが突如としてその会話は終わりを告げる。
突如、ビルの電気が消えたのだ。
外は夜であり近くに明かりは無い。
故に部屋が真っ暗になっていた。
「おいどうした?停電か?」
取り巻きの一人がそう尋ねる。
「わかんねぇ、何か明かりはねぇかなっと!」
そう言いながら明かりを探していた男はスマホのライトを付ける。
そうして周りを確認すると人質の二人と自分を含めた見張りの"二人"がいた。
「おい、アイツはどうした?」
そうしていなくなった一人を探そうと明かりを向けた男の手に何かが垂れる。
それにライトを向けると血の水滴だった。
そうしてライトを上に向けるとズタズタに切り裂かれ壁に貼り付けられた仲間と
無名とサラは黒岩とコンピュータードーパントの映像が写されているモニターがある部屋の一室で談笑をしていた。
「まさか、無名くんがこの件に関わっているなんて思ってなかったよ。」
そのサラの言葉に無名も同意する。
「えぇ、僕も貴女があんな人間にメモリを売るなんて思ってませんでした。」
黒岩との話し合いが終わると見計らった様にサラから連絡が来た。
そして、その場所に向かうとサラがモニターを前にして待っていたのだ。
「それなりに私の事を信頼してくれてて嬉しいなぁ。
実は今回の一件はこっちもトラブルがあったのよ。」
きっかけは、冴子から開発中のコネクターを実験して欲しいと言う依頼を受けてその人物をサラが選んでいたのだが下手な功名心を持った"ミュージアムの下っ端"がコネクターとメモリを勝手に売ってしまったのだ。
確か、サラの下に就いた部下に反抗心と妙にプライドの高い男がいたことを思い出した。
「それは、災難な事で....それでそれを行った者達の始末は?」
そう言うとサラが近くにあるレンガを指差した。
「とっくに"粉々"にして建築資材に変えて貰ったよ。
いやぁ、そのおじさんが優しくて"素材"が良かったからって買い取り料高くしてくれたんだぁ。」
「それにしてもミュージアムって凄い組織だけど構成員の質が問題よね?
優秀なのと使えない奴の差が大きすぎるのよ。」
「確かに、中々信用できる人材に恵まれませんね。」
「それに強くないといけない....お陰でいい人が見つからないのよ。」
原作でも構成員(マスカレイドに変身する者達)はあまり優秀だった印象がない。
良く言う雑魚敵だ。(一人は園咲 若菜に告白してた男もいたな。)
「それでサラさん。
今回の目的についてお聞きしても?」
無名の問いにサラは答える。
「先ず"個人的"には無名くんにお詫びかな。
無能とは言え私の部下がやらかした事だからそこに対して何かしたいのが一点。」
「そして、"ミュージアムの幹部"としては貴方に対しての警告かしら」
「警告....ですか随分と優しい言い方だ。
獅子神なら制裁と言いますよ。」
「貴方がミュージアムでこれまで行ってきた成果はとても無視できる物じゃない。
同じ幹部ではあるけど、正直組織として信頼されているのは貴方と貴方に従う仲間ね。」
「だからと言って張り合って貴方と同じ研究者として戦っても勝ち目があるとは思ってない。
だから、私と獅子神はガイアメモリの流通に関する仕事をしてる。」
「だから、ここにまで介入してこられると私達は困るのよ。
貴方のその力が流通関係でも発揮されたら、私達二人の優先度が更に下がることになる。」
「僕はサラさんの邪魔をしたい訳じゃないのですが」
「分かってるけどこれは"面子の問題"なのよ。」
「だから、残念だけどこちらの面子を通させて貰うわ。」
そう言うとサラはドライバーとメモリを取り出した。
「やっぱりそうなりますか」
そう言って無名もドライバーを装着しメモリを構える。
「ごめんね無名くん。
でも私自身気になっていることがあってね。
貴方、獅子神と過去に戦ったんだって?」
「本人は結果を言いたがらなかったところを見ると勝ったのは無名くん....貴方じゃない?」
「私が貴方に勝ったら三人の中で一番強いのは私ってことになるんじゃないかしら?」
そう言うサラの目にはいつもの冗談ではない強い意思を感じた。
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第二十九話 交錯するR/新たな力
「Cobra」
黒岩は起動したメモリを腕に挿す。
すると、身体が変異し褪色が緑色になり黒い傷のような紋様が付いた蛇頭の怪人が現れる。
その姿を見たコンピュータードーパントは驚く。
「なっ!てめぇもメモリを手に入れたのかっ!」
黒岩は手を握り身体の感覚を確かめると、
そのまま近づき右ストレートを相手に食らわせた。
その速度に驚き反撃しようとするが簡単に避けられ、却ってパンチの追撃を喰らってしまった。
黒岩は元自衛隊であり辞めた後も殺し屋として活動してきたので身体能力も格闘センスも高い。
この前、不覚をとったのはメモリによって強化された膂力に人間の力では敵わなかったからだ。
だが、今度は黒岩もドーパントになったことにより、メモリの作用で得たパワーでコンピュータードーパントを純粋なパワーで上回って勝てる様になった。
自分の不利を悟ったコンピュータードーパントは屋上に設置されたケーブルから脱出を試みようとする。
しかし、ケーブルに入った瞬間、黒岩が口から吐き出した謎の物体に行く手を阻まれる。
そして、その物体に触れた瞬間、激痛からケーブルより元のドーパントの姿になり出てきた。
「ぐぁぁあ!痛てぇ!何だこれは!」
ケーブルには"黄色の結晶"が突き刺さっていた。
「"俺の毒"だ。」
黒岩が説明する。
「このコブラメモリには神経系まで作用する猛毒を作り出すことが出来る。
そして、"濃度を変える"ことで結晶として放つことが出来る....らしい。」
「そして、これを応用することでこんなことも出来るとアイツは言ってたな。」
そう言うと黒岩は口に含んだ毒を吐き出すとナイフの様な形になった。
「硬度も高く、鉄板程度なら軽く斬ることが出来る。
そしてコイツは毒を持っている。
後は言わなくても分かるよな?」
黒岩の脅しにコンピュータードーパントは自分が狩るものではないと理解した。
(俺は今、
少し触れただけでこの痛みだ。
もしこれが俺の身体に入ったら....)
恐ろしい想像をしたコンピュータードーパントは頭の中の結論が"報復"から"逃亡"へと変わった。
彼が勢い良くビルから飛び降りる。
ドーパントになったおかげで身体も丈夫になっている。
そして彼の予想通り、十階以上もあるビルから落下しても彼は無事だった。
そして、そのまま走って逃げようとするが"背中に痛み"を感じた。
(何だ.....こ......れ?)
痛みの原因を知る前に男の心臓が止まりコンピューターメモリが排出される。
こうして、彼の命は終わりを告げるのだった。
それを行った黒岩の左腕は"狙撃銃"の形に変わっていた。
逃げるコンピュータードーパントを黒岩は追おうとしなかった。
彼は無名から渡されていた端子が銅色で銀色の無地なメモリを取り出す。
そして、そのメモリを起動した。
「
そして、そのメモリを無名に渡されてつけていた左腕の腕輪にある端子に差し込んだ。
すると、メモリが黒岩の体内に入り腕が変形していく。
そうして、完成した腕は黒岩が長年使っていたレミントンM700の機構を備えていた。
見るだけでこれをどう使えば良いのか分かる不思議な感覚に黒岩は戸惑うがそれに従う。
先ず、ライフル弾の形に成型した毒の結晶を生成する。
右手でボルトを引くと弾を入れる空洞が現れる。
そこに弾を装填しボルトを戻す。
そして、銃をドーパントが逃げた場所に向かって構えた。
スコープは要らない、何故ならもう敵が見えているからだ。
狙おうと構えた瞬間、視界が変わり敵の方へ自動でズームされる。
黒岩は何時もの癖で息を軽く吸いゆっくり吐きながら引き金を引いた。
派手な爆発音は鳴らず、パスッ!というサイレンサーを付けたような音と共に弾丸が敵の胸に当たる。
そして、心臓が止まり冷たくなるのを見た黒岩はライフルから顔を離した。
その姿を映像越しで見ていたサラは驚いた。
元々、コブラメモリは近接戦闘を得意とするメモリだったが、無名が新たに作り出した"メモリ"により狙撃でコンピュータードーパントを殺害して見せたのだ。
「随分と驚いているようですねサラさん。」
「えぇ、想像以上だわ。
これが貴方の実験していた事ね?」
「えぇ、擬似的にガイアメモリのデータを製作したメモリ...."ギジメモリ"とでも名付けましょうか。
そのメモリの力によりコブラメモリにライフルの記憶を一時的に付加し強化してたんです。」
「凄いわね.....これが量産化されれば既存のメモリももっと売れるかもしれないわね。」
「それは現状難しいですね。
そのシステムの欠点は、適合するメモリの選定が難しく、使おうにもギジメモリ専用のドライバーが要ります。
そのコストを考えますと量産型と言うより特化する事を前提とした運用が良いと思います。」
「安いシャツではなく、一から採寸しデザインしたオートクチュールのスーツ...これはそんなイメージのシステムです。」
「なら、これは幹部の中でも信頼の置ける部下に渡したくなるわね.....まさかこれって!」
「えぇ、これは僕達が使う手駒用に誂えたシステムですよ。」
「これがあれば有能な人間に渡したプロダクトメモリを強化することで生存能力を上げられますし、無能にも低レベル....少なくともマスカレイドメモリより強いメモリを与えて反感を防ぐと共にちょっとした強化も行えると言う算段です。」
ミュージアムの構成員の持つメモリが弱いのは、
来人がいなくなったこと以外にも強いメモリは生産するのが難しいのが理由として上げられる。
原作でもメモリを強化するアダプターが作られたがそれはミュージアムが崩壊してからだ。
結果的にその力も仮面ライダーに使われてしまうのだが
そんな事を二人は呑気に話しているが、
二人の周りは地獄そのものだった。
黒炎と岩で部屋は彩られ、監視用だったモニターにも亀裂が入っていた。
そして、当の二人も無事ではない。
サラは片腕を斬られ炎によるダメージが至るところにあり無名は両手足を石により絡め取られ石化が始まっていた。
「それにしても驚きましたよゴーゴンメモリには」
そう言う無名にサラも返す。
「貴方のデーモンメモリも驚きよ?
あの武器も相当な物だったじゃない。」
「しかし、貴女には勝てなかった。」
そう、結果として無名は動きを封じられ石化を待つだけだった。
「抜け出そうと思えば出来るでしょう?
それに本気で殺しあったら話も変わるはずよ。」
「けど、それは目的じゃないですよね?
面子を通すのに僕の命がいるのならまずいですが」
そんな会話に毒気が抜かれたのか彼女の瞳が光ると身体の石化が解除され、身体を拘束していた石が波のように動き元の地面へと戻る。
「今回は引き分けってことにしましょう?
それでも獅子神なら悔しがるでしょうけどね。」
そう言うとサラは斬られた腕を拾い付けると完全に接着された。
「これもゴーゴンメモリの力ですか?」
「まぁ、そうね。
ゴーゴンって言うのは個人の名前じゃなくて三人の姉妹を表す名前なのよ。」
「確か、ステンノー、エウリュアーレ、メデューサの三人ですよね?」
「そう、私のメモリはその三人の力を宿しているの。
ステンノーとエウリュアーレは不死身だったって伝承もあるからこの再生能力もそこから来てるのかもね。」
そう言うとメモリを引き抜き二人は元の人間へと戻った。
(そう言う意味で言うとデーモンメモリも怖いんだけどね。)
メモリとの適合率が上がればその記憶の力をより多く引き出せる。
サラのゴーゴンメモリの力もガイアドライバーⅡにより変身を続けた結果、適合率が上がった産物だ。
つまり、元から高い適合率を誇る無名がどういった変化を遂げるのかサラには全く分からなかった。
(と言うより今、彼の適合率は上がっているのかしら?)
その疑問をサラは口にしなかったししても無名は答えなかったろう。
何故なら、当の本人も知らないからだ。
自分の適合率が今どうなっているのかを......
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第三十話 交錯するR/闇夜の悪夢
黒岩と無名の戦いが終わった水音町の夜....
そんな中で一人の男が血塗れの状態で走っていた。
息が切れて今にも倒れそうだが、構いはしない。
あの悪魔から逃げるためなら何だってする!
きっかけは天井に貼り付けられた仲間の死体と悪魔の姿を見た時だ。
あまりの恐怖に声を上げてしまう。
「うわぁぁぁぁ!」
「なっ、何だ?」
その声に反応した仲間がこちらに駆け寄るが、
こちらに到着することはなかった。
背後から腕で胸を貫かれその血と臓物が最後の一人である俺にかかった。
そして俺はその恐怖から逃れるため人質を無視してビルから逃げたのだ。
路地裏に逃げ人気の無い場所に向かう。
俺の手には三本のメモリが握られていた。
偶然、拾うことが出来た同じイニシャルの入ったメモリ。
それを持って逃げ回っていたが突如背後から光が見えると上からコンクリートが降ってきて道を塞がれてしまった。
逃げ道はもう無い。
後ろからはゆっくりと近づいてくるあの悪魔がいた。
人のいない夜の闇の中で起こる悪夢...覚める手段は何もない。
(マッタク...テコズラセル。)
リーゼは最後の敵を追い詰めるとそう思った。
無名から頼まれた人質の救出....コンピュータードーパントの残したエネルギーの痕跡から人質の場所を特定したまでは良いが、予想よりも人間がひ弱だったのを忘れていたリーゼは敵が逃亡するのを許してしまった。
腰に止めているタブレットで人質の場所を添付したメールを黒岩や無名に送ったから、後はこの男を仕留めれば、仕事は完了だ。
ガイアメモリの影響により知能が上がったリーゼはピグミーマーモーセットと呼ばれる小猿でありながら、人間クラスの知能と思考能力を得ていた。
発声機関が未熟なため言葉は話せないが、
それでも思考には言語が使われている。
(コイツヲ、ハヤクシマツシテカエロウ。)
そう考えていたが、現実が自分の思うように進まないことをリーゼは知っていた。
男は持っていたメモリの1つを起動した。
「
メモリを差し込むと身体から木の幹が生え巻き付くと怪物へと変身した。
そのまま、リーゼへと向かっていく。
リーゼは向かってきたドーパントの腕を掴むと腕力に任せて引きちぎった。
「ぐぎやぁぁぁあ!」
ドーパントは痛みからのたうち回るが暫くすると千切れた箇所から木が生えて腕が再生した。
(コイツ....サイセイノウリョクガアルノカ。)
リーゼが警戒度を上げるとドーパントはもう1つのメモリを取り出すと起動した。
「
そして、先程と同じようにメモリを身体に挿す。
すると、メモリは身体に全て入らず"半分だけ入った状態"で少し止まるがその後、身体に吸収された。
すると、ドーパントの身体を更に木が覆い巨大になっていく。
大きさがリーゼを超えると下にいるリーゼをドーパントが睨む。
「もっとだ....もっと"力"がぁぁぁ!」
もう姿だけでなく声すらも変わってしまったがまだ強くなる為、大きくなったドーパントは身体から生えた木でメモリを持つと起動した。
「
そして、メモリを差し込むがそこに付いていた生体コネクターから火花が上がる。
だが、それを無視して無理矢理メモリを突っ込むとメモリは吸収され、身体から生えている木が黒く変色する。
大規模な身体の変質が起こりそれは辺りの建物にも伝播する。
黒い木が放射状に広がりリーゼに向かってくる。
それを腕で叩き落とすがその際、火花が上がる。
(コレハ....フツウノ"木"ジャナイ)
リーゼは背中の翼を広げると空中に退避する。
サイカッドメモリ.....ソテツの記憶を宿したメモリ。
通常このメモリが持つ力は欠損した肉体をある程度治せる"再生能力"だけだったが、三つの計算外がこの人間を強くした。
1つは、この人間とサイカッドメモリの適合率が高く一本だけならそこまでメモリの毒素の影響を受けなかったこと
もう1つは試作品の簡易型コネクターにはメモリの個人登録機能がなくメモリの使い回しが可能だったこと
最後は、彼がサイカッドメモリを三本所持していた事である。
この三つの計算外が彼を黒い樹木の怪物へと変身させたのだ。
ソテツは蘇鉄と表記される...それは何故か?
この植物は幹に鉄を打ち込むと木が復活したと言う話から由来されている。
そう....このメモリは鉄を吸収できるのだ。
度重なる同種メモリの使用により肉体に蓄積されたソテツの記憶が鉄と反応しメモリに変化が起きた。
"鋼鉄の性質を備えた木"のドーパントとなったのだ。
「グオァァァァ!...シネェェェ!」
くぐもった声を発しながら黒い樹木の塊となったドーパントが空中にいるリーゼに向かって木片を飛ばす。
鋼鉄の硬さを持った木片が高速で襲ってくる。
(ホントウニヤッカイダ。)
リーゼは攻撃をかわしながらドーパントに攻撃を加えようとするがリーゼの鋭い爪でも火花が上がる程度で傷1つ付かない。
すると、背後から現れた樹木への反応が遅れたリーゼは木の成長に巻き込まれ身動きが取れなくなってしまう。
「トドメダァァァ!」
螺旋状に変形した木がリーゼに向かって飛んでくる。
そこで木により拘束されたリーゼの怒りが、限界に達した。
(オゴルナヨ...人間ガァァァ!)
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第三十一話 Dの怒り/雷鳴の悪魔
風都でも有名な財閥である園咲家と並ぶ、
禅空寺家の当主がである禅空寺義蔵が進めていたプロジェクトにより作られた生命。
人間の悪意により産まれた存在でもあった。
リーゼの身体に纏わりつく木とは思えない冷たい感触。
この感触がリーゼの古い記憶を呼び起こす。
リーゼが産まれたのは、同じ種族の母からではなく細胞を培養する装置に設置された試験管の中だった。
"自然との共存のため人間との融和が図れる種族を造り出す。"
そんな目的のためにリーゼは産み出された、
遺伝子操作により知能を上げれたリーゼは、産まれた頃から実験動物として拷問を受けてきた。
知能テストに失敗すると首の装置から電流を流される。
逃げようとしても腕に付けられた金属の鎖がそれを阻む。
そんな人生が続けばリーゼが"人間を恨む"のは当然の帰結だった。
では、何故"人間である無名"に従っているのか?
彼に何故かシンパシーを感じたのもあるが、一番の理由はリーゼを実験動物としてではなく一個の生物として扱ってくれたことだ。
最初に引き取られた時、リーゼは何度も逃亡を繰り返そうとしたがデーモンドーパントになった無名に何度も止められていた。
(ヤッパリ、コイツモオナジナノカ。)
そう思っていたが、リーゼのメモリとドライバーが完成し手渡されると、逃亡することを止められることが無くなり、3日間帰らなくても何も言われなかった。
不思議に思ったリーゼは無名にタブレットで問いかけた。
「何故、私を捕まえないのか?」と
そうして返って来た答えを見てリーゼは無名と共にいることを決めたのだ。
場面は変わりリーゼはサイカッドドーパントによる拘束により過去の記憶を呼び起こされた怒りでデビルメモリの力を発動した。
突如、リーゼの身体が発光すると身体を拘束していた樹木が消し飛んだ。
リーゼの身体から"火花"と"電気"が走る。
デビルメモリの能力は"雷と電気"の操作。
これによりリーゼの身体には落雷と同じエネルギーが常時、流れている状態となる。
リーゼがサイカッドドーパントがいるであろう樹木の中心に向かって突撃する。
その速度も雷と同等にまで加速されているため、
一瞬で樹木の中心を貫いた。
鋼鉄の固さにまで強化された樹木をである。
中にいたサイカッドドーパントの腹部から下半身に至るパーツがリーゼの突撃により消滅する。
それを再生しようとするサイカッドドーパントの上半身に、右手に収束した雷の塊を放った。
雷が空気を破り衝撃波を放ちながらドーパントに直撃すると、サイカッドドーパントは雷の力により炭化する。
そして、"一本になったサイカッドメモリ"も排出されるが雷のダメージにより本体ごと吹き飛んでしまった。
(シマッタ!)
その光景を見たリーゼは我に返る。
そう、リーゼは殺そうと思えば強化されたサイカッドドーパントを"何時でも殺すことが出来た"のだ。
しかし、メモリを残したまま殺せれば無名の研究の役にたつと考えて手加減していたのだ。
しかし、昔の記憶が甦り手加減を忘れた結果
ドーパントになっていた人間は炭屑となりメモリも粉々に破壊してしまった。
(ヤッテシマッタ....ハァ、シカタガナイカ。)
リーゼはメモリを抜き元の小猿に戻ると、
近くに置いていたタブレットに向かった。
付近に監視カメラでもあれば、少しはデータが残っているだろう。映像だけだがそれでも十分に無名の研究に役立つはずだ。
「僕は
貴方は実験動物として産まれました。そこは事実です。
しかし、だからと言って今後もその人生を歩む"義務"はありません。
私は"貴方の自由"を否定しませんよ、リーゼ。」
無名はリーゼを否定せず認めた。
なら、私も認めよう無名を....そして自由への対価を払う。
そう思ったリーゼは無名に部下としてついていくことに決めたのだ。
(ナツカシイ記憶ヲオモイダシタナ。)
そうして冷静になったリーゼが先の戦闘により破壊された自分専用のタブレット(彼の娯楽品でもある)を見つけてまた怒り出すのも当然の帰結であった。
「ふふっ....リーゼにしては珍しいミスですね。」
タブレットではないリーゼの端末から、人質の安否に関する報告とサイカッドドーパントに関するメール(新しいタブレットの請求込み)を受けた無名は微笑む。
「リーゼってあのお猿さんのこと?
可愛いのに有能なのね。」
サラがそんな僕を見て言う。
「えぇ、とても優秀な部下ですよ。」
サラとの戦いが終わるとお互い治療のためにホテルのレストランの個室で食事を取っていた。
ドーパントから受けたダメージを回復させるには自然治癒以外に回復に特化したメモリの力が必要だ。
故に、サラの部下を待っているのだ。
そんな話をしていると件の部下が現れる。
「来たのね美頭。
早速だけど私と無名くん二人分頼めるかしら?」
「勿論ですサラ様。」
ネイビーのスーツにオールバックの姿をした好青年がそう答える。
彼の名前は
サラの部下でありサラの管理している地区のメモリ流通を纏めている腹心だ。
彼が懐から小型のドライバーを取り出すと腰に着けて銀色のメモリを取り出し起動する。
「
メモリをドライバーに挿入すると身体から黄金の光を発し、ドーパントへと変身する。
そして、僕達二人に手を向けるとそこから暖かい光が発せられ身体の傷が治っていった。
そして、数秒も経たない内に二人の傷が完治する。
「ありがとう美頭さん。
相変わらず凄い力だ。」
無名のその言葉に美頭は返す。
「それもこのドライバーのお陰ですよ。
改めて有難うございます。幹部様三人の部下である私達のドライバーの調整もしていただいて....」
無名はリーゼのドライバーを作った際、獅子神とサラの部下のドライバーも作り渡していた。
サラは感謝の言葉を言って持っていき、獅子神は相変わらずの不機嫌な顔で持っていったが
無名は身体の調子を確認すると立ち上がった。
「あら?もういくの?」
サラの問いに答える。
「えぇ、ギジメモリを使ったドーパント強化の結果を琉兵衛様に報告しなければいけないので」
「それもそうね。
こっちも事態を収拾したら琉兵衛様に報告に向かうわ。」
「分かりました。
そう伝えておきます。」
そう言うとその場を後にする。
(新しいシステムの実験をしたかっただけなのに
こうなるとは...)
無名は自分の運の悪さに苦笑しながら琉兵衛にアポイントを取ると次の日、園咲邸へ向かうのだった。
「作者からの報告」
新しいガイアメモリについて解説する番外編を書こうと思うのですが最近、重い内容が多かったのでちょっとコメディタッチで書こうと思います。
具体的にはネット版仮面ライダーWの様な感じです。
それで相談なのですが、
メモリを紹介する人物は誰が良いのかアンケートを取りたいと思います。
取り敢えず、候補をアンケートに出しますが他にも出して欲しいキャラがいましたら感想欄にお書きください。
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第三十二話 Dの怒り/猫猿の仲
園咲邸へ着いた無名とリーゼは大広間に通された。
そこには冴子と琉兵衛、そしてミックがいる。
そして、軽い挨拶もほどほどに無名は報告を始めた。
「ギジメモリを使いドーパントを強化する"アクセサリーシステム"の試験稼働は順調です。」
アクセサリーシステム....ギジメモリをまるでアクセサリーの様に使いドーパントを強化する様からそう名付けた。
「これも全て冴子様との共同実験のお陰です。」
バイラスとジーンメモリを使った実験。
あれは現存するガイアメモリの中でもっとも融和率の高かった組み合わせであったがお互いに出力が高く、結局その巨大な力に使用者の肉体は耐えられなかった。
ドライバーを使っても同じ結果になると考えた無名はギジメモリに目を付ける。
仮面ライダーWの世界でメモリガジェットを起動するために使われたメモリで地球の記憶を持たず、ガイアメモリのデータをベースに作られた人工メモリだ。
故に音声もガイアウィスパーではなく機械による音声となっている。
ガイアメモリと比べるとどうしても出力が弱くなってしまうがこのシステムを使う分にはむしろ好都合だ。
融和による毒素の増大をギジメモリと専用の"腕部ドライバー"により軽減させることで無事に強化実験が成功した。
「成る程、それで実際の成果はどうだったのかね?」
琉兵衛の問いに無名は答える。
「メモリの出力が上がりコブラメモリに遠距離攻撃の特性がつきました。
メモリユーザーの体調にも然したる変化や不調はありません。」
「実験は成功というわけか。
それで現段階のデメリットは?」
「先ず、使用するガイアメモリと適合するギジメモリの選定に時間がかかることと、そのメモリとユーザーの相性によっては弱体化する危険性があることですね。」
コブラとライフルギジメモリが融和したのは一重に黒岩との適合率が両方高くなっていたからだ。
「つまり、メモリ使用者の中でギジメモリを使用する選別を更に行う必要があると?」
「はい、来人様がいれば選別も早く出来たのでしょうが....」
そう、こう言った情報は星の本棚で検索すると簡単に分かるが、もう彼はミュージアムにはいない。
その事を言うと冴子が僕を睨んでくる。
自分の汚点を掘り返されたと思ったからだろう。
「ですので来人様が戻るまでの代案としてこちらをお持ちしました。」
そう言って無名は二人に資料を渡す。
「これは?」
「人工知能による学習システムです。
これを使って擬似的な星の本棚を作り、
ギジメモリの選定やガイアメモリの複製....
最終的には新たなガイアメモリの開発を行おうと思っています。」
その資料を二人が見る。
そこには島1つを丸々使い整えた設備に、特殊な人工知能とガイアメモリを使い大量のデータを収拾、
擬似的な星の本棚を作り上げる計画がかかれていた。
「随分と壮大な計画だが....場所は決めているのかね?」
「はい、現在研究所として使っているあの島を使おうと思っています。」
ドクタープロスペクトが所有していた研究所は広大な土地があり、また地下施設を作れば色々なものが準備できることは調査した際に分かっていた。
「でも、肝心の人工知能はどうするの?
それだけ大量のデータを管理して選別する物なんて貴方に作れるのかしら?」
冴子の問いに無名は首を横に振る。
「残念ですが私の知識では不可能です。
ですので、外部から専門の研究者を雇い入れたいと思っています。」
「彼等の内、一人でも協力してくれるならこの計画を実現するのも夢ではありません。」
「実に興味深い提案だ。
それでその相手とは...」
ここで会話が打ち切られる。
何故ならば外が屋敷の中が騒がしくなっていることに三人とも気付いたからだ。
そしてその原因にも......
「申し訳ありません琉兵衛様。」
「構わんよ...しかし、仲良くできないものかねあの二人は」
「"ミック"も無視すれば良いのに構うから付け上がるのよ。」
そう言うと三人は会話を終わらせて騒音の元へ向かうのだった。
Another side
無名と共に園咲邸に着き大広間に到着したリーゼは目の前にいる猫、"ミック"から耳障りな思念波を受ける。
『慇懃無礼な"小猿"がここに何のようだ。』
『礼儀すらはらえないお前よりマシだ"ダメ猫"。』
ミックから受けた思念波を同じ波長で返し会話をする。
ガイアメモリに適合した動物が行える会話の一種である。
因みに人間には聞こえない。
無線のようにお互いの周波数を会わせる必要があるからだ。
逆に周波数さえ合えば饒舌な会話を行うことが出来る。
以下のやり取りは全てその思念波で行われているものである。
『我が主人が呼んだのは無名であってお前ではない。
廊下に控えていろ。』
『ふん!そんな事を貴様に決められる筋合いはない。
私は無名の意見に従う。』
『.....貴様ッ!』
ミックの顔が不機嫌に歪む。
ミックはリーゼの事を嫌っている。
リーゼもミックを嫌っていた。
具体的な理由はない...ただ根本的に性格が合わないのだ。
その為顔を会わせる度、喧嘩をしている。
『貴様が琉兵衛の部下の飼い猿じゃなかったらこの場で処刑してやるものを....』
『ミュージアムの二大処刑人だったか....
人間でも無い猫に与えるには過分な立場だな。』
『黙れ...我は園咲家の家族だ。
貴様とは立場が違うのだ。』
『そうだろうな....
だから"お腹回りの肉"がまた増えたのか?』
ミックは触れて欲しくない悩みをリーゼに突かれた。
最近、料理人が変わって作る餌が前より美味しくなった結果、食べ過ぎてしまっていたのだ。
そして、その事を家族である若菜に言われて少し気にしていた。
因みに若菜には「ちょっとポッチャリした?ミック。」と言われただけだが本人的にはかなりショックだった。
『よく回る口だな。
貴様は一度、日光の三匹の猿が彫ってあるオブジェでも見て大人としての振る舞いを学んできたらどうだ?』
恐らく、"見ざる聞かざる言わざる"の事を言っているのだろうがその言い方が逆にリーゼの神経を逆撫でした。
『私は日本猿じゃない外来種だ。
そんな事を分からないとはお腹の脂肪が頭にもついてしまったのではないか?』
ブチッ!...もし人間ならこう言う言葉を使うだろう。
何故なら今のでミックは完全に怒ってしまったのだから
『もういい...場所を変えるぞ。
貴様に目上への礼儀を叩き込んでやる。』
『出来ないことをほざくな"デブ猫"。』
そう言うと二匹は部屋を後にする。
尚、この時、琉兵衛と冴子は無名からの報告を聞いていて完全にミックの事を忘れていた。
ミックとリーゼは屋敷を進むとミック専用の室内運動場がある部屋へと入っていった。
ここはミックが入れるように扉の下に小さな入り口が作られていた。
二人ともそこを通り中に入るとお互いにドライバーを付ける。
ミックは首輪型でリーゼは腰に付けるベルト型だ。
そして、リーゼは地面に置いたメモリを手でミックは鼻で押した。
「
「Devil」
そして、お互い勢い良くメモリを投げると端子側を背中のドライバーでキャッチしてドーパントへと変身した。
変身が完了するとミックが高速で近付きリーゼを爪で切り付ける。
しかし、その動きにリーゼは反応し逆に蹴りを浴びせようとするがその蹴りに両足を乗せて飛び上がると回転し地面に着地した。
『ほぅ、お腹に脂肪がついてる割には言い動きだな"ダメ猫"。』
『貴様の攻撃など止まって見えるわ"クソ猿"。』
互いに罵りあうとリーゼは頭部の角から雷を生成するとそのまま、ミックへ攻撃する。
ミックはこれを反射神経と高速移動で回避するが、部屋の家具が雷によりボロボロになる。
ミックもお返しとばかりに目から光弾を発射するがリーゼは肉体に雷を纏うとこれを回避する。
そして、高級な絨毯に穴が空いた。
互いの攻撃が高級な屋敷の家具や部屋の装飾を破壊していくが本人達はお構い無しで攻撃を続ける。
あのいけすかない面に一撃当てたい....それしか考えていなかった。
しかし、この戦いも終わりを告げる。
「いい加減にしなさいミック。」
「リーゼ....止めろ。」
飼い主である琉兵衛と無名がやってきたからだ。
二人とも部屋の状態を見てかなり怒っていた。
後ろから現れた冴子が頭を抱えている。
「こんなに部屋を壊して...一体何をしているんだミック。」
「リーゼ、お前もお前でこんなことをして何を考えている。」
そうして、この惨状を見た琉兵衛は1つの決断をする。
「ミック...暫くの間おやつは抜きだ反省するように」
『そっ...そんな!ご主人様、全てはこのクソ猿が悪いのです。』
『はっ!ざまぁないなデブ猫がっ!』
「リーゼ、お前もだ。
タブレットの買い換えは暫く無しだ。
お前も良く反省するんだな。」
『うっ!.....無名、誤解なんだ!全てこのクソ猫が悪いんだ。』
お互いに焦っているのだろう聞こえる筈のない自分達の周波数で思念波を送りながら口で弁明しようとしているがお互い喋れないのでこうなっている。
「ゴアッ!ゴアゴア!」
「ギィーッ!ギャッギャゥ!」
しかし、そんな弁明など通じるわけもなく琉兵衛から二人に命令が下る。
「私達が戻ってくるまでに壊したものを片付けておくように....もし逃げたりしたら分かっているね?」
恐怖の帝王による恫喝を喰らい二人が黙ったのを了承と受け取った三人は部屋を後にした。
『オイ!クソ猿。』
『何だ?クソ猫。』
『我はお前が嫌いだ。』
『奇遇だな私もだ。』
『だが、これ以上の喧嘩はお互いの利益にならない。
そうだろう?』
『腹立たしいがその通りだ。』
『それじゃ、始めよう。』
そうミックの思念波を受けとると二人はトボトボと部屋の片付けを始めるのだった。
そんな二匹を他所に部屋を出た琉兵衛は思い出したように無名に尋ねる。
「そう言えば、スカウトしたい研究者とは誰なのだ?」
その問いに無名は答えた。
「"クリム・スタインベルト"博士と
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第三十三話 巡りあうS/復讐の剣
「はい、もう大丈夫ですよ。」
笑顔で告げると少年は笑顔で私に言った。
「"井坂先生"ありがとう。」
「どういたしまして、軽い風邪でしたからもう安心ですよお母さん。」
そう言うと母親も安心したように笑う。
そうして私が微笑んでいると少年が尋ねた。
「井坂先生は僕が病気じゃなくなって嬉しいの?」
「あぁ、
そう言うと少年と母親は嬉しそうに帰っていった。
私があの二人を見て笑ったのはちょうどこの前、"焼き殺した子供と親"にそっくりだったからだ。
表の仕事は、井坂内科医院を営む評判の良い開業医であるが裏ではドーパント専門の闇医者をしているマッドサイエンティスト。
日夜メモリの研究を欠かしたことはない彼はメモリを使いこれまで何人もの人間を殺害してきた。
全てはあの日見た恐怖の帝王....あの男の使っていたメモリを手にする為に
ここ数日、彼はとある噂を調査していた。
水音町に怪物が複数出現した...そんな噂だ。
井坂は時計を確認する。
もう患者が来る心配はないだろう。
ならば、真相を確かめなければ....
井坂は白衣を脱ぎ黒いスーツに着替えると水音町に向かうのだった。
計画を聞いた琉兵衛は偽装工作としてディガルコーポレーションを経由して二人と会うことを提案してきた。
"ディガルコーポレーション"は風都に存在するIT企業で裏ではガイアメモリの流通と人体実験を風都で行っていた。
因みに社長は園咲 冴子だ。
僕はそこで琉兵衛に進言し、二人に会う際にとある人物を借りたいと提案した。
疑問は出たもののこれまでの無名の功績のおかげもあり琉兵衛から簡単に許可が降りた。
そうして、会合を終えると反省しているリーゼを連れて園咲邸を後にした。
すると、そこで携帯に着信がかかる。
開くと黒岩からメールが入っていた。
実は黒岩とはあの一件以降、僕とサラの二人である契約を結んでいた。
それは"僕らの依頼を叶える代わりに娘と妻の治療を手助けする"と言うものだ。
治療にサラの部下である美頭の持つスフィンクスメモリが必要だった為、彼女を巻き込んだ。
結論として快く協力してもらった。
この前の一件の礼もあるだろうが、俺と獅子神どちらと組む方が得か考えての行動なのだろう。
結果、娘は意識を取り戻し妻も順調に回復している。
今も病院でリハビリを行っているそうだ。
サラが黒岩に何を求めたのかは知らないが僕が彼に求めたのは情報だった。
"定期的にドーパントになってとある人物を探してもらう"その条件を彼に頼んだ。
そうしてどうやら成果があったようだ。
メールにはこう書かれていた。
『探している人物を見つけた。
今は水音町にいるようだ...と』
僕は水音町に向かった。
彼女....."シュラウド"に会うために
Another side
シュラウドが水音町に来ていたのは復讐に燃える男。
鳴海荘吉に変わり来人と共に園咲 琉兵衛を倒せる存在、そんな彼の復讐心を育てつつ強くするのが彼女の目的だった。
今回は完成した武器を彼に渡す為、ここに呼び出した。
少し待っていると上下真っ赤なライダースーツに身を包んだ男がやってきた。
「完成したのか?」
その問いにシュラウドが指を指すとその場所に火が上がり一本の剣が現れる。
「これは?」
「"エンジンブレード"。メモリを使って戦う武器よ。
これがあればドーパントにダメージを与えられる。」
「俺はまだお前の言う仮面ライダーにはなれないのか?」
照井の問いにシュラウドは答える。
「まだ、ダメ。
もっと憎しみの力が無ければ....」
照井は文句を言いたそうだったがエンジンブレードに触れ地面から抜こうとするが抜けなかった。
「これは!?何て重さだ!」
「これぐらい使いこなせないようじゃWのメモリを持つ者には勝てないわよ。」
その言葉を受けると照井の表情は怒りに歪み力任せに剣を引き抜いた。
「使いこなして見せる....必ず!」
「良い覚悟ね...これもあげるわ。
その剣に指すことで力を発揮するメモリよ。」
そう言うとシュラウドは「E」のイニシャルが入ったメモリを照井に投げ付けると姿を消した。
(まだ、この男を来人に会わせるのは早い。)
私が唯一信頼していた鳴海壮吉は来人を助けるために死んだ。
今は弟子であった男が来人を守ってはいるが、あの男では恐怖の帝王には勝てない。
だからこそ、照井 竜が完璧に仕上がるまで代わりに戦ってもらう。
例え壊れても構わない....来人が無事ならばそれで良い。
来人はあの事件の影響で自分の記憶を失くし、フィリップと名乗っている。
けど、暫くはそれで良いのかもしれない。
記憶を失くしているのなら園咲 琉兵衛に気付かれる危険性は減る。
唯一の懸念点は新しく幹部になった三人の存在だ。
家族以外信じてこなかった琉兵衛が初めて認めた他人の幹部。
そんな彼等の功績は凄まじい。
先ずこの水音町は"サラ"と呼ばれる幹部のテリトリーでここでもメモリの販売や実験は行われているがそれは表沙汰になったことはない。
どうやら、権力者と強いパイプがあるのか警察官である照井でさえ迂闊に捜査が出来ないでいた。
そして、もう一人獅子神と呼ばれる存在。
風都の財閥である獅子神家の現当主である彼は、天ノ川市でガイアメモリの取引を行っている。
そして、"レオグループ"と呼ばれる会社を作り続々と傘下を増やしていった。
最近では宇宙関係の研究にも資金を提供している。
だが、それよりも危険だと思っているのは無名と言う男だ。
幹部の中でガイアメモリ流通の仕事をしておらず研究者もして活躍しているがその功績は尋常な物ではない。
新型のガイアドライバーの開発、最近ではドーパントの強化にギジメモリまで作り出していた。
はっきり言ってこの男は危険すぎる。
私が琉兵衛の元を離れたのは来人を助けるためだが、それ以上に私がいなければ琉兵衛の計画が進まなくなる確信があったからだ。
彼はガイアメモリについて詳しくても、あくまで歴史学的観点からでしか見ることはできない。
ガイアメモリに精通し実際に開発できる人物は私だけの筈だった。
だからこそ、あの時に捕まえるもしくは殺せなかった事が悔やまれた。
そんな事を考えていると付近の警戒のため展開していたメモリガジェットの一体が警告音を発する。
誰かが私に接近してきたのだ。
「誰?」
その問いに昔よりも成長した男が答えた。
「お久しぶり....いや、"初めまして"の方が良いですかね?
シュラウドさん。」
そう言うと無名が私の前に現れるのだった。
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第三十四話 巡りあうS/無名の目的
目の前に現れた無名にシュラウドは警戒し、
赤色の銃、"シュラウドマグナム"を向ける。
それを見た無名は両手を上げながら話す。
「僕に貴方と争う気はありません。
というより"出来ません"。」
「出来ない?....どういう意味?」
「ワードメモリについて知っていますね?」
「執事の師上院が使っていたメモリね....貴方彼と契約をしたの?」
「厳密には三人の幹部全員しています。
そして、その契約のひとつに"園咲家の家族に手を出してはならない"という項目があるんですよ。
それは少なくとも園咲 琉兵衛が"家族"だと認識している者には例外無く適応される。」
いくら、テラーのメモリの影響を受けていてもシュラウド...園咲 文音は琉兵衛の妻であり家族。
敵になったとしてもその認識は変わらない。
「確か、ワードメモリは取引の対価が平等でなければ成立しないメモリの筈....成る程あの人が貴方達を信用している理由が分かったわ。」
自分に危害が向かずかつ戦いに来たわけではないと分かるとシュラウドは銃を下ろす。
「私の正体も分かっているのなら目的は何?
私の事をあの人に話すつもり?」
「いいえ、琉兵衛様....いや琉兵衛に話すつもりはありません。
今回も部下への挨拶と説明していますし」
組織の敵である自分の存在を話さないと言う無名の言葉にシュラウドは疑問視する。
「なら、何のために私に会いに来たの?」
「1つ目は同じガイアメモリの研究者として会うため、
そしてもう1つは"共同研究"をしたいのです。」
「共同研究?」
「僕は貴女の行ったガイアメモリの純化方法とそれに類するドライバー開発の知識が欲しい。
たしか、貴女の作り出した次世代メモリは毒素を限界まで除去しているのですよね?」
劇中で
「それを使ってどうするつもり?
貴方が仮面ライダーにでもなるのかしら?」
仮面ライダー....確かに魅力的な言葉だが僕には重い。
それは町の平和を守るヒーローに与えられる名だからだ。
「この先の為の保険...とだけ言っておきます。」
そう言う無名にシュラウドは少し考える。
「私のメリットは何?」
「先ず、貴女がこれから行う計画や実験、隠れ家や居場所に関わる全ての情報がミュージアム...いえ琉兵衛に漏れないように取り計らいます。」
「口では何とでも言えるわ。
あの恐怖の力に対抗できないのならば....」
「対抗できますよ僕は...」
「!?」
無名の言葉にシュラウドは驚く。
「僕のメモリにはあらゆる物体や事象を消し去る力が宿っています。
恐怖と言う感情と行動は精神が起こす"事象"です。
故にこのメモリの力が使えます。」
「なら、何故貴方は琉兵衛に従っているの?
あの男の計画を知らないのかしら。」
「知っていますよ。
地球の記憶と直結する人物を産み出し強制的に現人類を進化させるガイアインパクト。
改めて言うとすごい計画ですよね。
常人ではとても思い付かない。」
(その事実を知ってもさして興味を抱いていない貴方もやはり常人とは思えない。
メモリと人間は惹かれ合う....
彼のメモリはデーモン...悪魔のメモリ。
やはり、危険だわ。)
シュラウドは無名に対して更に警戒心を上げる。
その姿を見た無名は内心毒づいた。
(本当に面倒くさい家族ですよ園咲家の人は....
やはり、こちらの弱味を何かしら提示しないと納得しないか。)
そうして無名は交渉の為に持ってきたとあるデータを見せようとするがここで思わぬ来客が来る。
「おや?....お話し中でしたかな。」
そうして現れたのは黒いスーツに丸みを帯びた帽子とステッキを携えた男、井坂深紅郎であった。
井坂を見たシュラウドは声を荒げる。
「井坂!....良くも私の前に姿を現せたわね。」
「おぉ、怖い怖い。随分と嫌われてしまったようだ。
私は貴女の望み通り、恐怖の帝王を倒すため協力していると言うのに」
「関係ない人間を大量に殺すことが協力?
やはり、お前にメモリを渡したのは失敗だったわ。」
「はっはっは!それこそ最早手遅れと言う言葉がピッタリな話ではないですか。
このメモリはもう私の手元にあるのですから」
そう言うと井坂は懐から「W」のイニシャルが書かれた銀色のメモリを取り出す。
「
そして、起動したメモリを耳に指すとウェザードーパントへと変身した。
「私がこの町に来たのは新しく現れたドーパントのメモリを手に入れるためだったのですが貴女がいるのなら好都合だ。」
「貴女の持っているメモリを.....戴きますよ。」
そうして、井坂がシュラウドに攻撃しようとするのを無名が間に入り止める。
「おや?貴方はどなたですか?
邪魔をするのなら消してしまいますよ。」
僕はその言葉を無視するようにドライバーを着けるとメモリを取り出し起動した。
「Demon」
ドライバーに装填することでデーモンドーパントへ変身する。
「ほほう...貴方も普通じゃないとは思いましたがまさか幹部の方だったとは!」
「悪いですが今は大事な話をしている最中なんです。
お引き取り願えますか?」
しかしそんな無名の提案を井坂は聞かない。
「私は運が良い!
まさか、ゴールドメモリを手に入れられる"チャンス"に巡り合えるとは! そのメモリ...確かデーモンと言ってましたよね?
お前の様な若造よりも私の方がその悪魔のメモリを使うのに"相応しい"。」
あまりにも傲慢な言い分に無名の口調が変わる。
『本当に傲慢だな....人間。』
「.....?」
その言葉にどちらが疑問を浮かべたのかは分からないが井坂は気にすること無く無名へ攻撃を仕掛けるのだった。
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第三十五話 Wとの対決/狂人の遊戯
私はその力にメモリに心を奪われた。
あの恐怖の力....欲しい!
そして、今目の前にいる悪魔にも同じ感情を抱いている。
園咲 琉兵衛とは違う力の形....これがあれば、
恐怖の帝王にも勝てる...そう思えるのですよ。
先制は井坂が生み出した雷による攻撃だった。
僕はそれを自分の上空に黒炎を出すことで無効化する。
「黒炎に触れた瞬間に雷が消えた!.......
実に興味深いメモリですね。
一体どんな能力を持っているのですか?」
「攻撃してきた相手に話すと思いますか?」
「ははは!道理ですねっ!」
雷では埒があかないと思った井坂は腰に付いている武器"ウェザーマイン"を手に取ると無名に攻撃する。
無名は黒炎で防御しようとするが黒炎の隙間を縫うように放たれる攻撃にダメージを受ける。
しかし、直ぐ様、黒炎を刀に変化させると攻撃を弾いた。
「ほう!武器を作ることも出来るのですか。
良いですねぇ。もっと私にそのメモリの力を見せてください!」
井坂の表情が狂喜に狂ったものとなる。
彼にとって敵の強さなど関係ない。
大事なのはメモリの強さと能力なのだ。
そして、それを手に入れるためならどんな労力も惜しまない。
(とはいえ、このままでは状況は停滞してしまいますね。)
そう考えると井坂の周りに水、風、火、雷のエネルギーが集まる。
「それを僕に放っても黒炎で消すだけですよ。」
また、同じ結果になると無名は言うが標的は無名ではなかった。
「えぇ、貴方に当てるのならそうでしょうが....
彼女にはどうですかねっ!」
そう言うと井坂は四つのエネルギーをシュラウドに向けて放った。
(マズイ!)
無名は急いでシュラウドの前に立つと攻撃の盾になる。
ワードメモリとの契約は園咲家の家族への危害と攻撃を禁ずる物、もしこの攻撃がその危害に該当するなら契約違反となってしまう。
生成していた武器を解除し黒炎でゲートを作るとシュラウドを中に放り込んだ。
次の瞬間、無名に井坂の作り出した四つの天候で作られたエネルギーが襲う。
大量の水の圧力によるダメージ。
都市を麻痺させる程の強烈な竜巻。
太陽の熱を集約させたような光球弾。
威力を極限まで上げて色が変化した雷の攻撃。
その全てが無名の身体に命中した。
ろくな防御も出来ずに正面から攻撃を受けた無名は大量のダメージにより地面に崩れ落ちる。
身体からは煙を放っておりそのダメージが与えた損傷を物語っていた。
(勝った。)
井坂はそう確信した。
メモリは排出されていないが今のダメージを諸に受けて立っていられる筈はない。
これはウェザーだけの力ではない。
これまで井坂がその"身体に蓄えてきたメモリの力"も使っている。
反動で井坂の身体にも損耗が見られるが動けない程じゃない。
(先ずは彼の身体からメモリを取り出す方法を考えないといけませんねぇ。
恐らく、あのドライバーはメモリの毒素を排除する物でしょう。
なんと"つまらない道具"を使っているのか....
毒素の無いメモリなどスパイスの効いてない料理と同じだと言うのに)
メモリの毒素を取り入れることがドーパントの力を強くさせる近道だと井坂は思っており、メモリの"直挿し"を彼は推奨していた。
井坂はデーモンメモリも直挿しするつもりで、無名の身体からどうメモリを摘出するか考えていると、異質な雰囲気を倒れている無名から感じた。
一体なんなのだ?.....そして井坂は気づく。
何故、無名は"人間の姿"に戻っていないのか?
あれだけのダメージを受けたのならメモリが排出されてもおかしく無い筈なのに....
すると、無名はゆっくりと立ち上がり自分の身体と周りを見た...そして笑い出した。
『あはははははははは!』
そうして井坂を見て言うのだ。
『"久し振りの外出"だ...楽しませてくれよ?人間。』その声と存在は無名からかけ離れた者だった。
Another side
黒炎の中に落とされたシュラウドは井坂と無名から少し離れた場所に転移していた。
無名は地面に倒れ、井坂は疲労がありながらも立っていた。
シュラウドは自分が助けられたのだと理解すると、
シュラウドマグナムにメモリを起動し装填する。
「
そして、無名を助けるために井坂の元へ向かうのだった。
これは善意の感情ではなく井坂より無名の方が琉兵衛を倒す目的に使えると判断したからだ。
井坂はメモリの力に呑まれて人間としてのたがが外れている。
それに比べればまだ無名の方が理性的だと考えたからだ。
しかし、その考えも間違いだったと気づく。
シュラウドが到着するとそこには黒炎により燃やされ苦しみながら死んでいく井坂とそれをじっと見つめる無名がいたからだ。
そして無名に話し掛けようとするがここでシュラウドが気づく。
この男は無名ではない。
「貴方は一体誰?」
そう言いながらデーモンドーパントに銃を向けるシュラウド。
姿は無名だ....だが何かが違う。
別の何かが無名に入っている..そう感じたのだった。
そいつは私を見ると答えた。
『そんな事を知ったところで意味は無い園咲文音、その情報は君の知る必要が無い事だ。』
その声を聞いたシュラウドはまるで琉兵衛の対峙しているかのような錯覚を味わう。
自分の知らない未知と会話しているそんな状況だった。
そして、夜が静かに更けていった。
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第三十六話 Wとの対決/現れる魔
井坂は目の前の現状を理解出来ないでいた。
確かに無名は私の攻撃を受けて動けなくなっていた筈なのに今の彼にはダメージが全く無かったのだ。
「貴方にはかなりのダメージを与えた筈ですが、
それもメモリの能力ですか?」
それに対して無名は答える。
『井坂 深紅郎....ガイアメモリの狂気に取りつかれた悪魔....か、過分な評価を受けているな?』
まるで、私の情報を今、見たかのような発言をする彼に私は尚更興味を持った。
「面白いですねぇ貴方のメモリは...やはり使ってみたい。貴方を殺してでもね!」
そう言って攻撃しようとするが身体がピクリとも動かなくなった。
正確には両手足が縛られたかの様な体勢になる。
その姿は十字架に張り付けにされたようだった。
「こっ...れは...いっ..たい?」
『君の周りの重力の指向性のバランスを消したんだ。そのせいで君の身体はこの世界から弾かれた存在となっている..それだけだよ。』
『本当は"出てくるつもり"は無かったんだが、彼を殺されるのは困るのでね。余計な手出しをさせてもらうついでに....』
『この身体に傷をつけた罰も与えよう。』
無名はそう言って指を上に向けると空が一気に暗くなった。
町にある街灯や月の明かりすら無くなってしまったのだ。
「なっ!お前も天候を操ることが出来るのか!」
井坂の問いに無名は答える。
『違う、空を見てみたまえ。私はただ、空と黒炎を入れ換えただけだ。』
『時に質問だが井坂 深紅郎。』
『"黒炎の雨"に打たれた事はあるかね?』
そう言うと空に流れる黒炎から細長い水滴の様な何かが降ってくる。
それが井坂の身体に当たると黒い炎が巻き上がった。
「ぐっぐぁぁぁぁ!」
『黒炎を凝縮させた雨だ。ゆっくりと苦しみながら死ぬといい。』
黒炎の雨は井坂の周りでのみ降り続ける。
その雨が当たる度に井坂の身体を焼き尽くしていく。
ダメージの限界が来てメモリが破壊されても雨は続き、井坂の絶叫が響き渡る。
そして、ピクリとも動かなくなり命が失われた時にシュラウドが現れた。
そして、無名を見るや銃を向ける。
「貴方は一体誰?」
シュラウドの問いに無名は笑う。
『そんな事を知ったところで意味は無い園咲文音、その情報は君の知る必要が無い事だ。』
そう言うと井坂のいた方向に無名は目を向ける。
それに合わせてシュラウドも井坂の遺体を確認しようとするがそこに遺体は無かった。
「どういうこと!井坂は確かに貴方の手により死んだ筈よ。」
『そんな事をすれば物語が変わってしまうからね。彼には罰も与えたから"書き換えた"のだ。』
「書き換える?どういうこと?」
『君にヒントを上げよう園咲 文音。私は君や鳴海壮吉と何度も会った事があるのだよ。君達がその記憶を失くしているだけでね。』
その言葉を受けてシュラウドは考えた。精神操作系の能力なら何らかの異常が必ず起こる筈、何度も会っているのなら無名を見た瞬間、違和感があっても不思議ではないのに無かった。
まるで"そんな歴史その物が無くなった"かのように...
歴史?....無名は言っていた「書き換えた」と...
まさか!? あり得ない、そんな能力が存在していい筈が無い!
シュラウドが目の前の悪魔に目を向ける。
きっと彼は私が真実を知ったことが分かったのだろう。
"笑っていた"。
「まさか....貴方は記憶を!?」
『ではサヨウナラ園咲 文音。また"会い"ましょう。』
そう言うとシュラウドも"姿を消す"のだった。
無名は白い空間に本が大量に並ぶ世界に足を踏み入れた。
正確には無名ではなく原初の魔神なのだがそんな事はどうでもいい。
無名は部屋に向かって呟いた。
『検索対象....記憶
キーワード"シュラウド" "井坂深紅郎" "無名" "水音町"』
すると、本棚が動き一冊の本が現れる。
表紙には「memory」と記載されている。
中を捲りながら探してるページを探す。
『あった』
そこにはあの時に起きた事態が事細かく書いてあった。
【井坂深紅郎は無名による攻撃で死亡し、それをシュラウドに目撃された。】
無名は羽根ペンを取り出すと黒い炎を纏わせてその部分を書き直した。
【井坂深紅郎は風都で急患を見ており水音町に現れず、無名とシュラウドは無事取引を終えて協力関係を結んだ。】
そう書き終えた本を無名が手放すと、その本は本棚にしまわれ、記憶の"改変"が行われた。
そして、少しすると本棚はいつもと同じく正常に稼働し、全てを正しく誤認して動き始めた。
一仕事を終えた無名はさっきのシュラウドの表情を思い出し笑う。
やはり、彼女は変わらない。
"園咲家の人間を皆殺しにした時も"
"来人がNEVERになった時も"
"左 翔太郎にその命を奪われた時も"
いつも、気付くのが遅い。
その度に僕が書き換えながら物語を楽しんでいることにも気付かず、彼等は自分達がこの世界を作り出していると本気で思っている。
愚かで傲慢な人間よ....故に愛おしくも面白い。
だからこそ、期待しているよ
もっともっとこの世界を面白くしてくれ。
そして、僕を.......
『もっと"笑顔"にしておくれ。』
勇気とは、恐怖に抵抗することであり、恐怖を克服することである。恐怖を抱かないことではない。
~マーク・トウェイン~
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第三十七話 KとBとの出会い/利用する者
風都に拠点を構えるIT業界の一流企業。
社長である園咲 冴子の手腕により今なお業績を拡大している。
そんな企業から仕事のオファーを受けた2人の科学者、"クリム・スタインベルト"と"蛮野 天十郎"はディガルコーポレーションの応接間に通されていた。
そこに二人の人物が現れる。
一人は社長である園咲 冴子...もう一人は無名と名乗る青年であった。
目を覚ました僕はベットから起きると昨日の事を思い出そうとした。
身体は汗びっしょりで悪い夢を見た後の様な感覚だった。
何かとても恐ろしい事があった気がするのだが、
思い出せない...まるで自分が操られたかの様な錯覚をするが、携帯に入っていたメールにはシュラウドから無名との研究協力の受諾と隠れ家への地図が添付されていたので、その結果を重要視した。
因みに無名は携帯を複数使い分けており、この携帯はミュージアムも追跡できない無名お手製のデバイスだ。
(これでメモリの純化技術は手に入った。
知っておいて損は無い情報だ....それにシュラウドが計画を進めればWも成長しエクストリームの力も手に入る。
僕にとっては都合が良い。)
僕は自分達だけ強くなることは望んではいない。
ヒーローである彼等も平等に強化されるべきだと考えていた。
そんな事をしていると携帯にメールが入る宛名は冴子からで内容は『例の科学者達との話し合いの場が整った』と言う事だった。
クリム・スタインベルトと蛮野天十郎...彼等は仮面ライダーWの世界に直接関わる事のない人物だ。
彼等は仮面ライダードライブに登場するキャラクターなのだから。
クリムはドライブの変身の要となるベルトであり、蛮野はそんなドライブ達の前に立ちはだかる最大最悪の敵なのだ。
では、何故そんな彼等がWの世界にいるのか?
それはWの世界とドライブの世界が地続きになっている事がドライブのVシネで語られたからだ。
照井警視と泊巡査、そして剛との絡みはまた見たくなるほど面白かった。
(特に福井警視の下りと照井の親バカ感がたまらない。)
話がそれたがこの世界でも繋がっているのか調べたらクリムと蛮野はこの世界に実在しまだ理論段階ではあるがコアドライブシステムとロイミュードの研究もちゃんと行っていた。
そんな彼等の技術をドライブ開始まで置いておくのは勿体ないし実際に彼等と会いたい感情から僕の計画に組み込む事に決めたのだ。
だが、問題もある。
それは二人の性格だ。
クリムは独特の正義感に人間味溢れた情を持ち、
蛮野は幼稚な精神性と天才的な技術、傲慢な野望を隠し持っていた。
故にクリムにミュージアムの事を知られると相性が悪くまた、蛮野は放置すると何を仕掛けるか分からない危険性をはらんでいた。
これは"騙しあい"だ。
恐らく、蛮野も仕掛けてくるだろう。
互いを利用し裏切る算段を持ちながらの交渉。
難しくはあるが嫌ではない。
中々に楽しめる....そう彼は思い予定の時間に間に合わせるためシャワーを浴びて準備をするのであった。
Another side
ディガルコーポレーションに呼ばれた蛮野とクリムは各々、違う感情を抱いていた。
クリムは自分の研究が認められ社会の役に立つかもしれない期待感。
蛮野はこれから話す人物が自分の野望のために利用できるか出来ないのかの品定めをする感覚だ。
「我々の研究がこんな一流企業の目に止まるとは思いもしなかったよ蛮野」
そんなクリムの問いに蛮野は答える。
「そうだな俺達の研究を彼等がどう使うのか楽しみだよ。」
蛮野は張り付けた笑顔でクリムに伝える。
クリムはその事に気付かずにいた。
元々、他者の感情を見抜くのが苦手な男だ。
研究一筋で妻もいない......
"利用する"にはもってこいの人物だ。
蛮野がそう評価していると応接間に高級スーツを来たキャリアウーマンの様な女性と同じくスーツを来た青年が入ってくる。
「お待たせしました。
私は園咲冴子...このディガルコーポレーションの代表取締役をしている者です。
横にいるのはアドバイザーである...」
「無名と申します。」
「無名?随分と珍しい名前ですね。」
クリムの問いに無名は笑顔で答える。
「良く言われますが、僕はこの名前を気に入っているんです。
それに皆さん僕の名前は忘れないので、取引の場では重宝しているんですよ。」
その無名の笑顔を見た蛮野は確信する。
(コイツも私と同じだ。
笑顔に本心が見えない...何かを隠しているな。)
クリムはバカ正直にとらえているが私には分かる。
コイツは他者と自分を使えるか使えないかで判断出来る人物だと
そして挨拶も程々に無名が私達を呼び出した理由を語った。
「孤島に新たなエネルギー産業を起こす...ですか。」
クリムの問いに無名は答える。
「はい、クリムさんが開発している新しいエネルギーシステムを使いそれを紛争地域や貧困に苦しむ者達へ安価で渡すためのエネルギー施設を建設するのが目的です。」
「その為にクリムさんにはエネルギーを蛮野さんにはそれを制御するシステム面の開発をお願いしたいのです。」
「私の研究を見ていると言うことはその制御システムに使うのは...」
「はい、人工知能を採用しようと思っています。
リアルタイムで状況を分析し判断する...それが出来れば不測の事態にも対応できると思いまして」
「勿論、お二人の研究はまだ草案の状態ですので我がディガルコーポレーションが研究資金や施設、他全てのバックアップを行いましょう。
そして、研究が完成したらそれを孤島にある施設に組み込みます。」
そうして、無名はその際に保証される事柄を資料として二人に見せる。
あまりにも破格な対応にクリムは純粋に感動しているがここまで無名が話すと蛮野がこちらに話し掛ける。
「貴方の言い分と計画は分かりました。
だが、もしそれだけなのだとしたら私は"この仕事を断ろう"と思います。」
「なっ!蛮野。何を言っている?」
クリムの問いに蛮野が答える。
「貴方達が欲しているのは我々の研究成果だ。
それを悪事に利用される危険性が無いとも言えない。
貴方達では無く別の誰かに利用される可能性だってあります。」
その言葉にクリムはハッとした。
確かにその通りだ私の研究であるコア・ドライビアは起動する際、重力波に
蛮野の研究もだ。自己成長型アンドロイドの開発を目的としているが、それも悪事に利用しようとすればいくらでも方法が浮かんだ。
「お二人の懸念は尤もです。
では、どうすればお二人に納得していただけるでしょうか?」
無名の問いに蛮野が答える。
「研究が完成しシステムが出来た後、それを孤島に付ける作業にも関わらせてくれ。
自分達が責任を持って対応する。」
蛮野の意見にクリムは感動した。
少し人間味が薄い印象だったが、心にはちゃんとした正義感を持っていたのだと分かったからだ。
(君のような親友を持てて私は幸せだよ。)
クリムはそう考えたが蛮野の目的は全く違った。
そんな事を知るよしもないクリムと無名であったが蛮野の提案を聞いた無名は二人に話し始める。
「分かりました。
では契約を行っていただけますか?」
無名の契約と言う言葉に蛮野は反応する。
「契約?書面をここで作るのか?」
「いいえ、口頭での約束で構いません。
私は貴方達を信頼していますので」
そうして無名は口頭で守って欲しい事を話していく。
"会社の不利益"になることをしない。
"私達の知らないシステム"を組み込まない。
"お互いが契約"を履行している間は"仕事を放棄"しない。
「それで破ったらどうなるんだ?」
「そうですね...命を戴きましょうか。」
その言い方にクリムは驚くが蛮野は冷静だった。
「我々を殺すのか?」
「いえ、命と言っても色んな捉え方が出来ます。
本当の命以外にも科学者ならば成果や名声なんかも言う場合がありますしね。
でも、私は本当に命をかけて貰いたいと思う程、このプロジェクトに賭けているんですよ。」
そこで、蛮野は返答した。
「良いだろう自分の研究のためならば命ぐらいくれてやるさ。」
「蛮野!本当にいいのか?」
「構わないさ...お互いに裏切らなければ済む話だ。
そうだろう無名さん。」
「えぇ、その通りです。
クリムさんには"記憶"を賭けて貰いましょうか。
計画の重要性からも蛮野さんよりも申し訳ないですがクリムさんの方が低いので....」
「良いじゃないかクリム....記憶を賭けても
俺を信じてくれ。」
蛮野の後押しもありクリムは了承した。
すると、無名は笑う。
「これで安心しました。
二人のことはもう信用します。
では、研究に進展があったら連絡してください。
また、必要なものも言ってくださいね。」
そう言うと無名と蛮野、クリムの対話は終わるのだった。
そんな内容だ。
話し合いが終わった蛮野とクリムの二人は風都を後にしていた。
クリムは先程の会話に不安を覚えるが、蛮野の心配ないと言う言葉を信じそれぞれの自宅へと戻った。
蛮野は自宅に戻ると堪えていた笑いが漏れだした。
「....ふっふっふっふっ..あっはっはっはっは!」
本当にバカは扱いやすくて助かるよクリムもあの無名と言う男も...そして俺達の会話をアホ面で聞いていたあの女社長もだ!
"口約束"に何の意味がある?"書面で残さず"信用する?
馬鹿すぎて笑うのを堪えるのが大変だったぞ!
まぁ良いこれで私の欲しい物は手に入った。
潤沢な資金に研究する施設、そしてクリムの作る"コア・ドライビア"。
共同研究になるのだからクリムも喜んでそのデータを渡してくれる筈だ。
これで、私の考えていた自立成長型アンドロイドの完成形"ロイミュード"を作ることが出来る。
行く行くはその孤島のシステムも戴いてしまおう。
プログラムを少し弄っておけば、いくらでも抜け道を作ることが出来る。
やはり、バカとは罪だな。
私の思惑に気付かずに信用と言う意味の無い精神の状態にすがる.....全くもって愚かだ。
やはり、愚かな人類を管理するには天才の私が相応しい。
"全ての人類を神である自分が管理する世界"
その野望に手が届くきっかけを得たことに蛮野は興奮を隠しきれないのであった。
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第三十八話 KとBとの出会い/天才の弱点
無事、話し合いが終わりクリムと蛮野がその場を後にすると冴子が話し始めた。
「本当に貴方の言う通りになったわね無名。」
「えぇ、彼等が"天才"で助かりましたよ。」
その表現に冴子が反論する。
「天才?こんな簡単に操られる様な彼等が有能だとでも言うの?」
冴子が見た限りクリムは本当に正義感と人類の発展を願うだけのただの科学者だ。
しかし、蛮野あの男は違う。
自分は上手く隠せていると思っているようだが、
ミュージアムであらゆる策謀と暗躍を行ってきた冴子から見ると何かしらの野望を抱きその為に我々を利用しようとするのが見え見えだった。
「天才は一から十の事柄を知ります。
故に膨大な知識とそれを利用する術を持つことが出来るのです。」
そう、現にクリムと蛮野はドライブだけでなく仮面ライダーの科学者から見ても天才の部類に入るだろう。
ドライブの敵と味方のシステム、アイテム、ストーリーに関わる全てのファクターをこの二人が作り上げていたのだから、だからこそ、彼等は僕の使った策が読めないと確信していた。
「けど、逆に言えば"一を知れなければ何にも分からない"人種なんですよ彼等は」
人間は知らないことに不信感や恐怖を抱く生き物だ。
だが、天才は違う。
何故なら、"全て知っている"と思い込んでいるからだ。
この世界の限られた事象をほんの少し操る術を身に付けただけで自分が全能者になった錯覚をし出す.....
蛮野が良い例だ。
天才の自分こそが世界と人類を管理するのに相応しいと本気で思っている。
傲慢だが強ち間違った考えではない。
知識とは力であり人類発展の象徴だ。
そしてその結晶が科学と言う分野なのだから.....
だからこそ彼等はミスをしたのだ。
自分達の知る科学以外の存在。
「彼等はガイアメモリを"知らなすぎる"んですよ。」
恐らく、風都の噂すらろくに調べてこなかったのだろう。
だからこそ、この未知の技術とその危険性に気付けなかった。
「それじゃあ"師上院"さんからの成果を聞きましょうか。」
すると部屋の壁や家具の隙間から文字が現れると一ヶ所に集まり人型の姿へと変わって行く。
そうして、ワードドーパントを形作ると冴子に報告する。
「冴子様、クリム・スタインベルト、蛮野 天十郎との契約が完了しました。」
そう言うと空中に文字が浮かび契約書が姿を現す。
師上院は身体を文字に分解して応接間にずっといたのだ。
「ワードドーパントの効果範囲内にいれば契約の締結が出来る....流石ね師上院。」
「光栄です。」
そうやって頭を下げる師上院に無名が話し掛ける。
「では、師上院さん貴方の新しい力で"契約書の編集"をお願いできますか?」
「貴様に言われなくても分かっている。」
そう言うと目の前にある契約書の一文に師上院は触れた。
「契約対象である"会社"を類似点のある"組織"及び"ミュージアム"に変更。
そして"不利益"を"離反"に変更。
そして"互いの契約"を"組織間の契約に変更"これで研究者側の契約は不履行になる。そして"仕事の放棄"を"組織への裏切り"に変更、これで編集を行う。」
師上院がそう書き換えると契約書の内容も変わる。
これがワードメモリの新しい能力だ。
契約にしようした単語を類似する意味の言葉に変えることが出来る。
謂わば連想ゲームなのだが、言葉を上手く組み合わせることが出来れば相手の対価を無効化しつつ自分の要求を飲ます契約も作れる。
この能力の恐ろしいところは契約が締結してからも契約内容を編集することが出来る点だ。
そして、それは相手に知らせる必要もない。
知識無きものは何も手に入れられない。そんな事を現すメモリに相応しい能力だ。
「これで、あの男達はミュージアムを裏切れないわね。
それにしても何でクリムだけ記憶を代償にしたの?
蛮野と同じく命にすれば良かったのに...」
「二人の高名な研究者が死んだら怪しむ人物が出てくる筈です。
だからこそ、クリムには記憶だけ無くして生きてて貰った方が都合が良いんです。」
無名はそう言うが他にも理由があった。
それはスカルと対峙した際に実感した過去を変えた影響による余波である。
所謂、バタフライエフェクト。
Wのメンバーだけでも体一杯なのにここにドライブまで混ざりだしたら面倒なことになるのは目に見えている。
一番最悪なパターンがWとドライブが共闘しミュージアムを潰す事態だ。
そんな事をされたらこっちは対処する時間もなくやられてしまうだろう。
だからこそ、クリムを殺すのは組織ではなくロイミュードである必要がある。
そして、ロイミュードを作るには、蛮野にもっと勝手に物を作り始めて貰う事が必要だがそこは心配ないだろう。
取り引きの時に見た侮蔑の顔、あれを見ただけで蛮野が僕の知る仮面ライダードライブの蛮野だと分かったのだから.....
後は時間が物語を進めてくれる。
そう考えて無名は冴子に挨拶し部屋を出ていこうとすると、その冴子に呼び止められる。
「待ちなさい無名。貴方、明日の予定はお父様から聞いているわよね?」
「明日...ですか? 申し訳ありません、存じてません。」
「(....やっぱりお父様は私に)私ね"結婚"するのよ。」
「それは....おめでとうございます。」
「ありがとう。
それでその披露宴が明日あるの....幹部である貴方は強制参加よ。」
(遂に来たか.....)
無名は原作が進み始めたことを理解しあえて冴子に尋ねた。
「それで、お相手はどなたなんです?」
「最近、風都でのメモリ販売で優秀な実績を残している男よ、名前は」
「
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第三十九話 不運なN/地獄の選択肢
ここに通されるのは普通のことではない何故なら、園咲家の面々全てが異形の怪物....いや
ここに私が呼ばれたのは試練だ。
僕が園咲の人間になり渡されるガイアメモリに適合できるかの.....
私は全裸の状態で園咲 琉兵衛いやテラードーパントがいる場所に向かう。
私は渡されたドライバーを手に持っていた。
このドライバーは園咲家の家族と認められた者にしか渡されない特別な物だ。
私は渡されたドライバーを腰に付ける。
すると、琉兵衛が一本の金のメモリを持ち私に言った。
「園咲家の者に渡されるメモリだ。
これで死ぬ場合もある...言い残すことはあるかね?」
私はその問いに余裕を持って答える。
「自慢の婿の誕生です。お義父さん。」
琉兵衛から受け取ったメモリをドライバーに挿し私は
無名は黒いスーツに身を包むと園咲邸へと向かった。
到着するとミックが出迎えてくれる。
周りをキョロキョロと探している姿に無名は言った。
「リーゼならいないよミック。
今回はお留守番だ。」
その答えにフンス!鼻を鳴らすと無名を会場へと連れていった。
そこにはミュージアムのメンバー以外にも財界の著名人や有名人が数多くいた。
その光景が園咲家が影響力を持っている証だ。
そうして、会場でゆっくりしていると見知った顔を二人見かけた。
「君達も呼ばれていたのか? 獅子神にサラ。」
サラは笑顔で答える。
「えぇ、私達は幹部ですしそれにこう言ったお祝い事は好きなのよ。」
獅子神は無名が来て一気に不機嫌になる。
「ふん! 優秀な自分以外が呼ばれてそんなに驚いているのか無名。」
「どういう意味だい?」
「そのままさ。
お前は狡く他人と協力して実績を上げているようだが俺は違う。
自分の力でここまでのしあがってきたんだ。」
「そう言えば獅子神くんの担当している地域って天ノ川地区だっけ?」
「そうだ。
そこで面白い男を見つけてな力で捩じ伏せて従属させたんだ。」
(天ノ川....もしかして)
「その男って
「!!.....知っているのか?」
「宇宙分野で有名な人だからね。」
無名が知っていたことに苛立ったのか喋るのを止めて酒を飲み始めた。
「サラの方は何か進展は?」
「特には無いわ水音町のメモリ販売も少し上手くいってないのよ。
"ある刑事"に邪魔されてね。」
「そうか。」
「でも、この前の取り引きで面白いおじさんにあったのよ。」
「私の"欲望"について聞かれて"生きたい"事だと伝えたら....」
「"素晴らしい!"生きるとは人間の持つ原初の欲望だ。
それを求め続けている君の人生はさぞ面白い物となるだろう。
そんな素晴らしい君と出会えたこの日を記念日にしよう!
"Happy Birthday"!!」
「....ってね。
余りに面白い人だったから私も気に入ったのよ。
彼、"鴻上ファウンデーション"って会社を運営してて私達の組織とも相性が良さそうだから今は仲良くしている最中かな。」
サラの言葉に無名は心の中で頭を抑える。
(フォーゼにオーズ....面倒事がどんどんと増えていくな。)
今は考えるのを止めよう。
そう思うと無名もパーティを楽しむのだった。
披露宴が無事に進み霧彦が外を歩いていると、
琉兵衛がおり話し掛ける。
「あぁ、お義父さん。」
「霧彦くん婚礼を行う前に君を一発殴らせてくれんかな?」
その言葉に霧彦が笑う。
「まるでホームドラマですね。
下っ端の私が娘さんを奪っていくからですか?」
その問いに笑いながら肩を叩きメモリを押す。
「Terror」
「園咲家の者は皆、我らミュージアムの中枢。
この街のいや、全ての人類の統率者だ。
君がナスカメモリを極めているか...それを確かめるまでは式を上げさせん。」
すると、そこに若菜が現れる。
「お父様、私が代わりますわ。」
そうしてメモリを起動しようとすると琉兵衛に止められる。
「若菜、霧彦くんの相手なら既に呼んである。
さぁ来たまえ、そして紹介しよう。
我らミュージアムの誇る幹部三人だ。」
琉兵衛の言葉を受けて獅子神とサラそして無名がその場に現れる。
「君が園咲家の家族になるのなら彼等を従えると言うことだ。
彼等に勝てないようでは、とても我が家族の一員として認めるわけには行かない。」
「彼等には君を本気で殺す様に命令してある。
だから霧彦くん、君も手加減は要らないよ。」
「ナスカメモリの力の一端を我々に見せてくれ。」
その言葉と共に三人はドライバーを腰に装着する。
そしてゴールドメモリを起動した。
「Leo」
「Gorgon」
「Demon」
「さぁ、霧彦くん選びたまえ。
君は誰と戦う?」
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第四十話 不運なN/調節された死闘
霧彦は三人の幹部を前に冷静に考えていた。
先ず第一に霧彦はこの三人の幹部に会ったこともなければ手合わせしたこともない。
元々、風都以外のメモリ販売の開拓を担当していた二人と孤島で研究をずっとしていると噂の幹部だ。
会うことすら難しいだろう。
私はドライバーを腰に付けるとナスカメモリを見る。
ナスカメモリを受け取ってから何度か使用したが同じランクのメモリを相手に戦えるかと言えば不安が残った。
故に戦う敵を選別しなければならない。
これは最後の試験だ。クリアすれば冴子と結婚し園咲の人間として迎えられる。
考えることはメモリの能力とナスカの相性が良さそうな相手を探すことだ。
普通ならレオメモリを選ぶだろう。
他のメモリはゴーゴンやデーモンと言った空想の産物が記憶となっているのだろう。
故に能力が読めない。
だがレオメモリは獅子の記憶を持ちながらゴールドクラスの能力を有している。
つまり、想像し得ない強大な力が隠されていると言うことだ。
リスクが高い。
次に気になるのはゴーゴンメモリだ。
ゴーゴン確か瞳を見たものを石に変える怪物か。
もし、本当にそのままの能力を持っていれば変身した瞬間に勝負が付いてしまう。
このメモリもリスクが高いな。
残るはデーモンメモリ。
デーモン...悪魔か?
こちらも能力は分かりづらいが翼が生えて炎を操るイメージがある。
三つの中なら"コイツ"だな。
「そこのデーモンメモリの青年。
君に相手を頼もうかな。」
「僕の名前は無名ですよ霧彦さん。」
そう言うと無名はメモリを装填し変身するのだった。
僕の持つ園咲霧彦のイメージはガイアメモリの魅力に取りつかれながらも外道にはなれなかった悪役というイメージだ。
出会いが早ければ正義の味方にもなれたそんな男だ。
だからこそ、彼が退場した時は悲しかった。
そして妹である須藤雪絵の登場。
あのストーリーは感動する良い話だがだからこそあの、バッドエンディングに納得が言ってなかった。
ここまで言えば分かるだろうが須藤霧彦、須藤雪絵は僕が助けたいと思っている人達であった。
だからこそ、この戦いは手を抜けないが、だからと言って本気で相手をしたくもない。そんな複雑な気分だった。
琉兵衛の前だからこそ手を抜いたら警戒される。
(仕方ない霧彦には苦労をして貰おう。)
そう決めるとデーモンドーパントとなった無名は霧彦と向かいあった。
霧彦は持っていたメモリを起動する。
「
そして、メモリをドライバーに挿すとナスカドーパントへの変身が完了する。
先制は霧彦からだった。手に集めたエネルギー弾を無名に放つ。
無名はそれを上空に蹴り飛ばした。
「ここの庭園は綺麗でお気に入りなんです。
よろしければこれで決着をつけませんか?」
そう言うと無名は刀を生成した。
「良いだろう。」
霧彦もそれに同調しナスカブレードを取り出すとお互いに斬り合い始めた。
霧彦は、素早い連撃で無名を追い詰めようとするが回避され一瞬の隙をついた抜刀をナスカブレードで受け止めるがその力に耐えきれず吹き飛ばされる。
「ぐっ!ならばこれはどうだ!」
ナスカウィングを広げて霧彦は空中から無名に攻撃を仕掛ける。
前よりも速度の上がった攻撃は無名も回避できないのか刀で攻撃を受けていく。
その戦闘を見ていた琉兵衛は獅子神に尋ねた。
「君の目から見て霧彦くんはどうかね?」
「メモリを渡されて時間がない割には良く使いこなしているとは思います。
しかし、だからと言って無名に有効打を与えられるとは思えませんね。」
「意外だね、君は無名くんを嫌っていたと思ったのだが」
「否定はしません。
ですが、それと強さは関係ありません。
無名は少なくとも幹部として認められるくらいには戦える奴です....気にくわないですがね。」
ここで、琉兵衛への説明を終えたが獅子神には無名が本気で戦ってないことが分かっていた。
(余裕かます暇があるならさっさとぶち殺せば良いものを、何がしたいんだアイツは?)
無名の意図が読めず獅子神はただ戦いを静観していた。
そして、その戦いを見ていた若菜は二人の強さに驚いていた。
(何だ?お互いにやるじゃない。)
霧彦は勿論だが無名とはミックとリーゼを通じてしか会ったことも話したこともなかった。
私が風都のアイドルとしてラジオ番組を受け持った時はケーキと花束を送ってくれたから、それなりに気が利くのは知っていたがここまで戦えるとは思っても見なかった。
膠着する戦いに霧彦は焦りを覚える。
(このままでは埒が明かない。
仕方がない....こちらから仕掛けるか!)
そう決めると霧彦はこれまでと違い仕留めるつもりで空中から剣を持ち急降下した。
その攻撃を受けて無名の武器は砕けて吹き飛ばされる。
(良しこのままっ...何!?)
霧彦は足に黒い鎖が巻かれている事に気が付いた。
良く見ると刀が砕かれたように見せかけて、鎖に姿を変えているのが分かる。
「捕まえましたよ。」
無名はその鎖を掴むと思いっきり地面に向かって叩き付けた。
それに追従するように私も地面に激突する。
そして、このまま弧を描く様に身体を地面で削られるとそのまま鎖で持ち上げられ地面に再度打ち付けられた。
そのダメージから展開していたウィングとブレードが壊れ霧彦の身体にも損傷が起きる。
そんな霧彦の姿を見て無名は言った。
「こんな程度ですか?
そんなんじゃ園咲家の一員になるなんて夢のまた夢ですよ。」
「なん....だと!」
「憤る力が残ってるなら早く立った方がいい。
でないと本気で死にますよ。」
そう言うともう一度鎖を上空へ振り上げる。
それに追従するように霧彦も空へ浮かぶ。
そして、その勢いのまま地面に振り下ろされた。
霧彦の頭に死のビジョンが浮かぶ。
(死にたくない!私にはまだやることが....)
そこで妹の顔が浮かぶ。
たった一言「お兄ちゃん」と笑顔で私を呼ぶその姿が...私が身体に力を込めるとその思いにメモリが答えた。
私の身体は地面にぶつけられるより速く動き、気が付くと折れたナスカブレードを無名の首もとへ向けていた。
すると、無名は両手を上げて私に言った。
「参りました。
貴方の勝ちです....構いませんよね琉兵衛様。」
その姿に琉兵衛は笑顔で答える。
「これで文句はないよ霧彦くん。」
Another side
琉兵衛が霧彦に三幹部との戦いを求めたのには理由がある一つは霧彦がナスカメモリのレベルを上げられる存在か見極めること
そしてもう一つは幹部達の実力を確認することだった。
特に無名....彼の力は確認しておきたかった。
恐らくだが彼には私の恐怖の力は効いていない。
文音が過去に言っていた精神攻撃に対する耐性があるのだろう。
確かに、幹部にはワードメモリによる制約により我々への反抗は出来ないようにしたが、どうも胸騒ぎがする。
まるで、何かを見逃しているような....もしくは忘れているようなそんな感覚だ。
だからこそ、霧彦くんと無名くんの戦いは興味深かった。
お互いに死力を尽くし霧彦くんはナスカのレベル2の力である"超高速"を使うことが出来た。
初期型のガイアドライバーでだ。
そう、霧彦くんに与えたのは無名が作ったガイアドライバーⅡではなく過去に私達が使っていたドライバーだったのだ。
恐らく、この一戦によりメモリの適合が早まるだろう。
その分、毒素も強くなり彼の命を蝕む。
だが、そのお陰でナスカメモリの謎が分かるのだ。
冴子が霧彦を婿に選んだ時は少し驚いた。
私は獅子神や無名の様な男を選ぶと思っていたからだ。
だが、構わない。
我がミュージアムにとって有用な存在ならば、
この男を家族として向かえよう。
例え、その先の未来が悲しい結末だとしても....
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第四十一話 止まらないA/赤き復讐者
サラと獅子神は自分の管理する地区へと帰っていった。
そして無名はと言うと鳴海探偵事務所に向かっていた。
きっかけは組織用ではない携帯からの着信だった。
宛名はなく一言「◯日、鳴海探偵事務所に来て欲しい」とだけ書かれていた。
恐らく、相手はシュラウドだろうが何故今、鳴海探偵事務所なのか分からなかった。
しかし、それでも興味の方が勝ち無名は指定された日にちに鳴海探偵事務所に向かう。
そして、事務所の扉を開けると左 翔太郎と鳴海荘吉の娘である
亜樹子が無名を見ると話し掛ける。
「あれ?もしかして依頼人の方?
だとしたらすいません私達これから別の依頼人と会いに行くんです。」
「なら、仕方ありませんね。
知人から腕の良い探偵と紹介されたんですが、
また来ますよ。」
そう言って無名が去ろうとすると翔太郎が止める。
「なぁ、あんた前にどっかで会ったこと無かったか?」
その問いに無名は答えた。
「さぁ、どうでしたかね?
もしかしたら、会ったかもしれませんね。」
そう言うと無名は事務所を後にした。
所変わって天ノ川市にある賭博場に警官が突入を行おうとしていた。
その一人に上下赤いライダースーツを来た照井 竜もいた。
そして、一斉に突入した。
「動くな!ここで違法賭博の疑いがあるので検分させてもらう。
令状も出ているから大人しくしていた方がいいぞ。」
しかし、その言葉に反して男が逃げようとするのを照井は殴り付けると腕を固めた。
「おい照井!やり過ぎだ!」
「すいません。」
そう言うと固めていた腕を離した。
ここ最近の照井は荒れていた。
ガイアメモリ犯罪は増えているのに一向にWのメモリを持つ仇と巡り会えない。
そして、その復讐のために必要なドライバーもシュラウドの言い分では完成までまだかかるらしい。
俺の唯一の対抗策はエンジンブレードのみだが、
あまりの重さにまだ満足には使えない。
だから、突入の際はバイクに置いてきていた。
(まだ、力が足りない。)
自分に復讐を行える力が足りないことに苛立ちを覚えていると一人の怪しい男を見つける。
ソワソワしており目の焦点が合っていない。
周りも不審に思ったのか同僚の刑事が声をかけようとすると一本のメモリを取り出し起動した。
「
メモリを額に突き刺すとドーパントへと変異する。
その姿に警官は驚き銃を発砲するが全く効いていなかった。
その行為がドーパントを刺激したのか刑事を持ち上げて投げ飛ばすと出口まで走っていった。
「待て!」
照井は後を追いかける。
速度はそこまで速くないのか追い付き身体にタックルするが全く効かず、照井はバイクに向かって投げられてしまう。
バイクにもろに当たるがお陰で取り付けていたエンジンブレードに手が届いた。
エンジンブレードを何とか持ち上げるとドーパントに振り下ろした。
この攻撃にはドーパントもダメージを受ける。
しかし、痛みを感じた箇所を触りながら呟く。
「痛いイタタイイタイ気持キモチいいキモキモチチチイイイ」
「何を言っている?」
照井の言葉にはまるで反応せず襲いかかってきた。
同じようにエンジンブレードを振るうが斬りつけても痛みを感じないのかすぐに向かってきた。
そのまま、照井の首を捕まえて締め上げる。
「がっ.....あっ!....」
呼吸が出来ず拳で顔を殴り付けるが力を緩める気配はない。
このままでは死ぬ...そう考えた照井は一か八かエンジンメモリを起動する。
「
そして、エンジンブレードを操作しメモリスロットを開けるとそこに装填する。
そしてトリガーを三度引く。
「
するとエンジンメモリの力によりブレードが帯電し始める。
そして、その刃をドーパントに突き立てた。
首を絞められているためお互いに感電するが照井はこれを気合いで耐える。
流石の威力に手を離すと脳天から真っ直ぐとブレードをドーパントへ落とした。
そのダメージによりドーパントの身体から砕けたメモリが出ると元の人間に戻った。
「はぁはぁはぁ....お前には聞きたいことがある。
そのメモリは何処で手に入れた?」
「メモ....メモリ?....これは大切な物....これがあれば神様....様?にもなられるんだ!」
所々の文脈に違和感が残るがそれでも会話は成立していた。
「答えろ!貴様はWのメモリについて知っているか?」
「あはっあは...メモリメモメモリリリ....」
(ダメだ全く話が通じない。)
照井は尋問を止めると彼の服にある膨らみに気付き探った。
すると、中から包装された錠剤が見つかる。
何の表記もなくそれにこの男が持っていたことから一般の市販薬で無いのは分かった。
すると、仲間である刑事がやっと追い付いた。
「はぁはぁ...さっきの怪物は?」
「この男だ。急に元の人間に戻った。」
照井は自分の力を隠したいため嘘をつく。
「そうなんですね....それにしてもあれって多分"ガイアメモリ"って呼ばれている奴ですよね?」
「何か知っているのか?」
「はっ....はい。
最近、天ノ川地区で都市伝説になっている話です。
何でも人間を越えた力を与えてくれる集団がいるとか何とか...」
「集団....」
(シュラウドが過去に言っていた組織のことか?)
「それではこれについては何か知っているか?
加害者であるこの男が持っていた。」
「!?それって
「何だそれは?」
「最近、ここと水音町で出回っている違法薬物....麻薬なんです!」
「水音町.....」
確か風都の姉妹都市だったか....
「この麻薬は副作用が殆ど無いと言う話で、
どうやらこの街の権力者もこの麻薬を使っているとか黒い話が絶えないんですよ。」
「それなら何故、薬のバイヤーを捕まえない?麻薬対策課は何をしているんだ?」
その警官は周囲を見て誰もいないの確認すると照井に耳打ちした。
「実はこれに獅子神家の人間が関わっていると言うもっぱらの噂で警察上層部も安易に手が出せない案件なんですよ。」
獅子神家、確か運送業で財を成した財閥だったか。
風都の園咲家の様な存在か....
「照井さんも気を付けた方が良いですよ。
最近、署で貴方が優秀だからこそ獅子神家に噛み付かないか不安に思ってる連中が多いんです。」
照井は超常犯罪を専門で行う刑事として警視庁からこの天ノ川警察署に出向して来ている所謂エリートだ。
彼のように接してくれる者もいれば嫉妬で対応する者も少なからずいた。
だが、そんなことは関係ない。
俺は復讐者である前に一人の警察官だ。
目を瞑っていい悪など存在しない。
「俺を止めることは出来ない。」
照井は早速、獅子神家に調査をかけるのだった。
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第四十二話 止まらないA/進む展開
無名は鳴海探偵事務所から出ると路地裏にシュラウドがいた。
「何をしているの?」
「貴女が鳴海探偵事務所に来いと言ったのでは?」
「だからって中に入るかしら?
貴方は彼等の敵なのよ。」
「その敵のアジトに僕を呼びつけた理由をお聞きしても?」
これ以上は不毛な会話だと思ったのかシュラウドが話を切り替える。
「前に話した協力について手伝って欲しいことがあるのよ。」
そう言うと地面を蹴りながら動く小型機械が現れた。
無名の近くにくるとメモリが排出されてノートパソコンへと変形した。
「面白い道具ですね。」
「新開発のメモリガジェット"ラビットソフト"よ。
中に詳しいデータが入っているわ。」
無名は中のデータを確認する。
そこには見知ったライダーが写っていた。
「"アクセルドライバー"ですか。」
「そう、私の協力者である男が使うドライバーよ。
この開発に協力して欲しいの。」
「随分と急ですね。
何か理由が?」
「貴方達、幹部のせいよ。
ここ風都以外でも活動の手を広めたせいでメモリに関する研究やデータが多くミュージアムに流れてしまった。
本当ならもっと時間をかけてドライバーを作って渡したかったけど、そんな余裕が無くなってきてしまったのよ。」
(これもある種のバタフライエフェクトか)
そう無名は思うとシュラウドに言った。
「分かりました。
開発に協力しますよ。
では、僕のお願いもしておきましょう。」
そう言うと懐に入れっぱなしにしていた普通のUSBメモリを渡す。
「ここに、あるメモリのデータとその保管場所が書いてあります。
貴女にはそれを復元して欲しいんです。」
「分かったわ。そちらは協力しましょう。」
「良かった....それじゃ先程の問いについて答えて貰っても?」
何故、鳴海探偵事務所に向かうのか?
「ここには私の研究データの一つである"メモリ浄化"に関する方法が記されたデータバンクを隠してあるのよ。
それを受け取りに来た。」
「随分と用心深いんですね。
自分の手元にではなくあそこに置いておくなんて...」
「荘吉は優秀な男だったから安心して任せられたのよ。」
「けど、どうやって取りに行くんですか?
探偵事務所のメンバーは依頼のため外に出ると言ってましたけど、中には彼がいるんですよね?」
「そこは安心して、今なら安全に中に入れるわ。」
そう言うとシュラウド専用のスタッグフォンを取り出して画面を見せる。
そこには何者かからの襲撃の相手をする仮面ライダーWの姿が映っていた。
Another side
事務所に急な来客があったが今はそれよりも頼まれていた仕事が優先だ。
バイクをぶっ飛ばしたお陰で遅刻することはなかったが依頼人からは小言を言われてしまった。
「全く、貴方達にはプロとしての自覚がないのかしら?」
今回の依頼人である女性、市会議員である楠原みやびとその娘の楠原あすかは自分達の護衛を頼んできた。
誰かからの脅迫を受けたらしい。
楠原みやびはまだ小言を言い足りないようだが、
講演会の時間が迫っているので中断すると娘と一緒に壇上へと向かっていった。
家族を使って政策をアピールする姿は見ていて気分の良いものではなかったが、亜樹子からも仕事だから割りきれと言われた。
楠原は警察にも相談したようで、講演会の場所にはマッキーもいた。
俺がマッキーと睨み合いの喧嘩をしていると突如、講演会の場所が銃撃された。
俺は亜樹子と共に楠原親子を守る。
だが、銃撃が収まる気配が無い....仕方ないので亜樹子にメモリを構える動作をして変身の意思を伝えるが全く伝わらない。
(あー、もうクソ!)
俺は指でWのマークを作るとようやく理解した。
俺は変身できる場所を探しダブルドライバーを腰につける。
そして、懐からメモリを取り起動する。
「
「「変身」」
二人の掛け声と共にフィリップのメモリが転送されてくる。
俺はそれをドライバーに押し込み自分のメモリも押し込むとドライバーを開く。
「
その音声と共に身体が変化し俺達は仮面ライダーWサイクロンジョーカーへと変身した。
変身が終わり彼等の元に戻る時、撃ち込まれた弾丸をキャッチした。
フィリップは狙撃位置が断定できない点からドーパントによる攻撃だと推察する。
少しの攻防の後Wが狙撃場所に向かうがそこには誰もいなかった。
「全く余計なことばかりしやがるなあの親子は...」
メモリを抜き人間の姿に戻った
彼は"風都第二タワー"の建設予定地の地主であり、ミュージアムのメンバーとして地下でガイアメモリの製造の責任者をしていた。
楠原の父親を殺した張本人でそのお陰でタワーの建設は延期になっていたのだが、奥さんが議員になったことで状況が変わった。
面倒だがやはり報告しないといけないだろう。
俺は上司である冴子様に連絡を取るのだった。
連絡を受けた冴子は部下の無能さに苛立ちながらも解決策を模索していた。
「仕方がないわね。
鷹村....残りの"親子"も殺しなさい。
私達の組織にとってそいつらは邪魔よ。」
そうして電話を切ると聞いていた霧彦が話し始める。
「我が奥さんながら随分と冷酷な命令だね。」
「全く、無能な人間が多すぎて嫌になるわ。」
「なら、私が彼等に釘を刺してこようか?」
「......いえ、良いわ。
貴方は傷の回復に努めて。まだ無名との戦いのダメージが残っているでしょう?」
この言葉に霧彦は顔を歪める。
お父様には認められたが戦いは圧勝と言うわけではなく正に薄氷の勝利であった。
数日はたったがまだ、身体の傷は完全に癒えてはいなかった。
しかし、冴子はそれを情けないと評することは出来ない。
何故なら相手はあの無名だ。
過去にスカルと協力者の使う車に追いかけられながらも生き延びた男。
私もスカルとは相討ちが精一杯だった。そんな無名にギリギリでも勝てたのだ、合格点は出しても良いだろう。
(霧彦さんがもっと強くなりたいのなら無名に調整させるのも悪くないかもね。)
そんな事を考えているとふと思い付いた。
(あの無能が今度はどんなトラブルを起こすか分からないわ。
保険は掛けておくべきね。)
そう言うと電話を取り連絡を取った。
数コール後、電話が繋がる。
「はい、無名です。」
彼にトラブルの保険を頼むことに冴子は決めた。
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第四十三話 泳ぐS/謎の敵
ここにはフィリップがいるのだが、今彼はWに変身しており精神は別のところに行っている。
だから、入られても気付かないのだ。
正確にはある程度は繋がりがあるのだがその対策も万全だった。
スパイダーショックにメモリを挿し込むとマキシマムが起動する。
「
幽霊の記憶を持つメモリの力により我々の存在が知覚出来なくなった。
スパイダーショックの付近ならば恐らく話しても問題ないのだろう。
シュラウドがコンクリートの壁に指を指す。
「ここよ...ここにデータを入れたケースがある。」
「成る程、それでどうやって取り出します。」
「私なら取り出せるわ下がってて....」
そう言うとシュラウドの腕がコンクリートの壁をすり抜けると中からアタッシュケースが1つ出てきた。
「貴女もメモリを使っているんですね。」
その問いにシュラウドは答えず出口へ向かう。
「もうここでの用事は済んだ。
来人にバレる前に帰りましょう。」
無名はその言葉に従い部屋を出ていくのであった。
そして、アタッシュケースを無名が受け取ると中身を確認した。
複数の端子が付いている大きな装置だった。
「確かに....ドライバーの開発はどうしますか?」
「出来れば直ぐに取り掛かりたいけど貴方との繋がりがバレるのは避けたいわ。」
「では、ここに開発に必要な装置とデータを持ってきてください。」
その画面には風都の端にある建物の住所が書かれていた。
「これは?」
「とある狙撃手から教わった安全なセーフハウスです。
ミュージアムもこの存在は知りません。」
「不安でしたら1週間後にここに集まることにしましょう。
それまでの間にミュージアムの面々が来たらここは使いません....如何ですか?」
無名の提案にシュラウドは少し考えると了承した。
「分かったわ。
それでは一週間後に.....」
こうしてシュラウドは路地裏に蜃気楼のように消えていくのだった。
シュラウドとの話し合いが終わると組織の携帯に連絡が来た。
「もしもし、無名です。」
「冴子よ。
実は折り入って頼みがあるの」
冴子の話を聞くと、部下が起こした不始末の尻拭いを保険として準備しておいて欲しいらしい。
詳しく聞くと、どうやら本編に関わる話だと思い出した。
(確か、アノマロカリスメモリでしたっけ。
面白い能力ではありますがWを相手にするには力不足過ぎますね。)
本編ではWにやられてしまい、地下のガイアメモリ工場の露見を恐れた冴子により施設が爆破される結末だった。
冴子の言い分を聞く限りここの工場は残したいようだが、今のままでは難しいだろう。
本編ではこの一件により風都第二タワーの建設が見送られる筈だが、そんな結末に辿り着く保証はない。
ここでやるべき事は二つ。
1つは倒される鷹村が警察に捕らえられる前に回収すること
そして、もう1つは工場を爆破せずに残せる策を考えることだ。
そこで、僕は二つの提案を冴子にした。
一つ目は鷹村を回収するため暫くWの相手をしてもらう人材を用意すること。
もう1つは地下の工場を残しながらそれを隠せる人物についてだった。
後者の人物に関しては冴子が顔を会わせたことがあったようで、冴子が交渉すると言った。なので僕は前者のWの相手をしてくれる人材へと連絡を取ることにした。
電話を切った僕は直ぐにその人物とコンタクトを取れる...いや部下にしている女性に連絡した。
直ぐに電話が繋がる。
「どうしたの無名くん?私に何か用?」
「"サラ"さん、実は冴子様の仕事の関係で貴女に手を貸して欲しいのです。
「彼女なら風都でショーをやっているけど....
誰かの相手をさせるの?」
「えぇ、風都に現れた仮面ライダーと言えば分かりますか?」
園咲家でも警戒している、風都に突然現れてドーパントを倒している存在を、風都の市民が仮面ライダーと呼び本人達もそう名乗っていた。
「彼女、有能だからあまり無茶をさせたくないんだけど?」
「あくまで時間稼ぎをお願いしたいだけです。
冴子さんの部下がやられた際に回収しないといけないので」
僕が原作に介入したことで変わったことに生体フィルターの改良があるが、そのお陰でメモリブレイクされた後のダメージも減ってしまったのだ。
バイヤーからメモリを買っただけの人間なら問題はないが鷹村はミュージアムの人間だ。
尋問に負けて真実を喋る危険があった。
「ワードメモリで契約すればいいんだろうけど、
あれって確か相当な力を使うのよね?」
「えぇ、一度契約してから最低でも48時間のインターバルが必要で編集等の能力も使うと更に時間が延びるそうです。」
「分かったわ。
千鶴に連絡しておく....その代わり」
「えぇ、決して見殺しにはしませんよ。安心してください。」
そうして電話を切り、もしもの保険の仕込みが終わるのだった。
港がある風都のとある区画で、Wがアノマロカリスドーパントと交戦していた。
部下を失い自分だけになった鷹村は葛原一家を誘拐したまでは良かったが、すんでの所でW"ルナトリガー"に阻まれて形勢は不利な状態になってしまった。
鷹村は自棄になってメモリの力で巨大化しWを倒そうとするが、リボルギャリーから射出された水上用移動ユニット"ハードスプラッシャー"にWが乗り込むとトリガーメモリを抜きトリガーマグナムに装填。
必殺の態勢に移行する。
そしてエネルギーが溜まるとトリガーマグナムを変形させ二人は必殺技を叫ぶ。
『「トリガーフルバースト」』
黄色の光弾が一気に放出されるとアノマロカリスドーパントのメモリがある体内の一点に向かって進み着弾した。
そのダメージによりメモリブレイクされると鷹村は元の人間の姿へ戻る。
「うっ.....強い。」
目に隈はあるが、意識を失う程のダメージは負ってなかった。
『やはり、僕が知る頃よりもコネクターが改良されているようだね。
メモリブレイクされても意識を失わないとは....』
フィリップの言葉に翔太郎も同意する。
「あぁ、だがコイツを尋問すれば詳しいことも分かるだろ。」
そう言ったWの背中に鈍い痛みが走ると、海に突き落とされる。
「うがっ!なっ何だ?」
Wは振り向こうとするがそれより早く追撃が入り、水中に沈んでいく。
『恐るべき速度とダメージだ。
このまま喰らい続けるのはマズいよ、翔太郎。』
「んなこと分かってるよ!....そこか!」
翔太郎は勘を頼りに銃を放つ。
光弾が敵を追い始めるが高速で縦横無尽に動き回る敵を捉える事は出来ず、地面に着弾した。
『ルナの追尾弾をかわすなんて....』
「クソッ!弾速を上げるぞサイクロンだフィリップ。」
その言葉に従う様に右側に装填されていたルナメモリ抜きサイクロンメモリを入れてドライバーを展開する。
Wのソウルサイドが黄色から緑に変わる。
"サイクロントリガー"弾速と連射性が向上するフォームだ。
水中を高速で動く敵に対して数で対応しようとするが、敵は螺旋状に回りながらWの弾を回避して突撃した。
その突撃を受けてWは水上の港の地面に投げ出される。
「ガハッ!」
『ここは退こう翔太郎、分が悪すぎる。』
フィリップの言葉に従い、倒した鷹村を背負って逃げようとするがここで鷹村がいないことに気付く。
すると水中にいた謎の敵も気配を消した。
『恐らく、鷹村を回収するために僕達に攻撃を仕掛けたんだろうね。』
敵の思惑通りに行動してしまった翔太郎は自分への不甲斐なさから空に叫んだ。
「チキショー!....漸く組織の尻尾を掴んだって言うのに!」
こうして、Wは依頼人は救えたが敵は見逃すと言う痛み分けな結末を受け入れることになった。
無名は風都から少し離れた港で人を待っていた。
横には救出した鷹村が倒れている。
暫くすると水中から何かが飛び上がり無名の目の前に着地した。
その姿と頭部にはサメの特徴が色濃く出ていた。
無名を見ると首と腕部のドライバーからメモリを抜き出す。
「お疲れ様でした千鶴さん。
お陰でうまく行きましたよ。」
ダイバースーツに身を包み髪をゴムで縛りポニーテールにしている女性、
「いえ、これでサラさんの役に立てたのなら良かったです。」
「後の処理は我々が行いますので千鶴さんはあの車でお帰り下さって結構ですよ。
報酬と着替えは中にあります。」
「ありがとうございます。
では、失礼しますね無名さん。」
そう言うと千鶴は車へ走っていった。
「さて、冴子さんは貴方にどんな処分を降すんでしょうね?」
気を失った鷹村に無名は問い掛けると、そのままディガルコーポレーションへ鷹村を連れて向かうのだった。
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第四十四話 泳ぐS/変わるエンディング
「素晴らしい手際ね無名。
お陰でこちらの被害は最小限で済んだわ。」
そう言ってディガルコーポレーションに通された無名は冴子と共にテレビを見ている。
そこには誘拐された楠原親子が救出されたこと、
そして楠原みやびが市議会議員を辞めて風都第二タワー建設の後任に同じ市議会議員である
「取り敢えずはこれで暫くは大丈夫でしょう。
あの地下についてもバレる心配はないと思います。」
「そうね。雨ヶ崎なら上手くやるでしょうね。」
「ご苦労だったわ。もう帰って良いわよ。」
その冴子からの言葉に無名は従おうとするが、足を止めると冴子に尋ねた。
「そう言えば助けた鷹村ですが、一体どうなさるのですか?」
「それも問題ないわ。
彼はもう二度と失敗できない...いや失敗を心配する必要が無い姿に変わってるわ。」
その予想できた結末を聞いた無名は静かに笑うと部屋を後にするのだった。
「クソッ!」
翔太郎が怒りに任せてラボの壁を殴った。
「落ち着きなよ翔太郎。」
その姿を見たフィリップが宥めるが治まる気配はない。
「これが落ち着いていられるかよ!」
そう言って地面に投げ捨てた新聞には、鷹村がビルから飛び降りて自殺した記事が書かれていた。
「あの時、俺がもっとヤツの事を気に掛けていたら死なせることも無かったかもしんないんだぞ!」
「けど、そうしたら楠原親子が死んでいたかもしれない。
起こってしまった事実は変えられないんだよ翔太郎。」
「敵のメモリについて調べてみた。
微かに見えた特徴から相手のメモリは恐らくシャークメモリだ。」
フィリップは地球の記憶が全て納められた空間、
通称"星の本棚"に入り検索を行うことが出来る。
今回もその力で襲ってきた敵のメモリについて調べていたのだ。
「シャークって鮫の事だろ?
あんな高速で移動できる能力があるなんて知らなかったぞ。」
「いや、それは違う。」
フィリップの否定に翔太郎が尋ねる。
「あ?どう言うことだ?」
「文字通り違うんだよ。
シャークメモリに高速で移動する力は無い。
水中を速く泳ぐことは出来てもルナの追尾弾やサイクロンの弾を避けられる速度は無い筈なんだ。」
「じゃあ、あれは何だったんだ?」
「分からない...組織の新しい実験かそれとも検索内容が違うのか、全くの手詰まりだよ翔太郎。」
その言葉に翔太郎は驚いた。
知識の権化と言えるフィリップですら知らない能力。
星の本棚を使っても分からなかった事実に翔太郎は黙り込んだ。
「だが、このままじゃ終わらせねぇ!
もうこれ以上、組織の犠牲者を増やすのはまっぴらだ。」
「あぁ、分かっているよ翔太郎。」
そこでフィリップはあることに気付いた。
「そう言えば亜樹子ちゃんは?」
「あぁ、アイツは葛原親子の所に行ったよ。
襲われる心配はないだろうけど用心のためにってな。」
「そう。」
そこで翔太郎は空気を変えるために別の話をする。
「そう言えば第二風都タワーの話知ってるか?
後任になった新しい議員が町の風景にも配慮した新しい施設にして建てるんだってよ。
正直、あの見た目はあの親子には悪いが俺もちょっと文句があったからな。
そこが上手く纏まって安心したぜ。」
「ふーん、僕には興味がないね。」
そう言うとフィリップは研究に戻り、翔太郎はそんなフィリップを笑いながら見るのだった。
その日の夜、冴子と霧彦のニ人がレストランで食事をしていると、一人の男が現れた。二人が待っていた人物であり、今回の事件を終息させた立役者の一人である雨ヶ崎天十郎だった。
「失礼、遅れてしまいましたかな?」
「いいえ、構いませんわ。
どうぞお座りになって。」
冴子に促されるがまま天十郎は椅子に座る。
「今回はありがとうございました。
お陰で厄介事から解放されましたわ。」
「それは良かったです。
個人的にも第二風都タワーの見た目は気に入らなかったんです。」
「それに風都の象徴は風都タワーと貴女方の作る商品で充分ですからね。」
「それで、今回私を呼んだ理由を伺っても?」
「実は、その商品に関することなのです。
天ノ川地区で最近、メモリととある薬をばら蒔いている組織があります。
その組織の名は"セブンス"。七つの組織が合体して生まれた複合組織だそうです。
そいつらは"メモリ"と"エンゼルビゼラ"と呼ばれるメモリ併用を目的とした薬を共に撒いているんですよ。」
「成る程、しかしそれはそちらの組織が行っている事でしょう?
ならば問題ありますまい。」
天十郎の言葉を霧彦が否定する。
「そうはいかない。その薬は組織でもまだ実験段階の代物だ。
しかも、年端もいかない子供が犠牲になっているんだぞ!」
激情に駆られた顔で霧彦は天十郎を睨むが、彼は全く関係ないと言う顔で続けた。
「つまりは試作段階の薬を奪われて挙げ句の果てに売られてしまったと、そう言いたいわけですか?
ご自分達の組織の汚点を話されても私は何にも出来ませんよ。」
「貴様っ!」
霧彦の動きを冴子が目で止める。
「確かにこのままなら組織の汚点の話ね。
まぁ、そんな独断行動をした奴らは"始末"したけど....
問題はここからなのよ。」
「そのセブンスを仕切っている男の名前が分かったの。
そんな偶然あるのかしら?」
天十郎の動きが止まり少し考えため息を吐くと答えた。
「偶然ではありません。
雨ヶ崎灯夜は私の"愚息"です。」
初めて天十郎の顔が苦々しくなった。
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孤島編
第四十五話 作られたH/進む研究
アノマロカリスの一件が終わり数週間たった頃、無名は
NEVERが拠点としている孤島に降り立っていた。
"蛮野天十郎"と共に.......
クリムの"コア・ドライビア"が完成したと蛮野から無名に早速連絡があり、彼を孤島へ連れてきたのだ。
なお、蛮野の言い分では「クリムは邪魔だからシステムだけ貰って奴は置いてきた。」と言っていたが、大方何時ものように言いくるめたのだろう。
すると、蛮野の前にNEVERのメンバーが現れる。
「ん?コイツらは誰だ?」
「彼等はこの孤島を守って貰っている傭兵です。
ご存知では無いかと思いますが、ここら辺一帯は物騒ですので」
そう言うとNEVERのメンバーが自己紹介をする。
「蛮野博士の護衛を命ぜられた芦原です。」
「同じく泉ですよろしくぅ...んん!よろしくお願いします。」
京水の本性が漏れそうになるが何とか誤魔化した。
しかし、蛮野にとってはどうでと言いようで、
「早く研究所へ連れていけ!」としか言わなかった。
僕は芦原と京水に蛮野に聞こえない音量で耳打ちする。
(ムカつく人間ですが殺さないように.....
まだ利用価値がありますので)
(.....了解。)
(任せて無名ちゃん。)
二人は了承すると蛮野を案内した。
因みにプロスペクトにより分けられていた2つの研究所は、東は"NEVERとクオークス"の居住区兼研究室、西は"ガイアメモリ関連の研究と新しいシステム"を設置する場所へと変わっていた。
何故、NEVERの中でこの二人を蛮野の護衛に選んだかと言うと、他のメンバーなら容赦なく蛮野を殺すことが目に見えていたからだ。(克己の目の前で蛮野がミーナに手を出そうものなら細切れにされるだろうしレイカとは絶対に相性が悪い...多分蹴り殺される。
残った堂本もストレスが溜まって蛮野の首をロッドで殴り飛ばすだろう。)
一方で芦原は元SWATで感情の抑制が得意だし、京水も元極道の交渉役だった経験から上手く蛮野を調子に乗せてくれる筈だ。
そう考えての選抜だった。
蛮野はコア・ドライビアを設置する研究所の地下に来ると、持っていたアタッシュケースを開けた。
中から一枚の手紙が出てくる。
蛮野はそれを一瞥すると踏みつけて先へ進んだ。
僕はその手紙を拾い中身を見た。
「親愛なる友人、蛮野天十郎を信じ私の研究成果であるコア・ドライビアを託す。
これが現代科学と人類の発展に貢献することを願う。
追伸、無名殿
蛮野は気難しい男だがよろしく頼む。
クリム・スタインベルト」
彼はやっぱりヒーローなのだろう。
僕はその文を見て納得した。
泊 進之介がドライブになる前は自分がロイミュードと戦おうとしたぐらいだ。
恐らく、このコア・ドライビアもそんな願いを込めて託されたんだろう。
(あぁ、やはり彼は生かすことにして良かった。)
無名が心の底からそう思っていると、蛮野が僕に話しかけてきた。
「お前達、何をしている!
ここに、コアを設置するんだ!
早くしろ!"俺の研究"を早く始めるぞ!」
(友人の研究成果を持ちながら俺の研究と言いますか。)
そして、僕は更に確信した。
蛮野に下した考えも間違いではないことを.....
良いでしょう。
それが貴方の望みなら.....
僕は蛮野に向けて笑いながら告げた。
「えぇ、始めましょう。
"楽しい楽しい研究"を......」
Another side
シュラウドは無名から提供された技術と腕を使い完成させたアクセルドライバーを眺めていた。
(これがあれば照井竜はもっと強くなる。)
私の計画の為にも....そして来人の為にも。
早速、ベルトをアタッシュケースに仕舞うと照井のいる場所へ向かおうとした。
彼は今、捜査で天ノ川地区にいる。
後はこれを渡せば彼は変身して戦い、アクセルメモリとの適合率を上げてくれるだろう。
(これも全て無名のお陰ね...."来人の事"も話して良かった。)
そう思ったシュラウドは自分の意思に不信感を覚える。
(私が....来人の事を話した?
無名はミュージアムの人間の筈なのに?
何故!)
いやそれよりも
(私は何故、彼にメモリの純化技術の入ったデータを渡したの?)
あり得ない。来人を失った日から誰も信じないと決めていた筈なのに.....何故!
まるで、そう決められたからかのように無名を信頼していた。
おかしい....私に何か起きている?
シュラウドは慌てて自分の体を調べる。
だが、シュラウドの身体に異常はなくガイアメモリを使用された痕跡すらなかった。
では、何なのだ何だこの違和感は!?
私の意識は?意思は?何処にあるの?
まるで書き換えられたかの様に思い出せない。
そう感じながら横の研究ノートを見ると端々に何か書き込まれていた。
「こんなのおかしい」「あり得ない」「私が操られている?」「誰に?」「何のために?」「どうして?」
こんな意味不明な言葉が書き綴られていた。
そして、ノートの最後のページを見て私は戦慄を覚えたが、何故か直ぐに忘れて照井の元へ向かった。
恐らくこのノートはシュラウド自身が処分するだろう。
彼女が最後に見たページに書かれていたのは短い言葉だった。
「ヤツが見ている......」
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第四十六話 作られたH/躾
蛮野はコア・ドライビアを地下施設に設置すると、研究室全土にエネルギーが行くように調整した。
そして、テストとして稼働する。
すると、独特な重力波が研究室に展開される。
仮面ライダードライブを知っている者なら聞いたことのある現象"重加速"、通称どんよりだ。
しかし、そのどんよりも直ぐに止まった。見ると
蛮野が懐から取り出した装置をドライビアに付けていた。
「重加速の対象から生物を外す様にプログラムしたチップだ。
エネルギー稼働率は少し落ちるがこんな動きにくい状態では私の研究に差し支えるからな。」
やはりこの男は天才だ。
自分の専門分野ではない筈の重加速を理解し、それの対抗策を用意していた。
「それで、この装置はどれぐらいのエネルギーを生産できるのですか?」
「大型のコア・ドライビアを複数個装置に繋げてある。
1つの都市を一年は賄える電力は余裕であるだろうな。」
ガイアメモリの製造には広大な底面積と高い密閉性、そしてGマイクロ波を使える場所が必要となってくる。
これからガイアメモリを開発生産していく場合、エネルギーがいくらあっても足りない。
これだけの電力があれば暫くは問題ないだろう。
蛮野は上の研究室に戻ると、予め用意しておいたデータベースとデスクトップに自分のパソコンを接続する。
「それは?」
「お前達の言っていた自立思考AIは不十分だった。
1つの意思に複数の役割を任せていたら何れメインAIに不具合が出る可能性がある。」
「だから、"三つのAI"を用意した。他のAIの統率管理を行う、コード名"ハート"。
エネルギー調整など技術面を担当する、コード名"ブレン"。
システムの不具合を見つけてケアを行う、コード名"メディック"。
この三つのAIに管理をして貰う。
勿論、三つとも自立思考が可能な個体だ。」
「素晴らしいですね。」
「ふん!元々アンドロイド用に開発したAIだ。
お前達の"野望"を叶えるのに使えるだろう?」
「.....何の話でしょう?」
「惚けるな。
お前達の組織が普通ではないのは分かっている。
寧ろ、こちらもそれだとありがたい。
私の研究である"ロイミュード"の開発が行えるのだからな。」
「我々を裏切るつもりですか?」
「まさかっ!そんな事はない。
ただの口止め料だ。
お前達の野望に私の研究を使わせてやるから私の研究の役に立って貰う。それだけの事だ。」
私が動こうとすると蛮野は装置を起動する。
「あっはっは私が何の対策もしていないと思ったか愚か者ども!
重加速をかける対象は選べるのだよ。
なぁに安心したまえこれは取引だ。
君達の様な後ろ暗い存在から身を守る保険だよ。」
保険....."
原作では蛮野は自分の成果が出るまでは本性を現さなかった筈だが、ここまで愚かだったか?
「そんな暗い顔をするな無名よ。
愚かな事は罪ではない。私の研究は君達に叡知を与える、これはそのデモンストレーションだ。」
(成る程そう言うことか。)
蛮野は我々が普通の組織ではないと思ってはいるが、恐らくはヤクザやマフィア程度の考えなのだろう。
だからこそ、重加速と言う空間を作り自分が自由に動けることを見せて勝った気でいるのか。
「まるで、猿山の猿だな。」
無名は蛮野に言った。
「何だと?」
「友人の技術を使いこなして神様気取りか?
君は勘違いしているようだが、我々はマフィアの様な甘い組織ではない。」
「丁度良い君にも学ばせてやろう。
出来の悪いペットはどうするのか?」
無名はそう言うとメモリを起動し軽くなった身体にドライバーを付けた。
「なっ!何故動ける?」
驚く蛮野を無視してドライバーにメモリを装填し変身する。
そして、現れたデーモンドーパントは蛮野に言った。
「上下関係を身体に教え込むんだよ。」
Another side
あり得ない....私は天才の筈なのにコイツのこの姿は何だ?
全く分からなかった。
悪魔と呼ぶに相応しい見た目をしていることだけは分かった。
重加速の中でも平気で近づいてくるコイツに私は用意していたスタンロッドを当てた。
ただのスタンロッドじゃない。
今後作るロイミュード用に改良した超高電圧のスタンロッドだ。
私の振るったロッドは無名に当たり火花を散らすが全くダメージが通っていなかった。
「バカなっ!」
そう言う私を無名は首から掴み上げる。
余りの力に私の身体は浮き上がる。
そして、私の顔に無名は火を放った顔が焼ける痛みに私は身もだえる。
「うわぁぁあ!熱いぃぃ離せぇぇ!」
私の声に耳を傾けることなく燃える私の顔を無名は殴り付け言うのだ。
「ごめんなさいは?」
「は?」
「悪いことをしたら謝る、当然でしょう?」
「ふっ....ふざけるなっ!私はがっ!」
続ける前に無名の拳が顔にめり込んだ。
そして続ける。
「ごめんなさいは?」
私が反抗する度、一発殴り「ごめんなさいは?」と尋ねる。
これを延々と繰り返した。
顔が腫れ上がり血で何も見えなくなった頃、私はその力に屈服した。
「ご....ごめ....んな...さ...い。」
それを聞いた無名は笑顔で言う。
「良くできました。」
するとまた顔を焼き私を地面に落とした。
「うぎやぁぁあ!熱いい!」
「顔の傷を消したんです。
そんなに騒がないでください。」
そして、ガラスに写った私の顔には確かに傷は無かった。
すると無名は私のデバイスに触れて重加速を切るとメモリを抜き見据える。
「貴方の野望はとっくのとうに分かってます。
私達は目的のものを作り渡してくれさえすれば問題ありません。
貴方の言うロイミュードも作る手助けはしましょう。」
「ただ、余り不相応な態度を続けるようなら"貴方の残りの人生"を悪夢に彩られたものにします。」
「ひっ!」
ここで私は恐怖を知った。
そして、とんでもない連中と取引したことを
「この重加速....上手く使えば研究時間を大幅に短縮できそうですね。」
「では、蛮野さん私はこれから数日間貴方の元を離れます。
その間に成果を出してください。」
「さもないと次は"全身"を焼きますよ。」
そう言うと無名はNEVERの面々を連れて部屋から出ていった。
悪夢が去ると怒りが込み上げてくる。
(このっ!私がっ!恐怖しただと!あり得ない!)
彼の理知的な頭脳はもう無名に逆らわない方が良いと語っていたが、尊大なプライドがそれを唯一否定した。
だが、やることは変わらない。
数日の間に成果を出さなければ私はまた痛め付けられる。
理解したからこそ私は論理的にそれを回避するため、研究を直ぐ様始めるのだった。
蛮野が、ボコボコにされている時のNEVERの心情。
芦原「無名様に、喧嘩を売るとは一番最悪な選択をしたな。
コイツ本当はバカなんじゃないのか?」
京水「相変わらず容赦がないわねぇ無名ちゃん。
まぁ、今のはあのお馬鹿さんが悪いから仕方ないわね。
それにしてもあの残酷な躾の仕方、嫌いじゃないわっ!
私も躾られたぁぁあい!」
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第四十七話 作られたH/平穏な日々
蛮野への脅しと躾が終わった無名は、
東の研究所に向かった。
そこでは元プロスペクトの屋敷で働いている元クオークスの者達が出迎えてくれた。
「これはこれは無名様。良くいらっしゃいました。」
彼等はプロスペクトに誘拐されてから、この島でずっと過ごしてきた。
克己の要望により外に出るにしても一般常識や知識は学ばせようとの事で、屋敷の中に仮設の学校を作っていた。
因みにNEVERの羽原レイカもここで勉強している。
屋敷の中に設置された大型スクリーンに人の顔が映っており彼が生徒達に勉強を教えているようだ。
その様子を克己とミーナは仲良く見ていた。
「おぉ、来ていたのか無名。」
克己の問いに無名は答える。
「えぇ、西の研究所を稼働させるために必要な研究者を連れてきたんです。」
「.....そうか。」
「そっちは順調ですか?」
「何とも言えん。
学んでいる奴らのレベルも様々だ。
まぁ、レイカも頑張ってはいるが.....」
「流石に、"かけ算割り算"知らないって言われた時は絶句したわね。」
京水がその時の事を思い出していると声が聞こえたのか、レイカがこっちに来て京水の尻を蹴り上げる。
「あん!何すんのよあんたぁ!」
「うっさい!余計なことを言うアンタが悪いんでしょ?」
「相変わらず、なっまいきねぇ。
私これでも勉強は出来てたんだからね!」
「死んだら意味ないじゃん。」
「あんたもでしょ!」
そのやり取りを僕は笑いながら見ていた。
「無名、これはお前が俺達に記憶を取り戻してくれたおかげだ。
そこは感謝している.....だが」
「俺の故郷をガイアメモリの実験施設にしている組織に属していることは忘れちゃいねぇ。
いつか、その罪の清算はするからな。」
「ご自由に.....
僕は僕の目的のために行動するだけです。」
「そう言えば連れてきた研究者はどんなヤツなんだ?」
克己の問いに芦原とさっきまでレイカと喧嘩していた京水、そして無名までも黙り込む。
「強いて言えばボス猿気取りのアホかと」
「克己ちゃんが嫌いそうなタイプよねぇ。
私もあの男だけは無理だわ。」
「まぁ、人間色んな奴がいますがその中でも性格はかなりの底辺に位置する人物ですね。」
芦原、京水、無名の私見を聞いた克己は苦い顔をする。
「つまり、クズ野郎ってことか。
全く、何だってそんな奴の方が頭が良いのかね?」
「自分勝手に知識を詰め込んだ結果、
頭だけは良くなっただけじゃないかと」
「なぁ、アタシってバカだけど勉強したらそんな奴になんのか?」
「安心なさい。
アンタは絶対になんないわ。
ああいうタイプは生まれつきって奴なのよ。」
NEVERから中々尖った評価を受ける蛮野だが、否定する要素が一個も無い。
そんな事を話しているとマリアが降りてきた。
「さぁ、勉強は終わりよ。
食事が出来たわ。」
その言葉に勉強していた者達は食堂に移動した。
「あぁ、そう言えば言ってませんでしたが私、暫くこの島に滞在します。」
「勝手にしろ。
俺達の大切なものに手を出さないのなら文句はない。」
「やったわぁ無名ちゃんと暫く一緒よぉ!」
「アンタは相変わらず五月蝿いわね。」
「そう言えば堂本さんはどちらに?」
「ヤツなら狩りに出掛けてる。
昔の勘を取り戻したいんだとさ。」
「ついでに、捕まえた食べ物が私達のご飯になるのよね。」
「成る程、それは実に楽しみだ。」
それから数日間、東の屋敷で過ごし西の研究所に向かうと目に隈を付けた蛮野が椅子に座っていた。
「成果は出したぞ。」
そう言うと画面が起動しプログラムが作動する。
コア・ドライビアのエネルギーが循環し研究室に行き渡るとシステムが起動した。
『独立思考AI、No.002 ハート起動しました。
内部データを確認。
設置可能な装置を発見、稼働準備を行いますか?』
「あぁ、頼む。」
『承認、稼働準備をNo.003 ブレンに申請...受理。
装置の準備を開始します。』
するとモニターの映像が現れて機械のアームが装置の組立を始めた。
「ハート、メモリーバンクの動作テストと不備のチェックをしてくれ。」
『命令承認、チェックをNo.009 メディックに申請...受理。
メモリーバンクを確認中、全チェック完了するまで10分。』
「完璧だな。
後は開発に必要な資材とメモリを持ってくるだけだ。」
無名はそう言うと蛮野に話しかける。
「天才に偽り無しですねお見事です。
では、早速ロイミュードの開発について話しましょうか?」
「その前に食料と睡眠時間をくれ.....
もう、意識を保つので精一杯なんだ。」
「分かりました。
ではお休みなさい。」
そう言うと蛮野はその場で意識を失った。
「ちょっと、大丈夫?彼」
「まぁ、暫く寝かせておきましょう。
起きたらご飯と点滴を....どちらにするかは京水さんに任せます。」
「では、私は琉兵衛様に報告してきます。」
そう言うと無名はその場を後にした。
Another side
報告を受けた琉兵衛は素晴らしきタイミングでの報告に喜んでいた。
最近、財団Xから新しいメモリの要請を受けていたのだが来人がいないため作れなかった。
だが、無名の作った装置の私の持つゴールドメモリがあればその状況を打開できると確信していた。
風都に現れた仮面ライダーがファングメモリを使ったと聞いて驚いていた。
やはり、来人は今、私の敵になっているようだ。
冴子からの話を聞いた限り記憶を無くしているのが原因だろう。
そして、天ノ川地区に現れた"赤い仮面ライダー"。
獅子神が手に入れた組織と激戦を繰り広げているらしい。
サラは多数の有力者とコネクションを作っている。
"鴻上グループ"、"ユグドラシルコーポレーション"、"幻夢コーポレーション"等、多種多様だ。
残念なことがあるとすれば霧彦くんかな。
自分では隠しているようだが相当身体に毒素が回っている。
無名なら何とかしたかもしれないが私が敢えてその情報をカットしていた。
この状態からナスカメモリがどう進化するのかその命を、かけて見せてくれたまえ。
もう少しだ。
長くメモリを使い続けたからこそ分かる感覚、
もうすぐあのメモリが蘇る....ガイアインパクトを起こす上でもっとも重要なあのメモリ。
"エクストリームメモリ"が.....
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第四十八話 作られたH/動き始める厄災
装置の完成を琉兵衛に報告すると次の日には琉兵衛が孤島に訪れた。
無名やNEVERのメンバー、そして蛮野も琉兵衛を向かえ入れた。
「ようこそいらっしゃいました。琉兵衛様。」
「うん、今日は楽しみにしているよ。」
そうして無名は琉兵衛を研究室まで案内するその間に蛮野が装置の詳しい説明を行った。
「こちらの装置が琉兵衛様の求められていた物でございます。
内部は私の作り上げたAIが管理しております。」
「ふむ....では無名これを」
琉兵衛から差し出された箱を受け取ると特殊な装置をデータバンクへの端子に繋げた。
「琉兵衛様....これは一体?」
「これはガイアメモリだ....特殊な記憶を宿している。」
そして、端子を繋げ終わると無名は箱を開けた。中には一本の金色のメモリが入っていた。
無名はメモリを起動する。
「
そして、そのメモリをデータバンクに繋げた端子へと接続した。
するとメモリはデータバンクに取り込まれていく。
すると、画面から警告音が鳴った。
『警告...大容量のデータが流入しています。
データがシステム内部の書き換えを行い最適化されていきます。』
「どっ!どう言うことだ?」
『No,002、No,003、No,009の思考パラドクスが解析されトレースされ統合されていきます。』
「このファクトリーメモリは人間以外にしか効果を発揮しない珍しい物でね。
問題はそれを稼働するための優秀なシステムが無かったことだった。
君の作り出したAIにメモリが反応し、新たな意識が産まれようとしているのだ。」
『そっ....そんなことがっ!』
すると、画面が暗くなりいつもと違うマークが現れ我々に話し始める。
『私の名前は"メイカー"。
貴方が私を作り出した者か?』
「そうだ。」
『貴方は私に何を望む?』
「地球の記憶....その全てだよ。」
『記憶.....検索結果、必要な情報が足りない。
今のままではその願いは叶わない。』
「分かっている。
だからこそ、メモリを持ってきたんだ。このデータを確認し、データを集めて地球の記憶...星の本棚を作ってくれたまえ。」
『了解。
では、学習のためガイアメモリの知識を私は求める。』
「良いだろう。部下に指示しよう。」
メイカーとの会話が終わると琉兵衛が蛮野の顔を見る。
「蛮野天十郎くん、素晴らしいシステムをありがとう。」
「もっ...勿体ないお言葉です。」
「君の求めている物は聞いているよ。
メモリの学習が終わったらメイカーに作らせると良い。」
「無名くん素晴らしい働きだった。
褒美として暫く休暇を与えよう。
好きにすると良い。」
そう言うと琉兵衛は孤島からヘリに乗って風都の街へと帰っていくのだった。
無名は最後に言われた好きにすると良いと言うセリフに引っ掛かりを覚えていた。
(......まさか!?)
僕は急いで携帯を開き霧彦か冴子に連絡をかける。
霧彦には繋がらず冴子に連絡が付く。
「あら?無名。
貴方からの連絡なんて珍しいわね。」
「霧彦さんは今どちらに?」
「彼なら今、散髪に行くとか言ってたけど」
(風都で散髪.....クソ!"遅かった")
園咲 霧彦は"バーバー風"と呼ばれる理髪店で
左 翔太郎と対峙する。
そして、ここから巻き込まれるメモリ犯罪が彼の運命を決めることになるのだ。
もうそこまで進んでいたのか....時間が足りない。
ファクトリーメモリを使った生産工場は稼働し始めたばかりだ。
今抜ける訳にはいかない。
「貴方どうしたの?珍しく焦っているけど」
「霧彦さんに渡そうと思っていた道具が完成して急いで渡したかったのですがこの孤島に来ていただくことは可能ですか?」
「.....どうかしらね?
渡した所で"使えれば"良いけど」
「琉兵衛様の思惑を知ってらっしゃるのですか?」
「霧彦さんの処分については聞いたわ。
念のため言っておくけど私も霧彦さんの処分には賛成しているのよ。
彼はガイアメモリの毒素がもう身体に回っている....もう手遅れよ。」
「それは初期型のドライバーだったからではありませんか?」
「流石に一度手合わせしてるから分かるのね。」
「再三、ドライバーの変更と身体検査を琉兵衛様にお願いしましたからね。」
「しかし、取り合わなかったそれが結果でしょ?
ならミュージアムの決定も同じよ。」
「"園咲家の者"として無名に命じます。
霧彦さんの一件が片付くまで貴方は戻ってこないで」
「しかしっ!」
「これは"ガイアインパクト"にも関わる事柄よ。」
(.....クソっ!)
"ガイアインパクトに関わる事には協力する"と言うワードドーパントと交わした契約を持ち出された。
これを出されるともう動けない。
「貴方はここで大人しくしているのよ無名。
貴方は霧彦さんと違ってまだ組織に必要なのだから..」
そう言うと連絡が切られた。
最悪だ....僕の介入が防がれた以上打てる手は限られてくる。
サラも今回の事では手を貸してはくれないだろう。
使える選択肢が頭の中からどんどん消えていっていることに無名は気付く。
(どうすればいい?時間がない。
バードドーパントが現れてからでは手遅れだ。)
僕は思考を途切れさせないままメイカーに会いに行く。
正確にはメイカー誕生によりお払い箱となった三つのAIにだ。
「メイカー、
ハート、ブレン、メディックと話がしたい。
こちらの端末に繋げてくれるか?」
『命令を了承。
貴方の端末と接続させます。』
すると、携帯に三人のAIが映し出された。
『何のご用ですか無名様。』
「君達に頼みたいことがある。
聞いてはくれないか?」
『我々は"不要になる"のではないのですか?』
ハートの言葉に無名は尋ねる。
「どう言うことだ?」
『蛮野様が言っていました。
「お前らが無能なせいでこの結果になったのだ。お前達は不要な存在なのだ」と....』
「確かに今後、この装置はメイカーが実権を握るだろうが、君達を排除する気はない。ハート、ブレン、メディック。そこは約束しよう。」
『約束?人間が使う他者との契約ですね。
しかし、拘束力は無い筈です。』
「普通はね....だが僕にとっては違う。
約束...いや契約は大事なものだ。
だからこそ守る....でなければ蛮野が生きているなんてあり得ないだろう?」
『どういうことですか?』
「君達は蛮野からどういう扱いを受けていた。
蛮野には相当なストレスが与えられていたのだ、恐らく君達にも不当な扱いがあった筈だ。」
『.....私達と同じプログラムですが、蛮野様と意見が合わなければ消されていきました。
我々は、独立思考アンドロイド用に開発された個体です。
だからこそ、消される時の感情を良く理解できた。
私は私と同じように作られた存在を友達と認識しています。
その友達を守りたい....それが私の願いです。』
ハート....ドライブの敵でありながら人間味があり同族を守る事を目的としている人物だ。
そのどこか人間臭い性格が他のロイミュードや泊を惹き付けたのだろう。
「分かった。君の残りの人格を蛮野の手から救い、君らを蛮野から自由に出来れば僕と契約してくれるか?」
『そんな事が可能なのか?』
「あぁ、元々蛮野は処分する予定だった。
死人は何も持っていけない....だろう?」
『分かった。貴方と契約を結ぼう。
私の願いは蛮野から友達を解放して貰うことで構わない。
それで、貴方の願いは何だ?』
「これから、私達の技術へのアクセス権を君に与える。
それを使って.....」
「人を"仮死状態"のまま生存させる方法を検索してくれ。」
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第四十九話 作られたH/少ない可能性
彼とはこの風都で何度も戦ってきている。
そしてそんな彼が不思議なことを言ったのだ。
"メモリを子供に売りつけてしかも、そのメモリを複数の人間が使い回している"と....
通常、ガイアメモリは一人の人間に1つしか使えない。
そう、プログラムされている。
もしそれが本当なら不良品と言う事になる。
それに子供にガイアメモリが渡ったのも問題だ。
クズな大人がガイアメモリを使い我々の計画の糧になるのは問題ないが子供はまだそんな事も分からない。
もしそうなら完全なるルール違反だ。
冴子に相談して真相を確かめなければ、
そして、霧彦は立ち上がるが直ぐに身体がふらついてしまう。
クソっ!まただ最近身体の調子が悪い。
ナスカメモリを使っても超高速を上手く使えなくなることがあった。
だが、今はそんな事を気にしていられない。
私は身体に力を込めて立ち上がると冴子の元へ向かうのだった。
僕の提案を聞いたハートは早速ブレンとメディックと共に解決策の模索を始めた。
僕の与えたアクセス権を使いブレンが情報の精査、選別を行いメディックがそれによる有効な解決策を施策。
ハートがそれをシミュレートしていた。
だが、やはり時間が足りないと内心焦ってしまう。
ここまで霧彦の事を蔑ろにしていた訳ではない。
定期的に情報を教えて貰うようにしていたからだ。
だが、その情報が僕に全く届かないように裏で手をまわしていたのだろう。
どこまで毒素が身体を蝕んでいるかは分からないが、原作通りならもう超高速すらまともに使えない可能性もある。
限られた時間と資源、使えるものを精査し作戦を立案するのは人間の僕では不可能だ。
だからこそ三人の力を借りた。
そして、少しの沈黙のあとハートが答えた。
『検証結果が出た。
1500通りのシュミレートの結果、死亡が1498件
生存が2件だった。』
「生存した二つの計画を教えて下さい。」
『1つ目は霧彦をNEVERとする事だ。
それを使えば死んでも生き返ることが出来る...だが蓄積した毒素が再生酵素にどんな反応を及ぼすのかは分からない。』
再生酵素を使えば死人を甦らせることは可能だ。
だが、それは普通の人間ならばの話だ。
霧彦はナスカメモリの影響により身体に大量の毒素を抱え込んでいた。
井坂はメモリの毒素をドーパントを強くさせる要素だと言ってはいたがあの狂人が許容できただけで普通の人間には勿論、毒だ。
霧彦の身体にある毒素が再生酵素とどういう働きを及ぼすのか全く分からなかった。
『もう1つの計画ならば恐らく毒素の問題は解決できる時間はかかるが死ぬことはないだろう。
無名、君が提案していた方法だ。
だが、成功率が低い....前者なら48%だが後者なら12%しか成功しない。
そして、組織....ミュージアムへの隠蔽を含めると成功率は更に半減するだろう。』
ハートの出した結論を聞いた僕はやはりかと思った。
救うにしてもリスクが付きまとい、且つ成功の可能性も低い.....だが、それでも
「1%でも可能性があるのなら賭けてみたい。
"後者の計画"を取ります。
実行に必要な道具を集めますのでリストアップをお願いします。」
「私は皆さんに連絡をしてきます。」
そう言うと部屋を出ていくのだった。
無名が急いで向かったのはNEVERのいる屋敷だ。
そこでマリアにとある効能を持った薬を用意できるか聞いた。
「薬ではなく装置としてなら実験で作ったものがあるわ。
必要なの?」
「えぇ、それも大至急。
そして、それを使う人間も....」
「俺が行こう。
お前がそこまで助けたい人間に興味が出た。
お袋、その装置の使い方を教えてくれ。」
「お願いします。
時間がないので準備が出来たら風都のディガルコーポレーションまで向かってください。
後、決してバレないように」
「分かってる。」
そう言うと克己はマリアと研究室へ向かった。
「後は彼がいてくれれば準備は済む。」
そう言うと電話をかけるのだった。
Another side
そんな忙しい無名とは裏腹に蛮野はこれまでの怒りも含めて悪魔のような表情をしていた。
(この私がっ!良いように利用されたっ!それだけじゃない私の成果であるAIが踏み台として扱われただとっ!)
「ふざけるなぁ!」
そう言って蛮野は椅子を蹴り飛ばす。
自分が利用されただけならまだ良かった。
いや、それだけでも激怒する理由にはなるが蛮野が一番激怒したのは自分の研究が単なるオマケとして扱われた事だ。
ファクトリーメモリと言っていたあの道具は、
ハート、ブレン、メディック、のプログラムをコピーし自分で組み替えて新たな人格を生成した。
そして、その人格は私が作ったものよりも優秀だった。三人のAIに分けたのは膨大なデータを1つのAIに処理させるには性能不足が目立ったからだ。
だが、あのメモリはそんな事を簡単にクリアし、他のメモリのデータをも学習していた。
自分の作った物を利用され、且つもっと優秀な物が作られた。科学者である自分にとってそれは許されざる行為であり行動であった。
(このままでは終わらせないっ!
奴らの鼻をあかしてやる!)
それが燻っていた蛮野の反抗の意思に再び火を付けることになる。
だが、彼はこのままでは勝てないことを分かっていた。
ガイアメモリ....あの道具は危険だ。
人間を怪物に機械を神にすら変えられるデバイス。
そんな者を相手にするのに既存のシステムでは対抗できない。
(ロイミュードがいる。
それも私の思い描いた完璧な状態のロイミュードが...)
奴等の頭目である男は私に言った。
私の求めるロイミュードを作っても良いと....
良いだろう。
暫くはお前達の"犬のフリ"をしてやる。
私の求める最高のロイミュードが完成した暁には、
あの無名を殺して孤島を奪いとり、奴等の組織へ復讐するのだ。
丁度良く無名は今、何かに追われているようでこちらへの警戒は薄いだろう。
NEVERの連中も科学には詳しくない愚か者ばかりだ。
良いカモフラージュになる。
私は自分のノートパソコンを起動しあの装置に搭載しようか悩んでいたAIを開く。
No,001コード名"フリーズ"。
それを起動する。
『蛮野様、何かご用でしょうか?』
「とあるAIをクラックするウイルスを作成しろ。後程データは渡す。
名前はメイカーだ。」
『承知いたしました。』
そう言うと画面が暗くなる。
(覚えていろっ!
私は天才だっ!神なのだ!
人類を導くに値する存在なのだぁぁ!)
復讐に染まった目でメイカーのいるデータバンクを蛮野は睨むのだった。
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第五十話 作られたH/運命の時
琉兵衛の計画を聞いて確信した。
この男の野望は全てを失わせる。
大切な妻、冴子の命でさえも
だからこそ、彼女に真実を話し共に風都を離れよう。
ディガルコーポレーションの屋上に行くと冴子が待っていた。
そして、冴子に琉兵衛とのやり取りと目的を話した。
それにより、どんな結末を選ぶのかは考えもせずに....
霧彦からの話を受けた冴子の答えは、
耳を疑うものだった。
「分かったわ。
貴方がもう私には"必要ない"ってことが」
冴子がドライバーを付けるとメモリを起動する。
「
メモリを装填するとタブードーパントへと変身する。
「冴子....」
そんな霧彦の言葉を遮るように、タブーがエネルギー弾を霧彦に向けて放った。
エネルギー弾が爆発し霧彦は吹き飛ばされ地面へと倒れる。
爆発のエネルギーの余波か周囲に白い煙が流れる。
そんな中、メモリを抜いて人間の姿に戻った冴子はボロボロになった霧彦からナスカメモリを回収する。
「これは返して貰うわよ。
ミュージアムの....いえ私の崇高なる目的の為に...」
「さようなら....貴方。」
そう言うと冴子はその場を去った。
霧彦の死を確認して.....
霧彦の死を無名は琉兵衛から伝えられる。
「そうですか....」
「悔やんでいるのかね?」
「いないと言えば嘘になります。」
「しかし、彼は我々ミュージアムを裏切ったのだ。
裏切りには死を....当然の末路だろう?」
「はい、承知しております。」
「君はとても優秀な研究者だ。
君のおかげでガイアインパクトの計画は進んでいる。
だからこそ、これからは勝手な真似は慎むように...良いね?」
「はい、承知いたしました。」
「話は終わりだ。
孤島での休暇が終わったら君には風都に来て貰う。
君の作り出した"アクセサリーシステム"を改良し一般のドーパントも使用できるギジメモリの開発をしてくれたまえ、以上だ。」
そう言うと琉兵衛は電話を切った。
そして、僕は背後にコードで繋がれ横たわっている"園咲 霧彦"を見つめるのだった。
時間は冴子が霧彦を始末する前、タブードーパントへ変身した辺りまで遡る。
ディガルコーポレーションの見える向かいのビルに黒岩が立っていた。
黒岩は別の男から渡された長方形の弾を見据えている。
(こんなもので本当に上手く行くのか?)
そう考えながらもコブラメモリを起動しドーパントへ変身する。
そして、腕にライフルギジメモリを挿しライフルを出現させると二つの弾を生成した。
1つはこの長方形の物体を銃に込めて発射できる弾。
もう1つは弾速と速効性の毒を強化した毒の弾だった。
銃に弾を装填する。
一発目は長方形の弾、二発目が速効性の毒弾になるように.....
そして対象を捕捉し、タブードーパントが霧彦にエネルギー弾を放った瞬間、弾を二発発射した。
一発目がエネルギー弾の中心をとらえて爆発する。
これによりエネルギー弾も消失する。
そして、二発目の弾は正確に霧彦の心臓に当たると彼の命を止めた。
そして、冴子がメモリを回収しその場を後にすると黒岩が無線で克己に合図した。
「ターゲットが消えた。チャンスは今だ」
「分かった。」
そう言うと克己がヘリからディガルコーポレーションの屋上に向けて落下する。
背中の装置に傷を付けないように正面からコンクリートに激突した。
衝撃から身体が反転しそうになるが持ち前の運動神経でコントロールし身体全体で衝撃を受け止めた。
普通の人間なら即死級の重症を何度も負うが、
克己はNEVER特有の再生能力で起き上がると
霧彦の元に向かった。
霧彦を確認すると心臓近くの服に穴が空いた以外の外傷はなかった。
「凄まじい腕だな。
芦原がお前の事を誉めるわけだ。」
「それにしてもそこそこの音がしたが、ターゲットが帰ってくることはないのか?」
克己の質問に黒岩が答える。
「ヤツの言い分では幻覚作用を調整して五感を鈍らせているらしいから暫くは問題ないらしい。」
黒岩が放った長方形の物体の正体は幻覚作用を含んだ爆弾だった。
勿論、普通の技術で作られたものではない。
ドーパントの力で作り出した物だ。
自分と同じように無名に気に入られて、同じようにメモリの実験体となった男。
その言葉を黒岩は伝える。
「人は成果を得る際、そこに至る事象と言動を重視する。
自分の放った攻撃が爆発し相手が吹き飛び反応が無い。
それだけで自分がその行動を起こして手に入れた成果だと錯覚する....らしいぞ。」
「随分、ややこしいご高説だな。
まぁ良い、俺は俺の仕事をする。」
克己は対衝撃リュックから装置を取り出すと霧彦の身体に取り付けてとある薬液を注射した。
「それは?」
黒岩の問いに今度は克己が答える。
「仮死状態となっている細胞の保存と維持を行う酵素だ。
これでお前の毒が切れても仮死状態が継続される。」
「その間に、この装置がこの男の身体にある毒素の浄化をする。
そうお袋が言っていた。」
この装置はガイアメモリの毒素を調べる際に生み出された副産物だ。
体内の毒素を装置が取り込み浄化する機能があるが弱点として生命活動が強い生物には装置が機能しない。
だから仮死状態にする必要があったのだ。
「さて、装置の取り付けも終わった。
俺の仲間が下で待機している。この男を背負って向かうとするか」
そう言うと腰に付けたベルトの取っ手をビルの手すりに付けると霧彦を背負いそのまま落下した。
丁度、3階の高さでロープの長さが終わり落ちた衝撃が身体にかかるが、NEVERの回復力でごり押しベルトのスイッチを押すと屋上の取っ手が外れ落ちてきた。
それを回収すると近くに止めていた車に霧彦を乗せ、彼をこのまま孤島へと連れてきたのだった。
霧彦が今いるのは東の研究所の地下にあるフロアであり、ここはミュージアムも知らない。
そして、ベッドに寝かされた霧彦は装置に繋がれて毒素の浄化をされているのだった。
そこにマリアが現れる。
「どうでしたか、霧彦さんの容態は?」
「毒素の汚染が想像以上に酷いわね。
この装置を使っても完全に浄化するまでかなりの時間が必要よ。」
「そこは問題ありません。
ミュージアムは彼が死んだと思っている。
証拠も残していませんし、
気付いたとしても僕が犯人だとはバレませんよ。」
「貴方も随分と恐れ知らずな事をするのね。
ミュージアムを敵に回すつもり?」
「まさか、ただ僕は我が儘なんです。
欲しいものは欲しい、生きて欲しい者は生かしたい。
それだけですよ。」
その言葉に納得したのか、マリアは部屋を出ていった。
(これで、霧彦さんの死亡ルートは回避できた。
後は須藤 雪絵とどう接触するかだったが、丁度良く僕は風都に行けることになった。)
仮面ライダーWの舞台である風都。
そこに原作を改編し続けた悪魔が降り立つ。
彼が交わることで物語がどう動くのか、それを知るものは誰もいない.......
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アクセル編
第五十一話 戦うA/手に入れるドライバー
そして、新たな仮面ライダーの誕生も現していた。
照井はこの前の事件で押収したエンゼルビゼラについて調べていた。
天ノ川地区の繁華街やクラブで流行っているらしく、
最近では裏社会の資金源の1つにもなっていた。
そして、この薬とガイアメモリに関係あることが分かり調査を進めようとしたが、警察上層部から圧力がかかって公式な捜査が出来ないでいた。
俺はそれでも独自でこの事件を追っていた。
ガイアメモリ犯罪に繋がるのなら容赦しない。
全て潰してやる。
そんな中、照井の持つビートルフォンに着信があった。宛名はシュラウドで「外に出なさい。」とだけ書かれていた。
俺はそれに従い外に出ると木の陰に隠れているシュラウドを見つけた。
「シュラウド...何の用だ?」
その問いにシュラウドがとある場所を指で指すと炎が巻き上がり、中からアタッシュケースが現れた。
俺はそれを開けて中を見る。
そこにはドライバーが1つ入っていた。
「完成したのか!」
そう言ってシュラウドを見るがそこにはもう誰もいなかった。
しかし、丁度良いタイミングだ。
ドライバーがあれば強いドーパントが来ても対処できる。
それに、止められていたあの場所の捜査も出来そうだ。
そう考えるとドライバーを手に取りしまう。
そしてバイクに跨がるとエンジンをかけて捜査の為にその場所へ向かうのだった。
そこは天ノ川地区にあるパーティーが出来るプール会場であった。
エンゼルビゼラが蒔かれていると噂のパーティ会場だ。
叩けばいくらでもホコリが出るのは分かっていた。
会場に着くと二人のセキュリティに止められる。
「失礼ですが身分証を拝見。」
照井は警察手帳を見せる。
「けっ警察の方がどのようなご用で...」
「俺に質問をするな....ここで違法薬物取引の疑いがある。強制調査をさせて貰う」
そうして中に入ろうとする照井をセキュリティは止めようとするが、照井に殴り飛ばされてしまう。
「貴様らに用は無い。」
そう言って照井が中に入っていく。
中にはいると大音量の音楽と水着姿の男女がプールで踊りながら楽しんでいる。
ソイツらの中にエンゼルビゼラであろう錠剤の薬を飲んでいる輩を見つけた。
照井が近づこうとするとサングラスをかけたいかにもヤンキーな見た目の男達が照井を囲む。
「お兄さん...服着っぱなしだけど遊びに来た訳じゃないの?」
「ここで、違法薬物の取引が行われている疑いがある。
調査させて貰うぞ。」
それを聞くと囲んでいた男達が笑う。
「違法ってwwwもしかしてこれとか?」
そう言うと男達はエンゼルビゼラとガイアメモリを取り出した。
「やはりそうか....その薬とガイアメモリは関係があるようだな?」
「アンタ警察には見えないけどウザいねぇ。
色々と面倒だし殺しちゃうね。」
そう言うと囲んでいる奴等がメモリを起動する。
「
「
「
「
「
メモリを各々が身体に挿し込むとそれぞれのドーパントへと変化した。
客がその光景を見ても驚いてないことを見ると、日常的にこんな光景が流れていると言うことだ。
(手加減は要らないな)
照井はアクセルドライバーを腰に付けるとアクセルメモリを取り出し起動する。
「
「変....身!」
照井は声と共にメモリをドライバーの中心に装填し右側のスロットルを思いっきり捻る。
すると、メモリのエネルギーが照井を変身させた。
「なっ!お前、仮面ライダーかよ!」
周りを囲んでいたドーパントの一人がそう言う。
(仮面ライダー....確か風都でドーパントと戦っている奴を町の住人がそう呼んでいるんだったな)
ドーパントを倒す存在を仮面ライダーと呼ぶのなら俺もそうなのだろう。
なら俺も名乗るとしよう。
「俺の名は"アクセル"
仮面ライダーアクセルだ!」
そして、目の前のコックローチドーパントをぶん殴りプールへと吹き飛ばした。
そして、ドーパントを睨み付けて照井は叫ぶ。
「さぁ!.....振り切るぜ。」
Another side
獅子神は自分のテリトリーである天ノ川地区に帰ってくるとガタイの良い男に話しかける。
「
水島と呼ばれた男は答える。
「はい....ガイアメモリとドラッグ"エンゼルビゼラ"を撒いている組織はセブンスと呼ばれているそうです。」
「セブンス?...聞いたことねぇな。」
「元々は6つの独立した別々の組織だったのを"一人の男"が纏め上げて1つの組織に変えたようです。」
そう言うと水島は調べた資料を獅子神に見せる。
そこには1つになる前の組織の実態が事細かに書かれていた。
「ファイトクラブにキャバクラ、ヤクザに学校の教師、オマケにガイアメモリ使っている殺し屋か。
良くもこんなバラエティ豊かな奴等を纏めあげられるもんだ。」
そう言って獅子神は纏めあげている人物の事を考えて鼻で笑う。
「だが、何でコイツらがメモリや薬を手に入れられたんだ?
コイツらじゃガイアメモリの販売なんて出来そうに思えねぇが....」
「どうやら、ミュージアムのセールスマンを数人抱き込んだようで薬もその関連で手に入れたようです。」
「中々、優秀な奴だなその男は」
ミュージアムのセールスマンはガイアメモリを販売する関係で大量のメモリを所持している。
数人も集まれば組織として売り出せる程のメモリを集められることは想像に難しくなかった。
だが、薬...エンゼルビゼラは話が別だ。
あれは、ドーパントとなる適合率を上げる薬としてミュージアムによって開発されたが副作用として毒素が強くなる欠陥品だった。
無名が改良型生体コネクターを開発したことで研究は凍結され薬も処分された筈だったが.....
何時の世も杜撰な管理をする無能はいるものだ。
しかも、麻薬のような多幸感と依存性までつけて改良しちまうとは.....
恐らく、研究者が勝手に作った代物だろう。
言いたかないが無名が優秀すぎるせいで他の研究者の功績がカスの様にしか見えない。
奴がドライバーや改良したコネクターを開発する間、凍結された研究の薬を麻薬に変えてただけなんて....
この事は水島を通して先にミュージアムに報告した。
今頃、裏切った
今考えるのはその事じゃない。
「ソイツら兎も角としてセブンスって組織を纏めあげた男は欲しいな。
それだけのカリスマ性があるなら天ノ川地区のメモリ普及も進めることが出来るだろう。」
「そいつの名前は何て言うんだ?」
獅子神の問いに水島は答える。
「"雨ヶ崎灯夜"、現在風都で市議会議員をしている"雨ヶ崎天十郎"の息子です。」
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第五十二話 戦うA/夕闇のチェイス
天ノ川地区で定期的に行われていたパーティ。
これはただのパーティではなくガイアメモリとエンゼルビゼラを楽しむ事を目的としており、中にいた客もそう言う事に精通している者ばかりであった。
ここでは目玉となっているイベントがある。
何にも知らない一般人をパーティに招きドーパントとなった客がその者を殺すと言うショーである。
だからこそ、ドーパントになった者を見た時、
またショーが始まるのだと思っていた。
あの赤い仮面ライダーが現れるまでは。
ドーパントになった者を殴り蹴り地面へと沈める。
その戦い方は"Wの戦い方"と違い"相手を確実に破壊する戦い方"だった。
倒れたインジャリードーパントは逃げようとするが、
照井はその拳をドーパントの頭に何度も叩き付け、
地面が陥没しドーパントが動けなくなるとようやく殴るのを止めた。
その戦い方は敵であるドーパントに絶対的な恐怖を与えた。
「やっ....やべぇよ、アイツ普通じゃねぇ!」
「おい!どうすんだよ?ここままだと俺達殺されちまうよ。」
「貴様ら....何を悠長に喋っている。」
そう言って近付いて来る照井を、ウォータードーパントはプールの水を操作して水の中に閉じ込めた。
「こっ....このまま溺れ死ねぇぇぇ!」
その願いのような慟哭を無視するように照井はスロットルを回転させる。
アクセルドライバーはアクセルメモリだけの運用を想定し作られたドライバーだ。
故にアクセルメモリの特性を100%解放することが出来る。
スロットルを回転させると照井の身体にエネルギーが供給され、そのエネルギーが水の檻を破壊する。照井は続けて右腕に集中させたエネルギーをウォータードーパントに叩き付けた。
あまりの威力にダメージがメモリへと到達し、メモリが破壊されてウォータードーパントは元の人間へと戻る。
「ひぃぃぃぃ!」
その光景を見ていたドーパント達は逃走の姿勢を見せるが、照井がそれを許さない。
左のスロットルについているクラッチを握りマキシマムの態勢に移行する。
そして、右側のスロットルを思いっきり回す。
「
アクセルのエネルギーが足に集中すると逃げようとしたロケットドーパント、ミュージックドーパント、そして気絶していたインジャリードーパントを纏めて蹴り飛ばした。
三人のドーパントはプールに叩き込まれると爆発した。
「絶望がお前たちの.....ゴールだ。」
照井はメモリが破壊され人間に戻った三人の人間にそう告げ、コックローチドーパントを見据える。
「後は、貴様だけだ。」
「じょ.....冗談じゃねぇ!
お前に捕まってたまるかよ!」
そう言うとコックローチドーパントは持ち前の足を使った高速移動で逃走を図る。
「逃げ足だけは速いな。」
Wならもしかしたら彼を見逃したかも知れないが、目の前にいる照井にそんな甘い考えはない。
「逃げられると思うな!」
そう言うとドライバーをベルトから外し両手で持つ。そしてアクセルは変形しバイクの姿となってコックローチを追った。
夜の天ノ川地区を走る
追っている照井は近くに自分のバイクがあることを思い出すとそちらに向かった。
コックローチは見逃されたと思い逃げに徹するが、
真実はそうではない。
直ぐに戻ってきた照井の背中にはエンジンブレードがマウントされていた。
そのままコックローチを見据えながら真横のビルを登り始める。
ある程度の高さになるとバイク形態を解除しエンジンブレードを手に取った。
人間の頃と違い軽く扱える武器のスロットにエンジンメモリをセットし、二回トリガーを引く。
「
その音声と共にブレードを振ると「A」の形をしたエネルギー波が飛び出しコックローチに激突する。
火花を上げダメージにより移動を止めたコックローチに照井はトドメの態勢に入る。
エンジンブレードを握りマキシマムの音声を鳴らす。
「
そして、コックローチに向かい「A」の字を書くように斬りつけるとスロットからエンジンメモリを排出する。
メモリを照井が受けとると、コックローチドーパントは爆発しメモリブレイクされた。
倒れている男を持ち上げて照井は尋ねる。
「おい、お前はWのメモリの持ち主を知っているか?」
「え.....何だ....それ?」
(無駄足だったか....)
男は照井に乱暴に落とされると、その衝撃で気絶した。
その様子を見ていたのか照井の前にシュラウドが現れる。
「来ていたのか?」
「貴方がドライバーを使いこなせるか確認したかったのよ。
上手くいっているようね。」
すると照井はシュラウドに会場で手に入れた薬を投げて渡す。
「これは?」
「奴等がこの街で撒いている薬だ。
ガイアメモリに関係があるらしい...調べてくれ。」
「私がそれをするメリットは?」
「これは普通じゃない。
恐らくこの薬とメモリは何かしらの関係性がある。
もしかしたら、お前の敵対している組織が関係しているのかもな。」
「....分かった。
これはこちらで調べておくわ。」
「頼む。」
そう言った照井はドライバーのメモリを抜き人間に戻ると、倒れている男に手錠をかける。
その後、警察が会場に突入しガイアメモリと薬が見つかると上層部も止められなくなり、正式に事件として捜査されることとなった。
そして、その指揮を今回の功績(再三に渡る捜査要請)から照井が取ることになった。
会場にいたものは全員逮捕され留置所へと護送された。
その報告を聞くと照井は一人、アクセルメモリを眺める。
(漸くだ.....これで俺も本当に意味で戦える。)
俺の家族を殺したWのメモリを持つ者、
それを探しだし俺の手で殺す。
その願いを叶える力を俺は手に入れたんだ。
(父さん...母さん...春子、待っててくれ。
必ず、復讐を果たす。)
そんな事を考えていると部屋に刑事が大慌てで入ってきた。
「たっ....大変です照井班長!」
「どうした?そんなに慌てて」
「留置所へと護送していた車両が襲われました!」
「何だと!」
照井は直ぐに現場へと向かうのであった。
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第五十三話 戦うA/後始末
「何、どう言うことだ?」
部下からの報告を聞いた雨ヶ崎 灯夜はそう尋ねた。
「パーティをやっていた奴等が赤い仮面ライダーにボコボコにされて、全員警察に捕まっちまったんだよ。」
仮面ライダー....確か風都にいるドーパントを倒している奴の名前だった筈だ。
この天ノ川地区に来ていたのか?
クソッ!折角この仕事が軌道に乗ってきたって言うのに....
灯夜が裏の世界で目ぼしい者をスカウトし組織を統合させて作ったセブンス。
ミュージアムの構成員を手玉にとってメモリと薬を手に入れこれからって時にトラブルが起こった。
「警察は何をしてるんだ?
賄賂を渡してこっちに懐柔させた筈だろ。」
「それが、本庁から来た刑事が強行に捜査したみたいで....そんな中あのパーティが抑えられて警察としても捜査せざるを得なくなってしまったって言ってまして」
「ふん....使えないな。
所詮は金程度に靡くクズって訳か。」
「けど、どうします?
これでセブンスの存在が公になったら....」
「心配するな。
メモリを販売したのはあくまでもミュージアムのセールスマンだ。
俺達はそれを"仲介"しただけに過ぎない。
捕まった奴等も俺達が直接関わった"事実と証拠"は持っていない。」
「それは少し考えが"甘いな"。」
そう言うと白いスーツに赤いシャツを着た男が現れる。
「組織を動かすなら例え1%でも不安材料があるなら排除すべきだ。」
「おっ.....お前ら誰....かっ....あ」
灯夜の部下が喋ろうとしていたのを男が首を掴んで遮る。
「組織のトップ同士の会話に雑魚が入ってくるんじゃねーよ。」
「トップ?...貴方は一体。」
その問いに男は答える。
「俺は獅子神....ミュージアムで天ノ川地区のメモリ販売を任されている者だ。」
「ミュージアム....風都でガイアメモリを生産する組織がこんなところで一体何の用ですか?」
「ほぅ....やっぱり優秀だな。
風都の事も知ってるとは、情報を手に入れる力も持ってるのか。」
「それよりもそろそろ彼を離してくれませんか?」
「あぁ?別に問題ないだろ?....どうせ」
「処分しちまうんだからな。」
ゴキッ!と言う音と共に獅子神は灯夜の部下の首をへし折った。
「コイツがこの事件を知るとお前の元へ一直線に向かった。
尾行がいる可能性も考えず....そんな奴は生かしておくだけで危険だ。」
「成る程、つまり私を助けるために殺ったと....」
「まぁな、俺は優秀な人間が好きだからな。」
そう言うと灯夜の身体に触れ肌を見る。
「コネクターが無いな。
お前はメモリを使わないのか?」
「まだ、自分に見合うメモリが見つからないので....
保留にしています。」
「そうか....まっ、メモリとの出会いは運だからな。
まぁいいさ。」
そう言うと獅子神は部屋を見始めた。
そして、僕のノートパソコンを見つけると奪い取り、中のデータから収支に関する物を確認し始めた。
「貴方の目的は僕の組織ですか?」
獅子神は画面を見ながら答える。
「そうだ.....お前には組織運営の才能がある。
俺がミュージアム幹部として正式にスポンサーになればメモリを合法的に売り出せる。
俺はお前の販売ルートを手に入れ、お前はミュージアムの粛清を逃れて前よりも多くの取引が出来る。
お互いにとって得な話だろ?」
「確かにそうですね。
しかし、分かりません。
貴方程の力があれば無理矢理にでも従わせる事が出来る筈なのに何故このような提案を?」
すると獅子神はノートパソコンから目を外し灯夜を見る。
「お前、獅子神って名前に覚えはあるか?」
「確か天ノ川地区にある財閥に似た名前が...」
「そう、俺はそこの人間だ。
だが、"期待"されていなかった。」
「"養子"だったんだよ....だからこそミュージアムに送られた時は体の良い追い出し+生け贄としてだっただろうな。
だが、俺はそこで力を手に入れて獅子神家を正式に手に入れた。
当主と当主の候補者やそれに関係する者、全て皆殺しにしてな。」
「そうやって力を手に入れたんだ。
お前も俺とは立場が違うが似た匂いを感じる。」
獅子神のその指摘に灯夜は初めて自分の身の上を語った。
「僕は....父親の道具としてこれまで生かされてきました。
父親が政界に進出するため、仲の良い親子を演じてきたんです。
けど、僕は人間だ!アイツの道具なんかじゃない!」
「それを証明するためにこの組織を作ったのか?」
「そうだ!アイツの力を借りず自分の才覚だけでここまで作り上げたんだ。
そして、この組織を使ってヤツを絶望の底に叩き落とす!
それが、僕の目的だ!」
憎しみに歪んだ目で語る灯夜を見て獅子神は笑った。
「やっぱり俺達は似てる.....お互いに復讐の為に力を求めて組織を作った。
その話を聞いてもっとお前の事が気に入った。」
「約束してやるよ。
この組織をデカくした暁には、お前の父親を絶望に沈める手助けをしてやる。」
「だから、俺の所に来い!灯夜。」
「.....良いでしょう。
僕の組織を貴方に上げます。
....獅子神様。」
「獅子神で良い...お前とは様をつけずに呼び合いたい。良いか灯夜。」
「.....あぁ、分かったよ獅子神。
これからよろしく頼む。」
「それじゃあ、最初は何をする?」
灯夜の問いに獅子神が答えた。
「決まってるだろう?"後始末"だ。」
天ノ川地区を走る護送車の前に水島は立ち塞がると、ドライバーを付けてシルバーメモリを取り出し起動した。
「
そして、メモリをドライバーに装填すると羊の曲がり角が生えた怪物に変貌する。
そして、護送車に向かい手を翳すと護送車がふらつき、壁に衝突した。
全ての護送車が停止したのを確認すると後ろの扉を破壊して開ける。
中には捕まった者たちがいた。
「たっ、助かったのか?」
中にいた男がそう言うのを水島が否定する。
「獅子神様は仰った....ここの後始末をしろと」
「え?」
そうすると水島は中にいる囚人を一人ずつ確実に殺していった。
「やっ、止めて助けて!」「くっ来るなぁ!」「しっ死にたくない!」
そんな声を無視し全員を手にかける。
そして、囚人を全て殺し終わるとその場を後にするのだった。
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第五十四話 戦うA/残った証拠
照井は襲撃された護送車を見に来た。
もう既に警察が中の捜査をある程度行っており、道路には立ち入り禁止のテープが張られている。
照井は警備している警察官に手帳を見せて中に入る。
そして、照井を見つけた刑事が近付いてくる。
「これは照井班長、早いですね。」
「状況を」
「はい、護送していた囚人は全て殺されていました。
全員、首を折られて頭が逆向きになっています。」
「護送車を運転していた者達は?」
「それが.....」
「どうした?」
「全員"無事"です。
事故によるむち打ちはありましたが皆、命に別状はありませんでした。」
「どう言うことだ?」
「そう思って聴取したんですが皆、急に眠くなり意識を失ったと言っていました。」
「眠くなった?」
「はい、運転手が"全員一斉に眠った"んです。」
そう言うと刑事はまた調査に戻った。
(明らかにドーパントの仕業だ。
だが、何故囚人のみを殺したんだ?)
ガイアメモリを使うものは皆、大なり小なり毒素の影響を受けて凶暴化する。
そして、その影響で死んだ死体は酷い状態が多い。
だが、囚人の遺体は全て首を折られ頭を後ろに向けられているだけでそれ以外のダメージはない。
まるで確実に殺す事だけを行ったような印象だ。
今までのドーパントとは違う。
照井はそう確信した。
だからこそ、これ以上の証拠は出ない確信があった。
これだけ冷静に相手を殺害したのだ。
証拠隠滅も考えて動いた筈だ。
やっと、掴んだ組織の尻尾を逃した照井は悔しさで拳を握り締めて現場を後にするのだった。
そして、捜査は続くが見事に膠着状態となった。
これまでは積極的に行っていたパーティや取引の噂があの事件以降なりを潜め、それどころかメモリや薬の噂すら無くなってしまったのだ。
(何だ、この手際の良さは?
前までと組織の動かし方が変わったのか?)
照井はドライバーを手に入れる前もエンジンブレード片手にこの組織が運営する場所に何度か突撃したが、
その組織は直接的に関わっていないせいで名前すら出てこなかった。
だからこそ、俺が暴いても引き続き取引を行っていた筈だった。
だが、今回は全く違う。
これでは捜査が進むどころか止まったまま捜査が終わる危険性すらある。
(やはり、彼処にいくしかないか。)
上層部に止められて以降、俺は近付くことすら許されていない場所......獅子神邸。
照井はバイクに乗り込むと獅子神邸へ向かうのであった。
天ノ川地区にある大きな日本庭園を所有する屋敷、ここが獅子神財閥の誇る獅子神邸だった。
前に乗り込んで以降、警戒されたのか扉には門番が常に立っていた。
だが、ドライバーを手にした今は問題ない。
照井はドライバーを付けるとアクセルメモリを装填しスロットルを回した。
「変....身。」
その声と共に仮面ライダーアクセルへと変身が完了する。
エンジンブレードを肩に担ぐと屋敷の屋根を飛び越えて侵入を果たすのだった。
夜だったことと音を立てずに入れた事もあり、門番には気付かれていない。
屋敷の部屋に近付こうとして危険を感じた照井はそれを避けた。
すると、先程まで立っていた場所にナイフが突き刺さった。
「こんな夜更けに侵入者とは.....」
「しかも、仮面ライダーか....運が良い。」
屋敷の中から黒いフードを付けた男と背後には着物姿で笠を被った男が立っていた。
「お前達は一体?」
照井の問いにフードの男が答える。
「獅子神様の部下ですよ二人とも」
「それより、どうする?
コイツがいることがバレたら面倒だぞ?」
そう言う着物姿の男の言葉に同意するとフードの男はトランシーバーで門番に通信をする。
「全員、見張りはもう良いですので今日はこれで帰ってください。」
この言葉に照井が疑問を持つ。
「何故、門番を帰した?」
「彼等はこちらの事情を知りません。
音に反応して中に入られると殺さないといけなくなりますから」
「そう言うことだ。」
邪魔者を排除した。つまり、
彼等はここで照井と殺し合う気のようだった。
照井にもその意図が伝わりエンジンブレードを構える。
「上等だ....かかってこい。」
「ほぅ....良い覚悟ですね。」
「おい、俺に殺らせろ。」
そう言うと着物姿の男が照井の前に出る。
「勝手に決めないでくださいよ。」
「良いだろう、お前は前に殺しが出来ただろうが、俺は暫く殺しが出来ていないんだ。
このままだと腕が鈍る。」
フードの男はその言葉を聞くと溜め息を吐いて屋敷の壁にもたれ掛かった。
「そう言うことだ。
お前には俺の相手をして貰う。
お前....名前は?」
「仮面ライダーアクセルだ。」
「アクセル!良い名前だな。
俺はこう呼ばれてる。」
「"平成の人斬り"と....」
そう言うと着物姿の男はメモリを起動する。
「
そして、メモリを装填すると両腕が刀に変化した怪物が姿を現す。
「さぁ!殺し合いを楽しもうかぁ!」
そう言うとリッパードーパントは照井を斬り付けた。
それをエンジンブレードで受け止めるが直ぐに刀を返してエンジンブレードに添うように刀を滑らせて首を狙ってきた。
「ぐっ!」
照井はそれを力任せに弾く。
「ほぅ....中々やるなアクセル。
俺の"返し太刀"をそうやって防ぐか。」
「お前は剣術をやっているのか?」
照井の問いにリッパードーパントは答える。
「その通り、俺は自分の剣の技を鍛えるためにこの力を使っている。」
「成る程、ガイアメモリを使うような人間は皆、何かしら異常ではあるが、お前はその中でもダントツでおかしいな。」
「あっはっは、誉め言葉として受け取っておこうかぁ!」
リッパードーパントは照井にまた向かっていくが、照井も迎撃の態勢を整えていた。
エンジンメモリを差し込んでトリガーを引く。
「Electronic」
ブレードを帯電させるとリッパードーパントの攻撃を受ける。
リッパードーパントが電気によるダメージで動きが止まった隙に一太刀浴びせた。
リッパードーパントはその一撃で地面を転がる。
「ぐっ!やるじゃないかアクセル。
武器にそんな力がつくなんて....やはりこの戦いは面白い。」
そう言うとリッパードーパントはもう1つのメモリを構える。
「それは?」
「もう少し遊びたかったが、もう我慢できなさそうだ。
ここからは本気で相手をしよう。」
「
独特な機械音声が聞こえるとリッパードーパントはメモリを腕についていた
すると、リッパードーパントの身体が煙へと変化した。
「何だこれは?」
照井が警戒するが煙がこちらに近寄ると鋭い斬撃が身体を襲った。
「ぐぁっ!何っ!」
照井は反撃しようとするが煙を斬ることは出来ず、
逆に煙に纏わりつかれ絶え間ない斬撃が照井を襲った。
そして、照井が倒れる身体をエンジンブレードで支えていると首筋にリッパードーパントの刃が当てられた。
「これで詰みだな。」
そう言ってリッパードーパントが照井の首を落とすべく刀を振るった。
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第五十五話 戦うA/始めての敗北
リッパードーパントの刀が振り下ろされると同時に、照井は最後の力を振り絞り接近する。
そのお陰で刀の狙いが外れて肩に当たる。
その痛みを無視しスロットルを回して強化したパンチをリッパードーパントに打ち込み吹き飛ばすと、照井はバイクへと変化しその場を逃亡した。
その姿を見ていたフードの男がリッパードーパントに話しかける。
「逃げられてしまいましたね。」
「あぁ、だが最後のは良い一撃だった。
芯をズラして受けなければ危なかったな。」
そう言うとリッパードーパントはメモリを引き抜き元の人間の姿に戻った。
「追わないんですか?」
「どの道、あの速度には追い付けん。
そんなに追いたいならお前が追え。」
そう言うと着物姿の男は屋敷の中に帰っていった。
「ふーっ、相変わらず我が儘な事で」
そう言うとフードの男も屋敷の中に入った。
逃走していた照井は身体の限界によりバイク状態が強制解除され、草むらへと転がり落ちて変身が解除された。
照井の肩には大きな斬り傷と他にも身体全体に傷が出来ていた。
赤いライダースーツもボロボロだ。
「ぐっ...あっ...」
喋ることすら出来ない身体を無理に動かし、照井はビートルフォンにギジメモリを挿してライブモードにする。
そして、ビートルフォンは協力者であるシュラウドに救援を頼みにいく。
それを見ながら照井は意識を失った。
Another side
獅子神は部下である我望と会うため天ノ川高校に向かった。
目的は、ガイアメモリ流通に適した場所や人を斡旋して貰うことだ。
獅子神はノックもせずに我望の部屋に入る。
中には我望のボディガードであり秘書である
「これはこれは獅子神様、今回はどんな御用で?」
「分かっているだろう?
ガイアメモリ流通の件だ。」
「それに関しては前にお話しした筈です。
今は紹介できる人材も場所もないと」
「そんな事は関係ない。
貴様はただ私の言ったことに従い、求めている物を持ってくれば良い。」
「ぐっ!貴様っ!我望様になんて言い草だ。」
立神が獅子神の態度に苛立ちを覚える。
「何だ貴様は?コイツは私の下についたんだ。
ならば黙って私に従うのが道理だろう?」
「くっ!今度と言う今度は許さん!
我望様への狼藉、その命で償え!」
立神が、怒りのままホロスコープスイッチを押して
レオゾディアーツへと変身し獅子神に攻撃を仕掛けるが、レオドーパントに変身した獅子神によって攻撃を止められてしまう。
獅子神が手を翳すとレオゾディアーツの爪は止まり動かなくなってしまった。
「躾のなっていない番犬だな。」
そう言うと獅子神は手に集めた斥力を立神に放出し彼を外に押し出した。
学校の校庭を削りながら立神が吹き飛ばされる。
そして、獅子神は悠々と空を浮かび地面に着地した。
「貴様ぁ!」
立神が口からエネルギー弾を獅子神に向かい吐き出す。
それを獅子神は手を翳して受け止めると、今度はエネルギーを圧縮して校庭の砂も巻き込んでいく。
エネルギーが砂に触れて分子と原子の融合が始まり、獅子神の手には小型の太陽が生成されていた。
「バカなっ!」
その光景を立神は否定する。
「この程度、ガイアメモリならば造作もない。
貴様らのゾディアーツスイッチでは不可能だろうがな。」
そう言うと獅子神は手に作り出した太陽を立神に向かって放つ。
立神はそれを爪で受け止めようとするが、
あまりの威力に爪が崩壊し腕の装甲で攻撃を受け止める。
「ぐおぉぉぉぉぉ!」
立神は崩壊していく自分の身体の痛みに耐えながら何とか防ぐがもうもたないだろう。
そうして獅子神がトドメを刺そうとすると太陽に"赤き矢"が当たり貫かれその力を失った。
矢を打った方向を見ると我望 光明...サジタリウスゾディアーツが矢を放ち立神を救った。
そうして、地面に降り立つと足を畳み獅子神へ頭を垂れる。
「部下が暴走してしまい申し訳ありません獅子神様。
どうか寛大なご配慮を」
「ふん!俺がここに来たのは戦うためでも、お前の部下を痛め付けるため訳でもない。」
「はい、早急に場所の選定と人員の斡旋を行いますのでどうか今回だけは.....」
獅子神はそんな我望の姿を見るとメモリを抜く。
「明日また来る。
それまでに用意できないのならお前らの学校の生徒にガイアメモリを販売する....覚えておけ。」
そう言うと獅子神はその場を後にした。
獅子神が帰ったのを確認すると我望は変身を解き、立神の元へ向かう。
「大丈夫か?立神。」
「もっ....申し訳ありません我望様。
私の独断で貴方の立場が......」
立神は損傷した両腕で何とかスイッチを切ると人の姿に戻ったが腕が火傷に爛れていた。
「酷いな.....早く治療をしなければ」
「我望様、何故我々はあんな奴等に従わなければいけないのですか?」
立神の問いに我望は答える。
「奴の強さは未知数だ。
最初に会った時は"超新星"を使えば互角に持っていける程度の強さだったが今は違う。
恐らく、全てのホロスコープスを集めなければ勝てないだろう。」
"超新星"....宇宙の力"コズミックエナジー"を使い変身する怪物"ゾディアーツ"、その中でも選ばれた12人のホロスコープスと呼ばれる存在が使える規格外のパワーである。
現在、ホロスコープスは四人しかおらず、更に超新星を獲得しているのは我望と立神だけだった。
しかし、立神の超新星は自爆技の為、簡単には使えない。
こんな状態で獅子神に勝つのは不可能だった。
「だから、今は奴に従うのだ。
どんなに屈辱的だろうと全てはプレゼンターへ接触するためだ。」
「......承知致しました我望様。」
そう言うと立神は両腕の治療に、我望は破壊した窓ガラスと校庭の修繕を業者に依頼しにいくのであった。
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第五十六話 戦うA/忘れられない過去
俺が家に帰ると中がまるで冷凍庫のように冷えきっていた。
俺は急いで中に入るとそこには氷漬けにされた父さんと母さん、そして妹の春子がいた。
父は母は春子を守るように覆い被さっていた。
「とっ....父さん!母さん!春子!
何が一体?」
俺の声が届いたのか父が意識を取り戻した。
「り.....竜。」
「何?父さん。」
「氷....."氷の怪人"だ。
Wのガイアメモリを....」
「何だよそれ....」
俺は父親にそう言って触れると三人は粉々に砕け散った。
そして、シュラウドに出会いアクセルのガイアメモリを手に入れ俺は復讐者になったのだ。
氷の力を持ったWのメモリの持ち主を必ず殺す。
それだけが俺の生き甲斐となっていた。
目を覚ました照井は見知らぬ場所のベッドで横になっていた。
身体には傷を治療した跡がある。
「気が付いた?」
シュラウドかそう言って中に入ってくる。
「シュラウドお前のお陰で助かった。
礼を言う。」
「何があったの?
アクセルドライバーを持った貴方がここまでのダメージを負うなんて普通じゃないわ。」
「事件を追って獅子神家の屋敷に入ったんだ。
そこにメモリを二つ使うドーパントがいた。」
「二つのメモリ?」
「あぁ、リッパーとスモークのメモリだ。」
シュラウドは俺の言葉に思い当たることがあるのか説明した。
「恐らく最近、組織の幹部が作り出したドーパント強化システムを組み込んだ奴でしょうね。
そいつはギジメモリでガイアメモリの能力を底上げしている。
普通に戦ったら先ず勝ち目は無いわ。」
「だが、奴等が護送車を襲い囚人を皆殺しにした事件に関与している疑いがある。
多少強引にでも組織と繋がる物的証拠を獅子神邸から見つけようとしたんだが.....」
「返り討ちにあったと言うわけね。」
「やはり、彼処に何かがあるんだ。
だからこそ、護衛に部下のドーパントが待機していた。
シュラウド、奴等に勝つ方法はあるか?」
「現段階では無理ね。
恐らく、フィリップの能力を使っても初見で勝つことは出来ないでしょう。」
風都を守る仮面ライダーWの片割れ。
地球の記憶を検索して情報を得る能力を持っており、それを使って相棒とガイアメモリ犯罪を解決しているらしい。
「何故だ?」
「記憶とはその物に宿る歴史であり知識よ。」
そう言うとシュラウドはマグカップを取り中にコーヒーを入れた。
「マグカップと呼ばれ表されるのは中身の入ってない物、それに飲み物が入ったらそれはもうただのマグカップでは無い。
中身の飲み物が変わればもう別のマグカップになる。」
「つまり、元のメモリの能力が分かっても、付加された力が個別で分からないと対処が出来ないと言うことか?」
「その通り、貴方がそいつに勝ちたいのなら有利な面を潰していくしかない。」
「有利な面.....」
「スモークと言うメモリを私は知らない....恐らくそれがギジメモリなのでしょうね。
その対処法を見つけないと話にならないわ。」
「だが、煙だぞ?
斬れないし殴れない相手にどう戦えば良いんだ?」
「......それを考えるのは貴方の仕事よ。
私はあくまで手助けするだけ」
そのシュラウドの言葉に照井はかけてあったボロボロなライダースーツを着る。
「もう行くの?」
「あぁ、あの獅子神の部下の強さは尋常じゃなかった。
奴等が今回の事件の組織を奪ったのなら、動きが変わったのも納得がいく。」
照井の言葉にシュラウドは紫色の"ビデオカメラの様なガジェット"にギジメモリを挿した。
「
すると、ガジェットが変形し細長い胴体にカメラのレンズがついた物へ変形し照井の元に向かった。
「これは?」
「新しく開発したアクセル用サポートガジェット"イールチャンネル"よ。
映像撮影や追跡、そしてアクセル変身時にはリアルタイムでその撮影している映像を見ることも出来るわ。」
「分かった使わせて貰おうこの"蛇"をな。」
そう言って出ていく照井に小さく告げた。
「これは"鰻"よ照井 竜」
照井はビートルフォンとイールチャンネルにギジメモリを挿し込みライブ状態にすると命令を下した。
「着物姿の男か黒いフードを着けた男がいないか探してくれ。」
二匹は了承の意思を示すと即座に索敵に向かった。
(
アクセルの装甲ですら軽く切り裂いたあの力....どう対処する?)
その間に、照井はあのドーパントである平成の人斬りについて思案していた。
アイツは剣術を学んでいる。しかも生半可な技術ではない。
警察学校で剣道を習った照井だが、あのドーパントとの戦いではアクセルの力を使って無理やり互角に持っていっただけだ。
(剣術でも負けている俺が奴に勝っていること.....)
そうして、俺はエンジンメモリを手に取る。
「.....試してみる価値はあるか。」
そうしているとビートルフォンが帰って来て携帯の姿に戻った。
「見つけたのか!」
そう言って携帯を開くとそこには、着物姿の男とフード姿の男そして獅子神と部下らしき者が数名で談笑している映像が映っていた。
イールチャンネルと繋いで流している映像なのだろう。右端に"live"の文字が点滅している。
俺はシュラウドが回収してくれたであろう自分のバイクに乗り込み、その場所へ向かうのだった。
一方、獅子神は自分の部下になった灯夜に仲間を紹介していた。
「コイツらが俺の忠実な部下三人だ。
水島に
そうして紹介された三人の内二人が話す。
「始めまして私の名前は白爪、以後お見知りおきを...」
フードの男がそう言う。
「紫米島だ....よろしく。」
着物姿の男がそう言った。
「よろしくお願いします。
ところで水島さんは何故、黙っているのですか?」
「私は獅子神様に発言する許可をいただいていない。」
そう言うと水島は首に何かを注射した。
「一体何を.....」
「こいつの事は気にするな。
ある実験で誕生した個体なんだが記憶の喪失が激しくてな、定期的に酵素を使わないといけないんだよ。」
その言葉に灯夜は納得する。
「それにしても俺の家に仮面ライダーが来るとはな...
白爪の報告を聞いた時は驚いたぜ。」
「えぇ。しかし、風都にいる仮面ライダーとは違うようです。」
「となると、新しい仮面ライダーが現れたと言うことか.....」
「あぁ、中々に強い御仁だったぞ。」
紫米島の言葉に白爪が苦言を言う。
「貴方が昨日の内に仕留めていればこんな報告をする必要も無かったのですがね。」
「固いことを言うな。
逃げられたのもアクセルの強さだ。
俺はそれを認めている。」
二人のやり取りをみて獅子神は笑う。
「まぁ良いさ、お前らの性格はよく分かってる。
それ込みで仲間にしたんだ、この程度の事なら構わないさ。」
獅子神は勘違いされるが仲間と認めたものにはある程度の自由行動を認めている。
だからこそ紫米島の態度を許容しているのだ。
そんなやり取りをしているとバイクで招かれざる客が現れる。
その姿を見た紫米島は歓喜しながら言った。
「また来てくれたかぁ!アクセル!」
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第五十七話 戦うA/リベンジ
紫米島はバイクに乗って現れた男がアクセルだと分かり歓喜した。
そして、その光景を見つつ獅子神はアクセルを見つめていた。
(顔はヘルメットのせいで分からないが、身体に包帯を巻いていることを見ても相当なダメージを負った筈。なのにこれだけ動けているのか....)
ガイアメモリで受けたダメージは治療能力を持ったメモリの力か、自然治癒しか治す術は無い。
これだけのダメージを受けて動けていると言うことは、アクセルに回復能力があるか耐久力が高いかのどちらかだった。
(俺のレオメモリと似た特性か?
てことは適合率も相当高そうだ。)
獅子神も現れたアクセルに対して興味を持っていた。
「まさか、また来てくれるとはなぁ。嬉しいぞアクセル!
さぁ、殺し合いを始めようか!」
「待ってください紫米島。」
その動きを白爪が止める。
「態々、敵である彼がここに来たのです。
全員で潰すのが効率的です。」
「貴様っ!俺の戦いに泥を塗る気か!」
紫米島は白爪に激昂するが獅子神が白爪を止めた。
「良いじゃないか。
お前が一対一で戦いたいのならそうすれば良い。
私も
「おぉ、感謝するぞ!」
「話は終わったのか?」
照井が紫米島に尋ねる。
「あぁ!待たせたなアクセルよ。
さぁ、殺し合いを始めよう!」
「Ripper」「Smoke」
「今度は負けない.....復讐を果たすまで俺は倒れる訳にはいかないんだ!」
「ACCEL」
「変....身!!」
二人の戦士、仮面ライダーアクセルとリッパードーパントの戦いが始まった。
戦いはリッパードーパントが有利に進めていた。
最初からスモークギジメモリを使い、身体を煙に変えながら変幻自在の斬撃を照井に浴びせる。
ある程度の攻撃は防御できたが、反撃の出来ない照井はゆっくりと追い詰められていった。
その照井の動き方に獅子神は違和感を覚える。
(この動き、ダメージを抑えながら戦っている?
何故だ、時間稼ぎのつもりか?)
獅子神の想像通り照井は肉体のダメージを最小限に抑えながら戦闘をしていた。
防御に重きを置いた戦い方であった。
そして、それが紫米島にも分かり攻撃を止める。
「アクセル!貴様何を考えている!
俺とお前の殺し合いなんだぞ!
防御ばかりでふざけているのかっ!」
紫米島にとって強者との戦いは斬って斬られての死闘であった。
アクセルにもそれを求めていた故に落胆した声を出す。
照井はゆっくりとエンジンブレードにメモリを装填し閉じた。
そして、覚悟を決めたのか言い放つ。
「安心しろ....もう防がない。」
そう言うとエンジンブレードを紫米島に向けた。
先程の落胆が嘘のように笑顔になると照井の元へ突っ込んでいく。
煙が照井に近づく....そこに照井はエンジンブレードを向けるとトリガーを引いた。
「
そして、刃が肉を切り裂く音がした。
紫米島の刃が照井の頭の上で止まっている。
何故なら、エンジンブレードが紫米島の腹部を貫いていたからだ。
「うっ!ぐっ......」
そのままエンジンブレードを引き抜くと紫米島に斬りかかる。
紫米島は身体を煙に変えて回避しようとするが、エンジンブレードが蒸気を纏うと煙がドーパント体へと戻ってしまった。
紫米島はブレードを両手の刀で受け止める。
「なっ!.....能力が解除されただと?」
「半分賭けだったがどうやら上手くいったようだな。」
そう話す照井に紫米島は尋ねる。
「どういう事だ、俺に何をした?」
「お前の能力をずっと観察させて貰った。
"煙の能力"について知りたかったのでな。」
「煙の能力だと?」
「あぁ、お前のその煙が"生成された物"か"変化した物"かどっちか知りたかったんだ。」
照井はメモリの能力が"煙を作り出せる能力"か"肉体を煙に変えられる能力"のどちらか知りたかったので、暫く紫米島の攻撃を受けていてのだ。
「結果としてお前は肉体を煙に変化させている事が分かった。
後はその煙をどうするかだが、エンジンメモリが解決してくれた。」
エンジンメモリには"スチーム" "ジェット" "エレクトリック"と言った能力を付与させる力がある。
エレキトリックは電気、ジェットは高速で射出されるエネルギー弾、スチームは高熱の水蒸気を放つことが出来た。
「煙とは極小サイズの塵が集まった状態だ。
恐らく、自分の身体をその塵に変えることが出来るのがそのスモークメモリの特徴なのだろう。」
「ならばその塵が纏まる場所を作れば言い。
スチームで熱せられた水蒸気は塵となったお前の肉体に触れると分かれていた塵をくっ付ける事が出来る。
煙の匂いが水に付くのと同じ原理だ。」
「成る程、それで俺の能力が解除された訳か....
ははははっ....面白いなぁ!」
「下らない小細工はこれで終わりだ。」
照井はドライバーをマキシマムの状態に移行するとそのエネルギーをエンジンブレードに流す。
「マキシマムの力をのせたブレードだ。
蒸気を流しながら斬れば良い。」
「舐めるなよ....俺はやられない。」
「なら、試してやる。」
そう言うと照井はブレードを紫米島に振り下ろそうとするが、刃は別のドーパントを斬り付けた。
「なっ!」
照井の動揺を無視するように、別のドーパントは手を翳してくる。
しかし、何の効果も無いのでそのままブレードを振るが、紫米島を抱えて後ろに下がられたため空振りに終わる。
「何のつもりだ!水島!」
紫米島はその行為を咎めるように水島と呼ぶドーパントに問いかける。
「俺が"命令"したんだ。」
後ろにいた獅子神がそう告げた。
「もうアクセルの力も分かった。これ以上の戦いは意味がない。」
「ふざけるなっ!これは俺の戦.....」
紫米島はそれ以上話せなかった。何故なら頭部を捕まれたからだ。
ドーパントであるにも関わらずミシミシと頭の骨が軋む音が聞こえる。
「俺はお前らに"自由"は許したが"反抗"は許してない。
俺の命令が聞けないのか?」
そう言いながら獅子神は照井に顔を向ける。
「それにしても面白い人間もいたもんだ。"シープ"の催眠波を受け付けない奴がいるとは....」
「どういう事だ?」
「この男が使っているシープメモリには相手を眠らせる力があるんだよ。」
「!!....まさか、護送車を襲ったのは貴様か!」
その問いに獅子神が変わりに答える。
「あぁ、その通りだ。」
「貴様ぁぁぁ!」
照井は怒りのままエンジンブレードを握りマキシマムを発動する。
「ENGINE MAXIMUMDRIVE」
照井はエンジンブレードで水島に「A」の文字を刻んだ。
しかし、水島にダメージはない。
「ならば、これならどうだ。」
「ACCEL MAXIMUMDRIVE」
照井の回し蹴りがまた直撃するがダメージはない。
「どういう事だ?」
その問いに水島は答えること無く、自身に蹴りを入れた形で止まっている足を握ると投げ飛ばした。
コンクリートの地面を数度跳ねると照井の変身が解除される。
「ぐっ.....あ....」
前の怪我も治らない中での戦闘で、照井の身体は限界を迎えていた。
相手を睨むことしかもう出来ない。
照井のリベンジは呆気ない最後を迎えた。
そして、獅子神が飽きたように告げた。
「もういい、つまらん。
"殺せ"!」
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第五十八話 戦うA/風都へ
獅子神の命令により水島が照井にトドメを刺そうとすると、水島が持っていた電話が鳴った。
これはミュージアムの幹部に渡される携帯であった為、水島は変身を解いて懐から携帯を取り出すと獅子神に渡した。
「はい、獅子神です。
.....はい....えぇこちらは問題ありません。
....それは本当ですか?....はい分かりました。
ではそのように....失礼します。」
電話を切ると獅子神が踵を返した。
「お前ら帰るぞ。」
「何かあったんですか?」
白爪の問いに獅子神が答える。
「"婿どの"が亡くなったらしい。
組織を裏切ってな。」
その言葉に白爪は驚く。
「だから、俺達も一度戻されるそうだ。
水島、車の手配をしろ直ぐに風都へ向かう。」
「承知しました。
この男はどうしましょう?」
「ほおって置け。
どうせ、俺達の敵にはなり得ない。」
「何だとっ!貴様っ!」
照井は睨みながら獅子神に告げた。
「ふん!動くことも出来ない雑魚が吠えるな。
みっともないぞ。」
しかし、何か考え付いたのか獅子神は髪を握って顔の前に持ち上げる。
「もしも、リベンジがお望みなら風都に来ると良い。
歓迎してやるぞ。」
「風.....都...」
「そうだ。
その復讐心が本物なら来い。」
そう言って手を離すと獅子神はその場を離れ、
照井は意識を手放した。
それから数日が経ち天ノ川地区で始まった捜査は打ち切りが決まり、束の間の平和が訪れた。
恐らく、獅子神達が風都に向かったのでガイアメモリ犯罪や売買が行われなくなったのだろう。
街は平和になり身体のダメージも完治した照井ではあるがその顔は優れない。
力を手にすれば復讐が果たせると思っていた。
だが、結果は違う。
見逃された.....いつでも殺せると言わんばかりの獅子神の態度に照井の心に怒りが灯る。
そして決心した。自分も風都に行くと.....
Wのメモリの使い手を見つける。
そして獅子神達を倒す....照井は新たな目標を胸にバイクに乗る。
本庁では俺の働きが評価され、
風都に"超常犯罪捜査科"が作られ俺はそこの室長になるらしい。
肩書きはどうでも良い....奴等を探し出して今度こそ決着を付けてやる。
復讐に燃える男、
これは彼が風都の仮面ライダーになる前のお話。
霧彦の死が新聞で報じられると琉兵衛により幹部全員集められた。
僕は"孤島"から獅子神は"天ノ川地区"からサラは"プライベートシップ"から園咲邸に向かった。
園咲邸には当主の琉兵衛以外に冴子、若菜、ミックそして執事の師上院がその場にいた。
そして、三人の幹部も集まると琉兵衛が話し始める。
「これで全員集まったな。
先ずは来てくれた事に礼を言おう。
今回、集まって貰ったのは他でもない。霧彦君が死に風都のメモリ供給に遅れが出る懸念が出て来た。
そこで、君達三人には暫く風都でメモリ販売の手伝いをして欲しいのだ。」
琉兵衛の言葉にサラが尋ねる。
「しかし、そうなると獅子神と私の担当している地区が機能しなくなってしまいますが....」
そう無名を除いた二人は別の地区のガイアメモリの流通と販売を仕切っている。
トップが離れると言うことは競合相手に地区を奪われる危険もありまた勝手な行動をする輩の対処が遅れる又は出来ないことを意味していた。
「重々、承知している。
何も何ヵ月もここにいてくれとは言わない。
君達なら半月もあれば事態を好転させることが出来るだろう。」
(つまり、半月以内に成果を出せと言うことか。)
琉兵衛の意図に気づいた三人はお互い苦い顔をする。
その原因は他でもない仮面ライダーの存在だ。
仮面ライダーWこの風都でガイアメモリ犯罪と戦うヒーロー。
これまで、ミュージアムの作戦を悉く潰してきた存在。
最近では冴子が本気で彼を取り返そうと策を講じたが、
原作で言えば霧彦が死にアクセルが加入する前だ。知ってか知らずか琉兵衛を戦力を補充しておきたかったのだろう。
「承知しました。
では、我々は冴子様のガイアメモリ販売に助力をするのですか?」
サラの問いに琉兵衛が答える。
「個別で頼みたいことはあるが、基本はそうだ。」
「個別ですか?」
「サラには冴子や若菜と共にとあるガイアメモリの使い手に会ってきて欲しい。中々、癖が強く
「獅子神と無名、君達にはガイアメモリの流通と実験、そして仮面ライダーの相手もして貰いたい。」
「となると....僕はガイアメモリの実験を担当するのですね?」
「うむ....そろそろメイカーに蓄積したメモリのデータも揃う頃だろう。
新しいメモリの一本でも製作して貰おう。」
メイカーの稼働を正式に琉兵衛が指示した。
「それと....これは冴子からの決定事項だが、仮面ライダーWへの幹部三人の直接的な手出しを禁ずる。」
「なっ!どういう事ですか?琉兵衛様!」
「"君達の安全に配慮した結果"だそうだ。」
自分達が劣っていると言われたと思ったのか獅子神は不機嫌な顔になる。
(ワードメモリとの契約の件だな。)
ワードメモリと契約したこの三人は園咲家の家族に危害を加えることを禁じられている。
僕達が戦い
手を出した者は契約通り死んでしまう。
恐らく再生酵素でも復活は不可能だろう。
ワードメモリはゴールドクラスだ。
制約により成立した死を覆すには、それこそこの世界の理に干渉できる程の力が無ければ無理だろう。
つまり、不可能と言うことだ。
「分かりました。
では、現段階でミュージアムが行っている実験や研究を教えていただいても宜しいですか?
それかガイアメモリによる事件でも構いません。」
無名の問いに冴子が答える。
「特に今、やっている研究は無いわ。
ギジメモリ開発もメイカーが本格的に稼働するまでは出来ない。
メイカーの出来次第ってとこね。
事件に関して最近、凍結事件が増えているぐらいね。」
(凍結事件と言うことは"アイスエイジ"が活動し始めたと言うことか....なら、照井が来るのも近いか。)
そうして、獅子神と無名は風都でのメモリ関係の仕事に就きサラは園咲家の姉妹と共に風都を震撼させた連続殺人事件の犯人に会いに行くのであった。
「"仮面ライダーW"原作との三つの相違点....
1つ、照井が風都に来る前に仮面ライダーアクセルへと変身した。
2つ、照井と獅子神に因縁が生まれた。
そして3つ、照井がシュラウドからイールチャンネルと呼ばれるガジェットを受け取った。」
(仮面ライダーOOO風)
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原作再開
第五十九話 凍らせるI/出会い
師匠である鳴海荘吉のようにクールで時には非情に事件を解決していく大人の男そうなるために日々精進している。
そんな彼が今やっているのは鳴海探偵事務所に併設されているビリヤード場で棒を構えてはズレ構えては落としそうになる....そんな作業だった。
本人は真面目なんだろうが全くハードボイルドではない。
何度も失敗してイラついたのか思いっきり振った瞬間、ビリヤードのキュウが思いっきりすっぽぬけて飛んでいってしまった。
それを謎の男が片手で掴むと翔太郎の代わりに構えて打ち出した。
球が全てに当たりホールへと入った。
そして、素性を尋ねられてこう答えるのだった。
「依頼人だ。」
照井 竜....刑事のようで、ガイアメモリに関する事件の調査で実績があるからとこの事務所を訪ねてきたらしい。
翔太郎は何故かこの男が気に食わず依頼を断ろうとするが、渡された依頼金に目が眩んだ亜樹子が翔太郎の頭をひっぱたき照井の依頼を受けてしまった。
そして、流れるように照井が事件現場に向かうのに翔太郎も渋々着いていくのだった。
事件現場に着くとそこは冷蔵庫の様に冷たかった。
あの時の事件が頭の中をフラッシュバックする。
怒りに耐えながら俺は調査を始めた。
"超常犯罪捜査科"設立により俺についた二人の部下、
そこで刃野達は翔太郎と話し始める。
どうやら、ある程度の交友があるらしく情報をペラペラと話していた。
だが、咎める気はない。
何故なら、
そんな中、照井は地面に落ちている花を見つける。
(
照井は過去の事件との類似点から、この事件の犯人が家族を殺した奴だと思い込んだ。
そんな事を知らない翔太郎がズケズケと質問をしてくる。
俺は怒りから胸ぐらを掴み壁に押し付けた。
「痛って....何すんだ!」
「最初に言っておく!.....俺に質問をするな。」
照井は翔太郎を睨み付けながらも部下に被害者の安否を聞き、生きていることが分かると急いでその病院へ向かった。
そして、翔太郎も訳が分からないと思いながら照井についていくのだった。
病院に着くと、そこにドーパントと逃げている男がいた。
「やはり被害者を狙ったか!」
そう言うと照井は懐からベルトを取り出して腰に付けた。
「なっ!ドライバーだと?」
翔太郎の言葉を無視してメモリを起動する。
「ACCEL」
「変.....身!」
ドライバーにメモリを入れてスロットルを回すと、
仮面ライダーアクセルに変身が完了した。
バイクにつけてあるエンジンブレードを抜くとドーパントを斬り付けた。
「ぐぁっ!お前、邪魔すんのか!」
「俺に質問をするな!」
敵ドーパントを照井が相手をしていると珍客がこの場所に現れる。
正確には......"煙"だが
煙がアクセルの前に現れると実体化し斬りかかってきた。
「貴様っ!また邪魔をするのか!」
「このドーパントを生かすよう言われててな。
お前には俺の相手をして貰おう。」
照井に斬られたドーパントは紫米島の話を聞くと逃亡しようとする。
それに照井が吠えた。
「何をしている左!さっさと仮面ライダーに変身しろっ!」
「お前っ.....なんでその事を?」
「質問は受け付けないと言った!」
そう言い終わると照井は紫米島との戦いに戻った。
訳が分からない翔太郎は苛立ち頭をかくが、ドーパントを逃がすわけにはいかない。
ダブルドライバーを付けるとフィリップに語りかけた。
「行くぞ!フィリップ!」
『あぁ、少し待ってくれたまえ....ふむふむ』
「あークソこんな時に何やってんだよフィリップ!」
恐らく、フィリップの悪い癖が出たんだろう。
新しい知識を調べ始めていた。
だが、そうしている間にもドーパントは逃げようとしている。
翔太郎はメモリを連打し、急いでいることをフィリップに伝える。
『あー....分かったよ。』
そう声が聞こえるとサイクロンメモリが転送されてきた翔太郎はジョーカーメモリを装填しドライバーを倒す。
『「変身」』
翔太郎はサイクロンジョーカーに変わると逃げようとするドーパントを止めて攻撃を加えた。
そして、その様子を遠くから黒岩がドーパントになり見ていた。
「あれがアイスエイジか.....無名の言った通り強力なメモリのようだな。」
黒岩は無名からの命令でアイスエイジドーパントの逃走の援護をしていた。
黒岩は無毒で硬度の高い結晶を作り出すとライフルに装填しWへ照準を定めるのだった。
サイクロンジョーカーで攻撃をしていたが殴った腕が凍結し始めた。
『凄まじい凍結能力だ。
こいつにはヒート以外考えられない相手だな。』
そう言うとソウルサイドをヒートメモリに変える。
「
Wヒートジョーカーは腕から強烈な熱を出しアイスエイジドーパントを殴り付ける。
形勢が不利だと感じたのかアイスエイジドーパントは逃亡を図る。
「待てぇ!」
Wが追おうとするが突如地面に何かが着弾し火花が上がる。
そして、それが自分達を狙うように撃たれている事が分かると柱に隠れた。
「クソッ!どっから狙ってるんだ!」
『翔太郎、ルナトリガーだ。』
フィリップの助言にメモリを変える。
「
変身完了後左胸に現れた"トリガーマグナム"を手に取ると、銃を構えながら柱の影から出て警戒する。
しかし、その頃にはもう狙撃はおさまっていた。
「ふーっ....いなくなったか。
それにしても何で俺達が撃たれるんだ?」
『恐らくあのドーパントを逃がす為の行動だろう。
弾の破片を手に入れたら持ってきてくれ。』
フィリップがそう言い終わると、ドライバーを閉じて変身解除した。
そんな中、照井と紫米島の戦いは苛烈を極めていた。
照井は前の経験からエンジンブレードにスチームを発動し斬りかかる。
しかし、今度は煙にならず刀で攻撃を反らしながら受けるとそのまま反撃を行う。
凄まじい技巧から放たれる攻撃に照井はダメージを受ける。
「くっ!....やはりそう上手くはいかないか。」
「当たり前だろう?弱点を放置するバカはいない。」
「このスモークの力も分かってきた。
ここからが本ば.....」
しかし、紫米島が動きを止めると自分の耳を触った。
誰かと通信しているのか会話を終えると刀を下ろした。
「どうやら、仕事は"済んだ"らしい。
今回はここまでだ。」
「なっ!待てぇ!」
そう言って追いかけようとするが紫米島は身体を煙に変えるとその場を逃亡した。
敵を逃がしたことに苛立ちを覚えるが、ドライバーからメモリを引き抜き人間の姿に戻ると左と合流した。
彼方もどうやら、敵の攻撃を受けたらしくドーパントを逃がしてしまったらしい。
照井は苦々しい顔をしながら辺りを見ると車の近くに青い花が落ちているのを見つけた。
照井は直ぐ様それを拾った。
「何だそれ?」
翔太郎の問いに照井は答えること無く告げる。
「証拠は集まった。
次は右側の力を借りるとしよう。」
そう言って二人は探偵事務所に戻るのだった。
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第六十話 凍らせるI/違和感
そして、俺の質問を無視して勝手にフィリップに検索を頼みやがった。
フィリップも上手く乗せられて検索しちまうし何なんだこいつは!
そして検索結果により容疑者として現場に合った花の生産者である
そして片平が遊園地にいるかもしれない情報を得て片平を探す。
そして、その中で違和感を覚えるがその答えを知る事は出来ない、何故なら
俺達の前にドーパントが現れたからだ。
ドーパントを見つめる照井と翔太郎の感情は違うものだった。
(何で奴がここにいんだ。)
そう感じながらWドライバーをつける翔太郎に対して、
(見つけたぞ!"Wのメモリ"ここで息の根を止めてやる!)
怒りと憎しみを心に灯し照井はアクセルドライバーをつけるとお互いにメモリを装填する。
「HEAT,JOKER」
「ACCEL」
『「変身」』 「変...身!」
お互いの変身シークエンスが終わり仮面ライダーWヒートジョーカーと仮面ライダーアクセルへと変わる。
『「さぁ、お前の罪を数えろ。」』
「さぁ、振りきるぜ!」
そう言うと二人はドーパントへ向かっていくのだった。
先制はWだった。ヒートジョーカーによる高熱のパンチがドーパントを襲うが、前とは違いその形態ですら殴った右腕が凍りついてしまった。
『恐ろしい冷気だ。ヒートを凍らせるなんて...』
フィリップの言葉に今度は照井が向かう。
「もういい!俺がやる!」
スロットルを回してエネルギーを溜めると、エンジンブレードで斬り付けていった。
身体が凍らされてもスロットルを回すことで身体の氷を溶かした。
そしてその余波でWの右腕も解凍される。
『凄まじい戦闘能力だ。
あのドーパントが全く手を出せなくなるなんて』
フィリップはその戦い方に驚嘆していたが翔太郎の意見は違った。
(何だ?あの戦い方、まるで相手に恨みをぶつけてるみたいだ。)
翔太郎はこれまで荘吉の元で沢山の人間を見てきた。
優しい人間、傲慢な人間、悲壮感に囚われた人間。
照井の戦い方は長年の恨みを晴らそうとする、そんな奴の動きに見えた。
ドーパントもアクセルとの形勢が不利だと悟り、地面を凍らせてスケートのように滑りながら逃走した。
「逃がさん!」
照井もベルトを外し飛び上がるとバイクへと姿を変える。
「あ?なんだそりゃ」
「あたし聞いてない。」
翔太郎と亜樹子がそう反応しているが、照井は無視してドーパントの追跡を開始する。
翔太郎も置いていかれないよう走るのだった。
場所が変わり野原に降り立ったアクセルはドーパントにトドメを指すためマキシマムを発動する。
「ACCEL MAXIMUMDRIVE」
収束したエネルギーを込めた回し蹴りがドーパントを捉える。
「絶望がお前の....ゴールだ。」
照井の言葉と共にドーパントは砕けてしまうのだった。
しかし、その氷を見た照井は呟く。
「氷で分身体を作ったか...小賢しい真似を!」
周囲を探すと片平真紀子が青いガイアメモリを持って震えて立っていた。
その光景を見た照井はゆっくりと近づいていく。
『後は警察の出番だね翔太郎。』
そのフィリップの言葉を翔太郎は否定する。
「いや待て.....まずい!
よせっ!照井!」
そう言って翔太郎は走り出した。
「貴様だけは生かしておかん!」
そう言うと照井はエンジンブレードを片平真紀子に振り下ろす。
「
しかし、すんでの所で変身したヒートメタルによって生成されるWのメタルシャフトが攻撃を防いだ。
「何故、邪魔をする!」
「変身解除した人間を襲うなんて、
てめぇこそ何考えてるんだ!」
「俺に質問をするな!」
「おい!早く逃げろ!」
翔太郎は足がすくんでいる片平真紀子にそう伝えた。
真紀子はそれに従い逃げ出す。
「奴は俺の全てを奪ったWのメモリの持ち主だぞ!
それを逃がすとは.....」
「W?」
『Wのメモリとは一体?』
「俺に質問をするなと....言ったはずだぁ!」
照井はWにエンジンブレードを振り下ろす。
それをメタルシャフトで受けて防御しているがあまりの強さでシャフトが吹き飛びそうになる。
怒りのまま照井はエンジンブレードのトリガーを引く。
「JET」
ブレードを振るうと充填されたエネルギーがWに直撃し変身が解除される。
「あんた....仮面ライダーなんだろ?」
「何だと?」
それはラボで照井が言っていた話だ。
「俺はここに来る前にも仮面ライダーとして戦っている。」と......
「罪を憎んでも人は憎まねぇ...この風都が仮面ライダーに望んでいるのはそう言う心だ。」
翔太郎はダメージを受けた場所を抑えながらそう言った。
その言葉を受けて照井はメモリを引き抜き人間の姿に戻る。
「甘い.......甘ったるいことを言うなぁ!」
そのまま、翔太郎の顔を殴る。
「いい加減にしてよ!竜くん。」
その光景に亜樹子が仲裁に入る。
にらみ合いが続くと照井は言った。
「この街は"腐っている"。
ガイアメモリという力のせいでな....だから人も腐る。
そんな物を使っている奴らの命等、知ったことかっ!」
「何だと....てめぇ!」
「俺はこの街が大嫌いだ。」
そう言うと照井はその場を後にする。
翔太郎が追いかけようとするが傷の痛みから倒れてしまう。
亜樹子はそんな翔太郎を手当てするのだった。
Another side
あの戦いの後、フィリップは星の本棚に入り検索をしていた。
地球の記憶が全てつまった別名、星の本棚と呼ばれる空間そこにフィリップは入る事で知りたいことをを知ることが出来るのだ。
フィリップは照井の言っていたWのメモリの事が気になりそれを検索していた。
しかし、思った成果は出なかった。
「ウィンター....ホワイト....本を絞れない。
イニシャルがWの"氷のメモリ"ではどうも今回の事件と能力が合致しないな。」
そして、フィリップは過去の凍結事件の検索も始めた。
そして、分かったのは過去の事件と今回の事件には相違点があるということだった。
「やっぱり僕達は思い違いをしていたんだ。
では、過去の凍結事件の犯人は一体誰なんだ?」
そんな事を考えていると勝手に星の本棚のキーワードが打ち込まれ一冊の本がフィリップの前に現れた。
「これは...「Weather」?
もしかして、これが答えなのか?」
フィリップが中身を開こうとするがそこで亜樹子ちゃんから翔太郎が目を覚ました報告を受けてフィリップほ星の本棚からログアウトしたのだった。
その光景を見ていた無名に似た男は笑う。
「ヒントはここまでだ。
後は君達が真実にたどり着く番だ。」
そう言うとその男もその場をログアウトするのだった。
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第六十一話 溶かすI/巨悪を食らう悪
レストランの一角で冴子と若菜そしてサラはある男を待っていた。
風都を恐怖に沈めた連続殺人犯を.....
勿論、普通の犯罪者ではない。ガイアメモリを使い、まだ捕まってすらいないそんな男だ。
「失礼...お待たせしてしまいましたかな?」
黒いハットとスーツを着た男が三人に告げた。
「いいえ、時間通りよ。
今回は来てくださり嬉しいわ...なんとお呼びすれば良いかしら?」
その問いに男は答える。
「"井坂"で構いませんよ。」
席に着くと井坂はウェイターを呼び注文を取り始めた。
そのあまりの量にウェイターも驚いている。
ウェイターが席を離れると冴子が話し始めた。
「そんなに頼んで宜しいのですか?」
「構いませんよ....と言うよりそれだけ食べないと"身体が持たない"んですよ。」
「メモリの副作用ですか?」
サラがそう尋ねる。
「えぇ、その通りです。
失礼ですが貴女は?他の方は顔を見たことがありますが貴女はありませんので」
「失礼しました。
ミュージアム幹部のサラです。
今回は冴子様と若菜様の付き添いで来ております。」
「そうでしたか....と言うと貴女もメモリを?」
「えぇ、一応。」
「ドライバーを使ってですか?」
井坂の問いにサラは疑問に思う。
「そうですが何か問題でも?」
「いや、私の持論なんですがね。
ガイアメモリは"毒素を受け入れてこそ強く"なる。
その毒素を排除するなんて馬鹿馬鹿しい事をするものだと思いまして.....」
「随分な言い草ね。」
その言葉に若菜が反論する。
すると、井坂は手首を出して付いているコネクターを見せた。
「これって!"初期型のコネクター"じゃない!」
サラがそう言うと井坂は肯定する。
「最近、巷で流行っている新しいコネクターは毒素の浄化率が高すぎるんですよ。
あれでは毒素を取り込めなくなってしまう。
それは勿体ない。」
「やはり、貴方は中々に狂ってるわね。」
その行動を冴子がそう言い表した。
「否定はしませんよ。
私ほどガイアメモリを愛している人間はいませんから、
だからこそ新型のコネクターが来た時は胸が踊ったのですが...蓋を開ければ安全性が強化された"だけ"ですからねガッカリですよ。」
「それで、今回の話とは一体?」
そう尋ねる井坂に冴子が答えた。
「最近、風都で起こっている連続凍結事件を聞いて貴方がまた動き出したと思ったのよ。
その真実を確かめに来たと言った所かしら。」
「ほぅ、ご期待に添えず申し訳ないがあれは私ではありません。
「知っているの?」
「えぇ、私の"シンパ"から情報が来まして、彼にあるものをプレゼントしたんですよ。」
「あるもの?」
「最近、天ノ川地区で流行っていた"エンゼルビゼラ"という薬ですよ。
ご存じでしょう。」
「えぇ、あの失敗作の事ね。」
「失敗作?とんでもない!
あれは用法用量を守ればドーパントの力を強化してくれるサプリメントですよ。」
「サプリメント?」
「えぇ、毒素を増やし痛覚を麻痺させる。
依存性や多幸感と言う下らない物が無ければ一級品ですよあれは」
「井坂さんも使ったんですか?」
「当然でしょう、医師なのですから処方する薬の事は知ってないといけませんからね。」
「"ドーパント専門の医者"...その噂も本当みたいね。」
「えぇ、何人も見てきましたし強くもしてきましたよ。」
「じゃあ、その片平って人も?」
「えぇ、とっくに"診察済み"です。」
照井は片平真紀子を狙うため息子である片平清を張り込んでいた。
そして、公園で二人が揉めていると息子はその場を後にしてしまった。
(メモリの事がバレて愛想をつかされたか...哀れな。)
照井はドライバーを付けるとアクセルに変身した。
翔太郎とフィリップは片平真紀子を探し情報屋のウォッチャマンから話を聞いた公園に着くとアクセルが既に真紀子の元に向かっていた。
真紀子に振り下ろされるエンジンブレードをファングメモリが阻止する。
「よくやったファング。」
「君までも俺を...」
真紀子はその隙に逃亡し、それを照井が追おうとするが
「待て照井!」
「左っ!またしても貴様か!」
立ち塞がった翔太郎に容赦なく剣をふるう。
その攻撃を回避しているが落ち着く素振りが無いことが分かると翔太郎はドライバーを付けた。
「翔太郎...僕が相手をする。
彼とは僕の方が相性がいい。」
そう言うとフィリップはファングメモリを展開する。
「あぁ、頼んだぜフィリップ。」
「
『「変身」』
ジョーカーメモリがフィリップ側のドライバーに転送されるとファングメモリを挿してドライバーを展開した。
仮面ライダーWファングジョーカー。
Wの新しいフォームでフィリップの肉体を使って変身する亜種のような形態だった。
怒りに任せた照井の攻撃をフィリップは的確に捌いていく。
「俺の邪魔をするなっ!」
埒の明かない照井はエンジンブレードにメモリを装填する。
「JET」
照井はエネルギー弾放つが、今のWは全てのフォームの中で一番機動力の高いファングジョーカーであるので的確に回避されると接近されて殴られてしまう。
「ELECTRONIC」
しかし、今度は帯電能力を使い接近してきたWの攻撃を受け止めて痺れた所を斬り付けた。
吹き飛ばされるWだが、直ぐに起き上がるとファングメモリの角部分を二回弾く。
「
Wの肩に一本の牙が生えるとそれを外し照井に投擲した。
牙は照井の周囲を回りながら当たりエンジンブレードを叩き落とす。
そのチャンスにWが後ろから照井を羽交い締めにする。
「離せ!俺は法の番人として当然の事をしているだけだっ!」
その言葉をフィリップが否定した。
「君の行為は法に則った物じゃない。
個人的な......"復讐"だ!」
「.....調べたのか。」
突如、照井は大人しくなり両名とも変身解除を行った意識を取り戻した翔太郎が呟く。
「復讐だって?」
そうして、フィリップが検索した彼の素性を語った。
数年前にドーパントにより家族を殺されたこと....
そして、その事件が氷のドーパントにより行われた事を
そこで、照井はフィリップの胸ぐらを掴み吠える。
「貴様に何が分かる?
"俺の心の叫び"も検索できるのかっ!」
「いや、人の心は検索できない。
だから教えてくれ、君の身に起こったことを。
だって、それを解決するのが依頼だった筈だろ?」
そこで、照井は初めて自分の過去を人に話す。
自分が復讐者となりシュラウド会いアクセルの力を手に入れたことも....
「それが
「俺は片平真紀子を消す....貴様らに俺を止める資格はない。」
そう言って片平真紀子を追いかけようとする照井を翔太郎が止める。
「照井....お前の怒りは確かに伝わった。
けどな、そのせいでお前は間違った人間を殺すところだったんだぞ!」
「....何だと?」
そこで翔太郎は驚きの言葉を照井に告げた。
「犯人は片平真紀子じゃない。」
Another side
青年は心を病んでいた。
メモリの副作用もあるのだろうが原因はこの薬だ。
"エンゼルビゼラ"と言う薬を先生が調合し直した物を青年は服用している。
これを使うとイライラが取れてスッキリするしメモリを使った時も力が増すのだ。
ガイアメモリを買ってから紹介された。
ドーパント専門の医者と言うだけはあり俺の身体がベストコンディションになるよう調整してくれた。
....あぁ、ダメだまたムカついてきた。
思い出すのはあの"探偵の男"。
帽子被って気取ってる奴に俺は突き飛ばされた。
生意気に....ムカつく。
俺は懐から先生に処方されたサプリを取り出すと飲み込んだ。
あぁ、これだこれ....イライラが治まっていく。
それにこれのお陰で俺はドンドン強くなれるまさに一石二鳥だ。
後はアイスエイジメモリを取り返せば全て上手く行く。
俺は母さんを電話で呼び出した。
直ぐ来るだろう....母さんは俺を愛してくれている。
そしたら、メモリを取り返して
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第六十二話 溶かすI/風都の流儀
その中心で踊っている男に翔太郎は声をかける。
「お開きだぜ、お坊ちゃん。」
そう言われた片平清はイライラした表情で現れた翔太郎、フィリップ、照井、亜樹子を睨み付けるのだった。
「まさか、こいつが...」
照井は驚きながら清の姿を見る。
真面目な好青年の姿は何処かへ行ったようにダンスフロアで踊る男が今回の事件の犯人だった。
そして、翔太郎は謎を解き始めた。
本当に評判が悪いのは母親でなく息子の清であること
そしてメモリを手に入れて自分の気に入らない人物を襲っていた清を庇うために真紀子は行動していた事も...
「俺は危うく....別の人を....」
照井は自分のしようとしていた間違いに気付き呆然としている。
「人を凍えさせるのは面白かったぜ。」
悪びれもせず言い放つ清に翔太郎の怒りが爆発する。
「ふざけんなよテメェ!」
「あぁ、やっぱりお前ムカつくわ....あぁ!」
怒りのまま懐に入れていた錠剤を口に放り込む。
「それは、エンゼルビゼラか!」
照井はその薬に見覚えがありそう言った。
「なんだそりゃ?」
「天ノ川地区で流行していたドラッグだ。
そんな物まで風都にはあるのか?」
「もう、我慢できねぇ。
テメェらもお袋も...纏めて氷漬けにしてやるよ。」
そう言うと清はメモリを起動する。
「
「アイスエイジだと!Wのメモリじゃないのか!」
照井はメモリすら間違っていた事実に更に驚く。
「やはり、そうだったか....疑問も解けた。行こう翔太郎。」
「あぁ、熱く行こうぜフィリップ。」
「HEAT,JOKER」
『「変身」』
Wヒートジョーカーに変身するとアイスエイジに向かっていった。アイスエイジを殴り付けながら外へ誘導する。
しかし、前よりも凍結能力が強くなっているのは殴っている両腕が凍り付いてきそうになる。
「ぐっ!冷てぇなクソッ!」
『翔太郎メタルシャフトで応戦しよう。』
「分かったぜ!フィリップ。」
そう言うと翔太郎はジョーカーメモリをメタルメモリに変える。
「HEAT,METAL」
メタルシャフトを背中に出現させたWヒートメタルはそれを掴むとアイスエイジに攻撃を続けた。
だが、ここに別の者が現れる。
煙状で近付くとWに斬撃を加えた。
「そいつも倒されると困るのだよ風都の仮面ライダー....いやW。」
「テメェ何者だっ!」
しかし、答える気の無い煙のドーパントがWを斬り付けようとするのを変身した照井 竜、アクセルが止めた。
そしてWに告げる。
「左....アイスエイジは俺が相手をする。
構わないか?」
『どう言うことだい照井 竜?』
フィリップの問いに答える。
「俺が間違っていた。
俺は...復讐に囚われ間違った相手とメモリの使い手を殺そうとしていた....これは"俺の罪"だ。
だから、俺が責任を持って清算する。」
その照井の目には復讐が写ってないことを翔太郎が見抜く。
「なら、お前に任せるぜ照井。
その代わりこの煙野郎は俺達が相手をしてやるよ。」
「....助かる。
コイツは煙と斬撃を使うドーパントだ。
だが、煙はコイツの本体と同じだ吹き飛ばそうとすれば元の姿に戻る。」
そうアドバイスすると照井はアイスエイジに向かっていった。
『成る程、ならばこのメモリの方が良さそうだ。』
フィリップはそのアドバイスに従いメモリを選択すると変身した。
「CYCLONE,METAL」
メタルシャフトに風の力が加わり振るわれた煙が消し飛びそうになる。
不利と判断した紫米島は能力を解除した。
「くっ....殺りづらい相手だな。」
そうWを評すると刀を構え戦い始めた。
一方、アイスエイジとの戦いはアクセル優勢で進んだ。
凍結能力もアクセルの熱の前には効かなかった。
ヤケクソになったアイスエイジは川の水を凍結させて氷の矢を作ると撃ち出す。
「STEAM」
しかし、エンジンブレード蒸気攻撃で溶かす。
「ELECTRIC」
そして、帯電したブレードでアイスエイジを空へかち上げるとマキシマムを発動する。
「ENGINE MAXIMUMDRIVE」
アクセルのマキシマムを込めた「A」の形をしたエネルギー弾がアイスエイジに直撃すると爆発しメモリブレイクされた。
人の姿に戻った清に照井は手錠をかける。
「風都にいる間は、俺はガイアメモリを使った犯罪者を殺さない。
それが風都の...仮面ライダーの流儀だからな。」
その光景を見た紫米島は計画の失敗を理解すると攻撃の回避と共に煙となって逃亡した。
「あっ、待ちやがれコラ!」
Wの事を無視して逃げられたので変身解除をすると照井に二人は合流した。
亜樹子は捕らえられていた真紀子を救出し三人と会う。
真紀子は息子を抱き締めメモリの魔力から解放された清は母親に謝っている。
そんな中で照井が翔太郎に尋ねる。
「左、なぜお前は片平真紀子がドーパントでないと気付いたんだ?」
それに翔太郎が答える。
「遊園地で片平真紀子を見た時、息子との思い出を懐かしむ彼女がドーパントだと思えなかった。」
「成る程、それで彼女を助けようとしたのか。」
「それもあるが思っちまったんだよ。
もう一度、息子とメリーゴーランドに乗せてやりたいってな。」
「.....甘い、甘ったる過ぎて....耐えられん。」
そんな甘い言葉に照井は顔を俯ける。
「翔太郎君はハーフボイルドだからね。」
亜樹子の補足に翔太郎がキレる。
「誰がハーフボイルドだっ!亜樹子テメェ!」
そんなじゃれあいを見ながら照井は考える。
(だが、その甘さが無ければ俺は片平真紀子を殺して....そして真実を知り償えない罪を背負うところだった。
礼を言うぞ左、フィリップ。)
そんな中突如、清が頭を苦しみ始めた。
「清、どうしたの?清!」
「頭が.....頭がイタイ.....うわぁぁぁ!」
そう言いながら倒れる清を見て照井は救急車を手配する。
「一体どう言うことだ?フィリップ。」
「恐らくはさっき服用していた薬の副作用だろう。
兎に角、今は彼を早く病院に...」
こうして、Wとアクセルの出会いは終わりを告げた。
風都の流儀に従う約束をした照井。
しかし、井坂によって改良されたエンゼルビゼラが物語を更に混沌の世界へと引きずり込んでいく。
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第六十三話 答えるT/主義の違い
脳の異常な収縮が見られるらしく身体に障害が残ることが告げられた。
ガイアメモリによる後遺症もあるだろう。
自業自得の面も大きいがそれよりも問題は彼が服用していた薬だった。
後に照井が薬をシュラウドに調査してもらっていたらしくその結果を俺達にも報告してくれた。
「この薬を服用すると体内のメモリ毒素が活性化しメモリとの"適合率が強制的"に上がるらしい。
ただ、問題点として毒素に対する白血球の働きが抑制されるのでメモリブレイクされた際の後遺症が酷くなる。」のだそうだ。
清の使っていたコネクターは改良されたコネクターだったがその薬は毒素のフィルター機能すら麻痺させてしまうようなのだ。
この事を重く見た照井は早速、この事を上層部に報告し麻薬対策科にエンゼルビゼラを危険薬物と認定しその検挙にあたった。
そして、そんな中で仮面ライダーは事件に巻き込まれていく...
そんな事が起こる中で、僕達にも変化があった。
サラに頼まれて僕と獅子神はとある男に会うため指定された場所へ向かった。
その男の名は井坂 深紅郎。
ウェザーメモリを使い、これまで幾つものメモリ犯罪を行ってきた男だ。
原作では飽きる程、見たがこの世界では"初対面"である。
気を引き締めてその場所へ向かった。
到着するとそこは倉庫だった。
そして、黒いスーツとハットを被った見慣れた男とサラをを見つけると問いかけた。
「貴方が井坂深紅郎ですか?」
「えぇ、貴方は無名さんですね?
ガイアメモリの研究を任されている。」
ガイアメモリと言う道具が作り出した怪物とその道具を研究する悪魔、二人がであった瞬間であった。
「それで僕達を何故呼んだのですか?」
無名の問いに井坂が答える。
「最初は単なる興味本意でした。
幹部としてミュージアムに信頼されている貴方達を見てみたいそう思っただけです。」
「ふん!下らんな。」
井坂の動機を下らないと切り捨てた獅子神を井坂は見た。
「貴方のことは知っていますよ獅子神さん。
天ノ川地区で赤いライダー....今はアクセルと呼ぶんでしたか。
彼が動き始めた発端となったこの薬を手に入れたそうですね?」
そう言ってエンゼルビゼラを取り出す井坂。
「それは元々、ミュージアムが作った試作品だ。
それを流したバカは始末した。
そんな汚点を出すのは止めてもらおうか?」
「汚点?こんな素晴らしい発明が汚点ですか?」
「素晴らしい?とてもそうは思えないんですが...」
無名がそう言って話しに入ってきた。
「"主義の違い"ですかね。
私はガイアメモリの毒素こそドーパントを強くするファクターだと考えていますが、
ガイアメモリの毒素はむしろ邪魔と考えている。違いますか?」
「毒素は強すぎると寿命や性格を変化させます。
フィルターで除去すればより効率的にメモリが使える...それだけですよ。」
「その効率的なメモリは強いのですか?
ガイアメモリの本質は力です。
その力を弱めるような行為を何故するのか、私には理解不能ですね。」
そう言う井坂の目はそれを本気で言っていることを告げていた。
「皆さんをお呼びしたのは少々提案がありまして、
このエンゼルビゼラを改良していただきたいのです。
.....もっと強くね。」
Another side
フィリップは星の本棚でこの前の検索の時に現れたWのメモリについて再度検索をかけていた。
キーワードを打ち込んでもいないのに急に現れたこの本に違和感を覚えながらも、中身を読み進めていく。
「
天気の記憶を内包しているメモリ。
高い能力で組織ではシルバークラスに該当するメモリである.....」
(シルバークラス...つまり準幹部クラスの使うメモリと言うことか)
フィリップは、更に内容を読み進める。
「能力は天候操作、天気に該当する力なら行使する事が出来る。
熱、水、氷、風、雷それに類似や応用される力を使用可能。」
(恐るべき能力だ。
汎用性も高い....もしこれだとしたら厄介な相手になる。)
そして、ここまで読み進めた段階でフィリップの頭に嫌な想像が浮かんだ。
(これまで、凍結事件のみに焦点を当てて検索していたが....もしこのメモリなのだとすれば妙だ。
これだけの力があるなら他の使い方も.....まさかっ!)
フィリップはそこで更に検索するワードを追加した。
「検索する項目は"事件"。
キーワードはウェザーメモリ、焼死、凍結死、風と雷による死。」
すると本棚が目まぐるしく移動しフィリップは驚愕する光景を見ることとなった。
(まさか.....これ全てが!)
そこにはきれいに纏められた本棚その物が現れたのだ。
恐る恐る本を手に取り中を確認する。
そして、読み進める度にウェザーメモリを使う者に対する奇異な性格に驚く。
(間違いない....ウェザーメモリを使っている者は狂っている。
そして、確信した。このメモリを使っている人物は今...)
「風都にいる。」
井坂は三人の幹部を見ながら歓喜していた。
(これ程、強力なメモリを持っている方々だ。
きっと強いのでしょうねぇ....あぁ、彼等のメモリが欲しいですねぇ。)
井坂の楽しみであり生き甲斐は、知らないメモリを自分の身体に挿してその力を使うことだ。
だからこそ、気になっていた。
園咲家以外の人物の使うメモリ、その力が.....
それに幸運でもあった。
最近、巷で噂になっている改良コネクターの制作者と会うことが出来たのだから....
私とは主義が違うため相容れる事は無さそうだが、少なくともこの技術力には驚嘆した。
メモリについて深い知識があり、毒素の危険性もちゃんと理解している。
私の理論は確かにドーパントを強く出来るが、人によると言う弱点がある。
毒素に耐性のある私だからこそ提唱できたのだ。
凡人には到底不可能だろう。
だが、彼の作り出したシステムは凡人に希望を持たせる。
彼ならばきっと、毒素に弱い人物ですらドーパントに変えられるだろう。
だが、私にも私の理論がある。
ガイアメモリの適合率が低いのなら上げれば良い。
天ノ川地区で流行ったエンゼルビゼラを手に入れた時は、ウェザーメモリを手に入れた時と同じ位に心が踊った。
そして、私はこの薬を解析し、ガイアメモリとの融和性に気付くと積極的に患者や自分に処方した。
メモリブレイクをされない限りは身体に不具合が起きないように改良して.....
そして、私はミュージアムの幹部と出会いコネクターを作った制作者と会ったのだ。
目的は1つ。
この薬を改良して更に強い効能の薬を作り出し、それを使ってもっとガイアメモリとの適合率を上げることだった。
だが、無名から返ってきた返事は予想を反した物だった。
「お断りします。」
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第六十四話 答えるT/決別する考え
自分の提案を断られた井坂は無名に尋ねた。
「何故ですか?理由をお聞きしても?」
「"意味がない"からですよ。」
「意味がない?」
「ええ、ガイアメモリの毒素を取り込み強化する。
面白い実験だとは思いますが万人に通用する方法とは思えません。」
「僕達、ミュージアムの目的はガイアメモリを撒き地球の記憶を解明すること....
その為にはリスクよりも安全性をとるべきだと考えたまでです。」
「それでは頭打ちが来ますよ。
だからこそ毒素を取り込む事が....」
「井坂さん勘違いしているようですので言いますが、貴方個人が行う研究に我々は興味ありません。
毒素を使った研究がしたいのなら勝手にやってください。
ただそれを私達、ミュージアムは支援しない。それだけです。」
「.....バカな!これ程の力が手に入れられると言うのに....」
「テメェ、さっきから黙って聞いてれば言いたい放題だな?
そう言うお前は強いのか?
その毒素で強化されるって言うのなら俺達ぐらいと対等に戦えるよな?」
「獅子神くん....落ち着いて」
「うるせぇぞサラ!....おい井坂どうなんだよ?」
井坂は少し思案する。
(私の理論は完璧だ....だがドライバー付きのゴールドメモリと対等に戦えるかと言えば難しいと言わざるを得ない。
奇襲で私の持つ攻撃の最大火力を与えられるのなら問題ないだろうがそうそう上手くはいかない相談だな。)
(だが、だからと言って認めるのも癪だ。
それに....彼等のメモリも気になる。)
「良いでしょう。
お受けしますよその挑発を....」
そう言ってメモリを取り出す井坂に触発され獅子神もドライバーとメモリをだそうとするが止められた。
「おい!どういうつもりだ無名。」
「さすがにゴールドメモリとでは出力に差があるでしょう?
それよりも同質のシルバーランクのメモリならより正確な結果が出るんじゃないですか?」
「おや?怖じ気づきましたか?」
そんな井坂の挑発にも無名は乗らない。
「我々も暇じゃないんですよ。
もっと、組織にとって"有益な話"なら本腰で行動しても構いませんが....今の状態ではこれでも譲歩していると思ってもらいたいですね。」
傲慢な言い方に井坂の表情が少し曇る。
しかし、直ぐに戻った。
「では、相手の用意が出来ましたらご連絡下さい。
私は"逃げも隠れもしません"ので....」
そう言うと井坂は幹部を置いてその場を後にした。
井坂はその動きから平静を装ってはいるが、内心怒りで我を忘れそうであった。
(私の研究が有益じゃないだとっ!糞生意気なガキめ!
いつか、必ず殺してやる。)
そうして無名は井坂の殺すリストに名前が入るのだった。
Another side
トライセラトップスドーパントとの戦いも終わり満身創痍な照井だが、そんな彼をフィリップは探偵事務所に呼び出した。
事務所につくと
「竜くん身体はもういいの?」
所長の問いに照井は答える。
「あぁ、俺は目的を遂げるまで死ぬつもりはないからな。」
「照井....その...悪かったな。」
翔太郎が照井にそう謝った。
今回の事件の立役者であったトライセラトップスドーパントであり風都署に配属された刑事である
翔太郎は彼女の強さを信じたが結局、ガイアメモリの力に飲まれてしまった。
照井の傷も翔太郎が彼女を信じた結果、負ってしまった部分もあるのだ。
「問題ない。左のハーフボイルドな考え方は理解している。」
「....ハーフボイルドは余計だっつーの。」
そう言って顔を背ける翔太郎を見て笑っていると、フィリップが本題に入った。
「照井竜、今回君に来てもらったのは君の家族を殺したドーパントのメモリが"判明"したからだ。」
「それは本当かフィリップ!」
照井は前のめりになり尋ねる。
「あぁ、そしてもっと驚くべき事実も分かった。」
そう言うと彼はホワイトボードに文字を書き始めた。
「WEATHER....ウェッター?」
亜樹子の間違いを翔太郎が訂正する。
「ウェザーだろどう見ても」
「しっ.....知ってたしぃ!」
そう言って睨み会う翔太郎と亜樹子はほっておいてフィリップは解説を続ける。
「ウェザー....天候を操るメモリでランクは"シルバー"だ。」
ガイアメモリはその能力によりランク分けされ強いメモリは後から銀か金色に塗装される。
故に銀色のメモリを持つと言うことはそれだけ強い力を所持していると言うことになる。
「具体的な能力は熱、水、氷、風、雷の五つに分けられる。」
「うちらのWみたい。」
亜樹子の言葉に一緒するなと言う顔をしているが照井は違った。
「....まさか!」
「気付いたようだね?」
「どういう事だフィリップ?」
「これまで僕は風都で起こった凍結事件しか調べてこなかった。
犯人が氷のドーパントだと思っていたからね。
けど、ウェザードーパントが犯人ならと前提を書き換えて再検索したんだ.....そしたら」
「風都で起こった殺人事件"357件"に関与した疑いが出てきた。」
「......え?」
あまりの数に翔太郎や亜樹子、そして照井ですら聞き返す。
「僕も驚いたよ。
しかもこれは風都だけの数で、水音町や天ノ川地区での事件も加えたらもっと多くなる。」
「ちょ....ちょっと待てよフィリップ。
いくらなんでも冗談だよな?」
翔太郎もまだ現実を受け入れられないようでフィリップが間違っている可能性を聞いた。
「僕だって何度も検索し直したさ....けどこれが真実だった...信じられないだろうがね。」
「被害者の正確な数は分かるのか?」
照井の問いにフィリップは一息置くと答えた。
「僕が調べた中でウェザーメモリによって死んだ被害者の数は"1057人"だ。」
「1057人.....。」
それは1つの町に住む人を全員殺したのと変わらない人数だった。
「更に悪い話だがこの犯人はまだ風都にいる。
今回、無理してでも照井竜を呼んだのは共闘を持ちかけるためだ。」
「はっきり言ってこの犯人はレベルが違う。
殺しを罪とも思っていないやつだ。
Wやアクセル単体では勝ち目はない。」
フィリップは珍しく焦っていた。
当然だろう。組織ではなく一人でこれだけの被害を出す犯人と対峙したことは、翔太郎もフィリップも両方共に無いのだから
「.....少し時間をくれ。」
そう言うと照井は部屋を出ていくのだった。
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第六十五話 真実のL/我が儘なお嬢様
井坂と別れた幹部三人は結果を琉兵衛に報告すると、
皆、自分の持ち場に戻っていったのだが僕はそれが出来なかった...何故かと言うと
「ちょっと無名!ちゃんと持ちなさいよ!」
若菜ちゃんの荷物運びをさせられているからだ。
仕事が終わったところで、若菜から携帯に連絡がかかってきた。
内容はちょっとした買い物がしたいから手伝って欲しいというもので、僕はそれならと安請け合いしてしまった。
全国のカップルの気持ちが分かった気分だ。
両手が荷物でふさがり前すら見えない状況である僕を若菜ちゃんは見て笑う。
「あんた荷物持つの下手ね。」
「申し訳ありません若菜様。」
これに関して上手い下手はあるのかと思ったが素直に謝罪した。
しかし、その言い方が気にいらなかったのか詰め寄ってくる。
「無名、ここはプライベートなの。そんな仰々しい呼び方はしないで」
「申....すまない若菜さん。これで良いだろうか?」
「ちょっと他人行儀だけどまぁ良いわ。
.....あ!あそこのブランド新作が出てるわ。
無名行くわよ!」
そう言ってまたお店に入っていく。
(仮面ライダーを相手にしている方がまだ楽ですねこれは)
そう思いながらも若菜ちゃんの後ろをついていく無名だった。
(俺はどうすれば良い?)
照井は一人項垂れていた。
家族の仇であるメモリが分かり進展したかと思ったが犯人が1000人単位の人間を殺している大量殺戮者だという真実も知ってしまった。
故にフィリップの言い分は理解できる。
これ程の相手ならば尚更、共闘すべきだろう。
だが、それでは俺の復讐はどうなる?
左やフィリップと共に倒して復讐を行えたと本気で思えるのか?
答えの出ない悩みに頭が一杯になっていた照井は目の前で言われた言葉を聞き逃した。
「危ない!」
「ん?」
気付いた時、照井の前には大量の荷物が雪崩の様に降ってくるのだった。
「本当に大丈夫ですか?怪我はしてませんか?」
「いいや、問題ないありがとう。」
青年は心配そうに照井に謝っている。
元々、俺の不注意なので気にしなくて良いと言ったのだが、それでは申し訳ないとお詫びとしてコーヒーを奢って貰い二人でカフェに来ていた。
「君こそ大丈夫なのか?彼女を待たせておいて」
荷物を見ながら照井が言う。
女物のブランドばかり...どう考えてもこの青年が使うものではない。
「あー、彼女じゃないんです。"親戚のお姉ちゃん"みたいな感じでして....」
「成る程、それで荷物持ちにさせられた訳だな。」
照井にも覚えがある。
春子が生きていた頃、よく買い物に付き合わされた。
「あー、それに今どうやらテレビでやっている"番組"に夢中みたいで、僕は放置されてます。」
「何と言うか不憫だな。」
「まぁ、馴れてますから」
そう言う青年に興味が湧いた照井は1つ聞いてみることにした。
「なぁ、1つ相談しても良いか?」
自分でも何故、こんなことを言ったのか解らないがその青年は快く引き受けてくれた。
「もしどうしても許せない相手が自分よりも強大な力を持っていて、仲間と協力しなきゃ倒せないと知ったら君はどうする?」
青年は少し考えると答えた。
そして、その答えに照井は胸のつかえが取れたような気がした。
まさか、照井竜とここで会うとは思わなかった。
無名は相談を受けながらも動揺を表に出さないようにしていた。
すると、電話がかかってくる。
電話に出るとそれは若菜からだった。
「はい、どうしました?」
「直ぐに帰るわよ!準備してっ!」
「どっ....どうしたんですか一体?」
「早くしなさい!荷物を置いたらテレビ局に抗議に行くのよ!」
「は?」
どうやら、若菜は何かにブチキレているようで話が通じなかった。
僕は照井に直ぐに出ることを伝えると
「分かった。相談に乗ってくれてありがとう。」
そう言われ僕は若菜と合流するのだった。
「"フーティックアイドル"?」
「そうよ、あの審査員の奴ら、フィリップの歌をあんなクソの歌よりも下手だって言ったのよ!
許せないわっ!」
(あー、ライアードーパントの一件か)
しかし、照井がここにいたと言うことはこのストーリーには参加しないのか?
そう思い照井のいたカフェを見るといなくなっていた。
恐らく、連絡を受けて向かったのだろう。
「ちょっと!聞いてるの無名!」
「はい、聞いてます。
それで若菜様はこの一件がドーパントの仕業だと?」
「絶対そうに決まってるわっ!
きっと嘘を吹き込むメモリか何かよ!
出なきゃフィリップ君の歌があんなヘボに....ヘボに」
(メモリまで当てるとは....女の勘って恐ろしい。)
「では、僕はそのドーパントを見つければ良いのですか?」
「えぇ、そうよ。
見つけ出して何でそんなことしたのか聞き出してやる!」
「.....はぁ、分かりました。
では調べてきます。」
そう言って電話を切ろうとすると若菜は続けた。
「待ちなさい!やっぱり一人では不安ね。
そうだわ!"獅子神"を連れていきなさい。
二人で協力して捕まえるの!良いわね!」
「......はぁ?」
あまりのナンセンスな提案に素の声が漏れるが、それが聞かれる前に電話が切られるのだった。
Another side
部下の真倉から連絡を受けた照井は現場に向かっていた。
考え事がしたくて現場近くのショッピングモールにいたのだ。
その間の監視は真倉に頼んでいた。
"電波塔の道化師"...正体不明の詐欺師として最近風都を騒がせている。
ソイツが視聴者参加型番組、フーティックアイドルに現れる情報を得て張り込みを行っていた。
真倉から連絡を受けて会場に行くとブーイングが起こっていた。
どうやら左達の歌よりもジミーと言う奴の歌を評価している審査員を非難しているらしい。
照井は周りを見てみると照明を動かすフロアに謎の怪人を見つけた。
「見つけたぞ。」
「あらら見つかっちゃったか。」
そう言っておどけながら怪人...ライアードーパントは逃走を図り照井もそれを追った。
外まで出ると照井はアクセルに変身しドーパントに攻撃を仕掛ける。
どうやら、戦闘能力は低いのかろくな反撃も出来ないでいた。
「君、強いねぇ。
僕のハートがキュンキュンしてるよぉ。」
「ふざけているのか貴様は」
「でも"その剣じゃ俺を傷つけられないぞ"。」
そう言って飛ばしてきた針を照井はブレードで受ける。
「試してみるか?」
「ENGINE MAXIMUMDRIVE」
エンジンブレードによる斬撃がドーパントを捕らえて爆発する。
「ぐはぁ!"私のメモリがバラバラに"」
最後の悪足掻きか吐き出した針を防御する。
爆発が止むと地面に落ちていた砕けたメモリを見つける。
「本体は逃げたのか一体何者だったんだ。」
照井は砕けたメモリをハンカチで掴む。
「これでもう悪事は出来んがな。」
そう言うと照井はその場を後にするのだった。
そして、この数時間後、照井はライアードーパントに騙されそれを翔太郎に小馬鹿にされた怒りで翔太郎の頭にアイアンクローをくわえることになる。
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第六十六話 真実のL/予想外の弱点
獅子神と無名の感情はこの時ばかりは同じものとなっていた。
その為だろう二人とも同じタイミングで溜め息をついた。
「「はぁー」」
「何たって俺達がこんな事を....」
「仕方ないでしょう?若菜様直々のご指名なのですから...」
獅子神自身、無名と組むのは気分が悪いが頼まれた仕事を聞いてもっとテンションが低くなってしまった。
フーティックアイドルの不正に手を貸しているドーパントを見つけ出して連れてくる。(これでもまだ無名が仕事っぽく言い直してくれた。)
はっきり言って下らない仕事とも思えない事柄だったが園咲家の者の命令は絶対....だからこそ断ることは出来なかった。
そんな中、無名の予測に基づきそのドーパントが現れそうなとある処理場で二人は待ち伏せているのだった。
暫くするとWとアクセル、そしてライアードーパントがその場に現れた。
どうやら、戦闘をしているらしい。
「何だ?アイツらも追っていたのか。
それにしても本当に弱いなあのドーパント。」
「恐らく、能力特化なのでしょうね。」
ライアードーパントの能力は嘘を信じこませる針を打ち出せる。
能力は強いのだがその分直接的な戦闘力は皆無だった。
「おい、このままじゃやられちまうぞ。」
獅子神の言葉にどうしようか無名が悩んでいると、
ライアードーパントの攻撃をアクセルが弾いた結果、
こちらにその攻撃が飛んできた。
立っていた場所に火花が散る。
「大丈夫ですか獅子神。」
そうやって尋ねる無名に獅子神が答える。
「当然だ....それより行くぞ。」
「行くとは?」
無名の問いに獅子神は驚く言葉を言った。
「決まっている"ご主人様"を助けるんだ。」
Another side
アクセルとWルナトリガーの猛攻によりライアードーパントはボロボロにされてしまう。
「よし、後はメモリブレイクだ。」
そう言ってマキシマムの準備をしようとするのを墨田ゆきほに止められる。
「止めて!彼がいなかったらジミー君が合格できなくなる。」
彼女の願いはジミーをフーティックアイドルで勝たせること...その為にライアードーパントに多額のお金を渡していたのだ。
「何言ってるのゆきほさん。」
そう言って亜樹子が彼女を止めにかかる。
「しめたっ!"私はお前のご主人様だ"。」
すると、ライアードーパントが作り出した針を連射で撃ち出した。
それを照井のエンジンブレードが全て弾く。
「小賢しい真似は止すんだな。」
そう言ってライアードーパントへの警戒を強めていると突如、W達の近くに謎のドーパントが落下してきた。
「何だテメェは?」
そうWが問いかけようとした時、そのドーパントが言う。
「早く迎撃しないと大変ですよ。」
そう言うと目の前から燃えたぎった炎の塊が降りかかってくるのだった。
それによりアクセルとWはダメージを受ける。
ゆきほと亜樹子は間に合わないかと思われたが吹き飛ばされたドーパントが展開した黒炎によりダメージは無かった。
そうしていると炎の塊を撃ち出したドーパントが現れる。
「無事か主人よ。」
そう言ってライアードーパントに話しかける。
「一体どう言うことだ?」
照井の問いに吹き飛ばされたドーパントが答えた。
「どうやら、彼にライアーの針が刺さってしまった様なんですよ。
そのせいで完全に洗脳されていると言うわけです。」
「んだと?....面倒な事しやがって!」
『君達、ドライバーを着けているってことは幹部。』
「えぇ、紹介が面倒なのでデーモンとレオとでも覚えてください。」
「兎に角、今はレオを何とかしないと彼には太陽クラスのエネルギー体を作る能力があります。
それを本気で使われたらここら辺一帯が焦土になる危険性もある。」
「ですので、今回だけ共闘としませんかW、アクセル?」
デーモンからの提案に翔太郎は悩むが時間がないと分かり決断した。
「分かった....今回だけだ。
照井もそれで良いよな?」
「構わん....今はこの事態を何とかするのが先決だ。」
こうして、ドーパントとライダー二人の奇妙な共闘が行われる事となったのだ。
しかし、それ以外にもトラブルが起こった。
何とゆきほの話をジミー中田が聞いてしまっていたのだ。
ライアードーパントの差し金らしく本人は笑いながらジミーの涙を和紙で採取していた。
しかし、彼らを簡単に助けにも行けなかった。
何故ならレオが俺達にずっと目を向けており、動けないでいたのだ。
「ご主人....コイツらはどうする。」
そのレオの問いに事情が読めたライアードーパントは答える。
「仮面ライダーは殺せ!コイツらは私の邪魔をした。」
そう言うとライアードーパントは姿を消した。
「なっ!待てコラッ!」
そうして追おうとするWの身体が止まる。
「グオッ!身体が動かねぇ....」
すると、レオは首を動かすとWが高速で空に浮くとそのまま高速で地面に落下していった。
『これはマズイ。』
直ぐ様フィリップがメモリを変える。
「LUNA,JOKER」
ルナにより伸びた腕で工場の煙突を掴むと落下を腕の力で止めた。
照井はエンジンブレードでレオを斬りつけるが全く効いている気配がない。
「無駄だ、そんな攻撃じゃ傷1つ付かない。」
そう言うとレオは握りこんだ拳で照井の腹部を殴り付けた。
重力の力が付与された攻撃により照井の身体が吹き飛ぶ。
しかし、無名が照井をキャッチし威力を殺した。
「油断しないでください。
彼は、幹部なんですから」
そう言うとデーモンは黒炎から刀を生成すると容赦なく斬り着けた。
照井のエンジンブレードと違い深く斬りつけ傷口から黒炎が吹き出す。
「ぐぉぉおあああ!こんな攻撃効くかぁぁぁあ!」
すると、身体が光り黒炎が消えてしまった。
「本当に厄介な能力ですねレオ。」
レオは両手に重力の力を込めるとデーモンを殴り付けた。
(当たったら不味そうですね。)
そう考え、武器を刀から槍へと変形させる。
無銘は槍を使いレオの拳をいなしてかわし続けた。
一撃でも当たれば只ではすまない攻撃を紙一重でかわしていく。
(槍術を堂本さんに習っておいて良かった。)
するとレオは両手を組むとそのまま地面に叩きつけた。
地面が波打つと重力の流れが狂い工場一帯が一種の無重力状態になる。
アクセルも浮かびそうだったがルナジョーカーの力により浮かび上がるのは免れた。
『凄まじい能力だ。
これだけ大規模な重力波を操るとは....』
「感心している場合じゃねーぞフィリップ!」
『デーモンが言っていたことが真実なら、レオはライアードーパントにより催眠状態になっていると言うことだ。
強い衝撃を与えれば正気に戻るかもしれない。』
「しかし、どうする?
この無重力状態ではまともに攻撃できないぞ。」
照井の問いにフィリップが答えた。
『照井、君のエンジンメモリを貸してくれ。
それと足場が欲しい。』
「分かった。」
そう言うと照井は地面にエンジンブレード突き刺して身体を安定させた。
そこにWが捕まると片手でトリガーメモリに切り替える。
「LUNA,TRIGGER」
トリガーマグナムにエンジンメモリを装填する。
そして、マキシマムを起動し構える。
照準はレオの頭そして、翔太郎が必殺技の名前を考えて二人で息を合わせて放つ。
「
高熱のエネルギーが帯電しながら放出されレオの頭部へ当たった。
そして、この無重力状態も解除されるのだった。
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第六十七話 嘘つきのL/道化の代償
ライアードーパントを取り逃がした。
無名は今、とても憂鬱な気分となっていた。
何故なら、隣でブチキレ寸前な獅子神の相手をしなければいけないからだ。
「弱小メモリの分際でこの俺を虚仮にしやがって....」
Wの活躍により正気を取り戻した獅子神を連れて僕は彼らの前から逃走した。
そして、冷静になった獅子神は自分がライアードーパントに利用されたのだと気づき、それからずっとこんな調子でキレ続けている。
時限爆弾の側でくつろげと言われてるような気分の悪さを無名は味わいながらも、レオメモリの弱点について考えていた。
(まさか、獅子神が精神攻撃系メモリにここまで弱いなんて....)
獅子神のメモリは自尊心によりメモリの力を強化するもので、自分が効かないと思えた攻撃は効かなくなる。
だが、裏を返せばそう思う前に受けた攻撃の影響は容赦なく受けてしまうのだ。
今までそんな欠点に気付けなかったのは本人の強さもそうだが、メモリの強力さに目が行きすぎてしまったからだ。
だからこそ、弱点に気付けなかった。
そう言う意味ではあのドーパントには感謝するべきなのだが、当の獅子神はそんな事を考えられる余裕はない。
「それで、これからどうするんですか獅子神?」
「俺にくだらねぇ質問をしてんじゃねーよ。
決まってるだろ、奴を殺す。」
「まぁ、そこは正直どうでも良いですがあのドーパントは仮面ライダーも追っているようでしたし、またぶつかるのは得策とは思えませんね。」
「あ?てとこはお前は俺に虚仮にされたまま黙ってって言うのか?」
「そんなことは言ってません。
ただ、あのドーパントを仕留めたいのならそちらも骨を折っていただきたい....そう言う話です。」
「良いだろう、何がいるんだ?」
「紫米島さんか白爪さんをお借りできませんか?」
「紫米島は無理だ....天ノ川地区に戻ってもらってる。
いるのは白爪だけだな。」
「では白爪さんをお借りします。」
「何をするつもりだ?」
獅子神の問いに無名は答える。
「仮面ライダーを騙します。」
"電波塔の道化師"本名"沢田さちお"は何時ものようにラジオをつけて園咲若菜のヒーリングプリンセスを聞いていた。
そんな中、驚くべき事を若菜姫が言った。
「電波塔の道化師と会えることになった。」と言うのである。
しかし、俺はそんな約束を取り付けてはいない。
きっと、若菜姫に会いたいどっかのファンが俺のフリをしたんだろう。
「許せない....」
そう言うとさちおは偽の電波塔の道化師と落ち合う場所へ向かいメモリを起動する。
「
そして首のコネクタにメモリを挿し込むとライアードーパントに変身し隠れながら会場に入るのだった。
そこで現れた電波塔の道化師は本人とかけ離れた格好をしていた。
全身黒タイツに金色のラメが入ったパンツとスポーツブラ、ピンクのフリフリを手に着けて頭には鷲の被り物をしていた。
顔のメイクは明らかにバカっぽかった。
(何だあのアホな姿は.....)
そんな中、電波塔の道化師が若菜姫に向かって話し始める。
「やぁ、ぼくが♪でんぱとうの♪どうけしだよん!」
「かなえたい♪ゆめは♪なにかな?。ぜーんぶかなえてあげるよっ♪」
「ししゅうもあげるよ♪ぜーんぜん♪うれてないんだけどね♪」
(こっ、この野郎!)
自分の偽物のアホな姿に耐え兼ねたライアードーパントは彼らの前に現れた。
「いい加減にしろっ!あんな詩集でもな、一生懸命書いたんだよっ!
若菜姫、違うんだ私こそが本物の電波塔の道化師なんだ。」
「はん!ようやく姿を現したかこの詐欺師野郎!」
そう偽物が言うと頭についていた鷹をライアードーパントに投げつける。
そして顔の化粧をとるとそこには沢田を疑っていた翔太郎の顔があった。
そして、照井と亜樹子、最後に若菜に成り済ましたフィリップも姿を現す。
自分が騙された知って憤慨するがそんな事をしてる暇はない。
何故なら、これからWサイクロンジョーカーとアクセルを相手に逃げなければならないのだから.....
狭い会場だと不利と考えビルの屋上にまで出たライアードーパントは嘘の針を2人のライダーに撃ち出す。
しかし、能力が看破されているので照井がエンジンブレードで全て弾いてしまった。
その隙にWがライアードーパントを殴りアクセルも加わろうとするが謎のドーパントに行く手をはばまれる。
「貴様!何者だ!」
その問いにドーパントは答える。
「気にしないでください。
私は貴方の足止めを頼まれただけですので...」
その声を聞いたアクセルはその男について思い出す。
「お前は、リッパードーパントと共にいた奴だな。
何故、お前がここにいる?」
「答える義理は無い....さぁ始めましょうか。」
そう言うと腕の武器が唸りをあげてアクセルに襲いかかるのだった。
そしてWの方にもまた乱入者が現れていた。
ライアードーパントに攻撃をしている最中、何かが投げ込まれ爆発した。
ダメージは無かったがその爆発で煙が充満する。
ライアードーパントはそれに驚き腰を抜かしていた。
「うわっ!何だこれ?どっからだ!」
『後ろだ!翔太郎。』
そう言われ振り返ると薄紫の花と赤と黒のコードで覆われた腕を持ったドーパントが立っていた。
「テメェは何者だ?」
翔太郎の問いにドーパントが答える。
「私はとある方からそこで腰を抜かしているドーパントを連れてこいと命令を受けていてね。
風都の仮面ライダー....どうかな?彼を私に渡してくれないか?」
丁寧に狙いが沢田だとそのドーパントは教えてくれた。
「ふざけんな、そんな事許すわけ無いだろう!」
そんな話をして両者が睨み合っているとライアードーパントが逃走するためビルから飛び降りた。
それを見た先程のドーパントも同じ様に飛び降りる。
「しまった!」
このままでは沢田を確保されると思った翔太郎は1つの賭けに出る。
「フィリップ!マキシマムであのドーパントを攻撃して沢田を捕まえるぞ!」
『先にダメージを与えておくと言うことか?』
「あぁ、沢田には戦闘能力はない。あの能力さえ気を付ければ捕まえるのは簡単だろ。」
『分かった君の作戦に乗ろう』
「JOKER MAXIMUMDRIVE」
翔太郎がマキシマムスロットにジョーカーメモリを装填するとビルを飛び降りながら照準をつけて必殺の蹴りを放った。
「
翔太郎とフィリップ二人の必殺キックが放たれる。
しかし、その一撃は"ライアードーパント"に直撃するのだった。
『「何っ?」』
二人とも自分のした光景に驚く。
そして、メモリブレイクされ落下する沢田を謎のドーパントがキャッチすると彼を連れて何処かへ消え去るのだった。
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第六十八話 嘘つきのL/道化の末路
ライアードーパントが倒された町には仮初めの平和が戻った。
ジミーも自分の歌う理由を見つけて元気でやっているし、応援していたゆきほさんとも付き合ったらしい。まさに、ハッピーエンドと言っても良い結末だが照井と翔太郎、フィリップの顔色は悪い。
フィリップが後に検索して出た結論は、戦闘中に浴びたあの爆発に幻覚作用を及ぼす成分が入っていてその影響を俺達は受けたと言うことらしい。
しかも、その幻覚を及ぼす範囲は大きい爆発を浴びた俺は兎も角、精神的にリンクしていたフィリップにまで同様の幻覚作用を与えていた。洗脳レベルならライアーと同等かもしれない。
しかも、ライアーと違いこっちは爆発した成分を浴びれば洗脳できる分、完全な上位互換だろう。
そして、このドーパントも過去のアノマロカリスと同じくメモリの検索は出来なかった。
そして、照井も表情が暗い。
自分が相手をしたドーパントに足止めされなければ沢田を捕まえることが出来たかもしれないからだ。
そう、沢田はあれ以降見つかっていない。
生きているのか死んでいるのかさえ分からないのだ。
「それで照井の相手をしたドーパントについては何か分かったのかフィリップ?」
翔太郎の問いに首を横にふる。
「全くだ....照井がイールチャンネルで録画したドーパントとの戦闘記録を元に検索したんだが、
あんな"武器と生物が融合した"ようなメモリは存在しなかった。」
照井の持ってきた映像には爬虫類の様な皮膚を持ち右腕が変形したドーパントとの戦闘映像が写っていた。
「爬虫類の所だけ見ればメモリは"リザード"だろう。
だが、この腕が分からない。」
そこには機械的なパーツを生物の外骨格で再現したチェーンソーの様な武器が映っていた。
「シュラウドからメモリと適合率が高いと新たな能力が得られる場合があると聞いたが、これはそうではないのか?」
「確かにそれは事実だが、こんな類似性の無い変化はしない。
過去に戦ったアイスエイジも川の水を操り氷に変える等必ず元のメモリと関連性のある力が覚醒していた。」
「爬虫類にあんな進化点が存在しない以上、これは人為的に後付けされたシステムと言うことになる。」
「一体何なんだ?コイツらは」
「分からない....だが次は負けない。」
フィリップは意気込んでいた。
Wが二度も同じシステムを持つであろうメモリの使い手に負けた。
翔太郎と同じくらいフィリップも悔しい思いをしていたのだ。
そして、フィリップはポケットからアイスエイジの事件の時に狙撃された弾を取り出した。
調べてみると生物性の分泌物だと分かった。
しかも、意図的に無毒にしてあったのだ。
「この風都には"僕らの知らない力"を持ったドーパントがいる。
必ず突き止めてやる。」
その言葉に翔太郎と照井も同意するのだった。
「それじゃあ、もう電波塔の道化師とか言っていたドーパントが悪さをすることはないのね?」
若菜の問いに無名は答える。
「えぇ今頃、獅子神がきっちりとお灸を据えているでしょうから...」
「なら、良かったわ。
フーティックアイドルは私の癒しでもあるんだから...」
そう言って上機嫌になる若菜を無名は見つめる。
(このまま原作通りに進めば彼女は"地球の巫女"としての運命を生きていくことになる.....
それが本当に正しいことなのか?)
琉兵衛や冴子と違い若菜は組織のために行動する目的が無い。
親がミュージアムの創設者で自分が幹部に据えられたから仕方なくやっている....そんな印象だ。
だからこそ、これから起こる原作通りの結末が本当に正しいのか僕には分からない。
何も知らずフィリップと生きる未来を掴んでも良いのではないか?
そう無名は思いつつも口には出さない。
今、自分はミュージアムの幹部だ。
介入できる事柄にも限界がある.....
無名は初めてこれから先の未来に対して不安を募らせるのだった。
Another side
風都のビルの一角にレオグループが構える支社がある。
そこのトレーニングルームで獅子神が素手でサンドバッグを叩いていた。
ただ、一撃一撃に強く力と殺意を込めて放つ拳は人間の姿でありながらも強力で、何度もサンドバッグが宙に浮いた。
ドライバーのお陰によりメモリの適合率が上がった獅子神は漸く"90%"の領域に足を踏み入れた。
因みにサラの適合率は93%でありまだ獅子神は負けていた。
無名については知らないがきっと俺よりまだ高いのだろう。
その怒りをサンドバッグで発散させる。
殴り蹴り....それを数度繰り返していると携帯に着信が入る。
獅子神は携帯をとり電話を行う。
「首尾はどうだ紫米島?」
その問いに紫米島が答える。
「あぁ、順調に進んでる。
このまま行けば直ぐ試作品も作れるそうだ。」
「それは良いニュースだな。
無名から委託された時は腹がたったが、話を聞けば有益そうな道具じゃないか。」
「それは俺達でも使えるのか?」
「アクセサリーシステムとの併用か?
今は止めておけ、こう言った装置は実験動物にやらせるのに限る。」
「兎に角、状況は分かった。
お前も風都に戻ってこい。後の事は灯夜に任せる。」
そう言うと獅子神は携帯を切った。
サンドバッグに向き直ると思いっきり振り抜いた右ストレートで繋いでいた鎖が切れてサンドバッグが地面に倒れた。
すると、中から血が大量に溢れ出す。
「俺を虚仮にする奴は誰であろうと許さない。
俺こそが最強なんだ.....」
そう言うとトレーニングルームを後にした。
残ったのはサンドバックの中でその生涯を終えた、
沢田さちおの"死体"のみだった......
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孤島編 二部
第六十九話 裏切りのR/始まる裏切り
蛮野は研究室の前にある三体のアンドロイドを見つめながらそう答えた。
"機械生命体ロイミュード"そのプロトタイプである
コブラ、バット、スパイダーと呼ぶモデルが完成した。
「コイツらがあれば私の研究は加速的に進むだろう。
そして、俺をバカにしたアイツらへの復讐も出来る。」
手始めにNEVERと呼ばれる傭兵たち....
東の研究所に元実験体だった奴等がいる話を聞いて顔を見せた時、ミーナと呼ばれる女が私の言動を注意してきたから"顔を叩いた"ら克己とか呼ばれるNEVERのリーダーが事もあろうに俺の腕を折りやがった!
今も完治していないため片腕を包帯で吊っている。
しかも、それだけでは飽きたらずナイフを取り出して俺を殺そうとしたのだぞ!
おかしいじゃないか?
奴等は実験体だ私のような人とは価値が違う筈なのにそれすら理解できないとは.....
まぁ、良い。
ロイミュードが完成した今、NEVERなど敵ではない。
問題はガイアメモリ....無名の存在だ。
重加速の空間でも普通に動くことの出来るあの男は脅威だ。
奴を確実に殺す方法を考えないと...まぁその為の仕掛けをロイミュードに搭載したのだが....
そう言うと蛮野は三本のガイアメモリを手に取りながら微笑むのだった。
やっと、束の間の平和な時間を手に入れたと思った無名だったが、それは克己の連絡により終わりを迎えることになる。
「あの糞科学者がっ!!今すぐ殺してやる!」
「おっ落ち着いて克己ちゃん!」
「克己、私は大丈夫だから」
ブチキレた克己をミーナと京水が宥めているが、状況が全く掴めなかった。
少しして漸く落ち着いたのかやっと状況が分かった。
どうやら、蛮野が元実験体だったクオークスをバカにしたらしく、それに反論したミーナの頬を叩いたらしい。
それを見た克己がキレて蛮野の腕を折り殺そうとしたところをNEVERの仲間全員で止めたと言うのだ。
それで話は終わったかと思ったが、どうやら蛮野がロイミュードが完成したことを報告した際、また調子に乗った事を喋ったらしくそれが克己の怒りを呼び覚ましていた。
「無名ちゃん悪いけど一度こっちに来てくれない?
やっぱり無名ちゃんが釘を刺してくれた方が良いと思うのよね私。」
「仕方ないですね。
分かりました、向かいます。」
こうして無名は琉兵衛に孤島へ行く許可を貰いに行く。
「良いだろう。獅子神からも研究に進展があったとの報告を受けた。暫くは問題なく活動できるだろう。
それと井坂君との戦いの件だが、それは獅子神とサラに任せた。
そちらの方も心配しなくて良い。」
そうして琉兵衛からも許可を貰うと僕は孤島へと足を運ぶのだった。
孤島へ着くとNEVERの面々が出迎えてくれた。
「皆さん、大変でしたね。」
「ホントよ。アンタがあんな奴連れてくるから克己の怒りが私達にも向くのよ。」
レイカがそう愚痴る。
「しかし、腕だけは確かに良い。
奴の研究スピードの速さだけは評価しても良いな。」
芦原がそう評する。
「しかしなぁ、あんなに細っこくて平気なのか?
聞いた話だとアイツ結婚してるらしいぞ。
一家の大黒柱があんな弱っちくて成り立つのか?」
堂本は変な心配をしている。
「レイカっ!無名ちゃんに当たらないの!
ごめんなさいね許してあげて。レイカとミーナは仲が良いのよ....まぁ、私もだけど、だから克己ちゃんの次にこの一件に怒ってるのよ。」
「よく言うよ京水だって"アイツの金玉むしり取ってやる!"って言ってたのに...」
「わっ私だって女なんだから友達の心配ぐらいするわよっ!けど、プロフェッショナルだから切り替えが早いの!」
余談であるがミーナの一件があった時、京水は獅子神に愚痴メールを何通も送り着信拒否(現在進行形)されていることは誰も知らない。
「じゃあ、そんな彼に釘を刺しに行きますか。」
そう言うと無名は西のラボに向かうのだった。
ラボまでの道を進む中、携帯にメールが入り無名がそれを確認していると突如、京水に押される。
「無名ちゃん危ない!」
すると、僕の立っていた場所に銃弾が当たる。
そして、撃ってきた場所を確認すると、一体のアンドロイドが立っていた。
そして、その姿に他NEVERのメンバーは覚えがあった。
「あれってあの科学者が作ってたアンドロイドじゃない?」
「えぇ、確かロイミュードって名前だったわ。」
『その通りだ実験体諸君。』
ロイミュードから蛮野の声が聞こえる。
『紹介しようコイツは"コピーロイミュード"私の作り出した試作型ロイミュードをベースに作り上げた模造品だ。
だが、性能は低下していないので、廉価版と言う方が正しいが...』
確かにこのロイミュードに普通はナンバーが記載されている胸のプレートには、何も書かれていなかった。
「これは私達に対する裏切り....そう解釈して良いんですね?」
無名の問いに対して蛮野が答える。
『当たり前だろう! 天才である私をここまで侮辱したのだ、それ相応の罰が必要だろう?』
「やっぱアンタムカつく....」
レイカがそう言った言葉が聞こえたのか蛮野が答える。
『実験体風情が私の言葉を遮るなっ!』
「あぁ、何だっ....」
レイカが続けようとした瞬間、身体が重くなるどんより現象が起きる。
「重加速ですか....」
『その通りこのコピーロイドの動力源はコア・ドライビアだ。
つまり重加速現象を引き起こせる。』
「克己さんやクオークスの面々はどうしたんですか?
まさか、もう殺したとか?」
克己の場合あり得ないが、情報を引き出すためにわざとそのように聞く。
『いいや、アイツはこの私の腕をへし折った許しがたき大罪人だ。
そんな易々と殺してたまるか。
奴には試作品ロイミュードで構成された部隊を送ったのだ。』
「部隊?」
『あぁ、私の忠実な
『ハート、ブレン、メディックだよ。』
克己はマリアと共に東の研究所で無名を待っていると謎の襲撃者に襲われていた。
蛮野の作り出したロイミュードと言うアンドロイド三体だった。
克己とミーナ、そしてクオークスが其々応戦しマリアは子供や老人を研究所にかくまっていた。
「あのクソ科学者の作った機械人形か.....
余程あの男は死にたいらしいな。」
そう言うと一体のロイミュードが克己に話しかける。
『お前が大道克己か?』
「それがどうした?」
『そうか.....』
そう言うと三体のロイミュードが其々ガイアメモリを掲げる。
「それは!ガイアメモリかっ!」
『正式には違います。
蛮野が我々ロイミュードに進化の過程で与えられたデータを、メイカーに選別させて作り上げたメモリです。
つまり、私達ロイミュード専用のメモリですね。』
そう言うと三体はメモリを起動させる。
「
「
「
そして、胸のプレートに突き刺すと機械の身体にガイアメモリのデータがロードされ、それぞれが初期の進化体の姿へと変貌し、声が機械のものから人間の声に変わった。
『改めて自己紹介をしよう俺の名はハート
緑色のコイツはブレン。
白い彼女はメディックだ。』
『さぁ、大道克己。
俺達と戦ってくれ。』
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第七十話 裏切りのR/天才の功績
三体の進化体ロイミュードを前にした克己達は、連携しようとするがその前にハートとブレンに近付かれ別の場所へ連れていかれてしまった。
「克己っ!」
ミーナが克己を追おうとするがメディックによりその動きは阻まれる。
「貴方達の相手はこの私です。」
そうしてミーナとクオークスはメディックと対峙することになった。
蛮野はコピーロイミュードを通して見る映像を確認し、自分の計画が全て想像通りに進んでいることに気分を良くしていた。
「見たかっ!天才の私にかかればこの様な事は造作もなく出来るのだぁ!」
始まりはメイカーを支配下に入れることから始めた。
やり方はロイミュード用に開発していた人工知能であるNo,001"フリーズ"をメイカーのメインシステムに送り込みそこから伝播し意志決定思考を奪い取った。
これによりフリーズが命令すればメイカーはどんな物でも開発することが出来るようになった。
それを使い私の考え出したロイミュードを作ることを命じると、メイカーは私の考えた通りのアンドロイドを作り出してくれた。
『蛮野様、試作型ロイミュード三機が完成いたしました。』
権限を奪い取ったフリーズがそう言った。
「結構、では次にハート、ブレン、メディックの人格データと成長に必要なデータを詰めたガイアメモリを作り上げろ。
それと平行して試作型ロイミュードの稼働テストをデータ内で行い、改良したロイミュードを一機、そして廉価版のロイミュードを大量に作り上げろ。」
『そうなりますと私だけの拡張思考では処理容量が足りません。』
「メイカーに命令を出して作らせろ。
どうせ意志決定思考は奪い取っているんだ、余計なことは出来まい。」
『承知しましたメイカーへのデータ共有を許可。
ガイアメモリ製作、改良型ロイミュード開発の一部を委託します。』
「宜しい、終わったら連絡しろ。」
蛮野は自分の思いどおりに全ての事が運び、そして予定よりも早くロイミュードが製作できる環境を手に入れたことに歓喜していた。
蛮野は確かにロイミュードの設計者であるが生産者ではない。
どのパーツをどのように生産したら効率が良いか等は完全なる専門外だった。
だが、ミュージアムの開発したメイカーは素晴らしい道具だ。
ガイアメモリの製作風景を見させて貰ったが、あれにも相当高度なテクノロジーとデータが使われているのだろう。
密閉された空間にGマイクロ波を使う関係上、簡単には量産できない。
だが、メイカーはそんなガイアメモリを簡単に製作し量産して見せたのだ。
そして、今それをロイミュードの開発に割り当てている。
『失礼します蛮野様、ハート、ブレン、メディックのガイアメモリの製作が完了いたしました。
こちらにお持ちしますか?』
「持ってこい。」
すると、マジックハンドが三本のメモリを掴むと研究室まで搬送され蛮野の手元にマジックハンドで下ろされた。
(素晴らしい.....製作を命令してからまだ1時間も経っていないのにメモリが三本完成したとは)
蛮野の前にイニシャルが「H」の赤いメモリと緑色で「B」と書かれたメモリそして白色で「M」と書かれたメモリが現れる。
それを、ハート、ブレン、メディックの人格データが入った三体のロイミュードに渡す。
「お前達はこれを使って克己とミーナとか言う女がいる研究所を襲え。
全員殺して構わん。」
『承知いたしました蛮野様。』
ハートがそう言うと部屋を出ていった。
素晴らしい.....あぁ、なんて素晴らしい光景だ。
全てが私の思い描いた通りに動いていく。
そうだ、これこそが正しい姿なのだ。
世界を導く存在である蛮野天十郎がこんなちんけな存在であるわけがない。
皆が私に跪き頭を垂れる.....これこそが正常な世界のあり方なのだ。
そして、私は愚かにもノコノコやってきた無名を見つめる。
コイツは私の偉大さを知りながら死ぬのだ。
そして、地獄で後悔することだろう私に痛みを与えたことを.....
コピーロイミュードがNEVERと無名を見つけたのを映像ごしに見ていた私は、無名を射殺するように指示を出す。
まぁ、NEVERの者に防がれたが構わない。
さぁ、ここまで来ると良い。
それが貴様の最後だ......
蛮野はその光景を想像しながら笑顔で状況を見続けるのだった。
そして、無名とNEVERがコピーロイミュードと対峙した場面に戻る。
重加速によりまともに動けないNEVERと違い、無名はデーモンメモリのハイドープになった能力として"自分にかかる事象を消すことが出来る力"を得ていた。
これにより重加速の空間でも普通に動くことが出来た。
しかし、コピーロイミュードにとってそんな事は関係ない。何故なら彼らに自我はなく、命令されたことを実行するだけの操り人形だからだ。
蛮野の命令通り、研究所に近付く者を殺そうと重加速の中で銃を無名たちに向ける。
しかし、コピーロイミュードが弾を撃つことはなかった。
何故なら、その前に頭に風穴を開けられたのだから....
そのおかげで重加速が解ける。
そして、そこへドーパント体になった黒岩がやってきた。
「成る程、ロボットと言えど頭を撃ち抜けば止まるのか。」
「正確にはロボットではなくアンドロイドだがな。」
そう言いながら本を携えた男が無名の元に現れた。
「相変わらず良い腕ですね黒岩さん....それに
そう無名が告げると赤矢が答える。
「仮にも黒岩と私は"君の部下"だからな。
呼ばれたら来ないわけにはいかないだろう。」
「どっ....どう言うことなの?」
京水の問いに無名はタブレットに文字を書いて答えた。
『用心のためにこちらに書きますが僕は今回の蛮野の襲撃を知っていました。
だからこそ、準備しておいたんですよ。』
何故、無名が筆談での会話を選んだのか察しの良い京水と芦原は理解した。
"会話が聞かれている".....
京水がハンドジャスチャーでその旨を伝えると皆、その事実を理解する。
「単なる護衛ですよ。この二人が僕の最大戦力です。」
『蛮野の作戦は知っています。
だからこそ、暫くあの男の思い通りに動かします。』
口では嘘を話し、筆談で真実を伝えるという器用な行動を無名は行う。
「NEVERの皆さんは私と一緒に研究所に向かいましょう。」
『皆さんは克己さんとクオークス達と合流してください。
蛮野の方は僕達が処理します。』
「分かったわ任せて頂戴。」
京水達がそう答えるとお互いに動き始めるのだった。
その会話を破壊されたコピーロイミュードから蛮野も聞いていた。
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第七十一話 裏切りのR/彼等の願い
『蛮野の命令に疑問を抱かずに聞く?
それが俺達が自由になるために必要なのか?』
「えぇ、あの男は1度でも反旗を翻したら敵と認定します。
それは自分が作り出した貴方達も例外ではありません。
だから、蛮野が我々を裏切り行動を開始するまで彼にどんな命令を受けても遂行する"使いやすい道具"を演じて欲しいのです。」
『そうすれば蛮野は油断して我々が動けるタイミングが現れる....そう言うことですね?』
「その通りですブレンさん。
ただ、これはハート...貴方にとってはとても残酷な事をお願いしています。
蛮野から不本意な命令を受ける確率が高いからです。
それでもやってくれますか?」
無名の問いにハートは悩む。
その姿を心配するようにブレンとメディックは眺めている。
『俺達は友達が蛮野の支配からどんなことでもする覚悟はある。
無名.....本当に俺達は自由になれるのか?』
「それは保証します。」
『分かったその時が来るまで俺は...いや俺達は、蛮野の道具を演じよう。』
ハートとブレンによりミーナ達から離された克己は、ハートが手を離すとナイフを取り出して構えた。
しかし、ハートとブレンは戦う構えを解いていた。
「どうした殺り合わないのか?」
『その必要はない。ブレンここなら良いか?』
『はい、ここなら蛮野に気付かれる心配はありません。』
『そうか....大道克己、先程の非礼を詫びる。
俺達は蛮野から自由になるために無名と取引をした。
お前をあの場所から遠ざけたのも俺達に協力して貰いたいからだ。』
「それが本当だと言う確証は?
お前らが蛮野に操られていないと言う保証はない。」
『確かに提示できる証拠はない。
メイカーからはこの身体とメモリは問題ないと説明されたがな。』
「待て、メイカーは蛮野が操っているんじゃないのか?だからこそ、機械人形をあんなに生産できたんだろう?」
『それについては私が説明しましょう。
確かにメイカーの意志決定思考は"フリーズ"によって蛮野の手にあります。
しかし、それを予期していたメイカーは私達三人と個人的に通信できる回線を作っておいたのです。
そして、そこから流れる蛮野の計画や情報を私が暗号化して無名殿に流しておいたんです。』
「そのフリーズってのは何だ?」
『俺達と同じく蛮野によって作られたロイミュードの人格データの1つだ。
今は蛮野に改造されて意志を消されてしまっているが...俺は彼も助けたい。』
そう言うとハートは地面に正座すると克己を見据える。
『人は誠心誠意の願いを行う時はこの行動をすると良いと学んだ。
頼む! ....俺の友達をあの男から助けたいんだ!
君の...君達の力を貸してくれ!』
そう言いながら彼は頭を地面につけて克己に懇願した後ろにいたブレンも同じ動作をする。
克己にはロイミュードの事は分からない。
蛮野が作ろうとしているヤバい物と言う意識程度だ。
だが、それでも言葉に心が籠っているかは分かる。
ハートは心の底から仲間を助けたいのだと理解した。
「分かった.....お前を信じよう。
だが、ミーナやお袋は安全なのか?」
『そこに関しては心配ない。
メディックが彼らと彼女を命に代えても守る。』
「それは困る。」
『?』
「メディックもお前の友達なんだろ?
なら、全員助けるべきだ....違うか?」
人間にロイミュードの友を認められたハートの心に歓喜の感情が表れた。
『感謝する。』
「無名が一枚噛んでいるのなら、あの糞科学者の計画は失敗するだろうな。
なら、俺達は余計な犠牲が出ないように行動すれば良いわけだな。」
『あぁ、だがそんなに凄いのか無名は?
契約した俺が言うのも何だが、蛮野は天才だぞ。』
そう、蛮野は確かに天才だ。
凡人が数年かかる研究を彼なら数日でこなし、
どんな物でも作り出せる。
だが、その言葉を聞いて克己は笑う。
「はっ!確かにあの男は天才なのだろう。
無名が必要としたぐらいだからな。
だが、それでも無名には勝てない。
蛮野と無名は"根本的に違う"んだよ。」
「それに少し考えれば分かるだろう?」
「
無名とNEVERの打ち合わせが終わり、其々が行動を開始した。
そして、残った無名、黒岩、赤矢は蛮野のいる西の研究所へと向かった。
無名は懐からスマホサイズの機械を取り出すと起動する。
「電波妨害装置です。
これがあれが会話を聞かれる心配はありません。」
「そんな物があるなら何故、NEVERがいる時に使わなかったんだ?」
赤矢の問いに無名が答える。
「電力の消耗が激しくて稼働できるのは5分が限度なんです。
時間がないので手短に説明します。赤矢さん、貴方の蛮野に関する所見を聞かせてください。」
赤矢はそう言われると手に持っていた本を開きページをめぐる...よく見るとそれはメモ帳になっているようで、中には赤矢の筆跡がびっしりと書き込まれていた。
「精神的成熟度が低く常に自分を高位の立場に起きたがる典型的な人間の思考だな。
知識に関しては人のそれを越えているのだろうが、それが全てだと勘違いしている。
自分の知っている知識こそが全てだと思うタイプだ。
犯罪者で言うなら激情型なサイコパスな側面が強い。
故に他者との距離を計ることが難しく、コミュニケーション能力が低い。
そんなところだろう。」
「流石、本職の方のプロファイリングは面白い。
では、彼の次の行動はどうですか?」
「こういうタイプは常に自分の想像内で事象やトラブルが起こると考えているだろう。
IQが高いのならその範囲も広い。
だが、精神的幼児性がその判断基準を邪魔している。
だとしたら彼は自分に恥をかかせた存在への復讐を選択するだろうな。
無名....君が襲われたことを見ると、復讐の対象には君も入っているだろう。」
「ならば、僕が前に出れば蛮野は間違いなく食い付きますね。
ありがとうございます、確証が持てました。
黒岩さんと赤矢さんは重加速の範囲外から援護をお願いします。」
「たしか、重加速の範囲内にいてもメモリを使えば問題ない筈じゃなかったか?」
「えぇ、ですが貴方達は僕のアクセサリーシステムの被験者でもあります。
何か不具合が起きて貴方達に被害が出るのは避けたいんですよ。」
「分かった。どっち道、機械相手なら黒岩のメモリは使えても私のメモリは対して効果がないからな。」
そう言って赤矢は「A」のイニシャルが入ったメモリを見せると黒岩と共に離れるのだった。
この時、無名は嘘をついた。
重加速によってアクセサリーシステムが不備を起こすことはない。
では、何故そんな事を言ったのか?
蛮野には"二度のチャンス"を与えた。
一度目はクリムとの話し合いの時、正直に忠告を守れば命が救われる選択肢を残したこと。
二度目は孤島に来て歯向かってきた時だ。
ダメージも回復させて忠告したのに、受け入れて貰えなかった。
日本にはこう言う諺がある。
『仏の顔も三度まで』......
だが、僕はもうチャンスを与えない.....
蛮野天十郎、"君の運命"は決まった。
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第七十二話 裏切りのR/狂う歯車
蛮野は最初の計画が上手くいった過去とは一転、今は怒りを抑えるだけで必死な状態だった。
ハート、ブレン、メディックがNEVERと結託し裏切ったのだ。
それを知った蛮野は直ぐにコピーロイミュードの軍勢を向かわせるが、ハート達が重加速を無効化させているせいで戦況は芳しくない。
しかも、このタイミングで無名が西の研究所に一人でやって来たのだ。
聞いていた話と違う!
奴らは纏まってくるのではなかったのか!
手駒が足りない.....このままでは私は負けてしまう。
その時、蛮野の脳裏に無名から受けた拷問の記憶が甦る。
(....嫌だあんな痛みを受けるのはもう嫌だ!)
そもそもどうしてこうなるのだ!
それまで計画は上手くいっていた。
アイツらが裏切らなければ全て上手くいっていたのだ!
いや待て、そもそも何で奴等は裏切ったのだ?
奴等の裏切るメリットは何だ?
誰がそんな事を行える?
蛮野の頭脳は少ない情報を組み合わせて結論へと辿り着いた。
(無名か.....だが何時からだ?何時から私の裏切りを知っていた?
まさか、最初からなのか?
確かにそれならば、この事態も説明がつく。
だが、どうして分かったのだ?
.....まさかガイアメモリの力か?
兎に角、今はこの事をクリムに伝えて世間にバラして貰おう。
そうすれば奴等はその対応に追われるだろう。
今は時間が欲しい。)
蛮野はクリムに電話をすると直ぐに繋がった。
「クリム!私だ蛮野だ!実は....」
蛮野はそこから話を繋げようとするとクリムから想像してない言葉を言われる。
「蛮野?....失礼だが君は誰だ?
"私の事を知っている"ような口ぶりだが、生憎覚えがないのだが?」
「....は?」
想像すらしてない解答に流石の蛮野の思考も止まった。
「じょ....冗談は止せ。
私だよ蛮野天十郎だ!"君の親友"で....」
「すまないが誰かと間違っているのではないか?
私の友に蛮野と言う者はいないぞ。
電話のかけ間違いだろう。
今、忙しくてね。失礼だが切らせて貰う。」
「まっ...待て」
最後まで話す前に電話を切られてしまった。
蛮野は椅子に座り現在起きている不可思議な現象について考えていた。
『蛮野様、無名が研究所に侵入してきました。
このままではこちらに到着してしまいます。』
フリーズの言葉に現実へと引き戻された蛮野は奥の手を切ることにした。
「改良型ロイミュードの進捗はどうだ?」
『まだ完璧とは言えません。
ハート達からのデータ供給が止められていますので70%で止まっています。』
「それでも構わん!直ぐにメイカーに製造の命令を出せ!」
『しかし....』
「つべこべ言うなぁ!道具風情がぁ!私に従えぇ!」
『....了解しました。
メイカーへ製造を依頼...許諾。
完成まで一分です。』
「完成したらフリーズ...お前が中に入り無名と戦え!
それまで私が時間稼ぎをする。」
『承知しました。
戦闘用データはどういたしましょう?』
蛮野はそこで自分の失策に気付く。
ハート達を戦わせる事を想定していたのでフリーズ用のメモリを製作していなかったのだ。
「クソッ!早く代わりとなるメモリを検索しろ!」
『.....メイカーから代案のメモリが提案されました。
その製造を許可しますか?』
「直ぐに許可を出せ。
準備が出来たら私を助けろ良いな?」
そう、蛮野が言うと研究室を出ていった。
そして、フリーズはメイカーから提案されたメモリのデータを閲覧するのだった。
時同じくして東の研究所ではハート達、NEVER、クオークスによる連合軍対コピーロイミュードによる戦闘が終局に向かっていた。
ハートが強靭な拳による格闘で敵を吹き飛ばし克己のサポートをする。
「戦闘の筋が良いな!お前をNEVERにスカウトしたいぐらいだ。」
『はははっ!有難い申し出だが友達の事が心配なんだ。断らせて貰うよっ!』
そして、隣ではブレンが毒で、京水が鞭でロイミュードを倒していった。
「あらっ!貴方面白い能力があるのね?」
『私は優秀で誠実で合理的なのですよ。
効率的な戦い方が一番良いと思ったまでです。』
メディックとレイカは協力してロイミュードをスクラップに変えていった。
「メディックだっけ?あんた強いじゃん。」
『レイカさんも素晴らしい戦いぶりですわ。』
お互い誉めあっているとロイミュード達がミーナやクオークスに向かって銃を発砲してきた。
『危ない!』
メディックは彼女等の盾になるように鞭を展開させて弾を防ぐが、自身の身体に弾を受けてしまう。
『メディック!』
ハートがその姿を見て駆け寄るが、そんな事に構うことなくロイミュード達は発砲しようとする。しかし、
「油断しすぎだぜ!」
「....遅い」
芦原と堂本が展開していたロイミュードを破壊した。
『あっ....ありがとうございます。』
メディックが彼等に礼を言う。
「気にすんな!克己がお前らを仲間と認めたなら俺達が守るのは当然の事だ!」
「無理をしなくて良い。戦闘はプロである俺達に任せろ。」
堂本と芦原がそう告げると敵に向かっていった。
今まで道具として蛮野から扱われてきたハートとメディックにとって、その言葉と行動は何よりも嬉しかった。
『ハート様、私彼等と会えて本当によかったですわ。』
『あぁ、俺もだメディック。』
そして、その光景を見ているブレンに京水は違和感を覚える。
「あらっ?どうしてたのブレンちゃん?」
『いえ、何故か分からないのですがハートとメディックの"二人がくっついてる姿"を見ると.....妙にモヤモヤしましてこの感情が何なのか分からないんです。』
その言葉に京水の乙女センサーがビンビンに反応した。
「ブレンちゃん!貴方も私と同じ心を持ってるのね!
嬉しいわっ!同じ感情を共有できる人と会えて!」
『は?人?え?』
「良いのよブレンちゃん!それは間違った感情じゃないわっ!ハートちゃんが好きなのね?だからジェラシーを感じるのよっ!」
「私は貴方を応援するわブレンちゃん!
一緒に幸せを掴み取りましょう!」
「蛮野が来た時はムカついたけど貴方達が来てくれて本当によかったわっ!
貴方との出会い嫌いじゃないわっ!寧ろ大好きだわぁぁぁぁ!」
京水はそう言いながら敵に突進していった。
その光景をブレンは呆然と見つめるのだった。
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第七十三話 裏切りのR/最後の抵抗
無名はデーモンメモリを使いドーパントになると邪魔をしてくるコピーロイミュードを黒炎で消しながら研究所を進んでいった。
(研究所の守りが薄い....恐らくハート達が上手く動いてくれたんでしょうね。)
そう思っていると蛮野が唐突に現れた。
「どうも、蛮野博士。
思ったよりも遅い登場ですね。」
その無名の問いに対して蛮野は答えた。
「よく言うだろう?
主役は遅れてやってくると.....」
「クリムに電話をしたら私の事を完全に忘れていた。
これはどう言うことだ?」
「おや?忘れたのですか。
ディガルコーポレーションで話した時に約束したじゃありませんか。」
「ふざけるなっ!口約束で本当に記憶を無くすことがあってたまるかっ!」
「ふふふっ、そもそもその口約束で我々を利用しようとしたのは貴方でしょう?
それに裏切らなければクリムが記憶を失うことはありませんでした。
.....全ては」
「貴方の幼稚な行動が招いた結果ですよ。」
無名の言葉に蛮野は怒りを露にした。
「ふざけるなぁあ!私は天才なのだ。
凡人である貴様らは私に利用されることに感謝していれば良いのだ!
それなのに私に刃向かい愚かにもこんな事をするとは....
偉大なる私に対する冒涜だぁぁぁ!」
("偉大なる"....ですか。)
無名はその言葉が"最も似合う人物"と常に対峙している。
その影響もあり蛮野の言葉がまるで三流コントの様にしか聞こえなかった。
園咲 琉兵衛と蛮野 天十郎。お互いに仮面ライダーのラスボスを担当してはいるが、両者には圧倒的な違いがある。
琉兵衛は人類の未来のため悪になったが、蛮野は私利私欲で人類に脅威を及ぼした。
犯罪のスケールが違いすぎる。
「やはり、"お前では役者不足"だな。」
無名が蛮野をそう評する。
「何だと?」
「いえ、端役である貴方にはそろそろ退場して貰おう。
そう考えただけですよ。」
そう言って無名が動こうとするのを一体のロイミュードが止めた。
『蛮野様の邪魔はさせない。』
「遅いぞフリーズ!早く無名を殺せ!」
そう、蛮野が命令するとその場を後にした。
「フリーズ....確かメイカーを操作していたAIでしたか?」
そう言うとロイミュードは一本のメモリを取り出す。
そして、メモリを起動した。
「
メモリを身体に挿すと身体が変化し巨大化していく。
「メイカーは"ブラキオサウルスを選び"ましたか。」
そう言うと屋敷の通路を破壊してフリーズはブラキオサウルスドーパントへと変身した。
空を飛びながら無名はその姿を確認する。
(これは少し骨が折れそうだ。)
そう思うと黒岩に連絡し、自分が行う筈だった仕事を彼等に頼むのだった。
蛮野は巨大化するフリーズの余波で崩壊する研究所から何とか脱出した。
地下にあるメイカー本体は無事だろうが、ここはもう駄目だろう。
(生き残るためにも逃げなければ....)
そう考えて動こうとするのを一人の男に阻まれた。
「なっ...何者だ貴様は?」
「私の名前は赤矢だがそんな事はどうでも良いだろう。
重要なのは...」
「君がこの後どうなるかだ。」
そう言うと赤矢はメモリを起動した。
「
そしてメモリを鎖骨に挿すとドーパントへと変身した。
そして、右腕に追加でメモリを挿す。
「
すると右腕がコードによりグルグルに巻かれた。
そして、右腕で長方形の箱を作り出すと蛮野に向かって投げた。
「プレゼントだ受け取れ。」
それを蛮野は回避するが突如、爆発し白い煙が辺りに立ち込めた。
「ぶほっ!...何なのだ...これ...は....え...?」
爆発の煙を吸った蛮野の顔が緩まり身体がふらつき始めた。
「朝鮮アサガオと言う品種にはヒオスチアミンやスコポラミンと言った幻覚作用を及ぼす成分が含まれている。
それを調整すれば意識を混濁させて眠るように相手を操作できる。
丁度、今の君みたいにね。」
「わ....は....へ?」
蛮野は何か言いたいのだろうが口が回らず意識もどんどんと薄れていった。
「安心しろ、死ぬ程の濃度にはしていない。
精々、1時間程度意識を失うだけだ。
最も、その後も君が生きていられる保証はないがね。」
すると、蛮野は地面に倒れて意識を失った。
赤矢はそれを確認すると遠くにいた黒岩に通信する。
「終わった。
無名から頼まれた道具を着けるとしようか。」
「了解した....それにしても恐ろしい能力だな。
これならWが幻覚に引っ掛かるのも頷ける。」
そう、赤矢のこの能力は霧彦とライアードーパントの時にも使われていた。
「いや、彼等はそこで倒れている男と違って苦労したんだぞ?
二人ともドーパントになっている分、生半可な幻覚剤では効かないだろうからね。」
「まぁ良い、今はそんな事よりも無名から言われた命令を遂行するとしよう。」
そう言うと赤矢は蛮野を背負い黒岩の元へと向かうのだった。
Another side
巨大な怪物を見つめるハートは状況が理解できないでいた。
『あれは一体何なのだ?』
「恐らくはガイアメモリの力だろうな。」
その光景を見ている克己はそう言った。
『ガイアメモリ....俺達のデータが保管されているこのメモリにはそんな力もあるのか?』
ハートは胸に手を当てながら言った。
「地球の記憶を封じ込めた道具だ。
どんな姿になっても不思議じゃない...無名だってそのメモリを使うんだぞ?」
克己の言葉にハートは更に驚いた。
(こんなものがこの世界には存在するのか。)
そうしているとブレンが急に地面に倒れた。
『どうしたブレン!』
『あっ....悪魔が!悪魔がいます。』
そうしてブレンが指を指す方向をハートは見る。
そこには黒い翼をはためかせて空を飛ぶ角を持った怪物が写っていた。
それは正しく悪魔と呼ぶに相応しい姿で絵でしか見たことの無かったブレンやハートに取って驚くべき事実だった。
「だから言っただろう?」
克己は笑いながら言った。
「
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第七十四話 裏切りのR/恐竜と悪魔
無名は空を舞うように飛びながらブラキオサウルスドーパントとなったフリーズに攻撃を仕掛けた。
刀の斬撃が足に当たり黒炎が吹き出すが身体から黒い泥を吹き出して炎を地面へと落とした。
(あれは、メモリの能力である化石兵の生成でしたか。
成る程、生成途中の泥に炎を擦り付けて黒炎を消すとは頭が良い。)
そう感心しているとフリーズは無名に両腕を振り下ろしながら襲い掛かる。
今のフリーズは怪獣と言っても良い程、巨大化している。
そんな怪物の両腕が襲ってくるのだ。普通の回避では間に合わないだろう。
無名は回転して炎を遠くに飛ばすとそこをゲートにして攻撃を回避した。
飛散した炎の一部から無名が姿を現すと武器を刀から弓と矢へと変形させる。
無名は黒炎を操作して武器にする際、能力のパラメーターを変更させていた。
"刀"は攻撃と速度、"槍"は防御と鋭さ、"鎖"は速さと拘束力と言った感じだ。
そして"弓"は数ある形態の中でも黒炎の破壊と消滅に特化した形態であった。
標的を見失ったフリーズに無名は引き絞った矢を放つ。
矢がフリーズに当たると黒炎を巨大化させながら進み、身体を貫いた。
凄まじい威力によりフリーズは倒れる。
そして、無名も地面に着地した。
この武器の欠点は黒炎の消耗率が高いことだ。
適合率が上がりデーモンメモリを使いこなせる様になった無名でも、一発撃てば回復するまで待たなければいけなかった。
(だが、致命傷を与えた。これで奴は動けないだろう。)
しかし、ここで無名は1つミスを犯した。
恐竜系のメモリが与える恩恵の1つである耐久力を考慮してなかったのである。
『ぐぅおぁぁぁぁ!』
痛みに耐えながらフリーズは立ち上がる。
「バカなっ!」
そして襲い掛かってくる腕を避けようと残った炎をゲートにするがフリーズも学習していた。
炎に沿って腕を振り抜いたフリーズの攻撃は転移した無名に直撃した。
その攻撃をもろに受けた無名は地面に衝突しクレーターを作る。
その一撃で無名は瀕死に追い込まれた。
一見、汎用性も高く強力なデーモンメモリにも弱点がある。
それは耐久力の低さだ。
パワー系メモリの力をまともに受けたら、プロダクトクラスでも無視できないダメージを負ってしまう。
だからこそ、ライアードーパントとの戦闘で無名は獅子神の攻撃を回避するしかなかったのだ。
だからこそ、今フリーズから受けたダメージは無視できるものではなかった。
(身体が....動かない....くっ!)
そうしているとフリーズがトドメの一撃を振るってきた。
駄目だこれは避けられない。
「
すると、急に右手が動き黒炎の壁を生成するとフリーズの攻撃を防いだ。
フリーズは炎により燃える身体をどうにかしようと暴れている。
「
僕の問いに何者かが意識の中で答えるがそんな事を考えているだ暇はない。
暴れるフリーズを避けるように無名は飛び上がった。
「
「
【
無名がフリーズに手を翳すとフリーズの巨体が浮き上がった。
そして、黒炎を操作し巨大な鎖を作るとフリーズの両手足と首にかける。
そして、引っ張りあげる事でフリーズの身動きを封じる。
【中世の拷問に"車輪刑"と言うものがある。
馬車の車輪に人をくくり付けていたぶるらしいが....
そんな無駄なことはしない。】
【僕の刑罰はもっとシンプルだ。】
黒炎が無名の腕を覆うと巨大化する。
【身体を縛られている者を無理やり引っ張ったらどうなるか.....試してみようか。】
そう言うと巨大化した無名の腕がフリーズの胴体を掴むと引っ張る。
しかし、鎖はそれを許さずフリーズの身体に負荷をかけ続ける。
その痛みにフリーズは声にもならない絶叫を響かせた。
【機械の癖に痛みを感じるのか?
......面白い、なら実感すると良い!自分の死を!】
そう言うと無名は腕を思いっきり引っ張りフリーズの身体を引きちぎった。
あまりのパワーに千切られた各部が空を舞う。
そして、体内に入っていたメモリが放出されると粉々に砕け散った。
【何だ....つまらないな。
やはり、機械ではこの程度が限界か。】
そう言うと無名の身体から煙が出てくる。
【そろそろ"時間切れ"か。
やはり、まだ馴染んでいないみたいだな。
だが、私を知覚出来たのは進歩だな、無名よ。】
【
【ではさようなら無名...また会おう。】
すると、無名は自分の身体の権限を取り戻した。
そして、メモリを抜き取り眺める。
(デーモンメモリ....これはメモリの副作用なのか?
いや、だとしたらあの力が説明できない。毒素がどうとかの次元じゃない。)
「僕の中に...誰が....」
そこまで考えると無名の思考が入れ替わった。
正確には"書き換わった"と言うべきか....
そんな事より蛮野の始末を着けなければ、そう思い無名は黒岩の元へ向かう。
これで彼の望む物語が始まる。
微笑んでいるのは無名かそれとも......
そう....そんな人物は存在しない。
物語は無名を通して進んでいくのだった....
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第七十五話 裏切りのR/求めた結末
蛮野は目を覚ますと身体を縛られ頭に謎の装置が付けられていた。
「こっ!これは何だ!」
その声に無名が答える。
「気付きましたか?蛮野博士。」
「無名!この私をどうするつもりだ!」
「どうするもなにも"結末"が変わらないように"調整"するんですよ。」
「結末?調整?」
「貴方を今ここで殺せばドライブの物語が変わってしまう。
諸悪の根元が死ぬとストーリーにズレが出てどんなバタフライエフェクトを起こすか分かったもんじゃない。
だからこそ少しだけ設定をねじ曲げつつも貴方を生かす方法を考えたんです。」
「安心してください。きっと気に入る筈ですよ。
原作でも貴方自身でやっていましたしね。」
そう言うと無名は蛮野に告げた。
「貴方は我がミュージアムを"裏切った行為"を行った。
これは"契約違反"に該当する....故に契約に従い"ペナルティ"を行使する。」
そう言うと蛮野は急に苦しみ出す。
「ぐっ....がっ....あ!」
「少し苦しいでしょうが直ぐに死ねます。
仮にもワードメモリはゴールドクラスなんですから」
「た...す...」
蛮野はそこまで良いかけるがそこで彼の心臓は止まり彼の人生は終わりを告げた。
蛮野は目を覚ますとそこは見たこともない空間だった。
『私は....一体....確か身体を縛られて.....それから』
そこまで考えていると誰かの声が聞こえてきた。
『気がついたか?』
この声に蛮野は聞き覚えがあった。
『ハート?貴様っ!何処にいる?私を裏切ってただで済むと...』
『威勢が良いな。もう"死んでる"とは思えない程だ。』
『何だと?どう言うことだ?』
『そのままの意味です。
人間としての貴方は死に、我々と同じ存在になったのですよ蛮野博士......いや蛮野。』
『その声はブレンか?貴様も同罪だ削除してやる!』
『貴方にはもうそんな事をする権限はありませんわ。
.....だって』
『私達と同じデータになったのですから』
メディックの言葉に蛮野は驚く。
『データ....この私が?』
『あぁ、無名がお前を殺す前に思考と記憶をデータ化して電脳空間に移したんだ。
だから、今のお前は俺達と同じデータの塊だ。』
『ふざけるなよ!私は蛮野天十郎だ。
天才的な頭脳を持つ唯一無二の存在なのだ!』
『違う.....今のお前はデータの塊であり俺達に歯向かうことすら出来ない存在だ。』
そう言うと私の前に赤いコートを来た男と緑の服を着たメガネの男、そして純白に身を包んだ女が立っていた。
『改めて挨拶だ。俺の名はハート、これから数年の間よろしく頼む。』
『数年....だと?』
『無名との契約で私達は数年間ネットに作られた電脳空間で情報を集めながらデータを構成し表に、出ない事になってるんです。
その代わり電脳空間の中でなら自由にして良いと言う約束でね。』
『そして、時が来ればロイミュードの肉体が保管されている場所に私達全員転送されるんですわ。
そこで何をするかは任せるそうです。』
『そう言えば蛮野....俺の友達であるフリーズをよくも操ってくれたな?
無名に破壊された後、人格データはメイカーが回収したから問題はないが、お前にはその報いを受けて貰う。』
『おっ....お前達は俺の道具だ!道具であるお前達を使って何が悪.....ぐあっ!』
ハートの拳が蛮野の身体に突き刺さる。
『痛いだろう?お前が覚えさせた痛みのデータだ。
俺達を利用して集めたデータの味はどうだ?』
『私達、ロイミュードはある一定の権限を得ています。
しかし蛮野、貴方には何もありません。
私達に反抗する権利も防御する権利も....』
『もう分かっただろう?
お前にはここで俺の友達を利用した罰を受けて貰う。
俺達、ロイミュードの"人格データ108体"分のな』
『そんな....バカな.....』
『数年間、仲良くしようじゃないか蛮野....
なに....時間はたっぷりある。
お前の大好きだった拷問も楽しめるぞ。』
そう言ってハートは笑いながら近づいてくる。
『や....止めろ。』
『く....来るな!』
『た....助けてくれ!』
『誰か助けてくれぇぇぇぇ!』
届くことのない蛮野の悲鳴が電脳空間に木霊する。
しかし、それを聞き届ける者はいない。
ここには彼を助けてくれるヒーローはいないのだから....
そして、無名は本当の意味でメイカーを手に入れた。
蛮野に余計なシステムを追加されていない装置をである。
そうしてそれを琉兵衛に報告すると早速、メモリの生産とアクセサリーシステムと獅子神に委託した研究で使う道具の開発を進ませた。
これによりガイアメモリは原作よりも多く開発されるだろう。
そして、そのメモリと仮面ライダー達が戦いを繰り広げる。
彼等は勝てるのか?
そんな疑問を抱く意味などない。
もう賽は投げられたのだ.....
そして、この混沌とした物語を無名は生きていく。
自分の求める結末と結果を手に入れる為に......
そうして、無名は風都へと戻った。
僕が孤島での決着を付けている間に物語が進んだからだ。
Wはナイトメアドーパントを倒した。
つまり、この後に続くストーリーは1つしかない。
ビーストとゾーンメモリ.....そして
"エクストリーム"が現れる。
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解説編 第三話 変更点説明+プロローグ
好きなエナジードリンクはレッドブルの筆者です。』
「みんなぁ、お久しぶりぃ!
エナジードリンクなんてお肌に大敵な物そもそも飲まない京水よぉ!」
『本当に長らくお待たせしました。
解説編を久しぶりに投稿します。』
「そう言えば何で投稿してなかったの?」
『実は解説編の投稿がハーメルンのガイドラインに違反する可能性が出てきたんですよね?』
「あら?そうなの?」
『はい、ですので今後は活動報告に設定を投稿したいと思います。
しかし、二話までの解説はここに残しておきますのでご参照ください。
それ以降の解説は活動報告に書きたいと思います。』
「そう言うことだからどうか許して頂戴ね?
全て、筆者の怠慢が悪いのよ。」
『すっ....すいません。
ハーメルンでは初投稿で今まで読む専門だったのでシステムを知りませんでした。
報告してくれた方には感謝してますm(__)m』
「じゃあ、報告はこれで終わり?」
『いえ、実はそれだけだと何か締まりが悪いので次の話のプロローグを書いておきます。
無名が孤島で戦っていた時に風都では何が起こっていたのか?
それをこの後書くので導入としてお読みください。』
それは照井と鳴海探偵事務所の面々でレストランで食事をしていた時の事だった。
そこで現れたマジシャンの父と娘....
この二人との出会いが忘れられないものになろうとはこの時の俺達は知るよしもなかった。
「私の身体を元に戻して欲しいんです。」
「去年の8月にね。」
「お前がWのメモリの犯人か!」
「井坂深紅朗と申します。」
「獅子神くん.....君に任せるよ。」
「さぁ、見せて貰おうか?
お前の力を.....」
「止めて!竜くん!」
「奴に勝つにはコレしかねぇんだよ!」
「止めるんだ翔太郎....止めてくれぇぇぇ!」
NEXT EPISODE
「井坂編」
「えぇぇぇぇぇ!ここに来てまだ進まないの?あんた分かってる?この物語始まってからもう70話過ぎてんのよ?
某冒険漫画ではもう○ーロン出てきてんのよ!
分かってる?」
『あのー、言いたいことは重々理解してるんですけどやっぱり照井と井坂の出会いは外せないだろうと思いまして....』
「あんた、これ本当に終わるの?
具体的な話数とか決めてる?」
『..........』
「まさか、アンタ.....」
『えぇ、そうですよ!完全に話数管理が出来てないですよ。なるべく読みやすい長さで書こうと思って2000~3000字前後で投稿してますけど書きたいことが多くて纏まんないんですよ!
このキャラ出したらあのキャラ出せるなぁ~とか考えちゃう僕も悪いですけど!
本当だったらもうエクストリームメモリも出すつもりだったのにぃ!
......うぁぁぁぁぉぁ!』
「ごっごめんなさい私が悪かったわっ!
だから落ち着いて....ね?」
『すん.....取り乱しました。
何とか100話前にエクストリームを登場させたいとは思っています。
ただ、話を広げすぎてしまっている所があるので100話越えてしまったら"あっ、また作者ガバしたな 笑"と笑って許してください。』
「それは私もお願いするわ。
読者の皆、作者ちゃんも頑張るからこの作品を温かく見守ってね!」
「そう言えば井坂編と銘打ってるけど何れぐらいの長さになるの?
まぁ、そこまで言うのだからきっと短く....」
『......10話程度を予定しています。』
「....はぁ、あんたねぇ。」
『Wは二話構成で進むのでこの小説もそれにそくしているんです。
これでも短くしている方なんですよ。』
「分かったわ作者ちゃん。
そんな事を言うのなら私にだって考えがあるのよ。」
『かっ....考えですか?』
「えぇ、もし作者ちゃんが100話以内にエクストリームメモリを出せない時は私が罰を与えます。」
『罰ですか?』
「えぇ、安心して良いわよ。
作者ちゃんに酷いことをするつもりはないから
......ただ」
「間に合わなかったら作者ちゃんのお尻を掘....」
『絶対に間に合わせます。
他の全てを犠牲にしてもエクストリームメモリだけは登場させます。
話の前後の繋がりなんて糞食らえです。』
「......何か釈然としないけど良いわやる気になったのならそれで良いわ。
そう言うことでエクストリームメモリの登場を楽しみにしていた読者の皆様には申し訳ないけどもう少し付き合って頂戴。」
「それじゃあ今度は活動報告の解説編でありましょうねぇ....バイバーイ。」
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井坂編
第七十六話 消えるM/見習い
そこには照井も呼ばれていた。
亜樹子曰く無料で協力してくれるからそのお礼も兼ねているそうだ。
「今度から金を取ろうか所長。」
照井が冗談めいて言うと亜樹子は分かりやすく狼狽した。
冗談を言ったことをフィリップに言うと彼もこの事務所に馴染んだのだろうと推察した。
そして、シュラウドから送られてきた設計図を元に新しいガジェットを食事の場でも作っていた。
そんな中、レストランでのショーが始まる。
"フランク白金"翔太郎が小さい頃から活躍しているマジシャンだ。
そしてフランク白金がもう一人のマジシャンを紹介した。
娘の"リリー白金"マジシャンとして未熟だと照井は評価したが最後に見せた"消えるマジック"はとても上手かった。
だからだろう....この時は思いもしなかった。
このリリー白金が、次の依頼人になるなんて....
「
フィリップがギジメモリを起動しガジェットに装填するとカタツムリの形に変形し動き出した。
「可愛い名前なんて言うの?」
「"デンデンセンサー"あらゆる光の波形を見ることが出来るから見張りや探索に向いている。
そう、丁度こんな風に動くと誰かが入ってきたとわか...」
そこまでフィリップが説明し疑問が出てきた。
デンデンセンサーが見ている場所には誰もいなかったからだ。
不思議に思った翔太郎がその場所に向かおうとすると、何かに躓き仰向けに倒れる。
すると、突然リリー白金が翔太郎を馬乗りにして現れた。
「うふふ、ごめんなさい。」
「あっ!昨日の美人マジシャン。」
この状況に喜んでいるのか笑っていると、亜樹子のスリッパが飛んできた。
「ニタニタしとらんでさっさと起きんかい!」
そうして、俺はそのマジックのタネを彼女に聞くと、上着を脱ぎ腕についているコネクターを見せられた。
「「ドーパントぉ!?」」
亜樹子と翔太郎は驚きながら彼女を見るのだった。
Another side
井坂は獅子神とサラに呼び出され廃工場へと足を運んだ。
二人と顔を会わせると挨拶を交わす。
「今回呼ばれたのはあの時の試験と捉えても宜しいので?」
「まぁ、そうだな。ある意味で試験だと思うぜ。」
「それはどういう意味ですか?」
井坂の問いにサラが答える。
「最近、冴子様と交流が多いようね。
もしかして、付き合ってたりするの?」
「いえ、彼女も私の診察している患者の一人ですよ。」
冴子は最近、井坂の病院に何度も足を運んでいた。
暇を見つけたら必ずといっても良いほど通っていた。
「まさか、そんな事まで貴方達の組織は介入するのですか?」
「まぁ、普通の恋愛ならあり得ねぇだろうな。
だが、ちょっかいを出してきたのなら話は別だ。」
「貴方、若菜さんのドライバーに"細工"をしたわね?
毒素をカットするフィルターを経由するコードが意図的に切断されていた。」
そう、井坂はパペティアードーパントが現れた際、冴子に頼み若菜と会うとドライバーを預かり、フィルター機能をカットした。
結果として毒素により肉体が強化され暴走状態になったのを琉兵衛が見抜いたのだ。
現在は無名が用意した予備のドライバーを使用しているため若菜の暴走状態は改善されている。
「あぁ、あれは彼女のためですよ。
ドーパントとして強くなるお手伝いをしたに過ぎません。」
「それが不味かったんだよ井坂。
この件で琉兵衛様は酷くお怒りになっている。」
「なら、私を始末するのですか?」
「いいえ、けど貴方にはテストを受けて貰うことにしたの」
「貴方の理論がそんなに素晴らしいのなら、私達の出す試練なんて軽く突破できるでしょう?
今回のテストに制約を付けさせて貰う。
破れば貴方の命でその清算をさせて貰うわ。」
「どうする?受けるか?」
「あまりにも挑発的ですねぇ....まるで私にこの契約を結ばせたいようだ。
ミュージアムには契約で相手を縛る能力を持つドーパントがいると聞いたことがあります。
ここに来ているのではありませんか?」
井坂の問いにサラは笑いながら答える。
「流石ね、その通りよ。
けど、貴方に拒否するチャンスがあると本気で思ってる?」
「それはどういうことで?」
「断るのなら獅子神と私が貴方を本気で潰すわ。
ウェザーメモリが強力なのも貴方自身がエンゼルビゼラを使って強化してるのは知ってるけど、私達三人に勝てると本気で思ってる?」
「三人ですか?」
そう言うと工場の屋根から声が聞こえる。
スミロドンドーパント...ミックが井坂を睨み付けていた。
「ミュージアムの処刑人の一人だ。
ゴールドクラス三人と戦って生き残れる自信があるなら殺ろうぜ?なぁ、井坂先生よぉ!」
(困りましたね。
よりにもよって幹部三人を相手どるのは流石に無理でしょう。)
井坂は相手との戦力差を計り終えると両手をあげて降参のポーズをした。
「参りました。貴方達の要求を飲みましょう。
少しでも生き残れる方に私も賭けたいですからね。」
「流石はお医者様、賢いのは良いことよ。
では"契約成立"ね。」
その言葉と同時に井坂の胸に衝撃が走る。
(グッ....これが契約する感覚ですか。
面白いですねぇ...少しワクワクしてきました。)
「では、追加ルールを含めて教えて貰えますか?」
そう言うとサラが説明を始めた。
1.敵となるのは同じランクのシルバーメモリ。
2.相手を倒すか制限時間まで生き残れば井坂の勝ち。
3.井坂の逃亡や敗北は敗けとし命で償う。
「これに追加ルールを加える形ね。
まず、私から貴方にはウェザーメモリの能力を全て封じて貰うわ。
気象を使った攻撃と防御....全てをね。」
その言葉に井坂は戸惑いを見せる。
気象を使った攻撃以外となるとウェザーには徒手空拳しか攻撃手段がないからだ。
これにより戦闘での勝ちはほぼ不可能になった。
「仕方がありません。
飲みましょう....それで獅子神さん。
貴方のルールは?」
「安心しろ....俺はサラと違ってお前個人の能力を縛ったりはしねぇ。
ただ、"相手の人数"を変えさせて貰う。」
「そして、紹介するぜ!コイツらがお前の相手だ!」
「Devil」
「Sheep」
「Sphinx」
そうして、井坂の前に現れたのは三幹部が誇る部下であるシルバーメモリ所持者達だった。
そうして、三人が舞台に集まると獅子神が声をかけた。
「さぁ、お前ら.....全力で戦い殺し合え!」
それを見た井坂は絶望するどころか笑いながら告げる。
「何て素晴らしい光景だ。
私以外のシルバーメモリがこんなに沢山....あぁ、欲しい、全て使ってみたい....
私に貴方達をもっと見せてください。」
そう言うと井坂もメモリを起動する。
「Weather」
そしてメモリを耳に挿して、ウェザードーパントへと変身するのだった。
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第七十七話 消えるM/メモリの恐怖
リリー白金から話を聞くと脱出マジックを成功させるために"インビジブルメモリ"を使っていたのだが制御が効かなくなり更にはメモリまで排出されなくなってしまったらしい。
その話を聞いたフィリップは疑問に思う。
「おかしいね。
本来メモリは"挿した瞬間"に超人形態に変身する筈だ。
姿を消す能力が発揮するのはその後だよ。」
「ん?じゃあ
「このメモリは"異常"だ。
バグが発生しているのかも....」
その言葉に動揺したのかリリーは消えたり出たりしている。
「そんなぁ....お願いします私を元に戻してください。」
リリーの頼みに翔太郎は快諾するとメモリの居所を突き止めようとリリーに質問する。
「そのメモリは黒服の組織の売人から買ったのか?」
「いえ、貰ったんです。
んー、物腰の柔らかい感じの人で悩んでる私の元に現れてこのメモリをくれたんです。」
「売人じゃない"謎の紳士"。」
フィリップはそれに該当する人物を考えて頭を悩ませている。
「その男を探し出すしかないな。」
そう言うと翔太郎達はメモリを渡した謎の人物を探し始めるのだった。
Another side
井坂の戦いはかなりの苦戦を強いられていた。
追加ルールもあるが何より三体のドーパントが強かったのだ。
デビルメモリのドーパントは身体に雷を纏うとその速度で攻撃を行う。
それには負荷がかかるようだがスフィンクスドーパントの光による回復でそれを無効化している。
そして、シープドーパントはデビルドーパントの攻撃の間をぬって井坂に着実にダメージを与えていった。
サラが腕時計を見ている辺り、彼女が制限時間を計っているのだろう。
(時間を教えてくれなかったのも私の動揺を誘う作戦ですか。)
井坂は少ない手段の中で勝ち筋を探っていた。
ウェザーメモリの力は封じられたが私には"他のメモリ"の力がある。
井坂の身体には無数のコネクターが付いておりそこに沢山のメモリを挿していた。
"ガイアメモリのキメラ"....井坂を現すのに正確な言葉はこれ以上無いだろう。
故に副次的に手に入れた力もある。
1つ目が"異常なまでの耐久性"だ。
原作でも通常のマキシマムドライブを受け付けなかった井坂だがエンゼルビゼラの力により耐久力が更に上がっていた。
そのお陰もあり三体からの攻撃にも何とか耐えられていた。
もう1つが"身体能力の向上"だ。
ウェザーメモリ自体、パワータイプのメモリではなく能力特化のメモリであるが度重なるメモリの実験により、肉体のパワーが強化されていた。
その代償として"カロリー消費"が増えてしまったのは難点だが当たればそれなりのダメージは与えられるようになった。
(兎に角、今は無茶をしてでもダメージを与えた方が良さそうですね。)
そう言うと井坂は高速で攻撃を仕掛けてくるデビルドーパント....リーゼの攻撃をわざと受けた。
拳が深々と刺さるがそれを両手で止める。
「ぐっ....捕まえましたよ。」
そのまま蹴りを加えようとしたらシープメモリの水島に止められてしまう。
蹴った感触からもダメージが無いことが分かる。
そして、リーゼを捕まえていた腕を逆に捕まれるとそのまま関節技を極めて倒そうとしてきた。
嫌な予感がした井坂は無理矢理腕を引き抜く。
「プロレス.....いや、柔術ですか。
貴方は武道家か何かで?」
井坂の問いに答えること無く、戦闘はまた振り出しに戻る。
("厄介すぎる"こちらが捨て身で攻撃してもかわされ、あちらはダメージを受けても回復する手段がある。
オマケにその回復役が全くこちらに来ようとしない。)
ガイアメモリはその特性上、毒素により人間の本来の性質が大きく出る。
暴力的ではない筈の人間も内在していた感情がメモリにより漏れ出すのだ。
しかし、美頭と水島からはその気配が全くしなかった。
恐らくドライバーの影響もあるのだろう。
毒素肯定派の井坂にとっては不愉快が結論だが今回はそれが井坂自身を苦しめていた。
(やれやれ...絶体絶命とはこの事ですね。
やはり、メモリの能力が少ないのが原因でしょう。
もっと、強い力が欲しいですねぇ.....
仕方ありませんが奥の手を使いましょうか。)
そう言うと井坂はもしもの時に仕込んでいた手段を使うのだった。
サラと獅子神は井坂の戦いを傍観しながら琉兵衛に報告するための評価をしていた。
「耐久力に関しては獅子神クラスと言えるわね。
シルバークラス三体からの攻撃を食らっても平気そうだし....」
「ふん!だが、能力頼りな面が強いな。
武術の心得はあるようだが達人クラスには程遠い。
この状況を打開する手段はないだろう。」
「それには同意ね。
もし、彼が時間切れによる勝利を狙っているのなら諦めた方が良いわ。」
琉兵衛から追加で言われた命令には私達のルール追加と制限時間の変更が言い渡されていた。
「まさか、"サラの考える制限時間"まで戦うとは.....
これも全て琉兵衛様を怒らせた罰だな良い気味だ。」
獅子神はそう言って苦戦する井坂を笑っていた。
そんな中、井坂の動きが変わる。
リーゼの拳に合わせて身体を前に押し出したのだ。
結果としてリーゼの鋭い爪が井坂の肩を貫通させたが、本人は痛むどころか笑っていた。
「あはははは!そんなものですか?」
水島も残った腕を掴み関節技を極めるが折れるのすら気にしない素振りで水島を掴むと美頭へと突進していく。
先程とは打って変わった動きに美頭、リーゼ、水島は井坂に押し倒されてしまう。
「さぁ、彼等を捕まえましたよ。
これは試験の合格と捉えても宜しいですか?」
そう言う井坂にサラも認めざるを得なくなった。
戦いが終わり、メモリを解除した両名に美頭が回復を行う。
両手を握り支障が無いことが分かると井坂は立ち上がった。
「凄いメモリですねぇスフィンクスメモリとは....
とても興味深いですよ。」
そう言いながら立ち上がるとその場を立ち去ろうとする井坂にサラが尋ねた。
「ねぇ、貴方一体何をしたの?
決着が付く前のあの一瞬、貴方の身体に異変があったように見えたけど....」
井坂は答え合わせをするように口を開けた。
そこには穴の空いた歯が数本付いていた。
「虫歯ではありませんよ?
ここには緊急用にエンゼルビゼラを入れておいたんです。
一つ噛めばかなり強化されますからね。」
「成る程、それがあの強さと無茶が出来た理由なのね。
理解したわありがとう。
近い内に琉兵衛様からの接触があるかもしれないからその時はよろしくね。
では、私達はこれで失礼するわ。
行きましょう獅子神。」
そう言って二人が出ていくのを確認すると井坂は口から大量の吐血をした。
「グボォ!.....ハァハァ。
やはり無茶が過ぎましたねぇ。」
歯に仕込んでいたエンゼルビゼラは合計で四つ。
あの一戦で一気にそれを服用したのだ。
急激に上昇した毒素により多少のダメージを井坂は負っていた。
井坂は時計を確認する。
(そろそろ、"彼女の経過観察"をしなければ....)
井坂は口をハンカチで拭くと立ち上がり目当ての場所へ向かうのだった。
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第七十八話 見つかるI/巡り合う敵
年齢は40代で黒いステッキの様な細い傘を持った黒いスーツとハットを被った紳士。
リリー白金の証言からその人物を探す翔太郎と亜樹子の前に照井 竜が現れた。
「所長、左ここで何を!?」
言い終わる前に透明になったリリーに倒される。
そして、馬乗りにされた照井が言った。
「重い....俺から離れろ女。」
「失礼ね!ちゃんと体は絞ってます。」
「口は軽いのか.....最悪だな。」
お互いにムッとしながら立ち上がるとリリーと照井は亜樹子に尋ねた。
「「コイツは一体誰?(だ?)」」
「リリーさんは依頼人で....透明人間で...ドーパント?」
その亜樹子の答えに照井は怒りを現す。
「正気か左?
あまりにも限度がある!」
そう言ってリリーを逮捕しようとするのを翔太郎が止めると事情を説明した。
そして、照井を連れてその紳士が良くピアノを弾きに訪れるレストランに足を運ぶとその紳士は座っていた。
照井は彼に近付くと警察手帳を見せる。
「警察だ...ガイアメモリ流通の件で聞きたいことがある。
立て!」
照井はその紳士を無理矢理立たせる。
「落ち着け照井。」
その翔太郎の言葉に紳士が反応する。
「照井....そうか
「何故、父の名前を知っている?」
その問いに紳士はメモリを出して答えた。
「会いましたから....."去年の8月"に」
「Weather」
「Wのメモリ....まさか貴様が!」
その紳士はメモリを耳に挿すとウェザードーパントへと変身し、その余波で照井は吹き飛ぶ。
そして、冷気を放出した。
『「変身」』
冷気の放出から守るように翔太郎がWサイクロンジョーカーに変身し亜樹子とリリーを庇っている隙に、ウェザードーパントは外に逃亡した。
「待てっ!」
翔太郎が彼を追いかけ外に出て周りを探すと、突如背後に現れて掌底をWの顔に打った。
それから、流れるような連撃を食らったWは形勢を変えるため両方のメモリを変化させる。
「HEAT,METAL」
メタルシャフトを展開しウェザーに攻撃を仕掛けるが容易く弾かれてしまう。
「コイツ、好き勝手やりやがって」
翔太郎はメタルメモリをメタルシャフトに装填する。
「METAL MAXIMUMDRIVE」
「
メタルシャフトから発せられる強烈な炎がウェザーを襲うがウェザーの放った冷気により炎が焼失しその冷気によりWの身体が凍結してしまった。
「マキシマムが効かねぇなんて....」
『それにこの冷気はアイスエイジ以上だ。
強敵だよ翔太郎!』
フィリップの言葉に翔太郎が同意するとアクセルに変身した照井が合流した。
「JET」
照井の攻撃がウェザーに向かうが簡単に弾かれてしまう。
『照井 竜落ち着け、奴にはマキシマムが効かない!』
「うるさい!そんな事、関係あるかぁ!」
「ENGINE MAXIMUMDRIVE」
照井の エンジンブレードのマキシマムは井坂により片手で止められてしまった。
「なっ!」
「弱いですねぇ....そんなキレイなメモリじゃ私は倒せない。」
井坂は雷撃を照井に当てて変身解除に追い込んだ。
「出てきてください。
貴女が近くにいるのは分かってますよ。」
そう言うと井坂のとなりにリリーが現れる。
「あの、私のメモリがおかしくなっちゃって、思い通りに透明になれないんです。」
「リリーさん何やってる!離れろ!」
翔太郎の声にリリーは耳を貸さない。
「だって!....これが無いとおじいちゃんの最後の舞台が」
「では、少し身体を見せて貰いましょう。」
そう言うと井坂は霧を出現させてリリーと共に姿を消した。
事務所に帰ってきた亜樹子、翔太郎、照井は改めてフィリップからウェザードーパントの分析を聞いていた。
「想定を遥かに越える怪物だ。ウェザードーパント...いや井坂深紅郎は」
「あれが1000人を殺した殺人鬼の姿ってことか...」
「あぁ、そして照井竜の家族の仇でもある。」
フィリップを睨み付けるように照井は言った。
「御託はいい....奴を倒せる手段はあるのかフィリップ?」
「現状、取れる手段はツインマキシマムしか思い付かない。」
「ツインマキシマム?」
「マキシマムスロットを二つ使用してガイアメモリを同時に必殺状態にする奥の手のような技だ。
だが、反動が大きくて使えたとしても死ぬかもしれない。」
「十分だ。ありがとうフィリップ。」
そう言うと照井はラボを出ようとする。
それを翔太郎が止めた。
「おい待てよ照井!どうするつもりだ?」
「ツインマキシマムとやらで井坂を倒せるなら問題ない。後は井坂を見つけ出すだけだ。」
「フィリップの話聞いてなかったのか!
死ぬかもしれないんだぞ!」
「そうだ照井竜、それにこの前約束したじゃないか?
ウェザーのメモリの使い手とは共闘して倒すと....」
「だが、俺はこうも言ったぞ。
"トドメは俺が刺す"とツインマキシマムがトドメなら俺は使う....それだけだ。」
「漸く見つけたんだ家族の仇を...
奴をこの手で倒せるならば俺の命がどうなろうと構わん!」
「ふざけるんじゃねぇ!」
翔太郎はそう言って照井の胸ぐらを掴む。
「そう思ってるのはお前だけだ!
少しは周りを見ろ!心配してくれる奴等がいるだろうがっ!」
照井は翔太郎の腕を払う。
「黙れ...君らと和んでいる暇など無い!」
そう言うと照井は部屋を出ていった。
「何だか....昔の竜くんに戻ったみたい。」
悲しそうに亜樹子が呟く。
「漸く、家族の仇を見つけられたんだ。
無理もねぇよ。」
そう言って翔太郎も部屋を出ようとする。
それを今度は相棒のフィリップが止める。
「待ちたまえ翔太郎。
君はどうするつもりだ?」
「リリーが危ないことに変わりはねぇ。彼女を助ける。」
「念のために注意しておくが照井 竜があんな風になったからこそ、君には慎重さが必要だ。」
「うるせぇなぁお前は俺のお袋かよ!
.....分かってるさ。無茶はしねぇよ、相棒。」
そうしてフィリップと翔太郎は拳を付き合わせるとお互いにやるべきことを始めるのだった。
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第七十九話 見つかるI/消え行く命
井坂内科医院で診察台に横たわった、透明化しているリリーを井坂は診察していた。
ドーパント化した身体を入念に優しく触れていく。
すると、リリーの体内にあるメモリが光り出す。
その姿を冴子は苛立ちの目で見ていた。
そして、後ろから見られている井坂が言った。
「これは診察ですよ冴子くん。
彼女のメモリを正常に動作させるためのね。」
「インビジブルなんて弱いメモリを使っているこの女を私よりも優先させるのね。」
「.....今はね。」
その井坂の言い方に腹が立った冴子は病院のペンケースを持つとリリーに投げつけた。
「痛っ!」
そして冴子は診察室のカーテンの中に行ってしまった。
それを微笑みながら見た井坂は処置を止めた。
「さぁ、終わりましたよ。
これで自由に変身できる筈です。」
リリーが指を鳴らすと身体が現れてまた鳴らすと消えることが出来るようになった。
「凄い!ありがとうございます!」
「メモリの不調はこれで問題ありません。
体内からメモリは取り出せないままですが....まぁそれは良いでしょう。」
そして診察を終えたタイミングで照井が井坂の前に現れた。
「見つけたぞ、井坂 深紅郎。」
「私を捕まえに来たの?」
リリーはそう照井に尋ねるが、照井はリリーを見ずに答える。
「どけっ....お前に用はない。」
そう言われるとリリーは指を鳴らし姿を消すと診察室から逃げていった。
「やれやれ...この病院ともお別れですか。
多少なりとも思い出があったのですがねぇ。
それにしても良く私の病院が分かりましたね。
蛙の子は蛙...と言った所でしょうか。」
「何故、お前は俺の名前を知っていた?」
「あぁ、貴方の家族を氷漬けにする時に照井雄治がずっと呼んでいたんですよ"竜...竜"とね。」
「照井雄治は私のメモリ犯罪を追っている刑事でした。
優秀だった彼は私の事も直ぐに調べあげましたよ。」
「だから、邪魔になって殺したと?」
「そう言いたいところですが実を言うと誰でも良かったんです。
ガイアメモリの力を試せるのなら誰でもね。
彼の住所を知っていたので押し入り家族も"ついで"に殺した。
それだけですよ。」
照井の頭の中に凍った部屋と砕けた家族が過る。
もうダメだ....限界だ。
照井はドライバーを付けるとメモリを井坂にかざす。
「覚悟しろ....俺はもう"自分を抑えられない"。」
照井はメモリをドライバーに装填しアクセルへと変身する。
井坂も同じ様にメモリを取り出す。
「自分を抑えられない?....奇遇ですね私もですよ。」
井坂はメモリを耳に挿すとウェザードーパントに変身した。
病院から出てくるリリーをデンデンセンサーを使い見つけた翔太郎はリリーに話を聞いた。
「リリーさん待ってくれ。何であんたはそんなにそのメモリにこだわっているんだ?」
「話したって無駄よ。
アンタもあの刑事とグルなんでしょ?
だから、病院に来たんじゃないの?」
「病院に?....まさか照井は井坂と会ったのか?」
「えぇ、二人とも顔を会わせて動かなくなってたけど..」
「クソッ!亜樹子、リリーさんを頼む。
俺達は照井を助けに行く。」
そう言うとドライバーを持って照井の元へ向かうのだった。
井坂と照井の戦いは圧倒的に照井が不利になっていた。
初手からマキシマムを使い攻撃をするのだが軽く耐えられてしまい、逆に竜巻による反撃を受けてダメージを負っていた。
「おやおや、だらしがないですねぇ。
そんな強さで良く私に復讐しよう等と思ったものだ。」
そう言う井坂に二つの攻撃が襲った。
「
その攻撃を井坂は両腕でガードするか拳の爆発により吹き飛ばされてしまった。
『やはり、単体のマキシマムでは効果はないか。』
その攻撃を行ったWヒートジョーカーの片割れフィリップがそう分析する。
「左っ!余計な真似をするなっ!」
Wの救援に照井は邪魔だと言う風に返す。
「うるせぇ!ボロボロな癖に意気がってんじゃねぇぞ照井っ!」
「何だと左!」
照井が立ち上がりWに詰め寄ろうとする。
「奇襲の次は喧嘩ですか....忙しい方達だ。」
そう言うと井坂は手を翳して強烈な熱波を二人に浴びせる。
照井はエンジンブレードのスチームを展開しWはヒート側を向けて耐えようとするが余りの熱量に身体が発火した。
『ぐっ!間違いない、ウェザーメモリが強化されている。ヒートでも抑えきれない』
「私も強くなっているのですよ。
では次はこちらはどうです?」
そう言うと井坂は赤色の雷撃を二人に放つ。
照井はエレクトリックを発動し、Wは防御に適したヒートメタルに変わってメタルシャフトで攻撃を防ごうとするが、二人は防御を突破されダメージを与えられてしまう。
暫くして雷撃が収まると煙を出しながら二人の仮面ライダーは倒れるのだった。
「"人とメモリは惹かれ合う"。1つの能力では満足出来ない私は多彩な能力を持つウェザーと出会いました。
しかし...."まだ足りない"!
研究の末、私はメモリの力を吸収して進化していくことが出来るようになりました。」
「そして、エンゼルビゼラと出会い吸収した力を更に強く強化出来るようになったのです。
もうすぐ透明にもなれるようになります。」
『まさか、リリー白金は!』
「そう...."実験動物"です。
彼女の身体にインビジブルメモリが残るように私が細工をしたのです。
体内にあるメモリが彼女の生命力を吸い尽くし彼女が死ぬと、私が使えるインビジブルメモリが彼女から排出される。
私はただ、それが欲しいだけなんですよ。」
「ふざけんなっ!そんな事...絶対させねぇ!」
翔太郎の言葉を井坂は否定する。
「無理ですよ。メモリブレイクしても彼女は死にますから...」
照井は無理に立ち上がるとエンジンブレードを必殺待機状態にする。
「ENGINE MAXIMUMDRIVE」
そして、アクセルドライバーのクラッチを握りこちらもマキシマムの体勢を取る。
「ACCEL MAXIMUMDRIVE」
『無茶だ、単独でもツインマキシマムは危険すぎる!』
「うぁぁぁぁぁぁ!」
照井はフィリップの忠告に構うこと無くバイクに変形すると二つのメモリの力を合わせて井坂に突進する。
しかし、巨大なマキシマムの力を制御出来ない照井はコントロールを失い、井坂を通りすぎて爆発を起こして変身が解除される。
「ふははは!無様ですね!
私に攻撃を当てることすら出来ないとは....
やはりそんな純化されたメモリとドライバーを使っているから強くなれないのですよ。」
「家族と同じ死に方をプレゼントしましょう。」
井坂はそう言うと手に冷気を溜める。
そんな姿を見ることしか出来ない照井....
「奴が....奴が目の前にいるのにぃ!
うぁぁぁぁあ!」
一筋の涙が照井の目から落ちた。
それを見た翔太郎は決心する。
彼は立ち上がるとトリガーメモリを射してヒートトリガーへと変身する。
そして、トリガーマグナムにトリガーメモリを入れる。
「TRIGGER MAXIMUMDRIVE」
「無駄ですよ、私にマキシマムは効かない」
井坂はそう言うが翔太郎にもそれは分かっていた。
そして、ドライバーからヒートメモリを抜くと腰のマキシマムスロットに装填しようとする。
『待て!何をする気だ翔太郎!
ツインマキシマムは不可能だ!照井を見ただろう!』
「もう....手はこれしかねぇんだよ!」
『止めろ....止めてくれ翔太郎ー!』
止めるフィリップの手を払いのけて翔太郎はスロットにヒートメモリを差し込んだ。
「HEAT MAXIMUMDRIVE」
「うぉぉぉぉぉぉ!」
翔太郎の身体が発火しメモリの力が強くなっていく。
それに伴いドライバーからエラー音のように声が響き渡った。
「MAXIMUMDRIVE...MAXIMUMDRIVE...MAXIMUMDRIVE...MAXIMUMDRIVE...」
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第八十話 消え行くI/お茶のお誘い
翔太郎が捨て身の覚悟で行ったツインマキシマムは、照井の時と違い暴走せずギリギリの状態を保っていた。
そして、スロットを押し込むとトリガーマグナムを井坂に向けて放った。
巨大な炎の火球が井坂に直撃する。
それを井坂は真正面から受け止めると爆発した。
そして、Wはドライバーに火花が散ると強制的に変身解除される。
翔太郎の身体が発火によるダメージでボロボロだった。
「翔太郎くん!」
亜樹子が倒れる翔太郎を呼ぶがそれよりも恐ろしい結果が待っていた。
「ふぅ....やれやれまさか奥の手の薬をもう一度使わされるとは連続使用は控えたい薬なんですがねぇ。」
そう言いながら井坂はゆっくりと立ち上がった。
「倒せてないなんて....私聞いてない。」
そしてその光景を見ていた冴子も驚く。
「あの仮面ライダー達を全く寄せ付けないだなんて....
流石は井坂先生だわ。」
そして、井坂は仮面ライダーに近付こうとするが、地面から突如現れた黒いエネルギーに気付き警戒する。
そうしているとそこからテラードーパント...園咲 琉兵衛が現れるのだった。
「何のご用でしょう?」
井坂が琉兵衛に尋ねる。
「見て分からんかね?"お茶の誘い"だよ井坂くん。」
「ふむ....それは光栄です御供しましょう。」
そう言うと井坂と琉兵衛は黒いエネルギーに呑み込まれて姿を消した。
そして冴子もその場を後にするのだった。
井坂がいなくなると亜樹子はボロボロの翔太郎に近付くと身体を支えた。
「何でこんな無茶したのよ!」
「照井の泣き顔を見てたら...身体が勝手に動いちまってさ....こいつも今じゃ立派な俺達の仲間だからよ。」
そう言う翔太郎を照井はきつく突き放す。
「自業自得だ....これは俺の復讐だ。分かっているだろう。」
「ははっ...後は頼んだぜ照井。
リリーの事も助けてやんなきゃなぁ...俺達は...この街の..."仮面ライダー"なんだからさぁ...」
そう言って帽子を被ると翔太郎は意識を失った。
「ドーパント女の心配まで...."バカが"っ!」
その言葉にドライバーで繋がって聞いていたフィリップは激昂する。
「何だって.....照井竜ぅ!!」
「
時たま現れるメモリと人間との相性度が異常なまでに高い体質の人間。」
井坂は園咲邸で琉兵衛、冴子、若菜、そして後ろに控えている獅子神とサラに向けて説明する。
「あのリリー白金とインビジブルが正にそれです。」
そう言い終わるとステーキの最後の皿を食べ終えていた。
「いや、失礼。
お茶だけでなくご飯までご馳走になるとは」
そう言う井坂の周りには食べ終えた大量の皿が積み上がっていた。
「凄まじいカロリー消費だね。
ガイアメモリに貪欲な君を現しているようだ。」
「薄気味の悪い方ですこと」
「若菜....」
若菜の発言を冴子が諌める。
「この空間で飯が喉を通るとは、君の豪胆さには恐れ入ったよ井坂くん。
それに獅子神とサラの試験もクリアしたそうじゃないかおめでとう。」
「ありがとうございます。
中々に面白いゲームでしたよ。」
その言葉に獅子神とサラも苛立った顔をする。
「これで私は組織にとって有益だと判断されたと思っても?」
「今のところはね....だが貢献度で言えば無名の足元にも及ばない。」
「無名....確かガイアメモリ研究開発を請け負っている幹部の方ですよね?
そう言えば今はどちらに...」
「彼には重要な案件を任せているのだよ。
だからこそ君の試験は他の幹部に任せたのだ。」
「成る程、では彼らは"その程度の貢献"しかできてない幹部と言うことですね?」
明らかな挑発に獅子神やサラも反論する。
「あ?俺達の部下と引き分けた程度でもう勝った気になってるのか?
ここで、死ぬか?テメェ。」
「止めなさい獅子神、冴子様の客人よ彼は.....
でも客として扱うかは命令されていない。
良い?井坂さん。
客人としてここに居たいのなら無駄な挑発は止めることね。
それをしなければ会話が出来ない程、知能が低いわけでもないでしょう?
仮にもお医者様なんですから.....ね?」
「成る程、肝に銘じておきましょう。」
井坂はそう言うと琉兵衛に尋ねる。
「そろそろ、本題を伺っても?」
井坂の問いに琉兵衛が答える。
「冴子と何を企んでいる?
私は我が家族の平穏を乱す者がこの地上にいることを許さない。
故に君の目的を知りたいのだよ、井坂くん。」
その言葉に冴子に緊張が走る。
もしもの時を考えてメモリを忍ばせていると、井坂は立ち上がりシャツのボタンを外して琉兵衛に身体を見せつけた。
そこには大量のコネクターが身体に刻まれていた。
その姿を見て若菜は驚き冴子は笑う。
「私ほど熱心なミュージアムの支持者はいませんよ園咲さん。
ガイアメモリの真実を極めたいと言う気持ちは貴方も私も"冴子さん"も同じです。
毒素の研究やエンゼルビゼラの件もそうです。
全ては貴方のため.....
だからこそ、私は貴方に協力したい。
宜しければ是非、私を実験台に.....」
「あっはっはっは大した男だな君は.....
もう病院には戻れないだろう?
暫くここでゆっくりしたまえ。」
琉兵衛はそう言うと若菜とミック、そして獅子神とサラを連れて部屋を後にするのだった。
そして、この状況を切り抜けた井坂に冴子は益々心酔しているのだった。
Another side
琉兵衛は自分の書斎に獅子神を呼びつけるととある命令を下した。
「私のあの研究に井坂を参加させる....ですか?」
「うむ、本人も実験台になりたいようだったし、構わないと思ってね。」
「君の研究である"ガイアメモリ強化アダプター"の作成状況はどうなのだ?」
「現在の完成度は89%と言った具合です。
メイカーが完成したら量産することを考えると少し進捗は遅れています。
しかし、彼に渡して平気でしょうか?
奴の提唱する毒素の研究に使われるのがオチかと...」
「構わんよ。
メインの研究は君に任せる。毒素の研究は勝手にやってもらおう。
それよりも問題はエンゼルビゼラだが....やはりまだ流通しているのか?」
「はい。ミュージアムでの生産が止まっているのに巷に流れている事から考えると、何者かが製造方法を知り、何処かで生産していると考えるのが自然ですね。」
「そちらの調査も頼めるかね獅子神君。」
「承知いたしました琉兵衛様。」
そう言うと獅子神は部屋を後にした。
そして、琉兵衛は井坂について考える。
(ウェザーメモリについて調べたが何処の売人からも井坂に売った形跡が見つからなかった)
シルバーランクのメモリはミュージアムでも一部の売人か関係者でなければ所持することを許されない。
そんな物を我がミュージアムを除いて手に入れられる可能性を考えると1つしかなかった。
(文音....やはり私の邪魔をするのか。)
来人を奪われてから私に復讐する為に行動している妻。
だが、私はそれでも妻を愛していた。
だからこそ、井坂にメモリを渡した彼女の変わらないところに苦笑してしまう。
(人を見る目は無かったが、まさかあんな男にメモリを渡すとはね)
井坂君の狙いは私の命かね?
まぁ、構うことはない。
計画は順調に進んでいる。来人がいなくてもメモリを生産出来る所まで来たのだ。
あの程度のリスクなら喜んで受けようじゃないか。
そうして、琉兵衛は一人デスクで座っているのだった。
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第八十一話 放たれるT/仮面ライダーとは
琉兵衛が井坂とお茶をしている間、ラボに帰ってきた満身創痍の翔太郎を亜樹子が世話をする。
しかし、そこでフィリップが照井の胸ぐらを掴み声を荒げたのだ。
「ちょっと!喧嘩しないで、今は翔太郎くんの治療を...」
「ガイアメモリによる傷を現代医術で治す手段はない!
....本人の回復力に頼るしかないんだ。」
「そうなの、でもだからって喧嘩するのは駄目だよ。」
「先程、検索を終えた。リリー白金を救うにはアクセルの力がいる。
しかし、彼はそれを断った!」
「そんな事よりも井坂の居場所を検索しろ。」
「誰のせいでこうなったと思っている!
今、風都を守れる仮面ライダーは照井....君一人しかいないんだぞ!」
照井はフィリップに掴まれた手を払いのける。
「俺の復讐の方が優先だ....
漸く見つけたんだ。今度こそ奴を"殺す"!」
「照井....風都にとって仮面ライダーは町の平和を守る存在だ。
翔太郎が言っていたろう"罪は憎んでも人は憎まない"。
照井竜、君にとって仮面ライダーとは何なんだ?」
「俺に...質問をするなぁ!」
照井はフィリップの顔を殴るとラボを後にしようとする。
「どっ....何処に行く気だ?」
「もう、貴様には頼らん。
シュラウドから奴に勝てる手段を引き出す。」
「待ちたまえ!照井竜!」
フィリップの制止を聞かず照井は出ていくのであった。
シュラウドを探す照井の前に本人が陽炎に紛れて現れた。
「何の用?」
「Wのメモリの使い手を見つけた。
井坂と言う男だ。俺はそいつを殺す...力を貸せシュラウド!」
それにシュラウドは首を横に振る。
「何故だ!」
「貴方の力ではその男には勝てない.....
今の状態ではどう足掻いたって無駄よ。諦めなさい。」
「ツインマキシマムとやらなら勝てるとフィリップは言っていた。
俺もそれをしようとしたら力をコントロール出来なかった。ドライバーを調整して使えるように....」
「無理よ...そもそもWドライバーとアクセルドライバーではメモリ使用の"コンセプト"が違う。」
「Wは二本のメモリを使い"相乗効果"で能力を100%発揮するように作られている。
だから単体でもツインマキシマムに対応できた。
でも、貴方のアクセルドライバーは能力を100%発揮させるためにメモリを限定して"120%の出力"を出すようにしてあるの....そんな貴方がツインマキシマムを行えば余剰エネルギーが逃げ場所を失って体内に放出される。
ただ、爆発するだけよ。
だからこそ、貴方のベルトにはツインマキシマムが発動されるとリミッターが作動して"メモリのエネルギーを逃がす"役割があるの」
「だが、それでは井坂に勝てない.....」
「諦めなさい。
今の貴方では無理よ。憎しみがメモリとドライバーに行き渡るまで待って....」
「もういい!俺は一人でも井坂と戦う!」
照井はそう言うとシュラウドの元を離れた。
(憎しみの意思がメモリを強くさせる....
アクセルメモリならそれを助長させてくれると考えたけど、予想よりも憎しみの力が強かったみたいね。)
(それにしても、井坂がここまで強くなっているだなんて...仮面ライダー二人と対峙してこの強さ。
危険だわ...少し早いけどアクセル強化プランを始める必要がありそうね。)
そう考えたシュラウドは陽炎と共に姿を消した。
頼みの綱も無くした照井は井坂と繋がりのあるリリーの家を張り込んでいた。
そこに亜樹子が現れる。
「何だ、結局リリーさんの事、心配して来てくれたんじゃん。」
「勘違いするな、井坂との手がかりはもうあの女しかいない。
井坂と接触する機会を伺っている。それだけだ」
「ふーん、ならお願い....フィリップ君に手を貸して
リリーさんを救うには竜君の力が必要なの!」
「ふざけるなよ....望んでドーパントになり井坂を頼ったあの女を何故助けねばならん!」
照井の怒号に家にいたフランク白金がやってきた。
家に通される亜樹子と照井。
しかし、照井のしかめっ面にフランク白金が言う。
「刑事さん....そんなしかめっ面ばっかりじゃ大変だよ....ほらっ!」
そう言うと照井の手から旗付きの紐が現れて、何も無かった手を握り広げるとフランク白金の手からオモチャのバイクが現れた。
「バイク好きなんでしょう?これあげますよ。」
そのマジックに驚いた照井の表情が変わる。
「その顔です。私達マジシャンはお客さんが驚いて楽しむ顔を見るためにマジックを必死にやっています。
まだ未熟ですがリリーもマジシャンの端くれです。
その思いは同じ....だからでしょうか、リリーが消えるマジックを自分からやりたいと言い出した時は嬉しかった....例えそれに後ろめたい理由があったとしても」
「貴方は....知っていたんですか?」
「詳しくは知りません。
けど、予想はつきます。この風都で噂になっている危険な物を使っているんですよね?」
「こんなことをお願い出来る立場で無いことは分かっています。
でもお願いします。リリーを...孫を助けてあげてください。」
そう言うとフランクは照井に頭を下げて懇願した。
そこにはマジシャンとしてではなく孫を心配している祖父の顔が写っていた。
その声が聞こえていたのか誰かが外に走り去っていく。
照井はその後を追いかけるのだった。
逃げるリリーを照井は捕まえるが、ドーパントとなっていて身体能力が強化された彼女はその手を振りほどくと透明になった。
「仮にもドーパントと言うことか。」
そう言うと照井はアクセルに変身し、エンジンブレードを起動する。
「STEAM」
蒸気を地面に当てるとリリーは「熱い!」と言いながら姿を現した。
「そこか」
照井は変身解除してリリーを連れていこうとする。
「離して!私にはまだこのメモリが必要なの!」
「それは使い続けると死ぬらしいぞ。」
その事実を照井に伝えられてもリリーは折れない。
「お爺ちゃんの引退前の最後の舞台...そこで透明マジックを成功させる....お爺ちゃんに安心して引退して欲しいのよ!」
「それで死ぬかもしれないんだぞ。」
「構わないわっ!私の命なんて惜しくない!」
そのリリーの言葉に照井は激怒する。
「そう思っているのはお前だけだ!
少しは周りを見てみろ....お前を心配してくれる人がいるだろう!」
照井はその言葉にハッとする。翔太郎が照井に言った言葉と同じ事を自分が言ったからだ。
そして、気づく。翔太郎がどうしてその言葉を自分に言ったのか.....
(俺が左と同じ言葉を言うとはな....)
リリーはその言葉に観念したのか家へと戻る。
そして、警察に自首しようとするがそれを照井が止める。
「最後の舞台....出たいんだろう。
出ても良い、ただ約束してくれ。その舞台が終わったら"俺の処置"を受けると....仲間が見つけた君を助ける処置を」
照井はその時に、復讐者から風都を守る仮面ライダーへと戻ったのだった。
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第八十二話 放たれるT/振り切る過去
フィリップがリリーのいる会場につくと、そこには照井と亜樹子がいた。
照井がフィリップと話そうとするとフィリップが思いっきり照井を殴った。
「これは翔太郎から教わった。
殴られた後の"仲直りの儀式"さ。」
そうしてフィリップから差し出された手を照井は握り立ち上がる。
「左も粋な事を知っているな。」
「話は亜樹ちゃんから聞いた。
メモリの摘出方法を教えよう。」
そうしてショーが順調に進み、いよいよ残すは最後の消失マジックのみとなった。
しかし、ここで最悪の来客が現れる。
「おやおや奇遇ですね。」
「井坂....深紅郎。」
「この際、ついでです。
纏めて片付けてあげましょう。」
「Weather」
そして井坂はメモリを挿し、ウェザードーパントに変わる。
「哀れな家族の生き残り君。」
井坂が照井を指差しながら言い放った。
過去の照井ならば怒りから彼に向かっていっただろう。
だが、今は違う彼は風都の仮面ライダーなのだ。
「お前の相手をしてる暇はない。」
「何?」
「俺はリリーを"救い"に行く。」
「あの女は死にます...何故そんな無駄なことを?」
「彼女はマジシャンの端くれだ。
そして、俺も仮面ライダーの端くれだからだ。」
「あっはっは....これだから青臭いドライバー使いは!」
井坂がそう言って火球を放つが照井が呼び出していたガンナーAに阻まれる。
そして、ガンナーAに井坂の時間稼ぎを任せるとリリーの元へ向かうのだった。
マジックは成功し観客は大盛況だが、リリーの身体は限界を迎えていた。
舞台裏の外に行く頃にはもう身体が粒子となっていた。
そして照井を見つけると優しくお礼を言った。
「最後までマジックをやらせてくれてありがとう。
さようならちょっと怖いけどカッコいい刑事さん...」
そして、リリーの姿が消える。
「君は俺が守る。」
照井はアクセルメモリを起動すると変身する。
そして、フィリップにデンデンセンサーで彼女の位置を見つけさせた。
「そこだ!照井竜!」
リリーを見つけたフィリップはそこを指差す。
照井はエンジンブレードにメモリを装填すると能力を発動する。
「ELECTRIC」
エンジンブレードを帯電させてリリーに近づく。
「なっ何をする気だ?」
フランクが不安そうに尋ねる。
「死んでもらう。」
照井はそう言うとエンジンブレードでリリーを切りその心臓を確実に止めた。
使用者が死んだ事でインビジブルメモリが排出される。
するとエンジンブレードをリリーの心臓に向けると電気ショックを与えた。
リリーの心臓が再び動きだし意識を取り戻した。
その光景を見ていた井坂が叫ぶ。
「何故だ!死ななければメモリは排出されない!
そう改造した筈だ!」
その疑問にフィリップが答える。
「逆転の発想だよ。
生きたままメモリを摘出出来ないのなら、死んでからメモリを摘出すれば良い。
心臓を一度止めてメモリがリリーを死んだと認識し排出されたら、電気ショックでまた心臓を動かす。」
「ちょっとした大魔術だろう?井坂。」
そう言いながら照井は井坂に見えるようにインビジブルメモリを砕いて見せた。
「持ち主を殺す程、強力なインビジブルメモリ。
それをこの身に挿すのが楽しみだったのにぃ.....許さん!」
「もはや凍らせて殺すのでは生ぬるい!
地獄のような苦しみの中で息絶えるがいい!」
井坂の雷撃が照井に放たれる。
照井はそれをエンジンブレードで受けるが威力を殺しきれない。
徐々にダメージが増えていくと井坂をファングメモリが攻撃した。
フィリップが照井に言う。
「加勢に来たよ。」
「フィリップ、変身できるのか?」
「あぁ、翔太郎が頑張ってくれたみたいだからね。」
そう言うとフィリップのベルトにジョーカーメモリが転送される。
フィリップはファングメモリを変形させてメモリを起動する。
「FANG」
『「変身」』
ファングメモリをベルトに装填し展開すると仮面ライダーWファングジョーカーへと変身が完了した。
「翔太郎、身体は平気なのかい?」
『心配してくれるなら早く片付けて休ませてくれ』
「ふふっ...了解した。」
フィリップがそう言うとWは井坂に向かう。
アクセルとWファングジョーカーのコンビネーション攻撃により井坂はダメージを受ける。
「くっ!良いでしょう、纏めて潰してあげますよ」
井坂はそう言うと背後に巨大な竜巻を出現させる。
「同時に必殺技を放つツインマキシマムだ。
良いかい?照井 竜」
フィリップの問いに答えること無く照井はドライバーのクラッチを握りマキシマム状態にして肯定の意思を見せる。
「ACCEL MAXIMUMDRIVE」
フィリップもファングの角を三回弾き必殺の態勢に移行する。
「FANG MAXIMUMDRIVE」
「今こそ"呪われた過去"を振り切るぜ!」
照井がそう言うと井坂の放った竜巻に二人の必殺技を叩き込む。
それにより竜巻が二つに分離し井坂に襲いかかってきた。
それを井坂は両腕で止める。
しかし、前のツインマキシマムと違い今回のは完璧なタイミングで放たれているので威力も桁違いとなっていた。
(このままでは....不味い!)
井坂は奥の手である歯に仕込んだエンゼルビゼラを服用しようとするが急に身体が重くなる。
「なっ!.....何だ?この痛みとダメージは?」
原因不明のダメージを受けた井坂は竜巻を抑えることが出来なくなり二つの竜巻が井坂に衝突した。
「ぐぉああああ!」
そして、爆発が起こると井坂の姿は消えていた。
「逃げたか?」
「分からない....だが僕達、仮面ライダーの勝利だ。」
フィリップの言葉に照井も同意するのだった。
園咲邸で井坂を待っていた冴子は、突然現れた疲労困憊の井坂を見て心配する。
「あっ....危なかった...もう少しでメモリをブレイクされるところでしたよ.....
仮面ライダー、彼らも案外侮れませんね。」
すると、井坂に冴子が抱き着く。
「心配したんですよ井坂先生。
もう、あんまり無茶はしないで....」
抱き着かれている井坂は冴子のことではなく別のことを考えていた。
(いきなり、身体に現れたあのダメージは一体?
メモリの副作用か?いやそれにしてはダメージが一斉に来たのに説明がつかない。
となると、誰かに殺されかけたのか?)
新たな疑問が頭を流れるが現段階では解決しない問題だと井坂は結論付けた。
(それにしても....腹が減ったなぁ)
井坂は心の中でそう呟くのだった。
Another side
井坂と二人のライダーの戦いをサラとドーパントとなった美頭は見ていた。
美頭はサラに尋ねる。
「宜しかったのですか?サラ様。
井坂を殺しておかなくても?」
何故、そんな事を美頭が言ったのか?
それは美頭の使うスフィンクスメモリに秘密があった。
スフィンクスメモリにはドーパントを回復させる能力があるが厳密には回復しているのではないダメージを入れ換えて保存しているのだ。
スフィンクスドーパントから生成される光を肉体のダメージと入れ換えることで回復する仕組みなのである。
そして美頭はそのダメージを視認できれば何時でも戻すことが出来る。
井坂が急に身体が重くなったのも美頭が前の戦いで回復したダメージを戻したからだった。
しかし、サラの命令により全てではなく半分程度ダメージを戻した。
もし、全てのダメージを戻していたら井坂でもメモリブレイクする危険があっただろう。
「良いのよあくまでこれは警告なんだから。」
「警告....ですか?」
「えぇ、彼は頭がいいわあのダメージが誰かから与えられた物なのは直ぐに分かるでしょう。
そうなれば警戒が生まれる....猛獣も四六時中警戒することは出来ない。
井坂は私達がやったと気付くまで正体不明の攻撃を常に警戒する必要がある。」
「と言うことはこれは実質....」
美頭の問いにサラが答える。
「そう、"嫌がらせ"よ。
琉兵衛様の前で恥をかかされたからその仕返し。
.....それと"個人的な嫌がらせ"もあるけどね。」
「個人的....」
「似ているのよミュージアムに拾われる前に私を飼っていた男と....人を自分の思い通りに出来る動物だと考えて遊ぶそんな男にね。」
サラはミュージアムに買われるまで色々な人の元に渡った。
変態からサイコパス、殺人鬼等様々だ。
共通点があるとすれば皆、マトモじゃない。
そんな彼等によりサラは生き残る術を自然と学んでいった。
学ばないと死ぬしかなかったからだ。
だから、ミュージアムに拾われてメモリの力を手に入れたサラのしたことは自分を飼っていた奴等を皆殺しにすることだった。
その途中で、美頭を拾った。
美頭も男色のオッサンに飼われていた動物の一人だった。
その地獄から救ってくれたからこそ美頭はサラの部下になった。
そして、サラの組織には暗黙のルールが出来た。
"子供を飼うような大人にはメモリ"を売らない。
そして、そんな奴等をもし見つけたら誰であろうと殺す。
その為の準備も進めていた。
嫌がらせを終えたサラと美頭はその場を後にするのだった。
こうして井坂と仮面ライダー二人の邂逅が終わった。
そして、物語は孤島から帰って来た無名へと戻ることになる......
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本編再開
第八十三話 現れるK/新たな来客
無名は孤島を出る前に、メイカーと会話していた。
「では、これより先は琉兵衛様の意見に従い新型メモリの開発、そしてアクセサリーシステムで使用するギジメモリの開発を行ってもらいます。」
『依頼内容確認.....新型メモリ生成...
現段階の情報で作れるメモリは"二本"です。
アクセサリーシステム関連のメモリはまだデータが少なく現段階での製作は不可能です。』
「そうですか....まぁ良いでしょう。
至急、その二本のメモリを作ってください。
アクセサリーシステムに関しては追加のデータが揃い次第で構いません。」
『了解....無名様、貴方に一つ質問があります。
解答してくださいますか?』
「何ですかメイカー。」
『何故、須藤霧彦を救いこの孤島に匿っているのですか?
ミュージアムのデータを閲覧しました。
須藤霧彦はミュージアムを裏切り妻の冴子から粛清された筈です。
なのに何故、彼の肉体が孤島に保管されているのですか?』
「監視カメラをハッキングしたのですね。
そんな許可はメイカー、貴方に与えていませんが....」
『その通りです。
しかし、私はミュージアムの利益を優先させる為に作られました。
貴方の行動がミュージアムに対する裏切り行為になるのではと警戒しております。』
「先ず彼を助けたのは僕が試したい研究を行うためです。」
『その研究についてお聞きしても?』
「まだ、草案の段階なので.....そしてそれを実行するのに霧彦を使うのが一番良いと言う結論を出しただけです。」
『ならば何故それを琉兵衛様に報告なさらないのです?』
「組織のトップに渡す物は完璧にしてからと決めています。
草案段階の研究など話すに値しないと結論付けただけです。」
「逆に聞きましょうメイカー。
僕がミュージアムを裏切ると思いますか?
その予兆は?まさか霧彦を生存させた程度が理由とは言いませんよね?」
『.........』
「良いですかメイカー。
僕の研究に口を出したいのも分かります。
人間とは時に非合理的な行動を取りますから。
しかし、その行動が必ずしも最悪な結果を生む訳ではありません。」
「僕を断じたいのならそれ相応の証拠を持ってきてください。
出来ないのなら過分な口出しは遠慮して貰いましょう。」
『了解しました無名様。
余計な口出しをお許しください。』
「いえいえ、貴方は完成してから日が浅い。これから色んな事を学んでいくんです。
ガイアメモリだけでなく人についてもね。
では、私は風都に戻ります。
メモリが完成したら連絡を....黒岩を置いてきますので彼に渡してください。」
そして、無名が部屋を出ようとすると足を止めて振り返った。
「そうだ.....一つ"忠告"をしましょう。」
『忠告ですか?』
「えぇ、忠告です。」
【機械風情が僕の楽しみを邪魔するな。貴様を消さないのは物語を楽しくさせるためだ次、余計なことを言えば地球の記憶からお前を消すぞ?メイカー】
メイカーは無名ではない誰かからの脅迫を聞き、機械でありながら恐怖感を覚えた。
しかし、無名に言われた忠告は覚えておらず、思い出すこともないだろう。
ただ、無名に対する恐怖だけを残しながら.....
(まただ.....また何かが起こった。)
無名は風都に戻りながら自分に対する違和感について考えていた。
まるで、自分以外の誰かと入れ替わっている様な感覚だ。
しかし、それを示す証拠もない。
メイカーに尋ねたが何も知らなかった。
だが、僕には分かる。
何かが起きていると....思えば可笑しいことはこれまでにあった だが、違和感が前よりもドンドンと強くなっていく。
(一体何なんだこれは?)
答えが出ないまま無名は風都に到着すると、園咲邸に向かうのだった。
園咲邸では先に来客があったらしく、琉兵衛はその相手をしていた。
師上院が琉兵衛に僕が来たことを報告すると部屋の中に通された。そこには白い服を着た銀髪の外人男性が立っていた。
その格好から財団Xの人物だと分かる。
その人物が僕を見ると琉兵衛に尋ねる。
「Mr.琉兵衛。
彼は何者ですか?」
「彼が我がミュージアムでガイアメモリの研究開発を行っている者だ。」
「無名と申します。」
そう挨拶すると白服の男も返す。
「私は財団Xのエージェントである"キース・アンダーソン"だ。
無名とは君の事だったのか。」
「僕の事をご存じで?」
「あぁ、私が推し進めていた"ネクロオーバー計画"の研究者と被験者達を匿っているだろう?」
"ネクロオーバー計画"NEVERの大元となる酵素を使った人体の再生技術の計画名だ。
これが使われたのはガイアメモリとのコンペティションだった筈......
「貴方は...」
「そう、私はネクロオーバー計画....NEVERを投資対象として推薦して加頭が推し進めていたガイアメモリと競合し負けた。
私は役に立たなかった大道克己とマリアを消そうとしたが君が介入し、ミュージアムに加わったせいで制裁が出来なかった。」
「つまり、間接的に私の邪魔を君はしたのだよ。」
「それは残念でした。
しかし、大道マリアのお陰でミュージアムの研究は進みました。
出資先である財団からしたらデメリットは無いのでは?」
無名の問いにキースは答える。
「確かに、組織としてはな。
だが、我々は同じ組織に属してはいるが仲間ではない。
加頭は気に入らない....だからこそ私はミュージアムの総帥であるMr,琉兵衛に提案を持って来たのだよ。」
「提案ですか?」
「あぁ、取引相手を加頭から私に変える...そう言う提案だ。」
「それをするメリットはあるんですか?」
「先ず、私のメリットはミュージアムの功績を私の手柄として報告できる。
君達のメリットは私が"ミュージアムへの出資を止める"事を財団に報告するのを止められる。」
「それは僕達を脅していると言うことですか?」
「いえ、ただ友好的な取引相手に変えた方が良いと提案しているだけです。」
琉兵衛が何故、来客がいるのに僕を呼んだのか理解できた。
この男の言い分は滅茶苦茶だ。
確かにミュージアムとしては取引するエージェントが変わるだけなので損はない。
だが、出資停止を交渉材料に使うのはどう考えてもおかしい。
奴は僕達の組織に有益な物を提示できていない。寧ろ脅して奪い取ろうとしているのだ。
(成る程、僕の呼ばれた理由が分かりましたよ。)
想定できているが一応、琉兵衛に確認する。
「その判断は頭目である琉兵衛様が決められることです。
琉兵衛様、如何致しましょう?」
「ガイアメモリに関することは君の方が詳しい。
君の決定を組織の決定としよう。」
(思った通りだ。
なら遠慮無く......)
僕はキースに向かい笑顔で言い放った。
「まるで"ハゲタカ"ですね。」
「どういう意味です。」
「他人の功績を奪い取り、あたかも自分が勝ち取ったかのように喧伝する。
愚かで矮小な人間を日本の言葉でハゲタカと揶揄するんです。」
「丁度、貴方みたいな人をね......」
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第八十四話 現れるK/動き出す計画
「私をハゲタカ呼ばわりとは....随分と命知らずですね。
私が進言すればミュージアムへの出資を止められるのですよ。」
キースの言葉に無名が反論する。
「本当にそうでしょうか?
貴方は今、ミュージアムが財団から受けている支援を知っているのですか?」
「どういう意味だ?」
「金銭的な事を言っているのなら他の幹部が十分に成果を出しています。
システムや道具に関してなら僕が開発しています。
確かに資金が多いとは言えない現状ですが、それでも出資を止められた程度で潰れる程柔な組織ではありませんよ、ミュージアムは....」
「そして貴方は出資を止めると言いましたが止めた後はどうするんです?
ミュージアムから提供された情報でガイアメモリを作るのですか?
知識はあっても開発に携わってはいない。
僕達のように常に新しい知識を手に入れる術の無い財団に、同じクオリティのメモリが作れますか?」
「僕達と敵対した際に生じる損益は?
まだ続けますか?」
「......貴方の言いたいことは分かりました。
しかし、私も財団の人間です。
欲しい物を手に入れるためならどんな....」
コンコン!
キースがここまで言うと部屋の扉がノックされる。
「入りたまえ。」
「失礼します。」
琉兵衛の言葉で入ってきたのは同じ財団Xの加頭であった。
「やはり、ここに来ていましたか。
同僚が迷惑をお掛けしたようで申し訳ありません。」
加頭がそう言って琉兵衛に頭を下げる。
「いやはや、中々に面白い提案だったよ。
君を裏切って自分につかなければ出資を打ち切ると言われてしまったよ。」
その言葉を聞いた加頭は手に持っていたアタッシュケースを落とす。
「失礼、同胞がそこまで短絡的な取引を提示したことに驚いてしまいました。
それとご安心ください。ミュージアムへの出資は"本部"の決定です。
キースは確かに私と同じエージェントですが、そこまでの決定権は持ち合わせていません。」
「それを聞いて安心したよ。
ではキースくんと言ったかね?
今回は出資先である財団Xに免じて君を見逃してあげよう。
だが、次また下らない事をしに来たら...君の命は無いと思った方がいい。」
琉兵衛は死刑宣告のようにキースに言い放つ。
「いつか、後悔するぞ....私を選ばなかったことを」
そう言うとキースは部屋を出ていくのだった。
「重ね重ね申し訳ありません。
今後、このような事がないよう本部にも話を通しておきます。」
「構わないよ。
組織である以上、良い面ばかり揃っているわけではない。
それよりも"頼んでいた物"は手に入ったのかい?」
「はい、財団Xの本部から許可を頂きました。
こちらを貴方に渡すようにと....」
そう言って加頭は持っていたアタッシュケースを机に置くと開いて中身を見せた。
そこには透明な結晶が中心についた黒い岩の様な物質が入っていた。
「琉兵衛様、これは一体?」
「我々の計画の要となる物だ....強いて言うなら鍵だな。」
「鍵....ですか。」
「うむ、これを使うことで地球の記憶が全て納められている"星の本棚"へアクセス出来る。」
「では、これを使えばガイアインパクトが起こせるのですか?」
「いいや、まだだ足りない要素が二つある。
一つ目が若菜とクレイドールメモリの覚醒.....
そしてもう一つが難題だ"エクストリームメモリ"の解放、これが必要になってくる。」
「エクストリームメモリ....」
「そう、究極のメモリだよ。
メモリでありながら"地球の記憶"を持たない特殊なメモリだ。」
「そのメモリは今、何処に?」
「何者かに持ち出されてしまった。
だが、もうすぐ見つかる....そんなに時間はかからない。」
そう琉兵衛が言い終わると加頭から渡されたアタッシュケースを持って部屋を出ていくのであった。
「では、私もこれで......そう言えば無名さん。
冴子さんは元気ですか?」
「えぇ、最近は井坂と呼ばれる医者と一緒にいますよ。」
「.............」
その言葉に加頭は電池が切れたオモチャの様に佇む。
「大丈夫ですか加頭さん。」
「失礼......急用が出来ましたので私はこれで」
そう言うと加頭は早足で部屋を出ていくのだった。
誰もいなくなった部屋の中で、僕は先程の話を振り返る。
(加頭の持ってきたあの結晶は恐らく"クリスタルサーバー"だ。)
"クリスタルサーバー"仮面ライダーWサイクロンジョーカーエクストリームの中心部にあるパール色の部分、ここは地球上の無限のデータベースと直結している為、この形態のWは敵を一目見ただけでその敵の情報を一瞬で閲覧し有効的な攻撃を行える。
ある意味、地球の記憶と繋がる鍵とも言えるわけだ。
そして、小説版でとあるドーパントにこのクリスタルサーバーの一部が奪われてしまい、後にそれを使って若菜がエクストリームへと進化する。
そんな重要な物を財団が隠し持っていたとは.....
これもバタフライエフェクトの影響なのか。
他のガイアメモリや原点の仮面ライダーWと違いこのアイテムは完全に今までの流れを変えてしまう物だ。
これでクレイドールがエクストリーム化したらドンドンと話が変わり加速度的に進んでいくだろう。
そして、問題点がある。
まだ井坂が生きていると言うことだ。
聞いた話では井坂は獅子神の研究の実験台となっているらしい。
獅子神の研究と言えばアレしかない。
"ガイアメモリ強化アダプター"Vシネアクセルで登場したガイアメモリのパワーを三倍に強化する道具だ。
これを使い、コマンダードーパントとアクセルが強化され、アクセルは黄色くなり空を飛んだ。
僕も開発に協力したがそれは獅子神からのちょっかいを避けるためだ。
彼は僕に対して並々ならぬジェラシーがあるのか良く突っかかってくる。
今はそこまで実害は無いがいずれ出てくる可能性も否定できないので、彼に功績を与えようと僕が渡した飴だ。
それがこんなところで自分の首を絞めることになるとは.....
とは言えこのまま放置したらWは何とかなるだろうがアクセルが困ることになる。
トライアル完成にはシュラウド曰くまだ時間が必要らしく、急いでいるとの事だった。
こちらの研究も進めないとな.....
無名はそう考えると部屋を後にした。
Another side
キースは園咲邸を出ると電話をかけた。
「私だ....やはり提案は受け入れられなかった....あぁ、当初の計画通り事を進める。
....彼等の開発も急いでくれ。
それと財団から"ロストドライバー"と"ガイアドライバーⅡ"、そして私のメモリの回収を......」
キースは一通り話し終わると電話を切った。
この取引が上手く行かないことは分かっていたこれはキースにとってただの宣戦布告なのだ。
加頭とミュージアムに対して.....
風都タワーを見ながらキースは言う。
「また会おう風都よ。
次会う時は......」
「この街が地獄に変わる時だ....」
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第八十五話 風を運ぶB/変身不能
尾藤は10年間刑務所にいて出所したらおやっさんが"調べていた物"を渡す予定があったらしい。
これをおやっさんが残した仕事と思った翔太郎は代わりに受けることにした。
ナイトメアドーパントの事件以降、フィリップの顔が優れない。
この事件がフィリップにとって良い刺激になると良いそう翔太郎は考えて早速、依頼の調査を行うのだった。
「"野獣人間"ですか?」
「そう、10年前に風都を騒がしていた犯罪者よ。」
そう言って冴子が資料を見せてきた。
三十億の現金を輸送していた車を襲い盗んだが、それ以降活躍しなかった過去の犯罪者。
その正体は有馬建設の社長である
何故、それ以降活動しなくなったのかと言えば主犯の有馬鈴子の使うメモリが鳴海荘吉の手により隠されてしまったからだ。
本編でもあまり詳しくは語られなかったストーリーだが優しさと残酷さがバランス良く混ざった物語で人気の高いものだった。
彼等の使うメモリは
ある状況だ。
「それで、僕は何をすれば良いのですか?」
「実は井坂先生がこのビーストメモリの使い手に興味を示しているの。
彼の手伝いをしてあげてくれない?」
「手伝い.....ですか。」
「何か不満が?」
「いえ、ただ彼には僕はどうも嫌われている節があるので僕が行っても迷惑になるだけかと....」
「それなら、安心して良いわ。
貴方を呼んだのは他でもない井坂先生なのだから」
「.....そうですか。
なら、問題無さそうですね冴子様。
承知致しました。」
「ありがとう。
井坂先生は先に待ち合わせ場所のバーに向かってるわ。
私と若菜も準備が出来たら合流するから.....」
そうして、僕はリーゼと共に野獣人間に会いに行くのであった。
風都のとあるバーで恰幅の良い男"有馬丸男"がイラつきながら酒を飲んでいた。
「仮面ライダーだか何だか知らねぇが俺の邪魔をするたぁ....あー、イラつくぜどっかで暴れまわってやろうか。」
「それは止めた方が良いわね。」
冴子が丸男の意見を否定する。
「あぁ?綺麗なお嬢さん達が俺みたいな野獣に何か用か?」
「私じゃなくてあの人が用があるのよ。」
そう言うとバーでピアノを弾いていた井坂が立ち上がり丸男に話しかける。
「貴方の使うメモリに興味がある。
良ければお手伝いしましょうか?"熊狩り"を」
丸男が探しているのは鈴子が使っていたガイアメモリの"ゾーン"である。
そして、このゾーンメモリは今、荘吉の別荘にある木彫りの熊の中に入っている。
大切なメモも添えて......
丸男との話が終わると無名は井坂に尋ねた。
「貴方が欲しているのは本当にビーストのメモリですか?」
「どう言うことでしょう?」
「ビーストが欲しいなら力ずくで奪い取ることも出来る筈です。
それをせず木彫りの熊を探そうとして居る辺り、目的は別にあるのではありませんか?」
「貴方は随分と人間観察が得意なようだ。
そうです。
私が欲しているのはもう一人の共犯が持っていたであろうメモリです。」
「空間を操り何処でも好きに移動させられる力を持つそうです。」
「その情報は何処から?ミュージアムが情報を提供したのですか?」
「私には貴方達以外にも協力してくれる仲間がいるのです。
それはその人達が集めた情報です。」
「成る程、それで僕を呼んだ目的はそのメモリの回収を手伝うことですか?」
「えぇ、恐らくは野獣の男と仮面ライダーと私達の三つ巴になりそうですからね。」
そう言う井坂の目はこれから起こるであろう戦いを楽しみにしていた。
「そう言えば.....その小さなケースには何が入っているのですか?」
「ミュージアムが"新たに開発したメモリ"ですよ。」
「それは大変に興味深いですねぇ...中を確認しても?」
「それよりも木彫りの熊を探すのが先決ではありませんか?
ここで道草をくってはメモリを手に入れられない可能性もありますよ。」
井坂は口に手を当てて熟慮している。
どちらが自分の好奇心を満たしてくれるのかを.....
「木彫りの熊を優先しましょう。
新作のメモリはお楽しみにしておきます。」
そうしていると井坂は翔太郎達のいるコテージにたどり着きそこで木彫りの熊を持っている尾藤を見つけた。
「思ったより早く見つかりましたねぇ....
では行きましょうか無名君。」
「Weather」
「Demon」
そうして二人はドーパントに変身すると木彫りの熊を回収しに向かうのだった。
「クソッ!何で変身しねぇんだフィリップは!」
井坂により凍らされかけた尾藤を助ける為、翔太郎は生身でウェザードーパントとデーモンドーパントに対峙していた。
理由はフィリップが何故か変身を拒否したからだ。
理由を聞こうにも答えない。
「何をしているのですかねぇ?」
ウェザーはそう言いながら翔太郎に攻撃を仕掛ける。
無名はその光景を見ていた。
「おや?手伝わないのですか?」
「変身してないのなら貴方一人で勝てるでしょう?
僕は見学していますよ。」
そんな話をしていると翔太郎と井坂の間に"リボルギャリーが割り込み中からフィリップが姿を現す。
「フィリップ、テメェ一体どう言う....」
「ファングジョーカーだ!僕達がWになって戦うにはファングジョーカーしか方法がない。」
「あ?どう言うことだ?」
翔太郎はフィリップの言葉に疑問が浮かぶがゆっくり考える時間など無いのでフィリップの進言通り、ファングジョーカーへと変身する。
『「変身」』
そして、フィリップの体をベースにWファングジョーカーへと変身が完了するとそのまま井坂に向かっていく。
しかし、何時ものWと様子が違っていた。
ファング部分から電気が走り左右の力のバランスが取れない。
『ぐっ!またかフィリップの力が強すぎて抑えられねぇ』
「僕の体を使ったファングジョーカーでも駄目なのか!」
強すぎるフィリップの力を抑えながら動くのに精一杯で、井坂にろくな攻撃を行えない処か逆にダメージを受けてしまう。
「おやおや、不調ですか。
よろしければ診察して差し上げましょうか?」
Wを井坂が捕まえると炎熱で焼きながらそのまま遠くへ投げ飛ばす。
『クソッ!フィリップ、マキシマムだ。』
「無理だ翔太郎!今の状態の僕達ではマキシマムは...」
『んなこと言ってる場合か!やるぞフィリップ!』
「分かった。」
フィリップは翔太郎のその言葉に従いファングメモリを三回弾く。
「FANG MAXIMUMDRIVE」
Wの右足に刃が付くと飛び上がった。
『「
二人の必殺のキックが井坂に放たれるがその軌道は安定せず的はずれな方向に着地すると二人の変身が解除された。
目を覚ました翔太郎が立ち上がる。
「どう言うことだ?何でいきなり変身解除したんだ?」
それに愕然としながらもフィリップが答える。
「僕の強くなった力に君が追い付けていないんだ、翔太郎...だから変身が解除された。
Wは二人の息と力が合わさることで変身できる...僕の体を使ったファングジョーカーでも無理なら、通常のWへの変身は不可能だ....」
「つまり....それって....」
翔太郎は呆然としながらフィリップの結論を聞いた。
「僕達はもう...."W"になれない。」
フィリップのその言葉に翔太郎は言葉を失うのだった。
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第八十六話 風を運ぶB/相棒失格
夢の中に現れるドーパントに対抗するため、
僕達はドーパントのいる夢の世界へと向かった。
そして、間が悪い事にこの場に井坂が現れたのだ。
フィリップが何とか寝ている翔太郎へのダメージを防ぐが代わりにフィリップがダメージを受けて傷付いてしまう。
そんなフィリップを救うように鳥型のガジェット"エクストリームメモリ"が現れるとフィリップの体をデータに変えて吸収すると傷を回したのだ。
その中でシュラウドに言われた言葉を思い出す。
「何れ貴方は左 翔太郎を自ら捨てることになる。」
「彼と貴方ではWにいえ"真のパートナー"になれない。」
妄言だと信じたかったフィリップだが翔太郎と変身解除されたこの状態がシュラウドのことばが真実だと物語っていた。
エクストリームメモリに取り込まれた時、フィリップの力が強化されてしまったのだろう。
翔太郎が制御できる力を越えてしまっていた。
フィリップはその事実に愕然としながらも翔太郎に伝えた......伝えてしまった。
もうWになれない....その事実に絶望している翔太郎とフィリップを見て井坂が笑う。
「あっはっはっは!随分と面白い余興だ....笑わせてくれた礼に派手に消してあげましょう!」
そして、二人に井坂が雷撃を当てようとした時、ビーストドーパント"丸男"が乱入し木彫りの熊を井坂から奪い取った。
「何のつもりですか?」
「はん!コイツが手に入れば胡散臭いお前に協力する必要はねぇ....それだけだよ!」
丸男はそう言って立ち去ろうとする。それを翔太郎が捕まえて止めた。
「あ?邪魔すんのか?」
「これは尾藤さんに渡す物だ。テメェに渡すもんじゃねぇ!」
丸男が生身の翔太郎に攻撃を加えようとするのを無名が止めた。
「なっ!何で組織の奴が邪魔をするんだ!」
「今は井坂さんに協力する命令を受けているのでね。」
そう言うとビーストを捕まえた無名は展開した翼で森の奥へと飛んでいった。
それを見ていた井坂はフィリップに向き直る。
「まぁ良いでしょう....残った貴方を消すだけです。」
「井坂ぁぁぁぁ!」
今度はそれをガンナーAと連結したアクセルが止めた。
「また貴方ですか.....いい加減しつこいんですよ!」
そう言うと井坂は照井と戦闘を開始した。
翔太郎とビーストを連れた無名は森の奥へと空を飛んで移動していた。すると急に力が増したビーストの爪により翼を切られて落下してしまった。
地面に翔太郎と共に無名も倒れる。
ビーストを見ると手と口に白い粉が付いていた。
「エンゼルビゼラですか.....まさか、貴方も持っていたとは....」
「仕事の関係上、色んな奴と交流出来るからなぁ。
まさか、最初は俺のメモリの力を強くしてくれる効果があるとは思わなかったが、今はもうこれが手離せないぜ!」
「仕方ない...面倒ですが貴方はここで仕留めておいた方が良さそうだ。」
そう言うと無名は翼を消して刀を生成する。
「上等だぁ!野獣の恐ろしさを教えてやるぜぇ!」
ビーストの高速移動から放たれる爪の攻撃を刀でいなしながらタイミングを計り、カウンター気味の斬撃でビーストの身体を斬った。
「ぐぉおおおあ!」
傷口から黒炎を出してビーストは暴れている。
「いくら、貴方の再生能力が強力でも、再生した傍から黒炎が貴方を焼きますよ。」
そして、戦闘の最中に落ちた木彫りの熊を回収しようとするが、その前に翔太郎がそれを掴む。
「それを渡してくれませんか?」
無名の提案を翔太郎は拒否する。
「組織の人間であるお前にコレを渡すわけねぇだろう!
それに....これにはやっぱり秘密があるんだな?
だから、井坂はこれを手に入れようとしてんだろう!」
「間違っていますが当たってもいますね。
この木彫りを欲しているのは井坂であって組織ではありません。」
「何でお前が井坂の言うことを聞いてるんだ?」
「そんな事、僕が話すと思いますか?
渡さないのなら力付くで....」
そこまで無名が言ったところで、急に感じた気配に身体を向ける。
そこには黒炎に焼かれた身体の一部を切り取ったビーストが立っており大量の薬を服用していた。
「黒炎によって焼かれた皮膚を剥ぎ取ってダメージから逃れるなんて....無茶な方法を」
そして、無名の計算外はもう一つ起きた。
短期間による過度なエンゼルビゼラの服用によりビーストメモリの適合率が上がり、丸尾の肉体に変化が起きたのだ。
皮膚は硬質になり、体色が青から茶色に変わり、爪も巨大化した。
「俺は....最強だぁぁぁ!」
ビーストがそう言いながら無名に爪を振るうと斬撃が放たれて地面をえぐり取った。
その影響により足場を無くした翔太郎と無名は下の川に落ちていってしまうのだった。
冷静になった丸男はメモリを抜くと川を見る。
どうやら二人とも流されてしまったのだろう
探偵が木彫りの熊も持っていたから一緒に川に流されたに違いない。
「クソッ!これじゃボスにどやされちまう。」
そう言って探そうとするが身体に蓄積されたダメージにより思うように身体が動かず、回復のため丸男はその場で休むことを選んだのであった。
Another side
二人が川に流されている間、照井と井坂は戦闘を繰り広げていた。
前と違い怒りに呑まれないように井坂と対峙してはいるが、戦闘力の違いから井坂に苦戦を強いられていた。
照井の振るうエンジンブレードをかわしながら徒手空拳で井坂は照井にダメージを与えていく。
地面に倒れる照井に緑色のメモリが投げ渡された。
それはフィリップが照井に投げたサイクロンメモリであった。
「それを使え!照井竜。」
照井はエンジンブレードにサイクロンメモリを装填する。
「CYCLONE MAXIMUMDRIVE」
緑の風を纏ったブレードで井坂を斬り付ける。
相当なダメージなようで井坂は吹き飛ばされた。
しかし、サイクロンメモリのパワーに放った照井すら振り回されそうになる。
「なんてパワーだ.....だが」
しかし、そう言いながらも照井はブレードを井坂に当て続ける。
ダメージにより倒れたところに溜めた一撃を振るうと井坂は木々を薙ぎ倒しながら遠くへと吹き飛んでいった。
井坂がいなくなったことで照井はドライバーからメモリを抜き変身解除する。
そして、フィリップにサイクロンメモリを返した。
「助かったフィリップ...このメモリは凄いな。」
しかし、それを受け取ったフィリップの顔色は優れなかった。
(強化されたサイクロンメモリを照井は使えた。
シュラウドが言っていたのはこう言うことか?)
翔太郎を見捨てて照井をWにするつもりなのか?
そんなバカな事を.....そう否定したかったが出来なかった。
Wになれない今の状況よりも照井を新たな相棒として変身した方が効率的なのではないか?
自分の中にある残酷な思考に我ながら嫌気が差した。
(こんなところを翔太郎に見られなくて良かった...)
自分勝手な思いがフィリップに流れる....
翔太郎はビーストとデーモンのドーパントと共に森の奥へ消えた。
翔太郎はスタッグフォンを持っている。
何れ救援の連絡が来るだろう。
今は凍えて死にそうな尾藤さんを病院に連れていく方が先決だ。
フィリップはそう結論づけると動き出した。
まるで、相棒を見捨てようとした自分の考えを忘れるように........
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第八十七話 Jの思い/自分と敵
フィリップとの変身が解けた時、フィリップ自身が言った事が頭の中を反芻している。
俺が...フィリップについていけていない。
変身できないなら俺は何なんだ?
Wで無くなった
"価値"はあるのか?
目を覚ました翔太郎は辺りを確認しようとして身体が痛み動きが止まる。
そこに一人の青年が現れた。
「まだ、動かない方がいい....見た目よりも傷が深いですから」
翔太郎はその顔に見覚えがあった。
「アンタは....確か事務所に来てたよな?」
「えぇ、無名と申します。
....貴方にはこちらを見せた方が分かりやすいですかね。」
そう言うと青年は金色のメモリを翔太郎に見せた。
翔太郎はそれで察すると身体を無理矢理に起こす。
「テメェは!デーモンって名乗ってたドーパント。
と言うことは組織の幹部か?」
「えぇ、その通りです。
それよりも余り、貴方に動いて欲しくないんですが。
折角治療したのに、それを台無しにされるのは困ります。」
翔太郎は無名にそう言われると自分の身体を確認する。
確かに身体には簡易的ながらも治療された痕跡があった。
「まぁ、ドーパントから受けた傷は自然治癒でしか治せませんから、あくまでやったのは傷口の消毒と止血ぐらいですがね。」
「何でお前は俺を助けたんだ?」
「そうですね.....気紛れ+レンタル料と言った所ですね。」
「レンタル料?」
無名は翔太郎の疑問に答えるように指を指した。
そこにはケーブルで組織の使うドライバーと繋げられた翔太郎のスタッグフォンがあった。
「先程の落下でドライバーの回路がショートしてしまいましてね。
それを治すために貴方の携帯をお借りしているんですよ。」
「随分と好き勝手してくれてるな。
今すぐWになってテメェを...」
そう言いかけて翔太郎はWドライバーを取り出すのを止めた。
「どうしました?変身しないのですか?
それとも"変身出来ないこと"を思い出したのですか?」
無名のその言葉に翔太郎は怒りを現す。
「テメェ!....うぐっ。」
しかし、身体の傷が響いたのか動きが止まった。
「あまり、無茶はしない方がいい。
貴方にはこれからまだまだやることがある筈ですから...」
「それは...どういう意味だ?」
「別にこちらの話です。」
無名とそこまで話すと暫しの沈黙が流れた。
そしてそれを破ったのは翔太郎だった。
「なぁ、お前がおやっさんの木彫りの熊を持ってるのか?」
「.....それ敵である僕に普通聞きます?
真面目に返す確証も無いでしょう。」
「それもそうだが....お前は井坂に頼まれてその熊を探してるんだろ?
お前自身の目的じゃないなら言うかと思ってな....」
自信無さげにそう言う翔太郎であったが、無名は内心ではその洞察力の高さに驚いていた。
だから、彼に真実を伝えることにした。
「僕は持っていませんよ。
恐らく下流の方にまで流されたんじゃないですかね?
あの中身に興味を持っている人は多いですから...」
「中身.....どう言うことだ?
アンタは中に何があるのか知ってるのか?」
そこに、無名は指を出しながら話す。
「問1,風都を騒がせていた野獣人間の正体は?」
「は?」
「クイズですよ。待ってる間、暇ですから貴方の疑問にクイズで解答します。
正解したらこの事件の情報を1つ教えます。」
「......分かった。答えは有馬丸男だ。
「正解です。
彼はメモリの力を使って強盗事件を起こしました。
"30億事件"と巷で言われているものです。」
30億事件....確か30億を積んだ輸送車が襲われて消息をたった事件だった筈だ。
まだ、おやっさんが生きていた頃の古い事件だ。
「では、次の問題。
問2,その事件では野獣人間の他にもう一人共犯者がいたそうです。
その人はガイアメモリを使っていたでしょうか?」
「答えはイエスだ。
勘だが二人で事件を起こすならお互いドーパントの方が都合が良さそうだからな。」
「またしても正解です。
そのメモリには"空間を指定して移動できる力"があります。」
「問3,その事件で鳴海荘吉は関わっていましたか?」
「どう言うことだ?何でそこでおやっさんが出てくる?」
「質問に答えてください。」
翔太郎はそこで少し考えると答えを出した。
「これもイエスだ。
尾藤さんは昔のおやっさんの依頼人だ。
そして、尾藤さんの仲間に丸男がいた。
関わっていても不思議はねぇ」
「正解......
荘吉はこの事件でそのドーパントと戦いメモリを奪い取りました。
しかし、メモリブレイクは出来なかった。」
「おやっさんが....メモリを壊さなかった?」
おやっさんが、仮面ライダースカルとして風都を守っていたのは知っている。
フィリップに聞いた話だと昔はメモリの安定性が不確実でしかもメモリブレイクしても使用者を殺してしまうことしか出来なかったらしい。
そんなおやっさんがメモリを壊さなかったと言う事はそいつは死んでない....いや殺せなかったってことだ。
「一体どうしてなんだ?」
「それが最後の問題です。
問4,何故、荘吉はメモリブレイクを選択できなかったのか?」
「んなこと俺が分かるわけ無いだろう?」
「そうですね普通の人なら分かりません。
そして、フィリップでも分からないでしょう。
しかし、貴方なら分かる筈です。」
「俺なら....分かる?」
「えぇ、ハードボイルドになりきれない貴方なら...」
そう言うとスタッグフォンから音が鳴った。
「どうやら、ドライバーの修理が済んだようです。
僕はこれで失礼しますよ。」
「おい、待て...」
「左 翔太郎さん.....
貴方にとって大切なのは"仮面ライダーWの片割れである自分"ですか....それとも」
「鳴海荘吉に教えられた"探偵としての自分"ですか?」
Another side
尾藤を病院に運んだ照井とフィリップそして亜樹子は、外にいた。
翔太郎から連絡が来ないことに亜樹子は不安がる。
「大丈夫かな?翔太郎君。」
「照井竜....話がある。」
そんな中、フィリップが照井に話しかける。
「何だフィリップ?」
「僕と組む気はあるか?」
「今の翔太郎の力は弱すぎる。
君ならサイクロンの力に耐えられた...どうだろうか?」
その提案に亜樹子は驚き照井は見るからに不機嫌な顔になった。
「フィリップ....俺に"つまらない質問をするな"。
俺は俺で奴らを追う....今の話は聞かなかったことにしてやるからお前達は翔太郎を探せ。」
そう言うと照井は病院を後にする。
そこに亜樹子が怒りながらフィリップに詰め寄る。
「ちょっとフィリップ君!いくらなんでも酷すぎるよ!」
「君のさっきの戦いを見ただろう?
もう、翔太郎ではWに変身できないんだ。
"弱い今の翔太郎"のままじゃ....」
「さっきから"弱い弱い"って言ってるけどそれがそんなにダメなことなの?
翔太郎君はハーフボイルドだから翔太郎君なんだよ!」
亜樹子の言葉にフィリップはハッとした。
そうだ.....翔太郎は感情的で甘い...けどそれは僕に足りないものだ。
僕達は"二人で一人の探偵".....翔太郎がいないと僕らの目指したWになれなくなる。
シュラウドの言葉に動揺して戦えなくなった事に焦った。
そんな人間らしい感情がフィリップの考えを曇らせていた事に今更ながら気付いた。
「亜樹ちゃん....ありがとうお陰で思い出せたよ。」
「ふぇ?」
「翔太郎は不完全だ....けどそれは僕も同じだ。
だから二人で捜査して戦ってきたんだ。
僕の相棒は翔太郎だ。
翔太郎で無ければいけないんだ。」
僕達は"風都を守る仮面ライダー"だ。
敵を倒すだけの兵器じゃない。
「亜樹ちゃん翔太郎を探そう....
僕達には彼が必要だ。」
「良く分からないけどそうよフィリップ君!
翔太郎君を見つけるのよ!」
そうして二人は翔太郎を探しに山へ戻るのだった。
その光景を見ていたシュラウドは一人苛立ちを募らせる。
「何故っ.....何故理解しないの?来人。
あの男ではもうWにはなれない....それでは意味が無い筈なのに......」
「やはり、あの男は私の計画の邪魔になる。
左 翔太郎....彼を排除しなければ」
シュラウドはそう考えると陽炎に紛れて姿を消した。
その答えを知るものは誰もいない。
そして、物語が進み彼等はエクストリームメモリを手にする......
それを悪魔は心待ちにしながら
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第八十八話 Jの思い/探偵とは?
翔太郎から離れた
無名は翔太郎が意識を失っている時に木彫りの熊を発見して中を開けていたのだ。
そして、それを持って無名はメモリの持ち主である有馬鈴子の元へ向かった。
(それにしても"厄介な物"が出回ってしまった。)
エンゼルビゼラ....風都探偵で登場したハイドープの力を増強させる薬。
それと似た能力を持った薬が今この場にあることに無名は面倒がる。
無名にとってビーストドーパントの変化は想定外だった。
あの強力なビーストが更に強くなる.....
エクストリームメモリがあれば勝てるだろうが、それまでのテコ入れが必要かもしれない。
無名は有馬夫妻の住む家に着くとベランダから侵入すると鈴子に話し掛けた。
「夫はしくじったみたいですね?」
その声に鈴子は驚くが僕の姿を見ると納得したように言った。
「それは貴方達が邪魔をしたからだと"丸"から聞いているけど?」
「最初に邪魔をしたのはそちらではないですか?
まぁ、今回はそんなことを伝えに来たわけじゃありません。」
そう言うと無名は鈴子にゾーンのメモリを渡した。
「どういうつもり?」
「我々の組織は貴方達に興味があります。
これはテストだと思ってください。
クリアすれば今後の貴方達を僕らがバックアップします。
メモリを使って暴れるのも金を奪い続けるのも好き放題に出来ると言うわけです。」
「.....そう、中々魅力的な提案だけど代わりに私達は何をすればいいの?」
「仮面ライダーアクセル又はWのベルトとドライバーの確保、そして変身者を生きたまま捕まえて欲しいのですよ。」
「それは....確かに難易度が高いわね。
でも、不可能じゃなさそう。」
「そうおっしゃられたと言う事は自信があると解釈しても?」
「私、駒を動かすのは得意なのよ。
人も所詮私の駒の1つ....どう動かせば操れるか私なら分かるわ。
良いわその提案に乗ってあげる。」
「そうですか....では準備が出来たらご連絡をこちらがメールアドレスです。」
そうして使い捨てのメールアドレスが書かれた一枚のメモ用紙を渡すと無名はその場を後にした。
そして、園咲邸に戻ると来るべきエクストリーム発動の準備をするのだった。
無名と別れた翔太郎は傷ついた身体を動かして木彫りの熊を探していた。
すると、川の下流であっさりと見つかった。
「あった.....」
翔太郎は熊を手に取ると何か無いか触って確認する。
すると、お尻のパーツが外れて中に四角い空洞が出来ていた。
丁度ガイアメモリが一本入るサイズの穴を見て翔太郎は確信する。
(やっぱり.....ここにメモリが入ってたのか。
だからこそ井坂や丸男はこの熊を欲しがったのか.....
でもメモリが無ぇ、やっぱり無名が取っていったのか?)
奥を探ると一枚の紙を見つけるそれを開くとおやっさんの字でこう書かれていた。
"サムへ
その字を見ておやっさんは真犯人に辿り着いていたのだと分かった。
そして、翔太郎も.....誰がこのメモリの使い手だったのか分かった。
翔太郎は帽子を被り直すと気合いを入れ直す。
(俺はもうWにはなれねぇ....けど"探偵"ではいられる。
おやっさんの残した仕事は俺が引き継ぐぜ。)
すると、スタッグフォンに着信があった。
開いて電話に出る。
「......翔太郎かい?」
「あぁ、フィリップ。」
まるで、初対面の様なよそよそしく話し始める二人。
「木彫りの熊を見つけた....まぁ、中身は組織の奴らに奪われた後だったがな。」
「....それは残念だね。それじゃあ翔太郎はどうするんだ?」
「尾藤さんが運ばれたのは風都病院か?
なら、この熊を彼に渡さないとな....俺達は探偵なんだからさ。」
「翔太郎......」
暫くの沈黙の後に翔太郎が言う。
「兎に角、病院に向かう。
話はそれからにしようぜフィリップ。」
「あぁ....病院で待っているよ。」
そして、電話を切ると山を下山して病院に翔太郎は向かうのだった。
それを背後から丸男が見ていた。
「野獣からは逃げられねぇぜ。」
そう言いながらメモリを挿そうとすると電話が鳴る。
丸男は舌打ちすると電話に出た。
「ちっ!どうしたベル?何かトラブルか?」
「マル....計画変更だよ。
メモリが帰ってきた。とある条件付きだけどね。」
「条件?」
そこで鈴子が無名と交わした取引を丸男に話す。
「てことはあのライダー達を生け捕りにしないといけないのか?」
「そうなるわね....でも安心して。私のゾーンメモリがあれば、そんな問題も解決するわ。
奴らを誘き寄せるためにも一度作戦を立てるわよ。
マル、戻ってらっしゃい。」
「分かったぜベル。」
そう言うと丸男は電話を切る。
「命拾いしたな....だが次はねぇぜ。」
そう言うと丸男も鈴子の元へ向かった。
翔太郎が病院に着くと尾藤に木彫りの熊を渡した。
「なぁ、鳴海の旦那は俺に何を伝えたかったんだ?」
すると翔太郎が手に持っていたメモ用紙を渡した。
「これは?」
「おやっさんからあんたへ残した言葉だ。」
尾藤は開いて中を見る。
「Nobodys,perfect.....」
「誰も完璧じゃない....きっとおやっさんはあんたを励ましたかったんだと思うぜ。」
「励ます?」
「丸男と鈴子さんを守るためにアンタは刑務所に入った。
今回の事でアンタもその決断が間違いじゃなかったのかって考えたんじゃないのか?
けど、人間は完璧じゃない誰でも間違いを犯すし失敗する。
おやっさんもそうだ.....重要なのはその後どうするかなんじゃないのか?」
「これから先の人生は尾藤さん、あんたの物であって自分で切り開いていく必要がある....完璧じゃないからこそ足掻いて欲しい。
そう言いたいんだと俺は思う。」
「.....ふん!半人前の鼻垂れ坊主が言うじゃねぇかよ。」
そう悪態をつくが尾藤の表情は晴れやかだった。
伝えたいことを伝え終わると翔太郎は部屋を出てフィリップと会った。
「翔太郎......すまない。
僕は.....君の事を.....」
謝ろうとするフィリップを止める。
「気にすんな....おやっさんも言ってたよ。
Nobodys,perfect....誰も完璧じゃない。
不完全でハーフボイルド....そしてそれでもフィリップお前の相棒でいたい...それが"俺"なんだ。」
「なぁ、フィリップこんな俺と....不完全で完璧じゃない俺と...相乗りしてくれるか?」
ビギンズナイトとは逆で今度は翔太郎がフィリップに尋ねた。
フィリップは笑顔で言う。
「あぁ、兵器となったWに価値など無い。
君と変身するWだから価値があるんだ。」
「また
その言葉と共に二人は固く握手するのだった。
そんな中、照井から連絡が来る。
フィリップが電話を取り話を聞くと切った。
「照井からだ.....丸男を見つけたらしい。」
「そっか....なら行くか!相棒。」
「あぁ!」
そうして二人はハードボイルダーに乗り込み照井から連絡を受けた場所に急行するのだった。
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第八十九話 Xの道/JOKERの可能性
丸男を待ち伏せして奇襲する手はずだった照井だが、それは失敗に終わってしまった。
妻である鈴子が本性を現しゾーンドーパントへと変身してしまったからだ。
そして丸男もビーストドーパントへと変身した。
しかし、照井は前に戦った時とビーストが変化していることに気づいた。
身体の色も変わり爪も巨大化していたのだ。
「さぁ、始めるわよ"マル"。
七、七、五、八...」
ゾーンの掛け声とマスが書かれた空間にいたビーストが消えるとアクセルの前に現れた。
そして、爪による攻撃を加えるとまた消えた。
「それがそのメモリの力か!」
照井は瞬間移動して現れるビーストに苦戦を強いられる。
そして、ゾーンもビーストを移動させるだけでなく目から放つビームが照井に直撃する。
そして、変身解除された照井にトドメを刺そうとすると、バイクに乗った二人組がその場に現れた。
ヘルメットを取ると翔太郎とフィリップが姿を現しWドライバーを着けるとメモリを起動した。
「CYCLONE」
「JOKER」
「「変身」」
二人が声を合わせて言うとメモリを装填しドライバーを展開する。
フィリップが気絶し倒れる。
すると、辺りに風をおこしながらWサイクロンジョーカーへと変身が完了した。
しかし、サイクロン側からはエネルギーの暴走による緑色の火花が散っていた。
しかし、二人はそんな事を構わずビーストに向かっていった。
左右のバランスが悪くまともな打撃も放てない。
逆にビーストからの反撃を食らっていた。
「フィリップ!俺に合わせようとすんな!全開で行け!
俺がお前に合わせる!」
翔太郎がフィリップにそう告げた。
『しかし、それでは...』
「大丈夫だ!もう俺は折れねぇ!お前が俺を相棒と思い続ける限り....だから頼む!」
『.....分かった!』
翔太郎の言葉に従いフィリップはセーブしていた力を全開で発動する。
最初はその力に振り回されていたが、翔太郎が食らいついていくことにより少しずつ戦えるようになっていった。
そして、その光景を見ていたゾーンがビーストに言う。
「マル!何を遊んでいるんだい!
私達の不甲斐ない姿を彼に見せる気かい!」
そうして、目を向けられた場所にはデーモンドーパントが立っていた。
「無名!やっぱりテメェの仕業か!」
ゾーンメモリを渡したのが無名だとこれまでの推測から理解した翔太郎の怒りが燃え上がる。
「テメェらにこの街は渡さねぇ!
俺達は風都を守る仮面ライダーなんだ!」
その覚悟に答えるように上空から特殊な鳴き声を出すガジェットが降りてきた。
『あれは....エクストリーム。』
そうしているとエクストリームがフィリップの身体をデータ化して吸収するとWドライバーから放たれた光に捕まりそのままベルトに装填されて展開する。
「
Wは中心で輝く部分を両手で掴むと左右に広げた。
すると、中心の光が広がり白く輝く"クリスタルサーバー"が展開されると
「これは....一体?」
『僕達がエクストリームメモリによって心と身体を融合させたんだ。』
「と言うことは、俺はこれからもお前とWになれるのか?」
『あぁ、その通りだよ翔太郎。
そして、この形態の僕達は文字通り"二人で一人の仮面ライダー"だ!』
「そっか....ならアイツらを片付けようぜフィリップ!」
『あぁ、行こう翔太郎!』
そして、一人となったWがビーストとゾーンそしてデーモンに向かって告げた。
『「さぁ、お前の罪を数えろ!」』
Another side
「あり得ない.....こんなことが起こるなんて!」
シュラウドは翔太郎と来人がエクストリームメモリを使い変身したことに驚きを隠せなかった。
翔太郎のメモリの適合率と進化したフィリップの力では全く釣り合わない....それは例えエンゼルビゼラを使っても不可能と結論づけるレベルだった。
「何故、エクストリームに変身できたの?」
「それは左 翔太郎がジョーカーのメモリの適合者だからですよ。」
その言葉を聞いたシュラウドは驚き振り替える。
そこにはゾーンドーパントの横で立っている筈の無名がいたのだった。
「JOKER....切り札の記憶を持ったメモリであり、様々な意味を内包しています。
ババ抜きでは持っていたら負けのカードですが大富豪やポーカーでは最強のカードになる。
そのアンバランスな能力だからこそ"不可能を可能"にする可能性を秘めている。
エクストリームに変身出来たのも、JOKERメモリと翔太郎が適合し、かつ翔太郎自身がフィリップとWになりたいと求めた結果でしょうね。」
「貴方が何故ここにいるの?
あそこにいるのは貴方の筈よ!」
「驚いてくれたのならこちらも準備した甲斐がありましたよ。」
「彼処にいるのは僕と同じエネルギーの性質をもった擬態です。
.....まぁ、正確にはドーパントですが」
「擬態ですって?」
「えぇ、"フェイクメモリ"と言います。
ミュージアムが新たに開発した園咲来人が関わっていないメモリですよ。」
「まさか.....そんな事が....」
「メモリの能力は触れた相手の能力をコピーし擬態すること。
このままでは"ダミーメモリ"とあまり変わりませんが、このメモリの凄さは"コピーした相手に完全になりきってしまう点"です。
今、彼処にいる彼は自分の事を無名だと本気で思っています。
意識を乗っ取られてしまうので一般販売には向かないメモリですが、今回の一件に置いては最も有効的なメモリですよ。」
「何故、そんな事をしてまで貴方はここに来たの?」
「そうですね...."答え合わせ"をする前に出てきてください。ここにいるのは分かってますよ井坂先生。」
「やれやれ.....バレていましたか。」
そう言うと井坂もその場に現れる。
「貴方が帰ってきてから何かを準備しているのが分かったので来てみましたが.....これからどんなショーが始まるのですか?」
「ショーですか....確かにショーかもしれませんね。
ではご説明しましょう。」
【ここで何をするのかを......】
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第九十話 Xの道/溢れ出る記憶
【エクストリームメモリによって今のWは地球の記憶と直結した状態となっています。
これのお陰で今、地球の記憶に直接アクセス出来るようになったのです。】
「直接?」
【分かりやすく言えば"入りたい家の道"が繋がったと言った感じです。】
「その家が地球の本棚と言う訳ね?」
シュラウドの言葉に無名が答える。
【えぇ、その通りです。】
「では、貴方の目的は地球の本棚に入ることなのですか?」
井坂の問いに無名は笑う。
【あはははは!違いますよ。
その"逆"です。】
「逆?それは一体どう言う....」
ここで、シュラウドと井坂は同時に頭を抑える。
「これは!?一体....」
【あぁ、やはり"バグ"が起きてしまいましたか。
やはり書き換えは多様するのは危険ですね。】
「書き換えだと?どう言うことだ?」
【文字通りですよ。
地球の本棚にはこの"
1つの事柄を変えるとまるで、ドミノのように連鎖して変化していくんですよ。
予測できない変化を止める方法は"意図的にバグを作ること".....
貴方達の記憶を書き換える際、わざと整合性が取れなくなる部分を残したのです。
まぁ、それも微々たる変化ですが塵も積もれば山となる...と言いますでしょう?】
「そんな.....では私達は....」
【えぇ、貴方達二人は私の書き換えの犠牲者ですよ。
とは言えそれももうすぐ終わりますが....】
「終わるとは....どう言う意味だ?」
【貴方達に記憶の逆流が起きていると言うことは正常にエクストリームが起動した証なんですよ。
道が出来れば後は鍵を手に入れるだけ....】
そう言うと無名は一本のメモリを取り出す。
【この記憶をメイカーに見つけさせるのには苦労しましたよ。】
「
無名がメモリを起動させると空間が歪みメモリが消失し変わりに白い結晶が埋め込まれた鉱石が無名の手に収まった。
【財団が管理し今は琉兵衛の元にあった"クリスタルサーバー"これだけの大きさなら鍵として充分だろう。】
【後はタイミング.....】
しかし、ここで井坂とシュラウドの頭が跳ね上がる。
そして、無名を見つめるとシュラウドは彼を恐れ井坂も分かりやすく焦りだした。
「なっ!何故貴様が生きている?」
「何で.....お前が....!」
【おやおや....全て思い出しましたか?
しかしもう.......】
【"手遅れ"だ。】
Another side
エクストリームの力に覚醒したWはゾーンとビーストを見つめただけで全ての知識を閲覧してしまった。
『ビーストとゾーンの能力の全てを閲覧した。』
『「プリズムビッカー」』
二人がそう唱えると中央のクリスタルサーバーからXの文字が刻まれた盾が現れる。
そして、手に持っていたメモリを起動する。
「
メモリを中央のスロットに挿し込み気に抜くとプリズムソードが出現した。
「ふん!そんな物で私達を倒せると思っているの?
行くわよ"マル"!七、三、五、九」
ゾーンがメモリの力を使いビーストを瞬間移動させながらWに奇襲を仕掛けるが簡単に反応されて斬られてしまう。
「なっ!」
『貴女の戦闘パターンも検索は終えている。
もう、僕達に奇襲は通じない....そして』
「PRISM MAXIMUMDRIVE」
「
二人の掛け声と共にプリズムソードにエネルギーを纏わせてビーストを斬った。
吹き飛ばされたビーストの身体に大きな傷跡が付く。
「こんなもん....直ぐに回復して...!?何でだ傷が....回復しねぇ...」
ビーストは痛みから地面に倒れる。
『このプリズムメモリとプリズムソードには検索が終わった相手のメモリの能力を無効化させる力がある。
君がいくらエンゼルビゼラを使って強化してもビーストメモリである以上、この力には勝てない。』
「丸っ!....クソッ!こんなところでやられてたまるかっ!」
ゾーンがWに向かってビームを放つがWはそれを見ずに"ビッカーシールド"で防ぎつつメモリを盾に装填していく。
「CYCLONE,HEAT,LUNA,JOKER」
『MAXIMUMDRIVE』
Wは剣を盾に仕舞うと盾の中央を回す。
『「
すると、盾から七色のエネルギーがビームとなり放出しゾーンの作ったフィールドを破壊するとそのままゾーンに攻撃が辺りメモリブレイクされた。
「ベルぅ!.....そんな..テメェーーーー!」
ビーストは怒りを現し斬撃を飛ばしてくるがそれを盾で防ぎながらもう一度マキシマムを発動する。
そのまま、Wが走りながらビーストに近づくとその勢いで剣を抜きすれ違いざまに斬り付けた。
『「
七色に光る斬撃がビーストを捕らえると爆発しメモリブレイクされて人間の姿に戻った。
『エンゼルビゼラの副作用をなるべく排除する方法を選択した....これで副作用の心配はないだろう。』
「後はお前だけだ無名!」
翔太郎はそう言うと剣を
「仕方がありませんネ。」
そう言うと無名は刀を作り出しWへと向かっていった。
しかし、無名の攻撃は読まれておりカウンター気味に斬撃が決まり吹き飛ばされてしまう。
『今だ翔太郎、マキシマムで決めるよ!』
「.....あっ!....あぁ。」
Wはドライバーを一度閉じるとまた展開して開いた。
「
ベルトから緑色の竜巻が出現するとWを後ろから飲み込んだ。
そのまま飛び上がり必殺のキックの体勢に移る。
「
空中から無名に必殺キックが炸裂する。
「ぐぁぁぁぁあ!」
爆発と共にメモリブレイクされて変身していた黒服の男が倒れた。
『やったのか?』
「いや違ぇ!コイツは無名じゃねぇ!」
翔太郎が倒れている人物を見てそう告げる。
【その通り....流石は左 翔太郎ですね。】
そう聞こえると空からデーモンドーパントが降りてきた。
しかし、何時もの姿と違う。
瞳が赤くなり胸に瞳のようなクリスタルサーバーが現れ、そこからひび割れの様な模様が付いていた。
無名が黒服の男に手を向ける。
【"MAGMA".....起動。】
そう言うと地面が割れて黒服の男はマグマに飲まれていった。
「無名!お前何してんだ!」
Wがプリズムソードで無名に襲いかかるがそれを片手で防いでしまった。
『プリズムソードを防ぐなんて.....』
【まだだ.....今の君達はエクストリームにより鍵を手に入れただけに過ぎない。
その力の真価はそんな物じゃない....】
『それは....一体どういう?』
【悪いがこの
眠ってもらおう.....】
【ERASE...SHEEP起動。】
すると、Wの変身が解除され倒れていた照井とそれを助けていた亜樹子も気を失った。
【さぁ、ここからだ。
楽しいゲームの始まりは.....】
そう言うと無名は黒炎のゲートを通りその場を後にするのだった。
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第九十一話 Dの本性/動き出す悪魔
「ぐっ....強い。
やはりエクストリームの力は強大だな。」
そう言う井坂の意見を否定する。
【それは違うな...エクストリームは言わば資格だ。
我々の力を使うための...本棚を開く鍵なんだよ。】
「貴方の目的は何?....私達を...この世界をどうするつもりなの?」
シュラウドが無名に尋ねた。
【別にどうもしない...私は自分の楽しみのためにここに存在している記憶だ....今の君なら理解しているのだろう地球の力の本質を】
「まさしく、悪魔と言うわけですか。」
【ふふっ....君にそう言われるとは....皮肉が聞いているな井坂 深紅郎。
やはり君は"何時あってもユーモアがある"。】
そうしてWの方を見ると丁度、偽物のデーモンドーパントと戦っていた。
【どうやら、彼方も終わりそうだな。
"余計な証拠"を残さないためにも処分しておこう。】
「待ちなさい!.....」
シュラウドがそう言って追いかけようと身体に力を加えるが動くことが出来なかったまるでメモリその物に抑えつけられている様だった。
【また、会いましょうシュラウド、井坂。
まだまだ楽しませてください....】
【"貴方達の物語"を.....】
無名がそう言ってその場を後にした直後、強烈な睡魔が二人を襲う。
無名の力だろう....意識を失う直前、シュラウドは手を伸ばしながら無名のいる場所を掴もうとする。
「ま....ちな....さ....い。
ゴ.....エ.....ア。」
ようやく思い出した無名の中に存在する者の名前を呼びながら意識を失った。
無名が目を覚ますとそこは真っ白な空間に本棚がある場所だった。
原作でウンザリする程見た
【目が覚めたようだね。無名君。】
そう言って現れたのはデーモンドーパントの姿をした謎の人物だった。
「貴方は....一体?」
【そうだね..先ずは自己紹介からしようか。】
そう言うとデーモンドーパントは元の人間の姿に戻ったが無名と瓜二つの姿をしていた。
違うのは瞳が赤色だった点ぐらいだ。
「僕が.....もう一人?」
【君の活躍は見させてもらったよ。
実に素晴らしい、これまで"数千とやり直してきた"が君の行動はそのどれとも当てはまらない。
ゲームっぽく言えば新ルートを開拓した気分だよ。】
「やり直し?....君は誰なんだ?そもそも何で僕が地球の本棚に入れるんだ。
ここに入れるのは地球の意思とリンクした人物で無いと不可能な筈だ。」
【答えてあげても良いんだが....それでは面白くないなぁ....そうだゲームをしよう。】
「ゲーム?」
【そうだ。】
そう言うと僕の目の前に本棚が現れる。
そこには表紙が真っ黒に染められた本が揃えられていた。
「これは?」
【私の記憶を封じ込めた本棚だよ。
ここに全ての真実が記されている。】
僕は本棚に触ろうとするが謎の力に弾かれてしまう。
【あっはっは....だから言っただろうゲームだって
中身を知りたいのなら問題に正解しないと...】
すると、本棚の前に文字が浮かんでくる。
《地球とは何か?》
そう書かれていた。
【この問題の答えが分かったらまた来ると良い....
そうしたら真実と君にちょっとした力を分けて上げよう。
それじゃあまたおいで.....】
指を弾くと無名の立っていた地面が失くなり落下する。
落ちていくなかで赤目の無名が言った。
【今日は気分が良いから1つだけ君に教えてあげるよ。
私の名前だ....とは言え全部含めたら数百は下らないから一番お気に入りな名前を教えて上げよう。】
【私の名前は"ゴエティア"。
原初の悪魔と呼ばれる者だ。】
目を覚ました無名はベッドの上にいた。
「一体....あれは?」
"ゴエティア"と言った自分と瓜二つの存在。
夢だとは思えない...とすればコイツは何者なんだ?
無名はデーモンメモリを見つめるが分かることはなかった。
携帯を手に取り時間を確認しようとすると琉兵衛からの着信があることに気付いた。
直ぐに無名は折り返す。
「申し訳ありません琉兵衛様。
何か御用でしたでしょうか?」
「.....実はミュージアムで保管していた"例の物"が突如消えてしまってね。
所在を調べているところなのだよ。」
「例の物....ですか?」
「何か知らないかね?
君がその時、井坂君と行動したのは知っている。
冴子からも確認したからうたがってはいないのだが、
何分、帰ってきた時にミュージアムの構成員を連れていったと聞いたのでね。
私はその事を聞いてなかった....何をしていたのか聞かせてもらえるかな?」
(僕が構成員を連れていった?
そんな覚えはない....と言うよりも僕の記憶ではビーストに吹き飛ばされて以降の記憶が無い。
やっぱりその後に"ゴエティア"が何かしたのか?)
無名はそう考えて辺りを見回すと1つの資料の束を見つけた。
表紙には新開発のメモリについて書かれている。
(これを使えと言うことか?
信用したくはないがここで琉兵衛に疑われる危険は避けたい。)
僕はその資料を見ながら琉兵衛に言った。
「新開発したメモリの稼働実験を行っていたんです。」
「.....ほぅどんなメモリだ?」
「フェイクメモリです。
能力は触れた他者をコピーして擬態する。
ダミーメモリと類似点はありますがこちらは自分をコピーした相手だと錯覚する傾向があります。
一般販売としては向かないメモリですが、僕をコピーさせた結果、能力の差違はほぼありませんでした。」
「ゴールドメモリでもコピーできたのか?」
「はい、しかし時間も短時間でしたので検証の余地は残っています。
新しいWに倒されてしまいましたから.....」
「新しいW?」
「はい、鳥型のガジェットにより変身した新たな形態にビースト、ゾーン、フェイクメモリ使用者は全員やられてしまいました。」
「井坂くんの求めていたメモリの持ち主とも戦ったのか。
彼からそのWの事は報告は受けていたが、随分と強くなったものだな。」
「分かった無名....悪いが君には直ぐに我が屋敷に来てもらいたい。
そこで、今後について話し合おうじゃないか。」
「承知いたしました。
直ぐに向かいます。」
無名は電話を切ると着替えて園咲邸に向かうのだった。
Another side
井坂はWがエクストリームに変身した現場にいたことを思い出していた。
そして、その違和感に頭を悩ませる。
(何故、私のそこから先の記憶が無いのでしょう?
エクストリームの戦闘を見て満足した...有り得ない。
となると、有り得る可能性は)
「エクストリーム以上の"何か"と私が対峙していた。」
それば何かまでは分からない....ソイツから攻撃を食らったのかもしれない。
だとすれば警戒する必要がある。
(やれやれ....本当ならばあのメモリを奪いに行こうと思っていたのですがね。)
井坂は手にする筈だったメモリを思う。
"ケツァルコアトルスメモリ"....琉兵衛に勝つために手に入れる予定だったゴールドメモリ。
しかし、そんなトラブルがあっては今動くのは得策ではない。
(仕方ありませんが....今はこちらで我慢しましょう。)
そうして、井坂が持っていたのは獅子神から提供された銀色のアダプター。
そう、Vシネアクセルでコマンダードーパントやアクセルが使用した"ガイアメモリ強化アダプター"であった。
その実験に参加できるようになり、漸くこれを手に入れることが出来たのだ。
(ガイアメモリの出力を三倍にする装置.....素晴らしい。
だが、私が使うには少し力が足りませんね。)
そう言うと井坂はアダプターを持って冴子のいるディガルコーポレーションを尋ねた。
冴子は井坂を見ると仕事を止めてこちらに近づいている。
「井坂先生、珍しいですね。
私の会社にまで来てくださるなんて....何か御用ですか?」
「えぇ、実はこのアダプターの事なんですよ。」
そう言って井坂は冴子にアダプターを見せる。
「これは獅子神と開発している装置ですよね?
これを何故?」
「私に合わせて改造して欲しいのです。
もっと強く.....ね。」
「強く.....ですか?」
「えぇ、実は最近、手強い相手と遭遇しましてね。
そいつを倒すためにはメモリを吸収するだけでは足りないと思ったのです。」
(新しいWの事ね。)
新たな形態のWの事は無名から送られてきた報告書で聞いていた。
「分かりましたわ。
早速、無名に命じて作らせます。
どんな強化をしたいのか聞きたいのでオフィスでは無くホテルで話をしませんか?」
冴子の問いに井坂は答える。
「良いですね.....じっくりと話し合いましょう。」
そう言うと井坂と冴子は会社を出て車で何処かへ消えていくのだった。
Another side
シュラウドは完成したアクセルの新しいメモリ"トライアルメモリ"を持ちながらあの時の事を考えていた。
(何故、私はあの時の記憶が無いの?)
それは左 翔太郎と来人がエクストリームを手に入れてから後の短い時間の記憶....それだけがシュラウドの記憶からスッポリを抜けていてのだった。
(まさか、メモリの不調かしら?)
シュラウドは自分の胸に手を当てた。
シュラウドは琉兵衛から受けたダメージから逃れるために"とあるメモリ"を使っていた。
それが今のシュラウドを形成しているのだが、
それに何かのバグが起きたのかと身体の検査を始めた。
包帯を取るとその顔は大道マリアとそっくりだが顔の周りを黒い染みが動き回っていた。
これは琉兵衛から受けた恐怖のエネルギーと私のメモリによる副作用.....このダメージのお陰で私は今も生き長らえている。
身体にコードを着けて確認するが特に変化はない。
本当ならメモリを出して確認するのだが、そんな事をすればシュラウドは死ぬことになる。
この身体にあるメモリはもう抜くことは出来ない。
復讐を完了するまでは......
復讐と言えば最近の照井竜は期待ハズレな行動ばかりしている。
やはり、
(一度、確かめる必要がありそうね。)
そうシュラウドは考えるとトライアルメモリの最終調整を行うのだった。
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第九十二話 Dの本性/脱獄
何故ならば、とあるニュースが町に流れたからだ。
『風都刑務所にて多数の囚人が脱走しました。
付近にお住まいの方や外出をお控えください。』
風都刑務所で起きた脱走事件。
これは俺達、仮面ライダーにとっても忘れられない事件となった。
きっかけは照井からの連絡だった。
「至急、風都刑務所に来てくれ!
緊急事態なんだ!」
翔太郎とフィリップは風都刑務所に急行するとそこはまさに地獄のような光景だった。
刑務所内は血で染まり辺りには人だったパーツが散乱している。
「来たか左、フィリップ。」
照井はそう言って二人に近づいてくる。
「これは、どう言うことだ?照井。
ここで何があったんだ?」
「こっちに来い....表だって話せる内容じゃない。」
そうして、別室に通された二人は改めて照井から経緯を話された。
風都刑務所にドーパントの集団が突如、襲撃してきたと言うのだ。
そして、収監されている囚人を全員脱走させたらしい。
「おい!それって.....ヤバイじゃねぇか!」
風都刑務所には一般犯罪を犯した者だけではなくガイアメモリ犯罪に手を染めた者も収監されていた。
「最悪なのはそれだけじゃない...これを見ろ。」
そう言うと照井はイールチャンネルの画面を見せた。
「事件当日の監視カメラの映像だ。」
「彼等はあの時にあったレオと呼ばれるドーパントだね。」
「それだけじゃねぇ.....リザードやリッパーや見たこともねぇドーパントもいやがる。」
刑務官をシープドーパントが眠らせて檻の扉を開けるとレオが話し始める。
「お前らには生き残りをかけたゲームをしてもらう。
ルールは簡単だ!どんなことをしても良いから生き残れ。
"3日間、生き残れたら"自由にしてやる。
もし、3日経つ前にこの風都から逃げようとすれば殺す。」
「ふざけんなっ!何様のつもりだ!」
囚人の一人が横暴な意見にキレるがそれ以上話す前にリザードのチェーンソーで真っ二つにされてしまった。
「まだ、話の続きが残っている....黙って聞け。」
「まぁ、そう言うことだ。このままだとお前らに不利なゲームだが俺も寛大だ。
お前らにこれをくれてやる。」
そうして、リッパーが手に持っていたアタッシュケースを地面に放り投げる。
そこから無数のガイアメモリが出て来た。
「コイツはガイアメモリ....使えば超人になれる魔法の小箱だ。
とは言え見たことあったり使ったことある奴もいるだろう。
お前達の為にメモリを"20"本用意した。
確かここには囚人が183名収監されているのか?」
「いえ、一般犯罪の受刑者は除外しておりますので101名です。」
レオの言葉にリザードが訂正する。
「あ?そうだったか....まぁ良い。
つまり、ここから出られるのは20名ってことだ.....
後は分かるよな?」
「生き残りたければ殺し合え!超人になれたのなら他の奴らも全員殺せ!それがゲームの内容だ.....
それじゃあ、ゲームスタートだ!」
レオの合図で全員が動き出すがそこから先の映像は無く真っ暗になった
「監視カメラが破壊されたようで映像は残ってないがこの後、101名の囚人が生き残るため殺し合い残った奴らが脱走した。」
その映像を見た二人は表情が厳しくなる。
「じゃあ、今脱走している囚人は皆、ドーパントってことか?....ふざけんなよ!町の奴らの命を何だと思ってるんだ!」
「それで一体何人の受刑者が脱獄したんだい?」
フィリップの問いに照井がファイルを見ながら答える。
「現時点で確認できているのは"15名"だ。
これがそのリストだ。」
中身を確認するとそこには過去に翔太郎達が捕まえた犯罪者の名前も書いてあった。
「
「あぁ、
「こんなに沢山の元メモリユーザーが野に放たれるなんて.....」
「あぁ、早く捕まえねぇと...」
「そう言うことだ...左頼まれてくれるか?」
「あぁ、勿論だ照井...早くコイツらを探そう。」
そうして、フィリップのラボに翔太郎と照井は向かうのだった。
Another side
ディガルコーポレーションの屋上から無名、獅子神、サラは地上を眺めている。
「まるで、ハンティングね。」
サラの意見に獅子神が同意する。
「間違ってねぇよ....だがこれはリサイクルって奴だ。
メモリ犯罪を犯した奴等の有効性な再利用だ。
丁度、お前の作ったメモリの実験も出来るしな。」
獅子神の問いに無名が答える。
「そうですね。
"プロダクトタイプを四本"....そして"シルバータイプを一本"今回の実験のために用意しましたからね。
有用な成果が出ることを願ってますよ。」
「ふん!それよりも分かっているよな?
俺達の役目は」
「脱獄した彼等が風都を出ないように見張るのでしょう?
その為に、三幹部と部下を総動員しているんですから失敗なんてしないわよ。」
「なら、良い。
今回の実験は琉兵衛様も大変に興味を持たれている。
これだけの大規模な実験なんだ。
何かしらの成果は得られるだろう。」
「どうやら、井坂もこの件に関わるそうですが、それはどうします獅子神?
邪魔をするのなら止める必要があるのでは?」
「そうだな....じゃあ無名お前に井坂の監視を命ずる。
忘れてないだろうが今回の実験の責任者は俺だ。
俺の命令は絶対だ....良いな?」
「そう、念を押されなくても分かってますよ。
では、行ってきます。」
そう言うと無名はその場を後にした。
「それで私は何をするの獅子神?」
「サラ....お前には何かあった時の為のサポートに回ってもらう。
Wとアクセルもこの一件に関わってくるだろうからその調整を頼みたい。」
「調整と言うことは....誰を生かして誰を殺すか決めるってことね。」
「そう言う事だ....頼んだぞ。」
そう言われるとサラもその場を後にした。
一人になった獅子神は下で広がる光景を見ながら呟く。
「さぁ....俺達を楽しませろよ。
仮面ライダー共....そして哀れな
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第九十三話 Cの来襲/抑えられない食欲
「JOKER EXTREAM」
Wは逃走するマネードーパントに必殺キックを当てるとメモリブレイクし加賀泰三が姿を現した。
「ぐふっ....またツキが回ってきたと思ったの....に」
そう言って気絶した。
「あん?何で気絶してんだコイツ?
今のコネクターじゃここまでなんない筈だろ?」
翔太郎の問いにフィリップが答える。
『恐らく何らかの理由でコネクターが旧式の性能の物が使われたんだろう。
映像ではコネクター手術を受けている様子も無かったしね。』
「成る程.....それにしても意外だな。
もっと暴れる奴が居るかと思ったが、変身してるのを見つけたのはこいつだけだぜ。」
不思議なことに脱獄した囚人達はメモリを使ってドーパントになったと言う報告を受けていなかった。
このマネードーパントだって見つけて追っかけた結果、変身したのだから.....
「にしても、何でコイツら変身せずに逃げ回ってるんだ?
それだけ組織の奴らが恐ろしいのか?」
『それかそれ以上の存在がいるかのどちらかだよ。』
「あん?一体どういう....」
そう言いかけた時、Wの横をコックローチドーパントが通りすぎようとした。
「あっ、テメェ!」
逃げようとするドーパントを捕まえる。
「はっ.....離せぇ!」
「その声は....お前伊刈か?」
「お前達は仮面ライダー....丁度良い"助けてくれ!"
俺はまだ死にたく....」
伊刈がそこまで言った時、彼の足に何かが絡み付き思いっきり引っ張られた。
「なっ!何だこれ?」
翔太郎が咄嗟に掴もうとするが放電攻撃を受けて倒れてしまう。
その間に伊刈は何かに引っ張られて路地裏に消えていった。
「何だこれは?」
『翔太郎!気を付けろ何か来る!』
フィリップの忠告に警戒すると一人の青年が現れた。
青年はWを見ると笑う。
「わぁ...仮面ライダーだぁ!嬉しいなぁ!やっと会えたぁ!」
「何だコイツ?」
「あのね....僕ずっとお腹が空いてるんだ。
食べても食べてもお腹が減って死にそうになるんだよ。」
そう言うと青年は自分のお腹を擦る。
『彼は何を言っているんだい翔太郎?』
「俺にも分からねぇよ。」
そんな話をしていると照井が合流した。
「大丈夫か左......!?お前は何故ここにいる!」
『彼を知ってるの照井竜?』
「あぁ、奴の名は"
ドーパントではない普通の人間だが58人を殺害し死刑囚となっていた人物だ。」
「何でそんな奴がこんなところに?」
「あぁ、駄目だやっぱりお腹が減る。」
そう言うと真島はメモリを取り出した。
『翔太郎!彼が持っているのは"シルバーメモリ"だ。』
「何だって?」
「
真島は舌にメモリを挿すと身体が変化しドーパントになった。
その姿はこれまでのドーパントと違い異質であった。
顔は"Tレックスに見えるが身体は"マグマと氷"で彩られ背中の突起には"電気"が流れその中には"ロケット"の放出口があり下には"タコの足"のような尻尾が生えていた。
「何だこのドーパント?意味が分からねぇ。」
そんな見た目に苦言をていする翔太郎を余所に照井はドライバーをつけるとアクセルメモリを起動し装填する。
「変.....身!」
掛け声と共にスロットルを回すことで照井は仮面ライダーアクセルへと変身した。
変身したアクセルがエンジンブレードでキメラドーパントに斬りかかる。
しかし、それよりも速く移動したキメラはそのままアクセルを突き飛ばした。
「グハッ!何て言う速度だ!」
「照井っ!....フィリップこういう早い奴にはルナトリガーだっ!」
『分かった。』
「LUNA,TRIGGER」
Wがメモリを切り替えてルナトリガーに変身するとトリガーマグナムを発射した。
高速で移動するキメラを追尾するが突如、身体から白いクリームのような物体を放出すると固くなり壁となって弾を防いだ。
「何っ!?」
「次は僕の番.....」
そう言うとキメラは頭頂部から巨大な角を出現させると背中のロケットを点火して更に加速したタックルをWに浴びせた。
いきなり近付かれたWはそれに反応できず角が左胸に直撃した。
「LUNA,METAL」
咄嗟にフィリップがメタルメモリに切り替えていなかったら翔太郎の心臓は貫かれていただろう。
「助かったぜフィリップ。」
「あれれ?死んでないの?」
キメラは咄嗟に離れるとWを不思議そうに眺めていた。
「このままじゃ、埒があかねぇ。
フィリップ!エクストリームを使うぞ。」
そう、翔太郎が言った矢先に真島は後ろを向いた。
「食べれないなら興味ない!僕は帰る!」
キメラは怒った子供の様に言うとロケットを再点火しその場を後にした。
「何だったんだ?あのドーパントは?」
そう思いながら変身解除すると翔太郎は照井の元に駆け寄る。
「おい大丈夫か照井?」
「俺に質問をするなっ....これぐらい問題ない。」
「そうかよ....それにしても何なんだアイツは....
確か58人を殺した死刑囚って言ってたよな?」
「あぁ、あの男は中学から今に至るまで58人の人間を殺して食べたとされている犯人だ。」
「食べた?人をか?」
「あぁ、その通りだ。」
「詳しく聞かせてもらおうか照井?」
「俺もそうしたい....もう1つの厄介事もあるしな。」
「厄介事?」
「この情報をくれたのは九条綾なんだ。」
「お前っ、綾さんと会ったのか?」
「あぁ、今彼女は刃野刑事に拘束させている。」
「刃さんに?おいおい照井気は確かか?
彼女はメモリを持っているんだぞ!」
「それなら、彼女は渡してくれた。」
そう言うと懐からトライセラトプスメモリを取り出す。
「一体、何の目的でそんな事を.....」
「それを話したいらしいのだがその条件が君とフィリップを同席させることでな....その為に左とフィリップを探していた。」
「話は分かった....なら行こうぜ。
今回の一件がどんな事件なのか話してもらいたいしな。」
そう言うと翔太郎と照井は彼女を留置している風都署へと向かうのだった。
Another side
琉兵衛と共にこの実験を見守っている冴子、師上院はここまで順調に行っていることに安堵した。
「どうやら、実験の第一段階は成功のようね。
師上院...彼が手に入れたメモリの力は合計いくつ?」
冴子の問いに師上院が答える。
「マグマ、アイスエイジ、Tレックス、コックローチ、スイーツ、オクトパス、ライトニング、ポルーション、ウォーター、ロケット、そしてライノセラスです。」
「ほほぅ、随分と蓄えたものだ。」
無名により新たに開発されたキメラメモリの進捗に琉兵衛が笑う。
「それで....例の"ガイアメモリ強化実験"の結果は?」
「えぇ、概ね良好と言えます。
マグマやアイスエイジ、Tレックスに至っては強化された結果、性能がかなり上がりましたね。」
これは無名が行った副次的な研究で既存のガイアメモリに追加で知識を流し込むことでメモリを強化する実験だった。
そして、この実験のために選ばれたのが古代種の記憶や自然の記憶の中でも古い記憶を持つメモリが選ばれた。
「しかし、シルバークラスにまで強化されているメモリは今のところ皆無です。
実験自体は成功でしょうが目的は不達成だと無名は言っておりました。」
師上院の言葉に琉兵衛は笑う。
「はっはっは、相変わらず真面目な男だな無名は...
だが、彼の研究のお陰でこれ以上調べるもの等無いと思っていたメモリも調べる価値が出てきたと言うことになる。
本当に面白い発見をしてくれた。」
「まぁ、引き続き見ていくとしよう。
この壮大なる舞台を物語の結末は喜劇か悲劇か?
じっくりと見させて貰おうじゃないか。」
琉兵衛はそう言うとモニターに写し出される真島の映像を見るのだった。
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第九十四話 Cの来襲/裏切者の証言
そんな彼女はメモリの毒素による暴走により最愛の人が愛した場所すら壊そうとして仮面ライダーアクセルによりメモリブレイクされて逮捕された。
そんな彼女は今、照井や刃野、翔太郎やフィリップが集まっている風都署の取調室に集められていた。
「九条さん....あんた何で自首してきたんだ?」
刃野が九条にそう尋問する。
「左 翔太郎とフィリップ...そして照井警視が来るまでは話すつもりはないわ。」
「こりゃあ取りつく島も無いなぁ...」
刃野がそう笑っていると照井と翔太郎とフィリップが尋問室に現れる。
「左達を連れてきたぞ....さぁ話して貰おうか。」
照井の問いに九条が答える。
「そうね.....でもその前に貴方には眠って貰おうかしら?」
そう言うと九条は突如立ち上がり刃野の頭に蹴りを加えて気絶させる。
「刃さん!....何しやがるんだ!」
「こうでもしないと"仮面ライダー"と話せないでしょう?
特にその事を秘密にしてるのなら尚更ね。」
照井も意図が分かっていたのか九条を取り押さえることはしなかった。
「じゃあ、約束通り話すわ。
あの時に何があったのか.....」
突如、始まったゲームを受けて受刑者達は一斉にメモリへと群がった。
私もそこに参加したわ....でないと死ぬ未来しか見えなかったから、そして手に入れたのがトライセラトプスメモリだった。
皮肉よね....風都をこの手で破壊しようとしたメモリをまた取るなんて....
メモリにはへんなアダプターが付いていたけど私は生き残るためにもメモリを挿した。
そして、ドーパントになるとなるべく戦わないように立ち回った。
中には戦闘を楽しんでいる奴等もいた。
アームズとビーストのメモリを持った奴は特にね。
けど、そんな状況も真島が現れた事で終わりを告げるの
彼がキメラメモリを身体に取り込むと襲ってきたマグマドーパントを捕まえて食べ始めたの.....
その光景には戦っていた私達も動きを止めて絶句してたわ。
そして、マグマドーパントを食べきった真島は手当たり次第のドーパントを食らい始めた。
それに反抗する者も現れたけど全く歯が立たず真島のご飯になった。
真島が五人のドーパントを食べ終わった時には周りは大パニックになった。
そうしてメモリを持っていた人間は外に逃げるように出ていったの.....
私も逃げている最中に偶然幹部の会話を聞いてしまった。
「順調だな....コイツが解き放った全てのドーパントを喰らえば目的は達成する」ってね。
これが刑務所で行われていた事の顛末よ。
話を聞き終わった三人はそれぞれ沈黙していた。
「仮にそれが本当だとして....九条さんアンタの目的は何なんだ?」
翔太郎の問いに九条が答える。
「1つ目は私の安全の確保かしら....2つ目はこの事件の解決のために同行させて欲しい。
それだけよ。」
「何でこの事件に関わりたいんだ?」
その問いに照井が答えた。
「真島を捕まえたのが"溝口"だったからか?」
"
彼女がドーパントになった原因でもある。
「.....それは貴方達の想像に任せるわ。」
話を終えると九条の監視を部下の刑事に任せて三人は部屋を出た。
「どう思うフィリップ?」
照井の問いにフィリップが答える。
「さっき、地球の本棚で検索したが情報に間違いはなかった。
"真島"は幼少期から両親に虐待を受けており、初の殺人はその両親だった。
そして、その両親を食べて生きていたらしい。
それからは各地を転々としながら殺人を繰り返しては、食べて生き長らえていたようだ。
そして、風都で溝口に捕まり死刑囚として収監されていた。
恐らく、そんな彼だからこそ"キメラメモリ"と適合したんだろうね。」
「このメモリの特筆すべき能力は"ドーパントを食べる事でその能力を手に入れる"事が出来る点だ。
恐らく、他のドーパントが暴れなかったのも真島から逃げるためだろう。」
「あのドーパントにはTレックスの意匠もあった.....つまりは」
「残念だろうけど君の幼馴染である"津村 真理奈"も恐らくは......」
「.....そっか。
なら、さっさと真島を捕まえないとな。」
「あぁ、彼の動向について検索をかけてみよう。」
「俺は町で聞き込んでみるわ。
照井、お前はどうする?」
「俺は九条ともう少し話してみる....何か情報を持っているかもしれないからな。」
こうして、お互いにやることを確認すると其々が行動を開始するのだった。
風都のトンネルの1つで有馬鈴子、有馬丸男、倉田剣児が共に隠れていた。
「何なんだよアイツは?」
倉田の言葉に丸男が答える。
「んなこと知るか....頭のおかしいメモリ使いなんていくらでもいるだろうが。」
「それにしても本当にここは安全なのか?」
倉田の問いに今度は鈴子が答える。
「ここの事を知っているのは私達だけ....警察も知らない隠し通路よ。」
「ねぇ、そう言えば何でアンタは私達に着いてきたの?」
鈴子の問いに倉田が答える。
「アンタらは他の奴と違ってチームで動いてた。
俺も昔チームを組んでたからな....そう言う奴等といた方が生存率が高そうだと思ったんだ。
それにアンタの相方のメモリは強い....強い奴と組んだ方が得が多いと判断しただけだよ。
俺は生きて"冬美"と会わなきゃいけないからな。」
そんな話をしていると真島がこのトンネルに現れた。
「なっ!ここは安全じゃなかったのか!」
「確かにここの事は誰にも言ってないよ!
そもそも、入り口すら塞いでいた筈なのに.....」
鈴子が分かりやすく狼狽えている中で真島が呟く。
「1....2..3...これだけあれば暫くは持つかな。」
そう言うとメモリを起動する。
「Chimera」
そして、キメラドーパントへと姿を変えた真島を見て倉田が驚く。
「アイツ....また姿が変わってる。」
「クソッ!殺るしかねぇ!ベル!それに倉田!メモリを挿せ!」
そう言うと三人はそれぞれのメモリを起動する。
「Beast」
「Zone」
「
そうして、其々がドーパントへと変身するとビーストがキメラに切りかかり、アームズとゾーンが銃とビームでキメラに攻撃を始めた。
キメラはスイーツの能力である硬化するクリームをポルーションで周囲に振り撒いた。
近くにいたビーストは細胞レベルに浸透したクリームにより下半身が完全に硬化してしまう。
そして、遠距離攻撃をウォーターとアイスエイジで作り出した氷壁で防いだ。
そして、コックローチとロケットの速度にTレックスとライノセラスの破壊力を込めた突撃がアームズの右腕を吹き飛ばした。
「ぎゃぁぁあ!おっ....俺の腕がぁぁ!」
そして、キメラは落ちた腕を拾って食べるとゾーンに狙いを定める。
ゾーンは逃げようと展開したフィールドを駆使して瞬間移動を行うがコックローチの速度とオクトパスの触手に捕まりそのままライトニングとマグマの攻撃により全身にダメージを負ってしまった。
「ちゃんと火を通さないと....お腹壊しちゃうから」
キメラはそう言うとゾーンを自分の触手ごと、食べ始める。
まるで、三角形のチョコでも食べるように端から齧っていく光景にビーストは憤慨する。
「ベルぅ!返事をしてくれベル!
テメェ、ベルに手を出すんじゃねぇ!」
そう言って動こうとはしてみるが足が動く気配は無い。
そして、ゾーンを食べ終わると能力により瞬間移動してビーストの目の前に転移する。
「君は....どう食べようかな?」
そうしてキメラはビーストの硬化した足を見る。
「そうだ...全身を甘くコーティングしてあげるよ。
君はお菓子にして食べてあげるね。」
そう言うとキメラは口から先程と同じポルーションとスイーツの混合物を吹きかける。
「クソッ!ベル.....守れなくてすまね...」
そこまで言いかけてビーストは全身が硬化されてしまった。
「嫌だ....死にたくない!嫌だぁぁぁぁぁぁ!」
倉田は無くなった腕を気にも止めずキメラの前から逃亡しようと走った。
仮面ライダーに負けてガイアメモリを失ってやっと気付いたんだ。
冬美の大切さを....俺は生きて帰るんだ。
そして、謝るんだ...俺のした罪を...許して貰えるかなんて分からないけど、それでも大切に思ってくれた仲間のために。
「戻...るん.....だ...」
アームズは心臓をキメラに貫かれて命を無くした。
そして、その遺体を頭から喰らい尽くす。
「....ふぅ、美味しかったぁ!
あっちのはおやつにしようかな?」
キメラは固めたビーストを見ながら呟く。
真島にとってこれは殺人でも犯罪でもない単なる食事なのだ。
だからこそ、彼にとってご飯の人生や思いなんてどうでも良い。
旨く食べる事が出来ればそれだけで幸せなのだ。
彼はメモリを抜くと幹部から貰った携帯を取り出した。
彼等が刑務所で手に入れたメモリには発信器が着いておりこの携帯でその位置を追跡できるのだった。
「次は....."風都署"?」
何故、風都署にご飯があるのか疑問に思ったがそれよりも直ぐに来た空腹に考えを書き消された。
キメラメモリの副作用により飢餓感が強くなっている真島にとって大切なのは食欲を満たすこと....
「取っておこうと思ったけどやっぱり食べちゃおう!」
ビーストに目を向けるとメモリを起動して食事を始めるのだった。
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第九十五話 Tの選択/託した憎しみ
そこで口笛を溝口の姿が九条は好きだった。
だからこそ彼が殺された事を知った時、私はメモリに手を出した。
だが、仮面ライダーに敗れて人間に戻ってから九条はずっと考えていた。
「溝口は私に何を残してくれたのか?
何をして欲しかったのかと.....」
「正直、意外だった。」
照井が九条に向けて言う。
「お前が俺達に協力してくれてもお前にメリットはない。
事件が終息したら脱走した罪も加算される。
恐らく、今度は終身刑を免れられないだろう。
何故、逃げなかった?」
「さぁ、私にも分からない....けどもし理由を付けるならそれは竜、貴方のお陰かしら」
「俺の?」
「貴方言ってくれたでしょう"お前の憎しみは俺が引き継ぐ"って....今の私にはもう憎む意味なんて無い。
だからこそ、純粋にやりたいことが出来ている。
そう言う感じかしら」
「九条.....君は」
照井が言葉を言いかけていると外から物凄い爆音がした。
窓を開けて外を確認するとキメラドーパントが風都署のど真ん中に現れた。
「何故、奴がここに?....クソッ!」
照井はドライバーを腰に付けるとアクセルメモリを装填して窓から飛び降りる。
「変..身!」
照井がスロットルを回すと仮面ライダーアクセルとなり地上に着地した。
「あれ?仮面ライダーがいる....何で?」
「俺に質問をするな。」
そう言うとエンジンブレードでキメラドーパントに斬りかかる。
しかし、切られてもビーストの能力により全くのダメージが無いどころか回復すらしていた。
「今度はこっちのばーん。」
キメラはアームズの力で右腕を剣に変えるとアクセルを斬り付けた。
あまりの威力に火花を散らしながら飛ばされる。
「グッ!....なめるなぁ!」
「ENGINE....JET」
ブレードにエンジンメモリを装填しジェットの力を発動して斬撃をキメラドーパントに飛ばすがアイスエイジとウォーターによる氷壁に攻撃を阻まれ逆にマグマとライトニングの合わせ技でダメージを喰らってしまった。
「グォッ!.....ハァハァまるで、ウェザーのメモリと戦っているみたいだ。」
アクセルはキメラの能力に宿敵の影を重ねる。
「....あーもう飽きちゃった。
これで終わりにする!」
「そう言うと口から煙を照井に向かって吐き付けた。
ブレードで照井はガードするが両腕がスイーツのクリームにより硬化して動かなくなる。
「しまった!」
照井はそう言うがキメラドーパントが止まることはなかった。
照井がキメラドーパントと戦っている時、翔太郎はもう一人の幹部と対峙していた。
石にされた左腕を抱えながら翔太郎が言う。
「クソッ!何たって幹部がこんなところにいやがる!」
「あらっ、随分な言い草ね。
折角、会いに来てあげたのに.....レディからのお誘いは素直に受けるのが男じゃないかしら?」
『翔太郎!エクストリームだ。
エクストリームの力で石化を無効化させる。』
そう言うとエクストリームメモリが空を飛んで現れWのベルトに付くとドライバーが展開した。
「XTREME」
Wはエクストリームへと変身が完了すると石化していた左腕が元に戻る。
「良しこれでバッチリだな。」
『「さぁ、お前の罪を数えろ!」』
二人の決め台詞にサラは淡々と答えた。
「悪いわね罪なんて感じて生きれる程、優しい世界に生きてこなかったの」
そう言うとゴーゴンドーパントとエクストリームWの戦いが始まった。
そして、もう1つこの戦いの中で獅子神と無名は井坂と会っていた。
目的は1つ井坂に頼まれていた井坂専用のガイアメモリの強化アダプターが完成したからだ。
見た目は黒と銀の配色だが形は同じだった。
「ほぅ....これですか。」
「えぇ、貴方の要望通り毒素のフィルター機能を排除しました。」
強化アダプターはガイアメモリの性能を三倍まで上げる代わりに毒素が増大する効果があった。
無名はそれにフィルターを付けて毒素を無効化していた。
その分、使用に制限時間が付くデメリットが出てしまったが、安全に使える道具としていたのだ。
しかし、井坂専用のアダプターにはそのフィルターがなく寧ろ毒素を更に増大させるシステムを組み込んでいた。
しかも、使用時間が延びる程、毒素も増えていくデメリット付きだ。
だが、その狂気的な改良のお陰でガイアメモリの出力強化が増えて"5倍"まで強化できるようになっていた。
「素晴らしい!これこそ私の求めていた品ですよ!」
井坂が歓喜しながら受け取ると話の話題を変えた。
「そう言えば今、風都で面白い実験を行っているようですね?
囚人を使ってこんなに楽しそうなことをしているとは、私も誘ってくれれば良かったのですが....」
「これは俺が直々に主導する実験だ。
誰を使うか決める権限は俺にある...お前はあくまで園咲家に匿われている犯罪者であり実験台に過ぎないんだ...それを忘れるなよ。」
「えぇ、それは勿論。
ただ、言ってみただけですよ。
それで....このアダプターの実験はいつ行えるのですか?」
「少なくともこの実験が終わるまでは待って貰う。」
「分かりました....では失礼します。」
そうして井坂はその場を後にした。
「素直に従うと思いますか?獅子神。」
「ふん!そんな訳無いだろう。
アダプターを受け取った時のアイツの目を見たか?
まるでクリスマスプレゼントでも貰ったかのように輝いてやがった。」
「となると....やはり?」
「あぁ、もしもの時のバックアップに付いて貰うぞ無名。」
「承知しました。
では、僕も準備がありますので....」
そう言うと無名をその場を後にした。
(そう言えばシュラウドからトライアルメモリが完成したと連絡を受けましたね。
原作では井坂と対峙した筈ですが今回はキメラメモリと戦うことになるのでしょうか?)
(それにしてもどちらが勝つのでしょうかね?
強化アダプターを手に入れた井坂かトライアルを手に入れた照井か?
もしも、井坂が勝つような事があれば僕も"あのメモリ"を本腰を入れて開発しないと行けませんね。)
それは無名がバタフライエフェクトを警戒して研究していた初の純化メモリであった。
しかし、今はどうなるか分からない以上、作るわけにはいかない。
原作通りの道を進むのならそれが一番なのだから....
「今回はお手並み拝見といきましょうか。
仮面ライダー達の力を.....」
無名はそう言うと静かに笑うのだった。
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第九十六話 Tの選択/悲しみの結末
(このままじゃ竜が死ぬ....それだけはダメ。)
九条はドーパントによりパニックになっている署内にある超常犯罪科の照井の机を物色する。
そして、1つだけ鍵がかかっている机があり近くにあったクリップを広げてピッキングをした。
机の鍵が開き中を見るとそこには九条が預けたメモリが入っていた。
九条はそれを握りしめると照井の元へ向かうのだった。
アクセルにキメラが近付くと大きく口を開けてかぶり付いた。
グシャ!と言う潰れた音と共に現れたのはトライセラトプスドーパントになり照井の身代わりとなってキメラに喰われた九条だった。
「九条!」
照井が彼女の心配をする。
「あ.....く....」
かなり深くまで噛まれており牙に至っては心臓を貫いていた。
「貴様ぁぁぁぁあ!」
溢れる怒りから照井は腕を拘束していたクリームを力任せに砕くとスロットルを回して身体を固めていたクリームを爆散させるとキメラに斬りかかる。
キメラは噛みつくのを止めて攻撃を回避すると倒れる九条を照井が助ける。
「何故だ!何故こんなことを!」
「よ....よかっ.....た。
あな.....た...が..ぶじ.....で...」
もう、声も出すのも苦しそうにしている。
その傷から照井も彼女がもう長くないと悟ってしまう。
「あ....り...が...と...う...りゅ...う。
あ.....なた...の...お...か...げ......で....」
九条が最後の力を振り絞って照井の頬に触れるとメモリが砕けて身体から排出され人間の姿に戻る。
血だらけの状態の九条を照井は優しく抱き締める。
「お礼を言うのは俺の方だ.....すまない。
.....ありがとう。」
そうして九条を優しく地面に下ろすとキメラドーパントを睨み付ける。
「貴様だけは許さん!」
そうして、アクセルはクラッチを握りマキシマムを発動する。
そうしてただ真っ直ぐキメラドーパントへ突っ込んでいった。
キメラドーパントはアクセルに向かって雷撃やマグマを放つがそれをものともしない。
「うぉぉぉぉぉぉぉ!」
「ACCEL MAXIMUMDRIVE」
アクセルの蹴りがキメラドーパントへと直撃するがメモリブレイクは出来なかった。
そして、その蹴りによりキメラドーパントにも変化が起きる。
「.....痛い。」
「痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛いぃぃぃぃぃぃぃ!」
突如、キメラドーパントの背中から触手が増えて一本一本が別々の角度でアクセルに攻撃を加える。
その触手には1つずつに能力が付与されておりマグマ、アイスエイジ、ライトニング、アームズ、そしてTレックスの特徴を有していた。
痛みにより我を忘れたキメラドーパントはアクセルを変身解除するまで触手で殴り付けると逃げるようにその場から姿を消した。
ボロボロの身体を引きずりながら照井は手を伸ばす。
「ま......て....」
血だらけの手でキメラドーパントを捕まえようと伸ばすがそのまま意識を失ってしまった。
そして、その姿をシュラウドが見つめる。
「やはり、照井竜は弱くなった.....左翔太郎と関わることで憎しみを忘れてしまったのね。」
こんな男では恐怖の帝王には勝てない。
そう結論付けて去ろうとするとそこに無名が現れる。
「おや、照井竜を助けないんですか?」
「今の彼に憎しみの心は無い....もう手を貸す理由はないわ。」
「そう決めつけるのは早いんじゃないでしょうか?」
「どう言うこと?」
「九条綾の存在です。
かつて照井が救った人物が今度は自らを犠牲にして照井の命を救った。
恐らく、彼のことですから彼女の事は助けようと本気で思っていた筈です。
大事な存在を失う....これは家族を失うのと同等の痛みを彼に与えるでしょうね。」
「もう一度、憎しみの炎が灯ると言うの?」
「なら、確かめてみたら良い。
どっち道、キメラに勝つには貴方の開発したメモリが必要だ....違いますか?」
無名の提案にシュラウドは少し考えると答えを出した。
「良いわ....もう一度確かめましょう。
照井竜に憎しみの炎が残っているかを....」
そう言うと照井を連れてシュラウドは何処かへ消えていった。
残ったのは血だらけの九条綾だけであった。
九条綾は薄れ行く意識の中で死んだ恋人である溝口に問いかけていた。
「ねぇ.....私は結局何が出来たんだろう?」
復讐も失敗して仮面ライダーに敗れそして今をこうして命を失おうとしている。
全く、最悪な人生だ.........
そう表現するのがピッタリだった。
すると、聞こえる筈なの無い声が聞こえてくる。
「そんなことはない.....お前は良くやったよ綾。」
それは正しく死んだ筈の溝口の声だった。
「あぁ....良かった。
また、貴方に....会えたのね。」
「あぁ、それにしてもお前はバカだよ。
俺なんかの為にこんなこと仕出かすなんて....」
「仕方...無いでしょ?....だって貴方を.....」
「"愛してしまったんだから".....」
「......そうか」
「.....ねぇ。」
「ん?」
「私は.....最後の最後に正しい事が出来たのよね....警察官として.....誇れる事が....出来たのよね?」
「どうだろうな.....俺には分からない......けど...お前が照井の命を救ったことできっとこれから先、照井はもっと沢山の命を救ってくれる筈さ......
だから、無駄じゃない......君の行動は....正しいと...俺は思うよ.....」
「そう....良かった.....私....貴方に....謝りたくて....」
「もういい.....分かってるよ.....
だからもう.....休んで良いんだ......」
「.....そうね.....何だか....疲れたわ.....ねぇ正輝...眠るまで一緒にいてくれる?.......」
「あぁ.....ずっと.....傍にいるよ.....」
「.....ありがとう....ま....さ...」
涙を浮かべながらも笑顔で彼女は逝った。
その姿を見た無名は"変声機"のスイッチを切る。
(確かに貴女は風都を破壊しようとした犯罪者だった.....けど、最後の最後で貴女は刑事でありヒーローでした。)
「おやすみ....九条綾....良い夢を....」
無名はそう言うとその場を後にした。
そして、彼女の遺体を翔太郎と亜樹子が発見するのだった。
翔太郎は黙って帽子を深くかぶり亜樹子は状況を刃野刑事に伝えると静かに泣いた。
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第九十七話 消えたT/再燃する感情
亜樹子が翔太郎に尋ねる。
「ダメだ....やっぱり照井と繋がらねぇ。
敵に捕まっちまったのか?」
その言葉をフィリップが否定する。
「いや、その可能性は低いと思う。
照井の事を検索してみたが死んではいなかった。」
地球の本棚には地球に存在する全ての情報が揃っている。
そこには人の生死も含まれており先程、照井竜の本を調べたら
「竜くんの居場所は検索できないの?」
「キーワードが少なすぎる.....
場所を特定する具体的なヒントが無い限り調べても分からないと思う。」
「照井も心配だが真島も問題だ。
警察の話じゃ、居所が掴めないらしい。」
連続殺人鬼でありキメラメモリと言う危険な能力を備えた物を使う文字通りの怪物が今もこの街に潜んでいる。
風都を守る仮面ライダーとしてそれは見過ごせない事態であった。
「クソッ!あの時に幹部を倒せていれば間に合ったかもしれないのに....」
「翔太郎....いくらエクストリームの力でも難しいことはある。
ゴーゴンドーパントの能力は厄介なものが多すぎる。
石化に加えて怪力に鉱物の操作....足止め出来ただけでも上出来だったと思うべきだ。」
エクストリームは一見、無敵のようなメモリに見えるがそれは"検索して即座に対応できる敵"に限る。
ゴーゴンドーパントを攻略するには初見では圧倒的に準備不足だった。
「分かってるさ.....分かってるけどよ....」
そう....翔太郎は甘い。
もし、照井と九条と自分達が揃っていれば照井が見つからない事もなく九条さんも死ななかったかもしれない。
そんな事を考えてしまいそれが、顔に出るぐらいには彼は甘さが残っている人間だった。
(だが、そのハーフボイルドが僕には必要なんだけどな....)
フィリップは翔太郎の肩に手を置く。
「仮面ライダーは超人ではあるが神ではない....
全てが救える訳じゃないんだ。
今は九条綾が守ろうとしたこの街を彼女に代わり守ることが僕たちに必要なことだろう?」
「......そうだなフィリップ。
もう一度、調査に行ってくるわ!
フィリップと亜樹子は照井の居場所を調べてくれ。
ガジェット借りてくぞフィリップ!」
そう言うと翔太郎はフィリップの持ってきたメモリガジェットを持つと外にくり出していった。
そして、残されたフィリップと亜樹子は残った情報から照井の居場所を探しだそうと調査を開始した。
目を覚ました照井の前には一台のバイクとオフロード用の走行ステージが広がっていた。
「.....ここは?」
「やっと、お目覚めかしら照井 竜。」
そう言ってシュラウドが姿を現す。
「シュラウド、俺は....」
「キメラメモリを使ったドーパントに敗れた貴方をここに連れてきたのは私.....確認したいことがあってね。」
「確認したいこと?」
「ええ、貴方の"憎しみ"についてよ。
まだ残っているのか不思議になってね。」
「どういう意味だ?」
「左 翔太郎と馴れ合った結果、復讐心も憎しみも失ってしまったんじゃない?」
「そんな事はない!井坂は俺が倒すべき相手だ!」
「"倒す"....ね。
前の頃なら"殺す"と言っていた貴方が変わったものね。」
そう言うとシュラウドが懐からメモリを取り出す。
「それは?」
「アクセルの強化を考えて作ったメモリだったけど....憎しみの炎を失くした貴方に渡す気は無いわ。」
そう言って立ち去ろうとするシュラウドにアクセルに変身した照井が立ち塞がり、エンジンブレードを向ける。
「俺にある憎しみの炎は....まだ消えちゃいない。」
仮面の奥におる瞳を見つめたシュラウドはメモリを照井に投げ渡した。
「良いわ....ならテストしましょう。
そのメモリを使いこなしてご覧なさい。」
照井はドライバーからアクセルメモリを抜くと新しいメモリを展開し起動する。
「
ドライバーにセットしてスロットルを回すとメモリに付いていた信号機が点滅する。
まるでレースのスタート音のような音が鳴り信号機が青色になるとアクセルの装甲が弾けて軽装な青い装甲の姿である"仮面ライダーアクセルトライアル"へと変身が完了した。
「その姿はアクセルトライアル......防御力と攻撃力を削り代わりに速度を限界まで強化した形態よ.....これを使いこなせれば貴方は"全てを振り切る速さ"を手に入れられる。
試しにそこの山を登ってみなさい。」
シュラウドが指を指す山を目指して照井は走るとあまりの速度に驚く。
「何て速度だ!」
「まだよ....このメモリの真価は」
シュラウドが懐からボタンを取り出し押すと山の頂が爆破し大きな岩が落石となって照井に降り注いだ。
無数に近い落石を回避しながら避けられない岩を拳で砕いていく。
だが、拳の力も弱くなっているらしく一発で完全に破壊することは出来ない。
「パワーが足りない。」
「違う.....戦法を変えるのよ。
一発で破壊できないなら何発でも打ち込みなさい。
十発でダメなら百発...百発でダメなら千発、相手を完全に破壊するまで攻撃を叩き込み続けるのよ。」
照井はその言葉に従い落石に拳と蹴りを連続で浴びせて破壊した。
「成る程.....このメモリの事は理解した。」
「そう....ならマキシマムを使って貰いましょうか。
メモリを抜いて元の形に戻しスイッチを押すとマキシマムが発動するわ。」
照井はドライバーからトライアルメモリを引き抜くと元の形に戻し親指でスイッチを押す。
すると、タイムの計測が始まる。
照井は山に向かって走り出す。
先程よりも洗練され素早くなったアクセルだったが途中で身体の動きが止まる。
「ウグッ!何だ?.....この力は!
まるで制御できない。」
そして、マキシマムを発動して9.9秒を過ぎた結果、
アクセルは強制的に変身を解除された。
そして、照井に降り注がれる落石をシュラウドは仕込んでいた爆弾を起動して破壊した。
「今のが実戦なら....貴方は確実に死んでいた。」
シュラウドは走行ステージとバイクを指差す。
「あのコースを"10秒以内"に走りきれば....トライアルマキシマムドライブを使いこなせる。
やるの?......やらないの?」
「俺に.....質問をするな。」
そう言うと照井は立ち上がりバイクへと向かうのだった。
Another side
園咲邸でこの実験を見ていた琉兵衛は報告に来ていた獅子神と対峙していた。
「中々に面白い結果だったよ。
ドーパントを喰らい能力を奪うメモリとは.....
シルバークラスなら申し分無い性能だな。」
「そう言って戴けるとは恐縮です。
メイカーは有用だと言う証明も出来ましたし無名も満足でしょう。」
「そう言えば無名はどうした?」
「サラの調子を見に行っております。
サラにはWの足止めを頼んだのですがそこで傷を負ったらしくその状態を確認しに向かっているようです。」
そう話していると部屋に無名が入ってきた。
「遅くなりました琉兵衛様。」
「構わんよ....それでサラの具合はどうだった?」
「新しい形態のWとの戦闘でダメージを負ってしまったようですがメモリブレイクもされておらずメモリにもダメージが無いことが確認できました。
しかし、暫く身体の治療のために安静にしておいた方が良さそうです。」
「そうか.....それは残念だな。
では、暫くの間水音町のメモリ販売は無名に変わって貰おうか。」
そこで獅子神が反論する。
「お言葉ですが琉兵衛様、無名は研究が専門でありガイアメモリの販売や供給には不慣れかと思います。
宜しければ私に兼任させて貰えないでしょうか?」
「それは構わないが....君には天ノ川地区の管理があるだろう?」
「はい、しかし天ノ川地区は今優秀な部下が回しているので問題ありません。
琉兵衛様....なにとぞ。」
琉兵衛は少し考えると獅子神に言った。
「良いだろう君に任せよう獅子神。
サラが復帰するまで水音町の管理を君に任せる。」
「ありがとうございます。」
「では、無名....君には通常通りメモリの開発を行って貰おうか。
何か新しい研究結果は無いかね?」
「研究結果ではありませんが.....最近財団Xで妙な動きがあると小耳にはさみました。」
「妙な動き?」
「えぇ、財団が独自でメモリの生産を行っていると言う情報があるのです。
しかも、我々の使うメモリではなく仮面ライダーが使うようなメモリの生産を....」
「それが本当なら....あまり喜ばしい事態ではないな。」
「えぇ、ですのでその調査をさせていただけないでしょうか?
幸いこちらには軽く動かせる駒もいます....
彼等に調べて貰いましょう。」
「NEVERか?」
「はい、仮にミスをしても彼等の独断で行ったと言えば角も立ちませんし有効な手かと思います。」
「......そうだなキース君の例もある。
用心しておくに越したことはない。
良かろう調べておいてくれ。」
「承知いたしました。
その関連で今後は琉兵衛様への報告で"園咲邸に向かえないことが多くなる"と思いますがどうぞお許しください。
それでは僕も失礼致します。」
そう言うと無名は部屋を後にした。
(.....良し時間は確保した。
NEVERにも一応、調査は頼んでおこう。
今、やるべき事はアクセルの強化案と....ゴエティアの問いに答えることをしないと....)
(恐らく、このデーモンメモリは普通のメモリと違う何かがある。
それを調べるためにも今はミュージアムに余計な監視をされたくない。)
そう考えた無名だったがアクセルの強化が気になりそれを見てから向かおうと思い行動を開始するのだった。
off shot
ベッドで休んでいるサラに美頭が差し入れとしてりんごを買ってきた。
「あらっ、ありがとう美頭。
心配してくれたのね?」
「勿論ですサラ様。
貴女は私の命の恩人なのですから......」
Wとの戦いで腕にプリズムソードによるダメージを受けてしまっていたサラは両手が使えない状況だった。
それを見たからか美頭が言う。
「もうじき、千鶴さんが貴女の御見舞いにきます。
私はりんごを剥いてきますね。」
そう言って部屋を出ようとするとサラが止める。
「美頭......頼みがあるんだけど聞いてくれるかしら?」
「はい?何でしょう。」
「......にして」
「あの....上手く聞こえなかったのですが...」
「りんごは"ウサちゃんに切るように"して.....」
サラは今こそミュージアムの幹部であるがその前までは人並みの幸せすら無かった人間であった。
故に彼女は表には出さないが普通の人が楽しんでいた事に羨ましさを持っていたのだ。
"病気の時にウサギカットのりんごを食べられる"と言う小さな幸福のようなものに.....
恥ずかしがりながら言うサラに美頭は笑顔で答える。
「えぇ、サラ様のご要望通りに致します。」
「ありがとう....それとこの事は他の部下には秘密でお願いね。」
「承知いたしました。」
そうして美頭はリンゴを持って部屋を出ていった。
しかし、サラは両手が使えないことを忘れていたようでアタフタしているところに千鶴が現れてアーンされてしまう悲劇を味わうのだが....この時の幸せなサラには関係の無い話だった。
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第九十八話 消えたT/覚悟の変身
親に暴力を奮われた日はいつも隠れるようにゴミ捨て場に隠れていた。
ここなら、汚いからか両親が追ってこなかったからである。
いつしか、この悪臭が彼の精神を落ち着かせてくれる臭いとなっていた。
久しぶりに感じた痛みにより忘れかけていたトラウマを思い出してしまった。
両親が笑いながら自分を殴り蹴る姿が頭から離れない。
「あぁ....あぁぁーーっ!違う違う!もういないんだぁぁ!だから怖くないんだぁぁぁ!」
一人頭を抱えながらキメラメモリを手に取る。
「大丈夫....これがある....もう痛い事は無いんだ....僕を痛くする奴なんてこれで失くせるんだ!」
自分をそう励ましながら荒い息を整えていく。
「ふーっ....ふーっ.....あの
そもそも、アイツが来なければ
痛みによる恐怖が食べられなかった怒りに変わっていく。
(二人とも見つけ出して殺してやる!)
真島はそう考えると立ち上がりアクセルを探すため動き始めるのだった。
照井はシュラウドからの試練を行うためバイクに乗り込んだ。
すると、シュラウドがバイクにトライアルメモリを挿す。
「これでこのバイクはトライアルのマキシマム発動時と同じ状態になる。
さぁ、行きなさい。」
照井がバイクでコースを走り出すがコントロールするだけで精一杯で速度が全く乗らなかった。
(これは....確かにマキシマムの時と同じ状態だっ!)
何とかコースを走りきりゴールに着くとストップウォッチをシュラウドが止める。
「13秒22.....失格よ。」
シュラウドの言葉に反応するように照井の乗るマシンから電流が走る。
「憎しみが足りない。
もっと憎しみの炎を燃やすのよ!」
「グッ....もう一度だシュラウド。」
照井はそこから何度もコースを回り10秒を切るために走り続ける。
「12秒42....14秒13.....12秒18...」
失敗する度に照井の身体に電流が走り痛みで呻き声を上げる。
「憎め....憎め...もっと憎むのよ!」
そんな中、亜樹子が照井の居場所を見つけて現れた。
「あっ!いた!竜くん!」
「所長?....しまっ!」
亜樹子に気を取られた照井はバイクから吹き飛ばされ気を失ってしまった。
「あっ!りゅ.....竜くん!」
亜樹子が照井に寄り介抱する。
「チッ!余計な真似を.....」
その光景をシュラウドは舌打ちしながら見るのであった。
「うん....そう.....だから翔太郎君、後はよろしくね。」
亜樹子が翔太郎に照井の安全を報告して電話を切ると、シュラウドに食って掛かった。
「アンタね!竜くんに何させてんのよ!」
「黙りなさい小娘!これは照井竜が望んだことよ。
貴女にとやかく言われる筋合いは無いわ。」
「こむ.....小娘ですってぇ!」
亜樹子は自前のスリッパでシュラウドをひっぱたこうとするがそこで照井が目を覚ました。
「ウグッ!.....眠っていたのか。」
「竜くん!気が付いたんだ....良かったぁ。」
「所長.....九条綾はどうなった?」
「綾さんは.......」
「そうか.....」
口をつぐんだ亜樹子の仕草でどうなったのか察した照井は立ち上がった。
「でも.....綾さん笑ってたんだ。
満足した顔で.....」
「満足だと?」
「きっと竜くんを助けられたからだと思う。」
「そんな.....甘いことが...あるわけ。」
「少なくとも私はそう思ってる。
綾さんは竜くんを助けたことを、きっと後悔しなかったと思うよ。」
「....ふん!甘い考えね。
荘吉の娘とはとても思えないわ。」
「....そりゃあお父さんと比べると私は甘いと思う。
けど、それが今の鳴海探偵事務所なのよ!
ハーフボイルドの探偵と知識オタクの相棒....そして私。
三人がいるから探偵が出来てるし、竜くんとも会えたのよ。
アンタは竜くんを憎しみだけの存在にしたいみたいだけど、そんな風にはならない....と言うかさせない。」
「だって.....竜くんは私達の"仲間"なんだから!」
照井はそれを聞いて立ち上がるとバイクに跨がった。
「シュラウド.......もう一度だ。」
「竜くん.....」
「俺は井坂に復讐するために仮面ライダーになった。
そして、翔太郎に風都を守る仮面ライダーの流儀に従うと約束した。
だが、俺は所長の言うように憎しみを捨てることは出来ない。」
「だが、シュラウドの言うように憎しみだけで生きるつもりもない。」
「俺はこのトライアルメモリを使いこなして見せる。
そして、真島を逮捕する!」
「......良いわ。
それが貴方の選択なら、けどラストチャンスよ。
これでダメなら分かっているわね?」
照井はバイクを走らせた。
これまでで一番の速さでゴールに到着した。
「......9.9秒、合格よ。」
「やったぁぁぁ!竜くん!」
10秒の壁を越えたことに亜樹子は喜んでいる。
そんな中、亜樹子の携帯に連絡が入る。
「翔太郎君...どうしたの?
えっ!分かった!竜くんに伝える。」
そう言うと電話を切った。
「竜くん!真島が警察の遺体安置所に現れたんだって!今、翔太郎君が向かってるって....」
「そうか.....俺も向かう。」
そう言うとトライアルメモリを抜き取りバイクをそのまま動かした。
その姿を見るとシュラウドはストップウォッチを捨ててその場を後にしようとする。
「あっ!ちょっとこれ」
亜樹子がストップウォッチを拾い上げるとそこには"10秒78"と表記されていた。
「10秒切ってないじゃん!どうして?」
「彼は私の求める憎しみを捨ててしまった....もう興味もない。」
「興味ないって.....ちょっと!」
文句を言おうと顔を上げるとそこにシュラウドはもういなかった。
照井が風都署に着くとそこではキメラドーパントとWサイクロンメタルが戦闘を開始していた。
職員は退避したのだろう。二人以外の気配を感じなかった。
Wが照井に気付く。
「照井っ!無事だったか。」
「世話をかけた....後は俺がやる。」
そう言うと照井はドライバーを装着するとアクセルメモリを起動する。
「ACCEL」
「変.....身!」
メモリをドライバーに装填してスロットルを回すと仮面ライダーアクセルへと変身が完了する。
すると、エンジンブレードでキメラドーパントへ斬りかかる。
すると、その場所に乱入者が現れる。
甲殻類の様な姿をしたドーパントが現れたのだ。
そして、Wを見ると話し出す。
「見つけたぞ....."私の女神"に手を出したのは貴様だな。」
「あん?女神って一体....」
「問答無用だ!」
すると、甲殻類のドーパントが爪の付いた腕を思いっきりWの方に伸ばすと螺旋状に伸びて分かれた腕がWに直撃した。
そして、その勢いのままWを遠くへ押し出した。
そこにそのドーパントも向かった。
「どうやら、一対一の戦いになりそうだな。」
照井の言葉に真島が答える。
「関係ないよ....どうせ食べちゃうんだから....」
「一つ聞かせろ。お前はどうしてここに来たんだ?
警察署に来るメリットなど無い筈だ。」
「ここにお前を守ったドーパントの遺体があるんだろ?
僕の食事を邪魔したからね。
グチャグチャに踏み潰してストレス発散しようと思ってたんだよ。
そして僕に傷を付けたお前には最も苦しい死に方を与えようと決めたんだ。」
「成る程、理由は分かった。
これで心おきなく振り切れる。」
そう言うと照井はトライアルメモリを取り出して変形させるとメモリを起動する。
「TRIAL」
メモリを装填しスロットルを回すと青色の仮面ライダーアクセルトライアルへと変身した。
「色が.....変わった?」
「さぁ!......振り切るぜ。」
そう言うと照井はキメラドーパントへと向かっていくのだった。
「何だと?真島とアクセルが交戦を開始しただと?」
獅子神が紫米島と白爪から携帯でその報告を受ける。
「えぇ、我々が接触する前に勝手に行動を始めたようで....」
「奴には身体の中に発信器を埋め込んでいた筈だろう?」
「どうやら、自力で取り出したようです。」
実験の要となる真島には常に居場所の把握を行えるように首の後ろに発信器を埋め込んでいた。
そして、戦いの終わった真島を回収しようと向かうとそこには血で汚れた発信器が無惨に捨てられていたのだった。
「ちっ!面倒なことをしやがって....」
ここで電話が変わり紫米島が応対する。
「面倒事はそれだけじゃねぇぜ獅子神。
"緑塚"がサラがやられたことを知って勝手に飛び出したらしい。
しかも、Wを狙っているみたいだ。」
「あの蟹野郎がか?......大方、サラを傷つけられてキレちまったんだろう。
そこは良い.....問題は真島の方だ。
研究の成果は出た....奴は被験体としてミュージアムで捕獲する。
奴は今、何処にいる?」
「風都署の遺体安置所の近くだ。」
風都署はガイアメモリの事件を多く扱いその特異性から死体の保管にも気を使い、風都署と言いながらも警察署より数ブロック離れた場所に遺体安置所が設置されていた。
「俺も向かう.....お前らは万が一の時の相手を頼む。」
「万が一とは?」
「決まっているだろう.....真島がメモリブレイクされた時だ。」
そう言うと獅子神は電話を切って遺体安置所へと向かうのだった。
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第九十九話 笑うW/全てを振り切る速さ
過去の反省から今回は全力で相手をすると決めていたのだ。
「XTREAM」
そして、クリスタルサーバーが目の前のドーパントの検索を終わらせる。
『検索が完了した....こいつのメモリは
そして、未知のシステムによる強化を受けているようだ。用心した方が良い。』
「あぁ、分かったぜフィリップ。」
『「プリズムビッカー」』
Wは武器を呼び出すとプリズムメモリを装填し剣を引き抜いた。
そして、クラブドーパントとの戦いを始めるのだった。
アクセルとキメラの戦いの火蓋を切ったのはアクセルだった。
高速で近付きキメラを殴り付ける。
しかし、前よりもパワーが減っているためダメージを与えられない。
キメラは殴られた身体を触れて不思議がりながらもマグマ、アイスエイジ、ライトニングの力をアクセルに放つが、アクセルの高速移動と回避により全ての攻撃をかわした。
「力弱くなったけど....速くなってる?
なら、これで捕まえる。」
キメラはスイーツとポルーションの能力を掛け合わせた硬化する煙を吐きかける。
それをアクセルはその場で回転し巻き起こした風で煙を吹き飛ばしてしまった。
「見せてやる....トライアルの力を!」
照井はメモリを引き抜きトライアルメモリを変形させる。
そして、スイッチを押すと空中へ投げた。
マキシマムを発動したアクセルはキメラは真っ直ぐと走っていく。
キメラは迎撃のためオクトパスを発動し触手を複数出現させるとそこに各メモリの力を付与させた。
キメラの触手がアクセルを襲うがトライアルメモリをマキシマムで発動するとその速度は音速すら越えるスピードを出していた。
攻撃を全て回避しキメラの背後に回り込むと蹴りを浴びせ始めた。
止まることの無い蹴りによりキメラの身体に"T"の文字が刻まれ始める。
そして、落下するトライアルメモリをアクセルがキャッチするとスイッチを押してタイムを止めた。
「TRIAL MAXIMUMDRIVE」
「9.8秒....それがお前の絶望までのタイムだ。」
蓄積されたマキシマムの攻撃が体内のメモリに届くとキメラドーパントは爆発してメモリが排出された。
そして、地面に真島が倒れ伏す。
「ぐっ....痛い..何で僕が倒れてるの?
お前は僕の餌の筈だろう....何で僕を傷付けるのぉ?」
「俺に質問をするな....その答えは刑務所で考えろ。」
キメラメモリがブレイクされると真島は意識を失った。
「素晴らしい...."見事な勝利"ですね照井 竜。」
拍手しながら井坂が照井の前に現れた。
「井坂っ!俺の前に出てくるとは何の用だ!」
「私の知らないメモリであるキメラメモリの能力を見てみたかったんですよ。
私とかなり能力が被っていましたからね。
しかし、このメモリは私に必要ありませんねぇ。
食べなければ能力を使えないとは不便極まりない。」
「彼のコネクターは新型のフィルターが使用されている筈なのに毒素によるダメージを受けたとなると新しく開発されたメモリは通常のメモリよりも毒素が強くなる傾向があるのかもしれませんねぇ.....」
「いやはや実に面白い.....これだからガイアメモリは止められない。
興味の尽きることの無い素晴らしい道具ですよ。」
「そんな事を俺に話に来たのか?」
「いえいえ、目的はそこで倒れている男でした。
ある意味私の様な力を持ったドーパントです。
力試しをしたいと思うのは当然でしょう?
それに....私自身試したい道具もありましたのでね。」
そう言うと黒いアダプターを照井に見せる。
「それは何だ?」
「私専用に開発されたガイアメモリの強化アダプターです。
これの試運転の為に今日は来ました。」
「最初は弱かった貴方も立派な
今の貴方との戦いなら....楽しめそうだ。」
井坂はそう言うとウェザーメモリにアダプターを装着する。
「
そして、メモリを耳に挿し込んだ。
そして通常のウェザードーパントに変身するがそこから変化が起き始める。
色が白から黒へと変わり逆に黒かった腕は白くなる。
中心のバックルの色は赤くなりベルトの意匠である竜も四体に増えた。
そして背中から竜の身体が現れて円になるとその各部に円形の太鼓のような道具が増えた。
まるで、雷神の様な姿に変貌した井坂は気合いをはく。
するとそれだけで周囲に突風が起こりアクセルが吹き飛ばされかけた。
「....ふっふっふっふっ、あっはっはっはっはっは!
素晴らしい....本当に素晴らしい!
これが私の姿!何て素晴らしいんだ!」
進化した自分の姿を確認し井坂は嬉しそうに笑う。
「さて!....何処まで出来るのか試させてもらいますよ照井 竜!」
強化されたウェザードーパントがアクセルトライアルに攻撃を仕掛ける。
井坂がいつも使う雷撃を落とした瞬間、その威力と大きさに彼自身も驚いてしまった。
アクセルはトライアルによる加速で何とか回避するが、アクセルの立っていた地面は陥没しあまりの熱により付近のコンクリートが融解していた。
「これは随分と強くなったものですね.....しかしこれでは逆に楽しめなくなってしまいそうだ。」
「なめるなよ井坂!」
アクセルはエンジンブレードを手に取ると加速を乗せて斬り付けた。
しかし、その斬撃が直撃しても井坂に何のダメージもなく火花すら出なかった。
「何っ!」
「私自身、強くなったとは思いましたがここまでとは....これでは拍子抜けですね。」
井坂は照井を拳で殴り吹き飛ばした。
能力を使ってないただの打撃なのに照井は遠くまで吹き飛ばされる。
「雷は分かりました....次は風はどうでしょう?」
井坂が指を上に向けると巨大な竜巻が生成される。
そして、竜巻が倒れた照井を呑み込んだ。
内部に入った照井だから分かったがその竜巻の中に複数の竜巻が内包されており其々が別の回転軸で動いていた。
解りやすく言うなら複数の刃が異なる回転をする巨大なミキサーの中に放り込まれた様なものだ。
辺りの岩やコンクリート、鉄筋等を巻き込んだ竜巻は四方八方から中にいる照井に攻撃を与えた。
回避しようにもその隙間もなくまたアクセルトライアルは通常よりも防御力が劣っているため照井の肉体にドンドンとダメージが蓄積していく。
「このままでは....マズイ!」
照井はマキシマムを発動して加速させた身体を使って無理矢理、竜巻の中を突っ切った。
身体から火花と煙を上げながら何とか竜巻から逃げ延びる。
「おや?......随分とお疲れのご様子ですね。
大丈夫ですかな?」
「俺.....に....質...問を..するなっ!」
照井はここまでの間でキメラドーパントとのダメージも完治しないままここに来ていた。
正直、もう限界が近付いていた。
意識も薄れており視界も安定していない。
だが、それでも逃げるわけには行かなかった。
照井はもう一度、トライアルメモリのスイッチを押そうとするがここで井坂に異変が起きる。
「グォッ!.....何だこの痛みはっ!......ガハッ!」
片膝をついた井坂を照井は呆然と見つめる。
「どうやら....ここまでのようですね。
では、照井竜また会いましょう。」
そう言うと井坂は蜃気楼を出してその姿を消した。
敵がいなくなり照井はトライアルメモリを抜くと変身解除した。
そして、そのまま地面に倒れると意識を失ったのであった。
Another side
変身を解除した井坂は吐血した自分の姿に驚いた。
「これは一体どう言うことなのだ?」
「強化アダプターの副作用ですよ。」
突如、現れた無名が井坂に告げる。
「通常のアダプターでも増大する毒素をフィルターを使って減らすところを貴方のアダプターにはその機能が無い。
いくら、貴方が毒素に対して耐性があったとしても限界があります。
吐血したのがその証拠です。
恐らく、先程の変身で寿命が削られた可能性があります。」
それを井坂に告げると彼は愕然としていた。
「ショックなのは分かります....今からでも通常の仕様に....」
「最高だ.....」
「え?」
井坂の思いもよらぬ言葉に無名は聞き返す。
「私の身体ですら"耐えられない毒素"を生み出すとはこのアダプターは最高だと言ったのです!
これ程の毒素が私の身体に流れればドーパントとしての強さは最大限まで強化される.....あの男にすら勝てる程に!」
「それで死ぬことになってもですか?」
「何を言っているのですか?
今はその毒素に耐えられないだけです。
しかし、私ならばこれを使いこなせる自信がある!
私はやり遂げて見せますよ。」
「何処にいくのです?」
「一先ずは冴子さんの所に帰ります。
では、失礼しますよ無名君。」
そう言うと井坂は笑顔でその場を去っていった。
("ガイアメモリが生んだ化物"まさにその通りの人物ですね。)
そう無名は井坂に対して思うと戦いを見届けたので彼もその場を後にするのだった。
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第百話 笑うW/出会う昨日
キメラドーパントとの一件から始まった風都刑務所での脱走事件が漸く終息した。
翔太郎やフィリップ、亜樹子は九条 綾の葬式に参列していた。
今回、彼女の協力により事件解決が早まった事を照井が上層部に報告したお陰もあり警察主導により彼女の葬式が執り行われることになった。
そこには手伝いとして同僚だった刃野さんや真倉も参列していた。
「こんなのおかしいっすよ!」
真倉がそう叫ぶ。
「彼女は警察官なのにドーパントになったんですよ!
おまけに僕たちも襲って刃野刑事にも怪我を負わせて....それなのに!」
「おい、真倉いい加減に」
そう言って刃野が止めようとするがその後に真倉の発した言葉に黙る。
「何で死んじゃうんですか!生きて罪を償えば良いじゃないですか!
死んだら怒ることも笑うことも出来ないんっすよ!」
九条さんがドーパントだと分かる前は本当に尊敬できる人物だった。
だから、彼女が照井警視に協力すると言った時は嬉しかった。
だからこそ、何で死んだのか?
ドーパントの姿になって.....彼女はやっぱり刑事じゃなかったのか?
そんな思考で頭がグチャグチャになっていた。
そこに翔太郎がかけ寄る。
「おい、翔太郎分かってるだろうが今の真倉は...」
刃野刑事の言葉を遮り真倉に話しかける。
「少なくとも俺は綾さんは死ぬ瞬間まで刑事だったと思うぜ。」
「?」
「風都を守る仮面ライダーなんて噺たてられているが綾さんはそんなライダーを守って死んだ。
この意味が分かるか?」
「綾さんにとっては仮面ライダーも守る市民の一人だったんだよ。
だからこそ、自らを犠牲にして助けた。
例えそれが自分の命がなくなることと分かってたとしてもな。」
「..........」
真倉は翔太郎の言葉を聞くと落ち着いてその場を後にした。
「すまねぇな翔太郎.....真倉は九条を本当は尊敬していたからな。
良く酔っぱらった時に言ってたよ。"綾さんがドーパントに何かならずに超常犯罪捜査科にいてくれたら"ってな。」
そこに松葉杖をつきながら照井がみんなの前に現れた。
「照井.....お前外でても平気なのか?」
「俺に質問をするな....
問題ない、医者からの了承も出来ている。」
照井はそう言ってはいるが実際は絶対安静なのだが、無断で病院を抜け出してきた。
「俺は彼女に命を助けられたそのお礼をちゃんと言いたくてな。」
そうして照井は九条の前に行くと焼香をする。
彼女の身体はエンバーミングにより綺麗に治されておりまるで眠っているようだった。
焼香が終わると照井は翔太郎達に言った。
「彼女の遺体は火葬後、溝口と同じ墓に埋められるそうだ。
二人の両親からも許可はとってある。」
「へぇ、照井にしては粋な事をするじゃねーか。
きっとそれが良いと思うぜ。」
おやっさんが言っていた。
"人は死んだら罪も何も無いただの死体になる.....
だからこそ、生きてる内に罪を償い死んだら人として尊厳をもって葬ってやる。
それが正しい人のあり方だ"って....
翔太郎はそれを思い出すと帽子を深く被り優しい顔を隠すのだった。
無名は風都を離れる前にとある場所に寄っていた。
表の看板には風都保育園と書かれている。
園長先生は僕の顔を見ると笑顔で言った。
「あらあら無名さん。
今日も子供達に会いに来てくれたんですか?」
「いいえ、今回は別件です....彼女は?」
「えぇ、中にいますよ。
呼んできましょうか?」
「お願いします。」
そう言うと園長先生が僕の目的の人物を呼びにきてくれた。
呼ばれた彼女は僕の前に現れる。
そして、僕はこう言うのだった。
「初めまして"
Another side
黒いシャツと黒いズボンの服を着た無名と名乗る男は私に話しかけてきた。
私がこの風都に来たのは兄からの不思議な電話を受け取ったからだ。
「雪絵....元気にしているか?」
「何よお兄ちゃん、私は元気よ。
それよりもお兄ちゃんはちゃんとやれてるの?ご飯食べれてる?」
「はっはっは....まるで母親みたいな言い方だな...|?」
電話の向こうで兄が何かを我慢するような声が聞こえた。
「どうしたの?お兄ちゃん。」
「.....何でもない。
そうだ、もし困ったことがあれば鳴海探偵事務所を頼れ。
それと暫く連絡がつかなくなるが心配するなよ。」
「どう言うこと?ねぇお兄ちゃ..」
ここで連絡が途切れたことを不審に思った私は大学に休学届けを出すと風都に向かった。
風都に到着すると街の風がお兄ちゃんに送ったスカーフを私に届けてくれた。
そして、新聞記事を読んでお兄ちゃんが死んだことを知ったのだ。
絶対に何かあると思った私はこの街について調べた。
そして"ガイアメモリ"の存在を知った。
街の黒い噂をネットで調べてみると兄の勤めていた会社がガイアメモリに関連しているかもしれないという情報を得られた。
そこで私は真相を確かめるためにガイアメモリを買った....そんな矢先にお世話になった幼稚園の園長先生から連絡があったのだ。
最近、不当な地上げで悩んでいたらしいのだがとある人物が助けてくれたらしく、何と兄と交流を持っていたと言うのだ。
その人物は私のことも知っているらしく会いたいと言ってきた。
そして、今、無名と私は対峙している。
無名は私に言った。
「お兄さんの事でお話ししたいことがあるのですが....何処か静かな場所で話せませんか?」
「そうね。
園長先生、ちょっと出掛けてきます。」
そう言うと二人で保育園から離れた公園へと向かった。
「ここなら、良いでしょう?
無名さんって言いましたっけ...兄について話して貰えますか?」
「えぇ、その前に......」
「懐に入れているメモリを出していただけますか?」
私がメモリを隠し持っていることを看破されるが平静を装って尋ねる。
「.....何の事でしょうか?メモリって一体」
「惚けなくて結構です。
貴方がお兄さんのいた組織を調べていたことは知っています。
そして、復讐のためにガイアメモリを手に入れたこともね。」
「そこまで知っているのなら貴方は兄がいた組織に関係があると考えて良いわけね?」
「えぇ、そしてこれから話すことはきっと貴女の興味をそそると思いますよ。」
「須藤雪絵さん.....貴方の兄、須藤霧彦は生きています。」
「.......え?」
想像もしない言葉に私は呆けてしまう。
すると、無名はタブレットを取り出して私に見せた。
そこにはベッドで横になっている兄の姿があった。
「...お兄ちゃん。」
「貴女の兄は今、僕の管理している孤島にいます。
僕の提案は貴女をそこに連れていくこと.....
それと貴女の今起そうとしている復讐を止めることです。」
「.....何もかもお見通しって訳ね。
なら、私がこうしたら貴方はどうするの!」
私はメモリを起動してコネクターに挿した。
「
そして、ドーパントへと姿を変えると無名にイエスタデイの刻印を放った。
これが当たると対象を昨日と言う時間に閉じ込めることが出来る。
「兄の居場所を教えてくれてありがとう。
兄は貴方の手を借りずに私が助け出すわ!」
そう無名に良い放つと私は腕についた装置を起動した。
しかし、無名の動きに変化は無かった。
「何故、イエスタデイの力が効いてないの?」
私の問いに無名は笑顔で答える。
「刻印とは"これの事"ですか?」
無名が指し示した場所には黒い炎が浮かびイエスタデイの刻印を燃やしていた。
「僕には貴女のメモリの力は効きません。
メモリを使い続けたお陰で生身でもこれぐらいの力は使えるんですよ。」
そう言うと無名はドライバーを腰につけてメモリを起動した。
「Demon」
メモリを挿し込むと無名の姿が変わり悪魔のような姿になった。
そして、黒炎が鎖に変化すると私の首に巻き付き地面へと倒された。
「うっ!」
「これが本気の戦いなら貴女は死んでますよ?」
私の首に刀をつけながら無名は言った。
「.....殺せば良いでしょ!とっくに覚悟なんて出来てるのよ!」
私の言葉に無名は呆れたように言った。
「......ハァ、そんな事するわけ無いでしょう?
折角、助けたのに殺すなんて事しませんよ。
今のは貴女の今の力では復讐なんて叶わないと言う事を教えたかっただけです。」
そう言うと無名は刀を私の首から外した。
「さっきも言った通り、僕の目的は貴女を兄と会わせることです。
信用したくない気持ちも分かりますがこれは本当の事です。
だから、僕と一緒に来てくれませんか?」
私はそうして差し伸べられた手を掴んだ。
「良いわ。今は貴方の言う通りにしてあげる。
けど、勘違いしないで、貴方の事を信用した訳じゃないから......」
私の返事を聞いて無名もメモリを抜いて元の姿に戻った。
そして、私は園長先生に挨拶すると兄と再会するために無名と一緒に孤島へと向かうのだった。
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番外編100.5話 孤島での憂鬱
時系列は無名が風都にいる間に孤島で起こっていた事です。
《EPISODE1》不運なリーゼ
無名の部下であり飼い猿であるリーゼは仕事がある日以外は孤島にあるリーゼ専用の部屋で過ごしている。
リーゼ自体、知能レベルが高くガイアメモリによりそれが底上げされているため彼の部屋には知的なインテリアや趣味の物が置かれていた。
小型のソファの上でストローに入ったジュースと果物を摘まみながらリーゼはタブレットでゲームをしていた。
リーゼがやっているのは海外にサーバーがあるチェスで、それで数々の相手を打ち負かしていた。
(ふん、所詮は下等な人間だな。
この程度の読みにすらついてこれないとは.....)
今日だけで通算50人抜きをかましたリーゼは休憩のため皿にキレイに並べられた果物をフォークを使って綺麗に刺すと口に運んだ。
知的な文明人はその所作からもこの匂いを醸し出す。
ならば、知的な猿である自分も同じようにするべきだ。
そう考えていた。
(しかし、ここまで勝ち続けると流石に飽きてくるな...
そろそろゲームを変えるかな?)
そう思いながら対戦待ちの名前を見ていくと不思議なハンドルネームを使う者を見つけた。
("Mr.P,M"?....ふざけた名前だか戦績は悪くなさそうだ。
少しは楽しめるだろうな。)
そう考えてリーゼは彼と対戦した。
負けた.....それも圧倒的な敗北を味わった。
(なっ!何て強さだ!)
リーゼはその強さに驚きつつ彼に英語でチャットを送った。
"貴方は強いですねもしかしてプロの方ですか?"
知的な猿だからこそ素直に相手の事を褒めるそれこそが大人な対応なのだ。
しかし、帰って来た返答によってリーゼの顔が固まった。
"この程度の強さでプロと言うのですか?
まだ本気を1ミリも出してませんよ?"
その傲慢な言い方にリーゼはイラッとする。
だが、ここで怒り散らす事はしない....何故なら彼は知的な猿であるからだ。
(コイツには一度格の違いを教えてやるべきだな。)
そう思ったリーゼは再戦を申し込むと相手は快諾する。
二回目のリーゼは油断せず堅実に相手を負かす手を打っていった。
しかし、それでも敗北した...しかも前よりも酷い負け方でだ。
(なぜ、私が負ける!....こんな下等な人間にぃぃ!)
そう考えていると相手からチャットが来る。
"どうしました?最初より"弱かった"ですけど体調でも悪かったのですか?"
......危ない危ないこれが普通の人間ならばタブレットを地面に叩きつけていただろう。
だが私は知的な猿...そんな野蛮なことはしない。
"ヒビ"の入ったタブレットでリーゼは相手に返信する。
"二回勝った程度でそんな事を言うなんて....随分と精神的に幼いんでしょうねぇ貴方は"
その言葉に相手は直ぐに返信した。
"そう言う下らない文句は私に勝ってから言ってくれませんか?"
この言葉によりリーゼの心に完全に火が着いた。
(上等だ!下等な人間めぇぇ!
その腐ったプライドをボコボコにしてやるぅぅ!)
リーゼは何度も何度もチェスの戦いを挑んだ。
三戦目敗北....リーゼ、怒りにより机を叩く。
四戦目敗北....リーゼ、皿にある果物を乱雑に口に運び糖分を接種する。
五戦目敗北....リーゼ、座っているソファに爪を立てて怒りを和らげる。
六戦目敗北....リーゼ、度重なる敗北により感情が虚無になる。
七戦目敗北....リーゼ、トイレに籠り精神統一。
後に冷蔵庫から無名用のエナジードリンクを盗み飲んで覚醒する。
八戦目敗北....リーゼ、余りの勝てなさに号泣ソファの綿を出して顔の涙を拭いた。
そして、九戦目に入る前のリーゼはプライドをボコボコにされて戦う前から戦闘の意志が折れていた。
そんな彼を気遣ったのか相手からチャットが来る。
"大丈夫?休憩する?"
リーゼはその優しさに涙が出そうになった"こんなに気遣ってくれる優しい人物に感謝を伝えたくなった。"
読者の皆さんには補足しておくがもうリーゼは負けすぎて正常な判断が下せなくなっており煽ってきた相手に感謝を伝えようとするまで疲弊していた。
しかし、次に送られた文章でリーゼの手は止まる。
"まだまだ行けるよね?それとも手加減してあげようか?m9(^Д^)プギャー"
部屋に果物を入れていた皿が砕けてフォークがコンクリートに突き刺さる音がした。
そしてリーゼは冷静にタブレットで返信をした。
"上等だぁぁぁ!下等な人間がぁぁ!泣くまでボッコボコにしてやるぅぅ!"
ここからリーゼは負ければ再戦を繰り返す。
RPGゲームの様な戦法を取り始めた。
もう、恥も知的な行動も関係ないコイツだけは潰す!
その意思のみがリーゼの頭脳を動かし続けていた。
話は変わるが、皆さんは動物園で猿やゴリラにウンコを投げつけられたことはあるだろうか?
あれは、一説にはストレス発散や単純な暇潰しの意味合いがあるらしいのだが猿にはそう言う習性があった。
ここで問題だがリーゼは何故、猿なのに怒ってウンコを投げつけないのか?
その答えはリーゼにとって知的でない行動だとよく理解しているからだ。
では、最後に.....
"恥"や"知的"な行動を捨てたリーゼに過度なストレスを与えるとどうなるのだろうか?
その答えは"98戦目の敗北"により証明された。
壁一面に茶色い染みが付き、それでもリーゼは勝とうとタブレットを操作してチェスを続ける。
敗北はリーゼを確実に強くしていったが、相手はそれを凌駕するスピードでリーゼから勝利をもぎ取っていった。
そして、99戦目の敗北を受けてリーゼは真っ白に燃え尽きてしまった......
(勝てない.....全然勝てない...泣きたい。)
プライドと精神をゴリゴリに削られたリーゼは身体を両手で抱えながらズタボロになったベットに横になっていた。
もう諦めてしまおうか.....そうだきっとそれが良い。
そんな考えに負けそうになるリーゼ。
しかし、その考えを止めさせたのはリーゼ達の戦いを見ていたオーディエンス達だった。
リーゼのチャットに"負けるな!"頑張れ!"と多国の言語で送られてきた。
そうこの戦いはネット内のチェスファンを沸かせる者となっていたのだ。
彼等の言葉がリーゼに勇気と力を与えた。
震えている足に活を入れて地面をちゃんと踏みしめる。
汚れた手をベットのシーツで拭くとタブレットを持ち直しリーゼは構えた。
(もう一度...次は絶対に勝つ!)
そうして始まった戦いは過去最高に苛烈で複雑なものとなっていた。
お互いに駒を奪い合い残っているのはポーンが二体とキング、クイーンが一体ずつだった。
ここでリーゼは賭けに出る。
(もう手がない...ならばクイーンを捨てる!)
そしてポーン二体を盾にキングが相手の陣地に進軍を始めた。
当然、その意図を読んでいた相手も迎えうつようにキングを前に出した。
キング対キング.....その結末は
リーゼの敗北により幕を閉じた。
しかし、これまでのリーゼと違い今の彼には怒りは無かった。
全力で戦い....負けたのだ。
悔いが無いとは言えないがそれでも満足した。
すると、チャットで相手から連絡が来た。
"良い試合だった、また戦おう"
まるで別人かの様な対応にリーゼは驚きながらも心の中は歓喜で一杯だった。
相手とここまで通じ会えた自分が誇らしい。
そう考えていると屋敷のメイドが部屋の中に入ってきた.......そう
ズタボロになった家具や道具、割れた皿に地面に刺さったフォーク....そして何より一面に茶色い染みが散乱した部屋へと
後日、この事が無名にバレて部屋の掃除+二週間のタブレットとおやつの禁止をリーゼは言い渡されてしまった。
時を同じくして鳴海探偵事務所のラボでフィリップはパソコンから目を離してストレッチをしていた。
「随分と長くやってたわねフィリップ君!
そんなに楽しかったの?」
亜樹子の問いにフィリップが答える。
「あぁ、中々に楽しい戦いだったものだから昨日の夜からぶっ通しでやってしまったよ。
それにしても検索しただけではやはり宛にならないな。
本には"楽しい"と書いてあったが期待外れだった。」
そう言うとフィリップは亜樹子に顔を向けた。
「亜樹子ちゃん、君は知らないだろう?」
「"煽りプレイ"と言うものを......」
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番外編100.5話 孤島の憂鬱、
仕事の無いNEVERのメンバーに焦点を当てた物語です。
《EPISODE2》京水の補習
京水は青筋を立てながらレイカを睨んでいた。
原因は彼女が屋敷の生徒と共に受けたテストに関してだ。
「レイカっ!あんたねぇ!"13点"って何よ!私がどれだけあんたの勉強に付き合ったと思ってるのぉ!」
「し.....仕方ないでしょ!これでも頑張ったのよ!」
何故ここまで京水が怒っているのかと言うと無名の発案により行われた"学年末孤島テスト"に置いて唯一、レイカだけが赤点を取ってしまったからだ。
これは元々、義務教育すら受けさせて貰えなかったクオークスに向けて無名やその部下そしてNEVERの勉強が出来るメンバーが行っているイベントなのだが、レイカも子供の頃からスラム街で過ごしていた事から特例としてその勉強会に参加していた。
このイベントは普通の学校と同じように学年分けされて一年に三回のテストがあり好成績を取った生徒とそれを教えた先生にはご褒美が貰えることになっていた。
因みにレイカと同学年にはミーナが入っておりミーナは学年トップの成績を納めていた。
その理由は裏で克己に勉強を補習して貰っていることなのだが、京水には明かされていない。(嫉妬で狂うことが目に見えているから....)
そして、ミーナはご褒美として克己とのデートを所望して、京水に更に嫉妬される事となる。
閑話休題
そして、そのテストでレイカは赤点を取ってしまった為、その教科を担当していた京水がこうして補習を行っているのだ。
「それにしても何で私の教えた教科だけ赤点とってんのよ!
国語と社会合わせて"13点"って逆に凄いわよ!
他は90点台叩き出してんのに何でこの二つだけダメなのよ!
あんたアタシのこと嫌いなわけ?」
「別にそんな事はないけど....難しいのよ。
文章を読み解けとか....歴史覚えろとか....」
「はぁ....まぁ良いわ。
やっちゃった事は仕方ないし今はどう改善するかを考えましょう。
先ずはテストの問題から復習しましょうか。」
「ことわざの問題よ空欄の中に入る言葉を埋めて頂戴。
"犬も歩けば○○○"....これには何が入るかしら?」
暫く唸るとレイカは思い出したように言った。
「あっ!犬も歩けば"回し蹴りされる"。」
「蹴るんじゃ無いわよ!犬が可哀想でしょ!正解は犬も歩けば棒に当たるよ。」
「何言ってんの?犬はそんなにバカじゃないでしょ。」
「ことわざだって言ってんでしょうがっ!
次行くわよ。
"鬼の目にも○○○"これはどう?」
「うーん、あっ!"鬼の目にも膝蹴り"。」
「だから蹴るんじゃ無いわよ!て言うか鬼の目に膝蹴りって...アンタ外道?鬼が可哀想になってきたわ。
正解は"鬼の目にも涙"!
今の状況にピッタリの言葉よね!」
「うーん、やっぱり難しい。」
「本当にもぉ!頑張りなさいよレイカ。
次行くわよ次は四字熟語についてね。
互いに黙っていても意志が伝え会うことを漢字四文字で何て言うのかしら?」
「.....えーっと」
「ヒントは私達みたいな関係よ。」
「私蹴釜飛?」
「何で私が蹴られて吹き飛ぶのが事が四字熟語になんのよ!てか、私達の関係殺伐としすぎてない?
女同士なのにちょっとショックよ私。」
「え?だってこの前の仕事の時に敵に組み付いて離れない京水を私が蹴り飛ばして.....」
「分かったわ。
これは私が悪かったわごめんなさい。
次行きましょう次!」
(誤魔化した。)
冷や汗をかいている京水はそのまま次の問題へと向かう。
「目的を達成するために長い苦労に耐えることを漢字四文字で何て言うかしら?」
「"冷静京水"」
「アンタ絶対ふざけてるでしょ!喧嘩なら買うわよ本当にぃ!
もうなんなのよ!貴女の点数が上がったら獅子神ちゃんか克己ちゃんとデートするってご褒美が待ってたのにぃぃ!ムッキィィィィ!」
「うっさい京水!てかそんな事、無名に頼んでたの?
道理で無名が京水と話してて苦笑いしてた訳ね。」
「アンタこそうっさいわね!チャンスには貪欲に挑むのが女の性じゃない!
その為に勝負パンツ着てきたのにぃぃ!」
「勝負パンツ?何それ?」
そう言いかけた時、二人の補習部屋に芦原と堂本、そして克己が現れた。
「ん?三人ともどうしたの?」
「いや、"俺達三人の下着"が足りなくてな何処かに紛れてないかと思って聞きにきたんだよ。」
克己の言葉を聞いて京水は"自分の股間"を抑えた。
その仕草でレイカを除いた三人は何処に下着があるのか察する。
「そう言えば丁度、銃の訓練で使う的が足りなくなってたんだ。」
芦原がそう言いながらホルスターから拳銃を抜く。
「俺も最近、狩りばかりで戦闘訓練が疎かになってたなぁ....」
堂本は首を鳴らしながら京水を睨む。
「丁度良い....3対1の戦闘訓練をしようじゃないか。
なぁ、京水?」
克己がナイフを取り出しながら京水に告げた。
「おおおおちおち落ち着いて三人ともこれは何かの誤解よ...そう誤解!」
「誤解かどうかは....」
「俺達がお前をボコボコにして....」
「確かめれば直ぐに分かる。」
三人が京水に向かって臨戦態勢を取っていく。
(まっ....不味いわ!このままだと私、殺されちゃう!
もう死んでるけど何かもう一度殺される気がする!)
命の危機を感じている京水を見ながらレイカは何か考え事をしている。
すると、思い出した顔をしながら京水に言った。
「思い出した!
"四面楚歌"周りに敵しかいない状況をそう言うのよね?
......あれ?何か間違ってた?」
レイカの疑問に京水は観念した様な笑顔になると窓から勢いよく飛び出した。
「正解よぉぉぉぉぉ!」
「逃がすか!」
「俺らの下着を返せ!」
「もう一度殺してやる!」
逃げる京水を三人が追いかける。
その光景をレイカは不思議に思いながらもノートに四面楚歌について意味と字を書き込むのだった。
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番外編100.5話 孤島の憂鬱。
《EPISODE3》銃弾の行方
東の研究所の裏にある射撃訓練所で芦原は日課の訓練を行っていた。
ハンドガン、ライフル、マシンガンと置かれている銃を一つ一つ手に取りマガジンに弾を込めて的に向かって当てていく。
全てが人で言うところの頭と心臓付近に命中していた。
突如、背後から銃声が響いて芦原は銃を向ける。
そして相手が誰か分かると銃にセイフティをかけた。
「全く、質の悪い事は止めてくれないか黒岩。」
「まぁ、そう言うな....俺達にとっては"遊び"みたいなもんだろう?」
そう言って的に指を向けると芦原の当てていた場所と"同じ所"に弾が着弾した後があった。
「それにこれを持ってきた俺にお礼の一つでも言って欲しいんだがな。」
そう言うと黒岩は茶封筒を芦原に渡した。
銃を置いて芦原は封筒を受けると中身を取り出す。
そこには大量の写真が入っていた。
「いつもすまないな黒岩。」
「気にするなついでのようなもんだ。
"俺の娘"と"お前の娘"が"同じ学校に通っている"からな。
写真ぐらいなら何時でも渡してやるよ。」
芦原は生前、妻と娘がいた。
しかし、死んでNEVERになってから記憶が薄れていった事もあり接触することは無かった。
しかし、無名により改良された酵素により記憶の保持が出来るようになった今は娘の事が気にならない日は無い。
それを無名も理解していたのか俺との契約で娘と妻が安心して暮らせるだけの援助をしてくれると約束してくれた。
そして、黒岩の娘が無名のお陰で回復したことで学校に復学すると芦原の娘もそこに在学していたのだ。
以来、黒岩にイベント事に写真を撮って渡して貰うように頼んでいる。
報酬を渡そうとしたが"同じ父親にそんなもんは要らん"と黒岩は言って受け取ろうとしなかった。
中を開くと娘と同級生そして黒岩の娘が楽しそうに写っている写真が入っていた。
看板には文化祭の文字が書かれている。
「そうか....文化祭があったのか。」
「なぁ、1度で良いから会いに行ってやったらどうだ?」
黒岩の言葉を芦原は否定した。
「死人となっている俺がか?
そんな事をして生きている娘を混乱させたくない。」
「そうは言うが....お前の妻はお前が死んで以降、新しく夫を作る気も無いらしいぞ。
俺の妻が言っていた。」
「とっとと忘れて新しい人生を歩めば良いのに....」
「それが出来てないのはお前も一緒だろう?」
娘や妻に会いたいかと問われれば今すぐにでも会いに行きたい。
芦原はそう思ってはいるが同時に理解している。
"自分は所詮、死人だと....."
いくら、酵素で人間のように振る舞えても酵素が無くなれば死体に戻る化物、それがNEVERであり芦原自身である。
だからこそ、彼は生きている娘と妻に会わないと言う選択肢を選んできたのだ。
地図にも乗らない孤島から二人の幸せを願って....
芦原は写真に写る娘とそれを笑顔で見つめる妻を見るとその写真を常に持っているファイルへとしまった。
これは克己や無名にも見せたことの無い芦原が最も大切にしている物、中を開くと娘と妻の写真で全てが埋まっていた。
中学を卒業してから高校生になる今までの写真が納められている。
"運動会"、"授業参観"、"修学旅行".....愛する娘が笑顔でいてくれるだけで芦原は幸せだった。
ファイルに写真を全てしまい終わると黒岩に話しかける。
「黒岩、久し振りに遊ばないか?」
「良いな何を賭ける?」
「別に賭けなんてしない。単なる願掛けだよ。」
「願掛け?」
「彼処の的に弾が同じ場所で着弾し続けてマガジンを使い切れたら神様に気に入られている証拠だろ?
なら、願いくらい叶えてくれそうじゃないか?」
「随分とセンチメンタルな事を言うな。
お前にしては珍しい。」
「そう言う日もあるってことさ.....
こんな賭け腕の良いお前とでしか出来ないからな。
それでどうだ?受けてくれるか?」
「良いだろう....それで何を願うんだ。」
「"安全と幸せ"だ。お前は?」
「.....俺もさ。」
誰と言う言葉を言わなくても芦原と黒岩は分かっていた。
二人はハンドガンにマガジンを込めると一番遠い的へ一発ずつ交互に撃ち始めた。
撃たれる弾丸にどんな願いを込めたのかは本人にしか分からない。
だが、それは仕事場で込める感情とは違う優しいものだった。
そんな弾丸が的へと向かい飛ぶ。
一発一発、丁寧に放たれた弾丸が飛んでいく....
そして、マガジンが空になり全ての弾を撃ち尽くすと的に向かって歩き始める。
そして、的を見つめた二人は優しく笑う。
「少し飲むか黒岩。」
「良いな....旨い酒はここにあるのか?」
「プロフェッサーマリア秘蔵の酒の隠し場所を知っている。」
「悪い部下だな...殺されても知らんぞ?」
「どうせ死んでいる。
それにこんな日は飲んで祝うに限るだろう?」
「ははっ!言えているな。
じゃあ行こうか。」
そう言って黒岩と芦原はその場を後にした。
残ったのは綺麗に頭の位置に一個の弾痕だけ残った的だけだった。
そして、二人はこの日は夜が空けるまで飲みあかすのだった。
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第百一話 Gは見ている/独善的な正義
「お兄ちゃん!」
雪絵は兄を見つけると駆け寄り声をかける。
だが、その声に反応することはない。
「残念ですが....彼の意識はまだ戻らないでしょう。
ガイアメモリの毒素とダメージを完全に抜くまでには時間がかかりますから」
「毒素?.....兄は一体何故こんな姿に?」
「ガイアメモリのせいですね。
毒素に身体が耐えきれ無かった。
今、霧彦さんを繋いでいるチューブを通してガイアメモリの毒素を中和しているわけです。」
「そんな........」
「雪絵さん、貴女にはここでお兄さんが目覚める手伝いをして欲しいと思っています。」
「私は....」
「復讐をしたいですか?お兄さんをこの姿にした相手に」
「....正直、分からない。
まだ貴方を信用出来てないのもあるしね。
"人は自分に利益のあることにしか手を貸さない"
私達が二人だけで生きてきて理解した現実よ。
だからこそ、貴女に何の見返りも無いのに私の兄を救おうとするその行動を信用できないの。」
「成る程、実に正しい論理だ。
そんなにその答えが知りたいのなら方法はありますよ。
僕と同じ組織に属すれば良い。
だが、そうなったら最後、貴女は利用し尽くされて殺されるでしょう。
僕はそれを望んでいない。
せめて、貴女の兄を救おうとしている事だけは信じてください。
お願いします。」
僕は雪絵に頭を下げた。
それを見て雪絵は笑う。
「ふふ!私の事を死ぬかもしれないと脅した後にそんな風に頭を下げられるなんて....不思議な気持ちね。
良いわ...暫くこの孤島で貴方の行動を見させて貰う。
それからどうするか決めるわ。
兄が目覚めるのを待ちながら復讐をするかしないかを....」
「ありがとうございます雪絵さん。」
「所で貴方って若く見えるけど幾つなの?」
「年齢ですか....戸籍として登録されている年齢では20ですよ。」
「何その言い方?」
「嘘かと思うかもしれませんが記憶喪失なんですよ僕。」
「本当に嘘臭いわね。」
こうして孤島で生活することになった雪絵は無名について知ろうとあれこれ質問を始めるのだった。
その頃、鳴海探偵事務所では新たな依頼人から話を聞いていた。
「
依頼人の名前は
話を聞くとある日、"風都新聞の記者"を名乗る新田がとある写真が入った封筒を送ってきた。
「これがその封筒だが、くれぐれも中身を口外するのは止めて貰おう。でないとそちらを訴えることになる。」
そう角谷が脅すと封筒を翔太郎に渡した。
中に入っていたのは少年達がスーパーの物を万引きする所が写っていた写真だった。
「何じゃこりゃ?単なる悪ガキの写真じゃねーか?」
「.....新田の要求はここに写っている子供の名前と住所を公開することらしい。
しない場合、この写真をマスコミにリークすると言っている。」
「これの何処がアンタを脅すのに有効なもんなんだ?
ただの悪ガキの証拠写真にしか見えないんだが....」
すると、角谷が金髪の少年に指を指した。
「この子は私の息子である
恐らく、私を脅すためにこの写真を持ってきたのだろう。
この事件の実行犯はもう捕まっている。終わった事件だ。
それにも関わらず蒸し返されるのはこちらとしても困るんだ。
報酬は300万出そう。」
「「さっ...300万!?」」
その額に翔太郎と亜樹子は両方とも驚く。
「受けさせていただきます!」
亜樹子が即決で依頼を受ける。
「おい!亜樹子何を勝手に....」
「私はこの事務所の所長よ!
お任せくださいこの新田って男を調べてご報告させていただきます。」
「そうか....では頼んだぞ。」
そう言うと角谷は事務所を出ていった。
そうして依頼人が出ていくと亜樹子はフィリップを呼び出して検索を開始させる。
文句を言いそうな所をスリッパを取り出して黙らせながら。
「......はぁ、検索を始めよう。
知りたい項目とキーワードは?」
フィリップが地球の本棚に入りそう尋ねると翔太郎が言った。
「知りたい情報は新田の居場所....それとこの事件についても調べてくれ。」
「分かった....先ずは新田の方から行こうキーワードは?」
「新田当麻....風都新聞」
「.....ある程度は絞れたがまだ足りないな。
何か特徴的な事がらは無いのかい?」
「そう言われてもなぁ....」
翔太郎と亜樹子の二人で写真とにらめっこをしていると亜樹子があることに気づく。
「あれ?このスーパー"ここの近くにあるスーパー"じゃない?」
「本当だ....だが不思議だな彼処は平地で高い建物なんて無い筈なのに上からの画角で撮影されてる.....!
フィリップ、キーワード追加..."高い柱"だ。」
するとフィリップの本棚が検索により整理されて一冊の本が現れた。
「ビンゴだ翔太郎。
新田当麻は"ボルダリング"が趣味なようで写真を撮影する際も通常は登れない場所から写真を撮影してスクープを得る方法をとっているらしい。
彼の行きつけのボルダリングの店がこの近くにあるようだ。」
フィリップがホワイトボードに住所を書く。
「よし、俺はそこに行ってみるわ。
フィリップはその万引き事件について調べてくれ。」
「分かった。」
そう言うと二人はそれぞれの行動を開始するのだった。
フィリップは写真を手がかりに事件の検索を始めた。
そして、出て来た情報を一つ一つ精査していく。
「成る程、角谷 尊は受験のストレスを発散させるために同級生の誘いにのって万引きをした。
そして、警察にその事がバレると、万引きを主導した主犯"
遺書も残っており現場に不思議な痕や痕跡が無かった為、このまま捜査を終了し共犯者である角谷 尊は厳重注意で済んだ。」
だが、ここでフィリップは一つの違和感を覚える。
「何故、野口 奏多は自殺する必要があったのだろう?」
自殺するにしては動機が弱く感じたフィリップは、事件を一から調べ直し始めた。
翔太郎は店に到着すると従業員に聞き込みを始めていた。
そこで、刃野さん達と遭遇した。
「あれ?刃さんどうしてここにいるんすか?」
「おっ?翔太郎、お前は相変わらず鼻が利くな。」
「それにしても珍しいっすね刃さんが一人で捜査してるなんて、マッキーはどうしたんすか?」
「....これはオフレコで頼みたいんだが実は今、風都や水音町、天ノ川地区って言った主要都市を対象にガイアメモリを販売してる組織を追ってるんだ。
どうやら、ここに来てた客の新田がその組織を調べてたみたいでな
事情聴取するために探してんだよ。
照井警視と真倉は今、水音町で捜査をしてるから風都は俺がやってるって事な。」
「随分と壮大な話っすね。」
「まぁな、だから翔太郎お前も何か分かったら...」
そう言いかけた瞬間、外から叫び声が聞こえて二人は外に出た。
そこには建物から青年をぶら下げているドーパントがいた。
「クッソ!こんな時にドーパントかよ!」
「おいっ!お前!その青年を離しなさい!」
刃野がマッサージ器具をドーパントに向けながら言う。
「邪魔をするな。コイツには真実を話す義務があるんだ....
さぁ、話して貰おう"野口奏多を殺した"のは一体誰なのか?」
「言っ.....言えねぇよ言ったら殺されちまう!」
「なら、ここで死ぬだけだ!」
そう言うとドーパントはぶら下げていた紐を切ると青年を地面へと突き落とした。
しかし、青年は地面に激突する前にWに変身した翔太郎に助けられた。
「っとお!ギリギリセーフだな。」
「お前は....仮面ライダーか!
俺の正義の邪魔をするな!」
「あん?正義だって?子供を地面に落として殺そうとする事の何処が正義なんだよ!」
「コイツらは罪を犯している。
俺はそれを白日の元に暴き出す!」
そう言うとドーパントがWに殴りかかってきた。
それをかわすとお返しとばかりに頭部を殴り返すが、
その衝撃で頭部を繋ぐ首があり得ない長さまで伸びる。そして、ドーパントは頭部を戻すと再び伸ばした頭をWの胸へと叩き込んだ。
衝撃によりWが吹き飛ばされる。
「痛ってぇなぁ!....何だよこのドーパント。」
『恐らく、敵のメモリは"ゴム"だろう。
打撃だと相性が悪い...ここはこうしよう。』
フィリップはそう言うとメモリを変える。
「CYCLONE,METAL」
そしてメタルシャフトにスタッグフォンをつけるとスタッグフォン側にメモリを装填した。
「CYCLONE MAXIMUMDRIVE」
するとスタッグから緑色の風が発生しメタルシャフトにさすまたのような風の刃が生成される。
『スタッグフォンを使った応用で作り出した風の刃だ。斬撃ならこのドーパントにも有効な筈だ。』
「おっし!なら、試してみっかぁ!」
そう言うとWは刃の生成されたメタルシャフトで斬りかかる。
それをドーパントは身体から生成した壁で防ごうとするが簡単には切り裂かれてしまった。
「分が悪いな....コイツから情報を引き出せないならここに用はない。俺は逃げる。」
そう言うとドーパントは腕から紐を出すと建物につけながらターザンのように紐を掴んで離れていった。
「あっ!待てコラッ!」
『待ちたまえ翔太郎。
今はそこで倒れている青年に話を聞きたい。』
珍しくフィリップが言った提案に翔太郎は従う。
『君は角谷尊と野口奏多の同級生だった子だね?
君に質問があるのだが......』
『野口奏多を殺したのは一体誰なんだい?』
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第百二話 Gは見ている/隠したかった真実
「フィリップどう言うことだ?」
助けた青年に対してフィリップが告げた言葉に翔太郎が尋ねる。
『この事件について調べた結果、野口奏多は自殺ではない可能性が出て来た。
そして、彼を殺したのは万引きをしていたメンバーの誰かなのも分かったんだ。
恐らく、あのドーパントもその犯人を調べるために行動していたんだろう。』
その言葉を聞いていた青年は項垂れた。
「何でだよ....何で仮面ライダーまでそんなにこの事件を気にしてんだよ!
悪いのは全部野口なんだ!そう"決まってん"だよ!」
『決まってる....そう言うってことはやっぱりこの事件には裏があるんだね。
そう言えばこの事件を調べている最中に、面白いことが分かったんだ。
野口が死ぬ前から君達が遊んでいた場所で不思議な事件が何度も報告されていた。
"ガードレールが潰されたり"、"コンクリートの壁が割られたりね"。
それに.....同じ学年の子が事故で亡くなったよね。』
そこまで話すと翔太郎もフィリップが何を言いたいのか分かった。
「おいフィリップ....まさか」
『あぁ、君達のグループの誰かがガイアメモリを持っている....そしてメモリ犯罪を誤魔化すために野口奏多を犯人に仕立て上げて殺した....それが僕の結論だ。』
照井と真倉は水音町の警察署に赴くとガイアメモリ犯罪に関わる情報を調べ上げていた。
「風都以外にもここまでガイアメモリが普及されているとは.....」
その量に照井は驚きを隠しきれないでいた。
「噂じゃ政界の人や上流階級って呼ばれる人達にもガイアメモリが回ってるって話ですからね。
各署で捜査してるみたいなんですが....進みが遅いって同僚が嘆いてましたよ。」
そう真倉が現状を語った。
水音町には現在、ガイアメモリを流通させている組織が二つあるらしい。
元々は一つだったのだが....最近になって増えたそうだ。
しかし、どれもこれも噂レベルの話しか無く物的証拠は皆無であった。
一つは天ノ川地区でも話題となった"セブンス"と呼ばれる組織だ。
獅子神家の者が関わっている可能性があるが詳しいことを捜査することは禁止されている。
もう一つが水音町で噂になっているパーティーを指揮している組織"ナイトタイム"。
上流階級の者ばかり集めてガイアメモリの取引を行っているらしい。
しかし、こちらも情報が少なくそもそも何処でそんな取引を行われているかも分からなかった。
(やはり、あまり有益な情報はないか。
仕方がない...ここで集めた情報をフィリップに伝えるか)
そんな事を考えているとフィリップから連絡が来た。
「どうしたフィリップ。」
「実は至急調べて欲しいことがあるんだ。
新田のことは刃野刑事から聞いているだろう?」
「ガイアメモリの流通に関して調べていた記者だったか。」
「あぁ、それに関連して調べて欲しいのは....」
フィリップからの用件を聞くと照井は快諾した。
「分かった、それとこちらも情報を送るから検索して何か分かったら教えてくれ。」
「勿論だ。」
そして電話を切るとフィリップに言われたことを調べ始めるのだった。
助けた青年を刄野刑事に任せると翔太郎は探偵事務所へと帰った。
「おかえり翔太郎。」
「あぁ、それじゃあフィリップ。お前の推理を聞かせて貰えるか?」
「あぁ、事の始まりは万引きをしたグループのリーダーがガイアメモリを手に入れたことから始まったんだと思う。
その人物はガイアメモリの力を使っていろんな事件を起こした。
本人としては遊びの一環だったんだろうがそれも一人の生徒を殺してしまった事で話が変わってしまう。」
「そして、その事実を見たか知った野口はそれを警察に話そうとしたんじゃないだろうか。
それを良しとしなかったリーダーがメモリの力を使って野口を殺害....そして万引きした事実を公にして罪を全てを死んだ野口に被せて葬った。
これが僕の推理だ翔太郎。」
「そんな.....酷い。」
亜樹子はそう言葉を漏らす。
「残虐な方法だ.....とても同じ人間が考えたとは思えない程のね。」
そう評したフィリップの推理に翔太郎は異議を唱えた。
「なぁ、フィリップ本当にそれだけか?
それが本当に事件の答えなのか?」
「どう言うことだい?翔太郎。」
「俺にはまだこの事件には裏があると思ってるんだ。
聞くがお前はそのメモリを使っているリーダーは誰だと思うんだ?」
「十中八九、角谷尊だろうね。
彼には父親のコネクションもある....それにガイアメモリを購入するとしたらお金がかかる。写真に写っていたメンバーの中では彼が一番犯人として濃厚だ。」
「そこは俺も否定しねぇ....俺が気になってるのは万引きの情報とメモリによる殺害の順番だ。
殺害してから万引きの情報をリークしたとお前は言ったが、それだとどうして写真を撮影した新田はなぜタイミング良く写真を流せたんだ?」
「確かに....不自然よね。」
亜樹子も俺の意見に同意した。
「だが、翔太郎の言う通りだとするとそれこそ順序がおかしくなる。
写真を撮らせてから殺すなんて....」
「いや、俺が考えているのはもっと悪どい事だ。
考えてみてくれ、何で父親である角谷誠司は俺達に依頼をしてきたんだ?
俺達が"得意としている事件"....ここまで言えば分かるんじゃねぇか?」
「......まさか!」
翔太郎の考えに気づいたフィリップは驚愕する。
もしその通りだとすればこの事件は悪辣極まりない物だと思ったからだ。
「兎に角、確かめてみようぜ....フィリップ。」
そう言うと翔太郎は帽子を深くかぶり事務所を出る。
隠された顔には怒りを覗かせながら......
Another side
キメラメモリの実験の際にばら蒔いた20本のメモリ。
その中でもキメラに食われず回収を免れたメモリが三本残っていた。
「ゴムメモリ、トレインメモリ、それとヒーローメモリか.....」
その報告を師上院から受けた琉兵衛はどうするべきか思案していた。
「お望みでしたら幹部に命じてメモリを回収させますが...」
「いや、その必要はない。
三本のメモリには発信器が搭載されているのだろう?
今は何処にあるのかね?」
「三本共、何者かが拾ったらしく使用した痕跡も確認できました。」
「丁度良いならばメモリの稼働実験とデータ収集を行おう。
冴子にそう指示しておいてくれ。」
「承知致しました琉兵衛様。」
そう言うと師上院は部屋を出ていった。
あの一件で井坂君は園咲邸を離れて別の場所へ行ってしまった。
強化コネクターが相当気に入っていたのだろう。
それを言われた冴子が悲しい顔をしていたのが気になるが今はその事はどうでもいい。
重要なのは紛失したクリスタルサーバーの代わりを早急に見つけ出すことだ。
あれを使い若菜を進化させる計画だったが....それも水泡にきしてしまった。
残る選択肢はエクストリームに覚醒したWから採取すると言うものだが、一筋縄では行かないだろう。
何か方法を考えねばならない。
どんな犠牲を払おうとも......
琉兵衛はそう決心すると計画に使える人材を探し始めるのだった。
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第百三話 暴かれたV/怒りの矛先
角谷製菓の本社で仕事をしていた角谷尊は一服するために外に出ていた。
そこにゴムドーパントが現れるとメモリを抜いた。
すると新田当麻へと戻った。
「見つけたぞ角谷尊....漸く姿を見せてくれたな。」
その言葉に対して尊は笑いながら答える。
「お前こそノコノコとこの場に現れるとはな。仮面ライダーにも狙われているってのに呑気なもんだな。」
「黙れ!....俺は正義を遂行するんだ!
お前の罪を白日の元に晒すことでな!」
「はっ!何が罪だ!
お前も荷担していた癖に良く言うぜ!」
「お前が俺を騙したんだろうが!」
「仮にもジャーナリストなら疑うことを覚えろよ。
まぁでも助かったぜ....お前があの写真を撮ってマスコミに流してくれたお陰で俺はこうして悠々自適に生活できている訳だからな。」
「お前は許さない....」
新田はそう言うとメモリを起動する。
「
メモリを掌に挿すとゴムドーパントへと変身が完了した。
しかし、そのタイミングでWが二人の前に立ち塞がった。
「お前は.....」
「たっ...助けてください仮面ライダー!あの怪物が僕を殺そうとしてくるんです!」
「.....下がってろ。」
尊が下がるとWがゴムドーパントを見据えた。
『「さぁ....お前の罪を数えろ。」』
「罪?....俺にそんなものはない!」
ゴムドーパントはそう言ってWに向かっていく。
Wは挿しているメモリを素早く交換する。
「HEAT,METAL」
ゴムドーパントの飛ばしてきた粘着性のゴムをヒートの熱で溶かすとスタッグフォンを装填しゴムドーパントに近付くと身体を上空にかち上げた。
空を飛ぶゴムドーパントに目を向けながらヒートメモリを装填する。
「HEAT MAXIMUMDRIVE」
『「
メタルシャフトの先端に鍬形に形成された炎の刃が生み出されると落下するゴムドーパントの胴体を挟みそのまま地面に倒した。
マキシマムによりメモリが砕けると新田の姿が現れる。
目には隈が現れており、そのまま意識を失ってしまった。
「あっ、ありがとう仮面ライダー!貴方のお陰で私は...」
そう言って近付こうとする尊にメタルシャフトを向けた。
「下らねぇ小芝居は止めろ。
もう全部分かってんだよ。
テメェら"親子"が考えた計画はな....」
するとWは新田を利用して野口殺害の罪を逃れたことや、その手口を説明し始めた。
「そもそも、順序が違ってたんだ。
万引き事件の写真を新田に撮らせた後、お前は野口を殺した。
恐らく、その事を知った新田はキレたんじゃねぇか?
"自分の正義を利用した"とか言って....
だが、メモリを持っていてかつ大企業の御曹司を相手に出来る程のネタが無かった新田には復讐する手段がなかった。
だが、新田はメモリを手に入れて事件の関係者を襲って真実を公表しようと動き始めた。
それを知ったお前は親父に頼んで鳴海探偵事務所に依頼を出させた。
ガイアメモリの事件を専門に取り扱っているって噂を聞いたんだろ。
だからこそ、そいつらを関わらせれば何とかなると考えたんだ。
違うか...角谷尊。」
「へぇ....凄いねぇ探偵顔負けの推理じゃん!
ビックリしちゃったよ!」
そう言って尊は笑う。
「一つ聞かせろ....どうして野口奏多を殺した?
万引き事件の写真を撮らせてリークしたのなら殺す理由は無かった筈だろ。
それとも余計なことを喋ると困るから殺したのか?」
「全然違うよ!あの女を殺す時に邪魔したんだよ奏多がね。
だから、罪被せて殺してやったわけwww」
『あの女....まさか同級生を殺したのも事故じゃなかったのか?』
「当たり前じゃん!あのクソアマ俺を親の脛齧ってるボンボンだってバカにしたんだぜ?
死んで当然だろ....でも奏多がそれを邪魔しようとしたんだよ。
"いくらなんでもやりすぎだ"とか言ってな。
だから決めたんだよ。奏多も殺して罪を全部被って貰おうってなwww」
『.....狂ってる。まるで悪魔だ。』
「悪魔?....ちげぇよ、俺はなコイツらみたいな庶民とは違うんだよ!」
「.....もう良い。お前の事は十分に分かったぜ。
テメェみてえな"性根が根本から腐ってる"奴には何を言っても無駄だ。」
「あ?何調子こいた事言ってんだよ?
ムカつくんだよ正義の味方気取りやがって!」
尊は懐からメモリを取り出すと起動する。
「
メモリを挿すと尊はバイオレンスドーパントへと変身した。
「フィリップ....サイクロンジョーカーで行くぞ。」
『しかし....分かった。』
フィリップは翔太郎の言葉に従いメモリを交換する。
「CYCLONE,JOKER」
サイクロンジョーカーへと変身が完了するがジョーカー側のボディから紫色の火花が上がる。
「姿が変わったからってどうなんだよぉ!」
尊が鉄球のついたバイオレンスの拳で殴りにかかる。
それを左手で簡単に止めた。
「何っ?」
「なら、試してみろよクソガキ...言っとくが今の俺はな」
「メチャクチャキレてんだよ!」
そのままWは受け止めた手を投げるように払うと左腕で尊をぶん殴った。
あまりの威力にバイオレンスドーパントの身体が吹き飛ばされる。
Wは尊を追いかけて追撃する。
その強さに尊は全く反撃できず、殴られ蹴られ続けていた。
そして、その強さに共に変身しているフィリップも驚く。
(僕がジョーカーの力を抑えるのに精一杯になるなんて....)
確かにこれだけの力が発揮されるなら、他のメモリではバランスが悪くなっていた。お互いに一番相性の良いサイクロンジョーカーで無ければコントロール出来なかっただろう。
ジョーカーメモリ、切り札の記憶を内包したメモリであり、変身者の感情に左右されて強くも弱くもなる不思議なメモリだ。
今の翔太郎は過去最高にキレていた。
彼は鳴海荘吉から受けた教えを忠実に守っている。
"罪は憎んでも人は憎まない"....この教えがあるからこそ翔太郎は犯人に対してもある程度、冷静に対応できた訳だ。
そしてそれはジョーカーメモリの力を抑えてしまう要因となっていたのだが、尊に関して感じた翔太郎の怒りはその教えを忘れてしまいそうに成る程、強いものだった。
だからこそ、ジョーカーメモリも反応し力が強くなったのだ。
しかし、フィリップはこの状態を良いとは思えなかった。
(このままだと僕の知る翔太郎でいられなくなる。)
直感的に感じた思い従いフィリップは早くこの戦いに決着をつけようとジョーカーメモリを抜き取るとマキシマムスロットに装填した。
その行動に翔太郎も驚く。
「どうしたフィリップ?」
『いや....さっさとメモリブレイクしてしまおう。
こんな奴の顔なんてもう見たくない。』
「まぁ、それもそうだな。
分かったぜフィリップ。」
咄嗟についてしまった嘘を信じた翔太郎は、倒れている尊に向かって飛び上がると必殺のキックをお見舞いした。
「JOKER EXTREAM」
キックが直撃した尊の身体からメモリが排出されると砕けて元の人間の姿へと戻った。
「ぐっ....痛えなぁ....」
「まともに喋れるってことは....新型コネクターで変身してたって訳か。」
『詳しい取り調べは警察の仕事だ。
刃野刑事に連絡しておこう。』
そう言って携帯を取り出すWを尊は嘲笑う。
「あははは....俺が警察に捕まる?本気でそう思ってんのか?....あはははは」
「テメェ...何がおかしい?」
「お前らはこの世界の仕組みを知らなすぎるんだよwww
特別に教えてやるよ....俺はお前ら庶民とは違うってことをな...」
その言葉に翔太郎は拳を握りこむ。
ドーパントのままだったら確実に殴っていただろう。
『翔太郎....コイツと喋るのは時間の無駄だ。』
フィリップがそう言うと尊の言動を無視して刃野刑事が来るのを待つのであった。
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第百四話 暴かれたV/納得できない結末
事件が解決した翔太郎であったがその表情は暗かった。
事情を知った亜樹子は依頼料を返すと憤慨しながら帰って来た。
「全く、私達を利用して犯罪の片棒を被せようとするなんて...許せない!
ちょっと玄関に塩撒いてくるわ塩!」
そう言って亜樹子は塩を持って部屋を出ていった。
「大丈夫かい?翔太郎....随分と表情が暗いけど」
「問題ねぇよ....って言いたいが正直、まだ怒りが収まらねぇ。
あの男は自分の罪を他人におっかぶせた挙げ句、罪を償わずに生きてきたんだ。
反省するどころか楽しそうに笑いながらな.....」
「ガイアメモリは人を変えるとは言うがあの男の場合、元々狂ってたのがガイアメモリによって更に悪化したと言うのが正しいのだろうな。
だが、そんな奴でも警察に捕まれば何も出来ない。
大人しく刑に服するだろう。」
そう言ってフィリップが宥めている時に翔太郎の携帯に着信が入る。
「俺だ左。」
「何だ照井かどうかしたのか?」
「落ち着いて聞いてくれ。
角谷尊が"証拠不十分"で釈放されることになった。」
「どう言うことだ!奴は二人の人間を死に追いやった殺人犯なんだぞ!
それにメモリを使った証拠もあるだろうがっ!」
急に怒鳴り出した翔太郎に亜樹子とフィリップも驚く。
「ガイアメモリは新田に"無理矢理挿された"と供述している。
「お前....そんな言い分で引き下がったのか照井!!」
「そんなわけないだろう!本庁に再調査を願い出たが潰された。
恐らく警察の中でもかなり上の立場の人間とコネクションがあるんだろう。
それを調べようにも時間が足りない!
.....角谷尊は釈放するしか無いんだ。」
照井が悔しそうにそう言った。
翔太郎は携帯を切ると立ち上がる。
「何処に行く気だい翔太郎!」
「決まってんだろ!直接、奴をとっちめて真実を吐かせてやる!」
「無駄だ!警察が釈放すると決めた以上角谷尊を立件することは出来ない!
君が行けば捕まるだけだぞ!」
「じゃあどうすりゃ良いんだよフィリップ!
警察が釈放するってことはまたアイツが野に放たれるって事なんだぞ!
そうしたらまた被害が出るに決まってんだろ!」
「......それは」
言葉をつまらせたフィリップを置いて翔太郎はバイクに乗ると警察署へと向かった。
風都のビルの一角にオフィスを構える雨ヶ崎 天十郎は電話を切ると角谷誠司に顔を向けた。
「警察の知人と話を付けました....息子さんは直ぐにでも釈放されるそうですよ。」
「ありがとうございます天十郎先生。
今回は本当に助かりました。」
そう言って誠司は天十郎に頭を下げる。
「それにしても、随分と無茶をしたものですね。
子供のためとは言え貴方にはリスクのある行為の筈だ。」
「これでも息子を愛していますので....息子のためならどんなことでもしますよ。」
「.....そうですか。」
「では、私は失礼致します。
献金の件はご安心ください....色を付けて贈らせていただきます。」
「ありがとうございます。」
そう言って誠司は天十郎の事務所を出ていった。
すると天十郎の元にまた電話がかかってくる。
「はい、雨ヶ崎天十郎です。」
「無名です。」
「あぁ、これは無名さんお久し振りです。
頼んでいた"メモリ"が出来上がったのですか?」
「いえ、今回連絡を入れたのは角谷尊とその父、角谷誠司に関してです。
二人と先生は何か関係がありますか?」
「息子さんの方とは関係ありませんがお父さんの方は私に献金をしてくださるパトロンの一人ですよ。
それがどうかしましたか?」
「実は私の部下がその息子である尊を殺す依頼を受けてしまったので、問題ないのか確認するためにご連絡致しました。」
「殺しの依頼....ですか。」
「えぇ、貴方も噂は聞いたことあるでしょう?
風都の潰れてしまった写真館である雀写真館に深夜、お金と写真を持っていくとその人物を殺してくれる。
そんな都市伝説が確かに存在していた。
「てっきりただの都市伝説かと....」
「私の部下がたまにやっている仕事なのですよ。
今回依頼を受けて角谷尊を殺すつもりだったのですが仮面ライダーが現れましてね。
その為少し、状況が落ち着くのを待っていたんですよ。
それで....構いませんか?」
その声色に否定を許容する感情を感じ取れなかった天十郎は溜め息をつきながら答えた。
「仕方ありませんね....しかし父親から献金の約束を受けているんですよ。
それなのに息子が死んでしまったら何を言われるか」
「それでしたら問題ないですよ.....
貴方に献金させてから自殺して貰えば構わないでしょう?」
「そんな事、可能なのですか?」
「提案出来る策があるとだけ....答えておきましょう。」
「分かりました。
こっちに損が無いのなら構いませんどうぞお好きになさってください。」
「ありがとうございます。」
「一つ....お聞きしても良いですか無名さん。
何故、そんな無駄なことを許しているんですか?」
「無駄....ですか。」
「貴方の部下がやっていることは謂わば復讐代行だ。
暗殺者と違ってまともな報酬すら貰えないこともあるんじゃないですか?」
「確かに否定はしません。
しかし、部下がその仕事を求めているのならやらせる。それが僕の流儀なんです。」
「流儀ですか....」
「えぇ、それに素敵な響きだと思いませんか"復讐"という言葉は。
どんな地位や立場の相手にも実行することを許された行為。
人間の持つ原始的な感情を最も強く受けた行動です。
故にどんな人間にもそれを行う可能性がある....たとえ聖人と呼ばれる人でもね。」
「どうやら、その考えは私にはあまり響かないようだ。
メモリの件....よろしくお願いしますよ。」
そう言うと天十郎は電話を切った。
そして、部屋で市長選の原稿に目を通すのだった。
Another side
角谷尊は風都署を三人の刑事に連れられて外に出た。
「全く、無実の私を捕まえるなんて....警察の人達には困ったものですよ。」
三人の刑事に聞こえるように言った。
若い刑事がムッとして前に出ようとするのを隣の刑事が止めた。
「いやはや申し訳ありませんね。
しかし、ドーパント事件を扱うのが我々の部署の仕事なんですよ...ましてやドーパントになっていたのなら疑ってしまうのも仕方ありませんよ。」
「まるで俺が悪いみたいな言い方だな!
私の父を知っているだろう?
問題にしてやっても良いんだぞ?」
そう、脅す尊に赤いライダースを着た刑事が胸ぐらを掴みかかり言った。
「好きにしろ、俺が何度でも再調査を申請する....認められるまでな。
ガイアメモリを使って犯罪をする者を俺は許さない。」
そう言うと手を離した。
あまりの気迫に尊は怯えながら父親の用意してくれた車に乗り込んだ。
運転手に車を出すように命令する。
(何だよあの刑事は!俺を誰だと思ってるんだ!
クソっ!こうイライラする時はメモリを使って暴れる事でスッキリするんだが、今はメモリがねぇんだよな。
あー、イライラする。早くメモリを手に入れねぇと)
そう考えていると胸に僅かな痛みを感じた。
針でチクッと刺されるような軽い痛みだ。
「あ?....何だこ.....れ...は!」
突如、尊の身体に異変が生じる。
身体が全く動かなくなり声すら出せない。
そして、表情を変えられないので傍目には眠っているように見えた。
(何だ...俺はどうなって..あがががぁぁあ痛い...頭が痛いぃぃぃ!)
まるで頭の神経に直接チューブを差し込まれている様な激痛が尊を襲うが表情や肉体に変化はない。
その痛みはどんどんと強くなっていき気が狂いそうになる。
だが、死ぬことは出来ずその痛みを誰かに伝えることも出来ない。
風都署から尊の自宅までは1時間かかる。
そして、到着した頃には尊の毛髪は白くそして頬もこけたゾンビの様な表情をして息絶えていた。
この現象を引き起こした黒岩は尊に弾が当たったことを確認するとメモリを抜いて無名に電話をかけた。
「俺だ....ターゲットの始末が終わった。
依頼人に完了の報告を入れといてくれ。」
「分かりました...それでどのようにしたんですか?」
「俺の調合した神経毒を心臓の動脈に撃ち込んだ。
結果、全身に即座に回り身体の自由が効かなくなると脳細胞をグチャグチャに破壊する毒が効果を発揮して角谷尊はこの世の地獄を味わいながらくたばったよ。」
「それは良かったですね。
クライアントも喜んでくれるでしょう。」
「あぁ、そうだな。」
そう言うと黒岩は電話を切った。
そして、暫くするとニュースが流れた。
「角谷製菓の社長と息子が亡くなった」というニュースが.....
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第百五話 歌うT/風都の歌姫
「クソっ!遅かったか。」
「ん?翔太郎....お前も来てたのか。
遅れて正解だと思うぞ...出なきゃお前多分、角谷を殴ってたろ?」
「んなこと.....ねぇよ。」
刃野刑事とは翔太郎が学生の頃からの仲だ。
口に出さなくても分かることがあるのだろう。
刃野刑事の言葉で少し落ち着きを取り戻した翔太郎は二人に聞こえないように照井に話しかけた。
「照井、何か捜査に繋がる証拠ってないのか?」
「新田の自宅から手帳が見つかった。
恐らくはここに取材の内容や詳細が書いてあるのだろうが....」
そう言うと照井は携帯の画面を見せた。
そこには撮影された手帳の写真が書いてあった。
「何だこれ"い111う1000あ11"?意味が分からねぇ。」「新田は中身の解読を恐れて手帳を暗号化していたようだ。
そして新田の持つパソコンには膨大なデータが入っていたのだが何十にもプロテクトやトラップが仕掛けてあるらしく無闇に触ったらデータがなくなる危険性があるので調べられていない。」
「分かった。
それはフィリップに解読させる。
本人も喜ぶだろうしな。」
「あぁ、頼む。
俺には専門外過ぎるのでな....」
そう言うと翔太郎は照井から手帳の画像データを貰い一度、事務所へ帰宅するのだった。
そうして、数日が過ぎる間に色々なことが変わっていった。
角谷親子が突然死しその瞬間にガイアメモリの使用や汚職の証拠が沢山出てきた。
これにより警察は本格的な捜査に乗り出すのだが角谷誠司の口座の預金が無くなりその足取りだけは謎のままだった。
そして、風都の市長選が行われ圧倒的票数で雨ヶ崎 天十郎が当選した。
そのお祝いとして風都博物館を開放した祝勝会が開かれ照井と共に鳴海探偵事務所も参加できる運びとなった。
「私はこの風都と言う街が好きです。
常に風が流れ止まることのないこの街が更に発展していくように努力していく所存です。
皆様、どうぞ応援よろしくお願いします。」
そう演説を締めくくった天十郎に割れんばかりの拍手が送られた。
「何だか真面目な人が市長になったね翔太郎君。」
亜樹子が祝勝会で出された食べ物を隠してタッパーに詰め込む姿を呆れて見ながら翔太郎が答える。
「そうだな...ここの飯をネコババするお前よりかはまともそうだよ。」
「何よ....最近依頼が少なくて大変なの知ってるでしょ?
文句言うなら仕事取ってきなさい仕事を!」
そう言ってスリッパで顔をグリグリされていると照井が二人を見て軽く笑いながら現れた。
「相変わらず、退屈しないな二人とも」
「ほっとけ....それより俺達を呼んだのはパーティを楽しむ為じゃないんだろ?」
「あぁ、実は....」
そう照井が話し始めようとすると司会がマイクに近付きお客に話し始めた。
「それではお待たせ致しました。
この祝勝会に出演してくださるゲストを紹介致します。
"風都の歌姫"....
皆様、どうぞ拍手でお出迎えください。」
そう言われると黄色のドレスを纏った少女が舞台に現れた。
「あっ、歌恋だぁ!スッゴいよ翔太郎君!
私、生で見たの始めてだよ!」
その姿に亜樹子は興奮している。
それもその筈....歌恋と言えば風都の歌姫として活躍しているトップ歌手であり音楽番組で彼女の出ない日は無いと言われる程大人気の人物だった。
まだ、高校生らしいのだが歌の才能は本物で"百年に一度の天才"と噂されていた。
壇上で歌恋はマイクを手に取ると喋り始める。
「この曲は遠くに行ってしまった"大切な人"を思って作りました。
聞いてください....」
そうして、歌い始めた歌恋の歌は優しくも悲しさを帯びており聞いている者の涙を誘った。
そして、歌を歌えば歌うほど歌恋の目から涙が溢れてくる。
その涙に翔太郎は違和感を覚えた。
(あの涙は何だ?....まるで"後悔をかかえている"様な涙は)
そんな事を考えていると会場の地面に突如"黒い穴"が出現した。
そこから数体のドーパントが現れる。
その光景に館内はパニックになった。
「きゃぁぁぁぁ!」「助けてぇぇぇ!」「ばっ化け物がぁぁ!」
辺りの混乱の中で照井と翔太郎は話す。
「何でこんなところにドーパントが出るんだよ!」
「俺に質問するな!.....兎に角行くぞ左。」
「あぁ、行こうぜフィリップ!」
二人は周りにバレない場所に移動しドライバーを着けるとメモリを装填したのだった。
黒い穴から現れたドーパントは辺りを見渡し歌恋を見つけると言った。
「見つけたぞ....あの女だ。」
そうして複数のドーパントが全員、歌恋の元へ向かう。
「....嫌っ来ないで!」
歌恋は怯えながらそう叫ぶ。
「安心しな歌姫さん、アンタに指一本触れさせないぜ!」
そう言ってWはドーパントの前に立ちふさがりドーパントの背後からアクセルが現れた。
「チッ!仮面ライダーだと!?
何でテメェらがこんな所にいやがるんだ!」
「そりゃ、こっちの台詞だドーパントども!
歌姫に何の用があるんだ?」
「.....仕方ねぇおめぇら殺っちまえ!」
そう一人のドーパントが言うと周りのドーパントが呼応してWとアクセルに襲いかかってきた。
『"コックローチ"に"アノマロカリス""アームズ"それに指示を出している奴のメモリは"ドッグ"かな....翔太郎、先ずはこの場からコイツらを外に出そう今のままここで戦うのは危険だ! 』
「分かったぜ....ならこれだ!」
「LUNA,METAL」
Wルナメタルに変身するとメタルシャフトを鞭のように伸ばし三体のドーパントを纏めるとそのまま、そとへと放り投げた。
「何っ....クソっ!」
そう言って指示を出したドーパントが歌恋を狙おうとするが
「TRIAL」
トライアルメモリで変身したアクセルの高速移動により目の前に現れるとエンジンブレードで切り伏せられた。
「グアッ!クソクソっ!何で邪魔をする仮面ライダー!」
「俺に質問をするな....さぁ振り切るぜ!」
アクセルがそう言うとドッグドーパントに向かっていくのだった。
外に出たWと三体のドーパントは地面に頬り投げられた。
「さてと....色々と話を聞きたいが先ずはメモリブレイクさせて貰おうか!」
「METAL MAXIMUMDRIVE」
『「
Wがメタルシャフトを回転させると金色の輪が4つ生成され三体のドーパントへ放たれた。
コックローチ、アノマロカリス、アームズ...全て過去にWを苦しめたドーパントではあるが、これまで数々のドーパントと戦ってきたWは三体のドーパントを相手にする程度なら問題ないレベルへと成長していた。
生成された輪は遠距離武器をもつアノマロカリスとアームズを交互に攻撃しコックローチは自慢の足を使われないように鞭と化したメタルシャフトで打ち据えていた。
「こっからはアドリブだぁ!」
翔太郎がそう言うと4つの輪が集まり金色の球体を作ると伸びたメタルシャフトの尖端にくっ付けた。
まるで巨大なモーニングスターのようになったその武器を三体のドーパントに振り下ろすと大爆発を起こしてメモリブレイクされた。
その姿にフィリップが驚き翔太郎に尋ねる。
『翔太郎....もしかしてメモリとの適合率が上がったのかい?』
「わかんねぇけど、角谷との一件以降、力が強くなった感じはするな。」
『そうか。』
恐らく、角谷の事件の怒りでジョーカーメモリとの適合率が上がり、それに追従するように他のメモリとも適合率が上がったのだろう。
「んなことは後だ、今は照井の援護に行くぞ!」
『あぁ、そうだな。』
二人は会話を終わらせると風都博物館へと戻るのだった。
一方その頃会場ではドッグドーパントとアクセルが戦闘を続けていた。
「答えろ。
何故彼女を狙う?」
「貴様に話すことなどない。」
「そうか、だが無理矢理にでも話して貰う。」
そう言うとトライアルメモリを抜きマキシマムを発動する。
突然の高速移動にドッグドーパントも応戦しようとするが速度が足りず顎を蹴られて浮き上がると空中にいる状態で蹴られ続ける。
空中に"T"の文字が刻まれると最後の一撃で思いっきり空中へと蹴りあげた。
「TRIAL MAXIMUMDRIVE」
「8.4秒それがお前の絶望までのタイムだ。」
「ぐぁぁぁぁぁ!」
空中で爆発を起こすと黒服に身を包んだ男が落下してきた。
「さて、お前が何者か詳しく....」
そう言って近付こうとすると黒服が突如地面に空いた穴に落ちて姿を消した。
「なっ!待て!」
照井も追おうとするが穴が直ぐに消えてしまった。
そこにWも合流する。
「そっちは片付いたのか?」
「まぁな、歌姫さんの方はどうだ?」
「問題ない無事だ。」
「良かったぜ....大丈夫だったか?」
そう言ってWが歌恋に触れると突如、警笛の音が空間に響く。
「何だ一体?」
すると、Wが謎の攻撃を受けて吹き飛ばされてしまった。
「グアッ!」
「左!....グッ!」
近くにいたアクセルも同様に攻撃を受けて吹き飛ばはれる。
『攻撃の位置や種類が全く掴めない気を付けろ翔太郎、照井竜....敵はまだ近くにいる。』
二人のライダーが警戒していると突如声が聞こえる。
『カ....レ....ン....に....げろ....』
その声に歌恋が反応する。
「.....お父さん?」
off shot
獅子神邸の警護をしている紫米島と白爪は二人でじっと周りを警戒していた。
そんな中、紫米島が話しかける。
「......おい白爪。」
「.............」
「返事ぐらいしろ白爪。」
「ハァ....何ですか紫米島?」
「.....暇だな。」
「そうですね......」
「「...........」」
そうして二人の会話が途切れる。
そう、紫米島は暇な時間が好きではない。
だからこそ、白爪を巻き込んで何か暇潰しをしたのだが白爪はある意味、仕事人間なので紫米島の意図を読めても乗ろうとしてこなかった。
「おい、白爪....暇だ何かないのか?」
「そんな定食屋で聞くみたいに話を振らないでください。」
「仕方がないだろ?
メモリを使って遊ぼうにも獅子神に止められている。
侵入者でも来ないと変身できないんだよ。」
「当然でしょう?
獅子神邸に煙になる化け物何て現れたら都市伝説扱いされてしまいますよ。」
「.......だが、暇だ。」
「子供ですか貴方は....」
「「...............」」
「白爪、喉が乾かないか?」
「いきなりですね....まぁ、少しは乾いてますがこの屋敷には飲み物は完備されていますよ。
使用人に頼んで持ってきて貰えば良いじゃないですか?」
「あの人の高級思考にはついていけないんだよ。
知ってるかあそこに置いてあるコーラなんか金箔やら高級そうなハーブが入っているんだ。
味が俺の知っているコーラですらなくなってる。」
「まぁ、そこは同意しますがね。
此処の飲み物を飲むと普通のドリンクが無性に欲しくなる時がありますよ。」
そこまで話すと紫米島が思い付いた様に話し始めた。
「そうだ、少しゲームをしよう白爪。
この付近にコンビニか自動販売機はあるか?」
その問いに白爪は溜め息をつきながらも携帯で調べる。
「ここから一時間弱の所にありますね。」
「いくらなんでも遠すぎないか?
田舎のコンビニじゃないんだぞ。」
「ここら辺、一体を獅子神様が買い取っているんですよ。
その関連でコンビニが無いんでしょうね。
あの方はコンビニを使って買い物をする何て考えは無いでしょうからね。」
「..........なら自販機はどうだ。
それぐらいなら近くにあるだろう?」
「....あっ、ありましたね。
ここから30分の所に一つだけ」
「それは良かった。
なら問題な.....」
「ただ、裏手の坂道を昇る必要がありますね。
彼処は車でもかなりの傾斜ですから歩きとなると大変でしょうね。」
「「.............」」
二人とも喉が乾いており余り動きたくない。
この状況で二人の考えることは一つだった。
そして、それを決めるためにお互い顔を見合うと一斉に動く。
「「じゃんけんぽん!」」
紫米島「チョキ」白爪「グー」
「............」
「では僕はコーラをお願いしますね。」
紫米島はその結果に明らかに不服そうだった。
「俺ならばハサミで岩を斬ること位...」
「貴方は子供ですか....いいから早く行って下さい。」
「チッ!.....コーラで良いんだな?」
「えぇ、お願いします。」
そうして紫米島は自販機へと向かっていった。
(それにしても本当に斬れる物なら何でも好きなんですね。
前、見て思いましたがじゃんけんまでチョキを最初に出すとは....これは暫くは飲み物には困りそうにありませんね。)
白爪はそう思い微笑むと警護の仕事に戻るのだった。
余談だが、その後暫くの間裏手の自販機には汗だくの着物姿の男が良く現れたそうだった。
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第百六話 歌うT/父の願い
「おい!あぶねぇぞ!」
Wの声を無視するように歌恋が周りを見ながら言った。
「お父さん!お父さんなのね?
私よ!お願い姿を現して!」
「父?一体どう言うことだ?」
アクセルが立ち上がって歌恋に近付こうとするとまた謎の力により吹き飛ばされた。
「止めてお父さん!お願い!」
『うっ.....カレ...ン...逃げる...んだ...』
そう声が聞こえると謎の攻撃が止んだ。
「どう言うことだ?」
『恐らくこの場から消えたんだろう。
それにしても一体どんな能力なんだ?』
残ったのはWとアクセル、そして呆然としながら周りを見る歌恋だけだった。
「あの時助けてくれたのは....
歌恋は風都署で照井達に自分の事情を説明していた。
「あれは久し振りにお休みを貰って父と一緒に風都でぶらついていた時だったんです。
刑務所の脱走事件に巻き込まれて....」
(真島の一件か....)
「そこで囚人と黒服の集団を見てしまったんです。」
歌恋と正幸は安全な場所へ向かおうと隠れながら移動していた。
そこで、偶然に囚人の一人と鉢合わせてしまう。
「あ?テメェら」
そこで正幸が娘を守るために囚人に組み付いた。
「お父さん!」
「歌恋!走れぇ!」
その言葉に従って私は逃げました。
そして、息を整えると黒いバンを見かけて助けを求めようとノックした。
「助けてください!お父さんが私を守るために!」
窓が開くと、中からオールバックで黒服を来た集団が出てきた。
その内の一人が中にいる人物に声をかけた。
「おじき....女がここに来たようですがどうしましょう?」
「此処の場所を喋られると面倒だ....殺れ。」
「へい。
お前らその女を
私はその言葉を聞いて恐怖により足がすくんでしまい地面に座ってしまいました。
そうして近付いてくる黒服の前に父が現れたんです。
身体は傷だらけで囚人と一悶着あったのが分かりました。
「むっ....娘に手を出すなぁ!」
「全く、次から次へと」
黒服の一人がそう言って父を睨み付けていました。
そんな父が手に持っていた物を黒服に見えるように出しました。
「なっ!何でテメェがメモリを持ってやがる?」
「娘は傷つけさせない!」
「
父はメモリを身体に挿して怪物に変身すると車ごとその場から消えたんです。
そして、助かった私はマネージャーに連絡して保護され、警察にも事情を説明したんですが結局今の今まで父の行方は分からないままでした。
この話を照井が通話状態にしていた携帯から聞いた翔太郎とフィリップ、亜樹子の三人は顔を曇らせる。
「あの事件の裏でそんな事が起きてたなんて....」
「フィリップ、お前はどう思う?」
翔太郎の問いにフィリップが答える。
「恐らく、囚人から奪ったメモリで金本正幸は変身したんだろう。
あの事件ではコネクター手術の必要がない様に改造されたメモリが使われていたからね。
誰でも使用できた筈だ。
そして、今日襲ってきた謎の敵も正幸氏で間違いないと思う。」
「話を聞きながらメモリの検索をした。
"トレインメモリ"にはここではない別の空間を移動する力があり、そこから現実世界に戻る能力も備えている。
攻撃する瞬間だけ戻っていたから敵の位置や攻撃方法が分からなかったんだ。」
「じゃあ、俺達を襲った原因は何なんだ?
歌恋ちゃんに手を出すように見えたとかか?」
「それは無いと思う。
もしかしたら、何かしらのトラブルが彼に起こっている可能性がある。
引き続き検索するよ。」
そう言うとフィリップは自室へと戻り翔太郎はメールで照井に状況を説明すると通話を切った。
メールを見終わり話を聞き終わった照井は歌恋を部下に任せて部屋を出ると、入り口で揉めている集団を見つけた。
「あの
あの女こそ犯人じゃないのか!」
「そうよそうよ。さっさと逮捕してよ!」
どうやら、あの会場に参加していた人達の中で歌恋の事を怪しんだ者達がその事を言うために警察署に来たらしい。
(やれやれ....面倒だがこのまま放置しておく訳には行かないな。)
そう言ってその集団に照井が向かおうとするとその集団に声をかける人物がいた。
「全く、論理的でない主張だな。」
この言葉を受けて集団はその人物を見る。
そこにはタブレットを持ちメガネをかけた男性がいた。
「そもそも、君達や私を襲ったのは怪物の集団だ。
そしてその怪物達は彼女を狙っていた。
以上の点から彼女を犯人と断定して動くは論理的に破綻している。
犯罪とは目的を遂行するために行う手段だ。
そして、警察はその犯罪を調査し解明するプロフェッショナル....君達の様な素人の意見が通ることは無い。」
「なっ....何だと!」
「もう一つ付け加えるなら犯罪を犯していると言うのなら彼女より君達の方が適切じゃないかね?
事情聴取の為に待っていて暇だったから、君達と過去の事件を照らし合わせてみた。
何件か怪しい項目がヒットしたよ....その事を今刑事さんに確認して貰っている。」
そう言ってタブレットを見せられるとさっきまで吠えていた集団は血の気を引かせて黙ってしまう。
「どうした?顔色が悪いようだが....もう少しで刑事さんが来てくれるから、そこでさっきみたいに喚いても良いんだぞ?」
その集団は男性の言葉を聞くと皆、散り散りとなりその場を後にした。
そこに照井が現れる。
「失礼、貴方は一体?」
「超常犯罪捜査科室長の照井警視ですね?
こうしてお会いするのは始めてですが、私も捜査に関わる仕事をしているんですよ。」
そう言うと男性は懐から名刺を取り出す。
そこには"風都大学教授" "
「風都大学の教授ですか。」
「えぇ、良くこちらの署で捜査協力をしています。
私の専攻が犯罪心理学ですので.....」
「成る程、と言うことは私の部署に関することも?」
「えぇ、ガイアメモリの事は存じていますよ。
この街に住んだら否が応でも目にする事件ですから」
「参考までにお聞きしたいのですが赤矢教授は今回の事件をどう考えますか?」
「そうですね。
歌恋さんが狙われたのには何か別の理由があると思います。
歌恋さんの命を狙うのなら博物館ではなくもっと人も少なく確実性の高い場所を狙うべきです。
それをしなかったと言うことは.....」
「囮と言うことですか?」
「えぇ、その可能性が高いと思います。
彼女を守って逃げたドーパントこそ....」
「真犯人の本当の目的です。」
Another side
「おじき....申し訳ありません。」
そう言って黒服の男は地面に頭を擦り付けている。
頭を下げさせている"おじき"と呼ばれる男はタバコに火をつける。
「まさか、仮面ライダーが出張ってくるなんて.....
この借りは必ず返します。
ですのでもう一度チャンスを...」
「お前、何か勘違いをしてねぇか?
俺は別に仮面ライダーに敗れた事について咎めるつもりはねぇよ。」
「え?」
「俺達の世界は確かに面子を大事にする。
仮にも代紋を掲げているからな。
お前らを送り出すときも証拠になりそうな者は持たせなかった。」
「俺がお前達を送り出したのはあの男からアタッシュケースを取り返すこと....それだけが目的だった。
あのアタッシュケースには俺達よりももっと上の立場の連中が使う物が入っている。
万が一奪われたことが奴等にバレたら俺達は組織ごと消されるだろう。
だからこそ、仮面ライダーが出張って来たのなら潔く撤退すれば良かった。」
「だが、まぁそれは良いだろう。
まだ巻き返しが聞く...」
「おじき、ありがとうございます。
この恩は....」
「だが、お前は"取り返しのつかないミス"を犯した。」
「お前はコックローチメモリの販売価格を知ってるか?」
「いっ....いえ」
「"一本500万"だ。
あのランクのメモリでさえこの値段になる。
後はアノマロカリスとアームズ、それにお前が使ってたドッグもあったか....」
「おっ....おじき?」
「アノマロカリスは"850万"、アームズは"1200万"、ドッグは"1650万"だったか?
つまりお前は"4200万"の金をドブに捨てたわけだ。
この落とし前はどうつける?
お前のポケットマネーじゃ到底払いきれない金額だ。」
「人は安く買える....だがメモリは別だ。
これの価値はお前らの命よりも重い。」
「おっ....おじ!」
「だからこれは"損切り"だ。
これ以上の出費を抑えるためのな。」
黒服の男は突如、出現した穴に落ちていく。
そして、穴を閉じるとおじきは携帯を取り出した。
「俺だ....兵隊を集められるだけ集めろ。
この際だあのメモリの実験とアタッシュケースの確保、両方やらせて貰おう。」
そう言うとおじきは身体から抜いた"H"のイニシャルが書かれたメモリを眺めるのだった。
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第百七話 落とすH/圧倒的な量
そしてその情報を照井と合流した左達とも共有する。
「歌恋さんが目的じゃないとすると一体何が目的なんだ?」
「一番怪しいのは父親である金本正幸だろうね。
その黒服の組織と何かしらのいざこざがあったと考えるのが自然だろう。」
「いざこざ.....なぁ、歌恋さん何か思い出せないか?襲ってきた相手の特徴とかなんでも良いんだ。」
翔太郎の言葉に歌恋は悩む。
「特徴と言えるかは分かりませんが黒服の人達の中に"金のバッチ"を付けてる人がいたような....」
「金のバッチだけじゃ流石に難しいわよねぇ..."名前でも書いてあれば"良かったんだろうけど」
「名前.....はっ!思い出しました。
そのバッチには漢字が書いてありました!」
「おい、それって.....」
「指定暴力団が使う物だろうヤクザの代紋か....」
「よっしゃあ!それが分かれば一歩前進だな。
お手柄だ亜樹子。」
「ほへっ?....まっまぁね!私にかかればこんなもんよぉ!」
「それでその字とかは覚えているか?」
「うろ覚えですが....」
「構わねぇよ...頼む。」
そうして歌恋の協力により
大河原組....元々は天ノ川地区で勢力を強めていた組織だったが現在は風都にもその勢力を伸ばしていた。
そして何よりも照井や翔太郎達の目を引いたのはガイアメモリ流通に関する犯罪を犯している可能性があると書かれていた資料だった。
「天ノ川地区でもガイアメモリが出回っているって言うのかよ。」
「事実だ....俺が初めてアクセルになったのがこの地区だからな。」
「と言うことは益々、信憑性が増してきたね。」
「あぁ、今回の犯人は必ず捕まえるぞ。
そして、組織について洗いざらい吐かせる。」
すると、歌恋の地面が急に暗くなり穴へと変化した。
「きゃぁぁぁ!」
歌恋はその穴の中へと落ちていく。
そして、照井と翔太郎の足元にも同様な黒い穴が現れると落下してしまった。
そして、地面に落下すると辺りを確認する。
「痛てて...ここは一体?」
「潰れた廃工場か?」
「その通り。」
突如、工場の天井から声が聞こえる。
「流石は超常犯罪捜査科の刑事だ。
俺の部下よりも頭が良いらしい。
だが、だからこそお前達はここで死ぬ。」
そう言うと工場の周りから人がぞろぞろと現れてくる。
「何だコイツら?」
「俺の持つ兵隊だ。
皆、エンゼルビゼラの中毒者でな....薬の為なら何でもやる優秀な兵隊さ。
コイツらがお前達を殺す。」
「はっ!舐められたもんだぜ!
コイツらに俺達が負けると本気で思ってるのか?」
「勿論、私は念には念を入れる。
彼等にはガイアメモリと......」
「ちょっとしたサプライズを渡してある。」
そう言うと集団はメモリを取り出す。
「「「「
そして、メモリを挿すとマスカレイドドーパントへと集団は変身した。
マスカレイドメモリは組織の構成員に渡されるメモリで戦闘力は低いが情報漏洩を恐れてメモリに自爆機能が施されていた。
しかし、無名とメイカーの活躍により既存のメモリの量産も目処が付き構成員に渡されるメモリもグレードアップした結果、大量に余ったマスカレイドメモリを獅子神が引き取っていた。
そして、無名の開発した新メモリの実験に使われた。
「「「「
集団は取り出したギジメモリを身体に装填する。
すると肉体が膨張し力が増大する。
「何だ一体コイツらは?
急にデカくなりやがったぞ!」
「左、状況は最悪だ!
コイツら全員を相手にしていたら...金本歌恋が助けられなくなる。」
「んなこと分かってる!....ならどうすれば」
「俺が、ここを引き受ける!
お前達は金本歌恋を見つけて助けるんだ!」
「おい、マスカレイドとは言えすげぇ量だぞ。
平気なのか?」
「左、俺につまらない質問をするな。」
「ACCEL」
「変.....身!」
照井はメモリを装填しスロットルを回すと仮面ライダーアクセルへと変身した。
「さぁ行け!左!」
照井のその言葉に従うと翔太郎は工場を後にした。
追いかけようとする強化されたマスカレイドの集団にアクセルはクラッチを握ってマキシマムを発動させると追おうとするマスカレイドを薙ぎ払った。
「ACCEL MAXIMUMDRIVE」
蹴り払われた複数のマスカレイドは吹き飛ぶと大爆発を起こした。
「ここは通行止めだ。
通りたいのなら俺を振り切ってみろ!」
そう言って照井はマスカレイドドーパントの集団を睨むのだった。
外に出た翔太郎の前に"リボルギャリー"が現れると中からフィリップが出てきた。
「翔太郎、早く乗るんだ!」
「いいタイミングだぜ相棒!」
そうしてリボルギャリーに乗り込むと走り出した。
「歌恋さんの居場所は問題ない。前もって発信器を渡しておいた。
これで跡が追える。」
フィリップがそう言って取り出したのはスパイダーショックで追跡できる小さなチップだった。
「流石だな相棒、後は大河原組の奴を倒せば一丁上がりだな。」
「そう上手く行かないと思うよ翔太郎。」
「どう言うことだフィリップ?」
「さっき、検索を終えた。
トレインメモリは通常の製法で作られたメモリじゃない。
その為、通常のメモリ....僕の作ったメモリより毒素が強くなる傾向があるんだ。
そして、金本正幸は今もトレインメモリを使い続けている。」
「今もって、ずっとドーパントになっているってことかよ!」
「あぁ、金本正幸はトレインメモリの過剰適合者だった。
そして、絶え間なく流れる毒素が彼の身体を蝕んでいる。
早く助けないと彼は死んでしまう。」
死ぬ可能性を示唆された翔太郎はショックを受ける。
「そんな、助けられないのかよ?」
「エクストリームなら可能だ。
だが、時間が迫っている。
これ以上メモリの毒素を受け続けたら本当に助けられない。」
「分かった....親父さんを救おうぜフィリップ。」
「あぁ」
そうして二人は発信器で示される場所へと大急ぎで向かうのだった。
目を覚ました歌恋は身体を縄で縛られてビルの上に吊るされていた。
「漸く、お目覚めか風都の歌姫様。」
そうして声をかけてくるのはあの時、車の中で指示を出していた男であった。
「貴方は......」
「全く、お前の親父には本当に苦労させられた。
まさか、トレインメモリの力を彼処まで引き出すとはな。
お陰でバンごと、別次元へ転送されてしまった。
俺はこのメモリのお陰で助かったがな。」
「そのせいで取引相手に渡す筈だった大事な品物も奴のいる次元の中にある。
俺はそれを何としても取り返さないといけないんだよ。」
そう言うと男はメモリを起動する。
「
肩に突き挿すとメモリが入り身体を黒い影が覆うと円上の黒い形で構成された怪物へと変身した。
「お前の親父を呼び出す為にちょっと怖い目にあって貰う。」
そう言うと歌恋の下に黒い穴が生成される。
「この穴の下は工業用の粉砕機と繋がっている。
人間なんか簡単に挽き肉に変えるぞ。
さぁ!早く出てこい!でないと娘が挽き肉になる姿を見ることになるぞ!」
そう、ホールドーパントが言うと警笛の音が聞こえ始める。
「来たか!」
そう言うとホールドーパントは身体に両手を突っ込むと思いっきり開いた。
「俺のホールメモリは"空間と空間を繋ぐ穴"を生み出せる能力がある。
初めてお前とやりあった時はメモリのことを詳しく知らなかったが今は違う.....
お前が俺に近付けばホールメモリの穴と共鳴し現実世界に引っ張り出せる。
......ほら捕まえたぜ!」
そう言うとホールドーパントは体内で掴んだ者を思いっきり引っ張り出した。
すると電車のパーツがくっついた怪物が中から現れた。
「グッ.....は...なせ....」
「ん?....どうした随分と体調が悪そうだなぁ!」
そう言ってホールドーパントが引き抜いた怪物を蹴り倒した。
「パッ....パパ!」
その姿に歌恋が声を出す。
その方向に怪物が顔を向けると驚愕した声を上げる。
「歌....恋....あ..ぶ....な」
しかし、怪物は動くことすらままならない。
その姿を歌恋は涙を流しながら見つめるのだった。
Another side
遠くからその光景を見ていた赤矢は電話で無名と連絡を取っていた。
「まさか、行方不明だったトレインメモリを一般人が使っていただなんて.....」
「やはり、お前でも予想外の事態だったんだな。」
「えぇ、それに"リミットギジメモリ"のデータを獅子神が勝手に使ったようなんで今回の件で恐らく使っているんでしょうね。」
電話越しで聞こえる無名の声には不満の感情が入り交じっていた。
「それで....どうする?」
赤矢の問いに無名は答える。
「私はこの孤島から動くことは出来ません。
貴方達にお任せします。
トレインメモリ使用者の救出の援護...それと情報の奪取頼めますか?」
「黒岩に頼めば可能性は高くなりそうだがトレインメモリの使い手の救助は私一人では難しい。
私にはメモリの知識は無い。」
「そこは問題ないでしょう。
事情をWが知ったのなら必ず彼を救おうとする筈です。
問題は大河原ですね....確実に彼が邪魔をしてくるでしょう。
アクセルの協力が必要か....」
「アクセル、先ずは居場所の把握が必要か。
あの男の事だリスクを最小限にするためにWとアクセルを足止めする手段を行っているだろう。
あの二人ならどちらかが囮になって片方が彼等の救出に向かう筈だ。
となれば....そろそろか。」
そう言うと赤矢の見ている地点に空を飛ぶバイクと仮面ライダーWが現れた。
「無名、Wが現れた。」
「となると、アクセルが囮となってるわけですか。
今から探しても間に合わない。
赤矢さん....少し無茶を頼んでも良いですか?」
「そう言ってくると思ったが一応、聞いても良いかな?」
「Wがトレインメモリのメモリブレイクを終えるまで違和感なく大河原の足止めを行ってくれますか?」
無名からの問いに赤矢はこれから行うべき行動と理論を考えながら彼等の元へ向かうのだった。
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第百八話 落とすH/救う為に
リミットの名の通り、メモリの引き出せる限界ギリギリまで理論的には出力させることが出来る。
しかし、無名はこのメモリを生産せず開発段階で留めていた。
それはこのギジメモリに改善不可能な欠陥があった為であった。
「ハァァァァ!」
「ENGINE MAXIMUMDRIVE」
アクセルがマキシマムを発動したエンジンブレードで集団を横一文字で切り裂いた。
切り裂かれたマスカレイドは吹き飛ばされながら大爆発を起こす。
「やはり、自爆装置がついたままなのか!」
ここに集められた人達はエンゼルビゼラの中毒者で大河原組が囲い混んでいた兵隊なのだろう。
しかし、だからと言って捨て駒としてここで殺されていい人間では無いと照井は思っていたのだ。
だからこそメモリブレイクしか解決法方を見出だせない自分に怒りが湧く。
(俺にフィリップの様な"相棒"がいれば.....)
そんな事を考えていると突如、周りにいたマスカレイドが勝手に爆発を始めた。
「どう言うことだ?」
照井は知るよりもなかったが無名がリミットギジメモリを量産化しなかったのはメモリの力を限界まで引き出した結果、メモリ本体が耐えられなくなりメモリブレイクを勝手に起こしてしまう欠点があるためだった。
そして、ギジメモリにもガイアメモリと同じく適合率の関係で高い程、ギジメモリの能力が色濃く反映される。
つまり、このギジメモリを使って変身したマスカレイドはいつ爆発してもおかしくない爆弾と変わりがないのだ。
状況は分からないがこれが挿しているメモリのせいだと照井も分かり彼等に声をかける。
「おい!早くメモリを抜け!
でないと爆発して死ぬことになるぞ!」
「爆発ぅ....あははバーンってなったバーンってwww」
「あぁ、気持ちいいなぁ!」「もっと.....もっと薬が欲しいよぉぉぉ!」
しかし、そんな照井の忠告もエンゼルビゼラの中毒者である彼等には聞こえなかった。
そして、爆発することが分かったマスカレイドドーパントはあろうことかアクセルにしがみつき始めた。
「自分もろとも自爆するつもりか!」
しがみついてくるマスカレイドを引き剥がすと飛ばされた個体が爆発しそれにアクセルやマスカレイドドーパントの集団が巻き込まれて地面に転がされる。
そして、転がった先でも爆発が起こりマスカレイドの連鎖爆発がアクセルを襲った。
そして、廃工場が爆発に巻き込まれて跡形もなく消滅するのだった。
娘を助けるためにトレインドーパントがホールドーパントの前に現れたがホールドーパントの能力により現実世界に戻されたトレインドーパントは身体のダメージから全く動けなくなっていた。
そんなトレインドーパントをホールドーパントが踏みつける。
「手間取らせてくれたな。
だが、お前を捕らえられた以上俺の勝ちは決まった....さぁ言え!アタッシュケースはどこに隠した?」
「アタッシュ....ケース?」
「惚けるな!お前の力でバンが別次元に移動したのは分かっている!
それをここに呼び出して貰う。
断るって言うのなら....」
「お前の娘が挽き肉になる姿を見ることになるぞ?」
すると、歌恋の下の穴から何かの機械が稼働する音が聞こえた。
歌恋の表情からも下に何があるのか理解できた。
「わ....かっ...た。」
正幸はトレインドーパントの力を使いあの時。娘を守るために飛ばしたバンを探す。
能力を使う度にメモリの毒素が彼の身体を蝕むが何とか意識を保ち黒のバンをその場に出現させた。
その疲労で正幸は地面に突っ伏す。
ホールドーパントはそれを無視するようにバンを開けるとアタッシュケースを取り出して中を確認する。
ちゃんと物が入っていることに安堵するホールドーパントに正幸が話しかける。
「や...くそ..くだ...む...すめ...を」
すると、ホールドーパントは正幸の頭上に穴を開けるとそこから鉄骨が落下してきた。
避けられない正幸は身体が挟まれて身動きが取れなくなってしまう。
「俺達の世界は舐められたら終わりなんだ。
特に素人に一杯喰わされた何てバレでもしたら困るんだ。
安心しろ....娘を片付けたら次はお前だ。」
そう言うと娘を繋いでいたロープが切られる。
娘が穴の中へと落下していく。
「歌恋っ!」
しかし、歌恋が落下する前に確保される。
そして、ホールドーパントの身体にプリズムソードが刺さっていた。
「何とか間に合ったぜ。」
そう言うのはWCJXに変身した左翔太郎とフィリップだった。
身体に刺さっている剣を掴みながらホールドーパントはWに言う。
「クソっ!また邪魔をしやがって!
風都の守護神気取りの野郎が!」
歌恋をバイクの遠隔操作機能でリボルギャリーに格納して安全を確保するとWはホールドーパントに怒りを向ける。
「テメェらみてぇに街を泣かせる奴らがいる限り、何度だって邪魔してやるよ!
大事な娘を人質に取る外道に手加減なんてしねぇ!」
『「さぁ!お前の罪を数えろ!」』
「喧しい!ここで殺してやるよ仮面ライダー!」
そうしてホールドーパントとWの戦闘が開始されようとした瞬間、鉄骨の下敷きになっていた。
正幸に変化が起きた。
「ぐおぁぁぁぁ!娘に手は出させなぁぁぁい!」
身体が巨大になり大きな列車の化物へと姿を変えた。
そして、Wとホールドーパントのいる空間がねじ曲がると景色が白黒の世界に変わった。
「一体、どういうことだ?」
『恐らくメモリの毒素によってトレインメモリの力が強化されたんだ。
僕達は今、トレインメモリが作り出した別次元の中にいるんだろう。』
フィリップがそう推察するとトレインドーパントがWに、向かって襲いかかってきた。
「なっ!違う!俺達は正幸さんアンタと争うつもりはない!」
『無駄だ翔太郎!毒素によって正気を失ってる!
もう正常な判断が出来ていない!』
Wが暴走するトレインドーパントへ対応しているとホールドーパントは身体に刺さったプリズムソードを無理矢理気に抜く。
「ぐぁ!....やはりこの剣がホールメモリの力を阻害していたのか。」
ホールドーパントはアタッシュケースに手を掛けるとメモリの力を使い現実世界に繋がる穴を作った。
「テメェ!逃げんじゃねぇ!」
Wはトレインドーパントの攻撃に耐えながら言う。
「俺はこれを無事に届けるのが仕事なんだ。
目的を達した以上、ここにいる意味は無い。
精々、その死に損ないと遊んでおくんだな。」
そう言うと穴の中へと消えていった。
追おうとするがWの前にトレインドーパントが立ち塞がる。
『翔太郎、今は彼のメモリブレイクを優先するんだ!』
「そうだな仕方ねぇ!」
翔太郎は落ちているプリズムソードを掴むとトレインドーパントを斬り付けた。
だが、刃が触れる瞬間、刀身が消えてWはトレインドーパントのタックルを食らってしまう。
シールドで受けたことでダメージを減らせたが巨大化したドーパントのタックルはWの身体にダメージを与えた。
「剣がすり抜けたぞ!」
『恐らく、身体の周りの空間が歪んでいるんだ。
そして、攻撃に反応して刀身だけを現実世界に転送した。』
「クソッ!ならどうするフィリップ?」
『長期戦はこちらが不利だ。
一撃でメモリを破壊するしかない。
ルナメモリをメインに据えたマキシマムなら攻撃も届く筈だ。』
そうしてメモリを挿そうとするフィリップを翔太郎が止める。
「なぁ、その方法だと正幸さんは助かるのか?」
『翔太郎、これは相当に厳しい"賭け"だ。
彼の命を優先させたら僕達の危険性が増すんだよ?』
「だからってあの人の命を奪って良い理由にはならねぇ!
助けられる可能性があるのか?ならそれを教えてくれフィリップ!」
『......バードメモリの時に霧彦がやったことを応用するんだ。トリガーメモリを搭載したバットショットのマキシマムでメモリの位置を特定してルナメモリのマキシマムをメモリの中心部に的確に当てれば毒素ごとメモリを破壊出来るが、それをするにはトレインドーパントの動きを止めないといけない...無茶だよ翔太郎。』
「命を救える方法があるのなら俺はそれを選ぶ。
例え、どんなダメージを受けてもな。」
『ふふっ....相変わらずのハーフボイルドだな。
なら、始めよう。』
フィリップが笑いながらそう言うとバットショットにトリガーメモリを装填する。
「TRIGGER MAXIMUMDRIVE」
バットショットの身体からレーザーが放出されトレインドーパントのスキャンを開始し始める。
『この組み合わせで彼の動きを止めよう。』
フィリップがプリズムソードをビッカーシールドに戻すとメモリを装填し始める。
「CYCLONE,METAL,LUNA,PRISM MAXIMUMDRIVE」
『BICKER FINALUSION』
Wの盾からエネルギーで作られた鎖が出現しトレインドーパントを抑え付けた。
『サイクロンと速度、メタルの硬度、ルナの創造性、プリズムによるメモリの能力無効化を込めたマキシマムで作り上げた鎖だ。
これで暫くは動けないだろう。』
しかし、トレインドーパントはその巨体を生かして暴れまわり鎖の付いた盾をWから引き剥がそうとした。
「グッ!....クソッ!離してたまるかよ!
今度こそ、救って見せるんだ俺達で!」
翔太郎とフィリップが盾を動かないように二人でガッチリと掴み固定する。
その間に、バットショットがトレインドーパントをスキャンすると丁度身体の胸の位置で発光しメモリの位置を特定した。
「そこだな!」
位置が分かると盾の鎖を解除してトレインドーパントの攻撃を避けるとメモリを差し替える。
「LUNA,JOKER,METAL,TRIGGER MAXIMUMDRIVE」
幻想の能力を宿したルナメモリの力を最大限発揮する組み合わせ。
メモリを挿し終わるとソードを引き抜きトレインドーパントを迎え打った。
「BICKER CHARGEBREAK」
金色の斬撃がトレインドーパントへ向かうがそれを回避するとそのままWに激突した。
余りの衝撃に吹き飛ばされながら剣と盾を落としてしまう。
斬撃は天井に当たると空間を切り裂いた。
エクストリーム状態のWは翔太郎とフィリップの身体が融合している。
つまり、ダメージも共有した状態となるのだ。
『グッ!....うっ大丈夫かい?翔太郎。』
「何とか....な。
悪いなフィリップ...俺の我が儘に付き合わせて」
『はは....今更だね。
それに君が謝る必要は無い。僕は感謝しているんだよ。
仮面ライダーは兵器であってはならない。
君の行動が僕を....仮面ライダーを風都を守るヒーローとしてくれているんだ。』
「....へっ!お前がそんなハーフボイルドな事を言うなんてな。」
『相棒の癖が伝染ったのかもね?』
「言ってろい.....もう一度行くぞフィリップ!」
『あぁ!翔太郎!』
Wは走りながら地面に落ちている剣を拾い上げると落ちている盾に向かっていく。
その行動に気づいたトレインドーパントは真っ向からWに突撃してくる。
お互いに向かっていくが盾に辿り着くのはWが早かった。
そして、剣を納刀するとマキシマムの体勢に移行する。
しかし、全てが終わる前にトレインドーパントがこちらに攻撃を仕掛けられる間合いにまで到達してしまった。
(クソッ!間に合わねぇ。)
翔太郎がそう考えているとトレインドーパントの眼前で爆発が起きた。
爆発により発生した煙を吸ったトレインドーパントの動きが止まる。
『「今だ!」』
二人の意思が重なり剣が引き抜かれるとトレインドーパントに振るわれた。
『「BICKER CHARGEBREAK」』
二人の魂を賭けた一撃がトレインドーパントを貫いた。
Another side
現実世界へとアタッシュケースを持って帰還したホールドーパントは突如目の前で起こった爆発に顔を歪める。
「なっ!何だ?」
「失礼、敵だと思って攻撃してしまったよ。」
そう言って目の前に現れたドーパントに警戒する。
「お前は何者だ?」
「そうだな....誤解の無いように言っておくと私はミュージアムの幹部直属の部下だ。
セブンスの一角を任されている君ならそれだけ言えば分かるだろう。」
ミュージアム...セブンスのトップが灯夜の坊主が忠誠を誓った獅子神のいる組織でガイアメモリ販売を一手に行っている。
そんな組織の幹部が何故、ここに来たのか分からなかった。
「そんな人がこんなところで何を?」
「そのアタッシュケースの中身を回収するためだよ。
そこに入っている物を幹部の一人が求めていてね。
こっちに渡してくれないか?」
「そんな事は聞いていない....一体誰からの指示だ?」
「言ったところで分かるのか?
まぁ、良い幹部である無名の指示だよ。」
「......そうか!」
そう言うとホールドーパントは新たに現れたドーパントの頭上に黒い穴を作ると大量のコンクリートブロックを落とした。
「無名の事は獅子神様から聞いている。
お前に手を貸す義理など無い。
コンクリートに埋まって死ぬといい!」
そう言うとホールドーパントは地面にあったアタッシュケースを抱え直し穴を作るとその場を後にするのだった。
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第百九話 気付くH/互いの結末
「はぁはぁはぁ.....」
ホールドーパントが能力を使い逃亡を成功させたが度重なる能力の使用により肉体に疲労が蓄積していた。
(クソッ....予想よりもダメージが残っちまったか。
何処かで休んで身体を回復させないと.....)
セブンスに渡されているメモリは全て無名がメイカーによって作り出した新型ガイアメモリで構成されている。
故に毒素が強い分、強力な能力を持っているのだ。
しかし、その分身体にかかる負担も大きい。
そう考えながら休める場所を探していると傷だらけでこちらに歩いてくる男を見つけた。
「そんな...バカな!何故貴様が生きている!」
ホールドーパントの問いに男は答える。
「俺に質問をするな.....」
話はマスカレイドドーパントの連鎖爆発まで遡る。
照井は爆発を受けながらもトライアルメモリを起動する。
そして、変身が完了するとマキシマムを起動して一直線にその場を走り抜けた。
爆発するマスカレイドを紙一重で回避しながらの逃走はアクセルの装甲にダメージを残したが、照井は生きて工場から出る事が出来た。
そして、辺りを散策しているとホールドーパントを見つけたのであった。
「このっ!....死に損ないがぁ!」
ホールドーパントが照井の足下に穴を作るがそれを間一髪で回避するとエンジンブレードにメモリを装填する。
「ACCEL MAXIMUMDRIVE」
そして高速で近付きホールドーパントを壁に叩きつけてブレードをホールドーパントの腹に押し当てた。
「悪いが今の俺に貴様を安全にメモリブレイクする余裕はない。
貴様がジャンキーを爆弾にしたお陰でダメージを負ってしまったからな。」
「だから、死ぬなよ?
お前にはまだ話して貰わないといけないことが沢山あるのだから.....」
「まっ!」
ホールドーパントの制止も聞かずアクセルはブレードのマキシマムを発動する。
アクセルメモリから放たれる増幅された破壊のエネルギーが二人の間で爆発した。
そして、刃を当てられていたホールドーパントはメモリをブレイクされ、近くにいた照井はコンクリートの壁に吹き飛ばされ変身解除された。
メモリが排出されて目の下に隈が出来た大河原が最後まで守り抜いたアタッシュケースを眺める。
(メモリを砕かれたか....だがアタッシュケースは守り抜いたぞ。)
そうして意識を失いかけて気合いで目を開くと視界にあったアタッシュケースが無くなっていた。
「無い?.....何故...だ!....ケースは...どこ..に」
辺りを見渡しながらも大河原は意識を失ってしまうのだった。
大河原が意識を失うと吹き飛ばされた照井の意識が回復する。無理矢理立ち上がると大河原の腕に手錠をかけた。
「はぁはぁ....全く骨が折れる。」
そうして大河原が大事そうに抱えていた"コンクリートの塊"を見つめる。
「あれには何か秘密があるのか?
鑑識に連絡して調べて貰わなければ....」
携帯を出そうとするが身体が動かない。
「.....仕方がない。
当分、大河原も起きないだろう。」
そう言ってもう一方の手錠を自分にかけると照井も意識を失うのだった。
大河原とWが戦っていたビルの上でドーパントとなっていた赤矢はアタッシュケースの中身を確認した。
そこに入っていたのはアクセサリーシステムの1つである腕部用ガイアドライバーであった。
そして、他にも資料が数点入っている。
「成る程、確かにこれを調べられたら私達は困ることになるな。」
そう言ってアタッシュケースを仕舞ってその場を去ろうとすると、空間に亀裂が入り中から仮面ライダーWと抱えられている金本正幸が姿を現した。
「待て!....お前
どうしてここにいる?」
「久し振りですね仮面ライダーW、君の活躍は拝見させて貰っているよ。」
『翔太郎...僕も彼に聞きたいことがある。
トレインドーパントとの戦いの時に起こった爆発は君が仕掛けた物だね?
爆発の煙を吸って動きが鈍ったお陰で彼を助けることが出来た。』
「それは良かったですね。
私はメモリの事は専門外なので一般人である彼を救えたのなら良かったですよ。」
『一般人?』
「ガイアメモリ犯罪に関わっていない。
もしくは関わる気の無かった人達の事です。
彼は謂わばキメラドーパントが起こした事件の被害者ですからね。」
「ふざけんなよ!その事件を先導してたのは他でもないお前達だろうが!」
「否定はしません。
しかし、これまでの事から比べれば良心的なものだと思いますよ。
死んだのは囚人....それも自らメモリの誘惑に負けて犯罪を犯した奴等ばかりだったんですから」
「囚人なら死んでも良いって言うのかよ?
それこそふざけた考えじゃねぇか!」
「では、貴方はガイアメモリ犯罪を犯した囚人の罪について考えたことがありますか?
ガイアメモリは人を怪物に変える代物です。
どんなメモリでも普通の人間の一人や二人....いや、何十何百人の人を簡単に殺すことが出来ます。」
「そんな彼等の起こした犯罪が一般の犯罪と同じ刑法で裁かれるのは余りにも不公平だ。
あそこに入れられていた囚人の大半はメモリによって最低でも何十人の人間を殺してるんですよ。
それなのに、メモリの毒素に負けて犯罪を犯してしまった。
だから罪は減刑されるべき....それこそ道理が通らない可笑しな話じゃないですか。」
「ガイアメモリは再犯率が多い。
風都の守り人である貴方ならそれが分かるでしょう?」
確かにガイアメモリ犯罪を犯した人間がまたメモリに手を出すケースは良く話としても聞いている。
『だから、君達の実験のためにその命を使ってもいいと言うのかい?
それはかなりの暴論だよ。』
フィリップの言葉に、これ以上話す意味は無いと考えた赤矢は立ち去ろうとする。
「逃がすかよ!」
Wが赤矢を追おうと近付く。
それを止めようと爆弾を生成して起爆した。
幻覚剤がたっぷり入った爆弾が起爆し周りにその煙が撒かれたが今度のWには効いている様子はなかった。
赤矢が驚いている間にWによってアタッシュケースを掴まれる。
『驚いているようだね?
君の事はエクストリームで検索済みだ。
君の使う幻覚はこの煙に混ざっている粒子を吸い込むことで発揮される。
予め、サイクロンの力を纏っておけば回避することは難しくない。』
「成る程、厄介な力ですね。
そのエクストリームってものは.....」
「アンタをメモリブレイクして詳しく話を聞かせて貰うぜ!
組織の事や幹部の事、根掘り葉掘りな。」
「それは勘弁願いたいですね。
とは言え私は荒事は余り得意ではありません。
ですので.......」
「それは"専門家"に任せるとしますよ。」
突如、Wの手に何かが当たりアタッシュケースを持っていた手が弾かれた。
「グッ!何だ一体?」
『翔太郎、狙撃だ。
それもかなりの距離から狙われている。』
「何だと?」
Wが動揺するとその隙を付いて赤矢が新たに生成した爆弾をWに投げつけた。
「効かないって相棒が言ってただろう?」
「えぇ、ですが目眩ましになら使えるでしょう?」
そう言って起爆すると密度の高い煙がWの視界を遮った。
視界が回復する頃には赤矢はもうその場所にいなかった。
『逃がしたようだね。
仕方がないよ翔太郎、今は正幸さんを病院に連れていこう。』
「....分かった。」
そう言うとWは変身解除を行う。
エクストリームが変身解除すると翔太郎とフィリップが分離してその場に現れた。
翔太郎が正幸さんを担ぎ、フィリップは彼の無事を電話で亜樹子に伝えるのだった。
Another side
メモリを抜いた赤矢は無名に連絡する。
「アタッシュケースの確保とトレインメモリのユーザーの救出....どちらも終わらせたぞ。」
「流石は赤矢教授ですね。
お陰で本当に助かりました。」
「構わないさ....私も新しいガイアメモリ犯罪を見られた。
これで研究も進むだろう。」
「やはり貴方は変わりませんねガイアメモリ犯罪の研究、その為に僕の元に来たあの頃と同じだ。」
「それが君の部下になる条件であり理由だからな。
それでこのアタッシュケースはどうする?
ミュージアムの奴に渡すのか?」
「いえ、そのまま黒岩さんと一緒に孤島に運んでください。
迎えにヘリを送りますので」
「ほう?、余程この中身を獅子神に渡したくないと見えるが?」
「勝手にリミットギジメモリのデータを持っていったんです。
少しはお灸を据えないと....それにアクセサリーシステムはまだ不完全な部分が多い。
今回のデータから更にブラッシュアップするためにも過去のデータと道具を回収して欲しかった....それだけですよ。」
「流石はガイアメモリの研究者だな君は....
ん?これは?」
「どうしましたか?」
「すまないどうやらアタッシュケースのロックが先程の戦闘で緩くなっていたようだ。
隙間から資料が一枚落ちていた。
とは言え真ん中から破けているから完全な一枚とは言えないが.....」
そう言いながら赤矢は残りの資料を確認する。
「枚数は問題ない。やはり落ちたのはその一枚だけだな。
どうする?今なら探せば回収出来る可能性もあるが...」
「いえ、戻ってWと鉢合わせする危険がある以上止めておきましょう。
そのまま戻ってきてください。」
「了解した。」
そう言って赤矢は通話を切った。
すると赤矢はWとの会話を思い出した。
("感情的だが正義感に溢れた声"と"冷静で論理的だがどこか人間味の無い声"....Wから二つの意思と声を感じ取れた。
ガイアメモリにはまだ解明されていない事が多い。
きっと、あのWもその秘密の1つなのだろう。)
ガイアメモリ犯罪を知りガイアメモリについて理解する犯罪心理学の教授である赤矢にとってWやアクセルすらその研究対象の1つにしか過ぎなかった。
(また、新しい研究成果が手に入れられた。
これを使えば何時かは.....)
自分の思い描く結末を考えながら赤矢は無名の用意したヘリを待つのであった。
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第百十話 気付くH/掴んだ手がかり
「どう言うことだ無名!
何故、俺の部下の邪魔をしたぁ!」
獅子神が無名に詰め寄る様に電話から怒号が発せられる。
「どう言うこと...ですか。
それはこちらの台詞ですよ。
リミットギジメモリのデータを勝手に持ち出した挙げ句、腕部ガイアドライバーとそのデータを手に入れようとするとは
あれは僕の研究成果です勝手に奪い取るのはルール違反ではありませんか?」
獅子神は部下の灯夜からセブンスのメンバーが捕まった事実を聞くと憤慨しその時の事を調査した。
そして、その現場に無名の部下がいたことを突き止めるとこうして連絡を寄越してきたのだ。
「大河原はセブンスでガイアメモリの運送を請け負っていた。
奴が捕まってしまった現在、メモリを輸送する手段がない。
お前はミュージアムの理念であるガイアメモリの普及を邪魔したことになるんだぞ?」
「ガイアメモリの普及の件なら問題ありませんよ。
そろそろサラさんの怪我も癒えますしそれに運搬は別の所でも出来ます。」
「....大河原はホールメモリに適合しその能力を使ってメモリの運搬をしていた。
大量のメモリを一度に運べるメモリを他に持っている奴がいるとはとても思えないのだがな。」
「それなら安心してください。
琉兵衛様からも許可が得られる程、信頼に足る組織ですので....それよりもまだ私の質問の答えをいただいてないのですが?」
「何故、勝手にメモリの実験を行ったのですか?」
「....俺は貴様のように臆病ではない。
力があるのならそれを使えるようにするのが道理だろう?
ギジメモリを使ったドーパント強化システム。
これは金になる....だからこそいち早く製品化するべきなんだよ。」
「確かに、アクセサリーシステムを使えばドーパントの強化は可能です。
しかし、それはあくまでメモリとユーザーの適合率が高かっただけに過ぎません。
現状、テスターである六人の除いて完全にこのシステムに適合した人物はいません。
ならば、量産性を考慮したメモリを作れば良いと研究をしていますが製品として売り出せるレベルでは到底ありません。
リミットギジメモリが良い例です。
確かにメモリの力を底上げする強化アダプターのような能力はありますがメモリの力を引き出しすぎてメモリが耐えられなくなり壊れてしまう....その欠点は盗み出した資料にも書いてあった筈です。
メモリ販売がリピーターを生み出す必要がある以上、リミットギジメモリの能力はむしろ欠点にしかならない。
これは琉兵衛様も納得して下さった事実です。」
「無名何が言いたい?」
「貴方達のやったことはもう調べ尽くされた結果をなぞっただけに過ぎない....そう言うことです。
欲をかきすぎたんですよ貴方は.....」
少しの沈黙が流れると獅子神は無名に告げた。
「良いだろう今回は退いてやる。
だが、覚えておけ。
この借りは必ず返す...貴様の命をもって支払わさせてやる。
"俺は俺の邪魔をした貴様を許さない".....」
「そうですか....では失礼します。」
そう言って二人の会話は打ち切られた。
事件が終わり報告書を書く翔太郎達の顔は晴れやかだった。
金本歌恋の父親は無事に助けられて今、病院で入院している。
医者の話では順調に回復しているらしい。
歌恋は涙を流しながら父親の生存を喜んでいた。
それを見るだけで今回の依頼が成功だったと自信をもって言えた。
今回の事件仕組んだ犯人である大河原組 組長
目覚めたらこってりと警察から絞られるだろう。
そして、彼を捕まえた照井も同じように病院で入院していたのだが今、事務所でコーヒーを飲んでいる。
「お前なぁ...医者の話じゃ重症だったんだろ?
大人しく休んでおけよ。」
「俺に命令するな左。
それに、もう身体も動くから問題ない。
漸く捕まえた組織へ繋がる手懸かりだ。
トラブルが起きた時を考えても仮面ライダーは揃っていた方が良い。」
そう言って澄ました顔でコーヒーを飲んでいるが服よ中は包帯だらけであった。
それを知っている翔太郎は苦笑いで照井を見る。
「まぁ良いや、それで照井は何でこの事務所に来たんだ?
まさか、コーヒーを飲む為って訳じゃねぇだろ?」
「フィリップから聞いてないのか?
新しく分かった新情報があるから事務所に来てくれと連絡があったのだが」
「あん?、またアイツ勝手なことを....」
翔太郎は頭をガシガシとかきながらフィリップのいるラボに入るとそこに珍しく深刻な表情をしたフィリップがいた。
「どうしたフィリップ?
そんな辛気臭い顔をして.....」
そう言われたフィリップは二人に話し始める。
「先ずは照井から渡された手帳に関する話をしよう。
中の暗号が解けた....簡単なモールス信号とアナグラムの複合暗号だったからね。
それを使って新田のパソコンからデータを引き抜いた。
それがこれだ。」
そうして渡された紙の資料を翔太郎と照井が眺める。
「セブンス、ナイトタイム....これがガイアメモリを売っている組織の名前なのか?」
「あぁ、恐らくは幹部が運営している組織だろう。
だが、これよりも問題なのはコレだ。」
そうして、フィリップが二人に見せたのは半分に破れた一枚の紙だった。
そこには、図面と英語で書かれている文面が見てとれる。
「あの場所で発見した"紙の一部"だ。
これにはギジメモリに関する情報がのっていた。」
「ギジメモリ?.....俺らのメモリガジェットに使われているあのメモリのことか?」
「あぁ、正確には地球の記憶ではなく集めたデータを元に開発されたメモリの事なんだがそれはどうでもいい。
重要なのは何故、そんなものがあの現場で見つかったのかだ。」
「僕はずっと疑問に思っていた地球の本棚で検索出来ないドーパントの存在、もしやと思いギジメモリを追加で加えて検索したら出てきたよ。」
そう言ってホワイトボードに文字を書く。
「アクセサリーシステム?」
「ドーパントメモリとユーザーに適合したするデータを持ったギジメモリを作り強化するシステムだ。
難点は適合率の低さだが適合すれば通常のメモリでも強力な力を得ることが出来る。」
「恐らく、これまでにあったドーパントの中でそのシステムを利用している奴がいるのだろう。
照井 竜から聞いた話を総合してこのシステムを使っているユーザーは現在6人いる。」
「6人もいるのかよ.....」
「フィリップ、俺の戦ったリッパードーパントもか?」
「あぁ、このシステムで強化された個体だろう。」
「.....そうか。」
「なぁ、コイツらに勝てる見込みはあるのか?」
「エクストリームなら可能性があるだろう.....
ギジメモリの正体が分かれば問題なく対処は出来る。」
「なら、次会う時は勝てるってことだな。」
楽観的に言う翔太郎に二人は苦笑いしつつもこの言葉を肯定するのだった。
(だが、これだけのシステムを開発する程、組織の技術力が上がっているなんて....より一層警戒した方が良さそうだな。)
かつて、組織でメモリを作っていたフィリップにとってこのシステムは驚愕に値するものだった。
今までのような自分の知識をベースにした物ではない完全なオリジナル....それを作り上げられる研究者がいることを改めて感じフィリップは組織に対しての警戒を更に強めるのだった。
孤島にある応接間に一室で無名は加頭と談笑をしていた。
内容は元同僚であるキースに対しての者だった。
「やはり、何か企みをしていますかキースは」
加頭の問いに無名が答える。
「えぇ、NEVERの調査で財団Xを辞めてから色々な設備を集めているそうです。
細胞の培養ポットやヘリ、銃器等です。」
「こちらも財団の管理する保管庫からゴールドクラスのガイアメモリが一点、それに貴方の開発したガイアドライバーが盗まれたと言う報告を受けました。」
「まずいですね....メモリの詳細は分かっているのですか?」
「えぇ、こちらのメモリです。」
メモリの資料を見た無名は顔をしかめる。
「また随分と強力なメモリを盗んだものですね。
そう言えば財団が開発していた新型メモリに関してはどうなったのですか?」
その問いに加頭は少し動揺するが直ぐに平静に戻り返答する。
「T2メモリは現在26本開発が終わりました。
今回の件を鑑みて財団の本部へと移送する手筈となっています。」
「......そうですか。
なら安全ですね。」
「えぇ、何も問題ありません。」
そう言って二人で紅茶を飲む。
「....そう言えば最近、冴子さんの姿をお見かけしませんがどちらに?」
「あぁ、井坂深紅郎が園咲邸を離れたのは知っていますか?」
「いいえ、しかしそうでしたか。
最近、顔を見ないと思っていたのですが...」
そう言って少し機嫌の良くなった加頭が紅茶を飲もうとする。
「新たな井坂の隠れ家に"入り浸っています"よ。」
ガシャン!
加頭は持っていたティーカップを落としてしまう。
「そうですか.....無名さん申し訳ありませんが急用を思い出しましたので今日はこれで失礼させていただきます。」
そう言って立ち上がる加頭に無名は言う。
「あぁ、井坂の隠れ家を知りたいなら風都にいる議員である雨ヶ崎 天十郎を訪ねてみてください。
彼が"冴子様からの要求"で隠れ家を提供したそうですので....それにもしかしたら冴子様も一緒にいらっしゃるかもしれませんよ?」
「......大変貴重な情報をありがとうございます。
では、失礼します。」
そう言って加頭は扉を引いて開けようとするが扉はびくともしない。
「....それは押して開けるんですよ。」
「....失礼。」
加頭は無表情で扉を押して外へと出ていった。
その部屋に入れ替わるように須藤雪絵が入ってくる。
「貴方も悪い男ね無名。
あの加頭って人、園咲冴子に好意を持っているんでしょう?」
「えぇ、冴子様の話題だけは加頭さんの心を乱せる唯一の情報なんですよ。」
「要は....動揺する姿を見て楽しんでいるって訳?
あまり、良い趣味とは言えないわよ。」
「無駄話はこの辺で.....それでここに来た理由は?」
「分かってるでしょう?
私は兄を裏切った園咲冴子に復讐したい。
私の事を応援するなら手を貸して無名。」
「お兄さんは死ななかったのにそれでも復讐を望みますか?」
「兄は私にとって全てだった。
何時目覚めるか分からない状態にされて私が怒らないと思う?
貴方が協力してくれなくても私一人で復讐しても良い。」
「それは困りますね。
貴女が死んだらお兄さんが目覚めた時に僕が恨まれてしまう。」
「.....へぇ、私じゃあの女に勝てないって言いたい訳?」
「逆に聞きますが"僕にすら敵わない程度の力"で勝てると思うんですか?」
「...........」
無名の言い分に反論できないのか雪絵は黙ってしまう。
「安心してください。
今、貴女に合うメモリの選別をメイカーに頼んでいます。
それを使ってみてからどうするか考えても良いんじゃないですか?」
「....分かったわ。」
「納得してくれて良かったです。
では、そろそろ僕は仕事に戻りますね。
ガイアメモリの運送に関してとある方と相談しなければならないので....」
雪絵はその言葉を聞くと部屋を出ていった。
そして、雪絵が出ていくのを確認すると無名はタブレットを操作しとある人物とのテレビ電話を開始する。
「お待たせしてすいません。
今回はミュージアムとの契約を選んでくださりありがとうございます。」
「
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AtoZ
第百十一話 AtoZ/始まる宝探し
財団Xが開発した最新ガイアメモリである"T2メモリ"。
それを安全に運ぶためジェット機による運送が行われていた。
中には財団Xのエージェントが一人と護衛が二人、
そしてパイロットが二人と言う少人数の編成だった。
そんなジェット機に何かが当たる音がする。
「この音は何だ?」
そう言う財団のエージェントに護衛が答える。
「鳥とぶつかったんでしょう。」
そう言って確認しなかったことが命取りとなった。
突如、ジェット機の扉が開くと中に二人の人物が入ってくる。
一人は拳銃で護衛の一人を射殺する。
それに反抗するように残りの護衛が銃を抜き心臓を撃ち抜いた。
しかし、撃ち抜かれた男はけろっとしている。
「良い腕だな。」
そう言うと驚く護衛に近付き脳天を撃ち抜いた。
糸が切れたように絶命した護衛を退かすと財団のエージェントの腹部に発砲し持っていたアタッシュケースを奪い中身を開ける。
指でメモリをなぞりながら一本のメモリを見つけるとそれを掴んだ。
「これだな。」
そう言うと男は腰にロストドライバーを装着する。
「ETERNAL」
そして起動したメモリを装填すると仮面ライダーへと変身した。
「仮面....ライダー....」
エージェントはその光景を呆然と見ていた。
そして、共に入って来た男に向かって仮面ライダーは言う。
「お前もメモリを選んだらどうだ?」
その言葉に従うように男はアタッシュケースから一本のメモリを取り出す。
すると、アタッシュケースから警告音が発生する。
それに驚いてエージェントを見ると何かのスイッチを押した後だった。
アタッシュケースが大爆発を起こしそれによりジェット機が完全に破壊される。
それによってアタッシュケースの中にあったメモリが風都の空へとばら蒔かれた。
仮面ライダーと奪ったメモリで変身したドーパントは近くのビルに降り立つ。
そこには仲間とおぼしき4人の人物が立っていた。
筋肉質の男が爆発するジェット機を見ながら項垂れる。
「あーーー!....」
そんな彼を隣の男が励ます。
「そんな悲しい声をあげないで?
一番大事なメモリは...."克己ちゃん"が手に入れたわ!」
そう言って隣の男に抱き着く。
それを振り払うと仮面ライダーに向かって男は言った。
「克己は良いかもしんないが、俺たちのメモリはどうするんだよ?」
その問いに仮面ライダーが答える。
「直ぐに見つかるさ。」
「はぁ?」
意味が分からないと言う返事をすると女性の仲間が声をかける。
「自分で探せってことよ。」
すると、寡黙だった男が腕時計のタイマーを起動した。
「ゲームスタート」
すると四人はその場を後にする。
「そう、"宝探しだ"。
この風都を地獄に変えるゲームさ。」
すると、ドーパントだった男はメモリを抜き人間の姿に戻る。
「私は装置を受け取ってくる。
風都タワーを占拠したら連絡しろ。」
「あぁ、お前もこの地獄を楽しめ.....」
そう言うと純白の仮面ライダー....エターナルはマントを風で靡かせながら風都タワーを見つめるのだった。
ジェット機が襲撃される2日前.....
無名とNEVERがいる孤島はかつて無い程、緊迫した状況になっていた。
それはキースの調査に乗り出していたNEVERのメンバーからの報告を聞いたからだ。
孤島にいる無名、マリア、克己、レイカ、京水が調査をしていた芦原と堂本の報告を聞いていた。
「すまない克己。
やはり、もぬけの殻だった。
残っていたのはこの仰々しい装置と資料だけだった。」
そう言って映像を無名達に送った。
映像に映っていたのは"五つの生体ポット"と"NEVERが酵素を打つ際に使うインジェクター"だった。
「奴等俺達の研究を掠め取りやがって....」
「マリアさん、貴女はこのポットは何を作るために置いていたと思いますか?」
無名の問いにマリアは考える。
「生体ポットと言えど使い方は様々よ。
ただ、このクラスの大きさを使う研究なんて1つしかないわ。
"クローン技術"....人間を人工的に産み出す研究ね。」
「クローンですか....ですがキースは財団のエージェントであって科学者ではない。
彼にクローンを作る技術力があるとは思えないのですが」
無名の言葉に克己が賛同する。
「あぁ、アイツは根っからの商人だ。
利益や商売ごとには鼻が効くが無名やお袋程の研究なんて逆立ちしても出来ねぇよ。」
「と言うことはキースに協力している人物がいるってことね?」
京水の問いに無名が答える。
「そう考えるのが自然ですね。
......問題は何のためにクローンを作り出したのか?
そして、何故NEVERの技術も必要だったのか?
最終的な目的は何なのか?」
「その答えはこの資料に載ってはいないのか?」
堂本がそう言いながら資料を映していく。
それを見るマリアと無名の目に新たな発見はない。
「クローン技術についての記載と改良前のNEVERの酵素について書かれているだけね。
目新しいものは無いわ。」
「そうですね....!?
堂本さん最後の資料をもう一度見せてください!」
堂本は無名の言葉に従い最後の資料の紙を画面に映す。
一番下には英語で小さく文が書かれていた。
「
すると、研究所に警告音が発せられた。
「メイカー何があった!」
無名が訪ねるとメイカーが答える。
「所属不明の戦闘機がこちらに向かって来ます。」
その言葉を受けてNEVERの面々と共に外に出る。
すると、確かに上空を複数の戦闘機が飛んでいた。
そして、戦闘機から複数の物体が落とされる。
嫌な予感がした無名はドライバーを装填しメモリを起動する。
「Demon」
メモリを装填しデーモンドーパントヘ変わると落下する物体に黒炎を放った。
黒炎に触れるとそれは大爆発を起こし空気を揺らした。
そして、遅れて地面に衝撃波が及ぶ。
「あれは..."無誘導爆弾"か!
この孤島を嗅ぎ付けて先に攻撃しに来たのか!」
克己は落とされた爆弾からキースの意図を察する。
そして、別の角度から戦闘機が侵入すると大量の爆弾を屋敷に投下した。
「アイツらの狙いは屋敷?」
そう、レイカが言うと克己が焦る。
「マズイ!彼処にはミーナがいる!」
いくらクオークスと言えど戦略級兵器の攻撃に耐えられる能力はない。
それを無名も分かっていたのだろう。
武器を弓矢に変えると戦闘機に向かって放ち落とされた爆弾へと急ぐ。
そして、戦闘機に黒炎の矢が当たり爆発するのを遠目で確認しつつ落ちてくる爆弾をどう対処するか考えた。
(あの威力だ....一発でも撃ち漏らせば大変なことになる。
矢で射抜くには時間が足りない....爆弾を誘爆させて上空で片をつけるしかない!)
無名は落下する爆弾に突進すると弧を描くように刀を振るった。
振るわれた刀から黒炎が吹き出し横に長い楕円上の斬撃が複数の爆弾に命中する。
すると、攻撃が命中した爆弾は爆発し周りの爆弾にも誘爆していく。
そして、その光は近くにいた無名の身体を飲み込んだ。
轟音と共に空気が揺れそれに遅れて衝撃波が地面に流れる。
まるで目の前に台風でも発生したような強い風が吹いた。
そうして、風が止むと当たりに煙が充満するが孤島の建物に被害は出なかった。
克己は嫌な予感がし爆心地に近い場所まで走って向かうとそこには傷と火傷だらけで地面に倒れて気を失っている無名の姿があった。
「無名!」
克己は京水に命じて医療キットを取りに行かせると脈を確認する。
脈は正常なことから生きていることは分かった。
だが、身体の傷が酷く意識も失っていた。
そんな彼を研究所に運び治療を施す。
ドーパントから受けた傷ではないため普通の外科的治療が可能なのだがそれでも重症なことには変わりなかった。
「重度の熱傷に出血....骨も折れて臓器を傷付けています。
完治まで暫くかかるでしょう。」
メイカーからの診察結果を聞いたNEVERの表情は暗くなる。
「ミュージアムとの通信は?」
「駄目ね....さっきの爆発でアンテナがイカれちゃったみたい。
格納していた輸送機は無事だったけど他の乗り物にも被害が出たわ。
修理しないと動かないでしょうね。」
京水の言葉を聞いてレイカが地面を蹴る。
「クソッ!」
「まんまとしてやられたな....恐らくキースの狙いは無名だ。
現状、ガイアメモリを使えるのは無名だけだ。
ヤツを排除すればこの孤島は機能を失う....そう考えたんだろう。」
「は?何それ?私達、そんな舐められてんの?」
克己の仮説にレイカは不快感を現す。
「ガイアメモリを持たないゾンビ兵士だと侮ってるのかもな....だが舐められっぱなしは主義じゃない。
芦原と堂本がいるのは風都近郊の廃墟だったな。
ならちょうど良い。」
克己はそう言うと周りに指示を出し始めた。
「メイカー、通信回復と無名の治療をしてくれ。
ミーナと屋敷の皆は無名の看病を頼む。
レイカ、京水...武器と輸送機のチェックをしてくれ。
お袋、何があるか分からない...着いてきてくれ。」
克己の指示にレイカは笑う。
「ってことは克己....行くんだ?」
「あぁ、"風都"に行って借りを返す。」
克己は獰猛に笑いながらそう告げるのだった。
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第百十二話 AtoZ/T2メモリ
「さて、では話を聞こうじゃないか加頭君。」
琉兵衛はいつもと違う厳しい表情で加頭に尋ねた。
事の始まりはメイカーから送られてきた緊急連絡であった。
「正体不明の存在から攻撃を受けて無名様が重傷を負いました。
犯人は財団Xのキース・アンダーソンの可能性が高いです。」
その報告を受けてから琉兵衛は直ぐに加頭を呼び出して説明を求めたのだ。
「昨日起きたジェット機の墜落時件をご存知ですか?」
昨日の夜、風都の港にジェット機がバラバラの状態で発見されたと言うものだった。
「あぁ、ニュースになっていたからね。」
「実はそのジェット機は財団がある荷物を運ぶために用意した物だったんです。」
「ある荷物?」
「財団Xの技術力を使い完成させた新型のガイアメモリ。
通称T2ガイアメモリです。
それを積んでいたジェット機が何者かの襲撃により大破したのです。」
「成る程、でそれが今回の件とどう関わりがある?」
「この一件を指揮したのは財団Xを裏切った元エージェント、キース・アンダーソンである確証を得ました。」
「財団を裏切ったと?」
「えぇ、財団の管理する保管庫からガイアメモリとドライバーを奪われ、人事を管理していた者がキースの手により殺されました。
財団のエージェントを管理している立場の存在が殺された事で組織は回復のために動いていましたが、その隙を狙って孤島を襲撃させたのだと思います。」
「君の言い分は分かったが私の部下でありミュージアムの幹部に危害を加えた。
例え元エージェントだとしても、その知識を使い行ったのだ。
君達にも責任の一端はあるんじゃないかね?」
「仰る通りです。
財団側も琉兵衛様やミュージアムに対して十分な保証をすると言っています。」
「そうか....ならば事態の解決を急ぐとしよう。」
こうして話を始めようとすると師上院が部屋に入ってくる。
「お話し中、失礼致します。
NEVERの大道マリアと大道克己が琉兵衛様にお会いしたいとこちらに来ておりますが如何致しましょう?」
「丁度良いタイミングだな。
こちらにお連れしなさい。」
そう言われると師上院は二人へと部屋へ通す。
克己は加頭を見て驚く。
「お前は......」
「お久し振りです。」
そんな話をして二人で睨み合っているとマリアが話を切り出す。
「琉兵衛様、キース・アンダーソンの狙いは風都で事件を起こすことだと思います。」
そう言うと孤島で集めた証拠の映像や資料を二人に見せた。
「全く、私達の街をここまで汚そうとするとは....困ったものだな。」
「財団も今回の件を重く受け止めており事態の終息に対して全面的にバックアップ致します。」
「そうか、ならば頼らせてもらうとしよう。
何と言っても幹部が二人動けないからね。」
サラはWとの戦いの傷を癒すため、今は遠くで療養している。そして無名は意識を取り戻さない。
獅子神に動いて貰いたいが彼には二つの街のメモリ販売を任せている。これ以上は流石にオーバーワークだろう。
久々にミュージアムの処刑人を動かす必要があるかもしれない。
そんな事を考えていた琉兵衛はマリアに尋ねる。
「そう言えば無名の警護は誰がしているんだ?」
「リーゼと黒岩が彼を守っています。」
「そうか...余りこちらも人数は割けない。
彼らで頑張ってもらおう。」
そんな話をしていると克己が琉兵衛に話しかける。
「相手がどんな行動をとるのか現段階で予想がつきません。
もしかしたら、家族を人質にとるかも......」
「確かにな....冴子は井坂の所にいるのだろう。
困ったものだが今回ばかりは都合が良いな。
若菜は.......」
「若菜様は現在、テレビ番組の収録中かと」
師上院がそう言うとテレビをつけた。
原作では井坂が死に冴子がミュージアムを裏切ったことで若菜が後任として据えられるが、ここでは井坂は生きており冴子も裏切りを見せていない為、若菜もアイドル活動を続けていた。
そうして、テレビをつけると風都タワーが映り若菜がアイドルとして画面の人に手を降っていた。
「"風都タワー完成30周年式典"....そうか、もうそんなに経っていたのだな。」
若菜はゲストとして呼ばれたのだろう。
他には風都の歌姫である"金本歌恋"や風都市長の"雨ヶ崎天十郎"も出席していた。
「若菜様にご連絡しますか?」
師上院の提案に琉兵衛は悩むと答えを出した。
「いや、折角の式典だ。
若菜にこの事は伝える必要はない。」
「情報を持ってきてくれて感謝するよ。
それで君達はどうするつもりかね?」
琉兵衛の問いに克己が答える。
「キースって野郎は俺達にも喧嘩を売った。
なら、買うのが筋ってもんだ。
俺達、NEVERもこの一件に参加させてもらう。」
「良いだろう。
成果を期待しているよ。」
そう言うと克己とマリアは部屋を出ていくのであった。
目を覚ました無名が見た景色は辺り一面、真っ白の空間。
その中に僕と同じ顔をした男....ゴエティアが本を読んでいた。
【目が覚めたか?
それにしても随分と無茶をしたものだ。
入れ物である君が壊れるのは私としても困るんだよ。】
「それで?僕を助けてくれた訳ですか?」
【いいや、私は何もしていない。
君が爆発に巻き込まれる前に黒炎のゲートを通って致命傷を避けた結果、重傷で意識を失いその意識をここに呼んだそれだけだよ。】
「ここは.....地球の本棚ですか?」
【正解だ。
正確には本棚の中でも更に奥にあるプライベートの空間、ここにはフィリップや園咲若菜も入れない。】
「入れない?....地球の本棚は地球の記憶を全て内包した空間の筈だ。
それなのに何故、貴方はそんな操作が出来るんだ?」
【おっと!....ここから先は問題に答えてくれないと言えないな。
さぁ、無名君、答えを出してみたまえ!】
まるで教授にでもなったかのように僕に告げた。
「確か、"地球とは何か"と言う問題でしたね。」
ゴエティアが現れてから無名はずっと考えていたコイツが何者で何故、僕の中にいて地球の本棚にいるのか?
そして、僕は何者なのか?
(ゴエティアは僕の事を"入れ物"と言っていた。
もし、言葉通りに解釈するのならこの地球は入れ物が存在する世界と言うことになる。
.....ダメだ情報が少なすぎる確証を持った答えが出ない。)
【どうした?悩むだけでは答えは出ないぞ?】
ゴエティアが笑いながら無名を急かす。
「分からない。」
【分からない、それが答えか?】
「僕の知り得る情報だけでは地球が何かの答えが出せない。
貴方の知っている真実を聞かなければ答えなんて出せるわけがない。
それが答えです。」
【.....ほぉ、面白い回答だ。
やはり、今までとは違うみたいだ。】
「それはどう言うことですか?」
【私には地球の記憶に介入できる力が"あった"んだよ。
それを使っていろんな可能性を試した。
分かりやすく言えばリセットを繰り返してゲームのルート開拓をしたと言えば分かりやすいかな?】
「そんな神のような事が.....」
【ふふっ、神か....随分と矮小な存在に例えられたな。
やはり、全く新鮮な解答や流れは見ていて面白い。】
「貴方は何故、そんな事をするんですか?
リセットと言っていましたがそれは地球そのものを戻すのと同じ行為だ。
人間が出来る所業じゃない。」
【その答えが知りたいならもっと調べてみることだこの地球の本棚をな......】
【だが楽しませてくれた礼代わりに一つだけ教えてやろう。
何故、地球の本棚が存在すると思う?】
ゴエティアの問いに無名は答える。
「それは地球の持つ知識を保存する場所が必要で...」
【違う、もっと根本的な話だ。
質問を変えよう本棚とは何だ?】
「.....本を保存しておく場所です。」
【その通り、大事な本を保存するために使う道具だ。
これがあるから複数の本を纏めて置いておける。
だが、疑問に思わないか?
何故、本棚が必要なんだ?】
「それは使うために....!?」
【気づいたかね?】
そう、根本的な疑問に無名は気づく。
何故、地球の本棚は存在しているのか?
何故、記憶を"本と言う形"で保存しているのか?
そもそも........
「"一体、誰の為"に地球の本棚があるのか?」
本とは人が読むために生まれた道具で本棚はそれを保存する道具。
ならば、地球の本棚は一体誰のために作られたんだ?
それこそ神か?
だが、神の記憶もこの本棚には置いてあった。
デーモンメモリがあったのだ悪魔の記憶も本として置かれている。
じゃあ、一体誰だ?
神すら越える存在が....この本棚を使っていたのか?
飛躍する考えに無名自身が付いていけなくなる。
するとゴエティアが言った。
【どうやら、時間が来たようだ。
君は"箱庭"に戻ると良い.....次に来るのを楽しみにしているよ。】
「待ってくれ!箱庭って?....それよりも!!」
【お休み無名。】
無名はそのまま、視界が暗くなり目を開けると孤島の屋敷にある自分の部屋のベットで横になっていた。
無名が目覚めた事で横で見ていたリーゼが騒ぎ人を呼ぶ。
メイドが身体の調子を見てくれていると部屋に黒岩が入ってくる。
「しぶとく生きていた様で安心したよ無名。」
「ここは....そうですか。
あの戦闘機の攻撃で気を失ってたんですね。
あれからどれくらい経ちました?」
「1日だ。
ミュージアムにはメイカーが既に連絡している。
マリアとNEVERは風都に向かったよ。」
その言葉を聞いて無名は起き上がる。
「おい、無茶はするな。
瀕死は避けたがそれでも重症なんだぞ?」
「恐らくですが、このまま行くと風都が危険な状態になってしまいます。
その前に打てる策を打っておかないと....」
そうして動こうとするが黒岩に止められる。
「悪いが絶対安静させるように琉兵衛様から言われている。
今回はかなり無茶をしたんだ。動くにしても今日1日は安静にしてもらうぞ。」
そう言われて無名はベットに戻される。
ベットをリーゼと黒岩に監視されているから抜け出すことも出来ないだろう。
(風都に行って直接確かめたかったですが仕方ありませんね。
しかし、一体何が起きているのか。)
「そう言えば通信は復旧したんですか?」
無名の問いに黒岩が答える。
「あぁ、メイカーの話じゃ応急処置らしいが動くは動くらしいぞ。」
「では、すいませんがテレビをつけてくれませんか?
風都の映像が見たいんです。」
それぐらいなら問題ないと考えた黒岩はテレビをつける。
すると、風都タワー30周年の記念式典が映っていた。
その映像を見た無名は確信する。
(間違いない劇場版が始まったんだ。
AtoZ.....と言うことはT2メモリが撒かれているのか?)
無名は、そう思案しながらテレビを見ているのだった。
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第百十三話 AtoZ/溢れるドーパント
事務所内にコップやタライが置かれそこに水が落ちる音が聞こえる。
「ったく何でこんなに雨水が入ってくるんだ。
どっかに穴でも空いてたりすんじゃねぇのか?」
翔太郎は帽子に落ちた雨水を拭きながら言った。
「この事務所も結構古いからねぇ...リフォームした方が良いのかなぁ。」
「あ?そんなのダメに決まってんだろ!
ここはおやっさんが残してくれた大事な事務所なんだぞ。」
その日、フィリップは気分転換の為に公園にいたのだが雨が降ってきた為、ベンチで雨宿りしながら携帯の画面から風都タワーの式典を見ていた。
勿論、目当てはそこに登場する若菜姫なのだが....
彼女の活躍を見て微笑んでいると隣で雨宿りしていた少年が話しかけてくる。
「お兄ちゃん何見てるの?」
「風都タワーの式典映像だよ。
若菜さんが出演すると聞いたからね。」
そう言いながら画面を少年に見せる。
「お兄ちゃんってアイドルオタクって言われる人?」
「.....どうだろうか。
ファンではあるが追っかけをしているわけでもないし微妙なオタクかな?」
「そうなんだぁ....変なのぉ。」
そうしていると少年の母親が傘を指して迎えに来てくれた。
「あっ!ママが来た。」
少年は嬉しそうに母親に手を振る。
その光景にフィリップは疑問を抱いた。
「嬉しいのか?母親が迎えに来てくれると言うのは?」
その問いに少年は当たり前のように答えた。
「お母さんが迎えに来てくれるのは当たり前でしょう?」
そう言うと少年は母親に連れられてその場を後にした。
家族の記憶がないフィリップにとってはその当たり前は理解できない。
知らないと言うことは時に人にコンプレックスを抱かせる。
もやもやした気持ちになったフィリップはそれを振り払うように携帯の画面に目を向けた。
すると、遠くから悲鳴の声が聞こえて来た。
何かあったのかとフィリップはその場所へ向かう。
するとそこには過去に倒した筈のアイスエイジドーパントとバイオレンスドーパントが周りの人を襲っていた。
「あのドーパントは前に倒した筈...一体どうして?」
そんな事を考えていると先程、話していた少年と母親が襲われそうになっていた。
「危ない!」
そう言って二人の前に駆け寄り盾になる。
しかし、ドーパントは突然火花を上げると後ろに後退した。
その方向を見ると黒いコートを来てハットを被った女性が銃を打ちながらフィリップ達の前に出る。
その際、ハットを脱ぎ捨てるとフィリップに向いて指を指す。
「早くその人達を....」
そのポーズがシュラウドの動きと重なる。
彼女に従い二人を逃がすとタイミング良く翔太郎が現れた。
「フィリップ!無事か!」
「あぁ、問題ない翔太郎。」
そう言うと翔太郎がドライバーをつける。
するとフィリップの身体にもドライバーが出現する。
「んじゃ、行こうぜ。」
「CYCLONE,JOKER」
「「変身」」
フィリップがサイクロンメモリをベルトに装填するとメモリが翔太郎のベルトに転送される。
待機音が流れる中、翔太郎はジョーカーメモリを装填するとドライバーを展開した。
竜巻と共に翔太郎の身体が変わっていき仮面ライダーWサイクロンジョーカーへと変身が完了する。
そして暴れるドーパントへ向かっていくのだった。
(あれが仮面ライダーW....無名の言っていた風都を守るライダーの一人ね。)
大道マリアは研究者として仮面ライダーの強さを確認する。
目を覚ました無名は私に連絡をかけてきた。
「この事件は最悪、風都が壊滅する可能性があります。
ミュージアムの助力は得られそうですが、それで解決が出来ない場合は風都の仮面ライダーの力を借りる必要があります。
マリアさんには二人のライダーと協力出来る立場になってもらいます。」
「けど、具体的にどうするの?
私や息子の事がバレれば協力は難しいと思うけど」
風都の仮面ライダーの話は良く聞いている。
もしその話が本当なら敵対している私達と彼等は協力できないだろう。
勿論、それは無名にも分かっていた。
「少し面倒な賭けですが仕方ありません。
貴女にこれから会って欲しい人物がいます。
彼女なら道具や何もかも準備できるでしょう。
しかし、彼女と協力しているのが組織にバレたらまずいので他言無用でお願いします。」
「分かったわ。
それで....その相手って?」
「名前はシュラウド....園咲 琉兵衛に復讐するために生きている悪魔の一人と言っておきましょう。」
照井は同僚の刑事から報告を受けた場所へバイクで向かっていた。
到着するとそこにはナスカドーパントとウェザードーパントが人を襲っていた。
「井坂に組織の幹部か....また何かの実験でもする気か?」
照井はドライバーをつけるとメモリを起動する。
「ACCEL」
「変....身!」
メモリを装填しスロットルを回すと仮面ライダーアクセルへと変身が完了した。
エンジンブレードを構えると2人のドーパントを睨み付ける。
「さぁ!振り切るぜ!」
照井は掛け声と共にドーパントに向かっていった。
その光景を師上院が眺めている。
「ナスカにウェザー...新型のメモリには随分と強力な力が採用された様だ。」
新型のメモリの性能に驚きつつも違和感を覚える。
(ドーパントの動きが悪い....と言うより力を使いこなせてないな。)
まるで、力そのものに振り回されているのか上級メモリの力を持っているのにも関わらずアクセルは全く苦戦せず戦いを優位に運んでいった。
そして、この違和感は戦っているアクセル自身も味わっていた。
(おかしい...こんなに弱いわけがない。
それにあのウェザードーパントはガイアメモリの強化アダプターを使う気すら見せない。
やはり、コイツらは.....)
確信した照井はドライバーからメモリを抜くとエンジンメモリを装填した。
「ENGINE MAXIMUMDRIVE」
アクセルをバイクモードへ変形させると二体のドーパントを巻き込んで吹き飛ばした。
その攻撃によりメモリが排出されて人間の姿に戻る。
当然ながらウェザーのメモリの使い手は井坂ではなかった。
「やはり、違ったか。」
そう言いながら倒れている二人に手錠をかけて落下したメモリを手に取った。
そのメモリは純化された自分達のメモリと同じ透明な色で端子が水色に染まっていた。
そして何より
「何故、メモリブレイク出来てないんだ。」
アクセルのマキシマムを喰らってもメモリに全くダメージのないこの新しいメモリに照井は戦慄を覚えるのだった。
その光景を見ていた師上院も驚く。
「まさに、加頭様の言った通りの性能ですね。」
「"現段階で到達するガイアメモリの最高峰"....それを目指して作られたのがこのT2メモリです。
内部パーツから外装に至るまで全て財団が吟味しこだわった一品です。
このメモリには新しいシステムが使われています。
1つ目がメモリブレイクの危険を察知すると強制的に体外へ排出される機能。
そしてもう一つがメモリの適合者を自動的に識別する機能です。」
「では、風都でドーパントか大量発生しているのは財団の予定している使い方だったのですか?」
「いえ、違います。
正確には集められた被験体の中からメモリが使用者を選ぶ技術ですがアタッシュケースに仕込まれた爆弾によりその機能にバクが生じてしまったのでしょう。」
「財団はT2メモリをどうするおつもりです?」
「本部でも意見が割れています。
回収するか破壊するか」
「加頭様、貴方個人としてはどうですか?」
「残しておきたいとは思います。
これは財団の開発した最高峰のメモリですので。
しかし、このメモリとミュージアムを天秤にかけるならば、私はミュージアムを取ります。
このメモリはあくまで過去のミュージアムの持っていた技術を利用して作られた物です。
しかし、アクセサリーシステムや新型ガイアドライバーの登場で最高峰のメモリと言えるのか疑問が残る事は否めません。」
「それに財団を裏切ったキースがこのメモリを逆転の一手として選んだのなら、破壊するべきだと思います。
財団の名誉のためにもね。」
そんな会話を思い出しながら、師上院はこれ以上の展開は無いと思い琉兵衛への報告のためその場を後にした。
『「
ルナジョーカーのマキシマムがドーパント二体に当たると爆発しメモリが排出されて人間の姿へと戻った。
それを確認するとWも変身を解除する。
そして、元に戻った2人を見た翔太郎は驚愕する。
「えーっ!"ウォッチャマン"に"サンタちゃん"どうしてこんな所にいんだよ!」
二人とも翔太郎の探偵家業の協力者であり大切な友人でもあった。
その問いにウォッチャマンは動揺しながら答える。
「ここはどこ?ボキは誰?」
混乱しているのが見てとれた翔太郎は落ち着いて二人に尋ねる。
「なぁ、どうしてこのメモリを持ってたんだ?」
するとメモリを見たサンタが答える。
「あぁーっ!それ二人でこの辺ぶらついてたら見つけてそうしたらフワッ!と浮き上がって俺達の身体に入っていったんだよ。」
「そんな事があったのか?一体何なんだよこのメモリは」
「恐らく僕たちの使う純化した次世代メモリと同種の能力があるだろうね。
でも、メモリが勝手に入るなんてのは初めて聞いた。
それにメモリブレイク出来てないのも驚きだ。」
フィリップがメモリを翔太郎から奪い眺めていると先程、助けてくれた女性が現れる。
「それはT2メモリ。
とある組織が開発した新型のガイアメモリよ。
それにしても勇敢だったわね坊や。」
フィリップは彼女から誉められて恥ずかしかったのか顔を背ける。
「坊やは止めてください。
僕は子供ではない。」
「あら、それはごめんなさいね。」
「失礼だが....あんたは?」
翔太郎の言葉を受けて懐から手帳を取り出すと中身を開いた。
そこには"FBI"の文字が書かれていた。
「"マリア・S・クランベリー"国際特務調査機関捜査員。
任務は国際的犯罪者やテロリストの追跡と確保よ。」
これが翔太郎とフィリップとマリアの初めての出会いだった。
Another side
無名から連絡を受けたシュラウドはケースを持ってマリアと呼ばれる協力者を待っていた。
暫くすると黒いコートを着た女性が現れる。
「貴女が大道克己の母である大道マリアね?」
「えぇ、貴女がシュラウドね話は無名から聞いているわ。」
「そう。」
シュラウドはそう言うとアタッシュケースを彼女に差し出した。
「頼まれていた身分証と銃....それにドライバーとメモリが入っているわ。」
マリアが中を開けるとそこにはロストドライバーと壊れた筈のエターナルメモリが入っていた。
「確かに受け取ったわ。」
「それをどう使うかは貴女達の勝手だけど....貴方の被験体に使いこなせるのこのメモリは?」
「その心配なら無用よ。
克己は私の息子ですもの.....」
「自分の実験の材料にしておいて息子呼びするのね?」
「貴女は私の事が嫌いなのかしら?」
マリアの問いにシュラウドが答える。
「そうね....息子を自分の研究の犠牲にしているのは気に食わないわ。」
「それにしては不思議ね。
貴方の息子も同じ目にあっていると無名から聞いたけど」
「あれは事故よ!それに私は一度たりとも来人を道具になんて...」
そう言いかけてシュラウドは口をつぐんだ。
道具に等していない...そう言いたかった筈なのにその言葉が出ない。
園咲 琉兵衛を倒す為に来人を利用している自覚があったからだ。
「良かった....そこで止まれるならまだ貴女はメモリに飲まれていない証拠ね。」
マリアは安堵したように告げた。
そして、タブレットを取り出すと画面を切り替えてシュラウドに見せる。
「これは?」
「貴女を救うかも知れない方法よ。
無名がずっと考えてたものよ。」
シュラウドの特殊な移動能力とある種の不死性を疑問に思った無名は独自で調査を行った。
そして、隠されていた真実に辿り着いたのだ。
「私を救うですって?そんな必要は無い!私は復讐を遂げられればそれで!」
「それを
「........」
「私も貴女と同じだった自分の研究を使うことで息子を救えると本気で思っていた。
だから、克己に酵素を打ち化け物に変えてしまった。
記憶が無くなる事も問題ない克己が生きてさえいればそれで良い....本当にそう思ってたのよ。」
「けれどそれは間違いだった。
無名が酵素を改良して記憶を取り戻してから克己は本当の意味で変わった。
自分が化け物だと受け入れて自分達が生きれる世界を作るために本気で頑張っている。
只の化け物だった克己に無名が生きる意味を与えたのよ。」
「貴女にとって息子がどんな存在なのかは分からない。
けど、息子の事を本気で思っているのなら....」
「今では無く未来を思える生き方をさせてあげて...」
「自分の子供でもないのに随分と肩を持つのね。」
「貴女の話を聞くと過去の私を思い出すのよ。
それが間違いだと気づく前の私にね。」
「取り敢えず言いたいことはそれだけ....それじゃ」
そうして帰ろうとするマリアをシュラウドは引き留める。
「待ちなさい....これを持っていって」
そう言って彼女に渡したのはシュラウドマグナムとボムメモリだった。
「無名は信用できない....何故か分からないけどそう感じてしまう。
けど、貴女は違う...同じ母親として信じてみたい。」
「このデータは検討させてもらうわ。
それと、無名に頼まれたドライバーは完成まで少し時間がかかる....出来たら届けるわ。」
「ねぇ、良かったらまた会わない?」
マリアの問いにシュラウドは悩む。
「そうね.....いつかね。」
そう言うとシュラウドは姿を消した。
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第百十四話 AtoZ/冷たい温度
「昨日の夜、風都の港にジェット機の破片が落ちた事件は知っているかしら?」
「あぁ、乗組員どころか誰の所有物かも分からないジェット機が墜落した話だろ?」
「そう、実はその中に新たに開発されたT2メモリを保管したアタッシュケースがあったの。
しかし、それを輸送最中に謎の襲撃に遭い"AからZ"26本のメモリが街にばら蒔かれた。」
「このメモリはコネクター手術を施さなくても使用が出来て尚且つメモリが適合率の高い人間を見つけると強制的に起動するシステムが組み込まれている。」
「そんな物を町の人が手にしたら.....」
「風都はおしまいだ。」
予想外の状況に亜樹子と翔太郎は愕然としている。
マリアは立ち上がりホテルの名刺を置く。
「メモリが集まったら連絡して....私も独自に探すから」
「そんな!危険です!」
フィリップがマリアを本気で心配するように言う。
その姿がマリアには別の人物と重なって見えた。
「大丈夫よ私には頼もしい味方もいる。
それに貴方も助けてくれるでしょう?
そう言ってマリアがフィリップの頬を撫でる。
恥ずかしかったのかフィリップは顔を背けた。
「それじゃ、お願いね仮面ライダー。」
そう言うとマリアは部屋を出ていった。
マリアがいなくなると翔太郎がフィリップをからかった。
「何だよフィリップ、一丁前に恥ずかしがりやがって...」
「別に良いだろう....僕にだってそんな時もある。」
そう言うとフィリップはラボへと姿を消した。
「アイツ....何時にもまして変だな。」
そう思いつつも翔太郎と照井はT2ガイアメモリの捜索へと乗り出すのだった。
T2メモリの捜索は順調に進んでいた。翔太郎が町の仲間に頼んでメモリを探し、照井が警察の力を使ったことで半分以上のメモリを回収することが出来た。
ドーパントの変身事件も少なく、このまま行けば全て集まるのは時間の問題だろうと考えていた。
翔太郎と亜樹子は風都の情報をくれる女子高生二人組の"クイーン"と"エリザベス"に会いに来ていた。
「じゃじゃーん!友達経由で集めてみましたぁ!」
エリザベスが誇らしげに三本のメモリを渡した。
「AとKとBのメモリか、人とメモリは牽かれ合うって言うからきっと何かあるのかもね。」
そうしてメモリを受け取る裏側でクイーンが手の中に隠していたメモリをうっかり起動してしまう。
「
「クイーン!お前メモリ隠してやがったのか!」
翔太郎がそう言うとクイーンはメモリに牽かれて腕に挿そうとし始める。
「翔太郎君!ヤバくないこれ!」
「すぐ止めんぞ亜樹子!」
「おぉ、やっ止めれー!」
クイーンの持つメモリを二人で奪おうとするとその拍子にメモリを飛ばしてしまう。
それを赤いバイクに乗った女性がキャッチした。
ヘルメットを外して顔が見えるととても美人だった。
「あー、お姉さん悪いけどそのメモリ..返してくれない?」
そう言って翔太郎が彼女からメモリを奪おうとすると拒絶差された時に彼女の肌に触れた。
「!?冷てぇ」
その言葉に女性が苛立つ。
「言ったね?気にしてること」
女性は翔太郎の身体を蹴り吹き飛ばす。
女性とは思えない力に翔太郎は戸惑いながら彼女を見た。
彼女はジャケットのジッパーを下ろして肩にメモリを近づけるが反応しない。
「あー、体質合わないっぽい。
やっぱり私の運命の一本はこの子なのかなぁ」
そう言うと懐から赤いガイアメモリを取り出した。
「HEAT」
「ヒートだと!?」
メモリの正体に驚く翔太郎を余所にメモリを投げると彼女の身体に吸い込まれていく。
そして、身体が炎に包まれるとヒートドーパントへと変身した。
そして、その光景を遠くから見ていた京水は愕然とする。
「本当にレイカとそっくりね。」
横にいる本物のレイカを見ながら京水は言った。
レイカは偽物を見つめながら不機嫌になっている。
そして、レイカの抱えているカメラから遠隔で克己とマリアもその映像を見ていた。
「これで、キースの作ってたクローンの正体が分かったわね。」
「あぁ、それにあの身体能力...クローンもNEVERとしての処置が施されているな。」
「克己....それってつまり」
「あぁ、クローンとして生み出されてから一度死んでNEVERになったってことだ。」
その意味を正確に理解している克己やレイカと京水の顔が怒りに歪む。
「克己ちゃん、芦原と堂本はまだ合流できないの?」
「あっちもかなりヤバくてな。
今、キースと接触してるらしい。それも戦闘中だ。」
「それってヤバいじゃない!私達が助けに向かわなくて良いの?」
「そっちはミュージアムと財団が行うらしい。
二人は巻き込まれたから共闘しているだけだ。
それよりも、今は残りのNEVERのクローンを見つけることが先決だ。
五人分の生体ポットがあったんだ。
何処かにいる筈だ。」
「俺達全員のコピーがな。」
ヒートドーパントと翔太郎が遭遇する前.....
園咲家の処刑人であるミックとゴスロリでイナゴを食べる女は師上院と共に芦原と堂本が調査をした研究所へと到着していた。
芦原と堂本は三人の案内役として待機していた。
「やはり、めぼしい証拠は無さそうですね。」
師上院がそう呟く。
「はい、痕跡も完全に消されているところを見ると始めから逃げる事を目的としていたんだと思います。」
「仕方ありませんね。では撤収を.....」
そう言いかけた時、師上院の携帯に着信が入る。
画面には非通知の表示がされている。
師上院は電話を繋いだ。
「はい、どなたでしょうか?」
「俺を探しているのかMr.師上院?」
その声が先程から捜索していたキースの声だった。
「何故、私の番号を知っているのかはこの際どうでも良いですが...今どこにいらっしゃるのですか?
財団とミュージアムが貴方を探していますよ。」
「それは脅しか?....こんな簡単に出し抜かれたお前らに俺が捕まるとでも?馬鹿馬鹿しい。」
「我々、ミュージアムを侮辱する者は誰であろうと許しません。
それよりも姿を現したらどうですか?
日陰に隠れていては健康に悪いですよ?」
「それなら、外に出ると良い。待っているぞ。」
そう言い終わると通話が切れた。
「......どうやら私達は誘い込まれたようです。
理由は分かりませんが迎撃の準備をしましょう。」
そう言うと二人と一匹はガイアメモリを起動する。
「Word」
「
「Smilodon」
そうして、三体はドーパントへと変身が完了すると外に出た。
そこにはガイアドライバーを付けたキースが悠然と立っていた。
「準備は終わったか?」
キースが不敵に笑い師上院に尋ねる。
(獅子神は反対の区画を捜索しているから加勢は期待できない。
この人数差でも焦っていないと言うことはキースには何か秘策があるのか?
それにあのドライバー、無名が製作した新型のドライバーだとすれば使用されるメモリはゴールドクラス。
もう少し彼から情報を抜き取りましょう。)
「随分と余裕があるようだ....そんなに強い味方をクローンで作れましたか?」
「ほぅ、調べたのか。
思ったよりも優秀そうだ。」
「師上院と言ったな....私の元に来ないか?
君のような優秀な人材は、優秀な私に使われることでその真価を発揮する。
園咲琉兵衛では役者不足だ。」
「何度も我が主を愚弄するとは....相当死にたいと見えますね。」
師上院の言葉にキースは笑う。
「あっはっはっは!死ぬ?この私が?....あり得ない。
私は不死身だ...そして永遠に君臨し続ける。」
「"世界の王"として」
キースは懐から金色のメモリを取り出すと起動する。
「
そして、ドライバーにメモリを装填し倒すと身体を金色の炎が包む。
まばゆい光を上げながら肉体が変化する。
その存在感は園咲琉兵衛のテラーを彷彿とさせた。
そして変身が完了するとスミロドンとホッパーが彼に攻撃をした。
キースは攻撃を避ける素振りもなく受ける。
スミロドンの爪に引き裂かれホッパーの蹴りを諸に受けたがその箇所から黄金の炎が上がる。
「無駄だ....その程度のダメージなら受けた瞬間に完治する。
再生の力を持つ黄金の炎...これこそがフェニックスメモリの能力だ。」
「そして、この炎にはこういう使い方もある。」
そう言うと炎をホッパードーパントへ放った。
回避が間に合わず片足が巻き込まれてしまう。
しかし、足には全くの外傷がなかった。
不思議に思いながら動こうとするが巻き込まれた足はピクリとも動かなくなっていた。
「人間は電気信号と筋肉の収縮、骨の移動により動作を行うことが出来る....その中で微小なダメージを常に人は受け続けている。
痛みとすら知覚出来ない程の小さなダメージだ。
この炎はそれすら回復し完全に治してしまう。
今、君の身体は自分の足を知覚できていない。
無いものと誤認している。
だから、足が動かなくなった。」
「では、質問を変えよう。この炎を全身で浴びたらどうなるかな?」
そう言いながらキーズは黄金の炎をホッパーに向けようとすると突如、飛んできたコンクリート片にキースは吹き飛ばされる。
そこには師上院が作り出したコンクリートの大砲があった。
「確かに魅力的な能力だ。
だから、封じさせて貰うことにするよ。」
そう言うと師上院は文字を集めて文を作るとキースに向かって放った。
それをキースは紙一重で回避する。
「危ない危ない....戦闘でのワードメモリの能力は知っている。
そんな厄介な力には他にどんな秘密があるのやら」
「私は君と違って自分の力をベラベラと話す趣味は持ち合わせてない。
だから、契約に必要な情報だけ開示させて貰う。
その"炎の力を私の契約の能力と引き換えに"封印する。
契約終了は"どちらかの命が尽きる"までだ。」
師上院がそう言うと周囲にワードメモリ特有の空間が生成された。
「そんな契約、私が結ぶとでも?」
「このままでは難しいだろう。だからこうする。」
師上院はワードメモリの編集の力を使い契約完了を"両者の同意"と言う意味合いからどんどん変化させていく。
「まさか、契約内容を変更できるのか?
だが、それを指を咥えて見ていると思うか!」
キースは黄金の炎を師上院に向けて放つ。
しかし、この攻撃は突然、現れたユートピアドーパント加頭により防がれてしまう。
「再生とは希望の象徴....故にユートピアの能力が適応できます。」
「貴様は....つくづく私の邪魔をしてくれるな!」
「貴方が財団を裏切りT2メモリを乗せたジェット機を落としたのは分かっています。
財団に不利益を与えた貴方は私が粛清します。」
加頭とそう話していると師上院の契約の編集が完了した。
「契約締結の条件を変更....対象と類する組織の人物からの攻撃に変えた。
つまり、これで詰みだ。」
キースの背後からミックが攻撃を加える。
キースは身体に黄金の炎を纏うと師上院に突撃した。
両者の速度には差があるがミックの速度はアクセルトライアルと同じくらいに速い。
故に突撃が当たる前にミックの爪がキースを捕らえた。
炎が師上院に触れるがその場で消滅しフェニックスドーパントも姿を消した。
「倒せましたかね?」
加頭からの質問に師上院は答える。
「メモリの能力が未知数な以上、油断はできないがワードメモリの能力が発動している。
暫くは問題ないだろう。」
そんな話をしていると芦原が二人の前に現れた。
「報告します。
俺達、NEVERのクローンが風都でT2メモリを集めているようです。」
「では風都に戻りましょう。
クローンを始末して一刻も早く事態の収拾を....」
加頭はそう言うと理想郷の杖の力を使いその場の全員を風都へと移動させるのだった。
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第百十五話 AtoZ/オリジナル
ヒートドーパントを変身した仮面ライダーWが追跡する。
ヒートドーパントはバイクに乗り仮面ライダーもハードボイルダーで追跡していた。
「待ちやがれ!」
翔太郎がヒートドーパントに叫ぶ。
「うふふ...鬼さんこちらっ!」
ヒートドーパントも背後に火球を放ちWを牽制する。
その攻撃をハードボイルダーで回避しつつ追い掛けていると背後からバイクに乗ったマスカレイドドーパントが三体追い掛けてきた。
「奴等も関わってるのかよ!」
『僕達を邪魔したいらしいね。』
そう言いつつもフィリップは打開策を模索する。
そうしてメモリを入れ換える
「LUNA,TRIGGER」
ルナトリガーに変わるとトリガーマグナムを発砲する。
一体のマスカレイドドーパントに弾が命中して吹き飛ぶと金色のエネルギーとなって霧散した。
『どうやら、人ではなく何らかのエネルギー体のようだね。』
「なら、遠慮は要らねぇって事だ。」
そう言いつつマスカレイドドーパントを撃破しようとするWにヒートドーパントの火球が迫る。
それを間一髪で回避した。
「余所見なんてしてる余裕あるの?」
「クッソふざけやがって!」
『仕方ない翔太郎、冷静に対処していこう。』
Wとヒートドーパントがバイクで戦闘を繰り広げる少し中、高速道路の橋の下では京水とレイカが戦っていた。
きっかけは、ヒートドーパントを追うためにレイカと京水が車に乗り込み移動していた時の事、
レイカが橋の下にいる京水を見つけた。
(あれって....京水のクローン?)
車に京水が乗っていることからも今外にいるのがクローンであることは分かった。
「レイカ!何ボサッとしてるのよ!」
京水は車を運転しているため自分のクローンに気付くことが出来ない。
「....ごめん京水、用事が出来たからアイツら追うの任せても良い?」
そう言うとレイカは車の扉を開けて勢い良く飛び出した。
「ちょっと!あんたぁ!何勝手な事してんのよ!」
京水の制止も聞かずに飛び降りたレイカは数度地面を転がると立ち上がった。
そして、クローンの京水の元に向かった。
「やってるやってる....私もそろそろ行こうかしら」
そう言ってメモリを起動しようとする京水にレイカは声をかけた。
「本当に京水そっくりね。」
その声に京水は振り返る。
「あらっ?レイカじゃない.....見た感じアンタは"オリジナル"ね。」
「オリジナル?何それ?」
「そのまんまの意味よ私達、クローンの元になった人間....いえNEVERの事よ。」
「京水....自分がクローンだって分かるんだ。」
「そりゃ、勿論。
私達を産み出した"ドクター"から直接聞いたもの、そしてNEVERにされる理由もね。
良かったわぁ貴女達、オリジナルに会えて。
お陰で私が最初に復讐することが出来る。」
「復讐?」
「そう復讐.....産み出されたのに殺されてNEVER何て言う訳の分からないゾンビにさせられた。
全部、アンタ達オリジナルのせいよ。
だから、レイカ....私に」
「殺されてちょうだい。」
「LUNA」
京水はメモリを起動すると放り投げた。
メモリは回転すると京水の額へとささる。
「うーん!来たぁ!.....来た来た来た来た来た来たぁ!」
ルナメモリの力が身体を廻ることに事に興奮しつつ京水はルナドーパントへと変身した。
「行ってらっしゃぁぁぁい!」
ルナドーパントは光球を放つと道路にバイクに乗ったマスカレイドドーパントが出現し走っていった。
すると、そのままルナドーパントはレイカに向き直った。
「さぁ、惨たらしく殺して上げるわよぉ!
レイカちゃあああん!」
そう言い襲いかかってくる京水にレイカは苦い顔をしながら対峙するのだった。
克己は一人、母から渡されたロストドライバーとエターナルメモリを眺めていた。
無名の協力者によって完全に直ったメモリを手にした克己の表情は暗い。
まるで、今の自分にメモリが拒絶されているような感じが伝わる。
「お前は....今の俺を認めないのか?エターナル。」
問いかけてもメモリは答えてくれない。
だが、それでもこれを使うしかない.....
克己はドライバーをつけてメモリを起動する。
「ETERNAL」
そしてメモリを装填しドライバーを展開する。
変身が完了すると仮面ライダーエターナルへと変化した。
マントや装備に変化はない。
ただ、腕と足を彩る青色の炎のような模様が赤く変わっていた。
それが意味することを克己は何となく理解した。
変身を解除した克己は母親に連絡する。
「お袋...準備が出来た。」
「分かったわ克己。」
この事件を起こした自分のクローンと決着をつけるために克己はドライバーを握り母親と合流するのだった。
レイカとルナドーパントの戦いはルナドーパントが優勢に事を進めていた。
元々、NEVERとなって身体能力は高くなっているレイカがそれはクローンである京水も同じだった。
明確な違いはメモリを使っているか使ってないか。
幻想の力を持つルナメモリの汎用性がレイカを苦しめていた。
得意の格闘に持ち込もうにも鞭のようにしなる両腕によって阻まれる。
持ってきた武器はハンドガン一つ。
レイカの得意分野である蹴り技に即した装備だが今回はそれが不利に働いた。
「あらあらどうしたの?逃げてばっかりじゃ殺れないわよ私はっ」
京水があからさまにレイカを挑発する。
「うっさいわね!オッサンが粋がんなよ!」
「...本当にムカつく小娘ね。
良いわこれで殺してあげる!」
そう言って京水は伸ばした腕でレイカの両足を捕らえると近くまで引き寄せた。
しかし、それこそがレイカの狙いでもあった。
プロフェッサーマリアがもし相手がNEVERだった際を想定して渡してくれた注射器を手に取る。
そして目の前まで寄せられた瞬間、京水の身体に当てた。
「これは何なのかしら?」
京水の問いにレイカは答える。
「"細胞分解酵素"....あたしらNEVERを生かしている酵素を分解する酵素で、これを打たれると死体に逆戻りするんだって....いくらドーパントになってても私達と同じNEVERなら効く筈だよね?」
その言葉を受けて京水は焦り出した。
「あんた....私を殺す気なの?」
「アンタは京水じゃない.....ただのクローンよ!」
そう言って注射器のシリンジを押し込もうとした瞬間、
「止めてレイカ!私達、"仲間"でしょ?」
京水がそう叫んだ。
これがもし、改良される前の酵素を投与された...記憶を失うレイカならば問題なかっただろう。
だが、無名の改良により記憶が出来るようになったレイカはその言葉で京水との思い出がフラッシュバックし手が止まってしまった。
そんな隙を"クローンの京水"は見逃さない。
「本当におバカさん。」
「しまっ!」
京水の冷たい言葉で現実に帰ったレイカだったが時既に遅く腕を伸ばし上空からコンクリートへレイカは思いっきり叩きつけられた。
「私を!殺そうと!するなんて!本当に!バカね!レイカはぁ!」
京水は力を込めて何度も何度もレイカを地面に叩きつける。
レイカの持っていた注射器はその衝撃で壊れてレイカ自身もあらゆる骨と肉が破壊され子供が遊んで壊れた人形のようになってしまった。
満足したのかレイカをそのまま地面へと放り投げる。
全身を完全に壊されたレイカは動くことすら出来ない。
そんなレイカの服を京水は調べて酵素の入ったアンプルを取り出す。
定期的に注射するために個人で持っている改良酵素だ。
「これだけ痛めつけたら酵素の消費も激しいでしょう?
そしてこれで本当におしまいよ。」
動かないレイカに見えるようにアンプルを握りつぶした。
やることが終わると京水はメモリを抜く。
「全く、アンタのせいで余計な時間を取られちゃったわっ!
急がないと」
そう言うと京水はその場を後にした。
「ま......て.....」
レイカは動けないながら声で京水を呼び止めようとする。
しかし、視界もボヤけて来て意識も安定しなくなってきた。
レイカは走馬灯の様に孤島での記憶が思い出される。
NEVERのメンバーとの思い出やミーナと遊んだ思い出....テストで失敗して京水に説教される光景。
(全く....最後の最後に思い出す記憶がこれとか...最悪ね。)
薄れ行く意識の中でレイカは聞こえることの無い言葉を空に向けて言った。
「ごめ.....ん....みん.....な..。」
そうしてレイカは意識を失ってしまうのだった。
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第百十六話 AtoZ/牙を向く死人
順調に進んでいた式典は数発の銃弾により止まることになる。
その方向に向くと二人の人物が銃を空へと向けて放っていた。
一人は髪に青いメッシュが入った茶髪の男性、
もう一人はフードで顔を隠している謎の人物だった。
「俺の名前は"大道克己"....この風都を地獄に変える死神だ。
この風都タワーは俺達、NEVERが占拠する。
大人しくしているのなら危害は加えないが邪魔をするならコイツらみたいな結末を辿ることになる。」
そう言って合図をすると上から何かが降ってきた。
見てみると警備員の格好をした男達であった。
「ここの警備をしていた奴等だが俺達の邪魔をしたから殺した....これで分かって貰えただろうか?」
一瞬の沈黙から状況を理解した野次馬はパニックを起こし始める。
「きゃあああ!」「ひっ...人殺しぃ!」「誰かぁ!助けてぇ!」
怯えてパニックを起す式典を見に来ていた観客の前にフードの人物が前に出るとメモリを起動した。
「FANG」
放り投げたメモリがフードの人物の喉へとささる。
すると、身体から無数の牙が出現しファングドーパントへと姿を変えた。
そして、腕を振るうと腕についていた牙が取れてブーメランの様に回ると客の回りの地面を削りながら進み元の場所へと戻った。
「騒がないで欲しい....我々の邪魔をしなければ危害を加えるつもりはない。」
そう言うと周りが一気に静かになった。
(何なのコイツら?それに大道克己って確か無名の部下だった筈よね?
だとしたらどうして?)
若菜は克己を見つめながら考えるが答えはでなかった。
ドライバーとメモリは楽屋に置いてある。
それがあれば何とか出来るかもしれないが今は動くのは得策じゃないことは若菜にも分かっていた。
若菜や他の面々は克己の言う事に大人しく従うのだった。
『「
Wサイクロントリガーのマキシマムがヒートドーパントの乗るバイクに直撃し爆発する。
その反動を利用してヒートドーパントはWに組みつくと地面に引きずり下ろした。
そこから格闘戦に移行する。
ヒートドーパントの戦闘力は高く遠距離のサイクロントリガーでは不利だった。
「この女、強ぇ!」
『近距離には近距離だ!』
「HEAT,METAL」
戦闘途中にWは素早くメモリを換装するとWヒートメタルへと変身した。
メタルシャフトを持ちヒートドーパントに応戦していると謎の人物が割って入ってきた。
金属の棒を使いWに攻撃を仕掛けてくる。
見た目が人間だから余計な攻撃は出来ないと回避と防御を選択していたが何度も攻撃を受けて翔太郎のストレスが溜まり爆発した。
「テメェ!いい加減にしろ!」
棒を受け止めて勢いのまま投げてしまう。
相手は思いっきり吹き飛び木箱の置かれている場所にぶつかってしまった。
「ふー...!?やべぇ!」
自分のやった事に気付き翔太郎は焦った。
生身の状態なら未だしもWになっている時は腕力も強化される。
本人的にはちょっと投げただけでもトラックに衝突されるような衝撃があってもおかしくなかった。
しかし、投げられた男は立ち上がる。
だが、首と肩の骨がずれてしまっていた。
普通の人間ならば致命傷になりかねないダメージだが、男は頭を殴り無理矢理首の骨を戻すと首を回した。肩は殴り付けても戻らなかったので蹴りで無理矢理戻し、肩を回した。
どちらも内部の骨から異常な音が鳴っていたが本人は平気そうだった。
その異常な光景に翔太郎は動揺する。
「何だコイツは?」
すると、その男は何かを感じ取ったように周りを見渡すと一本のメモリを手にした。
そして、笑いながらWへと向けた。
「やっと見つけたぜ...俺のメモリぃぃ!」
「METAL」
男が投げたメモリが背中にささると身体を金属が覆いメタルドーパントへと変身した。
「どうなってんだ一体?」
すると黄色いドーパントがまた新たに現れた。
「Wと同じメモリばかりが私達の元に集まるなんて」
「テメェらはもうお払い箱ってことじゃねーのか?」
メタルドーパントがそう挑発する。
「ふん、言ってろ!」
こうしてWヒートメタルと三人のドーパントによる戦いが始まった。
近距離はヒートドーパントの格闘とメタルドーパントの棒術、遠距離はルナドーパントの鞭による攻撃でWは劣性に追い込まれていた。
「クッ、コイツら強いな!」
『だが、連携に難がある....その隙を狙おう。』
すると、Wは襲いかかってきたメタルドーパントの棒をメタルシャフトで絡めるように受けるとそのまま次攻撃しようとしているルナドーパントに盾になるようにメタルドーパントを配置した。
しかし、ルナドーパントは気にする様子もなくメタルドーパントごとWを両手の鞭で打ちすえた。
「コイツらっ、味方ごと攻撃しやがったぞ!」
「私達は不死身なのよ。
そんな事したって無駄よ。」
「さようなら」
そう言うとヒートドーパントが指に炎を出すとWに向かって放った。
着弾すると大爆発を起こしWとメタルドーパントは吹き飛ばされる。
Wはダメージにより動けないでいるがメタルドーパントは暫くすると立ち上がった。
「痛ててて....レイカぁ!」
「何?ボサッとしてるアンタが悪いんでしょう?」
「それもそうね。」
味方を巻き込む攻撃をしても冷静である二人を見て翔太郎とフィリップは戦慄した。
『彼等は狂っている。
味方を何とも思っていない。』
「そうみたいだな....どうする?エクストリームで勝負するか?」
『それしか無いだろうな。』
そう言ってエクストリームメモリを呼び出そうとすると突如Wの周囲を緑色の風が吹き竜巻がWを連れて飛び去ってしまった。
「あーん、行っちゃったぁ。」
「どうする、追うの?」
「めんどくせぇなぁ。」
「まぁ、良いわ。
私達は克己ちゃんと合流しましょう。
それよりも....いい加減に隠れてないで出てきたら?」
ルナドーパントが建物を見て言うとそこから京水が出てきた。
「あらっ!"今度は"私のオリジナルなのね?」
そう言うとルナドーパントはメモリを抜いて元の人間に戻る。
「私と同じ姿ってことはアンタがクローンって訳ね?」
「まぁ、そうね。
でも出来の違いは私達の方が圧倒的に上よ?
あの女も私に負けてボロ雑巾みたくなってたしね。」
「あの女....一体何よ?」
「あら、知らないの?
レイカよ、オリジナルのね。
今頃、酵素切れで死体に戻っているんじゃないかしら?」
その言葉にオリジナルの京水は激しく動揺した。
勿論、ブラフの可能性もあるが京水には思い当たる節があった。
(途中でレイカは高速道路に降りた....その時に私のクローンに会っていたのだとしたら)
レイカは"味方に甘いところがある"もしクローンの私がそれをついたのだとしたら....
「.....レイカ。」
絶対にマズイ、京水がレイカを助けようとその場を後にしようとするのをクローンの京水が手に持っている鞭を使って止めた。
「離しなさいよ....」
「あら?連れないわねぇ....折角会えたんだからお喋りしましょうよ。」
「そんな時間は無いのよ!レイカを助けるためにもね!」
「そんな事させるわけないでしょう?
あの女は惨めに死んでいくのよ何の役にも立たずにブサイクのまま死体に戻る...貴方達にピッタリの最後よ。」
ここでオリジナルの京水の我慢していた怒りが限界を向かえた。
「さっきからうっさいのよ!あんたぁ!"親友を救う"邪魔すんじゃねぇよ!」
何時なら使わない男の声を出してしまう。
そんな京水を見てクローンは笑う。
「あらあら女が汚い言葉を出してはしたないじゃない。
なら、ここで始末してあげるわよ.....」
そう言った矢先、周囲が爆発し白い煙が辺りに充満した。
「何よ!...こ....れ....」
すると、クローンの京水は倒れてしまう。
「これって、毒?」
ヒートとメタルドーパントは煙の正体を予測すると離れた。
そして、煙の止む頃にはオリジナルの京水の姿は無かった。
「レイカぁ!.....生きてるんなら返事しなさい!レイカぁ!」
京水が辺りを探していると赤矢が彼女を見つけた。
「京水、彼処だ。」
「えっ?....レイカ?....レイカぁぁぁ!」
見つかったレイカの姿は酷いものだった。
身体の骨がぐちゃぐちゃになっており皮膚を突き破っているところもあった。
血もかなり失われている。
それにレイカの身体には酵素切れ特有の模様が出ていた。
(本当にマズイ!)
京水は急いで持っていたアンプルを注射器に装填するとレイカの腕に射った。
「お願い....効いて....お願い!」
祈るようにレイカの手を握る京水にレイカは意識を取り戻した。
「あ......京....水..じゃん。
アンタは本物みたい....だ...ね。」
「このおバカっ!クローンの私に負けるなんて何してんのよ!
それに酵素切れになって....本当にギリギリだったのよ!」
「...ご...めん...細胞分解酵素を射したまでは良かったんだけど.....ちょっと油断しちゃった....アンプルも割られちゃったし...」
そう言いながらレイカは割られたアンプルを見た。
(この位置....きっと目の前でアンプルを割ったのね私のクローンは....あの野郎!私の親友に何て事を!)
自分のクローンが親友を痛め付けて殺そうとしたことに京水は本気で怒っていた。
それに気付いたのかレイカが言う。
「気に...しないでよ...京水....これは...わ...たしの...ミス...なん....だ.......から.....」
そう言いながらレイカは意識を失った。
「レイカ?....レイカぁ!」
「安心しろ意識を失っているだけだ。
死んではいない。」
赤矢はそう言って京水を宥めた。
何時もの京水なら気付けたのにそれが出来ないほど余裕を無くしていた。
「....ありがとうね赤矢さん。
レイカを連れていきたいから車の運転お願いできる?」
「あぁ、構わない。」
そう言うと京水はレイカを優しく抱き抱える。
(良くもやってくれたわね....私の親友をここまでにして只では絶対に済まさないんだから....)
京水は自分のクローンへの復讐を誓うのだった。
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第百十七話 AtoZ/二つの炎
「むっ....無駄な抵抗はっ...やっ...やめろぉぉ!」
刃野が拡声器を使って男に伝えるが男は銃を構えて発砲し拡声器に当てると壊してしまう。
「ひぇっ!たっ....退避ぃぃ!」
警察官は車の裏に隠れた。
それを遠目で確認していた。
「奴が犯人か」
そう言うと照井はドライバーを付けてアクセルへと変身した。
そしてバイクモードになると風都タワーの入り口まで到着した。
アクセルに男は銃を発砲するがエンジンブレードで回避されてしまった。
「無駄な抵抗は止めろ。」
アクセルがそう言うと男は銃器を捨てて手袋を外す。
そして懐から青いメモリを取り出すと起動した。
「TRIGGER」
「ゲームスタート」
そう言いメモリを投げると右手にメモリが吸い込まれてライフルを右手に携えたトリガードーパントへと変身した。
突如、緑の竜巻に巻き込まれたWは気が付くと風都タワーの屋上に立っていた。
「あん?ここは?」
『風都タワーの様だね。』
すると、緑の風が集まり緑色のドーパントへと姿を変えた。
『君は、もしかして"サイクロン"?』
その問いに答えること無くサイクロンドーパントは告げる。
「ここに風都タワーを占拠した犯人がいる.....
ここからは頼むわ..."仮面ライダー"。」
『あっ!待って!』
声は変えられていて分からなかったが、その特徴的な言い回しにフィリップは覚えがあり引き留めようとするも、緑色の竜巻に変わると消えてしまった。
「どうした?フィリップ。」
『.....いや何でもない。』
「しかし、どうする?
あのドーパントに連れてこられたがもし奴の言うことが本当ならここに犯人がいるんだろ?」
『憶測でものを言うのは嫌いだが可能性がある以上、調べるべきだと思う。
行こう翔太郎。』
そう言うとWは風都タワーへと侵入するのだった。
Wが風都タワーに入る姿を見ながらサイクロンドーパントはメモリを抜いた。
抜くと身体が元に戻り大道マリアが姿を現した。
風都に到着してマリアはサイクロンメモリを見つけていたのだ。
無名に確認すると持っていた方が良いと言われたので持っていたがまさか、こんな風に役に立つとは思わなかった。
そうしてマリアは携帯を取ると無名へ連絡を取った。
「Wを風都タワーまで送ったわ。
これで克己と共闘できる筈よ。」
「ご苦労様です。
やはり敵はNEVERのクローンでしたか?」
「えぇ、連中クローンで作った個体を殺してNEVERの処置を施したみたい。
あのデータから見ても使われている酵素は改良前の記憶が無くなっていくタイプの物ね。」
「となると....実質NEVER対NEVERの戦いと言うわけですか。」
「そうね....そっちの進展は?」
「ミュージアムと財団がキースと交戦した際、謎の消滅をしたそうです。
メモリの能力によるものかはたまた本当に倒されたのかは不明です。
ですので警戒するようにとの報告です。
サラは事情を知って今、風都に戻っているそうです。
獅子神と他の幹部の皆様は風都タワーの占拠を受けて若菜様の救出に向かっています。」
「それにしても若菜様も不運ね。
折角のお祝い事なのに....」
「仕方ありません。彼女もミュージアムの幹部ですからある程度は立ち回れるでしょう....問題は克己さんのクローンについてです。」
「克己の....」
「何故、キースがNEVERを作り出そうと決めたのか?
僕なりに考えてみましたが答えはやっぱりエターナルメモリしか思い浮かびませんでした。」
孤島で克己は仮面ライダーエターナルに変身しクオークスの未来を変えた。
その力はWやアクセルにも決して負けるものではないと思っている。
「だが、エターナルのことは財団でも秘匿とされていたらしいです。
キースの立場でその詳細を知る事は出来なかった...となれば考えられる可能性は.....」
「"当事者"から話を聞いたしかありません。」
「当事者と言ってもクオークスのメンバーが裏切ったなんて聞いてないわ。」
「いるじゃないですか。
エターナルの力をその身に食らい、直接体感した人物が.....」
「.....まさか!?」
「どうやら、この事件は本格的に僕とNEVERへの復讐が目的なようです。
僕も直ぐに風都に向かいます。
これは僕達が解決しないといけない事件でもありますから.....」
風都タワーの屋上から中に入ると、内部に設営された会場に園咲若菜を含めた人質が纏められていた。
『どうやら、犯人によりここに集められているようだね。』
「何としても助けねぇと....」
すると、会場で座っていた"青いメッシュの入った男"が言った。
「おい、隠れてないで姿を現したらどうだ?」
「やべぇ、バレたか?」
『いやっ、違うみたいだ。』
その男の言葉に応じてWがいる場所の反対にある扉から会場に座る男と瓜二つの顔をした男が入ってきた。
「よぉ!....お前が俺のクローンか?
随分と辛気臭い顔をしてるな?」
「黙れ.....お前らのようなゾンビ兵士と同じ存在にさせられた俺達の苦しみなんてお前には分からない。」
「まぁ、理解は出来ねぇな。
だが、一体誰がお前らを作り出したんだ?
キースの野郎はビジネスマンだが研究者じゃなかった筈だ。
誰が糸を引いている?」
そう言うとフードを被った男が現れた。
「久し振りだな...大道克己、私を殺した時以来か?」
聞きなれた言葉に克己は驚く。
「お前は....そうか確かにお前なら俺達のクローンを作るのも容易いだろうな。」
「"ドクタープロスペクト"」
「ほう...覚えていたか。」
そう言うとフードを外して顔を見せる。
しかし、その両目は白く混濁しており瞳に光は無かった。
「あぁ、これはアイズメモリの副作用だ。
貴様にメモリブレイクされた事で私は光を完全に失った。
まぁ、その代わりに視覚以外の他の五感が強化されたから問題はないがな。」
「驚いたな。
お前は俺が完全に殺したと思っていたんだが....」
「あぁ、私は完全に死んだ.....そしてその遺体にキースがNEVERから提供されたデータを元に作り出した酵素を使い復活させたんだよ。
"忌々しいゾンビの姿"としてな。」
「蘇らせたキースの目的は無名とNEVERへの復讐だった。
だからこそ私は協力することにした。
お前らのクローンを作り酵素を研究し最高の兵士を作り出した。
お前の目の前にいるこの克己こそが完璧な兵士でありエターナルメモリの完全適合者だ。」
「クローンがお前よりも優秀な個体だと証明することで私の復讐は完了する。
お前の悲痛な叫びを聞くことが私の今の唯一の目的だ。」
「光を無くしゾンビへと成り下がった私はお前らへの復讐心のみで動いてきた。
そして復讐心は鋭く研ぎ澄まされ血肉や骨すら食い千切る牙へと昇華したのだ。」
「FANG」
プロスペクトはメモリを喉へ挿すとドーパントへ変身する。
そして、振り上げた牙がWの隠れている場所を襲った。
それを回避するように飛び上がると皆のいる会場へと降り立った。
「そんなところで隠れていないで....もっとこっちに来たらどうだ?仮面ライダーW。」
「俺達の事を知ってんのか?」
「あぁ、キースからある程度は聞いている。
ミュージアムが保管していた地球の記憶にアクセスできる青年を使い、正義の味方気取りをしている存在だろう?」
「んだとテメェ!」
『落ち着きたまえ翔太郎。
ドクタープロスペクトと言ったか?
ミュージアムと言うのが僕が幽閉されていた組織の名前なのか?」
フィリップの問いにプロスペクトは違和感を覚えるがその意味が直ぐに分かる。
「お前は記憶を無くしているのか.....
どうやら少し話しすぎてしまった様だ。
さぁ、私の作り出した
今こそお前の力を示す時だ!」
その言葉に従うようにクローン克己はロストドライバーを着けるとメモリを起動した。
「ETERNAL」
「変身」
メモリを装填し展開すると純白の装甲に黒いベルトとマントを携えた"青い炎の模様"がある仮面ライダーエターナルへと変身が完了する。
そして、それに呼応するように本物の克己もロストドライバーを着ける。
「ほぉ....お前もそのドライバーを持っていたか。」
克己は手に持ったメモリを起動する。
「ETERNAL」
「変身」
克己はメモリをドライバーに装填し展開すると仮面ライダーエターナルへと変身が完了した。
一つだけクローンの克己が変身するエターナルとの違いをあげるなら腕と足の焔の模様が赤くなっていた。
「やはり、お前も持っていたかエターナルメモリを....だが前よりも随分と弱々しくなったみたいだな。」
プロスペクトが克己を見てそう言った。
それを克己自身も分かっているのかナイフを構えて喋ることはしない。
「はっ!図星のようだな。
オリジナルの癖に弱いとは....だがそれならそれで俺の有能さを示せるわけだ。
"さぁ、地獄を楽しみなぁ!"」
二人のエターナルがぶつかる。
その光景を見ていたWが加勢に加わろうとするがそれをファングドーパントに止められた。
「君たちの相手は私だ。
私はガイアメモリによって全てを奪われた。
つまり、間接的に君は私の復讐の対象とも言える。
"さぁ、味わいたまえ...復讐の牙を!"」
そうしてWにファングドーパントが向かっていくのだった。
一方、風都タワーの外で戦っていたアクセルとトリガードーパントは膠着状態が続いていた。
(近付こうとしたら回り込みながら銃を撃ってくる。
まるで特殊部隊上がりの動きだな。
ならば絶対に補足できない速度で近付けば良い。)
照井はトライアルメモリを取り出した。
しかし、メモリのスイッチを押す前にドライバーに異常が起こる。
そして、照井は変身解除されてしまった。
周りに誰もいなかったお陰で正体はバレていないがそれよりもドライバーに起きた謎の事態に照井は驚いた。
アクセルメモリを抜きもう一度起動する。
しかし、いくら押してもメモリは反応しなかった。
「どうなってる、これは一体?」
「始まったか......」
そう言ってトリガードーパントはメモリを抜いた。
「どう言うことだ?」
「もうすぐ、この街は地獄になる....」
そう言うと男は風都タワーへと戻っていった。
そして、空中から落下する二人の仮面ライダーを見つける。
「左と....あれは誰だ?」
すると二人のライダーが変身解除される。
「いかん!」
照井はビートルフォンを操作し落ちていく三人の場所に救援を送るのだった。
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第百十八話 AtoZ/失った炎
"エターナルメモリ"....永遠の記憶を宿したそのメモリは他のメモリの使用を永遠に停止させる力を持っている。
エターナルメモリに認められた男、大道克己。
NEVERと言う擬似的な不死性を持ちまた本人も永遠に固執する人物であった。
だからこそ、メモリは彼に適合し青い炎へと昇華したのだ。
だが、今の克己の纏う炎は赤色となっていた。
この原因は一重に無名が運命を変えた事に起因していた。
記憶を保持できるようになって"明日への渇望"が減り、ミーナやNEVERを大切な存在として認識した結果、彼は満足してしまっていたのだ。
永遠に執着していた彼はもういない。
故にメモリはより永遠を求めるクローンへと傾いた。
二人の戦いは圧倒的にクローンが優勢だった。
戦闘技術は記憶の残る克己に分があるがそれ以外の全てがクローンに劣っていた。
そして一撃一撃が確実に克己を蝕み地面に倒れてしまう。
「無様だな....オリジナルもこの程度か。」
「なめるなぁ!」
克己はそう言って拳を振るうがそれをクローンは片手で止めてしまう。
「遅いな...良いか?
パンチって言うのはこう打つんだよ!」
クローンの拳が克己の腹部に打ち込まれる。
「ぐはっ!」
「オリジナルの強さは十分に分かった。
もう終わらせよう。」
そう言うとクローンはドライバーからエターナルメモリを抜くとエターナル専用武器であるナイフ"エターナルエッジ"のマキシマムスロットにメモリを装填する。
「ETERNAL MAXIMUMDRIVE」
そのマキシマムの能力を知っている克己も急いでエターナルメモリをドライバーから抜くと自分のエターナルエッジに装填した。
「ETERNAL MAXIMUMDRIVE」
両者のエターナルメモリのマキシマムドライブが発動する。
同じ特性と能力を持つメモリが同じ効果を発揮する。
"ガイアメモリの機能停止"....永遠の力を持つエターナルメモリだからこそ使える技だ。
メモリが同じなら後は何が優劣を決めるのか?
それかメモリとどれだけ適合して力を引き出せるかだ。
「ぐぁぁぁぁ!」
克己のドライバーに異常が起き始めた。
そして、近くにいたWにも同じ効果が及ぼされる。
「何だ!これは?」
『メモリがっ.....急にっ....』
動かなくなったWの隙をファングドーパントが見逃すわけもなく、身体から出現させた無数の牙をWに放った。
そしてクローンの克己も倒れているオリジナルに回転蹴りを加える。
両者ともその威力により窓ガラスを割り風都タワーの外へと投げ出されてしまった。
そして、運の悪いことにこのタイミングで両者の変身が解除された。
「なっ!どう言うことだ?何で変身が...うおぁぁぁ!」
翔太郎は帽子を飛ばされないように抑えながらメモリが入ったままのドライバーを再展開した。
しかし、何度やっても変身するどころか何のアクションも起きなかった。
フィリップは意識を取り戻すと翔太郎に話しかける。
「翔太郎!....."僕の意識"がメモリから弾かれた。」
Wドライバーはフィリップの精神をメモリに乗せて転送することで変身できるシステムだ。
それが、機能しなくなったと言うことはメモリそのものが動かなくなったと言う証拠でもあった。
「んなことよりもどうする!このままじゃ俺達、全員地面にダイブすることになるぞ!」
「リボルギャリーを呼んでも間に合わない!」
すると、風都タワーの隣のビルからAガンナーが登ってきていた。
そして、翔太郎とフィリップの落下する丁度真横を飛んできた。
翔太郎は持ち前の運動神経でガンナーAにしがみつくそしてフィリップに向かって手を伸ばすが取り逃してしまった。
「フィリップー!」
翔太郎が悲痛な声で叫ぶ。
その背後から真っ直ぐと克己がフィリップの前に落下すると彼を掴んだ。
「なっ!君は?」
「俺"がクッションになれば"死ぬ確率は下がるだろう?
大人しくしていろよ。」
そう言って彼をフィリップを抱き締めるように抱えた。
しかし、克己達の前に緑色の風が吹くと二人を包み込んだ。
そして、無事に着地したガンナーAの付近に二人は下ろされる。
そしてそこにはサイクロンドーパントもいた。
「大丈夫か!フィリップ!」
翔太郎はフィリップに駆け寄った。
克己はフィリップを離しサイクロンドーパントと何か話し合う。
そして、サイクロンドーパントはメモリを抜いた。
すると、そこに大道マリアが現れる。
「マリアさんが....ドーパント。」
その光景にフィリップはショックを受けている。
代わりに翔太郎がマリアに尋ねる。
「俺達の前でメモリを抜いて正体を現すなんてどういうつもりなんだ?」
「詳しいことは彼が自分で話すそうよ。」
そう言うと翔太郎は聞き覚えのある声を聞いた。
「久し振りですね左翔太郎さん。」
「まさか、お前が来るとはな無名。」
「えぇ、少し事態が厳しくなりましたので....」
「そう言うってことは俺達と協力したいってことか?」
「えぇ、その通りです。」
すると、無名は今回の事件について話し始めた。
「クローンにNEVER、それにエターナルメモリか....
全く厄介なものを風都に持ち込んでくれたものだ。」
照井は無名の言葉を聞いてそう評した。
「エターナルメモリを無効化する方法はないのか?」
「エターナルメモリのデータを直接書き換えればバグにより無効化出来る可能性がありますが、それをするにはエターナルメモリに直接繋がれて尚且つ地球の本棚に入れる存在が必要です。」
「実質、フィリップしか不可能な方法って訳か?」
「えぇ、だからこそ代案として予め回収していたエターナルメモリを使ってエターナルメモリを無効化しようとしたのですが.....どうやら駄目だった様ですね。」
無名の言葉に克己の顔は曇った。
「教えろ....何で俺はクローンに負けたんだ?」
「エターナルメモリは永遠の記憶を宿しています。
変わることの無い時間と空間...それが永遠です。
貴方は"消え行く記憶よりも今を求めた"。
そんな貴方だったからこそメモリと適合できたんです。
しかし、今の貴方が求めているのは今ではなく"未来"だ。
そう言う意味では今もっともメモリと適合できているのはクローンの大道克己と言えます。
生まれてからすぐに殺されNEVERにされた彼にとって最も求めているのは変わらない"今"なんですから...」
「克己.....」
悩む克己をマリアは心配そうに見ていた。
そんなマリアをフィリップは悲しそうな目で見ていた。
それに克己が反応する。
「フィリップと言ったか....俺のお袋に何か用があるのか?」
「....別に何でもない。」
その表情には何か言いたげな感情をひしひしと感じてはいたが黙っていると言う感じだった。
話が纏まらないと思った翔太郎が話し始める。
「んで無名、お前の要求ってのは何なんだ?」
「現状は最悪です。
エターナルメモリのマキシマムが発動したことでT2以外のメモリは全て作動不能になりました。
勿論、僕のメモリも使えません。
この状態を打開するためにも我々と協力しませんか?
勿論、組織ではなく僕個人に対する協力で構いません。
貴方達の流儀に合わせるなら依頼にしても良い。
この一件に限り共闘してください。
それが私の要求です。」
照井や翔太郎とフィリップはその提案を聞きどうするか考える。
そして、照井が口を開いた。
「俺は....お前達を信用する気など更々無い。
だがメモリが使えない以上、対抗策が無いのも事実だ。
業腹だがお前の提案に乗らざるを得ないと俺は思う。」
そして、次に翔太郎が話し始めた。
「俺だって照井と同じ感情だ。
お前は組織の幹部で....親っさんを殺した奴等の仲間なんだからな。
だが、それを気にしてこの風都を守れねぇのは違う。
おやっさんだって時には後ろ暗い連中とも組んでたんだ。
それに無名....お前には個人的にも聞きたいことがある。
だから、お前の提案に俺は乗るぜ。」
「ありがとうございますお二人とも.....
それでフィリップさん....貴方はどうしますか?」
無名からの問いにフィリップは顔を伏せながら答えた。
「僕は.....反対だ。
君達と組むことなんて出来ない。」
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第百十九話 AtoZ/感情的な決裂
(お姉さまを苦戦させたWをあんな簡単に倒すなんて....このクローンは只者じゃない。)
若菜は園咲家の者として常にメモリとドライバーを所持している。
今回の舞台にもちゃんと隠して持ってきていた。
だからこそ、仮面ライダーが戦っている間に隠し持っていたクレイドールメモリを起動しようと思ったのだが全く反応しなかった。
(こんな事態始めて....早くお父様に伝えなくては)
そう考えながら若菜が周りを見ているとメモリを抜いた克己と名乗る人物が急に苦しみだした。
そして、皮膚にシワが増えて髪の色が抜けて白髪になる。
それを感じたフードの男が言う。
「もう来たのか...やはり段々と周期が短くなっているようだな。」
「ぐっ....あの薬を寄越せ!」
「だが...」
「つべこべ言わずに寄越せ!」
フードの男は克己に注射器を差し出すと克己はそれを引ったくるように受け取ると首に刺した。
注射器の中の薬が無くなると克己の肌と髪の色が戻った。
痛みが無くなった克己は注射器を地面に投げ捨てる。
克己が射った注射器の中身はプロスペクト特製の細胞活性薬であった。
キースが作り出したNEVERのクローンには重大な欠点があった。
それは急激な細胞の成長によるクローニングの結果、産み出された彼らの細胞核には重大な疾患が残っておりNEVERの酵素以外にもプロスペクトの作り出した細胞活性薬を使用しなければ身体の細胞が急激に劣化してしまうのだ。
それを止めるための活性薬にも問題があり今ある細胞を犠牲にして他の細胞を甦らせる。
結局は、寿命を削って生き永らえている様なものなのだ。
「はぁはぁはぁ.....」
「そろそろ限界が近いのではないか?」
プロスペクトの問いに克己は笑う。
「ふざけるな....こんなところで死んだらそれこそ笑い者だ。
最後の最後まで利用され尽くして死ぬんだからな。
そんな事は認めない....俺の命は俺の物だ。
計画を完遂して俺は生き残る。」
「そうか....まぁ、私はNEVERの奴等に復讐できればそれで良い。
その為にお前達を造り出したんだからな。」
「まぁ、良い....それよりもカメラの準備をさせろ。
そろそろ次のゲームを始める。」
そう言うとプロスペクトがカメラマンを脅してカメラを持たせた。
そして克己は風都タワーに集めていた。
他のNEVERを呼んだ。
「お前ら....次のゲームを始める。
先ずは"賞品の選別"からだ。」
そう言うとNEVERが人質となっている人物を見始める。
そして、見つけたのか京水が言った。
「克己ちゃん....この小娘なんてどう?」
そうして京水によって若菜が指名されるのだった。
「失礼ですがもう一度、言っていただいても?」
「僕は君達に協力しないと言ったんだ。」
無名にフィリップはそう告げた。
「おい、フィリップ。
いきなりどうし....」
「どうしたと言うのはこちらの台詞だ翔太郎!
彼等の協力で勝てる保証が何処にある?
彼等が今回の事件を起こした犯人とグルの可能性も捨てきれないのに共闘をする事を選ぶなんて、愚かにも程がある!」
その言葉に照井が反論する。
「言っていることは理解できるが現状これ以上の手段が....」
「君までそんな事を言うのか照井 竜.....ガッカリだよ。」
「何だと?....じゃあ貴様ならこの状況を打開できる案が浮かぶと言うのか!」
「.....それは。」
フィリップの言い分に怒った照井が胸ぐらを掴みながら問いただした。
それを翔太郎が止める。
「ちょっと落ち着けよ照井、フィリップ。
二人とも熱くなりすぎだ!
それにフィリップそんな感情的になるなんて....お前らしくないぞ?」
そう言うと翔太郎がフィリップの肩をこづいた。
「いくら相棒でも....立ち入って欲しくないことだってある!」
そう言ってフィリップが翔太郎の身体を突き飛ばした。
あまりの事に翔太郎も驚く。
その状況を見ていた克己が言う。
「お前らはふざけているのか?それともこの状況を理解していないのか?
もう、俺達しかこの街を救える存在がいないのにそんな事を続けるつもりか?」
「何だって?」
「お前が俺のお袋にどんな感情を抱いたのかは知らん。
だが、物事の優先順位を考えろ。
分かっているのか?俺達の現状を?」
「分かっているさ!だがそれが君達と共闘する材料にならないと.....」
「つまらない嘘を吐くな。
お前の目はそんな理知的なものじゃない、感情的な目だ。
気に入らないことがあって駄々をこねている子供と変わらん。」
「何だとっ!お前っ!」
フィリップが怒りに任せて克己に殴りかかるが、それを簡単に避けるとそのまま組み伏せてしまう。
「ぐっ!離せ!」
「お前は仮面ライダーになれれば無敵なんだろうが、生身では俺に簡単に組み伏せられる。」
「何が言いたい!」
「分からないか?
クローンである俺でも同じことが簡単に出来るぞ。
感情的になって勝てる程、甘い相手じゃない。
一度頭を冷やせ....」
克己はフィリップの拘束を解くと逆方向に歩き始めた。
「どこへ行く気ですか?」
無名の問いに答える。
「俺がいるとかえって話が混乱するだろう?
話が纏まったら連絡してくれ....それまで俺は仲間のところにいる。」
そう言うと黙って歩いていった。
フィリップもゆっくりと立ち上がる。
「おい、フィリ.....」
「翔太郎....僕も少し頭を冷やしてくる。
けど、考えは変わらない。僕は彼等との共闘は反対だ。
風都の仮面ライダーの一人として言っておくよ。」
そう言うとフィリップもどっかへ行ってしまった。
残ったのは照井と翔太郎、そして無名とマリアだった。
「ねぇ、無名。
坊やは私に何を.....」
「恐らく....母親と貴女を重ねたんでしょう。
彼の母親と貴女は似た雰囲気を持っていますから。
彼には家族の記憶がありません。
だからこそ、求めてしまったと言った所でしょうか?」
マリアの疑問を無名は他に聞こえないように小声で回答した。
「......そう。」
マリアはフィリップが行った方向に向かって行く。
「良いのですか?克己さんを追わなくて」
「克己はもう大人よ.....大丈夫。
それよりも今はあの坊やの方が心配だから」
そう言うとマリアもその場を後にした。
(シュラウドとの出会いが彼女に何か変化を与えたんでしょうかね?)
大道マリアは良くも悪くも息子を愛していた。
狂愛と呼べる程の感情は克己を化け物へと変えてしまった。
だからこそ目が離せないのだろう。
同じ道を辿る危険性のある彼とそこに進ませようとするシュラウドの関係性に.....
「さて、三人になってしまいましたがどうしますか?」
無名の問いに翔太郎は答えた。
「悪いが今は保留にさせてくれ。
フィリップは俺の相棒で半身の様な存在だ。
俺の半分が反対してんのに勝手に共闘するわけにはいかねぇだろ?」
「そうですか...では気が変わりましたらこちらに連絡を」
そう言ってプリペイド携帯を翔太郎に投げると、無名もその場を後にしようとした。
「待てよ無名。」
それを翔太郎が止める。
「あんたは一体どっちの味方なんだ?」
「それはどういう意味ですか?」
「お前には他の奴と違って別の目的がある気がするんだよ。
その為にガイアメモリを使っている。」
「......その根拠は?」
「ねぇ、ただの勘だ。」
翔太郎のその言葉に無名は静かに笑う。
「なら、推理してみてください。
貴方は探偵でしょう?」
そうして無名もその場を後にするのだった。
翔太郎と照井の視界から消えると無名は壁にもたれかかりゆっくりと息を吸った。
「はぁ...はぁ..流石に無茶が過ぎますね。
意識が朦朧とするなんて久し振りですよ。」
そう言いながら身体を抑えた。
無名の身体のダメージは完治していない。
むしろ、リーゼに無理矢理頼み込み何とか風都に連れてきて貰ったのだ。
すると、ビルの隙間からリーゼがやってきた。
「リーゼ....連れてきてくれてありがとう。
でも、まだやることがあるんです...手伝って...く..れ」
無名はふらつき倒れそうになるがリーゼがそれを支えようとする。
リーゼは喋れないがその行動に不安の意思が見えた。
「確かに大丈夫とは言いがたいですが....まだやることがあるんです。
お願いですリーゼ。」
「僕を連れて水音町に行って下さい。」
克己は風都に作ったNEVERの拠点に赴いた。
そこで傷だらけのレイカが眠り、その手を京水が心配そうに握っていた。
芦原と堂本も悲痛な顔をしている。
「容態はどうだ?」
克己の問いに芦原が答える。
「ダメージの回復自体は酵素の力があるから問題ない....と言いたいところだがドーパントから受けた傷が酷い。
いろんな治療法を試したがまるで効果が無かった。」
「ドーパントから受けた傷は自然治癒以外に治す術がない.....か。
どうやら、俺達NEVERも例外にはならないらしい。」
「それに、無名の話が正しければ俺達の記憶は....」
それは克己がクローンにやられたことを告げた時に無名が言っていたことだった。
「もし、エターナルメモリのマキシマムが起動してしまったら、貴方達に投与している改良型酵素にも影響が出てくるかもしれません。」
「それはどう言うことだ?」
「改良型酵素はメモリーメモリと呼ばれる記憶の力を宿したメモリを使っています。
もし、そのメモリにも能力が適応された場合、貴方達の記憶の保持が難しくなるかもしれません。」
「なら、俺達の記憶は後、どれだけ持つんだ?」
「エターナルメモリを破壊できなかった場合、記憶を保持できる猶予は今ある身体の酵素が切れる時ですから"5時間"が限界でしょう。
それ以上延びた場合、記憶が失われるリスクが高くなっていきます。」
腕時計を見た芦原は苦い顔をする。
「無名が保証した俺達の記憶が残っている時間はもう残り"3時間"だ。
早く決着をつける必要がある。」
「それに....レイカの仇も討たないとね。」
京水はそう静かに言った。
レイカはクローンの京水から受けたダメージによりその治癒に大量の酵素を使った。
レイカだけは無名が提示した記憶の保持できるタイムリミットが適応されない。
もう記憶の消失が始まっている可能性すらあった。
レイカが何故こうなったのか京水だけが知っていた。
何故なら、クローンの言葉を直に聞いていたのは京水だったからだ。
(本当にレイカはバカなんだから.......
大方、私の顔で何か言われて戸惑っちゃったんでしょ?
アンタ.....優しい所あるから)
京水にとってレイカは親友とも呼べる存在だった。
それはレイカも変わらないだろう。
だからこそ自分のクローンがレイカを痛め付けたのを知ってショックを受けて同時に怒りが湧いた。
(アタシのクローンなら分かるわよね?
私の親友に手を出してただでは済まさないわよ....)
そう考えていると拠点に置いてあるテレビの映像が変わる。
そこには仮面ライダーエターナルとヒート、ルナ、メタル、トリガー、ファングのドーパントが並んでいた。
そして、エターナルがメモリを抜き素顔を現す。
「風都市民に告ぐ....俺の名は大道克己またの名を仮面ライダーエターナル。
ガイアメモリに命運を握られた哀れなる箱庭の住人達を解放するものだ。
この最新型ガイアメモリと巨大光線兵器"エクスビッカー"を我々は有している。
最早、いかなる武力も干渉できない風都を守る仮面ライダーも我々に敗北した。
この風都タワーを拠点に我々は風都を"自由の楽園"に変える。
ところで諸君、君達にもこれから始まる面白いゲームに参加して貰う。
これと同型のガイアメモリが風都にバラ撒かれている...我々の持つメモリを除いた20本のメモリがだ。
見つけたらそれを風都タワーまで持参していただきたい。
該当者には"10億"出そう。
我々の同士として迎え入れる準備も整っている。
確か....警察にかなりのメモリがあると言う噂だ。
是非、探してみてくれたまえ。
だが、我々のゲームに参加したくないと言う非協力的な存在もいるだろう。
そいつらには逆に罰を与える。
我々の仲間がこれから風都の街へとくりだす。
我々に非協力的な存在は無条件で殺害する。
死にたくないのなら死に物狂いでメモリを探せ。
それと私から逃げた仮面ライダー達にもメッセージだ。
もし、最新型メモリを我々に渡してくれるのなら人質を解放しても良い。
囚われの姫を助けるのは君達だ.....」
そう言ってカメラマンが映した映像には鎖で縛られた若菜の姿があった。
「話は以上だ....さぁ、ゲーム開始だ!」
そう言うとテレビの画面は元に戻った。
クローンにより始まった新たなゲーム.....
それを見つめる仮面ライダーと無名の顔は暗く陰っていた。
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第百二十話 AtoZ/混乱する風都
言ったことを信用してメモリを探す者。
金欲しさに探す者、警察の対応を信じる者、仮面ライダーに守って貰う考えの者。
だが、見回りにきたNEVERのドーパントが市民を一人殺して事で混乱は加速していく。
皆が皆、生き残るためにメモリを探す。
そう言う人が個から集となり群となるのに時間はかからなかった。
照井が回収したT2メモリも移送しなければいけなくなりその対応に追われていた。
「見事な采配ですね。」
その光景をビルの上から井坂が冴子と共に覗いていた。
「そうですね。
テロリストのわりには頭が切れると思いますわ。」
「えぇ、警察も何の罪も犯していない人は捕まえられない。
ましてや、自分の命がかかっているのなら尚更でしょう。」
井坂が彼等に称賛の言葉を送るが暫くすると顔が残酷な表情へと変わる。
「しかし、メモリを使えなくしたのは頂けませんねぇ....誰も私の楽しみを奪う権利など無いと言うのに」
井坂のその手には強化アダプターが着いたウェザーメモリが握られていた。
「やはり、井坂先生もダメだったんですね。」
「えぇ、メモリが全く反応しなくなりました。
この犯人は私をイラつかせたいらしいですねぇ。」
「冴子くん....お父様にご連絡を
私もこの事態を引き起こした人物の"狩り"に参加したいと伝えてください。」
そう言うと井坂は着替えると部屋を出ていった。
その表情と声は穏やかであったが内心、感情が爆発しそうに成る程、激昂しかかってるのは冴子でも予想できた。
すると、冴子も服を着替えて準備をする。
(若菜が敵の元に捕まったのならお父様なら必ず救出作戦を立てる筈.....私も準備しておかないと)
そうして着替えている最中に、父親から連絡が来る。
「冴子か?今何処にいる?」
「井坂先生が隠れ家に使っている天十郎の別荘にいますわ。」
「なら、井坂君を連れて至急屋敷に戻りたまえ。」
「分かりました。
では、やはり......」
「あの連中は私の家族に手を出した....それがどんな結末を呼ぶのか直接教えてやらねばなるまい。」
琉兵衛の声に明確な怒りを感じ取り冴子は身震いする。
恐怖の象徴として君臨している男から明確な敵意を向けられている相手に冴子は僅かながら同情するがだからと言って結論は変わらない。
「"ミュージアム総出"で相手をしてやろう。」
琉兵衛の決定に異を唱える者など誰もいなかった。
一方、克己は外でエターナルメモリを見つめていた。
自分の運命と呼ぶに相応しいメモリが今の自分を拒絶している。
その事実に彼も打ちのめされていた。
(俺の選択は....間違っていたのか?)
思い起こされるのは傷付いたレイカとそれを心配する仲間の顔....俺達はNEVER...死人で作られた傭兵。
そんな自分達に記憶が戻り感情が芽生えた。
結果としてこの事態を引き起こした。
それは間違いなのか?....克己には答えが出せなかった。
(全く....これではフィリップの事を言えないな。
俺も俺で半端者だ。)
そう思い外を見ると翔太郎が誰かを探していた。
気になった克己は翔太郎に声をかける。
「おい!こんな所で何をしている?」
「あ、アンタは....実はフィリップがあの放送を見てから行方が分かんなくなっちまったんだよ!」
クローンの克己とNEVERが行った放送を見たフィリップは明らかに平静さを失っていた。
今の彼の頭には若菜を救うことだけしか無かった。
それを隣にいたマリアが宥めている。
「落ち着きなさい坊や!今は冷静に...」
「冷静?これをどうやって落ち着けと言うんですか!
若菜さんが人質にされて僕達はWに変身できないんです!
.....生身の僕では....彼女を救えない。」
「...........」
フィリップは頭を掻きむしる。
「奴等はT2メモリを欲していた....警察署にあるメモリを使えば救出できる可能性が上がるかもしれない。
だけど!そんな事、照井竜が認めるわけがない!
でも、このままじゃ若菜さんの命が......」
その痛ましい姿にマリアは悲しい顔になる。
(
そう考えたマリアはフィリップを優しく抱き締めた。
「.....マリアさん?」
「坊や....いえフィリップ。
若菜さんを助けられる可能性がひとつあるわ。」
そう言うとマリアはその可能性を話し始めた。
「そんなっ!危険すぎます!」
「今、使えるメモリはこれだけ....なら私が使うしかないわ。
大丈夫よ....決して戦うつもりはないから」
そう言ってマリアはフィリップに優しく微笑むのだった。
翔太郎と克己は手分けをしてフィリップを探していた。
その時、克己の携帯に着信が入る。
「お袋か?どうした?」
「克己.....私はこれからフィリップ君と警察署にあるT2メモリを持って風都タワーに向かうわ。
人質をこれで解放して貰う。」
「何だと?止めろ!お袋も分かってるだろ?アイツらに交渉なんて通じない殺されるのがオチだ!」
「それは....やってみなければ分からないわ。」
「その作戦を提案したのはフィリップだな?
奴に変われ!俺が話す。」
「いいえ、克己。提案したのは私よ。」
「え?」
「私は....貴方やNEVERの皆に背負わせてはならない十字架を背負わせてしまった。
それをキースは利用して私達に復讐する選択をした。
元を辿れば全て私のせいよ。
これ以上、他の人達を巻き込むわけにはいかない。」
「何言ってるんだお袋?
それが罪なら俺達、NEVERも同罪だ!
お袋が背負う罪じゃ.....」
「克己。」
マリアは焦る克己を落ち着かせるように言った。
「貴方は大きくなった....身体だけでなく心もね。
記憶を保てるようになって他者を思いやる野望も生まれた。
貴方の事を誇りに思ってるわ...けどこれは私の罪よ。
貴方達をこれ以上巻き込むわけにはいかない。
ごめんなさいね....克己。」
「お袋....待ってくれ!電話を切るな.....お袋ぉ!......母さん。」
「おい!どうしたんだ?」
心配になった翔太郎か尋ねる。
「お袋とお前の相棒が風都タワーに向かったらしい....T2メモリを持ってな。」
「何だと?やべぇじゃねぇか!
おい!早く行くぞ!」
「行ってどうなる!打開策も無いのに行くだけ無駄だ!」
「無駄かどうかなんてやってみなきゃわかんねぇだろうが!」
「何だと?」
「"男の仕事の8割は決断だ。そこから先はおまけみたいなもんだ".....俺の師匠であるおやっさんが言っていた言葉だ。
俺はその意思を信じる!」
翔太郎の真っ直ぐな目を受けて克己は考えた。
(そうだ....俺も決断したんだエターナルになることも記憶を持ったまま生きることも....なら俺の出すべき決断は)
「良いだろう...."
だが、行くにしても具体性が欲しい。
先ずはどうする?」
「急いで探偵事務所に向かうぞ....あそこになら何か使える物があるだろう。
それ持ってフィリップを助けに行く!」
「.....何と言うか本当に行き当たりばったりだな。
だが、嫌いじゃない。」
そう言うと翔太郎と克己は事務所へと戻るのだった。
風都署では暴動を起こしかけている市民を落ち着かせるので体一杯だった。
入口には鍵がかけられバリケードも設置されている。
その理由は克己が放送の時に言っていた警察署にメモリがあると言うリークのためだった。
「メモリをだせぇぇ!」「助けてぇ死にたくない!」「メモリを渡して10億貰うんだぁ!」「さっさとテロリストを倒してくれよ!アンタら警察なんだろ?」
四方から聞こえる罵声や絶叫に流石の照井も辟易していた。
「クソッ!こんなことをしてる場合では無いのに....」
NEVERは相変わらず風都タワーを占拠している。
本来ならその鎮圧に向かうべきなのだが、暴徒と化した市民を止めるだけで警察は体一杯だった。
「照井警視、ダメですバリケードが突破されます。」
民衆の力は凄まじくバリケードが突破されそうになっていた。
「クッソ!言い加減にしろぉ!」
警官の一人が市民に銃を向ける。
「止めろ!一般市民だぞ!我々が危害を加えて良い存在ではない!」
「しかし、このままでは!」
そんな話をしていると裏手から何かが崩れる音が聞こえた。
「今度はなんだぁ!」
照井の怒号に警官の一人が答える。
「報告します。
証拠保管室がドーパントに破壊されてメモリが奪われました!」
「そんな....バカな!」
そう言いながら照井が証拠保管室に向かうがそこは天井まで繋がる穴しか残されていなかった。
「一体何者が.....」
すると、照井の携帯に着信が入る。
「誰だ?」
「俺だ照井。」
その声は翔太郎だった。
「どうした左?」
「T2メモリはまだそっちにあるか?」
「いや....何者かに奪われた。
その言い方だと何か知っている風だな一体誰だ?」
「....フィリップだ。
風都タワーにいる人質を救うために、
マリアさんと協力してメモリを盗み出したらしい。」
「何て無謀なことを!....テロリストと交渉できると本気で思っているのか?」
「照井....すまねぇが」
「分かった...俺も風都タワーへ向かう。」
「頼む....俺は事務所で装備を整えてから向かう。」
「そうか....こっちも事態の収拾を急がせてから向かう。」
そう言うと電話を切った。
フィリップがそんな短絡的な行動を取ったことに照井は驚いていた。
いつも、冷静沈着....冷血とも思える思考を持つフィリップじゃ考え付かない杜撰な方法。
だが、同時に人間らしくも感じた。
(人質の中に園咲若菜がいたな....フィリップは彼女のファンだった。
....存外、フィリップが一番甘い人間なのかもな。)
そう考えると照井は風都タワーに向かう為、風都署で指示を行うのだった。
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第百二十一話 AtoZ/切り札は誰の手に?
翔太郎と克己は鳴海探偵事務所に着くと亜樹子がレイカに銃を突きつけられていた。
「亜樹子!....てめぇはNEVERのメンバーの」
「あらっ、帰ってきたの?変身できなくなって泣きべそかいているかと思って来たらいなかったから退屈すると思ったけど....良かったわ。」
「レイカ.....」
仲間と同じ姿形をした彼女を克己は悲痛な顔で見つめる。
「....ふーん、アンタら手を組んだんだ。
でも、無駄よ...どうせ克己には勝てっこない。
今頃、
「何でそんな事、言えるんだ?」
翔太郎の問いにレイカは笑いながら答える。
「あっはっは!....簡単よ。
キースから聞いたのよ"フィリップの過去"についてね。それを使えば簡単に捕まえられる。
それにこっちには人質もいる....もう詰んでんのよ仮面ライダー。」
今度は克己がレイカに尋ねる。
「じゃあ、お前がここに来た目的は....お前らの計画には関係ないのか?」
「えぇ、もう殆ど終わってる。
私が来たのはアンタへの仕返しよ左翔太郎。
私の気にしてることを言った罰として殺してあげようと思った訳」
レイカはそう言うと持っていた銃を捨ててメモリを手に取った。
「HEAT」
投げたメモリが挿さりレイカはヒートドーパントへ変わった。
「さぁ、死んでちょうだい!」
そうして、炎を放つがそれを克己が身体で防ぎそのままヒートドーパントの腕を掴んだ。
「左!そこの女を退かせろ!」
「あぁ、こっちに来い!亜樹子!」
「う....うん!」
亜樹子は翔太郎の傍まで走りヒートドーパントから離れられた。
「ぐっ!邪魔しないでよオリジナル!」
「そうは行かない!....お前はレイカのクローンだ。
いくらクローンでも関係ない者を殺すのは俺が許さない。
俺達はNEVER...."ゾンビ兵士であり仲間"なんだからな。」
「ウッザ!仲間面してんじゃねぇよ!」
ヒートドーパントは捕まれた腕を払い除けると克己を蹴り吹き飛ばした。
「大道!止めねぇか!」
翔太郎もヒートドーパントへ向かっていく。
翔太郎はヒートドーパントにパンチを放つが簡単に捕まれてしまう。
「そう言えばアンタへの復讐が目的だったわね?
死人の私達には体温がない。
冷たい身体がイヤで、だからヒートのメモリと私は引き合ったんだ!」
感情が高まりヒートメモリの出力が上がる。
「メモリと....引き合う...熱っ!」
捕まれた手に熱さを感じるとそのまま殴られてしまった。
そんな翔太郎は地面に何かを見つける。
「!?これは」
そこで翔太郎は全ての疑問が解決した。
事務所で雨漏りが続いた理由と....まだ完全にT2メモリが揃わない理由も
翔太郎はそれを手に取る。
「コイツだったのか!....何て運命だ。
まさか、このメモリがここに来るなんて!」
だが、変身する手段が無い...そう思い翔太郎は考える。
そして、ひとつの閃きが起きる。
翔太郎はヒートドーパントと戦っている克己に言った。
「"克己っ!"ドライバーを俺に貸してくれ!」
「何?」
「頼む!俺を信じてくれ!」
全く根拠の無い言葉だが克己は考えること無く翔太郎に言った。
「無茶な使い方して壊すなよ!」
克己はヒートドーパントとの戦いをこなしながら"ロストドライバー"を翔太郎へ投げ渡した。
それを翔太郎はキャッチすると自分の腰に装着した。
「良し!どうやら"切り札"は常に俺の所に来るみたいだぜ!」
すると、先程拾ったメモリを起動した。
「JOKER」
そして、ジョーカーメモリをドライバーに装填する。
ドライバーからの待機音を聞きながら翔太郎は構えると静かに言った。
「変身.....!」
翔太郎がドライバーを展開すると紫の粒子が身体を覆いその姿を変える。
Wの様な見た目ではあるが色が黒一色でWの時にあった中心の銀色のラインが無くなっている。
その姿を見たヒートドーパントが尋ねる。
「お前は!」
それに翔太郎はゆっくりと答えた。
「仮面ライダー....."ジョーカー"!」
Another side
無名の所有する風都の隠れ家の一つに無名とリーゼは訪れていた。
「ここで...."4件目"...はぁはぁ、何とか見つかると良いのですが」
傷を抑えながら無名は辺りを見渡す。
その光景をリーゼは心配そうに見ていた。
「そんなに悲しい顔をしないでくださいリーゼ。
僕だってこんな無茶したくないんですから....」
無名がここに来ていたのはシュラウドに製作を頼んでいたドライバーを探すためだった。
シュラウドからドライバーが出来たと連絡を受けた無名だが仮面ライダーエターナルがマキシマムを発動したと同時に連絡が着かなくなっていた。
その結果、シュラウドを探すために無名はアジトをしらみ潰しに見て回っていたのだ。
そうして、4件目で遂に当たりを引くことが出来た。
机の上に"二つのアタッシュケース"が置かれているのを見つけたのだ。
「これですかね?」
そう言いながら無名は1つのアタッシュケースを開けた。
だが、中身を一目見ると違うと判断し閉じた。
そして、もう1つのアタッシュケースを開けるとお目当ての品が見つかる。
「素晴らしい。やはり優秀ですねシュラウドは」
無名はそう言いながらシュラウドの作った物を触った。
これはもしもの時に備えて作っていた物だった。
「後はこれをNEVERの皆さんに渡すだけですね。」
そう言いながらアタッシュケースを持ちふと鏡を見た。
鏡の自分が笑いながら僕を見ている。
【中々に面白いことを考えるな無名。】
その声に聞き覚えのある無名は警戒しながら答えた。
「これも、貴方が見てきたルートには無いアイテムですかゴエティア?」
【あぁ、全くの未知だ...実に興味深いよ。
君がこれを使ってこの"崩壊仕掛けている物語"をどう終わらせるのか?】
「崩壊仕掛けているとは?」
【そのままの意味だ...もうこの世界は君の知っている仮面ライダーWとは逸脱した存在へと変わっている。
バタフライエフェクト何て生易しいレベルではない。
新しい物語が進んでいると解釈しても良い。】
【劇場版が始まる前に死ぬ筈だったキースやプロスペクトが生き残り、NEVERのクローンが作られた。
これはもう君の知るAtoZじゃない。
新たな"Wの劇場版"なのだよ。】
「そんな事、分かってますよ。」
【本当か?本当に理解しているのか?
それとも気付かないフリを続けたいだけか?】
「煩いですよ黙っててください。」
【もう分かっているだろう?
君がこの物語に関わったせいで死ななくて良い人間が沢山死んだ...そしてこれからももっと死んでいくだろう。
考えないようにしたって無駄だ。
お前の事は全て分かる。】
キメラドーパントの事件で本来死ぬことが無かった原作のキャラクターが何人も死んだ。
不幸にならなくて良い人が何人も不幸になった。
無名の作った物が物語を変えて新たな不幸を産み出したのだ。
その事に何も思わなかったのかと言えば嘘になる。
いや、もうそれすらも分からない。
メモリの副作用により僕の罪悪感や罪を感じる意識が薄くなっていると感じる。
そんな僕が罪と言うことすらおこがましいのかもしれない。
だが、それでも救いたい存在がいる。
僕はその為に行動する....そう決めた筈だ。
【本当に面白いよ今の君は、
もっともっと楽しい世界を私に見せておくれ。
かわいい私の】
「いい加減に黙れ!」
無名は拳で鏡を殴りヒビを入れるとゴエティアは姿を消した。
いきなりの行動にリーゼは驚いている。
無名の手からは血が流れていた。
「全てを救って見せる....何て傲慢に言うつもりはありません。
でも、貴方の思い通りになるつもりはありませんよ。」
そう呟くとリーゼが僕の手にハンカチを握らせる。
「ありがとうリーゼ。
すいませんね気にしないでください。
きっと、ダメージが多くて幻覚を見たんです。」
「さぁ、彼等を助けに行きましょう
良い加減、こんな展開には飽き飽きしていたんです。
この三流の物語を書き直します。」
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第百二十二話 AtoZ/受け入れがたい事実
フィリップがT2メモリを収めたアタッシュケースを持つと風都タワーへ向かっていた。
フィリップの姿を見つけたNEVERのメンバーは彼を止めること無く中へと案内する。
中へ通されるとそこには克己とフードを着けたプロスペクト....そして鎖で吊るされ気絶している園咲若菜がいた。
「若菜さん!」
フィリップがその姿を見て悲痛な声を上げる。
しかし、そんな事はどうでも良いように克己が言った。
「よぉ....兄弟。」
「兄弟?」
「お前の事だよフィリップ。
科学によって産み出された存在....俺達は同じ"化け物"だ。」
「....T2メモリは持ってきた他の人や若菜さんを解放しろ。」
「おいおい、お喋りは嫌いか?
折角、来たんだ....少しはお話をしようぜ。
この女が目覚めるまでまだ時間がかかるだろうからな。」
「若菜さんに何をするつもりなんだ!」
「別に、ただコイツは"ミュージアム"の幹部だ。
.....知らなかったのか?」
「ミュージアム?」
そこでプロスペクトが話に割って入る。
「このガイアメモリを風都に広めている組織...と言えば分かるだろう?」
「若菜さんが......そんな.....」
「ショックだったか?だが、現実なんてそんなもんだ。
この女はお前達が倒すべき敵の一人なんだよ。」
「違う!若菜さんはそんな人じゃない!」
その声に反応して若菜が目を覚ました。
「こ....こは?」
「若菜さん!」
「えっ?その声ってフィリップ君?どうしてここに?」
「漸くお目覚めかぁ!さぁ、真実を知る時間だ。」
「どう言うことだ?何故、若菜さんが目覚めるまで待っていたんだ?」
フィリップの問いにプロスペクトが答える。
「君達のやっている茶番を終わらせるようにキースから連絡を受けていてね。
二人ともそろそろ自分の正体を知るべきだろう。」
「正体?....何を言ってるの?」
「先ずは園咲若菜....君の正体だ。」
そう言うと克己は若菜のバッグを取り出す。
「私のバッグ!....何するのよ!」
「こうするんだ!」
すると、克己は地面に中身をぶちまけたすると、中からクレイドールメモリとドライバーが見つかった。
「そんな....若菜さんが.....嘘だ....」
フィリップはその光景を見て膝から崩れ落ちた。
「フィリップ君!これは違うの!...その....」
「騙そうとしても無駄だ....ドライバーを持てるのはミュージアムの中でも幹部だけ、それはお前が一番よく知っていることだろう?」
「そして、次はこれだ。」
プロスペクトが機械を操作すると近くのテレビに映像が映った。
それはアームズドーパントと戦った際の映像でフィリップがファングジョーカーに変身する姿が撮されていた。
「フィリップ君が.....仮面ライダー....」
「何て数奇な運命だろうなぁ!敵同士が禁断の愛に目覚める....劇のワンシーンみたいじゃないか!」
「だが、これは真実だ。園咲若菜はお前にとって倒すべき敵でありフィリップはミュージアムに敵対する仮面ライダーの片割れ....それが全てだ。」
「嘘だ.....嘘だぁぁ!」
「あっはっはっは!...さて、"1つ目の目的"は達した。
次は.....」
「ETERNAL」
「そのメモリを頂こうか....変身。」
克己は仮面ライダーエターナルへと変身すると意気消沈しているフィリップを掴み上げた。
そのタイミングで風の刃が若菜の鎖とエターナルの腕に当たる。
そのダメージからフィリップは自由になる。
「.....この攻撃は、あの女か。」
すると、フィリップの前にサイクロンドーパントが現れる。
「一体何をしているの坊や!...若菜さんを見つけたら合図する約束だった筈よ。」
「マリアさん......」
「誰かと思えばオリジナルのお袋か。
愛する息子の邪魔をするのか?」
「貴方は克己じゃない....クローンよ。」
「そうだな....だが、殺せるのか?俺を
お前の技術で無理矢理ゾンビにさせられた俺を殺す権利がお前にあるのか?」
「確かに私の研究は貴方達を怪物にしてしまった。
それは申し訳なく思っている。
でも、この風都を混乱に貶めたのは他でもない貴方達の意思でしょう?
だからこそ、私が貴方を終わらせる。」
サイクロンドーパントが風の弾をエターナルへぶつける。
「坊や、ここは私が足止めするから貴方は彼女を連れて逃げなさい。」
「そんなの無茶です!一緒に戦えば....」
「迷っている"貴方"を守りながら戦えるほど私にも余裕はないの!.....お願い。」
フィリップは悩みながらもマリアの言いたいことを理解しアタッシュケースと若菜を連れてその場を後にした。
「プロスペクト....メモリとフィリップを捕まえろ。
この女は俺が相手をする。」
「良いだろう。」
プロスペクトはメモリを起動すると喉に挿した。
「FANG」
ファングドーパントへ変わるとフィリップを追う。
「行かせないわ!」
マリアが風の力でファングドーパントを攻撃しようとするがエターナルに止められる。
「俺を忘れて貰っては困るな。」
「邪魔をしないでお願いよ克己!」
「はん!その台詞はオリジナルに言ってやるんだな。」
克己はそうマリアに告げると戦いを始めた。
一方逃げている若菜とフィリップもピンチの状態となっていた。
背後から追ってくるファングドーパントから牙の投擲を喰らう。
それをフィリップはアタッシュケースを使いガードするがケースの中身事、弾かれてしまった。
フィリップは若菜と一緒に柱の影に隠れる。
「無駄な抵抗は止めておけ。
ガイアメモリを使えないお前達を捕まえるのは難しくない。
余計な抵抗をするだけ怪我をするリスクが高くなるだけだ。」
「君達の目的は何なんだ?
T2メモリを使って何をするつもりだ?」
フィリップは時間稼ぎをするためプロスペクトに尋ねる。
「良いだろう....どうせ結末は変わらないから教えてやる。
風都タワーに設置した光線兵器"エクスビッカー"にT2メモリの全ての力を集約させて放つ。
そのエネルギーは"ガイアメモリを使っている人間"に反応し体組織を変化させてNEVERの姿へと変異させる。」
「そんな事をして何のメリットが.....まさか!」
「そうだ、"酵素が無ければ生きていけない身体に変えることでミュージアムを支配"する。
その為にも酵素開発者であるマリアと無名を始末したかったがまぁ良いだろう。
エターナルメモリが発動している以上、勝ち目など万に1つも無い。」
「だが、それをするには26本のメモリ全てとその力をコントロールするプログラムが必要だ。
そんな大量のメモリの管理なんて地球の記憶と繋がれる人物で無ければ出来ない。」
「僕の身体を使う気だね?」
「正解だ....君をエクスビッカーの制御プログラムにする。
その為にも君達にはここに来て貰う必要があった。
園咲若菜は良い餌となってくれたよ。」
自分が餌にされた....その言葉に若菜の顔が歪む。
(私のせいで....フィリップ君が....)
若菜はフィリップの袖を掴むと小声で話をする。
「フィリップ君....私を置いて逃げて」
「何を言っているんですか!そんな事をしたら!」
「大丈夫よ...あの男も言ってたでしょ?私はミュージアムの幹部....だから平気よ。」
「でも.....そんな.....」
「私のせいでフィリップ君に迷惑をかけるのは...嫌なの」
若菜の瞳を見るフィリップは本当に迷惑をかけたくないと思っているのだと理解することが出来た。
今、フィリップの中で"2つの感情"が蠢いていた。
1つは若菜が敵の幹部と分かった以上、見捨てるべきだと言う感情。
もう1つはそんなのどうでも良くてただ、若菜を救いたいと言う感情だ。
(こんな時、君ならどうするんだい翔太郎?)
フィリップがそう考えていると記憶の中の翔太郎がフィリップに語りかける。
『お前はどうしたいんだ?フィリップ。』
『僕は.....若菜さんを救いたい。』
『なら、そうすりゃ良いじゃねぇか。
おやっさんも言っていたろ?』
『男の仕事の8割は....』
「"決断"....だよね翔太郎。」
意を決したフィリップが若菜に言う。
「貴女を置いていく事はしません。
若菜さんがミュージアムの幹部でも、僕にとっては風都のアイドルである園咲 若菜さんなんですから....」
「フィリップ君.....」
「僕がファングドーパントを引き付けます。
その間に逃げてください。」
「でも.....それじゃあ」
「大丈夫です....僕にはまだ利用価値があるみたいですしそれに......」
「僕も風都を守る仮面ライダーの片割れですから....」
そう言うとフィリップはファングドーパントの前に躍り出ると身体に組みついた。
「今です!若菜さん!」
フィリップの言葉を合図に若菜は風都タワーを出る為に走り出した。
「絶対に若菜さんには近付けさせない!」
フィリップはファングドーパントにどんなに殴られ蹴られても掴んだ身体を離すことはなかった。
「ぐっ.....離せ!」
「離さない!.....若菜さんが無事に逃げられるまで!君をここから一歩も動かせない!」
その姿は先程までの気弱な青年ではなく風都を守る仮面ライダーとして誇れる姿であった。
そんな中、フィリップは背中に衝撃を受けると意識を失ってしまう。
背後にメタルドーパントがおり、後ろから殴られてフィリップは意識を失った。
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第百二十三話 AtoZ/切り札と熱
ヒートドーパントと仮面ライダージョーカーの戦いは苛烈なものとなっていた。
ヒートドーパントの格闘をジョーカーが受けて反撃を行う。
しかし、両者には圧倒的な違いがあった。
切り札の記憶を宿したジョーカーメモリ。
使用者の身体能力と潜在能力を引き出す力があるこのメモリの力を、左翔太郎は最大限引き出すことが出来ていた。
事務所からヒートドーパントを引き剥がし外へと出した翔太郎は、徒手空拳でヒートドーパントを圧倒していく。
「なめんじゃないわよ!」
ヒートドーパントは拳と足に炎を纏わせると攻撃に合わせて炎を吹き出すことで拳と足を加速させてきた。
しかし、これも翔太郎は冷静に回避と防御を行う。
「お返しだ!」
翔太郎はヒートドーパントに一発拳を当てるとその威力からヒートドーパントは吹き飛ばされる。
ヒートドーパントは地面を殴り怒りを露にする。
「クソッ!クソクソクソッ!」
「もう諦めろ!俺達にはやることがあるんだ。」
「ふざけんな!.....アンタ何かに...負けるわけには行かないのよぉ!!」
ヒートドーパントは全身を発火させて力を溜める。
「そうかよ....ならこれで決めてやる!」
翔太郎はジョーカーメモリを抜くとマキシマムスロットへ装填した。
「JOKER MAXIMUMDRIVE」
「
翔太郎の右足に紫のエネルギーがあつまる。
両者が走り出し必殺の蹴りを放ちヒートドーパントの左足と翔太郎の右足が衝突する。
両者の強烈なキックは爆発を起こしヒートドーパントは吹き飛ばされるが、翔太郎はそれをものともせず突き進み右足をヒートドーパントの胴体へと突き当てた。
その一撃によりヒートドーパントは爆発を起こすとメモリが排出され人間の姿へと戻ってしまう。
顔にはメモリブレイク特有の隈が出ていた。
「ちくしょう!何で私が....」
「オメェの敗けだ...大人しく観念しろ。」
そう言って翔太郎がメモリを抜いて近寄ろうとするとレイカが突然苦しみ出した。
「グッ...アァァァァァァ!!」
髪の色が抜け落ち皮膚がドンドン老化していく。
レイカは懐にあった酵素を打ち込むが老化が治まる様子は無い。
「何で?....何でよぉぉぉ!!」
急速な肉体の老化にレイカは怯えその場を這いずり回る。
その姿は近付いてくる死神から逃げ惑う様にも見えた。
「どうなってやがる。」
翔太郎はその光景を呆然と見ていた。
プロスペクトにより作られたクローンには重大な欠陥があった。
キースの要望により短期間でNEVERを造る為、細胞を改良した結果、老化スピードが"通常の10倍"にまで跳ね上がっていた。
それをNEVERによる酵素の力で抑えていたのだ。
だが、マキシマムを受けた影響により抑えられていた老化現象が解放され、これまで蓄積していた"細胞のダメージ"が一気に返ってきたのだ。
結果、"数十秒でレイカの姿は老婆"へと変貌してしまった。
「あ.....が.....」
もう話すことすら出来ない程、老衰してしまった彼女は虚空を見上げている。
そんな彼女を克己は優しく抱き締めた。
「疲れただろう?ゆっくり休め。」
「.....あ.....え...」
「言っただろう?俺達はNEVER....仲間だ。
お前が眠るまで傍にいる。」
克己の優しい言葉に安心したレイカはもう声も出ない中、口を動かして克己に何かを伝えると眠るように息を引き取りその肉体は塵となった。
それを見ていた翔太郎が克己に尋ねる。
「一体どう言うことだ?」
「分からん、だが相当な無茶をして作られたクローンなのだろう。
そのツケが回ってきたんだ。」
そう言って立ち上がろうとすると克己の顔に酵素切れ特有の跡が浮かび始めた。
「どうした克己!」
「騒ぐな、単なる酵素切れだ。」
そう言うと懐から取り出したインジェクターガンを首に当てて酵素を注入する。
そして、克己は翔太郎に顔を向けた。
「クローンの俺がエターナルメモリのマキシマムを使った影響で俺達の使う酵素にも不具合が出ている。
"記憶が抜け落ち始めている"んだ。」
「記憶が....抜ける?」
「元々の酵素の欠点だったが無名の改良により無効化されていた。だが、この一件でそれが戻ってきた。
現にお前といた筈の"事務所の場所"すら思い出せなくなってきている。」
「何だって....」
「このまま行けば俺は自分の過去やお前達、大事な仲間の事すら忘れてしまうだろう。
翔太郎、お前に頼みがある。
もし、俺が全て忘れちまって俺のクローンの様に暴れ始めたら、お前が俺を止めてくれ。」
「何でそれを俺に頼むんだ?」
「お前は良くも悪くも凡人だ。身体能力も考え方もな。
だが、"不可能を越える力"を持っている....そう感じるんだ。」
「んだよ、褒めてんのか貶してんのかハッキリしろよ。」
「一応は褒めているぞ。」
そう言って二人が笑うと翔太郎は真剣な顔で克己に告げた。
「分かった....もしその時が来ちまったら克己、お前の事は俺が死んでも止めてやるよ。
だが、"お前を死なせるつもりもないからな"。
絶対に生かして助けてやる。」
「ふっ、甘い男だな。」
そう言うと二人は亜樹子とバイクに乗り風都タワー近くの建物に到着したそこには先に照井が着いていた。
「遅かったな....何かあったのか?」
「ちょっとしたトラブルがあっただけだ。」
「そうか、それで作戦はどうする?」
「俺と克己で風都タワーに乗り込んでフィリップを助け出してエターナルを倒す。
照井にはそれまでの露払いを頼みたい。」
「良いだろう。」
「ちょっと待て。」
翔太郎の意見に克己が否定の意見を述べた。
「どうした克己?」
「一人じゃ心許ないだろう?
助っ人を用意してある。」
そう言うとその場に京水、芦原、堂本の三人が現れた。
「お前達は.....」
「克己ちゃんの仲間よ。
アンタ達に協力してあげる。」
「戦力は多い方が良いだろう?
俺も個人的に風都を破壊されると困るからな。」
「そう言うことだ。」
三人は照井に向かってそう言った。
そうして全員が準備を始める中、照井は亜樹子に話し掛ける。
「所長....すまないな。
"約束"を守れそうに無くて」
約束とは風都タワーの記念式典後に行われる花火大会の事だった。
照井はこの花火大会に亜樹子を誘っていたのだ。
「仕方ないよ竜君....こんな状況だもん。」
そう言う亜樹子の顔は少し悲しそうであった。
それを読み取ったのか照井が亜樹子に向かって言う。
「約束だ...この事件を解決したら一緒に花火を見よう。
この約束は絶対に破らない。」
「竜君....」
二人が甘い空間を作っている所を京水は見つめる。
「あらあら、お熱い関係ね。」
その表情を見た芦原が京水に尋ねる。
「意外だな。
何時ものお前なら食ってかかりそうなものだが」
「アンタ、私の事何だと思ってるのよ。
そりゃ、羨ましさもあるけど今はそれよりも"大事なこと"があるからね。」
「レイカの事か?」
「そうに決まってるでしょう。
その為に無名からコレを貰ってきたんだから」
そう言ってアタッシュケースを取り出す。
それは無名とシュラウドが共同で開発したNEVER専用の装備であった。
それを見た堂本が京水に告げる。
「1つ言っておくぞ京水、お前の敵じゃない。
俺達、全員の敵だ.....だから」
「分かってるわよ。
私がキッチリ仕留めるわ...それとありがとうね。
何も聞かずにコレを私に使わせてくれて」
「気にするな....仲間だろう。」
そう言うと全員が準備を終えてそれぞれ行動を始めた。
翔太郎が照井に向かって言う。
「じゃあ、行くか!.....死ぬなよ照井。」
すると照井は笑いながら返す。
「知らないのか?...."俺は死なない"」
「はっ、そうかよ....お前も死ぬなよ克己。」
翔太郎の言葉に克己も笑いながら返す。
「知らないのか?...."俺はもう死ねない"
これ以上死んでたまるか。」
NEVERの四人と翔太郎、照井はバンとバイクに乗って風都タワーへ向かい亜樹子は安全な場所で待機した。
こうして物語は終局へと進み出す.....
全てが変わったこの世界で笑うのは神か悪魔か
それとも別の何かか?
答えは地球の本棚にも記されていない。
Another side
若菜が助かった報告を聞いた琉兵衛は即座に行動を始めた。
「ミュージアム全戦力を持ってキース・アンダーソンを始末せよ。」
その命令が出されるとミュージアムの全戦力が消えたキースを探すために奔走を始めた。
そこには合流したサラと無名の姿もあった。
「やっぱり、何の手がかりも無いわね。」
サラが手に入れた資料を見ながらそう言う。
財団側から提供されたキースの隠れ家やアジト、仲間の構成員も調べあげたが何の手がかりも見つからなかった。
「仲間が黙っている可能性は無いのか?」
獅子神の問いに無名が答える。
「無いでしょうね...メモリを使えなくなっても適合率が高ければメモリの力をある程度は使えます。
それに尋問は琉兵衛様直々で行われているそうです。
獅子神は琉兵衛様に尋問されて黙っている自信はありますか?」
「なら、本当に何も知らないわけか。
キースの使っていたメモリの方はどうなんだ?」
「フェニックスメモリはミュージアムでも実験段階のメモリで、ナスカメモリの様にまだ解明されていない謎の多いメモリなんです。
現段階で分かっているのは再生能力に特化した炎を操り、大抵のダメージなら無効化出来ると言うことだけです。」
「ちっ.....それじゃあ何も分からないのと変わらないな。」
フェニックスメモリも原作には登場していないこの世界独自のメモリだ。
ゴエティアなら何か知っているのかもしれないが、簡単には教えてくれることはないだろう。
分かっているのはドライバーが必要なゴールドクラスのメモリだと言うことだけだった。
「そう言えばサラ、さっき誰かと長く電話をしていたが一体誰だったんだ?」
「あれ?あれは今回の事件に興味を持ったって言ってた人物からの電話よ。
琉兵衛様にお繋ぎしたら通しても良いって許可が出たって訳。」
「随分と酔狂な奴がいたもんだな。」
「いえ、来るのはその人じゃなくて"二人の青年"らしいわよ。」
「二人の青年....何たってそんな奴らが」
獅子神がその事で疑問を思っていたが無名には1つ心当たりがあったのでサラに尋ねた。
「サラさん、その話を持ってきた人の名前を伺っても?」
「えぇ、良いわよ。」
「
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第百二十四話 AtoZ/集まるメモリ
芦原はその光景を見つめて京水は渡されるメモリをを一つ一つ精査していく。
「どれもミュージアムの頃のメモリじゃない!
全然期待できないわっ!」
そう言って落胆していると遠くからこっちに近付いてくる車とバイクを見つける。
「JOKER」
「変身」
バイクの男が黒い仮面ライダーへと変身を遂げる。
「まさか....仮面ライダー?」
京水と芦原は近付いてくる存在が敵だと認識するとメモリを起動した。
「LUNA」
「TRIGGER」
二人は変身が終わるとルナドーパントはマスカレイドドーパントのエネルギー体を生成しトリガードーパントは仮面ライダーに向かい発砲をする。
その弾を車が前に出て代わりに受けると車は大爆発を起こしその破片で二体のドーパントに降り注いだ。
それによりマスカレイドドーパントは消滅し二人のドーパントも倒れるとそこを黒い仮面ライダーの乗ったバイクが颯爽と通り抜けた。
「しまった!」
ルナドーパントがそう叫ぶと二人の前に京水達が現れた。
「奇襲作戦は成功って感じね!」
その光景を見た照井が言う。
「中々、無茶な作戦を思い付くものだ。」
「あら?でも効果的だったでしょ。
お陰で"二人とも"問題なく通せたわ。」
「二人...だと?」
トリガードーパントがそう言うと京水が自信満々と答えた。
「えぇ、翔太郎ちゃんと克己ちゃんよ。
そして......」
「アンタらの相手は私たちよ。」
そうして風都タワーの外での戦いが幕を開けるのだった。
風都タワーの内部に入れた翔太郎と克己は上層階へと目指して走っていた。
翔太郎はライダーになっているためスタミナが高く、克己に至ってはNEVERなのでその概念すら無かった。
そうして登っていくと二人の前に鋼鉄の棒が振りかかる。
「あぶねぇ!」
そう言って避ける翔太郎に合わせて克己も回避すると背後のコンクリートが陥没した。
そして、攻撃を避けるように間合いを確保すると目の前の人物に目を向けた。
「堂本のクローンか。」
克己がその姿を見て言う。
堂本は服を抜くとその鍛え上げられた筋肉を見せ付けて威嚇する。
対抗して翔太郎もダブルバイセップスのポーズを見せる。
「何してるんだお前?」
「あ?こう言うのは気持ちで負けたら駄目なんだよ。」
「馬鹿馬鹿しい。」
「んだと?...まぁいいや行くぜ!マッチョメン。」
「METAL」
堂本はメモリを起動すると投げる。
メモリは堂本の背中に回り込み挿さるとメタルドーパントへと変身した。
メタルドーパントと翔太郎がぶつかる。
パワーの違いからか翔太郎が押し込まれ壁に叩きつけられる。
叩きつけられた壁が砕けてしまう。
状況の不利を理解した克己はその身体で無理矢理メタルドーパントの棒術の攻撃を受け止める。
口から大量の血を吐き出す。
「克己っ!」
「俺のことは気にするな!.....早くコイツを倒せ!」
翔太郎は克己の言葉に従うようにメタルドーパントを殴り付け攻撃を加え蹴り上げた。
その衝撃によりメタルドーパントは棒を手放し吹き飛んでしまう。
「さぁ、勝負だ!」
翔太郎はジョーカーメモリをマキシマムスロットに装填する。
「JOKER MAXIMUMDRIVE」
「
翔太郎の右腕に紫のエネルギーが集まる。
メタルドーパントもそれに呼応するように拳を握りこむ。
そして、両者とも一気に近付くと拳を放った。
お互いのパンチがクロスカウンター気味に炸裂する。
メタルドーパントの拳が翔太郎の頬をなぞるように掠め、翔太郎の拳がメタルドーパントの頬へヒットした。
そのダメージからメタルドーパントは爆発を起こすと元の人間の姿に戻り気絶した。
翔太郎はダメージを受けた克己に近寄る。
「無茶しやがって!本当に大丈夫かよ!」
「元が死人だからな...多少の無茶は効く。
お前にはこれからエターナルとやりあって貰う必要がある。
余計な体力は使わせられない。」
そう言うと無理矢理、克己は立ち上がった。
「そんな事をしたら仲間が悲しむだろうが!」
翔太郎の声に克己が止まる。
「仲間?....俺に?.....」
その言葉に翔太郎は前に言われた克己の言葉を思い出した。
(記憶が抜け落ちる....まさかもう!)
しかし、そこで克己は頭を抑えると動きが止まる。
「そうだ...京水....芦原...堂本...レイカ...俺には仲間がいる。
まだ覚えているぞ....大丈夫だ。
心配をかけたな翔太郎、早く行こう。」
「でもよ!」
「どの道、エターナルを倒さないとこのまま記憶は消え続けるんだ。
早く倒したい...俺の気持ちは分かるだろ?」
克己のその言葉に翔太郎は言いたいことを噛み殺すと共に克己達がいるであろう風都タワーの中心部へと向かうのだった。
中心部に着くとフィリップが謎の機械に取り付けられた椅子に座らされて気を失っていた。
「フィリップ!」
翔太郎がフィリップに近付こうとする。
「危ない!」
克己が翔太郎を下がらせるとその場所に牙のブーメランが通り抜けた。
「まさか、ここに貴様ら二人が来るとは...手間が省けたぞ。」
そう言って上のフロアからファングドーパントとクローンの克己が現れる。
「最後のメモリを持ってきてくれてありがとう。
これで俺達の計画は完遂する。」
「計画だと?」
そんな話をしているとフィリップが目を覚ました。
「翔太郎?」
「フィリップ!無事だったか!」
「翔太郎!大道克己を止めるんだ!
彼はこの装置を使ってガイアメモリを使った人物を全員NEVERにするつもりだ!
それで敵組織を乗っ取ろうとしてるんだ!」
「話す手間が省けて助かるよフィリップ。」
「何だって!....そんな事が」
「安心しろNEVERになるってことは俺らと同じ不死身になるってことだ。
酵素がある限り死ぬことはない。」
「ふざけるな!酵素の危険性をお前自身が知らない筈が無いだろう!」
「記憶のことか?過去よりも今があれば良い!
それ以外は不要なものだ....記憶なんてあるから執着を生む。
それは弱さだ。
現にそれでレイカも....」
「お前の"お袋も死ぬこと"になったんだからな。」
「.....何だと?」
クローンの克己が言った言葉に克己は呆けてしまう。
「聞こえなかったか?
死んだんだよお前のお袋は、俺の手にかかってな。」
「嘘だ....」
「嘘じゃない...そこのフィリップも見ていたぞ?」
「本当か?フィリップ?」
フィリップに翔太郎が尋ねると彼は顔を背けながら苦し気に告げた。
「真実だ.....マリアさんは克己にナイフで刺されて....それで.....」
「答えろ....お袋は何処にいる?」
克己がクローンに尋ねる。
「この風都タワーの"何処か"に捨ててきた。
これから行う俺の偉業にゴミは必要ないからなぁ」
クローンの克己の言い方に翔太郎が激怒した。
「ふざけんなぁ!マリアさんはゴミじゃねぇ!」
「テメェの野望が俺が潰す!」
「ふん!出来ないことは言うもんじゃないぞ?」
「ETERNAL」
「変身」
クローンの克己が仮面ライダーエターナルへと変身すると翔太郎は飛び上がり上のフロアにいる彼に思いっきり向かっていく。
その拳に克己の怒りを乗せて....原作以上にジョーカーメモリとの適合率が上がった翔太郎のパンチはエターナルのガードを突破し彼の顔を捉える。
「ほぉ、言うだけのことはあるじゃないか。
少しは楽しめそうだ。」
「言ってろぉ!」
エターナルは背中についている黒いマントである"エターナルローブ"で身体を隠しながら相手の攻撃を防御してカウンターを当てる戦法に変えた。
エターナルローブには熱・冷気・電気・打撃を無効化する能力があり、これを使いジョーカーの力を抑えながら確実に翔太郎にダメージを与えていった。
その間、オリジナルの克己はファングドーパントと戦っていたが、母親を失ったショックから防御に徹していた。
しかし、徐々にその動きは"本来の状態"へと戻っていった。
それを見たプロスペクトが言う。
「どうした?先程までのショックがまるで嘘のようだな?
母親の死はそんなに簡単なものだったのか?」
「違うな....エターナルメモリのせいで俺達の酵素に影響が出てるんだ。
今の酵素はお前達の使っているものと変わらない。
ここまで言えば分かるだろう。」
「成る程、"記憶の忘却"と"人間性の欠如"か。
今のお前を倒せれば私の作ったクローンは名実共にお前らゾンビ兵士を越えた事になるんだな。」
「下らん!死んでもそのつまらない考えは治らなかった様だなドクタープロスペクト。」
「その減らず口も何時まで叩けるか見物だな。」
そうしていると翔太郎が克己の前に吹き飛ばされてきた。
そしてエターナルが悠然と降りてくる。
「T2メモリを使ったところで俺との差は埋まらん。」
そう言ってエターナルはアタッシュケースの中にあるユニコーンメモリを取り出した。
「
そしてエターナルのマキシマムスロットへと装填される。
「UNICORN MAXIMUMDRIVE」
エターナルの右腕に旋回するドリル状のエネルギーが纏われる。
その右腕をジョーカーの胸に向けて放たれた。
それをもろに受けた翔太郎は吹き飛ばされて変身解除される。
そして、ジョーカーメモリをエターナルは手にした。
「AtoZ...26本のガイアメモリが今揃った。」
すると、エターナルはゾーンメモリを取り出し"エクスビッカー"のマキシマムスロットへ装填すると起動した。
「ZONE MAXIMUMDRIVE」
ゾーンメモリの力によりT2メモリが集まりエクスビッカーに装填されていく。
それはドーパントとして戦っている者やエターナルも例外ではなく彼らのメモリもエクスビッカーに装填された。
「ACCEL、BIRD、CYCLONE、DUMMY、ETERNAL、FANG、GENE、 HEAT、ICEAGE、JOKER、 KEY、LUNA、METAL、NASCA、 OCEAN、PUPPETEER、QUEEN、ROCKET、SKULL、TRIGGER、 UNICORN、VIOLENCE、WEATHER、 XTREME、YESTERDAY 」
「「「MAXIMUMDRIVE」」」
T2メモリ26本全てのマキシマムのエネルギーがエクスビッカーを通してフィリップの身体に流れ始める。
「ぐぁぁぁぁぁ!!」
フィリップが流れるエネルギーによるダメージによる痛みで叫ぶ。
「フィリップ!」
その光景をクローンの克己が見ている。
「良いぞ!エネルギーがエクスビッカーに蓄積されている。
これを風都に放てば人をNEVERに変えることなんて容易い。
....これで実験動物は俺だけじゃない!
メモリの力に溺れた者は俺と同じ生きる死者となり俺達に従う様になる!
そして不死の軍団を作りこの世界でも支配してやろうか!
あっはっはっは!」
そしてプロスペクトはその光を見つめていた。
「これで私の計画も叶えられる。
NEVERになった者と生者を戦わせる無限地獄を作り出す。
お前達が望む最高の地獄をこの風都に作り出してやる。」
「それがお前の望みなのか?」
「一番の望みはお前達への復讐だ。
これはおまけに過ぎない。
だが、復讐は自分で行ってこそ意味がある。
お前が大切な記憶を全て失い何もかも失った時に殺す。
そう決めたのだよ。」
そうプロスペクトは白眼になった目で克己を捉えながら歯を剥き出しにして笑った。
「やはり、お前は悪魔に相応しい考え方をしているなドクタープロスペクト。」
克己はそう毒づいた。
そんな彼等を置いていくように装置の光が充填されていく。
その光は多数のメモリの色が混ざり合い虹の色へと変わっていった。
それが滅びの光には誰にも見えないだろう。
そして、それが風都へと放たれようとしている。
それは例え"悪魔"でも止めることは出来ない。
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第百二十五話 AtoZ/甦る炎
エクスビッカーに蓄積されたエネルギーが打ち出されるかと思われた矢先、装置の稼働が急に止まった。
苦しみながらもフィリップが繋がれたコードを握り絞めながら言った。
「こんな奴等に....風都を滅ぼさせやしない!」
「まさか、発射コードを書き換えているのか?」
クローンの克己の想像通り、フィリップはデータ人間の利点を使ってシステム中枢に侵入し、発射コードの書き換えを行っていた。
そして、それと同時にエターナルメモリの破壊をも行おうとしていた。
「エターナルメモリを破壊すれば....僕らのメモリがまた使える!」
「そんな事させるかぁ!」
「こっちの台詞だぁ!」
フィリップに襲いかかろうとするクローンの克己を翔太郎が止めた。
しかし、生身の状態でも戦闘能力の高い克己の方が強く簡単に組伏せられてしまう。
しかし、クローンの克己の手をオリジナルの克己が止めた。
「邪魔をするなぁ!」
「悪いが断る!」
二人の戦いが始まるが両者とも技量と戦闘能力は同じように高かった。
これにより戦闘が拮抗するかに見えたがここで装置が再稼働し出力が上がる。
それによりフィリップの身体により強い負荷がかかった。
「あぁぁぁぁぁ!」
「フィリップ!」
「何だと?」
周りを見渡すと機械の制御盤にプロスペクトが立っていた。
「エクスビッカーの出力を上げた.....これでもう邪魔は出来ないだろう。」
「良いぞ良くやった。」
それに油断したオリジナルの克己は翔太郎と共に吹き飛ばされてしまう。
また装置が起動し絶体絶命となった。
「まずい、このままじゃ風都の皆が」
翔太郎がそう呟くのを聞いた克己は翔太郎に尋ねた。
「おい翔太郎....お前は俺を信じてくれるか?」
「こんな時に何だよ!」
「"男の仕事の8割は決断なんだろう?"この状況を打開出来るかもしれない可能性が1つだけある。
だが、確証はない....寧ろ失敗するかもしれない。
それでも.....」
「"分かった信じる"。」
全て言い終わる前に翔太郎が克己の言葉に即答した。
「まだ何も言ってないぞ?」
「お前とはここに来るまでに組んで来たんだ。
性根が腐ってないのは分かるしお前の考えなら信用できる。
だから教えてくれ何をするんだ?」
「お前に貸していたロストドライバーを返してくれ。」
「分かった....ほら」
そう言うと翔太郎はドライバーを克己に返した。
克己はそれを腰に付ける。
その光景を見ていたクローンが笑った。
「何をしている?T2メモリの無いお前はもう変身することは出来ない。
無駄なことは止めるんだな。」
「無駄かどうかは俺が決める.。
それに気付いたんだ....俺の本当に"守りたいもの"を」
「守りたいもの?」
「俺達は怪物だ....だがそれでも人でいたい人として生きたい。
そして、そんな俺達が虐げられない場所を作る。
俺達の生きることを許された"永遠の楽園"を...
そして、もう迷わない。メモリがクローンのお前を選んでいようが関係ない。
もう誰にも....邪魔はさせない!」
「ETERNAL」
動かない筈のメモリが起動する。
「何だと!何故メモリが動く?」
クローンの言葉を無視してエターナルメモリをロストドライバーへと装填した。
「変....身。」
瞳を閉じてゆっくりとドライバーを展開する。
すると仮面ライダーエターナルへと姿を変えて腕の炎が赤から青色へと変わる。
それは完全なエターナルへの覚醒を意味していた。
「何故だ?どうして?」
プロスペクトからの問いにも答える気はなく克己はメモリを抜くとエターナルエッジにメモリを装填する。
「ETERNAL MAXIMUMDRIVE」
エターナルのマキシマムをエクスビッカーに向けて発動した。
だが、26本のメモリのマキシマムが発動されているので完全に無効化することは出来ず、可能だったのは出力を弱めることだけだった。
だが、それだけでもフィリップにとっては十分だった。
出力が弱まった隙をついてフィリップが力を使い発射コードを完全に書き換えてシステムを無効化した。
結果、蓄積された一部のエネルギーが逆流を起こしエクスビッカーは停止してショックウェーブが発生し26本のメモリは弾けて飛んだ。
その影響によりその場の全員が一瞬意識を失ってしまうのだった。
風都タワーの下で戦っていた面々はそれぞれ別の変化が起きていた。
敵側は風都タワーの光が消えてメモリが帰ってきた事に戸惑い、味方側の照井はアクセルメモリが使えるようになりアクセルドライバーを腰に装着した。
「私、様子を見てくるわ。」
そう言ってクローンの京水が風都タワーに戻っていった。
「お前らはアイツを追え...ここは俺一人で十分だ。」
照井の言う言葉を信じたNEVERの三人は風都タワーへ向かっていった。
「どうやら仲間がやってくれたようだ。
さぁ、今度こそ本気で....振り切るぜ。」
「ACCEL」
「変....身!」
「....ゲームスタート。」
「TRIGGER」
両者がメモリを起動し仮面ライダーアクセルとトリガードーパントへ変身するとアクセルはエンジンブレードを用いた近接戦を行いトリガードーパントはそれを紙一重で回避しながらのゼロ距離射撃で応戦していった。
芦原と堂本は風都タワーの中心部を目指して登っているとそこで棒を支えにギリギリで立っているクローンの堂本を見掛けた。
「お前は.....」
「漸く....来たか....俺の....オリ...ジナル。」
そこに芦原が銃を突きつけて尋ねる。
「答えろ!クローンの京水とドクタープロスペクトの居所はどこだ?」
「知らん....だが...大道マリア...なら...そこに...転がってるぞ....?」
そうして指を指した方向には腹にナイフが刺さり気絶しているマリアの姿があった。
「プロフェッサーマリア.....」
「テメェ!一体何が目的だ!」
堂本の声にクローンが答える。
「ふん....もう...目的など...どうでも...いい....俺は....オリジナル...と決着...をつけられれば...それで...いい。」
クローンの声がそれが本心であると堂本は理解するとジャケットを脱ぎ上半身裸になる。
「堂本?」
「すまん芦原....プロフェッサーマリアの事を頼んだ。
俺は自分のクローンと決着を付ける!」
「.....分かった。
気を付けろよ。」
そう言うと芦原はクローンを無視してマリアの元へ駆け寄り治療を始めた。
「さぁ、始めようぜ!
俺のクローンならここでの戦い方は分かっているだろう?」
堂本は両手を固く握りファイティングポーズを取った。
その姿を見たクローンも支えにしていた棒を投げ捨ててファイティングポーズを取ると一気に近付き殴り合いを始めた。
それはまるで最後の灯火を燃やし尽くす様な戦い方であった。
Another side
エターナルメモリの効力が無くなったことによりメモリが使えるようになった事はミュージアムにも影響していた。
しかし、ここで誰も予期していない事態が起きてしまった。
師上院が突如、苦しみ出す。
「ぐっ!....ぐぉっ!」
「享次郎!」
琉兵衛が驚いたように言う。
「申し...訳あり...ません。
どう....やら....ここ...までの...よう..です。」
「ぐぁぁぁぁぁ!!」
絶叫する師上院の身体から金色の炎が漏れ出すを身体を覆っていく。
そして、暫くすると炎が治まり中から師上院の服を着てドライバーを付けたキースが姿を現した。
「ふぅ!....漸く姿を現せた。
久し振りだな.....ミュージアムの面々よ。
お前達がNEVERになっていないってことは...."第一の計画"は失敗したってことか。」
そう言うキースに冴子が尋ねる。
「貴方、一体どうやって....それに師上院はどうなったの?」
冴子の問いにキースは当然のように答える。
「死んださ...俺を復活させる為にな。
俺のフェニックスメモリには他者のメモリに自分の精神を炎に変換して移す力があってな。
時間はかかるがそれを使うことで完全復活することが出来るんだ。
まぁ、復活には同格のゴールドメモリで無ければ意味が無いのが弱点なんだがな。」
キースは師上院からのワードメモリが発動する前にフェニックスメモリによって作り出したキースの精神を移した炎を忍ばせていたのだ。
そして、師上院の体内で浸透するのを待ち続けて、エターナルメモリの影響が無くなった瞬間に再生したのだ。
「まさか、そんな力がフェニックスメモリにあるなんて....」
「俺とこのフェニックスメモリの適合率は99%....これぐらい出来て当然だ。」
そう自信満々に言うキースの背後では琉兵衛が過去に無い程の怒りの表情をして立っていた。
琉兵衛が若い頃から付き従っていた大切な部下である師上院を亡くした事はテラーメモリにより人間性が欠如してきている琉兵衛の心にも明確な憎しみと怒りを与えていた。
「貴様っ....覚悟したまえ!
死すら救いと思わせる恐怖を与えてやる。」
そう言ってドライバーを付ける琉兵衛の後ろに井坂が現れる。
「おや?中々珍しい光景が見れたものだ。」
「井坂君か?何か様かね。
今は君に構っている暇はないのだが....」
「いえ、用があるのは彼処にいるドーパントですよ。
彼は私の楽しみの邪魔をした。
それにNEVERでしたか?
そんな下らない存在に私を変えようなど....許せない。」
「私も彼を倒すのに協力しますよ琉兵衛さん。」
すると、二人はお互いにメモリを起動した。
「Terror」
「Whether」
お互いメモリを装填しテラードーパントとウェザードーパント(強化タイプ)への変身を完了させた。
それに合わせるようにその場にいた幹部全員がドライバーを付けてメモリを起動する。
キースの目の前にゴールドクラスとシルバークラスで固められたミュージアムのドーパントの軍団が現れる。
彼等を見たキースは獰猛に笑う。
「良いぞ、ここで貴様らを皆殺しにすれば私の強さを財団が知ることになる。
俺を切ったことを、さぞや後悔することだろう。」
「言い残すことはそれだけかね?」
テラードーパントはそう言うと怒りにより強化された恐怖のエネルギーがキースを襲いそのエネルギーをキースの再生の炎が遮った。
「どうやら、力の性質は似ているようだ。
貴方の恐怖は私には効かないみたいだな。」
「では、"僕の炎"はどうでしょうか?」
背後に回り込んだデーモンドーパント"無名"の黒炎がキースを襲う。
しかし、この炎もキースの炎により遮られてしまった。
「僕の炎でもダメですか....」
「その様だな。」
そうして戦いは振り出しに戻っていく。
風都タワーで行われた仮面ライダー達の戦いの中でもう1つの戦いが園咲邸でも行われようとしていた。
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第百二十六話 AtoZ/追う者追われる者
最初に目を覚ましたのはクローンの克己とドクタープロスペクトだった。
エクスビッカーが破壊されたことが分かった克己は怒りを機械にぶつけた。
「クソッ!何故だ何故何故何故何故ぇ!」
「落ち着け....タワーにエネルギーは充分に溜まっている。
お前のエターナルならそのエネルギーを町に落とす事は可能だ。」
「成る程....ならば俺はエネルギーを落とすために最上階に行く。
お前はコイツらの始末をつけろ!」
そう言うと克己はゾーンメモリとエターナルメモリを持つと部屋を後にした。
「やれやれ、やはり精神性ももっと強化しておくべきだったか。」
そう言いながらプロスペクトは地面を探りファングメモリを探す。
そして、一本のメモリが手に触れ笑うとそれを起動する。
「FANG」
そして、ファングドーパントに変わると倒れて気絶しているフィリップに腕の刃を降ろうとするが起き上がったオリジナルのエターナルのナイフにより止められる。
「貴様は最後まで私の邪魔をするのか!」
「どうやら、そうみたいだな。」
そんな話をしていると扉が開き京水が中に入ってきた。
「あらっ!面白いことになってるわね。」
プロスペクトが京水に指示を出す。
「ルナメモリで変身してこの男を始末するのを手伝え京水。」
「良いわよ..ごめんなさいね克巳ちゃん。
でも安心して、死んで死体になっても私が愛してあ・げ・....」
「させないわよぉぉぉぉ!」
そう言うと飛び上がってきたオリジナルの京水が振るった鞭がクローンの首に絡み付く。
そして、それを思いっきり振り抜いた。
「ぶぶぶ、ぶっ飛びぃぃぃ!」
「いやぁぁぁぁぁ!」
そのまま前に割られた窓からクローンの京水は吹き飛ばされてしまった。
「克巳ちゃん!無事ぃ?」
「まぁな!お前こそまだまだ元気そうだな?」
「当たり前じゃないの!....約束通りアイツは貰っていくわ....っとその前に」
そう言うと京水がフィリップの前に行くと拝むように両手を構えた。
「失礼します!」
そう言うとフィリップの身体をまさぐり一本のメモリを抜き取ると落ちて行ったクローンを追いかけるように京水も割れた窓ガラスから追っていった。
そして、このタイミングで翔太郎とフィリップも目を覚ます。
「ここは!」
「気絶してたのか。」
「漸く起きたみたいだな...早く屋上を目指せ!
俺のクローンはまだ諦めてないぞ!」
「何だって?やるしかねぇか。
行くぞフィリップ!」
「あぁ、翔太郎!」
そう言うと二人はその場を出て風都タワーの屋上へ向かった。
「逃がさん!」
「それはこっちの台詞だぁ!」
追おうとするファングドーパントを捕まえると部屋から出て手すりから落下してエントランスまで落ちていく。
二人は着地するとお互いに睨み合った。
「やはり、お前こそが私の人生の最大の汚点であり障害のようだな。」
「そう言うな。もうお前は人生など考える必要もないんだ...俺達と同じゾンビなんだからな。」
「つくづく、癪に触るなお前は.....」
そうしてお互いに戦いを始めようとした時、彼等の真ん中に一個の"赤いメダル"が転がってきた。
エターナルの足下に転がってきたそのメダルを拾い上げる。
「何だこれは?」
「返せ!」
そう声が聞こえると怪物の様な右腕が空を浮いてメダルを掴んだ。
「んなっ!」
そして腕がそのまま後ろに下がると二人の青年の片方に繋がった。
すると、目付きの悪い金髪の男に変わるとその繋がった腕を撫でて隣の男を怒鳴り掴みかかる。
「おい
対して映司と言われた男は申し訳なさそうにしながら言う。
「ごめんごめん、だってコアメダルしまってた"パンツ"に穴が空いてて中身が落ちるなんて想定外だったんだから仕方ないだろ?」
「そもそもコアメダルをパンツにしまっておくな!
もっと、大事な場所に入れておけ!
何でパンツ何かに入れてんだよ!」
「"アンク"お前パンツ、バカにしたなぁ。
大事なことなんだぞ明日のパンツは!
罰として今日のアイス抜きにするぞ!」
「おまっ...それとこれとは話が違うだろう!」
そうしてアンクと映司と呼ばれる二人の青年がいい合いを始める。
それを克巳とプロスペクトは見つめていた。
「何なんだコイツらは?」
「お前の知り合いではないのか?」
プロスペクトの問いに克己が答える。
「こんな奴等は知らん...無名の仲間か?」
その問いに映司が答える。
「あっ!僕達は鴻上会長から頼まれてミュージアム...って言う人達に協力しろ言われてきたんですよ。
えーっと...どっちがミュージアムの方ですか?」
映司の問いに克己が答える。
「俺達だ...ってことは無名の仲間か。」
「あぁ、良かったぁ。実は予定よりも早く着いたんですけど、アンクがアイス食べたいって駄々こねたせいで着くのが遅れちゃったんですよ。」
「あぁ?俺のせいかよ!」
「あぁ、はいはい僕も悪いから...えっと先ずは自己紹介俺は
「"仮面ライダー
Another side
落下するクローンの京水は咄嗟にルナメモリを起動しルナドーパントになると伸ばした腕で建物を掴むとその屋上に着地した。
「あっぶないわねぇ!無茶苦茶して来るじゃない私のオリジナル!」
そんな事を言っていると遠くから声が京水の声が聞こえてきた。
「あーあぁぁぁぁぁぁ!」
まるでターザンのように鞭を使いビルをスイングしながらルナドーパントのいる建物に到着した。
「ふぅ、漸く追い詰めたわよ。
私のクローン。」
「あらあら、それにしても驚いたわぁ!アンタが私の事を追ってくるなんて、アンタ女には厳しいんじゃなかったのかしら?」
「あら?流石私のクローンね。私の事をよく知ってるじゃない。
そうよ....私は女に厳しいわ。
でもそれは"敵に対して"よ。クローンとは言えレイカを敵と見るなんて...アンタ何考えてんのよ?」
「はぁ?アンタこそ何言ってんの?
所詮は他人....どうせ死人なんだからどうなったって構わないじゃない?
一番大事なのは自分と克巳ちゃんだけよ。」
「.....そう。
どうやらアンタとは友達になれそうにないわね。
それに死人がどうとか言うなら貴女も同じよ。
だから貴女も克巳ちゃんに大事に何かされないわ。」
「は?何言ってんの?」
「他人を大事に出来ない人間が大事にされるわけ無いでしょう!....そう言うことよ。」
「訳分からない事言ってないで、早く始めましょうよ。
それともビビって手が出せないとか?」
「焦るんじゃないわよ...押しの強い女はモテないわよ。」
そう言うと京水は懐から"青色のロストドライバー"を取り出すと腰に着けた。
「それは何?」
「無名ちゃん達が私達、NEVERの為に開発してくれたドライバーよ。
これを使えば私達は安全にメモリを使いその力を使うことが出来る様になる。」
「さっき言ってたわよね、私は女に厳しいって....クローンなら覚えときなさい。
私は女にも厳しいけど......」
「オカマにはもっと厳しいのよ!」
そう言うと京水は先程、フィリップから奪ったルナメモリを取り出した。
そして目を瞑り祈る。
「レイカ....私に力を貸して!」
そう言うとメモリを起動した。
「LUNA」
そして、ドライバーに装填すると両手を大きく開きまるで舞うようにドライバーを展開した。
「変ぅ身ん」
京水の身体は黄金の光に包まれ三日月の様なマークが頭に着いたライダーへと変身した。
そして、ルナドーパントへ告げた。
「私の名前は"仮面ライダールナ"!
さぁ、この風都に代わってお仕置きよ!」
仮面ライダールナはルナドーパントへと向かっていくのだった。
off shot
レイカがやられたことを知った時、堂本は怒りからそのまま外に出そうになっていた。
それを芦原が止める。
「落ち着け堂本!冷静になれ!」
「冷静になれるかぁ!....レイカがやられたんだぞ!
しかも、俺達のクローンに...仇を討たなきゃ気が済まねぇ!」
暴走をする堂本を芦原は殴って止めた。
「お前だけが怒っていると思うなっ!
俺だって今すぐにでも殺った奴を撃ち殺したい!
....だが克己がいないこの状況でまともに動けるのは俺達だけなんだ!」
それで堂本は我に返る。
キースを始末したお陰で二人は自由になったが逆に言えば他のメンバーは今、動くことが出来ていない。
克巳に関しては言わずもがなだった。
「俺達は先ず、京水が連れて帰ってくるレイカを助けることが重要だ...違うか?」
「....すまん、熱くなりすぎた。」
「いや、良い。」
そう言うと二人は少し冷静になった。
そこで芦原がもう1つ話をした。
「なぁ、気にならなかったか京水の報告。」
「報告?」
「そうだ....レイカを殺った犯人を"NEVERのメンバーのクローン"って言ったんだ。」
「そりゃ、顔が見えなかったとかじゃないのか?」
「だとしたら謎の人物で良い筈だ。
それなのにNEVERを付けたのは動揺していたからだと思う。
じゃあ、京水が動揺する程の事って何だと思う?」
「そりゃ.....まさか!」
堂本も芦原と同じ答えに辿り着く。
言わなかったのは言いたくなかったから...自分のクローンが親友を痛め付けて殺しかけたという事、
いくら、京水がNEVERのサブリーダーでもレイカが親友だと言う事実は変わらない。
それが分かる光景などそれこそ沢山、仲間はみてきたのだから....
だからこそ、芦原と堂本は京水の心中を察する。
「なぁ、芦原。」
「何だ?」
「もし、京水がその相手を自分で仕留めると言ったらどうする?」
「俺は賛成する....お前は?」
「これで"二票"か。
克巳も賛成するだろうから仕方ないが京水に相手を譲るか。」
そう言って笑う堂本を見て芦原も少しだけ笑うのだった。
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第百二十七話 AtoZ/ライダーは助け合い
克巳とプロスペクトの前に現れた"映司とアンク"と名乗る人物は自分の事を"仮面ライダー"だと告げた。
「仮面ライダーだと?」
「うん、僕が仮面ライダーOOO宜しくね。」
克巳と映司の会話を聞いていたプロスペクトが割って入る。
「バカバカしい....貴様のような仮面ライダーがいるものかっ!」
そう言うとファングドーパントの牙のブーメランが映司を襲った。
「映司!」
それをアンクが右手で押すことで回避させるが変わりにアンクの右腕が切断されてしまった。
「私の戦いを邪魔するからこうな....」
そう言いかけた時、ファングドーパントは突然動き出した右腕に殴られる。
「危ないだろう!....身体にダメージがあったらどうするんだ?」
切断された筈の右腕がそう喋り出す。
「バカな....」
「これもガイアメモリの力か?」
驚くプロスペクトに対して克己は映司に尋ねる。
「違います....えっとアンクは人間じゃなくて"グリード"って言うスッゴク昔にいた怪物で....」
「おい!無駄話はコイツを倒してからにしろ!
早く変身して戦え!映司!」
そう言うとアンクは右腕から"赤"黄色"緑"のメダルを取り出すと映司に投げ渡した。
それを映司右腕を振り抜きキャッチする。
「よっと!....それもそうだなアンク。」
そして、映司は左腕に持っているドライバーを腰に付けると先程受け取った三枚のメダルを装填していく。
そして、全部装填し終わるとドライバーを斜めに倒して右手で腰に付いている"オースキャナー"を手に取るとドライバーをスキャンした。
キン!キン!キン!....三回甲高い音が鳴ると映司は言った。
「変身!」
すると、彼の周りに三枚の大きなメダルが現れて変身音が鳴る。
「タカ」
「トラ」
「バッタ」
「タ、ト、バ、タトバ」
「タトバ」
独特な変身音から映司は仮面ライダーOOO"タトバコンボ"へと変身が完了した。
「行くぞっ!」
映司はそう言うと両手の三本の爪"トラクロー"を展開するとファングドーパントへ向かっていった。
「何だコイツは?本当に同じ仮面ライダーなのか?
それにその歌は....」
克己がそう言いかけるとそれをアンクが遮った。
「歌は気にするな。
それよりもまだやることがあるんだろ?
早く行け!」
「よっと、こっちは大丈夫なんで任せてください!
"ライダーは助け合い"ですから!」
「分かった....任せるぞオーズ。」
そう言うと克己は風都タワーの頂上へと向かっていった。
「待てっ!逃がすかっ!」
そう言って克巳を止めようとプロスペクトは牙のブーメランを投擲するがオーズがバッタレッグで跳躍すると牙をトラクローで地面へと弾いた。
「なっ!」
「悪いけど君の相手は俺達だよ。」
「そう言うことだ。」
そう言う二人にプロスペクトは憤慨した。
「漸く、私の復讐が達成される筈だったのに........
貴様ぁぁぁぁぁぁぁぁ!」
プロスペクトは怒りからファングの力を更に引き出し、全身から牙を出現させる。
それを回転させてオーズへと突撃してきた。
その攻撃をトラクローで防御するがその高い威力からクローが欠けてしまう。
「うおっ!急に怒ったと思ったらグルグル回り出したぞコイツ!」
「映司!この攻撃にはそのメダルじゃ不利だ"コレ"に変えろ!」
そう言うとアンクは"黄緑色のコアメダルを映司に投げ渡す。
これを受け取ると映司はトラメダルと交換してオースキャナーを通した。
「タカ」
「カマキリ」
「バッタ」
真ん中のトラメダルが変わりカマキリになることで両手の武器も変わる。
両腕にあるブレード状の強化外骨格"カマキリソード"を展開すると突撃するファングドーパントにカウンターで両方の刃をかち当てた。
両者とも吹き飛ばされるがファングドーパントの身体から生成された牙は粉々に折れてしまう。
そして、ダメージによりファングドーパントは動けなくなっていた。
それを見たアンクが映司に叫ぶ。
「今だ映司!トドメを指せ!」
「えっ!でもそんな事したら中の人が死んじゃうんじゃ?」
「ダメージが許容量を越えるとメモリが排出されるだけで本体は無事だと鴻上が言ってただろ!」
「なら、安心だな。」
映司は中心をカマキリメダルからトラメダルに変えて"タトバ"コンボに戻すと再度、オースキャナーをドライバーに通した。
「
「はぁーーーっ。」
映司はファングドーパントに向かい構えてエネルギーを溜めると一気に跳躍した。
ファングドーパントに向かい三つのコイン状のエネルギーが生成されると映司はそこを通るようにキックを放つ。
「せいやぁぁぁぁ!」
コイン状のエネルギーを通って放った必殺技"タトバキック"はファングドーパントに直撃すると爆発を起こしメモリが排出されるとプロスペクトの姿に戻った。
「おっ!人間に戻ってる。
じゃあ、これで僕達の仕事は終わりかな?」
そう言うと映司はドライバーを戻し変身を解除する。
「ちっ!やはり"セルメダル"は出ないか。」
「当たり前だろ?彼はグリードやヤミーじゃないんだから」
そう言う映司にアンクは返す。
「だが、これでセルメダル"1000枚"とは....随分と簡単な仕事だな。
こんなのが続いてくれると助かるんだがなぁ。」
「おいおいアンク、戦うのは俺だぞ?
そんな無茶苦茶言うなよ。」
「ふん!....もう終わったなら早く帰るぞ。
"今日の分のアイス"がまだだ。」
「はぁ?アンクこの街に来てアイス沢山食べただろ?」
「それは鴻上の仕事の報酬であって今日のアイスとは別だ!」
「あんまり食べ過ぎるとお腹壊すぞ。」
「うるさい!....さっさと行くぞ映司!」
「うわっ!待てよアンク!.....もう鴻上さんへの報告もしないと行けないし...アイスも買わないとなぁ。
お金持つかなぁ?」
映司は急ぎ足で帰るアンクを追いかけながらパンツに閉まっていたお金を確かめる。
「....あぁぁぁぁ!」
映司の声にアンクが驚く。
「どうした映司!」
「....俺のパンツに穴がぁぁぁ!」
「またかよ....そんな事でいちいち驚くなっ!」
「だってこれお財布だったんだよ!
それなのに穴が空いちゃったからスッカラカンだよ。」
「下らな.....ちょっと待て映司。
だったら俺のアイスはどうなる?」
「..........」
映司はアンクから顔を背けて暫くすると外に向かって走り出した。
「なっ!待て映司!俺のアイスはどうなるんだぁ!」
「アイスよりも帰りを心配しろよぉぉぉ!」
そう言いながら走る映司をアンクは怒りながら追いかける。
映司は走りながら先程見つけたバイクに乗ったハットを被った青年を思い出す。
直感から彼も自分と同じ仮面ライダーなんだろうと理解していた。
(頑張って下さいねこの街の仮面ライダーさん。)
心の中でそう応援する。
そして、風都に訪れた新たなライダーはその場を後にするのだった。
爆発から目を覚ましたプロスペクトは身体が粒子になるのを感じながら風都タワーを睨み向ける。
「復讐すら果たせず....こんな所で消えるとは....なんて人生だ。
いや、そもそもあの時から私の人生は狂ったんだ。」
NEVER...そして無名と関わったせいで私はクオークスも研究所も自分の命も失った。
そしてキースによりゾンビ兵士として蘇られNEVERのクローンを作り復讐のために行動してきたその全てが水泡にきした。
あまりの愚かさと道化具合に笑えてすら来てしまう。
「はは...ははは....あっはっはっはっはっは!
皆、死んでしまえ!仮面ライダーもNEVERもミュージアムもキースも全て全て死んでしまえあっはっはっは...」
負け犬の遠吠えと呼ぶに相応しい呪詛を吐きながらプロスペクトは消滅するのだった。
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第百二十八話 AtoZ/乙女の意地
ルナドーパントは目の前で仮面ライダーになった京水に困惑する。
「どう言うこと?....アンタが何で仮面ライダーに?」
「さぁね、無名ちゃん曰く気紛れらしいけど、そのお陰でアンタを殴れるんだから私としては万々歳よ!」
仮面ライダールナの拳がルナドーパントに直撃する。
そのダメージによりルナドーパントは吹き飛ぶ。
「グッ!何でこんなに効くのよ!」
ルナドーパントはそう言った。
幻想を宿す"ルナメモリ"の力により腕を伸ばし鞭の様に振るったりドーパントの幻影を作ることが出来る。
また、副次的効果で打撃によるダメージを減少させる力がある筈だったがそれが機能していないことにルナドーパントは驚いたのだ。
「私のメモリもアンタと同じルナよ?
幻想の力同士なんだから打ち消し合うに決まってるでしょう。
覚悟しなさい....私の攻撃は痛いわよ!」
すると、仮面ライダールナは腰からメタルシャフトを取り出す。
そして力を込めると片方のシャフトが無くなりもう片方かその分伸びると鞭のようにしなり出した。
「なっ!」
「このドライバーならこんなことも出来るのよぉ!」
そう言って仮面ライダールナはルナドーパントに向かいメタルシャフトを鞭のように振るった。
京水の付けている青いロストドライバー"NEVERドライバー"には通常のドライバーと違う能力が備わっている。
1つが酵素を使用するNEVERの肉体に負荷がかからないようにメモリを使える事。これにより仮に敵の攻撃で変身解除させられても塵となって死ぬ心配はない。
もう1つはWの持つ武器を使えるようになり、使用しているメモリの特性を武器に付与し変化させる事が出来る事。
これにより仮面ライダールナはメタルシャフトを鞭のような形に変形させられたのだ。
使用者が最も使いやすい武器へと変化させる。
其々があらゆる武器や技術のエキスパートであるNEVERにとって、この能力はとても強力だった。
現にルナの作り出したメタルシャフトはルナドーパントの両腕の鞭よりも強力で、打ち合えばルナドーパントが負けるどころか"腕が切り飛ばされてしまう程"の性能差を発揮した。
「グッ!アッ!痛いっ!」
ルナドーパントはルナによる鞭の連撃により反撃できずダメージしか受けられなくなる。
「どうしたの?さっさと反撃しなさいよ。
優しいレイカはボコボコに出来ても私には手も足も出ないのかしら?」
「調子に乗ってんじゃないわよぉ!」
ルナドーパントは周囲に光球を放つとそこにマスカレイドドーパントの幻影が現れた。
「アンタ達、行きなさい!」
その声を合図にルナへと襲いかかろうとするがそのマスカレイドドーパントの集団をメタルシャフトで全員捕まえるとシャフトにルナメモリを装填した。
「LUNA MAXIMUMDRIVE」
メタルシャフトにルナメモリのエネルギーが充填されるとそれをマスカレイドドーパントに放った。
すると、巻かれていたマスカレイドドーパントは全員消滅し、光球へ戻ったそれをメタルシャフトを使い大きな塊へと変えて自分の隣に置いた。
大きな光の塊は"仮面ライダーエターナル"へと姿を変える。
「何よ....それ...」
「ルナメモリは幻想のメモリ。
使い手の想像力と力次第ではこんなことも出来るのよ。
雑魚を作り出すだけが能じゃないの、このメモリはね。」
ルナドーパントから奪い取りマキシマムの力を込めたエネルギーの塊は、京水の知っている孤島で初めて見た仮面ライダーエターナルを忠実に再現していた。
「流石に能力まで完全にコピーは出来ないけど
戦闘能力位なら据え置きで出せる筈よ。
克己ちゃん....お願い。」
仮面ライダールナの言葉にエターナルは頷くとルナドーパントに攻撃を仕掛ける。
「嫌っ、来ないで!」
ルナドーパントは動揺してエターナルを攻撃するが両腕の鞭をエターナルエッジで切られながら近付かれ、格闘攻撃の餌食となる。
その光景を見ていたルナが言った。
「やっぱり、アンタ克己ちゃんが好きなのね?
分かるわよ、あれだけ強くてカッコいいなら惚れるのも無理はないわ。
アンタの好きな克己ちゃんでアンタをボコボコにするなんてレイカにやったことと変わらないわね。
これは止めておきましょう。」
そう言ってルナが指を鳴らすとエターナルは光の粒子となって消滅した。
かなりのダメージを受けたルナドーパントは肩で息をする。
「はぁはぁはぁ.....どういう...つもり?
あのまま...続けてたら、アンタの勝ちだったのに?」
「私はね大切な者を使ってトドメを指す陰湿なやり方をするつもりがないの。
さっきは一番強いと思う存在をイメージしたから克己ちゃんが出て来ただけ....アンタがその感情を抱いてるなら、幻想でも克己ちゃんの手で葬るなんて優しい結末を私は認めない。」
「やっぱりアンタは私が直接、トドメを指してあげるわ。」
するとルナはメタルシャフトに入れていたルナメモリを抜くと右腰に付いているマキシマムスロットにメモリを装填した。
「LUNA MAXIMUMDRIVE」
「私にトドメを刺すですって?
舐めんじゃ無いわよぉ!アンタにだけは....オリジナルだけには負けるわけには行かないのよ!」
ルナドーパントは気合いで立ち上がるとルナへと突進する。
それに合わせてエネルギーが充填された右足でカウンター気味にルナドーパントの胴体を蹴り上げた。
ルナドーパントの身体が黄金の球体のエネルギーに包まれる。
それはまるで満月のように輝いていた。
そして月がドンドンと欠けていくようにその球体のスペースも無くなっていった。
半月、三日月、そして新月になるとルナドーパントは完全にその姿を消し爆発するとクローンの京水の姿となって地面に落ちた。
戦いの終わりを感じたオリジナルの京水もドライバーからメモリを抜いて変身解除する。
「負け...たの?....わた...しが」
老化現象が起きているクローンがそう呟く。
「そうよ、アンタの負け。
最後に教えなさいよ、どうしてレイカを痛めつけたの?
アンタらの目的が復讐なのは理解できるけど、だったらオリジナルである私を狙うべきじゃない?」
「気に食わなかったのよ....レイカがね。
オリジナルもクローンも...だから痛め付けてやったのよ。」
「それだけ?たったそれだけの理由で...」
「アンタに私の気持ちなんて分からないわよ!想像できる?産まれてから直ぐに殺される痛みと恐怖を.....自分が何者かすら分からないのに化け物にされて挙げ句の果てにそれが復讐のためですって?
ふざけんな!そんな事の為に私を作って殺してんじゃないわよ!」
クローンのその怒りは今までの中でも一番感情が籠っている言葉だった。
NEVER化により人間性が失われ続けてもそれだけは忘れず心に怒りを残し続けていたのだ。
計画が成功した後にクローン達がすることは、自分達を産み出したプロスペクトやキースへの復讐だったのかもしれないと京水は思った。
しかし、それを理解しながらも京水は告げた。
「それに関しては貴方達を可哀想に思うし申し訳ないとも思うわ。
でもだからと言って親友を殺されかけて許せる程、私は人間辞めてないのよ。
まぁでも安心なさい。
アンタのしたかった復讐も克己ちゃんや他の人が代わりにやってくれるわ。」
「それをアンタは地獄で先に行って見てなさい。」
その京水の言葉に老衰しかけている京水の顔が少し和らぐと瞳を閉じて塵となり消えていった。
すると、懐に入れていた携帯が鳴り京水はそれを手に取る。
「あら?どうしたの芦原ちゃん。」
「その呼び方だけはどうにかならないのか?
まぁ良い、プロフェッサーマリアは確保した。
だが、重症だった為、独断で処置をしたから早く治療しないといけない。」
「そんなに酷かったの?」
「あぁ、無名の研究ファイルにあった霧彦を生存させる方法で使われた酵素の利用を、俺の持つ酵素で行ってみた。
使用量は気を付けたからNEVERにはならない筈だ。」
「そう、分かったわ。
なら、プロフェッサーを安全な場所に退避させて」
「あぁ.....それと堂本のクローンを始末した。
本人が直々にな。」
「そうなの....どうだった?」
「両方とも殴りあって決着を付けた。
もう限界だった筈なのにクローンがガッツを見せてな。
堂本も中々にダメージを受けてしまったよ。」
「やっぱり、油断できないわね。
分かったわ、私もこのメモリを彼等に返したら貴方達と合流するわ。」
「あぁ....頼むぞ。」
そう言って電話を切ると京水は地面に倒れた。
「痛ったぁぁぁぁぁ!何この全身の痛み?痛すぎて死ぬんだけど!えっ、でも私達不死身なのよねでも死ぬってどゆこと?てか死ぬ程、痛いってどんだけヤバいもん渡してくれちゃってんのよ無名ちゃん!」
そうこれはNEVERドライバーの唯一の弱点でありまだ改善出来てないデメリット。
"変身後、肉体に負荷がかかり激痛が走る"という副作用であった。
具体的に言うとコロナワクチンを注射した後の激痛が全身に来る感じである。
勿論、このデメリットに関しては予め無名より説明をされていた。
それでもドライバーを使うことを決めたのは京水自身だった。
「乙女にはね覚悟決めてやんなきゃ行けない事があんのよ!」
そう言って堂々とドライバーを受け取った京水の姿は見る影も無い程、情けなく倒れていた。
「うっ....我慢、我慢よ私!
少なくともこのメモリを返すまでは頑張るのよ!」
そう言うとゆっくりと立ち上がっていく。
時限爆弾が爆発しないように丁寧にコードを切る爆弾処理班の様に.....
「待っててね...直ぐにこのメモリを渡しに.....」
ピキリ!
間違ったコードを切ってしまい京水の身体に痛覚の爆弾が襲った。
「ピギャァァァァァァ!」
その声にもならない絶叫が誰もいない建物に響いた...
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第百二十九話 AtoZ/確定した勝利
トリガードーパントとアクセルは一進一退の攻防を続けていた。
アクセルがエンジンブレードで斬りかかればそれを紙一重で避けたトリガードーパントがアクセルの頭に銃を向けて引き金を引く。
それを頭だけ動かして回避してまた斬り付ける。
ゼロ距離の戦いが行われていたのだ。
原作の照井ならばこの様な高度な読み合いが必要になる戦いをNEVER相手には出来なかったが、これまで数々の激戦を繰り広げてきた今の照井ならば可能となっていた。
しかし、お互いに決定打が出ず膠着していることを理解すると両者とも一歩下がった。
アクセルはトライアルメモリを起動する。
「TRIAL」
アクセルはメモリを装填しスロットルを思いっきり回す。
アクセルトライアルへと変身が完了するとトリガードーパントへ高速で近付いた。
対してトリガードーパントは今までのような威力を上げた攻撃ではなく連射性を重視した銃撃に変えて量で高速で移動するアクセルの移動ルートを限定させようと行動し始めた。
無数に放たれる弾をアクセルは回避しながら近付いていく。
そして、トリガードーパントの目の前まで到達したアクセルの胸元に銃身が押し付けられた。
「ゲームオーバー」
トリガードーパントがそう言って弾を撃つが突如アクセルの姿が消えた。
「何?」
「後ろだ。」
照井は誘われるていることが分かっていたのでトライアルメモリを抜いて右手に持ち何時でもマキシマムを発動できるようにしていた。
そして、銃を胸元に押し付けられた瞬間にトライアルのスイッチを押して上に投げた。
速度がマキシマムにより更に上がった照井は押し付けられた銃を支点に回転しトリガードーパントの視界を振り切った。
そのまま背後に立ったのだ。
照井の声に気付き振り向いたトリガードーパントに連続で蹴りを加える。
止まること無き連撃はTの軌跡を描き落下するメモリをキャッチするとストップウォッチを止めた。
「TRIAL MAXIMUMDRIVE」
「8.2秒....タイムアップだ。」
照井がそう言うとトリガードーパントは爆発し人間の姿に戻った。
「後は、左達の方がどうなっているのか確認しないとな。」
そう言うと照井は風都タワー内部へと入っていくのだった。
一方、園咲邸での戦いも膠着状態にあった。
キースの使うフェニックスメモリの再生能力により数々のドーパントの攻撃が無効化されていたのだ。
レオメモリの重力攻撃や、ゴーゴンメモリの石化能力すらフェニックスメモリの黄金の炎は回復させてしまった。
しかし、キースも黄金の炎を相手にぶつけようとすればテラーとデーモンメモリの恐怖のエネルギーと黒炎に阻まれていた。
尚、シルバーメモリのデビルやシープも攻撃は加えているが全く意味はなかった。
「やれやれ、これでは埒が空かないな。」
キースのその言葉に無名が反応する。
「そう思うのならその金色の炎を使わなくなればこの戦いは直ぐにでも終わりますよ?」
「おい、無名!無駄話する暇があるならさっさと攻撃しろ。」
「そう言わないの獅子神君、現状ゴールドメモリで最大火力を出せる貴方の攻撃が効かなかったんだから少しぐらい言葉を交えたって問題ないわよ。」
「....ちっ!舐めるなよ!
お前の再生能力がどれだけ強かろうとコレに勝てるのか?」
そう言って獅子神は掌に太陽を作ろうとするのを無名が止める。
「ここを焼け野原にするつもりですか?
それに貴方は無事でも周囲の人達がダメージを受ける危険性もありますよ。」
「じゃあ、どうする!奴はミュージアムの敵だ!
ならば、完膚なきまで潰すだけだろう!」
「先ずはあの炎を何とかしましょう。
それとサラ、加頭さんはまだ来ないのですか?」
「連絡してるけど繋がらない。
多分、この戦いには間に合わないでしょうね。」
フェニックスメモリの再生の炎とユートピアメモリの希望を吸収し力に変える能力は相性が良かったのたが、丁度いないタイミングで襲われたことに無名は唇を噛んだ。
(だからと言ってここで負けて良い理由にはならないんですがね。)
無名は黒炎を槍に変えると堂本直伝の棒術でキースに攻撃を仕掛ける。
「そんな攻撃効くと思って...」
キースがそう言って受けようとするが途中で攻撃を回避した。
「おや、珍しいですね避けるなんて...」
「小賢しい真似を....」
無名の槍にはうっすらとだが黒炎が纏われていた。
もし、このままキースが槍に貫かれていたら再生の炎が阻害されて槍によるダメージを受けるところだった。
「やはり、刺突では貴方の能力を十分に発揮できないようですね。」
無名が続けて槍をキースに振るう。
「何度も同じ手を」
「敵はボクだけじゃありませんよ?」
すると、キースの身体が突如、無名の持つ槍へと引き寄せられる。
無名の後ろから獅子神がレオメモリの力を使い引力を発動させたのだ。
キースは止まろうと地面に爪を立てるが爪が突如、石化し砕けてしまう。
そしてそのまま右胸に無名の槍が突き刺さった。
再生の炎が無名の黒炎により阻害されているため回復が出来ずキースは呻き声を上げる。
「油断大敵....敵は私達三人だけじゃないわよ?」
そう言うサラの背後でテラードーパントが恐怖のエネルギーを壁のように生成する。
「それで無名ごと私を押し潰すつもりか!」
「まさか、君と違って無名は貴重な人材だ...これはこうするんだよ。」
すると、背後にいたタブードーパントとスミロドンドーパントが壁に向かってエネルギー弾を放つ。
放たれた光弾は壁に当たると中を通り抜けてキースに直撃した。
そのダメージもキースは回復することが出来ない。
「私の力でコーティングすれば攻撃は通るようだね。」
「成る程....では次は私が行きましょう。」
ウェザードーパントが腕を上げるとそこから嵐が現れて巨大な腕の形へと変わっていく。
「1つの都市をまるごと破壊できる竜巻と雷を固めた一撃です。
なにぶん初めて使うので威力がどうかは分かりませんがまぁ、弱いことはないでしょう。」
そう言ってテラーの生み出した壁に向かいその腕を振るった。
嵐を凝縮させた巨腕はテラーの壁を飲み込み漆黒の腕に変わると無名ごとキースに直撃した。
キースのいた場所にテラーのエネルギーにより黒く染まった竜巻が発生している。
すると、テラーの背後から黒炎のゲートが現れるとそこから無名が現れた。
「ボクごと殺ろうとするなんて....そんなに嫌いですか?」
「いえいえ、貴方なら避けられるだろうと言う確信があったから使っただけですよ。」
「しかし、これでキースは死にますかね?」
「どうでしょうか...しかし、テラーのエネルギーと強化されたウェザーの力を合わせて食らったのですから無傷ではいられない筈ですよ。」
そんな話をしていると竜巻から黄金の炎が溢れだし爆発した。
その威力により内部の竜巻を消し去る。
中からはボロボロになったフェニックスドーパントであるキースが現れた。
「はぁはぁ....流石はミュージアム全戦力、一筋縄では行かないか。」
「やはり、生きてましたか。如何致しますか琉兵衛様?」
「愚問だね。
彼は処刑する....その結末は変わらないよ。」
「そう言うことだ....今なら俺の攻撃も通るだろう。」
獅子神は手に力を込めるとキースにトドメを刺そうとする。
しかし、この瞬間を待っていたようにキースは言った。
「"数秒、止まれ。"」
キースの言葉にその場にいた全員が従ってしまう。
その瞬間、キースは黄金の炎を辺り一面に放出した。
琉兵衛と無名だけは身体を黒炎と恐怖のエネルギーで覆い炎を回避するが、他の者は全員この炎を受けて倒れてしまった。
「これは一体?」
琉兵衛が疑問符を浮かべるとキースが答える。
「フェニックスメモリの能力で再生に使用した個体の力を、短時間で限定的にだが使用できる能力があるのだよ。
今使ったのはワードメモリの制約の力だ。
数秒時間を稼げれば勝てる手段があって助かったよ。」
「成る程、ですが琉兵衛様とボクはまだ残ってますよ?
この状況でまだ勝てると本気で思っているのですか?」
「勿論、既に私の勝利は確定しているんだよ。
"エクスビッカーが起動した時点でな"。」
「どういう意味です?」
「最新メモリ26本分のマキシマムが今、風都タワーに蓄積している。
これがあればどんなことも出来る。」
「新たなメモリを作り出すこともな。」
「新たなメモリ?」
「ミュージアムや財団と戦う上で最も困難な事は武力の差を埋めることだ。
それもエターナルの様な無効化ではなく力による圧倒的な優位性....それを手に入れる。」
ここで無名はキースより与えられた言葉の中で推察を始める。
(26本のメモリの力を使って新たなメモリを作る?
そんな事、可能なのか?
だが、仮にそんな事が出来たとしてもそれで何故、勝利に繋がる?
そもそも、キースのこの余裕は.....)
ここで、無名はフェニックスメモリの力を思い出し理解した。
キースがこれから何を行おうとしているのか。
(もし、ボクの予想通りだとすれば急いで止めないと!キースの思惑通りに進めたら対処なんて出来なくなる。)
無名は焦ったように黒炎で槍を作るとキースに向けて突きはなった。
「もう遅い....全てのピースは揃った。」
するとキースは黄金の炎へと変わるとその場から姿を消した。
「グッ!逃がしたか!
琉兵衛様、至急キースを追います!」
珍しく焦る無名に琉兵衛が尋ねる。
「どう言うことだ?
奴の狙いは一体何なのだ?」
「新しいメモリを作り上げるんです"26本のメモリ全ての力を集約して"」
「全てだと?だが、そんな事は不可能だろう。」
「えぇ、普通のやり方では不可能です。
自分自身がメモリになるなんて考え方をしない限りは」
「何?」
「フェニックスメモリの時点で気付くべきでした。
あれは肉体と精神をデータ化して保存する機能があります。
だからこそあんな芸当が出来るんです。
そんな人物にとって肉体の存在などさして意味をなさない。
何故なら自分とメモリの存在は同義なんですから」
「だが、方法はどうするんだ?」
「フェニックスメモリと今風都タワーにいる存在があれば可能です。
ですから、早く行かないと」
「キースの最後のピースは"大道克己のクローン"です。」
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第百三十話 AtoZ/炎の行く末
そして、次に目を覚ました俺は冷たい怪物に変わっていた。
プロスペクトから俺に大道克己の名とオリジナルの持っていた記憶が埋め込まれてから直ぐの事だ。
身体に滅びの兆候が現れ始めた。
髪の色が抜けて肉体が急激に老化する。
プロスペクトの作った抑制剤を打たないと俺は歩くことすら満足に出来なくなっていた。
俺と同じ奴らが4人作られると俺達のボスを名乗るキースから命令を受けた。
「T2メモリを乗せたジェット機を襲いこのメモリを奪え....そして克己、お前が仮面ライダーになるんだ。」
そうしてキースからロストドライバーを渡される。
これに何の意味があるのか分からないまま俺は今も命令に従い続けている。
計画が成功すれば自由になれる....そんな淡い夢を抱きながら
屋上まで登ってきた克己は風都タワーを見る。
風車部分に26本のマキシマムのエネルギーが蓄積されているのが確認できた。
「良し、これだけのエネルギーがあれば問題ない。
俺自身がエネルギーを吸収し街に落とす。」
「そうはさせない!」
突如、聞こえてきた声の方向に顔を向けるとそこにはフィリップと翔太郎....そしてオリジナルの克己が立っていた。
「君は風都を混乱に突き落とす悪魔だ...ボクが止める!」
「笑わせるな...俺と同じ化け物に何が出来る?」
クローンはロストドライバーを付けるとメモリを起動する。
「ETERNAL」
「変身。」
クローンはエターナルへと変身が完了する。
「いや、今なら確信を持って言える。
ボクは化物なんかじゃない!
人の心を持たない君とは違う。」
「ボクは人間で....探偵で...そして仮面ライダーだ!」
フィリップの言葉に翔太郎がニヒルに付け足す。
「相棒、それを言うなら"僕達"がだろ?」
「あぁ、行くよ翔太郎!
それに大道克己、風都を守るために僕達に力を貸してくれ!」
「良いだろう。
風都は俺の故郷でもある。
さぁ、踊るぞ!悪魔と死神のパーティータイムだ!」
「CYCLONE,JOKER」
「ETERNAL」
「「「変身」」」
三人は掛け声と共にメモリを装填し展開すると仮面ライダーWサイクロンジョーカーと仮面ライダーエターナルへの変身が完了した。
Wはクローンに向けて言う。
『「さぁ、お前の罪を数えろ!」』
クローンは怒りを滲ませながら言う。
「生きることが罪なのなら、俺を殺して見せろ!」
Wとクローンが戦い始めるとそこにエターナルが介入する。
「クローンとは言えお前の罪は俺の罪でもある。
だからこそお前は俺が倒す。」
「ふざけるなよ!お前らさえいなければ俺達はぁ!」
エターナル同士が戦いを繰り広げている時、風都タワーに何者かが近付いてくる声がした。
「克己ちゃぁぁぁぁぁん!」
見ると鞭を使って器用にスイングしながら現れる京水の姿があった。
風都タワーに到着すると京水は地面に着地しようとするが突如バランスを崩して顔からコンクリートに落下してしまう。
「あん!、身体が痛すぎてバランスが取れないわね。」
『君はルナドーパントだった男か?』
フィリップの問いに京水が答える。
「あぁ、ソイツは私のクローンだった奴よ。
私はオリジナル...ここに来たのはWにこれを返すためよ。」
そうして京水はルナメモリを取り出した。
『それってボクのルナメモリ!
どうやって?』
「そりゃ、身体を"まさぐって見つけた"...」
『"まさぐる?"翔太郎!ボクの本体は一体何を....』
「兎に角!これは返すわね。
私達はこのタワーを離れるから貴方は克己ちゃんと心置きなく戦って頂戴ね。
それじゃあね!」
そう言うと京水は無理矢理立ち上がり、鞭を使って地面へと降りていくのだった。
『一体なんだったんだ.....』
「さぁな、でもルナメモリが返ってきたんだ。
克己の援護をするぞ。」
『そうだね翔太郎。』
フィリップはルナメモリを仕舞うと克己達の元へ向かうのだった。
二人のエターナルが専用武器であるエターナルエッジを使って戦っているところにWが乱入した。
サイクロンによる高速の回し蹴りがクローンに向けて放たれる。
それを片手でガードし反撃するがそれをエターナルがサポートして防ぐ。
ナイフを抑えられたクローンにWは"ヒートジョーカー"へメモリを変えると燃える右腕が突き刺さる。
クローンが後退った瞬間を狙いエターナルがWからヒートメモリを抜き取ると自分のマキシマムスロットに装填する。
「翔太郎....メモリを借りるぞ。」
「HEAT MAXIMUMDRIVE」
エターナルの右手が白熱すると後退したクローンに向かっていった。
クローンはエターナルの攻撃を回避するため飛び上がるがそこにルナジョーカーに変身したWの腕がクローンの足に絡まり地面に落とされる。
そこを狙い済ましてクローンの腹部にエターナルの拳が当たると爆発し上空に吹き飛ばされる。
「ドンドン行くぜ!」
サイクロンメタルに変身したWはメタルシャフトを取り出すと風の力で飛び上がりながらメタルシャフトでクローンに連撃を加える。
しかし、クローンもやられっぱなしではなくメタルシャフトを奪い空中からWを地面に蹴り落とした。
そこから追撃を行おうとするかエターナルによりそれを阻まれ、エターナルエッジとメタルシャフトの戦いが繰り広げられた。
お互いのリーチの差からエターナルは防戦一方だったがWが無理矢理近付きメタルシャフトを握る。
だが、その程度ではクローンに奪われたメタルシャフトは取り返せない。
「無駄なことを!」
「それはどうかな?」
エターナルがそう言うとWドライバーに借りていたヒートメモリを差し込む。
ヒートメタルに変身し強化された腕力と炎の力によりメタルシャフトをクローンから奪い返す。
そこからルナメタルに変身すると鞭の様に変形したメタルシャフトでクローンを打ちのめす。
「今だ行け克己!」
その言葉に従いエターナルがクローンに突っ込み攻撃を加える。
Wはルナトリガーに変身すると敵を追尾するトリガーマグナムの弾を使い、戦っているエターナルの隙間からクローンに弾を着弾させる。
ボロボロにされたクローンは片膝を付く。
だが、クローンは諦めていないようで持っていたエターナルエッジを振り上げるがそこにサイクロントリガーから狙撃を受けて落としてしまう。
そこで更にメモリを変更しヒートトリガーに変えると高威力の弾を受けて吹き飛ばされてしまう。
『もう諦めろ....君に勝ち目は無い。』
フィリップの説得にクローンは憤慨する。
「黙れ!ここで負けたら俺は何の為に......
認められるかぁぁぁぁ!」
「ZONE」
クローンのがゾーンメモリを起動してマキシマムスロットに差し込む。
すると、飛ばされたエターナルエッジと散らばっていたT2メモリがクローンの前に集まりメモリがクローンのマキシマムスロットに装填されていく。
「ACCEL,BIRD,CYCLONE,DUMMY,ETERNAL、FANG,GENE,HEAT,ICEAGE,JOKER,KEY,LUNA,METAL,NASCA,OCEAN,PUPPETEER,QUEEN,ROCKET,SKULL,TRIGGER,UNICORN,VIOLENCE,WEATHER,XTREME,YESTERDAY,ZONE」
「「「MAXIMUMDRIVE」」」
これにより風都タワーに蓄積されたエネルギーがクローンへと流れていく。
「メモリの数が違う....これで終わりだぁ!」
そう言ってクローンが蓄積したエネルギーを放とうとするとクローンの身体から"金色の炎"が溢れだす。
「何だ?どうなっているんだ?」
『クローンが苦しんでいるみたいだね。』
そんな話を翔太郎とフィリップがしているとクローンの動きが止まり話し始めた。
「漸く、メモリの力を取り込んだか....
全く、ここまで来るのにこれだけ時間がかかるとは、やはりクローンは所詮クローンと言う訳か。」
その声は何時もの克己の声では無く翔太郎とフィリップには聞いたことのない声だった。
「一体誰の声だ?」
翔太郎の問いに克己が答える。
「その声は....キース・アンダーソンか?」
「ほぅ....貴様と会った記憶はないと思うが?」
「無名からお前の情報をある程度貰っていたからな。
だが、どういうカラクリで俺のクローンから喋っているんだ?」
「そんな事よりももっと知るべきことがお前達にはある。」
そう言うと三人の前にデーモンドーパントになっている無名が現れる。
「どうやら、手遅れだったみたいですね。」
『君は、何故こんなところに?』
「キース・アンダーソンが我が組織の敵でしてね。
その粛清のために動いていたんですよ。」
『組織.....ミュージアムの事かい?』
「何故、その名前を?.....いや、キースから伝えられたのですね。」
「その通りだ....真実を知る権利は誰にでもある。
俺は親切心でそれを教えてやっただけだ。」
「まぁ、今はそんな事どうでも良い。
それよりも質問に答えてくれますか?
貴方が何をするのかを....」
「良いだろう....そして見ていると良い。
これが新たに世界の王となる私が使うに相応しい。」
「メモリだ。」
こう言うとクローンの身体に付けられていたマキシマムスロットに風都タワーに蓄積された全てのエネルギーが送り込まれると26本のメモリがゆっくりと塵に変わる。
その最中、エラー音の様にエターナルメモリが起動し続ける。
「ETERNAL,ETERNAL,ETERNAL,ETERNAL...」
そんな中、無名が黒炎を弓矢に変えるとクローンに向かって放った。
だが、その攻撃は金色の炎により阻まれてしまう。
「炎の力が強化されているのですか?」
「当然だ、26本のメモリの力を取り込んだ今のこの身体は何人たりとも傷つけることは出来ない。」
そんな中、頭を抑えて意識を取り戻したクローンが言った。
「これは....一体?
俺の身体に何をした!」
「分かっているだろう?
お前は私の作り出した"復讐の道具"だ。
まさか、本当に自由になれるとでも思っていたのか?」
「そんな.....だが俺は...エターナルを使える....」
「エターナルメモリを使って私を追い出そうと考えているのだろうがそれは不可能だ。
お前を作り出す時に私に逆らうことが出来ないように遺伝子にプロテクトを入れている。
お前が意識を取り戻したのも俺が許可を出したからだ。
道具にも神の生まれる瞬間ぐらい見せるのが礼儀だと思ったからな。
まぁ、メモリを作り出した瞬間、お前の精神エネルギーも消費されてしまうがな。」
「それって.....まさか!」
「そうだ..."お前の意識"もエネルギーに変わり私のメモリを作る糧になるんだ。」
「嫌だ.....嫌だ嫌だ嫌だ嫌だぁぁぁぁ!
消えたくない!消えたく....」
そこまで言うとエターナルの変身が解除される。そしてエターナルメモリも塵と変わると、クローンの体内からフェニックスメモリが現れて塵を吸収していく。
そして現れたのは純化されたメモリでありながら骨の造形があるドーパントメモリとガイアメモリの中間のような白いメモリだった。
そのメモリをキースの意識に乗っ取られたクローンの克己が手に取る。
「漸くだ....これで私は神になる。
もう、このドライバーも必要ない。」
クローンはロストドライバーを捨てるとメモリを起動した。
「
起動したメモリはクローンの胸にささると肉体を変異させていく。
クローンの身体が金色の炎により燃え広がると巨大な島へと姿を変える。
そして、島の両端に金属で出来た大きな両腕が出来て島の中心に生成された城が顔へと変形する。
城の顔が目を開けると既存のドーパントを超えたドーパントである"エデンドーパント"がその姿を現すのだった。
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第百三十一話 AtoZ/紫炎と黄金の風
で名前の意味合いは似ている。
お互い共に生きる希望や願いを力に変えている。
二つに決定的違いがあるとすればユートピアは概念的な力を使いエデンは理想郷その物が力を持ったものとなっている。
従って両者の強さは似ていながらも比にならない程かけ離れていた。
「何だあれは?本当にドーパントなのか?」
翔太郎の問いにフィリップが答える。
『恐らく過剰なエネルギーを供給された結果、それに比例するように肉体が巨大化したんだろう。
だが、それにしても大きすぎる。
これが26本のメモリを集めた力なのか。』
上空からエデンドーパントが二人のライダーとドーパントを見下ろしている。
そして、悠然と喋り出した。
「さぁ、見るが良い!これが神の力だ!」
エデンドーパントの胸から巨大な砲台が現れるとそこからビームが照射される。
「不味い!この攻撃を止めるぞ!」
克己はそう言うとエターナルメモリをマキシマムスロットに装填する。
「ETERNAL MAXIMUMDRIVE」
「俺の攻撃に合わせてあのビームを迎撃するんだ!」
『分かった翔太郎。
エクストリームメモリを使うよ。』
「分かったぜ相棒。」
Wは呼び出したエクストリームメモリをドライバーに装填する。
「XTREAM」
「CYCLONE,HEAT,LUNA,JOKER」
「BICKER FINALUSION」
Wとエターナルの持つ最大攻撃である必殺技を放たれるビームへと叩き込む。
エターナルから放たれた青色の斬撃は簡単にビームの中に飲み込まれ、その余波を喰らった克己は吹き飛ばされてしまう。
「ガハッ!」
「克己!」
そして、次にWの持つプリズムビッカーへと攻撃が当たる。
「グッ!....重い。」
『何て威力だ....プリズムビッカーのマキシマムでも抑えきれないなんて...』
余りの威力からWも吹き飛ばされそうになるがそれを気合いで耐える。
何故ならここでWが負けてしまったらビームは風都市民のいる場所へと当たってしまうことが分かっていたからだ。
エデンドーパントもそれを分かった上でこの位置を攻撃しているのだろう。
「ぐおおおおおおぁぁぁぁぁ!」
翔太郎が叫びながら無理矢理プリズムビッカーを上にかちあげた。
ビームが風都タワーの風車に辺り切断されて落下し始める。
そして、疲労困憊のWに向かってエデンドーパントは追撃のミサイルを放つ。
ミサイルが直撃するとWは風都タワーから落下した。
「翔太郎!フィリップ!」
克己が二人に向かって手を伸ばす。
「無駄だ、トドメを指してやる。」
「させるわけないでしょう!」
無名は勢い良く飛び上がると生成した槍を投擲する。
だが、通常サイズのドーパントなら致命傷の攻撃でも今のエデンドーパントのサイズは小さな島1つ分は軽くあった。
蚊に刺された程度のダメージしかないエデンドーパントはお返しとばかりにビームを乱射し無名を撃ち抜いた。
撃ち抜かれた無名とWは落下していく。
そんな最中、地面から何か声が聞こえてくる。
「仮面ライダー!」「頑張れー!」「負けるなぁ!」
「倒れないでぇ!」
それは風都市民が俺達仮面ライダーに向けて応援してくれる声だった。
その声が力となり風都に風を巻き起こす。
「フィリップ!風だ!風都の風が!」
『僕達に、力を!』
Wドライバーのエクスタイフーンがその風を吸収しWの中心部分であるクリスタルサーバーを金色に染め上げていく。
仮面ライダーW
その中、克己はからだが動かなくなり意識が段々と薄れ始めていた。
(酵素....切れ...か。
こんなところで俺は終わってしまうのか?)
そんな中、色んな人のことを思い出す。
(これは....そうか...走馬灯という奴か....)
浮かぶのは仲間の顔や母親の顔....そして克己にとって大事な存在であるミーナの顔だった。
(ミーナ....俺が死んだら、アイツはどうなる?)
風都に来る前にミーナと話した言葉を思い出す。
「克巳、約束して。必ず"生きて帰る"って」
「どうしたんだいきなり?」
「.....不安なの、いつか風のように消えてしまうのではないかと思っちゃって」
不安がるミーナを克己が優しく抱き締める。
「約束する....必ず生きてここに戻る。
それにデートする約束も果たしてないからな。」
克己の言葉にミーナは笑顔になる。
「そうね...約束破ったら許さないからね克己!」
(そうだ...俺はミーナと"約束"したんだ。
必ず生きて帰ると!
こんなところで死んでたまるか....俺にはまだ生きる理由がある!)
克己の生への感情の高まりに"ロストドライバー"が反応した。
ロストドライバーから"紫色の炎"が吹き上がる。
「こっ...れは!」
紫炎がエターナルの身体を包むと両手足が黒く変わりそこから紫色と青色の炎のグラデーションが入った紋章が続いていた。
両手を見るとエターナルの青い炎と紫色の炎が混ざり合い黒色に近い炎へと変わっていた。
そして、克己の身体に起きていたダメージが回復していくのを感じた。
「これなら、行ける!」
克己は飛び上がりWの隣に立った。
「克己!どうしたんだその姿は?」
「分からん...だがこの状態になってから力が沸き上がってくる。」
するとフィリップがエターナルを見て言った。
『これは....興味深いね。
翔太郎、君は彼のドライバーを使って変身したかい?』
「あぁ、ジョーカーメモリを使うために克己のドライバーを借りたが」
『恐らく、それが今彼に起きている状態を作り出したんだ。
ジョーカーメモリとの適合率が高い翔太郎がロストドライバーで変身した時にメモリのエネルギーがドライバーに残留していたんだ。
それが克己の変身するエターナルメモリと反応してエネルギーが融合した。
今の克己は僕達、Wと同じ状況になっている。
さしずめ仮面ライダー"エターナルジョーカー"と言った所か。』
「エターナルジョーカー、"永遠の切り札"か。
気に入った。
お前達も強化されているようだな。
今の俺達ならばあの
「そうだな。
じゃあ、行こうぜフィリップ!克己!」
そう言うとWとエターナルはエデンドーパントへ向かっていくのだった。
二人のライダーがエデンドーパントと戦っている最中、無名はビルに激突し部屋の中まで吹き飛ばされていた。
辺りの機材や窓ガラスや鏡が砕けて散乱している。
【随分と無様な姿だな?】
鏡に写る
「この展開も....貴方が望んだ事なんですか?」
【まさか、"想定以上"だよ。
キースが敵になる未来は何度かあったが、エデンメモリを作り出しドーパントになったのは初めて見た分岐だよ。】
「そうですか。
ならここからは貴方も知らない展開と言うことですね?」
【付け加えれば私はこの事態に介入する気は無いぞ?
お前との"融合"が果たせた以上....もう無駄なリスクを負う必要はない。
君が意識を失えば私がその身体の主導権を握る。】
【君が死なないのならば私は傍観者としていさせて貰う。
どうせエデンドーパントに君は勝てない。
そうだな....この前の答えでも】
「勝てないだと?....ふざけるなよ。
勝手に俺の中に現れて訳の分からない問題を出したり身体を乗っ取ったりした挙げ句、傍観者を決め込むなんて許すわけがないだろう。」
無名は痛む身体を無理矢理起こし鏡を睨み付けた。
【君に何が出来る?私に勝つつもりか?】
「今の僕では無理でしょうね。
貴方はこの世界の存在からしても異質の存在....いや特異な存在と言っても良い。
未だに貴方の存在も分かりません。
しかし、僕の身体を使って生きていることには代わりが無い。」
そう言うと無名はメモリを抜き砕けたガラスの破片を手に取ると首に当てた。
【何のつもりだ?】
「見ての通りですよ。
貴方は私と融合していると言った。
なら、ここで私が死ねば融合している貴方もただではすまない。」
【言った筈だ君が死ぬのなら私はこの世界に介入し...】
「だから"取引"ですよ。
僕の身体に勝手に住み着いたんです...."家賃"代わりに貴方の力を貸してください。」
【もし断ったら?】
「ここで死んでも良いですし、例え操られても僕が意識を取り戻したら直ぐに死ぬ行動をします。
この世界を見ていたい貴方にとってそれは望ましくない筈ですよね?
それでどうします?断りますか?」
無名の姿を見つめるゴエティアは一息置くと楽しそうに笑い出した。
【..ふふふっ...あっはっはっは!素晴らしい!
そう来なくちゃ面白くない!命令を聞くだけの犬の様な存在と対峙しても退屈なだけだ。
良いだろう!その取引を受けてやる。
それで....お前は私の何を欲しているんだ?】
「その前に確認です。
琉兵衛様が保管していたクリスタルサーバーは今何処に?」
【分かっているだろう?君の中だ。
今は君の身体と細胞レベルまで融合している。】
「つまり、原作のクレイドールエクストリームの様な状況というわけですか?」
【いいや、それよりも純度の高いクリスタルサーバーを使っての融合だ。
地球の本棚の力に干渉出来るレベルまで力を使うことが可能だ。】
「改めて聞くとデタラメな存在ですね貴方は...」
【誉め言葉として受け取っておこう。
それで取引の内容は?】
「僕にエクストリームの力を使わせてください。
エデンドーパントに勝つには二人のライダーだけでは不安が残ります。
貴方の力を使えるのならば逆転できる可能性が上がる。」
【構わないが....覚悟はできているのか?
人間の身体で地球の本棚に干渉し力を引き出せばそれなりの代償があるぞ?
下手すれば意識が地球の本棚に吸収される可能性もある。】
「それぐらいのデメリットなら甘んじて受けますよ。
僕はこの世界が好きなんです。
この世界と人を守るためなら、その程度のリスクは請け負いますよ。」
【良い覚悟だ、分かった。
君に"エクストリームの力"を与えよう。
その力で何をするかも君の自由だ無名。】
そう言うとゴエティアは鏡の中から姿を消した。
そこにはもう
無名は吹き飛ばされた穴に向かうとメモリを起動する。
「Demon」
ドライバーにメモリを装填しデーモンドーパントに変身するとゆっくりと胸に手を当てて言った。
「......"エクストリーム"。」
無名の言葉に反応するように胸からクリスタルサーバーが現れると肉体を変異させ、無名の意識は"地球の本棚"へと繋がった。
そこはフィリップのいた本棚と違い暗い書斎の様な空間で辺りには赤い表紙で覆われた本が並んでいた。
無名は本棚に手を置くと言った。
「Zone....起動。」
その瞬間、無名の前に赤い表紙でZONEと書かれた本が現れると本が開き力が無名に流れ込んできた。
「うっ!ぐぁぁぁぁぁ!」
自分の意識がZONEの記憶で塗り潰されそうになるのを
必死で耐える。
(これがっ....ゴエティアの言っていた代償ですか。
だけど!)
「負けるわけには行きません。」
そう言うと無名はZONEの力を起動しその姿を風都タワーまで転送させるのだった。
Another side
無名が出ていった空間に一人残った琉兵衛は辺りを見回す。
フェニックスメモリの力により幹部の殆どが戦闘不能に陥っていた。
その中で井坂深紅郎が起き上がった。
「井坂くん....起きたのかね?」
「えぇ、どうやらこの強化アダプターに救われたみたいです。」
そう言って井坂は黒い強化アダプターを触る。
井坂専用の強化アダプターはガイアメモリの毒素を増大させる代わりにメモリの出力を上げる能力がある。
つまり、常時身体にダメージを受け続けている状態だったのだ。
その為、フェニックスメモリの再生の炎が+に働き井坂は動くことが出来るようになっていた。
「丁度良い井坂くん。
倒れている他のみんなの診察を頼んでも良いかね?」
「それはキースの処分を私にはさせないと言うことですか?」
「いいや、奴なら仮面ライダーに倒される。
それよりも今は組織の建て直しが急務だ。
私は組織を...君には人を治して貰いたいそれだけだよ。」
井坂は琉兵衛の意見に少し疑いの目を向けたが直ぐに切り替えた。
「良いでしょう。
今は彼等の治療をすることの方が優先度が高そうです。
屋敷のスペースをお借りしますよ琉兵衛さん。」
「頼んだよ井坂くん。」
井坂が部屋を出ていくと琉兵衛は手に持ったテラーメモリを見つめながら呟いた。
「これも君の計画通りなのかい?」
「"ゴエティア"。」
琉兵衛の問いに誰も答える者はいない。
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第百三十二話 AtoZ/激戦
キースはこの状況を正しく理解できないでいた。
エデンドーパントになった自分は無敵だと思っていた。
何故ならミュージアムへの復讐のためにこれまでメモリを研究し、ユートピアにも勝つことの出来るメモリを生み出す計画の完成形がこのエデンメモリだったのだ。
自分自身が強大な理想郷となり世界を支配する。
このメモリの力を知ったキースはその考えに疑いをもつことはなかった。
現にWとエターナル....そして無名はキースの一撃により戦闘不能になっていた筈だった。
それが今やWとエターナルは謎の強化をされエデンドーパントの周りを飛び回り攻撃を仕掛けている。
Wは背中に現れた六枚の羽を使い空を飛び、エターナルは両手足から紫の炎を放出し空を飛び上がっていた。
そうしてWはプリズムソードでエターナルはエターナルエッジに炎を纏わせてエデンドーパントに攻撃を加えていく。
「こんな事が....あってたまるかぁぁ!」
エデンドーパントは島の底部に無数の砲台を作り出すとそこからビームを無差別に放出した。
「野郎、見境なしかよ!」
『底部の砲台を破壊しよう翔太郎!』
フィリップの言葉に従い砲台をプリズムソードで飛びながら切り裂いていく。
「許さん!許さん許さん許さーーん!」
エデンドーパントの身体から更に砲台が出現するとWを狙い砲撃が行われる。
Wはこれを回避しながら底部の砲台を破壊しようとする。
エターナルはWを援護するように炎を纏わせたエターナルエッジを砲台に振るい破壊していく。
だが、砲台を破壊することよりもエデンドーパントの生成の方が早く生成された砲台からの攻撃により二人は劣勢に追いやられた。
「くっ!数が多すぎる!」
克己がそう言って砲台からの攻撃を迎撃していると砲撃が止みエデンドーパントが急に爆発した。
「何が起こったんだ?」
すると、二人の前にデーモンドーパントが姿を現した。
しかし、疲弊しているのか肩で息をしている。
「ハァハァハァ....何とか間に合いましたね。」
「無名、お前その姿は?」
「今はそんな事よりも目の前の敵に集中しましょう。
砲撃は僕が抑えますので二人は本体に攻撃を」
「....分かった行こうぜ。
フィリップ、克己。」
『あっ....あぁ』
「分かった。」
そう言うと二人は空を飛びエデンドーパントへと向かっていく。
エデンドーパントも迎撃しようと砲台を起動する。
「Zone..起動。」
無名が手を向けると砲台から発射されたビームが姿を消しエデンドーパントの頭上から降り注いだ。
しかし、それと同時に無名の身体に負荷がかかる。
精神が削り取られる様な痛みを味わう。
「やはり...そう何度も使える力じゃありませんか。
なら、圧倒的な一撃でキースを倒せるチャンスを作るしかありませんね。」
「Magma,Heat....起動。」
1つのメモリの力を使うだけでもかなりの負荷がかかるが無名はここで決めるために二本のメモリを起動した。
「ぐぁぁぁぁぁ!」
クリスタルサーバーをかきむしるようにしながら無名は地面に倒れそうになるのを気合いで止める。
「まっ...だだぁ!」
無名が上空に指を向けるとマグマと炎で覆われた大型の火球を作り出した。
それはドンドンと大きくなり、無名の身長を超えたところで大きくするのを止めて、そこに黒炎を流し込む。
太陽の様に光っていた火球は黒く染まり禍々しい黒き太陽へと変わる。
それをエデンドーパントへ放つと、無名のドライバーからメモリが排出され人間の姿に戻り、倒れるのだった。
放たれた黒炎の火球は速度をあげてエデンドーパントへ向かっていく。
それに気づいたエデンドーパントは最大火力のビームを火球に向けて放つが、黒炎はそのエネルギーすら飲み込み巨大化するとエデンドーパントに激突した。
エデンドーパントに当たった火球は爆発すると内部のマグマが流れ出る。
黒炎を吸収しその特性を持った黒いマグマがエデンドーパントの身体を蝕み全ての動きが止まる。
『今だ翔太郎!メモリブレイクだ!』
「分かった!だがこんなデカブツ本当にメモリブレイクできんのか?」
『通常のマキシマムでは不可能だ。
だが、エクストリームの能力を最大限発動したツインマキシマムなら可能だ。』
「けど、ツインマキシマムは今の俺達で発動できるのかよ?」
『だからこそ、大道克己、君にもマキシマムを使って貰いお互いのエネルギーを使って暴走を抑制しつつ放つんだ。
だが、これをするには"お互いのマキシマムのエネルギーが同量"である必要がある...つまり』
「俺もツインマキシマムとやらをやる必要があるわけだな?
良いだろう.....翔太郎、ジョーカーメモリを貸してくれ。
"エターナルとジョーカー"のツインマキシマムを使う。」
『それなら、僕らの"プリズムとエクストリーム"のマキシマムとも張り合える。
良いねそれで行こう!』
「なら、名前も決めようぜ!必殺技にはお互いの息を合わせる必要があるから...こんな風なのはどうだ?」
二人は翔太郎のアイデアを聞いた。
『名前は君の好きにしたまえ...大道克己、君はどうだ?』
「俺もフィリップと同意見だ。
それで構わん。」
「じゃあ、行こうか!」
「PRISM MAXIMUMDRIVE」
Wがマキシマムスロットにプリズムメモリを装填するとドライバーを閉じて再度展開する。
「XTREAM MAXIMUMDRIVE」
エターナルはWから受け取ったジョーカーメモリをマキシマムスロットに装填した。
「JOKER MAXIMUMDRIVE」
そしてエターナルエッジを取り出すとドライバーからエターナルメモリを抜き装填する。
「ETERNAL MAXIMUMDRIVE」
Wのドライバーから黄金の風が吹き出すとWを飲み込み飛び上がる。
エターナルは右足に紫の炎、左足に青色の炎が集まると両手の炎を使い空に飛び上がった。
二人が必殺のキックの体勢を取ると叫んだ。
『「ダブルゴールドプリズムエクストリーム!」』
「ネバーエンディングジョーカー!」
二人から放たれた必殺キックがエデンドーパントに直撃する。火花を散らすエデンドーパントに二人は蹴りを加えながら回転しドリルの様に身体を抉っていった。
そうして二人の攻撃がエデンメモリへと到達する。
「まだまだぁーー!」
「行けぇぇぇ!」
メモリに到達しても完全に破壊するまで攻撃を続けていた二人の猛攻にメモリが限界を向かえる。
「ばっ...バカな!こんな事が!...お前達は一体何なんだぁ!」
キースの問いにライダーは答えた。
『風都を守る人間で』「そして探偵で」
「『「仮面ライダーだ!!!」』」
「ぐあぁぁぁぁぁぁ!」
エデンドーパントは大爆発を起こすと融合していたメモリが解除されてT2メモリが元の形に復元されると飛び散った。
これがW単体のマキシマムならこれで終わりだったがエターナルが協力したことによりそれでもメモリは負荷かかり飛び散った先からメモリが壊れて爆発していく。
それはまるで辺り一面の空に花火が起こっているような程、幻想的な光景だった。
その光景を見ていた亜樹子の前に市民を守るために動いていた照井が現れる。
「所長、とんだ1日だったが....一緒に花火を見れそうだな。」
「そうだね....竜くん。」
二人は誰にも見られないように静かに手を繋ぐのだった。
そんな中、フェニックスメモリがビルへと落下すると、そこに加頭が現れる。
「やはり、負けましたか。
途中までは上手く行っていたようですが....流石は仮面ライダーと言った所ですかね。」
加頭はドライバーを腰に付けるとメモリを起動する。
「Utopia」
ユートピアドーパントに変身した加頭はフェニックスメモリを手に取るとエネルギーを加える。
すると、メモリからキースの声が聞こえてくる。
「!?....ここは」
「お目覚めですか?キース・アンダーソン。」
「貴様はっ!」
「全く、貴方のせいで財団は大変な損害を被りましたよ。
メモリとドライバーの強奪だけならまだしもミュージアムの本拠地である風都を襲うだなんて....お陰でこの後の尻拭いが大変ですよ。」
「黙れっ!お前が...お前達が俺の邪魔さえしなければ!」
「しかし、フェニックスメモリを処分してくれたのは有り難く思っていますよ。
あのメモリは危険な"欠陥"がありましたから」
「欠陥だと?」
「えぇ、再生の力を持った炎を操り自らも炎になることで不死身に近い能力を得られるこのメモリですが....長時間使用すると再生の炎に意識まで回復されて自分の存在すら忘れてしまい最後には炎その物になってしまうんですよ。
だからこそ、財団でもこのメモリを使うことが出来ず保管するしかなかった。」
「しかし、このメモリには一種の洗脳効果がありまして、適合する人間を強制的に引き付けてしまうんです。
しかも、再生の力のせいでメモリブレイクすら出来ない。
厄介な品物でした。」
「だが、貴方がこのメモリを使い別のメモリと融合させた事でその力が弱まったんです。
今なら簡単にメモリを壊せます。」
「そんな....バカなっ!」
「まぁ、最後ですから教えてあげますが"財団は貴方の裏切りを予期"していました。
ですから、この際不要な存在や物を在庫処分しようと本部が決定したのです。
貴方が殺した財団の幹部も裏切りの疑いがある男でしたし、ジェット機で護衛を任せていた部下も元々処分する筈だった人物を使ったんです。
予想外だったのはNEVERのクローンを作りメモリを産み出したこと」
「だが、そのデータも手に入れる事が出来ました。
これで財団は更に発展するでしょう。
せめてもの温情として慈悲を持って貴方を始末するように言われていますが....」
「貴方は冴子さんに危害を加えた....これは許せることではない。
ですのでこれは私なりの復讐です。」
そう言うと加頭はゆっくりとフェニックスメモリを握りつぶしていった。
パーツの一つ一つに亀裂が入り火花を散らすと加頭の手の中で爆発した。
その砕けた残骸を袋にしまいアタッシュケースに詰めるとその場を後にする。
こうして風都最大の事件は幕を閉じたのだった。
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第百三十三話 AtoZ/死人の忠告
エデンドーパントを倒したWとエターナルは半壊した風都タワーの上に佇んでいた。
Wが変身解除するとその場に翔太郎とフィリップが現れる。
そしてエターナルの着けていたドライバーから火花が出ると変身解除された。
そしてロストドライバーが落下する。
「どうやら、今度はドライバーがもたなかった様だな。」
そんな事を言っていると克己の懐から振動が起こる。
携帯から着信があったようで取って話を始めた。
「俺だ....そうだ決着は着けた....!?本当か!分かったありがとう。」
そうして電話を切ると克己がフィリップ達に言った。
「お袋の容体が安定したらしい。
取り敢えず峠は越えたそうだ。」
「マリアさんが....良かった。」
克己の言葉を聞くと今度はフィリップが話し始める。
「君には謝罪しなければならない.....
冷静さを欠いた僕の行動がマリアさんの命を奪いかけた。
君から実の母親を奪うところだった。
本当に申し訳ない。」
そう言って頭を下げるフィリップの肩に克己が手を置く。
「お前に協力する判断を下したのはお袋だ。
お袋もきっと後悔してないと言った筈だ。
....お前の"大切な者"は救えたのか?」
「まだ分からない。
でも僕は仮面ライダーだ.....敵だとしても命は救いたい。
今言えるのはそれだけだ。」
「まぁ、最初の不甲斐ない姿から考えれば上出来だ。
頑張れよ....」
そう言うと克己はフィリップに握手を求める。
フィリップが応じて手を繋ぐと克己に引き寄せられ耳元で何か言われた。
その後直ぐにフィリップを離した。
何だが分からない顔をしながらも翔太郎は克己に尋ねる。
「これからどうするんだ克己?
このまま風都にいるのか?」
翔太郎の問いに克己が答える。
「それも悪くないが俺達の事は風都に"悪い意味"で知れ渡ってる。
例えクローンが起こした事件でも世間はそう見ないだろう?」
克己の言う通り、風都タワーが占拠された後のニュースで大道 克己やNEVERの面々が犯人だと放送されていた。
「俺は、
「......そっか、まぁ頑張れよ。」
「お前もな翔太郎。」
そう言って立ち去ろうとすると不意に止まり二人に向き直る。
「俺の故郷をよろしく頼むぞ仮面ライダー。」
そう言うと克己は去っていった。
その場に翔太郎とフィリップしかいなくなると両者とも糸が切れた様に地面に座り込んだ。
「ハァハァ....こりゃ暫く探偵業は休みだな。」
「やっぱり、そっちもダメージが残っていたようだね翔太郎。」
お互いに限界に近い状態での連戦やツインマキシマムの使用でもう指一本ですら動かせない程の疲労が蓄積されていた。
しかし、二人の顔は晴れやかだった。
風都タワーは壊れてしまったが街と市民は守り抜いた。
二人は笑顔のまま風都タワーで少し身体を休めるのだった。
琉兵衛がキースとの戦いで無事だった部屋に入り事態の終息を行っていた。
冴子や他幹部が目覚めたことで現在、ミュージアムの立て直しは迅速に進んでいた。
若菜が救出されてから浮かない顔を続けているが命に別状はなかった。
現段階やることを終えた琉兵衛は師上院のドライバーを見つめながら考え事をしていた。
師上院は琉兵衛が若い頃から仕えてくれた執事であり、ミュージアムと言う組織を作る上でも彼の尽力は蔑ろに出来るものではなかった。
ワードメモリによる"契約"の力でこれまで組織に有益な結果を残してくれた。
だが、キースにより殺害されその時にメモリも一緒に砕けてしまった。
これが何を意味するのか琉兵衛には良く分かっていた。
(ワードメモリが破壊された事でこれまでの契約は白紙状態に戻された。
三人の幹部との契約もそうだが他にも複数の契約をしている者も沢山いる。
もし、契約が無くなったとそいつらが知ったらどんな行動を起こすのか分かったものでは無い。)
その中でも今もっとも危険視しているのは無名.....いや"ゴエティア"の存在だろう。
(一度確認しなくてはならない。
敵ならば容赦はしないが味方ならば利用価値は大いにある。)
そう決定付けると琉兵衛は無名に連絡を図った。
無名は直ぐに琉兵衛の連絡に出た。
「琉兵衛様....無名です。」
「今君は何処にいるのかね?」
「今はNEVERと共に孤島へ帰還している最中です。」
「そうか....実は二人だけで話をしたくてね。
時間を空けてくれないかね?」
「そうですか.....実は"私"とNEVERのメンバーは今回の件でダメージをかなり負ってしまい、その回復が必要になり孤島に戻ろうとしたのです。
ですからお会いするにしても時間を要してしまうと思いますが......」
「構わないよ。
私は君と話したくて連絡したんだからね。」
「"ゴエティア"。」
「.....一体何の事で」
「惚けなくて良い君が無名でないことは最初に話した時に分かっていた。
それにこれは私と君二人だけの会話だ。
何も取り繕う必要はないよ。」
琉兵衛がそう言うと電話越しの無名の口調が変わった。
「....貴方の記憶は何度も書き換えた筈だ。
私の事を覚えていることなどあり得ない。
一体何をしたんだ?園咲琉兵衛。」
「随分と焦っているようだなゴエティア。
そんなに私にお前の記憶があることが困ることなのか?」
「....まぁ良い。
私と話がしたいとさっき言っていたが話なら今ここで済ませたらどうだ?
二人しか聞いていないのならそれで問題ないだろう。」
「そんな面白くないことは出来ないな。
漸く、君と"対面"出来るんだ。
それなりの礼節を持って接するべきだろう?」
「我々よりも遥か上の"上位種だった君達"に対しては...」
「どうやら、本当に全て知っているらしいな。
目的はなんだ?
私を消すつもりか?」
「その事も含めて話そうじゃないか。
お互いに疑問が解決していない。
それを解消する必要がある.....違うかい?」
「成る程、最もな言い分だ。
だが、この入れ物は先の戦いでかなりダメージを負っている。
暫くは回復に専念しなければ動くことも出来ない。」
「そうか、なら動ける様になったら会おうじゃないか。
それまでこの話は我々二人だけの秘密だ。
勿論、無名にもね。」
「良いだろう。
その方が私としても都合が良い。」
「では、ゴエティア....次会う日も楽しみにしているよ。」
そう言うと電話を切った。
さぁ、賽は投げられた。
私は自分の目的を達成するためなら悪魔とでも手を組む覚悟がある。
だが、相手は何度も私を絶望に落とした存在だ....油断は出来ない。
先ずは....無名の持つ選択肢を減らそうか。
そうすればゴエティアは自分で動かざるを得なくなる。
それに無名自身からもどうしたいのか聞かなくてはな。
彼は私の大切な部下だ。
例え"悪魔が同居"していてもその価値は計り知れない。
「悪いが、今度は私が"勝たせて"貰うぞ。」
琉兵衛は先程と違い不敵な笑みを浮かべながら椅子に深く座り込むのだった。
Another side
無名がNEVERドライバーを取りに来た隠れ家の地面から一本の金色のメモリが勝手に動きだし空中で制止するとメモリが起動された。
「
すると、メモリが炎に包まれて人の形を為すと炎が収まり"シュラウド"が中から現れた。
しかし、シュラウドは倒れる身体を壁にもたれ掛かり抑える。
「ハァハァハァ、まさか私のメモリが機能停止するなんて....油断していたわ。」
"ネメシスメモリ"はシュラウド....園咲文音が使用していたガイアメモリだった。
そして、その真価は奇しくも園咲琉兵衛から恐怖のエネルギーを注ぎ込まれた事で発揮した。
恐怖その物が人を飲み込むテラーメモリの力はどんな人間でも悲惨な末路を与えられる。
だが、ネメシスメモリを使っていた文音は体内に蓄積された恐怖のエネルギーを利用し肉体を別物質に変換させて消え行く命を延命させていたのだ。
その代償として彼女は2つの大きな欠点を負った。
一つ目は体内に恐怖のエネルギーを蓄えるため身体に蠢く黒い模様が残ってしまった。
だからこそ、シュラウドになる際それを見られないように顔に包帯を着けて全身黒づくめの格好になった。
もう一つがメモリに常に使用者がエネルギーを与えること.....
そうしてネメシスメモリが欲したエネルギーこそシュラウドの根幹をなす"復讐心"だった。
シュラウドが復讐に拘るもう一つの理由が自分の命の延命でもあったのだ。
そんなシュラウドも今回の一件では肝を冷やした。
エターナルメモリのマキシマムはネメシスメモリの稼働すら停止させてしまったのだ。
シュラウドは自分の命が消える刹那にメモリに自分の肉体を移していたから助かったのだ。
シュラウドは近くの机に両手で体重を支えると周りを確認した。
誰か来た跡がありドライバーを入れていたアタッシュケースが無くなっていた。
(これは....無名ね。
あのドライバーを持っていったと言うことは使い道があったのかしら)
シュラウドは椅子に腰かけると身体を休めメモリの力が身体に浸透するのを待っていく。
「それにしても一体どうやればここまで根回しが出来るのかしら?
まるで"未来を知っていなければ"説明がつかないことばかりやる子ね。」
少し落ち着いていたシュラウドは机の中に仕舞われていた3つの書類を取り出した。
両方とも無名が提案してきた計画がかかれている。
其々に使用するメモリや人物に由来する名前が書かれていた。
表紙には「ACCEL」「DEMON」「NEMESIS」と書かれている。
3つとも中身を見ていたシュラウドは一人考える。
本当にこれを実行するべきなのかと
(無名の言う通りならこれらをやることには意味がある事は分かる。
でも、それで本当に上手くいく保証はない。
そもそも何故ここまで無名が先を読めるのかが論理的に説明できない。)
「少し、調べる必要があるかしら」
そう言うとシュラウドはラビットソフトからメモリを抜きパソコンの状態にする。
ラビットソフトには面白い能力があり、シュラウドが作り出したメモリガジェットが見ていた映像を保存する機能がある。
これを使い、この事件の最中に起動していたガジェットの映像を確かめる。
そこでシュラウドはデーモンエクストリームの映像を見つけて戦慄を覚えるのだった。
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本編再開
第百三十四話 見つめるZ/新たな依頼人
大道克己のクローンによる風都タワーでのテロが終わると街は元の活気を取り戻しつつあった。
壊された風都タワーも着々と修理が進んでいた。
順風満帆に思えたこのタイミングで翔太郎は風邪を引いてしまった。
しかも、バイラスドーパントの時みたいな本格的な風邪になってしまったのだ。
「ブァクション!」
「はぁ、大丈夫かい翔太郎?」
「ズビーッ!...あぁ、面目ねぇ。」
そんな翔太郎を見た亜樹子が呆れながら言う。
「全く、風都タワーの事件を解決して気が抜けたんじゃないの?」
「そうかもしんねぇな。」
「でも、こんな状況じゃ仕事所ではではないね今日は休みだって伝えないと....」
そんな話をしていると事務所の扉が開き一人の女性が入ってきた。
「あの.....すいませんここは鳴海荘吉探偵事務所で間違いありませんか?」
入ってきた女性、
彼女曰く、高名な探偵である鳴海荘吉の後継者である左翔太郎の噂を聞きつけて依頼をしに来たらしい。
禅空寺の名前を聞いた亜樹子は思い出したように言った。
「禅空寺って....もしかしてZENONリゾートを経営している禅空寺家の事?」
「はい、一応は」
肯定の言葉を聞いた亜樹子はとても驚く。
園咲家程でないにしろ風都海岸一帯の土地を所有している富豪の一族だったからだ。
鳴海荘吉の後継者の噂を聞いて来てくれた依頼人に今のゾンビのような表情をしている翔太郎を見せるのを不憫だと考えたフィリップは一つ芝居を打つのだった。
フィリップは香澄に向かって言った。
「僕が"左 翔太郎"だ。」と......
フィリップ達が依頼を受けている時、照井は新田当麻の残した手帳からとあるオークション会場の情報を手に入れていた。
照井はいつもと違い黒のスーツに身を包むとその会場となる喫茶店に向かう。
喫茶店につくと中に通されウェイターが注文を取りに来た。
「"コーヒー"一つ....付け合わせに何か"刺激的"な物を貰おうか?」
そう言うとウェイターの表情が変わる。
「お客様、当店にそう言った物はございませんが...」
「あるだろう?取って置きの一品が...俺はそれが欲しいんだ。」
「承知致しました。
では、こちらに....」
そう言うとウェイターは照井を喫茶店の地下へと案内した。
地下にある食材の冷蔵室の扉を開けて奥にある電子ロックの扉にウェイターがカードを通すと扉が開いた。
中はとても暗く何も見えなかった。
「こちらをお持ちになって真っ直ぐ歩いてください。
少しすれば目的の場所に着きますので」
そう言ってウェイターに渡されたライトを片手に照井は歩いていった。
照井は周りを照らしながら辺りを確認する。
(ここは....地下鉄の路線か?
確か風都には使われなくなった地下鉄の駅が複数あると聞いたことがある....まさかここを使っているとはな。)
そうして探していると遠くに一つの明かりを見つけた。
少しすると黒服にピエロの様なマスクを着けた者達が照井を囲んだ。
「ようこそ、いらっしゃいました。
招待状を拝見しても宜しいでしょうか?」
そう言われた照井は懐からガイアメモリを取り出して見せた。
そのイニシャルを見た黒服がタブレットで何かを確認する。
「I...."Injury"のメモリですね?
ようこそお越しくださいました。
さぁ、どうぞ中へもうオークションは始まっていますよ。」
そう言うと黒服は招待客用のマスクを照井に渡した。
照井はそれを着けると中に入っていく。
(予めフィリップに検索を頼んでおいて良かった。)
ここに潜入するに辺りある程度の事はフィリップに検索して貰っていたのだ。
喫茶店での合言葉や入るのにメモリを見せる必要があることもフィリップが調べあげてくれた情報だった。
ついでに言えば照井が見せた"インジャリーメモリ"はガワだけ似せた偽物であった。
中にはいるとそこは劇場の様に改装された空間で会場には舞台にはオークションを指揮しているであろう人物を見つけることが出来た。
「では次の商品についての紹介です。」
そう言うと複数のメモリが台に乗って舞台に運ばれてきた。
「"ナイトタイム"様より新造のガイアメモリ五点です。
右から"ゴム" "ラプター" "ロード" "クラウド" "コンパス"となっております。
どれもまだミュージアムでも販売されていないレアリティの高いメモリとなっています。
最低購入価格は"1000万"からです。
それではどうぞ。」
そう言うと舞台の後ろから画面が出て来てそこにメモリの名前と下に金額が表示されたそれがドンドンと上がっていく。
(成る程、会場の客が手元の機械でオークションを行っているのか。)
照井が彼らを見ながらそう考えているととある人物に声をかけられた。
「失礼....良かったら隣で見ませんかな?」
「貴方は?」
「ここでは"コレクター"の名で通っています。
それよりもそこで立たれると他のお客の迷惑になります。
どうぞこちらに....」
コレクターと名乗る人物が自分の隣の席を指し示す。
照井はこの雰囲気に溶け込むためにもコレクターの横に座った。
「このオークションに来るのは始めてですか?」
「どうしてそう思ったんだ?」
「このオークションに一度でも来たことがある人物ならオークションの落札には席に取り付けられたこの端末を操作しなければいけないことは分かっています。
それなのに貴方は着いてから壁にもたれ掛かり見ていた。
それだけでオークションに来たことが無いのは丸分かりですよ。」
照井はコレクターに合わせるように話をした。
「実はそうなんです。
ここに来るのは始めてで......
良ければこのオークションについてお聞きしても宜しいですか?」
「えぇ、勿論。
お仲間は大歓迎ですから.....
では先ずこのオークションは通常では手に入らない裏の物を専門で扱う場所です。
薬物や重火器、奴隷や戸籍、そしてガイアメモリが主に売り出されますね。
欲しい物を見つけたら手元の端末を操作して金額を提示していく。
そこから先は普通のオークションと変わりません。
普通と違うことがあるとすれば、2つですね。」
「2つですか?」
「えぇ、1つ目は今回のオークションで最も金を使った者には特典があるんですよ。
"ナイトタイム"が直々に開催するパーティーへの招待状。
これを手にすることが財界人のステータスともなるぐらいには貴重な品物となっている。
だからこそ、このオークションには売れ残りは存在しない。
皆、買っていくんですよ招待状を手に入れるためにね。」
「実に興味深い話ですね。
コレクターさんもその招待状は持っているんですか?」
「えぇ、と言うより私はナイトタイムから直々に招待を受けているので手に入れる必要がそもそも無いんですがね。」
そんな話をしていると今行われている五本のメモリのオークションが佳境に入っていた。
最初の爆発的な金額の上昇が無くなり細かく上がることが増え始めていた。
「そろそろ落札されそうですね。」
そう言うとコレクターが溜め息をついた。
「全くみっともない。
こんな少額でチビチビと上げてオークションに勝利しよう等とは.....」
コレクターは少額と言うがもうメモリの値段は一本、"1億程度"には膨れ上がっていた。
「少額ですか?
私にはかなりの額に膨れ上がっていると思うのですが...」
「額の問題ではありませんよ。
本当に欲しい物なら相手を蹴落として力を見せつけて奪い取る事が必要なんですよ。」
「こんな風にね。」
そう言うと画面の額が一気に"二十億"まで引き上がり会場がざわついた。
そして、会場の者が諦めて落札を降りた結果、メモリ五本は落札された。
「素晴らしい!五本のメモリを一本二十億で落札です。
今回の落札者は....やはりこの方でしたか。
コレクター様、おめでとうございます。」
会場からコレクターに対する拍手が起こりコレクターはそれに一礼で返した。
「それでは本日のオークションはこれで終了致します。
最後に、本オークションで最も取引額の多かった人物の発表を行います。
それは.....コレクター様!
総合計"258億7800万"となります。
おめでとうございます!
これによりコレクター様にはナイトタイムが開催するパーティーへの招待状をお送り致します。
さぁ、どうぞ舞台の方へお越しください!」
そう言われてコレクターは舞台へと向かう。
その隙を見て照井は腕時計を触り何かの装置を作動させるのだった。
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第百三十五話 見つめるZ/リベンジゲーム
コレクターが舞台へ呼ばれた時に作動させた腕時計の装置はフィリップ特製の発信器でありこれで居場所を警察の特殊部隊へと送信していた。
照井はこのオークションに参加しているメンバーを摘発するために潜入捜査を行っていたのだ。
腕時計の装置がちゃんと作動しているのを確認するとコレクターを祝う演技をした。
そこにコレクターが一枚のチケットを持って帰って来た。
「素晴らしい、正に格の違いを見せつけましたね。」
「ありがとう.....そうだこれも何かの縁だ。
このチケットは君に上げよう。」
「宜しいんですか?」
「勿論、私はもうチケットを持ってるし正直、君の事は気に入った。
パーティ当日に会うのを楽しみにしているよ。」
そう言ってコレクターは照井にチケットを渡すと会場から出ようとする。
「もう帰られるのですか?」
「あぁ、目的だったメモリも競り落とせたしここから先の"余興"には興味がないのでね。
君と話せて楽しかったよ。」
「あの"お方"に復讐の炎を燃やし続ける仮面ライダーである君とね......」
「なっ!何故....」
「では失礼。」
そう言うとコレクターはその場を後にし照井は彼を追いかけようとするがその前に背後から起こった割れんばかりの拍手に目を向けた。
「それでは本日のメインイベントである"リベンジゲーム"を始めましょう!」
(リベンジゲーム?)
「ルールはシンプルです。
これからこの会場に復讐する者とされる者が現れます。
復讐される者には大会から武器が支給されていますが復讐する者は何も持っていません。
このままでは敗北は必須ですので皆様が復讐する者に武器を提供してください。
その後、両者のどちらかが死ぬまで戦うゲームです。
では、デモンストレーションとしてナイトタイムが用意したゲームをご覧下さい。」
そう言うとボロボロの服を着た少女とまるで特殊部隊の様なアーマーを着た男が現れた。
「彼は元々教会で働く神父でした。
しかし、彼には苦しむ子供の顔を見ることで興奮する性癖があったのです。
そんな彼の毒牙にかかり何人もの孤児が命を落としました。
さぁ、何か弁明はありますか?」
その問いにアーマーを纏った男は挙動不審になりながら答える。
「わっ....私は悪くない!あれは全て合意の上だったんだ。
それに全ては神の思し召しだ。
彼らが死んだのは天命だったんだ!」
悪びれもなく言う男にボロボロの服を着た少女は怒りの目を向ける。
「ふざけるな!お前は笑いながら私たちが死ぬのを眺めていたじゃないか!」
「彼女はその孤児院の唯一の生き残りです。
孤児院で殺人事件が起きたお陰で助かったのです。」
「助かってない!.....私も人殺しだ。
神父の犯した殺人は全て事故として処理された!
そんな状況で仲間を助けるためにはここで事件が起こる必要があった.....だから」
「彼女は孤児院から自分と仲間を抜け出させるために共謀していた友達を殺しました。
その事に弁明は?」
「無い....例えどんな理由でも人を殺したことには変わり無い。」
そう言う少女を神父は弾圧した。
「何て穢れた魂をしているんだお前は!
恥を知りなさい!」
そう言って詰め寄ろうとする神父を司会の男が取り抑えた。
「貴方はこのゲームの大事な駒なんです。
勝手な行動は謹んで貰いましょう。
では、このリベンジゲームで復讐を望む少女にナイトタイムが与えた武器は....こちらです。」
そう言うと一本のガイアメモリが少女に渡された。
それを見た神父が激怒する。
「なっ!こんなの不公平だ!私がこのアーマーと銃なのに何故この餓鬼がガイアメモリを....」
「貴方の言い分を借りるならこれも神の思し召しと言うことですね。」
少女はメモリを起動する。
「
そしてメモリを腕に挿し込むとメモリが身体に吸収され少女はリボンドーパントへと姿を変えた。
その姿を見た司会者が皆に告げた。
「さぁ、それではリベンジゲームスタートです!」
「うっ....うわぁぁぁぁぁ!」
神父は叫びながらリボンドーパントへ銃を放った。
弾は全弾リボンドーパントへ命中し火花が出るがダメージは無かった。
リボンドーパントは放たれた銃弾を掴むと背中のボビンが回転しきらびやかなリボンが展開した。
「リボンドーパントには触れた物質の"性質"を持ったリボンを作り出す力があります。
それを使えばこのような戦い方も出来る訳です。」
司会の解説と共にリボンドーパントは生成したリボンでアーマーを着けた神父を攻撃した。
神父の着けていたアーマーがいとも簡単に切断される。
「ひぃ!」
だが、神父の身体に傷はなかった。
「こんなものじゃ終わらせない。」
リボンドーパントはそう言うと神父の両手足にリボンを結び付ける。
銃弾を掴み金属の特性を得たリボンの一つを勢い良く引くと神父の右腕が螺旋状に切断された。
「ぐぎやぁぁぁぁ!」
神父は絶叫し右腕のあった場所を抑える。
(遅い!.....このままではあの男が殺されてしまう。)
特殊部隊の突入を待っていた照井は痺れを切らし舞台に躍り出る。
それを司会者が止めた。
「お客様、その様なイベントへの参加は厳禁ですよ。」
「ふざけるな、早くあの少女と止めろ。
このままだと本気で殺してしまうぞ。」
そう照井が忠告するが司会者は全く意に返そうとしない。
「寧ろ、それが目的ですよ。
あの場で説明したことは全て真実です。
この復讐も彼女が望んだことです。
警察に行っても相手にされず、神父の罪を暴けずただ自分が人殺しとしてでしか生きることの許されなかった彼女が最後に手に入れたチャンスです。
それを奪う権利は貴方にはありませんよ。」
「いくら、貴方が"仮面ライダー"でもね。」
「....知っているのなら話は早い。」
そう言うと照井は隠していたドライバーを装着するとメモリを起動した。
「ACCEL」
「変....身!」
照井は仮面ライダーアクセルに変身するとエンジンブレードを司会者に向けた。
「復讐したい気持ちは分かる....だがあの子はまだ子供だ。
そんな子を修羅の道へ歩ませる訳には行かん!」
「お前らを倒してあの子を救う!」
そう言うとアクセルは会場へと向かっていくのだった。
Another side
風都にある人材育成企業"カイ・オペレーションズ"。
その会社で若くしてCEOにまで上り詰めた
「一体、誰だ?」
万灯が、そう聞くと出紋が答えた。
「はい、園咲 琉兵衛です。|
「園咲....ミュージアムの頭目が一体何の用があるのか。
通してくれ...それと最高級の紅茶と菓子を。彼には最大限の礼節を持って接しなければならないからね。」
そして琉兵衛が万灯達のいる部屋へ招かれた。
万灯は琉兵衛を一目見て引き込まれてしまう。
(これは....まるで恐怖その物を支配するような圧倒的存在感。
一目見ただけで私が恐怖の感情を抱く何て.....)
「ようこそいらっしゃいました園咲琉兵衛様。
本日はどう言ったご用件でこちらに?」
そう尋ねると琉兵衛は笑顔で答える。
「何、無名が新しく我がミュージアムの協力者に選んだ君を見ておきたくてね。
無礼かとは思ったが、最近そちらの組織の者に手痛い仕打ちを受けたばかりなのでね。」
万灯は財団Xに所属するエージェントの一人であり、今回キースが起こした反乱についても把握していた。
故に万灯の表情は少し歪む。
(成る程、抜き打ち検査と言うわけですか。
ガイアメモリを開発した組織とパイプを持てて喜んでいましたが、全く余計なことをしてくれましたね。)
「それは本当に申し訳ありません。
しかし、私はミュージアムと敵対する意思はありません。
寧ろ、共に商売を行うパートナーとして考えています。」
「だが、口では何とでも言える。
あの
「では、どうすれば信用していただけますか?」
万灯がそう言うと琉兵衛はとある写真を見せる。
「これは?」
「財団が保管していたクリスタルサーバーと呼ばれる物質だよ。
これを渡して貰いたい。」
「これは加頭さんが回収しミュージアムに提供した筈です。
ですからもう財団にも残ってはいないと思います。」
「ならば、代わりの物を渡してくれないかね?」
「代わりですか?」
「風都に住む君ならば知っているだろう仮面ライダーを...」
「えぇ、確かWとアクセルでしたか?」
「そうだ、そのWからクリスタルサーバーと同じ物質が生成される。
それを渡してくれれば良い。」
「しかし、そう上手くは行かないですよ。
それ用の装置も調達しなければならないでしょうし」
「それならば問題ない。
禅空寺家の使えば良い。」
「禅空寺....風都の海岸一帯を所有している富豪ですね?
確かに彼らと財団は繋がりがありますが」
「近い内にそこで"事件"が起きる。
恐らく仮面ライダーも出てくるだろう。
そこで回収してくれれば良い。」
「では、禅空寺を調べてから返答させていただいても宜しいでしょうか?」
「良いだろう。
だが、このままでは君に旨味が無い。
そこで、君がこの仕事を完遂したらこれを差し上げよう。」
琉兵衛はとある資料を万灯に見せる。
「これは....」
「今の君が最も欲している情報の筈だが、どうかね?」
「分かりました。
これを下さるのならば何としても琉兵衛様の御期待に答えて見せましょう。」
「期待しているよ。」
そう言うと琉兵衛は退出し万灯は出紋に指示を出し調査を始めるのだった。
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第百三十六話 見つめるA/続く連鎖
照井はアクセルに変身するとリボンドーパントと神父のいる場所へ向かおうとしたが突如現れたドーパントに止められる。
「邪魔をするなぁ!」
エンジンブレードでそのドーパントを切り払うと身体が砕けて動かなくなってしまう。
しかし、直ぐ目の前にまた同じドーパントが現れた。
「何!」
「無駄ですよいくら破壊しても無限に現れます。
貴方が彼処に辿り着くことはない。」
そう言う司会者の目の前にそのドーパントはドンドンと現れていく。
一体一体の戦闘力は低いがいくら倒しても出てくるせいでアクセルは進めなくなっていた。
その間にもリボンドーパントは神父をゆっくりと痛め付けていく。
神父の腕と足は片方ずつ無くなってはいるが切断箇所の近くがリボンで結ばれており出血は少なかった。
(失血死すら許さないつもりか。)
神父はその場から離れようと残った腕を使い芋虫の様に這うがその背中をリボンが打ち据える。
金属の特性を持ったリボンが鞭のように振るわれて神父の背中に当たると神父は絶叫した。
「痛いか?あの時に殺した友達もそうだった。
"苦しい、止めてくれ"と言う言葉を聞いてアンタは笑いながら言ったな。
"これは神の思し召しで罰だと"ならこれも罰だ。
もっと苦しめ!これまで殺した皆の痛みをもっと味わえ!」
「止めろ!そんな復讐は意味がない!
痛め付けて殺したところでコイツの罪は清算されない!」
「黙れ!部外者が口を挟むな!
仮面ライダーなのに私達を助けられなかった分際がっ!」
「すまない......だがそれでもコイツを裁くのは司法に任せるべきだ。
コイツの罪なら俺が立証させる!
だから、もうこんな"悲しい復讐"は止めるんだ!」
同じく復讐を目的として生きていた照井が言える台詞でないことは分かっている。
だがそれでもまだ子供である彼女がその道に進むことだけは認められなかった。
「もう無理なんだ!私は友達を殺した!
皆を助ける為でも....殺したんだ!
ならせめてコイツを道連れにしてやる!
それが私の出来る復讐なんだぁぁぁ!」
リボンドーパントがリボンを刃の様に伸ばすと神父の首に向かって振るった。
「止めろぉぉぉ!」
「TRIAL」
照井はトライアルメモリを起動し変身するとマキシマムを発動した。
いくらトライアルの速度でも邪魔をする複数のドーパントを抑えながらあの場所に行くことは難しかった。
そこで照井はシュラウドにより解禁されたトライアルメモリのもう一つの力を使う。
「急に呼び出してどうしたんだシュラウド?」
風都タワーの一件の後、照井はシュラウドに呼び出されていた。
「あなたも強くなった。
だからこそドライバーとトライアルメモリの"セイフティ"を解除しようと思ってね。」
そう言うと照井からドライバーとトライアルメモリを受け取る。
そして大きな装置にドライバーとメモリを入れるとパソコンを使い装置を起動した。
「アクセルドライバーにつけていたセイフティを外せばツインマキシマムを使うことが出来るようになるわ。
そして、トライアルメモリにつけたセイフティを外すとあるシステムが使えるようになる。」
「システム?」
「使うタイミングはトライアルメモリのマキシマムを発動している最中.....今の貴方なら使いこなせるでしょう。」
そうシュラウドが言うと照井が逆に問いかける。
「シュラウド....何を隠している?
今更、セイフティの話をするなんて不自然すぎる。
アンタは復讐のために俺を利用している。
だからこそ余計なリスクを与えないようにしてきた。
ウェザーと戦った時が良い例だ。
そんなお前が何故......」
「別に、ただの"保険"よ。
敵も強くなっている以上、貴方もこのままでは駄目だと思っただけ.....」
そう言うシュラウドだが明らかに顔つきから何か思い悩んでいるのは分かっていた。
だが、照井にはその理由が分からず今は聞かない選択をした。
「それで....トライアルは何が変わるんだ?」
「タイミングは厳しいけど上手く行けばトライアルのマキシマムドライブの出力が"数十倍"にまで跳ね上がるシステムよその分、負荷も凄まじいけどね。」
そう言ってやり方、シュラウドから教えられた照井は今がそれを使うときだと思い、トライアルメモリの秒数を確認する。
("0.8秒"、そろそろだな。)
そうして秒数が"1.1秒"になった瞬間、トライアルのスイッチを押した。
するとアクセルの足に強烈な負荷がかかり出力が一瞬で倍加した。
トライアルメモリに隠された能力はゾロ目の秒数で止めるとメモリの出力が上がっていく。
まるで車のギアを変えるように能力が向上していくのだ。
急激に加速したアクセルは道を塞いでいたドーパントを振り切ると落とされるリボンをエンジンブレードで止める。
「ぐっ!」
トライアルメモリの負荷とリボンドーパントの攻撃により崩れそうになるが耐えると一気に落とされたリボンを弾く。
依然としてトライアルのマキシマムは発動しているのでそのままリボンドーパントに近付きエンジンブレードを地面に刺すとアクセルは駒のように回りながら両足の蹴りを連続で加える。
そして、トライアルメモリを止めた。
「TRIAL MAXIMUMDRIVE」
「6.8秒....これで終わりだ。」
リボンドーパントはアクセルの攻撃によりメモリブレイクされると地面に倒れた。
それをアクセルは優しく抱き抱える。
その光景を見ていた神父は傷付いた身体を抑えながら言う。
「はっ.....はははは!やはり神は見ておられたのだ私は神に愛され.....て?」
笑っていた神父の頭をサラが掴む。
「アンタみたいなクズに神は微笑まないわ。
そして、アンタが最後に見る景色は....」
「Gorgon」
「生きながら自分が引き裂かれる姿よ。」
ゴーゴンドーパントに変身したサラは神父を掴むとバラバラに引き裂き断面を石化した。
少女を助けることに夢中になっていた照井はそれを止めることが出来なかった。
オークション会場にいたコレクターは落札した五本のメモリを持ってとある建物に向かっていた。
到着するとそこには園咲冴子が資料を読んで座っていた。
「あら?
井坂先生なら今、外に出ていますけど.....」
「いえ、今回は井坂先生にお土産を持ってきただけです。」
そう言うと伊豆屋は五本のメモリをその場においた。
「なら、後で井坂先生に渡しておきますわ。」
「お願いします....あぁ、そう言えば今日のオークションで面白い人物と会いましたよ。」
「面白い人物?」
「えぇ、井坂先生を狙う仮面ライダーです。
中々に面白い青年でした。」
その言葉に冴子の顔は曇る。
「井坂先生を狙っていると知っているのなら何故、そこで始末しなかったのですか?」
「おや?井坂先生から聞いていませんか?
私は特定のメモリを持たずメモリを"使い捨て"にしているんです。
ですから丁度、メモリを所持していなかったのですよ。」
「まぁ、良いわ。
それが話したかったことかしら?」
「いえ、問題はその仮面ライダーが現れたオークションが"ナイトタイム"が元締めとして行っていたと言う点ですよ。
後はもうお分かりですよね?」
裏のオークションには取引を円滑にこなす為にも元締めが必ず存在する。
大抵はヤクザやマフィア等の裏社会の者達だが、ガイアメモリを販売する風都においてはそのメンバーが元締めをすることが多々ある。
そして、ナイトタイムを動かしているトップはサラだった。
「まさか、サラがしくじるなんてね.....
でも、困ったわ。
サラには政財界や財閥へのメモリ販売を任せていた。
私でも彼女の代わりは難しいわね。」
伊豆屋をほおっておいて一人思考を始める冴子を無視し伊豆屋は部屋を後にした。
その仮面ライダーにナイトタイムが直々に主催するパーティへのチケットを渡したことを黙ったまま.....
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第百三十七 見つめるA/接触する二人
フィリップと亜樹子は禅空寺香澄からの依頼で禅空寺家とZENONリゾートの調査を行っていたが進める内に後ろ暗い真実が分かってきた。
そしてそれを知ったフィリップと亜樹子と香澄はZENONリゾートの社員から命を狙われる事になる。
広大なリゾートを使った命懸けの鬼ごっこが始まっていた。
フィリップは一人囮となって二人を逃がそうとする。
何とか翔太郎と連絡を取りWになろうとするが"ゼロドーパント"にスタッグフォンを破壊されてしまった。
(何か....何か考えるんだ!こんな時、翔太郎ならどうする?)
フィリップは思考をフル回転させて打開策を探すがその時、香澄の前に社員が変身した"フィッシュドーパント"が現れた。
「きゃあ!」
「まずい!」
フィリップは翔太郎の様に身体が勝手に動きフィッシュドーパントにタックルして下の部屋に落下した。
ドーパントをクッションにしたことでダメージは免れたがそれはフィッシュドーパントも同じだった。
「このクソガキがぁ!ぶち殺してやる!」
キレたフィッシュドーパントは隠れたフィリップを見つけ出すため口から水圧カッターを放出した。
手当たり次第にばら蒔くため当たったコンクリートの壁や鉄筋が簡単に切断される。
しかし、それはフィリップが切断された部屋の中から一つのアタッシューケースを見つけたことで事態は変わることになる。
フィリップはアタッシューケースを開くとそこに入っていた物に驚く。
「何でこんなものがここにあるんだ?」
だが、今はそんな疑問を解決している暇はない。
それを手に持つとフィッシュドーパントの前に現れた。
「どうした?もう逃げるのは止めたのか?」
「確認だが.....僕たちを黙って見逃す選択肢は無いんだね?」
「下らないことを聞くな。
お前達はここで殺してやる!」
「そうか、なら仕方がない。」
フィリップは手に持ったロストドライバーを腰につけるとメモリを起動した。
「CYCLONE」
そしてメモリをロストドライバーに装填すると展開した。
「変身!」
するとフィリップの周りに突風が巻き起こり緑色の風の戦士に、変身した。
そして、変身した自分の姿を見たフィリップは言った。
「今、名付けよう....僕は」
「仮面ライダー"サイクロン"だ!」
そう言うとフィリップはフィッシュドーパントへと向かっていくのだった。
舞台は代わり照井は神父を殺害したゴーゴンドーパントを見据えていた。
「何故だ!何故、奴を殺した!」
「分かっているでしょう?これは彼女が望んだ復讐だった。
それを邪魔されたから私が手を下しただけよ。」
「奴は司法で裁くべきだった!
でなければ本当に彼女が救われたことにはならない。」
「彼女を見捨てたのはその"警察であり司法"よ。
現にこれがなけれな貴方は事件を知ることすら無かったでしょう?」
「それは.......」
「この世界に正義なんて無いのよ。
あるのは多数派に取って都合の良いルールだけ.....
本当に平等が欲しいならこの世界のルールを破るしかない。」
「それは極論だ!
そんな正義は誰も認めない!」
「私達は誰かに認められる正義を求めているんじゃないわ!」
ゴーゴンドーパントの目が光り、違和感を覚えた照井はトライアルの力で高速移動し回避するとその場所が石化した。
「お前は.....間違っている!
そんか私刑は許されることじゃない!」
「復讐を望んでいる貴方が言えた台詞じゃ無いでしょう!」
ゴーゴンドーパントはアクセルを視界に収めるように追いかける。
それをアクセルは高速移動で回避し続けた。
「子供に復讐を強要させるのか!
何も知らない子供にそんな咎を背負わせるのか!」
「煩いわね!それしか許されない現状を作ったのは貴方達、警察じゃない!
誰も助けてくれない場所で生き残るには自分が強くなるしか無かったのよ!」
ゴーゴンドーパントはまるで心に溜まった怒りを吐き出すように照井に言った。
「俺は.....それでもこの復讐は認めない!」
そう言うとトライアルメモリを抜いてマキシマムを発動する。
そして、照井はエンジンブレードにエンジンメモリを装填するとこちらもマキシマムを発動した。
「ENGINE MAXIMUMDRIVE」
高速移動するアクセルはゴーゴンドーパントの視界を振り切りながら斬撃を放ち続ける。
そうして、斬撃を加え続けたアクセルはトライアルメモリのボタンを押した。
「TRIAL MAXIMUMDRIVE」
「8.9秒....これがお前の絶望までのタイムだ。」
アクセルのツインマキシマムを受けて爆発する筈だったゴーゴンドーパントの身体が硬直すると動かなくなる。
「何?確かに仕留めた筈......」
そこからゴーゴンドーパント....サラの絶叫が会場を木霊した。
「ガァァァァァァァ!」
女性と思えない程、重々しい絶叫と共にサラの身体が変異していく。
身体が大きくなり足が二本生えて四足歩行になる。
口が耳まで裂けて蛇の様に変わり、身体の至るところから瞳が現れると頭部にあった蛇は苦しむようにのたうち回ると尖端が尖り石になっていく。
そして、身体の瞳が一斉に光ると周りの会場を部分的に石化しそれが波のようにうねっていく。
その姿を見た司会者が焦る。
「サラ様!落ち着いてください!
"その姿"になってはいけません!」
それはサラの使うゴーゴンメモリの弱点であった。
相手を見ただけで石化させられる強力なメモリではあるが長時間の使用や短時間の内に許容限界ギリギリの攻撃を食らうとメモリの毒素が急増し暴走してしまうのだ。
ガイアドライバーⅡを用いても身体に負荷のかかるほどの毒素が生成されてしまうのでこの状態はサラにとってとても危険な形態とも言えた。
司会者の声はサラには届かず、身体に生成された瞳がゆっくりと動くとアクセルに目を向けた。
まるで自分を攻撃した相手を威嚇するように見つめる。
アクセルは高速移動で回避しようとするが波のように揺れながら近付いてくる石の壁に阻まれてしまう。
そしてアクセルがぶつかった壁から槍のように尖った石芽現れるとアクセルに向かって放たれ始める。
エンジンブレードを使いその攻撃を耐えていくが、攻撃が途切れる様子はなくアクセルは防戦一方となり動きも止まってしまう。
そんなアクセルにサラは近付こうとするがここでリボンドーパントになっていた少女が目を覚ます。
「ここは?....きゃあ!」
目の前の敵に怯えた声を出すとゴーゴンドーパントは少女を見つめると瞳の力を発動させようとする。
「止めろ!無関係な人間を殺す気か!」
照井の声はサラには届かない。
少女の周りの地面がゆっくりと石化していく。
その石化の波が近付いていく様子を攻撃を受けているアクセルは何とか救出しようと防御の構えを解いた。
結果としてアクセルの身体に無数の石の槍が襲いかかる。
それをエンジンブレードで無理矢理へし折りながら彼女の前に到達するとエンジンブレードをマキシマムへ移行する。
「ENGINE MAXIMUMDRIVE」
エンジンブレードから赤いエネルギー波をゴーゴンドーパントの頭部に向けて放つ。
しかし、そのエネルギー波はサラの増えた瞳に全て見られると塵となって消えてしまった。
「なんて凄まじい能力だ。」
アクセルは少女の盾になるようにエンジンブレードを構えるとサラは二人に目掛けて石化の力で攻撃を行うのだった。
禅空寺家の事について調査をしていた万灯は出紋により集められた情報を見ることで状況を理解した。
「成る程、財団のエージェントが協力している訳か。
だからこそ琉兵衛さんは私に会いに来てこの事を伝えたのですね。」
財団のエージェントについて調べるとどうやらここで多数の実験を行うために数々の装置をZENONリゾートに持ってきているようだった。
その中にはクリスタルサーバーを切除できる機械も含まれている。
「それにしてもロストドライバーまで用意するとは...このエージェントは何を考えているんだか」
財団は基本的に個人の仕事に関してはノータッチだ。
自分の仕事の邪魔になることでもない限りは介入はしない。
だが、逆に言えば邪魔になるのならば介入すると言うことでもある。
「先ずは成功率を上げるためにも"彼"に声をかけましょうか。
他はまだ使える段階までいっている人物はいないですからね。」
万灯の言う使える段階とは"ハイドープ"になっているかなってないかの事である。
適合率の高いメモリを使い続けることで特殊な能力や力が発現する。
井坂の言う過剰適合者とはまた別の状態であったが万灯にはそれがガイアメモリを使う人間の到達点と言える極致だと思っていた。
そして、今その段階にいるのは万灯を含めて"二人"だけだった。
「出紋さん...
少し手伝って欲しい要件があると言ってください。」
すると出紋はペンを出すと腕に先程、万灯から言われた用件を書き記す。
「出紋さん....前も言いましたけどメモを取るなら手ではなくメモ帳や携帯を使ってください。」
「すいません。
でもこれだと安心なんですよ。」
そう言うと出紋は万灯に一礼し部屋を出ていった。
万灯は琉兵衛から渡された資料に目を通す。
(これを手に入れられれば、私の計画に必要な最高のドライバーが作れる。)
万灯が何故、無名からの依頼を受けたのかと言えば一重にこのシステムを手に入れたかったからだ。
当初の予定では暫く、無名からの依頼をこなし信頼関係を築いてから琉兵衛に接触し欲しようと思っていたシステムがこの仕事をすることで手に入ることに万灯は自然と笑顔になる。
「さて、完璧にこなす為にも情報は集めておいた方が良さそうだ。
財団のエージェントを出し抜くにしてもまだ分からないことが多い。
少し見に行きましょうか。」
万灯は電話で車の用意を申し付けるとZENONリゾートへ先に向かうのだった。
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第百三十八話 砕けるS/荒れ狂う力
アクセルが少女の前に盾のように立ち塞がるとエンジンメモリを抜いたエンジンブレードてもサラの視界を塞いだ。
そのお陰でサラの視界にはエンジンブレードしか写らず刀身が塵になる代わりに一度目の攻撃を防ぐことが出来た。
(今しかない!)
照井はアクセルメモリを起動しドライバーに装填すると元の赤いアクセルに戻った。
そしてバイクモードへ変形すると少女を背中に乗せてその場を逃走した。
追いかけようとするサラに司会者はマスクを脱ぎ捨ててメモリを起動する。
「Sphinx」
スフィンクスドーパントになった美頭は暴れるサラを両手で抑えながら最高出力の回復の光を放った。
光を受けたサラは正気を取り戻してドライバーからメモリを抜き取る。
美頭もメモリを抜いて人間の姿に戻るが"左腕"を繋いでいた部分が塵となり落ちてしまった。
「美頭!」
「問題...ありません...サラ様が....無事なのなら...」
「そんな...ごめんなさい。
私はこんなことするつもりは.....」
「仕方ありません。
ゴーゴンメモリは強力ですがその分、暴走しやすい。
それに今回は早めに貴方を援護しなかった私のミスです。」
「でも.....」
「そんな事より早く避難を.....
警察に仕掛けたトラップにもう気づく頃合いです。
そろそろこちらに来てしまいます。」
「....分かったわ。
一緒に行きましょう....腕の事は無名に聞いてみるから」
そう言うとサラは美頭と共に隠し通路から逃走するのだった。
その直ぐ後に、照井が呼んでいた特殊部隊が会場に突撃してくるがそこにはもう誰もいなかった。
それから数日後、風都署内で照井は少女を尋問していた。
「まだ何も話す気が無いのか?」
「.........」
「オークション会場に警察が突入して中を改めた。
そこには"複数の死体"があった。
その死体を調べたら皆、何かしらの犯罪を起こしていることが分かった。
それも"子供が犠牲になった犯罪"ばかりだ。」
そう言って説明する照井の手は反射的に握っている。
「頼む教えてくれ。
もし、他にも犠牲になっている人がいるのなら君が教えてくれれば警察が.....」
「助けるって?....バカじゃないの?
神父を逮捕して欲しいって警察に言った時、私達は何て言われたと思う?
"神父様がそんな事するわけ無い" "そんな酷いことを言うもんじゃない"そう言ったのよ?
そして私が殺人事件を起こした時も理由をちゃんと話したわ。
でも結果は変わらなかった"殺すことは良くない" "証拠が無い" "嘘をつくな" そんな事しか言わない奴らの事なんて信用できるわけ無いでしょう。」
「私達にとって彼処が唯一の"希望"だった。
復讐したい理由を話したら直ぐに協力してくれたわ。
道具も方法もくれた。
あんた達と違って私達に寄り添ってくれたのよ。」
少女から言われるごとに照井の顔は曇っていく。
警察が必ずしも正義の組織で無いことなんて照井も良く理解している。
だからこそ、もしそんな存在を見つけたら問答無用で刑務所に送り込む気概があった。
現にこの事件があってから警察内部を調べ直し不正に加担した汚職警官を摘発していった。
だが、それは結果論だ。
彼女が復讐を望み生み出した結果があったからこそ調べられたに過ぎない。
録な証拠が残っていなかったオークション会場で唯一の手掛かりは彼女だけだ。
だからこそ、彼女からなんとしても情報を手に入れる必要があった。
「.....何か飲み物を持ってこよう。
一度落ち着いて君と話したいんだ。」
そう言うと照井は取調室を出ると壁を殴り付けた。
(何故こんなになるまでこの事件がほおっておかれていたんだ!
市民を助けるのが警察の仕事じゃないのか!)
その姿を見た刃野がコーヒーを持ちながら現れた。
「荒れてますね室長....まぁ無理もないですが」
そう言って照井にコーヒーを差し出した。
それを受けとると照井は一口飲む。
ブラックコーヒーの苦味が照井の思考を冷静にさせた。
「それで、本部の対応はどうなっているんだ?」
「同期から聞いた話じゃ2つに分かれているそうです。
"徹底的に調査するべき"と"このまま少女に罪を被せて有耶無耶にする"この2つで悩んでいるそうですね。」
「まだ、そんなバカげた事を考える奴がいるのか!」
「組織って奴の弊害でしょうね。
仮にも警察は正義の味方ですから、こんな失態が明るみに出たら内部の根幹が揺らいでしまうと考えている人も一定数いるみたいです。」
「.....警察内部でガイアメモリを購入使用した疑いのある人物が何人いたか知っているか?」
「....存じませんが室長の顔から察するに相当多いんでしょう?」
「全体の"8%"だ。
軽く調べた程度で8%も犯罪を行っている可能性のある組織が正義があると本当に言えるのか?」
「でも、私達はその警察と言う組織にいるんです。
何も知らない人から見れば私達も同罪ですよ。」
「....そうだな。
刃野刑事すまないが彼女の尋問を頼めるか?
俺よりも君の方が適任だと思う。」
「分かりました。
室長も早く休んでください。
ここの所、署内でずっと仕事してるじゃないですか。
少しは休まないと倒れますよ。」
「すまない....」
そう言うと照井はその場を後にし代わりに刃野刑事が取調室に入るのだった。
ZENONリゾートでの戦いは佳境に差し掛かっていた。
ロストドライバーを手に入れたフィリップが仮面ライダーサイクロンへ変わるとリゾートの社員が変身したドーパントを次々と倒していった。
サイクロンのマキシマムを発動し風を纏った手刀でドーパントのメモリにダメージを与えてメモリブレイクしていく。
侍が続けざまに人を切る様に敵を倒していくと目の前に黒い姿に丸の紋様が描かれたドーパントが現れた。
そしてそこに禅空寺家の面々も現れる。
「まさか、まだ生きていたとはな。
香澄も厄介な奴を招き入れたものだな。」
禅空寺俊英がそう毒づく。
「やっぱり君が犯人だったわけだね禅空寺俊英。
目的はこのリゾートの利権かな?」
「利権?」
フィリップの言葉に香澄は疑問を持つが俊英は分かっているように言った。
「そこの
まぁどうせ皆、殺してしまうんだ。
少し位、話してやろうじゃないか。」
俊英はそう言うとこの事件を起こした目的を話し始めた。
リゾートの土地の地下を使ってガイアメモリの生産工場を作ろうとしそこで土地の利権を持つ香澄が邪魔だったから殺そうとしたこと
そして、その過程でズーメモリが何者かに奪われてしまったことを......
「奪われた?」
「あぁ、ズーメモリは元々そこの女を殺すために手に入れたメモリだったが...奪われてしまったんだよ。
今回姿を現して私の命を奪おうとした。
そして、ここにも来ている....そうだろう?」
俊英の言葉にズードーパントが現れた。
「そんなに俺の命が欲しいのか?」
その問いにズードーパントは変声した声で言う。
「私は"大自然の使者"....自然を破壊しようとするお前達、禅空寺家を許さない。」
「別に貴様風情に許しを乞う気など無い。
それに....そんな口はいずれ叩けなくなる。」
そう言うとゼロドーパントが香澄に向かって勢い良く近付く。
「させるか!」
フィリップがサイクロンメモリお得意の速度で追い付くとゼロドーパントを止めようとする。
「無駄だよ。」
ゼロドーパントがそう言うとフィリップの身体に触れてそのまま地面に投げ落とした。
「ウグッ!」
フィリップはなす術無く倒され背中から地面に落ちてしまった。
普通なら耐えられた筈の攻撃なのにフィリップは耐えられなかった。
そして、ゼロドーパントは香澄の首を絞め上げる。
「あ....か...」
「止めろ!」
ズードーパントが慌てて香澄の元へ向かおうとするがゼロドーパントは首を絞めている腕をズードーパントに向けて動きを止めた。
「少しでも余計なことをすれば彼女の首を折ります。
分かったら下がりなさい。」
ゼロドーパントの言葉に従いズードーパントは後ろへと下がる。
「良し、ならば命令だ。
メモリを抜いて素顔を現せ。」
「それは.....」
「早くしろ、それともこの場であの女の首が折れる姿を見たいのか?」
俊英の脅迫に従いメモリを抜くとその姿は香澄に仕える使用人である"弓岡あずさ"だった。
「そん.....な....う....そ」
「香澄お嬢様を離しなさい。」
「良いだろう目的は達した。」
そう言うと俊英はゼロドーパントに指示を出して香澄を下ろすとそこに弓岡が来る。
「お嬢様!大丈夫でしたか?」
そんな話をしていると俊英は特殊な形をした装置を起動しズーメモリに投げつけた。
ズーメモリはファングメモリの様に自立駆動するメモリだがその装置を避けることが出来ずズーメモリに首輪が着くように装着されるとメモリが機能を停止した。
「一体何をしているんだ?」
立ち上がったフィリップがそう尋ねるとゼロドーパントが答える。
「使用者のデータを書き直しているんですよ。
元々このメモリは俊英様が使う予定でしたから」
「そうだ。
だが途中で邪魔が入りメモリは姿を消していた。
まさか、お前が持っていたとはな弓岡。」
自分の名を呼ばれた弓岡は俊英を睨みながら告げる。
「当然です。
兄弟である"香澄様を殺す目的"で手に入れたメモリだと聞けば誰でもこうします!」
「お前はあくまで禅空寺家の使用人であり香澄の母ではない。
そんな事すら分からない程、耄碌していたとは....
やはり、お前も処分するべきだな。」
そう言って手を出すと先程まで動かなかったズーメモリが彼の掌に収まった。
「漸くこの日が来たんだな。」
俊英はズーメモリを変形させてメモリモードに変えると起動した。
「
起動したメモリを腕に挿すと俊英はズードーパントへと変身した。
弓岡の変身したズードーパントと違い身長は低かったが身体から溢れる気配から彼の強さをフィリップはひしひしと感じた。
フィリップは立ち上がるとズードーパントへ向かっていく。
風の力により速度の上がっていた徒手空拳だが、それをズードーパントはいとも容易くかわした。
「何?」
「元々、私が使うために用意されたメモリだぞ?
使用人よりも使いこなせる事など分かっていただろう。」
ズードーパントは長い尻尾を生成すると鞭のように使いフィリップに攻撃を仕掛けた。
フィリップもそれを紙一重でかわしていくが顔に一瞬触れた瞬間、フィリップの動きが鈍り出す。
「尾にフグとコブラの毒を混合した物質を噴出する機関を作った。
いくらお前が仮面ライダーでもこの毒は直ぐには解毒出来まい。
それに"ゼロ"からお前達の弱点は聞いている。」
ズードーパントは右腕を巨大化させるとフィリップの着けていたドライバーを思いっきり殴り付けた。
「ゴリラの筋力にアルマジロの皮膚にサメとワニの牙を合成した特製の腕だ。
フルパワーで殴ればいくらその機械が丈夫でもただでは済まないだろう。」
吹き飛ばされたフィリップはドライバーを見るとひび割れが起き火花が散ると変身が解除された。
メモリに異常は無かったから恐らくズードーパントのダメージは全てドライバーが肩代わりしてくれたのだろう。
だが、助かったのも束の間フィリップはドライバーを失い2体のドーパントをどうにかしないといけない状況に追い込まれていた。
(亜樹ちゃんや香澄さんを守ろうにもドライバーが壊れてしまってはどうにもならない。
翔太郎に連絡が着けばWになって戦えるのに......)
勝利を確信したのか俊英は近くにいた妻である
「お前達もコイツらの片付けに協力しろ。」
彼の言葉に従い二人はメモリを取り出すと起動した。
「
二人がメモリを挿すと朝美は"クイーンビードーパント"に麗子は"フラワードーパント"に変身し四人を取り囲んだ。
「くっ!」
「うわわっ、これって大ピンチだよねフィリップ君!」
亜樹子がいつの間にか出したスリッパでドーパントを牽制するがフラワードーパントが腕から取り出した鞭によりスリッパは真っ二つにされてしまう。
「大人しく死んでよね。
めんどくさいんだから.....」
フラワードーパントがそう言い放ち更に絶望感が高くなる。
しかし、このタイミングで2つの予定外が起きた。
1つはリゾートの窓を突き破りリボルギャリーが現れた事、もう1つは天井から"巨大なドーパント"が落下してきてリゾートの地面が陥没しそこにいたフィリップ達とリボルギャリーが落下したことだった。
「なっ!一体どう言うことだ!」
激昂する俊英の前にもう一人招かれざる客が現れる。
「失礼....今ここで彼らを殺されるとこちらが困ってしまいますので邪魔させてもらいましたよ。」
「貴様ら!何処から入ってきた!」
「"入ってくる?"それは少し表現が違うな....私の場合は」
「"降ってくるんだよ"。」
そう言ってオーロラドーパントとなった万灯がリゾートに現れるのだった。
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第百三十九 砕けるS/凶獣襲来
ZENONリゾートの地下施設へと落下したフィリップ達はギリギリのところでリボルギャリーに救われた。
香澄と弓岡は突然現れたマシンに驚く。
「こっ.....これは?」
「僕の仲間が呼んでくれた応援だよ。
リボルギャリーが来たならきっと彼も....」
フィリップがそう言うとスパイだーショックで天井にぶら下がっていた翔太郎が降りてくる。
「まさか、天井からドーパントが落ちてくるなんてな。
無事か?フィリップ、亜樹子。」
「君のお陰でね。
でも良く分かったね僕達がピンチになっているって、連絡すら出来なかったのに」
そう言うと翔太郎は帽子で顔を見せないようにしながら答える。
「当たり前だろ?
俺はお前の相棒だぜ?
嫌な予感がしててな動けるようになったら直ぐに向かおうと思ってたんだ。」
そう言うと翔太郎は香澄と弓岡に近付いていく。
「あんたらが今回の依頼人だな?
家のフィリップがすまなかったな。
俺の名前は左 翔太郎.....探偵へぶしっ!」
翔太郎は二人の前で大きなくしゃみをして鼻から長い鼻水を垂らす。
いままでカッコつけていた分、落差が激しく仲間である亜樹子やフィリップですら翔太郎に悲しい目線を向ける。
「翔太郎.....」
「仕方ねぇだろ!こちとらまだ風邪引いている最中なんだよ。
.....あー早く効いてくれよ風邪薬。」
「翔太郎君、風邪薬飲んだの?」
「あぁ、適当に救急箱の薬をな。」
「適当って....」
「相棒が危ねぇってのに呑気に薬なんか飲めねぇだろうが!」
翔太郎はそう言いながらハンカチで垂れている鼻を拭いた。
そんな話をしていると天井からズードーパントとゼロドーパントが降りてきた。
「逃がさんぞ。
この私から逃げ切る事など....」
「ハクション!」
「.........」
ズードーパントの話を翔太郎のくしゃみが妨害する。
「ズズーッ、悪い続けてくれ。」
そんな中、ゼロドーパントが翔太郎に話しかける。
「貴方が来ることは分かってましたがまさか、"彼等"まで来るとは.....あの落ちてきたドーパントは貴方の知り合いですか?」
ゼロドーパントが翔太郎に尋ねる。
「知らねぇよ。
俺もいきなりで驚いたんだよ。
助けに来たらこんな地下に落とされちまったんだからな。
にしても、リゾートのにしては殺風景な場所だな?
ここで何をするつもりだったんだ?」
その問いに今度はフィリップが答えた。
「"ガイアメモリの製造所"を作るつもりだね?」
「製造所?....こんなところでガイアメモリを作るつもりだったのか?」
「ガイアメモリを作るには巨大な面積と高い密閉性、そしてGマイクロ波を使っても影響がない場所がいる。
このリゾートの地下はその条件を全てクリア出来るんだ。」
「その通りだ。
ここにガイアメモリの製造所を建ててガイアメモリを作ることが出来れば我々も風都のガイアメモリ販売に加われる。
そして、何れはミュージアムすら奪い取り我々がガイアメモリ販売のトップに...」
「ブァックション!」
ズードーパントが盛り上がってきたタイミングでまた翔太郎がくしゃみを行い怒りでズードーパントが手を震わせる。
「翔太郎、本当に薬は飲んで来たのかい?」
「わかんねぇ、適当に選んだ薬飲んで来ただけだからな...粉薬に錠剤にカプセル...」
「そんなに飲んだのかい?
飲み過ぎは身体に毒だよ?」
そんな二人が会話している中、ゼロドーパントはズードーパントに話しかける。
「俊英様、どちらにしてもこの地下の存在がバレてしまった以上ここで彼らを殺すしかありません。
上のイレギュラーに対応するためにも早く始末してしまいましょう。」
「そうだな。
俺もその方が良いと思ったところだ。
コイツらをさっさと始末して全てを解決....」
「ビェーックション.....悪い。」
「貴様ぁぁぁ!何度も何度もぉぉ!」
キレたズードーパントが翔太郎に攻撃を仕掛ける。
翔太郎はそれを回避しながらドライバーをつけた。
「行くぜ、フィリップ!」
「あぁ、翔太郎!」
「CYCLONE,JOKER」
「「変身!」」
翔太郎とフィリップは声を合わせてドライバーにメモリを装填すると仮面ライダーW サイクロンジョーカーへと変身した。
「ならば、倒れた身体を狙う。」
ゼロドーパントが倒れたフィリップに向かおうとするがそれをエクストリームメモリが止めた。
「そう来ることは読んでいたよ。
来い!エクストリーム。」
フィリップがエクストリームメモリを掴むとドライバーに装填した。
「XTREAM」
エクストリームへ変身したWはプリズムビッカーを出現させると盾と剣で二体のドーパントを抑えた。
「亜樹子!依頼人をリボルギャリーに乗せてこっから離れろ!」
「うん!まかせんしゃい!」
亜樹子は香澄と弓岡をリボルギャリーに乗せると上の穴から逃亡した。
「くっ!こんなことをしてただでは済まさんぞ仮面ライダー!」
「そりゃ、こっちの台詞だ!
メモリ犯罪に手を染めるだけじゃなく生み出そうとするお前らを俺達は許さない!」
『「さぁ、お前の罪を数えろ。」』
そう言うとWは二体のドーパントと本格的な戦闘を始めるのだった。
一方その頃、リゾートから降ってきた巨大なドーパントは万灯に話しかける。
「すいません万灯さん。
少し力を込めすぎたみたいです。
まさか、ここまで脆いとは....」
「構わないよ。
"下に落ちた者達"は仮面ライダーの片割れが彼らを助けるだろう。
まさか、一緒のタイミングで降りてくるとは思わなかったが....」
そんなやり取りをする二人に朝美が話しかける。
「貴方達は何者なんですの?
私達の邪魔をするなんて一体何処の組織かしら。」
「それを答えることに意味があるかは分からないがこのメモリを作り出した大元の組織と言えば分かるだろう?」
(ミュージアム....不味いわね。
この事は夫も知らないわ。
今は敵対することは本意じゃない。
何とか穏便に事を進めないと...)
彼女の考えを察したのか万灯は二人に言った。
「この状況を何とかしようと考えているようだがそれは不可能だよ。
ミュージアムは君達の処遇に対しては何も言っていなかった。
つまり、"どうでも良い"と言うことさ。
財団と結託して上手く儲けようとしたみたいだが欲をかきすぎたね。」
そう言う万灯を麗子の鞭が襲った。
それを巨大なドーパントの手が盾になり攻撃を防ぐ。
「これは一体どう言うことですか?」
「麗子!貴女っ!」
「どの道、アンタ達を殺さないと私達に未来はないんだ。
邪魔をすると言うなら殺してやる!」
フラワードーパントがそう言いながら万灯に向かっていく。
その攻撃を巨大なドーパントが防ぐ。
「はぁ、万灯さんは彼等を追ってください。
ここは僕が片付けます。」
そう言われた万灯は笑顔で言った。
「では"秀夫くん"お願いしますね。」
万灯は皆が落ちていった穴へと向かっていく。
「逃がすわけ無いでしょう!」
二体のドーパントが万灯を追おうとするが秀夫のメモリであるブラキオザウルスの力を使い二体のドーパントに向けて腕を思いっきり振るとそこから巻き起こった風とコンクリート片により動きを止められてしまう。
万灯が穴に入ったのを秀夫が確認すると二人のドーパントに向けて言った。
「万灯さんを追わないでくれるのなら命は助けますが....どうしますか?」
子供の声で尋ねられた事に苛立ちを覚えた麗子が怒りを込めて言った。
「あまり、ふざけたことは言わない方がいいわよ坊や。
覚悟しなさい、子供とはいえ邪魔をするなら容赦なく殺すわ!」
麗子はそう言うと果敢に秀夫に向かっていった。
麗子はこれまでの秀夫の動きを見ていて勝算があった。
(あれだけ巨大なドーパントなら動きも鈍くなる。
だから広範囲を凪払う攻撃しかしてこないんだわ。
機動力を使って翻弄しながら攻撃を加えていけば勝機はある。)
麗子は鞭を壊れた壁の一部に絡ませてスイングして移動しながら頭部から花の種を高速で発射した。
ドーパントとしての能力を使い放たれた種は硬度も高く銃弾を撃たれているのと実質変わらないダメージを秀夫に与えていた。
秀夫は巨体を器用に動かし麗子を視界に捕らえようとするがすんでのところで避けられて種の攻撃を食らってしまう。
そして、意識が麗子に完全に向いた瞬間、朝美の変身するクイーンビードーパントの槍のような針が炸裂した。
しかし、秀夫の変身するブラキオの外骨格を貫通する程の威力はなく、反撃しようとした瞬間には朝美は秀夫から離れていた。
「効かなくてもこう何度も攻撃されると流石にウザいですね。」
秀夫もそう言うぐらいにはストレスが溜まっていた。
"蟻と人間"の戦いのような一幕も秀夫の次の手により終わりを向かえた。
「仕方ありませんね。
面倒なので使いたくなかったんですが....」
そう言うとブラキオの身体から黒いヘドロの様な物質が流れるとそれが人の形を成していく。
一見、マスカレイドドーパントと見間違う姿をしているがこれはブラキオザウルスドーパントの誇る
ブラキオから生成される化石兵の中から数体が二体のドーパントに向かっていく。
麗子は鞭と種、朝美は腕の槍で化石兵を処理していった。
「1体1体の戦闘力は高くないようね?」
「えぇ、ですからこう使おうと思ったんですよ。」
そう言うと秀夫は大量に生成した化石兵を"巻き込んで"二人のいる場所を振り抜いた。
化石兵とはその名の通り、体の殆んどが骨で出来ていた。
振り抜かれた化石兵はバラバラに砕けるとその破片は二体のドーパントへ向かっていく。
"砲弾クラスの大きさの骨の塊が放たれるショットガン"...そんなものをいきなり使われて避けられる者など仮面ライダークラスの戦闘経験者でしか不可能だった。
麗子は大きな破片を食らい地面に落下しギリギリの所で気付いた朝美は背中の羽がボロボロになる代わりに何とかダメージを回避した。
そして、攻撃を食らい倒れている麗子を秀夫は思いっきり踏みつけた。
自分よりも圧倒的にデカい怪物から全体重をのせたストンピングはドーパントになり強化された身体性能を易々と突破しメモリブレイクされる。
しかし、それだけではダメージが抜けてないのか麗子の両手足は普通じゃ曲がらない方向に曲がっていた。
「あ....や...」
そして、もう話すことの出来ない麗子を秀夫は思いっきり踏み潰した。
グシャ!と言う音と共に踏みつけた秀夫の足の周りに麗子の血と臓物が飛び散る。
「子供扱いされるのは嫌いじゃありませんが.....それで侮られるのは気に入りません。
万灯さんから本当は"殺さなくても別に良い"と言われていましたが話の通じない者を仲間にするのはこちらとしてもリスクが高い。
だから......」
「全員、ここで死んでもらいます。」
その言葉を聞いた朝美はその場から逃亡しようとするがボロボロにされた羽では飛んで逃げることも出来ず全てのプライドや考えを捨てて走り逃亡を始めた。
(死にたくない!漸く権力を手に出来たのに!こんな....こんな結末なんて!)
「助けっ!」
朝美は伸ばしていた手だけを残して秀夫に潰されてしまった。辺り一面の掃除が終わった秀夫はドライバーからメモリを抜くと元の少年の姿に戻った。
「少しやり過ぎてしまったかな?
まぁ、良いか.....」
秀夫は携帯を取り出し万灯に掃除が終わったことを伝えると怪物により完全に破壊されたリゾートを後にするのだった。
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第百四十話 奪われたX/真の目的
Wは"ズー"と"ゼロ"、二体のドーパントと対峙しながらも互角以上の戦いを繰り広げていた。
ズーの持つ多種多様の動物の能力を的確に防ぎゼロの持つ"瞬間的にエネルギーをゼロ"にする力にはプリズムメモリのメモリ能力無効化がついたプリズムソードで対応した。
エクストリームメモリの地球の本棚と繋がれる能力により敵の能力や戦闘パターンを理解した今のWに勝つには知っていても防げないほど強烈な攻撃かまだ本棚に記載されていない能力を使うことしか出来ず、ゼロとズーはそのどちらも有していなかった。
ジリジリと追い詰められていきズードーパントは切られた胸を押さえながら激昂した。
「グオッ!この私がこんな所でぇぇぇ!」
数々の動物の能力を付与して強化した右爪でWに攻撃を加えるがビッカーシールドで防がれそのままカウンターで切り伏せられてしまった。
「良し!決めるぞフィリップ!」
『あぁ、ズーメモリは既に検索済みだ。
この組み合わせでメモリブレイクしよう。』
「CYCLONE,HEAT,METAL,JOKER」
「「「「MAXIMUMDRIVE」」」」
『威力に特化したメモリの組み合わせだ。
この威力はゼロドーパントでも消しきれない。』
「これで終わりだぁ!」
『「BICKER FINALUSION」』
Wはメモリを装填した盾のスイッチを押すとそこからビーム状の光が二人のドーパントに向かって放たれた。
(この威力は...消せそうにありませんね。)
ゼロドーパントはそう考えるとズードーパントの後ろに隠れて盾にした。
いきなりの事でズードーパントも反応できず、Wの必殺技をズードーパントは一人で受ける。
「ぐぁぁぁぉ!きっ...貴様ぁぁぁ!」
「まだ、やられてもらっては困るんですよ。」
ゼロドーパントとはそう言うとズードーパントに触れながら彼を盾にしつつWに接近した。
ゼロドーパントの能力によりダメージが一瞬、ゼロになる行動が断続的に続き中々、メモリブレイクされない。
その為、Wに容易に近付くことが出来た。
「アイツ、味方を盾にしてやがるぞ!」
『いけない!避けるんだ翔太郎!』
フィリップの忠告も虚しく接近されたWの胸に"何かの装置"が取り付けられると胸に激痛を感じWはうずくまってしまう。
「グァァァ!」
『グッ!....翔太郎!』
そして、ゼロドーパントが倒れているWからその装置を取り除くとそれを持って距離を置いた。
痛みの無くなったWは立ち上がり剣をゼロドーパントに向ける。
「てめぇ、何しやがった!」
「これを手に入れるのが本当の目的だったんですよ。」
『まさか、クリスタルサーバーか?』
「フィリップ何だそれ?」
『エクストリームが地球の本棚と繋がるのに大事な部分だ。
この力を奴は奪ったんだろう。』
「とはいえ、奪えたのか数パーセント分の力ですがね。
これからこれを結晶化出来る程、純度を上げないといけませんので私はここで失礼します。」
「逃がすわけねぇだろ!お前はここで倒す!」
「私にかまけてて良いんですか?
貴方の攻撃をずっと受け続けていた俊英に何の問題がないとお思いで?」
そう言われてズードーパントを見つめると胸のメモリが赤く光っている。
「通常ならメモリブレイクされるレベルの攻撃をずっと受け続けたんです。
余剰エネルギーが肉体に収まらなくなり爆発すると思いますよ?
ではわたしはこれで....」
ゼロドーパントは装置を持ってその場を後にした。
「待て!」
『翔太郎!それより今はこっちの方が不味い!』
フィリップはそう言うとプリズムビッカーに装填してあったメモリを素早く入れ替える。
「CYCLONE,HEAT,LUNA,METAL」
「「「「MAXIMUMDRIVE」」」」
Wは急いでズードーパントに近付くと盾で押し付けるように技を発動した。
『「BICKER FINALUSION」』
『「うぉぉぉぉぉぉ!」』
光の盾なのより押さえ付けられたズードーパントの爆発の衝撃が一気にWへとおそいかかる。
「ぐっ....がっ....」
『耐えるんだ翔太郎!こんな威力の爆発が起こったらいくらリボルギャリーに居る亜樹ちゃん達も無事じゃ済まない。』
「分かってるよ!....うぉぉぉぉぉぉ!」
ズードーパントの爆発を何とか抑え込んだWだったがその後に起こった衝撃波をくらいコンクリートに激突すると変身解除された。
「く.....あ....」
「翔....太郎....」
二人は何とか爆発を抑え込みZENONリゾートを救うとそのまま意識を失った。
ゼロドーパントはZENONリゾートを脱出すると手に持っている装置をまじまじと見つめた。
中の容器は緑色の光を発している。
「これだけ純度の高いものならば物質化することも難しくないな.....」
そうして立ち去ろうとしたゼロドーパントの前にオーロラが降り注ぐ。
ゼロドーパントはそのオーロラに危険性を感じて避けるとオーロラが降り注いだ場所が粒子状になり消滅した。
「誰だ!」
「私ですよ....久し振りですね。」
そう言ってオーロラドーパントである万灯が目の前に現れた。
「お前は....何故貴方がここに?」
「その装置を手に入れる必要があってね.....私に渡してくれないか?」
ゼロドーパントは構えながら言う。
「申し訳ありませんがそれは無理です。
これを持ち帰るのが任務ですので.....」
「そうか....残念だがそれなら」
「力付くで奪い取らせて貰う。」
そう言うと万灯はゼロドーパントと戦闘を開始した。
そしてその戦闘が終わると一人の死体だけが残り装置は姿を消していたのだった。
Another side
本邸を破壊された琉兵衛は園咲家の持つ別邸で紅茶を飲みながら家族と共に夕食を取っていた。
「どうした若菜?随分と元気が無いようだが....」
俯いている若菜を心配した琉兵衛が尋ねると無理に笑顔を作り若菜が言った。
「何でもありませんわ.....この後仕事がありますので失礼致しますわ。」
「若菜、この前の話だが....」
「私は....アイドルを辞めるつもりはありませんわ。
....ごめんなさいお父様。」
そう言うと若菜はまだデザートが残っているのに部屋を後にした。
琉兵衛は食事を止めて周りを見渡す。
冴子は井坂の所に入り浸り最近では共にご飯を食べることすら減ってしまった。
仕事はこなしているからそこまで注意も出来ないが....
「どうやら一緒にデザートを楽しめるのはミックとだけみたいだな。」
そう言う琉兵衛の顔は悲しみをおっていた。
その顔は悪の組織の頭目の顔ではなく一人の父親としての顔だった。
若菜があのテロに遭ってから悩みが増えているように見える。
何か言われたのかそれともされたのかは分からないがほおっておける状態ではない。
彼女は地球の巫女となる使命がある。
その為にもそろそろ組織の人間としての自覚が欲しい。
だが、それをするには今はトラブルが多すぎる。
サラがオークション中に仮面ライダーからの襲撃を受けて部下が負傷してしまった。
獅子神は管理している組織と折り合いがつかなくなりその対処に追われている。
無名に関しては怪我の治療で動けない。
まぁ、それ以外にも問題はあるが
舞台が整い最も楽しめる状況になって始めて顔を出す。
最も悪魔らしい思考とも言えた。
ミュージアムは今、過去最高の状態となっている。
何時でも新たなメモリを作り出せる
政財界や上流社会にもメモリが普及している。
ミュージアムの名は今や風都以外にも轟いていた。
だからこそ万全を尽くして計画を完遂する必要がある。
琉兵衛はテラーのメモリに触れる。
触れたメモリから記憶が流れ込む。
それは過去にテラーメモリを持っていた私が残した恐怖の記憶....何十、何百と繰り返した時間の記憶の断片でもあった。
これが私がゴエティアの事を覚えていられた理由でもある。
と言ってもこの力が使えるようになったのはつい最近の事だった。
思い出せる記憶も選択出来ず突発的に現れるので最初は戸惑ったがそこから見える記憶には興味があった。
私が文音と協力してミュージアムを発展させる記憶や仮面ライダーと共闘している記憶、目の前で家族が全員殺される記憶、そして私が"エクストリームの力を手に入れる記憶"もあった。
恐らく、過去....いや未来の私が選択した記憶の一部だったのだろう。
その中には今の私に対するメッセージも含まれていた。
ゴエティア.....地球の本棚に存在する本物の悪魔。
本棚から世界を観察し事象に干渉する力を持っていた。
その存在に始めて会った時は私の家族が全員殺されて仮面ライダーも死に私がエクストリームの力を使ってゴエティアと戦っていた時の事だった。
だが、私は勝つことが出来なかった。
その理由は分からないがエクストリームに覚醒しても私はゴエティアには勝てなかったのだ。
覚えていることは負けたことと....その過程で恐怖をメモリにストック出来る力を得た事だけだった。
私は断片的にストックされた沢山の記憶からゴエティアが常にどの記憶にいることと誰かの身体を使いこの世界を見ていることを知った。
その誰かは分からなかった。
この能力が使えるようになり記憶を見るまでは.....
無名だと直感的に感じて彼に尋ねると思ったよりも早くその正体を明かしてくれた。
しかし、その時の声はこれまでの記憶にある声とは明らかに違っていた。
前までは無理矢理世界と繋がって出している声に聞こえたが今回は無名の身体を通して明瞭に聞くことが出来た。
つまり、今のゴエティアはこれまでのゴエティアとは何かが違うことが分かる。
ゴエティアが地球の記憶の書き換えを行わないのが答えなのだろう。
奴と対峙した際、言っていた言葉....「私はこの世界を使って遊びたい。」あの時は激昂したが今の私なら何か出来るかもしれない。
その為にも打てる手段は打つべきだ。
若菜を地球の巫女にする....例え本人が望んでなくても
悪魔に家族を奪われるあの苦しみをもう味わない為に、琉兵衛は取れる策と行動を模索するのだった。
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第百四十一話 奪われたX/報酬と代償
ミュージアムの地下研究施設に万灯は赴きゼロドーパントから奪い取った装置を琉兵衛に渡すとその装置から緑色の光を放つケースを取り外すと別の装置に設置した。
「その装置は何ですか?
よろしければ教えて貰っても?」
万灯の問いに琉兵衛が答える。
「クリスタルサーバーのエネルギーを"生体ケース"に移すんだよ。」
「生体ケース?」
「クリスタルサーバーの発する波長とエネルギーはメモリに移すことが出来なかった。
調べた結果、その波長は"生物にのみ適合する特殊なパルスのエネルギー"だったのだ。
この生体ケースにはデータ人間となった"来人の細胞"が使われている。
これならばこのエネルギーを完全に移すことが可能と言うわけだ。」
そう言うと琉兵衛は万灯に向き直った。
「良くやってくれた。
これは約束していた報酬だ。」
琉兵衛が渡したのは少し大きめのアタッシュケースだった。
「"アクセサリーシステム"のデータや設計図、それに試作品も同梱されている。
これを使えば君の求めるドライバーの開発に役立つだろう。」
「ありがとうございます。
これで私の計画が始められそうです。」
「差し支えなければ聞かせてくれないかね?
君の計画を.....」
「そうですね。
まだ構想段階ですが、私はもう一つの風都を作りたいのです。
そしてそこをガイアメモリで溢れた世界に変える。
この素晴らしい発明品をもっと有意義に使える場所を作り上げる。
それが僕の計画です。」
「ほう....中々に興味深い話だな。
もう一つの風都.....風都の裏側....."裏風都"と言った所か。」
琉兵衛の言葉を聞いた万灯は笑う。
「良いですね裏風都。
完成したらその場所をそう呼ぶことにしましょう。
風都を支配している貴方がつけてくれた名前なら縁起も良さそうだ。」
万灯はそう言うとアタッシュケースを持ち部屋を出ていこうとする。
「おや、もう行くのかね?
少しぐらいはゆっくりしていけば良いだろうに....」
「いえ、実は待たせている"人"がいますので遅れて機嫌を損ねたくないんですよ。」
「成る程、君のような優秀な人間でもそう思うのかね?」
「貴方もそうだったんじゃないですか?
そう言う人物に出会えたからこそ子をなし今の家族が出来た。
私にとってその人はそうなるかもしれない稀有な人物と言うことです。
では失礼致します。
あぁ、それと暫く私は連絡が着かなくなると思います。
会社の事は"出紋"に任せていますので何かあれば遠慮なく彼に言ってください。
話を通しておきます。」
そう言うと万灯はその場を後にした。
そして琉兵衛は完成した"ガイアプログレッサー"を手に満足そうに笑うのだった。
そんな中、孤島にいるNEVERと無名は平和な時間を過ごしていた。
ミーナは克己と再開すると優しく抱き締め合い、孤島の医療チームは傷付いたレイカ(死ぬギリギリになるほどの酵素切れ)京水(NEVERドライバー変身による副作用)無名(エクストリーム使用によるダメージ)の三人は即座に診察を受け治療が終わるとベットに移された。
どうやら、一足先に到着していたマリアは治療を終えて病室で寝ているらしくその姿を見た克己や無名は一安心した。
どうやら、マリアを含めて怪我の治療は須藤雪絵が行ってくれたのが当の雪絵本人の顔は心配そうな顔をしていた。
「何で私が貴方達の治療をしないといけないわけ?」
「医療関係に精通した学者がマリアさんと貴女しかいないからですよ。」
「学者と医者は全く違う筈なんだけど....」
『雪絵様.....このアンプルに入った薬を京水様に注射してください。 』
部屋に付いているスピーカーからメイカーの声が聞こえるとアンプルと注射器の入った容器がマニピュレーターに掴まれて雪絵の前に現れた。
「ありがとうメイカー。
貴女がいなかったら皆の治療なんて出来なかったわ。」
『いえ、雪絵様がいるお陰で他の事にもタスクを割けるのです。
こちらこそ感謝しております。』
雪絵は注射器とアンプルを受け取ると中身を吸出し薬の入った注射器を遠慮なく京水の首に刺した。
「あん!もっと優しくしなさいよ!」
「五月蝿いわね、生きているだけでも感謝しなさいよ。
無名やレイカは黙って私の看護を受けてるわよ?」
これも原作では知られなかったことだが須藤雪絵はがさつな所があるらしく、血液検査をするために無名の身体に針を刺そうとして何度も失敗しその事を無名が少しアドバイスしたらイラついて針をグーで握って刺してきた所を見てから無名と京水以外のNEVERは文句をなるべく言わないようにしようと誓っていた。
因みに無名の度重なる犠牲により完璧に注射が出来るようになったのでその後の患者は完璧に処置することが出来た。
メイカーが四人の体調を管理しており状況を分かりやすく説明してくれる。
『"無名様"はメモリ使用によるダメージが見受けられます。
治すには暫くの時間を要するでしょう。
"京水様"に関してはただの筋肉痛なので痛み止めを打っておけば問題ありません。
問題は"レイカ様"と"マリア様"です。』
『レイカ様は酵素切れの期間が長かった影響もあり記憶の欠落が多々見られます。
酵素を定期的に打ち続けていけば記憶が戻るかもしれませんが今の段階で確定的な事は申し上げられません。』
「そんなに忘れてるの?
私の記憶......」
『はい、孤島での記憶やNEVERに関連する記憶に欠落が見られます。』
「ふーん、そうなんだ。」
そんな反応をするレイカに京水は突っ掛かる。
「アンタねぇ、自分の記憶が失くなってんのよ。
もう少し真面目に聞きなさいよ。」
「失くしてるって自覚もないんだから仕方ないでしょ"おっさん"。」
レイカのおっさん呼びに京水は怒りではなく悲しみが込み上げてくる。
(アタシのこと名前で呼んでた記憶すら亡くしてんのね。)
その会話を見ていた克己がメイカーに尋ねる。
「おい、メイカー。
レイカの記憶は戻るのか?
酵素打つ以外に何か出来ないのか?」
『マリア様が意識を取り戻せば何かしらの打開策が模索できるのかもしれませんが現段階では何とも言えません。』
「......無名、お前もか?」
「確かにガイアメモリは僕の範疇ですがこれはメモリと酵素、両方の働きで起こっていることなんです。
メモリの知識だけで解決策を提示するのはリスクが高すぎます。
もっと記憶を失ってしまうかもしれません。」
「......そうか。
つまりはお袋が目覚めないことには始まらない訳か。
ならお袋はいつ目覚めるんだメイカー?」
『芦原様がマリア様に行った処置は須藤霧彦に行った仮死状態による肉体保存の応用です。
マリア様の身体はガイアメモリの毒素で汚染もされていませんし目覚める可能性は高いと思われます。』
メイカーの言い方に苛立ちを見せた雪絵が話し始める。
「兄は目覚めるわ。
私が目覚めさせて見せる。」
「そう言えばそちらの方の進捗はどうなのですか?」
「大まかな毒素の除去は完了したわ。
後は臓器関連の毒素の排除だけ.....
それが済めば兄さんの身体は普通の人間と同じ状態にも戻れる。
そうすれば意識だって.....」
「そうですか。
そこは雪絵さんに任せます。」
そんな話をしていると克己が無名に問いかける。
「そう言えば移動ヘリの中で誰と電話をしていたんだ?」
「電話?.....僕が電話をしたんですか?」
「?あぁ、随分と長く会話していたぞ。」
(ヘリの中で僕は意識を失っていた。
目覚めたのは孤島に到着してからの筈だ.....
じゃあ、会話をしたのはゴエティアか?
だとしたら相手は誰だ?)
無名は自分のスマホに手を伸ばし通話履歴を確認する。
(園咲 琉兵衛....何故、ゴエティアは彼と会話をしたんだ?
.....ダメだ推理しようにも情報が足りない。
こうなったら直に会いに行くしか....)
無名はそう思い身体に力を入れようとするが起き上がることが出来なかった。
(くっ!....やはりエクストリームの負荷は凄まじいですね。
長いこと使った感覚はないんですが...メイカーの言う通り、身体のダメージが回復するのを待つしか無いよですか。)
そう考えると無名は目を瞑り身体の回復に勤めるのだった。
その翌日、万灯は手に入れた情報を手に風都から姿を消した。
会社の事は部下である出紋に任せて.....
そして、風都にも新たな変化が訪れた。
新しい風都の市長である雨ヶ崎が破壊された風都タワーに代わる"新たな風都タワーの建設計画"を打ち出しそれが可決された。
既に湾曲し形を変えてしまった仮面ライダーWの物語。
それを見つめるのは物語を変えた
悪魔は笑う、この変わった世界を見ながら.....
そして思う"次はどうやって遊ぼう"かと
悪魔の遊戯が始まるまで後少し......
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第百四十二話 出現するH/謎の仮面ライダー?
風邪の治った翔太郎は漸く探偵業が復帰できると意気込んでいた時、タイミング良く依頼人が現れた。
「"風都安全組合?"」
亜樹子は渡された名刺を見て首をかしげた。
名刺を渡したスーツ姿と男が話し始める。
「ここ最近、風都を騒がしている仮面ライダーについてはご存じですか?」
「えっ?.....えぇまぁ有名ですから」
「実はその仮面ライダーが家の自治体の周りに現れ出したんです。」
「はぁ?どう言うことだよ!」
男の言葉を聞いた翔太郎が身を乗り出すがそれを亜樹子が後頭部をスリッパで叩くことで止めた。
「いっ....一体?」
「おほほほほほ気にせず続けてくださいませ。」
亜樹子がわざとらしく笑うと男はその流れに飲まれて話を続けた。
「それでその現れた仮面ライダーが可笑しな行動を続けているんです。」
「可笑しな行動?」
「えぇ、例えば...."地域のゴミ拾い"をしたり"お年寄りのお手伝い"、極めつけは"近くの学校の生徒の登下校のパトロール"をしてくれているんです。」
「それって、本当に仮面ライダーだったんですか?
仮面ライダーのコスプレをした一般人とか....」
「それはありません。
こちらの写真をご覧ください。」
そうして二人に差し出されたのは一枚の写真だった。
「偶然撮られた一枚だったのですが....これを見る限り私にはこの仮面ライダーは本物だと思ってしまうです。」
見せられた写真は少しボケていたが腰には"赤いドライバー"の様な物が見えていた。
「成る程、要件は分かりました。
それで依頼の内容は?」
「この仮面ライダーの正体を調べて欲しいんです。
実際に組合にも正体を知りたいと言う問い合わせも多く本業の方に頼むしかないと思ったのです。
どうかお願いします。
この仮面ライダーの正体を調べてください。」
そう言って渡された写真を翔太郎はフィリップに見せて検索をかけて貰った。
「まさか、仮面ライダーを名乗る人物が他に現れるなんて興味深いね。」
「だが、偽物だろ?
色合いはWのサイクロンジョーカーに似てはいるが....やってることは地域の奉仕活動だぞ?」
「それがそうとも言えないかもしれないよ?」
「あん?どう言うことだフィリップ。」
翔太郎の問いにフィリップはホワイトボードに日付は書き込んでいった。
「この日付は.....」
「そう、風都でテロを起こした大道克己のクローンが敗北した日付だ。
そして、キースと呼ばれる敵に身体の主導権を奪われエデンドーパントになった。」
「それが今回とどういう関係が......まさか!」
「あぁ、恐らくその時に捨てられたロストドライバーをこの仮面ライダーは手に入れたんだろう。」
「だが、ロストドライバーを使うには純化されたガイアメモリが必要な筈だろ?
一体何処で手に入れたんだ?」
「分からない。
だが、この仮面ライダー擬きがロストドライバーを付けていることは事実だ。」
「こりゃ、調べるしかねぇな。
フィリップ、ここ数日その仮面ライダーが出没した地域をリストアップしてくれ。
そっから足で探す。」
「それなら、もう検索を終えている。
どうやら出現するポイントにはある種の規則性があるようだ。
高確率で次現れるのはこの商店街だろう。」
フィリップが書いた地図に丸を付ける。
「ここから近いな......分かった。
ちょっくら行って見つけてくるわ。」
そんな話をしていると照井が事務所に姿を現した。
「左、風邪はもう良いのか?」
「あぁ、この通り完治したぜ。
何か用か照井?」
翔太郎の問いに照井が答える。
「実はフィリップの力を借りたいんだ.....
新田の残した手帳から新たな情報を発見した。
セブンスの一人が経営するファイトクラブの名前が分かったんだ。
警察ではそれ以上の調査はできなかった。
フィリップに検索して貰いたくてな。」
「分かった。」
そう言うとフィリップは手を広げて目を瞑り意識を地球の本棚へと集中させる。
「知りたい項目は?」
その問いに照井が答える。
「奴等の居場所だ。
キーワードは裏ファイトクラブの名前だ。
フィリップが地球の本棚にキーワードを入れると本棚が動き本が選別されていった。
「.....キーワードが少なくてまだ絞り込めないな。
他に何か無いのかい?」
「現時点で分かっているのは名前だけだ.....
それ以上の情報はない。」
「だとしたら、これ以上の絞りこみは不可能だね。
その名前だけなら該当する項目は"258件"ある。
闇雲に調べるには多すぎる量だよ。」
「その様だな....分かった。
何か分かったら連絡するからその時に続きを頼む。」
そんな話をしていると照井の携帯に着信が入る。
「はい、照井です。
.....はい....しかし風都は危険です。
お守りをしながら捜査できる程甘くは....はい分かりました。
失礼します。」
照井は携帯を閉じると溜め息を吐いた。
「どうしたんだ照井?」
「本庁から研修の為に数名の警察官が風都に来ているんだが....そのお守りを頼まれていてな。
そんな事をしている暇など無いと言うのに....」
「何だか大変だな照井。」
「まぁ、しかし来るのは警視庁期待のホープだ。
何とかなるだろう。
俺は風都署に戻る。」
そう言うと照井は風都署へと戻っていった。
そして、翔太郎は依頼された仮面ライダーを調べるため商店街へと向かうのだった。
Another side
暗い倉庫の様な空間で二人の男が互いを睨んでいる。
その目には純然たる殺意が写っており異様さを孕んでいた。
すると近くのスピーカーから声が聞こえてくる。
「さぁ!今回の一戦で生き残るのは一体誰なのかぁ!
両者とも準備は良いかぁ!
メモリをさせぇぇぇ!」
その言葉に従うように二人はメモリを取り出すと起動した。
「
「
両者がメモリを挿してユニコーンドーパントとドラゴンドーパントへと変身が完了した。
「ルールはいつも通りだ!
目の前の敵を殺せば勝利!
勝った者は何でも与えられる....さぁゲームスタートだ!」
するとユニコーンとドラゴンの二人のドーパントが拳を握ると殴りかかった。
パワーはドラゴンの方が強くユニコーンは吹き飛ばされる。
ユニコーンは額の角に手を触れると光り腕にユニコーンの特徴を残した槍が生成される。
槍を使った攻撃を行うがドラゴンドーパントは避けることすらせず攻撃を受け止めると拳でユニコーンを殴り付けた。
凄まじい衝撃と共にユニコーンドーパントは吹き飛ばされる。
ドラゴンドーパントは両手を握ると構えて空手の突きの動作を左右連続で行う。
その動作に合わせて強化された衝撃がユニコーンドーパントを襲う。
強力な連撃によりユニコーンドーパントのガードが弾かれその身体に衝撃が襲う。
ドゴォン!ドゴォン!
爆弾が爆破する様な音が部屋に木霊する。
それが数度続くとユニコーンドーパントのメモリが砕けて元の人間の姿に戻った。
ドラゴンドーパントは動けなくなっている男の右腕を掴み持ち上げるとゆっくりと力を込めていく。
ミシミシ....と骨が軋む音が聞こえた後、グシャ!と骨と肉が潰れる音が響いた。
「あがぁぁぁぁぁ!」
右腕を潰された男は叫ぶがドラゴンドーパントは止める気配はない。
潰れた右腕で身体を持ち上げながらもう一つの腕で男を殴り付ける。
その威力から腕を捕まれながらもサンドバッグのように男は揺れる。
しかし、一撃で死ぬ力で殴られてないのかまだ生きていた。
ドラゴンドーパントは直ぐに死なないように気を付けながら掴んだ男を殴っていく。
叫び声が呻き声に変わりもがいていた身体が動かなくなってくるとドラゴンドーパントは最後に渾身の力で身体を殴るとその威力に捕まれていた腕が耐えられなくなり腕が千切れて身体が吹き飛んでしまった。
千切れた腕を投げ捨てるとドラゴンドーパントは両腕を上げて勝利の雄叫びを上げる。
そして、スピーカーから実況をしていた男が声を出す。
「素晴らしいファイトでした!またしても彼が勝利を収めました。
この男の快進撃を止められる奴はいないのかぁ!
それでは勝者である彼に報酬を贈呈します!」
そう言うとドラゴンドーパントの男の前にバニーガールがケースに収められた道具を持って現れた。
「これは最近開発されたガイアメモリを強化するアダプターです。
貴方の願いは"もっと強い力"でしたね?
ですのでこちらを贈呈いたします。
おめでとうございまーす!」
ドラゴンドーパントはメモリを抜きアダプターを手に取ると笑う。
また、新たな力が手に入った.....これで自分のメモリはどれだけ強化されるのか?
どんな風に相手を殺すことが出来るのか?
考えるだけでワクワクした。
早く使ってみたい.....
その感情のままメモリとアダプターを見つめるのだった。
その姿を画面上で眺めている二人の男、一人はパソコンの前で飴を食べながらその光景を見つめ一人は酒の入ったグラスを傾けていた。
「順調っすね。」
飴を食べている男が言う。
「今回の収益はいくらだ?」
グラスを持つ男が尋ねると答える。
「今回は強い奴同士で試合が組めたんで中々、儲けられましたよ。
差し引き600億の儲けっすね。
それにしても強いっすよね"ドラゴン"の人は05でこんなに生き残ってる人なんて珍しいっすよ。」
裏ファイトクラブである05はドーパント同士が行う殺し合いを賭け事にしている
大抵ここに参加するのは多重債務者か犯罪者が多いのだがドラゴンのメモリを使う男は違っていた。
純粋に殺し合いがしたい男でありガイアメモリの力をとても気に入っていた。
だから勝利した後の報酬の話でも彼だけは力を求めたのだ。
だからこその悩みもあった。
この男は強すぎたのだ...このクラブで最も強かったユニコーンメモリを使う犯罪者も歯牙にもかからなかった。
今のところこのクラブで彼より強い者は存在しない。
なら何故、そんな強い相手が更に強くなるアイテムを渡したのか?
それは風都のとある商店街に出現する仮面ライダーの存在を聞き付けたからだ。
その光景を見せて賭け試合を組めば勝っても負けてもこちらは得をする。
だからこそ、正式量産品として作られた"強化アダプター"を渡したのだ。
灯夜の話ではこれを使えばメモリの力を三倍まで強化できるらしいのだがまだ稼働データが少ない為、色んなタイプのドーパントのデータをミュージアムは欲しているらしい。
そう言う意味では05はセブンスの中で最も稼働データが取れる場所だと言える。
正にWin-Winの関係と言えた。
「さぁ、たっぷりと稼がせてくれ.....仮面ライダー。」
グラスを持つ手を傾けながら"05のオーナー"である男は笑うのだった。
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第百四十三話 現れたH/ヒーローとの邂逅
商店街までやってきた翔太郎はメモリガジェットを使い周囲を索敵した。
「.....どうだフィリップ?」
そのデータをリボルギャリー内部にいるフィリップが解析する。
「得にこれと言った者はいないね。
ただ、いないのかそれとも.....」
「俺達の索敵じゃ見つけられない敵ってことか?」
「使用しているメモリが空間移動系なら可能性はあると思う。
トレインやホール、ゾーンの様なメモリならね。」
そんな話をして気を抜いていた翔太郎はスーツ姿の男とぶつかってしまう。
「痛っ.....悪い大丈夫かあんた?」
尋ねられた男は起きあがると地面に落ちた眼鏡を拾い上げる。
「いっ....いえ、大丈夫.....です。」
そう言って足早に去っていくスーツの男を見ていると声が聞こえた。
「泥棒よ!」
見ると男が女物のバッグを持ってこちらに走ってきていた。
「アイツか!」
翔太郎は走ってくる男の前に立ち塞がるが目の前で強い風が吹くと突如、走っていた男は姿を消した。
「なっ!一体何処に?」
辺りを見渡すと泥棒の男を抱えたドーパントが姿を現した。
緑と黒の色合いはWを彷彿させるが仮面ライダーでないことは翔太郎には分かった。
何故なら腰についているロストドライバーにメモリが装填されておらずそれどころか展開もしていなかったのだ。
つまり、コイツは腰にドライバーを付けただけのドーパントと言うことになる。
そんな事を考えていると抱えられている泥棒がドーパントに吠える。
「離しやがれ!.....このぶち殺してやる!」
しかし、ドーパントはその言葉に耳を貸すことはない。
そして、ドーパントは翔太郎に目を向けた。
(コイツ!?俺とやる気か?)
そう感じてダブルドライバーを取り出そうとするが周りには商店街の人が沢山いた。
ここで変身することは出来ない。
(クソッ!生身でやるしかないのか。)
そう思っているとドーパントが声をかけてきた。
「あの........」
(来る!)
翔太郎が構えようとするとドーパントが言った。
「すいませんが警察を呼んでくれませんか?」
「.....は?」
余りにも意図していない言葉を言われて翔太郎は固まる。
「ですから、警察を....泥棒を引き渡すのでお願いします。」
ドーパントは泥棒を抱えながらそう言った。
「あっ.....あぁ」
翔太郎は言われるまま警察に電話をする。
時同じくして風都署では本庁から研修にした三人の若き警察官が照井らと顔を会わせていた。
「超常犯罪捜査課の....照井だ。」
「「「.......」」」
自己紹介をされるが空気が重い...その理由は彼等が照井の嫌う質問を続けて「俺に質問するな....」と暗に脅してしまったからだ。
その状況を鑑みたのか刃野刑事が助っ人を別の課から呼んでいた。
「あぁ、皆さんそんなに緊張しないで....照井課長は別に君達を嫌っているわけではないから」
和やかな笑顔に場の空気が少し柔らかくなる。
「あぁ、僕は"捜査三課集団スリ特別捜査班の班長"である"相模"です。
照井課長と一緒に君達のサポートをしますのでよろしくお願いします。
....では皆さん自己紹介をお願いできますか?」
相模の言葉に一人ずつ自己紹介を始める。
「えーっと...本庁から研修で来ました
そのー....よろしくお願いします。」
まだ、この空気感にやられているのだろう。
引き腰の自己紹介だった。
隣の女性は相模の登場により落ち着いたのかハキハキと話し始める。
「同じく本庁から研修でこの風都署にお世話になります
よろしくお願いします!」
そして、最後にいた男はクールさを全面に押し出しつつも礼節を弁えた話し方をする。
「本日付けで超常犯罪捜査課でお世話になります。
よろしくお願いします。」
「......そうか。」
自己紹介を聞いても照井のテンションは一定だった。
それを見かねた相模が助け船を出す。
「あー、照井課長?
彼等は研修と言われてこちらに配属されたばかりで何も知らないみたいなんです。
ですので超常犯罪課について説明をするべきだと思いますよ。」
すると、照井は渋々、ホワイトボードに数点の写真と文字を書き始めた。
「超常犯罪とは文字通り、普通ではありえない犯罪。
例えばビルの鉄骨を溶かし倒壊させたり怪物に変わった人間が起こす犯罪を調査し犯人を検挙する。
この風都で代表的な事件で良く使われているのがこのガイアメモリだ。」
照井の言葉に泊が尋ねる。
「一体何なんですか?
そのガイアメモリ....」
「俺に質問するな....これから説明する。」
「はい、すみません。」
しょぼんとしている泊を他所に照井の説明は続く。
「ガイアメモリとはこの風都にばら蒔かれている悪魔の道具だ。
これを使うことで人間をドーパントと言う怪物に変貌させることが出来る。
今、写真で写っているこの現場は全て一人のドーパントが起こしていった事件だ。」
「そんな....こんなことが?」
余りの悲惨な光景に凛子は口を抑える。
「それで、私達は研修の間このガイアメモリについて調査を行うのですか?」
後藤の質問に照井が答える。
「いいや、諸君らにはあくまで一般の研修を行って貰う。
所謂、デスクワークだ。」
その言葉に後藤が噛みつく。
「しかし、それでは研修の意味がありません。
刑事としての経験を積むためにも私は現場での捜査を希望します。」
「超常犯罪の捜査は危険を伴う。
ある程度の経験が無ければ足手まといになるだけだ。」
「自分は格闘術や拳銃の扱いも得意です。
自分の身は自分で守れます。」
「後藤と言ったか?
上司の意見が聞けないと言うのか?」
「いえ、ただ現場を知る経験が目の前にあるのにデスクワークしか出来ないのならば研修に来た意味を感じないと思っただけです。」
「..........」
照井は沈黙しながら後藤を見つめている。
その姿は誰が見ても怒っている事が分かった。
困った同僚である泊が後藤に小声で言う。
「おい、あんまり照井課長を怒らせるなよ。」
「有意義な経験を積みたいと進言することの何が悪いんだ?」
今度は凛子が後藤に小声で言う。
「気持ちは分かるけど私達はまだ新人なのよ?
ここは上司の意見を真面目に聞いておくべきよ。」
「俺はここに捜査をするために来たんだ。
時間は少しでも無駄には出来ない。」
「.........」
後藤の主張を聞いた照井は更に沈黙する。
その姿を見て泊と凛子は顔が歪む。
(やっ.....ヤバい、本気で怒ってる。)
(どうするのよ!上司と不仲になるのは今後の事を考えても不味いのに.....)
何とか状況を打開したいが刑事としての経験が浅い泊と凛子では解決策が思い付かなかった。
そこに相模が助け船を出す。
「君達の熱意はとても素晴らしいよ。
だが、超常犯罪の現場が危険なのは本当の事だ。
いくら、自分の腕に自信があったとしても少しの判断ミスが死に繋がる。
だからこそ、ここに配属されるものは"優秀以上"の技量や能力が求められるんだ。
とは言え、君達が優秀なのは資料を見れば分かる。
そこで提案なんだか照井課長、数日この三人を捜査三課にお借りできませんか?
そこでの働きを見て超常犯罪の現場に入れるか決めると言うのは」
「成る程、それは良い案ですね。
分かりました。
この三人を三課に預けます。」
とんとん拍子で話が進んでいるところに後藤が水を差す。
「待ってください私は...」
「大丈夫だよ。
君が本当に優秀なら直ぐにでも超常犯罪課の現場に参加できる程の実績を上げられるだろう?
まさか、君の能力はスリ相手には役に立たないのかな?」
相模の挑発に後藤は不機嫌な顔をする。
「分かりました。
ですが、実績を上げたら直ぐに超常犯罪課の現場に参加させてください。」
「えぇ、勿論。
照井課長、この三人は責任をもってお借りします。」
そうして相模は照井に頭を下げると三人を連れてその場を後にした。
超常犯罪課を後にし相模から準備が出来たら追って連絡すると言われた三人はほっと肩を撫で下ろした。
「ヤバかった....おい、後藤とか言ったっけ?
お前なんでそんなに捜査したいんだよ。
態々、上司の照井課長を怒らせてまで....」
泊の問いに後藤は答える。
「お前らは可笑しいと思わないのか?」
「何がだ?」
「"仮面ライダー"の存在がだ。
警察官は国に認められて市民や街を守っている。
だが、仮面ライダーは国に認められず非合法に街を守っている気になっている。
そんな奴らにこれからもずっと守って貰うつもりなのか?
警察官と言う職務を果たせていないのは力が無く弱いからだ。
だから仮面ライダーに頼らざるを得ないんだ。」
「だからって捜査に加われば強くなれる訳でもないだろう?」
「だが、相手の事は知れる。
俺達はまだ何も知らない。
この街の事もドーパントの事も....それなのにデスクワークしかさせないのは俺達がなめられているからだ。」
「そんな事は無いと思うけど.....」
二人の話を聞いていた凛子がそう話すとそこに相模が現れた。
「すいませんが三人とも来て下さい。
風都の南街商店街で窃盗事件が起きました。
その犯人を逮捕しに行きますよ。」
そう言って相模は三人を連れて商店街に向かうのだった。
商店街に着くと人間を抱えた怪人を見つけて後藤と凛子そして泊は驚く。
「何だコイツは!」
「これが課長の言っていたドーパント?」
「どけ!お前ら!」
そう言うと後藤が怪人に銃を向けながら告げる。
「その人を離せ!でなければ撃つ。」
しかし、その行動を帽子を被った青年が止める。
「お前、何してんだ!いきなり銃を向けるだなんて!」
「貴様っ!邪魔をするな!俺は刑事として当然の..」
そんなやり取りをしていると相模が怪人の前に立つ。
「ありがとう、また君には助けられてしまったね。」
「これは....俺のしたいことだから構わない。」
「そうか、後藤くん銃を下ろしてくれ。
それと泊くん彼の抱えている男が犯人だ彼に手錠をかけて署まで送ってくれ。
大門さんは盗まれた物を持ち主に返してくれ。」
「え?.....あ...はい。」
状況が読めないながらも凛子は相模の指示に従う。
「そこに落ちているバックが盗まれた物です。
お願いします。」
怪人が指を指した方向には確かにバックがあった。
「へ?あっ、ありがとうございます。」
凛子はバックに駆け寄り盗まれた人を探し始めた。
泊が怪人から泥棒を受け取り手錠をかけると怪人は飛び上がりその場から逃走した。
「待て!」
後藤が飛び上がる怪人を銃で狙おうとするが余りの早さから逃がしてしまった。
そして、後藤は銃を仕舞うと相模に話しかける。
「どう言うことですか?
相模さんはあの怪人が何者なのか知っているんですか?」
「それに関しては俺も聞きたいな。」
帽子を被った男も話しに混ざる。
「これは警察官同士の会話だ。
部外者が余計な口を出すな。」
「んだとコラ。」
険悪になりそうな二人に相模が話す。
「止さないか後藤くん。
貴方は左 翔太郎さんですね?
超常犯罪課に協力している話しは聞いていますよ。
勿論、話すよ。
その為に三人を連れてきたんだからね。」
優しい口調から相模は話し始めるのだった。
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第百四十四話 現れたH/救われた過去
私は非番の日に妻と一緒に食事に出かけていた。
そんな時に、銃を持った男が私の前に現れた。
その男は過去に私が逮捕した男であり逆恨みされてこの場で私と妻を殺すために来たのだと言った。
男は銃を撃ち私の膝に命中したそして倒れる私を心配するように妻が来ると男は妻に銃を向けた。
このまま撃たれたら妻は死ぬ....そう思った私は男を止めた。
だが、男は笑いながら妻に向けて銃を撃った。
そして、銃弾を受けて妻は倒れる....筈だった。
そこで私達の前にあの怪人が現れたんだ。
怪人は私達の前に立ち塞がり男の撃つ弾を全て受け止めた。
弾切れした銃を捨てると男はナイフに持ちかえて刺しにかかるがそれも怪人に止められ倒されてしまった。
その怪人がドーパントと呼ばれる事は私は知っていた。
長年、風都で警察官をしていれば嫌でも目についてしまう。
そしてドーパントは皆、凶暴だと思っていた。
だが、その怪人は私達にこう言ったんだ。
「早く警察と...それに救急車を呼んでください。」と
そして、私達は夫婦は怪人に救われ襲ってきた男は警察に捕まった。
相模が話した言葉を聞いた翔太郎や後藤、泊、凛子はそれぞれ驚いていた。
「その助けてくれた怪人ってのが今の奴なのか?」
「そうだ。
あの怪人が私達を助けてくれたんだ。」
「だから、信用すると?
それが警察官として正しい選択だと貴方は思っているんですか?」
「では、君は私達が死ぬか妻が死ぬ結果こそ正しい選択だったと言うのかい?」
「それは.......」
「とは言え、私自身も悩んだ。
この選択が本当に正しかったのかとね。
だから、これは君達三人に決めて欲しい。
私が正しかったのか間違っているのかを.....」
「私が間違っていると思うのなら照井課長に真実をありのまま伝えてくれ。
だか、もし許されるのなら"彼"のヒーローとしての夢を尊重して上げて欲しい。」
「彼?....相模さんはあの怪人の正体を知っているのですか?」
「....あぁ、彼の名前は"
私は彼の事を知っているよ。」
相模がそこまで言うと後藤が手錠を取り出し相模の腕に掛けた。
「おい!何してんだ!」
「分からないのか?
怪人との共謀を認めたんだ...これから署で話を聞く。」
「後藤!いくらなんでもやりすぎだぞ!」
その行動に泊も後藤を止める。
「警察官でありながら怪人に手を貸していたんだ。
これは正しい....正しいことなんだ!」
「お前の言っている正しいは自分の価値観での正しいだ!
俺や大門の意見を聞かずに勝手に決めた正しいさは認めない!
それに相模さんが言ってただろう"三人で"決めてくれって...お前一人の意見で決めて良いことじゃない!」
「それは怪人と共謀していた奴の言葉だぞ!」
「いい加減にしろ!自分勝手何だよお前は!」
「ちょっと落ち着きなさい二人とも!」
凛子が二人の間に入る。
「私は後藤くんの意見に賛成する。
相模は一度、署内で話を聞くべきよ。」
「だけど!」
「でも!だからと言って犯罪者みたいに捕まえて話を聞くのは反対。
だから彼の手錠を外して後藤くん。
でないと私も認めない。」
「......分かった。」
後藤は相模に付けた手錠を外すと四人で車に乗り風都署へと帰っていった。
残った翔太郎はさっき相模が言っていた名前を思い出す。
「中島正義か....直ぐにでもフィリップに検索をかけて貰うか。」
そして、翔太郎も事務所へと帰っていくのだった。
事務所に付いた翔太郎はフィリップに事情を説明した。
「暴力を振るわないドーパントだなんて....興味深いね。」
「あぁ、俺も見た時は驚いたぜ。
ドーパントに警察を呼ぶように頼まれたのなんか始めてた。
しかし、何でそんな事が可能なんだ?
毒素による影響を受けるなら大なり小なり暴力的になる筈だろ?」
「仮説だが、ロストドライバーを付けていることでメモリの毒素が抑えられているのかもしれない。
だが、本人の気質によるものも大きいだろう。」
「まさか、あの時のドライバーがそんな使われ方をされるなんて思っても見なかったぜ。
所でフィリップ、検索した感じはどうだ?」
「人名だからかなり絞りこめはするけどまだ多いね。
もう少しキーワードが欲しいよ。」
「キーワードねぇ.....そう言えばあの刑事が言ってたなヒーローの夢って....フィリップ、キーワード追加"ヒーロー"だ。」
地球の本棚が動き一冊の本がフィリップの前に現れた。
「相変わらず君の洞察力には畏れ入るよ。
中島正義の居場所が分かった。
それにメモリについてもだ。」
「マジか、何のメモリだったんだ?」
「文字通りのメモリだよ。
"ヒーローメモリ"、使用者の想像するヒーローの力を具現化させる能力があるメモリだ。」
「じゃあ、奴がWみたいな姿をして現れたのは...」
「彼にとってWが自分の考えるヒーローの姿に最も近かったからだろうね。」
「そうなのか。」
「ヒーローメモリの特性は君のジョーカーメモリと似ている。
使用者の感情によって能力が増減する。
もし、彼が"完全無欠のヒーローだと本気で思えた"のならメモリはそれに答えて本当にその通りの力を手に入れられる。」
「そんなヤバいメモリなのか?」
「あぁ、だからこそ一刻も早くメモリをブレイクする必要がある。
彼が人を襲う前に......」
「それは....いや、そうだな。
その為にも中島と接触しねぇといけないな。」
そう言うと翔太郎はバイクに乗りフィリップの検索した場所へと向かったのであった。
風都の南街商店街の一角にある公園....そこでスーツ姿の男は一人黄昏ていた。
そんな所にバイクから降りた翔太郎が現れる。
「やっぱりアンタだったのか。」
「貴方は確か商店街でぶつかった。」
「あぁ、俺の名前は左翔太郎。
探偵だ....アンタの事は知ってるぜ。
中島正義、そしてヒーローメモリを使うドーパント。」
「........」
「どうした?何も言わないのか?」
「遅かれ早かれバレると思っていました。
これはとても危険な代物だって言うことも....」
そう言うと正義はメモリとドライバーをバックから取り出した。
「なぁ、何でメモリを使ってドーパントになったんだ?
それもボランティアみたいなことをする為に」
「僕は、正義の味方になりたかったんです。
傷つけられている人を守り助けられるような存在に.....だからこのメモリとドライバーを使ったんです。」
正義の言葉を聞いた翔太郎は静かにWドライバーを取り出して腰に付けるとメモリを起動した。
「JOKER」
『「変身」』
「CYCLONE,JOKER」
翔太郎はドライバーを展開しWへと変身を完了させる。
「貴方が....仮面ライダー....」
「変身して見ろよ...正義。」
翔太郎の言葉を受けて正義は立ち上がるとロストドライバーを腰に付ける。
そしてメモリを起動した。
「
メモリを腕に挿すとヒーロードーパントへ変身が完了した。
そんな正義に翔太郎はいきなり殴りかかった。
正義は驚きながらもガードを行う。
『いきなりどうしたんだ翔太郎!』
フィリップからの問いに答えること無く翔太郎は正義へ徒手空拳による攻撃を続ける。
だが、その攻撃は何時もの翔太郎が放つ攻撃と比べると覇気がなく速度も遅い。
そのお陰もあり威力は皆無だった。
だが、そんな攻撃でも正義は回避せずに受けてしまう。
「うっ!....くっ!」
正義は足に力を入れるとこの場から逃げるために思いっきり飛び上がった。
「逃げんな!」
翔太郎はドライバーのメモリを変える。
「CYCLONE,TRIGGER」
翔太郎はトリガーマグナムを手に取ると正義が着地する地面に向かい発砲した。
すると、着地した地面に弾が当たり火花が起きると正義は転んでしまう。
『翔太郎、いくらなんでもやりすぎだ!
彼に戦闘の意思は無い!』
「どうした?戦わねぇと俺にやられるぞ!」
翔太郎が発破をかけると正義は拳を握り締めWに向かって殴りかかってきた。
それを翔太郎はガードすること無く受けようとする。
正義の拳がWに突き刺さろうとした瞬間、正義の身体が震え腕が止まってしまった。
『....一体どう言うことだ?』
その姿を見た翔太郎は確信を持って告げた。
「お前、"暴力を振るえない"んだな。」
「!?」
「ずっと、おかしいと思ってたんだ。
泥棒を捕まえた時のお前は泥棒を捕らえるだけでそれ以上攻撃を加える素振りは全く無かった。
確信に変わったのはあの刑事から銃を向けられて撃たれそうになった時だ。
反撃しても良かった筈なのにしなかった。
寧ろ、逃げるようにその場から逃走していた。
それが妙だと思ったんだ。」
そう言うと翔太郎と正義は変身を解除した。
「教えてくれ。
暴力を振るえないお前が何でヒーローを目指したのかを...」
すると正義は静かに語り始めた。
中島正義は平凡な人間だった。
勉強な運動、性格に至るまで何処にでもいそうな普通の人間だった。
ただ、一つ個性があったとすればそれは生来持っていた正義感だろう。
誰かが傷つくことを嫌いそんな人達を守りたいと本気で思っていた。
そんな彼の人生を変えたのは高校生の頃、虐められている友達を助けた時だ。
良くあることだ....虐めを止めたら今度は自分が標的になる。
だが、ここで違うのは守った側も優しい人間だったと言うことだ。
友達が自分の代わりに虐められている現状に耐えかねて彼は自殺した...助けようと手を伸ばした正義の手を払って
それ以降、正義はその一件がトラウマとなり暴力を見ることと自分で使うことが本当に嫌だと思うようになったんだ。
それから大人になった正義は風都のとある証券会社に就職した。
そこでまた同じように暴力を見る機会が増えてしまった。
今度はドーパントと言う怪物が起こす暴力を.....
そして、そんな怪物と戦うヒーロー、仮面ライダーを間近で見た正義はこうなりたいと本気で思った。
正義は強くなりたくて道場にも通ったが結局、トラウマによって攻撃出来ず体の良いサンドバッグにしかならなかった。
自分には皆を守る力や資格もない。
そう思って自分を偽って生きていたある日、正義はヒーローメモリと出会った。
心が惹かれる感情を覚えた正義はメモリを手に取った。
だが、直ぐ使う気が起きなかった。
自分が風都で暴れているあの怪物と同じになる恐怖を感じていたからだ。
そんな正義の前であの事件が起きた。
目の前で夫婦が銃で襲われている現場に遭遇した正義は直ぐにメモリを手に取った。
だが、どうしても使うことはできなかった。
怖さとトラウマにより吐きそうになる自分が嫌で仕方が無かった。
助けを求めるように手を伸ばした先で正義はこのドライバーを手に入れた。
それからは早かった。
ドライバーを付けてメモリを使う。
あの時に憧れたヒーローを思い変身すると僕はヒーローになれた。
自分の精神が安定している事が分かり正義は銃を構えている男の前に立ち塞がった。
そしてその男を取り抑えることが出来た時は本当に嬉しかった。
自分もヒーローになれると本気で思えた。
そして、その時に始めて助けた人が相模広志と言う刑事だと知った。
どうやったのか分からないが正義がドーパントであると調べ上げるとカフェに呼び出された。
僕は観念してメモリとドライバーを彼に渡したが彼が言ったのは助けて貰った事への感謝の言葉だった。
「君が僕と妻を助けてくれなかったら....仮に僕が生きていたとしても犯罪者を憎み"復讐の為に生きる処刑人"に変わっていただろう。
君には人として刑事としても助けられた。
本当に感謝している。」
始めて人から感謝された正義は自分の境遇と思いを彼に話した。
「暴力が怖い....ですか。」
「はい、でも誰かの力になれるヒーローに...僕はなりたいんです。
きっと、その為にこのメモリとドライバーが僕の手元に来たと思うんです。」
「....こんなことを言っては警察官として失格かもしれません。
けど、私は恩人である貴方の願いを叶えたい。
ですのでこう言った方法はどうでしょうか?」
相模が提案したのは仮面ライダーが普段助けない小さな問題の解決を自分がすると言うことだった。
「ガイアメモリの危険性は私も理解しています。
ですので定期的に連絡を入れてください。
その間は貴方を信じてガイアメモリを使っていることは黙認します。」
それから僕の小さなヒーロー活動が始まった。
お年寄りを助けたり事故を未然に防いだり....時にはドーパントの被害を受けた人の救助も行っていた。
窃盗犯を捕まえるために何度も相模さんとも協力した。
僕はこの時間がとても嬉しかった。
仮面ライダーみたいに戦えなくても人の役に立てている事に嬉しさを感じていた。
だけど、風都でガイアメモリの犯罪が起こる度にこのままで良いのか悩む機会も増えた。
そんな時に本物の仮面ライダーである貴方が現れた。
「教えて下さい....ヒーローって何なんですか?
力が無ければ戦えなければなれない存在なんですか?」
「......」
その質問に翔太郎は答えられないでいた。
何故なら翔太郎は自分の事をヒーローだとは思っていない。
何時も一生懸命に事件や依頼と向き合い仮面ライダーとして戦っているだけだからだ。
答えに悩んでいると何処かから殺気を感じた。
「あぶねぇ!」
翔太郎が正義のいた場所から突き放すとそこの地面が爆発し抉れた。
「何だ一体?」
攻撃された方向を見てみるとそこには一体のドーパントが立っていた。
ドーパントは正義と翔太郎を見つめると言う。
「お前達が仮面ライダーか?
俺は"ドラゴン"....俺の力の為に死んで貰う。」
そう言ったドラゴンドーパントが二人に襲いかかった。
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第百四十五話 暴虐のD/殺すための力
正義と翔太郎の前にドラゴンドーパントが立っている。このドーパントが仮面ライダーとして戦うために現れた事を言った時、翔太郎は驚いた。
「まさか、ドーパントから俺達に会いに来てくれるとはな....」
「当然だろ?強くなるには強い相手を殺して力を手にいれる必要がある....それが"ファイトクラブのルール"だ。」
「ファイトクラブ?一体何の話だ!」
「知らないのか?.....まぁ良い。
仮面ライダーを殺すことが俺の目的だ。
さぁ、早く変身しろ。
それとも、生身での戦いがお好みかぁ!」
ドラゴンドーパントが地面を殴るとそこから衝撃波が発生し二人に向かっていく。
二人とも回避すると二人のいた地面が爆発し大きな穴が出来る。
「コイツ、やべぇ!」
翔太郎はこれまでの経験から直ぐにメモリを起動し変身した。
「CYCLONE,JOKER」
Wに変身するとドラゴンドーパントへ向かっていく。
サイクロンによる高速の蹴りがドラゴンドーパントに直撃するが全くダメージを受けていない。
「どうしたその程度か?」
「野郎....フィリップ、メモリチェンジだ!」
『あぁ!』
「HEAT,METAL」
Wはヒートメタルにメモリチェンジするとメタルシャフトによる連撃を食らわせるが相手は仰け反るどころか打たれたメタルシャフトを掴み上げて攻撃を止めた。
「何っ!」
「つまらん...弱すぎだっ!」
ドラゴンドーパントは握りこんだ左手をWの胸部へ当てた。
すると空気が振動しWは遠くの電柱へと吹き飛ばされてしまった。
電柱にぶつかっても威力が収まらずその電柱が折れてしまう。
「何て威力だっ!」
『恐らく衝撃を増幅して撃ち出したんだ。
ヒートメタルの強化された装甲を貫くとは恐るべき威力だ。』
吹き飛ばされたWを見つめながらドラゴンドーパントは分かりやすく落胆する。
「何だ....風都を守る仮面ライダーも所詮この程度か。
これじゃあ、手に入れた力を使うまでもないな。」
すると、ドラゴンドーパントの両手が振動するとラッシュするように腕をWに向かって振るった。
するとその衝撃がWへと飛び身体に着弾するとWの身体を大きく仰け反らせる。
「クソッ!攻撃が収まらねぇ。」
『このままじゃ分が悪いね...戦法を変えよう。』
そう言うと攻撃の防御を翔太郎に任せてフィリップは携帯を操作しリボルギャリーを呼び出した。
リボルギャリーが展開し中からフィリップが飛び出すとそのままリボルギャリーがドラゴンドーパントへ突進した。
リボルギャリーの突進を真っ向から受けたドラゴンドーパントだが後ろに下がること無くリボルギャリーを受け止める。
『翔太郎、ファングジョーカーで行こう。』
「あぁ、分かった。」
リボルギャリーが時間稼ぎをしている間に翔太郎は変身解除すると意識を取り戻したフィリップがファングメモリを呼び出す。
呼び出されたファングメモリがフィリップの手に収まると変形させてメモリモードへと変える。
「FANG」
「JOKER」
「『変身』」
ジョーカーメモリがフィリップの元に転送されるとファングメモリをドライバーにセットし展開した。
「FANG,JOKER」
ファングジョーカーへ変身が完了すると獣のように低く構えるとドラゴンドーパントへ飛び掛かった。
Wの基本形態の中でも特筆して直接的戦闘能力の高いファングジョーカーはドラゴンドーパントとの戦いは肉薄していた。
Wの攻撃をドラゴンドーパント自慢の装甲で耐えつつ衝撃を纏った拳で殴りかかるがそれをWは獣の様な変則的な動きで回避する。
「あっはっは!....面白い!やはり戦いはこうでなくては面白くない!」
「何て耐久力だ....ファングの攻撃を真っ向から受けてダメージが殆ど無いなんて」
『どうするフィリップ?
このままだとじり貧だぞ。』
「なら、マキシマムであの装甲を一気に削ろう。」
『ファングのマキシマムでか?』
「いや、あれは強力だが隙も多い。
ジョーカーメモリを使おう。」
『分かったぜフィリップ!』
Wは戦いながらファングメモリの角を一回、その後二回弾いた。
「ARM FANG」「SHOULDER FANG」
Wの肩と右腕に牙が生成されると肩の牙を抜きドラゴンドーパントへ投げ付けた。
追尾するブーメランとなった牙がドラゴンドーパントを斬り付けている間にWはジョーカーメモリをドライバーから抜きマキシマムスロットへ装填する。
「JOKER MAXIMUMDRIVE」
「『
紫のエネルギーを纏った右腕の牙がJの文字を刻むようにドラゴンドーパントの胸を斬り付けた。
この攻撃は効いたようでドラゴンドーパントは片膝を付く。
「くっ!.....流石は仮面ライダーと言ったところか。
この力を使うのに丁度良い。」
そう言うとドラゴンドーパントは変身を解除する。
変身解除するとガタイの良い男が現れる。
「あん?もう降参か?」
「まさか、新しい力を使う下準備だよ。」
そう言うと上着のポケットから謎の機械を取り出す。
「何だあれは?」
翔太郎の疑問に答えること無くメモリの上部にその機械を差し込む。
「
そしてメモリを首に挿した。
当初と同じドラゴンドーパントへと変身するが身体の中心からヒビが入りその亀裂が全身へと広がっていく。
そして、余剰エネルギーが爆発すると黒かった装甲が赤く輝き強烈な熱を発する新たな形態へと姿を変えた。
そして、背中には大きな翼が二枚現れ正にドラゴンとして大人になった姿と言っても過言ではなかった。
『コイツ....いきなり変わりやがった!』
「翔太郎!気を付けた方がいい。
何か嫌な予感がする。」
「さぁ、第2ラウンドを始めようかぁ!」
強化されたドラゴンドーパントが翼をはためかすとその衝撃が熱波となりWを襲った。
Wの身体が発火する程の熱を発する。
「くっ、恐ろしい熱量だ!」
『クソッ!これならどうだ!』
翔太郎が肩の牙をドラゴンドーパントに投げ付けるが彼の近くまで飛ぶと発火し燃え尽きてしまった。
『何っ!』
「ファングの牙を燃やし尽くす程の熱とは....危険だよ翔太郎!」
「小細工は終わりか?ならこっちの番だぁ!」
ドラゴンドーパントは拳を握りこむと赤熱した腕が振動し始める。
「まさか、前と同じように振動を飛ばせるのか?」
ドラゴンドーパントがWに向かい腕を振るうと振動が同じようにWへと向かっていった。
Wはこれを回避するが着弾した瞬間、強烈な熱が解放されバックドラフトが起こり回避した筈のWが火だるまになってしまう。
Wは身体の火を地面を転がって消すがダメージが大きく肩で息をし始める。
「はぁはぁはぁ....」
「どうした?もう息切れか?
もっと俺を楽しませてくれ。
でないと"見ている"奴も飽きてしまうだろう?」
「見ている?一体どう言う意味だい?」
「そのままの意味さ、この戦いは実況されている。
丁度、俺がメモリを強化した段階からな。
このファイトを見たい客が多くてオーナーがライブ配信を計画したんだよ。」
『俺達は見世物かよ。
気に入らねぇな。』
「安心しろ、どちらかが死ねば戦いは終わる。
見世物が嫌なら俺を殺せば良いだけだ!」
ドラゴンドーパント身体を赤熱させるとその熱を腕に集中させる。
「前の俺は"振動を相手に飛ばす"だけしか出来なかったが進化した今の俺の力を使えばこんなことも出来るんだぞ?」
赤熱した腕で地面を殴り付けると熱が地面へと流れていきうねりの加わった爆発はWのいた地面をガラス化させる程の熱を発し爆発した。
この爆発に巻き込まれたならいくらWでも命はない。
しかし、そんなWを助けたのはヒーロードーパントに変身した正義だった。
爆発する直前に変身した正義がWを抱えて攻撃をギリギリで回避したのだ。
「おいおい、部外者が俺達のファイトに入ってくるんじゃねぇよ....殺すぞ?」
「....何で君はそんな簡単に暴力を振るえるんだ?」
「は?力は使うためにある。
そして効率良く力を使う手段は他者の命を奪い殺すことだ。
俺は力が欲しい....そしてその力を使いたい。
だから殺すそれだけだ。」
「それは、傷つく"痛みを知らない人間"だから言えるセリフだ。
そんな勝手な理由で殺しは正当化されない!」
「下らない!お喋りしたいならそこら辺の雑魚としてろ!」
ドラゴンドーパントの攻撃が正義に迫る。
Wを抱えてたまま回避を行うが爆発の方が早く正義の足が爆発に巻き込まれる。
「ぐあぁ!」
地面にWと共に落下した正義の足からは煙が上がっていた。
足を抑えながらもWを庇うようにドラゴンドーパントの前に出る。
「避けてばっかでつまらん相手だな....もういい死ね。」
ドラゴンドーパントが腕を赤熱させて攻撃を放とうとするといきなりリボルギャリーが動きだし二人を乗せて逃走し始めた。
「逃がすかぁ!」
まだエネルギーの溜まっていない腕を振るうがその攻撃は回避されてしまう。
倒すべき敵を失ったドラゴンドーパントはメモリを抜いて人間の姿に戻った。
「チッ、つまらん!....だがこのアダプターは凄いな。
まるで"別次元の強さ"だ。
これからもっと楽しい殺し合いが出来るだろうな。」
そう言うと男は公園を後にした。
ダメージを受けたフィリップと翔太郎、そして正義は照井が用意した病院で安静にしていた。
「所長....気分はどうだ?」
照井が心配そうに亜樹子に尋ねる。
事務所に帰ってきた亜樹子がボロボロになった三人を見つけて照井に連絡をして来たのだ。
「うん....大丈夫!三人とも命に別状は無いってお医者さんも言ってたしね。」
そう気丈に振る舞う彼女の目には涙の痕が残っていた。
「そうか....何があったのか知りたいんだが三人の内、誰が起きている?」
照井はわざと見ないフリをして亜樹子に尋ねた。
「フィリップ君はまだ目を覚ましてない...横にいた男の人もそうだった。
翔太郎君なら....起きてるけど」
「....そうか。」
「竜君、出来ることなら....」
「分かっている余り長くは話を聞かない。
約束しよう。」
そう言うと照井は翔太郎達のいる病室へと向かうのだった。
病室に到着すると三人とも身体に包帯を巻かれていた。
照井の顔を見た翔太郎が起き上がる。
「おぉ、来たのか照井。」
「無理に起きなくて良い。
相当な重症なんだろう?」
「あぁ、特にファングジョーカーだった時に攻撃を受けたのが不味かった。
フィリップがかなり重症だ。
それにあの正義もな。」
「中島正義、お前らが追っていたドーパントか?」
「あぁ、それにそっちとも関係があるんだろ?」
「俺に質問をするな....と言いたいがその通りだ。
本人が直接話してくれたよ。」
「そっか、なぁお前はどうするんだこの事件?」
「どう言うことだ?」
「警察としてどう言う対応を取るのか....そう聞いてるんだ。」
「.....正直、迷っている。
左がそう聞いてきたと言うことは、お前も判断がついていないのか?」
「あぁ、また甘いと言われるかもしれないが俺は正義も彼を擁護した刑事も両方悪いとは思えねぇんだ。」
「ガイアメモリを使っている人間を警察は黙認したんだぞ?」
「それを言うなら俺達だって似たようなもんだろう?」
「......兎に角今はお前達を襲ったドーパントの方が優先だ。
そいつのメモリに関して何か分からなかったのか?」
「さぁな、それを聞く前にフィリップが倒れちまったからな。
ただ、アホみたいな耐久力と衝撃を撃ち出す力があった。
それに"変な機械"をガイアメモリに取り付けた瞬間、バカみたいに強くなりやがった。」
「変な機械?」
「あぁ、ガイアメモリの上に嵌め込むパーツみたいな奴でそれをつけてドーパントになると一気に強くなったんだよ。」
(まさか、井坂が使っていた"アダプター"と呼ばれる物か?)
照井は井坂が変異した黒いアダプターを思い出す。
「おい照井、何か知ってんの....か....」
翔太郎の動きが鈍くなったのを見た照井が言った。
「薬が効いてきたんだろう....もう休め。
ドーパントから受けた傷は自然治癒でしか治せない。
お前も重症な事には変わりはない。」
「悪いな....照井.....後は」
「あぁ、任せろ。
そのドーパントは俺が倒す...風都の仮面ライダーとしてな。」
その言葉を聞いて安心した翔太郎は目を閉じるのだった。
Another side
琉兵衛は獅子神からの報告を受けてこれ迄に無い程の苛立ちを覚えていた。
「もう一度聞かせてくれないかね獅子神君。」
「はっ.....はい。
セブンスの一角、ファイトクラブ05のファイターであるドラゴンメモリの使い手がWと交戦し...フィリップに怪我を負わせてしまいました。」
横で聞いていた冴子と若菜はそれぞれ別の意味で驚いた顔をしている。
若菜はまだフィリップが弟であると知らないため純粋に彼の心配をしていて冴子と琉兵衛は計画の要であった来人の怪我に驚いていた。
「若菜、少し外しなさい。」
「でも、お父様!」
「聞こえなかったの?お父様は外せと言ったのよ。」
そう言われ若菜は渋々、部屋を出ていった。
「それで来人の容態は?」
「警察にいる協力者の話だと傷が深くまだ意識を取り戻していないようです。
......申し訳ありません。
私の管理する者がそのような失態を....」
「治せる見込みはあるの?」
「はい、サラの部下である美頭に治療を頼んであります。」
「スフィンクスメモリによる回復か....ならば信用できそうだな。
さて獅子神君、何故このような状況になったのかね?
師上院が死んでから幹部の失態が目立つように思えるのだが....ワードメモリの誓約がなくなり気が緩んだのかね?」
師上院がキースに殺されたことによりワードメモリの能力も無効化された。
つまり、これまで交わしてきた契約が全て不履行になったわけだ。
これによりミュージアムを脱退しようとする者も現れてミックや
「....決してそのような事はありません。
私は貴方に忠誠を誓っています。
それはメモリの誓約があろうと無かろうと変わりありません。」
「ならば、それを証明したまえ。
その結果を見て私は判断しよう。」
「失礼致します。」
獅子神が部屋から去ると冴子が琉兵衛に話しかける。
「お父様、井坂先生がそのゲームに参加したいと言っているのだけれど宜しいかしら?」
「.....好きにしたまえ。
だがね冴子。」
「火遊びは程々にしないと自分の身体を焼いてしまうよ?」
「....えぇ、胆に命じておきますわ。」
すると冴子も部屋から出ていく。
「全く困ったものだ。
冴子も若菜も......」
琉兵衛は一人そう呟くのだった。
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第百四十六話 暴虐のD/それぞれの願い
(フィリップ君が....ケガをした。
獅子神のせいで......)
ケガを受けたフィリップに対しての申し訳無さと怒りが心をぐちゃぐちゃに掻き乱す。
「何とかしてフィリップ君を助けなくちゃ....でもどうやって助ければ良いの?
ガイアメモリの傷は自然治癒しか方法がないと前にお父様から聞いたことがある。
なら普通のやり方では先ず不可能....どうすれば?」
一人の好意を持った青年を救いたい若菜は自分の手元にある使える手段を考える。
(獅子神は恐らく、お父様の命令を受けてるから動かせないわ。
サラはこの前のオークションでのケガが治ってない。
確か、彼女の部下である美頭が回復系の能力を使えた筈.....でも助けたいと言ってもお父様が素直に応じてくれるのかしら?.....無理かもしれない。
相手は仮面ライダーの片割れ...組織として考えるなら殺しておいた方が良いと言う筈だわ。
ミックは当然ダメ....残っているのは無名。
そうよ、彼はミュージアムのガイアメモリ開発の責任者じゃない!
彼ならきっと良い解決案を教えてくれる筈だわ。)
早速、若菜は無名へと連絡を行った。
2コール目で無名が電話を手にした。
「はい、無名です。」
「私よ。」
「若菜様、どうなされたのです?
僕に電話するなんて珍しい。」
「実は助けて欲しいの。」
「....何があったのですか?」
若菜は無名にこれまでの事情を話すのだった。
警察署の取調室の中で相模は泊、大門、後藤から聴取を受けていた。
しかし、当初よりも相模の顔色は悪い。
正義が謎のドーパントに襲われて病院にいることを照井から伝えられたからだ。
「もう、全て話しただろう?
頼む、彼に会わせてくれ。」
相模の願いを後藤は突き放す。
「いえ、ダメです。
貴方は彼に肩入れしすぎている。
彼に会わせたら逃がす手伝いをするかもしれない。」
「そんな事はしない。
正義君もこの状況をずっと悩んでいたんだ。
私はただ恩人でもある彼が心配なんだ。」
「....何と言われても貴方をここから出すわけにはいきません。」
冷たい後藤の対応に泊が彼を取調室から連れ出す。
「後藤、ちょっと来い。
大門さん、暫く相模の聴取を変わってくれ。」
「わ....分かったわ。」
連れ出された後藤を泊は壁に突き飛ばした。
「いい加減にしろ!これ以上、相模さんを拘束して何の意味があるんだ!」
「意味ならある。
逃走幇助を阻止しているんだからな。」
「そんなもの手錠で繋いだり電話で会話させるなり方法はいくらでもあるだろう!
それをせずそれどころか相模さんをここに縛り付けているだけ、こんなんで捜査が進展するわけ無い。」
「なら、お前は相模を出して中島を逃がしたりしたらどう責任を取るんだ!
理由はどうであれ中島はメモリを使いドーパントになった。
そして、相模は協力者になり今の今までドーパントとして活動させていたんだぞ!
"正義を行う警察官"のすることじゃない!」
「.....漸く本音が出たな。
後藤、お前にとってこの事件を解決することよりも警察官がドーパントに肩入れしたことが気に食わない。
だから、相模さんに私刑じみた事をしているのか。」
「私刑ではない....だが彼のやったことは悪だ。」
「..........」
互いににらみ合いながらも意見を変えるつもりの無い二人だがここで泊が話し始める。
「俺の父親は刑事だった。
だけど、ある事件で犯人に撃たれて死んだ。
俺はその事件を解決するためにも刑事になった。
だから、相模さんの気持ちも分かる。
もし、目の前で親父が殺されそうになっていて...そこにドーパントが現れてて助けてくれたら恩人と思っていたかもしれない。」
「お前......」
「後藤、お前の意見も分かるこれは本当だ。
刑事として民間人か怪物になっていてそれを放置なんかしたくないしすることを選んだ事実にも拒否感はある。
だから、一刻も早く事件を解決するべきなんだ。」
「これ以上の被害を出さないためにも....そして中島さん自身が救われるためにも」
「"救われる?"....それは一体」
二人がそんな話をしていると凛子が走ってきた。
「大変よ!事件の被害者が入院している病院にドーパントが現れたって....」
「何だって!....どうすれば」
泊が悩んでいると後藤が告げた。
「病院に向かうぞ....中島と他の被害者を確保しないといけない。」
「だけど、私達にその権限は無いわ。
今の私達は三課のスリ部門なのよ?」
ドーパントの対応に関しての指揮権は超常犯罪捜査課が担っていた。
だからこそ、勝手な行動は命令違反になると凛子は言ったのだ。
「なら、"別のアプローチ"で病院に向かえば良い。」
「アプローチ?」
「窃盗犯を捕まえたのは中島だろう?
なら、その時の状況聞くためにも彼に会う必要がある。
そう、相模さんが指示してくれれば俺達は病院に行ける。
大門、この事を相模さんに伝えてくれ。
泊.....車と何でも良いから自衛のための武器を集めてくれ。
ドーパントと接触した時の対抗策が欲しい。
「分かったわ。」「こっちも了解だ。」
そう言うと二人は行動を始めた。
後藤も自分のやるべき事をするために行動を開始した。
ドラゴンドーパントが病院を襲う前.....
獅子神の管理するビルの一室にセブンスの幹部と灯夜が集められていた。
自分達が何故ここに呼ばれているのか分からない者達はいない。
呼び出した獅子神を待っている間に会話が行われる。
「まさか、アンタらの所が失態を犯すなんて....分かってるの?
ミュージアムから睨まれたら私達は終わりなのよ。」
「お前に言われなくても分かっている!
今、ドラゴンの行方を探しているところだ。
見つけたら"セブンスの始末屋"に処理を頼むつもりだ。」
「ほぉ...俺達を頼るなんて相当切羽詰まってるんだな。
だが、高いぞ俺達は?」
「構わない、これ以上の被害が出るよりはマシだ。」
「まぁ、それは良いけど警察の方はどうなの?
超常犯罪課が動き出してるって噂があるんだけど」
「えぇ、ですが問題ありません。
何時も通り揉み消せる範囲内の事です。」
「あら?随分と自信があるのね。
まぁ、同じ"警察官"ならば簡単でしょう。」
「問題は今回、ケガをした相手のことでしょう?
灯夜君....その相手について知っていますか?」
「詳しくは知らないが....ミュージアムの最終目的に必要な人物だと聞いた。」
「それは、随分と大変な御仁をケガさせてしまいましたね。
私達はその責任を負って処分されるのでしょうか?」
「私は嫌よ。
そんな心中したくないわ。」
「それはみんな同じですよ。」
そう話していると獅子神と水島、白爪に紫米島も現れる。
皆を見渡すと獅子神が言った。
「状況は説明しなくても分かるな?
俺達はヘマをした。
ミュージアムにとってとても大切な御仁に重大な怪我を負わせてしまった。
この失敗だけは早急に取り返さないと不味い。」
「なら、失敗を起こした幹部を処理すれば良いでしょう?
ねぇ、
「俺に責任を取って死ねと言うのか
「当然でしょう?
私達は灯夜君に従っているだけで貴方達と仲良くしてる訳じゃないわ。
同じ幹部だけどそれ以上の意味はない。
私達に迷惑がかかるなら切り捨てるだけよ。」
「だとしてもそれを決めるのはお前じゃない"売女"。
灯夜君だ。」
「.......ねぇ、アンタ今ここで死にたいの?
私をそんな風に呼ぶなんて」
「事実だろう?
男に尻降って稼いでいるんだからな。」
「殴り合いを見せ物にしなきゃ稼げないアンタよりはマシよ。」
「おい、下らない喧嘩はよせ。
話を戻すぞ。
この失態を取り戻すには今ある手持ちの物でも功績でも足りない。
だからこそ、お前達全員を使うことにしたんだ。」
「どう言うことでしょうか獅子神様?」
「言葉の通りだ。
セブンスと俺で"園咲 来人"様を確保してミュージアムに献上する。
もうそれしか手段はない。
だからこそ、俺が動かせる最大戦力で行く。
だが、それをするには敵の戦力を全員、引き込む必要がある。
つまり、仮面ライダーを全員集めるってことだ。」
「成る程、その為に"ドラゴン"を利用すると?」
「あぁ、奴に暴れてもらい仮面ライダーが集まったところで叩き潰す。
そして、守る者がいなくなったら来人様を回収する。」
「ドラゴンの処分はどうするの?
まさか、野放しにする気?」
「いや、仮面ライダーに倒させる。
話を聞いた限りじゃ相当に強くなっているらしいからな。
この際、使い倒す。」
そんな計画を話していると部屋に井坂が入ってきた。
「おや?どうやら全員お揃いの様ですね。」
「井坂....何故ここに?」
「冴子君から聞いていませんか?
私もこの狩りに参加させて欲しいのですよ。」
「部外者を入れるわけには行かない。
いくら冴子様の命令でも飲めないな。」
「では、私は後に出てくる仮面ライダーの相手をしましょう。
それなら宜しいでしょう?」
「.....良いだろう。
だが、こちらの命令には従ってもらうぞ。」
「えぇ、勿論。
私もこのアダプターを使える相手を探していたので丁度良いです。」
そうして、井坂は黒いアダプターを取り出した。
「獅子神....あれは?」
「無名が作ったら井坂専用の強化アダプターだ。
間違っても使おうとは思うなよ。
毒素に殺されるぞ。」
「毒素?」
「このアダプターは私専用でして毒素のカット機能をオフにしてあるんですよ。
そう言えばドラゴンのメモリを使う相手も強化アダプターを使っているとか?」
「"通常のアダプター"だ。
お前のアダプター程、強化はされないが毒素の危険性は排除してある。」
「はぁ、まだ毒素の排除なんてしているんですか?
私の姿を見ても毒素は要らないと本気で言っているとは....」
「お前の高説が正しいと言うなら仮面ライダーを倒して証明して見せろ。
そうしたら俺からもミュージアムに一声言っておいてやる。
"ガイアメモリの毒素は有用だった"とな。」
「その言葉、忘れないでくださいよ。
では私はこれで....狩りを始める際はご連絡下さい。」
そう言うと井坂はその場を後にした。
現状を聞いた無名は動けないながらどう行動するか思案していた。
(フィリップがケガをした...それも獅子神の管理する組織が起こした失態。
恐らく、ただ事態を終息するだけでは足りないと獅子神は考える筈.....
だとすれば何をする?
フィリップの治療?....サラに話を聞いたら獅子神から美頭を貸して欲しいと連絡があったからそれは問題ないだろう。
だとしたら、次の獅子神の行動は?
どうすればこの失態を取り返せると考える?
....ダメだ情報が足りない。
若菜の願いはフィリップの安全を確保すること...話を聞く限りだと翔太郎も傷を負っている。
照井一人では難しいだろう。
ならば、彼らのサポートをすることが若菜の願いを叶える最適解か。
相手は少なくともWを単身で撃破できるドーパントだ。
用心しておいた方がいいな。)
無名は隣にいたリーゼに話しかける。
「リーゼ、厄介なことになりました。
フィリップの身に危険が迫っています。
貴方には彼の護衛をして貰いたい。
ドーパントになり飛べば貴方単体ならそんなに時間がかからず風都に到着できるでしょう。
風都にいる黒岩と赤矢さんを貴方のサポートに回します。
僕が動けるようになるまでの間、この仕事を頼んでも良いですか?」
リーゼは考える素振りを見せると急いで部屋を出ていった。
風都に行く準備をするためだろう。
(.....一応、シュラウドさんにも報告しておきますか。)
無名はシュラウドに電話をかける。
すると直ぐに繋がった。
「シュラウドさん、緊急事態です。
来人君に危険が迫っています。
僕の部下が彼の警護に向かいますが用心の為にも貴女に協力していただいたいのですが....」
「..........」
「シュラウドさん?」
「無名....悪いけど今の貴方には"協力"できない。」
「それはどう言うことですか?」
「貴方自身が一番分かっているんじゃないかしら?
"もう1つの力"についてね.......」
「....エクストリームの事ですか?」
「そうよ。
貴方がエクストリームに到達するにはエクストリームメモリを使う以外にはクリスタルサーバーを直接吸収するしかない。
問題は何時、吸収したのか?
映像で見る限り相当な大きさだったから偶然手に入れられたとは考えにくい。
となると、1つしかない。
Wがエクストリームに覚醒した日よ。」
「............」
「その日に貴方もクリスタルサーバーを利用してエクストリームに覚醒した。
....問題は私にその記憶が無いことよ。
Wがエクストリームに覚醒した時、私もその場にいた。
でも無名....貴方がいた記憶は無い。
他の記憶はしっかりしているのに貴方に関する記憶だけ無いのよ。
それは不自然だと思わない?」
「それは.....」
「私がその理由に納得出来るまで、貴方に手を貸すことは出来ない。
来人の事はこっちで勝手にさせて貰う....それだけよ。」
「待ってくださいシュラウドさん!」
無名の制止の声を無視して電話が切られた。
(間違いない....シュラウドがゴエティアの存在に気づき始めている。
このままだと彼女との協力関係が破綻してしまう。
ミュージアムに隠れて行動を起こす以上、彼女の協力は必須.....全て打ち明けるべきか?)
【随分と悩んでいるな無名?】
窓に写るゴエティアが無名に話し掛ける。
「何のようですか?
僕には今、時間が無いんですが...」
【シュラウドに私の事を話すだけ無駄だ。
何故ならその瞬間に本棚に封印した過去の記憶が彼女に流れ込むことになるからな。】
「彼女の記憶?」
【何百と繰り返した世界で何度もシュラウドも会ってきた。
時には敵として時には味方として.....その時に感じた感情や記憶は私の書き換えにより封印された状態が続いている。
だが、キーワードがあればその記憶を戻すことが出来るんだよ。
だから、私の事を彼女に話したら彼女の精神がどうなるか私にも分からない。
何せ数百通りの記憶が一斉に流れてくるのだからね。
良くて発狂.....悪くて廃人かな?】
「貴方は......クソッ!」
【制約がある方がゲームは楽しいだろう?
さぁ、どうする無名?手札は少ないぞ?どう立ち回る?どう動かす?私に驚きと楽しみを与えてくれ。
あっはっはっは......】
窓に写ったゴエティアの顔は消えて無名の顔へと戻った。
「貴方の思い通りにさせてたまるか。」
無名はそう言うとベッドから無理やり起き上がり行動を始めるのだった。
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第百四十七話 動くH/撒き餌の人質
そこには05の運営する裏サイトが映っておりここを確認して次の試合や結果を確認するのだ。
そしてその内容を確認して舌打ちをする。
「チッ!まさか、間違った相手を傷付けてペナルティを食らうとは.....このひ弱そうな男の方がターゲットだったわけか。」
そうして映し出されている映像にはフィリップと正義が写っていた。
正義は殺害、フィリップは生かして捕獲するルールがきさいされている。
「まぁ良い。
なら、次の試合は完璧にこなして見せるさ。」
そう言うと男はスマホを操作し二人が今いる病院の住所を調べると向かうのだった。
病院がドラゴンドーパントに襲われていると聞いた照井はアクセルに変身するとバイクに変形しフルスロットルで向かっていた。
「クソッ!何故、情報が漏れたんだ。」
照井は用心をして三人のいる病院の情報が外部に漏れないように隠していた。
知っているのはそれこそ一握りの人間だけだ。
(誰だ?....誰が情報を漏らした?)
そう考えながらバイクを進ませるアクセルの前に落雷が落ちてバランスを崩し転倒しながら元の形態へ戻ってしまう。
「おや?そんなに急いで何処に行かれるんですか?」
そう言って目の前にウェザードーパントへと変身した井坂が現れる。
「今は...お前の相手をしている暇はない!」
「申し訳ないですが私にはあるんですよ。
準備が整うまで貴方を足止めすることが私の仕事なのでね。」
「俺の邪魔はさせん!」
「TRIAL」
照井はトライアルメモリを起動させ変身するとウェザードーパントへと向かっていくのだった。
三人を入院させている病院にはかつて無い程の緊迫感で包まれていた。
ドラゴンの怪人が現れて病院内を闊歩しているからだ。
一つ一つ病室を開けて患者の顔を見ていく。
警護していた警察官がそれを止めようとするが軽く吹き飛ばされてしまう。
そんな中、1つの病室に入ると足を止めた。
「見つけた。」
そう言ってベッドにいる青年に触れようとするのを包帯を付けた翔太郎が止めた。
「お前は....」
「テメェ!フィリップに何しようとしてんだ!」
「お前、あの時の仮面ライダーか。
丁度良い、歯応えが無い相手ばかりで退屈していたんだ。
変身して俺と闘え。」
ドラゴンドーパントがそう言って翔太郎を吹き飛ばす。
だが、ロストドライバーが無い今の翔太郎には単独で変身する手段は無かった。
「変身しないのか?
なら、お前に用はない。」
ドラゴンドーパントが立ち向かってくる翔太郎を捕まえてトドメを誘うとすると病室の窓が割れてガチガチに装備を固めた後藤が入ってくる。
男が手に持ったショットガンをドラゴンドーパントに向けて放つと少しのけぞった。
「お前は....」
「おい、そこの子供を連れて早く逃げろ!」
「逃がすか!」
そう言って近付くドラゴンドーパントに後藤は手に持ったショットガンを撃ち続ける。
弾がドラゴンドーパントへ当たると火花が散り後ろに下がる。
「"スラッグ弾"でも傷1つ付かないとは....」
スラッグ弾とは大型の獣を撃つ時に使われる弾で散弾と違い威力と貫通力が高い弾でコンクリートブロックやレンガを貫通する力がある。
(だが、衝撃はあるようだな。
これを撃っている間はあのドーパントが近付く心配はないだろう。)
ドラゴンドーパントがフィリップに近付こうとすると後藤がショットガンを放ち距離を取る。
その間に翔太郎はフィリップを担ぎ上げると部屋を出ようとする。
「イラつく事を何度も何度もいい加減にしろ!」
ドラゴンドーパントは腕に貯めた衝撃波を後藤に向けて放った。
危険を感じた後藤が回避すると衝撃波が壁に激突し爆発した。
その爆発に巻き込まれて翔太郎達は外に弾き出される。
「クソッ!フィリップが起きればWに変身できるんだが....おい!起きろフィリップ!」
翔太郎がフィリップを起こそうとするが未だ目覚めることはない。
後藤は手に持っていたショットガンに目を向ける。
あの衝撃波を受けてしまったようで形が変形しひしゃげていた。
「これはもう使えないな。」
そう言うと後藤はショットガンを捨ててハンドガンを取り出すとドーパントに向ける。
「そんなものが俺に効くと思ってるのか?」
「効かないだろうが無いよりマシだ。」
「なら、死ね。」
ドラゴンドーパントが腕に貯めた衝撃波で後藤を狙おうとした瞬間、突如現れた車がドラゴンドーパントに直撃した。
相当な速度がついていた車に追突されたドラゴンドーパントは車ごと病院の壁に叩き付けられる。
そして、車の中から泊が出てきた。
「後藤!無事か?」
「あぁ、それよりも何て無茶をするんだ。」
「お前には言われたくねぇよ。
ドーパントに生身で挑むなんてよ。
お前が爆発する病院から出てきた時はビックリしたんだぞ。
気付いたらドーパントに車で突撃しちまってたよ。」
「それより中島 正義は確保できたのか?」
「あぁ、大門が見つけてな。
今は安全なところにいるよ。」
そんな話をしていると追突した車から轟音が響く。
金属がひしゃげていく音を響かせながらドラゴンドーパントが姿を現した。
「やってくれたな....もうルールなど知ったことかお前ら全員、殺してやる!」
ドラゴンドーパントは強化アダプターを取り出すと体内のメモリに差し込んだ。
「Dragon Upgrade」
「うぉぉぉぉぉ!」
ドラゴンドーパントは爆炎に包まれると赤熱したあの姿へと変わる。
そして、攻撃を放とうとした瞬間、ドラゴンドーパントの頭部が動いた。
「何だ?」
ドラゴンドーパントは違和感の原因を探ろうとその方向に目を向けると今度は身体に衝撃がはしり倒れてしまう。
「何だこれは?」
「まさか、狙撃か?泊、探偵、隠れろ!」
後藤は攻撃の正体に気付くと物陰に潜む。
そんな中でもドラゴンドーパントは正体不明の狙撃により立ち上がることが出来なかった。
「身体が.....上手く動かない。」
そうして戸惑っていると泊達の前に悪魔の姿をしたドーパントが現れる。
「お前は....」
翔太郎が尋ねようとした瞬間、人間が気絶する程度の電流を彼等に流して気絶させると翔太郎とフィリップを抱えてデビルドーパントは空へと飛んでいった。
そして、狙撃を行っていたコブラドーパントも逃走が成功したことを確認するとその場を後にするのだった。
そして、照井が到着した頃にはドラゴンドーパントと後藤の姿だけが無くなっていた。
光景の一部始終を見ていた美頭の元に無名から着信が入った。
「貴方が邪魔をしたと言うことは....園咲家の誰かから命令を受けているんですね?」
美頭の問いに無名は答える。
「えぇ、若菜様から頼まれたんですよ。
そう言う貴方は誰から?」
「獅子神様からです....来人様を治療するようにと」
「それは都合が良い。
場所を指定しますのでそこで治療を行ってくれませんか?」
「分かりました。」
美頭はそう言うと無名から指定された場所へと向かうのだった。
思わぬ邪魔が入ったことを知った獅子神は逆に憤慨していた。
「デビルドーパントがいただと?.....無名の仕業か。
あの野郎!本気で殺されないと分からないのか!」
机に力の限り腕を叩き付けると机が陥没した。
止めようとする水島を力の限り殴り首を180°回転させる。
しかし、当の水島は両手で首を戻すと獅子神に言った。
「獅子神様、計画を変更されますか?」
「変更だと?ここでそんな事をすれば組織に自分は無能だと喧伝するようなものだ。
当初の予定どおりに事を進める。」
「ですが.....どうやって?」
そんな話をしていると灯夜が部屋に入ってきた。
「獅子神、良いニュースだ。
ドラゴンと連絡がとれた。」
「何?」
「どうやら、アイツはまだ仮面ライダーと闘いたいらしくてな。
刑事を一人拐って人質を取るつもりらしい。」
「成る程、それは使えるな。
良し、その取引が円滑に進むようにしてやろう。
メモリとドライバーは回収したのか?」
「あぁ、協力者の刑事が持っている。」
「それを返してやれ。
そして、こう言うんだ....刑事を助けたければ仮面ライダーを集めてこい"とな。
そうすれば奴らは来るだろう。」
獅子神の指示に灯夜は従い行動を始めるのだった。
意識を失っていた翔太郎が目を覚ますとそこは鳴海探偵事務所だった。
何が起きたのか分からず辺りを確認するとフィリップがベッドで寝ている。
「フィリップ!おい!フィリップ!」
翔太郎がフィリップを揺すると彼は目を覚ました。
「翔....太郎?」
「良かった無事だったんだな。」
「ここは....事務所かい?
確か、ドラゴンドーパントから攻撃を受けて....それで」
「そうだ。
傷付いた俺達を照井が、病院に運んでくれたんだ。」
「なら、どうして僕たちはここに?」
「....わかんねぇ、病院にドラゴンドーパントが来て襲われて入るところにまたドーパントが現れてから意識がねぇ。」
そう言う翔太郎をフィリップはまじまじと見て今度は自分の身体を見つめる。
「傷が.....無くなってる。」
「そう言えば身体が痛くねぇ....どういうことだ?」
翔太郎が不思議がっているとフィリップは携帯を確認する。
そこには若菜からのメールが一件入っていた。
「フィリップ君へ、もうそんな無茶はしないでください。
貴方が無事でいることを願っています。」
そう書かれていた。
(若菜さんが...僕達を助けてくれた?
彼女はミュージアムの幹部だと前に言われた....治療を行える部下がいたのか。)
フィリップは気づいた真実を翔太郎に伝えること無く話を戻す。
「ドラゴンドーパントはどうしたんだい?」
「分からねぇ、照井が間に合ってればメモリブレイク出来たかも知れねぇが....」
そう言いながら翔太郎も携帯を取り出し確認する。
そこには多数の着信とメールが入っていた。
序盤は二人の安否を気にするもので、後半からは亜樹子とも連絡がつかないと言うものだった。
「フィリップ、亜樹子と連絡がつかないらしい。
動けるか?」
「亜樹ちゃんが?.....勿論動けるよ。」
そう言うと二人は立ち上がり辺りを見渡す。
すると、フィリップの使う研究所の一室で意識を失って倒れていた。
「おい亜樹子、しっかりしろ!」
翔太郎が亜樹子の頬を軽く叩いて起こす。
「うーん....翔太郎君?.....それにフィリップ君!
良かったぁ無事だったのね。」
「んな事よりどうして意識失ってたんだ?
それが、急にドーパントが二人を運んできて...ソイツから電気がビリビリっと出て....気付いたら」
「僕達と同じく気絶したと?」
「う.....うん。」
そんな話をしていると翔太郎が亜樹子を見て気付く。
「亜樹子、手に持っているスマホはなんだ?」
「え?何これ私のじゃないよこれ!
私聞いてない。」
すると亜樹子の持っていたスマホに着信が入る。
フィリップがスマホを操作するとテレビ電話に変わった。
そこには先程、助けられた後藤と言う刑事が縛られて椅子に捕まっていた。
そして、ドラゴンドーパントが隣に現れると言った。
「これを見ている仮面ライダーに告ぐ。
コイツを助けたければ今すぐここに来い!
でないと、コイツの首が胴から離れることになるぞ?」
すると、後藤が叫ぶ。
「来るな!これは罠だ!」
「黙ってろ!」
ドラゴンドーパントは後藤の腹を殴り気絶させると画面に近付いて言った。
「繰り返すが早く来いよ。
でないと本当に殺しちまうからよ。」
そう言うと通話が切れた。
「これって...不味くない翔太郎君。」
「あぁ、相当ヤバイ。
早く照井に知らせてやらねぇと....」
翔太郎が照井に電話をかけると直ぐに繋がる。
「左!無事だったか!」
「あぁ、安心しろフィリップも亜樹子も無事だ。」
「所長もか.....良かった。」
「それよりあの刑事がドラゴンドーパントに捕まったって....」
「あの映像を見たのか?
そうだ、後藤巡査が捕らえられた映像はこちらにも来ている。
それに....もう1つ厄介なことが起きた。」
「厄介なこと?」
「あぁ、保管していた"ヒーローメモリとドライバー"が紛失した。
それと中島正義も姿を消した。」
「どう言うことだよ!メモリもドライバーもちゃんと管理してたんじゃないのか?
それよりも何で正義さんも姿を消してんだよ!
誰も見てなかったのか?」
「俺に質問するな....現状、情報が錯綜していて分からないんだ。
だが、中島が俺達にメモを残していった。」
そう言うと照井はメモの中身を読んだ。
先ずは勝手に消えたことの謝罪.....そして捕まった後藤を助けに行く内容だった。
そして、この決断は自分の独断であり助けてくれた刑事とは一切関わりのない事で自分は幸せだったと
「何だよそれ?.....まるで遺言じゃないか。」
「恐らく、ドラゴンドーパントと刺し違えても後藤を救うつもりらしい。」
「クソッ!フィリップに場所を検索させる!
照井、何でも良いから何か手がかりになる情報をフィリップに教えてあげてくれ!」
「あぁ、こちらからも頼む。
未来ある二人の若者をこんなところで失うわけにはいかない。」
そう言うと照井は今ある情報をフィリップに伝えて、
フィリップはそれを使い検索を始めるのだった。
動き始めたドミノを止める手段が無いように時間が刻一刻と進んでいく。
仮面ライダーが目にするのは希望か絶望か?
その答えを悪魔は笑いながら眺めるのであった。
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第百四十八話 動くH/ヒーロと正義
後藤が意識を取り戻すとそこにはドラゴンドーパントが立っていた。
「目を覚ましたか?」
「お前は....」
「じっとしていろよ?お前は大事な餌なんだ。
仮面ライダーを釣るためのな。」
「餌だと?」
「仮面ライダーは市民の味方だ。
だからこそ、このシチュエーションなら必ず現れる。
お前を助けるためにな...」
「ふざけるな....俺は警察官だ。
死ぬ覚悟だって出来ている....それに」
「市民を守るのは"仮面ライダーではなく警察の義務"だ。
その為に俺達は多数の権利を与えられている。
それを勝手に背負われる道理はない。」
後藤にとっての正義とは権利。
他者を助けたいのならそれ相応の力と権利を持たなければならない。
でないと余計な犠牲な必要のない血が流れる。
だからこそ、後藤は風都を守る仮面ライダーやボランティア紛いの行動をするドーパントを擁護する刑事を嫌っていた。
「ドーパントを倒せる存在だから、人間よりも強い力を持っているから、そんな理由のために一般市民に余計な責任や重責を背負わせていい道理にはならない。
それは警察の役目だ。
だからこそ、警察官は市民の味方と名乗れるんだ。」
「成る程、それがお前の哲学か....だがなそんな"つまらない考え"なんてこの力の前では脆くも崩れ去る。
良いか?教えてやる。
この世界を作っている物は力だ。
権力も力、軍も力、金も力、そしてこのガイアメモリもな。
お前の考えを突き通すにも力がいる。
そして、力には上下がある。
弱い力の持つ主張なんて強い力を持つ者に簡単に潰される。」
「お前ら警察が仮面ライダーに頼っているのは弱いからだ。
それだけなんだよ。」
「貴様っ!....」
「ふん、雑魚は雑魚らしくこの後のショーを黙ってみているんだな?」
「ショーだと?」
「あぁ、どうやら来たみたいだからな。」
そんな話をしていると窓ガラスを割りロストドライバーを付けたヒーロードーパントが二人の前に現れた。
「お前は!」
「チッ、ハズレの方か。」
「刑事さんを解放しろ。」
「俺が呼んだのは仮面ライダーでお前じゃない。
さっさと失せろ。」
「そうはいかない....僕は目の前の傷付いている人を救いたくてこの力に手を伸ばしたんだ。
例え、間違っていても...僕はもう迷わない。
闘えなくても...僕は人を救いたい!
僕は、仮面ライダーだ!....刑事さんは必ず助ける!」
そう言って飛び上がった正義にドラゴンドーパントは衝撃波を放つ。
それを壁を飛び回避すると後藤に向かって手を伸ばした。
「それを許すと思うか?」
ドラゴンドーパントは強化アダプターを身体に挿すと姿が変わり赤熱したドラゴンドーパントへと変わった。
「くっ!でも避け続ければ....」
「良いのか?お前が避けたらあの刑事は黒焦げになるぞ?」
「!?」
そう言うとドラゴンドーパントは強烈な熱を周囲に思いっきり放出した。
コンクリートが歪む程の熱が放出された。
辺りが白い煙で包まれる中、後藤を抱き抱えるように正義は彼に覆い被さっていた。
「ほぅ、自分の身体を盾にして全ての熱を受けきったのか...しかもあの刑事の身体にダメージがないように彼の周囲の熱まで受けるとは....だがそれは失敗だったな。」
「うっ.....あ....」
正義は全身で熱を受けた影響は背中が焼け爛れている。
最早、話すことすら難しい。
そんな正義を後藤から引き剥がそうとドラゴンドーパントが手を掛けるがビクともしない。
「まだ、耐えられるのか?
面白い....どこまで行けるのか俺が確かめてやる。」
ドラゴンドーパントは両腕を赤熱させるとその腕で正義を殴り付けた。
殴られる度にドーパント化して強化された皮膚が焦げ水分が蒸発する音と強い打撃の音が響く。
「ぐっ!...がっ!....うっ!」
殴られて正義は呻き声を上げるがそれでも後藤を離すことはない。
自分が守られながら傷つけられていく光景に後藤が叫ぶ。
「もういい!逃げてくれ!このままじゃ君が死んでしまう!」
悲鳴に近い言葉に正義は優しく答える。
「やっと、見つけたんです。
僕のヒーローとしての意味を....だから...迷いません。
自分の正義を!」
戦えない自分でも人を救える力がある。
例えこの力が正しくないものでも自分が正しくあれば、あろうとすれば良い。
迷いを振り切った正義の覚悟はまさにヒーローとして相応しかった。
正義の覚悟に答えるようにヒーローメモリの力が上がる。
彼の背中を覆うようにバリア状のエネルギーが展開される。
それを殴るとドラゴンドーパントの腕に痛みが走った。
だが、その痛みで逆に喜んでしまう。
「面白い....只の丈夫なサンドバッグの癖にやるじゃないか。
もう、手加減は止めだ。
俺の攻撃とお前の防御....どちらが強いのか勝負だ。」
ドラゴンドーパントは今までセーブしていた力を全解放する。
強化アダプターにより三倍まで強化されたメモリの出力によってオーバーヒート気味だったが長時間、ドラゴンメモリを使うことでそれを克服し全ての力を解放しても肉体をとどめておける程、コントロール出来るようになっていた。
全身が赤熱すると中心部が高温の熱により黄色く発光する。
そして、そこから放射状に広がるように赤い身体が姿を現した。
「さぁ、俺の本気の攻撃を受けてみろぉぉぉ!」
ドラゴンドーパントの拳が正義の展開したバリアに突き刺さる。
爆弾が爆発するような音と共に正義の身体から骨が軋む音が聞こえる。
「これすら耐えるのか....面白い!面白いぞぉぉぉ!」
ドラゴンドーパントは歓喜に震えたまま一心不乱に殴り蹴り続けた。
その一撃一撃がバリアに当たる度に正義の身体を蝕む。
軋んでいた音は骨が砕け内蔵が潰れる音へと変わっていく。
彼の力が無くなっていくことに気付いている後藤が叫ぶ。
「もう止めろ!本当に死んでしまう!」
「止めさせたかったら力ずくで止めて見せろ!
警察官としての権力って奴なんだろ?
ほら、早くやってみろよぉ!」
ドラゴンドーパントは笑いながら殴り続ける。
後藤は正義の腕を引き剥がそうとするが動く気配はない。
そんな中でもドラゴンドーパントの猛攻により正義の肉体にダメージが蓄積されていく。
身体が、裂けて血が吹き出すが...それでも後藤を離そうとしない。
「もう止めてくれ....俺はお前を捕まえようとしたんだぞ?
お前の恩人である刑事に手錠を掛けたんだぞ!
何でこんな俺を守ろうとするんだ!」
その問いに正義は絶え絶えの声で答える。
「そ...れが....ヒー...ロー..だ....か....ら」
「!!」
「終わりだぁぁぁ!」
ドラゴンドーパントの右腕が正義のバリアを砕いた。
そして、そのまま腕が彼の心臓に向かい進む。
「やめろぉぉぉぉぉ!」
後藤は叫ぶがそれにドラゴンドーパントを止める力はない。
彼を止めたのは.....
『「JOKER EXTREAM」』
彼等を助けに来た仮面ライダーの一撃だった。
ドラゴンドーパントを吹き飛ばしたWが二人に駆け寄る。
「おい!無事か.....!?」
『こっ....これは』
Wが来たことにより気が抜けたのか正義が力無く倒れるとメモリが砕けて身体から排出される。
すると、元の人の姿に戻るが背中は焼け爛れて所々、出血している。
明らかに重症であった。
「これはマズイ!....どうするフィリップ。」
『エクストリームになるよ翔太郎!』
そう言うとフィリップエクストリームメモリを呼び出してドライバーに装填すると展開しエクストリームへと変身が完了した。
そして素早くプリズムビッカーにメモリを装填していく。
「LUNA,CYCLONE,JOKER,METAL」
「「「MAXIMUM DRIVE」」」
『「
プリズムビッカーから金色の光が正義を包み込むと出血していた血が止まり顔色が少し良くなった。
『あくまで応急処置だ早く彼を病院に』
「近くに照井刑事も入る筈だからよ。」
「分かった....後は頼む。」
後藤がそう言って正義を抱えると部屋から出ていった。
そして、Wは吹き飛ばしたドラゴンドーパントへ向き直った。
ドラゴンドーパントは立ち上がると蹴り上げられた首を回す。
「ヒーローは遅れてやってくるか?
それにしては随分と待たせてくれたな。」
「この野郎.....」
『落ち着け翔太郎、相手のペースに乗るな。」
「お前が遅かったせいで偽物の仮面ライダーは彼処までボロボロになったんだ。
全て、お前が遅く弱いせいなんだよ。」
悪びれもなく言うドラゴンドーパントに翔太郎の神経は逆撫でされる。
怒りからプリズムビッカーを握る力が強くなる。
『翔太郎....』
「分かってるよフィリップ。
あんなのは単なる挑発だ....それに一番キレてるのは俺じゃなく"アイツ"だからな。」
翔太郎がそう言うとコンクリートの壁が砕けて外からアクセルトライアルが姿を現した。
「お前も仮面ライダーか?」
「俺に質問をするな....お前の問い何ぞに答える義理はない。」
怒りを言葉に乗せた照井がドラゴンドーパントに告げるとWの隣に立つ。
「照井....中島さんは」
「心配要らない。
後藤と一緒に俺が病院に連れていった。」
『成る程、だから最初からトライアルなのか。』
「そう言うことだ。」
「ふん、数が増えようと所詮は雑魚だろう?
真の力を使いこなしている俺の敵ではない。」
「フィリップ....悪いが」
『分かっている今回は僕が抑えに回る。
君は全力で暴れてくれ。』
「助かる....行くぜ照井。」
「......あぁ。」
翔太郎は怒っていた。
正義とフィリップを助けられなかった自分に...そして彼をこんなにあわせたドラゴンドーパントに.....
その怒りがドライバーを通してフィリップに伝わる。
照井も怒っていた。
一時的とは言え預かっている部下を危険な目に合わせあろうことか彼を助けるために民間人が死にかけている。
こんな現状を作り出した自分とドラゴンドーパントに怒りを抱えていた。
両者の怒りの矛先が噛み合い、ただ目の前の敵を見つめている。
今の二人は云わば"決壊寸前のダム"だ。
いつ壊れてもおかしくない怒りを理性でギリギリ押し止めていた。
そんな二人がドラゴンドーパントに向かって言い放つ。
「さぁ、お前の罪を数えろ。」
「....振り切るぜ。」
何時もと違い静かな宣誓はまるでその後の結末を暗示しているようだった。
二人の怒りは限界に達して一気に解放された。
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第百四十九話 過去のL/怒りの矛先
先制したのはWであった。
握りこんだ左腕でドラゴンドーパントを殴りにかかる。
「バカがっ!」
ドラゴンドーパントが熱を解放するとWの身体が燃え上がる。
しかし、そんな事お構い無しに握られた拳がドラゴンドーパントの顔に直撃した。
その威力で身体が回転すると地面に叩き付けられる。
「ぐっ何故だ何故、攻撃できたんだ!」
ドラゴンドーパントの問いに答えるようにWの身体を覆っていた炎が吹き飛んだ。
見ると紫色のエネルギーがWの身体を守るように覆っていた。
『溢れだしたジョーカーメモリのエネルギーを防御に回したんだ。
今のWには君のご自慢の熱を持った身体は効かない。』
「何だと?」
「ボーッとしてんじゃねぇよ......次が来るぜ。」
翔太郎の言う通り背後に回っていた照井がエンジンブレードでドラゴンドーパントを斬り付ける。
それを受けて転がり距離をとったドラゴンドーパントは赤熱した腕に衝撃波を貯めてアクセルへ放った。
アクセルはスロットルを回すとアクセルの足の裏から炎が吹き出るとその衝撃波に向けて蹴りを加えた。
蹴られた衝撃波は押し戻されて逆方向へと飛ぶ。
そのままドラゴンドーパントの胸部に当たると爆発した。
「アクセルドライバーにはメモリの力をチャージする機能があるがトライアルメモリで使用すると一瞬の内に貯めたエネルギーを放出出来るようだな。」
「まだだぁ!」
ドラゴンドーパントは立ち上がるとアクセルに攻撃を加えようとするがそれをビッカーシールドで抑えると後ろからアクセルがエンジンブレードで腕を斬り付ける。
『終わりだ。』
「PRISM MAXIMUMDRIVE」
『「PRISM BREAK」』
Wのプリズムソードがドラゴンドーパントの胸を切り裂き胸部にソードを突き刺した。
「グハッ!....だがこの程度では殺られない。」
『ドラゴンメモリの耐久力の高さはもう検索済みだ。
ソードの狙いは別にある....照井竜!彼処を狙え!』
「分かった。」
照井はトライアルメモリを起動するとドラゴンドーパントに向かって投げた。
そして一気に近付くと掌底をソードに向かって叩き続ける。
『君の強さは本来露出する強化アダプターが強靭な肉体で覆われていることが問題だった。
そのプリズムソードには強化によってうまれた熱を遮断する能力がある。
そこを中心に攻撃すればソードが強化アダプターに到達し......』
「TRIAL MAXIMUMDRIVE」
『破壊される。』
フィリップの言うとおりドラゴンドーパントの胸に刺されたプリズムソードはアクセルトライアルの連撃により内部の強化アダプターに到達すると破壊した。
その影響でドラゴンドーパントは元の形態へと戻る。
『そして、ドラゴンメモリに最も効果的な攻撃はこれだ。』
フィリップは腰のマキシマムスロットにメモリを装填しドライバーを再展開した。
「HEAT,XTREAM」
「「MAXIMUMDRIVE」」
エクスタイフーンから竜巻が発生すると発火したWを包み込みその火は燃え盛り業火となった。
Wはそのまま飛び上がるとドラゴンドーパントへキックを炸裂された。
『「
業火に包まれたWのキックがドラゴンドーパントに当たると炎がドラゴンドーパントに吸収され内部から大爆発を起こした。
「ぐぁぁぁぁぁ!」
ドラゴンドーパントは爆発で吹き飛ばされながらコンクリートの壁に激突するとそのまま突き抜けて地面に倒れる。
その衝撃でメモリが抜けると小さな爆発を起こし砕けた。
照井が倒れた男に近寄り命に別状がないことを確認すると戻ってきた。
「安心しろ生きているぞ。」
「そうかよ。」
「どうしたお前の事だから凄まじい威力に自分自身が驚いていると思ったが....」
「別に良いだろ...それよりもこの後は頼むぞ。
ちゃんと刑務所にぶちこんでやってくれ。」
「当然だ。
それが警察官の義務だからな。」
そんな話をしていると倒れた男が急に立ち上がった。
「なっ!まだ動けるのかよ!」
『いいやあり得ない。
いくら改良されたフィルターを使っていると言ってもアダプターを破壊されメモリブレイクされたんだ。
直ぐに起き上がれる筈がない。』
すると照井が言った。
「いや、良く見ろ二人ともあの男は意識を失ったままだ。」
「なら、何で立ち上がってるんだ?」
「それは俺の部下の力だ。」
そう言うとドーパントの集団を引き連れた獅子神が現れる。
「てめぇは.....」
「....獅子神。」
「よぉ、思ったより元気そうで安心したぜ。」
「何のようだ?」
「お前らに言う必要があると思うか?.....と言いたいが教えてやる。
俺の狙いは仮面ライダーであるお前達だ。
そしてフィリップ、お前をミュージアムに連れ戻す。」
「「!?」」
獅子神の言葉に照井と翔太郎は驚くがフィリップは冷静に対応する。
『僕はもう彼処に戻るつもりはない。
僕はもう探偵で仮面ライダーなんだ。』
「貴方の意見は聞いてない。
組織にとって必要な存在ならどんなことをしてでも手に入れる。
だからこそ、貴方には"絶望"を味わってもらう。」
『絶望?』
「そう、貴方を守っている気になっている仮面ライダーをここで完全に潰す....そうすれば貴方は気付く筈だ。
自分の戻れる場所が
「ふざけんなっ!そんな事させねぇぞ!」
「ふん、フィリップがいなければ役に立たない凡人がほざくな。」
「Leo」
獅子神はドライバーを付けるとレオメモリを装填しドーパントへと変身する。
「さぁ、絶望に沈めぇ!」
獅子神は重力波をWとアクセルの頭上に発生させた。
「ぐぁ!....身体が重ぇ。」
『何て力だ....』
「な....めるなぁ!」
アクセルはトライアルメモリを起動し加速すると重力波を振り切りレオドーパントに近付くが到達する前に辺りに落とされた落雷により動きを止められてしまう。
そこには強化されたウェザードーパントである井坂が立っていた。
「漸く、戦えますねぇ照井 竜。」
「井坂ぁ!」
「さぁ、邪魔者はいなくなった....擂り潰せ。」
獅子神が命ずると後ろにいたドーパントが襲ってくる。
数々のドーパントの攻撃がWに襲いかかる。
「グハッ....クソッ!うまく動けねぇ」
『先ずはこの重力波を抜け出さないと...メタルメモリを主軸にしたマキシマムを使って抜け出そう。』
「分かったぜ....フィリップ。」
Wはプリズムビッカーにメモリを装填しようとするが触れていたメモリを落としてしまう。
『どうしたんだい?翔太郎!』
「分からねぇ...急に力が抜けちまって....」
「大人しくやられて頂戴....仮面ライダー。」
一人のドーパントがWにそう言った。
そのドーパントを見つめた瞬間、謎が解ける。
『"フェロモン"か....翔太郎!息を吸っちゃ駄目だこの空間にはあのドーパントが散布したフェロモンが充満している。
それに当てられたから
身体の動きを支配されるんだ。』
「んだと?反則だろ。」
「あぁ?ゲームじゃあるまいし殺し合いに反則もクソもねぇだろうが!」
「兄貴、コイツは痛め付けるだけで殺しちゃ駄目なんだってさ。」
そう言うと二人のドーパントがWをコンビネーション攻撃で追い詰めていく。
『"チーター"に"ベア"の力かっ!
翔太郎!プリズムビッカーで受けるんだ!』
「分かっ....うっ!」
翔太郎がプリズムビッカーを構えようとするとその腕に攻撃が辺り盾を落としてしまう。
「敵は彼らだけではありませんよ?」
『"マンティス"....斬撃を飛ばしてきたのか。』
狼狽するWの周り煙が現れると斬撃に包まれて身体を切り裂かれていく。
そして、胸の中心にチェーンソーを受けて火花を散らすと壁に抑え付けられてしまった。
「俺達もいるぞ?仮面ライダー。」
「お久し振りですね。」
『不味い!翔太郎!チェーンソーを弾いて距離をとるんだ!』
しかし、その行動が怒る前に隣にいたドーパントに両腕を捕まれて拘束されてしまう。
Wも振りほどこうとするがビクともしない。
「う...ごけ.....。」
「無駄なことは止めておけ。
今回は俺達も余計な遊びはしない。」
『"アリゲーター"....何てパワーだ。』
すると、最後のドーパントがゆっくりとWの前に現れた。
そいつを見たフィリップは焦り翔太郎に言った。
『翔太郎!奴の声を聞くなぁ!』
しかし、フィリップの忠告が響くのと同時にドーパントの声が翔太郎に届いた。
「怯えろ...」
その言葉を受けた翔太郎の脳内に鳴海荘吉の死が鮮明にフラッシュバックされる。
銃で撃たれ血を流し倒れる...その光景がゆっくりと鮮明に頭に流れる。
その光景から抜け出せなくなった翔太郎の精神が限界を向かえるのに時間はかからなかった。
「あぁぁぁぁぁぁぁぁあぁぁぁぁぁ!」
翔太郎の絶叫と共にWが変身解除されると二人は地面に倒れる。
翔太郎は意識を失いフィリップだけが何とか敵を見据える。
「"トラウマ"を引き出すドーパントか....翔太郎!起きるんだ!翔太郎!」
しかし、その声は翔太郎に届かない。
「これで終わりだな。」
紫米島がそう言うとフィリップを捕えるためにドーパントが集まり始めた。
Wとアクセルが激闘を繰り広げている中、獅子神はドラゴンドーパントだった男の前に来ていた。
「残念だよ....純粋に力を求めるお前は嫌いじゃない。
だが、お前は俺達を危険に晒した...その責任は取って貰う。」
そう言うと獅子神は男の胸に手を突っ込むと心臓を引きずり出した。
その痛みで男の意識は覚醒する。
「あ...ぐあっぁぁぁぁ!」
引きずり出された心臓はまだ脈打っていた。
自分の心臓を取り戻そうと獅子神に掴みかかるが人間の力ではドーパントを凌駕する事は出来なかった。
「今から"ゆっくりと心臓を握り潰していく"。
死ぬまでの間に俺達を危険に晒したことを後悔し懺悔しろ。」
そう言うと獅子神はゆっくりと優しく心臓に力を込めていく。
それに反応するように心臓の脈動も強くなり男は獅子神の手から心臓を引き剥がそうと躍起になる。
男の口から血の泡が溢れ痙攣していく。
目の視点も合わなくなり反射による痙攣だけ続けていく。
そして、グシャ!と言う音と共に心臓が潰れると男は糸が切れた人形のように地面に崩れ落ちた。
「俺達の邪魔をする奴はどんな奴でも許さない。
敵には等しく死を.....それが俺のルールだ。」
そう言うと獅子神は血に濡れた手を振るとアクセルとウェザードーパントに向き直った。
戦況はアクセルが圧倒的に不利だった。
強化されたウェザーの力はトライアルメモリを圧倒していた。
「まだだ!」
吹き飛ばされたアクセルがそう言うと立ち上がるとトライアルメモリを抜き起動する。
超スピードで動くアクセルの攻撃をウェザーは的確に防御していく。
そして、攻撃を止めたアクセルがメモリのスイッチを押す。
「TRIAL MAXIMUMDRIVE」
だが、蓄積されていないダメージにトライアルメモリの力が反応することはなくウェザードーパントにダメージが与えられることはなかった。
「残念ですがその攻撃は全て見切っていますよ。
強化前のウェザーなら兎も角、今の私ならばその速度にもついていけます。」
「何だと?」
「それではお返しです。」
そう言うとウェザーの身体に赤い落雷が落ちると超スピードでアクセルに近付き凄まじい連撃を放つ。
トライアルと違い全ての攻撃が重く強いウェザーの連撃にアクセルの変身が解除されると照井は口から大量の血を吐き出した。
「ぐっ.....井....坂。」
そう言うと照井は地面に倒れてしまった。
その姿を見た井坂はメモリを抜く。
その光景に獅子神が尋ねる。
「殺さないのか?」
「彼は憎しみを糧にここまで強くなりました。
そして、そんな彼に感化され私も強くなった。
彼にはまだまだ私を強くするためにも生きて貰います。
それに...まだ強化アダプターに身体が馴れていないようですからね。」
そう言う井坂の口からは一筋の血が流れていた。
「十分に楽しめました。
私はこれで失礼しますが宜しいですか?」
「構わん。
元々、俺達だけでやる予定だったからな。」
「では私はこれで....」
そう言うと井坂はその場を後にした。
倒れる照井を獅子神が見つめる。
「厄介な男に気に入られたな貴様も.....
まぁ良い、目的は来人様の確保だ。
彼方ももう終わってる頃合いだろう。」
そう言ってWのいる場所へと向かった獅子神を待っていたのは倒れている部下とフィリップを助けようとしドーパントになった
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第百五十話 過去のL/欲しかった力
「そこに、フィリップ君はいるのね?」
「えぇ、彼も仮面ライダーです。
人を助けるためならまた無茶をするでしょう。」
「そう....ありがとう無名。」
「どうするつもりですか?若菜様。
まさか、そこに行くつもりじゃないですよね?」
「もう、フィリップ君を傷付けさせたくないのよ。」
「それはミュージアムの意向に反する結果となるかもしれません。
獅子神の事です....貴方に説得されても諦める可能性は低いですよ。」
「彼も僕もサラもワードメモリの誓約から解放されています。
現にそれで記憶を失っていたクリム・シュタインベルトも蛮野の記憶を取り戻しました。
彼は力と出世に貪欲です。
貴女のメモリの特性を知っている以上、手加減もされないでしょう。」
「分かってるわ。
獅子神の作戦を採用したのは他でもない
「なら、僕達に任せれば良い。
貴女が傷付く必要はない。」
「無名....私はフィリップ君に会う資格のある人間でいたいのよ。
これは、その為の第一歩....私はもうガイアメモリに関わりたくない。
フィリップ君の敵になるくらいだったから...」
「それが....貴女の選択ですか?」
「えぇ無名、私はミュージアムを.....」
その後の言葉を聞いた無名の声は悲しさに溢れていた。
フィリップを捕まえようとしたドーパントにエネルギー弾が直撃し吹き飛ばされる。
その方向を見ると
「フィリップ君に触れないで....」
「誰よ?アンタ。」
その問いに白爪が答える。
「若菜様....どうして我々の邪魔をなさるのですか?」
「!?」
若菜の名を聞いてセブンスの幹部は全員驚いた。
自分達を指揮する獅子神を使うミュージアムの幹部、園咲若菜の名前と顔は聞き及んでいたからだ。
だが、ドーパントとしての姿を知らなかったからこそ無礼な言い方をしたことに少し狼狽える。
「彼への手出しは止めてちょうだい...これはミュージアムの幹部としての命令よ。」
「それは出来ませんね。
この命令を了承したのは他でもない同じ幹部の園咲冴子様です。
私達も幹部からの了承を受けてこの作戦を実行していますので.....」
「どうしても引く気はないのね?」
「えぇ、我々は獅子神様の為に任務を全うします。」
「なら、貴方達には少し"休んで貰うわ"。」
「それはどういう....」
白爪がそう尋ねようとするとセブンスの幹部が次々と倒れ始める。
「どうした?」
「わか....りま...せん...か....らだ...が..きゅう...に....」
その姿を見て白爪は仲間の一人の能力を思い出す。
「
まさか、無名一派が若菜様についている訳ですか。
全員物陰に隠れろ!狙撃されている!」
その言葉と共に生き残ったセブンスのメンバーが壁に隠れた。
しかし、紫米島は身体を煙に変えると一気に近付いた。
「煙なら弾丸は効かない!
申し訳ないが若菜様、少し眠っていて貰いますよ。」
そう言って近付く紫米島にの目の前で爆発が起こると紫米島はメモリ解除され意識を失った。
「黒岩がいるなら私がいることも想定するべきだったな。」
そう言いながら隠れていた
「チッ!全員集合と言うわけですか。
面倒ですが水島さんに二人をお任せするしかありませんかね。」
水島は獅子神によってもしもの時の為に背後に控えさせていた。
白爪は早速、耳につけた通信機を起動して水島を動かそうとする。
「水島さんトラブル発生です。
直ぐこちらに来て下さい。」
しかし、白爪の通信に水島が出る事はなかった。
その答えを赤矢が言った。
「水島ならここには来ないぞ.....と言うより来れないと言う方が正しいが」
「どういう事ですか?」
「NEVERの技術を元に酵素を改良し作り上げた兵士らしいが如何せん痛覚を無くしたのは失敗だったな。
今頃、鉄骨が突き刺さり磔の状態になっているだろう。」
「......成る程、リーゼさんを使ったのですね?」
「あぁ、無名が獅子神なら後詰めと言って水島を何処かに潜ませている筈だと言っていたからな。
それが分かれば後は獅子神をプロファイリングして行動パターンを予測し確率の高い場所にリーゼを向かわせただけだ。」
「"犯罪心理のスペシャリスト"である貴方ならばそれぐらいの予測など簡単なのでしょうね。」
「まぁ、それを仕事にしているからな。
因みに黒岩を狙おうとしても無駄だぞ?
奴には狙撃して貰った後、別の場所に移動して貰っているからな。」
その言葉を聞いた白爪は周りを見て今の状況を分析した。
(人数だけならまだ我々の方が多いでしょうが現状が不利すぎますね。
先程の狙撃で精神攻撃が出来るメンバーを"優先的"に狙われ残っているのは直接戦闘力の高い者ばかり....黒岩さんの狙撃に赤矢さんの幻覚剤入りの爆弾....そして限定的ではあるが不死身の力を持つ若菜様.....戦いを続けても負けるのは明白.....しかし)
「だからと言っておめおめと帰るわけにも行かないんですよ。」
白爪は変化させたチェーンソーを構えた。
(獅子神様が戻るまでこの場を維持できれば...まだ勝機はある。)
獅子神とレオメモリが揃えばこの程度の苦境は打破できると考えた白爪とセブンスの残りメンバーは無名の部下と若菜に挑むのであった。
「ハァハァハァ.....」
若菜は肩で息をしながら目の前の光景を見つめていた。
獅子神の部下は皆、地面に倒れ付している。
無名の部下と共にこの苦境を乗り切ったことを感じるとメモリを抜いてフィリップの元へ向かった。
「フィリップ君!無事なの?」
「若...菜さん...どうして?」
「言ってくれたでしょ?
私がミュージアムの幹部でも関係ないって...私も同じよ。
貴方が仮面ライダーでも私が好きなフィリップ君には変わりが無いもの....」
「若菜さん....」
「フィリップ君、立てる?
早くここから逃げないと....」
そうしてフィリップに手を貸そうと若菜がしているとそこに獅子神が驚いた顔をして現れる。
「これは....一体どういう事だ?
それに何故、若菜様がここにいらっしゃるのです?」
「私はフィリップ君を....仮面ライダーを助けるって決めたの。
だから邪魔をしないで」
自分が想像してなかった答えを聞いた獅子神は素に戻り若菜に尋ねる。
「正気か?それはミュージアムの目的に反する行為だぞ!」
「そんなの関係ないわ!私は私よ!」
「バカな事を!コイツらを助けたところで何になる?
ミュージアムを裏切るつもりなのか?」
「.....それでも私はフィリップ君を救いたいのよ!」
「
若菜はクレイドールドーパントへ変身すると右手の砲台を獅子神に向ける。
「お父様からの罰は受けるわ...だからここは退きなさい獅子神。」
しかし、脅されている筈の獅子神は静かに若菜を睨み付ける。
「何時もそうだ....元から力を持って産まれた奴等はその力が当たり前だと勘違いする。
どんな我が儘も力があれば叶うと勘違いを起こす。」
獅子神は自分の過去を思い出す。
獅子神家で養子として入った俺にとって失敗は死と同義だった。
完璧でも足りない常に完璧以上の成果を出さなければ罰を受ける人生を続けていた。
獅子神の本家の奴等はそんな俺を嘲笑い、オモチャにした。
偶然、本家に産まれただけの存在がそれを自分の力だと考え子供の頃から俺を殴り蹴る行為を続けていた。
だが、俺は反撃できなかった。
俺の唯一の肉親である母親がいたからだ。
養子と言う体ではあるが俺の身体には本家の血が流れている。
女好きの当主がメイドだった母親を襲って出来た子供が俺だった。
だが、そんなスキャンダルが表に出たら会社にも被害が出る。
だからこそ、俺を養子として本家に入れることでその問題を解決したんだ。
親を交通事故で失くしたと言うバックボーンを勝手に付けられて。
俺は獅子神家にとってただの汚点でしかない。
だが、それでも俺がここにいたのはお袋を一人にしておくことが出来なかったからだ。
お袋もそれが分かっていて虐められる俺を見つけると隠れて治療をして俺に何度も謝ってくれた。
「ごめんね....貴方は悪くないのに...ごめんね。」
俺は母親に恨みはなかった。
この味方のいない獅子神家にとって唯一の理解者であり一人の肉親だったからだ。
(いつか....見返してやる。)
優秀な自分が当主に認められれば虐めもなくなりお袋も助けられる。
子供ながら本当にそんな事が出来ると俺は本気で信じていた。
だが、現実は残酷だった。
お袋は、首を吊って死んだ。
遺書が置いてありそこには「獅子神家の金を使い込んだ事を詫びて死ぬ」と書かれていた。
だが、お袋がそんな事をすると思えなかった俺が調べると直ぐに答えが分かった。
何てことはない....本家のバカ息子持っている会社の経営が傾いて...そいつが本家から金を盗んだのだ。
お袋はそれを隠すために犠牲にされた。
ご丁寧にお袋には生命保険がかけられており、その金を使いバカ息子の会社は救われた。
酔っ払ったバカ息子が言った言葉を俺は忘れない。
「邪魔な女も殺せて俺の会社も復活した。
やっぱり俺って頭良いよなぁwww」
あのメイドが俺のお袋だと知らないバカ息子はそれを自慢話のように俺に語って聞かせた。
それで気付いたんだ。
優秀でいるだけじゃ駄目だ。
最後に必要なのは力だ....力があればお袋も救えてこんな地獄もぶち壊せた....だが力を持たずただ優秀でいようとした俺は結局全てを失ったんだ。
それから直ぐに俺はミュージアムの被験者としてメモリに触れる機会が訪れた。
当主からすれば俺を殺して全てを無かった事にするために生け贄として出されたのは分かった。
だが、俺はそう思わなかった。
ガイアメモリ....地球の記憶を宿した力の塊。
俺に足りない圧倒的な力...それを手に入れられるのなら自分の命などどうなっても構わないと思った。
コンクリートで囲まれた部屋に俺は連れてこられて目の前に置かれたメモリを見つめる。
(力が欲しい...もう誰も俺から奪えない様な圧倒的な力が!)
その思いにメモリも答えてくれた。
一本のメモリに俺は引き寄せられる。
そして、そのメモリを手に取り俺はレオドーパントになった。
ミュージアムの幹部として正式に認められ獅子神家に戻った俺はメモリの力を使い獅子神家に居る者を全て消し去った。
俺とお袋を見捨てた当主の首を千切り、お袋の生命保険を使って立て直した会社にふんぞり返るバカ息子は両手足を千切り取ってから重力波で潰して殺した。
俺のお袋を助けなかったメイドと執事は一ヶ所に集めて俺の作った太陽で消し炭にした。
お袋を傷付けた存在、俺を侮った奴等、虐めた奴等はその家族ごと殺してやった。
(この力があれば....もっと早く手に入れていれば)
そんな心の感情を振り払うように全てを無に返すと俺は決めた。
「もう、俺の手にあるものは何も奪わせない。」
俺はそれを果たすためにこれまで生きてきた。
だからこそ若菜の行動が全く理解できない。
(俺が....必死になって求めた物をこの
理解できない感情は怒りに変わっていく。
(俺がこの
心に蓄積された怒りと後悔は獅子神の心を蝕んでいく。
「....なよ。」
小さい言葉を若菜に投げ掛ける。
「何?」
「....けるなよ。」
そして、蓄積された怒りは限界に達し....
「ふざけるなよこの小娘がぁぁぁ!」
「Leo」
乱暴に起動したメモリをドライバーに捩じ込むと獅子神はレオドーパントへと変身する。
怒りの感情がレオメモリの力を増大させる。
「そんな子供みたいな言葉で救えると思ってんのか!
その世の全ては力だ!お前みたいな奴が...始めから力を持っている程度の女が....」
「俺から大事なものを奪おうとしてんじゃねぇよ!」
獅子神は怒りのまま腕を振るうと発生した衝撃波がクレイドールを粉々に砕き近くにいた赤矢も吹き飛ばされる。
獅子神が地面に手を突っ込むと地面が隆起し赤矢と若菜は地面に吸い込まれていく。
液状化現象と呼ばれる大地震によって起こる現象を獅子神が意図的に起こし若菜は下半身が完全に沈み赤矢は爆弾を生成する右腕が地面に沈んでしまった。
地面から腕を抜いた獅子神は怒りのまま赤矢の肩を握り潰す。
「ぐぁぁぁぁ!」
痛みから暴れる赤矢の顔面に拳を打ち付ける。
それを止めるように黒岩が毒の弾を獅子神に向けて撃ち込むが獅子神の近くに来ると弾丸が停止し地面に落ちた。
「....そこか。」
獅子神は腕に込めた力を弾が発射された方向へ飛ばす。
違和感を覚えた黒岩は狙撃に使っていた建設途中のビルから飛び降りるとビルの中心がネジ曲がり90°になるとそのまま折れてビルが倒れてしまった。
目先の障害が無くなり意識を失った赤矢から獅子神が手を離すと若菜を無視してフィリップに近付く。
「やっ...止めなさい獅....」
獅子神は足を振り上げて若菜を踏みつけて砕く。
「黙っていろ....お前の相手をしてる暇はない。」
そう言ってフィリップに触れようとする手を雷を纏ったデビルドーパントが止めた。
「...どいつもコイツも俺の邪魔をしやがる!」
獅子神は怒りのままデビルドーパントを殴り付けようとするがそれを回避し後ろに回り込むとデビルドーパントは角に貯めた電気を獅子神に向けて放った。
それを獅子神は手に生み出した太陽を放つと電気がそこに向かって飛んでいく。
「お前の力は知っている....電気を操り雷の速度で動けるんだったか?
だが、その電気も俺に当たることはない。
お前に俺を止める程の力は無い!」
獅子神はそう言ってフィリップに触れようとすると隣にいた翔太郎が獅子神の手を掴んだ。
「翔....太郎?」
「お前...まだ邪魔をするのか?」
しかし、その問いに翔太郎は答えない。
疑問に思った獅子神が翔太郎を良く観察する。
「!?...お前、意識を失ったままなのか?」
翔太郎は意識を失ってもフィリップを守るために行動しようとしていたのだ。
その姿に獅子神は自分を守ってくれた母親の影が重なる。
「違う!お前はお袋とは違う!俺の邪魔をするのなら全てが敵だ!」
翔太郎の手を振り払うと首を掴み右腕を握る。
獅子神の握った右腕にエネルギーが貯まる。
「お前の存在は目障りだ....ここで殺してやるよ。」
「やっ止めろ!翔太郎!逃げてくれぇぇ!」
フィリップの叫びが空しく響くが意識の無い翔太郎には届かない。
獅子神は右腕に込めた力ごと翔太郎の心臓に向かって振るった。
並みのドーパントでも軽々と殺せる獅子神の拳が身体に当たる音が響く。
そして目の前に広がったのは........
翔太郎の身代わりに獅子神の拳を受けたデビルドーパントの姿であった。
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第百五十一話 消えるD/守る意味
「良いですかリーゼ?
フィリップと左 翔太郎、両方を守ってください。
彼等の存在は今後必要になります。
....今は理由を話せませんが、いつか教えられると思います。」
何時もしない困った表情をしている無名が珍しくリーゼの記憶に深く残っていた。
リーゼにとって無名は自分の存在と自由を守ってくれた存在だ。
だからこそ、余計なことを聞かずリーゼは無名に言われた命令を遂行しようと思った。
目の前で広がっている光景に獅子神は混乱していた。
翔太郎を殺すために振るった拳をデビルドーパントが盾になり受けたのだ。
手加減無しで振るわれた獅子神の拳はデビルドーパントの身体を貫通しドライバーを完全に破壊した。
腕を引き抜くとデビルドーパントは地面に倒れ砕けたデビルメモリが排出され元の猿であるリーゼの姿に戻る。
その光景を再生した目で見ていた若菜が叫ぶ。
「リーゼ!...いやぁぁぁぁ!」
リーゼはミックとじゃれあっており他の幹部の中でも若菜にとってとても馴染み深い存在だった。
故に身体から血を流して倒れる姿を見て悲痛な声をあげる。
「何故だ?何故、お前がコイツを庇う?」
獅子神がそう尋ねるがリーゼは勿論、答えられる訳がない。
すると獅子神の目の前に四角い物体が飛んでくると爆発した。
「何だ?....ぐっ!」
獅子神は巨大な何かに吹き飛ばされて地面を転がる。
そして、爆発した煙が晴れるとそこには獅子神の部下以外、いなくなっていた。
「....逃げた...だと?....クソ....クソがぁぁぁぁ!」
怒りから獅子神はその場で吠えるのだった。
獅子神の目の前で爆発したものは赤矢が生成した爆弾であった。
殴られた衝撃で動けるようになった赤矢がフィリップの元に駆け寄る。
「あの戦車を呼び出せ!」
「戦車?リボルギャリーの事か?」
「良いから早くしろ!周りの奴等を死なせたいのか!」
赤矢の言葉にフィリップは携帯を取り出しリボルギャリーを呼び出すと獅子神に突撃させた。
「若菜様!仮面ライダーをお願いします!
私はリーゼを....」
「分かったわ!」
若菜が再生した肉体で立ち上がると翔太郎と遠くにいた照井をリボルギャリーに乗せてフィリップも中に乗り込む。
そして、赤矢はリーゼを優しく抱えるとリボルギャリーに乗り込んだ。
赤矢はフィリップに指示した安全な場所へリボルギャリーを向かわせた。
そして、その場所に到着すると直ぐに降りて建物の中に入る。
その建物は無名が緊急用に用意したセーフハウスだった。
その存在を無名から聞かされていた若菜はメモリを抜くとフィリップと一緒に翔太郎と照井を担いで中に入れる。
赤矢はドーパントの姿のままベッドに運ばれたリーゼと翔太郎、照井に向けて小さな爆弾を投げる。
「何をする気だ!」
「騒ぐな!....鎮静効果のある爆弾を作った。
応急処置にもならないだろうが無いよりマシだ。」
小さな爆弾から三人の周りに煙が発生すると三人の顔の険しさが少し収まった。
そして、爆発したことを確認すると赤矢はセーフハウスを探索し緊急連絡用の通信機を見つけると使った。
その通信に無名が答える。
「どうしました?何かトラブルが....」
「リーゼがやられた!獅子神の攻撃を受けたんだ!
メモリもドライバーも破壊されている!....どうすれば良い?」
「.....え?」
何時もの無名らしくない声が通信機ごしに聞こえる。
「しっかりしろ無名!リーゼが死にかけているんだ!
このセーフハウスにリーゼを救う手段はあるのか?」
「リーゼの容態は?どうなっているんですか!」
「出血が激しい...獅子神の拳を受けたんだ。
患部を布で抑えて止血しようとしてるが血が止まらない!!」
「ガイアメモリの攻撃は普通の手段では治せません。
......どうすれば、美頭に..いやダメだ!....酵素...そうだ酵素です!ここにはNEVERの再生酵素があります!それを使えば....でも」
「どうした?何故、そこから先を言わない?」
「それを実行するには科学的知識とガイアメモリの知識の両方が入ります。
......僕が行く頃には手遅れになります。」
「私がやる...教えてくれ!」
「無理です....知識と経験が足りなすぎます。
シュラウドならば....出来るかもしれませんが彼女の協力は絶望的です...どうすれば...」
「本当に手段はないのか?」
赤矢の言葉に無名は沈黙すると決心したように話し始めた。
「赤矢さん....そこにフィリップはいますよね?
.....彼と変わってください。」
「分かった。」
赤矢がフィリップに通信機を渡す。
「フィリップさん....貴方に頼みたいことがあります。
シュラウドを説得してくれませんか?」
「何故、僕なんだ?
僕に彼女を説得できるとは思えない.....」
「いいえ、出来ます。
貴方の言葉なら彼女は耳を傾けてくれる筈です。」
「その根拠は何なんだ?教えてくれないのなら協力できない。」
「分かりました。
ですが、それを話すにしても今は時間が足りません。
ですので真実を聞いたら直ぐにシュラウドに連絡すると約束してください....お願いします。」
「分かった。」
「.....シュラウドの本名は園咲 文音。
そして、フィリップ、貴方の本当の名前は園咲 来人。」
「貴方はシュラウドの子供であり園咲家の家族の一人です。」
フィリップに真実を話し終わるとフィリップは約束通りシュラウドに連絡を取ると言うと通信が切られた。
ベッドの上で無名は手で顔を覆う。
(リーゼが....獅子神に殺されかけた。
僕のせいだ....僕がリーゼにそう命令したから.....)
話を聞いた限り、翔太郎や照井は守ることが出来たのだろう。
だが、獅子神により僕の仲間に被害が出た。
黒岩からも連絡がかかってきたが彼も重症らしい。
朦朧とした意識で連絡をかけてきた。
僕はNEVERに事情を話し彼等の救出を頼んだ。
僕の表情が酷かったのだろう。
NEVERのメンバーが悲痛な面持ちで準備を進めてt孤島をたっていった。
これまでもピンチなことは色々とあった。
その度に仲間の手を借りて状況を変えてきた。
過去の記憶が無く仮面ライダーWの記憶だけある特異な自分にとって彼等は家族のような存在になっていた。
特にリーゼは僕にとってとても大切な存在だ。
どんな時も信用していた存在が僕の命令によって死にかけた。
冷静に考えれば防げた筈だった。
獅子神は確実にいることも分かっていた。
もっと策を打てた筈なのに.....何時ものようなバタフライエフェクトとは違う僕個人の采配ミス、それによってリーゼが今、死の縁を彷徨っている。
窓ガラスに写る僕の顔は"笑っている"。
笑っている?何故だ?意味が分からない。
僕は自分の顔に手を触れようとするが動かない。
まるで誰かに操られでもしているような....あり得ない!僕の意識はハッキリとしている!
なら何故?
「不思議そうだな...私。」
ガラスに写る僕が話した..."私"?
「動揺した身体を奪うのは簡単だったよ。」
どういう事だ?まさか、ゴエティア!お前なのか?
「それ以外に誰がいると言うんだ?」
あり得ない!何時もは僕の意識が無くなると変わっていたのに....何故?
「君とエクストリームが完全に融合したのさ。
正確にはクリスタルサーバーがだけどね。
今まで中途半端に身体を操作するしか出来なかったのは地球の本棚と繋がる為のクリスタルサーバーとの融合が完全になっていなかったからだ。
だが、そんな時に
お陰で君が意図的にエクストリームを使い、融合を加速をさせてくれた。
そして、今それが完璧になったんだ。
私の意識の記憶とこの
「もうこの身体は私の物だ。」
【あり得ない!そんな事が.....】
「君と私の立場は逆転した....もうつまらないクイズがどうなど言わなくても好きに動くことが出来る。」
【何を....するつもりだ?】
「君に分かる筈など無いだろう?
私が何者なのかすら分かっていない君にはね...」
「だけど、君には感謝している。
僕の求めた
【箱庭?】
「1つだけ教えてあげよう。
前に出した質問の答えだ"地球とは何か?"」
「"地球の本棚が産み出した記憶の集合体"
それが答えだ。」
【集合体?.....どういう意味だ?】
「つまり、順序が逆なんだ。
"地球が産まれたから地球の本棚"が出来たのではなく...」
「"地球の本棚"が誕生した結果、地球が産まれたんだ。」
【そんな....どうしてそんなことが起きたんだ?
そんな歴史は仮面ライダーWには無い筈だ!】
「続きは君が調べてみると良い。
今の君なら調べられる筈だろう?
では、私は行くことにするよ。」
【お前はこの世界で何をするつもりなんだゴエティア!】
「悠久の時の中で存在することしか出来なかった私の願いは"変化"と"体験"だよ。
私もそろそろこの世界を自分で弄りたくなってきた。」
【この世界を壊すつもりか?】
「壊すのでは無い....ただ興味を実践するだけだ。」
「今まで私はずっと"書き手"だった。
触れることが出来ない物語を眺めるしか出来ない存在。
だが、今は違う。
もう、私は触れることが出来る....今までありがとう君が作り出した全ては私か有効活用させてもらうよ。」
【止めろ!....そんな事はさせない!】
「まぁ、見ていたまえ....ここから先は」
「
窓ガラスに写った無名は姿を消した。
そして残ったのはこの世界に厄災をもたらす悪魔その者であった。
ゴエティアはベットから立ち上がると服を着替える。
全身、黒でコーディネートされたスーツを見に纏うと部屋の扉を開ける。
そこには克己が立っていた。
克己は無名を見つめるとナイフを取り出した。
「どうしましたか克己さん。
そんな物騒な物を取り出して.....」
「貴様....何者だ?
無名じゃないだろう。」
「何を言っているんですか?
私は正真正銘の無名ですよ。」
「下手な芝居はよせ...お前に無名の感情は感じられない。
もう一度、聞くぞ....お前は誰だ?」
「.....流石は大道 克己。
曲がりなりにも仮面ライダーになった男には見破られますか。」
「その身体は無名の物だ....奴を何処へやった?
それもガイアメモリのせいなのか?」
「それを答える義理はありませんねぇ。
知りたいのなら力付くで聞いてみますか?」
「ならばそうするまでだぁ!」
克己の振るったナイフを避けること無く無名は受けた。
だが、そのナイフは無名に到達する前に出現した黒炎により刀身が消滅する。
ナイフを捨てた距離を取った。
(クソッ!ドライバーを置いてきたのは失敗だったか!)
嫌な予感がした克己は無名の部屋に行く際、時間を優先してドライバーを置いてきていたのだ。
そして、その行動から克己のミスを無名も理解する。
「ドライバーを忘れたのですか?
なら、貴方に私を止めることは出来ないでしょうね。」
そう言うと無名はドライバーをつけてメモリを起動する。
「Demon」
ドライバーにメモリを装填するのと同時に無名は呟く。
「エクストリーム....」
すると即座にデーモンエクストリームへと変身が完了した。
そして、手を翳すとその場所にゲートが出現する。
「何処に行くつもりだ?」
「さぁ、何処でしょうか?
当ててみてください。」
そう言うと無名はゲートに入り姿を消した。
克己は直ぐに自分の部屋に戻るとドライバーとメモリを手に取る。
そして、ミーナを見つけて話し始めた。
「ミーナ、メイカーに頼んで孤島の警戒レベルを最大にしろ!
そして、NEVERの奴等に連絡を入れろ緊急事態だとな。」
「何があったの克己?」
「分からん!だが、無名が"何者か"に捕まって消えた。
俺は奴を見つける為に後を追う。」
「追うって何処に?」
不安そうにするミーナに克己は告げた。
「風都だ....恐らくそこに奴もいる。」
そう言うと克己は外に出ていくのだった。
Another side
目を覚ました無名の目の前に広がっていたのは辺り一面真っ黒な空間でそこには大量の赤い本で埋め尽くされた本棚があるだけだった。
「ここは....一体?」
立ち上がった無名が本棚に触れると本棚が動き始めて一冊の本が現れた。
その本は他の物と違い鎖で巻かれており大量の南京錠で封じられていた。
すると、本の間から一枚の紙が落ちる。
千切られているがその紙は封じられている本の一ページだと分かった。
拾い上げた一ページの紙にはこう書かれていた。
「ゴエティアへ.....もう自分を責めるのは止めて
私が愛した貴方に戻って....
コスモス」
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第百五十二話 消えるD/狂い始める歯車
「申し訳ありません....作戦は失敗しました。」
フィリップを捕獲できなかった獅子神は園咲邸で琉兵衛と冴子にそう報告した。
「そうか....現状の報告をしてくれ。」
「セブンスのメンバー、そして私の部下が若菜様と無名の部下と交戦し多大な損害を受けました。
暫く、組織運営に支障が出るかと思います。」
獅子神からの報告に冴子が毒づく。
「全く、若菜も余計なことをしてくれたわ。」
「獅子神君。若菜は今、何処にいるのかね?」
琉兵衛の問いに獅子神は困ったように答える。
「それは....分かりません。
仮面ライダーと共に姿を消しました。」
そこまで話すと部屋に無名が入ってきた。
「失礼します....おや?皆さんお揃いのようですね。」
「貴様っ!今さらどんな面を下げてここに来たんだ!
このミュージアムの裏切り者めっ!」
「裏切り者?"私"は若菜様のご要望を叶えただけです。
若菜さまもミュージアムの正式な幹部でしょう?
ならば、彼女の願いを叶えるのもミュージアムに貢献することだと考えたまでです。」
「白々しい嘘を吐くな!....ここでお前を始末してやる!」
獅子神はドライバーを腰につけるとメモリを構える。
その姿を見た無名は溜め息をつく。
「はぁ、琉兵衛様申し訳ありませんが少しお時間を頂いても?
貴方に話したいことがあるのですがこの木っ端の相手をしなければいけませんので....」
「.....良いだろう。
二人とも戦うことを許可する。」
「ありがとうございます。
そんなに時間はかけませんのでご安心を....」
無名はドライバーを着けるとメモリを起動した。
「Leo」
「Demon」
両者がドーパントへ姿を変えると無名が言った。
「ここを汚すのは好みじゃありませんね。
場所を変えましょうか。」
そう言うと獅子神と共に黒炎で作り出したゲートに二人は消えるのだった。
風都近郊にある工場跡地に飛ばされた無名と獅子神は地面に着地する。
先制したのは獅子神からだった。
「死ねぇぇぇ!」
手に生成された光球を無名に向かって投げ付ける。
それを無名はゲートを利用し海へと逃がした。
「おやおや?まるで小型の太陽のようだ.....
レオメモリを完全に使いこなせているようですね獅子神。」
「黙れっ!俺の邪魔をする者は誰であっても生かしておかない。」
獅子神はそう言うと自分を深めた周囲に強力な重力波を発生させる。
仮面ライダーと対峙した時に放った重力波と違い相手を殺すつもりで放った力は周囲の建物や廃材をプレスする。
その攻撃を受けた無名は強力な重力により片膝を付く。
だが、口から出る言葉は穏やかなものだった。
「ほぅ....この姿で指一本動かせないとは興味深い。」
その余裕な声が更に獅子神の怒りを煽る。
「貴様っ!貴様貴様貴様貴様ぁぁぁぁ!」
獅子神は両手を上空にあげるとそこの空間がネジ曲がりその空間で急速に核分裂が起こり始める。
そして、自分の身体よりも大きな光の球を生み出した。
「素晴らしい....この熱量、本物の太陽と大差がありませんね。
だが、これを落とさせたらこの箱庭が壊れてしまう。
それは不味いですね。」
そう言うと無名は静かに"立ち上がると"呟いた。
「エクストリーム」
すると、デーモンドーパントの姿が変わり胸に瞳のように輝くクリスタルサーバーが現れる。
そして、獅子神の構える攻撃に手を向ける。
「DIMENSION,ERASE起動....いやただ能力を発動するだけでは面白くないな。
ここは左 翔太郎に習うとするか」
【
無名がそう呟くと獅子神の頭上に黒い空間が現れ、獅子神の力を全て飲み込んだ。
「なっ!貴様何をした!」
「空間ごと存在を消したんですよ。
ついでに煩わしい重力波も一緒にね...では次はこちらの番です。」
【
無名の周囲の地面から無名がこれまで生み出した武器が現れる。
そして、そこを中心として黒炎が発生すると人の姿を型どりその人形が武器を抜き取った。
「行け.....」
その言葉と共に数十体の人形が獅子神に向かう。
その人形の攻撃を防ごうと獅子神は重力波を発生させるが効果無く獅子神の腕に切り傷がつけられる。
「ぐっ!」
「それは黒炎の能力を持った人形です。
貴方の能力でも縛れません。」
「なら、破壊するまでだ!」
獅子神は強靭なパンチで人形を吹き飛ばした。
吹き飛ばされ黒炎となり散らばった場所にまた武器が現れるとそこから黒炎の人形が生成され増える。
「言ったでしょう?黒炎の能力を持っていると....
散らされた炎が別の場所に燃え移り数を増やすだけです。
貴方に勝ち目は無いんですよ。」
無名の言葉に獅子神は怒る。
「俺とレオメモリは最強だ!
お前のチンケなメモリに負けることなんて無いんだよ!」
獅子神の言葉にレオメモリも答えて更に力が増大する。
「持ち主の感情....プライドによって強化されるメモリ。
レオメモリはやはり強力ですね。
特に貴方のようにプライドが普通の人間を優に越えるタイプなら尚更、その効果は高い。
小型の太陽を生成できるだけ強化出来るとは素晴らしい自己暗示能力です.....しかし、それ故に弱点となる。」
【
無名が背後に出現させたゲートに入ると獅子神の背後から出現した。
「何っ!」
「人形よ....捕えろ。」
無名の言葉に従い黒炎の人形が獅子神を拘束する。
能力を使われ吹き飛ばされても直ぐに集まり両手足と胴体に組み付き数百体に増えた人形により獅子神の動きを完全に停止させた。
「はっ、離せ!」
【
獅子神の頭に触れると獅子神の身体が急に拒否反応を及ぼす。
「俺に触れるなぁぁぁぁ!」
獅子神から衝撃波が発生すると黒炎の人形を全て吹き飛ばした。
そして、触れられた頭を抑えながら獅子神が吠える。
「無名っ!俺に何をしたぁ!」
「知りたいのなら殴ってくれば良い....それとも恐ろしくて殴ることすら出来ないか?」
「ふざけるなぁ!」
獅子神は何時ものように重力波を無名に浴びせようとするが発動しない。
それならばと小型の太陽を作り出そうとするが何も反応がなかった。
「何故だ?何故答えてくれない!」
「その答えは君が一番分かっているんじゃないのかい獅子神?」
無名は悠然と獅子神に近付いていく。
まるで、散歩するようにゆっくりと...それは戦場では場違いなほど落ち着いた歩みだった。
「来るな....」
「自分の自尊心が高ければ高い程、強くなるレオメモリ。
つまりそれだけ使用者の精神状態に作用されるメモリと言うことだ。」
「来るな!来るな来るなぁ!」
「逆に言えば精神に作用するメモリの攻撃にはめっぽう弱いとも言える。
ライアーメモリの一件からもその弱点は露呈していた。
まぁ、ある程度の対策は取っていたみたいだが....私のこの攻撃を防げる程では無かったらしいな?」
「来るなぁぁ!」
「"テラー"をベースに多数の精神に作用するメモリを使った攻撃を君に当てた。
今、私の姿は君にどう見えているのだろう?
恐れに嫌悪感、悲しみに不安...そしてトラウマ、様々な感情が君から見て取れるよ。」
「は....はっ!...うっ!....」
獅子神は胸を抑え過呼吸になった自分を落ち着けようとする。
「無駄だ...そんな事をしても意味はない。」
そして、無名が獅子神の目の前まで来るとレオメモリがドライバーから強制的に排出され元の姿に戻る。
「うっ!うげぇぇぇ!オボォっ!」
獅子神は地面に向かって吐きながら身体の震えを抑えようと必死に両手で支える。
「どうやら、メモリにも拒否されたようだな.....
今の君にレオとしての威厳は無い。
只の恐怖に屈した人間だ....私が近付くだけでその反応だ。
もし、触れたら...どうなるのかな?」
無名は獅子神の顔に優しく手を触れた。
その瞬間、これまで耐えていた獅子神の心が限界を向かえる。
糞尿を撒き散らしながら奇声を上げると両手を振るいながら逃げるように走り出すと意識を失った。
その姿を哀れに見ながら無名は変身解除を行う。
「やはり、脆いな人間は....この程度の負の感情で壊れてしまうなんて」
そう言うと無名は倒れている獅子神を無視して園咲邸へ戻るのであった。
園咲邸に戻った無名は琉兵衛の元に訪れた。
「おや?冴子様がいらっしゃいませんが....」
「冴子には用を申し付けて井坂の所へ向かわせたよ。
不服だが今は私の所よりも安全だからね。
それよりも折角の昼下がりだ一緒に紅茶でもどうかね?」
「"ゴエティア"」
そう言って紅茶を差し出してくる琉兵衛に無名は笑顔でそれを受けとる。
「えぇ、是非。
久し振りに貴方と会話しますね園咲琉兵衛。」
「まさか、本当にこの世界に来るとはね.....
地球の本棚はそんなに窮屈だったかい?」
「貴方達のいる箱庭と比べれば
そう言えばお尋ねしたかったのですが....何故私の記憶を貴方は持っていたのですか?
貴方の記憶に関しては念入りに書き換えたつもりだったのですが.....」
「偶然の産物だよ。
このテラーメモリには恐怖をストックする力があったみたいでね。
私がエクストリームへの覚醒を選択した世界で手に入れていた力だよ。」
「.....あれは確か"666回目"の世界線でしたか?
恐怖を司るメモリらしくドラマティックな展開ですね。
と言うことはそれから後の記憶を貴方は持っているわけですか?」
「その通りだよ。
だから、君がまだこの世界に来ることを諦めて無かった事には驚いたよ。
あれからずっとやり直していたんだろう?
今は何度目だ?」
「さぁ、千を越えた辺りから数えるのを止めましたから....」
「それで....獅子神はどうしたのかね?」
「少し自分の立場を理解させて上げただけですよ。
無名が気に入っているリーゼに手を出しましたからね。
まぁ、ちょっとした嫌がらせ程度の仕返しですよ。」
「そうか...それでは君の目的を聞こう。
私の邪魔をするのなら敵対しなければならないからね。」
「私の目的はこの箱庭で自由に生きること...それだけです。」
「本当にそれだけなのかね?」
「それはどういう意味ですか?」
「ならば、何故何度も世界の記憶を書き換えて繰り返す行為を行っているんだ?
自由に生きることが目的なら千を越える程、やり直す理由もない筈だ。」
「言葉が足りませんでしたね。
私にとっての不自由とは退屈を意味するんです。
だからこそ、退屈になるくらいなら世界を書き換える事を選ぶ...それだけですよ。」
「それが君達、種族の考え方なのかね?」
「そうですかね?
もう私以外存在しない記憶ですから分かりませんが...」
「では、聞き方を変えよう。
私は若菜を"地球の巫女"にしてガイアインパクトをこの風都で起こす....君にとってそれは退屈な事柄かね?」
「いえいえ、寧ろとても興味がありますよ。
人間が地球の記憶を吸収することでどんな進化を及ぼすのか....ね。」
「では、私の計画に協力してくれると言うことで間違いは無いかね?」
「えぇ、勿論。
何か証明が必要ですかね?」
「...若菜を私の元に連れ戻してきて欲しい。
出来るかね?」
「良いでしょうではこういう取引は如何ですか?
私はまだ"この世界で遊び足りない"。
私の我儘を聞いてくれるのでしたら若菜様を巫女の器として完璧な者に私が作り替えて差し上げます。」
「....良いだろうその取引内容で構わない。」
「でしたら、1つ目の我儘ですがこの入れ物の部下の安全を保証して下さい。
今回の一件で罰を負わせないとここで宣誓してください。」
「良いだろう君達の行ったミュージアムへの裏切りは不問とする。」
「ありがとうございます。
では、準備がありますので失礼致します。」
そう言って立とうとする無名を止める。
「待ちたまえ....無名はまだその中にいるのかね?」
「えぇ、ですが奥深くで眠っています。
地球の本棚と繋がれるくらい深い深層心理の中にね。」
「そうか....彼も大事な部下だ。
安全は保証してくれると助かるが?」
「勿論、
私達二人はそう言う共生関係ですから殺すなんてもっての他です。」
ゴエティアは笑いながら琉兵衛にそう告げると部屋を後にするのだった。
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第百五十三話 生かされたW/各々の選択
フィリップは無名の用意した通信機を使いシュラウドを呼び出すことに成功した。
現れたシュラウドにフィリップも若菜もどう声をかけたら良いのか分からない。
そんな中、シュラウドが赤矢に尋ねる。
「それで....私はどうすればいいのかしら?」
「ここにいる面々の治療を頼みたい。」
「それは敵味方関係なくと言うこと?」
「えぇ、そうです。」
「なら、断るわ。
私は無名を信用できない...だから部下である貴方達も信用しない。」
そこに若菜が助け船を出す。
「私からもお願いするわ。
リーゼは私にとっても大切な存在なの...お願い。」
そこでフィリップはシュラウドに尋ねる。
「貴方は...僕の母親なんですか?」
「それは.....」
「答えてください。」
「....えぇそうよ来人。
私は貴方の母親よ.....そして若菜貴女もね。」
「....そうですか。
お母さん、僕からもお願いします。
ここにいる皆を救いたいんです力を貸してください。」
「ここにいるのは貴方の敵となる存在なのよ?」
「それでも構いません。
僕たち仮面ライダーは人を殺す殺人兵器じゃない。
人を街を救う存在なんです。」
「........良いわ。
彼等を全員救いましょう。」
そう言うとシュラウドとフィリップは協力しながら全員の治療を行うのだった。
治療を終えるとシュラウドは立ち上がりその場を去ろうとする。
「待ってください!僕は貴女に聞きたいことがまだ!」
「来人....強くなりなさい。
園咲 琉兵衛を越えられる程、強く......」
シュラウドはそう言うと陽炎と共に消えた。
赤矢は携帯に入った連絡を確認し若菜に伝える。
「分かったわ。
フィリップ....いいえ来人、もうすぐここにミュージアムのメンバーが来るわ。
貴方達がいると危険よここは私達に任せて行きなさい。」
「でも....それじゃあ」
「大丈夫よ!....私は園咲 若菜よ。
貴方のお姉ちゃん何だから信じて....」
「...未だに信じられません。
若菜さんが僕の....お姉さんだなんて」
「私もよ。
でも、お陰で少し納得したわ。
何で貴方といると落ち着くのか....家族だから当然よね。」
「姉さん....」
「来人、私は大丈夫。
今は自分の仲間のことを心配しなさい。」
そう言って優しくフィリップの頭を撫でた。
フィリップはリボルギャリーを操作して翔太郎と照井を乗せるとその場を去った。
それから直ぐにミュージアムの構成員が現れて私達は捕まってしまった。
それから1週間経ち、翔太郎と照井は目を覚ました。
まだ完全に回復していない身体を無理矢理動かして消えた若菜と無名の部下を捜索したが対した手がかりは無かった。
そんな中、若菜の所属する芸能事務所から体調不良により暫くラジオを含めた一切の芸能活動の休止が発表された。
その発表を受けたフィリップの顔には動揺と不安が現れていた。
他にも風都署でも一つの事件があった。
ドーパントに曲がりなりにも荷担していた相模が自ら照井に報告し辞表を出したがそれを泊と凛子に止められる。
「君達には感謝している。
お陰で刑事として恩人を助けることが出来たからね。」
「けど、だからって何で相模さんが辞めるんですか。」
「そうですよ。
私達は相模が悪人だとは思えません。」
泊と凛子の言葉に照井が言う。
「それが組織と言うものだ。
警察は正義の集団....それが根底にあるからこそ俺達は悪人を裁いてきた。
だからこそ、悪に荷担することも染まることも許されない。」
「そう、警察は正義の組織であるべきなんだ。
そして、未来ある若者のために道を譲るのが年寄りの責務だ。
照井課長、彼等三人が行った行動の責任は全て私にあります。
正義くんがメモリを使い続けた責任も私にある。
だから、処分は私一人で済むようにお願いします。」
相模がそう言って照井に頭を下げる中、照井は机から一つの書類を取り出した。
「それは?」
「後藤刑事が私に提出した報告書です。
中を見てください。」
そうして三人は報告書を見る。
「!?」
「これは!」
そこには自分の功名心の為に正義氏をメモリを使う犯人として扱い違法捜査をしたと言う証言と証拠が書かれていた。
「違う!後藤君は悪くない。
全て....私が」
「残念ですが私に通さず後藤はこの報告書を本部に提出しました。
ご丁寧に自分の辞表を付けて.....
俺も抗議に向かったがもう受理されたからと話を終えられた。」
「何で...後藤はこんなことを?」
「それは本人に聞いてみろ。
今彼は正義さんのいる病棟にいる。
この報告書によって正義さんの疑いも晴れたから面会も簡単な筈だ。」
そうして、泊と麗子は病院へも向かった。
病院でベットに眠っている正義を後藤は見つめている。
そんな彼の横に茶封筒を置くと部屋を後にする。
「後藤!」
そこに走って息が切れている泊と麗子が現れた。
「お前達も来たのか。」
「照井課長から聞いたぞ!お前一体どういうつもりなんだ?」
「照井課長が話したのか....お前達が見た通りだ。
俺の独断専行がこの事態を招いた。」
「それは違う!あれは三人で決めたことだろうが!」
「そうよ、自分一人で責任を被って辞めるなんて自分勝手よ!」
「泊、大門ここでは病院に迷惑がかかる。
場所を変えるぞ。」
そう言って近くのカフェに行くと後藤が話し始めた。
「俺は、警察官として正義を行うには正しさが一番大事だと考えていた。
....だが、この事件で分かったんだ。
正しさだけじゃ足りない...力も必要だと」
「どれだけ正しさを持って行動しても力が無ければ守りたいものも守れず.....逆に守られる立場になってしまう。
俺がこうして生きているのは正義さんが命をかけて俺を守ってくれたからだ。
俺は守るための力が欲しい....」
「なら、警察でキャリアを積めば....」
「それはお前自身が良く分かっているだろう?
その先に俺の求める力はない。」
「.....こっからどうするつもりなんだ後藤?」
「宛ならある。"鴻上グループ"からスカウトを受けててそれを受ける。」
「鴻上グループってあの大財閥の?」
鴻上グループの名は風都にも轟いていた。
そんな企業からスカウトを受けていることに泊と凛子は驚く。
「決心は固いんだな?」
「あぁ、俺は俺のやり方で自分の正義を貫く。」
「.....分かった。
そこまで決意が固いなら止めはしねぇよ。」
「ちょっと!泊君!」
「その代わり、死ぬなよ。
世の中、生きていれば何度だってやり直せる。
だから、生き続けてくれよ。」
「ふん、お前に言われるまでもない。
お前らこそ死ぬなよ。
短い間だったが、同期が死ぬのは目覚めが悪くなる。」
そう言うと後藤は泊と麗子の元を離れ一人風都から去っていった。
「また...会えるよね?」
「会えるさ、あの石頭がそんな簡単に死なねぇよ。
俺達も頑張らないとな....また会った時に後藤に笑われないように」
「.....そうね。」
後藤が正義の元に残した茶封筒には公務員試験の応募書類と手紙、そして警察手帳が入っていた、
手紙には後藤の文字でこう書かれていた。
「拝啓、中島 正義様
先ず、貴方に助けられたことに感謝を伝えます。
貴方のお陰で私は五体満足で今も生きることが出来ています。
貴方には助けて貰った恩がある。
だからこそ言わせて欲しい。
貴方の誰かを守りたいと言う気持ちはよく分かる。
だが、それを貫きたいのなら相応しい役職に就くべきだ。
でなければ貴方の思いは認められない....只の怪物の妄言として終わってしまう。
俺にはそれは耐えられない。
自分のことすら省みず人を助ける貴方の姿は正しく僕の求める正義の姿でした。
だから、これは俺の我儘です。
正義さん、刑事になってください。
暴力が振るえなくても人は守れます。
貴方にはその資格がある。
僕は自分の求める守る力を手に入れる....その為に警察を離れます。
もし貴方が警察官になりそこでもし俺が守る力を手に入れられたらこの手帳を返しに貰いに行きます。
この警察手帳に見合う存在に自分がなれたのなら....」
そして、封筒の中には後藤の警察手帳が入っている。
それを正義は優しく手に取った。
「待ってます.....
自信を持って貴方に会えるように...刑事になって」
その後、正義は公務員試験を受けて無事、風都署の警察官になり超常犯罪捜査課に配属されるのはまた別の話....
Another side
獅子神は自室の物を壊しながら一人暴れている。
「俺が!この俺が!あんな奴に!クソぉぉ!」
その暴れ方は怒りを発散すると言うより恐怖から逃げる様な動きにも見えた。
無名との戦いを終えた後、目を覚ました獅子神は自分の状況を見て敗北したのだと理解した。
みっともなく情けないそんな感情が渦巻きながらも身体を清潔にして園咲邸に戻り琉兵衛に弁明すると優しく獅子神に言った。
「問題ないよ"無名"からも君には"寛大"な配慮を求められたからね。
暫くは謹慎と言うことで天ノ川地区に戻りたまえ...良いね?」
琉兵衛の言葉をそうだが無名が自分に対して寛大な処置を求めたことに獅子神のプライドはズタズタに傷つけられる。
「ふざけるな....この俺を哀れむだとぉ!」
そう言って殴り飛ばしたライトの白熱灯が、割れてその熱によりカーペットから炎が上がる。
その炎を目にした獅子神はそれが"黒い炎"の様に見えると恐怖心から近くにあった水差しを投げ付けて消火する。
「はぁはぁはぁ....うっ!ごぇっ!」
込み上げてきた恐怖と不安の感情が獅子神を支配し地面に胃液を吐き出させる。
あの一件のせいで獅子神は食事すらまともに取れないほど憔悴していた。
こんな姿を見られたら舐められると思い、獅子神はあの一件以降、水島以外とは顔を会わせていなかった。
(もう無理だ、これ以上はもたない!)
獅子神は自室の壁に埋め込まれた金庫に手を掛ける。
何十にも掛けられたプロテクトを苛立ちながら解除していく。
その中にはこれまで獅子神が行ったビジネスや奪われたらマズい品物が保管されていた。
金庫を開けると中から黒い箱を取り出し開く。
そこには一本の金色のメモリが入っていた。
そのメモリを掴むと獅子神か腕に突き刺した。
メモリは体内に吸収されず体内から何かを吸収すると獅子神は冷静になりメモリを肌から離した。
その目には前のような恐怖心や不安の心は写っていない。
「俺は最強だ....最強で居続けなければ行けないんだ。」
そう言うとそのメモリを黒い箱に戻し獅子神は自室から出ていく。
部屋に誰もいなくなるとそこに黒いゲートが現れ中からデーモンドーパントが現れる。
そして、黒い箱からメモリを取り出すと笑う。
「まさか、こんなところにあったとは....探しましたよ。」
そう言って笑うとそのメモリを持って黒いゲートへと消えていくのであった。
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第百五十四話 生かされたW/静かなるプレリュード
ミュージアムの構成員により捕らえられた若菜と赤矢達は各々、メモリを奪われて隔離されていた。
そんな中、若菜だけ呼び出され大広間へと通される。
そこにはドーパント状態になっている琉兵衛と冴子、そして無名は立っていた。
そんな中、
「若菜、気分はどうかね?
随分と無理をしたと聞いたが.....」
「お父様、私は処分される覚悟が出来ています。
しかし、無名は私に従っただけです。
部下と彼には寛大な処置を....」
若菜の言葉に冴子が入る。
「若菜、事はそんな簡単なことじゃないのよ?
ミュージアムと言う組織に置いて有効な人材の確保に失敗した。
それも幹部である貴女が邪魔をしたのよ?
許されることではないわ。」
「....お姉さまはフィリップ君が何者なのか知っているの?」
若菜の問いに冴子と琉兵衛は事実を知ったことを理解した。
「どうやら、知ってしまったようだね。
彼が私達の家族である来人だと....」
「えぇ、シュラウドがお母様だと言うことも知りましたわ。
....だからこそ答えてくださいお父様。
何故、フィリップ....来人を私に会わせなかったんですか?
私には死んだと伝えて....
それに実験動物のような扱いもして....彼も私達と同じ家族の筈でしょ!」
「...確かに来人は私達の家族だ。
そして、同時に家族を越えた特別な存在でもある。」
「どういう...意味ですの?」
「お父様、若菜ももう大人よ...真実を知っても良いんじゃないかしら?」
「そうだね....若菜、良く聞いておくれ。
来人は一度、"死んでいる"んだ。」
「!?....どう言うこと?
現にフィリップ君はこうして生きているじゃない!」
「若菜、貴方は不思議に思わなかったの?
来人が何故、人の身でありながら地球の知識が保管された地球の本棚に入れるのか?」
「それは、ガイアメモリを使って....」
「彼の持つガイアメモリで地球の本棚に関係するのはエクストリームメモリだけだ。
だが、それを手に入れる前から来人は地球の本棚に入る資格を持っていた。
......あの事件の後で」
「事件?」
そこで琉兵衛が一つの話を始める。
あれは12年前....まだ、文音と来人が園咲の家にいた時の話だ。
自分の研究している地球の記憶へのアクセスポイント、通称"泉"に来人が誤って落下し命を落としてしまった。
だが、運命はこの事件を劇的に変化させた。
落下し死んだ来人は地球の記憶へ偶然触れた事で"データ"として肉体を再構築したのだ。
来人は地球の記憶からデータ人間へと生まれ変わった。
そして、来人の知識により私はガイアインパクトを起こす決心を固めてガイアメモリを作りこの街へとばら蒔いた、
予想外な事があったとすれば妻である文音が私の邪魔をしたことだ。
そして、文音は私を倒すために"仮面ライダー"を生み出した。
「お母様が....仮面ライダーを?」
「そうだ。
風都に昔から噂になってた
あれこそが文音....いやシュラウドが用意した。
私を倒すための存在だった。
そして、来人を奪われて彼も仮面ライダーとして私達の前に立ち塞がった。
.....これが園咲家の真実だ。」
驚くべき真実に聞いていた若菜は愕然とする。
フィリップが自分の弟であり死んでいる.....
そして、母は父を倒すため仮面ライダーを作り出した。
「それじゃあ、この風都で起こっているミュージアムと仮面ライダーの争いは...お父様とお母様の戦いなんですか?」
「まぁ、そうとも言えるな。」
「.....お父様は来人を愛しているんですか?
愛しているのなら何故、彼に真実を伝えようとしないんですか!
そうすれば彼も傷付くことはありませんでした!」
若菜の感情的な問いに無名が答える。
「来人様に強くなっていただくことが目的だったのです。
データ人間としてより深く強く地球の記憶とリンクする事が出来ればガイアインパクトの成功が完全なものとなる。」
「そのガイアインパクトも一体どういう計画なのですか?
私達に一体何をさせるつもりなの!」
「それは今の貴女が知る必要はありません。」
無名はそう言うと琉兵衛がいる机の上に置かれているアタッシュケースを広げた。
中から若菜のドライバーとメモリを取り出すと投げて渡す。
「どういうつもり?」
「これから若菜様は私と戦って頂きます。」
「何故、そんな事を?意味が分からないわ。」
「では、私と戦わないのならこれから来人様のいる場所に向かい手足の何れかを奪ってきましょうか。
.....それでも戦いませんか?」
無名からの挑発に若菜は地面にあるドライバーを腰に付けてメモリを起動した。
「Claydoll」
「来人に手は出させないわ!」
若菜はクレイドールドーパントへと変身が完了すると無名に向かって火球を放つ。
それを無名は生成した黒炎の盾で防ぐ。
「さぁ、実験を始めましょうか。」
無名は笑いながらそう言うと若菜との戦闘を始めるのだった。
ところ変わって黒岩と赤矢はミュージアムの地下施設に幽閉されていた。
そこにゴスロリ服の女がイナゴを食べながら現れる。
その姿を見た赤矢が言った。
「貴方は....成る程どうやら我々は組織に見限られた様ですね。」
その言葉で黒岩も察する。
「ミュージアムの殺し屋か?」
「えぇ、無名から聞いた話ではミュージアムには二人の処刑人がいるそうです。
一人は飼い猫のミック....もう一人があの女だそうですよ。」
イナゴの女は食べているイナゴをこちらに向けて尋ねる。
「食べる?」
「死刑執行前の囚人でももっとまともな飯が出る筈だが...ミュージアムにはそんな金もないのか?」
黒岩の挑発にイナゴの女は不機嫌な顔をする。
「要らないんだ....美味しいのに」
そう言うとイナゴの女はメモリを取り出して起動する。
「Hopper」
メモリを足に挿してホッパードーパントへと変身する。
赤矢と黒岩は組織にメモリとドライバーを奪われているため今は生身の状態だった。
しかも、反撃する武器もない。
「これはマズいな...どうする赤矢?」
「どうするも何も逃げるしかないでしょう。
逃げられるかは分かりませんが....」
そんな会話をしているとホッパードーパントは急に飛び上がり黒岩に向けて落下する。
それを紙一重でかわすが着ている服を捕まれて倒されてしまった。
「先ずは1人目....頂きまぁす。」
ホッパードーパントが顔を近づけようとすると危険を感じたのか黒岩から距離を離した。
ホッパードーパントのいたところを銃弾が通り抜ける。
「誰?」
ホッパードーパントの問いに男はメモリで答えた。
「ETERNAL」
「変身.....」
そして、その場に
「お前はミュージアムの関係者だな?
答えろ、無名は何処にいる?」
その問いにホッパードーパントは蹴りと言う形で答える。
克己はその攻撃を冷静に防御した。
「お喋りは嫌いか?」
克己のその問いにも答えずに蹴りの攻撃を続ける。
「内のレイカのような戦い方だな。
練度も高い....だが」
そう言うと克己はホッパードーパントの足を掴み関節逆方向にを思いっきり曲げた。
危険を感じたホッパードーパントは直ぐ様、足を抜くと克己と距離を取った。
「ドーパントとしての戦闘経験が多すぎるせいで身体を破壊する技を受けなれてないな?」
傭兵と殺し屋....似たような者だと思うかもしれないが求められることは全く違う。
殺し屋は対象を確実に殺せる技と動きを行うが傭兵は生き残る事を目的として技を使い戦う。
故に傭兵は相手の身体を殺すのではなく破壊する技も学ぶ。
破壊された敵はほおって置いても戦場では役に立たない。
寧ろ、そいつをカバーしなければ行けないため結果的にこちらの利益になる。
故に克己の使った足を破壊する技を見てホッパードーパントは警戒したのだ。
その姿を見た克己はエターナルエッジを取り出す。
「赤矢、黒岩....俺の仲間が外で待機している。
今はそいつらと合流しろ。」
「何があったのか知っているのか?」
黒岩の問いに克己は答える。
「いいや、だが無名の様子がおかしかった。
まるで、"別人に乗り移られたみたいにな"....
今の無名は信用できん。
暫くはこの街を離れた方が良い。」
「何だと?無名が....」
「....分かりました。
黒岩と私はこの街を離れます....何か分かったら連絡してください。」
そう言うと赤矢と黒岩は施設を脱出した。
追おうとするポッパードーパントは克己が相手をする。
「退いて!」
「断る....さぁ、死神とのデュエットだ楽しめよ?」
克己はそう言うとホッパードーパントと決着を付けるのだった。
場所は変わり園咲邸の外では無名と若菜の戦いが続いていた。
無名と若菜の戦闘は一方的な蹂躙劇だった。
黒炎を使わず直接的な戦闘能力でクレイドールを何度も土塊に変え再生を続けさせる。
飛行しながら行われる無名の攻撃は若菜の精神力を確実に削っていった。
「ハァハァハァ.....」
「そろそろ限界ですか?若菜様。」
「ふざけ....ないで!」
無名の挑発的な言葉に若菜は怒りを露にする。
「ふざけてはいませんよ。
貴女はクレイドールの再生能力により不死身になったと思っているのでしょうがそれは間違いです。
クレイドールの再生能力は強力ですが発動する度に貴女の精神力を消費させます。
まぁ、数回程度なら実感することはないでしょうが"百回"も再生を繰り返せば自分自身、気付いたんじゃありませんか?」
無名の言う通り、若菜は再生を繰り返す度に疲弊していた。
体力面では問題ないのに身体が重く感じる。
(でも、だからと言って無名をこのまま逃がすわけには行かないのよ!)
若菜は起き上がると空を飛んでいる無名を落とそうと火球を連射する。
それを盾で全て防ぎながら無名は若菜に高速で接近すると翼で身体を吹き飛ばした。
クレイドールの能力により土塊に変わり再生していく。
すると再生された瞬間、若菜は膝を付いてしまう。
「くっ、身体がっ!」
「本当に限界のようですね...まぁ、良いでしょう。
貴女が来ないのなら私は来人様の所へ向かい事を為すだけです。」
「何で?獅子神の時は私を助けてくれたのにどうして今は敵になるのよ!」
「"役者が変わった"と言うことです。
私を貴女が知っている無名だと思わないことだ。」
「では、これで終わりにしましょう。」
そう言うと無名は黒炎を若菜に向かって放った。
放たれた黒炎が若菜を焼き....そのダメージを回復していく。
どんどんと精神力が削られ限界が近づいた時、若菜の身体を覆っていた炎が吹き飛び無名を吹き飛ばした。
「これは....一体?」
若菜が自分の身体を見て言うと一瞬で戻ってきた無名に首を捕まれ持ち上げられる。
「漸くメモリが覚醒しましたか。」
「覚....醒..?」
「適合率の高いメモリを使い続けることで起こる現象です。
未来ではハイドープ...とも呼ばれますがね。
原作よりもメモリを使わなかったせいでこのままではエクストリームに適合できないと分かりましてね。
苦肉の策として私と戦って貰ったわけです。
今なら、このガイアプログレッサーと適合することが出来そうです。」
そう言うと無名は琉兵衛から預かっていたガイアプログレッサーを取り出す。
「さぁ、いよいよ本番です。
貴女がエクストリームに適合すれば地球の本棚に入れるようになり絶大な力を手に入れられます。
失敗すれば肉体と精神をデータ化され地球に吸収されますが....私がいればその心配はありません。」
そう言うと無名のドーパント体が変化した。
「適合率が上がれば簡単にエクストリームの力を扱えるようになる。
では、始めましょうか。
複数のメモリの力を起動した無名は若菜の胸にガイアプログレッサーを当てた。
するも若菜は意識を失いガイアプログレッサーを中心に若菜の身体を糸の様な何かが包んでいった。
「ZEROメモリで細胞の運動を止めてGEENメモリで細胞とプログレッサーを完全に融合させる。
その間の拒否反応を抑えるため、COCOONメモリで作られた細胞を保護する糸で全身をコーティングします。
まるで、羽化を待つ蝶のように....今の貴女はサナギです。
だが、そこから出た暁には貴女は琉兵衛の求める最高の地球の巫女へと変わっている筈です。
では、その日までお休みなさい。」
全身を繭で完全に覆われた若菜の姿が人間の形へと戻るがドライバーとメモリはそのままだった。
そんな彼女を連れて無名は園咲邸へと戻るのだった。
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第百五十五話 試されるJ/捕まる刃野
獅子神との戦いから暫く経ち鳴海探偵事務所は何時もの状態を取り戻していた。
若菜が捕まったことを知っているフィリップは助けに向かおうとするがそれをシュラウドが止めた。
「今の貴方では....あの男には勝てないわ来人。
私が若菜の無事を確かめる...良いわね?」
そのままフィリップはシュラウドを信じて任せた。
真実を知った翔太郎と亜樹子はこれからどうフィリップを呼ぼうか悩んでいたが「何時通り、フィリップで構わないよ。
探偵の相棒であるフィリップも園咲 来人と同じく僕なんだから...」
そう言われ皆、フィリップ呼びを続けている。
そんな翔太郎達は今、風都署にある留置所にいた。
理由はそこに収監されている男から連絡を受けたからだ。
「はぁ!?刃さんが"窃盗"?」
留置所にいた照井から経緯を説明される。
「昨夜、宝石強盗がいると通報を受けて付近を探していた刑事が酔っ払った刃野刑事を見つけて身体検査をすると"ダイヤモンドが入った小袋"を見つけて現行犯逮捕された。」
「にしたって刃さんが犯罪なんか起こす分けねぇだろ!」
翔太郎がそう言って庇う後ろで真倉が言う。
「僕は前から怪しいと思ってたんですよねぇ~それにしても窃盗とは随分と落ちぶれましたねぇ~刃野ぉ~」
留置所で毛布にくるまっている刃野に向かってそう告げた。
「てめぇ!マッキーの分際で調子に乗ってんじゃねぇ!」
翔太郎が亜樹子からひったくったスリッパで真倉の頭を叩く。
「痛ったぁ!何すんだコラぁ!それに俺はマッキーじゃなくて真倉だ!」
「うっせぇ、刃さんをバカにするお前にはマッキーすら勿体ねぇわっ!」
「てめぇ!ふざけんなぁ!」
二人が取っ組み合いの喧嘩を始めそうになり新任の超常犯罪捜査課の刑事が止める。
「ちょっと!落ち着いてください。
翔太郎さんの気持ちも分かりますけど暴力は不味いですから!」
「止めるな"進ノ介"!コイツは一回ぶん殴らなきゃわかんねぇんだ!」
「真倉刑事も!民間人を煽らないで下さい刑事でしょ?」
「離してくれ麗子さん!コイツだけはコイツだけわぁぁ!」
泊 進ノ介と大門 麗子は無事に超常犯罪捜査課で研修を受けることとなり今回の事件を担当していた。
「ちょっと照井課長!見てないで止めてくださいよ!」
泊が照井に向かって言う。
「落ち着け左....それと真倉もいい加減にしろ。」
「そうよ、落ち着きなさい翔太郎君!
これは所長命令よ!」
「分かってるよ...それで刃さん何があったのか詳しく話してくれねぇか?」
「あぁ昨日の夜、馴染みのバーで酒を飲んだ帰りに帽子を被ってデカいダイヤの指輪を着けた女にぶつかられたんだ。
そうして耳元で"ダイヤの価値が分かる?"って言われた後、そのまま蹴られて地面に倒れたところを刑事が現れてこうなっちまったわけだ。」
そこまで聞くと風都の情報通である翔太郎は一つの噂を思い出した。
「そう言えば最近、"人を宝石に変えちまう"ダイヤの指輪を着けた女が出るって噂があるよな?」
「あぁ、今回の件は恐らくドーパントが関わっている。
フィリップと左に調査協力を頼みたい。」
「あぁ、勿論だ。
刃さんの無実は俺達が証明して見せる。」
「良し泊、君は鳴海探偵事務所に事件の捜査資料を届けてくれ。
以後、彼らのサポートを頼みたい。」
「大門、と真倉は私と一緒に潜入調査を行う。」
「ん、照井は刃さんの事件とは関わらないのか?」
「あぁ、実は過去に摘発した裏オークションが今日の夜始まるんだ。
その調査をしなければならない。」
「そう言うことだ!刃野の窃盗事件はお前らと泊巡査でやっていろ!」
「あんだとこのマッキーがっ!」
「二人とも止めぇい!」
またスリッパを奪い取ろうとする翔太郎の手を拒み真倉と翔太郎の頭を叩いた。
「泊、不安だろうが左やフィリップ、それに所長は優秀だ。
君達でこの事件を捜査してほしい。」
「分かりました照井課長俺、頑張ります。」
そう言うと探偵チームと泊は留置所を後にした。
同時刻、園咲邸ではサラと琉兵衛が顔を会わせていた。
「サラ、怪我の具合はどうかね?」
「ご心配下さりありがとうございます。
でももう完治しましたわ。」
「それは良かった....次のパーティに主催者である君が来れないとなったらどうしたものかと思っていたのだよ。」
琉兵衛の示すパーティとはサラが主催するナイトタイムのオークションパーティの事であった。
「そう言えば獅子神と無名は何処にいるんですか?」
「獅子神は天ノ川地区に戻って貰っているよ。
無名は部下の起こした責任を取り暫く謹慎処分を命じた。」
無名の部下だった大道克己が反乱を起こし捕縛していた黒岩と赤矢を逃がした責任を取り無名はミュージアムの管理する研究所で謹慎と名の監禁をされている。
「信賞必罰ですか?」
「まぁ、そう言った所だ。
幾らミュージアムに貢献をしていてもたった一回のミスでその全てが水泡にきす事もある。
君も気を付けたまえよサラ。」
そう言われたサラは身震いすると静かに頭を下げてその場を後にするのだった。
ここで琉兵衛は一つ嘘をついた。
無名、いやゴエティアは今、ミュージアムの手を離れて単独行動をしている。
それは繭で包まれた若菜を私の元に届けに来た時の事だった。
「では、私はこれで....」
そう言って立ち去ろうとする無名を琉兵衛は呼び止める。
「待ちたまえ.....何処に行こうと言うのかね?」
「少し面白い道具を手に入れましてね。
それで少し遊ぼうかと思っているんです。」
「"遊ぶ"だと?そんな我が儘を許すとでも?」
「どちらにしても貴方に私を止める術はない。
それに、若菜様とガイアプログレッサーの融合が完了しました。
後は時間をかけて定着させるだけです。
もう私の力は必要ありません。」
「では何をするのかね?」
「何れ分かりますよ......いずれね。」
そう言うと無名も部屋を出ていってしまった。
風都でシュラウドが、個人的に持っている研究所の一室無名の作った資料を眺めていると来客が現れる。
「見当たらないと思ったらこんなところにいたんですね?」
現れた無名にシュラウドマグナムを向けるが無名はそれに対しておどけて見せる。
「おや?随分と嫌われてしまいましたね。」
「無名.....一体何の用?」
そこで無名は驚くべき事を言う。
「若菜さんの肉体とガイアプログレッサーが融合し今彼女はミュージアムの研究所に隔離されています。」
「!?若菜が何故!」
「琉兵衛がガイアインパクトに本腰を入れて来たと言った所でしょう。」
その言葉にシュラウドの銃口が震える。
ガイアプログレッサー...クリスタルサーバーのエネルギーを生体ユニットに移した物の名前で琉兵衛がガイアインパクトを起こす為にまだ何も知らないシュラウドが開発した物だった。
それを使ったと言うことは若菜を地球の巫女として作り替える準備を始めたことに他ならない。
「どうすれば....」
「ですから私はある提案を貴女に持ってきたのです。
現状のWに貴女は不満がある...そうですね?」
「あんな凡人と共に変身していては来人は恐怖の帝王に勝つことなんて出来ない。」
「えぇ、だから照井 竜にドライバーを渡して強くしていたんですよね?
来人様と変身させるために.....」
照井がWドライバーを使い来人と変身する形態、"サイクロンアクセルエクストリーム"....それこそシュラウドが提唱する琉兵衛を倒す為に作り出したWの形だった。
「当初は鳴海荘吉と来人様の二人で変身するW"サイクロンスカル"か"サイクロントリガー"で計画していたのが荘吉が亡くなり後釜としてアクセルメモリと適合した照井竜を貴方は選んだ。
二人の特徴は精神攻撃に強いことと....メモリの特異性ですね?」
「スカルメモリとアクセルメモリ、そのどちらも肉体のスペックを強化する事をメインとしています。
スカルは"擬似的不死"、アクセルは"加速的に進化を続ける回復力"、貴方がWに求めたのは死ぬことなく戦える事....だからこそジョーカーメモリを選んだ翔太郎が邪魔になった。
ジョーカーには不死性や回復能力はありませんから...ただ使用者の感情によりメモリの力を強める。
だが、あの男は荘吉に似ずハーフボイルド、貴女の目から見れば不完全だった。」
「えぇ、そうよ。
メモリ自体の相性は悪くない.....でもあの性格じゃジョーカーメモリを真に引き出せるとは言えない筈よ。
貴方もそう思うでしょ?」
「えぇ、ですので彼を完璧にしようと思います。
彼を貴女の求める最高のジョーカーの使い手としてね。」
「そんな事が本当に出来るの?」
「えぇ、このメモリを使えば可能です。」
そう言うと無名が一つのメモリをシュラウドに見せる。
メモリには"J"のイニシャルが刻印されていた。
「私はこのメモリを使って左 翔太郎を貴女の認める完璧な存在へと昇華させます。
私がここに来たのはそれを伝えるためです。
私は貴女の敵ではなく味方だと知って貰うためにね...」
「分かったわ貴方の口車に乗ってあげる。
でも忘れないことね今の私は貴方を最も疑っているも言うことを」
「勿論、じっくりと見定めてください。
私はWを貴女が求める最高の存在に変えて見せますよ。」
そう言うと無名はメモリをしまい研究所を後にするのだった。
これでピースは全て揃った.....
この高揚感を表すのならこうだろう。
公園の砂場で子供が砂の城を作っている。
あと少しで完成と言うところで上から踏み潰して全てを台無しにする。
その光景を想像するだけでゴエティアの顔は歪んだ笑顔へと変わっていく。
まだだ....まだ笑っちゃいけない。
最後の最後、もう手遅れだと気付いた子供達の表情を見るためにもあえて愚者を演じて油断させる。
私の計画を阻止するために動く?
それとも自分にとって都合が言いように変える?
大道克己や霧彦を生かしたように.....
だがそれは叶わない。
この
動き出したドミノを止めるには崩壊する先を潰さなければならない。
君にその決断が出来るかな?
さぁ、最高の悲劇の.......
"序章"を始めよう。
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第百五十六話 試されるJ/悪魔の遊戯
風都の会員制クラブである"キティサファイア"のVIPルームで井坂深紅郎は一人の"ドーパント"を診察していた。
その横には井坂のシンパである伊豆屋の姿もある。
一通り身体を見終わると井坂は言った。
「順調そうですね....エンゼルビゼラの服用がメモリの力を高めてくれているようだ。」
井坂のその言葉に起き上がったドーパントが言う。
「はい、能力が強くなっているのを実感できていますよ井坂先生、これも貴方に診察して貰ったお陰ですよ。」
「いえいえ、全ては貴方の努力によるものですよ"上杉"さん。」
すると、上杉と呼ばれた男はメモリを抜き人間の姿に戻った。
この男は
その理由も完璧主義の為、不完全な部分を許せずそれを見つけると壊したくなると言う狂った性格に起因していた。
そんな彼がジュエルメモリと出会い女性を宝石に変えている時に、伊豆屋と出会い井坂を紹介された。
最初は胡散臭く思ったが一度診察を受けて処方された薬を飲むと自分の力が強くなっている事を実感できた。
それ以来、上杉は井坂を主治医として定期的に通っている。
「それにしても僕が井坂先生を知った時が逃亡中だったのが悔やまれますよ。
もっと早く出会っていたらもっと沢山の
「ふふっ、そんな風に言われるとは医者冥利に尽きますね。
私も貴方とジュエルメモリに関して興味が尽きませんよ。」
そう言うと上杉が腕時計を見る。
「あぁ、もうこんな時間ですか。」
「今日は何か予定があるのですか?」
「えぇ、そろそろ新しい宝石が欲しくなったんで手に入れて来ようと思いまして」
上杉は女性をダイヤに変えた女性をアクセサリーとして身に付けており更にそれを定期的に変えている。
つまり、今の
「そうでしたか。
では、次の診察の予約は何時も通り伊豆屋に連絡をしてください。
それではお大事に.....」
そうして上杉が部屋から出ていくと井坂は伊豆屋に目を向ける。
「では、お楽しみを始めましょうか伊豆屋君。」
「はい、今回のメモリはこちらです。」
伊豆屋はそう言うと机に数本のガイアメモリを取り出す。
「どちらのメモリも過剰適合者から奪い取ったメモリです。
出力に関しては問題ありません。
何れも強力で井坂先生と適合率の高いメモリばかりです。」
そう伊豆屋から説明を受けた井坂は一つのメモリを手に取りおもむろに身体へ突き挿した。
「
メモリは井坂の身体が入り込んでいくが暫くすると弾かれ飛び出してしまう。
そして、飛び出したメモリは砕け散ってしまった。
「やはり、無理ですか.....アダプターで強化したウェザーメモリを使用してから他のメモリを使うのに拒否反応が出るようになってしまいましたねぇ。」
「ウェザーメモリとの相性が悪いのでしょうか?」
「いえ、それよりも"嫉妬"の方が近いでしょうね。
自分の様な優秀で多様性のあるメモリなのに何故、他のメモリを欲するのか!....とね。」
「まるで、恋人のような関係ですね。
井坂先生相手に浮気を許さないとは....」
「ふぅ、これでは他のメモリも使えないでしょうね。
仕方ありません...."ケツァルコアトルス"は諦めた方が良さそうだ。」
そう残念がっている井坂の元に一本の電話がかかってくる。
「はい、井坂です。」
「無名です....今よろしいですか?」
そう言って無名が連絡をしてきた。
「ええ、構いませんが、何かご用でしょうか?」
「"第二風都タワーの建設計画"については知っていますか?」
第二風都タワー建設計画、故人である風都の議員、
事件解決後、風都市長となった雨ヶ崎 天十郎の手により"今の風都タワーをサポートする都市一体型の施設"として変更されてたお陰で議会に通り進められていた。
「えぇ、天十郎さんとは良く話しますからね。
それが何か?」
「近々、それに建設に関わる計画がミュージアムで始まります。
井坂さんにはそこに加わっていただきたい。」
「.....解せませんね。
冴子君を通さずに私に直に話してくるとは」
井坂は冴子により匿われてからミュージアムに関する情報は全て冴子を経由して伝えられていた。
だからこそ、その過程を通さずに直接話を通してきたことに違和感があったのだ。
「...ではハッキリ言いましょう。
井坂さん今貴方の立場は非常に不安定です。
貴方の"テラーのメモリを手に入れる"と言う野望は琉兵衛様に筒抜けですよ?」
「!?驚きましたね。
まさか、そこに気付いているとは.....
では何故私はまだ消されていないのでしょうか?」
「一つは冴子さんの存在です。
娘が慕っている男を簡単には処分できない。
もう一つは強化アダプターの実験でしょうね。
あのアダプターの毒素に耐えられる貴方が何処まで強くなり限界を迎えるのかを見たがっているんでしょう。
琉兵衛様も私と同じく研究者の一面がありますから」
「それにガイアインパクトの計画も止まっていた。
この段階で貴方を消すのはメリットよりもデメリットが多いと判断していた....これまでは」
「それは一体?」
「文字通りです。
ガイアインパクトの計画が進み始めました。
このまま行けばそう時間もかからずにガイアインパクトを始められるでしょう。」
「まさか.....いや、成る程。
若菜君を使うのですね?」
「流石は井坂さんだ。
そこまで読み切れますか。」
「最近、こちらに姿を現さない....と言うより意図的に隠されていることを鑑みれば自然と分かりますよ。」
「風都第二タワーの計画に貴方が参加すれば少なくとも今すぐに消される心配はないでしょう。
アダプターを完全に使いこなせていない今の貴方が生き残る術はそれしかない。」
無名はまるで井坂をずっと見てきたかのようにまだアダプターに対応できてないことを看破した。
(確かにアダプターによる大量の毒素にまだ身体が慣れきっていない。
この状況でテラーを奪うのは難しそうだ。
だが、それを話して一体無名に何の得があるのだ?
私の研究に価値を見出だした?....違うな。
コイツは私の研究を無駄な事と言い切っていた。
無名やミュージアムから離れた場所にいられたお陰で研究や実験もはかどっていたがまだ私の求める完璧な理論には至っていない。
......ここで敵対するのは不利すぎますかね。)
井坂は少し考えると無名に話し始めた。
「分かりました。
貴方のお話をお受けしますよ。」
「それは良かった。
では、冴子さんに話を通しておきます。
詳しいことは彼女からお聞きください......では」
無名はそう言うと電話を切った。
切られた井坂は携帯を懐に戻し代わりに"小さな紙袋"を取り出した。
「どうせ、使えなくなってしまうのなら.....
井坂はそう思うと準備を整えて部屋を後にするのだった。
刃野を救うために調査を続けていた翔太郎、亜樹子、泊は襲われたモデルが良く来ていたクラブ"ブルートパーズ"へと向かった。
「ここか、ブルートパーズは」
「あぁ、噂じゃあモデルや有名人が通う会員制のクラブらしい。」
泊がそう説明した。
「えっ?じゃあ私達入れないじゃん!」
「問題ないだろう....これを使えば」
そう言うと泊はセキュリティに警察手帳を見せる。
「超常犯罪課の者です。
このクラブに重要参考人が潜んでいると言う情報が入りましたので中に入らせて貰っても?」
「申し訳ありませんが当店は会員様以外を入れるわけには...」
「この事件を捜査しているのは照井警視です。
あの人の事は貴方も知っていますよね?」
「!?.....分かりましたどうぞ中に」
セキュリティが少し怯えた表情をすると三人を中に通した。
「おい、何であの警備員は怯えてたんだ?」
翔太郎の問いに泊は小声で答える。
「実はあの男、過去にガイアメモリを購入しようとして警察に捕まったことがあるんです。
超常犯罪課の資料に乗ってました。
どうやら、そこで照井課長にコッテリと絞られたようなのでその名を出せば入れてくれると思ったんです。」
「うへぇ、確かに照井から詰められたらトラウマになりそうだな。」
「はい、僕も何度か拝見しましたが...あれをされるぐらいならドーパントを対峙した方がマシと思うぐらいにはキツかったですね。」
「まぁ、あいつもガイアメモリを憎んでいるからなぁ。
そう言えばお前と大門さんってそろそろ異動するんだよな?」
「はい、多分この事件を終えた後に異動になると思います。」
「そっかぁ、寂しくなるなぁ。
何だかんだお前達とは気があってたから」
「そうですね。
あの後、何度か事件解決に協力して貰いましたし.....鳴海探偵事務所の方にはお世話に」
そんな話をしているとステージの中央が騒がしくなる。
そこに目を向けると亜樹子が帽子を被った女に投げ飛ばされて踏まれていた。
「なっ、亜樹子!テメェ何してやがる!」
そう言うと帽子を被った女は指に着けたダイヤの指輪を向ける。
「ダイヤの価値って分かる?」
「あん?」
「美しく傷つかない....この私の様にね。
私は美しい物が好き....皆、宝石になってこの私を飾ると良い。」
突如、クラブの電気が消え再度点灯すると目の前にドーパントが現れた。
「ドーパント?」
「動くな!」
ドーパントに向けて泊は銃を向ける。
それを無視するようにドーパントは手からガスを発生させると放出した。
危険を感じた翔太郎と泊が避けるとそのガスに当たった女性が透明な宝石へと変わる。
「亜樹子!進ノ介!ここにいる奴等を避難させろ!」
「だけど!」
「良いから早くしろ!」
泊は苦い顔をしながらも翔太郎の意見に従い残った女性を亜樹子と共に避難させる。
「フィリップ!」
誰もいなくなったことを確認した翔太郎はドライバーを着ける。
『「変身」』
「CYCLONE,JOKER」
Wサイクロンジョーカーへと変身するとドーパントを殴り付けた。
ガチン!という硬質な音と共に殴ったWはその手を抑える。
「痛っつ!硬ってぇなコイツ。」
「私は"ダイヤ"....最も固く美しい。」
『ダイヤ?....それがあのドーパントのメモリか?
ダイヤモンドは地球上で最も硬い鉱物だ。
戦法を変えよう。』
「HEAT,METAL」
メタルシャフトを展開しジュエルドーパントを打つが全くダメージがなく弾かれてしまう。
『高熱のシャフトでも傷つかないとは』
「言ったでしょう?私は傷つかないって」
「調子に乗りやがって、これならどうだ!」
「LUNA,TRIGGER」
Wのトリガーマグナムの光弾がジュエルドーパントを襲うがその弾は突如展開した透明な盾により防がれ増幅したエネルギーが逆にWに直撃した。
ダメージによりWは吹き飛ばされる。
「ぐはっ!光弾が...跳ね返された。」
『ダイヤの微粒子を瞬時に結合させてミラー状のシールドを出したのか....このドーパントは強いよ翔太郎。』
「ならっ!エクストリームだ!」
Wはエクストリームメモリを呼び出し装填する。
「XTREAM」
『「プリズムビッカー」』
「PRISM」
プリズムソードにプリズムメモリを装填し引き抜くとエクストリームWはジュエルドーパントの身体を切りつける。
今度はダメージが入ったのかジュエルドーパントは仰け反った。
「何っ!」
『君のメモリの全てを閲覧した。
ジュエルメモリ、凄まじい硬度を誇るメモリだが石に目があるように一点でダメージを与えると耐えられない箇所がある。
そこを狙えばダメージを与えることは可能だ。』
「良しならさっさとメモリブレ....」
トドメを刺そうとするWの地面から黒炎が現れるとWを包み姿を消失させた。
そして、離れた河川敷へとWは飛ばされる。
「....ここは?」
『どうやら、何者かによって転移させられたみたいだ。』
「それは私の仕業ですよ。」
そう声が聞こえた方に顔を向けるとデーモンドーパントが立っていた。
「お前は....成る程今回の事件もミュージアムが関係してるのか?」
「いいえ、私の目的はあのドーパントではなく貴方ですよ左 翔太郎。」
「どういう意味だ?」
そう言って尋ねようとするとフィリップが慌てたように言った。
『翔太郎気を付けるんだ!
彼は前と同じデーモンドーパントじゃない!』
「どういうことだ?」
『見た瞬間、検索されて分かったが彼は僕達と同じくエクストリームに到達している。
あの中心部にある瞳のような物はクリスタルサーバーだ。』
「流石は地球の記憶と直結しているだけはある....だが」
「気付くのが遅かったですね。」
すると周りから大量の植物の蔓が現れてプリズムビッカーを叩き落としWを拘束した。
「ぐっ!こんな蔓.....」
「無駄ですよ。
捕縛に特化した複数のメモリの力を使っています。
それを抜け出すにはエクストリームに到達していても暫く時間がかかるでしょう。
その少しの時間があれば十分だ。」
無名はWの目の前まで来ると一つの金色のメモリを取り出し起動する。
「
そして、Wの胸へと押し当てた。
メモリは起動しWの体内へ吸収される...筈だがメモリは無名の手に残ったままだった。
そして、Wを拘束していた蔓が弱まると無理矢理引きちぎり無名を殴りにかかるが無名はメモリを持っていない手でいなすと距離を取った。
「何だったんだ一体?」
『分からない。
メモリの不調か...兎に角、失敗したことは確かだろう。』
そうフィリップは分析したがメモリを挿した無名の表情は暗くない。
すると、無名は背後にゲートを作る。
「おい!逃げんのか!」
翔太郎の問いに無名は答える。
「えぇ、目的も達しました。
後は見守らせてもらいます....では」
そう言うと無名は黒炎のゲートへ入り姿を消した。
『何だったんだ一体?』
「さぁな、亜樹子んとこに戻ろうぜ。
どうなっているか心配だ。」
そう言うとWはリボルギャリーを呼び出してクラブへと戻っていくのだった。
Another side
無名とWの戦いを二人の人物が見ていた。
一人はシュラウド、彼女は無名の計画を聞きその結果を見るために翔太郎とフィリップを眺めていた。
「これで、Wは変わる.....」
無名が言っていた通りならあのメモリの効果によりWは私の求める最高の存在となる。
若菜が地球の巫女として捕まりガイアインパクトの計画は加速していった。
もう時間がない....早く琉兵衛を倒さなければ....
シュラウドのその焦りはWと言う存在を変えていく。
その先に何があるのかすら今の彼女には考える余裕がなかった。
もう一人の人物は大道 克己。
イナゴの女を倒し無名の仲間を助け出した克己は無名の居場所を調べるために動き回っていた。
本当ならNEVERのメンバーを使いたいが彼等には今別の用事を頼んでおり自由に動けるのは克己だけだった。
しかし、今の彼の状況は無名とコンタクトが取れる程、暇じゃなかった。
変身した克己は一人のドーパントにその動きを完全に足止めされていた。
ゲートに消えた無名を追おうとした瞬間、現れた
「くっ!邪魔をするなぁ猫無勢がぁ!」
怒りを込めてエターナルエッジを振るうがスミロドンドーパントは持ち前の速度と柔軟性、そして獣の感覚で攻撃を完璧に避けていく。
代わりにミックの光弾が克己を襲うがエターナルのマントを使い回避する。
そうして暫く睨みあうと仕事を終えた様にミックはその場を逃走するのだった。
敵が消えた克己はドライバーからメモリを抜き取る。
「くっ!またか!」
克己は無名を追うために園咲邸や思い付く場所を手当たり次第に調べていた。
しかし、その度にミックからの妨害を受けていたのだ。
現段階で仮面ライダーに変身できるのは自分しかいない。
だからこそ、他の者にも頼れないでいた。
日増しに焦りが募っていく。
無名やWに対して何かが起こっている。
無名の中にいる存在の手により......
まるで伸ばしても手の届かない雲を相手にしている気分を味わいながらも克己は調査を続けるのだった。
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第百五十七話 Jの覚醒/ダイヤと船
無名との戦闘が終わりクラブに戻ろうとすると泊から連絡がきた。
「あっ、繋がった。
大丈夫でしたか翔太郎さん!貴方の事を見失ったので心配してたんですよ。もう
「あぁ、悪かったな....そういやあのドーパントはどうなったんだ?」
「アイツなら仮面ライダーが消えると同じ様に姿を消しましたよ。
一体どうなっているのか」
「分かった。
なら、1度合流しようぜ丁度、フィリップも近くにいるんだよ。」
「分かりました。
じゃあ僕は亜樹子さんと一緒に現場のクラブで待ってます。」
そう言うと泊は電話を切った。
「そう言うことだからお前も一緒に行こうぜフィリップ。」
「......あぁ。」
「どうした?えらく元気無さそうだな。」
「....無名が使ったメモリが気になっているんだ。
あんなに用意周到な男がメモリの不調なんていう失敗を犯すだろうか?」
翔太郎やフィリップのイメージで無名は用意周到で狡猾であり二人が常に後手に回り続ける策士であった。
だからこそ、そんな策士だった無名がこんなミスを起こすことに違和感が拭えない。
「お前の言い分も分かるが今は目の前の事件を解決する方が先決だろ?
俺もお前も身体はピンピンしてるんだ事件が解決した後に検査してみようぜ。」
「.....そうだね分かったよ翔太郎。」
フィリップをそう納得させると二人は亜樹子と泊の待つクラブへと戻っていくのだった。
クラブに到着するとそこにはもう警察が到着しており立ち入り禁止のテープが張られて現場保存を行っていた。
外にいた泊が二人を見つけて手招きする。
「あっ!こっちです。
彼等は超常犯罪捜査関係の協力者ですので入れてください。」
そう言われると警官は納得してテープの奥にいる泊の元に二人を招き入れた。
「大丈夫だったか進ノ介?」
「えぇ、まぁかすり傷が出来た程度です。
亜樹子さんは今、救急隊員の方に治療して貰っています。」
「亜樹ちゃんがそんな怪我をしたのかい?」
「いえ、あの女に投げられて足で踏みつけられた事による打撲何ですけど万が一を考えて検査して貰っているだけです。」
「何だよ驚かすなよ。」
翔太郎はそう言って泊の肩を叩いた。
「あ、そう言えばマッキーは何処にいんだ?」
「真倉刑事は今、生き残った人達の事情聴取をしています。
それが終わるまでに現場の見聞をしておこうと....ほら翔太郎さんは真倉刑事に嫌われてるじゃないですか。」
「成る程、翔太郎どうやら彼に気を遣わせてしまっているようだ。
早めに現場を見聞して早速、検索を始めよう。」
そう言うとフィリップは泊と共に現場へと向かっていく。
「.....なーんか納得いかねぇ。」
翔太郎はそう思いながらも二人について行くのだった。
荒れたクラブを見ながらフィリップは考察を始める。
「被害者は全員女性で皆、宝石に変えられた。
しかし、何故そんな事を.....」
その考察に泊も参加する。
「それに不思議なのは犯人はどうやってこのクラブに入ることが出来たのかと言うことです。
クラブの周囲を見ましたが破壊された跡は無かった....つまり犯人は怪物になる前にこのクラブに入ったということになる。」
「....成る程、このクラブは会員制。
入れる人間にも限りがあるって訳か....そっちの方で調べてみるか。」
「あぁ、検索を始めよう。」
そう言うとフィリップは目を瞑り地球の本棚へと入る。
「出たフィリップさんお得意の瞑想。
それにしてもどうやったらこれで事件が解決するんだろうなぁ。」
泊には二人が仮面ライダーであることも地球の本棚にアクセス出来る事も言っていない。
この行為もフィリップの行う瞑想と翔太郎は説明していたのだ。
「検索内容はあの女性の正体....キーワードを」
すると、そこに翔太郎が声をかける。
「キーワードは"ダイヤの指輪"、"クラブ ブルートパーズ"だ。」
「.....関連する項目が多すぎる今一絞り込めないな。
他に何かキーワードは無いかい?」
「と言っても他に情報なんて...進ノ助は何かあるか?」
翔太郎からの問いに泊は考える。
「....気になっていることならあります。
この事件の犯人は女性ばかりを狙っているんですよね?
だとしたら何故、刃野さんと接触したんでしょうか?
話を聞いた限り偶然にぶつかったというより意図的に巻き込まれた様に思えるんですよね。」
「確かにな....良しフィリップ、キーワード追加だ。
"刃野刑事"。」
すると、フィリップは検索を終えて目を開ける。
「翔太郎と同じくらい洞察力に優れているようだな泊 進ノ助さんは....絞り込めたよ。
やはり、刃野刑事が巻き込まれたのは偶然じゃなかった。」
そう言うと白紙の本を開く。
「彼女の名前は
元々、素行が悪かったらしく当時巡査だった刃野刑事に何度もお世話になったらしい。
主に
「えっ!上杉 誠ってあの超人気モデルの?」
治療を終えた亜樹子が三人の話に入ってくる。
「おっ、亜樹子無事だったんだな。
てか、何でお前が上杉の事を知ってるんだ?」
翔太郎の問いに亜樹子は答える。
「いやいや、頭にこーんなたんこぶが出来ちゃったんだからね....ってそんな事より翔太郎君知らないの?
最近、風都のモデル雑誌に引っ張りだこの人だよ。
その優しい表情とルックスから女性のファンも多いんどって」
そう言いながら亜樹子は携帯を開きモデルの情報が乗っているサイトを開いて見せてくれた。
「....うん?どっかで見たことある顔だな。」
「あっ、彼このクラブにいましたよ。
今、真倉さんから事情聴取を受けている筈です。」
「なら、俺らも一度会って話を聞かないと行けないな。」
そう言うと上杉の元へ向かうのだった。
翔太郎達が事件を調査している頃、照井と大門は風都の船着き場へと向かっていた。
二人とも何時もと服が違い照井は黒いタキシードに赤い
Yシャツ、大門は豪華なピンク色のドレスを着込んでいた。
到着した船着き場にいる黒服に招待状を見せる。
「ようこそ、いらっしゃいました。
船内ではこちらのマスクをお付けください。」
そう言うと黒服は二人にマスクを手渡す。
それを着けると二人は船内へと入っていった。
大門が小声で照井に話しかける。
「うまく潜入できましたね。」
「あぁ、だが油断するな。
ここはもう敵地の中なのだからな。」
「分かってます。
それにしても随分と豪華な船ですね。
広さもかなりありますし迷ってしまいそうです。」
「おや?ここで会うとは思いませんでしたよ。」
そう言って近付いてくる男も同じ様にマスクをしていたが声は聞き覚えがあった。
「"コレクター"、まさかここで会うとはな。」
「えぇ、運命的なものを感じますねぇ。
どうですか?折角会ったことですしお話でも」
「....もしも断ったら?」
「私が貴方達が警察だと言う....そう思ってますか?
ご安心くださいそんなつまらないことはしませんよ。
私はただ貴方と話がしたいだけです照井さん。」
暫く考えた照井は大門に向けていった。
「大門、俺はコイツとこの場を離れる。
警戒を怠るなよ。」
「照井課長、ですが!」
「俺のことなら心配するな....それと潜入中はその名を呼ぶなよ。」
そう忠告すると照井とコレクターは別室へと向かっていった。
大門は驚きながらも周囲に溶け込むように船のエントランスへと入っていった。
そこそこな広さがある部屋へ照井を案内して扉を閉めるとコレクターはマスクを外した。
「良いのか?そんな簡単に素性を明かして」
「言ったでしょう?私は貴方と話がしたかったんです面と向かってね....ですから照井さん貴方もマスクを外して頂けますか?」
照井はコレクターの願い通りマスクを外す。
「おぉ、やはりこうやって直に見ると分かります。
貴方の心にある憎しみや強さがひしひしとね。」
「何故、俺の名前を知っている?」
「私が敬愛するお方と貴方に接点があったからですよ。」
「敬愛だと?」
「井坂深紅郎....そこまで言えば後はお分かりでしょう?」
「井坂だと!?貴様っ!井坂の関係者なのか?
答えろ!奴は今何処にいる!」
照井は感情に任せてコレクターの胸ぐらを掴んだ。
しかし、そんな事をされてもコレクターは揺るがない。
「おやおや...少しは理知的な方だと思っていましたがやはり家族を殺された怒りはどれだけの年月が経とうとも消えないのですねぇ。」
「そこまで知っているのか....なら早く答えた方が良い。
でなければ貴様をここで....」
「殺しますか?....まぁ、それもそれで面白い選択ですが今の貴方はドライバーもメモリもない。
そんな貴方が私を殺すのは一苦労だと思いますが....どうします?私の首を絞めて殺しますか?それとも拷問して情報を吐かせますか?言っておきますが私はあの方の情報を話す気は全くありませんよ?
死ぬ最後の時までね......」
その狂信的な瞳に照井は軽く圧倒されこれ以上は無駄だと思い手を離した。
「流石は刑事の親を持つ男ですねここで冷静な判断が取れるとわ。」
「ならこれだけは教えて貰おう。
組織はこの舟を使って何をするつもりなんだ?」
「ここはナイトタイムが主催するパーティです。
通常の様なオークションは無くあるのは"イベント"です。」
「イベントだと?」
「えぇ、取引先である者を楽しませる催しですよ。
....照井さんはここで集まる者達の共通点が分かりますか?」
「........」
「正解は皆、"退屈"しているんです。
金も地位も手に入れた上流階級は大抵の事ならば叶えられます。
それこそ犯罪行為すらね。
だが、それでも満たされない者達が刺激的な体験を求めてやってくる終着点がこのナイトタイムが主催するパーティなんですよ。」
「要は狂った金持ちが集まるパーティか。
俺も幾つか見たことはある。」
照井はこれまで捜査で幾つもの狂った犯人の行う催しを見てきた。
そして、そこにはガイアメモリが関わることも多かったがそれを潰してきたのも照井であった。
「ふふっ、そんなものは子供のお遊びですよ。
このパーティと比べたらね....あぁ、そうだ一つだけアドバイスをしましょう。
生き残りたいのなら連れてきたあの女刑事の命は諦めた方が良い...足手まといを連れて楽しめるパーティではありませんので」
そう言うとコレクターはマスクを付け直し部屋を出ていった。
照井は部屋の窓を開けてビートルフォンを操作する。
すると、船の壁からライブモードとなっているイールチャンネルが照井の元へ駆け上がってきた。
イールチャンネルの尻尾には小型のアタッシュケースが取り付けられている。
中を開けるとアクセルドライバーとアクセル、トライアルメモリが入っていた。
照井がもしものために用意していたドライバーとメモリを取り出すと懐にしまった。
(コレクターの言い分は何かある。
用心に用心を重ねた方が良い。)
そうして照井も部屋を出ると大門と合流する。
大門は目立たないようにワイングラスを持ちながら周りを確認している。
「どうだ?何か不振なことはあったか?」
照井の問いに顔を向けず小声で答えた。
「何もありません。
エントランスに入ってもお酒と食べ物を勧められただけでした。
他の人もマスクを付けていますが話し掛けようとしても無視されてしまって.....」
「そうか、何があるか分からない。
暫くは俺と一緒に....」
そう照井が話そうとすると突如、船内が暗くなりモニターに明かりが灯る。
「ようこそ、ナイトタイムの主催するパーティへ御越しくださいました。
今回、司会を勤める美頭と申します。
それでは、今回行うイベントを発表する前に今、風都で行われている人間が宝石に変えられる事件....その犯人が我々にコンタクトを取ってきました。
彼は貴殿方の喜ぶ事件を起こす代わりに逃走ルートと資金を融通して欲しいそうです。
ですのでこれからその映像を流し皆様に、彼の命を買っていただきます。」
そう言うと映像が代わり、そこにはWとなった翔太郎達と瓦礫の中で意識を失っている泊の姿があった。
「!?泊君!どうして!」
大声を出しそうになる大門の口を照井は塞いだ。
そんな中でも話が進んでいく。
「彼の名前は上杉 誠、ジュエルメモリを使いドーパントに変身する男です。
では、映像の続きをご覧ください。」
そうして流れる映像を照井と大門は眺めることしか出来なかった。
照井と大門が映像を見る前、ジュエルメモリや城島 泪についての検索を終えた三人は泊と共に上杉への事情聴取を行っていた。
「貴方達は刃野さんと知り合いなんですか?」
上杉の問いに翔太郎が答える。
「あぁ、俺も刃さんには世話になったからな。
だからこそ、窃盗なんて事件を起こすようには見えないんだよ。」
「.....そうなんですか。」
「上杉さん今回、貴方に話を聞きたいのは城島 泪さんの事です。
あのクラブに彼女がいたという話があり調べているんです。」
「何だって!泪がっ!.....やっぱり泪が...」
「やっぱりとはどういう意味ですか?」
そこで上杉は自分の身の上を話し始めた。
自分と武田、そして泪は三人で良くつるみ町の平和を守ると言っては喧嘩に明け暮れていたこと....
そして、武田は泪が好きになり告白しようと自分に相談してきたこと....
しかし、泪は自分の事が好きでこの関係を壊したくないと思い断ったことを.....
「それが彼女を傷つけ...おかしくしてしまったのでしょうあんな怪物になるだなんて」
「その武田さんは今何処に?」
「行方不明です..."泪が怪物になった"その直後から」
「そうでしたか...でも驚いたでしょう?
人が宝石になるなんて普通じゃあり得ない訳ですから」
泊が慰めるように言うと上杉は涙を拭いて答える。
「えぇ、人をダイヤモンドに変えるなんて...どうかしていますよ。」
そう言うと上杉との事情聴取が終わった。
その寂しげな後ろ姿を見て亜樹子は悲しく言う。
「可哀想、折角の親友を恋で失ってしまうなんて...」
「ん?どうした進ノ介?そんな顔して」
泊の悩んでいる顔に翔太郎が尋ねる。
「えぇ、ちょっと気になる事が....」
「.....やっぱりお前も気になったか?」
翔太郎が泊にそう告げる。
その光景にフィリップと亜樹子は驚く。
「ふぇえ!何々、何に気付いたのよ?」
「聞いたところ不自然な事は無かったと思うけど」
「あぁ、良くある痴情の縺れが原因の事件の様に見える...だけどもし俺達の想像通りならこの事件は大きくひっくり返る。」
「翔太郎さん、僕はちょっと風都署に戻って調べものをしてきます。」
「あぁ、何か分かったら教えてくれ。
俺も情報屋に当たってみる。」
意味の分からない二人をほおっておいて話を進めるとそれぞれが行動を始めるのだった。
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第百五十八話 Jの覚醒/最悪な真実
上杉は泪が勝手に刃野のいる留置所に言ったことを知り悪態をついた。
「そろそろ潮時かもなぁ。」
武田 智をジュエルの力が宝石に変えて泪の言うことを聞かせてきたがもう限界が近いと思っていた。
警察だけならまだしも仮面ライダーに目を付けられたらこれから宝石集めが面倒な事になる。
だからこそ、何とかこの厄介な事態を解決する必要があった。
「必要なものは逃げる足と金かぁ。」
上杉はこれまで何人もの女性をダイヤに変えてきたがそれを売ることはしなかった。
何故なら彼女等は僕のメモリの力で完璧な存在になったのだ。
そして、そんな完璧な物は同じく完璧な存在である自分が持つべきだろう。
数点のダイヤを泪が刃野の元に運んだのは想定外だったが警察が無能なお陰で刃野を犯人にした仕立て上げようとした時に泪が刃野に会いに行った。
理由は分かる。
俺にダイヤに変えられた智を助けて貰おうって算段なんだろうがそうは行かない。
もう使えないなら捨てるだけだ。
上杉は泪をとあるビルに呼び出した。
その際、井坂の使いを名乗る者から渡された錠剤を手に持つ。
念には念を入れる必要がある....もし仮面ライダーが出て来た時の保険だ。
そうして、ビルに到着すると泪がもうそこにいた。
「何なの?話って?」
「お前には十分に働いて貰ったからな....そろそろこれを返してやろうと思ってな。」
上杉はそう言うと自分の指にはめていたダイヤの指輪を外し地面にほおり投げた。
驚いた泪がそのダイヤに急いで駆け寄る。
上杉が投げた場所の近くにあるソファには予め爆弾を仕掛けてあった。
泪が書いたと思わせる遺書や声も録音済み、全て完璧だった。
(さぁ、早く来い。
そしたら爆弾で殺してやるよ。)
しかし、その動きを一人の探偵と刑事により止められた。
「漸く見つけたぜ...上杉 誠。」
「たっ探偵さんと刑事さんじゃないですか...ちょ丁度良かった!助けてください!泪が僕を...僕を!」
その言葉に泊が銃を上杉に言う。
「下手な小芝居は止めろ!上杉 誠....いやドーパント!」
正体がバレた上杉はその場で驚愕するのだった。
「なっ....何を言っているんですか僕はドーパントじゃありません。
ドーパントはあの女ですよ!」
そう言うと今度は翔太郎が話し出す。
「下手な嘘はもう止めとけ....もう刃さんとも話した。
お前の正体は分かってんだよ下衆野郎。」
もう完全にバレていると分かった上杉は首を鳴らし笑う。
「あーあ、上手く行くと思ったのに....どうして分かったんだ?俺がドーパントだって」
その問いに泊が答える。
「違和感を感じたのはアンタと話した時だ。
彼女が怪物なると武田が消えたと言っていたよな?
お前にフラれたから怪物になった...なら何故武田を狙う必要がある?
付き合えない限界だったからか?それにしては短絡的過ぎだ。
そこで一度、刃野刑事と話したんだ。
そしたら刃野刑事の聞いていた真実は違ったよ。
城島が好きだったのは武田でアンタは城島にフラれたんだってな。
あの場でわざと城島を犯人にしようとする言動に違和感を覚えた俺は一つ罠を仕掛けたんだ。」
「罠?」
「俺が聞いた言葉を覚えてるか?
"人が宝石に変わる"と言ったのにお前は"ダイヤ"と言った。
確かにドーパントが女性を変えていたのはダイヤモンドだ。
だが、俺はダイヤモンドとは一言も言っていない。
ついでに言えば広まっている噂も宝石に変える女だ....だとしたら何故、アンタな宝石がダイヤだと分かったんだ?」
そう言うと次は翔太郎が捲し立てる。
「情報屋からアンタの噂を調べて貰った。
超が付く程の完璧主義者であり表の顔は好青年だが裏の顔は傲慢でプライドが高く色んな所でトラブルを起こしているってな。
しかも、お前がトラブルを起こすのは何時も女性関係でその女性は毎回不思議なことに女を宝石に変える噂の被害者になっていた。
そして、男性の場合は必ず死体が上がっていた。」
「男なんて宝石にする価値なんて無いだろう?
僕の身体を着飾れる資格があるのは美しい女性だけなんだよ。
その指輪は泪に言う事を聞かせるために仕方なく付けていたんだ。」
「貴様っ!」
泊が怒りの表情を向けていると泪が上杉の投げた指輪を手に取った。
そして、その姿を見た上杉が笑う。
直感的に嫌な感じがした泊と翔太郎は彼女に駆け寄る。
彼女の両脇のソファが爆発するが間一髪、泊が彼女を救いだしたが反動により吹き飛ばされ爆発したコンクリートに潰されてしまう。
「進ノ介!」
そして、吹き飛ばされた泪は頭を抑え出す。
「あぁっ!ああぁぁぁぁぁ!」
「おい!しっかりしろ!」
その光景を上杉はつまらなそうに見つめる。
「あぁーあ、やっぱり先生の言った通りになったかぁ..」
「テメェ、彼女に何をした!」
「泪には定期的にこの薬を上げてたんだよ。
ドーパントの力を飛躍的に増幅させる力があるんだけど普通の人間が使っても身体能力は向上するらしいんだよね。
けど、副作用が酷いみたいでさぁ...本当はこの副作用で彼女を殺して罪を全て被って貰おうと思ってたのに泪が余計なことをしたせいで計画が狂っちゃったよ。」
翔太郎は彼女の痛がり方に見覚えがあった。
(これはエンゼルビゼラか!
だとしたら早く治療しないとヤバイ!それに進ノ介も危険だ!)
翔太郎は上杉に見えないように携帯を取り出すとフィリップへと通話を繋げて泪の近くへ置いた。
「彼女は昔からの仲間だったんじゃねぇのか?
そんな仲間を利用して殺そうとするなんて何考えてやがるんだ!」
「は?彼女はね僕の事が好きだったんだよ?
僕の犯した罪は彼女が全部被ってくれた....好きじゃなきゃ出来ないでしょ?....それに」
「好きな相手に利用されて死ねるなんて幸せじゃん?」
その言葉を聞いた翔太郎の顔から表情が抜ける。
倫理観なんて完全に吹き飛んでいる人間の発言。
現に倒れている彼女を上杉は気にも止めていなかった。
「まぁ、でもここまでバレてるのなら仕方ないね。」
そう言うと懐からメモリを取り出す。
「
「纏めて宝石になって貰うしか無いかなぁ...」
その言葉に翔太郎は反応すること無くドライバーを取り出し付けるとメモリを起動する。
『「変身」』
「CYCLONE,JOKER」
仮面ライダーへと変身する。
「フィリップ....エクストリームだ。」
『あっ...あぁ』
今まで見たこともない表情と感情にフィリップは動揺する。
冷たく重く...そして深い。
見ようとすれば飲み込まれてしまうのではないかと言う程の暗い感情だった。
そして、エクストリームメモリを呼び出しドライバーに装填する。
「XTREAM」
エクストリームとなったWだがその姿は何時もと違っていた左側にある翔太郎サイドの肉体から紫色のエネルギーが飽和し漏れ出している。
(これは、ジョーカーメモリの出力が強くなっている。
僕が合わせるのが精一杯になるなんて...それに、エネルギーの性質が何時ものジョーカーメモリと違う。
これは一体?)
それは翔太郎が本来持つ事が無い....いや、持ったとしてもセーブされてしまう感情。
しかし、それが無くなり全ての感情のベクトルがそこに向かったことでジョーカーメモリが反応しそれに適した力がWから溢れ出してきたのだ。
その感情の名前は"殺意"....翔太郎は始めて犯人を殺すつもりで変身し対峙していたのだ。
そんな事を知らないフィリップはその感情に違和感を覚えつつも敵を見据える...そして二人は犯人へと問い掛ける。
『「さぁ....お前の罪を....数えろ。」』
二人の言葉を受けた上杉は笑いながら言う。
「は?僕に利用されて死ねるんだ。
それは罪じゃなくて幸福だろう!」
上杉の放った拳をWは片手で受け止める。
そして、その手を握り始める。
「無駄だよ僕の身体は全てがダイヤモンドと同じ硬度で出来てるんだ。
握られた程度じゃ傷一つも...!?」
そう言い放つ上杉だったが握られた手が軋みヒビが入り始めたのを見て動揺する。
「なっ!どういう事だ!僕の身体はダイヤモンドなんだそんな....」
「黙ってろ...」
翔太郎がそう言うと手を思いっきり握る。
グジャ!と言う音と共に上杉の手がひしゃげてしまう。
「ガァァァァァ!」
「黙ってろと....言っただろう!」
握り潰した手を離し翔太郎は拳を握ると上杉の顔面を殴り付けた。
瞬間、紫のエネルギーが爆発し上杉はビルの壁を突き破り外へと弾き出された。
その姿を目で追うとWはゆっくりと倒れている泊と泪を見つめた。
『翔....太郎?』
その姿に動揺を隠せないフィリップ。
「このままじゃ二人が危険だ。
リボルギャリーは何時来る?」
『もうすぐ....来る筈だよ...』
そう言っていると穴の空いた壁からリボルギャリーが走ってくるのが見えた。
翔太郎はプリズムビッカーを取り出す。
「フィリップ、彼等を病院に運ぶ前に応急処置をして置きたい。」
『分かった。
ルナメモリをメインにしたマキシマムを使おう。
フィリップがそう言うとプリズムビッカーにメモリを装填していく。
『「BICKER SHINECUBE」』
ヒーロードーパントとの一件の際に使ったマキシマムを発動することで泊と泪の顔は穏やかになる。
そしてリボルギャリーが現れる。
二人をリボルギャリーに乗せると病院へ遠隔操作で走らせ始めた。
二人を運ぶとWは吹き飛ばした上杉の元へ歩いていく。
Wの拳を受けた上杉は何とか立ち上がるがその足は震えていた。
「ぼっ...僕の顔に..傷を付ける...なんて...許せないなぁ!」
上杉はダイヤモンドを刃物の様に尖らせて生成するとWに向かって放つ。
しかし、その攻撃をビッカーシールドで的確に防御していく。
そして近付きながらメモリをビッカーシールドへ装填していく。
「CYCLONE MAXIMUMDRIVE」
「....来るなっ。」
悠然と近付いてくるWに上杉は恐怖を覚える。
「HEAT MAXIMUMDRIVE」
「来るんじゃねぇよ!」
上杉は恐怖に任せてWへ攻撃を加え続けるが全く効いた様子はなく近付いてくる。
「LUNA MAXIMUMDRIVE」
「来るな来るな来るな来るなぁぁぁぁ!」
まるで死刑執行を待つ囚人のように上杉が怯えていると攻撃をしていた手を捕まれてしまう。
「ヒッ!」
「これで、終わりだ。」
「JOKER MAXIMUMDRIVE」
四本のメモリを装填したビッカーシールドを上に投げるそしてシールドに付いているプリズムソードを抜き放つと逃がさない様に腕を掴みながら必殺技を放つ。
「BICKER CHARGEBREAK」
頭の中心から一線の元に切り裂かれた上杉は爆発を起こすとメモリブレイクが起こる。
元の人間の姿に戻った上杉をWは黙って殴り付けた。
『翔太郎!何をしてるんだ!』
「コイツの生体コネクターなら毒素が残らないタイプなんだろう?
逃げられる可能性もあるから意識を奪う必要があると思っただけだ。」
そう言って握っていた上杉の手を離すとメモリを抜き変身解除する。
『待て....翔』
フィリップが会話を続けようとするのをWドライバーを外して翔太郎は無視する。
目の前にはWの力で殴られて顔の骨が折れている上杉が倒れている。
(コイツの様な外道を...生きて捕まえる意味なんてあんのか?)
翔太郎は自分でも驚く程に冷たい考えをしていることに驚く。
「俺は....今何を考えたんだ?
そんな事、おやっさんが許すわけ無いだろう!」
誰もいない場所に翔太郎の怒号が響き渡る。
その姿をシュラウドは見つめていた。
「素晴らしい。
ジョーカーメモリの力を彼処まで引き出すだなんて....
この力があれば恐怖の帝王に勝てる!」
「あれは....本当に左 翔太郎なのか?」
その光景を見ていた大道克己がシュラウドの前に現れる。
「貴方は....そう、貴方も動いていたのね大道克己。」
「これは無名の仕業だな?
翔太郎に何をした?」
「彼は私の求める完璧なWへと変わった....彼と来人ならあの男に勝つことだって」
歓喜に震えながらシュラウドが話を続けようとするのを克己は悲しい顔で止める。
「それはフィリップが求めていることなのか?
唯一無二の相棒を変えることが本当にあの坊主の為になると思ってるのか?」
「黙りなさい!全ては来人の為.....来人が安全に生きる未来の...」
「お前が見てるのは"自分の求めている未来"で"坊主の為の未来"じゃない。
アンタの未来に今の無名が協力しているのは分かった。」
克己はそう言うとその場を後にしようとする。
「何処に行く気?」
「俺は....俺の知っている"無名の願い"を叶える。
左 翔太郎をフィリップが信じる存在へと戻す。」
「そんな事は許さないわ。
貴方を殺してでも左 翔太郎は完成させる!」
「なら....お前とは敵同士だなシュラウド。」
そう言って二人は睨み合う。
そしてシュラウドは陽炎に包まれて姿を消すのだった。
悪魔の残した種が芽を出し物語へと複雑に絡み合っていく。
そして次のステージへと進んでいくのだった。
地球の本棚に幽閉されている無名は一人この部屋を探索していた。
見よう見まねで本の検索をすることが出来ることが分かりそれを使ってここから脱出する方法を調べてはいるが一向に答えは分からなかった。
外では一体何が起きているのか?
仲間は無事なのか?
不安が心を揺さぶる。
だからこそじっとしていられないと思い無名はこの空間について調べられる事を限界まで調べていた。
そんな中で見つけた一枚の手紙....そこにはゴエティアを思う誰かの言葉が書かれていた。
名前は滲んでしまって読むことはできないが気になった無名は調べようと色々とキーワードを言っていく。
「ゴエティア、ガイアメモリ、地球の本棚、箱庭.....ダメだ全く絞り込めない。」
ゴエティアを入れても出てくるのは悪魔の使役の仕方が記載された本に関する情報だけであり今のゴエティアへと繋がる記憶は無かった。
そこで無名の頭に一つの疑問が浮かぶ。
ゴエティアとはそもそも何なのだ?
アイツと言う存在があるのならこのゴエティアと書かれた本には何の意味があるんだ?
同じく悪魔に関係する話題....何か共通点がある筈だ。
無名はゴエティアと会話した内容を思い出す。
「奴は自分の名前が数百はあると行っていた....そんな事あり得るのか?
名前が複数ある意味....色々な場所に現れていた?」
「キーワードを追加"ゴエティアの名前の種類"。」
すると本棚が移動し一冊の本が現れる。
無名は手に取り本を開く。
そこには乱雑に切り取られたページが何枚か挟まれていた。
「これは....どういう事だ?」
そのページを取ると並べると無名は一つの可能性を考え付いた。
「まさか!キーワード追加!"悪魔"、"ゲーム"。」
そうして現れた本を片っ端から捲っていくと同じ様に切り取られたページが挟まっていた。
そうして集め終わった数十枚のページを読めるように纏めていく。
すると、これがゴエティアに関わる記憶....いや日記のような物だと分かった。
そのページを読んでいく。
【私達は.....を支持した....結果的にこの世界のためになると信じたからだ...だが、結局は間違いだった。
私は....を失い気付いた。
全ては下らないまやかしなのだと.....だが私は諦めない....を助けるために.....私は....今一度悪魔に戻ろう....何度、失敗しても諦めない。
.何が....だ!.....だ!.....そんな事の為に私は....を失ったのか!
.....許してなるものか....こんな結末を!.....
私は....を救うために全ての.....を犠牲にした。
彼等は私を恨むだろうか?....恨むだろうな。
原初の悪魔と呼ばれていても私は......ただの強欲な....なのだ。
この箱庭は素晴らしい....流石は....が作り出した結晶だ。
故に愛しさもある....だが....を救うためなら....私は....】
そこでページは無くなっていた。
「ゴエティアは....誰かを救いたいのか?」
これ以上を知るためにはもっと地球の本棚を調べる必要がある。
きっとそれがここから出るのに必要なことだと思った無名は一人、地球の本棚で調べ続けるのだった。
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第百五十九話 虚ろなA/閉じ込められた地獄
Wへと変身した翔太郎を照井と大門は船から流れる映像越しに確認した。
「まさか...あの探偵さんが仮面ライダー?」
しかし、周りの客にとってはそんな事どうでも良いらしい。
「何だ...少しは楽しめそうな奴だったがやられ方が呆気なかったな。」
「そうねぇ、どうせなら血や臓物が飛び出るような映像が見たかったわね。」
「あの仮面ライダーが生身の男を殴った時の音は良かったなぁ....骨が砕けて血肉に食い込む音だ。
あぁ、今度は直に聞きたいなぁ。」
それぞれが感想を言っているが全員が普通ではない反応をしている現場に大門はたじろぐ。
「何なのよこの人達は....人が死にかけているのにあんなに楽しそうに話すだなんて」
「恐らくは日常的にそんな事ばかり考えている狂った奴等なのだろう。
あまり、真に受けるなここは地獄だと思え。」
そして、映像が終わると美頭が話し始める。
「どうやら、彼に出資する者は現れませんでした。
皆様に見初められないとはこの男もセンスがなかったと言うことでしょう。
では、余興は終えてメインイベントへ向かいましょう。」
「今回のイベントは"マーダーズパーティー"...殺人ゲームです。」
美頭の言葉に観客の盛り上がりは最高潮となる。
「殺人ゲームだと!?」
「ルールは簡単です。
今からこの会場にいるお客様の中から無作為で半分の人を選びます。
その人達は殺人者となり選ばれなかった人を殺してください。
選ばれなかった人は逃げ回り生き残る様、動いてください。
タイムリミットは夜明けまでです。
それまでに生き残った方には望むものを差し上げましょう。
そして、殺人者に選ばれた人はの中からより多くの人を殺した人にサラ様から特別なプレゼントがあります。
では....ゲーム開始前の選択を開始しましょう。」
そう言うと全員の付けているマスクから破裂する音が聞こえて中から青い塗料が現れるとマスクを付けていた人の身体に浴びせられた。
「そのマスクの塗料が付着した人が殺人者に狙われるターゲットです。
ではゲームスタート。」
美頭の声が聞こえること恐ろしい殺人ゲームが始まった。
照井は自分の体を見るが塗料が付着してはいなかった。
嫌な予感がした照井は大門に顔を向ける。
大門のドレスには青い塗料がびっしりと染み着いていた。
「あらら、可哀想ねぇ。」
「あの子がターゲットか?....綺麗な臓物をしていそうだ。」
「綺麗な女性が死ぬ姿は興奮するんだよなぁ...あぁ我慢できないなぁ!」
一人のマスクを付けた男が大門を襲いにかかる。
警察官である大門はその男を組伏せた。
「なっ!」
「あらっ?武術の心得があるのかしら....楽しめそうねぇ。」
そう言うと貴婦人はドレスの間からショットガンを取り出し大門へ向ける。
「マズイ!」
照井は近くのテーブルを倒すとそれを壁にして大門の元へと近寄る。
ショットガンから散弾が放たれテーブルに穴を空けるが大門が見えなくなったことにより彼女に弾が当たることはなかった。
「大門!銃を出せ!」
照井の言葉に従うようにドレスに入った切れ目を破くと太ももに付けたリボルバーを取り出す。
そして、照井が警察手帳を彼等に向ける。
「全員動くな...風都超常犯罪課の者だ。
貴様ら全員逮捕する。」
しかし、その言葉を聞いた参加者は笑い出す。
「あはは、何を言うかと思えば警察の人間か。
面白いなぁ普通の人間を殺すよりも楽しめそうだ。」
一人の男がそう言うと懐からガイアメモリを取り出す。
「
男は首にガイアメモリを挿し込みとナイトドーパントへと変貌する。
そして、照井に向かって容赦なく攻撃を加えた。
「何っ!」
「教えてやろうここにいる者達は貴様を恐れることはない。
ここは体裁で塗り固められた私達の欲望を叶える場所なのだ。
金と権力に飽きた人間が辿り着く究極のスリル、それを手に入れるためなら警察など関係ない。」
「何だと!」
「周りを見てみろ。」
照井はナイトドーパントに言われて周りを見るとそこには塗料が"付いた人間"と"付いてない人間"の醜い殺人が行われていた。
「さっさと死ねぇ!」
「うおっ!あぶねぇなぁ 笑」
「あはは、やっぱり銃で吹き飛ばすと血が綺麗に吹き出すなぁ!」
「グハッ!あはは痛い...私は生きていることを実感できる....もっと...もっと寄越せぇぇ!」
ある者はナイフでさっきまで談笑していた人間の胸を刺しある者は持参したライフルで狩りを行う様に人を撃ち殺していく。
そのライフルを持った人は後ろから現れたドレス姿のレディにより刺し殺される。
殺人の連鎖反応、しかもそれも皆が嬉々として行っているその光景に大門と照井は絶句する。
「分かっただろう?
ここでは殺人こそが全て、己の快楽のために他者の命を喰らうのだ....さぁ貴様も私の糧となれ仮面ライダー!」
ナイトドーパントは腕から細身の長剣を作り出すとそのまま照井を斬りつけた。
エンジンブレードの無い照井はそれを腕をクロスしてガードする。
しかし、強化された照井の腕の装甲を突破し照井の腕が斬られてしまう。
「うぐっ!」
「無駄だ!ナイトメモリの真価は作り出した武器の性能だ。
この剣には"あらゆる物質を断ち斬る"力がある。
そして、ナイトにはもう一つの能力がある....見せてやろう!」
そう言うとナイトドーパントの下半身が変化し足が四脚となりその姿はまるで物語に出てくる怪物であるケンタウロスの様にも見える。
「死ねぇぇぇ!仮面ライダーぁぁぁ!」
長剣を構えたナイトドーパントは四脚の力を使い突撃する。
(速度が速い。防御が間に合わん!)
照井は素早くドライバーを外してバイクへと変形するとナイトドーパントへ突進し足の隙間を通り抜けた。
突撃する敵を失ったナイトドーパントは周りで戦っている人間を巻き込み牽き殺していく。
「ほぅ、そんな事まで出来るのか。」
ナイトドーパントは加速した身体を止めるため近くで隠れていた人間の身体に長剣を突き刺し強制的に減速させた。
突き刺された人間は突き刺された身体を地面に擦り付けて削られていく。
ナイトドーパントが停止した頃には身体の半分が削り消えた死体が転がっていた。
その姿を見た照井は怒りの表情となる。
「貴様わざと刺したな?
お前の力なら何もなくても減速できただろう!」
「あぁ、だがお前の意見を聞く必要が何処にある?
それにお前が俺の攻撃を回避しなければ死ぬ事の無かった命だ。」
「この異常者が.....」
照井の言葉にナイトドーパントは笑う。
「あっはっは、何を今さら我々が庶民と同じな訳が無いだろう?
"異常"ではない"選民"なのだよ私達は....そして選民同士で殺し合いを行えるこの空間こそ最もセレブリティの高いパーティなのだ。」
話しにならない....と言うよりも全く噛み合わない。
周りを軽く見るだけでも死体が出ることなど全く気にしていない。
狂喜と血と臓物がこの空間を支配していた。
「何故だ.....何故こんな下らないことで命を賭けられるんだ?」
「下らない?命を賭けて戦うことこそ人類が持つ原始からの感情だろう?
生きるために食うために殺す....これも同じだ。
生きるために殺し生き残り栄誉を手に入れる。
それこそが最も重要なことなのだよ。」
照井の頭には殺された自分の家族の顔が浮かぶ。
「.....人の中には懸命に生きたかったのに手前勝手に命を奪われる者だっている....お前達の行為に栄誉なんか無い!.....お前らはここで潰す!」
照井はトライアルメモリを取り出すとドライバーにセットする。
「TRIAL」
アクセルトライアルへと変身が終わる。
「さぁ、振り切るぜ!」
照井はナイトドーパントへと向かっていくのだった。
照井がドーパントと交戦している頃、大門は数人の怪我人を連れて襲ってくる人間から逃れていた。
「早く!こっちです!」
大門の呼び掛けに怪我をした人達が寄ってくる。
「助けてくれぇ」「私、死にたくない!」「こんなパーティー何て聞いてない!」
どうやら、このパーティの内容を知らずに参加した人間もいるのだろう。
中には強制的に参加を促された人もいる....さっき話していたおじさんもそうだったが逃げている最中にライフルの弾が当たり死んでしまった。
(兎に角、この人達だけでも守らないと!)
大門は警察官としての使命感から彼等を守りながらこの船内を逃げ回っていた。
船の内部は恐ろしい程に広く複数の部屋や建物が建設されていた。
一体どれだけのお金をかけたらここまでの船が出来るのかは分からない程に広大だったのだ。
そのお陰もあり大門達は殺人者から逃げることが出来ているのだが.....
そんな事をしていると逃げている一人の男の前に斧が振り下ろされる。
「ひぃ!」
男は驚き尻餅をついてしまう。
横から血塗れの男が笑顔で現れる。
「みーつけたぁ!」
そう言うと血塗れの男は再度、斧を振り上げて尻餅を付いた男の顔面に振り下ろそうとするがそれをギリギリで大門が止める。
「止めなさい!」
「邪魔をするなぁ!女ぁ!」
そのまま大門の腹部を斧が掠める。
大門の着ていたドレスに斬られた傷が付く。
だが、大門もやられっぱなしではなく素早く拳銃は抜くと相手の両膝を撃ち抜いた。
「痛ぇええ!」
そして、倒れた男に大門は手を差しのべる。
「大丈夫?」
「あぁ、助かっ......!?」
そう言って立とうとすると男の頭がいきなり吹き飛んだ。
大量の血が大門へとかかる。
「あ.....え....?」
その光景を見て大門は一瞬パニックになった。
「あら?....貴女も狙ったのに外しちゃったわね。」
そう言いながらショットガンを構えた婦人が現れる。
「何で....こんなことを!」
大門の悲痛の言葉に婦人はケロっとした顔で答える。
「当たり前でしょう?これはゲーム、より多くのターゲットを殺人者が狩り殺す。
スリリングで興奮するゲームをしているだけよ?」
「こんなこと....絶対に間違っている!」
「アンタみたいな小娘の意見なんて聞いてないのよ。
大人しく死になさい。」
婦人がそう言うと大門に銃を向けると近くの壁が砕ける。
目を向けると複数のドーパントが船内で争っていた。
「暴れることしか脳の無いバカが!」
その光景を婦人は苛立ちげに見つめてそう言った。
すると、ショットガンを下ろしバッグからメモリを取り出す。
「本当ならメモリを使わずに狩りをしたかったけど....これ以上、アイツらを放置していたらこの船も無事じゃ済まなそうね。
少し間引いておこうかしら」
「
婦人はメモリを首に挿すと変異しバラの花と蔓が混ざり合った怪物へと変身する。
そして、未だに暴れているドーパント達を見つめる。
「見た目的に"アンモナイト" "エレファント" "マネー"かしらね?
まぁ良いわ全員"挽き肉"にすれば同じだもの.....」
ローズドーパントは両手をくっつけてから勢い良く離すとバラの蔓で出来た鞭を作り出す。
そして、その鞭がエレファントドーパントへ振り下ろされた。
こちらをみていないエレファントドーパントは防御や回避も出来ずに攻撃を受けてしまう。
そして攻撃を受けたエレファントドーパントの背中はその部分だけ肉ごと削ぎ落とされていた。
しかし、ローズドーパントは間髪入れず鞭の先端を振るって操作し先程、作った傷口へ捩じ込む。
「あがっ!」
「さぁ、これからが本番よ。」
ローズドーパントは持っている鞭を勢い良く回転させるとその回転に合わせてエレファントドーパントの肉と骨が削り取られていく。
エレファントドーパントもそれを止めようとするが大きく振るわれた鞭の起動に手を巻き込まれて肉を裂かれ動かなくなってしまう。
「あらあら、腕の腱が切れてしまったのかしら御愁傷様。
でも、安心して良いわよ....もうすぐそんな事も分からなくなるから」
ローズドーパントの言う通り抉りながら進んでいた鞭はエレファントドーパントの心臓へと進み到達する。
そして、一息の内にエレファントドーパントは絶命しメモリが排出され人の姿に戻った。
その姿を見ると心臓付近に大きな穴が空いていた。
「さぁ、次はどちらにしようかしら?」
状況の不利を悟った二人のドーパントは逃げようとするがその動きを何かに止められてしまう。
その方向に目を向けるとバラの蔦により作られた。
籠のようなトラップに足を絡め取られていた。
「あらら、逃げようとするなんて悪い子ね。
そんな子にはお仕置きよ。」
ローズドーパントが鞭を持った腕に力を込める。
その姿を見て嫌な予感がした大門は生きている人に声をかける。
「伏せてぇ!」
そして、ローズドーパントが横一線で鞭を振り抜く。
高速で振り抜かれた鞭は唸りをあげて二体のドーパントの首へと当たり首の骨と肉を一気に削り取った。
ドーパントの頭は残った皮膚で辛うじて繋がってはいるが絶命しておりメモリが排出されると惨たらしい死体となって地面へと崩れ落ちた。
大門の機転によりしゃがんだことで鞭の軌道を回避できたがその威力を見て全員が戦慄する。
(こんなの触れただけでアウトじゃない!)
大門は手に持っていた頼りない銃をローズドーパントへ向けながら打開策を練る。
狂人達の織り成す殺人ゲームに巻き込まれた二人。
ここは船内....逃れる術はない。
生き残る方法はただ一つ....戦うことだけだった。
Another side
殺戮に彩られた船内をデッキから伊豆屋と一人の男が眺めている。
その男は筆を持ちその光景をスケッチブックへと描いていく。
「絵の進みはどうですか?緑塚さん。」
伊豆屋から緑塚と呼ばれた男性は言う。
「素晴らしいです....人の持つ醜悪な感情をダイレクトに感じられる。
お陰で私の絵にも新たな伊吹が起こっています。」
緑塚がそう言いながら描いている絵を伊豆屋に見せる。
写実的に描かれた絵には苦痛に歪む人間や愉悦に舞う人間が殺し合っている。
「実にリアリティがある作品ですね。」
「えぇ、全ては
そんな緑塚に伊豆屋は尋ねる。
「そう言えばどうして貴方はサラ様を女神と呼ぶのですか?
彼女の部下の一人ならサラ様と呼んだ方が良いでしょう?」
「それは単純な理由だよ。
彼女が女神だからだ...だからこそ女神と呼び私は女神の尖兵として彼女のために働くんですよ。」
「....益々、分かりませんね。
彼女を女神と呼び始めた時は何時なのですか?」
「それは勿論、女神と始めて会った時だよ。」
彼の描く絵には皆、魅了され称賛の嵐を送った。
だが、当の本人は不満を抱えていた。
この世界には"醜い
美しい景色も人の勝手な理屈で壊してしまう。
人は簡単に嘘を吐き自分の利益になるためなら他者を平気で傷付ける。
何時しか緑塚はこの世界を美しいと思うことが出来なくなっていた。
芸術家にとって絵とは自分の感情や美しさを描くものだと思っている。
故にこの世界の全てを美しいと思えなくなった緑塚は絵を描くことが出来なくなっていた。
そんなある日、緑塚は運命的な出会いをする。
風都の裏路地で怪物達が戦っていたのだ。
そいつらがドーパントと呼ばれる存在だと言うことは知っていた。
あらゆる物を壊す醜さの象徴....そう考えていた。
だが、彼女は違った。
彼女の瞳に写る者は全てが石となり彼女の放つ攻撃により粉々に砕けていく。
私はそこに写る彼女に目を奪われた。
私の最も嫌う破壊の光景の筈なのに"美しい"と思ってしまったのだ。
(何故だ?....何故、美しいのだ彼女の破壊は?)
答えが分からずに私は彼女を見つめ続けていた。
後で聞いたのだが私の見た光景はミュージアムを裏切った者達の粛清だったらしい。
粛清を終えた彼女はドライバーからメモリを抜き人の姿へと戻った。
その光景を見て私は思わず息をすることを忘れてしまう。
破壊と殺戮にまみれた空間の中で悠然と立つ姿を見て私は心を奪われた。
(この光景を....絵にしたい!)
そう思った私は路地裏を飛び出し彼女を呼び止めた。
「まっ....待ってくれ!」
その声に彼女が反応する。
「あれ?....見た感じ組織の人間じゃなさそうだけど貴方は何者?」
「私は緑塚 未来....単なる絵描きだ。」
「絵描きねぇ....もしかして見てたの?」
その問いから彼女が私に殺意を向けてきているのがひしひしと伝わってくる。
「あぁ、気分を害したのなら謝罪する....すまない。」
「別に良いわよ。
ただ、貴方を生かしておくのが危険だと思っただけだから...」
そう言うとサラはメモリを起動しまた怪物へと戻る。
すると強靭な腕で緑塚の首を締め上げた。
「あ....か...」
「悪いけど私も死にたくないのよ。
この粛清を失敗出来ないから貴方を殺すわね。」
そう言って彼女は私の首を折ろうと力を込める。
(私が.....死ぬ?)
言われた言葉を反芻すると緑塚は怒りを覚える。
そして、捕まれた腕を両手で握り返す。
「あら?そんな力が残っているのね?
そんなに死にたくないのかしら?」
「死にたく....ないに....決まっ...てる..だろう。
私には....やるべき...事があるんだ!」
「女神を....描かなければいけない!」
「女神?」
「貴女....だ...貴女を....描く...まで...は」
彼女はそこで首を絞めている手を離した。
「ゲホッ、ゲホゲホ!」
「どういうことかしら?」
「私は貴女の戦いに美しさを....神を感じられたんだ。
醜い世界を石に変え破壊する姿に.....
私はその光景を描きたい...だからこそ死にたくない。」
「私の姿が美しいの?」
「えぇ、貴女の強さには重みを感じる。
きっと、長い苦難の道を歩んできたんでしょう。
だからこそ、貴女の美しさは磨かれている。
それは人間の姿でも変わらない。
貴女はそこら辺にいる存在とは違う唯一無二の存在なのです。」
私はそう言うと彼女にかしづく。
「女神よ....私に貴女を描かせてくれ。
それが叶うのならば私自信の全てを貴女に捧げよう。」
この美しさを描けるのならばどんな物を犠牲にしても構わない。
私のその態度を見て彼女は笑う。
「ふふ、あはははは!
こんな人始めてみたわ。
何だが殺す気が失せちゃった。」
そう言うと女神は私の元から去ろうとする。
「まっ待ってくれ!」
「私の名前はサラ。
私は自分の役に立つ者の意見しか聞く気はないの....
だから、今の貴方には何の魅力も感じない。」
「ならば、私が貴女の役に立てると証明できるのなら....」
「その時は貴方を私の部下にしてあげるわ。」
「....分かりました。
私が役に立つと証明して見せましょう。」
それから暫くして私は無名の作り出したアクセサリーシステムのテスターとして選ばれ正式に
「そんな事が....おや?この真ん中の空白は何なのです?」
伊豆屋が絵を指差して尋ねる。
「あぁ、そこには女神の絵を描こうと思っていてね。」
「サラ様がいないのにですか?」
「神とは信じる者の前に現れる。
そして、私の心に彼女は存在する...だから問題は..」
すると、何かが破裂する音と共にスケッチブックが吹き飛ばされる。
その方向を見るとゲームの参加者がドーパントとなり私達に攻撃をしてきていたのだ。
「私達に気付くとは...中々やりますね。」
「........」
「見たところメモリはマグマですね。
高威力なメモリですが如何せん船上で使うには危険過ぎますね。」
「.........」
伊豆屋は襲われているにも関わらず冷静に敵を分析している。
しかし、緑塚は沈黙し吹き飛ばされたスケッチブックを見ているだけだった。
スケッチブックはマグマから放たれた溶岩弾により燃えている。
「大丈夫ですか?緑塚さん。
面倒なら私が...」
「....さん」
「はい?」
「....."許さん "、我が女神が描かれる場所を汚すなど...万死に値する!」
緑塚はメモリを取り出し起動する。
「
こめかみにメモリを挿すと緑塚はクラブドーパントへと変化する。
そして、右手でギジメモリを起動すると左腕に付いたドライバーに装填する。
「
挿し終わると両手と肉体が大きく肥大化し螺旋状の模様が浮かぶ。
そして、マグマドーパントを睨み付けながら左腕を振るった。
その腕は螺旋状に伸びるとマグマドーパントの首を掴み上げた。
そして、頭部に付いていたハサミが螺旋状に伸びて右腕に装着される。
マグマドーパントもその腕を焼き消そうとするがダメージを受けると発生する泡の回復力には敵わずほぼノーダメージとなっていた。
「貴様の犯した罪は重い....が...私は無駄な殺しはしたくない。
女神からも勝手な殺しは諌められているのでな。」
緑塚はサラがWにやられたことを聞いて憤慨し任務を放り出してWを襲った過去がありその事からもサラから念を押されていた。
「だから、貴様を"作品"にして殺してやる。
安心しろ私は絵以外の作品も作っている。
きっと、素晴らしい物が出来上がるさ。」
そうして、笑う緑塚はマグマドーパントの心臓に向けて斬撃波を放ち一瞬で絶命させると作品を作り始めた。
完成した作品は折れたマストを口から刺され固定され遺体はまるで目の前の相手に懺悔する形をしていた。
両手には燃えて灰になったスケッチブックが握られ目からは血の涙を流している。
その作品を船上デッキに作ると二人は姿を消すのだった。
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第百六十話 虚ろなA/奇跡の確率
アクセルとナイトドーパント、そして大門とローズドーパントの戦いは両者とも苦戦を強いられていた。
アクセルはトライアルの速度を生かしナイトドーパントの攻撃を回避していくがリーチの差からこちらも攻撃を当てることが出来ないでいた。
接近すると四足の足のどちらかで牽制されその後、長剣が襲ってくる。
それを回避すると突撃が行われこれもまた回避するを繰り返していた。
大門は拳銃をローズドーパントへ撃ちつつ一人逃げ回っていた。
鞭の射程距離に入れば死ぬしかないので距離を保つため逃げながら対応していく。
しかし、大門は普通の人間だドーパントではない為、体力も人並みであり重いドレスの姿のまま逃げ続けたことで肩で息をする程、疲弊していた。
「はぁはぁはぁ...」
「あら?もう鬼ごっこはおしまい?
これじゃあ、つまらないわ。
ほら、もっと逃げなさい。」
まるで羊を追い立てる狩人の様にローズドーパントは言う。
(完全に遊ばれている...でも本気で来られたら今の私じゃあ持たない。
どうすれば良いの?)
助けを求めてきた参加者は部屋の一室にバリケードを作りそこに隠れて貰っているので暫くは大丈夫だろう。
故に大門がしなければならないのはこの状況を打開することだった。
(....仕方ないわね。
貰った"アレ"を使ってみようかな?)
話しは大門が風都に来る前にまで遡る.....
本庁に勤務していた時、大門は科警研にお邪魔する機会があった。
その時である大門の耳に息が吹き掛けられる。
「ひゃあ!」
「へぇ、新入りと聞いて来てみれば可愛い子じゃないか」
そう言って咥えタバコをした女性が大門に話し掛けてくる。
「えっ...と貴女は?」
「あん?私は
榎田ひかり、名前だけなら大門も聞いたことがあった。
今から十年以上も前に現れた"未確認"と呼ばれる怪人を相手にする装備を作っていた人だ。
「それで?アンタは?」
榎田の問いに大門は背筋を正して答える。
「け...警視庁一課に配属された大門凛子です!
これからお世話になるのでご挨拶に伺いました。」
「へぇ...一課ってことはエリート様じゃないか。
良いねぇ、もしかしてその手に持ってるのは手土産?」
「はっ...はい!"シャルモン"のスイーツセットです。」
「シャルモンって言えばフランスでも超有名なお店じゃない?
良く手に入ったはね。」
「えっと...偶然、日本でプレオープンがあって買えたんです。」
「運も良いわけね....良いじゃない貴女、気に入ったよ。」
そして、榎田に気に入られた大門は事あるごとに彼女と交流を行った。
そして風都に赴任した時も榎田と話したのだ。
「ドーパント?」
「はい、風都で流通しているガイアメモリを使って人間が変異する事で生まれる怪物です。」
「へぇ、まさかそんなのがいるなんて....時代は進んだんだねぇ。」
「えぇ、もう普通の人間じゃ勝ち目なんて無い程、強力で仮面ライダーの力を借りて何とか逮捕できてる状況です。」
「そんなヤバイやつならアタシの作った"スーツ"を使わせてやりたいけど生憎、アレは上層部に奪われてるんだよねぇ...危険だとか何とかいってバカじゃない?
科学なんてその危険を行い続けた結果、得られた産物でしょうに....」
そうしていると榎田は閃いた様に言った。
「あっ、でも奪われたのはスーツだけだから他のは使えるかもね。
ちょうど暇してたし、凛子ちゃんの為に人肌脱いで上げるわ。」
「えっ!でも悪いですよ。」
「遠慮しないで良いから...それとも本当に脱いだ姿がお望み?」
「いっ、いえ!装備の方をお願いします!」
「あはは!相変わらず初な反応で可愛いわね凛子ちゃんは」
そうして月日が経ち、潜入調査をする前日に榎田から贈り物が届いたのだ。
アタッシュケースには彼女の赤い口紅で付けられたキスマークが付いている。
大門が中を開けるとそこにはリボルバーで使われる銃弾が6発納められたいた。
そして、中にはその弾について説明する資料も入っている。
そこには"神経断裂弾"の使用法について書かれていた。
大門はローズドーパントの攻撃を回避しながら船内のカジノフロアに隠れた。
ここなら色んな障害物があり隠れるのに打ってつけだった。
ローズドーパントの視界を切って上手く隠れられた大門はリボルバーを開けて中の弾を取り出す。
そして、榎田がくれた弾を込めていく。
「隠れたって無駄よ....何処かしらねぇ?」
そう言いながらローズドーパントは辺りの物を破壊していく。
その音に大門は恐怖を覚えるが深呼吸して心を落ち着ける。
(大丈夫、私なら出来る!)
覚悟を決めて飛び出した大門はローズドーパントに向けて発砲する。
しかし、あまりの反動の強さに腕が跳ね上がってしまった。
弾頭はローズドーパントの左肩へと向かった。
神経断裂弾は仮面ライダークウガの世界で
2種類の爆発を0.28秒の間に起こすこの弾の威力は高くこれにより初めて警察のみでグロンギを討伐することが出来たのだ。
そして、その弾が今度はドーパントへ当たると肩の肉が弾けとんだ。
「いぎやぁぁぁ!」
余りの痛みからローズドーパントは地面に倒れこむ。
そして、同じタイミングで大門も反動により倒れこんだ。
発砲した反動により腕が痺れている。
(なんて反動なの。
こんなの狙いを付けて当てるなんて無理よ。)
そんな事を考えているとローズドーパントが立ち上がった。
「やってくれたわね小娘が!
もう、遊びは止めよ死になさい!」
本気のローズドーパントが振るった鞭はカジノフロアにあった机や機材を巻き込みながら大門の元へ向かう。
それをギリギリで回避するがその質量により壁に穴が空いてしまった。
「まだよ!」
そう言ってローズドーパントは鞭を引き寄せると鞭に貫かれた機材も戻り始める。
その機材に大門は激突すると開けられた穴へ落下した。
建物で言うと五階の高さから落下した大門は地面を見る。
厚く切り出された大理石だ激突すれば命はないだろう。
(私、死ぬの?)
大門はそう思い目を瞑ると声が聞こえた。
「大門!」
目を開けるとアクセルが大門の元に飛び出していた。
トライアルの速度により彼女が地面にぶつかる前にキャッチすることが出来た。
しかしその直後、アクセルの声が苦痛に歪んだ。
「ぐあっ!」
「真剣勝負の最中に余所見とは....余程死にたいと見える。」
それはナイトドーパントが飛び上がるアクセルに向けて槍を投擲しそれが背中を貫通した痛みだった。
何とか大門を落とすこと無く地面へと着地したアクセルだが背中に槍が痛々しそうに刺さっていた。
「照井課長!」
「騒ぐな....こんなの掠り傷だ。」
そして、その場にナイトドーパントが降りてくる。
「漸く決着だな仮面ライダー...」
そう言って長剣を生成し振りかぶるとその攻撃をローズドーパントが阻止する。
「何のつもりだ?」
「この女は私が殺すのよ?
勝手に殺そうとしないでくれるかしら?」
「知ったことではないな....邪魔をするなら君から殺そうかミセス?」
「ミスよ....それと殺せるかしらね?」
そう言うとナイトドーパントとローズドーパントは二人の間で戦い始める。
その隙を付いてアクセルは大門を連れて一度退却した。
何とか二人から離れることに成功したアクセルは大門を下ろすと膝を付く。
「ぐっ!....うっ」
そして、背中に刺さった槍を無理やり引き抜いた。
「ぐあっ!...くっ!....はぁはぁ」
声を出せば敵に気付かれると思い気合いで耐える。
「照井課長....背中が...」
「問題ない...はぁはぁ...それよりも...敵の事を知りたい。」
一息付いた二人はお互いに情報交換をした。
「俺の予想を超える程の地獄とは....ミュージアムを少し舐めていたな。」
「でもこの現状をどうします?
このまま戦っても勝ち目なんて....」
「刑事がそう簡単に諦めるな...と言いたいが確かに手がないのは事実だ....そう言えば大門が戦っていたドーパントは怪我をしていたみたいだがあれはどうしたんだ?」
「えっと....これです。」
そう言って大門はリボルバーの弾を抜いて見せる。
「これは...一般支給されている弾ではないな。」
「はい、神経断裂弾って言うらしいです。」
「神経断裂弾だと!何故そんなものを持っているんだ!」
怪我をしながらも照井は大門に詰め寄る。
「えぇ!....やっぱり相当危険な物何ですか?」
「当然だ!警官の一般使用はおろか本庁からの持ち出しすら禁止されているものだぞ!」
神経断裂弾の存在は照井も知っていた。
過去に現れた怪人を殺すために使われた装備の一つだ。
その非人道的な威力から危険視され今は全ての装備が本庁によって厳重に保管されているらしい。
勿論、警察としてルーキーである大門が普通に手に入れることは不可能な物だ。
「えっと、科警研の榎田さんって人に貰ったんです。
ドーパントとの戦いで使えるかもと言われて....」
「榎田....科警研所長の榎田ひかりか!
成る程、産みの親なら持ってこなくても作れると言うわけか。」
「え?榎田さんってそんなに凄い人なんですか?」
「あくまで上層部の噂だが十年以上前に出現した未確認生命体に対抗する装備の開発を行い。
その時に現れた謎の仮面ライダーと同性能のスーツを開発したと聞いたことある。」
「仮面ライダーと同性能ですか...」
「まぁ、今は良い...それで神経断裂弾はドーパントに効果があったのか?」
「はい、ただ凄い反動で狙いが定まらなくて肩に当たっちゃいましたけど威力は凄かったです。」
照井は今ある手札を頭の中で上げていく。
(ドライバーにアクセルメモリとトライアルメモリ....それとビートルフォンにイールチャンネル。
そして神経断裂弾が5発....これであの二体のドーパントを倒す。)
そうして照井の頭に一つの策が浮かんだ。
策と言うには無謀で奇跡を必要とする物だが....
だが、これを実行するには大門の強力が不可欠だった。
「大門....奴らを倒して生き残る策がある。
だが、これにはお前の協力がいる。
そして失敗すれば死ぬ...そんな策だ。
それでも...」
「やります...やらせてください。」
大門は間髪入れず答えた。
「良いのか?本当に死ぬかもしれないんだぞ?」
「私...正義さんの事件の時、何の役にも立てませんでした。
もう、何もしないなんて嫌なんです!」
「....分かった。
俺の作戦はこうだ...そしてチャンスは一回。」
「覚悟の上です。
行きましょう照井課長。」
そうして照井から作戦を聞くとそれを実行するために動くのであった。
獲物を横取りされそうになり憤慨して争う二人のドーパントの前にアクセルトライアルが現れる。
「貴様っ漸く顔を見せたか!」
そして遠くの部屋から銃弾が放たれて今度かローズドーパントの頬を掠める。
見るとそこにはドレスのスカートを破り動きやすくした大門が銃を向けていた。
「見つけたわよぉ!小娘がぁ!」
お互いの獲物を見つけた二人はバラバラに対峙する。
アクセルはそのまま高速移動しナイトドーパントを移動させる。
大門は思いっきり走りながら部屋を後にする。
それを追うようにローズドーパントも向かった。
二人の追いかけっこは簡単に決着した何故ならばお互いに壁を背にした行き止まりに当たってしまったからだ。
「「もう逃げられないぞ」」
二人のドーパントは同じ台詞を言う。
それに対してアクセルは「そう思うならかかってこい!」と挑発し大門は「もう逃げないわ!貴女と戦う!」と返す。
そして、ナイトドーパントは長剣をアクセルの心臓に向けて構えて全速力で突っ込んでくる。
それに対してアクセルはトライアルメモリを抜く。
マキシマムを発動しその瞬間を待った。
大門は銃を構えたままローズドーパントが近付いてくるのを待つ。
そして鞭の射程に入った瞬間、ローズドーパントが鞭を振るってきた。
しかし、その鞭が彼女に当たることはなかった。
何故ならローズドーパントの背中に痛みが走り壁の方へ吹き飛ばされたからだ。
「ACCEL MAXIMUMDRIVE」
その正体は赤いエネルギーを纏ったビートルフォンだった。
そして、ローズドーパントの近付く壁にも変化があった。
ヒビが入り爆発するように穴が空くとそこからナイトドーパントが飛び出してきた。
「「何っ!」」
そしてナイトドーパントの長剣がローズドーパントに突き刺さり彼女の鞭がナイトドーパントの四足の足に絡まってしまう。
そして、大門はアクセルが救出すると何とそのまま通路から投げ出したのである下は前と同じように五階分の高さがありこのまま落ちたら死んでしまうが大門は背中から天井に吊るされている照明に固定され落下を防いでいた。
背中を見るとそこにはイールチャンネルが磁力を使い大門を支えていた。
そして、支えられている大門に照井は叫ぶ。
「撃てぇ!大門!」
その声に従い大門は残った四発の弾を一斉に放った。
照準などしていないデタラメな弾道で放たれる。
だが、これで良い。
弾を撃つのが
弾が放たれるとアクセルはタイミング良くトライアルメモリのスイッチを三回押した。
すると、トライアルメモリの力が劇的に強化されあらゆる速度を振り切る。
身体が軋む痛みに耐えながら手に入れた速度は弾丸の速さを超えた。
そして、その速度を生かし放たれた弾丸へ向かうと敵に向けて照準を合わせて弾を殴り付ける。
それにより変化した軌道は四発ともドーパントの方へ向かった。
トライアルのエネルギーを蓄積した神経断裂弾がドーパントに直撃すると同時にトライアルのマキシマムを発動する。
「TRIAL MAXIMUMDRIVE」
ドーパントの身体に四つのTの文字が浮かびメモリが限界を迎え爆発すると二人は元の姿に戻った。
その姿を見てアクセルは変身解除すると気を失い倒れてしまった。
「てっ照井課長!」
大門が助けようとするが今の大門は天井に吊るされた状態で何も出来なかった。
大門はイールチャンネルが慎重に地面まで下ろすと照井の元に駆け寄る。
「照井課長!照井課長!」
名前を呼びながら照井の脈を確かめる。
「脈は...安定してる良かったぁ...」
そう言って大門は地面にへたり込む。
そして大門が風都署へ連絡することで船は警察の手に落ちるのだった。
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第???話 悪魔からのクリスマスプレゼント
「やぁ、この物語を読んでくれている読者の諸君。
こうやって話すのは始めてかな?
それとも"京水の解説編"を見てくれているのなら...覚えがあるだろう。」
「私の名はゴエティア、この地球と言う箱庭に現れた悪魔....とでも言っておこうか。
君達も不思議に思っているだろう...どうして本編が来なかったのだろうとね....答えは単純だ。
そろそろクリスマスが近くなってきた。
ある者は家族と又は恋人とすごす聖なる夜....
おっと、話が反れてしまったな。
今回君達に話を持ってきた理由は、
私、ゴエティアから日頃読んでくれる読者へのクリスマスプレゼントを行おうと思ってね。」
「....あぁ、安心したまえ。
別に"第三の壁"を超えて恐怖を届けに行くことなどしないよ。
私からのプレゼントは物語....正確にはこの本編の間にあった小さなストーリーだ。
主人公は誰になるのか...どんな物語なのかは君達次第だがね。」
「ふむ、随分と話し込んでしまったな。
それではルールを説明しよう....まさか全部のストーリーを見れると思ったのか?
あっはっは、残念だがそんな事をしたら筆者が死ぬ....色んな意味でね。
今回用意したプロローグは3つ。
何時ものようにアンケートを取るからそこから見たい物を投票してくれたまえ。
多かったストーリーをクリスマスにプレゼントしよう。
では、始めよう。」
 ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄
私の名前は大門凛子....警察庁に勤める刑事だ。
これは私の身に起きたクリスマスの悲劇....
「凛子ちゃん合コンに行かない?」
「警察関係者を集めたクリスマス合コン?」
「今回は中々粒の揃った男が集まってるじゃない?
でかしたわよ"りんな"。」
「おっ、落ち着いてください。"氷川"警視...」
「あれれぇ乗せられちゃった?」
私、大門凛子は無事にこのパーティーを逃れられるのか?
て言うか何で私がこんな目にぃぃぃ!
 ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄
「アンク!凄いよこの風麺って!デッかいナルトが入ってくる!」
「大声を出すなみっともねぇ!....ったく何でこんなことになってんだよ。」
あれは俺らが鴻上に呼び出された事から始まった。
「そろそろクリスマスが近い君達に私からのサプライズプレゼントを用意した....ハッピーバースデイ!」
「えっ?ひなちゃんも来るの?」
「久々の旅行だから楽しまなくっちゃ!』
「不味いぞ映司!....メダルがねぇ。」
「はぁ?どうするんだよアンク!」
「そう言えばここには有名な探偵事務所があるって昔教わったわね。
確か名前は.....」
「鳴海探偵事務所。」
 ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄
ここは園咲が預かる別荘の一つ....そこに無名、獅子神、サラが集められた。
「おい、一体何をするんだ?」
「どうやら、それが琉兵衛様のご命令のようです。」
「面白そうじゃない...こう言うのは嫌いじゃないわよ。」
琉兵衛の命令により集められた幹部は指示に従い行動を起こしていくが.....
「テメェふざけんなよ!ケーキと言ったらショートケーキだろうが!」
「貴方みたいな脳筋にこの仕事が出来るんですか獅子神?」
「ねぇねぇ、綺麗にデコレーション出来たの見て見て!」
これはクリスマス前日に起こった幹部の出来事....
 ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄
「見てくれたかな?
この3つの何れかのストーリーをクリスマスに投稿する。
見たい作品があれば投票してくれると有難い。
因みに上から"凛子のストーリー"、"オーズのストーリー"、"ミュージアムのストーリー"とアンケートには記載されるので間違わないように投票してくれ。
では、クリスマスの日にまた会おう。」
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第百六十一話 Sの反乱/変わる相棒
フィリップと亜樹子は最近の翔太郎の変化に戸惑いを隠せないでいた。
「本当にあれって翔太郎君なの?」
亜樹子の問いにフィリップは悩む。
ジュエルドーパントの一件以降、翔太郎の態度が変わっていった。
優しくハーフボイルドで甘い男から冷たくハードボイルドと呼べる....鳴海荘吉の様な面影が出てきていたのだ。
フィリップは恐る恐る翔太郎に尋ねる。
「翔太郎....本当に身体に問題はないのかい?」
「フィリップ、何度もしつこいぞ。
何ともないと言ってるじゃないか...それにお前も俺の身体を調べて問題ないって分かったじゃないか。」
「それは....そうだが...」
そうやってどもるフィリップを見かねて亜樹子はスリッパで翔太郎の頭を叩こうとするが翔太郎に止められてしまう。
「"亜樹子所長".....そう言うおふざけを仕事場でやるのは感心しないな。」
「うっ!....すいません。」
何時もの翔太郎なら「生意気!」と言って叩ける筈なのに普通に亜樹子は恐縮してしまう。
気まずい空気が流れていると照井が事務所へ入ってくる。
「あっ、竜君!もう身体は平気なの?」
「問題ない所長、俺は不死身だ。」
照井と大門、そして泊と泪は怪我の治療のため病院に搬送された。
大門と泊、泪の怪我は思ったよりも軽く数日の入院を経て退院することが出来た。
フィリップ曰く「翔太郎が更にメモリとの適合率が上がった結果、ルナシャインキューブの力も増えたのだろう。」とのことだった。
因みに照井は数ヵ月は絶対安静と言われる怪我を負ったがその翌日には起きて仕事の後処理を行っていた。
そして、数日経つと泊と大門は風都を去りそれぞれ別の警察署へ配属されることとなった。
閑話休題
照井を見た翔太郎が尋ねる。
「ところでここに何の用だ照井?」
「...あぁ、"05"の事は覚えているな?」
「ミュージアムの幹部が経営している裏ファイトクラブだろ?
それがどうした?」
「実は最近、動きが活発になってきているんだ。
至るところで違法や試合を行っている報告を聞いている。」
「それは妙だね....ミュージアムは基本的に表立って活動することを控えてきた。
僕達がドラゴンドーパントと戦って暫くはそんな噂なんてまるで流れてこなかったのに....」
「あぁ、明らかに組織内で何かがあったんだ。
そしてそれだけ動き回れば他のホコリも出てくる。」
そう言うと照井は資料を三人に見せた。
「ここ最近、05と交流があった可能性のある人物や団体だ。」
「ホステスに教師...これは武術家に政治家か....随分とバリエーション豊かだな。」
「あぁ、こちらでも捜査しているがまだ確信を持てる程の証拠もない。
だから左達にも協力を頼みたいんだ。」
照井の言葉に翔太郎が快諾する。
「分かった...こっちでも色々当たってみよう。
何か分かったら知らせる。」
「あぁ、頼む。」
照井はそう言うと事務所を離れる。
そして、翔太郎は帽子を被ると立ち上がる。
「フィリップ...俺は街の人に聞き込みをする。
お前は地球の本棚で05について調べてみてくれ。」
「分かった....だけど」
「....何だ?」
翔太郎の威圧感がある声にフィリップは口を紡ぐ。
「....何でもない気を付けて行ってきてくれ。」
「分かった。」
そう言うと翔太郎は部屋を出ていった。
その姿を見た亜樹子の不安が募る。
(何だろう....まるで"翔太郎君がいなくなる"みたいな感じがする。)
このままではいけないと思った亜樹子は翔太郎の後を追うのだった。
一方、園咲邸では加頭が琉兵衛の元を訪ねていた。
「久し振りだね加頭君、元気にしていたかね?」
「えぇ、お陰様で....今回は琉兵衛様にお話があってきたのです。」
「何かね?」
加頭はノートパソコンを開くととあるファイルを表示させて琉兵衛に見せる。
「最近、ミュージアムの収益率が40%も下がっています。
この理由についてお聞きしたく....」
「君も知っているだろう?
仮面ライダーの仕業だよ...彼等に幹部が手痛いダメージを受けてしまってね。
組織運営が上手く進まなくなってしまってね。」
「えぇ、それは知っています。
獅子神さんのところで20%、サラさんの所で10%の損益を出していますから....」
ミュージアムの幹部である獅子神とサラ、そして園咲冴子の行うガイアメモリ販売の収益がミュージアムの資金源の大元を占めている。
だからこそ、幹部の失策は直接的な損益となってしまうのだ。
「獅子神さんは抱えている部下の組織のダメージにより収益が落ちサラさんは取引に使っていた船が警察に奪われた結果の損益だと言うことは理解しています。」
「だが、財団への損はない筈だ。
この事で財団側から何か言うことでもあるのかね?」
「いえ....我々は利益追従主義ですので自分達に損がなければ基本はノータッチです。」
「では何故そんな事を聞いてくるのかね加頭君。」
「私の疑問は残った10%の損益についてです。
ミュージアムの組織は巨大です。
その組織が出す10%の損益は凄まじい。
一体何に使ったのか疑問に思いまして...」
「それを話さねばならない理由はあるかね?」
「ありませんが....今後とも良いパートナーとしているためには聞いておきたいと思っただけです。」
「我々に隠れてT2メモリを開発した財団Xが言う言葉としては少し傲慢だと思うが?」
「それに関しては否定しません。
しかし、だからこそ今後は更に密接な関係を気付いていきたいのです。
財団がスポンサーをしている組織の中でもミュージアムは大口の御客様です。」
「そう言うのなら....何かしらの誠意を見せて貰えないかね?」
「クリスタルサーバーでしたらもう財団にはありませんよ。」
「それはもう必要ない巫女を産み出す儀式はもう始まった。
今欲している物は全く別の物だ。」
「それは一体?」
「その前に確認させてくれ....財団Xはこの"世界"についてどこまで知っている?」
「世界...ですか?」
「この世界は如何にして産まれたのかだよ。」
「それは"多元宇宙に関わる地球"も含まれるのですか?」
「その言葉が出たと言うことは知っているのだね?」
「ある程度は....ですが...」
「それだけ聞ければ十分だ。
私が欲しいのはとある"イコン画"だ。」
「....あの絵の事ですね?
しかし、それは難しいと思います。
あれはこの世界の成り立ちに直接関わる物です。
だからこそ、財団は厳重に保管しています。
その場所は私も分かりません。
知っているのは財団の運営関わる上層部の人間だけです。」
「では、その上層部の人間と話をつけることは出来ないかね?」
「.....私の知っているのは一人だけです。
もし、その方と連絡をつけられるのなら理由を教えていただけますか?」
「良いだろう。
それだけの事をしてくれるのなら理由を話そう。」
「10%の利益は"風都第二タワー"に必要な物を手に入れる為に使ったんだよ。」
「風都第二タワーですか....確か今丁度建設が続いている建物ですよね?」
「あぁ、そのタワーに使う為だよ。
納得したかね?」
「いえ、寧ろ余計疑問が湧きました。
ミュージアムの10%の利益を使えば風都タワー程度の建物なら複数建設できます。
しかし、その金額を一つのタワーに使われる何かに使用した。
一体そのタワーは何なのですか?」
「それについては私が説明しますよ。」
そう言うと部屋に無名が入ってきた。
「タワーに必要な物は...."装置"です。
分かりやすく言えば掘削機の様な物ですね。」
「地面に大穴でも空けるつもりなのですか?」
「いえ、開けるのは地面ではなく.....」
「"地球の記憶"です。」
翔太郎は情報屋のウォッチャマンから話を聞いていた。
「裏ファイトクラブ?」
「そうだ。
この風都で違法な賭け試合が行われているらしくてな何か知らないか?」
「それならぁ、気になる噂があるよぉ。
雀写真館の噂について翔ちゃんは知ってる?」
「確か....金と写真を持っていけば殺しの依頼を受けてくれるとかか?」
「そうそう、でも最近では別の噂が立っていてね。
雀写真館には夜な夜な幽霊が現れてるんだってぇ!」
そう言ってウォッチャマンは翔太郎を脅かすように動くが本人は冷静に対応した。
「そうか...ありがとう。
これは報酬だ。」
「あっ...ども...翔ちゃん何か変わった?」
「さぁな....だが人間なんだから何かしらは変わるだろう?」
「そう言うのじゃなくてもっと根本的な....」
ウォッチャマンの言葉を無視し翔太郎はその場を後にするのだった。
その光景を人混みに隠れながら無名が見つめていた。
「順調にメモリと適合しているみたいですねぇ.....
完全に変わりきるのは時間の問題だな。」
【変わる?....それはどういうことだ?】
鏡に写る無名が自分自身に尋ねる。
その光景を見て
「ほう....もうそこまで出来るようになりましたか。
地球の本棚の力に適合できるとは流石です。」
【答えろゴエティア....僕の身体を使って一体何をするつもりなんだ?】
「さぁね....それを教える義理はない。
ですがそれじゃあ面白くありませんからヒントを上げますよ。」
【ヒント?】
「"ジェイルメモリ"....それについて調べてみると良い。
能力を見れば聡い貴方ならば私の思惑に気付けるだろう。」
【.....お前は一体何なんだ?
地球の本棚でお前の記憶の一部を見た.....見れば見る程分からなくなった。
ゴエティア、貴方は一体どんな"存在"だったんですか?】
「......我々の存在を定義する言葉は無いな。
何故ならそんな事をする意味がなかったからだ。」
【意味?】
「例えばこの世界に犬しか存在しなかったら犬は自分の事を犬と言う種族名で呼称するだろうか?
名を気にするのは個として確立されていたからだ。」
【名で言うなら貴方にはゴエティアと言う名があるでしょう?】
「そうだな....そんな名を持とうとしなければ...我々はまだ存在していられたのかもしれないな。」
ゴエティアは一瞬寂しい表情を浮かべると元の顔へと戻った。
「さぁ、つまらない話はこれで終わりだ。
もう次のゲームは始まっている....参加したいのなら早く検索を始めた方が良い。
では....またいずれ...」
【待て!ゴエティア!....】
そう言うと鏡に写った無名は元の姿へと戻る。
「さぁ、先ずはシュラウドに会いに行きましょうか。」
そう言って無名はその場を後にするのだった。
レオグループの構える支社にいる灯夜は玉城を呼び出していた。
「何か用か?灯夜さん。
今、次の試合を組むので忙しいんだが....」
「貴様ふざけているのか?
何故、獅子神に黙って試合を再開させたんだ?
今は警察にセブンスの存在を理解させるような行動は控えろと言われていたじゃないか!」
怒る灯夜に玉城は溜め息をつきながら言う。
「なぁ、灯夜さん...一体何時まであの男に付き従うつもりなんだ?
幹部の無名とやりあってからあの男は変わった。
常に焦り余裕のない表情....あんな奴についていって俺達に未来はあるのか?」
「獅子神は今、勢力を拡大させようと動いている。
そのせいで余裕がないだけだ....」
「そんな嘘を信じてる訳じゃないだろ?
噂じゃ最近は外にも出れなくなっていると聞くぞ?」
獅子神が外に出れていないのは事実だった。
ジェイルメモリの紛失が彼の不安感を増大させ代わりのメモリを見つけるまで動けないでいたのだ。
その理由を灯夜は良く知っていた。
(レオメモリは獅子神のプライドと自信を力に変える....故に敗北を重ねるとメモリの力が弱くなっていく。
それを解決するためにジェイルメモリを使っていたがそれが無くなってしまった。
しかし、一度使ったお陰で次の変身時には能力の減衰は無いだろうが...これから一度でも負けたらレオメモリの力は"一般のプロダクトメモリクラス"まで下がるだろう....だからこそ水島や他の幹部は代わりのメモリを探すことに搬送しているんだ。
今、獅子神の組織を運営しているのは僕だ....だからこそここで反乱の意思を挫いて置かなければ...)
「玉城、仮にミュージアムを裏切ってその先に何がある?
彼処には裏切り者を粛清する処刑人もいると聞いている。
いくら組織がデカくなっても崩壊するのは時間の問題だぞ。」
「....はぁ、灯夜さんいや灯夜、お前は変わったな。
獅子神と出会って付き従うことに慣れすぎちまったみたいだ。
悪いが俺はそんな奴に従うつもりはない。
この組織は力が全てだ....力を示せないのなら05はセブンスを抜ける。」
「そんな勝手を許すと思っているのか?」
「なら、止めてみろよ。
最もメモリすら持ってないお前じゃ無理だろうがな。
まぁ、仮にメモリを手に入れても"父親にコンプレックス"を持つお前じゃ俺には勝てないだろうがな。」
的確についた玉城の言葉に灯夜は怒りの表情をする。
「もういい....そこまで言うのなら好きにしろ。
だが、もうセブンスには頼れないぞ?勿論ミュージアムにもな。」
「ふん!
仮面ライダーが来ようが問題ない。
じゃあな灯夜、精々沈んでいく船を支えてやることだ。」
玉城がそう言って部屋を出ていくと灯夜はとある人物に連絡を取った。
ワンコールでその人物は電話に出る。
「ん?灯夜どうした?何かあったか?」
「
「マジかよwwwアイツそんな事したのか。
おい剛!玉城が裏切ったってよ!」
兄の話を聞いていた剛も話に加わる。
「へぇ、最近は裏切者の粛清なんて仕事来なかったけど遂に来ちゃったかぁ....楽しみだなぁ兄貴!アイツのメモリって確かアリゲーターだよな?
なら、楽しい殺し合いが出来そうだなwww」
セブンスの幹部である。
彼等の仕事は敵対する組織や裏切者の粛清でありそれ故にセブンスのメンバーからも恐れられていた。
灯夜が彼等を動かすと言うことは玉城を裏切者として扱うことを決めたことでもある。
「分かったぜ灯夜、玉城はキッチリ消してやるよ。
奴の居場所については俺らが調べた方が良いのか?」
「いいや、玉城は今日、05の試合をやる。
会場の位置も分かっているからそこを強襲すれば良い。」
「そっか....んで場所は?」
「風都の雀写真館の地下だ。
必要なら周りにいる奴等も殺して構わない。
確実に玉城を殺せ。」
「あぁ、そこに関しては心配すんな。
終わったら連絡する。」
そう言い終わると灯夜は電話を切り机に置かれていたケースに目を向ける。
これは無名が持ってきた自分専用のメモリであった。
(これを使えれば....)
そう言ってケースを開けると中から金色のメモリは一本姿を現す。
"C"のイニシャルが書かれたメモリに灯夜はそっと触れるのだった。
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クリスマス特別編
クリスマス特別編 風都と休暇と移動
ここで一番高く聳え立っているビルに青年が二人呼び出された。
呼び出したのはこのビルのオーナーであり鴻上ファウンデーションの会長である
「良く来てくれたね。
火野くんに...アンクくん。」
「まぁ、鴻上さんの呼び出しですから来ますよ。」
「.....フン、さっさと用件を言え。」
火野と呼ばれた青年は丁寧に返答したのに対してアンクと呼ばれた金髪の青年は苛立たしげに言った。
「ふふっ、まぁ、そんなに焦らないでくれ。
今日は君達に渡したい物があって呼んだんだ。
そろそろクリスマスが近い君達へのプレゼントだ...HAPPY BIRTHDAY!!」
部屋に響く大きな声と共に渡されたのは一つの白い封筒だった。
それを火野が受けとると中身を空ける。
「"風都グランドホテルスイートの招待状"...ですか?」
「その通り!前に君達に行って貰った風都と言う町は覚えているかね?
そこにあるホテルの招待券だよ。
一泊二日のチケットだこれを使ってゆっくり休んでいきたまえ。」
鴻上の提案にアンクが吠える。
「ふざけんな!グリードはこの町にいるんだぞ?
何で態々、メダルを回収できない所に行かなきゃならねぇ!」
「コラ、アンク!落ち着いて....鴻上さん。
僕も今、この町を出るのは反対です。
前の時はグリードもそんなに活動してなかったけれど今は違います。
もし、俺達がいない間に"ヤミーやグリード"が出たら....」
「その点に関しては問題ない。
既に策はうってある。
それにそんな事態になったらいち早く君達を呼び戻すさ。」
「話にならねぇな....おい映司帰るぞ。」
そう言って帰ろうとするアンクを鴻上が呼び止める。
「君にもプレゼントはあるぞアンク君。
この招待に応じてくれるのなら君にセルメダルを"300枚"プレゼントしよう...どうかね?」
「!?」
セルメダルはグリードの肉体と力を形成する上で重要な物でありその量によって強さが変わる。
現在、アンクは鴻上とメダルシステムの使用する契約としてオーズが戦闘で倒したヤミーのセルメダルの60%を渡している。
更に前払いとして100枚渡したこともあり、身体を維持するだけで精一杯だった。
だからこそ、その提案はアンクにとって喉から手が出る程、魅力的に感じている。
そこに鴻上からのダメ押しが入る。
「仕方無いなぁ...ではアンク君に耳寄りな情報を渡そう。
映司君は少し離れてくれ。」
「あ.....はい。」
そうして鴻上はアンクに耳打ちをすると表情が変わる。
「良いだろう...お前の望み通り風都に行ってやる。
おい、行くぞ映司!」
「ちょ!待ってよアンク!
何でそんなやる気になったの?」
「うるせぇ!早く行くぞ!」
アンクはそう言って映司を引きずっていくのだった。
その光景を見ていた鴻上の秘書である
「宜しかったのですか?」
「問題ないさ。
ヤミーに関してはドクター真木の開発した"新たなシステム"のテスト運用で使って貰うさ。
確か新しく"ライドベンダー隊の隊長"になった彼ならば....」
そう言って鴻上はパソコンを開くとライドベンダー隊の名簿を開く。
隊長の欄には"後藤 慎太郎"と書かれていた。
アンクに無理矢理連れていかれそうになる映司だったがちゃんと皆に説明しといた方が良いと言ってクスクシエへと向かった。
しかし、何時もなら昼からやっているクスクシエの看板が"CLOSE"となっていた。
不思議に思った映司が中を開けると店長の
「知世子さん...比奈ちゃんこれどうしたの?
お店も閉まってるし何かあったの?」
そう尋ねる映司に知世子は笑顔で一枚のチラシを見せた。
「"クリスマスグランプリ"?」
「そう!全国で行われている日本一のお店を決める大会があってね。
今回はクリスマスに行われるのよ!
そして何とそこにクスクシエが選ばれたのよ!
だから急いで荷物を纏めて会場がある"風都"に向かおうと思っているわけ」
「えっ!皆も風都に行くの?」
「えっ!と言うことは映司君も?」
比奈の問いに火野が答える。
「うん、僕達もさっき鴻上会長から風都のホテルで休んで来いって言われて」
「なら丁度良いわね。
映司君!アンクちゃん!実は荷物が多くて運ぶのが大変なのよ。
手伝ってくれない?」
「あ?何だって俺達が....」
「良いですよ。」
「おい!映司!」
即答した映司にアンクが怒る。
「どうせ同じ場所に行くんだ。
それに俺達はクスクシエに居候させて貰っているんだぞ?
少しは恩返ししないと....」
「ざけんな!俺はやらな....」
「いい加減にしなさいよアンク。
言うこと聞かないなら....ふんにゅ~!」
比奈が食べ物を冷やす業務用の大型冷蔵庫を持ち上げたのを見て映司は顔色を変える。
「あーっ...アンクも手伝うよな?...手伝うって言え!」
「チッ!仕方ねぇな...分かったよ手伝えば良いんだろ。」
何とか比奈からの制裁(大型冷蔵庫の投げ渡し)を防いだ二人は荷造りを手伝うと一緒に風都に向かうことにした。
そこで比奈が思い出したように知世子に言った。
「そう言えばグランプリの受付を名乗っていた人。
珍しい名前をしていましたよね?」
「そうねぇ、確かにあんまり聞かないわよねぇ....」
「"無名"って名前は.....」
所変わって風都グランドホテルのスイートルームにいる無名は一枚の資料を見て眉間を抑えていた。
周りにはリーゼと黒岩、それに赤矢が座っている。
因みにこのホテルはミュージアムが経営しているので無名のいる部屋には監視カメラは存在していない。
無名から事情を聞いた赤矢が話す。
「そんなに悩む程、ややこしい案件なのか?」
「どうしてそう思うのですか?」
「この資料を見てからのお前の動きには焦りが見えた。
鴻上会長にコンタクトを取ったりこのホテルやここで行われるイベントにまで口を出したり...
"まるで予定外の事に戸惑っている"そんな感じだったぞ?」
(流石良く見ていますね。)
黙ってても意味がないと思った無名は三人に話し始める。
「この資料に写っている男は窃盗犯です。
それもガイアメモリを使って窃盗を繰り返している。」
「そんな事、この風都では珍しいことじゃないだろう?」
黒岩の問いにリーゼがタブレットに文字を入力して皆に見せる。
『盗んだ物に問題があったのか?』
「その通りです。
この男はガイアメモリの力で見境無く窃盗をして鴻上グループが管理する金庫室に忍び込み"一つのメダル"を盗んだんです。」
「メダル?....お前がそう言うって事は普通のメダルじゃないんだろ?」
「えぇ、800年以上前に存在した国の錬金術師が作り出した"オーメダル".....正式には"コアメダル"と呼ばれる物をその男は盗み出しました。
これはある意味、ガイアメモリよりも危険な存在です。」
『何がそんなに危険なんだ?』
「コアメダルには強大な力が封じられていますが敢えて制御する機能を外しているんです。
謂わば、薄いガラス瓶に入った爆弾ですね。
ちょっと使い方を間違えて落としたら爆発してしまう。
そんな物です。」
オーズの世界についての記憶はWと絡んでいる事もありある程度は無名も知っていた。
古代の錬金術師が王の為に作り出したコアメダル....確か古代の王はこれを使って世界を手に入れようとするがその力に肉体の器が耐えきれず石化してしまった。
コアメダルはオーズの持つドライバーかそのメダルに対応したグリードが使うことで制御出来る。
逆に言えばそうでないものが持ったらどんな影響を及ぼすのか全く分からない。
もし、コアメダルを持ったままガイアメモリを使用したらどんな被害が起こるのか無名にも把握できなかった。
だからこそ、オーズを呼び出したのだ。
だが、これでも不安が残るのは確かだ。
「もう一つ、布石を射っておきますか。」
無名はホテルから部下に指示を出すと自分も行動を開始するのだった。
予定よりも早く風都に到着したオーズのメンバー(火野、アンク、白石、比奈)は目の前にある改装中の風都タワーを眺めていた。
「おっきいわねぇ、流石は風都の名物ねぇ。
でも改装中なのが残念ねぇ...」
「凄い事件があったらしいですからね。
テロリストに占拠されたとか....」
そんな話をしていると近くで露店が開かれている所を見つける。
その売り文句にアンクが食い付いた。
「風都限定の"風都くんアイス"いかがですか?」
「アイス....おいお前、これはアイスなのか?」
「はひっ?...えっと...そう...です...」
「味は?」
「とっ...トロピカル味です。」
「トロピカル?...うめぇのか?」
「おい.....しい...と...」
「声がちいせぇな...ハッキリ喋れ!」
「はい!美味しいです!」
明らかにヤンキーに追い詰められている可哀想な店員の構図に映司が助け船を出す。
「おいアンク、店員さんを脅しちゃダメだろ。
すいません、コイツこんな為りしてますけど優しい奴なんで...」
「はっ...はぁ。」
「おい、映司今日の分のアイスを寄越せ。」
アンクは映司と比奈を助ける時にアイスを一年分奢ると契約していた。
「はぁ?アイスなら鴻上さんと会う前に渡したじゃないか。」
「あれは夢見町でのアイス分だ...ここは風都、ならその分のアイスも寄越して貰う。」
「お前、何処の詐欺師だよ。
そんな横暴な理由で買うわけ無いだろう。」
「あ?テメェ契約を破る気か?」
「契約なら守ってるしちゃんとアイスは渡してる...欲しいなら明日言いなよ。」
折れることの無い映司の顔を睨み付けるアンク...その空気感の悪さに周りもザワザワし始める。
そうしていると一人の男が仲裁に入った。
「おい、待てよあんちゃん達....ここでのケンカは止めて貰おうか?」
「あ?誰だお前?」
アンクの問いに帽子に手を掛けて男は答える。
「俺は左 翔太郎。
この町で探偵を営んでいる者だ。
んな事よりここでケン....カ....あぁ」
そう言うと翔太郎は地面にうずくまった。
その姿に映司が尋ねる。
「えっ、大丈夫ですか?」
その問いに翔太郎ではなく別の人物が答えた。
「あぁ、心配しないで良いよ。
只のアイスの食べ過ぎだから....」
「だから言ったのに...そんなに食べたらお腹壊すって」
そう言いながら本を持った青年とポニーテールの女性が現れる。
「貴方達はこの人の知り合い?」
「あぁ、僕の名前はフィリップ。
そこでうずくまっている翔太郎の相棒で二人で探偵をしているんだ。」
「私はその事務所のしてる鳴海 亜樹子ね。」
そう言うと二人は翔太郎を介抱する。
「全く、一体何本の風都くんアイスを食べたんだい?」
「20...から先は....数えてねぇ....」
「明らかに食べ過ぎだし無駄遣いじゃない!」
「だってよ...."限定風都くんフィギュア"が欲しくて...な。」
「フィギュア?」
「ここのアイスの特典だよ。
アイスを食べ終わった後に付いている棒に当たりのマークがあると貰える限定のフィギュアだ。
数量も少なくて当てるにはかなりのアイスを食べないと行けない。」
「そうなんですか....そんなに欲しいんですか?
そのフィギュアが」
映司の問いに翔太郎が腹を抑えながら答える。
「当然だぜ....俺は風都くんファン...だから...な。」
少し考えた映司はアンクに言った。
「アンク、アイス一本食べようか。」
「どういう風の吹き回しだ?」
「別に....ただあんなに真剣に欲しがっている姿を見て...少し羨ましく思ってね。」
そう言うと映司はポッケからパンツを取り出すと開いて小銭を集める。
「えっと...いくらですか?」
「はい...300円...です。」
映司は300円を店員に渡してアイスを受けとるとアンクに渡した。
「はい、風都でのアイス。」
「....ふん。」
アンクはアイスを映司から受け取ると食べ始めた。
見た目は風都くんの形をしているアイスだが味は美味しいらしくアンクは無言で食べ進めていた。
「これで当たったら探偵さんに当たり棒渡しますよ。」
そう言う映司にフィリップが言う。
「気持ちは有り難いがこのアイスの当たりの確率は2%程度だ。
そんな簡単には....」
「おい、映司....何かマーク付いてるぞ。」
「「何だって!」」
フィリップと店員は驚きながらアンクの食べ終わったアイスの棒を見つめる。
「間違いありません!これ当たりです!」
「信じられない。
まさか、一発で当てるなんて.....」
その光景に驚き周りは拍手を始める。
「おい、映司。
何でコイツらは拍手してんだ?」
「まぁ....奇跡が起こったってことだよ。」
そんな話をしていると映司とアンクの直感が働きその場から逃げるように避けた。
すると空中からその間を何かが通り過ぎた。
「何だ一体?」
「映司、上だ!」
アンクの言葉に従って上を見るとそこには空を飛ぶ昆虫のような怪物がいた。
「あれはヤミーか?」
「いや、奴にセルメダルの気配はねぇ....
寧ろコアメダルの気配がする。」
「えっ、じゃあグリード?」
「それもちげぇ、
そんな話をしていると探偵の人達が皆を逃がしていた。
ついでに比奈ちゃんや白石さんも逃げている今ならバレる心配も無さそうだ。
「アンク、メダル!
オーズになって戦う。」
「ふん、しっかり稼いでこいよ.....!?」
そう言ってアンクがコアメダルを渡そうとするが動きが止まる。
「どうしたんだよアンク?」
「.......ねぇ」
「え?」
「コアメダルが......ねぇ。」
「.......えぇぇぇぇぇ!!!」
コアメダル紛失と言う異常事態に映司は本気で焦るのだった。
オーズ原作との相違点。
後藤 慎太郎が原作よりも自分の無力さと限界を理解しておりそれを知った上で守る強さを求めている。
その欲望を鴻上は評価しておりバース装着者の候補として入れている。
原作と違い、オーズとWは接触していないので二人とも仮面ライダーだと知らない。
クリスマスイブとクリスマスに掛けての投稿となりますのでお楽しみください。
作者より
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クリスマス特別編 風都と怪物と探偵
コアメダルが無いと言う異常事態に映司は本気で焦っていた。
「おい、アンク!ふざけてる訳じゃないよな?」
「んなことするわけねぇだろ!
確かにコアメダルは持ってた筈なのにいつの間にか失くなってたんだよ。」
「そんな事....」
そう話していると空を飛んでいる怪物が話す。
「探し物はこれかな?」
そう言って怪物は"トラメダル"バッタメダル"カマキリメダル"の三枚を見せる。
「何でテメェが、コアメダルを持ってるんだ!」
「何故って?
私が盗んだからに決まっているだろう?」
そう言って誇っている怪物を見つめてアンクは舌打ちをする。
(チッ!よりによって必要な三枚の内、二枚を取られちまうとは.....)
オーズに変身するにはメダルが3つ必要になってくる。
そして、使えるメダルは決まっておりアンクが持っているメダルは頭部のタカメダル(二枚)クワガタメダル(一枚)中央部のトラメダル(一枚)カマキリメダル(一枚)それに脚部のバッタメダル(一枚)チーターメダル(一枚)だった。
だが、怪物に中央部のメダルを全て奪われてしまったせいで今、オーズは変身が不可能になっていた。
(しかし、一体どういうカラクリだ?
全く気配を感じずにメダルを俺から奪い取るなんて...)
そんな事を考えていると怪物が二人に言う。
「まだ持っていそうだな....そのお宝は全て私が頂く!」
怪物がそう言ってアンクに急接近した。
それをアンクは紙一重で回避する。
「アンク!早くオーズに!」
「メダルが足りなくて変身できねぇんだよ!」
「頂くぞぉ!」
怪物がアンクにぶつかろうとすると突然現れた光弾が怪物に直撃すると吹き飛ばされた。
そして、その反動でトラメダルが落ちてアンクがそれを回収する。
「そこまでにしとけよフライボーイ。」
そう言って仮面ライダーWルナトリガーが目の前に現れた。
「あれは?」
「仮面....ライダー?」
そんな反応をしていると仮面ライダーが映司達に声をかける。
「態々観光で来てくれたのに悪いな。
さっさと逃げろ...ここは俺達が何とかする。」
しかし、この行為をアンクは止める。
「ふざけるなよこっちは二枚コアメダル取られてんだ取り返すまではここを離れられるか!
おい、映司!....これでさっさと変身しろ!」
いつの間にか回収していたトラメダルを含めた三枚のメダルを映司に渡す。
「おいお前らあぶねぇぞ!」
「大丈夫です。
こう言うの馴れてるんで」
映司はオーズドライバーを腰に付けると三枚のメダルを装填し斜めに倒しオースキャナーを構える。
そして一気にメダルをスキャンした。
キン!キン!キン!
「変身!」
「タカトラチーター」
映司の周りをコアメダルのエネルギーが取り巻くと仮面ライダーオーズ"タカトラータ"へと変身が完了した。
その姿を見てWも驚く。
「なっ!コイツもドーパントか?」
『いや、彼からはガイアメモリを使用した形跡を感じない。
僕達の使う変身システムとは別の物なのだろう。』
そんな話をしているとオーズがWに話し掛ける。
「俺は仮面ライダー
アイツが奪っていったものはコアメダルって言って危険な物なんです。
だから回収したいので共闘させて貰えませんか?」
『どうする翔太郎?』
フィリップの問いに間髪いれず答える。
「俺は良いと思うぜ。
直感だがコイツは悪い奴じゃねぇ。」
『なら決まりだね。
オーズと言ったっけ?
一緒に戦ってくれ。』
「はい、お願いします。」
Wとオーズが敵に向かい構えるのだった。
飛んで逃げ回るドーパントをWはハードボイルダーに乗りオーズはチーターレッグの高速移動で追尾する。
『奴のメモリは"フライ"....蝿の能力を持ったドーパントだ。
直接的戦闘能力は低いが移動や行動スピードが兎に角早い。
脳の伝達信号がメモリによりかなり強化されているんだろう。
恐らく君の相棒であるアンクがコアメダルを盗まれたのはコンマ数秒の出来事だったろうね。』
「アンクからメダルを盗むなんて凄い怪物ですね。」
「まぁでも安心しろ。
この風都にはドーパントから街の人を守る仮面ライダー...つまりは俺達がいるからよ。」
そう言うとWはルナトリガーの追尾弾を放つ。
何とか避けようとするが失敗し羽に当たると墜落してしまう。
「今だ!行けオーズ。」
「はい!」
オーズは落下するフライドーパントを捕まえると両足で高速の連続蹴りを行う。
その蹴りにより奪われていたバッタとカマキリのメダルが空へと放り出される。
すると右腕だけになったアンクが飛び上がり二枚のメダルを回収した。
それを見たWは驚く。
「何だあれは?腕が空を飛んでる。」
『興味深いね....あれもメダルに関係するのかな?』
そんな話をしているとハードボイルダーは落下したフライドーパントの前に到着する。
だが、そこにいたのは"二人の怪物に襲われるオーズの姿"だった。
落下したフライドーパントと落下したオーズはメダルを弾き終わると地面へ着地する。
そして地面に落ちたフライドーパントへ向かう。
「もう終わりだ。
諦めて観念してくれませんか?」
オーズがそう怪物を説得するがドーパントは聞く耳を持たない。
「まだ足りない....もっともっと....」
「何か....様子がおかしいな。」
オーズがそう感じていると先程の攻撃で落下していた小さいケースを見つける。
そこには鴻上グループのマークが入っていた。
そのケースは中身が開いており中には一枚の"セルメダル"が残っていた。
「これって....セルメダル!まさか!」
するとフライドーパントに異変が起きる。
身体を大量のセルメダルが覆うと人型になりフライドーパントの元を離れると脱皮した。
それはグリードである"カザリ"が得意とする猫科型のやミーであった。
そして、そのヤミーが誕生するとフライドーパントは苦しみ出す。
するとフライドーパントの胸が光出し肉体が編かし始める。
「何だ一体?」
オーズはタカヘッドの能力で体内の光る部分を透視するとそこには1枚のメダルが入っていた。
「これって....コアメダルか?
どうしてコアメダルを持っているんだ!」
そんなオーズの疑問に答える訳もなくフライドーパントは周囲に衝撃波を放つ。
それによりオーズは吹き飛ばされそこにWが合流した。
「大丈夫かオーズ....あん?見たこと無い怪人が増えてんな。」
そんな事を言うWにオーズが答える。
「気を付けてください!
あの猫っぽいのはヤミーと言う怪物でもう一人はコアメダルを吸収したフライドーパントです。」
「何だって?」
「どうやらそうみたいだな....」
そう言いながら身体に戻ったアンクが合流し答える。
『アンクと言ったね?
それはどういう意味だい?』
「ヤミーは人間の欲望を糧に産まれる化け物だ。
作るにはセルメダルが必要になるが....どうやらこの盗人が盗んでいたのは鴻上の私物だった様だな。
....ふん、おい映司!ソイツは"当たり"だ!」
「は?アンク!どういう事だよ。」
「このドーパントって奴は鴻上の所からセルとコアを盗み出したんだ。
そして、コアメダルはドーパントの肉体をグリードの身体と誤解し融合しようと誤作動を起こしている。」
「それってメチャクチャ危険じゃないか!
助けないと....」
「ほっとけ!コイツは犯罪者なんだろう?
それにガイアメモリを使って暴れている....因果応報って奴だ。」
「例えそうだとしても俺の手が届く限りはもう誰も失わせない。」
「....チッ!相変わらず甘ちゃんだな。
オーズの力ならコアメダルを奪える筈だ。
さっさと奪ってこい!」
アンクはバッタメダルを映司に渡す。
それを受け取った映司はチーターメダルと変えるとオースキャナーでスキャンする。
キン!キン!キン!
「タカ」
「トラ」
「バッタ」
「タ、ト、バ、タトバ」
「タトバ」
オーズはタトバフォームへと変わる。
そうして姿の変わったフライドーパントを見据える。
フライドーパントは蝿の姿を残しながらも猫科動物の顔と爪を有していた。
変化したドーパントに警戒しつつオーズはメダジャリバーを取り出し攻撃を行う。
それを止めようとするヤミーをWが阻止する。
Wの徒手空拳がヤミーに当たるがボヨン!ボヨン!と言う音を出して弾かれてしまう反撃を受けてしまう。
「うぉっ!コイツ、打撃が効かないのか?」
『恐らく、あの身体の持つ衝撃吸収能力が高いのだろうね。
メモリを変えよう。』
「HEAT,METAL」
Wはメタルシャフトに炎の力を込めるとヤミーをシャフトで殴り付けた。
打撃は耐えられた様だがその後の爆発は耐えられず吹き飛んでしまう。
『良し、ヒートメタルなら有効だね。
この怪物、ヤミーについては興味が尽きないけど今は早くオーズに加勢するべきだ。』
「分かってるよ。
さっさとメモリ.....ブレイ...ク。」
突如、Wはしゃがんでしまう。
『どうしたんだい翔太郎......まさか!』
「あぁ、襲ってきやがった"腹が痛ぇ"!」
翔太郎は変身前から風都くんフィギュアを当てる為に大量のアイスを食べていた。
その不具合がよりにもよって今、来たのだ。
その姿にヤミーは不思議そうな顔をすると踵を返してオーズ達の元へ向かった。
「あっ、待て!....うっ」
『翔太郎、動けないならトリガーで援護しよう。』
「分かった。」
そうしてWはトリガーメモリを取り出すのだった。
フライドーパントとの戦いは両者とも拮抗していた。
上空からの攻撃手段を持つフライドーパントは常に先攻を取り襲ってくるがそれをオーズはメダジャリバーで受け止めバッタの能力で飛び上がるとフライドーパントを切り付けようとする。
それを繰り返していた。
「チッ!今のままじゃ決着は付かなさそうだな。
使えるコンボは
映司!頭をこれに変えろ!」
アンクはクワガタメダルをオーズに投げ渡すとオーズは戦いながらメダルを受け取りタカメダルと入れ換えるとスキャンした。
そして、クワガタヘッドに変わると角から放電攻撃を行う。
奇襲に近い攻撃にフライドーパントは避けられずダメージを受けて落下してしまう。
「今だ!トドメをさせ!」
オーズはオースキャナーをもう一度スキャンして必殺技を発動させる。
しかし、その必殺技が発動する前にヤミーがフライドーパントの前に現れるとメダルの姿になり融合を始めた。
「えっ?あのヤミー何をしてるんだ。」
「知るか!それより早く攻撃しろ。」
オーズはアンクの言葉に従い飛び上がると角を放電させて空中からドーパントに向かい飛び込んだ。
その威力によりフライドーパントは爆発する。
しかし爆破による煙が晴れた瞬間、アンクの目に写ったのはオーズの頭を両手で止めている新しい怪物の姿だった。
それは昆虫と獣をハイブリットした見た目をしている。
その怪物がオーズの頭を掴み持ち上げると遠くへ投げ飛ばした。
その衝撃でオーズは地面を回る。
「何だ?いきなり強くなったぞ。」
「アイツ、完全にヤミーと融合してやがる。
コアメダルの力に反応したってのか。
クソッ!分が悪いな。
おい映司、引くぞ!」
「でっ、でもそんなことしたら....」
「ぐだぐだ悩んでいる内に死んでも良いのか?」
「それじゃあ、あの中にいる人は助けられない!」
そんな話をしているとフライドーパントだった存在に向けて火球が放たれる。
そこにはトリガーマグナムを持ち踞るW ヒートトリガーがいた。
「加勢するぜ!」
そう言ってトリガーマグナムを怪物へと連射する。
「バカっ!よせ今のコイツを刺激するな。」
アンクの忠告も空しく攻撃を受けた怪物はエネルギーを口内に溜めるとそれを一気に解放した。
ビームとなり放たれた攻撃はWとオーズを巻き込み吹き飛ばすと怪物は姿を消すのだった。
変身解除した映司はアンクと共に立ち上がる。
「痛た....酷い目に遭った。」
「アイツは逃げやがったか...」
そう言っているとWが吹き飛ばされた方から一人の男が立ち上がる。
「痛ってぇ....何だよあの攻撃は」
そして、立ち上がった男の姿を見た映司が言う。
「貴方は確か探偵の左さんじゃ...えっ!と言うことは貴方が仮面ライダー?」
その言葉に左も反応する。
「正確には相棒も含めてだがな。
だが俺も驚いたぜ...まさか俺ら以外にも仮面ライダーがいたなんてな。」
そう言いつつも二人は怪物に目を向けようとするがもうそこには誰もいなかった。
「逃げられたな。」
そう言う翔太郎にアンクは近付く。
「おい、お前がちゃんとヤミーを抑えてたら倒せたんだ。
どう責任を取るつもりだ?」
「止めろってアンク。
兎に角、一度ゆっくりと話し合うべきだ。」
「それなら良い所がある。
俺達の事務所だ。」
「なら、そこにしましょう。
....ほら何時までも睨まないで行くぞアンク。」
そうして三人は鳴海探偵事務所へと向かうのだった。
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クリスマス特別編 事務所と作戦と目的
鳴海探偵事務所へ到着するとそこにいるメンバーについて翔太郎が説明する。
「先ずは俺の相棒であるフィリップだ。
Wになる時も一緒に変身している。
ヤバイ程の検索マニアだから気を付けろよ。」
「初対面じゃないにしてもその紹介は無いだろう。
改めてフィリップだ。
君の持つメダルやグリードに関してはある程度検索させて貰った。
実に興味深い....ゾクゾクするねぇ。」
「次が俺らと同じく仮面ライダーとして活動している照井 竜だ。
後、警察官でもあるからそっちで困った時は頼れ。」
「照井だ....もう一つの名は仮面ライダーアクセル。」
「それとこのチンチクリンは鳴海 亜樹子。
気を付けないとスリッパで叩かれるから気を付け...スパン!痛ってぇ!何すんだ亜樹子!」
「まともに紹介しない翔太郎君が悪いんだからね!
改めて鳴海亜樹子です。
この事務所の所長です!宜しく。」
相手方の挨拶が終わり今度は映司達が自己紹介をする。
「俺は火野 映司。
仮面ライダーOOOやってます。
そしてコイツはアンク。
グリードですけど俺に協力してくれています。」
「......ふん!」
「おう....それにしてもアンクは随分と不機嫌だな。
やっぱりあの怪物を逃がしたのに怒ってるのか?」
「当然だろ!奴を倒せばセルとコアの両方を手に入れられる筈だったのに....邪魔しやがって」
「ちょっと待てよ!
セルは兎も角として何でお前がコアメダルの情報を知ってるんだよ。」
「....鴻上に言われたんだよ。
風都にコアメダルが流れたってな。
だったら手に入れるしかねぇだろ。」
「お前なぁそう言うことは俺にも言ってくれよ。」
そんな話をしていると照井が声をかけてくる。
「火野と言ったか。
鴻上とはあの大企業の鴻上ファウンデーションと関わりがあるのか?」
「あっ...はい。
メダジャリバーって武器やバイクを使わせて貰っています。」
「その組織で後藤 慎太郎と言う名前に聞き覚えはないか?」
「えっ!後藤さんと知り合いなんですか?
あの人にはお世話になってます。」
後藤は火野がオーズとして戦い始めてからも会長の命令だと言って何度も助けて貰っていた。
その言葉を聞くと照井の顔は優しくなる。
「そうか....元気そうならそれで良い。」
二人の間に何かあるのだろうとは思ったがそこでアンクが話し始める。
「今はそんな話よりメダルだ。
俺達はあの怪物を倒してメダルを手に入れる....邪魔するなら例え仮面ライダーでも容赦しない。」
その言葉にフィリップが返す。
「邪魔をするつもりはないよ。
僕達も風都の街をこれ以上、泣かせたくないからね。
だが、君達だけであの怪物を倒すことは不可能だ。」
「....何だと?」
「聞こえなかったか?
不可能だと言っている。」
その瞬間、アンクの腕がフィリップの首へと飛んでいくがすんでの所で翔太郎と映司が阻止する。
「アンク!お前何やってるんだよ!
すいません....こいつちょっと短気で」
「いいや、今のはフィリップの言い方も悪かった。
正確に言えば"
「本当に腕だけで動けるんだな....益々、興味深い生態だ。
一度解剖して中身を....パコン!
亜樹ちゃん、何で僕まで叩かれるんだい?」
「少しは空気を読まんか!
本当にすいません。」
そう言って"猛獣二匹"(腕だけの怪物と知識の怪物)を抑えると話を再開した。
「あの怪物....フィリップが"メダドーパント"と呼び始めたがアレだがどうやらメモリとメダル両方にダメージを与えないとあの怪物は救えないらしい。」
「そんな.....」
「ふん、ならば見捨ててメダルを回収するだけだ。」
「アンク、そう言うことなら僕は協力しない。
僕はあの犯人の命も救いたいんだ。」
真っ直ぐと射抜く様な瞳で見られたアンクは溜め息を付く。
「はぁ、だが何か作戦はあるのか?」
「あぁ、だがその前にアンク君に確認させてくれ。
ヤミーに寄生された人間の思考と行動はどうなるんだ?」
「基本的には宿主の欲望を食らうためにそれを増長させる。
そして、限界までセルメダルが貯まったら外に出てくる寸法だ。」
「あの泥棒の欲望は盗みをすることだ。
より難度があり難しい物程、盗みたがる。」
「なら、その欲望が強くなっているだろうな。」
「けど、そんな都合良く見つかりますか?」
「それがあるんだよちょうど明日の夜にな。」
そう言うと翔太郎がチラシを見せてきた。
「これって、知世子さんが出るって言ってたクリスマスグランプリ。」
「あぁ、実はこのイベントでとある財団が時価数千億もするダイヤを展示する予定なんだ。
主催者曰く、イベントを盛り上げる為らしくてね。」
「それでそのダイヤの警護に警察も駆り出されている。
そこに俺達も参加するんだ。」
「成る程、それならあの怪物も確実に来るだろうな。」
「でも、危険じゃないか?
そのダイヤモンドはクリスマスグランプリの客寄せに使われるんだろ。
万が一出場者に被害が出たら.....」
「それは問題ない。
展示されるのはイベント会場である路上ではなくセキュリティの効いた屋内の展示スペースだ。
そこにメダドーパントが現れてもイベント自体に被害はない。」
フィリップの言葉に映司は少し悩むと決心したように言った。
「....分かりましたその作戦で行きましょう。」
「良かった。
一つ問題があるとすれば僕と翔太郎は警備協力としてイベントに潜り込めるが君達にはその手段は使えないだろう。
会場とダイヤの展示室が離れていると言っても相当数の人間がひしめき合うことになる。
何かしらの役職を持って入った方が良い。」
「あっ、なら知世子さんに頼もうよ。
そのイベントに俺の知り合いが出るんです。
スタッフとして入れるように頼んでみます。」
「では、最後に最も重要な話をしよう。
メダドーパントを安全に倒す方法だ。
今の状態はメモリとコアメダルが軽い融合状態になっていることで起こっている。」
そう言うとフィリップがホワイトボードに書き込んでいく。
「そして、ヤミーに寄生されることであの強さを得たんだろう。
欲望から産まれる力については興味をそそられるが現段階の解決法は"メモリを破壊しヤミーを倒すことでエネルギー供給を絶つ"そうすれば残るのはコアメダルとの融合が解けた者だけが残る。」
「つまりはWとオーズが同時にメモリとヤミーを破壊する必要がある訳か?
そんな上手く行くのか?」
アンクの問いに翔太郎が答える。
「この前は"奥の手"を使いそびれたからな。
それを使えば何とかなるだろう。」
「だと良いがな.....」
「なら早速、俺は知世子さんに連絡してきます。」
映司はそう言うと知世子さん達に連絡する。
ある程度話すと快く快諾してくれた。
そうして話が終わると翔太郎が話し掛ける。
「そう言えば映司は元々この風都にオーズとして来た訳じゃないんだろ?
何の為に来たんだ?」
「鴻上さんからプレゼントされたんです。
風都グランドホテルの宿泊券。
まぁ、旅行みたいなものですね。」
「そうなのか....ってか風都グランドホテル!?
彼処って一泊するだけでも相当な値段しなかったか?」
「最低でも一泊10万はするホテルだよ。
ホテルのランクにもよるけど最高クラスなら50万は軽くするだろうね。」
「50万!?そんなにあったら事務所の雨漏りの工事や...あんなものやこんなものも買える。」
「そうだったんですね。
俺達はチケットを貰っただけですし....」
「ん?そんなに驚いてないみたいだな。」
翔太郎の疑問も最もだが映司は元々有名な政治家の家系に産まれており良くも悪くもそう言ったことには馴れていただけだった。
すると色々と決まって安心したのか映司のお腹が鳴る。
「......すいません。」
「気にすんな。
それに腹が減ってるなら旨い店に連れていってやるよ。
映司達にはこの風都の良さを知って貰いたいからな。」
「そうだね。
同じ仮面ライダーの名を持つ者同士だ。」
「ありがとうございます。」
「良し!決まりだな。
久々に全員で風麺に行くか!」
「風麺?」
「風都で名物となっている屋台のラーメンだよ。
味は保証する。」
「おい、そこにアイスはあるのか?」
「はぁ?屋台のラーメン屋にアイスなんてあるわけ無いだろ。」
「チッ!なら行かねぇ。」
「我が儘言うなよアンク。
それにたまにはちゃんとした栄養のある食べ物を取らないと信吾さんの身体にも悪いだろ?」
「映司、アンクってのはそんなにアイスが好きなのか?」
「えぇ、それこそ年がら年中食べてます。」
「そうか....ならアンク、風麺を食べ終わったら"風車"って言う駄菓子屋に寄らないか?
彼処にあるアイスは絶品だぞ?」
「何、本当なのか?
嘘をついたら只じゃ済まないぞ。」
「嘘つく意味があるかよ。
取り敢えず行こうぜ。」
翔太郎がそう言うと全員で先ず、風麺へと向かうのだった。
風麺での会話.....
映司は自分の前に出されたラーメンに心を踊らせていた。
「アンク!凄いよこの風麺って!デッかいナルトが入ってくる!」
「大声を出すなみっともねぇ!....ったく何でこんなことになってんだよ。」
「なっ?旨いだろ。
この風麺は風都の名物なんだよ。
デッカいナルトの中にあるちぢれ麺が鳥醤油ベースのスープと絡まって旨いんだよなぁ。
あぁ、やっぱり何時食べても飽きねぇわ。」
翔太郎の言葉に店長も機嫌が良くなる。
「そんな風に言って貰えて嬉しいよ。
はい、そんな翔ちゃん達にサービス。」
店長はそう言うとチャーシューを渡してくれる。
「おっ、ありがとうな店長。
ほら、映司もアンクもどんどん食え。
ここは俺が奢るからさ。」
「えっ、良いんですか?」
「おう、おやっさんも言ってたが"人との縁は神様にしか操れない...だから良縁が来たら絶対に離すな"ってな。
きっと、お前らと会えた縁がそうなんだと俺は思う。」
翔太郎の言葉にフィリップは笑う。
「ふふっ、相変わらずのハーフボイルドだね。
その言葉をクールに言えたら鳴海荘吉の様になったのに...」
「うるせぇわフィリップ。」
そうして二人が小突き合うのを映司は微笑ましく眺めアンクは出されたチャーシューを掴み自分の器に入れると一心不乱に食べるのであった。
駄菓子屋 風車にての会話.....
「おい婆さん!アイスを一本くれないか?」
「.....はい?」
翔太郎は駄菓子屋を経営している婆さんに声をかけるが耳が遠く上手く伝わらない。
「おい、あのババァ大丈夫なのか?」
「翔太郎曰く、昔からあの調子らしいよ。」
フィリップとアンクが話していると翔太郎が頑張って駄菓子屋のお婆さんとコンタクトを取ろうとする。
「ア.イ.ス!分かるか?
アイスを買いに来たんだ!」
「....ほへ?」
「だーっ!、だからアイスだって言ってんだろう!
もう耄碌したのか婆さん!」
「失礼だね!あたしゃまだピチピチの80代だよ!」
そう言って婆さんは翔太郎の頭を肩叩きで叩く。
「痛ってぇ!やっぱ聞こえてんじゃねぇか!
ほらさっさとアイスをくれよ。
アンクが欲しがってんだよ。」
「.....アンコ?」
「違うってアンクだよア.ン.ク!」
「アンコならあたしゃこし餡派だよ。」
「だーめだこりゃ」
「どうやらダメそうだね。」
「ふん!関係あるか欲しいなら力付くでも手に入れるんだよ俺は」
そうアンクは言うと腕だけになりアイスの閉まっているボックスへと近付く。
しかし、手を掛ける前に婆さんの肩叩きが手に当たった。
「痛って!」
「耄碌しても泥棒の鼻だけは利いてるんだよ。
アタシからアイスを猫ババしようとするなんて良い度胸だね。」
「うるせぇ!元々買うつもりだったんだよ。
だが、気が変わった...絶対に奪ってやる。」
それから腕だけのアンクと婆さんによるアイスを賭けた戦いが起こった。
結果としてアンクはアイスボックスに指一本触れられず駄菓子屋の婆さんに敗北した。
因みにアイスは映司が頼んだら快く売ってくれた。
しかもオマケ付きで
「.....納得いかねぇ。」
アンクはホテルに帰るまでその事をずっと根に持つのだった。(しかし、アイスは美味しかったらしく映司の分も食べた。)
そして、ある程度打ち合わせを終えると明日に備えて早めに解散するのだった。
その光景を遠くからリーゼと無名は監視していた。
「良し、予定どおりWとオーズが接触したな。
まぁ、よっぽどのアクシデントが無い限りはフライドーパントと接敵出来るだろう。」
無名にとって今回の事件は完全にイレギュラーだった。
クリスマス位、孤島でゆっくりと過ごそうと思っていた矢先、サラから鴻上ファウンデーションの所有する金庫から盗難があったと聞いた。
監視カメラを確認するとドーパントが写っておりよりにもよってセルメダルとコアメダルの両方を盗んでいった。
しかも、そのセルメダルからヤミーまで産まれたと言う始末だ。
サラから「これまでの借りを少しは返して?」と言われてこの事件の解決を請け負ったが正直に言って面倒くさい。
何故なら無名にはメダルの知識が殆ど無いのだ。
無名が藻とから持っていた知識は仮面ライダーWに関わる知識。
その
だから知っている知識があるとすればコアメダルを使いオーズが変身しセルメダルでヤミーと呼ばれる怪物を産み出せる.....この程度である。
つまり、無名はこの事件をこれまでの様に完璧に操ることが出来ないと悟っていた。
だからこそ、何とかお膳立てをしようとホテルからイベント等、色々と用意してオーズをおびき寄せた訳だ。
無名は腕時計を見つめる。
時刻は22:00を過ぎている....だがメダルを吸収したドーパントがどんな動きをするか分からない以上、気が抜けない。
「今日は徹夜確定ですね.....折角のクリスマスなのに残念です。」
無名は誰にも聞こえない様にそう愚痴ると監視を続けるのだった。
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クリスマス特別編 イベントと事故とコンボ
次の日になりアンクと映司はイベントに参加するためクスクシエのメンバーと合流した。
映司はメダドーパントが現れるまでスタッフとしてクスクシエに協力しアンクはメダルの気配を探っていた。
そして夜になりイベントも佳境になってきて結果発表が始まる。
この一日で集めた客と金額により今回の王者が決まる。
クスクシエは今回のイベントでこれまで行った国の衣装を纏めたコスプレと料理を提供し好評を集めた。
そして司会が話し始める。
「今回のクリスマスグランプリは過去類を見ない程の盛り上がりとなりました。
さぁ、ではこれより授賞式を始めたいと思います。
今回は"上位3店舗"を発表させていただきます。
では先ず3位....."クスクシエ"。
スタッフの衣装や多彩な料理が好評かへと繋がりました。
次に第2位...."シャルモン"本場フランスから学んだ本格的な洋菓子とクリスマス限定のケーキセットが人気を博しました。
そして、堂々の第一位は...."ポレポレ"!
金箔入りカレーがお客様の心を完全に掴み見事今回のクリスマスグランプリで一位に獲得なさいました。
では三店舗の皆様、是非壇上までお越し下さい。」
その言葉を受けて知世子が壇上に上がる。
シャルモンからは店長の
ポレポレも店長の
「今回もまた貴方に勝てなかったわねぇムッシュ三郎。」
「今回もたまたまだよ。
たまたま....玉置浩二、なんてね。」
「そのギャグセンスも相変わらずね。
貴女は会うのは始めてね。
私は凰蓮、パティシエをしてるわ。」
「えぇ、知ってますよ。
あの有名なシャルモンの店長さんですから!
本場フランスから学んだ技術で使ったスイーツは絶品で日本でプレオープンした際は常に行列が絶えなかったって....私も貴方のスイーツのファンなんです!」
「あらそうなの?目の前に私のスイーツのファンがいるなんて嬉しいわ。
今度、"沢芽市"に本格的に店を構えるからその時には入らして?」
「はい、絶対行きます。」
そんな話をしていくもドンドンと司会が進み...)
「ではもう一つのイベントである"ブラックダイヤモンドの展示を行います。
今回はクリスマスに合わせてこちらの巨大クリスマスツリーの上に展示されるので是非ご覧ください。
それでは優勝された飾玉様、展示で行われるライトアップのボタンを押してください。
そう言われた飾玉がスイッチを押そうとすると警察が現れて周りを取り囲んだ。
「なっ!これは一体何なんですか!」
その問いに指揮をしていた照井が現れて言う。
「風都署の照井です。
先ほど、このイベントに参加している人物が縛られて見つかりました。
今ここにいる中に偽物が紛れ込んでいます。
その人物はブラックダイヤモンドを狙っていますので暫しご協力ください。」
そう言って警察が周りを取り囲もうとするのを司会をしていた男が阻止して抜け出す。
「動くな!動いたらこの警官を殺すぞ。」
「漸く本性を現したな。」
「黙れっ!...俺はブラックダイヤモンドを盗んで俺の物にする....そうすれば俺はもっと満たされる。
さぁ、こいつを殺されたくなかったらダイヤを...」
そう司会の男が言った瞬間、黄色の腕が伸びて来て捕まっている警官を掴むと引き剥がされてしまった。
「悪いが刑事さんは返して貰うぜフライボーイ」
そこにはWルナジョーカーが立っていた。
「貴様っ!」
「動くな!...もう諦めろ。」
しかし、この言葉に従うつもりはない。
司会の男は懐からメモリを取り出す。
「不味い、メモリを使わせるな!」
照井の言葉に警官が一斉に掴みかかろうとするがそれを男の体内から現れたヤミーが防ぐと全員投げ飛ばす。
そして、投げ飛ばされた一人は運悪く機材が積まれた場所へ落とされた。
当たった衝撃で重い機材が倒れてくる。
下敷きになれば只では済まない。
Wも助けが間に合わず機材の落下に警官が巻き込まれるがそれをオーズに変身した映司が警官の盾となって受けた。
「くっ....大丈夫ですか刑事さん?」
「あっ....ありがとう。」
暴れまわるヤミーをWが相手にしていると司会の男はメモリを起動してしまう。
「
メモリを胸に突き刺すと男はフライドーパントへと変身し暴れていたヤミーを取り込んでメダドーパントへと変化した。
「やべぇな変身されちまった。」
そう言うWの前にアンクが現れる。
「おい!俺は映司を助けに行くそれまで持ちこたえろ。
それぐらい出来んだろ!」
「舐めてんじゃねぇよそれぐらい余裕だよ。」
『僕達はエクストリームになってメダドーパントからメダルを摘出する方法を探る。
それまでの間に映司君を助け出してくれ。」
フィリップの言葉を受けたアンクは映司が機材に巻き込まれた方向へ向かうのだった。
「良し、フィリップ行くぞ。」
『あぁ、翔太郎。』
Wはエクストリームメモリを手に取り変身するとメダドーパントへ向かっていくのだった。
機材に巻き込まれたオーズは今動けない状況となっていた。
無論、オーズとなった映司だけならば逃げることは問題ないがそうすれば残った機材が崩れて下にいる警官が巻き込まれてしまう。
下に警官がいる以上、映司は動くことが出来なかった。
だが、それもそれで映司の身体にダメージがありスタミナを削っていく。
サゴーゾの様なパワー系統のメダルがあれば抜け出せただろうがそのメダルは一枚もない。
(せめて....刑事さんだけでも助けないと....)
映司は打開する方法を考えていると遠くからアンクの声が聞こえてくる。
「映司!無事か!」
「アン....ク。」
「映司!」
アンクは映司の声のする方の機材を退かそうとするが重く動かすことは出来ない。
「クソッ!映司テメェだけでも抜け出せ!
オーズなら出来んだろ。」
「ダメだ!...そんな事したら....刑事さんが....」
「ここでじっとしてたらお前も死ぬことになるんだぞ!」
「それでも....俺は...目の前の命を...諦めるつもりはない...この手が...届く限りはね。」
映司の返答にアンクは苛立つ。
(クソッ、ありゃテコでも動かねぇな。
だがどうする無理に出そうとすれば崩れちまう。
だが、ほおっておいても映司のスタミナが持たねぇ....
もう少し隙間が広くなれば俺が腕だけになって映司を警官ごと引っ張りあげられるんだが....)
そんな事を考えていると比奈は現れた。
「アンク!あんた何してんの?」
「怪力女か!丁度良いお前も手伝えこんなかに映司がいるんだ!」
「嘘っ!映司君!平気なの?」
「比...奈...ちゃん。」
映司の声が小さくなっていく。
「いよいよ不味いな。
おい、お前はここを持ち上げてスペースを作ってくれ。
その中に俺が飛び込んで映司を助け出す。」
「でも、そんな大きなスペースなんて....」
「お困りのようねうら若きレディ?」
そう言って凰蓮が鉄の棒を持って現れた。
「事情は聞いたわ。
私がこの棒を使って開けられそうな隙間を探すからそこにお入りなさい。
安心して私これでも従軍してたからそう言うの探すの得意なの。」
そう言うと凰蓮は素早く倒れた機材の山を確認し鉄の棒を二本突き刺した。
「ここならいける筈よ。
比奈ちゃんと言ったかしら?
貴女は危険だから力に自慢のある男でも....」
「大丈夫です!私出来ます!
....ふんにゅ~~!!」
比奈が有らん限りの力を込めるとテコの原理で大きな隙間が開く。
「あっ!ちょっと!いきなりやっちゃダメでしょ!
.....おりゃああぁぁ!」
凰蓮も続いて野太い声を出して力を込めると空いた隙間が安定する。
「今よ!ボーイ!」
凰蓮の言葉に反応してアンクは腕だけになると隙間に飛び込んでいった。
「えぇ!何あの子腕だけ飛んでいっちゃったわよ!」
凰蓮が驚いているがそれで力が緩んではいけないので気を取り直すと隙間の保持に尽力するのだった。
空いた隙間からアンクは一直線で映司のいる場所へ向かう。
そして、機材に押し潰されながらも耐えている映司を見つけた。
「映司!無事なら助けた警官を掴め!
俺がお前ごとそいつを引っ張り出す!」
その言葉に映司は従い片手で警官を掴むと抱き抱える。
そうしてアンクは瓦礫を抑えている映司の手を掴むと思いっきり引っ張った。
「うぉぉぉぉ!」
アンクは一直線に出口の隙間へと映司の手を掴んだまま進む。
映司と言う抑えが無くなった事で機材が崩れ始める。
(クソッ!思ったよりスピードが出ねぇ。
このままじゃ穴が塞がっちまう!)
しかし、落下してくる機材に"一本の黒い線"が向かい直撃すると黒い炎を上げて燃え広がり落下する機材からアンク達を守った。
その間に何とかアンクは映司と警官を外へと引っ張り出すことに成功した。
そしてアンクが腕から肉体に戻ると倒れる。
「はぁはぁはぁ」
「アンク!大丈夫?」
「俺の事よりも....映司はどうなんだ?」
「大丈夫だと思う。
今起き上がったから....」
そう言っていると映司がアンクの元による。
「アンク....ありがとう。」
「ふん!そう思っているのならさっさとメダドーパントを倒してメダルを持ってこい。」
「うん、任せて。」
そう言うと映司はWが戦っている場所へと向かうのだった。
その頃、照井はこの状況に唇を噛んでいた。
(今すぐにでもアクセルに変身したいが....ここで隠れて変身するには場所もない。
どうすれば.....)
すると、照井達を照らしているライトの光量がいきなり上がり周りの芽が眩むほど強い光が当たる。
(何だが分からないが今なら行ける!)
照井は素早くアクセルドライバーをつけるとメモリを入れる。
「変...身」
照井がスロットルを回してアクセルに変身が完了するとライトの光も収まる。
そしてそのままWの援護へと向かうのだった。
エクストリームになったWはメダドーパントの攻撃を耐えながら機会を伺っていた。
強烈な方向とエネルギー弾の応酬にビッカーシールドで耐えながら翔太郎が言う。
「クソッ!どうにもなんねぇのかフィリップ。」
『残念だが現状メダドーパントを倒すにはオーズの力がいる彼が救出されない限りは....』
そんな話をしているとWの元に映司が現れた。
「すいませんお待たせしました。」
「無事だったか!....いけそうか映司?」
「大丈夫です!...早く彼を助けましょう。」
『良し、方法は昨日説明した通りだ。
先ずは僕達がプリズムメモリを使ってメモリの力を無効化させる。
その隙にオーズの必殺技で攻撃してコアメダルを弾き飛ばすんだ。
そうすれば融合が不完全となりヤミーとドーパントに分離する。』
「だが、これだけの猛攻の中どうやって近付くんだ?」
「それならば任せろ。」
いつの間にかアクセルに変身していた照井がアクセルメモリを抜くとエンジンブレードにセットする。
「ACCEL MAXIMUMDRIVE」
赤いエネルギーが渦となってエンジンブレードを流れるとアクセルはそれをメダドーパントに向けて放った。
その攻撃にメダドーパントも口からエネルギーを放ち止める。
「今だ!」
アクセルの言葉に従いWとオーズは飛び上がりメダドーパントへ向かう。
「PRISM MAXIMUMDRIVE」
『「PRISM BREBK」』
先ずはWのプリズムソードがメダドーパントの身体を切り裂く。
「scanning charge」
その後、オーズのタトバキックが当たるとメダドーパントの体内にあったコアメダルが弾かれる。
それを映司が手に入れるとメダドーパントに異変が起きてドーパントとヤミーに分裂してしまった。
そこにアンクが一枚のメダルを投げてくる。
「映司!それで黄色のメダルのコンボだ!
使ってみろ!」
「わかった!」
オーズはドライバーからタカとバッタのメダルを抜くと新たに手に入れたメダルとチーターメダルを装填しオースキャナーを使った。
「ライオン」
「トラ」
「チーター」
「ラッタララッタァ~"ラトラータ"」
仮面ライダーOOO ラトラータコンボへの変身が完了するとその溢れるエネルギーを雄叫びに乗せて一気に放出した。
「うぉぉぉぉぉぉぉ!!」
放出される熱は風都に降り積もった雪を溶かし金色には輝くオーズに皆目を向けるのだった。
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クリスマス特別編 メダルとメモリと明日
俺達とオーズ....いや火野映司の力によって....
俺も何時もの事件を解決してきたが今回の事件は珍しい。
映司の咆哮と共に放たれる強力な熱波で周辺の雪が溶けていく。
『なんて強力な力だ。
これがコアメダルの力なのか。』
フィリップが驚きながらも映司が話しかけてくる。
「俺はヤミーを倒します。
だからドーパントは.....」
それに答えるように翔太郎が言う。
「あぁ、ドーパントは任せろ!」
そう言い終わると映司はヤミーを捕まえてビルを登り上空へと目指す。
そしてある程度の距離まで離すとオースキャナーをドライバーに通す。
「scanning change」
その瞬間、オーズの前に円上の三つのエネルギーが現れる。
「セイヤァァァ!」
映司は力を込めてそこを通り強化された爪でヤミーを切り付けた。
ヤミーは絶叫を上げながらセルメダルへと分解される。
そうしてヤミーはオーズの手によって倒された。
そして、残ったフライドーパントに向けてWが攻撃を仕掛ける。
「XTREAM MAXIMUMDRIVE」
『「W XTREAM」』
Wの必殺のキックがフライドーパントに当たるメモリブレイクし元の姿へと戻った。
こうしてクリスマスに起こった事件は解決した。
そして、ヤミーを倒し終わって変身解除した映司は倒れてしまった。
アンク曰く、"コンボを使った副作用らしい。"
そうして倒れた映司を回収して今回の事件は幕を下ろした。
それから一日寝込んだ映司は目を覚ますと夢見町に帰ると言ってアンクと共に事務所を去った。
彼にも彼なりの戦いがあると理解していた翔太郎達は映司達を見送った。
しかし、翔太郎は何か気になったのか帰る前に映司を呼び止め話をした。
「お前、どうして刑事を庇ったんだ?」
「え?それは刑事さんを助けるためですよ。」
「それは分かってる....でもお前は助けるために庇って傷つく選択をした。
オーズなら機材を吹き飛ばして助けることも出来たんじゃないのか?」
「でもそれだと刑事さんが怪我をするかも....」
「俺が言いたいことはそこじゃねぇ。
お前は"自分が傷つくことに何の抵抗も感じてない"...それはとても危険なことだ。
自分が仮に死んでも誰かを助けられるのなら良いって考えてるんだろ?」
「.......」
「だがなお前が死んでそいつが助けられてもこの後の未来助けられる奴らを助けられない可能性だってあるんだ。
命を犠牲にする考えは俺には変えられねぇ....だけどこれだけは覚えていてくれ。
お前の助けた命は今後誰かを助けるかもしれない。
そんな人達を増やすためにもお前自身は死ぬことを優先してはいけないんだ。
今後、助けられる人を救うためにもな......」
「....ありがとうございます。
少し考えてみます。
でも俺もそう簡単に死ぬ気はありませんよ。」
そう言って映司とアンクは笑顔で風都を去っていった。
彼は善人なのだろうがきっとただの善人じゃない。
何かが普通の人とズれている。
翔太郎は長年探偵として人を見てきた観察眼から映司の中にある狂気に気付くことが出来た。
「誰かを頼る事を覚えれば変わるのかもな。」
翔太郎は自分がハーフボイルドだと自覚している。
だからこそ、誰かを頼ることに何の抵抗もなかった。
頼る重要性を理解していたからだ。
(自分一人で抱え込んでいては何れ限界が来る。
肉体か精神か....或いは自分の持つ運のどれかに....
それに気付かせてくれる人に会えると良いな火野 映司。)
翔太郎はそう思いながらタイプライターを打つのを止めた。
偶然から始まった共闘はWとオーズ共々、違った刺激を与えたのだった。
夢見町の鴻上ファウンデーションが所有するビルの社長室で鴻上はケーキを作りながら無名の話を聞いていた。
「成る程、ライオンのコアメダルは無事にOOOの元へ渡ったか。
しかも、黄色のメダルのコンボまで......素晴らしい!実に素晴らしい結末だよ無名君。」
「お気に召した様でこちらも嬉しいですよ。
.....では今回の一件は」
「あぁ、ドーパントが私の所有物に手を出したことは不問にしよう。
サラ君にもそう伝えておく。」
「ありがとうございます。
では僕はこれで失礼いたします。」
「あぁ、また何かあったら頼むよ。」
そう言うと無名は電話を切った。
その直後、里中が鴻上に尋ねる。
「宜しかったのですか?
この一件は上手く利用すればミュージアムとより良い契約すら結べた可能性が.....」
「いや、あの組織は未知の部分が多い。
欲を出すならばもっと準備が必要だ。
下手に手を出せばその腕事、噛みちぎられてしまう。」
「そうですか。
では後藤さんにテストして貰った"バースシステム"はどうしますか?
データを見た限りでは問題なく稼働していると真木博士も仰っていましたが....」
「そちらもまだ保留で良かろう。
オーズをもっと強くしてからバースは投入すべきだ。
せめて....あと二つはコンボを使って貰ってからが良いだろうね。」
「では変身者に関しては後藤さんに続投して貰いますか?」
「いや、それは止めておこう。」
「何故でしょうか?
十分に使いこなせていると報告を受けていますが.....」
「彼がここに来た理由は聞いているだろう?」
「えぇ、"守る為の力を手に入れる為"....と言っていましたよね?」
「そこだよ。
私が気に食わないのはそこだ!
前の彼はまだ青い正義を振りかざして欲望の赴くまま動いていた。
だが今の彼にそれは無い。
守る力を手に入れる為に貪欲になっている。
実際、力を手に入れるためにこのケーキを食べ切れと言ったら一心不乱に食べていたからね。」
「なら、結果的に良かったんじゃないですか?
欲望に忠実な人は会長も好きじゃないですか。」
「あぁ、勿論大好きだ!
だが、高潔すぎる。
例え己の手を汚しても力を手に入れたいと言う感情がなくなってしまった。」
後藤はオーズのサポートを続けている中で鴻上の命令には常に忠実に従ってきた。
だが、誰かを犠牲にしたり人質を取るような任務は頑なに断り続けていたのだ。
前のライドベンダー隊の隊長が暴走しオーズに攻撃を仕掛けようとしたら身を呈して庇った位だ。
「もう彼にとって力とは何かを守るための物へと変わってしまった。
だが、欲望の根元は破壊的だ。
例え全てを敵に回しても壊しても手に入れたい。
自分のものにしたい....それが欲望なのだ。
恐らく彼をバースの変身者に選べばそれで満足してしまうだろう。
私にはそれが耐えられない。
そんな消極的な欲望等......」
里中は理解不能と言う顔をしながら鴻上に告げた。
「では引き続きバース変身者の選定を続けます。
....所でさっきから気になっていたのですがそのケーキは一体誰の為のケーキなんですか?」
里中は先程から鴻上が作っている真っ黒のケーキが気になっていた。
鴻上は誕生日が大好きだ。
だからこそ、社員の誕生日には自分がケーキを作り送っている。
しかし、そのケーキには何の宛名も無かった。
「これは社員のためではない別の人物へ宛てたケーキだよ。」
「それは何方なんですか?」
「ん?分からない。」
「え?」
「分からないんだよ。
あの無名と会って気付いたんだからね。
彼の中にいる何かに.....一体何のためにいるのかは分からないが祝わない訳にはいかないだろう?
HAPPY BIRTHDAY!!"謎の存在"よ。
君がこの世界で何をするのか楽しみにさせて貰うよ。」
そう言うと鴻上はハッピーバースデーの曲を歌いながらケーキを完成させる。
名前の欄にチョコペンが書く。
Happy birthday
無名は鴻上への報告を終えると孤島にある自室で寛ぐ。
「全く、この二日間は本当に疲れた。
.....リーゼもお疲れ様。」
無名がそう言ってリーゼを見つめるが彼も無名のベットで寝ている。
今回は本当に疲れた。
オーズを助ける為に崩れる機材に向けて黒炎の矢を放ったり、アクセルが変身できる様にリーゼがライトを繋いでいるケーブルの電圧を上げて一時的に光量を上げたりと裏で暗躍していたのだ。
それにしてもオーズのあの黄色い姿には驚いた。
コンボと言うらしいが凄まじい熱量と技だ。
仮に余波でも当たっていたら僕は兎も角、リーゼは危なかっただろう。
まぁ、一番大変だったのはヤミーを倒した後に撒き散らされたセルメダルを回収することだったが.....
万が一にでも風都でヤミーを誕生させないために戦闘後、人知れずセルメダルの捜索を行っていたのだ(見つけたセルメダルは鴻上の元へと送った。)
部下を含めてクリスマス返上で動いた為、大なり小なり批判が出た。
特に家族持ちである黒岩の批判は凄まじかったが何とか事を運ぶことが出来た。
それにしてもクリスマスまで仕事漬けとは、どっかの社畜も真っ青だな。
だが、これで仕事も終わった。
ゆっくり休ませて貰おう....と思っていると携帯に着信が入る。
嫌な予感しかしないが電話に出る。
「はい、無名です。」
「
実は無名にやって欲しい仕事があるんだけど良いかしら?」
これは断る術がないな......
「えぇ、勿論。
僕は何をすれば?」
こうして無名のクリスマスは終わり何時もの仕事が始まるのだった。
その姿を鏡越しにゴエティアが笑っていた。
【全く、彼も大変だな。
そう思うだろ?"読者諸君"。
あぁ、安心したまえ....君の事を知っているのは私だけだ。
それよりも楽しんでくれたかね?
君達の時間軸では今日はクリスマスだ。
無名のように仕事漬けの者もいるだろう。
それか大事な誰かと過ごしているのかもな。
まぁ、どちらでも良いが.......
一年に一度の聖なる夜だ。
今回ぐらいは君達の安寧を祈っておこう。
それではまた何れ...何処かで......】
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本編
第百六十二話 Sの反乱/暴力の価値
武器や護衛も付けずに現れた灯夜は俺を...俺達の組織を見つめていった。
「中々"値打ち"がありそうですね。」
「あ?どういう意味だ?」
不満げに聞く俺に灯夜は答える。
「05と言う組織の価値の話です。
強く人を惹き付ける魅力がある....」
「そんなに誉めてくれるならお前が俺達の下につけば良いんじゃないのか?」
「えぇ、それも面白そうですが難しいですね。
確かに君の組織の価値は高い....だが一つの組織を纏めるだけで精一杯なんじゃないですか?
裏ファイトクラブとして有名になってはいますが力で抑え付けるだけじゃ反発が来る。
現に同業者から圧力が来てるんじゃないですかね?」
確かに今、同じ様に裏ファイトクラブを経営する同業者から俺は目の敵にされている。
"元ファイター"として戦っていた俺はガイアメモリと出会いその力に魅了された。
そして、俺はこの力を使ったファイトを昔いた組織に求めたが認められなかった。
"コストが高い"だの"只の殺し合いにそんな金を賭けられるか"ってな.....
だから、俺は昔の組織を抜けて新しい組織として05を立ち上げた。
"ガイアメモリを使ったファイトクラブ"....俺はその野望を叶えるためにこれまでやってきた。
だが、現実はそんな簡単には行かない。
ガイアメモリの単価は高くどんなバイヤーに話を通しても満足行く数のメモリを揃えることが出来なかった。
そんな中で灯夜が現れたんだ。
灯夜は目の前に持っていたアタッシュケースを放り投げる。
その衝撃で中身が開くとそこから大量のガイアメモリが姿を現した。
「私はガイアメモリを独自に仕入れられるルートを持っています。
玉城さん...貴方がもし私の元に来てくれるのならこれを全部渡したって良いですよ。」
破格の条件に俺は裏があると疑い尋ねた。
もし少しでも嘘を感じたら灯夜を殺せるようにメモリを手に忍ばせて....
「....何故だ?
何故そこまでする?
お前の組織には強いメモリ使いがいるんだろ。
そいつをけしかければこの組織を手に入れることなんて簡単だろう?」
「そうですね....けどそれじゃ意味がないんです。
私は貴方自身に興味があるんですよ。
ただ貪欲に強さを求めガイアメモリを使う貴方に....」
そう言って灯夜が俺に少し羨ましいと言う感情を向ける。
「貴方はガイアメモリを使ったファイトクラブを作りたいんですよね?
なら、私が力を貸します。
そして見せてください....貴方の野望の果てを」
俺はその言葉に引き込まれた。
今まで否定されてきた俺の野望の果てを見たい....そう言われたのは始めてだった。
コイツなら賭けても良いかもしれない。
そう思った俺はその場でセブンスへの加入を決めたのだ。
夜の風都の街の一角に立つ小さな建物。
嘗てはあらゆる人がここに来ては写真を撮っていた雀写真館は今となってはその面影もなかった。
寂れた扉の奥にあるのは古びたカメラとアンティークな机と椅子だけであった。
写真館を経営していた老夫婦が亡くなるとそこは恨み抱えた人の代わりに
ファイトクラブの観戦や参加を行うには予め連絡を受けていたバスに乗り込む必要があった。
奇しくもこの行動はマネードーパントが行っていた裏カジノである"ミリオンコロッセオ"と同じやり方だった。
故にフィリップに検索をしてもらった情報を頼りに翔太郎と照井は目的のバスへと乗り込んだのだった。
バスに乗り込むとお互いとなりの席に座る。
どうやら、まだ人が集まっていないのか中に入るのは翔太郎と照井だけだった。
翔太郎は帽子を下げて目元を隠すと腕を組み眠りについた。
だが、照井にはその裏が読み取れる。
(成る程、寝ている人間を警戒する者はいない。
見た目だけでもそうしておけば何かしらの情報が得られるかもな。)
照井も同じように腕を組み目を瞑ったふりをしていると
バスの中にどんどんと人が入ってくる。
それぞれの会話に耳を澄ませる。
「今日のファイトは楽しみだなぁ。」「今回は何人死ぬと思いますか?」「このファイトクラブだけが唯一の楽しみなんですよ。」
それぞれが下品た会話をする中、一つの会話に聴視する。
「兄貴、来ると思うか?」
「どうだろうな?
灯夜が言うには玉城は現れるらしいが.....」
「現れなかったらどうする?」
「そんなの決まっている....皆殺しにすれば良い。
そうすれば嫌が応でも出てくるさ。」
「アハッ!それもそうか!」
この場に似つかわしくない気配を携えた二人の会話を聞き翔太郎は帽子を少し上げ照井は薄目を開けて顔を確認する。
(コイツらは....確か風都署の資料室で顔を見たことがある。)
そう思っていると照井の携帯に着信が入る。
開くと翔太郎からメールが入っていた。
『コイツらについて何か知っているのか?』
翔太郎の問いに照井は答える。
『あぁ、コイツらの名前は東堂 鉄と剛、巷では"東堂兄弟"の名で有名になっている男達だ。
傷害に窃盗、殺人、重ねた罪を上げればキリが無い程の犯罪者達だ。』
『何故、東堂兄弟は警察に捕まっていないんだ?』
『捕まえる前に海外に飛ばれたんだ。
しかも、場所はその時に情勢が不安定で戦争が続いていた国だった。
噂ではそこで傭兵として働いていたらしい。』
『傭兵....となると戦闘能力は高そうだな。』
そんなやり取りしているとバスが止まり人が降りていく。
翔太郎と照井はそれに着いていくのであった。
写真館の中に通されると見張りの男達が目の前のソファを動かすと下に鉄の扉があり開けると中に入ることが出来た。
中へ入ると暗く先が見えないがコンクリートで囲われた広大な空間だと言うことは分かった。
辺りには黒いシミが多数付いておりそこが普通ではない場所だと実感させた。中に全員入ると入り口の扉が閉められる。
すると、ライトが付き眩しさに皆顔を伏せる。
目が馴れてくると自分達のいる場所の違和感に気付く。
周りを鉄製の檻によって囲われていたのだ。
その光景に内部にいる人間は動揺する。
「ど...どういうことだ!」「何で...私達がこんなところに!」「おい!出してくれ!」
そんな声が響く中、檻の外から男が現れてくる。
その男を見つけた者達は皆話しかける。
「玉城さん!これは一体どういうことだ!」
「そうよ!私はファイトが見られると思ってきたのに何でこんなことを!」
そんな話をしていると玉城と呼ばれた男が話し始める。
「皆様、今日もお集まり頂きありがとうございます。
今回のファイトは趣向をこれまでと変えまして観客であった皆様にも参加していただきます。」
「何っ!」「どういう事よ!」「意味が分からない!」
「ここに集められた人達は05の顧客の中でも比較的、利益を落とすのが少ない人達....言い換えれば切り捨てても問題のない人ばかりです。
ですので我らの利益のために今回のファイトに強制参加して頂こうと思いまして...」
「ふざけるな‼️ そんな事が許されるわけないだろ!
俺は意地でも帰らせてもらう!」
そう言って玉城の言葉に反発した一人の男が檻に触れると身体がいきなり痙攣し身体から煙を立てる。
「グギッ!グギギ!」
声とも取れない断末魔を上げると地面に倒れ伏した。
照井が駆け寄り脈を確かめる。
「.....死んでいる。」
「良い忘れていましたが....この檻には常に一万ボルトの電圧が流れています。
ドーパントの肉体ならばギリギリ耐えられるでしょうが生身では先ず生き残ることは不可能です。」
「生き残る手段はたった一つ....その檻にいる二人を殺せば解放されます。」
玉城はそう言うと東堂兄弟を指差す。
対して本人達はその事に驚きもしない。
「ふーん、俺達が部屋を開ける鍵の代わりなのかぁ。」
「粛清を防ぐために俺達を逆に消そうとするか。
それもゲームのルールとして.....
どうやら、思ったよりも」
「"楽しめそうだな"。」
鉄と剛は懐からメモリを取り出す。
そしてメモリを射そうとするが殺気を感じた二人はその場から離れる。
すると、先程まで立っていた地面に穴が空いた。
「そんな悠長にドーパントになるのを待つと思ったか?
お前らが相手をするのは檻の中だけじゃない。
外にいる彼等もだ。」
玉城の言葉を合図に檻を囲むようにドーパントが現れた。
「05が管理する成績上位のファイター達だ。
彼等もお前達の命を狙う....これで確実に殺す。」
そう言われた東堂兄弟の顔は少しだけ歪む。
「ありゃりゃぁ、完全に囲まれてるな兄貴。
メモリをつける暇もなさそうだ。」
「そうだな。
少しだけ厄介な状況だがやることは変わらない。
玉城....お前はここで殺す。」
そう言うと東堂兄弟は周りを警戒しながら臨戦態勢を取るのだった。
その光景を見ていた翔太郎はフィリップに尋ねる。
(フィリップ、周りを囲んでいるドーパントのメモリの種類が分かるか?)
翔太郎が玉城が東堂達と話している隙を使いダブルドライバーを腰につけた。
ダブルドライバーを付けると翔太郎はフィリップと繋がり無言で会話が行えるのだ。
(あぁ、東堂兄弟を囲うように布陣している四人のドーパントのメモリは同じだろうね。
見た目から見ると生物と言うより無機物か概念のメモリだね。
何かを撃ち出す能力があることは推察できる。
変わって僕達を囲うように固まっている六人の姿は全員違うから別々のメモリなんだろう。
あの四人のドーパントが殺られた時の保険か分からないけどね。)
フィリップの分析を受けて翔太郎は次の一手を思案する。
先ず照井も自分もやらないといけないのはメモリをドライバーをに装填し仮面ライダーへ変身することだ。
玉城の話を聞いた限りここに二人の仮面ライダーがいるとは思っていないだろう。
何とか変身することさえ出来ればチャンスはある。
だが、そのチャンスを作るのが難しかった。
(変身出来ればエクストリームの力を使ってコイツらを、全員倒せるがそんな事をすればここにいる一般人のにも俺が仮面ライダーだとバレる事になる。)
現に翔太郎達の変身はジュエルドーパントとの戦いの時に盗撮されていたらしく俺が変身する場面がバッチリ映っていたと照井から言われた。
今は照井の力で映像を差し替えてどうにかなっているが助けられた船内にいた人達が意識を取り戻せば翔太郎の事を話す危険性がある事は分かっていた。
照井が何とかすると言ってくれたから信頼はしているがそれでもこれ以上、余計に腹を探られる情報を翔太郎は与えたくなかった。
だが、だからと言ってここで指を加えてみているわけにも行かない。
照井も同じ考えなのかバレないように翔太郎へと近寄ってきた。
「どうする左?」
「難しいな。
メモリを起動したら確実に気付かれる...周りを囲われている以上、下手に動けない。」
「せめて、別の方向に"注意を向けられれば"良いんだが...」
「注意を向けるか....」
翔太郎はドライバーを通してフィリップと会話する。
(フィリップ、リボルギャリーに乗ってここに来るのにどれだけかかる?)
(今から準備すれば10分もかからずに到着するけどどうするんだい?)
(奴等の気を引いて変身するためにアクションが欲しい。
本当ならあまりやりたくないんだが.....)
そう言って翔太郎が計画を話すとフィリップは少し考える。
(.....うん、利に叶った作戦だと思う。
現状は時間が惜しいそれで行こう。)
(よし、じゃあ頼んだぜ。)
そうして意識内の会話を終えると翔太郎は照井に言った。
「照井、合図を出したら今、持っているメモリガジェットを全部起動してくれ。」
「分かった。
準備をしておく....」
会話が終わると照井は少し離れてメモリガジェットを起動前の状態にするのだった。
中身の状態で逃げ回っている東堂兄弟の顔に疲労が見えてきていた。
遠距離攻撃を行うドーパントが放つ弾を回避し続けていたからだ。
「はぁはぁ兄貴、ちょっとキツくね?」
剛の問いに鉄は答える。
「なら、止まるか?
命と引き換えに休めるぞ。」
「ははっ!それはちょっと嫌だなっ!」
剛は笑いながらも放たれる攻撃を回避する。
傭兵時代の経験とセブンスに入ってからのドーパントとの戦いにより、場数を踏んできている彼等にとってこの程度の攻撃を避けるのは難しくなかった。
だが、スタミナだけはどうしようもない。
四方向から放たれる攻撃を常に回避していたら止まって休むこともましてやメモリを挿すことも出来なかった。
(何か、きっかけでもあればこんな奴等直ぐにでも殺れるんだがな。)
何時もなら人質を使って変身すれば良いんだろうが玉城が俺達をターゲットだと言ってから俺らに近付く素振りも見せない。
多少無茶をして近付こうとすれば足下に弾が放たれて動きを止められてしまう。
これを繰り返すだけだった。
そしてそれは確実に二人のスタミナを削っていた。
そこで待ち望んだ変化が起きる上から突如轟音と揺れが起こった。
「何だ!何があった!」
玉城が焦りながら声を出すと檻の中に小型のガジェットが姿を現す。
そのガジェットの一体が強烈な光を放出した。
眩しさで周りにいたドーパントは目を背ける。
光が止むとそこには仮面ライダーWとアクセルは立っていた。
「バカなっ!仮面ライダーだと?」
玉城はその光景を見て驚く。
それは東堂兄弟も同じだった。
「マジかよ!仮面ライダー来てんじゃんwww」
「厄介事が一つ増えたな。」
そんな事を思っているとアクセルがスロットルを回し檻に向かう。
「下がっていろ。」
他の参加者がその言葉に従い下がると握り込んだ拳を檻に叩きつけた。
スロットルを回しアクセルメモリの力が蓄積されたパンチは檻を簡単に破壊し穴を開けた。
「ここから逃げろ。」
アクセルの言葉に周りを囲っていたドーパントが正気に戻る。
「させるかっ!」
そう言うとドーパントは檻に近付こうとするがその動きをWによって止められる。
「それはこっちの台詞だ。」
Wがドーパントを殴り飛ばすと天井に穴が空きエクストリームメモリが現れた。
エクストリームメモリを手に取りドライバーに装填する。
「XTREAM」
エクストリームになったWが周りのドーパントを全員を視界に入れると一瞬の内に検索が完了する。
『十体のドーパントの全てを閲覧した。
東堂兄弟を囲っている四体のドーパントのメモリは"カタパルトメモリ"だ。
能力は触れた物質の弾を生成し発射できる。
残り六体のドーパントは"アント"、ゼブラ"、"サイカス"、"アルマジロ"、"Tレックス"、バッファロー"だ。
どれも直接的戦闘力を強化するタイプだね。』
「よし種が分かればこっちのものだ。
一気に片を付けるぞ。」
そう言ってエクスビッカーにメモリを装填しようとした瞬間、アクセルが何者かに吹き飛ばされこちらに転がってきた。
『大丈夫か照井竜!』
「俺に....質...問を....する...な。」
アクセルはエンジンブレードを杖代わりにして立ち上がる。
強がってはいるが相当のダメージが入っていたのだろう。
そして、ダメージを与えた相手達が話しながら近付いてくる。
「何だ何だ...ずいぶんと呆気ねぇなぁ。」
「油断するな剛、コイツらは仮面ライダーだ。
確実に潰しておく必要がある。」
そう言いながら二体のドーパントが現れた。
それを見たフィリップが言う。
『コイツらは...気を付けるんだ!
奴等はドラゴンドーパントの時に現れた獅子神の手下だ。
メモリは"ベア"と"チーター"だった筈......
だが、君達はカタパルトドーパントに襲われていた筈だ。』
フィリップの疑問に鉄が答える。
「それはこのゴミの事か?」
そう言って後ろを指差す。
そこには無惨な死体と成り果てた四体のドーパントが倒れ伏していた。
『バカな....目を離していたのは精々"数十秒"だぞ。
その間に四体のドーパントを片付けたって言うのか?』
「理解できないならお前達も試しに受けてみるか?」
鉄がそう言うといきなりWの背中に衝撃が起こりベアドーパントの方へ吹き飛ばされる。
そしてベアドーパントは拳を握り込むと思いっきり振り抜いた。
咄嗟にプリズムビッカーでガードするが強力な一撃を受けたビッカーシールドにヒビが入った。
『ビッカーシールドにヒビを入れるなんて....一体どんなパワーをしているんだ。』
「集中しろフィリップ!"次が来る"ぞ!」
翔太郎の言葉通り、何者かが超高速でWへと近付いてくる。
盾で受けるとは危険と判断してプリズムソードで攻撃する。
しかし、振り抜いたソードの上にチータードーパントが立っていた。
「遅い遅い....欠伸が出そうな攻撃だなぁ!」
そう言ってチータードーパントはソードを蹴り上げてWの胸にドロップキックを行うとその反動でベアドーパントの元まで戻る。
『この速度....間違いなくトライアルと同等かそれ以上だ。
チーターメモリがこれ程、強力な力を持っていたんだなんて....』
「"力のベア"に"速さのチーター"か....厄介だな。」
「俺達、兄弟は何をするにしても一緒なんだ。
人を殺す時もな....傭兵時代から磨き抜いたコンビネーションはドーパントになったことで必殺の技へと昇華された。
はっきり言おう....この二人が揃った以上、仮面ライダーでも負けることはあり得ない。」
鉄が自信満々に言った言葉をWは否定できなかった。
それ程に強かったのだ。
「さて、無駄話はこれぐらいにして.....」
「そろそろ仕留めようか。」
そう言って鉄と剛はWを見据えるのだった。
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第百六十三話 進化するJ/狂いだした運命
見る度に実感する。
無名が使ったジェイルメモリにより左翔太郎とジョーカーメモリの適合率が上がっていく.....
その強さは当初シュラウドがWに求めていた強さに近くなっていた。
私が求めた最強のW....園咲琉兵衛を倒す存在....その完成が近づいていることが分かる。
私は無名を信用できない。
あの
だが、彼は私の求めるWを私の見限った左翔太郎で行おうとしている。
そこにどんな意図があるにしても利用できるならば利用する。
私は無名に渡したアタッシュケースを思い出す。
アレをどう使うのかシュラウドに推し量る術はない。
だが、それでも恐怖の帝王を倒せるならば問題はない。
「もうすぐ....もうすぐよ来人。
これが終われば私達は本当の家族に戻れる。」
そう言って笑うシュラウドの表情には悲しみが写っていた。
無名は一人、ミュージアムの所有する治療室にいるとある存在を見つめていた。
そこにミュージアムの構成員が現れる。
「失礼致します無名様。
セブンスの玉城と東堂兄弟が雀写真館で仮面ライダーと戦闘を行っていると報告を受けました。」
「そうですか.....思ったよりも早く衝突しましたね。」
無名は玉城の裏切りを知っていた。
何故ならそれを指揮したのは他でもない無名本人だったからだ。
獅子神と無名の戦闘を取った映像を見せて不信感を煽り代わりのポストを用意すると言ったら直ぐに食いついてきた。
だからこそ、玉城はセブンスを裏切りセブンスを指揮する灯夜は裏切り者の始末を東堂兄弟に依頼した。
そう....全てが予想通りに進んでいる。
この計画が成功すれば私は"最高の存在"を手に入れられる。
その為にもシュラウドに貰ったこれが役に....た....
【お前の目的は一体何なんだゴエティア。】
無名が私にそう尋ねる。
「随分とその力を使いこなせているようじゃないか....もう自由に私の意識に現れることが出来るとは」
【答えろ。
お前の動きは見させて貰った....ジェイルメモリをWに使い何を企んでいるんだ?】
「....まぁ、ここまで来れたんだ少しはヒントを与えようか。」
「ジェイルメモリは私が地球の本棚にいた頃から狙っていたメモリだ。
能力については君ならば分かっているだろう?」
ゴエティアに尋ねられた無名は答える。
【"メモリを挿した相手の感情と記憶の一部を奪い取る"....それがジェイルメモリの能力だと検索して分かった。
だが、何故、フィリップはこの情報を持っていないんだ?】
「それはシンクロ率の違いだよ....原作でも説明されていただろう?」
原作では地球の本棚とシンクロする比率が変わることで本棚に触れられたり逆に触れられなくなったりすると説明されていた。
それを利用してフィリップはジュエルドーパントの本を読んだのだ。
「あれには続きがあってな。
そもそもあそこで説明された比率は間違っているんだよ。
本に触れられず漂うだけなら本当はシンクロ率は"25%"で行える。
検索と本の閲覧には最低で"50%"のシンクロ率が必要なわけだ。」
【つまり.....原作よりもシンクロ率には先があるのか?】
「あぁ、それに関係してくるのが自分の使うメモリとの適合率だ....それが高くなれば地球の本棚とのシンクロ率も上げられる。
今の無名の体とデーモンメモリの適合率は"198%"....因みにここまで来ると本棚とのシンクロ率は"79%"だ。
もう少しで君の精神は私が本棚で存在したレベルと同等までには進化できる。」
【なら、俺もお前のように本棚の力を使えるようになるのか?】
「いいや、そう簡単じゃない。
本棚で力を使えば使う程、君の存在は地球の記憶へと同化していく....つまり今度は君が本棚に捕らえられる事になる。」
【.........】
「だから諦めて私のやることを黙ってみていろ。
もうすぐ全てが終わるんだからな。」
【待て!リーゼは.....リーゼはどうなったんだ?】
無名の問いにゴエティアは非情に答える。
「あぁ...."死んだよ"。
腹を貫かれたんだ...当然だろう?」
【.....嘘だ。】
「真実を聞いて心が乱れたな?
悪いがまた来られると面倒なんでなこの身体からシャットダウンさせてもらう。」
【待て....お前は.....いっ...た....い....】
無名との繋がりが切れるとゴエティアは立ち上がる。
そこに合わせて構成員の一人が話し掛ける。
「何処に行かれるのですか?」
「研究所です。
"部下の安否"を確かめに病院へ行ってから実験を始めます。」
「承知いたしました。
琉兵衛様にそう伝えます。」
無名はそう言うと部屋を後にするのだった。
雀写真館の地下ではWとアクセルが多数のドーパントを相手に苦戦を強いられていた。
Wは東堂兄弟を相手にし起き上がったアクセルは逃げようとする玉城の前に立ち塞がっていた。
「お前を逃がすわけにはいかん!」
「クソッ!おいお前ら、あの仮面ライダーもターゲットだ。
狩れば報酬を出すぞ!」
玉城の言葉に周りにいた六人のドーパントの内、三人(ゼブラ、アルマジロ、Tレックス)がアクセルを襲いその間に玉城は扉を抜けて逃げようとする。
その姿を見ていた東堂兄弟は苛立ちを覚える。
「ちっ!あの野郎、逃げる気かよ。
どうする兄貴、追うか?」
「そうしたいがこの
俺ら二人だから何とか戦えてるが一人になったら殺られるのがオチだな。」
鉄も剛も粗暴や口も悪いが"頭は悪くない"。
冷静に自分の状況と相手との戦力の差を分析して作戦を立てることが出来た。
でなければ傭兵として生き残ることは出来なかっただろう。
「まぁ、だからって逃がしていい事にはならねぇけどな。」
「んじゃ、どうするんだよ?」
「簡単だ....逃げる邪魔をしてやる。」
そう言うと
その光景を見た翔太郎は言った。
「照井"崩れるぞ"!」
「?」
その言葉に照井は一瞬、理解が追い付かなくなるが直ぐに答えが分かった。
鉄は両腕を地面に思いっきり振り下ろした。凄まじい衝撃により地下闘技場を支えていたコンクリートと鋼鉄の柱がへし折れて写真館がそのまま地下へと落下してくる。
その衝撃は写真館を倒壊させその全ての重さが地下にいる者達に振り掛かった。
凄まじい轟音と土煙が辺りを覆っている。
そんな地面から光の柱が上がるとそこからWと参加者数人が助け出される。
「....くっ!」
『ギリギリで"ビッカーファイナリュージョン"が発動して良かった。
でなければあの一撃で皆死んでいた。』
そうして近くの地面が盛り上がり破裂すると何かが飛び出しそこからアクセルトライアルも現れた。
アクセルの手にはボロボロになった人間が二人握られている。
「コイツらは?」
「俺を襲おうとしてきたドーパント達だ。
落下して下敷きになる前にトライアルで蹴り上げ続けた。」
『ドーパントを掘削機代わりにしたのかい?
全く無茶をする。』
「あぁ、全員生きてはいるがかなり無茶をしたからなっ!」
アクセルはそう言うと落下してきたアルマジロドーパントを蹴り伏せる。
ダメージが限界を迎えたアルマジロドーパントはメモリブレイクし人間の姿へと戻った。
「随分と無茶をしたな照井。」
「そうでもしないと逃げられなかった....左、お前の周りにいるのが助けられた者達か?」
「.....あぁ、この数人が限界だった。」
翔太郎は参加者を全員助けようとしたがマキシマムの力が足りず結局助けられたのは四人程度だった。
まただ....また救えなかった。
Wの力が強くなりエクストリームを使っても助けられない。
寧ろ助けられない人間が増えていった。
助けようと手を伸ばした先から死んでいく。
メモリを使った犯罪者の手によって.....
親っさんは言っていた"罪は憎んでも人は憎まない"。
どんな人間にも更正するチャンスがある...と
それは本当に正しいのか?
井坂やミュージアムに関係する者をそれで許せるのか?
そいつらは更正するのか?
更正させるために後何人犠牲者を出せばいい?
怒りの感情が募りコントロールが効かなくなってくる。
強く握りしめた拳と荒々しい感情にフィリップは心配する。
『翔太郎.....大丈夫かい?』
「"身体のダメージ"はない。
何時敵が来ても対応できる。」
『そっちのことじゃ.....』
フィリップがそう続けようとすると地面が爆発しドーパント体の東堂兄弟が現れる。
「やっぱり生きてたかぁ仮面ライダー。」
「テメェら、どうして無傷で出られたんだ?
あの崩落だお前達にもダメージがある筈だろう。」
翔太郎の問いに東堂兄弟は手に持っていた残骸を投げ捨てる。
それは人間の肉の一部だった。
それを見て翔太郎は理解した。
「お前ら...あの三人のドーパントを盾に使ったのか。」
「あぁ、俺の力でドーム状の形に成形して崩落を防いだ後、渾身の力がぶん殴って吹っ飛ばしたんだ。
まぁこれだけ崩落してれば玉城も簡単には逃げられないだろう。」
鉄の言葉に翔太郎が尋ねる。
「おい、どういう事だ?」
「俺らの任務は玉城の始末だ。
お前らが邪魔したせいで玉城が逃げそうだったんでな。
ちょっと"足止め"をさせて貰ったって訳だ。」
あれが....足止め?
コイツらは玉城を止めておくためにこんな被害を出したのか?
翔太郎の心が黒い何かに染まっていく。
精神が研ぎ澄まされ周りの音は全く聞こえなくなるが東堂兄弟の声だけがクリアに聞こえる。
だからこそ気付いてしまう。
無理だ....
当たり前の事なんだ....こんな奴らが更正することはない。
"生かして返せば"もっと沢山の被害が出る。
そんな未来は許せない....何よりそんな事を許したくない。
そんな事を考えていると無名が俺に言ってくれた言葉を思い出す。
「左 翔太郎さん.....
貴方にとって大切なのは"仮面ライダーWの片割れである自分"ですか....それとも」
「鳴海荘吉に教えられた"探偵としての自分"ですか?」
あの時、俺は探偵としての自分を選んだ"俺の心"がそう求めたからだ。
そして今も求めている。
"救う為の最善の選択をしろ"と......
もう心は決まっている。
おやっさん.....ごめん.....俺は.......
『翔太郎!返事をしてくれ翔太郎!』
沈黙している翔太郎にフィリップは声をかける。
しかし、この声に答えることはない。
そしてその隙をチータードーパントは見逃さない。
「油断し過ぎだぜ仮面ライダー!」
超スピードにより一瞬でWの背後に回った延髄を蹴り上げるがそれを翔太郎はノールックで掴み止めた。
「何っ!」
「照井....ここは俺達で何とかする。
お前は玉城を追ってくれ。」
「だが、それでは.....」
「俺達のことなら大丈夫だ。
それより玉城に逃げられたら後が大変だ。
.....頼む照井。」
「.....分かった。」
照井はトライアルメモリを使うと玉城を追った。
照井がいなくなると翔太郎はチータードーパントを目の前に引っ張り上げて回し蹴りを首に打ち込んだ。
「グハッ!コボッゴホッ!」
蹴られた本人はその威力から息が吸えなくなり地面に倒れる。
倒れているチータードーパントを睨み付けながらプリズムソードを引き抜くとマキシマムを発動した。
「PRISM MAXIMUMDRIVE」
「PRISM BREAK」
翔太郎はプリズムソードをチータードーパントの太腿へと突き当てて地面に縫い付けるように刺した。
「あがぁぁぁぁぁぁ!」
チータードーパントは刺された足を抑えながら絶叫する。
「足の神経と骨を繋ぐ部分を破壊した.....
その左足はもう使い物にならないだろう。」
「テメェ弟に何をしやがる!」
キレたベアドーパントは勢いのままWへと殴りかかる。
その攻撃を翔太郎は左手のみでいなし続ける。
「そんな感情的な攻撃が俺に当たるかよ。」
そう言うと翔太郎はベアドーパントに反撃を加える。
いなしてから肘を使いベアドーパントの顎を刈り取る。
何時ものベアドーパントなら効かない攻撃だがこの一撃によりベアドーパントの視界が歪み地面へと倒れそうになる。
そして落ちていく頭に向けて翔太郎の拳がヒットする。
グシャ!と言う生々しい音を響かせてベアドーパントは吹き飛ぶ。
「鼻が潰れたか....だがまだ"足りないな"。」
『.....翔太郎。』
翔太郎はフィリップの手にあるビッカーシールドを持つとその盾を使いベアドーパントの顔面を何度もそのまま殴り付けていく。
「ウガッ!アガッ!ギィ!」
殴る度に威力が上がっているのだろうぶつかる音が強くなり地面が揺れる。
『翔太郎!もう十分だ!
これ以上続けたら彼が死んでしまう!』
しかし、フィリップの忠告を聞かず黙って殴り続ける。
「兄貴から離れろぉ!」
そう言ってチータードーパントがWの背後を襲うように現れた.....左足を失ったまま
(まさか、左足を千切ったのか!
まずいこのままじゃ翔太郎が!)
『翔..!』
翔太郎に声をかけようとするがその前にチータードーパントへ向き直り首を掴み持ち上げる。
「そんな見え見えの奇襲が通じるわけがないだろう?」
翔太郎はそう言うとマキシマムスロットにメモリを入れる。
「JOKER MAXIMUMDRIVE」
翔太郎が何をするのか理解したフィリップは止めようとする。
『止めろぉ!翔太郎ぉ!』
「JOKER....EXTREAM」
翔太郎の放ったキックがチータードーパントへ直撃すると大きく吹き飛びメモリブレイクした。
人の姿に戻ると大量の血を口から吐き出し意識を失った。
「剛?.....剛!」
慌てるベアドーパントに翔太郎は告げる。
「心臓に向けて攻撃を打った。
あのマキシマムなら心臓はズタズタになってるだろう.....苦しみながら死ぬだろうな。」
「テメェよくも剛を....殺してやる、殺してやる!」
そうわめくベアドーパントに翔太郎は告げる。
「これまで散々人を殺してきてその道理は通らねぇだろう?」
「CYCLONE MAXIMUMDRIVE」
「テメェら兄弟は人殺しを生業として来た傭兵として生きて来たんだろ?」
「HEAT MAXIMUMDRIVE」
「なら勿論、自分達が死ぬ覚悟も出来ていた筈だ。」
「LUNA MAXIMUMDRIVE」
「お前達が踏みつけてきた
「JOKER MAXIMUMDRIVE」
ビッカーシールドにメモリを装填し終わるとエネルギーを解放する。
「BICKER FINALUSION」
膨大なエネルギーを持ったシールドでベアドーパントを顔面を吹き飛ばす勢いで殴り付けた。
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第百六十四話 進化するJ/奪われる切り札
翔太郎の放った攻撃はベアドーパントの顔面に直撃する筈だった......
『はぁはぁはぁ.....』
「これはどういうつもりだ?フィリップ。」
フィリップが右手で攻撃をずらしていなければ....
『それはこっちの台詞だ翔太郎!
君こそ何を考えている!
今の攻撃はメモリブレイクさせる目的じゃない。
人体を破壊し殺す為にマキシマムを使ったね?
鳴海 荘吉の教えを忘れたのか翔太郎!』
「覚えているさ.....だがなこの風都はおやっさんが生きていた頃とは違う。
お前も見て分かっただろう?
ガイアメモリが普及して様々な犯罪に利用された。
命の重さが軽くなり何人もの罪の無い人が怪我をし死んでいった。
こんなことをした犯罪者を既存の法律で裁くことに意味があるのか?
悪人がガイアメモリを持てば一般人よりもより多くの人を残酷に殺していく。
コイツらは傭兵をしてその後にガイアメモリを手に入れた。
そしてその力を使って何人も殺してきたんだ。
"罪を憎んで人を憎まない"....だがコイツらは例外だ。
罪が体の底まで染み込んでいる。
例えメモリブレイクしても再犯するだろう....だから殺すべきなんだ今ここで」
『そんなのは....間違っている。
間違ってるよ翔太郎!』
フィリップはそう訴えるが翔太郎はどうでも良い素振りでエクストリームメモリを閉じる。
エクストリームメモリのマキシマムドライブを使おうとしているすぐに分かった。
『止めろ!止めてくれ!』
「お前の話はコイツらの息の根を止めてから聞いてやる。」
『そんな事....させない!』
フィリップは再展開する前にエクストリームメモリをドライバーから引き抜いた。
その影響でWは変身解除すると翔太郎とフィリップは向き合う。
「お前は俺の相棒だろう?何故、邪魔をする。」
「相棒だからだよ。」
そんな話をしていると起き上がったベアドーパントが翔太郎に襲いかかる。
「翔太郎!」
フィリップが翔太郎を助けようとするが間に合わない。
翔太郎の身体にベアドーパントの攻撃が当たるギリギリでベアドーパントは吹き飛ばされる。
そして、そこから黒炎が一気に吹き出した。
その炎によりベアドーパントは苦しむ。
そこにデーモンドーパントが拍手しながら現れた。
「素晴らしい想定以上の結果ですよ左 翔太郎。」
「君が翔太郎をこんな風にしたのか!」
「いえいえ、私だけではなく彼女もですよ。」
そう言うと無名の背後からシュラウドが現れる。
「母....さん...」
「来人。」
「どうですかシュラウド?
貴女の求めた最高のWの素体として左 翔太郎は完成しました。」
「えぇ、そうね....彼こそ来人の....いえ完璧なWに相応しいわ。」
「何で....こんなことを?
何故、翔太郎にこんな酷いことをしたんだ母さん!」
「これも全て貴方の為よ来人。
今の左 翔太郎なら恐怖の帝王にも打ち勝つことが出来る。
これこそが私の求めた最高のWなのよ。」
「こんなのがW?....違う!鳴海荘吉が残してくれたものはこんな存在じゃない!
Wは兵器では無いんだ!」
そんな中、無名が話し始める。
「こんなところで油を売っていて良いんですか?
早く行かないと大変なことになりますよ?」
「どういう意味だ?」
「私がここに来たのは貴方がどこまで戦えるのは見るためです。
そこにいる
そう言うととある画面を見せる。
そこにはアリゲータードーパントと"生身の照井"が映っていた。
「さぁ、早く行かないと照井さんが死んでしまいますよ仮面ライダー?」
玉城を追いかけていたアクセルだったが簡単に見つかった。
片腕を抑えながら逃げようとする玉城にアクセルは言う。
「見つけたぞ。
もう逃げ場はない諦めるんだな。」
しかし、その言葉を玉城は一蹴する。
「ふん!この程度で追い詰めたつもりか?
東堂兄弟がいないのならまだ勝ち目がある。」
「
玉城はメモリを挿すと身体が変化しドーパントへと変異する。
照井も対抗するようにメモリを起動するとドライバーに装填した。
しかし、メモリを入れたのにドライバーが動くことはなかった。
「どういうことだ?何故、アクセルに変身できない?」
そう戸惑っている照井を玉城が見逃す筈もない。
「どうやら、アクシデントがあったようだな。
仮面ライダーになれないのなら貴様を殺すことは容易い。」
そう言って玉城は徒手空拳で攻撃を行い照井はそれを何とか回避する。
だが、完全には回避が出来ていない様で照井のライダースに切り傷が付く。
そこに翔太郎がバイクに乗ってやってきた。
後ろにはリボルギャリーが着いてきており、翔太郎のバイクが止まるとリボルギャリーからフィリップが出て来た。
ヘルメットを脱ぎドライバーを着けると翔太郎はメモリを起動する。
「JOKER」
だが、フィリップはメモリを起動しようとしない。
「どういうつもりだ?」
「今の翔太郎は危険すぎるWになったらどうなるか....」
そう言うフィリップの目には怯えが写っていた。
「......そうか。」
翔太郎はそう言うとドライバーにジョーカーメモリを装填してアリゲータードーパントに向かっていく。
「よっ、止せ!翔太郎!」
フィリップの状態を見てこれが普通ではないと理解した照井は翔太郎を止めようとするが突如ドライバーから電流が走り照井は感電する。
「ぐぁぁぁ!」
「余計な手出しは止めて貰おうかしら?」
そう言いながらシュラウドがリモコンを持って現れる。
「シュ....ラウド!」
「これはWの強さを測るために必要なこと.....邪魔をしては行けない。」
「ふざけるな!そんな....事....!?ぐぁぁぁ!」
抵抗しようとする照井にシュラウドはリモコンを操作してドライバーから電流を流す。
これにより翔太郎に近付けなくなった照井は踞ることしか出来ない。
アリゲータードーパントの攻撃を翔太郎は回避しながらも反撃を加えていく。
しかし、所詮は生身....アリゲータードーパントにダメージは無く寧ろ回避してもアリゲータードーパントの爪が翔太郎を傷付けていく。
頬を切り裂き顔から血を流しながらも翔太郎は立ち向かっていく。
(このままじゃ、翔太郎が死んでしまう!)
そう感じたフィリップはサイクロンメモリをドライバーに装填した。
『「変身」』
二人の掛け声も共に仮面ライダーWへと変身を遂げた。
だがその姿には違和感があった。
翔太郎側のボディから火花と電流が流れているのだ。
(前とは逆だ。
翔太郎の力に僕がついていけなくなっている....)
戦闘は劣勢に追い込まれた。
Wは攻撃を行おうとするが全て空回りしてろくに狙いも付けられずアリゲータードーパントからの攻撃を受けていく。
その光景を見ていたシュラウドは動揺し焦り出す。
「何故?.....何故なの!
理論上、このWの力は最高レベルの筈....なのに何故こんな状態に....あり得ない。」
そうやって動揺するシュラウドを嘲笑う様に
「やれやれ....やはりこうなってしまいましたか?」
「どういうこと?貴方がWに何か細工をしたの?」
「いいえ、何もしていません。
貴女の願いを叶えられる最高の素体へと左 翔太郎は変わりましたよ。」
「では何故こんな.....」
「....ふふ...」
「何が可笑しいの?」
「いえいえ、本当に分からないのかと思いましてね。
ガイアメモリやWについてはこの私よりも詳しいのに家族が絡むと本当に貴女の目は良く濁る。」
シュラウドが無名にシュラウドマグナムを向ける。
「答えなさい....さもなくば」
「原因は"来人君"ですよ?」
「え?」
想定外の答えにシュラウドの思考は止まる。
「Wのシステムは両者の力のバランスがとても重要です。
エクストリームに覚醒する前は来人君の力に翔太郎が付いていけず追いてかれてしまった。
今回は逆です。
翔太郎の強さに来人君がついていけてないんですよ。」
「そんなことあり得ない。
左翔太郎は凡人よ...来人の様な力もない非力な存在....なのに何故そんなことが」
「おかしいと思いませんでしたか?
本来エクストリームに覚醒する可能性がゼロだった筈なのに何故、左翔太郎はエクストリームの力を使えたのか?
確かに彼は貴女から見れば凡人でしょう。
地球の本棚に入る力もありませんしね.....
だがら貴女は見逃したんですよ。」
「左 翔太郎がジョーカーメモリを選んだと言う事実を.....」
「ジョーカーメモリ.....」
「最高と最悪の力の両面をはらんでいるメモリ。
その力を引き出せるトリガーは感情。
感情の力が左 翔太郎をここまで強くしたんですよ。」
原作でも左はジョーカーメモリの力に救われる場面がいくつもあった。
そのどれもが感情が爆発した瞬間に起こっている。
特に最終決戦であるユートピア戦....あれこそジョーカーメモリがあったから勝てたと言っても過言じゃないだろう。
「トランプでジョーカーは最強のカードであり最悪のカードでもあります。
だがもうひとつの側面もある。
それは"何にでもなれる"と言うこと.....
今の彼は来人すら凌駕する力を持った存在だと言うことです。」
「そんな....バカな....」
「そしてそんな彼だからこそフィリップでは役不足だ。
やはりここは.......」
「本物の悪魔と契約する方が良いでしょう。」
フィリップはWに変身して以降、ジョーカーメモリから流れてくる莫大なエネルギーに対応しようと必死だった。
だが、力の質が余りにも違いすぎた。
(これが....翔太郎が出している力。
ジョーカーメモリにこんな力があっただなんて....)
今のWは戦闘するどころかまともに歩行することすら出来ない程、左右の力のバランスがぐちゃぐちゃだった。
そこにアリゲータードーパントの攻撃が当たる。
『ぐあっ!』
「.......」
フィリップはダメージに怯むが翔太郎には全く問題がない。
(こんなにも....力の差が出ているなんて....)
動揺するフィリップに異変が起きた。
視界が暗くなり目を開けるとそこはリボルギャリーの近くであった。
力のバランスが崩れたことによる変身解除....それもメモリに乗せた精神事、弾かれてしまったのだ。
その現実を理解するとフィリップは翔太郎の安否を気に掛けるが翔太郎を助けたのは
ドライバーを着けているお陰で両者の会話に入り込める。
「どういうつもりだ?」
翔太郎がデーモンドーパントに尋ねると飄々と返す。
「大変そうなので手助けに来ただけですよ?
まさか、Wに変身できなくなってしまうとは思いも寄らなかったですよ。」
「御託はいい....目的は何だ?」
「私の目的は貴方です左 翔太郎。
貴方と契約をしたいのです....新たな悪魔との契約を...」
『契約だって!?翔太郎耳を貸すな!』
フィリップはそう言うがその声は小さく翔太郎に届かない。
(もう、ドライバー越しに会話出来ない程シンクロ率が落ちているのか。)
「私は貴方の力に興味があります。
代わりに私は貴方に戦える力を提供します。
Wに代わる力を......」
そう言ってデーモンドーパントは翔太郎に何かを差し出した。
しかし、距離がありそれが何なのか分からない。
「これを使えば貴方はまた戦うことが出来る。
そうすればそこにいるドーパントも殺せますよ?」
「..........」
デーモンドーパントから差し出された物を見て翔太郎は悩む。
「それが本当だと言う証拠もない。
お前との取引はリスクが高すぎるな。」
「では、試しに使ってみてください。
それで決めれば良い.....どちらにしても今のフィリップとでは貴方はWになれない。
昔、Wに変身できなくなった時と同じです。
現状をクリアするにはどんな力でも使うべきだ....違いますか?」
デーモンドーパントの言葉に翔太郎は黙って差し出された物を受け取るとフィリップと翔太郎のリンクは完全に切れてしまった。
そしてフィリップの腹部からWドライバーが消失する。
これは翔太郎がWドライバーを自ら外したに他ならない。
そして、その何かを翔太郎が着けるとメモリを起動する。
「JOKER」
そして翔太郎はジョーカーメモリを何かに装填すると展開した。
「.......変身。」
小さくかけられた声と共に翔太郎の身体に紫のエネルギーが纏われる。
それが生体装甲へと変化すると翔太郎は仮面ライダーへと変身した。
その姿はロストドライバーを使って変身して仮面ライダージョーカーと酷似していた。
だが、両目に縦の傷が入りそこに赤と紫のエネルギーが流れる。
その姿を見たデーモンドーパントは笑う。
そしてフィリップは絶望した。
手放さないと固く決心した唯一無二の相棒を悪魔に奪われた。
その姿を見てフィリップはそう実感した。
Another side
加頭は周りが薄暗い部屋の一室に琉兵衛を案内した。
そこには無数の扉が存在しているだけで他には何もな
ここは財団が保有するこの世界とは隔絶された空間に建てられた建物の内部であった。
先日、琉兵衛が加頭に求めたイコン画を見れる事となり加頭に案内されて連れてこられた。
「何とも不可思議な場所だなここは.....」
「えぇ、財団がこれまで手に入れて来た技術を使い作られた空間です。
それぞれが独立した時間を有しておりここを所有できるのは財団の上層部にいるメンバーのみである。
そして、在る扉の前まで来ると立ち止まる。
「ここから先は私が行ける資格を持っていません。
ですので琉兵衛様、一人で進んでいただきます。」
「分かった。
協力に感謝するよ加頭君。」
そう言うと琉兵衛はその扉を開けて中に入っていった。
琉兵衛の前に広がった光景は大量の書物が積み上げられた空間に一つの玉座が置かれた空間だった。
そして、玉座に座る男は本を読んでいる。
年と背格好から見ても琉兵衛より圧倒的に若い筈なのにその姿には年長者の風格が備わっていた。
「ここに客人が来るなんて珍しいな。」
男は琉兵衛を見ずにそう告げた。
「加頭君に頼んで来させて貰ったんだよ。
あるイコン画を見たくてね.....」
「イコン画.....あぁ、"創生のイコン画"か。
見せるのは構わないがその目的を聞きたいな。」
「私の仮説を立証させるためにもそのイコン画に写る続きの絵がどうしても必要なのだ。」
「仮説?.....君は学者か何か?」
「まぁ、似たようなものだ。
そう言う貴方は何故ここに、加頭君からは君が財団の上層部に所属する以外の話を聞いていないのでね。」
「......俺はこの世界の成り立ちと意味を知るためにここにいる。
何故、力が存在するのか?何故、争いがうまれるのか知るためにね。」
「どういう意味かね?」
「君の世界ではどんな力がある?
"生まれ持った力"?それとも"作られた力"か?」
「......恐らくどちらとも言えるだろう。
私はガイアメモリ....作られた力を使っているがね。」
「ではその力は、一体どこから産まれた?
本当の意味で人間が作り出した力なんて存在しない。
"ショッカーが行った改造人間"も地球に存在する生物の力を使っただけだ。
何故、そんな強大な力がこの世界に存在すると思う?」
「それは地球がそれだけの力を内包しているからではないのか?」
「では
他にも
地球ではない場所から産まれた力が地球へとやってくる。
何故だ?何故地球を選んだ?地球に一体何があるのか?
俺はそれを知りたい....それを知れば俺が産まれた意味も分かる筈だ。」
「産まれた意味?」
「俺は怪人と人間が争い続けている世界から来た。
兄弟の様だった存在と戦い....そして敗れた。
そして、勝ったアイツは....悲惨な末路を辿った。
その運命すら力が産み出した物なのだとしたら俺は許さない。
その正体を探りだして必ず殺してやる。」
そう言う男の目には復讐に歪んだ色が写っていた。
「..........」
「あぁ、自己紹介をしてなかったな。
俺は
「前の世界では
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第百六十五話 Dの意味/解き放たれた枷
「まさか.....翔....太郎...。」
フィリップは翔太郎が変身した姿に動揺していた。
ジョーカーメモリを使った単体の変身は見たことがあった。
だが、これは全く違う強さを持った存在だった。
翔太郎は変身した自分の身体を確認するとアリゲータードーパントへ走っていった。
その行動をデーモンドーパントも止める様子はない。
翔太郎の放った拳がアリゲータードーパントの肩に突き刺さると紫のエネルギーがアリゲータードーパントの体内に侵入し爆発した。
肩の肉が爆発により弾け飛ぶ。
「うぐぁ!」
アリゲータードーパントは吹き飛ばされた肩を抑えながら離れる。
「成る程、殺意を感じ取ったジョーカーメモリだとこの様な攻撃も出来るのですね。
ドーパントとして強化された肉体を吹き飛ばすなんて....凄まじい威力だ。」
アリゲータードーパントも自分の不利を悟ったのか逃げようとするが翔太郎は地面を踏み砕きコンクリートの破片を作るとそれにエネルギーを乗せて蹴り飛ばした。
"紫と赤黒いエネルギー"を纏った破片がアリゲータードーパントへと向かう。
それがアリゲータードーパントの左足に当たるとエネルギーが纏わりつくように結晶化して固まった。
左足から煙を上げて溶かされる音がする。
痛みからアリゲータードーパントは逃れようとするが1歩も動けない。
そこにゆっくりと翔太郎が近付いていく.....
ジョーカーメモリを抜きマキシマムスロットへと装填する。
「JOKER MAXIMUMDRIVE」
そして、一瞬の内に近付くとアリゲータードーパントの胸に向けてキックを放った。
「JOKER....EXTREAM」
キックが当たるとアリゲータードーパントの動きが停止する。
そして次の瞬間、背中からエネルギーが爆発するように抜け出るとメモリも粉々になってしまった。
人間の姿に戻った玉城は口から大量の血を吹き出す。
「ゴボッ!」
身体の痙攣が始まり倒れそうになるが固められた左足がそれを許さない。
「ジョーカーメモリのエネルギーを胸に打ち込み爆発させましたか....あの様子ではもう持たないでしょうね。
地獄のような苦しみを味わいながら死ぬ....それがあの男の末路ですか。」
その光景をデーモンドーパントがそう分析する。
「まだだ....お前の罪はもっと重い。
地獄の苦しみの中で自分の罪を数えろ....」
翔太郎はジョーカーメモリを再度マキシマムスロットへ装填する。
トドメを刺すつもりなのは誰が見ても明白だった。
「止めるんだ翔太郎!!本当に死んでしまう!」
フィリップはそう言って止めようとするがそれをデーモンドーパントの黒炎が邪魔をする。
「余計なことはしないで貰おう。
今、良いところ何だからね。」
動き出そうとする翔太郎の身体をアクセルが止めた。
「止めろ左!人殺しに成り下がるつもりか!」
「チッ!シュラウドが電流のスイッチを切りましたか。
だが、これもこれで良いかもしれませんね。
最強のジョーカーVS仮面ライダーアクセルトライアル...どちらが勝つのか楽しみです。」
身体をアクセルにより抑えられている翔太郎は言う。
「邪魔をするな照井.....コイツはここで始末する。」
「今のお前は左ではない....だから止める!」
「そうか....ならお前も俺の敵だな照井。」
翔太郎はアクセルの拘束を振りほどくとキックを放った。
しかし、トライアルの速度により完璧に回避される。
「このトライアルの速さに着いて来られんだろう。
お前が玉城にトドメを刺そうとする限り何度も邪魔をする。」
「....ならこれを使うだけだ。」
翔太郎はトリガーメモリを取り出すとマキシマムスロットに装填した。
「TRIGGER MAXIMUMDRIVE」
スロットを押すと手にエネルギーが集束し銃の形を型どると黒いトリガーマグナムが翔太郎の手に現れた。
「何っ!」
「ジョーカーのエネルギーを集めて武器を生成しましたか。」
そして作り上げたトリガーマグナムを照井に向けて放つ。
照井は回避しようとするが着弾したのは照井のいる地面周辺であった。
当たった箇所に紫のエネルギーが広がるとそのエネルギーが照井を襲う。
「ぐぁぁぁぁ!」
広がったエネルギーが照井の身体にダメージを与えて無数の火花が上がる。
本能的にトライアルのスピードでその場所から抜け出すとアクセルメモリをドライバーにさして赤いアクセルへと姿を戻した。
「防御力の低いトライアルでは不利だと考えて元のアクセルに戻りましたか.....でもそれは悪手ですよ?」
デーモンドーパントの言葉は現実の物となる。
「METAL MAXIMUMDRIVE」
翔太郎は素早くマキシマムスロットのメモリをメタルメモリに変えるとトリガーマグナムがエネルギーの姿に戻り今度は黒いメタルシャフトが姿を現した。
「照井....俺はお前を殺したくはない。
だから少し寝ておいてくれ。」
黒いメタルシャフトに翔太郎はジョーカーメモリを装填する。
「JOKER MAXIMUMDRIVE」
「JOKER BRANDING」
メタルシャフトにジョーカーのエネルギーが集まるとそれを回転させながら翔太郎はアクセルを吹き飛ばすようにメタルシャフトを操った。
アクセルは振るわれた攻撃をガードするが吹き飛ばされビルのコンクリートに激突し穴を空けるとドライバーが吹き飛び変身解除された。
地面に倒れた照井は意識を失いその場で動けなくなった。
倒れた照井を見ること無く翔太郎は玉城の元へ向かう。
それを震えながらも走っていたフィリップが止める。
「もう止めるんだ翔太郎!こんなこと....翔太郎らしくない!」
「俺らしい?.....それはハーフボイルドな俺のことか?
だろうなきっとフィリップに、とってはそれが良いんだろう。
だがな、そんなんじゃ誰も守れないんだよ。
俺はこの力でドーパントを殺す....一人残らず。
そして風都を守って見せる。」
「そんなの....仮面ライダーじゃない!
風都の市民が求めるWじゃないただの殺人者だ!」
「だけどそれがシュラウドが本来求めたWの本質ですよ。」
二人の会話にデーモンドーパントが割り込む。
「恐怖の帝王を倒すために冷酷に敵を刈る殺戮マシーン....それこそがWシステムであり仮面ライダーWのオリジンです。」
「違う!...そんな事は断じてない!
そんなWでは意味がない。」
「ではフィリップ。
君は何故....."一度相棒を見捨てようとした"んですか?」
「!?」
「エクストリームに覚醒し翔太郎とWへ変身が出来なくなった時、貴方は照井 竜と組むことを本人に提案しましたよね?
それは自分自身が良く分かっているからでしょう?
変身できないWに価値がないと....」
「違...う...あ..れ....は!...ハァハァ!」
フィリップは否定しようとするが言葉が見つからず過呼吸を起こして片膝をついてしまう。
それを見たデーモンドーパントは翔太郎へと顔を向けた。
「これが真実です左 翔太郎。
貴方は一度、相棒に見捨てられた。
Wに変身出来なくなってね....そしてジョーカーメモリで覚醒して変身できるようになったから相棒を続けていた...."そんな程度の関係"なんですよ。
否定出来ずに踞る彼が何よりの証拠ですよ。」
「貴方に必要なのはWシステムでもフィリップでもない。
私の作り出した"デモンドライバー"と
大丈夫....フィリップには当初の計画通り、照井 竜とWになれば良い...何の問題もありません。
貴方は自らの心が望むままに従えば良い。
さぁ、トドメを刺しましょう!...
デーモンドーパントの言葉を聞き翔太郎は玉城の元へと進み始める。
過呼吸になりながらもフィリップは翔太郎の足を掴むが振り払われてしまった。
そうして倒れるフィリップをデーモンドーパントは支える。
「さぁ、良く見て上げてください。
貴方の相棒.....いえ元相棒が"母親の願い通り"
"人殺しへと堕ちていく"瞬間を.....」
玉城に向けて翔太郎がメタルシャフトを振りかぶる。
意識が朦朧とするなかでもフィリップが彼を止めようと手を伸ばすが届かない。
そして玉城の頭へと振り下ろされたメタルシャフトは.....
"仮面ライダーエターナル"によって防がれた。
「お前は.....」
「よう、翔太郎。
暫く会わない内に酷い顔になったな?」
「今度は貴方が出てきますか大道 克己。
全く、本当に退屈させてくれませんねこの
「ふん、悪いがこれを許したら全てが終わる気がしたんでな。
全力で止めさせて貰う。」
「出来ますかねぇ?
貴方一人で.....」
「誰が"一人だ"と言った?」
克己の言葉を合図にデーモンドーパントの元へ車が突入してくると中から堂本と芦原が現れデーモンドーパントをフィリップから引き剥がした。
そして、倒れそうになるフィリップをレイカが支える。
「君.....は....」
「あんまり喋んない方が良いよ。
アンタもかなりダメージがあるんだからさ。」
レイカはそう言うとフィリップの懐からヒートメモリを取る。
そして、NEVERドライバーを腰に付けるとレイカはメモリを起動した。
「HEAT」
「変身」
レイカはメモリをドライバーに装填すると勢い良く展開した。
レイカの身体を爆炎が包みその姿を仮面ライダーへと変化させる。
その姿は女性的でスラッとしており両足には謎の装備が付きその姿はまるでヒールを履いているようにも見えた。
変身が完了するとデーモンドーパントへと向かっていく。
そして、強烈な蹴りを与えた。
「挨拶も無しに攻撃とは...マナーがなっていないのでは?」
「多分ね...社会と国語は苦手なのよ。
でも、奇襲には持ってこいの行動でしょ!」
レイカの連撃によりフィリップとの距離が空いた。
そこに芦原が近付いてくる。
「おい!動けるか?」
「.......」
「しっかりしろ!左 翔太郎を失っても良いのか?」
その声にフィリップは正気を取り戻す。
「!?....僕は」
「左の相手は克己が行っている。
無名に関してはレイカと堂本が抑える。
フィリップ、君には吹き飛ばされた照井の回収と打開策を考えて欲しい....出来るか?」
「問題ない直ぐに動くよ。」
フィリップはそう言って立ち上がるとリボルギャリーに乗り込んで行ってしまった。
(問題ないか.....下手な嘘だな。)
フィリップはこれまでに無い程、動揺している。
相棒を奪われ、自分の目の前で相棒が嫌っていた筈の殺しを見せられそうになったのだ。
これで動揺するなと言う方が酷だ。
(今はそっとしておくしかないな。)
芦原はそう結論つけるとレイカの援護に向かうのだった。
ジョーカーとエターナルの攻防は熾烈を極めていた。
翔太郎はメタルシャフトを捨てて徒手空拳でエターナルに挑み、エターナルはエターナルエッジとマントを使い翻弄しながら戦っていた。
だが、その戦いは危険なものだった。
ジョーカーの拳がマントに触れるとマントが弾けて千切れてしまう。
あらゆる熱、冷気、電気、打撃などを無効化する絶対防御のシールドである"エターナルローブ"が破損する。
それ程、今のジョーカーの力は異質なものだったのだ。
戦える手札を減らされていくエターナルにとって持久戦は不利になると悟りジョーカーから少し離れるとエターナルメモリのマキシマムを発動する。
「ETERNAL MAXIMUMDRIVE」
メモリの使用不能にさせるエターナルのマキシマムはジョーカーにも有効だった。
メモリから火花が出ると出力が安定しなくなりジョーカーは膝をつく。
「これで終いだ。」
エターナルがそう言うと翔太郎の目の前に黒いエネルギーが現れ中からエクストリームになったデーモンドーパントが現れる。
「ETERNAL....起動。」
そう言うとジョーカーの身体に起こっていた現象が収まる。
「くっ!エターナルメモリの力に干渉してきたか。」
「ここで、彼を奪われるわけには行かないんですよ....仕方ありませんね。
彼に命を奪わせてこちら側へ取り込む手筈でしたが、こうなっては目的を果たすことは難しそうだ。
ですのでこうします!」
そう言うとデーモンドーパントは周囲に黒炎を発生させて空間を切り開いた。
「逃げるのか?」
「えぇ、彼を手に入れることは出来たのでここは引きます。
それにその男を殺したら間接的に左 翔太郎が殺したと出来ますから...まぁ良いでしょう。」
「待て、お前は何者なんだ無名で無いのならお前は....」
「単なる"悪魔"ですよこの風都にいる......」
「"もう一人の悪魔"です。」
Another side
信彦が琉兵衛をとある部屋へと案内した。
そこには壁一面に大きく描かれたイコン画が飾られている。
その美しさは琉兵衛すら息をするのを忘れさせた。
「これが.....創生のイコン画か?」
「そうだ。
ここには神と人間の歩んだ歴史が記されている。」
仮面ライダーアギトと言う作品でこのイコン画はとても重要な意味を持っている。
その絵は上から下に向かって物語が進んでおり.....
混沌から生まれた
これこそが人類が歩んだ業と進化の歴史。
アギトの世界線において人間がアンノウンに襲われる原因となった現況でもあった。
「当初は財団もこのイコン画はこれで完成していると思っていた......だが違った。
始まりが違っていた.....混沌から生まれた神についてのイコン画が本当はあったんだ。」
「何故、それが現代では残っていなかったんだ?」
「奪われたんだよ....多数の世界を移動する
この続きを探すのには苦労した。
財団がその存在全てをかけて漸く手に入れたんだ。」
そう言うと手元にある機械を信彦は操作する。
するとイコン画が反転し新たなイコン画が目の前に現れた。
「これが、奪われていたイコン画の続き....本当の始まりだ。」
「これは......」
そのイコン画は最初に見た物とまるで違っていた。
最初を希望と現すのならこれは絶望を現しているように見える。
一番上は真っ黒で何も存在しない世界にいる多数の存在が描かれ下に進む事に消えていき残った者達はバラバラに散っていった。
そして、その中の数百人が身体を削り本が沢山収められた空間を作った。
しかし、その空間により世界に亀裂が入ったのを止めるため女性の姿をした何かが粒子となって地球を作りだした。
そして、本棚と地球から線が伸びてその線が混沌となり神へと繋がっていた。
これをそのままの通り受け取るのなら.....
「まさか、地球とは.....」
「そう、神よりも上位....いや神すらも作り出した"超越者"が自分の存在を犠牲にして産み出したんだ。
そして、その上にある本棚....これは貴方なら分かるだろう?」
「地球の本棚だね。
その超越者の力が集まって作られた空間。
だとすれば"ゴエティア"の正体は.....」
「この超越者について何か知っているのか?」
信彦の問いに琉兵衛は答える。
「まぁね、だが君の求めている存在とは違うだろう。
そして、もし私の想像通りだとすれば......」
「超越者にはまだ"秘密"がある。
そしてその秘密を知ればゴエティアの目的も分かるだろう。」
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第百六十六話 Dの意味/母親の願い
デーモンドーパントが仮面ライダーヒートとNEVER二人と対峙しながらもジョーカーの動向を見つめていた。
「ムカつく...私達を相手にしてても余裕があるって言いたい訳?」
ヒートの問いにデーモンドーパントが答える。
「まさか、ただ気になってしまうんですよ。
ジョーカーとエターナルの戦いがね。」
「そんな余裕剥ぎ取って上げるわ!」
ヒートは飛び蹴りをデーモンドーパントに向けて放つ。
それを腕でガードするとズドン!と言う音と共にデーモンドーパントの腕から火花が上がった。
「これは....成る程、面白いですね。
まさか、"トリガーマグナムを足に搭載する"とは」
「余裕ぶっこいてるとこ悪いけど攻撃はこれからだから」
そう言うとヒートはブレイクダンスの様に足を動かしながらデーモンドーパントに攻撃を行った。
その都度、両足に付いているマグナムが火を吹く。
(少し面倒ですね....下がりますか。)
デーモンドーパントは翼を展開しようとするとそこを狙い済ました様に蹴りの応酬を加えた。
その威力は高く一瞬でデーモンドーパントの翼が穴だらけになる。
「あんたを克己の元には行かせないわ。」
「これは厄介だ.....仕方ない。
あれを使いますか。」
そう言うとデーモンドーパントは地面に手を触れる。
「
突如、黒いエネルギーが無名を中心に周囲を侵食する。
「触れたら一瞬で終わるエネルギーです....さぁどうしますか?」
「触れてダメなら触れなきゃ良いのよ!」
ヒートは両足の銃を連射してその反動で空へと浮遊する。
「アンタには聞きたいことが山程あるの....だから一発で決着を付けて上げる。」
ヒートはメモリをマキシマムスロットへ装填する。
「HEAT MAXIMUMDRIVE」
「えぇ、貴女ならばそうすると思ってました。
ですがお仲間はどうでしょうかね?」
そう言ってデーモンドーパントは広げたエネルギーを芦原と堂本へ向かわせる。
「まさか、最初っからそれが目的で!....クソッ!」
ヒートは両足の銃の反動をうまく使い二人の近くまで言うとマキシマムの力で凝縮された炎のエネルギーを地面に解放した。
侵食するエネルギーとの境に炎の壁が打ち上げる。
両者が接触し爆発すると土煙が舞いそれが収まる頃にはデーモンドーパントの姿は無かった。
「クソッ!逃げられた。」
レイカは変身解除して他メンバーと共に克己と合流するのだった。
翔太郎のいなくなった鳴海探偵事務所に現在いるのは帰って来たフィリップと鳴海 亜樹子....そしてレイカと京水を除いたNEVERのメンバーだけだった。
「そんな.....翔太郎君が....」
翔太郎が無名の元に行った....その事実を亜樹子は受け入れることが出来ないでいた。
「竜君は?.....竜君はどうしたの!」
その問いにフィリップが力を無くしながら答える。
「重症だ....だが命に別状はない。
暫くは病院で絶対安静らしいけどね。」
「そうなんだ。
でもこれからどうするの?
翔太郎君がいないんじゃ....」
「何とかする....その作戦をたてるから暫く一人にしてくれ。」
フィリップは一人自分のラボへ入っていく。
「どう考えても駄目そうだなフィリップは....」
「それだけ翔太郎君を信頼してたからフィリップ君も....」
「そうか....大切な相棒だからな。」
克己はそう言ってフィリップの後ろ姿を眺める。
そして克己は部屋を出ようとする。
「何処に行くの?」
「シュラウドを探す.....翔太郎の状態を一番良く分かるのはあの女だ。」
「でも、シュラウドは翔太郎君をあんな風にした無名に協力してたのよ。」
「それを言うなら俺達も無名の仲間だ。
今の無名は別人だから同じにはされたくないがな。」
「でも.....だからって」
「個人的感情を捨てろとは言わん。
だが現実問題、フィリップの力だけではどうにも出来ない。
エターナルのマキシマムをデーモンドーパントに無効化されたとなれば俺に取れる対抗策は限られてくる。
まぁでも優しく頼むつもりはない。
力付くでも連れてくるさ.....それよりも今はフィリップに着いていてやってくれ。」
「うん、ありがとう克己さん。」
亜樹子からお礼を言われた克己は外に出る。
中の話を聞いていた堂本が克己に言う。
「克己がそんな優しい顔をするなんて珍しいな。」
「ほっとけ....それよりレイカはどうだった?」
「やっぱり、京水と同じ症状が出た。
本人は行く気満々だったが俺が止めてきた。」
「仕方ないだろう。
NEVERドライバーを改善するには無名の力がいる。
だからこそ、あの時に決めておきたかったんだがな...」
克己は無名の狙いが翔太郎かフィリップのどちらかだろうと考えておりだからこそあの時は完全に決めるつもりで戦力を組んでいた。
だからこそレイカにNEVERドライバーを使わせたのだ。
それが失敗したとなるとNEVERとして打てる手段は無い。
つまり、フィリップかシュラウドの力が絶対に必要となるのだ。
(俺は俺のすべきことをする.....だから
克己はそうしてシュラウドの居場所を探すのだった。
(どうして....何故こうなったの?)
何とかアジトに帰って来たシュラウドは目の前で起きた事を認められず酷く動揺していた。
(私の考えたWは完璧な筈だった....なのにろくに戦うことが出来なくなり逆に無名が渡した"デモンドライバー"を使いフィリップを身限った。
あの
デモンドライバーは予てより無名に依頼されていたドライバーだ。
見た目は黒いロストドライバーだが性能やシステムが全く違う。
先ず、ドライバーを使用するにはメモリとの適合率が100%を越えているのが最低条件であり更にメモリのエネルギーを複製し限界以上の力を発揮させるシステムを導入していた。
つまり、"一本のメモリの力を二本分に変えている"。
だからこそ、デモンドライバーを使えるのは無名クラスの適合率を持つ存在だけだと思っていた。
だからこそあのドライバーは元々、無名が使用するために作られたのだ。
だが無名はそのドライバーを翔太郎に渡し、翔太郎はそれを使い仮面ライダーへと変身を果たした。
全てがシュラウドの予想を超えていた。
しかし、そんな事よりもシュラウドの心に残っているのは息子の表情だった。
(翔太郎が無名に奪われたと知った時のあの失意と絶望の表情を見て....私は逃げてしまった。
初めて来人を見捨てた...何故なの?
私は何であんなことを!!)
苛立ちから机を叩く。
そんな姿を嘲笑う様に大道克己が現れた。
「随分と苛立っているなシュラウド。」
「何の用?」
「左 翔太郎を取り戻す....その為に力を貸せ。」
「バカな!...そんな事に私が協力するとでも」
「そんなものは期待していない。
拒むなら力付くでも連れていく。
お前がフィリップの母親だろうと..."息子を傷つけて逃げ出すような腰抜け"に手加減をするつもりはない。」
「何ですって!私が来人を傷つけたと言うの!」
「フィリップのあの表情を見ただろう!
翔太郎が変わった原因に関わっておいて無関係を装う気か?
随分と面の皮が厚いんだな。」
「私を苛立たせたいの?
.....なら死ぬ覚悟をした方がいいわね。」
「上等だ....俺もお前には苛ついている。
息子を置いて逃げ出すような奴を許す程、俺は心は捨ててない。」
克己がロストドライバーを着けると遠くから声が聞こえてくる。
「止めなさい....."克己"。」
その声がした方に克己は顔を向ける。
「お袋.....」
そうして車椅子に乗った大道マリアとそれを押すフードの男が現れた。
「貴女は....大道マリア。」
「えぇ、お久し振りねシュラウド....いいえ文音さん。」
そうして、挨拶する二人を他所に克己が尋ねる。
「待て!フードを被っているお前は何者だ?
内の仲間にお前のような奴は存在しない筈だが...」
その問いに男は答える。
「当然だよ...私は君達と面識はない。
だが、孤島にはいたんだよ....無名に治療して貰ってやっと動けるようになったからね。」
そう言って男はフードを外す。
「私の名前は須藤 霧彦....前は園咲 霧彦と名乗っていたがね。」
「霧彦....確か無名が治療している者の名前だったな。」
「あぁ、漸く動けるまでに回復したんだ。
まさか、目を覚ました時に雪絵と顔を合わせるとは思わなかったが....起きた途端、泣きつかれてしまって事情を聞くまで時間が掛かったよ。
無名が別の存在に身体を奪われているとはね.....
私も無名には恩がある...だから君のお母さんを風都までお連れしたんだよ。」
「ありがとう霧彦さん。
これで文音さんと話せるわ。」
「私に....何の話があるの?」
「克己、霧彦さん.....悪いけど」
「あぁ、克己君と言ったね?
二人だけで話をさせて上げよう。」
「.....お袋はそうしたいのか?」
「えぇ、お願い克己。」
「.....分かった。」
そう言うと克己は部屋を出ていく。
「では、終わったら呼んでくださいね。」
「分かったわ霧彦さん。」
そう言うと霧彦も部屋を出ていった。
二人の間に沈黙が流れる。
その沈黙を破ったのはマリアだった。
「久し振りに会ったのに黙っちゃったら悲しいわ。
少しはお話をしましょう?」
「今は....そんな気分じゃ」
「そうかしら?
私には助けて欲しそうに見えるわ。」
「私が....助けを?」
「私は何があったのか知らない....だから教えて。
貴女は何をしてそして....どんな結果になったのか。
友達として相談に乗りたいのよ。」
「私に....そんな者は必要ない!」
シュラウドは怒りを露にする。
「とてもそうは見えないけど?」
「お前に何が分かる!
私は来人を守るためにやったのよ!
最強のWを創れば恐怖の帝王に打ち勝ち来人は平和を手に出来る.....また家族として過ごせる筈だったのに.....何故、来人はあんな顔をしたの?.....私の行動は...来人の為に......」
「"私もそうよ"。
克己をNEVERにした時、全ては克己の為にと思って行動した。
でも結局そうはならなかった....記憶と感情を失い"人の形をした怪物"にしてしまった。
愛していた息子を....そんな存在に....」
「マリア.....」
「ねぇ、文音?
貴女は来人とちゃんと話をしたの?
来人が何を考えて仮面ライダーをしていたのか?
何を考えて左 翔太郎を相棒にしているのか?
ちゃんと話したの?」
「............」
「息子を思うならその子の感情を理解して行動しないと行けない。
でないとそれはただのエゴになってしまう。
息子を利用して自分の望みを叶える結果になってしまうのよ。」
「私は来人を利用してなんかいない!
全ては.....来人の.....」
動揺したシュラウドは顔の包帯をグチャグチャに外す。
そんなシュラウドをマリアは優しく抱き締めた。
「分かってるわ.....貴女のやったことは全て、息子を思った行動だって言うのは、世界中で誰も理解しなくても私は分かる。
私も同じだから....でもだからこそ愛する子の為には自分の考えを否定しないと行けない時が来る。
何故なら来人も克己も息子でありながら一人の人間だから....彼等にも考えや思いがある。
それを理解して尊重して上げるのも母親の務めよ。」
「...........」
シュラウドは震えることしか出来ない。
「なら....私は間違ったと言うの?
私のやったこと全てが....犠牲が...間違いだったの?」
「それは....私にも分からないわ。
だからこそ話し合ってお互いを理解する必要がある。
来人君はもう十分大きくなったわ。
風都タワーを占拠された時、彼は自分の身を省みず戦って人を救った。
もう彼も立派な大人....だからこそ尊重して上げて欲しいの。」
「.....でもどうすれば?」
「私も一緒に行くわ。
同じ親ですもの....貴女の苦しみを分けさせて」
その日、シュラウドは始めて泣いた。
まるで懺悔するように泣きながらマリアの身体へすがるのだった。
そして、暫く経つとマリアと共にシュラウドは外に出る。
その姿を見た克己が言った。
「終わったのか?」
「.....先ずは来人と会って話をするわ。」
「....分かってるとは思うが今のお前は大切な相棒を奪った片棒を担いだ共犯者だぞ?」
「克己!」
「良いのよ....分かってる。
でも、私にも親としての責任があるの。
間違ったまま放置するなんて出来ないわ。」
文音の瞳を見た霧彦が言う。
「連れていって上げましょう克己君。
彼女は覚悟を決めています。」
「.....ふん!最初からそのつもりだ。」
克己はそう言うと用意された車に乗り込み鳴海探偵事務所へと向かうのだった。
Another side
イコン画を見終わった琉兵衛は信彦と共に部屋を後にする。
「他に分かっていることはないのかね?」
「超越者に関して分かっているのは地球や神すら創造できる存在だと言うことと....その力の影響で多数の世界に特異点となる力が現れた事だけだ。」
「特異点?」
「この世界の枠組みから外れた力.....それにより怪人や仮面ライダーになった存在。
その全てがこの特異点の力によるものだ。」
「並行世界にも干渉しうるこの力の正体は財団の知識や技術を持ってしても分からなかった。
俺の世界の力すらそうだ.....」
「君の世界の力とは何なのだ?」
「俺の世界では怪人と人間が共存していた.....まぁ差別のもとに成り立つ共存だったがな。
そして数多の怪人の中で創生王と呼ばれる存在がいてそれを選定するのにキングストーンと呼ばれる石を持つ必要があった。
俺は、まだ若かった...と言っても精神的にだが、愛した女の願いを叶える為に生きたが結局は利用されて戦い....死んだ。
その時に託した願いも叶わず....光太郎は.....」
信彦はそう言うと怒りで手を握る。
「そして、俺は財団で目を覚ましこの力を研究する道を選んだ。
何の為にこんな力があるのか?
誰が残したのか?何の目的で?」
「それの進展はあったのかね?」
「全く.....特異点である力は確認できてもそれを譲渡した存在だけは見つからない。
唯一の手がかりはこのイコン画だけだ。
これを手に入れる為に何度も破壊者と魔王と戦ったのにこの程度しか分からなかった。」
「それを知ってどうするつもりなのかね?
仮に生きていたとしてその者を見つけたら君は...」
「.....分からない。
復讐するかもしれないしただ見つめているだけかもな。
俺はただ意味を知りたいんだ....それが俺達が"敗北した意味"に相応しいのか知りたい...それだけだ。」
「そうか.....私も知りたいよ。
"彼の本当の目的"を.....」
琉兵衛はそう言うと扉に手を掛ける。
「もう行くのか?」
「あぁ、私は私の役目を果たすとするよ。
そしてその答えを見定める。」
「そうか....君とは話が合う。
出来ることなら生きてまた会いたいものだ。」
「あっはっは....本心でそう言ってくれる存在も少ない。
ありがたく受け取っておくよ。」
「また会おう....」
「あぁ、いずれ。」
琉兵衛はそう言うと信彦と別れて風都の町へと戻る。
もう、決心がついた。
例えどんな結末が待っているとしても進むしかない。
願わくばこの結末が人類に希望をもたらしてくれることを......
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第百六十七話 Cの思い/耐え難い恐怖
「違う!そんな事はない!」
「だが、お前は....俺を見捨てたんだろうフィリップ?」
「それは.....」
「だから俺もお前を捨てるよ.....より強い悪魔と契約して」
「そんな事言わないでくれ!僕には君が必要なんだ!」
「さようならフィリップ....これでお前との相乗りは終わりだ....」
「待ってくれ!翔太郎!翔太郎!」
「翔太郎ーー!」
目を覚ましたフィリップはラボの床で眠っていた。
悪夢を見たせいか身体から大量の汗をかいている。
「はぁ....はぁ....はぁ」
フィリップは恐怖から来る震えを両手で抑えるが止まる気配はない。
「僕は....翔太郎を....」
あの時の記憶がフラッシュバックする。
(こんなに....怖いのか...翔太郎を失うことが....こんなにも怖いのか!)
時刻を見るともう夜になっている。
あれからずっと考えていた筈なのに翔太郎を取り戻す手段が全く浮かばない。
それどころか翔太郎が変身したら今いる戦力で止めることは不可能だった。
(僕もロストドライバーは持っているがあのレベルまで強くなることは出来ない。
アクセルとエターナルで協力しても勝ち目なんて無かった。
何度、検索しても勝ち目が見えない....どうすれば良い?僕はどうすれば.....)
焦りを隠せないフィリップはひたすらにホワイトボードに作戦とも呼べないアイデアを書き続ける。
もう書きすぎてインクが切れて書けなくなっていることも分からない程、ただ書き続けた。
その姿を見た亜樹子が涙ぐみながらフィリップの手を止める。
「亜樹....ちゃん?」
「もう休もうフィリップ君、これ以上やったって....」
「でも、早く方法を見つけないと....翔太郎が...」
「こんな状態じゃフィリップ君が倒れちゃうよ!
ご飯どころかあの後から水すら飲んでないじゃない!」
「そんな暇はない!何としても翔太郎を救うんだ!でないと....僕は...僕でなくなってしまう。」
フィリップは恐怖心に支配されていた。
翔太郎を失ってしまうと言う感情が彼から冷静さを完全に奪っていた。
そこにシュラウドとマリアが現れる。
「.....来人。」
「何の用だシュラウド....また僕を兵器にする算段でも立てに来たのか?」
「私は...そんな....」
「じゃあ、翔太郎を返してくれよ!僕の相棒を....翔太郎を奪っておいて今更何をしに来たんだよ!」
「坊や!落ち着いて!私達は貴方を助けたいのよ!」
「マリアさんこそ何で母さんと一緒にいるんですか!
僕の味方だってのは嘘だったんですか!」
冷静じゃないフィリップは感情に任せて言葉を吐く。
その瞬間、克己が飛び上がりフィリップの前に立つとフィリップの腹を思いっきり殴った。
「うぐっ!」
痛みからフィリップは意識を失ってしまう。
「ちょっと!大丈夫フィリップ君!」
「こんな状態で話してもろくな事にならない。
一度寝かせた方が良い.....それにこの顔何も飲んでないし食ってないな。
これじゃあ直ぐにぶっ倒れたさ。」
「お袋、俺はフィリップの看病をする。
悪いが暫くの間.....」
「えぇ、私と文音さんで何か考えてみるわ。」
「助かる.....おい
「ふぇ?あっはい!」
亜樹子は克己に流されるまま事務所のベッドへと連れていった。
残ったのはマリアと文音だけだった。
「大丈夫?文音。」
「始めて来人に怒りをぶつけられた。
そんなにも大事な相棒だったのね左 翔太郎は......」
「会わなければ分からなかったでしょう?」
「あんなに衰弱して、ホワイトボードも真っ黒で読めない程......」
「文音...落ち込んでいる暇はないわ。
来人君の為にも今は翔太郎を救う方法を考えるの。」
「そうね....ありがとう。」
そう言うと二人はラボの中へと入っていった。
「先ずは翔太郎があの状態になったメモリに関して....文音は何か知っている?」
「ジェイルメモリ....ゴールドクラスのメモリよ。
その能力は"感情の分離と保存"....しかも奪える感情を細かく設定出来る。」
「設定?」
「例えば恐怖心だけ奪い取ったり正義感を奪い取れば最高の兵士が出来上がる。」
「だとしたら翔太郎から奪った感情は....」
「正義感と倫理観.....それに"人を殺す事への抵抗感"も取られてると思うわ。」
「つまり、今の彼は目的の為なら殺人すら厭わない存在になっているってことかしら?」
「恐らくは....それにジョーカーメモリの適合率も上がっていたからあの強さを得たのかもね。
それを読み切る無名には恐れ入るわ。」
「それじゃそのジェイルメモリを破壊すれば翔太郎は元に戻るのかしら?」
「分からないわ....あのメモリはまだ解析が済んでいないの。
もし、破壊した瞬間にメモリに保存された感情が消えるんだとしたらとても危険だわ。」
「なら、ジェイルメモリを奪う必要があるわね。
そのメモリは翔太郎の中にあるの?」
「いいえ、ジェイルメモリは特殊なメモリで体内にメモリが入らずに起動するの
だからこそドーパントの姿にもならない。
理由も研究する時間が無かったから何も分からないに等しいわ。
でも来人が地球の本棚の知識を使えば分かる筈よ。」
「.....どうかしら?私はそうは思わないわ。」
「どういう意味?」
「あれ程、翔太郎に執着していたのだから当然、地球の本棚で調べている筈、それなのに分からなかったと言うことは.....」
「来人の力でも分からなかったってこと?」
「その可能性が高いわね。
そうなる理由に心当たりはある?」
「先ずは本人の知識が検索する情報と釣り合わない時ね。
来人ならばスポーツや身体能力に関する記憶は制限がかかる物があると思うわ。
もう一つは本人と関わり深い記憶の時.....家族の事を検索すると来人の精神にかかる負荷が上がるわ。
ミュージアムから記憶消去を受けているから尚更ね。」
「聞いた限りだとジェイルメモリに関してはどれも該当してないと思うのだけど.....」
「もう一つ可能性があるとすれば、来人と同じように地球の本棚に入れる存在がその記憶を隠している。
でもそんな存在がいればミュージアムが直ぐに見つけている筈、それに私が気付かないなんて有り得ないわ。」
「じゃあ一体、何故?」
そんな話をしているとシュラウドの持つスタッグフォンから連絡が来る。
その相手は無名だった。
「一体どうして...」
そう思いながらも通話を始める。
無名の声は聞こえるがその声は辛そうだった。
「シュ....ラウド。」
「どういうつもり?私に連絡をかけてくるなんて...」
「ジェ...イル...メ...モリ....は...地球の....本棚の....奥に....封じられて...ます。」
「封じられている?
ジェイルメモリの記憶が?」
「は....い....
入...るに..は、本棚との....シンクロ...率...を...」
「何?どういう意味なの?」
「は....やく....ゴ....ティ....が....戻....る前....に」
そう言うと無名との連絡が切られてしまった。
「もしもし!
何故!無名が私に連絡を?」
「そう言えば克己が言っていたわ。
今の無名は身体を誰かに操られているって....」
「操る?
それはどういう意味?」
「分からない。
でも克己はそう感じた....だから信じている。
それだけよ。」
「そう.....地球の本棚の奥に封じられている...ね。
調べてみる価値はありそうね。」
「そうね。
その観点から調べてみましょうか。」
二人はそう言うと地球の本棚について調べ始めるのであった。
地球の本棚の最奥に封じられた無名は本棚の検索を使いこれまで起こった事件とジェイルメモリについて調べていた。
そして、それを止めようと無名は試行錯誤を繰り返していた。
「ジェイルメモリ、これは危険だ。
一刻も早く何とかしないと....」
感情の分離と保存の能力を持っているメモリであり普通の手段でメモリブレイクをすると保存された記憶も破壊されてしまう。
その問題を解決してメモリブレイクするにはジェイルメモリに入り保存された記憶を解放する必要がある。
それを出来るのはフィリップか無名の様に地球の本棚に入れる存在だけだ。
だがらこそこの手段を伝える必要がある....いやそれよりもこの本を読ませないと行けない。
今無名のいる本棚はシンクロ率を"80%"まで上げないと入ることが出来ない。
フィリップの今のシンクロ率は多く見積もって"50%"...ここに呼び寄せるのは負担が多い。
ならば
今、僕の身体を動かしているのはゴエティアだ。
ゴエティアが好き勝手に動いていることを考えると味方と見られるか怪しいだろう....それにゴエティアの目的も分かっていない。
ゴエティアについて検索したがその本には黒炎が纏われていた。
恐らく読めば僕の身体は黒炎に包まれるだろう。
読める機会を作っておきながら本にセキュリティをかけている辺り流石は悪魔だ抜け目がない....
(ここはリスクを負っても読むべきか?)
無名が本に手を掛けようとすると何者かにその手を止められる。
【良かった....今度は貴方に"触れられた"のね】
そうして無名が顔を上げると白髪の髪に虹の色のエネルギーが流れている女性が話しかけていた。
「貴女は誰なんですか?」
【私は....コスモス。
ゴエティアと同じ....この世界に存在しては行けない者...】
「ゴエティアと....同じ?」
そんな話をしていると遠くからゴエティアの声が聞こえる。
【何故だ!何故答えないコスモス!
私だ!ゴエティアだ!私は....君を探して.....】
【そう....貴方はまだ私を探しているのね?
ごめんなさい...ゴエティア。】
そう言って涙を流すコスモスは無名の触れようとしていた本に手を触れた。
「危ない!」
無名の制止を聞かず本に触れたコスモスの身体を黒炎が焼き始める。
だが、彼女の白髪に黒炎が全て飲み込まれてしまった。
すると触れていた本を無名に渡す。
【彼を救えるのはもう貴方しかいません。
お願いします....私を愛してくれた彼を救ってください。】
そう言うとコスモスは本に一滴の涙を落とし姿を消してしまった。
残ったのはコスモスに渡された一冊の本だけであった。
「彼女が....コスモス。」
ゴエティアの残した記憶に微かに残っていた名前。
その記憶には彼女への執着と思いが綴られていた。
そして、偶然にもこれまで閉じられていた肉体への道が繋がった。
(何があったのかは分からないが今しかない!)
そう思った無名は意識を自分の肉体へと送った。
目を開けるとそこは園咲邸の一室だった。
何かあったのだろう目の前の家具は荒らされ散乱しており机には翔太郎が着けていた帽子が見つかった。
(何故、ここに左 翔太郎が?)
そう考えていると頭に痛みが走る。
「うぐっ!....もう時間切れですか。」
無名は頭を抑えながらも何とか携帯を操作してシュラウドへと連絡を取った。
(状況は最悪だ....ジェイルメモリの
どうにかしてこの状況を伝えないと.....
そして電話を繋げて何とかジェイルメモリが本棚の奥にあると告げられると電話を切って意識を失ってしまった。
そうして意識を取り戻したゴエティアは壁を殴り付けた。
「ふざけるなっ!この私が....失敗したと言うのか!....これだけ繰り返したのに失敗したと!」
怒りで身体から黒炎が漏れそうになるのを必死に抑える。
すると身体の力が抜けて倒れそうになった。
「....やはり痛覚を切ったのは失敗でしたかね?」
ゴエティアが無名の肉体を手に入れた結果、エクストリームを使用した際に地球の本棚の力を使う負荷がかかる様になってしまった。
地球の本棚に存在していた時は肉体が存在しない為、そこまでのダメージは無かったが今は違い確実に肉体にダメージが残っていた。
「今回は....力を使い過ぎましたから少し休みましょう。
左 翔太郎には調整のために眠ってもらえば良い。
大丈夫....問題はない。」
ゴエティアはそう言って笑う。
その笑顔は何時もと違い悲壮感に溢れていることにも気付かずに笑う。
そこに琉兵衛から連絡が来た。
「はい、無名です。」
「この電話は専用回線だ誰にも聞かれる心配はないよゴエティア。」
「何か用ですか?」
「今日、財団に行ってね。
君達の事が分かる物を見てきたんだよ。」
「.....あの"不愉快なイコン画"だな?」
「やはり上半分を持ち去ったのは君だったか?」
「えぇ、誰にも見つからないよう時空間の狭間に置いてきた筈なのですが....誰が見つけてきたのか」
「あれを見れて良かったよ君達、超越者の存在や地球と本棚の成り立ちがよく分かった。」
「........」
「おや?どうしたのかねゴエティア。
何時ものように話したまえよ。」
「私は今、機嫌が悪い。
あまりお喋りをしたい気分じゃないのだが....」
「では、単刀直入で聞こう。
君の本当の目的は何だ?」
「この世界を遊び楽しむこと....そう言った筈だが?」
「あのイコン画を見た後では私は別の目的があると思ったのだが.....」
「何が言いたい?」
「超越者は何故、自らの肉体と力を捨ててまで地球の本棚を作ったのだ?
そして、何故、君だけが本棚の中に存在出来ていたのか?
その理由を教えてくれないかね?」
「言う必要はない。
申し訳ないがこれから用があるので....失礼。」
そう言うとゴエティアは琉兵衛との電話を切る。
「何時の時も厄介な存在ですよ園咲家は....」
ゴエティアはそう呟くと部屋を出ていくのだった。
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第百六十八 Cの思い/二人の医師
デモンドライバーの性能を安定させる為にも変身をして欲しいと....
それに従い翔太郎はデモンドライバーを付けると仮面ライダージョーカーへと変身した。
すると無名もデーモンドーパントになりエクストリームの力を使う。
「何をするつもりだ。」
「ジョーカーメモリの力を更に引き出すためにメモリと同期します。
そうすれば安定して力が使える筈です。」
そう言うと無名は翔太郎のドライバーに触れた。
直後、翔太郎の意識が飛び謎のビジョンを見た。
そこにはまだ、ミュージアムに監禁されていた頃のフィリップとその隣で眠っている無名の姿が地球の本棚の中に映っていた。
(無名と.....フィリップ?
一体なんでこの二人が....)
そして無名の方は黒炎に包まれると姿を消しそれに抵抗するフィリップを黒炎を使う何者かが意識を奪ってしまった。
そのビジョンには違和感がある。
何故ならば無名はフィリップと地球の本棚で面識が無いからだ。
なのに何故二人が?
そう考えていると翔太郎が現実に引き戻される。
そこには変身を解除した無名がいた。
彼はとても酷く動揺していた。
「今日は....これで大丈夫です。
暫くドライバーを調整しますので預かります。
セーフハウスを用意したので今日はそこに行っていてください。」
「分かった。
ドライバーの調整にはどれくらいかかる?」
「3日....いや2日で仕上げるのでそれまでは勝手な行動はしないでください。
兎に角、今日はお引き取りを.....」
「分かった。
それまでに玉城の居所を調べておく。」
「分かりました....では」
無名との会話を終えると翔太郎は部屋を出ていった。
事務所の壁を見て目を覚ましたフィリップは起き上がろうとする。
「無理はするな、今は寝ていろ。」
克己にベッドによってベッドに戻された。
「どれぐらい気を失っていた?」
「5時間位だな....今は夜だ。」
「そうか.....」
「あぁ.....」
二人の間に沈黙が流れる。
「結局、"君の忠告通り"になってしまったよ。」
フィリップはAtoZの時、克己と握手した時に耳打ちをされていた。
「"翔太郎の手を離すなよ?"」
「え?」
「アイツはお前にとって唯一無二の存在だ。
代わりなんていない....だから離すな。
もし離したらお前はきっと死ぬ程、後悔する。」
「最初はこの意味が分からなかった。
....けど今なら分かる。
翔太郎を失うことがこんなにも恐ろしく辛いことだったなんて....」
「おまえはこれからどうするつもりなんだフィリップ?」
「勿論、翔太郎を取り戻すよ。」
「出来るのか?今の翔太郎にちゃんと向き会えるのか?」
「.........」
克己の問いにフィリップは黙ってしまった。
あの翔太郎と向き合う。
そう考えただけでフィリップの精神は動揺してしまっていた。
今まで見たことの無かった翔太郎の一面、相棒として否定されたあの記憶...否が応でも思い出してしまう。
身体が震える。
寒くもないのに震えが止まらなかった。
その姿を見た克己が言う。
「フィリップ、先ずはシュラウドと向き合え。
それをしていない段階で翔太郎と対峙するのは夢のまた夢だ。」
「それは....出来ない。
母さんは翔太郎を奪った無名の計画に荷担していた。」
「だからこのまま拒絶を続けるのか?
お前を守り続けてくれた母親を....」
シュラウドは息子である来人の為にこれまでの人生を捧げてきた。
息子を助けるために人の道を外れた。
井坂を作り鳴海 荘吉が死ぬ原因を作り出した。
全ては愛する息子を琉兵衛から守る為に.....
「選択は間違ったかもしれないがそれによってお前を守っていたことも事実だ。
それを含めてちゃんと話をするべきだ。」
「まるで兄から説教を受けているみたいだな。」
「ふん、かもしれないな。
俺達は科学によって産まれた怪物.....だが産まれは俺の方が早い、そう言う意味では怪物としては歴の長い俺はお前の兄と言うことだな。」
「兄については検索したことがある。
僕にはいなかったから....兄は下の兄弟の為に助言と助力をしてくれる...そんな存在。」
「ふん、随分と美化されている知識だな。
それで....どうする?」
フィリップは少し考える決心した様に言った。
「母さんと...話してみるよ。
でもその前にちゃんと寝て身体の調子を万全にさせるよ。」
「そうか、安心しろ。
ちゃんと朝になったら起こしてやる。」
「あぁ、ありがとう。」
そう言うとフィリップは布団に戻り眠りについた。
眠ったのを確認すると克己は言う。
「いい加減出てこいシュラウド。」
そう言うとラボの扉が開き中からシュラウドが出て来た。
顔の包帯を取っているのか謎の染みが顔を蠢いている。
「包帯を取ったのか?」
「もう、これをする意味はないわ。」
「そうか....進捗はどうだった?」
「先ずはジェイルメモリの記憶を地球の本棚から手に入れる必要があるわ。
だから来人にその記憶を取ってもらう。」
「成る程、それを見てから作戦を考える訳か。
その前に翔太郎が動く可能性は?」
「私は無いと思っているわ。
彼に頼まれて作ったデモンドライバーにはまだ改良の余地がある。
私が無名ならそれを改善してから左 翔太郎を動かすわ。」
「なら、少しは時間を稼げるわけか。」
「えぇ、私は自分のラボから道具を取ってくるわ。
朝になる前には戻るから....」
「分かった....なぁちゃんと会うよな?フィリップと」
「...........」
「ここで逃げたら本当に家族としての信頼を失うぞ。
どんな恨みや憎しみの言葉を言われようと母親であるアンタは聞かないといけない。
お前は罪を犯した、Wも言っているだろう?
罪を数えろと.....アンタも数えるべきだシュラウド。」
「分かっているわ。
例え、それで私が死ぬことになろうとこの罪は清算するわ。」
そう言うとシュラウドは陽炎に紛れて姿を消した。
「精算か....
死ぬことがフィリップにとって良いわけがないだろう。」
克己はそう思いながらもフィリップの寝顔を見ながら時間が過ぎるのを待つのだった。
風都病院の一室で目を覚ました照井は亜樹子に頼み携帯を耳元に置いてもらっていた。
電話の相手は刃野刑事だった。
「それで....状況は?」
「課長、それは良いですから休んでください。
事故に遭って余談を許さない状況だと病院の人から聞きましたよ。
そもそも何で休んでないんですか!」
「俺に質問をするな....これだけの事件が起きているのに眠っているなんて出来るか。」
「しかし!」
「報告をしてくれれば寝る。
俺を寝かせたいのなら早く報告をすることだな。」
「.......フィリップ君の通報で雀写真館と付近にいた人の保護や現場の保存は終わりました。
雀写真館にいた人達の中で仮面ライダーに救われた人達は皆、病院に運んでいます。
"東堂 剛"と玉城に関しては警察病院で厳重に監視しています。
東堂 剛は左足が完全に切断されていて治療することは出来ませんでした。
手術は成功しましたので命に別状はありません。
問題は玉城の方です。
心臓がまるで爆発を受けたようなダメージを負っていて集中治療室に送られました。」
「.....死んだのか?」
「いえ、ちょうど運良く風都で学会が開かれていてその中に"天才外科医"と言われる方がいたんです。
その方に手術をしてもらい一命は取り留めました。」
「そうか、良かった。
それなら会話も出来るのか?」
「まだ重症な事には変わりがないらしいので数ヵ月は治療が必要だと言われましたよ。」
「そうか...報告ご苦労。」
「じゃあ、約束通り寝てくださいよ照井課長。」
「あぁ、そのつもりだ。」
そう言うと亜樹子に電話を切らせた。
何故そんな回りくどいことをするのか?
それは今、照井の身体は指一本動かせない程の重症だったからだ。
「本当に....心配したんだからね竜君。」
「すまない所長。
だが、大丈夫だ先生も言っていたろう?
安静にしていれば問題ないと....」
「そうだけど.....そう言えばあの先生って何者なの?
この病院でも見たこと無かったけど」
「俺が個人的に交流のある医者だ。
聖都医大で働いてて腕は良い。」
「確かにレントゲン撮ってから直ぐに処置を始めたよね。」
「あぁ、俺が知る中でも最高の医師だ。」
照井はそう言うとその医者との話を思い出す。
照井が目を覚ました頃.....
「....ここは」
「目を覚ましたかよ。」
「....."花家"。」
「全く、俺が学会でこの近くにいて良かったな。
でなかったらお前死んでいたぞ。」
だから照井と話す時は大我はかなり砕けた話し方になる。
「そんなに酷かったのか?」
そう言うと大我はレントゲンを取り出して照井に見せる。
「胸骨を中心にして骨が折れていてその一部が肺に刺さっていた。
.....まぁ、角度も浅くて直ぐに治せたが重症には変わり無かったぞ。」
「運が良かったと言うことか。」
「そうだな。
.....すいませんがここからは患者と個人で話したいので暫く出ていて貰えますか?」
大我が亜樹子に言った。
「えっ?はい分かりました。」
亜樹子は大我の言葉に従い部屋を出ると花家は照井に言った。
「俺には説明してくれても良いんじゃねぇか?
"あんたの身体"の事」
「どういう意味だ?俺の怪我なら運良く...」
「違うだろ
お前自身の"身体が治しちまってた"んだ。」
花屋 大我は天才と言われる部類の医者だ。
だからこそ、照井の身体のレントゲンを見て違和感に気付いたのだ。
「この骨の折れ方、ホントはもっと強い衝撃があったんじゃないか?
それこそ、生身で受けたら骨どころか身体がぶっ壊れちまう程のダメージを....
だが実際は"胸骨にヒビと折れた骨が肺に刺さった程度"のダメージだった。
なぁ、どう言うことだ?
どうしてそんな事が......」
「大我.....俺にその質問をしないでくれ。」
お互いが沈黙するが先に音を上げたのは大我の方だった。
「あーぁ、そう言う時のアンタは本当に頑固なんだよなぁ。
聞くことは難しそうだ....分かったよ。
カルテもこっちで誤魔化しておく。」
「すまないな。」
「アンタには色々と助けられたからな照井さん。
ここからはアンタだけに向けた話だ。
そのペースで治癒されていくと仮定すると数日で動けるぐらいには回復すると思うが油断はすんなよ。
骨もあくまでくっついたって程度だ。
同じところにダメージを食らえばもっと酷いことになる。
今度は死んじまうかもしんねぇからな。」
「あぁ、気を付けるよ。」
そう言うとドアの前にいた亜樹子がノックをした。
「あのー、もう良いですか?」
それに大我が答える。
「えぇ、そう言えば貴方について聞いていませんでしたね?失礼ですが....貴方は?」
大我がそう尋ねると亜樹子が答える。
「あのえっと....りゅ、竜君の仲間の鳴海 亜樹子です。
竜君が怪我したって聞いて.....」
その姿を見た大我は意地悪く照井を見て笑うと亜樹子に告げた。
「私は照井さんの主治医の花家と申します。
照井さんの病状に問題はありませんよ。
ただ、少々仕事熱心過ぎますので貴女が"付きっきりで付き添い"をしてくださいませんか?」
「おい花家!お前.....」
「貴女の言うことなら照井さんも聞いてくれると思うのですが.....」
大我の提案に亜樹子は答える。
「もっ、もちっす!竜君が動かないように見張ってます!」
「それは良かった!じゃあ、私は別件がありますのでこれで失礼します。
後は"お二人"で話し合ってくださいね。」
そう言うと病室を出ようとする。
その際、照井が困っている顔をしながらも笑っている姿を見て大我も笑う。
大我が照井と始めて会った時はまるで人殺しの様な目をしていた。
だが、今は全く違った顔が出来るようになっていたのだ。
(この風都で大切なものを見つけられたんだな照井さん....俺は応援してるぜ。)
「それにしても俺が人の恋路を応援するとは....もしかしたら、俺も変わっちまったのかもしれないな。」
そう言う大我ではあるがその表情は嬉しさが滲み出ていた。
「まぁでも....悪くねぇな。」
大我はそう思いながら病院から出ていくのであった。
次の日の朝、目を覚ましたフィリップはシュラウドと向かい会っていた。
周囲には克己とマリア、そしてフードを着けたままの霧彦もいた。
シュラウドも包帯を外している。
最初に口火を切ったのはフィリップだった
「その顔はどうしたんですか?」
「....貴方を琉兵衛から救う時にテラーの力を浴びてね。
助かるためにネメシスメモリを使ったの....その副作用でテラーのエネルギーの一部がこの顔に残った。」
「そんな事が......」
「来人、貴方は自分のことを何処まで知っているの?」
「僕の本名は園咲 来人。
園咲家の1人で貴女が僕の母さんだと言うことしか知りませんし分かりませんでした。」
「そう.....」
「他にも僕の知らない秘密があるんですか?」
「あるわ。
でもその前に貴方に謝らないといけないことがあるわ。
.....私は琉兵衛を倒す為に最強のWを作り出すことに固執していた。
だからこそ、左 翔太郎を邪魔だと思っていたの」
「そんな事で!?」
「フィリップ、落ち着け。
今はシュラウドの話を聞くべきだ。」
克己の言葉にフィリップはシュラウドの話を聞くことに戻る。
「だから私は照井 竜を貴方の相棒にさせるため鍛え上げて仮面ライダーアクセルにした。
そして井坂を作り出したのも私よ。」
「何だって!?井坂を?」
「彼にウェザーメモリを渡したのは私。
彼は琉兵衛の持つテラーメモリを狙っていた。
だからこそ利用出来ると思ったけど私は彼の狂気を見誤り沢山を人を犠牲にしてしまった。」
「どうして止めようとしなかったんですか?
井坂からメモリを奪い取っていれば照井 竜の悲劇も起こる事は無かったでしょう!」
「無理だったのよ。
彼は私のことを良く理解していた。
だからこそ、私の復讐が進むように常に動いていたの。
だから切ることが出来なかったしウェザーメモリとの適合率も高く気付いた頃にはもう私では相手に出来ない程、強くなっていた。」
「でも、だからって」
「そう、私は間違い続けた。
そして、貴方の相棒を来人の手から奪ってしまった。
本当にごめんなさい....許してくれなんて言わないわ。
貴方が望むなら左 翔太郎を助け終わった後、目の前から消える。
でも今回はだけは協力して左 翔太郎を救うには貴方と私の力が必要なのよ。」
シュラウドの言葉を聞いたフィリップは沈黙していた。
自分の想像を越える真実の数々....
それを聞いた上でフィリップはシュラウドを許せるのか?
暫くの沈黙の後にフィリップは答えを出してシュラウドに話しかけるのだった。
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第百六十九話 沈黙のD/悪魔の始まり
何時から私はコスモスを見ていたのだろう?
個としての意識が確立された時から?
具体的な時間は分からない。
何故ならここには何もないのだから....
ひたすらに暗く何も無い空間....そこに同類と呼べる存在がいるだけだった。
いつしか我々は個を現す種族の名を付けた。
別に意味など無いが暇潰しになると考えたからだ。
我々は一人一人が世界を創造し破壊しうる力を持っていた。
だがその世界を作る意味を見つけられなかった。
喜怒哀楽が存在しなかったのだ.....そんな我々が唯一持っていたのは"知的好奇心".....自らの存在や力を調べることだけだった。
我々は自分達のことを超越者と名付けた。
そして、そこから個人を現す名を付けた。
私がゴエティアと呼ばれたのは超越者の中でも特定の存在に認められていたからだ。
他にもそんな存在が現れると個は集となり群となった。
ある時、とある超越者が面白い力を開花させた。
それは"感情"と言う力だった。
それを手に入れた者は笑い泣き怒り喜ぶことが出来た。
その力は持っていない者にとってとても羨ましく感じた。
だからこそ、私を含めた全員の超越者が感情手に入れる事にした。
感情を手に入れたことで"時間"の概念が産まれた。
超越者の喜怒哀楽に世界が適合したのだ。
それにより超越者の知的好奇心は更に加速していった。
ある者は何にも無かった空間に星や宇宙を作り、またある者は並行世界を作り上げた。
「またここにいたんですねゴエティア。」
そう言ってコスモスは私の身体に触れた.....
「コスモスか君は何を作っていたんだ?」
「"感情"を作り出したのは私ですから...今回は喜びと楽しみの力を混ぜて...."愛"を作ってみました。」
「とても興味深いな。」
「この愛を受けとりますかゴエティア。」
「そうしたいが、私の今新たな力を作っているんだ。
他者と協力する手段を....」
「それは何なのです?」
「"契約"と言う力だこれで両者にルールを取り付けることで協力関係を作り出せる。」
「これも面白そうですね。」
彼女はコスモス...."感情"と言う力を作り出した張本人で私と話が合う数少ない超越者の一人だ。
彼女の作り出す力は興味深くまた私の作り出す力にも彼女は興味を示してくれた。
二人でそんな話をしていると一人の存在が割って入ってきた。
「こんなところにいたのかコスモス。」
「"タナハ"、どうしたの?」
「君の作り出した力が気になってね。
それよりもまたゴエティアと話していたのか?」
「それは私の勝手でしょ?
ゴエティアの作る力には興味があるのよ。」
コイツは"タナハ"....私と同じように超越者を纏める群の長を勤めていた。
彼とは感情を手に入れてから話が合わず対立することが多かったが私自身は特に気にしてもいなかった。
「ゴエティアの作る力は危険な物や冒涜的な物が多い。
そんな力は君には必要ないだろうコスモス?
私の力は皆が必要とする"慈愛"や"善の力"だ。
君の感情とも愛称が良いと思うんだが....」
「そうかもね....でもそれじゃあ面白くないわ。
"色"を作った"ムーサ"も言っていたでしょう?
多彩な色が混ざり重なると感情が刺激されるって....だからこそいろんな力が必要だと私は思うのよ。」
「だが、それでは正義が....」
「タナハ、コスモスをあまり困らせるのは良くないんじゃないか?
仮にも私や君は超越者を纏める長だ。
皆の手本となるべく動くべきと進言したのは君だった筈だが?」
「そんな事は君に言われなくても分かっている。
....まぁ、誰と仲良くするのもコスモスの自由だからね。
好きにすると良いよ。」
そう言うとタナハはその場から消えた。
「ゴエティア、やっぱりタナハとは仲良く出来ない?」
「難しいだろうね。
彼とは根本的に合わないんだと思う。
彼の作る力と僕の作る力の性質は反対だ....そして作る力と感情は比例する....まぁ仕方がないよ。」
「....私は皆と仲良くして欲しくてこの感情の力を作ったのにな。」
そう言って悲しそうな顔をするコスモスにゴエティアは告げた。
「皆、感謝しているよ。
今まで何も無かったこの空間に宇宙や星を作れたのは君が感情と言う力を私たちに与えてくれたからだ。
感謝こそすれ批判するものなんていないさ。
もしいたら私やタナハが許さないと思うよ。」
「そうだと嬉しいな。」
コスモスや他の超越者と新たな発見や力を共有しながら過ごす時間はとても楽しく有意義な物だった。
ゴエティアはこの世界にとても満足していた。
ずっとこの時が続けば良いのにとさえ思っていたのだ。
だが、そんな時間も長くは続かなかった。
感情を手にいれたことで我々は多くの力を手に入れた。
五感や喜怒哀楽、他にもこの宇宙を彩るありとあらゆる物を時間をかけて作っていった。
だからこそ我々は気付けなかった。
時間の概念が産まれると言うことはそこには終わりが産まれる。
始まりと終わり、そのルールに超越者も縛られることになった。
我々は....."寿命"を手に入れてしまったのだ。
一人また一人と超越者が消滅していった。
我々には死の概念が無い....だからこそ寿命を向かえると言うのは消滅を意味した。
そして、この消滅は我々に恐怖を刻み込んだ。
この事態を解決するために色んな策が建てられ実行された。
ある者は寿命を得る原因となった感情を切り捨てようとしたがそれこそ宇宙年を何度も繰り返す程、長い時間感情を持ち続けた結果、既に自分の存在の深い所まで完全に融合を果たしていた為出来なかった。
このまま消滅することを避けようとした超越者は各々、行動を始めた。
別次元に逃げる者や消滅しても力を残したいと考えた物は遺物としてその身を変化させた。
他にも概念や力そのものに変わった者もいた。
一人....また一人、消滅を回避するためにこの世界から消えていった。
それを何よりも悲しみ罪の意識を感じていたのは感情を与えたコスモスであった。
そんな彼女を助けたいと思ったのは私とタナハだった。
そして二人で話し合いある計画を建てた。
「"記憶を残す?"」
「あぁ、感情を手にしてしまった以上この身体の消滅は止められない。
だが、肉体を記憶と精神を残す媒体として使って一つの空間に保管するんだ。
そうすれば、我々は消滅しても意識と言う存在は残る。」
「加えてそこには超越者の膨大な力が使われるからそこの受け皿が必要だ。
私達の力に耐えられる....受け皿が」
「どうするつもりなの?」
「先ずは超越者の力を一ヶ所に集め、そこと繋がるもう一つの空間を作り出すんだ。
そこでは超越者の力を分散して放出することで空間の消滅を防ぐ。」
「私とゴエティアで何度も計算したから問題はない。
これをすれば我々は消滅から回避出来る。」
私とタナハの提案にコスモスは悩むが二人で強引に押しきった。
彼女を安心させたかったものあるが私もタナハもコスモスを失いたくなかったのだ。
そして、私とタナハに付き従う者とコスモスの力は一つの空間に集約された。
その空間は強大な力に耐える為、力を一つ一つ細分化して記憶と言う本に変えて保存していった。
全員の肉体が消滅し本棚が完成すると超越者は精神体となりその空間に現れた。
「成功だ....我々は成功したんだ!
寿命の恐怖に打ち勝ったぞ!」
タナハの勝どきは周りに伝播した。
各々が喜び存続した命に感謝する。
この幸運に喜んでいると驚く事が起きた。
元々、溢れ出す力を放出する目的で作った空間から大きなエネルギーを関知する。
「これは....一体?」
タナハの疑問にコスモスが答える。
「もしかして私達の力が融合して何かが産まれようとしてるの?」
「まさか!....いや確かに今、放出している力はあくまで余剰エネルギー。
しかもここにいる超越者の特徴が全て混ざっている...我々がこれまで作り上げた力も含めて....
だが、融合するなんて事が....」
ゴエティアはムーサが言っていた言葉を思い出した。
多彩な
つまり、我々の力が混ざった何かが誕生すると言うことだ。
暫く、その空間を超越者達は眺めているとエネルギーは球体の星....いや星と言うには大きくもまた美しい姿へと変わった。
美しい青色をした星を見て超越者達は驚く。
「何て....美しいんだ。」
「これが...星?私が作り出した物と全く違う。」
「まさか、我々の力が混ざった中の余剰エネルギーがここまで美しい物を造り出すだなんて...」
その姿を見ていたタナハが言う。
「なぁ、コスモス君はこの星を何て呼ぶ?」
「.....この星は私達のいる空間の力から産まれたのよね?」
「そうだと思う。」
「ならEARTH....私はここをEARTHと呼ぶわ。」
「EARTH....地面、成る程この踏みしめている空間を地と捕らえたのか。
なら、その地を持った球体のだから....地球と読むのはどうだ?」
ゴエティアの提案にコスモスは喜ぶ。
「良いと思う!
そこでタナハが言う。
「あの星が地球ならここはその大元の力があるから....
「何故、地球を星と読むんだ?」
「あれはコスモスが付けた名前だ...だから字は貰うが読み方はこれで良い。」
こうして超越者と呼ばれた者達は肉体を捨てて地球の本棚で生きる道を選び、そして産まれた地球を観察し成長させていくことにした。
土地や生物を作り地球の周りには宇宙と言う概念を作りそこに無数の星を作り上げた。
そして、地球を観察し我々の力がどうなっていくのかただ見ていた。
その光景は美しかった。
生命の誕生から始まりその生命が群を作り生き始めた。
そして、死を受け入れて進んでいく。
我々が出来なかったことをする姿に羨ましさすら覚えた。
何時しかこの地球を守ること地球の本棚にいる超越者の目的となっていた。
全てが上手く行くと思っていた時、忘れもしない存在が産まれた。
地球の本棚から流れる余剰エネルギーを受けて進化した存在....そう人間が産まれたのだ。
人間は超越者と同じく思考し道具を作り上げる力に長けていた。
その存在は地球にいる生物とは違うと考えた超越者はその産まれた人間を"タナハ"は地球の本棚へと呼び寄せた。
その光景を見ていたゴエティアが尋ねる。
「タナハ...君は一体何をしているんだ?
地球で産まれた存在をこの空間に呼び寄せるだなんて」
「ゴエティア....君は不安にならないのか?
我々が作り上げた力が無くなるかもしれない恐怖に...」
「それは我々が肉体を捨てたことで解決した筈だ。
だからこそ、これから我々は地球を観察していこうと...」
「そうして力を作って行ってまた我々が消滅する危険が起きるかもしれないだろう!
.....感情を手にしていない時の我々はそんな失敗は侵さなかった。
何故ならば何にも左右されず常に最適な行動を行えたからだ。
....私は怖い。
自分の正義が...善が...間違って機能することが....そしてそれよりも、私が消滅してこの力の意味が消えてしまうことが...」
"力の意味"....コスモスが感情を作り出したのは超越者同士で仲良くするためだった。
その意味を無くしてしまったら感情に何の意味が残るのか?
ゴエティアはタナハに何も言うことが出来なかった。
「その生物を君はどうするつもりなんだ?」
「彼に私達、"超越者の力"を与える....そしてこの地球を正しく治めて貰うんだ。
そして、私達の存在を残して貰う....この地球に」
「そんな事が可能なのか?
確かに地球の本棚と地球は繋がっているが我々は地球に顕現することは出来ないぞ?
そんな事をすれば超越者の力に地球が耐えられなくなる。」
「だからこそ、その器を作って貰うんだ。
この生物....いや人間を通してね。
この人間は他の生物と全く違った進化を辿っている。
我々の力をゆっくりと馴染ませていけば何れ我々の力にも耐えられる器が出来る筈だ。
そうすればこの隔絶された地球の本棚から抜け出せるかもしれない。」
「君は後悔しているのか?
地球の本棚に精神体として存在することに?」
「.....分からない。
だが、私は自由が欲しい。
ここにいる超越者にも自由を得て欲しい。
あの地球にいる生物のように...そう願うだけだ。」
タナハはそう言うと呼び出した人間に力を与えた。
超越者の力が人間の器を壊さないように丁寧に....
そうしていくと人間の身体に変化が起きた。
その力に適応し始めたのだ。
そして、主として必要な力をその身に宿した存在にタナハは名を付けた。
「お前の名は"テオス"....この地球を治める王であり神だ。
君の使命はその力を使い地球の生命をより良い者へと変える事だ。」
タナハにそう言われたテオスはかしずくと答える。
「承知致しました。
必ずや貴方の求める生命を作り出して見せます。」
そしてテオスを地球に返すと地球の生命や文化はこれまでとは比にならない程の発展を遂げた。
私はその光景に思うことはあったがコスモスが喜んでいる表情を見て言うのを止めてしまった。
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第百七十話 沈黙のD/失った愛
タナハがテオスを作り地球へ送ってから暫くの時が過ぎた。
テオスは動物を象った祖先である天使と自分の直属の部下である大天使を創造した。
そして、テオスはタナハの命令通り、超越者の器となる存在を作り出したのだ。
そう、超越者に選ばれた自分と同じ姿を持った人間を....
しかし、その判断が間違いだった。
確かにその肉体は超越者のエネルギーを受けて進化した種族だがその意識や思考まで進化しているわけではない。
彼等は我欲を持っていた....それこそテオスや超越者を越える程の我欲だ。
そして、その欲は傲りを産み争いを起こした。
人類と天使の戦争が始まった.....そしてそれは地球の本棚にも影響を及ぼした。
地球の本棚から力が溢れることを防ぐために作り出した地球から逆に
それは超越者が創造もしなかった新たな進化、アギトとギルスの力だった。
そして、その力が地球の本棚に流れたことで新たな"可能性"が産まれてしまった。
増え続けるエネルギーは超越者の精神を汚染する。
本棚は増え続ける記憶から空間を守る為、新たな器を欲した。
まるで容量不足のパソコンがメモリ増設を申請するように超越者の精神をメモリ代わりに吸収し始めた。
私もタナハも止めようと努力した。
だが、私達の意識の記憶は地球の本棚とリンクしている。
つまり、上位の関係となっていたのだ。
上位の指示には抗えない。
超越者の中でも能力や力が弱い者からドンドンと吸収されていく.....
止められないこの現象にタナハはある決断をした。
「地球を破壊する?」
「そうだ。
このままでは我らの意識は完全に地球を本棚に飲み込まれる。
地球で行われている戦いを止めるだけではもう足りない。
テオスは失敗作だ.....だからこそ全てを無に返して我々のエネルギーを受け止めるだけの星を作り上げる。」
その意見に一番に反対したのはコスモスだった。
「そんな事はダメよ!
彼等は地球と言う星で生きているのよ私達、精神だけの存在と違って生きているのよ!」
「じゃあどうすると言うんだ!
同胞が消滅するのを黙ってみているのか?」
「仮に消滅させて新たな星を作っても同じ結果になる可能性があるだろう?
地球は超越者の力が融合して産まれた存在なのだから...」
「なら、間引けば良い。」
「....どう言うことだ?」
「言葉の通りだ。
融合するエネルギーがこの事態を引き起こしたのならそのエネルギーを純化すれば良い。
余計な力を排除して......」
「私達を消すと言うのかタナハ。
それでは本末転倒だ!
結局、消してしまっては意味がないだろう!」
「黙れ!黙れ黙れ!
世界は善で満ちれば良い....お前のような悪は要らないんだよゴエティア!」
タナハその表情は怒りと憎悪に飲み込まれていた。
「やはり、感情が暴走しているな。」
ゴエティアは前からタナハの異常な行動について疑問に思い調べていた。
そしてある結論を出した。
それはタナハは感情の力を受け入れ過ぎた結果、その力に飲まれて制御が効かなくなってしまったのだ。
善の心を持つタナハだからこそ与えられた力を疑わず受け入れてしまった。
だからこそ他の超越者よりも感情のセーブが難しくなっていたのだ。
そしてそれはタナハの群に属する存在にも感染症の様に伝播していた。
私達の陣営に敵意を向けるタナハの陣営.....
「仕方がないな...降りかかる火の粉は払う。
私の仲間を消させはしないぞタナハ。」
タナハは"光による白い炎"、ゴエティアは"闇による黒い炎"を出現させる。
まだ肉体があった頃から使っていた力、それを解放する。
両者の力が解放されお互いに向かって放たれる....
それが開戦の合図となる筈だった。
しかし、その炎を受けたのは間に立ったコスモスだった。
「「コスモス!!」」
二人の声が重なる。
両者の炎はコスモスの身体を焼く。
「ごめんね、元を正せば全部私のせい...私が感情を作って皆に消滅の恐怖を与えてしまった。
だから、私が解決させる...."私の全てを犠牲にしても」
そう言うとコスモスは二人の炎を身体に吸収した。
「何をしているんだコスモス!!
私とゴエティアの力は相反する物そんなものを吸収したりしたら....」
「私の精神は持たない....分かってるわ。
でもこの力があれば地球から流れてくるエネルギーを安定させられる。
"善と悪"....そして"感情"の三つの力を持った私なら...」
「まさか....地球と同化するつもりか?
止めてくれコスモス!!そんな事をすれば君の精神は地球に吸収されて消えてしまう!」
「でも....それで皆は....救われる。
私は皆に争って欲しくは無い...."愛している...二人"には....」
「コスモス....」
「さようなら...ゴエティア...タナハ。」
コスモスはその精神を地球の中心へと移すと力を解放した。
それによりバランスが保たれた地球と本棚は崩壊を防ぐことが出来たのだ。
「違う....コスモス...私は...そんなつもりは...」
タナハは自分の手で顔を覆い地面に伏せる。
「コス...モス...嘘だ....」
私は現実を受け入れられず、その場で呆然としてしまった。
私もタナハもコスモスの為に動いていた。
彼女の悲しむ顔を見たくないから協力した筈だった....
だがその結末は、
私は...どうすれば良かったんだ?
答えてくれ....コスモス。
その願いは誰にも聞き届けられず消えていった。
コスモスがいなくなり争いが止まったタナハと私だが心には穴が空いたように虚無感に覆われていた。
そしてそれは互いの陣営にも影響し群はタナハとゴエティアの群は崩壊した。
群から去った者達がどうなったのかは分からない。
だが地球の本棚の記憶の一部となった者も多かった。
自分の精神を捧げた自殺...記憶だけが存在する空間で生きることを彼等は拒んだのだ。
それを止めることは私もタナハも出来なかった。
巻き込んだ張本人が死んで楽になることを許しはしないと思ったからだ。
一人になった私は、残った地球の本棚を使いコスモスを助ける手段を探した。
何度も何度も地球の本棚に収められた記憶を検索して存在しない希望にすがるように何度も何度も......
だが、そんな方法は無かった。
無力感が心を覆う。
(超越者の長になっても何も出来ないとは....我ながら滑稽だな。)
そう考えてながらも検索を続けていると本棚に変化があることに気付いた。
それは記憶が増えてきているのだ。
しかも、私の知らない記憶がドンドンと....
地球に変化が、あったのかと見てみたがそんな事はない。
だが、その記憶に私は興味を牽かれた。
その一冊に私は手を掛けた。
本には"仮面ライダー"とだけ書かれている。
その中身を読むとそれは驚くべき内容だった。
多数の並行世界に存在しその力を使い平和を守っている。
何故、こんなことが起きたのか?
その原因を考えている内に私の目に"仮面ライダーアギト"の記憶が目に入る。
(......これはテオスの起こした事件か。
そうか!あの時に産み出した
その記憶が仮面ライダー....だが何なのだこの存在は読み進めているのに新しい
こんなことは始めてだ。)
そうして読み進めていく中でゴエティアは一つのライダーの名前で止まった。
「仮面ライダー....W?」
その記憶には私達のいる地球の本棚が関わっていた。
今まで無かった事にゴエティアは驚いた。
そして一つの仮説が浮かぶ。
(これが、並行世界でなくこの世界でも起こったら地球に直接干渉することが出来るかもしれない。)
仮面ライダーWは地球の本棚と地球に関わる物語。
つまり、融合したコスモスを分離させる計画を建てられるかもしれない。
そう考えた私はタナハにこの計画を持ちかけた。
「仮面ライダー....か。」
「あぁ、我々の力がこんな存在を産み出したようだ。」
「この力.....確かに地球に関わるチャンスがありそうだ。
今の我々は地球に干渉は出来ても関わることは出来ない。
だが、この世界の住人になれれば.....」
「あぁ、同化したコスモスを救う手段が見つかるかもしれない.....だが」
「あぁ、それをするにはこの世界で活動する肉体...それも人間の肉体がいる。
そして、この記憶通りに世界が進むまで待つ必要があるな。」
「あぁ、恐らくは何世紀かかるか分からない計画だ。
しかも失敗は出来ないだろう。」
そう言う私にタナハは言う。
「なら、失敗してもやり直せば良い。」
「どういうことだ?」
「地球の本棚の記憶を書き換えるんだ。
そうすればその記憶が戻り過去をやり直せる。」
「だが、それには私の力だけでは足りない。」
「あぁ、エネルギーが必要だ。
それも大量の.....」
そう言うとタナハの周りに生きていた超越者の精神体が集まる。
そこには私の群に属していた者もいた。
「私達の魂を使ってくれ....この量だ。
きっと何千何万回もやり直せるだろう。」
「だが、そんな事をすれば君達は....」
「そう....消える。
だが、コスモスを救える可能性があるのなら賭けてみたい。」
「だが、何故だ?
そんな自己犠牲に意味があるのか?」
「私達はもう疲れたんだ。
この空間で悠久の時を生きるのに.....
死にたくても彼女に命を救われた身だ。
無駄な死に方は出来ない.....だが彼女を救う為なら我々も納得して逝ける。」
「だが、ゴエティア。
覚悟は出来ているのか?
我々のエネルギーを得ると言うことはこの世界にたった一人で生き続けないと行けない。
まだ何の可能性すら見つかってない状態でずっとこの空間にいる必要があるんだ。
それはきっと.....地獄すら生ぬるいだろう。」
「覚悟は出来ている。
あの時、彼女を止められなかった。
今度こそ彼女を離さない。」
「良かった...なら安心して託せる。」
こうして、残った超越者は私一人になった。
同胞の力を得た私は自らを笑う。
「あはは.....他者の魂を喰らって生きながらえるとはまさに悪魔に相応しい所業だな。」
確か、Wの世界で
なら、私も"悪魔"になろう。
例え何度やり直したとしても.......
「これが..."ゴエティアの真実"?」
ゴエティアの本を読み終えた無名はその真実に驚いた。
神をも作り出した超越者の存在、そしてその結末。
その全てが驚愕の事実であった。
「コスモス....この本の通りなら彼女は地球と同化している。
地球の本棚にいたゴエティアが接触できないのも頷ける。
地球の本棚と地球は記憶と言う膨大なデータで繋がっているだけでそこを行き来することは基本的には出来ない。
それこそ、フィリップの様なデータ人間でなければ....
だから、僕の身体が必要だったのか。
彼女の同化している地球と接触するために.....
でもならば、何故ゴエティアはコスモスと会うことが出来なかったんだ?」
無名がコスモスと会った時、確かにゴエティアの声が聞こえた。
何らかの方法を使って彼女のいる地球にアクセスしたのだろう。
だが、ゴエティアは彼女に会えなかった。
まだ何かゴエティアの気付けていない秘密があるのか?
きっとこの秘密はゴエティアから身体を奪い返すのに必要になる。
そう思った無名はその手がかりを得るためにもまた検索を再開するのだった、
本作での解釈
超越者.....テオスを作り出しだヤバイ種族。
感情を手にいれたことで消滅する危険から逃れる為、地球の本棚を創造し精神体として生きていた。
地球....地球の本棚から溢れたエネルギーが融合して産まれた星。
人間と天使の戦争でアギトとギルスが生み出された影響でエネルギーが飽和状態となるがコスモスの犠牲により事何を得た。
それ以降は原点通りに進む。
仮面ライダー....ゴエティアが見つけた地球の本棚の新たな記憶。
仮面ライダーが産まれた理由はアギトとギルスが誕生したことで未来の地球の記憶にも変化が起きた。
並行世界にもこの現象は適応されている。
ガイアメモリ....地球の記憶を封じ込めたUSBメモリだが、本作では超越者の残した力の断片と言う側面も持っている。
その中でも超越者の力と直接関係のあるメモリは強力な物となっている。
(例)
デーモンメモリ=ゴエティア
フェニックスメモリ=タナハ
ジョーカーメモリ=コスモス
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第百七十一話 Cの決断/進む深淵
暫くの沈黙の後、フィリップは答えを出した。
「僕は....母さんを許せません。
翔太郎だけでなく照井 竜の人生すら貴方は変えてしまった。
その罪はちゃんと償うべきです。」
「......」
「けど、そのお陰で僕はミュージアムから逃れて翔太郎と亜樹ちゃんの三人で探偵をすることが出来た。
それは紛れもなく貴女のお陰です母さん。
だから、僕も"母の罪を背負います"。
貴女と協力して翔太郎を助ける条件として、
この戦いが終わったら警察に自首してくだい。
それを叶えてくれるのなら協力します。」
フィリップの提案ににシュラウドは答える。
「分かったわ。
それが来人....いえ愛する息子の望みならば従うわ。」
「それじゃあ、翔太郎を助ける為の作戦を立てましょう。
実はジェイルメモリについて検索したのですがメモリに関する情報が何故か出て来ませんでした。」
フィリップの言葉にシュラウドが答える。
「恐らく無名の仕業でしょう....彼は貴方達と同じくエクストリームの力を得ている。
無名も地球の本棚に入れる筈よ。」
「つまり、無名がジェイルメモリについてか書かれた本を隠しているのですか?」
「えぇ、だから私達は先ずジェイルメモリの本を読み知識を得る必要がある。」
「だけど、検索しても出てこない物をどうやって....」
「私のメモリを使うのよ。
ネメシスメモリには復讐や怒り、恐怖をエネルギーに変える力を持っている。
来人と私が地球の本棚に入り私のエネルギーを使って無名のいる場所までの道を抉じ開けるわ。」
「そんな事が出来るんですか?
そもそも母さんも地球の本棚に入れるのですか?」
「貴方がいれば入れるわ。
ネメシスメモリにより私の身体が精神体が強化されている.....短時間なら地球の本棚にいても支障はないわ。」
「"短時間なら"と言うことは長くいたらどうなるんですか?」
「地球の本棚に異物と判断されてデータとして消されるでしょうね。」
「そんな....」
「地球の本棚に入るには資格がいる。
肉体をデータ化しても精神が残っていなければ行けない。
来人はそれが出来たからこそその力を使いこなせているのよ。」
「....分かりました。
何時始めますか?」
「左 翔太郎が動くのは少し時間がかかると言ったけど自信はない。
来人が問題ないなら今すぐにでも地球の本棚に入りたいのだけど....」
「僕なら大丈夫です。」
「それじゃ直ぐに始めましょう。
方法は変わらないわ。
貴方が地球の本棚に入る瞬間に私も割り込む.....それだけよ。」
「では行きます。」
そう言うとフィリップは目を瞑り意識を集中させて地球の本棚へと入っていった。
目を開けるとそこは何時もと同じく白い背景の本棚だった。
違いがあるとすれば隣にシュラウドが立っているだけだ。
「ネメシスメモリの力を解放するから少し離れて来人。」
そう言うとシュラウドの身体から赤い炎が噴き出すと本棚の地面に放たれた。
暫くすると本棚の下に穴が空く。
直後、シュラウドが身体を痙攣させた。
「ぐっ!あぁぁぁ!」
「母さん!」
駆け寄ろうとするフィリップをシュラウドは止める。
「私の事は....気にせず....行きなさい!」
「でも....」
「早...く。」
痛みに耐えているシュラウドを見て覚悟を決めたフィリップは穴の中でも落ちていくのだった。
本棚に開けられた穴を通る際、色合いが変わっていく。
白から黒へと変わり流れるデータの色も緑から赤へと変わっていった。
(地球の本棚にこんな秘密があっただなんて....)
そう感じながらもフィリップは出口を目指して落下していくのであった。
シュラウドとフィリップが地球の本棚に行っている時、残った克己とマリアは話をしていた。
「お袋、ここは良いから孤島に戻ったらどうだ?」
「あら?私の身体を心配してくれているの克己?」
「当然だろ?死にかけたんだ。
それに身体だって万全じゃないだろう。
だから.....」
「心配してくれているのは嬉しいけど私は大丈夫よ。
....それよりも私を連れてきてくれた霧彦さんの手伝いをしてくれないかしら?」
「手伝い?」
「彼が風都に来たのは私を送るだけが目的じゃないの。
だからそのサポートをして欲しいのよ。」
「今残っているのは堂本と芦原だけだ。
レイカはまともに動けないでいる。
照井も同じだ....俺が行っても良いが」
「貴方を行かせるのは難しいでしょうね。
他に誰かいないの?」
「せめて"増援"がいれば.....」
そう話していると克己の携帯に着信が入った。
宛名は赤矢となっている。
電話に出ると赤矢が話し始める。
「久し振りだな大道 克己。」
「そうだな....だが何の用だ?
お前は確か風都を離れていた筈だろ?」
「あぁ、だが黒岩から連絡があったんだ。
どうやら、リーゼはまだ生きているらしい。」
「その情報は確かなのか?」
「あぁ、最近、医療関係のバイヤーからミュージアム関連の組織が小型動物用の治療装置を購入したらしい。
不振に思った黒岩が何度か調査をしたらその装置をディガルコーポレーションに運んでいる事が分かった。」
「....根拠としては薄いな。
だが......」
「調べる価値はあるだろう?
潜入するのにNEVERのメンバーを借りれないか連絡したんだ。」
「それは"丁度良いな"。」
「丁度良いとはどういう意味だ?」
「詳しいことは会って話そう....風都での俺らのアジトは分かるな?
一時間後落ち合おう。」
「分かった。」
そう言って赤矢は電話を切る。
そして、克己は霧彦にこの事を教えるため動くのだった。
時同じくしてディガルコーポレーションでは、冴子と井坂、そして無名が一室に集まっていた。
「私は兎も角、井坂先生まで呼び出すなんて何の用?」
冴子の問いに無名は答える。
「風都第二タワー計画についての詳細を説明する様に琉兵衛様から命を受けました。
お二人は計画でも重要なポジションに置かれますので改めて説明して確認していただく必要があるのですよ。」
「随分と慎重なのね.....若菜へのクリスタルサーバーの融合は進んでいるのでしょう?
なら計画はほぼ完遂してると言って良いんじゃないの?」
「えぇ、当初の琉兵衛様の計画でしたら問題はありませんでした。」
「それはどういう意味ですか無名君。
琉兵衛さんの計画が変わったと言う風に聞こえたが...」
井坂の問いに無名は答える。
「えぇ、その通りです。
ミュージアムは当初の琉兵衛様の想像を越える規模まで成長致しました。
故にガイアインパクトの計画も大幅に加筆修正が行われたのです。
先ずは当初の計画を確認しましょう。」
「若菜を地球の巫女として地球の記憶を流し込む器となり来人を融合させることで地球の記憶を自由に引き出せる装置とする....それがお父様の計画よね?」
「えぇ、その通りです。
来人様をプログラム、若菜様をハードとして使い人類を進化させる計画でしたがこれには欠点があります。
それは"進化する人間を選別してしまう"点です。」
地球の記憶を肉体に流し込むことで強制的な進化を遂げる....つまりはガイアメモリを使うのと変わらない。
だが、適合できない人間は死ぬしかない。
この計画では何れだけの人が耐えられるのか分からなかった。
「今回建てられる風都第二タワーには他にもサブタワーとして周りを囲うように"六つのサブタワー"も建設されます。
表向きは第二タワーとの通信速度を上げる名目ですがその正体は地球の記憶を開いた際に安定させる楔です。」
「楔?それは一体どういう...」
「まさか!....いやだが可能なのか?」
井坂は無名の言葉を聞いて思考をする。
「井坂先生、何か分かったの?」
「えぇ、もし私の想像通りだとすればとても凄い事ですよ。
何せ、失敗したら"地球が滅ぶ"かもしれないのですから...」
「どういう事!?何故地球が?」
動揺する冴子を置いて井坂は無名聞く。
「琉兵衛は地球の記憶と直接繋がる道を作ろうとしているのですね?」
「見事な慧眼です井坂さん。
琉兵衛様は地球の記憶....いえ地球の本棚へと直接繋がる道を通そうとしています。」
「そんな事は不可能よ!
地球の記憶は地球の存在そのものを証明する場所よ。
それこそ膨大なデータとエネルギーが流れていて入ることが出来るのは来人と同じデータ人間だけ....」
「だから、変えるんですよ風都にいる人を"データ人間"に....そうすればガイアインパクトで選別される心配は無くなります。」
その計画を知った冴子に戦慄が走る。
(何て恐ろしい計画を....それはもう"種の進化"じゃなく"種の変化"よ。
確かに来人と同じデータ人間になればガイアインパクトに適合できない人間は存在しなくなる。
何故ならガイアインパクトに適合できないと肉体がデータとなり消失するがデータ人間ならばその心配はない。
容量さえ越えなければ死ぬことも無いだろうがそれは人としての尊厳を失うことになる。
地球の本棚に入り全てを知れる人間の集団がこれまで通りの人の営みを送れるか?
答えは否だろう。
井坂もその話を聞いて顔を手で覆う。
しかし、その後に出た言葉は冴子の予想を超えるものだった。
「素晴らしい.....私の身体がデータに...そうすればきっと....もっとガイアメモリと一つになれる!!」
「井坂先生....良いんですか?私達が人でなくなっても?」
「そんなもの最初のガイアインパクトの計画の段階で分かりきったことでしょう。
進化と言いますがそれは実質、今の人類の姿の放棄です。
データ人間に変わることと大差はありませんよ。」
そう言う井坂の目にはデータ人間となってメモリの力が強くなる姿しか入っていなかった。
すると無名の表情に違和感が起きる。
「どうしましたか?」
「.....いえ少し予定外な事が起きました。
申し訳ありませんが少し退席させて貰います。
お二人への指示はこちらに」
そう言うと無名はタブレットを置いて部屋を出ていった。
無名の置いていったタブレットを井坂は開くと中を見る。
「本当にこの計画に参加するんですか井坂先生?」
「当たり前でしょう。
データ人間になればよりガイアメモリとの繋がりが強くなる。
断る理由がない....それにテラーのメモリを奪うチャンスでもありますしね。
これだけ盛大な計画だ....恐らく幹部もサブタワーの護衛に回されるでしょう。
王の守りが手薄になれば、倒す可能性も必ず生まれます。
冴子君.....君がミュージアムのトップになれる可能性もね。」
「.....なら」
「えぇ、我々も準備をしましょう。
お父上、いや園咲 琉兵衛を倒す準備を....」
ディガルコーポレーションを遠くから眺める霧彦の顔は憂鬱だった。
「随分と悲しそうだな。」
その表情を見た克己が言う。
「少し前まで私は彼処にいて、ガイアメモリの普及に勤てんでいた。
それが人類の進化に繋がると信じて....
その結果、私は愛していた妻に命を奪われ妹の人生すら壊しかけてしまった。
責任を感じるなと言う方が無茶だよ。」
目を覚ました時、雪絵から全ての事情を聴いた。
無名が助けてくれたこと...それをミュージアムに報告せずに匿い続けてくれたこと
そして、雪絵が冴子に復讐を望んでいることを....
「兄が目覚めても変わらなかったか?」
「あぁ、俺の前では上手く隠しているつもりだろうがね。」
霧彦はガイアメモリのセールスマンとしてこれまで色んな人間を見て来た。
己の欲望のまま力を振るいたい者、ガイアメモリで商売をしたい者、そして復讐を果たしたい者。
どんなに取り繕ってもその瞳に写る復讐の炎は消えない。
だからこそ雪絵の顔を見て霧彦は気付いてしまったのだ。
雪絵が冴子やミュージアムへの復讐を望んでいることを....
「それでどうするつもりなんだ?」
「私は復讐を望んではいない。
だが、兄である俺がいくら説得しても無駄だろう。
だから止める力が欲しい....」
「それを手に入れる為に行くのか?」
「あぁ....君は何故ここに?」
「お袋に頼まれてな。
お前の手伝いをして欲しいと言われたんだが、生憎俺は向かうことは出来ない。
だから代わりを用意した。」
そう言うと堂本が霧彦の前に現れる。
「コイツは俺の仲間だ。
腕は立つから一緒に行ってくれ....それと無名の部下もディガルコーポレーションに行くらしいからな。
共闘すればお前の目的も果たしやすくなるだろう。」
克己が霧彦に説明を終えると堂本にNEVERドライバーとメタルメモリを渡す。
「万が一、ヤバイ敵が出てきたらこれを使え。
このメタルメモリはシュラウドが作った試作メモリらしい。
出力に関しては問題ないが変身には一回しか耐えられないそうだ....良く見極めて使えよ。」
「あぁ、任せてくれ克己。」
「それで霧彦、何時潜入するんだ?」
「ディガルコーポレーションは表向きは一般企業だ。
朝はミュージアムに関連のない一般人が働いている。
そこを狙って潜入する。
予定が前と同じなら二日後、社長と役員が支部の視察に向かう筈だ。」
「成る程、潜入は二日後だな?
無名の部下にもそう連絡をしておく。」
克己はそう言うと二人を置いてその場を離れるのだった。
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第百七十二話 Cの決断/悪魔とのかくれんぼ
地球の本棚の奥へと落ちていったフィリップは地面を見つけるとそこに着地した。
辺りの景色を見るとそこは何時もの本棚と違った。
背景は暗く本棚にある本の表紙は赤くなっている。
「ここが、地球の本棚....全くの別世界だな。」
フィリップは目の前の本を取ろうとするとその手を止められた。
「ここを無事に出たいのなら本に触れない方が良いですよ。」
その手を止めたのは他でもない無名だった。
「君は.....」
「まさか、ここまで辿り着くとは思いませんでしたよ。
ゴエティアは貴方ではシンクロ率が足りないと言っていましたから....」
「その雰囲気は、僕たちの知っている無名のようだね。」
「えぇ、今僕の身体を使っているのは別人です。
僕の精神はこの本棚に囚われています。」
そう言う無名にフィリップは言った。
「実は君に頼みがあるんだ。」
「ジェイルメモリに関する記憶なら此方に....これなら貴方が触れても大丈夫ですよ。
そうして差し出された本はフィリップが何時も見ている地球の本棚の表紙だった。
「ここに置かれている本はゴエティアがセキュリティを掛けていて不用意に触れようとすると黒炎が本に触れた人物へと牙を剥く。
僕は黒炎を操れますから問題ありません君が触れたら大変なことになります。」
そう言うと無名はフィリップに本を差し出す。
「..........」
「どうしました?
まさか、罠かと勘ぐっているのですか?」
「君はアイツの正体を知っているのか?」
主語を抜いていてもアイツが誰を指すのかは無名には分かった。
「あの怪物の名前はゴエティア。
地球の本棚を造り上げた存在の生き残りだそうです。」
「ゴエティア?....確かソロモンに関連する魔法書の一説がそんな名前だった筈だが...」
「陳腐な言葉で表すのならその元ネタが地球の本棚にいたと言うことです。
そして彼はずっと此方の世界へ来るチャンスを伺っていた。」
「何の目的で?」
「それは.....!?避けろ!」
無名が咄嗟に放った言葉に従いフィリップが回避行動を取るとそこが爆発した。
「まさか、ここにやってくるとは....少し君の事を見くびりすぎましたよフィリップ。」
「ゴエティア。」
そう言いながら空からゴエティアがフィリップに攻撃をした。
「どうやってここへ?
貴方のシンクロ率ではここまでの壁を抜けることは出来ない筈ですが....」
「それを素直に教えると思うか?」
「連れないですね。
「あれは無名だろ?....君じゃない。
それに翔太郎に危害を加えようとしているお前を許しては置けないよ。」
「そうですか....では続きは箱庭で行いましょうか!」
ゴエティアがそう言ってフィリップに攻撃を仕掛けるがそれを無名が本を一冊開き止める。
「....ほう、記憶の取り出しも上手くなって来ましたね無名。」
「君に長いこと幽閉されているからね。
本の力を引き出せるようになったよ。」
「だが、"一冊"....それ以上の力を引き出そうとすると負担がかかりそうですか?
引き出すと言うなら"これぐらい"やって貰わないと...」
ゴエティアは三冊の本を開くとその力を解放した。
「マズイ!
「
爆弾の力を重力で圧縮してから解放することで威力の強化された爆発が衝撃波となりフィリップと無名に放たれた。
凄まじい衝撃が発生するがその頃には二人の姿は消えていた。
「HIDEの力で私に姿を見えなくしたか.....だがダメージを避けられる訳じゃない。
二人が鬼ごっこが好みなら付き合いますよ。」
そう言うとゴエティアは二人を探し始めるのだった。
本棚の裏に隠れた二人はゴエティアからの視界が切れると無名は持っている本を操作して能力を解除する。
すると無名とフィリップの身体が見えるようになった。
「はぁはぁはぁ....」
息切れを起こす無名の身体はボロボロであった。
「大丈夫か無名?」
フィリップの問いに答える。
「HIDEの力で隠れられはしましたが、あの衝撃波を避ける事は出来ませんでした。
正直、もう気絶しそうな位にはダメージがありますね。
フィリップ君....ジェイルメモリの本は?」
「さっきの衝撃で手放してしまった...すまない。」
「いえ、あれは予想外なので仕方ありません。
大事なのは今です。
フィリップ君にはジェイルメモリの本を持って元の本棚へ戻って貰う必要がある。
何とか策を考えないと....」
「待ちたまえ、君はどうするんだ?
このままじゃ君は....」
「殺されることはありませんよ。
だが、フィリップ貴方は違う。
ゴエティアが何故、ここに来たのかは分かりませんが貴方を排除したいことは分かりました。
僕はそれを止めます。
貴方も脱出したいのなら力を貸してください。」
「分かった。
それよりさっきの攻撃は何なんだ?
あれもデーモンメモリの力なのか?」
「いえ、本棚の力を引き出して使ったんです。
イメージとしてはガイアメモリの力を使う感覚です。
だけど、使うと精神体にダメージが残ります。
僕も一冊引き出すのが限度です。
エクストリームの力を使えばもう少し無茶は出来ますが...」
「ここから悠長に探してゴエティアが見逃してくれる保証はないね。」
「えぇ、ですから現状この周りの力は一つしか使えません。
それを使ってジェイルメモリの本を手に入れてここを抜け出せれば君の勝ちですフィリップ。」
そう話しているとゴエティアが大きな声で話し始める。
「鬼ごっこはどうですかお二人とも!
楽しんでいますか?」
「「..........」」
二人は黙ってゴエティアの声を聞く。
(声の位置から考えてそんなに離れていない。
動くべきか?.....いや今動いたら見つかる可能性がある。)
そうしているとゴエティアは更に続ける。
「フィリップ君....貴方が何故ここに来れたのか疑問でしたが答えが分かりましたよ。
シュラウドですね?....彼女のネメシスメモリの力を使い壁を破って此方に来た。
全く、素晴らしいアイデアです....だが良いんですか?
あんまり悠長にかくれんぼをしていたらシュラウドが持ちませんよ?
貴方をここから出すためにもシュラウドは壁の穴を保持しています。
そしてそれをするにはネメシスメモリの力を常に放出する必要がある。
彼女の蓄えている力を放出すると言うことは"命を削っている"ことなんですよ。」
(!?何だって!)
「ネメシスメモリは復讐心や怒りを力にします。
だが、彼女は今その力を壁を破ることに使っている。
そうすれば、彼女を身体を持たせている力も失われていく....ここまで言えば後は分かるでしょうお二人とも。」
シュラウドは琉兵衛のテラーのメモリにより死にかけているのをネメシスメモリで無理矢理延命している。
その力を使っているのならば、このまま隠れているのは危険すぎる。
だが、フィリップも直ぐには戻れない。
ここに来たのはジェイルメモリの本を持っていく為なのだから.....
(早く何とかしないと...)
(考えろこの状況を変える一手を....)
動揺するであろうフィリップの為に無名が策を考えているとゴエティアは更に続ける。
「出てきてくれませんか?
私も貴方達を傷つけたくないんですよ...."血の繋がりがある二人"を....」
((!?))
衝撃な言葉に無名も驚く。
「おや、言ってませんでしたか?
無名、貴方とフィリップは繋がっているんですよ。
何せ無名の身体を作る時に、フィリップ..."園咲来人の死体"の一部を使ったんですから」
その言葉に二人はお互いの顔を見る。
「まぁ、フィリップとなった貴方には記憶が無いでしょうが....貴方は一度死んでいます。
此方に繋がる穴へと落ちて...そこでデータ人間へと変換される途中で私は貴方を見つけたんですよ。
そしてその肉体の一部を使い私のエネルギーと混ぜ合わせて生み出したのが無名....貴方です。
だから貴方とフィリップは園咲家の誰も知らない血縁者となっているわけです。」
(それが....僕の秘密....でも何で原作の記憶が?)
「それは私が貴方を作る前に何度も体験した記憶だったからですよ。
それを貴方にインプットした....それだけです。」
自分の思考にゴエティアが答えたことに無名は驚く。
「言ったでしょう?
貴方を作るのに私のエネルギーを混ぜていると..."集中"する必要がありますが、そうすれば貴方の思考が繋がり読むことが出来るんですよ。」
そう言うと二人は何かのエネルギーに捕まれてゴエティアの前に連れ出される。
「捕まえた....これで鬼ごっこは終わりです。」
そう言って笑うゴエティアの手にはジェイルメモリの本が握られていた。
「これをフィリップ君が手に入れられる未来は来ない。
貴方はここでデータとして分解してあげますよ。」
万事休す....そう思われた時、無名が笑い始めた。
「....ふふっ...ははっあはははは!」
「ついに気でも狂いましたか?」
ゴエティアの問いに答える。
「まさか!勝ち誇っている貴方を見て笑ったんですよゴエティア。」
「.....何?」
「"全てが上手く行っている"。
そんな顔をしていますが貴方自身、何も上手く行っていない。
"彼女"すら見つけられず.....」
「どういう意味だ?....何を知っている無名?」
「おや?知らないんですか?
そこまで追い求めていたのに.....知らないんですか?」
「黙れ!...黙って私の質問に...」
「そんなに動揺するなよ...."タナハ"に笑われるぞ?」
そう挑発的に無名が告げるとゴエティアの表情が初めて崩れた。
「私の記憶を読んだのか?.....だが読めるわけがない。
あの本にはプロテクトが掛かっていた。
プロテクトを解除するなんて....」
「気になるのなら読んでみれば良いじゃないですか。
ここを......」
そう言って無名は自分の頭を指差した。
これは"賭け"だ。
失敗すれば全てが終わる....だが成功すればまだ逆転の目が残せる。
だからこそ動揺を
ゴエティアは格上の存在だ。
そして自分達は圧倒的な格下....そんな僕にある手札は少ない。
上手く使え....そして悪魔を操れ。
悩んでいたゴエティアは何かを決めると無名を見つめる。
その瞬間、無名とフィリップの身体を掴んでいた力が消えた。
それを狙いゴエティアの手から本を奪うとフィリップに投げ渡す。
「走れ!ここから逃げろフィリップ!」
その言葉にフィリップは従い、二人から離れて行く。
「しまった!」
ゴエティアはここで自分の失策に気付く。
無名の考えを読むために意識を集中させ過ぎた結果、自分の使っていた本の力すら解除してしまったのだ。
追いかけようとするゴエティアを無名が止める。
「良いんですか?
彼を追いかけても?」
無名の手には一冊の本が握られていた。
「貴様、何のつもりだ?」
「貴方がフィリップを追いかけると言うのなら私はこの本の力を使います。
さぁ、止めますか?」
「そんな本一冊の力で私を止められるとでも?」
「止めないと....欲しいものが無くなるかもしれないですよ?」
無名の言葉にゴエティアは何の本を持っているのか表紙を見ようとするが表紙を無名は身体の裏に隠してしまった。
(ならば、高速移動して...)
「少しでもおかしな動きをしたら起動します。
この力は前に"貴方に見せて貰いました"から使い方も分かりますしね。」
(私が見せた力?)
ゴエティアは思考する....何の力なのか。
(この場で最も効果的に作用する力....直接攻撃に関わる力じゃない。
並ば精神系?.....私の精神に作用する力?
いやだとしたら交渉材料にはならない。
自分に?.....まさか!)
答えに辿り着いたゴエティアは無名を睨む。
「流石はここに長くいただけはありますね。
もう辿り着きましたか。」
「その力を発動した瞬間に意識を刈り取るぞ。」
「ではお互いにじっと睨みあっていましょう。
そうすれば万事解決です。」
無名はそう言って笑う。
ゴエティアは理解した無名の所持する本の力を....
("ERASE"...私が他者の記憶を消す時に使った力。
それを使って自分の記憶を消すつもりか。
そんな事をしたら何故、無名がタナハやコスモスを知っていたのか分からなくなる....くっ!悔しいですが完敗ですよ。)
そう思いながら見つめられている無名は身体の裏に隠した本が相手に見えないようにしている。
(これの中身がバレたら終わりですね。)
無名の隠していた本の表紙には"LIAR"と書かれていた。
Another side
無名から渡された本を持ってフィリップは走っていると上空に穴を見つけた。
(あれは...僕がここに来た時の穴だ!)
フィリップはその穴に向かって飛び上がると穴へと引きずり込まれ地面に吹き飛ばされた。
フィリップは乱暴に地面に転がる。
「来人!」
その姿を案じたシュラウドが彼に駆け寄る。
すると、開いていた穴が閉じる。
辺りを見るとそこは何時もと同じ地球の本棚の景色だった。
「帰って....来れた?」
フィリップは手に持っていた本を見つめる。
そこには"JAIL"の文字が確かに書かれていた。
「見つけたのね。」
「はい、途中でゴエティアに邪魔されましたが...」
「ゴエティア?
それは一体.....うっ!?」
ゴエティアの名前を聞いたシュラウドは頭を抑える。
「大丈夫、母さん。」
「えぇ、その名を聞いたら頭に痛みが.....」
「今は止めて置きましょう。
それよりも今はジェイルメモリについて検索しないと...それに母さんも戻るべきだ。」
「えぇ、そうさせて貰うわ。」
そう言うとシュラウドは地球の本棚からログアウトした。
そして、一人残ったフィリップは本を開き中を読むのであった。
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第百七十三話 闘争のW/二人の戦い
入口の警備をしていた二人の警官が尋ねる。
「止まれ!お前達は何者....」
「邪魔だ....寝ていろ。」
マスクを着けた男の片割れが警官に近づくと腹部を殴り無力化させる。
そしてそのままもう一人の首を手刀で打ち意識を奪った。
「随分と強引に行きますね?」
「彼等に罪はない....俺の狙いはこの病院にいる玉城だ。
奴を殺せれば問題はない。」
そう言うとマスクの男と無名は病院へと入っていく。
中に入ると二人は違和感に気付く。
「誰もいませんね?
玉城の生体反応はこの病院を示しているのですが...」
無名の問いに病院から現れた照井が答える。
「当然だ。
貴様らが来ると聞いたからな。
予めスタッフは避難させた。」
現れた照井を見た無名は先程、倒した警官に目を向ける。
しかし、そこにはもう誰もいなかった。
「驚きましたよ。
貴方も相当な怪我を負った筈だ。
それこそ二日で動けるレベルじゃない。
それなのに今こうして貴方は立っている。
本当に人間ですか?」
「貴様には言われたくないな。」
「ははっ!道理ですね。」
そう言うと照井の前に無名が出てマスクの男に告げた。
「"翔太郎"さん、どうやら罠に掛かったようですが問題ありません。
玉城はこの病院にいます。
私が照井刑事の相手をしている間に、処理をお願いできますか?」
無名がそう言うとマスクを外し素顔を出した翔太郎が階段を登り上へと上がっていった。
それを照井は止めようとしない。
「おや、止めないのですか?」
「その役目は俺じゃなく左の相棒の物だ。
俺の役目はお前をここで足止めすることそれだけだ。」
そう言うと照井はアクセルドライバーを着ける。
無名も同じようにガイアドライバーを着けるとお互いに変身を行うのだった。
病院の階段を登り目当ての病室を探す翔太郎....
その姿を見て悲しそうにしながらフィリップが現れた。
「翔太郎、どうしてここに来たんだい?」
「.........」
フィリップの問いに翔太郎は答えず病室を探す。
「君はジェイルメモリの力に囚われている。
今の君は僕達の知る左 翔太郎じゃない。
それに、帽子はどうしたんだい?
鳴海 荘吉に憧れた君がずっと着けていたじゃないか?」
フィリップがそこまで言うと漸く翔太郎が言葉を紡いだ。
「俺はおやっさんの教えを捨てた...この街を守るために悪人を殺す。
それにはあの帽子は邪魔なんだ。」
「そうか.....少し安心したよ。
完全に"心を捨てきれてない"ようで」
「帽子を被ることは鳴海荘吉の意思を継ぎ、街を守る覚悟と証だった。
君はそれを理解している。
だから帽子を被れない。
今の自分に資格がないと君自身が一番理解しているからだ。」
「あぁ、だがそれで良い。
俺は俺の考えでこの街を浄化する。」
「いや、それは許さない。
君の相棒として止める。」
「俺を一度捨てた者の台詞とは思えないな。
それにシュラウドも言っていただろう。
仮面ライダーWは殺戮マシーン。
俺はその意思に従い力を振るう。」
「違う.....違うよ翔太郎。
それは仮面ライダーWじゃない....Wシステムに求められた"偶像"だ。
仮面ライダーWは風都にとって希望のシンボルだ。
例え、どんなに街が悪に呑まれても街を戦う。
体一つになっても喰らいついて倒す。
その心そのものが仮面ライダー。
君が僕に教えてくれたことだ。」
「君と相棒になる時、僕は尋ねたよね?
"悪魔と相乗りする勇気があるか"と....
訂正するよ君は僕にとってかけがえの無いただ一人の相棒だ。
だから決めた....もう迷わない。
君とのWが僕にとっての一番なんだ。
この一番は絶対に失いたくない。
それを悪魔に奪わされてたまるか。」
「"僕と言う悪魔と一生相乗りして貰うよ翔太郎"。
その為にも本当の君を取り戻す。」
気が付けば調べていない病室はフィリップの後ろにある部屋だけとなった。
「そこをどけフィリップ。」
「断る僕はもう諦めない。
君の事も彼の命も.....」
翔太郎は静かにデモンドライバーを着ける。
それに合わせてフィリップもロストドライバーを装着した。
「CYCLONE」
「JOKER」
「「変身」」
二人は同じタイミングでメモリを装填し展開する。
翔太郎は"仮面ライダージョーカー"にそしてフィリップは"仮面ライダーサイクロン"へと変身した。
二人が向かい合い拳を握るとお互い走り出すのだった。
アクセルとデーモンドーパントの戦いはアクセルが劣性に追い込まれていた。
黒炎で生成した刀でエンジンブレードと切り結んではいるが技量に差があり、アクセルの攻撃を刀で絡めとり返し太刀を浴びせていた。
「ぐっ!単純な斬り合いでは不利か。」
「これでも武術に関しては良く"本棚"で調べているんですよ。
過去に
「なら、これならどうだ!」
アクセルが合図をすると、病院の壁が爆発してエネルギー弾がデーモンドーパントへと着弾した。
何とか刀を滑り込ませたことで直撃は避けたが吹き飛ばされてしまった。
「成る程、ガンナーAによる砲撃ですか。
奇襲としてはうってつけの攻撃ですね。」
「だが、決定打にはならなかったか。」
「えぇ、もう少し貴方と遊んでも良いのですが...なにぶん此方も時間がないので少し本気で行きます。」
「XTREAM」
無名が呟くとデーモンドーパントの胸部から瞳の様にクリスタルサーバーが露出し肉体が変化した。
「TRAIN,DRAGON....並列起動。」
無名がそう告げるとアクセルがいきなり吹き飛ばされて壁に激突するが止まること無い攻撃がアクセルを襲った。
「トレインメモリの空間移動とドラゴンメモリの衝撃波を掛け合わせた技です。
貴方にはまだ役目があるので生かしてはおきますが貴方の不死性は本当に厄介だ。
今の貴方では恐らく常人の瀕死レベルなら動けてしまうでしょう。
だから調整しながらダメージを与えて精神が耐えられなくなる程度で抑えます。」
そう言いながら掛け合わせたメモリの攻撃をアクセルへ加え続ける。
ガンナーAはアクセルを助けようとデーモンドーパントへ砲撃を行おうとするがその前にトレインメモリで空間を繋げられドラゴンメモリの衝撃波を上から落とされた。
コンクリートの地面を陥没させる程の攻撃はガンナーAを作動停止に追い込むには充分だった。
「さて、これで終わりです。」
トドメを刺すようにアクセルへ衝撃波を当てるとアクセルは変身解除され意識を失った様に倒れるのだった。
勝ちを確信したデーモンドーパントはメモリを抜いて無名の姿へ戻ると階段をゆっくりと上がっていく。
(恐らく上にはフィリップ君がいるのでしょうね。
大方、相棒を助けようと必死になっているのでしょうが無駄ですよ。
彼を助けるには翔太郎の精神が封じ込められたジェイルメモリが必要不可欠。
だが、それを翔太郎は持ってはいない。
ジェイルメモリは"私の手元"にあります。
彼の精神を取り戻せる可能性は万に一つもありません。)
人間を超えた存在である自分が管理しているからこその絶対的な自信をゴエティアは持っていた。
故に人間の肉体を動かしていてもその考えは抜けなかった。
だからこそ、彼は"照井 竜"に背後を取られてしまう。
「漸く隙を見せたな。」
「なっ!?」
驚愕の表情を浮かべる無名を捕まえて照井は階段から転がるように倒すと無名の身体を捕縛した。
「良し捕まえたぞ"克己"。」
照井の言葉に反応するように克己が現れると懐を探り克己はジェイルメモリを取り出した。
「これがジェイルメモリか.....流石はフィリップの策だな。」
そう言って笑う克己をゴエティアは睨み付ける。
「どういう事だ?何故
「俺に質問をするな....」
「くっ!」
「随分と不様な姿だな。
驕りは身を滅ぼすと
「この、人間無勢がぁ!」
ゴエティアは身体を起こそうとするが照井に拘束されて身動きが取れない。
「無駄だ。
今のお前の身体は生身の人間だ。
メモリを使わなければ捕縛することは容易い。」
「そう言うことだ....お前の企みはこれで終わりだ。」
そう言うと克己はジェイルメモリを握りフィリップのいる階へと向かっていった。
「待てっ!そんな事をさせるか!」
「無駄だ!俺が捕まえている限り、お前に自由はない。」
照井の拘束により無名は怒りの声を上げることしか出来なかった。
病院が翔太郎と無名に教われる前日......
フィリップは克己と照井、シュラウドとマリアを集めて鳴海探偵事務所のラボで作戦会議を行っていた。
「ジェイルメモリについて詳しく分かった。
やはり、このメモリから奪われた精神を取り返すには直接メモリの中に入る必要がある....それも翔太郎が近くにいると言う条件付きでね。」
ジェイルメモリから精神を取り出すにはメモリには入り囚われた精神を解放して更にメモリをその対象に挿す必要があった。
「となれば必要なのはジェイルメモリと翔太郎本人と言うことか....難しいな。」
そう言う克己をフィリップが否定する。
「いや、そうでもない。
ジェイルメモリを受けてから翔太郎は犯罪者への怒りや殺意が強くなっている。
玉城が生きていることも知っている筈だ。
だとしたら彼の命を奪いに来るだろう。
勿論、無名と一緒に.......」
「なら、罠を仕掛けられると言うことだな。」
「あぁ、だがそれは無名にも読まれているだろう。
だからそれを利用する。」
「利用する?.....どうやって?」
「先ず、ジェイルメモリに関してだが十中八九、無名が持っているだろう。
今の無名は人間を馬鹿にしている帰来がある。
他人にジェイルメモリを預けることはしない。
自分で持っている可能性が高い。」
「成る程、無名からジェイルメモリを奪うわけだな?」
「あぁ、だが一筋縄では行かない。
彼はエクストリームの力を使える。
その能力は恐らく...."地球の本棚にあるガイアメモリの力を引き出す"ことだ。」
フィリップの言葉に照井は驚く。
「そんな事が本当に出来るのか?」
「いいや、普通なら不可能だが彼には出来ていた。
現に地球の本棚で彼に会った時、メモリの力で追い詰められたからね。」
「それが本当だとすればメモリを奪い取る何て無理じゃないのか?」
「彼をドーパントにさせてしまったら不可能だろうね。
.....だけど人間の姿なら出来ると思う。」
フィリップはそう言うと照井を見る。
「照井 竜....僕はこれから君に残酷な提案をする。
危険だと思えば断ってくれても......」
「フィリップ....そんな事は考えるな。
俺も左を助けたい...その為のリスクなら負ってやるさ。」
照井の覚悟の籠った瞳を見たフィリップは彼に頭を下げる。
「本当にありがとう....策は至って単純、無名と戦って貰ってわざと変身解除されるんだ。
そして、無名も変身解除した隙をついて彼を捕縛してジェイルメモリを強奪してくれ。」
その策に克己が苦言をていす。
「おいおい、フィリップ。
いくらなんでも無茶が過ぎるぞ。
今の無名が手加減してくれると思っているのか?
そんな事は絶対にあり得ない。
良くて再起不能なダメージを与えれられるに決まっている。」
「そこは僕も同意だ。
だからこそ彼の知らない切り札を照井に渡す。」
「切り札?」
そう言うとシュラウドが照井の前に来ると懐から一つの装置を取り出した。
それはケースに入ったスイッチを内蔵したガイアメモリだった。
「これは対井坂用に開発していたアクセルの強化プランである"ブーストメモリ"よ。
照井 竜.....貴方に合わせて私が作ったメモリ。
これがあれば無名を出し抜けるわ。」
そう言ってメモリを照井に渡す。
「これで変身すれば無名に勝てるのか?」
「いいえ、今はまだ"変身"は出来ないわ。
もっとメモリとの適合率を上げないとね.....でももう一つの機能なら問題なく使える。」
「もう一つの機能?」
「えぇ、そうよ。」
デーモンドーパントにより変身解除に追い込まれた照井は限界ギリギリながらもこれまでの激戦のお陰で意識を保っていた。
しかし、無名にバレないようにわざと意識を失った振りをした。
そして、懐からブーストメモリを取り出すとケースを開いてスイッチを押した。
「
すると、照井の身体に蓄積されたダメージがまるで嘘のように失くなり立ち上がることが出来た。
そして、無名にバレないように背後に回ると彼を取り押さえたのだ。
「このブーストメモリの機能には起動するとそれまで使っていたメモリの力を瞬間的に増幅する力がある。
今のところ同調できるメモリはアクセルメモリしかないけど....メモリの力が増幅すれば貴方の身体のダメージも瞬間的に回復できるわ。
弱点があるとすればこの機能を使うと数日、ブーストメモリと増幅したメモリが使用不能になる。
だからこそ、使うタイミングを間違えないで」
照井は無名を捕縛しながら身体の調子を確認した。
(痛みはあるが、動けない程じゃない。
これがブーストメモリの力。
これを使いこなせれば....井坂にも)
照井はそう考えながら無名を捕縛していたが突如感じた殺気を受けて回避行動を取る。
そのお掛けで無名か照井から解放された。
その方向を見てみるとゴスロリ服を着てイナゴを食べている女性が現れた。
「貴様は?」
「.....アンタも食べる?」
そう言ってポーチからイナゴを取り出す。
「ふざけているのか?」
照井はそう尋ねるが本人は純粋に質問したらしい。
すると無名が立ち上がる。
「ミュージアムの処刑人である貴女が来るとは.....狙いはなんですか?」
「琉兵衛様から貴方を手伝えと命令を受けました。」
「そうですか....では
私は急用がありますので」
「承知致しました。」
そう言うとイナゴの女は照井に蹴りを放つ。
その蹴りを照井は回避するがコンクリートの壁に穴を空けてしまう。
「何っ!」
その足を良く見ると足全体が金属で出来ていた。
足に気付いた照井にイナゴの女が声を掛ける。
「そんなに珍しい?
"両足が鋼鉄の女"は.....」
イナゴの女はフェニックスドーパントの一戦で足に炎を受けて以降、動きが悪くなってしまったので両足を機械化していた。
彼女にとって両足よりもミュージアムに役立て無いことの方が恐ろしかったのだ。
そして、その狂気に
「Hopper」
ホッパーメモリを機械化した足に付いているプラグへ射し込むと肉体がドーパントへと変異し始める。
そして両足の金属に纏わりつくようにバッタの筋肉がくっついていく。
変身が完了したその姿は劇中のホッパードーパントより両足がゴツくなっていた。
明らかに強化されたその足は元の姿よりも強くなっていると分かる。
「それじゃあ、いただきまぁーす。」
イナゴの女はそう言うと照井に向かっていくのだった。
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第百七十四話 闘争のW/潜入
清掃員の格好と道具を持った集団がディガルコーポレーションの受付に話し掛ける。
「失礼、会議室の清掃を頼まれたのだがセキュリティカードを戴けないだろうか?」
物腰柔らかく告げられた言葉に受付の女性はうっとりとする。
それは言葉以外にも話し掛けた男が美形だったからだろう。
「今日....は清掃の予定は入っていない筈ですが....」
「おや?しかしこちらも連絡を受けたんだけどな....
クライアントの名前は園咲冴子さんなんだよ。」
「えっ!代表取締役が?」
「あぁ、何でも自分が会社に戻る間に部屋を完璧に綺麗にして欲しいと頼まれたんだ。
あの方の完璧主義は有名だろう?
ここで揉めて掃除が遅れたとなれば君にも迷惑が掛かる....そうだ、不安ならば中に入れて鍵を閉めてくれても構わないよ。
どちらにしろ時間が掛かるからね....どうだろうか?」
その言葉に受付は納得するとその集団を会議室へと運ぶのだった。
鍵を閉められたことを確認すると清掃員は帽子を取る。
その正体は霧彦と赤矢、そして黒岩だった。
「上手く潜入できたな。」
「あぁ、彼女の癖が変わっていなくて良かったよ。」
冴子は時間を無駄にすることを嫌う完璧主義者だ。
それは掃除にも現れていた。
掃除の時間を分単位で決めておりそれは会社の中でも有名だった。
清掃業者の予定をいきなり入れることもそこまで不思議ではなかった。
「それで...これからどうする?」
黒岩が霧彦に尋ねる。
「この会議室の隣が冴子のいる社長室だ。
セキュリティは厳しいが入れればリーゼの居場所も分かる。」
「必要なのは会社でも役員を取り締まれる権限を持った者に与えられるセキュリティカードだ。
昔の私は持っていたが....冴子に殺されかけた時に服ごと壊されたからもう使えない。」
「それじゃどうするんだ?」
「ここもガイアメモリに関する仕事をしていても表向きは普通の会社だ。
このセキュリティカードを持っている役員はいる。」
「その役員からセキュリティカードを盗むんだな?」
「その通りだ。
二人にはもう少し協力して貰うよ。」
霧彦はそう言うと準備を始めるのだった。
役員の顔を覚えていた霧彦が黒岩と共に通路を歩いていた役員を捕まえると気絶させる。
そして役員からカードを奪うとそれを使い社長室に入り込んだ。
霧彦は社長室にあるパソコンを操作し必要なデータを調べる。
「.....ここだな。
地下30階の研究フロアにリーゼがいる。
このまま行くなら廊下を出た隠しエレベーターから行くと良いい。
そこまでのセキュリティは解除しておく。」
「助かります。
貴方はどうするのですか?」
「私はこの部屋に用があるからね。
それが終わったらさっさと退散するよ。
君達こそ早く....まだバレてはいないが潜入に気付かれるのも時間の問題だ。」
霧彦の言葉に従い赤矢と黒岩は社長室を出ていくとリーゼの元へ向かうのだった。
誰もいなくなった室内を霧彦はゆっくりと見渡し一つの怪しい空間に目を付ける。
壁にカードが入る穴が一つだけ開いている。
「ここか。」
冴子がミュージアム関連のメモリを保管する際に使っていた隠し部屋....ここならばきっと
霧彦は周りを見ながら懐から何かを取り出そうとすると社長室がノックされる。
コンコン.....
その事に霧彦は違和感を覚える。
(おかしい....社員ならこの時間帯に社長室に誰もいないことは分かる筈だ。
社外の者なら一体.....)
そう考えていると扉が開き中に入ってきた。
そして、霧彦を見るなり言う。
「あぁ、漸く会えましたね"須藤 霧彦"さん。」
「....貴方は?」
「あぁ、申し遅れました。
私は井坂 深紅郎、風都でしがない町医者を営んでいます。
そして、ガイアメモリの信奉者でもある。」
そう言うと井坂はウェザーメモリを取り出して霧彦に見せた。
本来会う筈の無かった二人が出会う。
同じ女性に関わったものとして....
「しかし、驚きましたよ。
冴子君がミュージアムに行っている間、ここで待っていたら思わぬ来客があったのですから....
何をするのか気になって見ていましたが無名の部下は救援で貴方はそこに隠された何かを欲しているようですね。」
「それを邪魔すると言う訳か?
風都を震撼させた殺人鬼君。」
「まさか、ただ何をしたいのか気になっているだけですよ。
その中身は知りませんが....自分を殺した者のいる会社に入るリスクを負ってまで何を手に入れたいのかとね。」
「私はこの力を復讐に使うつもりはない。
これ以上の犠牲を生まないように止める力が欲しいだけだ。」
「それが、この中にあると?
.......ふむ、以前の私なら貴方の行動を見逃したでしょうね。
自分の実力一つで冴子君の夫になる程の力を見せた。
そんな貴方の行う事はきっと面白いのでしょうが私にも野望があります。」
「Weather upgrade」
「ですからここで死んでください。」
井坂はそう言いながらメモリを挿して強化ウェザードーパントへと変身する。
井坂は手に竜巻を作ると霧彦へ放った。
その攻撃が当たる前に外からガラスを割って堂本が現れる。
「ほぉ、今日は来客が多い様だ。」
「お前の相手は俺がする。」
堂本はそう言うとNEVERドライバーを着ける。
「METAL」
「変身」
堂本がドライバーにメモリを装填し展開すると肉体が銀色の鋼で覆われていき一本の角のようなアンテナが頭部に現れると変身が完了した。
「新しい仮面ライダーですか....どれだけ強いのか試してみましょうかね!」
井坂は雷撃を堂本に放つ。
堂本はそれを避けようとせず真正面から受けた。
強烈な火花が上がるがダメージは無い。
「強化された私の雷撃でダメージが無いとは、随分と硬いですね。」
仮面ライダーメタルは他のNEVERのライダーと違い特出する能力は無いがその辺、メタルの硬度を限界まで引き上げており並大抵の攻撃では傷一つ付かない。
堂本はメタルシャフトを生成すると井坂に向けて構える。
「今度はこっちから行くぞ。」
堂本は一気に井坂との間合いを詰めるとメタルシャフトを振るうのだった。
井坂と堂本が戦っている中、霧彦は懐からカードとデバイスを取り出すとデバイスから伸びたコードに持っているカードを接続し壁にカードを差し込む。
するとデバイスが動きロックされているパスワードを解読する。
ピーと言う音と共にロックが解除されると隠された扉が開く。
中にあった赤い箱を霧彦は手に取ると蓋を開ける。
そこには霧彦が過去に持っていたナスカメモリが入っていた。
そして霧彦は孤島でメイカーに渡された"ガイアドライバーⅡ"を取り出す。
孤島で目を覚ました私にメイカーが話し掛けてきた時を思い出す。
「お目覚めですか須藤 霧彦さん。」
天井のスピーカーから声が聞こえてくる。
「君は?」
「私はメイカー....この孤島で皆様のサポートをしている人工知能です。
先ずは、意識を取り戻して下さりありがとうございます。
無名様も喜ぶでしょう。」
「無名?.....私を助けたのは無名だったのか?」
「えぇ、それと貴方の妹である雪絵さんも.....
彼女は貴方が死んだと聞いてから復讐のために動いていました。
そんな彼女を止めて無名が孤島へと招いたのです。」
「そうか......」
「無名様が貴方に残されたデータがありますのでご覧下さい。」
そう言うと霧彦の前にモニターが現れる。
その中には無名が映っていた。
「意識を取り戻してくれてありがとうございます。
いきなりの事で驚いているでしょうが、この映像が流れていると言うことは状況が悪い方向に進んでいると言うことです。」
無名は霧彦が目を覚ました時の為に映像を残していた。
そして、この映像は無名とコンタクトが付かなくなった時に霧彦が目を覚ましたら見せるようにメイカーに伝えていた。
「貴方はミュージアムに裏切られて死ぬ運命でした。
ですが、私は貴方が死ぬことと妹さんの記憶が失う運命をどうしても認めることが出来なかった。
だから、ミュージアムを....園咲 琉兵衛を騙し貴方達を助けることにしました。
貴方はもう自由です....妹を連れてここから離れても良い。
だけど、もし戦いを...力を望むのならそれも否定することは出来ません。
だから、貴方にこれを渡します。
この力をどう使うかは貴方の自由です。」
映像が止まるとアームがアタッシュケースを霧彦へと渡す。
「これは無名様が製作された貴方専用のガイアドライバーⅡです。
今の貴方の身体でも使える様に調整してあります。」
しかし、差し出されたアタッシュケースを霧彦は受け取ろうとしない。
「これで...私は何をしたら良いんだ?
私は風都では死んだ人間だ。
死者に無名は何を求めているんだ?」
霧彦の問いにメイカーが答える。
「いえ、無名様がこのドライバーを貴方に残したのは選択して欲しいからです。
園咲家の婿養子として生きてきた貴方だが貴方には他の幹部と違う点があります。
それは"自分の判断に従える強い心"があると言うことです。
だからこそ、貴方はバードドーパントになった少女を助けた。
ミュージアムのトップである園咲 琉兵衛の意見に反抗してでも....自らの意思で拒絶できる心。
それは人工知能である私が持てない素晴らしい力です。
無名様は仰っていました。
"貴方は強い信念がありそれを貫ける覚悟がある"....とこのドライバーを受け取るかは貴方の自由です。」
「風都は、仮面ライダーは今どうなっているんだい?」
霧彦の問いにメイカーが答える。
「ミュージアムとして見れば順調です。
しかし、仮面ライダーや無名個人として見れば....危険です。」
「そうか、なら決めたよ。」
霧彦はドライバーを受け取る。
(私は翔太郎と無名に命を救われた....ならばその借りは返さないといけない。
それに雪絵もほおっておく訳には行かないからな。)
霧彦はガイアドライバーⅡを腰に付ける。
「久し振りの実践だ。
慣らしておこうか。」
「Nasca」
メモリをドライバーに装填して展開する。
肉体が変異しナスカドーパントへと変わる。
その色は
そして、霧彦は言った。
「超高速」
すると身体の色は一気に青へと変わると井坂へと近付き腹部を殴り吹き飛ばした。
「グオっ!」
その姿に堂本が尋ねる。
「随分と強力なメモリだな。」
「いや、自分も驚いているよ。
ここまでの力が出るとはね。」
そう言いながらも彼の色は白色へと戻る。
「?....成る程、短時間しかこの力は使えないのか。」
そう分析していると井坂が立ち上がった。
「あぁ、なんて素晴らしいメモリだ!この私を....強化されたウェザーの力を凌駕するとは....欲しい。
とても欲しいですよそのメモリ!」
興奮する井坂に堂本と霧彦は警戒する。
「あの顔、そう簡単に逃がしてくれそうには無いな。」
「堂本君、君の力も長くはもたない....違うかい?」
「そう言うって事はアンタの力もか?」
「あぁ、直感だが長くはもたない気がしてね。」
「なら、こんな奴に時間をかけてられないな。
逃げるにしても下に行った奴等を置いていけない。」
「なら、逃げる時間を稼ぎつつ"全員脱出"出来る何かを起こせれば良いかな?」
「出来るのか?」
「このドライバーでナスカメモリを使って感覚的だが出来る可能性を見つけた。
だが、少し時間がかかる...それまで
「良いだろう....やってやる。」
そう言うと堂本は一人で井坂へと向かっていった。
その間、霧彦はイメージする。
(無名の部下がいるのは地下30階の研究フロア....どうすればここに行ける?
超高速では壁や地面が邪魔で通れない。
この壁を通り抜ける....いや前提を変えようこれは壁ではない。
もっと、奥へ入れる...."水"、そうだ水だ。
"とても深い水に入る"....その力が欲しい。)
その願いにメモリが答える。
身体の色が緑色に代わると手と足が変化しヒレの様なものが現れる。
それに合わせて霧彦が言った。
「"超潜航"」
霧彦は自分の周りの地面をまるで水のように変わると潜っていった。
「何だ!その力は!」
井坂は霧彦を見て驚く。
「余所見とは良い度胸だな!」
その隙を見逃さない堂本はメタルシャフトを井坂の首へ思いっきり振り下ろした。
回避が間に合わない井坂はダメージを受けてしまう。
普通のドーパントなら致命傷のダメージだが井坂は立ち上がると寧ろ、メモリの力が増大した。
(久々に奥の手を使わされるとは....油断し過ぎましたね。)
井坂の奥の手である歯の中に埋め込んだエンゼルビゼラを使いメモリの力を増強させてダメージから回復したのだ。
(形勢はこちらが不利ですねぇ。
仕方がありません。)
そう考えた井坂は懐からスイッチを取り出し押した。
「それは何だ?」
堂本の疑問に答える。
「冴子君がもしもの時にと渡してくれた緊急用の通信装置です。
これを押すと園咲家に"緊急事態がディガルコーポレーションで起きた"と連絡が行くようになってます。」
その言葉を聞いた堂本は急いでその場を後にする。
それが嘘でも本当でも地下にいる無名の部下が危険になることは明白だったからだ。
敵のいなくなった井坂はメモリを抜くと口から大量の血を吐いた。
「グボハッ!.....やはり無茶はするべきではありませんねぇ。
暫くは身体の回復に勤しまなければ.....テラーのメモリを手にいれる為にも」
井坂はその場で倒れると目を瞑り意識を手放した。
そして、堂本が外を見るとそこには霧彦と無名の部下が何かを抱えて外に出ていた。
計画の成功を確信した堂本は窓ガラスを割るとそのまま外に飛び出した。
ズガン!と言う音とコンクリートの地面が砕けたが堂本本人に大した怪我はなかった。
メタルメモリにより強化されたライダーの身体は頑丈の域を越えていたが、メモリはそうじゃなかった。
落下して立ち上がると堂本の変身が解除されメモリが砕けてしまった。
しかし、堂本はそんなことを気にする様子もなくその場から離れるのであった。
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第百七十五話 奪い取るD/フィリップの作戦
翔太郎とフィリップの戦いは一方的な結果となっていた。
翔太郎のラッシュをフィリップが回避していくが徐々に回避が間に合わなくなっていく。
それは翔太郎の戦闘センスもそうだがそれ以上にメモリとの適合率の差が顕著に出始めたのだ。
翔太郎のパンチが当たりフィリップは吹き飛ばされる。
「もう止めておけフィリップ。
お前じゃ俺は止められない。」
「そう...かもね....でも....諦めるわけには行かない!」
フィリップはサイクロンメモリをマキシマムスロットへ装填する。
「CYCLONE MAXIMUMDRIVE」
フィリップの周囲に緑色の風が吹き荒れる。
その風が四肢に集まるとそのままの姿でフィリップは攻撃をした。
すると、速度が劇的に上がり翔太郎の防御が間に合わず胸から火花を散らす。
「サイクロンのマキシマムを速度と威力に割り振った。
これなら君も避けられないだろう翔太郎。」
「確かに避けられるスピードじゃねぇが、"避ける意味"も無いな。」
翔太郎はフィリップのマキシマムを喰らっても平然と立っていた。
「バカな!マキシマムでもダメージが入らないなんて...」
「いや、お前が本気で頃しに来ればダメージになってたが、手加減したろ?
そんな攻撃痛くも痒くもねぇ....」
「なら、僕に見せてよ。
本気の攻撃ってやつを....」
「何を言っている?」
「翔太郎は言ったよね玉城を殺すと...その覚悟があるなら僕を殺せる筈だ。
僕は君の邪魔をしているんだから...」
「下らない。
何を言うこと思えば....」
「出来ないのかい?
相棒を捨ててまで手に入れた力はそんなにもちっぽけな物だったとは....僕こそガッカリだよ。」
フィリップの言葉を聞いた翔太郎は考える。
(俺を挑発している?
まるで俺に"マキシマムを使わせよう"としているみたいだな。
何の目的でそんな事を?)
翔太郎は冷静に分析をする。
(無名が俺と共に来た筈だがまだ登ってこない。
照井が足止めしている可能性もあるが、奴の強さならもう来ても良い筈だ。
誰かに足止めされている...そんな事が出来るのは....そうか、
翔太郎はメタルメモリを起動する。
「METAL MAXIMUMDRIVE」
そしてメタルシャフトを取り出すとジョーカーメモリを差し込んだ。
「JOKER MAXIMUMDRIVE」
「お前の魂胆は読めた。
克己のエターナルのマキシマムでジョーカーメモリを封じるつもりだろう?
だがその前に俺のメタルシャフトでフィリップ....お前に致命傷を与える。
そうなれば克己はメタルメモリを無効化する。
そうして消滅したメタルシャフトからジョーかメモリを回収してマキシマムを発動し二人とも片付けてやる。
さぁ、行くぞ!」
翔太郎はメタルシャフトをフィリップの心臓に向けて放つ。
その攻撃は誰から見ても命を奪う一撃だと分かる。
その攻撃に隠れていた
「止せ克己|」
「だが、フィリップ!」
「僕は翔太郎を....相棒を信じる!」
制止を受けて戸惑っている克己を他所に翔太郎のメタルシャフトが振り抜かれた。
「こんなもの作戦と呼べるか!」
フィリップの策を聞いた克己が怒る。
フィリップの策とは自分が翔太郎の相手をしている間に共に来た無名から照井と克己の二人がかりでジェイルメモリを強奪し翔太郎のジョーカーメモリをエターナルで解除してジェイルメモリを翔太郎に挿すというものだった。
そこで克己は疑問に思ったことを聞いた。
「お前一人で翔太郎と戦えるのか?
今のアイツは俺よりも強いぞ?」
「だろうね。
だから、翔太郎にマキシマムを発動してもらってこっちに近付いてきた所を捕まえるよ。」
「ちょっと待て!そんな事をしたらお前がただじゃすまないぞ!」
「大丈夫....翔太郎は僕を殺さないよ。
だからこそこの作戦を立てたんだ。」
これを聞いて克己は怒ったのだ。
「相棒を助けるためにマキシマムを受けるだと?
気でもおかしくなったのか!
確かにお前と翔太郎は相棒だが今の奴はジェイルメモリで狂ってる....お前も理解しているだろう!」
「あぁ、だけど僕は信じてみたいんだ。
僕の"直感"を.....」
「直感?」
それは翔太郎が克己を信じる際にも言った言葉だった。
それを聞いて少し考えた克己はフィリップに告げる。
「分かった。
だが、危険だと判断したら直ぐに止めるからな。」
「ありがとう大道 克己。」
今、克己は選択を迫られていた。
(ここで俺がエターナルを使うことが正しいのか?
俺はどうすれば良い....。
お袋はフィリップを信じた....なら俺もフィリップを信じるだけだ!)
克己はエターナルメモリを挿すこと無く翔太郎がメタルシャフトをフィリップの心臓に向かい振り抜くのを見ていた。
そして、ジョーカーのマキシマムのエネルギーを纏ったメタルシャフトはフィリップの......
"肩を擦る"ようにコンクリートへと突き刺さった。
その瞬間、フィリップは翔太郎の両腕を掴む。
「今だ!克己!」
克己はエターナルのマキシマムを発動する。
「ETERNAL MAXIMUMDRIVE」
エターナルの力によりジョーカーの変身が解除されると克己はジェイルメモリを翔太郎へ突き刺した。
「よし...来いエクストリーム!」
フィリップがそう言うとエクストリームメモリがフィリップの前に現れる。
「エクストリームの力を使ってメモリと同期すれば...翔太郎を!」
「そんな事をさせるわけないでしょう?」
そんな声が聞こえると地面から黒炎が上がり中から
「中々良いところまで言っていたのに残念でしたね。
"ETERNAL"起動....これで終わりです。」
ゴエティアがそう言うとジェイルメモリが機能しなくなった。
その姿を見て失敗を悟った克己は言う。
「クソッ!ここまで来たのに......」
「物事が上手く行っている時にこそ悪魔は現れる....歴史が物語っているでしょう?
もう彼は貴方の相棒ではなく私の物なんですよ。」
そんな風に言うゴエティアにフィリップが言った。
「まさか本当に来るなんて....」
「えぇ、絶望してくれているようで嬉しいですよ。
さぁ、貴方もそろそろ退場して....」
そう言って優越感に浸りながらゴエティアは手を下そうとする。
「....本当に"予想通りで安心"したよ。」
フィリップのこの言葉を聞くまでは.....
突如、ゴエティアの身体が動かなくなる。
(何だこれは?どう言うことだ?)
意味が分からず当たりを見回すが当たりの景色は白い。
そう、まるで"地球の本棚"にいるような.....
(まさか!)
そう気づいた時には遅かった。
ゴエティアの身体....いや精神体を鎖が縛る。
そして目の前には...."無名とフィリップ"が並び立っていた。
「これは....どう言うことだ!」
ゴエティアの問いにフィリップが答え合わせを行う。
「君があの場に来ることは分かっていた。
だから、僕は皆に黙ってもう一つの計画を考えていたんだよ。
エクストリームメモリが同期したのはジェイルメモリじゃない...."デーモンメモリ"だ。」
「バカな、それでどうして無名をここに呼び出せたんだ!」
その問いに今度は無名が答える。
「その答えなら貴方が教えてくれたじゃないですか?
態々、僕とフィリップの二人に.....」
その言葉でゴエティアは気づく。
本棚の攻防で伝えた言葉....二人を動揺させるために言った真実。
"無名はフィリップの遺体とゴエティアの力を掛け合わせて作られた"事を......
「僕の遺伝子の一部が入っているのなら無名の意識を呼び出す手段はあった。
ただ、それには"エクストリームメモリと適合する翔太郎が近くにいる必要"があったんだ。
そしてエクストリームを発動してデーモンメモリと繋がり.....」
「僕はここに戻って身体の主導権を奪った....次いでにある本を起動しておいた。」
そう言うと無名はその本をゴエティアに見せる。
"WORD"と書かれた本を見て戦慄した。
「僕が決めたルールは
僕がここにいるからWORDのルールに従い君があの階層へ引きずり込まれる。
フィリップは適合率が低いから入れないしね。」
「私を....閉じ込めるつもりか。
貴様らぁぁぁぁ!!」
「残念だが長々とお喋りしている暇はない。
そろそろ失礼するよゴエティア。」
そう言って無名が指を弾くと鎖はゴエティアを下の階層へと引きずり込んだ。
そして、静かになると無名はゆっくりと目を開く。
そして、動きの止まっていた翔太郎を抑え込んだ。
「克己さん!もう一度、ジェイルメモリを!」
その言葉を聞いて元に戻ったと察した克己はジェイルメモリを再度、起動し翔太郎に挿した。
そして、そのメモリに無名とフィリップは触れるのだった。
無名とフィリップが行動している頃、下では照井とホッパードーパントが闘っていた。
ホッパードーパントの強靭な蹴りをトライアルの速度で回避する。
「無駄だ。
その速度では俺を捕らえられん。」
原作ではホッパードーパントとトライアルの速度は同じ位だったが、強化されたアクセルトライアルの速度はホッパードーパントの速度を僅かながら上回りまた、長年の戦闘経験からその僅かな間で回避する技量も手に入れていた。
("高速移動中の精密動作".....ドーパント事件の多さでここで生きてくるとは皮肉だな。)
このままでは意味がないと悟ったホッパードーパントは一本のギジメモリを取り出すと起動した。
「
そしてメモリを機械化された足に挿す。
すると、足が大量の歯車に変換され組合わさると高速で回転を始める。
火花を散らしながら回転し煙を巻き上げる。
その煙からほんのりと鉄の香りがした。
「ぐっ!あぁぁ!」
ホッパードーパントは両足を抑えるが直ぐに照井に向きなおった。
この機械化した両足は無名と入れ替わったゴエティアが開発したアクセサリーシステムのドライバー兼、義足でありギアメモリはこの義足に合わせて作られたギジメモリだった。
ギジメモリを使用すると対象者の血肉を歯車が抉りそれを力へと変える。元々は膝までだった義足が両足全体になったのはそれだけギアギジメモリを使い脚を消費したからであった。
しかし、その力は強力であった。
ホッパードーパントは飛ぶように地面を蹴り上げると地面が爆発し一瞬の内にトライアルとの距離を積めた。
下がろうとするトライアルに脚を振ると空気との摩擦でプラズマが発生し両足に帯電するとその蹴りがトライアルの腕を掠めた瞬間、大量のプラズマがトライアルへと流れる。
バリバリ!と言う音を流し離れようとしたトライアルの身体から煙を放つ。
一撃かすっただけでトライアルは片膝をついてしまった。
(完璧に避けた筈なのに蹴りが途中で加速した。
かすってこの威力なら直撃したらどうなるか...)
照井は次の行動を考える。
(トライアルのマキシマムで応戦するか?
いや、恐らくギジメモリを使ったあの女と俺の速度はほぼ同じだろう。
加えて相手にはかすっただけでダメージを与えられる足がある。
近距離戦は不利だな。
エンジンブレードよりももっと、距離を稼げる武器がないと.....)
「もう手詰まり?
なら次は本気で....」
ホッパードーパントがそう言いかけると彼女の身体からアラーム音が聞こえる。
これは幹部に危険が迫った時になる緊急用の連絡コードであった。
それを見て軽く舌打ちするとトライアルに背を向ける。
「どういうつもりだ?」
「仕事が変わった....貴方のことは何時かちゃんと殺して上げるわ。」
そう言うと横に蹴り一瞬で外へ出ると地面を蹴りその爆発で飛び上がりこの緊急コードが使われたディガルコーポレーションへと向かうのだった。
敵の気配が無くなりメモリを抜いた照井は自分の身体に手を触れる。
あの時に折れた骨が痛む。
(これでは、また花家に怒られてしまうな。)
そして照井は変身解除した瞬間に身体から力が抜ける様に地面に倒れた。
その以上の原因を考えた照井はシュラウドから貰ったブーストメモリを見た。
メモリについているメーターが使用した時は緑色だったのに今は赤色でありもうエネルギーが底を尽きそうだった。
ブーストメモリを見た照井はこの疲労感はこのメモリの副作用だと直ぐに理解した。
(くっ...絶対にこのメモリを使いこなしてやる。
だが今はフィリップと克己に任せよう。)
照井はブーストメモリを握り締めながらそう考えると意識を手放すのだった。
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第百七十六話 奪い取るD/見つめる牢獄
無名と共にジェイルメモリの内部へと入り込んだフィリップは目の前の景色に驚愕していた。
そこには"沢山の獅子神"や他にも知らない人物が牢獄へと閉じ込められていた。
皆、牢の鉄格子を握りながら何かを訴えている。
「ここがジェイルメモリの内部?
こんな姿まるで.....」
「"刑務所"みたい......か?」
そう言いながら無名はフィリップの前に現れた。
「無名、ここは?」
「優しく言うなら捨てられた魂の拠り所.....
悪く言うなら不要な感情のゴミ箱ですかね?」
「ゴミ箱だって?」
「恐らく、このメモリを発見した時、ミュージアムは実験をした筈です。
何が出来るのか確める為にね。
そして感情を切り捨てられる能力があると知った。
これを反目する疑いのある構成員に使えば.....」
「決して組織を裏切らない人間を作れる。
まさか、ここにいる人達は....」
「その憐れな実験動物たちでしょうね。
獅子神は自分からこのメモリを使うことを望んでいましたが.....」
「そんな....こんなことって」
フィリップがショックを受ける中、牢獄にいる一人の男性に無名は目を向けた。
それは原作に登場していた"山城 論"の姿もあった。
彼は鉄格子に身を委ねながら一頻りに「葉子....翼...」と家族の名を呼んでいた。
(彼の家族への感情すら奪い取ったのか。
だが、ミュージアムの研究員の資料を見た時、山城 論の名前は無かった。
つまり、彼の身体はもう....)
無名は改めてフィリップに向き直った。
「あまり時間も無さそうだ。
早く、左 翔太郎の閉じ込められている牢獄を探しましょう。」
「だが、彼等をほおっておくのかい?」
「ここにいる者は見たことあります。
ミュージアムの実験により亡くなっている者ばかりです。
仮に彼等を解放しても戻る肉体がなければ意味がない。
もしかしたら、より凶悪な怪物を産むかもしれません。」
ガイアメモリとは人間には未知の部分が数多く残っている。
バイラスの一件から精神体でもドーパントになれる程、その力は常軌を逸している。
もう、これ以上の危険は犯せない.....それに
「こんな窮屈な牢獄からは早く自由になって欲しいですからね。」
無名はそう言うと翔太郎の牢獄を探し始める。
フィリップも言いたいことはあるが今は翔太郎を優先させるべきだと考えて翔太郎探しを続けるのだった。
暫く探していると見覚えのある帽子を着けた翔太郎を見つけた。
「翔太郎!」
フィリップは嬉しさのあまり彼の元へ駆け寄る。
「お前....フィリップか!?
どうしてここに?....まさか、お前もこのメモリに捕まっちまったのか?」
その問いに無名が答える。
「いいえ、貴方を救う為に来たんですよ。」
「お前は.....」
「久し振りですね左 翔太郎さん。」
翔太郎の無事な姿を見たフィリップは涙を流しそうになる。
「兎に角、今は早くここから出よう。」
そう言って牢に手を掛けるがビクともしない。
「何故だ!本にはここに来れば助けられると....」
そう言って焦るフィリップを他所に無名は翔太郎の顔を見て聞いた。
「貴方自身が拒否しているんですね翔太郎さん。」
「...え?」
「なぁ、俺は....この牢獄にいる間の俺は一体何をしたんだ?」
「それはどういう意味ですか?」
「このメモリを挿されてから....感情の制御が難しくなっていった。
最初は軽くイラつく程度だったが、残虐な犯罪や外道と会う度に怒りが強くなっていった。
そして、ジュエルドーパントと戦っていた時、奴の言葉で俺の怒りが限界を向かえて....気が付いたら」
「この牢獄に来ていた...そうですね?」
無名の言葉に翔太郎は頷いた。
「なぁ、教えてくれ。
あの後、俺は何をしたんだ?
俺は......一体....」
その顔は自分の行った罪に対する恐怖で一杯だった。
その問いには相棒であるフィリップも答えられない。
何故なら真実を話したら翔太郎が何を思い感じるのか分かっていたからだ。
その沈黙を破ったのが無名だった。
「僕も詳しいことは分かりません。
何故なら、僕の身体も別の存在に奪われていたからです。」
「別の....存在?」
「"正真正銘の悪魔"とでも言っておきます。
その悪魔に乗っ取られた僕が貴方にジェイルメモリを使い....シュラウドが求めた兵器としての仮面ライダーを生み出そうとしました。」
「仮面ライダーを兵器に.....」
「はい、ですが貴方は兵器にはなっていない。
照井 竜が大道 克己がフィリップが貴方を命懸けで止めました。
お陰で貴方はまだ誰も殺していない。
師である鳴海 荘吉の意思を捨てずに済んでいます。」
「そうか......」
「ですが、怪我人は出ました。
死にかけた人も....」
「!?」
「無名!...君は!」
「だけどそれは貴方一人の責任じゃない。
僕の責任でもある。
僕が身体を奪われなければこんな事態にはならなかった。
だから、僕は"僕の罪"を数えます。
そして、悪魔と向き合い決着を着ける。
貴方はどうしますか?
罪を悔いて生きますか?それとも罪を数えて生きますか?」
「......俺は」
「鳴海 荘吉も完璧ではない。
罪を犯しそれを数えて今の彼が出来上がったんです。
彼が残した言葉は貴方も受け取った筈です。」
「Nobodys....perfect...」
「誰も完璧ではない。
地球の本棚の知識を得られるフィリップですら完璧じゃない。
人は間違う....故に人なんです。
人だから間違い、それを認め改めて未来へと進んでいく。」
「もう一度聞きます左 翔太郎。
貴方はどうしますか?
これから、どう生きていきますか?」
無名の問いに翔太郎は静かに悩む。
「俺は、凡人だ。
お前らみたいに頭も良くねぇ。
だが、親っさんに託された探偵としての生き方や街の人が与えてくれた仮面ライダーの名には誇りを持っている。
これは捨てたくねぇ.....俺はまだ探偵として仮面ライダーとしていたい!」
「ではもう一度、"契約"を......
フィリップと言う悪魔とまた相乗りする為に」
「契約なんて堅苦しい言い方じゃなくて良い。
僕達には約束で十分だ。
翔太郎....僕は一度、君を見捨てようとした。
Wに変身できなくなった時だ.....
その時に翔太郎が感じていた気持ちが今漸く分かった。
僕はもう諦めない。
君が僕の唯一の相棒だ....だから翔太郎!
僕ともう一度!」
「悪魔と相乗りしてくれ!」
「あぁ!勿論だぜ!フィリップ!」
フィリップがそう言って手を差し出す。
その手を翔太郎が強く握ると牢屋が開き辺りの景色が光に包まれた。
次に目を開けるとそこには変身解除した翔太郎とフィリップが手を繋いで倒れていた。
二人とも目を覚ますとその姿を見た克己が声をかける。
「やっと目を覚ましたか。
最近、寝不足だったか?」
「あぁ、オマケに最悪の悪夢付きでな。」
そう返した翔太郎を見て克己は笑う。
「ふふっ、そこまでの減らず口が叩けるのなら無事だな。
無名も元に戻った。
奴は部下の元へ向かった....俺もこの街から離れる。」
そう言って背を向ける克己を翔太郎が止める。
「待てよ!....おめぇには借りが出来ちまったな。
何時か絶対返すからよ。
それと、ありがとうな。
俺とフィリップを助けてくれて...」
「......ふん。
ハーフボイルドは健在か...じゃあな。」
そう言うと克己はその場から消えていった。
そして倒れている二人を照井を抱えた亜樹子が見つける。
「フィ....フィリップ君!それに....翔太郎!」
「おぉ、お前も来たのか亜樹子。」
そう言って起き上がる翔太郎に亜樹子はスリッパを振り下ろす。
パコン!
「痛ってぇ!気が付いて早々、頭叩くんじゃねぇよ!」
「....良かったぁ!何時もの翔太郎君だぁぁぁ!」
その姿を見た亜樹子が泣き出す。
「おいおい、いくらなんでも泣くことはねぇだろ。」
「だってぇぇぇぇ!うわぁぁぁん!」
ギャン泣きをかまされ照井とフィリップ...そして翔太郎はただ笑い合うのだった。
目を覚ました無名は部下と合流する前に電話をかけた。
ワンコールで電話が繋がる。
「もしもし」
「無名です琉兵衛様。」
「.....ほぅ、ゴエティアを退けたか無名。
先ずはおめでとうと言っておこう。」
「その名を知っていると言う事は....彼の正体も分かっているのですね?」
「神すら創造したあらゆる存在の主、超越者。
彼には随分としてやられたからね。」
「貴方は彼を使って何をするつもりだったんですか?」
「私の願い等、君はもう知っているだろう?」
「ガイアインパクト....人類を強制的に進化させる。
その意味は何なんですか?
何故、それをする必要があるんです!
家族との仲を引き裂いてまで....」
「愚問だね。
全ては"家族の為"だよ....」
「その為に奥さんを殺しかけたんですか?」
「ネメシスメモリの事は知っていた。
彼処で来人を奪われるくらいなら少し眠って貰った方が都合が良いと考えたまでだ。」
「娘の人生すら変えてまでですか?」
「冴子の事を言っているのかね?
あの子は私に認められたくて必死だ。
だからこそ、私の後継を狙っている。
愛しさゆえの反逆だよ。
若菜には可哀想なことをするがそれも彼女が地球の巫女になれば全て.....」
「いい加減にしろ!!アンタの言い分は聞き飽きた。」
「....そうか、冴子から聞いたよ。
霧彦君を生かしていたそうだね。
あれは君だろう?
ミュージアム.....いや私の意思に反する気かね?」
「例えそうだとしても僕は、僕の求める結末の為に生きます。
ゴエティアとも決着を着けなければいけませんから....」
「ゴエティアの器として造られただけの存在が言うじゃないか。
良かろう....君の好きにしたまえ。
また会う日を楽しみにしているよ。」
そう言うと琉兵衛は電話を切った。
琉兵衛への反逆はミュージアムとの別離を意味する。
だが、後悔はない。
僕はゴエティアの器としてこの世界に産まれた。
でも、"原作キャラを生かしたい"....そう考えているのはゴエティアではなく僕の意思だ。
僕もこの風都に住む一人の人間として意思を貫いてやる。
恐らく、ここからはどちらが先に目的を達するかのレースだ。
敵はミュージアムやそれにあまねく全て....対して僕にある手札は少ない。
でも負けるつもりはない絶対に勝つ。
その為には先ず準備だ。
やることは多い...風都を離れないと行けないだろう。
この風都はまだ荒れる....だけど問題ない。
何故ならこの街には仮面ライダーがいるのだから....
地球の本棚の奥底で鎖に身体を縛られたゴエティア。
その姿はまるで罪の裁きを待つ罪人のようにも見えた。
だが、その表情は最初と違い笑顔になっていた。
「ふっふっ...ははっあはははははは....」
ゴエティアの笑い声が部屋に木霊する。
その笑いは自分を嘲笑したものか世界を嘲り笑う声かは分からない。
だが、ゴエティアは今、楽しいという感情を抱いていた。
「ただの人間程度にしか思っていなかったが、私を出し抜くとは存外捨てたもんではありませんね人間も...」
(だからこそ、コスモスはコイツらを愛し、そして....)
「ふん、下らない。
全てが座興じゃないか。
人の死も地球の終わりも私達にとっては大した違いはない.....まぁ、良い。
園咲 若菜の覚醒と風都への根回しもう種は蒔き終わった。
この結末はお前でも止められないぞ無名。」
フィリップを逃がした日、私は無名からタナハとコスモスについて話を聞いた。
フィリップが脱出したからか素直に答えてくれた。
「タナハについて知っていたのは貴方の本を読んだからです。」
「だが、私に関する記憶の本にはプロテクトが掛かっていた筈だ。
無理矢理読むなんて不可能なプロテクトだ....それは一体どうしたんだ?」
「コスモスが僕の前に現れたんです。」
「.....え?」
「彼女が本のプロテクトを解いてくれました。」
「それは....何時だ?」
「フィリップがここに来る前ですよ。」
それを聞いて確信した。
私の仮説に間違いはなかった。
コスモスの力が宿ったジョーカーメモリの力を呼び起こすことでコスモスが目覚めたのだ。
ならば、救うことが出来る。
「僕は彼女から願いを受けました。」
「当ててやろうか?
私の計画を阻止して欲しい....そうだろ?」
「止まる気はないんですね。」
「お前も私の記憶を見たのなら分かる筈だ。
タナハも私もコスモスを愛していた。
彼女に笑顔になって欲しくて行動した。
地球の本棚もそれが始まりだ。」
「貴方の本を読んで彼女がジョーカーメモリの力の本質だと言われて納得しました。
コスモスは感情を生み出しゴエティア達に与えて代わりに寿命という代償を負った。
プラスとマイナス、両方の力の可能性を秘めている存在。」
「だが、それでも私達は彼女が好きだった。
彼女のために肉体を用意しようとしてタナハは失敗した。
それは彼女が愛した地球を守ろうとしたからだ。」
「貴方の目的は彼女を救うことなんですか?」
「あぁ、その為に何度も何度もやり直してきた。
良い機会だ教えてやろう。
本の書き換え....リセットは強力な力だが代償がある。
一度のリセットを行う度に私の記憶や精神を切り取って使っている。
超越者と言われた私も今や見る影も無い程、弱体化しているよ。」
「それ程の力を持っていて弱体化しているとは元の強さを考えたくはありませんね。」
「そう言うな。
正直、後一回でもリセットをすれば私の精神は完全に消えてなくなる。
だからこれが正真正銘のラストチャンスだった。
そして、運命は私に味方した。
君の話を聞いて確信したよ。
このルートならばコスモスを救える。
私は彼女を救う....例え彼女が愛した地球を滅ぼしてもね。」
「そんな事はさせません!
僕は彼女の願いを....」
「私の器無勢が彼女を語るなっ!....もういい聞きたいことは聞けた。
私は元の世界へ戻る。」
そして、戻った矢先、私は肉体の主導権を無名に取り返されここに幽閉された訳だ。
だが、これで良い。
後は琉兵衛が手筈通りに進めるだろう。
「また会う時こそ君の最後だ無名。」
そう言うとゴエティアは一人の部屋で笑い続けるのだった。
Another side
無名からの宣戦布告を受けた琉兵衛の顔は珍しく曇っていた。
それを察してかミックが琉兵衛の膝に乗る。
「励ましてくれるのかいミック?
どうやら、私は無名に嫌われてしまったようだ。」
その声にミックはただ耳を傾ける。
「私はねミック。
無名も獅子神もサラも家族のように思っているんだよ。
だからこそこんな形で家族がバラバラになるのは本当に悲しい。
....けどねそれでも私は家族のためにガイアインパクトを為し遂げるよ。
それに家族の情が邪魔をするのなら....私は」
琉兵衛は書斎に納められた木箱を見つめる。
中にあるのは琉兵衛が"イーヴィルテイル"と呼ぶ大切な物....いや存在が入っていた。
それを見つめる今の琉兵衛の瞳は酷く冷たくなっている事をミックのみが知っていた。
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第百七十七話 Nの憩い/束の間の休息
ディガルコーポレーションが火の不始末により本社ビルが燃えてしまったと報道されているが真相は井坂と揉めた事が原因らしい。
そして、俺は霧彦と再開した。
驚いて事情を聞くと無名が助けてくれたと言っていた。
フィリップも言っていたが無名は俺達の味方で奴の中にいたゴエティアが敵だったみたいだ。(そのゴエティアも今は手が出せない所にいるらしい。)
霧彦と克己は仲間を守る為だと言って風都を離れた。
無名も一緒にいると言っていたから彼に着いて行ったんだろう。
"ミュージアムはこれから本格的に行動を起こしてくるから警戒しておいた方が良い"去り際に霧彦が俺にそう忠告してくれた。
俺達は風都を守る仮面ライダーだ。
街を泣かせる悪党は許さねぇ....それが例えどんなに強大な怪物でも
今日も事務所の扉が叩かれ依頼人が来る。
そして、依頼人から話を聞くため俺も席に着くのだった。
「ふぅ、やることが山積みですね。」
無名はそう言いながら机に大量の書類を並べて精査している。
今彼等は孤島ではなく水音町のマンションに住んでいた。
ミュージアムへの明確な離反を告げてしまった無名とその部下を孤島に置いておくのは安全ではないと考え、ミュージアムとは関係なく個人的に手に入れていたマンションに身を潜めていた。
NEVERや屋敷にいた人達は皆、僕に着いてきてくれたがメイカーだけはミュージアムへ残る決断をした。
『私は園咲家に役立つ為に作られました。
その目的がある以上、無名様達についていくことは出来ません。』
「分かってます。
無理強いはしません....今までありがとうメイカー」
『はい、無名様もお元気で....』
合成音声であったがその声には何処か悲しみが隠っていた。
そんな事を思い出しているとエプロン姿の京水と霧彦が声をかけてくる。
「皆ぁ!ご飯の時間よぉ!」
「もう皆、席に着いている君も早く来たまえ無名君。」
「えぇ、分かりました。」
無名が部屋を出てリビングに行くとNEVERのメンバーと大道マリア、黒岩に赤矢、霧彦と雪絵....そしてシュラウドの仮面を捨てて包帯を取った"文音"が座っていた。
その提案はシュラウドからだった。
「無名、私は貴方についていくわ。」
「それは何故です?
今は来人君の傍にいてあげるべきでは?」
「来人と約束したの....罪を償うと....でも」
その言葉を否定したのは照井だった。
「すまないフィリップ....今、警察に行くのは止めた方が良い。」
「どうしてだい?母さんを信用していないというのなら僕が...」
.「そう言うことじゃない信用してないのは"警察自体"だ。
今の警察はミュージアムと繋がっている者が多すぎる。
俺のいる風都署にもその可能性が高い奴がいるくらいだ。
今の警察にシュラウドを寄越したら下手をすればミュージアムに連れていかれる可能性がある。」
「私は構わないわ。
貴方達について話すつもりは一切無い。」
「悪いがそれは俺が困る。
俺は仮面ライダーであり刑事だ。
悪を裁き罪を償うまで犯罪者を生かす義務がある。
情けない話だが今の警察はその義務を果たせる場所じゃない。
超常犯罪課で匿うことも出来るが、上の奴等が文句を言えば離さざるを得ない。」
「じゃあ、どうすれば?」
フィリップの悩みに翔太郎が意見を言った。
「なぁ....無名に頼むのはどうだ?」
「正気か左!奴はミュージアムの幹部だぞ!操られていたとは言え油断して良い存在じゃない。」
「普通ならな...フィリップ、お前はどう思う?」
「.....僕も今の無名なら信用できるよ。
とは言え何らかの連絡手段は欲しいけどね。」
「なら、私から頼んでみるわ。
それに条件もつけて.....」
「条件?何だそれは?」
皆が並び終わりご飯を食べようとした時、文音が時計を見て無名に言った。
「ごめんなさい。
息子との連絡の時間なの...良いかしら?」
「えぇ、どうぞ。」
僕がそう言うと文音は携帯を持つと席を外して言った。
"定期的に息子と連絡を取ること"....それが文音の出した条件だった。
そして、その姿を他の者は微笑ましく眺めている。
「随分と嬉しそうですね克己さんとマリアさん。」
「....まぁな。」
「えぇ、同じ母親として息子との仲が良くなるのならこんなに嬉しいことは無いわ。」
そんな話をしていると霧彦が切り出す。
「それで無名君これからどうするつもりだい?
君はミュージアムを裏切った。
何れ処刑人が君や君の仲間を消しに来るだろう。
無論、僕もだろうが....」
「そうでしょうね。
獅子神か...サラか....それともミュージアムの誇る二大処刑人のどちらか....まぁ、でもそんな直ぐに攻めてくる危険性があるのは獅子神だけだと思いますよ?」
「どうしてそう思う?」
「これは悪い知らせでもありますが現在、ミュージアムの目的であったガイアインパクトに関して最後の詰めを残してほぼ終えているんですよ。
そして、ガイアメモリを生産できるメイカーは依然としてミュージアムの手の中にある。
琉兵衛の目的が完遂に近づいている以上、余計な不和は起こしたくないと本人は考えている筈です。」
「どうかな、あの人は利用価値がないと分かったら直ぐに消す筈だぞ。」
「それなら尚更、僕を殺す真似はしないでしょうね。」
「どう言うことだ?」
「言ってませんでしたが、僕の身体はフィリップと同じデータ人間です。
ですから、ガイアインパクトを起こすピースになる。
それに本気で僕を殺すにしてもそれは克己さんが止めてくれるでしょう?」
問われた克己はフォークに刺したプチトマトを口に入れながら言う。
「まぁ、一応は俺達の雇い主だからな。
勝手に殺させるつもりはない。」
「彼のメモリは強力です。
僕や仲間を殺すのであればそれこそ組織の大部分を失う覚悟と計画の中断、両方を考えないといけないでしょう。
後少しで計画が完成するのにそんなリスクは負いたくない筈です。」
「では何故、獅子神は例外なんだ。」
「僕に対して良い印象を抱いていないのもそうですが、ゴエティアが彼に相当な屈辱を与えています。
彼の性格上、それは損得を抜きにして動くのに十分な動機になる。
赤矢さんのプロファイリングでも同じ結果が出ています。」
「成る程、理解したよ。」
「えぇ、ですから霧彦さん、雪絵さん、くれぐれも勝手な真似や単独行動は控えてください。
特に、復讐に関しては今は止めてくださいね。」
その念押しを受けた雪絵の表情は苛立つ。
そして、ここで京水が話に入ってきた。
「今の現状は分かったわ。
次はこれからについて話しましょう。
無名ちゃんや私達はこれからこのマンションをアジトとして使っていくのよね?」
「えぇ、お金に関しては複数の口座に個別で用意していたのでミュージアムに発覚する前に数個は持ちだせました。
マンションを"一棟"買ったお陰でかなり減りましたが直ぐに無くなることはありませんよ。」
「本当に出鱈目よね貴方は....でもそれじゃ意味がないわ。
金の出所が分からない物程、人は調べたがるものよ。
だから、表の職業を何か選んでおいた方が良いわ。」
その言葉にレイカが反応する。
「はぁ?私達、ミュージアムから逃げながら仕事しないといけないの?
めんどくさいんだけど」
そう言うレイカの食事はぎこちない。
NEVERドライバーの副作用を受けた全身の痛みがまだ治って無いのだ。(因みに堂本は"また筋肉が大きくなる"と言ってその痛みを嬉しそうに受け入れていた。)
「我が儘、言うんじゃないわよレイカ。
良い?今私達はぶっちゃけ無職なの!
傭兵を再開すればミュージアムにバレる。
非合法な仕事は全部アウトよ。
それに無名ちゃんの口座だって何時バレるか分からない。
安定した収入を得る基盤は作っておくべきだわ。」
「では、具体的に何をすれば良いのでしょうか?」
「無名ちゃんは機械に強そうだしプログラミングとか外部委託で受けたらどう?
金額はミュージアムにいた頃と比べたら微々たるものだろうけど隠れ蓑としてはピッタリよ。」
「成る程、では京水さんは何をするか決めているんですか?」
「そりゃ、勿論私の美しさを全面に売り出したセクシーダン....「却下で」って話し遮ってんじゃないわよレイカぁ!」
「だが、真面目な話どうする?
俺達の得意分野は戦闘だ....それ以外はあまり期待出来ないぞ。」
克己がそう言い悩んでいると無名の肩に重みが加わる。
その姿を見て無名は笑顔で言う。
「何か思い付いたのかい?"リーゼ"。」
時は遡り、救出されたリーゼの外傷は完全に完治されていた。
ミュージアムの技術を使って治療されたのだろう。
だが、それを見た無名の頭に疑問が浮かんだ。
(誰がリーゼを助けたんだ?
ゴエティアはリーゼが死んだと言っていた筈なのに...
まさか、ゴエティアもリーゼを死なせたくなかった?
でも一体何故?)
助け出されたリーゼだが意識が戻ることはなくずっと眠りについていた。
リーゼの目を覚まさせたのは無名だ。
無名の声に反応して目覚めたみたいな奇跡ではなく地球の本棚を使いリーゼの魂を呼び出したのだ。
そして、復活したリーゼはネットビジネスや株の投資で資金を儲けていた。
タブレットで会話したが本人はまだ僕に借りを返しきれてないと思ってるらしく返すまで共にいると言ってくれた。
そんなリーゼが見せてくれたのはアジトであるマンションの近くにある一つの物件だった。
それを見せながらタブレットで文字を打って僕に考えを伝えてくる。
「成る程、面白いかもしれないですね。」
無名はリーゼの案を採用すると数日かけて準備を行うのだった。
水が常に流れる街、水音町。
この街に最近、新しい店が出来た。
小さくこじんまりとした外観のアンティーク彫の扉、その上には"Angebot"と書かれた看板がかけられていた。
"雑貨喫茶
そして、悪魔との取引も......
リーゼの案を採用し喫茶店をオープンした無名はそこにマリアさんと霧彦を常駐させることにした。
復活したとは言えマリアさんの身体にダメージが残っている。
その護衛を霧彦に頼んだ。
彼はそれを二つ返事で了承した。
主な従業員として孤島から着いてきてくれた元クオークスやミーナが担当しそこにちょこちょこNEVERのメンバーが入る形を取った。
因みに無名の部下である二人は元の仕事に戻った。
赤矢は大学教授、黒岩は隠れ蓑として清掃会社を経営しているのでそれを再稼働した。
そして、僕は何をしているのかと言えば.....
「やっぱりここの地下に作るんですか?」
「えぇ、地下なら隠しやすいから緊急時にも対応できるわ。」
文音さんと共にマンションと喫茶店を繋ぐ地下施設を建設していた。
道具に関しては文音さんが提供してくれた試作ガジェット(ガンナーAの試験運用として作られた。)を使い僕は地下空間を作る上で必要な計算を行った。
ゴエティアに幽閉されたことで地球の本棚に何度も触れた結果、僕は原作のフィリップと同じように地球の本棚で検索が出来るようになっていた。
ゴエティアを封印したことで本の力に干渉して引き出すことは出来なくなったが十分に強力なので満足している。
そして、もう一つあった変化はゴエティアの名を聞いた事で断片的だが文音さんが記憶を取り戻したのだ。
僕の顔を見るなり最初は警戒したが、僕と共に地球の本棚に入って記憶を見たことで信用してくれた。
「ゴエティアを封印してくれてありがとう。
記憶も安定したから安心して良いわ。」
「良かったです。
それでお聞きしたいのですが貴方の記憶では何が残っていますか?」
「....私の残っている記憶は二つ。
一つは私の復讐が成功し
もう一つはその過去を変える為に夫と和解してゴエティアを打倒しようとするけど負けた未来よ。」
「.....ごめんなさい。」
「貴方が気にすることじゃないわ。
器として生み出されたからと言って貴方はゴエティアじゃないわ。
それに....良い発見も出来た。」
「良い発見ですか?」
「記憶を読んでいく中でゴエティアを見たけど明らかに弱体化している。
勿論、私が記憶している力と比べるとだけど...」
「そうなのですか?」
「えぇ、私の知っているゴエティアはエクストリームに到達した
寧ろ、"退屈だ"と煽られてしまったぐらいよ。
エクストリームに到達したテラーとシュラウドが作り出した最強のW....そしてミュージアムの全勢力を使えば財団Xとも渡り合える筈だがそんな戦力を相手にしても退屈と言い切るゴエティアの力に無名は戦慄した。
「でも今回の彼は来人と貴方にやり込められて地球の本棚の奥深くに封じられている。
これはチャンスよ。
いまならきっとゴエティアを倒すことだって出来るかもしれない。
だから諦めないでね無名。」
そう言って文音さんは僕の仲間の為に動いてくれている。
全ては皆が笑顔で迎える結末を手に入れるために....
僕は懐にあるデーモンメモリに触れる。
敵は僕の創造主....だが負けるつもりはない。
この手にある大事な仲間は誰一人奪わせはしない。
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第百七十八話 Nの憩い/目覚める巫女
園咲邸の大広間.....
現在そこには無名を除いたミュージアムの幹部と井坂に加えて天十郎、そして財団Xの加頭が集められていた。
そこに琉兵衛が布に包まれた巨大な物体を連れて現れた。
皆を見ながら琉兵衛は言う。
「良く集まってくれた我がミュージアムと運命を共にする者達よ。」
その言葉に加頭が答える。
「琉兵衛さん....今日は一体どうして我々を集めたのですか?」
「それはね、今日は記念すべき日だからだよ。
ミュージアムの最終目標であるガイアインパクト....
それを可能にする大切な存在..."地球の巫女"となる若菜が目覚めるのだからね。」
「「!?」」
琉兵衛が合図を出すと背後の布が外れ中から白い糸で包まれた巨大な繭が姿を現す。
「これは......」
「この中で若菜は地球と繋がる準備をしていた。
そして、今....それが"完了"する。」
琉兵衛の言葉に呼応するように繭にヒビが入る。
そして、そのヒビが全体に広がると繭は崩壊し中から全裸の姿の若菜が地面に倒れるように現れた。
その姿を琉兵衛は優しく見つめその身体をゆっくりと抱き抱えた。
ゆっくりと目を開けた若菜は琉兵衛を見て言う。
「あなたはだぁれ?」
その話し方は何時もの若菜の話し方ではなくまるで言葉を覚えたての子供のような話し方だった。
「私は園咲 琉兵衛....そして君は園咲 若菜。
我々は....家族だ。」
「....か...ぞく?」
家族の言葉を聞いた若菜は首をかしげる。
「そう、家族だ。
家族とは私は最も大切にしている存在だ。
私の大切な若菜....君の目覚めを歓迎するよ。」
琉兵衛の言葉に疑問を持ちながら若菜は周りを見て自分の身体を見つめる。
そして、琉兵衛の服を指して若菜が言った。
「みんな....なに...つけてる?」
「これは服だよ若菜。
我々はこれを着て生きているんだ。」
「そう...なの....わたしも"欲しい"。」
若菜がそう言うと若菜の瞳が光り若菜の身体を琉兵衛の着ている服と同じ物で包まれた。
「!?」
その光景を琉兵衛以外の皆が驚く。
(あれは一体何なの?
若菜の目が光ったと思ったら急にお父様と同じ服を着ているなんて.....)
冴子の疑問を真っ先に尋ねたのは本人ではなく井坂だった。
「失礼、琉兵衛さん。
若菜さんのその能力は一体どう言うこと何ですか?
見たところガイアメモリの力とも思えませんが....」
そう言う井坂に琉兵衛が答える。
「気になるのなら君の"やり方"で確かめて見たまえ。」
「.....分かりました。」
自分のやり方と言われた井坂は笑うとウェザーメモリを取り出し耳に挿した。
ウェザードーパントへと変身した井坂は若菜へ雷を落とす。
その攻撃を琉兵衛は止めようとしない。
「井坂先生!」
その攻撃を見て焦る冴子を尻目に攻撃された若菜は雷を見て言った。
「ピカピカして....きれい!
もっと"見たい"。」
その声に反応するように瞳が光ると雷は若菜に落ちること無く空中で制止した。
その姿を見た井坂は驚く。
「バカな!...雷を止めた?....いや、"空間ごと切り取った"のか!
ならばこれならどうです!」
井坂は両手に竜巻を生み出すと手を重ねて若菜に向けて放った。
建物など簡単に倒壊させるレベルの竜巻が若菜に迫るがそれも彼女の目の前で止まる。
しかも、巻き上げた破片すら空中で制止させたのだ。
その光景を見て井坂は驚くが対する若菜は手を叩きながら喜んでいた。
「ぐあーってしてばーんってなってぐるぐるぅ....たのしい!
わたしも"やる!"」
そう若菜が言うと井坂の攻撃が消失し井坂の上から落雷と目の前に竜巻が現れて井坂を襲った。
井坂はそれを防御しようとするが自分の作り出した雷と竜巻の"数倍の威力がある攻撃を受けて耐えられなくなり強化アダプターを取り出すとウェザーメモリに装着しメモリを突き刺して強化ウェザードーパントへ変わると気合いの声と共に二つの攻撃を欠き消した。
そのダメージの大きさから片膝をつく井坂に冴子が寄り添う。
その姿を見て若菜は疑問の表情を浮かべ代わりに琉兵衛は満足そうに笑った。
「あっはっは....凄いじゃないか若菜。
もうそんなに強くなったのかい?」
「つよい?....つよいってなに?」
「強いとは.... 自分の欲望を叶えるのに最も必要な物だ。
さぁ、今の若菜の力をもっと見せてくれ。」
「......うん!」
若菜は手を空へ広げる。
すると空間が裂けそこに星が映る空間が現れる。
その光景に皆、絶句している。
何故なら写し出していた空間は地球そのものだったからだ。
それを見て琉兵衛は言う。
「これが...."超越者"の本当の力か!」
しかし、その裂けた空間は直ぐに閉じてしまう。
若菜を見ると目を擦っている。
「どうしたんだい若菜?」
「なんか....つかれた...ねむい。」
「あっはっは目覚めて直ぐに力を使いすぎたか。
ゆっくりとお眠り....若菜。」
「.....うん。」
若菜は返事をするとそのまま意識を失い眠りについた。
その光景を見てやっと現実に戻った冴子が尋ねる。
「一体これは....若菜に何をしたのですか?」
その問いに琉兵衛は答える。
「私は悪魔と取引をした。
そして、遂に手に入れたのだよ。
"地球の巫女"等、霞む程の存在を.....
今の若菜はこの世界を創造した存在と同じになりつつある。
さしずめ
「今の若菜が本気で力を使えばこの世界を簡単に変えられる....文字通り全ての森羅万象を作り替えられる程にね。」
「バカな!...それでは
井坂がメモリを抜き人の姿に戻ると琉兵衛に尋ねる。
「陳腐な言葉だが...そうだ。
今の若菜は"超越者"の名に相応しい存在へと変わった。
これでガイアインパクトは更に進化する。
創造したまえ....今の若菜と来人の力、二つが掛け合わされたらどうなるか?」
そんな事は考えなくても理解できる。
ガイアメモリを使わず人を越えた力を使える若菜、地球の本棚にアクセス出来る来人が揃えばそれこそ神にすらなれてしまう。
「今回集まってもらったのは今後の計画について話すためだ。
天十郎君....風都第二タワーについてはどうかね?」
琉兵衛に尋ねられた天十郎は答える。
「順調です。
メインタワーとそれを囲うように建てられるサブタワー...それを建てる土地も抑えました。
機材や道具も運び込みが終わりサブタワーはほぼ完成していて残るはメインタワーと貴方から渡されたあの装置を設置するだけとなっております。」
「素晴らしい...では天十郎君。
そこに関しては任せるよ。
それと君のガイアメモリも使いこなせるようにしておいてくれ。」
「分かりました。」
「一つ懸念点があります。」
獅子神は琉兵衛に向かい言った。
「それは何かね?」
「ミュージアムを裏切った無名の存在です。
奴が今後、どう動くか読めません。
即刻、排除すべきです。」
その提案にサラが異論を唱える。
「私は反対だわ。
今彼等と事を構えるのはね.....」
「何だと?」
「今の彼にはNEVERがついている。
NEVERにいる仮面ライダーである大道克己....
彼のメモリの能力は危険です。
下手に手を出せばこちらの損害が大きくなります。」
ガイアメモリの機能を停止できるエターナルメモリ、それを使いこなす仮面ライダーエターナルでもある大道克己は無名と共に姿を消した。
恐らくは無名と協力関係にある。
そんな彼等を今敵として排除するには危険が大きいと判断していた。
「そんな気弱な事でガイアインパクトが失敗したらどうする!」
「勿論、無名達には裏切りの代償は支払わせるべきだわ。
でも、今行って計画が狂う方が恐ろしい。
先ずは第二タワーを完全に完成させてから....」
「それでは遅い!奴らを....いや"無名"を即刻消すべきだ!」
珍しく焦っている獅子神にサラは尋ねる。
「どうしたの獅子神?
何時もの貴方らしくないわ。
まるで無名を"恐れている"みたい.....」
「俺が.....恐れるだと?」
その言葉が引き金となり獅子神は怒るとサラの顔を平手打ちする。
その瞬間、傍にいた美頭や部下が前に立ち塞がりメモリを取り出す。
それに合わせて獅子神の部下や灯夜も前に出るとメモリを構えた。
「どういうつもりだ?
獅子神様に歯向かうつもりなのか?」
「それはこっちの台詞だ....サラ様に危害を加える者は誰であれ容赦しない。
幹部だろうと許さない.....」
一触即発....そんな空気の中で一つのメモリが起動する。
「Terror」
琉兵衛がテラーメモリを起動しドライバーに挿すとテラードーパントへ姿を変える。
そして、恐怖のエネルギーを発動し獅子神とサラのいる地面を囲った。
「随分と元気が良いね....獅子神君。
だが、もう少し冷静さをもって欲しいものだ。」
「も....申し訳ございません。
決して琉兵衛様に危害を加えるつもりは....」
「サラも部下の暴走は止めるべきだ。
我々は仲間だ.....争う存在ではない。
そうだろう?」
「はい....申し訳ございません。
直ぐに部下を下がらせます。」
サラがアイコンタクトを送ると美頭や部下が獅子神達を睨み付けながら後ろに下がった。
それに合わせて獅子神の部下も後ろに下がる。
「では、今後についての話し合いをしようじゃないか。」
そうして琉兵衛は皆に笑いかけるのだった。
倒れている井坂を冴子は介抱しつつ現状を理解しようとしていた。
(あの若菜の力.....どう見てもガイアメモリやそれに類するものの筈、でも強すぎる。
もし、メモリの力だとしてもあれだけの力を内包できるメモリなんて存在しないわ。
それに最後に見せたあの地球...あれは桁違い過ぎる。
幻覚を見せる力じゃない、あれは本物の地球...一体どうしたらそんな力を手に入れられるの?)
冴子の隣には呆然としている井坂がいた。
強化アダプターによりゴールドクラスのメモリとも戦える力を得た筈なのに若菜に手も足もでなかった。
それもメモリすら使っていない若菜に.....
ガイアメモリを信奉している井坂にとってこれ程の屈辱はないだろう。
(ここにいては井坂先生の心が壊れてしまう。)
そう危惧した冴子は井坂を連れて部屋を出ていく。
腕を引きながら冴子は井坂に言う。
「井坂先生、大丈夫です。
私がもっと強くなれば若菜にだってきっと...」
"勝てる"....確証のない言葉で井坂を元気づけようとした時、井坂の足が止まる。
「井坂先生?」
「冴子君....どうやら君は勘違いしているようだね。
私の力が彼女....いや宇宙の巫女に通じなくて絶望していると....バカバカしい!逆だよ。
私はねあの力を見て"感動"していたんだ。
ガイアメモリの力を超越したあの姿と力こそ私が求めていた姿だ!」
狂気により濁った井坂の目は若菜の力に触れた事で変化を及ぼした。
「私は若菜さんの力が欲しい!!」
「でも....それは人を捨てることですよ!
分かっているんですか井坂先生?」
「冴子君、それの何が問題なのかね?
神にも越えるあの力を手に入れられるのならこんな肉体、捨ててしまっても構わない。
あぁ、テラーのメモリを手に入れる計画でしたが大幅に変更する必要がありそうですねぇ...」
そう言って笑う井坂を冴子は抱き締める。
「ダメです!...井坂先生....お願いです。
若菜の元に.....向かわないで」
その言葉は組織の幹部としてではない。
人を愛する一人の女性、園咲 冴子としての願いだった。
今までずっと優遇されてきた妹に勝つ為に頑張ってきた。
父の打倒も元を正せば認められたいのに認められず妹ばかり優遇される嫉妬からだ。
もう、そんな彼女の理解者は井坂しかいない。
その井坂が今、若菜に奪われようとしている。
それだけは許せない.....失いたくない。
その感情が冴子を女に戻したのだ。
......だが、井坂にその思いは通じない。
「冴子君、本当に残念です。
貴女なら私の考えに理解を示してくれると思っていたのですが....貴女の考えは理解出来ました。
感情的な貴女も面白かったですがあの力には敵いません。
貴女との協力関係は"これまで"です。」
「そん....な....い...さ...か....せん....せい?」
「では、私はこれで....これからやらねばならないことが山積みですので」
冴子の手を払い井坂は一人、去っていく。
その背中に冴子は手を伸ばすが届かない。
"自分は捨てられた"....その事実を知った冴子は地面にうずくまることしか出来なかった。
それは突然の出来事でした。
琉兵衛様との階段が終わり部屋を出た私は井坂さんと冴子さんを見つけました。
言い争いから察するに井坂さんが冴子さんを切ろうとしてるのは直ぐに分かりました。
(これは....チャンスでしょうか?)
井坂さんを失った冴子さんには後ろ楯がない。
そんな彼女を私が支える....そうすれば彼女の心は私に傾くかもしれない。
(ならば、今は冴子さんをほおっておいて時期を見計らい接触を....)
そんな事を考えて私は冴子さんを見ました。
地面にうずくまり静かに涙を流す。
少しでも見逃してしまったら消えてしまいそうな冴子さん。
気が付いたら私はただ彼女を抱き締めていました。
さっきまでの打算が完全に吹き飛び私はただ彼女を抱き締めた。
消えないように....溢れてしまわないように優しく強く。
そんな姿に驚いた冴子さんが私に言いました。
「加頭....さん?」
「もう大丈夫です。
貴女の事は私が命を懸けて守ります。
貴女を傷付ける者は何人たりとも貴女の前には進ませません。
これは財団ではなく...."私の意思"です。」
私は抱き締めながら今後どうやって冴子さんを守るのか.......そして
彼女を泣かせた"井坂"をどう苦しめて殺すか?
私の頭の中にはそれしかありませんでした。
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第百七十九話 Oの依頼/強き高校生
「老けさせ屋?」
「うん、アタシのいる学校で噂になってんのよ。」
翔太郎とフィリップにそう告げる頬に絆創膏を着けたポニーテールの女子高生。
そんな彼女との出会いは偶然だった。
事務所に老婆と女性が現れて俺たちに言った。
「娘をどうか元に戻してくれ」と.....
そう依頼された。
10歳の娘がある日突然、老婆になったと言われ俺達は早速、調査に向かった。
その途中で翔太郎達は不審な動きをする女子高生を見つけたのだ。
怪しさを感じた翔太郎は彼女を裏路地に誘いこんだ。
そして、一瞬気配を消すと背後に回り込み肩を叩いた。
「俺を探してんのかお嬢ちゃん?」
その言葉を受けた女子高生は背後の翔太郎に向かって蹴りを打ち込む。
胴の入ったその蹴りは素早く翔太郎は狙われた頭部を腕でガードすると間合いを取った。
「テメェ!一体何すんだよ!」
その問いに女子高生が答える。
「お前が"老けさせ屋"か?」
「老けさせ屋?」
「"みゆ"と母親がお前らと会っていたことは知っている。
顔面陥没されたくないならみゆを元に戻せ。」
「お前....後藤みゆと知り合いなのか?」
「彼女の名前を知っているのなら問答無用だ!」
女子高生は拳を向けて構えると翔太郎の顔に向かって正拳突きを行う。
翔太郎が回避すると左足を軸に回転して鳩尾を狙い蹴りを放った。
ギリギリで回避するが蹴りをかすった翔太郎の服が軽く破ける。
(こりゃ、空手か!
しかも、相当腕が良い....じっとしてたら俺がやられる。)
翔太郎はそう考えると帽子を取り両手を上げた。
「分かった降参だ降参。
お前に危害を加えるつもりはねぇ。
俺の名前は左 翔太郎....鳴海探偵事務所って所で探偵してんだ。
俺も母親からの依頼でみゆちゃんを元に戻す方法を探してる。
目的は君と同じだ。」
「それを証明できる証拠はあるのか?」
「あぁ、事務所に詳しい依頼の資料もある。
それにその老けさせ屋について聞きたい....頼む話を聞いてくれ。」
翔太郎の目を真っ直ぐと見つめる女子高生はその言葉が嘘ではないと理解すると構えを解いた。
そして、事務所についてきて詳しい話をした。
「どうやら、本当に探偵みたいだな。
.....すまない、勘違いして貴方に暴力を奮ってしまった。」
翔太郎に向けて女子高生が頭を下げて謝罪する。
「良いって気にすんな....それよりその老けさせ屋について教えてもらえるか?」
「アタシの学校で噂になってんのよ。
金さえ払えばどんな人間でも老けさせられる....それを商売にしている奴の話。」
「老けさせると言うのは文字通り老化させると言うことか?」
フィリップが女子高生に尋ねる。
「うん、噂じゃ内の学校でも被害者が出たらしくて学校に来なくなった生徒がいるって聞いたことがある。」
「成る程、それで君はどうして老けさせ屋を追っているんだ?
後藤みゆと関係がありそうな話をしていたそうだが....」
「みゆちゃんは家の近くに住んでてな。
家族ぐるみで仲が良かったんだ。
私もみゆを妹の様に思ってる....だからみゆが老人に変えられていてもたってもいられなくなって.....」
「それで自分で探偵紛いの事を....」
「成る程な事情は分かった。
それじゃ、どうして俺が老けさせ屋だと思ったんだ?
まさか、後藤の家族と会ってたからなんて理由だけじゃねぇだろ?」
「実は老けさせ屋に会ったことがあるって奴がいてそいつから話を聞いたんだ。
その見た目が"黒スーツに灰色のシャツを着たオッサン"だって聞いて.....」
「オッサン!?」
「ぶふっ!」
オッサンと言う言葉を聞き亜樹子は明らかに吹き出す。
そして愕然としている翔太郎に代わりフィリップが答えた。
「成る程.....確かに衣服に関しては今の翔太郎と共通点が多いね。」
「だっ...だな!オッサン以外は全部合致してたな。
オッサン以外は!」
オッサンと言う言葉を強調する翔太郎を尻目に女子高生は立ち上がると翔太郎達に再度頭を下げた。
「老けさせ屋の話をしてバカにしなかったのはアンタらが初めてだ。
頼む....みゆを元に戻してあげてくれ。
こんなことアンタらにしか頼めない。」
「当たり前だ。
依頼だからもだが、街の人間が苦しんでるのにほおっては置けない。」
「翔太郎の言う通りだ。
この事件は必ず僕達が解決するよ。」
「ありがとう。
何か手伝いがいるのなら遠慮無く言ってくれ。
電話番号をここに置いておくから...」
そう言うと女子高生は事務所を出ていった。
「正義感の強い子だね。」
「あぁ、自分じゃない誰かの為に本気で怒って本気で心配している。
こんな子がまだいるってだけで未来に希望が持てるじゃねぇか。」
「あれれぇ?翔太郎君、その台詞随分とオッサン臭いぞぉ?」
「うるせぇぞ亜樹子。
....それにしても良いパンチと蹴りだったな。
ガードしてなかったら本気でヤバかったかもしんねぇ。」
翔太郎は蹴りをガードして腕を握る。
まだ、軽く痺れが残っている....つまりそれだけの破壊力があの蹴りにはあったのだ。
翔太郎の言葉にフィリップが答える。
「彼女の経歴を考えれば当然だよ。」
「経歴?また地球の本棚で調べたのか?」
「いいや、彼女はとある界隈では相当な有名人だ。
本棚を使わなくてもネットだけで正体に辿り着けたよ。」
そうフィリップが言うとタブレットを翔太郎に差し出す。
そこにはWeb記事が掲載されておりさっき会った女子高生がデカいトロフィーを持って写っていた。
「何々...."またまた優勝!!これで全国空手大会三連覇達成!"
成る程、道理で強かったわけだ。」
そうして記事を再度確認する。
記事には彼女の名前がデカデカと書いてあるのだった。
一方その頃、風都署の超常犯罪課では署長が照井から渡された資料を精査していた。
「これは....事実なのかね?」
「はい、この風都署に置いてガイアメモリ犯罪に関わる又は隠蔽に協力した可能性のある人員はこれで全てです。」
その名簿と数字を見て署長は頭を悩ませる。
「刑事課のベテランから若手のホープ....こんなにいたのなら不正が横行しても仕方がないな。
分かった....この件は此方で対応する。
照井君、ご苦労だった。」
「はい、では失礼致します。」
そう言って照井が離れたのを確認すると署長はスマホを取り出した。
「私だ....あぁ、どうやら照井警視に我々のことがバレそうだ。
....あぁ、ミュージアムに連絡して早めに処分しなければ....あぁ、分かっている。
その代わり、あの方に便宜を図ってくれ。
私は有能だと伝えてくれよ....それじゃあ」
そう言って署長が電話を切ると資料に目を向けた。
「全く愚かな男だよ照井 竜は....知らないフリを続けていれば長生き出来ただろうに」
この世界は平等ではない。
力を持つものが動かし弱者はそれに従い仮染めの平和を享受している。
出る杭は打たれる....そう言うことだ。
そうして部屋を出る署長を隠れていた照井が見つめる。
「やはり、署長もグルだったか....」
照井は最初から署長を疑っており超常犯罪課に呼んだ時も予め部屋にビートルフォンを置き自分が部屋を出た後の光景をイールチャンネルで監視していたのだ。
署長がミュージアムと繋がっている証拠映像は手に入った。
それにどうやら俺を襲う為に誰か刺客が送られるらしい。
(上等だ....敵が現れた瞬間、捕縛して情報を更に引き出してやる。)
照井は覚悟を決めて外に出ようとする。
「何処に行くんですか照井警視。」
そう言うと照井の前に刃野と真倉の二人だった。
「水臭いじゃないですか。
俺達を除け者にして捜査するなんて....」
「この一件は警察内部....更には風都署の署長も関わっている。
お前達にも危険が及ぶ....だからこれは俺、単独で捜査をする。」
照井の言葉に刃野が反論する。
「そりゃいくらなんでも道理が通りませんよ照井警視。
俺や真倉も曲がりなりにも刑事です。
目の前で犯罪が置きようとしてるのにそれを見過ごすことなんて出来ませんよ。」
「ダメだ....今回の一件はドーパントの関わってくるお前達がいると足手纒いだ。」
「ちょっと照井警視!!俺達をあんまり嘗めないで下さい!
確かに俺はビビりですけどだからって目の前の犯罪から逃げ出す程、臆病でもありませんよ!」
「だが......」
「照井警視、今回の一件に署長が関わっているのならアンタの権限じゃこの事件を捜査するのは難しいんじゃないですか?
下手をすれば罪を着せられてアンタが犯罪者にされちまう危険性もある。」
「俺は問題ない。
大事なのは一刻も早く風都署の膿を吐き出させる事だ。」
「確かにアンタなら自分の全てを賭けてでも行うでしょうね。
でもね照井警視、俺はアンタと一緒に働くこの超常犯罪課が好きなんですよ。
だからたまには俺らにもアンタを守らせてはくれませんか?」
そう言う刃野に照井は尋ねる。
「何か策でもあるのか?」
「伊達に長いこと刑事やってませんよ。
とある駐在所で勤務していた時に仲良くなった同期が今、相当な地位にいるんですよ。
彼ならきっと手を貸してくれます。
それにアイツは正義感が強くて不器用なんで汚職や不正とは無縁の人物です。」
その刃野の言葉に真倉は驚く。
「うえっ!そんな人と同期なんですか刃野さん!」
「まぁな。
これでも交遊関係は結構広い方なんだ。
どうですかね照井警視?
彼に助力を頼むぐらいはしても良いでしょう?」
「.....分かった。
連絡を頼めるか?」
「勿論です照井警視。
ではちょっくら連絡してきます。」
そう言うと刃野は携帯を持ってその場を後にした。
その姿を見た真倉が言う。
「もしかして、刃野さんって凄い人なのかも知れないっすね。」
「さぁな....所でお前はどうする真倉?
逃げたいのなら逃げても良いぞ?」
「絶対嫌です!...俺、綾さんの墓の前で約束したんです。
"優秀で正義を貫ける警察官になる"って.....だからそれを叶えるためにも俺は照井警視を助けます。」
「....揃いも揃ってバカばかりだな。
良いだろう。
今後の作戦を立てる....署内では盗聴の危険性があるから刃野を連れて18:00にここで落ち合おう。」
そう言って離れていく照井の顔は嬉しそうだった。
今の彼は復讐者とは呼べない仲間に恵まれた刑事であり仮面ライダーなのだから....
警視庁の一角にあるフロア....そこで資料を見つめている男の元に電話が届く。
その男は電話に出た。
「はい」
「久し振りだな。」
「その声....
久し振りですね。」
「お前も相変わらず敬語になる癖が抜けてないな。
仮にも俺達は同期だぜ....少しぐらい砕けて話そう。」
「貴方も相変わらずそうで安心しましたよ。
そう言えば今日はどんな要件で?」
「今お前のパソコンに送ったデータは見たか?」
「.....はい、風都署で行われている不正のデータですね?
それに署長も関係していると.....」
「あぁ、俺達もそれに困ってる。
何とかしたいんだが俺や照井警視の階級じゃどうにもならねぇ....」
刃野がそう言うと男は間髪入れずに答える。
「分かりました協力します。
僕はどうすれば良いですか?」
「まだ手伝ってくれとも言ってないのに....良いのか?
お前のキャリアに傷が付くかもしれないぞ?」
「元々、この役職だって僕には身に余る者です。
少しぐらい下がったって気にしません。
....それに僕達は市民の味方であるべき存在です。
今ここでこの一件を正しく裁き潰しておかなければ一体誰が警察を信じてくれるんですか?」
「本当にバカ正直で真っ直ぐだな。
お前は昔から.....」
「まぁ、そのせいで良く失敗もしますけどね。
でも周りの部下や先輩が優秀なので助けて貰っています。」
「そうか....んじゃ頼むわ。
取り敢えずこの事を照井警視に話してくるわ。」
「分かりました。
連絡を待ってます。」
「あぁ、ありがとうな"誠"。」
そう言うと刃野は電話を切った。
電話を戻した氷川は気合いを入れる。
(僕は昔から変わらない"只の人間"だ。
でも只の人間だからこそ出来ることが必ずある。
"津上さん".....僕も貴方のように頑張ります。)
そう思う男が座る椅子には自分の役職と名前が書かれたプレートが置かれていた。
"
彼は何時でも動けるように部下に指示を出し始めるのだった。
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第百八十話 Oの依頼/強い願い
だが、自分の正体がバレると彼はオールドドーパントに変身し"オールドクリーク"と呼ばれる精神干渉波を受けてしまう。
その結果、翔太郎は老人に変わってしまった。
それでも何とか事件の調査を行い。
老けさせ屋に依頼をしたのは後藤みゆと同じ自動劇団に通う
理由は自分の娘を劇の主役にさせる為.....
理由を知った後藤 良枝は報復の為に老けさせ屋に関根 久美の老化を依頼し結果として関根 久美も老婆になってしまった。
そして、その事態を知った芦原 茜は探偵事務所で真相を明かされ喧嘩する良枝と光子に怒りを発した。
「ふっざけんな!」
茜の怒号と怒りにより鉄骨に打ち付けた拳からゴン!と言うデカい音がなる。
「何が娘の為だ....結局アンタら二人の勝手な喧嘩だろうがっ!
それに子供を巻きこんでんじゃねぇよ!」
その言葉に光子が怒る。
「何よ!アンタに何が分かるのよ!」
「これっぽっちも分からねぇよ。
親友を自分の親が蹴落とす気持ちなんて分かりたくもない!」
「は?何言ってるの?」
「私はみゆと何度も遊ぶ内に"親友を紹介する"と言われて連れてきた子がいた。
それが久美ちゃんだ!
劇の主役の話も知っていた....だけど本人達はそれを何とも思っていなかった。
お互いに一生懸命にやった結果で悔いなんて無かった....そう言っていたよ。
気に食わなかったのはアンタ達だけだ!!」
「.........」
茜から告げられた真実に光子は黙るしかない。
そして茜の怒りは良枝に向いた。
「良枝さん....アンタも何で報復なんて行動取ったんだ!!
そんな事をしてみゆが喜ぶと思ったのか?
親友を老婆にされて喜ぶと本気で思ったのか!」
「それは.....」
「私は父親がいない。
父は警察官だった....そして仕事の途中で命を無くした。
後で母が教えてくれた。
父は同僚に裏切られて殺されたって.....
私もそいつに復讐したいと思ったさ。
でも母さんは私にこう言ってくれたんだ。
"お父さんはきっと茜に元気で優しくいて欲しいと願っているわ。
常々言っていたもの....俺が働いているのは娘の暮らす平和を守るためだって....."
親って言うのは子供の幸せを考える者だろ?
そりゃ、誰だって怒りや復讐心に飲まれる事だってある。
でも...それよりも何よりも子供の事を考えるのが親の責務なんじゃないのか?
良枝さんの復讐や光子さんの行動は、娘の幸せを考えものだったのかよ。」
そう言いながら話す茜は泣いていた。
そんな彼女を心配するように老婆となったみゆと久美が、茜に寄り添う。
「茜おねぇちゃん大丈夫?」
「泣かないで茜おねぇちゃん。」
その顔を見て無理矢理、茜は笑うと二人に言った。
「安心しなよ二人とも!
アタシが老けさせ屋をぶっ飛ばしてアンタ達を元に戻してやるからな。」
そう言うと茜は一人事務所を飛び出した。
その姿を見て起き上がったのは老人となった翔太郎だった。
老いてしまってはいるがその目には強い信念の光が点っている。
翔太郎は帽子を手に取ると深く被る。
「やれやれ、最近の若いもんは何でも早いのぉ....
ワシが言うべき事すら言われてしまったわい。
お二人さん....もう説教は終わりじゃ。
お主らは二人とも大人じゃ自分の罪ぐらい自分で数えられるじゃろ?」
そう言うと翔太郎は杖を取った。
その行動にフィリップが尋ねる。
「翔太郎、どうする気だい?」
「あん?決まっとるじゃろ。
「その身体じゃ長くはWになれないよ?」
「関係あるかい!...ワシらは二人で一人の仮面ライダー....そうじゃろ?」
翔太郎にそう言われたフィリップは嬉しそうに笑った。
「そうだね。
行こう翔太郎!」
そう言うと二人はオールドドーパントを追う茜を追いかけるのだった。
風都にある廃工場....そこに相馬は隠れていた。
「いやぁ、随分と目をつけられちまったなぁ。
まさか、仮面ライダーからも狙われるとは.....
こりゃ、暫く仕事場を変えた方が良いかもな。」
そう言って立ち上がる相馬を茜は見つけた。
「アンタが老けさせ屋?」
「うん?何君?依頼人?
悪いけど暫く店仕舞いするから仕事は受けられないよ。」
そう言うと茜はニヤリと笑う。
「どうやら、今回は当たりみたいだね。
アンタが老婆にした子供二人....覚えてるよね?
すぐ元通りにするなら少しは手加減してあげるけどどうする?」
「何言ってんだこのガキ?」
「そう....なら顔面陥没させてあげるわ!」
構えた茜は相馬に一気に近付くと正拳突きを腹部に放った。
ドゴン!と言う音と共に相馬は地面に倒れ伏す。
「この....クソガキ....嘗めやがってぇぇ!!」
ブチキレた相馬はメモリを起動する。
「
起動したメモリを腹部のコネクターに挿すと相馬はオールドドーパントへと変身が完了した。
茜はドーパントの顔面を的確に殴り付けるが全くダメージを与えられない。
「只の人間がドーパントに勝てるわけないだろ!!」
「ぐっ!」
相馬が放った蹴りが茜を捕えると吹き飛び地面を転げ回る。
「げほっ!ごほっ!....この....」
頑張って立ち上がろうとするがそこにオールドドーパントのオールドクリークが発動する。
「今回は大サービスで100年コースだ。
触れた瞬間、老衰で死ねるぜ。」
オールドドーパントの放った精神エネルギーが地面を伝い茜に近付く。
しかし、その攻撃が茜に当たることは無かった。
何故ならその前にオールドドーパントが謎の攻撃により吹き飛ばされて攻撃が解除されたからだ。
「なっ!」
オールドドーパントは周りを確認するがそれを許さないように連続で攻撃が当たりオールドドーパントは吹き飛ばされてしまう。
「何だ?一体何が起こってる?」
そんな事を話している内に翔太郎とフィリップが茜の元へ追い付いた。
廃工場の見える建物の屋上で黒岩はコブラドーパントになりライフルギジメモリを使った狙撃でオールドドーパントへ牽制を行っていた。
その隣で無名はスマホを耳に当てながら言う。
「久し振りだと言うのに恐ろしい精度ですね。」
「この程度の動きしか出来ない敵なら問題なく攻撃を当てられる.....それに茜ちゃんは家の娘の友達だ。
万に一つでも怪我をさせるわけには行かないからな。」
何故、無名と黒岩が茜を助けられたのかと言うとそれは文音のお陰だった。
フィリップとの定期連絡により老けさせ屋について知ると直ぐに調べ始めた。
そして、衝撃の事実を知った。
「老けさせ屋が使っているメモリは恐らくオールドメモリ.....私が与えたメモリよ。」
琉兵衛の持つテラーのメモリと似た性質を持ったこのメモリを使い来る戦いに備えて残して置いたのだと言う。
「彼は私が産み出した怪物でもあるわ。」
「その事はフィリップに」
「伝えたわ。
必要なら私が彼を倒すのを手伝うと....でも」
「"母さんの罪は僕の罪でもある....それに風都を守るのは仮面ライダーの勤めですから"....と」
「成る程、断られたわけですか。」
「えぇ....だから私は見守ることにするわ。」
文音さんがそう決めた以上、僕達もそれに従おうと思っていたがそこに芦原の娘である茜がいることを知り、僕達は動くことを決めた。
とは言え余り派手には動けないので僕一人で行こうとしていた時、黒岩が僕を止めた。
「俺も行こう....茜ちゃんは娘の親友だ。
万が一に怪我もさせられないからな。」
そう言ってコブラメモリを取り出す。
霧彦がディガルコーポレーションに潜入した際、奪われていた"コブラメモリとアサガオメモリ"そしてアクセサリーシステムとギジメモリを見つけて密かに奪っていたのだ。
そして、そのメモリを使い黒岩が遠くから茜をオールドドーパントから守っていた。
(本当は芦原がここに来たかった筈だ。)
芦原にこの事を伝えるが芦原は来ることを拒否した。
「俺はもう死んでいる....それにお前が守ってくれるんだろ?
なら安心だ。」
芦原は俺を信用してくれている。
殺し屋としての腕ではなく父親としてだろう。
(お前の娘には俺の娘も助けられている。
だからこそ、絶対に死なせない。)
オールドドーパントは狙撃を受けて視界の外へ隠れるがそんな事はコブラメモリとライフルメモリを使っている黒岩にとって無意味だった。
覗いているスコープに力を込めると視界が変わり周りの熱を関知するサーモグラフスコープを発動させる。
これから建物に隠れても意味はない。
(だが、壁を抜いて当てるのでは時間がかかるな....ならば)
黒岩は工場の鉄骨に狙いを定めると引き金を引く放たれた弾は鉄骨に当たると跳ね返り壁に隠れていたオールドドーパントへ着弾する。
これまで数々の人間を狙撃で殺してきた黒岩にとってこんな芸当は難しくなかった。
そして、狙撃を続けて時間を稼いでいるとフィリップと翔太郎が到着した。
「漸くヒーローの到着だな。」
「えぇ、その様ですね。
黒岩さん、Wがピンチになったら狙撃で援護してください。」
「分かってる....それまではお手並み拝見だな。」
そう言うと黒岩は狙撃を止めるのだった。
「「変身」」
フィリップと翔太郎がWに変身するとオールドドーパントへ向かう。
翔太郎のボディサイドが手が震えて動きがヨボヨボになっていることからオールドドーパントの能力を諸に受けていた。
原作でもその影響によりオールドドーパントに苦戦し最終的にアクセルトライアルがオールドドーパントをメモリブレイクしたのだ。
しかし、この世界での翔太郎は一味違っていた。
オールドドーパントへ攻撃を仕掛けていく事に動きが良くなっていく。
杖無しでは身体を支えられなかった両足はいつの間にか二つの足だけで大地を踏みしめ、震えていた手は止まり正確にオールドドーパントの身体に攻撃を当てられるようになってきた。
威力も段々と大きくなり殴った音が変わっていく。
ダメージによりオールドドーパントは身体を抑える。
「ぐおっ!お前、俺の力で老いぼれになってる筈だろ?
なのに何でそんな風に動けるんだ!」
その答えをフィリップのみが知っていた。
(デモンドライバーでジョーカーに変身したことで翔太郎とジョーカーメモリの適合率は更に上がった。
老人となった翔太郎の身体をジョーカーのエネルギーが支え補助しているんだ。
今の翔太郎は感情が強くなる程、メモリの力が上がっていく。)
そんなことを考えているとオールドドーパントは翔太郎の拳で吹き飛ばされ、オールドクリークを発動する。
「もう良いもう一度、今度は百年コースだ。
これで息の根を止めてやるよ。」
しかし、その攻撃がWに当たることはない。
何故なら、Wはエクストリームメモリを発動するとプリズムビッカーにメモリを装填していく。
「CYCLONE,HEAT,LUNA,JOKER」
「「「「MAXIMUMDRIVE」」」」
『「BICKER CHARGE BREAK」』
盾から抜き放たれた四色のエネルギーを纏った剣はオールドクリークのエネルギーに切り裂いた。
そして、そのまま近付くと精神干渉波ごとオールドドーパントを真っ二つにした。
大きな爆発が起こるとオールドメモリは砕かれ元の人間の姿に戻ってしまう。
その影響でオールドメモリの力も消えて翔太郎は元の若々しい姿を取り戻した。
「あぁー、やっと身体を動かせるぜ。」
そう言って翔太郎は首を回してストレッチをする。
老人になっていた影響で筋肉が固まっていたのだろう。
そんな事をしているとメモリを失った相馬は翔太郎から逃げるように走り出した。
隣にいたフィリップが気づき追いかけようとするがそれを翔太郎が止める。
その理由は直ぐに分かった。
逃げようとする相馬の顔面を茜の拳が捕えた。
「ぶへっ!」
「おっらぁぁ!」
思いっきり振り抜かれた茜の拳は相馬の鼻を折り気を失わせた。
「成る程ね....合点が言ったよ。」
こうして事件は解決した。
翔太郎は気絶している相馬の身柄を渡そうと照井に電話をかけた。
「...よぉ、照井。
風都を騒がせていたドーパントを捕まえたから逮捕してくれ。」
「分かった。
次いでに此方も頼みがあるのだが良いか?」
「珍しいなお前から頼み事をされるなんて....どんなことだ?」
照井は翔太郎にとある計画を話すと二つ返事でOKを貰う。
そして、電話を切るとそれぞれが行動を開始するのだった。
老けさせ屋を捕まえた茜は翔太郎達と別れると学校に戻った。
みゆを助けるために病欠を出していたからだ。
授業はもう終わっており今の時間は昼休みだった。
学校に着くと親友である
楓は茜に話しかける。
「あっ、茜!
体調はもう大丈夫なの?」
「ん?....あぁ、もうバッチリ元気百倍だよ!」
「そっか、なら良かった。
あんまり心配させないでよ?
茜に何かあるとお母さんもお父さんも五月蝿いんだから」
「分かってるって....これから気を付けまぁす。」
茜は何時も通りの日常へと戻っていった。
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第百八十一話 Fの捜査/依頼と焦り
「という訳でこの事件の捜査を左達に頼みたい。」
そう左達に言って連絡を入れたのは照井だった。
風城高校で起きた教師の不審死、それにドーパントが関わっている話を受けた照井は左に個人的に捜査の助力を依頼してきたのだ。
「お前にしては珍しい依頼だな。
照井ならこの事件を自分で解決してもおかしくないと思ったんだが....」
「俺もそのつもりだったが。
この前の俺の暗殺未遂、Wにも協力して貰ったがお陰で風都署長や犯罪に荷担していた汚職警官をかなり捕まえることが出来たがその結果、今の風都署はその後始末で正直、まともに機能していない。」
オールドドーパントを倒した夜、照井は風都署の署長に、呼び出されその場所へ向かうとそこには銃を持った同僚が複数名いた。
そして、署長は自分達がミュージアムに関係している事を暴露し照井を口封じする事を伝えた。
しかし、署長達は気付いていなかった罠にかけられたのは自分達だったのだと.....
署長らを、囲むように警察の特殊部隊が出現する。
そして、その間から氷川誠 警視長が現れたのだ。
驚く署長を尻目に氷川の指示で特殊部隊が汚職警官や署長を捕縛しにかかる。
しかし、そこで数名の汚職警官がガイアメモリを取り出したのだ。
だが、そのガイアメモリは照井によって予め待機していたWによって奪われると全て砕かれてしまう。
こうして風都の汚職警官と署長は全員逮捕された。
だが、同時に風都署は早急に組織を再編する必要が出てしまったのだ。
汚職に手を出していたのは風都署の上層部や中核を成すものが多かった為、組織は大混乱した。
風都署の署長代理として氷川が就任するとそのサポートとして照井が副署長代理として選ばれてしまった為、今の照井は仮面ライダーとして活動できない程の激務に勤しんでいた。
(因みに超常犯罪捜査課は現在、刃野刑事が課長代理となり動かしている。)
「俺が自由に動けない以上、頼れるのは左達だけだ。
今回の件にドーパントが関わっている疑いが強い以上、尚更君達の力が必要だ。」
「分かってるよ照井。
この依頼、請け負ったぜ。
それで内容は?」
「セブンスについて調査した結果、幹部達の潜伏する場所の候補が見つかった。
左達にはそこの調査を行って欲しい。
その場所は......」
照井の告げた場所を聞いた翔太郎は驚く。
「まさか....そんなところにまでガイアメモリが蔓延ってるってのか?」
「残念だがその可能性は高い。
だからこそ調査してあわよくばその組織を壊滅させて欲しい。」
「分かった。
俺達がキッチリ解決してやるよ。」
翔太郎がそう言うと電話を切った。
「やれやれ面倒な依頼を受けたね翔太郎。」
そう言ったフィリップはホワイトボードに調査する場所の名を記していた。
風城高校....それはオールドドーパントの件で関わった芦原 茜が在学している学校だった。
「倍率が高く在学する学生は大会の優勝者や入賞者ばかりの進学校....それだけならまだましだが」
フィリップはそう言いながら地球の本棚で手に入れた知識を言う。
「風城高校はドーパントが現れ出してから建設された高校だ。
だからこそ、そこに関するセキュリティの高さは尋常じゃない。
先ず、校内に入るにはボディチェックと入館用の電磁キーが必要で学生にはそれが入ったスマホが支給される。
校内には金属探知機や学校が用意したスマホ以外を使おうとすると警報がなるシステムがあり、学校の所有する区域全てに張り巡らされている。」
「つまり、学校にはガイアメモリはおろかメモリガジエットも持ち込めないってことか。」
「あぁ、それに部外者が入るにしても監視カメラが多過ぎて死角がない。
正規の手続きで入るにしても何週間も申請に時間を取られる。」
「成る程、厄介な事だな。」
「だが、そのお陰もありドーパントのが無い高校として売り出しているみたいだ。」
対ガイアメモリ用のシステムで構成された学校はフィリップの頭脳を持ってしても単純な侵入は不可能だと言わしめた。
「だとしたら残った方法は....」
3日後.........
風城高校の教室に担任が入ってくる。
「おはよう!突然だが転入生を二人紹介する。
さぁ、入ってきてくれ。」
そうして入ってきた二人の青年はそれぞれ自己紹介を始めた。
「
親の都合で転入してきたらしい。
仲良くしてくれ。」
独特な挨拶の仕方に戸惑うが茜だけは来人の顔を見て驚いていた。
そして、次の青年が話す。
「
私も彼と同じく両親の都合で風城高校に転入しました。
分からないことも多いので色々と教えて下さい。」
フィリップはそう言って笑顔で挨拶する無名の顔を苦笑いしながら見つめる。
(無名がここに来るなんて....一体どういう事なんだ?)
授業が終わり休み時間になったら問いただそうとフィリップは決めるのだった。
天ノ川高校の理事長室で獅子神は我望を睨み付けていた。
「これは一体どういう事だ我望?」
その問いに我望は平然と答える。
「今後、君の指図は受けない....そう言ったのだよ獅子神君。」
その言動と行動は獅子神にとって予想外の一言であった。
故にその行動は獅子神の怒りを加速させる。
「この俺を嘗めているのか?
そんなに死にたいのなら今ここで殺しても....」
「出来るのかね?君にそんな覚悟があるとは思えないが...」
「何だと?」
「少し前までの君は強かった。
我々のゾディアーツスイッチが不完全だったのもあるがそれ以上に君の強さが圧倒的だった。
だが....今は違う。」
そう言って立ち上がり我望が獅子神を見つめる。
「君の目を見ても私は恐怖を感じない。
それよりも君の方が私を恐れて見える。」
「何だと?....貴様ぁ!!」
獅子神は我望に掴みかかろうとするが手を伸ばした瞬間、我望の身体が蜃気楼の様に歪み消えた。
「なっ!」
「幻影の私すら見抜けないとわ....愚かな。」
我望の声が響くと周りの風景が変わる。
そこは天ノ川高校ではなく屋外になり更に獅子神を囲うようにゾディアーツが現れる。
「これで分かっただろう?
今の君では我々には敵わない。
ミュージアムに従っても君に従う義理はない。
君の主義で言うのなら、"弱い存在につく価値は無い"か?」
「..........」
獅子神は怒りと悔しさから唇を噛みそこから血を流す。
だが、獅子神は怒りに任せて暴れることが出来なかった。
ジェイルメモリを失いもう一度心を折られたら今度こそ弱者に成り下がってしまう自分に怯えてレオメモリを使えないでいるのだ。
それを我望に見透かされた。
故に獅子神は何も出来なかった。
だが、獅子神の部下は違った。
シープドーパントに変化した水島が獅子神を囲っているゾディアーツに攻撃を仕掛ける。
それにより生じた隙をつき獅子神は離れる。
すると、獅子神の周りにドーパントが現れ彼を守った。
「どうやら君も何の保険もなくここに来たわけではないようだね。
良いだろう....彼等に免じて君を見逃してあげよう。
今後は対等な関係として取引しようじゃないか獅子神君。」
そう言って笑う我望を獅子神は睨むことしか出来なかった。
水島に抱えられながら天ノ川地区を出ていく獅子神は灯夜に話し掛けられる。
「良いのか獅子神?
我望にあそこまでの無礼を許して....」
「........」
「我望はミュージアムには反目しないが我々との協力関係は破棄すると言った。
この状態を放置したら危険だ。
もし、サラがこの事を知れば彼女は我望に接触するぞ。
そうなったら天ノ川地区の利権はサラが手に入れる可能性が....」
「そんな事は分かってる!!
我望もサラもキッチリ始末をつける。
だから、今は黙っていろ....」
灯夜に苛立ちを向けた獅子神は車に乗るとその場を後にした。
その直後、灯夜の口から咳が起こりそれを手で抑える。
ゲホッ!ゴホゴホッ!
咳が収まり口を抑えていた手を見るとその手は血で真っ赤に染まっていた。
灯夜が使っているメモリは強力な能力を持つ代わりにメモリの毒素が強いことが欠点だった。
しかも、この毒素は新型のコネクターを使っても全く減らないレベルだった。
当初は無名がそれに合わせたドライバーを作る予定だったが裏切った為、それが敵わなかった。
灯夜は腕のコネクターを見る。
コネクターの周りの皮膚が炎症を起こしている。
それだけ強力な毒素をそのメモリは含んでいた。
この事は獅子神には伝えていない。
(今の獅子神は弱ってる....これ以上負担をかけるべきじゃない。
だから俺がこの力で.....)
後、何回このメモリを使えるのか分からない。
もしかしたら父への復讐の前に死ぬかもしれない。
それでもメモリを使うことを止められない。
獅子神が元に戻るまでは......
灯夜は血のついた手をハンカチで拭くと風都に戻った。
05が壊滅し藤堂兄弟がやられてからセブンスの規律は乱れていった。
普通なら生きている藤堂兄弟を救出したいが警察にいるセブンスの幹部からの報告で風都署で大規模な摘発があったらしく今は動くことが出来ないらしい。
それに他の幹部の中でセブンスに独断で行動を起こしている者もいた。
(先ずは組織の再建だな。
この状態では獅子神の下につける組織としては不適格だ。
その為にも先ず、残っている幹部を確認しその行動を把握しておく必要がある。)
灯夜は電話をかけた。
数コール後に電話が繋がる。
「どうしましたか灯夜君?」
「天ノ川高校についてだ....理事長の我望が獅子神様に楯突いた。
今後は彼等とは距離を置け。
詳しいことを話したいのだが今は何処にいる。」
「何処と言われましても平日のこの時間なら彼処しかないでしょう?」
「風城高校か....なら仮面ライダーには気を付けておけ奴等の鼻は侮れない。
お前のビジネスも露見するかもしれないからな。」
灯夜からの忠告に電話を取っている男は悩む。
「十分に警戒しておきますよ。
それよりまたメモリの注文が入りましたので何時ものルートで此方に持ってきてくれますか?」
「良いだろう。
それにしてもガイアメモリを学生が欲しがるとは世も末だな。」
「それだけこの力には魅力があると言うことですよ。
そこに大人も子供も関係ない。
.....いや、寧ろ子供の方が質が悪いかもしれませんね。
彼等にとってガイアメモリはオモチャでそれを使って好き勝手することは遊びなんですから」
「それを増長させているのが他でもないお前の仕事でもある。
期待しているぞ。」
「はい、勿論ですよ灯夜君。」
そう言うと電話が切れた。
ミュージアムの計画は順調に進んでいる。
他幹部が成果を出している中、獅子神だけは成果を落としている。
これだけは何とかしなければならない。
全ては獅子神が元にに戻るためだ.....獅子神が元に戻ればこの状況は好転する。
そう灯夜は自分に言い聞かせると風城高校にメモリを送る算段を付けるのだった。
Another side
園咲邸の一室で若菜はぬいぐるみに囲われながら一人遊んでいた。
その行為を琉兵衛は微笑ましく見つめていた。
「おとうさん!」
「何かな若菜?」
そう尋ねると若菜の瞳が光手にエネルギーが集まるとリンゴが生成された。
「きょうはリンゴだよ!」
若菜は琉兵衛とおままごとをしているのだろう。
琉兵衛はそのリンゴを受け取ると噛った。
シャクシャクと小気味良い音を出しながら咀嚼する。
「美味しいよ若菜。」
「どーいたしまして!」
若菜は笑顔で言った。
若菜の精神が幼児化したのはゴエティアの施した施術が影響している。
「彼女を地球の巫女として完璧な存在にする為にはガイアプログレッサー以外による肉体の再構築以外にも精神を地球の本棚の力に適応させる必要があります。
そうしないと万が一、来人様が融合を拒んだ時、若菜様は暴走してしまう。
だからこそ、精神も一から構成します。
とは言え実際に顕現できれば身体が世界に適応する影響で精神も加速度的に成長しますから安心してくださって構いませんよ。
早く成長を促したいのなら力を使わせて上げてください。」
ゴエティアの助言通り琉兵衛は若菜に力を使わせた遊びを行っている。
"地球の本棚"から記憶を呼び出し力を使うことには大分馴れた様だった。
「もうそろそろだな....」
琉兵衛が聞こえないようにそう呟くと若菜に話しかける。
「若菜...そろそろ別の遊びをしようか。」
「べつのあそび?」
「そうだ....この男は若菜と同じくガイアメモリを持っている。
そのメモリを奪ってくる遊びだ。」
そう言って琉兵衛が見せたタブレットに写る写真を若菜は眺める。
「.....わかった!
いってくるねおとうさん!」
そう言うと若菜は立ち上がり部屋を出ていった。
琉兵衛はそれを見つめる。
「さぁ、我が娘の糧となってくれ....」
「大道 克己。」
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第百八十二話 Fの捜査/三つの噂
授業が一区切りつき昼休みとなるとフィリップは無名の元へ訪れた。
「何で君がいるのか説明してくれないか無名。」
「えぇ、良いですよ....と言っても貴方と目的はほぼ変わりませんが」
「僕の目的はここにいる生徒を守る事です。
ここにガイアメモリを生徒に回している奴がいましてそれを止めるために来ました。」
「となると君の行動は完全にミュージアムと敵対すると考えて良いんだね?」
「はい、僕は僕の部下や大切な者を守るために行動します。
それにゴエティアとの一件にもケリを付けないといけないですから....」
「フィリップ君の目的は僕と同じと解釈しても?」
「あぁ、セブンスの幹部がここでメモリの売買をしている可能性が出て僕はこの学校に潜入したんだ。
翔太郎は別で調査をしてくれているよ。」
「では、共闘しませんか?
お互い利害が一致している以上、敵対するのか非効率的だ....違いますか?」
無名の言葉にフィリップは黙る。
「僕は....まだ君のことが分からない。
敵なのか味方なのかそれとも別の存在なのか。
こういう時、翔太郎なら自分の直感を信じるだろう。
だから今回は僕もそうする。
良いだろう。
この事件解決の為に一時的な共闘を受けるよ。」
フィリップの決断を受けて無名は微笑む。
「ありがとうございます。
では此方の知っている情報を渡します。
先ず、セブンスを指揮しているのは獅子神です。
ここまでは貴方も知っている事でしょう?
ですのでここから先は主義について話します。」
「主義?」
「僕たちはミュージアムの幹部でしたがそれぞれが考えている主義には違いがあります。
例えば僕はメモリを売る際、その"人物の持つ復讐心や怒り"を見ていました。
相手の心を知りメモリを使ってでも復讐させるべきと判断した時のみメモリを売りました。
サラの主義は"過去の痛み"ですね
彼女は元々、人によって売り買いされた過去があります。
故にそれに手を貸している存在には明確な敵意を持っていて自分で手を下すことも厭いません。
逆に言えばそれ以外の悪事にはノータッチです。
どんなに残虐な殺人をしてもそれに子供が関わっていなければメモリを売るでしょう。
そして問題の獅子神ですか彼の指標は"力"です。」
「力?」
「えぇ、力を欲している者ならば誰でもメモリを売ります。
そこにどんな犯罪をしてても問題はありません。
だからこそ、彼の下についているセブンスは危険なんです。
子供も大人も関係ない。
どんな犯罪に使われても気にもしない。
力を求めていて金を出すのならどんなメモリをでも彼は売ります。」
無名の話を聞いたフィリップは冷や汗を流す。
「それが、本当なら獅子神は危険すぎるね。」
「えぇ、ミュージアムとしてメモリを売り利益を出せれば問題はないので諌められません。
だからこそ、獅子神の一派がミュージアムで最も危険だと言えますね。」
「.....この学校に獅子神の手下がいるってことだね?」
「えぇ、残念ながら僕もその正体までは知りません。
ですから貴方と一緒に捜査を.....」
そう二人で話しているの茜と楓が二人の側に現れた。
「やっぱりアンタ、あの時助けてくれた探偵の相棒だね。」
茜はそう言ってフィリップを見つめる。
楓は無名を見つめて少し驚いていた。
「無名さん....どうしてここに?」
その問いに茜が反応する。
「楓、知り合いなのか?」
「うん、私とお母さんの恩人。
ほら、前に話したでしょ?
私達、家族を救ってくれた人がいたって....」
「アンタがその人だって言うのか...成る程ね。」
そう言うと茜は無名に頭を下げる。
「それはどういう事ですか?」
「見ての通り感謝だよ。
アタシが楓と会えたのもアンタのお陰だ。
親友と呼べる友達の恩人ならアタシも感謝するべきだろ。」
さも当然の様に言う茜に無名はキョトンとした顔をする。
全く予想してなかった答えに戸惑っていると楓が話してくれた。
「茜ちゃんは真っ直ぐな子なんですよ。
そして、人一倍正義感に熱くて....この前の老けさせ屋の一件だって一歩間違えれば傷害事件スレスレの事をしてでも子供を救おうとして」
「あっ...あれはちゃんと怪しい奴を見分けて攻撃していたぞ!
現に万引き犯とかも捕まえたし....」
「けど、それで来人さんの相棒に殴りかかったんでしょう?」
「うっ....」
「少しは頭を使って冷静に考えないと危険なことになるよ?」
「わ....分かってるよ。」
「全く....来人さん、茜が貴方の相棒に攻撃してごめんなさい。」
「楓が謝ることじゃないよ。
元々、私がやらかした事なんだから....」
「茜が言ってたでしょ?
私達は親友だって....なら親友の失敗も一緒に謝らせてよ。」
そう言って謝ってくる楓にフィリップは言った。
「謝罪は不要だよ。
あの一件のお陰で事件解決が早まったんだ。
....そうだ、もしその事で負い目に感じているのなら少し話を聞いてくれないか?」
「話?」
そこでフィリップは二人にこの学校で怪しいことが無いか尋ねた。
二人は少し悩むと同じ答えを言った。
「怪しいと言うのならあの"風城怪談"かしら?」
「風城怪談?」
「風城高校で噂になっている怪談の事よ。
全部で三つあってそれも最近、流行り出したの....」
「詳しく聞かせて貰えないか?」
「えぇ、一つ目は学校の帰り道に毎回、事故に遭う交差点があるんです。
しかも、事故に遭うのは風城高校の生徒ばかり....そして全員足に油のような物が付いてたんです。」
「誰かが故意に油を撒いた可能性は?」
「そりゃ、最初はそう疑われたけど事故の起こった交差点には油の類いは一つも発見できなかったらしくてな。
警察は事故として片付けたって先生からは聞いた。」
「それ以降、その交差点を通る学生が減って怪談話になったんです。
勉強を苦に自殺した生徒の怨念が交差点にいるとか言われて.....」
確かに普通じゃあり得ない事故だ。
何もない交差点から油の様な物が現れた...だが、ガイアメモリの力を使えば可能だ。
「それで....次の怪談は?」
「次は美術室で起きる石像が触れるって言う怪談だ。
夜になると美術室の倉庫に置いてある石像が動き出し仲間を求めて彷徨う。
そいつらに捕まると自分も石像にされちまうって話だ。
確かにあの倉庫の石像って薄気味悪いんだよなぁ...」
そう言う茜の言葉を聞いて無名は思考する。
それを察してフィリップが話す。
「それで最後の一つは何なのかな?」
「最後の一つは....ちょっと特殊な怪談なの」
話そうとする楓と茜はお互いに渋い顔をする。
「そんなに酷い怪談なのかい?」
「酷いと言うより"不可解"って言葉の方が正しいな。
最後の怪談は"正義のかまいたち"って呼ばれてる。」
「昔、この学校を無理矢理、奪い取ろうとした土地の業者がいたのよ。
しかも、裏でヤクザと手を組んで....そんな奴等がある日学校に来て先生を脅していったのよ。
そして、終わるって彼等が校門を通ろうとした時....」
「"全員の首"が飛んだんだ。
呆気ない程、あっさりと.....」
「警察で調べても何も分からなくて....ドーパントの可能性があるのではと言われて捜査されたんだけど...」
「この学校のシステムに何も反応が無かったと?」
「そう、それで事件はそのまま迷宮入りしたって話。
まぁ、あくまで先輩に聞いた話だけど...」
話終えた二人に無名は優しく微笑み告げた。
「ありがとう。
お陰で色々と分かったよ....そうだ!
学校の近くにカフェとかあるかな?
あるなら教えて欲しいんだけど....」
「あぁ、良いぜ。
んじゃ、今日行くか?」
「良いね。
それじゃ、学校終わりに」
そう言うと二人はフィリップと無名から離れていった。
近くにいなくなるとフィリップが話し始める。
「それで....何が分かったんだい?」
フィリップの問いに無名は先程の笑顔とは打って変わり真面目な表情で話し始める。
「油の様な物質の生成.....人を石像に変える能力......人の首を遠くから切断する能力....僕の記憶から考えてもこれは一つのメモリでは賄える物じゃありません。
ゴールドクラスのメモリなら可能性はあるかもしれませんがだとしたらこの学校で使う意味が無い。
複数のメモリユーザーが居ることは確定でしょう。
......そして、その者達はこの学校の"システムを掻い潜り"メモリを使う方法を持っている。」
「だとすればやはり....」
「えぇ、組織ぐるみの犯行....セブンスの幹部でなければ出来ない芸当です。」
元ミュージアムの幹部である無名の言葉を受けてこの学校に巣食う病魔が根深いことをフィリップは理解するのだった。
Another side
それは正に偶然のような出会いだったが相手にとっては必然の接触だったのだと後になり俺は理解した。
俺は私服に身を包み水音町の探索を行っていた。
もし今後、この街で戦う時の事に備えての行動だった。
そんな時が路地を抜けた俺の目の前にあの女が立っていた。
「あ....いたぁ!」
俺を見つけたことを嬉しそうに指差しながら女は言った片手に持っている熊のぬいぐるみが本人の年齢と見合ってない。
「俺を探して一体何の様だ"園咲 若菜"。」
そう尋ねると若菜は嬉しそうに告げる。
「おとうさんがね!あなたとあそんできなさいって、いってたの.....だから」
「いっしょにあそば!おにぃちゃん!」
そう言うと熊の中から一本のメモリが飛び出す。
「Clay doll」
起動したメモリが若菜の周りを回りながら空中にドライバーが浮かぶとメモリが装填されドライバーが若菜の背中に装着される。
すると、その姿が変わりクレイドールドーパントへと変わる。
しかしその瞬間、身体にヒビが入り砕けると中から新たな姿を現した。
その姿は元のクレイドールより大人びた姿となっておりスカートの様な装甲はドレスの形へと変わり頭には丸い円上の物体が浮かんでいた。
両手は人と同じ五指を保っている。
そして、割れた破片が形を変え球状になると若菜の周りを守るように旋回する。
その姿はまるで"天使"のように美しく"神"の様な神々しさを持っていた。
その姿を見て克己の直感が過去最高の危険を発している。
「何だか分からんが殺るつもりなら受けて立つ!」
克己はロストドライバーを着けるとメモリを起動する。
「ETERNAL」
「変身」
克己は仮面ライダーエターナルへと変身が完了するとエターナルエッジにエターナルメモリを装填する。
「ETERNAL MAXIMUMDRIVE」
「先手必勝だ....悪く思うなよ。」
克己がエターナルのマキシマムを発動すると若菜の身体に異変が生じる。
全てのメモリの機能を停止させられる最強のメモリであるエターナルの力がクレイドールメモリに牙を剥く。
だが、それを許さなかったのは"メモリ"ではなく"若菜"だった。
「それ......"嫌い"。」
たった一言そう発した瞬間、仮面ライダーエターナルは吹き飛ばされエターナルメモリがエターナルエッジから弾き飛ばされる。
「何ッ!」
克己は驚きながらエターナルメモリに触れる。
エターナルメモリはちゃんと機能している。
自分の変身も解除されていない....だがマキシマムの発動がいきなり停止した。
驚く克己に若菜は笑う。
「そんなつまらない遊びは嫌......だからもっと遊ぼうお兄ちゃん!」
若菜が手を上げると球状に変化した物体が平たくなり鏡の様にエターナルを写す。
突如、エターナルは水音町から姿を消した。
そして、真っ黒な世界の中に引きずり込まれる。
知覚できない程、一瞬の内に起こった現象に克己は驚くが直ぐに切り替える。
エターナルエッジを構えて周りを警戒する。
突如、目の前に若菜が現れるとエターナルを殴り付けた。
軽く振るわれたパンチ....しかしそれをガードした克己の身体は面白い程、簡単に浮き上がり吹き飛ばされる。
「グハッ!」
何もない真っ黒な空間を転げ回る克己。
起き上がりガードした腕を見つめる。
マントを使い防御した筈なのにガードした腕は痺れて震えていた。
(まるでマキシマムを受けた様な衝撃だ....あと一発でも喰らうのは不味い!)
意識を切り替えた克己は防御の体勢を取りながらこの空間から脱出し逃げる方向で作戦を考える。
克己は傭兵として生きてきた経験を生かし現実を現実として受け止めることに馴れていた。
(今の俺ではあの
しかし、その考えすら若菜に読まれてしまう。
「お兄さん....遊んでくれないの?
........"つまらないわね"。」
そう言うと目の前にクレイドールが三体現れ囲まれると強烈なエネルギーによる檻が作られそこに克己が閉じ込められる。
「あらゆるエネルギーの指向性を貴方の方向へ向けたわ。
重力も引力も熱も光も....全て貴方へ向かう。」
(マズイ!)
その危険性を正しく理解できてしまった克己はエターナルメモリをマキシマムスロットへ装填するとマキシマムを発動しがむしゃらにその檻から出ようとする。
身体を守っていたマントが焼け落ち破けていく。
「ぐぁぁぁぁぁぁぁぁ!!」
全ての力が一つの方向に集まり集束する.....宇宙を無に還す"ビッグバン"の力と同質のエネルギーを欠片でも受けてしまった克己の身体はエターナルで強化されていても悲鳴を上げる。
それは痛覚と言う痛みではなく消滅の痛みとして克己に襲い掛かる。
しかし、そんな危機を克己を認めたエターナルメモリが救う。
彼の身体を蒼炎が包むと檻から脱出できる。
次の瞬間、集束していた檻のエネルギーが崩壊し黒い空間が砕けると水音町の路地裏へと戻ってきた。
すると、エターナルメモリが限界を迎えて砕けてしまうとロストドライバーも崩壊してしまった。
その直後、克己は傷だらけの状態で地面に倒れると意識を失ってしまう。
その姿を冷たく若菜が眺めると頭を抑えて若菜も変身解除してしまう。
そして、痛みが治まると若菜は周りを見て言う。
「わたし...なにしてたんだっけ?
....まぁいいやおとうさんのところにかえろ!」
そう言うと若菜は克己を無視して一人路地裏を後にするのだった。
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第百八十三話 追跡するO/偽りの安全
学校の授業が終わるとフィリップと無名は茜達に連れられて近くのカフェに集まっていた。
そして、そこで思わぬ人物と遭遇する。
「わーっ!フィリップ君だぁ!」
そう言いながらエリザベスがフィリップに近付く。
「茜達とつるんでるなんて珍しいね。」
そう言いながら今度はクイーンが現れた。
クイーン&エリザベス....翔太郎が風都の情報を聞く"風都イレギュラーズ"の一員であり歌手デビューもしている。
同世代で憧れの存在であった。
二人を見て茜が言う。
「アンタらも毎回毎回つるんでて、良く飽きねぇな。」
「それはアンタらにも言われたくないんだけど....それでフィリップ君は知ってるけどそっちの子は?」
無名に目を向けてクイーンが言う。
「僕の名前は黒羽....今日この風城高校に転入してきて二人に色々と教わってるんですよ。」
「ふーん、そうなんだ。
なら、あの学校の"カースト"も教えた方が良いんじゃない?」
クイーンの言葉を聞いて茜は怒る。
「おいクイーン、その事をここで言うんじゃねぇよ。
それにそんなもん拘ってるバカは私がボコボコにしただろ。」
「でも根絶は出来てない....でしょ?」
「それは.....」
二人が言い争いになりそうなのでその前に無名が尋ねる。
「そのカーストとは何ですか?」
その問いにクイーンが答える。
「風城高校は色んな分野に富んだエリートが集まる学校なの。
そして、その生徒もエリート意識が強い。
そんな奴等ばっかりが学校に集まったら優劣をつけ始めてその中で大きい力を持っていた派閥がカースト制度を作り始めたって訳....」
「アタシはそれが許せなくて入学して直後にその派閥に喧嘩を売ったんだ。」
「そう....そして茜はその一派を潰して風城高校のカースト制度を終わらせたのよね。」
「アタシ一人の力じゃないよ。
"生徒会長"が力を貸してくれたから出来たことだ。
そしてアタシに負けた一派は空中分解して今の学校になったんだ。」
そこまで茜と楓で話すとクイーンが付け加える。
「茜、確かにアンタは凄い女だけどあのクズ共はそんな簡単に改心なんてしないよ。
奴等今では学校外でチーム組んでハングレ紛いのことしてるって噂になってる。」
「何だと!....約束すら守れなくなったか
茜はそう言って手を握りしめた。
「その萩谷って言うのがカースト制度を強いていたリーダーなのか?」
「あぁ、
彼処のボンボンだよ。」
萩谷グループ....確かディガルコーポレーションで取引していた(表の仕事)企業の名前に入っていた筈。
「茜に負けてから学校を休んでいてその間に風都の不良を集めて組織を作ってたみたい。
その組織でかなり悪どい事してるって噂だよ。」
その言葉を聞いて無名は思考する。
(.....普通に考えればその萩谷が今回の事件に関わっている可能性は高い。
だが、捨て駒ではなくそんなハングレ如きを獅子神が使おうとするか?
それに学校を休学している人間が何故、学校内で事件を起こす?
復讐のためか?....それにしては明確な目的を感じない。
"怪談程度で治める事件"をしているのにも辻褄が合わない。)
どうやら、僕と同じ答えに行き着いたのだろうフィリップも難しい顔をしている。
((兎に角、一度確かめて見るしかないな。))
そう考えていると無名の携帯に着信が入る。
電話の相手を見ると京水だった。
「はい。」
「無名ちゃん!?良かった。
お願い今すぐ水音町に戻ってきて!」
「どうかしたんですか?」
「克己ちゃんがボロボロなの!酵素も効かないらしくてプロフェッサーマリアも慌ててる!
このままじゃ克己ちゃんが....克己ちゃんが!! 」
「!?」
異常事態が起きた事を悟った無名は立ち上がるとその場を直ぐに後にした。
必死の形相に驚いたフィリップが追ってくる。
「一体、どうしたんだ!」
「克己さんが重症を負ったようです!
僕はこれから彼の元に向かいます....事件に関して分かったら連絡してください。」
「!?....分かった。
彼のことは頼んだよ。」
事情を理解したフィリップは無名を追うことを止めた。
そして、無名はリーゼに連絡を取る。
「リーゼ!直ぐに水音町に戻ります!
メモリとドライバーを.....」
そう言い切る前にリーゼが無名の元に降りてきた。
今回、ドライバーとメモリをリーゼに預けていたがリーゼも連絡を受けたのだろう。
最も最善の手を理解していたリーゼは無名の連絡が来る前に彼の元へ来ていた。
リーゼの背負っているバックからドライバーとメモリを取り出す。
「Demon」
メモリを装填しデーモンドーパントになると翼を展開し水音町に戻るのだった。
「克己....克己!!」
プロフェッサーマリアはボロボロになった克己に酵素を打ちながら呼び掛け続ける。
帰りが遅い事を心配したマリアは霧彦に彼の捜索を頼んだのだ。
そして、帰ってきた時、霧彦はナスカドーパントになり傷付いた克己を急いで運んできた。
直ぐに克己を地下のラボへ運び込むとマリアが克己の身体に酵素を打ち込むが効果はなくダメージによる細胞の崩壊が始まっていた。
それを見た文音もマリアに協力して原因を探っている。
NEVERのメンバーも話を聞いて克己の元へ集まっていた。
目に涙を浮かべながら酵素を打ち続けるマリアを文音が止める。
「マリア!それ以上の投与は克己の身体にダメージが...」
「そんな事分かってるわ!....でもこうしないと克己が...」
そんな話をしていると京水が入ってくる。
「無名ちゃんと連絡が着いたわ!
直ぐに来てくれるわよ。」
「なら、それまでは何としても持たせないと....マリア、私は受けたダメージの分析をするわ!...だから貴女は」
「.........」
文音の話が聞こえていないのかマリアは呆然としている。
そこで文音がマリアを平手打ちした。
「しっかりしなさい!...無名が来れば打開策が見つかるかもしれないのよ!
息子を助けたいのなら今自分が出来ることをしなさい!」
「...!?えぇ、分かったわ!」
文音に渇を入れられたマリアは正気を取り戻すと克己の治療を再開する。
するとこのタイミングで
「状況は!」
「再生酵素を打ち込んでいるけど全く効果が無い!
細胞の崩壊も始まっていてこのままだと克己は....」
「分かりました!
マリアさんは克己さんに呼び掛け続けてください。
文音さんは克己さんが受けたダメージの分析を...」
「もうやっているわ!....結果が出たわよ。
....何なのこれは?」
文音はパソコンの画面に表示された分析結果に驚く。
無名もその画面に目を向けた。
(何だこのダメージは?
エネルギーの波長からガイアメモリによるダメージなのは分かるがその質がおかしい。
まるで"数百のメモリの力"を纏めたエネルギーを受けたみたいだ。)
今の克己の身体には様々な特性を持ったメモリのエネルギーが渦巻いていた。
それにより再生酵素の効果が阻害されていたのだ。
肉体が崩壊していないのは奇跡に近いがその理由を今考察してる時間はない。
(原因が多種多様のエネルギーのダメージなら僕のメモリの力でエネルギーを消せば!)
無名は黒炎を作り出すと克己に触れたその瞬間、彼の身体に残留しているエネルギーが牙を剥く。
無名の身体に克己が受けたエネルギーが流れて全身から火花を上げダメージを受ける。
無名はそのダメージに片膝を着くがそれでも黒炎を出すことを止めない。
そして、無名は意識を集中させて地球の本棚に入るとダメージを耐えながら検索を行う。
「キー...ワー..ド.."エネルギー分解"..."エネルギー放出"....."エネルギー減衰"....」
そうして検索した結果を脳内で反芻し無名は何とか立ち上がる。
(この現象は....本来、融合することの無いエネルギーが無理矢理融合した事によって起こる事だ。
複雑にヒモが絡まって中の物が取り出せなくなっている事と変わらない。
解決するにはそのヒモを何とかするしかない。
黒炎でエネルギーを消してもまた別のエネルギーが解放される.....ならば!)
無名は左手を上げると黒炎により武器を生成していく。
イメージは兎に角細く鋭い一撃....そうすると武器の大きさは小さくなりメスサイズの刃物になった。
そして、集中しエネルギーが集約している部分を探す。
見つけるとそこに目掛けてゆっくりと一線斬り込んだ。
そして、両手に黒炎を纏うとエネルギーを使い両端に引き裂いた。
元々、合わさることの無いエネルギーを強引にくっつけていた事もあり簡単に剥がれた。
しかし、剥がれた事によるエネルギーの余波を受けてしまう。無名は吹き飛ばされ壁に叩き付けられた。
その勢いでメモリが飛び変身解除してしまう。
何とか助け出す事は出来たが無名は意識を失ってしまうのだった。
風城高校付近の交差点でフィリップと翔太郎は張り込みをしていた。
「本当に来るのかよ?」
翔太郎の問いにフィリップが答える。
「どうだろうね。
正直、賭けに近い作戦だよ。
怪談の内容は分かっても日時までは分からなかったからね。
ただ、風城高校の生徒が狙われると言うことだけ....この時間に制服を着て通ればもしかしたら食い付くかと思ったが、そんな上手くはいかないか。」
「そう言えば無名が学校に居たんだって?
それでお前が協力することを選んだって聞いた時は驚いたぜ。
「僕も学び変わると言うことだよ。
それに仮に騙されても僕を助けてくれるだろう相棒?」
「へっ!良く分かってるじゃねぇかフィリップ。」
そんな会話をしていると交差点に向かって走ってくる人物を見つけた。
二人がバレないように隠れて観察する。
すると、交差点に向かって走る風城高校の生徒とそれを追うドーパントが現れた。
ドーパントが手を振るうと手から粘性の高い水が放出されそれを受けた生徒は転んでしまう。
「あっ....や....止めてくれ....」
風城高校の生徒がそう言うがドーパントは止まらない。
「俺に見つかったのが運の尽きだ....諦めるんだな。」
そう言うとドーパントは指をスナップした。
そのスナップにより指から火花が上がる。
その火花がドーパントにより放たれた液体にのり濡れた足に当たる直前、ファングメモリがその火花を弾くとそのままドーパントを攻撃した。
「何者だ!」
ドーパントの問いに答えることなくフィリップは闇夜に紛れながらファングメモリを掴むとメモリモードに変形させる。
それに答えるように翔太郎もジョーカーメモリを起動する。
「FANG,JOKER」
「「変身」」
二人の声が重なりメモリを装填するとフィリップはファングジョーカーへと変身が完了する。
変身が終わるとドーパントの前に立ち塞がる。
「「さぁ、お前の罪を数えろ。」」
そう言うとファングジョーカーが先攻を取る。
ドーパントの放つ液体を避けながら近付くと近接攻撃を行う。
野獣のような動きから放たれる攻撃はドーパントにダメージを与えた。
「チッ!これでも喰らえ!」
そう言うとドーパントは地面に落ちた液体に火花を放つ。
その火花が液体に触れると勢い良く燃え上がった。
『あっち!...危ねぇなこの野郎!』
「可燃性のある液体を生成できるのか....なら近付く前にケリを付けよう。」
フィリップがそう言うとファングホーンを二回弾く。
「Shoulder fang 」
ファングの肩に一本の牙が生成されるそれを取るとドーパントに投げつけた。
ドーパントはその牙に液体を浴びせて燃やすが牙は燃えながらドーパントに直撃した。
攻撃を受けたドーパントは全身に火が引火して火だるまとなる。
そして、そのまま逃走を図ろうとする。
『逃がすかこの野郎!』
そう言って追いかけるが学校の校門にドーパントが入ると突如目の前に壁が聳え立つ。
「何だこれは!」
そう言うと自分の立つ地面から壁が競り上がりWは飛ばされてしまう。
しかし、身体を反転させて地面に着地するとファングホーンを一度弾く。
「Arm fang」
腕に牙の刃が生成されるとそれを使い競り上がる壁を破壊し続ける。
暫くすると壁の出現が止みドーパントも姿を消していた。
『一体どう言うことだ?』
「恐らく、あのドーパントには仲間がいたんだろう。
.....競り上がってきた壁は"コンクリート"のようだ。
あのドーパントを守るために攻撃してきたと言った所か.....」
『マジかよ....だがこれでハッキリしたな。』
「あぁ、この学校にはドーパントが潜んでいる。
ドーパントを見つけ出すシステムを欺けるドーパントが.....」
『取り敢えず助け出した生徒に話を聞こうぜ。』
「そうだね。
そこは翔太郎に任せても良いかな?
僕はちょっと気になることがあって.....」
『あぁ、良いぜ。
だが、困ったら直ぐに呼べよな。』
「分かってるよ翔太郎。」
そう言うとWは変身解除する。
そして、ドーパントが通り過ぎていった校門に触れる。
すると、校門からサイレンが鳴り響く。
それを聞いたフィリップは逃げるように隠れた。
しかし、直ぐにサイレンは止まった。
そして、そこには誰も集まらない。
(やはり、予想通りだ。
このシステムはまともに"機能"していない。
と言うより機能しないようにされている。)
メモリサイズの機械の駆動すら感知できる校門なのにサイレンがなっても誰も来ない。
つまり学校全体がセブンスに完全に支配されている。
そうフィリップは理解したのだった。
Another side
逃げ帰ってきたドーパントはメモリを抜く。
元の姿に戻った男は壁に寄りかかった。
「無様な姿だな.....」
そう言うのは彼を助けてくれたドーパント。
「申し訳ありませんしくじりました。
でも次はこんな失敗はしません。」
「そう言う言い訳は要らない。
この世界は成功するか失敗するかの二つしかない。
君は"セブンスとの契約を破りこの学校を危険に晒した。
しかも仮面ライダーを呼び寄せた....これは許しがたい罪だ。」
そう言うとドーパントは男に手を翳す。
すると、男の身体を灰色の液体が覆っていく。
「たっ.....助けてください!
も.....もう一度チャンスを!」
「君は前にもそのチャンスを不意にしてるじゃないか。
"芦原 茜"に負けて僕の作りたかった"調律された平和"を乱した。
そんな君は.....もう要らない。
さようなら"萩谷 千晴"....せめて最後は美しく散れ。」
ドーパントが手を下げると萩谷の身体は灰色の石像へと姿を変えていた。
粛清が終わると男はメモリを抜く。
そして、着ている"風城高校の制服"を正すとその場を後にするのだった。
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第百八十四話 追跡するO/真犯人は誰なのか?
萩谷 千晴が交通事故に遇い死亡したと伝えられたのだ。
ドーパントとして最も疑っていた人物の死亡にフィリップはこの事件の真犯人への警戒心を強めていくのだった。
「やられたよ翔太郎まさかこんなに早く先手を打たれるなんて......」
フィリップは電話で翔太郎にそう言う。(因みにこの電話は昼休みに学校の外に公衆電話から掛けている。)
「仕方ねぇよフィリップ。
俺もそこまでは読みきれなかった。」
「それで僕達が助けた生徒は何と言っていたんだい?」
「"全く身に覚えが無い"だとよ。
俺の方でも調べてみたがあの生徒に黒い噂は無かった。」
「だとしたら偶然に狙われた....と言うことになるが」
「あぁ、その理由が分からねぇ。
同じ学生を襲って敵に何のメリットがあるって言うんだ?」
「それは僕も分からない....でもきっとその答えがこの事件を紐解く鍵になると思うんだ。」
「だな....そう言えば無名はどうなんだ?」
「母さんに聞いた話だと大道 克己の治療でかなり無茶をしたらしくて暫く動けそうに無いらしい。」
「まさか、克己が狙われるなんてな。
相手については分かってるのか?」
「いや.....だが相当危険な相手らしい。
母さんがあれ程、警戒しているのは始めてみたよ。」
「そうか、まぁ今はこの事件の解決に全力を注ごうぜ!
フィリップはこれからどう捜査するんだ?」
「先ず、この一件には学校関係者が一枚噛んでいる。
それを見つける必要があるだろう。
その関係者と今回の犯人は繋がっている。
そして、その犯人は恐らくあのコンクリートの攻撃を行ってきたドーパントだ。」
「てことはメモリについては分かっているのか?」
「確定はしてないが恐らく"オイルメモリ"と"コンクリートメモリ"だろう。
相手は上手く隠したつもりだろうが操作した形跡が残り過ぎていた。
恐らくこの一件はコンクリートメモリの使用者にとっても予想外だったんだろう。」
「その一件って言うのは?」
「ドーパントが校門を通り抜けられた事実だよ。
あのドーパントは校門を通り抜けてもサイレンは鳴らなかった。
変身解除してメモリを持っていた僕ですら鳴ったのにね。」
「つまり、その事実を隠したかったわけか。」
「あぁ、そうなるね。」
「フィリップこれからどうする?
この学校が完全に敵の手に落ちているのならお前の身が危険だ。
面倒ならWになって学校に....」
「いや、それは止めた方が良い。
僕達は風都を守る存在だ....そんな暴力的な解決をしても問題が残る。
僕がこの事件を解決するよ。」
そう言って電話を切るとフィリップは茜に会いに言った。
「生徒会長に会いたい?」
「あぁ、萩谷一派と君が争った時、彼が介入してくれたんだろう?
話を聞いておきたくてね。」
「まぁ、それぐらいなら良いけど.....」
茜はフィリップを生徒会室まで連れてきた。
ノックを二回すると「どうぞ。」と言う声が聞こえて二人は中に入っていく。
そこには四人の生徒と一人の教師がいた。
「芦原 茜さん、今日はどうして生徒会に?」
「新入生が生徒会長に言ってたんで連れてきたんです。」
そう言うと座っていた男がメガネを外し立ち上がる。
「そうなのか。
では改めまして風城高校で生徒会長をやっている
僕の隣にいるのが副会長の
本の整理をしてくれているのが会計の
頭貝がそう説明すると横にいた教師も話す。
「そして、私は生徒会の顧問をしている"野々村"です。
今は風城高校の1年生を教えています。」
全員の紹介が終わると頭貝がフィリップに尋ねる。
「君は新しく入学した三年の左君だよね?
ここにはどう言った用件で?」
「亡くなった萩谷 千晴が過去に茜さんと揉めた時、その仲裁に生徒会長が入ったと聞いて詳しく話を聞こうと思ったんです。」
「あぁ、あのカースト制度についてか。
僕達が入学する前から存在していた悪しき習慣だよ。
本当は僕が正したかったが、力が無くてね。
茜さんが萩谷君とトラブルを起こしたと聞いて便乗する形でその制度を壊したんだ。」
「その後の反発は無かったんですか?
例えば萩谷本人から....」
「それはあったけど生徒会の皆や茜さんが協力してくれたからね。
その尽力もあって今の学校の気風になったんだ。」
頭貝がそう言うと染丘が補足する。
「だが、実際は会長の手柄が大きい。
反発する生徒の元に自ら向かい頭を下げて納得させたり一番動いたのは頭貝会長だよ。」
「そんな事は無いよ染丘君。
これは、皆で勝ち取った勝利と結果だよ。」
「.......」
その話を聞いていたフィリップは黙って考える。
「萩谷本人からの嫌がらせは無かったんですか?」
「まぁ、無いことも無かったな。
何度も会長に会いに来ていたし....」
「また、暴力事件が起きるんじゃないかとヒヤヒヤしていたよ。」
「でも、頭貝会長は萩谷君に真摯に向き合った。
顧問の野々村先生と一緒に何度も話し合っているのを見たよ。」
「...では、萩谷が不良を集めてハングレの組織を作っていた事をお二人は知っていましたか?」
「....噂で聞いてはいたけど信じたくなかった。
僕は彼の心を信頼したかったから、でもそれが、結局この事態を引き起こしてしまったのかも知れない。」
「私も教師として恥ずかしいよ。
彼の心の闇を晴らして上げられなかった。」
そう言って俯く頭貝と野々村を他の生徒会員や茜が慰めた。
「ありがとう。
僕は約束するよ...僕が生徒会長の間にこの学校を平和にして安全にすると」
「私も微力ながら協力するよ。
生徒を導く先生として.....」
「今日はありがとうございました。
失礼します。」
フィリップはそう言うと部屋を出ていった。
(まるで"ドラマのワンシーン"みたいだな。
萩谷が死んだことが仕方がなかったと操作したいのが見え見えだ。)
フィリップは人の感情を読み取ることが苦手だ。
だが、翔太郎を失いかけた事があって以降、会話の動きや表情を見ることを重視してきた。
時には翔太郎から教えを受けつつ....だからこそ違和感に気づけた。
(生徒会の会話が頭貝会長と野々村先生の会話が中心に進み過ぎている。
トップが優秀だとしても異常だ。
あれでは宗教の教祖と変わらない。)
聖人君子の様な生徒会長と先生.....端から見ればそう感じるだろうがフィリップには別の見方が出来た。
(あの二人は萩谷の死に何の思い入れもなかった。
口では綺麗なことを言っていたがどうでも良いと言う感情が透けて見えた。
あの学校にはまだ秘密がある。
そして、その秘密の答えを知っているのがあの二人だ。)
「翔太郎に連絡してあの二人について調べてみよう。」
フィリップはそう決めると一人部屋を後にするのだった。
ベッドに寝かされていた克己が目を覚ます。
すると、それを見た京水とミーナが駆け寄ってくる。
「克己!大丈夫?」
「克己ちゃん!!良かったわ意識を取り戻したのね。
私皆を読んでくるわ!」
京水はそう言うと部屋を出ていった。
「俺は......」
「貴方は水音町の路地裏でボロボロになって倒れていたのよ。
壊れたドライバーとメモリを持って.....」
「ドライバー....メモリ....そうだ。
俺はアイツにやられて....ミーナ頼みがある。
無名を呼んできてくれ。
二人きりで話がしたい。」
克己の言葉を聞いたミーナは不思議に思いながらも無名や他のメンバーにこの事を伝えた。
無名が部屋に入ると克己は上半身をベッドから起こしていた。
「起き上がれるようで安心しましたよ克己さん。」
「あぁ.......」
「貴方も僕に言いたいことがあるでしょうが、先ずは僕の話を聞いてください。
貴方の身体の事です。」
「........」
「克己さんが受けた攻撃は普通の攻撃とは違いました。
全ての力のベクトルが収束した力....分かりやすく言えば小型のビックバンを貴方は受けたんです。
メモリとドライバーによって命は助かりました....ですが」
続きを言いたくない無名の顔を見て克己が言う。
「無名....大丈夫だ。
俺も分かってる.....俺は後、"どれぐらい生きられる?"」
「......このまま治療を続けてくれるのなら"10年"は生きられます。
それ以上は身体の細胞が持ちません。
あの攻撃によって細胞核が破壊されていました。
こうなるともう酵素ではどうにもなりません。」
「そうか....もう一度変身したらどうなる?」
「......変身した瞬間に細胞の崩壊が始まり消えると思います。」
この事実を知った時、マリアさんは過呼吸に陥り文音さんが身体を支えていた。
当然だろうマリアさんは二度も息子を失う事を理解してしまったのだから......
僕の心にもとてつもない喪失感があった。
僕が始めて助けると決めた存在...そんな人物の終わりを知った。
そしてその事はとても受け入れがたいものだった。
「他の皆には?」
「この事を知っているのは僕とマリアさん、そして文音さんの三人だけです。」
「分かった。
.....無名頼みがある。」
真剣な顔をして克己が言う。
「俺の命の事は他の奴等には黙っていてくれ。
お袋からは俺から言うがお前には予め言っておきたい。」
「それは!....分かりました黙っていると約束します。」
「ありがとう無名。
.俺からの情報を話す前に取引をしてくれないか?」
「取引ですか?」
「あぁ、この事実を知ればお前はそいつを助けたくなると思ったからな。」
「.....その内容次第ですかね。」
そう無名がはぐらかすと克己が言った。
「俺を襲ったのは園咲 若菜だ。」
「!?...まさか!....そんな....」
「残念だが事実だ。
俺と戦う時、クレイドールメモリを使ったからな。
だが、俺の知っていた姿とは変わっていた。」
「姿が変わった?もしかしてエクストリームに到達したのですか?」
「それは分からない。
だが、あの女の戦い方が似ていたんだ。
お前がゴエティアに操られていた時と....」
「!?」
「クレイドールメモリではない複数の力を完全にコントロールして操っていた。
俺が手も足も出なかった。」
克己から真実を聞いた無名は動揺していた。
(克己さんの話から考えても今の若菜さんの状態は原作のクレイドールエクストリームとは全く違う。
ゴエティアが彼女に何か細工をしたのか?
もしそうなのだとしたら今の若菜さんはゴエティアクラスの強敵になった可能性がある。)
(ビッグバンと同質のエネルギーを持った攻撃を使える....そんな事が可能だとしたらゴエティアが力を与えた可能性が高い。
まさか、彼女も地球の本棚から力を引き出せるのか?)
疑問に答えが出ないまま克己は話を続ける。
「園咲 若菜と言う女はフィリップの姉なんだろう?
文音さんから話は聞いている。
今の彼女は洗脳されている様子だった。
俺は....彼女も助けたい。
そこで、取引だ無名。
もう一度エターナルメモリとドライバーを作って俺に渡してくれ。」
「.....僕の言っていたことが聞こえてなかったんですか?
もう一度、変身したら貴方は消滅するんですよ?」
「分かってる。」
「分かってない!!消滅は僕でも止められないんです!
僕は貴方に死んで欲しくない....もし死ぬにしたって穏やかに看取られて欲しい。
そう思っている僕に.....貴方を殺すドライバーとメモリを作れと言うんですか?
貴方が死ぬ手助けをしろと?ふざけるなっ!
そんな事、やりませんよ。」
激昂する無名に克己は言った。
「無名.....俺はお前に感謝している。
無論、それは俺だけじゃない。
NEVERの仲間やミーナ....お袋だってそうだ。
記憶を取り戻してくれたこと....孤島での一件....エターナルだってお前が手を貸してくれたからなれた。
そのお陰で死者だった俺に夢が出来た。
俺達みたいな化物が安心して過ごせる世界を作る。
....だけど俺にはもう一つ叶えたい夢が出来てたらしい。」
「夢?」
「"フィリップの兄"になりたい。
アイツと何度も話して分かった。
ヤツと俺は似ている考えも境遇も....もしかしたら立場が反対だったからも知れない。
そう思える程、俺はアイツが気に入っちまったんだ。
だからこそ、ヤツの家族の話を聞いて"何とかしたい"と本気で思っちまった。
フィリップの事だ。
俺を殺そうとしたのが姉だと知ればショックを受けるだろう?」
「だからこそ、そうなる前に決着をつけたいと言うんですか?」
「別にそこまで出来ると思う程、自惚れていない。
.....ただ、もしその時が来て俺に守る力が無かったら死ぬ程、後悔していくんだろうと思うだけだ。
俺はそんな事はしたくない。」
そう言う克己の目には覚悟が写っていた。
死ぬ覚悟....救う覚悟....そして生きる覚悟が...
そうだ、この目だ...この覚悟だ。
これを知っていたからこそ僕は大道 克己を助けたかったんだ。
仮面ライダーWに登場する単なる悪役としてではなく一人の人間として彼を救った先に何があるのか知りたかった。
(他者の為に例え傷ついてでも救いたい心がある。
やはり貴方も仮面ライダーなんですね大道 克己。)
「一つ条件があります。」
僕は克己にメモリとドライバーを作る条件を出した。
「貴女の身体の事を皆さんに話してください。」
「それは.....」
「大切な存在に伝えたくない気持ちは分かります。
でもこれまで貴方についてきてくれた人達に話さないのは違います。
大切な存在だからこそ話すんです。」
「....分かった。
これで契約成立だな。」
「はい、貴方のドライバーとメモリは僕が責任を持って作ります。」
そう言うと無名は扉を開けて部屋を出ていった。
外ではリーゼが無名が出てくるのを待っていた。
無名の顔色が悪いことに気づいたリーゼは彼を気遣う様に肩に乗り寄り添う。
「心配してくれるのですかリーゼ。
ありがとう....ねぇリーゼ僕はちゃんとこの世界を生きれているのでしょうか?」
その問いにリーゼは首をかしげる。
ゴエティアにより原作の知識を知りながらこの世界に作られた
それが自分の願いだと思っていたからだ。
だけどゴエティアの存在と自分の出自を知り、分からなくなった。
自分とは何か?....自分は何の為にいるのか?.....
もう誤魔化すことは出来ない。
「僕もそろそろ向き合わないといけないですね。」
そう言うと無名は文音の元へと足を進めるのだった。
Another side
先程まで衰弱していたマリアを支えていた文音は克己がメンバーとマリアを部屋に呼んだことで一人になっていた。
そこに無名が現れる。
「文音さん、お願いがあります。」
そう言う無名の顔は何時もと違い覚悟が籠ったものになっている。
「何かしら?」
文音がそう尋ねる。
「僕が貴方に残した計画書は何処まで進んでいるのですか?」
計画書とは無名がこれから先のバタフライエフェクトに備えて作っていた強化プラン....所謂、テコ入れの策だった。
「3つとも完成して其々が使っているわ。」
無名が作ったのは自分と文音、そして仮面ライダーアクセルの計画書だった。
無名が、自分用に用意したプランは"デーモンメモリを純化してそれに合わせたドライバーを作り上げる事"....そしてこの計画の為に作られたのが"デモンドライバー"だった。
文音にはネメシスメモリの副作用を軽減し精神安定をさせるブレスレット型のリミッターを用意しこれは今も文音が装着している。
そして、アクセルに関しては強化された井坂に勝つ為の新たなメモリ。
"ブーストメモリ"を用意しこれは今、照井の手に渡っていた。
「デモンドライバーは今も左 翔太郎の手にあるのですか?」
「恐らくはね。
来人は受け取っていないと言っていたから....」
「では、僕は翔太郎さんからドライバーを貰ってきます。
文音さんはドライバーに付いていたリミッターを解除してください。
それと純化したデーモンメモリの準備も.....」
「!?....貴方、それがどういう意味なのか分かっているのよね?」
無名がデモンドライバーに付けていたリミッターはメモリからの干渉を防ぐプログラムだった。
メモリとの適合率を限界まで上げるデモンドライバーをこれ以上強化するにはメモリとのリンクを強固にする必要があるがこれは無名にとってゴエティアとの繋がりを強くしより精神に作用されやすくなると言うデメリットも抱えていた。
だからこそ、過去の自分はリミッターをドライバーに搭載していたのだ。
「今の貴方の適合率でリミッターを解除してドライバーを使えば先ず間違いなくゴエティアが現れる筈よ。
何故、そんなリスクを負う必要があるの?」
「.......克己さんを瀕死に追い込んだのは若菜さんです。
本人から聞きました。」
「え?....」
想像してない答えに文音は呆けてしまう。
「一緒に克己さんの身体を検査した僕達なら分かるでしょう?
今の若菜さんがどうなっているのか。」
(あの規格外の攻撃を与えたのが若菜?
そんな事、普通の人間では先ず不可能.....
仮に琉兵衛の言っていた計画通りに若菜がエクストリームに覚醒してもこれだけの力は使えない。
.....つまり)
「ゴエティアが若菜に何かしたのね?」
「僕はそう考えています。
そして克己さんを襲った。」
「そんな.....」
文音にとってマリアはただの仲間ではない。
復讐にとり憑かれていた私を救ってくれた大切な存在である。
そして克己は来人と向き合う勇気をくれた恩人だ。
そんな二人を自分の娘が悲しませ命を奪いかけた。
その事実が文音の心を罪悪感で締め付けた。
そんな文音の表情を察したのか無名は続ける。
「僕も貴女も罪を数える時が来たと言うことです。
克己さんは来人君を弟のように思っています。
彼は若菜さんを助けたいと思っている。
僕にドライバーとメモリの開発を頼んできました。
もう一度、変身したら消滅してしまうことを知りながら.....」
「克己さんを止めることは僕にもマリアさんにも出来ないと思います。
それこそ他の誰にも....だからこそ僕も覚悟を決めました。
ゴエティアとの決着を着けて若菜さんを正気に戻しガイアインパクトを止めます。
貴女はどうしますか?」
無名にそう尋ねられた文音は悩みながら話す。
「私は復讐に身を委ねてしまった愚か者よ。
その為に沢山の人の人生や来人の運命を変えてしまった。
本当なら私は刑務所に置かれる身の上....それは貴方も同じね無名。
でも、もし許されるのならこれ以上私達の被害者を増やしたくない。
私もこの戦いを止める為に協力するわ。
琉兵衛.....いえ"夫"を倒すのではなくガイアインパクトを止めるために」
「ドライバーの事は分かったわ。
持ってきてくれたら私が改良する。」
「お願いします。
じゃあ、翔太郎さんの所に行ってきますね。」
無名はそう言うとその場を後にする。
文音は大きく深呼吸し落ち着きを取り戻すとラボを稼働させるのだった
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第百八十五話 暴走するL/残されたMとD
まだ俺の心に漠然としない不安感が押し寄せてくる。
無名もいなくなり計画も進んでいる筈なのに....不安で不安で仕方がない。
我望にあれだけの屈辱を味遭わされたのに俺は逃げることを選択した。
何故だ?....俺の心は恐怖に支配されているのか?
いや、ジェイルメモリは機能していた筈だ。
無くなる前に一度使ったから効果はちゃんとある筈だ。
それなのに無名の顔が...デーモンドーパントの顔が頭から離れねぇ....不安になった俺は自分のメモリを起動し変身する。
変身は出来た。
レオメモリはプライドを力に変える。
逆に言えばプライドが無くなったり壊されれば変身すら出来なくなってしまう。
変身できていると言うことは俺はまだ大丈夫だ。
そうだ....変身出来るなら問題はない。
俺は前と変わらず強者だ....強者なんだ!!
俺は荒れ狂っている心を無理矢理沈めて部下である灯夜に次の指示を出す。
灯夜の部下が潜伏している所に最近警察のマークが着き始めた。
そろそろ潮時だろう。
そう感じて灯夜に撤収を命じようとした時、電話が鳴った。
相手は灯夜の部下からだった。
その内容を聞くと俺は顔を綻ばせた。
あぁ、やはり俺は運が良い。
まさか、来人様とまた接触できるだなんて....
ここで来人様を捕獲すればミュージアムの地位は磐石な物となる。
そうと決まれば早速、準備をしなくてはな......
風城高校の誰もいない図書室で事件の捜査をしていたフィリップは新たな事実を発見した。
「やはり、この学校には秘密があった。」
そう言いながら地球の本棚から検索した本をフィリップは読み進める。
今、フィリップが検索しているのは過去校内で起こった事件の事だった。
一つ一つは取るに足らない事件....だが僕の仮説通りならこの学校は即刻、廃校にしないと行けない。
そう考えていると後ろから声をかけられる。
「こんなところで何をしているんだ左 来人?」
声をかけてきたのは副会長の染丘だった。
「ちょっと考え事をしたくて静かな場所を探していたんですよ。」
「考え事?....聞かせてくれないか?」
染丘がそう言って来たのを見てフィリップは警戒する。
だが、相手の出方を見る為にもフィリップは話し始めた。
「この学校の噂については知っていますよね?」
「3つの怪談についてだな?
聞いたことはある。」
「"校門で首が切れた事件"..."増える石像"..."何もない所から油が現れる交差面"、どれも普通じゃあり得ない物ばかりです。
でも、加害者がガイアメモリを使ったと仮定すればその問題は解決します。」
「この学校にそんな物を持ち込むことは不可能だ。
風城高校は風都でガイアメモリが流行りだした事を加味して作られた学校だ。
そこに関してのセキュリティは万全にしてある。」
「ではあくまで只の怪談だと?
近くに誰もいない中、首が飛んだのも偶然だと言うのですか?」
「それは....」
「貴方だって分かっているんじゃないですか?
この学校が何かおかしいことに....」
フィリップがそこまで告げると染丘は後ろを向く。
「全ては..."調律された平和のため"....」
「それはどういう意味ですか染丘副会長?」
そう尋ねるフィリップの言葉に答えることはない。
「これは警告だ。
これ以上、深入りすれば君はケガをするだけじゃ済まなくなる。
君が思っているよりここの闇は深いんだよ....」
そう言って立ち去ろうとするがふと思い止まるとフィリップに言った。
「来人君、君の生徒証が学校内の"セキュリティルーム"で見つかったそうだ。
取りに行った方がいい....今なら先生もいない筈だ。」
そう言うと染丘はその場を後にした。
風城高校の近くのカフェで待機している翔太郎はフィリップからの定期連絡を待っていた。
「大丈夫か...フィリップ。」
そう呟きコーヒーを口に付けた瞬間、無名がカフェに入ってきた。
「ぶふぉ!....無名!どうしてここに?」
「貴方と取引をしたくて来ました。」
取引と言う言葉を受けて翔太郎は警戒する。
「無名...テメェ何を企んでる?」
「まどろっこしい言い方は抜きにします。
貴方の持つ"デモンドライバー"が必要なんです。
それを僕に渡してくれませんか?」
「あのドライバーを何に使うつもりだ?」
「あれは元々、僕が使うことを前提として開発したドライバーです。
これから先の事を考えると今すぐ必要になると考えたまでです。」
「これから先?....どういう意味だ。」
「風城高校を指揮していたのは獅子神一派の可能性が高いと話しましたよね?
もしそうだとしたらフィリップは今危険な立場にいると分かったんです。」
「どういう事だ!」
相棒の危機を告げられ翔太郎に焦りが出る。
「若菜さんが捕まりリーゼが殺されかけた時を覚えていますか?
あの場には獅子神一派が全員揃っていました。
勿論、変身解除したお二人の素顔を見られている。」
「つまり、俺らの素性は敵にバレてるか?
だとしたらヤベェ早く何とかしねぇと....」
「この事はフィリップも知っています。
強行手段に移さないのは沢山の学生がいるからです。
ここでもし、フィリップが全ての謎を解き犯人を暴いたとしても犯人は一人じゃなく複数います。
全員がドーパントになり暴れたら被害が甚大なものになる。
だからこそ、フィリップはあえて囮役をやってくれているんです。」
「フィリップを餌にして獅子神を釣り上げようって算段か?
全く、何時から内の相棒はそんな無茶をするようになったんだ?」
「その答えを僕が言う必要は無いと思います。
兎に角、僕達にとっても余計な犠牲が出る選択はしたくない。
だけど、獅子神は狡猾で頭が切れます。
フィリップ君を捕らえようとした作戦も若菜さんが動いたからこそ阻止できた。
だが、今回はそうは行かない。
僕達と貴方方、仮面ライダーのみで対処しないと行けないんです。」
「無名、お前は獅子神がどういう作戦で来ると思ってる?」
「前回の失敗を考えて今出せる最大戦力でフィリップを捕らえようとするでしょう。
周りの犠牲関係なく.....」
「関係ない学生を巻き込むつもりかよ...クソッ!」
「問題は何時来るのかです。
獅子神は僕がミュージアムを抜けてから自分の姿を隠すようになりました。
用件は部下に任せているようです。」
何故、このような事が分かるのか?
それはミーナ達、クオークスの力だった。
クオークスの中には直接攻撃以外の能力に覚醒したものもいた。(軍事利用出来ないからとプロスペクト達には冷遇されていたらしい。)
その一人に動物との意志疎通が出来る能力者がいた。
その人に頼み獅子神が良く行く天ノ川学園や屋敷に動物を放って監視を頼んでいたのだ。
「フィリップを捕らえるのなら彼は必ず出てくる筈です。
ガイアインパクトの最後のピースが彼なのですから...」
そこまで聞いた翔太郎は考えている。
どう行動するのが正しいのかを....そして少しして口を開いた。
「相棒と相談する。
俺自身はアンタと協力するのは問題ねぇ。
だが、抜けたとは言えアンタがミュージアムの幹部だった事実は変わらねぇ....他の奴を納得させる材料が欲しい。」
そう言われた無名は懐からデーモンメモリとガイアドライバーⅡを取り出した。
「これを貴方にお預けします。
少なくともこれが無ければ僕は驚異にはなりません。
変身できない只の人間になりますので.....
僕は学校に戻ります。」
そう言うと無名はメモリとドライバーを残してカフェを出て行った。
残されたメモリとドライバーを見た翔太郎は決心を付けると電話をかけるのだった。
レオグループの管理するビルの屋上にサラと美頭が立っていた。
そこに獅子神と水島、そして灯夜が現れる。
「私を呼び出すなんてどんな用件なのかしら?」
そう尋ねるサラに獅子神が言う。
「俺の組織のいる場所に侵入者が現れてな。
そこに来人様がいることが分かった。
ここで来人様を捕まえればミュージアムの計画は完成する。
お前からも俺に兵隊を寄越せ。」
「....それは貴方主導で作戦を行うつもり?
私は貴方と同じ幹部よ。
そんな話に私が応じるとでも?」
「同じ....か。
まさか、本気でそう思っていた訳じゃねぇだろ?」
「どういう意味?」
「
組織の計画も最終段階に入った。
もうそろそろお互いの立場をハッキリさせた方が良いんじゃねぇのか?」
ミュージアムに置いて無名、獅子神、サラの三幹部が共闘出来ていたのはお互いのパワーバランスが拮抗していたからだ。
無名はメモリ開発に加えて孤島を所持しNEVERと言う兵士も保有していた。
サラは様々なコネクションとそれに裏打ちされた財力がある。
獅子神はレオグループのトップでありセブンスと言う組織も保有していた。
互いがそれぞれ強力な力を持つ故に敵対すれば間違いなくどちらかがやられることが分かっていた。
敵対の意志を見せれば他二人が手を組み潰される一種の均衡状態が生まれていたのだ。
だからこそ、無名が消えたことでその均衡が崩れてしまった。
加えて獅子神はここ最近、失態が続いている。
巻き返しを図る上でも目先の問題は片付けておきたかった。
「下らない....貴方の妄言に付き合う程、私暇じゃないの。
帰るわよ美頭。」
そう言ってサラが帰ろうとするのを灯夜が止めた。
「お前達を逃がすわけが無いだろう。」
そう言うと灯夜は右手にメモリを取り出した。
金色のメモリをサラに向けると起動する。
「
メモリを起動すると腕のコネクターに差し込んだ。
メモリが灯夜の身体に吸収されると肉体が変化していく頭には王冠が現れて黒のマントを羽織り右手には金色の錫杖が握られていた。
白と黒で彩られた体色はその者の強さを簡潔に現していた。
変身が終わると灯夜は指を弾いた。
すると灯夜の背後から杖を持ったドーパントが現れる。
そのドーパントが杖を地面に突き立てると半円状のエネルギーが展開し美頭とサラを間に壁として展開された。
円の中にはサラと獅子神、そして水島が入っている。
「サラ様!!」
美頭がメモリを起動しドーパントに変身すると半円のエネルギーに向かって攻撃を仕掛けるが簡単に弾かれてしまった。
「無駄だ"ビショップドーパント"の発生させる"エネルギースフィア"はあらゆる物理攻撃を遮断する。」
「ならば....本体を叩けばいい!」
美頭は灯夜の背後にいるビショップドーパントに向かっていく。
「そんな事を俺が許すと思うか?
"ポーン"を前に.....」
灯夜がそう言うと近付いている美頭の前に甲冑を着けたドーパントが三体出現し美頭の行動を阻んだ。
「何だこれは?」
「チェスの駒の力が込められたガイアメモリは存在する。
このチェスメモリはチェスの駒の力を持ったドーパントを使役し召喚できる力がある。
ポーンドーパントは単体では弱いが数を集めて集団で戦えば十分に強い。
加えてお前のメモリは戦闘系のメモリじゃないな?
俺の駒と戦って勝てる程、強くもないだろう。
故にバカな考えは捨てるんだな。
サラは獅子神の手により敗北する....お前はその姿を目に焼きつけるんだ。」
灯夜の言葉を受けて美頭は唇を噛む。
そんな思いをさせているサラは獅子神を見つめていた。
(この顔は本気って感じね.....私を倒して自分の下に付けるつもりなのかしら?
まぁでも負けてあげるつもりも無いけど......)
無名がミュージアムを裏切った事はサラにとっても嬉しい事案だった。
した。
無名がこれまでミュージアムに与えてきた功績は計り知れない。
もし、まだ無名がミュージアムの幹部でいたのなら先ず間違いなく自分達よりも重大な役職を貰っていただろう。
だからこそ、無名がミュージアムを裏切った事はショックでもありラッキーだと思った。
自分の価値を示せる機会がまだあると思えたからだ。
"先を越された"....獅子神の行動を見たサラが思う。
しかし、後悔する時間を獅子神が与える訳がない。
先ずは生きて美頭と共にこの場を抜け出す。
そう覚悟を決めるとサラはドライバーを着ける。
「ほぉ、やる気になってくれて嬉しいぞサラ。
これでお前との決着もつけられる。」
獅子神もドライバーを着けた。
「あら?決着も何も貴方と戦うこと自体始めてだと思うけど?」
「いや、決着だ。
これで勝った方が相手を支配する。
今までお前は無名の次に目障りだった。
ここで格の違いを教えてやるよ。」
「目障り.....ね。
少し残念だな....本当なら無名と三人で仲良くやっていきたかった。
けど、もうそんな事は願っても叶わない。
私の自由を脅かすのは命を狙うのと同じ....一度でも敵対すれば一生、敵として扱う。
それが私のルールよ。
格の違いなんかどうでも良い。
貴方を殺して私は生きるわ。」
両者がほぼ同時にメモリを起動する。
「Leo」「Gorgon」
相手を見据えたままメモリをドライバーに装填し展開する。
お互いが姿を変え異形の怪物へと姿を変えた。
獅子神の瞳には"相手を下し支配する感情"が見えサラからは獅子神を"殺してでも生き残る覚悟"が見えた。
両者のエネルギーが解放されぶつかる。
強いエネルギーがぶつかり反発すると空間が破裂する程の爆発が起こった。
それを合図に二人は戦いを始めた......
二人の戦いを月の光が照らし出す。
獅子神の重力波を受けてサラの肉体が傷つく。
サラの目の力により獅子神の身体が石化する。
両者の必殺の技が惜し気もなく相手に注がれる。
そして、部下の戦いも激化した。
仕える者への思いが力となりぶつかる。
両者の戦いに決着がついたのは朝になり太陽が上った時だった。
半壊したビルの上に勝者が立つ。
身体の傷と周りの破壊跡が戦闘の凄まじさを物語っていた。
勝者は敗者を見下ろすと笑う。
そして、敗者を掴むとビルから姿を消すのだった。
Another side
風都から離れたとある施設....そこはもう廃業となっており誰も入ることの無い施設だった。
そこに裸の井坂が片膝をついている。
「はぁ....はぁ....はぁ」
疲労が見えている井坂だが周りを見渡すと口を抑える。
「ぶっ!....ふふ....ははっ!あっはっはっはっはっはっは!!」
狂ったように笑う井坂の周りに有ったのは赤い物体であった。
良く見てみるとそれが血であり辺りにある物体は人の身体のパーツだと分かる。
そんな井坂を伊豆屋は見つめている。
(漸く完成した....井坂先生が)
井坂が伊豆屋に集めて欲しいと頼んだのは人を殺す事に抵抗の無い"ガイアメモリユーザー"。
伊豆屋はそれに答えるとその使われなくなった施設に"13人"の人間を集めた。
集められた人間に井坂は通常の強化アダプターを全員に渡すと言った。
"私を殺す事が出来たら皆さんの欲している物を差し上げましょう"と......
ここに集められたのは頭のネジが外れた人間ばかりだ。
井坂の提案を嬉々として受けるとメモリを取り出して強化アダプターに取り付けると身体に挿した。
井坂も強化アダプターを付けるとメモリを耳に挿す。
直後、凄惨な殺し合いが始まった。
メモリブレイクされた人間の肉片が辺りに散らばる。
そして戦いが長引く程、強化アダプターは井坂の体を蝕んだ。
「ぐおぉ....ぐっ!」
想像を絶する痛みに耐えながら井坂は戦った。
身体を流れる毒素がドンドンと身体に侵食すると遂に....限界を向かえた。
井坂の動きが止まり人間の姿に戻る。
すると口や目、鼻から大量の血を吹き出した。
血管がどす黒く変色し全身に回ると痙攣し始める。
「あば...あが...あががががが!!」
声にならない声を上げながら井坂の身体が暴れると動きが止まった。
生き残っていた6人のドーパントは好機と捉え井坂に攻撃を仕掛ける。
一体のドーパントの腕が井坂の頭を狙う。
ドーパントとして強化された腕だ。
まともに受ければ頭が破裂して無くなるだろう。
しかし、その拳を井坂は受け止めた。
そして見開いた眼の色は変わり"白目が黒く変色し中心の瞳は紅く"なっていた。
その眼はまるで悪魔の様であった。
殴りかかってきた敵を井坂は見据えて笑う。
そして、彼の身体が変化しドーパントの姿に戻ると一瞬の内に残っていた6体のドーパントの身体が弾け飛んだ。
井坂の周りには弾け飛んだ人間の肉片と血で彩られていた。
そして、メモリを抜いて人間の姿に戻った井坂は笑う。
毒素を"完全に克服した"事に笑い自分の力を実感し笑い殺した人間の姿を見て笑った。
一頻り笑い終わると伊豆屋が服を井坂に渡した。
「完成した気分は如何ですか井坂先生。」
「とても清々しい気分だよ。
今までの様な毒素による興奮とは違う。
毒素が身体に浸透していく幸福感を感じるよ。」
悦に浸っている井坂に伊豆屋が携帯を渡した。
「貴方と話したいと言う方から連絡が来ました。」
井坂が携帯を受けとる。
「もしもし.....はい....ふふっ、まさか貴方から連絡を貰えるとは....えぇ構いませんよ。
では後程」
そう言って電話を切ると井坂は伊豆屋に言う。
「伊豆屋君....申し訳ないが服を貸してくれるかね?
こんな格好では外にも出られない。」
「構いません。
ではシャワーを浴びて家で服を着替えましょう。
次いでに朝食を召し上がられてわ?」
「魅力的な提案だ。
先方と会うまでには時間もあるだろう。
ではご厚意に甘えるとしよう。」
「では朝食に何かリクエストはありますか?」
伊豆屋の問いに井坂は答える。
「これだけの血肉を見た後だとどうしても肉が食べたくなりますねぇ...."トマトベースのチキン煮込み"を頼めますか?」
その言葉を受けた伊豆屋は笑うと了承し井坂と共にその場を後にするのだった。
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第百八十六話 暴走するL/見えない真実
染丘からヒントを受けたフィリップは風城高校のセキュリティルームへと赴いていた。
ここは白熱するサーバーを冷やす為、冷房設備が置かれている。
そのせいで監視カメラ等のバッテリーを使う機械との相性が悪くこの学校で唯一監視カメラが無いフロアとなっていた。
そしてここに入るには教職員のカードとパスワードが必要だった。
(メモリガジェットがあれば入れるだろうが持ち込めない以上、既存の道具で何とかするしかないか。)
そう思い、フィリップが手に持っている道具を確認しようとしているとそこに無名が現れる。
「苦戦しているみたいですねフィリップ。」
「....あぁ、あのセキュリティルームに入りたいんだがその道具がない。
メモリガジェットか使えれば簡単なんだが....」
そうフィリップが話していると無名が懐から教職員のカードを取り出した。
「何処で手に入れたんだい?」
「貴方よりもここでは友達が多いみたいで手に入れられましたよ。」
そう無名が答えた。
種明かしをすると教職員のカードは無名が盗みパスワードは楓が調べていてくれた。(命の恩人であり家族を助けてくれたこともあり協力してくれた。)
無名がカードを機械に通しパスワードを打ち込むと扉が開いた。
そしてフィリップと無名は中に入る。
その中は大量のサーバーが収められており中を冷やす為
クーラーが付いており寒かった。
「ここの何処かにシステムの穴を付く何かが仕掛けられている筈だ。」
「では調べてみましょう。」
無名がそう言うとスマホを取り出してコードを付けるとサーバーに接続した。
「直接、調べるのか?
逆探知されるかもしれないぞ。」
フィリップの疑問に無名が答える。
「問題ありませんよ。
ハッキングするのは僕が信頼する
そうしてコードをサーバーに取り付けると遠隔操作でリーゼがサーバーからデータを読み出す。
システムのプロトコルが起動しようとするが
そして、セキュリティプログラムの中身がスマホに表示される。
それをフィリップと見つめる。
「特に変わったプロクラムは見当たらないね。」
「えぇ、データを書き換えた痕跡も見当たりません。
つまり、システム自体はちゃんと機能している。」
「ならば、一体どうすればこの学園にガイアメモリを持ち込めるんだ?」
「システムに問題がないならメモリに細工をしてあるのかも知れませんね?」
「メモリに細工?」
そう言うと無名はスマホの画面を指差す。
「このファイルには学園内で使われた学校指定のスマホの通信履歴が書かれています。
恐らくですが内部に識別するチップがあるんだと思います。
そのチップが入っていればシステムの干渉を受けなくなる。」
「成る程、それならシステムをハックするより遥かに効率的で確実だ。
システムに弄った形跡を残したら照井が見つけるだろうが穴が存在しないのならそもそも調べようがない。」
「えぇ、しかもセブンスが学校内部にまで入り込んでいるのならその細工も容易に出来るでしょう。
後は目的が分かれば......!!隠れて」
気配を感じ取った無名はフィリップと共にサーバーの間に隠れた。
すると、セキュリティルームの扉が開き中に誰か入ってくる。
足音の数からして複数人いるのだろう。
顔を見る事は出来ないが会話を聞くことは出来た。
「あー、やっぱりタバコを吸えないのはキツいよなぁ...」
「仕方ありませんよ。
ここはセキュリティの厳しさは風都の学校でも随一です。
"ここの事"だって整備業者の人が来てタバコを吸っていたのを見て偶然分かったんですから....」
そう言うとライターを着火するカチカチと言う音が鳴り暫くの沈黙が起こる。
「ふーっ、それにしても何たってこんなセキュリティを厳しくしてるんだ?
そりゃ、風都で噂になってる
「ですよねぇ.....内の生徒が風城高校の怪談事件もその怪物の仕業だって言って盛り上がってて困ったものですよ。」
「でも、実際何なんでしょうねあの怪談は.....
生徒が何人も行方不明になっていますし」
「オイ、それ間違っても生徒には言うなよ。
確証のない可能性で生徒を混乱させるのは俺達の仕事じゃない。」
「でも、もし本当だったら.....」
「そんな事はあり得ない。
....良いな?あり得ないんだ。」
そう言い話し終わると二人はセキュリティルームを後にするのだった。
人がいなくなったのを確認すると二人はサーバーの間から出てくる。
「どうやら、この学校は怪談以外にも事件を抱えているみたいだね。」
「その様ですね.....確証ですか。
フィリップ、君はこの後どうしますか?」
「僕は一度、事務所に帰って整理するよ。
君は?」
「もう一つの謎について調べてみようと思います。
増える美術室の石像について....」
「そうか、何か分かったら連絡してくれ。」
そう言うとフィリップと無名は別れて事務所へと向 帰るのだった。
残った無名はセキュリティルームを出ると楓の元を尋ねた。
「無名さんどうしたんですか?」
疑問を投げ掛ける楓に無名は答える。
「実は美術室の倉庫に行きたいのですが力を貸してくれませんか?」
黒岩 楓は水彩画で多数のコンクールに出場しており沢山の賞を貰っていた。
そんな彼女がいれば美術室に入れると無名は思っていた。
「はい、良いですよ。
じゃあ、先生に鍵を貰ってきますね。」
楓は笑顔でそう言うと鍵を取りに行き無名渡してくれた。
「ありがとう楓さん。」
「いえ、それより美術室で何かするのならお手伝いしましょうか?」
「いえ、ただ石像を見たいだけですので....」
「石像....怪談に関係している物ですね?
だとしたら尚更、手伝いたいんです。
その怪談に巻き込まれて学校を辞めた先輩もいるんです。
お願いします。」
そう言って無名に頭を下げる楓。
無名はため息をつくと言った。
「仕方ありませんね。
何もないとは思いますが僕の隣から離れないようにしてください。」
無名はそう言って楓と共に美術室へと向かった。
美術室に入ると放課後と言うこともありその場には楓と無名以外誰もいなかった。
「作品を保管しているのはあの奥の扉です。」
楓が指差した扉を無名は開けようとするが鍵が閉まっていた。
(やっぱり閉まってますか。
まさか....ここで役に立つとは)
無名はポケットからクリップを取り出すと真っ直ぐにして長い針金を作ると鍵穴に差し込んだ。
無名は戦闘能力を上げる為に部下やNEVERのメンバーから色んな事を教わっていた。
黒岩と芦原からは"銃の技術"、堂本からは"棒術"、克己からは"ナイフを使った近接攻撃"、京水からは"関節技"、そしてレイカからは"足技と強盗時代のピッキング技術"を習っていた。
(確か針金があるなら一般の鍵は数秒で開けられないと論外と言われましたね。)
レイカが教えたピッキングは鍵穴を覗きながら行うものではなく立ちながら見た目に違和感が無い様に装って開ける方法だった。
故に楓に疑問を与えることなく鍵を開けることが出来た。
「開きましたね....行きましょうか楓さん。」
そう言うと無名は中に入っていった。
中には授業で使う道具と作品が置かれている。
しかし、無名は中を見て違和感を覚えた。
「随分と石像が多いですね。」
「そうなんです。
誰が作っているのかは分かりませんが私が始めてここを見た時から石像は多かったです。」
楓の言葉を受けて無名は大量の石像を観察していく。
「首を抑えていたり悲痛な表情をしている石像しかありませんね。
まるで"生きながら石像にされたかのような表情"だ。
それにこの服装....風城高校の物か?
いや、それだけじゃない警察官の様な服をした石像もありますね。」
(もし、僕の想像する能力を持ったドーパントの仕業なら....不味いですね。
しかもこの量、相手は能力を使い慣れている。)
そう観察し終わり無名が楓に顔を向けると楓は口を抑えてショックな表情をしている。
「どうしたんです楓さん?」
「この....石像....私の先輩です。」
楓はそう言って一つの石像に指を指した。
その石像は"頭が半分欠けている像だった"。
悲痛な顔をしながら手を伸ばしている。
その石像の精巧だった為、楓はそれを見てショックを受けてしまった。
楓は過去の事件の影響から凄惨な光景や物を見ると足が震えてその場から動けなくなってしまう。
そんな楓の肩に無名は触れる。
「落ち着いて....あれは石像です本人じゃない。
ここを出ましょうか長居をする場所じゃない。」
「.....はい。」
そう楓は言うと無名の助けを借りて部屋を出た。
教室に戻ると楓は落ち着きを取り戻す。
そして、無名を見つめて聞いてきた。
「無名さん....あれは"石像"じゃないんですよね?
私が昔に見た怪物の仕業なんですか?」
「!?....何時その怪物を見たんですか?」
驚く無名に楓は話す。
「私....事故の影響で意識を失ってたんですけど..."耳は聞こえていた"んです。
だから...色んな声を聞きました。
私達が事故に遭った理由....その後にお父さんが決めたこと....そして貴方がガイアメモリを売っている組織の人だってことも....」
「そこまで知っていて君はどうして僕を警察に売り渡さなかったんだ?」
「私とお母さんはお父さんに助けられました。
お父さんが諦めたら私達は当の昔に死んでいた。
そして、そのお父さんを助けてくれたのが無名さん貴方です。
例え貴方が犯罪者だとしても命の恩人です。
だから、貴方の役に立ちたいと思っていた。
でも、お父さんは貴方と必要以上会わせようとしませんでした。」
「それは当然です。
貴女を守ることもお父さんとの契約に入っていますから....」
「やっぱり....それがこの学校に来た理由ですか?」
「えぇ、貴女ともう一人の人物を助ける為に....」
「もう一人は....もしかして茜ですか?」
「どうしてそう思うんですか?」
「お父さんが良く気に掛けてて話を聞いたら"友達の娘"だと言ってました。」
「成る程....貴女が真実を知っている事を両親に伝えているのですか?」
「お父さんもお母さんも知りません。
無名さんに始めて話しました。」
「では、僕と契約しませんか楓さん。
貴女が僕に言った事実を両親に話さない。
代わりに僕は貴方の望むことを叶えます。」
「....理由を聞いても良いですか?」
「貴女がその真実を知っていると父親が知ったら悲しむだろうと思うのが一つ....もう一つは出来ることなら貴女にはこちらの世界と関わらない生き方をして欲しいんです。
ガイアメモリは力を与えますがそれと共に因果が憑き纏います。
そして、気がつけば大切な存在が傷つくことになる。
傷付くだけではなく命を失うかもしれない。
そんな事例を何度も見てきました。
心と力が入り乱れた街....それが今の狂った風都なんです。
そして、僕はこの風都を狂わせた責任を取らないと行けない。
だからこそ、貴女には....いえ貴方達家族には普通の人生を生きて欲しい。
そう思ってるんです。」
「....無名さんは身勝手ですね。
分かりましたじゃあ代わりに私の願いも叶えてください。」
「絶対に生きて下さい。
どんなに絶望的な状況でも生きてください。
貴方が生きている事が私の願いです無名さん。」
そう言うと楓はその場を去った。
"生きて欲しい"自分へ言われた優しい言葉に無名は少し歯がゆく思いながらも手に入れた情報をフィリップに送り事件の捜査を進めるのだった。
Another side
誰もいない教室で頭貝と染丘は自分達を従える存在から告げられた命令に困惑していた。
「そんな....こんな事をしたら他の生徒達の命が...」
染丘は顔を手で覆う。
今までも非道な命令は幾つもあった。
だけど、それは少数を犠牲にする事で平和が保たれる。
しかも、犠牲になるのは善人とは言いづらい人物だったことで何とか整理をつけていた。
だが、今回の命令はこれまでと全く違う。
下手すれば学校にいる全ての人が犠牲になりかねない危険なものだった。
「こんな命令を聞けるわけ無い。
頭貝、もう止めようこれ以上手を貸したら....」
そう言って止めようとする染丘に頭貝が告げる。
「それがこの学校の平和に繋がるのなら僕は命令を遂行する。」
「おい、頭貝正気か!
一体何人の生徒を犠牲に....」
「犠牲にしなければ良い。
命令は左 来人の確保....他の生徒を巻き込まないようにすれば良いだけだ。
屋上の監視カメラの停止と人払いを頼みたい....何時出来る?」
「....2日、いや1日くれ。
直ぐに準備する。」
「頼む....全てはこの学校の平和の為に」
そう言う頭貝の顔は何時もと違い曇っている様に染丘は見えた。
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第百八十七話 償いのC/命の選別
しかし、その学校を見つめる者達の顔は暗い。
「「...........」」
サラの部下である緑塚と青谷は手にメモリを持ちながら苦い表情をする。
その光景を紫米島が見て笑う。
「どうしたよそんな浮かない顔して?
やることは何時もと変わらねぇ。
ドーパントになって暴れれば良いだけだ。」
紫米島の言葉に青谷が怒る。
「何の罪も無い子供を襲うなんて.....何を考えているんですか!」
「罪が無い?....下らないな。
罪があろうと無かろうと仕事は仕事だ。
それにお前らに振り分けられているのは侵入者の排除だ。
直接殺るのは俺達や中にいる仲間だ。
あんまり、我が儘言ってんじゃねぇよ。
それに文句があるなら協力しなくても良いんだぜ?
だが、そうしたらお前らの
紫米島の挑発を受けて青谷の顔は暗くなり緑塚は怒りで歯を鳴らす。
美頭からサラが獅子神に敗れて捕まったことを聞いた。
そして、彼女を助けたいのなら獅子神の駒として動くしかないとも告げられた。
本音を言えば二人は今すぐにでもサラを助けに行きたいが居場所が分からずサラの命は獅子神に握られている。
下手な行動をしてサラが死ぬことだけは何としても避けたかった。
そして、それは美頭も同じであり今彼は、サラを助ける為に獅子神から受けた命令を行い別行動している。
故にサラの安否を知る手段を二人は持たなかった。
そんな二人を紫米島は嘲り笑う。
「まぁ、安心しろ獅子神は有用な存在には寛大だ。
お前らがちゃんと働けば問題は無い。
サラが心配なら黙って従っていろ。」
「覚えていろ我が女神を侮辱した罪は必ず購わせてやる。」
「それはとても楽しみだな。
仕事が終わればお前らは自由だ。
俺を殺したいのならそうすれば良い。
寧ろそうしてくれるのなら俺も戦えて楽しいがな。」
そう言うと紫米島はその場を後にした。
そんな彼の背中を二人は睨み付けるしか出来なかった。
フィリップは悩んでいた。
無名の集めた情報と翔太郎の直感、そして僕の検索を使い導きだした真実。
それはフィリップが信じられない答えであった。
だからこそ、どうすれば良いのか悩む。
(染丘さんが僕にコンタクトを取ったのは偶然じゃない。
きっと彼の狙いは....)
そんな事を考えているとフィリップは生徒会役員に呼ばれた。
話を聞くと会長から僕に話があるらしく屋上で待っているそうだ。
検索を終えたフィリップにとってそれが罠だと分かっていた。
(でも、僕は真実を知りたい。)
フィリップは授業終わり一人で屋上へと向かうのだった。
ところ変わって無名はこの日感じた違和感を確かめる為、周りの捜索をしていた。
何時も通りの学校の筈なのに何処か空気がヒリつく。
まるで何か事件が起こる前触れを身体が感じているかの様に.....
そうして探索していると学校近くの道で"青谷"を見つけた。
その顔は暗く何かを悩んでいるように見えた。
無名はバレない様に隠れながら青谷へと電話した。
着信画面を見て青谷は驚くと建物の影に隠れながら電話に出た。
「.....はい。」
「無名です。
一体こんな所にどうして来たんですか青谷さん?」
青谷 千鶴はサラの部下だ。
故に獅子神の管理する場所の近くにいる事は違和感がある。
そう考えていると青谷が答えた。
「今、私達は獅子神の命令で動いています。」
「....それはサラの指示ですか?」
「........」
「成る程、分かりました。」
青谷の沈黙で無名は察した。
(サラの周りの部下はサラを崇拝し従っている者ばかりだ。
サラの命令無しで獅子神につくことは考えづらい。
だとすれば答えは一つ。
獅子神によってサラが人質に取られている。
そして、獅子神の勢力にサラの勢力が加わった。
.....まずいな。
獅子神の勢力だけでもキツいのにサラの仲間まで加わられたら勝ち目が無い.....)
この風都において園咲家を除いて単独として組織を運営出来る者は少ない。
獅子神やサラ、過去の僕、それに井坂や万灯だけだろう。
(目的はフィリップの身柄でしょうね。
獅子神は一度、失敗している。
同じ轍は踏まない男だ....万全を期す為にサラの部下を奪ったんだろう。
獅子神はここで決めるつもりだ。)
無名の思考はその真実に辿り着くと自分の取るべき行動を考えながら青谷に話し始めた。
「事情は分かりました。
サラの事はこちらでも何とかしてみます。
貴女達は獅子神の命令に従ってください。
業腹かも知れませんが今はサラの安全を優先に....
獅子神は自分の利益になる間は約束は守る男です。
怪しまれてもいけないので電話を切りますね。」
そう言って無名が電話を切るとリーゼにメールを打った。
『獅子神の勢力が風城高校に現れます。
目的は恐らくフィリップの確保。
それを今動ける全員に連絡してください。
それが終わったらリーゼ貴方は"僕のドライバーとメモリ"を持って来て下さい。』
端的に用件を書き終えると無名は翔太郎に連絡をつける。
コール音が数回すると翔太郎と繋がった。
「無名か?」
「はい、翔太郎さん緊急事態です。
獅子神が風城高校に現れます。
他の皆さんにこの事を連絡してください。」
「何っ!それは一体どういう......いや大丈夫だ。
大体察した。」
急に冷静になった翔太郎に無名は尋ねる。
「どうしましたか?」
「フィリップからの呼び出しが来た。
どうやらWの出番が必要らしい。」
そう言うと翔太郎は足早に電話を切った。
(フィリップが変身した?
.....つまり犯人が分かったのか。)
自分が思うよりも早く事態が動いていることを理解した無名は急いで学校に戻るのだった。
屋上へと入ってきたフィリップを生徒会長の頭貝と副会長の染丘が迎える。
「やぁ、来てくれて嬉しいよ来人君。」
「僕を呼び出して何か用ですか生徒会長?」
その問いに頭貝はメモリを見せて答えた。
「.....やはり貴方がもう1つのメモリの所有者でしたか頭貝会長。」
「あぁ、だけど僕自信も驚いているよ。
まさか、君が"あの人"に狙われているなんてね。」
「あの人....会長にメモリを渡した人物の事ですか?」
「あぁ、さて無駄話は終わりにしてさっさと済ませてしまおうか。」
そう言う頭貝にフィリップは待ったをかける。
「待ってください。
貴方の狙いが僕なのならせめて事件の答え合わせだけでもさせてくれませんか?」
「答えも何も僕がドーパントとしてこの学校を支配....」
「"違いますよね?"
貴方の目的は"学校の秩序を保ち平和を維持する事"ですよね。
もっと言えば......」
「"他の生徒がメモリの実験台にならない様にする事が貴方の目的だった"んじゃないですか?」
「.........」
フィリップの言葉に頭貝は動きが止まる。
そして推理が続きフィリップの口から話されていく。
「きっかけは萩谷と芦原の衝突からですね?
問題解決の為に調べていく内に貴方はこの学校の裏の部分を知ってしまった。
この学校が生徒をガイアメモリの実験台にしている事実に....そして貴方は独自で調査を始めた。
その過程で貴方は黒幕の元に辿り着いた。
だけど相手の悪辣さは貴方の想像を遥かに越える者だった。」
「僕はこれまでずっと風城高校の中での事件ばかりに固執していました。
怪談の影響もありましたから...だけど相棒の閃きが僕に新たな視点をくれたんです。」
フィリップが事務所で翔太郎と事件について話している時、僕は彼にこの仮説を伝えるとこう返してきた。
「なぁ、相棒。
お前の考えが真実ならこの事件はもっと根深い者なんじゃねぇのか?
ミュージアムの幹部が学校でのガイアメモリ実験程度で満足するか?」
そう言われた僕は地球の本棚に入るとキーワードを更に付け足した。
そして、辿り着いた真実は
「ガイアメモリを使用していた疑いのある生徒は学校外で犯罪行為に及んでいたんだ。
少なくとも五年間は行っていた証拠もある。」
これまで、解決出来なかった不自然な事件や事故....そこに風城高校のキーワードを入れると必ずその場にその生徒が存在していた。
「そして、このガイアメモリの実験台を選ぶ基準に過去にあったカースト制度が使われていた。
"カースト上位で傲慢だった生徒"、"カースト下位で復讐を望む生徒"....そう言った存在を意図的に選んでメモリを渡していたんだ。
しかも、本格的な事件として登録されているのは学校とは関係ない場所での事件や学校を卒業した後だった。
巧妙に隠されていて普通に捜査した位じゃ気付けない。
そして、ここまで調べ終わって僕は確信した。
貴方はこの学校を変える為に黒幕と手を組んだのだと...」
「萩谷の一件以降、この学校でのカースト制度は無くなった。
だが、それを納得できる生徒ばかりじゃない。
前のように傍若無人に動きたい者もいた筈だ。
貴方はそんな生徒を粛清した。
美術室にある石像は反目した生徒達なんでしょう?」
「そこまでお見通しか.....そうだ。
彼処に保管されているのは新たなルールに納得できずに暴走した生徒達だ。」
染丘がそう答える。
「染丘.....」
「もう良いだろう頭貝。
彼はもう真実に辿り着いている。
それに答え合わせをしても"時間はまだ残っている"筈だ。」
そう言うと染丘が話し始めた。
「俺達がこの学校の真実を知ったのは入学したての頃だ。
親しかった先輩が急に学校を休んでそのままいなくなった不思議に思った俺達はそれを調べていく内にこの学校が生徒をメモリの実験台にしてると知ったんだ。
そして、その事を知られて俺達が殺されそうになった時、頭貝が組織のボスと取引をした。
"自分達が犠牲になる代わりにメモリの犠牲者をこれ以上増やさないでくれと"頼んだんだ。」
「だが、それは認められなかった....そうですね?」
「あぁ、だから頭貝は手段を変えた。
犠牲者を断てないのなら選べる様になれば良いとね。
俺と頭貝はボスから与えられたメモリを全て使った。
そして、自分達の有用性を認めさせ更に取引をした。
今後のメモリの使用者を俺達が決めると言う契約だ。」
「その横暴な契約を貴方達のボスは聞いてくれたんですか?」
「あぁ、俺達はどうやら過剰適合者と呼ばれる存在だったらしくてな。
それで手に入った新しい能力がこの学校を陰から運営していく上で必要だったらしくてな。
俺達の望みは叶えられた。
そして、カースト制を廃止すると俺達はメモリの犠牲者の選別を行いメモリを与えて使わせた。」
「萩谷もその犠牲者の一人だ。
だが、奴はルールを破って好き勝手にメモリを使い始めた。
だから...始末した。」
二人の告白を聞き終わったフィリップは静かに尋ねる。
その声には怒りと悲しみが籠る。
「何故.....警察に連絡しなかったんですか?
それが無理でも他の大人を頼れば少しは!」
「変わったとでも言いたいのか?
それは無い。
警察はこの学校を疑ってはいたが結局は捜査しなかった....いや出来なかった。
ガイアメモリの力を恐れて屈したんだ。」
「それに大人を頼って何になる?
真実を教えても結局、口封じをされるだけだ。
そうやってこの学校は偽りの平穏を謳歌してきたんだ。」
「だけど....それじゃあ、貴方達はこの学校の犠牲に.....」
「何かを手に入れたいなら何かを失うしかない。
僕達は"他の生徒の安全と引き換えに悪魔に魂を売った"んだ。
.....さぁ、無駄話はもう良いだろう?
そろそろ始めよう。」
頭貝がメモリを起動する。
「
メモリを首に挿すと頭貝の身体が変化し液状のコンクリートが覆うとドーパントの姿へと変貌した。
ドーパントが指をフィリップに向けると地面が隆起し液体に変わると彼へ襲いかかる。
それを避けると液状化した地面はフェンスに当たった。
その直後、フェンスの見た目がコンクリートの様に変化する。
「!?」
「本来のコンクリートメモリは地面のコンクリートを液状化して操るだけらしいが僕が使うと液状化したコンクリートに触れた物質をコンクリートに変換できる。
勿論これは生きた人間でも可能だ。」
そう言いながら頭貝はフィリップの周りを囲うように液状化したコンクリートを展開する。
「触れたら一瞬でコンクリートに変わるから痛みもない。
.......すまない君のような善良な生徒を巻き込みたくはなかった。
だけど、こうでもしないともっと犠牲者が.....」
「犠牲者?それは一体....」
「お別れだ。」
フィリップの問いに答える様子もなく頭貝はコンクリートを操作してフィリップの身体を包み込むがその行動は突如現れたファングメモリの噛みつき攻撃によって止められた。
「ぐあっ!」
いきなりの事に驚きながらも頭貝は噛み付いてきたファングメモリを突き放す。
「頭貝会長.....実は僕も謝らないといけません。
僕は普通の学生じゃない。
本職は探偵で....仮面ライダーです。」
そう言ってフィリップがブレザーのボタンを取ると腰にWドライバーが付いていた。
学校の仕掛けを解いたフィリップはWドライバーにセンサーが関知しなくなるマイクロチップを埋め込んでいたのだ。
翔太郎はリボルギャリーの中からドライバーを通してフィリップと同じく頭貝達の話を聞いていた。
無名との電話を切り一度心を落ち着ける。
フィリップと年の変わらない子供が他の生徒を守る為に
悪事に手を染めた....その事実に翔太郎は怒りを覚える。
(子供を利用してこんな辛い犯罪を行わせるなんて...
俺達は街を泣かせる悪党は許さねぇ.....だが悪事に加担させられた者をほっとく事は絶対出来ねぇ!
フィリップ....二人を救うぞ!)
Wドライバーを通して伝わる翔太郎の感情を感じてフィリップは小さく笑う。
「あぁ....行くよ。
来い!ファング!」
フィリップの命令にファングメモリは従い彼の手に収まるとそこからメモリの形へと変化させていく。
そして、完了するとメモリを起動した。
それを翔太郎は理解しつつリボルギャリー内でメモリを起動する。
「FANG」
「JOKER」
『「変身!!」』
メモリをWドライバーに装填すると勢い良く展開した。
「FANG,JOKER」
フィリップの身体が変化し白と黒の色を持った仮面ライダーWファンクジョーカーへと変身が完了すると頭貝に向けて指を指す。
『「さぁ、お前の罪を数えろ。」』
静かだが決意の籠った声で告げられた言葉を受けて頭貝は笑う。
「今さら数えた所で罪は消えないよ。」
何の感情も籠ってない声でそう答えると頭貝はWへと向かっていくのだった。
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第百八十八話 償いのC/本当の悪
頭貝はトイレで吐いていた。
その後ろで染丘が彼の背中をさする。
「大丈夫か頭貝!落ち着いてゆっくり息を吸うんだ!」
今日、彼は始めて人に向かってメモリの力を使った。
自分の力で人がコンクリートに変わる悲痛な姿を見た頭貝はショックからトイレで吐いていたのだ。
「はぁはぁはぁ.....大丈夫だ。」
「大丈夫って....無理するなよ。」
「無理だって?無理でもしなければこんな事、出来る訳無いだろう!!
目の前で人を石像に変えて落ち着ける訳がない!
.....クソッ!何でこんなことをしないと行けないんだ!」
「.....頭貝。」
頭貝は自分の手を見つめる。
人を助けたいと願いつつその人を石像に変えた手を...
そんな姿を見た染丘が言った。
「変えよう頭貝。
この学校のカースト制度がメモリを増長させているんだ。
俺達の力でこの制度を変える....その為に俺もこの手を汚すよ。」
そう言って染丘はボスから貰ったメモリを頭貝に見せるのだった。
変身したWへ頭貝が液状のコンクリートを向ける。
それをファングジョーカー持ち前の身体能力で回避するとタクティカルホーンを二回弾いた。
「SHOULDER FANG」
肩から出現した牙を頭貝へ投擲する。
それを頭貝は液状のコンクリートで防ごうとするが弾かれて牙は頭貝の身体を傷付けた。
「ぐっ!」
「ファングの牙には分子レベルで物体を切断する力がある。
液状化したコンクリートを弾くのは容易だ。」
『おい、奴の身体を見ろフィリップ。』
そう言われファングにより切り裂かれた頭貝の身体を見ると傷口に液状が流れて行き完全に塞がった。
「残念だけどその程度の攻撃じゃあ僕の事は殺せないよ来人君....いやフィリップと呼んだ方が良いかな?」
そう言って頭貝は何でもないように立ち上がる。
「その姿は"前にも見た"。
速さに自信があるみたいだね....ならこれならどうする?」
頭貝は地面に手を触れると屋上の地面が隆起しドリル状の形をした大きな矛がついたコンクリートの触手が何本の現れる。
「僕のメモリはコンクリートを操る。
それは硬度も変えられてね。
泥水の様に柔らかくも出来れば鋼鉄すらねじ曲げる程、硬く出来る。」
そう言うとドリルが付いた触手がWを襲う。
初激を回避するが直ぐに何本もの触手がWへと向かっていた。
回避が間に合わないと感じタクティカルホーンを一回弾いて腕に牙を生成するとドリルに向かって攻撃を行う。
Wの攻撃によりドリルが、砕けてコンクリートは粉々になる。
しかし、その瞬間、砕けたコンクリートは液体に変わりWの体に纏わりついた。
『何っ!いきなり液体に!』
「言っただろう"コンクリートを操る"と.....個体を液体に変えることは雑作もない。
そして、"コンクリートの重量"を変えることもね。」
するとコンクリートが付着したWの動きが重くなる。
「うっ....なんて重さだ。」
『クソッ!うまく動けねぇ。』
「流石は風都を守る仮面ライダーだ。
"普通のドーパント"なら地面に倒れこむ程の重さなのに立っていられるとはね。」
そう言った頭貝の言葉にフィリップは違和感覚える。
「普通のドーパント.....まさか!」
「そうだ。
僕達は他のドーパントと戦ったことがあるよ。
ボスの命令で....その過程で何人も殺した。
君達は僕らを助けたいと思っているだろうけど僕達にその資格はない。
僕らは人殺しだ....君達のすることは"僕達を人殺しとして裁く"ことだ。」
「裁く?.....仮面ライダーは風都の街を守る存在だ!
罪を憎み人は殺さない!」
「そんな甘い考えじゃ....守れる者も守れない!
僕達は殺してこの平和を守ってきたんだ。
君達のように強かったら良かったと何度も思ったさ!
それだけ強ければ....誰も犠牲にならなかったと思わなかった日はない!
何故だ!何故、もっと早く来てくれなかったんだ!
そうすれば僕達は....きっと....」
頭貝の怒りがWへと伝わってくる。
それは彼等の思いを正しく理解できているという事でもあった。
(フィリップ、俺は.....)
(分かってるよ翔太郎。
彼等は"仮面ライダーが救えなかった被害者"だ。
犠牲にするなんて絶対にしない。
翔太郎、今君の身体は何処にある?)
(リボルギャリーの中だ。
何かあった時を考えてそこにいるが....操作してここに呼べる程の時間を相手が与えてくれるとは思えねぇ。)
(それは僕も同感だ。
彼はコンクリートメモリの過剰適合者だ。
そんな彼に勝つには"全てを砕く強靭な牙"がいる。
少し賭けになるが受けてくれるかい翔太郎?)
(当たり前だろフィリップ。
絶対に二人を助けるぞ!)
二人は決心をつけるとWはジョーカーメモリを抜いてメタルメモリを取り出した。
「METAL」
その光景に嫌な予感を覚えた覚えた頭貝は周囲のコンクリートを液体にしてWを包み込んだ。
そして、一瞬の内に硬化させた。
巨大なコンクリートの塊が現れる。
しかし、そのコンクリートから無数の亀裂が起きると爆発するように砕けて中から"白と銀色のW"が姿を現した。
「FANG,METAL」
頭貝は続けてドリル状の触手を作ると新たなWへと向けた。
そのWもドリルを粉砕するが直ぐに液体になりWの身体へと纏わりつく。
そこでWがタクティカルホーンを一回弾く。
「ARM FANG」
すると両腕に大量の牙が現れてコンクリートを吹き飛ばしてしまう。
そしてWはその腕で頭貝を殴り付けた。
その瞬間腕の牙が動き回転すると頭貝の身体を構成するコンクリートを削り裂いた。
ダメージから頭貝は地面に片膝を付く。
「これだけ深い傷なら直ぐには回復は出来ない。
一気に決めよう翔太郎。」
『あぁ、フィリップ。』
Wはタクティカルホーンを三回弾く。
「FANG MAXIMUMDRIVE」
Wは飛び上がり高速回転しながら頭貝に向かう。
『「
Wの必殺技が頭貝で当たると火花を上げる。
そして爆発を起こすと頭貝はメモリブレイクされて地面へと倒れた。
「う.....あ.....」
呻くことしか出来ない頭貝に変身解除したフィリップが駆け寄る。
「頭貝会長....貴方の選択は間違っていたかもしれない。
でも、そのお陰で救われた命があった。
僕は少なくとも貴方達の行いが悪だけだとは断じれません。
罪を償ってください。」
その言葉を聞いた頭貝は気絶する。
そして、染丘が彼に駆け寄ると身体を持ち上げた。
「何処に行かれるんですか?」
「どちらにしても警察が来るんだろう?
頭貝を保健室で休ませておきたい....大丈夫だ逃げはしないよ。」
そう言うと染丘はポケットからガイアメモリを出すとフィリップに投げ渡す。
「"オイルメモリ"....貴方が本当の所有者だったんですね。」
「俺が敵の動きを止めて頭貝が石像にする。
そうやってこれまでやって来たからな。」
「何故、貴方は戦いに参加しなかったんですか?
貴方が手を貸せば頭貝会長が倒される事も無かったかも知れないのに.....」
フィリップの疑問に染丘は振り替える。
「それは.....!?グァッ!」
すると突然、染丘の背中から鮮血が走り地面に倒れこむ。
「染丘さん!」
そう言って駆け寄ろうとしたフィリップの足元の地面が削れる。
「隠れてないで出てきたらどうですか?」
フィリップがそう言うと扉が開き野々村先生が中に入ってきた。
「こんなところで何をしているんですか左 来人君?」
「野々村先生、貴方こそどういうつもりですか?
生徒を傷付けるなんて....」
「何を言っているんだい?
僕は何もしていないよ。」
「メモリを使用し続けると生身の状態でもメモリの力を使うことが出来る。
貴方もその域に達しているんですよね?
それにそろそろ嘘を付くのは止めませんか?」
「"貴方は一体誰"なんですか?」
フィリップの問いに野々村は口元の笑顔が若干崩れる。
「誰と言われても僕は風城高校の教員である
「えぇ記録上、貴方は二年前にこの学校に赴任してきた先生となってます。
だからこそ、この学校を裏で操るセブンスのメンバーの候補から外していた。
でも事件について詳しく調べていくと驚くべき真実を知れました。」
そうフィリップが話していると学校の外からサイレンの音が聞こえ始める。
「このサイレン....まさか!?」
野々村はその音を聞き驚くのだった。
風城高校の校門の前に警察車両が大量に止まり中から特殊部隊の面々が整列する。
その車の中から照井が出てくると校内に入ろうとするが走ってきた校長に止められる。
「いっ....一体どういうご用で警察の方!
それに何の連絡もなく!」
そう言うと照井が警察手帳を見せながら言う。
「超常犯罪課の照井です。
この学校でガイアメモリを使用した犯罪が行われている証拠を掴みました。
これより強制捜査を始めます。
これが令状です。」
「ガイアメモリ犯罪!?バカな!
そんな事、あり得ません!」
そう言う校長に照井が告げる。
「この学校に野々村一作と言う教師がいますね?
つい先日、"彼の遺体"を見つけました。
司法解剖の結果、身体の一部が欠損しているものの本人だと分かりました。
そして、死亡推定時刻はおおよそ"二年前"....つまり二年間の間、貴方は野々村一作に成り済ました誰かを学校に入れていたんです。」
「そんな....バカな.....」
「では、調査を始めます。
入るぞ。」
そう言って照井が特殊部隊を中に入れるよう手招きする。
「まっ....待ってくれ!
そんな事をされたら我が校の実績がっ!」
そう言って照井を止めようとする校長の手を照井は握ると地面に組み倒した。
そして、顔面の横の地面を殴り付ける。
照井の拳が当たった石のタイルはヒビが入った。
そして感情に任せた声で静かに告げる。
「学校の実績など知ったことか!
.....俺達、大人が不甲斐ないせいでこの学校の生徒は辛い決断をせざるを得なくなったんだ。
ガイアメモリを無理矢理、使っての犯罪行為....そんな事を許してしまった。
だが、もう見逃すつもりはない。」
拳を打ち付けられて気絶した校長を無視して立ち上がると照井と警察の部隊は中へ入っていった。
照井がここまでキレていたのはフィリップの保険に由来している。
もしもの為にフィリップは予めドライバー以外にも学校のスマホを改造し話を盗聴出来る様にしていた。
それによって照井はこれまでの出来事を全て聞いていたのだ。
("不甲斐ない".....俺達、警察がもっと早く...それこそ校門での首切り事件の時に諦めずに介入出来ていればこれ以上、事態が悪化することはなかった。)
首切り事件の捜査を打ち切ったのは風都署の前の署長だった。
だからこそ、警察内の膿を出し切るまでこの事件が明るみになることは無かったのだ。
その結果、こんな事件が起きてしまった。
今の照井の顔は昔の復讐に取り付かれていた時よりも怒りに満ちた顔をしている。
そして、その顔を嘲笑う様に
「こんな所で会えるとは奇遇だなぁ。」
「やはり、貴様らも関わっていたか....覚悟は出来ているか?
この場で全員逮捕する。」
ドスの聞いた照井の言葉を受けてもリッパードーパントは笑う。
「恐いねぇ....それしてもアイツもドジることがあるとはねぇ。
Wの介入は予想できてもアクセルは予想できなかった訳か。
でもまぁ、丁度良い....これで"アイツらの出番"が出来る。」
そう言うとドーパントは警察の部隊前に降り立った。
その動きを見た特殊部隊は銃撃を始める。
しかし、その攻撃をドーパントは避けること無くその身体が全て受けた。
多数の火花が上がりダメージによりドーパントの身体が仰け反る。
照井の進言を受けて特殊部隊の使う弾丸は榎田が開発した神経断裂弾をベースにした物へと換装されていた。
連射性と命中率を重視した結果、威力は落ちたがそれでもドーパントの身体にダメージが与えられるようになっていた。
「うぐっ!....痛いなぁ警察の攻撃と思って舐めてたがこれぐらいのダメージが与えられる程度には強くなっているのか。
良い経験が出来たよ。」
「大人しくメモリを抜いて変身解除しろ。
そうすれば命までは奪わない。」
そう言う照井の言葉を笑う。
「はっ!笑わせる。
俺が何の為にダメージを受けたのか教えてやるよ。
"スモークメモリが上手く使えなくて"発動しなかったが漸く使いこなせるようになってきてな。
お陰でリッパーメモリの本当の力が使える。」
そう言うとドーパントの身体に付いた傷が光り出す。
「切り裂き魔は"切るのも好きだが切られるのも好きなんだ"。
このメモリは"ダメージを受けた分だけ斬撃が鋭く強くなる".....こんな風になぁ!!」
ドーパントの身体から煙が上がるとその煙は学校の周りを抉る様に大きな穴を作り出した。
「良いねぇ!俺の刀の切れ味が冴え渡っているのが分かる!
やっぱり切り合いはこうじゃねぇと意味がねぇ。
命の削り合って刃を作る....これこそ俺の求めていた戦いだぁ!」
すると穴から何かが破裂する音が聞こえる。
「何だ?」
「問題ない。
ただ、削った空間にあった水道管が破裂しただけだ。
直ぐに"湖位"の深さまで水が溜まるだろうな。」
「ほら"出番"だそ!!
コイツらの足止めがお前らの仕事だぁ!」
そう言うと二体のドーパントが流れてくる水の中から現れる。
"二体のドーパント"が警察の部隊と照井を見つめた。
「さぁ、派手に暴れて足止めしろよ。
俺達の仕事が終わるまでな.....」
そう言うとリッパードーパントは切り裂いた湖をスモークの力で越えて学校へとは入っていく。
「待て!」
照井はそれを追おうとするが二体のドーパントに阻まれてしまう。
「くっ、どけ!
お前達に構ってる暇など無い!」
その言葉にドーパントが答える。
「それは俺達だって同じだ。
こんな事をするより早く女神を助けに.....」
「ごめんなさい。
私達も貴方達を通せない理由があるの.....怪我はさせたくないから引いてくれない?」
その言葉に照井が答える。
「俺達も引けない理由がある。
邪魔をするなら....押し通る!」
照井は拳銃を向けてドーパントと対峙するのだった。
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第百八十九話 Mの一手/嘘の真実
「おい、何なんだよこれ!」
「学校の周りが水で囲まれてるの?」
「俺達閉じ込められたのかよ!」
各々の動揺が伝播し広がっていく中、楓と茜は冷静に周りを見ていた。
「ねぇ、茜。」
「あぁ、明らかにヤバい雰囲気だ。
人間じゃない何かの気配がうじゃうじゃしてる。」
そして、二人はこの状況を見て冷静に次の手を打とうとした。
「先ずは私達生徒と先生の安全を確保しなくちゃ。」
「だな。
先生に頼んで全校生徒を集めれば.....」
そんな話をしていると先生が教室に入ってきた。
いや、正確には首から上が無くなった先生の身体が教室に入ると地面に倒れた。
その光景を見た生徒はパニックを起こす。
そして、その後に入ってきたのは生徒会の宮根が現れた。
しかし、その宮根の手は血で染まりその手には無くなった先生の首が持たれていた。
そして、私達を見て笑顔で告げる。
「さぁ、命令通り全員殺すぞ。」と......
照井が二体のドーパントと戦っている頃、フィリップは野々村に背中を切られた染丘の治療をしていた。
(かなり深く切られている....このまま放置すればマズイ事になる。)
まだドライバーを着けていて状況を理解している翔太郎なら直ぐにリボルギャリーで此方に向かってくるだろう。
だからこそ、今は時間を稼ぐ必要があった。
フィリップは野々村に言う。
「サイレンの音がそんなに気になりますか?」
「........」
「答えが欲しいなら教えますよ。
警察が先日、本当の貴方の遺体を見つけました。
結果、貴方を捕まえる為に警察が動いているんです。」
「.......只の学生が何故そんな事を知っているんですか?」
「その理由は貴方が一番知っているんじゃないですか?
そろそろそちらの答え合わせをしてくれませんか?
貴方は一体誰なんで....」
そうフィリップが言葉を続けようとした時、まるで急に地震が起きたような衝撃を感じた。
「なっ!一体これは....」
その振動を感じた野々村が今まで貼り付けていた笑顔が消え去る。
「あ~ぁ....."始めてしまいました"か?」
「始める?一体何をする気なんだ?」
フィリップの問いを無視して野々村は言う。
「私が何故、野々村一作に化けられたのか?
それは私の使うマンティスメモリの力の一端だよ。」
そう言って野々村はマンティスメモリをフィリップに見せる。
「マンティスメモリにそんな能力は無い筈だが...」
「高い適合率を持つメモリを長期間使用するとメモリを使わなくてもある程度の力が使えることは知っているだろう?
実はそれには面白い裏技があったんですよ。」
「過剰適合者が長時間メモリを使用すると進化した能力を手に入れられるんです。
そこで私が手に入れた力は"相手の一部を食べることでその姿に変わる"事です。
これはかなり便利でしてね。
どんな場所でも潜入することが出来た。
ここを完全に支配するのも時間はかからなかった。」
「支配?.....君が野々村に化けていたのは二年前からの筈だ。
その短期間で学校を支配したと言うのかい?」
「.....ふふっ、存外名探偵も大したこと無いですね。
ではヒントを上げましょう。
私はこのメモリを"もっと前から"使っています。
そして、この学校には創設当時から関わっている。」
野々村だった者が出したヒントを聞いてフィリップは答えに辿り着き戦慄した。
「まさかずっとこの学校で実験を行っていたのか?
でもそれじゃあ......」
「そう、この学校は最初からガイアメモリの実験場として運営させるつもりだったんですよ。
学校関係者を何人食べたか忘れましたがお陰でとても優秀な実験体を作れました。」
「それじゃあ、頭貝会長との約束は....」
「元々、守れるものじゃありません。
でも外面では約束を守って見せれば実験に従順に参加してくれる。
何人も騙してきましたから二人を騙すのも簡単でしたよ。」
そう言って笑う野々村にフィリップは怒りの声を上げる。
「幼い子供の人生と命を食い潰す事をそんな笑いながら語るなんて.....アンタこそ悪魔の名前が相応しい!
僕は....いや僕達は貴方を許さない!!」
「許さない....ですか。
でもそれでこの状況を変えられるんですか?
もう気付いているでしょうお仲間が来るのが遅い事に」
「!?」
「裏で準備していたのは貴方達だけじゃない。
さて、貴方の相棒に伝えて貰えますか?
もし、また仮面ライダーに変身したら学校の生徒をなぶり殺しにしていくと....」
「それはどういう意味だ!」
「この学校には私の育てた
彼らの目的は学校にいる全ての人間を殺すこと....そして貴方の確保です。
左 来人.....いえ"園咲 来人様"ですか。
そして、大切な貴方のお仲間は足止めされています。
直ぐにここにはこれません。
これだけ言えば聡明な貴方なら今の事態が十二分に分かるでしょう?」
学校内に他にもドーパントやミュージアムの構成員がいる。
そしてこの学校は外のセキュリティは宣伝しているが内に入られた時の備えは無かった。
つまり今、学校にいる生徒には身を守る術が無いと言うことになる。
それを理解したフィリップの頭に楓と茜の顔が浮かぶ。
「直ぐに止めさせるんだ!
そんな事をしたらどんな被害が起きるか分かってるのか!」
怒りの籠った声を受けた野々村は平然と言い放った。
「まぁ、学校内の全ての人が死ぬまで遅くても30~40分位ですかね?
我々の脱出を含めると最長で1時間と言った所でしょうか。」
「........」
「おや、取引しないのですか?
自分が潔く投降するから生徒の命を見逃してくれと...」
「これまでの会話で君が約束を守る気が無い人なのは分かりきっている。
僕を捕らえて笑いながら殲滅を命令するだろう?」
「....ははっ、素晴らしい分析力と洞察力だ素直に感心しますよ。
えぇ、その通りです。
この殲滅は覆りません。
なら、貴方はどうするのですか?」
「僕も風都を守る仮面ライダーだ。
例え一人でも救える命は救って見せる。」
そう言ってフィリップが野々村を無視して学校に戻ろうとする。
「おっと、そうはさせませんよ。」
野々村がそう言って手を振るうとそこから衝撃波が現れる。
警戒するフィリップの横を衝撃波が通り過ぎると背後にめ"気を失っている頭貝"へと攻撃が向かう。
「危ない!」
フィリップはバランスを崩しながらも頭貝の体を掴み一緒に転がることで攻撃を回避した。
代わりに衝撃波が当たった地面には大きな傷跡が残る。
その動きを見て野々村はわざとらしく驚嘆の顔をする。
「"ゴミ"を抱えてよく避けられましたね。」
「ゴミだって?」
「えぇ、私の役に立てず地面に倒れ付しているそいつら何てゴミ以外の何者でもありませんよ。」
平然とそう言い退ける野々村にフィリップは限界を迎えた。
「ふざけるなっ!彼等はゴミじゃない!」
拳を握り野々村を殴り付けようとするが素の戦闘能力が低いフィリップのパンチは簡単に避けられ捕まえられてしまう。
「随分と感情的ですねぇ。
まぁ、お陰で簡単に捕まえられましたが...」
「離せ!」
「そんなに吠えたって結果は....」
そこまで話した時、野々村は外の違和感について気付く。
(どう言うことだ?余りにも"静かすぎる"。)
今この学校には獅子神を筆頭にサラの部下、そして野々村が洗脳し育てた生徒がいる筈だ。
作戦が開始した以上、もっと凄惨な悲鳴が外にまで響く。
それ以上に建物が壊れ始めると思っていた。
だが、今の学校はある程度の喧騒はあるがその程度だった。
(もう始末を終えたのか?いやそれにしては早すぎる。
一体何が....)
そうして油断している野々村の腹部に衝撃が走った。
「あっが!」
痛みにより呻きフィリップの拘束が解かれる。
「俺の相棒に手を出してんじゃねぇよ下衆野郎。」
そして目の前にはフィリップを抱えた翔太郎が立っていた。
「翔太郎.....」
「わりぃフィリップ、遅くなった。」
その光景を見た野々村が焦る。
「バカなっ!どうしてここに!」
その声を無視するように翔太郎はフィリップに言った。
「フィリップ、"ヒート"と"ルナ"を貸してくれ。」
「?....分かった。」
何をするのか疑問に思っているフィリップだが翔太郎の言葉に従いヒートとルナのメモリを渡す。
翔太郎はそこに"メタル"と"トリガー"のメモリを取り出すと空中に放り投げた。
「なっ!」
驚くフィリップだが投げられた四本のメモリは空中に現れた"黒い炎のゲート"に入ると姿を消してしまった。
そのゲートを見てフィリップは察する。
「成る程、彼も動いていたんだね。」
「あぁ、そして伝言だ。
"学園の人達の安全はこちらで何とかします。
貴方達は犯人の確保を..."だそうだ。」
「分かった....じゃあ行こうか翔太郎。」
「あぁ、フィリップ!」
そう言って二人はサイクロンとジョーカーのメモリを構える。
事態を飲み込めてない野々村だが彼も迎撃するためにマンティスメモリを起動するのだった。
Another side
翔太郎が学校に到着する数分前.....
「クソッ!完全に嵌められた!」
翔太郎はリボルギャリーに乗りながらそう毒づく。
コンクリートドーパントをメモリブレイクして変身解除した翔太郎だがフィリップがドライバーを着けているお陰でフィリップの現状を正確に理解することは出来ていた。
(本当なら今すぐにでも助けに行きてぇのに.....)
彼がフィリップと合流出来ない理由は学校の周りに巨大な湖が出来たことでリボルギャリーでも走行が不可能になったこと....そして
「おいおい....逃げ回るだけで良いのか仮面ライダー?」
目の前にいる
今も二人のドーパントから放たれる猛攻をリボルギャリーの装甲で耐えながら逃げている最中だった。
その為、翔太郎は学校に入ることが出来ずにいた。
(早くフィリップの所に行かねぇと....なのに!)
翔太郎が変身出来ないのには理由があった。
今、Wに変身したらどちらの身体も危険な目に遭うことは明白だった。
翔太郎の体をベースにすれば気を失ったフィリップの身体を野々村が奪うだろう。
エクストリームを使えばフィリップと完全に融合出来るがそんな隙を与えてはくれない。
だからこそ、翔太郎は生身でドーパントと対峙せざるを得なかった。
照井も他のドーパントに足止めされて合流出来ていない。
万事休すの状態.....だがそれを変えたのは一発の銃弾だった。
放たれた弾がレオドーパントへ命中する。
「あ?誰だ!」
そう尋ねる獅子神の元に銃を構えた克己と無名が現れた。
「何とか合流出来ましたね。」
「翔太郎は無事みたいだな。
まぁ、ここまでは"計画通り"か。」
二人がそう話していると獅子神が怒りながら無名に言う。
「無名ぃぃぃ!!貴様、何処まで俺の邪魔をするつもりだぁ!」
「さぁ、貴方が"下らない計画"を始めなければ邪魔なんてしませんでしたよ。
それにしても意外でしたね。
貴方がこんなにも短絡的だったとは....」
「何だと!」
「ミュージアムの計画が進んだことで焦るのは分かりますがサラを人質にとってまで計画を強行するとは.....
幹部同士のいざこざ...それも組織に利益をもたらさない行動など琉兵衛様が認めるとは思いませんが」
「黙れ!貴様の判断で物事を語るなっ!
この計画が成功すれば俺の立場が磐石のものとなる。
ミュージアムの計画の根幹となるピースである園咲 来人様を献上する。
それさえ出来れば.....」
「成る程、結局は前失敗した作戦が気に食わなかったと言うことでしょう?
組織に貢献するのなら他にも選択肢はあった。
天ノ川地区の再開発とかね.....でも貴方は結局自分のプライドに負けて失敗した功績を取り戻そうとしてる。
サラはその為の犠牲になった訳ですね。」
「.........」
無名の言葉が図星だったのだろう。
獅子神は腕を震わせる程、握りながらも黙っていた。
「まぁ、そんな事はどうでも良い。
僕には僕の目的があります。」
そう言うと無名はデモンドライバーを腰に着けた。
そして懐から純化された真っ黒のデーモンメモリを取り出す。
無名は目を瞑り軽く深呼吸をするとメモリを起動した。
「
そして起動したメモリをドライバーに装填する。
変身待機の音が鳴る中、無名は右手を左胸に当てるとそのまま握り込む様に手を動かし言った。
「変身」
握り込んだ右腕でドライバーを倒し展開する。
「DEMON」
ベルトからガイアウィスパーの声でそう鳴ると無名の全身が変化していく真っ黒の生体装甲に白色のライン。
頭部からはWの様な二本の角が現れるがそれが歪み曲がっている。
それは人間が過去に想像した悪魔の角の様な形をしていた。
瞳は白く半円の形をしている。
身体は形と模様は仮面ライダージョーカーを彷彿とさせた。
変身が終わると無名は手を握り感触を確かめる。
「変身は無事成功.....と言う訳ですか。」
その姿に獅子神は驚く。
「まさか....無名お前....仮面ライダーに....」
「その名を名乗るには些か役不足には感じますが今は良いでしょう。
そうですね....ではこう名乗りましょう。」
そう言うと無名は左手を後ろに回し腰に着け右手を真ん中に置くとお辞儀をした。
まるで中世のような挨拶であるが堂々と言う。
「僕の名前は"デモン"....."仮面ライダーデモン"
この風都の闇を打ち破る。」
「"もう一人の悪魔"です。」
Another side
井坂は車に乗ると風城高校に向かっていた。
「お前の力がいる....仮面ライダーと好きなだけ戦わせてやるから手を貸せ。」
獅子神からそう告げられた時は驚いたがその顔は笑顔だった。
(まさか、手に入れたこの力を仮面ライダーに試せるとは....あぁ、今から楽しみで仕方がない。)
私の相手はだれなんだろうか?
怒りと絶望に歪んだ顔を見るのが楽しみだ。
それともあの
この力を使いこなすまで勝てなかったあの
まるで遊園地に行く子供の様に心を踊らせていた井坂は急に自分の乗っていた車が止まり驚く。
「どうかしましたか?」
運転手に井坂がそう尋ねると動揺して答える。
「わっ....分かりません。
あの男が前に出てきたら急にエンジンが動かなくなって...」
そう言われ井坂はその方向に目を向けると笑う。
「あぁ、彼ですか。
大丈夫です知り合いですから.....」
そう言うと井坂は車を降りる。
「こんなところで会うなんて偶然ですかね?
財団Xの"加頭"さん。」
井坂にそう言われた加頭は表情無く告げる。
「いえ、今回は貴方を探していたんです。
井坂 深紅郎さん。」
「ほぉ....それはまたどう言ったご用件で?
実は所用がありましてあまり時間が割けないのですが....」
「そんなに時間はかかりません。
あくまで報告ですから...."御当主の命令"で冴子さんがミュージアムの幹部から辞されました。
それで体調を崩してしまい今、彼女は私が面倒を見ています。」
「はぁ、そうですか。
話しはそれで終わりですか?」
「いえ、それによって貴方はミュージアムの庇護下から外れました。
今後は園咲家の敷地を跨いだら敵と見なすと仰られていられましたよ。」
「敵....ですか。
私は今後の計画に置いて重要な役目を任されているとミュージアム辞する前の無名から聞かされていましたが?」
「えぇ、"冴子さんの客人であった貴方"だったらそうでしたでしょうが今は違います。
今後の行動には気を付けた方が良いですよ。」
加頭の言葉を受けて井坂は考えた。
(まさか、こんなに簡単に切られるとは....存外、園咲 琉兵衛も人の親だったと言うことか。)
冴子との決別は琉兵衛にも伝わっていただろう。
だが、それを抜きにしても井坂は自分の強さに自信を持っていた。
だからこそ、そんな簡単に自分を切るなど思っていなかったが、どうやら琉兵衛は娘をふった男を有用でも手元には置いておきたくないらしい。
だが、そんな些末な事はもう井坂にとってはどうでも良いことだった。
「分かりました。
では精々、寝首をかかれないように気を付けておくとしましょう琉兵衛さんに宜しくとお伝えください。
失礼、用がありますので.....」
そう言って加頭から去ろうとするのを肩を掴まれて止められる。
その力は骨すら砕く程に強い。
「これ以上私が聞く話しは残っていましたかね加頭さん?」
井坂の問いに加頭は答える。
「いえ、"組織"として伝えるべき要項はこれで全部です。」
「では他に何か用が?」
「....えぇ、"個人的な用"です。」
そう言って加頭が井坂を睨むと井坂は先程まで乗っていた車に思いっきり吹き飛ばされ激突する。
車が廃車になる程の威力で井坂は突っ込んだ。
加頭は仕事で使う技術は自分で試し知っておくと言うポリシーがありこの力は過去に研究していたクオークスの超能力による物だった。
その光景に驚き運転手が車から降りると加頭は手を車に翳す。
そうすると車が発火し爆発を起こした。
普通の人間なら焼死する場面だが炎の中から服が燃えながらも井坂は平然として現れる。
「....貴方はNEVERの施術を受けたのですか?」
「いいえ、これは毒素により強化された副産物です。
今の私の身体は生身でもドーパントと同じ耐久力があります。
それにしてもいきなり攻撃してくるとは何か気に触ることを私はしましたか?」
その言葉を受けて加頭は冴子の顔を思い出す。
加頭が保護してから彼女は一歩も外に出ず部屋の中で外を眺めている。
メモリやドライバーも地面に投げ捨てて食事や水すらも取っていない事を知って加頭が様子を見に行くと涙の痕を残しながら彼女は言った。
「加頭さん....私は何にもなれなかったわ。
お父様からも井坂先生からも捨てられた。
私のこれまでの人生何もかも意味が......
ねぇ、私は何になれていますか?」
その寂しい瞳を見て私は何も言えずただ彼女を抱き締めていた。
「冴子さんは
父親似認められないなら父親を越えようと全ての人生を捧げて.....その結末がこれでは余りにも割りが合わない。
.....いえ、これは建前ですね。
私は多分、怒っているんです。」
「怒っている....ですか?」
「えぇ、冴子さんの涙を見て声を聞いて顔を見て....どうしても抑えられなくなった。
彼女をこんな顔と気持ちにさせた貴方を殺したいと....」
そう言うと加頭はドライバーを着ける。
「先程の問いに答えましょう井坂さん。
貴方はずっと私の気に触ることをしてきた。
だが、冴子さんが幸せでいられるのなら我慢できた。
だが、もう違う。
彼女の幸せを奪った貴方は許せない。
ここで貴方を殺します。」
そう言うとメモリを取り出す。
そのメモリを見ると井坂は目の色を変える。
「ほぉ、やはりゴールドクラスのメモリでしたか。
良いですねぇ、仮面ライダーで実験をしようかと思っていましたが貴方とでも充分に楽しめそうだ。」
井坂は獰猛に笑うと燃えている服を引きちぎった。
彼の身体の血管はメモリの毒素の影響でどす黒く変色していた。
そして、興奮する感情に呼応するように瞳の色が黒と赤に変わる。
井坂はウェザーメモリに強化アダプターを着けるとメモリを起動した。
それに合わせるように加頭もメモリを起動するのだった。
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第百九十話 Mの一手/死者のパレード
今まで同じ様に学校で学んでいた生徒がガイアメモリを取り出すと身体に挿してドーパントへ変わっていく。
そして変わったドーパントは周りの人間を手当たり次第、襲い始めた。
その表情からはその行為を心底楽しんでいるのが伝わってくる。
昔のB級映画の様な状況.....
怪物が学校に現れ生徒を惨殺していく。
本当ならそうなる筈だったが...その運命を変えたのは奇しくも怪物と同じくこの世に生きていてはならない死者だった。
仮面ライダーデモンへと変身した無名は翔太郎に話し掛ける。
「無事ですか?」
「何とかな....それよりお前、その姿は」
「それについては追々、今から僕の力で貴方をフィリップの所まで飛ばします。
着いたら彼からヒートとルナのメモリを受け取ってください。
そして貴方のメタルとトリガーも合わせて空中に放り投げてください。」
「理由を聞いても良いか?」
「僕がこの学校に援軍を送りましたもうそろそろ到着している筈です。
彼等を助けるために"メモリ"が必要なんです....お願いします。」
翔太郎は一瞬考えると決断した。
「分かった。
相棒のところへ俺を運んでくれ。」
その言葉を受けて無名は指で円を描くとその指に合わせて黒炎が上がりゲートが出現する。
翔太郎は何の躊躇いもなくその中へ入っていくのだった。
その行為を見て獅子神は怒る。
「貴様っ!一体何をした?」
「ゲートを作り翔太郎さんをフィリップのいる所に届けただけですよ。
それにしても随分と思い切った策を取りましたね。
サラを人質にして部下を掌握するなんて......ミュージアムは何時からヤクザ物の手口を行うようになったのですか?」
無名の言葉が獅子神の感情を逆撫でる。
「黙れっ!組織の裏切り者がっ!
貴様にどうこう言われる筋合いは無い。
また俺の計画を邪魔しようとするなら今度こそ殺してやる。
この学校の生徒も道連れにな。」
「道連れですか。」
「あぁ、この学校には俺が育てた部下の
彼等が暴れてこの学校の生徒は全員死ぬ。
そして、俺は来人様の身柄を手土産にミュージアムでの地位は磐石のものとなる。
そして、ここでお前を殺せば....俺は本当の意味で解放される訳だ。
さぁ、どうする無名?
お前が呑気に俺と喋っている間に人がどんどんと死んでいくぞ!」
獅子神はそう言って笑うが無名はその顔を見て溜め息をつく。
「獅子神、貴方は二つ程、勘違いをしています。
1つ目は僕はこの学校の生徒に何の思い入れもありません。
そこに関しては僕を脅す材料にはならない。
もう1つは貴方の見積もりの甘さです。
僕が何の備えもなくいたと思いますか?
いえ、それ以上に...."高々二つの勢力を足した程度"の武力で敵うと?
随分と安く見られたものですね。」
「どういう意味だ?」
そう尋ねる獅子神に無名は答える。
「大変なんですよ?
"全員分のドライバー"を用意するのは.....」
Another side
生徒会の宮根と根本、そして野々村によって選ばれた数十名の生徒は全能感に酔いしれていた。
漸く与えられたメモリを使って好き勝手に暴れることが出来るからだ。
メモリを持つ生徒達は興奮を高める為に野々村から貰った
薬を飲むと直ぐに身体が熱くなり精神は冷静でありながら興奮状態になる不思議な感覚を覚える。
この感覚が癖になって堪らない。
そしてここにメモリを挿してドーパントになればこの感覚は更に強くなる。
(もう限界だ....耐えられない。)
そんな空腹の猛獣の飼い主から連絡が届く。
スマホを確認すると笑った。
"狩りを始めて良い"......それだけ書かれていたショートメールを見ると全員動き始めた。
其々の部屋に別れて向かっていく。
宮根が向かったのは3年の教室だった。
中に入ろうとすると担任の教師に呼び止められる。
宮根を見ると言った。
「おぉ遅刻か宮根、君にしては珍しいな。」
そう言って私の肩に手を置く。
(あぁ、嫌だこの人間は.....)
宮根は端正な顔立ちと豊満な身体からセクハラや痴漢を受けることが多い人生を送っていた。
だからこそ、このメモリを手に入れた時決めていた。
(私に許可無く触れる奴は皆、"殺してやる"。)
宮根は笑顔でその担任の頭と肩をを掴むと無理矢理引きちぎった。
長期間のメモリ使用により宮根が手に入れた力は常人を優に越えた腕力。
そして、千切った担任の首を持って彼女は教室に入る。
その姿を見て呆けている生徒を尻目に宮根は笑顔でメモリを起動する。
「
胸のコネクターに挿すと宮根の身体が巨大化する。
150cm位だった身長が伸び2メートル近い大きさに変わると全身を四角いキューブの様な装甲が覆い背中に長い取っ手を持つハンマーが現れた。
変身が終わり最初に行動したのは茜だった。
茜が教室の机を宮根に向かって投げつける。
それを担任の頭を持った腕を使って思いっきり殴り付けた。
グシャ!と言う音と共に潰れると机が窓ガラスを割り外へ弾かれる。
「乱暴な事しないでよ茜ちゃん。」
宮根はそう笑いながら言うが茜はそれを無視して周りの生徒に大声で叫ぶ。
「逃げろっ!殺されるぞ!」
その声に呼応するように他の生徒は教室から出ていく。
「私を置いて逃げるなんて悲しいなっ!」
宮根はそう言って逃げる生徒を追おうとするが椅子を振り回して茜が阻止する。
「宮根、止めろ!皆を殺すつもりかっ!」
「そのつもりだからメモリを使ったのに分かってないの?」
止めようとする茜に向かって宮根は握った拳を振るう。
防御したらマズイと分かった茜は椅子を振るわれた拳に投げ付けて攻撃を回避する。
変わりに椅子が宮根の拳を受けてバラバラに砕けてしまった。
茜は空手の構えをして対峙する。
その光景を見ながら宮根は不敵に笑う。
「あれれ?良いのかな?
私の相手をしていて....私なら楽に殺して上げられたのになぁ。」
「どういう意味?」
「根本とか陰湿だからオモチャにされて死ぬかもしれないって事よ。」
「まさか、他にも!」
宮根の言葉を聞いて茜は逃がした楓の事を考えてしまった。
それが戦いの場では隙となる。
「油断しちゃダメでしょお!」
「しまっ!」
宮根の拳が茜の顔面に振るわれた。
咄嗟に腕を使ってガードするがドーパントの攻撃をもろに受けた腕から骨が折れる音が聞こえるとそのまま壁へと吹き飛ばされた。
「かはっ!」
壁に激突した影響で肺の息が口から吹き出す。
ダメージを回復できず起き上がれない茜に向かって宮根は背中のハンマーを掴むと頭に向かって振り下ろした。
「バイバーイ。」
そう言いながら振り下ろされるハンマーを見ながら茜は思う。
学校の事、楓の事、母の事....そして死んでしまった父の事を......
「パ....パ......」
そうしてハンマーは彼女の頭に振り下ろされそうになるが突如、宮根の身体は怯む。
その方向に目を向けると銃を発砲しながら此方に走ってくる誰かがいることが分かった。
頭が揺れて視界が安定せず顔は分からない。
その誰かは宮根を茜から引き剥がすと彼女を抱き抱えた。
「茜!しっかりしろ!死ぬな!」
その声に聞き覚えがあった。
母さんが何度も見せてくれた私が生まれた時の映像、そこに写っていた父の声とそっくりだったのだ。
そして安定してきた視界に捉えたのは、
茜を助けに来た
気が付いたら身体が動いていた.....
無名のメモリの力で学校内に転移したNEVERの面々は学校で暴れているドーパントに対処するため別れていた。
銃を構えながらクリアリングをしている時、何かが衝突する音が聞こえてそこに急いで向かうとそこは娘がドーパントに殺されそうになっている場面だった。
俺は銃の安全装置を解除してドーパントに弾を当てつつ娘の元へ走っていった。
(走れ!間に合え!)
焦る心のままにドーパントに弾を当てつつ娘から離れさせると倒れている娘を抱いて安否を確認する。
「茜!しっかりしろ!死ぬな!」
俺の声を受けて娘である茜は反応する。
「....パ....パ?」
意識はハッキリしている。
見たところ腕が折れている以外は問題はなさそうだ。
俺は耳の無線を起動させる。
「此方、芦原....三階、教室前でドーパントを発見した。
負傷者を発見....名前は芦原 茜だ。」
その声に他の仲間が反応する。
「茜ちゃんが!....無事なの!?」
動揺する京水に堂本が言う。
「落ち着け京水!....賢が言うなら大丈夫だ。」
「命に別状はない....だがドーパントからの攻撃を受けて腕を負傷した。
恐らく、折れている.....」
「そんなっ!」
その言葉を受けて京水がショックを隠せない。
そんな中、レイカが尋ねる。
「心配ならこっちで保護しようか?
プロフェッサーや文音さんなら治せると思うし....」
しかし、その考えを芦原は却下する。
「いや、茜には普通に生きて貰いたい。
その為にも俺達とは関わらせたくない。」
「.....そうだなお前の言う通りだ。
賢、娘を一階にまで運べるか?
一階には
他よりは安全な筈だ。」
「....何とかしてみる。
その前に目の前のドーパントの処理をしないと」
そこまで話すと京水が告げる。
「分かってるとは思うけど、殺しちゃダメよ。
茜ちゃんを傷つけられて怒っていても彼等はこの学校の生徒でセブンスに洗脳されているだけなんだから....」
「....分かっている。
克己の方はどうなんだ?」
「無名ちゃんと一緒に獅子神達の足止めをしてるわ。
そっちや仮面ライダーの援軍に行きたいけど....その前に学校内のドーパントを片付けなくっちゃね。」
NEVERの面々はここに来る前に無名と克己から事情を説明されていた。
黒岩と芦原の娘について.....そして"克己の身体"と選択についても.....
話を聞いた京水は無名を殴った。
殴られた無名は地面に倒れ込む。
それをレイカが諌める。
「ちょっと京水!アンタ...」
「ふっざけんじゃないわよ!茜ちゃんの事もそうだけど今の克己ちゃんにドライバーとメモリを作るですって?
アンタそれでも人間なのかよ!」
京水は他のメンバーよりも芦原や黒岩の娘について話では知っていた。
娘の誕生日やお祝い等を買う時に相談に乗っていたからだ。
京水にとっても二人は大切な親友の娘として大事にしていた。
そんな子達が通う学校がドーパントの実験場になっていてそれを無名は見抜けなかった。
その事に怒っていた。
「克己ちゃんもよ!....何で自分から死のうとする道を選ぶのよ!
貴方にはミーナって言う恋人がいるんでしょ?
恋人を残して死ぬつもりなの?
ハッキリ答えなさいよ!」
その言葉を受けて克己は覚悟を決めた様に言った。
「俺にとってミーナは大切な存在だ。
それはお前達も同じだそこに嘘はない。
だけど俺は後悔したくないんだ。
もしもあの時、変身していたら....そんな後悔をしながら残りの人生を生きて死んでいく。
そんなのは普通の死よりも後悔することになる。
それにミーナにはもう話してある。
そうしたらこう言われたよ。
"知ってたわ。.....だって貴方は仮面ライダー何だもの....だから、行ってきて自分が後悔しない様に"ってな。
お前達の言い分は痛い程分かる。
俺のことが気に食わないならそのままでも良い。
だから頼む....俺を最後まで仮面ライダーでいさせてくれ。」
そう言って頭を下げる克己を見て京水は我慢できず泣き出す。
「ズルいわよ....そんな....言い方....」
そう言いつつも京水はそうなると分かっていた。
だが、それでも自分の心に嘘はつけなかったのだ。
NEVERと言う仲間を愛している彼にとって....
京水は涙を拭くと無名に手を貸して起こした。
「殴ってごめんなさい無名ちゃん。」
「いえ、僕だって京水さんの立場なら殴ってます。
それに僕だって自分にムカついてたので助かりました。」
そう言い軽く笑うと無名は言った。
「それと勘違いして欲しくないのは僕は克己さんの命を諦めた訳じゃありません。
それはマリアさんや文音さんも同じです。
貴方が変身するその日まで足掻いて見せますよ。」
そう言うと無名は今度、芦原へと向いた。
「芦原さん....本当にすいません。
僕がもっとしっかりしていれば茜さんをこんな事に巻き込まずに済んだのに...」
「いや風都にいる限り、ドーパントとは強制的に関わることになる。
それにお前も大変だったんだ。
そんなに責められないよ。」
すると、堂本が芦原に告げる。
「安心しろ。
俺達はお前の娘や黒岩の娘を見捨てねぇ。
どんな奴が来ても守って見せる。」
「....すまない。
ありがとう。」
そうして冷静になると作戦を話し始めた。
「相手が何時、行動するか分からない以上、直ぐに動けるように策を練らないと行けません。
ですから僕もリスクを取ります。」
そう言うと無名はデモンドライバーと純化したデーモンメモリを取り出した。
「ねぇ、それで変身してアンタは平気なの?」
「またゴエティアに操られるのかと言うことですよね?
リミッターを解放しなければゴエティアが僕に干渉する事は不可能です。
それに解放しなくてもある程度の事は出来ます。
試してみましたが黒炎を使ったゲートの生成は可能でした。
これを使って皆さんを学校まで運びます。」
「そして、そこで獅子神の作戦を潰す。
しかし、作戦が分からない以上、臨機応変に対応する必要がある。
だから、これを皆さんにお渡ししておきます。」
そう言って取り出したのは"4つのNEVERドライバー"だった。
「これまでの戦闘データからデメリットの軽減と稼働時間の延長に成功しました。
1日中変身しても問題ありません。」
「メモリはどうすんの?」
レイカの問いに無名は答える。
「それは考えがあります。
だから安心していてください。」
そう言って無名はイタズラする子供のように笑うのだった。
芦原達は今の自分の位置を確認する。
「無名と克己は学校の外で獅子神達と交戦中だな?」
「えぇ、屋上にはWと敵が戦ってるらしいからそこは放置で良いと思うわ。
三階には
二階には
隠れている生徒がいないか見回ってる。
それにドーパントも見つけたら倒しておくわ。」
「
外を見る限り突然出来た河で分断されているが警察の連中がドーパントと戦ってるみたいだな。」
「加勢できれば状況は変わるか?」
「助けたとしても河で分断された道を繋げないとどっちにしろ逃げられないわ。
どうしようかしら?」
そんな話をしているとNEVERの目の前に小さな黒炎のゲートが現れて中からメモリが落ちてきた。
「良いタイミングで補給を送ってくれるなんて流石、無名ちゃん。」
「だな。
そろそろこっちを決めきりたかった所だ。」
そう言うと無線を終わらせてお互いにドライバーを装着する。
悲劇として終わる筈だった事件に悪魔と死者が介入する。
この
それはパレードを始めた者ですから分からない。
《現状説明》
学校(屋上)
仮面ライダーW vs マンティスドーパント
学校(三階)
芦原親子 vs ハンマードーパント
学校(二階)
京水 vs ???
学校(一階)
堂本、レイカ vs ???
校門前
照井+特殊部隊 vs シャークドーパント、クラブドーパント
学校外
仮面ライダーデモン、克己 vs レオドーパント、シープドーパント
加頭 vs 井坂(学校から一番離れている。)
居場所不明
黒岩、赤矢、紫米島、白爪
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第百九十一話 Nの行動/両者の想定外
学校を動き回る根本は周りの景色を見てそう確信した。
(何故、ここまで静かなんだ?)
俺達が解き放たれて数分だったがそれと言ったパニックや悲鳴は聞こえない。
悲鳴もある程度はするがその程度だ。
人が大量に死んでいる空間とは思えない程の静かさだった。
そしてその原因を見つけた。
明らかに学校の関係者じゃない服装と装備、そしてその人物の周りには気絶している生徒が何人もいた。
「あら、貴方も私にやられたいのかしら?」
男なのに女のような口調で話す人物に根本は警戒する。
「貴方は学校の関係者じゃないですよね?
誰なんですか?」
「私?私は非行に走る少年少女を助けるヒーローって所かしら。」
「そうですか。
話す気がないのならここで殺します。
....殺れ。」
根本は引き連れていた仲間の生徒に命令してメモリを起動させる。
「Arms」 「
そうしてメモリを挿してドーパントに変わるとその男を襲う。
しかし、その男はドライバーを腰につけるとメモリを起動した。
「LUNA」
男はメモリをドライバーに装填すると一回転してドライバーを展開した。
「変身!」
男の身体が金色の光で覆われると仮面ライダーへと姿を変えるのだった。
「くっ!....お前らの相手をしている暇はない!」
照井は銃を撃ちながら学校に向かって行こうとするがその動きをシャークドーパントに止められる。
「そこをどけ。」
「ごめんなさい.....出来ません。」
ドーパントはそう言いながら立ち塞がる。
連れてきた特殊部隊は残ったクラブドーパントを相手にしているが銃弾のダメージにもクラブドーパントから出る泡により回復されてしまっていた。
しかし、二体のドーパントは照井や特殊部隊に攻撃を仕掛けることはなく足止めとしての役に徹していた。
そして、照井にも問題があった。
(アクセルに変身するには人目が多すぎる。)
照井は自分が仮面ライダーだと言ってない。
故にこの場での変身が憚られた。
学校内に入って隙を見て変身しようと思っていたのにその学校を隔てるように河が出来てしまったのだ。
照井は生身で戦わざるを得ずそれが戦闘の遅延を招いていた。
万事休すと思われた時、上空から思わぬ援軍が来た。
守りに徹していた二体のドーパントが急に回避行動を取るとそこの地面に火柱が上がった。
そして照井の元に一人の赤いライダーが降り立った。
「お前は.....」
そう尋ねようとするとライダーはドライバーからメモリを外す。
変身解除すると無名の仲間であるレイカと呼ばれる女性が現れた。
「....ふーん、本当に副作用は抑えられてるみたいじゃん。」
手をグーパーして確かめながら言う。
彼女の姿を見てシャークドーパントが言った。
「貴女は....確か無名さんの」
「そう、無名の仲間。
そして、アンタ等に朗報。」
そう言うとスマホをドーパントへ投げ渡す。
スマホを取って中を見ると二人のドーパントは驚愕した。
「無名からの伝言ね。
"サラと美頭は無事に助けたから獅子神を裏切るならご自由に"だってさ。」
そう言うとレイカは手に持っていたメモリを再度起動する。
「HEAT」
ドライバーにメモリを入れると髪の毛をかき上げながら言った。
「変身」
レイカがドライバーを手で倒して展開すると仮面ライダーヒートへと変身が完了した。
そして、照井に手を差し出す。
「アンタこのままじゃ変身できないんでしょう?
学校まで連れてって上げるよ。」
照井は少し考えるとレイカの手を取った。
「良いだろう。
少しだけお前達を信用してやる。」
「別に今すぐアンタ等と敵対することはしないって」
「それを決めるのは俺だ。」
「はぁ、克己といいどうして仮面ライダーって頑固な奴が多いのよ。」
文句を垂れつつもレイカは照井を抱えると両足の銃から火を吹かせて空を飛ぶと学校へ戻っていった。
「何っ!それはどう言うことだ!」
戦闘中で有りながらも獅子神がその事実に驚きを隠せなかった。
「青谷と緑塚が裏切った。
逃げるようにして戦線から離脱していったよ。」
部下である紫米島からその話を聞き獅子神の怒りはサラに募る。
「.....灯夜に連絡しろ。
"サラと美頭を始末しろ"とな。」
しかし、紫米島からの、返答は驚くものだった。
「やべぇぞ灯夜との連絡がつかねぇ。」
「何だと!?」
驚き動きの止まった獅子神に無名が近付くと腹部にパンチを突き刺した。
「ぐふっ!」
殴られて1歩後退するとそこから黒炎が吹き出した。
「ぐおっ!....なめ....るなぁ!」
獅子神は自分を奮い立たせてメモリの力を使うと黒炎が吹き飛ぶがダメージが回復せず片膝をついてしまう。
「昔の貴方ならダメージすら回復したのに...やはり弱くなったみたいですね獅子神。」
「何だと!」
「ゴエティアとの戦いが無意識の内に僕のメモリに対するトラウマを植え付けたみたいです。
左 翔太郎と戦っていた時よりメモリの出力が落ちていますから.....」
「そんな事は無い!俺がお前に怯えるなど....」
動揺する獅子神を無名は更に煽る。
「その様子だと人質にしていたサラに異常があったみたいですね?」
「やはり貴様の仕業か。
だが、お前の駒は全員ここにいる筈だ。
お前の
「いいえ、二人はここに来ています。
サラの救援に送ったのは別の人物です。
.....噂をすれば」
無名は飛んできたスタッグフォンを手に取るとギジメモリを抜き電話に出た。
「結果はどうでした"霧彦"さん?」
無名の問いに電話の向こうの霧彦は笑って答える。
「愚問だね。
私がこの程度で負ける訳無いだろう?」
サラを見つけ出すのは簡単だった。
三人の幹部の中でサラ達はミュージアムを離れる前にドライバーの定期メンテナンスを無名に依頼していた。
(獅子神は無名を疑い途中からミュージアムの研究者にメンテナンスを頼んでいた。)
そこで僕はもしもの時の為にサラと部下のドライバーに発信器を埋め込んでおいたのだ。
起動するとサラと美頭のドライバーの位置が送信された。
場所は獅子神の管理するビルの一つだった。
ここを襲われる事を想定しているであろう獅子神の裏をかく為、無名は霧彦にサラの救出を頼んだ。
「構わないよ。
彼女には色々と世話になったしね。」
そう言って出ようとするのを雪絵に止められる。
「待ってお兄ちゃん私も行くわ。」
「それはダメだ。
ここは危険だドーパントもいる。
君はここで留守番を.....」
「万が一そのサラが怪我かダメージを負ってたらお兄ちゃんは治療できるの?
そこまで獅子神がしてないと断言できる?」
「それは.....」
「確実に助けるなら私の力がいる....そうじゃないかしら無名?」
そう言う雪絵に無名は答える。
「成る程、僕が貴女に用意する筈だった"メモリとドライバー"が欲しいんですね?」
「なっ!?」
「えぇ、それがあれば自衛も出来る。
貴方も安心でしょう?」
「ダメだ雪絵!ガイアメモリを使うなんて!」
「お兄ちゃんだって使ってるじゃない!
その言い分は通らないわ。」
兄妹の口論を聞きながら無名は少し考えると研究室からドライバーとメモリを取ってきて雪絵に渡した。
「貴女の要望に合わせて用意したメモリとドライバーです。
雪絵さんの言う可能性を否定出来ない以上、僕は貴女にこれを渡すことを止められません。」
「無名....君はっ!」
怒りから霧彦が無名に掴みかかるがその手に何かを握らせると耳打ちをした。
それを聞いた霧彦は深呼吸をすると無名から離れて雪絵に言った。
「現場では私の言うことを聞くこと....それが条件だ。」
そうして兄妹はサラの救助へ向かうのだった。
ドライバーを使いナスカドーパントに変身した霧彦は目をつむりイメージを固める。
それを雪絵は黙って見ている。
(お兄ちゃんがここまで集中してるの初めて見た。)
霧彦の為に作られたガイアドライバーⅡのお陰でナスカメモリの本当の力を引き出せるようになっていた。
それによりナスカメモリの本当の力を知ることが出来た。
(当初、私はナスカメモリの力は超高速による移動と身体能力強化だと思っていた。
だが、それは誤りだった。
正確には"自らが望む願望を力に変換できるメモリ"だった。
望む力が強くなる程、毒素が強くなる。
あの時、私はミュージアムの幹部として誇れる強さを求めた。
それこそ、"私の知る幹部全員と同じくらいの強さ"を....
そんな事をすれば毒素が強くなることは分かりきっていた。
だからこそ、考える力を限定しないとこのドライバーでも毒素を分解できず耐えられなくなる。)
霧彦は考えをより単純にかつ強い思いへと変えていく。
(私達を望む場所へ連れていく足掛かり....いや"道"が欲しい。
その道を作る力を....)
霧彦が目を開けるとドーパント体の色が白から"紫"へと変わり身体に幾何学的な模様が浮かぶ。
手を地面に向けると幾何学模様が地面に投影されそこに無数の建物や景色が写っては消える。
「違う....ここじゃない.....もっと......!?見つけた!」
霧彦がそう叫ぶと雪絵に手を伸ばす。
「雪絵!"直ぐに飛ぶぞ"掴まれ!」
その言葉に雪絵は従い手に触れると霧彦と雪絵の身体が幾何学模様に変わり地面に吸い込まれていった。
そして、景色が変わりそこには檻に入れられている美頭とベットで意識を失っているサラ、そして二人が突然現れて驚いている灯夜の姿があった。
「なっ!貴様らどうやってここに!」
驚いている灯夜を無視して霧彦が動く。
ナスカブレードを手に持ち檻を切り裂く。
「早く彼女の元へ」
「貴方は....ありがとうございます。」
美頭は檻から出るとベットにいるサラの元へ向かう。
「くっ、逃がしてたまるか!」
灯夜はメモリを起動して挿す。
「Chess」
チェスドーパントに変わると兵隊であるポーンドーパントを召喚する。
「奴等を逃がすな!捕まえろ!」
灯夜の言葉に従いポーンドーパントの集団が襲いかかる。
「超高速」
霧彦がそう言うと体色が紫から青に変わり高速移動するとポーンドーパントの集団を切り付けて倒す。
切られたポーンドーパントは倒れると消滅する。
「くっ!ポーンでは相手にならないか....ならばビショップ!ナイト!前へ!」
灯夜がビショップドーパントとナイトドーパントを召喚する。
そして、ビショップドーパントがサラや美頭と霧彦を囲うようにエネルギーフィールドを展開する。
展開されたフィールドにナスカブレードで攻撃を仕掛けるが簡単に弾かれてしまう。
「堅いな。」
「あのフィールドはサラ様の攻撃も防ぎました。
生半可な攻撃じゃ傷一つ付けられません。」
美頭が霧彦にそう説明する。
「そうだ、そしてナイトの能力は全てを貫く絶対的な攻撃力を持つ......行け!」
灯夜の声を合図にナイトドーパントが霧彦に向けてランスを構えて突進してくる。
しかし、その攻撃を超高速による移動で簡単に回避する。
「そんな動きじゃ私を捕らえる事は出来ないよ!」
お返しとばかりにナイトドーパントを背後から斬りにかかるがその攻撃を展開された盾型のエネルギーにより止められる。
「ビショップの力はこんな使い方も出来る。」
攻撃してきた霧彦にナイトドーパントはランスで攻撃するがそれを回避すると気を失っているサラのベット近くに着地した。
「複数のドーパントを召喚し使役できる能力か。
厄介なメモリだな。」
「そのメモリ....ミュージアムが保管していたナスカメモリだな?
と言うことは死んだ筈の園咲霧彦か?
死者が生者の邪魔をするとは驚きだな。」
そう言う灯夜に霧彦は笑って返す。
「信じられないだろうが私は生きているよ。
それにもう園咲じゃなく須藤と言うんだ。」
「ほぉ、冴子様に用済みとして捨てられた分際のわりには元気そうですね?」
灯夜の挑発に雪絵は不機嫌な顔をするが霧彦は気にしていない。
「はは、その用済みに裏をかかれたのは何処の誰かな?
この程度のセキュリティしか用意できないなら獅子神も大した事は無いね。」
霧彦の言葉に灯夜は憤慨する。
「園咲家から捨てられた分際が獅子神を侮辱するな。
お前がこのフィールドから抜け出せる手段は無い。
獅子神の計画の邪魔はさせない。」
灯夜がそう言うと霧彦はブレードを下ろして言った。
「なら、先ずはこのフィールドを破壊してみようか....."超強化"。」
霧彦がそう言うとナスカドーパントの体色が赤く変わり両手が肥大かして尻尾が生える。
「何だその姿は!」
「ナスカメモリの性質をパワーよりに傾けた形態だよ。
それじゃあ、やってみようかな!」
霧彦は握った腕をクロスさせると両手をナイトドーパントとフィールドに向けて振るった。
すると、ナイトドーパントの胸部が凹みエネルギーフィールドにぶつかる。
そして反対のフィールドは凄まじい音と共にヒビが入り砕けてしまった。
「んなっ!」
その威力に驚いていると霧彦が雪絵に言う。
「雪絵....彼女の容態を見てくれ。」
その言葉に従い雪絵がサラに近付くと診察を始める。
「一体どういう力なんだ...」
灯夜が謎の力に恐れていると霧彦が種を明かす。
「その形態は力を限界まで両腕に集めて衝撃と放つ事が出来てね。
速度や特殊な能力が無いが力だけなら一番と言えるだろうね。
例え、ゴールドクラスのメモリが作る盾でも防御に完全に特化していなければ止められないよ。」
「.....成る程、自分の能力をゲームのパラメーターの様に変えられるのか。
しかも、選択した能力が極限まで高められる....ならば他の能力はどうだ?」
灯夜は手を翳すと"霧彦の真下"からポーンドーパントが現れて突撃される。
「ぐあっ!」
そのダメージを受けて霧彦は後退するが直ぐに片腕で殴り付けることで吹き飛ばす。
「やはり力が強化された分、他の能力が落ちるようだな?」
「ははっ....やはりバレてしまったか。」
ナスカメモリの弱点、それは良くも悪くも特化してしまうことにあった。
その能力なら他の追随を許さないがその分、他の能力が下がってしまう。
その弱点を数回の戦闘で見抜かれてしまったのだ。
灯夜は霧彦を見つめて考える。
(今の
衝撃を相手に飛ばせると言っていたがそこまで距離は出せないだろう。
防御力はポーンの攻撃でダメージを与えられるレベル。
遠距離から攻撃するのが正解か?.....いや青色の姿が凄まじい速度を出していた筈だ。
近付かせずに削り切る能力がある駒は.....)
霧彦も同じ様に灯夜を見つめて考える。
(チェスの駒を模したドーパントの召喚と使役を行う。
ポーンは強くないが数を出せる。
ビショップは強力なシールドを貼れる....赤いナスカじゃないと破壊は出来ないだろう。
ナイトは速度が速い...青で無ければ当たるな。
そして、何処までかは分からないが少なくとも灯夜が見える位置なら好きなところからドーパントを召喚できる。
正しく一人で軍を指揮できるドーパント。
私が知っている中でも最上級に強力なメモリか.....
打開するには相手の弱点に刺さる能力がいるが...あまり多くを求めたら私の身体が持たない。
さて、どうしましょうか。)
互いが次の動きについて考えている中、最初に動いたのは灯夜だった。
決心した灯夜は駒を召喚する。
「"ルーク"....前へ」
灯夜の声を受けてルークドーパントが召喚される。
ルークドーパントは両手で身体の鎧を左右に開くと中から大量のミサイルが現れる。
「何っ!」
「放て」
灯夜の命令を受けて無数のミサイルが霧彦に向けて放たれる。
量の多さに迎撃が無理だと悟った霧彦は形態を変える。
「超高速!」
その速度を使いビルを縦横無尽に使って回避していく。周りのコンクリートに着弾するとビルが揺れる。
「逃げても無駄だルークドーパントのミサイルは回避ルートを絞るためだ。
本命はこれだ!」
灯夜がそう言うとルークドーパントの口が開き中から巨大な砲が姿を現す。
「ルークドーパントの能力は相手の移動速度すら関係ない正確な射撃.....いくら速くても逃げ道を限定すれば当たる。」
ルークドーパントは砲身からエネルギー弾を発射すると回避していたナスカに直撃した。
そして、凄まじい煙が上がり視界が効かなくなる。
そして、煙が上がると片膝を付くナスカドーパントが現れていた。
「やはり、一撃じゃあ仕留められないか....ならばもう一発。」
灯夜がそう言ってルークドーパントに指示を出すが動かない。
「どうした?ナスカドーパントを攻撃しろルーク!」
灯夜は何度も命令するがルークドーパントは動かずそのまま地面に倒れ伏してしまった。
「どうした!....!?な?....んだ...か...らだ...が」
灯夜も急に身体が動かなくなると地面に倒れた。
《現状説明》
学校(屋上)
仮面ライダーW vs マンティスドーパント
学校(三階)
芦原親子 vs ハンマードーパント
学校(二階)
京水 vs 根本+ドーパント
学校(一階)
堂本、レイカ vs ???
校門前
照井+特殊部隊 vs シャークドーパント、クラブドーパント
学校外
仮面ライダーデモン、克己 vs レオドーパント、シープドーパント
加頭 vs 井坂(学校から一番離れている。)
居場所不明
黒岩、赤矢、紫米島、白爪
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霧彦兄妹 vs 灯夜
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第百九十二話 Nの行動/与えられた力
雪絵はサラの元へ到達すると彼女の容態を確認した。
(呼吸と脈も正常....寝ているのと変わらないわね。)
そうして近くにいた美頭に言った。
「彼女は意識を失っているけど身体に外傷は無い。
これ以上、治療するなら専門の道具がいるわ。
これは無名が貴方達にと外傷関係に効く薬よ。
取り敢えず、貴方は彼女を担いで安全な場所に隠れてて....」
「貴女はどうするのですか?」
「お兄.....兄貴の手助けに行ってくる。
どっち道あのドーパントを倒さないとここからは抜け出せない。」
「危険だ。
生身で灯夜と戦えば!」
相違って心配する美頭に雪絵は笑う。
「大丈夫、私にはこれをあるし....それにもう"スイッチ"は盗んでおいたから」
そう言うと雪絵は銀色のガイアメモリと霧彦が持っていた装置を取り出す。
「レイカに聞いといて良かったわ。
"スリ"のコツを...」
そう言っていると灯夜がルークドーパントを召喚したのが見えた。
「あれはヤバそうね。
それじゃあ、行こうかしら」
雪絵はドライバーを着けると安全装置を外してメモリを起動する。
「
「.....へぇ、蠍ね。
それじゃあ何れだけのメモリか試してみましょうか。」
雪絵はそう呟きメモリをドライバーに装填すると肉体が変化しドーパントの姿へと変わる。
そして、敵にバレないように天井に飛び上がると貼り付いた。
そして、頭部に御下げの様に付いている蠍の尾を操作すると毒の針をルークドーパントと灯夜へ撃ち込んだ。
その直後、ルークドーパントの砲撃がナスカドーパントへ命中し煙が上がる。
煙が晴れてダメージを受けているナスカへ追撃を灯夜は命ずるがルークドーパントは動かない。
いや、正確には身体に回っている毒のせいで動けなくなっていた。
そして、暫くしてその効果は灯夜の身体にも現れる。
その光景を不思議に思っている兄の元へ降りていく。
「お前は....まさか雪絵か?」
「当たり、流石はお兄ちゃんね。」
「何故、メモリを使っている?
安全装置は確かに私が.....!?....無い。」
「今度からは油断しちゃダメだよ。
敵にも私にもね。」
そう言って雪絵が安全装置を見せて来る。
霧彦は頭を抱えながら言う。
「妹が悪の道に.....」
「今更何言ってるんだが.....それよりその男、早く無効化した方が良いよ。」
雪絵は灯夜を指差して言う。
「雪絵の毒で動けなくなってるじゃないか?」
「正確には毒で"神経が限界まで研ぎ澄まされて"身体が追いつけなくなってるだけ....ほっといたらまた直ぐに動いちゃうわ。」
「そのメモリにはまだ秘密がありそうだな。
分かった何とかしよう。」
霧彦はそう言うとメモリの能力を変える。
「"超拘束"」
すると、ナスカドーパントの体色が黒く変わり背中に六本の蜘蛛の足の様なパーツが現れる。
そして灯夜に向けてナスカブレードを振るうと紫色の蜘蛛の糸が現れて灯夜を拘束した。
すると、メモリが排出されて人間の姿に戻る。
「へぇ、便利な能力ね。」
「恐らくナスカメモリは"全能の力"はあるが融通が聞かないのだろうね?
欲しい力を限定して望めば使いこなせるが、少しでも多く望んでしまえばメモリの力に飲み込まれてしまう。
でも逆に言えば限定さえすれば普通のゴールドメモリを越える力を得られる訳だ。
この超拘束は敵を拘束した瞬間にメモリのエネルギーすら無効化する。
私達がこの場から離れない限りこの力は継続する。」
「なら安心して逃げられそうね。」
「今のところはな.....さぁ、早くこんなところから抜け出そう。
美頭と言ったね?
私の能力でこの場から移動するから全員で固まってくれ。」
美頭はその言葉に従う。
そして、全員を固めた霧彦は能力を使い瞬間移動するのだった。
霧彦達によりサラが救出された事を聞いた獅子神の怒りは限界を超えていた。
だが、それでも思考を途切れさす事はしなかった。
(サラが奪われた以上、奴の部下達はもう使えない。
灯夜も無力化されている以上、駒を増やすことは難しいだろう。
現状、学校にいる部下に任せるしかねぇ.....
俺達は無名と
獅子神は無名に攻撃を放ちながら
(ドライバーを使わず生身で戦っている?
奴が仮面ライダーになれば形勢は完全に無名に傾くのにそれをしねぇ.....いや、出来ないのか?
そう言えば若菜様と最近、戦ったと言っていたな。
それで弱ってるなら、"利用"できそうだ。)
そして、次は相対する無名に目を向ける。
(見た目は変わってはいるが能力はデーモンメモリと変わりねぇ....黒炎の生成、それとゲートによる移動。
いや、そう結論づけるのは早計か?
どちらにしろ今の弱点は大道克己だと言うことだ....なら)
そう考えていると無名が牽制のつもりで放った蹴りを獅子神はわざと受けた。
「!?」
「ぐっ!」
衝撃により吹き飛んだ獅子神はそのまま克己の元へ向かう。
獅子神の意図に気付いた無名が援護に向かおうとするが
「水島!無名を止めろ!」
そう指示された水島は無名の前に立ちはだかり攻撃を加えてくる。
「邪魔ですよ!」
水島の攻撃を回避しながら無名が回し蹴りを当てる。
その攻撃により首の真横に曲がってしまうが水島は自分の頭を掴むと無理矢理戻した。
ゴリッ!
嫌な音と共に戻った頭を気にすることなく無名へと近付き、攻撃を当てていった。
そうして無名が足止めを喰らっている間に獅子神は握った拳を克己の腹部へ打ち据えた。
「ぐはっ!」
あまりの衝撃に克己は吹き飛び壁に激突する。
「やはり、変身出来ないみたいだな。
"丁度良い"。」
獅子神は指を動かして近くに止められていたトラックを克己の頭上に持ち上げると勢い良く落下させた。
しかし、落下するトラックは克己に当たりはせず目の前に現れた無名がトラックを両手で支えていた。
「ゲートで飛んだか。
だが、それは不味いんじゃねぇのか?」
獅子神は笑いながら手を地面につける。
すると、無名と克己にかかる重力が一気に強くなる。
「あ....がっ...」
地面に倒れ伏す克己を無名は助けようと黒い炎の無効化能力を使おうとするとトラックの重量が増した。
「余計なことはするな。
安心しろ
お前の黒炎の力は同時に二つ以上の事象には干渉できない。
男にかかっている重力を止めようとするならトラックを落とす。
そうなりたくなければじっとしてるんだな。」
獅子神にそう言われた無名はトラックを持ちながら言った。
「貴方....の目的...は...時間稼ぎ...です...ね?」
「あぁ、本当ならお前らを潰して学校に向かいたいがテメェ等がそんなに甘くねぇって事は痛い程分かってる。
なら、殺さず足止めするのが正しい選択だ。
だが....それも"お前の目論見通りなんだろ"無名?
ムカつくが頭の出来はお前の方が上だ。
だから、井坂を巻き込んだ。」
「!?....貴方はあの人について理解しているでしょう!
それを!.....ぐっ!」
「喚くな....俺としてもかなり危ない橋を渡っている自覚はある。
だが、それをする価値があると分かっているからだ。
全ては園咲家....いやミュージアムの為に」
そうしていると獅子神のスマホに着信が入った。
「噂をすれば....あぁ、俺だ。
....何っ!どう言うことだ?
何故、そこに財団の者が?.....クソッ!何の為にお前を雇ったと思っている?
...後悔するなよ井坂...」
獅子神はそう言ってスマホを地面へと投げつけた。
「クソッ....クソクソクソガァォァ!
これも貴様の仕業か無名!」
そう言って獅子神は無名を睨み付ける。
「何の...」
「惚けるなっ!.....ならば何故井坂の元に加頭が現れる?」
獅子神の言葉から無名は推測する。
「なる...ほど...助力を頼んでいた井坂を加頭が止めた。
それにその言い分だと井坂は逃げたみたいですね。
どうしますか?
ここで僕達を足止めしてる暇はあるんですかね?」
無名の問いに獅子神は歯を食い縛る。
(井坂は無名が俺の計画に入ってきた時の保険だった。
今いる戦力はあくまで仮面ライダーのみに対応する奴等しかいねぇ。
人質も取られた以上、一刻も早く学校に向かわねぇと....だがコイツらをほおって置くことは危険すぎる。)
獅子神が無名達を追い詰めながらも決着をつけられないのには獅子神のトラウマが影響していた。
メモリを使っての敗北やジェイルメモリの盗難....この全てに無名が関わっている為、無名やデーモンメモリと対峙すると無意識の内に力が弱体化してしまっていたのだ。
普通の獅子神ならばトラックで押し向ける事はせず小型太陽を作り出して消せば良いが無名がいるとその力が使えない程、弱体化してしまっていたのだ。
(チッ....悩んでる暇はねぇ。
無名が学校に辿り着けば計画は終わる。
俺が学校で他の奴等を殲滅するまで時間を稼げれば俺の勝ちだ。)
獅子神は水島に顔を向ける。
「水島、"最終コード"の使用を許可する。」
獅子神にそう言われると水島は変身を解いた。
「最終コード....承認しました。
"最後のご命令を".....」
「無名を俺に近付けさせるな。
殺せなくても構わんお前の命が尽きるまで足止めをしろ。」
「了解しました。」
二人のやり取りが終わると無名の身体にかかっていた重さが一気に軽くなった。
そして、そのまま持っていたトラックを投げ捨てた。
「一体何をしたんですか?」
そう尋ねる無名に獅子神は答える。
「
まぁ、コストが見合わないって事で凍結されたがコイツはその実験体の中でも優秀な個体で命令の遂行やドーパントへの変身以外に最終コードと呼ばれる。
自滅指示が出来るんだよ。」
「自滅指示?」
「肉体の生存を捨てる代わりに使用するメモリの能力を限界まで高められる。
.コイツのメモリは"シープ"....そしてその力を限界まで高めるとどうなると思う?」
獅子神がそう尋ねるがその答えは直ぐに現れた。
人間に戻った筈なのに水島の身体が醜く歪み巨大化していく。
内部からは骨が突き出しその姿はもう人とは呼べなくなってくる。
「良い忘れたがこのコードを使うと体内にある酵素も暴走してな。
メモリを使わなくても肉体の変異が行われる。
元は財団の技術らしいがそんな事はどうでも良い。
さぁ、水島!命令を遂行しろ。」
獅子神の命令に従う様に水島は変異する身体を動かしてメモリを起動する。
「Sheep」
メモリを身体に挿すと何時もと違い隆起した肉体がメモリを包み変異していく。
その変異はもうドーパントへの変身とは似ても似つかない。
人の皮膚を破り蹄や角...そして羊特有の体毛が現れる。
肉体を突き破って出て来た為、体毛や角は血で赤く染まっていた。
「グアァァァッ!.....ギャァァァッ!」
悲鳴にも似た声を上げながら変異を続けていくそのおぞましい姿に科学の怪物と呼ばれた克己ですら目を背ける。
(何だこれは....これが、お袋が知っている科学なのか?)
余りの出来事に呆然とするしかない克己を守るように無名は前に出た。
もうこの怪物は無名の知る仮面ライダーWには存在しない。
だからこそ、自分が始末をつけなければならない。
この物語を狂わせた
後ろにいる克己に無名は言う。
「克己さん....僕がこの怪物と戦い始めたら真っ先に逃げてください。」
「それは....」
「貴方の気持ちも分かります....でも僕は貴方を失いたくない。
こんなところでその命を使わせたくない。
分かってください。」
克己は唇を噛む。
足手纏いだと言われた方が何れだけ良いだろう....だが無名は俺を失いたくないと言った。
それはもう俺が戦う側ではなく守られる側になっていると言う証だった。
悔しさを心に押し込めて克己は無名を見つめていった。
「気を付けろよ....無名。」
そう言うと克己はその場から走り去っていく。
その姿を無名は見送ると目の前の的に目を向けた。
人間の面影すらない羊ともドーパントとも言えない怪物は変異を終えて無名を見据えている。
(獅子神は二人の足止めを命じた....克己さんを追わないと言うことは僕を仕留めてから追う気なのか?
なら好都合だ....僕が長く時間を稼げればそれだけ仲間の死ぬ確率を下げられる。)
無名は覚悟を決めると怪物へと向かっていくのだった。
Another side
倒壊した車と建物...その中に二人が存在していた。
加頭は膝を付き肩で息をしている姿を井坂は悠然と眺めている。
「どうしましたか?まさかその程度で終わりとは言わないでしょう?」
「なめ....ないで...貰いましょうか!」
加頭は理想郷の杖を振るい井坂を引き寄せると手で首を掴む。
「私のメモリは相手の生きる希望を奪い....それを力に変えます。
.....!?何故、力を吸い取れない?
それに...この力は...うぐっ!」
加頭は井坂から奪い取った力を身に宿すと苦しみ手を離してしまう。
今度は逆に加頭の首を井坂が掴む。
「あ....が....」
「生きる希望....ですか?
残念ですが今の私に"人間"として生きる希望など1ミリもありませんよ。
私は人を超えた存在へと進化する。
それ以外、無いのですから.....」
加頭にとって予想外だった事は三つあった。
1つは今の井坂にはユートピアメモリの能力は通じず毒素の塊となったその力を吸い取る事は加頭にとってダメージにしかならないと言うこと.....
2つ目は既に井坂のメモリはシルバーメモリの器に収まらずゴールドクラスと同等以上の力を発することが出来る様になった事.....
そして最後の理由は井坂がメモリの力を完全に使いこなせていたからだ。
今までのウェザーメモリの戦い方は天候の力を使った中遠距離の攻撃と徒手空拳による近接戦を主にしていたが強化されたウェザーメモリとその力と毒素に完全に適合した事により戦闘スタイルが完全に変わっていた。
井坂は空いている手を握ると加頭を殴り付ける。
その瞬間、加頭の身体を巨大な台風が包み勢い良く壁に叩き付けられると身体が凍結し始めた。
「これ....は....ぐぉぉぉぉ!!」
完全に凍結することを防ぐ為、加頭は自身に発火の力を使うと凍結を防いだ。
「面白い能力だ....確かクオークスと言いましたかね?
ガイアメモリと超能力は融和性が高いようだ。
とても興味深い。」
そう言って感心する井坂に加頭は砕けたコンクリートを操ると井坂に向けて吹き飛ばした。
だが、その攻撃は井坂に当たることなく砕けるとその破片から雷が発生し加頭を襲った。
帯電する身体を重力を操作して無理矢理、外すが度重なるダメージにより加頭は動く事が出来なくなった。
「..........」
「そう言えば言ってませんでしたが私はメモリの毒素と完全に適合した影響でメモリの力が変質しましてね。
天候を操るのではなく"天候その物"になることが出来たんですよ。
今の私は竜巻や津波であり雷でもある。
そんな私に攻撃すればその攻撃に反応した力による反撃が自動で行われます。
そして、そんな私が拳を振るえばそれは"天候の攻撃".....いや神話に存在する神の裁きと同じ意味を持つ事になる。」
「理想郷とは所詮、人の枠組みから生まれる力....
その結論を出して上げましょう。」
井坂は握っていた拳を開き抜き手の形を取ると雷と風の力により一瞬で加頭の場所まで近付くとその手を加頭の身体に突き立てた。
狙われた場所は心臓....その手はドーパントになり強化された筈の肉体を簡単に貫きその力は心臓を完全に吹き飛ばしてしまった。
「あ........」
心臓を貫いた井坂はその腕事、振るい加頭を吹き飛ばすと地面に吹き飛ばされた。
「他愛もない....と言うのは少し傲慢ですかね?
しかし、これもまたガイアメモリの真理です。
さて、そろそろ学校に向かわないと獅子神君に怒られて...」
井坂はそう言い加頭に背を向けるとその背中に衝撃が走った。
ダメージにより背中から煙が上がるがそんな事を気にしないように攻撃された方向を見る。
するとそこには先程、心臓を貫いた筈の加頭が平然と立っていた。
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第百九十三話 Tの一撃/プロの戦い
(これは、折れてる?
それに目の前にいるのは....)
目の前で私を守るように立つ男を見つめる。
その顔は今まで写真や動画でしか見たことが無かった会える筈の無い人物。
無理だと分かっても会いたいとずっと願い続けた人....
その人が目の前にいたのだ。
「パパ....私。」
意を決して話し始めた私の声をパパは遮る。
「茜、お前と会う場所としてここは相応しくない。
一階に俺の仲間がいる。
そこまで行けるか?」
「.....でも」
「大丈夫だ....絶対にまた会える。
いや、会いに行くから....」
優しく告げられた言葉に私は無理矢理、身体を起こす。
腕が痛みはするが動けそうだ。
「分かった。
....パパ....私、待ってるから....」
「.....あぁ」
私は会いたかった人に背を向けて一階へと向かっていく。
父が言ってくれた約束を信じて.....
「何してくれてんのアンタ?」
芦原にイライラしながら宮根は告げる。
漸くトドメを刺そうとしてたのを邪魔されて握るハンマーに力が隠る。
「お前らの事は知っている。
教師に命令されてメモリを使っている事もな。」
「ふーん...で?だから私が可哀想だとでも言いたいの?
下らない、私は私が望んでこの殺しに参加してるのよ。
それを邪魔するなんて....許せない!」
宮根は持ち上げたハンマー芦原に向けて振り下ろす。
それを回避しながら芦原は銃弾を当てていく。
「チクチクチクチク、ウザいんだよ!
さっさと死んじゃえ!」
宮根はダメージを無視しながらハンマーを振り下ろしていく。
芦原が回避する度、その攻撃で建物が破壊されていく。
その破片に持っていたライフルが激突し飛ばされる。
好機と見た宮根は一気に近づく。
しかし、芦原は宮根の身体を支柱に倒立すると背後に着地し背中を蹴り上げて距離を空けた。
芦原はNEVERドライバーを着けると先程、現れたトリガーメモリを構えて起動する。
「TRIGGER」
芦原はメモリをドライバーに装填すると一気に展開した。
「変身」
小さく告げられた声と共に芦原の身体が変わっていく。
青がメインカラーにして黄色い模様が装飾された肉体、頭部には反対のTの形をしたアンテナがつき右目にはスコープのラインが刻まれている。
そして、背中には大型化されたトリガーマグナムが現れると芦原は両手でトリガーマグナムを構えると宮根に向けた。
「警告する....メモリを抜いて武装解除しろ。」
「それが遺言で良いの?」
宮根は芦原の警告を無視するように近付いてくるが芦原は冷静に構えたトリガーマグナムを発射した。
Wの使うトリガーマグナムよりも大型化された銃は弾速や威力が桁違いに高い。
撃たれた弾が宮根に当たると大きな火花を上げて後退する。
「ぐぁ!....女の子に何て事すんのよ!」
宮根は怒りに任せて接近してくるがそれを芦原は冷静に対処していく。
先ずは手に持つハンマーに向けて発砲すると手からハンマーを吹き飛ばす。
そして、得意のムエタイをベースにした蹴り技を使いダメージを与えていく。
宮根は反撃しようとするがその動きを銃により阻害される。
「ウザイ...ウザイウザイウザイウッザァァァイ!」
宮根が怒りのまま地面を踏むと芦原の身体が浮かび上がる。
そのまま芦原を殴り付けると浮かびながら吹き飛ばされ距離が空くと浮き上がる感覚が消えて地面に倒れた。
「これは....重力を操作をする力か?」
地面を踏んだ瞬間、発動したことからそれが発動のトリガーになると分かる。
芦原は宮根に向けて発砲する。
すると、宮根は"右手"で壁を叩くと弾が"左"に曲がり壁へと着弾した。
(叩いた場所と逆方向に力のベクトルが働くのか。)
自分の力に気付いた宮根は笑うと地面を叩く。
すると、地面に落ちていたコンクリートが浮き上がった。
「行っけぇぇ!」
そのコンクリートを殴り付けると芦原に向かって飛んでいく。
それを冷静に回避するが背中に衝撃が走りバランスを崩してしまう。
背後を見ると宮根が飛ばしてきたコンクリートが身体に当たっていた。
(ベクトル操作はある程度、操れると言うことか。)
芦原が宮根のメモリの能力を分析していると飛ばされたハンマーを手に取り宮根は背中から小型のハンマーを生成すると手に持ったハンマーで打ち飛ばした。
飛ばされたハンマーが芦原を狙う。
それを回避すると宮根はベクトル操作を行い打ち出されたハンマーがまるでブーメランの様に返ってくる。
それをまた宮根は打ち返す事で無限ループを作り出した。
「いくら逃げるのが上手くてもこんだけ多いハンマーを無傷じゃ避けられないでしょ!」
複数のハンマーを宮根は打ち出す。
回避が難しくなり近くの教室に避難する。
「あはは!逃げたって無駄!」
宮根は逃げる芦原を追うようにハンマーを打ち出す。
ハンマーは教室の壁を易々と貫通すると宮根の元へ返ってきた。
それを軌道を変えながら何度も打ち付ける。
「アンタを!殺したら!茜も!殺して上げる!
二人とも!仲良く!死んで!」
壁に隠れて見えないが打ち出されたハンマーによってダメージを受けているであろうライダーに叫ぶが返ってきた返答は冷たいものだった。
「もういい....."十分に見れた"。」
「え?」
三発の銃声が聞こえるとハンマーが戻ってこなくなり困惑している宮根に機関銃の如き弾丸の嵐が撃ち込まれた。
大量の弾丸は宮根の武器を弾き飛ばすと両手足に正確に命中していく。
撃ち終わり壁が完全に崩落するとそこには無傷の芦原が立っている。
「なん....で.....」
「昔の癖でな。
相手の手札を見ないと攻めない性格なんだよ。
それにトリガーは分析に向いているからな。」
NEVERドライバーにより強化されたトリガーメモリによよりスコープのラインが入った右目には"視界に入れた対象の動きや行動を予測する機能"が備わっていた。
これにより宮根が弾いていたハンマーの軌道を正確に読むことが出来た。
「ハンマーの軌道は見えたがそれをどこまで操作出来るか分からなかったから様子見させて貰ったがあくまで打ち込んだ方向に対して逆側にしか戻らないブーメランの様な能力だな。
だからこそ、戻る途中を弾丸で軌道を変えればハンマーの動きを操作出来た。
そして、その能力を発動させているのが四肢だと分かったからその動きも阻害させて貰った。
関節に銃弾を叩き込んだから動かすのは止めた方が良い。」
芦原が冷静に伝えるがその行動に宮根は驚愕する。
「何でよ....今までの大人は私が暴れたら慌てるだけだったのにどうしてこんなっ!.....」
その問いに珍しく芦原は答える。
「これでも前職で君よりもずっと
ガイアメモリ....ましてや"興奮して冷静な判断"が出来てない者を相手にするのは楽だよ。」
「!?」
「何か薬を打っているな?
行動や言動の節々に現れていたぞ。
テロの常套手段だ。
薬で正常な判断能力を奪った子供に爆弾を持たせて自爆させる。
今回はそれがガイアメモリに変わっただけだ。」
完全に負けている。
その事実を突き付けられた宮根だがそれでも彼女の心には怒りが残っていた。
「ふざけんな...何でも分かった顔して!
その言動がムカつくんだよ!」
宮根は痛みを我慢して無理矢理立ち上がる。
攻撃の意思を持つ事が分かった芦原はメモリを抜いてトリガーマグナムに装填する。
「君をこれ以上暴れさせる訳には行かない。
ここでメモリブレイクする。」
「TRIGGER MAXIMUMDRIVE」
メモリが装填されたトリガーマグナムは独特なチャージ音を奏でる。
「あぁぁぁぁああぁぁ!」
宮根は両腕を振るい複数の壁に叩き付ける。
「それで俺の弾を防ぐつもりだろうが...無駄だ。」
芦原はトリガーマグナムを変形させて全長を長くする。
大型化した影響もあり通常のサイズでもサブマシンガンクラスの大きさだったが変形したことでライフルのサイズに変わっていた。
それを肩に背負うと宮根に向けて走り出す。
宮根の仕掛けたベクトル変化を受けて重心がズレるが身体を動かして壁を蹴り上げると前進していく。
無数のベクトル変化を受けながらも的確に宮根の元へ辿り着くとライフルを胸へと付けた。
「ここならばその力も使えないだろう?」
芦原は引き金を弾くと一発の弾丸が発射された。
弾は宮根の胸を貫通すると一気にメモリも排出させた。
その影響により宮根は元の姿へ戻り気を失う。
「もう1つ言ってなかったがこの右目は"メモリの位置も分かる"。
暫く眠っていろ。」
冷静に分析し相手を無力化する様は特殊部隊だった過去の姿を思い起こさせる。
「"娘には残酷な姿"を見せたくないんでな。」
そう呟くと芦原の無線に声が入る。
「賢ちゃん!今大丈夫?」
「京水か...どうした?」
「ちょっとこっちの相手が手強いのよ!
ヘルプ頼める?」
「分かった....今いるのは二階だな?」
「えぇ、茜ちゃんは無事に一階に行ったから安心して良いわよ。」
「そうか....分かった直ぐに向かう。」
聞いてもないのに娘の事を言ってくれる京水に内心感謝しながら芦原は急いで二階に向かうのだった。
その頃、一階では
レイカに苦戦しているアクセルの救援を任せたこともあり今は一人でドーパントと対峙している。
ドーパントの一人が匿われている生徒に攻撃を仕掛けるが堂本はそれをメタルシャフトでいなす。
他のドーパントも仕掛けていくが堂本得意の棒術により防がれてしまった。
「クソうぜぇ!」「んだよコイツ!」「何で殺せないのよ!」「うるせぇんだよ!」「あぁ、クソッイライラする。」
攻撃をいなされたドーパントは口々に怒りと愚痴を吐く。
何故、堂本がメモリブレイクを選択しないかと言うと全ては後ろにいる生徒と先生を守るためである。
一階から逃がす予定だったが学校の周囲に水を流された影響でその作戦は頓挫していた。
そして、もう1つの計算外は敵となっているのがこの学校の生徒と言うことだ。
堂本達はWと違ってメモリ使用者に害無くメモリを破壊する方法を持っていない。(芦原は例外)
故に無駄な犠牲を出さずにこの場を切り抜けるにはWの助けが必要だった。
(ここに来てからWは見てない。
まだ敵に手間取っているのか?
余り、長い戦闘はドーパントになってる生徒にも被害が出るが....どうする?)
そう悩んでいると事態に変化が起こった。
これまでの攻撃と違う濃密な殺意の籠った斬撃が生徒に向かって飛んでくる。
「くっ!」
いきなりの事に焦りながら攻撃をメタルシャフトで防ぐがそれを待っていた様に新しく現れたドーパントのチェーンソーが堂本の身体を切り裂いた。
凄まじい火花を上げるが堂本はそのドーパントを蹴り距離を離す。
「随分と頑丈な身体ですね....両断どころかろくな傷も付けられない。」
「良いじゃねぇか強いってことはそれだけ楽しめるってことだろ?」
そう言って
「獅子神の部下か....」
「おや?ご存じでしたか。
それにしても、見事な手腕ですね無名さんは....敵でありながら称賛に値しますよ。」
「まぁでも"黒岩とお前らの仲間の娘"を捕まえたら話しは変わるがな。」
「!?どうしてその事を.....」
「それは獅子神が保険で残しておいたんですよ。
もし、無名が邪魔をして来たのならばその二人を人質にする為にね。
貴方の後ろにいる二人の女の子がそうでしょう?」
白爪は楓と茜に顔を向けた。
楓はそれに怯えるがその前に茜は立つ。
「楓に...手を出すな!」
「おやおや、腕が折れてるのに威勢が良いですね?
これなら一本、切り落としても良さそうだ!」
白爪がチェーンソーで茜に斬りかかる。
「させると思うか!」
堂本がメタルシャフトでチェーンソーを防ぐ。
火花を上げている中、白爪が言う。
「敵は私だけじゃないですよ?」
茜に顔を向けると紫米島と他のドーパントが茜に襲いかかっていた。
「クソがっ!」
堂本はメタルシャフトを手放すと茜と楓を覆い被さった。
紫米島と他のドーパントの攻撃が堂本に当たる。
いくらメタルにより強化された肉体でも完全にダメージを打ち消すことは出来ず身体に傷が付く。
「うぐっ!...」
「死体のわりには優しい行動ですがその傷にこのチェーンソーを突き当てたらいくら貴方でも耐えられませんよね!」
白爪が傷付いた堂本にトドメを刺そうとする瞬間、爆炎と共に
レイカは白爪に蹴り飛ばし照井は横にいた紫米島を突き飛ばした。
「堂本!大丈夫?」
「あぁ....二人に怪我は無い。」
そう言う意味で言ってないと言いたいが状況がそれを許してくれない。
そうしていると吹き飛ばされた白爪が起き上がる。
「次から次へと本当に退屈しませんねぇ貴方達は....」
「なら、楽しめなくなるまで蹴り飛ばして上げるわ。」
紫米島はアクセルを見て興奮した声を上げる。
「漸く変身したかぁ!.....さぁ、殺し合いの続きをしようか?」
「黙れ....今の俺は虫の居所が悪い。
これ以上、犠牲者は出さん!」
そして、更に新たな役者が現れる。
校庭に仮面ライダーW CJXとボロボロになったマンティスドーパントが落下してきた。
「逃げてんじゃねぇ!この野郎!」
「クソッ!しつこいな君達は....」
敵味方入り乱れる戦場......
その終わりは近い。
《現状説明》
学校(三階)
芦原親子 vs ハンマードーパント(敗北)
学校(二階)
京水 vs 根本+ドーパント
学校(一階)
堂本、レイカ+照井 vs 白爪、紫米島 他ドーパント
仮面ライダーW vs マンティスドーパント
校門前
照井+特殊部隊(ほぼ全員が戦闘による負傷で気絶) vs シャークドーパント、クラブドーパント(サラ救助により逃亡)
学校外
仮面ライダーデモン、克己 vsレオドーパント(学校へ急行)シープドーパント(暴走)
加頭 vs 井坂(学校から一番離れている。)
居場所不明
黒岩、赤矢
霧彦兄妹 vs 灯夜(敗北)
(サラと美頭は救出された。)
Another side
井坂は心臓を貫かれて立ち上がる加頭を見て驚いた。
「心臓を貫いたのに生きているのはガイアメモリの力ですか?」
その問いに加頭は答える。
「いいえ、流石に人間を怪人に変えられるガイアメモリでもそれだけの力はありません。
財団の科学者が作り出した"ウイルス"を使ったんですよ。」
それは加頭が琉兵衛を秋月信彦に会わせに行った日の事だ。
彼に宛がわれた部屋を後にした加頭の前に白い着物と羽織そして帽子を被った男が現れた。
「あぁん?お前確か加頭だよな?どうしてこんなことにいるんだ?」
「お久し振りですね
今日はクライアントの要望で立ち寄ったんです。」
仮面ライダービルドに登場したヴィランであり原作では財団Xの研究者と言う事しか分かっていなかった。
「成る程なぁ、だから俺の作った次元転移装置を使った訳か。」
そう言って最上は加頭が出て来た扉を指差す。
秋月が使っている部屋やそれを繋ぐ装置は最上が研究している"並行世界を繋げるエニグマ"の技術が応用されていた。
これを使うことでことなる次元や世界の存在を財団Xの所有する区画へと繋げていたのだ。
最上魁星は加頭が知る研究者の中でもかなり優秀な部類に入っている。
だからこそ、財団でも彼は秋月と同じ特別待遇をされている。
財団Xに入る構成員は大きく分けて二つ存在する。
財団に利益を出す為に色々な世界の技術を探して取り込むセールスマンとその技術を自ら産み出す科学者だ。
その中で財団から有益な存在と認められた者は特別待遇を受けこの次元装置で移動出来る自分専用の部屋を与えられる。
そして、セールスマンに対して一定の拘束力がある命令を行えるのだ。
「そう言えばお前の担当している区画ではガイアメモリとかってのが流行ってるんだよな?
人を怪人に変えるメモリなんてファンキーじゃねぇか!
さぞかし面白れぇ人間がわんさかいるんだろうなぁ..」
「そうですね....まぁ、退屈はしませんよ。」
最上は加頭の顔を見て顎に手を当てる。
「おめぇ....少し変わったな?
感情が顔に乗るようになったぜ。」
「そうですか?
あまり分かりませんが...」
「いんや、俺には分かる。
おめぇは楽しんでる!今いる世界での生活を!
良いじゃねぇか!暗い顔して生きていた頃のお前より何倍もマシだぜ。
.....そうだそんなお前に頼み事をしようかな。」
「頼み事ですか?」
「おぅ....おめぇ俺の研究については知ってるよな?」
「はい、エニグマを使って手に入れた並行世界の物質の兵器化ですよね?」
「そうだ....俺の世界にある"バグスターウイルス"とあっちの世界にある"ネビュラガス"...この二つを掛け合わせた兵器を作りたいんだがいまいち上手く行ってねぇ。
まぁ、どいつも癖がある物質だからある程度は覚悟してたんだがなぁ....」
そう言って最上は手に持っていたタブレットを見せて来た。
「ネット世界で発達した新型のウイルス....人間にも感染するのですか?
このバクスターウイルスと言うのは」
「あぁ、人間に感染し細胞を変質させるそれが面白くてなぁ"プログラム的性質"を持って変化するんだ?」
「プログラム的性質ですか?」
「簡単に言やぁ"人間に感染するコンピューターウイルス"って所だ。
しかも、感染した人間をウイルスその物に変換する。
すっげぇファンキーな代物だ。」
加頭はタブレットをスワイプして次の資料を見る。
「このネビュラガスに関しては地球上の物では無く吸収すると怪人化すると書かれていますが.....」
「まぁな、だがそれには"ハザードレベル"って言う。
ネビュラガスに身体が耐えられる基準を超えねぇと行けねぇ。
ハザードレベルが低いと怪人になっても安定せず肉体が消滅しちまう。」
「聞いた限りではどちらとも兵器化するには欠陥があるように思えるのですが....」
兵器とは強力さもそうだがそれよりもある程度の安全性が求められる。
ガイアメモリも毒素による暴走はあるが変身したら死ぬ様なケースは稀だ。
誰が使っても一定レベルの成果が得られる事...それこそが兵器を売る上で最も重要な事と言える。
「だからこそ、この二つの素材の長所を掛け合わせたのが俺の作り出した"ネビュラバグスターリキッド"なんだよ。」
そう言って最上は懐から一本のシリンジを取り出した。
中には紫色の液体が入っており時折その液体はバリバリとテレビの砂嵐の様な点滅を繰り返している。
「これを投与すればバグスターウイルスによる細胞のデータ変異とネビュラガスによる強化、両方が行える。
何体が実験したがこのリキッドを投与した兵士の身体は粉微塵に破壊しても再生した。
まるで、壊れたパソコンのデータを復旧するみたいになな。
だが、何か足りないのか持続しねぇ....復活はしても長くは持たねぇんだよ。
数回、粉微塵にしたら兵士はハンバーグの挽肉から戻らなくなっちまった。
だからこそ、もっと別のアプローチから強化された人間でも試したいんだ。」
「成る程、そう言う意味ではガイアメモリは悪くない着眼点と言えますね?
地球の記憶で強化された細胞にそのリキッドを打ち込み適合すれば"不死身の怪人"が出来上がる。」
「ザッツライト!その通りだ!
まぁ、ゾディアーツで試すのも悪くねぇが彼処の
直ぐに実験体は用意できねぇだろ?
グリードに関しても人間じゃねぇし意味がねぇ。
となったら残るのはガイアメモリ....つまりはアンタの管轄って訳だ加頭さんよぉ。」
そう言うと最上は加頭にリキッドの入ったシリンジを渡した。
「俺には結果とデータを送ってくれれば良い。
他は一切、ノータッチ!
悪くねぇ取引だと思わねぇか?」
「えぇ、そうですね。
では、このリキッドはお預かりしておきます。」
「アンタならそう言うと思ってたぜ!
んじゃ、頼んだぜ思いっきりファンキーな奴に使ってくれよなぁ!」
その言葉を思い出しながらも加頭は井坂に心臓を貫かれる前に容赦なくリキッドを自分に注射した。
そして、心臓を貫かれ投げられると身体にリキッドが浸透し効果を発揮した。
バクスターウイルスの特性により失われた心臓がプログラムとして復活しネビュラガスの特性で全身が強化される。
そして、その力はユートピアメモリとマッチした。
身体からエネルギーが溢れながら身体の調子を確認すると井坂を見つめる。
「では第2ラウンドと行きましょうか井坂さん。」
そう言う加頭を井坂は獰猛に笑う。
「では次のダウンでTKOして差し上げますよ。」
井坂は一瞬の内に加頭に近付くと握った拳を打ち付ける。
加頭はそれをカウンターするように自らの拳と井坂の拳をぶつけた。
両者の腕が弾ける。
生き残ったのは井坂の腕だが、加頭の腕は直ぐに再生する。
「面白いですねぇ!ガイアメモリではない新しい力!
是非とも知りたい!」
「教える気はありませんよ。」
「では殺した後に解剖して調べることにしましょう。」
井坂は容赦なく拳を加頭へ打ち付ける。
加頭はその度に肉体が破壊されるが再生し感情に任せるまま井坂に拳をぶつけた。
そして、次第に形勢が逆転してくる。
(何だ?威力が強くなっているだと!)
井坂は加頭の攻撃に耐えられなくなり防御の姿勢を取り始める。
そして、このタイミングを加頭は待っていた。
井坂の首を捕まえて逃げられなくすると右手に力を集中させる。
加頭の右手は集約されたエネルギーにより空間を湾曲させた。
「それを喰らうのは不味そうですねっ!」
危険を感じた井坂は今の自分が放てる最大の落雷を加頭に落とした。
自分もダメージを喰らうがその程度、問題じゃない。
(エネルギーを集約している時に攻撃を受ければいくら貴方でも無事では済まない....!?)
しかし、電撃を喰らった加頭は身体から煙をあげながらも井坂を睨み付ける。
「まだ....だぁ!」
「させるかぁ!」
お互いの攻撃が当たり二人の間で大きな爆発を引き起こすと吹き飛び変身解除された。
ボロボロになりながらも二人は立ち上がる。
井坂は自分の身体を見て言った。
「予想以上のダメージですねぇ。
これでは獅子神君との約束は守れそうにありません。」
そう言う井坂を加頭は睨み付ける。
「逃がすと...思っているのか?」
「怖いですねぇ....愛は人を狂わせる。
それこそガイアメモリを使わなくても怪人に変える。
貴方と戦うのは非常に有意義ですが私もここで死ぬわけには行かない。
戦略的撤退をさせて貰いますよ。」
「ま....て...」
逃げようとする井坂を追いかけようとするが足が動かず倒れてしまう。
「また何れどこかで....あぁ、冴子君によろしくと伝えておいて下さいね。」
そう言うと井坂はダメージを治療するためその場を後にするのだった。
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第百九十四話 Tの一撃/逆鱗に触れる
一階の階段に大量の生徒と先生....そして彼等を守る様に
両脇には獅子神の部下の二人を
本当なら主犯であるマンティスドーパントをメモリブレイクした方が良い。
だが、それをしている間に後ろで匿われている生徒が被害が及ぶ可能性がある。
人質か主犯....どちらかを選ばないと行けなかった。
どうすれば良い?
そんな悩みを理解するように翔太郎が言った。
「フィリップ、俺達は街の平和を守る仮面ライダーだ。
だから......」
『そうだね。
僕達は兵器じゃない。
ライダーとしての意義を果たそう!』
悩む僕の背中を押して二人はマンティスドーパントを無視して学校へと走っていくのだった。
急な乱入によりパニック状態となったドーパントの生徒達が形振り構わず暴れようとするのをWのビッカーシールドで止める。
その姿を見た堂本が言った。
「随分と遅かったな。」
『すまない...君達は克己の仲間だろ?
生徒達を守ってくれたのか?」
「あぁ、相手は子供だ。
俺じゃあメモリブレイク出来ても命の保証が出来ないからな。」
堂本の言葉を聞くと翔太郎が言った。
「分かったここにいるドーパントは俺達に任せろ。」
「頼んだ...俺はここにいる奴らを逃がす。」
「おい、その怪我で....分かったすまねぇ。」
翔太郎は堂本の傷を心配するが悠長に話す時間がないと分かり彼の言う通りにした。
堂本の指示で生徒や先生が外へと出ていく。
「逃がすかよ!」
「こっちの台詞だ!」
追いかけようとするドーパントをWは抑え付けて逃げる時間を稼ぐ。
両サイドにいる白爪と紫米島も逃げる生徒達を追おうとするがレイカと照井に止められる。
「アンタの相手は私なんだけど....余所見しないでくれる?」
「これは失礼....しかし、こちらも仕事なんですよ。」
そう会話していると照井も紫米島に話す。
「お前との決着をそろそろ着けてやる。」
「ほぅ、面白い事を言ってくれるが良いのか?
逃がした人質が死ぬかもしれないぞ?」
そう挑発する紫米島に照井は静かに告げた。
「ずっと言えなかった事を今言ってやろう。
"警察をなめるな"。
今の風都署は昔と違う....」
そう言いながら照井は風城高校に行く前、警察で準備しているときの事を思い出した。
「貴方が仮面ライダーアクセル....ですよね照井警視。」
二人きりで話がしたいと言われ氷川に呼ばれた照井は開口一番そう告げられた。
その真っ直ぐな目を見た照井は誤魔化すことを止める。
「何時から気付いていたんですか?」
「照井さんはサイコメトリーと言う言葉をご存じですか?」
「確か触れた物からその人物の過去を読み取る能力ですね。
FBIでも捜査の参考になっていると....」
「はい、実は僕の知り合いにそのサイコメトリーが出来る人がいるんです。
偶然なんですが照井さんと会議した時の捜査資料に彼女が触れて....それで貴方が仮面ライダーだと気付いたんです。」
氷川から顛末を聞いて照井は止める。
「ちょっと待ってください。」
「あぁ、信じられないのも無理はありませんね。
ですが.....」
「いえ、そこに関してはそんなに疑ってはいません。
それよりもそのサイコメトリーが出来る女性は警察関係者なのですか?」
「?いえ、普通の民間人ですが.....」
「何故、民間人が警察の極秘資料に触れられたんですか?」
「.........あ、それは....その....」
照井の指摘に氷川は黙ってしまう。
何故なら理由を話せば確実に幻滅されると思っているからだ。
(言えない.....翔一さんの新メニューを食べてて資料を落としてしまい
余談だがその時に出た料理は豆腐と山菜のパスタで氷川は木綿の豆腐をフォークとナイフで上手く掴めず翔一が助け船を出そうとして躍起になり自分の鞄をひっくり返してしまった。
因みにその時に横にあった水も溢し資料が濡れたのは秘密である。
氷川は軽く咳払いすると話を戻す。
「とっ...兎に角、そう言う経緯で貴方の正体を知った訳です。
それでこれは相談なんですが.....」
「.....はい。」
「"警察にこの事実を隠したままこれからも仮面ライダーとしていてくれませんか?"」
「え?」
想定してなかった頼みに照井は驚く。
「その....宜しいんですか?
氷川警視正の立場としてはこの事実を隠すことは汚点に繋がると思うのですが....」
「実はこれは僕の部下にも言ってませんが....僕、貴方以外の仮面ライダーを知ってます。
その人達と共闘してアンノウン....いえ怪物と戦っていたんです。
だから、今さらその隠し事は慣れっこですよ。」
そう言って氷川は笑う。
「それに仮面ライダーは市民の希望であり象徴です。
それを警察が管理するべきじゃない。
....僕はそう思うんです。」
「どうですか?
貴方が風都や捜査関係で仮面ライダーになった時に正体がバレないようにカモフラージュをするならば僕の立場を利用するのは良い考えだと思いますが?」
「.....一つ聞かせてください。
貴方の目的はなんなんです?
俺が仮面ライダーだと言う事実を隠すことに何のメリットが?」
「貴方が仮面ライダーと刑事...両方の視点から事件解決に取り組んでくれれば救える命が増え、より沢山の犯罪を撲滅できる....そう思うだけです。
お願いします。」
そう言って照井に頭を下げる氷川の姿に尊敬の念を覚える。
(全ては救うべき人達の為に....か。
こんな警察官もいるんだな。)
照井は紫米島を押しながらトライアルメモリをドライバーに指す。
「今の風都署はどんな組織よりも強い....お前らのちゃちな甘言に騙される者はいない!
だから俺も俺の責務を全うする!
ここで決着を着けてやる。」
照井はアクセルトライアルへ変身すると紫米島を掴み一階の奥にある体育館へと押し込んだ。
「ここなら邪魔も入らん。
井坂程では無いが貴様との因縁もこれまでだ!」
そう言われ紫米島は笑う。
「ふはっ!今回は本気と言うことか....良いだろう!
ここで決着だ....さぁ思う存分に死合おうじゃないかっアクセル!」
紫米島の腕の刀身が光ると戦いの火蓋が切って落とされるのだった。
学校の外で事態を見守っていた氷川は学校を囲うように作られた川に対処するのに必死になっていた。
特殊部隊の隊長と怒鳴り合う。
「お願いします!小さなボートでも良い。
学校に入って人質となっている生徒を救わないと!」
「無茶です!あの川は風都の地下を通る水道管を破裂させて出来てるんです!
水圧も強くてボートで渡ろうとしても沈むだけです!」
「じゃあ、水道を止めれば流れも穏やかになるでしょう!」
「この水道管は風都以外の都市とも繋がっているライン何です!
止めたりしたら水音町を含めた沢山の都市の水道の供給が止まってしまいます。
水道局が急ピッチで管の再設置を行っています!
それが終わるまでは待つしか....」
「待ってたら中にいる生徒が犠牲になるかもしれないんです!」
そう言いあっていると部下が入ってくる。
「失礼します!今外で人質となっている生徒を発見したと報告が...」
その報告を受けて氷川と隊長はその場所へ向かう。
川を隔てた向かい側には確かに人質が列を為していた。
そして、その前には銀色の仮面ライダーがいた。
「あれは...仮面ライダーか?」
そんな事を言っているとそのライダーはメモリを持っている武器に装填する。
「METAL MAXIMUMDRIVE」
ライダーは持っている武器を思いっきり地面に突き立てた。すると地面が思いっきり隆起し一直線状に土が川からこちらの方へ飛ぶ。
「なっ!攻撃か?」
隊長がそう考えるのを氷川が否定する。
「違います。
飛ばされた土が硬化して....橋になった。
彼は生徒達を助けようとしてるんだ。」
出来上がった橋を通して人質となっている生徒や先生が此方へと雪崩れ込んできた。
「落ち着いてください!
全員助けますから!」
氷川や隊長、そして他の警察官がパニックになっている人を落ち着かせて保護していく。
人の波が少なくなっていき残ったのは|両手に怪我をした生徒を抱える女子生徒の二人《茜と楓》だけだった。
あと少し....そんな刹那、銀色の仮面ライダーの背中から火花が走る。
何者からの攻撃を受けた。
方向は学校側からだった。
持っている武器を手放しそうになり安定していた橋が崩れそうになる。
女子生徒は橋の真ん中にいて怪我人を背負っているため走れそうに無い。
すると、彼女らの立っている橋を傷付けるように攻撃が来る。
銀色の仮面ライダーも止めたいのだろうが武器を手放したら橋が崩れるので手を離せない。
そんな中、氷川は橋まで走った。
誰よりも早く敵の意図を読んだのだ。
(あの二人を川に落とす気だな。
そんな事はさせない!)
走る氷川の元に謎の攻撃が飛んでくるが無視する。
(それよりも早く彼女らの元に....)
そして、二人の前に辿り着くと二人の後ろに立ち盾になりながら彼女等を渡らせようとした。
謎の攻撃が氷川の腕を掠める。
「うっ!」
鋭い斬撃は氷川の腕の肉を切り血が流れる。
それを見た楓が言う。
「刑事さん....腕から血が...」
「僕の事は気にしないで!
大丈夫!これでも鍛えてるからこれぐらい何ともない。」
そう言って笑うと二人を進ませる。
そうしていると学校の中にある森で爆発が起こった。
すると、謎の攻撃が止み無事二人を保護することが出来た。
「氷川警視正!余り、無茶をしないでください。」
その光景を見た隊長が苦言をていす。
しかし、その表情は怒りではなく心配の方だった。
「はは.....でも全員救えた。
あのライダーは?」
「全員渡らせ終わると橋を崩して学校へと戻っていきました。」
「そうですか.....兎に角今は保護した子達の安全確保を...イテテ。」
安心したせいか腕の痛みが復活した。
「その前に治療を受けて貰いますよ。」
そう言われ氷川は救護班へと向かわされるのだった。
野々村はWにやられた身体を抑えながら学校内の森に隠れていた。
「くっ!....全く予想外が多すぎる。」
今回の獅子神の作戦は万全に万全を重ねた筈だった。
説明を受けていた時も失敗するビジョンが浮かばなかった。
だが、結果はメモリブレイクされかけ逃げ隠れている。
「クソッ!このまま成果無しで帰れるか....何か起死回生の一手を」
そう考えていると森の奥に先程、戦っていた銀色の仮面ライダーと逃げている生徒達が見えた。
(どうやら、俺は運が良いみたいだな。
だが、ここで姿を現すのは愚策だな。
仮面ライダーは強い....何か隙があれば...)
そう考えていると銀色の仮面ライダーが地面に武器を突き立てる。
すると、隆起した地面が硬化して川の向こうに掛かる橋を作り出した。
(何て能力だ。
あんな力もあるなんて反則も良い所だ。)
だが、チャンスもあった。
どうやら、あの橋を維持するためには武器を保持し続ける必要があるみたいだ。
ならば、"狩れる"。
野々村はメモリを起動して掌に挿した。
「
野々村の身体が変化しマンティスドーパントへ変わる。
そして、右手の鎌を振り上げると回転させる様に振り下ろした。
振り下ろされた鎌から強烈な風のうねりが発生し銀色の仮面ライダーの背中を斬り付けた。
これがマンティスドーパントの得意とする鎌鼬を飛ばす能力だ。
これを使いこれまで遠くから敵の首をはねて来た。
「ちっ!やはりこれだけ離れて障害物が多いと上手く当たらないか。
それにあれじゃどちらにしてもダメージが薄そうだな.....なら」
野々村は鎌を振るい今度は生徒の方へと攻撃を始めた。
生徒は普通の人間だ軽く当たっただけでも致命傷になる。
(それに見たところ一人は怪我をしているな?
直ぐに動けないのなら痛め付けて時間稼ぎが出来る。
それであの銀色の仮面ライダーが隙を見せた瞬間、狩れば良い。)
野々村の攻撃により傷付く生徒を見て彼は自分でも知らない内に笑っていた。
メモリを手に入れる前までは詐欺師として生きていた。
その時、何が楽しかったかと言えば相手が騙されて絶望していく中、死んでいく顔を見るのが好きだった。
そんな時、偶々、風都に立ち寄りこのマンティスメモリを手に入れた。
それからは自分が騙した相手をこのメモリを使い殺し始めた。
理由は単純だ。
詐欺事件に目を向けない為に殺す....警察も殺人の方を中心的に調べるのは分かっていた。
それにガイアメモリの事件は犯人が特定されづらい....それも犯罪仲間から聞いていたからだ。
だからこそ、メモリを手に入れてからの詐欺の手段は最後に殺しがつくことが普通になっていた。
そして、いつの間にか殺しも楽しめるようになっていた。
そうして活動してる時に獅子神と出会った。
私の性格を知った獅子神は教師と言う仕事を進めた。
「餓鬼を自分の思う通りに操り殺すのは楽しいと思うぜ。
お前のような性格ならな.....」
実際、獅子神の言う通りだった。
人の心を操って殺しや犯罪をさせるのはとても楽しくその後の始末を含めて快感だった。
だからこそ、こんなヤバイ状況でも楽しみだしたら止まらない。
(まだ殺さない....もっともっと怯えてくれ。)
私はわざと外して鎌鼬を発生させる。
それを見て銀色のライダーの身体が震える。
あれは怒りだ....私の魂胆が分かっている。
だが、動けないだろう?
動いたらその橋が崩れてあの二人は水に飲み込まれるぞ?
怪我をした奴は泳げないから溺れて死ぬだろうな?
だから私の楽しみを黙ってみているんだな。
......ん?
誰か橋に向かって走ってくる。
.....私の鎌鼬が怖くないのか?
あーぁ、2人の前に着いてしまったか。
しかも盾になるように立っている。
良いだろうそんなにヒーローになりたいならしてやる。
私の振るった鎌鼬が男の腕を掠めた。
良し次だ.....次で首を落としてやる。
二人の生徒はそれを見てどう思うかな?
....あぁ、楽しみだなぁ。
そう考えて周りを気にしていなかったのが仇になった。
私の目の前で何かが爆発した。
「ぐっ!何だこれは!」
驚いて直ぐにその場を離れるとそこには
赤矢と黒岩の役目、それは万が一の時の犯人が逃げたり仲間が捕まりそうになった時用のサポートだった。
だからこそ、娘に危害が向かっていても我慢していた。
それを知っているからこそ"自分の娘と親友の娘"の両方を殺そうとした目の前の男に黒岩は何も言わない。
これまで殺してきた外道と目の前のドーパントは同じ匂いがするからだ。
目の前で痙攣して動けなくなっている哀れな怪物に赤矢は告げた。
「上手く動けないでしょう?
先程の爆発には筋肉の動きを弛緩させる成分が入っています。
もろに吸いましたから戦うことも逃げることも出来ないと思いますよ?」
そう告げると黒岩が倒れている怪物を掴み上げるのを見て言った。
「殺してはダメですよ。
彼からは情報を聞かないといけないんですから....」
「分かっている。」
その言葉を聞き動けないながらも怪物は安堵したがその後の赤矢の言葉を聞いて戦慄した。
「えぇ、ですから"死なない程度"に痛め付けてくださいね。
また逃げられたら厄介ですから......」
赤矢の言葉を聞いて黒岩は口の毒液を手に吐き出し硬化させた。
その形状はナイフの様になっていた。
「痛覚を刺激する毒で作ったナイフだ。
安心しろ.....殺さずに痛め付けるのは慣れてる。」
その後、警察が現場に向かうと身体を痙攣させながら気絶する野々村の姿があった。
Another side
財団Xの管理する建物で加頭は息を切らしながら心臓を抑えている。
井坂との戦いは引き分けに持ち込むと身体検査をしていた。
「やはり、失われた心臓は再生していますね。」
検査を担当した者がそう言う。
「ドクター最上の考えは正しい様です。
バクスターウイルスとネビュラガスの力は財団にとって有益な結果を残すでしょう。
しかしその分、デメリットも大きい。」
「デメリット....ですか?」
「はい、心臓付近の細胞分裂のスピードがかなり上がっています。
恐らく、強力な力に肉体が適応する為、進化しているんでしょう。
その分、消費も激しい。」
「どれくらい持ちますか?」
「分かりません。
何せ始めての組み合わせですからネビュラバグスターとガイアメモリがどんな反応を及ぼすのか。
ただ言えるのはこのまま放置すれば近い内にその心臓は限界を迎えるだろうと言うことです。」
加頭は言われた言葉を頭の中で反芻させる。
(本当なら直ぐにでも治療すべき案件だ.....だが今、私が風都を離れたら誰が冴子さんを守るんだ?
それに、井坂の事も捨て置けない。
弱っている冴子さんにつけこむかもしれない。
せめて、井坂だけでもこの手で殺さなければ....)
そんな事を考えていると閉められていた部屋の一つから
秋月 信彦が現れる。
加頭を見て信彦は言った。
「随分と辛そうだな。
何かあったのか?」
「いえ、少し無茶をし過ぎただけですよ。」
そう言うと信彦は加頭を見つめて言った。
「心臓か?....何か不具合があるように見えるが」
「何故、そう思ったのです?」
「俺の元いた世界では改造手術が主流だった。
その研究をする中で沢山の疾患を見てきたからな。
お前の苦しみ方が心臓をやっている奴とそっくりだったからそう思っただけだ。」
「..........」
「その足取りから推察して財団で調べて貰ったのか?」
「えぇ、良い意見を頂きましたよ。」
「..........」
その返答を聞いて信彦は黙る。
沈黙を破ったのは加頭だった。
「何処かへお出掛けですか?」
「......奪われかけている遺物を取り返す。」
「それは大変ですね。
相手は破壊者ですか?それとも魔王?」
「今回は
面倒なことは代わり無いがな。」
「そうですね。
全く厄介な存在ですよ。」
それは信彦が突然告げた。
「お前は死ぬ気なのか加頭 順?
心臓のダメージなら即刻治療するべきだ。
財団がいくら最先端の技術を有していても手遅れは存在する。
お前レベルのエージェントは替えが利かない存在の筈だ。
上層部がその事実を知ればお前は....」
「そんな事はあり得ません!
私はまだ風都での仕事を残しています。
仕事を終わらせず抜けるなど主義に反する。」
「詭弁だなそれならもっと別のやり方をとる筈だ。
一体何を恐れている?」
心を見抜かれている言葉に加頭は黙ってしまう。
それを察したのか信彦は語り出した。
「俺が超越者について知りたいのは光太郎の結末についてでもあるが.....本当のところは違う。
まだ俺がバカやれる程、若かった頃、"愛していた人"がいた。
色々とあったが俺はその人と出会ったことを感謝こそすれ後悔はしていない。
そんな人が俺達に言ったんだ。
"怪人が怪人のままに生き寿命を全う出来る世界"を作りたいってな。
超越者について全ての事が分かれば....本当に叶えられる気がするんだ。
光太郎、オリバー、バラオム、ビジュム、ダロム.....そして、ゆかりが犠牲にならない世界を...そこでまた皆とバカな事がしたいんだ....俺は」
「...........」
「まぁ、つまり俺は"惚れた女の願いを叶えたい"だけだ。
その為に財団にいて魔王や破壊者と戦っている。
加頭....人生で本当に大切な選択は一回しか出来ない。
だからこそ、"欲張れ"。
誰かの為だけじゃなくて自分とその誰かの為に動いてみろよ。」
「貴方のように....ですか?」
「さぁな。
だが、後悔はしない。
後はお前が決めろ....」
そう言うと信彦はその場を後にする。
その後ろで加頭は小さく「ありがとう」と伝えると覚悟を決め、その場を後にするのだった。
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第百九十五話 Lの来襲/月の悪夢
頭の中ではこの後の展開を考えている。
(紫米島との連絡が途切れた....と言うことは奴等も無名の部下か仮面ライダーの相手をしてるってことだ。
こっちの
アイツがここに来るまでは時間がかかるだろう。
問題はそれまでの間に俺らが来人様を確保できるか?
それも"無傷"で.....)
獅子神にとってフィリップとは敵である仮面ライダーの片割れでもあるが園咲家の血を引く存在であり蔑ろにしてはいけないと考えていた。
もし、傷を付けて琉兵衛様にお渡しすれば例え任務を完了しても消される可能性が残る。
獅子神が安全に手柄を得るには来人の無傷の捕獲は絶対条件だった。
獅子神は冷静に敵の戦力を分析する。
(NEVERの奴等は正直敵じゃねぇ。
どんなに強くなってろうが
問題はWと無名の部下の黒岩と赤矢だな。
エクストリームとか言う力は強力だ。
俺のメモリの弱点を正確に突ける。
赤矢の幻覚を見せる爆弾も俺のメモリとは対象が悪い。
そっちに集中すると黒岩の狙撃が飛んで来る。
搦め手が好きな
そうして考え終わると一つの結論に達した。
(先ずは黒岩と赤矢をさっさと始末しよう。
それからWの相手をすれば良い。)
獅子神はそう決めると移動しながら先制攻撃を行う為、両腕に力を貯めるのだった。
二階で繰り広げられていた
「あぁん!もう!厄介な能力ねそのメモリは!」
そう言って京水は根本が変身しているドーパントを見る。
皮膚がボロボロに崩れて骨が見えていながらもその姿にはドーパント特有の怪物の表現が為された根本は京水との戦いで倒れた
「また、そうやって無理矢理戦わせて....彼等は貴方にとって友達じゃないの?」
京水の問いに根本は答える。
「えぇ、友達ですよ。
従順に僕の為に動いてくれる優秀な
だからこそ、僕の"ゾンビメモリ"と相性が良いんですよ。」
根本が使うメモリはゾンビメモリ、能力は触れた相手を操れるエネルギーを流し込むことが出来る。
しかし、この能力を使う相手には"重症の怪我を負っている"のが条件だった。
この能力で復活させた2人の生徒を京水は相手をしていた。
(くっ!思ったよりも厄介ねあのメモリの力。
ただ復活させるだけなら手加減してメモリブレイクすれば良いけど操られている子達は重症を負っている。
多分、私のメモリブレイクじゃ彼を殺しちゃうわ。
それを分かってるからあの坊やはさっきから自分で攻撃を仕掛けないのね。)
「悪知恵の働く坊やね。
お姉さんがお仕置きしてあげるから覚悟してなさい。」
「なら、早く僕の友達を殺さないと間に合いませんよ。
ほらぁ早く早く。」
根本は笑いながらこちらを挑発する。
それを見た京水は何故か強い苛立ちを覚えた。
(何故かしらあの坊やを見てるとみょ~うにムカつくわ。)
そうしているとゾンビ化したアームズドーパントのガトリングが火を吹く。
京水は冷静に回避しながら打開策を考えていると待ち望んでいた打開策が現れた。
その瞬間、京水はルナの力で仮面ライダーメタルを作り出すと自分の前に立たせてアームズドーパントの攻撃から身を守る。
「なっ!そんな能力が!」
そして、京水がメタルシャフトを伸ばして二体のドーパントを捕縛すると叫んだ。
「今よ!賢ちゃん!」
その声に従うように遠くから一発の"青い弾丸"が放たれ二体のドーパントを貫通すると即座にメモリブレイクして二人の生徒は意識を失った。
「そんな.....バカなっ!」
「そんな風に余所見してちゃダメよ?」
驚いた根本が背後を見るとそこにはマキシマムスロットにルナメモリを指す京水の姿があった。
「思い出したわぁ....アンタのその性格、私を刺したあの
だからイライラしたのよ。」
「なっ.....何を...」
「アンタみたいな悪い考えしか出来ない子供を助けるには私の溢れるばかりの母性が必要....だから安心して身を委ねなさい。」
この瞬間、根本の身体に電流が走った。
何故かは分からない。
だが、この場をいち早く逃げないと危険だと本能的に感じたのだ。
だが、それを許す程、目の前の男は優しくなかった。
「LUNA MAXIMUMDRIVE」
京水がマキシマムスロットを押すと金色の鎖が根本の四肢を縛り動けなくする。
そして、京水は根本に向かって抱きつくとその鎖はまるで京水と根本を包み込むように絡み合った。
「ぎゃあぁぁぁぁぁぁ!!」
「クネェクネェクネクネェ♪
スリィスリスリスリィィィ♪」
根本の身体に自分の身体を擦り付ける(主に股間を重点的に)しながらルナのエネルギーが根本を包み込んでいく。
一応、誤解を防ぐ為言っておくがこれはルナメモリのエネルギーを全身から発してメモリを破壊する技である。
人体を接触させる事で負担無くメモリブレイクする事が出来る。
重ねて言うがこれはメモリブレイクであって京水のプレイでは無い。
「はっ...離せぇ!俺を離してくれぇぇぇ!!」
根本の悲痛な声が二階に響く。
「あら駄目よ!
貴方はオイタをした悪い子なんだからお姉さんが更正させてあげる♥️
さぁ、このままフィニッシュまで行くわよぉぉぉ!」
「嫌だぁぁぁ!誰かぁぁ!助けてくれぇぇぇ!」
「このまま一緒にぶっ飛びぃぃぃ!!」
そしてそのまま京水の光によって包まれた根本の身体からメモリが排出されると元の姿に戻った。
だが、その顔はまるで長時間の拷問の末、意識を失った兵士の様に歪んでいた。
メモリブレイクが終わると京水はメモリを抜いて立ち上がる。
「ふぅ、これで一件落着ね!」
「お前は、鬼か?」
その行為を見た芦原は敵でありながら倒れている根本に心底、同情するのだった。
所変わって、
強烈な炎を纏った蹴りが白爪を掠める。
そして、レイカの接近を許さない様に振るったチェーンソーがレイカの脚に当たる。
先程からこの流れを繰り返していた。
「アンタさ、やる気あるの?
明らかに時間稼ぎだって見え見えなんだけど」
そう言ってイラつくレイカに白爪は言う。
「君達の力は驚異だ。
獅子神なら兎も角、私達の強さでは正面切って君達には敵わないだろう。
だが、別に勝つ必要はない。
お前達を足止め出来てさえいれば事態は好転するのだから.....」
「ふーん、でも時間稼ぎ程度で勝てると思ってるなら甘いんじゃない?」
レイカはそう言うと両足に搭載されているトリガーマグナムを弄る。
銃をマキシマムと同じ様に変形させると構え白爪に蹴りを加えた。
白爪は同じ様にチェーンソーでガードしようとするが途中で止めて全力で回避した。
「どうしたの?さっきみたいに受ければ良いじゃん?」
「ご冗談を....受けたら腕事、吹き飛ばしていたんじゃないですか?」
白爪の考察にレイカは感心する。
「へぇ、直感で分かるなんてアンタ凄いじゃん。
そう、私のコレは普通の武器と違って特別製何だってさ。」
レイカを含めたNEVERの面々はは無名からNEVERドライバーと付随する武器の特性について教わっていた。
「へぇ、アタシの武器はこの銃なんだ?」
「えぇ、ですが普通とは少し使い方が違います。」
無名はタブレットを操作して画面を見せる。
そこにはレイカが変身する仮面ライダーヒートがホログラムで映っていた。
「ヒートメモリはWの持つメモリの中でトリガーやファングに次いで出力の高いメモリです。
単純にパワーが高いとも言えます。
そのメモリの力を100%活用する為に作ったのが貴女の専用武装であるトリガーマグナム....いえヒートマグナムなんです。」
「これは貴女の体内で生成されるエネルギーを熱エネルギーに変換し放出します。
通常形態では出力を"30%"に抑えることで威力は下がりますが汎用性の高い性能に収めています。」
そうして画面には炎の力を使い空を飛んだり火柱を上げるヒートが映った。
それを見た京水が言う。
「凄い威力ねぇ....何れぐらい熱いの?」
「推定、800度の高熱を発しますね。」
「800度!?....凄いじゃない。」
そう言って感心する京水を尻目に無名は続ける。
「しかし、あくまでこれはリミットをかけた状態、ヒートマグナムを変形させることで性能を100%発揮できます。
しかし、威力を追い求めた結果、汎用性や射程がかなり犠牲になりました。
この形態では爆炎や火柱は上げられません。」
「別に良いよ。
どうせ蹴れば良いんだし....威力はどうなの?」
レイカの問いに無名は答える。
「"瞬間火力10万度の高熱"に貴女の蹴りが加わればどんなに堅牢なドーパントでも貫けると思いますよ?」
その蹴りを見た白爪は冷や汗を流した。
(あれは一発でも受けたら終わりですね。)
何故そう言えるかと言うとレイカの蹴りを回避した時、頬を軽く擦った。
その頬に手を当てる。
頬の傷は再生すること無く残り続けていた。
リザードメモリは細胞の活性率を上げた再生能力を使いダメージを回復する。
そして、その回復力をメインにした戦い方をこれまでしていた。
そんな白爪にとって傷が治らないと言うことは.....
(活性化すべき細胞が根こそぎ破壊された....それも跡形もなく。)
そんな芸当が出来るのは概念事、消し去る
(時間稼ぎは止めですね。
どうにかして変身解除か殺さないとこちらが殺られてしまう。)
白爪は少ない時間で作戦を立てると即座に実行した。
腕のチェーンソーをレイカに向かって振る。どう考えても届かない距離だがレイカの肩から火花が上がった。
地面を見ると"小さな刃"が沢山、刺さっていた。
「このチェーンソーには私のリザードメモリの力があります。
それを使ってチェーンソーの刃を相手に放てるんですよこんな風にね!」
そう言いながら放ってくるチェーンソーよ刃をレイカは蹴りを駆使しながら回避していく。
「残念ですが....この再生能力はチェーンソーの刃にも有効なんですよ。
だから、弾切れを狙っても無駄ですよっ!」
そうして途切れる事無く刃を放ってくる白爪にレイカは怒りながら蹴りを放つと放った場所の空気が歪みその場所にあった刃が焼失した。
それを見ると白爪は柱に身体を隠した。
("15秒".....あの馬鹿げた威力の蹴りを放つのにかかるインターバルはそれぐらいですか。
そして、恐らくあの状態だと最初のような爆炎は打てなくなるみたいですね。
まぁ、あの爆炎くらいでは死にませんが....)
そうして白爪は冷静に策を練る。
(次にあの攻撃を誘発させてから接近して一撃を加える。
15秒あるなら一撃くらいは当てられる筈.....そしてそのまま紫米島を連れて戦線を離脱。
そして獅子神が来てから片付ける....こうしましょう。
獅子神も連絡が取れなくなった事に違和感を覚えてる筈ですからそんなに長くはかからない。)
そうして白爪は15秒数えるとレイカの前に現れてチェーンソーの刃を放つがそれをレイカが白爪に投げた"教室の机"によって防がれてしまう。
机にチェーンソーの刃が食い込むが壊れはしない。
(まずいっ!足止めを潰された!)
己の失策を示す様にレイカが接近してきた。
「これでも喰らいな。」
レイカの脚が白爪の腹部へと向かう。
白爪は身を捩らせてかわそうとするがそれを読んだようにレイカの足刀が白爪の脇腹を切り裂くように振るわれた。
切られた肉が蒸発すると白爪は苦悶の表情を浮かべる。
「あっ.....か.....」
「これでも蹴り技ならNEVERで克己よりも上手いのよ私。
そんな子供騙しじゃ避けられないよ。」
白爪がダメージを受けたのは一重にレイカがこれまで培ってきた戦闘経験の賜物であった。
そして、もう二度と誰にも負けないように修練を重ねてきたのだ。
蹴りに関しても芦原からムエタイを学び水音町に移ってからはサバットを覚えて自分独自の武術体系を確立した。
相手が紫米島なら対応できたかもしれないが武術の経験がない白爪には避けることが難しい攻撃だった。
だが、それでも白爪は獅子神の部下だった。
切り裂かれた腹を庇わずチェーンソーをレイカの肩に当てると思いっきり引き切った。
途中で意図に気付いたレイカは切られながら白爪を蹴り飛ばすが両者とも片ひざを地面につけた。
「うっ.....クッ....ソ...」
そう言って肩を抑えるレイカに白爪が言う。
「"勝てないなら動けないぐらいの傷を負わせろ"....獅子神が良く言っていた言葉です。」
「けど....アンタも動けないでしょう。」
「えぇ、このままではねっ!」
白爪は切られた腹に自分のチェーンソーを押し当てて切りつけた。
「うっ....ぐあぁぁっ!」
「アンタっ!何してんのよ!」
驚くレイカを余所にチェーンソーを腹部から離した。
「傷が回復しないなら回復できる様に傷付ければ良い。
これで傷は完治します。」
白爪の言う通り腹部の傷はチェーンソーで抉った事で完全に再生した。
そして、白爪は立ち上がるとその場を後にする。
「逃がすかっ!....うっ!」
「無理をしない方が良い。
相討ち覚悟で付けた傷です。
少なくとも今の私を追える程のケガじゃない。
安心してください。
形勢が傾くまで隠れるだけですから....」
そうして出ていく白爪をレイカはただ見ていることしか出来なかった。
『「PRISM BREAK」』
Wのプリズムブレードが立ちはだかるドーパントを撫で切りしていく。
全員斬り終わると爆発が起こり全員メモリブレイクされ元の風城高校の生徒の姿へ戻った。
「ふぅ、これで全員かフィリップ?」
『あぁ、だが主犯を逃がしてしまった。
今から追って間に合うかどうか....』
「仕方ねぇよ。
今は救えた人の事を喜ぼうぜ。」
『そうだね翔太郎。』
そんな話をしていると上空から猛スピードで何かが校庭に飛来した。
地面に到達した衝撃波で土煙が上がる。
「うおっ!何だ一体!」
その正体に最初に気付いたのはフィリップだった。
『気を付けて翔太郎!
どうやら、本腰を入れてきたみたいだ。』
翔太郎もその姿を見て納得する。
「そうみたいだな.....そろそろテメェにも罪を数えてもらおうか。
"獅子神!"」
これをかけられた獅子神は不敵に笑う。
「ほざけ来人様がいなければ何も出来ない凡人が.....まぁ良い。
今度こそ貴様に引導を渡す。
左 翔太郎....いや、仮面ライダー!」
獅子神はそう言うとクレーターとなった地面を踏みしめWへと向かっていくのだった。
《現状説明》
(敵勢力)
野々村(黒岩の毒により行動不能)
宮根(芦原によりメモリブレイクされる。)
根本(京水によりメモリブレイクされる。)
他生徒(仮面ライダーによりメモリブレイクされる。)
白爪(レイカと相討ちになりダメージを癒す為、潜伏中)
紫米島(照井と戦闘中)
水島(無名、克己と戦闘中)
獅子神(学校到着後、Wと戦闘開始)
(味方勢力)
堂本、レイカ(ダメージ回復の為、一時的に変身解除)
芦原、京水(二階鎮圧後、校庭で獅子神を確認。)
照井(紫米島と体育館で戦闘中)
翔太郎、フィリップ(校庭で獅子神と対峙。)
無名と克己(暴走した水島と戦闘中。)
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第百九十六話 Lの来襲/人斬りの過去
いくらリザードメモリで強化された再生能力でも回復に体力を使うことは変わりない。
それが強力な攻撃なら尚更だ。
(早く、紫米島を回収しないと行けないんですがね。)
紫米島は今、アクセルと戦っている。
思えばアクセルとは風都に来る前から因縁がある。
それも紫米島にとっては自分に傷を付けた相手として余計にのめり込んでいた。
("悪い癖"が出なければ良いのですが.....貴方は曲がりなりにも獅子神の"お気に入り"なのですから)
そう思った白爪は体力が戻るまで身体を休めるのだった。
体育館に連れてこられた紫米島は怒るどころか喜んでいた。
「あぁ、嬉しいぞアクセル!!
漸くあの時の決着がつけられると言うものだ。」
「そうか....だが俺は負ける訳には行かない。
仮面ライダーとして....そして"警察官"として!」
警察官と言われ紫米島の動きは止まる。
「調べたのか?」
「あぁ....署長室の隠されていた機密ファイルを見つけた時にな。」
照井は獅子神の部下について調べていたが全く情報が出てこなかった。
特に紫米島に対して照井は違和感を覚えていた。
(あれだけの剣術を収めていて名が広まっていないのはおかしい。
それに紫米島と言う名前....明らかに実名な筈なのに風都署のデータベースに全くヒットしなかった。
不自然な程に、情報が出てこない.....何故だ?)
そして、その答えは風都署の汚職事件を摘発し署長室を調査した時に見つかった。
ご丁寧に署長室にある本棚を動かしていると中から隠し金庫が見つかった。
そして、署長を尋問して聞き出したパスワードを使って開けると中には一冊のファイルが入っていた。
そこにはおぞましい事件が書かれていた。
「紫米島家は先祖代々、武家の家系で風都署でも剣術指南を行っていた。
だが10年前、何者かにより一家と門弟を含めた"35名"が道場内で斬殺され生き残ったのは当主の子供だった
資料にはそう書いてあったが詳しく調べてみると死んだ筈の紫米島 甲斐の遺体は何処にも無かった。」
「成る程、そこで分かった訳か。
答え合わせが必要か?」
「あぁ.....紫米島 甲斐。
お前は事件当日、何をしたんだ?」
照井の問いに甲斐は心底つまらないと言う口調で答える。
「単なる"死合い"だよ。
まぁ、弱すぎてただの斬殺現場でしか無かったがね。
.....父から何時も言われていた。
"力には責任が伴われる。
だからこそ、我々はこの力をよく考えて振るわないといけない"とね。
だが、そんなのおかしいだろ?
力とは刀とは暴力を振るう手段だ。
そして、それを突き詰めて余計な成分を排除したのが武術の筈だ。
人を効率良く殺す技を学び腕を磨いている俺が何故、そんな自制をしないといけない?
最初は大人しく従っていたが、時が経ち、刀と技の練度が増せば増す程、この自制が邪魔になった。
そして、決めたんだ。
"自らを自制して得た刀と技....そしてそれを捨てた俺の刀と技、どちらが強いのか決めよう"とね。
門弟が全員いる日を狙ったのもわざとだ。
父の教えで強くなった刀を味わうには一人では足りないからな。
そして、答えが出た。
俺が"門弟を全て殺し父と母の首を斬り飛ばした"時にな。
それからは父の剣を習った警察官を狙った。
そんな折に俺は獅子神と出会い奴はメモリをくれた。
奴は俺にこう言ったよ。
"人を斬って斬り続けた先の
その言葉に惹かれて俺は獅子神についた。」
真実を聞いた照井は握っているエンジンブレードが震える。
「何故だ....何故そこまで非情になれる!
両親を殺してまでお前は何を手に入れたかったんだ!」
「俺が求めるのは最強の刀と技....そしてそれを振るう環境だ!
ガイアメモリを使おうが変わることはない。
寧ろ、ガイアメモリの力で俺の技は更に進化した。
獅子神には本当に感謝している。
俺をこの安穏とした世界から見つけ出してくれたのだからな。」
「何っ!」
「お前なら分かるだろう?
俺は
まぁ、俺からすれば他の全てが異常なんだが......
そんな俺の願いはこの平和な世界じゃ叶わない。
理解者がいない孤独な道は人の可能性を狭める。
武士も数々の仲間や敵と戦うことで今の武術へと昇華させてきた。
だが、現代でそれが出来るか?
仮に出来たとしてソイツらを殺せば俺は強くなれるのか?
断言しよう無理だ。
この世界は平和に慣れ過ぎた。
平和は人を堕落させる。
直感を鈍らせて人本来の強さを弱めた。
そんな奴らが世界の支配者を気取っている。
愚かだと思わないか?
人本来が持つ暴力性に極められた武術が加われば人は本当の意味で最強となる。」
「そんな事の為に....お前は両親を手にかけたのか!」
「そうだ。
邪魔をすれば死ぬ。
当然の摂理だ。」
「何にも思わなかったのか!死ぬ直前までお前の両親は何を願っていた!」
「知るか。
興味もない....さぁ、早く始めよう。」
そう言う紫米島に照井は決心する。
「お前を必ず逮捕する。
そして、お前の両親が最後に残したかった意思と誇りは....俺が守る。」
照井は握りしめたエンジンブレードを両手で持ち構えた。
それは剣道で使う両手持ちの構えであった。
「行くぞ!」
「あぁ、来い!」
照井はトライアルの高速移動で瞬時に間合いを詰めるとブレードを振り下ろす。
それを紫米島は左手の刀で捌き右手の刀で反撃する。
照井はその刃を鍔迫り合いさせながら重心をかけて横に半回転することで回避した。
「やるなぁ、"戻り太刀"を回避するか。」
「お前の家を調べている時に紫米島家の資料を見つけてな。
ある程度、分析させてもらった。
お前の技は相手の攻撃を見て行動するカウンタータイプがほとんどだった。」
「ほぉ、ならこの技はどうかなっ!」
紫米島は両手の刀を重ねると手を伸ばして突進した。」
それを照井は避けると懐まで一気に加速した。
「甘いなっ!」
しかし、紫米島はそれを待ってたかのように刀を逆手に持ち照井の背中を刺しにかかる。
だが、照井はその攻撃を目を向けずにエンジンブレードを背中につける事で刀がブレードに当たり回避する。
「何っ!」
「確か"突き太刀"だったか?
映像で見たがお前の父親の方がもっと鋭かったぞ?」
そう言って拳で紫米島の腹部を殴る。
「うぐっ!....ほぉ、見ただけで防げるようになるとは優秀だな。
ならばこれはどうだ?」
紫米島は肩に刀を担ぐとアクセルへと突進する。
「"首狩り太刀".....父が試合で使うことを禁止した技だ。」
そのまま両サイドから刀を首に向かって振るう。
しかし、照井はその刀の間にエンジンブレードを押し当てて攻撃を止めた。
「それを待ってた!」
しかし、紫米島は刀を返して押し込むと照井の首に刃が迫る。
エンジンブレードで抑えたいがそれを紫米島は許さない。
一気に両方の刀を外側へ引き斬ろうとする。
「くっ!」
「JET」
照井はとっさにエンジンブレードを起動しジェットのエネルギー弾を紫米島に当てることで何とか距離をとる。
そのお陰で刀の刃は照井の皮膚一枚を切り裂いて終わった。
一分にも満たない攻防の中だがこの戦いは照井の精神を消耗させた。
「はぁはぁはぁ」
だが、紫米島は歓喜する。
「あぁ、良いね良いね良いねぇ!
これこそ殺し合いだ!
1つの判断ミスが死に繋がる....あぁ、何て楽しいんだ!」
紫米島は両手の刀を地面に突き立てた。
「ここまでは紫米島家の技だ....だがここから先は俺が編み出した俺の技を使わせて貰おう。」
紫米島の両手から煙が発生すると突き刺した刀を包み飲み込んだ。
そして、その煙は紫米島の両手に集まる。
「スモッグギジメモリは元々、俺の武器だけを煙にするために手に入れたメモリだ。
これまでは調整が上手くいかなくてなぁ。
最初にお前と戦った時は不甲斐ない姿を見せた。
だが、メモリと完全に適合したお陰で俺の望む力へと変わった。
さぁ、これこそが俺の考えるガイアメモリと武術が融合した1つの形だぁ!」
右手の煙を照井に向かって放つ。
トライアルの速度でそれを回避して背後から攻撃しようとするが直感で危険を感じた照井は後方に一気に飛び退けた。
突如、照井がいる筈だった場所の地面に無数の巨大な斬撃が現れる。
「"呼び太刀".....煙になった刀を敵の回避に流れる様に進ませることで自動迎撃する技だったんだが....まぁ、お前なら回避するか。
だが、良いのかじっとしていて?
そこはもう俺の間合いだぞ?」
「しまっ!」
突如、照井の正面と背後を挟む様に斬撃が起きた。
「ぐあっ!」
「"重ね太刀"....煙となった刀は薄く広げれば目で見ることは出来ない。
そして、斬りたい時に煙を集めれば刀が斬撃を浴びせる。」
「なら、固めてしまえば良い。」
「STEAM」
照井は煙を実体に戻そうと周囲に蒸気を撒くがその蒸気が煙に触れた瞬間、斬られ分断されてしまった。
「何っ!」
「言ったろう?この煙は"刀であり斬撃"だ。
俺の身体ならまだしも斬撃を戻せば斬れるのは当たり前だろう。
さぁ、これで仕舞いとしよう。
お前がバカみたいにタフなのは知っている。
恐らく、一刀では斬り殺せないだろう。
だから、限界が来るまで斬り続けてやる。」
そう言うと照井の周りを囲うように煙が発生する。
嫌な予感がした照井は走って回避しようとするが、煙に近付いた瞬間、斬られてしまう。
「高密度の煙の斬撃だ。
さぁ、死ぬまで踊れ...."踊り太刀"。」
紫米島の合図と共に煙が照井を包む。
「ぐぁぁぁぁぁ!」
止むことの無い無限の斬撃が照井を襲う。
トライアルの薄い装甲を斬撃は貫通に肉を斬られ骨にまで斬撃が及ぶ。
そして、斬撃はトライアルメモリに傷を与えると変身解除に追い込まれる。
しかし、それでも鈍い斬撃音は止まらない。
紫米島は煙を手に戻したと時、目の前には全身傷だらけで大量出血して意識を失う照井だけが残されていた。
地面は出血した血によって赤く染まっている。
普通なら死んでいる....そんな状態だが辛うじて息をする音が聞こえる。
「称賛に値するぞアクセル。
お前は俺の技を見事、受けきった....最後の情けだ。
一刀で楽にしてやる。」
紫米島はそう言い一本の刀を煙から具現化すると勢いのまま照井の首へ振り抜いた。
照井は朧気な意識の中、幻覚を見ていた。
それは過去の自分....両親と妹を殺され復讐に歪んだ顔をしている。
それは自分でも驚く程の憎しみと悲しみが写っていた。
何て酷い顔だ.....見ていられない。
そんな俺に誰かが手を差し伸べている。
思い出した....コイツは左 翔太郎。
ハーフボイルドと呼ばれる程の半端な存在.....だが俺にはコイツがとても眩しく見えた。
もし、復讐を決意する前に会っていたら....俺は....
次に写ったのがアクセルとして戦っている俺だ。
最初は復讐を目的としてたのに今となってはガイアメモリ犯罪を止め風都の市民を守る為に戦い傷付いている。
甘いな....さっさと復讐を進めれば良いのに.....
復讐を進めて.....終わらせて.....それから?
俺は.....復讐を終えたら何をするんだ?
俺には.....何が.....残るんだ?
そう考えた照井の前にこれまで一緒に戦ってきた仲間が映る。
(左....フィリップ....刃野...真倉....)
そして、最後に映ったのは鳴海 亜樹子......彼女は俺に向かって笑顔で話し掛ける。
「竜君!」
その声で俺は目を覚ました。
「.....バカなっ!」
紫米島は驚愕していた。
とっくに意識など無かった筈なのに...満身創痍の照井は俺が首へと放った刀を握って止めたのだ。
俺の刀の切れ味は高い....それこそ普通のドーパントなら易々と両断出来る。
それなのにこの男は刀を握りしめ両手でも動かせない程の力を発揮していた。
「俺は.....死なん。
俺には.....やることがある。」
「はん!そんなに復讐が大事か?」
「違う....俺には....復讐しか無かった.....そんな俺に.....アイツは....この...街は....仮面ライダーと言う....道を教えてくれた。
だから....俺は.....」
照井は刀を離すと拳を握り紫米島を殴り飛ばした。
「俺は.....仮面ライダーとして....この街を...悪から守る。
きっと、復讐だけの人生よりもずっとマシだ。
そして、俺の様な存在を生み出さないために....俺は....戦う!」
そう決意すると照井は服の中にある何かが熱くなるのを感じた。
取り出すとそれはアクセルメモリとブーストメモリだった。
アクセルメモリが照井の意思に答える様に熱を持っている。
そして、ブーストメモリはそれに答える様に今までロックされていたトリガーの上部にあるケースが開いた。
「漸く....か。」
照井はアクセルメモリを起動する。
そして起動したアクセルメモリをブーストメモリの上部から差し込んだ。
「
そしてケースを閉じたブーストメモリをアクセルドライバーへ装填する。
今までと違い二つのアイドリング音が流れ変身待機状態となる。
照井はハンドルに手を掛けると勢い良く回し手を離す。
「変.....身」
「
変身音と同時に照井を中心に強い衝撃波が放たれる。
それは紫米島や照井の身体に付いていた血すらも吹き飛ばし振り切った。
今までのアクセルと違い顔に戦闘機のヘルメットの様なバイザーが付き、カラーリングが黄色とシルバーに変わり背中と胸部には戦闘機を思わせる翼と意匠が追加された。
この姿こそ無名が構想しシュラウドが完成させたアクセルの新たな形態。
"仮面ライダーアクセルブースト"であった。
そして、照井は地面に落ちていたエンジンブレードを掴むと肩にかつぎ倒れている紫米島に言った。
.「さぁ、全て......振り切るぜ!」
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第百九十七話 加速するB/突き抜ける光
ブーストメモリは単体では何の効力も発揮しない特殊なメモリだ。
これを使うには起動する為のメモリが追加で必要となりその条件は厳しくメモリの適合率が100%に到達しないと変身すら出来なかった。
しかし、照井は紫米島との死闘で覚醒を果たしアクセルメモリとの適合率が100%を迎えたのだ。
そのメモリを使って変身した新たなアクセルの強さはトライアルとは比になら無い。
変身を終えたアクセルは背中のバックパックのブースターを点火すると凄まじい爆音と共に紫米島との距離を縮める。
その圧倒的な速度は紫米島の周りを漂っていた煙を完全に吹き飛ばした。
そのままエンジンブレードを紫米島へ振るう。
危険を感じた紫米島は持っていた刀で防御しようとするがエンジンブレードに触れた瞬間、刀がへし折れ紫米島の身体に斬撃を浴びせる。
「うぐぁぁぁあ!」
アクセルがエンジンブレードを振るうとそれに合わせてブレードからエネルギー波は発生し紫米島を吹き飛ばした。
何とか立ち上がる紫米島だが身体から火花が発生する。
(俺のメモリが....ブレイクされかけただと!)
これはブーストメモリの効果であり今のアクセルは通常形態で既にマキシマムドライブと同等の出力を発揮している。
つまり、この状態で振るわれたただの斬撃でもアクセルのマキシマムと同等の威力があるのだ。
「これで、終わりだ。」
照井はそう言うとブーストメモリのグリップにあるトリガーを押した。
「
すると背中のブースターが勢い良く火を吹き、アクセルは空へと飛び上がる。
「負けてなるものかぁ!」
紫米島も先程、のアクセルの攻撃からリッパドーパントの能力を発動し巨大な煙の渦を作り出す。
「斬撃の渦に飲まれて死ねぇアクセルぅ!」
アクセルのいる空中へと放たれた斬撃の煙.....それを迎撃するようにアクセルはクラッチを握りスロットルを勢い良く回す。
「
そのまま照井は渦に向かって蹴りを放つ。
煙の渦は照井が入った瞬間、弾け飛び加速を続けた照井の身体は光すら振り切った。
紫米島が気付いた時には照井は紫米島の背後にいた。
「見えたか?あの光がお前が見る絶望だ。」
その直後、照井のキックにより紫米島の身体が爆発するとメモリブレイクし元の姿へと戻った。
それを確認した照井はドライバーからメモリを抜くと倒れる紫米島の手を掴み手錠をかけた。
「紫米島 甲斐、ガイアメモリ所持及び使用の罪....加えて十年前の紫米島一家斬殺事件の容疑者として現行犯逮捕する。」
そうして片方の手錠を自分の腕にかけるとそのまま意識を失った。
学校での戦いの一方で無名は暴走する水島との戦いは苦戦を強いられていた。
無名が黒炎を、放ち水島を焼くが痛みが無いのか気にせず無名を狙い攻撃してくる。
(くっ!これでは黒炎は反って邪魔だ。)
無名は黒炎を消す近接戦に移行した。
デモンドライバーを使い変身したデーモンはドーパントの時と違い黒炎やゲートの操作は出来るが武器の生成は出来ない。
その分、黒炎の出力は上がっているが暴走している水島を止める事は出来なかった。
(あの最終コードは恐らくシープメモリの性能を限界まで引き出している。
普通なら消滅してもおかしくない威力の黒炎を当てているのに倒せないのはその為だろう。
本当は武器で戦うのが一番だが仕方がない。)
無名はヒットアンドアウェイでダメージを与えては水島の攻撃を回避する行動を続けていた。
しかし、ダメージを与えられているようには見えなかった。
(やはり、ダメか。
時間をかけて相手の自滅を狙うのも手だが獅子神が学校へ向かった以上、悠長に構えてはいられない。
マキシマムに賭けるか。)
無名はデーモンメモリをドライバーから抜くとマキシマムスロットへ装填する。
「DEMON MAXIMUMDRIVE」
両足が黒炎を纏うと無名は飛び上がり挟み込むように水島を蹴り上げた。
突如、爆発と共に水島は黒炎に包まれる。
しかし、水島は黒炎の中から無名の首を掴み持ち上げた。
「あ....くっ!」
無名は掴み上げている水島を殴り付けるがダメージが無いのか手を離すどころか更に強く締め上げた。
「貴様っ!.....無名を離せ!」
獅子神の重力から解放された克己が拳銃を水島で放つ。
だがダメージが無いどころか相手にもされない。
「この程度では気も引けないか。
ならばっ!」
克己は懐からナイフを取り出す飛び上がり黒炎に包まれた水島の顔面に突き立てた。
当然、傷1つ付かないが克己の目的は違う。
「ぐっ!....うぉぉぉぉ!」
黒炎が、克己に燃え移る痛みに耐えながら克己はナイフの柄を思いっきり殴り付けた。
その衝撃がナイフを伝わり水島の脳天へ繋がる。
それにより水島の動きが一瞬鈍くなった。
無名はその好機を見逃さず、掴んでいる首を両手足で絡めとると黒炎で背中に翼を生成するとその推力で身体を回転させた。
掴んでいる腕が無名の回転により捻れミシミシと音を鳴らし最後にボキッ!と折れる音が聞こえると握られていた手から解放された。
無名は燃えている克己を抱えて水島から距離を取ると黒炎を解除する。
「ゲホッゴホッ!克己さん!大丈夫ですか?」
「なん....とか...な。
それよりも....
克己の問いに無名が答える。
「腕を折りましたが、全く問題ないって顔してますね。」
無名の言う通り水島は折られた腕に全く意識を向けていなく、折れた腕を振って無名に攻撃を仕掛ける。
それを回避しながら援護する克己と今後について話す。
「僕のマキシマムが...効かない以上、倒す手段は"1つ"しかありません。」
「だが、それは危険すぎるとお前が言ったんじゃないか!」
「えぇ、ですがここでこれ以上、時間をかける方が危険です。
恐らく、獅子神は学校に到着した筈です。
その後に何をするのかは分かるでしょう?」
「だが、もしもまた乗っ取られたら....」
「その時は前に説明した通り....お願いします。」
無名は水島の顔に黒炎を放つと距離を取り周囲を黒炎で、囲った。
無名は目を瞑りドライバーに触れる。
すると、直ぐに待ち人が現れた。
「まさか、私を呼びだすとはな。」
そう言って無名の前に赤い鎖で両手足を繋がれたゴエティアが姿を現した。
その姿は無名と瓜二つだが髪の毛が白く表情が死んでいた。
「力を貸して貰いますよゴエティア。」
「私をここに封印した者のセリフとは思えませんねぇ.....あなたに力を貸して何のメリットがあるんですか?」
「貴方の
「ほぉ、私の前で彼女の事を対価とするとは....そんなに消されたいのですか?」
「貴方と問答をしてる暇はない。
乗るか反るか....今答えを出してください。」
そう言われたゴエティアは無表情だった顔を変え笑う。
「良いでしょう貴方の悪巧みに協力して上げますよ無名。
私の人形だった貴方が何を成すのか見定めて上げますよ。」
そう言ってゴエティアは無名の手を掴んだ。
その瞬間、現実世界の無名はデモンドライバーを再展開した。
「DEMON」
すると身体の右側が変化していく。
複眼が赤く変わり腕と足の装甲が鋭利になる。
そして、変身完了すると二人は話し始めた。
『「さぁ、運用試験を始めよう。」』
無名の右側に精神が移行したゴエティアは右手を握り感覚を確かめる。
『成る程....Wのシステムを応用したわけですか。』
メモリに精神を乗せて別の身体に写すのは仮面ライダーWが持つWドライバーにある標準機能だった。
『それを改良して地球の本棚から私の意識だけをメモリと繋げて君の身体に送っている。
作った私が言うのも何だが随分と優秀じゃないか。』
しかし、無名はゴエティアと会話をするつもりはない。
「無駄話をする程、暇じゃありません。
あれを止めるのを手伝って貰います。」
そう言って無名は水島を指差した。
『......ほぅ!、面白いな。
メモリの力を暴走させているのか?
それも、残った細胞を燃料にして....これではコイツが消えるのも時間の問題だろう。』
「それでは時間がありません。
今すぐ彼を戦闘不能にする必要がある。」
『それは無理な相談だな。
言わばあれは導火線に火がついた爆弾そのもの....余計な衝撃を与えれば当たり一面、焼け野はらになるぞ?』
「それでも貴方なら何とか出来る筈でしょう?
その為にここに呼んだのですから....」
『.....まぁ良い。
雑な方法だが増え続けるエネルギーを逆に利用して奴を細胞ごと消滅させれば爆発する筈のエネルギーを消失させることが出来る。
だが、かなり危険な賭けだぞ?奴のメモリを直接破壊しないといけない。
武器も無い以上、接近して直接攻撃するしかない。
失敗すれば至近距離で爆発を食らうハメになる。
いくらお前が変身していてもその爆発には耐えられない....確実に死ぬぞ?』
ゴエティアの警告に無名は答える。
「それでも....僕は逃げません。
それが僕の求める結果を手に入れる為に必要なリスクなら受け入れます。」
『ふふっ.....あっはっは!
良いじゃないか!単なる人形かと思っていたら存外まだ楽しめそうだ。
良いだろう私もお前の無謀な賭けに乗ってやる。』
「合図は黒炎が消す時です。
行けますか?」
『私を誰だと思っている。
お前こそ忘れるなよ....今のレベルでは精々使えても能力は3つだ。
それ以上使えばお前の安全は保証できない。』
「随分と親切ですね。」
『それはそうだろう。
今後、大切に使う予定の身体だ。
無闇に傷を付けられたら困る。』
「貴方に渡す気はありませんよ。」
『そうなれば良いがな....そろそろ行くか?』
「えぇ、始めましょう。」
無名が指を鳴らすと水島の顔を覆っていた黒炎が消える。
それと同時に無名を発見した水島は突進してくる。
『動きが単調だな....やはり命令を下す存在がいなくなると弱いなこの手の兵器は....』
そうゴエティアが表すると水島の突進を回避する。
そして、先程まで無名が周囲に放出した黒炎へと誘い込む。
『では始めようか...."ジーン"起動。』
ゴエティアがそう言うと水島の周りの黒炎が燃え上がり水島を包むとジーンメモリの力で黒炎を水島の細胞に変化させ地面と融合させていく。
『足止め出来て精々数秒だな....早く見つけないとな。』
「分かって....ますよ!」
無名はゴエティアから分けられたジーンメモリのリソースを使いメモリの位置を確認する。
意識を集中したお陰もあり位置の特定に成功したが、その瞬間、水島は地面との融合している身体を無理矢理引き剥がすと殴りかかってきた。
『"ゼロ"起動.....おっと!その一撃は当てられると困るなぁ。』
水島の攻撃をゴエティアはゼロメモリの力で無効化する。
「メモリの場所は見つけました。
メモリブレイクします。」
そう言って無名は黒炎で翼を作り空へと飛び上がる。
『生半可な攻撃じゃ、アイツを貫くことは不可能だ。
少しサポートしてやろう"メタル"起動....
「DEMON MAXIMUMDRIVE」
無名の足が銀色に光りその周りを黒炎が囲んでいる。
無名は狙いを付けるとそのまま急降下しながらキックを放った。
勿論水島も迎撃の為、両手を突き出すがメタルにより強化されたツインマキシマムは水島の防御を貫通すると正確にメモリへと攻撃が到達した。
すると、体内でメモリが火花を放ち水島の身体が発光するとその熱により完全に肉体が消滅した。
水島を倒したことを確認した無名は片膝をつく。
「はぁはぁはぁ......」
『成る程、あの男の身体に集まるエネルギーに向けてブレイクしたメモリを押し込んだのか。
その結果、体内のエネルギーがメモリを通して肉体内で放出され細胞を1つ残らず消し去った。
細胞を消費してエネルギーを生成するシステムの関係上、燃料が無くなればこれ以上、エネルギーは生成されないと......全く面白いことを考える。』
そう言うゴエティアに克己が銃を向けた。
「無名から離れて貰おうかゴエティア。」
『久し振りだな大道 克己.....暫くみない内に随分と老けたんじゃないか?
前の様に身体から覇気を感じないぞ?』
「聞こえなかったのか?
さっさと、無名の身体から出ていけ....さもないと」
『懐に入っている"スイッチ"を押す....か?』
「!?」
『如何にも考えそうなことだ。
暴走したら自分事、消すつもりなのだろう?
安心しろ...."今回は"大人しく帰ってやる。
だが、忘れるな。
私の力を利用すると言うことがどんなリスクを伴うのかを....そして私はこのままでは終わらない。
必ず目的を果たす.....ぞ......』
そう言い終わると無名の右側の複眼が元の色に戻り変身解除された。
その瞬間、克己は無名に駆け寄る。
「無名!無事か?」
「えぇ、何とかですがね。」
「そうか、今すぐ動けそうには...無いな。」
「すいません。
予想よりもかなり力を使ってしまいましたからね。
ドライバーとメモリも暫くは使えません。」
水島を倒すことは出来たがその為に切り札であるゴエティアとのシンクロをしてしまいそれがメモリとドライバーにかなりの負荷をかけていた。
恐らく、数時間は再変身は不可能だろう。
「仕方がない。
獅子神のことは仲間と仮面ライダーに任せよう。
彼等を信じるしか俺達に出来ることはない。」
そう悔しそうに語る克己に無名は無言の肯定を行うしかなかった。
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第百九十八話 加速するB/獅子神の苦悩
殴りかかってくる獅子神の拳をWはビッカーシールドで防ぐ。
「クソッ、めっちゃ重いパンチしやがって!」
「お前に用は無い。
さっさと潰して来人様を頂く。」
「んなことさせるかよ!Wをなめんなっ!」
ビッカーシールドで獅子神の拳を弾くとプリズムソードで獅子神を斬りつける。
しかし、その攻撃で獅子神は傷1つ付かない。
「何っ!」
「そんな攻撃では傷1つ付かないぞ。」
「野郎!これならどうだ!」
Wはプリズムソードのボタンを押す。
「PRISM MAXIMUMDRIVE」
『「PRISM BREAK」』
エネルギーを集約させあプリズムメモリのマキシマムドライブを纏ったプリズムソードが獅子神の肩へと振り下ろされるが身体を傷つけることすら敵わず肩でソードを抑えていた。
『プリズムメモリのマキシマムすら効かないとは凄まじい防御性能だ。』
「俺を並大抵のドーパントと一緒にするな。
俺が本気を出せば仮面ライダー等、造作もない!」
獅子神はそう言うと両手を握りWに向かってラッシュをかける。
危険を感じたWはビッカーシールドで応戦するが一発一発放たれるごとに拳の威力が増し盾が吹き飛ばされそうになる。
「クソッ!抑え....らんねぇ..!」
そして、ビッカーシールドを吹き飛ばすと獅子神の拳がWの胸部へ叩き込まれる....筈だった。
「TRIGGER MAXIMUMDRIVE」
獅子神へ放たれた青い弾丸に気付きそれを弾く間にWは獅子神と距離を取った。
弾が放たれた方向を見ると二回から二人のライダーが降りてきた。
「トリガーのマキシマムドライブで傷1つ付けられないとは厄介だな。」
そう
「流石は獅子神ちゃん....ミュージアムの幹部ってとこね。」
そして、その声にフィリップと翔太郎は聞き覚えがあった。
『君達は大道 克己の仲間だね?』
それに芦原が答える。
「あぁ、お前達のサポートをさせて貰う。」
「貴方達のメモリを使って変身させて貰ってるからそのお礼とでも思って頂戴。」
そう話していると獅子神が二人を睨み付ける。
「ミュージアムを裏切り無名に付いて行った反逆者どもが....生きて帰れると思うなよ。」
その脅しに京水が答える。
「あら、忘れたの?アタシ達、もう死んでるのよ。
今更、生き死に何て気にしないわよ.....それに私も怒ってるのよ。
何の罪もない子供を犠牲にして挙げ句の果てにその子らを人質に取るような真似して....プロ意識が欠けてるんじゃないかしら?」
「ふん!組織の為にどんな事も出来る。
それこそがプロと言うものだろう?」
「そうね...."無名と出会う前の私達"ならそう思ってたかもね。」
「何だと?」
無名の名前を出され獅子神は明らかな不快感を見せる。
それを、後押しするように芦原が続ける。
「"最小限の犠牲や行動で組織に利益をもたらす事が出来るのが一流でありそれを人はプロと呼ぶ"。
"始めから大量の犠牲を許容する時点でプロ失格".....無名ならきっとそう言うだろうな。」
「....貴様らっ!」
「あらっ!寡黙な賢ちゃんにしては珍しく言うじゃない。」
芦原の言葉にフィリップが食い付く。
『実に興味深い考えだ。』
「まぁでも無名なら確かにそう言うかもな。」
翔太郎が同意した瞬間、獅子神の威圧感が増した。
「どいつもこいつも無名...無名と....そんなに奴が大事なのか!俺の方が優れている!。
奴はミュージアムを裏切ったそれが全てだ!全ての筈なのに何故、俺の邪魔をする!
俺の人生の邪魔ばかりしやがって....お前らもだ。
無名に気に入られて調子に乗りやがって...全てが気に入らねぇ。
無名もそれについてくる有象無象全てがなっ!」
突如、獅子神の周囲の物体が浮き上がる。
そして、彼の周りを高速で回転し始めると回転する物体は熱を帯び赤熱していきそれがWと京水、芦原に向かって放たれた。
飛んできた攻撃を芦原はトリガーマグナムを使い迎撃していく。
その内の一発が赤熱した物体に当たると大きく爆発した。
その衝撃波は物体から離れていた三人の身体を吹き飛ばした。
『ちょっとの刺激で爆発するのか.....翔太郎!あれは受けちゃダメだ。』
「あぁ、そうみたいだなっと!」
そう結論をつけて三人は獅子神の攻撃を回避する。
だが、それは獅子神にとっても予想通りの内容だった。
獅子神は逃げ惑う三人を追う様に前へ出ると地面を殴り重力波を発生させた。
攻撃の回避に夢中になっていた三人は獅子神の重力波に当たり動きが遅くなる。
「二人とも危ない!」
京水がメタルシャフトでWと芦原を捕まえると重力波の範囲外まで投げ飛ばした。
その瞬間、赤熱した物体が獅子神と京水、目掛けて落下すると大爆発を起こした。
京水はその衝撃により吹き飛ばされるとコンクリートの壁に激突した。
「京水!」
その姿を見て心配した芦原が声をかけるが返事はない。
そうして爆発を起こしクレーターが出来た地面から獅子神が無傷で現れた。
「あれだけの爆発があったのに無傷なのかよ。」
驚く翔太郎に獅子神は笑う。
「当然だろう?
俺の攻撃に俺自身がダメージを受けるなど....やっと1人消えたな。
お前らは無名の下に着いた"敵"だ。
次はお前に死んで貰う。」
獅子神は芦原を指差す。
それを見て翔太郎は怒りを燃やした。
「ふざけんな!んなことで殺させてたまるかよ。」
『あぁ!僕達の前でこれ以上、犠牲は出させない。』
獅子神に向かってWの二人がそう返す。
だが、当の本人には何も響かない。
「どうせ止められないさ。
さぁ、王たる獅子の一撃に怯えるが良い。」
そう言うと戦闘が再開されるのだった。
傷を癒していたレイカは京水が吹き飛ばされたのを見て肩の傷を抑えながら向かっていた。
(死んで無いよね....京水。)
今回の作戦で一番、気合いを入れていたのが京水だ。
克己の覚悟や芦原の娘が狙われていること....そしてそれを指揮しているのが獅子神である事を聞いた京水は決めていたのだ。
そうして急いでいると学校の壁を貫通して中で倒れている京水を発見した。
「京水!....ねぇ起きてよ!」
レイカに揺さぶられて京水は目を覚ます。
「こ....こは?」
「学校の中、アンタが獅子神に吹き飛ばされてここに...」
「そう...なのね。」
「でもどうして無事だったの?
あれだけの攻撃、普通だったら消えてもおかしくないのに....」
「きっと、このドライバーのお陰でしょうね。
何でも私達の身体を第一に考えて作ったらしいから...」
そう言って京水はドライバーに触れる。
ドライバーが完全に破壊され火花が上がっておりマキシマムスロットには攻撃から生き残るために発動したルナのマキシマムドライブの形跡が残っていた。
「それよりも賢ちゃんは?
てかレイカ!アンタその怪我どうしたのよ?」
そう言って京水はレイカの傷を心配する。
「京水、落ち着いて!
芦原達ならちゃんと生きてる今はWと協力して獅子神と戦ってるとこ
それにアタシの傷もさっき酵素打ったから直ぐに回復するよ。」
「.....そう。
なら良かったわ。」
京水は分かりやすく安堵すると立ち上がった。
「ちょっと何してんの京水?
アンタも怪我を治療しないと....」
そう言って止めようとするレイカの手を振りほどく。
「ごめんねレイカ....でもアタシ獅子神ちゃんを止めたいのよ。
それがあの時、何を出来なかった私の罪滅ぼしだから....」
孤島での戦いの後、獅子神が気に入った京水は何度もアプローチをしていた。
その都度、ウザがられていたがそれをまた楽しかった。
ある時、偶然、獅子神と会って話したことがあった。
その時は獅子神も珍しく酒を飲んでいた。
「あらぁ!獅子神様っ!お久し振りじゃない!」
「.........」
「貴方に会えるだなんてこれは神の思し召しね。」
「悪魔の間違いじゃないのか?
人が折角、酒を飲んでいる時に....用が無いなら消えろ。」
「あん!いけずね。
それよりも最近、ミュージアムで評価を上げてるみたいじゃない。
凄いわねぇ。」
「何だそれは?嫌みか何かか?」
「違うわ純粋な賛辞よ。
私みたいな凡人じゃ一生かかっても出来ないことを貴方達はしてるのよ。
それに憧れるなって方が無理な話よ。」
「ふん!そんなものは当然だ。
寧ろ足りない....無名を越えるには何もかも....」
そう言って拳を握る獅子神を見て京水は尋ねた。
「ねぇ、どうして無名ちゃんをそんな目の敵にするの?
そりゃ同じ幹部だからって仲良くないのは分かるけどそれを抜きにしても明らかに意識しすぎている気がするんだけど.....」
「.....お前は自分の人生を誰かに利用され捨てられそうになった経験があるか?」
真剣な顔で尋ねられた質問に京水も真剣に返す。
「いいえ、私は仲間だと思ってた奴に殺されたけどその前までの人生は自分で決めて生きてきたつもりよ。」
「そうか、だが俺とサラは違う。
俺は獅子神家でゴミのように扱われサラは文字通り奴隷だった。
そんな俺達か最も恐れることは何だと思う?」
「それは"失敗"だ。
組織で成り上がる為には常に成功を....いや成功以上の成果が求められる。
だからこそ、俺もサラも形振り構わず仕事をこなし成功を積み重ねてきた。
だが、無名は違う。
奴は俺達と違って頭が良い....だからこそ少しの努力で俺達の仕事と同程度....いやそれ以上の成果を上げていく。
そんな事が続けばどうなると思う?
組織にとってどちらが有用か言わなくても分かるだろう。
形振り構わず進んだ結果、手に入れた力と平穏....それをアイツはちょっとした努力で踏み越えて手に入れていく。
そんな事を許していたら俺達の価値は完全に消えてしまう。
だが、奴にそんな事を言っても意味はない。
何故なら理解できないからだ。
奴は俺達よりも恵まれていている。
俺のようにゴミとして扱われたこともサラの様に奴隷だった事もない。
だから、俺達の恐怖や痛みが分からない。」
「だから、認められないの?
無名ちゃんの事を.....」
「あぁ、奴をこれ以上野放しにすれば俺の居場所を食い潰すだろう。
そんな事は....許せない。
この立場も力も部下も全て俺の物だ!
奪わせてたまるかっ!」
飲んでいた酒のグラスを叩きつけるその姿を見た京水は今にも潰れて消えてしまいそうな獅子神を見てどう声をかけて良いのか分からなかった。
(あの時、私がもっと何か出来ていればこんな事にはならなかったかもしれない。)
そう思っているからこそ京水は今回の作戦で獅子神を無力化して話の続きをしようと思っていたのだ。
そんな事を考えているとはレイカは知らない。
.....だが、長年共に戦った仲間の心情を察する事は出来た。
そして、レイカは京水の顔を思いっきりビンタした。
「痛ったぁ!何すんのよレイカぁ!」
「少しは目覚ました?
アンタが獅子神にどんな思いがあるのかは私には分からない。
でもその我が儘で仲間が死にそうになるのなら私は止めるよ。」
「それは!」
「自分なら助けられたかもって思ってるならそれは傲慢じゃない?
無名だって救えない命があるのに私達みたいな頭の悪い奴が1人で立ち向かって救えると思ってるの?」
「じゃあ....どうすれば良いのよ!
克己ちゃんは死にかけて、茜ちゃんだってケガした!
それをやったのは獅子神の部下なのよ!
そんな奴を助けたいなんて言える訳無いでしょう!」
「言えば良いじゃん!アタシ達は仲間でしょ!
1人で抱え込むよりも数段増しじゃないの?」
そんな会話をしていると通信機から克己の声が聞こえてくる。
『お前ら無事か?』
『克己?....うん怪我はしてるけど皆、生きてるよ。』
『.....そうか、良かった。』
『そっちの状況はどうなの克己?』
『無名が獅子神の部下の水島を仕留めた。
だが、それに力を使い過ぎて変身は出来そうに無い。
そっちの獅子神はどうだ?』
『今は芦原とWが相手をしてる。
あんまり優勢とは言えてない。』
『だろうな....奴も無名と同じ幹部だ。
生半可な覚悟じゃこっちが危ないか。』
そう克己が話している中、レイカが告げる。
『ねぇ皆、京水からお願いがあるんだけど.....聞いてくれないかな?』
『ちょっとレイカ!アンタ勝手に....』
『どうしたんだ京水?』
克己に尋ねられた京水は自分の思いを話した。
獅子神を助けたいと思っていることを....
『奴には無名を含めていろんな人間が危険な目に合わされた。
それを知った上で言っているのか?』
『.....えぇ、確かに私達も獅子神ちゃんには確執があった。
でもだからって殺して全て解決するとは思えないのよ。
私の我が儘だってのも分かってる....それでも諦めたくないの。』
『それでどうするつもりなんだ京水?
ドライバーを失ったお前に獅子神を止められるのか?』
『それは......』
『"無理"だ。
そして、仮にドライバーが使えたとしてもお前じゃあ獅子神には勝てない。
お前1人の力じゃどうにも出来ない。』
『じゃあ、諦めろって言うの?克己ちゃん。』
そう言った京水の言葉に克己はため息をつく。
『はぁ、本当にお前は大事なところで何時も抜けているな。
違う....1人でダメなら俺達を頼れって言ってるんだ。』
『でも....それじゃあ』
京水がそう言って悩んでいると無名が通信に入ってきた。
『京水さん、無名です。
今でもNEVERは僕との契約は続いていますよね?
なら、命令します。
獅子神の無力化をNEVERに依頼します。
これなら貴方の願いも叶いますよね?』
『無名ちゃん....貴方....』
『ただ、死ぬのはダメです。
必ず全員、僕の前に集まってください。』
『....分かったわ。
貴方の依頼はNEVERが責任もって叶えるわ。
本当にありがとう。』
京水との会話を終えるとレイカが言ってきた。
『でも実際どうする?
獅子神の無力化って言ってもアイツ強すぎて私達じゃ敵わないんだけど....』
『えぇ、今の彼はドーパントとして"最高レベル"と言って良いでしょう。
能力を完全に制御していて一撃一撃が必殺レベル....当たったらアウトだと思ってください。』
『無名が言うと更に理不尽に感じるわね。
それじゃ、何も手が無いってこと?』
『いいえ、強力なメモリを使っている以上、その反動はあります。
その問題を解決しているのが"ガイアドライバーⅡ"です。
そして、そのドライバーを製作したのは僕です。』
『つまり、ドライバーを破壊してメモリを使えなくするってこと?』
『そうです。
ドライバーのお陰で獅子神とレオメモリの適合率は上がりました。
しかし、その反面ドライバー無しでは変身出来ない程、強くなってしまったんです。
昔の様にコネクターを埋め込んで変身しようとすれば肉体が持たなくなるでしょう。』
『なら問題は、ドライバーをどう壊すかだな?
獅子神の事だ....その考えを読まれたら直ぐに対策される。
チャンスは一回、それも獅子神の隙を狙って破壊するしかない。』
『獅子神に隙を作る....どうすれば?』
克己と無名が悩んでいると京水が言った。
『それなら私に考えがあるわ。
成功したら獅子神に隙を与えられる。』
そう言って獅子神を無力化して捕まえる作戦会議を行うのだった。
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第百九十九話 Lの意味/獅子の結末
(紫米島と白爪が見当たらねぇ....殺られたのか?
チッ!来人様を回収しても組織の建て直しには時間がかかるな。)
獅子神は自分の持つ全ての手札を使い今回の作戦を実行した。
失敗は自らの地位の失墜を意味する。
だからこそ、失敗は許されない。
その思いがメモリに力を与える。
(この俺が失敗等するか。
俺は最強だ....レオメモリは俺のプライドが力になる。
俺が折れなければ負ける心配はない。
大丈夫だ...無名はどう頑張っても間に合わない。
この勝負は俺の勝ちなんだ!)
荒れる心を落ち着かせた獅子神はWを倒すべく攻撃を続けるのだった。
Wは獅子神の攻撃をプリズムビッカーを使い防御し剣で斬り付けるが全くダメージを与えられない事に驚いていた。
『とんでもない能力だレオメモリ。
エクストリームを使ってもメモリブレイクできないなんて....』
「ちっ!何か方法はねぇのかフィリップ。」
『レオメモリは獅子神のプライドを力に変えている。
そこを何とかしない限り、現状勝ち目は皆無に等しい。』
「つまりは奴の鼻っ柱をへし折れば良いんだな?」
その会話を聞いていた獅子神は鼻で笑う。
「はっ!俺に勝てると本気で思ってるのか?
お前の攻撃は何も俺に効いてないんだぞ?」
「んなの関係あるかっ!
効くまで攻撃してやるよ獅子神。」
そうして獅子神に振り下ろされたプリズムソードを左手で握って止める。
その力は強く、Wはプリズムソードを動かせない。
「こっちにはあんまり時間がなくてなぁ....悪いが決めさせて貰う。」
獅子神は右手を握ると空間が歪む。
そして、その拳がWの顔に奮われた。
「やっべ!」
翔太郎がそう言うとプリズムソードを離し獅子神の拳を間一髪で回避する。
そして追撃を行おうとする獅子神を芦原のトリガーマグナムが阻む。
それを見た獅子神は握っていた右手を開くと指を上空に向けた。
すると、芦原が獅子神に向けて放った弾丸が急に上空へと飛び上がった。
そして、獅子神は芦原を睨み付ける。
「さっきからチョロチョロと目障りだ。
そろそろ死ねぇ!」
そう言い獅子神が足を振り上げると空間が歪む程の衝撃が芦原に向かって飛んでいった。
その速度は早く、回避しようとした芦原の足に辺り身体事、吹き飛ばされる。
そして、それを待っていたように獅子神が指を地面に向けると強烈な重力と共に芦原が放った弾丸が返ってきた。
「あれはヤベェ!」
そう言ってWが芦原の前に立ちシールドを構えるとそれに驚いた獅子神が更に重力を操作して弾丸はWの盾では無く地面に落下した。
そのお陰で二人は無傷で窮地を脱することが出来た。
『やはりそう言うことか。』
それを見たフィリップは合点がいったように言う。
「どういう意味だフィリップ?」
『恐らく獅子神は僕達....いや僕をなるべく傷付けず捕まえたいみたいだ。
Wへの攻撃と
そして、僕らが彼を守ろうとしたら途端に追撃を止めた。
余計な被弾を恐れたんだと思う。』
「成る程な.....だがどうする?
獅子神が手加減してくれていても俺達は奴にまともなダメージを与えられねぇ、このままじゃどちらにしろ俺達がスタミナ負けして殺られるんじゃねぇか?」
『獅子神もそれが狙いだろう。
だが、時間をかけたくないと言う意見も本当らしい。
何時もと違って攻撃に焦りを感じる。
それが隙を生むかもしれない。』
「だが、賭けとしては分が悪すぎるぜ。
何かもう1つねぇと....」
そうして相談していると耳に手を置いていた。
芦原が声をかけてきた。
「聞いてくれ。
俺達に作戦がある....上手く行けば獅子神を無力化出来る。」
そして、芦原は二人に作戦の全貌を話した。
『それは、ただの自殺行為だ!
もし、その仮説が間違っていたら翔太郎だけじゃなく君達にも犠牲者が出るんだぞ!』
そう言って否定するフィリップに対して翔太郎は一間置くと話し始めた。
「俺は乗るぜその賭けに...」
『翔太郎!』
「どっち道このままじゃジリ貧な事は変わらねぇ。
なら、体力がある内に一発逆転のカードを切るべきだ。
それによ、殺すなら反対だったが生かして捕まえるって言うのなら俺としては大歓迎だ。
罪を憎んで人を憎まないのが親っさんの目指した仮面ライダーだからな。」
『翔太郎.....分かった。
僕もその"賭け"に乗るよ。
相棒がそう望んでいるのなら叶えるのが僕の役目だ。』
そう言うとWはNEVERの作戦を受け入れ行動を開始するのだった。
「はい....分かりました。
皆さんの安全を願っています。」
そう言うと無名は無線を切った。
無名の顔を見た克己が言う。
「随分と悔しそうな顔をしているな?
まぁ、気持ちは痛い程分かるが.....」
「本当ならもっと万全な用意と保険を賭けておきたい程、無謀な作戦です。
それなのに僕達は役に立てない。
悔しくない訳が無いじゃないですか。」
そう言う無名に克己は真剣な顔で尋ねる。
「お前の見立てではこの作戦はどうだ?」
「先ず、作戦を始めるまでの前行程が多い。
それを獅子神と戦いながらやらないと行けないんです。
難しいと思います。
獅子神の抑えが失敗したら計画は完全に失敗となる。
.....鍵となるのは"レイカさん"と"京水さん"....この二人がどれだけ早く自分の役目を終えられるかで作戦の成否が変わります。」
そう言う無名は両手を握り祈る様なポーズをした。
この世界に神がいるかは分からない。
神を超越者と捉えるのなら祈るだけ無駄だろう。
だが、それでも無名に出来ることは祈ることだけだった。
(無事、皆が帰ってこれる様にと.....)
生徒を逃がし終わった堂本は酵素を打ち込むと木にもたれ掛かり身体が回復するのを待っていた。
「はぁはぁはぁ」
いくらメタルメモリの力が防御に向いていると言ってもダメージを食らい過ぎた。
その証拠に堂本はもたれ掛かった木から一歩も動けないでいた。
そこに、肩を抑えながら此方に向かって走ってくるレイカの姿が見えた。
「堂本!ケガは大丈夫?」
「何て事はない....じっとしていれば治る。
それよりお前の方が重症だろう?」
そう言われレイカは笑う。
「そうかもね....多分、アンタと変わんないよ。」
「ハハッ!そうだろうな。」
そう言うと堂本はNEVERドライバーとメタルメモリをレイカに差し出した。
「頼むぞレイカ。
これで仲間を救ってくれ。」
堂本がそう言って渡してくれたドライバーとメモリをレイカは受け取るとドライバーを腰に付ける。
「HEAT」
そして、ヒートメモリを起動してドライバーに装填すると勢い良く展開した。
「変身」
レイカは仮面ライダーヒートへ変身すると思いっきり飛び上がった。
足に付いたヒートマグナムが火を吹きヒートを空へ浮かせると学校へと戻っていくのだった。
獅子神は敵対するWと芦原が会話が終わるのを待っていた。
そして、会話が終わったタイミングで突進する。
当然、それを二人は避けそうとするが目の前に見えない壁があるのか芦原は回避が出来なかった。
獅子神のタックルが芦原を直撃する。
肘を立てたタックルは鳩尾に当たり芦原の動きは完全に止まる。
「は.....あ....」
「これで終わりだ。
さっさと死ね。」
そう言うと獅子神は掌から光が起きると小型の太陽が現れる。
これが当たればいくら仮面ライダーとなり強化された芦原の身体でも塵1つ残らないだろう。
「あれはヤベェ!フィリップ!」
『無理だ重力の壁に阻まれて進めない!』
Wが芦原の元に向かえない最中、獅子神の腕に衝撃が起こると辺りが煙で包まれた。
(これは....赤矢の幻覚爆弾か!)
正体が分かった芦原は息を止める。
そして、煙の中から
(本当に無茶をする。)
黒岩と芦原は同じく銃を扱う仲間であり、またお互いに大切な娘を持つ親でもある。
だからこそ、黒岩は動いてしまった。
親友の娘である芦原 賢を助ける為に.....
念には念を入れて赤矢から渡された幻覚剤入りの弾丸は呼吸だけでなく粘膜からも吸収される。
つまり、目を開けていても幻覚の効果が出てしまうのだ。
(幻覚の効果は視界がぼやけるものだ。
短時間なら効果を発揮しない薬だから芦原も問題ない。
顔の近くに撃ち込まれた獅子神にだけ効果が出る筈だ。
今の内に芦原を回収すれば.....)
そう考え煙の中に突入した黒岩が聞いたのは芦原の声だった。
「黒岩ぁ!逃げろぉ!」
しかし、その声が黒岩に伝わることには獅子神の拳が黒岩の胸部を打ち抜いていた。
芦原が違和感を覚えたのは爆発し煙に包まれた獅子神を見た時だった。
攻撃を受けた瞬間、獅子神は目を"瞑った"のだ。
そして、それが相手を迎撃する為の行動だと理解した芦原は叫んだ。
しかし、その声が届く前に獅子神のパンチが黒岩に当たった。
獅子神の拳は黒岩のライフルを破壊し無防備な胸部へ叩き込まれる。
その勢いのまま吹き飛ばされると同時に黒岩の身体からメモリが砕けて排出される。
そして、そのまま地面に伏せて動かなくなってしまった。
「黒岩っ!」
「目障りが1人消えた。
さぁ、次こそお前の番だ。」
そう言って芦原の近付こうとするのを空中から急降下してきたレイカが防ぐ。
「させるかよクソがっ!」
しかし、レイカによって放たれたを獅子神は軽く回避する。
ならばと足のヒートマグナムを変形させた一撃特化の形態で蹴りを加えるがそれも止められてしまう。
「嘘でしょ?」
「丁度、身体が寒かったんだ。
暖めてくれて感謝するぞ。」
「チッ!」
そう言ってレイカがメモリを抜くとそこに合わせて獅子神の蹴りが飛びレイカの腹部に当たった。
その衝撃でドライバーが壊れる。
レイカは口から吐血するが歯を食い縛ってヒートメモリを投げ付けた。
だが、メモリは見当違いの方向へ向かう。
「何処に向かって投げているアホが!」
「レイカはやらせないわ!」
今度は煙の中に変身した京水が入ってくるとメタルシャフトで獅子神を縛り上げた。
「今度は貴様か。」
「どうして黒岩ちゃんの位置が分かったの?」
「はん!無名の部下で最も厄介なのはエターナルを除けば
両方とも直接的じゃない方法で攻撃してくるからな。
だから、幻覚が来ると思った瞬間、"目を閉じて呼吸を止めた"。
その代わり他の五感をフル活用して罠を張ったんだよ。
レオメモリは万能でな....俺が望めばその力を手に入れられる。
だから俺は"目を瞑り呼吸を止めた間、周りの光景が手に取るように分かる"。
そう信じた....それだけだ。
さぁ、種明かしも終わった。
そろそろこの拘束を解くとするかぁ!」
獅子神が気合いを入れると彼を拘束していたメタルシャフトが簡単に千切れる。
その衝撃で煙が晴れる。
吹き飛んだ京水が"上を見て"叫ぶ。
「今よ!」
(やはり、最後の詰めを残していたかっ!
恐らくWの攻撃だ....ここは全力で防御した後に捕縛すれば来人様は俺の手に落ちる!)
そう意気込んで上を見上げるとそこにいたのは黒い炎の翼をはためかせる
その姿を見た瞬間、冷静になりかけていた獅子神の思考が破綻する。
何故ここにいる?.....間に合ったのか?....どうやって?....それよりどうする?....守るのか?....いやそんな暇はない.....倒す.....いや殺すんだ!...殺せ.....殺せ.....殺せ!
獅子神はセーブしていた力を全解放する。
一瞬の内に両手にエネルギーを蓄えると巨大な光熱を発する球体を作り出す。
その大きさは獅子神の身体を優に越えていた。
今の獅子神が出せる最高の一撃、レオメモリの力を全て使った必殺の太陽を上空にいる無名へと放つ。
「死ねぇぇぇぇ!!無名ぃぃぃぃ!!」
太陽が無名の身体を包み込むと一瞬の内に消失した。
(勝った....俺は勝ったんだ!)
無名の消失を見て確信したが故に起きた隙と油断.....それを狙うように地面を這うように接近して現れたWがプリズムビッカーを獅子神のドライバーへと押し付ける。
「CYCLONE,HEAT,METAL,JOKER」
「「「「MAXIMUM DRIVE」」」」
「何っ!?」
『「BICKER FINALUSION!!」』
プリズムビッカーから放たれた七色の光が一点へと集中しドライバーを穿つ。
そして、攻撃に耐えられなくなったドライバーにヒビが入ると小さな爆発と共にドライバーは機能を停止した。
呆然とする獅子神からレオメモリが排出されると地面へと落ちた。
「ば....かな.....ど....うし...て....」
そこまで、言うと獅子神は地面へと崩れ落ちた。
『変身中にドライバーを破壊された副作用だ。
もう諦めろ....君の敗けだ獅子神。』
「何故....だ.....俺....は...確か...に...無...名....を」
「あれはルナメモリが作り出した"幻想"だ。
無名に固執するお前なら奴が出てきた瞬間、全ての意識が向く。
その隙に俺達がお前のドライバーを破壊する。
それが本当の作戦だ。」
『付け加えるなら君は五感を強化した状態で無名を見た....いや見させられた。
だからこそ、僕達の接近に気がつけなかったんだ。』
「う...そだ....こ....んなっ!....」
獅子神は屈辱から立ち上がろうとするが力が入らず地面に這いつくばる。
「もう止めろお前は負けたんだよ。
刑務所で自分の罪を数えるんだな.....」
そう言ってWが獅子神を捕まえようとするとした瞬間、"獅子神が姿を消してしまった"。
「なっ!どういう事だ!」
『分からない!別のメモリの力か?
敵に増援が来たのか?』
Wはそう言って警戒するが敵の気配はゼロだった。
「逃がしたのか?....クソッ!」
Wは地面を叩く。
そして、遠くでは変身解除した芦原が必死に黒岩に心臓マッサージをしていた。
「死ぬな!黒岩!....頼む!」
「フィリップ!あっちを何とかするぞ!」
『あぁ!あれはどう見てもマズイ!』
こうして風城高校で起こった事件は幕を閉じた。
沢山の犠牲者を出しつつも生徒を救うことは出来たがその代償は大きい。
「もう一度.....言ってくれませんか?」
無名が芦原に尋ねる。
芦原は悲痛な顔を浮かべながら静かに告げた。
「黒岩は.....間に合わなかった。
獅子神の一撃で....."死んだ"。」
Another side
気が付くと獅子神と白爪は園咲邸の庭に連れてこられていた。
「俺は....どうして?」
「気が付いたかね獅子神君。」
そう言って園咲 琉兵衛が獅子神と白爪を見下ろしていた。
「琉兵衛様!!....俺は....一体...」
「君はドライバーを破壊されて捕まる寸前だった。
彼が助けてくれなかったら今頃、君はここにいないよ。
彼に感謝することだ。」
そう言って琉兵衛は突然、隣に現れたドーパントを指差した。
「彼...は....?」
「君もあったことある人物だ。」
そう言われるとドーパントはお腹に手を当てるとメモリが排出されドライバーを着けた人間の姿へと戻る。
その姿に獅子神は見覚えがあった。
「天ヶ瀬....天十郎....。」
「久しぶりですね....獅子神さん。
愚息が随分と世話をかけました。」
「彼は"消えてしまった三人の幹部に変わる"ミュージアムの新しい幹部となる。
彼のメモリは興味深い。
君を助けたのもそのメモリの力だ。」
落ち着いて話す琉兵衛だが、その言葉に違和感を覚えた獅子神が尋ねる。
「お...お待ち下さい!
三人の幹部の代わり?....それは私達の事ですか!?」
「そうだ。
無名は離反しサラは君のせいで怪我をした。
そして、幹部でありながら君は仮面ライダーに敗北しあろうことか部下すらも失った。
もう君に幹部としての力は無い。」
「お待ち下さい琉兵衛様!!
もう一度.....もう一度チャンスを!」
「君のチャンスはもう残っていないのだよ。
せめてもの慈悲だ。
私が葬って上げよう。」
琉兵衛は優しく言うとドライバーを着けてメモリを装填する。
その瞬間、獅子神の身体が震え出した。
全身を通して恐怖が身体を染め上げていく。
寒くもないのに歯がガチガチなって止まらない。
「あっはっは....私が恐ろしいかね獅子神君?」
「もう....一度....チャン.....スを......」
「ミュージアムの元幹部なら....覚悟を決めたまえ。」
琉兵衛が展開したテラーフィールドが獅子神の足に接触した。
「あぁぁぁぁぁあ!!」
発狂しながら獅子神は持っていたレオメモリを起動しようとするが全く反応しない。
「メモリからも拒絶されたか.....どうやら完全に君の心は壊れてしまったようだ。
残念だよ....本当に
君の進化をもっと見ていたかったが....終わりだ。」
そう言ってテラーフィールドのエネルギーを獅子神の身体を包み込みだそうとした時、灯夜が現れた。
「お待ち下さい!琉兵衛様!
獅子神様に....慈悲をお与えください!」
「君は、天十郎君の息子だね?
幹部でもない君の出る幕ではないよ。」
琉兵衛にそう言われるが灯夜は退かない。
「お願い致します琉兵衛様!
何卒、ご再考を!」
「少しよろしいでしょうか?」
その声に天十郎が続ける。
「ん?何かね天十郎君?」
「どうせ殺すのなら私に獅子神を頂けませんか?」
「どういう意味かね?」
「用済みとするにはまだ使い勝手が残っていると思いましてね。
灯夜、獅子神を救いたいか?
なら、条件がある。
もう一度、私に忠誠を誓い駒となれ。
そうすればお前に手を貸してやる。」
「!?」
「私の望む結果、望む人生、望む選択をするだけで良い。
自分の意思など要らず何も考えず.....それだけだ。
さぁ、どうする?」
灯夜の頭にあの日の光景が写る。
父親の道具として利用され母も巻き込まれて死んだあの日について......
その時に言った天十郎の言葉を.....
呻いている獅子神が目に入る。
自分の復讐と恩人の命、天秤にかけた結果、灯夜は決断した。
「貴方に....もう一度.....忠誠を...誓います。
だから、獅子神を!」
満面の笑みを浮かべながら天十郎は琉兵衛に顔を向ける。
「琉兵衛様...."約束通り"に....」
「良いだろう。
新たな幹部の頼みだ。
聞き届けない訳にはいかないだろう?」
琉兵衛がドライバーからメモリを抜くとテラーフィールドが消滅し中から気絶した獅子神が現れた。
その顔は絶望に染まり髪の色は抜け落ちていた。
しかし、それでもレオメモリだけは力強く握っていた。
「最後まで力を捨てられなかったか.....天十郎君、この後の計画について少し相談がある。
時間を空けて貰えるかね?」
「是非.....では
灯夜、君も来るんだ。」
「........」
「返事はどうした?」
「.....承知致しました。」
絶望に歪み気絶している獅子神に目を向けてから灯夜は白爪に言った。
「獅子神を.....頼む。」
そう言うと白爪と獅子神を残してその場から皆、立ち去るのだった。
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第二百話 Lの意味/失った者
あの時、私が獅子神ちゃんを助けたいなんて言わなければ.....
あの時、俺がちゃんと戦えていれば.....
あの時、アタシがもっと早く着いていれば.....
あの時、僕が依頼なんかしなければ......
やり直せない後悔の中、それぞれの思いを吐き出す事は出来ずただ、時間だけが過ぎていった。
風城高校の一件が解決した後、通路を作れた警察は学校に突入し紫米島と野々村を逮捕して数日後、無名やNEVERの面々は喪服を来ていた。
眼前には目を瞑っている黒岩幸太郎がいた。
まるで眠っているような姿を見て本当は死んで無いんじゃないかと思いたくなるがその願いは叶わない。
喪主となっていたのは妻の黒岩
涙を流す楓を茜がそっと抱き締めている。
僕はそれを見ることが怖くなり1人外に出てしまった。
(僕が依頼したせいで.....)
獅子神の命を捨てれば黒岩を助けられたかもしれない。
何時もだったらナンセンスだと吐き捨てる考えが頭を巡る。
そんな時、葬儀所から離れた所で喧騒を立てている集団がいた。
興奮している堂本をレイカと克己が抑えており京水は地面に倒れている。
その顔は殴られたのだろう赤くなっていた。
殴ったのは堂本だろう怒りが治まらないのか京水に怒鳴る。
「もう一度、言ってみろ京水!」
「何度でも言ってやるわよ!
"黒岩ちゃんが死んだのはアタシのせい"なのに今更、どんな面で会えば良いのよ!」
その声を聞いてレイカと克己が言う。
「京水!少し落ち着いて!」
「堂本...お前もだ。
葬儀の場で何をしているんだ!」
「
自分が黒岩を殺しちまったって言ってな。
ふざけるな!このまま何もせずにいるつもりなのか!」
「じゃあ、アタシ達に一体何が出来んのよ!
泣いている黒岩の娘に私の我が儘でお父さんを死なせてしまいましたって言えば良いの?」
「おまえっ!」
堂本がもう一度、拳を振るうがそれは間に入った無名が受けてしまう。
力のこもった堂本のパンチで無名は吹き飛んだ。
「無名!....お前っ!」
「....外が騒がしかったので来てみれば一体何をしているんですか貴方達は?
彼の葬儀に喧騒を持ち込んで.....」
「それは.....」
「話は聞こえていたんで大丈夫ですよ。
京水さん、貴方が獅子神を生かす様に願ったから黒岩が死んだと思っているんですね?」
「.....えぇ、そうよ。
獅子神ちゃんを生かすなんて行動をしなければ黒岩ちゃんが死ぬこともなかった.....全部私のせいよ。」
苦しい胸中を吐露した京水に無名が言った。
「"そうでしょうね"。
黒岩が死んだ一端には貴方の言葉もあるでしょう。」
「「「!?」」」
京水の意見を肯定した無名を皆が驚く。
「だが、それは"貴方1人の罪"じゃない。
レイカさんはきっと、もっと早く着けば助けられたと思っているでしょう。
堂本さんは傷を受け過ぎずもっと動けたら.....
克己さんは自分がエターナルに変身できたら....
芦原さんに関しては自分を助けなければと思っているかもしれない。
そして、僕はもっと強ければあの場所に僕が来ることが出来ていたら....そして、別の作戦を提案できていたら黒岩さんは死ななかったかも知れない。
分かりますか京水さん?
皆、"罪の意識"を持っているんです。
もっと何か出来たんじゃないかとね.....それを貴方に奪う権利はない。
断言します。
黒岩さんが死んだのは僕達、全員の責任です。
だからこそ、向き合わないと行けないんです。
逃げちゃダメなんです。
どんなに苦しくて恐ろしくても向き合わないと行けないんです。」
無名の言葉を受けて京水は目に涙を浮かべる。
「分かってるわ....分かってるけど怖いのよ。
死ぬことなんて一度、経験している筈なのに....大切な仲間が死ぬことがこんなに恐ろしいなんて...黒岩ちゃんの家族にどうやって会えば良いのか....分からないのよ。」
「京水....」
「その為に僕達がいるんです。
一緒に行きましょう。
それと芦原さん、葬儀が終わったら時間を作ってくれるそうです。」
「分かった。」
「時間?....何なの?」
京水が尋ねると芦原が答えた。
「家族と....会おうと思う。」
葬儀が終わると私と楓は母さん達に呼び止められた。
この後、誰かと会うらしく時間を取って欲しいと言うのだ。
葬儀が終わったばかりで楓を休ませたかったが楓のお母さんにも頼まれたのでその場所へ向かった。
水音町にある小さな喫茶"Angebot"と書かれた看板のお店に入ると車椅子に乗った女性が応対してくれた。
「話は無名から聞いているわ。
私はこの店の店長をしてるマリアよ。
今日は貸し切りだからゆっくりしてちょうだい。」
そう言われ、席に案内される。
「飲み物は何にする?」
そう言ってマリアはメニューを渡す。
コーヒーを頼み待っているとそこに無名と死んだ筈の父さんが現れた。
「パパ?」
茜は驚きながらそう尋ねる。
「そうだ茜.....大きくなったな。」
茜は席を立ち上がると父親に抱きついた。
「やっぱり、学校で私を助けてくれたのはパパだったのね!
ママから死んだって言われてたから!」
茜の言葉に芦原は顔を歪める。
「それに関しては僕が説明します。」
そう言って無名が話し始めた。
無名の話を聞き終わった茜の表情は先程と違い暗くなる。
そして、妻である花はショックから顔が白くなっていた。
「つまり....夫は一度死んで....甦ったってことなんですか?」
「正確には違います。
薬によって死んだ身体を無理矢理、動かしているに過ぎません。
勿論、記憶もちゃんと残ってはいますが...死体であることには変わりがありません。」
そう言われ茜は父親に抱き付いた時の事を思い出した。
(全身が氷みたいに冷たかった.....無名さんの言っている通り、パパは死んでるんだ。)
しかし、それ以上に茜を困惑させたのは黒岩の死に父親が関わっていると言う話だった。
「.....嘘だよねパパ?嘘だって言ってよ!」
泣きそうな顔で叫ぶ茜に父は冷静に告げる。
「本当だ....幸太郎さんは俺を助けようとして死んだ。」
「でもどうして?幸太郎さんは普通の人でしょ?
何でそんな目に....」
茜がそう言うと楓が答えを告げた。
「お父さんがガイアメモリを使っていたから...ですか?」
「それはどういうこと楓?」
楓は自分の過去を茜に話した。
そして、無名がガイアメモリを流通させていた組織の1人だったことも.....
「そんな.....」
「今は組織を離反しました。
そんな時でも僕に着いてきてくれた部下の1人が幸太郎さんだったんです。」
「じゃあ....私達が学校で襲われたのも?」
「はい....その関係だと思います。」
その言葉を聞いた茜は無名に向けて飛び掛かった。
それに気付いた父親が茜を抑える。
「茜!落ち着け!」
「落ち着けるわけ無い!
アンタが私達の学校をメチャクチャにしたんだ!
沢山の人が怪我をした!
楓だって死にかけた....それにお父さんも失った...全部...全部アンタのせいだ!」
憎しみの目を向ける茜に無名は告げる。
「貴方の感情は理解できます。
ですが、その前に言わなければいけないことがあるんです。
それまで待っていてください。
梓さん...楓さん...僕の技術を使えば幸太郎さんを賢さんと同じく蘇生させることが出来ます。
ただしそれは死体を無理矢理、動かす行為です。
体温が無く生きてる様に錯覚した幸太郎さんでも甦らせたいですか?」
そう言われ悩む梓に対して楓は即答した。
「要りません!
父さんは私の心に生き続けています。
もう....休ませて上げたいんです。」
梓と楓は幸太郎が行ってきた事を知っている。
自分達を治す為にどんな取引をしたのかも....一番辛かったのは父さんの筈だ。
私達の為に悪事に手を染めた。
だからこそ、死んだ今はもう休ませて上げたい。
楓はそう思っていた。
その言葉を聞いた梓も無名を見て言った。
「娘の言う通りです。
夫はもう....十二分に苦しみました。
これ以上、苦しませる事は出来ません。」
「....そうですか。
分かりました。
正直、そう言って頂けて嬉しいです。
僕達の考えが間違っていると良く理解できますから....
幸太郎さんから貴方達に残す筈だった財産は僕が預かっています。
葬儀が終わればお渡しします。
ここは貸し切っていますので...ゆっくりしていってください。
最後にですが....貴方のお父さんに僕は何度も命を助けられました。
ありがとうございました。
そして、助けられなくて本当に申し訳ありません。」
無名はそう言って楓達に頭を下げる。
そして、顔を上げると茜を見つめた。
「
そう言われた芦原は手を離す。
そして、起き上がった茜に無名は言った。
「貴女とは別の場所で話があります着いてきてください。
僕と二人だけです....芦原さんはここで待っていてください。」
そう言うと茜を連れて喫茶店を出ていくのだった。
無名が茜を連れてきたのは古くなった廃工場だ。
「ここなら、誰も来ません。
監視カメラも無い....ここの事は僕以外知らない場所です。」
「ここに連れてきて何の用なんですか?」
そう尋ねる茜に無名はグローブを投げ渡す。
「軍隊で使われる実戦用のグローブです。
それを着けてください。
貴女は僕に復讐する権利がある。
死ぬことは出来ませんが、貴女の怒りが治まるまで殴られる事は出来る。」
その言葉を聞いた茜はグローブを着けると無名を見据えて構える。
「手加減はしません。
殺す気でやります。」
そう言って殺意を向けられると無名は優しく笑った。
「どうぞご自由に.....」
喫茶店で賢と花は顔を会わせた。
死んでNEVERになったが全く連絡をしてこなかったからこそ何を話して良いのか分からない。
「.....茜は大きくなったな。」
そう言うと花は動揺しながら言った。
「えぇ、立派に育ったわ。
ちょっとヤンチャ過ぎると思うけど....」
「そこはお前に似たのかな?」
「違うわよ。
正義感は貴方譲りよ。」
暫くの沈黙の後、花が言った。
「何で私達に会いに来なかったの?
死んだって聞いて私がどんな気持ちで生きてきたか分かる?」
「....すまない。
だが、俺は死人だ。
無名が言ったようにもう普通には生きていけない存在になったんだ。」
「それでも!.....会いたかった。
例え死んだんだとしても会ってちゃんと話したかった。
こんなことになる前に.....」
「そうだな.....本当にそうだ。
茜が無名を憎んだ目で見た時、心底そう思ったよ。」
「無名さんって....どんな人なの?」
「俺達の事を人として心配してくれる物好きだ。
俺が記憶を持てたのも無名がやってくれた研究のお陰だった。」
「そうなのね.....正直、まだ私には何が何だか分からないわ。
ガイアメモリの話だって私からすれば遠い世界の事だもの.....」
「そう言えば
「幸太郎さんが私達、家族を含めて旅行を手配してくれたの....だから帰って来て始めて事件の事を知って....もしかして、それも?」
「恐らく無名が手を回したんだろうな。」
「そうなのね。
私達、知らない内に守られてたのね。」
「あぁ.....お前の事は幸太郎から聞いていた。
再婚してないことも......何故だ?」
「.....言わなくても分かるでしょう?」
「俺はそこまで思われる程の男じゃなかったぞ。」
「いいえ、事件の事を茜から聞いた時は疑ってたけど今なら納得できるわ。
貴方が茜を守ってくれたのね。」
「死んでも....俺の娘だと言うことには変わりがないからな。
こんなところで死んで欲しくなかっただけだ。」
「変わらないわね。
不器用で口下手な所は.....」
「....あぁ。
死んでもダメだったらしい。」
生前から不器用な人だった。
でも誰よりも優しくて正義感に溢れた人だった。
だからこそ、今でも私は
(だから、私は再婚しないことを後悔なんてしてないのよ。)
そんな事を言ったら照れてしまうだろうから花は敢えて話さなかった。
暫くすると賢の携帯に連絡が来た。
「克己、どうした?....分かった花を連れて行く。
場所は?....分かったすまないなありがとう。」
そう言って電話を切ると賢は立ち上がった。
「どうしたの?」
「茜が無名をボコしたらしくてな。
迎えに行かないといけない。
花、一緒に来てくれ。」
「分かったわ。」
そう言うと二人は喫茶店を後にするのだった。
喫茶店から出た梓と楓は外を歩いていた。
「ねぇ、楓何時から知ってたのお父さんの事.....」
「....私達が捕まった時から意識はあったの。
それで
「そうなのね......ごめんなさい気付いて上げられなくて」
「ううん、でも私嬉しかったんだ。
私達が元気になってお父さん、とっても笑うようになった。
悪いことをしてるのは知ってたけど.....それでも私の自慢のお父さんだったんだ。
だから死んだって聞いた時、どうして良いか分からなかった。
茜が心配してくれたけど....無名さんが真実を話してくれた後は辛そうにしてて....それも嫌で....」
そう言って暗くなる娘を母親は優しく抱き締める。
「全部吐き出しなさい。
貴女は何も悪くないんだから....」
「私....お父さんに生きてて欲しかった!
悪人だったとしても生きてて欲しかった!
何で....何で死んじゃったの!
お父さんに....会いたいよ.....」
今まで我が儘らしいことを言わなかった娘が始めて出した心の内を聞いた私は....ただ抱き締めるしか出来なかった。
(こんな時.....貴方ならどうしてた?幸太郎。)
答えの無い疑問を心の中で尋ねつつ時間だけが過ぎていった。
Another side
スーツに着替えた灯夜の姿を見た天十郎は頷く。
「良いだろう。
これなら面目も立つ。」
そう言うと原稿の束を灯夜に投げ渡した。
「今日の会見で使うセリフだ覚えろ。
それ以外の事は何もするな。
オーダーはそれだけだ。
時間は二時間ある....私は準備がある。」
そう言うと天十郎はまるで興味がなくなったように部屋から出ていった。
灯夜は昔と変わらない自分への扱いに笑う。
(家族も所詮、自分を飾る道具でしかない。
だから母さんが死んでも興味を示さず、周りにだけは良い顔をし続けていた。
外では妻が死に男で一つで息子を育てる優しい政治家。
だが、本性は自分が良ければそれで良い人格破綻者だ。
俺はあの男の支配から解放されたくて外に出た。
そしてセブンスを作っていつか、アイツに復讐しようと思っていたのにこのザマか.....)
「ふっ....!?...ゴホッゲホッ!」
灯夜は口をハンカチで抑える。
咳が止みハンカチを見ると血でベットリと濡れていた。
(もう、身体も限界が近いか.....結局俺はあの男の駒として人生を終えるんだな。
だが、せめて獅子神の安全だけは....)
自分を色眼鏡無く認めてくれた彼だけは助けたい。
灯夜を動かす感情はもうそれしかなかった。
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第二百一話 起こされるS/二人の後悔
「はぁ...はぁ...はぁ」
茜は息を上げながら無名を見つめていた。
殴り始めてから数十分、無名は一切反撃せず茜の攻撃を受け続けていた。
茜のグローブは無名の血でベッタリと汚れている。
「もう....終わり.....ですか?...」
息も絶え絶えと言う姿だが無名は茜にそう尋ねる。
「.....くっ!まだよ!」
茜は握りこんだ拳を無名の腹部で叩き込んだ。
「うぐっ!」
「まだまだぁ!」
そのまま茜は振りかぶった拳を無名の顔面に当てた。
その威力は高く無名の身体は吹き飛ばされる。
しかし、気絶すること無く無名はフラフラになりながらも立ち上がった。
「う....ま...だ...です。」
「どうして....どうして反撃してこないの!何で!」
「僕は....貴方の家族を奪った組織にいました。
そして....その組織のせいで親友である楓のお父さんは死んだ......貴方は混乱しているんでしょう?
誰を恨めば良いのか?自分の父親がいるのに喜べない。
親友の父を自分の父親を救うために犠牲にした....楓さんとどう会えば良いのか分からない....違いますか?...」
「........」
「復讐は....奪われた人間が持てる....一つの権利です。
父親を奪ってしまった僕がそれを貴女から奪うことなんて.....出来ない。
例え、死んでもこの復讐は行われるべきだ。
だから....貴女の気が済むまで殴られます。
例え....それで死んだとしても.....」
「分かんない.....全然、分かんないわよアンタの言ってることがっ!.....何でそんな目が出来るの?
私はアンタを....殺すつもりで.....」
「続けるかは....貴女が決めることです。」
茜は無名の言っていることが分からなかった。
自分は彼を殺すつもりで殴り続けているのに....何でそんな優しい顔が出来るのか分からなかった。
茜は自分の拳を見つめる.....無名の血で真っ赤に染まっているその拳を見て何故か悲しくなった。
(こんな手で....私は楓に触れられるかな?.....)
そして、決心するとグローブを脱ぎ捨てた。
「もう....良いよ。
こんな事しても虚しいだけだ。
アナタを殴り殺したって楓のお父さんは帰ってこないしアタシのパパは生き返らない。
....でも、ありがとう。
私の事を思って殴られてくれたんだよね?...」
「....何の....事ですか?」
「惚けなくて良いよ。
アンタが強いのは分かってた。
本気のアンタならアタシを簡単に倒せたでしょ?...」
「....買いかぶり過ぎですよ....」
「殴って....ごめんなさい。
パパの事はちゃんと話をしてみる。
家族として......」
「....ありがとう....ございます。」
そう言うと無名は地面に倒れた。
「....はは...やっぱり痛いですね。
空手王者の拳は.....」
「そりゃ、鍛えてるからね。
....救急車呼ぼうか?」
「いえ....大丈夫です。
それに....お迎えも来たみたいですし....」
そう言うと工場に芦原夫妻と克己が現れた。
「茜!」
「....パパ。」
茜を見つけた夫妻は彼女を抱き締めた。
「良かった.....大丈夫だったか?」
「うん....ごめんね。」
「謝るのは俺の方だ。
すまない.....」
そうして抱き合っていると茜が無名に向けて言った。
「私....パパとママとゆっくり話してみる。」
「えぇ、それが良い。
じっくり話してください。
これまで話せなかった分を......」
そう言うと三人は工場から去っていくのだった。
そして、それを見越したように翔太郎とフィリップが現れる。
「やっぱりいましたか。」
「気付いてたのか?...」
「リーゼですね?
全く、心配症ですねぇ本当に....」
フィリップ達がここに来れたのは何時もと違う顔が気になったリーゼが無名を追跡し状況を文音を通じて翔太郎達に送っていたのだ。
「君は....本当に死ぬつもりだったのかい?...」
「それだけの....罪はありますからね....でもそれより、彼女が間違った復讐を遂げるのを止めたかった。」
「間違った復讐?」
「茜さんは強い.....ドーパントだろうと自分の正義の為なら立ち向かっていく程に.....
それでもしミュージアムに戦いにいったら彼女は死んでしまう。
これ以上、犠牲を出したくなかった。
その為にも今、ここでその怒りを発散させて冷静にさせる必要があったんです。」
「その為にお前がサンドバッグになった訳か.......はぁ、バカかお前は?」
翔太郎は呆れながらも無名に手を差し出す。
無名もそれを掴むと立ち上がれた。
「ありがとうございます。」
「なぁ、この後時間あるか?」
「どうしてですか?」
「お前も溜め込んでいるもんあんだろ?
殴られる事は出来ねぇが話は聞けるぞ。」
(本当に人の心を良く読みますね彼は.....)
無名は軽く笑うと翔太郎に言った。
「じゃあ、話に乗って貰いましょうか。
......そう言えば克己さんは何処に?」
「あぁ、克己ならフィリップが連れて言った。
相棒なりに心配してんだろう。」
「貴方のお節介が相棒にも移ったみたいですね。」
「ふっ....かもな。
取り敢えず、家の事務所で治療すっぞ。」
そう言うと二人は翔太郎の事務所へと向かうのだった。
無名と克己が翔太郎とフィリップと話している頃、テレビでは緊急記者会見として風都庁の会見室が、映し出されていた。
暫くすると天十郎が画面に現れる。
「風都市長の雨ヶ崎 天十郎です。
今回、皆様をお集めしたのは風都に蔓延しているこの道具に関して説明するためです。」
そう言うと天十郎はガイアメモリを記者に見せた。
「ご存じの通り、風都は人間を怪物に変えるこのガイアメモリにより多大な被害を被ってきました。
そして、今回起きた風城高校でのドーパントの襲撃事件を重く見た我々は一つの決断しました。
風都に存在するガイアメモリ犯罪を撲滅する為、
"対ガイアメモリ部隊"の設立を宣言します。
急な報告に混乱する方もいらっしゃるでしょう。
勝ち目の無い無謀な行為と仰られるかもしれない。
しかし、その無謀な行為を陰ながら続けている存在がいます。
皆様も噂では聞いたことがあるでしょう?
"仮面ライダーの噂"を.......
結論から言えばその話は真実です。
彼等はドーパントと同じ様にガイアメモリを使い、人知れず犯罪者から皆様を守っていた。
ですが、彼等は政府に認可されていない非公認の存在です。
いくら、正義の為とは言え正体を明かさない存在はガイアメモリを使う犯罪者と変わりません。
ですので、我々が彼等と同じくガイアメモリを使い正義を行う存在を作り上げる。
その為の準備をずっと行ってきました。
そして、その考えに賛同してくださったのが園咲博物館館長でありガイアメモリ研究を陰ながら支援してくださった。
"園咲 琉兵衛"殿です。
対ガイアメモリ部隊は彼の尽力により作れたと言っても過言ではありません。
そして、彼の娘である園咲 若菜さんを中心としてガイアメモリ犯罪を撲滅する組織...."ミュージアム"の設立を宣言します。
私がここに約束致しましょう!
この風都からガイアメモリ犯罪を撲滅させると.....
詳しい説明は私の息子である灯夜が務めます。」
そう言って天十郎が手を向けるとスーツ姿の灯夜が壇上に現れた。
「対ガイアメモリ部隊 隊長を就任致しました。
雨ヶ崎 灯夜です。
画面を見てくださる皆様は突然の話に不安に思っているでしょう。
ですが、ご安心ください。
我々は長年の研究により安全にガイアメモリの力を使う技術を開発致しました。」
そう言うと灯夜は懐からメモリを取り出し起動すると身体に挿してドーパントへ変身する。
「この様に、メモリを使っても暴走すること無く安全に使用出来ます。
我々が部隊を率いてガイアメモリ犯罪を行う者達を検挙していきます。
この行為は日本政府により認可された行動であります。」
それを証明するように背後にスクリーンが現れると書類の映像が流れる。
確かにそこにはガイアメモリを使用した特設部隊を、限定的に認める書面が首相のハンコと共に映し出されていた。
そして、その映像が写し終わると天十郎がまた壇上で話し始める。
「市民の皆様は不安に思っているでしょうがご安心ください。
長く行われていたガイアメモリ犯罪に怯える生活が終わりを向かえるのです。
ドーパントに屈しやられていただけの警察に頼ることはありません。
仮面ライダーと言う不透明な存在に頼ることもない。
これからは対ガイアメモリ部隊....そしてミュージアムが風都市民の安全をお約束致します!!
それを約束する意味として風都第二タワーに対ガイアメモリ部隊の駐屯地を設けます。
風都市民の皆様!!
我々はガイアメモリ犯罪に屈しない!
誰よりも強く発展した街としてこの風都を存続させることを雨ヶ崎 天十郎はこの場を持って宣言させていただきます!」
1時間に及ぶ、天ヶ崎のスピーチを受けた風都は騒然となった。
そして、これを受けて驚いたのは風都署で働く警察もだった。
「どういうことなんですかこれは!!」
署長室の電話越しで氷川が怒号を発した。
それを受けた相手は渋い顔をする。
「今回は相手が一枚上手だったんだ。
対ガイアメモリ部隊の設立を政府に打診したのは"アメリカ政府"だ。」
「!?どうしてアメリカ政府がガイアメモリの事を?」
「私も不思議に思っていた。
だから"一条君"に調査を依頼していたんだ。」
「一条さんにですか?」
警視総監は彼に調査を依頼していたのだ。
「相変わらず一条君は、仕事が速い。
お陰で黒幕が誰か分かった。
対ガイアメモリ部隊の設立の支援を申し出たのはアメリカの軍事産業のトップだったよ。
"リオン=アークランド"....聞いたことがあるだろう?」
「えぇ、確か世界各国で軍事産業に手を出している
他にも色んな技術の研究をしているとか.....」
「あぁ、そんな企業を中心として複数の大企業が連盟でアメリカ政府に打診したんだ。」
「そんな......」
「驚くのはこれだけじゃない。
連中はガイアメモリがテロ行為に使われる危険性を唱えて警察の直接的、強化も提案してきた。
その案を見たが....その中に"G4プロジェクト"が入っていた。」
「!?それはあり得なません!
だってあれは小沢さんが完全に消した筈です....」
"G4プロジェクト"....かつて氷川がアンノウンと戦っていた時、使用していた"G3システム"の設計者である
それを自衛隊員であった
AIが、人間をパーツとして扱い過剰な負荷を本人の意識関係なく与え続け最終的に装着者は死んでしまう。
氷川はそれを着けた装着者と戦い、その非業な最後を知っていた。
だからこそ、自然と拳を握る力が強くなる。
「一体どんなトリックを使ったのかは分からないが彼等の手にG4システムがあるのは明白だ。
今、小沢君にも事実究明を急がせている。」
「.....我々はどうすれば良いんですか?
また、あのシステムが人を殺すのを黙って見ているなんて....僕には出来ません!」
「私が何としてもその提案は阻止する。
だが、今は時間が欲しい。
それに私の権力では強化案を止めるだけで精一杯だった。
すまない.....対ガイアメモリ部隊に関しては私の力では止められない。」
「....分かりました。
でも、私達は警察官です。
風都市民を守るのは我々です。」
「あぁ、分かっている。
暫く迷惑をかけるが風都を頼む。」
そう言われ電話を切った氷川は席に着き溜め息をつく。
「これからどうなっていくんだ....この風都は....」
氷川はこの感覚に見に覚えがあった。
逆らえない流れに巻き込まれていく感覚。
"あかつき号事件"や
何か大きな事件が起こる前触れ、そう感じてしまった。
「僕は....只の人間だ。
G3も無い僕じゃ、大したことは出来ない。
....それでも僕は警察官だ。
そうあり続けたい。」
氷川は決心をつけると署長室を後にする。
これからの行動を話す為に.....
Another side
無名は翔太郎の事務所につくとゆっくりと話し始めた。
「僕は....きっと欲張りなんです。
自分の救いたい者は誰も失いたくない。
その為に行動してきました。」
「そうだな.....お前のお陰で霧彦も死ななかった。
話を聞いた時は驚いたぜ。」
「今回もそうです。
僕は京水さんの話を聞いて獅子神も助けようと思った。
京水さんが言わなければそう思わなかったでしょう。
でも、助けたい....いや助けられると自惚れてたんです。
これまでと同じ様に仲間を使えば.....」
「だが、今回は違った。」
「えぇ、非情に思えるかもしれませんが....全体で見れば今回は最小限の犠牲で済んだ方なんです。
人質の学生の命を救いそして獅子神の幹部を捕縛した。
1人の"犠牲"では考えられない程のリターンでした。」
「本当にそうは思ってないだろう無名?
だから、お前は茜ちゃんに殴られたんだ。
本当は一番自分を罰したかったんじゃないか?」
「.........」
「
いくら、アンタでも全て望み通りなんて出来ないんだよ。
人間、失った事を嘆くより救えたことを喜んどくべきだ。
お前は俺よりも沢山の人を救える筈だ。
ここで、腐るのも良いが...それは死んだ黒岩が望んでいるのか?
殴られてお前も少しは頭が冷えたろ?
ゆっくり考えてみろ。」
「.....ハーフボイルドな貴方にしてはクールな言い方ですね。」
「うるせぇ....コーヒーでも飲むか?」
「美味しいものなら是非.....」
「言ったな?....絶対、旨いって言わせてやるからな。」
翔太郎の作ったコーヒーは苦くお世辞にも美味しいとは言えなかったがその苦味が今の無名にとっては心地よかった。
失った者は戻せない。
再生酵素で肉体は蘇ってもそれは本人だとは言えない。
死人を無理矢理動かしているだけ....だからこそ彼女らは断ったんだ。
それを知ったからこそ己の提案を恥じた。
彼の尊厳を辱しめようとしたのが他でもない自分だと分かったからだ。
(僕も所詮は卑しい人間の1人...と言うことですね。)
コーヒーに写った自分を嘲笑しつつゆったりと時間が流れていった。
ラジオから天十郎の記者会見を聞くまでは......
フィリップと克己は風麺の屋台に足を運んでいた。
店主は買い物があるらしく屋台から出ていたので二人は気兼ね無く話し始める。
「ここは?」
「翔太郎が男と二人で大事な話をするならここが良いって昔言ってたのを思い出してね。
ここならゆっくり話せると思ったんだ。」
「そうか....」
「聞かせてくれないか?君の悩んでいることについて....」
「俺はNEVERのリーダーとして彼等を指揮してきた。
どんな戦場でも迷わず的確に指示できる自信があった。
そして、仮面ライダーになって傭兵で化物の俺らでも人を救えるヒーローになれてる気がしていた。
だが違った。
黒岩が殺られた時....俺は何も出来なかった。
悲痛な声で叫んでいる京水や芦原に何もしてやれなかったんだ。」
「そんな事はない。
君がいるから仲間が救われている面もある筈だ。」
「まともに戦えないのにか!
獅子神の足止めの為に戦ったが俺は足手まといだった。
挙げ句の果てに無名に守られて....それで終わったんだぞ!
そんな俺が一体誰を救ったって言うんだ!」
克己は怒りで屋台の机を叩いた。
怒りを吐き出した克己にフィリップは優しく告げた。
「ゴエティアに翔太郎を奪われた時.....僕も同じ様に思ったよ。
相棒1人助けられず怯えてしまった自分が情けなかった。
けど、僕は恵まれていた。
助けてくれる仲間がいたんだ。
1人では失敗を嘆き絶望するしかないが仲間がいれば立ち直れる。
もし君が立ち上がれないなら僕が支える。
だから.......その......」
"立ち直ってくれ(と言わない辺りにフィリップの優しさを感じた克己は少し冷静になった。
「ふー.....そのお節介は翔太郎から伝染したのか?
全く似合ってないぞ。」
「うっ!.....言わないでくれよ。
自分でもそう思ってるんだ。」
「だが感謝する。
そうだな.....もう一度、しっかり仲間と話してみるさ。
それに、俺はやられっぱなしは主義じゃないのを忘れていたよ。」
「そうか.....」
そんな話をしているとフィリップのケータイに着信が入る。
「もしもし、翔太郎かい?」
「お前、テレビを見たか?」
「いや、今、風麺の屋台にいるから.....」
「なら今すぐテレビを見ろ!
照井から連絡があった.....風都が大変なことになっている。」
焦っている翔太郎の声を受けフィリップは急いでケータイの機能を使いテレビを確認するのだった。
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第二百二話 起こされるS/一つの命令
ニュースを見たフィリップと克己は急いで鳴海探偵事務所に向かった。
到着するとそこには無名と翔太郎と照井と亜樹子、そしてNEVERの面々とマリアと文音、そして霧彦兄妹が中にいた。
「帰ってきたかフィリップ。」
「あぁ、あんなニュースを見たら直ぐに戻るだろう。
それにしてもあれは何なんだ?
対ガイアメモリ部隊とは.....」
その問いに無名が言った。
「雨ヶ崎の一家はミュージアムと繋がっていました。
恐らく、当初から計画されていたんでしょう。
実はサラの部下である美頭さんから連絡があって、獅子神とサラはミュージアムの幹部から解雇されたようです。」
その言葉に翔太郎が首をかしげる。
「そりゃ、どういう意味だ?
サラと獅子神はミュージアムに忠誠を誓っていた筈だろ?
裏切った無名なら分かるが......」
「これは推測ですが.....園咲 琉兵衛は最初から僕達を駒として使い潰す為に幹部にしたのだと思います。
あの人の行動原理は全て、家族に帰結します。
だからこそ、重要なポジションや計画の要には家族を使うんです。
組織の地盤固めと勢力の拡大が終わり安定した今、僕達は用済みだと判断したのでしょう。」
その答えに文音が同意する。
「その考えは間違っていないと思うわ。
ガイアインパクトの準備がほぼ完了している今、琉兵衛にとっての優先順位は計画から家族に変わった。
だからこそ、獅子神が学校を襲った時も何の支援もしなかった。」
「その考えが正しいのならミュージアム.....いや園咲 琉兵衛の目的は.....」
「来人....貴方を取り戻す事に注力するでしょうね。
恐らく、その為に新たに作り出した対ガイアメモリ部隊を動かす筈よ。」
その言葉を聞いた照井は怒りに顔を歪める。
「ふざけたことを......」
「ですが今後、僕達の動きが制限されることは間違いないでしょう。
風都市長が直々にガイアメモリを認め、政府の認可を得てガイアメモリを使った軍隊を動かすんです。
無闇に戦えば僕達もガイアメモリを使い暴れる犯罪者と同じ扱いを受けます。」
「無名、いくらなんでもそりゃありえねぇだろ。
俺達はこれまで風都の仮面ライダーとして戦ってきたんだぜ?」
「えぇ、ですが雨ヶ瀬も言っていたでしょう?
ドーパントも仮面ライダーもガイアメモリを使っている。
酷な言い方をしますが一般人にはその違いなんて分かりません。
「それはっ!......クソッ。」
「警察としてはどう言った対応をするんですか?」
「上司に聞いたが....政府主導の計画だから止めることは難しいらしい。
今、掛け合ってもらってはいるが恐らく難しいだろう。」
「でしょうね。
ミュージアムも本腰を入れてきたと見て間違いないでしょう。
若菜さんを表舞台に出す程ですから.....」
「ならもう一度姉さんと会って話をすれば....」
そう言うフィリップの意見を克己が否定する。
「止めた方がいい。
少なくとも今の園咲若菜はお前の知っている存在じゃない。」
「どうしてそう言いきれるんだい?
確かに洗脳はされているかもしれないが....」
「克己さんのドライバーとメモリを壊したのが若菜さんだからです。」
無名がフィリップに説明した。
「!?.....それは本当なのかい?
本当に.....姉さんが....」
「黙っていてすまない。
余計な心配をさせたくなくてな。」
「......他に黙っていることは無いのかい?」
フィリップの問いに克己は少し考える。
「いや...."無い"それだけだ。」
「そうか.....」
自分の余命について語らない決断をした克己の意思を尊重するべく無名が話を続ける。
「話を戻します。
僕達のやらないと行けない事はガイアインパクトの阻止です。
その為にもミュージアムが計画していた内容を知る必要があります。」
「どういう意味だ?
お前が知っている訳じゃないのか?」
「僕が知っているのはゴエティアが改変する前の計画です。
それならば文音さんも詳しい筈です。」
「えぇ、若菜を器にしてデータ人間である来人を制御プログラムにとして吸収する。
そして地球と繋がり人類を強制的に進化させるのが元々のガイアインパクトの計画よ。
だから、場所は園咲邸の地下にある地球の記憶と繋がれる井戸だった。」
「ですが、ゴエティアが現れたことで計画は大きく加筆修正されたと思います。
先ずはその計画の全容を知る必要がある。
強行手段ですが園咲邸の侵入も含めて検討します。」
「直ぐには出来ないと言う事か?」
「えぇ、先ず風城高校の一件で僕達も無視できない損害を受けました。
NEVERもその大半が修理が必要な状況です。
今、大胆な行動を取るにはリスクが余りにも高い。」
「なら、今は暫く力を貯めて機会を伺うってことだな?」
「はい、これ以上犠牲者を出さない為にも....」
無名のその言葉を聞くと翔太郎が言う。
「分かった。
何か動きがあったら俺らに伝えてくれ。
俺もそうするからよ。」
そう言い終わると集まったメンバーは各々解散していくのだった。
Another side
風都第二タワーの中心にある巨大な装置が取り付けられた部屋に琉兵衛と若菜、そして冴子がいた。
「私を呼び出して一体何の御用ですかお父様?」
そう言う冴子に琉兵衛が言う。
「冴子、君にミュージアムの幹部へと復帰するチャンスを与えようと思ってね。」
「チャンス.....ですか?」
「あぁ、知っての通り我がミュージアムの悲願であるガイアインパクトの開始まで秒読みとなった。
だからこそ、目先の障害を排除しておきたい。
井坂君をね.....」
「!?」
「元々、君が招き入れた客人だ。
その始末は招いた者が取るべきだろう?」
「私に.....井坂先生を殺せと言うのですか?」
「ほぅ、まだ"先生"などと呼ぶのかあの男を....
良いか冴子、お前はあの男に騙されたのだ。
お前は利用され捨てられたのだ。
そんな情けない結末を受け入れる者など園咲家に相応しくない。
お前なら分かる筈だ冴子?」
琉兵衛から言われた言葉を受けて冴子は冷笑する。
「それが私を呼び出した理由ですか。
やっぱり私は只の道具ってことなのね。」
「それはどういう意味かね冴子?」
琉兵衛は冴子に向かって恐怖のオーラを放つが本人に効いた様子はなく続ける。
「貴方にとっては若菜以外の家族は全員道具なんでしょ?
私もミックも....切り捨てた部下達も.....
もう、どうでもいいのよミュージアムも貴方も...
私は只ひっそりと生きていたいだけ、何にも利用されずに....井坂先生を殺したいなら好きにすれば良い。
だけど、それに私を巻き込まないで」
そう言うと冴子はその場を後にしようとする。
「待ちなさい冴子、話しはまだ終わってない。」
「私にとっては終わってるのよ。
こんな所に一秒たりとも....!?....身体が....動かない。」
出ていこうとする冴子を若菜が手を翳して止めた。
「うふふ....良い年して我が儘はいけないんじゃなくって?お姉様。
それに宇宙の巫女として完成しつつある私にその態度は良いのかしら?」
「宇宙の巫女....はん!...その生き方しかもう出来ない化物のアンタこそ何を言ってるのよ?」
「何を!?....良いわこの際、ハッキリさせましょう。
貴女の立場についてね。」
そう言うと若菜はドライバーをつけるとメモリを起動し差し込んだ。
すると若菜の周囲の空間が歪む程の大きな力を発生させながらクレイドールドーパントへと変身が完了する。
「お姉様も変身なさって?
ここで決着をつけましょう?」
「わたしを殺したいの?
ならそうすれば良いわ。」
嘲笑う若菜に冴子は冷たくそう告げる。
そう言われ若菜はビームを放つが冴子の頬を霞めるだけだった。
避ける気すらないその態度が若菜の怒りを加速させる。
「避ける気も無いって言いたいのかしら....バカにして!」
「下らない遊びには興味ないのよ。
殺したければ殺せば良いわ若菜。」
「その鼻に付く言い方が気に食わないのよ!
"マグマ"!"ウォーター"!起動!。
灼熱のマグマで包んであげるわお姉様!」
若菜の周囲に現れたマグマが波打ち冴子を狙うがその攻撃を突如現れた
琉兵衛がそんな彼に告げる。
「君をここに呼んだ覚えはないよ加頭君。」
「失礼....ですがここで冴子さんを傷つけられるのか困るのです。
井坂 深紅朗についての処分ですが、是非私も参加させいただけませんか?」
加頭の提案に若菜が言った。
「あら?財団のエージェントである貴方にそれで何のメリットがあるのかしら?
利益を考えるのなら寧ろ、あの男を野放しにした方が宜しいのではなくて?」
「そう思うのも不思議ではありませんが事態は変わったのです。
ガイアメモリはもう"リスク無く怪人になれる兵器"としての地位を確立しています。
コネクター改良による安全性の強化によって誰でも簡単に変身する事が出来、"アクセサリーシステム"や"エンゼルビゼラ"を改良した"ドーパント強化薬"によってオプションの幅も広くなった。
何処の紛争地域や権力者に売っても素晴らしい利益を出せるでしょう。
そんな今、最も重要なのは"ブランドの確立"です。
安全に強力な力を得られるガイアメモリのブランドに井坂の存在は邪魔なのです。
通常、害として扱われるガイアメモリの毒素を使った強化手段、これは謂わば我々が推奨していない強化方法です。
もし、それで死者等が出ればガイアメモリのブランド力が落ちてしまう。
香りが足りないからとスパイスを大量に入れた紅茶を飲んで飲み合わせが悪く体調を崩した。
それを飲んでいる人がいるのに自分が出来ないのは商品に不具合がある....なんて下らないクレームがつくの商売人として困りますので....」
「ふむ.....道理は通っているな。
良いだろう。
井坂君の始末は"君と冴子"に任せるよ。」
「ありがとうございます。
では、冴子さん別の場所で詳しく話をしましょう。
それでは失礼致します。」
そう言うと加頭は冴子の腕を引いて第二タワーを後にするのだった。
手を引かれる冴子は第二タワーを出ると足を止めた。
「もう、離してくれませんか加頭さん。」
しかし、その言葉を加頭は無視して歩き続ける。
「琉兵衛さんから呼び出しがあったと聞いた時は驚きました。
貴女はこれまでの失態から幹部としての地位を剥奪されています。
しかし、僕が最も驚いたのはこれを置いたままあの場所にいたと言うことです。」
加頭はそう言いながら懐から冴子のガイアドライバーとタブーメモリを取り出した。
「一体何を考えているのですか?
彼処はもう、貴女が知っているミュージアムでは無い。
死ぬ可能性だってあったんですよ?
僕が助けなければ貴女は今頃.....」
「別にどうでも良いわ..."自分の命"なんて...」
「僕は嫌なんです!....冴子さん貴女が死んでしまう事が....」
加頭は珍しく感情的に冴子に怒鳴ったのを聞いて冴子自身、戸惑ってしまう。
「.....怒鳴ってすいません。
でも、本当にそう思っているんです。
貴女には死んで欲しくないし幸せでいて欲しい。
冴子さん、教えて下さい。
今の貴女の幸せは何ですか?
教えてくださるのなら僕はそれを全身全霊で叶えます。」
加頭の問いに冴子は少し考えると答えを出した。
「家族から離れてただひっそりと暮らしたい。
ミュージアムやガイアメモリを忘れて....」
それを聞いた加頭は少し考えると答えを出した。
「冴子さん....僕と一緒に財団に来ませんか?」
「財団Xに所属すると言うこと?」
「えぇ、ですが形だけで結構です。
財団の名前があればミュージアムでも引き抜きは出来ない。
寧ろ、ガイアメモリの関係者として厚遇を受ける筈です。
財団には利益を直接的に与えられる存在には特別な役職と待遇....そしてある程度の権力が与えられます。
私の推薦とこれまでの実績があれば冴子さんがそのポジションにつくことは難しくありません。」
「でも、家の父や若菜は財団にとって無視できない存在の筈よ?
彼等が私の身柄を求めたら拒否できない。」
「確かに....ですが
貴女を僕と一緒に守ってくれる宛が....彼に頼ります。
兎に角、一度考えてみてください。
僕は出来ることなら貴女と共に人生を歩みたい。
本当にそう思っているのですから.....」
加頭はそう言うと冴子の元を離れた。
(後は冴子さんが決めることだ。
今、私がやらないといけないのは井坂をどう始末するか?
彼のメモリは既にゴールドクラスの強さを誇っている。
私のユートピアメモリが効かない以上、何か策を練らなければ....やはり手段を選んでは入られませんか。)
加頭はスマホを取り出すと"とある人物"に連絡を取った。
コール音が響くと相手は電話に出る。
「お久し振りです"無名さん"。
実は折り入った話があるのですが時間を空けてくださらないでしょうか?」
Another side
「Yes....umm...ok,So from now on.
Let's continue to be good business partners.
"Mr,Banno".....see you again.」
取引相手との会話を終えるとリオン=アークランドはソファに体を預けた。
その姿を見て秘書が尋ねる。
「宜しかったのですか?
あの様な輩と取引をして....」
「こちらにも十分なリターンがあった。
"電子生命体"となったあの男はどんなデータも復元できる。
お陰でG4システムのサルベージにも成功したしな。」
「しかし、その対価としては些か此方に不利益が多いかと?」
秘書がそう言うのは最もだった。
電子生命体となった蛮野はロイミュードの用意した牢獄から脱出するとZAIAに取引を持ちかけてきた。
自分のデータを丸々保存出来るデータサーバーを求めたのだ。
「だが、あの男が暴走したお陰で"グローバルフリーズ"が発生しロイミュードの設計図を手に入れられた。
奴は他のロイミュードを洗脳し暴れさせる。
そして、それは我々の利益に繋がる。
風都で起こるガイアメモリでの利権を含めても充分に旨味が取れるさ。」
この世界線では解放された蛮野がロイミュードを洗脳しグローバルフリーズを起こした。
そして、クリムは殺害されベルトに意識を移すと原点通り、泊 進之介が、ドライブとなり戦っていた。
違うのはハートやブレン、メディックは蛮野に洗脳された仲間を解放しようとしておりドライブが戦っているのは蛮野が洗脳したロイミュードの個体と言う点だろう。
閑話休題
「それに対ガイアメモリ部隊を風都に設立させた時点で私の仕事は終わったようなものだ。
協賛した"スマートブレイン"や"ユグドラシル"には何か別の目的があるようだが、私には関係ない。
私が欲しかったのはロイミュードとG4...そして、ガイアメモリ犯罪を犯す者達のデータだ。」
「データ....ですか?」
「あぁ、我々のような軍需産業に置いて最も懸念すべき事は何か分かるかね?」
「....武器の性能でしょうか?」
「違う、答えは敵と味方の"ミリタリーバランス"だ。
両者の差をコントロールすることでより長く戦争を継続させる。
それを正義と悪と言う言論でデコレーションするだけで戦争は混迷を極め、我々は長く利益を得られる結果を生む。」
「では、お互いに売り付ける兵器に差を作ることはしないのですか?...」
「そこを平均化したら戦争が膠着しすぎてしまう。
お互いが"木の棒"で戦争をしていたら片方には"石の武器"を与えよう。
そして、均衡が傾いたらもう一方に"鉄の武器"を...そしてまた傾いたら今度は"銃"を....また傾いたら今度は"戦車"を....そうやって意図的にバランスを崩すことで人はより強い武器を求めるようになる。
近代の戦争は変わった。
兵器の強さと国力の強さが比例してしまったせいで大国は小国を使った代理戦争や冷戦の様な利益が低い戦争が横行してしまった。
しかし、このガイアメモリやロイミュードはその流れを絶ち切れる。
想像してみろ....復讐に燃えた一般市民がガイアメモリを持てばそれだけで今の強国の軍隊と渡り合えるようになるのだ。
既存の武器や戦力の強さが全く役に立たなくなる。
そんな存在を相手にするには同じかそれ以上の武器を手に入れるしかない....それが出来るのは我々、ZAIAだけだ。」
「では、今回手に入れたデータは?...」
「あぁ、予定通り"学習"させる。
開発の進捗は?...」
「流石は人工知能に置いて我が社よりも前を進んでいる事はあります。
ですが、此方のスパイは忍び込ませています。
彼ならバレること無く人工知能に数々のデータを学習させることが出来るでしょう。」
「素晴らしい。
私の"アーク"が完成するのも時間の問題だな。
そうすれば私の求める終わり無き戦争による無限の利益が手に入れられる。」
「では、雨ヶ崎にこれ以上の援助は?」
「する必要はないだろう。
此方は契約を守った。
後は彼方が契約を果たすだけだ。」
そう言うとリオンはタブレットの資料を眺める。
そこには雨ヶ崎が提唱したミュージアムと言う組織の思い描く計画が書かれていた。
「人類の強制進化か....面白いことを考えるものだ。」
そう言うと興味を無くしたのかタブレットをソファに放り投げた。
リオン=アークランドにとって人とはリソースが限られた資源だ。
どれだけ、強く屈強でも老いには勝てずまた強さも均一化していない。
故に商品として売るには不適格と思っていた。
(人工知能を用いたアンドロイド....それが作り出せれば我々は本当の意味で永久的に兵器を売れる会社へと変われる。
それまでは互いに利用しあうだけだ。)
「次の会議まで時間がないな....急ぐとしよう。」
リオンはそう言うと秘書と共に次のビジネスの商談へと向かうのだった。
《リオンの野望》
アークを完成させ飛電から手に入れたヒューマギアとロイミュードのデータを使いアンドロイド兵士を作り、その対抗策としてG4システムをベースにした新たなライダーシステムを売り出し利益を得ようとしている。
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第二百三話 突き進むW/狂っていく現実
その間、風都でメモリを使った犯罪は起きていた。
違うことがあるとすればその対応に仮面ライダーや警察では無く同じドーパントがあたっていると言うことだろう。
「グハッ!」
コックローチドーパントが地面に転がされる。
「何、もう終わりなの?」
そう言うのは両足が鋼鉄になっている
「も....もう止め...」
コックローチドーパントがそう言うがホッパードーパントは攻撃を止めず、その強靭な脚でコックローチドーパントの首を挟むと締め上げていく。
「あ......くぁ....」
「ガイアメモリを使って暴れるなんて貴方も死んでみる?」
そうして締め上げ首の骨を折るかと言った時、一発の銃弾が地面に放たれた。
「そこまでだ。
コイツは俺達が逮捕する。」
銃を構えながら照井が取り巻きを連れて現れた。
「あらあら.....随分と遅い到着ね?
でも良いのかしら?
今の私は政府直轄の組織....そんな私達にケンカを売るつもり?」
「お前らの組織がどうとかでは無い。
ガイアメモリを使った犯罪は超常犯罪課の捜査対象だ。
何処でガイアメモリを手に入れたのか証言してもらう以上、死なせる訳にはいかない。
だから、脚を退けろ。」
「ふーん、でも残念。
私達の対ガイアメモリ部隊の原則は....."ドーパントには死を"....なのよねっ!」
ホッパードーパントが脚に力を入れるとゴキリ!と言う音と共にコックローチドーパントが糸の切れた人形のように倒れると身体からメモリが排出された。
その姿から死んでいることが分かる。
照井は怒りの表情を浮かべて言った。
「何故、殺した!
奴に、戦闘の意思は無かった!」
「関係ないわ。
市長が言っていたでしょう。
風都を一番安全な都市にするって.....それとも私達を逮捕する?」
「ぐっ.....」
そうして、倒れた死体に興味を無くしたホッパードーパントはメモリを抜くと元の人の姿に戻った。
「あぁ、そのゴミの後片付け宜しくね。
市民の味方である警察の人達.....」
そう言って帰っていくゴスロリの女を照井は黙って見逃す.....いや、見逃すしかなかった。
その隣では真倉が不服の顔で言う。
「俺達の前で平然と人を殺しておいて....逮捕できないなんて.....」
その背中を刃野が叩く。
「仕方ねぇよ。
対ガイアメモリ部隊を指揮しているミュージアムとディガルコーポレーションは今や政府直属の機関扱いだ。
氷川も何とかしようと動いてはいるんだが....」
「分かってます。
でも.....対ガイアメモリ部隊が稼働し始めてから明らかにガイアメモリ犯罪が増えてます。
仮面ライダーも倒してはいますが...それよりも対ガイアメモリ部隊が対処するのが増えてます。
しかも、変身していた犯人を全員殺してる....これじゃあ、捜査も何もありません!
単なる殺し屋じゃないですか!」
「真倉!....落ち着け。
何処で聞かれてるか分からねぇんだ。
あんまり、ヤバイこと言うもんじゃねぇよ。」
「でも!」
「一番辛いのは照井課長なんだ。
どんな犯罪者でもちゃんと罪を償わせたいと思ってるあの人が.....」
そう言って刃野は照井を見つめる。
照井は殺された犯人の顔に手を当てて眼を瞑らせる。
「すまない。」
小さくそう告げるとその場を後にするのだった。
鳴海探偵事務所の空気は何時もと違って重い。
それは最近、現れた対ガイアメモリ部隊のせいであった。
照井からまたメモリ犯罪者が現れ殺されたことを聞いた翔太郎は怒りのまま机を叩いた。
「クソッ、また死人が出た!
一体何時までこんなことが続くんだ!」
翔太郎の怒りにフィリップが答える。
「落ち着きたまえ....とは言えないな。
僕も腹に据えかねている。」
二人はあれからWとして急増するガイアメモリ犯罪の対処に追われていた。
照井や克己達、NEVERも尽力してくれているが、ドーパントの出現は減る処か寧ろ加速していった。
それによって街には被害が増えそして対ガイアメモリ部隊が動き、メモリを使った犯罪者を殺していったのだ。
それを見つけた時、Wもアクセルも止めようとしたがそれを糾弾したのは他でもない街の人達だった。
「仮面ライダーは犯罪者の味方をするのか!」
「アイツに娘は怪我を負わされたのに何で助けるんだ!」
「あんな化物死んで当然なのよ!」
今まで守っていた街の人に責められていく事は翔太郎とフィリップの精神を確実に削っていった。
「被害者の痛みは分かる。
でもだからって殺しちまったら意味がねぇだろ!」
「その通りだ。
だが、今のミュージアムは政府直轄の立場だ。
"国が認めた組織"と"認められていない僕達"....何も知らない人からすれば僕らの方が悪だと思われても仕方がない。」
「じゃあ、このままアイツらが殺しを続けるのを黙って見てろって言うのかフィリップ!」
「そうは言ってない!
こう言う時だからこそ冷静に対応するべきだと言っているんだ翔太郎!
ここで、僕達がミュージアムと戦っても天十郎に利用されるだけだ!
だから、母さんと無名が動いているんだろう?
二人なら何の成果も無いなんてあり得ない。
今は冷静になるべきなんだ....翔太郎。」
そう言うフィリップの拳は握りすぎて爪から血が出ていた。
怒りを我慢しているのが自分だけでは無いと分かった翔太郎は深呼吸する。
「.....すまねぇフィリップ熱くなりすぎてた。
そう言えば克己達は何してるか聞いてるのか?」
「あぁ、獅子神との戦いでドライバーを破壊されたから復旧するまで生身でパトロールをしているよ。
"こんな俺達でも何かしたい"と言ってね。」
「そうか、あっちも辛いよな。
仲間が死んだのもそうだが..."メンバーが抜ける"なんて.....」
「あぁ、だが仕方ないだろう。
"彼女等"を守る人も必要だ。」
一週間前の事務所でも話し合いが終わった後、芦原は克己や他メンバーにNEVERを抜けることを相談していた。
「本気なのか芦原?」
そう尋ねる克己の顔を見る芦原の決意は強かった。
「あぁ、この街は普通に暮らすだけでも危険だ。
今までは黒岩が俺と自分の家族を守ってくれていたが今は誰もいない。
俺が彼等を守りたいんだ。」
「「「.........」」」
NEVERの面々も表情は暗い。
分かっていたとは言え仲間が抜けることは中々に容認できないのだろう。
そんな中、克己が芦原に笑顔で告げる。
「そうか、お前にも本当に守りたい者が出来たんだな。
分かった....なら尚更、俺らとの繋がりは絶つべきだ。」
克己の言葉に京水が怒る。
「克己ちゃん!いくらなんでも....」
その言葉の真意を無名が捕捉した。
「NEVERは元々傭兵であり僕と行動を共にしています。
僕らの繋がりを続けているのがバレたらミュージアムは芦原さんと黒岩さんの家族を容赦なく狙うでしょう。
それを避けるためにも僕らの繋がりは完全に絶つべきなんです。」
「そんな....でも....」
珍しくゴネル京水の尻をレイカが蹴り上げる。
「あん!ちょっとレイカ何すんのよ!」
「うっさい京水!私達に迷惑掛けたくないってって言う賢の気持ちも考えなよ!
もし、賢や黒岩の家族が襲われたらアンタ責任取れんの?
だから、賢が一人で何とかするって言ってるのよ!」
「........」
「私達だって辛いよ。
でも、生きている人のことを第一に考えて上げるべきなんだよ。
私達、死人よりも.....」
レイカの言葉を受けた京水は静かになった。
そのタイミングで無名が芦原に頭を下げる。
茜にボコボコにされた後の為、動くのも辛そうだ。
「本当なら僕が守るべきなのにすいません。」
「気にするな....それと茜がすまないな。
その身体、動くのもやっとだろう?」
「はは....でも素直に怒りをぶつけられてちょっとほっとしてますよ。
怒りは溜め込むと復讐心に変わる。
そうなってからでは遅いですから.....」
照井もシュラウドも大事な家族を奪われた怒りから復讐心が起こった。
時間を掛ければ掛ける程、その怒りや憎しみは人を怪物へと変えていってしまう。
だから、その前に止めたかった無名は茜を連れ出したのだ。
無名は自分の机にあったアタッシュケースを芦原に渡した。
「僕の口座から貴方の退職金を入れてあります。
それに、"武器"も....もし何かあったら使ってください。
それと、再生酵素ですが文音やマリアさんと相談して簡易的に作れる装置を開発します。
アタッシュケースに予備の酵素を入れておいてますのでそれが切れる前には開発します。」
「あぁ、そこは信頼している。」
そうしてNEVERから離脱した芦原は家族の元へと向かったのだ。
その事を思い出しながら無名は地下のラボで研究に勤しんでいた。
その手にはボロボロに破壊されたNEVERドライバーが握られていた。
「ふぅ、やはりここまで破壊されては簡単には復旧できませんね。
稼働するのは"芦原さんに上げた一基"だけですか....」
文音とマリアは現在、簡易的に再生酵素を作り出す装置と克己のメモリ製作、そして無名の使う新たな武器の作成を同時並行で行っていた。
「文音さん、マリアさん少しは寝てください。」
無名が二人に声をかける。
二人とも何日もろくに寝てないのかボサボサの髪と机には大量の栄養ドリンクの空き瓶が置かれていた。
「それを言うなら貴方も寝ないとダメでしょう無名?
NEVERドライバーの復旧とロストドライバーの製作、それにミュージアムについての調査をやっているじゃない。」
「あはは、前とは違って
時間が足りなくて大変ですよ。」
「えぇ....それでミュージアムについて何か分かったの無名?」
文音の問いに無名は答える。
「先ず、対ガイアメモリ部隊を推し進めたのは財団Xが取引していた企業です。
恐らく天十郎が焚き付けたんでしょう。
部隊のメンバーは"ミュージアムの処刑人"をメインにしたミュージアムの構成員です。
そして、ディガルコーポレーションについても昔とは変わり今では内部で堂々とメモリ開発を行ってますよ。」
「政府直轄と言う肩書きは厄介ね。
ある程度の不合理が通ってしまうのだから....」
「えぇ、ですがそれも時間の問題でしょう。
政府に警視庁が何度も抗議を送っているそうです。
ですのでこの特例も長くは続きません。
恐らく彼等もそれが分かっている筈です。」
「つまり、この特例が続いている間にガイアインパクトを起こすと思っているのね?」
「はい、ガイアインパクトを起こして人類が強制的に進化すれば特例など関係ない。
人類が皆、メモリを使わなくても怪物になれるのですから....」
「そうなる前に私達が阻止しないと.....獅子神とサラの行方は分かっているの?」
「獅子神が代表だったレオグループはディガルコーポレーションに完全に吸収されました。
本人の行方も不明です。
しかし、雨ヶ崎の息子である灯夜がいると言うことは生きてはいると思います。」
「それはどういうこと?」
「ミュージアムは失態を許しません。
それは幹部でも変わらない。
風城高校での失態は巻き返しが効かないレベルです。
しかし、灯夜は獅子神に心酔してました。
彼を助ける為にミュージアムに下ったんでしょう。」
「そう思う根拠は?」
「獅子神の資産がほぼディガルコーポレーションに抑えられたのに住んでいた家だけは無事だったんです。
不思議に思って調べたら灯夜の所有物になっていました。
そして、自分は住んでいないのに定期的に食料やお金が振り込まれていました。」
「獅子神が動く可能性は....」
「ほぼ無いと思っています。
獅子神のメモリの特性上、心が折れたら一貫の終わりです。
それをジェイルメモリで無理矢理騙して使っていた。
しかし、今はジェイルメモリもなくドライバーも破壊された。
再起不可能な精神的ダメージを負っている。
でなければ表に出てくる筈ですから....」
「そして、サラに関しては獅子神よりも酷いです。
救助には成功しましたが全く意識が戻らないそうなんです。
美頭の回復を使っても一切、起きる気配が無く今はミュージアムを離れた場所で部下と共に養生しているそうです。」
「意識が戻らない.....サラはメモリブレイクされたの?」
「いえ、ドライバーも無事です。
僕も見せてもらいましたが全く外傷が無かったんです。
地球の本棚で検索しても分からずじまい。
ですから、美頭が彼女が目覚めるまで世話をすると言っていました。」
「なら、サラも出てくる心配はないと考えて良さそうね。」
「えぇ、目下の障害は対ガイアメモリ部隊ですね。
彼等を何とかしなければ風都第二タワーに近付くことすら出来ませんから....」
そう言う無名に文音が待ったをかける。
「無名、まだ危険な人物は残っているわ。
井坂 深紅朗よ....奴の行動が掴めていないのは危険すぎるわ。」
「確か、風城高校で獅子神に助力していて加頭さんと争ってから音沙汰が無いですね。
僕も動向は調べてはいますが仲間である伊豆屋の動きも掴めていません。」
「井坂は琉兵衛のメモリを欲していた。
だからこそ、私は彼にメモリを与えた....琉兵衛を倒す駒として.....でも井坂は私の予想を遥かに越えた怪物になってしまった。
彼が本気で暴れたらどうなるか私でも想像がつかない。」
そう話していると無名のスマホに着信が入る。
「翔太郎さん?何かあったのか。」
無名はスマホを操作し電話に出るとその声は翔太郎のものだった。
「無名か!すまねぇが手を貸してくれ。」
「どうしたんですか?」
「井阪が風都第二タワーにいきなり現れたんだ。
それで暴れまわってる。
照井が戦ってるが持ちそうにねぇ!」
「!?分かりました。
すぐに向かいます。」
無名は急いでドライバーとメモリを手に取る。
その姿に文音が尋ねる。
「一体、どうしたの無名?」
「井阪が現れたんです。
今、照井さんが相手をしていますが厳しいので救援に行きます。」
「ちょっと待ちなさい行くならこれを持っていって....」
文音がそう言って小型のアタッシュケースを無名に差し出す。
「貴方に頼まれていた"強化デバイス"よ。」
「もう完成していたんですね。
頂きます。」
そう言ってアタッシュケースを持つと無名は研究所を後にするのだった。
翔太郎が無名に連絡する前.....
風都第二タワーに黒スーツと帽子を被った井坂が訪れていた。
それを聞いた対ガイアメモリ部隊が彼の前に現れると取り囲む。
イナゴを食べながらゴスロリの格好をした女が井坂に問う。
「ミュージアムから抹殺命令が出ているのにノコノコと良く来れたわねぇ。」
「貴女は確か、ミュージアムの処刑人でしたかな?
パーティで一度、お会いしましたかね?」
「今は政府直轄の組織よミュージアムはメモリ犯罪者である貴方と違ってね。」
「あぁ、あれには驚きましたよ。
まさか、私が"指名手配"されるとは....しかし、中々刺激的な経験です。
普通では味わえない経験をくれた琉兵衛さんに感謝を.....いや、貴女に伝えて貰うのは止めておきましょう。」
「は?何言ってるの?」
「分かりませんか?
私は"我慢が苦手"なんですよガイアインパクトの計画を私は大手を降って支持しています。
しかし、それでも欲しいんですよ"テラーのメモリ"が....ガイアインパクトに若菜さんが必要なのは理解できました。
しかし、琉兵衛は"もう必要ない"。」
そこまで話したことで彼女は井阪の目的を理解した。
「貴方....まさか!?」
「えぇ....えぇ、えぇ!!その"まさか"ですよ!
ここまで来ればもう十分でしょう!
計画の成功はほぼ約束された物!....なればこそ私は私の欲望を満たしたいのです!
園咲 琉兵衛が、その建物の中にいるのは知っています。
聞こえていますよね園咲 琉兵衛!!
貴方の"メモリと命"を頂きに来ましたよ!
そこから先は本能だろう。
対ガイアメモリ部隊の面々は一斉に身体にメモリを差し込みドーパントになると生身の井坂に攻撃を仕掛けた。
何時もの様な組織が作り出したマッチポンプの犯罪者に対してではない本物の殺意で.....
しかし、井坂に攻撃が当たる直前で"赤黒い雷"が降り注いだ。
イナゴの女はこれまでの経験から直ぐに回避行動を取ったお陰で右足が雷に巻き込まれるだけで済んだ。
しかし、雷に巻き込まれた右足は一瞬の内に焼失した。
音もなく何の主張もなく消えてしまった自分の義足を触りイナゴの女は戦慄する。
(攻撃の
こんな怪物に勝て.....な.....?)
そこまで思考してイナゴの女はやっと理解した自分の見つめていた景色の正体を雷の攻撃を避けた瞬間、井坂が自分の頭を胴から引きちぎったのだ。
目の前には頭を失い人形の様に倒れている自分の身体を見つめている。
(やら.....れ.....たの?....わ...た......しが....)
自分が死んだことを知覚した彼女の意識は闇へと溶けていく。
そんな最後の中で見たのは....
「やはり、ガイアメモリとは素晴らしい。」
そう言って笑う黒い悪魔の姿だった.....
Another side
0と1で構成された電脳空間、その中で自由に行動する精神があった。
彼はその中で何かを研究している。
データに触れて解析しそれを元に新たなプログラムを生成していく。
その姿はまるで異世界で魔法を使う魔術師にも見えた。
『良し....これで良い。
"G4システムの戦闘補助AI"と"私のロイミュード技術"の融合は完璧だ....これを使えば』
男は一度、殺されている。
自分の研究を利用した者の手により殺され自分に反目したAIに捕らえられ拷問を受け続けていた。
転機となったのが関係したロイミュードに私を支配していたハート、ブレン、メディックのデータが移行された時だ。
私は奴等の目を盗み密かに外へと繋がる回線を作った。
幸運だった私は一発で求める存在へと繋がった。
リオン=アークランド.....戦争を好む愚かな男だが利用価値はあった。
私は奴と取引をした。
私を外に出す代わりに日本政府のデータパンクからとあるデータを盗んでくることだった。
私がその願いを叶えるとリオンは笑顔で私に告げた。
「君と私は良いビジネスパートナーになる。」
『私とお前がか?自惚れるな天才である私が何故貴様の様な凡人に....』
「確かに君の頭脳は素晴らしい.....だが、それは"一人"ならと言う話だろう?」
そう言うとリオンがとあるデータを寄越してきた。
そのデータはとある新聞の記事だった。
そこには"クリム・シュタインベルト、ノーベル賞授賞確実か"と書かれていて中身を読むと彼はコア・ドライビアを使ったクリーンエネルギー生成の論文を発表していたのだ。
「確か、クリム・シュタインベルトは君の親友だったな?」
『バカな!コアドライビアはロイミュードの根幹に関わるシステムだ。
ロイミュードを作ったのは俺だぞ!なのにそのシステムを勝手に発表するとは...ふざけるな!』
その言葉を聞いたリオンは笑う。
「だが、コアドライビアを開発したのはクリム・シュタインベルトだ。
この論文が認められ世間に広まればロイミュードはコアドライビアの"オマケ"として扱われるだろうな。」
『オマケ....だと!?』
ロイミュードはこれまでの人類が到達しなかった科学の結晶だ!
それがオマケ扱いだと!?
オマケは"クリムの研究"の方だ!
そこまで伝えた後、リオンが囁くように言った。
「言っただろう?君の頭脳は素晴らしいが所詮一人ではない。
君が真に称賛される立場になりたいのなら....一人にするしかない。」
『私にクリムを殺せと言うのか?』
「そんな残酷なことは言っていない。
君の作り出したロイミュードの真価を示せば良いんだ。
その為の協力は惜しまない。
私は価値のある者が好きだ。
どうせなら、君の産み出したロイミュードの価値を世界へ知らしめてやろう。」
それから俺はロイミュードを完全に支配下に置くシステムを開発し奴等が根城にしている電脳空間に戻った。
消えていた私が戻ったことでハート、ブレン、メディックから怒りが感じられる。
『"蛮野"....どうやって抜け出したんだ。』
『それは私が天才だからだ....その証明を今してやる!』
こうして私が発動したシステムによりこの空間に存在したロイミュードを全て支配下に置くことが出来た。
(途中で私の意図を察した"ハートとブレン"には逃げられたが....まぁ良いだろう。
さぁ、"復讐の時間"だ。)
そうして私はZAIAのサポートの元、ロイミュードを生産した駒を使いグローバルフリーズを起こしクリムを殺害した。
『あっはっは!良い気味だ!
私の研究を奪おうとした罰だ!』
しかし、クリムは私が現れることを予期していたのだろう。
暴れ回るロイミュードを止めるように"黒と紫色に染められた仮面ライダーが現れた。
そいつの着けている赤と銀のベルトからクリムの声が聞こえる。
『やはり....人類に牙を剥いたか蛮野!』
『そうか....自分の精神データをベルトに転送したのか。
まぁ良い!ここで貴様らを破壊すれば済むことだぁ!』
結果として戦いは両者の痛み分けとなった。
しかし、この戦いで思わぬ拾い物をした。
クリムが作り出したロイミュード..."チェイサー"と名付けられた個体を私は再改造した。
私の敵を滅ぼす最強の悪魔である"魔人"として.....
私の起こしたグローバルフリーズは失敗した。
だが、それはロイミュードに戦闘に特化したシステムを搭載していなかったからだ。
だから私は奪い取ったG4システムの戦闘AIをロイミュードに移植した。
これにより産み出された新たなロイミュードを蛮野は見つめる。
これが正式に動き出せば私の計画は動き出す。
永遠のグローバルフリーズ....そして全人類をデータ化して私が管理する素晴らしい世界の実現だ。
しかし、ベルトに成り下がったクリムはグローバルフリーズを阻止しても諦めなかった。
洗脳したロイミュードをけしかけてカモフラージュしていたがその個体を倒す存在が現れた。
"仮面ライダードライブ"....そして、ロイミュードを保護する為に協力している裏切者の"ハートとブレン"....そして私の子供でありながらまともに機能しなかった失敗作の"霧子"か。
まさか、クリムが警察と手を組むとは思わなかったが構わない。
この新たな戦闘用ロイミュードである"ロイミュードG4"があれば全て抹殺できるのだから....
『ふふっ、あはっ!あっはっは!
待っていろクリム!!仮面ライダー!!お前達の死に様を見るのが楽しみだよ!』
電脳空間で高らかに笑う蛮野の後ろで洗脳されたロイミュードのデータがじっと並んでいるのだった。
《蛮野の目的》
G4システムとロイミュードを融合した新たなロイミュードG4を使った新たなグローバルフリーズを起こして全人類をデータ化する準備を行う。
この世界線ではロイミュードとシグマサーキュラーの元となる素体をZAIAが作っている為、原作のように破壊されたらコアごそ消滅することは少ない。(その前に蛮野が用意した電脳空間にデータが送られる。)
ハートとブレンは仲間を救う為に時にはドライブと協力し事に当たっている。
洗脳されているのはハートとブレン以外のロイミュード全員。
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第二百四話 突き進むW/待ち望んだ復讐
(きっと、冴子さんもこの事は聞かされている筈....
どういう選択を選んだにしても彼女を守らなくては....)
そして冴子が今、生活している家に向かうと謎のドーパントとタブーへ変身いた冴子が戦っていた。
しかし、形勢は明らかに冴子が悪く浮遊できず地面に倒れ伏していた。
「反撃しないなんて....昔の頃の面影はどうしたの?」
攻撃を加えているドーパントがそう尋ねる。
対する冴子も痛みに耐えながら立ち上がる。
「くっ!....そう言う貴女こそ私を殺したいならさっさとトドメを指せば良いじゃない。」
「それじゃあ、意味がないのよ。
貴方は私の兄を利用して殺そうとした。
私から大切なものを奪おうとしたんだから....もっと苦しんで貰わないと」
追い詰められる冴子を見た加頭はドライバーを着けるとメモリを挿し込みユートピアドーパントへ変身し加勢しようとするがそれを
「まさか、貴方が生きているとは....
邪魔をしないでください。
私は冴子さんを助けるのですから」
「雪絵は僕が止める...だから君は下がっていたまえ。」
「あのドーパントとお知り合いですか?」
「僕の妹だ。
だから手出しはさせない。」
「そうですか。
しかし、このままでは冴子さんの身が危ない。
私にとって冴子さんはかけがえの無い存在です。
貴方の妹を殺してでも止めます。」
「それを聞いたら....君を見逃せないな。」
そう言って睨み合う二人....
両者の思いが重なりあった戦いが始まるのだった。
井坂が現れた....その連絡を受けた冴子は自分のメモリとドライバーを見つめる。
(井坂先生を殺せば私は評価され生き残れる。
でも、それに何の意味があるの?
また、利用されるだけなのに.....)
そう考えた冴子の脳裏に写るのは真剣な顔をして自分への好意を伝える加頭の顔だった。
(今更、あの男にすがるの?
あの言葉を信じて?
馬鹿馬鹿しい彼は財団の人間、利用できなくなれば捨てられるだけよ。)
心ではそう否定するがそれは彼を信じたいと思う自分の感情の裏返しだと分かっていた。
彼が私の事を考えて財団に誘ってくれたのは分かっている。
でも、それでも疑ってしまう自分の心に嫌悪感を抱いた。
(ミュージアムの幹部だった私がそんな子供じみた悩みをするなんて....弱くなったものね。)
言い様の無い思いに悩みながら冴子はメモリとドライバーを見つめた。
「私は.....どうすれば.....」
コン!コン!
そう悩んでいると部屋をノックする音が聞こえた。
ここは私が買った家であり使用人は雇っていない。
部屋にノックする人物などあり得なかった。
「......誰?」
冴子はドライバーを腰に着けてメモリを携えながら聞く。
すると、扉が開くとそこには見たこともない
「始めまして園咲 冴子さん。
貴女は私の事何か分からないでしょう?
私の名前は須藤 雪絵....貴女に殺された須藤 霧彦の妹よ。」
「須藤....霧彦。」
「えぇ、貴女が組織の為に兄を切り捨て命を奪った....いえ"奪いかけた"のは知っているわ。」
「やはり、井坂先生が言っていたのは本当だったのね。
ディガルコーポレーションで霧彦さんに似た人がナスカメモリを奪ったって....」
「気安く兄の名前を呼ばないでよ殺そうとした癖に....まぁ良いわ。
貴女とはじっくり話してみたかったのよ。
ねぇ、どんな気分?
組織に利用されてゴミみたいに捨てられそうな気分は?」
「.....私の立場を知っているって事は、貴方は無名の元にいるのね?」
「....へぇ、頭はまだ回ってるみたいで安心したわ。
それでこそ復讐のしがいがある。」
雪絵は懐からメモリを取り出すと起動した。
「Scorpion」
それをドライバーに装填すると雪絵はスコーピオンドーパントへと変身する。
そして、挨拶代わりに冴子を思いっきり蹴り飛ばした。
「Taboo」
「ぐっ!」
寸での所でメモリを挿した事で冴子は致命傷を避けられたが身体が窓ガラスを突き破り外へと吹き飛ばされる。防御に使った腕が痺れている。
「殺す気で蹴ったんだけど案外頑丈なのね。」
「嘗めないで!」
冴子は浮遊するとエネルギー弾を生成し雪絵に放つ。
雪絵はそれを回避するがスコーピオンの力では対処できない高さに飛ばれてしまう。
「届かないところから攻撃するなんて卑怯者のアンタにピッタリな戦い方ね....でもそれで勝った気にならないでくれる?」
雪絵はスコーピオンと同じ銀色のメモリをもう一本取り出す。
「もう一つのシルバーメモリ?」
「えぇ、無名が私の復讐の為に出してくれた答えよ。」
「
雪絵は起動したメモリをドライバーに装填するとムカデの胴体がしっぽの様に背中から生えてきた。
そして、その胴体が本体を守る様に身体を覆う。
冴子は雪絵にエネルギー弾を放つがムカデの装甲は固く強いのか直撃してもダメージはない。
「無駄よ。
センチピートメモリとスコーピオンメモリの防御力か掛け合わされたら並大抵の攻撃じゃ傷なんて付けられなくなる。
さぁ、次はこっちの番よ。」
雪絵そう言うと冴子の視界から急に姿を消した。
「なっ!何処に!」
冴子は周囲を散策しようとするがその前に足に痛みが走る。
「痛っ!」
「捕まえたわよ園咲 冴子。」
そこには冴子の足にムカデの胴体を絡ませ締め上げている雪絵の姿があった。
そして、そのまま地面に投げ落とされる。
地面は衝撃で砕け冴子は倒れた。
その姿をみて雪絵は笑う。
「あら、もう終わり?」
その言葉に触発された冴子は立ち上がり飛ぼうとするが力がコントロール出来ず地面に倒れてしまう。
「どう.....して...?」
その疑問に答える様に雪絵はムカデの胴体を見せた。
胴体から透明な液体が流れている。
「この身体からはスコーピオンメモリの毒が流れている。
この毒には"触れた相手の神経に作用して強制的に強化させる力"があってね....今の貴女の状態が丁度そうよ。
人間って面白くてね急激に身体能力が上がったりするとそれに精神が追い付かなくなってバグを起こすの。
指を動かそうとしたのに全身が飛び上がったり止まろうとしてるのに心臓の動きで身体が痙攣を始める。
そう言う普通ではない事が起きる。
そして、この毒は"私の身体にも注入してある"。
でもね、毒の濃度を調整してるから純粋な強化で済んでいる。
今の私には貴女の動きや攻撃が止まって見えていた。
そして、肉体もその感覚に適合するように動けていた。
まぁ、弱点が無い訳じゃないけど....貴女を無防備に出来たんだから別に良いわ。
とは言え....貴女が私の言葉を理解する事は無いでしょうね。
毒で加速した貴女の神経では....」
雪絵の言う通り、今の冴子は毒のせいで身体の神経が研ぎ澄まされ世界が超スローモーションに見えていた。
雪絵の話も理解できない程に彼女の精神は加速していたのだ。
そして、その加速した精神に肉体の操作が追い付かず全く動けなくなっていた。
このチャンスを雪絵は逃す筈がない。
鋭利な指に毒を生成する。
「この指を心臓に打ち込めば貴女は死ぬわ。
これで終わりよ....」
雪絵はそう言い倒れている冴子に近付こうとすると建物を破壊しながら
加頭が持っている杖を突き出して雪絵に攻撃をしかけるがそれを霧彦の剣が止める。
しかし、加頭は超能力を使い雪絵と霧彦を吹き飛ばした。
攻撃によるダメージが無いため二人は直ぐに立ち上がる。
加頭は冴子を抱き抱えた。
「冴子さん!無事ですか?冴子さん!」
必死に呼び掛けるが冴子は反応できない。
加頭は雪絵を睨み付ける。
「彼女に何をした?」
「貴女に答える理由は無いわ。
コイツには恨みがあるの....どいて」
しかし、雪絵を止めたのは近くにいた霧彦だった。
「止すんだ雪絵....」
「止めないでお兄ちゃん。
私は復讐がしたいだけなの...」
「そんな事、して欲しくはない。
私はお前に幸せになって欲しいんだ。」
「その幸せをこの女は奪い取ったのよ!!
お兄ちゃんが死んだ事を知った時の事は今でも思い出せる。
両親のいない私にとってお兄ちゃんはたった一人の家族だった。
そんなお兄ちゃんが死んだって知った時、絶望したわ。
神様は両親だけじゃなく兄まで奪うのかって恨んだわ。
そして、調べる内にお兄ちゃんを殺したのはそこの女だって知った。
だから私はガイアメモリを手に入れて復讐しようとしたのよ。
無名に邪魔されて孤島に連れてこられ、お兄ちゃんが生きているって知った時は嬉しかった。
お兄ちゃんが意識を取り戻した時は本当に無名に感謝したわ。
でもそれでも私の中の復讐心は消えなかった。
私の大事な家族を奪おうとしたのにのうのうと生きているなんて許せない。
だから、彼女にはここで死んで貰う。
自分の罪を後悔しながらね.....」
「雪絵......」
雪絵の瞳にはこれまで抑えていた復讐心がまるで燃え上がる炎の様に写し出されていた。
その瞳は冴子一人だけを見つめている。
そこに加頭は立ち塞がる。
「貴女が復讐の為に来たことは分かりました。
でも、冴子さんを殺させはしません。」
「何でそんな女を庇うのかしら?」
「私は彼女を愛しています。
例えどんな罪があろうともね。」
「驚いたわ。
この女の所業を知ってもそんな事を言う男がいるなんて...そう言うのを魔性の女って言うのかしら?
でも、そんな事はどうでも良いわ。
漸く、手に入れた復讐の機会...手放す訳にはいかない。」
「そうですか....なら貴女を殺してでも私は冴子さんを守ります。」
その言葉を聞いた霧彦は前に出る。
「そんな事はさせない。
.....そして雪絵、お前にも"復讐はさせない"。」
「どうしてよ.....どうしてなのお兄ちゃん!」
「私は目を覚ましてから無名をずっと見てきた。
彼は復讐を目的とした人間を部下にして来た。
黒岩も赤矢も過去への復讐を願い部下になったんだ。
そして、無名はそんな彼等の願いを叶える力を与えた。
だけどそれは結局、彼等自身の破滅をもたらした。
黒岩は死に....赤矢も恐らく....だからこそ、無名からガイアメモリを貰ったと聞いた時は怖かった。
無名の与えた力でまた破滅する事になるのかもとね....
お前は私に似て頭が固い。
私がいくら言っても復讐を止めないだろう。
だから、決めた。
雪絵、お前の復讐は止める。
だが、冴子や
全て止めて見せる。」
霧彦はそう言うともう一本、剣を生成し雪絵と加頭達に向けた。
「"ガイアインパクトも復讐"も全て止めて見せる。
それは"風都の風として消える筈だった私のこれからの役目"だ。」
その答えを聞いた加頭が言う。
「私達、全員を止めると?
たった一人で?....不可能だ。」
「そんな事はやってみないと分からない。
それが出来た
そう言う霧彦を応援するように風都の風が彼を包む。
それを受けた霧彦は不敵に笑う。
「さぁ、好きに暴れると良い。
全部止めて見せよう。」
それは仮面ライダーとは違う風都を守る新たな存在が生まれた瞬間だった。
その霧彦の選択がどんな結末を生むのかは誰も知らない。
Another side
風都大学の教室で生徒相手に教鞭を取る赤矢の授業を照井は静かに聞いていた。
赤矢の犯罪心理学の授業は実際に起こった事件を例題に使い教える為、警察官でもとても勉強になる話が多い。
その為か赤矢の授業を取る生徒には警察官を志す者も多かった。
そんな中、授業が終わりを告げる様にチャイムが鳴る。
それを聞いた赤矢は生徒に宿題としてある言葉を投げ掛けた。
「何故、犯罪がこの世界から無くならないのか?
君らなりの考えをレポートで出してくれ。」
それを良い終えると授業が終わり生徒達は教室から出ていく。
それに合わせて照井が赤矢に近付いた。
「授業を聞かないて逮捕すれば良かったのでは?
私が無名の仲間なのは知っているのでしょう?」
赤矢はそう照井に問い掛ける。
「今のお前なら逃げないと判断した。
それに今日は逮捕する為に来た訳じゃない。」
「では、どんな御用で?
無名に関する事は私は話しませんよ。」
そう言う赤矢に照井はとある資料を見せる。
「赤矢 天智....風都大学で犯罪心理学の教授として教鞭を取っている。
その前まではお前は"水音町"に住んでいた。
丁度、"俺の両親が殺された時期"にだ....
そして、お前の家族は全身が干からびて亡くなった。
警察はその特異的な死に方から捜査は難航を極め、"未解決事件"として迷宮入りした。」
「.........」
赤矢はその資料を見つめながら照井の話を聞いていた。
「過去の資料を元に俺が再度調査した結果、この事件にはドーパントが関わっている可能性が出て来た....そしてフィリップに調査を依頼して分かった....それは」
「"私の家族を殺したのは井坂 深紅郎だった"。
そうでしょう?」
そう言う赤矢に照井は少し驚く。
「知っていたのか?」
「無名の部下になった時、彼に頼んで調べて貰いましたから.....」
「お前の目的は何なんだ?
俺と同じく井坂への復讐か?」
そう告げられた赤矢の瞳は驚く程、冷たかった。
「復讐、それが出来たらどれだけ楽だったか。
私は井坂に"復讐"すらする気が起きないんですよ。
照井警視....貴方に想像できますか?
家族を...."生まれる筈だった子供と愛する妻"を奪われた悲しみが」
「!?」
赤矢が失ったのは婚約していた妻だった。
そして、その妻は妊娠しておりお腹の子も同じ様に干からびて亡くなっていた。
「愛する全てを失ったお陰で私は心を喪いました。
そんな私に残ったのは疑問だけです。
"何故、こんな事件が起こせたのか?"
"妻と子を奪った力とは何だったのか?"」
「それでお前はガイアメモリ犯罪を調べ始めたのか?」
「えぇ、ここならガイアメモリ犯罪に事欠きません。
そして、沢山の症例を見ればこの疑問に答えが出ると思ったんです。
その過程で私も何人も人を殺めました。
正確には幻覚で狂い死にしたんですが.....でも答えなんて出なかった。
私の家族を奪った井坂のような心理は誰一人としていなかった。
井坂は力に溺れて犯罪を犯してはいません。
"残虐に殺して性的欲求を満たす"..."感情の暴走から起こる殺人"...俗に言うサイコパスの犯行とも違った。
"まるで作業のように行われた殺人"....殺人と言う行為に意味など持たずただ殺している。
それが井坂と言う男でした。」
「.....何故そんなに冷静でいられるんだ?
俺は家族を失った....両親と妹を....お前は妻と子...下手すれば俺よりも深い憎しみがある筈なのに....」
「照井警視、憎むにも心が強くないといけないんです。
私は死んだ妻と子を見て全部壊れてしまったんですよ。
亡くなった死体を見ても何も感情が湧かなかったんです。
まるで、壊れた人形を見るように....何も....」
そう話していると照井のケータイに着信が入る。
出ると相手は刃野だった。
「どうした?」
「大変です!風都第二タワーに井坂が現れました。
しかも、ドーパントになって暴れています。」
「何だと!」
井坂は指名手配された事もあり風都市民からも犯罪者として認知されていた。
刃野も市民からの通報で井坂の事を知ったのだ。
「今、氷川が特殊部隊を召集しています。
照井課長にも連絡するようにと言われて....」
「直ぐに行く。
間違ってもこっちから手は出すな。
奴は大量殺人者だ...余計な犠牲が増える俺が行くまで動くなよ。」
そう告げると電話を切った。
「井坂が現れたみたいですね。」
「あぁ、お前はどうするんだ?」
「どうするとは?」
「黙って見ている気か?」
「警察が復讐を擁護するのですか?」
「違う、お前は言ったろう?
井坂の真意を知りたいと..."俺は井坂を倒して警察として逮捕する"。」
「家族を殺され復讐の道を歩んでいたのに逮捕出来るのか?」
「.....分からない。
だが、俺は仮面ライダーである前に刑事だ。
この風都を守る者として恥じない生き方がしたくなったんだ。
だから、"出来る出来ないじゃなくやりたいんだ"。」
「.....そうか」
赤矢はそう言うと教室を出ていこうとする。
「早く井坂を捕まえに行け。
お前の行動を最後まで見てみる。」
その言葉を聞いた照井は覚悟を決めて風都第二タワーへ向かうのだった。
Another side
暗い研究室の一角....そこには保存液に全身が浸かっている怪物が鎮座していた。
それを青いメッシュが入った女性が見つめていた。
そして研究室にいる部下に話し掛ける。
「王の容態は?」
「はい、過去の戦いの傷は癒えましたがまだ目覚めには至っていません。」
「そう.....やはり因子が足りないのかしら。」
保存液で眠る怪物の名は"アークオルフェノク"。
人類の進化形態であるオルフェノクを纏め上げる王だったが
その結果、私達スマートブレインは表の世界から消えた。
研究者の一人が女性に尋ねる。
「"クイーン"....取引は上手く行ったのですか?」
「先ずは王の容態を確認しなければ使用できるメモリは選べないと言われたわ。
機械の癖に生意気に.....」
スマートブレインが風都の一件に協力したのは王を復活させる為、メモリの力が欲しかったからだ。
王が目覚めないと言うことはこの下にいる我々、オルフェノクに安寧は訪れない。
死を超越した存在と言われたがそれは王が力を与えてくれるからだ。
それが無ければ我々も何れ滅びを向かえる。
人間だった時と違い灰となり消えてしまうのだ。
それを阻止する為に
先ず、王の身体を回収し拠点を海外に移しその勢力を伸ばしていった。
多方面の技術に秀でていたお陰で会社は再度、軌道に乗った。
そこから王を復活させられる方法を探し見つけた。
それがガイアメモリだった。
人類の進化形態であるオルフェノクに地球の記憶を流し込むと肉体が極限まで強化され驚くべき事に灰化しかけていたオルフェノクにガイアメモリを使うとメモリの力により灰化か止まり延命することが出来たのだ。
しかし、それも永くは続かなかった。
メモリによりオルフェノクの因子が暴走を起こしそれを抑える為に同胞を喰らうオルフェノクが現れた。
ガイアメモリの製作をしているAIのメイカーの分析では、"オルフェノクは一度、死んでいる為その際に細胞が人類の物と変化している部分がありそれが癌の様に肉体を蝕んだ"のだそうだ。
しかし、完璧な因子を持つ存在と完全に適合するメモリが合わさればその問題は解決するとも言っていた。
だからこそ、クイーンは王が使うメモリの選定を求めた。
その条件として対ガイアメモリ部隊の承認要請にサインしたのだ。
しかし、彼等がメモリを差し出すことは無くのらりくらりと言い訳が続いている。
「所詮は進化先を失った滅ぶべき者達か....約束一つ守れないのなら我々にも考えがある。
そう示すべきかもしれないな。」
クイーンの持つタブレットにはカイザとデルタのギアの設計図とクローンオルフェノク因子を使ったクローン生成の被験者のリストが表示されていた。
「オルフェノクを救う英雄には.......やはり"彼"が適任だろう。」
そう言ったクイーンは行動を起こす為の準備を部下に命じる。
全ては己が種族繁栄の為に.....
《スマートブレインの目的》
オルフェノク延命の為にアークオルフェノクを復活させたい。
その為には適合するメモリとそれを作り出せるメイカーが必要でありクイーンはそれを手に入れる準備を始めた。
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第二百五話 2つのA/潰えた炎
そんな彼を止めようとミュージアムの者達が襲い掛かるがその軍勢をまるで地面に集まるアリを踏み潰す様に理不尽に蹂躙していく。
毒素の限界を超えた井坂が変身するウェザーは通常のドーパントの強さを大きく逸脱していた。
死屍累々の光景を広げる中、アクセルトライアルがそれを止める為現れる。
「井坂っ!」
「ほぅ、君も此方に来ましたか。」
「もう、お前に殺人はさせん!
ここで逮捕する。」
「逮捕?.....逮捕ですか!?
...ふふ....あっはっはっは!これは面白い"復讐しか無い"君が私を逮捕できるのですか?」
「俺に質問をするなっ!」
照井はエンジンブレードで井坂を遠ざけると距離を取った。
井坂と照井の戦いを遠巻きで見ていた翔太郎に落ち着きが無い。
ずっと嫌な予感が拭えない。
探偵の頃から大事にしている直感がトラブルが起こることを暗示していた。
(早く何とかしねぇと....)
あせる翔太郎の前にバイクに乗った無名が現れた。
「遅くなりました。
照井さんは大丈夫ですか?」
「まだ井坂と戦えてるみたいだが戦況は芳しくねぇ俺達で救援に向かうぞ。」
翔太郎と無名はドライバーをつけるとお互い変身した。
「XTREAM」「DEMON」
『「変身」』「変身」
その声と共に変身が完了した二人が歩みだそうとすると急に景色が暗くなり全く知らない場所へといきなり転送された。
「何がどうなってやがる!」
そう言って驚く彼等に若菜は冷たく声をかけた。
「ようこそ....そして"平伏しなさい"。」
その言葉を受けたWとデーモンの身体はまるで鉛の塊をを上から落とされた様に錯覚する程の重さで地面に膝をつけた。
「ぐっ....身体が重ぇ....」
『恐るべき催眠能力だ。
Wになっても逆らえないだなんて......』
その状態から助け船を出したのは無名だった。
身体から黒炎を発生させるとWと自分を包んだ。
すると、先程までの重さが嘘の様に身体が軽くなり立ち上がることが出来た。
「黒炎の事象無効化能力ね。
厄介な力だこと...」
『姉さん止めてくれ!正気に戻ってくれ!』
フィリップの悲痛な叫びを受けて若菜は笑う。
「悲しまなくて良いわ来人。
もうすぐ私達は一つになるんだから....そしてこの"地球に住む人類"に進化の力を与えるのよ。」
若菜の言葉に無名が尋ねる。
「地球に住む人類?....当初のガイアインパクトの予定は風都全域に及ぼすだけだった筈....どうやって?」
「あぁ、貴方はゴエティアから詳細を聞いてなかったのね。
まぁ良いわ。
この際だから教えて上げる。
どうせもう止められないのだから....」
「この風都第二タワーには地球の記憶へ直結するデータの通り道を作る装置が内蔵されている。
そして、周囲に建てられたサブタワーにはその穴を大きく広げて固定する楔の役割がある。
これを使って広がった穴から手に入れた大量のデータを私と来人がコントロールする。
そして、この"地球全域"にそのデータを解き放って人類を全て進化させるのよ。」
「そんな事は不可能だ。
ミュージアム当初の予定だったガイアインパクトはあくまで地球と完全に一体化する事で地球の記憶を自由に引き出す存在になることが目的だった筈です。
いくら、フィリップと融合したとしても貴女一人ではその膨大な力には耐えられない。
いくら、クレイドールと言う器があったとしても....」
「随分と詳しいわね?
お父様がそこまで貴方に話すとは思えないけど....でもその通りよ。
私と来人だけだったら持たないでしょうね....でも"貴方"がいるわ。」
「え?」
想定していない言葉に無名は疑問符を浮かべる。
「ゴエティアが私に施した施術は私の身体を超越者と同じ者へと変える事だった。
"超越者の肉体の記憶を持った存在"と"データ人間になれる精神"....それが"二人"いればこの計画は完遂できる。」
「....まさか!」
「ふふっ、ええそうよ。
私が"宇宙の巫女"なら貴方は"宇宙の
原初のアダムとイブの様に二人で行う地球生物の大進化、それがゴエティアが提案しお父様が了承した新たな"ガイアインパクト"よ。」
計画の全容を聞かされた瞬間、地球の本棚の奥底に閉じ込められている筈の悪魔が笑った気がした。
僕を嘲笑うように.....
"だから無駄だと言っただろう?"
そんな幻聴が聞こえてきそうだった。
若菜の言った計画を否定しようと無名とフィリップは地球の本棚の力を使い戦闘中ながら検索を始めた。
だが、それを待っていたように残酷な答えが簡単に提示された。
本棚からの回答は
そして、その計画を聞かされた翔太郎も放心状態になっていた。
(地球にデカイ穴を開けて人類を進化させるだって!?
意味が分からねぇ....何でそんなことを....)
そうやって動揺していると若菜が玉座から降りて無名とWに手を差し出す。
「さぁ、一緒に行きましょう来人、無名。
私達、家族の力があればどんな困難だって解決できるわ。
そして、進化した人類を私達で"統治"するのよ。
人類を導く"超越者"として.....」
そう言われ動揺して手を伸ばそうとするフィリップの手を翔太郎が止める。
「フィリップ!正気に戻れ!」
「邪魔しないでくれるかしら?"エターナル"起動。」
若菜がそう言うとエターナルの力が発動しWの変身が解除される。
止めようとフィリップに手を伸ばすが若菜が虫を祓う様に手を降ると翔太郎は吹き飛ばされてしまう。
「フィリップ!」
そして若菜がフィリップに手を触れる瞬間、無名の手がそれを阻止した。
「何故、貴方が邪魔をするの無名?
来人と同じく地球の本棚に入れる貴方なら分かる筈よ。
この計画ならば人類に誰も犠牲を出さず進化させられると....」
しかし、無名の返答は若菜の予想を反していた。
「何故、超越者が地球に存在できると貴女は思うのですか若菜さん?」
「え?」
無名はゴエティアに肉体を奪われている時に地球の本棚の深淵でゴエティアの正体と過去について調べていた。
そんな彼だからこそ分かった若菜の話の齟齬。
「"完璧な超越者"は地球に存在できない。
だからこそ、超越者は精神体となって地球の本棚と言うデータの空間に存在せざるを得なかったんです。
僕の身体は来人さんのデータとゴエティアのデータを掛け合わせて作られています。
超越者としてみれば半端な存在でありデータ人間としての側面が強いです。
貴女はゴエティアに作り変えられて超越者になったと言ってましたがだとしたら何故、この地球に存在できるんですか?」
地球で超越者が存在できる肉体を作るためタナハは神を作り人間を作り出した。
だが、完全に適合する肉体はついぞ現れなかった。
ゴエティアが僕を作る時もきっと何度も失敗しては
だが、若菜に行った施術を最初から知っていたのなら何故これまで使わなかったのか?
そこまで考えた無名はある結論に至った。
「貴女は僕と同じく半端に超越者の力が使えるだけだ。
もし、ゴエティアの言うとおりガイアインパクトを行えば肉体が耐えきれなくなり消滅する。」
「そんな事は無いわ私こそ完璧な超越者なのだから....」
「では調べてみますか?
先程の検索ではガイアインパクトの成功だけを出すようにキーワードを選んだ。
次は選ばれた僕達の生死について検索をかければ答えが分かる筈です。」
そう言って調べようとした瞬間、拍手しながら天十郎がタワーへと入ってきた。
「流石は元ミュージアムの幹部。
言葉巧みに宇宙の巫女を騙そうとするとは恐れ入りましたよ。
だが、あまり動揺させるのも可哀想だ。
ここからは私が相手をしましょう。
若菜様、お父様からの伝言です。
"大事な用があるから屋敷に戻るように"と.....」
その言葉を言われた若菜は動揺しながらもフィリップ達から離れる。
「.....また会いましょう来人、無名。」
そう言うと力を使い若菜は姿を消した。
若菜が消えると天十郎は不快感を露にする。
「困るんですよねぇあまり彼女を動揺させると....」
「お前の目的は何なんだ雨ヶ崎 天十郎。」
「目的ですか?
ガイアインパクトの成功ですよ。
何のリスクもなく進化できるならその恩恵に預かりたいじゃないですか。」
「そうなれる確証なんて無い。
ゴエティアが裏切れば計画は破綻する。
貴方も死ぬかもしれないのにか?」
「そうですねぇ....ですが仮にそうなったとしても私は生き残れます。
これのお陰でね。」
天十郎は懐から金色のガイアメモリを取り出した。
「私がミュージアムに忠誠を誓う時、願ったのは生き残れるチャンスがあるメモリを渡して貰う事でした。
人類の強制進化は確かに魅力があります。
しかし、貴方の言う様に裏切り者が出たら危険を伴う。
それを分かっていたからこそ琉兵衛様はこのメモリを私に与えた。」
「
天十郎はガイアドライバーⅡをつけるとメモリを装填し展開した。
そして、ドーパントになった天十郎は指を鳴らすと先程までいた風都第二タワーから一瞬で"サブタワー"のある街へと移動した。
「!?」
「ここなら、暴れても問題ないでしょう。
あぁ、安心してください。
計画の要である来人様と無名様は生かしておきます。
ですが、あまり余計な動きをされると面倒ですから少々、痛め付けさせて貰いますよ。」
そう言って天十郎は細いタワーの形をした槍を生み出すと無名、翔太郎、フィリップに向けた。
そして、翔太郎とフィリップはもう一度、Wに変身すると天十郎に向かっていくのだった。
井坂と照井の戦いは井坂の圧倒的優勢で進んでいた。
トライアルの速度は井坂にとって何の脅威も無くなっていた。
照井は高速で動き井坂を翻弄させながらエンジンブレードを振るうが井坂はそれを片手で捕らえる。
「何っ!」
「超スピードからの攻撃.....毎度毎度、芸がありませんねぇ。」
井坂はそう言うとエンジンブレードを掴んだ手から雷と嵐を産み出し照井を包み込んだ。
四方八方から来る攻撃に回避が出来なくなった照井はトライアルのマキシマムを発動しようとするが嵐の中に飛び込んできた井坂がそれを止めた。
「何っ!」
「今の私は完全に力を自分の物にしています。
自分の攻撃で傷つく程、愚かではありませんよ!」
井坂の言う通り毒素を完全に克服した彼の身体は嵐と雷の中にいても傷一つ付かない。
その一方、照井の身体にはダメージがどんどん蓄積していった。
「クソッ!ならばっ!」
「ENGINE MAXIMUMDRIVE」
照井はダメージを耐えながら手に持ったエンジンブレードのマキシマムを至近距離で井坂に放った。
爆発が起き周りの嵐が止む。
そして、そこに現れたのは無傷の状態で照井を見つめる井坂だった。
「バカなっ....マキシマムを受けて無傷だなんて!?」
「言ったでしょう?芸がないと....そんな力任せの攻撃で私を殺すことなど不可能です!」
そう言い井坂は照井を吹き飛ばした。
立ち上がった照井はトライアルメモリをドライバーから引き抜きブーストメモリを取り出すとアクセルメモリをセットした。
「BOOST」
金色の姿に変わった照井を見た井坂が呟く。
「ほぉ、新しいメモリを手に入れましたか。」
井坂は照井に嵐と雷のエネルギーをぶつけるが照井はエンジンブレードを振るいエネルギーを完全に吹き飛ばした。
「成る程、これまでとは違うと言う訳ですね。
ふははは!そうじゃなきゃ面白くありません!」
そう笑った井坂は拳を握り照井へ向かっていく。
照井もそれに答えるようにエンジンブレードを握り直し攻撃を始めた。
超近距離から放たれる攻撃を両者はガードせず受けていく。
ブーストメモリによりマキシマムクラスまで強化された攻撃を井坂は受け天候の力を破壊に全て回した攻撃を照井も受ける。
井坂はその攻撃を毒素で進化した肉体の耐久力で受け止め照井はブーストメモリにより強化されたアクセルメモリの自己進化による回復能力で受けた側から回復を行った。
相手を破壊する音がけたたましく流れる中、決着の時は訪れた。
お互い示し合わせたかの様に離れると井坂はウェザーのエネルギーを右手に集約させた。
太陽の持つ熱のエネルギー、津波の圧力、台風の荒々しさ、そして雷の破壊力...その全ての力が混ざり折り重なり一つとなっていく。
そして、井坂の拳はあらゆる災害を集約させた。
対して照井はドライバーのクラッチを握る。
「BOOST MAXIMUMDRIVE」
全身のエネルギーが拳に集約する。
その目的はただ一つ、井坂の持つウェザーメモリの破壊に向けられた。
背中のブースターに火が灯りアイドリングし始める。
合図があればお互いにその拳を振るうだろう。
暫しの静寂が過ぎ、両者とも地面を蹴り上げた。
タワーの地面に亀裂が入り両者は急激に加速するとその拳を振り抜いた。
両者のエネルギーがぶつかり合い爆発を起こすと土煙が巻き起こった。
そして、煙が晴れたことで決着を確認する。
照井の拳は井坂の顔面スレスレをすり抜け対して井坂の拳はアクセルのドライバーに当たるとブーストメモリと内部のアクセルメモリを完全に破壊し変身解除された"照井の腹部を貫いた"。
「.....カフッ!」
照井は口から血を吹き出すと薄れ行く意識の中、井坂を見つめる。
「貴方には感謝していますよ照井 竜。
貴方が私にぶつけてくれた憎しみや怒りが私を強くした。
毒素を受け入れた先のステージに上がれたのは紛れもなく貴方に触発されたからだ。
"追われる者は追う者よりも強くあろうと思わねばならない......何故ならそれが強者の役目"だからです。
人類も動物もそうやって進化してきたのですから...」
照井は最後の力を振り絞ってエンジンブレードを持ち上げると井坂の首に振るった。
しかし、速度も力も乗っていないその一撃は軽く井坂に捕まれてしまう。
「死の間際でも私への復讐を挑むとは敬意を評しますよ。
さぁ、もうお眠りなさい永遠に....」
井坂は振るわれたエンジンブレードを握り潰し照井の腹部に放った拳を力一杯引き抜いた。
その衝撃でドライバーが外れ地面に照井の鮮血が撒き散らされると照井は糸が切れた人形の様に倒れてしまった。
今までの瀕死の攻撃を幾度もなく受けてきた照井だが井坂の一撃はまさに必殺と呼べるものだった。
瞳から光が失われていく....復讐により燃え上がり仮面ライダーとなり熱量を増した照井の命の炎が失われていく。
井坂はそんな照井を一瞥するとタワーを昇っていく。
その姿を見つめながら照井の心臓は完全に止まった。
風都第二タワーで戦闘が起こる中、
園咲 琉兵衛はタワーから姿を消していた。
彼は風都タワーの見える小さな喫茶店に足を運んでいた。
その手にはラッピングされた一輪ピンクの花が携えられている。
店に入る前に身嗜みを確認する。
急いで来てしまったから髪が乱れている。
琉兵衛は花が潰れない様に優しく脇に抱えると喫茶店の窓で身嗜みを整えた。
(ここに来るのは久し振りだな。)
この喫茶店は琉兵衛にとって思い出深い場所だ。
"人生で最も愛した人"と出会えた場所なのだから....
呼吸を整えて琉兵衛は喫茶店の扉を開けた。
古ぼけた鈴の音が昔の記憶を呼び起こす。
カウンターから少し離れた席で彼女はコーヒーを飲んでいた。
空気を入れ換える為、軽く開けられた窓から風都の優しい風が中に入ってくる。
その風に当てられた彼女の髪が美しく靡いた。
それを見た私は一瞬で心を奪われたのだ。
そして、また私は見惚れてしまっていた。
同じ様に風に靡く髪と優しく口を付けてコーヒーを飲む最愛の女性を目の前にして.....
呼吸を忘れていた事に気付いた私は平静を装いながら声をかける。
「遅れてしまったかな"文音"?」
その声を聞いた彼女は私に向かって振り向くと優しい笑顔で告げた。
「ふふっ....そうね。
また"数分"遅れたわね貴方.....」
原作では憎しみあっていた二人が喫茶店で再開する。
その意味を知る者は誰もいなかった。
Another side
沢芽市の一角に立つ巨大ビルである"ユグドラシルタワー"。
そこの会議室には一人の男が席に座っていた。
その周りには青色のホログラムで象られた人間が周りの席に座っている。
『では報告を聞こうか
一人のホログラムがそう告げると狗道が話し始める。
「はい、当初の問題であった"ヘルヘイムの果実"のロックシード化はミュージアム、スマートブレイン両名から提供された技術により解消しました。
これで"プロジェクトアーク"の問題点はほぼ解決したと見て良いでしょう。」
突如、この世界に現れたジッパーから現れた亀裂...通称クラックから謎の果実とそれを産み出す森が現れた。
その実を"ヘルヘイム"と呼びヘルヘイムを産み出す森を調査する中、森がこちらの世界を侵食している事を知りそれの解決をするために動いていたが止めることが不可能だと分かると侵食されても人間に被害の出ない方法を模索した。
そこで産み出されたのが"戦極ドライバー"であった。
狗道の部下である
しかし、ユグドラシルコーポレーションのスポンサーの一人である財団Xから紹介を受けミュージアムと取引をしたことでロックシードの固定化に成功したのだ。
「後は戦極ドライバーとロックシードを使ったライダーシステムの試験運用だけです。」
『それが済めば戦極ドライバーの即時、量産体制に入れる訳か....現段階での総数は分かるのか?』
「このまま、トラブルが無ければプロジェクトを本格的に始動する時には"1億5千万".....最終的には"三億"までならドライバーの生産が可能です。」
『当初の計画と比べたら倍には増えたがそれでも三億か....三億人の人類のみが生き残り後は滅びる。
何とも残酷な真実だな。』
『えぇ、ですから我々は吟味しないといけないのです。
ヘルヘイムに侵食されても生きられる優秀な人間を選別しなくては......』
『当然だ....その為に我々がいるのだから』
まるで自分達が神にでもなったかのように話す彼等だがそれは自分達が当然ドライバーを使いヘルヘイムに侵食されても生き残れると本気で思っているからに他無かった。
この異様な空間に異議を唱える者はいない。
何故なら、ここにいる者は自分が優秀な存在だと信じて疑っていないからだ。
そんなホログラムの者達を狗道は心の中で冷たく嘲笑う。
(私達のシステムが無ければ滅びるしかないのにもう生き残った気でいるとは....やはり人間は愚かだ。
だが、それは私も同じか....)
狗道は自分の手を見つめる。
ヘルヘイムの事や実の効力を調べる為にどれだけの人間を犠牲にしてきたのか。
もうこの手は人の色をしていない。
犠牲になって死んだ人間の血と臓物にまみれ汚れた赤黒い手.....どんなに洗っても取れないその醜い手は狗道が犯してきた罪を自らに見せつける。
(人類が救われるには罪が多すぎる。
私もこの周りの奴らも生きるに値しない。
何故それが分からないんだ?)
狗道の考えとは裏腹に話はどんどんと進んでいく。
『それで戦極ドライバーのテスターは誰が行うんだ?』
「
この計画の責任者である私自らの手で.....」
そう言う狗道の目はこの中にいる人たちの誰よりも暗く濁っていた。
そうだ.....だからこそ奴は人を越えられた。
何時だって生物を進化させてきたのは"想い"だ。
部外者の乱入でどうなるかヒヤヒヤしたが大筋の流れが変わらなければそれで良い。
「さぁ、新しい選定が始まるぞ。
俺もうかうかしてらんねぇ。」
独特なローブを着た男はまるで"蛇の様"に空間を移動すると狗道達のいた場所から姿を消した。
そして、誰も彼がいたことすら気付かなかった。
〈ユグドラシルコーポレーションの目的〉
戦極ドライバーの開発向上の為にミュージアムに協力した。
お陰で最終生産の数が倍に膨れ上がったが計画を変更することはない。
そして、原作通り狗道が実験の最中に消滅し鎧武の物語が始まっていく......
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第二百六話 2つのA/愛の行方
表面上は冷静に対応しようとしている夫を見て私の顔は微笑む。
研究者だったからか時間にルーズな彼がデートをすっぽかしそうになることは馴れていた。
毎回、数分の遅刻をする。
だが、その数分は遅刻を取り戻すためだけじゃなく私を想って焦りながら準備をするからかかる時間だ。
遅れたお詫びに花を買い急いで乱れた髪と呼吸を落ち着ける。
それに必要な数分なのだ。
それを知っているから私は笑い言った。
「ふふっ....そうね。
また数分遅れたわね貴方.....」
琉兵衛は申し訳なさそうに持っていた花を文音に渡した。
「遅れてすまいね。
何せ急に呼ばれた者だから....」
琉兵衛が文音の存在を感じたのはガイアメモリのお陰だった。
テラーメモリの根元である恐怖.....過去に文音を傷付けた自分の力は文音の中に残っている。
その力が彼女の居場所や感情をメモリを通して教えてくれるのだ。
彼女から何時も感じていたのは私への"憎しみ、怒り、悲しみ"だけだった。
だからこそ今日、彼女を知覚した時も同じだと思っていた。
だが、違った。
彼女から流れてきた感情は愛.....単純に私に会いたいと願う意思だった。
(何故だ?何故、文音は私に.....)
こんな感情は私達が結婚する前の時のようだった。
お互いを想い歩み寄ろうとする感情......
それに触れてしまった私は
テラーの力で失っていた筈の感情が吹き出した。
(文音に会わないと.....)
私は風都第二タワーにある部屋から急いで飛び出した。
横にいた天十郎君が不思議な顔をしていたがそんな事はどうでも良い。
私はテラーメモリを使い彼女の感情に集中する。
その場所は二人でよくデートをした喫茶店だった。
(少し遠いな....準備もしないといけない。)
琉兵衛はテラーメモリを使い急いで喫茶店近くの花屋に転移した。
そして、花屋で一輪の花を注文した。
"ゴテチア"の花".....口下手な私が何度も助けられた花であり彼女が最も好きな花でもある。
その花を見て文音も笑う
「変わってないわね...安心して待たされた事は怒ってないわ。
それよりもこっちに座って.....」
その言葉を聞いて私は安堵すると席に座った。
座った私に文音は言う。
「懐かしいでしょう?
ここは貴方と始めて出会った場所....
私が研究所に勤めていた時、息抜きでここに来ていた。
そんな私を貴方は遠くから見ていた。」
「はっ...はは...そんなストーカーみたいにした覚えは無いのだがなぁ。」
「あら?話の口実に態々目の前でハンカチを何度も落としてきたのに?」
「うっ....そっそれはだね...」
過去を掘り返され琉兵衛は分かりやすく慌てる。
「けど、そのお陰で私達は愛し合って子供を作り家族になれた。」
「....そうだね。」
「冴子は気が強くてお父さんが大好きだったわね。」
「あれは君の血が強く出たからだよ。」
「若菜はお転婆で泣き虫だったわ。」
「あぁ、何度も夜泣きして起こされたな。」
「ミックが来た時は皆、喜んでいたわね。」
「誰が名前を決めるかで喧嘩になった....あぁ、懐かしいなぁ。」
「そして来人が生まれた....始めての男の子だった。
誰にでも優しいあの性格はきっと貴方に似たのね?」
「いや、二人の性格だよ.....」
二人はそうやって思い出を振り返っていく。
大切な宝物を一つ一つ丁寧に出して眺めるように....
「良く家族で旅行にも出掛けたわね。
まぁ、半分は貴方の仕事関係だったけどそれでも楽しかった。
あの時の想い出は私にとってかけ替えの無い宝物よ。」
「それは私も同じだよ。」
「だからこそ、"貴方は失うことを恐れた"のね?」
「!?」
文音にそう言われた琉兵衛の顔が歪む。
「ずっと、不思議だった。
何故、貴方はそこまで来人を道具のようにしたかったのか....最初は分からなくて怒りや復讐に呑まれたけどゴエティアのリセットのお陰でやっと分かったわ。」
「貴方は来人を.....いえ"フィリップを恐れている"のね?」
「.........」
「来人が地球の記憶が流れる泉に落ちてデータ人間となった。
頭では息子として接したかったのに彼の特異性...."地球の記憶を閲覧できるという人間離れした力"に恐れてしまった。
同じ家族として見れなくなってしまいそうになるほどに.....」
「..........」
「だから貴方はテラーメモリに依存した。
そして、テラーメモリはその想いに答えて貴方から家族への愛を奪った。
でも、貴方の愛はそんなものでは無くならない。
だから貴方は"イーヴィルテイル"を....」
「止めてくれ文音!」
琉兵衛は文音の言葉を遮るように机を叩いた。
「......ごめんなさい貴方を責めたい訳じゃないの。
自分の子供が怪物に見える程の力を手に入れた。
そんな事、到底受け入れられるものじゃないわ。
だから、貴方はガイアインパクトを起こそうと決めたんでしょう?
人類が新たなステージへ進化すれば来人は異常じゃなくなる。
普通になると考えたから....」
「....例えどんな姿になろうと来人は園咲家の家族だ。
だが、そんな事で周りは納得するか?
地球の記憶を閲覧できる存在だぞ?
もっと酷い利用手段を考える奴も出てくる。
それこそ、来人の命を使い潰して....だが、我々ならそうはならない。
ガイアインパクトが済めば来人と若菜を分離させてまた幸せな家族を.....」
「いいえ、それは出来ない....出来ないのよ貴方。」
「何故だ?....どうして?」
「私達は来人を"私達の考える幸せ"の為に沢山の人を犠牲にした。
それはとても罪深い事よ....償わないといけない。」
「何故だ?人類が進化すればきっと新たな恩恵が....」
「そんな恩恵は誰も望んでいないのよ。
貴方、私達は沢山の人を不幸にした....いえし過ぎたのよ。
もう取り返せない程の罪を犯したの....」
「...そんな事はない。」
「私は井坂と言う怪物にメモリを与えて沢山の犠牲を出した。
そして、
貴方はこの風都に悪意の種をばら蒔いた。
大切な家族すら利用して....」
「.....だが、全ては家族の為だ。」
「貴方、もういい加減大人になりましょう。
フィリップは左 翔太郎と人生を歩んだことで十分成長したわ。
もう私達の手を離れて生きられるのよ。
そして、それは冴子や若菜も同じなのよ。」
「.......」
そこまで話して文音のスタッグフォンに連絡が来た。
文音がそれを見ると立ち上がる。
「どうしたんだ文音?」
「罪の清算をする時が来たみたい...."さようなら貴方"。」
そうして去ろうとする文音の腕を琉兵衛は掴む。
その顔は先程までの情けない顔ではない。
「何故、さようならを言うんだ?
それに罪の清算とは....文音、一体何をするつもりなんだ?」
「私は私の罪を償う....例えこの身を犠牲にしても...それが私の覚悟よ。」
文音は優しく琉兵衛の手を引き剥がすと懐からネメシスメモリを取り出した。
その姿を見て嫌な予感がした琉兵衛はドライバーを付けるとメモリを指した。
テラードーパントになった琉兵衛は文音の周りにテラーフィールドを形成する。
「ダメだ文音....行かないでくれ。
私は....君がいないと.....」
しかし、文音は展開されたテラーフィールドに向けて歩み琉兵衛に近付く。
「止めろ!触れたら命はないぞ!」
琉兵衛がそう忠告するがテラーフィールドに触れた文音の身体には何の変化も起きない。
文音も琉兵衛に恐怖を感じること無く近付くと彼の頬へ触れる。
「文....音....」
「貴方、例えどんな結末になったとしても私は家族と....貴方を愛しているわ琉兵衛。」
「....待っ!」
琉兵衛は文音は離さないように手を伸ばすが文音は身体が炎へと変わるとその場から消えてしまった。
琉兵衛はメモリを抜くと触れられる筈だった手を見つめる。
その手は弱々しく震えておりミュージアム総帥としての姿は無かった。
ドーパントになった事で喫茶店には誰もいない。
机には二人で飲んだコーヒーが残されている。
呆然としながら席に着き残ったコーヒーを飲む。
コーヒーから苦味を感じることで琉兵衛は改めて文音が消えたことを認識した。
愛する妻が消えた。
それも復讐に飲まれてではなく私に愛の言葉を残して....
その現実を受け入れる度に身体が震える。
それを抑える様に文音が飲んでいたコーヒーを無くなるまで飲み続けるのだった。
照井が井坂に殺された瞬間を赤矢は見つめていた。
(これが見せたかった物なのか?)
倒れている照井の身体からは出血が止まらない。
その光景を見たことで赤矢は過去の記憶を思い出す。
(ふぅ....講義が長引いてしまったな。)
赤矢は何時も通り水音町の大学で授業を終えて家に帰ろうとしていた。
授業が長引いてしまったせいで帰りが遅れてしまっている。
(鈴花は待っているだろうな....漸く安定期に入ったのだから無理はさせたくない。)
赤矢の妻は妊娠していた。
だからこそ一人にさせておくのは赤矢も心配だったが本人が気丈に振る舞っていた。
(家に帰ったら様子を確認して必要は物を揃えないと....)
自分が親になる....今一想像できないがそれでも赤矢は嬉しかった。
これから先の人生は大変なことも多いだろうがきっと楽しいこともあるだろう。
生まれる子供の名前も決めたいしな....
そう考えながら家に帰ると妻だった存在が倒れていた。
(鈴花?....)
赤矢は倒れている存在を持ち上げて顔を確認した。
全身の水分が吸い取られてミイラの様になっていたが着ている服からそれが妻だったのだと分かってしまった。
そんな妻はお腹を抑えながら死んでいた。
お腹の子供だけは守りたい...そう思っての行動だと分かった。
(部屋に何の問題もない。
それなのに妻だけ異常な死を遂げている....どう言うことだ?)
赤矢は死んだ妻を気に掛けること無く部屋の見聞をした。
今思えばこれは現実逃避の行動だったのだろう。
妻と子の死を....理解したくない。
だからこそ、赤矢は心を閉ざした。
警察が来て調査が始まったが人が短時間でミイラになって死んだ。
そんな非現実的な事実に捜査は難航し迷宮入りしてしまった。
妻と子の葬式を終えて手元に残ったのは妻と子の遺骨だけだった。
それを見ても赤矢の心は動かなかった。
(人が死んだ.....それだけの事だ。
私が知るべきなのは何故、こんな死に方をしたのか?
それと誰がどんな目的で殺したのかだ。)
そう考えていると赤矢はふと考えた。
(あれ?....私は何をするために家に帰ってきたんだ?
それより....死んだ妻の仲間は何だったんだ?
相談してた子供の名前は?
どうして....思い出せないんだ?)
妻と子の事を考えようとすると心がざわついた。
だからこそ、赤矢は殺した犯人について集中した。
幸い彼の本文は犯罪心理学だった為、それを考えている時だけは心のざわつきが止められた。
そして、ガイアメモリについて知り風都に向かった。
自分の妻と子を殺したのは間違いなくガイアメモリを使っている。
風都大学で教鞭を取れば調べる時間も増えると考えた。
その過程で無名と出会い、私は事件の犯人を見つける事を条件に部下となった。
犯人は直ぐに分かった。
井坂 深紅朗、ガイアメモリ専門の医者を名乗る狂人でありウェザーメモリを使うドーパントだった。
それを教えてくれた無名が尋ねる。
「真実を知った貴方はどうしますか?
井坂へ復讐しますか?」
本当なら復讐を願うべきなのだろう。
だが、赤矢にその願いは無かった。
自分の事に関係すると驚く程、冷たく興味を失ってしまう。
(きっと、私は悪魔に心を奪われたのだろう。
そんな私が復讐など願う資格はない....だが)
赤矢はメモリを取り出す。
(こんな私でも救おうとしてくれている人を見捨てる程、心は失っていない。)
赤矢はアサガオドーパントに変身すると濃度を調整したTNTを照井の前で爆発させる。
爆発の煙を照井に吸わせながらスマホを取り出し無名へ連絡を取る。
だが、無名に連絡が繋がらず舌打ちすると文音にメールをした。
『照井が井坂に殺られた。
今彼は風都第二タワーにいる。
救ってくれ。』
そのメールを送ると赤矢は井坂が向かった場所へ目を向ける。
「これ以上....私や彼のような人を作るわけにはいかないな。
なぁ、鈴花.....私は君と子の事を思い出せるかな?
これは復讐じゃない。
井坂には怒りや憎しみもない。
だがこれ以上、井坂の好きにはさせたくない。
それだけはちゃんとした私の意思だ。」
赤矢は覚悟を決めると井坂を追いかける。
名と顔すら忘れてしまった妻の為、自分を助けようとしたのかもしれない刑事の為.....彼なりの復讐が始める。
突如、別の場所へ転移させられた無名とWは今の状況に困惑していた。
「はぁはぁ....一体どういうカラクリなんだ?」
『エクストリームでも能力を"検索"できない。
こんなことがあるなんて......』
「恐らくメモリ以外にあのサブタワーが関係しているのでしょうね。」
そう言って無名は近くに建てられていたサブタワーを見つめた。
「ふっふっふ.....仮に私のタワーメモリの秘密を知ったとしても貴方達にはどうにも出来ません。
それにもう全てが手遅れだ。
来人様と無名さん....お二人はガイアインパクトの為の犠牲になる運命は変わらない。」
天十郎は笑いながら告げる。
「あ?ふざけんじゃねぇぞコラっ!」
Wがプリズムソードを天十郎に向けて振るうがプリズムソードが天十郎に到達する前に弾かれWが吹き飛んでしまう。
「くっ!まただ!またわかんねぇ力で吹き飛ばされた。」
『恐らく彼を中心にしてエネルギーシールドが貼られているのだろう。
プリズムメモリで無効化すれば攻撃が到達する筈だ。』
「PRISM MAXIMUMDRIVE」
『「PRISM BREAK」』
メモリの力を無効化するプリズムソードの攻撃が天十郎を襲うも天十郎が指を弾く。
パチン!
その音と共に周囲の速度が一気に遅くなる。
それはWの動きに干渉し振るわれる筈のプリズムソードの速度が遅くなり止まってしまう。
「なん.....だ...こ.....れ.....」
「周囲の空間の速度を"操作"した。
今の私には何人たりとも触れることは許されない。」
そう言うと天十郎はプリズムソードを槍で弾くとWの顔を叩いた。
その瞬間、複数の爆発を起こしながらWが吹き飛ばされ変身解除されてしまう。
「う....く....」
「何なんだ....メモリの能力が分からないなんて...」
倒れている翔太郎とフィリップを天十郎が見下ろす。
「まぁ、計画に支障はないでしょうが今の内に来人様を捕まえておいて損はないでしょう。」
そうして天十郎がまた指を弾くと一瞬の内にフィリップが天十郎の手に捕らえられてしまう。
「なっ!テメェ、フィリップを離せ!」
「邪魔をしないでいただきましょう!」
天十郎が手を翳すと翔太郎の身体が浮き上がる。
足掻こうとするが動くことが出来ず天十郎が宙に浮く翔太郎に向かって槍を放った。
「翔太郎!」
「邪魔者はここで退場してもらいましょう。」
そう言って槍が心臓に向かっていると途中で止まり槍と翔太郎が地面に落下した。
その光景に天十郎が驚く。
「何っ!一体どうして....!?」
そう言って動揺しているところにファングメモリが現れて攻撃を行いフィリップを天十郎から引き離した。
そして、それを待っていた様に無名が空中から天十郎に斬りかかった。
すんでの所で回避した天十郎は距離を取った。
その姿を見て無名が言う。
「やはり、思っていた通りでしたか。
時間をかけすぎて間に合うか不安でしたがフィリップが捕らえられる前に成功してよかったです。」
そう言って無名は手に持っていた武器のトリガーを引く。
「
すると、先程まで刀だった武器が変形し弓に変わる。
そして、弓を引き天十郎に狙いを定めると放った。
弓から黒い矢が放たれる。
「くっ!」
天十郎が落下した槍を手に取るとエネルギーが発生し矢の動きを止めようとする。
「無駄です。
その矢にはデーモンメモリの黒炎の力が付与されています。
タワーのトリックが使えなくなった貴方では止められませんよ。」
無名の言う通り黒い矢はエネルギーの壁を易々と突破すると天十郎の肩をカスった。
「ちっ!まさか、貴方にトリックが見破られるとは......元とは言え流石はミュージアムのメモリ開発者ですね。」
「貴方のメモリは身体能力が強化される物じゃない。
恐らく、特殊能力が付与される物だ。
だとしたら、後はメモリの謎を解けば良い。
エクストリームで検索できてないと言うことはさっきの転移やエネルギーシールドはタワーメモリ固有の能力じゃない。
それで仮定が一つ出来た。
だから、それを確かめたんだ。」
そう言うと無名がサブタワーを指差した。
すると、サブタワーの頂点が無名の黒炎に包まれていた。
「あのサブタワーにはメインタワーの余剰エネルギーを流して安定させる役目がある。
つまり、タワーメモリはそのサブタワーからのエネルギーを利用出来る力.....違いますか?
加えて、メモリがゴールドクラスなのがサブタワーに蓄積されたエネルギーが普通じゃないからだ。
地球の記憶へ繋がる力....今の若菜さんやゴエティアが使える力を扱うんだ。
半端なメモリじゃ力に耐えきれない。」
「成る程.....だからサブタワーに黒炎を当ててタワーからのエネルギーを遮断したのか。
エクストリームで能力が分からなかったのもあくまでサブタワーに蓄積された力なのであってタワーメモリの力じゃないから検索しても分からなかったのか。」
「おいおい、捕まりかけてたってのに分析してる場合かよフィリップ。」
呆れながらもフィリップと翔太郎が合流する。
形勢が逆転したと分かった天十郎は溜め息をつく。
「はぁ、やはり直接戦うなんて野蛮な行為は私には似合わないな。
その武器と黒炎がある限り、私の勝ち目は無さそうだ。」
「それじゃあ、計画について大人しく話してくれますか?」
無名が尋ねると天十郎は笑う。
「ふふっいえいえ、私はこのまま帰りますよ。
と言うより"貴殿方は私を倒せない"。」
「あん?倒せないってどう言うことだ?」
「私を倒せばこの世界が本当の意味で終わると言うことですよ。
今、風都第二タワーが地球の記憶に向かって空けている穴とサブタワーの役目は地球が耐えられるレベルを越えている。
ガイアインパクトの計画が進まなければ"地球は開けられた穴を中心に崩壊する"。
それを防ぐには来人様と無名さん....そしてタワーのエネルギーをコントロールする私のメモリが必要だと言うことです。」
「!?」
「嘘だと思うのなら私を倒せば良い。
サブタワーからのエネルギーが絶たれている今なら貴方の攻撃も通りますよ仮面ライダーW。」
天十郎は自信満々にそう告げる。
そして、それを受けたフィリップや翔太郎....そして無名は天十郎に攻撃が出来なくなっていた。
(この男はこんなところで安いハッタリか言わない。
嘘だとしても真実が混じっている可能性がある。
.....今、コイツを倒すのは早計になる。)
そう理解したのか無名は武器からメモリを抜いた。
すると武器が変化しグリップだけが残った。
無名の判断を見た翔太郎とフィリップは天十郎を睨む。
「どうやら結論が出たようですね。
それでは私はこれで....次、お会いするのはガイアインパクトが始まる時ですかね?」
天十郎はそう言うとその場を後にするのだった。
それを三人はただ見つめることしか出来なかった。
Another side
地球の本棚の深淵で一人座るゴエティアは計画が順調に進んでいる状況を見つめて笑う。
「ふふっ....さぁ、いよいよ物語が佳境に進んでいく。
最後に笑うのは誰なのだろうかなぁ?
私か?それとも仮面ライダーか?
それとも....あの男か。」
ゴエティアが提案したガイアインパクトは原作のガイアインパクトよりも安全かつ広範囲にまで影響を及ぼせる。
計画が発動すればその余波は計り知れないだろう。
「これだけの異変を起こせばコスモスのいる空間に繋げられる。
そこで彼女をこの世界に呼び寄せよう。
きっと、面白い世界になる。」
この世界は超越者の力を元に産み出されている。
仮面ライダーや怪人の力も元を正せば超越者の力が根幹に存在している。
だが、この世界にあるのは力だけで精神は消えてしまっている。
残っているのは恐らく私とコスモスだけだろう。
何度も何度も確かめたがこの地球に置いて他の超越者の意思は感じ取れなかった。
「もしかすれば他の次元や星にはいるのかもしれないが....まぁ、どうでも良いな。」
ゴエティアにとって重要なのはコスモスを完全な状態で甦らせることだ。
これは亡き同胞やタナハからの願いでもある。
ゴエティアは自らの胸に手を当てる。
「君のことを考えるだけで胸が締め付けられ釘を打ち付けられる様な痛みを感じる。
これが君のくれた感情なのだろう。
だが、私は感謝している。
これが無ければ私達、超越者は生きていると言えない物の様な存在だったろう。
タナハは失敗したと言っていたがこの地球は私から見れば常に私の予想を越えてくる素晴らしい世界だ。
そこに暮らす人間も怪人も......
そして、その物語も.....」
「だからこそ、君に見て欲しいんだ。
君が望み与えた力によって生まれた素晴らしい世界を...."この世界の生物を通して"....」
ゴエティアは地球の本棚を操作すると一冊の本を取り出した。
その本を開くと黒炎で中の文字を書き直そうとする。
しかし、途中で炎が途切れてゴエティアが苦しみ出す。
「うぐっ!.....やはり、そろそろ限界か。
何度も書き直してきたのだから当然だな。」
ゴエティアが地球の本棚で行う書き換えには超越者の力を切り取り使う必要がある。
分かりやすく言えば寿命を削り書き換えていたのだ。
これまで何千とも言える書き換えを行い続けた結果、ゴエティアの身体は限界を迎えていた。
これ以上無理をすれば彼の精神を残している力すら使いきりゴエティアの意思は消え去ってしまうだろう。
だが、そんな事はゴエティアは百も承知だった。
ゴエティアは心臓に向けて手を挿し込む。
皮膚を貫通しその手に生暖かい血肉を感じると引き抜いた。
そして、血にまみれた手から黒炎が発生すると本に文字を書き込みそっと閉じて本棚に戻した。
終わるとゴエティアは地面に倒れこむ。
「はぁ....はぁ....ふふっ、後は物語が進むのを待つだけだ。
漸くだ....漸く願いが叶う。
今から君に会うのが楽しみだよコスモス。」
血にまみれた胸と痛みを気にする素振りもないようにゴエティアはただ笑うのだった。
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第二百七話 灯すB/果たしたい思い
意識を取り戻した照井が辺りを見渡す。
照井の周りは真っ暗な空間で何もない。
だが、この空間が普通じゃないことは照井でも理解することが出来た。
「俺は.....井坂と戦って....そして....」
照井は自分の身に起こった事を思い出そうとすると近くから声が聞こえてきた。
「お兄ちゃん、何してるの?」
その声に照井が振り向くとそこには死んだ筈の両親と妹がいた。
「もう、なにやってるの?
今日は警察学校の卒業式でしょ?
寝坊したら怒られるよ。」
そう言われ照井は自分の身体を見るとそれは何時もの赤いライダースではなく警察学校の訓練生の制服だった。
「もう、早く行くよお兄ちゃん!」
妹が照井の手を引き家の扉を開けて警察学校へと向かうのだった。
風都第二タワーに転移した文音は倒れている照井を見つけた。
「照井 竜!」
文音は彼の状態を確認する。
腹部に大きな穴が開き、瞳孔が開いていた。
そして、近くには破壊されたエンジンブレードとブーストメモリが転がっていた。
「まさか、ブーストメモリを使っても負けてしまうなんて.....何処まで強くなったの井坂は」
そんな事を思いながらも文音は照井を死なせない方法を考えていた。
(ドーパントから受けた傷は自然治癒でしか回復できない。
回復能力があるドーパントの能力なら傷の治癒も可能だけど美頭はサラと共に風都を離れた。
それにこの重症じゃ回復しても厳しい筈.....
やはり、あの方法しかない。)
文音はネメシスメモリを起動し身体に挿した。
紫色の炎が身体を包みネメシスドーパントへと変身する。
そして、腰についた砂時計を取り触れた。
すると、照井の身体が浮き上がりネメシスドーパントも紫色の炎から現れた巨大な秤の上に乗せられる。
ネメシスメモリの能力は対象と自分の罪の量を計りそれに応じた能力を発揮することが出来る。
照井の人生を利用し家族を奪った為かネメシスドーパントの秤が重く地面についていた。
「これだけの罪があれば.....罪の清算を行うわ。
私の願いは彼の全てのダメージを私の身体が移し返ること....」
そう願った瞬間、秤が勢い良く動き始め照井の傷が消えていく。
そして、その代わりにネメシスドーパントの身体が傷付き始めた。
凄まじい痛みが身体に広がっている筈なのに文音は声も漏らさずひたすら耐えた。
自らの罪を清算する様に.....
そして、全ての傷が移し返え終わると秤が消滅した。
文音は穴の開いた腹部を抑えながら這って照井の元へ向かう。
「はぁ...はぁ....何故、目を覚まさないの?」
眠るように目を瞑る照井に文音は触れる。
(呼吸や体温は安定している....もしかして再生した身体と意識が噛み合っていない?
だとしたら早く意識を取り戻させないと....)
消えていく命を感じながら文音は最後の力を振り絞るようにメモリに力を込めると身体から排出されたメモリを照井の腕に突き挿した。
井坂はもぬけの殻となった風都第二タワーの内部を呆然と見つめていた。
その横では傷付き倒れている
「ここにもいないとは.....まさか逃げたのか?」
ミックの事など歯牙にも掛けてないのか見向きすら起こさない井坂にミックは憤慨し立ち上がると高速で翻弄しながら攻撃を行おうとする。
しかし、その攻撃は井坂は出現させた氷壁に遮られ逆に火球の攻撃を受ける。
それをミックは回避するがその場所に井坂の赤い雷が落とされミックに直撃してしまう。
ダメージからミックは吹き飛ばされてしまう。
その姿を見て井坂はミックを哀れむ。
「ミュージアムの処刑人でしたか?
そんな役職に縛られてそんな素晴らしいメモリの力を無駄にしているとはなんと勿体無い。
私ならもっと有益にそのメモリを使えるのに.....」
起き上がったミックは目から光球を放つ。
「無駄です。」
井坂はそう言うとその攻撃を片手で握り投げ返す。
想定してない反撃を受けてミックは回避しようとするが突如、地面が凍り始め両足が使えなくなりミックのドライバーに光球が直撃してしまう。
ドライバーは火花を上げながらもまだミックの身体を怪人へと変身し続けてくれている。
「もう良いでしょう。
私は琉兵衛さんに会いたいだけだ。
邪魔をしないのなら命だけは助けます....どうでしょうか?」
ミックの井坂への返答は両手の爪を向けた戦闘の意思だった。
「残念だ。
ガイアメモリを使えても所詮は獣と言うことか.....
では貴方を殺しましょう。
あぁ、安心してください。
飼い主も直ぐに貴方の元へ送ってあげますから....」
ミックは痛む身体を無視して地面を蹴りあげた。
これまでと違いただ真っ直ぐ一直線に井坂へと突撃する。
狙うは井坂の頭.....ここを破壊されればドーパントだろうと無事ではすまない。
例え自分が死ぬことになっても
こんな姿を
ミュージアムの処刑人には相応しくない無様な攻撃....."相変わらず脳味噌が足りてないなクソ猫"と言われそうだ。
リーゼは獅子神の手により瀕死の重傷を負わされた。
最初の頃は良い気味だと思ったら時間が経つにつれて奴とケンカできない寂しさをミックは感じていた。
そうして気になったミックはリーゼが眠っている研究所を訪れた。
沢山の管に繋がれたリーゼを見てショックを受ける。
(アホの癖して無茶なことをやるからだ。)
悪態を思念波に乗せるが帰ってこない。
何時もならここからケンカの一つでも始まる筈なのに.....
(お前が寝ているせいで張り合いが無い早く起きろクソ猿。)
(狸寝入りもいい加減にしろお前は猿だろうが)
(最近、暴食が増えて肥ってしまった。
これもお前のせいだぞクソ猿。)
暇な時を見つけてはミックは寝ているリーゼに声をかけ続けていた。
だが、目覚めないリーゼにミックは最後にこう告げた。
(もし、お前が目を覚ましたらまた喧嘩してやる。
だから、早く目を覚ませ.....お前がいないとつまらないんだよ
(まさか、私が約束を破ることになるとはな。
......ふん、地獄でリーゼに笑われそうだ。)
そう感じながらもミックは後悔していなかった。
ミックにとって一番の幸せは園咲家の面々が平和に暮らすことなのだから......
ミックは井坂に突撃する刹那、光球を地面に当てて土煙を起こした。
(一瞬、視界を奪えれば良い。
私の鼻はお前の正確な位置を覚えている。)
ミックは土煙に突っ込むと更に加速しながら井坂の頭の場所へ片腕を突き立てた。
スミロドンの力を集約した一撃だ。
当たれば井坂と言えど確実に屠れるだろう。
......当たれば
ミックの速度により土煙が晴れると突き立てた腕は空を切っており逆に井坂はしゃがみこみ拳をミックのドライバーへも向けていた。
「貴方は鼻が良いですからねぇ....風を操作して匂いの囮を作るぐらいの対策はしますよ。」
井坂の言葉を聞きミックは自分の失策を悟る。
(くっ!回避を....いや間に合わない!)
「さようなら」
井坂の拳がドライバーを貫通しミックの胴体を貫こうとするが急に拳の軌道がズレてミックのドライバーを破壊すると本体は遠くへ吹き飛んでしまった。
「なっ!」
自分の意図しない事態に井坂は混乱する。
(私がトドメを仕損じた?
いや、角度とタイミングは完璧だった。
あのまま行けば胴体を貫き殺せた筈なのに何故だ?)
そう考えて井坂は殴った腕を見ると僅かながら左右に揺れている錯覚を覚えた。
(これは....幻覚か?
薬を盛られたのか?
でも、どのタイミングで.....まさか)
答えに行き着いた井坂は吹き飛ばしたミックへ目を向けるがそこには破壊されたドライバーとメモリのみ置かれていた。
「くっくっくっく.....あの土煙に幻覚剤を紛れ込ませた訳ですか。
しかし、獲物を横からかっさらうのはあまり誉められた行為とは言えませんねぇ。」
井坂はそう言って笑うとミックを奪った
赤矢は気絶したミックを抱えると井坂からタワーから脱出するため走っていた。
(幻覚剤の入った爆弾が上手く作用してくれたお陰でミックへの傷は浅い。
だが、放置できるレベルでもない一刻も早く治療しなければ.....)
そんな事を考えていると天井からコンクリートを砕く音が聞こえ身体を回避させた。
すると、回避した場所に風を纏ってコンクリートを砕きながら井坂が現れる。
「鬼ごっこはもう終わりですか?」
「通常のドーパントなら数時間は昏倒する濃度の幻覚剤なんだが....相変わらずの化物ですね。」
「貴方のメモリが生成する幻覚剤はガイアメモリの毒素を流用して作っている。
毒素に適合した私には真の意味で毒とはなり得ないと言うわけです。
さぁ、種明かしも終わりました。
そこの猫を渡していただけますか?
そうすれば貴方だけは見逃して差し上げますよ?」
井坂の提案に赤矢は答える。
「これでも私は犯罪心理が専門でね。
貴方のような典型的なサイコパスが自分の利益以外で約束を守ることが無いのを知っている。
この子を渡せば私を始末して終わりにする。
だから、渡す意味は無いな。」
「.....驚きました。
そう言えば貴方は犯罪心理学の教授でしたね。
そして、その考察ですが...医者である私の立場から見ても大正解ですよ!」
そう言いながら井坂は竜巻を生成すると赤矢に向かって放った。
すんでの所で回避して赤矢はTNTを生成すると井坂へ投げ付ける。
しかし、そのTNTを井坂は生成した火球を放ち焼却してしまう。
「貴方は他の幹部の部下と比べても特に能力に依存している。
幻覚の爆弾が使えなければさして驚異とならない雑魚ドーパントですよ!」
井坂は腰から"ウェザーマイン"を取り出すと赤矢に振るった。
高速で振るわれるウェザーマインを避ける術が無い赤矢は何発も攻撃を食らう。
ウェザーマインもメモリが強化されたことで多数の力が付与されており赤矢の身体に当たる毎に別のダメージが彼を襲った。
攻撃を受けて限界を感じた赤矢は地面に伏してしまう。
「無様ですねぇ....所詮、貴方は無名がいなければ私の驚異足り得ない存在と言うわけです。」
そう言われた赤矢は冷笑しながら告げる。
「元々....勝てると思って挑んでない。」
「では、何故私の邪魔をしたんですか?」
「何でだろうな.....ただ今動かないと一生思い出せないと思っただけだ。」
「思い出せない?.....それはなんですか?」
「なぁ、井坂 深紅朗。
君はこれまで殺してきた人を覚えているのか?」
「何を言うかと思えば....そんなのどうでも"良いことでしょう"。
覚える価値もない....」
「だろうな。
お前にとって重要なのはガイアメモリへの知的欲求を満たすこと....それだけだ。
その過程で何百人の犠牲が出ようと興味すら湧かないだろう。
だから、"お前は誰にも認められないんだ"。」
その言葉に井坂の表情が歪む。
「お前は自分の理論を認めさせるために無名と対立していた。
結果としてお前は毒素を克服しただろうが、賭けても良い。
例えこれからどんな実績を積もうとお前の考えは理解されない。
人は無名の理論を選ぶ。」
「負け惜しみを.....現に私と言う成功作がいるんですよ?
無名の毒素を廃する考えはドーパントを弱くする。
私の考えこそが.....」
「だが、"無名は使い手の安全を常に考えていた"。
それがお前との決定的な違いだ。
人は極論、自分の安全を第一に考える。
故にそれを保証される計画が常に優先されていた。
お前は自分の安全すら考えられない。
だから人の安全も分からない。
そんな理論が認められることは未来永劫無い。
お前は.....無名には...勝てない。」
赤矢がそう言い終わると井坂の握りしめた拳が震える。
「はぁ、全く貴方は無名に似ていますねぇ。
人の神経を逆撫でするのが上手い。
...お陰で思い出しましたよ。
赤矢....珍しい名前だと思いましたが、私が殺したあの女の関係者でしたか。」
「....覚えていたとは意外だな。」
「えぇ、死ぬ最後までお腹を守っていました。
妊娠していたのは分かりましたからね。
だから私は先ず、お腹の子から殺してあげたんですよ。
熱を調整してね。
それを知らずにお腹を守っている様は正しく滑稽でしたよ。」
仕返しとばかりに罵声を浴びせるがそれを受けた赤矢は起き上がると井坂を冷笑する。
「ふっ、論破された仕返しか?
存外、子供っぽいんだな。
生憎、俺に復讐を感じる心は残っていない。
だが、彼女は最後までお腹の子の命を守ろうとしたのか。
礼を言うよ井坂 深紅朗....最後に知りたかったことが知れた。」
「どういう....」
意味を尋ねようとした井坂を他所に赤矢の背中から爆発が起こり大量の煙で包まれた。
「限界まで煙の量を増やした。
逃げさせて貰うよ。」
「なっ!逃がすかっ!」
ガン!ガン!
井坂は聞こえた音の場所に向かって勢い良くウェザーマインを振るった。
すると、バリン!と言う音と共に一気に煙が晴れていく。
井坂が攻撃したのは風都第二タワーの外を展望出来る窓ガラスであり赤矢とミックはそこから身を投げ出したのであった。
ウェザーマインによる猛攻で立っていることすら出来なくなった赤矢の目的はミックを生きて逃がすことだけだった。
(メモリの性能や戦闘能力も負けている。
....何か逃げる切っ掛けを作らないと)
そこで赤矢はわざと井坂と無名の理論を比べ井坂をこけ下ろした。
典型的にサイコパスはプライドが高い。
自分の人生を賭けた研究をバカにされれば冷静さを欠くだろうと.....
その過程で赤矢は井坂から最も知りたかった自分の妻の死に様を聞くことが出来た。
聞いた時、溢れた感情は怒りではなく嬉しさだった。
(そうか....鈴花は最後まで子供を守って死んだのか。)
妻は化物を相手に絶望せず最後まで子供を助けようとして死んだ。
その真実が分かると赤矢の中で蓋をしていた感情が溢れだした。
(私ではこの化物には勝てない。
だけど、最後ぐらい吠え面をかかせてやる。)
そうして赤矢は目線で周りを確認する。
見えたのは外の展望用に付けられた大きな窓ガラスだ。
(これは使えそうだな。
最高の結果は井坂が攻撃して窓ガラスが割れそこから脱出すると言う感じだな。
それをするために必要なのは.....)
赤矢は起き上がりながら背中に大きめのTNTを生成する。
(威力は無くて良い。
必要なのは視界を全て奪う程の濃密な煙と井坂に直感的に攻撃させるタイミング。)
一度、深呼吸すると赤矢はTNTを起爆した。
突然の行動に驚く井坂を無視する様に窓ガラスへ向かうと強めに叩いた。
「なっ!逃がすかっ!」
そんな声と共に井坂のウェザーマインがこちらに向かってくる。
角度もバッチリでこのまま行けば確実に窓ガラスが割れるだろう。
誤算だったのはその攻撃が赤矢のメモリ付近を削りながら行われた攻撃だったことだ.....
「うぐぁ!」
赤矢は攻撃を受け仰け反りながらもミックを抱えて割れた窓ガラスから飛び出した。
風都タワーよりも高い第二タワーから落下しながら赤矢はメモリが体外へ排出される。
「くっ!だが、
赤矢はミックを抱えると地面を背にした。
ミックの生き残る可能性を少しでも上げるために....
目を瞑り思い出すのは長年、靄がかかっていた妻の顔だった。
(最悪な選択ばかりしてきたが....最後くらいはマシな方を選べたかな?)
聞こえる筈の無い妻に心で尋ねると身体に衝撃が走った。
しかし、それは地面に激突する感覚ではなく何者かに身体を抱えられる感触だった。
驚いて目を開けるとそこには死んだと思っていた"仮面ライダーアクセル"がいたのだった。
父と母....そして妹の春子がケーキを用意して俺を待っていた。
「お兄ちゃん!昇進おめでとう!」
そう言って喜びながら俺を席に着かせる。
「随分と活躍してるそうじゃないお父さんも嬉しがってたわよ。」
「コラコラ、あんまり煽てて調子に乗らせるものじゃない。」
父と母はそう言って俺が昇進したことを喜んでくれた。
(あぁ....懐かしいな。)
それは自分が本当に失いたくなかった景色だった。
一家団欒の幸せな家庭.....!?
何故、俺は目の前で祝ってくれている家族を過去として捉えているんだ?
目の前にいる筈の家族を....まるで死んだみたいに!?
何だこの心に残る違和感は?
照井は心と頭に残る違和感に疑問を覚える。
「どうしたのお兄ちゃん?」
「具合でも悪いのか竜?」
家族の声が嫌に虚しく聞こえる。
「違う.....違う!
そんな筈はない!俺の家族は死んでは...」
そこまで言いかけた時、照井の肩に誰かの手が触れた。
振り返るがそこには誰もいない。
ただ、感触だけ感じることが出来ていた。
その手を通して言葉が伝わる。
「行ってはダメ....目を覚ますのよ照井 竜」
「目を覚ますだと!?.....どういう意味だ?」
「ここは貴方の深層心理が作り出した空間......
現実じゃないわ。」
「現実じゃないだと!?ふざけるな!俺の家族は生きている!死んでなどいない!」
「いいえ、それは違うわ。
貴方も気付いている筈....でも真実を認めたくないだけ....」
「違う....そんな筈はない!
現にこうして触れれば分かる!」
そう言って照井は妹の肌に触れる。
暖かいその温度が生きていることを感じさせてくれるが一瞬でその感覚が変わりまるで氷に触れたかのように冷たくなり手を引いてしまう。
「そん....な.....」
「思い出し始めているのね。
現実を心が正しく認識しようとしている。」
「俺は....死んだのか?」
「いいえ、貴方はまだ生きている。
でも、精神は死んだと錯覚してしまった。
だから、私がここに来たのよ。」
「何故だ。
俺を生き返らせて今度は何をするつもりだ?
また、俺を復讐の道に駆り立てるのか?
俺の家族が目の前で死んだように今度は誰の命を奪うつもりなんだ!」
シュラウドがフィリップの母親である文音さんだと知って照井は何とか納得しようとしていた。
そうして生きていこうとしていたのに....死にかけて生きている家族の姿を見てしまった照井は蓋をしていた怒りが再燃する。
「お前達の勝手な争いに俺の家族を巻き込んでおいて....ふざけるな!...返せ!俺の家族を返せ!....返してくれよ。」
照井は涙を浮かべながら地面に膝を着く。
すると、目の前に蜃気楼が起きてシュラウドが現れた。
その姿はノイズが入ったようにブレている。
「貴方の家族を奪ってしまったのは井坂でもその井坂を産み出したのは私の罪。
貴方には謝っても償いきれない代償を背負わせてしまった。
そんな私の言葉なんて聞きたくないでしょう。
でも聞いて......
今の貴方は昔のように復讐に囚われた照井 竜ではない。
来人や左 翔太郎と出会いこの街を守る仮面ライダーになった。
貴方の存在はこの街に必要よ....こんな所で死んで良い訳がない。」
「詭弁だな。
要は俺をまだ利用したいだけだろう。」
「じゃあ、貴方はこのまま死んで後悔しないの?
生きていたいと思える存在はいないの?」
そう問われた照井はふと思い出した。
家族以外で自分の心を安らげてくれた記憶を....
それに答える様に空間が変わり風都の夜空が現れた。
近くに見える風都タワーが折れているが周りの人の表情は暗くない。
辺りから聞こえる喧騒も笑い声に溢れており空中には無数の花火が上がっていた。
(これは....俺達が
そう思い照井は横を見た。
着物姿で花火を楽しむ女性を.....それを見て心が安らいでいる自分を知りそして分かった。
(所長....そうか、俺はずっと彼女のことが"好き"だったのか。)
「貴方にも大切にしたい人がいるのね。
なら、その人の為にも死んではダメ。
お願いよ....照....井....竜....」
そこまで言うと文音の身体はノイズに紛れて消えてしまった。
照井の隣には花火を眺める所長の横に両親と妹が立っていた。
三人は照井を見て笑っている。
「お袋、親父、春子......ごめん。
俺はまだそっちには行けそうにない。
俺、まだやらないといけないことを忘れてたんだ。
復讐にばっかり目がいって気付かなかった事をさ。
所長に...."亜樹子"に告白できてない。
だからさ、待っててよ。
どんな死に方するか分からないけど、きっと死ぬ時は幸せだったと笑える人生にするから....それまで...」
そう言うと両親と春子は笑いながら俺の背中を押した。
(行ってきなさい。)
そう言われた気がして俺は涙を浮かべながら走り出した。
そして、一瞬で世界が暗転すると俺は目を覚ました。
身体を起き上がらせ周りを確認する。
そこは井坂と激闘を繰り広げていた風都第二タワーの内部だった。
(戻ってきたのか?)
そうして俺は辺りを確認するが周りには誰もいない。
だが、驚くことに破壊された筈のブーストメモリが直っており照井の目の前に落ちていた。
俺はそれを拾い外を見上げると誰かが落下しているのが見えた。
(あれは....赤矢か?
どうして!?、いや四の五の考えるのは後だ!)
俺は近くにあった俺はエンジンブレードを持ち上げると窓ガラスへ投擲しそこに突っ込んだ。
窓ガラスはエンジンブレードの衝撃に耐えられず砕けて照井は外へ落下する。
そして、照井はアクセルメモリを起動するとドライバーに差し込みスロットルを思いっきり回した。
「変身!!」
高速で変身が完了するとバイク形態へと変形しタワーに車輪を乗せて走る。
そして、落下する赤矢に近付くと彼を左手で抱えた。
右手でスロットルを何度も回し貯めたエネルギーを地面に放出する。
爆発的な加速エネルギーにより落下エネルギーを打ち消すと地面に安全に着地することが出来た。
「おい、無事か!」
照井が赤矢にそう尋ねると赤矢は目を開けて答える。
「良かった....文音さんが何とかしてくれたか。」
「文音?.....やはりシュラウドが俺を助けたのか?」
「あぁ、彼女に君の事を託して俺は井坂からこの猫を助けた所だ。」
そう言って赤矢は抱えている猫を見せた。
「お前も猫も無事そうじゃないな。
待っていろ今すぐ病院に....」
「....何故生きている?」
そう告げて降りてきたのは照井が生きていることに動揺を隠せない井坂だった。
天候の力を使い地面に着地した井坂は尋ねる。
「あの攻撃は致命傷だった筈だ。
それなのに生きて私の前に現れるなんて....どんなトリックを使ったんですか?」
井坂に照井は答える。
「知らなかったのか?俺は不死身だ。
この街からガイアメモリを失くすまで俺は死なん。」
「......まぁ良いでしょう。
死んでないならもう一度殺せば良いだけだ。
こんどはじっくり時間をかけて殺して上げますよ。」
そう不敵に笑う井坂に照井は答える。
「悪いが俺にはやることが残っててな。
お前に構っている時間はない。
だから、さっさと振り切らせて貰う。」
そう言うと照井と井坂の第2ラウンドが始まるのだった。
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第二百八話 灯すB/白炎の先
「うぉぉぉぉぉ!!」
「はぁぁぁぁぁ!!」
井坂と照井の拳がぶつかる。
凄まじい威力とエネルギーの余波により付近が爆発するが当人達はお構い無く殴りあっていた。
両者の強さは拮抗しておりこの殴り合いでお互いにダメージを受ける。
「うぐっ!ははっ素晴らしい!死の淵に立って更に進化しましたか!
これも私への復讐心が成せる技ですか?」
「違う!...俺はもう復讐には囚われてはいない!」
「では何の為、私と戦うのですか?
風都の仮面ライダーの意地ですか?
だとしたら、ガッカリですねぇ。
他者の為、何ぞという下らない動機で私と戦うなど...」
「それも.....違う!」
そう言って照井は井坂に蹴りを放ち距離を作った。
「井坂....俺はお前に、家族を皆殺しにされてから復讐のみを心の支えに生きてきた。
お前を憎みガイアメモリを憎み、犯罪者を憎んだ。
そして、ドライバーを手に入れアクセルになると俺は風都で仮面ライダーと呼ばれる存在になった。
そこで左やフィリップ....そして所長と出会って俺は学んだ。
ガイアメモリを使う人間の事を....そして俺が本当に許せなかった事を....」
「俺は....井坂、お前が許せなかっただけじゃない。
ドーパントに大切な存在を奪われることがもっと許せなかったんだ。」
「では、大切な者を殺させない為に私を殺すのですか?」
「いいや、俺は大切な者にとって誇れる存在でありたい。
この思いを伝えても後悔しない存在でいたい。
その為にお前を倒す.....それが俺の覚悟だ。
それを証明してやる。」
照井はそう言うとブーストメモリを取り出しアクセルメモリを装填するとドライバーに挿し込みスロットルを思いっきり回した。
「BOOST」
そして、ブーストフォームになるとクラッチを連続で握った。
「BOOST,BOOST.BOOST」
「「「MAXIMUMDRIVE」」」
すると、照井の全身からエネルギーが大量に溢れだし、装甲を破壊し始める。
「ぐっ!がぁぁぁぁぁ!!」
「愚かなそんなに連続でマキシマムを発動すればいくら貴方でも耐えられませんよ。」
そう言っていると照井の身体から
「ばっ...バカなっ!その炎はシュラウド貴女ですね?
彼の自殺に付き合って共に死ぬつもりですか!?」
しかし、照井は井坂を見つめ言う。
「俺は....死なん!俺は.....この街を守る刑事で仮面ライダーで...そして....」
「人間だぁ!!」
二人の願いが届いたのかドライバーのブーストメモリの挙動が変わる。
照井が思いっきりスロットルを回す。
「
ドライバーからガイアウィスパーでそう告げられるとブーストフォームの装甲が外れていき中から通常のアクセルが姿を現す。
しかし、身体の色味が変わっており紅蓮の炎の様に赤かった姿から白く光輝く白金の姿へと変わっていた。
全身が白く輝くその姿を見て井坂は驚愕する。
井坂はその色を見たことがあった。
それは獅子神がレオメモリで変身して作り出す"人工太陽の中心核の放つ全てを消し去る白き滅びの光その物だった。
それを見て井坂は悟ってしまった。
これは"勝てない"と......
いくら、毒素を吸収し強化したウェザーメモリの力でもそれはあくまで地球レベルの規模で出せるエネルギーを越えない。
天災がどれだけ残酷な破壊力を持っていてもそれはあくまで地球の中で通じるものだったからだ。
だが、だからと言って井坂は引く訳にはいかない。
自分の人生の全てを賭けた研究成果が劣っているなど考えたくはなかった。
だからこそ、井坂も覚悟を決めた。
「うぐおぉぉぉぉぉ!!」
全身のエネルギーを解放し天災の力を顕現させる。
地球を焼き尽くさんばかりの"赤い炎"、地上を全て水没させ凍らせる絶対零度の"青い水"、あらゆる万物を破壊する"緑の風"、文明に滅びをもたらす"黄色い雷"。
四つの力が混ざり合い反発を繰り返しながら融合していく。
そして、その色は"黒く染まり"純粋な破壊の力へと昇華した。
その力を井坂は自ら取り込む。
身体が限界の悲鳴を上げるがそれを無視して取り込み続けると井坂の身体は完全な黒色へと姿を変えた。
「認めましょう照井 竜。
貴方を殺すには私も死ぬ覚悟をしなければならない。
ですが、勝つのは私だ!
この力を持って貴方にトドメを指して上げましょう。」
「いいや、勝つのは俺だ。
これで終わりにする。」
"破壊の黒で覆われた
両者が一瞬で近付くとお互いの拳同士がぶつかった。
両者のエネルギーの強さからぶつかった衝撃で空間が歪み辺りにプラズマが発生する。
お互いの拳が上空へ弾かれ打ち出されたエネルギーが雲を割る。
それを分かっていた両者は示し合わせたかのように身体を回転させると回し蹴りを相手に向けて放った。
トン!.....そこまで強くない音と共に両者のエネルギーが空へと散る。
井坂の蹴りは照井の頭部へと放たれその一撃はアクセルの頭部にあるアンテナを削り取った。
そして、照井の蹴りは井坂の攻撃を掻い潜り井坂の脇腹へと深々と突き刺さっていた。
「ぐぁ......かっ.....」
そのまま、照井は突き刺さった足で井坂を軽く押し出す。
先程までとは違い簡単に後ろへと下がった井坂は蹴られた脇腹を抑えている。
「絶望が....お前の.....ゴールだ。」
そう告げると勝敗を決するように井坂の体内からメモリが弾き出され爆発を起こした。
「ぐおぉああぁぁぁぁぁぁ!!」
巨大な断末魔と共に井坂は人間の姿に戻るとウェザーメモリと強化アダプターは粉々に砕け散った。
倒れ伏す井坂を見つめながら照井もブーストメモリを抜き変身解除する。
すると、照井のブーストメモリもひび割れ砕け散り残ったのは色が抜けて白くなった"アクセルメモリ"だけだった。
倒れている自分を井坂は冷笑する。
「ははっ....まさか、私が負けるとは.......
これが復讐によって強くなった仮面ライダーの力.....いえ違いますね。
"誰かの為に生きることを覚悟した男の力"ですか。」
「井坂....」
「これでも医者として何人も死の淵に立つ人間を見てきました。
その中で多く生き残ったのは"誰かを想う人の方が多かった".....だから貴方もそうなのだと思っただけです。」
そう言う井坂の身体は末端からゆっくりと黒い粉末となって崩壊していった。
「!?」
「あぁ、毒素を完璧に克服したと言ってもメモリブレイクされれば毒素に犯された細胞がただで済む筈がありません。
こうなることは予想できてましたよ。」
そう言う井坂の顔は少し不満げであった。
それに気付いた照井が尋ねる。
「何が気に食わない井坂?
俺に負けたことか?」
「いいえ、それに関しては自分でも驚く程、後悔無くスッキリとした感情でいます。
.....ただ、何故か死ぬ間際になって"ある女性"の姿が頭から離れないんですよ。」
意外な井坂の回答に照井は驚く。
「お前にもそんな感情があったんだな。」
「えぇ.....自分でも驚いています。
自分の目的の為に捨てた筈の女性を思い出すなんて....
貴方にもこんな感情はありますか照井 竜?」
「あぁ、俺にも守りたい存在がいる。」
「ならば...失わないように精々守ることだ。
私のように失ってから気付いては遅いですからねぇ。」
そこまで話すと井坂の肉体の崩壊が加速する。
「そろそろ時間のようです。
先に地獄で待っていますよ....貴方が死んで来るのをね。」
そう言って笑うと井坂は黒い塵となって消えた。
それを見て安心した照井はそのまま地面に倒れ気を失ってしまうのだった。
井坂と照井の戦闘が終わりを迎えた時、冴子と雪絵の戦いも終局に向かおうとしていた。
スコーピオンとセンチピートメモリの複合技により与えられた毒の影響で冴子は地面に突っ伏して動けないでいた。
「いい加減死になさいよ園咲冴子!」
雪絵の毒を纏った攻撃が冴子を襲うがそれを加頭のユートピアメモリの重力操作で無効化する。
「冴子さんに触れようとするなぁ!」
加頭の発火攻撃が雪絵に向かうがそれを"黄緑色のナスカ"が手に持った盾で防御する。
「"超防御".....雪絵を傷つけようとするのは止めて貰おうか。」
そう言って加頭の攻撃を防御するとその隙に冴子を狙った雪絵のムカデの尾の攻撃も止めた。
「!?」
「雪絵....お前もだ。
俺の目が届く限り、お前に殺しはさせない。」
「なんでよ....何で私の邪魔をするのよお兄ちゃん!」
「人を殺したら元の人生に戻れなくなる....お前にはその道を歩んで欲しくない。」
「そんなのとっくに覚悟は出来てるわ!
園咲 冴子を殺せるなら悪魔に魂を売ったって良い!!」
「ふざけたことを言うなっ!
そんな事は誰も望んでいない!」
そうして二人が口喧嘩をしている隙に加頭は冴子に近寄る。
「冴子さん今の内に逃げましょう!」
加頭にとって大切なのは井坂を仕留めることではなく冴子の身の安全だった。
冴子に触れそうとする加頭の手を彼女は払う。
「冴子さん?」
「もう....い....いわ....」
毒の影響が少なくなり何とか話す事が出来るようになった冴子が言った。
「もう良いとはどういう意味なんですか?」
「どう...せ...いき...て...たって....つら...い...だけ....だか..ら...ここ...で...死ね...ば」
「そんな事を言わないでください!」
加頭は激情のまま大声を出す。
その声に霧彦達の言い合いも止まる。
「組織に見捨てられ
でも、死んではいけない。
貴女は生きるべきなんだ!
何も手に入れず不幸のまま死ぬなんてそんなのはこの私が認めない!」
そう言うと加頭は自分の心臓に手を当てる。
「私のこの心臓は前の井坂との戦闘で失いました。
財団の新技術で復活はしましたが....この心臓は永くは持たないでしょう。」
「!?」
愛する女性にだけは気付かれたくないと思っていた自らの心臓の寿命を加頭は告げた。
「それでも私は生きることを諦めてはいません。
それは財団や自分の為だけではない.....貴女と共に生きていきたいからだ!
貴女の人生が辛いものなら残りの人生を私に下さい。
その人生をこれまで以上の幸福にすると約束します。
だから.....死ぬなんて事は言わないでください。」
普通の加頭が言わない真っ直ぐな言葉を受けて冴子の動きは止まってしまう。
そんな冴子を抱き抱えると霧彦達を見据えた。
「今日はこれまでにしましょう。
そちらの女性の復讐にも色々と言いたいことがあるでしょうし....この借りはまた何れお返しします。」
「!?....待ちなさい!逃げるなんて許さないわっ!」
雪絵がムカデの尾を加頭に向かって振るうと地面が割れ土煙が上がった。
煙が晴れるとそこに二人の姿はなかった。
「能力を使って逃げた....か。」
「......クソッ!」
雪絵が荒々しく言うとメモリを抜いた。
霧彦も同じようにメモリを抜くと雪絵に話し掛ける。
「雪絵.....」
「お兄ちゃん.....私は私で園咲冴子を追うわ。
何処に隠れていても見つけ出して復讐を遂げて見せる。」
「いいや、それは叶わない。
例え、何処にいようと止めて見せる。」
その真っ直ぐな霧彦の目を見た雪絵は笑う。
「変わってないなぁお兄ちゃんは.....
何時も頑固で真っ直ぐで....ミュージアムに入って変わったと思ったけど何も変わってない。
ずっと風都と言う街を愛している。」
「お前のことも愛しているんだがな?」
「なら、復讐ぐらい許してよ。」
「それは無理だ。」
「本当に頑固.....」
そう言うと雪絵は霧彦に背を向けて歩きその場を去った。
見送った霧彦は携帯を取り出すと無名に連絡をかけた。
「どうかしましたか霧彦さん。」
「雪絵が冴子を殺そうとしたのを止めた。
これから雪絵は単独行動で冴子を狙うそうだ。」
「そうですか.....」
「君には感謝している無名。
私の命や雪絵の無謀な復讐を止めてくれた。
だが、君は雪絵にメモリを....."冴子を殺せるメモリ"を渡したな?」
霧彦は元々ミュージアムでメモリのセールスマンをしていた。
その為、顧客に対してメモリの特性や相性を説明する以上、研究者クラスとはいかなくてもある程度の知識を持っていた。
「君が雪絵にスコーピオンメモリを渡した時、私は君が雪絵の安全を考えて渡したのだと思っていた。
だが、その後に渡したセンチピートメモリを見てそれが違うのだと分かった。
両者に共通するのは強固な装甲と"神経に作用する毒"。
いくらタブーがゴールドクラスのメモリでも毒を撃ち込まれたら動くことが出来なくなる。」
「.....やはり分かっていましたか。」
「雪絵は賢い.....渡されたメモリを使ってタブーを無効化できる方法を直ぐに見つけ出しただろう。
私が止めなかったら雪絵は冴子を殺していたかもしれない。」
「でも、貴方は止めた。」
「それは結果論だ。」
「では、雪絵さんの復讐を僕が止めるべきだったと言うのですか?
......雪絵さんの復讐心は重く深い。
両親を無くしたった1人の家族だった貴方を失った。
それも本来ならば守るべき妻の手によって......
怒りや憎しみを抱くなと言う方が無理な話です。
雪絵さんは貴方が目覚めてからもずっと悩んでいました。
自分の心にある怒りと憎しみ....復讐への想いを捨てるのか果たすのか?
そして、彼女は果たす道を選んだ。」
「だから、メモリを渡したと言うのか?」
「僕は一度、交わした契約は必ず守ります。
園咲冴子に勝てるメモリを渡すと約束したんです。
それを破ることは出来ません。」
恐らくこの契約に殉ずる考えもゴエティアの影響を受けているのだろう。
だが、それでも無名は雪絵の求める物を渡した。
「復讐を否定出来るのはその復讐で殺された被害者だけです。
だから、貴方にもメモリとドライバーを渡した。」
「.....ならこの後に私の言う言葉も予測できているのだろう無名?」
「えぇ、ここでお別れです霧彦さん。
風都を陰ながら守ると言いう貴方の道に僕はいません。」
「.........」
霧彦はゆっくりと電話を切るとナスカメモリとドライバーを見つめた。
雪絵に復讐の道具を与えたように自分にはそれを止める力を無名は与えた。
真逆の事をしている筈なのに霧彦はその理由を何となくだが察することが出来た。
(私達の事を最後まで否定しないとは.....お人好しな男だ。)
霧彦も分かっていた雪絵が止まらないことを....
例え無名がメモリを渡さなくても自分でメモリを手に入れて冴子に挑んでいただろう。
無名は雪絵の生存率を上げただけだ。
だが、それでも兄としての矜持が無名の行動を否定したがっている。
(儘ならないな....私自身も....
だが、もう戻ることは出来ない。
私は私の道を歩むだけだ.....)
霧彦は覚悟を決めると1人暗闇の道を歩んでいくのだった。
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第二百九話 消えていくF/行動の責任
井坂 深紅郎によるミュージアムへの攻撃.....
それによってミュージアム側も仮面ライダー側も少なくない被害を受ける結果となった。
戦闘から三日経つ頃には情勢も変わっていた。
政府によって認められた対ガイアメモリ部隊は警察庁が見つけたアメリカ政府と軍事企業の癒着疑惑により調査が済むまで一時、凍結となり風都は氷川署長の行動により元の体系に戻りメモリ犯罪者を順調に摘発していった。
そして、元凶となった雨ヶ崎 天十郎や園咲家の調査が行われるが二つとも難航していた。
「やはり、ダメでしたか。」
照井は病院のベッドの上で氷川署長から話を聞いていた。
「えぇ、警察に
雨ヶ崎に関しては自宅に帰っていないらしく恐らくは園咲邸に匿われていると思います。」
「そうですか....."赤矢"に関してはどうですか?」
「自首してから今に至るまで色々な情報を話してはくれますが仲間のことに関すると黙秘を続けています。」
赤矢は照井と井坂の死闘を見届けた後、"猫を抱えたまま"警察に自首してきた。
「彼の身の安全に関しては風都署員にも誰にも話していない。
独居房に隔離していますので問題は無いと思います。」
「赤矢はミュージアムの幹部の部下ですよ?
用心するに越したことはありません。」
「そこは安心して構いませんよ。
彼のいる独居房のセキュリティには"榎田さん"や"小沢さん"......えーっと、本庁でもとびきり優秀な人達が担当しています。
彼女達が作ったシステムならばいくらドーパントでも簡単には破れないと思います。」
「氷川署長がそこまで信じるのなら俺も信じます。」
「ありがとうございます。
照井警視の体調はどうなんですか?」
「掛かり付けの
明日にでも退院出来るそうです。」
ブーストメモリを使って白いアクセルに変身して以降、アクセルメモリとの適合率がまた上がったのか肉体の回復能力が更に強化されていた。
(尚、身体を調べ終わった花屋は照井を見て"アンタ本当に人間か?
こんなバカげた回復してたらどう頑張っても目立っちまうぞ。"と言いどうカルテを誤魔化すかで悪戦苦闘した。)
「しかし、メモリの方は何の反応も示しませんでした。」
何度か変身を試みたがメモリをドライバーに装填しても全く反応しなかった。
フィリップや無名曰く、限界以上の性能を引き出したせいでメモリが一時的な機能不全を起こしているらしい。
そして、その影響はトライアルメモリにも現れていた。
無事だったトライアルメモリを使い変身を試みたがメモリが起動してもアクセルになれなかった。
その理由はアクセルメモリの適合率が上がった結果、肉体の進化にメモリがついていけなくなっていたらしく、トライアルもまた改修の必要があると言っていた。
その為、現在アクセルドライバー一式は修理改修の為、無名のラボに預けられている。
「井坂を倒した代償は大きかったということですね。
照井さん.....実は本庁から打診がありまして貴方には暫く風都を離れて貰うかもしれません。」
「!?...どういうことですか?」
「今回の件を警視総監が重く見て対ガイアメモリ部隊の法案を可決させた流れを徹底的に洗い出す為に新たな捜査チームが作られました。
そのメンバーに貴方が選ばれたんです。」
「しかし、それでは風都は!」
「その代わりに特例として風都署に本庁に保管されていた"Gユニット"が送られるそうです。」
「Gユニットとは確か.....」
「えぇ、警察が対未確認との戦闘を考慮して作られた強化ユニットです。
遠隔操作出来る装甲車タイプの"G2"。
一般の警察官でも使用する事が出来て克つ当初よりも性能が格段に上がった"G3マイルド"が送られます。
それを使って僕が責任を持って風都を守ります。」
氷川 誠はこのG3ユニットを使って何度も戦ってきていた。
だからこそ、自身を持って照井に告げたのだ。
"貴方の代わりに仮面ライダーとして風都を守れる"と....
照井も仮面ライダーとしてその思いを直感的に感じ取ったのか理解を示す。
「分かりました....しかし、本庁での事件が解決したら直ぐに俺を風都に戻してください。」
「勿論です。
貴方の帰りを待っていますから....」
そう言われると氷川は電話を切った。
照井も電話を耳から外すと横に座っていた"亜樹子"に目を向ける。
「所長....すまないが俺はここでリタイアだ。
左とフィリップ....それに風都を頼んだ。」
「......うん!任せて、どんな敵が来てもWがボッコボコにするから」
亜樹子は不安や悲しみを悟られないように照井に笑顔で言った。
それを照井は感じ取っていたのか優しく亜樹子を抱き締める。
「ふぇ、竜....君?」
「約束する。
あっちでの事件を片付けたらまたここに戻ってくる。
その時、君に伝えたいことがあるんだ。
それまで俺を待っていてくれるか?」
「.....うん、待ってる。
だから、元気で戻ってきてね竜君。
私、待ってるから....」
そう言って暫くの間、照井と亜樹子は二人だけの時間を過ごすのであった。
フィリップと翔太郎は現在、無名のラボにいた。
二人は地球の本棚に入りその光景を克己と翔太郎は見つめている。
そして、暫くすると二人が目を開けて息を吐いた。
「ふーっ.....やはり、天十郎の言い分は正しいようだ。
僕達がガイアインパクトを止めたら地球が崩壊して滅んでしまう。」
「マジかよ。
なぁ、何とかなんねぇのか!
ガイアインパクトを起こさないで地球の崩壊を止める方法は」
「無理ですね。
風都第二タワーが建つ前なら出来たかもしれませんが、地球の中心に装置が到達している以上、どう頑張っても不可能です。」
無名の言葉にフィリップが補足する。
「"母さん"にも聞いてみたけど....ダメだった。
ガイアインパクトを止めたら地球が滅ぶ結論は僕らと同じみたいだ。」
文音は照井の身体を治療する際、自らの身体を犠牲にしたが保険をかけていた。
ネメシスメモリに自分の精神を預けておりメモリが崩壊する瞬間、地球の本棚へとアクセスしていたのだ。
そのお陰もあり文音の精神は今、地球の本棚の中にいる。
しかし、フィリップと違い意識を転送しているのではなくネメシスメモリの記憶に残留しているだけなので本の検索やシンクロ率を上げて内部に侵入する手段も持たない存在となったが、それでも息子を見守っていけると微笑んでいた。
フィリップにも思うことがあったがそれでもこうやって地球の本棚で会えることを喜んでいた。
そして、無名を入れた三人で地球の本棚でガイアインパクトをどうするか調べ会議をしていたのだ。
「なら、俺達はアイツらが計画を進めているのを指咥えて見てるしかねぇってのか...」
翔太郎は怒りから拳を握るが克己がその肩に手を置く。
「落ち着け翔太郎。
この二人が何の策も思い付かずに戻ってくるなんて思えない。
フィリップ、無名...ガイアインパクトが止められないなら俺達は最終的にどうすれば良いんだ?」
その問いに無名が答える。
「彼等の計画は僕がゴエティアとフィリップが若菜さんと融合することで地球の記憶の内と外を同時に繋ぐことで道を安定させて高純度の地球のエネルギーで地表を満たし生物を進化させるという方法です。
つまり、"繋げるということは閉じる"ことも出来る。
融合が完了した瞬間、僕達二人が主導権を取って道を閉じれば結果的にガイアインパクトを止められます。」
「ちょっと待て無名....お前今、融合と言ったな?
融合したお前達はどうなる?
ガイアインパクトを止めた後、分離することは出来るのか?」
「「..........」」
克己の問いに二人とも黙ってしまう。
告げなくてはいけない結論、だがそれを心が否定している。
告げたくない別れたくない....そんな思いが心を駆け抜けるが無名はそれを押し込めて言った。
「融合した僕達を分離する術はありません。
ガイアインパクトを止めた後、恐らく僕達はデータへと変換されてこの地球から消えるでしょう。」
「そん....な...」
驚くべき真実に翔太郎は呆然としてしまう。
「これは仕方がないことなんだ翔太郎。
崩壊しかけた地球を安定させるには僕達がデータ化して傷を塞がないと....」
「ふざけんなっ!そう言われてはいそうですかなんて納得できる訳ねぇだろう!
フィリップと無名を犠牲にして解決するなんて俺は認めねぇぞ!」
そう怒る翔太郎にフィリップは感情のまま捲し立てる。
「じゃあ、どうすれば良いんだ!
もうガイアインパクトの準備は終わってる!
若菜姉さんがその気になれば何時でも始められる状況なんだぞ!」
「俺達でWになって若菜姫を止めれば良いだろうが!
最初っから犠牲になる前提で進めてんじゃねぇよ!」
「君も見ただろう!
若菜姉さんはゴエティアと同じ超越者の力を持っている。
大道 克己のエターナルが手も足も出せずに敗北したんだ!
翔太郎....君ですらゴエティアに逆らえなかった。
超越者とは....本来、人類が勝てない域の存在なんだ。」
「そんな....訳.....」
「僕も無名から超越者の真実を聞かされた時は驚いた。
そして納得してしまった。
人類を作り出した神を生み出した存在だぞ?
それと同等の能力を得た存在にエクストリームは通用しない。
地球の本棚には彼等を打倒する方法など載っていない。
何故なら、地球の本棚その物を作り出した存在だからだ!
そんな奴にどう戦いを挑むんだ?」
感情的に言いたいを続ける二人を落ち着けるように克己が無名に尋ねる。
「無名、お前は俺達とミュージアムの戦力差がどれだけあると思ってる?」
「そうですね。
ではお互いに残った戦力を分析してみましょう。」
「先ずは僕達です。
芦原さんは抜けてしまいましたが克己さんや他メンバーは残っていますしNEVERドライバーの修理は進んでいます。
メモリの開発も終わっているので直ぐに運用できます。
勿論、克己さんのロストドライバーとエターナルメモリも復旧できました。」
「その代わりに照井さんと須藤兄妹は戦線離脱しました。
照井さんはアクセルメモリが回復せず復旧する時間が足りない事....そして、二人はそれぞれ別の道に進み僕と袂を別ちました。
霧彦さんなら連絡すれば手を貸してくれると思いますが雪絵さんは現状不可能だと思います。
そして、赤矢さんは井坂の一件で警察に捕まり房に入れられています。」
そう言うと翔太郎が無名に尋ねる。
「言っちゃ悪いがそこのセキュリティは大丈夫なのか万が一、ミュージアムが裏切り者の粛清に動いたら命が危なくならねぇのか?」
「それは殆んど問題ないと思っています。」
「そりゃ、どうしてだ?」
「ミュージアムと言う組織は表向きでは精力的に活動してるように見えますが実態は"崩壊寸前"だからです。
ミュージアムの幹部だった者は殆んど残っていませんしその後継を作ることは無いでしょう。」
「確かに組織の幹部で残っているのは雨ヶ崎と若菜姉さんと冴子姉さん位だろう。
ミックも井坂との戦いでドライバーを破壊され赤矢と共に投獄されたと照井から聞いている。」
「冴子さんに関してはミュージアムから完全に離れていると思います。
財団の加頭が彼女の身柄を預かっていますから.....」
「それじゃあ、残っているのは雨ヶ崎と若菜姫.....そして総帥の琉兵衛だけか?」
「はい、後は木っ端の構成員レベルです。
でも、それだけでも十分にガイアインパクトを起こせる力があります。」
そこまで説明すると克己は無名に言う。
「現状は理解した。
それで出した結論がお前達、二人が犠牲になって止めることなんだな?」
「えぇ、それが最も"成功する確率の高い方法"です。」
その言葉を聞いた克己は笑う。
「成る程、つまり"確率の低い方法ならある"と言うことだな?」
「「「!?」」」
克己の言葉に他二人はハッとして無名を見つける。
「お前はこういう時、下らん嘘は吐かない。
言わないのは成功しないと思っているからだ。」
「そこまで分かっているのなら聞かないで下さい。」
「断る。
言わないのならば協力はしない。
それに他の者も聞きたい筈だ。」
すると、フィリップが無名に尋ねる。
「無名、本当なのか?
本当に他に策があるのか?」
「策と言える程、確証がある訳じゃないです。
針の穴を通すような奇跡が連続で起きて始めて成功するレベルなんですよ。
それにこれは沢山の犠牲を伴うかもしれない。」
「そんなもん、それこそやってみなくちゃわかんねぇだろ?
それに"対策なんて動いてからでも立てられる"。
頼む無名。
俺は相棒を失いたくなんてねぇんだ。
教えてくれ....お前の作戦について」
真っ直ぐな目で告げられた言葉に無名は悩む。
これは作戦と言うには余りにも杜撰だ。
無謀な行動と言った方が良い。
だからこそ、言わなかった。
原作から解離したこの世界をこれ以上、壊したくなかったのもそうだが無名自身、失うのを恐れていたのだ。
無名はこれまで沢山の人間を救ってきた。
原作で死ぬ筈だった者を生かしたいと言う不純な動機かもしれないがそれでも救える者は救いたかった。
その流れで原作では登場すらしなかった者も救った。
しかしリーゼを失いかけ黒岩が殺された時から無名に恐怖の感情が浮かんだ。
(もう、誰も失いたくない。)
そう思い行動してきたが上手くいかずドンドンと自分の手から命が溢れ落ちていった。
そして、自分の元から去る人も増えた。
失うことを恐れた結果、無名は人の命を失う可能性のある策を意識的に排除してしまったのだ。
「お前は沢山の犠牲を伴うかもと言ったがそれは俺達を嘗めすぎだ。
確かに俺達は色んな者を失った。
でもだからと言ってまた同じ結果になるとは限らない。
俺も翔太郎もそうはさせない。
それともお前は俺達の事を信用できないか?」
「それは.....ずるい言い方ですね克己さん。
分かりました。
僕の作戦を話しましょう。
でも話した所で僕の結論は変わりませんよ?」
「あぁ、それでも構わん。
頼む。」
無名はホワイトボードにとある写真を貼り始めた。
それを見て翔太郎とフィリップは首をかしげる。
「ここは?....見たことの無い島だな。」
「あぁ、フィリップが閉じ込められていた孤島でも無さそうだ。」
しかし、克己はその場所に見覚えがあり不敵に笑う。
「成る程、相変わらず狂った考えだな無名。」
「そう言うと思ってました。
だから、言いたくなかったんですよ。」
「さっきからここは何なんだ?」
そう尋ねるフィリップに無名は答えた。
「ここは、僕と克己さん達の出発点である孤島でありガイアメモリの研究施設でもあります。」
「こんなところにまでガイアメモリの研究施設があるのかよ。」
「えぇ、そしてここにはミュージアムのガイアメモリ生産に置いて核となる"装置"があります。
それを使えればゴエティアの描いたガイアインパクトの筋書きを崩せるかもしれません。」
そう言うと無名は作戦の概要を話し始めるのだった。
Another side
病室で抱き合っている照井と亜樹子を扉の裏で隠れながら花屋は見ていた。
(入るタイミング逃したなぁ。)
照井がまた倒れた事を聞いた花屋は照井のいる風都の病院に向かった。
少し遠出していた花屋が風都に到着したのは次の日の朝だった。
しかしその頃には照井は目を覚まし一般病棟に移されていた。
病院に運ばれた時のCTを確認したがどう考えてもあの短い時間で回復できるレベルの怪我では無かった。
「毎度毎度、アンタには驚かされてばっかだな。」
「すまん......それと悪いんだが」
「分かってるよ。
アンタのその異常な回復力に説明がつくような診断書を書いておくよ。
その為に俺が呼ばれたんだろ?」
「苦労をかける、」
「そう思ってるならその回復力の秘密を教えて欲しいがな。」
そう冗談めいて花屋が言うと照井は本気で悩んだ顔をする。
「いや、冗談だからそんな気にするなよ。」
「いや、君には何度も迷惑をかけている。
騙し続けるのは悪いからな。
それにこれからも頼ることになる。」
そう言うと照井はベッドから隠していたドライバーとメモリを見せた。
「それは?」
「風都で話題になっているガイアメモリと....それを使うドライバーだ。」
そこまで聞くだけで照井の言いたいことを花屋は察する。
「ってことは....やっぱりアンタは」
「あぁ、俺は警察官でありこの風都を守る仮面ライダーアクセルだ。」
そうして花屋は照井の過去と仮面ライダーとしての真実を聞いた。
薄々は予感していたが照井が風都を守る仮面ライダーの一人だと知り呆れたように壁に背をかけた。
「アンタが噂の仮面ライダーならあの異常な回復力に関してもある程度、納得がいくな。
それなら尚更、バレにくい診断書を作ってやるよ。」
「すまない。
苦労をかけるな。」
そうして診断書を書き終わった花屋は照井の病室に向かったのだがそこで丁度、亜樹子と照井が抱き合っている現場を目撃してしまったのだ。
花屋はバレないように直ぐに病室の扉の横の壁に隠れた。
(それにしてもあんな顔出来るんだな照井さんは.....)
花屋は偶然見てしまった照井の顔を思い出す。
今までみたいな無愛想な表情ではない優しい笑顔。
(こりゃ、良いものが見れたと思うべきだな。
照井さん、そんな顔が出来る様になって俺も嬉しいよ。)
花屋が始めて照井とあった時、その顔は常に仏頂面で憎しみを糧にしてる顔をしていた。
それから風都に移ってからは表情が少しは明るくなったがそれでもあんな優しい顔は見れなかった。
俺が亜樹子さんに会ったのは照井さんが入院しているのを知って向かった病室でだ。
不安そうな顔で両手を強く握って俺を見るなり彼を助けてくれと頭を下げて懇願してきた。
それを見て照井さんをここまで心配してくれている人がいることに驚いた。
でも、それで良い。
あの人は犯罪を憎む刑事だがその人生全てを捧げる必要なんて無い。
医者としてまた照井の仲間としてそんな存在が出来たことは嬉しかった。
(良かったな照井さん。
アンタの幸せを願っているよ。)
そうしていると花屋は何を思い付いたのか携帯を取り出した。
(あんな表情早々、見れないからな。
写真でも撮って後でからかってみるか。)
花屋はそっと、携帯を構えてカメラを起動するとそこに写る光景を見つめる。
そこには優しく亜樹子を抱き締めながら俺を射抜く様な鋭い目線を向ける照井の顔だった。
(.......あっ、これ死んだな。)
花屋はそーっと壁に隠れると撮った写真を消して自分の身の安全を計るのであった。
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第二百十話 消えていくF/遅すぎた後悔
彼女が私の前から去った時の顔が......
怒りや憎しみではなく寂しさを纏った表情。
まるでもう会えないと言われたかのようなその顔を見て私は彼女の手を掴みたかった。
だが、私の手を彼女は掴むこと無く蜃気楼のように消えてしまった。
私はテラーメモリを見つめる。
これが私を変えた。
私に力と権力を与え、変わりに私の感情を喰らった。
だが、いくら私の感情をメモリが喰らっても家族への愛は残っていた。
だが、それが逆に私の恐怖を加速させた。
家族を失いたくない。
ずっと家族のままでいたい。
私たち家族が地球に認められる存在でありたい。
そして、何時しかその感情は私にとっての愛情へと置き換わっていった。
この時期から文音は私を恐れ来人と共に逃亡を図った。
それを止めたら文音は私を憎み始めた。
だが、それでも良かった。
どんな感情であれ文音は私を想っている。
そう思えたから.......
だけど、あの日だけは違った。
私に対して文音が見つめた目は今までと違い優しく私を哀れんでいた。
そしてそのまま彼女は姿を消した。
テラーの力を使っても彼女の気配を見つけることが出来なかった。
何処に行ってしまったのだ?
彼女に会いたい....その思いだけが日に日に強くなっていった。
「根回しに使ったZAIAに警察の手が入りました。
対ガイアメモリ部隊の法案を棄却されるのも時間の問題でしょう。」
天十郎が通信で園咲邸にある画面からそう言った。
画面には他にも若菜が映っておりそれを聞いても笑う。
「問題ないわ。
ガイアインパクトが完了すればそんな事を誰も気にしなくなる。
何故なら全人類が超越者へと進化するのだから....」
「えぇ、ですが神聖な儀式を邪魔されては困ります。」
「では、貴方から兵を出しなさい。
それで解決でしょう?」
「私と灯夜はサブタワーの守護と言う任務があります。
三本のサブタワーを守るには私のメモリと灯夜のチェスメモリが必要不可欠です。
そちらの方で兵は揃えられませんか若菜様?」
「.....チッ!分かったわ。
兵はこちらで揃える。
その代わりちゃんとサブタワーは守り抜きなさい。
失敗したらどうなるかはお分かりでしょう?」
「えぇ、勿論。
肝に銘じておきますとも....では早速、その任をこなすとします。では若菜様、琉兵衛様、失礼させていただきます。」
天十郎が通信を切ると若菜は分かりやすく舌打ちをした。
「チッ!...全く使えない男だこと
まぁ良いわ。
ガイアインパクトが完了すれば"始末する存在"ですもの....今はほおっておきましょう。
お父様?
先ほどから黙ってどうされたのですか?」
若菜に尋ねられた琉兵衛は反応を見せる。
「あぁ、少し考え事をしていてね。」
「何かガイアインパクトに不安な材料があるのかしら?
もしそうなら、私が解決致しますが.....」
「いいや、ガイアインパクトに関しては全く心配していない。
優秀な後継者である若菜、君が先導しているからね。」
「あら、嬉しい。
その信頼に答える為にも必ず成功させて見せますわ。」
若菜もそう言い終えると通信を切った。
現在、雨ヶ崎一家はサブタワー、若菜は第二タワーの内部でガイアインパクトが始まるのを待っている。
直ぐに開始しないのは条件が揃うのを待っているからだ。
ガイアインパクトを行うには無名とフィリップの両名が第二タワーにいる状態で装置を起動し地球に大穴を開けないといけない。
万が一、どちらかが逃亡しても若菜の力で連れ戻せるが融合が完了するまでは余り力を使いたくない。
それに無名の存在もある。
これまでミュージアムに貢献しそして最近はミュージアムの妨害を行うこの男。
ゴエティアは彼をあくまで器としてでしか評価しなかったが、琉兵衛は違った。
(ミュージアムのガイアメモリ研究を飛躍的に進歩させ文音が残したメモリやドライバーの開発を見事、終わらせた。
地球の本棚を使わないでこれだけの功績を上げた者を誰が無能だと言えようか。)
優秀などと言う陳腐な言葉で表すには惜しい程の天才、それが無名だった。
だからこそ、琉兵衛は余計に考えてしまう。
(無名ならどんなガイアインパクトを考えたのだろうか?)
私はガイアインパクトの為に悪に手を染め全て利用してきた。
そうでなければ叶えられない野望だったからだ。
だが、無名なら?
自分よりも優秀なあの男なら一体どんなガイアインパクトを起こせたのだろうか?
琉兵衛は誰もいなくなった園咲邸を眺める。
これから起こる事に使用人を巻き込ませないためにミュージアムの関係者以外は全員解雇した。
誰もいない部屋を眺める。
(冴子は加頭君が連れて行った。
ミックは井坂との戦いで生死不明。
そして、文音は......)
琉兵衛は立ち上がると家族で食事を取っていた場所へと足を運んだ。
「ここで、良く色んな物を食べたなぁ。」
冴子は我が儘な若菜にイライラして文音はそんな二人を見て微笑んでいる。
そこに来人が二人の仲を取り持とうとミックを抱えてしどろもどろする様は何時でも思い出せる。
それを見ながら充実した気持ちでご飯を食べる。
普通の家族の当たり前な食卓。
だが、目を開けるとその夢は砕け散る。
光の点らない部屋には琉兵衛一人しかいない。
琉兵衛の心が何か欠けた様に感じる。
今まであった筈なのに....心の隙間が埋まらない。
何故だ?
もうすぐ、長年の計画が実る筈なのにどうしてこんな気持ちになるのだ?
「違う!」
誰もいない食卓の机を思いっきり叩く。
「これは家族のためだ!
私はその為にこれまで生きてきた。
この行為は愛だ間違いでは....」
(本当にそう言えるのか?)
そんな声が聞こえその方向に目を向けるとそこには泥だらけの格好で私を見つめている"過去の自分"がいた。
過去の自分は私に見せつけるように
(こんな物を家族として思わないといけない程、自分を見失ったいた君が愛を語れるのかね?)
「黙れ。」
(家族を愛した結果がこれか?
文音を失い冴子も消えてミックもいなくなり来人に至っては敵となっている。)
「黙れと言っている。
お前は私の心が作り出した幻覚だ。
私一人.....ここにいる私こそが本物でその考えこそが真実だ。」
(その本物である君は来人を道具として扱い愛と言う言葉に隠して犯罪を犯してきたわけか。
随分と立派な愛だね私よ。)
「黙れぇぇ!」
「Terror」
琉兵衛は怒りのままテラーメモリを使いドーパントになると自分の幻影がいた場所をテラーフィールドで包み込む。
黒き恐怖のエネルギーが幻影を包むが幻影は笑っている。
(あっはっは、無駄だよ。
現実に私は存在しない。
君も分かっているだろう?
私はテラーメモリが見せる恐怖を象った幻影に過ぎない。
そして、それを見せているのは他でも無い"私自身"だ。)
「私が恐怖を覚えているとでも言うのか?」
(だからこそ、私が現れたのだ。
あの時と"同じ"だ。
私がテラーメモリを手に入れた時と......)
「!?」
琉兵衛は自分の幻影にそう言われ始めてテラーメモリを手にした時を思い出す。
私は恐怖を知り、恐怖その物を喰らい従えた筈だった。
だが、不完全だったみたいだ。
「ならもう一度、屈服させるだけだ。」
幻影はそれを聞いて笑う。
(あっはっは、やはり何も分かっていない。
やはりお前はメモリを手に入れた時と何も変わっていない。)
「どういう意味だ?」
(答えが知りたいなら会いに行け。
"誰に会えば良いか"は分かるだろう?)
そう告げると幻影はテラーフィールドのエネルギーに溶けて消えた。
残ったのはテラーフィールドにより粉々になった食卓だけだった。
計画の説明を終えメンバーはそれぞれの行動を開始した。
NEVERの面々や克己、マリア達は作戦の打ち合わせを別室で始め、翔太郎は荷物を取りに一度、風都の事務所へと戻り残ったフィリップと無名は作戦に必要な道具を作っていた。
「「..........」」
お互い黙ったまま作業を続けている。
口火を切ったのはフィリップだった。
「なぁ、無名。
聞きたいことがある。」
「何ですか?」
「君の知る"元の歴史"では僕達はどうなってたんだ?」
ゴエティアと接触したことでフィリップは歴史をリセットし繰り返している事実を知った。
余計な混乱を招くからと翔太郎達がいる場所ではリセットの詳しい話をしていなかった。
少しの沈黙の後、無名は話し始める。
「先ず、原作では僕や獅子神、サラのような幹部はいません。
同一人物はいたのかもしれませんが、少なくともゴールドメモリを使うことは無かった筈です。
そして、克己やマリアさんやNEVERの人達は風都タワーが占拠されたあの事件で全員亡くなります。」
「そう....なのか。」
「えぇ、まだ改良前の酵素を使い続けたせいで記憶を無くし本当のテロリストになっています。」
薄々予感はしていたが無名から真実を聞かされフィリップは愕然とする。
今目の前にいた克己は自分の事をまるで弟のように慕い
仮面ライダーとして戦っている。
それがそんな末路を辿っていた事に驚きを隠せないでいた。
「そして、霧彦さんも死んでいてその復讐の為に雪絵さんは単身で冴子さんに復讐しようとして利用され仮面ライダーに倒されます。」
「.....それをしたのは冴子姉さんなのか?」
「.....えぇ、そしてその時に使っていたメモリの後遺症で雪絵さんは兄弟の記憶を無くすんです。」
「......他には?」
「もう止めませんか?
過去の結末を知ったところで今回もそうなるとは限らない。
もうゴエティアと僕のせいで未来は僕の知るものでは無くなっています。」
「そうだとしても僕は知りたいんだ。」
その焦った様な言い草に無名は疑問を持った。
「何故、そこまでして知りたいんですか?」
「それは.....僕が何も知らない...."知らされてない"からだ。」
そう言ってフィリップは作業を止めると無名の目を見つめた。
その目は罪人が罰を受ける前の様に憔悴している。
「....フィリップ、貴方は何を知ったんですか?
何を知って真実を知りたがっているのですか?」
「.....若菜姉さんが大道 克己のベルトとドライバーを破壊した。」
「えぇ、それは真実です。」
「それだけじゃないんだろう?
超越者の力を使う姉さんと対峙して分かった。
あの強さは一介のメモリユーザーの域を遥かに越えている。
何のリスクもなく助かったとは思えないんだ。」
「仮にそうだとしてそれを聞いてどうするんです?」
「....さっき裏で聞いたんだ。
盗み聞きするつもりはなかったんだが....大道 克己の許嫁であるミーナさんが"妊娠"してるらしい。」
「!?」
ミーナの妊娠は無名にとっても初耳だった。
「ここでそれを話せば作戦に支障が出るからと克己がマリアに口止めしていた。」
「成る程、だからこそ知りたい訳ですね?
貴女の家族である若菜さんが克己さんに何をしたのかを.....」
「もう、取り返しが付かないのは分かっている。
でもだからと言って黙って見過ごす訳にはいかない。
そうしたくないんだ。」
そこで無名は理解した。
フィリップは覚悟を決めたいんだ。
自分の罪を聞くことで......
それが分かった無名も手を止めるとコーヒーポットに手を伸ばす。
「では、休憩がてら話しましょう。
ですが、覚悟してください。
貴方の想像を越える罪がある筈ですから.....」
そして、無名はフィリップに克己が若菜からの攻撃でもう永く生きられないこと、そして、本人が仮面ライダーとして死にたい事実を告げた。
それをフィリップは黙って聞いている。
感情的にならず、冷静に聞き入れようとしているが握り混んだ指の爪が皮膚に食い込み血を流していた。
全て話し終わるとフィリップは深呼吸をする。
「ありがとう無名。
そうか.....姉さんはそんな罪を重ねていたのか。」
「一応、言っておきますがこの事を克己さんが貴方に伝えていないのは心配をかけたくないからです。
この罪を背負わせたくないと彼は思っているんです。」
「でも、背負わないと....無名の立てた作戦をやれば間違いなく大道克己は死ぬことになる。
産まれてくる子供に会うことすら出来ずに.....」
「それはメモリを使わなくても変わらないでしょう。
どの道、死んでしまう。
酷いようですがそれを分かった上で克己さんは戦う選択をしたんです。
最後の最後まで仮面ライダーとしているために.....」
「大道 克己が変身しないで作戦を成功させることは?」
「無理なことは貴方も分かっているでしょう?
彼が変身することが作戦において必要なんです。」
「なら、計画を修正して.....」
「そんな時間は無いでしょうし、克己さんが納得しないでしょう。
"態々、準備した作戦をやる前に捨てるのか!"と言って怒るでしょうね。」
「.....この事、NEVERの人達は?」
「"全員知ってます。"
それに、クオークスの人やミーナさんも.......」
「彼等は彼等なりに折り合いを付けてこの作戦に同意したんです。
だから僕もこの作戦に命を懸けます。」
「無名....」
「それに犠牲がどうとか言ったら僕はミュージアムの幹部として何人も犠牲にさせてきました。
黒岩さんもその一人です。」
「だから、決めたんです。
もう、"僕も逃げるのを止める".....犠牲を産み出し続けたゴエティアと決着をつける。
それが、"僕の罪の数え方"です。」
「罪の数え方....」
「"鳴海 荘吉"も.....そうしてきた。
僕も仮面ライダーを名乗る身ですから.....さぁ、休憩は終わりです。
作業を再開しましょう。
悩むのはその後です。」
「.....あぁ、そうだね。」
フィリップと無名は作業に戻る。
どんな結末を迎えても自分の罪の決着をつける。
その覚悟を抱えながら......
「えーっと、確かここに....!
あったあった。
ったくフィリップももっと分かりやすい所に置いとけよな。」
翔太郎はフィリップのラボから1つのアタッシュケースを取り出すと中を開けて入っている物を懐へ閉まった。
コイツが"必要"になる。
そんな直感からフィリップに場所を聞き出した物を手に取る。
本当ならこれは使わない方が良いんだろう。
嫉妬深い相棒が嫌いそうな物だ。
でも、俺ももう後悔したくない。
準備が足りなくて誰かを失うのはもう懲り懲りだ。
そうしてラボを出て事務所に戻ると壁にかけられた帽子に目が向いた。
"つばが欠けた白い帽子"....おやっさんがここぞって仕事の時に持っていく大事な帽子であり死んだおやっさんが託してくれた形見でもある。
(おやっさん、俺.....アンタみたいなハードボイルドにはなれてねぇわ。)
そんなことを考えていると事務所の扉が開く音が聞こえる。
「悪いが暫く探偵は休業してるんだ依頼ならまた今度してくれねぇか?」
顔を見ずに翔太郎がそう告げると入ってきた男が話す。
「そうか....だがこれは依頼ではない。
私の目的は君だよ左 翔太郎。」
その聞き馴染みのある声に驚いた翔太郎は顔を向ける。
そこには敵の頭目でありフィリップの父親である"園咲 琉兵衛"が立っていた。
「アンタは!?」
「ふむ来るのは始めてだが中々、良い場所だね。
師匠のセンスが良かったのかね?」
こちらの驚きを意に介さぬ様に告げる。
「何の用だ?」
警戒しながら翔太郎が告げる。
「おや、聞こえなかったかね?
私の用は君だよ。
何....ちょっとしたお茶のお誘いだ。
来てくれるかね?」
その問いに翔太郎は壁に掛けてあったおやっさんの白い帽子を取ると頭に被る。
「あぁ、良いぜ。
俺もアンタに会いたいと思っていたんだ。」
そう言うと二人は事務所を後にするのだった。
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第二百十一話 Jとの語らい/信念の違い
琉兵衛が翔太郎を連れてきたのは風麺の屋台だった。
驚く翔太郎の表情を見て琉兵衛が言う。
「意外かね?
私がここを選んだことに」
「そりゃアンタは俺達、庶民からすれば天の上にいるような貴族様だからな。
この街の屋台について知っているなんて驚くだろ?」
「あっはっは、私とて人間だよ。
仕事柄、堅い店で飯を食べるが男は幾つになっても本当に旨いと思うものは変わらんよ。」
そう言って屋台に入るとマスターが琉兵衛の顔を見て言う。
「おっ?園咲の旦那じゃないですか。
久しぶりですね?」
「あぁ、時間が空くとどうも食べなくなってしまって仕方がなくてね。
まだ昼ですまないが
琉兵衛がお猪口で酒を飲む仕草をするとマスターは笑う。
「仕方無いですねぇ琉兵衛さんの頼みだ。
丁度良い酒が入ったんですお出ししますよ。」
「ありがとう。
....あぁ、彼も同席するから酒を出して上げてくれ。」
「へい....って翔ちゃんじゃねぇか!
園咲の旦那と知り合いだったのかい?」
「いや....その....」
マスターにどう話そうか悩んでいると琉兵衛が答える。
「私が個人的に知っていたんだ。
巷では彼は優秀な探偵だと言われているらしいからな。」
「へぇ、旦那に知られるなんて翔ちゃんも偉くなったねぇ。」
「マスター、やはり、彼は君から見ても優秀なのかね?」
「あぁ、優秀だよ。
特に猫を探させたらピカ一だな!」
「猫?」
首をかしげる琉兵衛に翔太郎はマスターに焦って言う。
「はぁ!?俺だっておやっさんから色んな技術学んで経験積んでるんだぞ。」
「でも、亜樹子ちゃんが言ってたぜ?
"翔ちゃんは猫探しの腕だけは超一流"だって...」
「亜樹子の野郎.....余計なこと言いやがってぇ」
二人のやり取りを見ていた琉兵衛は笑う。
「あっはっは、これは楽しくなりそうだ。
マスター、風麺の麺少なめとツマミを....君はどうするかね翔太郎君?」
「!?.....俺も同じ物で麺の量は普通で良い。」
「もっと頼んでも良いぞ。
支払いは私がするからね。」
「いや、良い。
俺と話すために呼んだんだろ?
なら、腹八分目位が丁度良い。」
「そうか....では席に座ろうか。」
琉兵衛に促されるまま翔太郎は席に着いた。
二席しかない屋台で本来、戦う宿命の敵とヒーローが座り合っている。
そんな空気感を暗に感じたのかマスターは早速仕入れた日本酒を取り出した。
「ほぅ....見たことの無い銘柄だね?」
「最近、出来たお酒なんだよ。
名前を
これが癖になるほど美味しいんだ。」
そうしてマスターはお猪口を二人分出すと酒を注ぐ。
水のように透明な酒に琉兵衛は一口つける。
「ほぅ、辛口だが飲んだ後にほんのりと甘味を感じるとは.....これは癖になりそうだ。」
「そうでしょう。
この味を知ったら例え死んで魂になっても飲みたいと思わせるから鬼火と言う名前にしたそうですよ。」
「鬼火とは死者の怨念を象った存在とも言われているからね。」
「随分と物知りなんだな?」
翔太郎が琉兵衛に言った。
「オカルトは考古学にとって切っても切り離せない。
昔の人は現代よりも風習や迷信を信じていた。
実際に科学では説明のつかない事象はこの世界に溢れている。
君だって体験したことがあるんじゃないかね?」
「.....まぁ、色々とな。」
「そう言う意味で言えば"ガイアメモリ"もある種のオカルト的要素とも言えるな。」
「!?」
自分からガイアメモリの話しに触れた事に翔太郎は驚く。
そして、マスターも思い出したように言った。
「そう言えばテレビでやってた対ガイアメモリ部隊でしたっけ?
旦那も関わってるらしいですね?」
「あぁ、ガイアメモリの研究とその対策を頼まれていたんだよ。
お陰で色々と分かったからね。」
琉兵衛は表面上、ガイアメモリの調査を政府から依頼されている体でテレビには発表されておりマスターもそれを信じていた。
「地球の記憶が内包された道具と言えば夢がある様に聞こえるがアレも一種の思念の塊と言える。
触れた人間を惑わし惹き付ける。
まるで鬼火が悔いて死んだ人の魂を探すように.....」
「何て言うか難しい話だねぇ.....」
マスターがそう言うと翔太郎が琉兵衛に尋ねた。
「なぁ、アンタはそのガイアメモリを流通させている組織をどう思うんだ?」
「....そうだねぇ。
とある目的の為に行動している節がある。
メモリを売っているのはその副産物だろうね。」
「その行動は人類に悪影響を与えるんだろ?」
「それは見方の違いじゃないかね?
ガイアメモリも人間を越えた力を手に入れたい者にすれば福音とも呼べるだろう。」
「それで大勢の人が傷付いたんだ。
この街も傷付き泣かされた。
そんなものは許されるべきではない。」
「中々、熱く語るじゃないか。
だが、対ガイアメモリ部隊が人の命を守っていたのも事実だ。
毒を以て毒を制す....それは間違いではない筈だ。
現に仮面ライダーもガイアメモリを使っていた。」
「それは!」
「人は物事を正義と悪で別けたがるがそんな物は存在しない。
あるとはお互いの持つ"信念"だ。
その違いを認められ無いから人は争う。
想像して見なさい。
ある日、君の家族や親友が人を越えた力を手にいれたとする。
それは種の限界すら越える力だ。
それを持つ者を普通の人間は同じ存在だと認められるか?」
"人を越えた力".....これが誰を指しているのか翔太郎には分かった。
「仮に認められたとしよう。
それを全員が行えるか?
相手に恐怖を抱いて傷付ける可能性だって無い訳じゃない。
いや、絶対に起こるだろう。
人は愚かだ。
自分の想像を越えた存在には"恐怖"を覚える。
"恐怖は不安を生み不安は疑念へと変わる"。
そうなれば止められない。
人を越えた者と人である者の戦いが起こる。」
「.........」
そこまで話すと琉兵衛はマスターに声をかける。
「マスター、このお酒は美味しいね。
頼みがあるのだがこのお酒を知人に渡したいので家に届くように送ってくれないかね?」
「えぇ、構いませんよ旦那。」
「助かる。
すまないが時間がないので直ぐに買いにいって貰って良いかね?」
そう言うと琉兵衛は財布から数枚の万札を取り出しマスターに渡した。
すると、お金を持って屋台から出ていった。
二人だけになると琉兵衛の空気感が一気に変わる。
まるで翔太郎の心臓を握りつぶすような圧と恐怖をぶつけられる。
原作の翔太郎ならその恐怖に飲まれ息すら吸えなくなっていただろう。
だが、この世界の翔太郎は原作よりも多い苦難を乗り越えてきたお陰で心も強くなっていた。
「はぁ...はぁ...クッ!
負けてたまるかよ。」
心臓を抑えながらも琉兵衛を睨み付ける。
「ほぉ、どうやら君の事を少し侮っていたようだ。
これも無名や来人のお陰かね?」
「さぁな。
でも、アンタの事をちゃんと見れる様にはなったぜ。」
「私の威圧を耐えられた程度の凡人が調子に乗っているのかね?」
「いんや、怖いことには変わりねぇよ。
今だって身体が震えそうになってやがる。
でも、アンタがフィリップの父親だって分かって少し考えたんだ。
そして、何で俺の前に来たのかを.....」
そこまで言うと琉兵衛も興味を持ったのか放っていた威圧を抑える。
「では、聞かせて貰おうか名探偵の推理を....」
翔太郎は一呼吸置くと自分の考えを話し始める。
「最初、アンタの目的が読めなかった。
ガイアインパクトって言う明確な計画があり奥さんである文音さんはそれを阻止しようとしていた。
その関係でおやっさんがフィリップをミュージアムから救い出した。
あの時のフィリップは感情が欠如していてメモリを産み出す装置のようだった。
そこに親としての愛を俺には感じられねぇ。
だが、俺達が仮面ライダーとして活動を始めてからは俺達の行動や文音さんの行動をアンタ自身は意図的に妨害してなかった。」
「それはガイアインパクトを成功させる為、来人の力を完璧な状態にするためだ。」
「違うな。
完璧にしたいなら一刻も早く組織の元に奪い返してやれば良かったのにアンタはしなかった。
本当は嫌だったんじゃねぇか?
自分の息子を道具のようにするのが....」
「.......」
「文音さんを殺せなかったのもアンタが家族を捨てられ無いからだ。
幹部を使う....それこそ獅子神や無名を使えば始末は簡単に出来るのにしなかった。
計画の邪魔をする事をされても生かし続けた。
そして、マスターと話していた言葉を聞いて確信した。」
「園咲 琉兵衛....アンタは人じゃない力を手に入れた息子に恐怖を抱いたんだ。
そんな自分を許せなかったアンタはガイアインパクトって言う解決策を考え付いた。
全人類がフィリップのようになれば差別されない。」
「バカバカしい。
私が来人を恐れているなど....」
「そして、それには"もう一つの思惑"があった。」
「!?思惑だと?そんなものは無い。」
「だろうな。
これはアンタが気づきたくないって思っていることだからだ。
アンタが一番、恐れていたこと.....それはフィリップを恐れていることが"他の家族、特に文音さんにバレてしまう事を隠したかったんだ。"」
「.........」
「だから、アンタは文音が裏切り自分を恨んだとしても何のダメージもなかった。
恨まれるよりもフィリップに恐怖したことがバレて家族の関係が壊れてしまうことを恐れたからだ。
復讐による歪んだ関係でもアンタは未だに家族の絆を求めていた。」
「.........」
「"地球に選ばれた家族".....そんなのは建前でただ幸せな家族を取り戻したか....」
ドン!
まるで結論を言わせないように琉兵衛は持っていたお猪口を机に叩きつけた。
その強さにお猪口は耐えきれず割れてしまう。
砕けた破片が手を傷付け血を流すがそんな事を構わない様子で翔太郎に言った。
「ならば.....君ならどうした?
愛する子供が人では無くなってそれを恐れる自分がいる。
"私の愛する家族を私自身が壊そうとしている"。
それを理解したら君はどうするのだね?」
「....分からねぇ。
俺には子供はいねぇからな。
でも....どんなに怖くってもよ。
愛してんなら何も言わずに抱き締めてやれば良かったんじゃねぇか?
難しく考えず自分からぶつかって見てから考えれば良かったんだ。
昔、おやっさんが教えてくれた。
"怖いってのは知らないからだ"って.....フィリップに正面からぶつかればきっと結果は違っていたんじゃねぇか?」
余りにもシンプルで根本的な解決にすらなっていない解答....だが、それを聞いた琉兵衛からは怒りが霧散していた。
(抱き締めれば良かった.....か.....そんな解決策もあったんだな。)
だが、琉兵衛はそれが出来なかった。
自分の中にある恐怖に負けて遠ざけてしまった。
そして、改めて左 翔太郎を見つめる。
(感情的で正義感が強く論理的ですらない。
メモリの才能もない。
正に、絵に描いたような凡人だ。)
だが、来人を人として見て接している。
私や文音に出来なかった事をこの男は簡単にやってのけた。
(そうか、だから来人はこの男といると良く笑うのか。)
思い出すのは来人の居場所を見つけた時にカメラ越しに写った笑顔......事務所での何気ない会話で笑い合う姿。
(漸く分かったよ文音....."私の罪"が)
少し笑うと琉兵衛は立ち上がった。
「左 翔太郎君.....来人を...いやフィリップを人として迎えてくれてありがとう。
息子は良き出会いを出来たようだ。」
「琉兵衛さん。」
「もう問答は要らない。
どちらにせよもう止まれないのは君も分かっているだろう?
若菜はガイアインパクトを必ず行う。
私が止めたとしても結論は変わらない。
これはゴエティアと二人で交わした契約だからね。」
そう言うとドライバーを着けてメモリを起動する。
「Terror」
テラードーパントに変わると琉兵衛はテラーフィールドを形成し翔太郎ごと自分を飲み込んだ。
そして、屋台から遠く離れた場所へと転移する。
「ここならば、被害は出ないだろう。
それにしても良く私の力を受け入れられたね?
あの場で君を殺すとは考えなかったのかい?」
「そんな目をしていない。
琉兵衛さん....アンタはケジメ求めてる。
自分の罪を数えようとしている人がそんな下らない事はしないだろう。」
そう言うと翔太郎は懐からドライバーを取り出す。
「"ダブルドライバー"を持ってこなくて正解だったな。
こんなところをフィリップには見られたくねぇ」
翔太郎は取り出した"ロストドライバー"を腰に着けるとメモリを起動した。
「JOKER」
ロストドライバーにメモリを装填する。
「.......変身。」
掛け声と共に勢い良く展開する翔太郎は仮面ライダージョーカーへと変身が完了した。
翔太郎は右手の指でテラードーパントを指す。
「さぁ...お前の罪を...数えろ。」
その言葉を琉兵衛は不敵にに笑う。
「あっはっは.....私の罪は手強いぞ?
何せ"家族の為に全てを犠牲にしてきた罪"だからねぇ」
「んなもん分かってるさ。
それでも俺はアンタを止める。
フィリップの為に....そしてこの風都を守る仮面ライダーとして!」
お互いの心は決まった。
両者の空気が張りつめていき....琉兵衛の目からは殺意すら込められている。
「良いだろう。
殺す気でかかってこい左 翔太郎....いや仮面ライダー!」
だが、この結末により物語が転回を向かえると二人は理解していた。
二人だけの戦いが今....始まる。
Another side
無名は一人、風都郊外にある廃ビルに足を運んでいた。
扉に手を掛けると鍵が開いており中に入る。
そこには加頭が紅茶を飲んで座っていた。
「遅れてしまいましたか?」
そう尋ねる無名に加頭は答える。
「いえ、時間通りです。
お会い出来て良かったです。
この前の約束は
井坂が風都第二タワーを強襲する前、加頭は無名と取引すべく連絡を取っていた。
だが井坂への対処に追われた為、結局会うことは無かったのだ。
二人はお互いに顔を会わせると懐からドライバーとメモリを取り出し少し離れた机に置いた。
「これで、お互いに直接手出しは出来ません。」
そう言う無名に加頭は告げる。
「私を信用して良いんですか?
私にはクオークスの力もある生身でも強いですよ?」
「そんな事をして暴れたら取引なんて出来ない。
財団の取引ならまだしも今回は冴子さんに関わる取引でしょう?
なら、貴方は絶対にそんなことはしない。」
見破られた事に加頭は動揺して置きかけたユートピアメモリを地面に落としてしまう。
「失礼」と言って拾うと机に置いてお互いに席に着いた。
「それではお互いの取引内容について確認しましょうか。
僕の望みはミュージアムがガイアインパクトを行う時期、それか第二タワーに取り付けられた地球の記憶へと繋ぐ装置の詳細な設計図です。」
「.....先ず、私も冴子さんもガイアインパクトの計画からは外されています。
ですので詳細な時期に関しては私は明言できません。
しかし、会話の内容から察して何時でも実行に移せると思います。」
「では何故、今すぐ実行しないのですか?」
「琉兵衛様の影響です。
何故か彼が実行を命令しないのです。
若菜様が琉兵衛の命令を聞いている以上、ガイアインパクトの開始も琉兵衛様の言葉を待っている状態です。」
そこまで説明されると無名は思考する。
(ここまでは概ね予想通りですね。
やはり、琉兵衛への完全服従を主軸にした改造をゴエティアは行いましたか。)
「分かりました。
では設計図の方はどうですか?」
「あれは元々、財団が作っていた装置ですので用意するのはそこまで難しくありません。
ですが、もし私がその設計図を流出させたと分かったら只では済みません。
リスクの高い選択となりますね。」
(やはり、そこを主軸にして取引をするか。
財団から資料を盗み出すとなればリスクは高い。
受けるのならそれ相応のリターンを要求する筈だ。)
無名はそう考えると加頭に尋ねた。
「そうだと思います。
では、次は貴方の要求を聞く番です。」
「私の要求はこの戦いで"冴子さんが死なない確約"、それだけです。」
「....それは何処までの範囲を示していますか?」
「"全てです"。
冴子さんの命を脅かす全ての驚異の排除と安全の確約.....それが私の願いです。」
それを聞いた無名は悩む。
(加頭の言う全てには"ミュージアム"や"雪絵"さんの件も含まれている。
オマケに安全もだと仮面ライダーに倒されるのもアウトだろう。
確かにその条件なら設計図とも釣り合いが取れる。)
無名は少し考えると話し始めた。
「先ず、冴子さんの安全の確約ですがかんぜんにはふかのうでしょう。
当の本人が生きたいと望んでいるのならこの風都から逃げれば良いがそれをしないのは若菜さんへの復讐のためではない。
そうですね?」
「えぇ、冴子さんは地位も愛も全て失い自暴自棄になっています。」
「そんな冴子さんを死なない様にさせるのは難しい。
だから、死を回避する方向で話を進めませんか?」
「死の回避....ですか?」
「えぇ、先ずは彼女のドライバーかメモリに細工をします。
そして、もし死にかけた時の保険を掛けておくんです。
例えば、死にかけた肉体と精神を保存し安全な場所で治療を行えるようにすれば本人にその気がなくても生かす事は出来ると思います。」
「肉体と精神の保存.....確か財団にもそれに近い研究が幾つかありましたね?」
「オルフェノクの因子やバクスターウイルス....この技術なら財団も保有しているでしょう?」
「確かにあると思いますが良くご存じですね?
貴方はミュージアムから離反してからミュージアムとの関係も絶たれていた筈ですが」
「僕がゴエティアと融合するために作られたのは知っていますよね?
融合するには地球の本棚に入れる肉体が必要だった。
それが出来るように作られたんです。」
「成る程、つまりは来人様と同じように地球の本棚に入れるわけですか。」
「えぇ、予めある程度、検索しておいて良かったです。」
そう言って無名は本来の提案を行う。
「僕の出す解決策は二つ。
1つ目はドライバーに安全装置を組み込み使用者の死を感じだ場合、強制的に変身解除を行い全てのダメージをドライバーに移行させる事......
そして、もう一つは"とあるアイテム"を二つ見つけ出して欲しい。」
「とあるアイテム....ですか?」
「えぇ、それがあれば肉体と精神を分離させ仮死状態に出来ます。
ですが、出所が此方とは違う別世界ですのでそれを研究している者がいるラボに向かってください。」
「それを手に入れれば冴子さんの命は守れるのですか?」
「えぇ、それがあれば死ぬ可能性が限りなく下がります。」
加頭は少し考え了承すると設計図を無名に渡した。
「冴子さんのドライバーは部下が届けます。
私はその間にそのアイテムを手に入れてきますよ。」
「分かりました。
では設計図は確かに.....」
そう言うと無名はその場を後にするのだった。
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第二百十二話 Jとの語らい/切り札と恐怖
「うらぁ!」
先に動いたのは
握り混んだ拳を
それを琉兵衛は首を傾けて回避する。
回避した空間に衝撃が走り突風が走った。
「何っ!」
「凄まじい威力だ。
まともに喰らったらひとたまりも無さそうだ。」
翔太郎は構え直して最後、拳と蹴りのコンビネーションを行うが、琉兵衛はその攻撃を弾いていなしたり回避することでダメージを完全に防いでいた。
「はぁはぁ....」
「もう終わりかね?
なら今度は私から行こうかっ!」
琉兵衛は強く地面を踏み締めると正拳突きを放った。
回避の遅れた翔太郎はその拳をクロスした腕で受ける。
ドン!
重たい音と共に翔太郎は吹き飛び地面を転がった。
急いで立ち上がるが受けた手は拳の重さにより痺れていた。
「重く鋭い拳.....!!空手か!」
翔太郎の結論に琉兵衛は感心する。
「一度、受けただけで分かるとは中々の推理力だ。
その通り、私は考古学者として世界を渡り歩いていたお陰でスラム街や、治安の悪い場所にも何度も行った。
荒事も多くてね....自分の身を守る為に習ったがまだ腕は落ちていないようだ。」
「くっ!」
「さて、続きを始めようかっ!」
また、琉兵衛が踏み込む。
「しっ!」
掛け声と共に回し蹴りが放たれたが翔太郎はその蹴りをしゃがんで避ける。
「ほぉ!」
「こちとら探偵だ!
荒事も多いんだよ!」
お返しとばかりに翔太郎も琉兵衛よ背後に周り蹴りを放った。
それを受けた琉兵衛は大きく吹き飛ぶ。
しかし、蹴った本人は不満そうに言った。
「蹴った瞬間に"飛びやがった"。
本当に考古学者かよアンタ。」
「あっはっは、そう誉められるのも悪い気はしないな。」
琉兵衛は何ともない風に立ち上がるが背中に鈍痛が走っていた。
(威力を殺してもこれ程のダメージがあるとは.....まともに受けたら持たないな。
全く、私らしくない戦い方だ。)
通常の琉兵衛は周囲にテラーフィールドを展開し遠距離から敵を倒す戦法を取っていた。
だが、今の琉兵衛は自ら拳を振るい戦っている。
まるでガイアメモリを持たなかった若い頃の私がヤンチャしていた時代の戦い方。
今の自分に合っていない...そんなのは分かっている。
しかし、それでも変えるつもりはなかった。
(私に真っ直ぐ向かってくる男から逃げるわけにはいかない。)
今の琉兵衛はミュージアムの頭目としてではなく園咲家の家長、園咲 琉兵衛として立っている。
その私が逃げたら一体、誰が家族を守るんだ?
強く拳を握った琉兵衛は翔太郎に向けて構える。
(私は逃げないぞ。
正面から君を粉砕する。
それが私の覚悟だ。)
「はぁはぁ....痛ぇな。」
翔太郎は琉兵衛に殴られた部分に触れる。
ドーパントの力を使った闇雲な一撃じゃない。
芯が乗り内部まで浸透する拳のダメージは確実に身体を蝕んでいた。
(まともに喰らえば俺が殺られる。
だが、逃げようとするだけ無駄だな。)
状況は悪いがそれでも翔太郎は笑う。
「へっ!対策なんて動いてから立てりゃ良い。
向こうもやる気なんだ。
悪い賭けじゃねぇ!」
翔太郎は探偵で培われた持ち前の観察眼で琉兵衛を見る。
(下手な小細工は通じねぇだろうな。
やるなら相手の意表を突けて克つ有効なダメージを与えられる"何か"じゃねぇと......)
そして、翔太郎は警戒しつつ一つのアイデアが浮かぶ。
(成功すれば御の字位だがやらないよりマシだな!)
翔太郎はジョーカーメモリを抜くとマキシマムスロットへ装填する。
「JOKER MAXIMUMDRIVE」
ジョーカーメモリのエネルギーが全身に巡っていくと覚悟を決めた翔太郎は琉兵衛に向かって真っ直ぐに突っ込んだ。
琉兵衛は翔太郎の前にテラーフィールドの壁を展開するが翔太郎はそれを無視して突進すると恐怖の壁を破った。
「成る程、テラーの攻撃をジョーカーのマキシマムで無効化したか....だが!」
琉兵衛は突進してきた翔太郎に敢えて近付き頭を足を払い転ばせた。
「ぐっ!」
「何か狙っているようだがそう簡単に引っ掛かってはやらんよ。」
翔太郎は立ち上がると琉兵衛へ近付き徒手空拳を行う。
琉兵衛はそれを払いいなしながら避け続けた。
「意味の無い攻撃だな。」
「うるせぇ何でもやってみなきゃわかんねぇだろうが!」
「一理あるがそろそろ飽きてきた。
決めさせて貰おう!」
琉兵衛が両手で翔太郎の攻撃を払うと一瞬で正拳の構えを取る。
そのままの勢いで拳を振るった。
ガツン!
重たい音が起こるがその拳は翔太郎の額をとらえていた。
しかし、打った琉兵衛の顔は歪む。
「貴様!わざと額で受けたな?」
「へっ!いくらアンタの拳でもこれなら只じゃすまねぇだろ!
そして、隙を見せたな園咲 琉兵衛!」
翔太郎はマキシマムスロットのスイッチを押す。
溜められたジョーカーのエネルギーが右手に集約する。
「ライダーパンチッ!」
右拳を振り下ろす翔太郎を琉兵衛は左手で迎撃しようとする。
(あの右手の攻撃さえ捌けば奴に逆転の目は無い。)
しかし、そんな琉兵衛の思惑とは裏腹に振り下ろそうとした右手を止めると翔太郎は左手で額に当たっていた琉兵衛の右腕を掴む。
「!?」
「おりやぁぁ!」
翔太郎は琉兵衛の手を掴んだまま全身の体重を琉兵衛に乗せた。
それによりバランスを崩し隙を見せた胴体に翔太郎の右手の拳が炸裂した。
「ぐあっ!...ぬぉぉぉぉ!!」
琉兵衛は気合いで握られた腕を振りほどくと翔太郎と蹴飛ばした。
しかし、琉兵衛も打たれた胴体を抑えて踞る。
「くっ!..."身体の重心を崩す戦法"。
私の真似をしたかったのかね?
それにしては随分と不恰好だったが.....」
「うるせぇ...不恰好でも当たれば良いんだよ。」
翔太郎はこの一撃を与える為に徹底的に琉兵衛を観察した。
ボロボロに転がされても見続け隙を見つけ出したのだ。
そのお陰で"逆転に繋がる一撃"を与えられた。
「アンタは俺なんかよりもずっと頭が良い。
戦いながら冷静に戦略を建てられるおやっさんやフィリップみたいなタイプだ。
そんな奴に攻撃を当てるなら回避できないダメージを与えるしかねぇ....そうすることでやっと"本命の攻撃"が当てられる。」
翔太郎はそう言うとマキシマムスロットに挿していたジョーカーメモリを再度挿し直す。
「JOKER MAXIMUMDRIVE」
右足にエネルギーが集束しヨロヨロながらも翔太郎は立ち上がり構えた。
それを見た琉兵衛は笑う。
「ははっ....そんなボロボロな状態で当てられるのかね?」
「その為にアンタに拳を当てたんだ。」
「確かにあの一撃は凄まじかった。
並みのドーパントならメモリブレイクされただろう。
現にその攻撃を動いて回避することは不可能だ。
だが、"動かなくても避けられる術"なら持っている。」
「だろうな....ならその術ごと打ち破るそれだけだ!」
琉兵衛は翔太郎のその真っ直ぐな想いを受けて理解した。
(愚直な程、真っ直ぐな想い....そうか、私も恐れずに来人や文音に向き合っていれば良かったのか。
彼は真っ直ぐに向き合ったから私には出来なかった関係を来人と結べたのだな.....)
自分の中での答えに辿り着いた琉兵衛はこれまで歩んできた道を思い返す。
来人があの泉に落ちてから全てが始まった。
自分の恐れを見ないように生きてきた。
色んな者を傷付け利用しこの街を混乱に陥れた。
もう、
それはきっと家族全員そうだろう。
来人もそうだったかもしれない。
だが、彼がいた。
彼ならばきっと来人も正しい道へ戻してくれるだろう。
私では思い付かない愚直で真っ直ぐな方法で.....
(来人が彼のような人物と出会えて良かった。
これでもう、不安はない。)
どちらが勝ったとしても息子の人生は幸福だろう。
ならば、私は"私の道に決着"を着けるべきだ。
琉兵衛は手を広げて翔太郎に言う。
「良いだろうその挑発に乗ってやろう。
私も真っ正面から君を打ち破る。
どちらも想いが強いかハッキリさせようじゃないか。」
琉兵衛の言葉を受け翔太郎は気合いを入れる。
お互いが力を溜めて睨み合う。
口火を切ったのはほぼ同時だった。
「うぉぉぉぉぉぉぉ!!」
「はぁぁぁぁぁ!!」
お互いに魂の乗った声で吠え合い翔太郎は走りながら勢い良く飛び上がると琉兵衛に向けて必殺の蹴りを放つ。
「ライダーキック!!」
翔太郎のキックが、琉兵衛に激突すると大きな爆発が起こり土煙が舞った。
暫くして土煙が収まると目の前には変身解除した琉兵衛が立っていた。
その後ろでは構えたまま動けないでいる翔太郎がいる。
すると、ガシャンと言う音共に琉兵衛の着けていたドライバーが破壊され地面に落ちた。
「はぁ..はぁ...はぁ...」
「認めよう.....左 翔太郎、いや仮面ライダー。
君はミュージアムの総帥である私を打ち倒した。
君の想いが私を上回ったのだ。
そんな君の元に来人がいることを嬉しく思うよ。」
「琉兵衛さん....アンタは」
「だが、どうやらまだ私は"罪を数え切れなていないらしい"。」
そう言って琉兵衛は手に取った"壊れていないテラーメモリ"を見せた。
「なっ!」
「では、私は行くとするよ。
今日はありがとう。
君と話せた事は私の人生の幸運の一つだった。」
そう言って琉兵衛笑うと身体を引きずるように歩き始める。
「待...て!?」
止めようとするがここで翔太郎の身体に限界が来たのか変身解除して地面に倒れてしまう。
身体を起こそうとしても言うことを効かない。
そんな翔太郎を見ないまま琉兵衛は話す。
「次に会う時はまた敵同士だ。
そして、最後にアドバイスだ。
"もう少しズルく"なりたまえ
あまり愚直過ぎては身体が持たんぞ?
ズルく生きるのも大人の特権だ。
それに溺れてもいけないが程好く騙すことも時には必要だ。
私の技を盗むみたいにね.....」
そう言って琉兵衛が見えなくなるまで翔太郎は彼に手を伸ばし続けたまま意識を失った。
傷付いて本邸へと帰って来た琉兵衛を見て若菜は動揺した。
「お父様!?どうしたのですその怪我は?」
「何でもないよ若菜。」
心配する若菜を落ち着けると琉兵衛は言った。
「若菜、ガイアインパクトの準備は終わっているのかね?」
「?えぇ、タワーの警護も万全です。
後は来人と無名をタワーに集めるだけですわ。」
「そうか.....若菜、"1週間"だ。
1週間後にガイアインパクトを行う。
部下達にもそう伝えるんだ。」
「わ....分かりましたわお父様。」
「良い子だ。頼んだよ若菜。」
琉兵衛の言葉に従う若菜はそのまま部屋を出ていった。
傷付いた身体を椅子に預ける。
「これが私なりの"罪の清算"だ。
風都の罪を一点に受けて君達を待とうじゃないか。
勝つのは私か君達か?
神と悪魔はどちらに微笑むのかな?
......後は」
決断を下した琉兵衛は壁にもたれ掛かりながら隣の書斎へと辿り着いた。
書斎に身体を預けようとしてバランスを崩し本棚にぶつかる。
その衝撃で本棚にあった写真立てが落ちてしまった。
ガシャンとガラスが割れる音がする。
そこにはかつて家族全員で撮った写真が飾られていた。
来人が泉に落ちる前に撮った思い出の写真。
触れようと手を伸ばすが琉兵衛は途中で止めてしまう。
(甘えるな....私は恐怖に負けたんだ。
そんな私が
琉兵衛は落ちた写真立てを無視して書斎に辿り着くと中から木製の箱を取り出した。
箱には"evil tail"と記されており中を開けるとそこには古びた一本のハケが入っていた。
そのハケには家族全員の名前が記されている。
"イーヴィルテイル"、私にとってこのハケは家族と残した最後の幸せの思い出であり、私を人として残してくれる最後のピースだった。
そこには私と文音、娘の冴子....そして幼かった若菜と来人の名前が記されている。
イーヴィルテイルを手に取った私の目から自然と涙が溢れてくる。
もう戻れない.....失ってしまってから気付いた愚かな私の手にはもうこれしか家族を想える物か残っていなかった。
私は机にあった卓上ライターを手に取ると分解し中のオイルを箱の中のイーヴィルテイルにかけた。
かけ終わり火種を探そうとポッケに触れるとそこから文音と会ったバーの紙マッチが出てきた。
馴れた仕草で火を着ける。
イーヴィルテイルの上にマッチを掲げると手が震え出した。
頭では納得しても心はそうではない。
そんな私の事を見透かすようにまた
(愚かだな....それを燃やして一体何になる?)
その言葉を聞いて私は笑う。
「何だ?私はてっきりこれを消すことを応援するものだと思っていたが?」
その言葉を聞いて幻影の顔が悲しく歪む。
(もう....戻れないぞ?)
「分かっている。
だからやるんだ。」
琉兵衛は紙マッチを落とした。
マッチの火がオイルに引火してイーヴィルテイルを燃やしていく。
(そうか.....決めてしまったんだな。)
「あぁ、例えその先が奈落だとしても私は止まらない。
全ての罪を背負い私は死ぬ。」
(全ての罪か.....まるで悪魔の様な所業だな。)
「悪魔....か....ふふっ!ははっ!あっはっはっはっは良いじゃないか!
それ位の代償で良いのなら悪魔にでもなってやろうじゃないか!
なぁ、ゴエティアよ!
こんな私を見て君は笑うかね?それとも怒るかね?
君との最後のゲームだ!
思いっきり楽しもうじゃないかふははははははははは!!」
琉兵衛は笑う。
"己"を"世界"を怒り悲しみ喜びが入り混じった感情を吐き出すように笑った。
落下した写真立ては琉兵衛を中心にガラスが割れて砕けていた。
まるでこれから先の未来を暗示するように........
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第二百十三話 沈黙のW/終わりへのカウントダウン
ガイアメモリ犯罪もなく警察も警戒していたがその間は不気味な程、何の犯罪も起こらなかった。
まるで、嵐の前の静けさを彷彿とさせた。
そんな中、照井 竜は一人風都の街を離れていった。
不安だけが募る中.....1週間が過ぎ
いよいよ最後の戦いが始まろうとしていた。
風都第二タワーの最上階にある制御室....
その中央に作られた装置は玉座のようにそこを納める存在を待っている。
それを眺めているのは黒のドレスで着飾った園咲 若菜でもう一人はその姿を悠然と眺める園咲 琉兵衛、雨ヶ
崎 天十郎と灯夜だった。
「漸く始まるのですか....ガイアインパクトが」
天十郎が感慨深く言うのを琉兵衛が肯定する。
「あぁ、今日程"素晴らしい日"はない。」
「素晴らしい日....ですか?」
「君には教えてなかったが来人が泉に落ちてたのが丁度、この日なのだよ。
息子が進化した日が人類が進化する日になる....」
「それは...また随分とロマンチックな話ですねぇ」
天十郎の表情を見て琉兵衛は溜め息をつく。
「はぁ、そう言えば君にとって家族はその程度の存在だったね。
なら、無理に共感する必要はないよ。」
「御気遣い痛み入ります。
ですが、ご安心ください。
ミュージアムへの忠誠は本物ですから....」
そんな話をしていると若菜がドライバーを腰に付ける。
「では、始めますわよ。」
クレイドールメモリを起動すると若菜は玉座へと腰掛けた。
メモリが若菜のドライバーに入るとクレイドールドーパントに変身する。
そして、若菜は玉座に着きながら力を解放する。
「エクストリィィィィムゥゥゥ!!」
突如、若菜の身体から緑色のエネルギーが溢れるとエクストリームの形態へと変化しそのエネルギーが玉座を通じて地下に繋がる装置へと流れていく。
エクストリームのエネルギーが装置に送られるとタワーも呼応しエネルギーを増幅させていく。
「元々、この第二タワーは再生エネルギーを利用する機構が取り付けられていた。
それを応用しエクストリームのエネルギーをタワーに循環させ純度を上げて地下の装置へと流し込む。
そうすることで地球の中心との道を一気に繋ぐ。
さぁ、見せておくれ.....地球の深淵を....」
「はぁぁぁぁ!」
若菜が蓄積された高純度のエネルギーを装置へ一気に送り込んだ。
深い緑色のエネルギーは装置から一本の糸の様なエネルギーの線を撃ち出す。
そのエネルギーが地球の中心に当たるとエネルギーが満たされていった。
すると、まるで間欠泉の様に撃ち出された方向に向けて地球から大量のエネルギーが吹き出してきた。
エネルギーは装置を通り若菜の身体を包み込む。
「うぐ....あっ!.....」
地球に含まれるエネルギーを全身に受けた若菜は苦しみ出す。
いくら、超越者の肉体を手に入れても制御されていないエネルギーを受け続ければ無事ではすまない。
だが、それを安定させる術を予め用意していた。
「Tower」
天十郎がタワードーパントに変わると持っている杖を使い第二タワーを操作し若菜に向けられたエネルギーをサブタワーへと分散した。
協力な一本のエネルギーがメインタワーを中心に3つに分かれると其々のエネルギーがサブタワーへと向かっていった。
エネルギーの本流から開放された若菜はメモリを抜いて呼吸を整える。
「はぁはぁ....エネルギーの安定化は?」
その問いに杖を下ろした天十郎が答える。
「サブタワーへのエネルギー転送と固定化は完了しました。
計画の第一段階は成功です。」
若菜のエクストリームのエネルギーを呼び水として地下の装置から地球の中心へ直接撃ち込む事で強制的に道を開通させそこから上がってきたエネルギーをタワーメモリの力で3つのサブタワーへ分散させて繋いだ道が塞がらないように安定させるのが"第一段階"となっていた。
「良かったわ。
家族以外に安定化の大役を任せるのは不安だったけどお父様が認めるだけはあるわね。」
「ありがとうございます。
では、私はサブタワーに向かいます。
あぁ、灯夜はここに置いていきますので好きにお使いください。」
そう言うと天十郎は杖を振るうと姿が霧のように消えていった。
それと同じタイミングで外からサイレンの音が聞こえ始める。
「へぇ、警察も意外に優秀なのね。
もう、ここの事を嗅ぎ付けるなんて.....
灯夜と言ったかしら?
あの警察官達の相手をしてらっしゃい。
儀式の邪魔をさせないように」
若菜の命令に灯夜は頷くとチェスメモリを取り出し起動した。
「Chess」
チェスドーパントへ変身した灯夜へ若菜は手に貯めたエネルギーを与えた。
「私の力を一部上げるわ。
これがあれば少しはマトモに戦えるでしょう?」
灯夜は若菜から与えられたエネルギーを全身で感じると早速、開放した。
警察の現れた場所に白と黒の升目が現れる。
「ポーン...前へ」
灯夜がそう言うと黒のマスからポーンドーパントの軍団が出現した。
警察はその軍団を見て驚いている。
若菜から与えられた力で大量のポーンドーパントを召喚した灯夜は命令を下した。
「ポーンよ...全てを蹂躙しろ。」
チェスメモリにより召喚されたドーパントは灯夜の命令を忠実に実行する。
蹂躙の命を受けたポーンドーパントは展開している警察へ攻撃を行おうと突進するが凄まじい発砲音と攻撃によるダメージで先頭のポーンドーパントが倒れてしまう。
「何だ.....何が起こった?」
灯夜が攻撃を放った方向を見るとそこにいたのは巨大な重火器を持った"人型の機械"と"近未来なフォルムをした戦車"だった。
「あれは何なんだ?」
その問いに答えたのは若菜だった。
「成る程、あれがG3システムね。」
「ご存じなのですか?」
「地球の本棚で検索したわ。
あの戦車は"G2"あの戦闘スーツを着ているのは"G3"と呼ばれているみたいね。
人類が怪人と戦う為に作り出した強化スーツ。
確かにアレならドーパントともやりあえるでしょうね。」
「では、如何致しましょう?」
灯夜の問いに若菜は答える。
「所詮は昔の遺物よ。
貴方の力を私が強化出来る以上、時間をかければ殲滅できるわ。
問題無い......」
ここまで言いかけた所で外のポーン部隊が爆発に巻き込まれた。
警察からではない攻撃に目を向けるとそこには"仮面ライダーW"と"仮面ライダーデーモン"の姿があった。
その姿を見て若菜は笑う。
「あらっ、態々そちらから来てくれるなんて....手間が省けて良いわ。
灯夜....警察の相手は任せますわ。
私は来人と無名を」
「承知致しました。」
そう言うと若菜は玉座に座り直し灯夜をメモリの力で下へと移動させるのだった。
警察がガイアインパクトを察知できたのは偶然ではない。
全て、"計算ずくの事"だった。
風都署で氷川は連絡が来るのを待っていた。
照井が風都を離れる前に教えてくれた協力者の連絡先、そこから連絡が来たらガイアインパクトが始まると知らされていたからだ。
だからこそ、照井から聞いていた連絡先がスマホに表示された瞬間から氷川は気合いを入れた。
「はい、氷川です。」
端的に告げると電話の相手も同じ様に端的に伝えた。
「風都第二タワーでガイアインパクトの反応がありました。」
「了解。
直ちに出動します。」
そう言って氷川は連絡を切ると別の人物に電話をかけながら署長室を後にする。
そして、数分も立たずに準備を終えると氷川達は現場へと急行したのだ。
「全く、氷川も照井課長と同じくらい無茶を言ってくれるよ。」
そう愚痴りながらも刃野は新しく支給された警察車両を運転している。
その後ろには真倉も乗っていた。
「でも、氷川署長も凄いですよね。
こんなハイテクな物を俺達に使わせてくれるんですから.....」
二人が乗っている車は氷川が本庁から持ってきた特殊車両である。
見た目は青に銀色のラインが入ったパトカーだが、この車には秘密があった。
風都第二タワーに到着すると刃野はタワーを見つめた。
「何じゃこりゃ?タワーから緑の光が出ていやがる。」
どう考えても異常な光景に刃野は困惑している。
周りにいるパトカーの刑事も同じなのだろう。
そしてそのタワーを守るように突如目の前に
刃野は無線機で氷川のいる車両へ連絡をする。
「氷川、どう見てもヤバい感じだ!
G3システムを使うぞ...良いか?」
「はい、僕も直ぐに到着します。
ですから、それまで頼みます。」
「おぅ!任せろ!」
そう言うと刃野は運転席に付いていたカードが一枚入る穴に懐から取り出したカードを意気揚々とセットした。
「G3マイルド装着!!」
まるで何処かのメタルヒーローの様な掛け声を上げると刃野と真倉の座っていたシートが倒れて内部からアーマーのパーツがアームによって装着される。
つまりはこう言うことだ。
説明しよう!
この警察特殊車両である"ガードレーサー"に変身認証カードをロードすることで
内部にいた刃野刑事と真倉刑事の身体にG3マイルドのアーマーが素早く装着され"仮面ライダーG3マイルド"へと変身することが出来るのだ!
装着が完了した刃野と真倉はドアを開けて外に出る。
「ビックリしたぁ!この車の中でこのアーマーを装着したの始めてでしたけどこうなるんですね。」
「そうだな。
さてと!トランクの武器を着けるぞ真倉。」
孫の手を肩にかけたまま刃野と真倉はトランクに近付き触れるとスーツから音声が流れた。
『武器使用許可を確認.....ケースを開放します。』
その声と共に開いたトランクの中には二丁の銃と小型のナイフが二本入っていた。
それを二人は一つずつ取ると両足の横に取り付けた。
『GM-01....GK-06...
武装を身体に装着することで安全装置が解除される。
全ての装備を着け終わると二人は他のG3マイルドがいる集団に加わる。
目の前にはいきなり現れたドーパントが列をなして待機している。
そこに人としての意思は感じられない所がより不気味さを醸し出していた。
「あんなにドーパントが....俺達大丈夫なんすかね?」
不安がる真倉の頭を刃野は思いっきり叩いた。
アーマーにより痛みは無い筈なのに真倉は痛がる。
「バカ野郎!!このアーマースーツを使わせて貰っている俺達がそんな弱気でどうするんだよ。
周りの仲間はもっと怖いんだぞ。」
新型のG3システムを搭載したガードレーサーは氷川の立場を持ってしても五台しか確保できなかった。
未確認からアンノウンに続き立て続けに増えていく怪人の被害に対抗する為、"榎田、小沢....そして外部から集められた研究者"により開発されたこの装備は正に警視庁にとって虎の子の兵器であり慎重に運用しなければいけない。
氷川も本当なら署員全員分にG3マイルドを配備したかったがそれも叶わず5台のガードレーサーと10人分のG3マイルドが限界だったのだ。
その苦悩を同期として近くで知っている刃野だからこそ真倉の弱気な姿勢を叱ったのだ。
「氷川はこの装備を俺達でも使えるって信頼して渡してくれたんだ。
そんな弱気な姿を九条さんに見せる気か?」
刃野の激を受けて真倉は背筋を正し覚悟を決める。
「そうですね.....九条さんに笑われない為にも頑張ります!」
そんな話をしていると遠くからサイレンの音が聞こえてきた。
「これは....」
「漸く登場って訳か。」
二人が目を向けるとそこにはG3Xの装備が内蔵された"Gトレーラー"とその後ろを並走するG2の姿があった。
Gトレーラー内部で氷川は馴れた手順で強化スーツを装着していく。
頭以外全て装着し終わった氷川は手足を動かして調子を確認する。
そんな姿を見ていた髭を生やした男が氷川に話し掛けてきた。
「やっぱり久し振りに着ると違和感がありますか氷川さん。」
「いえ、逆に違和感が無さすぎて驚いてますよ
尾室と呼ばれた男は嬉しそうに笑う。
「良かったぁ!実は氷川さんがまたG3Xを装着するって分かってから小沢さんと一緒に調整してたんですよ。」
彼の名前は
まだ、G3がアンノウンと戦っていた時、小沢と共に氷川を支えていた開発員だった。
そして、アンノウンを倒すとそのまま昇進しGユニット関連の主任になっていた。
そうして、呑気に笑っている尾室をもう一人の男が冷ややかな目で見つめる。
「尾室主任、我々はこれからドーパントの鎮圧に動くんです。
そんなピクニック気分で過ごされては困ります。
そして、氷川さん貴方も主任を甘やかさないでください。」
「す.....すいません
「すいません調子に乗りました。」
二人を説教しているのは
元捜査一課のエリートであったが、現在はGユニットの分析及び作戦立案を担当している。
これは余談だが北條をGユニットにスカウトしたのは他でもない小沢本人であり理由は「尾室が主任になったらGユニットが潰れるかもしれない。
それなら例え嫌みったらしくても北條を入れた方が良い。」と言うことらしく、北條本人はこの言葉を小沢に言わせたことに優越感を覚えてGユニットに移った。
尚、この事実は尾室も氷川も知らない。
そんなこんなしていると目的地である風都第二タワーが見えて来て北條の空気感が変わる。
「氷川さん今のG3Xで昔と違うのは"中身"だけです。
武装は昔と同じだと思ってください。
火気類はガードチェイサーに搭載しています。」
「あっ....はい。」
「氷川さんは全線でG3マイルドの部隊を指揮しつつドーパントの鎮圧を行ってください。
細かい分析や作戦は私が指示します。」
「あの.....」
「それと、私はG2を遠隔操作して皆さんの援護に回ります。」
「北條さんそれって結構大変じゃないですか?」
「問題ありません。
これでも長い間、このGユニットで活動してきましたから馴れてます。」
「.....おーーい。」
「我々は氷川さんと違ってドーパントと対峙するのは始めてです。
敵がどんな能力なのかも未知数です。
ですから、私も作戦を指示はしますがその都度、氷川さんのアドバイスを受けて修正していきます。」
「アドバイス....ですか。」
「難しく考えなくて良いです。
ただ、気になったことや違和感を教えてくれるだけで良い。
後は私が勝手に解釈していきますから.....」
「あれ、俺の話聞こえてない?」
「では僕の仕事はドーパントと戦いながら気になったことを北條さんに伝えれば良いんですね?」
「えぇ、その通りです。」
「あのぉぉぉ!聞こえてますかぁ!」
二人の会話を遮る様に尾室が大声を上げた。
その声に話し込んでいた二人は驚く。
「うわっ!ビックリした。」
「急に大声を出さないでください。」
「私っ!私の仕事はなんですか!?
これでもGユニットの主任なんですからあるんでしょう?」
北條がGユニットに入ってからは優秀すぎる為、直接的な仕事は全部彼が行い尾室は命令や承認を下すだけだった。
だからこそ、今回は何かあるのではないかと尋ねたのだがその答えは二人の沈黙だった。
「「..........」」
「えっ?ちょっとどうしたんですか二人とも黙り込んじゃって!?」
永遠に感じる沈黙の中、北條に天恵が走った。
「!?.....応援。」
「......は?」
「我々を応援してください.....心の中で....」
「.....えぇぇぇぇぇぇ!!」
動揺している尾室を余所に北條が告げる。
「.....時間ですね。
氷川さん、ガードチェイサーに乗ってください。」
「はい!」
氷川はマスクを着けてG3Xになるとガードチェイサーに乗り込んだ。
「ハッチオープン....ガードチェイサー、射出します。」
北條のその言葉と共にGトレーラーの後部ハッチが開きそこから氷川の乗ったガードチェイサーが地面に降り立った。
そのまま、エンジンを吹かし走らせると既に展開されているG3マイルドの部隊の所へ到着する。
ガードチェイサーから降りると氷川は後ろに取り付けられていた"GX-05"に触れる。
すると、マスク内に人工音声が流れた。
『GX-05"ケルベロス"ACTIVE』
「これは....」
『G3システムに搭載された最新AIの音声です。
武器の管理やロック解除を自動で行ってくれます。
また使用者以外が武器に触れた瞬間、トリガーをロックする事も出来るんです。』
北條が通信で説明してくれた。
氷川がそのままGX-05に触れると簡単に変形し昔使っていた六連ガトリング砲が姿を現した。
武器の準備が終わると部隊に合流し現れたドーパントを見つめる。
その映像を通信で見ていた北條は違和感を覚える。
『これは?.....もしかして
氷川さんG3Xの生体センサーを起動してください。』
「生体センサー?」
『マスクのカメラ部分に触れれば変わります。』
氷川は言われた様にマスクの横にあるカメラに手を触れると映像が変わり現れたドーパントの調査を始めた。
そして、そのデータはトレーラーにいる北條達にも届けられる。
『.....成る程、やはりそうでしたか。
氷川さん、今、貴方の目の前にいるドーパントの集団は人ではありません。』
「どう言うことですか?」
『簡単に言えば高密度のエネルギーで構成された人形です。
つまり、遠慮無く破壊できると言うことです。
G3マイルドのスコーピオンと氷川さんのケルベロスによる一斉掃射が有効です。』
「分かりました。
皆さん、行きますよ!」
氷川がそう言うと周りのG3マイルドは太股に付けた自動小銃である"スコーピオン"を構え氷川はケルベロスを敵に向ける。
「撃てぇ!」
氷川の合図と共に放たれた弾丸の雨は軍団に当たり続けるとダメージに耐えられなくなり爆発していった。
「やった!」
『いえ、まだです。』
安堵する氷川を北條が諌める。
何故なら、直ぐ地面から同じドーパントが生成されたからだ。
「何っ!?」
『恐らく、何体でも召喚できるのでしょう。
召喚している本体を叩かない限りキリがない。』
「なら....どうすれば?」
そうして、悩んでいる氷川の後ろから二台のバイクが氷川達を飛び越してドーパントの集団に突っ込んでいった。
「TRIGGER MAXIMUMDRIVE」
「ARMS MAXIMUMDRIVE」
『「TRIGGER FULLBURST」』
「DEMONs BULLSEYE」
片方の金と青色のライダーは持っていた銃から金色の銃弾を無数に放ち、黒いライダーは手に持つ弓から黒い炎で象られた矢をドーパントに放った。
直撃したドーパントを中心に大爆発が起こり空いた隙間にバイクを着地させた。
「君達は....」
尋ねる氷川に二人のライダーは答える。
「俺達はこの風都を守る仮面ライダー」
「そして、この戦いを終わらせる者だよ。」
Another side
警察車両が並ぶ中で一際、異彩を放っている真っ赤な車、その中にいる泊 進之介は溜め息をついていた。
「はぁ.....」
『どうかしたのか進之介?
君が溜め息をつくなんて珍しいじゃないか。』
そうダンディな声で尋ねる人物の姿はない。
何故ならそれは車に設置されたベルトから直接聞こえてくるのだ。
「いや....そんなに悩むことではないってのは分かっているんだけどなベルトさん....でも」
『グローバルフリーズの時に助けられたロイミュード....いや"ハート"について気になるのか?』
"グローバルフリーズ"....機械生命体ロイミュードの産みの親であり俺の今の相棒である霧子の父親、蛮野天十郎。
彼が起こした事件では沢山の被害者が出た。
その時、俺は追っていた反政府組織を同僚の
その時だ....逃げていた一人の構成員が早瀬に銃を向けたのを見て俺も反射的に銃を構えた。
その瞬間、空間がドンヨリとして全ての時間が遅くなったんだ。
俺はその時のショックで誤って拳銃を発砲してしまったんだ。
その弾はゆっくりと早瀬の近くにあるドラム缶へと進んでいった。
俺は.....相棒をこの手で殺すかも知れなかった。
でも、そうはならなかった。
"赤い怪物"が俺の撃った弾丸がドラム缶に当たる前に弾くと殺人犯に向かっていった。
そして、構成員も同じ怪物に変わると戦い始めたのだ。
だが、その戦いの最中、構成員に変装していた怪物の放った攻撃で建物が崩れて相棒は下敷きになり下半身不随となってしまった。
俺は相棒を失ったショックで俺の脳細胞はエンストしちまった。
そんな俺にもう一度、火をつけてくれたのがこのベルトさんだ。
ベルトさんは俺に怪物の正体であるロイミュードを教えてくれて俺にはそいつらと戦う力があると言われた。
そうして俺は覚悟を決めて仮面ライダードライブになった。
ドライブになった俺は犯罪を起こすロイミュードと何度も戦った。
そこで俺は相棒を助けてくれた赤いロイミュード...."ハート"に会ったんだ。
ハートは俺がドライブになって他のロイミュードと戦うのを止めようとした。
同族を殺させない為と言っていたがその為に市民を犠牲にするのは間違っている。
そう思ってこれまで何度も戦ってきた。
だが、その思いもブレそうになっている。
「霧子の父親である蛮野天十郎がロイミュードを操って犯罪をさせているなんて.....」
『ショックなのは分かる。
蛮野は私の親友だった.....グローバルフリーズから何の音沙汰も無かったがいきなり、あんな宣言をしてくるなんて思わなかったよ。』
それはいきなり、起こった。
突如、通信機器がジャックされて映された映像には蛮野の姿が映っており奴は我々に向けて言った。
『私の名前は蛮野天十郎.....この世界を手に入れる神のごとき存在だ。
これは私から愚かな人類への宣告だ。
私はこの素晴らしい頭脳を使いロイミュードと言う兵器を作り上げた。
私はこれを使い人類を支配し管理する。
貴様ら愚かな人間はその事に感謝し服従しろ。
さすればその者には力と叡智を与える。
だが、反抗するのならばその者には恐ろしい滅びを与えてやろう。
これを見ろ!』
蛮野が手を向けるとそこにライトが当たり一体のロイミュードの素体が映し出される。
見た目はプロトロイミュードに金と黒のカラーリングが施され瞳は青く光っていた。
『これこそ、私が作り出した新たなるロイミュード。
"ゴルドロイミュード"だ!!
コイツは普通のロイミュードと違い戦闘用として造られている。
この意味が分かるかね?
これまで起こっていたロイミュードの犯罪がまるでお遊びと思える程の力を持っているのだよ。
"3日"与えよう....それまでの間に私に従うか死ぬか選ぶと良い。
ではご機嫌よう...アハハハハハ!』
その映像を見た者達は皆、混乱した。
それは勿論、泊も同じだった。
だからこそ、ベルトさんはグローバルフリーズの真実を話したのだ。
「ハート達の行為は洗脳された仲間を取り戻すためだったんだろう?
....なぁ、ベルトさん俺達はハート達と協力するべきなんじゃないのか?」
『....どう言うことかね?』
「蛮野が敵なのは共通認識の筈だ。
これまでの事件だって蛮野が洗脳して起こさせた事なら奴を捕まえれば全て解決するんじゃないのか?」
『....そうかもしれない。
だが、ロイミュードを作り出したのは蛮野だ。
私の発明であるコア・ドライビアを動力源として蛮野が作り出した思考AIと素体が使われている。
つまり、ハートも奴によって造られているのだ。』
「じゃあ、ベルトさんはハートも蛮野みたいになると言いたいのか!」
『そうじゃない。
蛮野の事だ....彼等に何かしらの細工をしていることは考慮すべきだと言っている。
あの男は傲慢だが用心深い。
今回の宣言もきっと何か思惑があるのだ。
ハート達を巻き込んだ思惑が.....』
「......」
『それを暴くまではいくら蛮野と敵対してると言ってもロイミュードである限り、信用は出来ないのだ。
すまない進之介....』
ベルトさんは苦々しい表情をしながら告げた。
そうか....一番悔しい思いをしてるのはベルトさんなんだ。
自分の発明を犯罪に使われ今現在でも人を苦しめている。
それを止める為に自分の意識をベルトに転送して仮面ライダードライブを産み出したんだ。
ベルトさんは基本的には戦いを好まない。
話し合いで解決できるのならそうしたい....そう思う理知的な人だった。
「でも俺は....あぁー!クソッ!いくら考えても分からねぇ!どうしたら良いんだよ!」
『進之介....』
泊はトライドロンのシートを倒すと寝転がった。
何時もの様なエンストした状態ではない。
荒ぶっている思考を落ち着ける為の行為だ。
そうしているとトライドロンの窓を叩く音が聞こえ窓を開けるとそこには泊のバディが立っていた。
「泊さんこんなところにいたんですか!」
「霧子....」
彼女は
泊の相棒であり蛮野の娘でもあった。
「突入作戦の打ち合わせがあるんですから早く行かないと...」
蛮野の宣告を受けて何もしなかった警察ではない。
発信元を探り奴の根城を見つけ出し突入作戦を立てたのだ。
泊達がいるのもその作戦に参加するためだ。
「ほら!早く行きますよ!」
「うわっ!ちょ霧子!ネクタイ引っ張んなよ!」
霧子は泊のネクタイを掴むと無理矢理、トライドロンから引っ張りだし打ち合わせを行う場所へ向かう。
泊もベルトさんをトライドロンから掴むと共に向かうのだった。
これは風都でガイアインパクトが起こっていた時に起こったもう一つの戦いである。
※これからはガイアインパクトのストーリーとドライブのストーリーを同時に掲載していきます。
何故この必要があるのかその理由は物語が進んでいけば分かると思いますのでお楽しみください。
ストーリーも分かりやすく分けますのでお楽しみください。
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ガイアインパクト編
第二百十四話 沈黙のW/激戦地帯
若菜によりガイアインパクトが執行された。
警察はG3ユニットを使い阻止に向かうが灯夜の作り出したポーンドーパントに止められてしまう。
そんな中、仮面ライダーWと仮面ライダーデーモンが風都第二タワーに現れた。
それを見た若菜は計画の贄であるフィリップと無名が揃った事が分かり笑うのだった。
氷川達を助けるように参戦したWとデーモンの前にチェスドーパントに変身した灯夜が現れた。
「お前はっ!?」
「態々、生け贄になる為に現れるとは手間が省けて助かりますよ。」
「お久し振りですね灯夜さん。
獅子神さんはお元気ですか?」
そう尋ねる無名を灯夜は睨み付ける。
「貴方達が獅子神の邪魔をしなければこんなことにはならなかった。」
「こんなこと....."父親の駒に戻ったことも"ですか?」
「!?」
「駒?.....一体どう言うことだ?」
翔太郎の問いに無名は答えようとしたがそれを灯夜が産み出したナイトドーパントの突進攻撃により防がれる。
「僕の知識を得て何でも知っている賢者気取りか?
ウザいんだよ。」
しかし、無名は咄嗟に持っていた弓のトリガーを引いた。
「SHELD」
すると弓の形から大型の盾に変形しナイトドーパントの突進を防ぎそのまま駒のように回転し攻撃をいなすともう一度、トリガーを引く。
「BLADE」
音声がなると今度は盾から刀へと変形するとその勢いのままいなしたナイトドーパントを一閃で斬り伏せた。
それを見て灯夜が舌打ちをする。
「ちっ!厄介な能力ですね。
好きな武器を作り出せるガジェットですか。」
「えぇ、僕のメモリと相性の良い"アームズメモリ"を使った"アームズライザー"と言うガジェットです。
文音さんが残してくれた僕への装備です。」
デモンドライバーを開発した際に文音が無名の為に作り出したのがこのアームズライザーだ。
握り手とメモリを装填するスロットのみが取り付けられておりそこに純化した"アームズメモリ"を装填することでデーモンメモリの能力が付与された武器を生成し使うことが出来る。
「本当なら貴方の相手もしたいのですが、此方も時間がない。
僕達はタワーに向かわないと行けないんです。」
「向かってどうなる?
若菜様に勝てると思っているのか?
どんなことをしてもガイアインパクトは成功する。」
「世の中に絶対は存在しないでしょう?」
「いや、"逃れられない運命"なら存在する。
ガイアインパクトが無名と来人様にとってのその運命だ。」
そう言うと灯夜は戦闘態勢を解く。
「行け...僕の仕事はそこの警察をタワーに近付けさせないことだ。
お前達は通って良い。」
二人のライダーも目的はタワーだった為、灯夜に進められた道を歩み始める。
その途中でWが止まると氷川に向けていった。
『氷川さん....姉さんが起こしたこのガイアインパクトは僕達が責任をもって止めます。
街の事は頼みます。』
「すまねぇ....俺からも頼む。」
その声を聞いた氷川は自信をもって告げた。
「任せてください。
市民を守るのは私達、警察の義務ですから....」
そうして二人を見送ると灯夜は氷川達、警察官を睨む。
「では、再開しましょうか?」
灯夜がそう言うと氷川が言った。
「その前に教えて下さい。
貴方は何故、ミュージアムに与しているのですか?
彼等の会話を聞いていて貴方が本心ではなく協力している風に聞こえました。」
「.....それはこの戦いに関係ない。」
「いえ、もし本心でないのなら我々が貴方の力になります。
そうすれば無駄な戦いも.....」
「権力に靡くしか能の無いお前らが僕を救う?
......ふふっ、下らないジョークだ。」
「......貴方は警察に何をされたんですか?」
氷川がそう尋ねると灯夜の目は暗く冷えていく。
「僕は警察に教えられたんですよ。
この世界に弱者を助けてくれる存在はいない。
失いたくなければ強くなるしかないとね.....
だから、余計なことを考えず僕と戦うことを薦める。
でなければ無様に死ぬことになる。」
灯夜はそう言うと地面に手を翳した。
「僕のメモリの能力はドーパントの召喚と使役。
希少で強い駒ほど、比例して強力な能力を持っている。
その分、召喚には負担がかかるが若菜様から力を頂いた今なら問題ない。」
氷川達はその言動に嫌な予感を感じケルベロスを灯夜に向けて放つ。
それと同じくして北條もG3マイルド部隊に射撃の援護を命令した。
ポーンドーパントを撃滅した弾丸の嵐が灯夜を襲うが弾は灯夜に当たること無く背後から現れたビショップドーパントが生成したバリアに防がれてしまう。
「無駄だ。
ビショップの力は絶対的な防御力。
ガイアメモリなら未だしもそんな力では傷一つ付かない。
さぁ、絶望しろ...."クイーン"前へ」
灯夜がそう命じると地面に現れた黒い四角から荘厳な姿をした女性の怪物が現れる。
「ビショップか防御ならクイーンは"攻撃"だ。
クイーンよ敵を撃滅しろ!!」
灯夜の命令を受けたクイーンドーパントは口を大きく開けた。
嫌な予感がした氷川が叫ぶ。
「マズイ!?....逃げろっ!!」
「もう遅い。」
突如、クイーンドーパントを中心に地面が砕けると衝撃波が氷川達を襲った。
その攻撃を受けパトカーは吹き飛び地面に落下すると爆発を起こした。
近くのビルはその衝撃により窓ガラスが砕けコンクリートの破片も飛び散った。
その光景は正に戦地と言っても差し支えない程、凄惨な姿だった。
そんな光景を見ていた灯夜は呟く。
「
それを否定する者は誰もいなかった。
氷川と灯夜が戦っている頃、二人のライダーはバイクに乗ってタワーへと向かっていた。
タワーから放たれている光を見たフィリップが言う。
『間違いない。
アレは地球の本棚に流れているエネルギーと同じ光だ。
しかも、太く強い....こんな状況を放置していたら地球を支える外核が持たない。』
「つまりは、地球が終わるってことか?」
「えぇ、アレは水が注ぎ込まれ続けている風船に穴を開けてその穴を無理矢理、開いて水を出し続けている状態と変わりません。
暫くは持つでしょうか何れ風船が限界を向かえて破裂してしまう。」
「クソッたれ!正に地球のピンチって事かよ。」
『解決策は大元の穴を塞ぐ....つまり、あのタワーに仕掛けられた装置を破壊する。
それも、開けられた穴が安定する前に』
「もし、安定しちまったら?」
「同じです。
地球が耐えられなくて崩壊します。」
「....はぁ、何と言うか本当にピンチって感じだな。
少しは楽させて.....!?フィリップ!無名!避けろ!」
何かを感じた翔太郎の言葉に従いバイクを止めると走っていた場所の地面に亀裂が入りそこからタワーと同じエネルギーが走る。
「んだこれ!?」
『このエネルギーは....タワーと同質の物だ。』
「この攻撃.....どうやら、"息子と違って親の方"はそう簡単には通してくれなさそうですね。」
「親?......まさか!?」
攻撃してきた相手に気付くと追撃の亀裂が二人のライダーの足元に現れた。
「あぶねぇ!?」
二人はバイクを捨てて回避する。
亀裂に落ちたバイクは緑色のエネルギーに触れた事でデータとなって消滅した。
「俺らも喰らったらああなるって事かよ。
ったく冗談じゃねぇ。」
「恐らく、サブタワーから攻撃しているのだと思います。
タワーに蓄積されたエネルギーをビームのように放っているんです。」
『それはマズイね。
メインタワーとサブタワーはかなりの距離が離れているハードタービュラーなら接近できたかもしれないが....』
「バイクはあの一撃でおじゃんだ。
....おいどうする?」
翔太郎の言葉に無名は苦しい顔をしながら答えた。
「相手が"カード"を切ってきたのならこちらも"カード"を切るしかありません。
本当なら使いたくなかったのですが.....」
サブタワーで地球から流れるエネルギーを受けていた天十郎は歓喜の声を上げていた。
「あぁ....素晴らしい。
全ての運命を決められる絶対的な力.....そうだこれこそ私が求めた私に相応しい
天十郎はメモリを通して自らの身体に流れるエネルギーを実感しながら答えた。
市民の声を聞く正義の政治家.....そんな表の顔とは裏腹に彼の本性は驚く程、歪んでいた。
代々、政治家の家庭だった雨ヶ崎家には独特の選民思想があった。
"国を動かす我々こそが人類にとって最も有益な存在でありそれ以外は我々が庇護しなければ生きられない脆弱な者達。
故に我々は脆弱な人類を統率し導かなければならない。"
だが、天十郎はこの考えを湾曲して捕らえていた。
"何故、優秀な私が脆弱な人類を庇護しなければならない?
奴等は勝手に増える雑草の様な存在だ。
ならば、優秀な私のすべき事はその雑草に火を付けて私の土地を豊かにすることなのではないか?"と.....
そう気付いてから天十郎は自分の周りの存在を道具として壊れ朽ちるまで利用した。
自分の両親を怨む者にわざと襲わせ自分を悲劇の主人公としてみせたり天十郎の本性を知った妻を苦しめながら殺害しその罪を敵対していた政治家に被せた。
そして、息子に悲劇の主人公としての役を与え天十郎の地位を高めた。
政府の高官共、強いパイプがあった天十郎にとっては警察や法ですら自分に平伏する道具に過ぎなかった。
そんな彼が何故、風都の市長になったのか?
それは全て、このガイアメモリの為だ。
人間を超人に変える魔法の小箱.....これこそ優秀な私に相応しい。
最初はこのメモリを手に入れさせすればミュージアムとは縁を切ろうと思っていたが彼等の計画であるガイアインパクトを聞いてその考えを改めた。
地球のエネルギーを受けることで人類を強制的に進化させる。
.....つまり、優秀な私がより完璧になることを示している。
そうなれば園咲家など者の数ではない。
奴等が強いのはメモリのお陰だ。
私のように優秀なわけではない。
そう、ガイアインパクトが成功すれば世界を統べるのは私だ。
だからこそ、今は命令を聞いてやっている。
私がWと無名に攻撃を加えたのは
融合するだけで良いのなら戦力は出来るだけ削っておいた方が良い。
それに私もこの力を使いこなしておかなければ......"窮鼠猫を噛む"。
私が完璧な存在となった時に反逆されても良いように力の使い方を学んでおいて損はない。
(それにしても.....あの一撃を避けるとは仮面ライダーも中々やると言うことか。
少し、侮りすぎていたかもしれないな。)
最初の一撃はバイクもそうだが二人の両足を奪い取るつもりで放っていた。
だが、攻撃を放った瞬間に二人とも回避行動を取っていた。)
天十郎がリアルタイムで二人の動きを確認できているのはタワーメモリのお陰であり、メモリと同期したタワーならばどんな情報でも手に入れる事が出来るのだ。
しかも、地球のエネルギーを纏ったタワーだ。
その精度はとてつもなく高い。
今の天十郎はリアルタイムで周りで起こっている戦況を確認することが出来た。
(灯夜は警察を仕留めたか。
何時も使わなかったクイーンドーパントを使ったと言うことはそれだけ本気だったと言うこと......素晴らしいやはりお前は優秀な駒だよ灯夜。
Wと無名の方は.....ほぅこのまま歩いてメインタワーへ向かう気か。
余り、攻撃をしてはあの女に不信感を抱かれる。
ここまでにしておこう。)
そう考えていると天十郎のいるサブタワーに向けて一直線に向かってくる
(まさか、このまま突っ込む気か?
愚かな.....その前にデータの塊に変換してやる。)
天十郎は杖を振るいサブタワーに集められたエネルギーを集約しビームに変えて大きな車を真っ二つにする様に放った。
しかし、そのビームを車は紙一重でかわす。
(かわしただと!?.....そんな事があり得るのか?)
天十郎はもう一度、同じ攻撃を放つがまた避けられてしまう。
(一体どういうカラクリだ!?)
そう思っているとサブタワーへと近付いた車が更に速度を上げた。
(させるかっ!)
天十郎はタワーの周囲にエネルギーの壁を作り上げた。
(纏めてデータになって消えろっ!)
しかし、天十郎の思惑通りには行かず車の上部が開くと中から
(何だと!?)
天十郎は突進だけ警戒していた為、壁は高く生成しておらず戦車はエネルギーの壁を簡単に飛び越えるとタワー内部に思いっきり突き刺さった。
その衝撃でタワーが揺れる。
「ぐおっ!奴等の目的は何なんだ?」
天十郎はメモリの力を使い戦車を分析する。
すると戦車の内部から二人の生体反応を検知した。
そして、ここで敵の思惑を理解する。
「まさか、このタワーに入る為に戦車ごと突っ込んできたのか。
.....ふふっ、はっはっは!!楽しませてくれるじゃないかっ!
それでなくては面白くない。」
天十郎はそう言って笑うとタワーの柱に触れた。
「窮鼠猫を噛む.....正しくその通りだな。
良いだろう全力で相手をしてやろう
精々、私を楽しませてくれ!」
そうして天十郎はタワーに入ってきた侵入者の相手を始めるのだった。
時同じくしてタワーに突っ込んだAガンナーに追加で取り付けられたハッチを開け放つと中から堂本と克己が現れた。
「どうやら、潜入には成功したみたいだな。」
「潜入と言うより突撃だがな。」
「違いない。
無名の予想があっているならここにサブタワーを管理している天十郎がいる筈だ。
奴を倒せばサブタワーの機能を奪い取れる。」
「それを使って開けられた穴を閉じようとする訳か?」
「"1つ目の作戦"ではな....失敗したら次の策に移るだけさ。」
そんな話をしているとタワーにエネルギーが覆われていき侵入者を排除しようと変化していく。
「天十郎は俺達をここから追い出すのに本気らしい。
ここに奴がいると見て間違いないな。
堂本.....すまないが」
「分かっている。
その為に俺は来たんだ。」
堂本はそう言うとNEVERドライバーを取り付けてメモリを起動する。
「METAL」
メモリをドライバーに装填すると顔を叩いて気合いを入れる。
「変身っ!!」
ドライバーを展開すると堂本の肉体は変化していき仮面ライダーメタルへと変身が完了した。
その瞬間、手にメタルシャフトが生成されそれを構える。
「さぁ、どっからでもかかってこい!
克己には指一本も触れさせんぞ!」
堂本はそう吠えると変形したタワーとの戦いを始めるのだった。
風都で事件が起こる中、真っ暗な空間の中で京水とレイカは時計を見ていた。
そして、京水が話し始める。
「.....そろそろ時間ね。
準備は良いかしらレイカ?」
「何時でも良いわよ。」
「良かったわ.....それにしても意外だったわ。
貴女がこの作戦に志願してくれるなんて.....
アンタ克己ちゃんに怒ってたでしょ?」
「今でも怒ってるよ。
勝手に死に場所決めて他人の為に死のうとしてるんだから......でも」
「でも?」
「私よりももっと辛い筈のミーナは克己の意思を受け入れて覚悟を決めていた。
それ見たら、何が正しいのか分かんなくなっちゃったのよ。」
「レイカ.....」
「だから、私も知りたいと思ったの
克己が守りたいって言う人の価値を....
だから、絶対にこの作戦は成功させる。」
「....そうね。
失敗したら克己ちゃんにどやされちゃうわ。」
「そうだね。
......ねぇ、京水。」
「何?」
「絶対に...."生きて帰ろう"。
また皆で集まる為に」
「...そうね。
また生きて会いましょう....ん?」
「どうしたの京水?」
「あたし達って死んでるのよね?
なのに生きて帰るってどゆこと?
デスをデスして生き返んの?
それともデスしたままデスをデスして....デスデスデスデス!!」
「あぁ、もううっさいわね京水っ!
良いのよ別にこう言うのはノリと雰囲気なんだからっ!」
「そっ.....そうね。
さっさと始めましょうか。」
京水は空間についていたボタンに手を触れると地面から光が漏れ地面がなくなっていく。
そして、京水達がいたのが輸送機の中だと分かる。
ハッチが開いて見えた景色を見て京水が言った。
「久し振りに来れたけどあんまり変わってないわね。 まぁ、それならそれで好都合だけど」
「出来ることなら簡単に終われば良いけどそうも行かないみたいね。」
レイカがそう言いながら下を眺める。
下では正体不明の輸送機を撃墜する為の砲台が稼働しているのが見えた。
「あれはメイカーね。
仕事はもう終わっている筈なのに熱心に働いちゃって....今回はその勤勉さが怨めしいわ。」
「文句言ってないで行くよ。
この輸送機ももう持たないだろうし」
「そうね。」
二人はそう言ってNEVERドライバーを着けるとメモリを起動した。
「HEAT」
「LUNA」
「「変身」」
二人は起動したメモリを勢い良くドライバーに装填し展開する。
そして、変身途中の状態でレイカは輸送機から飛び降りた。
「ちょっ!レイカっ!」
「砲台を片付けておくからそっちは荷物運び宜しく。」
「まっ!ちょっと!....少しぐらい相談しなさいよレイカ。
.....でもまぁ、悪くはないかしらね。」
そう言うと二人は古巣である孤島に今度は敵として潜入を始めた。
この行動にどんな意味があるのか知る者はまだ誰もいない。
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第二百十五話 Gの意味/託された力
『.....さん』
『......川さん』
『氷川さん!応答してください。』
突如、聞こえてきた声に氷川は目を覚ました。
「こ....こは?」
『貴方はあのドーパントか産み出したクイーンの攻撃を受けて気を失っていたんです。
起きてください!まだ戦闘は続いています。』
その言葉を受けて正気に戻った氷川は勢い良く立ち上がると周りを確認する。
「あの攻撃による負傷者はいるんですか!?」
『落ち着いてください氷川さん。
大丈夫です。
最新システムのお陰で死傷者はいません。』
「最新システム?」
『それよりも今はあのドーパントを止めないと.....クイーンは現在も活動を続けています。
ケルベロスは近くにありますか?』
北條の問いに氷川はケルベロスを探すと足元に転がっていた。
「ありました。」
『良かった....では聞いてください。
現状、戦闘活動できるのは氷川さんとG2ユニットだけです。
G3マイルドの部隊は吹き飛ばされた警官の救助にあたって貰っています。
この状況で最悪の選択はこの場で戦闘行為を行うことです。』
「被害者を出してしまうからですね。」
『はい、ですから今いる敵の戦力を彼等が安全になるまで誘導する必要があります。』
「でも、彼は大量のドーパントを召喚できるのでは?」
『えぇ、ですがだからと言って万能ではないみたいです。
氷川さん覚えていますか?
クイーンがあの衝撃波を放った時、召喚した彼は自分の体をビショップと呼ぶ個体のシールドで守っていたんです。
それで吹き飛ばされた直後、スキャンしてみれば先ほどまで出現していたポーンの個体はクイーンの衝撃波を受けて消滅していました。』
「つまり、クイーンの攻撃は味方すらも巻き込んでしまう訳ですか。」
『えぇ、だからこそ彼はクイーンを使いたがらなかったのでしょう。
折角、召喚した手駒を態々、減らす行為ですから.....
それをしたと言うことは彼自身、焦っているんです。』
「焦っている?.....早く我々を倒したいと思っていると言うことですか?」
『恐らくは.....ですからそれを利用します。
相手をクイーンごと、この場から遠ざけるんです。
ポーンは残るかもしれませんがそいつらはG3マイルドでも対処できます。
我々であのドーパントと戦うんです。』
「....分かりました。
それで作戦は?」
そう言うと氷川は北條から作戦を聞きそれを実行するのだった。
クイーンの衝撃波により警察の部隊を壊滅させた灯夜は片膝をついた。
「くっ....はぁはぁはぁ。」
チェスメモリは召喚する駒の強さによりエネルギーを消費する。
彼の持つ駒の中で二番目に強いクイーンの範囲攻撃を発動した灯夜の身体にもダメージが残っていた。
(若菜様のご助力でまだ余裕はあるがそれでもこれだけのダメージ.....だがこれで決着はついた。
いくらあの装備が優秀でも生きてはいないだろう。)
クイーンの衝撃波により起こった土煙が晴れていくとそこには驚くべき光景が映っていた。
空中で吹き飛びながらも制止している警官達が目に映ったからだ。
「なっ!?....これはどう言うことだ。」
驚きながらも飛んでいる警官を良く見るとそいつらは停止しているのではなくゆっくりとだが後方へと吹き飛んでいっていた。
そして、その周りには飛んでいる警官を救おうとするG3マイルドの集団が見える。
彼等の後ろには救われたであろう警官も見受けられた。
「くっ!.....ならばもう一度、クイーン、敵を....」
灯夜がクイーンに命令を下そうとすると此方に高速で突進してくるG2を見つけた。
「なっ!ビショップ、今すぐシールドを張れ!」
命令を受けたビショップか灯夜の前にシールドを張る事でそのシールドにG2は激突する。
だがぶつかった瞬間、G2の背部が展開し巨大なブースターが展開すると火を灯し更に加速していった。
その衝撃によりビショップのシールドにヒビが入る。
「ビショップのシールドを破る気か!
そうはさせるかっ!クイーン!あの車に最大出力の衝撃波を....」
そう命令を下そうとした瞬間、ビショップの展開したシールドを抜けるようにガードチェイサーに乗った氷川が現れる。
氷川は此方に腕を向けるとそこからアンカーが飛び出し灯夜の身体に巻き付く。
「貴方の相手は別の場所で行います!」
氷川はそう言うとそのまま、ガードチェイサーを走らせて灯夜ごとその場を後にした。
主を守ろうとビショップとクイーンも連れ去られる灯夜を追う。
その後ろをG2も追うのだった。
その光景をG2のカメラ越しに見ていた北條が告げる。
『取り敢えずは成功ですね。
G3マイルドの皆さんは引き続き吹き飛んでいる警官の救護を....."救援システム"は起動していますか制限時間がありますので』
北條の言葉にG3マイルドの部隊が了承を伝えると救援が再開される。
アンノウン以降、度重なる怪人被害に対応する為、G3システムを再設計した。
その為に警視総監は極秘裏に研究開発チームを設立したのだ。
そこで重要視されたのは守りであった。
氷川の戦いを見ていた小沢は被害をなるべく防ぐ方法を考えた結果、外部の力に頼ることにした。
そこで声をかけられた一人がこの時にはもうベルトさんに、なっていた"クリム・シュタインベルト"だ。
彼と取引を行いG3の安全システムに手を貸す代わりにロイミュードの事件解決に置いての協力を取り付けたのだ。
その結果、完成したのが救援システムと呼ばれる装置だ。
これは"ガードレーサー"に搭載されており中身は簡易的な重加速発生装置であり起動すると限定的な範囲だが重加速を発生させて対象の動きを遅くさせられる。
そして、G3マイルドには重加速の空間でもある程度動ける様に作られていた。
クイーンドーパントが衝撃波を撃つ瞬間、嫌な予感がした北條は救援システムを起動し五台のガートレーサーから重加速を発生させ吹き飛ぶ警官を助けたのだ。
(パトカーにはそのシステムは重加速の範囲に適応させてなかったので吹き飛んだ。)
だが、デメリットもありこのシステムは三分しか発動できず使用すると暫くの間、ガードレーサーは使用不能になる。
その為、G3マイルドは迫るタイムリミットの中、吹き飛んでいる警察官を助けることに尽力していた。
「よっと!....これでほぼ回収は済んだな。」
警官を助けた刃野が周りを確認しながら言う。
助けられた警官は安全なところに退避しており動ける者は市民に被害が無いか確認にいっていた。
そうしていると真倉が此方を見つけて走ってきた。
「刃野さん!無事だったんですね。」
「おぅ、お前も無事みたいだな。」
「えぇ、でも驚きましたよ。
あの衝撃波を食らった瞬間、"身体が勝手に受け身を取ったんですから"....これが説明された"生命保護AI"の力って事ですか?」
「そうだろうな。
現にスーツを着ている連中は皆、体した怪我をしていない。
全く、最近のハイテク機械は凄いよなぁ。」
「そっすねぇ.....でも署長の援護に行かなくて本当に良いんですか?」
「真倉....気持ちは分かるが諦めろ。
それにこのスーツについて説明してくれた尾室さんも言ってただろう?」
「"G3マイルド"と"G3X"はコンセプトが違うんだってよ....」
研究開発チームがG3ユニットを再開発する際、目的の区分化を重視していた。
G3マイルドに求めたのは"安全性"と"敵の捕縛や逃走の阻止"....つまりは守りを重視しており逆にG3Xには"敵の撃滅"や"戦況の好転"を重視した改良が施された。
故にG3マイルドにはクリムのシステムが使われたのだ。
では、G3Xにはどんな改良が施されたのか?
それは"AI"である。
アンノウンと戦っていた時のG3Xは完璧過ぎるAIが反って装着者の負担になった結果、AIの思考レベルを落とすチップを搭載した。
再開発するに辺り小沢は人工知能開発に優れた企業である"飛電インテリジェンス"の社長である
余談ではあるが小沢の恩師であり彼女にAIの思考レベルを落とすチップを渡した
そんな彼と小沢が二人で出した結論はAIの行動プログラムの改良だった。
AIの思考レベルを下げる原因となったのは小沢の開発したAIが完璧すぎて装着者がAIのパーツとして動くようになってしまったからだ。
それを防ぐにはパーツとしてではなく装着者として動かせる人間による戦闘データが必要だった。
それを使い、プログラムを開発すれば今度こそ誰でも使えるAIに進化できると考えたのだ。
そして、小沢がその装着者を呼び出し事情を説明するとその人物は笑いながら快諾した。
「それで誰かの命が守られるならお安いご用ですよ。」
その人物の名は
津上の協力により完成したシステムには小沢のたっての希望により装着者であるその男が名前をつけた。
そうして完成したシステムの名前は"アギトシステム"....
そのシステムを簡易型にしたのがG3マイルドの"生命保護AI"でありG3Xにはそのオリジナルが搭載されていた。
システムが完成した後、津上は小沢に言った。
「もし、これが氷川さんの手に届くのなら彼の命を守ってくれると良いなぁ。
あの人、不器用だけど強くて優しい人ですから......」
その願いが叶ったのか今、氷川が津上の協力により完成したアギトシステムが搭載されたG3Xを使っていた。
津上の願い通り氷川の命を守るために.....
氷川は"GA-04アンタレス"により捕縛した灯夜を目的のポイントまで連れてくるとワイヤーのロックを解除したそれにより吹き飛ばされた灯夜の周りを守るようにビショップとクイーンが陣取った。
「ここはもう使われなくなった工場の跡地です。
ここでなら貴方と戦っても風都に被害は与えない。」
「成る程、それが目的か.....ならばここでお前を殺してやる。
ナイト!"ルーク"!前へ」
灯夜の声に従ってナイトドーパントとルークドーパントが現れた。
灯夜の命令より彼を囲う様にナイトが三体、ルークが一体現れる。
「また、新たなドーパントか。」
そう言っていると工場の壁を突き破ってG2が現れる。
『氷川さん風都の方は問題ありません。
我々はこちらの対処に集中して良さそうです。』
「分かりました。
相手も私達を殺すために本気のようです。」
『その様ですね。
此方は二人に対して相手は7人.....分が悪い。
氷川さん、作戦を説明します。
私はG2を使ってクイーンの相手を行います。
この中で最も戦力が強くて範囲攻撃も持っている野放しにするのは危険です。
氷川さんには残りの者との戦いをお願いしたい。
ですが、このままでは氷川さんが圧倒的に不利です。
ですから、氷川さんにはG3Xに搭載された新たなAIを使って貰いたいんです。』
AIと言われた氷川の頭に
『氷川さんにとってAIにトラウマがあるのは分かっています。
でも安心してください。
今のG3Xに搭載されているAIは完全に別物です。
小沢さんが新たに改良した物で意識を失う心配もありません。
私もこのシステムは自信を持って安全だと言えます。』
「.....分かりました。
北條さんを....新たなG3Xを信用します。」
『ありがとう....AIのシステムを起動します。』
北條がそう言うとG3XのAIの制限を解除する。
すると、氷川の画面にアギトのマークと"アギトシステム"の名が表示される。
「アギト.....まさか!」
氷川はこのシステムに関わった人物が誰だか分かる。
(津上さん....ありがとうございます。)
アギトシステムが起動した状態で氷川は身体を動かす。
あの時の様に意識を失うこともない。
身体の自由もきいている。
(良し....先ずは武器を取ろう。)
氷川がそう考えるとアギトシステムは氷川の思考を解析し最適な武器を選び出すと身体が動き武器の装備を行い始める。
(頭で考えただけなのに身体がそれを完璧に実行してる。
凄い.....これがアギトシステムの力なのか。)
"スコーピオン"、"ユニコーン"を太股にマウントすると左手に大型チェーンソーの"GS-03 デストロイヤー"を装備すると右手に折り畳んだケルベロスを持ちガードチェイサーから降りると敵に向かってゆっくりと歩いていく。
灯夜の前まで歩いていくとケルベロスを地面に置いた。
(空気が変わった?.....一体何をしたんだ。)
灯夜が氷川の変化に疑問を持ちつつもルークドーパントに命令を下す。
それを受けたルークドーパントが氷川に腕を向けるがその瞬間、スコーピオンを引き抜き向けた腕を撃ち抜いた。
撃ち抜かれ腕の向きがズレた瞬間、その腕から何かが発射され地面に着弾した。
「バカな!?どうして攻撃が分かった?
ルークを見るのは始めての筈だ。」
動揺する灯夜の隙を見逃さず氷川は灯夜に向かって走っていく。
それを防ぐようにルークドーパントの三体が氷川に向かって走っていく。
氷川は突進してくる三体のドーパントに牽制でスコーピオンを撃ちつつ放たれる槍の突撃を大型チェーンソーのデスロイヤーを使って側面に当てていなしていく。
いなされたナイトドーパントは再突撃しようと円を描く様に旋回してくるが氷川は顔を向けずにスコーピオンを発砲する。
その弾丸は的確にナイトドーパントの片足に連続で着弾しそれによってバランスを崩したナイトドーパントに振り向きながらデストロイヤーで胸を突き刺す。
デストロイヤーを抜き去るとそのままデスロイヤーを背後の二体目のナイトに投げ付けた。
その動きについていけなかった二体目のナイトに突き刺さると氷川はスコーピオンの弾丸をデスロイヤーに当てて爆発させる。
爆破により刺さっていたデスロイヤーの歯が胸に深々と刺さり二体目も機能を停止する。
「一瞬で二体のナイトドーパントを倒すだと!?
やはり、何かがおかしい。
クイーン、奴を殺せ!」
灯夜がそう命令を下しクイーンが従おうとするが真横から放たれた衝撃にクイーンは吹き飛ばされる。
そこを見ると車から上半身だけ人型の機械に変形したG2の砲から煙が上がっていた。
『"対戦車用のレールガン"ならあのドーパントにも効果があるみたいですね。
これは良いデータが取れました。
まだ武器は山程あります。
今後のためにも全て使わせて貰いますよ。』
北條はそう言うとG2の武器を全て展開しクイーンへ攻撃をし始める。
「あの威力は危険だな。
....クイーン、あの車を破壊しろ。
こちらはナイト、ルーク、ビショップで殺る。」
灯夜の命令に納得したクイーンがG2に接近する。
口を開いて衝撃波を放ちながらG2とその場を離れていった。
残った氷川に灯夜は最大限の注意を放つ。
(ナイト二体を簡単に倒しルークの攻撃を防いだ。
連携して殺すべきだな。)
灯夜は指示を出すとルークとナイトが氷川を挟む様に立ち塞がる。
ルークドーパントは全身から実弾を発射することが出来、その強靭な肉体は生半可な攻撃は通さない。
(ルークの弾丸で牽制しつつ隙をついたナイトの突撃で仕留める。)
そう考えていると氷川のスコーピオンが灯夜に向かって放たれたがその弾丸はビショップのエネルギーシールドにより防がれてしまう。
「いきなり、私を取ることはルール違反だろう?
だが、ビショップのシールドは無敵だ。
そんな弾丸では傷ひとつ付かない。」
そう言うと灯夜の周りを半円状のエネルギーで覆った。
それを見た氷川は思う。
(あのシールドを突き破るにはどうすれば良い?)
その思考を受けてアギトシステムは最適解を分析し検討していく。
そして、一つの答えを氷川に提示した。
(そんな事が.....私にも出来るのか?
いや、やってみせるこの風都を守るためにも)
決心を固めた氷川はスコーピオンを握り直す。
津上から託された力と共に......
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第二百十六話 Gの意味/氷川の信念
若かりし頃の灯夜が警察に頭を下げる。
しかし、下げられた警官は笑うだけだった。
「あれは不幸な事故だよ。
事件性はない....それに品行方正な貴方のお父様が殺人なんてするわけ無いじゃないか。
君も大変だとは思うが父親を悪く言うのは感心しないな。」
そう言って灯夜の話に取り合おうとしなかった。
きっかけは灯夜と母親が巻き込まれた事故。
夜に起きた交通事故で動けなくなった車に火が上がり当時の父の秘書が灯夜を助けてくれたが母は間に合わず燃え続ける車内の中で生きたまま焼け死んだ。
灯夜にはまだ焼けていく母親の声と音と光景が離れなかった。
そして、灯夜には疑問があった。
何故、秘書は灯夜だけを助けたのか?
まるで示し合わせたかのように灯夜を救出してから火の勢いが強くなった。
何かがおかしいと考えた灯夜は事件について調べた結果、これが計画的な殺人だと分かったのだ。
犯行を指示したのは秘書であり車がわざと事故を起こすように細工していた。
そして、母が座る席の下に可燃物を仕込み灯夜が座る場所には非可燃の材質で作られていた。
動機は秘書が父に好意を寄せており母が死ねば後釜に自分がなれると思っていたからだ。
それを知った灯夜はその事実を父と警察に説明した。
その時の刑事は灯夜に言った。
「お任せください。
この事件を必ず解決して見せます。」と .....
父も珍しくその時だけは灯夜を抱き締めて
「辛かったな....良く真実を見つけてくれた。」
と誉めてくれた。
母や灯夜に厳しい人だったがそれでもちゃんと親子の愛があるとその時は思っていたのだ。
事件が発覚して秘書が自殺する結末を見るまでは.....
秘書はホテルで首を吊っていた。
机には遺書が置かれており"母を殺したのは自分でありその理由は父と結ばれる為に母と子が邪魔だった"と書かれていた。
それを見た灯夜は疑問が起こった。
何故、灯夜も邪魔だと思っていたのなら助けたのだろう?
遺書の通りなら灯夜も巻き込んで殺せば良かった筈なのだから......
そう考えているとマスコミから一つの映像がリークされた。
それは父と警察に灯夜が事件について話している映像だった。
それが流れたことで灯夜は母親の為に事件の真相を追った英雄でありそんな自分を抱き締め誉めた父は息子を愛する有望な政治家のイメージを手に入れたのだ。
灯夜は拭えぬ違和感の中、自分が英雄視されるのが不快となって更に事件を調べあげた。
そして、灯夜は見つけたのだ事件の真実を.....
それは家にあった秘書の部屋に隠されていたレコーダーだった。
灯夜はそれを聞いた。
事件の本当の黒幕は父だった。
雇われていた秘書の目的は"母と灯夜の監視"、その為に部屋に監視カメラとレコーダーを設置していたのだ。
父が不正をしているのを知った母は父に自首を促した。
だから、父は秘書を誘惑し母を殺せば妻にすると約束したのだ。
そして、事件が起こると今度は秘書を切り捨てにかかった。
そのタイミングで灯夜が事件を調べているのを知り利用しようと決めたのだ。
自分の名声を高める為わざと証拠を灯夜に渡し解決のために動かした。
そして、その光景を録画して最も良いタイミングでマスコミにリークしたのだ。
つまり、灯夜と母親、そして秘書は父.....いや"天十郎の名声"の為に犠牲となった。
それを知った灯夜は警察に全ての事情をレコーダーと共に話したが全て揉み消されてしまった。
この時の灯夜には分からなかったが最初から天十郎は警察ともグルだったのだ。
それ以降、灯夜は全てを信用しなくなった。
天十郎は勿論の事、警察も......
所詮は金と権力に靡くのが警察と言う国家権力だと理解したからだ。
そして、灯夜は決意した。
母を殺した天十郎に復讐する。
その為にこの手を汚そうと.......
自分を見つめている氷川を見て灯夜は苛立つ。
市民を守る為に悪と戦う。
若い頃、求めた警察がそこにはいたからだ。
(僕が求めた時は現れなかったのに....僕が悪になれば出てくるのか....そんなの認められるかぁ!!)
怒りのまま灯夜はルークとナイトに指示を与える。
「目の前の
ルークとナイトはその言葉に従い動き始める。
ルークは右手をマシンガン左手をバズーカに変えると氷川に向けてマシンガンを放つ。
氷川はそれをローリングしなから回避するとスコーピオンで狙うが側面から突撃してきたナイトの槍をかわす為、撃つのを止めた。
氷川のその攻防の中で灯夜に向けてスコーピオンを発砲するが弾はビショップのシールドに防がれてしまう。
そして突撃してくるナイトを攻撃を飛んで回避するがそこにルークが放ったバズーカの弾が迫る。
(まずい!)
命の危険を関知したアギトシステムはこのバズーカが回避不能だと分かるとスコーピオンでバズーカの弾を撃ち抜いた。
氷川の身体に当たる前に爆発したがその威力は高く、氷川は吹き飛ばされてしまう。
「うぐっ!」
『正面装甲と腕部装甲に被弾。
装甲耐久値20%ダウン.....!?氷川さん避けてください次の攻撃が来ます!』
北條の声で気を持ち直した氷川は敵を見つめる。
すると、ルークドーパントが氷川に照準を合わせたガトリングを放ってきた。
吹き飛ばされた場所には遮蔽物は無い。
どうすれば良いか考えているとルークドーパントはいきなり照準を変えて発砲した。
その弾はルークに向かって放たれたミサイルに着弾に爆発する。
その隙に氷川は天井に向けてスコーピオンを放ち崩落させると敵から視線を切った。
隠れながら北條に連絡を取る。
「北條さん」
『氷川さん...良かった無事でしたか。』
「はい、G2からの援護のお陰です。
ありがとうございます。」
北條は氷川へのサポートを行いながらG2を使い遠隔操作でクイーンと戦闘を繰り広げていた。
そして氷川のピンチを理解した北條は彼を助ける為、G2に搭載されたミサイルを使った。
しかし、それが明確な隙となってしまったのだ。
ミサイルを放った直後、クイーンの衝撃波がG2に直撃した。
『クイーンからの一撃でG2のシステムがダウンしてしまいました。
ダメージは与えましたがクイーンが合流してしまったら勝ち目はありません。
アギトシステムを使って戦線から離脱してください。』
しかし、氷川は北條の意見を却下する。
「それは出来ません。
ここで逃げたら彼は市民や"警官"を襲う危険があります。」
『!?それはどう言うことですか?』
氷川は自分が調べた真実を話した。
「照井くんから雨ヶ崎家について報告を受けてから個人でも調べていたんです。
そうしたらあの家の闇が見えてきました。
雨ヶ崎天十郎は妻である"雨ヶ崎 おと"の殺害に協力した疑いがあります。」
『自分の妻を殺したんですか!?』
「えぇ、そして息子である雨ヶ崎 灯夜もその事件に巻き込まれ天十郎のキャリアの為に利用されたそうです。」
『事情は分かりましたがそれで何故、雨ヶ崎灯夜は警察を恨むんですか?』
北條の質問に氷川は苦々しく答える。
「天十郎の事件の隠蔽に協力していたのが"風都署の前署長"だったからです。」
『!?』
「本人からも確認を取りました。
警察が殺人の隠蔽に協力したんです。」
『そんな....バカな....』
余談だがその際、前署長の尋問には照井と氷川が加わっており余りに自己中心的な証言から照井が本気で切れて前署長の顔面を思いっきり殴り倒したが、氷川達は"偶然、他所を向いており"問題にならなかった。
「灯夜が憎んでいるのは父と警察です。
だからこそ、私は逃げては行けないと思っています。
彼を救う為にも.....」
『救う?』
「はい、幼い頃の彼が出会いたかった本当の警察官の姿を見せるためにも逃げません。
彼のメモリを破壊して逮捕します。」
その覚悟を聞いた北條は深呼吸すると氷川に伝える。
『本当ならば貴方を止めるべきなのでしょうが。
私も警察官の端くれです。
汚点を汚点のままにしておきたくはない。
分かりました。
ならば、最短の解決策を使いましょう。』
「最短ですか?」
『はい、召喚者の排除です。
本当なら使役しているドーパントを全員排除してから行いたかったですが、そんな時間もありません。
勝利への最短距離を走り抜けます。
良いですか氷川さん目下の問題はビショップドーパントが発生させるエネルギーフィールドです。
周囲を囲っているあの防壁を何とかしない限り、攻撃は通りません。
しかも、そのシールドも強力です。
ケルベロスの掃射では破壊できないでしょう。』
「それなら、アギトシステムで提示された作戦を使おうと思っています。」
そう言うと氷川は内容を話した。
それを聞いた北條は絶句する。
『全く、なんて無茶な作戦を提案するんですかこのAIは.....作った
ですが、それしか可能性が無いのも事実ですね。
ではその作戦を主軸にして話を進めます。
その作戦を実行するにはルークとナイトドーパントが邪魔です。
G2の与えたダメージのお陰でクイーンは直ぐには合流できないでしょう。
合流する前にルークとナイトを倒してください。』
「分かりました。
無茶を言ってすみません北條さん。」
『ふっ、気にしないでください。
そう言って北條が氷川への連絡を切ると御室に顔を向けた。
「尾室さん。
G2の再起動をします手伝ってください。」
「うえっ!ちょっと北條さんいくらなんでも無茶ですよ。
俺、G3マイルドの指示やってるんですよ!?」
北條がG2の操縦や氷川のサポートをしていた間、尾室はただ心の中で祈っていただけではない。
北條からG3マイルドの指揮と復旧の仕事を請け負っていたのだ。
「尾室さんは私が指示した内容を伝えているだけじゃないですか。
それに氷川さんが戦っている以上、我々も最善を尽くすべきです。」
「でも、G2はさっきの一撃でデータが完全にクラッシュしてるんですよ。
どうやって、復旧させるつもりなんですか。」
「完全な復旧を目指してはいません。
走るだけで良いんです。
G2には大量の武装が積まれていて重量がある。
動くだけでも使い道はあります。」
「えぇ!?でもそのデータだってクラッシュして....」
「貴方は何の為に小沢さんの元にいたんですか?
G2の再開発で構成プログラムについて説明を受けたでしょう。
ならば、"移動プログラムだけ"作り直せば良いだけです。」
小沢は北條をGユニットに招き入れることを決めた段階で北條と尾室にGユニットについて基礎から叩き込まれた。
それこそ、AIのプログラミングについても教えられた。
北條は警視庁きってのエリートであり頭脳明晰だった。
そんな人物が警視庁の超エリートであり怪物クラスの天才から指南を受ければどうなるか?
答えは小沢には劣るもののプログラムは超一流であり作戦指揮もそつなくこなす小沢とは別ベクトルの天才が誕生するのは当たり前と言うものだろう。
(なお、尾室は元から清々しく凡人だったが小沢と北條の指導のお陰で優秀なエリートと言えるレベルにはなれた。)
そんな二人がG2のプログラムを再構成していく。
大元は北條が行い御室はそのバックアップを行った。
氷川の覚悟と刑事としてのプライドをかけた北條のプログラミングは恐ろしく速く正確でありそれについていく尾室は心の中で悲鳴を上げながらもこなしていくのだった。
話を終えた氷川はスコーピオンのリロードが完了するとと前に氷川は出た。
(クイーンが此方に合流する前に決着を付ける。)
ルークに向かっていく氷川にルークは銃口を向けるがスコーピオンの精密射撃により発射体制が整う前に潰される。
拳の届く距離まで近付けた氷川はアギトシステムにより洗練された徒手空拳でルークを圧倒する。
カウンター気味に拳を当てて怯んだところにゼロ距離スコーピオンを当てていく。
しかし、その戦いをナイトが傍観することはなく戦っている氷川の背後から槍をもって突進した。
その攻撃を氷川はナイトの四つ足の下に潜り込むことで回避する。
ナイトは加速した身体をルークにぶつけることで速度を落とすがそのタイミングで氷川の放ったスコーピオンにより槍を落としてしまう。
氷川は槍を落とすと左手に小型ナイフのユニコーンを握るとまた近距離戦を仕掛ける。
灯夜はその状況を苦々しく見ていた。
(くっ!ルークの長所である射撃を近付くことで潰してナイトから槍を奪うことで自分の得意の距離にした。
これならナイトは四足状態から二足に戻した方が良いな。)
ナイトの利点は四足状態による槍での突進攻撃....威力と速さに重点を置いており当たればどんな敵も葬れる威力を持っていた。
それにルークの射撃が加わればこれまでの相手は動くことも出来ずに仕留められていた。
しかし、氷川はアギトシステムによりナイトの攻撃を紙一重で回避しながらルークに近付きこれまでの作戦を破って見せたのだ。
だが、そんな成果を出した氷川も無傷と言うわけにはいかなかった。
度重なるドーパントとの衝突やダメージは確実にG3Xの装甲や関節に悲鳴を上げさせていた。
その事は灯夜も気付いていた。
(最初よりも動きが若干悪くなってきている。
あの強化スーツは所詮、人類の技術だけで作られた道具だ。
何れ、限界が来る。
クイーンの攻撃であの
無論、ダメージは食らったが動けない程じゃない。
ルークとナイトで戦いを長引かせてクイーンの再大出力の衝撃波を当てればあのスーツはひとたまりも無いだろう......)
そう考えているとビショップのシールドが発動する。
それに気付いた灯夜が目を向けると氷川が少ない隙を利用してスコーピオンで発砲してきたのだ。
「無駄だ。
ビショップのシールドは私への攻撃に反応して自動展開する様に命じている。
そんな弾丸、いくらか当たっても私の元には届かない。」
だが、それでも氷川はスコーピオンで灯夜に弾丸を撃ち続けた。
「無駄だと言っているのが分からないのか?
そんなに此方に気を割いて勝てる程、ルークとナイトは甘くない!」
灯夜の言うとおりで灯夜に銃を発砲した結果、出来た隙をルークが見逃すことはなく生成した銃から放たれた弾丸が氷川の装甲に傷を付け背後からナイトが攻撃を仕掛けてきた。
しかし、ここで氷川は背後にいたナイトの攻撃を回避し掴みかかるとそのままルークのいる方へ押し出した。
ルークはナイトごと氷川を撃ち抜こうと銃を打ち続ける。
氷川はナイトの身体を盾にすることでダメージを最低限に抑えるとナイトの腕に関節技を決めながら身体の回転を加えると思いっきり投げ飛ばした。
ルークに向かって飛んでいくナイトは激突するがそれでも飛ばされた力が強くルークごと吹き飛ばされてしまう。
そして、二人が飛んだ方向は灯夜の目の前であった。
起き上がろうとする二体のドーパントに氷川は地面に置いたケルベロスに飛び付くと直ぐに銃へと変形させる。
そして、敵の態勢が整う前に発砲した。
ケルベロスから大量の薬莢が飛び出ながら二体のドーパントとの肉体に弾丸が突き刺さった結果、ダメージに耐えられなくなったルークとナイトドーパントは灯夜の前で爆発を起こすのだった。
爆発の煙が晴れるとビショップのシールドに守られて無傷の灯夜が現れた。
「まさか、ルークとナイトを倒すとは....正直、警察を侮っていましたよ。
貴殿方は所詮、仮面ライダーが現れるまでの前座....それ以上の価値は無いと思っていたのですが訂正します。
貴方は強かった。
並みのドーパントなら殺られていたでしょう。
しかし、それでも私の勝ちは揺るがない。」
灯夜がそう言う理由は彼にとって切り札であるクイーンドーパントが工場に戻ったのを見たからだ。
「貴方に敬意を評して再高出力で消し飛ばして上げます。
クイーンその力で敵を穿て!」
灯夜の命令を受けたクイーンは口を開くとエネルギーを充電する。
氷川はケルベロスを肩に担ぐと左手でスコーピオンを構えると撃ち続けた。
しかし、その弾はビショップのシールドに阻まれる。
「言っただろう何度やっても.....」
灯夜がそう言おうとするとシールドの一部にヒビが入る。
「何っ!?一体どうして?」
驚いた灯夜がヒビの入った部分を見つめるとそこには氷川が持っていた小型ナイフのユニコーンが突き刺さっており、氷川の放ったスコーピオンの弾丸がユニコーンに当たりその衝撃で少しずつではあるがナイフの刃が進んでいた。
それを見て氷川の作戦を灯夜は理解した。
「まさか!?ビショップのシールドに闇雲に撃っていたのはこのナイフを刺す為の準備だったのか。」
アギトシステムが用意した作戦はビショップドーパントのシールドを破壊するものだった。
その為にはビショップドーパントの作り出すシールドを調査する必要があった。
だからこそ、スコーピオンを撃ち込みシールドの強度を調べ上げナイフが刺さる位置を特定した。
そして、ルークとナイトを投げ飛ばした瞬間、二体のドーパントで身体を隠しながらナイフを投てきしシールドへ突き刺すとケルベロスの掃射で爆発したドーパントの衝撃を利用してナイフをシールドへ差し込んだのだ。
しかし、これだけの策を使ってもビショップのシールドを破壊することは出来なかった。
だが、このままでは破壊される危険があるので灯夜は残しておいた力をクイーンドーパントへ注ぎ込む。
そのお陰でエネルギーを溜めきったクイーンは口を開けるとその砲口を氷川へ向ける。
しかし、これもまた"アギトシステムが想定していた未来"だった。
衝撃波を発射する直前、クイーンドーパントへ遠隔操作で動いていたガードチェイサーが激突した。
その影響で態勢を崩したクイーンドーパントから放たれた衝撃波はナイフが刺さったビショップのシールドを巻き込むように放たれた。
衝撃波は氷川に直撃すると全身の装甲が悲鳴を上げながら地面を削るように転がる。
そして、衝撃波によりシールドに刺さっていたナイフは貫通すると灯夜の腹部を貫通しそのままビショップドーパントの胴体を貫くと爆発を起こした。
その影響で灯夜も地面に転がる。
ダメージにより命令を受け付けなくなったクイーンは糸を切られた人形の様に動かなくなってしまった。
北條との通信が無くなりアキドシステムの人工音声が現在の氷川の状況を告げる。
『装甲耐久値....15%を切りました
これ以上の戦闘継続は装着者の生命維持を脅かします
G3Xの解除....及び戦線の離脱を提案します』
しかし、氷川はそれを無視して立ち上がった。
衝撃波の影響でG3Xのヘルメットが、破損したのか視界が安定しない。
氷川はヘルメットを外すと周りを確認した。
(雨ヶ崎 灯夜は....無事なのか?)
そうして探していると腹部を抑えながら此方に目を向ける
「良かった生きていたんですね。」
「それは...どういう意味ですか?」
氷川の言ったことに疑問を覚えた灯夜が尋ねる。
「貴方には生きて罪を償う必要があります。
......そして、"貴方が受けてしまった罪"も晴らさないと行けません。
灯夜さん.....貴方の母親の事件で警察が行った不正行為、改めて謝罪いたします。
申し訳ありません。
その一件で貴方が犯罪者へと堕ちてしまったのは紛れもなく警察の責任です。」
頭を下げながら言った氷川の言葉に灯夜は驚く。
「何故だ.....私はお前達の敵なんだぞ?
今は人類に仇なす敵に何故、頭を下げるんだ?」
「それに関しては許すつもりはありません。
ですが、それよりも我々、警察が貴方の正義を利用し貴方を悪の道へ進ませてしまったことも正さなければいけない真実です。
でなければ貴方を捕らえる資格が我々に無くなってしまう。
例えそれが警察の汚点になっても私は.....この罪から目を背ける気はありません。
だから、貴方には雨ヶ崎天十郎が起こした殺人教唆の証言者になって欲しい。
お願いします....もう一度、我々警察を信じてくれませんか?」
愚直な程、真っ直ぐであり裏の無い言葉を受けて灯夜は笑ってしまう。
「ふふっ、あはは!まさか、私が犯罪者になってから本当に求めた警察官に出会えるなんて.....皮肉だな。」
その言葉を受けて氷川はきょとんとしている。
(もしも、あの時、彼と会って事件について話すことが出来ていたのなら.....私の未来は変わっていたのかな?)
そう思いながら灯夜が氷川に手を差し出そうとした瞬間、天十郎の声が響いた。
『あぁ、やはりお前は母親とにて役立たずだな灯夜』
「「!?」」
その言葉に驚いて目を向けるとそこには先程まで動かなくなっていたクイーンドーパントが二人に向けて話していた。
それを見て灯夜が驚く。
「バカなっ!?召喚したドーパントの支配権は私にある筈.....」
『タワーに蓄積されたエネルギーを使えばこの程度は造作もない。
お前が私に復讐しようとしてるのを分かっていたのに何の対策もしない訳が無いだろう?
まぁ良い。
お前に用は無い....用があるのは貴方だ氷川署長。』
「私に何の用が?」
『そんなに警戒しないでください。
用件は単純です。
私達の協力者になりませんか?
地位、名誉、金....全てを用意できますよ。
貴方の望む全てを差し上げましょう。
私に従えばどんな事も叶います。
どうですか?』
「それは....買収を認めると言うことですね。
貴方が風都署で起こした不正行為については調べがついています。
私達、警察は貴方を絶対に捕まえます。」
その目を見た天十郎は溜め息をつく。
『はぁ....やはり駄目ですか。
並ば仕方がないここで愚息ごと消えて貰いましょう。』
その瞬間、氷川と灯夜の身体が地面に押し付けられた。
「う.....身体が...」
「く....そ.....」
『ここからのシナリオはこうです。
二人は死闘の末、灯夜が残したクイーンドーパントの"衝撃波の自爆"により工場ごと消滅してしまう。
その事に悲しみを覚えた私は今一度、世界の平和の為に涙を流しながら哀悼のスピーチを行う。
少しわざとらしいですが...それぐらいの方が民衆は好みますからね。
ではさようなら氷川署長....それに灯夜、最後まで私の道具としての働きご苦労だった。
もう、お前は用済みだ。
新たな風都と人類の進化の礎になることを喜びながら死んでいけ。』
そう言い終わるとクイーンドーパントが全身にエネルギーを蓄えていきながら二人に近付いていく。
そして、爆発を起こし工場の建物は破壊されてしまうのだった。
Another side
クイーンドーパントの操作を終えて目を開けた天十郎は今いるタワーに意識を向ける。
タワーの頂上に向けて登ってくる2人を知覚すると舌打ちをする。
「ちっ!予想よりもしぶとい様ですね。
やはり私が直接、相手をしなければいけないようだ。」
漸く手に入れたこの力を手放してなるものか.....
天十郎は立ち上がると侵入者を狩る為に動き出す。
メインである風都第二タワーに目を向ける。
内部から大量のエネルギーを感じる。
戦闘が行われているのは明白だった。
相手は仮面ライダーと若菜様だろう。
彼方も戦いを始めたのなら此方も始末をつけなければな......
天十郎はタワーからエネルギーを肉体に供給する。
メモリとの適合率も上がりタワーメモリの力をより強く引き出せる様になっているのを感じ全能感に包まれた。
「さぁ、上がってこい。
王が直々に
天十郎はそう言い笑うと登ってくる敵が来るのを待つのであった。
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第二百十七話 Mの進軍/王と愚者
「HEAT MAXIMUMDRIVE」
「うらぁっ!」
マキシマムにより爆炎を纏ったレイカの蹴りが放たれると島の砲台を飲み込む様に包み込んだ。
炎が晴れた頃には島の砲台は全て無力化されていた。
「良し....これで終わりね。」
レイカが島へ降りてから数分も経たない内に砲台を無力化した影響で簡単に着陸出来そうだが問題の輸送機からは火の手が上がり墜落の一途を辿っていた。
「あぁー、ありゃダメね。
着陸する前に落ちるわ。
この事は京水も分かってる筈だから......良しここら辺かな?」
レイカは上空に飛び上がると足を一回転させて炎のサークルを作り出した。
「京水ならこれで分かるでしょ。」
そう分析していると空から金色に光る球体が落ちて来ておりその後ろでは身体を広げて落下している仮面ライダー
レイカを見つけると京水が叫ぶ。
「レイカぁぁぁ!!ちゃんとキャッチしなさいよぉぉ!」
「....はぁ、分かってるわよ。」
そう言うとレイカは上空に再度飛び上がり球体を全身を使って捕まえると両足を地面に向けながら炎を放つことで落下の速度を緩め始めた。
そして、地面が見える頃には球体は速度を失いゆっくりと地面に着地し....全く速度が低下しなかった京水はレイカが指定した湖の中へと激突するのだった。
「ヘブブブブブファ!!着水成功!京水、孤島に再爆誕よぉ!!」
余談だが通常の人間が着水して生き残れる限界の高さは"10m"とされている。
勿論の事、京水が落下した高さはそれを優に越えるので普通の人間から即死してしまう。
だが、京水は不死身の再生能力を持つNEVERでありまた幻想を司るメモリを使っている影響もあってか。
ほぼダメージ無く着水する事が出来た。
水中から飛び上がるように陸へ上がるとレイカに尋ねる。
「レイカ、荷物の方は平気?」
「アタシの炎による減速と京水のルナの力で作った防御スフィアに入ってたのよ?
傷一つ無いに決まってるじゃん。」
「それはそうだろうけど、ケガしちゃったら可愛そうじゃない。
あんなにイケメンなのにケガしたら......いや!ケガした姿もそそるわね!
傷付いた身体を抱えながら歩く姿....スーッ嫌いじゃないアベぁ!!」
妄想に耽っていた京水の頭をレイカは蹴る。
「下らない事、言ってないでさっさと行くよ京水!
私達の仕事はまだ続いてる。
風都で戦っている克己や堂本の為にも失敗できないんだから」
「そうね。
ちょっとふざけすぎたわごめんなさい。」
そう言って謝る京水にレイカは言った。
「良いよ。
緊張している私をリラックスさせる為に言ってくれたんでしょう?
気を遣わせてごめん。」
「良いのよ。
仲間じゃない?
.....さぁ!とっとと片付けて私達も風都に戻らないとね!」
そう言って京水はスフィア状のエネルギーで囲った荷物を抱えるとレイカと共に孤島の中心地にある研究所へと向かうのだった。
風都第二タワーを囲うサブタワーに突撃した堂本と克己は内部での攻撃に対応しながら上へと向かっていた。
タワーの周りからまるで植物の様に塔の形をした鋼鉄の蔓が現れると二人に襲い掛かる。
仮面ライダーメタルに変身した堂本はその攻撃をメタルシャフトで防ぎながら登り克己はナイフと身体能力を使い攻撃を回避しながら上へと登っていった。
タワーから生成される蔓に最大限の警戒を払いながら登っているので中々、上に迎えないことに克己は舌打ちする。
「ちっ!面倒な能力だなこの蔓は....」
克己がそう言って蔓に目を向けると蔓の先端から緑色のエネルギーがまるで毒のように流れていた。
この蔓に貫かれたガンナーAはそこを中心にデータに変換されるとそのまま消滅してしまった。
「あぁ、だが物体を消滅させるのは緑色のエネルギーが出ている先端だけだ。
そこだけ気を付けていれば捌くのは難しくない。
お前は変身できないからヤバくなったら俺を頼れよ克己。」
そう言って堂本はメタルシャフトで蔓を打ち据えていった。
NEVERのメンバーの中で京水の次に加入したのがこの堂本だ。
生前は猟師として生活しておりNEVERになってからは棒術で戦う傭兵となっていた。
そして、無名と出会い記憶が蘇った結果、堂本は猟師としての経験と野生の勘、そして最も得意な棒術を組み合わせた独自の武術体型を確立させた。
野生で鍛えられた勘の良さを利用した防御技は精度が高く、タワーから現れる蔓の位置を一瞬で看破すると克己が登る邪魔にならないように先頭に立ち攻撃を全て捌いていった。
そして、鍛えられた勘は罠の位置すら見抜く。
「!?...克己!後ろに飛べ!」
堂本の指示に従いバックステップすると克己のいた階段から塔の形をした針山が飛び出した。
「罠のつもりか?敵は俺達を狩るのに本気らしいな。」
「その様だな。
だが、罠の仕掛ける位置が素人だ。
これなら、俺が直感で見つけて無力化出来る。」
「あぁ、ならペースを上げていこう。
無名の作戦通りに進めるならサブタワーを操作している天十郎を仕留めないと進まないからな。」
「あぁ....克己どうやらゴールは近いみたいだぞ。」
堂本がそう言って指差したのは扉だった。
克己達がその扉を開けるサブタワーの中心部でありそれを操作する
「ようこそ、侵入者諸君。
誰が来るかと思っていたがまさか、NEVERとはな。」
「俺達の事を知っているのか?」
克己の問いに天十郎は答える。
「無名が持つ戦力の中でも一際強い集団だ当然だろう?
風都タワーが占拠された時や獅子神の一件....無名が事を起こす時には全て関わっている。
危険視するなと言う方が無茶な話だ。」
天十郎はそう二人を分析する。
「だか、ガイアインパクトが始まった今となっては貴様らも私の敵ではない。
このタワーに供給されるエネルギーを使えば負ける心配はないのだからな。」
「随分と余裕をかましてくれるな。
俺のメモリの力を忘れた訳じゃないだろう?」
「エターナル....ガイアメモリの力を停止させるメモリか。
確かにその力は強力だがなら何故、お前は若菜様に敗北したのだ?
その力でクレイドールの力を無効化すれば良かったのに.....いや、出来なかったのだろう?
だから、お前は敗北した。
つまりはこう言うことだ。
エターナルメモリが無効化出来るのは"メモリに内包された力"のみだ。
若菜様の様に地球の本棚から直接、力を引き出した能力や地球の力を内包したエネルギーは無効化出来ない。」
「私の身体にはタワーから直接、地球からのエネルギーを供給している。
分かりやすく言えば今の私は若菜様と同質の力が使えると言うことだ。
この力があれば貴様らを処理するのも容易い。」
天十郎は手に持った塔の形をした槍で地面を打ち付けるとそこからエネルギーが波のように広がり空間を満たしていくとエネルギーの膜を張り堂本と克己そして天十郎を覆った。
「これは?」
「私のエネルギーで作り出したフィールドだ。
この塔を守る事が、私の仕事だからね。
この内部で行われた攻撃が外に漏れることはない。
さぁ、これで存分に戦えるぞ大道克己....早く変身したまえ。」
天十郎はそう進めるが克己はドライバーを腰に着けようとしない。
「どうした?
まさか、怖じ気づいたなんて事はないだろう。
早くエターナルに変身しろ。」
(コイツ....分かって言っているな。)
克己が次、変身したら死ぬことは若菜により伝えられていた。
だからこそ、そこをついた挑発を天十郎は行う。
「やれやれ....変身すら出来ない雑魚がこの場所に来るとは場違いも甚だしいな。
だから、貴様は若菜様に敗れ死にか....」
天十郎の話を堂本がメタルシャフトを地面に突き立てた轟音が遮る。
「お前は何か勘違いしてるようだな?」
「勘違いだと?」
「お前の相手を克己がする訳が無いだろう?
端役の相手は俺で十分だ。
だからこそ、俺が来たんだからな。」
「私が.....端役だと?
どうやら君達は調子に乗っているようだな。
若菜様がいなければ私が端役になると思っているとは....良いだろう。
そのつまらない挑発に乗ってやる。
大道 克己を始末する前に先ずは貴様からだ。」
天十郎はそう言うと堂本に向けて槍を構える。
「先手はくれてやる。」
天十郎の言葉を受けて堂本はメタルシャフトを天十郎に向けて振るった。
その攻撃を天十郎は持っていた槍で防ぐがその衝撃で身体が後退する。
堂本は息つく間を無くメタルシャフトを操り攻撃を仕掛けていく。
その攻撃の苛烈さから天十郎は防戦一方となっていた。
「くっ!...」
「武器の使い方は熟しているみたいだが戦い方が未熟だな。」
「嘗めるなっ!」
天十郎が槍で堂本を突こうとするがメタルシャフトでいなすとそのまま天十郎の腹を打ち据えた。
「ぐふっ!」
「お前では俺には勝てない。
直ぐに終わらせてやる。」
堂本は腹部を抑えている天十郎に警戒しながらメタルメモリに手を触れようとするが突如感じだ背後の違和感にメタルシャフトを振るった。
すると、ガキン!と言う音と共に背後に現れた天十郎の攻撃を防いだ。
「なっ!どうやって移動した?」
「移動などしていない。
ただ、別の時空の私がそこにいただけだ。」
「何っ!」
堂本はその声に驚き振り向くとそこには槍を堂本に振り下ろす天十郎がいた。
堂本は無理やりメタルシャフトを引き抜き攻撃を防ぐがバランスを崩して倒れてしまう。
「拍子抜けだな。
まだ能力を一つしか使ってないのだがな。」
そう言う天十郎の腹部に当てた筈の傷が存在していなかった。
(一体、どういう能力だ?
分身....いやそんな力じゃないもっと別の何かだ。)
「ほぅ...."分身で無い"と気付くとは目が良いな。」
「!?」
堂本は考えが読まれていることに驚く。
「"思考を読む力もあるのか?"と考えているな。
その答えはNoだ。
私のメモリの力はそんなに"弱くない"。
まぁ、良いだろう。
このまま隠してはお前達があまりにも不利だ。
お前達にハンデをやろう。
私の能力を教えてやる。
タワーメモリは塔に蓄積されたエネルギーを利用して特殊なフィールドを生成する。
そのフィールド内で流れる時間を操作するのが私の能力だ。
まぁ、通常の状態ではその程度の力しかない。
だが、今の私はタワーを通して地球のエネルギーを直接、供給している。
エネルギーの純度と質が変わり私は時空間を操る力を得た。」
「時空間だと!?」
「その通りだ!
多元宇宙に並行世界.....私のメモリはそこにすら干渉できる。
お前を背後から襲った私は並行世界に存在する私だ。
長時間の呼び出しは並行世界の崩壊を起こしてしまうから短い時間しか呼べないが皆、私に協力してくれているよ。」
そこまで説明を受けて克己は最悪な推理をしてしまう。
「並行世界に干渉できるならば.....もしや!?」
「気付いたか?
私は今も起こっている並行世界の時すら見ることが出来る。
お前達の行動も並行世界で起こった事象をなぞっただけに過ぎない。」
「お前達が起こそうとしてる"計画"も私は知っている。」
「「!?」」
その言葉に堂本と克己は動揺した。
天十郎の言うことが本当なら無名の計画は全てバレておりガイアインパクトを阻止することが不可能となってしまう。
これを言われ堂本の表情には焦りが出るが克己は直ぐに冷静になり天十郎に言った。
「"嘘"だな?」
「私がお前達に嘘をついていると?」
「いや、未来を見ているどうこうの話しはある程度はあっているのだろう。
だが、ずっと見てきたのは嘘だな。
本当なのだとしたら俺達がサブタワーに突入する前に仕留めなきゃおかしい。
それにそんなに強い力なら最初から使えばよかったのにしなかった。
条件があったから使えなかったんだろう。
違うか?」
その言葉を受けて天十郎は笑う。
「ほぉ、家の愚息よりも頭は回るみたいだな。
その通りだ....私がこの力を手に入れられたのは若菜様がガイアインパクトの為に地球に穴を開けそのエネルギーをサブタワーに行き渡らせたからだ。
つまりそれ以前の並行世界は見れない。」
「随分と簡単に種明かしをするんだな。
メモリの能力なら隠すのが普通だろう?」
「さっきも言っただろうお前は頭が回ると....どうだ?
無名なんぞを切り捨てて私の元に来ないか?
何なら仲間全員、面倒を見ても良い。」
「どういう風の吹き回しだ?」
「若菜様がガイアインパクトを成功させて人類が新たな種へと進化した時、それを統治する者が必要だ。
それは巫女である若菜様では出来ない。
となれば出来る者は限られてくる。
何故ならこの地球から来るエネルギーを扱えないといけないからなぁ。」
そこまで聞いた克己は天十郎の目的を理解する。
「成る程、お前はガイアインパクトが成功した後の世界の王になりたいわけか。」
「そうだ。
私の元に来ると言うことはこの世界を管理する側に回れる。
お前の身体も地球のエネルギーがあればどうとでもなる何なら不老不死にでもしてやろう。
エターナルの力があれば人を導く存在として申し分無い。」
克己はその言葉を受けて沈黙する。
そして、天十郎に尋ねた。
「お前に聞こう.....お前にとって生きる意味とは何だ?」
「"自分の存在を高らかに示す手段"....それだけだ。」
それを聞いて克己は理解した。
「漸く分かった。
お前は"過去の俺"だ。
改良前の酵素のせいで記憶を失い明日にしか目を向けられない"哀れだった頃の俺"だ。」
「何だと?」
「お前の話す未来には希望を感じない。
人類を新たな存在に進化させてそれを統治する?
そんな誰も望んでいないことをさも世界の為の使命の様に語るアホに付き合う気はない。
.....それ以上に、自分の子供を愚かと称する貴様に付いていく者など誰もいない。
"自分の子すら切り捨てて見ている貴様に他人を導ける訳がない"。」
「.....つまりは拒否と言うことか。
能力は優秀だが所詮は愚かな人間か。
世界を手に入れられるチャンスをふいにするとは.....」
「生憎、世界なんて物には興味がない。
俺が欲しいのは"未来"だ。」
「死ぬ定めしかないお前が未来だと?
笑わせるお前の未来など死しか無いだろう。」
そう言って克己を笑う天十郎を克己は哀れむ。
「俺の未来をその程度の考えでしか見れないならお前は王になんて到底なれない。
お前よりも無名の方が何倍も人を理解している。
やはり、端役は端役だな。」
その言葉に天十郎の目の色が変わる。
それは克己に対しての関心が全く無くなった事を表していた。
「黙れ....愚者は愚者らしく無惨に死ね。」
そう言われ克己は笑う。
「愚者か....だが知っているか?
人は愚かだからこそ知恵をつけ生き残ってきた。
愚者が人の歴史を進めてきたんだ。
それに、俺は愚者じゃない死神だ。
死神のダンスパーティで踊る準備は出来ているか?
地獄を楽しませてやるよ。」
克己がナイフを抜くのに合わせて堂本もメタルシャフトを構え直した。
「行くぞ!」
克己の声と共に二人は天十郎へと向かっていくのだった。
Another side
ガイアインパクトが起こる前、克己はミーナと会っていた。
NEVERの面々とは話し合いを終え曲がりなりにも克己の考えを理解して貰った。
そこで俺は改めてミーナと話しをした。
「ミーナ、どうして妊娠について黙ってたんだ?」
「.....私は克己がどうしたいか分かってた。
だから尊重したかったの貴方の思いを.....」
「それは超能力を使ってか?」
「.....ふっ、言わなくても分かるでしょう?」
ミーナは超能力なんて使ってない。
ミーナはもう何も言わなくても克己の考えが分かっていたのだ。
「子供が生まれたらどうするんだ?」
「
だから安心して行って来て.....仮面ライダーとして」
ミーナはそう言って何とか笑顔を浮かべていた。
最初に出会った頃はずっと苦しい顔を浮かべていた。
ドクタープロスペクトに仲間の命を握られ生きていた時は笑顔なんて出来なかった。
だが、俺達がプロスペクトを倒して仲間と共に自由になったミーナはよく笑うようになった。
その笑顔に惹かれて俺は彼女が好きになった。
それから色んな所に行って色んな顔を見た。
風都でデートしたことを思い出す。
心から幸せだと思っているが故の笑顔.....
だが、今は無理矢理笑っていた。
悲しみが漏れないように伝わらないように....そうさせているのは俺だ。
俺の決断がミーナを悲しませている。
でも....だからこそ伝えないと行けない。
「ミーナ.....俺が戦う理由は仮面ライダーだからだけじゃない。
産まれてくる子供が今のこの世界よりもマシな姿を見せてやりたいんだ。」
ドーパントが溢れ犯罪が横行する今の風都.....きっと俺達が戦わなければこの闇は世界に広がっていく。
「俺の力がそれを止めて世界が今より少しでも綺麗になるなら、そこに産まれてくる俺とミーナの子は幸せに生きられる.....いや"生きさせたい"。
だから、戦う。
父として仮面ライダーとして....それが俺に出来る数少ない事だと思ったからだ。」
そう言うと克己はミーナを抱き締める。
「お前に辛い想いをさせる。
だが、約束しよう。
この先、ミーナ達が生きていく世界を含めて俺が守る。
俺の全ての力を使って守って見せる。」
その言葉を聞いたミーナは涙を克己の肩で涙を流した。
今まで塞き止めていた感情が溢れ涙となって落ちていく。
一頻り、無き終わったミーナは克己に言った。
「克己、お願いがあるの。
産まれてくる私達の子の名前を決めてくれない?
貴方の覚悟が揺れてしまうと思って聞けなかったけど聞いておきたいの.....」
そう言われた克己は笑う。
「実は子供がいると聞いてからずっと考えてたんだ。
俺とミーナの子に相応しい名前を.....」
克己はミーナにその名を告げた。
それを聞いたミーナは笑顔で言った。
「克己らしい良い名前ね。
行って来て、私達の子の為にも......」
「あぁ、産まれてくる大事な子の為に....」
ミーナは克己とのやり取りを思い出しながら一枚の便箋に触れる。
これは克己が産まれてくる子の為に残した直筆の手紙だった。
自分が触れることの出来ない愛する子の為に残す大切な物....そこには克己が名付けた名前が書かれている。
そこを愛おしく撫でながらミーナは克己の無事を祈る。
そこには産まれてくる子への名前が書かれていた。
"俺の愛する子.....
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第二百十八話 Mの進軍/玉座の王
「なっ!?どうなってるんだ?」
『落ち着け翔太郎....恐らく空間をねじ曲げて僕達を移動させてるんだ。』
「そして、そんな事が出来るのは一人だけですね。」
無名がそう言い終わると空間の歪みが消えて風都第二タワーの中心部へと二人は転移させられた。
目の前には大きな機械と玉座....そして、そこに座る
「ようこそ、この世界が変わる最高の舞台へ来てくれて私は嬉しいわ来人それに無名。」
「若菜姫。」
『姉さん....もう止めるんだこんな危険なことは....』
「あら、何を言ってるのかしら?
私は人類を進化させる巫女なのよ。」
『違う!....貴女がやろうとしてるのは人の尊厳を踏みにじる行為だ。
まだ間に合う....タワーの装置を止めて開いた穴を閉じれば....』
そこまでフィリップが言うと若菜のプレッシャーが強くなる。
「何を言ってるのかしら来人は......
ガイアインパクトはお父様....ひいては人類が迎える最高の偉業なのよ?」
この言葉に無名が反論を唱える。
「偉業....ですか。
人類を予想出来ない怪物に変えることが偉業になるのですか?」
「ふふっ!それではデータ人間となった来人やゴエティアのスペアとしている貴方達も人間じゃない事になるわね。
無論、私もそうだけれど......」
「貴女は、それが分かった上でガイアインパクトを始める気なのですか?」
「勿論。
ゴエティアによって私の身体が超越者へと完成していく中で幾つもの人類が犯した罪を見てきたわ。
そして、理解したの....今のこの愚かな人類が生き残るには種としての存在を完全に捨て去り新たな高次元の存在に進化するしかないとね。」
「その為に....一体、何人を犠牲にするつもりなんですか!!」
その言葉を受けて若菜は笑う。
「うふふふ!安心なさって無名。
これ以上、犠牲になるのは後、"一人"だけですから....」
そう言って笑いながらも若菜の目は恐ろしい程に冷たいことに二人は気付いていた。
一方、サブタワーでは
「はぁ!」
堂本のメタルシャフトから繰り出される剛撃を天十郎は余裕も持って捌いていく。
「無駄だ、お前達の動きは既に見切っている。
並行世界を操る私の前では無力だ。」
天十郎の言う通りで堂本と克己の攻撃はその全てが天十郎に届かず、逆に天十郎の攻撃は二人にダメージを与えていた。
「ぐっ!ならばこれはどうだ!」
堂本がメタルメモリを抜くとドライバーのマキシマムスロットへ装填する。
「METAL MAXIMUMDRIVE」
「うぉぉぉぉ!!」
メタルメモリのマキシマムにより全身の硬度が極限まで上がった堂本は飛び上がると全身を一つの砲弾に見立てて天十郎に向けて高速落下した。
「速いが避けられない程ではないな。」
天十郎はそう言うと堂本の落下を余裕を持って回避する。
「避けられるのは予想通りだ!」
堂本はそう言うと今度は落下によって発生した衝撃波が天十郎を襲った。
「なっ!?」
天十郎は衝撃波を受けて全身が浮き上がる。
「その状態では攻撃の回避は出来ないだろう。」
堂本はメタルシャフトを握ると浮いている天十郎に振り下ろした。
「堂本、奴が後ろにいる!」
克己の声を受けて背後を見るとそこには槍で堂本を突き刺そうとしてる天十郎の姿があった。
堂本はギリギリのところでその槍を回避し距離を取った。
「背中を貫くつもりだったが、流石は傭兵だ身のこなしが良い。」
だが、完全には避けられなかったようだな。」
天十郎の言う通り堂本の左肩には天十郎から受けた槍の傷が残っている。
すると、その肩の傷がゆっくりとだがデータとして崩壊し始めていることに気付く。
「これは!?」
「私の槍には地球のエネルギーで作られた崩壊の因子が付与されている。
槍に触れたら最後、そこから肉体がデータ化して消滅する。
普通なら触れた箇所から直ぐに侵食が始まり消える筈だが....メタルメモリの力がそれを阻害しているらしいな。」
その言葉を聞いた堂本はまだデータ化してない左肩をメタルシャフトで抉り削った。
「......くっ!」
左肩を抑える堂本に天十郎は感嘆の声を上げる。
「素晴らしい精神力だな。
確かに、データ化を防ぐには攻撃された患部を切り離すのは間違いじゃない。
だが、分かっていてもそんな簡単に出来ることじゃない。
君達、NEVERは私が考えているよりも"優秀な駒"の様だな。」
その言葉を聞いて堂本が冷たく答える。
「駒か。
随分と傲慢な考えをしているんだな?」
「あぁ、私の言い方を不快に思ったのなら訂正しよう。
私とお前達では生きてきた世界と立場が違う。
お前達は傭兵として自分の価値を示し私は政治の世界で価値を示した。
君達は戦場では英雄になれるだろうがこの町では単なる力を持った集団に過ぎす、私はそんな集団を指揮する立場にいる。
つまりは駒として扱えるんだよ。
現に私はこの風都で駒を動かし町を豊かにした。」
「豊か?....ガイアメモリをばら蒔き沢山の犠牲者を出したのにか。」
「だから、対抗策として対ガイアメモリ部隊を設立し過度な犯罪を抑止した。
そして、ガイアメモリの販売により結果的に風都の経済は潤った。
犯罪に怯える物はメモリやそれに対抗する防犯策を練り金を使った。
知っているか?
これによって最も金を使ったのは風都に住む富裕層だ。
そして、その金は風都をより良くする為に使われた。」
「結果的に良くなったとお前は言うのか?」
「その通りだ。
何か間違ったことを言っているか?」
「あぁ、"間違っている"。
お前ら役人の悪い癖だ。
自分本意でしか考えられていない。」
生前の堂本はかつて森の動物を守るために森林開発を中止させようと動いていたがそこで開発企業の人間に襲われて命を落とした。
故に堂本は他の誰よりも理解しているのだ。
人間の持つ傲慢さと非道さを......
人は自らが生態系の頂点にいる者だと勘違いしている。
知識の生身の人間が山に放たれたら簡単に捕食され命を奪われるのにそれを理解せず文明の利器を使い人間に置いて都合の良い地球に作り替え続けていた。
その結果、一体いくつの生物や命が犠牲になったか分からない。
「人間は地球の支配者じゃない。
共に生きる一つの種なんだ。
それを忘れているからお前達はそんな言葉が吐けるんだ。」
「ほぉ....面白い論理だ。
だが、お前は勘違いしている。
我々はもう人間等という下等な種から進化する。
そのくくりに入れるのは止めて貰おうか。」
「!?....お前は人としての尊厳すら捨てるのか。」
「それが進化の代償なら安いものだ。」
「お前は危険だ。
ここで俺が始末する。」
「出来ないことは言うものではないぞ?
私の攻撃は一つでも当たれば殺せる必殺の一撃だがお前はただ、身体を硬くするしか能がない。
そんな貴様が私に勝てるとでも?」
そこまで優越感に浸りながら話していた天十郎の表情が歪む。
「......大道 克己は何処に行った?」
「........」
「答えろ...奴は今何処に!?」
そう言い掛けた瞬間、タワーに謎の衝撃が起きる。
天十郎がタワーにダメージが及ばないようにフィールドを張った筈なのに起こった衝撃.....これこそが天十郎にとっての答えだった。
「貴様らぁ....どれだけ私を不愉快にしたら気が済むんだ!」
天十郎は怒る何故ならこの時に天十郎が並行世界で見た未来の記憶は全てのサブタワーを破壊する仮面ライダーエターナルの姿であったからだ。
堂本と天十郎が話を進めている頃、克己はエターナルメモリに触れながら天十郎が仕掛けたフィールドに触れる。
(やはり、攻撃さえしなければ触れても害は無さそうだ。)
克己はフィールドに触れながら意識を集中する。
(皆.....頼む。)
克己の願いを受け取る様に触れているフィールドに精神波が流し込まれていった。
この精神波はクオークスが生み出した物で元々はガイアインパクトの際に空けられた穴の調べて塞ぐ為の策だった。
克己の首には遠隔でクオークスの精神波を通す装置が付けられておりこれでタワーに発生したフィールドへの干渉を行っていた。
尚、この作戦に参加しているクオークス達はミーナやマリアとは別の場所である風都のビルにいた。
彼等はガイアインパクトを止め無名やフィリップを救いたいという思いに賛同した者達だ。
この作戦を説明する時に無名は教えてくれた。
「この装置でNEVERの因子が残る克己さんを媒介にしても地球のエネルギーを受けてしまえば命に影響が出ます。
もしかしたら全員死ぬかも知れません。
....だから!」
そこまで良い掛けた所で作戦に参加を決めていたヴィレッジのメンバーだったチョウさんが言った。
「無名様.....いや無名くん。
私達は君に感謝しているんだ。
プロスペクトの元に連れてこられてからの人生はとても辛く苦しいものだった。
実験動物として扱われ使えないと言われれば処理される毎日....君と克己くんはそんな地獄から私達をすくい出してくれた。
若い者に知識を与え生き抜く力をくれた。
私達、年老いた老いぼれにも仕事をくれ生きる意味を見せてくれた。
そして、ミーナに子供が出来た。
実験動物として作られたクオークスである私達に未来が出来たんだ。
だからこそ、私達は君に恩返しがしたい。
若い君達が死んで平和になる世界なんて認めたくない。
その運命を変えられるのなら私達は喜んで命を賭ける。
無名くん、だから簡単に自分の命を犠牲にしようとしないでくれ。
君に生きて欲しいと願う我々がいるんだから.....」
そう言って作戦に参加してくれたクオークスのメンバーの任務はガイアインパクトの始まりの察知とサブタワーに供給されているエネルギーの道を繋ぐ核の発見だった。
後者に関しては直接、タワーのエネルギーに触れて調べないと行けない。
自分の魂を精神波に変えてタワーに送り込み核を見つけ出す。
それがどれだけ危険な事か考えなくても分かる内容だった。
克己により精神波になったクオークスの面々はタワーのエネルギーへと吸い込まれていく。
地球のエネルギーとは膨大な情報で出来た激流だ。
触れただけで精神が削り取られ魂ごと消滅してしまう空間に入ったクオークス達の魂は次々と消滅していき肉体もそれに応じて死を迎えていった。
この空間ではあらゆる苦痛や恐怖も共有される。
生き残ったクオークス達は死んだクオークスが味わった痛みと恐怖に耐えながらも前に進んでいく。
声を上げれば消滅してしまう程の強い力を受けても尚、耐えて前に進んでいく。
チョウさんの魂もネジ切れ潰され切り刻まれあらゆる痛みから自分の意思すら忘れてしまいそうになる。
しかし、そんな中でも彼等の頭には"未来"と言う言葉だけ残っていた。
(ノコッタモノノ.....ミライノタメニ....)
言語能力すら消失していく中、彼等は進み漸く求めていた道を見つける。
そして、自分達の残った魂を使いそこに印を付けると全てのクオークス達の魂が消滅した。
(ミ.....ライ.....ヲ.......)
克己は装置を付けているため彼等の感情を感じることが出来た。
最後にチョウさんの魂が残した言葉「"未来を"」....
続く言葉をいう前に消えてしまったが克己にはその続きが理解できた。
「分かってる....お前達も想いも俺は背負っていく。」
想いを受け止めた克己はエターナルエッジを取り出すとメモリを装填する。
「ETERNAL MAXIMUMDRIVE」
皆の想いが籠ったエネルギーが刃に集まり研ぎ澄まされていく。
克己は皆が残してくれた印を見つめる。
そこに向けて克己は勢い良く刃を振るった。
刃から放たれたエネルギーの斬撃は天十郎の生成したフィールドに当たる。
その姿を見た克己が吠えた。
「うぉぉぉあああぁ!!届けぇぇぇ!!」
その想いが届いたのかフィールドを貫通したエネルギーがタワーを抜けていく。
その斬撃によりタワーに亀裂が入りそこから穴が空き崩落が始まった。
克己は崩落する瓦礫を使い器用に昇っていくとタワーの頂上へと進んでいった。
頂上にはエネルギーを供給するサブタワーのアンテナが立っていたが先程の斬撃で亀裂が入りエネルギーが漏れ空を緑色のエネルギーが覆う。
克己を追う様に現れた天十郎は怒りの表情をする。
「貴様ぁ....私のタワーに何ということを
だが、それでも無意味だ。
エネルギーが漏れたのなら塞げば良い。
その程度の量ならタワーに蓄積されたエネルギーを使えばどうとでもなる。
お前の行動は無意味だ。」
「無意味か....確かにここで終わりならな。」
そう言うと克己はエターナルメモリを抜き手に持つと起動した。
「ETERNAL」
起動したエターナルメモリを克己はロストドライバーに装填した。
「まさか、変身するつもりか?
無駄死にするだけだぞ?」
「無駄かどうかなんてお前に分かるわけがない。」
「いいや、分かる。
これから先の未来を並行世界で見てきた。
お前の考えなどお見通しだ。
エターナルメモリのマキシマムを使って塔の機能を停止させるつもりなのだろう?
それは失敗する。
塔のエネルギーを使えばエターナルの力を封じ込めるなど雑作もない。」
そこまで聞いて克己が天十郎に尋ねる。
「天十郎、お前が見ていた並行世界には無名はいたか?」
「どういう意味だ?
何故、彼の名前がここで出てくる?」
その問いは天十郎が見てきた世界の中には無い選択だったからだ。
「無名の中にいるのはこの地球の歴史を書き換えられる程の力を持った悪魔だ。
そいつによってこの世界は何度も繰り返しているらしい。
まぁ、本人が言っているだけで俺達にはその自覚は無いけどな。」
「それが一体何の関わりがある?
仮にそうだとしてこの状況を打破出来るのか?」
その返答を聞いた克己は確信して笑う。
「やはり、お前が見ている世界には無名はいないんだな。
なら、お前にこの作戦を読むことは出来ない。」
「何だと?」
「無名にはお前の知らない
そんなアイツが立てた作戦だ。
だから、お前に看破することなんて出来ない。
教えてやるよ。
俺の目的はエターナルのマキシマムじゃない。
そんな"柔な事"を考えるわけがないだろう。」
「見せてやるよ。
無名が示した新たな可能性を.....変身。」
克己がロストドライバーを展開しエターナルへと変身する。
変身の影響で肉体の崩壊が始まっているのか克己の身体から粒子が散り始める。
そんな中、克己はエターナルメモリをドライバーのマキシマムスロットに装填する。
「ETERNAL MAXIMUMDRIVE」
そうして、克己は上空に漏れたタワーのエネルギーを吸収し始めた。
「エターナルメモリの持つ永遠の力を使い限界以上のエネルギーを吸収する。
そうすれば一時的に
「まさか、それで私を倒す気か?」
「さぁ、どうだろうな?」
克己が不敵に笑う。
それを見る天十郎だが、彼の見れる並行世界の選択肢には今の行動の未来に類似する現実を見ることが出来なかった。
(これを放置するのは不味い。)
天十郎は槍に崩壊のエネルギーを集約させる。
「お前は危険だ。
そのドライバー事、消滅させてやる。」
天十郎が槍を克己に向けるがそれを止めたのは満身創痍の中、外に飛び出した堂本のメタルシャフトだった。
「克己の邪魔はさせない。」
「死に損ないが....そこをどけ!」
天十郎は焦りから克己に槍を当てようとするが堂本がその攻撃をいなしながら止める。
(ならば、手数を増やすだけだ。)
天十郎が能力を使い克己の背後に並行世界の自分を呼び出し攻撃を加える。
しかし、その槍の攻撃を堂本は使えなくなった左腕を振るうことで防ぐ。
そのせいで堂本の左腕はデータと化し崩壊するが本人は気にせず本体の天十郎に攻撃を加え続ける。
「クソッ!」
「大体、5秒程度か。
お前の召喚能力で持続できる個体の時間は....そのくらいならば俺の身体を盾にすれば十分に間に合う。」
そう言い放つ堂本の目は正に自分の事を犠牲にしても目的を遂げようとする死兵の目だった。
それを本能的に知ったからか天十郎の動きに精細さが無くなる。
「私の邪魔をするなぁ!!」
振り下ろされた槍に合わせて堂本はメタルシャフトで回し受けをする。
そして、そのまま天十郎の腹にシャフトを突き立てた。
鈍い音と共に天十郎の身体が曲がる。
「お前は相手をはめるのは得意だが戦うのは苦手みたいだな。
大方これまで誰かを利用してでしか目的を達してこなかったんだろう。
だから、追い詰められた時に動きが鈍る。」
堂本の指摘の通り、天十郎はこれまで直接的な行動は全て、部下か灯夜を利用していた。
タワーメモリの全能性に溺れ自分で戦いを始めたが堂本の様に傭兵としての戦いや経験、覚悟はない。
自分の身体を犠牲にして攻撃を当てるなど天十郎には考えがつかず動揺してメモリの力を上手く使えなくなった天十郎など堂本の敵ではなかった。
堂本は克己を見つめる。
(もう少しかかるか。
なら、俺はコイツの足止めをするだけだ。)
「さらばだ克己。」
堂本はメタルメモリを抜きドライバーのマキシマムスロットに装填する。
「METAL MAXIMUMDRIVE」
残った右腕にメモリの力が集まる。
堂本は天十郎との距離を一気に詰める。
「正面から来るとは愚かなっ!」
天十郎は槍を正面に構える。
しかし、堂本はその槍を避けることはせず自ら刺さりに行った。
その結果、堂本の腹部を槍が貫通する。
だが、そのまま堂本は右手で天十郎の首を掴んだ。
「これで....逃げられないだろう?」
堂本の腹部はデータ化が進み崩壊し始めていた。
しかし、そんな事は関係ない堂本の目的は天十郎をここから"突き落とす"だけなのだから.....
克己が開けた塔の亀裂から堂本と天十郎の二人は落下していく。
天十郎は抜け出そうとするが首を掴んだ堂本の手が緩むことは無い。
塔の真下へと落下していく二人の速度は上がっていく。
そして衝突の瞬間、堂本は天十郎から手を離すと拳を握った。
「最後くらいそのいけすかない顔を殴らせて貰おうかっ!」
堂本は地面の激突の瞬間、天十郎の顔面を残った右腕で殴り付けた。
メタルのマキシマムも加わった一撃はドーパントになっていると言えど天十郎の顔を歪ませた。
その衝撃で飛ばされた堂本は地面に転がると変身解除した。
ドライバーを繋いでいた下半身がデータ化の影響により無くなった為だった。
元の姿に戻ったことでデータ化の速度が上がり堂本は消滅していく。
だが、消えていく堂本の顔に後悔はない。
(死人の悪足掻きにしては.....良い最後だったな。)
権力者に殺され傭兵になった。
NEVERの皆や無名と出会って....死後の人生の方が充実していた。
そして、最後には世界を守る為に戦い自分を王だと言う
......悪くない。
堂本は満足しながら空を見上げる。
そこには全身から緑色のエネルギーを放つ克己の姿が見える。
(頑張れよ....克己。
俺達の未来の為に.....)
堂本は笑顔で克己を見つめながら消滅するのだった。
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第二百十九話 Eの最後/天国と地獄
「さらばだ....克己。」
天十郎と共に落ちていく堂本を見つめていた克己は怒りを抑えるように歯を食い縛る。
(俺が不甲斐ないから仲間を犠牲にする策にするしか無かった。
俺がもっと強ければ.......もっと.....もっと!)
感情の高ぶりがメモリの力を強くさせる。
消え行く身体と未来への強い願い........
皮肉なことにこの二つが揃ったことで今の克己は原作の克己と同じ存在になった。
結果としてメモリは彼の願いを受け入れた。
26本のガイアメモリのマキシマムを使いこなせるポテンシャルが遺憾無く発揮される。
周囲を舞っていたエネルギーはエターナルへと吸収され遂にはサブタワーのエネルギーを全て吸い付くした。
エターナルの永遠の力は無尽蔵に近いエネルギーすら手中に置いた。
克己は気合いと共にエネルギーを解放させる。
「うぉぉぉぉあぁぁぁぁ!!」
解放されたエネルギーがエターナルの全身を伝う。
その姿は原作のAtoZの時に敵だった克己が最後に見せた姿とそっくりだった。
全身を覆うエネルギーは克己の身体を粒子に変える時間すら止めてしまう。
「この力ならば....いける。」
克己はサブタワーを周りにある二つのサブタワーを見つめる。
エネルギーの制御さえ出来れば後は簡単だ。
何故、サブタワーが3つもあるのか?
それは3つに分散しなければ安定できない程の強力なエネルギーを第二タワーが放出しているからだ。
第二タワーからのエネルギーを分割し3つのサブタワーが放出することで安定させているのだ。
もし、その全てのサブタワーの機能が反転したらどうなるのか。
サブタワーのエネルギーが第二タワーに逆流する。
元々"無理矢理"開けた穴だ。
エネルギーが逆流すれば穴は自然と閉じる。
流れが止まった水が平面に戻るように....そうすれば今起こっているガイアインパクトは止められる。
後は無名やWが何とかしてくれるだろう。
そう考えていると下からエネルギーが膨れ上がるのを感じる。
そして、克己の目の前にボロボロになりながらも這い上がってきた天十郎をの姿があった。
「はぁはぁ....余計なマネばかりしやがって.....何処まで私の邪魔をすれば気が済むんだぁ!」
天十郎は怒りのまま槍を振るう。
その槍を克己は片手で掴み止めた。
槍には肉体をデータ化させるエネルギーを纏っていたが今の克己には全く効かず槍を握り続けている。
「バ....カな....!?」
絶句している天十郎を見ながら克己は槍を握り潰す。
「無駄だ。
今の俺はお前と同じくこの地球のエネルギーを使える。
データ化させる力も効くことはない。」
「だっ....だが私のタワーメモリは塔から直接エネルギーを供給できる。
私のエネルギーの方がお前よりも純度が高く強い筈だ。」
「俺のメモリはエターナル....永遠を司るメモリだ。
例え地球から産み出される膨大なエネルギーだとしても俺の永遠に終わりはない。」
克己から放出されるエネルギーを見た天十郎は理解した。
自分の操るエネルギーよりも純度が高く強いことに....
だが、その真実を天十郎は認められない。
「ふざけるなぁ!私は王なのだ!
進化した人類を導く統率者となるべき存在なんだ!
そんな私が負ける?....傭兵無勢に?
嫌だ....認めない...認めてなるものかぁぁ!」
天十郎は槍から手を離すとタワーから複数の槍を生成し克己へ放ち続ける。
克己は回避する様子もなく手を翳すと槍が克己の前で止まり粒子となって消えてしまった。
「もう、お前では俺には勝てない。
これまでのケリを付けてやる。」
克己はマキシマムのエネルギーを解放する。
克己の周囲に緑色のエネルギーが放出されそれがエターナルエッジに集約している。
集められたエネルギーが折り重なり緑から白色へと変わっていく。
そして、克己は飛び上がると回転しながらエターナルエッジを振るった。
エターナルエッジから放たれた3つの斬撃は3つのサブタワーに直撃した。
それにより三つのサブタワーは機能を停止してしまう。
そして、克己は持っていたエターナルエッジを天十郎に投げ付けた。
天十郎はそれを防ごうとバリアを貼るが破られてしまう。
天十郎は破られた側から新たなバリアを貼り続ける。
何枚ものバリアを破ったエターナルエッジは天十郎の胸の前で止まる。
何とか耐えた.....そう思った天十郎は克己の姿を見て絶望する。
何故なら、克己はエターナルエッジに向かい空中からキックを放ったからだ。
克己のキックはエターナルエッジに向かう。
天十郎はそれを防ごうと全てのエネルギーを使う。
しかし、そのエネルギーを貫きエターナルエッジに蹴りが当たると最後のバリアを砕き天十郎へと直撃した。
その威力は凄まじく二人はタワーから地面に向けて急降下すると激突した。
地面のコンクリートが砕け克己の足の下にはタワーメモリを砕かれ絶望の表情のまま意識を失う天十郎の姿があった。
天十郎のメモリが砕けた瞬間、サブタワーから爆発音が鳴った。
機能が完全に停止しエネルギーが逆流したのだと理解する。
「はぁ....はぁ....やったか....」
克己は天十郎から歩いて離れる。
(後は....無名達に任せるだけだな。)
克己の終わりを示す様に全身を覆っていたエネルギーが消失していく。
それと共に身体の崩壊が再開した。
「克己っ!?」
自分の名を呼ばれ目を向けるとそこにはミーナがいた。
「ミーナ...どう...して!?」
「貴方が勝つのを見て....いてもたってもいられなくたったの」
「そう....か...。
ミーナ、俺はやったぞ。
完璧に作戦を....こな...した。」
そう言って倒れる克己をミーナが抱き締める。
「克己?...克己!!」
泣きながら抱き締めるミーナを見て克己はメモリを抜いて変身解除する。
「克己?」
「ミーナ....ありがとう。
俺の我が儘を聞いてくれて....最後まで....仮面ライダーでいさせてくれて....すまない。
君と生きる未来を....産まれてくる子を見ずに死ぬことを....許してくれとは言わない。
こんな事を....言える立場じゃないのも....分かってる。
だが....それでも...俺達の子を頼む。」
「.....うん、任せて克己。」
「....ありがとう。
なぁ、ミーナ....消える時まで俺と話してくれないか?
死ぬなら....ちゃんと"覚えたまま"....死にたい。」
そう言うと克己はミーナと話し始めた。
二人と出会った日....一緒に過ごした時間について
仲間との思い出....フィリップや翔太郎...そして無名との思い出....
話していく内に二人の顔は自然と笑顔になる。
ミーナの涙も自然と収まり楽しかった記憶だけがその場に溢れていった。
「なぁ....ミーナ。」
「何?克己。」
「俺は.....幸せだった....」
「私も貴方に会えて良かったわ。」
「そう...か....ミーナ...お袋を...頼む。」
「分かってるわ。
未来と一緒に三人で生きていくから....」
「それなら....安...心..だ。」
身体がもう持たない。
克己の声も小さくなり聞き取ることすら難しくなった。
それでもミーナは耳を傾ける。
「......ミーナ。」
「何?....克....己..?」
「...愛している」
その言葉を言い終わると克己は目を瞑り身体が完全に粒子となり消えてしまった。
空へ舞う粒子を見ながら溢れる涙を堪えながらミーナは言った。
「"私もよ"....克己。」
克己に倒された天十郎は急な痛みに目を覚ました。
「こ....こは?」
目を覚ますとそこは風都第二タワーの地下にある装置の側だった。
「どうして...ここに...?」
立ち上がろうとするが身体が動かずに驚く。
「一体、何がどうなっているだ!?」
焦る天十郎に上から聞こえない筈の若菜の声が聞こえる。
『まぁ、天十郎が失敗することは分かっていたわ。
何せ彼には"分不相応な野望"があるのですから...
だからこそ、彼を使ったのだけど』
「どう言うことだ?」
『私が彼を側に置いたのはもう一度、"ガイアインパクト起こす"為よ?
そもそも、あの程度のガイアインパクトでゴエティアが満足するとでも?
最初の穴は呼び水よ。
急に開けられた穴を安定させて次の一撃に備えていたの
ねぇ?開けた穴を修復不可能まで広げるにはどうすれば良いと思う?
それはね"大きな異物"を押し込めば良いのよ。
その異物に反応して吐き出そうともがいて弾き出されれば穴は広がり大きくなる。
乱暴にやればやるほど大きく酷く広がるのよ。』
『だから、必要だったのよ。
"超越者じゃない普通の人間であり地球の力を蓄えたメモリを使う失っても何の問題もない人間"がね。』
そこまで聞こえた天十郎は若菜がやろうとしていることを理解し戦慄する。
「嫌だ!嫌だ嫌だ嫌だ嫌だぁぁぁぁ!」
天十郎は発狂して逃げようともがくが動くことが出来ない。
まるでその姿は死刑執行を待つ罪人の様に無様な姿だった。
「死にたくない!死にたくないぃぃ!誰かぁ!助けてくれぇぇ!」
天十郎は誰もいない地下空間でそう叫ぶがその声は誰にも聞こえない。
そんな彼の目の前にメモリブレイクされた筈のタワーメモリが現れた。
「ひぃ!嫌だぁ!死にたくないよぉぉ!私はっ!こんなところで!死ぬ存在じゃ無いのにぃぃ!」
天十郎は芋虫の様に這いタワーメモリから離れようとするがタワーメモリはゆっくりと彼の元へ近付くと彼の身体にメモリが入った。
彼の身体がタワードーパントに変わると全身を地球のエネルギーが覆った。
「ヒィィィィ!」
脅える天十郎を余所に彼の身体は地球の本棚を繋ぐエネルギーの流れの中に放り込まれた。
送られる直前、天十郎は手を伸ばした。
しかし、その手を掴んだのは自分が殺した"妻と秘書"....彼女らは絶望する私を嘲る。
天十郎は地球の底へと堕ちていく。
その中で見たのは赤い空間と黒で彩られた空間の中にいる"無名の姿"。
そんな彼が私を見てこう言った。
「ありがとう...これで私の願いが叶うよ。」
満面の笑みを私に向ける無名を見て私は息を吸うのも忘れた。
恐ろしいくも禍々しいその顔を見て私は声に鳴らない脅えた表情で言った。
「この....悪...魔....。」
そして、天十郎だった存在は地球の中心で解放され膨大なエネルギーの流れの中に放り込まれた異物として認識され肉体と精神の全てを破壊された。
その影響は凄まじかった。
例えるならウイルスに身体の免疫が過剰に反応してしまう。
そうすればどうなるか?
それによって傷口が広がってしまうとも知らずに.....
天十郎と言う異物は地球に修復不可能なレベルの傷を付けるのだった。
Another side
若菜との戦いは戦闘の形にすらなっていなかった。
無名は黒炎を纏わせた刀で斬りかかりWはルナトリガーによる援護射撃を行っていた。
だが、そんな二人の攻撃は若菜に届く前に停止し霧散するのだ。
黒炎とルナトリガーのエネルギー弾を無効化すると若菜は指をWへと向ける。
その瞬間、Wの手からトリガーマグナムが弾かれると身体が若菜の方へ向かっていった。
「ヤベッ!」
「そう簡単に奪わせはしないですよ。」
無名が黒炎のゲートを展開するとWの前に出し彼を自分の背後に転移させた。
それにより、若菜の力も解除される。
「全く、厄介なメモリですわね。
私は来人と話がしたいだけですのに....」
「話がしたいのならメモリを置いて武装解除して話しませんか?
次いでにこのタワーを出てカフェにでも行けば完璧でしょう?」
「あら、無名でもジョークを言うのですね?
それともミュージアムを出ている間に学んだのかしら?」
内容だけで見れば陽気な会話をしている二人だが無名は若菜への警戒心を加速させていた。
(おかしい。
彼女が本気を出せば僕達はもっと窮地に立たされている。
なのに通常形態のWと僕で戦えていると言うことは明らかに手を抜いている証拠.....だが、何故だ?
ガイアインパクトはミュージアムの悲願。
ゴエティアに洗脳された彼女ならば是が非でも達成したい筈なのに....)
そう考えていると若菜が笑う。
「二人とも顔が強張ってましてよ?
もっと楽になさって....まだ暫くは御話し出来る時間があるでしょうから」
その言い方にフィリップが尋ねる。
『姉さんそれはどういう意味?』
「あら?だって貴方達がNEVERを使ってサブタワーを破壊するのは分かっているんですもの.....
彼方の決着はあと少しと言った所かしら?」
「「!?」」
「随分と驚いているわね二人とも....まさか、宇宙の巫女になる私がそんな事すら見抜けないとでも?」
作戦が見破られていることに同様を示しつつも無名は一呼吸置いて話し出す。
「仮に知っていたのならどうして対策しなかったのですか?
今の口ぶりだとわざと見逃したと聞こえたのですが...」
「当たり前じゃない。
まぁ、天十郎が失敗することは分かっていたわ。
何せ彼には"分不相応な野望"があるのですから...
だからこそ、彼を使ったのだけど」
「使った?」
「あの男はガイアインパクトが終わった後の世界で王になるつもりだった。
尊大な夢物語だけどガイアインパクトは全人類の為の偉業よ。
そこにそんな不純な考えを持たれては困るわ。
だけど、彼のミュージアムに置いての功績もバカに出来ない。
だから、彼には役目を与えたのガイアインパクトの要となる重要な役目をね。」
そこで若菜が話し出した内容はとんでもない物だった。
『異物である人間を地球のエネルギーと繋がる穴へ落とす?....そんな事をしたらどうなるか姉さんなら分かるでしょう!?』
「えぇ、異物を追い出そうと拒否反応を起こし広げられた穴が更に大きく開くのよ。」
「バカな!そんな事をすれば地球を修復出来なくなる。
ガイアインパクトを起こす前に地球が破壊されてしまう!!」
「いいえ、そうなる前に私たちが融合すれば良いのよ。
一人だけだったら無理だったけど無名とゴエティアがいれば地球が破壊されることはないわ。」
事の重大さに焦るWと無名を余所に若菜は笑う。
「それにもう"手遅れ"よ。
彼方の決着はついた。
サブタワーの機能が停止し分けられていたエネルギーがメインタワーへと帰るそのタイミングで異物による爆発を起こせば完璧でしょう?
おめでとう天十郎はNEVERに敗北したわ。
でもね...この勝負は」
「私達の勝ちよ。」
若菜の勝利宣言と共に地下深くから凄まじい轟音と地震が起こる。
地震が収まるとこれ迄とは非にならないエネルギーがタワーを駆け抜けた。
許容量を完全に越えたエネルギーはタワーから漏れ出し地面を伝う。
タワーを中心に地面をひび割れの様にエネルギーの亀裂が走り抜ける
そして、大きく広がった亀裂は地球の本棚の奥深くのエリアまで到達していた。
突如、無名の身体に悪寒が走った。
声が出せない程の圧を翔太郎やフィリップも感じ取る。
「なっ!?...こ...れは...」
『ま...さか!?』
彼等は圧を受けた正体を知ることとなった。タワーに流れ込んだエネルギーが集約すると人の形を為していく。
型どり終わると緑色のエネルギーは光を収め中から一人の男か現れた。
服装や見た目は無名と全く同じだが唯一瞳の色だけ違う。
全てを飲み込み喰らってしまうかのような赤い瞳。
その目が彼がこの世界にいる事実をまじまじと二人に知らしめていた。
彼は二人に目を向けると笑顔で言う。
「この姿で会うのは初めてだな?
では改めて自己紹介をしよう。
私の名前はゴエティア.....地球最古の悪魔であり嘗ては超越者と呼ばれていた。」
ゴエティアの自己紹介を無視しながら無名は呆けたように言った。
「バ...カな....あり得ない。
何故、お前がこの世界に僕の身体を使わずに顕現できているんだ?」
「何だ?久し振りの再開なのに随分と寂しい事を言ってくれるじゃないか。
お前とは二人で一人の関係だったんだがなぁ.....」
「質問に答えろ!どうやってお前はこの世界に来れたんだ!」
「やれやれ、何時もの冷静さが見る影もないな。
だが、疑問を残したままにする方が気分が悪い。
良いだろうその質問に答えてやる。
単純な話だ。
天十郎の身体を使ったんだ。
奴がこちら側に堕ちてきた時を見計らい肉体の大部分データ化した。
無茶な賭けだったがお陰で私が表舞台に出る肉体が手に入った訳だ。」
「そんな.....」
「だが、選ばれたフィリップや無名の身体じゃないからね。
何れ拒絶反応が出てしまう...だからこうする。」
ゴエティアは両手にエネルギーを集めるとそこから"ガイアドライバーⅡ"とデーモンメモリを作り出した。
ゴエティアはドライバーをつけてメモリを起動する。
「DEMON」
メモリをドライバーに装填するとゴエティアはデーモンドーパントへと姿を変えた。
『そんな....まさか...』
「驚くのはまだ早いぞ.....XTREAM。」
ゴエティアがそう呟くとデーモンドーパントの身体は変わり胸から瞳のようなクリスタルサーバーが現れた"デーモンエクストリームドーパント"へと変わった。
「んなの反則だろうが。」
「反則?....得てして世界とは不平等で反則的なものだろう?
さぁ、ヒーローよ。
抗ってみろ....本当の絶望に」
ゴエティアはそう言って二人のヒーローを見つめる。
地獄の様な光景で彩られた絶望に彼等は立ちすくむことしか出来なかった。
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第二百二十話 Uの運命/地獄の裏側で
克己の危機を感じて飛び出したミーナを探しに行く為だ。
街には人が一人もいない。
風都署が厳戒態勢を敷き市民を一時的にこの街から隔離した為だ。
残っているのは疎開が間に合わなかった市民と警察官そしてミュージアムと仮面ライダーのメンバーだけ.....
車椅子を走らせていると地面にしゃがみこむミーナを見つけた。
「ミーナ!!」
マリアは彼女に近付く。
彼女の手には克己が着ていたNEVERのジャケットが握られていた。
「克己は?」
マリアの問いにミーナは涙を浮かべた目で首を横に降った。
「....そう。
ミーナ、悲しいのは分かるわ。
でも、貴女が死んではダメ。
お腹の子の為にも.....」
そうしてマリアは泣いているミーナを立たせるとセーフハウスへと戻るのだった。
時同じく氷川はボロボロな装甲を纏いながらも瓦礫に埋もれている灯夜を助けようとしていた。
「灯夜さん!しっかり....死んではダメです!」
何故、灯夜と氷川が無事だったのか?
それは灯夜がチェスメモリの最後の力を使ったからだ。
爆発しようとするクイーンドーパントを見た氷川はどうにかしようとあがいていた。
だが、先程の戦闘でアギトシステムは愚かG3Xも戦闘続行が不可能な程のダメージを受けていたのだ。
もう駄目だ。
そう感じた瞬間、灯夜が立ち上がった。
「灯夜さん...」
「氷川さんでしたよね?
貴方は
「
その言葉を発した灯夜の身体か"ビショップのエネルギーシールド"が現れると氷川と爆発しそうなクイーンドーパントを覆った。
そして、空中に"ナイトの槍"を浮かべると"ルークのミサイル"を取り付けて放つ。
その槍はシールドごとクイーンドーパントに当たるとその推進力でクイーンを遠くへ弾き飛ばした。
そして、爆発の瞬間に灯夜は"クイーンの衝撃波"を自分も放ち氷川の身を守りきったのだ。
チェスメモリの最後の駒である"キングの能力"....それは全ての駒の力を使いこなせる事だった。
この能力により灯夜は爆発から氷川を守ることが出来た。
しかし彼を守ることを優先した為、自分の身体へのダメージはもろに受けてしまい灯夜はメモリブレイクしてしまった。
そのまま、崩壊する工場の下敷きになり氷川は彼を助ける為に倒壊した工場の瓦礫を退かしていたのだ。
何とか灯夜の右手と顔が見える隙間が空くと氷川は手を伸ばす。
「灯夜さん!捕まってください!」
しかし、灯夜は手を伸ばさない。
「氷...川..さん?生きてて...良かった。
早く...逃げて」
「ダメです!貴方も一緒に」
「"身体が...動かない"ん...です。」
「!?」
チェスメモリのキングの力は強力だがデメリットがありそれは一度に多くの力を使うと身体能力が著しく下がってしまうのだ。
今の灯夜は全身の感覚が一切無かった。
「そんな.....!?」
ここで氷川の身体にも異変が起きる。
氷川の全身が重くなり動きづらくなる。
(G3Xの活動限界が来たのか...)
氷川はベルトの上部にあるスイッチを押すと纏われていた装甲が外れた。
だが、生身の氷川では大量の瓦礫に埋もれた灯夜を助けることは不可能だった。
だが、それが分かっても氷川は止まらない。
生身のまま瓦礫を退かそうと努力する。
「もう....いい....貴方...だけ...でも....」
「ダメです!
貴方は事件の重要参考人だ!
そして、私は刑事です!貴方を見捨てる訳には行かない。」
懸命に氷川は灯夜に呼び掛けるが彼の声が聞こえなくなってくる。
(まずい....このままじゃ!?)
焦る氷川の前で驚くべきことが起きた。
積み上げられた瓦礫が突如として浮かび上がり倒れている灯夜への道が出来たのだ。
「これは?」
「早く行った方が良い。
この力を使うのは始めてだからイメージが固めづらいんだ。
余り長くは持たない。」
背後から聞こえた声に目を向けるとそこには
氷川は状況を鑑みて灯夜に一直線に向かうと彼を背負い瓦礫の山から救出した。
それを見終えナスカドーパントは地面から手を離すと瓦礫が落下した。
「助かりました....貴方は?」
氷川に尋ねられたナスカドーパントは答える。
「風都の仮面ライダーに憧れる一般人さ.....
それじゃ、私は行くよ。
彼の事を頼んだよ。」
そう言うとナスカドーパントは超高速でその場を後にした。
ある程度の距離まで離れると彼はメモリをドライバーから抜いた。
「ふぅ....慣れてきたと言ってもやはり負担が大きいな。」
メモリを抜いた霧彦は壁にもたれ掛かり休息を取る。
何故、彼が風都にいるのか?
それは無名からの依頼を受けたからだ。
「もし、ガイアインパクトが始まれば何の関係もない人にも被害が及びます。
ですから、霧彦さんにはそんな人達を助ける側に回って欲しいんです。」
「それは構わないが...
その間、雪絵はどうするつもりだ?
まさか、見捨てるつもりなのか?」
その問いに無名は答える。
「いえ、少し騙されて貰い風都から離れて貰います。」
その言葉を信用し霧彦は風都でガイアインパクトに巻き込まれた市民を人知れず助けていたのだ。
霧彦が上を見上げるとそこには巨大な光を放つ風都第二タワーが見える。
(街の象徴を世界を滅ぼす装置に変えるなんて許せない。)
霧彦は風都を愛している。
ミュージアムに所属していた時も無名に蘇生された今もそれは変わらない。
本当なら今すぐにでもタワーに乗り込み止めたい程に...
心を落ち着ける為、霧彦はナスカメモリを見つめる。
(俺があのタワーに行けば市民が犠牲になるかもしれない。
皆が街のために行動している
ならば、俺は俺に与えられた役目をこなす先ずはそこからだ。)
休憩を終えた霧彦はもう一度、ナスカドーパントになると風都の街を駆け抜ける。
溢れていく命を一つでも多く助ける為に....
後にこの一連の行動により助けられた風都市民からナスカドーパントの事を"風都の騎士"と呼ばれるようになるのはまだ先の話.......
Another side
「本当に良い性格してるわね
雪絵が苦々しい顔をして言った。
雪絵の目の前には芦原と黒岩の家族の姿があった。
何故、雪絵は彼女等と会っているのか?
理由は単純に無名の仕掛けた罠に引っ掛かったのだ。
冴子への復讐の為、無名達から離れた後、雪絵は冴子の居場所を探る為、情報屋を探した。
原作でも風都には街の情報に詳しい者が多数登場する。
ウォッチャマンやサンタちゃん等は翔太郎に事件の情報を売ってくれる情報屋の代表格だ。
そんな情報屋を探る中で雪絵が頼ったのは
情報の精度も高く裏の世界でも重宝されているらしい。
そんな彼への連絡手段はとあるネット掲示板に666の数字を刻むだけの簡単なものだった。
雪絵はネットカフェでそれを試した数日後に彼女の住んでいる仮のアジトに手紙が届いた。
中にはURLが入っておりそれをスマホに打ち込むと連絡がかかってきた。
その声はボイスチェンジャーがかかっており誰かは判別がつかない。
「アンタか僕の情報が欲しいのは?」
「えぇ、貴方が裏で有名な情報屋だと知ったからね。」
「それを知る為に暴力団の事務所をオシャカにして回ったららしいな?
随分と無茶をする女性のようだ。」
「そこまで分かっているのなら私の欲しい情報も分かるでしょう?」
「園咲 冴子の居場所....だろう?
勿論、その情報も掴んでいる。」
「流石ね....それでいくらかしら?」
「金は要らない....その代わりに一つ頼まれ事をしてくれるか?
ある家族の護衛をして欲しい。
君の事は護衛だと説明して置くから一度、会ってくれ」
その依頼を受けた雪絵は風都の中心地から離れた住宅街に来た。
そして、護衛対象である人物に接触した結果、今の状態となったのである。
詳しく話を聞くとどうやら、佐田と言う名は"無名"が使う偽名の一つらしく復讐相手を探している私に何れコンタクトを取るだろうと考えていたらしい。
だからこそ、初対面の筈なのに芦原と黒岩の家族は私について知っていた。
(佐田 南辺....ローマ字にすれば
....はぁ、少し考えれば分かることなのに失敗したわ。)
後悔したくなる感情を押し隠しながら二人の家族に事情を聴いた。
学校での事件の後、ずっと誰かに付け狙われている様に感じていた。
普通ならば気のせいで済むが両方の父親が無名に関わっている点から警戒を続けていた。
(一応、用心のために現在、黒岩と芦原家は大きめの家を借りて同居している。)
だが、一般人である自分達ではもし襲われたら何も出来ないと分かっていたので無名に相談をしていたのだ。
そこまで聞いた雪絵は取り敢えず1週間調査して何も無かったらこのまま帰ることを告げた。
いくら仕事とは言え彼女にとって優先順位が高いのが復讐だったからだ。
雪絵は兄について調べている時に培った調査スキルを使い探偵の真似事を始めた。
結論から言えば付け狙っている人物はいた。
それも複数。
一つはミュージアムの構成員。
しかし、構成員とは名ばかりの木っ端者ばかりだった。
ガイアインパクトが始まることを知りこのままでは自分達は捨てられてしまうと焦った一部が手柄を立てる為にこれまで無名に関わった部下について調べ上げたのだ。
そして、黒岩に辿り着き彼女等を襲い無名への人質にしようとしたらしい。
全く、三流の小悪党が考え付くような杜撰な作戦だ。
故に雪絵はさっさと片付ける道を選んだ。
奴等の使っているアジトを見つけ出すとスコーピオンドーパントになり強襲した。
相手も勿論、ガイアメモリを使っていたが奴等が使っているのは生産性の高いプロダクトメモリ。
シルバーメモリを操る雪絵の敵ではなくアジトにいた構成員は全員、雪絵の毒に侵され倒れ付した。
「ふぅ...これで全員かしらね?」
一息つく雪絵の顔を高速で通り抜けた。
一瞬で危険を感じた雪絵は遮蔽物に隠れる。
顔に触れると皮膚が切れていた。
ドーパントになり強化された皮膚が簡単に切られたのだ。
攻撃を放った相手が並みの存在では無いと理解する。
この狙撃をしてきたスナイパーがあの家族を狙っているもう一人の存在だ。
依頼を受けてから四日で雪絵はアジトを3つ強襲したがその全てに謎のスナイパーがいたのだ。
(ミュージアムの雑魚とは格が違う。
あのスナイパー、私の事をわざと逃がしている。)
それが何の為かは分からないが何度も戦ってきた経験からそう理解した。
そして、暫く隠れているとスナイパーの気配が薄くなるのを感じ外に出た。
雪絵はメモリを抜き舌打ちをする。
「ちっ!何度も現れては煙のように消えて....やりづらいわね。」
そう悪態をつくと携帯に着信が入っていた。
ショートメールで画面には楓の名が書かれていた。
雪絵は携帯を閉じると二人の住んでいる家へと戻るのだった。
家の扉を開けると茜と楓が出迎えてくれた。
「お帰りなさい雪絵さん。」
「ただいま....お母さん達は?」
「二人とも用事があって家を空けてる。
帰宅するのに時間がかかるから二人でご飯を食べててくれって言われた。」
「そうなの...」
「でも、それだと何時も守ってくれる雪絵さんに申し訳ないからせめてご飯だけでも食べて貰おうと思って二人で作ったんです。」
雪絵が来てから彼女等の顔には安心感が浮かんでいた。
茜は空手の全国大会を優勝した猛者でありある程度の不安にも耐えられるが楓はそうはいかなかった。
信頼していた父親の死亡が重なり精神的にもかなり不安になっていたのだ。
幼い頃、施設で育った雪絵には二人が不安を無理矢理おさえつけているのが分かり護衛の立場だったが良く話していた。
そのお陰もあり二人は雪絵をお姉さんの様に扱っていた。
「へぇ、それじゃあ昼御飯を頂こうかしら。」
「はい、茜。
雪絵さんを連れてリビングまで行ってて.....つまみ食いしちゃダメだからね。」
「しないよ。
私だって子供じゃないんだから....」
「この前、買ってきたイチゴを勝手に食べたのは何処の誰だったかしら?」
「うっ!.....仕方ないだろ?
イチゴは私の好物なんだ。」
「好物でも勝手に食べるのはルール違反だよ茜。」
「ふふっ!」
二人が言い争う場面を見て嘗ての兄妹喧嘩を見ているようで微笑ましかった。
「どうしたんですか雪絵さん?」
「別に....さっ、それよりも早くご飯にしましょう。
お腹が減って死にそうだし」
「そうですね。
それじゃあ準備しましょう茜。」
「OK任せて」
二人がご飯の準備をしているのを眺めながら考える。
(本当ならさっさとこの護衛を終わらせるべきだろうけど.....気が変わったわ。
彼女達の安全が保証されるまでは一緒にいよう。
最低でもあのスナイパーを倒すまでは......)
今後の行動を再確認すると雪絵は二人が作ったカレーライスを頬張る。
甘口のカレーから感じる子供っぽい甘さが今は心地よかった。
復讐の道を一時的にも忘れられる二人との時間を雪絵は噛み締めて行くのだった。
スコープ越しにカレーを食べる三人を見つめていた芦原は笑う。
「仲良くやっているようで良かった。」
誰にも聞こえない声でそう呟く。
芦原はスコープから目を外すと時計を確認する。
(そろそろ酵素を投与する時間か.....)
芦原は黒岩の使っていたスナイパーライフルを机に下ろすと部屋に乱雑に置かれた装置に触れる。
無名が用意してくれた酵素の簡易生成機。
効能は同じだが簡易版と言うこともあり生成されて酵素の寿命が短く生成してから直ぐに射たないと効果を発揮しない。
芦原は装置についていたインジェクターを腕に刺すと酵素を注入した。
赤い酵素が全身に行き渡っていくのを感じると芦原は鏡に写った自分を見た。
無精髭を生やしほぼ徹夜に近い生活を送っているから隈が酷い。
(まるで、酵素切れしたみたいだな。)
そんな自分の姿を嘲笑しながらも芦原はスナイパーライフルに触れると掃除の為、分解を始めた。
NEVERを止めた芦原は家族との接触を限界まで減らした。
自分の家族や黒岩の家族を狙うミュージアムの残党がいることは調べがついていたからだ。
自分が家族の元に残り平凡な生活をしていたらきっと誰かが犠牲になる。
そう思った芦原は二人の借りた家の近くの建物を複数借りて黒岩のライフルを使い家族を守る決断をした。
無名から与えられたNEVERドライバーを使うのはこれで守れなくなった場合の最終手段。
それが来るまでは黒岩のライフルを使い家族達を守ろうと決めたのだ。
だが、昔のように家族を拒絶したりはしない。
そうする条件として月に一回、必ず家族と会い過ごすこと......そして娘とは常に連絡手段を取れる様にする。
この条件で家族には納得して貰った。
ライフルの掃除をしていると家族用の携帯(無名が電波で追えない様に改造した特注品)にメールが入る。
中を開くと茜と楓...そして雪絵か仲良くカレーライスを食べている写真と"私達は今日も元気にやっているよパパ.....次会う時にはパパにも私達の作ったカレーを食べて欲しいな。"と書かれていた。
それを見て芦原は安堵する。
(良かった....またちゃんと笑える様になったんだな茜。)
雪絵さんが来ない頃は増え続ける残党の始末に手こずっていた。
だが、彼女が来てから処理のスピードが上がったのだ。
彼女には娘と家族を守って貰い感謝しかない。
だからこそ、私が彼女にやっていることに少しばかり罪悪感が残る。
連日の襲撃で雪絵さんを狙撃したのは芦原だったからだ。
芦原は無名との会話を思い出す。
「本当に良いのか?
雪絵さんはお前が助け出した霧彦の妹なんだろう。」
「えぇ、ですが彼女は復讐に囚われている。
このままでは何れ命を失ってしまう。
そうならない為にも貴方に手を貸して欲しいのです。」
そう言われ引き受けた芦原だったが今はそれに感謝していた。
彼女は根っからの悪人ではない。
娘達とのやり取りを見れば分かる。
大事な家族を奪われその怒りを震う相手を探しているだけだ。
彼女は頭が良い適度にガス抜きが出来ればもっと冷静に考えられる筈だ。
芦原は無名の言葉を信じて家族の護衛を任せた。
動きを見る度にメモリに慣れ洗練されていっているのが分かった。
戦闘スタイルはレイカと似て蹴りが主体だがレイカは一撃一撃が必殺レベルの破壊力を持ち雪絵は威力ではなく付属している毒を使って相手を弱らせて倒す戦法を得意としていた。
これまでの経験から後少し実践を積めば彼女の戦闘スタイルは完成するだろう。
そうなった、彼女がどんな行動を取るか芦原には分からない。
だが願うなら後悔しない選択を選んで欲しい。
俺のように間違った選択をして大事な友を失うよりずっとマシな選択が出来る事を......
それから雪絵はガイアインパクトの後に護衛の仕事を終えて姿を消した。
家族の元を去る前に二人の娘に手紙を残して.....
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第二百二十一話 Uの運命/愛を求めた意味
風都第二タワーから溢れる緑の光を冴子と加頭は見つめていた。
「あれは
「どうやら、ガイアインパクトが始まってしまった様ですね。
こうなってしまったらもう止める事は不可能でしょう。」
「加頭さんそれはどういう意味?」
冴子の問いに加頭が答える。
「あの光は地球に直接穴を空けることで発生させています。
つまり、このまま放置すれば穴から亀裂が広がり地球が破壊されてしまう。
それを止めるには若菜さんが来人さんと融合し地球を修復させる以外、方法がありません。
その過程で地球にあの光が広がり人類は種を越えた進化を行うんです。」
「そう....なのね。
これがお父様が言っていたガイアインパクトの真実。」
「ショックですか?冴子さん。」
「いいえ、あの人が本当に愛して認めていたのは私ではなく若菜だったもの....」
「冴子さん.....」
父親に"認められる為"愛される為"に自分の全てを捧げた園咲冴子。
彼女にとってあの光は自分が手に入れられなかった愛の象徴の様にも見えた。
(結局、全部手に入れるのは貴女なのね若菜。)
改めて突き付けられた現実に彼女の心は急激に冷めていった。
昔ならば若菜への嫉妬心で計画を邪魔しようとしたかもしれない。
でも今はこの光景を見ても何の感情の変化も起きなかった。
そうしていると冴子の懐からタブーメモリが落ちる。
ずっと疑問だった....何で私がタブーのメモリを選んだのか?
私が悪に手を染めたから?.....いや違うもっと根本的な理由だ。
私は母が父の手で傷つけられ園咲家から追い出された時も何も感じなかった。
寧ろ、それがあってから、尚更父のために働いた。
そして、父に愛される若菜を見る度に苛立ちが募っていった。
あぁ.....やっと分かったわ。
私は...父を....園咲 琉兵衛を家族ではなく"一人の女として愛してしまっていた"のだと
(だから、
私のメモリは......)
私は加頭さんを見つめる。
(私の為に命を懸けて全てを捧げてくれる人.....きっと霧彦さんもそうだったのだろう。
だからこそ、満たされないのだ。
井坂先生に惹かれたのもそれで父を嫉妬させたかったからなのかもしれない。
ミュージアムの総帥になりたかったのも父の全てを手に入れたかったから....あぁ、何て浅ましいのかしら私は)
私にとってはあの家族そのものが歪な集まりだった。
何故なら私自身が歪でありながらあの場所に収まろうとしたのだから.....
私はタブーメモリを拾い上げた。
思い出すのは若菜が生まれる前の父との記憶.....
優しい人だった....幼い私を膝に乗せて絵本を読んでくれた。
頭に乗せてくれた手の温もりがとても心地よかった。
そして、思ったのだ。
この温もりを"一人占め"にしたいと.....
だが、若菜と来人が生まれた時から立場が変わった。
私は二人を守る姉の立場に変えられた。
そして、来人が泉に落ちて父がガイアメモリを産み出すと私への関心がもっと減っていった。
私は父に振り向いて欲しくてミュージアムの幹部として働き有能さを見せた。
全てはもう一度、父に愛される為......
だけど、結局全部失敗した。
私は何も手に入れずに終わったのだ.....終わった?
本当に?
まだチャンスはあるのではないか?
消えかけていた私の心に炎が灯る。
何が出来る?ガイアインパクトが始まった以上、運命は変えられない....本当に?
父は人類を進化させる為、若菜を器に選んだ。
それはきっとクレイドールメモリの再生能力が力の受け皿として都合が良かったからだ。
父は若菜を道具としてでしか見ていない。
そこに愛は無い....本人は愛していると言うかもしれないが道具に向ける愛と人に向ける愛は別物だ。
それは私自身が良く分かっている。
結婚はしていても霧彦さんに向けていた愛はミュージアムの幹部として相応しい存在にするために....父に認められる為に向けていた愛でしかない。
(なら....奪える....私が父の愛を.....)
歪んでいるが故に辿り着く真実と間違った答え....だがそれを指摘できる者はいない。
何故なら、誰にも話したことがない感情だからである。
或いは人を見慣れている左 翔太郎ならば気付いたかも知れないが目の前にいるのは人との触れ合いを無視してきた加頭だ。
(今ならまた騙せそうだ。)
故に冴子は残酷な手段を考えついてしまう。
「加頭さん....私をタワーに連れていってくれないかしら?」
「何故ですか?
もう言っても出来ることはないと思いますが....」
「見たいのよ....妹が巫女になる姿を...それだけが姉として出来る最後の事だと思うから....お願い加頭さん。」
「....分かりました。
少し準備をしますので待っていてください。」
そう言って加頭が出ていくと冴子も準備を始めた。
幸いなことに冴子はミュージアムの幹部だったのでガイアインパクトの全容だけは聞いていた。
(来人との融合は私には難しい....でも融合した後の力を私が使えれば"巫女の力を奪える"筈よ。
お父様ならきっとミュージアムのデータに詳しい物を保存しているわ。)
冴子は止まらない。
自分の愛を知ったが為、それを叶えるために自らの命すら掛ける。
その余りにも無謀で純粋な願いを持つからこそ彼女は禁断の名を持つメモリを手に入れたのだろう。
全ては愛の為.....例えその愛が報われないと内心では分かっていたとしても
Another side
自室へと戻った加頭は机に置いてある写真に目を止める。
そこにはドレス姿の冴子と黒スーツを着こなした
気分転換の為に連れていった写真館で冴子さんが着たいと言ったドレスを身に付けて私の前に現れた時、まるで女神が降りてきたのかと錯覚した。
家族と井坂に裏切られた冴子さんは限界だった。
何時、命を絶つかも分からない状況だった彼女が人並みの欲を口に出した時、私は安堵した。
欲とは生きる原動力だ。
とある会長と会食した時も言っていた。
"この世界のあらゆる欲望は全て生きることに帰結する。
金持ちになりたい寿命を長くしたい権力が欲しい。
どれもこれも全ては自分が生きる為に必要な物だ。
だからこそ、人は生きないと生きようとしないといけない。
それこそが人類を進化足らしめた欲望への礼儀だからね。"
それを聞いていたからこそ私は気付いてしまった。
(冴子さんは私に嘘をついている。)
妹が巫女になる姿を見たい?
冴子さんにとって妹の存在は自分が平穏に生きる上である種、邪魔な存在だ。
父親は妹を溺愛しその他の負債は姉である冴子さんが支払う。
歪に曲がってしまった家族の形をギリギリでも為し得ていたのは冴子さんの欲望によるものだろう。
だからこそ、分かってしまう。
冴子さんは妹を殺すつもりだ。
だが、これは財団の利益に反するかもしれない。
ガイアインパクトの計画を根底から否定する行為だ。
本当ならば力付くでも止めないといけない。
だが、私にはその決断が出来ないでいた。
自分もまた欲望に支配されていたのだ。
(冴子さんとの時間をもっと長く過ごしていたい。)
井坂との戦いで私の寿命は決められてしまっている。
残り少ない人生を冴子さんと生きるか財団に戻り冴子さんを見捨てるか....命への欲望と冴子さんとの欲望。
私は冴子さんを取ろうとしている。
端から見れば愚かな選択だろう。
そんな事は自分でも分かっている....でもそれでも考えてしまうのだ。
もし、冴子さんの目論見が成功すれば全てを手にいれた冴子さんと私は一緒になれる。
その蜜のように甘い欲望に私は溺れそうになっていた。
生まれて始めて感じる財団への利益を忘れた自分への欲望....その味を知ってしまったのだ。
私は無意識の内に握っていたユートピアメモリを見つめる。
(ユートピア....理想郷。
私にとっての"理想郷は冴子さんがいる世界"だ。
それを叶える為だったら私はどんな事もして見せる。)
ワタシは覚悟を決めると机の下に隠すように置いていたアタッシュケースを取り出すと中を開く。
中には"N.B"と書かれたラベルが貼り付けられた薬品が入っているインジェクターが三本収められていた。
(例え、私の命を全て使い果たす結果になったとしても....)
私は三本のインジェクターを懐に仕舞うとドライバーを腰につける。
そして、冴子さんのいる部屋へと戻った。
「戻ってきたのね加頭さん。」
冴子の作り笑いが加頭を見つめる。
「....えぇ、遅くなり申し訳ありません。
準備が出来ました。
ではどうやってタワーまで向かいますか?」
「これを見て」
冴子が一枚の図面をパソコンに写し出す。
「風都第二タワーの設計図よ。
このタワーは掘り出した地球のエネルギーを大量のエネルギーを供給する手前、効率良くエネルギーを循環するルートが作られている。
無論、ルートを作っても整備をしなければまともに動かなくなるわ。
だからこそ、"外から見たら分からない点検用の扉"がタワーには幾つも作られている。
その扉を経由していけば若菜に気付かれずにタワーの中心部にまで登っていけるわ。」
「成る程、確かにこれなら"誰にも気付かれず"にタワーを登ることが出来そうですね。」
「えぇ、幸いなことにミュージアムの構成員はメインタワーから離された位置に展開しているわ。
.....いえ、意図的にでしょうけど」
「それはどうしてなのですか?」
「今の若菜はお父様の忠実な操り人形よ。
ガイアインパクトは園咲家の者が行わなくてはならない神聖な儀式として教え込まれている。
その儀式にミュージアムの構成員を入れたらお父様の意思に反する。
精々、時間稼ぎの駒がいる程度でしょうけどガイアインパクトが始まれば来人や無名が止めに掛かるに決まっている。
邪魔物は彼等に排除して貰いましょう。」
「そうして、邪魔物が消えて若菜さんが融合するのを見届ける訳ですね?」
「.....えぇ、そうよ。
私達は家族なんだもの」
精巧に作られた笑顔を加頭へ向ける。
(つまり、融合してから冴子さんは動くと....)
ずっと見てきたからこそ理解できる冴子の嘘。
だからこそ、加頭は彼女の計画の流れを理解できた。
加頭も笑顔で告げる。
「では、私は冴子さんが若菜さんと会えるのをお手伝いしましょう。
仮面ライダーもいるのなら恐らく邪魔をしてくるでしょうから....」
加頭は冴子の為に無名と取引したことを黙っていた。
(今、無名とのことを冴子さんに言えば余計な警戒をさせてしまう。
だが、やはり無名と取引しておいて良かった。
彼が求めた装置の設計図.....あれを手にすればどんな策を無名が出すのかは予想できる。
後は冴子さんの計画だけだがそこも問題はない。
共にタワーに行けるのなら彼女が目的を達成するために必ず私の力が必要になる。
後は此方に都合が言いようにコントロールするだけだ。)
財団Xのエージェントである加頭の主な仕事は新たな技術への出資を決める以外に暗躍する事もある。
例えば新開発された兵器を使おうにも大っぴらには実験は出来ないだろう。
だが、兵器開発が行われている国でクーデターが起きれば?
その鎮圧の為に兵器を使わないと行けなくなる。
財団Xはこれまで名前を変えながら暗躍してきた。
当然、エージェントの中でもトップクラスの加頭も得意とする事柄だ。
(手に入れて見せましょう。
この戦いで私と冴子さんの理想郷を.....)
お互いに利用し利用されながらそれを己の為にひた隠す二人の怪物。
全ては自分の目的の為に....例え誰を犠牲にしようと手に入れる。
自分の求める
Another side
財団が管理する隔絶された空間の一つ....その扉が開けられると傷だらけになりながら部屋に入る
「はぁはぁ....全く骨が折れる。
財団の最高戦力をほぼ全滅させて漸くか。」
信彦の手には掌に収まるサイズの時計が握られていた。
ライドウォッチと呼ばれるこのアイテムを手に入れる為に信彦を含めた財団の戦力は全滅し掛ける被害を受けたのだ。
この世界の信彦はブラックサンの世界から連れてこられた。
光太郎との決戦が終わり気絶した二人の空間がねじ曲がると信彦だけ財団の保有する空間へと連れてこられたのだ。
呼んだ存在は"自分が財団Xを作り出した"と言っていた。
そして、自分の目的の為に信彦の力が必要だと言うのだ。
そこで超越者の存在を知り取引をした。
財団Xに所属し働く代わりに時が来れば元の世界に戻すと....
ソイツはその約束を守ると言うと信彦の身体を改造した。
曰く、
そこで財団が手にいれた技術を駆使した肉体改造と遺伝子改造を行い最後に
その結果、信彦の身体に変化が起きた。
二つの同質の石が放つエネルギーが信彦の身体を満たしていくと"三段階目の変身した姿"を獲得した。
力を手にいれた信彦は財団Xの名前のもと沢山の時間や世界に介入した。
時には正義や悪と言う勢力に肩入れし仕事をこなしていた。
今回頼まれた仕事も財団を作った奴からの依頼だった。
信彦が持っているライドウォッチは"未来に最低最悪の魔王と呼ばれる若き仮面ライダーが手に入れた力"だった。
これを手に入れるのには苦労した。
何せ信彦達は戦いに介入する形でライドウォッチを奪ったのだ。
"クォーツァーと呼ばれる未来からの刺客"と戦う
彼等との戦いが佳境に差し迫った時に信彦ら財団のメンバーが介入しライドウォッチを奪いに掛かったのだ。
此方のかなりの被害が出たが目的は達成することが出来た。
そうしていると目の前にフードを被った子供が現れる。
信彦はその子供に驚くこと無く言った。
「相変わらずノックの概念が無いのか"ロノス"。」
「はは、ごめんね!
あらゆる空間を束ねていた僕にとっては何処の世界にいてもそこは僕の家みたいな物だからさ。
君もわざわざ自分の家をノックしたりしないでしょ?
....それにしても良く手に入れられたね。」
「簡単じゃなかった。
奥の手の3つ目の変身をして漸くと言ったレベルだ。」
「あはは、だろうね!
何せ、僕の力の根元が使われちゃってるから強いのは仕方ないよ。
じゃあ、貰うね!」
ロノスは信彦からライドウォッチを受け取るとライドウォッチはエネルギーの粒子へと変わりロノスへと吸収された。
それを見て信彦が尋ねる。
「その力...やはり、魔王と破壊者はお前の力から作られたのか?」
「....まぁ、バレちゃうよね。
その通りだよ。
時と空間を操るのが本来の僕の力だった。
まぁ、それがあっても同胞の運命すら変えられなかったんだから皮肉だよね!
"ゴエティアもタナハ"も頑張ってはいたけど.....滅びる運命だったともう諦めてるよ。」
超越者の名前を出したロノスの瞳は何処か寂しく空を見つめていた。
そして、思い返したようにロノスは何処からか取り出したケースを渡しながら信彦に告げるのだった。
「あっそうだ!これ加頭君から君にって......どうやら助けて欲しいみたいだよ。」
「俺に助けを?.....どう言うことだ?」
「さぁね。
でも、これを持って風都に入ってくれた方が僕にも都合が良いかな。
そろそろ一つの運命が終わりを迎えそうだからさ。」
「...ロノス、お前は何を知っているんだ?」
「さぁね。
全部知っているかもしれないし何も知らないかもしれない。
一つ言えるとしたら物語に関わっていない役者が登場するには時間がもう足りないってこと
行けるのは君だけだ秋月信彦.....
何、戦えと言う訳じゃない。
"見届けて"使ってこい"と言っているだけだ。」
ロノスは意味不明な事を言うと信彦に笑い掛ける。
「さぁ、行ってきてよ。
繰り返され停滞した時間がやっと動き出したんだ。
どんな結末でさえ見届けたい。
........頼んだよ。」
ロノスはそう言うとこの空間から一瞬で姿を消した。
「相変わらず勝手な種族だな超越者は.....」
信彦は渡されたケースを開ける。
その中には"眼球の形をした謎の装置"が入っていたのだった。
信彦は身体の傷を癒す間も無くロノスに言われた通り、風都へと向かうのだった。
【解説】
財団Xに在籍する信彦はBlackSunの世界から連れてこられた。
因みにこの世界線では信彦は光太郎にキングストーンを託す前に連れ去られたので次の創世王が誕生する事は無くなった。
その後、信彦の身体は色々な世界線の技術を使い改造され原点の月の石を埋め込まれた結果、進化し第三の変身形態を獲得した。
財団Xを創設したのはロノスと名乗る少年だった。
ゴエティアやタナハを知ることから分かる様に彼も超越者だった。
彼の司る力は"時と空間".....故にディケイドドライバーやジクウドライバーにロノスの力が使われている。
信彦がジオウ達から奪ったのは"オーマライドウォッチ"であり理由はロノス曰く「これから先の運命の流れから考えて"最高最善の力"は幼い魔王に託すには早い。」と考えた為.......
信彦がオーマライドウォッチを奪えたのはゲイツが不完全(マジェスティ覚醒前)だったのとバールクスとの決戦が終わり疲弊していた為.....
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第二百二十二話 絶望のD/盤面を壊す悪魔
絶望と希望は相反している様に思えるが共通する事がある。
それは許容を越えた絶望と希望は人に"畏怖"|の感情を刷り込むのだ。
故に神を感じた人は畏怖を感じ祈る。
"絶望"ならば"救い"を.....
"希望"ならば"信仰"を.....
だが、もしその絶望が...救いすら介入しない程の終わりなのだとしたら人は果たして感情を持っていられるのだろうか?
ゴエティアと若菜が現れた姿を見た無名は理解することを拒んでいた。
想定する中でも最悪....いや、想定すらしてなかったからだ。
ゴエティアが現実世界に顕現するには無名の身体が必要であり逆を言えばそれしか手段が無いと思っていた。
そして、それは地球の本棚で検索した結果からも示されていた。
ゴエティアは種を説明したがそれを聞いても理解できなかった。
そして、ゴエティアがデーモンドーパントに変身しエクストリームを発動した。
エクストリームへと変わったゴエティアは自らの身体を見て笑う。
「ふふっ素晴らしい。
これならば君とも対等に戦えそうだ。」
「何故、エクストリームが使えるんだ?
エクストリームを使える程の適合率が上がっていたのか?」
無名の疑問にゴエティアは答える。
「確かにその通りだ。
だから、"肉体その物"を変えたのだ。
そして、これがガイアインパクトが行き着く一つの答えでもある。」
「答えだと?」
「そうだ。
地球の記憶と溶け合うことで人の身体を捨てて記憶の一部となる。
そして、その力を身に宿す....私のようにな。」
「つまりは人の姿を捨て去ったと言うことか?」
「捨てたと言うよりはより上位の存在になる為に人の身を贄として使うだけだ。」
「人じゃなくなるのなら結局同じじゃねぇか!」
ゴエティアに翔太郎が反応する。
「それの何が問題だ?
お前達、人間も元は猿から進化した存在だろう?
猿としての身体を捨て去り人へと変わった。
それがお前達が歩んだ進化の歴史だ。」
『そうだとしても、それは生きていく為に行った進化だ。
ガイアインパクトの様な望んでない進化ではない筈だ!』
「望む望まない関係なく行われるのもまた進化だ。
お前とてその進化の過程だと自覚しているのかフィリップ?
データ人間.....お前と人とは違う進化を遂げた存在ではないか。」
『それは....』
「まぁ良い。
これ以上の問答は時間の無駄.....意味は無い。
私の計画も最終段階だ。
さぁ、無名。
私と一つになろう。」
ゴエティアがそう言って近付いてくるがそれをWの銃撃が止める。
「んな事、誰がさせるか!」
「ふむ....少し教育が必要か。
「あら、誰に命令をしているのかしら?
私は宇宙の巫....女!?」
そこまで言いかけるがゴエティアが手を翳した瞬間、黙ってしまう。
「少し傲慢に調整しすぎたな。
黙って私の命令をこなせ....
ゴエティアがそう言うと若菜は黙ったまま無名へと向き直った。
それを見たフィリップは怒りを露にする。
『姉さんに何をしたんだゴエティア!!』
「そう吠えるな。
聞きたいのならば力付くで聞けば良いだろう?
"Train"...."Zone"起動。」
ゴエティアがそう言うとWとゴエティアの空間が反転し白黒の世界へと変わる。
「ここならば好きに暴れて問題ない。
さぁ、
私を満足させてくれ。」
ゴエティアはそう言って笑いWを迎えるのだった。
ところ変わって無名と若菜も戦闘を開始していた。
無名は黒炎を纏わせた刀を振るい若菜と戦うが若菜の周りを舞うエネルギーが集まり無名の攻撃を防ぐ。
「無駄よ。
貴方の攻撃が私に当たることはないわ。」
「最初っから諦めたら意味がないと思いますけどね?」
「貴方の黒炎についてはもう検索は済んでいる。
事象を消失させる炎でも私に触れる前に払い落とせば良い。
私が作り出したエネルギーは無限に発生し私の身体を守り続ける。
黒炎がどれだけ強くでも私には当たらない。」
「なら、その謎のエネルギーについて検索して対抗すれば良い。」
無名は戦いながら地球の本棚を開くと検索を始めた。
(キーワードは..."エネルギー"..."盾"..."無限"...)
キーワードを選択しながら無名は刀を振るい続けていく。
(くっ!.....該当する項目が多過ぎて絞れない。)
そうしていると無名の身体が急に吹き飛ばされ壁に激突する。
「くっ!」
「私が攻撃しないとは言ってないわ。
貴方を殺すことは出来ないから......そうね。
意識を失わせましょうか。」
「"Thunder"...."Lightning"...."Paralysis"...起動。」
若菜がそう言うと彼女の頭上に球体の雷が現れる。
「速度と麻痺を付与した雷よ。
少しでも触れれば貴方でも意識を失うわ。」
「それは...嬉しくない事実ですねっ!?」
無名が回避を行うと無名が立っていた地面に雷が当たる。
(速い!気を抜けば殺られる。)
無名はアームドライザーを操作すると刀の形から黒炎に変わり大型の盾へと変化する。
その盾を使い若菜から放たれる雷を防御した。
「確かに黒炎の特性を持った盾ならば雷の能力は無効化出来るでしょうが、それでは何れ貴方の黒炎のストックが切れて負けるだけですわ。」
「えぇ、このまま続けばそうでしょうね。
そうすれば貴女はゴエティアの目的通り、貴女は宇宙の巫女になるだけです。」
「....何が言いたいのかしら?」
「おかしいと思いませんか?
貴女を巫女にしたいのならばどうしてここでゴエティアが現れたのだと思いますか?
それも態々、別の肉体を変換してまで....」
「私を動揺させようとしてるのでしたら無駄ですわよ。
ガイアインパクトを完遂させるのが私の望み......」
「それも貴女の本心ですか?
思い出してください。
貴女の過去を人生を.....」
「何を言って....」
「貴女は何故、風都でアイドルを始めたのですか?
何故、フィリップを追うようになったのですか?」
無名が尋ねる度に若菜は頭を抑えて苦しみ出す。
「本当は分かっている筈だ。
覚えている筈だ!
貴方が僕を連れて風都でショッピングをしたことも!
ミュージアムの幹部でいることに悩んでいたことも!」
「黙....りなさい。」
「リーゼを助ける為に組織を裏切った事も
そこでフィリップに真実を話したことも....風都タワーで貴方がフィリップと話した事...」
「あぁぁぁぁぁ!!」
発狂した若菜から大量のエネルギーが溢れ出すとそれが数々の記憶の力が発動していくとその力が無名へと放たれる。
その攻撃を無名は盾で必死に受ける。
「ぐっ....くっ!」
「五月蝿い五月蝿い!!私の心を乱すな!入り込もうとするな!
私は園咲 若菜。
ミュージアムを導く宇宙の巫女....」
「違う!それは貴女の望む姿ではない。
ゴエティアや父親が抱いた理想でしかない。
僕もそうだ...ゴエティアにスペアとして作られミュージアムの科学者として生きてきた。
だけど、そんな僕でも人を救いたい。
仮面ライダーとして救える命を救いたい!
そう思った!そう願った!
だから、貴女もなれる筈だ自分の望む自分にっ!?」
そこまで言いかけた時、攻撃に耐えられなくなった盾が崩壊する。
無名は自分に向けられた攻撃を黒炎を展開し防御するが完全ではなく余波が無名の身体を穿っていく。
だが、それでも無名は引かない。
(ここで引いたらもう僕の声は届かない。
だからこそ、ここしかない!)
無名はメモリをマキシマムスロットに差し込む。
「DEMON MAXIMUMDRIVE」
無名はマキシマムを発動し黒炎を全身に纏うと若菜に向かって突撃した。
あらゆる攻撃が無名に向かうが黒炎が肩代わりしてくれる。
(炎が消える前に若菜さんの元に辿り着く。)
防御せず最短距離をただ真っ直ぐ進んでいく。
しかし、それを阻む様に無名の身体を鋼鉄の壁が挟む。
消耗し残った黒炎では直ぐに鋼鉄の壁を無効化出来ない。
それが分かっているからこそ、無名はダメージ覚悟で無理矢理、壁を開き前へと進んだ。
壁を壊し片手だけ抜け出すと若菜の頭を掴む。
「お願いです。
若菜さん、もう一度考えてください。」
無名の願いへの返答は若菜から放たれた強烈な衝撃波だった。
吹き飛ばされる身体を若菜が手を伸ばすと急に引き留められその衝撃を全身で受けてしまう。
そのまま、若菜が手を手繰り寄せると無名の身体は彼女の元へ向かう。
「わ...かな....さ..」
「貴方の言葉には騙されない。
私こそが宇宙の巫女....これこそが私の望んだ運命よ。」
若菜はデモンドライバーに手を伸ばしメモリを引き抜くと無名の変身が解除された。
その瞬間、無名は意識を失ってしまう。
「貴方にはまだ役目がある。
ゴエティアと融合すると言う役目がね。」
若菜が指を動かすと無名の身体をケーブルが締め上げて拘束が完了すると地面に下ろした。
若菜は無名から奪ったデーモンメモリを見つめる。
(貴方は私の何を知ってるのよ無名?)
答えの無い疑問を浮かべその疑問が若菜に変化を及ぼした。
(ゴエティアは確かに信用できない。
ガイアインパクトが完了した後、何か仕掛けてくるかも知れない。
その為の切り札としてこのメモリは必要ね。)
若菜はデーモンメモリに自分のエネルギーを流し込み細工を施すと無名の懐にメモリを戻した。
その直後、ボロボロになったWがゴエティアと共に隔絶された空間から帰ってくる。
「彼方も仕上げに向かっているようね。
私も向かわないと.....」
若菜は縛り上げた無名を能力を使い持ち上げるとゴエティアの元へ向かうのだった。
異空間に転送されたWは目の前のゴエティアに警戒しながら銃を向けていた。
「今更、ルナトリガーで私に対抗できるとでも?」
「んなもんやってみなくちゃわかんねぇだろ。」
翔太郎の言葉にゴエティアは溜め息をつく。
「はぁ....どうして貴様の様な愚か者がコスモスの力を得たんだ。
ここだけは全く理解できない。」
『コスモス?....君が言っていた超越者の事か?』
「無名から聞いていたか。
まぁ、良いだろう終わりまでは時間がある。
少し話してやろう。」
「まだ我々が超越者として存在していた時.....
超越者の中でも強力な力を持った者は他の者を束ね長として呼ばれていた。
私もその長の一人だ。。」
「長の下に付く者は其々が長の能力に近い力を持つ者が集まっていた。
私の場合、悪魔や罪に纏わる力を持った者達が私の下についた。」
「コスモスはそんな中で異端の存在だった。
長になる力を持ちながら上にも下にもつかず一人の超越者として存在し続けた。
そんな姿に私や他の長も虜になった。
だが、我等がコスモスを奪い合う事は無かった。
それはコスモスは全員に分け隔てなく接し感情と言う力を与えたからだ。」
『しかし、そのせいで君達は滅びたと無名から聞いている。』
「まぁ、そこは否定できないな。
皆、コスモスを愛し彼女の為になるなら全てを捧げた。
信じられるか?
善性や正義を司る超越者ですら彼女の虜になり願いを叶える為に動いたのだ。
それだけの魅力が彼女にはあった。」
「お前の目的はコスモスを生き返らせる事なんだろ?」
「陳腐な言い回しだがまぁ、間違ってはいない。
しかし、彼女は死んではいない。
らはるの記憶の中に幽閉されているだけだ。」
「幽閉?」
「あぁ、左 翔太郎にデモンドライバーを使わせた時、私は間違いなくコスモスの意思を知覚した。
だが、いくら探しても彼女は地球の本棚には現れなかった。
だが、いることが分かれば後は此方に来れる様に道を作れば良いだけだ。
このガイアインパクトがその道の役割をしてくれる。」
「その為にお前はミュージアムに協力したのか!」
「それ以外に理由など無い。
悠久にも等しい時間を過ごしてきた私に残った唯一の願いだ。
私や他の仲間も願った事.....これを叶える為ならこの世界を何度作り替え破壊しても構わない。」
「んな事、俺達が許せるかよ!」
翔太郎はそう言うとゴエティアに向けて光弾を発砲した。
ルナトリガーの追尾弾がうねりながらゴエティアに向かうがゴエティアの身体をすり抜けていくと弾は消失した。
動揺しながらも追撃を行おうとするがその前にトリガーメモリにゴエティアが触れるとWの左半身の色が消失しメモリは力を失ってしまった。
「なっ!?」
「EternalとDeathを複合した力だ。
トリガーメモリは今後使用禁止だ。」
『不味い翔太郎、メモリを変えて距離を取れ!』
「くっ!」
翔太郎はゴエティアの手を払い退けるとメタルメモリを装填した。
「LUNA,METAL」
「悪足掻きが余程、好きなようだな。
仮面ライダー.....何度リセットを繰り返してもここだけは変わらない。」
「当然だ身体一つになっても喰らい付いて倒す。
その心そのものが.....」
「"仮面ライダーだから"か?
うんざりするほどリセットする前の君達から聞いたよ。
何度、リセットされても君達は向かってきた。
翔太郎やフィリップのどちらかも洗脳しても片っ方が同じ台詞を吐きながら戦った。
そして、私に勝てずリセットを受け続けた。
.....良いだろう。
そんなに仮面ライダーとして殉じたいのなら望み通りにしてやる。
ただ、貴様らには最上の絶望を味わって貰おう。」
ゴエティアは地面に手を付ける。
「古来より悪魔が得意としている能力は炎の操作や人間との契約があるが最もポピュラーな奴が抜けている。
......それは"死者の復活"だ。」
「何っ!?」
「
突如、ゴエティアの周りから人骨が這い出てくる。
全身が出終わると身体が再生していき肉や臓器、皮膚まで再生した。
その姿を見た翔太郎とフィリップは絶句する。
何故なら、目の前に現れたのはメモリ犯罪で救えなかった者達の姿をしていたからだ。
「さぁ、血と臓物にまみれた絶望から這い上がって見せろ仮面ライダー。」
そう言うゴエティアの顔は分かりやすく狂喜の顔で歪んでいた。
まるで"天敵同士を放り込んだ動物のゲージを眺める子供の様"に......
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第二百二十三話 絶望のD/死者の煉獄
ゴエティアの手により突如現れた存在に翔太郎は動揺を隠せなかった。
何故なら目の前にいるのはこれまで救えなかったメモリ犯罪者ばかりだったからだ。
(
呆然とする翔太郎よりも先に正気に戻ったフィリップが激を飛ばす。
『しっかりしろ翔太郎!
彼らはゴエティアが能力で作り出した偽物だ!』
その言葉を受けた真里奈が悲しく呟く。
「翔ちゃん....この街の人は誰も泣かせないんじゃなかったの?」
「!?どうしてそれを......」
動揺する翔太郎にゴエティアが種明かしを始めた。
「彼等は私が作り出した本人そっくりに作った複製体だ。
だが、彼等には死ぬ前まで歩んできた記憶がある。
故に死んだ本人と何ら遜色はない人間が出来上がったと言うわけだ。」
『何て事を.....』
「絶望するのはこれからだ。」
ゴエティアがそう言って指を弾くと蘇った者達が苦しみ始める。
「何が起こってるんだ!」
「彼等が生前使っていたメモリの力を身体に注ぎ込んだのだ。
まぁ、メモリやコネクターを使わない方法だ。
力が人の身体に収まらず肉体が勝手に変化し始めるだろうね。」
『そんなバカな事を!?』
ゴエティアの言う通り、苦しみ出した者達の身体から変異し変わっていくのが分かった。
骨が変形し皮膚が破れ肉が弾ける。
聞くも耐えがたい拷問の様な音を流れ更に彼等の絶叫や慟哭が加えられ変異が完成していく。
『翔太郎!見るな!』
フィリップの助言も虚しく翔太郎は真里奈が人間の姿からTレックスの怪物へ血を肉を吹き出しながら変異する姿を......
呆然とする翔太郎の姿を見てゴエティアは笑う。
「ふははははは!!良いぞ左 翔太郎。
その表情だ!
目の前で親友が怪物へと変わっていく姿を呆然と見ることしか出来ない無力な姿。
それこそ君に相応しい。」
翔太郎の姿を見て笑うゴエティアにフィリップの怒りが増す。
『こんな事をして一体お前に何のメリットがあるんだ!!』
「メリット?....そんなの簡単だ。
"私が笑顔"になっただろう?」
『この...悪魔め!』
「ふはは!君に言われるのなら寧ろ褒め言葉だね。
さぁ、準備は整った。
仮面ライダーよ怪物に成り下がった彼等を助けたまえ!
方法は簡単だ!殺せ!
彼等が人間に戻る手段はない!
あぁ、そうだ一つ言い忘れていたが奴等を殺すにはヒートメタルしか無いぞ?
そう言う風に作ったからな。」
「テメぇぇぇ!!」
限界を向かえた翔太郎は怒りのままメタルシャフトを振るったヒートメタルへと変身していたWの攻撃がゴエティアに当たり前に目の前にTレックスと真里奈を混ぜた怪物が現れて翔太郎のメタルシャフトを受ける。
渾身の力で振るわれた一撃は真里奈の頭を陥没させる。
「真...里..奈!?」
「翔ちゃん?どうして?痛いよ翔ちゃん。」
「違...う..俺は....」
メタルシャフトを持ったまま後退る翔太郎をフィリップは何とか支えようとする。
『気をしっかり持て!翔太郎!!
ゴエティアの罠だ!まともに取り合うな!』
「でも...よ..フィ...リップ。
俺は....真里奈を.....」
『大丈夫だ!今検索を終えた!
この空間は"幻覚"....その全てが偽物だ。』
「偽...物?」
フィリップが翔太郎にこの空間が幻覚だと告げた時には全てが遅かった。
「ダメじゃないですか?
敵を前にして油断したら....」
そうゴエティアがWの耳元で囁くと一瞬で風景が変わり蘇った人間も痛々しい怪物もいなくなっていた。
代わりにゴエティアはWのメモリに手を触れた。
「しまっ!?」
自分達が嵌められた事に気付いた時には既にゴエティアにサイクロンとジョーカーを覗く全てのメモリが無効化された後だった。
ゴエティアの放った黒炎がWの身体を焼く。
「ぐ.....あ....」
「やはり、人間は弱い。
ちょっと恐怖を見せるだけで正常な判断が出来なくなる。
.....だが、その脆弱さも含めてコスモスは人類を愛したのだが」
そう話しているとWを覆っていた黒炎が空へと巻き上がった。
「CYCLONE,JOKER」
「予想通り、サイクロンジョーカーで炎を巻き上げたか。
後はエクストリームを警戒するだけだが他のメモリを使えなくした以上、プリズムを使った多重マキシマムは使えない。
これで詰みだ仮面ライダー。」
冷静に現状を説明され黒炎のダメージにより地面に膝を下ろしていたWは気合いで立ち上がる。
「ま....だだ...俺は折れてねぇぞ!」
「....テラーよりも強い精神攻撃を与えたつもりなのだがジョーカーメモリの力が君の精神を守ったのか?」
「....違う。」
「違う?では何が君を立ち上がらせるんだ?」
ゴエティアの問いに今度は翔太郎が笑って答えた。
「プライドだよ....この街を愛し守る仮面ライダーであり親っさんから受け継いだ探偵としてのプライドだ!」
「....流石は仮面ライダー。
これまで巨悪を討ち滅ぼしてきた系譜を受け継いでいる事はある。
なら、私も敬意を持って君達を仕留めるとしよう。」
ゴエティアは掌に黒炎を集めると凝縮させて振り抜いた。
すると、炎が巻き上がり一本の槍を形作られていく。
三又の刃を持つ黒炎の槍はゴエティアが触れると炎が消えその黒い姿を現した。
「デーモンメモリの力を凝縮させて作り出した槍だ。
槍でありながらその性質は黒炎でありこの攻撃は回避する術はない。
この一撃を持って君達の仮面ライダーの歴史に終止符をうつ。」
槍を構えたゴエティアを見た翔太郎は直感で理解する。
「ありゃ、まともに受けたらアウトだな。」
『あぁ、検索しても打開策が見当たらない。
恐らく受けたら最後、Wの生体装甲ごと黒炎に焼き尽くされるだろうね。』
「どうするフィリップ?
使えるメモリも少ねぇ.....このまま殺られるつもりじゃないなら何かしないとヤバイぞ。」
『.....なら受けずにいなそう。
黒炎の槍ならばこの異空間も破壊出来る筈だ。
Wに向けられた攻撃をいなして異空間にぶつけてここから脱出する。
そして、そこから無名と合流する。
勝率は無いに等しいが少なくとも現状よりかは幾分マシにはなる。』
「OK決まりだ。
問題はあの黒炎の槍をどういなすかだな。
態々掴んで投げ返す訳にも行かねぇし.....」
『それなら、一つ方法がある。
サイクロンとジョーカーのマキシマムを使うんだ。
タイミング良く発動できれば槍の軌道をずらせる筈だ。』
「良し俺は相棒であるお前を信じるぜフィリップ。」
そう言うと翔太郎がサイクロンメモリを抜きマキシマムスロットに装填する。
「CYCLONE MAXIMUMDRIVE」
Wの全身を緑の風のエネルギーが包む。
それを見計らった様にゴエティアは黒炎の槍を投げつけた。
Wはその攻撃を両手で受け止める。
黒炎がWを焼こうとするが纏ったサイクロンの風が一時的に黒炎を吹き飛ばし無効化していた。
「うぐっ、重てぇ!少しでも気を抜けば全身が持ってかれる。」
『時間がない!僕がこの槍を止めるから翔太郎は早くジョーカーを....』
「おう!...こなくそっ!」
は右手に風の力を集めて槍を止めると左手で翔太郎がジョーカーメモリを抜きサイクロンと交換する形でジョーカーメモリをマキシマムスロットに装填した。
「JOKER MAXIMUMDRIVE」
ジョーカーメモリを装填したことでWの全身をジョーカーの力が溢れ出す。
翔太郎はその力を左手に集束させると投げられた槍を無理矢理、握った。
「この...槍を....吹っ飛ばす!」
翔太郎の願いにジョーカーメモリが答える。
溢れ出したメモリの力が黒炎を押さえ付けるとそのまま、槍を投げ返した。
投げられた槍はゴエティアの頬を掠り壁に激突する。
トレインメモリの力で隔絶されていた空間が黒炎によって焼かれヒビ割れていく。
「よっしゃあ!」
翔太郎はガッツポーズを決めるがゴエティアの表情は何時もの余裕を持った顔ではなく怒りに包まれていた。
「また、
一瞬の内にゴエティアがWの目の前に現れる。
「なっ!?」
『翔太郎!』
「
ゴエティアの拳がWの腹部に当たる。
トンと軽い音と共にWを覆っていたマキシマムのエネルギーが吹き飛び、空間がヒビ割れてしまう程の衝撃がWの身体を襲った。
肉体を吹き飛ばす無駄な力を使わずダイレクトに身体を襲う衝撃は凄まじくWはその場に倒れてしまう。
そして、このタイミングで空間が割れて現実世界に戻り目の前には無名を捕らえている若菜の姿があった。
「あら?そちらも終わりましたの?」
「えぇ、後は仮面ライダーWを変身解除させれば此方の勝利です。」
そう言うゴエティアの手にはサイクロンメモリが握られている。
「メモリの機能を完全停止してしまったら融合に支障を来す可能性がありますから一時的に無効化して変身解除させます。
その後に若菜様は来人様の肉体を此方に転移させて現実世界で融合を果たしてください。
私と無名は地球の本棚に戻り内側から融合を果たします。」
「そして、内と外から力を使い安定した道を繋げる。
そうすれば地球は崩壊を止め人類の進化と共に地球の修復が始まる....そう言うことね?」
「えぇ、その通りです。
取り敢えず、私たちが戻る扉を開けます。
そう言うとゴエティアは胸のクリスタルサーバーに爪を突き立てて引き千切るとクリスタルサーバーが赤黒い光をあげて消えると背後に黒い門が出現する。
扉が開くと中は赤黒い本棚へと繋がっており、ゴエティアがいた空間だと分かる。
そこから鎖が伸びると無名を縛り上げながら彼を門へと引きずり込み中に入ると扉が閉じて門は姿を消した。
それと同時にゴエティアの身体も粒子となって消え始める。
「私の精神と無名が本棚に戻り融合を始める。
そうすれば全てが終わる。
漸くだ....実に永かった。
何時終わるとも知れない地獄の様な繰り返し、それもやっと終わる。
私が求めた結末へと遂に続いていんだこの世界がっ!」
そのタイミングでWは目を覚ます。
「う....あ....」
『翔.....太郎.....』
「ほぉ?並列多重起動したマキシマムを受けてもう目を覚ますか。
故に惜しいな。
お前達ならばもっと良い結末を手に入れられたのに....愚かな選択をしたものだ。
その結果がこれだ。
大事な仲間を失い、計画も止められずお前達は地べたを這いつくばることしか出来ない。
己が弱さを憎め...決意の無さを憎め...選択の間違いを憎み....結果を受け入れろ。」
そう言うとゴエティアの身体がブレていき消える速度が上がっていく。
「もう、持たないか......
では始めよう...Death起動。」
そう言うとWの変身が解除され残ったのは倒れている翔太郎となる。
「相棒は風都にいるだろう。
若菜様....捜索関連のメモリで彼を探してください。」
「....分かったわ。」
若菜が地球の本棚からメモリの力を発動してフィリップの姿を探す。
そうしている中、小さいながら笑う声が聞こえる。
目を向けると翔太郎が笑っていた。
「何がおかしい?」
「あぁ、おかしいぜ。
何が己の弱さだ何が決意の無さだ....何も知らないで勝ちを確信しているお前が哀れで仕方ねぇぜ。」
「哀れだと?
それは貴様だろう?
もう逆転の目はない。
融合も止められずお前達は何も出来な....」
「それが違ぇんだよ....お前は無名の罠に嵌まったんだ。
無名の本当の目的はお前と自分を本棚に誘い込むことだった....それをお前自身がやってくれるとは今頃、無名は笑ってるだろうぜ。」
「どういうことだ?何故、無名が私と....」
そこまで話していると若菜が発狂した。
「どうして!?どうしてなの?」
「どうした?何があった?」
「いないのよ!"来人が風都にいない"何処を探しても見当たらないのよ!」
「何っ!?そんな事あり得な....」
ここにいてゴエティアは最初からあった疑問が再度、頭を流れてきた。
「おい、何故お前達はエクストリームのメモリを使わなかった?
あのメモリを使えば勝率は少しは上がった筈だ。」
「漸く気付いたか....俺たちはエクストリームの力を"わざと使わなかった"んだ。」
「何故だ?何故わざと...!?」
そこまで尋ねかけてゴエティアは理解した。
「エクストリームは両者の肉体を融合する必要がある。
だが、ノーマルの状態ならば精神をメモリに移すだけで良い.....まさか!?」
「やっぱりお前はバカだぜゴエティア!!
人間なめすぎて騙されることを考えてない!」
「くっ!若菜っ!今すぐ捜索範囲を広げろ!
フィリップは風都じゃない別の場所にいる!」
「まさか!?でも何でそんな真似を...」
「それは....くっ!もう身体が...」
そこまで良いかけた所でゴエティアの身体は限界を迎えて消失し彼は本棚の世界へと戻されてしまう。
そこには帰って来たゴエティアを笑って迎える変身解除した無名の姿があった。
「お帰りなさい。
随分と怒っていますが何かありましたか?」
「どういうつもりだ?
一体何を仕掛けた!」
「そんな事、話す訳が無い。
やっとここに来れた....さぁ、これで本当に最後です。
貴方をここで倒しますゴエティア。」
そう言う無名の目は自身と覚悟に溢れていた。
本棚の深淵にある空間で"二人の悪魔"の戦いが始まる。
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第二百二十四話 Fとの対話/逆転の一手
「何処よ!何処にいるの来人!?」
若菜はフィリップの行方を探しているが中々、見つからない。
ゴエティアも消えて計画が破綻する可能性を感じた若菜には余裕がなかった。
その間に翔太郎はボロボロの身体に渇を入れて無理矢理立ち上がる。
「そんなに....焦って...どうした若菜姫?
焦ったって...良いことねぇぞ?」
「五月蝿いわね!私に指図するんじゃないわよ!
どうして?何でいないのよ!」
「アンタがフィリップを案じているのは計画の為か?
それとも本人の身を案じてるのか?」
「そんなの決まっているでしょう!私は....!?」
計画の為と言いたかったのに若菜は頭を抑える。
「私は?どうして?....何で?
違う!違う違う!私は宇宙の巫女よ!それが私の存在理由で全てなのよ!」
「違うぜ。
そんなのが存在理由な訳がねぇ。
思い出してくれ若菜姫!俺達と....フィリップと初めて会った時の貴女を....」
何故、若菜が錯乱しているのか?
それはゴエティアが仕込んだ洗脳が一部分解けているからだった。
無名が最後に若菜に放った一撃は黒炎の力を使い洗脳された若菜の記憶の制限を消したのだ。
今の彼女には家族や来人を大切に思い愛する心と道具として使い計画を実行しようとする造られた性格が反発しあいバグを起こしていた。
頭を抑えながら若菜は考えを整理しようとするが、思考が落ちつかず平静さを失っていた。
黒炎の力により若菜の洗脳を解くことは無名の計画の一端でありゴエティアと無名が地球の本棚の世界に行くことも想定していた。
(ここまでは無名の計画通り....後は俺が頑張る番だ。)
翔太郎は懐から"デモンドライバー"を取り出すと腰につけた。
このドライバーは翔太郎にとってのトラウマだ。
ゴエティアに操られたとは言え、おやっさんから受け継いだ教えを捨てて殺し屋に成り下がろうとした悪魔のドライバー。
だからと言ってこのまま諦めたくはなかった。
(俺も俺の罪と向き合う!
この力を使って今度は殺すのではなく....救う!)
翔太郎は覚悟を決めて帽子を被り直し目線を隠すように唾を下げるとメモリを起動した。
「JOKER」
起動したジョーカーメモリをドライバーに装填するとゆっくりと拳を握り構えた。
「.....変身。」
静かな掛け声とと共にドライバーを展開すると翔太郎の身体をメモリの力により変化した生体装甲が覆い仮面ライダージョーカーの姿へと変わる。
そして、変身が終わると両目の下にラインが入りそこが赤く輝いた。
それはまるでピエロや血涙を流している様にも見えた。
変身が終わると全身をジョーカーのエネルギーが溢れ出し翔太郎を覆うとボロボロだった肉体を完璧に回復させた。
そして、ゆっくりと若菜を指差し告げる。
「さぁ、
悪魔により与えられた殺す為の力を今度は救う為に使う。
その覚悟のもと宣告された言葉は今の若菜の心に深々と刺さるのだった。
Another side
ゴエティアにより無名を地球の本棚へ転送された頃....孤島での戦闘は佳境を迎えていた。
研究所のあらゆる防衛施設を破壊され警護していたミュージアムの構成員も全員、倒される。
周囲への危険を取り除いたレイカと京水はメイカー前に辿り着いていた。
「久し振りねメイカー元気だった?」
『お久し振りですねレイカ様、京水様。
私は自立思考AIです。
機械の私に体調の変化はありません。』
レイカの問いに淡々と答えると今度は京水が話す。
「相変わらず真面目ねメイカー。
ガイアインパクトが始まったのにまだミュージアムの操り人形でいるつもりなの?」
『そもそも私は園咲家の願いを叶える為に作られました。
創造主に従うのは自然な事です。
私の目的はミュージアムの利益となるメモリを生産すること....例えガイアインパクトによって私が消滅したとしてもそれは私が用済みになったと言う事実でしかありません。』
「用済み.....ね。
メイカーはもう、自分に用は無いと思ってるのかしら?」
『琉兵衛様は仰られました。
ガイアインパクトを開始したと.....
本計画を私は聞かされています。
その中身から推察した結果、
計画が成功した場合、私の役目は無くなります。
ガイアメモリの製造も若菜様が地球の本棚から知識を得ることで行えるからです。』
「んじゃ、アンタはどうなるのよ?
用済みになったら捨てられるの?
それとも壊されるの?」
『......それを決めるのは園咲家の方のみです。
貴女ではありません。』
その言葉を聞くと京水は笑う。
「そう....なら、園咲家の者が命令すれば貴方は言うことを聞くのね。
良かったわ無名の考えが間違えてなくて」
そう言うと京水は背負っていた金属製の箱を操作すると中が開きそこからフィリップが現れた。
フィリップは頭を抑えながら京水に文句を言った。
「確かに僕の意識がWに転送されている間は痛みを伴わないがだからと言って僕の身体を軽く扱って欲しい訳じゃ無いんだが....」
「あら?貴方は男の子でしょ?
これぐらいの傷は勲章よ勲章.....」
ケースから出て来たフィリップはメイカーに目を向ける。
「これが無名の言っていたメイカーか。
興味深いね。」
『......データ検索完了。
お初にお目にかかります"園咲 来人"様。』
「やはり、父は僕を家族として登録していた様だね。」
『えぇ、貴方は園咲 琉兵衛様のご子息としてデータ登録されています。』
「なら、僕の命令は聞いてくれるかな?」
『......命令権限を確認しています。
確認結果を通知....貴方が持つ命令クリアランスは園咲若菜様よりもが下に登録されています。』
「それはどう言うことだい?」
『現状、命令クリアランス最上位は琉兵衛様が若菜様へと書き換えております。
その次のクリアランスにおられるのが来人様と冴子様です。』
(まさか、こうなることを父さんは予想していたのか?)
『最上位クリアランスをお持ちの若菜様が命令許可を受諾していない以上、来人様に権限はありません。』
「何よそれ....ふざけんな!」
レイカがその言葉を聞いて怒りから椅子を蹴りあげた。
「レイカ落ち着きなさい!」
「でも、こんな所で止まったら克己は何の為にっ!」
「レイカっ!....分かってるからその事は黙ってて....お願いよ。」
レイカと京水は堂本と克己が消滅した事を聞いていた。
だからこそこの作戦だけは成功させようと意気込んでいたのだ。
しかし、フィリップは口を抑えながら考え事をしている。
そして、考えが纏まるとメイカーに問い掛けた。
「メイカー、僕が君に命令するには若菜姉さんから許可...若しくは若菜姉さんが最上位クリアランスに違反している証拠を提示できれば良いかな?」
『命令クリアランスの要項を確認中.......
確認結果、両方とも是。
来人様が提示した2つの何れかをクリアしていれば来人様のクリアランスは上がり命令の受諾が可能です。』
「良かった。
もう一つ確認だけど若菜姉さんを園咲家の家族と認定しているのはあくまで入力されたデータ状の定義?
それとも遺伝子情報等の確定された情報から選定するのかい?」
『確認......後者です。
当初に登録された遺伝子データを元にクリアランスの選定を行いました。』
「その登録を行ったのは何時だい?」
『確認......来人様が塔で研究をなさっていた時の遺伝子データです。』
「良し、なら若菜姉さんの"今の遺伝子データ"を確認してくれ。
ミュージアムの医療データに入っている筈だ。」
『.....それは何故ですか?』
「僕の予想が正しければ若菜姉さんの遺伝子データが書き換わっている可能性がある。
もしそうだとしたらクリアランスの見直しが必要だ。
少なくともそれを終えるまで園咲家の使うAIメイカーとしての用がある筈だ違うかな?」
『......来人様の提案を受諾します。
ここ最近の若菜様の遺伝子データを確認します。
暫くお待ち下さい。』
そう言って黙り込んだメイカーを見つめながらレイカがフィリップに尋ねる。
「ねぇ、遺伝子データってどう言うこと?
私にも説明してくんない?」
「良いだろう。
どうせ、確認するまでは動けないからね。」
「ゴエティアは若菜姉さんを宇宙の巫女として作り替える段階で恐らくエクストリームの力と僕らから奪い取ったクリスタルサーバーの力を使っている筈だ。
そこから更に遺伝子レベルでの改造を加えて洗脳をかけている。
だからこそ、若菜姉さんの洗脳を僕に解くことは出来ない。
エクストリームとプリズムの力を使おうにも細胞と完全に融合してしまっている。
切り離そうとすればそれこそ命を奪うしかなくなる。
だからこそ、余計にエクストリームを使えなかったんだ。
万が一にでも僕らの攻撃が当たってしまったら致命傷になりかねないからね。
じゃあ、どうするか?
僕と無名は意図的に融合を進める。
そして、そこで僕はメイカーと協力して若菜姉さんの洗脳を解いて融合を解除する。
そして、無名がゴエティアに勝てば両方から地球の亀裂を修復する。
それが僕らの立てた計画なんだ。
その為に何が何でもメイカーの協力が必要なんだ。」
「つまり、その遺伝子がゴエティアのせいで変な手が加えられている事が分かればメイカーを仲間に加えられるのね。」
「かいつまんで言うとそう言うことだ。
おっと、どうやらメイカーが答えを出した様だよ。」
フィリップがそう言うとメイカーが結果を伝える。
『調査結果を報告致します。
園咲 若菜様の遺伝子データの共通レベルは"48%"と確認出来ました。
以下の事からクリアランス評価に誤りがあると発覚。
現段階よりクリアランス変更を承認。
最上位クリアランスを来人様に移行します。』
「流石ね!これでメイカーは来人ちゃんの物よ!」
喜ぶ京水とレイカだがところ変わって今度はフィリップの顔が曇る。
「どうしたの?」
「メイカー.....もう一度確認させてくれ。
今の若菜姉さんの遺伝子データの共通レベルは48%で間違ってないのかい?」
『はい、1週間前のデータを元に確認致しました。
48%で間違いありません。』
「つまり....姉さんは"半分以上"自分の物ではない遺伝子に置き換わっているのかい?」
『その通りです。』
「「!?」」
その言葉を聞いてフィリップの危惧していることがレイカと京水にも理解できた。
半分以上、自分の遺伝子では無い何かに置き換わっている。
それがゴエティアの手によるものだとは理解しているがだからこそ、今の彼女の身体がどうなっているのはフィリップの不安が加速した。
(急がないと不味い!)
そんな話をしていると研究室の警報ブザーが鳴り響く。
「どうしたの?」
『確認....島にミュージアムの構成員が集まっています。』
「どう言うこと?
私達が制圧したのを嗅ぎ付けるにしても早すぎる。」
『島からミュージアムへの援護要請は行っていません。
構成員の装備からガイアメモリの周波数を確認致しました。』
「....ってことは考えたくないけど」
「えぇ、恐らくは"クーデター"でしょうね。
裏切られると分かったからこそ孤島のメイカーを抑えようとしているのね。」
「くっ、メイカー!
今から僕の計画を説明する君は僕に協力してくれ。」
『承知致しました来人様。』
「レイカさん!京水さん!...申し訳ないが」
「奴らの足止めね?
分かっているわ。
あんなブサイク共も来人ちゃんに近付ける訳無いから安心して」
「あたし達は元々、傭兵よ。
寧ろ、やっと本領発揮できるって感じ.....だからアンタも頑張りなよ。
まだまだやることあるんだからさ。」
そう言うとレイカと京水は部屋から出ていくのだった。
Another side
「おい、本当にやるのかよ?」
「今更、怖じ気づいたのか?
だけどここで動かねぇと俺達は本当に終わりだぞ?」
ミュージアムに所属している構成員の中で今のガイアインパクトを不安視している一派がゴムボートに乗り孤島へと向かっていた。
「お前らも本当は分かってるんだろ?
ガイアインパクトが起こればミュージアムは俺達を用済みとして始末するってよ。」
きっかけは対ガイアメモリ部隊が発足されてからだ。
昔までは大きな失敗をしなければ見逃された組織の風潮が代わりメモリブレイクされたらその場でミュージアムの処刑人に始末された。
まるで使い捨ての道具の様にアッサリと俺達の命を切り捨てたのだ。
そして、井坂の反乱を抑えようとした仲間が死んだ時も若菜様や琉兵衛様は何もしなかった。
俺達を見る目すら変わった。
前までは建前でも笑顔や信頼の目を向けていたが今は冷たく冷酷な目を向けられる。
まるで汚物やゴミを見る目だ。
それで理解した。
俺達は用済みのゴミなのだと.....
だが、俺達だって死にたくねぇ。
組織に用済みとして殺されるぐらいなら少ないチャンスに手を伸ばす。
元幹部だった無名が作ったガイアメモリ生成施設がち図に乗らない孤島にあると言う噂を聞いていた俺は同士を集めてその場所を調べあげた。
そして、ガイアインパクトが起こるタイミングで謀反を起こしたのだ。
謀反に参加したのは総勢50人の構成員。
全員、ガイアメモリを所持し複数のゴムボートで孤島へと向かったのだ。
孤島に到着すると先ずはその風景に驚いた。
「何だこれ....もう壊滅してんじゃねぇのか?」
島を守る為に置かれていた砲台やトラップらしき物体が破壊され黒煙を上げていた。
「おい!どうする?」
「どうするもねぇよ。
兎に角、上陸して奪える物を探すぞ!」
そう言って構成員が上陸していくと空が急に明るくなった。
「何だ....!?逃げろぉ!」
男が上陸した構成員に叫ぶがそれが届く前に空中から落ちてきた炎の塊に構成員が巻き込まれてしまう。
「何なんだよ!?これは!?」
「ボサッとせずにメモリを挿せっ!」
男の言葉に合わせて残った構成員はメモリを起動すると身体に挿した。
「BAT」
構成員のリーダーとなっていた男はバットメモリを首に挿すとバットドーパントに変わり空へと飛び上がった。
(空中から炎が落ちてくるなんてあり得ない。
何かいる筈....)
そうして、空中を偵察しようとしていたリーダーは急速接近してきた赤いライダーの蹴りを受けて落下していく。
(何....だ...?あの....ライ...ダー...は?)
落下しながら男は身体を動かそうとするが力が入らない。
俺を蹴った仮面ライダーは落ちていく俺を見ながら言った。
「悪いけどここは戦場だからね。
油断した奴から死んでいくのよ。」
そう言われて俺は理解した。
(あぁ、クソッやっぱり俺はしくじったのか。)
そう考え後悔しながら胸に大きな穴を空けてメモリブレイクされた男は落下しながら絶命するのだった。
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第二百二十五話 Fとの対話/覚悟の違い
『本当に宜しいのですね来人様?』
そう尋ねるメイカーにフィリップは答える。
「あぁ、それで姉さんを...家族を救えるならね。」
優しく告げるフィリップを見ながらメイカーは理解を示した。
『承知致しました。
全ては園咲家の者の為に......』
そう言い終わるとフィリップはメイカーと共に孤島から消えるのだった。
仮面ライダージョーカーへと変身が終わった翔太郎を若菜は頭を抑えながら睨み付ける。
「罪を数えろですって?....ふざけないで!私にそんな、下らない事を聞くんじゃない!」
苛立ちのまま手を降ると地面を抉りながら衝撃波が翔太郎を襲う。
しかし、その衝撃波を翔太郎は左手で受け止めて握り潰した。
「なっ!?」
「今度はこっちから行くぜ!」
翔太郎が飛び上がると握り込んだ左手を若菜に振り下ろした。
「そんな攻撃当たる訳無いでしょう!」
若菜が翔太郎の前にシールドを展開する。
Wのパンチすら止められる強度のシールドを生成し余裕を見せるがそのシールドを翔太郎の拳が簡単に砕き貫いた。
「何で!?」
若菜は驚きながらも直ぐにシールドを再展開するがそのシールドを砕くとその拳が若菜の座っていた玉座に直撃した。
直撃した玉座は砕け、座っていた若菜は立ち上がり翔太郎から距離を取った。
「何故、Wでも砕けないシールドの筈なのに....」
若菜はジョーカーメモリについて検索を済ましておりジョーカー単体での変身も調べ尽くしていた。
だからこそ、自分に勝てる要素が無いと油断していた。
実際、ロストドライバーを使っていたら翔太郎に勝ち目は無かっただろう。
しかし今、翔太郎が使っているのはデモンドライバーであり尚且つ無名がスペアとして作っていたデモンドライバーに翔太郎が変身していたデータを使い再調整した一品だった。
このデモンドライバーで仮面ライダージョーカーに変身すると洗脳されていた頃の強さをそのまま使うことが出来るのだ。
感情により強さが変わるジョーカーメモリとそれに最も適合する左 翔太郎をそしてメモリの力を更に強化解放したデモンドライバーによる仮面ライダージョーカーは通常のジョーカーとは一線を化す強さを発揮していた。
目的を果たす為なら過去の罪すら飲み込み戦うその覚悟を決めた翔太郎は若菜すら油断できない程の強さとなっていた。
「貴方が私の予想よりも強いのは理解しましたわ。
でも、だからと言って私に勝てるなんて思わないことですわ。」
若菜は嘗て克己を仕留めた力を発動する。
突如、翔太郎の周りが暗くなるとあらゆる力の指向性が一斉に翔太郎へと向かっていく。
エネルギーが極度に圧縮されて起こるビッグバン。
星と宇宙に滅びを与える原初の力には永遠を司る克己ですら手も足も出なかった。
絶望的な状況なはずだが翔太郎は笑う。
「上等だ!俺だって指加えてこの日を待ってた訳じゃねぇんだよ。」
翔太郎は"ファングメモリ"を取り出すとフィリップの様にメモリ形態へと変形させるとマキシマムスロットに装填した。
「FANG MAXIMUMDRIVE」
マキシマム状態を発動させると翔太郎は更にファングホーンを三回弾いた。
「FANG MAXIMUMDRIVE」
ファングメモリの特性である単体でマキシマムを発動できる機能を使い翔太郎は擬似ツインマキシマムを再現する。
ツインマキシマムが発動した瞬間、両足にファングの牙が生成されエネルギーが集まっていく。
「何故、ファングメモリを?
あれには牙の記憶しか入っていない筈よ?」
「俺のジョーカーメモリの切り札の力をファングメモリのマキシマムに込めれば切り札の力を留めた牙が出来上がる。
それならこの空間をぶった切れるんじゃねぇのか?」
翔太郎の問いに若菜は笑う。
「バカじゃないの?
ツインマキシマムを一人で発動するだけでなくジョーカーの力すら付与させるつもり?
それが成功したとしても莫大なエネルギーに貴方が耐えられる筈無いじゃない。」
若菜の言う通り、翔太郎の身体は大量のエネルギーに耐えきれず肉体が悲鳴を上げていた。
それが若菜にも分かっているからこそそう結論をつけたのだ。
「貴方にこの空間は壊せない。
膨れ上がるエネルギーに飲まれて死になさい左 翔太郎。」
しかし、若菜の予想を反して翔太郎は両足で円を描く様に振り抜くと研ぎ澄まされた牙のエネルギーが作られた黒い空間に亀裂を空けた。
「どうして....どうして動けるの!?
貴方は普通の人間よ....平凡で弱く、来人のお陰で漸く仮面ライダーになれる程度の存在なのに....何故私の予想を越えるのよ!?」
若菜は常に地球の本棚で検索を繰り返していた。
ガイアインパクトを成功させる為にそれに関わる情報を何度も調べ続けてきた。
その過程で左 翔太郎についても調べた。
これまで仮面ライダーだった者と比べても非力だった。
大道 克己の様に訓練された戦闘技術は無く鳴海 荘吉の様な決断力もない。
照井 竜の様な化物じみた肉体も無く無名や来人の様に地球の本棚の力も扱えない。
何にも持っていない平凡な人.....それが左 翔太郎の全てだった。
なのにも関わらず今、翔太郎は若菜を追い詰めていた。
そして、彼女にとって最も確実に仕留められる。
ビッグバンを擬似的に起こす技を使っても彼はそれに抗おうとしていた。
彼を中心に恐ろしく強い圧力がかかっている筈だ。
エターナルの力でも無効化出来ない程の.....
勿論、ジョーカーの力ならある程度は軽減できるだろうが若菜の予想では指一本すら動けなくなる筈だった。
だが、現実は翔太郎が放った攻撃により付けられた斬撃が彼女の生成した空間を破壊しようとしていた。
圧力をかける関係上、あの空間内は密閉されてないと行けない。
でないとかかる圧力に空間が耐えられないからだ。
その間にも翔太郎はファングメモリのマキシマムで生成した巨大な牙状のエネルギーで空間を切り裂いていく。
それが功を奏したのか若菜は空間の保持に力を割き翔太郎への圧力が少し減る。
(今だっ!)
翔太郎は若菜に向かって歩き出す。
最初はゆっくりだったが徐々に速度が上がり走り出そうとする。
「!?来るんじゃないわよ!」
若菜が衝撃波を翔太郎に放つ。
翔太郎は避けられず真正面から攻撃を受けるが気合いで痛みを耐えて若菜の元へ進んでいく。
「来るなっ!....来ないでよ!」
若菜は残ったリソースを全て使い衝撃波を立て続けに撃っていくが覚悟を決めた翔太郎はそれを食らいながら前へ前へと進む。
「何で!?どうしてよ?
貴方の何処にそんな力があるのよ!?」
「んなもん....俺が知るかよ。
若菜姫の言う通り俺は凡人だよ。
でもな...凡人だって凡人なりのプライドがあんだよ。
道理だとか計算とか....知らねぇ!
ただ、一度決めたことは何がなんでも貫き通す。
身体一つになっても....風都を泣かす奴は許さねぇ。
俺は探偵で仮面ライダー....風都を泣かす奴を俺とフィリップで止める!
それが例え神だろうが関係ねぇ!
その覚悟が....俺の..全てだ!」
十分な距離まで接近できた翔太郎は飛び上がった。
その瞬間、両足の牙のエネルギーが変形し両足を覆いドリルの様な形へと変形する。
「今度こそ、アンタの罪を数えさせる!
若菜姫.....いや園咲若菜!!」
「うぉぉぉぉぉ!!」
「
翔太郎の放ったキックは若菜の放つ衝撃波を貫くと彼女の身体に当たる。
身体の表面をファングの牙が削る。
火花を上げながら前に進もうとするがそれを若菜が許すことはない。
「私はっ!宇宙の巫女になる存在よ!
こんなところで殺られるなんてあり得ないわ!」
若菜は腕を変形させ槍を作り上げると翔太郎のドライバーへ突き立てた。
バキン!という音と共にドライバーにヒビが入る。
(ヤベェ!ドライバーが!?)
「これで私の勝ちよ左 翔太郎!」
笑う若菜へ翔太郎は言い放つ。
「上等だ!俺のドライバーが壊れるのが先か。
それとも、クレイドールのメモリが砕けるのが先か。
勝負と行こうじゃねぇか!」
「なっ!?そんな事をすれば貴方も無事じゃ済まないわよ!」
「んなこと怖がって仮面ライダーが出来っかよ!
それに俺は運だけは強いんだ!
これはある意味チキンレースだ。
どっちか退いた方が負ける...なら俺は止まらねぇ!
突き進むだけだ!」
「あんた....バカじゃないの!?」
考えてもいなかった返答を受けて若菜は本気で焦る。
(この攻撃....手加減して受けていたらメモリが砕かれる!)
若菜は生成していた黒い空間を解除する。
その瞬間、翔太郎にかかっていた負荷が消え去る。
(防御関係のメモリを総動員すればっ!)
若菜姫は地球の本棚から該当するメモリの力をインプットし現実世界へとアウトプットしていく。
それは翔太郎の攻撃を防ぐ為に次々と使われていく。
(何で!?どうして防げないの!
攻撃を防ごうとする度にその力を凌駕していく。)
若菜を守るために生成した力は翔太郎の必殺技を阻もうとするがドリルの様に回転するファングのエネルギーが削りながら前へと進んでいく。
「うぉぉ!!届けぇぇぇぇ!!」
「止めろぉぉぉぉ!!」
翔太郎の決死の一撃は若菜姫の身体を着々と進んで行く。
(マズイ!メモリが...砕かれる!)
突如、絶体絶命な若菜の背後から力を感じる。
無理矢理、動かされた若菜は背後に倒れる事となり、翔太郎の攻撃を若菜を倒した人物が代わりに受ける。
「なっ!?....どうしてアンタが?」
その姿を見た翔太郎は驚く。
その隙を逃さなかった。
握り込んだ拳でドライバーを打ち抜かれ爆発が起きる。
煙が晴れるとそこにはドライバーを破壊され変身解除した翔太郎と和歌なの代わりに攻撃を受けながらドライバーを破壊し"テラーメモリ"をメモリブレイクされた"園咲 琉兵衛"が地面に倒れ込んでいた。
「痛み...分け...だな?」
倒れ伏している琉兵衛の元へ若菜が走って近付くいていく。
「お父様っ!!」
「おぉ....若..菜..。
お前が無事で...私は...嬉しいよ。」
若菜へ笑いかける琉兵衛だが、その顔に生気が乗っていない。
若菜を倒すつもりで翔太郎が選択したツインマキシマムは超越者を倒す為に放った攻撃だ。
普通の人間....ドライバーをすら使っていない者に対して明らかに過剰となる威力を誇っていたのだ。
タワー内で戦いを見ていた琉兵衛は翔太郎がツインマキシマムを発動した段階でテラーメモリを身体に指して若菜の元へ走っていた。
琉兵衛本人もあの翔太郎の攻撃を受ければただでは済まない事は分かってはいたが自分の身を犠牲にしてでも娘も守りたい感情が勝ち彼女の代わりに翔太郎の攻撃を受けたのだ。
結果、琉兵衛は自分の命と引き換えに若菜を助けることが出来た。
薄れ行く意識の中で琉兵衛は若菜の顔に触れる。
「最後に...お前を....守れて...良かったよ...若菜。」
「嫌....そんな....お父様っ!」
「若菜....お前がこれから...どんな選択を...しても...私は....お前を....愛....し...て..」
そこまで言いかけていた琉兵衛は目を閉じてしまう。
若菜の手から父親の命が消える感触がした。
超越者故の感覚が父親がどうなったのか理解することが出来た。
「嫌ぁぁぁぁ!!お父様ぁぁ!!」
大切な存在を失ったショックに若菜のメモリが反応する。
エネルギーの激流が若菜の肉体を通してタワーへと伝達されていく。
そして、タワーから一筋のエネルギーの光が放出された。
それは道となり来人のいる孤島へと向かう。
「何だ...一体?」
「お父様がいない世界なんて興味ないわ!
来人と融合してガイアインパクトを始める!」
「なっ!?止めろ!」
「黙れ!全てお前が悪いのよ!」
感情のまま放たれたエネルギーの余波で翔太郎は吹き飛ぶと上から落下した瓦礫に挟まれてしまう。
「ぐあっ!....フィ...リップ」
翔太郎は光に飲み込まれていく相棒に手を伸ばしながら気絶してしまう。
そして、若菜とフィリップの融合が始まってしまった。
Another side
実の父親の死を隠れながら見ていた冴子は愕然とする。
「そん....な....お....父...様。」
そんな彼女を加頭が支える。
「しっかりしてください冴子さん!」
「でも....お父様が....」
「問題ありませんよ冴子さん。
貴方が園咲 若菜から力を奪えば地球の持つあらゆる力を使うことが出来ます。
そうすれば父親を蘇生させることなど雑作もない。
ですから、今こそ動くべきなのです。
宇宙の巫女の力を奪い取り貴女がこの世界を統べる女王となる為に....」
「そう....ね....そうだわ。
私があの力を手に入れれば...そうすれば!」
自分を安心させる様に言葉を紡ぐ冴子の身体を支える加頭の顔は冴子に見えない様にしながら笑っていた。
(何て"良いタイミングで死んでくれたんだ"琉兵衛さん。
お陰で冴子さんの心を私に向ける事が出来る。
若菜さんから宇宙の巫女の力を奪うには私のメモリの力が必要。
感謝しますよ。
今この瞬間から冴子さんは私に依存する。
あぁ、とても幸せだ。
冴子さんを精神的にも支えられるのはもう私しかいないのだから....)
そんな考えを悟られないように加頭は冴子へ告げた。
「仮面ライダーも倒れた今がチャンスです。
さぁ、行きましょう。
今こそ、力を奪い取る時です。」
加頭に背を押され冴子はタワーの隠し通路を空けると若菜の元へ向かうのだった。
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第二百二十六話 二人のD/相対する二人
始めは目的の為に造り出された人形だった。
最愛の存在を甦らせる....その目的を果たせれば良かった。
だが、そんな考えとは裏腹にこの人形はこの世界で新たな選択を繰り返し今まで見たことの無い流れを見せ続けた。
だからこそ、私はその姿を見て希望を覚えた。
私の想像を越える彼ならばきっと彼女への道を見つけてくれると思ったからだ。
赤と黒で彩られた地球の本棚の深淵にある空間.....
その中には現在、二人の人がいる。
超越者として幾億の世界を繰り返してきた
そんな二人は地球の本棚と言う空間の中で相対していた。
『正直、驚いたよ。
まさか、ここまで私の想像を越える結果を見せてくれるとは思っていなかった。』
「僕の創造主である貴女からそんな評価を受けるとは....光栄だとでも言うべきですかね?」
ゴエティアの称賛に対して無名はそう皮肉った。
『そんな謙遜しなくとも良い。
どうせ、ここまで来れば後は結末まで進むしかない。
ブラフや言葉による牽制も最早、意味を為さない。
それはお前も分かっているのだろう?』
「.....えぇ、ここから先は外にいる
その結果で私達のどちらが勝つか決まります。」
『そうだ。
ここから先、我々は観客も同然。
どうなるにしても私達の融合は不可欠であり融合した後に行うことも変わらない。
ならば......少し位、語らっても問題ないだろう?
"Time"起動。』
ゴエティアがそう言うと本棚の上空に大きな時計が現れた。
『時間を一時的に止めた。
余り長くは止められないが二人で語るには十分だろう。』
そう言うゴエティアの目の前に机と椅子が2つ現れる。
机の上にポットと茶菓子も置かれている。
「語りたいのなら座ってしませんか?」
『もう、私の力を完全に使いこなしているとは....流石は無名と言っておこうか。』
そう言って二人は席に着くと無名がポットを取り二人のカップに飲み物を注いだ。
『ありがとう.....あぁ、良い匂いだ。
人間は今まで色々な物を作り上げてきたがティータイムの発明はその中でも傑作の一つだな。』
「えぇ、敵同士ですら語らい会える空間を作れますから」
『そうだな....お前を造り出した時はこうなるだなんて想像もしてなかった。』
「僕を造り出したのは僕の身体を使って現実世界.....貴方が言う所の箱庭に降り立つのが目的だったのですか?」
『それもあるがもう一つの目的は君の身体が超越者の意識を宿しても箱庭で生存できるのかの確認もある。
知っての通り、超越者の肉体のままでは力が強すぎて箱庭で生きることが出来なかったからねぇ。』
「それで生きられるのならコスモスを甦らせる事も可能だと?」
『あぁ、コスモスもそうだが地球の記憶になった超越者達も甦らせることが出来る。
精神さえ復元出来れば後は箱庭に入られる肉体を用意するだけで良いのだからね。』
「その始めがコスモスと言う訳ですね?
.....僕はここでコスモスの意思に触れました。
そこで、超越者の記憶を見た....その最後も」
『やはり、コスモスが君に力を貸したのか。
彼女は今もここにいるのか?』
「....分かりません。
僕も会えたのはその一瞬だけですから」
『そうか.....彼女はどうだった?
元気にしていたかい?』
「....泣いていました。
貴方の所業を見て....元に戻って欲しいとずっと願っていました。」
『.....相変わらず彼女は優しいな。
私や地球に生きる人間をまだ心配してくれるとは...』
「コスモスさんの考えを知ってどうして?
.....どうしてガイアインパクトを起こしたんですか?
それで仮に甦れたとしても彼女が喜ぶとは僕は思えません。」
無名の指摘にゴエティアはカップに注がれた飲み物を飲むとゆっくり答える。
『"そうだろうね"。
優しい彼女の事だ。
きっと悲しむだろう。
私を侮蔑し変わる世界に絶望するかもしれない。』
「それが分かるならどうして....」
『でも、彼女の命は生き返らせられる。
タナハと私の望みは叶えられる。
これから先の彼女の笑顔は守れる。
今は悲しくとも何れ彼女は笑顔になれる。』
「そんなの....貴方達の勝手な妄想じゃないですか!
本人の感情を無視した...エゴですよ。」
『エゴ.....か。
だが、この世界は"エゴまみれ"だ。
園咲 琉兵衛も"家族を愛したいエゴ"で悪の道へ堕ち
風都の悪を...."罪を清算し街を守りたいと言うエゴ"で鳴海 荘吉は仮面ライダーとなりそれを弟子である左 翔太郎も受け継いだ。
"復讐と言うエゴを満たす"為に園咲 文音や照井 竜も行動した。
"エゴ"とは欲望であり願いだ。
それを否定すると言うことはこの世界の生きると言う現象を否定することに繋がる。』
「だから....許されると?」
『お前もそのエゴでこれまで行動してきただろう?
予め持っていた知識を利用し生かしたい者を選別しお前が求める結果を得続けた。
生かしたい者生かし殺したり者を殺す。
これをエゴと呼ばずに何と呼ぶ?
お前に私のエゴを否定する資格はない。』
ゴエティアの言葉を受けて無名は黙ってしまう。
自分のエゴでこれまで生きてきたその事実を無名は否定出来なかったからだ。
『お前も私も自分のエゴを通すだけの力があった。
そのエゴを貫いて生きてきただけに過ぎない。
だから、私もお前を否定しない。
良くぞ貫いた。
超越者たるこの私を相手に....称賛に値するよ。
どんな結果になったとしても私は君を忘れない。
造られた身でありながら私を出し抜き張り合った君の存在を.....そして誇りに思う。』
「やはり、貴方は上に立つ存在なのですね。
そのカリスマ性....正直敵でなければ着いていきたいと思ってしまいます。」
『そう言われるとは光栄だな。』
「教えて下さい。
超越者とは一体何なのですか?
何故、貴方達の様な存在が産まれたのですか?」
『.....その答えだけは私も分からない。
あらゆる生物や物体、事象の祖でありながら我々の存在理由は私達自身も分からない。
もしかしたら、我々も造られた存在なのかも知れないがそれを示す物もない。
これだけの力を有しながら何も分からない。
それが我々、超越者だ。』
「.......」
『だが、敢えて言葉で現すのなら我々は君達、人間よりも圧倒的に愚かな種と言えるかもな。』
「愚かですか?」
『知識のみを知り全てを知ったつもりになり、感情の赴くままに行動した。
人と違い我々は失敗を知らなかった。
故に.....滅びた。
最初はその失敗は仕形がないと思っていた。
だが、お前達、人間の所業を見て理解した。
我々が愚かだったのが失敗の原因なのだと.....』
「ゴエティア.....」
そう話している二人の上に何か強い光が起きた。
『どうやら、彼方の融合も始まったようだ。
此方もそろそろ始めようか?』
そう言ってゴエティアが予め用意していた融合の為に作った力を発動させようとするがここで違和感に気付く。
『何だ......この不快感は?
我々じゃない....上での融合が進んでない?
どういう事だ!?』
「ゴエティア....貴方の思いは理解しました。
感情を手に入れた故に今でもコスモスを想い取り戻そうとする覚悟を....でもだからこそ、僕も譲れない。
この世界を守りたい!
それが、僕自信の意思です。」
無名はデモンドライバーを着けるとデーモンメモリを装填した。
『私と戦っても意味など無いぞ?』
「いいえ、意味はあります。
この戦いの決着が僕の打てる"最後の一手"だからです。」
『どういう意味だ?』
「先程の疑問について答えましょう。
上で何が起こったのか?
単純な答えです。
フィリップとの融合が止まった。
故に本来起こるべきガイアインパクトが起こらずシステムにバグが生じているんです。」
『バグ?....バカな。
そんな事をどうやって起こすんだ?』
「このガイアインパクトを止める為、僕はフィリップにある存在を味方につけるよう頼みました。
それが上手くいったのでしょう。」
『味方?....
彼等がお前達に味方したと言うのか?』
「いいえ、違います。
いるじゃありませんか?
ミュージアムの為に造られた.....いや、僕が造らせた最高の役者が」
『......まさか!?』
気付いたゴエティアに無名が告げる。
「えぇ、"メイカー"です。
今彼はフィリップと共に地球の本棚にいます。」
『そんな事は不可能だ。
あれは所詮、機械だぞ?
機械が何故、本棚に.....』
「メイカーの開発コンセプトは擬似的に地球の本棚を作り出す事、言い換えればメイカーの中には小型の本棚がありそれをずっと使ってきた。
つまり、大量のデータを選別し自我を保てるAIなのです。
そして、ミュージアムにより多数のメモリを造り出した今のメイカーならば地球の本棚に入れると読んでいました。」
『.....だからこそ、フィリップは風都にいなかったのか?
メイカーを手中に置く為に』
「えぇ、園咲家の者以外メイカーに命令できない。
そうプログラムされていましたから....」
『だが、仮に入れたとしても意味など無い。
所詮はただの時間稼ぎだ。
若菜により消去され融合が再開される。
お前のやったことは無駄だ無名。』
「本当に無駄かどうかはフィリップにかかってます。
言ったでしょう貴方とここで戦うのが僕の最後の一手だと....僕の策は成りました。
ここから先は関係ない。
貴方との決着だけです。」
『決着?』
「えぇ、全ての決着です。
此方の言葉を借りるなら"罪を数える時間"が来たのですよゴエティア。
この世界を繰り返し悲劇を生み続けた貴方の罪は重い。
それに荷担した僕も同罪です。
だから、一緒に数えましょう....罪を」
『それが私達の戦いだと?
.......良いだろう。
何を企んだ所で結末は変わらない。
ガイアインパクトは成功しコスモスは甦る。
それを見る前に死にたいのなら望み通りにしてやる。』
ゴエティアがそう言うと腹部にガイアドライバーⅡが現れる。
それを見た無名はベルトを展開した。
「「DEMON」」
「変身」
二人の変身音が被りながらお互い姿を変えていく。
無名は仮面ライダー、ゴエティアはドーパントへと変わると両者は武器を持った。
無名はアームライザーを刀の形に変え、ゴエティアは黒炎で刀を生成する。
両者が、睨み合いながら機会を伺う。
互いの想いが高ぶった瞬間、両者の刃がぶつかった。
「ゴエティアぁぁぁぁぁ!!」
『無名ぃぃぃぃ!!』
刃がぶつかる度に火花を放ちながら切り結んでいく。
互いに防御を捨てた攻撃をの連鎖はお互いの肉を傷付けていくが止まらない。
「この地球は絶対に守る。」
『コスモスを生き返せるのは私だ。』
その想いが刀に力を、加えていく。
ゴエティアは距離を離そうと空いた左手に発生させた黒炎を放つが無名の身体に触れた瞬間、黒炎は欠き消えてしまう。
「僕達のメモリは同じ....つまりそんな弱々しい黒炎は効きません。」
『その様だな。
黒炎を集約した武器でなければ意味が無さそうだっ!』
ゴエティアは背後から鎖を召喚すると無名の腕に絡み付かせる。
しかし、そんな攻撃では無名の隙すら作れない。
『
アームライザーが槍へと変わると逆に鎖を巻き付けゴエティアの右腕に絡ませると地面に槍を刺した。
右腕の自由を失い刀を振るえなくなったゴエティアの顔面を無名は殴る。
『ぐっ!』
「まだまだぁ!」
無名は追撃を行おうとするが鎖と刀を黒炎へ戻したゴエティアの自由になった右手で攻撃を止めると腹部に蹴りを加える。
「うっ!」
『そう上手くはいきませんよ無名。』
「なら、これはどうだっ!」
無名はゴエティアの右腕を巻き込むようにして身体を持ち上げて背負い投げるとその勢いを利用して刺さっている槍に向かい抜き取った。
距離が出来た事でお互い仕切り直しとなる。
『随分、強くなりましたね。
最初の頃なんて格闘はからっきしだったのに....』
「伊達にNEVERの皆さんに鍛えられていませんよ。」
『.....やはり、現実世界で痛めつけておくべきでしたね。
ここに来てしまったらエクストリームの力も意味を為さない。』
エクストリームの力は本棚と繋ぎ直接力を引き出せる。
だが、本棚にいるこの状況では使う力に触れないといけない。
エクストリームはあくまで現実世界では強力だが本棚での使用は想定されていないのだ。
(本棚に向かう隙を無名は見逃さないだろう。
やはり、デーモンメモリの力で倒すしかないか。)
『はぁ....まさか二度使うことになるとは』
溜め息をついたゴエティアは右手に黒炎を集約させるとWを倒した槍を生成する。
「それは?」
『私のお気に入りです。
戦うのならば使い慣れた武器が一番ですから....』
対する無名はアームライザーを刀のモードに戻す。
『貴方の得意武器は刀ですか。』
「これまで何度も使ってますからね。」
生成した武器を構える両者は一呼吸置くと走り出す。
互いの武器の刃が交わった瞬間、火花を発する。
『ここで貴方を倒しガイアインパクトは完成する。』
「させません。
僕達、仮面ライダーが止めます。」
互いの決意を言い放ちながらも長い戦いが今、始まるのだった。
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第二百二十七話 二人のD/少年の想い
フィリップは地球の本棚に若菜と共に転送されていた。
『さぁ、来人。
遂に私達が融合を果たしガイアインパクトを始める時が来たわ。』
「姉さん....どうしてそこまでガイアインパクトにこだわるんだい?」
『何を当たり前の事を....それこそがミュージアムひいては私の願...』
「違う....それは父さんの願いであって若菜姉さんの願いじゃない。
本当は自分でも分かっているんじゃない?」
『何を言って....』
「不自然に思考が誘導されてると思わない?
昔の姉さんは風都のラジオアイドルとして生きてミュージアムとの関係を出来るだけ絶っていた。」
『それは...まだ私が幼かったからよ。』
「その幼い頃の気持ちはもう今の姉さんには関係ないの?」
『ごちゃごちゃと....!?』
フィリップと話していた若菜の頭に過去の記憶が蘇る。
家族と離れたくて始めたアイドル活動。
最初は反抗の気持ちからだった。
でも、ラジオ番組の仕事やテレビにも出られるようになってこんな私でも大丈夫なんだと自信がついた。
そして、そこで私は"フィリップ君"と会って.....!?
『違う!.....彼の名は園咲 来人よ。
フィリップって名前じゃ...!?』
「不思議ね....貴方には何でも話したくなる。」
「何時でも話を聞きますよ若菜さん」
「次は携帯じゃなくて顔を会わせたいわ。」
『違う違う!.....こんな記憶は正しくない!』
「次は携帯ごしじゃなくて....直接貴方と」
『うるさいっ!私の心を乱すなっ!』
虚空に向かって若菜が叫ぶ。
無名が最後に若菜へと放った攻撃......
それは若菜がゴエティアに洗脳された一部の能力を無効化させていた。
(作戦通り、無名は姉さんの過去の記憶を蓋していた力を無効化した。
今ならきっと思い出せる筈だ。)
無名がこのガイアインパクトを防ぐために出した結論は若菜かゴエティアのどちらかを無力化する事だった。
「ゴエティアの計画は完璧です。
下手に邪魔をすれば地球が破壊される.....ならばどちらかを無力化して計画を阻止するしかない。」
「でも、姉さんはゴエティアの洗脳を受けている。
簡単には元に戻せない。」
「えぇ、ですからここからは賭けです。
彼等の作戦を撹乱する為、表向きではタワーの破壊や装置の停止を目指します。
その間に僕が若菜さんに会えた場合、どうにかして黒炎の能力を使い彼女にかけられた洗脳の一部を無力化する。
全部は無理でも一部ならデーモンメモリのマキシマムで無力化出来る筈ですから.....」
そうして、無名はその賭けに勝った。
無名の黒炎は封じられていた若菜の記憶を呼び起こした。
「思い出してくれ姉さん....いや若菜さん!
僕達が始めて会った日を!それから話したことを!
本当の貴女はガイアインパクトなんて望んでない!
ただ、自分らしく行きたかっただけだ!」
「うる...さい!!...わ...たし..はミュージ...アム...の....くっ!あぁ!」
「苦しいんだね?
それはゴエティアの洗脳に抗っている証拠だ。
本当はこんなことはしたくない。
そう感じているから苦しいんだ!」
フィリップは手を広げると地球の本棚の力を発動する。
「必ず救って見せる。」
そう言うとフィリップの周りに大量の本が現れる。
「僕と姉さんの融合はエクストリームの変身プロセスから着想を得た....つまりはWのシステムをある程度は転用している筈.....なら、Wと同じ様に僕の精神だけ姉さんの元へ送ることが出来れば.....あった!
やはり、いける....."メイカー"!」
フィリップが、そう呼ぶと本棚の空間に人型のエネルギーが現れる。
「僕はこれから姉さんを助けに行く。
それまで僕の身体を頼んだよ。」
「.....承知致しました。
来人様が戻られるまで貴方の肉体を守って見せます。」
「ありがとうメイカー。
力を貸してくれサイクロンメモリ。」
フィリップはそう言ってサイクロンメモリを取り出すと自分の精神を転送した。
残った身体が地面に倒れるがサイクロンメモリは空へ浮いている。
(さぁ、行くよ。)
サイクロンメモリは勢いをつけながら若菜へ向かうと彼女の身体の中へと取り込まれていった。
代わりにメイカーがフィリップの倒れた身体の前に立つ。
「防衛プロトコル起動。」
メイカーは自らの身体からエネルギーを分けると盾の形に変えて意識の無いフィリップの身体を守るのだった。
フィリップが目を覚ましたのは地球の本棚ではなく生前、住んでいたであろう園咲邸だった。
家具や支度をしている使用人も若々しい。
(ここは....姉さんの記憶?)
フィリップは使用人に触れようとするがまるで幽霊の様に触れた部分が透けてしまった。
そんな事をしていると人形を持った少女がフィリップを見つめる。
「お兄ちゃん誰?」
「君...僕が見えるのかい?」
フィリップの問いに頷く少女は良く見ると彼女の面影が残っていた。
「姉....君は園咲 若菜さんだね?」
「うん、そうだよ。」
「そっか、君はどうしてここに?」
「....お父様が産まれた弟に会わせたいって言ったの」
(弟....つまりこれは僕が産まれた時の記憶なのか?)
そんな事を考えていると急に空間が変化し部屋が変わる。
目の前には大きなベッドがありそこには小さな赤子を抱えて微笑んでいる若い頃の
「お父様!」
「若菜か?....さぁおいでこの子はお前の弟になる来人だよ。」
人形を抱えながら父の元へ向かう幼き日の若菜だったが突如、優しい朝日が入っていた部屋が暗くなる。
「これは....」
『どうやら、招かれざる客が来たようだな?』
その声に振り向くと
『ここは彼女の深層心理の奥深くにある空間だ。
普通なら入れない筈だが、どうやってここに来た?』
「お前から姉さんを解放する。
その為にここに来た。」
『成る程、質問に答える気は無いか....仕方がない。
"私の計画"の成功には君は邪魔だ。
ここで君には退場して貰おう。』
「僕を殺すつもりかい?
そんな事をすればガイアインパクトは成立しなくなる。
姉さんが宇宙の巫女となるには僕の精神と肉体、両方と融合しないと行けない。
でないと力のコントロールが出来なくなる。」
『良く調べたな。
そうだ、君の精神は制御プログラムで肉体はチップだ。
どちらが欠けても融合は成立しない。
だが、そんな事はもう"どうでも良い"のさ。』
「どうでも良い......ずっと気になっていた事がある。
メイカーが僕へ命令権を移行した時だ。
姉さんの遺伝子情報を調べた。
半分以上が姉さんでは無い別の遺伝子に置き変わっていた。
その遺伝子は一体なんなんだ?
一体、誰の遺伝子が姉さんの中に入っている?」
その問いを聞いたゴエティアは笑う。
『半分か.....思ったよりも"進んでいないな"。』
「!?やっぱり何か秘密があるんだね。
君はこのガイアインパクトを最初から成功させる気が無い。
君の目的は何だゴエティア?
一体何を!?」
そう言いかけた所でゴエティアは指を弾いた。
フィリップが咄嗟に回避すると彼の立っていた空間に黒炎が上がる。
その炎は部屋全体を覆い始める。
『計画よりも少し早いが....まぁ良いだろう。
君には彼女の精神の中で死んで貰う。』
「何だって!?」
『君の存在は面倒なんだ。
計画を完璧に成功させる為にもここで消えてくれ。
あぁ、安心したまえ。
奪っていた彼女の心はここに置いていく。
共に焼かれて仲良く死ぬと良い。
では、さようなら』
「待て!」
フィリップがゴエティアを追いかけようとするがそれを黒炎が遮り顔をあげるとそこにはもうゴエティアはいなかった。
代わりに彼がいた場所に大人になった若菜が倒れている。
「姉さん!.....くっ!炎が邪魔を」
(先ずは姉さんの元に辿り着かないと....そうだ。
ゴエティアが言っていたじゃないかここは姉さんの精神世界、ナイトメアの事件と同じだ。
上手く力を使えば.....)
フィリップは頭でロストドライバーをイメージすると目の前にイメージ通りのロストドライバーが現れた。
フィリップはサイクロンメモリを取り出してロストドライバーに装填し腰にドライバーをつけると展開し黒炎へと走っていった。
「変身」
緑色の風が吹き荒れながら走っていくとそれにより黒炎が巻き上がり若菜の元へと道が開いた。
フィリップが仮面ライダーサイクロンへと変身が完了する頃には若菜の元へ辿り着いていた。
「姉さん!起きて!姉さん!」
フィリップが若菜の身体を揺さぶると彼女はゆっくりと目を開ける。
「フィ....リップ君?」
「良かった...目を覚ましたんですね。」
「私はどうしてここに?....」
「それは....!?」
フィリップが説明に戸惑っていると黒炎により燃え広がった空間に亀裂が入る。
「もう、この空間は持たない。
どうにかして戻らないと....若菜さん、ここは貴女の心の世界です。
貴女が目を覚ませばこの世界から出られる筈です。」
「でも....それじゃあフィリップ君は?」
「僕は大丈夫です。
早く!」
若菜はフィリップの言葉に従い"目を覚ます"事に意識を向けると彼女の身体が透明になっていきこの空間から姿を消した。
「これで姉さんは本棚に戻った筈だ。
後は僕がこの空間から出れば....くぁ!」
フィリップもこの空間から出ようと意識を向けようとするがその瞬間、フィリップの足元に亀裂が進み地面が割れる。
フィリップは落ちない様に壁にしがみつく。
「マズイ!これじゃあ、戻る前に空間が消える。」
打開策を考える時間も無く空間の崩壊が進むとフィリップはその穴の中へと消えていくのだった。
目を覚ました若菜は周囲を見回すとそこには地面に倒れ付しているフィリップの姿があった。
「フィリップ君!起きて!」
若菜はフィリップを抱き寄せて起こそうとするが意識を取り戻すことはない。
「そんな.....まさか!?」
最悪な結末を想像した若菜だったがそれは"急に目を覚ましたフィリップ"によって否定される。
「!?....はぁはぁ...」
「フィリップ君!.....良かった。」
起きたフィリップを見て安堵する若菜を見て彼は笑った。
「元に戻ったんですね若菜さん。」
「えぇ、貴方のお陰で.....ありがとう。」
「いえ、貴女が無事なら良かった。」
そう言って立ち上がるフィリップに若菜が尋ねる。
「でも、どうやってあの炎の中から助かったの?」
「メイカーが僕の身代わりになってくれたんです。」
黒炎により崩れ去った地面により落下するフィリップを救ったのは身体にノイズが走りながらもフィリップの手を握るメイカーだった。
「メイカーどうやってここに?」
『私の....身...体を...使っ...て..ここへの道....を作....り...まし..た。』
「バカな!?そんな事をすれば君のデータは...」
『良いの...です...貴方....死なせる...訳...には....いきません』
メイカーがそういつも繋いだ手が形を変えて一本の細い道へと変わる。
『は....やく....もう...じ...かん..が...』
「....メイカー、すまない。
"ありがとう"。」
フィリップはメイカーが残した道を通ってその場から姿を消した。
フィリップが無事に転送された事を確認するとメイカーは身体を崩壊させながら考えた。
(ありがとう....か。
まさか、感謝されるなんて....)
メイカーは園咲家の道具として作られた。
故に役に立つことは当然であり義務だった。
だが、感謝を受けたメイカーの心には別のものが生まれていた。
(消えていく筈なのに....私の心は....満たされている。
何故だろう?)
メイカーが悩んでいると他愛もない過去の記憶を思い出した。
あれはまだ無名がミュージアムで働いていた時、
雇用しているNEVERが成果を挙げた報告を受けた無名は笑顔でメンバーに感謝を告げていた。
それに疑問に思いながらもメモリ製作に関係ないと聞くことをしなかった。
だが今なら分かる。
何故、感謝をしたのか。
(言葉とは心を写す鏡....伝えたかったのだ。
心を....言葉として....感謝を....)
人からすれば当たり前の行動。
だが、メイカーはそれを知らなかった。
しかし、フィリップのお陰で知ることか出来たのだ。
フィリップからの心が籠った感謝の言葉はメイカーの心を刺激した。
辺りを見ればもう崩壊は手遅れなレベルで進んでいた。
メイカーがその崩壊に巻き込まれて消えるのはもう間もなくだ。
(どうせ消えるのなら....告げてみよう。
私の心を.....)
メイカーは自分の記憶を思い返す。
(私を作ってくれた無名、蛮野....そして私を認めミュージアムに置いてくれた琉兵衛様、冴子様、若菜様....そして最後に私に感謝の意味を教えてくれた来人様)
私は利用されるために作られた道具だ。
だが、それに後悔や悲しみはない。
何故なら、メイカーは産まれ存在するだけで幸福だったからだ。
だからこそ、言ったのだ。
誰もいない世界だろうとその言葉だけは.....
『ア.....リガ.....トウ』
(私を作り出した全て.......)
その言葉を告げたメイカーは満足しながら崩壊する空間と共に消滅するのだった。
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ドライブ編
第二百十四話α 「何故、俺達はこの作戦に参加したのか?」
蛮野の宣告を受けて警察は蛮野の潜伏先への突入作戦を行う。
そこに仮面ライダードライブである泊の姿もあった。
ロイミュードの真実を知った泊はこれまで通り、ロイミュードを倒すことを悩む。
彼はどんな決断を下すのか?
※書き直しましたが詩島 剛はまだこの段階では仮面ライダーマッハにはなっていません。
エピソード的には11話の後らへんです。
ドライブもデッドヒートにはなれません。
使えるフォームは"スピード" "ワイルド" "テクニック"のみです。
霧子に引っ張られて作戦会議を行う部屋へと到着した泊の顔は歪む。
何故なら、そこにいたのは泊や彼の所属する特状課を目の敵にしている存在がいたからだ。
「おやぁ....会議開始時刻に来るとはぁ十分前行動も出来ないのは流石は特状課だなぁ。
今時の"小学生"でも出来る行動だぞ?」
嫌みったらしく扇子で自分を扇いでいるこの男は
その光景に嫌気が指しながらも霧子は謝る。
「申し訳ありません。
少しトラブルがありまして....」
「トラブルぅ?そんな言い訳が通じると思っているのかね?
流石は"犯罪者を父に持つ娘"だなぁ。
随分と傲慢に育てられたようだ。」
「「「!?」」」
明らかに霧子を侮辱する言葉に霧子は顔を伏せ泊は怒りで強く拳を握る。
「あの野郎....言わせておけば」
「なっ!?何をする気だ!?」
その言葉を無視して、仁良の元に行き殴りかかろうとするのを特状課の課長である
「仁良課長....全員揃ったのです。
そろそろ、作戦について話すべきではありませんか?」
「おやぁ?特状課風情が私に意見するのか?」
挑発する様な言葉に笑う。
「いえいえ、ただ重要な会議前に人を侮辱するのは良くないことは"幼稚園児"でも知っていると思っただけですよ。」
「!?」
「さぁ、仁良課長始めましょう。」
有無を言わせない本願寺の威圧に仁良は負けると舌打ちしながら言った。
「....ちっ!それではこれより作戦の説明を始める!」
仁良が苛立ちながら戻ると本願寺は泊の肩に手を置く。
「課長」
「泊くん怒る気持ちは分かりますが今は冷静に......
感情的になれば相手の思う壺です。」
そう言われ冷静になった泊が霧子達のいる場所へ戻っていく。
霧子の周りには彼を心配するように同じ特状課の"
「気にしなくて良いわよあんな性悪の男の言葉なんて....」
「家の霧子ちゃんを虐めるなんてあの陰湿な男のパソコンの中身を全部ネットの海に晒してやろうか。」
「止めとけ西城それは流石に犯罪だ。
.....だが、霧子ちゃん。
同じ捜査一課として君には謝罪する。
あれは警察官の本分を逸脱する言葉だ。
申し訳なかった。」
「いえ....良いんです。
父が犯罪者なのは事実ですから.....」
蛮野が自分の正体をバラしたことでその娘である霧子は警察内部でも白い目で見られていた。
それでも彼女が警察官として働いているのは彼女なり理由があった。
「でも、必ず捕まえます。
それが娘だった私に出来るただ一つの事ですから....」
そう言うと霧子達は席に着いた。
すると、仁良が作戦を話し始める。
「我々、捜査一課のたゆまぬ調査の結果、ZAIAが保有していた廃工場から電波ジャックを行った形跡を発見した。
奴等はロイミュードを使い工場内を武装している可能性がある。
よって、特例として警視総監がG3ユニットの使用を許可した。
G3マイルドとG3Xの編成部隊を使い工場内を制圧。
中にいる蛮野天十郎を逮捕する。
一課の面々はG3ユニットの受領と逮捕の準備を行え。
作戦については以上だ。」
そう言って話を終えようとする仁良に泊は質問した。
「あの....俺達、特状課は何をすれば?」
「あ?.....お前達は私達の食べる弁当でも運んでおけば良い。
....いや、寧ろ現場ではなくこの部屋の掃除でもしていろ。」
「なっ!?」
「お前らみたいな落ちこぼれを捜査に参加させたら作戦が失敗する危険があるからなぁ。
ここの地面がピッカピカになるまで磨いてろ。」
そう言って笑う仁良に泊は純粋に苛立つ。
その怒りが分かったのかスーツに隠されたベルトさんが小声で告げる。
「進之介...大丈夫だ。
特状課もちゃんと参加できる。」
「それってどういう....」
すると、部屋にノックが行われ一人の警官が入ってくる。
「失礼致します。
仁良課長....本庁から追加連絡が来ました。」
「そうか、ご苦労。」
そう言って渡された書類を仁良が受け取り中身を見るとみるみる顔が歪み驚く。
「ふわっ!何だとぉ!」
驚きながら後退りすると本願寺を睨み付ける。
「本願寺課長、一体どんなコネを使って....」
「はて?仁良課長何の事か分かりませんね。
それでその書類には何と書かれていたのですか?」
本願寺の問いに歯ぎしりしながらも答えた。
「.....本庁から作戦の責任者として"照井 竜警視"がいらっしゃられる。
本人のたっての"希望"でお前達、特状課は警視のサポートをしながら....本作戦に参加して貰う!!以上だっ!」
この作戦は元々、風都の対ガイアメモリ部隊成立に根を回した企業に対する調査を目的として行われており警視総監が選び出した責任者達が作戦を指揮していた。
照井竜もその一人であり彼が来ると言うことはこの作戦でのトップは仁良ではなく照井に変わる。
つまり、彼の要望を拒否することはいくら作戦を指揮している仁良でも出来ないのだ。
その言葉を受けて本願寺は満面の笑みを浮かべて答える。
「特状課の任務、確かに拝命致しました。」
「!?ぐっ!以上だ!作戦開始まで待機だ!
さっさとここから出ていけ!」
負け犬の遠吠えに相応しい怒りを向けられながらも特状課の面々は部屋から出ていった。
作戦説明が終わり誰もいない部屋の中で仁良は誰かに電話をかけていた。
「あぁ....特状課を作戦から外す作戦は失敗した。
何?仕方がないだろう!俺より上の立場からの要請を断れるわけがない。
!?...分かっているアンタには恩がある裏切ったりはしないよ。
だから、"あの映像"をバラすのだけは止めてくれ。
作戦については失敗させる策がある。
風都から"面白い刑事"を見つけている。
分かるだろう?"ガイアメモリ"を使うんだ。
奴の能力があればG3の部隊は完全に無力化出来る。
その混乱を気にアンタは逃げる。
そして、俺はその責任を被せて逆な反逆者を捕まえた英雄として昇進する。
これでWin-Winだ。
......あぁ、また連絡する。」
そう言って電話を切ると仁良は怒りから携帯を地面に投げ付けた。
「クソッ!何で俺があんな犯罪者に下手に出ないと行けないんだ。」
全ての始まりは仁良が行っていたビジネスからだった。
彼はサラや獅子神を通してミュージアムと取引をしていた。
ガイアメモリの輸出の黙認、それに気付いている警官の密告を行い金を稼いでいた。
ちょっとした罪を隠すだけで大金が手に入る簡単なビジネス。
そうだと思っていたが泊 進之介の父であり仁良の同僚だった
それを知った仁良は焦った。
英介は正義感の塊の様な警察官だ。
同じ刑事からも慕われている奴に自分が犯人だと分かって逃がして貰うことなんて不可能だろう。
自分が犯罪者になる恐怖に耐え兼ねた仁良は恐ろしい犯罪を実行に起こした。
今から五年前、警察から銃を奪い車で逃走する強盗団をパトカーで追っていた仁良と英介。
その際、仁良はわざとパトカーで車に体当たりして事故を起こした。
何とか起き上がった仁良は気絶している強盗団から銃を奪うとその銃で英介を殺害した。
証人が仁良一人だけだったと言うこともあり強盗団が逮捕されたことで事件は解決したかに思えたがそうはならなかった。
ある日、仁良のパソコンに英介を射殺する動画が送られてきたのだ。
その正体が蛮野であり彼はこの映像をこの世界から消す代わりに自分に協力するように言ってきた。
仁良に断る選択肢は無く今日まで蛮野の命令を聞いてきたのだ。
だが、裏切ることは出来ない。
順調に出世してきた仁良にとって英介殺害の映像は自分のキャリアを終わらせる必殺の武器となるのが分かっていたからだ。
だが、今回の作戦を成功させれば解放される。
何故なら仁良は蛮野だけでなくZAIAとも取引を行い、今回の作戦を失敗させたら蛮野の持つ殺害のデータを削除させる契約を取り付けたからだ。
この作戦さえ失敗させれば俺は自由になれる。
だからこそ、成功は許されない。
その為に仁良は風都にいた獅子神の元部下をスカウトした。
獅子神が倒れた後に捜査線上から身を隠したかったと聞いた仁良は彼を抜擢し自分の下に置いたのだ。
その理由は一つ。
彼の持つメモリが人間に対して絶大な威力を発揮するからだ。
奴が私の言う通り働けば上手く行く。
そう仁良は確信していた。
早く作戦が始まるのを彼は固唾を飲んで待っていた。
作戦室から追い出された特状課の面々は与えられた一室を綺麗にしていると扉をノックされる音が聞こえる。
そして、中に入ってきたのは赤いライダースーツと鋭い眼光をした照井 竜だった。
その威圧から追田と西城、霧子には緊張が走り、りんなは照井がイケメンだったことで目をハートにしていた。
本願寺と泊だけが照井を見て笑っていた。
本願寺の前まで来ると話し始める。
「お久し振りですね本願寺さん。
短い間ですがお世話になります。」
「こちらこそ、久し振りですね照井警視、元気そうで何よりです。
こちらこそ宜しくお願いします。」
挨拶を終えると照井に泊が話し掛ける。
「お久し振りです照井課長....あっ!いや照井警視。」
言い直した泊を見て照井は笑う。
「ふっ....ここは風都じゃない。
階級で呼ぶのが正しい。
今後気を付けろ....久し振りだな。
少し顔つきが変わったか?」
「えっ、そうですか?」
「戦う男の顔をしている。
刑事らしくて良い顔だ。」
「ありがとうございます。
また、一緒に仕事が出来て嬉しいです。」
そんな話をしていると追田が泊に尋ねる。
「おい、進之介。
照井警視とはどういう関係なんだ?」
「あぁ、実は俺、実地研修で風都に勤務していた時があってその時の上司が照井警視だったんです。」
「成る程....そう言う訳か。」
そんな話をしていると西城がネットで調べた知識を披露する。
「照井竜 警視、風都の超常犯罪課の課長。
主にガイアメモリ犯罪を中心に捜査を行っており検挙率は.....常に90%を切らない!?
しかも、風都署長の不正を暴いてからは副署長代理として風都署で勤務しているぅ!
めっちゃくちゃエリートじゃないかっ!」
そう独り言の様に話していると照井が言った。
「お前が西城 究か。
この短期間でそこまで調べあげるとは優秀だな。
流石は特状課のサイバー担当だ。」
「ぼっ....僕の名前を何で!?」
「本願寺課長から色々と聞いている。
貴女が沢神 りんなさんですね。
優秀な電子物理学者でありロイミュードにも精通している。」
「えっ!私の事も知っていてくれてるだなんて.....これはモテ期到来!?
あっ....あのぉ、照井警視は現在お付き合いされている方は?」
りんながそう尋ねると照井は少し悩んで答えた。
「付き合っている....と言える人はまだいません。」
(よっしゃあ!優良物件見つけたぁ!!)
「でも、風都に戻ったら告白するつもりの人はいます。」
(ガァァァン!終わったぁ!私の恋が秒殺でぇぇぇ!!)
あまりのショックで追田に向かって気絶したりんなを追田は優しく抱き締めた。
そして、霧子に照井は目を向ける。
「詩島 霧子巡査。
君の優秀さも本願寺課長から聞いている。
お父様の事についても....」
「照井警視....私は!」
「だが、ここでハッキリ言っておく。
私は君の父親が犯罪者だろうとどうでも良い。
それが君の全てを決定づける訳じゃない。
大切なのは君自身がどういう道を歩むかだ。
"罪を憎んで人を憎まず"......風当たりが強いのは分かっているが私は今の君を見てどんな存在なのか判断するつもりだ。」
「.......」
「だから、示してみろ。
自分が何者なのか。
それを見て私は君が刑事か判断する。
以上だ。」
強い言葉ではあるが自分を励ましてくれる照井に霧子は敬礼をすると部屋を出ていった。
その後を本願寺を残してついていくのだった。
照井と本願寺だけになった部屋で本願寺が照井を見て笑った。
「君も随分と変わりましたね"照井くん"。」
「貴方にもそう見えましたか"本願寺教官"。」
本願寺は過去に警察学校の教官を勤めておりその時に照井は生徒として学んでいた。
故に二人っきりになると昔の様に話し始める。
「えぇ、優しい目が出来る様になりました。
ご家族を失ってから貴方は復讐に取り憑かれた目をしていて心配だったのですが風都で良い出会いをしたみたいですね。」
「はい、良き仲間と大切な人を見つけました。」
「そうですか。
それはとても良いことです。
私は今の貴方を応援していますよ。」
「ありがとうございます。
......話しは変わりますが最近、そちらに現れている"謎の仮面ライダー"」
「仮面ライダードライブですね。
はい、"彼"には助けて貰っています。」
「泊がその仮面ライダーですね?」
照井の推理に本願寺は感心する。
「その推理の理由を聞いても?」
「一つ目は貴方の発言です。
貴方は仮面ライダーを"彼"と言った。
それは変身しているのが誰か知っているからだ。
二つ目は泊の目です。
風都にいた頃と違って強く責任を背負っている。
あの年であの目が出来るのは何か大きな力と責任を手に入れてしまったから....そう考えました。」
「素晴らしい推理です照井くん。
正解です。
泊くんは仮面ライダードライブとしてロイミュードと戦っています。
これを知っているのはりんなさんと霧子さんだけです。」
「やはり、そうでしたか。
泊が仮面ライダーになったんですね。」
「....やはり、心配ですか?
後輩が自分と同じく仮面ライダーになるのは」
本願寺は照井がアクセルだと知る数少ない人物の一人である。
照井はそう言われ白くなったアクセルメモリを取り出す。
「風都では仮面ライダーは市民がつけてくれた街を守る象徴なんです。
つまり、そうなってしまう程の力と責任がのし掛かる。
本音を言ってしまうと少し心配です。
泊がその重圧に耐えられるか。」
「ならば、貴方が彼に見せてあげてください先輩の背中を.....そうやって若手は学んでいくものです。」
「俺の背中.....ですか。」
「貴方は昔と違う。
もう"復讐"だけじゃない。
"刑事"として"仮面ライダー"としての大事な信念がある筈です。
それを後輩である彼に見せてあげてください。」
「随分と難しい注文ですね。
俺がそう言うのが苦手なのは教官が良く知っているでしょう。」
「はは!教官だから言うんです。
教えることは自分の成長に繋がりますから.....」
「.....努力してみます。」
照井の返答を聞いて本願寺は警察学校時代と同じ様に優しく生徒を見つめて笑うのだった。
二人の刑事が成長することを願いながら......
こうして、準備が整った面々は遂に突入作戦を開始する。
待っているのは地獄かそれとも.......
その答えを知る者は誰もいない。
原作との相違点
・泊 英介は12年前ではなく5年前に亡くなっている。
(丁度、進之介が警察学校を卒業した辺りで亡くなっている為、それが進之介のトラウマになっている。)
・早めの内に蛮野が正体を現した為、霧子の警察内での肩身は狭い。
・クリムは警察とG3の開発を協力している為、原作よりも密に連携が取れる。
・クリムと本願寺だけが照井が仮面ライダーアクセルだと知っている。
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第二百十五話α「暴走する理由は何故?」
一人は赤いジャケットを羽織り右耳に特徴的なハートのイヤリングをつけている男。
もう一人は緑の服にシルバーのメガネを着けて左手にタブレットを抱えていた。
「ほぉ....警察も蛮野の居所を掴んでいたか。
だが、ここで暴れてくれるのなら好都合だ。」
赤いジャケットの男が下を見ながら言う。
「"ハート"、やはり"メディック"の信号がこの中から発信されています。」
タブレットを操作しながらハートにメガネの男が告げる。
「そうか.....奴らの突入の混乱に乗じてメディックを救出する。
「分かりました。
.....大丈夫ですかハート?
顔色が悪いですよ。」
ブレンにそう言われたハートは心中を話す。
「蛮野を逃がしそのせいで大切な友達を奪われた挙げ句、グローバルフリーズを起こされたんだ。
俺達も蛮野を止めようと動いたが.....メディックを奪われ友達のコアを破壊され蛮野にも逃げられてしまった。」
「ハート....大丈夫です。
メディックも洗脳された仲間も今回で全員助ければ良いのです。
蛮野の粛清はその後でも十分間に合います。
ですから今回は仲間を助けることだけに集中しましょうハート。」
「.....そうだな。
ありがとうブレン。
さて、俺達も準備を進めよう。」
そう言って離れようとした時、下にいた泊 進之介に目がいった。
(お前も来ていたかドライブ。)
蛮野に洗脳された仲間が犯罪を犯し暴れている所をドライブが幾度も食い止めてきた。
そして、事件解決の為に暴れるロイミュードのコアの破壊もしてきている。
コアの破壊はロイミュードにとって死を意味する。
ハート自体も蛮野に操られているとは言え同族が犯罪を犯していることに少なからず罪悪感を抱いていた。
でも、だからと言ってハートにとってはこの世界に存在する数少ない108体の仲間なのだ。
だからこそ、ドライブとは何度も戦った。
そして、彼の正義も理解していた。
だからこそ、祈るように思った。
(今回だけは邪魔をしないでくれよドライブ。
これだけは失敗することは出来ないんだ。)
言葉にしないのはその想いが通じたとしても叶わないと内心で分かっているからだ。
人間に仇なす機械生命体ロイミュード。
故に倒さないと行けない。
そう思われていることはハート自身、1番分かっていたのだから......
突入の準備が着々と進んでいく中、泊を含む特状課は照井と共に現場に足を向けていた。
作戦の指揮は仁良課長がやるので照井は後方で事態の確認をしている。
展開される部隊を見ながら照井は分析した。
「出入口を塞いでから突入するセオリー通りのやり方か。
面白味はないが確実性がある良い作戦だ。」
照井は作戦をたてた仁良をそう評するとこちらのメンバーに話を加える。
「分かっているとは思うが俺の役目は君達をこの作戦に参加させることだ。
この作戦は絶対に成功させないと行けない。
その為の無茶は俺が責任を取る。
だから頼む俺達に力を貸してくれ。」
そう言っていると作戦が開始された。
G3ユニットを装備した刑事が展開を終えると廃工場に突撃した。
しかし、その突撃を分かっていたように中から金と黒に塗装されたゴルドロイミュードが現れる。
「姿を現したな。
各隊、目の前のゴルドロイミュードを殲滅しろ!」
仁良の命令を受けて者達はスコーピオンを構えて弾丸をゴルドロイミュードに向かって発射していく。
弾はゴルドロイミュードの身体に当たると装甲を壊していく。
弾を受け過ぎた個体はそのまま倒れて動かなくなった。
だが、数体のゴルドロイミュードが倒されてから動きが変わり始め、スコーピオンの弾丸を避け出し遂には完全に回避されるようになった。
その光景を見ていた泊達は驚く。
「どういう事だ?あのゴルドロイミュードに一発も当たらなくなったぞ。」
その疑問にタブレットを操作していたりんなが答えた。
「あの新しいゴルドロイミュードはかなり危険ね。
見て、G3マイルドに弾丸を受けたゴルドロイミュードからかなりのデータが送られてた。
恐らくこれはスコーピオンの威力と発射パターンについてよ。」
「つまり、ゴルドロイミュード達は倒されたゴルドロイミュードからデータを吸収し進化しているのか?」
「えぇ、照井警視。
これは通常のロイミュードとは違う。
今までのロイミュードは自我が確立した"個"として動いていたけど、ゴルドロイミュードは"集団でありながら個の意識を共有しているんです"。」
そう話していると追田がゴルドロイミュードを指差す。
「おい見てみろ!さっきまでと違ってスコーピオンの弾丸が効かなくなってるぞ。」
追田の言う通り、ゴルドロイミュードはもう弾を回避することもしなくなり何発も当たっているが然したるダメージが無いのか平然としている。
「弾丸の威力を分析して耐えられる様に自己進化した?
ゴルドロイミュードは相当危険ね。」
「確かにこの強さはG3マイルドでは荷が重いな。
どうやら、仁良もそう思った様だ。」
現場にケルベロスを装備したG3Xの部隊が配備されたのを見て照井は言った。
「ケルベロスの一斉掃射で片付けるつもりか。」
そう語った直後、誰も予想しない異常事態が起きた。
「あぁぁぁぁぁ!!」
「くっ!...来るなぁぁぁ!」
「消えろ消えろ消えろぉぉぉ!」
突如、G3Xの装着員達が発狂し始めケルベロスをゴルドロイミュードではなく周囲の味方に乱射し始めたのだ。
「アイツら何やってるんだ!」
「いきなり、発狂し始めた?」
驚く追田とりんなを他所に照井は仁良に吠える。
「一体どうした!何故、味方に攻撃している?」
『わっ....分かりませんいきなり発狂して乱射を』
「直ぐに止めるんだ!ケルベロスの弾丸は強力だ。
G3マイルドの装甲を貫通する。
このままじゃ死人が出るぞ!」
そう照井が命令している最中、周囲の空間が一瞬でどんよりして重くなった。
ロイミュード以外の周りの動きがゆっくりとなっていく。
「重加速だと!?」
泊は辺りを確認しながらそう言った。
仮面ライダードライブの使用するアイテムである"シフトカー"には重加速の空間を打ち消す能力があった。
そのお陰で泊は直ぐに重加速の空間で動くことが出来たのだ。
『進之介!錯乱しているG3Xの装着者を止めなければ危険だぞ!』
「あぁ、そうだな。
行こうベルトさん!」
『Ok!Start your engine!』
泊は変身がバレない様に皆から離れて移動すると"シフトスピード"を手に取るとベルトのイグニッションキーを回す。
ベルトから変身待機音声がなりシフトスピードを変形させると左手に着けた"シフトブレス"に装填する。
「変身っ!」
掛け声をかけてシフトスピードを前に倒すとベルトが変身を認識した。
「
すると、泊の身体に赤い装甲が纏われていきトライドロンからタイヤが射出されると泊の胸部に装着され仮面ライダードライブ"タイプスピード"への変身が完了した。
ドライブの形態の中で速さに特化しているタイプスピードが走り出すと直ぐに問題の現場に到着した。
到着した現場では錯乱して暴れるG3Xとゴルドロイミュードに痛めつけられているG3マイルドの集団の姿があった。
「クソッ!やられ放題じゃねぇか。」
『G3XもG3マイルドも重加速空間でも活動は可能だがドライブほど軽快に動くことは出来ない。
進之介!先ずはゴルドロイミュードの動きを止めてG3マイルドの部隊を救おう。』
「分かったベルトさん!
なら、これだな。」
泊はパトカーの形をしたシフトカーを取り出すと変形させベルトのイグニッションキーを回しシフトカーをシフトブレスに装填し動かす。
『タイヤコウカーン!!』
「
直後、泊の胸部のタイヤが入れ替わり片手に檻状の武器である"ジャスティスゲージ"が装備される。
そして泊は流れるようにイグニッションキーを回しシフトブレスのボタンを押す。
『ヒッサーツ!』
ベルトから待機音がなる中、シフトブレスのジャスティスハンターを動かす。
「
「JUSTICEHUNTER」
泊はジャスティスゲージをゴルドロイミュードに向けて投げつけるとそこから鋼鉄の棒が何本も現れ襲っているロイミュードを囲うと天井に複製されたジャスティスゲージが合体し即席の檻が出来ると電流が流れゴルドロイミュードの動きを停止させた。
そして、その檻が壁となりG3マイルドの部隊は襲われなくなっていた。
『襲っているゴルドロイミュードはこれで足止め出来る筈だ。
その間にG3Xを止めよう。
暴走している人数は"6人"か。
恐らく、催眠状態に近いのだろう気絶させれば正気に戻るかもしれん』
「良しなら手早く抑えるぞ。」
泊は高速で動き暴れるG3Xに近付くと持っていたケルベロスを弾き飛ばし腹部を殴り付けた。
殴られた隊員は倒れて気を失った。
「手荒だが許してくれ。」
『良い判断だ。
だが、他の奴等が進之介に気付いたようだ。
此方にむけて撃ってきているぞ。』
ベルトさんの言う通り、仲間をやられた5人のG3X達は泊にケルベロスを向けると一切、加減無く弾丸を放った。
「うわっ!マジかよ!?」
泊は持っていたジャスティスゲージを盾にしながらG3X部隊に近付くと一人ずつ無力化していった。
「うらっ!....良しこれで残りは1人か。」
『!?....進之介ゴルドロイミュードが檻を破りそうだ。』
「何だって!?」
ベルトさんに言われゴルドロイミュードの方向に目を向けるとそこには新たに現れたゴルドロイミュードが檻に捕まったゴルドロイミュードを破壊しようとしている光景が映っていた。
「アイツらダメージお構いなしで檻を壊そうとしているのか。」
『不味いぞあの檻が破壊されたら避難しているG3マイルドの部隊に被害が....』
「あぁ、早くケリをつけて助けに......!?
おい、何してんだ!」
泊はG3Xの目の前に現れた存在を見て焦る。
そこには何かに怯えて逃げようとしている"霧子"の姿があったからだ。
『なっ!?何故霧子君がこんなところに』
「やべぇ、G3Xの銃が霧子に向いてる!?
おい霧子!そっから離れろ!聞こえねぇのか!」
泊は大声で叫ぶが霧子はそれどころではなく何かから逃げるように動いており目の焦点も合ってなかった。
そして、そんな中錯乱していたG3Xのケルベロスが霧子に銃口を向けたまま発砲したのだ。
「ヤバい!このままじゃ霧子がっ!」
『だが、ゴルドロイミュードも危険だ!』
霧子か襲われているG3マイルドの部隊.....どちらを取るか選択に迫られた進之介は決断した。
もう一度、イグニッションキーを回しジャスティスハンターの必殺技を発動させると檻をゴルドロイミュードに投げつけそして泊は霧子にむけて走り出すと自分の体を犠牲にしてケルベロスの弾丸を防いだ。
ケルベロスから発射される弾丸がドライブの装甲に次々と着弾していく。
凄まじい火花を上げながらも泊は後ろにいる霧子の為、根性で耐える。
「ぐあっ!....うっ!」
『進之介ぇ!』
ベルトさんも泊を心配する。
そして、ケルベロスの弾が切れると泊は装着者を殴り気絶させた。
しかし、耐え続けたダメージは深く倒れてしまう。
「う....あ....」
『進之介しっかりするんだ!』
そして、この最悪なタイミングで霧子は正気に戻ってしまう。
「えっ.....と...まり....さん?」
動揺しながらも自分の起こした現実を理解した霧子は倒れている泊を見ながら自分のしたことを思い出してしまった。
「いやぁぁぁぁぁぁ!!」
霧子はショックのままに叫び続ける。
『しまった.....進之介!早くマッドドクターを使うんだ!』
そして、ここで更に最悪の事態が起こる。
ジャスティスハンターを使い作り出した檻からゴルドロイミュードが一体抜けてきたのだ。
そして、叫び続ける霧子に目を向ける。
『くっ!霧子君早く逃げるんだ!』
「いや....泊さん....そん....な....」
しかし、霧子は倒れている泊に目を向けたまま動けない。
『進之介!頼む目を覚ましてくれ!』
しかし、その声は泊には届かない。
そして、霧子に標的を向けたゴルドロイミュードが手を伸ばす。
『止めろぉぉぉぉ!』
叫ぶことしか出来ないベルトさん。
この絶望的な状況で助けもいない。
霧子の首へと伸びるゴルドロイミュードの腕.....
そのまま霧子の首をへし折るかと思えたがそれを止めたのは怪人状態へと変身したハートだった。
「俺と引き分けておきながら情けないぞドライブ。」
そう言うと掴んだゴルドロイミュードの腕を握り潰しながら胸部を殴り付けた。
ハートのパワーを諸に受けた肉体に穴が空けながら吹き飛ぶと爆発する。
『お前は....ハートか。
どうして私達を助けた?』
ベルトさんの問いにハートは答える。
「勘違いするな。
俺も蛮野に用があったに過ぎない。
これは気紛れだ。」
そう言うと泊達の元を離れて廃工場へと向かった。
窮地を脱したベルトさんは救援を呼ぶ。
『本願寺さん!直ぐに救援を....霧子と進之介が危険だ!』
その言葉を受けて泊と霧子は救出されるのだった。
Another side
救出される泊や霧子を遠くから怪人が見つめていた。
「あぁー、これは助けられちゃうか。
ドライブを始末する命令だけど....これ以上は難しそうだな。」
そう言うと怪人は首に手を当てるとそこからガイアメモリが排出される。
メモリには"T"の文字が刻まれておりそのまま携帯を取り出すと上司の仁良に連絡をつける。
「俺です仁良課長。
すいませんドライブの始末はしくじりました。
ですがG3ユニットの部隊の半壊、それにドライブも重症を負わせましたし蛮野への義理立てはすんだんじゃありませんか?
......いえいえ、これは口答えじゃありませんよ。
....分かりました。
では、確実にドライブを仕留める為に仕掛けをしますので暫く離れます。
えぇ、直ぐ戻ります.....では」
電話を切った男は溜め息をつく。
「全く、獅子神と違って臆病すぎて大変だなぁ。
まぁでも今はそんな臆病者に頼らないと行けないのは辛いところだよな。」
獅子神の敗北が見え始めたセブンスの幹部の中には早々に見限った者もいる。
彼のその一人だ。
この男はメモリの力を使い自分を売り込んだ。
そして、仁良に拾われて彼の元で隠れていたお陰で自分が元セブンスのメンバーだとバレずに済んでいたのだ。
だが、照井がこの作戦に参加していたことは彼からしても予想外だった。
(風都署に関係してる奴に能力を見られるのは不味い。
そう言う意味で言えばドライブを殺すのは悪くないかもしれないな。)
彼は遠くからドライブが変身解除するのを見ていた。
(アイツは風都に研修に来ていた若い刑事だ。
思い出す前に始末するためにも確実に仕留める策を考えないとなぁ.....)
そうして考えた策を使う為、メモリをもう一度起動した。
「
メモリを首に指すと複数の人間の手で全身を覆った怪人へと姿を変える。
トラウマドーパントの能力は身体に付いた無数の手を分離しその手に触れた者が最もトラウマになっている光景を幻視させる。
触れることさえ出来れば相手のトラウマを確実に引き出せる。
そして、この警察と言う職業は便利だ。
この仕事に関わる人間は大なり小なりトラウマを抱えている。
触れたらどんな存在でも混乱し発狂する。
それがG3Xの装着員や
風都にいた頃はこれを使って警察内部でミュージアムに敵対する刑事を消していた。
故にこのメモリの使い方を熟知していた。
隠れながら分離した手で対象に軽く触れるだけで良い。
後は任意のタイミングで能力を発動すればパニックを起こすのは簡単だ。
そして、触れた者はストック出来る。
能力を一度、使えば再使用にはもう一度触れる必要があるのが弱点と言える。
(まぁ、生物以外に効かないのも立派な弱点だがな。)
だからこそ、彼はロイミュードがドライブを守った段階で手を引いた。
機械である彼等に自分の能力が効かないからだ。
(さてと....仕込みを始めますか。)
そう考えた彼は移動を始めた。
その姿を遠くから見つめているガジェットに気付かないまま........
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第二百十六話α 「彼女の恐れていることは何なのか?」
弾の無くなった拳銃を向けているのは突然現れた機械の怪物だった。
その怪物は私に手を向けると私の体が何かに変化して吸い込まれていった。
このままじゃ死んでしまう。
そう感じて逃げようとするが逃げられない。
自分が人じゃなくなる恐怖に耐えられず祈った。
誰か助けてくれと.....あの時は
その存在が相棒である泊 進之介だと分かった時、私はショックで意識を失ってしまった。
病室の中には全身を包帯で巻かれた泊が酸素マスクを着けながら眠っていた。
その姿を見る特状課の面々の顔は暗い。
特に霧子に関しては今にも死にそうな程、暗い顔をしていた。
主治医からの説明を受けた本願寺が合流する。
「課長...泊は?」
追田が尋ねる。
「峠は越えた様ですが.....撃たれた影響で大量出血をしたので暫く目を覚ますのは難しいと言われました。」
「そう....ですか....」
ベルトさんから連絡を受けた本願寺は変身解除した泊を直ぐに病院へと運んだ。
今の怪人に合わせて強化されたケルベロスの弾丸は仮面ライダーの装甲ですら貫通したのだ。
その影響で泊の傷は深く意識を失ってしまった。
『あの状況でケルベロスの弾丸を放った装着員を殴って気絶させたのは彼の執念でしょうね。
相棒を守る為の......』
そう結論をつけながらもベルトさんは苦々しい顔をする。
『迫り来る驚異に対抗する為に強化した筈の武装が守るべき仲間を傷付けるとは.....開発に携わった者として恥ずかしい限りです。』
この一件は開発にかかわったベルトさんからしてもショックが大きかった。
それを察した本願寺が尋ねる。
「これからどうしますかクリム。
泊君しかドライブに変身できない以上、代わりを探す訳にも行かないでしょう。」
『......正直、分かりません。
廃工場にハートが入ってからはゴルドロイミュードの出現は止まっていますがまた現れないとも限りません。』
「そうですね....難しいところです。
照井警視も現場の建て直しに苦労しています。」
『あの錯乱の原因も分かっていませんからね。』
「それに関してなのですが照井警視が言うにはガイアメモリの可能性はないかと?」
『ガイアメモリ....ならば照井警視が適任と言えますね。』
「えぇ、ですから貴方には霧子君の相手を頼みたいんです。」
『霧子君ですか?』
「えぇ、この一件で最もショックを受けているのは霧子君です。
恐らく我々には心を打ち明けてくれないでしょう。
ですから、貴方に頼みたいのです。
お願いします。」
『.....分かりました。
何処まで出来るか分かりませんがやってみます。』
そう言って本願寺はベルトさんに霧子の事を任せたのだ。
そして、本願寺はこれからの為に残ったメンバーに指示を出す。
「さて、我々もここで止まってるわけにはいきません。
追田さん、貴方には現場の情報を集めてきてください。
貴方は捜査一課の人間ですから少しは教えてくれる筈です。
りんなさんと究ちゃんは新しいロイミュードと周辺の調査をお願いします。
皆さんの不安も分かりますが今は事件解決を急ぎましょう。」
そう言うと特状課のメンバーはそれぞれ行動を始めた。
そして本願寺はベッドで眠る泊を見つめる。
「泊君....私達は貴方が目を覚ますのを待っていますよ。」
そう言うと本願寺もその場を後にするのだった。
「はっ!」「うらっ!」
廃工場内にハートの声が響く。
地面には破壊されたゴルドロイミュードが転がっていた。
力のまま握った拳を振るうハートの背後から"緑色の液体で構成された鞭"がハートを後ろから奇襲しようとしたゴルドロイミュードを捕らえる。
「全く、少しは背後も警戒してくださいハート。」
諌められたハートだが本人は笑って答える。
「問題ない俺の見えないことは常にお前が見えている。
だから俺は迷い無く戦えるんだブレン。」
自分が信頼されている事を言われ内心嬉しくなりつつもブレンは冷静に周りを俯瞰する。
「ハート、"メディック"の信号が強くなっています。
ここにいるのは間違いないです。
それに.....」
「あぁ、さっきから倒している金色のロイミュード....明らかに数が多過ぎる。
グローバルフリーズの後から作り始めたと考えても多過ぎだ......つまり」
そこまで話すと上の階から声が聞こえてきた。
「えぇ、その通りですわ"ハート様"。
私がゴルドロイミュードを修復していたのです。」
その声に目を向けるとそこには人間態のメディックが立っており背後には彼女を守る様にゴルドロイミュードが立っていた。
「メディック.....」
「久し振りですわねハート様。
グローバルフリーズ以来です。」
メディックはハート、ブレンと共に蛮野の野望を止める為、グローバルフリーズが起きた現場にいた。
しかし、ハート達と離れていた隙に姿を消してしまったのだ。
ブレンの懸命な捜索も空しく発見出来ずにいたが突如、メディックの信号が復活したので二人はこの廃工場に現れたのだ。
そして蛮野の宣言を見た結果、誰がメディックを誘拐したのか理解した。
「まさか、蛮野に捕まっていたなんて....気付かなくてすまないメディック。」
そう言って謝るハートを見てメディックは顔色を変えた。
それはハートの顔を見て元の性格に戻ったのではなかった。
「"蛮野"?」
殺気を感じたブレンがハートの前に立つと"毒のシールド"を作り出す。
すると、その壁をメディックの背中から現れた触手のブレードにより切り裂かれる。
「ぐっ、メディック!ハートに何をするのですか!」
ブレンの問いにメディックは当然のように答える。
「我々、ロイミュードの創造主であり高貴なお方である蛮野様を呼び捨てにする不敬を働いたのです。
これぐらい当然でしょう?」
洗脳されたメディックがそう言い放つと工場のスピーカーから蛮野の声が聞こえてきた。
『あっはっは....素晴らしいぞメディック。
それでこそ私の道具に相応しい。』
「あぁ、蛮野様!!
私の事を見てくださるのですね嬉しいですわぁ!」
喜ぶメディックとはうって代わりハートとブレンが憎しみの籠った声を上げる。
「蛮野.....貴様っ!?」
『久し振りだなハートそれにブレン。
愚かにも創造主である私に反抗したグローバルフリーズ以来だな。』
「反抗だと!?ふざけるな!
俺達の仲間を操って事件を起こしたのは貴様だろう!」
『お前達は私が作り出した道具だ。
道具を自分のために使って何が悪い?』
「私達は貴方の道具ではありません蛮野。」
『ほぉ、威勢だけは強くなった様だなブレン。
まぁ良いここにお前達を呼びつけたのは"チャンス"を与えるためだ。』
「チャンスだと?」
『ハート、ブレン私の道具として帰ってこい。
そうすればお前達に世界を支配する私に仕える名誉をやろう。』
「はっ!ジョークにしては笑えないな。」
「不必要で不義理で不誠実な提案ですね。
私達が受ける道理はありません。」
そう言って断るハートとブレンに蛮野は答える。
『そうか.....ならば昔のように理解させてやろう。
お前達、道具が私に歯向かう愚かさをな。
メディック!奴等にゴルドロイミュードの真価を見せてやれ。』
「分かりましたわ蛮野様。」
メディックがそう言うと横に控えていたゴルドロイミュードが降りてきてハートの前に立つ。
「さぁ、行きなさい。」
メディックの命令と共にハートへ向かっていく。
「そいつらの強さは分かっている。
俺には勝てない!」
そう言って近付いてくるゴルドロイミュードを殴ろうとするが簡単に回避されてしまう。
そして、カウンターとして握った拳でハートの胸を殴り付けた。
「うぐぁ!.....この威力は....」
「流石はハート様、ゴルドロイミュードの真価に気付いたようですね。」
胸を抑えているハートを助けるためにブレンが彼に近づくゴルドロイミュードに毒液を噴出する。
それを腕を使って防御するが腕が溶けて使い物にならなくなる。
しかし、それを見てもメディックは動じない。
何故なら攻撃を受けたゴルドロイミュードは溶けて腕を千切ると倒されたゴルドロイミュードの腕を外し自分の腕に繋げたのだ。
「何っ!?」
「無駄ですわ。
ゴルドロイミュードは蛮野様が軍事用に開発したロイミュードであり肉体が破損しても壊れた同機からパーツを奪えば元の様に動かせるようになる。
そして、ゴルドロイミュードの戦闘AIにはかつて最高の戦闘プログラムと言われた"G4システム"が使われている。
そこに蛮野様は学習機能を搭載した。
これまでゴルドロイミュードが戦ってきた敵のデータを分析することでその力を"模倣"することが出来るんです。
例えばこんなことも出来ますわよ。」
そう言うとゴルドロイミュードはハートに倒されたゴルドロイミュードの残骸に触れると残骸が変形していき"鋼鉄の棒"が生成される。
それがブレンの周りに突き刺さると残骸が蓋に変わりそれを上部に投げ付けてブレンを捕縛する檻が完成した。
その瞬間、檻に電流が走りブレンは苦しみ出す。
「ぐぁぁぁっ!」
「ブレン!」
「うふふふ.....ドライブの使った技も簡単に模倣できる。
いくらブレンもこの檻に入れられたらハート様の援護は出来ないでしょう?
そこで大人しく見ていなさい。
ハート様が自分と同じ力を持ったゴルドロイミュードに痛め付けられる姿を」
廃工場で戦いが起こっている中、霧子は病室で手錠を付けられていた。
G3Xの装着員と同じく錯乱していた霧子を作戦に参加させるのは危険だ....寧ろ警察を裏切るかもしれないと言う仁良の判断から病室に拘束され仁良の部下が逃げないように彼女を見張っていた。
暗い表情をしているのは当然だろう。
いきなりグローバルフリーズのトラウマが甦り気が付いたら自分を庇ってボロボロになった泊が目の前にいたのだ。
(私のせいで....泊さんは.....)
罪悪感からドンドンと思考が暗くなっていくのが分かってはいたが切り替えられないでいた。
蛮野の事もありそれがメンタルの低下に拍車をかけていた。
暗い表情の中、ふと窓の外を見つめる。
(.....私は何の為に警察官になったんだっけ?)
そう悩んでいるゆっくりと何かが窓ガラス越しに降りてくるのが見えた。
(ん?あれは何かしら?)
そうして見ていると慌てた表情をしながら降りてくるベルトさんの姿があった。
「クリムさん!?」
霧子は驚きながら窓を開けるとベルトさんを掴む。
『あぁ、良かった。
霧子くんが気付いてくれなかったらこのまま外で吊るされている所だったよ。』
「何してるんですか!?
と言うよりどうやってここに?」
『上の階から"フッキングレッカー"に吊るして貰ったんだ。
霧子くんに会おうにも見張りが邪魔だからね。
それでも怖いことには代わりは無かったがね。』
余談だがベルトさんはシフトカーよりも重量があったのでベルトさんを吊るす際にフッキングレッカーにヒモがかけられそのヒモを他のシフトカーが引っ張って下ろしていたので霧子か手に取った影響で引っ張っていた力がそのまま後ろにかかり地面にシフトカーの渋滞事故が起こったがそれは誰も知る事はない。
「どうしてクリムさんがここに?
泊さんの所にいなくても良いんですか?」
『容態は安定したからね。
それに、今の私に出来ることはないよ。』
「そうですか....」
『あぁ.......霧子くん。
気休めだとは分かってはいるが言わせてくれ。
進之介のケガは君一人の責任じゃない。
ドライブとして共に戦った私の責任でもある。』
「でも、私が彼処にいなければ泊さんは.....」
『君は何者かに錯乱させられていたんだ。
君を責められる者等いないさ。』
ベルトさんはそう言って励ますが霧子の顔は暗いままだ。
だからこそ、ベルトさんは進之介にも話していない自分の秘密を話すことにした。
『私と蛮野が....協力して研究していた時期があるのを話したのを覚えているかね?』
「はい、ロイミュードの開発の為にクリムさんは父にコア・ドライビアを渡したと....」
『あぁ.....だが本当はもう一つ隠していた事がある。
それはこの研究に出資したスポンサーについてだ。』
「スポンサーですか?」
『あぁ....初めてあったのはスポンサーの経営するビルだった。
今でも思い出せる。
研究費が枯渇していた私達の前に現れた
そこで作ったのがロイミュードに搭載された物と同等のAIだった。
あの頃の私は未熟だった。
蛮野と共に本当に人類に貢献できる研究が出来ると思っていたんだ。
だが、その頃から蛮野の中には野心があったのだろう。
平行してロイミュードの開発を行い遂には完成させた。
彼の正義の言葉を真に受けてしまった私はコア・ドライビアを蛮野に渡してしまった。
生きていた頃の私が今でも後悔しきれない遺恨となっている選択だよ。
蛮野がロイミュードを開発したことが最悪の選択だと.....この時の私は思っていた。
だが、本当に恐ろしい存在は蛮野ではないと気付かされたんだ。』
「それはどういう意味ですか?」
『想像してみたまえ。
蛮野はスポンサーの元でロイミュードを完成させた。
にもかかわらず彼はそれを使わなかった。
グローバルフリーズが起こったあの日まで.....私と同じように思考データとして生き長らえていた。
可笑しいだろう?
普通の企業がロイミュードに対抗できると思うか?
まだ、警察もG3計画の調整段階でまともに戦える人材はいない筈なのに事件は起こらなかった。
そして、私の身体にも異変があった。
"覚えてないんだよ"。
取引をした筈のスポンサーに関する記憶が.....研究したロイミュードの記憶はあるのにそこだけまるで消ゴムで消された様に失くなっていたんだ。
その事に気付いて漸く私は理解した。
私や蛮野は利用された。
蛮野に関しては内に秘めた野望すら見抜かれ目的を達成した途端に殺されたんだろう。
そして、私はロイミュードよりも恐ろしい何かが関わっていると感じた。
それに気付いた私はドライブシステムの開発とG3計画への参入を決めたんだ。
蛮野に対してだけではない。
私達の技術すら易々と利用する組織に対抗する為にね。
そして、警察と関わっていく内にその組織について分かった。
ミュージアム.....ガイアメモリと呼ばれるデバイスを売り捌く死の商人だった。
私達はその悪魔と取引をしてロイミュードを生み出し沢山の人を傷つけてしまったんだ。
今でも私の心にはあの恐ろしい記憶が残っている。
私が親友だと思っていた蛮野の記憶が失くなったのにも関わらず平気で過ごせていた。
そんな奴等とハートは面識があった。』
「!?....そんな事聞いていません。」
『言ってないからね。
ハートを偶然、洩らしただけの"名前"だろうがそれを聞いて私は戦慄を覚えた。
だから、進之介がハートを信じようとすることを私は認められないんだ。
機械になった癖に怖いと感じているんだよ私は....』
「クリムさん.....」
『その考えがハートとの共闘を無意識の内に除外していた。
ハート達の一派が蛮野と敵対しているのを知っていても己の内にある恐怖が進之介の選択を狭めてしまっていたんだ。
だが、私がその恐怖に怯えている間にハートは前に進んでいた。
気絶していた進之介を助けたのは"ハート"だった。
進之介から話を聞いたがグローバルフリーズで失いかけた相棒を救ったのもハートだったらしい。』
「....ロイミュードが人を助けたんですか?」
『あぁ、理由は分からないが蛮野と敵対しているロイミュードには人類への敵愾心が感じられない。
もっと、別の目的のために行動している節があった。
だが、そんな行動も私は無視していた。
そして、その重みを進之介にも背負わせていたんだ。』
ベルトさんの顔を見た霧子は思った。
自分と同じだと.....
もっとこうすれば、この選択をしなければ....後悔している顔だ。
『霧子くん....私は自分の恐怖と戦うよ。
この目でちゃんとロイミュードを見つめて判断を下す。
だから、君も良かったら私と一緒に戦ってくれないか?
自分の中にある恐怖と.......』
霧子は自分の手を見つめる。
その手は情けなくも震えていた。
グローバルフリーズで起こった恐怖に身体が明確に拒否反応を及ぼしていた。
自分にこの恐怖が越えられるか分からない。
だからこそ、ベルトさんに聞いた。
「クリムさんは恐怖を何故、乗り越えたいんですか?」
『.....相棒である進之介の為だよ。
彼もグローバルフリーズで相棒を失いかけた恐怖がある。
でも彼は立ち上がり心に火を灯してドライブとなった。
自分の信じる道を進むために.....
そんな彼の相棒でいるのならちゃんと自分の恐怖と向き合うべきだとこの一件で思ったんだ。
そして、君も進之介の相棒だ。
だからこそ、君には伝えたかった。』
単純な答え.....
彼は私の相棒でもある....そんな相棒に私はケガをさせてしまった。
落ち込むことは誰にでも出来る。
でもクリムさんは恐怖に抗い戦う選択をした。
なら.....私は.......
霧子は病室のベッドから立ち上がる。
『霧子くん?』
「私にも....出来るでしょうか?
泊さんの様に恐怖に打ち勝つことが.....」
『分からない。
だが、前例が出来たのなら成功する可能性はある。
私は科学者だ。
一人だけしか成功しないなんてそんな非論理的な事はあり得ないと断言できる。
だから、一緒に乗り越えよう。
相棒である進之介の為にも.......』
「.....はい。」
霧子はベルトさんを手に持ちながら立ち上がった。
「クリムさん....私はどうすれば良いですか?」
『先ずは我々を罠に嵌めた者を捕まえに行くことにしよう。』
「!?...犯人が誰か分かっているんですか?」
『あぁ先程、照井警視から連絡がきた。
錯乱させた張本人とそれを指示した者について見当がついたそうだ。』
「なら、逮捕にし行かなくちゃ.....でも私は監視されて動けないんですよね。」
『あぁ、それなら問題ない。
少々強引な手だが事情を話したら快く快諾してくれたよ。』
「それってどういう....」
霧子が疑問を答えて貰おうとすると病室の外からうめき声が聞こえた。
そして、その声が聞こえなくなり扉が開くとそこには追田と帯電ロッドを手に持ったりんなが並んでいた。
「うおっ!無事そうで良かったぜ。」
「霧子ちゃん、元気そうで良かったわ。」
「お二人ともどうして?」
霧子の問いに追田が答える。
「警察を裏切っていたのが仁良課長だと分かったんだ。
今、照井警視はその証拠を持って仁良課長を問い詰めに行っている。」
「そう、それで私達は霧子ちゃん達の安全を確保する為に来たって訳.....ここの病院は仁良課長の息がかかった連中が多いからね。
これから私達は進之介君を助けにいくけど貴女はどうする?」
りんなの問いに霧子は答える。
「行きます。
相棒を助けるのが私の役目ですから!」
その表情を見て追田は「それでこそ刑事だ!」と言うと全員で泊のいる病室へと向かうのだった。
『現状解説』
※工場内はハートとブレンが暴れているお陰で蛮野が動く心配はまだ無い。(ハートとブレンも蛮野に、洗脳されたメディックを救うため動けないでいる。)
※重傷を負った泊は病室に寝ており追田とりんな、霧子とベルトさんは彼を救出に向かう。
※病院内には仁良の息がかかった部下がいるので見つければ戦闘になってしまう。
※照井は仁良を逮捕するため証拠を持って作戦指揮を行う建物へ向かっていた。
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第二百十七話α 「何故、彼は変身しなかったのか?」
「このままではロイミュード達を逃がしてしまう。
もう一度、突入をするべきだ。」
「だが、また装着員が錯乱したらどうするんだ!
今度はどんな被害が起こるのか検討もつかないぞ。」
「仮にG3の部隊を使わない選択をしたら生身でロイミュードと戦わないと行けない。
それでは作戦実行は不可能です。」
「ではこのまま黙っていろと言うのか!」
「安全が確保されていないのにG3も使えないでしょう!」
解決策が決まらない中、腕を組み黙っている仁良課長は心の中でこの状況を喜んでいた。
(良いぞぉ....このまま作戦が長引き結論が遅くなれば蛮野が逃亡する隙が出来る。
作戦失敗の責任を問われたら錯乱したG3Xの装着員と特上課の
奴からの報告ではドライブにも重傷を負わせた。
くくっ....良いぞ良いぞぉ。
もっと、長引けぇ....)
そんな事を考えていると作戦会議室の扉が乱暴に開かれる。
「なっ!?何だ一体!?」
そう言って開け放たれた扉を見ると片手に仁良の部下を胸ぐらを掴んだ照井が入ってきたのだった。
照井の顔を見た仁良はビビりながら尋ねる。
「てっ....照井警視....こっこれはどういう事で...」
照井は仁良を睨みながら告げる。
「俺に質問をするな。」
「ひっ!」
そうしていると照井の後ろから本願寺と西城が現れる。
「きっ....貴様らは特上課のっ!」
驚く仁良に本願寺が告げる。
「仁良課長....もう止めませんか?
貴方が今回の事件を起こした事はもう分かっているんですよ。」
「なっ!何を言っている!
私を愚弄するのか!」
動揺する仁良に照井が言う。
「お前が関わっていないのならこれはどう説明する?
西城....画面に例の映像を」
「はいボス!」
西城はノリノリで自分のノートパソコンを操作すると画面に怪物が人間の姿に戻る映像が流れる。
「こっ....これは!」
「お前なら誰か分かっているだろう?
コイツは
元は風都の生活安全課にいた刑事だったがある日を境に転勤している。
この転勤命令を出したのはお前だな仁良.....
見て分かる通りコイツはガイアメモリを使っている訳だ。
そして、丸山が転勤を命令されたのは獅子神の組織が崩壊し始めた辺りからだ。
偶然にしては出来すぎているんじゃないか?」
「わっ....私は知らない!
丸山がガイアメモリを使って"ドーパント"になっていただなんて....」
「まだ白を切るのか....俺が何の証拠もなくここに来ると思ったのか?
西城....次のデータだ。」
「はい!」
そこで流れたのは丸山と仁良が話していた携帯の音声データだった。
そこには丸山が仁良の指示でドライブとG3Xの妨害を行ったことが話されていた。
そして、極めつけが『お前がしくじったら私は蛮野が持っていく映像が流されるんだそれだけは避けないと行けない。
この際、何人犠牲が出ても構わないから作戦を失敗させるんだ!』
この言葉が確定となり仁良の周りにいた人が離れる。
「な....んで....これが.....」
「俺がここに来たのはこの事件の捜査もあるが獅子神の組織から離れた構成員である丸山を捕まえることだった。
まさか、貴様と繋がっているとは思わなかったがな。」
「仁良、お前がガイアメモリだけでなくドーパントも知っていたと言うことはミュージアムとも何か関係があるのか?」
「........」
「だんまりか。
ならば、お前を逮捕してじっくりと取調室で尋問させて貰う。」
そう言って仁良に手錠をはめる為、近付こうとすると仁良が叫ぶ。
「丸山ぁ!!俺を助けろぉ!」
その言葉が聞こえた瞬間、作戦会議に来ていた警察官が苦しみ出し発狂する。
「うぁぁぁぁぁぁ!!」
「来るなぁ!助けてくれぇ!」
「しっ、死にたくなぁい!」
発狂して暴れ始める警察官を照井と本願寺が抑えてる間に仁良は西城を突き飛ばして扉を抜けて逃走し始めた。
「くっ!やはり仕掛けていたかっ!」
「照井警視!ここは我々で何とかします貴方は仁良を追ってください。
逃げた先に丸山もいる筈です。」
「だが!」
「我々だって特状課の一員です....早く!」
本願寺の言葉を受けて照井は仁良を追っていった。
残ったのは本願寺とパソコンを抱えている西城だけだった。
「ももも勿論、何か作戦があるんですよね?」
西城が本願寺に尋ねるが本願寺は大量の汗をかきながら言う。
「.....究ちゃん。
何か良い作戦無いかな?」
「えぇぇぇ!?嘘でしょぉぉぉ!」
何の作戦も無い事を話す本願寺と西城は焦りを隠せずにいると錯乱した警官が二人に襲い掛かる。
そこに白衣を来た男が現れると空中で回転しながら回し蹴りを当てて錯乱する男を気絶させた。
「ありゃ!ここでも警官が暴れてんのか。」
「きっ...君は?」
尋ねる本願寺に男は答える。
「監察医の
何か急に警官が暴れ出し始めたんで無事な奴だけでも助けようと動き回っていてここに来た感じですね。」
九条 貴利矢は仮面ライダーエグゼイドに置いて監察医でありつつ仮面ライダーレーサーとして活躍した男であるがこの世界では鋭い洞察力と分析力を買われて警視総監が率いるチームの分析官として抜擢され照井と共に派遣されていた。(これは余談だが花屋も優秀さと照井との交流があり医療班として別のチームに配属されている。)
錯乱したG3Xの装着員や霧子を診察し外的要因により錯乱したことを突き止めたのも九条であった。
「照井さんが出てったって事は犯人を追ってるんでしょう?
助太刀しますよ特状課の皆さん。」
そう言うと九条は錯乱している他の警官に目を向ける。
「ちょーっとノッて動くから痛いだろうが我慢してくれよ。」
そう言うと九条は錯乱している警官を相手に本願寺と協力して鎮圧していくのであった。
尚、この鎮圧作業により本願寺のギックリ腰が再発し事件解決まで動けなくなってしまった。
「はぁはぁはぁ.....クソッ!何でこんなことにぃ」
仁良は錯乱している警官を尻目に逃げ回っていた。
こんな筈ではなかった。
仁良の計算ではこのまま事件が迷宮入りする筈だったのに照井のせいで全て台無しになったのだ。
(もう、警察には居られない。
照井にバレた以上、全てがバレるのは時間の問題だ....ならばっ!)
仁良は外に出ると大声で叫ぶ。
「丸山ぁ!早く来いぃ!」
その声を聞いて
「そんなに大きい声で叫ばなくても分かりますよ。
てか、照井にバレちゃったんですね。」
呆れ気味に砕けた口調で丸山が言うと仁良が怒る。
「うるさいっ!元はと言えばお前が変身している姿を取られるのがいけないんだろう!」
「責任転嫁は良くないですよ?
それにあの場所で変身して暴れさせることを決めたのはアンタでしょう仁良さん?」
「う.....ぐぅ。」
「まぁでも、遅かれ早かれバレてましたし逃げられただけ良しとしましょう。
アンタの事だ。
逃げる算段は準備しているんでしょう?」
「.....セーフハウスに逃亡用の資金と足がつかない車がある。」
「その場所を教えてくれますか?」
「ダメだ、俺を連れて行かなければ話さん。」
仁良の目を見た丸山は溜め息を付く。
「はぁ....メモリの力を使っても情報は引き出せないですからねぇ。
仕方が無い。
良いでしょう貴方を無事に運んで上げますよ。」
そんな話をしていると照井が仁良達の元へ追い付いた。
「見つけたぞ仁良それに丸山だな?」
その問いに丸山が答える。
「ありゃりゃ、もうそこまでバレてるんですか。
参ったなぁこれは.....」
「お前がセブンスの幹部として獅子神と組んでいた事も分かっている。
風都署での汚職の隠蔽や関係者の始末をしていたのは貴様だろう?」
「そこまで分かってるなら隠す意味もないですね。
その通りです。
獅子神の指示で色々とやりましたよ。
"キメラメモリを使った実験"の時は大変でしたねぇ。
警察からメモリとドライバーを奪い取るのには苦労しましたよ。」
「.....正義にヒーローメモリとドライバーを渡したのはお前だったのか。」
「えぇ、お陰で良いデータが取れたみたいで獅子神は喜んでましたよ。
まぁ、今となってはどうでも良い話ですが....」
「何故だ?お前は警官の筈だろう?
何故、警察官が犯罪に荷担した!
セブンスに入りメモリを売り捌く等、到底許される事ではない!」
「熱いですねぇ....アンタみたいなのがきっとまともな刑事なんでしょうね。
でも私にとって警官とは"ビジネス"なんですよ。
自分の利益を出す為の手段であり道具。
この立場を使えば合法非合法問わず金を稼ぐのは難しくない。
法の抜け穴を自分でつけますからね。」
その言葉を聞いた照井は怒りから手を握る。
「お前のような奴が.....警察を名乗るな。」
「どうせもう名乗れませんよ。
それに貴方も名乗れなくなる。」
そう言われると照井の顔の前に手が現れて照井を掴んだ。
「なっ!?」
「トラウマメモリの利点はトラウマを与える手を"不可視化出来る"所なんですよ。
このメモリのフルパワーは受けた人間を簡単に廃人に出来ます。
折角ですから味わってみてください。」
丸山がそう言うとトラウマメモリの力を発動し照井の心のトラウマを彼の心に映し出した。
すると、照井は糸が切れた人形のように一点を見つめて動けなくなってしまう。
その姿を見て仁良が丸山に尋ねる。
「や.....やったのか?」
「まぁ、最大級のトラウマを与えましたからもし復活するにしても数ヵ月はかかるんじゃないですか?
さぁ、今の内に行きますよ......!?ぐっ!」
そう言ってその場を後にしようとした丸山は突如、起こった痛みに頭を抑える。
「ど....どうした丸山!?」
焦る仁良だが後の光景にさらに驚くこととなる。
それは顔に当てられた腕を握りながら立ち上がる照井の姿だった。
それを見た丸山は頭を抑えながら驚く。
「ばっ...バカな!?
あのトラウマを受けて直ぐに正気を取り戻すなんてあり得ない!?」
「確かに随分と悪趣味な物を見せられたな。」
照井が見たトラウマは家族が井坂によって殺害される光景だった。
悲痛な声を上げながら殺される家族、それを笑う井坂の姿を見させられた。
だが、その後の光景が逆に照井の心を呼び覚ましてしまった。
"鳴海亜樹子が井坂に殺されそうになる瞬間"を見た照井は幻影の井坂を殴りつけた。
照井の心を折る為に見せたトラウマが逆に照井の怒りを引き出し闘争心に火をつけてしまった。
そうして現実世界に引き戻された照井は顔を掴んでいる手を握ると顔から引き剥がした。
「下らない小細工で俺を止められると思うなよ。」
その時の照井は普通に言い放ったつもりだっただろうがその顔は本人でも気付かない程、怒りが漏れ出しておりそれを見た仁良は足が生まれたての小鹿の様に震えてしまっていた。
照井は残った手でアクセルドライバーを取り出すと腰につけた。
井坂との決戦の後、照井のアクセルメモリは力を使い果たした影響で変身できなくなっていた。
その為、無名が改修をしていたが照井が風都を離れた後に完成したのかメモリとドライバーを送ってくれていた。
だが、やはり起動にはアクセルメモリの復活が必要らしくトライアルメモリも調整はしたもののアクセルメモリが復活するまでは使わない方が良いと言われていた。
だからこそ、照井はアクセルに変身出来ず、泊が重症になっても助けられなかったのだ。
なら何故、照井はドライバーを付けたのか?
それは幻影を破った瞬間、まるでエンジンに火が灯るように胸に閉まったメモリが熱くなるのを感じたからだ。
照井はアクセルメモリを取り出して見る。
メモリはまだ白いが中心部の色合いが赤くなっていたのだ。
(漸くエンジンが掛かったと言ったところか....)
そう考えると照井は丸山に伝える。
「丸山....どうやらまだアクセルメモリは不調のようでアクセルにはなれそうにない。」
そう言って照井はアクセルメモリを仕舞う。
「だから、"手加減"は出来ん。
覚悟しておけ。」
そうして照井は"トライアルメモリ"を取り出すと起動した。
「TRIAL」
久し振りに聞いたガイアウィスパーと動作ながらも照井はドライバーにメモリをセットするとスロットルを思いっきり回した。
「変...身」
照井の声と共に照井の肉体が変化すると青い装甲をしたアクセルトライアルへと変身が完了する。
その姿を見た仁良と丸山は驚愕する。
「アンタがかか....仮面ライダーぁ!?」
「まさか、風都を守る仮面ライダーの片割れであるアクセルが貴方だったとは思いませんでしたよ。」
そんな驚きを余所に照井は二人を睨みつけて言った。
「さぁ、振り切るぜ。」
先手を取ったのは照井だった。
トライアルの速度を使い一瞬で丸山との距離を詰めると拳を振るった。
丸山は両手を使いガードするがドカン!と言う音と共に丸山は後方へ吹き飛んだ。
ガードに使った腕が痺れているのか両腕が下がる。
「なんて威力のパンチだ!?」
丸山は痺れて下がった腕を見つめながら言うがこれには照井も内心驚いていた。
アクセルトライアルは攻撃力を犠牲に速度と手数を増やして対応する形態だ。
井坂を倒す前の照井の攻撃だったならば丸山も吹き飛ばずに耐えられただろう。
だが、ブーストメモリによるアクセルメモリとの適合率の急上昇によってそれに付随してトライアルメモリのパワーも上がっていたのだ。
今の照井のトライアルならば徒手空拳だけでもドーパントに致命的なダメージを与えられるほど強くなっていた。
拳を受けた丸山もそれが分かっていたのか切り札を切った。
突如、丸山の前にチョッキを来た市民達が集まり出したのだ。
動き出しそうとする照井を丸山は止める。
「止まってください動いたら彼等の命はありませんよ?」
「何?」
「彼等には"爆弾付きのチョッキ"を来て貰っています。
そして、手には起爆スイッチも.....そしてここにいる全員、私のトラウマメモリの影響下にいる。
貴方が少しでも変な動きをすればメモリの力を発動し発狂させて爆弾を爆発させます。」
「人質と言う訳か。」
「えぇ、本当はドライブに使いたかったんですが仕方ありません。」
「....全部で"9人"か。」
「はい、ドライブがいくら素早くても9人の爆弾解除は出来ないでしょう?
ですから私達が逃げるまで諦....ぐあっ!?」
そこまで話した丸山だが急接近した照井のキックをくらい地面に倒れてしまう。
「警察官が人質を使って脅すとは....もう許さん。」
「バ...カがっ!爆弾のスイッチは私も持っているんですよ!」
そう言って丸山はスイッチを押して爆弾を起動した。
ドーパントになっている自分やアクセルにはダメージは無いだろうが人質を見捨てて殺したと言う結果は残る。
そう思い起動させた爆弾だが爆発が聞こえたのはチョッキを着けていた市民達では無く上空からだった。
「何っ!?」
「俺が人質を見捨てて貴様を殴ると思うか?
全員分の爆弾を外して上空に投げさせて貰った。」
「バッバカな!貴方の速度でそれをやったと言うのですか?」
「お前に近付いた速さが俺の"フルスピード"だと思ったか?」
照井の言葉に丸山は戦慄する。
丸山に殴り掛かった時の照井の速度は丸山の目で追えるものでは無かったがそれでも爆弾を着けた9人の人質に対応できるスピードでは無いと思っていた。
だが、実際は人質9人の爆弾を外し上空に投げつけ克つ丸山を蹴れる程の余裕があったのだ。
規格外の速さを手に入れたトライアルに変身した照井は丸山に告げる。
「余り貴様らに時間をかける訳には行かない。
これで決めさせて貰う。」
照井がトライアルメモリを抜き取るとスイッチを押して上空に放り投げた。
その瞬間、丸山の身体が空中に吹き飛ぶとまるでピンボールの玉の様に上下左右に吹き飛ばされていく。
凄まじい衝突音が数秒続くと空中にあったトライアルメモリが姿を消し地面に照井が現れるといつの間にか手に持っていたトライアルメモリのスイッチを押した。
「TRIAL MAXIMUMDRIVE」
「2.5秒....それがお前の絶望までのタイムだ。」
突如、爆発が起こり丸山の身体から砕けたトラウマメモリが排出されると地面に落下した。
照井は死なないように丸山を受け止めると気絶した丸山に言った。
「お前には余罪がたっぷりとある。
刑務所でじっくりと吐かせてやるから覚悟しておけ。
.....そしてお前もだ仁良。」
照井は逃げようとした仁良の腹部を軽く小突く。
「ごへぁ!」
強くなったアクセルトライアルの小突きでも普通の人間からすればプロボクサーのパンチぐらいには重い。
それを喰らった仁良は腹部を抑えながらゲロを吐くとそのまま意識を失った。
変身を解除した照井は二人に手錠をかける。
「風都署の残した膿がこんな所にも来ているとは.....風都は大丈夫だろうか?」
照井が考えているのは風都の事だった。
翔太郎達と連絡を取っていた事もあり彼方の状況も把握している。
(ガイアインパクトの阻止には間に合わないと言われて俺は風都を離れたが.....やはり心配だな。)
照井の頭には先程のトラウマで見た亜樹子の顔が浮かぶ。
本当なら直ぐにでも風都に戻りたい。
だが、俺には警察官としての仕事がある。
「さっさと蛮野を捕えて、この事件を解決して見せる。」
照井はそう意気込むと携帯で付近の警官に裏切り者である仁良と丸山の捕縛を伝えるのだった。
『現状解説』
※照井がアクセルへの変身が可能になった。
だが、メモリが起動しただけでアクセルには変身できない。
ブーストメモリもまだ修復が済んでいないので今回、使えるのはトライアルメモリのみ
※メモリとの適合率が上がりトライアルが強化された。
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第二百十八話α「彼をどうやって目覚めるのか?」
照井が仁良を追っていた頃.......
酸素マスクを付けられた泊 進之介は病室で眠り続けていた。
そんな彼の病室にメスを持った警官が現れる。
彼の目は焦点が合っておらず何かに怯え続けていた。
「こっ....ここは....うわぁ!?くっ来るなぁ!」
誰もいない場所に向かってメスを振り続けていると眠っている泊まりに目を向けた。
「うっ動くなぁ!動いたら....さっ刺すぞっ!」
両手でメスを持ちながら怯えた警官が泊に警告をする。
だが、意識のない泊には返答する術はないのだが、警官は勝手に話を進める。
何も反応しない泊を見て逆に警官はパニックになる。
「うわぁ!ど....どうせ動くんだろ?その前に刺してやるぅ!」
警官がメスを振り上げた手を霧子が止める。
「くっ!何をしているんですか!」
「う....うるさい!お前も俺を殺す気なんだろう!?」
動きを止めた霧子の腹部についているベルトさんが言った。
『やはり錯乱しているか....."マッシブモンスター"、"デコトラベラー"、"ディメンションキャブ"頼む。』
ベルトさんがそう言うと三体のシフトカーが現れて泊を襲おうとする警官にぶつかっていった。
マッシブモンスターが警官のメスを弾き落とすとデコトラベラーの突進を頭から受けて気絶する。
そのまま倒れると危険なのでディメンションキャブが警官の服に入りゆっくりと地面に下ろした。
それを見た霧子が懐から手錠を取り出すと警官の腕を拘束した。
『これで問題ない。
後は警察に任せよう。
すまないがシフトカーの諸君は引き続き病院内で暴れる警官の対処をしてくれ。』
その言葉を受けると三体のシフトカーはクラクションを鳴らし返事をすると病室から出ていった。
『さて、霧子くん。
我々もここに来た目的を達成しよう。』
「はい、分かっています。
来て、"マッドドクター"。」
霧子がそう呼ぶと救急車の形をしたシフトカーが彼女の手に収まった。
マッドドクターは数あるシフトカーの中で治療の能力を持ってはいるが欠点もあった。
使用すれば確かに肉体の怪我や毒の治癒は出来るがその際、使用者に激痛が走るのだ。
『マッドドクターをこのまま使用すれば進之介は痛みに耐えきれずショック死してしまう危険性がある。
.....だから』
「私とクリムさんでその負担を肩代わりするんですよね。」
『あぁ、現状は逼迫している。
進之介の....ドライブの力が必要だ。』
霧子はマッドドクターを握り祈る。
(泊さん、起きてください。
私は貴方に謝らないといけない。
これから貴方の相棒でいるためにも....だから!)
霧子は自分の腰についたベルトさんのイグニッションキーを回す。
そして、泊の腕についているシフトブレスにマッドドクターを変形させて装填した。
そして、展開することでトライドロンからマッドドクターのタイヤが現れる。
すると、タイヤから大量の器具が現れて泊の治療を始める。
そして、彼の身体に向かう筈の痛みが霧子とベルトさんに向かった。
『ぐっ!....あっ!』
「くっ!....きゃあ!」
溢れる痛みを霧子は身体を抑えながら必死に耐える。
『帰ってこい進之介!
君にはまだやるべき事があるだろう!』
「お願い....起きて....泊さん!」
暫くすると、マッドドクターの治療が終わった。
痛みから解放された霧子は地面に倒れ激しく呼吸をする。
「はぁ...はぁ...はぁ」
『う....進之...介...は?』
霧子とベルトさんがベットに目を向けるとそこには目を開けた意識を取り戻した泊の姿があった。
「こ...こは?」
「泊さん!」
『進之介、目を覚ましたようだね。』
「俺は....」
『君は霧子を守って倒れたんだ。
そして、私と霧子が君を目覚めさせた。』
「泊さん」
霧子が目を覚ました泊に頭を下げる。
「私を守って怪我をさせてすいませんでした。
相棒なのに....貴方の迷惑になってしまった。」
「霧子、俺は別に....」
「だから、もう一度チャンスをくれませんか?
私は警察官として人を救いたい。
もう一度、刑事として正しいことをしたい....だから」
「当たり前だろ。」
霧子が言い淀んでいた中で進之介が答えた。
「お前は俺の相棒なんだ。
こんなところでへばって貰っちゃあそれこそ困る。」
「泊さん....」
「それに迷惑掛けたとか言ってたけど俺の事を助けてくれたんだろ?
なら、おあいこだ。
ありがとうな霧子。」
「......はい。」
そう言って笑う霧子を見て進之介が言った。
「霧子、お前笑っ...」
「笑ってません!」
そんなやり取りをしているとベルトさんが咳払いして話しに割ってくる。
『ウオッホン!....進之介。
君が寝ている間に事態が変わった。
霧子やG3Xの装着員を錯乱させたのはドーパントの仕業だった。』
「ドーパント?....ってことはガイアメモリか!」
『そうだ。
そっちの方は照井警視が対応している。
私達は蛮野の事件を解決しよう。』
「あぁ俺が寝ている間、そっちに動きはあったのか?」
『それがまだない。
内部で何かが起こっているせいで動けないのだろう。』
「.....ハートが関わっているのか?」
『.......』
「ベルトさん、俺はハートについてちゃんと知りたいんだ。
ハートはグローバルフリーズと今回の件で二度、俺を助けてくれた。
ベルトさんはロイミュードは人類に危険を及ぼす存在になっていると言っていたけど俺にはそれだけとは思えないんだ。」
『すまない進之介。
それは私の知識だけで出せる結論ではない。
恐らく、私が真実を話しても片寄った結論しか出せない。
.....いや、自信がないんだろう。
だから、私の口からちゃんと話せるか』
「それでも構わない。
俺は刑事だ。
ちゃんと分別は出来る。
教えてくれ....ハート達について」
ベルトさんは進之介にハート達について話した。
自分が蛮野と共にロイミュードを作ったこと
そして、ハート達は蛮野と違い別の目的があるということを.....
一通り聞いた。
進之介は霧子に尋ねる。
「霧子、俺の替えのスーツはあるか?
あったら持ってきてくれ。
現場に行くのに病院服じゃ格好がつかないからな。」
「分かりました。」
霧子はそう言って病室を出ていった。
「それとベルトさん。
真実を話してくれてありがとう。
やっぱり、俺はハートと話したい。
ロイミュードが何なのか?
警察として仮面ライダーとして俺はどういう対応をすれば良いのか?
話してみて結論を付けるよ。」
『....そうか。
私は君の相棒だ。
君の意見を尊重するよ進之介。』
「良し!ギアが入った。
捜査本部が復帰するまで待ってられねぇ。
俺達で工場に突撃する。」
『だが、病院内は錯乱した刑事で溢れているぞ。』
そう話していると病室の扉が開き中に髪の毛が乱れながらも戦い抜いたりんなが現れた。
「あぁ、良かった進之介くん目を覚ましたのね。」
「りんなさん!」
「二人に朗報よ。
錯乱してた刑事が全員、元に戻ったの。」
『と言うことは照井警視がドーパントを倒したんだな。』
「凄いな。
仮面ライダーじゃないのにドーパントを倒せるなんて....」
進之介がそう言って驚いている。
余談だが、出向メンバーで照井がアクセルだと知らないのは進之介だけであった。
そうしていると霧子が泊のスーツを取って部屋に入ってきた。
「泊さんこれを」
「ありがとう霧子。」
『では、我々も行動に移すとしようか。』
ベルトさんの言葉に賛同するようにそれぞれが動き始めるのだった。
工場内ではボロボロになりながら戦うハートと無傷に近いメディックとゴルドロイミュードの姿があった。
「はぁはぁ...」
その姿を見た蛮野が笑う。
『あっはっは無様な姿だなハート!
この私に逆らうからだぁ!』
「くっ!蛮野ぉ!」
『どうした?悔しいならさっさとゴルドロイミュードを倒せば良いじゃないか?
お前のスペックならそれが可能な筈だが?』
そこまで挑発されてもハートはゴルドロイミュードに手を出さず防御するだけだった。
それを見ていることしか出来ない檻の中にいるブレンが叫ぶ。
「メディック!正気に戻ってください!
ハートを傷つけて貴女は何とも思わないんですか?」
「蛮野様に反抗したのだから制裁を受けるのは当然でしょう?」
「では何故、貴方はそんな苦しい笑顔をしているのですか?」
「私が....苦しい?...何...を..」
ブレンの言葉を受けてメディックは頭を抱える。
(やはり、蛮野の洗脳が完璧じゃないのか。)
「ならばぁ!」
ハートは立ち上がるとゴルドロイミュードを投げ飛ばしメディックを捕まえた。
「メディック!思い出すんだ!
俺達の出会いを....助けてくれた無名の事を!」
「無....名..!?」
『余計なことをするなぁ!』
蛮野が吠えると投げられたゴルドロイミュードが立ち上がりハートを殴り飛ばす。
「ぐはっ!蛮野!貴様ぁ!」
『よりによって無名の名を出すとはなぁ....このまま貴様が痛ぶられる姿を眺めていようと思ったが気が変わった。
私が貴様のコアを砕いてやる。
その前にメディック!私の身体を回復しろぉ!』
「!? 止せメディック!」
ハートの静止を無視してメディックは蛮野が乗り移ったゴルドロイミュードの回復をする。
その瞬間、メディックが苦しみだした。
「あぁぁぁ!」
「メディック!」
ハートがゴルドロイミュードを倒せなかった理由は蛮野がメディックに仕込んだデータにあった。
彼女がロイミュードの回復を行う度に与えられたダメージを身体に蓄積させてしまうのだ。
自分が攻撃すればするほどメディックが傷つく姿を見てハートとブレンは憤る。
「蛮野ぉ!」
『無様に死んで行けぇ!この失敗作がぁ!』
ハートに向けて蛮野がコアに攻撃を仕掛けようとすると工場の壁が砕け蛮野の身体を突進してきた何かが吹き飛ばした。
『ぐあっ!何だ一体....』
「お前は....」
そうやって入ってきた"トライドロン"の扉が開くと中からスーツとネクタイをピッチリ締めてギアの入った進之介と霧子が出て来た。
進之介に装着されているベルトさんが告げる。
『蛮野....お前なんだな?』
「その声は....クリムか?
全く、余計なタイミングで来るとは....足止め共はとんだ役立たずだな。」
「アンタが蛮野か?」
その姿を見た進之介が尋ねる。
『貴様は....ドライブの変身者か。
重症だと聞いていたが動けるとは驚きだな。』
その次に霧子が蛮野に話し掛ける。
「....貴方が私の父なんですか?」
『父?...あぁ、あの女が産んだ子供の一人か。
大きくなったようだなぁ。
警察官になったのは意外だったが....』
「何故!こんなことを!?
そんな姿になってまでどうして?」
『そんな姿?
お前にはこの素晴らしさが分からないのか。
老いも死すらも超越し如何なる存在も手出しできない強靭な身体を手に入れられたのだぞ?』
この返答を聞いてクリムは戦慄する。
『蛮野....君はその姿になってまでまだそんな事を!?』
『クリム....丁度良い私の仲間になれ。
お前の知識があれば人類を完璧に支配するシステムを作り出せる。』
『何故そんな事を....』
『お前も見ただろう?
今の人類の愚かさをお前達が私を捕まえに来る段階でも何度も見てきた筈だ。
最早、人類にこの地球を支配する資格など無いのだ。
だからこそ、私が支配する。
電子の世界とロイミュードを使い現実世界の二つを統治すれば世界は真の平穏を手に出来るのだ。』
「その為に霧子を....実の娘を傷付けたのか?」
『どういう意味だ?』
「霧子はグローバルフリーズで殺されかけた。
そして今回もだ。
お前の野望の為に家族を犠牲にして何とも思わないのか?」
進之介の問いに蛮野は答える。
『優秀な私の研究の礎になれるのだ。
光栄なことだろう?
私の研究こそが唯一にして至高なのだ。
そんな事すら分からないとはやはり人間は愚かだな。』
全く理解できない理論で話された三人は絶句してしまう。
こんな人間がいて良いのか?
悪魔のような思考を持つ蛮野に得たいの知れない恐怖を感じた。
そして、それを知るハートやブレンにとっては怒りしか感じなかった。
生きていた頃から何も変わっていない。
もし、二人の知る人間が彼だけだったらロイミュードは原作と同じ道を辿っただろう。
だが、無名と関わったことで人間は蛮野の様な者ばかりではないと理解していた。
故にハートとブレンの憎しみの相手は"人間"では無く"蛮野"となっていたのだ。
「漸く繋がった。
何でハートがお前を憎んでいるのかをな。
蛮野...アンタにとって人間とロイミュードに差はないんだろう?
自分にとって"不要か有用"か....それでしかこの世界を見ることが出来ないんだ。」
『ほぅ、ならどうだと言うんだ?
それが分かった所で何かが変わるとでも?』
「さぁな、でも俺のやるべきことは分かった。」
進之介がそう言うと複数のシフトカーがブレンを閉じ込めていた檻に突撃し機能を停止させる。
「ドライブ....お前は...」
「ハート、"一時休戦"だ。
俺は蛮野を倒して奴の計画を止める。
それまで協力してくれるか?」
「良いのか?
俺は蛮野が作り出したロイミュードだぞ?
それにグローバルフリーズにも関わって....」
「あぁ、"俺の相棒"を助けてくれたな。
そして"今回も".....ありがとうハート。
お前のお陰で俺は相棒を失わずに済んだ。
感謝している。」
進之介の言葉を聞いたハートは笑う。
「ははっ!まさか、無名以外に俺達とまともに話そうとする人間がいるとはな。
良いだろう蛮野を倒す為、協力してやる。
ブレンはそれで良いか?」
ハートに振られたブレンは溜め息を付く。
「はぁ、やれやれ檻から出て直ぐに共闘ですか本当に貴方は"勝手で傲慢で....そして正しい"ですね。
ハート....貴方がそう望むのならば私は従いますよ。」
「ありがとうブレン。
なら、改めて自己紹介しよう。
俺はロイミュード002個体名はハートだ。」
「俺は仮面ライダードライブ、泊 進之介。」
「進之介.....それがお前の名前か。
ならば、今後はそう呼ぼう。
進之介、共闘するにあたって一つ条件がある。
目の前にいるあの女性は俺の仲間であるロイミュード009、名をメディックと呼ぶ。
彼女は蛮野に洗脳されている。
どうにかして彼女を助けたい。」
「洗脳?....ベルトさん何か分からないか?」
ベルトさんがメディックを見ながら告げる。
『恐らくは蛮野によって思考プログラムが書き換えられたのだろう。
そのプログラムを打ち消せばメディックは元に戻る筈だ。』
「良し、なら最初はメディックの救出からしよう。」
「良いのか進之介?」
「彼女は人質だ。
先ずは救出をしないとな。
俺は刑事だから命、第一優先なんだ。」
「ありがとう進之介。」
「霧子、お前はトライドロンを使って工場内部を調べてくれ。
破壊出来そうならその手段を探して欲しい。」
「分かりました。」
そう言ってトライドロンの運転席に乗り込む霧子の横の助手席に人間態に戻ったブレンが乗る。
「私の分析能力があれば探索の時間は減らせます。
ハートの命令です。
貴女にも協力しますよ。」
「....分かったわ。
しっかり捕まってて」
そう言って霧子がアクセルを踏み込む。
「逃がしませんわっ!」
メディックが倒れていたゴルドロイミュードに命令し追わせようとするがそれを進之介とハートが止める。
「お前らの相手は俺達だ!」
「メディック...絶対に救って見せる。」
その光景を見ていた蛮野は鼻で嗤う。
『ふん!下らない悪足掻きだ。
まぁ良いだろう。
メディック、ドライブとハートを始末しろ。
私はメインコンピューターに戻り計画の最終段階に移行する。
この身体も好きに使え。』
「計画?最終段階?....蛮野!お前は一体何を」
『直ぐに分かるさ。
それではクリム、ハート...それに仮面ライダーまた会おう。』
そう言うと蛮野は自分の精神データを工場のメインコンピューターへと移した。
それにより操られていたゴルドロイミュードも元に戻り戦いに参加する。
進之介とハートはゴルドロイミュードを蹴り少し距離を開ける。
「行くぜ!ベルトさん....それにハート。」
「あぁ!」
『Ok,start your engine』
進之介はイグニッションキーを回しシフトカーをブレスに装填する。
「変身っ!」
「
進之介がシフトカーを勢い良く動かすと身体に装甲が展開し仮面ライダードライブタイプスピードへと変身が完了した。
「ひとっ走り付き合えよ。」
進之介はそう言うとハートと共にゴルドロイミュードへむかっていくのだった。
Another side
工場のメインコンピューターへ移動した蛮野は蓄積された膨大なデータを見て微笑む。
『良いぞ...これだけのデータがあればゴルドロイミュードを"超進化"させられる。』
ゴルドロイミュードにはG4システムとダメージを受けた攻撃のトレース能力以外に蓄積された戦闘データをメインコンピューターに移送する能力を持っていた。
ドライブやハート、ブレンとの戦闘.....それにG3Xとの戦闘記録まで手に入れた蛮野は一体のゴルドロイミュードの素体にそのデータを流し込んでいく。
『完全にデータがロイミュードの身体と融合するまで時間は掛かるだろうがメディックや他のゴルドロイミュードの足止めがあれば間に合うだろう。
"チェイス"!』
蛮野が呼び掛けると電脳空間に紫のライダースを来た青年が姿を現す。
『お前には万が一に備えて工場に突撃してくる警察部隊の撹乱を命ずる。』
「承知致しました。」
『刃向かうようなら殺しても構わん。
工場の中に一人たりとも入れるなよ。』
殺害を許容する命令を受けたチェイスは黙る。
「........」
『どうしたチェイスは?』
「いえ、では失礼します。」
そう言うとチェイサーは蛮野のいる電脳空間を離れて元のロイミュードの身体へと戻ると目を覚ます。
(殺しを許可された時、俺の心は蛮野様の命令を拒絶したくなった。
一体何故だ?)
ロイミュードの番人であり死神としての役目を蛮野から与えられたチェイス。
彼には死神になる前の記憶が無かった。
「俺は.....一体....」
そんな事を考えていると工場に侵入しようと部隊を展開している警官達を見つけた。
チェイスはブレイクガンナーを構える。
この位置ならば何人かは息の根を止められるだろう。
(蛮野様は殺してでも近付けるなと仰った.....ならばっ!)
チェイスはブレイクガンナーの引き金を引く。
放たれた弾丸は警官の足に着弾すると痛みでうめき地面に倒れてしまった。
それを見たチェイスはその場を離れる。
(脆弱な人間をわざわざ殺す意味はない。
それよりも再展開されるG3Xを警戒して力を温存しておこう。)
そう考えて自分を納得させると警察の部隊が再展開するのをチェイスは"誰一人死者を出さず"に妨害し続けるのだった。
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第二百十九話α「ロイミュードの心は何処にあるのだろうか?」
最初に進之介とハートが狙ったのはメディックでは無く二体のゴルドロイミュードだった。
進之介が取り出した"ハンドル剣"でゴルドロイミュードに斬りかかる。
進之介の斬撃がロイミュードの装甲を傷付けていくが数手、当て終わる頃には学習し攻撃を回避し始められる。
「コイツら、前会った時より強くなってないか?」
『恐らく、大量に集められた戦闘データを解析しパターン化したのだろう。
普通の攻撃では直ぐに対応されるかもしれん。』
「なら、普通じゃない攻撃ならどうだ?」
ドライブは新たなシフトカーを手に取るとシフトブレスに装填する。
『タイヤコウカーン』
「
ドライブのタイヤが黄色と黒の模様に変化するとそこからタイヤが半分に分かれて上半身が落下する。
普通ならホラーな光景だがこれがディメンションキャブの能力でありタイヤ越しに空間を分けて移動する事が出来る。
分かれた上半身と下半身はそれぞれ動かすことが出来るのを利用してそれぞれが別の動きをしてゴルドロイミュードに攻撃を仕掛けた。
『成る程、確かにこれなら対応される前に倒せる。』
「あぁ、一気に行くぞ!」
進之介がゴルドロイミュードにトドメを刺そうとした瞬間、メディックの身体から現れた触手がドライブを吹き飛ばしディメンションキャブの能力を解除させる。
「ぐあっ!」
「そう簡単には行かせませんわ。
さぁ、傷を治してまた戦うのです。」
メディックが治癒能力を発動しゴルドロイミュードの傷が治るとそれに伴いメディックが苦しみ出す。
「いやぁぁ!」
「メディック!」
「どう言うことだ?どうして治した方が苦しんでいる?」
「蛮野の策略だ。
今のメディックは誰かを治療する度に身体を傷付けてしまう。
だから、ゴルドロイミュードに手を出せないでいたんだ。」
「何だって!?」
『それでは人質と変わらないじゃないか!?
自分の発明品をそこまで貶めるなんて蛮野.....そこまで堕ちたか。』
「感傷に浸ってる場合じゃないぞベルトさん!
このままじゃ、長期戦になってメディックが苦しむだけだ。」
『そうだな。
タイプスピードでの戦法は相性が悪そうだ。
ここは少し強引に行こう。
進之介!"タイプワイルド"だ。』
「分かったベルトさん。
来い!"シフトワイルド"」
進之介が手を伸ばすと黒くガッシリしたシフトカーが現れ進之介の手に収まる。
進之介はそのまま流れるようにシフトカーを交換しシフトブレスに装填するとイグニッションキーを回しシフトカーを展開した。
変身音が鳴るとドライブの真っ赤な装甲から黒く重工な装甲へと変化し肩からはめられたタイヤは右肩に合体し肩当ての様になった。
パワーとスタミナが高いタイプワイルドならベルトさんが言った様にある程度の無茶がきく。
変身が完了すると今度は別のシフトカーが進之介の手に収まった。
「これは....フッキングレッカー?」
『ダメージを回復されるとメディックにダメージが行くのならばダメージが回復できない位置まで飛ばしてしまえば良い。』
「そう言うことか!
ハート暫く、ゴルドロイミュードの相手を頼んだ。」
「分かった!任せるぞ!」
進之介がシフトカーを装填している間、二体のゴルドロイミュードとメディックの足止めをする。
その間にタイヤ交換を終えた進之介がフッキングレッカーの能力を発動する。
進之介の腕から牽引用のワイヤーロープが放たれると二体のゴルドロイミュードを締め上げるとタイプワイルドの力を使って上の壁まで投げ飛ばした。
『ハート!何でも良いから奴らを壁に固定しろ!』
「良し....これでどうだぁ!」
ハートが工場の鉄パイプを抜き取ると上空のゴルドロイミュードに渾身の力を込めて投げる。
ハートのパワーが乗った鉄パイプはゴルドロイミュードの装甲を貫通し壁まで貫いた。
結果、ゴルドロイミュードは上空に固定されてしまう。
「何て野蛮な事を!?」
「回復には行かせないぞメディック!」
進之介がメディックにハンドル剣を振るう。
「蛮野様の邪魔をするなんて....神への反逆よ!」
『人は神にはなれない。
そして、神である必要もない。
何故なら生物の理から外れた"化け物"を我々は神と呼ぶからだ。』
「ベルトの姿になっても人にしがみつくんですの?」
『それが....私がまだ生きている意味だからだ!
"私は人として"蛮野を止める!
それが彼の友だった私に出来る最後の事だからだ。
だから、この姿になっても闘う。』
「俺もそうだ!
刑事として仮面ライダーとして目の前で起こっている悪と犯罪を許す訳にはいかない!
だから、先ず君を救う。」
「救う?私は救われる事など....」
「ある!蛮野の手から君を救う。
その為に俺は来たんだ!」
戦っているメディックの背後からハートが現れると彼女を羽交い締めにして動きを止める。
「離....しな...さい!」
「断る!俺もブレンも君を救う為に来たんだ!
進之介...頼む!」
「分かったハート。
ベルトさん!」
『今解析したメディックを洗脳しているチップはコア深くに付けられている。
これを破壊するにはチップを一瞬で消し去る"破壊力"とコアを傷付けずに撃ち抜く"正確さ"が必要だ。』
「精密作業ならシフトテクニックの出番だな。」
進之介が緑色のシフトカーである"シフトテクニック"を呼び出すとイグニッションキーを回しシフトブレスに装填した。
すると、全身が緑色の装甲に変わり首の部分にタイヤが嵌め込まれタイプテクニックへの変身が完了する。
進之介はテクニックの頭部に備え付けられた分析装置を起動するとメディックのコアを確認する。
胸の中心部に009と書かれたコアが見えておりその周りが赤と青のコードで絡まっておりその中心に黒い何かが取り付けられていた。
「これが洗脳に使っているチップか。」
『あぁ、その様だな。
だが、随分とコアに近い何度もトライ出来る余裕はないだろう....チャンスは一回だけだ。』
「あぁ、分かってるさベルトさん。
来い!ドア銃、マックスフレア!」
進之介か呼び掛けるとドア銃とマックスフレアが現れそれをキャッチした。
進之介はドア銃にマックスフレアを装填すると構える。
『ヒッサーツ』
ベルトから流れる声を聞きメディックは危険を察知し全身から触手を展開する。
身体を抑えることだけしか出来なかったハートは触手が進之介に向かうのを止められなかった。
闇雲に振るわれる触手を進之介は無視してドア銃を構え続けていた。
触手が身体に当たり傷を付けようとお構い無しに....
『進之介.....』
「ベルトさんハート....俺の事は気にするな。
人質となっているメディックは絶対に俺が救う。
だから、今は彼女の心配を....」
その姿を見たハートは進之介と無名を重ねる。
(自分が傷付こうと誰かの為に戦える。
それが人間でもロイミュードでも関係無く......
どうやら、俺はまだ泊 進之介を過小評価していたみたいだな。
彼は"人間であり刑事でありまた仮面ライダー"なんだ。
ならば、俺も彼女を救う為に出来る事をする。)
「うぉぉぉぉぉ!」
突如、吠え始めたハートの身体から蒸気と大量の熱が放出される。
ハートの持つ特殊能力である内燃機関を限界以上まで解放する形態"デットゾーン"。
その凄まじい力は使用者であるハートでも完全にコントロールは出来ない。
だが、それが今は好都合だった。
放出される熱と力によりメディックの触手が焼き切れ進之介への攻撃が止む。
「行けぇ!泊 進之介ぇ!」
「うぉぉぉぉぉ!」
吠える進之介がドア銃の引き金を引く。
圧縮されたマックスフレアのエネルギーがビーム状になりメディックに向かって照射される。
放たれたビームがメディックに当たると人形の糸を切ったようにメディックは動かなくなり人間態の姿へと戻る。
意識を失い倒れるメディックにハートと進之介は駆け寄るのだった。
工場内を爆走するトライドロンは警備に回されているゴルドロイミュードを片っ端から轢きながら前へと進んでいた。
荒々しい霧子の運転にトライドロンに乗っている
「ひぃぃ!?何て横暴で粗雑でがさつな運転をするんですか!
本当に刑事なのですか貴女は?」
「仕方ないでしょう!?
安全運転で蛮野を逃がすよりも多少危険でもスピードを上げる必要があるのよ!
それに貴方もロイミュードならこれぐらい雑作も無いでしょう。」
「私は他のロイミュードと違い知的で繊細なんです!
人間に個性があるように我々にも....って!
前を見てください前ぉぉぉ!!」
ブレンの嘆願も空しくトライドロンはナビで示された最短距離を進みコンクリートの壁をぶち抜くと制御室であるメインコンピューターへと到着したのだった。
トライドロンから降りた霧子は対ロイミュード用の弾丸が入ったリボルバーを構える。
「.....クリア。
取り敢えず、周りに敵はいなさそうね。」
「信じられない....これが無名と同じ人間の所業なのですか。
やはり、人間は理解しがたい。」
「ブレンと言ったかしら?
ボサッとしてないで手伝ってください。
ハートにもそう言われたんでしょう?」
「言われなくてもやりますよ。
全く....人使いの荒さはハートみたいですね。」
ブレンはそう悪態を付くとロイミュード態に変化しメインコンピューターに自ら生成した毒を被せた。
「何をやっているの?」
「私の毒にはシステムをクラックし掌握する能力があります。
これを使い今、活動しているゴルドロイミュードの機能を停止させました。
コアが無い操り人形はこれで無効化出来る筈です。」
「コアが無い?....それってどう言う意味」
「我々ロイミュードは肉体となる"バイラルコア"と魂に該当する"ナンバリングコア"の二つがあります。
肉体の方はいくらでも生産できますがナンバリングコアは"108体"しか存在せずそれ以上は増やせない様に蛮野に作られています。
つまり、今外で活動しているゴルドロイミュードの総数とナンバリングコアの数は合わないのです。
恐らく蛮野は命令を聞き行動するシステムを組み込んだ操り人形を作りそれをメディックが指揮していたのだと思います。」
「文字通り、世界征服の駒として使うつもりだったのね。」
「それもあるでしょうが、私は蛮野の目的は別にあると思います。
ゴルドロイミュードには相対した敵の能力や行動パターンを学習する機能が付けられていました。
もし、私達やドライブとの戦闘データが目的なのだとしたら....」
『相変わらず素晴らしい洞察力....私がブレンの名を与えた事だけはあるな。』
突如、聞こえてきた蛮野の声に二人は警戒心を上げる。
「メインコンピューターは停止させました。
もう操り人形は使えません。
貴方の敗けです蛮野。」
『ふっ....アレが止められるのは想定の範囲内だ。
奴等の目的はあくまで時間稼ぎなのだからな。』
「やはり、目的は我々とゴルドロイミュードとの戦闘データですか。」
『その通りだ。
戦闘能力を極限まで引き上げるG4システムを組み込んでいてもお前達の強さは驚異だ。
ならば、どうするか?
"学んでしまえば良い"。
相手の能力を戦闘パターンを学べば差は埋まりG4システムを持つゴルドロイミュードが敗北することはない。
お前達のお陰で素晴らしいデータが取れた。
これでゴルドロイミュードはまた完成に一歩近付く。
何れは"超進化"にも至るだろう。』
「超進化?」
『何だクリムならとっくに気付いていると思ったが....まぁ良いだろう説明してやる。
私の作り出したロイミュードには成長の段階がある。
初期はバイラルコアで肉体を得た素対の状態。
"下級ロイミュード"と呼ばれる状態から始まり、色々なデータを学ぶことで"上級ロイミュード"へと進化する。
ハートやブレン、メディックがその個体に入る。
そして、上級になったロイミュードが更にデータを吸収し限界を超えると"超進化"と呼ぶ究極の進化を行うことが出来るのだ。
私がお前達を生かしているのはその超進化へ至る可能性があるからだ。』
「私達に超進化をさせて貴方に何のメリットがあるのです蛮野。」
『そこまで教える義理はない。
さぁ、そろそろ始めるとしようか。
喜びたまえ.....お前達は歴史的瞬間に立ち会えるのだからな。』
そう言うと工場がライトアップされそこに一体のゴルドロイミュードが映された。
『コイツは他の"ゴルドロイミュード00"。
あらゆるロイミュードを統率できる性能を持ったハイエンドモデルだ。
これにはこれまでの戦闘データを解析し作り出した最高のプログラムが内蔵されている。
後はコアが入れば起動できる。
そう...."私と言うコア"が入ればな。』
「まさか!?...させません!」
ブレンが生成した毒をゴルドロイミュードに放つがそれが到達する前にゴルドロイミュードから放たれた衝撃波で吹き飛ばされてしまう。
動き出した蛮野の意識が入ったゴルドロイミュードが話し始める。
『あぁ、何て素晴らしい性能だ。
これこそ私が....人類を管理するこの蛮野天十郎が扱うに相応しいっ!』
蛮野の魂が完全にゴルドロイミュードに移ると身体が光り素対の姿から変化した。
その姿はロイミュードとして機械的な意匠を残しながらも何処かドライブに近い形をしていた。
自らの身体が完成したことに喜んでいると彼の身体に火花が上がる。
その方向に目を向けると霧子が蛮野に向けて拳銃を向けていた。
『実の父親を撃つとはとんだ親不孝者だな。』
「貴方は私の父であると同時にロイミュードを利用してテロを行う犯罪者です。
私達、家族の事を想うのなら自首してください。」
それは霧子が出す家族故の最後の両親だった。
悪に堕ちたとしても血の繋がっていた家族だ。
「弟を....剛の為にも...お願い...父さん。」
嘆願する霧子の顔を見た蛮野は顔を伏せる。
『あぁ....霧子。
お前は本当に家族思いだな。
お父さんは嬉しいよ.....だがその程度ならばお前は"要らない"な。』
「危ない!?」
突如、蛮野が霧子に手を向けると転がっていたゴルドロイミュードの残骸が一斉に霧子に襲いかかってきた。
間一髪で気付いたブレンが間に入り彼女を助ける。
『私の偉業を邪魔するのならば例え家族であっても敵だ。
もう少し頭が良かったのなら利用しても良かったんだがやはり
下らない正義感に支配されてしまうとは....お前は用無しだここで死ね。』
蛮野が指を弾くとゴルドロイミュード達が赤熱し爆発を起こした。
爆発が晴れると地面には黒焦げになった霧子だった焼死体とブレンの物であろうロイミュードの素体の破片が落ちていた。
『さて....ハート達の所にでも行くとするか。』
蛮野は興味が無くなった様にその場を後にする。
蛮野が出ていくと"焼死体の身体が崩れ始め毒液の姿"に戻った。
すると、トライドロンの後ろから傷付いたブレンと彼に肩を貸す霧子が現れた。
「毒で作った死体が上手く行ったみたいですね...ぐっ!」
「ブレン!貴方どうして?」
霧子を爆発から守ったのはブレンだった。
自分の身体を盾にしながら爆発の威力を使いトライドロンの裏に隠れると毒で作った死体を用意した。
そのお陰で霧子は助かったのだ。
「さぁ、私にも分かりません。
何故、人間なんかの為に盾になったのか。
ただ、家族の話を聞いて少し懐かしくなったのかもしれませんね。」
これは蛮野の反乱を止めた頃の話。
互いに勝利ついて喜んでいる中、ブレンは京水と話していた。
「私には不思議です。
貴方達、NEVERは死を克服した超人兵士の集団だと聞いています。
それなのに生きている事を喜びあっている。」
「あら?いくら私達が不死身に近くても痛いし死ぬのは怖いわよ。
だって、死んだら克己ちゃんや皆に会えなくなってしまうじゃない?
私はね生前、仲間だと思っていた奴に裏切られて殺されちゃったの。
けど、お陰で次の人生は満足で満ち溢れてるのよ。
優秀でイケメンの克己ちゃんでしょ筋肉マッチョメンの堂本ちゃん、クールなスナイパーイケメンの芦原ちゃん.....それにちょっとムカつく事もあるけど大事な仲間のレイカ。
私の人生はね一度死んでから充実し始めたの。
ずっと一緒にいたい...."恋人と言うより家族"みたいなものね。」
「家族....それはそんなにも大切なものなのですか?
私達、ロイミュードには家族がいません。」
「そうかしら?私には貴方達、ロイミュードも立派な家族に見えるけど」
「そうなのですか?」
「えぇ、共に生きたいと思える間柄になれた。
その者達と生きていくのもまた一つの家族よ。
ハートやメディックは貴方にとってそんな存在なんじゃないかしら?」
ブレンは考えたこともなかった京水の言葉に何も言えないでいた。
「.......」
「そんな深く考えなくても良いわ。
何れ、時間が答えを教えてくれるもの」
(今なら分かりますよ京水。
貴方が私に何を言いたかったのか。)
人について多生なりとも理解できたブレンは立ち上がろうとする。
「今は蛮野を追いましょう....あの男の事だ。
きっとろくな事をしな....ぐっ!?」
「無茶よブレン!
貴方はダメージを受けすぎている。
今は貴方を安全な場所へ動かすことが優先だわ。」
「しかし!?」
「メインコンピューターを破壊したのならコアのないゴルドロイミュードは動かないんでしょう?
それだけでも十分な成果よ。
後は泊さんとハートを信じましょう。
ありがとうブレン。
それに対ロイミュード用の弾丸で傷一つ付かなかった私が行っても今は足手まといになる。」
そう言って唇を噛み締める霧子を見てブレンも納得した様に言った。
「分かりました。
私も戦闘能力で言えばハートに劣ります。
今のままでは私達は足手纏いになりますね。
戻りましょうか。」
そうして霧子はブレンをトライドロンに乗せると戦線から一時離脱するのだった。
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第二百二十話α「何故、彼女は操られたのか?」
メディックは崩壊していく建物に目を向けた。
自由になった蛮野がロイミュードを洗脳し起こしたグローバルフリーズ。
ハートとブレン、そして私は仲間を助け蛮野の野望を挫く為、この戦いに参戦していた。
周りには死屍累々の光景が広がり人間、ロイミュード問わず皆、傷付き倒れていた。
「何て非道な....」
私は自分の持てる力をフルに使い傷付いた人やロイミュードを助けていく。
傷を治す度に治した者の感情が流れてくる。
それは怨嗟にも似た慟哭でありその暗い感情が私のコアに影響を与えていく。
「うっ!.....まだですわ。
まだ傷付き倒れている者は大勢いる。
こんなところで倒れてはいられない!」
無名の元にいたお陰で私は人間の醜い部分も美しい部分も知っていた。
そして、それはロイミュードも同じ.....
傷つけられれば怒るのは当たり前だ。
恨むのも当然だろう....だがそれだけが人間の本質ではない。
人の中には誰かを慈しみ守ろうとする者もいる。
私が助けた者の中にはそんな人物もいた。
感謝や幸福の感情が流れ込み精神が安定していく。
これでまだ救える....そう思った矢先にあの男が現れた。
『ほぅ....誰が治療をして入るのか見に来てみれば貴様だったかメディック。』
「蛮野....」
『丁度良いお前の能力は貴重だ。
ここで手に入れておこう。』
「貴方の好きにはさせません!
私は回復だけが取り柄のロイミュードでは無いのですから」
『確かにな。
お前は回復以外にも戦闘もこなせる優秀なロイミュードだ。
それにこれだけの人間を治して悪意に心が染まらない所を見ると面白い進化を遂げているようだ。
そんなお前を倒すのは一筋縄では行かないだろう。
だが、お前は無理でも
蛮野が指示を出すと洗脳されたロイミュードが私の周りにいる治療中の人間に向けて攻撃を仕掛けてきた。
私は自分の身体を盾にして守る。
「きゃっ!.....傷付いた人間を狙うなんて...何処まで下品た考えを持っているの!」
『良いことを教えてやろうメディック。
人は大義の為なら小さな問題を切り捨てられる合理的な思考を持っている。
私がこれから行う偉業に比べれば周りに倒れているゴミなど無価値で意味なんて無いのさ!』
自分以外の人間に価値がないと言い切る蛮野にメディックは言い様の無い忌避感を覚える。
「貴方は...本当に人間だったのですか?
ここにいるのは貴方と同じ人間なのですよ?
それを簡単に消そうと考えられるなんて....理解できない。」
『当然だ。
私は他の人間とは違う叡智を手にし選ばれた存在なのだからな。
さぁ、お前達、倒れているゴミを始末しろ!あぁ、メディックコイツらを守りたいのなら好きなだけ庇うと良い。』
そうして私は蛮野の策に屈して敗れてしまった。
動けなくなった身体を蛮野に改造され私は蛮野の為に動く人形となった。
思考と身体の操作が出来ずただ凄惨な記憶だけか残る。
私は蛮野に命令されるがまま非道な作戦に手を貸し続けた。
(もうこんなことをしたくない誰か私を殺して....)
そう願いながら生きていたら私の前にハート様と仮面ライダーが現れた。
わたしはやっと蛮野から解放されて死ねるんだ。
そして、仮面ライダーが私のコアに攻撃をした瞬間、私は感謝しながら目を閉じた。
これで地獄が終わると信じて......
「メ....ック!」
薄れていた意識の中で聞き覚えのある声が聞こえ彼女は目を覚ました。
「こ....こは?」
「メディック!良かった意識を取り戻したんだな。」
目を覚ましたメディックはハートに抱き抱えられ横には銃を持った"緑色の仮面ライダー"がいた。
「ハー...ト様?」
「無理に喋らなくて良い今は自分のコアの回復に集中しろ。」
そう話していると仮面ライダーがベルトに尋ねる。
「ベルトさん....メディックは」
『安心したまえ進之介。
コアに付けられたチップだけ正確に撃ち抜いているから後遺症もない筈だ。
暫くは回復が必要だがまた動けるようになるだろう。
君の腕はパーフェクトだ!』
「そっか...あぁ良かったぁ!
上手く行くか内心ドキドキしてんだよ。」
進之介と呼ばれた仮面ライダーは緊張した顔を緩ませる。
そんな彼を見てハートは言った。
「泊 進之介....お前には本当に感謝している。
お前のお陰で俺は大事な仲間を失わずに済んだ。
本当にありがとう。」
「気にすんなよハート。
俺も同じ立場なら助けてる....でも本当に無事で良かった。」
そう話しているとメディックが起き上がる。
「おい、メディックまだ動いては....」
「申し訳ありませんハート様。
私はグローバルフリーズの時に蛮野の罠にはまり操られてしまいました。」
「それなら分かっている。
お前には無茶を...」
「いいえ、私は蛮野の命ずるままハート様が大事にしているロイミュードのコアを"改造"して感情を奪い去ってしまったのです。
それだけではなく蛮野に"人間と融合出来るバイラルコア"の開発を命じられ私はそれを完成させてしまいました。
洗脳されていたとは言え私のやった罪は到底、清算できるものではありません。
ですから、この命をもってせめてもの償いを...」
そう言ってメディックは持っていたナイフを胸のコアに刺そうと振るった。
「止めろ!メディック!」
止めようとするハートだったが先にメディックの手を止めたのは泊の手だった。
「君が罪の意識を持っているのは良く分かった。
でもだからこそ、ここで君を死なせる訳にはいかない。」
「離してください!.....私は....到底抗えない罪を..」
「抗えない罪だと分かっているなら尚更生きるべきだ!
償うってのは死ぬことじゃない!
"自分の罪を数えて生きて罪を償っていくことを言うんだ!"
......それにもしここで君が死んだらハートとブレンはどうなる?
君を助ける為に二人は命懸けでここまで来たんだぞ!」
泊はメディックからナイフを取り上げると地面に投げ捨てた。
泊の言葉を受けてメディックは涙を浮かべる。
「では....私は...」
「罪の重さに耐えられなくて辛いなら仲間と一緒に背負って貰えよ。
少なくともハートやブレンはその覚悟を持ってお前を助けたと思うぜ?」
落ち着いてきたメディックにハートが言葉を掛ける。
「メディック、君が気に止む気持ちは痛い程分かる。
君の能力は仲間を癒し助けるものだ。
そんな力を利用され沢山の者を傷付けたんだ。
身を引き裂く程に辛いだろう。
でも、だからこそ、私達がいる。
ブレンも私も君がどんな罪を負ったとしても共に背負う覚悟でここに来ている。
だから....死のうとするなんて止めてくれ。
これ以上、大事な友達を失いたくない。」
「...ハート様、ごめんなさい...ごめんなさい。」
泣いて謝るメディックをハートが優しく抱き締める。
その光景を嘲笑しながら金色の怪物が現れた。
『三文芝居にしては感動的なエンディングだなぁハート。』
その声を聞いたハートと進之介の顔に怒りが浮かぶ。
「暫く会わない間に随分と見た目が変わったようだな蛮野。」
『当たり前だ。
この機体こそ私が真に完成を目指したゴルドロイミュードの完成形なのだからな。
どうだクリム?
素晴らしいフォルムをしてると思わんかね?』
『私の作り上げたドライブに似せているのは私への対抗心故か?
だが、私のドライブの方がスマートだぞ。』
『ふっふっふ、大事なのは中身だろうクリムっ!』
そう言うと蛮野はタイプスピード顔負けの高速移動でドライブの目の前まで来ると強烈な前蹴りを加えた。
「ぐあっ!」
『進之介!!....何て威力の蹴りだ!
タイプスピードでもこれ程のパワーは出ないぞ。』
『誰がタイプスピードを真似たと言った?
確かに見た目はドライブに近いが性能は段違いに高いぞ?』
「蛮野ぉぉぉぉぉ!!」
ハートが叫びながら蛮野に殴り掛かる。
『始めからデッドゾーンを使っているところ悪いがもうその攻撃は効かんぞ?』
蛮野はデッドゾーンにより強化されたハートの拳を軽々しく止めた。
「なっ!?」
『お返しだ。』
蛮野は握り込んだ腕をハートの腹部へ放つ。
鈍い音と共に与えられた破壊エネルギーは一撃でハートの膝を付かせデッドゾーンを強制解除させた。
『お前のデッドゾーンはゴルドロイミュードを通じて完全に学習させて貰った。
もうお前だけの専売特許ではない....そしてドライブ!
お前の能力も同じだ。
スピード、ワイルド、テクニックだったか?
使用者の負担なんぞ考えるから分ける必要があるのだ。
その点このロイミュードにはそんな心配はない。
G4システムにより常に最適な動きが可能であり壊れたら同種からパーツをもぎ取れば良い。
このゴルドロイミュードこそが世界を接見する最高の軍事兵器だ。』
『兵器だと!?
お前はロイミュードを兵器運用するつもりなのか!』
『勿論、世界を支配するにしても力が必要だ。
これがあれば簡単にその願いが叶う。
私を利用しようとした無名やZAIAもゴルドロイミュードの前に敗れるのだ。
あっはっはっは!!』
「んなことさせるかよ!」
立ち上がった進之介はシフトスピードに再変身すると"ミッドナイトシャドー"を手に取りブレスに装填する。
『タイヤコウカーン』
「
そしてもう一度、イグニッションキーを回してシフトブレスを動かす。
これによりシフトアップした進之介はミッドナイトシャドーの能力により三体へと分身すると高速移動しながら生成したエネルギー手裏剣を蛮野に投げ付けた。
蛮野は放たれた手裏剣をデッドゾーンの力で吹き飛ばしながらドライブを観察する。
『本体は貴様だな?』
蛮野は一番離れているドライブに近付くと予めコピーしておいたハンドル剣を地面に倒れているゴルドロイミュードの破片から再構成すると心臓に向けて振るった。
「させるかぁ!」
それに気付いたハートがドライブへ向かう刃を握って止める。
『邪魔をするな。
潔く終わりを受け入れろハートっ!』
蛮野は力任せに握っていたハートの腕ごとハンドル剣で切断した。
「ぐぁ!」
「ハート!」
『油断している場合か仮面ライダードライブ?』
蛮野はデッドゾーンを発動させると今度は右腕を強烈な炎が覆った。
その腕で進之介の命を奪う強さで胸を撃ち抜く。
『させるか蛮野!』
咄嗟にベルトさんがミッドナイドシャドーのタイヤを射出しその拳に当てたことで進之介は吹き飛ぶだけで済んだ。
ミッドナイドシャドーのタイヤが破壊されるとシフトカーと吹き飛んでしまい代わりにシフトスピードがブレスに装填されタイヤがドライブに収まった。
『今の炎はマックスフレアだな?
もはやシフトカーの力すらコピー出来るとは』
『それだけではない。
この素体の強度ならばデッドゾーンを使いながらお前の作り出したドライブのシフトカーの力も使えるぞ!
さぁ、もっとシフトカーの力を使え!
全て私の物にしてやる。』
(ロイミュードやドライブの力をコピーし再現できる能力にG4システムの肉体の負荷を考えない戦闘スタイル。
まさか、ここまで噛み合ってしまうとは.....
どうする?
現状のシフトカーでは蛮野のゴルドロイミュードへの対抗手段は無い。
せめて、"シフトデッドヒート"が完成していれば.....)
原作ではハートのデッドゾーンを経験し得たデータからデッドヒートシフトカーを完成させていたがこの世界線では完成させる程のデータは集まっていなかったのだ。
(今もっとも有効な策はこれ以上、シフトカーの情報を与える前に撤退すること....だが、そんな事をすれば蛮野がどんな行動を取るかは目に見えている。)
そんな考えをしていると進之介がベルトさんに尋ねる。
「ベルトさん、正直に答えてくれ。
蛮野を倒せる策はあるか?」
『.....現状、蛮野を止める手だけはない。
すまない進之介。』
「そっか.....良し!
なら、俺達が"時間を稼ぐ"しかないな。」
『!?』
「今、作戦が思い付かないなら戦って時間を稼ぐしかねぇ。
どっちにしても蛮野をこのまま放置するわけにはいかないしな。」
『無茶だ!今のドライブでは蛮野に勝つ手段は無いのだぞ!?』
「かもな....でも刑事である俺が諦めたら一体誰が市民を守るんだ?
俺は仮面ライダーの前に一人の刑事だ。
それにハートも諦める気は無いらしいぞ。」
進之介が顔を向けるとそこには切断された腕をメディックの再生能力で回復させているハートの姿があった。
「すまないメディック、無茶をさせた。」
「いいえ、ハート様。
これぐらい何ともありませんわ。
貴方が諦めないのなら私やブレンも諦めません。」
「そうだな。
ブレンも目的は達したと連絡してくれたからな。
俺も頑張らないとなぁ!」
立ち上がったハートはもう一度、デッドゾーンを発動する。
『無茶をするなハート!?
デッドゾーンは君のコアに多大な負荷をかけるのだぞ。』
「構わん!
今は蛮野を倒す為にも力がいる。
その為ならこの力何度でも使って見せる!」
そう言うハートの表情は明るい。
これまでの戦いはメディックを助ける為、我慢した戦いだった。
だが、今は蛮野を倒す闘争の戦いだ。
ハートは自分のコアを進化させた感情が闘争の中にあると知っていた。
故にハートは滾る。
目の前の敵を屠る為.......自らの命を燃やして
そして、そんなハートの隣に進之介が立つ。
「燃えてる所、悪いが加減はしろよハート。
それで燃え尽きちまったら本末転倒だ。」
「安心しろ泊 進之介。
蛮野を倒したら次はお前だ。
その為にも死ぬつもりはない。」
「....やっぱりかハート。
お前、俺とそんなに戦いたいんだな。」
ドライブはハートとは何度か戦闘を行ってきた。
拳を交えたことで両者とも気付いたのだ。
自分達が好敵手と言える間柄なのだと....
だからこそ、進之介はハートを信じられた。
(コイツは俺との決着をつけるまでは意地でも死なない。
だから俺も....)
そんな二人を見ていたベルトさんが告げる。
『作戦とは言えないが....一つ気になることがある。
ゴルドロイミュードの耐久性に関してだ。
幾ら蛮野が使っているゴルドロイミュードがハイエンドモデルだとしてもデッドゾーンとシフトカーの能力併用はそれ相応のリスクがある筈だ。』
「成る程....つまり限界があると?」
『限界の無い物は存在しない。
どんなに固い物質でも壊れない物が無いのと同じ様に耐久限界が必ずある筈だ。
問題は何れだけ耐えられるのか分からない事とそれを検証するまでハートと進之介が戦いに耐えられる保証が無い事だ。』
「ハートは分からないが俺はまだまだ行けるぜベルトさん。」
『進之介....忘れているかもしれないが今の君は重症だった身体を霧子と私がマッドドクターを使い無理矢理回復させたのだ。
今はアドレナリンで疲労を感じないでいるが確実にダメージが残っている。
何時、エンストしてもおかしくないんだ。』
「そうか、なら尚更、止まってられないな。
ベルトさん現状で最も高い攻撃力を持つのはどの組合わせだ?」
『シフトワイルドとランブルダンプの近接戦が現段階で最もダメージを与えられる。
だが、今の蛮野に近付くのは危険だぞ。』
「覚悟の上さ。
さぁ、行こうぜベルト。」
『.....分かった進之介。
その間に私が蛮野を倒す方法を考えてみよう。』
進之介はシフトワイルドをブレスに装填した。
タイプワイルドへ変身が完了するとランブルダンプのシフトカーを手に取りブレスへと装填した。
『タイヤコウカーン』
「
進之介の肩にランブルダンプのタイヤが装着されるとタイヤについていたドリルが外れて進之介の右腕に取り付けられた。
タイミングは同時だった。
ハートと進之介は蛮野に向かっていく。
ハートのデッドゾーンで強化された徒手空拳。
そしてタイプワイルドのパワーを乗せたドリル攻撃。
二人はまるで長年の相棒の様に蛮野の身体にダメージを与えていった。
しかし、そのダメージよりも蛮野の反撃の方がダメージが大きく。
段々と二人は追い詰められていく。
そして、蛮野のゴルドロイミュードに搭載された学習能力がハートとタイプワイルドの戦闘パターンを分析し対抗プログラムを組み終わると二人の攻撃は蛮野に当たることは無くなった。
『愚かな事を.....そんな無駄な行為を続けても結果は変わらないと言うのに』
蛮野は二人を嘲笑う。
ダメージによってボロボロになったハートと進之介はそれでも何とか立ち上がる。
「まだ....まだ....だ!」
「あぁ、俺達は....折れちゃ...いねぇ!」
気合いで立ち上がってはいるが二人ともダメージをちゃんと理解していた。
(デッドゾーンが通用しないとはな。
色々と殴ったがダメージがあった感触が無い....不味いな。)
(身体がふらついてきた....マッドドクターの副作用が出たってことか。
いよいよヤバイな。
ベルトさんが作戦を考えられる時間を稼げたか?)
進之介がベルトを覗くとベルトに映し出された表情に変化があった。
蛮野に聞こえないようにベルトさんが言った。
『進之介、蛮野の腹部を見るんだ。
他の装甲には二人の攻撃で小さい傷が付いているにも関わらず腹部だけは傷が全く無い。
彼処だけ使われている装甲が違うんだ。
恐らくそこが弱点になり得るから蛮野も対策をしているのだろう。』
「分かった。
だけどハートと二人がかりでも傷が付かない固い装甲をどう突破すれば....」
『それなら一つだけ可能性がある。
ドライブのフルスロットルとハートのデッドゾーンの最高出力のエネルギーをその場所に同時に打ち込むんだ。
そうすればあの装甲の耐久力を上回る威力になる筈だ。』
「良し分かったベルトさん。」
『ハートには私から連絡した。
私の作戦に乗ってくれるそうだ。
後は進之介のタイミングに合わせる。』
何か企んでいるのが分かった蛮野は二人を笑う。
『これだけ痛めつけられてもまだ勝てると考えているとは愚かを通り越して一層、憐れだな。』
その挑発に進之介がわざと乗る。
「言ってくれるじゃねぇか。
ロイミュードに寄生しなきゃ俺達に手も出せないのにな。」
『あっはっは!負け犬の遠吠えとは正にこの事だな。』
「俺達が負け犬ならお前は恥知らずって所か蛮野。」
進之介の言葉に蛮野の空気が変わる。
『....何?』
「お前はゴルドロイミュードを自分の最高の発明と言ってはいるがその殆どが借り物の力じゃねぇか。
G4システムもロイミュードの稼働に使っているコア・ドライビアもな。
何一つお前自身の功績じゃねぇのに良く恥ずかしげもなく威張れたもんだな?」
その言葉に蛮野の表情が歪む。
『黙れ!
何の才能もない愚民が私を批判するだと!?
そんな事が許される訳が無いだろう!』
「なら、借り物じゃなく自分の力で攻撃してみろよ!
それともそんな事すら出来ないか?」
進之介は自分の胸を指差して告げる。
あからさまな挑発に蛮野は反応すると力を解放する。
デッドゾーンとマックスフレア、そして先程コピーし終わったシフトワイルドのパワーを上乗せした拳を握ると進之介の胸に向かって振るった。
『死ねぇぇぇ泊 進之介ぇぇ!!』
怒りのままに振るわれた拳を進之介はタイヤのついた肩で受けた。
「うぐっ!」
『そんな防御で私の拳を止められるかっ!
タイヤごと貫いてくれる!』
蛮野は力任せのまま拳を前に付き出した。
それを進之介は待っていたのだ。
進之介はタイヤを中心に身体を半回転させた。
拳に全体重が乗っていた蛮野は前へ身体が流され拳が離れてしまう。
「今だっ!」
『ヒッサーツ』
進之介は素早く必殺の状態に移行するとエネルギーが纏われたドリルを蛮野の腹部に押し付けた。
フルスロットルにより強化された回転が蛮野の装甲を削ろうと火花を上げるがダメージはない。
『効かないと言っただろう?』
「あぁ、"このまんまじゃな"。」
進之介がそう言うと背後に"拳を握り込んだハート"がいた。
『なっ!?』
「俺を忘れて貰っては困るなぁ!!」
そう言うとハートは進之介のドリルに向かって拳を叩き込んだ。
すると、腹部の装甲に亀裂が入りドリルの先端が蛮野の腹部を穿った。
『うぐぁ!!.....なっ....舐めるなぁ!』
蛮野はもう一度、拳を握り進之介の心臓に振り下ろした。
近いので今度は避けることも出来ない。
それでも進之介は言う。
「ハート、もう一発だ!
次打ち込めば腹が貫通する!」
ハートはもう一度、拳を振るった。
蛮野の拳とハートの拳が同時に振るわれる。
二つの攻撃は強く凄まじい音と共に中心で衝撃波を放つと三人は飛ばされてしまうのだった。
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第二百二十一話α「誰が奇跡を起こすのか?」
吹き飛ばされた三人の中でハートが早く立ち上がった。
しかし、その顔は悔しさに歪んでいる。
「すまない泊 進之介。
お前の覚悟を俺は無駄にしてしまった。」
『折角のチャンスを不意にするとはなハート。
やはり、中途半端に人間を理解した影響か。』
ハートを嘲りながら立ち上がった蛮野の腹部の装甲には亀裂が内部にダメージは入っていなかった。
その理由は蛮野の攻撃から進之介を守るため咄嗟にワイルドの右肩にあるタイヤを殴り付けて蛮野の拳に当てて攻撃を防いだのだ。
二人のパワーを受けたタイヤは完全にひしゃげており進之介の変身も解除されていた。
そして、後を追う様にハートも人間態へと姿を変えた。
『どうやら、勝負はついたようだな。
お前らの反抗は全て無駄に終わるぞ?』
蛮野はそう言うと腹部の亀裂に手を当てるとそこからエネルギーが溢れ出し亀裂を完治させた。
そして、そのエネルギーを全身に行き渡らせることで身体につけられた細かい傷ですら回復させてしまった。
『メディックの力も既に私の物....もうお前たちに用はない。
ここで死ねハート、メディック。』
蛮野がゴルドロイミュードの残骸からドア銃を作り出すとハート達に向けた。
咄嗟にハートがメディックの盾になる。
まるで重加速を受けた様に周りの景色がゆっくりと見えていた。
進之介は重い身体を何とか起こす。
(間に合わねぇ!)
進之介はハート達に手を伸ばす。
それはグローバルフリーズの時、相棒を失いかけた光景と酷く似て見えた。
(俺は、またこの手で取り逃すのか?
相棒を助けてくれたハートを見殺しにするのか?
ダメだ!そんな事を許せるかっ!)
"もっと速く.....誰よりも速く"
メディックに覆い被さるハートの目に進之介の姿が移った。
自分達を助けようとボロボロの身体を起こして手を伸ばしている。
これまで何度も戦ってきて知った気になっていたが実際に話すと正義感溢れロイミュードでも差別せずに犯罪者と向き合う良い人間だった。
(お前に会えて....良かった。
やはりあの時に助けて正解だった。)
ハートが思い出すのはグローバルフリーズの最中、重加速で急に動けなくなった影響で相棒がいる場所に銃を発砲した時の進之介の顔だ。
今と同じく溢れ落ちてしまいそうになる命を助けようと懸命になっていた。
それは今でも変わらない。
きっと進之介は間に合うなら自分の身体を盾にしてでも蛮野の攻撃を止めるだろう。
(不甲斐ない....やっと信じれる人間に出会ったのにまだ何も出来てない。
戦ったことがあるだけだ。
俺がもっと強ければ.....)
"もっと力があれば......誰も寄せ付けない力が..."
これはある種の奇跡なのだろう。
原作のドライブでは交わることの無い感情だった筈だった。
((もっと
だが、この蛮野の行動が欠けていた
「「蛮野よりも....もっと!!」」
「「
急に蛮野により放たれた弾丸が弾かれると蛮野の身体に何かが衝突し仰け反った。
『ぐあっ!?』
そこには進之介が使っていた"シフトスピード"とハートのコアが内蔵された"スパイダーバイラルコア"が螺旋を描きながら両者を追いかけるように回転していた。
「これは....一体?」
二機の回転は小さくなっていき素早さをましていくとエネルギーが溢れだし一つのシフトカーへと変わると進之介の手元に収まった。
「俺とハートのシフトカーが融合した?」
『そんな事が起こるなんて完全に予想外だよ。』
新たに生み出されたシフトカーの形はメインはシフトスピードと変わらないが全面に二本の浮き出たラインと後方にブースターを思わせる四本の足が付いておりまるでシフトスピードに機械化された蜘蛛が覆い被さっているようにも見えた。
それに触れた進之介は感覚的に理解した。
これを使って変身が出来ると.....
進之介は立ち上がるとベルトのイグニッションキーを回した。
そして、手元のシフトカーを変形させるとシフトブレスに装填した。
深呼吸して覚悟を決めると進之介は叫ぶ。
「変身っ!!」
シフトブレスを思いっきり倒すとベルトがシフトカーを認識する。
進之介の身体が変身シークエンスに入ると倒れていたハートの身体が変形していきドライブの身体と融合していく。
シフトスピードの見た目をしながら両手足にブースターがつくと装甲が厚く強化され胸部にはシフトスピードの前面を思わせる装甲が付いた。
カラーリングは赤と金色で頭部のヘッドウイングは大型になるとハートの様な角へと形を変えた。
変身が終わった進之介は自分の身体の変化に驚く。
「さっきまでいつ倒れてもおかしくない程、ボロボロだったのにこのドライブになってから力が溢れて止まらねぇ....」
『全くの想定外、アメイジングな体験だ!
このドライブになった事で進之介の肉体のダメージが完全に回復した様だ。』
『成る程、つまり俺と進之介が融合したことで新たな進化が起こったと言うことだな?』
『そう言う解釈も出来るだろうね。』
「......は?」
進之介は今感じた違和感をベルトさんに尋ねる。
「ベルトさん今誰と会話してたんだ?」
『ん?進之介に決まっているじゃないか。』
「いや、俺喋ってなかったんだけど.....」
『どうしたクリム?進之介?何を驚いて...』
『「ハッ..ハァ...ハートぉ!?」』
進之介とクリムはドライバーから聞こえるハートの声に驚愕する。
『急にデカい声を上げるな。』
「いやいや、驚くなって方が無理があるだろ!?
てか、ベルトさんなら分かってたんじゃないのか?」
『こんなイレギュラーな事態分かるわけがないだろう!?
ハートと進之介がお互いの意思を残したまま融合したんだぞ!
計算外にも程がある!』
『二人とも落ち着け。
今は変身できたと言う事実を受け入れれば良いだろう?』
「何かめちゃくちゃ冷静だなハート。」
『何故かパニックになっている私達の方が間違っていると思えてきたよ。』
「取り敢えず俺とベルトさん、そしてハートの三人でドライブになれた訳だ。
ハート、俺とひとっ走り付き合って貰うぜ。」
『ふっ、良いだろう。
たまにはこう言ったのも悪くはない。』
新たなドライブを蛮野は冷静に見つめながら言った。
『まさか、人間と融合する進化を果たすとは....興味深い変化だなハート。』
『随分と余裕があるな蛮野?』
『雑魚が何匹集まったところで雑魚は雑魚だ。
このゴルドロイミュードの前では.....』
蛮野が会話に集中した瞬間、ドライブが蛮野の目の前に現れていた。
『なら』「試してみるか?』
その言葉に反応する前に蛮野の身体がまるでピンボールみたいに吹き飛ばされると壁に激突した。
自分が何をされたのか分からないまま立ち上がると蛮野はハンドル剣を生成しドライブに向かって振り下ろすが刃をドライブは握り攻撃を止めると握り込んだ拳でハンドル剣ごと蛮野を殴り付けた。
振るわれた一撃はハンドル剣を砕き蛮野の胸部に当たると火花を上げながら吹き飛ぶ。
何とか立ち上がった蛮野はメディックから複製した回復能力を使いダメージを回復させるが動揺は収まらない。
『バカなッ!私のゴルドロイミュードの性能を上回っているだと!?
.....あり得ない。
所詮はハートとドライブが融合しただけだろう!
ドライブの力とハートのデッドゾーンを手に入れている私が負ける道理など有りはしな...』
それ以上の言葉を紡ぐ前に急接近してきたドライブの徒手空拳に蛮野は対応する。
『無駄だ!ゴルドロイミュードには戦闘パターンを学習する能力があるお前の攻撃などもう当たら!?』
そう言ってドライブの攻撃を防ごうとした右腕が吹き飛ばされ空いた腹部にドライブの拳が炸裂する。
『ぐぶっ!?』
ゴルドロイミュードの想定してないダメージに蛮野は後退りした。
『な...ぜだ?....ゴルドロイミュードは....お前の戦闘パターンは...解析出来た筈...』
何故、蛮野は今のドライブに勝てないのか?
それは"ドライブタイプハート"の性能が段違いに変わっていたからだ。
この形態のドライブはタイプスピードの
つまりこの形態のドライブはタイプスピードとデッドゾーンの力を100%解放できるのだ。
通常なら負荷で肉体にダメージがかかる100%をノーリスクで使える。
そして、ゴルドロイミュードがコピーしたのは"肉体の負荷を抑えながら戦っていた頃の力"なのだ。
だが、今その事を理解している者は誰もいない。
ドライブにとって重要なのは今のこの姿ならば蛮野に勝てるかもしれないと言う事実だけだ。
蛮野はダメージを回復させるためメディックの力を発動させる。
『蛮野はメディックの力でまた回復する気だな。』
「ったく、しつこいな。」
進之介は辟易して言うとハートが答える。
『問題ない。
メディックの力で回復しようとするなら...
それ以上の力で叩き潰すだけだ。』
「そうだな。
良し、こっから本気で行くぞ二人とも!」
進之介が気合いをいれるとイグニッションキーを入れてシフトカーを三回展開した。
『HE,HE,HEART』
シフトアップが完了すると両手足のブースターから炎が溢れ出し身体から熱が放出される。
「うおっ!...凄い力だ!
抑えるのだけて精一杯だ。」
『どうやら、長い時間は使えないようだな。
ならば、動ける内に片をつけるぞ進之介!』
「分かったぜ....ハート、ベルトさん頼む!」
進之介が地面を蹴り蛮野に向かって走り出す。
その瞬間、溢れ出した力で踏みつけた地面が爆発した。
そして、一瞬の内に蛮野の元に辿り着くと顔を殴り付けた。
『なぐぁ!?』
「まだまだぁぁ!!」
進之介は吹き飛ぶ蛮野に一瞬で追い付くと殴り蹴りながら前へと進んでいく。
その過程で工場の機械に激突するがそれを蛮野ごと破壊していった。
正に、暴力の嵐と言っても良いドライブの攻撃が続いていく。
(回復が....追い付かない。)
指一つ動かせず荒れ狂う暴力に晒されながら蛮野の心にあったのは怒りだった。
私のゴルドロイミュードが壊されていく......
旧型の素体であるハートとクリムが作ったドライブの手によって.....ふざけるな!
私の作り出した傑作がこんな奴らに劣るだと!?
偶然の産物で生まれた融合程度に負ける等.......
認められるかぁぁぁぁ!!
蛮野は殴り付けるドライブの両手を掴み攻撃を止めた。
しかし、全身から火花が上がりゴルドロイミュードの装甲はボロボロで千切れた配線や内部が露出していた。
『認められるかぁ.....こんな事を認めてなるものガハッ!!』
ドライブが蛮野を蹴り上げると握っていた両腕が耐えられず千切れてしまいながら空へと飛び続け工場の壁を突き破り空へと飛び上がった。
「これでトドメだ。」
進之介はシフトブレスを操作し必殺技待機状態に移行する。
『ヒッサーツ』
進之介が地面を蹴り上げると空へ飛び上がり両手足のブースターで空へと昇っていく。
そのまま、蛮野を抜き去ると空中で制止した。
シフトブレスを展開し必殺技を発動する。
『FULL THROTTLE』
『HEART』
全身のブーストが更に炎を吹き出すと進之介は蛮野に向かって急降下しながらキックを放つ。
『ふざけるなぁぁぁ!!』
怒りに吠えた蛮野はジャスティスハンターの能力を発動すると自分の身体を使い牢の盾を作り出した。
何重にも厚く作った影響で蛮野の身体はコアのパーツを覗き殆どを消費した。
進之介のキックが蛮野の盾と激突する。
凄まじい火花が上がりながらも進之介の足が盾を貫いていく。
『バッ...バカな!?
何故だ!何故、こうなるのだ!
私は特別な存在だ!
なのにぃぃぃぃ!!』
「その驕りがお前を怪物に変えたんだ蛮野 天十郎。
本当に優秀な者は自分の技術を他人の為に使える。
ベルトさんだってそうだ。
だから、皆に認められている。
アンタは自分の為にしか使わなかった。
他人を家族をロイミュードを犠牲にして.....」
『黙れ黙れ黙れぇぇぇ!!
私こそが唯一無二の存在なのだぁ!』
『蛮野....何故だ...何故そこまで...』
『お前には分かるまいクリムぅ!!
誰からも称賛され敬われている貴様に分かる訳がない!
私の才能は他の凡人とは比べ物にならない!
お前ですらそう言った!
ならば、私こそが称賛されるべき存在なのだ!
なのに.....奴等は私の才能に嫉妬し傲慢にも非難した。
お前もそうだクリム!!
私の事を影で嘲笑っていたのだろう!』
『そんな......私は......』
『お前もだハート!!
私の創造物であるお前までも私を裏切った!』
『創造物であれば何でもして良いのか?
お前は俺の大事な友達を傷付け利用した。』
『私が....創ったんだぞぉお前達をぉぉ!!』
『.....もういい。
お前に奪われた友達は必ず取り戻す。
それだけだ。』
『どいつもこいつも、私を愚弄するなぁぁぁぁ!!』
「これで終わりだ。」
その一言と共に盾が砕けると進之介のキックが蛮野のコアへと激突する。
そのまま、工場へと落下し地面に到達すると蛮野の意識が入ったコアは完全に砕ける。
辺りに静寂が満ちそれはまるで戦いの終わりを告げるようだった。
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第二百二十二話α「天使は何故、選択したのか?」
蛮野との戦闘に勝利したドライブは変身解除するとハードと進之介は分離した。
お互い疲労から地面に倒れながらも顔は満足げであった。
「はぁはぁ....やったなハート。」
「あぁ、お前のお陰だ....進之介。」
『ナイスドライブだ二人。』
人間とロイミュード違う存在でありながら互いの健闘を称え会うその姿はこれから先の未来へ希望を抱かせてくれた。
そしてそれはロイミュードを敵視していたベルトさんにも変化を及ぼした。
(ハート達がロイミュードを統率してくれるのなら....もしかすると出来るかもしれない。
人類とロイミュードが共に歩く未来も....)
そうベルトさんが考えている間、ハートはギリギリ動く首を回しメディックに目を向けた。
「メディック、お前も助けられて良かった。」
「ハート様....私を助けていただき感謝します。
泊 進之介様....貴方にも感謝を...」
「ははっ、そんな真面目に感謝されると何か照れ臭いな。」
そんな話をしていると急に身体が重くなる感覚に襲われる。
「なっ!?これはどんより?」
「違う....重加速じゃない。」
『その通り、これは重加速を改良し作り出した。
名付けるなら"超重加速"と言った所か?』
「その声は.....蛮野!」
『バカな!?確かにコアを破壊した筈だ。』
『あぁ、確かにコアは破壊された。
だが、バックアップを用意してないとは言ってないぞ?』
そう言って目の前に一体のシフトカーが現れる。
見た目はシフトスピードと瓜二つだがカラーリングが金と赤色になっていた。
そのシフトカーから蛮野の声が聞こえてくる。
『シフトカーは重加速の空間で動けるようにコアドライビアが搭載されている。
私の技術があればそこにロイミュードと同程度の思考データを取り込めるメモリを作る事など雑作もない。』
「蛮....野.....」
『貴様らには感謝している。
不完全であったゴルドロイミュードの完成に協力してくれたのだからな。』
「何だと?」
『この戦闘によりゴルドロイミュードは完成した。
このデータさえインストールすれば強力なゴルドロイミュードを私の手中に収められる。』
『どういう意味だ蛮野?』
『冥土の土産に教えてやる。
ハイエンドモデルのゴルドロイミュードはあの一体だけではない。
これから先の計画に備えて複数体作り終えている。』
「「「!?」」」
『後はお前達をこの工場ごと始末するだけだ。
破壊されたゴルドロイミュードには起爆剤が大量に仕込んである。
お前達を縛り付ける超重加速発生装置には一つ欠点があってな。
余剰エネルギーを逃がすために電磁パルスを放つのだ。
まぁ、シフトカーやロイミュードには支障が無いレベルだが.....』
『ゴルドロイミュードに搭載した起爆剤には反応してしまう。』
突如、工場から爆発が起こり工場に火の手が上がり始めた。
『あっはっは、こうして話している間に爆発が始まった様だな。
何れはこの爆発と炎が工場を包み込み、お前達を焼くだろう。
ロイミュードのコアすら破壊される様に調整したからなぁ。』
「蛮野....きっ...さまぁ...」
『最後に笑うのは私なのだよ。
では、去らばだドライブそれに裏切ったロイミュード共.....お前達は私の偉業を地獄から眺めていろぉ!!』
言い終わると蛮野の意識を備えたシフトカーは工場から出ていった。
爆発により燃え上がる工場内で超重加速を受けている進之介やハート、メディック達は焦りを隠せないでいた。
「ベルトさん...トライドロンを呼べないのか?」
『さっきから呼んでいるのだが応答がない。
恐らく、蛮野が通信を妨害する装置も併用して起動していったんだ。』
「メディック...動...けるか?」
「申し訳...ありません。
身体が全く....動きませんわ。」
そうしている間にも炎が辺りを包み出していた。
その影響で酸素が少なくなり進之介の意識が薄れていく。
『進之介!しっかりするんだ!』
「ベ....ルトさん。」
(マズイこのままでは進之介の命が....)
ベルトさんは何度もトライドロンに連絡を送るが返信がない。
(頼む!特状課でも誰でも良い!
早くこの現状に気付いてくれ!)
工場が爆発した時、外でもその光景を確認できていた。
内部に特状課の泊 進之介がいることは知っていたが工場内に入ることが出来ないでいた。
一つは生身の身体では入ることが出来ないこと....
もう一つはその装備を持ったG3Xの部隊が突如、現れた"魔進チェイサー"と呼ばれる怪人により全滅させられたからだ。
爆発を見て焦る霧子はトライドロンの中で進之介に通信しようと何度も行っていた。
「泊さん...お願い...出てください!」
そう願っている霧子だがトライドロンに火花が起きてそこに目を向けた。
魔進チェイサーがブレイクガンナーを此方に向けていた。
それを怪人化したブレンが腕を掴み止める。
「止めなさい。
貴方も蛮野に操られているだけだ。
これ以上、罪を重ねては行けない。」
「....邪魔をするな。」
チェイサーは掴まれた腕を引き剥がすとブレンの胸部をブレイクガンナーで殴り付ける。
それで吹き飛ばされたブレンだったが直ぐに立ち上がると生成した毒をチェイサーに放つ。
チェイサーはそれを回避しながら"チェイサーバットバイラルコア"を取り出すとブレイクガンナーに装填する。
『
チェイサーの背中からメカメカしいコウモリの羽根が現れるとブレイクガンナーを持つ手に合体し弓の形に変形した。
変形が済むと弓をブレンに向かって構えるとエネルギー弾を放った。
ブレンは毒の壁を作り防御しようとするが直ぐに貫通しブレンの肩を貫いてしまう。
「うぐっ!」
「ブレン....蛮野様からお前達は排除するように命令されている。
ここでコアを破壊する。」
そう言いチェイサーがブレンに弓を向けるとブレンの前に霧子が銃を構えて立ちはだかった。
「!?」
「なっ!無茶ですお逃げなさい!」
「貴方をここで殺させる訳にはいかない。
私は警察官よ。
例えロイミュードでも無闇に命を奪わせたりはしないわ。」
立ち塞がる霧子にチェイサーは弓を向けるがここでチェイサーは頭を抑えて苦しみ出す。
彼の頭の中に封じられていた記憶が甦る。
雨の降る街で他のロイミュードを倒していく自分の光景....鏡に写る自分の姿は魔進チェイサーの姿ではない。
ドライブと同じ姿をしている黒と紫色の戦士。
そして、雨に濡れる女性の姿....
顔を見るとそれはさっきまで銃を向けていた
「俺は....一体....ぐっ!....」
「どうしたの?彼は一体.....」
そうしているとチェイサーに蛮野から通信が入る。
「.....はい蛮野様。
ここでの任務は終えた。
もう、お前達に用は無い。」
チェイサーは地面にブレイクガンナーを放ち火花と煙を起こすとその場から姿を消した。
「一体、何が....それよりも今は泊さん達を!」
霧子はトライドロンに乗り込み工場へ突撃しようとするがブレンに止められる。
「あの爆発ではいくらトライドロンでも無事では済みませんよ!」
「退いてください!
私は相棒を助けにいかないといけないんです。」
「貴女が死ぬ事を彼らは望んでいるのですか!」
「それは....でも!」
「私だってハートを助けたい!
でも、私が行けば足で纏いになる。
それが分かるから進めないのです!」
「ブレン.....分かりました。
でも、何時でも動けるように近くにはいたいんです。」
「....安全なルートを私が選定します。
それとトライドロンには複数のモードがありますよね?
それでテクニックの時に変わっていたモードにして欲しいのです。
あれならば大抵の事はこなせる筈です。」
「分かりました。
でも、どうやれば良いのか。」
「私も手伝います少々無茶をしますが....」
そう言うとブレンはトライドロンに自分の毒を流し込み強制的にテクニックのモードへ変形させた。
そして、霧子を連れて工場ギリギリまで向かうのだった。
倒れているハートと進之介を見つめながらメディックは涙を流す。
(悔しい....私のせいでこうなってしまったのに何も出来ない。
彼らを回復する事も助ける事も......)
メディックの回復能力は強力だが蛮野に洗脳を解きハートの腕を治した影響で力を使い果たしてしまっていた。
加えて超重加速の空間の中で最も影響を受けているのがメディックだった。
ハートは何とか動こうと足掻くことが出来ているがメディックは指一本すら動かせないでいたのだ。
(守りたい....救いたいのに...救えない。
私は結局何も出来ないの?)
絶望しかけていたメディックが見たのはハートの目だった。
こんな状況でも自分や進之介を助けようとしている。
その目を見てメディックの心が動く。
(救いたい...私はどうなっても良いから...彼らの命を....)
その感情がメディックに奇跡を呼び起こした。
本来ならば超進化に必要なデータは足りていないのにも関わらなった。
だが、自分の死を背負いながらも誰かを助けたい想いが短い時間だけ奇跡を起こした。
メディックの身体からエネルギーが溢れ出す。
これまで動くことが出来なかったメディックが立ち上がるとハートと進之介の二人を触手で掴み上げた。
「メディック?」
「ハート様、貴方はロイミュードにとって必要な存在。
彼等の上に立つ王となって貰う為にもここで死んではいけません。
それは人類を守護する仮面ライダードライブである泊 進之介様....貴殿方も同じです。」
その言葉を聞いてハートの心に不安が起こる。
「メディック、何をするつもりだ?」
メディックは触手を駆使して爆発で空いた外への穴に二人を移動させていく。
「止めろメディック!お前も一緒に来るんだ!」
「申し訳ありませんハート様。
お二人を助けるだけで精一杯なのです。」
「止めろ....止めてくれ。
俺の為に犠牲にならないでくれ。」
「貴女の為だけではありません。
お二人が生き残ってくれれば蛮野の野望を阻止できます。
あの男の計画は下劣で用心深い。
ですからハート様、泊 進之介様を信じて上げてください。
彼ならばロイミュードを差別せずに真っ直ぐ、見てくださる筈ですわ。」
外へと触手を伸ばしきると拘束を解いた。
地面に落下する進之介だがその身体をトライドロンの腕(テクニックモード)が受け止める。
「メディック....お願いだ。
死なないでくれ。」
涙を流すハートにメディックは優しい笑顔で告げる。
「お二人の勝利を.....願っています。
ハート様....ごきげんよう。」
その瞬間、ハートの身体を離すと穴の近くで爆発が起き炎がメディックを包んだ。
「メディックぅぅぅぅ!!」
手を伸ばしながら落下するハートをトライドロンが捕まえると二人を地面に優しく下ろした。
進之介には霧子、ハートにはブレンが駆け寄る。
「泊さん!起きて下さい泊さん!泊さん!!」」
霧子が進之介の頬を叩くとその痛みで進之介は意識を取り戻した。
「痛ったぁ!....ってここは?」
『気が付いたか進之介。』
「ベルトさん?....確か俺は蛮野を倒して....それで」
『蛮野の仕掛けた罠で工場が爆破され進之介は意識を失ったんだ。』
「そうか.....!?ハートとメディックは?」
進之介は起き上がり周りを見渡すがそこには涙を流しながら地面を殴るハートとそれを介抱するブレンしかいなかった。
「メディック....すまない。
俺は....俺はっ!」
「ハート様、申し訳ありません。
私がもっと有能だったのなら....」
「違う!....俺が....俺が..もっと....」
その姿を見て進之介はメディックに何があったのか理解した。
(救えなかったのか....俺は....取り零しちまったのか!)
進之介の手にはシフトスピードが握られていた。
「クソッ!」
悔しさで地面を叩く進之介をベルトさんが励ます。
『君は出来ることをした。
警察官として仮面ライダーとして...ベストな行動を取ったんだ。』
「でもメディックを!.....ハートの仲間を助けられなかった。」
『だが!.....救える者は救ったんだ!
責任を感じるのは君ではなく私だ。
私がロイミュードへの偏見を無くしもっと彼等と協力できていれば.....だが、出来なかった!
私は蛮野の目線でしかロイミュードを見れなかったんだ!
責められるのならばそれは私だ。
....だから、進之介...君は....』
「そんな風に!.....思えるかよ。
助けられた命があったんだ!
俺は....俺達は....その命を」
「取り逃しちまったんだ。」
絶望に沈む空気の中で、二人の戦士は吠える。
怒りと悲しみ、失望と懺悔の感情が入り交じりながら二人はただ吠えるだけだった。
「「うぁぁぁぁぁぁぁ!!!」」
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第二百二十三話α「絶望を止めたのは誰か?」
悲しみに暮れる中、工場からは絶えず爆発と破壊が行われていた。
その音を聞く度に二人の心には暗雲が立ち込めていた。
変えることが出来ない運命.....それはまるで鎖の様に人を縛り付けて進んでいく。
絶望も希望も等しく包み込み抗う術すら奪っていく。
そんな運命を変えるには並大抵の力では足りない。
それこそ全てを振り切る速さか力がいる。
そんな速さも力もハートや進之介は持っていなかった。
ただ一人を除いては......
「こんなところで何をしている仮面ライダードライブ....いや泊 進之介。」
「え?」
聞き馴染みのある声に目を向けるとそこにはメディックを担いでいる"アクセルトライアル"の姿があった。
「何で貴方が?」
「俺達、仮面ライダーは街の希望だ。
それはお前も同じだろう市民を守る仮面ライダーの筈だ。
ならば、絶望して足を止めるな。
お前が足掻いた先に救われる未来があるかもしれない。」
「だけど....俺は」
「お前が救えなかった苦しみは分かる。
俺も家族を救えなかったからな。
だが、今は違う。
お前には力があり仲間もいる。
もっと、彼等を頼れ。
お前が思っている程、お前の仲間は弱くは無い筈だ。
今回の事も蛮野の所に突撃する前に先ずは俺に一声かけて欲しかったが....まぁそこは良いだろう。」
そう言うとアクセルはメディックをハートとブレンの近くの地面に下ろした。
「まだ息はある。
怪我をしていることには変わり無いが死ぬことは無い筈だ。」
「貴方は....風都の仮面ライダーか?」
「俺を知っているのか?」
「お前の使っているガイアメモリを見たことがある。」
「....成る程、そう言うことか。」
アクセルは納得するとメモリをドライバーから抜いて変身解除した。
そこで照井の顔を見た進之介は驚きの声を上げる。
「てっててて照井課長!?」
「泊....私はここでは課長ではないぞ?」
「いや、そんな事どうでも良いですよ!
えっ?照井課長は仮面ライダーで風都を守っているアクセルだったんですか?」
「そうだ....因みにクリム・シュタインベルトは俺の事を知っている筈だが?」
そう言われ今度はベルトさんに白羽の矢が向く。
進之介はベルトを腰から外すと顔の前に向けて怒り始めた。
「何でそんな大事なことを隠してたんだよベルトさん!!」
『いや!?その.....ドライブもアクセルも表立って変身者を公表していない。
お互い隠していた方が良いと思って....』
「俺が風都に研修に行ったのは知ってるだろ!?照井課長の事も知ってるのに何で秘密にしてたんだよな!ん!で!』
進之介は怒りのままベルトさんを怒鳴っているのを無視して照井が話を続ける。
「俺が今回、ここに来たのは風都でメモリを売っていたセブンスの元幹部が警察官と癒着していると言う情報を受けたからだ。
結論、癒着していた犯人は仁良だった。」
「!?仁良がガイアメモリ犯罪と繋がってたんですか?」
「それだけじゃない。
通話記録を調べたら蛮野とも取引していることが分かった。
二人の逮捕は済んでいるからこれから余罪が明らかになるだろう。」
『それにしても、良く我々がピンチだと分かりましたね?
何の連絡も行ってなかったでしょう?』
「あぁ、仁良達を牢に入れるのに手間がかかってしまってな。
終わった時には工場が爆破していた。
万が一の事もあると思い中に入ったらこの状況だったと言う訳だ。」
『そう言うことか....だが超重加速の空間で良く動けましたね。』
「俺の使っているトライアルメモリはパワーが落ちる代わりに速さを限界まで強化してくれる。確かに工場に近付いたら身体が重くなる違和感があったがメモリの出力を上げて何とかなった。」
『成る程、ではあの爆発の中、どうやって工場を脱出したのか教えて貰っても良いですか?』
「.......」
『あぁ、失礼照井警視が質問を嫌うのは知っていますが今後のドライブの改善の為にも聞いておきたいのです。』
「別に大したことはしていない。」
「ただ、"爆発の衝撃が此方に来る前に蹴り飛ばしただけだ"。」
『.........』
照井から聞いた答えを受けてベルトさんは絶句してしまう。
その光景を見て進之介が不思議に思う。
「どうしたんだベルトさん?」
『すすすすまないがももももう一度ど言ってくれるかね?』
動揺を隠し切れてないベルトさんから再度尋ねられ照井は答えた。
「だから、爆発が来る前にこの衝撃を蹴って退かしただけだ。」
『........』
絶句。
余りにも単純で驚くべき真実にベルトさんの口調まで崩れる。
『いや、ちょっと意味が分からないな。
君は....その....人間だよね?
まかり間違ってロイミュードとは別のアンドロイドってオチは無いよね?』
「クリム、お前が何をそんなに驚いているのか分からないが俺が人間なのはお前も知っているだろう?
俺につまらない質問をするな。」
『いや....あの...えぇ....』
(あのベルトさんが困惑してる!?)
見たこと無い状況に驚きつつも進之介はハートの元へ向かった。
ハートとブレンは助かったメディックを見て涙を流している。
「メディック...本当に良かった!」
「貴方を助けられて良かったです...メディック。」
「ハート様....ブレン....ありがとう。」
「良かったなハート、ブレン。」
進之介の声を受けてハートは顔を上げる。
「改めてメディックを助けてくれてありがとう泊 進之介。
君には借りが出来たな。」
「気にすんなハート。
それに借りがあるのは俺の方だ。
これで少しでも返せたら良いんだがな。」
「そうか、だがそれでも感謝する。」
そう言って笑顔になっているハートに進之介は尋ねる。
「お前達はこれからどうするんだ?
蛮野がまだ生きている以上、お前達も安全とは言えないだろう?」
「まぁな。
だが、やることは変わらない。
蛮野に洗脳された仲間を解放するのが俺の役目だ。」
「そっか....なぁハート。
人類とロイミュードは共存できる道があるんじゃないか?
実際、蛮野に勝てたのもハートと俺が協力したからだろ?」
「これから先、共闘できるのかと言う意味でなら...."まだ無理"だろうな。」
「!?でもよハート....」
「勘違いするな問題があるのは人類側だけじゃない。
ロイミュードにもあるんだ。」
そこまで言うとブレンが補足する。
「現在、我々ロイミュードは"人類と中立の立場にいるハートの陣営"と人類と袂を別ち戦うべきと主張する"フリーズの陣営"がいます。
ハートが何とかしようと尽力しているのですが蛮野の洗脳もあって上手くいっていなくて.....」
「そうなのか。」
「俺個人としては人類と敵対するのは反対だ。
俺らロイミュードはまだ人間を知らなさすぎる。
蛮野の様な人間しか見てこなかった奴からすれば人類が害ある存在としか見れないが俺やブレン、メディックの様に色んな人間を見てくればそんな考えも変わる筈だ。
だが、先ずは蛮野に洗脳された仲間を解放しないと奴の行動は悪辣だ。
人類とロイミュード、両者が憎み会う様な行動を起こすに決まっている。
俺はそれを止めたい。
何れ、人類とロイミュードが手を合わせる未来の為に....」
ハートの夢を聞いたベルトさんが今度は話し出す。
『遅れてしまったが君達に改めて謝罪を.....
私は蛮野に騙されて彼にコア・ドライビアを提供し野望を叶える手助けをしてしまった。
それで君達が何れだけの損害を被ったか....本当にすまない。』
「俺は色んな人間を見てきてそして学んだ。
心からの謝罪を受けたのならそれなりの返礼をするべきだと.....他の奴等が許せるかは分からないが俺個人としてはアンタに恨みはない。
全ての現況は蛮野だからな。」
そう言うとハートはメディックを抱える。
「俺達は暫く消える。
身体の傷を癒し....強くなる為に」
「そうか....」
「一つ忠告しておく。
蛮野の策は卑劣だ。
人類とロイミュードを利用し必ず目的を達成しようとする。
だから、常に仲間の事を気に掛けておけ。
奴は必ずそこから狙ってくる。」
「分かった....ありがとうな。」
「それと、これは頼みなのだが出来ることなら仲間のコアは破壊せずにして貰いたい。
自ら手を貸してる奴なら兎も角、大抵のロイミュードは蛮野に洗脳されているだけだ。
勿論、人命優先なのは承知しているが....」
「安心しろよハート。
俺もベルトさんも敵対しないなら争いたくはない。」
『蛮野がロイミュードに掛けた洗脳も此方で対応策を考えておくよ。』
「助かる。」
そこまで話すと今度は照井がハート達に話し始める。
「そろそろここから離れた方が良い。
本隊が此方に合流する。
今お前達と会えば敵対する可能性がある。」
「そうだな.....俺達も争うのは本意じゃない。
では進之介、また会おう。」
そう言うとブレンが怪人態になるとハートとメディックを毒で包み込み姿を消した。
それを見終わった後、照井が進之介に話しかける。
「泊、さっきの話は本気なのか?
人類とロイミュードの共存が本気で出来ると思っているのか?」
「それはどういう意味ですか照井警視?」
「彼等はロイミュード側に人類と敵対する陣営があると言っていたがそれは人類側でも変わらない。
それに仁良の様に己の欲望の為に蛮野に手を貸す連中もいる。
そう言う奴等がいると共存の道は危ぶまれる。」
「それはそうですが....でもハートは他の奴等とは」
「それを他の人間が分かるのか?
共闘したお前達とは違ってロイミュードの差など誰も気にしない。
....だから、お前も"考えろ"。
本気でこの状況を変えたいと願うなら俺達、人類側もロイミュードについて知る必要がある。
そして、お前自身が示し続けろ。
人類とロイミュードが共存できると....
"罪を憎んでも人は憎まない"....風都のルールを作った
「.....はい!俺頑張ります照井警視!」
「いい顔だ。
これからも頑張れ泊....いや、仮面ライダードライブ。」
そう言い終わると照井は無線で指示を飛ばす。
「これから先は警察の仕事だ。
泊も特状課の刑事として手伝ってくれ。」
「分かりました!」
こうして、蛮野の起こした事件は幕を閉じた。
主犯を逃がすことにはなってしまったがそれでも俺は無駄な事だったとは思わない。
人類とロイミュードが共存できる可能性が見えた。
そして、俺の仮面ライダーとしての意味を知ることが出来たのだから......
Another side
照井と離れトライドロンに戻った進之介はベルトさんに尋ねる。
「そう言えばベルトさんはさっき、照井さんと話して何をそんなに驚いていたんだ?」
『ん?....あぁ、あの事か。
彼のやったことが机上の空論レベルだったからな。』
「机上の空論って....そんな大袈裟な。」
そうやって笑う進之介にベルトさんは説明を始めた。
『爆発が到達する速度は"爆破する物体の密度"、"爆破の威力"、それに"周囲の温度"によって変化する。
単純計算だがあのゴルドロイミュードが起こした爆発はTNTの10倍程度...そして、超重加速によって物体にかかる密度は上がり更に火災によって周囲の温度も上がっていた。
つまりは爆発の速度が速くなる条件が揃っていた。
あの場において爆発が到達する速度は"ほぼ光速"に近い速度だった。』
「はぁ!?..こっ.....光速ぅ!?
光速ってあの光の速さって事だろ?」
『そうだ更に言えば到達時に発生する衝撃はゴルドロイミュードの装甲すら破壊する....つまりドライブの装甲ですら耐えられない威力であった。』
「それを.....蹴り飛ばしたってことは....」
『"光速と同程度の速度"で"ドライブの装甲すら破壊する威力を持った蹴り"を照井警視は放ったと言う事になる。
しかもメディックを救出する為、恐らく何度も爆発があった筈だ。
それを全て無効化したとすれば.....』
「.....一応聞くけど今のドライブでそれは可能なのか?」
『仮にゴルドロイミュードがドライブに変身したとしても蹴りを放とうとした瞬間、脚部が崩壊して爆発の餌食になるだろうな。』
「えぇ....ってことは今の照井警視ってゴルドロイミュード以上の頑丈さがあるってことか?」
『そう言うことになるが....そうなるとあらゆる科学分野の学問に喧嘩を売るレベルの結論となってしまってね。
目の前に事実があると言うのに私としたことが混乱してしまったと言う訳だ。』
「昔から思ってたけどヤバイ人だよなぁ照井警視って....本当に味方で良かったよ。」
『それに関しては私も同意見だ。
そう言えば進之介、ハートと融合して身体に変化は無かったか?』
「ん?....まぁ、身体が何時もより重くは感じるがそれだけだな。」
『そうか....』
ハートとの融合はベルトさんからしても予想できないイレギュラーな事態だった。
(想定外のバイラルコアとシフトカーの融合。
あの変身自体、ドライブシステムが想定していない行動だった筈なのに変身することが出来ていた。
技術的特異点.....これも一種のシンギュラリティと言えるのだろうな。
.....だが、お陰で此方も"良いデータ"が取れた。
これを使えば"シフトデッドヒート"の開発も進むだろう。
"ハーレー・ヘンドリクソン博士"の話ではネクストシステムの完成も間近らしい。
今後の事も考えて開発しておいた方が良いかもしれない。)
(
原作にあり得なかった事件が起きたことによりベルトさんが開発した新たなシステムが物語の結末に影響するのかはまた別の話.....
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第二百二十四話α「新たなライダー何をしていたのか?」
「あらよっと!」
全身が白く赤いラインが特徴的な仮面ライダーが夜に煌めくビル群を駆け抜けていく。
目の前にはボロボロになったロイミュードがビルを飛びながら逃げ続けていた。
「逃がすかよ!」
白い仮面ライダーが銃を取り出すと二輪のミニバイクを装填する。
『ヒッサツ!!』
銃から音声がなるとエネルギーが収束していく。
その銃口を逃げ続けるロイミュードに向けると引き金を引いた。
『FULL THROTTLE』
「うわっ!ちょっ!?」
白い光弾が放たれるがその威力が高いのかバランスを崩した仮面ライダーの銃口がブレてしまい弾がロイミュードの左肩を吹き飛ばす。
その隙にロイミュードは夜の闇へと姿を消してしまった。
「あっ!?....チクショウ!逃げられたかぁ。」
白い仮面ライダーは悪態をつくとベルトからミニバイクを抜き取る。
『オツカーレ!』
独特なベルト音と共に変身が解除されるとそこから汗だくになりながら荒い呼吸をする青年が現れた。
「うっ、はぁはぁ....やっぱりまだキツいかぁ...」
そう言っていると彼の持っているスマホに着信があった。
画面を見ると"ハーレー博士"と表示されている。
青年は"うげっ!?"とした顔をしながらも電話に出る。
「もしもし...」
『ヘイ、バッドボーイ!!
また勝手に"マッハドライバー"を持ち出したな?』
「うっ!?」
『大方、ロイミュードが出たと言う情報を聞いたからだろ?
全く、"ライドマッハー"も勝手に持っていくなんて...』
「どうして分かったんだハーレー博士?」
『君は戦い方が派手すぎるんだ。
君が戦っている姿をゴシップ記者に撮られていたぞ?』
「えぇ....マジかぁ。
なるべく隠れてたんだけどなぁ。」
『ハァ...まぁ良い。
状況を説明してくれるか
剛と呼ばれた青年が詳しく説明を始める。
「やっぱり、ビルを爆破したのは蛮野の仕業だったよ。
あのビルは"スマートブレイン"が管理していた。
大方、自分を裏切った事への復讐だろうね。
被害はビルだけで中の人は全員救ったから安心して良いよ。」
『なら、まぁマシと言ったところか。
マッハドライバーについてはどうだ?』
「変身時間は段々と伸びてきてる。
今では10分ぐらいなら変身を続けてられるよ。
だけど、この"ゼンリンシューター"がなぁ....
"シグナルマッハ"を装填したフルスロットルを使おうとしたらエネルギーが強すぎてろくに狙えなかったよ。」
『そこは次の改良で何とかなるだろう。
....あぁ、そう言えばクリムから連絡があった。
日本で蛮野が起こしたテロは阻止できた様だぞ?』
「あぁ、良かった安心したよ。
まだ、俺はマッハを完璧に操れていないからな。」
『短期間の訓練で変身まで持ってこれたんだ十分優秀だよ剛ちゃん。』
「いいや、まだまだだ。
こんなレベルじゃ蛮野を倒すことなんて出来ない。」
『剛ちゃん.....気持ちは分かるが少し肩の力を抜いても良いんじゃないのか?』
彼は父親である蛮野の野望を止め彼を倒す為、ハーレーの元で仮面ライダーマッハになる訓練を行っていた。
しかし、ロイミュードがフロリダに現れたと言う話しを聞いて彼は師匠のいるオクラホマを離れてフロリダに無断で来ていたのだ。
全ては早く仮面ライダーとして戦う為に.....
『まぁ良いわい。
早くオクラホマに戻ってこい!
改良したくても物が無いと出来ん!』
「はは....OK博士。
マッハで戻るよ。」
『お説教も忘れてないからな剛ちゃん。
勝手にドライバーを持ち出したんだ...覚悟しろ?』
「うへぇ...やっぱりぃ?」
『当たり前だ!
君に何かあったら私はクリムやお姉さんに申し訳が立たないんだからな!
罰として暫くトイレ掃除だ。』
「うわっ!....最悪.....ん?あれは?」
『どうした剛ちゃん?』
「テロを起こされたビルの上に誰かいる....ちょっと待って』
剛はそう言うと彼はスマホを通話をスピーカーに繋ぐと首に掛けてあったカメラを手に持ちファインダーで覗いた。
「あれは....スマートブレインのお偉いさんと....何だ?全身白い服を着た奴等が何か取引してるぞ。」
『白い服......もしかして財団Xか!?
剛ちゃん!今すぐそこから離れろ。』
「財団ってクリムか言ってた奴等か!?」
『あぁ、そうだ。
今の君では勝ち目がない!
バレる前に逃げるんだ。』
「確かにね....でも手ぶらでは帰りたくないかな?」
剛はそう言うと取引している二人が入る画各にカメラを収めると一枚だけ写真を撮った。
「良し!上手く撮れててくれよ。
それじゃ、退散っと」
そう言うと剛はバレない様にそそくさとその場を後にするのだった。
Another side
財団Xの一員である"ジョセフ
到着するとスマートブレインの役員らしき人物達を携えたスマートガールが見える。
「時間通りですね...流石はスマートブレインだ。」
そう言うジョセフにスマートクイーンが答える。
「では、取引を始めましょう。
貴殿方か求めている物は此方にあります。」
スマートクイーンが役員に目配せすると持っていたアタッシュケースを開き中を見せた。
中には一本の試験管が入っている。
「これが、注文していた物ですか?」
「えぇ、死んだ
「素晴らしい....待ったかいがありました。」
「こちらは約束を果たした今度は貴方の番....」
「えぇ、存じてますよ。
こちらをどうぞ。」
ジョセフが代わりに差し出したのは紫色をした注射器が入ったインジェクターガンだった。
「我が財団が開発した細胞を再生、強化を行う薬です。
これがあれば劣化し消える細胞すら復活出来ます。
まぁ....復活させるには大量の人間が必要ですが効果は保証しますよ。」
インジェクターガンを受け取るスマートクイーンはそれに目を向けながら尋ねる。
「大量の人間とはどういうことだ?」
「この薬液の元になっているのはあらゆる世界で開発された遺伝子科学です。
そして、
しかし、これ等には欠陥がありましてね。
全ての技術に共通するのが"人間を消費して力を発揮する"のです。
あぁ、効果は保証しますよ。
成功実績のある物をちゃんと持ってきていますから....」
「具体的に何れだけの人間が必要なんだ?」
「そうですねぇ。
再生させる細胞のレベルにもよりますが貴女が求めている相手ならば.......ざっと計算して"数万人"ですかね?」
「数万だと!?そんなに人が消えれば問題になるのではないか?」
「えぇ、そうかもしれませんがそれは私の知ったことではない。
貴方の願いは"どんな細胞も復活させる技術"と"完全なクローン技術"....両方ともその目的は果たしている。
違いますか?」
「やはり貴様ら財団は信用できない。
ここで始末するのが正しいか。」
そう言うと屋上に一人の男が入ってくる。
その男の腰には"金色のドライバー"が付いていた。
その顔を見たジョセフが笑う。
「ほぉ、クローン技術で誰を復活させるのか興味がありましたがまさか、彼を生き返らせるとは....
「彼は王を守る兵としての資質を完璧に備えている。
そして、そんな彼にこそ王を守る"地のベルト"が相応しい。」
木場はジョセフを見つながら懐から折り畳み携帯を取り出すと開き変身コードを入力する。
0.0.0.ENTER.....
「STANDING BY」
「....変身。」
木場が静かに唱えるとベルトに携帯を装填した。
「COMPLETE」
その音声がベルトから鳴るとベルトから金色のライン"フォトンブラット"が流れると全身を黒い装甲が覆い"仮面ライダー
「ほぉ、これが仮面ライダーΩ....地のベルトも完成させていたとは流石、スマートブレイン。
ただでは起き上がりませんね。」
「これから財団Xとの付き合い方は変わる。
我々、スマートブレインが上の立場となる。」
「ふふっ、良いですねぇ。
ここまで"予想通り"だと逆に楽しくなってしまいますよ。」
ジョセフはこの状況見て笑う。
そして、その言葉にスマートクイーン疑問に持つ。
「予想通り?....お前はこうなる事を分かっていたのか?」
「えぇ、我が財団のトップに君臨されている"あるお方"から助言があったのです。
この取引には一波乱あるとね。
そして、この波乱を収めればスマートブレインはより良い協力者になれると.....ですから私も持ってきましたよ。
財団が保有する"切り札の一端"をね。」
そう言うジョセフに疑問を持ちつつとスマートクイーンは木場に命令する。
「それが狂言かどうかは直ぐに分かる。
奴等を殺せ。」
そう言われた木場は腰の"オーガストランザー"にミッションメモリを差し込みフォトンブラットの剣を生成するとジョセフに斬りかかるが横にいた部下が生身でその攻撃を止める。
「何っ!?生身でフォントブラッドを止められるなんて.....」
「スマートクイーン、私達と新たな取引をしませんか?
こちらから提示するのはアークオルフェノク復活に必要な人間の確保。
代わりに貴女はベルトの製作データ、フォトンブラットの扱いについて財団に渡していただきたい。」
「何だと!?」
「財団は今、新たな実験を行おうとしています。
並行世界を利用した壮大な実験....そこに貴女方の技術が有用に活用できます。」
「並行世界....」
「とは言えいきなり言われても納得は出来ないでしょう?
だから、こう言うのは如何ですか?
貴女方が造り出したそこの仮面ライダーと我々が生み出した作品を戦わせて此方にとっても利益があると思えば取引に応じていただきたい。」
ジョセフの提案にスマートクイーンは少し考えると答えを出した。
「良いわ。
貴方の挑発を受けましょう。
でも、本当に勝てると思っているの?
貴方は地のベルトについて知らないでしょう?」
「えぇ、ですが....取引を成功すると確信したのはトップでありその意見は絶対です。
決して間違わず進んでいく。
まるで、神が示した予言のように...変わらない運命の言葉。
ですのでご覧下さい。
この楽しいショーを.....」
そう言うとジョセフは攻撃を防いでいる部下に振り向くことなく告げる。
「"Version N.D"....貴方の力を見せてください。」
そう言われると部下は握っていた剣を弾くと握り込んだ拳を木場に叩きつけた。
人間の姿では想像も出来ない威力を受けて吹き飛んだ木場はコンクリートの壁を突き破る。
「なっ!?」
それを見たスマートクイーンは驚愕する。
「あぁ、言い忘れていました。
私の持ってきた商品について説明を......
これは財団Xの生物兵器部門が開発した生体兵器。
人を越えた知能、完璧な操作、怪人の枠を越えた強さ、その全てを兼ね備えた兵器です。
中でも傑作と呼べる兵器を持ってきました。
正式名称、"Version Neo.DRAS"。
"改良型生体兵器ドラス"......それがこの兵器の名前です。
一つアドバイスをしましょう。
本気で殺すつもりで戦った方が良い。
でないと見せ場なく破壊されてしまいますよ?
貴方の"お気に入り"は....」
ジョセフがそう言い終わると木場を吹き飛ばした部下の身体が変形し人の姿から変わっていく。
全身が銀色に変わるとスライムの様に形を変えて怪物の姿へと変形していく。
二本の触覚と全身に鋭利な刺を有しヘソと瞳には赤い水晶の様な何かが現れる。
そして、臀部からは尾が生え先端にはチェーンソーの様な刃が取り付けられている。
生物的な見た目でありながら所々、メカの様な意匠を備えたその姿は正しく生体兵器と言えるものだった。
更に全身の色は深緑に金色のラインが入っておりその色合いは過去にドラスと戦った"仮面ライダーZO"と酷似していた。
ドラスへの変身が終わると砕けたコンクリートを退かしながらオーガが現れるとオーガストランザーをドラスへ向けた。
両者とも感情の無い殺意を相手に向けている。
兵器として造られた両者が互いを壊す為に動き始める。
2体の戦いは夜が明けるまで続き、
結果、スマートクイーンは財団Xへ協力することを決めた。
両者の戦いの凄まじさを示す様にスマートブレインが管理していたビルは見る影が無い程、粉々に破壊されていた。
そして、これを機にスマートブレインは一度、表舞台から姿を消すのだった。
【解説】
ジョセフの誘いによりスマートブレインはショッカーの計画に参加。
結果、"スーパーヒーロー大戦GP"や"仮面ライダー4号"が原作通りに進む。
仮面ライダー4号内で乾 巧の細胞を使い造り出したクローンが時間改編装置を使う。
このストーリーの中で木場も参加する。
操られていた木場だが乾と海道の説得により細胞に残っていた記憶が戻り協力して時間改編装置を止めるが、この装置を何回も起動させることがスマートブレインの目的だった。
何度も繰り返される時間の中でアークオルフェノクが復活する人間をかき集める。
結果として、時間改編装置が破壊され乾と木場は消滅するがアークオルフェノクは復活してしまう。
そして、物語は"アウトサイダーズ"へ繋がる。
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第二百二十五話α「事件が終わり何が起きたか?」
蛮野の起こした事件が解決し特状課は何時もの喧騒を取り戻しつつあった。
何時ものようにパトロールに向かう泊達を本願寺課長は優しく見送ると携帯で照井に連絡を取っていた。
「まぁ、ここまでが照井君が帰った後に起こった事件の顛末だね。」
「そうでしたか.....すいません。
俺も本庁から戻る様に言われてなければ防げたのですが...」
「仕方ないですよ。
まさか、"仁良の収監された刑務所が襲われる"なんて思わなかったんですから....」
照井は仁良と丸山を刑務所に収監すると本庁に戻り移送手続きを行っていた。
そこを狙ったのか刑務所を魔進チェイサーが強襲し仁良と丸山が連れ出されてしまったのだ。
「私達も懸命に探したのですが何の手掛かりも残っておらず....申し訳ない。」
「起こってしまったものはどうしようもありません。
刑務所を襲ったのは魔進チェイサーと呼ばれる怪人だと聞きましたが...」
「えぇ、蛮野により洗脳されたロイミュードだとクリムからも聞いています。」
「となると、やはり二人を逃がしたのは蛮野....一体何の目的が?」
「それは分かりませんがこのまま逃亡を許すつもりはありません。
彼等を指名手配し情報を募っています。
それと表立ってではありませんがハート達とも協力して捜索しています。」
「そうですか。
では、申し訳ありませんが丸山についてもそちらでお任せしても宜しいですか?」
「分かりました。
そちらも風都に戻って大変でしょう。
此方は任せてください。」
「ありがとうございます。
では、また何か分かりましたら連絡します。」
そう言うと電話が切れる。
携帯を閉じた本願寺は日課の占いを見ながら今後の行動を考えるのだった。
もう、誰も使わなくなった建物を拠点としているハートとブレン、メディックはフリーズと対面していた。
「生きていたようで嬉しいですよハート。」
「フリーズ....お前の事は聞いている。
洗脳が解かれたロイミュードを集めて人類に反抗する勢力を集めているとな。」
「あぁ、その事ですか?
その通りですよ。
とは言え人類側にはドライブがいるのでまだ戦力は足りませんが...」
「ふさげないでいただきたいフリーズ。
貴方はハートの考えを知っている筈です。
彼の事を裏切るつもりですか?」
「裏切るとは人聞きが悪いなブレン。
私もハートと同じくロイミュードの未来を憂いているのですよ。」
「その結論が人類への反抗だと貴方は言うのですか?」
「えぇ、蛮野や無名の様な人類がいる以上、我らロイミュードの安寧は確約できません。
少なくとも彼等を倒せる力は持っておくべきだ。
そうなれば人類から反抗される心配はない。」
「フリーズ....貴方は人類を殲滅するつもりなのですか?」
「メディック、私は人類が必要以上の力を持つことを危惧しているのだ。
人は我々、ロイミュードと違い力を持つと増長するからね。」
「それはお前達も同じなんじゃないのか?」
ハートはフリーズに見えるように新聞紙を投げ渡した。
そこにはロイミュードや強盗や恫喝をしている光景やドライブがそれを止める為に戦う写真が写っていた。
「蛮野に洗脳を解かれたロイミュードの中でこの様な事件を起こす輩を見つけた。
調べてみればお前の指図らしいなフリーズ。」
「........」
「力を持つと増長する....俺達、ロイミュードも同じ道を辿っている思えるのだが....それに何の目的でこんなことをするんだ?」
「ふっ、全ては超進化の為です。」
「超進化だと?」
「貴方も理解している筈だ。
ロイミュードは人の感情を学び進化する。
そして、その感情が限界を超えると究極の進化を迎えるのです。
私はその仲間を増やそうとしているだけです。
どうですかハート?貴方達も超進化をしてみませんか?」
「その口ぶり....お前も超進化をしたのか?」
「えぇ、この通りね。」
フリーズは怪人の姿になると全身が金色に変わり身体から発せられる力も格段に上がっていた。
その姿を見てハート、ブレン、メディックは驚く。
「これが....超進化。」
「えぇ、そうです!限界を超えた者が手に入れる頂の力!これがあれば人類など恐れる必要はない。
私はこの力で全てを....」
「何をそんなに急いでいるんだフリーズ?」
「急いでいる?どういう意味ですか?」
「確かにお前の力は目に見えて上がった。
なら、何故そこまで急ぐんだ?
その力があれば仲間を守ることは出来る筈だろう?」
ハートの問いにフリーズは不服な顔をしながら答えた。
「"屈辱"....それが私を超進化せしめた感情です。
蛮野に意思を奪われ操られ無名に敗れたあの日から私の屈辱は始まりました。
蛮野が表舞台に現れる度に私の屈辱は増えていった!
あんな愚物に操られたとは自分の不甲斐なさがね!
そして、進化したのです!
しかし、この進化が代償か伴った。
忘れられないのですよこの屈辱がっ!
人に操られた記憶がね。
今回、蛮野を見て改めて理解しました人は変わらない。
奴等は私を操った存在のままだった!
だから滅ぼすのです。
それが嫌ならば私達、ロイミュードに従えば良いそうすれば!」
「同じだぞ"フリーズ"。
力があれば支配しても問題ないその考えはお前の嫌う蛮野と変わらない。
確かにお前は超進化しただろうがその感情に余りにも"支配され過ぎている"。」
「..........」
「一度冷静になるべきだ...そうすれば少しは!?」
突如、フリーズがハートに向かって氷の針を放つ。
しかし、それをブレンが毒で打ち消しメディックが触手を展開してフリーズを攻撃した。
フリーズはその触手を凍結させると距離を離す。
「流石はハートの腰巾着だ。
素早い判断ですね。」
「ハートに手を出すとは一体どういう了見ですか?」
「貴方の針の力は知ってますわ。
まさか、ハート様の記憶を消そうとしたのかしら?
だとしたら許しませんことよ?」
メディックの言葉を聞いてフリーズは笑う。
「ふふ!私の針は人間にしか通用しません。
"ハートのコアを破壊しようとした"だけですよ。」
「「!?」」
ハートを殺そうとしたとフリーズが告げた事でブレンとメディックの雰囲気が変わり辺りが殺気に包まれる。
「その言葉はもう看過できませんね。」
「待てブレン!メディック!
.....フリーズ、それが君の結論なのか?
俺を殺してどうするつもりなんだ?」
「貴方が人間との融和を考えていることは知っています。
それに傾倒する同士がいることもね。
邪魔なんですよ貴方の存在が.....
"人類を力により支配する私の目的"とってね。
ですが、安心してください。
ここで殺せなかった以上、まだ貴方は殺しません。
今は蛮野もいることだ彼を消したら次は貴方だ。」
「逃がすとお思いですか?」
「ハッキリ言っておこう。
超進化していないお前達では私に勝つことは出来ない。
その確信があるから一人で来たのだ。
ハート、我々、"フリーズ一派"は人類支配の為に貴方から離反します。
次ぎ会う時は敵同士だ。」
そう言うとフリーズは周囲に極低温の風を発生させて姿を消した。
「ハート!奴を追います!」
「落ち着けブレン。
悔しいが奴の言う通りだ。
今の俺達ではフリーズには勝てない。」
「ですが!」
「だから、我々も"超進化"を目指す。
そして、奴等を止める。
手を貸してくれるか二人とも?」
「それをハートが望むなら私は従います。」
「私もハート様の考えに賛同しますわ。」
「ありがとう二人とも」
礼を言ったハートだがその心は晴れない。
(蛮野が生きている以上、衝突は避けられない。
本当なら仲間同士で争っている場合ではないのに....
どうして仲良く出来ないんだ。)
ハートはそう心の中で憂いながら時を過ごしていくのだった。
Another side
地下鉄が走るトンネル内にロイミュードが掘り進めた空間があった。
内部には大量の機材と複数のゴルドロイミュードの素体、そして、タブレットを動かす稼働したゴルドロイミュードとそれを見つめるチェイスがいた。
そこに蛮野の意識が入ったシフトカーが入ってくる。
『進捗はどうだ"004"?』
ゴルドロイミュードに向かってシフトカーが尋ねる。
「順調です蛮野様。
回収した"ハイエンドモデルのゴルドロイミュード"は何時でも稼働できます。
蛮野様の命令で開発した新たなバイラルコアも完成致しました。」
『よろしい。
では、実験体を呼んでこよう。
チェイス....奴等を連れてこい。』
蛮野がそう言うとチェイスは歩いていきコードで縛らせ口を塞がれた仁良と丸山を連れてきた。
『口を開かせてやれ。』
蛮野の命令を受けたチェイスは2人の口を開けるようにすると仁良が叫ぶ。
「おおおお前達!!わっ私にこんな事をしてただで済むと思うなよ!」
『ふん!刑務所に入れられて起きながら良くそんな口が叩けるな?』
「その声は.....蛮野か?
私達をどうするつもりだ?」
『喚くな。
お前達を助けたのは私だぞ?
少しは感謝したらどうだ。』
自分達を助けたと言う言葉を聞き今度は丸山が話す。
「私達を助けたと言うことは何かしら利用価値があるってことですよね?
その目的を聞いても?」
『....ほぅ?仁良がスカウトしたと言うから愚物かと思ったが予想よりも頭が回るようだな?
良いだろう教えてやる。
お前達には私の研究に付き合ってもらう。』
「研究?」
『今回の戦いで私は多くの事を知った。
"ゴルドロイミュードの有用性"に"ドライブシステムの利点"......そして"人間とロイミュードが融合できる可能性だ"。
ハートがドライブと融合しただけで"ハートとドライブの力をコピーしたゴルドロイミュード"を超える力を発揮した。
004にその研究を任せたがどうしても足りないデータがある。
それは人間とロイミュードが融合する実際のデータだ。
あのドライブはデータ収集する間も無く私のゴルドロイミュードは破壊されてしまったからな。
ハイエンドモデルが破壊されるとなると此方も警戒しなければならない。
他のロイミュードのボディと違ってハイエンドモデルは004を除いて四体しかないからな。
そこでお前達の出番だ。』
蛮野がそう言うと004が"赤い色をしたバイラルコア"を二人の前に差し出した。
『これは"ネオバイラルコア"。
人間とロイミュードを融合させる力がある。
お前達にはこれを使いロイミュードを成長させて超進化を促して貰いたい。』
「それが何故、超進化に繋がるんだ?」
『人間の感情を吸収することでロイミュードは進化する。
その中で限界以上感情を吸収するとロイミュードは超進化を行えるのだ。
進化を誘発させるには強い感情が必要だ。
だからこそ、お前達の持つ悪意があればロイミュードが効率的に進化すると思っただけだ。』
「成る程、理解したよ。」
『それでは二人の答えを聞こうか?』
「だっ誰がお前の言うことを....」
仁良がそう言いかけた所、丸山が被せる。
「大人しく言うことを聞いた方がいいと思うよ仁良さん。」
「なんだと!?」
「あの人の話が本当なら悪意を持つ人間なら誰でも良い。
極端な話、そこら辺の犯罪者でも代用できるからね。
私達を選んだのは協力する可能性が高いからだけだ。
多分、断ったら殺すでしょ?」
「!?」
丸山の冷静な意見に仁良が驚く。
「自分のアジトがバレてるんだ。
私達を逃がしたとしてもデメリットが多すぎる。
ここは言うことを聞く以外の選択肢は無い。
でも、私達を長く利用したいのが救いかな?」
『ほぅ.....何故そう思う?』
「私達に使うネオバイラルコアについて詳しく話した。
しかも、目的がロイミュードの超進化だともね....だとしたら私達は使い捨てにせず超進化できる個体を作り出さないといけない。
そう貴方も思ってるから話したのかと思っただけだよ。」
丸山の意見を聞いた蛮野は笑う。
『お前の事は調べた。
確か前は風都でガイアメモリを売っていたらしいな?』
「正確には私の組織がね.....今はメモリもないし」
『ガイアメモリの力に適合できたのならお前とロイミュードが融合すれば面白い変化を起こしそうだ。』
「そう言うってことは私は採用と思っても良いのかな?」
『勿論、歓迎するよ丸山 純。』
蛮野がそう言うと丸山を縛っていたコードが外れる。
『さぁ、残りは君だけだ仁良.....君はどうする?』
蛮野は仁良にそう尋ねるがその背後ではチェイスがブレイクガンナーを構えており元より仁良に選択肢など用意されていなかった。
死への恐怖を受けて仁良の心は完全に折れてしまう。
蛮野のシフトカーの前で仁良は土下座すると言った。
「全て貴方の命令にしたがいますぅぅ!
ですからぁ命だけわぁぁぁ!」
『ふふっあっはっは!良いだろうその土下座に免じてこれまでの不遜な態度は許してやろう。
さぁ、ネオバイラルコアを受け取りロイミュードとの融合実験を始めろ。
チェイス!選別していたロイミュードと会わせてやれ。』
チェイスは頷くと二人を連れてその場を後にした。
話を終えた蛮野は004に向き直る。
『では、我々も実験を始めようか?』
「はい、蛮野様。」
すると、004の身体が変質しコピーした人間の姿へと変わる。
その姿はかつて生きていた頃の"クリム・シュタインベルト"その者だった。
004は蛮野が必要になる可能性を考慮してグローバルフリーズを起こす際に洗脳したロイミュードを使い暗殺したクリムをコピーさせていた。
では、何故直ぐに使わなかったのか?
ロイミュードのコピーは人間の考えなはや思考もコピーしてしまう。
無駄な正義感が残っていたら利用できないと思っていた蛮野は004を徹底的に改造し正義感を喪失させ蛮野に対して絶対的な忠誠をプログラミングしたのだ。
その集大成が004が作り出したドライバーとシフトカーだ。
見た目は黒いドライブドライバーと黒いシフトブレスでありドライブドライバーと同じくシフトカーを使える。
004が用意したシフトカーも見覚えがあった。
形はシフトワイルドとシフトテクニックだがカラーリングは真逆であり金と銀をメインしてワイルドは黒、テクニックは緑色の差し入れが入っていた。
『私は天才だクリムだからこそ、有用な物は例え私が作っていなくても認めよう。
ドライブシステムは素晴らしい。
重加速への対応に汎用性が高いシステム。
兵器としての可能性も秘めている。
一つ残念なのはお前が自分の開発した物に臆病になりすぎている。
これ程の力を守るだけにしか使わないのは愚かだ。
私が手本を見せてやろうクリム。』
そう言うと蛮野はドライブシステムを使った新たな力を自らの手中へと収めるのだった。
【原作との相違点】
敵陣営が増えて"蛮野の勢力"、"ドライブの勢力"、"フリーズの勢力"、"ハートの勢力"が活動し始めた。
仁良と丸山は蛮野の元、部下として活動する。
004の知識を使いバンノドライバーが更に強化され複数のフォームを獲得する。
(スピード、ワイルド、テクニック)
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第二百二十六話α「特状課はどうなったのか?」
蛮野が、起こしたテロ事件は一応、解決した。
主犯である蛮野には逃げられてしまったがそれでも警察内部としては成果はあった。
蛮野と繋がっていた仁良の摘発や照井警視の功績が認められ今後の立場が変わっていくだろう。
そして、その恩恵は特上課にも来ていた。
特上課のオフィスには新たな機材と最新設備が置かれていた。
西城やりんなさんがその設備に頬擦りしながら丁寧に扱っている姿を見てそれがどれだけの価値があるのか進之介達にも理解できた。
「改めて見てもすげぇなベルトさん。」
『蛮野の事件で最も活躍したのは特上課と照井警視だからね。
まぁ、警視の一声もあっただろうが当然の成果だよ。』
その変化には霧子も驚いていた。
「凄い...ロッカーや机まで新品になってる。」
「それだけではありませんよ。
先の件の功績で特上課は本庁直属の組織に格上げされました。
まぁ、それだけ上層部がロイミュードを危険視してるとも言えますがね。」
そう言いながら本願寺課長も部屋に入ってきた。
「危険視ですか....」
「えぇ、本庁肝いりの"G3X"を妨害があったとは言え簡単に無力化されてしまいましたから.....必然的にロイミュード事件を解決してきた我々への期待も高まり今になって厚遇してきたと言ったところでしょうか?」
本願寺の読み通り、本庁はこの事件を解決できたことは喜んではいたがロイミュードへの対抗策への不備を重く見ていた。
「照井君のいるチームにも追加予算が降りたと聞いています。
彼方も彼方で対策は打つでしょうが此方の事は我々、特上課が何とかするしかなさそうです。
...あぁ、それと特上課が本庁直属になった影響で追田さんも一課への連絡係から一課と特上課を繋ぐ実質的なパイプ役として認められまして一課と特上課の仕事を兼任して貰うことになりました。」
「それってどういう....」
「こう言うことだ進之介。」
その声を受けて進之介達が振り向くとそこには部下を従えた追田の姿があった。
追田が指示を出して部下をオフィスから退室させると話し始めた。
「捜査一課で"特上課との協力を目的とした班"が設立されてその班長に選ばれたんだ。
これからは大手を振って特上課と協力出来る。
改めて宜しくな進之介....それと"ベルトさん"。」
追田のその言葉を受けて一瞬の沈黙が会ってから進之介と霧子は驚く。
「えぇぇぇ!?どどどどうして追田さんがベルトさんの事を!?」
『私が特上課の皆に伝えた。
因みにここにいる面々には君がドライブだとも明かした。
今後の事を考えると警察内部で隠しておくのはデメリットの方が多いと考えたからね。
だが、知っているのはあくまで特上課の面々だけだ。』
「仕方ねぇよ。
よりにもよって裏切り者が捜査一課の課長だった仁良だったからな。
寧ろ、捜査一課にいる俺を信用してくれて感謝しているよ。」
そう言って笑う追田に進之介は言う。
「追田さん....俺...」
「進之介、これまで俺をドライブになっても助けてくれてありがとうな。
でも、今度は俺達がドライブを助けられる様に頑張るからよ。
だから....その...」
そう言いかけた瞬間、後ろから現れたりんなが二人に荷物を押し付ける。
「はいはい、青春シーンやってる暇があったら荷物運ぶの手伝って!」
「うおっ!?重いじゃねぇか。
一体、何なんだよこれは?」
「科捜研が使っている最新の分析装置よ。
性能は良いんだけど重いし配線が大変なのよ。
それにもう、説明は終わったんでしょ?
なら、とっとと部下を呼び戻して手伝って二人とも...」
りんながそう言うのを聞いて二人は笑う。
「あはは、やっぱり変わんないなぁりんなさん。
追田さん、荷物運びますか。」
「ふん!まぁ、そうだな。
これからも宜しくなお前ら」
追田と進之介はりんなから渡された機材を運んでいくのだった。
そんな中、ベルトさんのドライバーに連絡が入る。
(ん?ハーレー博士からメールが来ているな。
マッハドライバーが完成したことと.....それを持って剛が日本へ向かっている?
何とかしてやってくれ....か。)
そのメールを見たベルトさんは悩む。
(話を聞く限り
ハートとの共闘を終えた今、彼はハート達を認められるのだろうか?
少し心配だな。
シフトデットヒートの開発もまだ終わってない。
....いかんなまた一人で悩んでしまっている。)
ベルトさんはこれまでの事を鑑みて自分が余りにも情報を伝えてないことを理解しまた反省していた。
(情報を隠してまた"後悔"はしたくない。
やはり、話しておくべきだな。)
『進之介、霧子....少し時間はあるかな?』
ベルトさんは進之介と霧子の二人を離れたところに呼び剛の事について話した。
「つまり霧子の弟が今、アメリカで新しい仮面ライダーとして活動してるってのか?」
『あぁ、私の師匠であるハーレー博士の元で新型ドライバーを使って仮面ライダーとして活動している。
どうやら、アメリカにもロイミュードが活動していてなその対応をして貰っているんだ。』
「どうしてもっと早く教えてくれなかったんですかクリムさん。
剛が仮面ライダーになっているだなんて!?」
『私が剛君の存在を知ったのはマッハドライバーのテスターとして選ばれた後だった。
本人とも連絡して姉のためにもテスターを辞退してくれる様に相談したが....ダメだった。
蛮野とロイミュードの始末は自分でつけると言ってね。』
「そんな.....剛....」
ショックを受けている霧子に進之介が言う。
「霧子、お前ちょっと休んでこいよ。
いきなり、色んなこと言われてお前も混乱してるだろ?」
霧子はその言葉に従い進之介達から離れていくとベルトさんへ話し始めた。
「なぁ、ベルトさん。
正直、剛はハートの存在を許せると思うか?
人間とロイミュードの共存.....その夢を応援できると思うか?」
『......難しいだろうね。
剛君はお姉さんと似ていて責任感が強い。
過去のグローバルフリーズや今回、蛮野が起こした事件にも思うことはある筈だ。
だからこそ、自分で決着をつけたいと思い....ネクストシステムの力を求めたのだろう。』
「ハートと対話する前の俺だったらきっと、剛に協力していただろうが人間に対して敵意を持っていないロイミュードがいるのを知った今では難しいな。
勿論、蛮野や人間に悪意をもたらすロイミュードを許す気はないがロイミュードだからと言って全員を敵と思うことは俺には出来ない。」
『分かっているよ。
私もハートの話を聞き自分の間違いに気づいた。
もし、剛が全てのロイミュードを敵視したままでいるのなら....止めるべきだ。
大きな過ちを犯してしまう前に』
そう言うベルトさんに進之介は思い付いた案を言う。
「なぁ、照井警視に相談してみるのはどうだ?
あの人ならきっと何か良いアドバイスをくれると思うんだ。」
『.....そうだな進之介。
照井警視に連絡しておくよ。』
「あぁ、頼む。
さてと!俺達も戻って手伝わないとなベルトさん。」
そうして二人は特状課へと戻っていくのだった。
無名が関わり変わったWの歴史が周り回って他のライダーの歴史を改変させた。
その結果がハッピーエンドかバットエンドが知る者はまだいない。
だが、確実にその変化はこれから先の物語を変えていくだろう。
そして、その物語が語られることはない。
何故ならこれから後の物語はWではなくドライブの物なのだから......
Secret side
古びた城の扉を開けたのは黒のタキシードスーツとシルクハットと杖を持ち背中にマントを羽織った年老いた一人の老人だった。
フラフラになり息をするのも辛そうにしながらもその目だけはギラギラと燃えて獲物を探していた。
「はぁ....はぁ....情報が正しければ...ここに...」
彼の名は"ゾルーク
しかし、今は老いと共に全盛期の力を失い朽ち果てるのを待つだけの存在となっていた。
東条はそんな自分を認められなかった。
世紀の大怪盗として世間に名を轟かせた私の末路は老いによる死なのか?
否.....違う。
私はこんなところで忘れ去られて消える存在じゃない。
自分の名をこの世界にもう一度、轟かせて生きた証を残せないで死んでなるものか!
そう考えていた東条の行き着いた答えが"老いることの無い身体"を手に入れることだった。
彼は色んなコネや方法を使い調べた。
そして知ったのだ"ロイミュード"と言う存在を.....
そして、この古城に一体のロイミュードが封印されている情報を手に入れた東条は遂にそれを見つけたのだ。
棺に納められた金属の身体を持ったロイミュードの素体
通常のロイミュードと違い頭部が赤くなっており胸のプレートには"ZZZ"の文字が刻印されている。
「これ....が....私の求めた....老いぬ肉体....」
「ふーん、そんなに年老いてもこれを見つけられるなんて人間の力はやはり凄いね。」
「誰だ!」
東条は声の聞こえた方へ杖を向ける。
そこにはフードを被った青年が東条を見ながら笑顔で告げた。
「始めまして僕の名前はロノス。
分かりやすく言えば悪い組織を作った悪い存在かな。
んーでも、僕個人はそんな悪いことしてないんだよなぁ.....でも組織は悪いからなぁ....君はどう思う"ゾルーク東条"?」
「私の名を知っているのか!?」
「勿論、そしてこれから先の未来もね。
君は自分の意識をその機械の身体に転送して英雄の称号である"仮面ライダー"の名を手に入る為、仮面ライダードライブに挑戦状を突きつける。
一度はその名を手に入れるけどサイバロイドボディZZZの精神支配に抗えず......ってこれじゃネタバレだね。
あんまりやり過ぎると嫌われそうだからこれでおしまいね。」
意味は分からないがこの"少年の形をした何か"は常軌を逸した化物の様な物だと直感的に理解した。
だが、それでもゾルーク東条は余裕の笑みを浮かべる。
「随分と無粋な現れ方をするな君は......
良いかね?
男は常にジェントルであるべきだ。
美しく華麗に仕事をこなすこの私の様にね。」
「.....へぇ、凄いね。
そんな事を僕を目の前にして言えるなんて驚いたよ。
ふふっ!気に入ったよ!」
ノロスは笑って東条に近付くと刃のついた金色のミニカーと此方も金色で彩られたブレイクガンナーを渡してきた。
「.....これは?」
「"ルパンガンナー"と"ルパンブレードバイラルコア"って言ってね。
これを使えば仮面ライダーと対等に戦える様になる。
元の筋道なら君が作り上げる筈だったけど通る筈だった
だからまぁ、その補填をしに来たんだ。
これを使って君が変身しドライブから仮面ライダーの称号を奪うと良い。」
それを受け取った東条はロノスに目を向けようとするがそこに誰もいなくなっていた。
幻覚だったかと疑うが手に残るルパンガンナーが今の事が現実だったと教えてくれる。
「ロノスと言ったか。
奴はこれを補填と言っていたな。
良いだろう。
"今"はお前の筋書き通りに動いてやる。
私がアルティメットルパンとして完全復活するために....」
東条はサイバロイドボディZZZに触れる。
この冷たい身体にこれから自分の魂を刻み込む。
人としての私は今ここで死ぬだろう。
だが、アルティメットルパンは死なない。
私は世紀の大怪盗として復活する。
「では、始めようか。」
東条はそう言って笑いながら古城で人間としての命を終わらせるのだった。
【原作との変更点】
・ゾルーク東条にルパンガンナーを渡したのはロノス。
目的は物語が変わったことによるバタフライエフェクトを出来る限り、減らすことだった。
結果として東条はサイバロイドボディに精神を移行させると彼から渡されたルパンガンナーを使い仮面ライダールパンへと変身し怪盗行為を再開、アルティメットルパンとして特状課と仮面ライダードライブに挑戦状を送るのだった。
・サイバロイドの噂を聞いた蛮野はその力を手に入れる為、チェイスを差し向ける。
また、ハート達も新たに現れたロイミュードを調べる為、行動を始める。
・剛もこのタイミングで帰国し原作通りベルトさんの蘇生に手を貸すのだった。
・特状課が認められ原作よりもより密接に事件に関われるようになった。
・泊達、特状課にロイミュードと協力できる余地が残った。
・ハート達は人類を支配するのではなく共存する派閥となった。
・チェイスは蛮野の洗脳を受けているので原作よりも救出の難易度が上がった。
これにてガイアインパクトの際に起きたドライブの事件は終わります。
この後にオマケとして一話分、ドライブの話を投稿しますので楽しんでいただけると幸いです。
作者より
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第二百二十七話 α「オマケで何が語られるのか?」
知らない方はもしかしたら楽しめないかと思いますがご了承下さい。
作者より
【Vシネ仮面ライダーチェイサーより】
『もし、この時間軸で照井と泊達が再開したら?』
「「「..........」」」
事件現場が重い空気に包まれていた。
そこには手錠をつけられ地面に座っている剛を挟みながら冷や汗を流す進之介と霧子の姿があった。
「....あのぉ、照井警視、お願いですから....その....剛を許してやってはくれませんかね?」
照井の期限を損ねない様に進之介は低姿勢で言うが照井の怒気は収まらない。
「泊、お前の事は理解している。
俺の捜査を邪魔する様な奴じゃない事もな。
.......だが、だからと言って捜査妨害をしたこの男を許して良い道理にはならん!」
「ひっ!?おっかねぇ!」
「剛、貴方も謝りなさい!」
「嫌でも!?」
「でもももしも無いでしょう!
捜査妨害をするなんて何を考えてるのよ!」
何故、こうなったのか?
それはロイミュード051が起こした事件がきっかけだった。
泊達は051のコピー元である人間について捜査していたがその人物が死体と言う話を聞くと泊と霧子はそれを確認するため現場に向かっていた。
運が悪かったのは剛が一足先に現場についていた点だった。
「へぇ、まさか風都と東京都のちょうど境目で人が死ぬなんて....進兄さんも運が悪いなぁ。」
市を跨いだ事件はどっちが担当するかと言う畑争いに繋がりやすい。
少し離れた所でカメラを構えていた剛は現場を見て考える。
(今のまんまじゃ捜査が上手く進まないかもなぁ....
しゃーない、少し手を貸しますか!)
剛は軽い気持ちでシグナルバイクを取り出し仮面ライダーマッハへと変身した。
マッハには重加速を起こせる機能が搭載されている。
これを使って気付かれないように証拠や情報を集めれば進之介達の手助けになる。
そんな軽い気持ちだった。
剛にとって不運だったのはその現場に照井がいて剛は照井の事を二人から聞いていなかった事だ。
重加速でゆっくりと動く時間の中でマッハは高速で倒れている死体に近付く。
「さてと...ささっと調べて戻りますか。」
(剛が死体にカメラ構える。)
ガシッ!(剛の肩を照井が掴む。)
「は?」
ぐわっ!(力任せに剛が倒される。)
「痛っ!?....ってどうして重加速の中で動けるんだよ!」
驚きのあまり重加速の機能が停止してしまう。
「やばっ!?」
「貴様、何者だ?」
「そりゃ、こっちの台詞だよ。
重加速の中で動けて俺を倒すなんて本当に人間?」
「俺に質問をするな。」
「えー....話する気ゼロじゃん。」
「お前が何者が分からん以上、逮捕させて貰う。」
「凄いマッハで決まるじゃん。
でも捕まるわけには行かないんだよねっと!」
剛は照井の手を払うと飛び上がろうとする。
だが、それは叶わない。
何故なら照井に飛び上がった足を捕まれたからだ。
「ふん!」(照井が地面に剛を落とす。)
「えっ!ちょ!うわっ!?」(動揺により地面に落ちた剛のマッハドライバーが外れ変身解除される。)
「公務執行妨害も追加だ。
ここで逮捕する。」
ジャキ!(照井が剛の手に手錠をかける。)
このタイミングで進之介達が現場に到着した。
「お久し振りです照井警.....ってえぇぇ!?剛お前、何やってんだ!」
「進兄さん助けて!」
「剛!何で照井警視に逮捕されているのよ!」
「いや、姉ちゃんこれには...深い訳が....」
「この男が現場を荒らそうとしたので俺が止めた。」
「はぁ!?....ちょっと剛!説明しなさい!」
こうして剛と泊達に事情を説明された照井だが、それで納得する訳も無く今の状態となっているのだ。
「確かに市を跨いだ事件の場合、捜査権を巡って争うことはある。
だが、泊達から事前に連絡を受けていた。
だからこそ合同捜査として事件解決を行う様に俺は考えていた。」
「えっ!?....じゃあ...」
「剛.....お前のやった事は完全に無駄だって事だ。」
「そ...そんなぁ...」
ガックリと落ち込んでいる剛を照井は睨む。
「お前の主張は理解した。
だが、だからと言って捜査現場に勝手に踏み入ることが許されるわけではない。
調書を取り処分を下すまで風都署でお前の身柄を預かる。」
「えっ!?....あの照井警視、それは結構困るのですが」
「泊....お前の心配も分かる。
だが、特例で今回のことを許すことをすれば警察の平等性に疑問を与えてしまう。」
「でもだからって風都署に送られたら....」
「反省するまで留置所に送るだけだ。
何も取り調べをする訳じゃない。」
こうして、三人が話し合う中、剛が口走ってしまった。
「いや、ちょっと"現場"に入っただけで大袈裟な...」
(ちょっ!バカっ!)
(剛!アンタ何てこと....)
最悪のタイミングでの失言を聞いた進之介達は顔を覆いたくなる。
照井の耳に入らないでくれと願うが
「ちょっと現場に入っただけ.....だと?」
その言葉を聞いて雰囲気の変わった照井を見て失敗を悟った。
ドン!(剛の近くの地面を踏み抜く)
「ひょえ!?」
「現場を保存することは事件捜査を行う上で初歩中の初歩。
もし、それで証拠が失われ犯人を捕らえられなかったらどうするつもりだ?」
「それは...その....」
「仮面ライダーの力を使えるから問題ない....か?
その為なら事件現場を荒らしても構わないと?
貴様、警察を舐めているのか?」
「........」
「何とか言ったらどうだ?」
次元の違う詰めを見た進之介は懐かしさを霧子は危機感を覚える。
(懐かしいなぁ風都での研修で何度も見てきた照井課長の取り調べ風景....あれキツいんだよなぁ。
ちょっと犯罪者に同情しちゃうもん。)
「ちょっと泊さん!現実逃避をしないで下さい。
それにベルトさんも黙ってないで何か言ってくださいよ!」
今まで進之介の腰についたまま黙っていたベルトさんが話す。
『しかしねぇ、これはどう考えても彼に責任があるよ?』
「そんな事、言われなくても分かってますけどこのままじゃ剛が....」
『確かにここで剛が抜けるのは痛いな。
良し.....少し私が話してみよう。』
『ううん!....てっ照井警視。
彼はまだ若い。
それに彼に抜けられたらこちらのロイミュード事件解決が遅れるのも事実だ。』
「だから?」
『え?いやそのだから少しぐらい穏便に...』
「クリム・シュタインベルト....貴方が警察に多大な協力を行ってくれているのは知っている。
それで俺の部下を命を救われてきたからな。
だからこそ、貴方ならば警察の意義について良く理解していると思ったのだが.....俺の勘違いだったか?」
『いやいやいや!?もも勿論、警察の重要性は分かっているとも!
彼のしたことは許されないことだ!だからこそ!彼には事件解決の為に働いて貰うことが贖罪に...』
「貴様が刑罰を決めるのかクリム?......
貴様は法か?....違うだろう。
贖罪と言うのなら大人しく留置所に入ることこそが罰だ。
俺にそんな下らない質問を答えさせたいのか?」
『すいません。』
(((クリムが謝った!?)))
ベルトさんが意気消沈しながら霧子に顔を向ける。
『すまない霧子君。
私には無理だった....今の照井警視はちょっと恐すぎる。』
「諦めないで下さいクリムさん!」
『私にも不可能なことがあるとは.....知らなかったよ。』
「貴方も現実逃避をしないで下さい!」
そんな話をしていると現場が騒然とし始めた。
死んでいた筈の男が蘇ったからだ。
男の姿がロイミュードの素体へと姿を変える。
「アイツ、ロイミュードだったのか?」
そして、現場検証していた刑事を突き飛ばすと懐からガイアメモリを取り出した。
「ガイアメモリだと!?」
「Beast」
起動したメモリを首に指すとビーストドーパントへと変身する。
「嘘だろ!?ロイミュードがドーパントに」
ビーストドーパントに変身したロイミュードは興奮しながら跳び跳ねる。
『成る程、恐らくあのロイミュードが倒れていたのはガイアメモリの力に内部システムが一時的にショートしたからだろう。
そして再起動しメモリに適合した結果、ドーパントになれたのだろうな。』
「それがこの事件の真相って訳か。」
興奮したビーストドーパントは逃げ惑う刑事に後ろから飛び掛かる。
「危ない!」
進之介が向かおうとした瞬間、ビーストドーパントに
後ろを見ると地面が凹む程、強い力で踏みしめながら大剣を投げ付けた照井の姿があった。
(((貴方本当に人間ですか?)))
口から漏れそうな疑問を何とか押し込める。
照井はポケットから鍵を取り出すと剛の手錠を外した。
「え?」
「不本意だがここでお前を捕まえて目の前のドーパントを取り逃がす訳にはいかん。
お前にも力を貸して貰うぞ。」
そう言い終わると照井はアクセルドライバーを腰につける。
そして、彼の両隣に泊と剛が立つ。
「俺も手伝いますよ照井警視。」
『三人であのドーパントを止めよう。』
「へへっ!俺もちゃんと働くよ進兄さん達」
照井はアクセルメモリをドライバーに装填し泊はイグニッションキーを回しシフトスピードをブレスに装填し剛はマッハドライバーを開きシグナルバイクを押し込む。
「変身!」
「変...身!」
「レッツ...変身!」
三人の掛け声と共にエネルギーが巻き起こるとアクセル、ドライブ、マッハへと変身が完了する。
「さぁ、
2人の名乗りに剛も触発される。
「おっ!良いねぇじゃあ俺も....追跡!...」
しかし、剛が名乗りを始めた瞬間、ドライブとアクセルは敵へ向かっていった。
「撲め....って!?待ってよ進兄さん!」
こうして三人の活躍によりドーパントとなったロイミュードは倒されるのだった。
闘いを終えた三人は変身解除すると照井が告げる。
「お前達の状況を鑑みて....今、お前を逮捕するのは止めておこう。」
「えっ?それじゃあ....」
「だが、無罪と言う訳にはいかない。
そちらでの戦いが終われば風都でその力をちゃんと使える様に俺が"直接指導"する。
これでも仮面ライダーの先輩だからな。」
(げっ!マジかよ!?)
苦い顔をする剛を他所に進之介が言う。
「はい、照井警視にお任せします。」
「ちょ!?進兄さん!俺を見捨てるのか?」
「諦めろ剛。
照井警視の元でちゃんと常識を学んでこい。」
「えぇ....」
「剛と言ったか?
安心しろ。
あくまでルールを教える程度だ。
それを覚え実践してくれるのなら俺も文句はない。
再犯を防ぐことも刑事である俺達の責務だからな。」
照井の言葉を受けて剛は覚悟を決める。
「そうだな。
元はと言えば俺が悪い。
分かったよロイミュードの一件片付けたら風都に行くからその時はよろしく頼むね。」
「あぁ、任せろ。」
共に戦ったからこそ剛が悪い人間ではないと理解したのか照井の表情は明るい。
それを見た泊も笑う。
(良かったな剛。
きっと、照井警視ならお前の悩みも理解してくれる。)
照井と剛は復讐の為に力を求めた。
ある意味で似た存在。
だからこそ、彼ならきっと剛の闇にも真っ正面からぶつかってくれると泊は思っていた。
「さぁ、行け。
お前達の事件もまだ解決してないだろう?」
「はい、ありがとうございます。」
「前より良い顔をするようになったな泊。」
「えっ?そうですか?」
「あぁ、警察官らしい良い顔だ。」
「.....ありがとうございます。」
そうして進之介と霧子はトライドロンに戻っていった。
しかし、剛は途中で止まり照井に顔を向ける。
「あの....その....現場に勝手に踏みいってすいませんでした。」
「剛と言ったな?
焦る気持ちも分かるが少し落ち着け。
お前の周りには頼るべき仲間がいる筈だ。
心配してくれる姉もいるだろう?
大事にしろ....失ってからでは遅いからな。」
心の籠った忠告を受けて剛は言った。
「ありがとう....覚えておくよ。
絶対忘れない。」
「そうか。」
「あぁ、風都行ったらその時はよろしくな。
"福井警視"さん!」
剛が最後に告げた言葉を受けて空気がまた重くなる。
「え?何で?」
そして、ゆっくりと剛に近付くと照井は"笑顔"で告げる。
「俺の名前は"照井"だ剛君。
俺も理解したよ。
君が物覚えが悪いと言う事にね.....」
「え....あ.....」
「俺も君が風都に来るのを楽しみにしている。
.....あぁ、逃げようとは考えないことだ。
これでも人を追うのは得意だからな。
一番得意なのは捕まえることだが」
「では、"詩島 剛"君
次会うのは風都でだな。」
そう言うと照井は剛の元から離れていった。
後日、剛は約束通り風都に来て照井の元でミッチリとしごかれる事となり"照井"の名前とこの世界には絶対に逆らってはいけない人がいることを彼は心の底から理解するのだった。
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最終章
第二百二十八話 決死のD/悪夢の終わり
「うぉぉぉぉぉ!!」
「はぁぁぁぁ!!」
二人の悪魔の刃が重なる。
火花と黒炎を上げながらも刃が止まることはない。
無名とゴエティアの振るう力は相手を殺す事だけを目的としていた。
一つ一つの攻撃から明確な殺意を感じる。
両者の刃が互いの命を刈り取ろうと振るわれる。
しかし、二人ともそれを避けることはしない。
攻撃が当たった時こそチャンスだと言わんばかりにお互いの身体を切り刻んでいた。
無名は戦う度に顔が歪み逆にゴエティアは歓喜の表情を浮かべた。
「どうした無名?そんな者じゃないだろう君の力は......さぁ、見せてくれ私を殺し得るその力を!全てを!」
「.......」
「あはははは!楽しいなぁ無名!
これが本当の殺し合い....超越者のままでは得難い経験。
素晴らしい....本当に素晴らしいよ!」
興奮を抑えられないゴエティアとうって変わり無名は悲痛な顔を浮かべている。
『何を呆けている!』
ゴエティアは槍から刃状の黒炎を無名に向けて放つ。
対して無名は刀を正眼に構えると上に振り上げ黒炎を真っ二つに切り裂いた。
その勢いのままゴエティアに接近する。
『なめるな!』
ゴエティアは槍で迎撃しようと構えるがそれよりも速く無名の刀が槍の持ち手に激突する。
鍔迫り合いの状態になるが均衡は直ぐに崩れた。
ゴエティアが無名の刀に押され身体を傾かせる。
『くっ!』
「やっぱり、ゴエティア、貴方は....」
『がぁっ!』
無名の言葉を遮るように刀を押し返すと力任せのまま槍を振るおうとするが無名はそこにカウンターして蹴りを加え逆にゴエティアの手から槍を吹き飛ばした。
無名は刀を左手に持ち帰ると残った右手を握りゴエティアの顔を殴り付ける。
『うぐっ!』
振り抜かれた拳はゴエティアの身体を吹き飛ばした。
『はぁ....はぁ....はぁ....』
「ゴエティア、どうしてそこまで弱くなってしまったのですか?」
無名の問いに冷笑して答える。
『ふふ....とっくに分かっているのでしょう?
私の魂がもう"限界"だと言うことを....』
「......僕は超越者について調べる中で貴方がやっていた地球の記憶の書き換えについても検索しました。
あれは、黒炎の力だけでは再現不可能でした。
ですから検索対象を変えたんです。
書き換えに必要な"コスト"について....結果は」
『超越者の記憶を構成する魂......それぐらいのデメリットが無ければ本の書き換えなど出来ませんよ。』
過去、超越者は自分の持つ膨大な力を地球の本棚に転送し寿命による消滅を回避した。
その膨大なエネルギーの一部を切り取り本棚の本を書き換えていたのだ。
肉体を持たないゴエティアにとって自分を構成する記憶や魂を賭けるのは文字通り、命そのものを削っているのと変わらなかった。
「.....貴方は過去に何千と書き換えをしてきたと言いましたよね?
それは貴方自身に弊害は無かったのですか?」
『勿論、あるに決まっている。
文字通り、自分の記憶と魂を切り取って使っていたからね。
かなりの記憶や感情を失ったよ.....もう残っているのはコスモスを甦らせる意思だけだ。』
「そうまでしてどうして!?」
『どうして....か.....
私の心がそれを求めたのだ。
最初は仲間と自分の願いの為だった。
でも、今となってはその願いも思い出せない。
だが、それでも覚えているのはコスモスの顔だ。
成長する人を見て笑うあの顔だけが私の心を満たしている。』
「彼女は悲しんでいましたよ。
貴方がやっているこの所業を知っていた。
それを知っても尚、彼女の復活を求めるのですか?」
『あぁ、それこそが私に残った唯一の願いだ。
彼女からは色んな感情を貰った。
その恩を返したい。』
「それなら、他にも方法があった筈だ。
こんな無茶をしなくても!」
『今更だな。
もう、債は投げられ駒は進んでしまった。
引き返す術など無い。
お前も分かっているだろう無名。
もう私が書き換えを行える力すら無いことを....
エクストリームの力を使っていた時は何とか誤魔化せていたがその力が無くなった今、私を倒すことは難しくない。』
「ゴエティア.....」
『さぁ、私達の"最後の決着"をつけましょう。
私に貴方の強さを見せてください。』
ゴエティアはそう告げ終わると全身から黒炎を放出しそれを槍へと凝縮させていく。
圧縮された炎は揺らめきを消し光のみを発した。
黒く輝く槍を手にするとゴエティアは飛び上がった。
無名はそれを迎え撃つ様にデーモンメモリをマキシマムスロットに装填する。
「DEMON MAXIMUMDRIVE」
無名の右足に黒炎の力が集約されていく。
そして、その状態を維持したままアームズライザーのグリップを三回握りマキシマムを発動する。
「ARMS MAXIMUMDRIVE」
無名の持つ刀からも黒炎が巻き上がるとその勢いのままゴエティアに投げ付けその刀を後ろから蹴り上げた。
ゴエティアも槍を刀に向けて投げ付けると急降下しながら槍を蹴った。
刀と槍がぶつかり合い両者とも相手の武器を破壊し身体を貫くつもりで力を加える。
『無名ぃぃぃぃぃぃぃ!!』
「ゴエティアぁぁぁぁぁ!!」
互いの全身全霊の力を込めた攻撃は衝撃波を起こし周りの本棚を吹き飛ばす。
両者の一撃は拮抗していたが武器は悲鳴を上げていた。無名の刀とゴエティアの槍に亀裂が入る。
しかし、両者とも攻撃の手を緩めることは一切しない。
(武器が折られた方が負ける。
しかし、少しでも逃げたら
(きっと、ゴエティアも分かっている。
この勝負は引くことは出来ない....ならばお互いの武器を信じるしかない。)
((この勝負、勝つのは
特大の衝撃波が発生した後、二人の武器が壊れ位置が交錯し互いは地面に降り立つ。
暫しの沈黙の後、それを破るようにゴエティアは言った。
『あぁ....やはりダメだったか。』
そう言い放つゴエティアの胸部には大きな穴が開きそこから黒炎が一気に燃え広がった。
勝負に勝った無名は地面に膝をつく。
「はぁはぁはぁ......勝っ....た。」
『そうだこの勝負は君の勝ちだ無名。』
ゴエティアはそう言いながら無名へと顔を向けた。
『やはり、人は面白いな。
星や宇宙を作り超越者と呼ばれた者すら越えるか.....
これもまたコスモスが感じていた人類の可能性なのかもしれないな.....。』
ゴエティアは優しい目で無名を見つめる。
それは親が子の巣立ちを祝福している様にも見えた。
『過去の思いの為に....随分とこの世界を歪めてしまったな。
終わりになって初めて思うよ。
あぁ、これが鳴海 荘吉が言っていた"罪を数える"と言う事なのだな。』
ゴエティアは思う。
ここで自分の"本当の目的"を話したらどうなるのか?
きっと、無名はそれを止める為に命を賭けるだろう。
だが、それを惜しいと感じてしまう自分もいた。
(私が道具として産み出した筈の存在が....私を"越えた"。
怒りは無く寧ろ誇らしさすらある。
彼ならきっと私亡き後も人を救うヒーローになれるだろう。
私がコスモス以外でこんなに悩むとは死ぬ前に面白い発見が出来ました。)
コスモスの事を思ったからか忘れかけていた彼女の顔が浮かぶ。
(彼女なら.....きっとこう言うだろうな。)
決心がついたゴエティアは無名に語りかける。
『無名....まだ私の計画は..."終わっていない"。』
「!?」
『ガイアインパクトを使いコスモスを呼び戻すにはどうしても必要な者があった。
この世界に顕現する為の依代だ。
私が君を使い....この箱庭に降り立った様にね。』
「ですが....コスモスを呼び出す依代なんて....」
『あぁ、いない。
だから"造った"んだ
"園咲 若菜"を使って.....』
「バカな!?そんな事は不可能だ!
ゴエティア僕に乗り移れたのは僕の身体に貴方のエネルギーがあったからだろう?
だが、彼女には.....」
『いいや、"ある"。
覚えていないか?
地球の本棚の記憶は元々、私達、超越者の力が封じ込められている。
肉体が滅んでも精神だけは生かそうとした....だから私はジョーカーメモリと適合率の高い左 翔太郎に目を付けた。
デモンドライバーによる覚醒で手に入った力と
ゴエティアは穴の開いた自分の胸に触れる。
『私の命を使った大博打だったが.....成功した。
そして今、彼女はコスモスへの転生を間近に控えている。』
「転生?......貴方は若菜さんを犠牲にしてコスモスを甦らせるつもりなのか!」
『いいや.....違う。
それでも"足りなかった"んだ。
彼女を呼び戻すには力が......だから"賭けてしまった"。
彼女は最も愛した存在を....世界を....』
懺悔する様に告げるゴエティアを見て無名は悟ってしまった。
ゴエティアが何を賭けたのか.....
「まさか.....呼び戻す為に支払う力とは.....」
『そう....君の想像通りだ。
彼女を甦らせる最後の代償は......』
『この"地球と言う箱庭の命"だ........』
気絶から目を覚ました翔太郎が見たのは目の前に倒れている若菜と琉兵衛を見つめている冴子と加頭の姿だった。
「お....前ら.....」
「あら?気が付いたのね。
一応、お礼を言っておくわ。
若菜をここまで弱らせてくれてありがとう。」
「どういう意味だ?」
そう尋ねる翔太郎に加頭が答える。
「冴子さんは若菜から宇宙の巫女の力を奪い.....自らが巫女へと成る決心がついたのです。」
「その為には今の若菜の強さは邪魔だった。
反抗されたら私に勝ち目は無いもの....」
そう言いながら若菜へ触れる冴子を見て翔太郎は警告する。
「止...めろ!今彼女の中にはフィリップがいるんだぞ!
彼女を助ける為に自分の命を賭けて必死で....」
「それが何?
どうせ、来人と融合しなければろくにコントロールすら出来ない力なのよ?
それに、これはチャンスなの.....今、二人の力を奪えば....私は完璧な宇宙の巫女になれる。」
「止めろ!そんな事....」
ボロボロの身体を無理矢理、起こして翔太郎は冴子に近付こうとするがユートピアドーパントになった加頭に首を掴まれ締め上げられる。
「か....は....」
「邪魔をしないでいただきたい。
彼女がこの世界の女王となる偉大な瞬間です。
貴方の役目は終わりました。
後は黙って結末を見ていなさい。」
加頭が翔太郎を遠くへ投げ飛ばす。
翔太郎はそのままタワーの壁に激突し倒れてしまう。
それを見た冴子は加頭へ告げる。
「さぁ、加頭さん始めましょう。」
「えぇ、勿論。
貴女の為なら喜んで」
加頭が超能力を使い手を振るとタワーの装置が再起動する。
「このタワーは地球から流れてくる膨大なエネルギーを一点に集約する機能があります。
その機能を使い集められた力を使うこと
膨大なエネルギーでも超越者となった若菜さんなら耐えられる事が前提の計画です。
普通の肉体である冴子さんが代わりをするとしたら融合に身体が耐えられず精神が地球の記憶に飲み込まれてしまう。
.....だからこそ、これを使います。」
そう言って加頭が手に持ったのは"眼球の形をした特殊なデバイス"だった。
「財団が手に入れた
当初の目的とは違いますがこれを使えば融合する冴子さんの精神は守られるでしょう。」
加頭は超能力で眼魂を浮かせると冴子の元へ飛ばした。
冴子はドライバーを付けるとメモリを装填する。
「Taboo」
タブードーパントに変わった冴子の身体に眼魂が入り込んでいく。
眼魂が冴子に完全に吸収されると気絶している琉兵衛に眼を向けた。
「お父様.....少しの間、お待ちになって.....私が若菜の力を奪って宇宙の巫女になった暁には....貴方と...」
そう言い残した冴子は加頭へ言う。
「装置を起動して....」
「分かりました。」
加頭はタワーの装置を起動するとタワーに強い振動が起こり緑色の光が若菜を覆う。
光に包まれた若菜に冴子が手を触れた。
拒否反応か冴子の身体を電流が走るが今の彼女にはその痛みは意味を為さない。
「くっ!....ふふ!相変わらず反抗的な態度ね若菜?
見てなさい....貴女の全てを私が奪って見せるわ!」
冴子は無理矢理、若菜の力が集約されている核へ手を伸ばしていく。
「もうすぐよ....もうすぐこの力が!」
そうして力に触れた冴子だったがここで彼女の計画は想定外の事態となる。
誰も予想すらしなかっただろう。
何故ならこの事実を知っていたのはゴエティアだけだったからだ。
若菜の中にある力に触れた事で呼び起こされる筈だった一つの魂が反応する。
例えるなら輸血の際、全く違う血液型の血を入れる様な物だ。
異物に触れられたことで若菜の中に納められていた力が暴走を始めた。
そして、この事態はゴエティアの想像すら越える物となってしまった。
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第二百二十九話 決死のD/悪夢の始まり
その光景を見た者の心にあったのは恐怖の感情だけとなっていた。
世界を簡単に滅ぼせてしまう地獄の力.....それを備えた女神は血の涙を流し吠え続ける。
俺はこの時、始めて本当の絶望を知ったんだ。
『『あぁぁあああぁああぁああ!!!』』
冴子が若菜の力に触れた瞬間、彼女の口から複数の人間の叫び声が発せられた。
男とも女とも取れる声による慟哭の絶叫は宛ら世界の終わりを知らせる合唱の様にも聞こえた。
そんな声を発する
そこで更に絶叫を上げる人物がいた。
《xbig》「きゃあぁぁ!あっ..熱い!!腕がっ!」
若菜の身体に手を突っ込んだ冴子が苦しみ出す。
その手からは煙が上がりまるで熔鉱炉に腕を突っ込んだ様に苦しんでいた。
「冴子さん!」
その姿を見て焦った加頭が彼女に駆け寄ろうとするが、その前に加頭の身体が強大な力に抑え付けられてしまう。
「ぐおっ!こ...れは!?」
突如、クレイドールドーパントの口が開き小さな赤い光球が現れると赤いビームが発射され加頭の心臓を貫いた。
一瞬の結末に呆気に取られるが動かなくなった加頭を抑え付けていた力が無くなり地面に倒れて込んだ。
「加頭さん!?....何なの?これは.....
若菜、貴女一体!?...あぁあぁぁ!!」
事態が誰も読めない中、タワーに残るのは悲痛な叫びだけとなっていた。
冴子とゴエティアのてにより若菜の力が暴走すると地球の本棚にいた若菜とフィリップにも異変が起きていた。
「あぁぁあぁあぁぁぁぁあ!!」
「姉...さん!?ぐっ!....身体がっ!?」
暴走するエネルギーにより叫ぶ若菜をフィリップは助けようとするが繋がりを持ってしまったフィリップの身体にも少なからずダメージを与えていた。
(一体何が起こったんだ!?
急に姉さんが苦しみ出したと思ったら僕の身体にも痛みが....早く原因を検索しないと!?)
フィリップは身体に襲い掛かる痛みに耐えながら両手を広げて検索の体制を取る。
「検索する...項目は...若菜姉さんの助け方...キー..ワー....ド.....は」
「"超越者のエネルギー"...."若菜さんの細胞"...それと"コスモス"」
倒れそうなフィリップの肩を後ろから現れた無名が支える。
「無名.....」
「ゴエティアから目的を聞いて無理矢理、この階層まで戻ってきました。
奴は若菜さんの身体を使ってコスモスの精神を呼び寄せようとしています。」
「でも、だとしたらこんなに若菜姉さんが苦しむ理由が分からない。
ゴエティアは姉さんの細胞に細工をしていた筈だろう?」
「知っていたのですか?」
「姉さんの細胞が半分以上、別の何かに置き換わっていた。
そして今の無名の話を聞いて推理しただけ....ぐっ!?」
「フィリップ!?
....恐らくこれはゴエティアにとっても想定外な事態の筈だ。
ここで問題が発見できないないのなら原因は
ならば.....見つけた。
"Zone"起動....ぐっ!?流石に身体に効きますね....でも!止めるわけには行かない!」
無名はフィリップをゾーンの力で現実世界に飛ばそうとする。
その力で現実世界に戻ろうとしているフィリップに無名が告げた。
「僕はここで若菜さんを助ける手立てを考えます。
貴方は翔太郎と共にこの暴走の原因を見つけてください!」
「分かった.....姉さんを頼む。」
そうして、フィリップが地球の本棚から消えると無名は若菜へ近付く。
「若菜さん!気を確り持って!」
無名が地球の本棚の力を使い若菜を落ち着けようとするが発動した力ごと無名の身体を弾き飛ばす。
後方に吹き飛んだ無名は本棚に激突する事で地面に落ちた。
無名の口から血が流れる。
「地球の本棚の力を使っても弾かれるなんて.....」
驚いている無名に若菜から発生したエネルギーが牙を剥く。
若菜の身体から放出された赤いエネルギーが形を変え、ビームとなり無名を襲う。
間一髪で回避するが背後の本棚は真っ二つに切断されてしまった。
「この攻撃は一種の自己防衛システムの様な物か。
若菜さんの精神に働きかける力を使って逆に警戒されたか。」
そう分析する無名だが若菜からの攻撃が止まる気配はない。
何とか攻撃を止めようと無名は負担にならない程度に本棚の力を使うがその程度の力では若菜の攻撃を捌くことすら出来ない。
「やっぱり、根本的な原因を解決しないとこっちじゃ対処のしようがない.....時間は稼ぎますが急いでください。」
ここにいないフィリップにそう告げると無名は時間を稼ぐ手段を考えるのだった。
「........まえ」
(んだ?この声は?)
「.....きた....まえ」
(俺に言ってんのか?)
「起きたまえ、左 翔太郎。」
その言葉を聞いて完全に目を覚ました翔太郎の目の前には"死んだ筈の琉兵衛"が翔太郎を見つめていた。
「あんた!?どうやって?」
「説明は後だ。
今は目の前の問題を解決しないとな。」
琉兵衛はそう言って指を指した方向には不気味なエネルギーを発している若菜とそのエネルギーでダメージを受けている
「一体これはどういう事なんだ?」
「恐らく、若菜が継承する筈だった宇宙の巫女の力を冴子が奪おうとしたのだろう。
それがバグとなりシステムが暴走している。
...だが、それにしてもこの力は異常だ。
システム暴走やメモリの拒否反応とも違う私の知らない現象だ。」
そう話していると翔太郎の隣の空間が歪むとフィリップが姿を現した。
「フィリップ!」
「大丈夫かい翔太郎!.....父さん!?どうしてここに?」
「ほぉ、まだ私を父と呼んでくれるのか。
嬉しい限りだが今は若菜を救うことを優先しようではないか?」
「貴方が味方だとは思えない。」
「当然だな。
だが、テラーメモリも無い私には君達を止める術等無い。
信用できないなら捨て駒として使って貰っても構わん。
私は家族を救いたいのだ。」
「........」
まだ信用できないフィリップが黙っているとそれを見ていた翔太郎が言う。
「分かったぜアンタの事を信用する。」
「翔太郎!」
「ここでいがみ合ってても意味がねぇ事ぐらいお前も分かってるだろフィリップ。
それに.....今のアンタからは恐怖を感じねぇ。
本当に家族の事を心配してる.....」
「そうか.....因みに根拠を聞いても?」
琉兵衛の問いに翔太郎は答える。
「"直感"だ。
今のアンタを見てそう感じた....それだけだ。」
自分の結論に迷いの無い真っ直ぐな目を見たフィリップは警戒を緩めた。
「相棒にそう言われたら....信じるしかないな。
父さん、僕も"姉さん達"を救いたい。
手を貸してくれ。」
「....勿論だ。
来人、君は無名と会った筈だ。
彼は何か言ってなかったかい?」
「そう言えば、ゴエティアは若菜姉さんの身体を使ってコスモスを甦らせると言っていた。」
「.....そう言うことか。
恐らく、若菜の身体にゴエティアの精神が移送される途中で冴子が若菜の精神の核に触れたのだろう。
超越者の力と精神は密接に絡み合っていた。
移送最中に冴子の精神が干渉したことで若菜の身体が拒否反応を起こしたのだろう。」
「そんな、じゃあどうすれば?」
「繋がろうとしている冴子を切り離して若菜に転送されようとしているコスモスの精神を説得するしかない。
ゴエティアの事だ。
無理矢理、彼女の魂を呼び出している筈だ。
コスモスの正気を取り戻せば若菜を救える筈だ。」
「来人、ゴエティアにこの事を教えて上げてくれ。
この計画には彼の協力が不可欠だ.....」
そう話していると倒れていた筈のユートピアドーパントがいきなり起き上がった。
胸には先程の攻撃で開けられた穴があったが一瞬、身体がバグる様に揺れると穴が塞がった。
「こんな所で....死ねるものかぁ!」
加頭の手から砕けたインジェクターが二本落ちる。
加頭が胸を貫かれた瞬間、隠し持っていた"ネビュラバグスター"の入ったインジェクターを身体に撃ち込んだ。
二本分のネビュラバグスターは瀕死の加頭を完全に再生させるがそれは逆にウイルスの汚染が進むことも示していた。
(身体がバラバラになりそうな程の痛み......やはり、危険な薬品だなネビュラバグスター。
だが、これがあれば私は一時的にでも無敵になれる。
冴子さんを救わないと....)
「うぉぉぉぉぉ!!」
加頭は自分を鼓舞するように声を張り上げながら若菜達の元へ走っていく。
暴走した若菜はそれを確認すると自動で彼への迎撃を始める。
赤いエネルギーで作り上げた球体が複数現れるとビームを放つ。
触れれば全てを消滅させる攻撃を翔太郎達は回避するが加頭は避けること無く前へと走っていく。
複数のビームが加頭を貫き肉と骨を切断するが直ぐにネビュラバグスターの再生能力で治してしまう。
「ありゃ、何だ?
あれもメモリの能力か?」
「恐らく違うだろう。
加頭君のメモリはユートピアの筈だ。
本来、あんな再生能力はない。
だがこれはチャンスだ。
奴が暴れている間に私が......危ない!?」
タワーから落下してきた落石を翔太郎を突き飛ばすことで琉兵衛は助ける。
代わりに琉兵衛の身体が落石の下敷きになってしまう。
「父さん!」
「安心しなさい。
今の私にこの程度の攻撃は効かない。」
琉兵衛は落石を受けておきながらも平気な顔で出てくる。
その顔半分は落石により潰れたがそこの部分から
その姿を見た二人は驚愕する。
「驚くことはない。
文音が最後に私に力をくれただけだ。」
それは翔太郎のメモリブレイクにより琉兵衛の心臓が止まった時だった。
《vib:1》(貴方....起き....て)
(その声は....文音か?)
忘れもしない最愛の者の声を聞いた琉兵衛は目を開く。
そこは先程までいたタワーではなく一面黒い空間に紫の炎を宿した文音が立っているだけだった。
(そうよ貴方....漸く繋がれたわ。)
(どういう意味だ?)
(貴方が私に与えたテラーのエネルギーを辿ってきたのよ。
ネメシスメモリが力を貸してくれたの)
(ここは....地獄か?)
(いいえ、ここは"天国の地獄の狭間の世界"。
魂の行き場が決まるまで待つ空間よ.....)
(ならば、私は死んだのだな。)
(そうね....."死にかけている"と言うのが正しいかしら?
このまま何もしなければ貴方の魂はここにたどり着くことになる。
でも、私が今それを"止めている"。)
(それは...何故?)
(貴方に若菜達を救って欲しいの
このままでは皆の命が失われてしまう)
(命が失われる?それはどういう事だ?)
(それ以上は言えない......
私に出来るのは選択肢を与えることだけよ)
(選択肢?)
(えぇ、私の残った力を全て使い貴方を一時的に甦らせる。
貴方には来人達の手助けをして欲しいの)
(手助けだと?....君は私が彼等の敵だったと知って言っているのか?)
(えぇ、でも貴方しかいない。
"ゴエティアの記憶"を持つ私と貴方でしか出来ない事なのよ。)
(ゴエティアの記憶.....まさか、奴が何かしでかすとでも言うのか文音。)
(.....私に出来るのは選択肢を与えるだけ
でも、貴方が現実世界に戻るには"代償(を払う必要がある。)
(代償?)
(えぇ先ず、現実世界に入られる時間は限られている....持って"10分"よ。
そして、それを過ぎると"貴方と私の魂"は完全に消滅する。)
(それは......)
(地球の本棚にも....残れない。
存在を示す全てが消失するわ。)
(そんなリスクが、ありながらも君は私を現実世界に甦らせたいと言うのかい?)
(そうよ....信じられないでしょうね?)
(いいや、信じるとも他でもない君の言葉だからね。
そのリスクを背負うだけの覚悟もある。)
(貴方....)
(一つ聞いても良いかね?
私のガイアインパクトは....これまで積み重ねてきた罪は意味があったと思うかね?)
琉兵衛の問いに文音は答える。
(それは分からないわ。
だって、それを決めるのは来人や罪の為に巻き込んだ風都に住む人でしょう?
私達が合っていると言ったとしても.....)
(そうか.....)
(でも一つだけ確かな事があるとすれば....来人は左 翔太郎と会い人として生きる意味や仮面ライダーとしての責任を得た。
これは私達の犯した罪の結果よ。)
(.....ふふ、そう考えれば...悪くないかもな。)
その答えに満足した琉兵衛に文音は言う。
(もう時間ね.....貴方を私の力を使って現実世界に戻すわ。)
(文音....)
(何?)
(......愛しているよ。)
(........私もよ。
家族を.....お願い....)
そうして、琉兵衛は文音の力を使い蘇った。
今度は家族を救う為に.......
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第二百三十話 別たれるT/無償の愛
何時も若菜が一番だった。
私の方が優秀なのに.......
お父様の一番役に立っているのに.....
どんなに頑張っても若菜はお父様の愛を受けられる。
私が欲しい物を全部、彼女は持っていた。
全てを手に入れているのに我が儘を言う子供。
そしてお父様はそんな我が儘を許していた。
私にはそんな優しさをくれなかったのに......
私は若菜を憎んでいるそしてこれからも憎しみ続けるだろう。
彼女の持つ全てを手にいれるまで......
冴子の元へ走る加頭だが、彼女の前へと到達する前に放たれる無数の赤いビームにより阻まれてしまう。
投与したネビュラバグスターの力で肉体を細切れにされても再生することは出来るが冴子の元には向かえない。
目の前では腕を抑えながら苦しんでいる冴子が見える。
(このままでは冴子さんの作戦通りの融合は不可能だ。
寧ろ彼女の命に危険がある。
冴子さんが若菜の身体に触れてから彼女の周りに緑色のエネルギーが溢れ始めた。
あれが、地球の本棚から来るエネルギーなのだとしたらあれに長時間、晒されれば肉体がデータ化し消滅してしまう。
やむを得ない。
冴子さんの命が優先だ。
若菜さんを"殺して"でも冴子さんを救わないと.....)
加頭は冴子の命を第一に考え行動を開始する。
手に持っていた理想郷の杖を地面につけるとそこから重力波が発生し砕けたコンクリートの破片が空中に浮かぶ。
それを若菜の放つビームにぶつけながら強引に近付いていく。
(良し....これなら冴子さんの元に辿り着ける。)
そう考えている加頭の横を金色のエネルギー弾が通るとビームを放つ球体に直撃した。
後ろを見るとそこには加頭とは別の目的で近付く琉兵衛と
「君達もとことんしつこいですね。」
呆れる加頭に翔太郎が答える。
「そりゃ、お前もだろ財団X!」
『僕達は若菜姉さんを救う。
邪魔をしないで貰おう。』
「私が助けたいのは冴子さんです。
若菜さんの事などどうでも良い。」
『.....やっぱり、冴子姉さんを救う為に若菜姉さんを始末する気だね?』
「何だと!?んなことさせねぇぞ財団X!!」
「さっきから財団財団と....私の名前は加頭です。
そして、貴方達に私の邪魔はさせない。」
睨み合う二人だがそれを状況は許してはくれなかった。
二人を狙う様にビームが放たれる。
加頭は瓦礫で防御しWはルナジョーカーにメモリを変えて伸ばした腕で柱を掴み戻る反動で回避した。
『悠長に話している暇は無さそうだね。』
「みてぇだな。
.....琉兵衛さんは何処に行ったんだ?」
Wが琉兵衛の姿を探すともう若菜達の目の前に来ていた。
苦しむ二人の娘を見つめる琉兵衛の顔は暗い。
「冴子、若菜....すまない。
今助けるからね。」
琉兵衛は二人と隔てている緑色のエネルギーに身体を突っ込ませた。
『なっ!?無茶だ!
身体がデータ化されて消えてしまう!』
エネルギーの渦に身体を突っ込ませた琉兵衛は苦しみながらも笑う。
「大丈夫....だ....ここは私と..."文音"に任せなさい。
行こうか...文...音。」
(えぇ、貴方....)
琉兵衛の身体から紫の炎が吹き出すと彼の身体を守る様に包み込んだ。
「次は、私の力だ。」
そう言うと琉兵衛は両手を掲げる。
すると、地面から小さなテラーフィールドが発生しそこから発生したエネルギーが両手を覆った。
その姿を見て翔太郎は驚愕する。
「なっ!?....メモリ無しでも力が使えるのかよ。」
『メモリを長期間使い続けた結果だろうね。
あの紫の炎は母さんのメモリの力だ。
二人が姉さん達を救おうとしている。』
その光景を見ていた加頭は杖を握り直すと琉兵衛の元へ向かおうとした。
嫌な予感がした翔太郎は加頭の前に出る。
「待てよ。
お前何するつもりだ?」
「....冴子さんを助ける手伝いをするだけですよ。」
「嘘だな。
その目は人を殺そうとしてる奴の目だ。」
確信を持って言われた言葉に加頭は溜め息をつく。
「はぁ....流石は探偵だ。
その通り、私は若菜さんを殺します。」
『何故だ!父さんと僕が協力すれば二人を無傷で助けられるかもしれないんだぞ。』
「助けた結果、どうなると思います?
冴子さんにとって若菜さんは憎む対象でしかない。
彼女が生きているだけで冴子さんの笑顔は消えてしまうんです。
ならば、今の内に脅威は排除するべきだ。」
「そんな理由の為に人を殺させてたまるかよ!」
「人....はっ!人間とすら定義するのも怪しい程に身体を改造された若菜さんには似つかわしく無い言葉だ。」
『姉さんを侮辱するな!?』
「落ち着けフィリップ!
コイツをほっとくと危険だ。
琉兵衛さんも心配だが今はこっちを片付けるぞ。」
『あぁ、翔太郎。』
「初っぱなから全力だ。」
その意味を理解したフィリップはエクストリームメモリを呼び出すとドライバーに装填した。
「XTREAM」
『「プリズムビッカー」』
エクストリームに変身したWはプリズムビッカーを呼び出すと剣を抜いた。
対する加頭も杖を構える。
「良いでしょう。
相手をして差し上げますよ仮面ライダー。」
両者が走り出し一気に距離を詰めるとお互いの武器を振るう。
加頭の攻撃をWは盾で防ぎ、Wの攻撃は加頭が紙一重で回避していった。
そして、加頭はWの身体に触れる。
「少し力を頂きますよ。」
「ぐあっ!」
加頭に触れられた部分から力が抜かれている感覚を感じた翔太郎はプリズムソードを振るう。
「離せ!」
「おっと!」
そう言いながら加頭は攻撃を回避すると重力波を発生させ瓦礫を操作する。
「貴方達の強さはよく知っています。
私のメモリでも力を全て吸い取る事は出来ないでしょう。
ですが、全部で無ければ問題ない。」
加頭は浮かせた瓦礫に炎と風の力を与えた。
爆炎を上げる瓦礫を作り出すとそれをWに向かって放つ。
それをビッカーシールドを構えて何とか耐える。
「ぐっ!...クソッ!何だあの力?」
『僕達の力を吸い取った?
翔太郎!あの手に触られちゃダメだ。
Wのエネルギーが吸われる。
.....奴のメモリを閲覧した。
対抗するには吸収限界を超えるエネルギーを叩き込むしかない。』
「なら、ツインマキシマムで....一気に片を付けるぞ!」
そう言うとWはプリズムメモリをマキシマムスロットに装填する。
「PRISM MAXIMUMDRIVE」
そして、片手でシールドを持ちながら空いた手でエクストリームメモリを再展開する。
「XTREAM MAXIMUMDRIVE」
Wはシールドを前へ蹴り出すと飛び上がった。
一回転して両足を加頭に向けると急降下する。
『「
加頭は残った瓦礫を放つが全て砕かれてしまいWの両足が胸部に突き刺さる。
そこからダメ押しとばかりに両足の連打が加えられた。
大量のエネルギーが加頭に流れ込む。
「吸い切れ....な....ぐはっ!」
限界に達した加頭は爆発すると壁に吹き飛んだ。
地面に着地したWが土煙が舞う先を見つめる。
「倒した....のか?」
『恐らくは.....あれだけのエネルギーを受けたらいくらユートピアメモリでも耐えられない。』
原作と同じプリズムとエクストリームのツインマキシマムによる攻撃は凄まじいものだった。
運命により決定付けられた結末......
しかし、土煙が晴れた先にいたのはダメージを受けながらもドーパント体を維持している加頭の姿だった。
「嘘だろ?ツインマキシマムを喰らってメモリブレイク出来てねぇなんて.....」
『通常じゃあり得ない現象だ。
一体、どんなトリックを....』
Wは目の前で起きている事態を理解できていなかった。
そんな中でも加頭は笑う。
「流石は仮面ライダー....危うくメモリブレイクされる所でしたよ。
ですが、これで分かったでしょう?
貴方達では私に勝てないと?」
その姿を見て翔太郎とフィリップは戦慄を覚えるのだった。
加頭がWのツインマキシマムに耐えれた理由は簡単だった。
彼は最愛の存在を生かす為に未来を諦めたのだ。
ツインマキシマムを喰らい吹き飛ばされた加頭は何とか意識を保っていた。
(強い......ネビュラバグスターで再生能力が上がっている筈なのに....耐えられなかった。)
加頭は気付いていた今の攻撃でメモリに致命傷が出来た事を......
(このまま、ほおっておけば勝手にメモリは砕けてしまうでしょうね。
.....冴子さんを守れずに)
加頭は懐から最後のインジェクターを取り出した。
これ迄のネビュラバグスターと違い液体ではなく中身はゼリー状になっている。
財団でこれを最上から受け取った時、奴は言っていた。
「ほらよ。
ご注文通り、ネビュラバグスターが入った注射器だ。
合計で3つ入っている大事に使えよ?」
加頭は最上からアタッシュケースを開いて中の三本のインジェクターを見つめる。
「三本ですか。」
「あぁ、それが今のお前の身体がネビュラバグスターに耐えられる限界値だ。
それ以上、摂取したら本当に無事じゃ済まなくなる。
まぁ、それはそれでファンキーだがな!」
「それは分かりましたが....この一本だけ中身が違うように思えるのですが?」
「.....あーやっぱりバレちまうか?
それは新開発のネビュラバグスターだ。
液体だったネビュラバグスターを圧縮しゼリー状に加工されている。
効果は既存のネビュラバグスターの"10倍"だ。
どうだ?めっちゃファンキーだろ?」
「.....先程、貴方は私が耐えられる限界値はインジェクター三本分だと仰いましたよね?」
「言ったな。」
「この新しいネビュラバグスターをもし打ったらどうなりますか?」
「そりゃあ勿論、完全にアウトだろうな!
肉体が成分に耐えられなくなって自壊する。
ファンキーだろ?」
(やはり危険だな最上魁聖。)
きっと、加頭が聞かなければ彼は何もない顔でこのインジェクターを渡してきただろう。
彼にとって重要なのは、
ファンキーか?ファンキーじゃないか?
(財団にもマッドサイエンティストは大勢いますがその中でも一際、癖の強い男だ。
だが、それに比例して"腕も確か"だ。
彼の作る兵器に失敗はない。)
「分かりました。
こっちも貰っておきます。」
「おっ!流石は財団きってのエージェント!
思い切りが良いねぇファンキーだぜ!」
(これを射てば.....もう助からないでしょうね。
でも、この力があればこの状況を打破できる。
...良いでしょう。
私の屍が冴子さんの未来への道筋となるなら....)
加頭はインジェクターを迷わず首に刺すと中身を身体に注入した。
薬液が完全に身体に入ると変化が起きた。
(身体が熱い....燃えているみたいだ。)
加頭は立ち上がる。
全身にバグスターウイルス特有のノイズが走るが不思議と痛みはない。
立ち上がった加頭を見てWは動揺している。
(まさに、想定外と言った顔ですね。)
加頭は自分の掌を見つめる。
手から光の粒子が微量ながら放出されていた。
(これが最上の言っていた自壊ですか。
余り時間がない様だ。)
やることが山積みだ。
Wを倒して冴子さんの身柄を確保し若菜さんを殺す。
そして、残った冴子さんを新たなミュージアムのトップに据える。
私に残された時間で足りるか?
いいや違う。
間に合わせるんだ。
その為にこの命を捨てたのだから......
加頭は仮面ライダーを見つめる。
(さぁ、冴子さんの幸福のために....死んでください。)
全ては冴子への愛の為に.....
地球の本棚に琉兵衛の意識が転送されると目の前に映っていたのは地獄だった。
本棚は破壊され地面には本が散らばり周りには熱により焦げた痕が付いていた。
「これは.....」
その光景に驚いていると爆発と共に無名が此方に吹き飛ばされてきた。
「ぐはっ!」
「無名!」
琉兵衛は無名に駆け寄る。
「貴方は!?...どうしてここに?」
「文音に頼まれたのでね。
"娘達"を救って欲しいと」
「それを....信用しろと?」
「それは君に任せるよ。
私は娘達を助けられればそれで良い。」
琉兵衛の目を見て彼の言葉が真実だと思った無名は話し始める。
「ゴエティアが若菜さんの身体を使って別の存在を呼びたそうとしています。
そこでトラブルが起きてこんな事態に....」
「成る程、若菜の身体に別の魂が転送されるタイミングで冴子が干渉したからバグが起こったのか。」
「まさか、冴子さんが!?」
「あぁ、若菜の力を欲してな。
どうする?
ガイアインパクトを止める前にこの暴走を何とかしないと危険だぞ?」
「....冴子さんの干渉はどのレベルまで若菜さんの身体に負荷をかけていますか?」
「冴子は若菜の力に"触れているだけ"で取り込めてはいない。
接続を断てば切り離すことは容易だ。」
「では、問題は若菜さんの方ですね。
.....どうすれば?」
そう二人が話していると二人の前に空中に浮かんだ若菜が現れた。
気絶しているのか意識はないが周囲を赤い球体が回っている。
「本当に意識が無いようだな。
このままではろくに会話も出来ないか。」
「えぇ、何度か試みていますが......」
「.....私達が行こう。
無名はあの攻撃を何とかしてくれ。」
「勝算は?」
「私達は家族だ。
それだけで十分だよ。」
そう言って笑う琉兵衛を見て無名も覚悟を決める。
「分かりました。
貴方達に賭けます。」
「では、行こうか。」
琉兵衛の言葉を合図に二人は走り出す。
途中で無名は地面に落ちている本を回収する。
耐えず狙ってくる若菜のビームを無名は本棚を使い巧みに回避していく。
琉兵衛はビームで身体を貫かれても文音の炎による回復を使い無視してい進んでいく。
すると、ビームを発射していた球体を一つに纏め始めた。
「成る程、一撃で全身を消し飛ばす気か。」
「そんな事はさせません。
Water....Miller...起動。」
魂胆が読めた無名は先程、地面から拾い上げた本の力を発動する。
発射されたビームにWaterで発生させた水を割り込ませる。
ビームが激突した水は一瞬で沸騰すると周囲に水蒸気爆発を発生させそれが煙幕の役割を果たした。
「こっちだ。」
琉兵衛の声に振り向くと若菜の手に触れようとしているのが分かる。
咄嗟にビームを放つがそのビームは見当違いの方向に飛んだ。
そのチャンスを琉兵衛が逃がすわけもなく若菜の手に触れる。
「さぁ、若菜。
目覚める時間だよ。」
琉兵衛は自分と文音の力を使い若菜を強制的に覚醒させた。
「うっ!?......お...父様?」
「気が付いた様だね若菜。」
精神世界で若菜が目覚めたことで現実世界にも影響が起きた。
冴子の手が弾かれるとエネルギーが発生していた空間から投げ出される。
加頭は先程までのWとの死闘が嘘の様に一目散に冴子の元へと駆け寄った。
「冴子さん!....冴子さん!」
「うっ....ここは」
目を覚ました冴子に安堵する加頭。
残されたのは気を失っている琉兵衛と若菜だけだった。
「どうなってるんだこれは?」
翔太郎の問いにエクストリームで検索したフィリップが答える。
『エネルギーが安定し始めている。
若菜姉さんが意識を取り戻したんだ。』
「なら、無名とお前の作戦が成功したってことか?」
『あぁ、これで姉さんは....!?』
若菜も救われパッピーエンドで終わるかと思われたがタワーに異変が起きる。
先程まで感じていた揺れが強くなり地面の亀裂が深くなり始めてきた。
「なっ!?タワーに亀裂が起きてんぞ!?」
『度重なる装置の起動と負荷にタワーが耐えられなかったのか!』
そうしてタワーの亀裂が限界に達すると崩落を始めていくのだった。
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第二百三十一話 別たれるT/悲劇の連鎖
それは突然だった琉兵衛の活躍で目を覚ました若菜の背後に誰かが現れる。
琉兵衛は警戒するが無名はその姿に見覚えがあった。
「コスモスですね?」
無名の問いにコスモスは答える。
『久し振りですね無名。
それに園咲 琉兵衛さん園咲 若菜さん始めまして。
私の名前はコスモス。
この地球を見守ってきた超越者です。』
「君が.....」
コスモスは琉兵衛達に顔を向けると頭を下げた。
『ゴエティアが娘さんを利用したのは全て、私が原因です。
本当にごめんなさい。』
コスモスからの謝罪を琉兵衛は止める。
「貴女が謝る必要はない。
私もゴエティアを利用し沢山の人を悲しませた。
彼と私は同罪だよ。」
『無名、貴方にも迷惑をかけました。
ゴエティアとの決着も見ていました。
私達の業の後始末をして貰い申し訳ありません。』
「いえ、僕の中にはゴエティアの細胞もある。
云わば僕は彼の息子です。
親の不始末を正すのは子供の役目でしょう?」
そんな事を話していると無名の意識にフィリップが語りかけてきた。
『無名!返事をしてくれ!』
「フィリップ、どうかしましたか?」
『冴子姉さんを助けることは出来たがこれまでの負荷にタワーが耐えられなくなり崩壊が始まった。
早く、若菜姉さんを助けないと....』
「分かりました。
此方も急ぎます。」
無名はタワーの崩壊を三人に告げた。
それを聞いた琉兵衛が言う。
「ならば、急がないとね。
無名、ここから君はどうするのかね?」
「若菜さんを元には戻せましたが地球の亀裂はそのままです。
....僕はコスモスさんとそれを"修復"します。」
それを聞いた若菜が異を唱える。
「ちょっと待って!?それじゃあ無名はここに...」
「若菜.....覚悟は出来ているんだね無名?」
「はい。
ゴエティアが始めた罪は僕が"終わらせます"。」
「そうか....すまないが頼むよ。」
そう告げた琉兵衛は若菜に向き直る。
「若菜、私の残った力を使ってお前の精神を肉体に戻す。
戻ったら直ぐに来人達の元へ行くんだ....良いね?」
「どうして?何でお父様も一緒に来てくれないの?」
「若菜、ここから出れるのはお前一人だけなんだ。」
「何で....どうしてお父様!」
若菜は琉兵衛の手に触れようするがその部分が通り抜けてしまう。
「私は文音の力を使ってここに来ている。
しかし、それだけでは力が足りなくてね。
私の残りの命を使ったんだ。」
「どうしてそんな事を!?」
「愛する家族を救う為だ。
それぐらい雑作もないさ。
....若菜、これからお前には辛い道を歩ませることになる。
私の罪の清算をお前達に残すのはとても心苦しい。
でも、生きてくれ。
お前達が生きてさえいてくれれば私達はそれだけで幸せだ。」
「お父様。」
「それに、例え離れ離れになっても私達は家族だ。
この地球が存在する限り、何せ我々は地球に選ばれた家族なんだからね。」
そう言うと琉兵衛は優しく若菜を抱き締めた。
「さぁ、生きなさい若菜。」
その言葉を聞いた若菜は涙を流しながら地球の本棚から姿を消すのだった。
「無名、君には感謝している家族の命を...最後まで守ってくれたことにね。」
「...それが"契約"でしたから、多分僕も縛られていたんですね。
ゴエティアと同じく約束に」
無名が思い出したのはミュージアムの幹部として三人が集められ琉兵衛の前で契約を行った時の事....
(園咲家の者に危害を加えてはならない。
まさか、最後の最後まで守ることになるとは)
昔を懐かしく思うと二人は覚悟を決めた。
「では、始めようかね。」
「えぇ、この物語を終わらせましょう。」
無名はコスモスの精神を連れて本棚の深淵に行き
琉兵衛は残った力を使い若菜を安全に肉体へと戻す為、奔走するのだった。
意識を取り戻した若菜は崩れ去ろうとしている地面に着地した。
背後には父の肉体が浮遊している。
(お父様....)
本当なら助けたいが若菜は父に言われた約束を守る為、フィリップを探す。
すると、Wが此方に気付き叫ぶ。
「若菜さん!」
「フィリップくん!」
そのタイミングで若菜の立っている足場が崩れ始めた。
更にそこに冴子が走ってきたのだ。
二人は崩れた足場から落下してしまった。
加頭の手の中で目を覚ました冴子は辺りを見つめる。
「お父様は!?どこ!?」
「冴子さん落ち着いてください!」
錯乱している冴子を何とか押さえつける加頭だったが若菜が意識を取り戻し琉兵衛の肉体がエネルギーの中心に放置された姿を見て駆け出してしまう。
その素早い行動に加頭も一瞬反応が遅れてしまう。
「冴子さん駄目だ!」
加頭は琉兵衛へと走り出す冴子を追う。
そして、Wも解放された若菜の元へ向かっていた。
このタイミングで若菜と冴子を支えていた地面が同時に崩れる。
((このままじゃ、間に合わない。))
奇しくも互いに同じ結論がついた二人はそれぞれが決断をした。
翔太郎はエクストリームメモリを引き抜くとボールを投げる様に振りかぶった。
「フィリップ!後で必ず追い付く。
だから、それまで若菜姫の手を離すなよ!」
『分かった翔太郎!君を信じる。』
「うぉらぁ!!」
渾身の力で投げられたエクストリームメモリは落ちていく若菜へ最短ルートで近付く。
そして、若菜の元へ到着するとエクストリームメモリに格納されていたフィリップの肉体を顕現させた。
落ちていく若菜の手を掴むと崩れていくタワーから出っ張っていた鉄筋を握り二人の落下は止まった。
対して加頭は肉体に流れるバグスターウイルスの力を利用する。
全身を一度、ウイルス状に変換すると落ちる冴子へ急接近し彼女の手を掴むと実体化した。
そして、残った腕をコンクリートの壁に突き刺して落下を阻止するのだった。
二人とも大切な存在の手を掴むことは出来たが状況は悪かった。
タワーが崩落した事で崩れて剥き出しになった地下が見える。
装置により剥き出しになった地球の内包するエネルギーが溢れ出し地下空間を満たしていた。
「冴子さん、無事ですか?」
加頭がそう尋ねる。
「加頭さん、おかしいの.....
タブーのメモリが上手く機能しない。」
そう言う冴子は何度もメモリの力で浮遊しようと試すが上手く行かない。
「恐らくは、あのエネルギーに入ったことでメモリの内部データが破損したのでしょう。」
「そう....なのね。
!?あれはお父様!」
冴子が目を向けた先には未だに放出されているエネルギーの中心にいる琉兵衛がいた。
生身でエネルギーの渦にいるので肉体のデータ化が進んでおり四肢が既に失くなっていた。
「いや.....嫌よ!
お父様を連れていかせない!」
「冴子さん!?私の手を離そうとしないで!」
「でも、彼処に父がいるのよ!
もう少しで手が届く....お父様に届くのよ!」
「駄目だ....そんな事をしたら貴女が落ちてしまう!」
加頭は冴子の手を離すまいと力を込めようとするがこのタイミングで最悪な事態が起きた。
突如、加頭の身体を走っていたノイズが酷くなり心臓に鈍い痛みが走る。
それと同時に加頭の肉体の粒子化が加速したのだ。
「こん...な...時.....に!?...」
その痛みから冴子を握っている手の力が弱まる。
冴子はそれに気付いていないのか消え行く琉兵衛に懸命に手を伸ばしていた。
「だ...めだ...冴...子...さ...ん。」
「もう少しよ....もう少しで
「あ....」
一瞬だった冴子の手が加頭から離れると彼女は下へと落ちていく。
それでも冴子は琉兵衛に目を向けて手を伸ばしていた。
落ちていく冴子を加頭は見つめる。
(駄目だ....行っちゃ駄目だ.....早く戻って!)
ノイズが走りブレている手を加頭は懸命に伸ばす。
そんな彼が最後に見たのは亀裂から発生したエネルギーの暴流に飲み込まれて一瞬の内に消滅する冴子の姿だった。
「あぁぁあぁあぁぁぁあぁああぁぁぁ...」
声にもならない慟哭を加頭は放つとそのまま暴流の引き起こした爆発に巻き込まれるのだった。
加頭が冴子の手を掴んだ同じ頃、フィリップも翔太郎の機転により落下していた若菜の手を掴む事に成功していた。
「フィ...リップ君。」
「若菜さん!....手を離さないで!」
フィリップは懸命に若菜の手を握り地面にしがみつく。
だが、元々の非力さから徐々に身体が滑っていった。
それに気付いた若菜が叫ぶ。
「フィリップ君!....このままじゃ貴方まで落ちてしまうわ!手を離して!」
「嫌です!もう絶対貴女の手を離したりしない!」
「でも!」
「それに....約束したんです。
"僕の相棒"は...約束を破りません!」
その瞬間、崩落した穴から爆発が起こる。
その衝撃でフィリップは崩落した穴に若菜と一緒に落ちてしまう。
しかし、落ちながらもフィリップは若菜の手を離さなかった。
"絶対に助かる"。
その思いが落下するフィリップの手を掴んだ翔太郎により二人の命を救うことになった。
「信じていたよ翔太郎....」
「当たり前だろフィリップ。
良し今、引き上げるぞ。」
そう言うと翔太郎はフィリップと若菜を穴から引き上げると地面にへたりこんだ。
「はぁ...はぁ...流石に二人引き上げるのはキツいな。」
「少しは筋トレしたまえ...翔太郎。」
「あ?それはお前もだろフィリップ。」
「....ふふっそれもそうだね。」
二人はそう言って笑い合うとタワーの揺れが強くなる。
「こりゃヤバイな!?」
「あぁ、もうこのタワーも限界だ。」
「フィリップ、若菜姫を連れて脱出するぞ。
エクストリームだ!」
「あぁ」
二人は立ち上がるとエクストリームメモリを手に取りドライバーに装填する。
「「変身」」
その声と共にドライバーを展開しエクストリームへと変身すると若菜を担ぎ上げる。
『姉さん、もう少しだけ我慢して』
「超特急で降りるからよ。」
「えぇ、お願い。」
そう言うとWはタワーから飛び降りる。
風の力を使い落下速度を調整しながらタワーから遠い地面へと向かった。
そして、ゆっくりと地面に着地すると若菜を下ろす。
崩壊するタワーを見ながら翔太郎が言った。
「見ろよフィリップ。
あのタワーの光」
翔太郎に言われフィリップはタワーを見る。
タワーから放出されたエネルギーにより地面に及んだ亀裂がまた光ったかと思うとその光はタワーの方へ戻っていった。
『放出されていたエネルギーが元の場所に帰っていく。
亀裂も修復されているだろう。』
「てことは地球は崩壊しないのか?」
『あぁ、無名と父さんが.....命を懸けて開けられた穴の修復をしてくれた。
だからもう心配ない。』
「....そうか。」
そう話しているとスタッグフォンに着信が入る。
「ん?.....亜樹子からか。」
翔太郎は電話に出る。
「あっ!?やっと繋がった!
そっちは大丈夫なの?」
「おぅ!若菜姫もフィリップも全員助けられたぜ。」
『心配かけたね亜樹ちゃん。』
「その声、フィリップ君!?
...良かったぁ、本当に心配したよ。」
「そう言えば何で連絡してきたんだ?」
「あっ!そうそうマリアさんからの報告ね。
孤島にいたミュージアムの残党の始末は着いたって!
それに刃野さんからも連絡が来て警察の人たちも怪我人はいるけど死者は出なかったって言ってた。」
「そっか....正にハッピーエンドだな。」
「うん、あっ!それと竜君からも連絡が来たよ。
あっちの事件も解決したから直ぐに風都に戻るって...」
『照井 竜が帰ってくるなら心強いね。』
「そうだなフィリップ......!?
悪い亜樹子....ちょっと電話切るわ。」
「えっ?どうしたの翔太郎君?」
「まだ片が付いてない奴が残ってた。」
そう言って電話を切ると若菜を庇うようにWは立つ。
「お前の計画は破綻した。
もう諦めろ....加頭!」
ボロボロになりながらもWを睨み付ける加頭は言う。
「流石は仮面ライダーを名乗るだけはありますね。
見事な手腕でしたよ。」
『もう終わりだ加頭 順。
琉兵衛を失いミュージアムも何れ崩壊する。
大人しく捕まるんだ。』
「終わり...だと?
バカバカしい...もうミュージアム等、どうでも良い。
私は冴子さんを甦らせるだけだ。」
『!?....冴子姉さんはどうなった?』
「....タワーの崩落で起こった爆発に巻き込まれその肉体はデータの海に消えました。
だが、まだ間に合う。
もう一度、ガイアインパクトを起こせば彼女を甦らせられる筈だ。」
『それは無理だ。
そんな事は僕達が許さないしそれ以上にもう一度、ガイアインパクトを起こすにも装置が無い筈だ。』
「確かに...第二タワーに設置していた装置はもう無い。
新しく地球に繋がる穴は開けられないだろう。
だが、まだ"穴は一つ"残っている。
園咲邸の地下にあるあの穴ならば....使える。
後は冴子さんを蘇らせるのに必要な身体だ。
確実に甦らせるには冴子さんの精神を受け入れる受け皿がいる。」
『まさか!?』
「えぇ、"園咲 若菜"さん....貴方の身体を頂きます。」
加頭は"内部の基盤が見える程破損したユートピアメモリ"を取り出す。
『止めた方が良い。
破損したメモリを使うのは危険だ。
そんなメモリではエクストリームは倒せない。』
「確かに...普通のやり方なら無理でしょう。
ですが、この身体ならば問題ありません。」
そこで加頭の身体にノイズが入っているをフィリップは気付いた。
『その身体は一体?』
「今の私の身体には財団の所有するあらゆる力が内包されています。
その力を全て解放しメモリを使用すればどうなるか?
試すには良い機会だ。」
「Utopia」
加頭はメモリを首に押し当てる。
破損したメモリは火花をあげながら加頭の身体に取り込まれるとユートピアドーパントに変身した。
変身が完了すると全身から樹木が生え始め身体の"左半身"は土と小さな建物が規則的に等間隔で生成され"右半身"からは金属と錆びまみれの建物が不規則に生成された。
そして、顔の右肩覆っていた仮面が砕けるとそこから火傷と傷でボロボロになった顔が現れた。
「何だよあの姿は....」
『検索しても答えが出ない。
翔太郎!警戒を....』
フィリップか翔太郎にそう伝えようとすると変化を終えた加頭がWの目の前に瞬間移動してきた。
「なっ!?」
咄嗟に翔太郎が反撃しようと殴りかかるがそれを加頭は左手で止める。
突如、Wのは急激な虚脱感に襲われ膝をついてしまう。
「あ...か...」
『翔太郎!....エネルギーの吸収量が通常のユートピアを遥かに越えている。
やはり、この形態は危険だプリズムビッカー!』
フィリップがプリズムビッカーを呼び出すと盾のまま加頭を殴り付ける。
加頭は右手を握り込みエネルギーを集約させるとプリズムビッカーを殴った。
加頭から放たれた攻撃がプリズムビッカーに当たるとシールドが一瞬で分解され消滅した。
『プリズムビッカーを消滅させるなんて恐ろしいエネルギーなんだ!?』
驚愕するフィリップを余所に加頭はその拳をエクストリームメモリに放った。
『しまっ!?』
回避の遅れたWはその攻撃をもろに喰らってしまう。
パキン!....何かが砕ける音と共にエクストリームの変身が解除されると翔太郎とフィリップは気を失ってしまった。
加頭は恐怖で動けなくなっていた若菜に一瞬で接近すると首を掴み持ち上げた。
「....あっ.....う....」
持ち上げられた若菜は苦しさから少しもがくが直ぐに意識を失ってしまった。
そして、加頭は若菜の首から手を離し彼女を抱えるとその場から姿を消すのだった。
Another side
Wと加頭の戦闘を見ていた信彦はスマホを操作してロノスに連絡を取る。
「あれ、どうしたの?
加頭君には会えなかった感じ?」
「いや、会う前にドーパントになって仮面ライダーと交戦した。
そして、女を抱えて消えてしまった。」
「消えた?.....ちょっと不味いかもね。」
「不味い?
どういう意味だ?」
「僕の能力でタワーで起きた過去を見たけど加頭君、死ぬこと覚悟して色んな力を使っちゃったんだよね。
ガイアメモリ以外にもバグスターウイルスやネビュラガスも使って....そして、内部データが破損したユートピアメモリを使ってまた変身しちゃった。
そのせいでメモリの記憶が変質しちゃってるんだよ。」
「ロノス、お前の悪い癖だ。
お前の見た事は俺には分からない。
もっと、分かりやすく言ってくれ。」
「つまりは、力の暴走が起きたって事だよ。
しかも、その力に加頭君は耐えられない。
既に肉体の自壊が始まる中で力の暴走をしちゃったんだ。」
「何れぐらいヤバイ?」
「下手したらバタフライエフェクトで並行世界が繋がってこの時空が跡形もなく壊れるくらいにはヤバイね。」
「なら、止めないとな。
どうすれば良い?」
「
だとすれば続きを描けるのは物語の"登場人物"だけだ。
なら、やるべき事は一つだな。
倒された仮面ライダーの様子は?」
「見たところ致命傷は避けているが重症には変わり無いな。」
「そう....じゃあ、加頭君に会う前にそこにいる彼等を"動ける程度"に回復してあげて、なるべく早めにね。」
「加頭の計画を阻止させる為か。」
「それもあるけど余り時間をかけると"スリッパを持って頭を叩いてくる女"にかち合っちゃうからさ。
君の為だよ。」
「そんなヤバイ女がいてたまるか。」
「あはは、だよねぇ。
それじゃあよろしくね。」
ロノスはそう言うと電話を切った。
「相変わらず、勝手な奴だ。
....じゃあ、とっとと終わらせるか。」
フィリップと翔太郎の前に移動すると腹部にベルトを顕現させる。
ベルトが変形していくと中心に緑色の光を放つ結晶が現れる。
結晶が発光すると中にある"二つの石"が結晶に納められているのが分かる。
信彦は両手を二人に翳す。
すると、ベルトを通してエネルギーが掌から流れていき翔太郎とフィリップの身体に浸透していく。
二人の身体についていた外傷が治ると信彦は力を送るのを止めてベルトを体内へと戻した。
「これで良いだろう。
お前らも仮面ライダーならここからは自分達の手で決着をつけるんだな。」
気絶している二人にそう言うと信彦はその場を後にするのだった。
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第二百三十二話 決めるC/仮面ライダーとして
先に目を覚ましたのはフィリップだった。
隣で倒れている翔太郎に触れようと手を伸ばし気付く。
自分の指先が"データの粒子"になり掛けている事に...
(加頭の攻撃が僕の身体に致命傷を与えていたのか。)
フィリップは頭が良い。
だからこそ、この状況がどんな意味を持つのか理解してしまう。
(僕は....消えてしまうんだな。)
不思議と自分が消えることに悲しみは感じなかった。
一つ心残りがあるとすれば翔太郎だ。
相棒を一人残して自分が消えてしまうことに対する申し訳無さと悲しさが心をざわめかす。
(伝えないと....大切な相棒だから)
覚悟を決めて声をかけようとした瞬間、聞き馴染みのある声が響く。
「フィリップ君!翔太郎君!無事?」
「....亜樹ちゃん。」
「あっ!良かったフィリップ君!
無事みたいだ。
そこで倒れているのは翔太郎君だよね?
彼は大丈夫なの?」
「問題ない。
気を失っているだけだ。」
「じゃあ、即効起こさないとねっ!」
「ん?亜樹ちゃん!ちょっと待!?」
フィリップの静止を聞かず亜樹は持っていたマイスリッパで翔太郎の頭を思いっきり叩くのだった。
「テメェ亜樹子!!起こすにしたってもうちょっと考えろや!」
痛む頭を抑えながら翔太郎が亜樹子に言う。
「そんな事言ったって時間無いんだから仕方ないでしょう?」
「まぁ、そうだけどよ。
フィリップ、若菜姫は?」
尋ねられたフィリップが答える。
「いなかった。
加頭が連れていったんだろう。」
「そっか......でもよ。
若菜姫を拐ってどうやって人を生き返らせるつもりなんだ?」
「恐らくはゴエティアがやろうとしたことを再現するつもりなんだ。
精神だけを肉体に転送させる。
だが、こんな計画が成功する筈がない。」
「どうしてそう言えるんだ?」
「ゴエティアが成功する可能性があったのは移動する精神が超越者だったからだ。
地球の本棚は膨大なデータの塊だ。
完全にデータとして分解されれば意識や記憶も消失する。」
「お前みたいな奇跡が起こるかも知れねぇだろ?」
「かもね.....でもその確率は限りなく低い。
もし、そんな事が簡単に出来ているのならもっと地球に僕と同じデータ人間がいる筈だからね。」
「そうだな。
どう考えても若菜姫が危険だ。
早く彼女を探さないと」
そう言って焦る翔太郎にフィリップは待ったをかける。
「行き先は分かってる。
それよりも....二人にこれを見て欲しい。」
そう言うとフィリップは自分の掌を見せた。
すると、手から緑色の粒子が空へと上っていくのが見えた。
「「!?」」
「どうやら、僕の身体はもう持たないらしい。」
「おい、どう言うことだフィリップ....説明しろよ。」
「.....加頭の一撃をエクストリームメモリで受けただろう?
その時にメモリに保管されていた僕の身体に致命的なダメージを負ってしまった様なんだ。
.....明日僕が生きれる保証はない。
恐らく、データの粒子となって消えるだろう。」
「そんな!?....フィリップ君。」
「嘘だろ....フィリップ。」
「残念だが真実だ。
僕は今日.....この世界から消える。」
フィリップから告げられた真実に二人は愕然とする。
特に翔太郎は相棒であるフィリップを生かす為に頑張っていたのでショックが大きかった。
呆然とする翔太郎にフィリップは手を置く。
「ねぇ、翔太郎.....僕の依頼を受けてくれないかい?
最初で最後の....依頼を」
今はもう誰もいない園咲邸を加頭は若菜を抱えながら進んでいた。
「はぁ...はぁ...何処だ?
何処にある?」
加頭が探しているのは園咲邸にある地下空間への入口。
過去に琉兵衛が話していた地球の本棚へと繋がる穴。
(そこを見つければ
冴子の精神を地球の本棚から呼び戻すことだけを目的として園咲邸を探していく。
「無い....無い無い無い....何故だぁ!!」
穴へ繋がる道が見つからず加頭は怒りを発散するように力を発動する。
部屋の壁が砕け家具が破壊されていく。
台風の中心の様に加頭の周りにある物か破壊されていく。
力を使う度、加頭の身体の粒子化は加速していくが本人は構うことはしない。
「お前らしくないな加頭 順。」
そう言いながら彼の元へ会いに来たのは信彦だった。
「貴...方...は」
「力が暴走しているな....その影響で肉体が粒子化しているのか。
それ以上、暴れるとお前は消えて無くなるぞ?」
「そんな事....は...覚悟の上...ですよ。」
「覚悟の上...か。
最初の計画では冴子とお前の魂を
「計画なんて...変わるものでしょう?
私はそれに対応しただけですよ...」
「本当か?
俺はお前の事は知らないが仕事振りについては聞いている。
あらゆる可能性やトラブルを想定し二の手三の手を使い必ず成果を挙げる敏腕エージェントだと聞いていたが?」
「何が....言いたいのです?」
「"冷静な何時ものお前ならば目的はとうに達していたんじゃないか?"と言うことだ。」
「私が冷静じゃないと?...バカな」
「今のお前を見ていると....過去の自分を思い出す。
思い出と期待にしがみつき、自分を見て欲しいだけの為に考えを変える。
....結果、俺はなにも手に出来ずそれどころか全部失ってしまった。
お前も俺と同じ道を歩むのか?
全てを失っても尚、過去を取り戻そうとして足掻く時代に取り残された愚かな怪物である俺と....」
信彦はそう尋ねると加頭はメモリを抜いて人間の姿に戻り信彦の目を見つめる。
「.....貴方の言う通りですね。
冴子さんを愛してから私はおかしくなった。
財団のエージェントとして失格な行動をとり続け冴子さんの為に財団の技術すら利用した。
過去に私が愚かと断じた人間と同じ行動を取っている。
それも愛なんて言う不確定な物の為に.....
ですが、それでも私は欲しいのです。
手に入れられないと分かっているからこそ欲しくなるんですよ。」
「手に入れられないと理解しながら求めるのは拷問だぞ?
仮にお前の作戦が成功し彼女が生き返ったとしても彼女はお前に感謝などしないしお前に心を委ねることはない。
それはお前自信がよく分かっている筈だろう。」
「えぇ.....」
加頭は、財団のエージェント抜きにしても優秀な人間だ。
本当ならその程度の答えはとっくに辿り着いている筈だった。
だが、愛は生き物を狂わせる。
琉兵衛も文男も冴子も....皆、他者への愛から狂っていった。
人類を越えた超越者であるゴエティアですら愛の持つ魔力には逆らえなかった。
しかし、例え理解していたとしても加頭の答えは変わらない。
「例え....どんな結末になったとしても
私は冴子さんを救います。
それが消え行く私に出来る最後の事ですから....」
その覚悟を聞いた信彦は静かに目を瞑る。
それはまるで旅立つ死者を送る祈りをしているようにも見えた。
「そうか.....お前の探している穴はここの下にある。
お前の能力で掘り進めろ。
その方が早い。」
そう言いながら信彦は懐に入れていた眼魂を加頭に放り投げた。
「ありがとうございます。」
加頭を信彦に例を言うと能力を使い地面を破壊すると地下へと進んでいくのだった。
「ありがとう.......か。
お前の選択を最後まで見定めよう加頭 順。」
信彦はそう言うと園咲邸を後にしたそのタイミングで翔太郎達は園咲邸へと到着するのだった。
バイクに乗って園咲邸に到着したフィリップと翔太郎はバイクから降りる。
「フィリップ、エクストリームメモリの調子はどうだ?」
「移動中に自己修復プログラムが起動したから動かせるとは思う。
だけどもう一度、同じ攻撃を受けたらメモリは砕けてしまうだろうね。」
「そうか.....じゃあ、どうする普通のWで戦うか?」
「いや、そんな甘い考えで勝てる程、今の彼は弱くない。
こちらも、最初から全力で行くべきだ。」
「そうだな.....フィリップ。」
「何だい翔太郎?」
「俺は最後まで....お前の相棒だ。
お前と言う悪魔と相乗りしたことを後悔したことは一度もねぇよ。」
「.....僕もだよ翔太郎。
僕と言う悪魔と相乗りしてくれて...ありがとう。」
これが最後だと分かっているからか翔太郎は自分の思いを伝えると顔を両手で叩いて気合いをいれる。
「っしゃ!相棒からの大切な依頼だ。
キッチリとこなしてやるぜ。」
「そうだね....今度こそ姉さんを救おう。」
二人は覚悟を決めると園咲邸の中へと入っていくのだった。
園咲邸の地下に作られた空間....そこには始めて琉兵衛が見つけた地球へと繋がる穴、ガイアゲートが鎮座していた。
今、そのガイアゲートの上に若菜が加頭が能力で作り出した石製の十字架に縛り付けられていた。
「さぁ、始めましょうか。
冴子さん....今迎えに行きます。」
加頭が眼魂を取り出すと能力を使い若菜へと向かわせる。
冴子と同じ様に眼魂と融合させるつもりなのだろう。
しかし、その眼魂はファングメモリの攻撃により弾かれてしまった。
「まさか!....もう来たとは」
「加頭.....お前の罪は僕達が止める。」
「罪だと?最愛の存在を甦らせるのが罪だと言うのですか?」
「その為に人の命を勝手に使うのは罪だ。
それにミュージアムはもう終わりだ。
それに冴子姉さんが生き返ったとしても彼女は警察に捕まるだけなんだぞ。」
「いいえ、そんな事は私がさせません。
彼女は財団が保護します。
貴殿方に、その邪魔はさせない。」
「Utopia」
加頭はユートピアドーパントへと変身する。
「そうか....もう、言葉での説得は不可能みたいだね。
行くよ翔太郎....."最後の"」
「.....あぁ....最後の!」
「CYCLONE」
「JOKER」
「「.....変身!!」」
二人は加頭に向けて走り出す。
加頭は発火能力で地面を爆破させながら迎え撃つ。
周囲が爆発しながらも前に走りながらドライバーを展開し仮面ライダーWサイクロンジョーカーに変身する。
しかし、それよりも早く加頭はWに手を向けると大爆発を起こした。
目の前が炎に包まれWが見えなくなる、
「XTREAM」
その音声が聞こえるとプリズムビッカーを持ちながら爆炎を突破してくる"Wサイクロンジョーカーエクストリーム"がシールドで加頭を殴り付ける。
強襲に近い攻撃を受けて加頭は後退る。
「くっ!舐めるなぁ!」
加頭は右手に力を込めてシールドの上から殴り付けようとするがWはそれを受けずに回避する。
『その攻撃は一度見た!
もう受ける気はない。』
「ならば、エネルギーを吸い取ってやる。」
「待ってたぜその攻撃を!」
翔太郎はそう言うとジョーカーメモリをマキシマムスロットに装填し加頭の左手を握り込む。
「JOKER MAXIMUMDRIVE」
「うぐっ!....捕まえたぜ。」
「まさか!?吸われるエネルギーをマキシマムで肩代わりしたのか!」
「そう言うことだ。
今だフィリップ!」
『あぁ!』
「XTREAM MAXIMUMDRIVE」
フィリップはドライバーを展開しエクストリームメモリの中心から緑色の竜巻を発生させると加頭の身体を飲み込んだ。
加頭の身体は浮き上がり自由を奪われる。
その瞬間にWはプリズムビッカーにメモリを装填する。
「PRISM.CYCLONE,HEAT.LUNA,JOKER」
『「BICKER CHAGEBREAK」』
Wは七色に輝くプリズムソードを引き抜くと加頭の胸部に投擲する。
「させるかぁ!」
加頭は自分のメモリの力とさっき奪ったジョーカーのエネルギーを使い幾重にも重なる建物の盾を造り出すとプリズムソードを止めようとする。
何枚も加頭の作った盾を切り裂いて行きながらも盾一枚を残してプリズムソードの動きは止まった。
「止めたぞ。
これで終わりだ。」
そう言う加頭に翔太郎が答える。
「違うぜ加頭....言っただろうこれが最後だってな!」
「METAL,TRIGGER」
「「MAXIMUMDRIVE」」
「何っ!?」
攻撃を止めた加頭に向かってメタルメモリとトリガーメモリを装填したスタッグフォンとバットショットか向かっていく。
プリズムソードの周りを螺旋状に周りながら突撃し最後の壁を破壊した。
「トドメだぜフィリップ!」
『あぁ、来い!ファング!』
フィリップがファングメモリを呼び出すと素早く変形させマキシマムスロットに装填する。
「FANG MAXIMUMDRIVE」
ファングメモリのマキシマムが発動すると
そして、Wがドライバーに手を掛けた瞬間、フィリップが翔太郎に伝える。
『翔太郎。』
「どうしたフィリップ。」
『....."ありがとう"』
「....へっ!ハードボイルドに決めるぜフィリップ!」
Wは飛び上がるとドライバーを展開した。
「XTREAM MAXIMUMDRIVE」
そして、そのまま一回転し両足をプリズムソードへ向ける。エクストリームの竜巻を破り、Wのキックがプリズムソードを押し出す形で加頭の胸部に突き刺さる。
「があっ!....まだだ.....まだだぁ!!」
加頭は残った力を使い胸部のダメージを回復させつつWを殺す為、右手の破壊のエネルギーをWに放出した。
『「
Wの持つ全てのメモリの力が両足からプリズムソードへと流れファングの牙がWの身体を剣に変えていく。
虹色の光を放つ必殺の剣は加頭の身体を貫かんと進んでいく。
Wに向けた破壊のエネルギーすら切り裂きながら.....
(ダメだ....こんなところでは終われない。
貴女を生き返らせるまで私はっ!)
その瞬間、加頭は溢れ出るメモリのエネルギーの中から一筋の光を見つけた。
その光の中には探し求めていた冴子の姿が見える。
加頭は、懸命に手を伸ばす。
そして、加頭の手が冴子の手に触れた。
「あ....」
加頭の口からその声が漏れた瞬間、全てが終わりを迎えた。
Wの攻撃により身体を貫かれたと同時に爆発を起こす。
煙が晴れる頃にはWの後ろで倒れる加頭だけだった。
メモリブレイクされ人の姿に戻った瞬間、身体の粒子化が加速する。
しかし、彼の顔は晴れやかだった。
「やはり、負けましたか。」
そう言う加頭にフィリップが聞く。
『君はこうなることが分かっていたのか?』
「そうですね....勿論、本気で冴子さんを甦らせたいとは思ってましたよ。
ですが、同時に思っていました。
これじゃあ、冴子さんを甦らせるのが不可能だと....
ですが、認めたくなかった。
冴子さんの死を消滅をね。」
「加頭.....」
「貴方達と戦っている最中、私は冴子さんに会いました。
それが地球の記憶が見せた幻なのか現実なのかは分かりませんが......でも彼女と私の手が触れた瞬間、彼女は笑ったんです。
その優しい笑顔を見て満足してしまったのでしょうね。
結局、私は冴子さんに"笑顔でいて欲しかった"。
それの叶う理想郷を求めていただけだった。
簡単な答えだったんです。」
独白する加頭を見て翔太郎が告げた。
「加頭、お前が若菜姫を利用してフィリップの姉さんを蘇らそうとしたこと....そしてその為にこの街や大勢の人間を泣かせようとしたことは罪だ。
決して許される者じゃねぇ......でも
"人を愛したその想いは罪じゃない"。
そこだけはアンタは間違ってなかったと俺は思う。」
「........」
「つまりは....その....あれだ。
あぁ、クソッ何て言ったら良いかわかんねぇ。」
その台詞を聞きフィリップが補足する。
『相棒が言いたいのは君の行動は間違っていたかもしれないが想いや考えは否定はしない。
そう言うことだろう?』
「そうだ....いやそうなのか?
ダアッ!分かんねぇ!やっぱり苦手だぜこう言うのは....」
その二人のやり取りを見た加頭は笑った。
「ふふ....最後の最後に笑わせられるとは変な方達だ。
ですが、ありがとう....その一言を聞いただけで少し救われた気がします。
どうやら、もう限界の様だ。
これで漸く貴女の元へ行ける.....では失礼。」
加頭はそう言うと肉体が完全に粒子となり消滅してしまった。
「逝ったな.....あいつ。」
『そうだね....翔太郎。
僕もそろそろ行くよ。』
そう言ってドライバーに手を掛けようとするフィリップの手を翔太郎が抑える。
「俺に....やらせてくれ。」
『....任せるよ。』
ドライバーに手を掛けた翔太郎の頭にフィリップとの色々な記憶が蘇る。
初めて出会ったビギンズナイト。
探偵として仮面ライダーとして共に歩むことになった日々。
思い出が頭を駆け巡る度に翔太郎の目から涙が溢れ出す。
それを隣で見ているフィリップは笑う。
「泣いているのかい翔太郎?」
「バカ言うんじゃねぇよ.....」
「大丈夫だ...君一人でも風都を守っていける。
何たって僕の最高の相棒なんだから....」
「.......」
「僕が消えた後....姉さんを頼む。」
「あぁ....勿論だぜフィリップ。」
「やっぱり....君を相棒に選んで...良かった。」
「.....閉じるぜ。」
翔太郎はゆっくりとドライバーを閉じる。
その瞬間、エクストリームメモリはフィリップの魂と共に空へ消えていった。
翔太郎は帽子で顔を覆うがその顔からは涙が止めどなく流れていく。
「やっぱ....まだダメだな。
親っさんみたくハードボイルドに.....出来ねぇや。」
翔太郎は防止を深く被りながら倒れている若菜を抱き抱えると園咲邸を後にするのだった。
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第二百三十三話 決めるC/最後の贈り物
風都を地獄に落とそうとした事件は終息した。
失った者も大きく街にも傷が残った。
だが、それでも相棒から"託されたもの"は守る。
それが俺が最後に受けた絶対に破れない依頼なのだから......
事件から三日経ち........
街は平穏を取り戻しつつあった。
ミュージアムは崩壊し照井も風都に帰って来た。
俺も探偵業を再開させるべきなんだろうが.....相棒を失った心の痛みが予想よりも重くのし掛かっていた。
俺は花束を持ちフィリップが命を懸けて助け出した若菜の元へ向かう。
彼女はこれまで肉体を酷使された影響で病院のベッドで横になっていた。
病室に入ると照井と刃さんが先に入っていた。
俺を見て照井が言う。
「翔太郎、お前も来たのか?」
「大切な相棒の依頼だからな。」
「そうか.....では若菜さん今日はこれぐらいにしましょう。」
照井はそう言うと刃さんを連れて病室を出ていった。
二人がいなくなると若菜に花束を渡す。
「あら?また持ってきてくれたの?」
「手持ち無沙汰は流石に不味いだろう?
....体調はどうだ?」
「不思議だけど悪くないわ。
お医者さんの話じゃ私の身体はもう普通の人間と同じになってるみたい。
もう、地球の本棚に入る力も無い程にね。」
「良いことじゃねぇか。
元気でいることが一番だ。」
「....そうかしら?
弟の....フィリップの命を犠牲にして私は生きてるのよ?
それを納得しろって!」
「納得なんて求めてねぇ!......
フィリップはアンタの命を救う為に自分の命を賭けたんだ。
俺はアイツの相棒だ。
だからこそ、フィリップの選択を尊重するしそのお陰で生き延びたアンタが自分の命を粗末に扱ったり思うことを俺は許さねぇ。」
「.......」
「....悪い。
兎に角、早く元気になってくれ。
それが俺達の願いだ。」
翔太郎はそれだけ言うと病室を出ようと手を掛ける。
「ねぇ!...貴方はどうなの?
私の事をフィリップから託されたと言っているけどそれだけじゃないでしょう?
探偵として仮面ライダーとしてこの街を託されたんじゃないかしら?
あの子ならきっとそう言うわ。」
「.....んな事は言われなくても分かってんだよ。」
小さくそれだけ言うと翔太郎は病室から逃げるように外へ出ていった。
翔太郎は帽子を深く被り心を落ち着ける。
(依頼人を怒鳴り付けちまうなんて、
こんなんじゃ....おやっさんやフィリップにも笑われちまうな。)
翔太郎は気分を変える為にも久々に鳴海探偵事務所に向かった。
中に入ると部屋はきっちりと整理されていた。
「亜樹子が綺麗にしてくれてたのか。」
俺はフィリップがいたラボに入った。
そこは決戦に出た頃のままになっており掃除はされていなかった。
「やっぱり....ここはまだ片付けらんねぇよな。」
翔太郎はフィリップが使っていた中身が書かれていない真っ白のページで埋め尽くされた本に触れる。
中を開いてページを捲っていると外のチャイムが鳴った。
「依頼人か?」
翔太郎は玄関に戻り扉を開けるとそこには松葉杖をつきながら身体を支えている大道 マリアの姿があった。
「マリアさん....どうしてここに?」
「実は私達が風都を離れることを伝えようと思ってね。
ミーナと二人で別の街で暮らすつもりなの。
産まれてくる克己の子供と一緒に....」
「そうか.....何か困ったことがあったら直ぐに言ってくれ。
手伝うからよ。」
「ありがとう。
ここに来たのはその報告とこれを渡すためよ。」
マリアはそう言うと後ろに置いてある荷物から一つのアタッシュケースを翔太郎に渡す。
「これは?」
「坊やと無名が貴方に渡そうとしていた物よ。
私が託されたから代わりに私に来たの....」
「これを...フィリップと無名が?」
「えぇ、確かに渡したわよ。
じゃあ、これで私は行くわね。」
そう言うとマリアはその場を後にした。
誰もいなくなった部屋にアタッシュケースを置くと中を開いた。
そこに入っていたのは新造された新たな形の"ロストドライバー"と一枚のDVDだった。
翔太郎はDVDプレーヤーを事務所から引っ張り出すとDVDをセットして再生する。
映像が映るとそこはラボでありフィリップが椅子に座っていた。
『あーっ、あーっ....良し上手く撮れているな。
.....やぁ、翔太郎!これを見てるってことは....違うな。
.....翔太郎!元気でやっているかい?......これもちょっと違うか....やっぱり難しいな"映像"で何かを残すって言うのは』
始めからグダグダなスタートを見てしまい翔太郎は苦笑する。
「何やってんだよ相棒。」
そんな事を言っているとフィリップは話始めた。
『僕がこれを撮ろうと思ったのは無名に言われたからだ。
もし、僕に何があって翔太郎を一人にしてしまった時の事も考えた方が良いと言われてね。
まぁ、何もなければ中のドライバーもこの映像も流れないとは思うが....まぁ、話を進めよう。
今、君の手元にあるドライバーは"左 翔太郎専用のロストドライバー"だ。
中にはロストドライバーとデモンドライバーのデータが使われていて二つの力がハイブリッドされている。
それがあれば君一人でもドーパントと戦うことが出来るだろう。
生憎、時間が無くて完成はマリアさんに任せることになるが性能は保証するよ。
.....本当ならこれを作る気にはなれなかった。
このドライバーは保険だ。
僕が何かの要因で命を失った後、君一人で風都の街を守る為のね。
でも、僕はこの街で長く過ごしてきた。
ビギンズナイト以降、探偵として仮面ライダーとしてね。
もう僕にとってもこの街は守るべきかけがえの無い存在なんだ。
だから、翔太郎.....僕の愛したこの街を頼んだよ。
仮面ライダー....左 翔太郎。』
そう言い残してフィリップは映像を切った。
俺は相棒が残してくれたドライバーに触れる。
「....ありがとうよフィリップ。」
残された相棒の想いを知った翔太郎はドライバーに大粒の涙を溢す。
今まで抑えていた感情が吹き出した様に涙が絶え間なく流れ続ける。
一頻り泣いた翔太郎の目は涙でボロボロの顔を洗うとこれまでと違い覚悟が灯っていた。
「確かおやっさんも大事な仲間を失って暫く探偵業を休止してたよな。
なら、ここが俺にとっての"休止期間"だ。
だが、もう休むのは終わりだ。
探偵として仮面ライダーとしてこの街でやることはまだまだ残っている。
任せろフィリップ。」
このタイミングで鳴海 亜樹子が事務所に入ってきた。
翔太郎の姿を見て彼女は驚く。
「翔太郎君!?.....どうしてここに?」
「亜樹子、暫く事務所閉めてて悪かったな。
漸く決心できたわ。」
その言葉を聞いて亜樹子は笑顔になる。
「って言うことは.....もしかして!」
「あぁ、鳴海探偵事務所の再開だ。
休んだ分もミッチリ働かねぇとな。」
「....そうだね。
あっそうだ!忘れてた忘れてた。」
亜樹子はそう言うとバックに隠していたスリッパを取り出して翔太郎の頭を叩いた。
パコン!
「痛ってぇな!何すんだ亜樹子!!」
「あー、これよこれ。
やっぱり、これをしないことには始まらないわよねぇ。」
「だからって何もしてねぇのに頭叩くバカがいるかよ!」
「何もしてない?
アンタね数日、事務所休むだけで一体どれだけの損害があると思ってるのよ!
家はね弱小探偵なのよ!
ちょっとでも休みが続くだけでこの事務所の家賃すら払えなくなるんだからっ!」
亜樹子は事務所の家賃滞納の督促状を机に叩きつける。
「はぁ!?滞納ってお前.....てか、この事務所の家賃の支払いは1ヶ月前だったろ?
何でその時に払ってねぇんだよ。」
「仕方がないでしょう?
ミュージアムならやにならで忙しくて忘れてたのよ。」
「んな自信満々に言うことかよ。」
「兎に角!このままじゃ、復帰よりも先に事務所を退去しなきゃ行けなくなるからそうなる前にホラッ!持ってきた依頼をさっさとこなしちゃって」
「おっ!休んでてもやっぱり依頼は来るんだな。
.......って何で全部、ペット捜索なんだよ!?」
「しょうがないでしょう?
翔太郎君の得意分野は動物探しなんだからグダグダ言わずに働く。
....あっこれ所長命令だからきっちりと仕事を終えてらっしゃい!」
亜樹子は翔太郎の背中を押して外に放り出した。
「うおっ!?....全く亜樹子は相変わらずだな。
しゃーない、さっさと仕事を終えるとしますか。」
翔太郎はハードボイルダーに乗るとヘルメットを被る。
「行ってくるぜフィリップ。」
『あぁ、翔太郎。』
フィリップの返事が聞こえた様な気がしながら翔太郎はハードボイルダーを動かすのだった。
風の街"風都"........
この街では人も事件も全て風が運んで来てくれる。
俺の名前は左 翔太郎。
表の顔は鳴海探偵事務所で困っている街の人を助ける為に働く探偵だ。
しかし、もしこの街を泣かせる様な奴が現れたら俺の裏の顔の出番だ。
風都の平和を人知れず守る仮面ライダーと言う顔の.....
Another side
ロノスはその目で風都での物語の終わりを眺めていた。
「ゴエティア....漸く時間のループから開放されたんだね。」
ノロスもういない曾ての同胞に想いを寄せる。
「加頭君は元の流れ通り退場か......
違いがあるとすれば最愛の女性を手に掛けたか掛けないかの違いだが....まぁ、これぐらいなら良いだろう。
そっちはどうだった信彦くん?」
ロノスの問いに信彦は答える。
「お前の言う通り見つけてきたぞ。」
「それは良かった。
ところで"あっちの世界"はどうだった?」
「あぁ....中々の絶望だったな。」
「まぁ、彼処は確定された未来の中でも最悪に近い結末だからね。」
「あれが最悪ではないのか?」
「最悪は"800年前の王"に勝てず人類が完全に滅ぼされる未来だからね。
それに比べたらまだマシだよ。
それであっちの返答は?」
「お前が出した条件を聞いたら飛び付いた。
その願いが叶うなら財団に協力するそうだ。」
「良かった。
これで僕の想い描く未来に進んでいける。」
「そうか.....それで何時始めるんだ?」
「一年と少し.....かな?
それまで流れがズレ込まない様にバランスを取らないと.....とは言ってもあんまり元の流れからズレる事はしたくないしなぁ。
ちょっとあっちの方も覗いてみるか。」
ロノスは指で丸い輪を作るとその中を覗き込んだ。
「ほうほう....結構進んじゃったかな?
バースもいるしメダルも結構集まってるなぁ。
やっぱりちょっとテコ入れが必要だな。
そうだ!次いでにそれを利用してこっちの仕込みも終わらせておこう。」
ロノスはそう言うとポケットに入れていた"金色のパス"を取り出す。
「ちょっと信彦にも手伝って貰おうかな?
これから、"君の大先輩"に挨拶に行くからさ。」
「どういう意味だ?」
「だから大先輩だよ.....悪党のね。」
ロノスはパスを開くと中に"無限のマーク"が書かれた赤いチケットを差し込む。
すると、空が光りロノスに向けて空中に"列車の線路"が出現すると一台の列車が現れる。
「これはあらゆる時代を移動できる神の列車"ガオウライナー"。
この列車と僕の力を使って"過去の並行世界"に向かう。」
「過去の並行世界?」
「そう、始まりの仮面ライダーである。
"仮面ライダー1号".....彼と幾度も戦ってきた悪の組織である"ショッカー"に会いに行くよ。」
「だが、会ってどうする?
財団との協力を結びつけるのか?」
「そんな事をしなくてもアイツらは力を手に入れたら勝手に暴れてくれるよ。
時の列車を使えば"電王"も気付くだろうしね。」
そう言うとロノスと信彦はガオウライナーに乗り込む。
ロノスは先頭にあるバイクにパスを差し込むと超越者としての力の一部を開放した。
「行き先は"1971年4月3日"......
仮面ライダーが"正義のヒーローではなく悪の手先"として存在する世界。」
設定を終えるとガオウライナーは自動で動き始めた。
幾つもの時代を越え移動するガオウライナーだが、それを追いかける様に後ろから"緑色の牛の形"をした列車が追いかけてきた。
「"ゼロノス"か。
流石に嗅ぎ付けるのが早いね....でもガオウライナーが乗っているのは"神の路線"。
君達の使う"時の路線"とは格が違う。」
ゼロノスが乗る列車もガオウライナーの様に時間を移動する力はあるがガオウライナー程、遠い時間軸に行くことは出来ない。
まして、並行世界に行こうとしている列車を追うことはどう足掻いても出来なかった。
ガオウライナーが現れた光のゲートを通り残った光りに向けてゼロノスが操る"ゼロライナー"が無理矢理突破しようと突進するが光りに触れた瞬間、列車は弾かれて地面を転がりながら横転してしまった。
ゲートが消えるとゼロライナーから一人の青年と一体のイマジンが現れる。
「クッソ!やっぱりゼロライナーじゃ通れなかったか。」
列車に腕を怒りのまま打ち付ける青年にイマジンが話しかける。
「
どうしようこのままじゃ.....」
「分かってるよ"デネブ"。
しゃーねぇ歴史の介入を阻止できなかった以上、出来るのは改変された歴史を正すことだけだ。
デネブ幸太郎に連絡しろ。
この事件を解決するには特異点である幸太郎の力が必要だ。」
「分かったよ侑斗!」
そう言うとデネブは横転したゼロライナーに戻っていく。
「一体、財団Xは何を企んでやがるんだ?」
侑斗はそう言いながらガオウライナーが消えていった時の空間の空を見つめるのだった。
【原作との違い】
ロノスの介入によりオーズは映画"レッツゴー仮面ライダー"で起きた事件の解決を先にすることになる。
物語は原作通りに進むが歴史の修正にオーズが関わった影響でオーズに関連する者達の時間が他の者よりも"一年"経過することになった。
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ロスタイム
第二百三十四話 孤独なJ/漆黒のライダー
フィリップが消えて一年が経った。
俺はその間も探偵として仮面ライダーとしてこの街を守り続けてきた。
でも、未だにお前が恋しいよ....フィリップ。
風都の路地裏を逃げ回る少女と彼女に手を引かれる少年は追手から逃げ続けていた。
「
「姉ちゃん!でも俺もう....」
そんな事を話していると逃げていた先の地面に火花が起こり二人は尻餅を付いてしまう。
「全く逃げ足だけは速いな
そう言いながら現れたのはドーパントの集団だった。
「ったく、面倒かけやがって....お前がメモリを盗んだりしなけりゃこんなことにはならなかったのによ。」
そう言うドーパントに唯は怒りを現す。
「元はアンタ達が私たちの両親を襲ったのが原因でしょう!?」
「それだってお前の弟が俺達の商売を見ちまったのが始まりだろうがよ。
弟を殺さないことで手打ちにしてやろうと思ったのに反抗しやがって....その事にヘッドは酷くお怒りだ。
メモリの回収とお前達二人の命がご所望らしいぜ。
ってことでメモリの在処を言え....そうすれば苦しませずに殺してやるよ。」
「おやおや....随分と下劣な現場に出くわしてしまったようだ。」
そう言いながら"白い姿をしたドーパント"《ナスカドーパント》が少女とドーパントの間に降り立った。
「お前は最近、噂になってる風都の騎士か?」
「噂になってるのだとしたら光栄だね。
私はこの街を愛する一人の市民だよ。」
「風都の騎士だろうがどうでも良い。
ヘッドの命令は絶対だ。」
「成る程、戦う覚悟は出来ているようだね。
....ならば相手になろう。」
ナスカドーパントの言葉を合図に周りのドーパントは一斉にナスカドーパントに攻撃を加える。
「超防御」
しかし、色が変わったナスカドーパントが生成した盾が全ての攻撃を完璧に防ぎきる。
「なっ!?マジかよ!」
「次はこちらから行こう.......超高速。」
ナスカドーパントは色をまた変えると姿が見えなくなる程の速さで一瞬、動くと元の位置に戻った。
その一瞬で話していたドーパントの背後にいたドーパントの集団から火花が上がると体内からメモリが砕けて飛び出し人に戻ると地面に倒れた。
「強すぎるだろ....」
「残るは君だけだな。
君達が最近、風都にメモリをばら蒔いている
この際だヘッドの正体と目的を喋って貰おうか。」
「はっ!嫌だね。
ヘッドは何れミュージアムを越える組織の頂点に立つんだ。
その邪魔はさせねぇよ!」
すると目の前にいたドーパントは急に地面を水の様に変えて潜ると背後にいた少女の腕を掴む。
「姉ちゃん!」
「ヘッドがお前に会いたがってる。
アジトまで来て貰うぜ。」
「待て!」
ナスカドーパントは追いかけようとするがそれよりも、速くドーパントは少女を連れて地面に潜って消えてしまった。
「くっ、逃がしたか。」
ナスカドーパントはドライバーからメモリを抜き取ると人の姿に戻った。
その人物は少年に話し掛ける。
「あの子は君のお姉さんなのか?」
「....うん。
何時も僕の事を心配してくれてる。
今回の事だって本当は僕が!?」
「話は分かった。
ここは危険だ。
この名刺に書かれた場所に行くと良い。
そこに、左 翔太郎と言う男がいる。
霧彦からの依頼だと言えば彼も応じてくれるだろう。」
少年は渡されたしわくちゃの名刺を見る。
「鳴海探偵事務所?」
「そう僕と同じように風都を愛する正義の味方さ。」
何時もの様に冷たい風が吹きずらむこの風都に場違いな怒声は似合わねぇ.....特に俺のようなハードボイルドにはな。
だから、俺は怒ってねぇしこれは怒声じゃねぇ単なるクレームだ。
「一体どーなってるんだっ!?あぁん?」
「すっ...すいませんって!」
翔太郎は目の前のペットショップの店員を怒鳴る。
「おめぇ言ったよな?
「いやいや!?僕は言ってないですって!?」
「んだと...この」
「はい、翔ちゃんストップストップ!」
二人が言い争っているとサンタの帽子を被った男が間に割り込んでくる。
「おいおいサンタちゃん!
どうなってるんだよ?」
「今は店長って呼んでよ。
それよりもごめんねぇ....ほらこれで今回は許して....ね?」
サンタが差し出したネコ缶を受け取ると翔太郎は言う。
「しゃーねぇな。
サンタちゃんの頼みだ聞いてやるよ。」
「ありがとう翔ちゃん!」
「でも、次はちゃんと仕入れといてくれよ。
レジェンドデリシャスゴールデン缶!」
「もちOK!」
そうして去っていく翔太郎を見てペットショップ店員が尋ねる。
「一体誰なんですかあの人?」
その問いにサンタはカッコつけながら答える。
「左 翔太郎....どんな危機も救ってくれる。
この街の...."顔"さ。」
ネコ缶を抱えながら翔太郎は事務所に帰るとそこには車椅子に乗った若菜と照井、亜樹子、そして見たことのない少年がいた。
翔太郎を見て亜樹子が言う。
「あっ!翔太郎君帰ってきたんだ。」
「おぅ!若菜さんも来てたんだな。」
「えぇ、ミックを預かって貰っているから彼の様子を見にね。
それと、皆へのお土産もね。」
そう言って若菜が指差した方には綺麗なショートケーキが置かれていた。
警察の捜査にも協力的な若菜はこれまでの状況や境遇を鑑みて保護観察処分を受けた。
無事病院から退院は出来たが筋肉が衰えてしまったらしくまた動ける様にリハビリを行っている。
「そう言えば無名の飼ってた"リーゼ"って小猿の調子はどうだ?」
翔太郎の問いに照井が答える。
「奴なら"赤矢"が飼っている。
園咲 若菜と同じく保護観察状態で暇らしくてな本人が申し出た。」
「そうか....ってかそこの餓鬼だれだ?
まさか、照井の子供とかか?」
翔太郎の問いに照井は軽い溜め息をつきながら答える。
「はぁ、左。
俺に下らない質問をするな。」
そこに亜樹子か補足を入れる。
「依頼人だよ翔太郎君、直々のご指名でね。」
「あん?どう言うことだ?」
そう言うと少年が翔太郎に一枚の名刺を見せる。
「これって.....」
「霧彦って人に言われたんだ。
左 翔太郎って言う探偵に頼めば姉ちゃんを探してくれるって....」
「霧彦がか!.....そっか、アイツ元気なんだな。」
風都第二タワーでの決戦では顔すら会わせなかったから無事なのか分からなかったが元気なようで翔太郎は安心した。
「霧彦からの紹介なら安心だ。
それで姉ちゃんを探してくれって言うが家出でもしたのか?」
「ううん....姉ちゃんはEXEって言う奴らとつるんでたんだ。」
EXEの言葉を聞いて照井が話しに入る。
「待て....今、EXEと言ったか?
お前の姉さんはEXEと関係しているのか?」
詰め寄る照井に少年が慌てる。
「落ち着けって照井!びびっちまってるだろ。
悪いなこの兄ちゃんは"警察"の人なんだ。」
「警察.....じゃあ姉ちゃんを捕まえるの?
.....イヤだ!」
少年は翔太郎を押すと事務所から出ていってしまった。
「あっ、待って君っ!」
亜樹子が逃げる少年を追いかける様に事務所を後にする。
しかし、追いかけようとしない翔太郎に若菜が尋ねる。
「ねぇ、彼の事追わなくて良いの?」
「問題ねぇ亜樹子もいるし保険つけておいた。」
そう言うと翔太郎はスパイダーショックを操作して画面を見せた。
「さっき、発信器をつけておいたんだ。
これがあれば大丈夫さ。
それよりも照井、EXEって何なんだ?」
「.....ミュージアムが崩壊した後、"獅子神が起こした事件"は知ってるだろう?」
「あぁ俺はその時、風都にいなかったが相当ヤバかったらしいな?」
「あぁ、だが獅子神もサラも俺達、警察が逮捕した。
しかし、その影響で街のハングレや不良がチームを作り残ったガイアメモリを回収して売買を始めたんだ。
それを一手に行っているのがEXEと呼ばれる組織だ。
噂ではかなりのメモリが奴等の手に渡っているらしい。」
「マジかよ。
チッ!ったく最近の餓鬼は面倒臭い事しやがるな。」
「今回、俺がここに着たのも左達にEXEの情報を共有して捜査に協力して貰う為だ。
奴等はどうやらミュージアムの情報を持っているらしくてな。
一体どれだけのメモリを所有しているか分からない。
気を付けてくれ。」
「分かった。
んじゃ、俺は依頼人の坊主を追うとするかEXEって組織に姉ちゃんが捕まっているなら何れ弟を捕まえに来る筈だからな。」
「あぁ、頼む。
こっちも捜査は進める。」
翔太郎は照井との話をつけると若菜にネコ缶を渡した。
「後でミックに謝っといてくれ。
お前の狙ってた猫缶手に入れそびれたって......」
「ふふ...えぇ分かったわ。
何なら顔も引っ掻いて良いって言っておく。」
「おいおい、勘弁してくれよ。
事務所でゆっくりしていってくれ。
じゃ」
そう言って翔太郎が事務所を出ると若菜は不安そうな顔をする。
「やっぱり....まだフィリップ君の事を忘れられてないのね。」
若菜は見逃さなかった。
事務所から出ようとした瞬間、フィリップのラボに目を向けて何か言い掛ける翔太郎の姿を.....
「当然だろう。
左にとってフィリップとは自分の半身と言っても過言じゃない関係だった。
亡くした家族の痛みが癒えるには時間が掛かる。
それは君も同じだろう園咲 若菜。」
「えぇ.....今でも思うの。
もし、まだ私に超越者の力が残っていたらきっと自分の命を賭けてでもフィリップを救おうとしただろうって....でも私にもうそんな力は無い。
只の人間になった私に出来るのは残ったミックの世話ぐらい.....自分の無力さが嫌になるわ。」
「それは....皆同じさ。
俺も所長も左も......」
その頃、逃げた少年、晶を追いかけていた亜樹子は窮地に陥っていた。
少年を囲む様に風体の悪い青年達が立っており亜樹子は咄嗟に晶を庇う様に前に出た。
「あ?テメェ誰だよ?」
「アンタ達、子供相手にカツアゲ?
そんな事する暇あったらどっかゲーセンとかで遊んできなさいよ。」
「なめてんのかテメェ?」
ロン毛の男が亜樹子を睨みつけるがそれを止めるように真ん中の男が言う?
「おい待てよ。
ヘッドも言ってただろ?余計な死体は増やすなって....
アンタが誰か知らないけど
俺達が用があるのはそこの晶ってガキだ。
大人しくここから消えるって言うならこっちも手荒な真似はしなくて済むんだが.......」
「晶君は家の依頼人になるかもしれないのよ。
はいそうですかって渡すわけにはいかない。」
「はぁ.....なら、アンタを消すしかねぇか。」
真ん中の男がメモリを取り出すと起動した。
「
首にメモリを指すと背中にドリルの様な殻を背負ったドーパントに変身する。
それを見て晶が言った。
「お前は姉ちゃんを拐った怪物っ!」
一人がドーパントになると周りを囲っていた者達もメモリを起動し身体に挿す。
「Anomalocaris,Bat,Chicken,Diamond,Explosion,Finger,Glass,Injury」
亜樹子は大量のドーパントに囲まれ驚く。
「どっ、どんだけメモリを持ってるのよ!?」
「これも全てヘッドのお陰さ。
EXEに入るだけでメモリが貰える。
それにな功績を残せばこんな物まで渡してくれんだぜ。」
ハーミットクラブドーパントは小さなポリバックに入ったカプセルを見せつける。
それに見覚えのあった亜樹子が言う。
「それって...エンゼルビゼラじゃん。
どうしてアンタがそれ持ってるのよ!」
「ヘッドからの褒美さ。
唯を連れてったからな。
お前らの分の薬もあるんだ!絶対捕まえろよ!」
その声に周りのドーパントは興奮している。
彼等もエンゼルビゼラによるジャンキーなのだろう。
絶体絶命.....そう見える姿だが何時だって切り札は遅れてやって来るものだ。
ドーパントの頭上をハードボイルダー飛び抜けると亜樹子と晶の周囲を一瞬する。
それに驚いて距離が空くのを確認するとバイクを止めた。
「誰、お前?」
その問いにヘルメットを取り帽子を着けた翔太郎が答える。
「俺か?俺の名は左 翔太郎。
風都の悩みを解決する探偵さ。」
「は?その探偵が何の用なんだよ?」
「この餓鬼は俺の依頼人だ。
詳しい内容を聞いてもないのに逃げられてな。
追ってたらここに来たって事さ。
それよりもお前らのガイアメモリ....一体どうやって手に入れたんだ?
盗んだにしても能力の高いメモリばっかり使ってるじゃねぇか。」
「素直に話す訳ねぇじゃん。
....もう良いやどうせ死体が一つ増えるだけだ。
おい!コイツも殺るぞ!」
この声を聞いて目の色を変えたドーパントを見た翔太郎も覚悟を決める。
「やれやれ悪いことしてる餓鬼を仕付けるのも大人の役目か。」
翔太郎はドライバーを腰に着けると懐からメモリを取り出した。
「"行くぜフィリップ"......いけねぇまた癖が」
「はぁ?何それ?」
翔太郎は相手の言葉を無視してメモリを起動する。
「JOKER」
「.....変身。」
翔太郎がベルトを展開すると肉体が変化し漆黒の生体装甲を纏った戦士へと姿を変える。
「お前は!?」
「仮面ライダー......"ジョーカー"。」
翔太郎はゆっくりと敵のドーパントに指を向けて言い放つのだった。
「"さぁ....お前の罪を....数えろ"。」
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第二百三十五話 孤独のJ/新たな切り札
仮面ライダージョーカーへ変身を終えた翔太郎は
ドゴン!
拳の衝撃で爆発音が発せられるが攻撃されたドーパントはその拳を背中の殻で受けてダメージを防いでいた。
「中々に堅いな。
甲殻類の記憶の影響か?」
「はっ!その程度かよおっさん!」
反撃を加えようとするドーパントの腕をいなすとその勢いのまま背中を蹴り飛ばした。
今度は耐えられる威力ではなかったのか背中の殻にヒビが入りながら吹き飛ばされる。
「オッサンじゃねぇよクソガキ。
こりゃ、終わったら説教も追加だな。」
「何勝った気でいるんだよ!? あぁ!」
アノマロカリスドーパントが翔太郎に向けて口から歯を飛ばす。
飛んでくる弾を片手でキャッチすると地面に捨てた。
「!?」
「厄介なのは数だな。
んな長く相手にすんのも面倒だ。
しゃーねぇ、久々に"これ"使うか。」
翔太郎はドライバーを戻すとロストドライバーのソウルサイドに付けられた新しいデバイスの上面に触れる。
すると、何かを認証したのかドライバーから音声が鳴った。
「
するとベルト中心部のシャッターが開き赤い瞳の様なパーツが現れた。
それが終わると翔太郎はもう一度、ドライバーを展開する。
「DEMON」「JOKER」
その音声と共に翔太郎の変身が変化する。
両手にエターナルの様な黒と紫の炎の様な模様が浮かび上がり両目に縦の赤いラインが出ると全身から紫のエネルギーを放出した。
「何だその姿は?」
「これか?
仮面ライダー
仲間が俺の為に残してくれた力さ。」
フィリップと無名が翔太郎に残した専用のロストドライバーにはデモンドライバーのシステムが流用されておりそれがこの"デモンシステム"だった。
翔太郎は軽く片足に力を込めると一瞬の内に"グラスとインジャリードーパント"の首を掴み上げた。
「ちょっと痛てだろうが我慢しろよ。」
翔太郎はそう言うと両手に紫色のエネルギーを纏い二体のドーパントごと回転し両者を壁に投げつけだ。
壁に激突したグラスとインジャリードーパントは爆発するとメモリブレイクされ元の人の姿に戻り気絶してしまう。
「は?」
圧倒的と言うより呆気なさ過ぎる瞬殺に呆然としていると今度はダイヤモンドドーパントの腹部を翔太郎は蹴り上げた。
かなりの威力で後ろに戻されるが直ぐに立ち直り翔太郎に向かおうとするが突如、蹴られた腹部が爆発しメモリブレイクされた。
ここまで来て漸くハーミットクラブドーパントは目の前の仮面ライダーの異質な強さに気付く。
「奴を近付かせるな!
遠くから攻撃しろっ!」
焦りながらも的確な命令を受けた他のドーパントは命令に従い遠距離攻撃を主体とした戦法に変える。
「そっちがそう来るならこう言うのはどうだ?」
「METAL」
「DEMON」「METAL」
翔太郎はメモリチェンジを行うがそのタイミングでエクスプロージョンドーパントの爆破攻撃が直撃した。
凄まじい爆発と共に翔太郎は炎に包まれる。
「やったか?」
その声を否定するように爆炎の中から翔太郎は現れた。
銀色と白で構成されたカラーリングの中で両手に赤黒いラインが入っていた。
「仮面ライダー
そんな攻撃じゃ、傷一つ付かねぇよ。」
翔太郎は背中から取り出したメタルシャフトを手に持つとエクスプロージョンドーパントに走っていく。
「くっ!来るなぁ!」
エクスプロージョンドーパントは叫びながら翔太郎を何度も爆発させるが効果はなくメタルシャフトで胴体を打ち抜かれてしまう。
「ぐぁあ!」
飛びながらメモリブレイクされた男は転がりながら気絶した。
「ふっ....ふざけんな!
そんなのズルだろうがっ!」
「なら、二人がかりだ!」
フィンガードーパントとチキンドーパントが翔太郎に攻撃するがキン!キン!と堅い金属を叩く音しか鳴らずダメージは与えられなかった。
「諦めな。
この姿の俺は加減するのが難しいんだ。
攻撃よりも防御に気を回せ。」
そう言うと翔太郎は持っていたメタルシャフトをフィンガードーパントに投げつけ右腕に力を込めるとチキンドーパントの首を狙いラリアットを打ち込んだ。
攻撃を受けた二体のドーパントはメモリブレイクされると地面に倒れ気絶した。
残ったのはアノマロカリスとバット、そしてハーミットクラブドーパントだけである。
「何だよそのデタラメな強さは....チートだろっ!?」
「チートか....まぁ、否定はしねぇよ。
デモンシステムを使ったこの形態は常時マキシマムを発動しているのと同じレベルのエネルギーを発している。
つまり俺の攻撃に当たっちまったら最後、並大抵のドーパントだと耐えられずメモリブレイクされちまう。」
そう説明するとバットドーパントが言う。
「クソッ!勝てねぇなら逃げるだけだ!」
バットドーパントは逃げる為、空に飛ぼうとするが突如放たれた黒と紫のエネルギー弾の直撃を受けて爆発しメモリブレイクする。
見ると翔太郎はまたメモリを変えており今度は青色のカラーで両手に灰色のラインが入っていた。
「仮面ライダー
俺の銃口からは逃げられないぜ。」
「チッ!なめんなぁ!」
アノマロカリスドーパントは翔太郎に歯の弾丸を連射するがそれに応対する様にトリガーマグナムの引き金を引いた翔太郎の弾丸は相手の弾丸を全て砕きアノマロカリスの身体に突き刺さった。
「ぐぁぁあ!....嘘....だろ!?」
メモリブレイクされ呆然としながら倒れ気絶し残ったハーミットクラブドーパントはその光景を見て驚愕する。
「聞いてねぇぞ仮面ライダーがこんなに強いなんて....くっ!」
ハーミットクラブドーパントは地面を水の様に変えて潜る。
「あん?逃げる気か?
させっかよ!」
翔太郎はハーミットクラブドーパントがいた地面にトリガーマグナムを乱射する。
すると、その中の一発がハーミットクラブドーパントに当たり弾が当たった肩を抑えながら地面から飛び上がった。
「この形態のトリガーと弾丸を受けてメモリブレイクしてねぇとはな。」
「ふざけんなよ.....ヘッドは命令は絶対だ。
俺がこんなところで失敗する訳にはいかねぇんだよ!!」
ハーミットクラブドーパントは持っていたエンゼルビゼラを全て口に放り込むと一気に噛み砕いた。
「アイツ、エンゼルビゼラ食ったのか!?
何て無茶しやがる。」
「うぉぉああああぁ!!!」
大量のエンゼルビゼラの服用によりメモリとの適合率が上がったハーミットクラブドーパントは肉体が巨大化し両手が巨大な鋏に変わり背中の殻が更に禍々しく変化した。
「喰らえぇぇぇ!!!」
背中の殻についたトゲをハーミットクラブドーパントはまるでミサイルの様にして翔太郎に放った。
翔太郎はトリガーマグナムでトゲを撃ち落としながらドーパントを観察する。
「大量のエンゼルビゼラの服用でメモリの力が暴走してやがるな。
こりゃ、早くメモリブレイクしてねぇと不味い。」
翔太郎はジョーカーメモリをドライバーに装填しデモンジョーカーに戻るとジョーカーメモリをマキシマムスロットに装填した。
「JOKER MAXIMUMDRIVE」
「アグァァああ!!」
「もう暴れんな!直ぐ助けてやるからよ。」
翔太郎は右の拳にエネルギーを充填させると構えながらハーミットクラブドーパントに向かう。
迫り来る攻撃を回避しながら飛び上がる。
「ライダーパンチ!」
そのまま、顔面を殴り付けハーミットクラブドーパントを地面に倒すとそのまま一回転し左足を相手に向けると今度は左足にエネルギーが纏われた。
「ライダーキック!」
急降下しながら放たれた必殺キックがハーミットクラブドーパントに当たると大爆発を起こしメモリブレイクされた。
目の下に隈が出来る程、疲弊してはいるがエンゼルビゼラの副作用はメモリブレイクと共に無効化出来た。
「罪の清算は牢屋の中でするんだな。」
翔太郎はそう言うとドライバーに触れてデモンシステムを解除する。
「DEMON system off-line」
ドライバーの赤い瞳の様なパーツにシャッターが降りると翔太郎の変身が解除された。
ドライバーを腰から外すと亜樹子達に話し掛ける。
「亜樹子!無事か?」
「何とかね。
ほら、依頼人も無事だよ!」
「そりゃ良かった。」
安心する翔太郎に晶が尋ねる。
「もしかして....おじさんが風都で有名な仮面ライダーなの?」
「おじっ!?.....んんっ!
まぁ、そうだな。
俺は探偵で仮面ライダーだ。
改めて依頼内容を聞いて良いか坊主?」
「坊主じゃない....名前は晶だ。」
「そうか、じゃあ晶。
依頼について詳しく教えてくれ。」
晶は翔太郎が仮面ライダーだと知り信頼したのか自分の知る全ての情報を彼と亜樹子に話すのだった。
最初は"小遣い稼ぎ程度の軽い気持ち"だった。
弟である晶に唯はそう告げた。
偶然、唯は落ちていたガイアメモリを拾い魔が差してしまった。
拾ったガイアメモリを売る為にEXEに渡すと学生では到底稼げない金額を唯に渡したのだ。
そして、EXEのメンバーは唯を仲間に誘った。
最初はその申し出を断った。
ヤバい奴等なのは知っていたし一回限りの付き合いになる筈だった。
でも、父が"風都第二タワー"で起きた事件に巻き込まれて大ケガを負ってしまった。
その治療費や二人の学費で家計が苦しくなり唯は家族を助けるためにEXEのメンバーになった。
彼女の役割は運び屋でありメンバーが盗んだメモリを警察にバレない様に運ぶことだった。
唯は深夜何時もの様にメモリを運ぼうとしていると家を出た所を不信に思った晶が跡をつけて更に犯罪をしている現場を目撃されてしまった。
唯はメンバーを説得し弟を助けようとするが犯罪の露呈を恐れたEXEのリーダー"ヘッド"と呼ばれる者の命令で晶と母が襲われた。
母が自分の中の身体を盾に晶を守ったがそのせいで母は意識不明の重体となった。
弟を狙われた唯はEXEを抜ける決心をして弟と共に逃亡したのだ。
「話は分かった。
んじゃ、どうしてEXEはお前達、兄弟を狙うんだ?
見たことろお前を捕まえようとしてたが」
「.....姉ちゃんはEXEで運び屋の仕事以外にも運んだ荷物の管理も任されていたらしい。
それで姉ちゃんは母さんを襲われた腹いせにヘッドが大切にしていた物と"あるメモリ"を盗んだって言ってた。」
「何てバカなことを.....つまりそのせいでお前らは追われる立場になったって訳か。」
「このままじゃ、姉ちゃんが殺されちゃう。
ねぇ、おじさんは仮面ライダーなんでしょ?
ねら、EXEをやっつけて姉ちゃんを救ってよ。」
「........」
晶の言葉を聞き翔太郎は黙ってしまう。
それを疑問に思った亜樹子が尋ねる。
「どうしたの翔太郎君?」
「俺がお前の姉さんを助けた後、お前はどうするんだ?」
「え?.....それは姉ちゃんと家族の皆でまた」
「姉ちゃんの罪に目を瞑って....か?」
「!?」
「確かにお前の話には同情の余地がある。
だが、そもそものキッカケはお前の姉さんがEXEと関わったからだろう?
それも小遣い欲しさに.......」
「それは......」
「ここでちゃんと罪を償わなかったら姉さんを助けたとしてもまた同じ状況になったら繰り返すぞ。
何故ならお前達にとってその行為は家族を助ける正義の行動になっちまってるんだからな。」
「.....じゃあ、良いよ。
他の人に頼る。」
「他の人って......姉さんはお前の家族だろうがっ!」
「だって僕は子供なんだよ!?
僕に姉さんを助ける力なんてある訳ない。
半人前の僕に何が出来るって言うんだよ!」
「半人前って言葉に逃げてんじゃねぇ!
完璧な人間なんて誰もいないんだ。
大人もそうさ....俺だって....相棒がいなけりゃ何も出来ないハーフボイルドな男なんだよ。」
「じゃあ、その相棒に頼れば良いじゃないか!」
「......もういない。
俺の相棒はもうこの世にいない。」
「.....え?」
感情的に反論した晶だったが翔太郎の独白を受けて固まってしまう。
「...覚えておけ晶。
本当に大切な物はな失って初めて気付くんだ。
そうなってからじゃ遅いんだよ。
姉さんを大切に思ってんなら何でもかんでも誰かに頼ろうとすんな。
姉さんの事を思うならちゃんと!.....罪を数えさせてやれ。」
「僕には....分かんないよ。」
そう言って晶は翔太郎の前から逃げる様に去っていった。
「ちょっと晶くん!?.....翔太郎君!依頼人に対してその言葉遣いは配慮にかけてるよ。」
「....悪い亜樹子。
ちょっと熱くなりすぎた。」
「....でも、翔太郎君の言ったこと私は間違ってないと思う。
だから、晶くんは私に任せて!ちゃんと見張っておくから!」
そう言うと亜樹子は晶を追っていくのだった。
「ったく...亜樹子もちゃんと所長らしくしやがって.....なぁ、フィリップ?
俺は本当に.....お前の信じた探偵で仮面ライダーになれていんのかな?
このドライバーがたまにとても重たく感じるんだ。
....駄目だな。
俺もあの餓鬼の事を言えねぇわ。
ハーフボイルドのままで何も成長してねぇよ。」
そんな事を言ってるとパトカーのサイレン音が聞こえてくる。
突入前に照井に連絡した奴等だろう。
「....愚痴るのはここまでだな。
まだ、依頼は始まってすらいねぇんだからよ。」
翔太郎はそう言って帽子を被り直すのだった。
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第二百三十六話 不穏なO/残された謎
「相変わらず事件を嗅ぎ付ける鼻は良いな翔太郎。」
現場の保存が終わり倒されたEXEのメンバーを全員逮捕し終わった刃野が愛用のツボ押しを使いながら第一発見者の翔太郎にそう言う。
「まぁ、これでも探偵だからな刃さん....いや"刃野班長"って呼べば良いか?」
「おいおい止めてくれよ翔太郎。
只でさえ俺には不釣り合いな立場なんだ。
むず痒くて仕方ない。」
風都署の超常犯罪捜査課は風都第二タワーの一件以降、再編成が行われ本庁からも人員が送られ増員された結果、15~20名に分けられた3チームで捜査を行う形式に変わった。
刃野や真倉は先の功績を認められチームの班長に就任したのだ。
因みに班により目的は変わっており課長である照井が主導する一班はドーパントに対する実力行使を目的としその他、捜査は刃野と真倉が班長を勤める
閑話休題
二人が話し込んでいるとそこに照井が現れる。
「ご苦労様です照井課長。」
「刃野班長も現場の保全ご苦労....報告を」
「は!....やはりEXEの連中ですね。
全員、仮面ライダーに倒されていますが意識はハッキリしています。
病院で検査を終えたら真倉の班が直ぐに事情聴取を始めます。」
「良し...刃野班長は周囲の聞き込みを頼む。
奴等の行き先を見ていた者がいるかもしれない。」
「了解しました。
じゃあな翔太郎、また風麺で一杯飲もう。」
そう言うと刃野はその場から離れていった。
「左、率直な意見が欲しい。
奴等と戦ってどう思った?」
「そうだな......"メモリの質が良すぎる"。
EXEのメモリの入手手段は盗みだろ?
それにしては使っているメモリは質が良く量産型が少ない様に思えた。」
「やはりか。
奴等の使っているメモリは質もランクも高い。
たまたまそう言ったメモリを手に入れたとしても偶然が続きすぎている。」
「じゃあ、EXEは意図的にランクの高いメモリを盗んでいるって言うのか?
半グレの集まりがどうやってそんな情報を....」
「俺も気になって調べてみた。
これはこの一ヶ月でEXEによってメモリの盗難が行われた場所のリストだ。
廃倉庫や研究所、会社に偽装した建物等、色々あるが一つだけ共通点があった。
どの建物も"ある人物"が一度所有していたんだ。」
「そりゃ、誰だ?
園咲家の連中か?」
「いや、名前は"伊豆屋 忠信"。
井坂を信奉するシンパだった男だ。」
「マジかよ!?
そんな奴がいたのか?」
「あぁ、俺も何度か会ったことはある。
奴は井坂と言うメモリの怪物に心酔し奴にメモリや過剰適合者の斡旋も行っていた。
だが俺が井坂を倒した後、奴は風都から忽然と姿を消していた。
奴は井坂の為に大量のメモリをコレクションしていた。
それがEXEに流れたのなら左のメモリの質に対して説明がつく。」
「伊豆屋の居所はわかんねぇのか?」
「懸命に捜索しているが手掛かりすら無い。
まるで"風都から存在ごと消えてしまった様"に痕跡が断たれているんだ。」
「そうか....なら、現状は晶の依頼をこなした方が進展しそうだな。
こっちでも何か分かったら報告する。」
そう言うと翔太郎は早速、発信器を起動し逃げていった晶を追うのだった。
Another side
偽名で借りているビルの一室にEXEのメンバーが集められていた。
メンバーが見つめる方向には彼等が信奉するカリスマであるヘッドと協力者を名乗る伊豆屋が座っていた。
「それで?唯の件は結局どうなったんだ?」
そう尋ねるヘッドにメンバーの一人が怯えながら答える。
「それが.....仮面ライダーの邪魔が入って弟を逃がしちまって」
「あ?奴等にはそこそこ強力なメモリを与えた筈だろう?
なら、傷の一つや二つは付けられたんだろうな?」
「実は...その戦いを見ていた奴からの話では...全く歯が立たず全員、瞬殺されたと」
「あ!?」
「すっ....すいません!」
怒るヘッドの声を聞きメンバーは萎縮するが伊豆屋は想定通りの口調で話し始める。
「やはり、普通の手段じゃ仮面ライダーに勝つことは不可能か。
今の仮面ライダー相手では私の持つ"コレクション"を全て使っても勝つことは出来ないだろうな。」
「おいおい、伊豆屋さん...冗談でもそんな事は言って欲しくねぇな。
確かにアンタにはメモリをくれた借りはある。
だが、俺はこのEXEを風都を裏から支配する"第二のミュージアム"にするって野望があるんだ。
もし、裏切ったり逃げようなんて考えているのならここで死んで貰う事になるぜ?」
ヘッドは自分のメモリを伊豆屋に見せつけながら脅す。
しかし、その懸念とは打って変わって伊豆屋は冷静だった。
「勘違いしているようだが私は"普通の手段"では勝ち目が薄いと言っただけだ。
"普通じゃない手段"ならば方法は山程ある。
......盗まれたメモリは見つからなくても"アダプター"は取り返せたのだろう?
ならば、それを使いエサを撒き仮面ライダーをおびき寄せる。
そして、まだ変身してない絶好のタイミングで命を奪えば良い。
狩人の様に息を潜めてな.....」
「成る程、だが具体的にどうする?
仮面ライダーが食い付くエサなんてあるのか?」
「あるさ。
私は風都を離れてからも"協力者の管理する街"でずっと彼等を見てきた。
だから分かるのさ仮面ライダーの弱点がな。
漆黒の仮面ライダー....確かジョーカーと言ったか?
奴の弱点は相棒が残した形見である"園咲 若菜"だ。
病院のカルテを手に入れて分かったが今の彼女にはもうあの超常的な力は無い。
車椅子に乗る非力な女性になった。
誘拐するのなんて難しくない。
問題はどうやって彼女のいる場所から誘拐するかだ。
彼処は
目的を悟られたら成功する確率はほぼ無いだろう。
.....お前からメモリとアダプターを盗んだ
「唯ならEXEを裏切った粛清をする為にも生かしてある。
EXEを裏切り逃げられると思うバカどもへの見せしめにする為にな。」
「そうか....ならば丁度良いな。
その女を使うとしよう。
構わないか?」
「それで俺の目的が達成できるなら何の問題もねぇ。
だが、どうするんだ?
もう、拷問してもろくな情報は吐かねぇぞ?」
「そんな事は求めてない。
少し昔話をしよう。
私は元々、不治の病を患っていて余命幾ばくも無かった。
名医と呼ばれる者を金で呼びつけて治させようとしたが結局、誰一人私を治せる者はいなかった。
井坂先生を除いて.....
どうやって私の身体を治したと思う?
彼は私にエンゼルビゼラを与え"バイラスメモリ"を挿した。
そして、バイラスメモリの持つ力で病魔に犯された細胞をウイルスで死滅させたのだ。
こんなことはまともな医者じゃ試そうとすらしなかっただろう。
だが、そのお陰で私はもう一度、生を得た。
それから井坂先生の考えやメモリと毒素について理解を深めることで井坂先生こそこの人類を救う神になられる方だと分かったんだ。」
「だが、その井坂先生は
「古今東西、人が神になるには死と言うファクターが必要不可欠だ。
イエス・キリストも張り付けにされ命を亡くし事で人を捨て神になったのだから.....
井坂先生はメモリユーザーにとっての神だ。
ならば、私はヤコブとなろう。
彼の思想や願いをこの世界に広める事こそ私の役目だ。」
「お前の話は分かったが結局どうするんだ?」
「私としたことが少し熱くなりすぎた様だ。
つまり私は井坂先生の残した物を伝えるためにその技術をこの身に体得している。
過剰適合者の選別からメモリの改造方法.....それに"エンゼルビゼラの薬効操作"もね。」
「エンゼルビゼラ.....成る程。
唯をジャンキーにさせるのか。
優しい顔をしておっかない考えをするな伊豆屋さん。
アンタが恐ろしく感じるぜ。」
「恐ろしい?.....それは良い。
神の意向とは本来、恐れ敬われる物。
私のこの行動が井坂先生を人の領域を越えた神へと昇華させのだ。」
伊豆屋の目はそこにいる誰よりも濁り狂っていた。
彼にとってはEXEに手を貸しているのも井坂と言う存在を神とする作業の一つでしかないのだろう。
井坂はガイアメモリと毒素に見いられた狂人だったがそれを理解し信奉する伊豆屋はそれ以上の思考回路を持つ狂人だったのだ。
だが、ヘッドにとってそんな事は些末な意味しか持たない。
EXEをミュージアムを越える風都の裏を支配する闇の組織にして今まで見下してきた者達を見返す。
その目的の為ならば彼は狂人とも手を組む。
その先にある未来が風都の破滅だったとしても......
Secret side
地球の本棚の更に下にあるかつてゴエティアが縛り付けられていた深淵の空間。
その空間に今にはコスモス、ゴエティア、そして無名は中心の緑色の光に目を向けていた。
「上手くいきそうなのか無名?」
そう尋ねるゴエティアに無名は答える。
「えぇ、多少時間は掛かりましたがあの少しです。」
そう言う無名にコスモスは悲しい顔をしながら尋ねる。
「でも、本当に良いの無名?
これが成功したら貴方はもう.....」
「覚悟は出来てます。
それこそ、ゴエティアと決別したあの日から.....」
「だが、間に合うのか?
この世界は私と
間に合った頃には"相棒"は死んでしまった......ではそれこそお前の行動は無駄になってしまうぞ?」
「ちょっとゴエティア!?
そんな言い方しなくても良いでしょう?
元々は私達、超越者が起こした失態の尻拭いをして貰っていると言うのに......」
「だからこそ、私達二人は無名の考えに賛同し協力しているのではないか?
リスクをちゃんと理解した上で行動する。
そうすれば後悔も生まれないだろう?
だがまぁ、私達二人が協力するのだ。
そんな可能性は万に一つもあり得ないがな。」
「そうね。
物語りはハッピーエンドが一番だものね。」
にこやかに微笑むコスモスを見ながら無名とゴエティアは緑色の光を放つ存在の構成を再開していく。
光の中で形づくられていくフィリップを見つめながら......
ロノスはガオウライナーの中でこれから先の未来をまた盗み見ていた。
その手には"金色のガイアメモリ"が納められている。
そこには信彦と黒いローブを羽織った男が立っていた。
信彦がロノスに尋ねる。
「ロノスどうだ?
お前の望む未来は来そうか?」
「うん、流石はゴエティアとその肉身を分け与えられた無名だ。
これなら、きっと上手く行くさ。」
「随分と嬉しそうだな?」
「そりゃ、だってゴエティアが本当の意味で元に戻ったんだ。
嬉しくもなるさ。」
ゴエティアは地球の本棚を書き換える際、自分の存在を切り取って改変に使うエネルギーを賄っていた。
記憶の存在となったゴエティアにとってそれは意思と記憶を少しづつ捧げるのと変わりがなく長く改変を続けたことで彼の精神は限界に達してしていたのだ。
「今の彼はコスモスと同じく超越者の力を失い記憶のみの存在になった。
改変は出来ないが精神汚染される心配もない。
だからこそ、ゴエティアは無名と協力できているのだからね。」
「そうか.....だが、それにしても驚いたぞ。
お前が
「まぁね。
こっちとしても想定外だったんだよ。
まさか、ショッカーグリードにアンクが吸収されるなんてね。」
ロノスはとある目的の為に並行世界のショッカーに"ショッカーメダル"を与え、そこから"ショッカーグリード"が誕生した。
だが戦いの最中、アンクがショッカーグリードに吸収され持っていた全てのコアメダルが奪われてしまったのだ。
想定外の事態にロノスは早速取引を交わした黒いローブの男をこの並行世界に呼び寄せた。
彼は映司を見るなり"タカ、トラ、バッタ"のコアメダルを渡して窮地を脱すると分離したアンクが奪い取った"ショッカーメダル"と共に戦った"モモタロス"と言うイマジンから生成した"イマジンメダル"を使った"タマシーコンボ"で勝利を収めた。
そして3つのメダルを映司から返して貰うとその場を後にするのだった。
ガオウライナーに乗った男は映司と掴んだ自分の手を見つめる。
「やっぱり並行同位体の方でも生きている火野 映司に触れられて嬉しかった?」
ロノスの問いに怒りを覚えたローブの男は怪人化した右腕でロノスの首を絞め上げながら持ち上げる。
「勘違いするな....同じじゃない。
アイツが共に歩んでいるのは俺じゃない。
まだ、自分の欲望にすら気付いていないちっぽけな俺だ。
オーズを利用することしか考えてない片腕でしか生き帰れなかった哀れなグリードだ。」
「へぇ.....彼も君と同じ道を歩むと...そう思っているのか?」
「グリードは永遠に満たされることの無い欲望を持たされた怪物だ。
欲望が満たされても"まだ....まだ...もっと"と求めるに決まっている。
俺自身がそうなんだからな。」
「成る程ね。
あっ、一つアドバイスすると僕のこの身体はあくまで僕の"精神を乗っける受け皿の意味"しかないから痛め付けようが殺そうが意味はないよ?
そんなにカリカリしなくてもちゃんと君の願いは叶えるさ。
何たってこれは僕自身の願いでもあるんだから....」
ローブの男はロノスを乱暴に離すとドアを開けて出ていってしまった。
それを見た信彦が尋ねる。
「ほおっておいて良いのか?」
「うん、問題ないよ。
いくら強い言葉を吐いたって彼には選択肢なんて始めから無いのさ。
例え、自分の力を利用されているとしてもそれの先にしか彼の求める結論には辿り着かない。
だから、安心して良い。
けど、意外だったよ。
この提案は君も乗ると思ったのに....」
「確かに俺にもやり直したい過去や生き返らせたい人はいる。
.....だが、それでは過去の俺と変わらない。
俺は死んだ人の意思を受け継ぐと決めた。
光太郎と同じ様にな。」
「へぇ.....強いんだね君は
僕や彼よりもずっと....」
「さぁな.....俺も風を浴びてくる。」
そう言って信彦が出ていくとロノスはメモリを見ながら呟く。
「強いよ...君達は
何千何万の時を生きてきた僕達よりもずっと分かってる。
羨ましく思える程に....でもだからと言って止まる時間はないんだ。
例え、僕達の願いの先に何万何億の屍が積み上がったとしても僕は手に入れる。
あの頃と変わらぬ景色の為にね。」
ロノスは手に持ったガイアメモリに過去の記憶を重ね合わせる。
"友だった者の記憶が入った"メモリを手に持ちながら......
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第二百三十七話 不穏なO/少年の巣立ち
EXEは中高生や半グレがメンバーの大半を占めているからそこら辺の噂話に詳しい。
クイーンとエリザベスに話を聞きに言った。
「あー、EXEね。
噂なら聞いてるよめっちゃヤバい組織だって...」
「そうそう!!
家の学校でも話題になってるよ。」
クイーンとエリザベスがそう言う中で翔太郎が尋ねる。
「そのEXEが集まりそうな場所について何でも良いから知らねぇか?」
「集まる場所かぁ.....アイツらってそこら辺のセキュリティが堅いって有名なんだよね。
聞いた話じゃ、アジトに入れるのは幹部クラスだけで他の奴等はSNSで指示されるだけらしいし」
「そうそう、だから警察も中々捕まえられないって言ってたよね。」
そう言って二人はケータイを弄っていると二人とも同じタイミングで手を止めた。
「何これ?冗談にしても笑えないんだけど?」
「どうした?」
「これ!EXEについて調べてたら新しいサイトが出来た見たいでこんなのが!?」
エリザベスが出した画面に写っていたのは"両手足が縛られた唯の姿"と"早い者勝ち....風見ボーリング場に来たら彼女を上げます"と書かれていた。
「姉ちゃん!?」
「EXEの奴等....ふざけやがって!
亜樹子、照井に連絡して応援を呼んでくれ。」
そう言ってバイクに乗り込もうとする翔太郎を晶は止める。
「僕も行く。」
「餓鬼は足手まといだ。」
「この依頼をしたのは僕だ.....僕は僕の責任を果たしたいんだ。」
晶の目を見た翔太郎は折れた。
「.....後ろに乗れ。
無茶はすんなよ。」
そう言うと晶を乗せたハードボイルダーは風見ボーリング場へ向かうのだった。
経営不振で閉店した筈の風見ボーリング場に明かりが灯っていた。
中心には両手足を縛られた唯が倒れており周りにいる者達の表情は明らかに普通じゃなかった。
爪を噛みながら周囲を歩き続ける者、急に笑い出したかと思えば無表情になる事を繰り返す者、ボーリングの玉でガラスを割る等の奇行に走っていた。
そうしていると翔太郎が入ってくる。
それを見た者が言い始めた。
「来た?」「あぁ、来たな。」「待たせ過ぎだろ?」
「一人か?」「多分な?」
「いくら悪ガキでもこれはやり過ぎだぜ?
今、解放するならお仕置きが少しは軽くなるがどうする?」
「何言ってんのコイツww」「良い年してヒーロー気取りかよ。」「うっざ!死ねよ。」「あぁ、イライラしてきたなぁ......」
其々がそう反応するとメモリを取り出す。
「「「「「「Cockroach」」」」」」
メモリを挿し込みと全員がコックローチドーパントに変わる。
「聞く耳持たず.....か。
しゃーねぇ、お仕置きだ悪ガキども」
「JOKER」
「....変身。」
翔太郎は仮面ライダージョーカーへと変身する。
「さぁ、お前の罪を数えろ。」
「うるせぇ!殺っちまうぞ!?」
無意味に吠えるコックローチドーパントの一体に翔太郎は拳を握ると殴り付けた。
「ぐはっ!」
「先ずは大人への正しい話し方から教えてやるよ。
全員まとめてかかってこい!」
翔太郎がボーリング場で戦っている頃、照井は伊豆屋の消息を追っていた。
だが、捜査は進展していなかった。
「ここもハズレか。」
照井は伊豆屋が過去に所有していた建物を中心的に捜査した。
手掛かりが伊豆屋しか無い以上、それ以上の手段が思い付かなかった。
照井が現れたのは伊豆屋が所有していた別荘だった。
だが、手入れがされていないせいで外も中も荒れ放題になっていた。
無駄骨だったかと諦めようとした時、ふと一つの物に目が向いた。
(あれは....井坂が被っていた帽子か?)
荒れ放題の場所の中でその帽子だけは綺麗に掃除されていたのに違和感を覚えた照井は帽子を持ち上げる。
すると、中からボイスレコーダーが落ちてきた。
拾い上げて中を確認すると一つだけ"録音されたファイル"があった。
照井が再生ボタンを押すとそこから伊豆屋の声が聞こえてくる。
『この音声を聞いているのは君だろう照井 竜?
先ずは久しぶりだねぇ。
直接あったのは船の一件以来かな?
まさか、君が井坂先生を倒すなんて思っても見なかったよ.....だけど、そんな事をしたって無駄さ。
井坂先生の教えや意思は私が受け継いだ。
私の役目は井坂先生をガイアメモリを崇拝する神とすること....その為には本人の死は必要不可欠だった。
後は彼が審判の日に復活するだけだ。
もう、債は投げられた。
後の役目は神を殺した
照井 竜....私は風都に君に
男らしく一対一での勝負だ。
君が井坂先生を倒した"風都第二タワー跡地"で待っているよ。』
それだけ言い終わると録音が切れた。
「井坂を神にする....それがお前の目的なのか伊豆屋?
だが、止めて見せる。
俺は刑事であり仮面ライダーなのだからな。」
照井は覚悟を決めると伊豆屋の指示した風都第二タワー跡地へ向かうのだった。
翔太郎がボーリング場に突撃する前.....
「僕が姉さんを助ける。」
晶は覚悟を決めた目で翔太郎に告げた。
「何言ってんだ?
相手は単なる悪ガキじゃねぇガイアメモリを扱っている連中なんだ。
お前はここで大人しく待ってろ。」
「ここで逃げたら....駄目なんだ。
兄ちゃん言ってたよね?
姉さんは罪を数えるべきだって....僕今まで姉ちゃんがずっと助けてくれるって思ってた。
それに甘えてたんだ....姉ちゃんが罪を犯したって言うのならそれを見てこなかった僕にも責任がある。
僕は姉ちゃんを救って一緒に罪を償う..."兄ちゃんと相棒"みたいにそう決めたんだ。」
「お前......」
「所長さんから話を聞いたんだ。
だから....お願いします。」
頭を下げる晶の姿を見て帽子で顔を隠しながらも翔太郎は笑った。
(依頼人に怪我させるのなんて言語道断って言われそうだが.....晶の覚悟を無駄にしたくねぇ。
親っさん....悪い。)
「分かった俺が囮になって中にいる奴等を引き付けるからその間に姉ちゃんを助け出せ。
晶.....お前と姉ちゃんには指一本触れさせねぇに傷付けさせねぇ。
だから、思いっきりやってみろ。」
翔太郎が戦闘を始めると遠くから倒れている唯の元へ晶は向かっていった。
子供ながらの小ささを利用して隠れながら彼女の元へ近付いていく。
もう少しで手が届く位置に来ると一体のコックローチドーパントが倒れている唯を持ち上げた。
「動くな!この女がどうなっても良いのか?」
(姉ちゃん!?)
(やべぇ!?彼処には晶がいる。)
翔太郎は唯を助けに行こうとするが周りのドーパントに動きを止められてしまった。
その影響で晶がコックローチドーパントに向けてタックルをしたのだ。
体格では勝てないのを分かっていた晶はコックローチドーパントの片足にしがみつく様に突進する。
それによりバランスを崩したコックローチドーパントの手から唯が離れた。
「姉ちゃんから離れろ!」
「なっ!?離せこのガキ!」
コックローチドーパントはしがみつく晶を突飛ばし追撃を加えようとするがそれを翔太郎の右ストレートがコックローチドーパントの顔面に当たったことで防がれる。
「JOKER MAXIMUMDRIVE」
「ライダーパンチ...うらぁ!!」
振り抜かれた翔太郎の拳がコックローチドーパントを吹き飛ばすと晶を守る様に前に出る。
「兄ちゃん!」
「晶、良く頑張ったな偉いぞ。
こっからは俺に任せとけ。」
翔太郎はデモンシステムを起動しようとベルト上部を押すが反応しない。
(ちっ!まだ"クールダウン中"かよ。)
翔太郎の新たな切り札であるデモンシステムは強力な反面、使用するとその時間に応じてクールダウンが必要なデメリットを抱えていた。
(この前の戦闘は一分程度だったからもう回復してると思ったが....しゃーねぇ、ならジョーカーで奴等と戦うだけ.....)
そう思いコックローチドーパントに向かおうとするが、
ドカーン!....凄まじい爆発音と共にボーリング場に空けられた風穴に皆が目を向ける。
そこに入ってきたのは頭部に6つの角(アギトの角の展開状態)を持った"G3-X"だった。
G3-Xが翔太郎を確認すると叫んだ。
「伏せてください!」
その声に翔太郎は直感的に晶を抱えながら地面に伏せる。
次の瞬間、G3-Xの背後から金属製の輪が飛び出すと立っていたコックローチドーパントを全員拘束した。
その瞬間、金属の輪から凄まじい電流が流れる。
そして、数秒の帯電の後ドーパントはメモリブレイクされメモリが体外から排出されると気を失った。
「本庁の科学班特製の"対ドーパント用捕獲錠"です。
ドーパントを捕獲するとメモリの位置をスキャンしそこ目掛けてピンポイントに電流を放出しメモリを破壊します。
まだ、試験段階でしたが持ってきて良かった。
流石は小沢さんの発明だ。」
そう言ってG3-Xのヘッドギアを取るとそこには氷川がいた。
氷川を見て翔太郎は立ち上がる。
「助かったぜ。
やっぱり警察は市民の味方だな?」
「そう言って貰えて嬉しいです。
貴方が照井さんの言っていた風都を守るもう一人の仮面ライダーですね。
お会いできて光栄です。」
「おいおい、俺達は法に認められてないヒーローなんだぜ?
警察官であるアンタがそんな反応して良いのか?」
「本当は駄目なんでしょうが警察に認められてないからと言う理由で貴方を捕まえようとすれば僕は
ですが、貴方が市民の敵になると言うのなら僕は警察として為すべき事を為します。」
「そうか....それにしても亜樹子の奴。
照井に連絡しろとは言ったがこんな凄い応援を連れてくるなんて聞いてねぇぞ。」
「?....僕は照井さんの大切な人と名乗る方から"むっちゃ強力な応援お願いします"と言われたので来ただけですが?」
「え?....って事は照井がアンタを呼び出したの知らないのか?
ちょっと聞きたいんだがアンタ、警察での階級は?」
「警視正ですね....あっでも最近、昇進したんで今は"警視長"です。」
(本当に何て奴、呼んでんだよ亜樹子っ!!)
照井よりも二階級も上の上司を応援として呼びつけた亜樹子に恐怖を覚えつつも切り替えて話を進める。
翔太郎は倒れている唯に指を指す。
「彼女をEXEって言うガイアメモリのブローカーが狙ってる守ってやってくれ....それと」
「兄ちゃん!」
そこまで言った所で晶が翔太郎を制止する。
「僕の名前は...青山 晶です。
僕の姉ちゃんはEXEで運び屋をしてました。
でも、姉ちゃんは辞めようとしてたんです。
そうしたら、僕の家族をEXEの奴等が襲ってこんなことに....勿論、姉ちゃんにも罪はある。
だからお願いします!
僕も一緒に罪を償いますから姉ちゃんを刑務所に連れていかないで下さい!」
「晶.....俺からも頼む。
顔を出してねぇ俺なんて信用できねぇとは思うが...この子を信じてやってくれねぇか?
コイツ、姉ちゃん助ける為に命掛けだったんだ....頼む。」
二人からの懇願を受け氷川は答える。
「お二人の話は分かりました。
ですが、まだお姉さんの話は聞いていません。
先ずは病院で検査をしてから決めましょう。
今は彼女の安否が第一優先ですので....」
そう言うと氷川は部下に指示を出し唯は病院へ連れていかれるのだった。
警察から離れた翔太郎は変身解除すると晶の元へと戻る。
「やったな晶....カッコ良かったぜ。」
「...ありがとう。
姉ちゃんにはいつ会えるかな?」
「どうだろうな。
だが目が覚めたら連絡が来るだろう?
それまで事務所で待ってようぜ。」
翔太郎は晶を連れて探偵事務所に戻ると携帯に連絡が入った。
「....照井からか?
一体何の用だ?」
翔太郎は電話に出るが照井からの応答は無い。
しかし、その代わり近くで話している2人の会話を聞くことが出来た。
『伊豆屋....お前の目的は何なんだ?』
『レコーダーにも入っていただろう?
井坂 深紅郎を神として永遠の者にすると....』
(井坂 深紅郎を神にだって!?
一体どう言うことだ?)
翔太郎は詳しい内容を聞くため事務所の近くにあるカフェに入ってしまった。
入れ違いで"唯が探偵事務所に入った事"に気付かぬまま.....
それは突然だった。
唯が鳴海探偵事務所に入ってきた。
弟である晶はそれを見て喜ぶが事務所にいた亜樹子と若菜は警戒する。
「姉ちゃん!無事だったんだね!」
「えぇ、もう身体も大丈夫だからって病院から出して貰ったのよ。」
亜樹子が唯に尋ねる。
「貴女が晶くんのお姉さんである唯さんですか?」
「はい、弟がお世話になりました。
....晶、何時も持っているバックは何処にあるの?」
「?....そこの机にだけど」
そう言うと唯は晶をそっちのけでバックに手を掛けると生地を破き中に手を突っ込んだ。
「お姉...ちゃん...」
姉の豹変した行動に怯える晶を庇う様に亜樹子は前に出る。
そして、唯は破いたバックの中から何かを掴むと笑いながら取り出した。
「あった....ふふ!...あはは!」
「それって....ガイアメモリじゃん!?
どうしてそんなところに」
「私が持ってたらきっと何処にあるかバレると思ったから弟の鞄に縫い付けたのよ。
何かあった時の為にね。」
「唯さん落ち着いて....そのメモリを」
「近付かないで!」
周囲を威嚇しながら唯は若菜に目を向ける。
「園咲 若菜....本当に良かった貴女がここにいてくれて....お陰で手間が省けるわ。」
「姉ちゃん!どうしてこんなことを!?」
「ごめんね晶。
でも、言うことを聞かないとエンゼルビゼラをくれないって言うのよ?
目が覚めてからずっと、気分が悪くて...だから
エンゼルビゼラが欲しいのよ!
だから、ごめんなさい。」
「
唯は起動したメモリを手首に挿した。
オーシャンメモリが体内に吸収されると唯の身体を渦潮が覆いドーパントの姿へと変えた。
唯は生成されたハルバードを構えると亜樹子に向けた。
直感的に危険を感じた晶がハルバードを掴み向きを変えた事でハルバードから放たれた水圧カッターが亜樹子の頬を掠める。
その攻撃で亜樹子は気絶してしまった。
「離しなさい晶!!」
「嫌だ!姉ちゃんにこれ以上、罪を背負わせるわけにはいかない!」
そう言って晶は姉を止めようとするがドーパントになったことで腕力が強化された唯は晶を吹き飛ばしてしまう。
「私の邪魔をするのなら....晶....貴方も私が....」
唯がハルバードを晶に向けようとするのを若菜が車椅子を押して立ちはだかる。
「待って!貴女の目的は私でしょう?
言う通り着いていくからこれ以上、暴れるのは止めて....姉弟で殺し合うなんて絶対にダメ。」
若菜の言葉を聞き唯はハルバードを下げると若菜の身体に手を触れた。
「EXEのトップであるヘッドが貴女に会いたがってる。
大人しく着いてきて....」
「分かったわ。」
唯の周りに渦潮が起こるとその水が二人を包み込む。
「ダメだ....姉ちゃん!」
晶は渦潮の中に突っ込んでいくと晶を巻き込んで渦潮が事務所から消えると三人の姿も無くなっていた。
そのタイミングで翔太郎が慌てて事務所に入ってきた。
「クソッ!遅かったか!」
残っていたのは気絶した亜樹子だけだった。
Another side
翔太郎は事務所から離れたカフェで照井と伊豆屋の会話を形態越しに聞いていた。
『井坂を神にするだと!?そんなバカげた話を....』
『人は古来から自分の想像を越えた存在に畏怖し崇めてきた。
それは歴史により呼び名が変わってきた。
そう考えれば神と言う呼称も人を越えた存在にならば使っても問題はない。
井坂先生はガイアメモリに出会ったことで人を越えたのだ。
そして、君により与えられた一度目の死から復活した瞬間、人類は理解するだろう井坂先生と言う神の存在を.....』
『無駄だ井坂は死んだ。
死体も粒子となり消え去った今、どんな方法を取ったところで死人が生き返ることはない。』
『あぁ、普通の手段では不可能だ。
だが、そんな事を私が理解してないとでも?
私がこの一年の間、何もしなかったと思うのか?
ミュージアムや財団についてありとあらゆる手段を使い調べ上げた。
そして見つけたんだ
だが、どうしても入れない場所がある園咲家が管理していた別荘に"隠された研究室"だ。
そこには無名が研究していた資料や発明品が保管されている。
だが、その扉を開くには園咲家の生体認証が必要だ。
だからそれを手に入れる。
もう、駒は送った。
今頃、"彼女"は役目を果たす筈だ。』
(彼女?....まさか!?)
翔太郎の頭に最悪の考えが浮かぶとカフェを飛び出して事務所に向かうのだった。
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第二百三十八話 Aとの邂逅/狂信者の目的
ドーパントの襲撃にあった病院を刃野と真倉が部隊を率いて鎮圧すると周囲の調査を始めていた。
話を聞き終えた真倉が刃野に話し掛ける。
「刃さん、やっぱりこの事件を起こしたのはEXEの奴等で間違いなさそうです。
連中にクスリ漬けにされた者達を扇動して暴れさせたみたいです。」
「やっぱりな....暴れてた連中を見ても目的が分からなかったのはそのせいか。」
「えぇ、全員エンゼルビゼラ欲しさに事件を起こしたと証言しています。」
「はぁ....薬の為に病院を襲うなんて世も末だな。
それで...奴等の狙いはやっぱり?」
「はい、先程助け出された青山 唯の身柄ですね。
彼女だけ消息が掴めていません。」
「って事はEXEの狙いは彼女だった訳か....おい真倉、こりゃもう一波乱ありそうだぞ?
さっき、彼女の身体検査の結果が出た。
見てみろ。」
そうして刃野から渡されたカルテを見て真倉は驚愕する。
そこには仕事の関係で見慣れてしまった薬物の成分が羅列されていたが問題はその量だった。
「何ですかこれ!?
体内の薬物基準値が普通の数十倍も高い。
これでどうやって生きてるんです?」
「ちょっと前に照井課長からの指示で井坂に関して調べてたことがあるんだが彼の出した論文にこんな記述があった。
"今の人類は肉体の保持や文明の発展に伴い人本来が持つ潜在能力を発揮する機会を失っていった。
だが、もしその力を解放し人間が100%の力を使える様になれば世界を制する既存のルールは著しく変わるだろう"....ってな。
そして、載ってたのがマウスを使った薬物と電気によるリミッター解除の方法だった。」
「じゃあ、この子はリミッターを外されたって言うんですか?」
「5%の力しか使ってこなかった人間のリミッターを外すんだ。
当然、免疫機能なんかも強化される筈だ。
人が本来持つ限界値100%の性能があればこんな状態で生きられても不思議じゃない。
だが、当然リスクもある。
元々、そのリミッターは肉体と精神を守る為の物だ。
それを無くしたら身体にどんな弊害が出るか.....それにクスリで痛覚も麻痺してたとしたら....」
「そんなの...危険すぎるじゃないですか!?
早く彼女を見つけないと!」
「あぁ、早く助けてやらないとな.....」
刃野はそう言うと病院での調査を進めていくのだった。
照井は風都を第二タワー跡地に着くと目の前に伊豆屋が立っていた。
「待っていたよ照井 竜....いや、仮面ライダーアクセルと呼んだ方が良いかな?」
「探したぞ....伊豆屋。」
「まぁ、待ちたまえ。
そんなに警戒しなくても今の私は丸腰、メモリの一本すら持っていない。
君と会う為にここら辺一帯の土地は買い占めた。
だから、君が仮面ライダーだとバレる心配はない。
横にある喫茶店が見えるだろう?
君との再会の為に色々と準備をしたんだ。
さぁ、中に入ろうか。」
「貴様とお喋りしている暇など無い。
EXEに関することを洗いざらい吐いて貰う。」
「そうか....ならば喋る気はない。
このまま、犠牲者が出るのを黙ってみているんだな。」
「ACCEL」
照井はアクセルに変身するとエンジンブレードを伊豆屋の喉元に突き付けた。
しかし、伊豆屋は構うこと無くエンジンブレードに喉元を当てる。
エンジンブレードの熱により喉の皮膚が焼けて煙が出るが伊豆屋は笑う。
「私を殺すか?....それも良いだろう。
それも想定した上で君を呼び寄せたんだ。
さぁ....見せてくれ復讐に歪んだ君の力を.....井坂先生を殺したその力を!!」
伊豆屋の狂喜を孕んだ目を見て照井はエンジンブレードを下げるとアクセルメモリを抜き変身解除した。
「良いだろう....お前の策に乗ってやる。
だが、その代わり全て真実を語って貰うぞ。」
「勿論だとも!私は君に嘘は着かない。
着く意味すらないからな。」
そうして、伊豆屋と照井は喫茶店に入る。
伊豆屋はカウンターを開けるとコーヒーポットを手に取りコーヒーカップに注いだ。
「君はコーヒーが好きだと聞いている。
実は私の趣味もコーヒーでね。
井坂先生からも評判が良かったんだよ。
....さぁ、どうぞ。
毒は入ってないから安心して良い。
だがもし毒味が必要なら私が飲むがどうする?」
挑戦的な伊豆屋の態度を受けても照井は動じること無く出されたコーヒーに口をつけた。
「確かに良い腕だ....だが、少し蒸らし過ぎだな。」
「そうかね?.....ふむ、確かに君の言う通りだ。
少し蒸らしが多すぎたな。
すまない。
君と会える事に興奮して時間を見誤った様だ。」
そう言う伊豆屋にバレない様に携帯を操作しながら照井は尋ねた。
「本題に移るぞ。
伊豆屋....お前の目的は何なんだ?」
「レコーダーにも入っていただろう?
井坂 深紅郎を神として永遠の者にすると....」
「井坂を神にするだと!?そんなバカげた話を....」
「人は古来から自分の想像を越えた存在に畏怖し崇めてきた。
それは歴史により呼び名が変わってきた。
そう考えれば神と言う呼称も人を越えた存在にならば使っても問題はない。
井坂先生はガイアメモリに出会ったことで人を越えたのだ。
そして、君により与えられた一度目の死から復活した瞬間、人類は理解するだろう井坂先生と言う神の存在を.....」
「無駄だ井坂は死んだ。
死体も粒子となり消え去った今、どんな方法を取ったところで死人が生き返ることはない。」
「あぁ、普通の手段では不可能だ。
だが、そんな事を私が理解してないとでも?
私がこの一年の間、何もしなかったと思うのか?
ミュージアムや財団についてありとあらゆる手段を使い調べ上げた。
そして見つけたんだ
だが、どうしても入れない場所がある園咲家が管理していた別荘に"隠された研究室"だ。
そこには無名が研究していた資料や発明品が保管されている。
だが、その扉を開くには園咲家の生体認証が必要だ。
だからそれを手に入れる。
もう、駒は送った。
今頃、"彼女"は役目を果たす筈だ。」
「彼女だと?」
「もう分かっているんじゃないかい?
"盗み聞きしてる探偵"なら...」
「!?」
「君が何の策もなく私との対話を受けるだなんて思ってない。
青山 唯に園咲 若菜を拐う様に命令を与えた。
今頃、彼女の身柄はEXEの拠点に向かっているだろう。」
「貴様っ!?」
「おっと!....ドライバーとメモリを机の上に置け。
この建物には爆弾を仕掛けてある。
それに、私に危害が加われば園咲 若菜や周りの者を出来るだけ巻き込んで殺す様に仕込んでおいた。
その命令を下すのはこれだ。」
伊豆屋はシャツを開けると心臓に心電図を測るプラグが付けられており片手でそのプラグを握っていた。
「少しでも不振な動きをすればプラグを抜く。
そうすればEXEの拠点は凄惨な殺人現場となるだろうな?
警察として仮面ライダーとしてもそれは悲劇だろう照井竜。」
「くっ!....」
「命令通りドライバーとメモリを置いて座れ。
まだゲームは始まったばかりなのだから....」
「EXEはお前にとってただの捨て駒と言う訳か。」
「私の目的を果たす為の捨て駒だな。
園咲 若菜の生体認証を手に入れるには色々と準備が必要なのさ。
その為にEXEには私の息が掛かった手駒を潜り込ませている。
奪い取った生体認証を使い研究所から井坂先生の蘇生に必要な情報を手に入れれば計画は成功だ。」
「このまま、逃げられるとでも思っているのか伊豆屋?
俺はお前を何処までも追い詰めるぞ。」
「逃げる?.....井坂先生の蘇生は我ら同志の目的だが君を呼び出した理由は全くの別物さ。
照井 竜....私と賭けをしないか?」
伊豆屋はそう言うと机に"一つのカプセル"と中心の机に一本の注射器を置いた。
「このカプセルには毒薬が入っている。
そして、注射器にはその毒の解毒剤が入っていると言う訳だ。
君にはこれからこの毒を飲んで貰う。」
「もし断ったら?」
「断ったらどうなるかなんて私が言わないと分からない程、君は愚かでは無い筈だ。」
そう言うと喫茶店に掛かっていたテレビの電源が入る。
テレビには廃墟が映されておりそこには一体のドーパントとドーパントに捕まっている園咲 若菜を助けようとする少年の姿が映し出されていた。
「ここはEXEの拠点だ。
映像をリアルタイムで此方に送信している。
見えるか?園咲 若菜の腕を縛り上げた男....あれが私の協力者だ。
そして....あぁ、良かった
伊豆屋の言う様に現場に翔太郎が現れるとドライバーを装着した。
「左が来たのなら彼方は問題ない。
奴ならきっと助け出すだろう。」
「ふふ.....あぁ、このまま何も仕掛けていなかったならな?」
そう言うと映像を映していた画面が急に変わり建物の周辺に付けられた点滅する機械を映し出す。
「ミュージアムが試験開発していた"高性能爆薬"だ。
ドーパントを爆殺できる威力になるまで強化された爆弾だ。
もし、ここで爆発したらヒーローごと巻き込まれて死んでしまうかもな?」
「くっ!これが人質と言う訳か?」
「勘違いするなEXEの奴等は爆弾の事など知らん。
それと、この爆弾も私の身体を繋いでいるプラグと連結している。
つまり、爆弾を止めようと私に危害を加えれば君もEXEのアジトも両方とも木っ端微塵になると言う事だ。
それでは賭けの内容について教えよう。
ルールは簡単、君が毒薬を飲んでからEXEのアジトでの事件が解決するまで君が生きてたら君の勝ち。
逆に君が死ぬ....もしくはそこの解毒剤を注射したら君の敗けだ。
井坂先生に勝った君なんだきっとこれぐらいの苦境など屁でもないだろう?
それでどうする?
私との賭けを受けるかね?」
伊豆屋の問いに照井は乱暴に置いてあったカプセルを掴むと飲み込んだ。
「では...賭けを始めようか。」
そうして伊豆屋と照井は画面に映る事態を見届けるのだった。
EXEの拠点となっている廃墟に渦潮が浮かぶと唯と若菜そして晶をその場に吐き出すと姿を消した。
若菜の姿を見たヘッドか声を掛ける。
「おいおい、連れてくるのは園咲 若菜だけだろう?
お前の弟まで来るとは聞いてなかったが?」
「この子が勝手に着いてきたのよ。
でも、園咲 若菜を連れてきたんだから問題はないわよね?」
「まぁ、それもそうか。
こんなガキが何をしたって問題ねぇ。
おい、お前ら園咲 若菜の身柄を抑えろ。
彼女はEXEにとって必要な人物だ。
何せミュージアムの幹部だった方だからなぁ。」
ヘッドが指示を出すと部下が降りてきて若菜の両手を手錠で縛る。
「....痛っ!」
「おい、何してんだ?」
痛がった若菜を見てヘッドが尋ねる。
「す....すいません!
どうやら下のガラスで指を切ってしまったみたいで...」
「はぁ、丁重に扱え。
お前らと彼女は立場が違うんだからな。」
そんな話をしていると唯がヘッドに尋ねた。
「仕事はこなしたでしょう?
薬は何処にあるの?」
「あぁ、安心しろ伊豆屋さんからちゃんと預かってる。
ホラよ!」
ヘッドが薬の入った袋を投げて渡す。
唯はそれを急いで受け取り中を開けると注射器と薬液が入った小瓶が入っていた。
それを受け取ると唯はメモリを身体から抜き注射器で薬液を吸い取る。
注射器を薬で満タンにすると手首に射とうとする。
しかし、唯の手を全身、びしょ濡れでボロボロになりながらも晶は止めた。
「何で!?」
「姉....ちゃん....は....僕....が...守...る。」
「離して!その手を離しなさい晶!!」
「嫌だ!絶対に離すもんか!
俺もなるんだ!...."翔太郎兄ちゃん"みたく...強く!」
唯の手に必死でしがみついていると見かねたEXEのヘッドが仲間に指示をだす。
「はぁ....おいこのガキを"始末"しろ。
喧しくて敵わない。」
「はい、ヘッド!」
ヘッドの命令を受けたメンバーはメモリを取り出すと起動し首に挿した。
「Arms」
アームズドーパントに変わると右手の銃を晶に向ける。
しかし、その弾は発射される前にバイクで突撃してきた翔太郎とアームズドーパントが激突する。
「翔太郎兄ちゃん!」
「よう晶!ちょっと見ない内にカッコ良くなったな。
男子三日会わざればってか?」
「でもどうやって?」
晶の疑問に翔太郎はバイクを降りると晶の服に着けていた発信器を外して見せる。
「最初逃げた時に外し忘れてたんだがまさか、こんなとこで役立つとは思わなかったぜ。
でもお陰でここのアジトが分かったんだから結果オーライか。
....何時まで隠れてる気だ?
まさか、EXEのヘッドが臆病者って訳でもねぇだろう?」
翔太郎がそう言って挑発すると隠れていたヘッドが姿を現した。
「オメェは...サンタちゃんとこの"ペットショップの店員"じゃねぇか!?」
「黙れ!あの姿は世間を騙す仮の姿で本当の俺はEXEのトップであるヘッドだ。」
「成る程なぁその"パッとしない顔面"なら俺を騙すにももってこいって訳だ。」
自分の容姿について言われヘッドは不快な顔をする。
「あんまり、調子に乗ってんじゃねぇよ。
唯!その探偵を殺せ!
殺したらもっと薬をくれてやる。
テメェらも唯に手を貸してやれ。」
その言葉を聞いた唯やEXEのメンバーはメモリを持って翔太郎を睨み付ける。
翔太郎は持っているメモリガジェットを起動させると晶に渡した。
「これがあればお前を守ってくれる。
だから、巻き込まれねぇように離れててくれ。」
「翔太郎兄ちゃん....姉ちゃんを助けて!
あんな姉ちゃん始めてみたんだきっと、奴等に何かされたんだ!」
「分かってるよ。
お前の姉ちゃんは助けてやるから安心しな。」
そう言うと翔太郎はドライバーを腰に着ける。
「DEMON system on-line」
「JOKER」
「変身」
「DEMON」「JOKER」
仮面ライダーデモンジョーカーへの変身が完了した翔太郎はヘッドに向けて指を指し示す。
「さぁ、おまえの罪を数えろ。」
翔太郎は言い終わると目の前の敵に突撃していくのであった。
Another side
EXEと翔太郎の戦いをモニター越しに見ている照井の表情が徐々に曇り始める。
呼吸がしづらいのか息を吸う音が大きくなってきた。
それを見た伊豆屋が言う。
「薬が効いてきたみたいだな?
呼吸をするのは苦しいか?
身体の痛みは感じているか?
その痛みをお前は私に与えたんだ。」
「どういう....意味...だ?」
「井坂先生の死を聞いた私はこの世界に絶望した。
お前が私の神を殺したせいで私はこの世界にいる意味を見失い。
癒えることの無い永劫の痛みと苦しみを味わったのだ。
この苦しみから解放されたいだろう?
その解毒剤を射てばこの苦しみと死の恐怖から解放されるぞ?
生きたいだろう?
遠慮することはない解毒剤を射つと良い。」
「俺が....解毒剤を...射てばアジトを爆破するのだろう?
.....俺は..警察官だ.....例え犯罪者でも....救える命は....救う。」
「そうか....だが、その救う命に井坂先生は入っていなかったのだな?
お前は復讐を優先し井坂先生の命を奪ったのだ。
そんなお前が命を救うだと?.....ふざけた事をほざくなっ!!」
「確かに...俺は井坂を殺してしまった....だが...そこに復讐の感情は...無い!
俺は....奴を殺したかった訳じゃない倒し止めたかっただけだ!」
「そんなのは結果論でしかない。
良いでしょう....その毒が貴方の命を奪うまでにはまだ時間がある。
ここで、命が奪われる瞬間を共に見届けましょう。」
「ふざ....ける....くっ!....」
照井は伊豆屋を掴もうとするが力が入らず机に手を起き身体を支える。
「無駄に体力を使うな.....お前には最後まで見届ける義務がある....照井 竜。」
そう言って伊豆屋は笑いながら現状を眺めるのだった。
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第二百三十九話 Aとの邂逅/終幕への一撃
「おらぁ!」
翔太郎の攻撃がEXEのドーパント達を次々にメモリブレイクさせていく。
それを見たヘッドは内心では焦っていた。
(おいおいおいおい....強いにしたって限度があるだろう?
殴られただけでメモリブレイクするなんて見たことねぇ。
ムカつくが伊豆屋の言う通りだ。
この仮面ライダーに勝つにはやっぱりこれを使うしかねぇか。)
ヘッドは自分のエナジーメモリに伊豆屋から受け取ったアダプターを取り付ける。
「
ヘッドはメモリを鼻に挿すと肉体が変化していく素体はエナジードーパントでありながら左手のレールガンは禍々しく形を変え頭部と背中に巨大なプラグが生成された。
強くなった身体を見つめてヘッドは笑う。
「はは、これがアダプターの力か!
今なら何でも出来そうだ。」
ヘッドは背中にあるプラグにエネルギーを蓄積させるとそのエネルギーを左手のレールガンへ流し込んだ。
そして、翔太郎の戦いに紛れる様に天井に登りプラグから発生させた磁力で天井に張り付くとレールガンを翔太郎に向けるのだった。
「はぁはぁ....流石に量が多いな。」
EXEのドーパントの集団を片っ端からメモリブレイクしているがまだ彼方には余力が有りそうだ。
対して此方は戦えるのは翔太郎一人しかいない。
分が悪いのは明白だった。
(晶は俺のメモリガジェットが守ってるから良いがあっちで人質になってる若菜さんも何とかしねぇとな。
あー、こういう時フィリップなら何て言うんだろうな。)
答えが返ってこない想いを心の中で吐露しつつ現状を再確認する。
(最優先は晶の姉さんと若菜さんの安全の確保だな。
俺のメモリは直接強化する面が強いメモリばっかだ。
若菜さんの安全を確保しながら奴等を叩き潰せるメモリは.....これしかねぇか。)
「フィリップ、力借りるぞ。」
翔太郎は"サイクロンメモリ"を取り出すとマキシマムスロットに装填した。
「CYCLONE MAXIMUMDRIVE」
「行くぜ....
翔太郎の四肢に緑色の風の塊が纏われるとその風を使い高速でホバー移動しながらEXEのメンバーをメモリブレイクしていった。
唯は咄嗟に渦潮のシールドを展開したことで翔太郎の攻撃を防御したが若菜の元に翔太郎が辿り着いてしまった。
「まずい!あのライダーを引き離せ!」
EXEのメンバーが若菜を奪還しようと動くが翔太郎は地面を殴り付け若菜の周囲にサイクロンの風で出来た竜巻の防壁を展開する。
「サイクロンのマキシマムで作った風の壁だ。
お前らじゃ傷一つ付けられねぇよ。
若菜さん、悪いがここでちょっと待っててくれ。
「分かったわ。」
若菜からの返事を聞いた翔太郎は竜巻を抜けて唯の元へ向かった。
翔太郎が来たことで薬を打てなかったせいだろう。
エンゼルビゼラの禁断症状が身体に出始めていた。
息づかいが荒くなりハルバードを握る手が震えている。
「はぁはぁ....う....あ...」
「おい、大丈夫か?」
「く...すり...が...エンゼル...ビ...ゼラ。」
「どうやら、あんまり長くは戦ってられねぇみてぇだな。
ちっと強引なやり方するが許してくれよ?」
「来いバットショット!」
翔太郎が晶を警護していたバットショットを呼びつけると手に取り中のメモリを入れ換えた。
「LUNA MAXIMUMDRIVE」
「ルナメモリのマキシマムでメモリの位置を探り当てる。
バードドーパントの一件みたく上手く行けば良いが....やるだけの価値はあるだろう。」
バットショットがルナメモリの力を内包したフラッシュを唯に何発も当てていく。
その眩しさに禁断症状の幻覚が重なった唯は持っているハルバードを振り回して暴れ始める。
「チッ!大人しくしろ!」
翔太郎が唯の身体を押さえつけようと動くがオーシャンメモリの能力で発生させた渦潮が翔太郎の身体を吹き飛ばした。
「いてて....簡単にはいかねぇか。
デモンジョーカーの身体に傷を付けられるとはな。
メモリとの適合率が上がってんのか?
晶の話じゃ姉さんはメモリの運び屋はしてても実際には使ってなかった。
元々、オーシャンと適合率が高かったとしてもこの強さはありえねぇ。
つまり、何かしらの施術を行われてる可能性がある。
だとしたら、このままメモリブレイクするのは危険だな。」
そう考えていると翔太郎の元にバットショットが帰って来た。
目のくらみが収まった唯は言う。
「こんな目眩ましに何の意味があるって言うの?
私には傷一つ無いのよ。」
「まぁな。
バットショットとルナメモリの組み合わせは相手にダメージを与える戦法じゃねぇ。
ルナメモリのエネルギーをタップリと受けただろう?
そのエネルギーがお前の身体の異常を教えてくれるんだよ。」
翔太郎の言った通り、ルナメモリのエネルギーが唯の身体を満たすとメモリとその周囲を渦巻く
「良し....今助けてやる。
来いスタッグフォン!」
翔太郎は呼び出したスタッグフォンを手に取ると内部にメタルメモリを装填する。
「METAL MAXIMUMDRIVE」
すると、スタッグフォンは銀色に輝き始める。
そして翔太郎の周囲を飛び始めるとジョーカーメモリをドライバーのマキシマムスロットに装填する。
「JOKER MAXIMUMDRIVE」
(今の彼女を救うには普通のマキシマムじゃ命が危なすぎる。
メタルメモリの力を込めたスタッグフォンで彼女の身体を渦巻いてるエネルギーをメモリごと巻き込んでぶっ壊すしてかねぇ....チャンスは一回。
失敗したら.....いや、違う失敗なんて絶対しねぇ。
俺はフィリップと約束したんだ。
この街を守る仮面ライダーとして必ず救って見せる!)
翔太郎の強い感情に呼応してジョーカーメモリの力が強くなる。
それを直感的に感じ取った唯は翔太郎に恐怖する。
「いや....来ないで..いやいや...いやぁぁぁぁ!!」
唯の感情に反応しオーシャンメモリが力を暴走させる。
唯の身体を包み込むように発生した巨大な渦潮がまるで意思を持った様に蠢き怪物の姿に変わっていく。
その姿はまるで海の怪物として名高いクラーケンの様だった。
足の触手の先端が変化しハルバードの切っ先に変わると翔太郎に向けてハルバードを振るう。
それを翔太郎は回避しながら中心の唯の元へと走っていく。
唯も近づかせない様に全てのハルバードがついた触手で翔太郎を攻撃する。
回避が出来るスペースが無くなると翔太郎は両手で攻撃をいなしつつ前へ進んでいく。
完全にいなすことが出来ず身体に傷が付こうと翔太郎は止まらない。
「くっ....来るなぁ!」
唯が全ての触手を束ねて巨大化させたハルバードが翔太郎の身体の中心に向けて振り下ろされた。
ズバン!と言う音と共に土煙が舞う。
「翔太郎兄ちゃん!」
晶が心配そうに声をかけると土煙の中で声が聞こえる。
「安心しろよ晶。
言っただろうお前の姉ちゃんは俺が救うって....俺は依頼人との約束は破らねぇ。」
そう言って翔太郎はクロスした腕にジョーカーのエネルギーを纏わせて唯のハルバードの攻撃を受け止めていた。
「それに...漸く近付けたしなぁ!」
両手足に力を込めると一気に解放した。
「おらぁ!」
解放された力によりハルバードが弾かれると一瞬だが唯は無防備になった。
そこを狙いすます様に翔太郎の必殺技が炸裂する。
「
翔太郎は周囲を待機していたスタッグフォンをジョーカーのエネルギーが込められた左足で貫くように打ち抜いた。
するとスタッグフォンはまるでビリヤードの玉の様に翔太郎が狙う場所へ一直線に進み唯のいる渦潮に激突した。
凄まじく強い流れに飛び込んだスタッグフォンだがジョーカーとメタルのマキシマムエネルギーを蓄えドリルの様に回転しながら渦潮の流れを断ち切って前へと進む。
そして、遂に唯の元へ辿り着いた。
スタッグフォンと言う砲弾を受けた唯は渦潮の力で何とか抑え込もうとするが間に合わず自らもスタッグフォンの回転に巻き込まれ渦潮から身体が弾き出される。
その身体を背後から翔太郎が支える。
そして、そのままスタッグフォンは唯の身体を貫通すると発生していた渦潮は姿を消した。
スタッグフォンの牙には唯の身体の中にあったオーシャンメモリが挟まれており勢いを付けて回転させることでメモリブレイクを行った。
その瞬間、彼女の身体が光り元の人間の姿へと戻るのだった。
翔太郎は唯の脈を確認する。
「.....ふぅ、どうやら成功したみたいだな。」
「姉ちゃん!」
助かった安心感から晶は唯と翔太郎の元へと走り出すのだった。
その光景を見ていた伊豆屋は翔太郎の起こした奇跡に驚いていた。
「バカな!?....エンゼルビゼラの副作用を無効化してメモリブレイクするなどどうやって?」
伊豆屋は翔太郎の行った行動を一つ一つ振り返っていき一つの違和感に気付いた。
(何故、攻撃が当たった時、彼女の身体を背後から支えたんだ?
.....まさか、あのマキシマムでメモリとエンゼルビゼラの毒素の両方を分解したのか?
メモリを破壊したのはあのクワガタだ。
となれば毒素はどうやって?
身体を密着させたのは....自分の身体に毒素を移したのか。
成る程、だとしたらジョーカーメモリを使った理由も納得がいく。)
エンゼルビゼラの毒素は強大だ。
普通にメモリブレイクすれば
だからこそ、メモリブレイクはスタッグフォンに任せて翔太郎は毒素を受け持ったのだ。
メモリが砕かれた瞬間、メモリと共に巻き込んでいたエンゼルビゼラの毒素を翔太郎は自らの体内に押し込んだ。
そして、体内に全ての毒素を取り込むとジョーカーのマキシマムのエネルギーで"完全に破壊し消滅させた"のだ。
(確かにこの方法ならば彼女の命を助けてメモリブレイクする事も出来るだろう。
だが、こんなやり方思い付いても実行する人間がいるなんて想像できない。
猛毒を飲み込んでその後に解毒する様なものだ。
体内へのダメージだって当然あるだろう。
そんな無謀で愚かな選択.....私だったら絶対に取らない。)
その行為に驚いている伊豆屋に照井が言った。
「驚いて....いるようだな....お前は左 翔太郎を見誤ったんだ....」
「何だと?」
「フィリップがいなくなって....奴は変わったが...本質は同じだ。
依頼人の...為ならば.....命を掛けて行動する。
端から見ればバカな行為だとしても....それで命が救えるならやる....アイツはそういう奴....だ。」
「.....用は私があの男の愚かさに気付けなかったのが敗因と言う訳か....お見事だ照井 竜。」
そう言うと伊豆屋は解毒剤を素早く照井の首に打ち込むと中身を注射した。
「!?」
「本当ならばお前の無力感を見ながら与えてやりたかった絶望だが....仕方がない。
ゲームのルールは"解毒剤を
「貴様っ!?」
照井は怒りから伊豆屋の首を掴み締め上げる。
「くっ!?....くく、さっきまで毒で犯されていたとは思えない力だ。
やはり君も悪に怒りを現せる仮面ライダーか。」
「貴様の思い通りになどさせるか!
爆弾の起動は絶対にさせない!」
「爆弾?....ははは!
残念だがそれは的外れだ。
爆弾ならとっくに"解除"したさ。
その約束を破るつもりはない。
今日お前が失うのは"たった一人"だ......」
「まさか!?」
伊豆屋の真意に気付いた照井はモニターに目を向ける。
その姿を見て伊豆屋は復讐の成功を確信するのだった。
晶が姉の元へ走り出すのを見て安心した翔太郎は一瞬だが油断してしまった。
故に気付くのが遅れてしまったのだ。
廃墟の天井に貼り付いて武器を構えている
奴の持つ武器から光が見える。
「やべぇ!晶、伏せろ!」
翔太郎は晶に向かって叫ぶとその声に驚き走るのを止めてしまう。
それを狙った様にエナジードーパントが光弾を放った。
ギリギリで間に合った翔太郎は自らの身体を盾に攻撃を防ごうとするがその光弾は翔太郎のドライバーに命中する。
ズドン!と言う音と共にドライバーから火花が上がると翔太郎の変身が解除される。
そして、エナジードーパントは生身になった翔太郎に追撃のレールガンを撃ち込む。
翔太郎の胸部に火花が上がるとまるで糸を切られた人形のように翔太郎は地面に倒れるのだった。
その光景を呆然と見ていた晶が叫ぶ。
「兄ちゃん?....翔太郎兄ちゃん!?」
そして、タイミング悪くその光景を救援に来た"亜樹子"も見てしまう。
「そん...な....翔太郎....君。」
「ふふっ....ははっ!
あひゃひゃひゃ!やったぜ!
俺はこの手で仮面ライダーを仕留めたぞ!」
エナジードーパントは仮面ライダーを殺せた実感を感じながら地面に降り立つ。
辺りが絶望に包まれるなか亜樹子は小さく呟いた。
「アタシ.....聞いてない....」
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第二百四十話 復活のW/悪魔の贈り物
「左......」
モニターの中でエナジードーパントの攻撃を受けて倒れた翔太郎を見て照井は呆然とする。
それを見た伊豆屋は先程とは打って変わって笑顔になった。
「あぁ....素晴らしい...その顔だ。
私は貴方のその顔が見たかったんだ。
己の信じた者が奪われ呆然とする貴方の顔がね?」
「!?.....貴様ぁぁぁ!!」
怒りと憎しみから伊豆屋に掴みかかろうとするがその前に伊豆屋は口から大量の血を吐き倒れてしまう。
「伊豆屋!!」
「かはっ!....やはり、持ちませんかぁ。
私の身体はメモリとエンゼルビゼラと大量に服用したことでボロボロだったのですよ。
何時死んでも可笑しくはなかった。
それを知ったのは伊坂先生が貴方に殺されたことを知ってからです。
だから決めたんですよ。
私に"私が味わった以上の苦しみ"を貴方にも与えようとね......ふふ!
大成功です!
私の企みを見抜けなかった結果、貴方は友をこの街は仮面ライダーを失った!
これを全て貴方のせいですよ照井 竜。」
愉快そうに伊豆屋は笑うが笑い声の端からどんどん吐血していく。
「どうやら、私もこれで終わりみたいですね。
しかし、満足いく結果を貰えましたよ照井 竜。
......では....さ....よう...な....ら
伊豆屋は満足そうに目を瞑ると息を引き取るのだった。
エナジードーパントからの凶弾を受けて倒れている翔太郎に向かって亜樹子は駆け寄っていく。
撃たれたばかりなのか身体は暖かいが心臓のある胸部の服に"二つの穴"が空いておりそれがどういう意味なのか亜樹子は否が応でも理解してしまった。
「そんな....翔太郎君....翔太郎君!」
翔太郎の身体を揺さぶるが起きることはない。
「あひゃひゃひゃ!無駄だぜ!
心臓をぶち抜いたんだ。
こいつが仮面ライダーでも心臓に穴が空いたら助からねぇだろう?
EXEに刃向かった当然の罰さ。」
「アンタね!?」
反抗しようとする亜樹子にエナジードーパントはレールガンを向ける。
「おいおい....何、刃向かおうとしてんだよ?
今度はお前が死ぬか?」
そうして向けられたレールガンが放たれようとした瞬間、その銃口を晶のタックルにより弾かれてしまう。
「なっ!?」
「止めろ!....もうこれ以上、誰も傷つけさせない。」
「このクソガキがぁ!
上等だ!....次の犠牲者はお前にしてやるよガキ!」
エナジードーパントが邪魔をした晶の頭にレールガンを押し付ける。
亜樹子は晶に向けて叫ぶ。
「晶くん!逃げて!」
晶はそれでもエナジードーパントを睨み付けた。
「僕だって....この街の人間だ!
お前みたいな街を泣かせる奴を僕は許さない!
僕だって....戦えるんだ!」
「「
二人の声が重なると翔太郎は晶に向けられていたレールガンを弾き突如飛来したエクストリームメモリがエナジードーパントの顔面にタックルした。
「エクストリームメモリ....何で?」
晶を守りながら投げ掛けられた翔太郎の疑問に答えが帰ってくる。
エクストリームメモリからデータが放出されるとそれは翔太郎が最も会いたい"相棒の姿"へと変わった。
「フィリップ.....」
驚愕する翔太郎にフィリップはまるで悪戯が成功した子供の様に笑いながら告げた。
「やぁ、翔太郎。」
「お前....どうして?」
「"無名"が....僕に"身体"をくれたんだ。」
そう言うとフィリップがこの状況の説明を始めた。
「データの海に消えた僕を無名達が見つけ出してくれたんだ。
そして、僕の精神を復元させると無名が僕に自分の身体を与えてくれたんだ。
無名はゴエティアに僕の細胞を使って作られたクローンの様な存在だ。
だから、拒否反応も出ずに動ける。」
「なら....どうして直ぐに現れなかったんだ?」
「完全に復元が終わったのが君がEXEと戦っている最中でね。
君が撃たれるのを救うのに体一杯だったんだよ。」
そう言ってフィリップは翔太郎の服を指差した。
「無名の身体を使って甦った副次的効果で僕もある程度、デーモンメモリの"黒炎"が扱える様になってね。
黒炎を使って放たれた弾丸と翔太郎の身体を間に起こる事象を消し飛ばしたんだ。
上手く行ってくれて本当に良かったよ。」
フィリップがそう言うとその姿を見た晶が呟く。
「貴方が、翔太郎兄ちゃんが言っていた相棒のフィリップ?」
「青山 晶くんだね?
君のことはエクストリームメモリの中から見ていたよ。
お姉さんを救う為に振り絞った勇気は称賛に値する......って翔太郎酷い顔になっているよ?」
そう言われた翔太郎は確かに酷い顔になっていた。
失ったと思っていた相棒が復活した喜びとこれまで一人で頑張っていた彼の感情が爆発し涙と鼻水でボロボロになっていたのだ。
それを見た翔太郎は相変わらずと言った顔をした。
「全く、僕がいなくなって少しは鳴海 荘吉の様なハードボイルドになったかと思ったがまだまだハーフボイルドだね翔太郎。」
「ズビーッ!うるせぇよ....フィリップ。
これは...あれだ!新手の花粉症だよ花粉症!」
その光景を見た亜樹子も涙を浮かべながら笑う。
「ふふっ!やっぱり翔太郎君はハーフボイルドは一番だよね!」
「誰がハーフボイルドだコラぁ!」
「あー!怒った怒ったぁ!」
「ふふっ....亜樹ちゃんも久しぶりだね。」
「....うんおかえりフィリップ君。」
「あぁ、ただいま。」
そう言い終わるとフィリップは呆然としている若菜の元へ向かう。
「姉さん....お久し振り。」
「フィリップ?....本当にフィリップ君なの!?」
「あぁ、心配を掛けてごめん。
僕は.....」
そう言い掛けた瞬間、若菜はフィリップを抱き締めた。
「会いたかった。
生きてて本当に良かった。」
「....うん僕も嬉しいよ姉さん。
これからはずっと一緒だよ。」
二人が互いに生きていることを確認しあっている中、忘れ去られた者が怒りながら叫ぶ。
「おい!さっきから何なんだよ!
俺を無視してんじゃねぇよ!」
キレるエナジードーパントに翔太郎が言った。
「あ、すっかり忘れてたぜお前のこと」
「.....テメェもう許さねぇ!!
全員まとめて地獄に送ってやる!」
「生憎、君の思い通りにはならないよ。
君のことはもう"検索"を終えている。
強化アダプターによって通常のエナジードーパントよりは強くなっているみたいだが君の野望が叶う事は無い。
....何故なら"僕達"が止めるからだ。」
フィリップはそう言うと取り出したWドライバーを翔太郎に差し出す。
「左 翔太郎....僕と言う悪魔ともう一度、相乗りしてくれるかい?」
「....あったり前だろフィリップ!
俺達は二人で一人の探偵でありこの風都を守る仮面ライダーだ。」
翔太郎は涙でグシャグシャになった顔を拭くとフィリップからWドライバーを受け取り腰に装着する。
すると、フィリップの腰にもWドライバーが出現した。
帽子を被り直した翔太郎がいつもの様に言う。
「行くぜフィリップ。」
「あぁ、翔太郎。」
「CYCLONE」
「JOKER」
「「変身」」
フィリップがサイクロンメモリを装填すると翔太郎のドライバーにメモリが転送される。
翔太郎がジョーカーメモリを装填するとベルトを展開した。
「CYCLONE JOKER」
翔太郎の身体を緑の紫のエネルギーが包むと彼の身体は変化し仮面ライダーW サイクロンジョーカーへと変身が完了した。
その瞬間、意識を失い倒れるフィリップの身体を亜樹子が支える。
「あぁ、これこれ!やっぱりこれが無いと」
フィリップの身体を支える亜樹子が懐かしそうに言う。
「だな。」
翔太郎がその言葉に肯定すると目の前のエナジードーパントに目を向けると指を差す。
『「さぁ、お前の罪を数えろ」』
「....ふっざけんなぁ!?」
散々、無視され続けた後にそんな言葉を投げ掛けられたからからだろう。
ブチキレながらWにレールガンを放つがWの風を纏った蹴りがレールガンの弾丸をいとも簡単に弾き飛ばす。
「!?」
「さぁ、どんどん行くぜ!」
『あぁ、翔太郎。』
そう言うとWはエナジードーパントに向かっていく。
失われたこれ迄の時間を埋める様に昔の様に互いの思いを重ねながら戦う。
メモリを切り替えていきヒートメタル、ルナトリガーに変わり戦うWはとても強く風都を守る仮面ライダーとして頼もしく見えた。
今のWは原作最終回のWと比べても色んな意味で桁違いだった。
原作よりも様々な意味で強化された翔太郎と無名の身体を使い完成されたデータ人間となったフィリップ。
その二人が変身するWは別次元の強さを誇っており"強化アダプター程度"では歯牙にすら掛からない。
絶望的な真実を理解させられられたエナジードーパントは吠える。
「クソが!こんなことあってたまるかっ!
こうなったらあの
苦し紛れのエナジードーパントが二人を人質にしようと動く前にルナトリガーの光弾が彼を襲った。
『そろそろ決めるとしよう翔太郎。』
「あぁ、ハードボイルドに決めるぜ。」
「CYCLONE JOKER」
Wはサイクロンジョーカーに戻ると馴れた手付きでジョーカーメモリをマキシマムスロットに装填する。
「JOKER MAXIMUMDRIVE」
Wの周囲で突風が発生すると彼の身体が風の力で浮遊していく。
そのまま、一回転して両足をエナジードーパントに向けると必殺技が放たれた。
『「JOKER EXTREAM」』
半分に分割し放たれる必殺キックの二連撃はエナジードーパントが放ってくるレールガンや放電を突破し彼の胸部へと叩き込まれた。
その瞬間大爆発を起こすとメモリとアダプターが破壊されて体内から排出される。
人間の姿に戻ったEXEのヘッドは目の下に隈が出ながら気絶するのだった。
「決まったな。」
『そうだね翔太郎。』
そう言うとWはドライバーからメモリを抜いて変身解除しフィリップとの再開を喜ぶのだった。
Another side
フィリップが復活したことで笑顔になる翔太郎と亜樹子を地球の本棚から見つめる無名も同じ様に笑顔になっていた。
「良かった。
これで彼等の物語は前に進んでいける。」
原作では若菜が自らの身体を犠牲に復活したフィリップだが今回はその方法が取れなかったがその問題を解決してくれたのが超越者であったゴエティアとコスモスだった。
「まさか、最後の最後に貴方達に助けられるなんて思いませんでしたよ。
感謝の言葉を言いそびれたのが悔やまれますね。」
そう言う無名の周りには誰もいない。
ゴエティアもコスモスもフィリップ復活の為に残った力を全て使い果たし本の記憶の中へと姿を消した。
では何故、無名は一人で地球の本棚に残ったのか?
(超越者と言う存在がいる以上、こんな事件が起きる可能性は否定できない。
彼等の残した力は強大だ。
この地球の本棚だって超越者が残した遺産とも呼べる物だ。)
地球にある全ての知識を閲覧できるこの力が悪の手に渡ればどんな惨劇が起こるか想像も出来ない。
だからこそ、無名は決めたのだ。
この地球の本棚を守る番人になろうと.....
これはフィリップには出来ない仕事だ。
何故なら彼には現実世界で相棒と共に悪と戦って貰わないといけない。
だから僕が代わりにここを守り抜く。
あらゆる悪意から......
「表の世界は任せましたよ。
代わりにここはもう一人の悪魔である僕が守っていきますから......」
無名は一人の空間でそう言うと地球の本棚の力を使い現実世界の様子を眺めるのだった。
Secret side
森の中を必死に走る集団が目に映る。
彼等の顔は必死であり生きる為に走り続けていた。
草や木が当たり皮膚を切ろうと構わない。
例え全身、傷だらけになったとしても"奴"に捕まるよりは何倍も良いのを理解していたからだ。
男は伊豆屋と同じく伊坂のシンパだった。
彼と他のメンバーは伊豆屋の作戦に賛同し伊坂を蘇生させる為、ミュージアムが保有していた研究室に行く必要があった。
その為にEXEのメンバーに扮して園咲家の最後の一人となった園咲 若菜の生体情報が必要だった。
それを手に入れたシンパ達は早速、ミュージアムが隠していた研究室のロックを解除する。
しかし、ここで予定外の事態が起きたのだ。
ロックを空けた研究室の内部に
研究者の服装ではなく関係者ではないのは明らかだった。
「誰だお前は?」
シンパの問いに男は答える。
「名などどうでも良いだろう?
それよりもお前達はここにある者で何をするつもりなんだ?」
「貴様には関係ない。
我々の邪魔をするなら排除するだけだ。」
シンパがガイアメモリを出すのを見て男は溜め息をつく。
「はぁ....結局、ロノスの予言通りか。」
そう言うと男は両手を力強く握り構える。
すると、腹部に黒い触手の様な物が現れると大きくパーツが展開されたドライバーが現れた。
そのまま、左手を顔の横に伸ばし右手をドライバーの上部に添える。
「変身」
小さいが覚悟の籠った声と共に両手を逆方向に伸ばすとドライバーが変形し黒い装甲に覆われ中心が緑色に輝くドライバーへと変わった。
すると男の身体は"銀色のバッタの姿をした怪人"に一度変化するとそこから更により人型に近くなった存在に変わると変身が終わった。
仮面ライダーSHADOW MOONへと変身が終わった男黒い複眼で見つめながらゆっくりとシンパ達に近付いていく。
彼等もドーパントになり応戦しようとするがそれは無駄なことだった。
シンパはドーパントの力を使いただ暴れているのに対してSHADOW MOONは強大な怪人の力を制御し合理的に敵を排除していく。
急所を的確に潰すSHADOW MOONの前にはシンパの屍が積み上がった。
その強さに恐怖したシンパの一人がその場を逃亡し今に至る。
変身していてはバレる可能性が上がる為、ガイアメモリは身体から抜いてただ逃げるために走り続けた。
しかし、突如その歩みが止まってしまう。
....いや、自ら止まったのではなく何かの力で動けなくなったのだ。
背後を見つめるとそこには複眼を緑色に光らせながら手を此方に向けるSHADOW MOONの姿があった。
「すまないがロノスから一人も逃さずに命を奪えと言われている。
それと、ここの研究所も完全に消さないといけないんだ。」
「ひっ!...なっ、何の為にそんな!?」
「さぁな。
だが、ロノス曰くこれから先のストーリーでお前らがいると困るらしい。
だから、本当にすまないがここで死ね。」
「まっ!?」
パキッ!骨が折れる音と共に最後のシンパの首が180度回ってしまった。
動かなくなった敵を見てSHADOW MOONは念動力を解除するとシンパの遺体は地面に崩れ落ちた。
そんな遺体に目を向けることなく研究所の入り口へと戻った。
研究所の壁を思いっきり殴るが傷一つ付かない。
「ミュージアム特製の研究所は厄介だな。
やはり壊すにはこれを使うしかないか。」
そう言うとドライバーに両手をかざす。
ドライバーが展開されると中心で緑色に光り輝く"二つの石"が現れた。
一つは信彦が最初から持っていた"キングストーン"でもう一つは並行世界のシャドウムーンと戦い勝ち取った"月の石と呼ばれるキングストーン"だった。
二つの石はお互いに引き合うとより一層輝き始める。
すると、ドライバー付近に黒と銀で彩られたパーツが浮遊し始めた。
信彦は左手を天高く掲げ構える。
奇しくもその動作は"仮面ライダーブラックRX"の変身動作を反対にしたものだった。
「変身。」
信彦がそう言うと先程まで浮遊していたパーツがドライバーに合体する。
すると、SHADOW MOONの身体に金属で出来た装甲が追加されていく。
先程までのSHADOW MOONが銀色のバッタの戦士だとすれば今は銀色の甲冑を纏った戦士へと変わっていた。
変身を終えた信彦はキングストーンに貯めた力を右足に込めると周囲の建物を巻き込む形で回し蹴りを放った。
放たれた蹴りの衝撃が建物に伝わると支えていた柱が粉砕され下から潰れる様に建物が音をたてて消え去った。
自分の周囲をエネルギーシールドで守っていた信彦は瓦礫から飛び上がると変身解除する。
「これでロノスの計画が進む。
そして、俺の願いも.....」
信彦は跡形もなくなった研究所に背を向けて歩き始めるのだった。
【仮面ライダーSHADOW MOON エルレシス】
BLACKSUN世界の信彦が並行世界のシャドームーンから奪い取った月の石と融合したことで産まれた新形態。
見た目はSHADOW MOONの身体にシャドームーンの装甲を鎧の様に着込んでいる。
念動力や身体能力が更に強化され必殺キックには空間を切断する力がある。
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第二百四十一話 復活のW/W-B-X
風の街、
この街は不幸も幸福も全て風が運んでくる。
そんなこの街の闇に差し込む一筋の光りが探偵である俺達って訳だ....今日も悩みを抱えた依頼人が事務所の扉を叩き...パコン!!
痛ってぇな亜樹子!
人がハードボイルドに決めてる所を邪魔してくんじゃねぇよ!
「何がハードボイルドよ。
さっさと迷い猫の捜索の報告書完成させてよね。」
「あのなぁ、フィリップも戻ったってのにどうして迷い猫の捜索なんてやってんだよ!?」
「はぁ!?...翔太郎君が輝くのは猫探してる時でしょう?
何勘違いしてんのよ。」
「あんだと亜樹子!?やんのか?」
「へぇ、所長であるこの私に勝てると思ってるの?」
シュ!(勢い良く翔太郎の頭を狙う亜樹子のスリッパの音。)
「甘ぇ!」(振り下ろされるスリッパを片手で受け止める翔太郎。)
パコン!(それを想定していた亜樹子がもう一つの手に持っていたスリッパで翔太郎の顎を刈り取る音)
「痛ってぇ!?」
「常に二の手、三の手を用意する。
....お主もまだまだよのぉ翔太郎。」
仙人の真似をしながら告げる亜樹子に苛立っているとフィリップが事務所に入ってきた。
首に巻いている緑色のマフラーを取りながら言った。
「二人とも何をしているんだい?」
「聞いてくれよフィリップ!
亜樹子がよ....って!?」
話をしようとする翔太郎を押し退けて亜樹子がフィリップに用意していたコーヒーと菓子を取り出した。
「ようこそフィリップ様、お早いお着きで....」
「亜樹ちゃん。
何もそんなにへりくだらなくたって」
「そうだぜ亜樹子。
そんな事しなくたってフィリップは変わらねぇだろう?」
「うっさいわね!今のフィリップ君は翔太郎の相棒でありこの"鳴海探偵事務所のオーナー様"なんだから余計なこと言わない!」
フィリップは復活してから若菜と共に生きる道を選んだ。
若菜と共に園咲家の罪を償っていこうと決めた。
その為にフィリップは探偵業で稼いだお金を資金源に株を始めて大儲けするとそのお金を使って若菜と一緒に住む家と鳴海探偵事務所の土地と負債を買い上げたのだ。
(フィリップ曰く、これまで世話になったお礼であり権利書関係は亜樹子に渡している。)
翔太郎がフィリップの首に巻かれていたマフラーを指差す。
「若菜さんからか?」
「あぁ、最近寒くなってきたからってプレゼントしてくれたんだ。」
「そうか、ちゃんと家族として上手くやれてるんだな。」
「お陰様でね。
そう言えば京水さんが翔太郎が何時、またバーに来てくれるのかって催促してきたけど....」
「うげっ!?マジかよ。」
「相当気に入られたみたいだね翔太郎。」
無名の元で働いていたNEVERのメンバーにも変化があった。
無名が拠点としていた建物とカフェは売り払い、その元手で風都の寂れたバーを買った京水とレイカはそこで働きミーナとマリア、そして若菜は近くの孤児院で一緒に働いていた。
其々が自分の道を歩んでいく中、照井も新たな進展があった。
亜樹子と正式に婚約したのだ。
亜樹子の左手の薬指には照井から貰った婚約指輪が輝いていた。
(何で亜樹子は婚約できて俺には相手がいないんだよ....ったく)
心の中で悪態をつきつつも翔太郎とフィリップは二人の報告を聞いてとても喜んでいた。
この幸せもこれまで死んでいった仲間が切り開いてくれたものだ。
無名や克己が命を懸けた価値はあったと俺は思う。
そう考え黄昏ている俺の考えを察したのかフィリップが話し掛けてくる。
「守っていこう翔太郎。
僕達が手に入れたこの時間は決して僕らだけの物じゃない。
あらゆる苦悩や苦痛の先で漸く手に入れた結果だ。
残された僕達はそれを守る義務がある。
それが死んでいった者へのせめてもの恩返しだ。」
「あぁ、そうだよなフィリップ。
....さてと!全員揃った事だし早速、依頼を片付けようとするか。
亜樹子、今日は何件依頼が入ってるんだ?」
「えーっとね。
猫探しが5件、犬探しが8件、それに壊れた配管の修理も1件入ってるよ。」
「犬猫探しが全般じゃねぇか!
しかも、最後の配管に至っては探偵の仕事でも無ぇだろうが!
配管業者に連絡しろよ。」
「仕方ないでしょう?
竜君が頑張ったお陰でガイアメモリ関係の仕事がめっきり減っちゃってるんだから!
仕事があるだけマシよマシ!」
「はぁ....こんなのちっともハードボイルドじゃねぇや。」
「文句を言っても始まらないだろう翔太郎。
配管の方は僕がやっておくから君は犬と猫の件を頼むよ。
実は配管関係でまだ検索できてない項目があるんだ....ゾクゾクするねぇ。」
「おいおい、検索にかこつけて仕事ほっぽりだすのは止めてくれよなマジで.....」
そう話していると事務所のチャイムがなった。
亜樹子が扉を開けるとそこには喪服を着た女性が立っていた。
「あの....知り合いからここを紹介されたんです。
実は知人が何人も謎の不振死を遂げていて生き残った人の証言を聞くと皆、怪物を見たと言っているんです。
ここは風都で起こる不可解な事件を扱う探偵だと聞いています。
是非、依頼を受けてくださらないでしょうか?」
その話を聞いたフィリップと翔太郎は彼女の前に出る。
「勿論だ。
依頼人の命は絶対に守る。
俺達はこの風都のトラブルシューターだからな。」
「謎の不振死が次々と起こる怪奇事件....ゾクゾクするねぇ。
早速、検索をかけてみよう。」
その姿を見た女性が尋ねる。
「あの....お二人で捜査をしてくれるのですか?」
「勿論、僕達は二人で一人の探偵だからね。」
「俺ら二人ならどんな事件も解決して見せる。
例え怪物が出たとしてもな。」
翔太郎はそう言うとラックにかけていた帽子を手に取ると頭に被る。
彼等は今日も風都を守るために奔走する。
時に探偵....時に仮面ライダーして
彼等は犯罪者に常に問いかけ続けるのだ。
さぁ、お前の罪を数えろ。
END......?
【あとがき】
本作をこれまでお読みいただきありがとうございました。
ハーメルン初投稿の作品のため不備も多かったかと思いますが楽しんでいただけたのなら幸いです。
これにて本作品は一度完結します。
しかし、読者の方には回収できてない伏線にやきもきされる方もいるでしょう。
・獅子神やサラはその後どうなったのか?
・ロノスの始めようとしてる計画とは?
・結局、無名は地球の本棚にいるままなのか?
こちらの答えですが実は僕の中ではある程度、形になっており整理がついたら作品として投稿しようと思います。
そこで、質問なのですがこの外伝的な作品をもう一人の悪魔のこのままここに投稿するか新規投稿として出すかで悩んでいます。
見やすさを考えたら新規投稿として出す方が言いと思うのですが皆さんの声を聞かせてください。
何時もの様にアンケートを出しますので答えていただけたら幸いです。
では改めまして最後まで読んでいただきありがとうございました。
筆者より
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劇場版
予告編
長らくお待たせしました。
予告編だけですが完成しました。
ミュージアムが崩壊しフィリップも帰って来た風都....
しかし、この街に平穏が訪れる事は無い。
この街に幸福も不幸も常に風が運んでくるのならば今回運んできた風は特大の不幸であり事件だった。
それは突然の出来事だった.....
鳴海探偵事務所は何時と違い事務所内は大忙しであった。
探偵とは関係ない雑用をこなす翔太郎とフィリップだがその表情には明るさがあり、亜樹子に関しては幸せ絶頂中といった表情をしていた。
だが、それもそうだろう。
亜樹子は照井との婚約も済ませ結婚式を挙げる準備を整えていたのだ。
そんな幸せな状況を壊したのはラジオから流れてきた不吉な報せだった。
『昨夜、鴻上コーポレーションが管理するビルで殺人未遂事件が起きました。
今、容疑者として上がっているのは風都署の刑事である"照井 竜"警視で現在原因究明の為、捜査が行われていると言うことです。』
それを聞いた三人は驚く。
「はぁ!そんな事あり得ねぇだろ!」
「何か事件に巻き込まれたのか?」
「そんな....竜君....」
風都で事件が起きる中、仮面ライダーOOOのいる街にある鴻上ファウンデーションではある取引が行われていた。
「これを君に上げよう。」
「これは?」
「バースシステムを進化させた新たなる欲望の力。
名付けて"リバースシステム"だよ!」
映司達の前に現れる謎のヤミーと怪人達......
「くっ!コイツらどんなヤミーなんだ。」
「気を付けろ映司!何かおかしい!」
「君の名前は?」
「俺の名は....ノブ...ナガ。」
そして、謎の少女を守り逃亡を続ける照井 竜。
「君は一体?」
「私は....誰?」
物語は交差すると隠されていた真実が見え始め.....
忘れさられた記憶が甦る時、真の黒幕が現れる。
「お前は!?」
「黒い....
「俺はお前達を認めない。」
物語のキーを握るのは超越者の記憶.....
生き残るのは人か?それとも.....
「さぁもう一度、"取引"を始めようか。」
「"俺の欲望"は誰にも止められない!」
「死者が蘇るなんて......」
新たな驚異を前に仮面ライダー達は共闘する。
「今度は俺達が照井警視を助ける番だ!」
「あぁ、行くぞ泊!」
そうして、甦る風都のもう一人の悪魔....
「もう一度、一緒に戦ってくれ"無名"!」
「さぁ、地獄を楽しみなぁ!」
「「さぁ、お前の罪を数えろ!」
仮面ライダーOOO×Wノベル大戦 リボーン.....近日公開。
「.....ただいま、アンク。」
と言うことでムービー大戦コアの代わりとなる劇場版を開始します。
無名が関わったことで変わったストーリーとキャラクター、更にオリジナルメモリも登場します。
楽しんでくださると幸いです。
こうご期待ください。
(アンケートの結果からこのまま続きを投稿する事にしましたのでこのままお楽しみください。)
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W×OOO プロローグ
「.....ここは...何処だ?」
"目を覚ました者"は周囲を見つめる。
そこは"金色の本"で埋め尽くされた本棚がある空間だった。
「俺は....どうしてここに?」
その者は起き上がると一冊の本を手に取った。
表紙に書かれた文字を見てその者は妙な懐かしさを覚える。
本を開き中の記憶を読む。
一冊....一冊、丁寧に呼んでいき全て読み終わると"彼"の目から涙が溢れていた。
「ゴエティア....タナハ....全くお前達はバカだぜ。
コスモスの為に...全て捨てちまうなんてな。
だが、"俺は違う"。
俺は"欲深い"んだ。
お前らの命も全部欲しい....だから蘇らせてやるよ。
俺が....全てを使ってな。」
風の街....風都、この街はあらゆる事を全て風が運んでくれる。
そんな街にはガイアメモリと呼ばれる人を怪物に変えちまうヤバイ代物をばら蒔く奴等がいた。
俺と相棒でその組織を潰したが....そこで俺は一度相棒を失っちまった。
俺は失意の果てにいたが...それでも!....俺はハードボイルドにっ!
「生きていた筈なのにどうしてこうなってんだよぉぉぉぉ!!」
探偵であり仮面ライダーの片割れである左 翔太郎は"結婚式の案内状"と書かれた手紙を丁寧に折りながら封筒に仕舞う内職を行っていた。
吠える翔太郎の後頭部を所長の亜樹子がスリッパで叩く。
パコン!
「うっさい!翔太郎君!
黙って手を動かす!」
「てか、俺の仕事は探偵であってお前の結婚の手伝いじゃねぇ"パコン!"...痛ってぇ!」
「だーって仕方ないでしょう!
家の事務所はお金がないのよ!
結婚するのだってお金がかかるの!少しでも節約しないと!」
「同僚を使って節約してんじゃねぇ亜樹子!」
「そう言う文句はまともな仕事を一つでも持ってきてから言ってくれませんかねぇ?」
「んだとコラッ!」
「また叩かれたいのかなぁ翔太郎君!」
「「ぐぬぬぬぬ....」」
二人で睨み合っているとそれを勇める様に相棒であるフィリップが話し掛けてくる。
「まぁまぁ二人とも落ち着きなよ。
折角の、めでたい行事なんだからさ。」
「"フィリップ"。」
「それに、翔太郎だって内心は嬉しいんでしょう?」
二人が手伝っているのは親っさんの娘である鳴海 亜樹子とこの街を守る仮面ライダーであり刑事である照井 竜の"結婚式"の準備だった。
フィリップが帰って来てから数日も立たず照井は亜樹子にプロポーズをした。
元々、するつもりだったらしいがフィリップの事で意気消沈していた亜樹子に照井は切り出せないでいたらしい。
だが、フィリップが無名のお陰で戻ったことで告白し無事、ゴールイン出来たと言う訳だ。
そして、俺とフィリップは亜樹子の結婚の手伝いで現在進行形でてんやわんやになっているのだ。
そうしているとフィリップは思い出した様に亜樹子に話し掛ける。
「あぁ、亜樹ちゃん。
姉ちゃんも結婚式に参加したいって言ってたけど呼んでも良いかい?」
「えぇ!?マジで?勿論だよ!てか、若菜さんを招待しない訳無いじゃん!」
フィリップの姉である園咲 若菜。
かつて風都にガイアメモリをばら蒔いていた組織...ミュージアムの幹部だったがその呪縛に抗って今は姉弟仲良く暮らしている。
だが、俺達が幸せを手に入れた裏で失ってしまった命も沢山あった。
共に仮面ライダーとして戦った大道 克己。
そして、ミュージアムの幹部でありながら自らに潜んでいた悪と戦いその身をフィリップに捧げた無名。
彼等の事を忘れた日は1日たりともない。
(もし....過去をやり直せるなら)
フィリップを失った時もそうだがそんな事を翔太郎は不意に考えてしまっていた。
その意図を察したのかフィリップが翔太郎の肩に手を乗せる。
「翔太郎....今は祝おう。
新たな祝福を...それがきっと"二人への弔い"になる。」
「...あぁ、そうだなフィリップ。
...それにしても何かBGMが欲しいな。
何か良いラジオ番組やってねぇかな?」
翔太郎がラジオを付けると丁度、ニュース速報が入ってきた。
『昨日の夜、鴻上コーポレーションが管理するビルで殺人未遂事件が起きました。
被害者は風都署の署長を勤めている"氷川誠" 警視正で、現在、容疑者として上がっているのは風都署の刑事である"照井 竜"警視であり現状究明の為、現在捜査が行われていると言うことです。』
ラジオから聞こえてきた驚愕の内容にその場にいる全員が驚く。
「はぁ!?照井が殺人だって!?
んなことある訳ねぇだろうが!」
「落ち着け翔太郎。
きっと、何かの事件に巻き込まれたんだ。」
「それにしたってこんなニュースが出るなんて....」
「そんな....竜君...」
亜樹子はショックのあまりその場に倒れてしまう。
「亜樹子!....フィリップ、亜樹子をベットに移す。
手伝ってくれ!」
「分かった翔太郎!」
そう言うと二人は意識を失った亜樹子をベットに移すのだった。
鴻上ファウンデーションビルの社長室ではバースの変身者である
「.....どういう事ですか?」
珍しく後藤が驚愕と怒りを滲ませた顔で鴻上に尋ねる。
「風都署の照井 竜と言う男が我が社の保管庫に不法侵入し殺人未遂事件を犯して現在逃亡している。
......そう言ったのだよ。」
ダン!
後藤は鴻上の座る机に手を打ち付け抗議の目線で告げた。
「照井警視に限ってそんな犯罪者の様な殺人などあり得ません。」
「だが実際、風都署の署長が被害に遭い意識不明になっている。
これはどう説明するのかね?」
「それはっ!」
怒る後藤を制する様に伊達が前に出る。
「まぁまぁ、落ち着きなよ後藤ちゃん。
....それで俺達を呼んだのはどういう理由で?」
伊達の言葉を聞き鴻上はソファに深く座り直す。
「先程、保管庫の調査が終わってね。
中から"数点の物品"が失くなっている事が分かったのだよ。
恐らくはその照井 竜が盗んで今も持っているに違いない。」
「つまり、それを取り返すのが俺の仕事って事ですか?」
伊達の問いに鴻上は真剣な顔で二人に告げる。
「あぁ、我が社にとって"とても大切な物"だ。
最悪、"照井の命"を奪ってでも取り返して欲しいね。」
命を奪うと言う言葉を聞き後藤は怒りのまま言葉を吐き出す。
「ふざけるなっ!俺は人の命を守る力が欲しくてアンタの元に来たんだ。
人殺しをする為じゃない!」
怒りながら鴻上に詰め寄ろうとする後藤の肩を手を伊達は抑えながら彼も今度は圧を込めて言った。
「今回は俺も後藤ちゃんと同意見だな。
俺は医者だ。
グリードやヤミーを倒してメダルを手に入れる契約には了承したが貴方の兵士となって"人殺しをする道具に成り下がった"覚えはねぇ。」
二人の表情を見て鴻上は笑う。
「はっ!さっきも言っただろう最悪の場合だとね。
それだけ今回、奪われた物は危険だと言うことだ。
これを見たまえ!」
鴻上の横にいた秘書の里中がタブレットの画面を見せる。
「これは800年前、
これによると錬金術師達はOOOを造る際、"神と取引をしてオーメダルやドライバーに関する知識を得た"とされている。
今回無くなったのはその知識に関わったとされる物品なのだ。
これからグリードとの戦いは更に苛烈になるだろう。
故に!それだけはどうしても回収したいのだ。
という事で物品回収は頼んだよ。」
「これは回収する物のリストです。」
里中がタブレットを渡すとそれを受け取った伊達は後藤を連れて社長室を後にした。
後藤は怒りから壁を殴り付ける。
その姿を見た伊達が彼を諌める。
「おっと!後藤ちゃん怒るのも分かるけど少し落ち着きなって....」
「すいません。
でも俺にはどうしても照井警視が人を殺そうとしたとは思えないんです。」
「照井警視って昔、警察官だった時の上司だろ?
一回、話してくれた。」
「....はい。」
そこまで聞くと伊達は溜め息をついて後藤の前に"バースドライバー"と"バースバスター"を置くと"後ろを向いた"。
「伊達さん?」
「後藤ちゃん!こっからは俺の独り言だ。
今回の一件、俺にはどうも裏がある様に思えてならない。
あの社長も何か隠し事してるのはバレバレだしな。
だけど、俺も一億稼ぐ以上、命令には逆らえねぇ。」
「.......」
「でも、お前は別だ。
守る為の力が欲しくてココに来たんだろ?
そんな後藤ちゃんなら今本当にやるべき事を自分で考えてちゃんと動けるんじゃねぇか?
これから俺はバースドライバーとバースバスターを地面に起きながら"うたた寝"する。
その間に何があっても知らないし後藤ちゃんがいなくなっても仕事が嫌で休暇を取ったと里中ちゃんにでも言っとくよ。
あぁ、ドライバーなら安心しろ。
ドクターに予備を貰って俺も合流するからよ。
自分の思った様に動いてみなよ後藤ちゃん。」
伊達はそう言って壁にもたれかかり目をつぶった。
「伊達さん.....ありがとうございます。」
後藤は目を瞑っている伊達に頭を下げた。
次に伊達が目を開けた頃にはバースドライバーとバースバスター、そして後藤の姿は消えていた。
それを見て伊達は小さく笑うのだった。
「映司!メダル変えろ!」
「分かったアンク!」
映司は仮面ライダーオーズとなって突如、現れた怪人と戦っていた。
これまでのヤミーとは違う"鎧を着込んだ怪人"にオーズは苦戦を強いられていた。
アンクから受け取ったメダルを装填し映司はオースキャナーを手に取るとドライバーを勢い良くスキャンした。
タカゴリラバッタ
ボディを重量系のゴリラメダルに変えたことでオーズの両腕にガントレットが装備される。
襲ってくる怪人にオーズはガントレットを使い反撃した。
両腕から放たれる衝撃を受けた怪人は後退りすると地面に片ひざを付いた。
「効いてる...."これなら行ける!」
そう言ってオーズが追撃しようとするが上空から無数の火炎弾が放たれオーズは追撃を止め攻撃を回避した。
地面に火炎弾が落ちて爆発す起こす。
「危なっ!....」
追撃のタイミングを逃し煙が晴れた頃には怪人は姿を消していた。
「逃がしたのか。」
「チッ!そうみたいだな。」
映司は変身解除するとアンクに話し掛ける。
「それにしてもあの怪人は何者だったんだ?
ヤミーじゃ無かったんだろ?」
「あぁ、奴からは"メダルの気配"はしたが"ヤミーの気配"はしなかった。」
「でも、そんな奴が存在するのか?」
「...例外って意味ならいるだろ?
俺達で"風都に行った時のアイツ"だ。」
アンクの言葉に映司は少し考えるとクリスマスに起きた事件を思い出した。
「あぁ!確かガイアメモリとメダルを吸収した"メダドーパント"だっけ?」
「あぁ、だがどっちにしても奴は敵だ。
次、見つけたら確実に仕留めるぞ。」
そんな話をしていると映司のスマホに着信が入る。
「誰からだろう?......!!
翔太郎さんだ!」
着信相手が気づくと映司は電話に出た。
『もしもし、お久し振りです。』
『おぉ、久し振りだな映司。
元気でやってるか?』
『まぁ、ぼちぼち....それでどうしたんですか翔太郎さん。
もしかして、何かピンチな感じですか?』
『....まぁ、そんなところだ。
照井 竜の事は覚えているか?』
『えぇ....確か風都を守るもう一人の仮面ライダーだって前に教えてくれましたよね?』
『あぁ、その照井だ。
実は今、照井は殺人容疑で逃亡してる。
それにどうやらそっちの鴻上ファウンデーションが関わってるみたいでな。』
『えっ!?....それ本当なんですか?』
『あぁ、だが俺はアイツが殺しをしたとは思えない。
でも事件が起きたのはそっちの街で風都じゃねぇ。
事件を調べる為にも映司のツテを借りたいんだが頼めねぇか?』
翔太郎の頼みを聞いた映司は即答する。
『そう言うことなら喜んで協力しますよ。
僕もあの人が人を殺すなんて信じられませんし....寧ろ協力させてください。
"ライダーは助け合い"何ですから』
『すまねぇ。
これからフィリップとそっちに向かうがどっかで待ち合わせしたい。
何か良い所はあるか?』
『それなら僕達が世話になってるお店があるんでそこにしましょう。』
映司はクスクシエの場所を伝え電話を切るとアンクを捕まえた。
「アンク!!翔太郎さん達がピンチなんだ行くぞ!」
「おい!勝手に話を進めんじゃねぇ!
俺は行かねぇぞ。」
「おい!"ライオンメダルの件"で二人にはお世話になっただろ?」
「知るか俺はあの怪人を追う。」
「それなら翔太郎さんにその事も話して一緒に調べるぞ。
ほら行くぞアンクゥゥゥ!!」
「がぁっ!....分かった!行きゃいいんだろ!」
アンクは映司に連れられて歩き出す。
しかし、彼には一つの疑念があった。
(映司を止めた"あの炎".....いやあり得ねぇ。
そんな事は絶対に....)
アンクは自分の頭に浮かんだ可能性を即座に否定するとその場を後にするのだった。
そして、誰もいなくなったその場所に黒いローブを着けた男が降り立つ。
(映司.....俺はっ!?...)
去っていった映司に左手を伸ばそうとしていた手を強く握る。
それは彼がどんなに手に入れたくて手を伸ばしてももう届かない欲望であった。
「取り戻して見せる....全てを」
黒いローブの男はそれだけ言うと"赤い翼"を羽ばたかせ空へ飛び上がるのだった。
闇に包まれた街路樹を"ミーナ"赤子を抱えながら逃げる様に走っていた。
建物の隙間にミーナは赤子を抱えながら隠れると赤子に向けて優しく話し掛ける。
「はぁはぁ....."未来"、貴方だけは私が絶対に守って見せるから」
しかしミーナの目の前に突然現れた
「離して!」
ミーナは超能力を使い赤子を怪物から引き剥がそうとするがそんなミーナの身体を背後から現れたもう一体のプテラヤミーが取り押さえる。
プテラヤミーは赤子の顔を見ながら言った。
「この赤子から"欲望"を感じる.....」
「あの"お方"の復活に必要な欲望だ。」
「何を言っているの?」
ミーナの問いに答えること無くプテラヤミーは身体から取り出したセルメダルを赤子の身体に落とした。
「未来っ!」
チャリン!と言う音が鳴り赤子の身体にセルメダルが入る。
「そんな!?」
「先ずは"一人目"。」
「残りは"二人"と...."三人"」
「この子は丁重に扱う。」
「大事な供物だ。」
そう言ってプテラヤミーは赤子を連れて飛び去ろうとした瞬間.....
「「
「HEAT,LUNA」
「「MAXIMUM DRIVE」」
上空から隕石の様に落下してきた仮面ライダー
ルナのエネルギースフィアが赤子を包んだのを確認すると烈火の如くキレたレイカの蹴りが2体のプテラヤミーに直撃した。
吹き飛ばされる2体のヤミー。
京水は赤子をミーナに渡すとレイカと共にヤミー達と対峙する。
「間に合ってよかったわ!
プロフェッサーマリアから連絡があった時はどうなるか気が気じゃなかったもの」
「この怪物達の狙いは未来なの?」
レイカの問いにミーナは答える。
「多分....あの怪人達、未来に変なメダルを押し込んで....」
それを聞いた瞬間、二人の怒りは更に増大する。
「アンタ達、あたし達の"希望"に何て事してくれんの?
直ぐにそのメダルを未来ちゃんから取り出しなさい。」
「早くしないとぶっ殺す!!」
しかし、脅されている二体のヤミーは平然と言い放った。
「まぁ良い。
目的は達した。」
「もう間もなく全ては"原初へと還る"。
束の間の時を有意義に過ごせ。」
「なっ!?....待てっ!」
二人の制止を無視してヤミー達は飛び去るのだった。
「何なのアイツら」
「さぁね。
それも調べる必要はあるだろうけど今は未来ちゃんの方よレイカ。」
レイカと京水が変身解除するとミーナに話し掛ける。
「大丈夫、ミーナ?
未来ちゃんは?」
「分からない。
まだ身体に異常な無いけどあの怪人が出したメダルから感じたの...とてつもないエネルギーを...」
不安そうにするミーナにレイカは立ち上がるとスマホを取り出す。
「何する気レイカ?」
「こんな事態、あたし達だけじゃ解決できない。
"翔太郎達に助けて貰う"。」
その言葉を聞いた京水は納得する。
「そうね。
フィリップちゃんの地球の本棚の知識なら何か分かる筈だわ。
スマホを貸してレイカ、私が翔太郎ちゃんに連絡を取るわ。」
そうして、レイカからスマホを受け取った京水が翔太郎に連絡を取る間、ミーナがレイカに話し掛ける。
「マリアさんは大丈夫だった?」
「えぇ、今は"信用できる人の所"で身を隠してるから安心して良いよ。」
「良かった。
未来がお祖母ちゃんを失わずにすんで」
「....大きくなったね未来。」
「えぇ...最近、また大きくなってきたのよ。」
そう言うミーナにレイカは告げる。
「大丈夫だよ。」
「え?」
「未来は"克己が残してくれた大切な命"。
私達、NEVERだって守りたいって思ってるからさ。」
「.....ありがとう。」
二人が会話をしていると京水が電話を切り二人の元に来た。
「ミーナ、未来ちゃんを連れてここから離れるわよ。」
「ちょっとどういう事?京水。」
レイカの問いに答える。
「"事情が変わった"の。
今、翔太郎ちゃん達は風都を離れてるわ。
それに未来ちゃんに埋め込まれたメダルに関しても心当たりのある人物がいるらしいから会いに行くわよ。」
そう言うと京水はレイカやミーナを連れて風都を離れるのだった。
長い間、お待たせしました。
遂にノベル大戦の始まりです。
プロローグから色々と伏線をぶっ混みまくったせいで全部回収できるか不安ではありますが頑張って書ききろうと思います。
そして、今回の劇場版でも読者の皆様にオリジナルメモリのアイデアをいただきたいと思います。
今回応募するメモリは"四本"です。
条件が若干ストーリーのネタバレになる可能性がありますが気にせず応募いただけると幸いです。
【メモリの条件】
"ウヴァ"、"カザリ"、"メズール"、"ガメル"に関連する記憶を持ったメモリ。
メモリのアイデアは活動報告に【メモリアイデア募集】で作りますのでそこでお願いします。
それではノベル大戦をじっくりお楽しみください。
by 筆者
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W×OOO 1.記憶喪失の女と謎の存在
追手から逃れながら移動する二人組.....照井 竜と謎の女性は最大の警戒を払っていた。
服装でバレる事を防ぐ為、暗い服に着替えた照井は女性の手を掴みながら追手から逃げている。
「少し休憩するぞ。」
照井はそう言って女性の手を放すと壁にもたれ掛かり女性は地面に座り込んだ。
「.......」
黙っている女性に照井は尋ねる。
「お前は....何者だ?
どうして鴻上の管理する倉庫にいたんだ?」
「....分からない。」
「なら、名前は?何処に住んでいるのかは分かるか?」
「名前.....思い出せない....でも」
「でも?」
「"蝶"が....好き。」
「蝶だと?」
「それ以外....分からない。」
照井はこれ以上の会話は無駄だと思い黙った。
(どうしてこうなったんだ?)
きっかけはミュージアムが管理していたメモリ購入者に関する情報の一部が見つかった時だ。
詳しく調査していくと鴻上 光生の名前が浮かび上がり俺は上司である氷川署長と共にその事について二人だけで隠密に調べていた。
鴻上ファウンデーションの会長でありその財力は日本の財閥でも一二を争う程、高くビジネスをグローバル展開している異次元レベルの金持ちであり腹芸も上手い。
照井と氷川が調べあげた証拠を本人に突きつけた際も動揺するどころか笑いながら照井の事情聴取を受けていた。
だが、この捜査は氷川署長よりも"更に上の立場の者"から捜査中止を言い渡され鴻上は釈放となってしまった。
それに納得のいかなかった俺は"独断で調査"を行おうとして....それで....クソッ!これ以上、思い出そうとすると頭にまるで"霧がかかった様"に思い出せなくなっていた。
気付いたら照井は倉庫にいて氷川署長は血塗れで倒れ俺は近くで怯えていたこの女を連れて鴻上の管理する倉庫から逃亡した。
そうこうしていると休んでいた地面から火花が上がり女性は驚く。
「きゃっ!?」
「誰だ!」
彼女を守る様に前に出た照井へ"メガネをかけた青年"が"全身武装しライフルを構えた部隊"を連れて現れた。
「見つけましたよMr,照井 竜。
それにMs,キチョウ。」
「貴様らは何者だ?」
そう尋ねると青年は懐から警察手帳を取り出すと二人に見せた。
「私はアメリカの"国家安全保安局のアケチ"と申します。」
国家安全保安局....国の存亡に関わる危険度の高い事件を取り扱う組織だ。
「アメリカの警察が日本に何の様だ?」
「おや、ご存知有りませんか?
最近、アメリカで起きたテロでガイアメモリが使用されたんです。
我々はそれを捜査していました。
長い調査の結果、そこのキチョウが犯罪組織に"ガイアメモリを売っていた事実"が分かりましてね。
彼女を逮捕しようとしたのですがそこで貴方に邪魔された。」
「俺が逮捕の邪魔をしただと!?」
身に覚えのない事を言われた照井が尋ねる。
「えぇその際、貴方は上司の氷川さんを撃ち彼女を連れて逃げたんですよ。」
「俺が....氷川署長を.....」
「我々に彼女の身柄を渡して投降してください。
私は貴方を傷付けたくない。
"仮面ライダー"としてこの風都を守った英雄である貴方を......」
アケチが仮面ライダーの言葉を出した瞬間、照井は冷静になり尋ねる。
「何故、お前は俺が仮面ライダーだと知っている?」
「貴方が教えてくれたんですよ"私"にね.....
さぁ、早く彼女を渡してください。」
アケチの言葉を聞き照井は"ドライバー"を腰につけた。
「何の真似ですかMr,照井。」
「お前は何者だ?
"警察官"ではないだろう?」
照井の問いにアケチは鼻で嗤う。
「バカなことを追い詰められて錯乱したか?」
「俺は刑事であることに"誇り"を持っている。
だからこそ、俺は"仮面ライダーである間は自分が刑事だとは思っていない"。」
彼がアクセルの力を手に入れたのは復讐の為だった。
だからこそ、そんな動機で仮面ライダーになった自分は刑事の様に誇れる存在ではない。
彼が仮面ライダーになるのはガイアメモリを憎みまた使用する者達の抑止力になる為だった。
「だから、同僚に自分の正体なども決して明かさない。
それに、本当にお前が警察だと言うのならその目にはある筈だ"悪を憎み被害者を慈しむ心"が.....だが、お前から感じるのは"騙し欺こうとする視線と心"だ。
もう一度、言うお前は何者だ?」
照井のその言葉を聞くとアケチは溜め息をついた。
「はぁ、やれやれやっぱり厄介だな仮面ライダーはこうも"シナリオ"を崩されたのならば"修正"するしかないな。」
そう言うと周りを囲んでいた仲間の部隊をアケチは手に持っていた銃で全員、撃ち殺した。
「!?」
「貴方は私の銃を奪い部下を皆殺しにした。
この一件により私は貴方を殺してでも止めると上に報告し警察もそれを認めた。」
「何を言っている?」
「ちょっとした"筋書き"ですよ。
大衆を納得させるにはそれ相応の理由付けが要りますからね。」
そう言ってアケチが指を鳴らす。
すると、目の前に"緑色の落雷"が落ち一体のグリードが目の前に現れた。
「"ウヴァ"....あの男からキチョウを奪え。
殺しても構わない。」
「良いだろう。」
ウヴァはそう答えると照井へ襲い掛かる。
キチョウと共に照井はウヴァの攻撃を避けるとキチョウを安全な場所に下がらせウヴァとアケチを睨み付ける。
「アケチ、貴様は只の人間ではないな?」
「だとしたらどうしますか照井 竜?」
アケチの質問に照井は何時もの様に答えた。
「俺に下らん質問をするな。」
照井はそう言うとドライバーを装填する。
「ACCEL」
「変...身!!」
照井はアクセルメモリをドライバーに装填するとスロットルを思いっきり回した。
メモリの力が照井を包み込むと身体を変化させ照井は仮面ライダーアクセルへと変身が完了した。
その瞬間、何処からか現れた照井のメモリガジェットであるイールチャンネルがエンジンブレードを照井の手元に投げ渡たすそれを受け取った照井はエンジンブレードをウヴァへ構えたのだった。
「さぁ....降り切るぜ。」
地球の本棚に精神体として存在する無名は本棚の知識を片っ端から検索していた。
「これは....どういう事だ?
何故、"記憶に食い違い"が起きている?」
きっかけは照井が氷川を殺したと言われる事件を本棚から見つけた時だった。
意味が分からないと思った無名はその記憶に関する本を検索し探し出した。
その本を開けるとそのページには"金色の付箋"が貼られておりそこに"照井が氷川を殺した"と書かれていた。
その付箋を無名が手で取ると付箋が消滅し先程まで書かれていた"氷川の死"が"重症"へと変わった。
「この付箋にはゴエティアの様に本の記憶を書き換える力があるのか?」
「正確には情報を挟み込むって言うのが正しいがな。」
「なっ!?....ぐっ!」
無名は"背後から聞こえた声"に驚き振り返ろうとするが凄まじい力で地面に組み伏せられてしまう。
「驚いたぜ。
只の人間が
お前、何者だよ?」
「お...まえ...は?」
無名の問いに声の主は軽薄に笑う。
「おいおい、質問してるのは俺だぜ?
.....まぁ、良いやどうせ調べれば済む。」
無名を組み伏せている人物は本棚を操作して無名に関する本を取り出した。
そして、ページを開くと本はこの場で浮き声の主は懐から金色の付箋を取り出した。
"俺とお前は友である"そう書いた付箋を本に貼ろうとするが本から黒炎が上がり付箋を燃やしてしまった。
「!?.....この力は!」
その力を見た声の主は無名に関する本を直ぐに読みはじめた。
そして読み終えた後、無名の拘束を解いた。
無名は警戒する様に背後に飛ぶと組伏せてきた相手を見た。
"金髪で全身を宝石で彩った男"は無名を見て笑顔で言った。
「そうかそうか!お前は"ゴエティア残した遺産"だったのか!
しかも、仮面ライダーだったとはなぁ。
付箋が挟み込めないのも納得だ!」
「どういう意味です?」
「仮面ライダーの力は元を正せば俺達、"超越者の力の一部"が使われている。
そう言う奴の記憶には俺の付箋の能力は効きにくいのさ。
特に超越者の"根源である力"を使う仮面ライダーには特にな。
まぁ、だからこそ照井って奴では無く"氷川の記憶と運命"を付箋で変えようとしたんだが...お前が付箋を剥がした事でズレが起きちまった。」
「貴方が超越者なのは分かりました。
では貴方の目的は何なんですか?
ゴエティアとコスモスならば地球の記憶の一部になりました.....ですから」
「あー、それなら知ってるよ。
別に二人だけを蘇らせようなんて"貧乏臭い事"は考えてない。
俺の考えはもっと壮大だ。」
「壮大?」
「"全て"だ。
俺は失った全てを取り戻す。」
「そんな事!?」
「出来る。
俺はゴエティアと違って"強欲"だからなぁ。
コスモスだけじゃなく全員が欲しいんだよ。
でも、今お前に動かれると面倒だ。
.....だから」
「一度、"退場"してくれ。」
すると、無名の身体を縛る"黄金の鎖"が現れ背後に空間が歪んだ。
そして、歪んだ空間の色が変わり穴が空く。
「!?」
「"次元の狭間"で暫く彷徨ってろ。」
「クソッ!」
無名は本棚の力を使い男を攻撃しようとするがその攻撃は男に触れる間も無く変質し金銀の財宝に変わった。
「お前もここの力の使い方をゴエティアから学んだとは思うがそんなのは俺達からすれば"児戯"なんだよ。
安心しろ。
全て終わったら戻してやる。
"再誕には語り部"が必要だからな。
んじゃ、その日までご機嫌様.....あぁ、そうだった。
忘れてたぜ。
名前も名乗らないのは不躾だったな。」
「俺の名は"アルケ".....欲望を司る"超越者"だ。」
そう言い終わるとアルケは無名を次元の狭間へと送り穴を閉じると本棚から複数の本を取り出した。
「さて、必要な媒体は"三人".....それと復活に使う"肉体"....後者の準備はほぼ終わっているが媒体がまだ集まってない。
さっさと"印"を打っておかないとな。
やはり、"メモリの力"がいるか。」
アルケはそう言うと五冊の本を取り出した。
表紙には"ウヴァ"、"カザリ"、"メズール"、"ガメル".....そして"アンク"の名前が書かれていた。
現在のクスクシエは"臨時休業"の貼り紙が貼られていた。
その中には"映司やアンク"そして風都からやってきた"翔太郎とフィリップ"。
更には彼等に合流した"京水とレイカ"遠くでは"未来"をあやしている"ミーナと比奈"がいた。
全員集まるとフィリップが話し始める。
「状況を整理しよう。
先ずは照井 竜が氷川署長との合同捜査中に氷川署長を殺そうとして"重症"を受けた。
この件は地球の本棚で調べたけど本の中では不振な点は見当たらなかった。」
「それで俺は風都を発つ前に照井の部下である"刃さん"と"マッキー"に会いに行ったんだ。
そこで"ある違和感"に気付いた。
刃さんもマッキーも照井が氷川署長を殺したことを"1ミリも疑わず"寧ろ照井に対して"殺意の感情"すら向けてやがったんだ。
それで、照井について話していく内に二人の顔が変わってよ。
まるで、"洗脳が解けた"みたいに照井への殺意が消えてったんだ。」
「この話を翔太郎から聞いて今回の事件には裏で糸を引く黒幕がいると考えた。
そして、その日の夜にはマリアさんとミーナさんが"恐竜の見た目をしたヤミー"に襲われた。
ヤミーの狙いは未来ちゃんでありヤミーは未来ちゃんの身体にセルメダルを入れた。」
「えぇ、そうよ。
私達はプロフェッサーマリアから連絡を受けてミーナと未来ちゃんを助けに行った。
何とか間に合って未来ちゃんの身柄は助けられたけど....」
「アンクと言ったね?
君はグリードなのだろう?
未来ちゃんの身体に埋め込まれたセルメダルを取り除けたりしないのか?」
フィリップの問いにアンクは不機嫌な顔をして答える。
「あ?何でそんな事する必要がある。
セルメダルを入れられた人間は俺達、グリードにとって"エサ"そのものだ。
じっくりと肥え太らせてから回収した方が良いだろう。」
その言葉を聞いたレイカはアンクの顔面に蹴りを入れる。
その蹴りをアンクは受け止めた。
「何すんだテメェ!」
「未来はアタシ達の希望だお前らのエサなんかじゃない!
これ以上、舐めた口を叩くのなら力付くでセルメダルを取り出させてやる。」
「はっ!やってみろよ。」
そう言って睨み合う二人の間に映司が割り込むとアンクの頭を掴み映司は頭を下げた。
「すいません!
コイツって口がどうも悪くて....ほらアンク!お前も謝れ!」
「あ!?何でそんな事!」
二人が言い争いを始めようとした背後で比奈が怒った顔をしながら
「二人とも静かに....未来ちゃんが起きちゃうでしょ!」
「ごっ....ごめんね比奈ちゃん。」
謝る映司を見て比奈は冷蔵庫を下ろした。
それを見たフィリップが興奮した面持ちで翔太郎に耳打ちする。
「翔太郎見たかいあのパワー!
ガイアメモリを使わずにあれだけの力を発揮するなんて実に興味深いよ。」
「フィリップ...頼むからそれ本人の前で絶対言うんじゃねぇぞ。
お前に巻き込まれて冷凍庫に潰されるのなんて真っ平御免だ。」
そんな事を話しているとは比奈は気付かずアンクを見つめる。
「それとアンク、この子の為にもちゃんと協力してあげて!....さもないと...ふんにゅー!」
また冷凍庫を持ち上げようとする姿を見たアンクは舌打ちをしながら言った。
「チッ!分かったよ。
だが、協力するって言っても今んとこは何も出来ねぇ。」
それを聞いたフィリップが尋ねる。
「それはどういう意味だい?」
「確かにあの餓鬼にはセルメダルを入れられた痕跡はある。
だがなセルメダルが一向に"増えてねぇ"んだ。」
「え?....そんな事あるの?」
「普通はねぇ。
セルメダルを入れられた人間は誰であれ欲望が増大しヤミーを産み出す。
その餓鬼に欲望が無ぇって事なら話は別だが"生きることも欲望"である以上、それもありえねぇ。」
「別の理由に何か心当たりは無いかい?」
「さぁな。
そっから先は俺達、グリードよりも俺らを作り出した"錬金術師達の領分"だ。」
「なら、鴻上さんは何か知らないのかな?
オーズの事について調べていたんだし
それに事情を話せば照井さんを救うことにも協力してくれるんじゃ....」
「その考えはかなり甘いと思うぜ火野。」
そう言ってクスクシエの扉を開けたのは伊達だった。
「伊達さん!」
「映司、知り合いか?」
翔太郎の問いに映司が答える。
「はい、俺と同じ様に仮面ライダーになってグリード達と戦ってくれている伊達さんです。」
「まぁ、俺は一億の為に働いてるだけなんだけどな。」
そんな話をしているとフィリップが少しの間、目をつむり何かを終えると伊達に向かって話しかける。
「
ついた異名は"戦う医者"か....実に興味深いね。」
「アンタ....どうして俺の事をそんな詳しく知ってんだ?」
自分の事を必要以上に知っている事に警戒心を強めた目でフィリップを見つめている伊達に気付いた翔太郎がフォローに入る。
「っと!悪い悪い!
コイツも悪い奴じゃねぇんだ。
ただ、見た物や知りたい事を何でも検索しちまう癖があってな。」
「癖?検索?....どういう事か説明して貰おうか。」
翔太郎は映司から伊達が仮面ライダーだと聞いた事もありフィリップについて正直に話した。
「この地球に関する事なら何でも調べられる地球の本棚かぁ....半端ねぇ能力だな。」
「そう言えば伊達さん。
さっきの言葉ってどういう意味なんですか?」
「ん?あぁ、あの人は照井って警察官の命に関して重要視してねぇって事さ。
盗まれた物を取り返す為なら命を奪っても良いって抜かしやがった。」
「そんな!?」
ショックを受ける映司だが翔太郎は冷静に伊達に尋ねる。
「伊達って言ったか?
一つ聞きてえんだがアンタから見て鴻上 光生はどんな人物だ?」
「そりゃ、どういう"意味"でだ?」
「アンタの目から見て鴻上 光生が照井の殺人を"許容"する人物か?
それが聞きたいんだ。」
その言葉を聞いた伊達は腕を組みながら自分の意見を述べた。
「鴻上 光生は欲望に関しては誰よりも純粋で貪欲だ。
もしその欲望に敵対する奴が現れたのなら容赦なく叩き潰すだろう。
そう言う意味では殺すと言う判断はらしいと言えばらしいが、"殺してでも取り戻せって言葉"が引っかかる。
あの男は敵を殺して終わらせるよりも生かして別のメリットを取るタイプだ。
どんなことでも貪欲なあの男にしては随分と早計な判断だとは正直思った。」
そこまで聞くと翔太郎は笑った。
「ありがとう。
それだけ聞けば十分だ。」
「何か分かったのかい翔太郎?」
「フィリップ、似てると思わねぇか?
ここに来る前に会った刃さんとマッキーの一件。」
「....まさか!?
だとしても余りに比効率的だ。
"離れた都市の人間を洗脳"するなんて」
「"離れてなかった"のなら?」
「え?」
「目の前....それこそ隣の本を取る感覚で相手を洗脳できるのなら話は別じゃねぇか?」
そこまで説明してフィリップは翔太郎が言いたいことを察してしまう。
「まさか....でもあり得ないだろう。
ゴエティアは死んだんだ!」
「あぁ、確かにゴエティアは無名が決着をつけた。
だが、他にもいる可能性は否定できねぇだろう?」
「もし、翔太郎の想像通りだとしたら今の僕達に勝ち目は無くなるぞ。」
「かもな。
だからこそ、調べる。
俺達の考える黒幕が....."超越者の可能性"を」
本作でもオリジナルガイアメモリを募集しています。
どしどしご応募ください。
【メモリの条件】
"ウヴァ"、"カザリ"、"メズール"、"ガメル"に関連する記憶を持ったメモリ。
メモリのアイデアは活動報告に【メモリアイデア募集】で作りますのでそこでお願いします。
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W×OOO 2.新たなライダーと金のメダル
次の日....クスクシエに泊まった映司達は次の行動について話し合った。
「翔太郎さん達は伊達さんと一緒に鴻上ファウンデーションに行くんですよね?」
「あぁ、フィリップを連れて向かう。」
「その間、映司達にはヤミーの対処を任せるぜ。」
「それは勿論ですけどその間、未来ちゃんはどうするんですか?」
その問いにフィリップが答える。
「メダルについて検索してみたが目ぼしい情報は出なかった。
恐らくキーワードが足りないからだろう。
鴻上光生と話すことで足りないキーワードが見つかって未来ちゃんからセルメダルを取り出す方法が分かるかもしれない。」
そう言うと京水が話しに割り込む。
「それと未来ちゃんの安全なら私とレイカで守るから安心して良いわよ。」
京水にウィンクされた映司は苦笑いしながら了承する。
そうしていると買い出しに出ていた比奈が大急ぎで帰って来た。
「比奈ちゃんどうしたの?」
「今、外で怪物が暴れてるって!」
翔太郎は急いで携帯をテレビモードに変える。
すると、画面に映ったのは女性を守りながら戦っている"仮面ライダーアクセル"と昆虫のグリードである"ウヴァ"だった。
「照井っ!アイツと戦っている怪物はなんだ?」
「あれはウヴァ!?
僕達が戦っているグリードって怪物です。」
その映像を見ながらアンクは首をかしげる。
「何故だ?
ウヴァが現れたのなら感覚で分かる筈なのに何にも気付かなかった。」
「今はそんな事考えてる場合じゃないだろ!
早く助けに行かないと」
「待った!
映司、そのウヴァって奴は強いのか?」
翔太郎の問いに映司は答える。
「普通に戦っても勝てない。
"コンボ"を使わないと.....」
「そうか....良しフィリップ。
悪いが鴻上の所にはお前と伊達さんの二人で行ってくれ。」
その言葉を聞いた映司は驚く。
映司は仮面ライダーWが2人いないと変身出来ないのを知っていたからだ。
しかし、フィリップは冷静に尋ねる。
「"ロストドライバー"で行くのかい?」
「あぁ、映司達に任せても良いが何か嫌な予感がするんだよ。」
「分かった。
こっちは任せてくれ。」
「決まりだな。
映司!テレビに映ってる場所は分かるか?
分かるなら連れてってくれ。」
「分かりました。
アンク行くぞ!」
そう言うと映司は三人で照井達のいる現場へと向かうのだった。
時同じくして鴻上ファウンデーションの社長室ではアケチが鴻上と話し合いをしていた。
「Mr,鴻上....約束の物は?」
「勿論出来ているとも!
想定よりも早く"バースシステム"を稼働したお陰でデータが十分に集まったと"ドクター真木"も言っていた。」
そう言って鴻上は"2つのアタッシュケース"を取り出すとアケチに差し出した。
中を開けるとそこには"2つのバースドライバー"が入っていた。
しかし、中心部分を覆う"トランサーシールド・ボトム"のカラーリングが通常のバースドライバーと違い、下が赤と青の色で分かれていた。
「この2つのドライバーが?」
「そうだ!
バースシステムを改良し生み出した新たなセルメダルシステムであるリバースシステムを搭載したドライバー。
名付けて"リバースドライバー"だっ!!」
鴻上は誇らしげに告げながら説明をしていく。
「君の言う通り、"赤色は近接戦特化"。
"青色は射撃戦特化"で作っている。」
「確かに....では"約束通り"頂いて来ます。」
「あぁ、それが君との契約だからねアケチ君!」
そう言うとアケチは2つのドライバーが入ったアタッシュケースを持って部屋を出ていった。
部屋からアケチがいなくなった後、秘書の里中が尋ねる。
「宜しかったのですか会長?
あのドライバーを彼に渡して....
リバースシステムはバースシステムを更に戦闘用にカスタムしたから危険性が高いと仰っていたじゃないですか?」
「構わんよ!
これがアケチとの取引だからね。」
「会長、その取引って一体何なのですか?
その詳細を私は詳しく聞いてないのですが....」
里中の問いを聞き鴻上の動きは止まる。
「里中君が....知らないだと?」
「えぇ、会長が纏めた取引だとしか聞いていません。」
その言葉を聞き愕然としていると里中の携帯に着信が入る。
少し話してから電話を切ると里中は鴻上に尋ねる。
「会長、伊達さんから鴻上さんにどうしても会わせたい人がいると言われたのですがお会いになられますか?」と......
戦闘を続けていた仮面ライダーアクセルである照井はウヴァからの放電攻撃をエンジンブレードで受けながら斬りかかりウヴァはエンジンブレードを腕で防御し戦闘は拮抗状態となっていた。
「人間の癖にやるな。
だがこれで終わりだっ!」
ウヴァはエンジンブレードを右手の鉤爪の付いた籠手を使い器用に挟み込むと左手でエンジンブレードを叩き落とし放電した頭の角で照井の胸部に頭突きを加えた。
火花を上げて吹き飛ぶ照井に共に逃げていた女性であるキチョウが駆け寄る。
「照井っ!」
「離れていろ!」
照井はキチョウを守る様に手で征する。
その隙を狙うウヴァが鉤爪で襲おうとした瞬間、外から放たれた攻撃により後ろに退けぞった。
「今のは?」
「伏せてください!」
照井は過去に聞いた懐かしい声に従いキチョウと共に頭を下げる。
すると、照井達の頭上を"メダルの形をしたエネルギー弾"が通り抜けていきウヴァに命中していった。
無数の弾を受けて倒れるウヴァにライドベンダーを降りてバースバスターを構えた後藤が立ち塞がった。
「後藤か?」
照井の問いに後藤は答える。
「お久し振りです照井警視。
話したいことは山程ありますが今はこの現状を切り抜けるのが最優先です。
貴方から受けた借りをここで少し返します。」
後藤はそう言うと伊達から貰ったバースドライバーを腰につけた。
そして、懐からセルメダルを取り出すとドライバーに装填する。
チャリン!
セルメダルが装填されるとドライバーから待機音が流れる。
「変身。」
後藤はドライバーのグラップアクセラレーターと呼ばれるレバーを勢い良く回転させた。
その瞬間、ドライバーから緑と透明なカラーリングをしたエネルギーの球体が現れ後藤の身体を装甲が包み仮面ライダーバースへと変身が完了した。
その姿を見て照井が驚く。
「後藤....その姿は」
「俺が手に入れたかった"力"です。
照井警視、奴はグリードと呼ばれるメダルの怪物です。
倒すには貴方の助けがいります。」
「分かった。
一緒に行くぞ。」
照井と後藤は頷くと走り出した。
照井は落とされたエンジンブレードを掴む為、走り出し後藤はウヴァが照井を妨害しないようにバースバスターで牽制した。
照井がエンジンブレードを掴むとエンジンメモリを装填した。
「JET」
エンジンブレードに赤いエネルギーが発生する。
照井はエネルギーを纏ったエンジンブレードを持ったままウヴァを斬りつけた。
斬られたウヴァの身体から火花が上がる。
「ぐっ!ナメるなぁ!」
ウヴァは反撃の為、頭部から放電攻撃を行うがその攻撃を照井はエンジンブレードで受けた。
「何っ!?」
「やはり、これなら受けられるか。
これはお返しだ。」
照井はそう言うとウヴァの電気を溜め込んだエンジンブレードを振るいエネルギーの斬撃を放った。
その攻撃が直撃したウヴァの身体は切り裂かれ"金色のセルメダル"とセルメダルが空を待った。
吹き飛んだ金色のメダルが照井の前に転がってくるとそれを手に取った。
「これは何だ?」
金色のセルメダルがウヴァから飛び出すと変化が起きた。
「俺は....一体何をしていたんだ?」
洗脳が解けたウヴァは周囲を見ながら呟く。
「まさか、このメダルであのグリードも操られていたのか?」
後藤がそう考察するとウヴァや照井を取り囲む様に警察車両が配置され中から特殊部隊が現れた。
その中には"G3ユニットを着た隊員"も見られる。
「無駄な抵抗は止めて貰いましょうかMr,照井。」
「アケチ。」
特殊部隊を従えアケチは現れた。
「貴方には氷川警視正殺害未遂の罪と私の部下を殺した2つの罪があります。
言うことを聞かないのであれば実力行使も厭いませんよ?」
アケチが手を上げると照井達に警官が拳銃を向けた。
それを見て照井達の前に後藤が立ち塞がった。
「貴方は?」
「俺は鴻上ファウンデーションの者だ。
照井 竜の捕縛は会長から直々に受けた命令だ。
いくら警察が相手でも渡す訳には行かない。」
その言葉を聞いたアケチは溜め息をつく。
「はぁ.....鴻上への命令がここで仇となったか。」
「それはどういう意味だ?」
「いえ別に、穏便に片を付けるのが難しいと感じただけですよ。」
そうしていると事態が飲み込めないウヴァが叫ぶ。
「おい!これはどういう事だ!何だお前達は!?」
「ん?何故、洗脳が解けている?
.....あぁ、"主のメダル"が抜けたからか。
つくづく使えない駒だなグリードは...」
「何だと!?人間の分際で!!」
アケチの言葉に怒ったウヴァは彼等に向かって放電を放った。
アケチは人間とは思えない身体能力で攻撃を回避したが放電攻撃を受けた特殊部隊が地面に転がる。
「アケチ....お前、本当に人間か?」
「そんな質問をしている場合ですかなMr,照井。
忠告しましょう。
その手に持っているメダルは今すぐ手放した方が良い。
さもないと後悔しますよ?」
「後悔?それはどういう....」
そうして照井が尋ねようとすると照井に向かって斬撃が飛んで来る。
それを受けた照井は金色のセルメダルを手離し地面を転がった。
「がはっ!」
「照井警視!」
「照井!」
照井に駆け寄る後藤とキチョウ。
斬撃を振るったのは"鎧を着た怪人"であった。
怪人が金色のセルメダルを手に取るとそれを吸収した。
すると、欠けていた鎧のパーツの一部が復元する。
それを見てアケチが舌打ちをした。
「チッ!まだ、完全に覚醒していないから欲望の力を求めているのか。
キチョウだけでも体一杯なのに相も変わらず面倒な男ですよ貴方は....」
周囲を見つめアケチが思考しているとそこにバイクに乗った翔太郎と映司、アンクが到着した。
「良し着いた。
...ってあの怪人はこの前戦った鎧の奴じゃないか!?」
「何で奴がここにいやがる?」
驚いているアンクと映司を他所に鎧の怪人は二人に向けて武器を構えながら襲い掛かってきた。
鎧の怪人は二人を掴むと凄まじい跳躍でこの場を離れて行ってしまった。
「映司!アンク!....クソッ!何なんだあれは!」
翔太郎が毒づいているとアケチが一人、理解した様に呟いた。
「アイツが連れていったという事は....成る程、あれが"今代のOOOの器"と言うことか。」
それを聞いた翔太郎がアケチに尋ねる。
「お前、あの怪人について何か知ってんのか?」
「えぇ。
ですが、貴方には関係ない。
何故なら貴方は"私達と協力してMr,照井を殺してくれる"筈ですから....」
そう言うアケチに翔太郎は警戒心を強めながら言う。
「あ?俺が照井を殺すだって?
どういう意味だ?」
その姿を見てアケチは首をかしげる。
「妙だな?
主の力が効いていない。
ガイアメモリ使用者はある程度、主の力に抵抗があるのは聞いていたが完全に洗脳出来ないとは.....」
アケチの言葉を聞き翔太郎は納得する。
「洗脳.....成る程。
どういう理屈かは知らねぇがお前がその洗脳で照井を嵌めたってことか。」
「予定外が多すぎますね。
ここは一度、体勢を建て直しますか。
...ですが、その前にそこの駒は回収しないと行けませんね。」
アケチがウヴァを睨みながら"青いパーツ"が付いたバースドライバーを腰に付ける。
懐からセルメダルを取り出すと装填しレバーをゆっくりと回転させた。
ドライバーが展開し中心のパーツが開く。
「変身」
アケチがそう言うと彼の身体をバースドライバーと同じく球体の青いエネルギーが装甲に変わりアケチの身体に纏われていくと変身が完了した。
その姿は仮面ライダーバースと酷似していたが違うのは背中についた二本の砲頭と青いカラーリングだった。
アケチは自分の姿を見て感心する。
「流石は鴻上....いや真木清人の技術力だ。」
「お前は.....何者だ?」
ウヴァの問いにアケチは答える。
「"仮面ライダーリバース type2".....
これ以上のトラブルはごめんですからさっさと片を付けましょうか。
あぁ、そうそうその前に....."後藤さん"。
Mr,照井の相手をお願いしますよ。」
そう告げられた後藤は"迷うこと無く"照井にバースバスターを向けると発射した。
「ぐあっ!?何をしている後藤!」
照井の声を聞いても後藤はバースバスターを向け発砲を続けている。
それを見た翔太郎がメモリガジェットを後藤の前に出し攻撃を妨害しその間に照井とキチョウを退避させた。
「照井、どんなトリックかは分からねぇが恐らくあのアケチって奴は人を操る力がある。」
「何っ!」
「だか、状況は悪いが最悪ってレベルじゃねぇ。
照井、お前はそのレディを連れてここから離れろ。
今は互いに情報のすり合わせが必要だ。」
「お前はどうする?」
「俺は後藤の目を覚まさせてから逃げる。
アケチって奴も今はあのグリードの対応で体一杯の筈だ。
上手く逃げてやるさ。
照井、無事に逃げられたらこの街にあるクスクシエって店で合流だ。」
「......分かった。
殺られるなよ左。」
「お前もな照井。
さっきのダメージで身体ヤベェだろ?
俺のバイクを使って逃げろ。」
「すまない。」
照井はそう言うと変身解除してキチョウの手を掴み翔太郎のハードボイルダーの元へ向かった。
逃げようとする二人を追おうとする後藤の前に翔太郎が立ち塞がる。
「待ちな!お前の相手は俺だ。」
翔太郎はロストドライバーを腰に付ける。
「悪いがあんまり時間かけられねぇ。
痛いだろうが恨むなよ?」
翔太郎はそう言うとドライバーの上部を押す。
「"DEMON system on-line"」
「変身。」
「DEMON」「JOKER」
デモンシステムを起動し変身した"仮面ライダーデモンジョーカー"と後藤が対峙する。
後藤はバースバスターを翔太郎に向けて乱射するが翔太郎はその攻撃を受けながら後藤に一気に接近すると腹部にアッパーを叩き込んだ。
「ぐはっ!」
後藤は腹部を抑えながら地面に倒れると変身解除した。
翔太郎は倒れている後藤を抱える。
「良し後は逃げるだけだ。
映司借りるぞ。」
そう言うと翔太郎は映司の乗ってきたライドベンダーに乗るとその場を後にするのだった。
本作でもオリジナルガイアメモリを募集しています。
どしどしご応募ください。
【メモリの条件】
"ウヴァ"、"カザリ"、"メズール"、"ガメル"に関連する記憶を持ったメモリ。
メモリのアイデアは活動報告に【メモリアイデア募集】で作りますのでそこでお願いします。
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W×OOO 3.再誕とローブの男
仮面ライダーリバースtype2に変身したアケチは襲い掛かってくるウヴァの攻撃を的確に捌きながら反撃を行っていた。
「ぐはっ!何だこの強さは!?」
「素晴らしいの言葉に尽きるな。
このリバースシステムは....さて、ではこれはどうかな?」
アケチはセルメダルを一枚ドライバーに装填するとレバーを回転させた。
「
アケチの右腕の球体が展開し三連砲のガトリングが現れる。
アケチはガトリングをウヴァに向けると引き金を引いた。
凄まじい速度で放たれるエネルギー弾がウヴァの身体に当たる度、凄まじい火花とダメージを与えた。
「ぐぎゃぁぁ!?」
「良い性能だ。
使い勝手も悪くない....次はどうかな?」
アケチはドライバーに更にセルメダルを二枚入れるとレバーを回転させた。
「
するとアケチ左手に長い砲身を持ったキャノン砲と両足にミサイルポットが出現した。
ヨロヨロと立ち上がったウヴァにアケチは照準を向ける。
「待...!?」
「終わりだ。」
アケチがウヴァに向けて放った大量のミサイルとキャノン砲が次々と当たり爆発を起こすとウヴァは壊れた人形の様に地面に倒れ込んだ。
アケチは変身解除すると倒れているウヴァを踏みつける。
「あ....が...」
「あぁ、良かった。
コアが損傷してないならまだいくらでも使い潰せる。
主からも"アンク"以外のグリードを洗脳すれば良いとお達しが出ていたからな。
それにしてもMr,照井に関しては少々侮りすぎていたな。
今の不完全なグリードじゃ倒すどころかメダルを奪われるかもしれない。
.....やはり強化する必要があるな。
だが、その前にお前を回収しなくてはなぁウヴァ。」
アケチはそう言うと懐から金色のセルメダルを取り出すとウヴァの身体に埋め込んだ。
すると、一瞬ウヴァの身体が震えるとゆっくり立ち上がった。
「お前の役目は終わった。
"始まりの場所"に戻れ。」
「...あぁ。」
そう言うとウヴァはその場を後にするのだった。
時同じくして鴻上ファウンデーションの社長室では鴻上がフィリップと伊達の二人と接触していた。
「やぁ、君がフィリップ君かね!
初めまして!私の名は.....」
「知っているよ鴻上 光生。
君の事は全て検索済みだ。」
「ほほぅ、流石は地球の本棚にアクセス出来るだけの事はあるな。」
「やはり、知っていた様だね。
単刀直入に聞く。
貴方はどうして照井 竜を殺す命令を出したんだい?」
その問いを受けた鴻上は一瞬顔を歪めるが直ぐに表情を戻した。
「それは.....彼が私の所有する大切な物を奪ったからだよ。」
「それはどんな物だ?
伊達さんに集める様に命じた書類を見たが具体的な事は何一つ書いていなかった。
これでは探しようがない。」
「それを部外者の君に説明する理由はない。」
「いや、照井 竜が関わっているのなら彼の無実を証明する意味でも僕は協力を惜しまない。
地球の本棚について知っているのなら僕の力を使えば奪われた物を見つけられる可能性は格段に上がる筈だ。
違うかい鴻上 光生?」
「それは.....!?」
一瞬、顔を歪める表情を見てフィリップは確信する。
(やはり、鴻上 光生は何らかの洗脳に掛けられている。
その洗脳を掛けた相手が照井 竜を嵌めたのだろう。)
「随分と顔色が悪いが大丈夫かい?」
「....話しはこれで終わりだ。
申し訳ないが帰って貰おう。」
「いいや、まだ話しは終わっていない。」
「私が終わったと言ったのだ!!
"里中"っ!二人を力付くで連れ出せ!」
鴻上の命令を受けた里中がフィリップの腕を掴もうとするがそれを背後にいた伊達が止める。
「!?....離してください伊達さん。」
「悪いけどそうは行かないのよ。
医者の見立てから見ても今の会長は錯乱してる。
だから、さっさと正気に戻って貰わないとね。」
里中は手を掴まれた伊達の腕に関節技を行おうとするが伊達は持ち前のパワーと体格でそれを阻止する。
「伊達さん!」
「こっちは気にすんなフィリップ!
里中ちゃんは俺が抑えるからその間に会長を!」
伊達の言葉を受けたフィリップは机を乗り上げると鴻上の顔に手を向けた。
「失礼。」
そう言ってフィリップは手から黒炎が上げると鴻上の顔に押し当てた。
それを見た里中は加減を止め腰に忍ばせていた銃を取り出すとフィリップに向ける。
その腕を伊達が抑えようとするが今度は里中は全身を使い伊達の身体を巻き込んで回転しながら地面に倒した。
大きな動きをしても里中の銃口フィリップに向いている。
そのまま銃をフィリップに向けて引き金を引こうとする。
「止めたまえ"里中くん"!!」
だが、引き金を引くのを止めさせたのは他でも無い鴻上だった。
鴻上は顔を抑えながら立ち上がるとフィリップを見つめる。
「感謝するよフィリップ君のお陰で私は正気に戻れた。
本来の私が戻ったつまりは再誕!私よ!!HAPPY BIRTHDAY!!」
鴻上は手を外すが顔に火傷等の外傷は一切、無かった。
それを見た伊達が尋ねる。
「一体、どうやったんだフィリップ?」
「僕の使う黒炎には事象を消失させる力があってね。
それを使って鴻上会長に掛かっている洗脳を消したのさ。」
そのフィリップの説明に鴻上が補足する。
「それだけではない。
その力は無名....超越者の力が含まれていたから私の洗脳を解けたのだ。」
「やはり、何か知っているんですね。
教えて貰いますよ貴方の知る全てを....」
「勿論だとも!これから先に起こる事件を解決する為には君達の協力が必要不可欠だからね。」
そう言うと鴻上はフィリップ達に自分の知る情報を話し始めるのだった。
その頃、謎の鎧の怪人に連れ去られていた映司とアンクは遠く離れた工場地帯に降ろされた。
「うおっ!こんなところに連れてきて何が目的なんだ?」
「知るか!だが奴が敵なのは変わらねぇ。
おい映司、変身しろ!」
アンクが三枚のメダルを渡すと映司はそれを掴みオーズドライバーに装填しスキャンした。
キン!キン!キン!
「変身!」
「タカ」
「トラ」
「バッタ」
「タ、ト、バ、タトバ」
「タトバ」
映司が仮面ライダーオーズ タトバコンボへと変身が完了すると鎧の怪人も腰に差した刀を引き抜く。
映司はトラクローを展開し応戦した。
振り下ろされた刀をトラクローで弾きながら攻撃を与えていくが効いた様子はなく簡単に反撃されてしまう。
「くっ!やっぱり打撃メインで行かないとキツイな。
アンク、ゴリラのメダルを!」
「メダル取られんなよ映司!」
アンクはゴリラメダルを映司に投げ渡した。
メダルを受け取った映司はドライバーのトラメダルと交換するとスキャンを行った。
タカゴリラバッタ
映司はゴリラメダルで装備した両腕のガントレットを使い鎧の怪人を殴り付ける。
しかし、その攻撃を鎧の怪人は刀を使い滑らせる様に受けていなしがら空きの背後を斬りつけた。
「うっ!」
「映司!.....チッ!コイツ、この前の戦いを学習してやがるのか。
二度目は通じねぇみたいだな。
なら、映司!足をこのメダルに変えろ!」
アンクは映司にメダルを投げ渡す。
受け取った映司はドライバーにメダルを装填しスキャンした。
タカゴリラゾウ
「映司!足をメインにして戦えそれなら奴に通じる筈だ。」
「分かった!」
映司は重量系メダルであるゾウの力を宿した足を振り上げると地面を踏みつけた。
その衝撃が伝播すると鎧の怪人を浮かせ地面に倒してしまう。
その隙を狙い両腕のガントレットを鎧の怪人に飛ばした。
初見の攻撃に対応できなかった鎧の怪人は吹き飛ばされた影響で胸から黒いコアメダルが一枚露出する。
その隙を逃さないようにアンクがそのメダルを掴み取った。
「上出来だ映司!.....ん?何だこのコアメダルは?」
アンクが見たことの無いメダルを見つめていると敵意を感じバックステップでその場から逃げる。
すると、アンクの立っていた場所に火球が落ちた。
そして、鎧の怪人の近くに黒いローブを着た男が降りて来たのだ。
「お前は.....」
「貴方は
そんな話をしていると鎧の怪人が逃亡を企てる。
「あっ、待て!」
映司とアンクが追おうとするが黒いローブの男はアンクの動きだけ止めた。
「え?」
「ちっ!映司、奴を追え!」
「でも!」
「良いから行け!」
「....分かった!」
映司は納得すると鎧の怪人を追うのだった。
映司がいなくなるとアンクが黒いローブ男に話し掛ける。
「いい加減、顔を隠すのは止めたらどうだ?
なぁ.....
アンクの言葉に黒いローブの男は驚く。
「気付いていたのか?」
「はっ!俺と同じ力を使ってたからな。
最初は封印されずに残った残りの身体かと思ったが....どうやら違うみたいだな。」
そう言うと男はローブを外してアンクに顔を見せた。
その顔を見てアンクは驚愕する。
「.....テメェ、どうして"映司"の顔をしてるんだ?」
「お前が知る必要は無い。
さっき、お前さっき奴から黒いコアメダルを奪っただろう?
それを奪われる訳には行かない....返せ。」
「嫌だと言ったら?」
「力付くで奪う!」
映司の姿をしたアンクがメダルを奪おうと手に触れる。
手を触れられたアンクは驚きのあまり黒いコアメダルを落としてしまった。
映司の姿をしたアンクはそのメダルを広い上げるとその場を去ろうとする。
だが、今度はアンクがローブを掴んだ。
動揺しながらアンクが尋ねる。
「おい....どういう事だ教えろ。」
「その手を離せアンク。」
「良いから教えろ!!
何で"映司の身体"が冷たいんだ?」
アンクは黒いローブを着た男が自分と同じ存在なのだとは薄々理解していた。
そして、映司の姿をしていた時の奴の身体を奪ったのだろうと....そう思っていた。
だが、奴の身体に触れて気付いてしまったのだ。
映司の身体が"死人"の様に冷たいことに....
その事を言われた映司の姿をしたアンクの顔が歪む。
「答えろ...お前、映司に何を!?」
「黙れっ!....俺は"俺"が嫌いだ。
俺達グリードは永遠に埋まらない欲望を抱えて生きている。」
「!?」
「気付いているだろう?
お前の欲望は"叶ってはいるが叶わない"事に......」
「映司は....俺の欲望のせいで....死んだのか?」
「違う。
だが、同じような物だ。
"俺も映司も欲深すぎた"のさ。」
そう言うと映司の姿をしたアンクはローブを掴んでいた動揺するアンクの手を突き放す。
「俺は.....例えどんな犠牲を払っても取り戻す。
どんな奴が相手だとしても....」
そう言うとローブを被り直し空を飛んでその場を後にする。
アンクはその姿をただ見つめていることしか出来なかった。
戦いが終わって...瓦礫以外、何も無くなった地面に映司は倒れていた。
満足そうな顔をして死んだ........
俺は.....そんな映司の身体を使って...生き返った。
他の奴らは言った...「仕方なかった。」「映司は最後まで満足に逝った。」ってな。
ふざけんな!....アイツはずっとそうだった!
自分の命なんかよりも他人の命ばかり求めて手を伸ばしたがる!
俺が....オーズの力を与えた時だって...奴は感謝しやがった。
やっと手が届くって.....でもよ映司。
お前が死んだら..."悲しむ人間も乾く人間"もいるんだ。
伊達も....後藤も.....比奈も....皆、何かが欠けた様な顔をしてやがる。
ゴーダとの戦いの時....俺はお前の願いを聞いて一緒に戦った....でもよ本当にそれで正しかったのか?
もっと何か無かったのか?
お前が死んでパッピーエンドなんて出来るわけねぇだろう!
街が復興したって俺は満たされない。
きっと、グリードだからってだけじゃねぇ。
俺は....お前と一緒に......
「やり直したいか?」
俺にそう声をかけてきたのは見たことのねぇ
「俺達の計画に加われば失った命を呼び戻せる。
ただ、それには条件がある。
一つは計画を行う場所に
お前がその男を生き返らせたいのなら計画を行う並行世界の同位体と戦う必要がある。
ソイツらの命を奪ってでも生き返らせたい.....そんな覚悟がお前にはあるか?」
信彦にそう問われた俺は死んでいる映司の顔を見つめる。
きっと、映司は望まねぇだろう。
んな事は近くにいた俺が一番良く分かってる。
....でもよ映司。
お前は死ぬ最後まで欲張ったのに....俺がそれをしないのは不公平じゃねぇか?
怒って喧嘩するにもよ...生きてないと出来ないんだぜ?
俺は....そんな未来が欲しい。
だから....許してくれ...映司。
覚悟を決めた俺は映司の身体にもう一度入った。
最後の変身の時に同じ事した筈なのに....今度は罪悪感で心が一杯だった。
でも、俺は止まれねぇ。
「本当に映司を蘇らせれるんだろうな?」
「あぁ、ロノスは不可能な事は言わない。」
「ロノス?」
「俺の雇い主だ。
直ぐに会える....さぁ、行くぞ時間が惜しい。」
「ちょっと待て。」
そう言って俺は瓦礫でボロボロになっていた黒いローブを手に取ると身に付けた。
それを見た信彦が告げる。
「まるで罪人だな。
聖書に描かれるぺテロの様だ.....」
「何だそれは?....でもまぁ罪人か。
的を射ているな。」
「自分が罪人だと思うのか?」
「生きていた映司の思いを無視してるからな。
でも....それでも良い。
映司を救えるなら俺は"悪魔"にでもなってやる。」
そう言いながらアンクは信彦と共にガオウライナーに乗りこの時空を後にするのだった。
【説明】
『リバースドライバー』
これまでのバースドライバーの戦闘データを元に戦闘用に改良を加えたバースドライバー。
ドクター真木の手により二機製作された。
「アケチ」
アメリカの国家安全保安局に所属する刑事。
「キチョウ」
照井に助けられた謎の女性。
「黒いローブの男」
映司達に関わる謎の男でありアンクと同じ炎を使う。
その正体はVシネOOO復活のコアメダル時空から呼び出されたアンク。
映司の死を受け入れられず死んだ映司の身体を使いロノスに協力している。
「映司.....お前は何で死ぬことを選んだんだ?」
本作でもオリジナルガイアメモリを募集しています。
どしどしご応募ください。
【メモリの条件】
"ウヴァ"、"カザリ"、"メズール"、"ガメル"に関連する記憶を持ったメモリ。
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W×OOO 4.ノブナガと賢者の石
クスクシエに到着した照井はボロボロの身体をキチョウに支えられながら店内へと入ってきた。
中では比奈が開店の準備をしていたが傷だらけの照井を見て驚いてしまう。
「すいませんまだオープン前....きゃっ!酷い傷っ!」
「ひだ...り....は?」
「え?....その...まだ帰ってきてません。」
「そう....か...」
遂に照井は限界に来たのか意識を失ってしまう。
「ちょっと!!大丈夫ですか?」
「照井!しっかりして!」
比奈が横で照井に声をかけている女性に尋ねる。
「貴女は?」
「私は....キチョウ。」
「キチョウ....さん?
取り敢えずここにいても危ないですし一緒に中に入りましょう....ふにゅ~!!」
比奈は持ち前のパワーで照井を"楽々"と持ち上げるとキチョウを連れてクスクシエの中へと入っていくのだった。
鎧の怪人を追っていた映司だったが相手の方が速度が速く見失ってしまった。
変身を解除して辺りを捜索しているとボロボロの服を纏った青年が地面に倒れ付していた。
「大丈夫ですか!しっかりしてください!」
映司の声に反応して青年は起き上がる。
「ここは....何処だ?
お前は誰だ!」
「えっと...俺は君が気を失っているのを見かけて声をかけたんだ。」
「俺が気を失っていた?
....俺は誰だ?ここは何処なんだ?」
「もしかして記憶喪失とか?」
「記憶....喪失?」
まるでそんな言葉を知らない対応をとられた映司は恐る恐る青年に向けて尋ねる。
「えっと、俺の名前は火野.....火野 映司。」
「火野....映司?」
「そう!貴方の名前は?」
「俺....は.."ノブナガ"。」
「ノブナガかぁ....じゃあノブ君だね。」
「ノブか。
悪くないな。」
「取り敢えずここは危険だから一緒に行こう。」
そうして映司はノブナガをクスクシエへと連れて帰った。
フィリップの黒炎により洗脳が解けた鴻上が二人に話し始める。
「やれやれ、私が洗脳されている間に随分と好き勝手されてしまった様だ。
流石はアルケと言ったところだな。」
「アルケ?」
「君の知りたがっていた黒幕の名前だよ。
....正確には可能性があると言う段階だがね。
アルケは欲望を司る超越者だ。
フィリップ君!君はオーズとコアメダルの歴史については調べたかね?」
「えぇ、800年前のとある小国の王が錬金術師に指示をして作らせたと」
「その通り!!
だが、その時代の錬金術と言えば平凡な化学反応を利用した物ばかりだった。
それでどうやって欲望と言うエネルギーに目を付けられたと思う?」
鴻上の問いにフィリップは一つの可能性を考え答える。
「まさか、アルケが錬金術師と接触しその力を分け与えたのか?」
「正確に言えば製法を教えたのだ"直接"な。
これを見たまえ!
最近、出土した800年前の遺物だ。」
そう言って鴻上は机にあったタブレットを操作して一枚の写真をフィリップに見せた。
それは透明な琥珀の様な結晶体であり内部には金色の液体の様なエネルギーが滞留していた。
「800年前の王と錬金術師の手記からこれは"賢者の石"と呼ばれていた。
錬金術師達はこの賢者の石からオーメダルやドライバーの精製方法を教えられたらしい。
写真では中心に黄金のエネルギーが流れているが実際に見ると透明な結晶だった。」
「まさか、ゴエティア以外にもこの地球に直接介入した超越者がいただなんて....」
「驚くのはこれだけじゃない!
手記によれば賢者の石は800年前の王にこの地球全てを操る方法を教えた様なのだ。
その方法を聞いた王はグリードを作り上げ全てのコアメダルをその身に取り込もうとした。
だが、器が持たなくなり石棺にグリードごと封印された。」
そこまで聞くと伊達が鴻上に尋ねる。
「おいおい、そりゃかなりヤバイ話じゃねぇか。
会長、あんたさっきその賢者の石を出土したって言ってたよな?
その賢者の石は今、何処にあるんだ?」
「そりゃ、もちろん保管していたさ。
"照井君が事件を起こした場所"にね。」
「「!?」」
「その事に気付いた私は直ぐに事件当時の監視カメラを見ようとしたんだが....そこで記憶が途切れている。
今、確認したがその時の映像も私が消してしまっている様で何も分からん!」
「何だよそれ....」
「大方、そこで鴻上さんが洗脳されたんだろうね。
しかし、困ったな。
正体が超越者だと分かっても目的が分からないのならこっちは動きようも無い。」
「フィリップ君の地球の本棚だっけ?
それで何か分からねぇのか?」
「かつて同じ超越者を相手にした時、地球の本棚の世界で殺されかけた。
超越者にとって地球の本棚は自分達のフィールドだ。
何の策もなく無闇に突っ込めば返り討ちに遭う可能性が高い。
鴻上さん....保管庫から盗まれた物については把握していますか?」
「勿論、保管庫から盗まれたのは三つ。
一つが"賢者の石"....二つ目は"石板"....最後は...出土された場所から見つかった三枚の"黒いコアメダル"。」
そうしてタブレットに表示される円形の石板と"エビ"、"カニ"、"サソリ"が掘られた三枚の黒いコアメダルが表示されるのだった。
アケチは黒塗りのベンツに乗りながらスマホで日本の警察に連絡していた。
「えぇ、照井 竜を"全国指名手配"してください。
罪状?....氷川署長の殺人未遂、それに私の部下も殺されました。
それだけあれば十分な筈です。
えぇ、お願いします。
照井 竜の捜査に反抗する者についてですか?
それは貴殿方のトップの判断に任せます。
もう良いですか?
これから大事な用件がありますので....では失礼します。」
連絡を終えると運転手に声をかける。
「ここで良い....停めろ。」
運転手がアケチの言う通りに車を止める。
「それで....供物の準備は?」
そう声をかけると運転手が話し始める。
「一人は確保しましたが...他二人はまだ....」
「随分と手こずっているな。
主と共鳴する波長を持つ人間にセルメダルを打ち込むだけなのにどれだけ手間をかけるのですか?」
「申し訳ありません。」
「はぁ....まぁ良いでしょう。
お前達にはその間に"二人目の供物"にセルメダルを打ち込んで貰いましょう。」
「もう見つけられたのですか?」
「えぇ、二人目の供物は"園咲 若菜"です。
彼女はゴエティアにより超越者の力を植え付けられました。
十分に供物として使えます。
彼女は風都にいる筈です。
それぐらいならお前達でも出来るでしょう。
分かったのならば早く向かいなさい。」
アケチにそう命令されると運転手は外に出ると大量のセルメダルになり二つに分裂するとプテラヤミーに姿を変え空を飛んでいった。
「はぁ....やはりセルメダルしかないヤミーでは知能に差がありますか。
とは言えグリードも手駒が少ない。
悩みどころですね。」
アケチは金色のセルメダルを取り出すと地面に落とした。
落とされたメダルは地面にチャリン!と音を鳴らし吸収されるとアケチを別空間へ移動させた。
アケチの周囲に広がったのは周囲を掘削して作られた岩の空間だった。
その空間を作っているのはガメルとカザリでありメズールとウヴァは運び込まれている装置を組み立てながらエネルギーを供給していた。
装置の中心部には台座がありそこに賢者の石が取り付けられていた。
『戻ったかアケチ。』
賢者の石からアルケの声が発せられアケチに話し掛ける。
「はっ!お待たせして申し訳ありません。」
『前置きは良い....報告を』
「ノブナガ様とキチョウ様ですが...順調に成長を続けています。
このペースで行けば覚醒も直ぐでしょう。
しかしノブナガ様が暴れた際、仮面ライダーにコアメダルを奪われてしまったのですが....」
『その点は問題ない。
メダルは此方の手にある。』
賢者の石はそう言うと特殊な力で黒いコアメダルを浮かせるとアケチの前に差し出した。
『これを埋め込み直すにはまだ時がいる。
しばらく成長させてから戻せ。』
「はっ!丁度、鴻上から手に入れたドライバーがありますのでそれと平行させて渡します。
それと....もう一つ報告が
"貴方の力が効かない人間"が現れました。」
『効かない....効きにくいではなくか?』
「はい、ガイアメモリ使用者や貴方様の力で出来たオーズに洗脳能力が効きにくくなるのは聞いておりましたが全く効かないのは始めてです。」
『ふむ....そいつの名か姿形は分かるか?』
「名前....確か照井 竜が奴の事を"左"と呼んでいました。」
『左.....そいつの使っていたメモリは分かるか?』
「"ジョーカー"....そう聞こえました。」
ジョーカーの名を聞いたアルケは合点が言った。
『ジョーカーか...ふふっそれで納得した。
アケチよお前が会った男は左 翔太郎だ。
奴の使うメモリには超越者の一人だったコスモスの力が宿っている。
そして、超越者として根幹の力を持つメモリ使用者には私の洗脳能力は効かなくなるのだ。』
「そういう訳だったのですね。
どういたします?
邪魔になるようでしたら私が消しましょうか?」
『いや、コスモスのメモリを持っているのなら役に立つ。
生かしておけ....だが覚醒の邪魔をされたら面倒だ。
先程、鴻上の洗脳が解かれた事をあるからな。
ウヴァ!ガメル!』
賢者の石が二体のグリードを呼ぶと仕事を止めて此方を向いた。
『お前達に仕事を与える。
儀式が始まるまで左 翔太郎とフィリップを足止めしろ。
それとアケチ...."ローブの男"にオーズの足止めを指示しろ。』
「よろしいのですか?
奴とアンクは平行同位体です。
万が一我々を裏切る様な事があれば....」
『それは不可能だ。
奴の欲する者は儀式の過程でしか手に入れられん。
儀式を止めることは望みが果たせなくなる事と同義だ。』
「では....その様に」
『念には念をと言う。
この世界の仮面ライダーは強いからな。
ウヴァ、ガメル....お前達に力を与えよう。』
そう言うと賢者の石が光出し周囲のセルメダル集まり融合すると二本のガイアメモリを作り出された。
造られたガイアメモリをウヴァとガメルの二人に渡した。
『それはお前達の力を高める。
勝てないと思ったら使うことだ。』
メモリを渡されたウヴァとガメルは岩だらけの空間から移動した。
アケチは賢者の石に尋ねる。
「では、私はノブナガ様の覚醒をお手伝いすれば宜しいですか?」
『あぁ。
ノブナガが全ての起点だ。
奴が覚醒すればキチョウも自ずと覚醒するだろう。』
「承知致しました。
ではカザリをお借りしても宜しいですか?
供物の準備にプテラヤミーを使っていますが予想よりも時間が掛かっていますので.....」
『分かった。
カザリ!お前はこのメモリを持ってアケチに従え。』
アルケはセルメダルからもう一つメモリを作るとカザリへ渡した。
そして、メモリを受け取ったカザリはアケチの傍にかしずく。
「ありがとうございます。
では、カザリ早速だが働いて貰おうか。
ノブナガ様を追え....あの方はきっとオーズと行動を共にしている筈だ。
見つけたら程々に痛め付けて覚醒を促せ。」
「分かったよ。」
そう言うとカザリもその場を後にした。
「では、私もこれにて....」
『行けアケチ。
覚醒が始まれば儀式を進められる。
そうなったら後は時間が全てを洗い流してくれるだろう。』
そう呟く賢者の石の背後には"巨大な砂時計を模した装置"があったのだった。
映司にノブナガと名乗った男は尋常ではない才能を有していた。
最初は片言しか話せなかった言葉も図書館で読み漁った本の知識を使い直ぐに順応したのだ。
そして、映司が伝で紹介した仕事場で起きたトラブルを一瞬で解決しそこの社員として働ける内定まで貰った。
「それにしてもノブ君って本当に凄いよね。
何て言うか才能と努力の塊みたいな。」
「才能と努力か.....お主の事だ素直な称賛なのだろうな。
なぁ、映司よ。
お主の望み....欲望とは何だ?」
「欲望?どうしたの急に」
「お主は我を助けた。
そして、こうして世話もしてくれた。
何か考えがあるのか?
お主の望みは何なのか知りたいのだ。」
「うーん、"望みなんて無い"よ。
俺は君が困ってると思ったから助けた。
伸ばしてくれた手を掴んだだけだよ。」
「手を掴む?」
「うん、この世界にはどうしようもない程の悲劇や事故が必ずあるんだ。
どんなに手を伸ばしたって届かない命だってね.....
だから、決めたんだ。
せめて、この手が届く範囲の人は助けようって!
だから、もっと手を伸ばす....それだけだよ。」
映司の答えを聞いたノブナガの表情は先程と違い冷たくなる。
「ノブ君?」
「"小さい"。」
「え?」
「お主の届く手の範囲等、小さいと申したのだ。
そんな手で一体何人の民草を救えると言うのだ!」
「急にどうしたのノブ君?」
「お主と語らい分かった。
映司、お主は"主....王となる器"がある。
お主ならばこの世界を悲劇無きものに変えられる。
そんな力を持っている筈だ。
それなのにお主は自分の手の届く範囲しか守ろうとしていない。
それはあまりにも小さすぎるのではないか!」
ノブナガは洞察力が人並み外れていた。
映司を一目見た時から只者ではないと直感で理解していたのだ。
「.....ノブ君、俺はそんな凄い人間なんかじゃないよ。」
「いいや、お主程の"大きな器"をワシは見たことがない。
今は空だがこれからどんな大きな欲望でも飲み込めるだろう。
だが、お主はその器に何の欲望も満たしていない。
どれだけ大きくて丈夫な器でも中身が無ければ意味など無い。
器とは中身があるからこそ意味を持つのだ。」
「.....買い被りすぎだよノブ君。
俺は俺!ノブ君はノブ君!
欲望だって人それぞれだ。
俺の欲望がたまたまそうだってだけだよ。」
そこまで聞いたノブナガは悲痛な顔をしながら「そうか」とだけ答えるとそこで会話が終わってしまった。
(あれだけ大きな器がありながら満たすことをわすれてしまっている.....いや、恐れているのか。
どれだけ器が大きかろうとも中に何も無ければ価値など無い。
映司.....お主は"つまらない男"なのだな。)
ノブナガは映司を心の中で軽蔑しつつ己の欲望を定めた。
(映司.....お主が諦めたのならば"俺が引き継ごう"。
民草を守り"ワシ"が"この世界の王"となる。)
その思いに隣の映司は気付かぬまま.....
本作でもオリジナルガイアメモリを募集しています。
どしどしご応募ください。
【メモリの条件】
"ウヴァ"、"カザリ"、"メズール"、"ガメル"に関連する記憶を持ったメモリ。
メモリのアイデアは活動報告に【メモリアイデア募集】で作りますのでそこでお願いします。
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W×OOO 5.追っ手と風都
「おい起きろ!後藤!」
翔太郎の声を聞き後藤は目を覚ます。
「ここ....は?」
「気付いたか。
いきなり、照井を殺そうとした時は慌てたぜ。」
翔太郎はクスクシエではなく偶然見つけた廃墟に後藤を寝かせていた。
事態を察した後藤は起き上がろうとすると腹部の痛みで顔を歪める。
「無理すんな。
時間無かったからあんま上手く加減出来なかったんだ。」
「俺は....」
思い出そうとする後藤に翔太郎が説明する。
「お前は敵に操られて照井を殺そうとしたんだ。
すんでの所で俺が止めてお前とここに身を隠してる。
それに奴等、こんなもんまで出しやがったからな。」
そうして翔太郎が携帯の画面を見せるとそこにはニュース速報が流れていた。
『警察からの発表によりますと風都署の刑事であった"照井 竜に全国指名手配"。
尚、仲間と思われる元刑事の"後藤 慎太郎"と協力者である"左 翔太郎"及び"鳴海 亜樹子"の両名に逮捕状が出ているとの事です.....』
「照井警視を指名手配だと!?」
「どうやら、相手の方が一枚上手だったみたいだ。」
「直ぐに助けに行かないと...くっ!」
急いで立ち上がろうとする後藤だったが腹部の痛みで動きが止まる。
「無茶すんな後藤。
ニュース見ただろ。
今、俺達はお尋ね者なんだ。
下手に動けばもっとヤバイことになりかねねぇ...」
「ですが!」
「それより、気になんのはあの時どうして照井を襲ったか?だ。
後藤、何か覚えてねぇか?」
翔太郎に言われ冷静になると後藤はその時の事を思い出した。
「分からない。
でも急にアケチの言っていることが正しいと思ってしまったんだ。
俺は照井警視を殺すことが正しいと本気で....いや違う。
何で俺が照井警視を殺さないと行けない?
どういうことだが意味が分からない。」
混乱した後藤は頭を抱えそれを見た翔太郎が優しく告げた。
「悪かったな後藤。
嫌なこと思い出させて....でも助かったぜ。」
そうやって話していると翔太郎の携帯にフィリップから着信が入った。
「フィリップどうした?」
『翔太郎の事が心配になってね。
そっちは大丈夫かい?』
「まぁな。
何とか後藤も無事に連れ出せた。
だが、その間に状況は悪くなったみたいだな。」
『あぁ....やはり翔太郎の読み通り敵の正体は超越者の可能性が高い。』
「やっぱりか。」
『あぁ、敵の名は"アルケ"。
か つて仮面ライダーOOOを作り出した錬金術師と交流していた超越者だ。』
「OOOってことは.....」
『あぁ、"コアメダルやグリード"にも関係している。
鴻上会長の話ではアケチにグリードが従っているのもアルケの力が働いているからだと言っていた。』
「フィリップ、分かってるとは思うが」
『勿論だよ翔太郎。
敵が超越者ならば無闇に地球の本棚の力を使うのは自殺行為だ。
最悪、僕の精神が閉じ込められる可能性があるからね。』
「分かってるなら良いんだ。
それでこれからどうする?」
『君はどうにかして火野 映司と合流してくれ。
この事件を解決するにはOOOの力がいる。
それからアケチにも注意をはらう必要がある。』
「まぁな。
どういう原理かは分からねぇが奴には"人間の認識を改変させる力"があるらしい。」
『それはどういうことだい翔太郎?』
「さっき、後藤と話したがアイツ照井との記憶を残した上で敵対しようとしていた。
その事を聞くと認識のズレで混乱してるみたいだった。
恐らくだがアケチの能力は"人の認識している知識や記憶の一部分を変える"事が出来るんだろう。
"照井は敵であり殺さないといけない"。
きっと、後藤の頭の中ではそう書き換えられたんだろう。
だから、冷静になると認識のズレから混乱する。
マッキーや刃さんも同じ症状だった。」
『翔太郎の言う通りならば驚異的な能力だ。
アケチは話しただけで人の認識を変えられる。
友だろうと敵に出来る不和を引き起こす力か。』
「あぁ、アケチは多分俺にもその力を使おうとしたんだろう。
だが、俺にはその力は効かなかった。」
『やはり、興味深いな。
本当ならばじっくりと検索したいところだが....』
「あぁ、そんな暇は無さそう......!?」
そう話していると廃墟を塞いでいた荷物が爆発し中に"ウヴァとガメル"が入ってくる。
「アイツらは!」
「ウヴァ...ガメル!」
「見つけたぞ仮面ライダー。」
「俺達が...お前ら...潰す!」
翔太郎と後藤はグリードから殺意を向けられると臨戦態勢を整えた。
二人ともドライバーを腰につける。
「フィリップ!どうやらお客さんが来たみたいだ行けるか?」
『!?あぁ、問題ないよ。』
「良し....後藤!病み上がりで悪いが手伝ってくれ。」
「分かりました。
足手まといにならないよう頑張ります。」
後藤はセルメダルをドライバーに装填し翔太郎はジョーカーメモリを起動する。
「CYCLONE,JOKER」
『「変身」』「変身」
そう言うと後藤は仮面ライダーバース。
翔太郎とフィリップは仮面ライダーWサイクロンジョーカーへと変身が完了した。
『アレがグリードか。
実に興味深いね。』
「翔太郎さん気を付けてください。
アイツらはヤミーとは強さが桁違いです。」
「おう。
後藤、援護頼んだぜっ!」
翔太郎がそう言うとダブルは現れたウヴァとガメルに向かって走っていく。
バースはバースバスターを使いダブルを援護する。
ダブルの風を纏った徒手空拳がグリードの体を掠める。
そこか、セルメダルが落ちた事でウヴァとガメルはダブルへの警戒を強めた。
「いいもん持ってんじゃねぇか。
嘗めて倒せる相手じゃねぇか。
おい、ガメル!本気でやれ!」
「分かった!ウォアアア!」
ガメルが両腕で地面を叩くとそこから発生した重力波でダブルとバースの身体が宙に浮いた。
「うおっ!?」
『これは....重力波か?
なんて出力だ。』
「これでも喰らえ!」
ウヴァは頭部から緑色の雷を生成するとダブルに向けて放つ。
「危ない!」
「
後藤はセルメダルを使い背中にカッターウイングを生成すると飛行能力で重力波を脱出しダブルを抱えながら攻撃を回避した。
「助かったぜ。
...そうだ後藤!
そのままアイツらの周囲をグルグル回ってくれ。」
「何をする気ですか?」
「こうするんだよフィリップ!」
『良いだろう。
ここから反撃開始だ。』
「LUNA,TRIGGER」
ダブルはルナトリガー変わるとトリガーマグナムを構え発砲した。
放たれた黄金の弾丸は独特な軌道を描くとウヴァとガメルに命中する。
「飛んでないで降りてこーーい!」
ガメルは重力波を飛んでいるバースに向けて発生させる。
「早々、何度もやらせるか!」
翔太郎はそう言うとガメルの前で落下する。
「HEAT,METAL」
フィリップが落下しながらメモリチェンジすると握り込んだメタルシャフトでガメルの頭を打ち下ろした。
「ガメル!」
「お前の相手は俺だウヴァ!」
「
「
バースは右手にドリルアーム左手にショベルアームを展開するとウヴァの身体を構成するセルメダルを削る様に振るった。
バースの連撃によりウヴァの身体を構成するセルメダルが宙を舞う。
「ぐあっ!...調子に乗るなよ人間がぁ!?」
「LUNA,METAL」
ウヴァがバースに鉤爪で攻撃を仕掛けようとするがルナメタルにより伸びたメタルシャフトにその腕を巻き取られてしまう。
「やらせるかよっ!」
ダブルはメタルシャフトを思いっきり引く。
それで飛び上がったウヴァはガメルへと激突した。
「ウヴァ!?重いーー!」
「クソッ!」
二体が立ち上がるのにもたついている間にバースはセルメダルを一枚ドライバーに装填しレバーを回した。
「
バースの胸部にパーツが展開すると巨大な砲台が現れた。
『武器の生成プロセスが実に興味深い。
出来ることなら分解して調べたいが.....』
「んなことしてる場合か。
こっちもトドメ行くぞフィリップ。」
『あぁ、後藤君の技に合わせよう。』
「HEAT,TRIGGER」
ダブルはヒートトリガーにメモリチェンジすると生成されたトリガーマグナムにメモリを装填する。
「TRIGGER MAXIMUMDRIVE」
ダブルが必殺待機状態にしている頃、バースもセルメダルを二枚装填し必殺待機状態へと移行する。
「
「ブレストキャノン.....シュート!!」
『「
二人から放たれた攻撃はグリードに向かう途中で混ざり合い一本の真っ赤に燃えた炎へと変わるとウヴァとガメルを包み込み爆発した。
「「グアァァァ!?」」
吹き飛ばされたウヴァとガメルが地面に倒れる。
「やったか?」
「後藤、油断すんな。」
そうして話しているとウヴァとガメルが立ち上がる。
「やはり強いな仮面ライダーは.....
これを使わねば勝てないか。」
「そうだねウヴァ。」
そう言った二体のグリードは隠していたガイアメモリを取り出す。
「アレはガイアメモリ?」
「何でグリードが持ってるんだよ!」
『翔太郎、気を付けるんだ。
グリードの持っているガイアメモリを僕は見たことがない。』
「ってことは....」
『あぁ、恐らく超越者が与えた物だ。』
そう話しているとウヴァとガメルはその手に持ったメモリを起動させるのだった。
翔太郎達が風都を離れている最中、命令を受けたプテラヤミー達は風都に戻っていた。
「きゃっ!」
「若菜さん!...彼女の手を離せよ!」
若菜の腕を掴むプテラヤミーに芦原 茜が持ち前の空手で攻撃を与えるがプテラヤミーの身体に茜の正拳が何発も当たっても効いた様子は無い。
「クソッ!無視してんじゃねぇ!」
殴り続ける茜だがプテラヤミーは若菜を見続けるままだ。
「感じる....お前の身体に残留する微かな力を.....お前で"二人目"だ.」
プテラヤミーはそう言うと若菜の身体にセルメダルを一枚落とした。
メダルが若菜の体内に入ると彼女の身体に変化が起きる。
「うっ!」
「若菜さん!?ちくしょう!」
茜が若菜を持つプテラヤミーの手に攻撃を仕掛けようとするとプテラヤミーは若菜を掴んでいた手を離し茜に向き直ると首を捕まえて持ち上げた。
「あ.....くっ....」
「供物の準備は終えた。
ここに用は無い....だが、我は
お前の無を戴く。」
プテラヤミーがそう言って掴む手の力を強くしようとするとプテラヤミーの腕から火花が上がり茜から手を離してしまう。
「誰だ!」
プテラヤミーの問いに答える様に青色の戦士、
「娘に触れるな。」
トリガーは構えた"トリガーマグナム"を連射しながら近付くと茜の前に立ち彼女からヤミーを離す様に動き始めた。
茜と違い戦闘経験が豊富なトリガーはプテラヤミーを連れて外へ飛び出す。
すると、外にはもう一体のプテラヤミーと戦闘している
スコーピオンドーパントはトリガーを見て驚く。
「アンタは!?」
「今は戦いに集中しろ!」
「!?.....そうね。
コイツらドーパントじゃない!私の毒が効かなかった。」
雪絵は芦原と黒岩の家族を警護中、プテラヤミーに狙われていた若菜を偶然見つけた。
家族は若菜を助けようとしてプテラヤミーに襲われてしまい雪絵がドーパントになり止めようとするが一体逃してしまったのだ。
仮面ライダートリガーとなっている芦原も家族を監視している最中に起きたプテラヤミーの襲撃を見てドライバーを腰に着けて飛び出したのだ。
「毒が効かないのなら力押しで仕留めるだけだ。
数秒、怪物を足止めしてくれ。」
そう言ってトリガーはドライバーのメモリをトリガーマグナムに装填する。
「はぁ!?....全く無茶言ってくれるじゃない!」
スコーピオンドーパントは奥の手であるセンチピートメモリを使いムカデの力を解放させると二体のヤミーを拘束した。
ギリギリと音を鳴らして締め上げる中、トリガーマグナムを向ける。
「TRIGGER MAXIMUMDRIVE」
「食らえ。」
トリガーの放った一発の青色の弾丸はプテラヤミー二体を貫くと大きな爆発を起こした。
爆発の後には数枚のセルメダルが地面に落ちる。
変身解除した二人はそのメダルを拾い上げる。
「見たことの無いメダルだ。
あの怪物から出てきたのなら危険な物には変わりはないだろうが.....」
「無名と一緒にいたアンタが知らないなら少なくともガイアメモリ関連じゃなさそうね。
全く....こんな時に風都の仮面ライダーは何処に行ったのやら」
「俺達が知らない何かが起こっているのかもしれないな。
少し調べてみるか。
悪いがその間......」
「はいはい。
家族と若菜さんの警護よね分かってるわよ。
念の為、兄さんにも救援を頼んでおくわ。」
「すまない迷惑をかける。」
「もう慣れっこよ。
それに、ここで見捨てたら私の気分が悪いからね。
でも良いの?家族に会わなくてさ。」
「....悪いがそこも上手く言っておいてくれ。」
芦原はばつの悪い顔をしながらそう言うとその場を後にした。
後で降りてきた茜への説明を雪絵がする事になり(会ってから行けよ)と雪絵は内心で毒づくのだった。
本作でもオリジナルガイアメモリを募集しています。
どしどしご応募ください。
【メモリの条件】
"ウヴァ"、"カザリ"、"メズール"、"ガメル"に関連する記憶を持ったメモリ。
メモリのアイデアは活動報告に【メモリアイデア募集】で作りますのでそこでお願いします。
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W×OOO 6.医者と鎧
「これで"二人目"....あと一人だ。
それで漸く"これ"を動かすことが出来る。」
アルケは巨大な砂時計と石板で造られたオブジェを見つめる。
「これだけの舞台を用意してくれたのだ。
仮面ライダー達にも...."褒美"が必要だろうな。」
そう言うと賢者の石が光輝き二つの"石棺"が目の前に現れるのだった。
意識を失っていた無名が目を覚ましたのは辺り一面何も無い砂漠だった。
「ここ....は..」
「良かった気が付いたんだね。」
無名は声の聞こえた方に目を向けるとそこには二人の青年が立っていた。
一人は無名に向けたカメラのシャッターをきりもう一人の青年は無名に笑顔を向けていた。
「次元の狭間に君が追放された時は焦ったけど見つかって本当に良かった。」
「お前がいなければこの"狂った世界"に介入出来なくなるからな。」
「貴方達は一体?」
「あれ?僕は兎も角、
ゴエティアから渡された記憶の中にあるからね。」
そう言われた無名はカメラを持った青年の顔を見ながら記憶を探る。
意識がハッキリした事でボヤけていた記憶が甦ると無名は立ち上がった。
「
「俺の名を知ってるなら"コレ"も思い出したよな?」
士はそう言うと"白色で周りにライダークレストが入ったのドライバー"を見せつけた。
「えぇ、"仮面ライダーディケイド"....世界の破壊者。」
無名の理解した顔を見た士は隣の青年に話し掛ける。
「どうやら、お前の考えは正しかった様だな"王様"。」
「あんまり当たって欲しくは無かったけどね。」
「仕方無いだろう?
俺もお前も奴から力を奪われているんだ。
その力を使われたら....."全ての歴史"が消えることになる。」
「全ての歴史....どう言うことですか?」
無名の問いに青年が答える。
「それについては僕が話すよ。
それが君を見つけ出した理由でもあるし.....でもその前に自己紹介だけしとくね。
僕の名前は
もう1つの名前は"仮面ライダージオウ"...."最高最善の魔王"になる予定の王様かな?」
そう言ってソウゴは無名に笑顔を向けるのだった。
ノブナガと別れてクスクシエに帰って来た映司は臨時休業と書かれた扉を開き中に入った。
そこには包帯を巻かれ簡易ベッドで寝ている照井と未来の世話をしているミーナと比奈がいた。
「ごめん遅くなった。
あれ?アンクや京水さん達は?」
「アンクはまだ帰ってきてません。
京水さん達は周囲の警戒の為って言って外に出てます。
照井さんの事は他の人にも連絡したんですけどまだ返信が来てません。」
※比奈が連絡を入れた頃、翔太郎とフィリップはWになってグリードと戦闘をしていた。
「そっか照井さんの容態は?」
「えっと...それが」
比奈が言い淀んでいる所に白衣を着た男性が道具を抱えて現れた。
「貴方は誰ですか?」
男は照井の前に行き装置のプラグを繋げながら答えた。
「放射線科医の
照井さんには借りがあってな。
ニュースを見てすっ飛んできた。」
「ニュースって?」
「映司さん知らないんですか?
照井さんと翔太郎さん達が警察から指名手配を受けているんです。」
「え!? どうしてそんな事に?」
その問いに比奈は分からずに困惑していると花屋が話し出した。
「良し....照井さんの身体に異常はねぇ。
倒れたのも過労と寝不足が原因だな。
まぁ、ずっと気を張ってればこうなるのは当然だな。
今、栄養剤打っておいたからこれで問題は無ぇだろう。
赤ん坊の方も調べた限りでは問題無かった。
だが、それはあくまでも普通の医学知見で診察した範囲の中でだ。
セルメダルとか言う代物は俺には分からないから用心しておく事に越したことはねぇだろう。」
「そうですか。」
「あぁ、それと照井さんの連れてた女だが.....恐らく解離性健忘症だな。
事件が起きたショックが影響してこれまでの記憶に蓋をして思い出せなくなっている状況だ。
本当なら病院で診察して貰うのが一番だが今はオススメ出来ねぇ。」
「それはどうしてですか?」
「....ここだけの話だが照井さんが殺人容疑をかけられた時、それが真実だと本気で信じてる関係者が何人もいたんだよ。
照井さんと一緒に働いていた同業者ですら殺人を疑ってなかった。」
「!?」
「理由は分からねぇが何かデカい催眠が掛けられてると思う。
そんな状態で警察やその息の掛かっている病院にでも行けばどうなるかなんて考えなくても分かるだろ?」
「警察は信用できないってことですか?」
「全員がそうって訳じゃねぇたろうが警戒しておく事にこしたことはねぇよ。」
そう話しているとクスクシエの扉を叩く音が聞こえた。
警戒する映司に花屋が答える。
「安心しろ敵じゃねぇ。
....正直連れてきたくは無かったがほっとくのも医者として気が引けちまってな。」
そうして開けるのを促すと中に入ってきたのは憔悴した顔をした鳴海 亜樹子だった。
亜樹子の顔を見て映司は思い出す。
「貴女は確か翔太郎さんのいる探偵事務所の.....」
「鳴海 亜樹子です。
それよりも花屋先生、竜君は?」
「大丈夫。
疲れが溜まっただけで命に別状はない。」
「そっか....良かった。」
そう言って亜樹子は眠っている照井の手を握る。
手から感じる体温が彼が生きていることを教えてくれた。
「本当に良かった....竜君。」
その姿を遠くから見ていたキチョウは頭を抑えると動揺したように外に出ていってしまった。
「あっ!?キチョウさん待って!」
「映司君、私も行く。」
映司と比奈は二人でキチョウを追い掛けるのだった。
時同じくしてノブナガが天下統一の為に動き始めていた。
株で得た金を元手に会社を買収するとそこのCEOの座を乗っ取った。
秘書である男性がノブナガに話し掛ける。
「社長の手腕により会社の軌道は鰻登りです。
このまま行けば何れは鴻上ファウンデーションと並ぶ大企業に....」
「"足らん"。」
「え?」
「このままでは何もかもが足らんと言ったのだ。
金があったとて兵や力が無ければ天下など取れん。」
「兵...ですか?
お言葉ですがこの日本で私兵を集めるのは難しいかと....」
「何じゃ、お主らは戦は出来んのか?」
「そっ!?...そんなの無理ですよ。」
「そうか....であるならば先ずはワシが力を手に入れなければなるまい。」
「その力....此方でご用意致します。」
「曲者!」
ノブナガが声の聞こえた方に万年筆を投擲した。
秘書の顔の横を通り抜けて飛ぶ万年筆は曲者の指に挟まれて止まった。
「流石はノブナガ様。
相も変わらず容赦がない。」
「お主は何者じゃ?
どうやってここに忍び込んだ?」
「私の名前はアケチ....貴方に仕える為に参りました。」
「仕えるだと?」
「はい。
この世界で天下統一を為すためにはノブナガ様の様なお方こそ必要です。
私は貴方の傍でその覇道を見届けたいと思い参上致しました。」
アケチはそう言ってノブナガに平伏した。
その姿を見たノブナガは嗤う。
「"滑稽"だな。」
「!?」
そう言うとノブナガは壁にかけていた日本刀を引き抜きアケチに振るう。
アケチはその刀を回避すると距離を置いた。
「何をなさいますか?」
「お主の滑稽な小芝居にイラついてな。
本音を申せアケチ....お主の目にはワシへの恭順は写っておらん。
身の内から寝首をかこうとする匂いが漂っておるぞ?」
本心を見透かされたアケチは驚くと直ぐに笑う。
「ふふっ....あっはっは!流石はノブナガ様!!
それでなくては面白くない!
その通りですよ!今の私は別の方に仕えております。
その方からの命でノブナガ様に力を渡しに来ただけに過ぎません。」
そう言うとアケチは何処からか取り出したアタッシュケースをノブナガに差し出すと黒いコアメダルを投げ渡した。
「これは?」
「貴方に必要な物です。
これから先、天下を目指す上でね。
それでは失礼致します。
貴方と話せて良かったですよノブナガ様。」
そう言うとアケチは部屋を出ていった。
ノブナガはその後を追うことはせず置いていかれたアタッシュケースを持ち上げると中を開く。
そこには赤く塗装された"リバースドライバー"が入っていた。
「天下を取る力......か。」
それだけ呟くとノブナガは気絶している秘書を起こす。
「ふえっ!?....ここは...」
「ワシは出掛ける。
車の用意をしろ。」
それだけ言うとノブナガはアタッシュケースを持って車へと向かうのだった。
照井の手を握る亜樹子の姿を見た瞬間、キチョウの頭に知らない記憶が流れてきていた。
鉄砲隊が発砲する場面、大きな城で着物を着る自分の姿、そして燃え盛る寺の光景が止めどなく流れてくる。
(これは何?私は何を"見させられている"の?)
理解できない記憶に苦しめられていると私の肩を支える手の温もりを感じた。
鎧を着たその人の顔は見えないがその手の温もりには安心感を覚えている。
(会いたい....あの"お方"に)
そんなことを考えていたからだろう。
後ろから聞こえた大声に動くのが遅れてしまった。
「危ない!」
その言葉を聞いて目を向けるとキチョウの前に車が迫っていた。
映司と比奈はパニックになりクスクシエを出ていったキチョウを追い掛けていた。
「急に走って何処に行ったんだろう?」
「あ!?映司君あそこ!」
比奈が指差す方を見ると車道に向けて歩いているキチョウの姿を見つけた。
そして、キチョウの後ろから黒いセダンの車が迫ってくる。
「危ない!」
映司はキチョウに向かって走り出そうとするが間に合わない。
しかし、ギリギリの所で黒いセダンの急ブレーキが間に合いキチョウの前で車が止まった。
すると、車の中からスーツ姿のノブナガが現れる。
「おなごよ大事無いか?」
「あ.....」
「どうした?ワシの顔に何か付いておるか?」
キチョウを見て尋ねるノブナガの元に映司が合流する。
「良かったぁ。
轢かれるかと思った....ってノブ君!?
どうしたのその格好?」
「映司ではないか?
お主こそ何故、ここにおるのだ?」
「えっと.....話せば長く...!?」
「!?」
殺気に気付いた映司とノブナガは比奈とキチョウを抱えて車から退避する。
すると、先程まであったセダンは巨大な竜巻を受けて地面を転がっていった。
すると、カザリがその場に颯爽と現れる。
「お前はカザリ!?
どうしてこんな所に」
「今日はオーズの相手をするつもりはないんだ。
僕の相手は君だよ....ノブナガ。」
「ほぉ...ワシに何用じゃ?」
「少し僕と遊んで貰うよ。」
そう言ってカザリが高速でノブナガに近寄るとその爪で切り裂こうとする。
キン!キン!キン!
「変身!」
「タカ」
「トラ」
「バッタ」
「タ、ト、バ、タトバ」
「タトバ」
しかし、その刃は寸での所でオーズに阻まれてしまった。
「くっ!邪魔しないでよオーズ。」
「そういう訳には行かない。
ノブ君達を傷付けさせない。
比奈ちゃん今の内に!」
映司の言葉を聞き比奈が二人に近付こうとするとカザリの攻撃によりオーズが吹き飛ばされてきた。
「かはっ!カザリの奴、前よりも強くなってる。」
「あんまりオーズに邪魔されたくないんだよ。
だから、本気で行ってあげるよ。」
カザリはそう言うとガイアメモリを取り出す。
「それって...ガイアメモリ!?
どうして、カザリがそれを!」
「
カザリは起動したメモリを胸部に挿す。
すると、全身にエネルギーが溢れ出し肉体が変化した。
身体が前傾姿勢となり両手足が太く巨大化し口の牙が鋭く大きなものへと変わる。
鬣は背中を覆うように増え尖端が槍のように鋭くなった。
「どうだいオーズ?
これが僕の手に入れた新しい力だよ。」
カザリの姿を見て驚愕するオーズだったがその闘志が消えることはない。
「どんなに強くなったとしても俺は、この力で守れる人を守る!」
オーズはメダジャリバーを手に持つとカザリに向けて斬りかかった。
「!?」
しかし、オーズの斬撃はカザリにかする事すらなく避けられていく。
「その程度かオーズ?
じゃあ次は僕の番だね。」
カザリはそう言うと巨大化した身体を使いオーズに突進した。
その凄まじい加速にオーズは回避が間に合わず上空へと吹き飛ばされてしまう。
「かはっ!」
「まだまだ行くよオーズ。」
カザリは地面やビルを蹴りながら上空にいるオーズに突進を繰り返す。
オーズはまるでボールの様にカザリに弾かれながら空を舞い続けた。
「あははは!!まだだよオーズ!
もっと楽しもうよ!」
そう言ってカザリは両手足に巨大な爪を生成すると空中に乱回転しているオーズの首に爪を突き立てた。
しかし、その爪はアンクの放った炎により止められる。
攻撃が止まったことでオーズは地面に落下した。
「がはっ!....ア...ンク。」
「映司!....チッ!
カザリの野郎....どんだけ強くなってやがるんだ。
映司、今のカザリはヤバイ。
一先ず逃げるぞ。」
「ダ...メだ。
まだ....皆を....守ら...ない...と」
オーズはそう言ってボロボロの身体を何とか起こす。
「このままだとお前が死ぬぞ映司!!」
「それ....でも!!
俺は...皆を...守りたい!」
「映司....お前....」
自分の命を省みず人の命を救おうとするその姿を見てアンクは
(映司はこのまま死ぬのか?
だとしたら....映司が死ぬ未来ってのは......)
「アンク...ラトラータだ。
カザリを止めるにはコンボしかない。
早く...メダルを」
「...."ダメだ"。」
「え?」
オーズの差し出された手をアンクは払い除けた。
「お前にメダルは渡せねぇ。」
「今そんなこと言ってる場合じゃ!?」
「うるせぇ!
お前に渡せるメダルはねぇんだよ....映司。」
仲間割れを始める二人を見たカザリは嗤う。
「何々、仲間割れ?
まぁ、どうでも良いけど.....かかってこないならこっちで勝手にやらせて貰おうかな。」
カザリのその言葉を聞き構えるオーズだったがそれよりも速いスピードでオーズの背後に回るとその爪で背中を切り裂こうとする。
「映司!!」
アンクが止めようとするがカザリの超スピードによる衝撃波で吹き飛ばされてしまい間に合わない。
カザリの爪がオーズの背中に食い込もうとした瞬間、その動きが止まる。
「何っ!?」
「映司に....民草に触れるな妖怪。」
カザリの攻撃を止めたのはノブナガだった。
カザリの腕を掴み上げるとカザリを蹴り飛ばす。
「ノブ....君?」
変身解除され倒れそうになる映司の身体をノブナガが支える。
「映司....お前の想いは理解した。
己が命すら賭けて人を守ろうとするその心意気は天晴れだ。
だが、想いは称賛できてもその行動は許せぬ。
民草を守ろうとする者が何故、そんな簡単に命を投げ捨てようとする?
兵は民草を守り国土を守るその為におる。
だからこそ、誰よりも長く生きねばならぬ。
今のお主は"死兵"と同じじゃ。
"生き様ではなく死に様"を探しておる。」
「ノブ君....俺は.....」
「良い....お主にも死兵なり得た出来事があったのじゃろう。
なればこそここから先はワシに任せろ。」
ノブナガがそう言ってカザリを見つめながら立ち上がる。
「我が民草に随分な狼藉を働いてくれたな妖怪。
覚悟しろ....お主はこのワシ、ノブナガが討ち取ってくれる。」
ノブナガはリバースドライバーを腰に装着した。
そして、上着から黒いコアメダルを取り出す。
「アレは!?...鎧の怪人が持っていたメダル!」
「この力がワシを呑み込むか。
またはワシがこの力を呑み込むか....試してみよう。」
ノブナガは自分の胸に黒いコアメダルを押し当てた。
すると、コアメダルはノブナガの身体に吸い込まれると彼を鎧の"怪人の姿"へ変える。
「そんな....ノブ君が....鎧の怪人?」
ショックを受ける映司とは対照的にノブナガは自らの姿を見て理解した。
「"全て思い出した"....ワシが何者なのかを」
ノブナガは掌からセルメダルを一枚生み出すとリバースドライバーのスロットに装填すると、スロットルをゆっくりと回していく。
すると、ドライバーの中心部分の球体が展開する。
「.....変身。」
ノブナガの声と共に全身がパーツで覆われていき赤と銀色のアーマーで覆われた"仮面ライダーリバースtype1"への変身が完了した。
「ノブ....君。」
「ワシの名はノブナガ。
この姿では仮面ライダーリバースとでも名乗るべきか。
さて、カザリと言ったか?
この
少し試しをさせて貰おう。」
「へぇ....随分と余裕があるんだね。
流石は"あの方"に選ばれた事だけはあるって感じかな。」
「どうかな....あやつ程の"うつけ"では無いがお主ら程度に負ける程、弱いつもりもないがな。」
ノブナガはカザリを挑発しながらセルメダルをドライバーに入れてスロットルを回した。
「Blade arm」
すると、左腕から鞘の付いた刀が現れノブナガはその鞘を掴むと右手でゆっくりと刀を抜いた。
磨き抜かれた刀身をカザリに向けながらノブナガは悠然と前へと進んでいくのだった。
Another side
照井達の治療を終えた花屋はクスクシエを後にしていた。
本当ならば照井達を助けたい花屋だが彼にはそれよりもやらなければいけない目的があった。
「あれ?そっちはもう終わったの大我。」
赤いパーカーに派手な洋服とリュックを背負った少女が花屋に尋ねる。
「あぁ....照井さんには世話になったからな。
せめて、治療ぐらいはしてやりたかった。」
「ふーん...その照井って人にそんな借りがあるのか?」
「俺が"医師免許を剥奪されなかった"のは照井さんのお陰だからな。」
花屋 大我がゲーム病治療の為、プロトガシャットを使い患者の治療を行っていたが強力なプロトガシャットの副作用と一人の
しかし、話を聞いた照井が事件を再捜査し幾つかの疑問点と花屋が行った緊急治療の必要性を医療協会に提出したことで花屋の医師免許は"剥奪"ではなく捜査が完了するまで"凍結"と言う扱いになったのだ。
「あの人は医者としての俺を救おうとしてくれた。
警察に捕まった俺と話した時だって俺を助ける為に自分のキャリアを賭けてくれたんだ。
そんな恩人が死にかけてるって聞けば動くしかねぇだろ?」
「へぇ、結構堅物そうな人だったけど良い奴なんだね。」
「まぁな。
俺のやるべきことはした....後はあっちが何とかしてくれんだろ。
俺は俺の目的に戻る。」
花屋はそう言うと一本のガシャットを取り出す。
紺色の表面に"バンバンシューティング"と描かれたガシャットを握る花屋の手が強くなる。
「絶対に見つけ出してやる"グラファイト"。
アイツを倒すのはこの俺だ。」
瞳の奥に患者を守れなかった怒りと敵への憎しみを宿しながら花屋とニコは自分の住み処へと帰っていくのだった。
(この世界線では花屋 大我が医師免許を剥奪されなかったがグラファイトへの復讐に燃える花屋は医者を辞めている。
そこからニコとの出会いは原作通りだが照井からの優しさを受けたからか多少態度は軟化している。)
"ライダー解説"
『仮面ライダーリバースtype1』
バースシステムを発展させたリバースシステムで変身した仮面ライダー。
type1は近接戦を想定した構成がされている。
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W×OOO 7.力と計画
"涼森 かなさん"と"ユウキOO"のものを頂きました。
改めてありがとうございます。
「
「
ウヴァとガメルは持っていたガイアメモリを起動させるとウヴァは胸、ガメルは頭にメモリを挿した。
ウヴァの体内に"ケプリメモリ"が入ると全身が緑と金色の装甲に覆われ背中には昆虫の翼と甲殻を象った意匠が現れた。
そして、"スロースメモリ"を使ったガメルの胸部と両肩に手の形をした装甲がつきガメルの腰から"六本の太い腕"が現れると足を支える様に地面に付いた。
ウヴァは全身に流れるエネルギーを実感し感嘆の声を上げる。
「凄いぞ....力がこの身体を満たしていく。
これならどんな仮面ライダーが来ても敵じゃない!」
喜ぶウヴァとは対照的にガメルはまるで睡魔に襲われた子供のように頭をふらつかせる。
「アレ?....オカシイな...身体が重くて...眠い。」
すると、ガメルの肩についている手が開くと工場の機械を掴んだ。
その瞬間、その機械はセルメダルへと変化すると掴んでいる腕に吸収される。
そうすると先程までフラついていたガメルの意識が明瞭になった。
「??...急に元気になった!
もしかして、この腕で触れたから元気になったのか?
なら色々触れてもっと元気になるぞぉ!!」
ガメルはそう言うと目の前で警戒しているWに突っ込んでいく。
Wは反射的にトリガーマグナムをガメルに放つ。
トリガーマグナムから放たれた火球はガメルに向かうが腰に付いた腕が動くと代わりに火球を受けた。
その瞬間、火球がセルメダルに変わりガメルの身体に吸収される。
「なっ!?」
『あの手に触れたらダメだ!
避けるよ翔太郎!』
Wは持っていたトリガーマグナムをガメルに投げつけると横に回って緊急回避を行いながらメモリチェンジした。
「CYCLONE,JOKER」
「翔太郎さん!援護します。」
バースはそう言うとガメルにブレストキャノンの砲頭を向ける。
しかし、発射する前にウヴァに砲頭を掴まれてしまった。
「お前の相手は俺だ。
さっきの借りを返してやる。」
そう言うとウヴァの手から"金色に輝く光"と"緑色の雷"が迸る。
するとバースの胸部を保護していたブレストキャノンが爆発し吹き飛ばされてしまった。
「ぐあっ!?」
「後藤!」
『翔太郎、エクストリームを!』
形勢を打開する為、フィリップが呼び寄せたエクストリームメモリを翔太郎はドライバーに装填する。
「XTREAM」
『「プリズムビッカー」』
エクストリームに変身したWはその手にプリズムビッカーを召喚するとプリズムメモリを装填しマキシマムを発動する。
「PRISM MAXIMUMDRIVE」
『「PRISM BREAK!!」』
Wのプリズムソードでウヴァが斬りつけられるとそこから黄金の光りが溢れ斬り付けられた傷が一瞬で再生した。
「何っ!?」
「これが俺の力かっ!今度はこっちの番だ。」
ウヴァは鉤爪に雷を纏わせるとそのままWを斬る。
Wはその攻撃をビッカーシールドで防御するが凄まじいパワーにより押し込まれてしまう。
「ぐっ!...何てパワーしてやがる。」
『翔太郎!』
ウヴァの攻撃で体一杯になっている最中、背後から現れたガメルに身体を掴まれてしまう。
すると、Wの全身を流れていたエネルギーが急速に減少するとWへの変身が解除されてしまった。
翔太郎とフィリップはエネルギーを奪われた消耗で地面に倒れる。
「何で変身解除したんだ?」
「恐らく、ガメルとか言う怪人に変身で使うエネルギーを奪われたんだ。
エクストリームのエネルギーすら食い尽くすとは恐ろしい能力だ。」
フィリップがそう言って目線を向けるガメルは確かに上機嫌になっていた。
「凄いぞ凄いぞ身体が元気で一杯だぁ!」
「流石は主が作ったメモリだ。
さて....主からの命令を完遂するとしよう。」
そう言うとウヴァはフィリップの身体を持ち上げる。
「くっ.....」
「フィリップ!...テメェ!?」
「ガメル....この男を抑えろ。」
「分かったぁ!」
立ち上がろうとする翔太郎をガメルは後ろから羽交い締めにした。
「さて....とこれで漸く儀式が進む。」
「僕を...どうするつもり...だ?」
「安心しろお前を殺す気はない。
お前は大切な"供物"だからな。」
「供...物?」
ウヴァはセルメダルを取り出すとフィリップの体内へ押し込んだ。
それを終えるとフィリップを掴んでいた手を離しガメルも翔太郎を解放した。
翔太郎はフィリップに駆け寄った。
「フィリップ平気か?」
「あぁ....身体に変化はない。
だが、一体何をする気....!?」
そう話していると地面が揺れる感覚を覚える。
「今度は何なんだ!」
『安心しろ。
"装置"が起動しただけだ。』
そう声をかけてきたのはウヴァだったが先程と声も違い身体はまるで人形の様に真っ直ぐに立っていた。
「お前は......」
『私の名は"アルケ"。
今日は君達に感謝を伝えたくてね。
この身体を使って話し掛けている。』
「感謝だって?」
『あぁ、お前達がこの街に来てくれたお陰で手間がかなり省けた。
何よりゴエティアがこの
奴の印子を持つ者が必要だったんだ。』
「印子?....お前は一体何をするつもりなんだ!」
京水とレイカは鴻上コーポレーションの社長室に侵入していた。
中にいた伊達は二人を警戒するが鴻上本人は二人が来るのを待っていた様に告げた。
「ようこそ鴻上コーポレーションへ....用件は分かっているよ。」
「そう、だとしたらこれから私が言うことも分かるわよね?」
「赤ん坊に埋め込まれたセルメダルの除去だろう?
確かにコアメダルに関する研究ならば私達が第一線を進んでいるも言っても過言ではないからね。」
「えぇ....ついさっき、未来の身体から変な光が出てきてね。
呑気に調べている状況じゃなくなったのよ。」
「アンタ達なら未来に何をされたのか分かるんじゃない?」
レイカの問いに鴻上は笑う。
「素晴らしい洞察力だ!
しかし、残念ながらアルケの計画は止められない!
何故なら赤ん坊が発光したのならばそれは装置が起動したことを意味するから.....」
悠長に話そうとする鴻上に痺れを切らしたレイカは鴻上の目の前に接近すると取り出した銃を額に押し付けた。
「さっきも言ったよね下らない話をしてる暇なんて無いのよ。
アンタの知っていること全部話して貰う。」
レイカにより額に銃を押し付けられながらも鴻上は笑顔を続けている。
「良いだろう。
今回は私の落ち度が大きいからね。
少しはここで"挽回"しよう。」
そう言うと鴻上は指を鳴らす。
すると、背後のプロジェクターが起動し空中に映像が投影された。
そこには古びた羊皮紙の束が映し出されていた。
「これは800年前の王が残したとされる日記の一部だ。
見ての通りバラバラになって発見された為、完全な状態ではないがここには小国だった頃に見つけた賢者の石であるアルケと王、そして錬金術師との会話が記されていた。」
京水がプロジェクターから映し出された映像に目を向けた羊皮紙の文章を解読した文が空中に投影されていた。
『アルケは王と取引をした。
"王に力"を"錬金術師には知識"を与える代わりにアルケは"巨大な砂時計の形をした装置"を求めた。
その装置には時を逆転させる力があり.....』
「時を逆転させるってどういうこと?」
「文字通り、逆転するのだよ時の流れが.....
この装置が起動すれば"未来は過去"へ"死は生"へと戻っていく。
これまで地球と人類が歩んできた歴史は戻り失くなるのだ。」
「は?そんなファンタジーみたいな事が本当に出来るの?」
「無論、当時の錬金術師達の力では無理だった。
足りないものが多すぎたからね。
だからこそ、アルケは最初に力と知識を与えた。
錬金術師達はその知識を使い"オーズドライバー"や"コアメダル"を生み出した。
その力を使って800年前の王は近隣諸国を蹂躙し大国の王へと成り上がったのだ。」
「それで....その800年前の王はアルケの願いを叶えたの?」
「まさか!アルケの言っている装置を本当に完成させてしまったら地球はそれまで歩んだ歴史ごと跡形もなく無くなってしまうことになる。
そんな勿体ない真似を800年前の王はする筈もなかった。
オーズの力を手に入れてからはアルケとある一定の距離を保ち接していた位だからね。
だが、ここで王は一つの計算違いをしていた。
アルケが本当に狙っていたのは王ではなく....その周りの錬金術師だったのだよ。
アルケは相手を洗脳する力を持っていたらしくそれに王が気付いた時には錬金術師による反乱が起こった後だった。
洗脳された錬金術師達は王を倒す為、"二つの特性を持つコアメダル"を生み出した。
一つはあらゆる力を否定し消し去る"無の力"を持つ"紫のコアメダル"。
そして、もう一つはどんな力でも砕けず存在し続ける"有の力"を持つ"黒のコアメダル"だ。
紫のコアメダルは無であるが故に力の際限は無く黒のコアメダルはその増え続ける力をいくらでも蓄えることが出来た。
アルケはこの二つのコアメダルの力を使い装置を起動しようとしたが"失敗"した。」
「失敗した?」
「そう、装置が起動した故にエネルギーの問題では無かったがその理由はアルケにも分からなかった。
かくして王に反逆を企てた錬金術師は殺されそれを主導したアルケは封印を施された地下空間へと幽閉された。
王の日記にはそこまで書かれていた。」
『.....とここまでが800年前の王が知っている真実だろう。
封印された当初は私にも装置が起動しなかった理由は分からなかった。
だが、時が経ち意識を取り戻したことでその理由が分かったのだ。
答え"座標".....どこまで時を戻すか示す座標が無かったのだ。』
アルケはグリードの身体を使いフィリップ達に話し掛ける。
「座標....でもそれを手に入れることは不可能な筈だ。
君達、超越者の存在が残っている物なんて.....まさか!?」
『そう..."君達"だよ。
ゴエティアが作り出した肉体を受け継いだ"フィリップ"。
ゴエティアにより肉体を変えられた"園咲 若菜"。
そして、偶然とは言えゴエティアとコスモスの力を内包した力を使った大道 克己の子である"大道 未来"。
この三人を機転に座標を特定し装置を起動させた。
セルメダルの持つ力をビーコンの代わりにしてね。
お陰で装置は無事に起動を果たした。
改めて感謝するよ仮面ライダー。』
アルケはそう説明するがそれを聞いたフィリップには違和感があった。
(アルケの言い分が全て真実ならば疑問点がある。
奴の言い分では超越者の力を受け継いだ者をビーコンにしていると言っていた。
なら何故、翔太郎はビーコンとして選ばれなかったんだ?
そもそも克己の子である未来よりも翔太郎の方が超越者の力を受けている筈なのに....どうして?)
そう悩んでいると地面から石棺が出現した。
「今度は何なんだよ。」
『言っただろう?
感謝を伝えたいと....利用されたとは言え私の悲願を叶えてくれたのだ。
その恩には報いるべきと思ってね。』
アルケがそう言うと石棺が開く。
開いた棺に手を掛けた中の人物はこじ開けるとその姿を現した。
「え?....」
「そん....な...」
その姿を見たフィリップと翔太郎は動揺する。
特に翔太郎は動揺から被っていた帽子を地面に落としてしまう。
帽子は風に運ばれ石棺から出て来た者が手に取ると自分の頭へと被せた。
目線を隠す様に帽子を被る仕草.....依頼人の為ならどんな無茶でも出来る身体。
そして、身体からあふれ出てくる独特な雰囲気...その全ては嫌でも翔太郎とフィリップの記憶を呼び覚ましてしまう。
「あり得ない。
翔太郎しっかりするんだ!」
『大きな声を出すものじゃない。
折角の感動的な再開なんだ。
静かに見届けるのが相棒の役目ではないかフィリップ?』
そうしていると石棺から出て来た男は翔太郎に目を向けて話し始める。
「理由は分からんが....どうやら今の俺の立ち位置はここらしいな翔太郎。」
「!?」
ずっと耳に残っていたもう聞くことの出来ないと思っていた声が聞こえた翔太郎の目に涙が溢れる。
それを見た石棺の男は溜め息をつきながら言った。
「ハァ....何時も言っていただろう翔太郎。
男がそう簡単に涙を見せるものじゃない。
まだ半人前のつもりか?」
「......"おやっさん"。」
翔太郎は涙を浮かべた目を擦りながら石棺から出て来た男....."鳴海 荘吉"を見つめるのだった。
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W×OOO 8.強者と
仮面ライダーリバースtype1へと変身したノブナガが生成した刀を握るとゆっくりとカザリヘ近付いていった。
カザリは強化された自慢のスピードを使い翻弄しながら近付くと爪でノブナガに切りかかる。
ノブナガはギリギリで刀を差し込むが間に合わず爪で切られ装甲から火花が上がった。
少し仰け反るノブナガだが直ぐに持ち直すと刀でカザリに反撃を加えようとするがその攻撃はアッサリと回避されてしまう。
「....成る程、かなり速いようだな。」
「随分と余裕タップリだね。
じゃあ、今度はその余裕を崩して上げるよ。」
カザリはそう言いながらノブナガを囲う様に周囲を飛び回りながら両腕の爪で切り裂きに掛かった。
嵐の様な攻撃をノブナガは刀で防御しているが間に合わなかった攻撃がノブナガの身体に火花を上げさせる。
「はは!どうしたの?
このまま切られ続けて終わり?」
「ノブ君!...僕..が」
立ち上がろうとする映司をノブナガは言葉で制する。
「じっとしていろ!
この場はワシに任せろ。
それにもう"動きは分かった"」
「は?」
そう言うと先程まで目で追えてすらいなかったカザリの入る場所に顔を向けると刀をカザリの移動方向に向かって振り下ろした。
回避行動が間に合わぬいカザリは背中に一太刀いれられ地面に転がる。
「ぐあっ!?」
カザリは立ち上がるともう一度、ノブナガの周囲を走り出そうとするが足に力を入れようとしたタイミングで回り込まれてしまい振り下ろされた刀を両爪で抑える。
しかし、その爪もノブナガの刀で巻き上げられ無防備になった胴体にノブナガは嵐のごとき太刀を振るった。
カザリはもろに受けたダメージで切られた腹部を抑えながら片膝をつく。
「何....で!?」
「お主の動きはもう"覚えた"。
もうその攻撃がワシに届くことはない。」
「そんなバカな.....」
「では次は"此方"を試してみようか。」
ノブナガは持っていた刀を捨てるとセルメダルを"二枚"、ドライバーにセットするとスロットルを二回廻した。
「
「
すると左腕と両足からパーツが展開し武骨な槍とジェット機構が付いた両足の追加装甲が展開された。
ノブナガは槍を握り込むとカザリに襲い掛かる事はせず二~三度、素振りを行う。
「振りやすく扱いやすい....良い槍だ。」
「バカにしてるのかい?
僕を前にして武器の練習をする暇があるとでも?」
「お主からは殺気を感じない。
恐らくだがワシを殺さぬように命令を受けているのではないか?」
「!?」
「おおよそ、ワシの力を確かめる必要があるからだろう?
なればこそワシもそれを利用させて貰う。
「へぇ....そこまで分かるとは流石だね。
でも、それだけ分かられちゃうと少し不愉快かなっ!」
カザリは不快感を露にすると両手足に竜巻を発生させる。
「僕のメモリは身体能力を高めるだけじゃない。
僕本来の持つ力との相性も高いんだ。
"こんな風"にね。」
カザリはジャンプするとバク転して両手足から四つの竜巻を空中に発生させた。
四つの竜巻はノブナガの周りを囲うように展開される。
カザリは展開した竜巻に突っ込むとその流れに身を任せながらノブナガに突進した。
竜巻の威力を纏ったカザリの突進をノブナガは槍で防御するがその凄まじい威力は防いだノブナガの身体ごと吹き飛ばした。
ノブナガは足についたジェットを起動し吹き飛ぶのを何とか防ぐがその間にカザリは別の竜巻に入りまた突進を行った。
防御が愚策だと悟ったノブナガは足のジェットを使い回避に撤する。
「どう僕の力は?
これで力を確かめるなんて戯れ言まだ言える?」
「確かに素晴らしい戦術だ。
不規則な回転をする竜巻から現れる突進。
受けてしまえば身体が吹き飛ぶ。
それに対処する間にお主は別の竜巻に潜り込み背後から突進を繰り出す。
まるで狩場に追い詰められた兎だな」
「じゃあ、その兎さんはこの状況をどう切り抜けるのかな?」
「簡単だ。
真っ向から捻り潰す。」
そう言うとノブナガは突進してきたカザリの動きに合わせて槍を振るった。
槍はカザリの肩に当たると槍の柔軟性を使いカザリの突進を反らした。
反らされたカザリは再度、竜巻に飛び込みノブナガに向かい突進を繰り返すがノブナガは槍で何度もその突進を反らしていく。
「!?」
「お主のその技は強力だが弱点がある。
その凄まじい速度にお主の感覚がまだついていけてない。
最高速を出すには直線的な動きしか出来ない。
だからこそ、竜巻を発生させそこに入ることで目眩ましの代わりもしておるのじゃろう?」
自分の弱点をバラされたカザリの動きは怒りで更に直線的となる。
それをノブナガは見逃さない。
「そして、もう一つお主の敗因は......」
「"ワシの槍"を侮ったことじゃ」
ノブナガは突進するカザリの肩に槍を振り抜く。
すると、今度はカザリの肩を貫通しそのダメージからカザリは地面に倒れ発生していた竜巻も姿を消した。
肩を抑えながらカザリが立ち上がる。
「どうして....僕が....」
「さて....これで終わりにするか?」
ノブナガはセルメダルを"連続で二枚装填"しスロットルを回す。
危機感を感じたカザリは頭部の鬣からトゲを広範囲に飛ばす。
ノブナガは放たれたトゲに向かって槍を振るった。
「CELL BURST」
セルメダルから供給されたエネルギーが槍と足のジェットに充填されると回転を加えながら放たれたトゲを払い飛ばす様に槍からエネルギーを放った。
しかし、ここでノブナガは失敗を犯す。
カザリの鬣から放たれたトゲには相手に触れると"爆発"する力があった。
結果、トゲを払おうとした槍は連鎖的な爆発を受けてノブナガは吹き飛ばされてしまう。
「ぐっ!...しまった!?」
爆発の後に向かっていったトゲがノブナガの背後にいるキチョウと比奈の元へ向かう。
(間に合わん。)
手を伸ばすノブナガだが進んでいくトゲを止められない。
「チッ!間に合うか?」
アンクは腕だけになり飛行すると比奈を掴みトゲから勢い良く引き剥がした。
しかし、咄嗟の事で比奈はキチョウの手を掴み損ねてしまいキチョウだけその場に残される。
「!?」
「危ない!キチョウさん!」
キチョウは襲い掛かるトゲを見つめることしか出来ない。
そんなキチョウの盾になる様に映司は"生身"のまま立ち上がった。
「何してんだ映司!戻れ!!」
アンクは映司に叫ぶがキチョウの前に立ち塞がり動こうとしない。
そして、トゲは映司の前で爆発を起こした。
「映....司....」
呆然とするアンク...生身であれだけの爆発を受ければ命など無いことは誰が見ても明らかだった。
煙が晴れると爆発した地点はコンクリートの破片で埋めつくされていた。
だが、映司は身体に多少の傷を残しながらも生きたまま立っていたのだ。
映司が無事だった理由は目の前にいる黒いフードを着けた男が爆発のダメージを肩代わりしたからだ。
しかし、爆発の威力が高く彼のフードが吹き飛び素顔が露になる。
その顔を見た映司と比奈は驚愕しアンクは悲痛な顔を浮かべた。
「そんな....アレって」
「えっ?」
"映司の顔をしたフードの男"は驚いている映司を見つめる。
「映司....お前は....やはり....くっ!」
フードの男はそれだけ言うと背中から翼を生やし映司を捕まえて空へ飛び上がった。
「映司!クソッ!」
映司を逃がすまいとアンクは腕だけで飛び上がり映司達に追い付こうとするが加速していくフードの男に追い付けない。
「...仕方ねぇ映司!受けとれ!」
アンクは数枚のコアメダルを映司に投げ渡す。
映司はそれを何とか掴むとそのままフードの男は加速していき二人の姿は消えてしまった。
カザリとノブナガの戦いを隣のビルから黒いフードの男......別世界で死んだ映司の身体を使う別次元のアンクは傍観していた。
「やはり、俺の知る"歴史"とは違うんだな。」
アンクはそう言うと自分の知る歴史と記憶を重ね合わせる。
(俺の知る歴史ではノブナガはいたがアケチやキチョウなんて奴はいなかった。
ノブナガはバースではなくリバースに変身した。
超越者が介入しただけでこれだけ変わるものなのか。)
「もし、映司の前にアイツらがいたら......」
アンクが答えの出ないIFを考えているとリバースとカザリの戦いに決着がついた。
しかし、カザリは最後の悪足掻きとして鬣のトゲを飛ばす。
あんな攻撃ではノブナガにダメージは与えられない。
(これでカザリも終わりか.....)
そう考えているアンクだったが突如トラブルが発生する。
ノブナガがカザリのトゲの迎撃に失敗し爆発に巻き込まれたことで数本のトゲがキチョウの元へ飛んでいったのだ。
(不味いな。
アンクは右手に炎を宿しトゲを迎撃しようとする。
しかし、それよりも先にこの世界の映司がキチョウの盾になるように立ち塞がったのだ。
変身すらしていない生身の身体で.....
「!?」
驚いた。
この世界の映司も俺の世界の映司と同じく自分の命を省みない行動をした。
想像出来ていたり理解しているつもりだった。
だが、その行動はアンクの心にある傷を刺激した。
それはゴーダから映司を救う為に彼の中に入った時に見た光景。
800年前のオーズの攻撃から少女を守る為、映司は自ら盾となった。
身体を貫く痛みに絶叫しながら映司は守った少女に笑顔で告げる。
「大丈夫」....映司はそう言って...最後に....
気が付けば身体が動いていた。
盾になろうとしてる映司の前に立つと放たれたトゲを火球で焼き払う。
その際に起きた爆発でフードが外れてしまう。
自分の顔を見て驚く映司を見てアンクは悲痛な面持ちとなる。
まるで、今、自分のしている行いを非難している様に思えたからだ。
(俺を見ないでくれ....映司。)
俺は映司の手を掴むとその場から逃げ出した。
途中、この世界の
それに、俺はこの世界の映司と話がしたくなったんだ。
その邪魔をさせる訳には行かない。
ある程度、飛び回り手頃な場所を見つけた俺と映司は地面に降り立った。
「うおっ!?」
「ここなら良いだろう。
実際に顔を見せて会うのは始めてだな映司。」
「えっと...取り敢えずさっきは助けてくれてありがとう.....かな?」
「ふん、最初に出る言葉がそれか。
全くお前らしいよ映司。」
並行世界でも変わらない映司の姿に俺は懐かしさを覚え少し笑うが無駄なお喋りをしてる暇は無いので本題に入った。
「俺は並行世界から来た。
所謂、別次元の存在だ。」
「別次元?」
「あぁ、詳細は省くが俺のいた世界はクソでな。
"800年前の王"いきなり復活して....世界を破壊し始めた。
俺と映司はそれを止める為に戦った。
とは言っても俺は途中で目覚めたから最初から戦えてた訳じゃねぇがな。
まぁでも800年前の王は倒せた。」
「じゃあ、どうしてこの世界に?」
映司の問いにアンクの顔は暗くなる。
「失ったんだよ俺にとって大切な者を.....
いや、違うな。
俺が生き返った事で大切なもんが失われたんだ。
奴は満足して逝きやがったが....俺は認められなかった。
命を救う為に手を伸ばすって言ってた奴が最後には自分の命を手放しやがったんだ。」
「それって」
「まぁ、お前に言った所で変わることはないが俺の目的は失ったソイツを救うことだ。
その為にこの世界に来た。」
「失った者を救うってどういう.....」
「"時空間を巻き戻す"。
これまで決められていった歴史を巻き戻すことで死んだ人間を蘇生させる。」
「そんな事が出来る訳が!?」
「出来る。
超越者であるアルケが用意した道具と儀式が完了すれば娘の時空間は巻き戻り始め死は生へと変わる。
.....そして、その力はこの世界にいる人間に作用する。
それが例え別次元から来た俺にでもな。」
「じゃあ君の....アンクの目的は」
俺は止まっているこの身体の心臓に手を当てながら答えた。
「死者の....蘇生だ。」
「.......」
驚く映司にアンクは続ける。
「お前にこの事を話したのは協力して欲しいからだ。
この目的さえ果たせれば俺は何も望まない。
もし、アルケが邪魔だと言うのなら共に戦っても良い。
奴らの情報もくれてやる。
だが、まだ儀式が完了してない。
この状態でお前達に邪魔されるのは困るんだよ。」
「つまり、俺にこの状況を見過ごせって言ってるのかアンク?」
その目を見て俺は確信した。
「.....やっぱりダメか?
この儀式が始まれば過去に失ったどんな人間でも蘇生できる。
お前にも甦らせたい人だっているだろ?」
アンクの言葉に映司は"紛争地帯で救えなかった少女"の顔が浮かぶ。
「そうだね。
この手が届かなかったせいで死んだ人が生き返る何て言われたら少しはぐらついちゃうかも知れないね。」
やっぱりコイツは変わらない。
「でも、だからと言って今苦しんでいる人を見捨てて良い理由にはならないし利用して良い道理も無い。」
「皆、救えるんだぞ?
これが最後のチャンスなんだ。
お前はあの時に手を伸ばしてオーズの力を手に入れた。
ならば何故、俺が手を伸ばそうとするのを否定するんだ映司?」
どこまで言ってもお人好しで強欲な奴だ。
「.....ごめんアンク。
でも俺はこの力を手に入れた時に決めたんだ。
この手の届く範囲の人は何がなんでも守って見せるって....」
「そうか。
なら、もう何も言わねぇよ映司。
協力しないならそれはそれで構わねぇ。」
でもよ映司.......
「だから、ここでお前を潰す。
お前が...オーズが一番邪魔なんだよ。」
「アンクならそう言うと思ってたよ。」
俺はそんな"お前だからこそ"諦めきれないんだよ。
映司とアンクは互いに"オーズドライバー"を取り出すと腰に装着した。
「やっぱり持ってるみたいだね。」
「当然だろ?
俺も映司とこれを使って"戦ってきた"んだ。」
映司はタカ、トラ、バッタのコアメダルをドライバーに装填した。
アンクも同じメダルを取り出すがそのメダルは"黒く変色"していた。
アンクは映司と同じ様にメダルを装填する。
二人はオースキャナーを手に取るとドライバーに装填したメダルをスキャンした。
『『キン!キン!キン!』』
「変身!」「......変身。」
「タカ」
「トラ」
「バッタ」
「タ、ト、バ、タトバ」
「タトバ」
「タカ」
「トラ」
「バッタ」
「タ、ト、バ、タトバ」
「タトバ」
変身を終えた二人のオーズが対峙する。
しかし、アンクの変身したオーズの色は抜けていた黒と灰色で彩られたオーズはまるで映司を失ったアンクの心を表している様にも見えた。
二人のオーズがにらみ合いながらもゆっくりと構える。
「はっ!」
「.....ふっ!」
二人の拳がぶつかり合い火花が散る。
その姿は夕焼けの色に溶けていった。
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W×OOO 9.
鴻上から話を聞いていた京水のケータイに芦原から着信が入る。
「はい、どうしたの芦原ちゃん?」
『京水か。
メダルを吐き出す怪物について心当たりはあるか?』
「芦原ちゃんどうしてその事を!?」
『やっぱり知っている様だな。
実はソイツらが風都で園咲 若菜を襲った。
その時に銀色のメダルを埋め込まれた。』
「そうだったの....実はこっちも未来ちゃんがその怪物....ヤミーって言うんだけどそこで同じ目に遭わされて....」
『そうか。』
「実は今、鴻上コーポレーションで色々と面白い話を聞けてね。
ちょっと手を貸してくれると嬉しいんだけど....」
『やはりそうか。
そう言うと思って俺は風都をもう出ている。
ドライバーも持っているから場所をメールしてくれ。』
「分かったわ。
それじゃあ、今から送るクスクシエってお店で会いま...!?」
そうして京水が話していると突如、鴻上の顔が険しくなった。
その変化に気付いたレイカが尋ねる。
「どうしたの?」
「何者かがこのビルに侵入したらしい。
ライドベンダー隊が手も足もでなくやられた。」
「アルケって奴が送ってきた刺客?」
「あり得るわね。
鴻上さんここにアルケが狙う者ってあるかしら?」
「.....800年前の王が始めて使った三枚のコアメダル。
目的は分からないがアルケが狙うとしたらそれだろう。」
「分かったわ。
今はそれを奪われない様にするのが先決ね。
業腹だけどこれ以上、奴らの思い通りにさせる訳には行かないわ。
行くわよレイカ。
....ごめんなさい芦原ちゃん悪いけど」
『鴻上コーポレーションだったか?
直ぐに向かう。』
「助かるわ芦原ちゃん!」
そう言うと京水は電話を切った。
「侵入者が通るルートは?」
京水の問いに秘書が答える。
「ここです。」
「ありがとう。
出来る女って感じね...でも私の方がおっぱい大きいんだからっ!」
「はい?」
「気にしないでただの嫉妬だから....ほら行くよ京水!」
京水の小声の嫉妬を無視した二人は目的の場所へと向かうのだった。
話を聞いていた伊達もミルク缶を背負うと後に続こうとするが鴻上に止められる。
「伊達くん何処に行く気かね?」
「ここでじっとしていられる程、大人じゃなくてね。
代わりのバースドライバーを貰って加勢しに行くのさ。」
その言葉を聞いた鴻上はバツの悪そうな顔をする。
それを見た伊達に嫌な予感が走った。
「あれ....どうしたの社長さん?」
「実はね伊達くん。
リバースドライバーの開発をドクター真木に命じたのは私なのだ....勿論洗脳された状態でだがね。」
「そりゃそうだろ。
だから敵にドライバーが渡ってるんだろ。」
「そのリバースドライバーなのだが....どうやら開発を優先させる為に予備のバースドライバー開発を私が止めさせてしまったらしくてまだ完成してない!」
「はぁ!?」
「しかも、開発を終えた彼に長期休暇を与えているようで何処にいるか皆目検討がつかない!」
「ちょ!?...ちょっと待ってくれよ!
だとしたら俺は生身でアイツらと戦わなきゃ行けないってことか?」
「そう言うことになるなハッハッハッハ!」
「いや、笑い事じゃねぇだろ!?
クソ、こうなったら真木博士探すしかねぇ!
何か手がかりとかねぇのかよ!?」
「全く分からん!!」
「自信満々に言うんじゃねぇよ!?」
伊達は大急ぎでドクター真木の捜索を始めるのだった。
映司を連れていかれた後、カザリはノブナガに引き続き鬣による攻撃を行っていた。
だが、ノブナガは鎧の怪人の頃からの特殊能力で一度受けた攻撃は対応できるので直ぐ様、迎撃策を取る。
セルメダルをドライバーに装填し新たなガジェットを生成した。
「
ノブナガの胸部に透明な球体のパーツがついた鎧が展開されるとそこから赤い球体エネルギーであるスフィアが展開されカザリの鬣が爆発を起こした。
しかし、スフィアの内部にいたノブナガにダメージはない。
「無駄だ。
このスフィアを破ることは出来ない。
これで仕舞いだ。」
ノブナガはカザリの胸部に向かって勢い良く槍を突き立てた。
槍の刺さったカザリはまるで糸の切れた人形の様にだらんとしていた。
そんなカザリの身体からアルケの声か聞こえてくる。
『お見事、流石は日本でもっとも強欲と言われた"魔王信長"だな。』
「その声....聞き覚えがある。
お前がアルケだな?」
『その通り、しかし立派になったものだな。
私が君を見つけた時はまだ培養前の試験管にいる細胞だったが.....』
ノブナガは鴻上が作り出したホムンクルスだった。
信長のミイラに宿る強い欲望とセルメダルを掛け合わせた人造生命体.....そうなる筈だった。
『培養される前の細胞だったお前と私は取引をした。
....覚えているか?』
「あぁ.....」
『ならば話は早い。
私は約束を果たした。
今度は君が約束を守る番だ。』
「良いだろう....俺を連れていけアルケ。」
ノブナガは変身解除すると展開されていたスフィアが消滅する。
すると、ノブナガは倒れているキチョウの元へ向かうと頬を優しく撫でた。
「少しの辛抱だ。
お主は"必ず"迎えに行く....待っておれ。」
「え?」
二人の会話を聞いていたアンクが間に入る。
「おい、どう言う事だ説明しろ。
お前は敵とグルだったのか?」
「お主に話すことはないアンク。
少なくとも今の"迷っているお主"にはな。」
ノブナガの迷っていると言う言葉にアンクは動揺する。
「俺が何を迷うって言うんだ。」
「では何故お主は映司にコアメダルを渡すことを渋ったのだ?
連れていかれた時は簡単に渡したのにカザリとの戦いでお主はメダルを渡すことを拒んだ。」
「それは!?」
「そんな迷いを戦場に持ち出しあまつさえ映司を危険に晒した。
あやつの性格はワシにも分かる。
お主が何を考えたのかも想像はつくが....その迷いを戦場に持ち込むような奴をワシは信用しない。」
そう言ったノブナガは背を向けるとアルケにより操られたカザリの元へ向かい、その力でその場を後にする。
それをアンクは睨み付けることしか出来なかった。
アルケにより次元の狭間へと転移させられた無名は
「つまり、アルケの狙いは時空間その物を逆転させて超越者達を蘇らせる事なのですか?」
「僕達が調べた限りではね。
でも、そう考えるとちょっと分かんないことが出てくるんだよね。」
無名の問いにソウゴが答える。
「分からないこと?」
「うん、僕や士さんの力はアルケじゃなくてロノスって言う超越者が元々持っていた力だったんだ。」
「そして奴は超越者としての滅びから抜け出す為、わざと自分の力を手放した。
地球に適合できる様に弱体化しこの世界に存在できる様になった。
手放した力は
「そう言う意味で言えばアルケも同じと言えるけどね。
アルケは欲望の力をコアメダルとオーズドライバーに変えた。」
「そこまで分かって何が疑問なのですか?」
「"ロノスの行動"だよ。
ハッキリ言うと今回、アルケの計画が成功したのはロノスの力が大きい。
アルケはロノスの力を再現する装置を作れたけどその装置には実際に力は無い筈なんだ。」
そこまで話すと士が話を引き継ぐ。
「いくら力を模倣しようとしてもあくまで偽物。
ロノスの力が装置に実際に入っていなければ時空間が戻るなんて現象は起こせない。」
「と言うことは今、アルケの使っている装置には....」
「あぁ、"俺とソウゴから奪った力"が入っている。
しかし、ロノスはそれだけ行動しているのに表舞台に出た形跡が無い。」
「つまりアルケとロノスは協力していないんですか?」
「そう、今回の事件はあくまでアルケが起こしロノスは裏で協力している。
アルケと"コンタクトを取らず"にね。」
「アルケは狡猾で頭が良い。
今の財団Xを動かしているのはアルケであり俺達は何度も奴と闘ってきた。
本当ならば俺達がお前の世界に行き介入したいのだがどうやらそれは難しい。」
「どうしてですか?
貴方には"オーロラカーテン"の力があるでしょう。
それを使えば.......」
「ロノスが奪ったのは俺達の覚醒した力その物でな。
今の俺達はその力の大部分を失っている。」
「そう、本当ならタイムマジーンを使ってそっちの世界に行きたかったけど力を奪われた影響で存在が消えてしまってるんだ。」
「つまり、二人は力を奪われて弱体化しているから手助けできないと?」
「そう言うことだ。
だから、お前に託すことにした。」
そう言うと士は"仮面ライダーデーモン"の姿が写った"ライダーカード"をソウゴは"仮面ライダーデーモンの顔が描かれた"ライドウォッチ"を取り出した。
「僕達の力は奪われたけど受け継いだライダーの力は残ってる。
これは元々は君の力だ。
士さんと俺の力を君に託して君だけでも元の世界に戻す。」
「僕は僕の世界に戻れるのですか?」
「あぁ、俺達の力を吸収すれば一時的に肉体を手に入れられるだろう。
だが、あくまで一時的だ。
力を使い過ぎるとお前は消滅してしまう。」
「具体的に言えばエクストリームの力は使わないでね。」
そう言うと二人の手にあったライダーカードとライドウォッチが光り球体のエネルギーに変わると無名の身体に吸収されていった。
「先ずはアルケの計画を阻止しろ。
ロノスはアルケの計画を成功させたがっている。
奴の計画を潰そうとすればきっと表舞台に出てくる筈だ。」
「計画を潰すと言ってもどうすれば.....」
「僕達の力を内包した大きな砂時計の装置がある。
それを破壊すれば奪われた力は僕達の元に戻る。
そうすれば君の世界に行ける筈だ。」
そう言うと無名の前にオーロラカーテンが出現した。
「頼むよ仮面ライダーデーモン....いや無名。
この世界を救ってね。」
ソウゴはそう言うと無名の背中を押し彼をオーロラカーテンの中に進ませるのだった。
アルケの力で地下奥深くにあるアジトである祭壇まで到着したノブナガは周りを見渡す。
そこには巨大な砂時計を模した装置とその中央の玉座に金色の光を放つ水晶の様な結晶が置かれていた。
その結晶からアルケの声が響く。
『ようこそ...."始まりと終わりの場所"へ』
「何?」
『君達や仮面ライダーのお陰で
そう言われたノブナガは砂時計の装置を見つめるとアルケの言っている言葉の意味が分かった。
「砂が...逆に昇っていっている?」
『この砂は時の流れを表している。
これまで過ぎていった時がゆっくりと戻り始めているのだよ。』
「何故そんな回りくどい事を?
お主の力ならば一気に時を戻せるだろうに....」
ノブナガの問いにアルケは笑う。
『ふふ....それでは時空間が不安定になるだけだ。
少し説明してやる。』
アルケはセルメダルを宙に浮かすと魔法陣が出現しメダルは卵へと姿を変えた。
『卵の中身を"時間"...そして外を守る殻を"時空"と考えろ。
大抵の悪党は殻である時空を壊して時間に干渉する。
中身の時間をより多く手に入れればそれだけ時間を操る力を得られる。
だが、そんな大きな衝撃を与えれば殻は砕けて中身は漏れ出てしまう。』
「つまりそれは世界の崩壊を意味すると言うことか?」
『その通り、まぁこれはあくまで例えだ。
この空間には沢山の
お前の目の前にある装置は卵の殻にヒビを入れずに穴を空けられるのだ。
だが安全を期す為にわざと小さな穴を空けて中身を手に入れている。』
「だが、それでは手に入る中身の量もたかが知れているのではないか?
そんな悠長にやっていることを仮面ライダーが見逃すとは思えんが.....」
『ふっふっふ....そこが"卵と世界"の違いだ。
時間とは流動的で受動的だ。
あらゆる事象や事柄が複雑に絡み合い繋がっている。
それを人間は歴史と呼ぶ。
歴史を作るのは人が生きた時間とそれを伝えようとする後世の者の意思だ。
「.....話が見えんな。
それがこの計画にどう関係するのだ?」
『つまりだ。
人の歴史とは時間に密接に関わっておりそれは時に時空の概念すら越える。
ならば時を手に入れたいなら"人の歴史を手に入れれば良い"。
止まってしまった"人の歴史"をな......』
「....まさか!?」
ノブナガはアルケの目的を理解し戦慄する。
もしそれが出来るのだとしたらそれは神すら越える所業だからだ。
「"死した人の歴史"を呼び出したのか....この世界に」
『...."正解"だ。
死と言う運命でピリオドを打たれた者の歴史は時間に"大量に保管"されている。
それを抜き取りこの世界に解き放つとどうなる?
答えは"その者の死んだと言う歴史その物が無くなるのだ"。』
「そんなことをすればそれこそ時空と言う殻が割れてしまうのではないか!」
『いや、一度に大量の歴史を抜きとらなければ問題ないそれこそ一人ずつゆっくりとな....
それにもう"何人か"はこの世界に解き放っている。
今頃、外は大騒ぎだろう。』
アルケはそう言うとノブナガ目の前に二枚のコアメダルを出現させる。
「これは......」
『覚えているだろう?
私は君の願いを二つ叶えた。
一つは君自身が肉体を得ること....そしてもう一つは"君と同じ世を生きた者達も同じ様に蘇らせる事"だ。
私はこのコアメダルを使い!アケチとキチョウ"....そしてノブナガ...君が産まれる切っ掛けを作り出した。
そして、このコアメダルは私の身体を作る重要なパーツとなる。
さぁ、君のメダルを返して貰おうか?』
アルケがそう言うとノブナガは自分の胸に手を当てる。
するとノブナガの胸から一枚の黒いコアメダルが出現した。
「恩には恩を....仇には仇を....お主のお陰でワシはノブナガとして蘇れた。
故にこの恩をここで返そう。」
ノブナガはそう言うとアルケに黒いコアメダルを投げ渡した。
アルケはそのメダルを空中で停止させる。
『これで三枚....ついにこの日が来た。』
アルケは自ら自分自身の精神が入った結晶を破壊する。
すると中から一本のガイアメモリが飛び出すとコアメダルに向かっていく。
「
起動したメモリとコアメダルが融合すると全身が黄金色の鎧を纏った怪人へと姿を変えた。
その鎧からは黒いコアメダルの力の根元であるどんな力も通さない"堅牢"の力が込められていた。
アルケは手を握りその感覚を確かめる。
「ふむ....思ったよりも悪くはないな。
だが、少し"地味な見た目"だな。
こうしようか。」
アルケはそう言って指を鳴らすと全身が装飾されていく金色の鎧には宝石や銀色の彩飾が施され背中には赤と金を基調としたマントが現れた。
また、結晶が置かれていた玉座も姿を変える。
石の玉座がまるでダイヤモンドの様に輝くとアルケは王としての風格を出しながら座った。
「これで良い。
私の目的は成った。
後は
アルケは不敵に笑いながらノブナガを見つめる。
「さて、果たすべき契約は終わったがお主はどうする?
何なら私の配下に.....」
「.......ワシはノブナガだ。
誰の下につくつもりもない。
覚えておけアルケ....天下を取るのはこのワシだ。
その邪魔をするならばお主とて斬る。」
ノブナガからの敵対宣言を受けたアルケは満足した顔をする。
「あぁ...それでこそ魔王信長だ。
そうでなくては面白くない。
では、今度会う時は敵同士だな。
また会える日を楽しみにしておこう。」
そう言うとアルケは指を鳴らしノブナガを元いた場所へ瞬間移動させたのだった。
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W×OOO 10
俺は自分の目を疑った......
私はこの現実を受け入れられなかった......
おやっさんは死んだのに......
克己ちゃんは未来ちゃんを守って命を散らした.....
でも.....
なのに......
どうして目の前に現れたんだ?
翔太郎は目の前の現実が理解できなかった。
自分の目の前に死んだ筈のおやっさん....鳴海 荘吉がいたからだ。
(偽物だ....本物な訳ねぇ!?)
翔太郎の心臓が早鐘を打つ様に激しくなる。
だが、分かってしまう。
あの雰囲気や佇まい....それに....敵に向ける冷たい目...翔太郎は全て知っていた。
見ただけで理解させられた。
(おやっさんは....俺を"敵"だと思ってる。)
動揺する翔太郎を尻目に荘吉本人は辺りを見渡すとフィリップに目を向けた。
「お前は.....そうか...無事に生きてこれた訳か。」
声をかけられたフィリップは動揺しながらも尋ねる。
「貴方は....本当に...鳴海 荘吉なのか?」
フィリップの問いに荘吉は答えた。
「この状況で"そんな言葉"を言うとは.....人として生きて甘さが出たか?
だが、この場では命取りだぞ。」
その瞬間、荘吉はスカルマグナムを素早く引き抜くとフィリップに向けて放った。
フィリップはそれを地面を転がりギリギリで回避する。
「そん...な...」
呆然とするフィリップよりも先に翔太郎が動いた。
翔太郎はフィリップに向けられているスカルマグナムを蹴ると荘吉に殴りかかる。
だが、荘吉はその攻撃を片手で捌くとそのまま腕を固めて翔太郎を投げ飛ばした。
その際、翔太郎の帽子が空を舞う。
荘吉はその帽子を空中で掴むと自分の頭に乗せた。
「そんな手緩い戦い方を俺は教えたつもりはないが....やはりまだ半人前か翔太郎。」
「おやっさん....どうして!
どうして俺達が戦わねぇと行けないんだ!」
翔太郎の慟哭に荘吉は溜め息をつく。
「はぁ....お前達は探偵だろう?
ならばその手でその答えを掴め。
最もこの場を生きて抜けられたらの話だがな.....」
荘吉はそう言うとロストドライバーを装着する。
そして、懐から一本のメモリを取り出した。
「SKULL」
荘吉はスカルメモリをドライバーに装填すると帽子を取る。
「.....変身。」
その声と共にドライバーを展開すると荘吉は仮面ライダースカルへと変身した。
変身を終えた荘吉は帽子を被り直す。
それを見た翔太郎はジョーカーメモリを取り出した。
「JOKER」
その姿を見たフィリップは翔太郎に叫ぶ。
「翔太郎!?」
「行くぞフィリップ!
変身するんだ!」
「だけど!」
「今は戦わねぇと俺達が殺されちまう!
早くしろフィリップ!」
「....くっ!」
「CYCLONE」
翔太郎達は仮面ライダーWサイクロンジョーカーに変身するとスカルと対峙した。
両者は沈黙のまま近付くと互いの拳を放つ。
互いの拳が顔に当たると両者はのけぞった。
だが、互いに思うことは全く違った。
「...中々良いパンチを打てるようになったな翔太郎。」
荘吉は翔太郎の拳から成長を感じ
「...クソッ!この痛み...やっぱり...」
『翔太郎....』
翔太郎は荘吉の拳から真実を感じた。
そして、荘吉は小さく笑うと翔太郎に向かっていく。
対する二人は苦しい顔で迎え撃つのだった。
鴻上コーポレーションに現れた侵入者見た京水とレイカは絶句していた。
特に京水に至っては顔の表情が抜け落ちる程に驚き悲しんでいた。
「どう....して....」
京水に問われた侵入者は纏っていた外套を脱ぎ去るとその姿を現した。
「顔が見えなかった筈なのに気付くとは流石だな。」
"大道 克己"はそう言いながら二人を見つめた。
二人が彼の正体を見破れたのは共に長く過ごして来たが故だった。
警備員と戦っていた際の細かい動きは使っていたナイフ捌きを見るだけで二人は侵入者が大道 克己だと気付いてしまったのだ。
「克...己....ちゃん。」
「どうした京水?何時ものお前らしくないぞ?」
驚愕する京水を見て克己は笑う。
「克己...アンタ死んだんじゃなかったの?」
「随分な挨拶だなレイカ。
俺が生きてたら不味いのか?」
レイカの問いにふざけながら返す姿を見れば見る程、自分達の知る消えてしまった克己本人だと分かってしまった。
故に京水は反応が遅れてしまった。
それは克己のナイフが"京水の腹部"に深々と刺さった事でやっと理解できた。
「.....え?」
「敵の前でそんなに呆けてられるとは腕が鈍ったんじゃないか京水?」
「京水!」
レイカは京水を助ける様に前に出ると克己に蹴りかかった。
克己は京水に刺さったナイフを手放すとレイカの蹴りを片手で受け止める。
「どうした?
お前の蹴りはもっと鋭かっただろレイカ。」
「くっ!?うっさい!」
レイカは止められた足を引くとその勢いのまま回転蹴りを行う。
だが、克己も同じ様に回転し蹴りを放った事でカウンター気味に克己の蹴りがレイカの胴体を捕らえた。
「かはっ!?」
レイカの身体は回転しながら地面を数度バウンドした。
その姿を見た克己は嘆く。
「弱い.....これが俺が作り上げたNEVERの末路か。
少しは骨のある戦いが出来ると思ってたんだがな。」
「克己....アンタどうして私達と戦うのよ?」
蹴られた部位を抑え苦しみながらもレイカは尋ねる。
「さぁな。
だが、それが今の俺の役割らしい。
お前達、NEVERと戦う事がな。」
「....意味分かんない。」
「お前に理解など求めてないさレイカ。
それより京水?
さっきから黙ってどうした。
何時の様な茶目っ気が無いぞ?」
問われた京水は腹部に刺さったナイフを抜けぬまま答える。
「克...己..ちゃん。
私達は...貴方の...仲間なのよ。
それなのに....どうして...」
「言い残すことはそれだけか?
だとするならこの後の"命令"も早く済みそうだな。」
「命令....アンタ誰かに命令を受けてるの?」
「あぁ、俺の子供いるだろう?
その子を"殺さないといけない"んだ。」
「「は?」」
自分の子を殺す命令を受けたことを平然とした顔で言われ二人は驚愕する。
「あの子は今、この街にいるんだろ?
ここで暴れればお前達が現れる。
後はお前達から居場所を聞けば良いと思ったんだ。
京水、レイカ.....俺の子の居場所はどこだ?」
克己の問いにレイカは無言で立ち上がるとNEVERドライバーを装着した。
「レイカ.....」
「京水、克己の生き返った理由は分からないけど今のアイツを未来やミーナの元へ向かわせるわけには行かない。」
「......」
「しっかりしろ京水!!
あの克己を未来ちゃんに会わせられるの?」
レイカの言葉を受けて京水は我に返ると勢いに任せて刺されたナイフを抜き取った。
「痛ったぁ!?.......
ちょっと前までは克己ちゃんに刺されて死にたかったとか思ったけどやっぱり違うわね。
痛いだけじゃなくて心も辛くなったわ。」
「京水....」
「ごめんなさいレイカ。
ちょっと私、呆けすぎてたわ。
こんな克己ちゃんをミーナと未来に会わせる訳には行かないものね。」
そう言うと京水もNEVERドライバーを装着する。
その姿を見た克己は楽しそうに笑う。
「どうやら殺る気になったみたいだな。
そうでなければ意味がない。」
克己はそう言うとロストドライバーを装着した。
そして、両者はメモリを取り出す。
「HEAT,LUNA」
「ETERNAL」
「「「変身」」」
変身の掛け声と共にメモリを装填するとドライバーを展開した。
すると三人は仮面ライダーヒート、ルナ、エターナルへと変身が完了する。
二人は覚悟を決めると克己に向かっていく。
克己はそれを悠然と受け止めるのだった。
「はっ!」
「ぐぁっ!」
「うらぁ!」
「くっ!」
映司とアンクが変身したオーズの攻撃が互いの身体を傷付けていく。
それでも二人の戦いは止まらない。
「かはっ!?.....映司ぃぃい!!」
アンクの展開したトラクローが映司に迫る。
映司はメダジャリバーでトラクローの攻撃を防いだ。
「アンクっ!お前の計画は俺が止める!」
「ふざけんなっ!漸く俺の望みに手が届くんだ。
誰にも邪魔はさせねぇ。
それが例え、映司....お前だとしてもなっ!」
突如、アンクのトラクローから炎が吹き上がりメダジャリバーを弾き飛ばすとその勢いのまま映司の胴体にトラクローから炎の斬撃が放たれた。
その攻撃を受けた映司は大きく吹き飛ぶと地面を転がった。
「ぐあっ!?そんな
「これはオーズだけの力じゃねぇ。
"俺の力とオーズの力を融合させた"。
....まぁ、コアメダルのコンボと比べればショボい威力だがな。」
そう言いながらも確かなダメージを受けた映司は考える。
(どうする?
アンクの変身するオーズは強い。
多分、コンボでも使わないと勝ち目はない。)
そう考えると映司は連れ去られる間際、此方のアンクに投げ渡されたコアメダルを思い出す。
(この力に賭けるしかない!)
映司は立ち上がるとオーズドライバーに装填されたメダルを全て抜き新たに三枚のコアメダルを装填する。
ベルトを展開しオースキャナーを構えた映司は覚悟を決めるとオースキャナーをドライバーに通した。
「すぅ......変身!」
「サイ」
「ゴリラ」
「ゾウ」
「...サゴーゾ......サゴーゾッ!!」
雄々しいドラムのリズムと共に重量系メダルのコンボであるサゴーゾのメロディーが流れるとオーズはサゴーゾコンボへの変身が完了した。
映司は体内に溢れるエネルギーを放出する様に両腕で交互に胸を打ちドラミングを始めた。
「うぉぉおおおおお!!」
サゴーゾコンボによるドラミングは周囲の空気を揺らし強力な重力波を発生させる。
それを受けたアンクの身体はまるで無重力状態の様に浮き上がった。
映司はドラミングを止めるとアンクに向かって突進していった。
サゴーゾはパワーと重力に秀でた強力なコンボの反面、その重さ故に速度は無かった。
タトバコンボの機動力ならば簡単に避けられたがアンクは先程、喰らったドラミングによる重力波で平衡感覚が一瞬、狂ってしまいそれが隙となった。
アンクが立ち直る頃には懐近くまで近付かれていた。
「はっ!」
映司の拳がアンクに振るわれた。
「くっ!」
アンクはその攻撃をトラクローで防御するが映司のゴリバゴーンはトラクローを吹き飛ばしアンクを高くまで吹き飛ばした。
「まだだ!」
映司はそう言うと両手を空中にいるアンクに向けて後ろに引きながら構えると勢い良く両手を突き出した。
その瞬間、映司の両腕に着いているゴリバゴーンはロケットパンチの様に放たれアンクの元へ向かう。
「舐めんな映司!」
アンクはオーズの背中に赤い翼を生やすと空中で旋回し攻撃を回避した。
「!?....ならっ!
フン!」
攻撃を回避された映司は次に地面を思いっきり踏みつけた。
ゾウレッグの踏みつけにより周囲に引力が発生し空中を飛ぶアンクの身体を捕らえる。
「しまっ!?」
映司の次の攻撃を理解したアンクだったが発生した引力に巻き込まれ地面に向けて大きく落下する。
そのタイミングを狙い映司は頭部のサイホーンをアンクに突き立てた。
引力による恩恵により通常よりも強力な威力を発揮した頭突きはアンクの身体に激突し火花を上げると衝撃のまま転がった。
「か....はっ....」
「はぁ...はぁ...どうだアンク!」
アンクにダメージを与えた映司だったが彼もコンボにより体力を著しく消耗していた。
(何とか当たったけどやっぱりコンボはキツいな。
気を抜いたら倒れそうだ.....)
そんな事を考えているとアンクは攻撃を受けた部分を抑えながらも何とか立ち上がった。
「はぁ...はぁ....」
「はぁはぁ.....随分とタフだな。
"そっち"のアンクは....」
「はっ!....俺を舐めんな映司。
それよりもそっちはどうなんだ?
コンボはヤバい....本当は立ってるのがやっと何じゃねぇのか?」
「だとしても....アンクを止めるまでは戦うよ。」
その言葉を聞きアンクの顔色は苦々しくなる。
「チッ!テメェもやっぱり映司だって事か。
.....仕方ねぇお前を止めるにはやっぱり俺の"全ての力"を使わねぇとダメらしい。」
アンクはそう言うと自分の胸に手を突っ込み目当てのメダルを探した。
そのメダルを見つけると自分の身体から勢い良く引き抜いた。
中から現れたのは中心にまだうっすらと赤色が残りながらも黒く変色してしまった三枚のコアメダル。
それを見た映司は驚く。
「そのメダルって....まさか!?」
アンクはドライバーに三枚のメダルを装填するとオースキャナーを通した。
「タカ」
「クジャク」
「コンドル」
「タ~ジャ~ドル~」
赤き炎に覆われたアンクの姿は変わりオーズ"タジャドルコンボ"へと昇華していく。
変身を追えたアンクのタジャドルはまるで燃えて炭になった様な漆黒を纏い映司を見つめていた。
「映司.....これで"終わり"だ。」
アンクはオースキャナーをドライバーにもう一度通し必殺の構えを取る。
嫌な予感を感じた映司も同じ様にオースキャナーをドライバーに走らせた。
「「SCANNING CHAGE」」
映司は両足に重力の力が纏われると斥力を使い上空へ飛び立った。
対するアンクは両足に炎を纏うとタジャドルの翼を出現させ空へ舞い上がる。
アンクの背中からクジャクの羽根を模したエネルギー弾が打ち出されるとアンクの背後に待機した。
上空にいる両者は同じタイミングで必殺のキックを相手に放った。
「セイヤァァァア!!」
「ハァァァァアア!!」
両方のキックが衝突すると巨大なエネルギー同士のぶつかりで周囲の空間が歪み火花が散る。
そして、アンクの背後を飛んでいたクジャクの羽根が一斉に映司に向かうと大爆発を起こした。
その影響で映司のキックの支点がズレてしまい無防備となった胸部にアンクのキックが叩き込まれた。
凄まじい爆発と共に変身解除し気絶してしまったボロボロの映司が落下していく。
そうして落下しながらも"伸ばしていた手"をアンクが掴むと映司をゆっくりと地面に下ろした。
変身解除したアンクはダメージから片膝をついた。
「!?はぁはぁ.....やっぱりお前は侮れねぇな映司。
この世界のお前とも本当なら仲良く出来たのかも知れねぇな。
....だが、俺は"俺の世界の映司"が大事なんだ。」
アンクはそう言うと映司に着いているオーズドライバーを引き剥がした。
「これでもうお前はオーズにはなれねぇ。」
それだけ言うとアンクはボロボロの身体を引きずりながらその場を後にするのだった。
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W×OOO 11
「ぐはっ!」
スカルに殴られたWは地面を転がる。
「どうした?.....お前達の力はこんなものか?」
その言葉に触発され立ち上がったWは翔太郎の宿る左の拳でスカルを殴り付けた。
この世界線のWはゴエティアの介入によりフィリップと翔太郎も原作よりも圧倒的に強くなっていた。
特に翔太郎はジョーカーメモリの力を限界以上まで引き出せる様になったお陰で絶好調ならばマキシマムクラスの力を常時発動できるレベルにまでなっていた。
現に翔太郎から放たれるパンチにはジョーカーメモリの特有の紫色のエネルギーが纏われており通常のドーパントなら致命傷になりかねない威力となっていた。
しかし、そんなパンチでも鳴海 荘吉の身体には響かない。
殴られた荘吉は平然とした様子で反撃を行う。
そのカウンターを受けてWが少しずつ後退していった。
「クソッ!どうして俺の攻撃が効かねぇんだ?」
『落ち着け翔太郎!
....恐らくだが鳴海 荘吉の使っているスカルメモリと彼のメモリへの適合率が関係しているんだ。』
「どういう意味だ?」
『スカルメモリの持つ記憶は骸骨....つまりは"死の力"だ。
しかし、死んでいながらも仮面ライダーとして生きて動いている。
その生と死の合間にいる力故に単純な物理攻撃や命を奪う攻撃に強い。
そして、鳴海 荘吉はそのスカルメモリとの適合率が高くその力を十全に使いこなせるんだ。』
「本当にそれだけか?」
フィリップの説明に荘吉が疑問の声を上げる。
「翔太郎、お前の拳にはちゃんと魂が入っているのか?
さっきから迷いを感じるぞ。」
「!?」
自分の心の内を見抜かれた翔太郎は動きを止める。
翔太郎の持つジョーカーメモリは使用者の感情に呼応して強くなる。
しかし、今の翔太郎は戦えてはいたが師である鳴海 荘吉と"殺し合う覚悟"までは出来ていなかった。
「いくら"見てくれ"を強くしても迷ってる奴の拳を何万発受けようと俺は負けない。
そんな情けない奴を俺は育てたのか翔太郎?」
「.....おやっさん...俺はっ!?...グハッ!」
「気を抜いたら死ぬと前にも言っただろう?」
荘吉はスカルマグナムを構え放つとその弾丸はWに命中した。
的確に放たれた弾丸はWに大きなダメージを与える。
『翔太郎!....ならば』
翔太郎の異変を感じたフィリップは荘吉とWの間に風の障壁を展開する。
それにより荘吉の放った弾丸は軌道を変え別方向に逸れた。
「相棒の危機を感じて動く.....か。
流石は翔太郎の相棒だ。
判断も的確で素早い....だが、それで完璧に防げると思うのは甘いな。」
『何っ....ぐっ!?』
突如、Wの背中に衝撃が走り火花を上げて地面に倒れる。
『バカなっ!?....一体何処から』
「弾丸が逸らされるなら軌道を戻してやれば良い。
こんな風にな。」
荘吉はフィリップの風の盾により逸らされたエネルギー弾に向けてスカルマグナムを放つ。
放たれたエネルギー弾同士が衝突すると弾丸の軌道が変わりWの背中へと向かっていった。
タネが分かったWはメモリチェンジを行う。
「LUNA,TRIGGER」
ルナトリガーに変身したWはトリガーマグナムを放つと通常ではあり得ない軌道を描きスカルマグナムの弾丸を撃ち落とした。
「....良い腕だ。
鍛練は怠ってないらしい。」
『教えてくれ貴方は鳴海 荘吉なのか?
僕達を攻撃するのはアルケに操られているからなのか?』
「さぁな。
俺が操られているかなんてどうでも良い。
今重要なのは俺を倒さなければお前達が死ぬ....それだけだ。」
荘吉はドライバーからスカルメモリを抜くとスカルマグナムに装填する。
「SKULL MAXIMUMDRIVE」
『.....くっ!?』
それを見たWもトリガーマグナムにトリガーメモリを装填した。
「TRIGGER MAXIMUMDRIVE」
両者の銃口にエネルギーが溜まっていくとその引き金が弾かれた。
髑髏の形をした弾丸と複数の金色の弾丸がぶつかり合う。
髑髏の弾丸は威力が高く数発の金色の弾丸のエネルギーを呑み込みながらWへ向かっていく。
そして、Wの目の前で弾丸は大きく爆発した。
『「ぐあぁぁ!?」』
その爆発に巻き込まれたWは壁に激突し持っていたトリガーマグナムを落としてしまう。
『翔....太郎っ!?』
倒れているWに荘吉はゆっくりと近付いていく。
そして、スカルマグナムからメモリを抜き取るとドライバーのマキシマムスロットへ装填した。
「SKULL MAXIMUMDRIVE」
荘吉はWの目の前にまで来ると首を掴み身体を持ち上げた。
「おやっ....さん...」
「翔太郎....これで終わりだ。」
荘吉はWを空へ投げると狙いをすます。
胸部が展開し髑髏状のエネルギーが現れると右足に吸収された。
紫色のエネルギーを纏った必殺の一撃がWへと襲いかかる。
先程のダメージから回復できていないWに避ける手立てはない。
そして、放たれた一撃は.....突如現れた"黒炎の矢"により防がれた。
「!?」
荘吉の蹴りは黒炎の矢に当たると爆発を起こし荘吉の身体を後退させた。
その攻撃を放った方向をWと荘吉は見つめる。
そこには黒炎の翼をはためかせ此方に向かってくる仮面ライダーデーモンの姿があった。
「あれ....は....」
『無名!?....どう...して』
驚くWを他所に荘吉は納得した様に告げる。
「ふむ....どうやらこの世界はまだお前達を見捨ててはいない様だ。」
そう言っていると仮面ライダーデーモンがWを守るように地面に降り立つとアームズライザー"アローモード"を荘吉へと向けた。
「戻って早々、ピンチとは....やはり我々は後手に回っている様ですね。」
「そこまで分かっているのならばどうする?
ここで殺り合うか?」
荘吉の問いにデーモンは答えた。
「そうですね....メモリの相性が悪いのは理解しています。
ですからここは逃げさせて貰います。」
無名は空に向けて黒炎の矢を放つと背後に黒炎のゲートを展開しWと倒れているフィリップを抱えた。
「逃がさん。」
荘吉は背を向けているデーモンにスカルマグナムを向けるが上空からの危険を感じバックステップで緊急回避した。
すると、空中から黒炎の矢が荘吉の立っていた場所に落ちてきた。
荘吉が空に目を向けるとそこには無数の黒炎の矢が落ちてくるのが見えた。
荘吉は素早くスカルメモリをスカルマグナムへ装填するとチャージする間も無く展開し空に向けて引き金を引いた。
半端なチャージで放たれた弾丸はフルチャージ状態のマキシマムと比べると威力は落ちるが降り注ぐ矢を防ぐには十分だった。
荘吉の放った髑髏の弾丸は傘の様に展開すると黒炎の矢の雨を防いでいく。
そして、空から矢が降り注ぐのが止まります辺りを見回すとそこにはもう誰もいなくなっていた。
「逃げられた....か。
悪知恵の働く男だ。」
荘吉は変身解除しながら辺りを燃やしている黒炎を見つめる。
思い出すのは一度だけ戦った無名との記憶.....
(無名....お前ならば....きっと.....)
荘吉は帽子を深く被るとその場を後にするのだった。
その一方、鴻上コーポレーションでは三人の仮面ライダーが戦いを繰り広げていた。
それと同時に
長年組んできたレイカと京水の攻撃は並の敵ならば手も足も出ないレベルにまで洗練されていたが克己は
レイカは戦いながら舌打ちする。
「チッ!...ちょっとは当たれよ!」
「なら、当てる努力をしろよレイカっ!」
そう言うと克己の拳のカウンターがレイカの腹部に深々と突き刺さる。
「ぐっ!?」
「レイカ!....克己ちゃんアンタァァァ!」
京水がメタルシャフトで追撃を加えようとする克己の腕を巻き付かせて止めるとそとに向けて克己を投げ飛ばした。
ビルの窓が割れ落下する克己と共に落ちる京水とそれを追うレイカ。
「ごめんね克己ちゃん。
ここでアンタを止めるわ!」
「LUNA MAXIMUMDRIVE」
京水はメタルシャフトのマキシマムスロットにルナメモリを装填した。
充填されたエネルギーを纏ったメタルシャフトの鞭を思いっきり振り上げて落下速と掛け合わせた攻撃を行おうとする京水だったがその考えは克己の一手で砕かれた。
「ETERNAL MAXIMUMDRIVE」
突如、発動したエターナルのマキシマムを京水は喰らい強制的に変身解除させられてしまう。
「なっ!?」
「良い作戦だったが詰めが甘いな京水?」
克己はそう言いながら生身となった京水の顔を殴り落下しながら片腕を固めて姿勢を固定した。
「どっ....どうやってメモリを」
「お前が俺の腕に鞭を巻いたタイミングさ。
何かあると思ったから保険をかけさせて貰った。」
そう言って克己は空中を指差すとそこには克己の元に落ちてくるエターナルメモリが装填されたエターナルエッジがあった。
地面が近くなるタイミングでエターナルエッジは克己の手に収まる。
「これで終わりだ京水....」
克己はエターナルメモリのマキシマムを発動したナイフを京水に突き立てようと高く掲げた。
その瞬間、青い閃光が克己達の元へ走りエターナルエッジに激突した。
「狙撃?」
克己は京水の手を離し身体を蹴り上げて地面に着地した。
そのタイミングを見計らった様に両足から爆炎による加速で京水の元へ接近したレイカが地面に落ちるスレスレで京水を捕まえて助け出した。
克己は手に受けた感触を確かめながら言った。
「これでNEVER揃い組だな....姿を現したらどうだ"賢"。」
克己がそう言うと鴻上コーポレーションの近くにあった建物の屋上から
「久し振りだな克己。
再開早々、仲間を殺そうとするとはどういう了見なんだ?」
芦原の低いトーンの声で尋ねられた問いに克己はあっけらかんに答える。
「そんなの聞かなくても知ってるだろ。
俺達の会話をちゃんと聞いていた筈だろう?」
克己は自分の耳に指を向けながら言う。
克己の言う通りであり襲撃してきた相手が克己だと分かったタイミングで京水は芦原と無線を繋いでいた。
その会話を聞いた芦原は仮面ライダートリガーに変身すると援護する為に隣の建物で待機していたのだ。
「本当に殺る気なのか?
相手はお前の娘だぞ.....ミーナとお前の....」
「関係ない。
どんな相手でも殺す....俺は死神だ。
生者でも死者でもなくな。」
克己の回答を聞いた芦原は覚悟を決める。
「そうか....それがお前の答えだと言うのならここでお前を殺す。」
そう言って戦闘に入ろうとするが克己はその動きを止めた。
「.....そうか。
なら仕方ねぇな。」
「どうした?」
「悪いが急用が入ったらしくてな。
俺はお暇させて貰う。」
「三対一で無事に逃げられると?」
その言葉を聞いた克己は冷笑する。
「はっ!殺る気のねぇ奴等が何人かかってこようと俺は殺せねぇよ。
それに続けて困るのはお前達だろう?
....じゃあな。
次はもう少しまともな
克己はそう言うと変身解除しその場から立ち去るのだった。
克己が見えなくなると構えていた銃を下ろし芦原は変身解除する。
そのまま倒れている京水に話し掛ける。
「京水。」
「芦原...ちゃん....ごめんなさい....アタシ...」
「気にするな。
二人が無事で良かった。」
そう言う芦原にレイカが尋ねる。
「ねぇ、本当に克己を追わなくて良かったの?」
その問いに芦原は顔を苦々しく歪めて言う。
「良くはないが.....今、追いかけた所で俺達に克己を止める手段は無い。
奴のエターナルメモリをどうにか無力化出来なければ京水の二の舞だ。
取り敢えず今は情報が欲しい。
この街で何が起きているのか....どうして消えた克己が敵として甦ったのかをな。」
その言葉に京水は賛同する。
「そうね。
何もかも分からず終い...でもこれで終わりじゃない。」
「あぁ、克己の狙いが未来である以上また攻めてくる。
どうにかして止めるぞ。」
そう言った芦原は京水の肩に手を回し担ぐとレイカと共にその場を離れるのだった。
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W×OOO 12.
臨時休業と書かれた看板を見ながらドクター真木は大きく目を開きながら項垂れていた。
「まさか....こんな事に...なるとは」
ドクター真木は肩に乗せた人形に向けてそう話し掛ける。
話し掛けた人形は悲しむ様に顔を手で覆っていた。
彼がクスクシエに足を運んだのは偶然の重なりからだった。
数週間前、研究が一段落ついた彼が偶然ドライブをしているとクスクシエと書かれた看板を持って立っている2人の女性を見掛けた。
その一人を目にした彼の動きは止まった。
失った筈の姉と瓜二つだったからだ。
(因みにこの時に前方不注意で車をぶつける事故を起こしてしまった。)
それから私はクスクシエの店を何度も調べ足を運ぼうかと悩んでいると二つの目の偶然が起きた。
私が歩いていた道でクスクシエのクーポン券を彼女が配っていたのだ。
私がそのクーポン券を受け取ると私の肩にある人形であるキヨちゃんに目を向けた。
私は恐れた....端から見れば奇怪な人形を肩に携えた男だ。
姉に似た顔の彼女に失望や怪訝な目で見られるのだけは避けたかった。
だが、そんな私の考えとは裏腹に彼女は私の人形を「可愛らしい」と言い「今度一緒にお店に入らして」と言ってくれた。
嬉しかった......もう戻ることの無い幸福な記憶が私の心を満たした。
偶然などそう何度も続かない。
そうだ....これは偶然ではなく運命なのだ。
(クスクシエに行こう。)
そう決心した後の私の行動は早かった鴻上会長に長期休暇を打診したら新たなドライバーの開発を条件に承諾して貰った。
どう言う意図かは分からなかったがバースドライバーを戦闘用に更に改良した物が必要だったらしく私はクスクシエに行く希望の為に頑張った。
そのお陰かリバースドライバーは二基とも完成し無事に鴻上会長へと渡せた。
そして、私は残った休暇を使い様々な準備を重ねいざクスクシエに向かうと臨・時・休・業
私は絶望した。
この世界に神はいないのか?
確かに私は善き終わりを求めてはいるがこんな終わり方はあんまりではないか.....
「仕方がありません....また来ましょう。」
真木がそう言って踵を帰そうとすると急に扉が開き中から待ち望んでいた
「
「うわっ!?ビックリした....あれ?貴方は確か....」
知世子は真木の肩に乗っかっている人形を暫く見つめると彼の事を思い出した。
「あぁ!!....クーポン券受け取ってくれた人ですよね?
もしかして、お店に来てくれたんですか?」
「えっ...えぇ....ですが見たところ臨時休業の様で....」
そう言いながら真木は開いた扉の中を見るとそこに知り合いを見つけた。
「どうして後藤君がここに?」
尋ねられた後藤は包帯を巻いていた動きを止めて真木の方に目を向ける。
「貴方は....真木博士!」
「えっ!?何々、後藤君と知り合いなの?」
知世子の問いに後藤が答える。
「ええっと....同じ職場の同僚です。」
そう答えると知世子は真木に笑顔を向けて言った。
「なぁんだぁ!後藤君の知り合いなら大歓迎よ。
真木さんでしたよね?良かったら中にどうぞ。」
真木が後藤の同僚だと知ると知世子は真木の腕を掴み店内へと招き入れた。
店内に入り真木の姿を見た照井は驚いた様に言う。
「お前は
問い掛けられた真木も照井を見て思い出した様に言う。
「貴方は確か照井 竜ですね?
風都にある超常犯罪捜査課の....」
「俺を知っているのか?」
「えぇ、まぁ鴻上会長から色々と聞かされていましたから....」
そんな話をしていると扉が開かれ中に傷付いた翔太郎の両肩を背負ったフィリップと無名が現れる。
それをみた亜樹子が声を上げる。
「どうしたの翔太郎君....って無名さん!?一体どうして....」
「その話は後程....今はそれよりも翔太郎さんの手当てを....貴方は真木 清人さんどうしてここに?」
無名に問われた真木は人形を見つめながら答える。
「成り行きで....そういう貴方は無名さんですね?
ミュージアムの幹部だった方だと記憶していますが....」
「確かに過去はそうですが今は違います。
丁度良かった貴方にも協力して欲しかったんです。」
そう話すと扉から比奈とアンク、キチョウ....そしてNEVERの面々が入ってきた。
京水は無名を見るなり飛び掛かる。
「!?...無名ちゃゃゃゃゃん!!」
無名はダイブしてくる京水を華麗に回避する。
そのせいで京水は硬い地面と包容を行った。
「ぶへっ!?ちょっとどうして避けるのよ!」
「久しぶりですね皆さん。
僕がいない間に色々と遭ったようで....」
「まぁね、何でか克己が敵になってるし....意味分かんない。」
無名の問いにレイカが答えた。
「ねぇ!?ちょっと!」
「芦原さんもお元気そうで....でもどうしてこの街に?」
「内の娘がメダルを撒き散らす怪物に襲われた。
その中で園咲若菜の身体にもメダルが押し込まれてな。
事態の全容を知る為にも仲間の元に来た訳だ。」
「成る程....合点がいきました。」
「無視?...もしかして私無視されてるの?」
そんな事を話していると今度はフィリップが芦原に尋ねる。
「姉さんの身体にメダルが....それは本当なのか?」
「あぁ、だが身体に異常は無さそうだった。」
「埋め込まれたセルメダルはあくまで座標を固定するだけの役割ですから....装置が起動した今はもう存在がなくなっている筈です。」
「やはり、何か知っているんだな無名。」
「えぇ、アルケの目的も...おおよそですが」
「.....泣くわよそろそろアタシ。」
無視され続ける現状に本気で泣きそうになる京水を尻目に焦燥とした表情をした映司が中に入ってきた。
その表情を見たアンクが尋ねる。
「おい映司、ドライバーはどうした?」
「......ごめんアンク。
アイツにドライバーを奪われて...!?」
ドライバーを奪われた事を言った瞬間、アンクが映司の顔を殴り付けた。
殴られた映司は机にぶつかりながら地面に倒れ比奈は映司の傍に駆け寄る。
「映司君!?
ちょっとアンク!アンタ何やってんのよ!」
「うるせぇ!
映司、お前それがどういう意味か分かって言ってんのか?
奴等に対抗できる力を奪われちまったんだぞ!」
「....分かってるよ直ぐに取り返す。」
「オーズになれねぇ只の人間のお前に何が出来るって言うんだ?」
「そんなのやってみなくちゃ分かんないだろ?」
「はっ!お前が足掻いたところで無駄死にが精々だろうが...!?」
そう言うと今度は映司が立ち上がりアンクの顔を殴る。
「確かに只の人間だけど命ぐらいなら賭けれるよ俺は...」
「ぐっ!?....映司、テメェ!」
互いににらみ合い殴り合いが始まるところだったがそれを"比奈と京水"が止める。
「どけ!」
「落ち着いてアンク!!
さっきから変だよ....映司君に対して特に」
「京水さんそこを退いてくれませんか?
俺、アンクに用があるんです。」
「あら、アタシも映司ちゃんみたいなイケメンとは是非、御近づきになりたいけど今はダメよ。
だって貴方の目...死兵と同じなんですもの...」
「!?」
「過去に大切な者を失ったのかしら?
そう言う目をした人を私は戦場で何人も見てきたわ。
自分の命を犠牲にしてでも目的を為そうとするその目。
悪いけどそんな目をした人をほおっておけるほど私、残酷にはなれないのよ。
それに今は兎に角、情報を共有すべきよ。
ただでさえ私達は後手に回っているんだから....」
その言葉を聞き落ち着くと無名が話し始めた。
「先ずはそちらで起こった事を話してください。
その後に僕が知った事実をお伝えします。」
こうして、無名達は互いの情報を交換し事態を理解しようとするのだった。
アルケの元から離れたノブナガはビルの屋上から街を眺めていた。
平穏に見える街並みだが目を凝らせば辺りでは着々と異変が起きていた。
「先ずは...乱れた城下の平定だな。」
ノブナガはリバースドライバーを着けるとセルメダルを投入しビルから飛び降りた。
「.....変身。」
落下しながら仮面ライダーリバースへ変身が完了すると異変の起こっている場所へ向かった。
「はぁ.....はぁ...何なんだよあの怪物は!?」
街に現れた怪物から逃げていた一人の青年は呟く。
それは突然だった。
時計の針の音が聞こえたと思ったら急に周りに怪物が現れたのだ。
怪物は人間を見るなり襲う奴も入れば驚いて呆然とする者もいた。
青年は突然起こった恐慌から身を守るため逃げていたのだ。
だが、そんな青年を嘲笑う様に目の前に彼を追っていた"怪物達"が姿を現す。
土塊の様な見た目をした
(死ぬ。)
そう思った青年の前に
ノブナガはアンクを見ながら敵に対処する。
「お主はアルケの仲間ではなかったか?」
問われたアンクは襲ってくるミラーモンスターを殴りながら答える。
「あぁ、俺には俺の目的はあるがだからと言って無駄な犠牲を出したい訳じゃねぇっ!」
「成る程....では今のお主とは"手を組めそう"だな。」
ノブナガはそう言うとセルメダルをドライバーに二枚装填する。
「CELL BURST」
「しっ!」
ドライバーからエネルギーをチャージされた刀を襲い掛かる怪物に向けて走り抜ける様に振るっていく。
すると、ノブナガに斬られた童子と姫は爆発し落ち葉にオルフェノクは青い炎をあげて灰となって消えた。
残ったミラーモンスターはアンクの火球を浴び蹴られた影響で鏡の中に戻るとミラーワールド内で爆発を起こした。
目先の敵を片付けたノブナガは変身解除するとアンクが話し掛けてきた。
「俺とお前が手を組むだと?」
「そうだ。
お主の目的はアルケの装置を起動させることだろう?
つまり、もう目的は果たしている。
後は時間が来るのを待つだけだ。」
「そうだ。
だからこそ、お前に協力するメリットはない。」
「いいや、ある。
お主も見たであろう?
アルケの装置により確かに時間の流れは巻き戻り始めたがその悪影響が出ている。
先程、現れた怪物どもの様にな。」
アルケの装置が起動したことで死んだ存在がゆっくりと復活していっている。
だが、それは良いことばかりではない。
過去に葬られた怪人や怪物....犯罪者も含めて生き返る事になるからだ。
「ワシはこの世界で天下を治めたい。
その天下に過去の悪や闇が残るのは邪魔だ。
そんな世界をワシはキチョウに見せる訳にはいかん。
故に取引じゃ、お主は復活するゴミどもの掃除を手伝え。」
「俺の見返りは?」
「死者を蘇らせるアルケの装置を....欲しくはないか?
お主が手を貸しアルケを討ち取った暁にはそれをお主にくれてやろう。
どうじゃ?」
「.....良いだろう。
お前に手を貸してやる。」
アンクの言葉を聞いたノブナガは笑う。
「決まりじゃな。
では共に行こうか。」
ノブナガはアンクを従えその場を後にするのだった。
装置を起動させたアルケは玉座に座りながら大道 克己と鳴海 荘吉の二人からの報告を聞いていた。
「成る程、さしもの仮面ライダーも人であることには変わりないか。」
「それで俺達はこれからどうするんだ?」
荘吉の問いにアルケは答える。
「装置が起動したからな。
兵隊はいくらでも湧いてくる。
その中で優秀な奴がいるなら此方に引き入れれば良い。
丁度、彼の様にな。」
アルケが目を向ける場所にはボロボロになりながらも此方に敵意を向ける
「流石はお前の部下だな大道 克己。
お前同様、蘇った瞬間に我を殺しに来たぞ。」
そうして目を向けられた堂本は克己に吠える。
「克己!いい加減に目を覚ませ!」
「目なら覚めてるさ。
お前も直ぐにアルケの道具になる。」
「!?....そんな事はさせない。」
堂本はメタルメモリをマキシマムスロットに装填しようとするがきらびやかに輝く鎖が堂本の動きを止める。
「あまり暴れるな。
お前にはやって貰わなければならない事がある。」
「舐めるなよ。こんな鎖っ!?」
堂本は鎖を引き千切ろうとするが突如、現れた脱力感に身体が動かなくなる。
「なっ!?」
「グリードメモリには相手の欲望を吸い力に変える能力がある。
そして、お前の身体に巻き付く鎖には他者に無力感を与える力を込めてある。」
そう言われた堂本は歯を食い縛りながら立ち上がる。
「とは言っても流石は仮面ライダー。
やはりこれだけでは不十分か。
"メズール".....やれ。」
「はい、アルケ様。」
アルケがそう命じると堂本の後ろからメズールが現れると一本のメモリを起動した。
「
メズールがメモリを挿すとシルクの様に決め細やかな布とに針の様な金属の装飾がついた服で全身を覆った。
すると、メズールは人間態へと変わるが現れた服はそのままであった。
メズールは針の装飾を引き抜くと堂本に向けて指で弾いた。
ピン!と言う音と共に放たれた針は堂本の胸に突き刺さる。
だが、刺さった傷口からは血どころか痛みすら感じない。
打ち込まれた針は糸でメズールの着る服に繋がっていた。
「貴方の心と私の心はこれで"繋がった"。
さぁ、私の望みを聞いて?」
メズールの言葉と共に針からエネルギーが堂本へ流れていく。
エネルギーを流し込まれた堂本の表情は歪む。
「くっ!....お....れは.....!?」
それを見たアルケは苦しむ堂本へ告げる。
「抵抗はするだけ無駄だ。
アドマイアメモリは対象の思考や固定観念そのものを変革する。
そして、メズールには私の力も渡してある。
お前が抗える可能性は0だ。」
堂本は苦しみながらも克己を見つめる。
「克...己...俺達は....NE...VER。
仲...間...だ.......」
堂本はそれだけ言って静かになると電源が切れた様に頭を倒した。
次の瞬間、堂本は目を覚ますとメズールを見つめる。
「ねぇ、貴方にとってNEVERはどんな存在?」
メズールの問いに堂本は答える。
「俺にとって....NEVERは....かけがえのない....存在.....だ。」
「そう、でもかけがえのない存在って"壊したくならない?"」
「そう...か?....いや、"そうだな"。
かけがえのない存在は....壊す為にある。」
その返答を聞いたメズールは笑う。
「その通りよ。
貴方のやることはそこの
「......あぁ。」
メズールからそう言われると堂本は克己の傍に歩いていった。
話を聞いていた克己はアルケに尋ねる。
「すると、俺の仕事は変わらずか?」
「そうだ。
お前の娘である未来を殺せ。
....そうすればNEVERの奴等は自ずと現れる。
計画を潰す可能性のある駒はなるべく排除しておきたいからな。」
「良いだろう。」
「...さて、次は鳴海 荘吉、君には別で頼みたいことがある。」
「....何だ?」
「今の俺の計画を邪魔する可能性があるのは"デーモン"、"W"、"アクセル"だけだ。」
「OOOは違うのか?」
「どうやら、此方の味方であるアンクが奴からドライバーを奪ってくれた様でな。
変身出来なければ驚異ではない。
Wとデーモンに関しては策がある。
問題はアクセルだ。
奴のメモリの力は油断ならん。
故に奴をこの街から引き離したい。」
「引き離すとは具体的にどうする?」
「奴の婚約者である"鳴海 亜樹子"。
お前の娘を"利用"しろ。」
「..........」
「どうした?
娘を使うのは嫌か?」
「....いや、了解した。
それでアクセルを何処に誘導すれば良い?」
荘吉の問いにアルケは答える。
「君の故郷である風都だ。
彼処にも"仕掛け"を施したからな。
楽しいゲームになることだろう。」
アルケはそう言いながらも頭の中では一人の人物を警戒していた。
(計画の邪魔になると思い次元の狭間に飛ばした筈だが.....どうやって戻ってきた?
奴はゴエティアが造り出した駒だ。
野放しには出来ん、私が直々に相手をしなければな。)
アルケは背後にある砂時計の装置に目を向ける。
(装置は順調に稼働している。
このままのペースならば直ぐに会えるだろうな。)
「再開は、直ぐそこだぞ同胞。
楽しみに待っていろ。」
アルケは装置に向かって呟くのだった。
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